Re:Spirit-encore- (藺草影志(OVERBLOOD))
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Inside
Inside 1.「MATCH」


チノリゼ「営業方針の変更!?」

 

リゼ「な、何が不満なんだ!?」 

 

チノ「そ、そうですよココアさん!!」

 

ココア「ちょっ…まってまって落ち着いて!!」

 

ココア「ラビットハウスでのバイトは楽しいよ?、みんなとワイワイできて…でも、どうせならこの楽しみをお客様にも味わってもらいたくない?」

 

リゼ「た、確かに…私たちばかりが楽しんでもダメだな…」

 

ココア「でしょー!?」

 

ココア「一見カンペキに見えるこのラビットハウスにも足りないものがあるんだよ!!」

 

ティッピー「な、なんじゃと!?」

 

ココア「それはズバリ「スパイス」!!」

 

ココア「アットホームな空間にもちょっとした刺激の調味料が必要なんだよ!!」

 

リゼ「砂糖かミルクじゃないのか!?(ここ喫茶店だぞ!?)」

 

チノ「でも具体的にどうやってお客様にも楽しんでもらうんですが?」

 

ココア「この前、本を参考にしながらひらめいたんだけど「属性喫茶」とかどうかなーって!!」

 

ココア「妹キャラとかツンデレとかー」

 

ココア「いろんなキャラになりきって接客するの!!」

 

チノ「はぁ…」

 

リゼ「まてまてまてー!!それは何の本だ!?何をブレンドする本だ!?」

 

ココア「属性キャラ✕喫茶店 ベストマッチキターッ!!」イェ―ィ‼

 

リゼ「ごまかすなぁっ!!」

 

ココア「はいリゼちゃん!!」

 

リゼ「!?」パシッ

 

リゼ「サイコロ!?」

 

ココア「盤面にキャラの属性が書いてあるでしょ?コレを振って出た目のキャラを演じるんだよ!!」

 

リゼ「ちょっ…私はまだやるって一言も…!!」

 

ココア「はぁ…お客様の素敵な笑顔が見たいなぁ…」ズーン

 

リゼ「ぐぐっ…!!」

 

リゼ「わかったよやればいいんだろー!!」ビュッ‼

 

チノ「!!」

 

ココア「何が出るかな?何が出るかな〜♪」

 

ココア「ツンデレキャラ!!」デデデデン♪

 

リゼ「ッ‥?ツンデレ…?」

 

チノ「ッ…」

 

ココア「ツンデレ…!?」

 

リゼ「ど、どうしようチノ…!!私、ツンデレなんてできないぞ!?」

 

チノ「ええっ!?」

 

ココア「はいはーい!!ツンデレキャラのリゼちゃんコレに着替えてねー♪」

 

リゼ「聞いてないぞ!?」

 

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ココア「それにしてもなんでフルールの格好なんだ?ツンデレといえばメイドでしょ!?」

 

ポョン♥

 

リゼ「うぅ…シャロの服だからかキツイ…!!」

 

ココア「それじゃあ私、お客様役をやるからリゼちゃん準備してね!!」

 

リゼ「あ、ああ!!わかった…!!」

 

リゼ「....い、いらっしゃいませ...!!ご注文は...?」モジモジ

 

ココア「」ニコニコ

 

リゼ「な、なんだ!?」

 

リゼ「べ、別にココアのこと待ってたワケじゃないんだからな...!!」プイッ!

 

ココア「いつもどおりのリゼちゃんだ♪」

 

リゼ「ココ...コーヒー、砂糖はいつもどおり入れたといたからな!!」ダァァァァン‼

 

リゼ「か、カン違いするな、たまたま砂糖に目がいっただけでついでだからな!!」

 

ココア「リゼちゃんちょっと落ち着いて、いつもどおりでいいんだよ!?」

 

リゼ「カン違いするな...わ、私は落ち着いているぞ!!」スッ ゴゴゴ…

 

ココア「カン違いして!!」

 

ココア「…もう!!これじゃあお客さんが怖がっちゃうよ!?」

 

リゼ「うっ…すまない....」

 

ココア「じゃあ次はチノちゃんやってみてー?」

 

チノ「や、やっぱり私ですか…!?」

 

チノ「キャラ作りなんてしたことないのでなんとも....」

 

チノ「!!」デデーン!

 

ココア「妹キャラ!!」

 

ココア「いいねいいね!!チノちゃんの妹キャラ!!じゃあ私がお姉ちゃん役を買ってでよう!!」クゥー

 

チノ「けっこうです!!」

 

ココア「お姉ちゃんと妹ベストマッチだね!!」イェ―ィ‼

 

チノ「…なんだかココアさんの策略にハマってしまった気がします。」

 

ココア「それじゃあチノちゃんいってみよー!!」

 

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ココア「たっだいま〜!!」ワクワク

 

チノ「オカエリナサイオネエチャン...」ゴゴゴゴ

 

ココア「誰ー!?」

 

リゼ「(チノのやつ…羞恥心を紛らわすため心を無にして接客してるな…!!)」

 

ココア「チノちゃんがロボットみたいだよぉ〜」ウェーン むに

 

チノ「ゴチュウモンハナニニスマスカ?」

 

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チノ「…っていうかいくらお客様のためとはいえ、恥ずかしいですよ…!!」

 

ココア「えぇーっ」

 

カラン カラーン

 

青山「お邪魔しま〜す」

 

ココア「あ、青山さんだ!!」

 

青山「楽しそうなことしてますね〜」

 

ココア「ココアプロデュースの属性喫茶店だよ!!」

 

ココア「サイコロを振って出た目のキャラで接客しちゃうんだよ!!」

 

青山「まぁ、それは素敵ですね」

 

青山「コレがサイコロですか?あっ、でもこれ変わったサイコロですねー」

 

青山「6面全部同じ、妹キャラ…?」

 

ココア「」ビクッ!

 

チノ「ココアさーん!!」ドッ

 

ココア「だってだって〜」

 

チノ「ちゃんとしたサイコロにしてください!!」ズイッ

 

ココア「ごめんごめん!!」

 

ココア「もっ〜とすごいのが当たっちゃったりするかも?」

 

チノ「そんなツゴウよくいかないですよ」スッ

 

ホイッ コロコロ…

 

チノ「は…裸パーカー猫耳キャラ!?」ガーンッ‼

 

青山「」キラキラ

 

チノ「す、すごく期待されてます…!?」

 

ココア「さぁチノちゃん!!お着替えの時間だよ♪」

 

チノ「あっココアさんちょっとまっ…!!」

 

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チノ「うぅっ...ヒドイですココアさん」カアァァ… ちら♥ にゃ〜ん♥

 

ココア「ぐはっ!!」

 

ココア「さ、さすがチノちゃん、これならウチの店ナンバーワンになれるよ!!」グッ! ハァハァ

 

チノ「変な店のような言い方やめてください!!」

 

青山「あのぉ〜ご指名してもよろしいでしょうか〜?」

 

チノ「青山さんもなんていう注文してるんですか!!」

 

チノ「まったく…リゼさんからも何か言ってくださ…」ハァ~…

 

リゼ「」ハーッハーッ フルフルフルフル ピクピクッ

 

チノ「リゼさん!?」

 

リゼ「あやうく命を落とすところだった…!!」クッ… キュンキュン♥

 

チノ「なにと戦ってたの!?」

 

ココア「まーまーせっかくの猫耳なんだしこれで接客しよ?」ん〜♥

 

チノ「こ、こんなカッコウ恥ずかしいですよ!!」

 

ココア「おやおや?ラビットハウスの看板娘であるチノちゃんが逃げるのかな〜?」

 

チノ「!!」ムゥ~

 

チノ「そ、そんなことありません!!」

 

ココア「おおっ!?チノちゃんが本気になった!!」

 

ガチャ

 

マヤ「じゃ〜ん!!新しくなったていうラビットハウスを見に来たよ!!」

 

メグ「どんな感じになってるの〜チノちゃん?」

 

チノ「おかえりなさいませご主人さまぁ...ラビットハウスでチノと甘いひとときいかがですか...? にゃあっ!!」パアァァァ……

 

マヤメグ「…!!」

 

マヤメグ「はえぇ〜…」ポカーン

 

チノ「にゃぁぁぁ!?」

 

マヤ「ま…まさかチノ…!!ベストマッチっていうアレなことする喫茶店なのか…!?」ドンビキ

 

チノ「ち、違います!!」

 

メグ「わ、私はチノちゃんの趣味なら応援していきたいと思ってるよ…!!」

 

チノ「待ってください!!趣味!?」

 

ココア「っていうかラビットハウスなのに、猫耳…!?」アワワ…

 

チノ「今さら!?」

 

チノ「もうこの喫茶店の案は却下です!!」

 

ぬううん!!

 

ココア「ぎゃあああぁぁぁ!!私の猫耳セットがぁ〜!!」

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チノ「はぁっ…はぁっ…!!ココアさんのもふもふ地獄からやっと逃げれました!!」

 

ココア「ハハハハハハハハ…!!」テッテレテッテッテー

 

チノ「!!?」

 

チノ「ココアさん!?なぜ土管から!?」

 

ココア「保登心愛という名はもう捨てた…今の私の名は…」

 

ココア「新・保登心愛だよ!!」

 

チノ「どこも変わってない!!」

−−−−−−−−−−−−−−−

 

ココア「コンティニューしてでももふもふする!!」

 

チノ「!?」

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Inside 2.「Black cocoa」

――ラビットハウス――

 

 

リゼ「なに、ネットにココアの噂が?」

 

 

チノ「はい、学校で少し耳に挟んだだけなんですが、どうやらSSというものらしいです」

 

 

リゼ「ふむ……わかった、帰ったらチェックしておくよ」

 

 

チノ「変なことは書かれてないと思いますが、よろしくお願いします」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「悪評とかだとラビットハウスの営業にも差し障るしな」カチカチ

 

 

リゼ「おっ、これか」

 

 

リゼ「シャロのことも書かれているな……んっ?」

 

 

リゼ「これがチノが言ってたココアのことか……」

 

 

リゼ「なっ……チノに腹パン……!?」

 

 

リゼ(ほかにも悪行の数々……なんだこれは!)

 

 

リゼ(ココアは本当はこういう奴だったのか……?)

 

 

 

――1時間後――

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ(さすがにこれは見過ごせないな……あいつの暴挙を止めなければ)

 

 

リゼ(明日は休日……ちょうどいい、少しお灸をすえるとするか)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――リゼの部屋――

 

 

ココア「おじゃましまーす」ニコニコ

 

 

リゼ「……来たか」

 

 

ココア「お待たせリゼちゃん、今日は誘ってくれてありがとう」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

ココア「言われた通りわたし一人で来たけど……二人きりってことはゲームとか?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「ふふん、協力だろうと対戦だろうとどんとこいだよ」エッヘン

 

 

リゼ「……横に座れ」

 

 

ココア「はーい♪……えいっ」ポフッ

 

 

ココア「ん~リゼちゃんのベッドもふもふだね~」ピョンピョン

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「リゼちゃんどうしたの?早く遊ぼっ♪」

 

 

リゼ「……ココア、よく聞くんだ」

 

 

リゼ「わたしが今日お前をここに呼んだのは、お前に話があるからなんだ」

 

 

ココア「ふぇ、わたしに?」

 

 

リゼ「ああ……すごく大事な話だ。だから真剣に聞くんだ」

 

 

ココア「うん、わかった」フンス

 

 

リゼ「……なぁ、ココア?」

 

 

リゼ「モカさんやお母さんに教わらなかったか?人が悲しんだり、傷つくようなことをしちゃいけないって」

 

 

ココア「うん、たくさん言われたよ。だからわたし今でもずっと気を付けてるんだ」

 

 

リゼ「気を付けてる、だと?」

 

 

ココア「うん、人が傷つくようなことは言わないように、人を悲しませてまで自分のことを優先しないようにって」

 

 

リゼ(なるほど、自分では自覚がないということか……余計に厄介だな)

 

 

リゼ「……友達料」

 

 

ココア「へっ?」

 

 

リゼ「身に覚えも聞き覚えもあるだろう、友達料だ」

 

 

リゼ「友達料はほんとに相手を悲しませないと思うか?」

 

 

ココア「友達料ってなに?」キョトン

 

 

リゼ「この期に及んで誤魔化さなくていい。……お金だよ、お前がシャロから巻き上げた」

 

 

ココア「お金!?わたしがシャロちゃんから!?そんなことしないよ!」

 

 

リゼ「ああ、わたしもそう信じたかった。しかし、裏は取れてるんだ」

 

 

リゼ「お前がシャロのことをボコボコにした挙句、お金を請求している所を誰かが見ていたんだ」

 

 

ココア「シャロちゃんは大事な友達だもん!そんなひどいことするはずないよ!一体誰がそんな嘘を――!」

 

 

リゼ「」プツン

 

 

リゼ「いい加減にしろっ!!」

 

 

ココア「っ!?」ビクッ

 

 

リゼ「またそうやって騙すつもりか!千夜のことまで飽き足らずわたしのことまで!」

 

 

ココア「で、でも………」ブルブル

 

 

リゼ「」ドン!

 

 

ココア「ひゃぅ……」

 

 

リゼ「素直に謝ればまだ穏便に済まそうと思っていたが……お前がその態度を頑なに変えないならもういい!こうなれば実力行使だ!」

 

 

リゼ「はやく吐け!お前はシャロのことをいじめてただろ!?チノに腹パンしたり千夜に嘘を吹き込んだりしただろう!?」

 

 

ココア「してない……ぐすっ……してないよぉ……」ウルウル

 

 

リゼ「っ……泣いたって誤魔化されないぞ!お前のため、わたしは心を鬼にする!」

 

 

リゼ「ほら、正直に言わないか!」

 

 

ココア「リゼちゃん信じて……わたし、みんなにそんなひどいことしないよ……」グスッ

 

 

リゼ「……っ!」

 

 

リゼ(待て、これはチノの腹パンを誤魔化した時と同じ……騙されないぞ)

 

 

リゼ「くっ……この黒ココアめ!」バシン

 

 

ココア「ひぅ!………え…」ヒリヒリ

 

 

リゼ(はっ……しまった、つい手を……)

 

 

ココア「リゼちゃんに……たたかれた……」ジワッ

 

 

リゼ「あっ…あ……」アタフタ

 

 

ココア「うぇえ……ううっうぇえ……」ポロポロ

 

 

リゼ「っ……どうして正直に言わないんだ!」

 

 

ココア「だって…何もやってないもん……ひっく……ぇぅ…」ポロポロ

 

 

リゼ「」ダン!

 

 

ココア「ひっ……!」ガクガク

 

 

リゼ「……ほんとうか?」

 

 

ココア「うん……」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「ちょっと待っていろ」

 

 

ココア「り、リゼちゃん、どこいくの……?」ビクビク

 

 

リゼ「……電話だ」

 

 

ココア「いや……これ以上ひどいことしないで……!」

 

 

リゼ「待ってろと言ったのが聞こえなかったのか?」

 

 

ココア「っ……ごめんなさい」

 

 

ガチャッ バタン

 

 

ココア「」グスッ

 

 

 

リゼ「…………」ピッ

 

 

Prrrrrrrrrrrrrrrrr――――

 

 

チノ「もしもし、リゼさん?」

 

 

リゼ「いきなりすまない。チノ、昨日教えてくれたSSというものだが――」

 

 

チノ「実はわたしもそのことでリゼさんに謝らなくてはいけないことが……」

 

 

リゼ「謝る?」

 

 

チノ「はい。マヤさんとメグさんに聞いたところ、SSというのは二次創作といって誰かが勝手に創作したつくり話だそうです」

 

 

リゼ「」

 

 

チノ「ですので噂話というわけではなく、書かれているココアさんのことも恐らくは嘘……」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「リゼさん、もしもし?リゼさん?」

 

 

リゼ「……はは………はは…は…………」

 

 

チノ「……?」

 

 

リゼ「うあぁぁああああー!!」

 

 

チノ「リゼさん!?なにかあったんですか!?リゼさん!?」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――深夜 ベッドトーク――

 

 

ココア「えへへ、今日は色々あったね」

 

 

リゼ「……ココア、ほんとにすまなかった」

 

 

ココア「もーう、だから気にしなくていいよ。おかげでこうしてリゼちゃん家にお泊りさせてもらえたし」

 

 

リゼ「でも、こんなことではわたしの気が晴れない……」

 

 

ココア「リゼちゃんと一緒のベッドで寝たい、わたしのお願いだからこれでいいの」

 

 

ココア「だからリゼちゃん、元気出して?」

 

 

リゼ「……ココア」

 

 

ココア「ほら、ココアお姉ちゃんに甘えておいで~」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「……」クスッ

 

 

ポンッ

 

 

ココア「ふぇ?」

 

 

リゼ「ありがとう、ココア……」ナデナデ

 

 

ココア「ふふ、どういたしまして♪」ニコッ

 

 

リゼ「わたし、どうかしてたよ。お前がそんなことするはずないもんな」

 

 

リゼ「こんなに優しくて、温かいココアが……」ギュッ

 

 

ココア「リゼちゃん……これからは、わたしのこと信じてくれる?」

 

 

リゼ「もちろんだ、今度はちゃんと信じるよ」

 

 

ココア「そっか……よかった♪」ギュッ

 

 

ココリゼ「………………♪」

 

 

ココア「……リゼちゃん?」

 

 

リゼ「んっ……?」

 

 

ココア「さっき気が晴れないって言ってたよね?なら、もう一つだけわがまま言っていい?」

 

 

リゼ「ああ……なんだ?」

 

 

ココア「明日……また二人きりで、今度は外で遊ぼう?」

 

 

リゼ「そんなことでいいのか?お安い御用だ」

 

 

ココア「やったぁ!リゼちゃん大好き♪」ギュッ

 

 

リゼ「……!//」

 

 

リゼ「ああもう!白ココア可愛すぎるぞ!」ギュッ

 

 

ココア「白ココア?」

−−−−−−−−−−−−−−

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Inside 3.「illness」

――――――――――――――――――――――――

 

 

――AM11時半 学校――

 

 

シャロ「ここあの調子が?」

 

 

リゼ「ああ、昨日から咳もひどいし。今朝も元気がなさそうだった」

 

 

シャロ「風邪ですね、間違いなく」

 

 

リゼ「それならまだいいが……もしインフルエンザだったりしたら」

 

 

シャロ「帰ったら病院に連れていきますか?」

 

 

リゼ「今頃使用人が連れて行ってくれてる頃だと思う、ただの風邪だといいけど」

 

 

シャロ「熱が無いようでしたら、恐らくインフルエンザでは――」

 

 

Prrrrrrrr

 

 

リゼ「すまない、電話だ」カチャッ

 

 

リゼ「もしもし、どうだった?」

 

 

リゼ「フムフム……――!」

 

 

シャロ「あっ、リゼ先輩、階段ですので足元気を付けて――」

 

 

リゼ「」ゴロゴロ ドシャッ!!

 

 

 

シャロ「リゼ先輩っ!?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

シャロ「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

 

 

リゼ「………………」

 

 

シャロ「あぁ……!誰か、保健室から先生を――!」

 

 

リゼ「」ムクリ

 

 

シャロ「ひっ!?」

 

 

リゼ「シャロ……頼みがある」ズイッ

 

 

シャロ「リゼ先輩!血、血出てますからぁ!」

 

 

リゼ「クラスメイトにわたしが早退したと伝えておいてくれ」

 

 

シャロ「へっ?早退……」

 

 

リゼ「またな!」バッ

 

 

シャロ「窓から!?ここ2階ですよ!?」

 

 

リゼ「ふっ!」

 

 

シャロ「先輩!大丈夫ですか!?」

 

 

リゼ「待ってろ……ここあ!」タタタ

 

 

シャロ「…………」ポカーン

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――学校――

 

 

千夜「…………」カキカキ

 

 

千夜「ふぅ…………」

 

 

千夜(今日はいい天気ね……)チラッ

 

 

千夜(あら……?)

 

 

 

ドドドドド!!

 

 

 

千夜「リゼちゃんっ!?」

 

 

講師「!」

 

 

クラスメイト ガヤガヤ……

 

 

千夜「あっ、いえ……すいません」スッ

 

 

千夜(どうしてこんな時間に……あとでメールしましょう)

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

――天々座家 正門――

 

 

 

リゼ「」ドドドドドド!

 

 

使用人B「……!?敵襲……!」

 

 

使用人C「いやあれ……まさかお嬢では……」

 

 

リゼ「どけお前ら!道を開けろぉ!」

 

 

使用人C「やはり……」

 

 

使用人B「待ってくださいお嬢、訳を――」

 

 

リゼ「どけと言ってるだろっ!!」ジャキ

 

 

使用人B「ひっ!?」ビクッ

 

 

リゼ「鍵、開いてるな!よし……!」ガチャッ バタン

 

 

………………シーン

 

 

使用人B「…………?」

 

 

使用人C(いったいなにがあったんだ……)

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

ここあ「こほっ!けほっ……!」

 

 

使用人「大丈夫ですか?」

 

 

ここあ「ズズッ……うん」ニコッ

 

 

使用人「夕方にはお嬢が帰ってきますから、それまでどうか安静に……」

 

 

ここあ「りぜちゃん、きょうはおそくなっちゃう?」

 

 

使用人「そうですね、帰りにアルバイトでしょうし、早くても6時過ぎ――」

 

 

リゼ「ただいま」ガチャッ

 

 

使用人「お嬢!?」

 

 

ここあ「リゼちゃん……!」

 

 

リゼ「ここあ!大丈夫か……!」

 

 

リゼ「38度もあるんだって……やっぱり昨日からしんどかったんだな」

 

 

使用人「あの、お嬢」

 

 

リゼ「なんだ?」

 

 

使用人「いえその、学校は……?」

 

 

リゼ「んっ、抜け出してきた」

 

 

使用人「」

 

 

リゼ「ここあと学校どっちが大事だと思ってるんだ」

 

 

使用人「さっき電話かけてから3分ですよ!いったいどうやって……というか額のその血、怪我されたんですか!?」

 

 

リゼ「血?おかしいな、いつ付いたんだろう」

 

 

リゼ「まぁ痛くもかゆくもないし、学校の方はシャロに任せてあるし、心配するな」フンス

 

 

使用人「そういう問題では……とりあえず救急箱……!」

 

 

リゼ「それより今はここあのほうだ!ここあっ!」ギュッ

 

 

ここあ「きゃっ……」

 

 

リゼ「置いて行ってごめんな、今日はずっとそばにいるぞ!」

 

 

ここあ「りぜちゃん、きょうはもうがっこうおしまい?」

 

 

リゼ「ああ、学校もラビットハウスもおしまいだ。付きっ切りで看病するからな」

 

 

ここあ「ぁ……えへへ」ニコッ

 

 

ここあ「りぜちゃん、おかえりなさい……ありがとう♪」ギュッ

 

 

リゼ「よし、後悔はない」

 

 

ここあ「ふぇ?」

 

 

リゼ「少し待ってろよ、着替えてくる」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

リゼ「インフルエンザじゃ無かったのか?」

 

 

使用人「はい、高熱でもなさそうですし、恐らく」

 

 

リゼ「恐らく?病院に行ってないのか?」

 

 

使用人「あの子の場合、ややこしくなりそうなので」

 

 

リゼ「……そうか……そうだったな」

 

 

使用人「とりあえずは薬を飲んで安静にしていれば問題ないかと」

 

 

リゼ「薬はもう飲ませたのか?」

 

 

使用人「いえ、今からお昼ごはんなのでその後に予定しています」

 

 

リゼ「おかゆか、わたしが作ろう」

 

 

使用人「あと……解熱剤ですが」

 

 

リゼ「?」

 

 

使用人「風邪薬はたくさんありますが……解熱剤はこれしか」スッ

 

 

リゼ「……粉薬か」

 

 

使用人「近くの薬局で買ってきましょうか?」

 

 

リゼ「いや、いい。これが一番効くからな」

 

 

使用人「ですが……」

 

 

リゼ「心配するな、わたしが飲ませる」

 

 

使用人「……苦いですからね、これ」

 

 

リゼ「ああ……可哀そうだけどここあのためだ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

リゼ「待たせたな」ガチャッ

 

 

ここあ「りぜちゃん、それなあに?」

 

 

リゼ「これか、ここあのお昼ごはんだ」

 

 

ここあ「おひるごはん?でも……あんまりお腹すいてないよ?」

 

 

リゼ「そっか、でもせっかく作ったから少しだけでも食べてくれないか?」

 

 

ここあ「りぜちゃんがつくってくれたの?」

 

 

リゼ「ああ、卵をたくさん入れたおかゆだ」

 

 

ここあ「わぁ、おいしそう……!」

 

 

リゼ「わたしが食べさせてあげるから、なっ?」

 

 

ここあ「うん……わかった」

 

 

リゼ「座ってたら辛いだろう、寝ころべよ」

 

 

ここあ「ねながらたべてもいいの?」

 

 

リゼ「今日は特別だ。ふー……ふー……」

 

 

リゼ「ほら、あーん」

 

 

ここあ「あーん……」モグモグ

 

 

リゼ「……おいしいか?」

 

 

ここあ「……うん、おいしい!」

 

 

リゼ「そうか、よかった」

 

 

ここあ「あっ……『いただきます』するのわすれてた……」

 

 

リゼ「まぁ、今日くらいはいいさ。ほら、口あけろ」

 

 

ここあ「んっ、あーん……」

 

 

リゼ「たくさん食べるんだぞ」クスッ

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

ここあ「ごちそうさま」

 

 

リゼ「いっぱい食べたな、偉いぞ」ナデナデ

 

 

ここあ「えへへ」ニコッ

 

 

リゼ「さて……ご飯も終わったし、次は薬の時間だ」

 

 

ここあ「……!おくすり……?」

 

 

リゼ「まずは風邪薬だ。2粒あるからこのゼリーでごっくんしろ」

 

 

ここあ「これならのめるよ!まかせて」エッヘン

 

 

リゼ(かわいい……)

 

 

ここあ「んっ……」ゴクゴク

 

 

リゼ(……問題は次だな)

 

 

リゼ「よし……次はこれだぞ」

 

 

ここあ「ふぉぇ?」

 

 

リゼ「熱を下げる薬だ、頑張って飲もうな」

 

 

ここあ「ふくろ……もしかして、にがいの……?」

 

 

リゼ「……ああ。口に入れたら、すぐにこのジュースで飲み込め。口から吐いたらダメだぞ」

 

 

ここあ「………………」

 

 

リゼ「ここあ?」

 

 

ここあ「にがいおくすり、きらい…いやぁ……」フルフル

 

 

リゼ(そうだよな……無理もない。だが……)

 

 

リゼ「ダメだ、ちゃんと飲みなさい」

 

 

ここあ「……っ!」ブンブン

 

 

 

リゼ「ここあっ!!」

 

 

 

ここあ「!」ビクッ

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「…………」ウルウル

 

 

リゼ「……」スッ

 

 

ここあ「…………」

 

 

リゼ「飲むんだ」

 

 

ここあ「…………」

 

 

ここあ「……んっ!」

 

 

ここあ「うぇ…ぇっ……」

 

 

リゼ「っ……」

 

 

ここあ「んっ………」ゴクゴク

 

 

ここあ「……っ」ゴクリ

 

 

リゼ「……!」

 

 

ここあ「りぜちゃん……?おくすりのんだよ……?」

 

 

リゼ「ああ……よく頑張ったな」ギュッ

 

 

ここあ「おこってない……?わたしのこと、きらいじゃない……?」

 

 

リゼ「怒ってないよ、ここあのこと大好きだぞ」ナデナデ

 

 

ここあ「ん……」グスッ

 

 

リゼ「怒鳴ったりしてごめんな、許してくれるか?」

 

 

ここあ「うん……」

 

 

リゼ「ふふっ、優しいな、ここあは」ナデナデ

 

 

ここあ「りぜちゃん……」ギュッ

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

ここあ「…………」Zzz

 

 

リゼ「…………」ナデナデ

 

 

――トントン

 

 

リゼ「?」

 

 

チノ「お邪魔します」ガチャッ

 

 

リゼ「チノ、来てくれたのか」

 

 

チノ「はい……どうですか、ここあさんの様子は」

 

 

リゼ「ああ、やっぱり咳がひどいな……いまやっと寝付いたところだ」

 

 

チノ「これ、お見舞いの品です。プリンとかヨーグルトとかリンゴとか……」

 

 

リゼ「ありがとう、また晩御飯にでも食べさせておくよ」

 

 

リゼ「すまないな、急に休んでしまって」

 

 

チノ「いえ、わたしもここあさんが心配でしたので……」

 

 

リゼ「そういえばラビットハウスは?」

 

 

チノ「青山さんと父が代わってくださいました」

 

 

リゼ「そうか、なんだか申し訳ないな」

 

 

チノ「ここあさん、失礼しますね」スッ

 

 

チノ「ん……少し下がりましたか」

 

 

リゼ「さっき解熱剤を飲ませたからな」

 

 

チノ「良かったです、インフルエンザじゃなくて」

 

 

リゼ「重い病気にならないように気を付けないとな……これからも」

 

 

チノ「……そうですね」

 

 

――ガチャッ

 

 

千夜「お邪魔します。――あら、チノちゃん?」

 

 

チノ「こんにちは」

 

 

リゼ「千夜?おかしいな、千夜にはまだここあのこと連絡してなかったはずじゃあ――」

 

 

千夜「リゼちゃん、大丈夫!?」ガシッ

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

千夜「なにか悩みがあるなら言って!学校抜け出してダッシュなんてしちゃダメよ!」

 

 

リゼ「なんのことだ?」

 

 

チノ「千夜さん、その袋は……」

 

 

千夜「万が一リゼちゃんが暴れ出したらと思って……」

 

 

リゼ「スタ〇ガン!?落ち着けェ!」

 

 

チノ「荒縄まであります……」

 

 

 

 

使用人「37.4度……下がってきましたね」

 

 

千夜「ここあちゃんが病気になったのね、それで……」

 

 

リゼ「まったく、お前はわたしをなんだと思ってるんだ……」

 

 

千夜「ごめんなさい、最近のリゼちゃんは少し人間離れしてるから。特にここあちゃんのこととなると」

 

 

使用人(あながち間違っちゃいない……)

 

 

ここあ「んっ……?」クシクシ

 

 

リゼ「ここあ、起きたか」

 

 

ここあ「ちのちゃん、ちやちゃん……?」

 

 

千夜「おはようここあちゃん、大丈夫?」

 

 

チノ「喉かわいてませんか?ここあさんの好きなイチゴミルク買ってきましたよ」

 

 

リゼ「ここあのお見舞いに来てくれたそうだ、もう少しでシャロも来るぞ」

 

 

千夜「ここあちゃん、早く元気になってね」ナデナデ

 

 

ここあ「んっ……♪」

 

 

チノ「冷えピタ、張り替えますね」

 

 

ここあ「チノちゃん、ありがとう」ニコッ

 

 

――ガチャッ

 

 

シャロ「お邪魔します、遅くなりました」ハァハァ

 

 

ここあ「しゃろちゃん……!」

 

 

シャロ「ここあ、大丈夫?これクッキーだけど食べられる?」

 

 

 

ガヤガヤ ワイワイ

 

 

 

使用人「みんな優しいですね……お嬢の友人は」

 

 

リゼ「ああ……良い奴ばかりだよ」

 

 

ここあ「りぜちゃんもこっちにきて!」

 

 

リゼ「!」

 

 

使用人「お嬢、お呼びですよ」

 

 

リゼ「……」クスッ

 

 

 

リゼ「ここあ、みんなが来てくれて良かったな」ナデナデ

 

 

ここあ「うん」ニコッ

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

――PM9時――

 

 

ここあ「ハァ……ハァ……」

 

 

使用人「どうですか?」

 

 

リゼ「37.4……ダメだな、下がってない」

 

 

使用人「今日はお風呂は控えたほうが良いでしょう。着替えだけ用意しておきますので、濡れタオルで身体だけ拭いてあげてください」

 

 

リゼ「すまない、よろしく頼む」

 

 

ガチャッ バタン

 

 

リゼ「さて……」

 

 

ここあ「おふろのじかん……?」

 

 

リゼ「今日は病気だから入っちゃダメだ、身体だけ拭いて大人しくしてような」

 

 

ここあ「うん……」

 

 

リゼ「じゃあ……服、脱がすぞ?」

 

 

プチッ スルスル……

 

 

リゼ「…………」

 

 

ファサ……

 

 

ここあ「ハァ………ハァ…………」

 

 

リゼ「…………//」

 

 

ここあ「……りぜちゃん?」

 

 

リゼ「あっ……ごめん、すぐに拭くぞ!」

 

 

リゼ(毎日お風呂で見てるじゃないか、落ち着け……)

 

 

リゼ「じっとしてろよ」スッ

 

 

ここあ「んっ……」

 

 

リゼ「どうだ、蒸しタオルだからあったかいだろ?」

 

 

ここあ「うん……きもちいい……」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「ハァ……ハァ…………ん……」

 

 

リゼ「…………//」

 

 

リゼ(熱のせいか、呼吸が荒いな……顔も火照ってるし……//)

 

 

リゼ(ベッドの上なのも相まって……余計に背徳感が……//)ドキドキ

 

 

ここあ「あっ……//」ビクッ

 

 

リゼ「っ!?す、すまない、大丈夫か//」

 

 

ここあ「ううん、ごめんね……//」

 

 

リゼ「…………」フキフキ

 

 

ここあ「ふぇ………」

 

 

リゼ「…………//」ゴクリ

 

 

リゼ「……ここあ//」

 

 

――スッ

 

 

使用人「お嬢、ちいせぇお嬢の着替えお持ちしまし――」

 

 

リゼ「うわぁあっ!!?」ビクッ

 

 

使用人「っ!?」

 

 

ここあ「りぜちゃん、どうしたの?」

 

 

リゼ「な、なんでもないぞ!ははっ……!」

 

 

使用人「お嬢……あの……」

 

 

リゼ「違うっ!ほら見るな!用が済んだなら早く行け!」

 

 

使用人「いや、あっしはロ〇コンでも無ければ〇ドでも……」

 

 

リゼ「わたしも違う!いいからいけ!」ガチャッ

 

 

使用人「あっ……」

 

 

リゼ(ふぅ……危なかった)ホッ

 

 

ここあ「りぜちゃん?」

 

 

リゼ「すまない、ここあ……普段通りに戻るからな」ペシペシ

 

 

ここあ「?」

 

 

リゼ「さて、こっちのパジャマに着替えて寝るか」

 

 

ここあ「うん。……りぜちゃん?」

 

 

リゼ「んっ、なんだ?」

 

 

ここあ「……きょうも、いっしょにねてくれる……?」

 

 

リゼ「……?当たり前だろ、どうしたんだ急に?」

 

 

ここあ「びょうき……うつしちゃったらだめだから」

 

 

リゼ「!」

 

 

ここあ「きょうはりぜちゃんとはなればなれでねなきゃって……」

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

リゼ「クスッ……さっきから元気が無かったのはそのせいか?」

 

 

ここあ「…………」ウツムキ

 

 

リゼ「まったく……お前は相変わらずだな」ナデナデ

 

 

リゼ「よっと……」ヒョイ

 

 

ここあ「……りぜちゃん?」

 

 

 

リゼ「うつってもいいよ、ここあの病気なら」

 

 

 

ここあ「!」

 

 

リゼ「ここあと離れ離れになるくらいならうつったほうがマシだ」

 

 

リゼ「むしろ、それでお前が治るならうつしてほしい」

 

 

ここあ「……でも、りぜちゃんがびょうきになったらやだ……」

 

 

リゼ「心配するな、万が一なったとしても……」

 

 

リゼ「ここあがそばにいてくれるだけで、すぐに治る」ギュッ

 

 

ここあ「……!」

 

 

リゼ「だから今日も一緒に寝よう……明日もずっと、治るまでそばにいるからな」

 

 

ここあ「りぜちゃん……えへへ…//」ギュッ

 

 

リゼ「やっと笑ってくれたな」

 

 

ここあ「ありがとう……りぜちゃん、だいすき//」ニヘラ

 

 

リゼ「わたしも好きだぞ、ここあ……」スリスリ

 

 

ここあ「あはは、くすぐったいよぉ//」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

――深夜 IN ベッド――

 

 

 

ここあ「…………」ギュッ

 

 

リゼ(熱で辛いせいか、今日は普段以上に甘えん坊だな……)

 

 

リゼ(一人で寝るかもしれないと思って色々不安だったんだろうな……)ナデナデ

 

 

ここあ「りぜちゃん、ぎゅってして……?」

 

 

リゼ「……」ギュッ

 

 

ここあ「んっ……」

 

 

リゼ「安心して寝るんだぞ……ちゃんと側にいるからな」

 

 

ここあ「うん……」

 

 

リゼ「………………」ナデナデ

 

 

ここあ「……すぅ……すぅ…………」

 

 

リゼ「…………」クンクン

 

 

リゼ(お風呂に入ってないせいか、髪の毛からいつも以上にここあの匂いがするな)

 

 

リゼ(もちろん臭いわけじゃない、むしろ……)

 

 

リゼ「ここあの、いい匂い……」クンクン

 

 

ここあ「ん……」Zzz

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

……ガチャッ

 

 

タカヒロ「失礼するよ」

 

 

リゼ父「……寝てるのか?」

 

 

タカヒロ「ああ、どうやら一足遅かったようだ」

 

 

リゼ父「やれやれ……お見舞いに来るなら昼に来い」

 

 

タカヒロ「営業で手が離せなかった……それに、みんながいるのに水を差すのも悪い。お前もそうだろう?」

 

 

リゼ父「……ふん」

 

 

タカヒロ「お見舞いの品だけ置いていこう」コトッ

 

 

リゼ父「寒い中、わざわざご苦労だったな」

 

 

タカヒロ「ラビットハウスの大切な家族のためだ、苦でもないさ」フッ

 

 

リゼ父「……酒でも飲んでいくか?」

 

 

タカヒロ「ああ」

 

 

リゼ父「バーの方はいいのか?」

 

 

タカヒロ「今日は疲れた……休業だ」

 

 

リゼ父「……今度、また手伝いに行ってやる」

 

 

タカヒロ「いいのか?」

 

 

リゼ父「今夜の借りだ」

 

 

タカヒロ「……ふっ」

−−−−−−−−−−−−−−

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Inside 4.「Case4.5」

この話は"Spiritに収録された"Interlude film 1「意」"の追憶編です。


ココリゼ−追憶−

 

…………………―――――――――――――――――――

 

 

鬱々しい……

 

 

何もかもが鬱々しい

 

 

…………

 

 

何だろう…何かが見える

 

 

病室…?

 

 

ん? 誰かがいる……

 

 

……リゼちゃん?………

 

 

なんで病室に……………

 

 

…………………………………………

 

 

 

 

 

 

思い出した…………

 

 

何もかもが…いや、全て思い出したんだ………

 

 

そうか…………

 

 

あの時……………

 

 

 

ココア「リゼちゃん……ごめんね」グスッ

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「ごめんなさい……」ジワッ

 

 

リゼ「ココア……?」

 

 

ココア「わたし……わたし……」ポロポロ

 

 

リゼ「ココア……!どうしたんだ?どうしてお前が謝るんだ?」

 

 

ココア「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」ブルブル

 

 

リゼ「しっかりしろ!お前は何もしてないだろ!?ココア……ココア!」

 

 

ココア「ごめんなさい…ごめんね、リゼちゃん……」ポロポロ

 

 

リゼ「ココア!?ココア!」

 

 

ココア「……っ!」ポロポロ

 

 

 

…………………………

 

 

私………なんで自分を責めてたんだろう………

 

 

なんか……………――――――――――――――――――――――

−−−−−−−−−−−−−−−−

 

千夜−追憶−

 

 

…………………………………

 

 

………………………………

 

 

 

私は………………………何を望んて…………幸せがほしかったのかしら………

 

 

 

何の為に……………望んだんだっけ…………

 

 

 

何の為に……………幸せを願ったんだっけ…………

 

 

 

不幸なく……………不条理な事もなく…………何を………

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

……………………………………思い出したわ

 

 

 

あの時……………私…………………

 

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「千夜……」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「千夜!」

 

 

千夜「!」ビクッ

 

 

リゼ「どうしたんだ、ボーッとして?」

 

 

千夜「……ちょっと」

 

 

千夜「……ねぇ、リゼちゃん?」

 

 

リゼ「?」

 

 

 

千夜「神様って、残酷ね……」

 

 

 

リゼ「え……」

 

 

千夜「それとも、わたしが欲張りしたからかしら……」ポロ

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「こんなつもりじゃなかったのに……ふふっ……ふふ……」ポロポロ

 

 

リゼ「千夜……?千夜っ!」

 

 

千夜「充分……しあわせだったのにね……」ポロポロ

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

私……………なんであんな事…………言っちゃんだろう

 

 

…………………………………………

 

 

…………………………………………

 

 

…………………………………………

 

 

 

…………ふふっ

 

 

 

ふふ…………………ふふふっ

――――――――――――――――――――

その後、彼女は…………無残な姿になっていた

 

 

彼女の横には包丁であるものがあった

 

 

恐らく彼女は…………自殺したのだろう

 

 

きっと…………何かを思い出し……………自分を責め…………

 

 

自分を刺したかもしれない……………

−−−−−−−−−−−−−−−

 

チノ−追憶−

 

 

…………………………

 

 

 

…………………?

 

 

 

…………………………夢?

 

 

 

これは夢なんでしょうか……………

 

 

 

ん?チストの地図………?

 

 

 

…………………………女の子?………

 

 

 

いったいこの夢は………………

 

 

 

彼女は何も思い出せぬまま、夢を見続ける

 

 

すると、ふと彼女はある事に思い出す。

 

 

 

…………………………………………これって…

 

 

 

まさか…………………

 

 

 

千夜「この近所に住んでいた女の子が、いま行方不明になってるの」

 

 

 

チノ「――!」

 

 

千夜「昨日ひとりで遊びにいったきり、まだ帰ってこないらしくて……」

 

 

チノ「!!」

 

 

千夜「明日から捜索が開始されるみたいよ、もし誘拐だったりしたら……」ブルブル

 

 

千夜「無事に見つかってくれるといいわね……」

 

 

チノ「………………」

 

 

千夜「だから、チノちゃんも気をつけてね。帰り道はマヤちゃんやメグちゃんと一緒に……」

 

 

千夜「――……?チノちゃん?」

 

 

チノ「…………」

 

 

 

――ガクッ……

 

 

 

千夜「!」

 

 

チノ「……っ!」ガクガク

 

 

千夜「チノちゃん!?」

 

 

チノ「ぁ…………ぁ……」ガクガク

 

 

千夜「チノちゃんっ!?どうしたの!?しっかりしてっ!!」

 

 

チノ「ちがっ………あ……」ガクガク

 

 

チノ「わたし……ぁ…………」ガクガク

 

 

チノ「…………っ」ブルブル

 

 

千夜「……!?」

 

 

チノ「お父さん…おじいちゃん……ココアさん……」ポロポロ

 

 

チノ「お母さん……どうして…こんな……」ポロポロ

 

 

千夜「チノちゃん……!?チノちゃんっ!!」

 

 

 

チノ「お母さん、助けて……っ!」ポロポロ

 

 

 

千夜「チノちゃんっ!!」

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

………………………………………

 

 

 

彼女は無言で泣いた

 

 

 

全てがわかったかのように泣いた

 

 

 

そう…………思い出したのだ

 

 

 

自分がその女の子を行方を……

−−−−−−−−−−−−−−−

 

リゼマヤ−追憶−

 

 

 

……………………

 

 

 

私は改めて思った

 

 

あの時の事を………

 

 

あの事を考えると………

 

 

脳から離れなれられないのだ

 

 

あぁ………

 

 

私はなんで……あんな事言ったんだろう…

 

 

………………………………………

 

 

……………………………………

 

 

…………………………………

 

 

マヤ「……リゼ?」

 

 

リゼ「小さい頃、あんなに早く過ぎてほしいと思っていた時間が……今は、何より惜しいんだ……」

 

 

 

リゼ「長持ちさせる方法なんてあるなら、わたしが教えてほしいくらいだ」ニコッ

 

 

 

マヤ「っ……リゼ!」

 

 

リゼ「?」

 

 

マヤ「……あんなこと言って、ごめん」

 

 

マヤ「わたしの気持ちなんて、分からないって……」

 

 

リゼ「……マヤ」

 

 

マヤ「リゼは、わたしよりずっと分かってたのに……」グスッ

 

 

マヤ「っく……ごめんなさい……」ジワッ

 

 

リゼ「……」クスッ

 

 

リゼ「泣くなよ、気にしてないって」ナデナデ

 

 

マヤ「グスッ……ヒック……」ポロポロ

 

 

リゼ「なぁ、マヤ?」

 

 

リゼ「一人ぼっちでいたら、確かに時間は長く感じるかもしれない」

 

 

リゼ「『今』の時間が、長引いた気がするかもしれない」

 

 

リゼ「でもな……そうやって長引かせても、得られるのは結局後悔だけだぞ」

 

 

リゼ「たとえ短く感じても、チノやメグ……みんなと一緒にいれば、絶対後悔なんてしない」

 

 

リゼ「どうせ同じ過ぎていくなら、みんなと楽しくしているほうがいい……そう思わないか?」

 

 

マヤ「りぜぇ……」ギュッ

 

 

リゼ「よしよし……みんなとの時間が無くなっていくのが、怖くなったんだよな……」

 

 

リゼ「今を大切にしていればいいんだよ……大丈夫、みんなずっと一緒だって」ナデナデ

 

 

マヤ「……っ!」ポロポロ

 

 

リゼ「…………」ギュッ

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

…………何で泣いてんだろう…私………

 

 

 

……………………本当馬鹿だな…………私……

 

 

 

彼女は泣いた

 

 

幸せな時間が……消えるのが………嫌だったんだろう

 

 

『幸せ』が消え行くのを……いやだったんだろう

 

 

マヤも同じだったのだろう………消えるのを……嫌だった

−−−−−−−−−−−−−−−

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Inside 5.「September 19th.」

――休日 甘兎庵 店先――

 

 

千夜「♪~♪♪」サッサッ

 

 

千夜(涼しくなってきたわね、もうすぐ秋かしら)

 

 

千夜(秋と言えば今年はマラソン大会……完走できるといいけど)

 

 

千夜「いつかは体育が義務教育から抹消されますように」

 

 

リゼ「朝からなに物騒なこと言ってるんだ?」

 

 

千夜「あらリゼちゃん、おはよう♪」

 

 

リゼ「おはよう、朝から掃除とは大変だな」

 

 

千夜「もしかして遊びに来てくれたの?」

 

 

リゼ「ああ。でもまだ開店前だよな」

 

 

千夜「いいのよ、特別にサービスするわ。どうぞ入って」

 

 

リゼ「いや、先に準備を手伝おう。箒はどこだ?」

 

 

千夜「リゼちゃん……優しい♪」

 

 

リゼ「二人でやればすぐに終わるさ」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

千夜「はい、お疲れ様」コトッ

 

 

リゼ「お疲れさん、千夜も座れよ」

 

 

千夜「お邪魔します」スッ

 

 

 

リゼ「ふぅ……」

 

 

千夜「朝は涼しくていいわ」

 

 

リゼ「悪いな、こんなに朝早くから」

 

 

千夜「ううん、リゼちゃんの顔が見れて嬉しい」

 

 

リゼ「…………」ズズッ

 

 

千夜「今日はラビットハウスは?」

 

 

リゼ「9時からだ、あと1時間かな」

 

 

千夜「おやすみじゃないのね……」

 

 

リゼ「おいおい、どうしたんだ急に」

 

 

千夜「こんな時間に来てくれたから、つい期待しちゃって」

 

 

リゼ「……そっか、すまないな」

 

 

千夜「ううん、わがままだから気にしないで」

 

 

千夜「こうして会いに来てくれただけでも感謝しなきゃね」

 

 

リゼ「千夜さえよければ、時間ギリギリまでいるよ」

 

 

千夜「ふふっ、ありがとう」ニコッ

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「今日は、シャロは午後からバイトか」

 

 

千夜「お昼まで寝ていられるって喜んでたわ」

 

 

リゼ「……こう考えると、実は意外と千夜が一番大変だったりしてな」

 

 

千夜「そんなことないわ、毎日充実してて幸せよ」

 

 

リゼ「わたしも、ココアが来てからはずっと充実してるかな」

 

 

千夜「ココアちゃんのおかげでチノちゃんともリゼちゃんともお友達になれたしね」

 

 

リゼ「ああ、みんなと会えたから、ほんとによかった」

 

 

千夜「……わたしとも?」

 

 

リゼ「当たり前だろう、そんなこと」

 

 

千夜「くすっ……嬉しいわ、リゼちゃんは嘘つかないから」

 

 

リゼ「虫歯の時、一度だけココアに嘘ついちゃったけど」

 

 

千夜「あれは『ほほえま~』だからオッケーよ?」

 

 

リゼ「なんだその基準は」クスッ

 

 

千夜「でも意外だったわ、リゼちゃんも完璧じゃないのね」

 

 

リゼ「わたしだって怖いものくらいある……//」プイッ

 

 

千夜「これからもずっと一緒にいれば、もっとリゼちゃんのこと深く知れるかしら」

 

 

リゼ「たぶんな、そのうち否が応でもボロが出るよ」

 

 

千夜「時々心配になるの、リゼちゃんってあんまり人に頼らないから」

 

 

リゼ「そんなことないさ、何かあったら頼りにする」

 

 

千夜「ほんと……?」

 

 

リゼ「ああ、ほんとだ」

 

 

千夜「それじゃあ指切りしましょ」スッ

 

 

リゼ「疑い深いな、やれやれ」スッ

 

 

千夜「ゆーびきりげんまん♪」

 

 

リゼ「……これがしたかっただけじゃないのか?」

 

 

千夜「ばれた?」テヘペロ

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

千夜「新メニューなんだけど、どうかしら?」

 

 

リゼ「ん……おいしい、ただ強いて言えば少し甘すぎるかな」

 

 

千夜「やっぱりそう思う?練乳とアンコのダブルかけが原因ね」

 

 

リゼ「いっそのこと練乳を省いたらどうだ?アンコだけでも充分おいしいぞ」

 

 

千夜「でも、そうしたらクリーミーさが足りない気がするの」

 

 

リゼ「代わりにミルクをかければいいんじゃ……」

 

 

千夜「……!」

 

 

リゼ「千夜?」

 

 

千夜「リゼちゃんナイスアイデアよ!」ピョンピョン

 

 

リゼ「いや、ちょっと考えればわかる気が……」

 

 

千夜「盲点だったわ、新メニューの名前ばかりずっと考えていたせいね」

 

 

リゼ「それ本末転倒だろ!?」

 

 

千夜「さっそく作り直してみるわ!リゼちゃん試食お願い!」

 

 

リゼ「いやその、あんまり食べると体重が……」

 

 

千夜「?」キラキラ

 

 

リゼ「あっ、ううん、なんでもない」

 

 

リゼ(こりゃ明日からまた節制だな……)

 

 

千夜「♪~♪♪」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「10月にマラソン大会があるのか」

 

 

千夜「嫌だわ、今から憂鬱……」ドヨン

 

 

リゼ「千夜は運動が苦手だったっけ」

 

 

千夜「リゼちゃん、わたしの代わりに出場してくれない?」

 

 

リゼ「いや、間違いなくバレるだろ」

 

 

千夜「髪型同じにしてもダメかしら」

 

 

リゼ「もうちょっと前向きに考えろよ!?」

 

 

千夜「そう……やっぱりずる休み以外に方法は無いわね」

 

 

リゼ「あれ、もっと後ろ向きに?」

 

 

千夜「そうだ!」パンッ

 

 

リゼ「?」

 

 

千夜「当日の1週間前くらいから、リゼちゃんに鍛え直してもらおうかしら」

 

 

リゼ「一緒に走るってことか?」

 

 

千夜「ええ、地獄の果てまでも一緒に!」

 

 

リゼ「わたしは千夜さえよければかまわないけど」

 

 

千夜「お願いするわ、リゼ教官!」

 

 

リゼ「よし、ならまず最初は軽めにしないとな」

 

 

千夜「軽め?どれくらい?」ウキウキ

 

 

リゼ「そうだな……2キロくらいか」

 

 

千夜「」バタッ

 

 

リゼ「千夜ぁ!?」

 

 

千夜「マラソン…いや……体育いやぁ……」グスグス

 

 

リゼ(かわいい……)

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

千夜「もうすぐ9時ね……」シュン

 

 

リゼ「そんな顔しないでくれよ、また来るからさ」

 

 

千夜「ほんと……?」

 

 

リゼ「これも指切りしとくか?」

 

 

千夜「……ううん。言ったでしょ、リゼちゃんは嘘つかないもの」

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「気を取り直して、今日もお互い一日頑張りましょう」パアァ

 

 

リゼ「…………」

 

 

――ポンッ

 

 

千夜「!」

 

 

リゼ「…………」ナデナデ

 

 

千夜「ん……リゼちゃん?」

 

 

リゼ「いつも偉いな、千夜は」ナデナデ

 

 

千夜「いきなりどうしたの?」

 

 

リゼ「分からん、なんだか急に撫でたくなった」

 

 

千夜「……そう//」

 

 

リゼ「嫌か?」

 

 

千夜「ううん……//」

 

 

千夜「恥ずかしいけど、気持ちいい……//」ニコッ

 

 

リゼ「そうか……」ナデナデ

 

 

千夜「あともう少しだけ……」

 

 

リゼ「ああ、いいぞ」

 

 

千夜「…………♪」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「そろそろ行かないとさすがにマズいか」

 

 

千夜「またいつでも遊びに来てね」ガシッ

 

 

リゼ「ああ、千夜もな」

 

 

千夜「今日はリゼちゃんとたくさんお話できてうれしかったわ」

 

 

リゼ「わたしもだ。また今度二人でゆっくり話そう」

 

 

千夜「楽しみにしてる。またね、リゼちゃん」

 

 

リゼ「……千夜、これ」

 

 

千夜「?」

 

 

――スッ

 

 

千夜「……ヘアアクセ?」

 

 

リゼ「わたしからの誕生日プレゼントだ」

 

 

千夜「!」

 

 

リゼ「9月19日、今日だよな」

 

 

千夜「覚えててくれたの……?」

 

 

リゼ「大切な友達の誕生日を忘れるはずないだろう」

 

 

リゼ「これを渡したくて今日わざわざ早起きしてきたんだから」

 

 

千夜「リゼちゃん……」

 

 

リゼ「ほんとはバイト終わりに渡しに来ても良かったんだけど、やっぱり二人きりの時に渡した方が喜んでもらえると思ってな」

 

 

リゼ「たぶん、チノとココアもプレゼント渡しに来るだろうし」

 

 

千夜「……!」

 

 

リゼ「千夜、これからもずっとよろしく」

 

 

 

リゼ「誕生日、おめでとう」ニコッ

 

 

 

千夜「リゼちゃん……」ウルウル

 

 

リゼ「土壇場になって悪かったな」

 

 

千夜「……ううん」グスッ

 

 

千夜「リゼちゃん、ありがとう……すごくうれしいわ」

 

 

千夜「でもダメね、こんなことされたらリゼちゃんのこと……」

 

 

リゼ「?」

 

 

千夜「ぐすっ……なんでもない」

 

 

千夜「これ、大切にするわ」

 

 

千夜「どうしても辛い時、不安な時……これを付ければ、頑張れる気がする」

 

 

千夜「リゼちゃんからもらった、わたしの大切なもの」ニコッ

 

 

リゼ「そんな大げさな、でも喜んでもらえてうれしいよ」

 

 

リゼ「じゃあな千夜、また夕方、みんなと一緒にお祝いに来るから」

 

 

千夜「ありがとう。……リゼちゃん?」

 

 

リゼ「?」クルッ

 

 

千夜「わたし、いまとっても幸せ!」

 

 

リゼ「……!」

 

 

リゼ「……♪」クスッ

 

 

リゼ「ハッピーバースデー、千夜」

 

 

千夜ちゃん、お誕生日おめでとう。

−−−−−−−−−−−−−−−−

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Ourside
Ourside 1.「Blue Is Lovers」


ギイッ…

 

 

_______ココアさん

 

 

 

みんながいて 毎日が楽しくて

 

 

 

これ以上ないくらい 幸せなのに

 

 

 

私の心の中は ずっと真っ白です

 

 

 

真っ白な空間で 思い浮かべるのは

 

 

 

あなたのことばかり

 

 

 

この真っ白な空間を 埋めてくれるのは

 

 

 

あなたしかいないのに_______

 

 

 

どうして 私にだけ

 

 

 

振り向いてくれないんですか

 

 

 

ギシッ…

 

 

 

そんなの

 

 

 

 

 

嫌だ_______

 

 

 

 

 

チャリン

 

 

 

ココア「いらっしゃいませー」

 

 

_______

 

 

 

ココアさんが来てからは 毎日が楽しくて

 

 

こんな日々がずっと続けばいいなって そう思っていました

 

 

壊れる事のない日々を ずっと_____

 

 

 

_______

 

 

 

リゼ「チノ!」

 

チノ「リゼさん」

 

リゼ「最近忙しいな」

 

____

___

__

 

 

チノ「そうですね、難しいことではありますが……」

 

リゼ「それでさ、ココアがな『チノちゃんにかまってあげられなくて、寂しくてチノちゃん泣いちゃったらどうしよ〜』って言ってたぞ」

 

チノ「!?」

 

チノ「いや…それ既にココアさんの方が泣いてるんじゃないですか、さみしくて」

 

リゼ「ハハハッ、そうだな泣きながら言ってた言ってた」

 

 

 

_______寂しい…

 

 

 

リゼ「まぁ、たまにはかまってやれよ。可哀想だしなー」

 

チノ「………はい」

 

チノ「……」

 

 

 

_______

 

 

 

寂しい…はなんだか違う気がします

 

 

 

多分 この感情は

 

 

 

辛くて 苦しいんだ

 

 

 

見透かされた……?

 

 

 

そんな事はないはず

 

 

 

だって

 

 

 

だって

 

 

 

ココア「あっ」

 

ココア「お疲れ、チノちゃん」

 

 

 

ココアさんの前ではそんな感情(ココロ)見せないって 決めてるから

 

 

 

ココア「今日も疲れたねー」

 

チノ「はい…って」

 

チノ「なんで抱きつくんですか」

 

ココア「えへへ、チノちゃん成分を補充しようと思って」

 

チノ「……」

 

チノ「なんですか、それ(笑)」

 

 

 

ねぇ、ココアさん

 

 

 

私が感じているこの感情(キモチ)は

 

 

 

ココアさんも抱いたりしてないですか

 

 

 

……こんなこと

 

 

 

考えちゃダメなのに……

 

 

 

チノ「ココアさんは、最近寂しいと思うことありますか?」

 

ココア「……」

 

ココア「思わないよ」

 

ココア「毎日みんなと一緒だし」 

 

ココア「私はいつも楽しいよ!」

 

ココア「チノちゃん寂しいの?むぎゅーってしてあげようか?」

 

チノ「……いえ」

 

チノ「楽しいですよ、私も毎日みんなと過ごせて幸せです」

 

ココア「……そっか」

 

ココア「良かった」

 

ココア「行こうチノちゃん、今日はハンバーグ作ろ!」

 

ココア「ふんふふ〜ん♪」

 

チノ「……」

 

 

 

昔は嬉しかった この言葉が

 

 

 

今は 辛い_______

 

 

 

叶わない想いだって 分かっているのに

 

 

 

私はあなたの

 

 

 

特別になりたい

 

 

 

_______

 

 

 

 

チノ「どうすれば良いですか、ココアさん」

 

 

 

ココア「チノちゃん?」

 

 

 

チノ「あ……」

 

 

 

チノ「ココアさん……」

 

 

 

ココア「どうしたの?」

 

 

 

ココア「おいで」

 

 

 

_______

 

 

 

どうせこのまま この状態が続くなら

 

 

 

いっそ

 

 

 

全部吐き出してしまえば

 

 

 

2つの感情(ホンネ)がせめぎ合う

 

 

 

今は壊したくない 何も変わらないで良い

 

 

 

チノ「……」

 

 

 

チノ「ココアさん…私……」

 

 

 

チノ「もう辛いんです」

 

 

 

チノ「ダメだって分かってるんです」

 

 

 

チノ「でも」

 

 

 

チノ「ココアさんを独り占めしたくて」

 

 

 

チノ「心のどこかで期待してる自分が馬鹿らしくて」

 

 

 

チノ「だからずっと」

 

 

 

チノ「ココアさんのことが______」

 

 

 

そして

 

 

 

自分の気持ちに素直になれって

 

 

 

たとえ

 

 

 

一方的な気持ちが気持ち悪いと思われても___

 

 

 

ココア「ダメだよ」

 

 

 

ココア「それ以上言ったら」

 

 

 

チノ「えっ…」

 

 

 

ココア「チノちゃん」

 

 

 

ココア「こういうことは、お姉ちゃんから言わないと」

 

 

 

ココア「私もだよ」

 

 

 

ココア「チノちゃんのことばかり考えていたんだよ」

 

 

 

ココア「寂しくないなんてウソ」

 

 

 

ココア「ずっとずっと怖かったの」

 

 

 

ココア「でも、今はすごくホッとしてるよ」

 

 

 

_______

 

 

 

ココアさんは

 

 

 

目も顔も赤かったけど

 

 

 

また

 

 

 

いとも簡単に

 

 

 

私の想いを伝えた

 

 

 

_______

 

 

 

ココア「チノちゃん」

 

 

 

ココア「もう寂しくならないよう、お姉ちゃんの我儘(ワガママ)聞いてくれるかな」

 

 

 

ギュ…

 

 

 

チノ「……あ…」

 

 

 

_______

 

 

 

ココアさんは

 

 

 

やっぱり

 

 

 

ずるい______

 

 

 

_______

 

 

 

チノ「……はい」

 

 

 

_______

 

 

 

ココアさんも 私も

 

 

 

お互いに「好き」って言葉を使わなかった

 

 

 

たった一つ

 

 

 

分かったこと

 

 

 

その日

 

 

 

ココアさんと私は

 

 

 

本当の家族になりました

−−−−−−−−−−−−−−−

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Ourside 2.「Petition Yandere」

――夏休み 別荘 コテージ――

 

 

 

リゼ「んっ……?」パチッ

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「もう朝か」

 

 

千夜「リゼちゃん、目が覚めた?」

 

 

リゼ「千夜……おはよう」

 

 

千夜「おはよう、いい朝ね」

 

 

リゼ「……そうだな」

 

 

千夜「顔洗う?」

 

 

リゼ「ああ」

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「……なぁ、千夜?」

 

 

千夜「?」

 

 

リゼ「顔を洗いたいんだけど」

 

 

千夜「ええ、洗いましょう」ニコッ

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「洗面所に行きたいから……」

 

 

 

 

 

リゼ「――この拘束……解いてくれないか?」ジャラ

 

 

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜「ううん……――だめ」

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

千夜「洗面器に水を汲んでくるわ、あと歯ブラシも持ってくるわね」

 

 

千夜「リゼちゃん、いい子で待ってて」ギュッ

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「♪」フリフリ

 

 

 

ガチャッ バタン……

 

 

 

リゼ「………はぁ」

 

 

リゼ(今日で、3日目か)

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

――甘兎庵――

 

 

 

千夜「夏休みももう少しで終わりね」

 

 

リゼ「残りあと2週間か、早いな」

 

 

千夜「花火大会に肝試しに、今年も楽しかったわ」

 

 

リゼ「……映画鑑賞は、残念だったな」

 

 

千夜「クスッ、そうね」

 

 

リゼ「千夜だけ仲間外れにしてすまない」

 

 

千夜「ううん、わたしが勝手に風邪を引いただけだから」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「リゼちゃん……」

 

 

千夜「――てやっ」ギュッ

 

 

リゼ「おっと……」

 

 

千夜「そんな顔しないで、リゼちゃんのせいじゃないんだから」

 

 

リゼ「……でも」

 

 

千夜「気にしすぎよ、わたしは何も悔やんでないわ」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「リゼちゃんは優しすぎるのよね……ありがとう、嬉しい」

 

 

リゼ「……なぁ、千夜?」

 

 

千夜「ん?」

 

 

リゼ「ならせめて、何かやり残したこととかないか?わたしでよければ付き合うぞ」

 

 

千夜「やり残したこと?……そうねぇ」

 

 

千夜「リゼちゃんと遊ぶことかしら」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

千夜「ココアちゃんとは虫取りに行ったし、シャロちゃんとはホラービデオを鑑賞したし、チノちゃんとは二人でコーヒー餡蜜の研究をしたの」

 

 

千夜「思い返してみたら、リゼちゃんとの思い出が少ない気がして」

 

 

リゼ「言われてみれば、千夜と二人で遊ぶことはあまり無いな」

 

 

リゼ「よし、なら明日どこかに行くか」

 

 

千夜「遊んでくれるの?」

 

 

リゼ「ああ、千夜の行きたいところに行こう」

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜「行きたいところ、ひとつだけあるわ」

 

 

リゼ「どこだ?」

 

 

千夜「えっとね……」

 

 

千夜「去年行った、リゼちゃんのおうちの別荘」

 

 

リゼ「あんなところか?別に構わないが」

 

 

千夜「5日間、リゼちゃんと二人でお泊りしたい……」

 

 

リゼ「5日間も?二人でか?」

 

 

千夜「なんて、ダメよねそんなの」

 

 

リゼ「……いや、そんなことないぞ」

 

 

千夜「え……」

 

 

リゼ「わたしは千夜さえよければ構わない」

 

 

千夜「……ほんと?」

 

 

リゼ「ココアがうるさそうだけどな、なんとかしよう」

 

 

千夜「わたしも、シャロちゃんを説得するのが大変かも」

 

 

リゼ「まぁ嘘も方便だよな」

 

 

千夜「リゼちゃんは嘘が下手そうだけど」

 

 

リゼ「うっ……メールなら大丈夫だ」プイッ

 

 

リゼ「いつから出発する?明後日でいいか?」

 

 

千夜「ええ」

 

 

千夜「――ありがとう、リゼちゃん」ニコッ

 

 

リゼ「せっかくだし、楽しもうな」

 

 

千夜「うんっ」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

リゼ(千夜と二人きりで5日間宿泊することになって……)

 

 

千夜「リゼちゃん、お待たせ」タタタ

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「まずはお顔綺麗にしましょうね」

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

千夜「目を瞑ってて」フキフキ

 

 

リゼ「うぷっ……」

 

 

千夜「はい、目が覚めた?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「次は歯磨きしましょう」

 

 

千夜「リゼちゃん、わたしのお膝に寝転んで?」ポンッ

 

 

リゼ「歯磨きくらいは自分でしたらダメか?」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「……わかった」ゴロン

 

 

千夜「リゼちゃん……いい子いい子」ナデナデ

 

 

千夜「お口あけて、あーん」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ(千夜……やっぱり、なにか悩んでいたのかな……)

 

 

千夜「ふふっ……」ゴシゴシ

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

――初日目 夜――

 

 

 

千夜「オムレツにカレーにパルメザンチーズサラダ、豪勢な夕飯になったわね」

 

 

リゼ「少し作り過ぎたな、さすがに二人だと多いか」

 

 

千夜「とりあえず食べましょう、残った分は明日の昼食に回せばいいわ」

 

 

千夜「いただきます」

 

 

リゼ「おっ、千夜の作ったオムレツおいしいな」

 

 

千夜「ほんと?良かった」ニコッ

 

 

リゼ「焼き加減もちょうどいい、中がちゃんと半熟になってる」

 

 

千夜「ありがとう、まだリゼちゃんには遠く及ばないけど」

 

 

リゼ「そんなことない、わたしの方が教えて欲しいくらいだ」

 

 

千夜「手取り足取り教えるわ、明日二人で作りましょう」

 

 

リゼ「明日もまたオムレツか?おいしいからいいけど」

 

 

千夜「ここ、素敵なコテージね。この前はテントだったから」

 

 

リゼ「親父のせいでな、次みんなで来た時はここに泊まってみたいな」

 

 

リゼ「そういえば、今夜寝る場所はどこにする?上にベッドが置いてあるが押し入れに布団もあるぞ」

 

 

千夜「そうね、お布団がいいかしら」

 

 

リゼ「ならわたしがベッドだな」

 

 

千夜「それならベッドにしましょう」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

千夜「?」

 

 

リゼ「千夜は布団がいいんじゃないのか?」

 

 

千夜「確かに布団の方が慣れてるけど、でもリゼちゃんがベッドの方がいいっていうならそれでも平気よ」

 

 

リゼ「……どういうことだ?」

 

 

千夜「二人で一緒に寝るのに、ベッドとお布団ふたつは使えないから」

 

 

リゼ「いっしょに寝るのか!?」

 

 

千夜「せっかくの二人きりでお泊りだもの」

 

 

リゼ「いや、でも……」

 

 

千夜「だめ?」

 

 

リゼ「……っ//」

 

 

千夜「……そう、ごめんなさい」

 

 

リゼ「あっ……ま、待て千夜」

 

 

リゼ「……わかった、一緒に寝よう」

 

 

千夜「いいの?」

 

 

リゼ「千夜がしたいなら。それに、確かにこんな機会滅多にないもんな」

 

 

千夜「……うん」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「……?千夜?」

 

 

千夜「わたし、卑怯ね」クスッ

 

 

リゼ「え?」

 

 

千夜「リゼちゃんが優しいのを分かっててて……ずるいわ」

 

 

リゼ「どうしたんだ?」

 

 

千夜「ううん、なんでも」

 

 

千夜「早く食べないと冷めちゃうわ」ニコ

 

 

リゼ「あ、ああ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

千夜「リゼちゃん、あーん」

 

 

リゼ「……」パクッ

 

 

千夜「おいしい?」

 

 

リゼ「……おいしいぞ」

 

 

千夜「ゆっくり味わってね、ふふっ」

 

 

リゼ「千夜……これ、あと2日間も続けるのか?」

 

 

千夜「ん?」

 

 

 

 

リゼ「ヤンデレごっこ、だ」

 

 

 

 

千夜「…………」

 

 

千夜「ごっこじゃなかったら、どうする?」

 

 

リゼ「え……?」

 

 

千夜「リゼちゃん……『スタンフォード監獄実験』って、知ってる?」

 

 

リゼ「……?」

 

 

千夜「昔、人の潜在意識を研究していたジンバルドーっていうアメリカの心理学者が行った実験なの」

 

 

千夜「何の変哲もない21人の学生を集めたジンバルドーは、半分の11人には刑務官の役を、残りの10人には囚人の役を演じるように命じるのよ」

 

 

千夜「そして作り物の刑務所に21人を生活させた。いわゆる刑務所ごっこね」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「でも、この実験は思わぬ方向に進んでいってしまうの」

 

 

千夜「不思議なことに、刑務官の役を『演じている』だけだったはずの人たちが、囚人役の人たちに懲罰を与えはじめるのよ」

 

 

千夜「それも本気で……自分が刑務官の『役』であることも忘れて、ね」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「結局この実験は、6日もしない内に危険と判断され、中止されてしまう」

 

 

千夜「でも……中止が決まってもなお、刑務官の役を演じていた人たちは、まだまだ物足りないと続行を希望したそうなの」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「人間って……その役割を演じていたら、いつしか本当に心もそうなってしまうのかしら」

 

 

リゼ「……千夜のこれは、ごっこじゃないのか」

 

 

千夜「どっちに見える?」

 

 

リゼ「……ごっこだ」

 

 

リゼ「千夜は本気でこんなことしないって信じてるからな」

 

 

千夜「……そうね」

 

 

千夜「でも……もし本気でリゼちゃんのことが好きだったら……?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「こうして監禁して独り占めしていたいって、本心から思っていたら……?」

 

 

リゼ「千夜は演技が上手いな」

 

 

千夜「……ふふっ」

 

 

千夜「強いわね、リゼちゃんは……」

 

 

千夜「わたしのこと、信じてくれてるの?」

 

 

リゼ「ああ」

 

 

千夜「優しい……」

 

 

千夜「もっともっと、独り占めしたくなるわ」ギュッ

 

 

千夜「リゼちゃん……」スリスリ

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

千夜「膝枕、気持ちいい……」

 

 

リゼ「テレビもないから暇つぶしができないな」ナデナデ

 

 

千夜「いいわ、こうしてるだけで」

 

 

リゼ「……千夜?」

 

 

千夜「?」

 

 

リゼ「どうして、こんなところに来たかったんだ?」

 

 

リゼ「二人だけで……それも5日間も」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「お前のことだ、何か理由があるんだろ」

 

 

千夜「理由……」

 

 

リゼ「あっ、言いたくないなら無理には聞かないぞ?ただ少し気になって」

 

 

千夜「リゼちゃんと長い間二人きりになりたかった、っていう理由はダメかしら?」ゴロン

 

 

リゼ「ダメというか……冗談だろうし」

 

 

千夜「…………」プクー

 

 

リゼ「千夜?」

 

 

千夜「ココアちゃんが同じこと言ったら、リゼちゃんきっと信じて照れたのに」

 

 

リゼ「いや、あいつは冗談とか言わないから……」

 

 

千夜「さっきの言葉、もし本当だったら?」

 

 

リゼ「………ありがとう、だと思う」

 

 

千夜「わがままにお礼を言うの?変なリゼちゃん」クスッ

 

 

リゼ「うっ……嬉しいから仕方ないだろ//」

 

 

千夜「……本当よ」

 

 

リゼ「え」

 

 

千夜「さっきの理由。リゼちゃんと二人きりになりたかったっていうの。でもあと一つだけ加わるけど」

 

 

リゼ「……なんだ?」

 

 

千夜「……………………」

 

 

千夜「変に思わない?」

 

 

リゼ「ああ」

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ「言っただろ、千夜のお願いを聞いてあげたいって。そのために来たんだぞ」

 

 

千夜「……リゼちゃん」

 

 

 

 

 

千夜「ヤンデレごっこ――しましょう?」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

千夜「リゼちゃんの匂いってどうしてこんなに落ち着くのかしら……」スンスン

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「リゼちゃん……んっ……」スンスン

 

 

リゼ「……嗅ぎたいなら、直接抱き付いてくればいいんじゃないか?」

 

 

リゼ「わざわざ目の前でわたしの服を嗅がなくても……」

 

 

千夜「止めてほしい?」

 

 

リゼ「そうだな……恥ずかしいし」

 

 

千夜「そう……」

 

 

千夜「でも――止めない」スンスン

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「リゼちゃんの言うこと、聞かないわ」

 

 

リゼ「……千夜らしくないな」

 

 

千夜「意外でしょう?」

 

 

リゼ「ああ」

 

 

千夜「嫌いになった?」

 

 

リゼ「いや」

 

 

千夜「………………」

 

 

 

――スッ

 

 

 

千夜「いまは抵抗できないでしょう」

 

 

リゼ「そうだな……両手両足縛られたままじゃあ」

 

 

千夜「……」クビスジ カプッ

 

 

リゼ「っ……」

 

 

千夜「リゼちゃんは優しいからイヤ……」

 

 

リゼ「わたしに嫌われたいのか?」

 

 

千夜「ううん……」フルフル

 

 

千夜「……ただ」

 

 

千夜「リゼちゃんにもっと酷いことしたいだけ、かも」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「監禁して拘束してるだけで、充分酷いわね」

 

 

リゼ「……千夜に、自分勝手は無理だ」

 

 

千夜「そんなことないわ」

 

 

リゼ「他人を傷つけたり、わたしの気持ちを無視したりできないだろう」

 

 

千夜「ううん、無視する」

 

 

千夜「いまは、わたしだけのリゼちゃんだもの」スッ

 

 

 

千夜「リゼちゃんはわたしだけのもの……わたしだけの……」

 

 

 

千夜「いつも遠くに感じていたリゼちゃんがこんなに側に……わたしだけを見て……ふふっ」

 

 

 

千夜「ずっと一緒よ、ずっと……」

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「リゼちゃん……」ギュッ

 

 

リゼ「…………千夜」

 

 

リゼ(ごっこ、なんだよな……)

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

千夜「ちょうどいい縄があって良かったわ」

 

 

リゼ「良く分からないが、これでいいのか?」

 

 

千夜「どう、リゼちゃん?」

 

 

リゼ「どうって……見ての通りだ、自由に動けない」

 

 

千夜「ふふっ、抵抗できないリゼちゃんにえっちなイタズラでもしちゃおうかしら?」

 

 

リゼ「変なこと言うなよ……//」

 

 

千夜「こうして動けないようにして、あとは監禁」

 

 

千夜「お手洗いやお風呂以外、ここから一歩も外に出さないの」

 

 

リゼ「それは道徳的に問題があるんじゃないか?」

 

 

千夜「野暮ねリゼちゃん、そういうのはご法度よ」

 

 

千夜「例え常識に否定されても……その愛情を貫くのがヤンデレなの」スッ

 

 

リゼ「?」

 

 

 

千夜「リゼちゃんの目……綺麗ね」

 

 

 

千夜「あと5日間……この目には、わたしだけしか映らない」

 

 

 

千夜「リゼちゃんの――」

 

 

 

 

千夜「――特別……」ジッ

 

 

 

 

リゼ「……!」ゾクッ

 

 

千夜「……クスッ」

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「びっくりした?」ニコッ

 

 

リゼ「……上手いな千夜は」

 

 

千夜「…………」ギュッ

 

 

リゼ「いつまでこうしていればいいんだ?」

 

 

千夜「……そうね」

 

 

 

 

千夜「――5日間、ずっと」

 

 

 

 

リゼ「……!」

 

 

リゼ「冗談、だよな?」

 

 

千夜「ううん」

 

 

リゼ「……最終日まで、このままか」

 

 

千夜「りぜちゃんの身の回りのお世話は、全部わたしがするわ」

 

 

千夜「止めるなら今の内だけど」

 

 

リゼ「……そうだな」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「一瞬でいい、右手だけ解いてくれないか?」

 

 

千夜「……?」

 

 

――シュル

 

 

リゼ「……ふぅ」

 

 

 

ポンッ ナデナデ

 

 

 

千夜「……!」

 

 

リゼ「そんな悲しい顔されたら、付き合うしかないだろ」

 

 

リゼ「千夜が楽しいならやってみよう」

 

 

千夜「ほんとう?」

 

 

リゼ「お手柔らかに頼む」

 

 

千夜「……ふふっ」

 

 

千夜「ありがとうリゼちゃん……」

 

 

 

千夜「5日間だけ……わたしだけのもの」スッ

 

 

 

リゼ「……!」

 

 

千夜「お布団持ってくるわ、待ってて」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

――夜――

 

 

 

千夜「虫の声ね……綺麗だわ」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「静かな場所ね……」

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

千夜「んっ……?」

 

 

リゼ「馬乗りになられてると眠れないんだが……」

 

 

千夜「身体ごと乗っかったほうがいい?」

 

 

リゼ「それだとなおさらだ……//」

 

 

千夜「リゼちゃんのほっぺ、柔らかいわ」フニフニ

 

 

リゼ「こら」

 

 

千夜「意外と体温高いのね」

 

 

千夜「わたしが全然知らなかったことばかり……」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「クスッ……やられたい放題ね、リゼちゃん」

 

 

千夜「いつもは強いのに……本当に、わたしのものになったみたい」

 

 

リゼ「……千夜?もしなにか悩んでるなら聞かせてくれ」

 

 

千夜「ううん、何も悩んでないの」

 

 

千夜「ただ、リゼちゃんがあまりに遠くにいすぎて……」ボソッ

 

 

リゼ「遠くに……?どういうことだ?」

 

 

千夜「ねぇリゼちゃん、知ってる?」

 

 

 

千夜「人間って……手の届かない存在に憧れや羨望を抱くでしょう?」

 

 

 

千夜「でも――その存在が、偶然にも自分と同じ立ち位置かもしくは自分より下の立場まで堕ちてしまうとね」

 

 

 

千夜「――穢したいとか、傷つけたいって思っちゃうそうよ」

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「そうやって憧れだったものをあえて穢すことによって……自己の安寧を得たいのかしら」

 

 

リゼ「……この行為もそれか?」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「わたしは千夜が思っているほど崇高でもないしそんな存在でもない」

 

 

リゼ「ただお前が、自分を肯定できてないだけだ」

 

 

千夜「厚顔無恥よりいいわ、自分を冷静に評価してるもの」

 

 

リゼ「確かにな。……でも」

 

 

千夜「一方的な愛情は都合が良いの、相手の気持ちを考えることないもの」

 

 

千夜「こうやって……」ギュッ

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「ねっ……身勝手でしょう?」

 

 

リゼ「本当に身勝手なら、自分で身勝手なんて思わないと思うぞ」

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜「反抗的なリゼちゃんは、優しいけど嫌い……」

 

 

 

千夜「つい、壊したくなるもの」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

――朝――

 

 

 

リゼ「千夜、せめてジョギングだけでも行かせてくれないか?」

 

 

千夜「ダメ」ニコッ

 

 

リゼ「身体がなまりそうなんだが……」

 

 

千夜「リゼちゃん……なにか勘違いしてる?」

 

 

リゼ「?」

 

 

千夜「わたし、リゼちゃんを監禁してるのよ」

 

 

千夜「自由なんかにしないわ、どこにも行かせない」

 

 

千夜「今日からずっと二人でいましょう」

 

 

リゼ「……思った以上にきついな、これは」

 

 

千夜「止めたいならいつでも言ってね」

 

 

リゼ「大丈夫だ、心配いらない」

 

 

リゼ(あと4日……どうにか千夜から本心を聞かないと)

 

 

千夜「リゼちゃん、朝はベーコンエッグと昨日の残り物でいいかしら?」

 

 

リゼ「なんでもいいぞ」

 

 

千夜「すぐにできるから待ってね」

 

 

リゼ(何か抱えてそうだしな……)ジッ

 

 

千夜「♪~♪♪」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

リゼ「んっ……」パチッ

 

 

リゼ「ふぁぁ…………」

 

 

リゼ「千夜、朝だぞ」

 

 

千夜「……うん」

 

 

リゼ「おはよう、起きてたのか」

 

 

千夜「……今日で、最後ね」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「布団、片づけましょうか」

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

千夜「おはようリゼちゃん、今日も楽しく過ごしましょう」

 

 

リゼ「あ、ああ」

 

 

リゼ(昨日と変わらないか……?)

 

 

千夜「……………………」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

千夜「いい天気ね……」

 

 

リゼ「そうだな」

 

 

千夜「二人でお散歩したら気持ちいいでしょうね」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「でも、こうしてる方がもっといいわ」ポスッ

 

 

千夜「リゼちゃんのお膝の上」

 

 

リゼ「手が使えれば撫でてやれるんだがな」

 

 

千夜「ううん、これで充分よ」

 

 

千夜「自由に動けないリゼちゃんの膝上に座る……これはこれで」

 

 

リゼ「背徳感みたいなものか?」

 

 

千夜「ううん……どちらかというと優越感かしら」

 

 

リゼ「?」

 

 

千夜「リゼちゃんを自由に好き放題できるっていう」

 

 

リゼ「……変な言い方よせ//」

 

 

千夜「監禁っていいわね、ふふっ」

 

 

リゼ「あんまりこじらせないでくれよ……//」

 

 

千夜「わかってるわ」

 

 

千夜「――ごっこだものね……」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

――深夜――

 

 

リゼ「――10時ごろか、わかった」

 

 

リゼ「それまでに用意を済ませておく」

 

 

リゼ「――よろしく頼む」

 

 

千夜「終わった?」

 

 

リゼ「」コクリ

 

 

千夜「……」ピッ

 

 

リゼ「明日、迎えは10時ごろらしい」

 

 

千夜「そう」

 

 

リゼ「帰る支度といっても何もないし、8時に起床すれば間に合うだろう」

 

 

千夜「……今夜で、おしまいなのね」

 

 

リゼ「明日からやっと自由に動けるのか」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「あまりよく分からなかったが……千夜の満足できるように振舞えてたか?」

 

 

リゼ「基本的には動けないからどうしようもないんだけど」

 

 

千夜「……楽しかったわ」

 

 

千夜「いつも遠くに感じていたリゼちゃんを、こんなに側で感じられて」

 

 

千夜「暖かくて、優しくて……それも、独り占め」

 

 

千夜「ずっとこのままでもいいくらい」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

千夜「……ねぇ、リゼちゃん?」

 

 

 

 

 

千夜「一生、このままじゃダメ?」

 

 

 

 

 

リゼ「おいおい、まだ続いてるのか」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「ヤンデレごっこ、か。ずいぶんリアルだったけど……その、冗談でシャロとやったことあるとか?//」

 

 

千夜「……ごっこじゃ、ないわ」

 

 

リゼ「えっ……?」

 

 

千夜「リゼちゃん……」ドンッ

 

 

リゼ「!」

 

 

 

――ウマノリ

 

 

 

リゼ「千夜……?」

 

 

 

千夜「ずっと……」

 

 

 

千夜「ずっと二人でいましょう……」

 

 

 

リゼ「……!」

 

 

 

千夜「わたしがリゼちゃんのこと、死ぬまでお世話してあげるから……」

 

 

 

千夜「永遠にこのまま……二人で」

 

 

 

リゼ「さ、最後のせいか、演技に気合が入ってるな」

 

 

 

千夜「冗談と思う……?」ニコ

 

 

 

リゼ「……!?」

 

 

 

千夜「ふふっ……しあわせ……」

 

 

 

千夜「わたしだけの、リゼちゃん……」ハイライトオフ

 

 

 

千夜「服、脱がしましょうか……」スッ

 

 

 

リゼ「っ……ち、千夜……!冗談でも限度が――」

 

 

 

 

千夜「」ザクッ!!!!

 

 

 

 

リゼ「っ!!?」

 

 

 

千夜「冗談なんかじゃないわ」

 

 

 

リゼ(包丁……あと数センチずれていたら……)ブルッ

 

 

 

千夜「言ったでしょう。ごっこなんかじゃないのよこれは」

 

 

 

千夜「わたしの、本当の気持ち……」

 

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

千夜「リゼちゃん、わたしのものになって」

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

 

リゼ「……わかった、って、言えばいいのか?」

 

 

 

 

千夜「……?」

 

 

 

リゼ「こういう時に言う言葉ってまったく分からなくてな」

 

 

 

千夜「クスッ……まだ『ごっこ』だと思ってくれるの?」

 

 

 

リゼ「思うも何も、ごっこだろ」

 

 

 

千夜「これ、本物よ」ツー

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

ポタッ……ポタッ……

 

 

 

千夜「ほら……ね?」

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

千夜「リゼちゃんの綺麗な顔が、わたしの血で汚れていくわ……」

 

 

 

千夜「素敵……」スッ

 

 

 

リゼ「あとで止血剤塗ってやる」

 

 

 

千夜「…………」シャキン

 

 

 

リゼ「……次は、わたしか」

 

 

 

千夜「よく考えて、リゼちゃんは抵抗できないのよ……?」

 

 

 

リゼ「そうだな」

 

 

 

リゼ「切られたら、おしまいだ」

 

 

 

千夜「………………」

 

 

 

リゼ「……切らないのか?」

 

 

 

千夜「……………………」

 

 

 

千夜「………………」

 

 

 

千夜「…………」

 

 

 

千夜「……強いのね」

 

 

 

 

千夜「……本当は、抵抗できるでしょう」

 

 

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

千夜「……リゼちゃんは、どうしてそんなにわたしを信じられるの?」

 

 

 

リゼ「千夜だからな」

 

 

 

千夜「…………」ウツムキ

 

 

 

リゼ「言っただろ、千夜に自分勝手は無理だって」

 

 

 

リゼ「……指、大丈夫か?」

 

 

 

千夜「…………」グスッ

 

 

 

リゼ「すまない……いったんほどくぞ」シュル

 

 

リゼ「千夜……」

 

 

千夜「……ごめんなさい」ポロポロ

 

 

リゼ「気にするな、指見せてみろ」

 

 

リゼ「結構深いな……」ガサッ

 

 

リゼ「――ほら、これで大丈夫だ」

 

 

リゼ「もう切ったりするなよ」ナデナデ

 

 

千夜「ぐすっ……ぇっく……」ポロポロ

 

 

リゼ「泣くなよ、気にしてないって」ギュッ

 

 

千夜「リゼちゃんに見捨てられちゃう……いやぁ」ポロポロ

 

 

リゼ「見捨てるはずないだろ、千夜のこと嫌いになんかならない」

 

 

リゼ「落ち着け……少し気持ちが変になっただけだよな」ナデナデ

 

 

千夜「っ……」ポロポロ

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

リゼ「………………」ナデナデ

 

 

千夜「……ねぇ、りぜちゃん?」

 

 

リゼ「んっ?」

 

 

千夜「この前言った、スタンフォード監獄実験……」

 

 

リゼ「あれか……確か、演技だったはずが本当になってしまうんだよな」

 

 

千夜「うん……あの実験てね」

 

 

千夜「今では、そのほとんどが嘘だったことが証明されているらしいわ」

 

 

リゼ「そうなのか?」

 

 

千夜「結果の大きな点は全て仕込みだったんですって。あとから同じような実験を行った学者がたくさんいたけど、同じ結果は得られなかったそうよ」

 

 

リゼ「全て嘘だったわけか」

 

 

千夜「少しくらいドキドキしてた?」

 

 

リゼ「正直かなり……千夜の演技が迫真だったから余計にな」

 

 

千夜「ふふっ、ごめんなさい」

 

 

千夜「……でも」

 

 

千夜「あの実験って……もし当人たちにそういう気持ちがあったとしたら、どうなってたのかしら?」

 

 

千夜「もしかしたら、本当に……」

 

 

リゼ「どういうことだ?」

 

 

 

千夜「……ううん、なんでもない」ニコッ

 

 

 

千夜「ありがとうリゼちゃん、ヤンデレごっこ、楽しかったわ」

 

 

リゼ「今度二人で来るときは、外で遊んだり散歩とかしたいな」

 

 

千夜「また連れてきてくれるの?」

 

 

リゼ「ああ、その時は……できれば、ヤンデレごっこは一日くらいにしてくれると助かる」

 

 

千夜「…………」クスッ

 

 

リゼ「千夜?」

 

 

千夜「一日は付き合ってくれるのね……」

 

 

千夜「……リゼちゃん」ギュッ

 

 

リゼ「おっと……」

 

 

千夜「……あの時」

 

 

千夜「もし……わたしがリゼちゃんを切ったら、どうしてたの?」

 

 

千夜「嘘でもわかったって言ってくれた?」

 

 

リゼ「……さぁな」

 

 

千夜「本心から……?――それとも」

 

 

リゼ「……早く寝ろ」スッ

 

 

千夜「あっ……」

 

 

リゼ「おやすみ」

 

 

千夜「……うん」

 

 

千夜「おやすみなさい」

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「なぁ、千夜?」

 

 

千夜「ん……?」

 

 

リゼ「……もし」

 

 

リゼ「もしわたしが、あの時お前の気持ちを本気で受け入れていたら……どうなってたんだ?」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「――なんて、演技だから笑っておしまいだよな」ハハッ

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ「……千夜?」

 

 

千夜「……すぅ」Zzz

 

 

リゼ「寝てたのか……」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「この5日間で、わたしも千夜の知らなかった部分をたくさん知れたよ」

 

 

リゼ「お前だけのものにはなってあげられないけど……」

 

 

リゼ「これからも、ずっと一緒なのは本当だぞ」ナデナデ

 

 

千夜「んっ……」Zzz

 

 

リゼ「おやすみ、千夜」

 

 

 

 

――おしまい?

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

――帰宅後 甘兎庵――

 

 

 

千夜「ただいま」ガラッ

 

 

シャロ「!」

 

 

千夜「シャロちゃん……」

 

 

シャロ「おかえりなさい」ムスッ

 

 

千夜「もしかして待っててくれたの?」

 

 

シャロ「待つつもり無かったけど、落ち着かなかったからしょうがないじゃない」

 

 

千夜「あら、目の下にクマが……」

 

 

シャロ「誰かさんが一日に一通しかメール寄こさないから気になって眠れなかったのよ」

 

 

千夜「あんまりメールしてくるなって言ったのはシャロちゃんよ?」

 

 

シャロ「少なすぎるでしょ!せめて朝昼晩と3通くらい……!」

 

 

千夜「そんなに送って良かったのね。ごめんなさい、これからはそうするわ」

 

 

シャロ「……リゼ先輩と一緒とはいえ、あんまり長い間遠くに行かないで」

 

 

シャロ「心配だから……//」プイッ

 

 

千夜「……ありがとう。ふふっ、優しいシャロちゃんぎゅー」ギュッ

 

 

シャロ「きゃっ……もう♪」クスッ

−−−−−−−−−−−−−−−−

next.



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Ourside 3.「[Restructuring] cup of film"chino"」

cup of film「chino」を再編、前々作(Spirit)から前作(Spirit−Another stories−)のエピソードから作者が選んだエピソードを3話収録。


I.

 

――ラビットハウス――

 

 

チノ「………………」ソワソワ

 

 

チノ「」チラッ

 

 

4:30

 

 

チノ「………………」ウロウロ

 

 

リゼ「どうしたんだチノ?」

 

 

チノ「いえ……最近ココアさんの帰りが妙に遅いと思って」

 

 

リゼ「そういえばそうだな。まぁそのうち帰って来るだろう」

 

 

チノ「……………………」ソワソワ

 

 

 

リゼ「チノ、そんなに心配しなくても大丈夫だぞ?」

 

 

チノ「心配なんてしてません」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

チノ「むしろお店が静かで私としては好都合ですが、勝手にシフトを抜けられるのは困ります」

 

 

リゼ「いや……別にそこまで繁盛してるわけじゃないんだし……そもそもこの店シフトとかないだろう」

 

 

チノ「それとこれとは話が別です、モラルの問題ですから」

 

 

リゼ「モラルって、今更そんなこと……素直に心配だって言えよ」

 

 

チノ「心配なんてしてません!」ダン!

 

 

リゼ「わっ!」

 

 

チノ「わたし、ココアさんのことなんてどうでもいいです!」

 

 

リゼ「そ、そうか」

 

 

チノ「まったくリゼさんは……どう聞いたらそうなるんですか」

 

 

リゼ(いや、どう聞いてもだよ)

 

 

 

ココア「ただいま~」ガチャッ

 

 

リゼ「ココア、やっと帰ってきてくれたか」

 

 

チノ「早く着替えてきてください」

 

 

ココア「えへへ、ごめんね。実は最近千夜ちゃんと寄り道するのが楽しくて」

 

 

チノ「!?」

 

 

リゼ「寄り道とか買い食いって楽しいもんな」

 

 

ココア「すぐに着替えてくるね~」タタタ

 

 

リゼ「やれやれ、学校帰りに千夜と遊んでたのか。これで疑問も晴れたな、問題解決だ」

 

 

チノ「……いえ、なにも解決してません」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

 

チノ「というわけで、ラビットハウス緊急ミーティングを始めます」

 

 

リゼ(なんでこんなことに)

 

 

チノ「議題はココアさんと千夜さんについてです」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「きっと千夜さんはココアさんをラビットハウスから引き抜くつもりです」

 

 

リゼ「……いや、考えすぎだろ?」

 

 

チノ「ちゃんと証拠も挙がってます。ココアさんの帰宅時間が4時半を過ぎるようになったのはちょうど1週間前からです」

 

 

チノ「それまでは早ければ3時48分、平均で4時3分、遅くとも4時20分までにはきちんと帰宅していました」

 

 

リゼ「そんな細かくデータ取ってるのか!?」

 

 

チノ「妹――ではなく、一緒に住んでいる者として下宿人の生活を記録するのは当然です」

 

 

リゼ「当然でもないし今自分で妹って言ったよな?」

 

 

チノ「聞き間違いです、話しを続けますよ」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「以上の事から、千夜さんがココアさんを狙っているという可能性は充分考えられます」

 

 

リゼ「結論が一気に飛躍しすぎだろ」

 

 

チノ「毎日逢瀬を重ねることでココアさんの心を徐々に蝕んでいく作戦ですね」

 

 

リゼ「どこでそんな言葉覚えたんだ!?」

 

 

チノ「ともかく、今後は門限を作ってココアさんにはきちっと帰っていただきます」

 

 

リゼ「門限て……ちなみに何時までだ?」

 

 

チノ「4時半です」

 

 

リゼ「小学生の門限か!それじゃあ平日は何もできないだろ」

 

 

チノ「それでいいんです、ココアさんはアウトドア過ぎます。たまには私と一緒に部屋で遊んでほしいです」

 

 

リゼ「ところどころ本音がだだ漏れだぞ」

 

 

チノ「さっそく明日から実施しましょう」

 

 

リゼ「はぁ…………チノ?要はココアが千夜と寄り道せずにまっすぐ帰って来ればいいんだろ?」

 

 

チノ「そうです、しかしココアさんに言っても聞くはずありません」

 

 

リゼ(チノがお願いすれば何でも聞いてくれると思うが……)

 

 

リゼ「私が言っておいてやる、だから門限を作るのは明日まで待ってやってくれ」

 

 

チノ「リゼさん…………わかりました。ココアさんにとって明日はラストチャンスです」

 

 

リゼ(やれやれ、ココアも大変だな)

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

チノ「♪~♪♪」

 

 

リゼ「えらくご機嫌だな」

 

 

チノ「最近ココアさんが寄り道せず帰って来てくれるようになりました」

 

 

チノ「わたしの部屋に遊びに来たり、前以上にスキンシップが増えてます」

 

 

リゼ「そうか、よかったな」

 

 

チノ「わたしとしてはどうでもいいのですが、ココアさんがベタベタしてくる以上拒むのも変な話しなので」

 

 

リゼ(すごいにやけてる)

 

 

チノ「リゼさん、ありがとうございます。きついお灸をすえてくれたんですね」

 

 

リゼ(チノが寂しそうにしてるって教えただけだけどな)

 

 

ココア「チノちゃんリゼちゃん、おはよう。今日も一日がんばろうね」フンス

 

 

ココア「まずは景気づけに、チノちゃんモフモフ~」ギュッ

 

 

チノ「んにぅ……ココアさん、仕事中ですよ//」

 

 

リゼ「まぁ良いじゃないか、お客さんもいないことだし」

 

 

ココア「もふもふ、もふもふ」

 

 

チノ「………………♪//」

 

 

 

シャロ「こんにちは」

 

 

ココア「シャロちゃん!」パッ

 

 

チノ「あっ…………」

 

 

リゼ「一人で来るなんて珍しいな」

 

 

シャロ「時間が空いたので……えっと、ホットミルクお願いします」

 

 

ココア「了解だよ!」テキパキ

 

 

チノ「……………………」

 

 

リゼ「チノ、ホットミルク――って、どうしたんだそんな顔して?」

 

 

チノ「いえ…………」

 

 

リゼ(明らかに落ち込んでる……)

 

 

チノ「……できました、ココアさんお願いします」

 

 

ココア「シャロちゃん、おまたせ~」

 

 

シャロ「ありがとう」

 

 

シャロ「――んっ、甘くておいしいわ」

 

 

ココア「ホットミルクって甘いんだ?」

 

 

シャロ「飲んだことないの?しょうがないわね」スッ

 

 

ココア「わぁ、シャロちゃんありがとう。んっ……」ゴクッ

 

 

チノ「!?」

 

 

ココア「ほんとだ、甘くておいしいね♪」

 

 

シャロ「隠し味に少しお砂糖が入ってるのかしら?」

 

 

リゼ「確か粉砂糖を少し――」

 

 

チノ「……………………」

 

 

 

チノ「というわけで、第二回ラビットハウス緊急ミーティングを始めます」

 

 

リゼ「なぜ!?というか毎回出席者が私とチノだけだぞ?」

 

 

チノ「議題はココアさんとシャロさんについてです」

 

 

リゼ「今日何かあったか?」

 

 

チノ「シャロさんの飲んだミルクをココアさんが飲んでいました」

 

 

チノ「普段私がカフェオレを飲んでいても欲しがらないのになぜ……」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「どうしてシャロさんの飲んだミルクを……」

 

 

リゼ「いや、ただホットミルクを飲んだことないから飲みたかっただけじゃないか?」

 

 

チノ「……まさか、シャロさんはそれを狙って……!」

 

 

リゼ「考え過ぎだ。そもそもどうしてシャロがそんなこと知ってるんだ」

 

 

チノ「千夜さんから事前に情報を入手していればこの犯行は充分可能です」

 

 

リゼ「……なぁ、チノ?そんなに嫉妬しなくても、ココアは一番お前のことが――」

 

 

チノ「嫉妬なんかじゃありません!」ダン!

 

 

リゼ「わっ!」

 

 

チノ「私はただココアさんに嫌われているのではないかという疑念を晴らしたいだけです」

 

 

リゼ「……つまり、嫉妬というより不安か?」

 

 

チノ「不安なんかじゃないです、そもそもココアさんが私をどう思っていようとどうでもいいことです」

 

 

リゼ「この前ココアがチノのこと好きって言ってたぞ」

 

 

チノ「ほんとうですか!//……はっ!」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「こほん、とにかくココアさんがわたしのことを嫌いだろうと別に構いませんが、共に生活をしている以上険悪な関係は避けたいんです」

 

 

リゼ「じゃあ二人きりで温泉プールにでも行ってきたらどうだ?」

 

 

チノ「いい考えですが、きっかけがあるかどうか」

 

 

リゼ「いや……誘えばいいだろ?」

 

 

チノ「それではココアさんへの疑念は晴れません」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「……………………」ジー

 

 

リゼ「……わかった、何とかしてやるよ」ハァ

 

 

チノ「ありがとうございます、ココアさんのためにもぜひお願いします」

 

 

リゼ「ココアのためか」

 

 

チノ「はい、ココアさんのためです」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

ココア「――それでね、チノちゃんと泳ぎの練習したんだ」

 

 

チノ「どうしてもというので仕方なくです」

 

 

リゼ(すごい嬉しそうだ)

 

 

ココア「リゼちゃんも一緒に来れば良かったのに」

 

 

リゼ「ちょっと用事があってな、次は行くよ」

 

 

ココア「えへへ、約束だよ~」スッ

 

 

チノ「!?」

 

 

ココア「ゆ~びき~りげ~んまん♪」

 

 

リゼ「おいおい、こんなことしなくても」クスッ

 

 

ココア「今度は絶対一緒に行こうね」

 

 

リゼ「ああ、約束だ」

 

 

チノ「……………………」

 

 

 

チノ「というわけで、第三回ラビットハウス緊急ミーティングを始めます」

 

 

チノ「議題はココアさんとリゼさんについてです」

 

 

リゼ「本人目の前にして議論することか!?」

 

 

チノ「今日ココアさんとリゼさんが手を繋いでいました」

 

 

リゼ「手って……あれはただの指切りだろ」

 

 

チノ「指まで絡めてました」

 

 

リゼ「小指絡めないと成立しないだろう!?」

 

 

チノ「私ですらココアさんと手を繋ぐなんて時々なのに……まったくリゼさんは」

 

 

リゼ「わたしが悪いのか、これ」

 

 

チノ「これでわかりました、リゼさんもココアさんを狙ってるに違いありません」

 

 

リゼ「とんだ言いがかりだ!」

 

 

チノ「なら私の疑念を早く晴らしてください」

 

 

リゼ「いや……晴らすといってもどうやって?」

 

 

チノ「ココアさんと私が手を繋げば解決です」

 

 

リゼ「……それチノが繋ぎたいだけじゃないか?」

 

 

チノ「違います、リゼさんのためです」

 

 

リゼ「そうか、私のためか」

 

 

チノ「はい」

 

 

リゼ(はぁ……疲れる…………)

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

チノ「ココアさん、そろそろ離してください//」

 

 

ココア「お客さんが来るまでいいでしょ?だってチノちゃんの手柔らかいんだもん」ギュッ

 

 

チノ「し、仕方ないですね……//」ギュッ

 

 

リゼ(チノの方が強く握ってないか、あれ……)

 

 

ココア「もう我慢できない~!チノちゃんもふもふ♪」ギュッ

 

 

チノ「きゃっ!……まったく//」

 

 

チノ「ココアさんは、本当にしょうがないココアさんです♪//」

 

 

 

II.

 

――ラビットハウス――

 

 

チノ「……………………」

 

 

チノ「」チラッ

 

 

ザァーザァー

 

 

チノ「急に降ってきましたね……」

 

 

リゼ「そうだな」

 

 

チノ「……………………」ソワソワ

 

 

リゼ「んっ、どうしたんだチノ?」

 

 

チノ「いえ…………」

 

 

 

チノ「」チラッ

 

 

カサ

 

 

リゼ「ああ、ココアのことが心配なんだな」

 

 

チノ「心配なんてしてません」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

チノ「ただ風邪を引かれるとお店の営業に支障をきたします」

 

 

リゼ「支障って……二人きりでもこんなに暇だし大丈夫だろ」

 

 

チノ「大丈夫じゃないです、ココアさんに風邪を引かれると私やリゼさんにもうつる可能性がありますから」

 

 

リゼ「いや……だから心配なんだろ?」

 

 

チノ「心配なんかじゃありません!」ダン!

 

 

リゼ「わっ!?」

 

 

チノ「わたし、ココアさんのことなんか心配してません!」

 

 

リゼ「そ、そうか」

 

 

リゼ(ムキになってる時点でなぁ……)

 

 

チノ「しかし、このまま放っておくわけにもいきません……」

 

 

リゼ「まぁ大丈夫だろう。ココアのことだから千夜と一緒に帰って来るだろうし、千夜の傘に入れてもらえば」

 

 

チノ「!?」

 

 

リゼ「千夜はいつも折り畳み傘を持ってるって言ってたし――って、チノ?」

 

 

チノ「……それは、俗に言う相合傘というやつですか?」

 

 

リゼ「まぁそうだな」

 

 

チノ「……リゼさん、これは一大事です」

 

 

リゼ「へっ?」

 

 

チノ「わたし、傘を届けてきます」

 

 

リゼ「お、おいチノ」

 

 

チノ「リゼさん、ティッピーをよろしくお願いします」ポスッ

 

 

リゼ「チノ、今の話し聞いてたか?千夜がいるから心配ない――」

 

 

チノ「千夜さんにばかりご迷惑をおかけするわけにはいきません」

 

 

リゼ「ココアのことなんていまさらだろう」

 

 

チノ「これとそれとは話が別です」

 

 

リゼ「……やきもちか?」

 

 

チノ「違います、雨が降ってるのに迎えにも来ない冷たい妹だと思われたくないだけです」

 

 

リゼ「妹って認めてるのか」

 

 

チノ「こほん、言い間違えました」

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ(難しい年頃だ)

 

 

リゼ「……まぁいい、ほら、傘だ」スッ

 

 

チノ「一本壊れてますね」

 

 

リゼ「そんなことないだろ?」

 

 

チノ「ここが破れています」

 

 

リゼ「……手に持ってるはさみはなんだ?」

 

 

チノ「そこに落ちていました」

 

 

リゼ「そうか……」

 

 

チノ「はい」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「これでは一本しか持って行けませんね……」

 

 

リゼ「……まだ換えがあるぞ?」

 

 

チノ「ごほん!すいません、少し風邪気味で……」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「」ジーッ

 

 

リゼ「……はぁ、仕方ないから相合傘して帰ってこい」

 

 

チノ「わかりました、リゼさんがそう言うなら仕方ないですね」

 

 

チノ「それでは行ってきます」

 

 

ガチャッ バタン

 

 

リゼ「…………掃除でもしとくか」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

――翌日 クレープ屋――

 

 

ココア「それでね、昨日はチノちゃんが迎えに来てくれてね!」

 

 

チノ「仕方なくです」

 

 

ココア「二人で仲良く相合傘して帰ったんだ」

 

 

チノ「成りゆきです」

 

 

シャロ(チノちゃんがにやけてる……)

 

 

シャロ「で、何にするの?」

 

 

ココア「えっとね~わたしはクリームチョコで――」

 

 

チノ「イチゴアイスでお願いします」

 

 

 

ココア「うーん、おいしい!」

 

 

チノ「」モグモグ

 

 

ココア「はい、シャロちゃんあーん」

 

 

チノ「!?」

 

 

シャロ「ええっ……でも……」

 

 

ココア「この前食べられなかったからお詫び、あーん」

 

 

シャロ「じ、じゃあ……一口だけ」

 

 

パクッ

 

 

シャロ「」モグモグ

 

 

ココア「どう、おいしい?」

 

 

シャロ「うん……おいしい……♪」

 

 

シャロ「ココア、ありがとう」

 

 

ココア「えへへ、どういたしまして♪」

 

 

チノ「……………………」

 

 

 

チノ「――ということがありました」

 

 

リゼ(なんか以前もこんな相談持ちかけられた気が――)

 

 

チノ「どうしてシャロさんにクレープを……」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「まさか、ココアさんはシャロさんのことが……」

 

 

リゼ「……普通にココアの親切心だろ?」

 

 

チノ「違います、親切心で『あーん』なんてしません」

 

 

リゼ「いや、でもココアだし……」

 

 

チノ「わたしはされたことありません!」バン!

 

 

リゼ「わっ!?」

 

 

チノ「シャロさんがされて常に生活を共にしている私がされていないなんておかしいです!」

 

 

リゼ(怒ってる理由はそっちか……)

 

 

チノ「きっと以前ボートに二人で乗った時以来、お互いにそういう感情が芽生えたに違いありません」

 

 

リゼ「……やきもちか?」

 

 

チノ「いいえ、ただ公平でないことに不満を感じているだけです」

 

 

リゼ「そうか……」

 

 

チノ「はい」

 

 

リゼ(疲れる……)

 

 

リゼ「……なぁチノ?要はココアと食べさせあいっこをすればいいわけだろ?」

 

 

チノ「それだけではココアさんへの疑念は晴れません」

 

 

リゼ「じゃあどうすればいいんだ?」

 

 

チノ「……あーん」

 

 

リゼ「へっ?」

 

 

チノ「ひとつのものを二人で交互に食べて『あーん』し合えば解決です」

 

 

リゼ「それはチノがしたいだけじゃないのか?」

 

 

チノ「違います、ココアさんのためです」

 

 

リゼ「ココアのためか」

 

 

チノ「はい、ココアさんのためです」

 

 

リゼ「…………はぁ」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

――甘兎庵――

 

 

ココア「それでね、リゼちゃんがくれたチョコバナナがおいしくて」

 

 

ココア「でも大きかったからチノちゃんと食べさせあいっこしたんだ」

 

 

チノ「どうしてもと言うから仕方なくです」

 

 

千夜(チノちゃん嬉しそう……♪)

 

 

千夜「二人とも、ご注文は?」

 

 

ココア「えっとね~……あっ、そうだ!この前千夜ちゃんと一緒に考えた特別メニュー」

 

 

チノ「!?」

 

 

千夜「漆黒の卵ね、了解よ」

 

 

ココア「ぼたもちなんて食べるの久しぶりだよ」

 

 

チノ「……………………」

 

 

千夜「チノちゃんは?」

 

 

チノ「……強者どもが夢の後でお願いします」

 

 

千夜「あら、意外とチャレンジャーね」

 

 

ココア「チノちゃんすごいよ!」

 

 

チノ「……………………」

 

 

 

チノ「――ということがありました」

 

 

リゼ「いや……悪いが今回だけは全く意図が掴めないんだが」

 

 

チノ「メニューです、あのぼたもちはココアさんオリジナルだそうです」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「どうしてココアさんが甘兎庵のメニューを……」

 

 

リゼ「この前泊りに行ったときじゃないか?なんにせよ、いつものあいつらだろ」

 

 

チノ「そういうことではありません、どうして甘兎庵のメニューだけを考えたのか分からないだけです。ラビットハウスのメニューは考えてもくれないのに」

 

 

リゼ「ラビットハウスのメニューって……ほとんどコーヒーだけじゃないか」

 

 

チノ「喫茶店ですからね」

 

 

リゼ「ココアはコーヒーの味の違いも分からないんだし、そもそもコーヒーのブレンドなんてそれこそ千差万別――」

 

 

チノ「そんなことありません!」ダン!

 

 

リゼ「うわっ!」

 

 

チノ「おじいちゃんは一からオリジナルブレンドを編み出しました。ココアさんにできないはずがありません!」

 

 

リゼ「バリスタと一般人を比較するのがそもそもおかしいだろ……」

 

 

チノ「すいません、つい熱くなってしまいました」

 

 

チノ「とにかく、ココアさんには罰として休日の間はしばらく部屋にいてもらいます」

 

 

リゼ「それじゃあ監禁じゃないか」

 

 

チノ「違います、私の部屋ですから」

 

 

リゼ「……チノがココアに遊んでほしいだけじゃないのか?」

 

 

チノ「違います、ココアさんを反省させるためです」

 

 

リゼ「そうか……」

 

 

チノ「はい」

 

 

リゼ(ココア、苦労してるな…………)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

――ラビットハウス 深夜――

 

 

ココア「みんなで寝るなんてこの前のキャンプ以来だね」

 

 

チノ「ココアさん、布団ひきますのでどいてください」

 

 

リゼ(しっかりココアの隣をキープしてる……)

 

 

シャロ「いきなり誘われたから驚いたわ」

 

 

ココア「じつは今月だけチノちゃんと休日共同生活してるんだ。せっかくだからみんなも呼びたいなと思って」

 

 

チノ「ココアさんがどうしてもと言うので仕方なくです」

 

 

千夜(チノちゃん幸せそうね……♪)

 

 

ココア「おかげで私も寝たままチノちゃんモフモフできるし」ギュッ

 

 

チノ「んにぅ……//」

 

 

ココア「チノちゃんモフモフ~」スリスリ

 

 

チノ「こ、ココアさん……みんなの前ですから//」

 

 

リゼ(チノの方が強く抱き付いてないか、あれ……)

 

 

チノ「まったく……//」

 

 

チノ「ココアさんは、本当にしょうがないココアさんです♪」

 

 

 

III.

 

――チマメ隊の中学校――

 

 

チノ「マヤさんメグさん、おはようございます」

 

 

メグ「チノちゃんおはよ~」

 

 

マヤ「おはようチノ、早く写真見せて!」

 

 

チノ「はい、どうぞ」スッ

 

 

メグ「あっ、このまえキャンプに行った時の写真だね」

 

 

マヤ「すげぇ~どれも綺麗に撮れてるなぁ」

 

 

メグ「チノちゃん写真家さんになれるよ」

 

 

チノ「わ、私の夢はバリスタですから//」

 

 

 

マヤ「あれ、でもよく見たらチノの写真少なくね?」

 

 

メグ「ほんとだねぇ」

 

 

チノ「カメラを持っていたのはわたしとココアさんだけですから」

 

 

マヤ「なるほどな~どうりでココアとチノのツーショット写真が一枚もないわけか」

 

 

チノ「!?」

 

 

メグ「他のみんなはちゃんとあるのにね~」

 

 

マヤ「まぁいいじゃん、一応みんな写ってるし」

 

 

メグ「最後にみんなで記念撮影とかすれば良かったね」

 

 

チノ「……………………」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

チノ「――――というわけなんです」

 

 

リゼ「なるほど、言われてみれば確かにチノとココアのツーショットは一枚も無いな」

 

 

チノ「マヤさんとメグさんはちゃんとココアさんとのツーショットがあるのに……」

 

 

リゼ「まぁ、チノがカメラを持ってたから仕方ないんじゃないか」

 

 

チノ「ですが…………」

 

 

リゼ「また今度連れて行ってやるからさ、その時に撮ってやるよ」

 

 

チノ「……わたしは別にココアさんとのツーショットが撮りたいわけではありません」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

チノ「ただわたし一人だけがココアさんと一緒に写ってないことが気になっただけです」

 

 

リゼ「いや……だから一緒に写りたかったわけだろ?」

 

 

チノ「違います、不公平が嫌なだけです」

 

 

リゼ「不公平って……素直に撮りたいって言えよ」

 

 

チノ「撮りたくなんてありません!」ダン!

 

 

リゼ「のわっ!?」

 

 

チノ「わたし、ココアさんとのツーショットなんてどうでもいいです!」

 

 

リゼ「そ、そうか…………」

 

 

チノ「どうして私がココアさんと写真なんて……そもそも写真は苦手なんです」

 

 

リゼ(お前が言い出したんだろ)

 

 

リゼ「ならこの問題は解決だな」

 

 

チノ「待ってください」ガシッ

 

 

リゼ「まだなにかあるのか?」

 

 

チノ「なにも解決してません、わたしとココアさんのツーショットがまだです」

 

 

リゼ「……やっぱり撮りたいんじゃないか?」

 

 

チノ「違います、公平にするためです」

 

 

リゼ「そうか……」

 

 

チノ「はい」

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

――甘兎庵――

 

 

ココア「千夜ちゃん見てみて~、チノちゃんとのツーショットだよ!」

 

 

チノ「ココアさんやめてください、恥ずかしいです//」

 

 

リゼ(すごく嬉しそうだ)

 

 

千夜(チノちゃん良かったわねぇ)

 

 

千夜「ご注文はどれにする?今日のおすすめは『緑福に抱かれし黒珠』よ」

 

 

ココア「えっとね~――」

 

 

リゼ「わたしは柏餅がいいな」

 

 

チノ「千夜月でお願いします」

 

 

千夜「あっ、そうだわ、ココアちゃんはいこれ、この前借りたジャージよ」

 

 

チノ「!?」

 

 

ココア「すっかり忘れてたよ~」

 

 

リゼ「なんだそれ?」

 

 

千夜「この前体育の時にジャージを忘れちゃって、ココアちゃんに借りたの」

 

 

ココア「わたし、体育の時にジャージは着ないタイプだから」フンス

 

 

リゼ「こだわりはいいが風邪ひくなよ」

 

 

ワイワイ キャッキャッ

 

 

チノ「……………………」

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

チノ「――ということがありました」

 

 

リゼ「いや、わたしもいたけど……何か問題あったか?」

 

 

チノ「大ありですよ、千夜さんがココアさんにジャージを借りたことです」

 

 

リゼ「千夜は運動苦手だからな、ジャージ羽織らないとやっぱり寒いんじゃないか?」

 

 

チノ「そんなことじゃありません!」ダン!

 

 

リゼ「わっ!」

 

 

チノ「問題は、千夜さんがわざわざココアさんからジャージを借りた理由です!」

 

 

リゼ「理由って……友達だからだろ?」

 

 

チノ「違います、きっとココアさんのジャージを嗅ぐためです」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「ココアさんの服を合法的に得るためにわざと忘れ物を……さすがは千夜さんです」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「リゼさん、どうかしたんですか?」

 

 

リゼ「……チノ、思春期なのは分かるが偏った知識を付けるのはほどほどにな……」

 

 

チノ「?」

 

 

リゼ「こほん、とにかく、間違いなく考え過ぎだ」

 

 

チノ「いいえ、きっとそうです」

 

 

リゼ「……なぁ、チノ?そんなに嫉妬しなくても、ココアは一番お前のことが――」

 

 

チノ「嫉妬なんかしてません!」ダン!

 

 

リゼ「うわ!」

 

 

チノ「わたし、ココアさんのことなんて何とも思ってないです!」

 

 

リゼ「そ、そうなのか……」

 

 

チノ「ただ、千夜さんが羨ましい……もとい、ココアさんが千夜さんの毒牙にかかるのを防ぎたいだけです」

 

 

リゼ「いま素で羨ましいって言ったよな?」

 

 

チノ「ただの言い間違いです、気にしないでください」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「」ジーッ

 

 

リゼ「はぁ……わかった、千夜にきつく言っておいてやるよ」

 

 

チノ「ありがとうございます、これで安心ですね」

 

 

リゼ「チノがか?」

 

 

チノ「いいえ、ココアさんがです」

 

 

リゼ「ココアがか……」

 

 

チノ「はい、ココアさんがです」

 

 

リゼ(疲れる…………)

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

――フルールドラパン――

 

 

ココア「それでね、最近チノちゃんがわたしの部屋まで洗濯物回収してくれるようになって助かってるんだ」

 

 

チノ「洗濯物はまとめたほうが効率的ですから」

 

 

シャロ「へぇ、さすがはチノちゃんね♪」

 

 

リゼ(黙っておこう……)

 

 

ココア「あっ、そういえばこの前シャロちゃんと一緒に買った――――」ガサゴソ

 

 

チノ「!?」

 

 

ココア「この赤いシャーペン、使い心地抜群だよ」ジャーン

 

 

シャロ「ココアもそう思う?実は私もあれからずっと愛用してるわ」スッ

 

 

ココア「えへへ、お揃いってなんだか嬉しいね」

 

 

シャロ「えっ……そ、そうね……//」

 

 

リゼ「そんなにいいのか、私も買おうかな」

 

 

ココア「そうすればリゼちゃんもお揃いだね!」ギュッ

 

 

シャロ「先輩とお揃い…………//」

 

 

チノ「……………………」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

チノ「――――ということがありました」

 

 

リゼ「いや……いったいなにがあったんだ?」

 

 

チノ「わかりませんか」

 

 

リゼ「悪いが全く」

 

 

チノ「ですから、シャロさんはココアさんとお揃いのシャーペンを持っています」

 

 

リゼ「ああ」

 

 

チノ「きっとシャロさんはココアさんのことを狙っているに違いありません」

 

 

リゼ「いきなり飛躍しすぎだろ……」

 

 

チノ「そんなことありません!」ダン!

 

 

リゼ「おっと!」

 

 

チノ「妹である私がココアさんとお揃いの物が無くてシャロさんがあるなんておかしいです!」

 

 

リゼ「怒ってる理由はそっちか……というか、今自分で妹って言ったよな?」

 

 

チノ「言い間違いです。最近よく頻発するんです、困ったものです」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「とにかく、シャロさんの真意を確かめねばなりません」

 

 

チノ「ティッピー、行きましょう」

 

 

ティッピー「よし来た」ピョン

 

 

リゼ「どこ行くんだ?」

 

 

チノ「フルールドラパンです、シャロさんの返答次第では今日が宣戦布告になることもありえます」

 

 

リゼ「個人問題に店を巻き込むな!シャロ以前にフルールドラパンが迷惑だろ」

 

 

チノ「しかし、これ以外に方法はありません」

 

 

リゼ「……なぁチノ?要はココアとお揃いの物があればいいわけだろ?」

 

 

チノ「そうですね、それならばシャロさんが潔白であることも証明されます」

 

 

リゼ「どう証明されるか全然分からんが……わかった、なんとかしてやるよ」

 

 

チノ「ほんとうですか」

 

 

リゼ「いいか、シャロやココアに当たったら絶対にダメだぞ?」

 

 

チノ「わかりました、とりあえず休戦としましょう」

 

 

リゼ(もう既に始まってたのか……)

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

――ラビットハウス――

 

 

千夜「ココアちゃん、その髪飾り素敵ね」

 

 

ココア「えへへ、チノちゃんと一緒にお揃いの買ったんだ」

 

 

チノ「成り行きじょう仕方なくです」

 

 

シャロ(チノちゃん、にやけながらずっと触ってる…………)

 

 

千夜(ほほえま~)

 

 

シャロ「あれ……リゼ先輩、大丈夫ですか?なんだか顔色が悪いですけど……」

 

 

リゼ「大丈夫だ、気にするな……」グダー

 

 

リゼ(手回しも骨が折れる…………)

 

 

ココア「今夜は一緒の枕で寝ようね!」ギュッ

 

 

チノ「んにぅ…………し、仕方ないですね//」

 

 

ココア「やったぁ!チノちゃんもふもふ♪」

 

 

チノ「くっつかないでください……//」

 

 

リゼ(あれ、明らかにチノの方はくっつきにいってるよな……)

 

 

チノ「まったく……//」

 

 

チノ「ココアさんは、本当にしょうがないココアさんです♪」

 

 

 

−Bonus−

IV.(Spirit"Interlude film 2「病」"より)

 

チノ「ココアさん……好きです」

 

 

ココア「チノちゃん……わたしもだよ」

 

 

チノ「ん………//」

 

 

ココア「チノちゃん、これからもずっと一緒だよ//」ニコッ

 

 

チノ「……はい//」ニコッ

 

 

チノ「ずっとわたしだけのココアさんでいてくださいね……ずっと……♪//」ギュッ

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

ココア(お互いに本当の気持ちを伝え合い、チノちゃんと恋人同士になってから1週間……なんだかまだ夢みたいな気がするよ)

 

 

 

ココア(……今は半分夢の中だけど)

 

 

ココア「ふぁあ…………」プワプワ

 

 

ココア「今日は土曜日だからもうちょっとだけ……」ゴロン

 

 

ココア「……………………」Zzz

 

 

ガチャッ

 

 

チノ「失礼します」

 

 

ココア「むにゃ………………」Zzz

 

 

チノ「……ふふ」

 

 

チノ「ココアさんの寝顔、可愛いですね……」

 

 

チノ「ずっと堪能していたいですけど……時間は残酷なものです」

 

 

チノ「……ココアお姉ちゃん、起きてください」ボソッ

 

 

ココア「!」バッ!

 

 

チノ「ココアさんおはようございます」

 

 

ココア「あっ、チノちゃんおはよう……」プワプワ

 

 

チノ「早く起きてください、お姉ちゃん」

 

 

ココア「お姉ちゃん……えへへ……//」テレテレ

 

 

ココア「チノちゃん、今日も一日頑張ろうね」

 

 

チノ「はい♪」ニコッ

 

 

 

 

ココア「今日の朝ごはんは最高だったね」

 

 

チノ「いまわしい野菜がキャベツだけというのは清々しいものです」

 

 

ココア「ふぁあぁ……おなかいっぱいになったらまた眠たくなってきちゃった」

 

 

チノ「昨日も夜更かしですか?また生活バランスが崩れますよ」

 

 

ココア「あはは、リゼちゃんとお話ししてたらつい」

 

 

チノ「!」ピクッ

 

 

チノ「…………リゼさんと?」

 

 

ココア「うん。リゼちゃん最近なかなか寝付けないみたいだから、眠たくなるまで二人でお話してるんだ」

 

 

ココア「新しいゲーム買ったから、今度二人で協力プレイしようって誘われちゃった」エヘヘ

 

 

チノ「二人…………」

 

 

ココア「次のお給料が出たらパーティーゲームでも買ってみんなでやりたいって―――あれ、チノちゃん……?」

 

 

チノ「……………………」

 

 

チノ「……ココアさん」

 

 

ココア「?」

 

 

チノ「……携帯貸してください」

 

 

ココア「携帯?えっと……はい」スッ

 

 

チノ「」simカード スッ

 

 

ココア「!?」

 

 

チノ「これは預かっておきます」

 

 

チノ「はい、あとはお返ししますね」

 

 

ココア「チノちゃんひどい!これじゃあ使えないよ!」

 

 

チノ「何か用があるなら言ってください。わたしの携帯をお貸ししますので」

 

 

ココア「でも、みんなからの連絡とかもあるから――」

 

 

チノ「」ジー

 

 

ココア「……!」

 

 

チノ「ココアさんはわたしと友達……どっちが大切なんですか?」

 

 

チノ「わたしはココアさんのことをこんなに想ってるのに……」

 

 

ココア「わたしもチノちゃんのこと大切だし大好きだよ!でも、それとこれとは――」

 

 

チノ「……リゼさん、ですね」

 

 

ココア「えっ?」

 

 

チノ「ココアさんはリゼさんと浮気してるんですね……」フラッ

 

 

ココア「ち、チノちゃん……?」

 

 

チノ「わたしからココアさんを奪おうとするなんて……」

 

 

チノ「ココアさんは誰にも渡しません……!」ホウチョウ シャキン

 

 

ココア「ひっ!」

 

 

チノ「じっとしててください……痛いのは一瞬だけですから……」

 

 

ココア(チノちゃんの目……まさか本気で……!)ガクガク

 

 

ココア「ち、チノちゃんごめん!お姉ちゃんが間違ってたよ!」

 

 

チノ「…………?」

 

 

ココア「これから連絡取りたいときはチノちゃんにお願いするね!それとリゼちゃんのお誘いも断るから!」

 

 

チノ「……本当ですか?」

 

 

ココア「うん、その代わり二人で遊びにいこう!わたしチノちゃんとデートしたいな!」

 

 

チノ「デート……ココアさんと……//」

 

 

チノ「……わかりました」

 

 

チノ「すいませんココアさん……こんなもの持ち出してしまって」スッ

 

 

ココア「ううん……」ホッ

 

 

チノ「ココアさん……//」ギュッ

 

 

ココア「!」

 

 

チノ「デート、楽しみにしてますから……//」ニヘラ

 

 

ココア(デレデレチノちゃん可愛い……//)

 

 

ココア(……さっきのは、なんだったんだろう)

 

 

チノ「ココアさん……わたしのお姉ちゃん……//」スリスリ

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

――数日後――

 

 

リゼ「ココア、まだ連絡取れないのか?」ヒソヒソ

 

 

ココア「うん、チノちゃんがSimカード返してくれなくて……」

 

 

リゼ「あれが無かったらただの箱だもんな、特にガラケーは」

 

 

ココア「ごめんねリゼちゃん、もう少し待ってて」

 

 

リゼ「わたしはいつでもいいが……あんまり無理するなよ」ポンッ

 

 

リゼ「なにかあったらいつでも相談して来い」ナデナデ

 

 

ココア「うん」ニコッ

 

 

ココア(チノちゃんの束縛は厳しいけど、それだけ私のことを好きでいてくれてるってことだよね……♪)

 

 

チノ「……………………」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

――お風呂場――

 

 

チャポン

 

 

ココア「ふぅ…………」

 

 

ココア(みんなでお泊り会だったらチノちゃんも許してくれるかな……)

 

 

ココア(今度お願いしてみよっと)

 

 

ガチャッ

 

 

ココア「!」

 

 

チノ「………………」

 

 

ココア「チノちゃん……あっ、わかった、お姉ちゃんと一緒にお風呂だね!」

 

 

ココア「チノちゃんおいで♪」ヒョイヒョイ

 

 

チノ「………………」

 

 

チャポン

 

 

ココア「今日も疲れたねー」

 

 

チノ「……ココアさん」

 

 

ココア「んっ、どうしたの?」

 

 

チノ「今日のお昼、リゼさんと喋っていましたよね」

 

 

ココア「……!う、うん………」

 

 

チノ「何を話していたんですか?」

 

 

ココア「っ……そ、それは……」アセアセ

 

 

チノ「……なんですか?」グイッ

 

 

ココア「ち、チノちゃん、顔が近いような……」

 

 

チノ「なにを、話していたんですか?」ジー

 

 

ココア「!」

 

 

ココア(まずい、またこのチノちゃんだ……!)

 

 

チノ「正直に言ってください!」カタ ガシッ

 

 

ココア「きゃっ……!」

 

 

チノ「またリゼさんと二人で浮気の計画を立ててるんですね……!」グググ

 

 

ココア「チノちゃんやめて……いたいよ……!」

 

 

チノ「ココアさんもココアさんです、いつもリゼさんにたぶらかされて……!」

 

 

ココア「チノちゃん待って!話を聞いて――――ごぼっ!」ジャボン

 

 

チノ「ココアさん、目を覚ましてください……」ググッ

 

 

ココア「ごぼごぼ――――ぷはぁ!げほっごほっ……」

 

 

チノ「ココアさんの恋人は誰ですか?」

 

 

ココア「はぁ……はぁ………チノちゃんです……」

 

 

チノ「……三度目は無いですよ」ニコッ

 

 

ココア「……!」ブルブル

 

 

チノ「ココアさんはわたしだけのものです……誰にも渡しません……」ギュッ

 

 

ココア「……チノちゃん」

 

 

ココア「……うん、勘違いさせてごめんね」ギュッ

 

 

ココア(良かった……いつものチノちゃんだ……)

 

 

チノ「えへへ……ココアさん……//」ニコッ

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

――数日後――

 

 

チノ「リゼさんは今日部活の助っ人でお休みのようです」

 

 

ココア「そっか、ならリゼちゃんの分まで頑張らないとね」フンス

 

 

チノ「とは言っても、この有り様ですが……」ガラーン

 

 

――ギュッ

 

 

チノ「!」

 

 

ココア「ということは、お客様が来るまでチノちゃんのことモフモフし放題だね」スリスリ

 

 

チノ「こ、ココアさん、仕事中ですから……//」

 

 

ココア「モフモフ、モフモフ♪」

 

 

チノ「……………♪//」

 

 

チノ(今日はもう閉店にしたいです)

 

 

ガチャッ

 

 

マヤ「やっほー♪」

 

 

メグ「こんにちは~」

 

 

ココア「あっ!マヤちゃんメグちゃん!」バッ

 

 

チノ「あ…………」

 

 

マヤ「あれ、ココアとチノだけ?」

 

 

メグ「リゼさんは?」

 

 

ココア「今日はリゼちゃんはお休みだよ」

 

 

ココア「だから二人のこともモフモフし放題♪」ダキッ

 

 

メグ「きゃっ!」

 

 

マヤ「苦しい~!」

 

 

ココア「わたしの可愛い妹たち!もふもふ~!」ギュッ

 

 

ワイワイ キャッキャッ

 

 

チノ「……………………」

 

 

チノ「」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――深夜――

 

 

ココア(今日はチノちゃんにお風呂も添い寝も断られちゃった……)シュン

 

 

ココア(でも夕食の時も元気なかったし、もしかしたら体調悪いのかも……)

 

 

ココア「……大丈夫かな」

 

 

ココア「ふぁぁ…………」プワプワ

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

ココア「すぅ………すぅ………」Zzz

 

 

ガチャッ バタン

 

 

ココア「………………」Zzz

 

 

ガサゴソ

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

チノ「……ココアお姉ちゃん、起きてください」

 

 

ココア「んっ…………」

 

 

ココア(いまお姉ちゃんって誰かが…………?)パチッ

 

 

チノ「お姉ちゃん、おはようございます」ニコッ

 

 

ココア「……チノちゃん?」

 

 

チノ「目が覚めませんか?ならこれでも飲んでください」スッ

 

 

ココア(チノちゃんの指が口に――)

 

 

ココア「ん……――!えほっげほっ!…なに…これ……」

 

 

チノ「おいしいですか?……わたしの血ですよ」

 

 

ココア「!」

 

 

ポタ……ポタ……

 

 

ココア「なんで……どうしてこんなこと……」ブルブル

 

 

チノ「わたしの血を飲ませれば、ココアさんと本当の姉妹になれるはずです……」

 

 

チノ「これでココアさんの本当の妹はわたしだけですね……」

 

 

ココア「チノ…ちゃん…………」

 

 

チノ「ココアさんの恋人も妹も、わたしです……リゼさんにもマヤさんにもメグさんにも、誰にも譲りません……」

 

 

チノ「ココアさん…ココアお姉ちゃん……今夜はそれを分からせてあげます」ニコッ

 

 

チノ「もう二度と、他に目移りしないように……」スッ

 

 

チノ「ココアさん……ずっと一緒ですよ……」

 

 

ココア「……………………」

 

 

ココア(…………そっか)

 

 

ココア(……やっとわかった)

 

 

 

ココア(チノちゃんがわたしを束縛するのは、きっと怖いからなんだ)

 

 

ココア(お母さんを無くして、おじいちゃんを無くして……心の拠り所になる人に離れられるのが、もう……)

 

 

ココア(……お姉ちゃんになるって、こういうことだったんだね)

 

 

ココア(チノちゃんが望むように……気の済むまで、甘やかしてあげる……)

 

 

ココア「……チノちゃん」

 

 

ココア「お姉ちゃんが、全部受け止めてあげる……」

 

 

ココア「おいで……」ニコッ

 

 

チノ「…………!」

 

 

チノ「……はい」ポロポロ

 

 

――ギュッ

 

 

チノ「ん…………」

 

 

ココア「よしよし……」ナデナデ

 

 

チノ「ココアさん……ココアお姉ちゃん……♪」

 

 

チノ「……やっと手に入れました」

 

 

チノ「大好きで、温かい……」

 

 

チノ「――心の拠り所」

 

 

 

 

_______少女が望んだ「欲」は、病み行く「心」の崩壊のはじまり。

 

 

 

V.

――ラビットハウス――

 

 

リゼ「……すまない、もう一度言ってくれ」

 

 

チノ「ココアさんに抱きつきたいんです」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チノ「リゼさん?」

 

 

リゼ「……ココアって、あのココアだよな?」

 

 

チノ「はい、あのココアさんです」

 

 

リゼ「………………」

 

 

チノ「どうしたんですか?」

 

 

 

リゼ「いや……いつも二人で抱きしめあってるじゃないか」

 

 

チノ「あれはココアさんがわたしに抱きついているカタチです、わたしが抱きついているわけではありません」

 

 

リゼ「抱きしめられたらチノも抱きかえせばいいだろ?」

 

 

チノ「受身ではダメです、こちらが攻めでないと」

 

 

リゼ「どこで覚えたんだそんな言葉……」

 

 

チノ「その方法を一緒に考えてください」

 

 

リゼ「考えるも何も……チノがココアに抱きつけばそれで――」

 

 

チノ「しかし、きっかけがあるかどうか」

 

 

リゼ「きっかけも何も」

 

 

チノ「普通に抱きついたらまるでわたしがココアさんのことが好きみたいじゃないですか」

 

 

リゼ「えっ、違うのか?」

 

 

チノ「違います、ただわたしはココアさんに抱きつきたいだけです」

 

 

リゼ「つまり、ココアのことが好きだから抱きつきたいんだろ?」

 

 

チノ「違います、いつも一方的にやられっぱなしなのが気に入らないだけです」

 

 

リゼ「そんな今更……素直に好きだからって言えよ」

 

 

チノ「好きなんかじゃありません!」ダン!

 

 

リゼ「わっ!?」

 

 

チノ「いつもやられっぱなしなのが悔しいだけです!ココアさんをモフモフしたいとか、ココアさんの匂いを思う存分嗅ぎたいとか、そんなこと思ってません!」

 

 

リゼ「本音がだだ漏れだぞ、チノ……」

 

 

チノ「……こほん、つい熱くなってしまいました」

 

 

チノ「とにかくそんなわけで、ココアさんに能動的かつ他から見れば受動的に、そして違和感無くわたしから抱きつける方法を考えてください」

 

 

リゼ「難し過ぎるだろ!海外旅行クイズより難易度高いぞ」

 

 

チノ「だから困ってるんです」

 

 

リゼ「……なぁ、チノ?そんな遠まわしなことしなくても、普通にチノから抱きついていけばいいじゃないか」

 

 

リゼ「ココアは喜ぶだろうしチノは目的を果たせるし、お互いWin-Winだろ?」

 

 

チノ「……………………」

 

 

リゼ「わたしも協力してやるからさ、なっ?」

 

 

チノ「……………………」

 

 

チノ「」

 

 

 

――翌日――

 

 

リゼ「あれ…………?」

 

 

ガラーン

 

 

リゼ(九時前……ココアはいつものことながら、チノも起きてないなんて……珍しく寝坊か?)

 

 

リゼ「んっ……手紙?」

 

 

『親しい人に見放され、もはや希望を失いました。今後のラビットハウスはTRさんにお任せします 香風智乃』

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「TR→天々座理世」

 

 

リゼ「」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――チノの部屋前――

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「チノ、わたしだ」トントン

 

 

シーン……

 

 

リゼ「…………はぁ」

 

 

リゼ「とりあえずここをあけてくれよ」カチャカチャ

 

 

リゼ(あれ……開いてる?)ガチャッ

 

 

リゼ「チノ、入るぞ……?」ソー

 

 

チノ「……………………」

 

 

フテネ

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「おいチノ、起きてくれ」

 

 

チノ「…………」

 

 

リゼ「昨日のことは謝る、だから機嫌直せよ」

 

 

チノ「……別に拗ねてません」

 

 

リゼ「いや、だって……」

 

 

チノ「人生に絶望しているだけです、そっとしておいてください」

 

 

リゼ「あんなことで絶望って……ほら、まずは布団から出ろ」グイッ

 

 

チノ「嫌です……」コロコロ

 

 

リゼ「…………」

 

 

チノ「」スマキ

 

 

チノ「これなら剥がされません」ババン

 

 

リゼ(かなりめんどくさいぞこれは……)

 

 

チノ「いいんです、わたしなんてろくにココアさんに抱きつく勇気も無いような人間なんです………」モゴモゴ

 

 

リゼ「そんな卑屈にならなくても……」

 

 

チノ「今後のラビットハウスはリゼさんにお任せします」

 

 

リゼ「チノはどうするんだ?」

 

 

チノ「将来の夢は自宅警備員です」

 

 

リゼ「それただの引きこもりだろ!?」

 

 

リゼ「はぁ……いいから出てこいよ、今度はちゃんとした方法を考えてやるから」

 

 

チノ「例えばどんな?」モゴモゴ

 

 

リゼ「どんな?うーん……」

 

 

リゼ「事故を装ってココアの胸元に飛び込む、とか?」

 

 

チノ「……………………」

 

 

チノ「」ゴロン

 

 

リゼ「待ってくれチノ!わかった、もっと確実な方法を考えるから!」

 

 

 

チノ「例えば?」モゴモゴ

 

 

リゼ「うっ……そ、そうだな……」

 

 

リゼ「……そうだ!」

 

 

リゼ「酔ったフリをしてココアに抱きつくとか……」

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ「それなら思う存分ココアの匂いも嗅げるし、甘えられる」

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ「どうだ……?」

 

 

チノ「……それです!」ヒョコ

 

 

リゼ「」ホッ

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

ココア「リゼちゃんチノちゃん、おはよー!」

 

 

リゼ「もうお昼前だぞ」

 

 

チノ「おはようございます」

 

 

ココア「えへへ、チノちゃんは今日もモフモフだね」ギュッ

 

 

チノ「こ、ココアさん、離れてください//」ニヘラ

 

 

リゼ(すごく嬉しそうだ……)

 

 

ココア「そろそろお昼かぁ、おなかすいたね」

 

 

リゼ「お前はいま起きてきたところだろう」

 

 

チノ「まだお昼まで時間がありますね」チラッ

 

 

リゼ(んっ、もう実行するのか?)ピクッ

 

 

チノ(はい、この機を逃がす手はありません)パチッ

 

 

 

リゼ「……あー、そういえば、今日はお菓子を持ってきたんだ」

 

 

ココア「えっ、ほんと?」

 

 

リゼ「ほら、おなか減ってるなら食べてもいいぞ」

 

 

ココア「わーい、チョコレートだ♪」

 

 

リゼ「チノもどうだ、一休みしないか」

 

 

チノ「そうですね、お客さんも来ないことですし」

 

 

チノ「わたし、飲み物持ってきます」

 

 

ココア「リゼちゃん、このチョコおいしいね」モグモグ

 

 

リゼ「もう食べてるのか、早いな」

 

 

 

チノ「お待たせしました」

 

 

チノ「ココアさん、リゼさん、どうぞ」トンッ

 

 

リゼ「ありがとう」

 

 

ココア「このクッキーもおいしい」モグモグ

 

 

チノ「ではお先に……」カパッ

 

 

チノ「ん……」ゴクゴク

 

 

リゼ(よし、上手くいった)

 

 

リゼ(この缶、わたしとココアのはチューハイ、チノのだけはジュースになっている)

 

 

リゼ(これで酔ったフリをしてココアに抱きつく準備は整った、後は……)

 

 

リゼ「……んっ、チノ、これ――」

 

 

リゼ「ジュースじゃなくてアルコールだ!」

 

 

チノ「うぅ…………」ポワン

 

 

リゼ「チノ、おい、しっかりしろ!」

 

 

リゼ「さぁチノ、ココアに思い切り抱きついて来い」ヒソヒソ

 

 

チノ「はい、ありがとうございます」ヒソヒソ

 

 

チノ(そ、それでは……いきます//)ゴクリ

 

 

チノ「……こ、ココアおねえ……あ…うぅ……//」

 

 

リゼ(しらふで酔ったフリって結構恥ずかしいんだよな……)

 

 

チノ「こ……ココア…ココアお姉ちゃ――!」

 

 

ココア「リゼちゃん!」ギュッ

 

 

リゼ「!!?」

 

 

チノ「!?」

 

 

ココア「えへへ~、リゼちゃん……//」スリスリ

 

 

リゼ「なっ、えっ……!?//」

 

 

ココア「リゼちゃんの匂い、お姉ちゃんそっくり……安心する…//」スリスリ

 

 

リゼ(一体何がどうなって……!?)

 

 

リゼ「おいココア……――!」

 

 

ココア「ふぇへへ……//」ポワーン

 

 

リゼ(顔が真っ赤だ……それにこの匂い、まさか……」チラッ

 

 

ココア「リゼちゃんもチノちゃんも食べる?おいしいよ、ウイスキーボンボン♪//」ニコッ

 

 

リゼ「」

 

 

ココア「わたしが食べさせてあげるね、はいリゼちゃん、あーん//」

 

 

リゼ「こ、ココア、ちょっと待て!とりあえず水を――!」

 

 

リゼ「――はっ!」ビクッ

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「………………」チラッ

 

 

チノ「……………………」

 

 

リゼ「チノ、違うんだ……これは手違いで……その」

 

 

チノ「………………」

 

 

チノ「スマキです……自宅警備員です……では」スタスタ

 

 

リゼ「チノ!待ってくれぇ!ワンモアチャンスを!チノぉ!」

 

 

ココア「あれぇ……わたし、なにしてたんだっけ?」キョトン

 

 

 

――後日――

 

 

ココア「チノちゃん、昨日はごめんね」ギュッ

 

 

チノ「別に怒ってません」プクー

 

 

ココア「今日はお仕事終わったらたくさん遊ぼう♪」スリスリ

 

 

チノ「し、しかたないですね……//」ギュッ

 

 

チノ(ココアさんの匂い……ココアさんモフモフ!)

 

 

リゼ(あの後5時間の説得により、チノの引きこもり化はなんとか食い止めることができた)

 

 

リゼ(しかし、依然チノの抱きつきたいという願いは叶わず仕舞いだ)

 

 

リゼ(……でも)

 

 

ココア「チノちゃーん!抱き返してくれるなんて、おねえちゃん嬉しいよ!」

 

 

チノ「こ、ココアさん……//」ニヘラ

 

 

リゼ(結局のところ、ココアとイチャイチャできるなら何でも良かったんだろうな……)

 

 

リゼ「……はぁ、疲れた」ゲッソリ

 

 

チノ「まったく……♪」

 

 

チノ「ココアさんは、本当にしょうがないココアさんです//」ニコッ

−−−−−−−−−−−−−−−−

next.



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Ourside 4.「[Restructuring] cocoa×rise」

ココアとリゼが登場した前々作と前作のストーリーをまとめて再編、10話収録。


I.

 

――リゼ宅 玄関前――

 

 

リゼ「……………………」

 

 

チラッ AM10:14

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ(ココアのやつまだかな……)ソワソワ

 

 

 

――昨日――

 

 

ココア「リゼちゃん、明日空いてる?」

 

 

リゼ「明日?ああ、特に予定も無いが……」

 

 

ココア「じゃあ一緒にサイクリングに行こうよ!」

 

 

 

リゼ「サイクリング?」

 

 

ココア「リゼちゃんのおかげでわたしももう自転車に乗れるようになったし、一度やってみたかったんだ」(コミック版参照)

 

 

ココア「風の向くまま気の向くままに、ペダルを漕いでいくという終わりのないゴールに対する挑戦……」ポワーン

 

 

リゼ「そんな大げさなもんじゃないだろ……」

 

 

ココア「リゼちゃんお願い、一緒に付いてきて?」

 

 

リゼ「私は別に構わないが、チノはどうするんだ?確かまだ自転車に乗れないんだろ?」

 

 

リゼ(置いて行くとまた何を言われるか分からん)

 

 

ココア「大丈夫、チノちゃんは今日の夜からマヤちゃん家にお泊りだから」

 

 

ココア「チノちゃんには悪いけど、明日は内緒で出発だよ」シー

 

 

リゼ「なるほどな……よし、それじゃあ二人で行くか」

 

 

ココア「ありがとう!明日の10時に、わたしがマイティッピー(自転車の)でリゼちゃん家まで迎えにいくね」

 

 

リゼ「ああ、寝坊するなよ」

 

 

ココア「もう、わかってるよ~リゼちゃんたら心配性だなぁ」

 

 

 

リゼ(二人きりか……)

 

 

リゼ(最近は深夜徘徊にお泊り会、ココアとの距離が徐々に縮まりつつある……)

 

 

リゼ(あいつにとって私はもう『友達』から『親友』くらいにはなれたのかな……♪)

 

 

ココア「おーいリゼちゃーん!」

 

 

リゼ「ココア、やっときたか」

 

 

ココア「えへへ、お待たせ」

 

 

リゼ「20分も遅刻だぞ、案の定寝坊したな」

 

 

ココア「うぅ、ごめんなさい……」

 

 

リゼ「まぁいい、じゃあ早速出発するか」

 

 

ココア「どんな冒険になるのか楽しみだね!」

 

 

リゼ「ただ景色が変わっていくだけだと思うが」

 

 

リゼ(ココアも普通のシティサイクルだし、わたしも普通のでいいか)

 

 

リゼ「待っててくれ、すぐそこの物置に――」

 

 

ココア「リゼちゃん、早く後ろに乗って」

 

 

リゼ「……えっ?」

 

 

ココア「もう出発するんでしょ?乗ってくれないと進めないよ」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

ココア「どうしたの?」キョトン

 

 

リゼ「……いや、私も自転車持ってるぞ?」

 

 

ココア「えっ、そうなんだ、今度見せて♪」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「んっ、リゼちゃん?」

 

 

リゼ「……これ、サイクリングだよな?」

 

 

ココア「そうだよー」

 

 

リゼ「……まさか、二人乗りでか?」

 

 

ココア「あはは、リゼちゃん今更何言ってるの。そのためのマイティッピーでしょ」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

ココア「さぁお嬢さん、後ろに乗って」キラッ

 

 

リゼ(なぜにタカヒロさん風……)

 

 

リゼ「……はぁ、わかった。お前のことだ、どうせ何言っても聞かないだろうし」

 

 

リゼ「その代わり、一つだけ条件がある」

 

 

ココア「ほぇ?」

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

リゼ「いい風だな」

 

 

ココア「……リゼちゃんの背中のせいで分からない」

 

 

リゼ「あれは、横断歩道か。見てみろココア、どうやら私たちの町から出たみたいだぞ」

 

 

ココア「ぶぅ…………」プクー

 

 

リゼ「おいおい……まだむくれてるのか」

 

 

ココア「……わたしのほうがお姉ちゃんなのに……」

 

 

リゼ「年齢も身長もわたしのほうが上だろ……いいから機嫌直せよ」

 

 

ココア「最近のリゼちゃん、すぐに私のこと子供扱いするから嫌い……かっこいいけど……」ボソッ

 

 

リゼ「……なるべくお前に負担をかけたくないんだ、わかってくれ」

 

 

ココア「知らない……リゼちゃんなんて、知らないもん……」ポスッ

 

 

リゼ(強引な形でココアを後ろに座らせたが……やはりまずかったか、すっかり拗ねてしまった)

 

 

リゼ(たぶん運転してお姉さんぶりたかったんだろうな……)

 

 

リゼ(まったく……手のかかる妹だ)

 

 

リゼ(なんとか機嫌をなおしてやらないと……)

 

 

リゼ「……おっ、いいものがあった」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「ほら、イチゴと生クリームでよかったか」スッ

 

 

ココア「うん……いくらだった?」

 

 

リゼ「私のおごりだ、気にしなくていい。ほら、食べろよ」

 

 

ココア「……ありがとう」

 

 

ココア「……ん、おいしい」モグモグ

 

 

リゼ「ここのクレープもなかなかだな」

 

 

ココア「……あの、リゼちゃん?」

 

 

リゼ「んっ、どうした?」

 

 

ココア「……その…………ふてくされて、ごめんね……」

 

 

ココア「せっかく付いてきてくれたのに、あんな態度取っちゃって……」シュン

 

 

リゼ「……………」

 

 

ポンッ

 

 

ココア「あ……」

 

 

リゼ「わたしのほうこそ悪かった、お前の気持ちも考えないで」ナデナデ

 

 

ココア「んっ…………」

 

 

リゼ「帰りは、ちゃんと代わるからな」

 

 

ココア「……ううん、いい」

 

 

リゼ「えっ」

 

 

ココア「えっと……なんだかクレープ食べたら動きたく無くなっちゃった」アハハ

 

 

ココア「だから、帰りもリゼちゃんの後ろに乗せてもらってのんびりしたいかも……」

 

 

ココア「……いいかな?」

 

 

リゼ「ああ……もちろんだ、帰りも乗せていってやる」

 

 

ココア「えへへ、ありがと。リゼちゃん大好きっ」ギュッ

 

 

リゼ「おいおい、クレープが背中に付くぞ」クスッ

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――夕方――

 

 

ココア「今日は楽しかったね」

 

 

リゼ「ああ、公園に商店街にデパート、色々行ったな」

 

 

ココア「……もうちょっとで私たちの町だね」

 

 

リゼ「ああ、なんだかんだいってもやはりあそこが一番だ」

 

 

リゼ「まぁ、ココアは実家が一番落ち着くだろうが」

 

 

ココア「………………」

 

 

――ポスッ

 

 

リゼ「っと……ココア……?」

 

 

ココア「……なんだか思い出すなぁ」

 

 

ココア「小さい頃、後ろに乗ったらいつもこうしてお姉ちゃんの背中にもたれ掛かってたっけ」

 

 

ココア「それで気持ちよくなってウトウトしちゃったり……」

 

 

ココア「……リゼちゃんの背中、あったかい……お姉ちゃんにそっくり」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「この背中の温もりとそろそろお別れかと思うと、ちょっと寂しいかも……」

 

 

リゼ「……いつでも連れて行ってやるさ、どこにでも……なんならお前の実家にでもな」

 

 

ココア「……よかった、それなら卒業してあの町を離れても安心だね」

 

 

ココア「リゼちゃんが、いつでも迎えに来てくれるから」ギュッ

 

 

リゼ「ああ……」

 

 

ココア「……なんだか湿っぽい話になっちゃった、ごめんね?」

 

 

リゼ「……また二人でサイクリング、行こうな」

 

 

ココア「うん……♪」

 

 

 

――リゼ宅 玄関前――

 

 

リゼ「到着だ」

 

 

ココア「ここからは選手交代だね」

 

 

リゼ「ラビットハウスまで行って私が歩いて帰ってきても良かったのに、すまないな」

 

 

ココア「ううん、今日はずっとリゼちゃんに甘えてばっかりだったから、最後くらいはね」

 

 

ココア「リゼちゃん、今日はありがとう……」ギュッ

 

 

リゼ「こ、ココア……汗臭いと思うし、あまり抱き着かないでくれ……//」

 

 

ココア「ううん、そんなことない、リゼちゃんのいい匂いがするよ」

 

 

ココア「リゼちゃん…………♪」スリスリ

 

 

リゼ「………………っ//」

 

 

ココア「……ふぅ、よし、もう大丈夫だよ」

 

 

ココア「リゼちゃん成分たっぷり充電完了」フンス

 

 

リゼ「っ……ほ、ほら、早く帰らないとタカヒロさんが心配するぞ//」

 

 

ココア「うん、じゃあねリゼちゃん、また明日」ブンブン

 

 

リゼ「ああ」フリフリ

 

 

 

――リゼの部屋――

 

 

リゼ「ふぅ…………」ポスッ

 

 

リゼ「あれで無自覚だからな……ほんと、あいつといると調子が狂う……」

 

 

リゼ「……ココア」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「……よし、まずはお風呂に入るか」

 

 

リゼ「モヤモヤした気分は、お風呂に入ってきれいさっぱり忘れるのが一番だ」

 

 

リゼ「♪~♪♪」

 

 

 

――部屋の外――

 

 

リゼ父「………………」

 

 

リゼ父「」ガクカク

 

 

 

――番外編 ラビットハウス――

 

 

リゼ父「タカヒロ、俺はもう駄目だ……」グダー

 

 

タカヒロ「今度はどうした?」フキフキ

 

 

リゼ父「聞いてくれ!またいつもの女に娘がたぶらかされたらしい!

 

 

タカヒロ(いつもの女……ああ、ココア君のことか)

 

 

タカヒロ「……いいんじゃないか、男よりはましだとお前も言ってただろう」

 

 

リゼ父「問題はそれじゃない!どうやらその女、何の気なしに娘にアプローチをかけてるらしい!」

 

 

リゼ父「娘をつまみ食い扱いで捨ててみろ、女といえども俺が直々にこの手で……!」

 

 

タカヒロ「……………………」

 

 

ココア(タカヒロさん、今日のことはチノちゃんに内緒にしててくださいね)シー

 

 

ココア(チノちゃん早く帰ってこないかなぁ)

 

 

タカヒロ「……………………」

 

 

タカヒロ(ココア君、私は三人が幸せならどんな形でもいいと思うよ)キラッ

 

 

 

 

II.

 

――リゼの部屋――

 

 

リゼ(………………)ソワソワ

 

 

リゼ「」チラッ PM12:02

 

 

リゼ(………………)

 

 

リゼ(……おかしい、おかしいぞ)

 

 

リゼ(今日はラビットハウスは休日、それに日曜日だというのに……)

 

 

リゼ(ココアから呼び出しが来ない!)

 

 

リゼ(せっかく今日に備えて昨日のうちに課題を終わらせたというのに……このままでは何もしないまま一日が無駄に終わってしまう!)

 

 

リゼ「ワイルドギース、これは緊急事態だ!」クルッ

 

 

 

ワイルドギース

 

 

リゼ「…………………………」

 

 

リゼ「なるほど、自分から出向いていけ……か」

 

 

ワイルドギース

 

 

リゼ「確かに、友達ってそういうもんだよな」

 

 

ワイルドギース

 

 

リゼ「お前がそこまで言うのなら仕方ない」

 

 

ワイルドギース

 

 

リゼ「……行って来る!」ダダダ

 

 

ワイルドギース ………………

 

 

ポツーン

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

リゼ「そう、これは仕方なくだ……」

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ(もしチノとココアがいなかったらどうしよう……)

 

 

リゼ(千夜もシャロもいなかったりしたら、最悪わたしだけ仲間はずれという可能性も……)

 

 

リゼ「…………」シュン

 

 

リゼ(……いや、あいつらはそんな奴等じゃないはずだ)ブンブン

 

 

リゼ(例えば大掃除とか……それならわたしの出番だ!)

 

 

リゼ「待っていろ、ココア、チノ!」ダッシュ

 

 

 

――ラビットハウス――

 

 

リゼ「はぁ……はぁ……着いた……!」ゼェゼェ

 

 

リゼ(よく考えたらわざわざ走らなくても自転車に乗ってくればよかったんじゃあ……)

 

 

リゼ(……いや、ここはダイエットになったと考えておこう。何事もポジティブシンキングだ)

 

 

リゼ(……二人とも、いるかな)

 

 

リゼ「………………」ゴクリ

 

 

リゼ「お、おじゃましまーす」ガチャッ

 

 

タカヒロ「んっ……?」サッサッ

 

 

リゼ「こんにちは」

 

 

タカヒロ「やぁリゼくん、いらっしゃい」

 

 

リゼ「どうも……えっと、ココアやチノは?」

 

 

タカヒロ「あいにくチノは遊びに行って留守だが、ココアくんなら部屋にいるよ」

 

 

リゼ「えっ……ココアが?」キョトン

 

 

 

――ココアの部屋――

 

 

リゼ「……………………」

 

 

トントン

 

 

ココア「はーい」

 

 

リゼ「わたしだ、入っていいか?」

 

 

ココア「あっ、リゼちゃん!いいよー!」

 

 

ガチャッ

 

 

リゼ「お邪魔します」

 

 

ココア「おはよう、今日もいい朝だね♪」

 

 

リゼ「朝って……もうお昼だぞ?」

 

 

ココア「えっ、もうそんな時間!?」

 

 

リゼ「そろそろ12時半だ」

 

 

ココア「うぅ……さっき食べたのってお昼ご飯だったんだ」

 

 

リゼ「今日は家にずっとこもりっきりか?なんだかお前らしくないな」

 

 

ココア「えっ~わたしだってたまには家でゴロゴロしたいよ?」

 

 

リゼ「ふむ…………」キョロキョロ

 

 

ココア「どうしたの?」

 

 

リゼ「いや、意外と片付いてるんだなって」

 

 

ココア「片付けるよ~!ちゃんと毎日掃除もしてるよ」

 

 

リゼ(この辺はモカさんの教育かな。なんにせよ、綺麗なのはいいことだ)

 

 

リゼ「漫画でも読んでたのか?」

 

 

ココア「ううん、ちがうよ。これ」

 

 

リゼ「ツクヨミウサギ……?小説か?」

 

 

ココア「うん、青山さんの新刊だよ」

 

 

リゼ(あの人何でも書いてるんだな)

 

 

リゼ「ココアが休日に読書か……雨でも降るんじゃないか?」

 

 

ココア「わたしだって本くらい読むよ!六法全書も読んだことあるもん!」

 

 

リゼ「六法全書!?そんなの読んでわかるのか……?」

 

 

ココア「他にも青山さんのは全部読んでるよ」

 

 

リゼ「そういえばこの前も……意外と読書家なんだな」

 

 

ココア「むぅ…………」プクー

 

 

ココア「リゼちゃんさっきから驚いてばっかり……わたしがインドアだとそんなに意外かな?」

 

 

リゼ「いつものイメージがあったからな……すまない、決め付けはよくなかったな」ポン ナデナデ

 

 

ココア「んっ…………」

 

 

リゼ「今日は私も一緒に読書してもいいか?」ナデナデ

 

 

ココア「うん……♪」ニコニコ

 

 

リゼ(可愛い……)

 

 

 

リゼ(恋愛小説、ライトノベル、ミステリー……なるほど、色々あるな)

 

 

リゼ(隠れ読書家は伊達じゃないみたいだ……)

 

 

リゼ(……よし、これにするか)スッ

 

 

リゼ「」ストン

 

 

リゼ「…………」パラッ

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「って、また青山さんの本か」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「」チラッ

 

 

ココア「…………」モクモク

 

 

リゼ(もう集中してる……ほんとに本が好きなんだな)

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「………………」モクモク

 

 

リゼ(可愛い顔立ちと思っていたが……こうしてみると美人にも見えるな)

 

 

ココア「…………」モクモク

 

 

リゼ(ココアの横顔……綺麗だ)

 

 

ココア「…………」モクモク

 

 

リゼ(真剣な面持ちのココアは見たこと無かったが、こんなにも雰囲気が違うとは……)

 

 

リゼ(……………………)

 

 

ココア「…………」モクモク

 

 

リゼ「」スッ

 

 

――ピトッ

 

 

ココア「ひゃ!」ビクッ

 

 

リゼ「はっ……!す、すまない」アセアセ

 

 

ココア「リゼちゃん、どうしたの?」

 

 

リゼ「お前の横顔があまりに綺麗でつい……あっ!」クチオサエ

 

 

ココア「えっ…………//」

 

 

リゼ「ち、ちがっ!いや、違わないんだが、なんというか……//」

 

 

ココア「………………っ//」カアァ

 

 

リゼ「~~~っ!//」

 

 

リゼ「……いつもと雰囲気が違うお前を見てたら、どういうわけか触れたくなって……その……つい……//」

 

 

ココア「…………ぁぅ//」モジモジ

 

 

リゼ「っ…………すまん//」プシュ~

 

 

ココア「う、ううん!気にしないで、あはは……//」

 

 

ココリゼ「……………//」

 

 

リゼ(やってしまった……まずい、気まずいぞ…………)

 

 

ココア「…………えへへ//」ニヘラ

 

 

リゼ「な、なんだ……?」

 

 

ココア「リゼちゃんに綺麗って言われたのが嬉しくて……//」テレテレ

 

 

リゼ「掘り返すな!こっちが恥ずかしい!//」

 

 

ココア「ちゃんと読書に集中しないとダメだよ?」

 

 

リゼ「うっ……そうだな」

 

 

ココア「うーん…………あっ!」ピコーン

 

 

ココア「いいこと思いついた♪」

 

 

リゼ「?」

 

 

ココア「――えいっ♪」トサッ

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「こうやって、二人で読めば気が散らないよ」ニコッ

 

 

リゼ(ココアが膝の上に……!?)

 

 

ココア「ふふ~リーゼちゃん」ピタッ

 

 

リゼ「お、おい、これはちょっと……//」

 

 

ココア「え……あっ、もしかして重い?」

 

 

リゼ「いや、そういうわけじゃないんだが……//」

 

 

ココア「……嫌、とか?」シュン

 

 

リゼ「そんなことない!むしろウェルカムだ」

 

 

ココア「ほんと?じゃあ一緒に読もう♪」

 

 

リゼ「っ……!わ、わかった、わかったからほら、前向け!//」クイッ

 

 

ココア「はーい、じゃあまた最初から」パラパラ

 

 

ココア「ここからだよ」

 

 

リゼ「ここか…………ふむ」

 

 

ココア「リゼちゃん、早く読んで読んで」

 

 

リゼ「えっ、声に出すのか?」

 

 

ココア「そうじゃないとわたしがわからないよ」

 

 

リゼ「二人で読むってそういうことか……まぁいい」

 

 

リゼ「ほら、いくぞ」

 

 

ココア「わーい」

 

 

リゼ「ところでこの世界の様式美は――――」

 

 

リゼ「見識を改め、この待遇で与えられるのは―――――――」

 

 

リゼ(……ココアの髪、近くで見るとさらさらだ)

 

 

リゼ(それにいい匂いがする……)スンスン

 

 

リゼ「………………//」

 

 

ココア「リゼちゃん?続きは?」

 

 

リゼ「あ、ああ、えっと――」

 

 

リゼ(…触れてみたいけど……また変な空気になりそうだし、我慢しよう)

 

 

リゼ(今は、ココアとの読書を楽しまないとな……♪)

 

 

リゼ「続きいくぞ。ポジジョンなのが定石ではなかろうか――――」

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

リゼ「――あろうことか、俺がこの手で終わらせる?そんなの――――んっ?」

 

 

ココア「すぅ………すぅ…………」Zzz

 

 

リゼ(寝てたのか……通りでさっきから静かだと思った)

 

 

チラッ

 

 

リゼ「……まだ2時、か」

 

 

リゼ「まったく、しょうがないやつだ」ナデナデ

 

 

ココア「ん…………」Zzz

 

 

リゼ「……綺麗な髪だ」サラサラ

 

 

リゼ(とりあえずベッドにうつすか)

 

 

リゼ「よっと……」

 

 

ココア「すぅ…………」Zzz

 

 

リゼ(おっ、意外と軽い……って、こんなこと言ったらまた怒られるな)

 

 

リゼ(布団をかけて、と……よし)

 

 

リゼ(寝過ぎたら夜が眠れないだろうし、4時になったら起こしてやるか)

 

 

ココア「…………ん」パチッ

 

 

リゼ「おっ、もう起きたか」

 

 

ココア「あれ……わたし、リゼちゃんのお膝で……」ポワーン

 

 

リゼ「寝落ちしたからベッドに移したんだ」

 

 

ココア「そっか……ごめんねリゼちゃん…………ふぁぁ……」

 

 

リゼ「ほら、まだ眠たいだろ。気にせず寝てろよ」ポン ナデナデ

 

 

ココア「ん………ねぇ、リゼちゃん?」

 

 

リゼ「んっ?」

 

 

――テ ギュッ

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「…起きるまで待ってて……いなくなったりしたらダメだよ……?」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

リゼ「ちゃんと待ってる……だから安心しろ」ナデナデ

 

 

リゼ「おやすみ、ココア」

 

 

ココア「よかった………おやすみなさい……♪」

 

 

ココア「…………すぅ……」Zzz

 

 

リゼ(…もう少し撫でたら、本でも読むか)

 

 

リゼ(確か青山さんの本は全部読んでるって言ってたな……)

 

 

リゼ(……どれが一番話が盛り上がるだろう)

 

 

ココア「えへへぇ…………♪」Zzz

 

 

リゼ「やれやれ……世話の焼ける妹だ」クスッ

 

 

 

III.

 

――天々座家――

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「…………」ゴロ

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「……眠れない」

 

 

リゼ(参ったな、明日はみんなで映画を見に行くのに……)

 

 

リゼ(……こういうときは無理に寝ようとすると余計に眠れないんだっけ)

 

 

リゼ(とはいっても、ゲームはあらかたやりつくしてしまったし)

 

 

リゼ(……仕方ない、外にでも出るか)

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「まだ10時か、とおりで人が多いわけだ」

 

 

リゼ(……公園にでも行けば静かかな)

 

 

リゼ「…………」テクテク

 

 

リゼ(深夜徘徊なんて初めてだ……なんだか不思議とワクワクするな)

 

 

リゼ「♪~♪♪」ルンルン

 

 

 

――公園――

 

 

リゼ「……静かだな」

 

 

リゼ(さっきまでの人混みが嘘みたいだ……)

 

 

リゼ(ふぅ…………)ベンチ スッ

 

 

リゼ(明日は雨かな、今日は妙にむしむしする……)パタパタ

 

 

リゼ「……んっ?」

 

 

リゼ(あそこで座っているのは……ココアか?)

 

 

リゼ(……………………)テクテク

 

 

リゼ「――ココア」

 

 

ココア「?」

 

 

ココア「リゼちゃん!」

 

 

リゼ「どうしたんだ、こんな時間に」

 

 

ココア「あはは……コーヒー飲み過ぎたせいか、全然眠れなくて」

 

 

リゼ「またバリスタ修行か、コーヒーの味も分からないココアにチノもよく付き合うな」

 

 

ココア「あれ、なんだかすごくディスされてるような……」

 

 

リゼ「まぁ理由はどうあれ、こんな夜中にひと気のない公園なんて危ないぞ」

 

 

ココア「それを言うならリゼちゃんもだよ」

 

 

リゼ「わたしはいざとなったら返り討ちにできる、お前はそうはいかないだろ」コツン

 

 

ココア「あぅ…………はい、気をつけます」

 

 

リゼ「心配なんだよ、特にお前はいつも危なっかしいから」ナデナデ

 

 

ココア「んっ……」

 

 

リゼ「……隣、いいか?」

 

 

ココア「えへへ、どうぞ♪」

 

 

リゼ「」スッ

 

 

ココア「そういえば、リゼちゃんはこんな時間に何してたの?」

 

 

リゼ「わたしもお前と一緒だよ、眠れないから徘徊してただけだ」

 

 

ココア「そっかぁ、てっきり裏のお仕事だと思ったよ」

 

 

リゼ「お前はわたしのことを何だと思ってるんだ……」

 

 

ココア「……ねぇリゼちゃん、もう眠たい?」

 

 

リゼ「いいや、まったく」

 

 

ココア「……少し、二人で歩かない?」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「……なぁココア」

 

 

ココア「ん~?」

 

 

リゼ「別に手を繋がなくてもいいんじゃないか?」

 

 

ココア「せっかくの深夜徘徊だもん、誰も見てないし大丈夫だよ」

 

 

リゼ「そういう問題なのか……」

 

 

ココア「……リゼちゃんはわたしと手を繋ぐの、嫌?」シュン

 

 

リゼ「嫌とかそういうわけじゃあ……ただ、ちょっと照れくさいというか……//」

 

 

ココア「それじゃあいいよね、ぎゅー!」ギュッ

 

 

リゼ「こら、腕に抱きつくな、歩きにくいだろう//」

 

 

リゼ(ココアの意外とふくよかな胸が腕に……//)

 

 

ココア「……こうして歩いてたら、なんだか恋人同士みたいだね」

 

 

リゼ「恋人……//」

 

 

ココア「昼間だったらカップルと間違われてたかな?」

 

 

リゼ「……どうかな、同性だし、せいぜい仲の良い友達くらいじゃないか?」

 

 

ココア「やっぱりそうかな、ならお昼でもノープロブレムだね」

 

 

リゼ「いや、問題大ありだ」

 

 

リゼ(こんなところ、チノや千夜に見つかったらどうなることやら)

 

 

ココア「あっ、甘兎庵発見!」

 

 

リゼ「さすがに千夜もシャロも寝てるだろうな」

 

 

ココア「ふふん、悪い子はわたしたちだけだね」

 

 

リゼ「いや、威張ることじゃないぞ……」

 

 

ココア「チノちゃんも今頃良い夢見てる頃かな」

 

 

リゼ「たぶんな、同年代より大人びてるとはいえまだ中学生だからな」

 

 

ココア「お姉ちゃんであるわたしがしっかり支えてあげないとね」フンス

 

 

リゼ(逆に支えられているように見えるのは気のせいだろうか)

 

 

ココア「リゼちゃんも、何かあったらすぐわたしに相談してね?」

 

 

リゼ「わたしまで妹扱いするな、一応お前より年上だ」

 

 

ココア「もう~素直じゃないなぁ」

 

 

リゼ「ほら、もう11時だ。チノのお父さんが心配するからそろそろ帰れ」

 

 

ココア「ええっ~まだ全然眠たくないよ?」

 

 

リゼ「明日も学校だろ、あまり遅くなると映画まで持たないぞ。送っていってやるから」

 

 

ココア「うぅ……眠れるかなぁ……」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「ラビットハウスは……今はバーになって営業中か」

 

 

リゼ(思っていたより賑わってる……けっこう人気なんだな)

 

 

ココア「リゼちゃん、今日はありがとう。すっごく楽しかったよ」

 

 

リゼ「ああ、わたしもだ。でもこれからは深夜徘徊はなるべく控えるようにな」

 

 

ココア「うん、徘徊したいときはリゼちゃんに連絡するね」

 

 

リゼ「そう意味じゃなくて…………まぁ、それでもいいか」

 

 

ココア「おやすみなさい、リゼちゃん。明日の映画も楽しもうね」ブンブン

 

 

 

リゼ「ああ、おやすみ」

 

 

ココア「」ニコッ

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「ふぅ……疲れたな、シャワーでも浴びて寝るか」

 

 

リゼ(これからも時々、ココアとこうして二人きりで会うのも悪くないな……♪)

 

 

リゼ「ふふ、どうだワイルドギース、わたしは今日大人の階段をひとつ登ったぞ」

 

 

リゼ「♪~♪♪」

 

 

ドア スキマ

 

 

リゼ父「」ガクガク

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ父「タカヒロ、俺はもうだめだ……」ガクッ

 

 

タカヒロ「どうしたんだ?」フキフキ

 

 

リゼ父「俺の娘が……今日、深夜徘徊をしていたんだ!」

 

 

タカヒロ「………………」

 

 

タカヒロ(なるほどな)クスッ

 

 

タカヒロ「いいんじゃないか、思春期なら一度は通る道だ」

 

 

リゼ父「それだけじゃない!帰ってきたらなんて言ってたと思う?」

 

 

タカヒロ「?」

 

 

リゼ父「シャワーを浴びて……大人の階段を登ったと言ってたんだ!」

 

 

タカヒロ「」ガシャン

 

 

リゼ父「!?どうした?」

 

 

タカヒロ「……………………」

 

 

ココア『ただいま~タカヒロさん、遅くなってごめんなさい。お風呂借りまーす』

 

 

リゼ父「相手は一体どんな男だ!俺が直々にこの手で……!」

 

 

タカヒロ「……………………」

 

 

タカヒロ「」

 

 

 

IV.

 

ココア『へぇ、リゼちゃん家のお風呂って大きいんだね!』

 

 

リゼ『そんなこと無いと思うが』

 

 

ココア『そうだ!ねぇねぇ、今日は金曜日だしリゼちゃんのお家に泊まりにいってもいい?』

 

 

リゼ『ええっ!わ、わたしの家にか?』

 

 

ココア『今日はマヤちゃんとメグちゃんがラビットハウスにお泊りに来るから、できれば三人にしてあげたいし』

 

 

リゼ(見えないところでちゃんと考えてるんだな……)

 

 

ココア『ねぇリゼちゃん、お願い、避難させて?』

 

 

リゼ『ぅっ……し、しかし……』

 

 

ココア『……ダメ?』シュン

 

 

 

リゼ「!?」ズキューン

 

 

リゼ『そんなこと無いぞ!夕食を用意して待ってるから用意したら来い!』

 

 

ココア『ほんと!やったぁ!』

 

 

リゼ(しまった……つい……!)

 

 

 

――夕方――

 

 

リゼ「うぅ…………」ゴロン

 

 

リゼ「なぁワイルドギース、わたしはどうすればいいんだ?」スッ

 

 

リゼ「友達が泊まりに来るなんて初めてだ……しかも二人きりでだぞ」

 

 

リゼ「相手はココアだし……」

 

 

リゼ「……はっ!」

 

 

リゼ(ど、どうしてココアだと問題なんだ!むしろ緊張しなくていいじゃないか!)

 

 

リゼ「はぁ……楽しみな反面憂鬱だ……」

 

 

リゼ「……わたし、ちゃんともてなしてあげられるかな……」

 

 

ピンポーン

 

 

リゼ「!」

 

 

リゼ(もう来た!この部屋に来るまで3分弱!)

 

 

クローゼット ガチャッ

 

 

リゼ(部屋着は……これでいいか)スッ

 

 

カガミ チラッ

 

 

リゼ(不自然じゃないよな……)クルリ

 

 

リゼ(……よし、完璧だ!)

 

 

リゼ「さぁワイルドギース、任務開始だ!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ココア(リゼちゃんのお家ってやっぱり大きいなぁ)

 

 

使用人「こちらです」

 

 

ココア「あっ、ありがとうございます」

 

 

ココア「リゼちゃーん、お待たせ――――」ガチャッ

 

 

リゼ「よく来たな!」

 

 

ココア「ヴェアア!?」

 

 

リゼ「ど、どうしたんだ?」

 

 

ココア「いきなりドアの前にいたら誰だって驚くよ!」

 

 

リゼ「そうか、座っているのも失礼かと思って……」

 

 

ココア「あっ……もしかしてリゼちゃん緊張してる?」

 

 

リゼ「!い、いや、そんなことは……」

 

 

ココア「ふふん、大丈夫。お泊りマスターのわたしに任せて」フンス

 

 

ココア「まずは……そうだね」

 

 

リゼ「」ゴクリ

 

 

ココア「リゼちゃん、これで遊ぼう!」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

ココア「これこれ、ジェンガだよ♪」

 

 

リゼ「………………」ポカーン

 

 

ココア「どうしたの?」

 

 

リゼ「……せっかくのお泊りなのに、そんなのでいいのか?」

 

 

ココア「せっかく?……ううん、違うよ、確かに今日は初めてだけど、珍しいことなんかじゃないよ」

 

 

リゼ「……?」

 

 

ココア「だって、これからもたくさんリゼちゃんと一緒にお泊りするもん♪」

 

 

リゼ「!……ココア…………」

 

 

ココア「もちろんリゼちゃんがよければ、だけど」アハハ

 

 

リゼ「いいに決まってるだろ、またいつでも来い」ポンポン

 

 

ココア「あっ、わたしがお姉ちゃんなのに~」

 

 

リゼ「お前の妹はチマメ隊だけでいい」ナデナデ

 

 

ココア「むぅ…………」

 

 

リゼ「ほら、ジェンガするぞ」

 

 

ココア「とうとうわたしの特技を披露する時がきたね」フフ

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

ココア「…………」ゴクリ

 

 

ココア「」スッ

 

 

ガラガラ!

 

 

ココア「あっ!」

 

 

リゼ「これで12戦12敗、まだやるのか?」

 

 

ココア「うぅ……参りました」ガクッ

 

 

リゼ「まったく、一体どこが特技なんだ」

 

 

ココア「リゼちゃんが強すぎるんだよ、外側ばっかり抜くんだもん」

 

 

ココア「リゼちゃんて何でもできるよね、天才肌なのかな?」

 

 

リゼ「あはは…………」

 

 

リゼ(言えない、小さい頃に暇だから一人でジェンガばかりやってたなんて……!)

 

 

ココア「次はなにしよっか?」

 

 

リゼ「そうだな……もう6時半だし、そろそろご飯にするか」

 

 

ココア「リゼちゃん家の晩御飯てフランス料理?」

 

 

リゼ「そんなはずないだろ、いたって普通だ」

 

 

ココア「よかったぁ、わたしエプロンとかナイフとか苦手で」

 

 

リゼ「ハンバーグを用意してくれてるらしいが、ここにもっとウマいものがあるぞ」ガサゴソ

 

 

ココア「?」

 

 

リゼ「これだ、ほら」

 

 

ココア「これって……」

 

 

リゼ「MRE、フリーズドライ式の戦闘糧食だ」

 

 

ココア「エプロンするからハンバーグ食べさせてぇ!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

ココア「このデミグラスソースおいしいね」モグモグ

 

 

リゼ「こら、にんじんもちゃんと食べろ」

 

 

ココア「代わりに食べて、お姉ちゃん♪」テヘッ

 

 

リゼ「都合のいい時だけ妹になるな。ほら、口あけろ」

 

 

ココア「うぅ、鬼教官、食卓の死神~!」

 

 

リゼ「その年で偏食していると将来困るのはお前だ、なんと言われようが構わん」

 

 

リゼ「ほら早く」スッ

 

 

ココア「っ……あーん…………」

 

 

ココア「」モグモグ

 

 

リゼ「ちゃんと食べられたな、偉いぞ」

 

 

ココア「なんだか子ども扱いされてる気がする……」グスッ

 

 

リゼ「…………♪」

 

 

ココアプレート→リゼプレート ヤサイウツシカエ

 

 

ココア「!」

 

 

リゼ「しょうがないから残りは食べてやる、代わりにこれでも食べろ」パスタ ヒョイ

 

 

ココア「リゼちゃん…………」

 

 

ココア「……えへへ♪」ニヘラ

 

 

リゼ「な、なんだ?」

 

 

ココア「リゼちゃんて、やっぱり優しいなと思って」

 

 

リゼ「なっ……か、勘違いするな!これはお前が頑張ったからそれに免じてだな……//」アセアセ

 

 

ココア「わかってるよ~ふふ」ニコニコ

 

 

リゼ「うっ……こ、ココアぁ!//」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

――お風呂場――

 

 

リゼ「わざわざ二人一緒に入らなくても……」

 

 

ココア「うわぁ!銭湯みたい!」

 

 

ココア「よーし、一番風呂行きます!」

 

 

リゼ「こら、ちゃんとかけ湯してから――」

 

 

ドボーン!

 

 

ココア「リゼちゃーん、早く早く」

 

 

リゼ「――まぁ、今日だけは大目に見てやるか」

 

 

……チャポン

 

 

リゼ「ほんとは湯船に入るのは身体を洗ってからなんだぞ?」

 

 

ココア「身体洗ったら長湯できなくなるよ?汗かいちゃうし」

 

 

リゼ「っ…………そ、それよりも、向き合うならちゃんとタオル巻け//」

 

 

ココア「えっ~それこそルール違反だよ」

 

 

リゼ「お風呂で話すときは普通背中を向け合うものだ//」クルリ

 

 

ココア「そっか、じゃあこうだね」クルリ

 

 

ピタッ

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「うーん、極楽だね」

 

 

リゼ「…………//」

 

 

リゼ(どうしよう……こういう時って一体何を話せばいいんだ?)

 

 

ココア「……リゼちゃんって、確か誕生日が2月だよね?」

 

 

リゼ「あ、ああ、そうだが」

 

 

ココア「わたしが4月生まれだから、年上って言ってもたったの2ヶ月しか違わないんだね」

 

 

リゼ「そういわれればそうだな……早生まれじゃなければお前たちと一緒の学年だったわけか」

 

 

ココア「あっ、でもリゼちゃんはシャロちゃんと同じ学校だから、わたしと一緒のクラスは無理だね」

 

 

リゼ「ココアがこの町に来たのも高校生になってからだしな」

 

 

ココア「そう考えたらわたしたち、ほんとに偶然友達になれたんだね」

 

 

リゼ「そうだな、偶然わたしがバイト先にラビットハウスを選び、そこに偶然お前がやってきた……」

 

 

ココア「最初は下着姿の泥棒かと思ったよ」

 

 

リゼ「それはもう忘れろ!//」

 

 

ココア「…………ねぇ、リゼちゃん?」

 

 

リゼ「ん?」

 

 

……ギュッ

 

 

ココア「これからもずっと、友達でいてね?」

 

 

リゼ「……当然だ」ギュッ

 

 

ココリゼ「ふふ…………♪」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

ココア「リゼちゃんのベッドふかふかだね」モフモフ

 

 

リゼ「もう消灯するぞ、ちゃんと布団に入れ」

 

 

ココア「はーい」

 

 

カチッ シーン……

 

 

リゼ「ふぅ…………」

 

 

ココア「リ~ゼちゃん」ダキッ

 

 

リゼ「おいおい、ダブルベッドなんだからそんなにくっつかなくても……」

 

 

ココア「せっかく一緒に寝てるんだからくっつかないと損だよ」

 

 

リゼ「どんな理屈だそれ……」

 

 

ココア「にゅふふ、リゼちゃんモフモフ~」

 

 

リゼ「っ!?ココア、寝巻きでくっつかれると……//」

 

 

リゼ(ココアの胸が薄い衣越しに……!)

 

 

ココア「今日は楽しかったよ~♪」

 

 

リゼ「そうか……良かった」

 

 

ココア「リゼちゃん、今度はわたしの実家に泊りにきてね?」

 

 

リゼ「ココアの実家か……ああ、ぜひ行かせてもらおう」

 

 

ココア「わたしの妹だってお兄ちゃんたちに紹介するから」

 

 

リゼ「普通に友達でいい、大体モカさんにはもうバレてるだろ」

 

 

ココア「あっ、そういえばそうだね」

 

 

ココア「よし、じゃあリゼちゃんのこと、わたしの恋人だって紹介するよ」

 

 

リゼ「恋人!?//」

 

 

ココア「冗談だよ冗談、えへへ~でもリゼちゃんのこと、ほんとに大好きだよ」モフモフ

 

 

リゼ「っ……年上をからかうな!//」モフモフ

 

 

ココア「おっ、わたしとモフモフ対決なんてチャレンジャーだね」

 

 

リゼ「なにを、お前に負けることなんか何も無い!」

 

 

ココア「うひゃあ!リゼちゃん、くすぐるのは反則だよ~!」

 

 

ドタンバタン! ギシギシ! リゼチャンモウユルシテェ! ダメダマダマダ!

 

 

リゼ父「………………」テンジョウ

 

 

リゼ父「」

 

 

――おしまい♪

 

 

 

――番外編 ラビットハウス――

 

 

リゼ父「タカヒロ、俺はもう駄目だ……」グダー

 

 

タカヒロ「そのセリフ、以前も聞いた気がするな」フキフキ

 

 

リゼ父「聞いてくれ!今日、娘が友達を連れてきたんだ」

 

 

タカヒロ「………………」

 

 

ココア『明日の夜までには帰ってきますので、チノちゃんによろしくお願いします』

 

 

タカヒロ「…………」フッ

 

 

タカヒロ「いいんじゃないか、娘に友達ができてお前としても安心だろ」

 

 

リゼ父「それだけならいい!だがな……俺が部屋でコーヒーを飲んでいたら、何が起こったと思う?」

 

 

タカヒロ「?」

 

 

リゼ父「ベッドがギシギシいって、変な声が娘の部屋から聞こえたんだ!」

 

 

タカヒロ「」ガシャン

 

 

リゼ父「!?どうした?」

 

 

チノ『ココアさんの匂いは、嫌いじゃありません……//』

 

 

タカヒロ「……………………」

 

 

リゼ父「いやしかし……男じゃなかったし、むしろ良かったか……」

 

 

タカヒロ「……かもな」

 

 

タカヒロ(……ココアくん、二人を頼むよ)キラッ

 

 

 

V.

 

『冬の恒例』

 

 

――ラビットハウス――

 

 

リゼ「おはよう」ガチャッ

 

 

ココア「リゼちゃんおはよう」

 

 

チノ「おはようございます」

 

 

ココア「外寒かったでしょ?リゼちゃんも一緒にチノちゃんモフモフしよっ♪」スリスリ

 

 

チノ「わたしをカイロ代わりにしないでください」オシノケ

 

 

リゼ「はは、相変わらずだな」

 

 

ココア「さぁリゼちゃん、三人で一緒に!」

 

 

 

リゼ「いや、わたしは遠慮しておくよ。チノも迷惑だろうしな」

 

 

チノ「ココアさん、いい加減離れてください」グイグイッ

 

 

ココア「うーん……あっ、それなら――」

 

 

タッタッタ

 

 

リゼ「?」

 

 

ココア「えいっ」ギュッ

 

 

リゼ「っと……」

 

 

ココア「わたしがリゼちゃんのことあっためてあげるね」ニコッ

 

 

ココア「もふもふ、もふもふ♪」スリスリ

 

 

リゼ「お前の体が冷えるぞ。ほら、じゃれあうなら着替えた後でな」ポンポン

 

 

ココア「リゼちゃんのコートの中突入~」モゾモゾ

 

 

リゼ「こら、くすぐったいだろ……!」

 

 

ココア「えへへ、中はぽかぽかだね♪」

 

 

リゼ「」リョウテ ピタッ

 

 

ココア「ヴぇあああぁ!?」

 

 

リゼ「いうことを聞かない奴はこうだ」ピタッ

 

 

ココア「冷たいよぉ!うぅ~えいっ!」

 

 

リゼ「あっ、こら、どこに手を入れて――ひゃん!//」ビクッ

 

 

ココア「お返しだよ、このままモフモフしちゃうから」

 

 

リゼ「や、やめないか!このっ!//」ピタッ

 

 

ココア「ひゃあ!リゼちゃん、さすがに服の中はダメだよ!//」

 

 

リゼ「お前だってしただろう、こいつめ!//」

 

 

キャキャッ ワイワイ

 

 

チノ「おじいちゃん、いつかラビットハウスが勘違いされそうです」

 

 

ティッピー「ふむ、フルールドラパンよりも危険かもしれん」

 

 

リゼ「このっ!このっ!//」

 

 

ココア「ヴぇえぇぇごめんなさい!やめてぇー!//」

 

 

リゼ(可愛い……)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

『耳かき』

 

 

――ココアの部屋――

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「ほぇ……♪」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「♪~♪♪」

 

 

リゼ「ふむ……こっちは綺麗なもんだ」

 

 

ココア「ふぉぇ……もうおしまい?」

 

 

リゼ「ああ、次は反対側だな」

 

 

リゼ「」フゥ!

 

 

ココア「ひゃあ!?」

 

 

リゼ「!す、すまん、最後はこうするものだと思って」アセアセ

 

 

ココア「……………//」

 

 

リゼ「ココア……おい、大丈夫か?」ツンツン

 

 

ココア「リゼちゃん……今の、もう一回やって?//」

 

 

リゼ「えっ……もう一回?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「」フゥ!

 

 

ココア「~~~~っ!!//」プルプル

 

 

リゼ「ど、どうしたんだ?」

 

 

ココア(なんだろうこの変な感じ……//)

 

 

ココア「リゼちゃん……あと一回、あと一回だけ//」

 

 

リゼ「よ、よくわからないが……キリがないからこれで最後だぞ?」

 

 

リゼ「…………」スゥ

 

 

リゼ「」フゥ!

 

 

ココア「ひゃん……ぁっ……!//」プルプル

 

 

リゼ「………………//」

 

 

リゼ(いかん、なんだか変な気分になってきた)

 

 

リゼ「っ……ほ、ほら、反対側するぞ//」グイッ

 

 

ココア「あっ………」

 

 

リゼ「ん~……こっちも綺麗だな」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「………」ビクッ

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「いっ………」ビクッ

 

 

リゼ「こら、動くとやりにくいだろ」

 

 

ココア「だ、だって……反対側の耳ってなんだか恐いんだもん」

 

 

リゼ「まぁ確かに……あれって不思議だよな」

 

 

ココア「り、リゼちゃん……あんまり奥までしないでね?」

 

 

リゼ「ああ、わかってる。いいからわたしに任せろ」グイッ

 

 

ココア「わっ……」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「…………」ウズウズ

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「……うん、何もないな」

 

 

リゼ「……さてと」

 

 

リゼ「ココア、終わったぞ?」

 

 

ココア「…リゼちゃん、最後に、あれ……//」

 

 

リゼ「あれ?………ああ…」

 

 

リゼ「」フゥ!

 

 

ココア「あうぅぅ……っ!//」プルプル

 

 

リゼ「……ココア、どうしたんださっきから?」

 

 

ココア「ふぇへへ……わたし、モフモフと同じくらい好きになりそうだよこれ……//」ニヘラ

 

 

リゼ(ココアの中で変な扉がひらきかけてる!?)

 

 

リゼ「だ、ダメだぞ、こんなアブノーマルなこと……いますぐ忘れろ//」

 

 

ココア「えっ~だってすごいんだよ?そうだ、リゼちゃんにもしてあげる」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

ココア「ほら、横になってみて?」

 

 

リゼ「……こうか」ポスッ

 

 

ココア「いくよ……?」

 

 

ココア「」フゥ!

 

 

リゼ「…………!!?//」ゾクゾク

 

 

ココア「……どう?」

 

 

リゼ「…………ココア」

 

 

リゼ「…もう一度、頼む……//」

 

 

ココア「えへへ、リゼちゃんも仲間だね♪」

 

 

ココア「」フゥ!

 

 

リゼ「ひぃぅ………!!//」ピクピク

 

 

 

ヘヤノソト

 

 

タカヒロ「……………………」

 

 

タカヒロ「」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

『頬を引っ張ってみる』

 

 

――公園――

 

 

ココア「それでね、チノちゃんの頬っぺたってすべすべでモチモチで……」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「あっ、でもシャロちゃんのモフモフ加減も負けてな―――」

 

 

リゼ「」ホッペムニュー

 

 

ココア「ふぇ!リゼちゃん、いきなりどうしひゃの……?」

 

 

リゼ「いや、お前の頬も負けず劣らず柔らかそうだと思ってな」

 

 

リゼ「よっと……」ムニー

 

 

ココア「あんまいひっぱるとかほがよほに伸びちゃうよ」

 

 

リゼ(可愛い……)

 

 

リゼ「この前チノがウーパールーパーだって言ってたな、こうすればもっとそっくりだ」クスッ

 

 

ココア「リゼひゃんまれ!?みんなしてひどいよー!」

 

 

リゼ「ごめん冗談だよ、ほら、悪かったな」ポンポン

 

 

ココア「うぅ……冗談でも結構傷ついたかも」ガクッ

 

 

リゼ(ココアって意外とメンタル弱いよな)

 

 

リゼ「お詫びにクレープ奢ってやるから機嫌直せよ」

 

 

ココア「ほんと?やったっ♪」

 

 

リゼ「…………♪」ナデナデ

 

 

ココア「リゼちゃんって、意外と気遣い屋さんだよね」クスッ

 

 

リゼ「一言余計だ」ギュー

 

 

ココア「いたたたっ!ほんとに伸びちゃうー!」

 

 

キャキャッ ワイワイ

 

 

クレープヤ

 

 

シャロ(目の前でイチャイチャされてるわたしはどうしたら……!)アワワ

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

『根本的なずれ』

 

 

――甘兎庵――

 

 

リゼ「ココア、これはなんだ?」

 

 

ココア「それはぼたもちかな」

 

 

リゼ「これは?」

 

 

ココア「それは八つ橋だよ」

 

 

リゼ「おしるこはどれなんだ?」

 

 

ココア「えっと、これだよ」

 

 

リゼ「じゃあこれだ」

 

 

ココア「わたしはういろうにしよっと」

 

 

リゼ「千夜、『おしるこ』と『ういろう』をひとつ頼む」

 

 

千夜「はーい、すぐに持ってくるわね」

 

 

リゼ「やれやれ、ここのメニューは相変わらずだな」

 

 

ココア「ラビットハウスも負けてられないね」フンス

 

 

リゼ「対抗しなくていい、急に変えたらお客さんがパニックになるだろ」

 

 

ココア「だからウチも指南書を作ろう」

 

 

リゼ「甘兎庵に買収されたと勘違いされるぞ……」

 

 

千夜「お待たせしました」

 

 

リゼ「おっ、ずいぶん早いな」

 

 

千夜「ココアちゃんとリゼちゃんだもの、優先しておもてなししないとね」

 

 

リゼ(そんな露骨に公私混同していいのか!?)

 

 

千夜「それではごゆっくりー」

 

 

ココア「いただきまーす♪」パクッ

 

 

リゼ「ふぅ……温まるな」

 

 

ココア「はいリゼちゃん、あーん」

 

 

リゼ「!い、いや、別にいいぞ?」

 

 

ココア「いいからいいから、その代わりわたしもおしるこ一口ちょうだい?」

 

 

リゼ「わかった、それなら……」

 

 

リゼ「」スッ パクッ

 

 

ココア「あっ……」

 

 

リゼ「うん、おいしい。ほら、好きなだけ飲んでいいぞ」

 

 

ココア「うぅ……あーんしたかったのに」

 

 

リゼ「さすがに恥ずかしいだろ、ほかにお客さんもいるし//」

 

 

ココア「いいもん、リゼちゃんのおしるこ全部飲んじゃうから」

 

 

リゼ「あっ、こら、全部はダメだぞ!」

 

 

ココア「なんて、冗談だよ。あったかくておいしい」

 

 

リゼ「おいおい、口の周りに付いてるぞ」フキフキ

 

 

ココア「んっ……」

 

 

リゼ「まったく、しょうがない奴だ」

 

 

ココア「えへへ♪」

 

 

イチャイチャ

 

 

ザワザワ ガヤガヤ……

 

 

千夜(あーんはダメでも間接キスとお口拭きはオッケーなのね……リゼちゃん、ちょっとずれてるわ)

 

 

リゼ「いい加減一人でもしっかりしてくれよ、ココア」

 

 

ココア「うん、でもリゼちゃんがいるから大丈夫だよ」

 

 

リゼ「そういう問題じゃあ………まぁ、それでいいか」

 

 

千夜(リゼちゃんも甘いわね……ココリゼほほえまぁ……♪)

 

 

 

VI.

 

――ラビットハウス――

 

 

リゼ「…………」ゴクリ

 

 

リゼ「」スーハー

 

 

リゼ「…………よし」

 

 

リゼ「」ガチャッ

 

 

リゼ「おはよう」

 

 

チノ「おはようございます、リゼさん」

 

 

リゼ「ココアのやつはまた寝坊か、しょうがない奴だ」

 

 

リゼ(ほっ…………)

 

 

 

チノ「さっき歯を磨いてましたから、もうすぐ来ると思います」

 

 

リゼ「なっ……!」

 

 

チノ「……?どうかしましたか?」

 

 

リゼ「いや……何でもない」

 

 

リゼ(何を焦ってるんだ私は。いつも通り……いつも通りで接すれば――)

 

 

ココア「チノちゃんリゼちゃん、おはよー!」

 

 

リゼ「!」

 

 

チノ「おはようございますココアさん、4分遅刻です」

 

 

リゼ「こ、ココア……おはよう」

 

 

ココア「うえーんリゼちゃん、朝からチノちゃんがいじめるよぉ」ダキッ

 

 

ムニッ

 

 

リゼ「っ!?//」

 

 

リゼ(こ、ココアの胸が……腕に……!)

 

 

チノ「いじめてません、リゼさんに同情を求めても無駄ですよ」

 

 

ココア「そんなことないよ、リゼちゃんは私の味方だもん♪」ギュッ

 

 

リゼ「ぁ……あ……!//」

 

 

チノ「むぅ……とにかく離れてください」

 

 

ココア「チノちゃんが許してくれるまでやだー」プニュ

 

 

リゼ「…………!//」

 

 

リゼ「こ、ココアっ!//」グイッ

 

 

ココア「ひゃっ!り、リゼちゃん……?」オドオド

 

 

リゼ「その……ちゃんとチノに謝った方がいいぞ、ほら!//」

 

 

ココア「う、うん……チノちゃん、ごめんね?」

 

 

チノ「い、いえ……本気で怒っていたわけでは……」アセアセ

 

 

リゼ「はっ!」

 

 

ココア「リゼちゃんごめん……怒ってる?」ウルウル

 

 

リゼ「い、いやぁ、わるい、わたしも軽く注意するつもりが強く言い過ぎた。ごめんなココア、チノも」

 

 

チノ「いえ、わたしはいいのですが……」

 

 

ココア「なんだそっかぁ、良かった……リゼちゃん、顔真っ赤にして怒鳴るから、本気で怒ったんじゃないかと思って驚いたよ」ホッ

 

 

リゼ「わたしがこんな事で怒るわけないだろう、ははは……」

 

 

ココア「よーし、朝のウォーミングアップはこれくらいにして今日も一日がんばるよ!」フンス

 

 

チノ「その前に制服着てください」

 

 

リゼ(はぁ……またやってしまった……)

 

 

リゼ「」ハァ

 

 

ココア「?」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

――甘兎庵――

 

 

千夜「リゼちゃんが来てくれるなんて嬉しいわ」

 

 

リゼ「そういえばお客として一人で来るのは初めてか」

 

 

千夜「サービスするわよ、はいメニュー」スッ

 

 

リゼ「相変わらずなメニュー名だな」

 

 

千夜「三宝珠にする?それとも鯱スペシャル?」

 

 

リゼ「団子とたい焼きパフェか……今日は飲み物にしよう」

 

 

リゼ「至高の緑玉を頼む」

 

 

千夜「玉露ね、了解よ」

 

 

リゼ(玉露だったのか……)

 

 

 

千夜「はい、お待ちどうさま」トン

 

 

リゼ「ありがとう……」ゴクッ

 

 

リゼ「ふぅ…………」

 

 

千夜「なにか悩み事?」

 

 

リゼ「うっ……察しがいいな」

 

 

千夜「リゼちゃんはすぐ顔に出るから」

 

 

リゼ「なっ……!」バッ

 

 

千夜「ふふっ、冗談よ。一人でウチに来るくらいだから何か相談かなと思って」

 

 

リゼ「くっ……ああ、その通りだ。後で聞いてもらってもいいか?」

 

 

千夜「今でも大丈夫よ、ちょうど暇してたところだし」ガタッ

 

 

リゼ「千夜……悪いな。実は悩みというのは、ココアのことなんだ」

 

 

千夜「ココアちゃん?」

 

 

カクカクシカジカ

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「――というわけなんだ」

 

 

千夜「」ポカーン

 

 

千夜「その……つまり、ココアちゃんに抱き着かれたりするたびに変に緊張しちゃうってこと?」

 

 

リゼ「ああ、なんだか鼓動が早くなっていつもの自分じゃいられなくなるんだ」

 

 

千夜「……リゼちゃん、それって」

 

 

リゼ「風邪薬を飲んでも一向に治らないし……いったいどうすればいいのか」

 

 

千夜「……………………」

 

 

千夜(やだ、これ本物だわ)

 

 

千夜「ぷっ!」クスッ

 

 

リゼ「な……なんで笑うんだ!私は真剣に悩んでるんだぞ!」

 

 

千夜「ごめんなさい、リゼちゃんがかわいくてつい……ふふっ」クスクス

 

 

リゼ「またからかってるのか!も、もういい!帰る!//」

 

 

千夜「あっ、待ってリゼちゃん。わたし、その病気を治す方法を知っているわ」

 

 

リゼ「なに!?ほんとうか!」

 

 

千夜「ええ、でもそれにはリゼちゃんの覚悟が必要よ」

 

 

リゼ「どんとこい、命を捨てる覚悟なら既にできている!」

 

 

千夜「いい心がけね、それじゃあ教えるわ――――」

 

 

ゴニョゴニョ

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

千夜「わかった?」

 

 

リゼ「ああ。まずはココアを私の家に誘って、それからいつもの病気が来たら抑え込まずに感情の赴くままに、だな」

 

 

千夜「自分の欲望や意志に忠実になることがその病気の治療法よ」

 

 

リゼ「千夜、ありがとう。まさかわたしもココアシックだったとは盲点だったよ」

 

 

千夜(ちょっと違うと思うけど……まぁいいわ♪)

 

 

 

 

――休日――

 

 

リゼ「」チラッ

 

 

12:13

 

 

リゼ「…………」ウロウロ

 

 

リゼ「」チラッ

 

 

12:13

 

 

リゼ(ココアの奴、まだかな)ソワソワ

 

 

リゼ「」カガミ チラッ

 

 

リゼ(この私服、おかしくないよな)

 

 

リゼ「………………」クルリ

 

 

リゼ(……はっ!待て待て、なにをそんなに意識してるんだ!たかだか友達と遊ぶだけじゃないか)

 

 

リゼ(しかし……千夜は自分の意志に忠実になることが治療法だと言ってたし、これでいいのか)

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「ココア、まだかな」

 

 

ココア「リゼちゃんきたよー!」ガチャッ

 

 

リゼ「ひゃっ!ココア……!」

 

 

ココア「あれ、もしかして取り込み中だった?」

 

 

リゼ「いや、問題ない。よく来てくれたな」

 

 

ココア「リゼちゃんから誘ってくれるなんて嬉しいな♪今日はチノちゃんもボトルシップに夢中で遊んでくれないし、ちょうどよかったよ」

 

 

リゼ「あ、ああ、そうか」

 

 

ココア「えへへ、今日はいっぱい遊ぼうね」ニコッ

 

 

リゼ「…………!//」

 

 

リゼ「そうだな……よし、いっぱい遊ぶぞ!」

 

 

ココア「おおっ!リゼちゃん燃えてるね!」

 

 

ココア「でも何して遊ぼっか…………あっ、プレスリ発見!」

 

 

リゼ「ゲームか、そういえば最近CMでやってるシューティングのやつを買ったぞ」

 

 

ココア「ほんと!あれって協力プレイ可能なやつだよね!一緒にやりたい!」

 

 

リゼ「よし、今日はゲームでもしてのんびり過ごすか」

 

 

リゼ「待ってろ、確かもうひとつコントローラーがこの辺に……」

 

 

ココア「今のうちに起動させとくね、ポチっと」ピッ

 

 

リゼ(まだ一度も使っていない新品の2台目コントローラーがやっと役に立つときが……!)グスッ

 

 

リゼ「っく……」ゴシゴシ

 

 

ココア「泣くほどうれしいなんて照れちゃうな」

 

 

 

――数時間後――

 

 

ココア「リゼちゃん、そっちいったよ!」ポチポチ

 

 

リゼ「何人こようと一緒だ!」ガチャガチャ

 

 

ココア「ここさえ押し切ればクリアだね!」

 

 

リゼ「くっ、弾切れだ!ココア、残弾は!?」

 

 

ココア「いっぱいあるよ!はい!」

 

 

リゼ「さすがは補給担当だ、後は任せろ!」

 

 

リゼ「ふっ!」バシュバシュバシュバシュ

 

 

ココア「やったぁ!」

 

 

リゼ「ふぅ…………」

 

 

ココア「ステージクリア、やっと半分まで来たね」

 

 

使用人「お嬢、飲み物をお持ちしました」ガチャッ

 

 

リゼ「ありがとう。ココア、一息つこう」

 

 

ココア「わぁ、おいしそうなクッキー♪いただきます」パクッ

 

 

リゼ「それにしても意外だったよ、ココアがゲーム得意なんて」

 

 

ココア「実家にいた頃は兄弟みんなでよくやってたから」モグモグ

 

 

リゼ「そういえば兄が二人とモカさんがいるんだったな」

 

 

ココア「わたしスマ○ラならすっごく自信あるよ!お姉ちゃんには負けるけど……」

 

 

リゼ「スマ○ラか、私はやったことないな」

 

 

ココア「ええっ~、残念だな、せっかくチノちゃんたちにかっこいいとこ見せようと思ったのに」

 

 

リゼ「一人っ子だからな、パーティーゲームはあまり持ってない。友達を呼ぼうにもその……なんだ」

 

 

ココア「?」

 

 

リゼ「わたしがゲームやってるって、なんだかイメージと違うだろう?だから、つい気が引けて……」

 

 

ココア「そんなの気にすることないよ!」

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「楽しいものは楽しい。女の子だからとか、人目が気になるとか、関係ないよ」

 

 

ココア「だってわたし、リゼちゃんとゲームするのすごく楽しいもん」ニコッ

 

 

リゼ「ココア……」

 

 

ココア「自分の好きなことにもっと自信を持とう、人より得意って立派な長所だよ♪」

 

 

リゼ「…………!」

 

 

リゼ「……そうだな」

 

 

リゼ「まったく、お前には教えられてばかりだよ」ナデナデ

 

 

ココア「ふぇ?」モグモグ

 

 

リゼ「よし、今度はパーティーゲームでも買ってみんなでやるか」

 

 

ココア「いいね、マヤちゃんメグちゃんもよんで二手に分かれて○リオパーティー!」

 

 

リゼ「7人か……もう一人ほしいな」

 

 

ココア「大丈夫、チノちゃんのお父さんと青山さんがいるよ」

 

 

リゼ「青山さんはともかくチノの親父さんを巻き込むな!」

 

 

 

――数時間後――

 

 

リゼ「はぁ……はぁ……ついにエンディングだ」

 

 

ココア「やったね、一日クリアだよ」

 

 

リゼ「こんなに長くゲームしたのは初めてだ……うっ、ちょっと目まいが」クラッ

 

 

ココア「リゼちゃん大丈夫!?とりあえずベッドに横になろっ」

 

 

ゴロン

 

 

リゼ「ふぅ……どうやら治ったみたいだ、目が疲れてるだけかな」

 

 

ココア「お隣おじゃましまーす」ポスッ

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「リゼちゃんのベッドもふもふだねぇ」スリスリ

 

 

リゼ(あれ、よく見たらこの状況……二人でベッドっで横になって、まるでこれって――――)

 

 

リゼ「//」カァァ

 

 

ココア「リゼちゃん熱?顔真っ赤だよ」ピトッ

 

 

リゼ「!?//」

 

 

ココア「あっ~やっぱり熱あるよ!」

 

 

リゼ「ぁ……あ…………!//」

 

 

ココア「リゼちゃん!?大丈夫!?」

 

 

千夜『自分の欲望や意志に忠実になることがその病気の治療法よ』

 

 

ブチッ

 

 

リゼ「っ……ココアっ!」ガバッ

 

 

ココア「ふぇ!?きゃっ……!」

 

 

ウマノリ

 

 

リゼ「はぁ……はぁ…………!//」

 

 

ココア「リゼちゃん…………?」

 

 

リゼ「ココア…………//」

 

 

ココア「……え、えっと……さすがにこれは私もちょっと恥ずかしいかな//」

 

 

ココア「降りてくれると助か――――!?」

 

 

ギュッ

 

 

ココア「っ…………り、リゼちゃん……?//」

 

 

リゼ(千夜……お前の言っていることはこういうことだったのか)

 

 

リゼ(病気なんかじゃなく……わたしは、ココアのことが――――)

 

 

リゼ「……こ、ココア!//」バッ

 

 

ココア「!」

 

 

リゼ「……今から言うこと、冗談なんかじゃないぞ//」

 

 

リゼ「……聞いてくれるか?」

 

 

ココア「う、うん……//」

 

 

リゼ「」スーハー

 

 

リゼ「ココア……わたしは、お前のことが好きだ//」

 

 

ココア「…………!」

 

 

リゼ「も、もちろん恋愛的な意味でだ!//」

 

 

ココア「リゼちゃん……」

 

 

リゼ「……お前の気持ち、聞かせてくれ…………」

 

 

ココア「……………………」

 

 

リゼ「っ………………」

 

 

ギュッ

 

 

リゼ「!ココア…………」

 

 

ココア「うん……わたしも、リゼちゃんのこと好きだよ//」

 

 

ココア「チノちゃんやみんなもいるから、付き合うとかは無理かもしれない……でも」

 

 

ココア「わたしも、リゼちゃんと友達以上の関係になりたいな//」ニコッ

 

 

リゼ「……ああ、それでいい//」

 

 

リゼ「わたしたちは友達でも恋人でもない……それ以上だ//」

 

 

ココア「えへへ、リゼちゃん……大好きだよ♪//」

 

 

リゼ「ココア……わたしもだ♪//」

 

 

チュッ

 

 

 

『後日談』

 

 

――ラビットハウス チノの部屋――

 

 

リゼ「とうとうチノの家にゲーム機がきたわけか」

 

 

チノ「キャラクターを増やすためとか言って毎晩夜遅くまで付き合わされるんです。おかげで寝不足です、ふぁぁ……」

 

 

ココア「亜空の使者は初見プレイでしか楽しめないんだから、二人でやらないとね」

 

 

リゼ「たしかにRPGものは2週目以降は億劫になるな」

 

 

チノ「まぁ、このゲームはキャラクターが可愛いのでまだいいですが」

 

 

ココア「チノちゃんは○カチュウがお気に入りだもんね」

 

 

ココア「今日もお風呂入ったら二人でやろうね」モフモフ

 

 

チノ「またですか……まったく、ほんとうにしょうがないココアさんです」クスッ

 

 

リゼ(なんだかんだ言ってチノも楽しそうだな……♪)

 

 

リゼ(にしても、二人でか……うらやましいな、わたしもココアとしたい……)

 

 

ココア「そうだ!せっかくリゼちゃんもいるし、みんなで対戦しようよ!」

 

 

チノ「初心者の私とリゼさんが圧倒的に不利じゃないですか」

 

 

リゼ「それにコントローラーもそんなにないだろ?」

 

 

タカヒロ「」スッ ドサッ

 

 

全「!?」

 

 

ココア「すごい!コントローラーがたくさん!」

 

 

チノ「どうしてウチにこんな……」

 

 

リゼ「チノの親父さん、これは……?」

 

 

タカヒロ「ココア君、腕に相当自信があるようだね」

 

 

ココア「もちろんです!」

 

 

タカヒロ「私と手合せ、頼めるかな」キラーン

 

 

チノ「お父さん!?」

 

 

リゼ(まさかチノの親父さんまでスマ○ラーだったとは……!)

 

 

 

――甘兎庵前――

 

 

シャロ「はぁ…………」トボトボ

 

 

千夜「あら、どうしたのシャロちゃん?」

 

 

シャロ「!」

 

 

シャロ「べ、別になんでもないわ……//」プイッ

 

 

千夜「顔が赤いわね?もしかして熱?」ピトッ

 

 

シャロ「ぁ……あ…………!//」カァァ

 

 

千夜「大変だわ、どうしてこんなになるまで……早く直さないと」

 

 

シャロ「誰のせいよっ!//」

 

 

 

VII.

 

――ラビットハウス――

 

 

ココア「リゼちゃんもふもふ♪」

 

 

リゼ「こ、ココア……まだ着替え終わってないから//」

 

 

ココア「お互い肌同士の方が暖かいからいいよ」

 

 

リゼ「いや、そういう問題じゃあ………//」

 

 

ココア「ふふ、リゼちゃん……♪」スリスリ

 

 

リゼ「…………//」

 

 

リゼ(最近のココアは妙に甘えんぼうだ……この前まではよくお姉ちゃんぶっていたのに)

 

 

リゼ(それに以前にも増してスキンシップが激しい……別に悪い気はしないが、チノに勘違いされたりしたら大ごとだ)

 

 

 

リゼ「っ……そろそろ行くぞ//」グイッ

 

 

ココア「あっ…………」

 

 

リゼ「ほら、お前も早く着替えろ」バサッ

 

 

ココア「……うん」

 

 

ココア「…………………」シュン

 

 

リゼ「……よし」ファサ

 

 

リゼ「ココア、着替え終わったか?」

 

 

ココア「………………」

 

 

リゼ「って、おいおい、上着裏返しじゃないか」

 

 

ココア「あっ……ごめんね」

 

 

リゼ「まだ眠たいのか?しっかりしろ」ナデナデ

 

 

ココア「!」

 

 

リゼ「ちゃんとリボンも結んで……」スッ

 

 

ココア「あ………」

 

 

リゼ「これでよし……苦しくないか?」

 

 

ココア「……うん」ニコッ

 

 

ココア「えへへ、リゼちゃんありがとう」

 

 

リゼ「そろそろ一人でもしっかりしてくれよ」ポンポン

 

 

ココア「…………♪」

 

 

 

リゼ「お待たせ――おや?」

 

 

マヤ「リゼ、ココア、おはよう!」

 

 

メグ「お邪魔してまーす」

 

 

リゼ「二人とも朝からなんて珍しいな」

 

 

マヤ「今日は休日だしラビットハウスのお手伝いでもしようと思って」

 

 

メグ「ややこしいといけないからちゃんと緑と黄色の服も持ってきたんだ」

 

 

チノ「色で判断しているわけでは……」

 

 

マヤ&メグ「えっ、そうなの?」

 

 

チノ「」

 

 

ココア「ということは、今日はわたしがマヤちゃんとメグちゃんの先輩だね」フンス

 

 

マヤ「ええっ~わたし教官はリゼのほうがいい、おもしろいし」

 

 

メグ「それじゃあわたしはココアちゃんで」

 

 

チノ「どっちでもいいので開店準備してください」

 

 

キャッキャッ ワイワイ

 

 

 

マヤ「おっ、リゼも付けてくれてるんだ、これ」ヘアアクセ

 

 

リゼ「ああ、けっこう気に入ってるからな」

 

 

ココア「なになに、何の話?」

 

 

リゼ「このヘアアクセのことだ、この前マヤと二人でお揃いのものを買ったんだ」

 

 

ココア「!」

 

 

マヤ「どう?こうしてたら姉妹に見えるでしょう」ギュッ

 

 

ココア「!」

 

 

リゼ「はは、さすがにそれは無いだろう」

 

 

ココア「……………………」

 

 

リゼ「んっ……ココア?」

 

 

ココア「……ふふ、そっか、そうなんだ」ニコッ

 

 

ココア「リゼちゃんとマヤちゃんは、すごく仲良しなんだね」ニコニコ

 

 

リゼ「まぁ、お互い家系が似ているからな」

 

 

マヤ「ふぇ?」

 

 

ココア「………………」ニコニコ

 

 

ココア「」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

マヤ「またねー!」

 

 

メグ「今日は楽しかったー」

 

 

チノ「マヤさんメグさん、ありがとうございました」

 

 

リゼ「また来てくれ」

 

 

ココア「」ニコニコ

 

 

リゼ「さてと、わたしたちも着替えるとするか」

 

 

チノ「あっ、わたしはコーヒー豆の在庫を確認したいので、二人ともお先に」

 

 

ココア「そっか、じゃあ着替え終わったら晩御飯作っておくね」ニコニコ

 

 

リゼ「先に行ってるぞ」

 

 

ココア「………………」ニコニコ

 

 

 

ガチャッ バタン

 

 

リゼ「ふぅ……えっと、洗濯籠は……」

 

 

ココア「……………………」

 

 

リゼ「♪~♪♪……んっ?」

 

 

ココア「……………………」

 

 

リゼ「どうしたんだココア、早く着替えたほうがいいぞ」

 

 

ココア「……ねぇ、リゼちゃん?」

 

 

ココア「そのヘアアクセ、マヤちゃんと一緒に買ったんだよね?二人でお揃いのものを……」

 

 

リゼ「?ああ、そうだが」

 

 

ココア「ふふ、そっかぁ……」ニコッ

 

 

ココア「マヤちゃん、きっとリゼちゃんのことが好きなんだよ」

 

 

リゼ「そうなのかな?だとしたら変わったやつだ」クスッ

 

 

ココア「……リゼちゃんは、マヤちゃんのことが好きなの?」

 

 

リゼ「それはもちろん。というか、ココアもマヤのこと好きだろ?」

 

 

ココア「…………」ピクッ

 

 

ココア「…………わたしが好きなのは、リゼちゃんだけだよ…」ボソッ

 

 

リゼ「んっ?いまなんて……」

 

 

ココア「――――ねぇ、リゼちゃん?」ジッ

 

 

リゼ「……!」

 

 

ココア「あのね、聞きたいことがあるの……」ジー

 

 

リゼ「…………」ゾクッ

 

 

リゼ(なんだろうこの違和感……ココアの様子が……雰囲気が変わった……?)

 

 

ココア「もし言いたくないならいいけど……できれば正直に答えてほしいなぁ」

 

 

リゼ「な、なんだ……というか、ココア、少し近くないか……?」

 

 

ココア「んっ~……そんなことないよ」

 

 

リゼ(やはりいつもと違う……目のハイライトが消えてるような……)

 

 

ココア「……リゼちゃんは、わたしのことどう思ってるの?」

 

 

リゼ「どう思ってるって……さ、さっきの話とどういう関係が……」

 

 

ココア「いいから答えて…………好き…それとも嫌い……?」ジー

 

 

リゼ「も、もちろん好きだぞ、当然じゃないか」

 

 

ココア「………マヤちゃんよりも?」

 

 

リゼ「えっ……」

 

 

ココア「チノちゃんよりも?千夜ちゃんよりも?シャロちゃんよりも?メグちゃんよりも?……ねぇ?」

 

 

リゼ「ココア、落ち着け……今日のお前、なんだかおかしいぞ?」

 

 

ココア「わたしはいつも通りだよ……それよりリゼちゃん、早く答えて」

 

 

リゼ「答えてって言われても……みんな大事な友達だし……ほら、ココアだって友達や家族に優劣なんて付けないだろう?」

 

 

リゼ「ココアのことも好きだし、チノたちのこともみんな……」

 

 

ココア「……………………」

 

 

ココア「……そっか、そうなんだ」

 

 

ココア「やっぱりわたしはリゼちゃんにとってその程度なんだ……」

 

 

ココア「…………」ウツムキ

 

 

リゼ「ココア……?」

 

 

ココア「ねぇリゼちゃん、どうやったらわたしを見てくれるの……わたしだけを……」

 

 

リゼ「お、おい……ココア!」

 

 

ココア「……そうだ」

 

 

ココア「リゼちゃんの制服……」ガサゴソ

 

 

リゼ「……?」

 

 

ココア「……あ、やっぱりあった」スッ ナイフ

 

 

リゼ「……?そんなもの、何に使うんだ?」

 

 

ココア「……こうするの…♪」

 

 

サクッ ツー

 

 

リゼ「!?」

 

 

ウデ ポタポタ……

 

 

ココア「ふふ……」

 

 

リゼ「なっ……ココア、お前何やってるんだ!」

 

 

ココア「あっ……」

 

 

リゼ「っ!」パシン!

 

 

ココア「あぅ!」

 

 

リゼ「はっ……す、すまない、つい……」

 

 

リゼ「とりあえず止血しないと……えっと、止血剤が確かカバンの中に」ガサゴソ

 

 

リゼ「ほら、ちょっと痛いけど我慢しろ」

 

 

ココア「……えへへ」ニコッ

 

 

リゼ「……?なにを笑ってるんだ、どうしてこんなこと……!」

 

 

ココア「……リゼちゃんが、必死になってくれてる」

 

 

リゼ「……え」

 

 

ココア「リゼちゃんがわたしだけのことを考えてくれてる……心配してくれてる……」

 

 

ココア「今だけ、わたしはリゼちゃんの特別……」

 

 

リゼ「……ココア…………」

 

 

ココア「リゼちゃんが叩いてくれたのも、むしろ嬉しいよ……」ニコッ

 

 

リゼ「………………っ」

 

 

リゼ「……今日、家に来い。断っても連れていくぞ」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――深夜 リゼの部屋――

 

 

IN ベッド

 

 

リゼ「なぁ、ココア?」ナデナデ

 

 

ココア「んっ……?」ギュッ

 

 

リゼ「何を心配しているのか知らないが、私はお前のこと好きだぞ?」

 

 

ココア「……!」

 

 

ココア「リゼちゃん……わたしの気持ち、わかってくれたの?」

 

 

リゼ「ああ、もちろんだ」ニコッ

 

 

ココア「!……じゃあ、わたしとリゼちゃんは両想――――」

 

 

リゼ「わたしが友達でなくなる夢でも見たんだろ?だから不安になってたんだよな」

 

 

ココア「――えっ」

 

 

リゼ「そういうことってあるよな、夢なのに現実になりそうというか、妙にリアルな夢を見ちゃった時とかに」ハハハ

 

 

ココア「……………………」

 

 

リゼ「ココア、心配するな……わたしはずっとお前の友達だ」

 

 

リゼ「こうして二人で寝れば、恐怖も取れて元のお前に戻れるさ」

 

 

ココア「……………………」

 

 

リゼ「さて、そろそろ消すぞ」

 

 

リゼ「今日は安心して寝ろよ」ポンッ ナデナデ

 

 

ココア「………………」

 

 

ココア「………………」

 

 

ココア「」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ(……苦しい)

 

 

リゼ(なんだ……体が縛られてるような……)

 

 

リゼ「…………?」パチッ

 

 

ココア「リゼちゃん、おはよう」ニコッ

 

 

リゼ「……?ふぉふぉ……――!?」

 

 

リゼ(口に何か巻いてある……!)

 

 

ココア「あっ、悲鳴あげられるといけないから……ごめんね、少しだけ我慢して」

 

 

リゼ(どうしてこんなこと……!)モゴモゴ

 

 

ココア「……リゼちゃんが悪いんだよ」

 

 

ココア「リゼちゃんがわたしの気持ちに気付いてくれないから」

 

 

ココア「リゼちゃん……ふふ……」スリスリ

 

 

リゼ「んっ……」ビクッ

 

 

ココア「可愛いよ……リゼちゃん、大好き……」ギュッ

 

 

リゼ「……!?」

 

 

ココア「びっくりしてるの……?ほんとにリゼちゃんは鈍感すぎるよ」

 

 

ココア「わたし……リゼちゃんのことが好きなの」

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「誰にも取られたくない、誰にも触れてほしくない」

 

 

ココア「わたしだけを見てほしい……わたしだけのリゼちゃんでいてほしいの」

 

 

リゼ(……だからあんな風に……くっ、我ながら確かに鈍感すぎるぞ!)

 

 

ココア「でも、リゼちゃんがわかってくれないんだもん……仕方ないよね」

 

 

ココア「だから行動で示すことにしたの……あはは、リゼちゃん……」スッ

 

 

リゼ「!?」

 

 

リゼ(ココアの手が、首に……!)

 

 

ココア「どうしてわかってくれないの……わたしはこんなに、リゼちゃんのことを想ってるのに……」グググッ

 

 

リゼ「うぅ……!」

 

 

ココア「苦しい?わたしはもっと苦しかったよ……?リゼちゃんがみんなと仲良くするたび、胸が張り裂けそうだったよ」

 

 

リゼ「ぅぁ……っく……!」

 

 

ココア「でも今は違う……今この時だけは、リゼちゃんはわたしだけのもの……」

 

 

ココア「こうすればもう、誰にも取られない……ずっとずっと、わたしだけのリゼちゃん……」

 

 

リゼ(どうにかこのぐつわを取らないと……このままじゃあ……!)

 

 

ココア「リゼちゃん……わたしのこと、好きだって言って?でないとわたし、リゼちゃんのこと、このまま……」グググッ

 

 

リゼ(そうか……何も気持ちを伝えるのは、言葉だけじゃない)

 

 

リゼ「……ふぉふぉあ」

 

 

ココア「……?」ピタッ

 

 

リゼ「………………」ジッ

 

 

ココア「リゼ……ちゃん?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「どうしてそんな目で見るの……どうして?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「……リゼちゃん」

 

 

リゼ「」クイックイッ

 

 

ココア「……ぐつわ、取るの?」

 

 

リゼ「」コクリ

 

 

ココア「……大声、出さない?」

 

 

リゼ「」コクリ

 

 

ココア「……ほんと?」

 

 

リゼ「うふぉはふかん」モゴモゴ

 

 

ココア「…………うん」

 

 

シュル

 

 

リゼ「ぷはぁ!はぁ……はぁ…………」

 

 

ココア「……リゼちゃん、その………」

 

 

リゼ「この拘束具をほどいてくれ」

 

 

ココア「……!」ビクビク

 

 

リゼ「聞こえないのか?解いてくれ」

 

 

ココア「…………」スルスル

 

 

リゼ「ふぅ……やっと自由に動ける」

 

 

リゼ「……さて」

 

 

ココア「!」ビクッ

 

 

リゼ「……ココア」

 

 

ココア「!…………」ブルブル

 

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「いや……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」ブルブル

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「わたし、リゼちゃんのことが好きで、振り向いてほしくて……あ…ああっ……」ポロポロ

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「なのに、どうしてこんなこと………ごめんなさい……」ポロポロ

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「」ガクガク

 

 

リゼ「…………」スッ

 

 

ココア「ひっ……!」ビクッ

 

 

――ポンッ ナデナデ

 

 

ココア「…………え」

 

 

リゼ「まったく……ほんとにお前は」

 

 

リゼ「ヒヤヒヤさせるな、危うく三途の川を渡りそうだったぞ?」

 

 

ココア「リゼちゃん……?どうして……えっ……」

 

 

リゼ「別に怒ってない……その、鈍感だったわたしにも、一応非があるしな」

 

 

リゼ「お前の言う通り、正直言ってお前の気持ちになんてまったく気づいてなかったよ……ごめんな」

 

 

ココア「どうしてリゼちゃんがあやまるの……?悪いにはわたしなのに……」

 

 

リゼ「……いや、悪いのはわたしのほうだ」

 

 

リゼ「先輩としても、想いを寄せられている側にしても……お前が思い詰めていたこと、まったく気づいてやれなかった……だから、ごめん」

 

 

ココア「……リゼちゃん」

 

 

リゼ「……なぁ、ココア?」

 

 

リゼ「わたしはこんなやつだぞ?細かいことに気配りはできないし、その……恋愛沙汰にも疎いし」

 

 

リゼ「……でも」

 

 

リゼ「もしそれでもいいなら……こんなわたしでいいなら、ぜひお前の恋人にしてくれ//」

 

 

ココア「!」

 

 

リゼ「き、気が変わったなら無理しなくていいぞ、ただ、これはさっき言ってたお前の気持ちに対するわたしなりの返事だ//」

 

 

ココア「………………」

 

 

リゼ「……ココア?」

 

 

ココア「……リゼちゃん、ほんと?」

 

 

リゼ「……?」

 

 

ココア「無理してない……嘘じゃない?」

 

 

リゼ「…………」クスッ

 

 

リゼ「さっきも言っただろう、わたしは嘘なんかつかない」

 

 

ココア「あ………!」

 

 

ココア「――リゼちゃんっ!」ダキッ

 

 

リゼ「おっと……」

 

 

ココア「えへへ……リゼちゃんと恋人同士……♪」ポロポロ

 

 

リゼ「おいおい、もう泣くなよ」

 

 

ココア「あれ、嬉しいのに涙が……あはは、変だよね」

 

 

リゼ「……全然変じゃない」ギュッ

 

 

リゼ「ココア……好きだ」

 

 

ココア「うん……!わたしもリゼちゃんのこと好き……大好き……!」

 

 

ココア「もう、ずっとずっと一緒だよ……!」スリスリ

 

 

リゼ(以前よりさらに甘えんぼうになってしまった……まぁ、可愛いからいいか)

 

 

リゼ「……ココア」

 

 

ココア「……うん//」

 

 

チュッ

 

 

 

VIII.

 

――ラビットハウス――

 

 

リゼ「遅くなってすまない」ガチャッ

 

 

ココア「リゼちゃん、おかえりなさい」

 

 

リゼ「言われた通り、今日もお昼ご飯は食べてこなかったが……ほんとにいいのか?」

 

 

ココア「帰りが早いテスト期間中だけだから……それに――」

 

 

――ギュッ

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「リゼちゃんにわたしが作ったご飯、食べてほしいもん」ニコッ

 

 

リゼ「ココア……ああ、それじゃあお言葉に甘えるよ」ナデナデ

 

 

 

ココア「えへへ……♪」

 

 

リゼ「さて、今日もチノが帰ってくるまで二人で頑張るか」

 

 

ココア「うん!」

 

 

ココア「――あれ………?」

 

 

ココア「」クンクン スンスン

 

 

リゼ「……?ココア、どうしたんだ?」

 

 

ココア「……………………」

 

 

ココア「……ねぇ、リゼちゃん」

 

 

 

ココア「……今日、誰かに抱き着かれたりした?」

 

 

リゼ「えっ……」

 

 

ココア「こうしてギュッて………ねぇ?」ズイッ

 

 

リゼ「えっと…………」

 

 

ココア「それとも……リゼちゃんが抱きしめたのかな?」

 

 

リゼ「いや、身に覚えが……――あっ、そういえば」

 

 

ココア「」ピクッ

 

 

リゼ「帰り際に偶然会った後輩の子に抱きつかれたっけ」ハハハ

 

 

ココア「」

 

 

リゼ「大人しい子で最初はなかなか打ち解けてくれなかったんだが……最近では自分から声をかけてくれたり、部活の助っ人の応援に来てくれたり、前より仲良くなれたような気がするよ」

 

 

ココア「……………………」

 

 

リゼ「この前も一緒にお弁当を食べたりして――」ペラペラ

 

 

ココア「へぇ……」ニコニコ

 

 

リゼ「今日なんて帰り道に手を繋ぎたいと、大人しかった子がすごい進歩だろ?」

 

 

ココア「うんうん……」ニコニコ

 

 

リゼ「」ペラペラ

 

 

ココア「」ニコニコ

 

 

ココア「………………」

 

 

ココア「」

 

 

リゼ「っと……すまない、少し話し込んでしまったな」

 

 

ココア「………………」

 

 

リゼ「お腹もすいたし昼食にしよう、もうココアが作ってくれてるのか?」

 

 

ココア「うん……カレーだけど」

 

 

リゼ「おっ、いいな。ココアのカレーは食べるの初めてだな」

 

 

ココア「……用意するから、待ってて」

 

 

リゼ「いや、わたしも手伝うぞ?」

 

 

ココア「温めるだけだから大丈夫だよ、リゼちゃんはここで待ってて」ニコッ

 

 

リゼ(……?なんだろう、この違和感……)

 

 

リゼ「……わかった、それなら」

 

 

ココア「すぐにできるからね……ふふっ」クスッ

 

 

リゼ「……?」

 

 

 

ココア「お待たせ……」コトッ

 

 

リゼ「ありがとう」

 

 

リゼ(見事にニンジンが入ってないな……というか野菜が少ない)

 

 

リゼ「いただきます」

 

 

パクッ

 

 

リゼ「…………」モグモグ

 

 

ココア「どうかな?」

 

 

リゼ「うん、うまいぞ。ダシは貝でとったのか」

 

 

リゼ「ジャガイモもちゃんと火が通ってる、上出来だよ」

 

 

ココア「ふふ、よかった……」

 

 

リゼ「チノはパンしか作れないと言ってたけど、シチューやカレー、味噌汁も作れるんだな」

 

 

ココア「リゼちゃんのために、練習したから……」ボソッ

 

 

リゼ「ん?」

 

 

ココア「ううん、なんでもないよ」ニコッ

 

 

リゼ「……あれ、ココア?」

 

 

リゼ「その指……ケガしたのか?」

 

 

ココア「ああ……うん、ちょっと」バンソウコ

 

 

リゼ(温めるだけなのに……刃物か何か使ったんだろうか?)

 

 

ココア「温める前に、すこし隠し味を入れたんだ」

 

 

ココア「私だけの秘密の隠し味を……リゼちゃんのためだけに」

 

 

リゼ「隠し味か……なるほど」

 

 

リゼ「でもこれからは気を付けるんだぞ、指を怪我したらラビットハウスの仕事にも支障をきたす」

 

 

ココア「うん、心配かけてごめんね」

 

 

リゼ「でもその隠し味のおかげかな、ほんとにおいしいぞ」

 

 

ココア「えへへ、ほんと?よかった……」

 

 

リゼ「♪」モグモグ

 

 

ココア「」ニコニコ

 

 

 

――更衣室――

 

 

リゼ「」テキパキ

 

 

ココア「お待たせ……」ガチャッ

 

 

リゼ「そんなに急がなくても大丈夫だぞ、まだ30分前だし」

 

 

ココア「うん……」

 

 

バタン

 

 

ココア「………………」

 

 

リゼ「」ヌギヌギ

 

 

ココア「ねぇ……リゼちゃん?」

 

 

リゼ「んっ、どうした?」

 

 

ドン!

 

 

リゼ「!?」

 

 

リゼ「あぅ……!」ソファ ボスッ

 

 

リゼ「ココア、なにす――――!?」

 

 

ココア「」スッ ウマノリ

 

 

リゼ「…ココア………?」

 

 

ココア「ふふっ……リーゼちゃん♪」スリスリ

 

 

リゼ「…………!」

 

 

リゼ(この違和感……さっきと同じ……)

 

 

リゼ「ま、待て……じゃれあうならせめて服を着てからに……」

 

 

ココア「ううん、このほうがいいの……リゼちゃんのぬくもりを直接感じられるから……」

 

 

リゼ「っ……でも、さすがにこれは……//」

 

 

ココア「……ねぇ、リゼちゃん?」

 

 

ココア「さっきのカレー、おいしかった?」

 

 

リゼ「……?」

 

 

リゼ(どうして突然カレーの話に……?)

 

 

リゼ「ああ、すごくおいしかったが……」

 

 

ココア「そっか……♪」

 

 

ココア「あのカレーに入れた隠し味はね、リゼちゃん専用なんだ」

 

 

ココア「リゼちゃんにだけの、特別な隠し味……」

 

 

リゼ「そうなのか……?」

 

 

ココア「うん……――知りたい?」

 

 

リゼ「あ、ああ、気にはなるが」

 

 

ココア「ふふ……そうだよね」

 

 

ココア「……これが、答えだよ」ベリッ

 

 

ポタ……ポタ……

 

 

リゼ(これが答え……絆創膏をはがしたせいで血が……)

 

 

リゼ(……――――っ!?)

 

 

リゼ「まさか……!」

 

 

ココア「隠し味は――わたしの血液だよ」

 

 

リゼ「……!」

 

 

ココア「リゼちゃんがわたしの血をおいしいって言ってくれた……うれしいなぁ♪」

 

 

リゼ「……ココア……どうしてそんなこと」

 

 

ココア「どうして?……そんなの、決まってるよ」

 

 

ココア「リゼちゃんの心を、その泥棒猫から奪い返さないと」

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「これでもう、わたしとリゼちゃんは血でつながってるよ、えへへ」ニコッ

 

 

ココア「――あとは」スッ

 

 

リゼ(私の手を口元に……?)

 

 

ココア「この汚れちゃった手を綺麗にすれば、わたしだけのリゼちゃんだね」

 

 

ココア「リゼちゃん、ちょっとくすぐったいけど、ジッとしててね……」

 

 

リゼ「……やめろココア、こんなことをしても、わたしは誰のものにもならない」

 

 

ココア「例えそうでも、その子に汚されたリゼちゃんの手は元に戻るよ」

 

 

リゼ「汚れてなんてない!頼むココア、いつもの明るいお前に戻ってくれ!」

 

 

ココア「リゼちゃん、動いちゃダメ」

 

 

リゼ「お前はそんなことを言うやつじゃないだろ!ココア――!」

 

 

ビュッ グサッ!!!!

 

 

リゼ「!!」

 

 

シュ~…… ホウチョウ

 

 

リゼ「あ……ぁ…………」ガクガク

 

 

ココア「大好きなリゼちゃんを傷つけたくないの、お願いだからジッとしてて」

 

 

ココア「んんっ……リゼちゃん……」ペロッ

 

 

ココア「リゼちゃんの手……あったかいね……」チュパ

 

 

ココア「あぁ……りれひゃん……」レロッ

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

リゼ(そのあとどうなったのかは覚えていない……気が付けば、わたしに馬乗りになっていたココアはいつもの明るいココアに戻っていた)

 

 

リゼ(その後、テスト期間終了日まで私はココアと昼食を共にしたが、あの狂気じみたココアに再び襲われることはなかった)

 

 

リゼ(今では、あの時のことが夢のように感じる……)

 

 

リゼ(……いや、違う)

 

 

リゼ(きっとあのココアは、些細なきっかけでまたわたしの前にいつでも現れる)

 

 

リゼ(そう、わたしが他の子に抱きつかれたり、ココアの気持ちを拒絶したりすれば、また――)

 

 

リゼ(……正直、最初は戸惑った)

 

 

リゼ(……でも)

 

 

リゼ(あの優しくて可愛い、いつものココアといられるのであれば――)

 

 

リゼ(その程度のこと、なんの問題でもない……あとは――)

 

 

 

――休日 リゼの部屋――

 

 

in ベッド

 

 

ココア「リゼちゃん、今日も楽しかったね」

 

 

リゼ「ああ、そうだな」

 

 

ココア「えへへ……明日も二人でたくさん楽しもうね」

 

 

リゼ「明日?もう予定が決まってるのか?」

 

 

ココア「……?リゼちゃんどうしたの?リゼちゃんが書いてくれたんだよ、ほら」

 

 

ニッキチョウ

 

 

リゼ「………ああ、そうか……そうだったな」

 

 

ココア「もう、リゼちゃんたらうっかりさんだね」

 

 

リゼ(ココアの字だけで埋められた『明日』のことまで書かれた日記帳……きっとわたしが書いた覚えがないと言ったら、ココアは……)

 

 

リゼ「………………」

 

 

ポンッ ナデナデ

 

 

ココア「ふぇ……リゼちゃん?」

 

 

リゼ「大丈夫だ、わたしは絶対お前のことを見捨てたりしない」

 

 

リゼ「だから安心しろ……」ギュッ

 

 

ココア「……うん」ギュッ

 

 

ココア「なんだか恋人同士みたいだね//」ニコッ

 

 

リゼ「……冗談言ってないで、早く寝ろ」

 

 

ココア「はーい、それじゃあリゼちゃん、おやすみなさい」

 

 

リゼ「ああ、おやすみ」

 

 

カチッ

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

ココア「………………」Zzz

 

 

リゼ(寝顔だけ見ていれば、無邪気なもんだ……)

 

 

ココア「………………」Zzz

 

 

リゼ「ごめんな、ココア……」ナデナデ

 

 

リゼ(お前が私のこと、好きでいてくれるのはうれしい……だから、わたしもお前を元に戻す)

 

 

リゼ(依存しなくても束縛しなくても、わたしはお前のそばを離れない……それが証明できたら、その時は――)

 

 

リゼ「――わたしも、素直に気持ちを伝えるよ」

 

 

リゼ(ココア……もとに戻れるまで、二人で頑張ろうな)ナデナデ

 

 

ココア「んっ…………♪」

 

 

リゼ「…………」ニコッ

 

 

 

IX.

 

リゼ(ココアのヤンデレを治すため、休日含め毎日ココアと会うことになったものの、最近は胃が痛い)

 

 

リゼ(というのも――)

 

 

――リゼの部屋――

 

 

リゼ「…………」カキカキ

 

 

トントン

 

 

リゼ「んっ……?」

 

 

ココア「リゼちゃん、わたしだよ」

 

 

リゼ「ココアか、入っていいぞ」

 

 

ガチャッ

 

 

ココア「リゼちゃん……やっと会えたね」ニコッ

 

 

リゼ「おいおい、毎日会ってるじゃないか」

 

 

ココア「この前会ったのって15時間も前だよ?あと9時間会えなかったらわたしもうおかしくなってたかも」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「ところでリゼちゃん、なにしてるの?」

 

 

リゼ「あっ……ああ、これは学校の課題だ。もう少しで終わるからその辺でゆっくりしててくれ」

 

 

ココア「分かった、待ってるね」

 

 

 

リゼ「………………」カキカキ

 

 

ココア「…………」

 

 

リゼ「………………」カキカキ

 

 

リゼ(ココアの視線が背中に……)

 

 

ココア「……ふふっ」

 

 

リゼ「!」ビクッ

 

 

ココア「リゼちゃん、どうかした?」

 

 

リゼ「い、いや、なんでも……」

 

 

リゼ(宿題やってる姿を見て何が楽しいんだ?)

 

 

 

ココア「…………」ニコニコ

 

 

リゼ「……よし、終わったぞ」

 

 

リゼ「ココア、待たせたな」

 

 

ココア「ううん、全然。あと2時間でも平気だよ」

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「……とりあえず、何かゲームでもするか」

 

 

ココア「ううん、その前に――――えいっ」ギュッ

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「リゼちゃんもふもふ、えへへ♪」

 

 

リゼ「おいおい、まだ制服だから着替えてから――」

 

 

ココア「…………」クンクン

 

 

リゼ「ん、そんなに臭うか?すまない、今日は少し暑かったからな」

 

 

ココア「……他の女の匂い」ボソッ

 

 

リゼ「……!」

 

 

リゼ(しまった、マズい!)

 

 

ココア「……どうして」ハイライトオフ

 

 

リゼ「ココア、違うんだ、これは後輩の子が突然抱き付いてきて……」

 

 

ココア「どうしてみんなわたしとリゼちゃんを引き裂こうとするの……ねぇ、どうして」フラッ

 

 

リゼ「っ……ココア!」ギュッ

 

 

ココア「……?リゼちゃん……?」

 

 

リゼ「ごめんな、これからは気を付けるから……!」

 

 

ココア「どうしてリゼちゃんが謝るの……?悪いのはその泥棒猫なのに」

 

 

ココア「リゼちゃんモテるから……早く始末しないと……」

 

 

リゼ「安心しろ、わたしはお前を捨てたりしない、ずっと一緒にいる」

 

 

ココア「ほんと……?誰にも、目移りしたりしない?」

 

 

リゼ「ああ、約束する。だから大丈夫だ」ギュッ

 

 

ココア「……うん、分かった……えへへ、リゼちゃん、あったかい」ハイライトオン

 

 

リゼ(よし、なんとか戻ったか)

 

 

ココア「……あれ?」ポケット スッ

 

 

リゼ「!?」

 

 

ココア「可愛いハンカチ……リゼちゃん、これ誰の?」

 

 

リゼ「それは手を洗った時に後輩の子が貸してくれて返し損ねてだな!」アセアセ

 

 

ココア「プレゼント……?」ハイライトオフ

 

 

リゼ「わああぁぁ!!」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――休日 早朝 甘兎庵――

 

 

リゼ「はぁ……」ゲッソリ

 

 

千夜「はいリゼちゃん、お疲れ様」スッ

 

 

リゼ「ああ、ありがとう」

 

 

千夜「ココアちゃん、まだまだかかりそうね」

 

 

リゼ「学校ではどうなんだ?」

 

 

千夜「普段と変わらないわよ、暇があれば待ち受けのリゼちゃんを見つめてるくらいかしら」

 

 

リゼ「そうか……って、結構重症じゃないか……」

 

 

千夜「不謹慎だけど、あんなに愛されてリゼちゃんが少し羨ましいわ」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「リゼちゃんだって、悪い気はしないでしょう?」

 

 

リゼ「そりゃあ、まぁ……でも、わたしが好きなのはあのココアじゃないから」

 

 

リゼ「あいつがもとに戻るまで、自分の気持ちを伝えるのは我慢しようって決めたんだ」

 

 

千夜「……そう」

 

 

リゼ「おっと……そろそろ戻らないとまずいな」

 

 

千夜「ココアちゃんと約束?」

 

 

リゼ「ああ、遅れたりしたらまた――――うぅ、胃薬胃薬」

 

 

千夜「あらあら……ふふっ、リゼちゃんも大変ね」

 

 

リゼ「お代ここに置いておくぞ。いつも愚痴を聞いてもらってすまないな、千夜」

 

 

千夜「ううん、いいのよ。またいつでも来て」フリフリ

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

――ココアの部屋――

 

 

リゼ(5分遅れたか……マズいな)

 

 

リゼ「…………」

 

 

トントン

 

 

リゼ「わたしだ、入っていいか?」

 

 

シーン

 

 

リゼ「…………」

 

 

ガチャッ

 

 

ココア「あ、リゼちゃん♪」

 

 

リゼ「ココア……すまない、遅くなったな」

 

 

ココア「ううん、そんなことない、時間ピッタリだよ」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「リゼちゃん、どうしたの?」

 

 

リゼ「……また時計、壊しちゃったのか」

 

 

ココア「うん、この時計針が狂ってたから」

 

 

リゼ「……ごめんな、わたしが遅刻したばっかりに」ナデナデ

 

 

ココア「……?ううん、リゼちゃんは時間ピッタリだよ?この時計がおかしいんだよ」

 

 

ココア「だって昨日リゼちゃんと約束したもん、今日の朝10時に遊びに来てくれるって」

 

 

ココア「それなのに、この時計リゼちゃんがまだ来てないのに10時を指したんだ」

 

 

ココア「針が狂ってたから……わたしに嘘をつくから、壊したの」

 

 

ココア「だって、リゼちゃんがわたしに嘘つくはずないもん……」ニコッ

 

 

リゼ「……そうだな、ごめん。本当にごめん。また新しい時計、買いに行こうな」

 

 

ココア「えへへ、デートのお誘いだね」

 

 

リゼ「ほら、手見せてみろ」

 

 

ココア「んっ?」

 

 

リゼ「こんなに血が出て……痛かっただろう」

 

 

ココア「ううん、平気だよ。リゼちゃんのためならどんな怪我でも」

 

 

リゼ「わたしはココアにケガしてほしくないんだ……だからあんまり危ないことしないでくれ、なっ?」

 

 

ココア「……うん……分かった」

 

 

リゼ「そうか、良い子だな」ナデナデ

 

 

ココア「リゼちゃん……んっ♪」ニコッ

 

 

リゼ「…………」ナデナデ

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「……うん、うまい」

 

 

ココア「ほんと?良かったぁ」

 

 

リゼ「ハンバーグも作れるようになったのか、頑張ったな」

 

 

ココア「リゼちゃんのためだったらどんなことでもできる気がするよ」

 

 

リゼ「ははっ……危ないことはダメだぞ?」

 

 

ココア「うん」ニコニコ

 

 

リゼ「ところで、ココア?」

 

 

ココア「んっ?」

 

 

リゼ「指……また切ったのか?」

 

 

ココア「うん、隠し味に絶対必要だから」

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

リゼ「……気持ちだけじゃあ、ダメなのか?」

 

 

ココア「このほうがおいしくなるから……ふふっ」ニコッ

 

 

リゼ「……まだ、かかりそうだな」

 

 

ココア「?」

 

 

リゼ「いや、なんでもない……」

 

 

ココア「変なリゼちゃん♪」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――深夜 リゼの部屋 inベッド――

 

 

ココア「んっ……リゼちゃん」スリスリ

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「明日はどこにいこっか?」

 

 

リゼ「そうだな……ココアの好きなところでいいぞ」

 

 

ココア「ほんと?それじゃあ明日は二人でずっとこうしていよ」

 

 

リゼ「明日もずっとこのままか?」

 

 

ココア「だって……こうしていれば、誰にもリゼちゃんを取られない……リゼちゃんを、ずっと独り占めできるから」

 

 

ココア「えへへ……リゼちゃん」ギュッ

 

 

リゼ「……いいのか?」

 

 

 

リゼ「――縛られたままじゃあ、わたしは何もしてあげられないぞ」

 

 

 

ココア「……うん」

 

 

ココア「何もしなくていいの……こうしてリゼちゃんとくっついていられれば、わたしは幸せだから」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「リゼちゃんを独占できて、こんなにもリゼちゃんが近くにいる……ふふっ、ずっと一緒……」

 

 

リゼ「……ココア」

 

 

ココア「んっ……?」

 

 

リゼ「……ごめんな」

 

 

ココア「……?」

 

 

リゼ「優しかったお前をこんな風にしてしまって……」

 

 

リゼ「こんなになるまで思い悩んでいたお前に気づいてあげられなかった……ごめん……ごめんな……」ポロポロ

 

 

ココア「リゼちゃん……どうしたの、泣かないで?」

 

 

ココア「涙なんて、流さないで……んっ」ペロッ

 

 

リゼ「ああ、大丈夫だ……」グスッ

 

 

リゼ「わたしも、意外と諦めが悪くてな……」

 

 

リゼ「……また明日も頑張ろうな、ココア」ニコッ

 

 

ココア「……?うん」ニコッ

 

 

 

X.

 

――リゼの部屋――

 

 

リゼ「……朝か」

 

 

リゼ「ココアは……」チラッ

 

 

ココア「…………」Zzz

 

 

リゼ「まだ寝てるな……」

 

 

リゼ(ちょうどいい、今のうちに出かけるか)

 

 

リゼ「ふぅ…………」

 

 

リゼ「すぐに帰ってくるからな、おとなしく待っててくれよ」ナデナデ

 

 

ココア「んっ…………」Zzz

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――ラビットハウス――

 

 

リゼ「おはよう」ガチャ

 

 

チノ「リゼさん、おはようございます」

 

 

 

リゼ「遅くなって済まない。さて、今日も頑張るか」

 

 

チノ「あの、リゼさん?ココアさんの様子は……?」

 

 

リゼ「んっ……ああ、相変わらずだ」

 

 

チノ「……そうですか」シュン

 

 

リゼ「チノ、そんなに心配しなくていいぞ」ポンッ

 

 

リゼ「ココアはきっとチノのことが一番好きだよ。今は少し変になってるだけだ」ナデナデ

 

 

チノ「ん…………」

 

 

リゼ「だから、元に戻ったらきっとここに帰ってくるさ」

 

 

リゼ「夏休みが終わるまでには必ず元のココアに戻してやる、だから安心しろ」ニコッ

 

 

チノ「リゼさん……」

 

 

リゼ「あと少しの間、二人だけで頑張ろうな」

 

 

チノ「……はい♪」

 

 

リゼ「ふふっ……」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

――甘兎庵――

 

 

千夜「おまちどうさま」コトッ

 

 

リゼ「ありがとう千夜、いつもすまないな」

 

 

千夜「今日はココアちゃんは?」

 

 

リゼ「いつも通り、わたしの家にいるよ」

 

 

千夜「たまにはココアちゃんも来ればいいのに」

 

 

リゼ「そうだな、今度誘ってみるか」

 

 

千夜「あっ、でも無理に誘ったりしたらまた……」

 

 

リゼ「……危険かもしれないな」

 

 

千夜「それじゃあリゼちゃんが危ない目に遭わない程度にってことで」

 

 

リゼ「ああ、必ず連れてくるから待っててくれ」

 

 

千夜「ふふっ、せっかくの夏休みなんだしココアちゃんの気が済むまで一緒にいてあげて?」

 

 

千夜「そうすれば元のココアちゃんに戻ってくれるかも」

 

 

リゼ「……千夜は、前向きだな」

 

 

千夜「リゼちゃんに嫉妬しているだけかも♪」

 

 

リゼ「ははっ、期待に添えられるように頑張るよ」

 

 

千夜(このままだといずれチノちゃんが泣いちゃうかもしれないし……それに、リゼちゃんも……)

 

 

リゼ「ごちそうさま。……千夜?」

 

 

千夜「ハッ……!な、なにかしら?」

 

 

リゼ「ココアが待っているしそろそろ帰るよ、お代置いておくぞ」

 

 

千夜「そうね、あまり遅くなるとまた危ないものね」

 

 

リゼ「いつも相談相手になってくれてありがとう。またな――」

 

 

千夜「あら?リゼちゃん、胃薬は飲まなくて――……いっちゃったわ」

 

 

リゼ(さて、あとはシャロのところにでも寄るか)

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

――シャロの家――

 

 

ピンポーン

 

 

リゼ「留守か」

 

 

リゼ(夏休みで平日だもんな、稼ぎ時だし無理もない)

 

 

リゼ「んっ……?」

 

 

ワイルドギース「」フンッ

 

 

リゼ「ワイルドギース、シャロはバイトか?」

 

 

ワイルドギース「…………」

 

 

トコトコ

 

 

リゼ「そっちにいるのか?ちょっと待ってくれ、手土産に自販機でジュースでも――」

 

 

 

――公園 ベンチ――

 

 

リゼ「ほらシャロ、疲れただろう」

 

 

シャロ「いえそんな、ありがとうございます」アセアセ

 

 

リゼ「それにしても12時から6時間ぶっ続けか、大変だったな」

 

 

シャロ「夏休みですので。それにこれくらいならまだ平気ですよ」

 

 

シャロ(おかげでリゼ先輩と会えたし……しかも二人きり)

 

 

リゼ「そうか……シャロは強いな」

 

 

シャロ「リゼ先輩……?」

 

 

シャロ「もしかして、ココアとなにかあったんですか?」

 

 

リゼ「いや、特に無いが」

 

 

シャロ「でも先輩、なにか悩んでいるような気が……」

 

 

リゼ「悩んでいる、か。強いて言えば……そうだな」

 

 

リゼ「最近、元のココアがどんな奴だったのか分からなくなってきたんだ」

 

 

シャロ「えっ……?」

 

 

リゼ「あんなふうになる前の、みんなといっしょにいた時のココアが一体どんな性格だったのか……どんな風に笑ってたのかも……」

 

 

シャロ「ココアはココアですよ、あのいつも明るくてスキンシップ過剰なココアじゃないですか?」

 

 

リゼ「……わたしが好きなココアって、ほんとにそんな奴だったのかな」ボソッ

 

 

シャロ「リゼ先輩?」

 

 

リゼ「なんでもない。……すまない、少し疲れているのかもしれん」

 

 

シャロ「はわわ……先輩、無理しないでください。早く家に帰ってゆっくり休んだ方が――」

 

 

リゼ「そうだな、ココアも待っていることだし」

 

 

シャロ「ここから近いので送っていきます」

 

 

リゼ「いや、シャロの方こそ早く休んだ方が……」

 

 

シャロ「大丈夫です、ジュースのお礼も兼ねてということで」

 

 

リゼ「ははっ……ありがとう、それじゃあ一緒に帰ろうか」

 

 

シャロ「はい♪」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――リゼ宅――

 

 

リゼ「すっかり遅くなっちゃったな……ココアの奴、大丈夫だといいが……」

 

 

リゼ(言い訳はどうしよう、何も考えてない……)

 

 

リゼ(……いや、その必要もないか)

 

 

リゼ「……ただいま」 ガチャッ

 

 

ココア「あっ、おかえりなさいリゼちゃん」

 

 

リゼ「ココア……ただいま」

 

 

ココア「言いつけ通り、ちゃんといい子にしてたよ?」

 

 

リゼ「そうか……偉いな」ナデナデ

 

 

ココア「リゼちゃん、今日はいつもより遅かったね。もしかしてチノちゃんとお話ししてた?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ココア「千夜ちゃん、それともシャロちゃん?」

 

 

リゼ「……みんなと、ちょっとな」

 

 

ココア「そっかぁ……リゼちゃんは、わたし以外のみんなとお話してたんだ」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

ココア「………………」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「あのね……リゼちゃん?」

 

 

リゼ「……?」

 

 

ココア「わたし、リゼちゃんのことが好き」

 

 

ココア「この1か月、ずっと一緒にいてくれて……こんな風になったわたしを見捨てないでいてくれた、リゼちゃんのことが……」

 

 

リゼ「……ココア」

 

 

ココア「優しいし、頼れるし……誰よりも信頼してる」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「これからもずっと、リゼちゃんのそばにいたい」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「だから……だからお願い……」

 

 

 

 

ココア「この首輪、はずしてほしいな……」

 

 

 

 

リゼ「……ふふっ、ココア」

 

 

ココア「リゼちゃん……」グスッ

 

 

リゼ「ココア……好きだ、わたしも大好きだぞ……ずっと一緒……ずっと一緒だ……ふふっ」

 

 

ココア「ごめんなさい……ごめんなさい……」 ジワッ

 

 

リゼ「……どうして泣いてるんだ?」

 

 

リゼ「やっと相思相愛になれたのに……ほら、いつもみたいに笑ってくれよ」

 

 

リゼ「わたしだけに、お前の笑顔を見せてくれ……」

 

 

ココア「お願い、元のリゼちゃんに戻って……」ポロポロ

 

 

リゼ「ああ、幸せだ……ここにいれば、ずっと二人でいられる……ずっと一緒にいられる……誰にもお前を取られることなんかない、ふふっ……」

 

 

リゼ「ココア、わたしだけのココア……あはは……」

 

 

ココア「わたしが悪かったから……もう、あんな風にならないから……」ポロポロ

 

 

リゼ「ココア、好きだ……愛してるぞ……」ギュッ

 

 

ココア「大好きだったリゼちゃんに戻って……」ポロポロ

 

 

………………

 

…………

 

……




−−−−−−−−−−−−−−−−
next.


あとがき

激辛醤油ラーメンうめぇー(涙目)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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Ourside 5.「[Restructuring] chiya×rise」

千夜とリゼが登場するエピソードを再編。5話収録


I.

 

――リゼの部屋――

 

 

リゼ「待たせたな」ガチャッ

 

 

千夜「おかえりなさいリゼちゃん」

 

 

リゼ「千夜は抹茶ラテで良かったか?」

 

 

千夜「わざわざありがとう」

 

 

リゼ「そんなにかしこまらなくていいんだぞ。ほら、足くずせよ」

 

 

千夜「えっ?でも……」

 

 

リゼ「わたしたち以外誰もいないんだし気にするな」

 

 

千夜「そうよね……それじゃあ」スッ

 

 

リゼ「よし」

 

 

千夜「くるしゅうない、なーんて♪」クスッ

 

 

 

リゼ「ふぅ……お風呂上がりの一杯は格別だな」

 

 

千夜「ようやく夏が来たって感じね」

 

 

リゼ「できればみんなで味わいたかったな、まさかココアが熱でダウンとは……」

 

 

千夜「自分のせいでドタキャンになっちゃったこと気にしてたわ、治ったらみんなに謝らなきゃって」

 

 

リゼ「ははっ、あいつらしいな。……それにしても」

 

 

千夜「?」

 

 

リゼ「まさか千夜からこんな提案してくるなんて驚いたよ」

 

 

 

千夜「せっかくだからリゼちゃんと二人きりでお話したいと思って」

 

 

リゼ「二人でこっそりお泊り会か……意外と悪くないな」

 

 

千夜「なんだか背徳的な優越感があると思わない?」

 

 

リゼ「わかる気がするよ、なんかいけないことしてるみたいな」

 

 

千夜「今夜……二人でほんとにいけないことしちゃいましょうか?」

 

 

リゼ「なっ……そ、それって……!?//」

 

 

千夜「冗談よ、ふふっ♪赤くなっちゃってリゼちゃんたら」

 

 

リゼ「っ~~!千夜ぁ!」

 

 

千夜「ごめんなさい」クスッ

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「……………………」

 

 

千夜「ゲームって意外と難しいわね、えいっえいっ」ピコピコ

 

 

リゼ「……………………」

 

 

千夜「ああっ!……負けちゃったわ」

 

 

リゼ「……なぁ千夜?」

 

 

千夜「んっ、どうしたの?」

 

 

リゼ「ゲームはいいんだが……どうしてわたしの膝の上で?」

 

 

千夜「……迷惑?」

 

 

リゼ「いや、別に構わないが」

 

 

千夜「ならあと少しだけ」ポスッ

 

 

リゼ「おっと」

 

 

千夜「ふぅ……」

 

 

リゼ「……千夜?」

 

 

千夜「甘える側ってこんな気持ちなのかしら……」ボソッ

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

千夜「ごめんねリゼちゃん、もう少しだけ……」

 

 

千夜「こんな新鮮な気持ち、なかなか味わえないから」ニコッ

 

 

リゼ「……………………」

 

 

千夜「はい次、リゼちゃんの番よ」

 

 

リゼ「あっ、ああ」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

――IN ベッド――

 

 

千夜「誰かと一緒に寝るのって中学生のころ以来かしら」

 

 

リゼ「シャロの家に泊まったりしないのか?」

 

 

千夜「高校生になってからは全然。シャロちゃんもお年頃だから」

 

 

リゼ「いや、千夜と同い年だろ」

 

 

千夜「敵襲てきしゅう!部屋の明かりを落とせ~!」カチッ

 

 

リゼ「おいおい」

 

 

千夜「さて、そろそろ寝ましょうか」

 

 

リゼ「12時前か、いい時間だな」

 

 

千夜「こんなに夜更かししたの久しぶり」

 

 

リゼ「わたしはいつもこのくらいの時間になるかな、早く眠れて羨ましいよ」

 

 

千夜「リゼちゃん……ぎゅーっ♪」ダキッ

 

 

リゼ「わっ!千夜……」

 

 

千夜「今夜はだれもいないから、リゼちゃんに甘え放題ね」モフモフ

 

 

リゼ「お、おい……今日のお前、なにか変だぞ?//」

 

 

千夜「だって、こんな機会滅多にないじゃない」スリスリ

 

 

リゼ「……?」

 

 

千夜「年上で思う存分甘えられる相手って、おばあちゃんかリゼちゃんしかいないもの」

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

千夜「でもほら、みんなの前でリゼちゃんに甘えるのはさすがに恥ずかしい気がして……」

 

 

千夜「だから、だれも見ていない今のうちに思う存分甘えておくの」

 

 

千夜「リゼちゃんもふもふ、もふもふ♪」

 

 

リゼ「……なぁ千夜?」

 

 

千夜「?」

 

 

リゼ「みんなの前でも甘えてきていいんじゃないか?」

 

 

千夜「えっ」

 

 

リゼ「何もお前ひとりが甘えられる側にならなくてもいいってことだ」

 

 

リゼ「お前もココアやシャロと同じ年なんだ、わたしよりも年下なんだし」ナデナデ

 

 

千夜「あ……」

 

 

リゼ「だからその……なんだ」

 

 

リゼ「大したことはできないけど、甘えたい時は甘えてきていいんだぞ?」

 

 

リゼ「特にお前はいつもわたしやみんなからも頼られてるんだしな」

 

 

リゼ「こんなので済むなら、お安い御用だよ」

 

 

千夜「……!」

 

 

千夜「……もう、リゼちゃんたらダメね」

 

 

リゼ「?」

 

 

千夜「そんなこと言われたら、わたしがシャロちゃんに嫌われちゃうわ」

 

 

リゼ「シャロ?」

 

 

千夜「何でもない、ありがとうリゼちゃん……シャロちゃんに嫌われない程度でなら、これからは素直に甘えさせてもらうわね」

 

 

リゼ「ああ……?」

 

 

千夜「ふふっ、リゼちゃん♪」スリスリ

 

 

リゼ(よく分からないが、普段と違う千夜の一面が見られただけでも良しとしよう)

 

 

リゼ(甘えんぼうな千夜……悪くない)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

――翌日 ラビットハウス――

 

 

ココア「ごめんねチノちゃんもリゼちゃんも、わたしのせいで」

 

 

チノ「気にしないでください、軽い風邪で良かったです」

 

 

リゼ「まだ夏休みだし、来週にでもまた開催すればいい」

 

 

ココア「今度は大丈夫だから、前日は冷房も扇風機も付けないで寝るから」フンス

 

 

リゼ「いや、せめて扇風機はつけろよ」

 

 

チノ「脱水症状で倒れるのが目に見えます」

 

 

ガチャッ

 

 

千夜「こんにちは♪」

 

 

シャロ「おじゃまします」

 

 

ココア「千夜ちゃんシャロちゃん!」

 

 

チノ「いらっしゃいませ」

 

 

リゼ「おお、二人も来たか」

 

 

千夜「ふふっ、リーゼちゃん」ダキッ

 

 

リゼ「!?」

 

 

シャロ「ち、千夜!?」

 

 

ココア「あ、二人ともずるーい!わたしももふもふする~!」

 

 

リゼ「お、おい千夜……!//」

 

 

千夜「いつでも甘えていいんでしょ?リゼちゃんもふもふ」

 

 

リゼ「た、確かにそう言ったが……うぅ//」

 

 

シャロ「ちち、千夜!リゼ先輩が困ってるじゃない!早く離れなさいよ!」グイッ

 

 

ココア「わたしもリゼちゃんもふもふ!」ギュッ

 

 

千夜「リゼちゃん助けて~シャロちゃんが意地悪するわ~!」ギュッ

 

 

リゼ「うぁぁ……だ、誰かぁー!わたしを甘えさせてくれー!」

 

 

チノ「…………」ウズウズ←混ざりたい

 

 

――おしまい?

 

 

 

――深夜 ラビットハウス――

 

 

タカヒロ「……………………」

 

 

リゼ父「……………………」

 

 

タカヒロ「……静かだな」

 

 

リゼ父「ああ」

 

 

タカヒロ「………………」

 

 

リゼ父「なぁタカヒロ?」

 

 

タカヒロ「んっ?」

 

 

リゼ父「小さい頃みたいに娘から甘えられたい、頼りにされたい、何かいい方法はないか?」

 

 

タカヒロ「こっちが聞きたい」

 

 

タカヒロ&リゼ父「……………………」

 

 

リゼ父「……静かだな」

 

 

タカヒロ「ああ」

 

 

 

II.

 

――甘兎庵――

 

 

リゼ「千夜、おはよう」ガラッ

 

 

千夜「……リゼちゃん」

 

 

リゼ「夏休みの宿題か?」

 

 

千夜「ええ」

 

 

リゼ「早く終わらせておいた方がゆっくり遊べるもんな」

 

 

千夜「……うん」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「なぁ、千夜」

 

 

リゼ「それが終わったら、一緒にお店出てみないか?」

 

 

千夜「…………」ウツムキ

 

 

リゼ「あっ、嫌だったらいいんだぞ!……そっか……そうだよな」

 

 

千夜「……ごめんなさい」

 

 

リゼ「いいんだ、わたしのほうこそすまない」

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ「千夜……?」

 

 

千夜「ふふっ……おかしいわよね、あんなに甘兎庵を全国進出させるって張り切ってたのに」

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

千夜「あんなことくらい、接客業なら日常茶飯事なのに……ダメね、わたしってメンタル弱いわ」

 

 

千夜「ほんとにダメ……」

 

 

リゼ「……嫌なことがあったら誰だって悲しいし、落ち込んだりするさ」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「ましてやお前はあんまり人の悪意なんて知らなかっただろうから、余計にショックが大きかったのも分かる」

 

 

千夜「…………」グスッ

 

 

リゼ「人に平気で嫌な思いをさせる人間って、世の中にはたくさんいるんだよ」

 

 

千夜「…………」ポロポロ

 

 

リゼ「……千夜、しばらく何も考えないでゆっくり休んでみろよ」

 

 

リゼ「そうしたらまた、なにか見えてくるさ」

 

 

千夜「……そう…かしら」

 

 

リゼ「ああ、だから今はなにも気にしなくていいんだぞ」

 

 

千夜「……ごめんなさい」

 

 

リゼ「いいさ、誰だってそんな時があるんだよ……お前だけじゃない」

 

 

千夜「っく……ぐすっ……ひっく……!」ジワッ

 

 

リゼ「また明日も、会いに来るよ」

 

 

 

――1週間後 公園――

 

 

リゼ「どうだ、久しぶりの外の空気は?」

 

 

千夜「そうね……なんだか新鮮な気分だわ」

 

 

リゼ「あとでラビットハウスやシャロの家にも寄ろう、みんな心配してたぞ?」

 

 

千夜「うん、たくさんメールが来たから」

 

 

リゼ「みんな、お前が元に戻るのを心待ちにしてるんだ」

 

 

千夜「……優しいのね、みんな」

 

 

リゼ「ああ、世の中には色んな人間がいるんだよ」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「千夜……?」

 

 

千夜「この町に住んでるのは、良い人たちばかりじゃないのよね」

 

 

千夜「こうして見てると、そんな風には見えないのに……」

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「なぁ千夜、一緒にこの原っぱに寝ころんでみないか?」

 

 

千夜「えっ?」

 

 

リゼ「服なんか後で洗えばいいんだよ、ほら」グイッ

 

 

千夜「きゃっ……」ポスッ

 

 

リゼ「ふぅ……」

 

 

リゼ「どうだ、いい景色だろ?」

 

 

千夜「もう、リゼちゃんたら強引ね」

 

 

リゼ「悩んでるときは思い切って行動した方が解決するんだよ」

 

 

千夜「……そうよね」

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

リゼ「お店に出るの、まだ怖いか?」

 

 

千夜「……ううん」

 

 

リゼ「そうだよな、千夜はこんなことをいつまでも引きずるような器じゃない」

 

 

リゼ「だからきっと、他のことで悩んで立ち止まっているんだって思ってたよ」

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜「リゼちゃん……くだらない話、聞いてもらってもいいかしら?」

 

 

リゼ「ああ、なんでも話してみろ」

 

 

 

千夜「……なんだかね……疲れちゃったの」

 

 

リゼ「疲れた、か」

 

 

千夜「あっ、別に甘兎庵が面倒になったとかじゃなくて……」

 

 

千夜「……以前まで持ってた情熱とかやる気とか、自分の中から嘘みたいに無くなっちゃってて」

 

 

千夜「なんだか……本当に自分が空っぽになったみたいな気がして」

 

 

千夜「こんな中途半端な気持ちで接客しても、きっと甘兎庵にもお客さんにも迷惑をかけるだけだと思うの」

 

 

リゼ「……なるほどな」

 

 

千夜「あんなことで甘兎庵進出の野望も、きれいさっぱり無くなっちゃうなんて……」

 

 

リゼ「ほんの些細なきっかけひとつで、人の性格や人生って良くも悪くも変わってしまうもんなんだよ」

 

 

リゼ「千夜の場合、たまたまそれがこんな出来事だったってだけだ」

 

 

千夜「……甘兎庵は、本当にわたしの叶えたい夢じゃなかったのかしら」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

千夜「ダメね……おばあちゃんにもアンコにも、合わせる顔が無いわ」

 

 

リゼ「……お前にとって甘兎庵がどんな存在だったのか、それはわたしにも分からないけど」

 

 

 

リゼ「でもな――意外と簡単には無くならないんだぞ、叶えたい夢とか、好きなことに対する情熱って」

 

 

 

千夜「え……」

 

 

リゼ「ほら、わたしってミリタリーとか好きだろ?モデルガンとかナイフとか」

 

 

リゼ「でもやっぱり女子でそういうのが好きだと周りから変な目で見られてしまうみたいでな、お前たちと会うまでろくに友達もできなかったよ」

 

 

 

リゼ「だから中学生くらいの頃かな、一度だけミリタリー趣味をやめようとしたことがあるんだ」

 

 

千夜「リゼちゃんが?……でも」

 

 

リゼ「ああ、結局やめられなかった」

 

 

リゼ「とはいっても、最初の頃は上手くいってたんだ。天体観測とかゲームとか、他に気を移すものもたくさんあったし」

 

 

リゼ「5か月もすれば、もうミリタリー趣味なんて情熱の欠片も無くなってたよ」

 

 

リゼ「でもな……ある日懐かしくなって裏庭の射撃場をふと覗いてみたんだ」

 

 

リゼ「そしたらさ、なんだか久しぶりに的を撃ってみたい衝動に駆られて」

 

 

千夜「ふふっ……撃っちゃった?」

 

 

リゼ「ああ、でもさすがにスランプだったのか、百発百中だったはずの射撃が一発も当たらなくなっててな」

 

 

リゼ「やっと一発当たったとき……ほんとにうれしかったよ」

 

 

リゼ「なんて言えばいいのかな、初めてミリタリーにハマったときの情熱とかが一気に蘇ってきたみたいでさ」

 

 

リゼ「初めてできた頃のすごく嬉しかった気持ち、思い出したんだ」

 

 

千夜「……!」

 

 

リゼ「その時気付いたんだよ、ああ、そういえば忘れてたなぁって。どうしてミリタリーを好きになったのか」

 

 

リゼ「いつのまにか当たり前になってたことが初めてできた時はすごく嬉しかったから、だからあんなに好きになったんだって」

 

 

リゼ「あの初めてできたときの感激が、今ではもう忘れられなくてな」

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ「いまは空っぽでもさ、千夜にもまたいつかそんな時が来ると思う」

 

 

リゼ「わたしにはあの頃のお前の情熱が嘘だったとは、到底思えないんだ」

 

 

千夜「リゼちゃん……」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「……少し脱線したな、すまない」

 

 

リゼ「さて、そろそろラビットハウスにでも行くか」

 

 

千夜「あの、リゼちゃん……わたし……」

 

 

――ポン ナデナデ

 

 

千夜「あ……」

 

 

リゼ「行きしなに、シャロの家にも寄るか」ニコッ

 

 

千夜「……うん♪」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――IN ベッド――

 

 

千夜(初めてできた時の感激……か)

 

 

千夜(そういえば、わたしも初めてお客さんにありがとうって言ってもらえた時、嬉しくてしょうがなかったっけ……)

 

 

千夜(おばあちゃんに全ての接客を任されたときは、甘兎庵を一人で引っ張っていくくらいのつもりで……)

 

 

千夜(でも、それがいつのまにか当たり前になってて……感動も実感も忘れて、嫌なことだけに目がいって……)

 

 

千夜(甘兎庵を大きくしたいと思ったあの時の気持ち、すっかり忘れてたわ)

 

 

千夜「……ふふっ、リゼちゃんの言うとおりね」

 

 

千夜「……アンコ?わたし、また明日から頑張れるかな?」

 

 

アンコ「」フンス

 

 

千夜「ありがとうアンコ……また二人で、初心に返ってやり直しましょう」

 

 

アンコ「」フムフム

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

――翌日 甘兎庵――

 

 

リゼ「…………」ガチャッ

 

 

千夜「いらっしゃい♪」

 

 

リゼ「!……千夜」

 

 

千夜「今日のおススメは原点に戻って、甘兎庵名物の千夜月よ」

 

 

リゼ「そうか……また、頑張るんだな」

 

 

千夜「だってわたしには、甘兎庵の世界進出っていう大きな野望があるわ」

 

 

千夜「今日はその野望に近づくための、大事な一歩だから」ニコッ

 

 

千夜「昨日よりも前に進むの、いつかの明日のために」グッ

 

 

リゼ「千夜……」

 

 

千夜「リゼちゃん、長い間ごめんね……わたし、もう大丈夫よ」

 

 

千夜「これが、本当にわたしの好きなこと……叶えたい目標……」

 

 

千夜「だから、続けるわ♪」

 

 

リゼ「ああ……ああ!それでこそ千夜だよ」

 

 

千夜「ふふっ、リゼちゃんぎゅー」ギュッ

 

 

リゼ「おいおい」クスッ

 

 

千夜「ありがとうリゼちゃん……大好きよ」ボソッ

 

 

リゼ「んっ?」

 

 

千夜「ううん、なんでも♪」

 

 

リゼ「?」

 

 

 

III.

 

――お昼 リゼの部屋――

 

 

千夜「ココアちゃんたちまだかしら……」

 

 

リゼ「いや、千夜が早すぎただけだと思うぞ」

 

 

千夜「待ち合わせには10分前に行かなきゃいけないって、おばあちゃんが言ってたわ」

 

 

リゼ「時間間違えて1時間前に来ちゃっただけだろお前の場合」

 

 

千夜「ねぇリゼちゃん、時間はお金よりも貴重だと思わない?」

 

 

リゼ「どうしたんだいきなり……」

 

 

千夜「だから、絶対に無駄にしちゃいけないと思うの」

 

 

リゼ「まぁ、そうだろうな」

 

 

千夜「だから残りの時間で普段できないようなことをするわ」

 

 

リゼ「できないこと?」

 

 

千夜「――えいっ」ゴロン

 

 

リゼ「!」

 

 

リゼ「……膝枕?」

 

 

千夜「一度されてみたかったの」ニコッ

 

 

千夜「リゼちゃん、お膝借りてもいいかしら?」

 

 

リゼ「ああ、別に構わないが」

 

 

 

千夜「ありがとう、くるしゅうないわ♪」

 

 

千夜「ふぅ~…………」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「ふふっ……いい気分」

 

 

リゼ「こんなのでよければいつでもいいぞ」

 

 

千夜「ううん、こういうのは毎日やると魅力が薄れちゃうから」

 

 

千夜「こうしてリゼちゃんと二人きりになった時だけにしておくわ」

 

 

リゼ「そっか、そんなものか」

 

 

千夜「でもいいわこれ……リゼちゃんの膝枕ってどこかに売ってないかしら」

 

 

リゼ「さっきと言ってることが逆だぞ」ナデナデ

 

 

千夜「んっ……♪」

 

 

リゼ「髪の毛サラサラだな」ナデナデ

 

 

千夜「しあわせぇ~……」ニヘラ

 

 

リゼ(可愛い……)

 

 

 

千夜「……眠たくなってきたわ」ウトウト

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

千夜「リゼちゃんの手あったかい……ポカポカね」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「このまま、ココアちゃんたちが来るまで寝ちゃおうかしら……」

 

 

リゼ「……なぁ、千夜?」

 

 

千夜「……?」

 

 

リゼ「その、すごく言い辛いんだが……」

 

 

千夜「どうしたの?」

 

 

リゼ「――ココアとチノが、もう来てるんだけど」

 

 

千夜「」

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜「」チラッ

 

 

ココア「千夜ちゃんの意外な一面……!」キラキラ

 

 

チノ「千夜さんおはようございます、気持ちよかったですか?」クスッ

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜「~~//」プシュー

 

 

リゼ(あの千夜が照れた……)

 

 

 

――甘兎庵――

 

 

千夜「はいリゼちゃん、おまちどうさま」コトン

 

 

リゼ「ありがとう、閉店時間ギリギリにすまないな」

 

 

千夜「ううん、来てくれて嬉しいわ。店番の時はほとんどシャロちゃんにしか会えないから」

 

 

リゼ「千夜とシャロは毎日ひとりだもんな」

 

 

千夜「この前みたいにリゼちゃんが一緒に働いてくれればいいんだけど」

 

 

リゼ「あれは短期のバイトで……まぁ、今日みたいに時々掃除くらいなら手伝いに来るよ」

 

 

千夜「ふふっ、ありがとう♪」

 

 

 

千夜「向かいの席、お邪魔するわ」コトン

 

 

リゼ「んっ……それ、栗羊羹か?」

 

 

千夜「ええ、友達想いの優しいリゼちゃんにサービスよ」

 

 

リゼ「気持ちは嬉しいけど、でも、これ以上食べたら後が怖いし……」

 

 

千夜「そうね、だから一口だけあげちゃう」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

千夜「はいリゼちゃん、あーん」ニコッ

 

 

リゼ「い、いや、自分で食べられるから……//」

 

 

千夜「早くしないと落ちちゃうわ~」

 

 

リゼ「おい千夜……くっ……//」

 

 

――パクッ

 

 

千夜「一度やってみたかったの、これ」

 

 

リゼ「……千夜って時々暴走するよな、誰かと二人きりだと特に」モグモグ

 

 

千夜「そうね、みんなといる時よりも素が出せるからかしら」

 

 

千夜「リゼちゃんはなんでも受け入れてくれるから特に……ね」

 

 

リゼ「んっ?」

 

 

千夜「ううん、なんでもないわ」クスッ

 

 

 

リゼ「そろそろ夏も終わりだな」

 

 

千夜「名残惜しいわ、やり残したことはまた来年ね」

 

 

リゼ「やり残したこと?」

 

 

千夜「ええ、ほんとはリゼちゃんと一緒にやりたいことがあったんだけど」

 

 

リゼ「みずくさいな、言ってくれれば一緒にやるぞ?」

 

 

千夜「でも、わたしのわがままだし……」

 

 

リゼ「千夜はいつも我慢してるんだし遠慮するな、わたしにできる範囲なら応えるから」

 

 

千夜「……いいの?」

 

 

リゼ「もちろん、何がしたいんだ?」

 

 

千夜「えっとね……リゼちゃんと一緒に――」

 

 

 

――山奥 別荘――

 

 

千夜「」ニコニコ

 

 

リゼ「……………………」

 

 

千夜「♪~♪♪」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

千夜「あっ、飛び跳ねたわ」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

千夜「ふふっ、なかなか釣れないわね」

 

 

リゼ「……驚いたよ、まさか千夜の口から釣りがしたいだなんて」

 

 

千夜「去年みんなと来た時はメグちゃんと一緒に山菜探しに行ってたから」

 

 

千夜「わたしも一度やってみたいと思ってたの」ニコッ

 

 

リゼ「……すまないな、いつも損な役回りばかりさせて」

 

 

千夜「そんなことないわ、むしろみんなにはわがままを聞いてもらってばかりよ」

 

 

千夜「ココアちゃんにもチノちゃんにも、シャロちゃんにも……こうしてリゼちゃんにも」

 

 

リゼ「こんなのはわがままって言わないよ」

 

 

千夜「……リゼちゃん、人に甘えたこととかないでしょ」

 

 

リゼ「どうしたんだいきなり?」

 

 

千夜「ううん、リゼちゃんはいつになったら私たちにわがまま言ってくれるのかなって」

 

 

リゼ「……そうだな、わがままが思いついたら……かな」

 

 

千夜「待ってるわ、ずっと」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

千夜「♪~♪♪~」

 

 

リゼ「いい天気だな、今日は」

 

 

千夜「ええ、釣り日和よね」

 

 

 

千夜「ああっ……また逃げられちゃった」

 

 

リゼ「針が上手くかかってないんだろうな」

 

 

千夜「まだ諦めないわ、えいっ」ビュッ

 

 

リゼ「うーん、1時間経つのにわたしの方はまるっきりだな」

 

 

千夜「釣りって意外と釣れないものね」

 

 

リゼ「どうだ、思っていたよりずっと地味な作業だろ」

 

 

千夜「そうね、でもなんだか楽しい」クスッ

 

 

リゼ「……そうか、良かった。がっかりしてるかと思ってたよ」

 

 

千夜「そんなことない、むしろ想像していたよりずっと楽しいわ」

 

 

千夜「連れてきてもらって、ほんとに良かった」

 

 

リゼ「わたしも、千夜と一緒にまた来れて良かったよ」

 

 

千夜「……ほんとはみんなで、来たかった?」

 

 

リゼ「そうだな……でも今は偶然とはいえ、二人きりで良かったと思ってる」

 

 

千夜「ふふっ、わたしも」ニコッ

 

 

千夜「……ねぇ、リゼちゃん?」

 

 

リゼ「んっ?」

 

 

千夜「また時々、こうして二人でデートしましょうね」

 

 

リゼ「デートって……まぁ、千夜がわたしなんかでいいなら」

 

 

千夜「あっ、くれぐれもシャロちゃんには秘密でお願いするわ」

 

 

リゼ「シャロに……?良く分からんが、了解だ」

 

 

千夜「ありがとう、リゼちゃんだーいすき♪」ギュッ

 

 

リゼ「おいおい」クスッ

 

 

千夜「無理やりにでもラビットハウスさんから頂いちゃおうかしら」スリスリ

 

 

リゼ「いや、さすがにそれは――って!おい千夜、竿ひいてるぞ!」

 

 

千夜「えっ!?あっ……!これは大物ね!」

 

 

ヤマメカシラ? ソレトモニジマス? イイカラハヤクマケ!

 

 

 

――キノカゲ

 

 

リゼ父(あの女……まさか、娘とそういう関係なのか!?)←運転手に頼んでこっそりトランクに入ってた人

 

 

 

千夜「やった!釣れたわ!リゼちゃん、わたしやったわ!」キャッキャッ

 

 

リゼ「すごいぞ千夜!大物じゃないか!」

 

 

 

リゼ父(ハグだと!?挙句にリゼのあの笑顔……!)

 

 

リゼ父「ああ……あ…………」ガクガク

 

 

――おしまい?

 

 

 

――翌日 夕方――

 

 

リゼ父「甘兎庵……ここか!」

 

 

リゼ父(俺の娘をたぶらかしたんだ、きっちり落とし前はつけてもらうぞ……!)

 

 

リゼ「久しぶりの、戦争だ」ゴキゴキ

 

 

リゼ父「……邪魔するぞ」ガチャッ

 

 

お婆「いらっしゃい」ムスッ

 

 

リゼ父「おい婆さん、あんたのところにロングヘアの女が――」

 

 

お婆「初対面で目上に向かって婆さんとはなんだい!!」

 

 

リゼ父「!?」ビクッ

 

 

お婆「ここは甘兎庵、甘味処だよ!和菓子を食べないなら出ていく、食べるならお客として礼儀正しく振舞う!どっちだい!?」

 

 

リゼ父「えっと……!」アセアセ

 

 

お婆「ご注文は!?」

 

 

リゼ父「ひっ!?よ、羊羹でももらおうかな」

 

 

お婆「千夜月かい?全く、血圧を上げさせんじゃないよ」

 

 

リゼ父(なんだあの軍人よりおっかない婆さんは……!?タカヒロの言う通りやめとけばよかった……)

 

 

リゼ父(リゼ、すまない……弱い俺を許してくれ)グスッ

 

 

リゼ「――親父?」

 

 

リゼ父「えっ……?」

 

 

リゼ「こんなところで何やってるんだ?甘いもの苦手じゃなかったっけ?」

 

 

リゼ父「リゼ……?」

 

 

千夜「まぁ、リゼちゃんのお父さん?いらっしゃいませ」ニコッ

 

 

リゼ父「リゼ、どうしてお前がここに……?」

 

 

リゼ「い、いや……その……」

 

 

リゼ父「まさか……同棲か!?」

 

 

リゼ「違う!……えっと」ゴニョゴニョ

 

 

千夜「リゼちゃん、お父さんのお誕生日に高級なワインオープナーを贈るためにここでバイト中なんです」

 

 

リゼ「千夜っ!?」

 

 

リゼ父「……!!」

 

 

リゼ「~~~っ//」

 

 

リゼ父「リゼ……本当なのか?」

 

 

リゼ「……ほら、注文の千夜月だ。糖尿病には気を付けてくれよ//」

 

 

リゼ父「……っ!リゼ!リゼぇ~~!!」ギュッ

 

 

リゼ「なっ!?ばかっ、やめろセクハラ親父!//」

 

 

リゼ父「大好きだ!愛してるぞぉ~!」スリスリ

 

 

リゼ「わかったから離れろ!」

 

 

千夜(ほほえまぁ~♪)ニコニコ

 

 

お婆「………………」

 

 

お婆「」モクトウ ブンッ!

 

 

 

――深夜 ラビットハウス――

 

 

リゼ父「今日は気分がいい、一番高い酒を開けてくれ」フッ

 

 

タカヒロ「どうでもいいが、どうしてそんなに傷だらけなんだ?」

 

 

 

IV.

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ(最近千夜が可愛い……どうしようもなく可愛い)

 

 

リゼ(千夜の新たな可愛さをもっと世に知らしめるべきだと思う)

 

 

リゼ(そこで、可愛いの鉄板といえばそう、『笑顔』と『涙目』だ)

 

 

リゼ(笑った千夜は可愛いが、涙目になっている千夜はもっともっと可愛いはず!)

 

 

リゼ「ということで、明日からいざ決行だ」

 

 

 

 

――ラビットハウス――

 

 

ココア「千夜ちゃんまだかな?」

 

 

チノ「もうすぐだと思います、シャロさんはアルバイトで夕方になるそうですが」

 

 

ココア「千夜ちゃんが来たら夕飯までみんなで遊ぼうね!」

 

 

チノ「仕事してください」

 

 

ココア「リゼちゃんの手料理楽しみだなぁ」

 

 

リゼ「期待しててくれ、今回のは自信作だ」

 

 

リゼ(今夜はみんなに手料理をごちそうすると提案してみた……あとは――)

 

 

リゼ「あっ……すまない、ココア、チノ、ちょっといいか?」

 

 

ココア「ん?」

 

 

チノ「どうかしましたか?」

 

 

 

リゼ「ネギと豆腐を買い忘れたみたいだ。お金渡すから買ってきてくれないか?わたしは今から下ごしらえがあるから」

 

 

ココア「おつかいだね!いいよ」

 

 

チノ「でしたらココアさん一人でお願いします、わたしはお店番がありますので」

 

 

リゼ「いや、できればチノも付いて行ってほしい。お店番にせよおつかいにせよココア一人だと不安だからな」

 

 

チノ「確かにそうですね……」

 

 

ココア「どういう意味!?」

 

 

リゼ「わたしがいるから心配ないぞ、二人でのんびり行ってきてくれ」

 

 

チノ「分かりました、すぐに戻りますので。ココアさん行きますよ」

 

 

ココア「あっ、チノちゃん待って~!」タタタ

 

 

ガチャッ バタン

 

 

リゼ(……よし、完璧だ)

 

 

リゼ(あとは千夜が来るのを窓から確認して……)

 

 

 

……5分後。

 

 

 

リゼ(……――来た!)

 

 

リゼ(ドアにもたれ掛かってと……)

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

千夜(今日はみんなで夕食……楽しみね)

 

 

千夜(料理もできてお裁縫もできて勉強も運動もできて……リゼちゃんってほんとすごいわ)

 

 

千夜(わたしも見習わないと)ガチャッ

 

 

千夜「……?開かない……」

 

 

リゼ『友達?はは、冗談言うなよ』

 

 

千夜(リゼちゃんの声……お取込み中かしら?)

 

 

リゼ『そりゃココアやチノの前では言わないけど』

 

 

千夜(ココアちゃんとチノちゃんじゃない……ということは電話?)

 

 

千夜(シャロちゃんとかしら?)スッ

 

 

リゼ『千夜は友達なんかじゃないぞ』

 

 

千夜「――え」

 

 

リゼ『ああ、そろそろ来ると思うから切る』

 

 

千夜「リゼちゃん……?」

 

 

リゼ『ふぅ……』

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜(さっきの、間違いなくリゼちゃんの声……)

 

 

千夜(千夜は……友達じゃない……)

 

 

千夜(……嘘)

 

 

千夜(わたし……リゼちゃんに――)

 

 

リゼ「――千夜?」ガチャッ

 

 

千夜「ひゃっ!?」

 

 

リゼ「どうしたんだ、こんなところで突っ立って?」

 

 

千夜「ええと……」アセアセ

 

 

リゼ「……まさか、さっきからずっとここにいたとかじゃないよな?」

 

 

千夜「っ!ううん、いま来たところ」

 

 

リゼ「そうか、良かった」ニコッ

 

 

千夜「……」ビクビク

 

 

リゼ「寒いだろう、入れよ。ホットミルクでも飲むか?」

 

 

千夜「うん……」

 

 

千夜「………………」シュン

 

 

リゼ(どうやら成功したようだ、かなりショックを受けてるな)

 

 

千夜「…………」トボトボ

 

 

リゼ(しょんぼりしている千夜可愛い……)

 

 

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ「千夜」

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ「千夜、おい千夜」

 

 

千夜「!な、なにかしら?」

 

 

リゼ「ホットミルク、早く飲まないと冷えちゃうぞ」

 

 

千夜「あ……ごめんなさい……」

 

 

千夜「…………」ズズッ

 

 

リゼ「……千夜、なにかあったのか?」

 

 

千夜「!ううん、なにも」

 

 

リゼ「そうか?なにかあったらすぐに言えよ。わたしなんかじゃ頼りないかもしれないけどさ、出来る限り力になるから」

 

 

千夜「……うん」

 

 

リゼ「千夜は大事な友達だからな」

 

 

千夜「……」ウルッ

 

 

リゼ「千夜?」

 

 

千夜「なんでもないの……ちょっとあくびが出て」グスッ

 

 

リゼ「温かいものとか飲むとつい眠くなるよな」

 

 

千夜「そうね………ぐすっ…ぇぐ……」ウルウル

 

 

リゼ(必死に涙を堪える千夜可愛い……可愛すぎるぞ!)

 

 

 

 

――夕方 キッチン――

 

 

リゼ「♪~♪♪」ジュー

 

 

千夜「リゼちゃん?」

 

 

リゼ「んっ、千夜か。どうしたんだ?」

 

 

千夜「わたしもなにかお手伝いしたいと思って……」

 

 

リゼ(さっきのことを気にして……千夜らしいな)

 

 

リゼ(……聞こえるように舌打ちしてみよう)

 

 

リゼ「……」チッ

 

 

千夜「あ……ご、ごめんなさいリゼちゃん、迷惑なら部屋に戻って――」

 

 

リゼ「いや助かるよ、なら冷蔵庫の絹ごし豆腐を半分に切ってくれないか?崩れやすいから気を付けてな」

 

 

千夜「え……でもいま……」

 

 

リゼ「ん、手伝ってくれないのか?」

 

 

千夜「!ううん、分かった……」

 

 

千夜「…………」ビクビク

 

 

リゼ(あの千夜がビクビクしてる……かわいそうだけど可愛い)

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ(さすがに慣れてるな……ふむ)

 

 

リゼ「…………」

 

 

――ドカン!

 

 

千夜「ひゃっ!?あ……」ベシャッ

 

 

リゼ「すまない、大根を切ってたら固い部分が一気に切れて……――!豆腐が……」

 

 

千夜「ごめんなさい!すぐに近くのスーパーで買って――」

 

 

リゼ「いや、いいよ。わざわざ買いに行かなくても」

 

 

千夜「あ……」

 

 

リゼ「しょうがない、冷奴はやめて味噌汁にするか」

 

 

千夜「……ごめんなさいリゼちゃん、わたしのせいで」

 

 

リゼ「気にしなくていい、わたしも悪かったんだ。もう大丈夫だから部屋に戻っていいぞ」

 

 

千夜「でも……」

 

 

リゼ「はぁ…………」

 

 

千夜「……!」

 

 

千夜「…………」シュン

 

 

リゼ(天使をいじめたりして……わたしは最低だ)←賢者モード

 

 

リゼ(……あと一日だけ。すまない千夜)

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

――甘兎庵 浴室――

 

 

千夜「…………」チャポン

 

 

千夜(わたし、リゼちゃんに嫌われるようなこと、何かしちゃったのかな……)

 

 

千夜(冗談ばかり言ってたから……?いつも乗ってくれるからすっかり安心してた……)

 

 

千夜「……」シュン

 

 

千夜(リゼちゃんにとってわたしは、友達じゃなくてただの知り合い……?)

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜(一緒にパンを作ったり、アルバイトしたり、マラソンしたり……仲良しになれてるって思ってたのに……)

 

 

千夜「……」ウルッ

 

 

千夜「全部……わたしの、ひとりよがりで……」グスッ

 

 

 

リゼ『千夜は友達なんかじゃないぞ』

 

 

 

千夜「リゼちゃん……」ポロポロ

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

千夜「アンコ……?」スッ

 

 

千夜「明日からわたし、リゼちゃんにどう接したらいいと思う?」

 

 

千夜「友達でもない人が馴れ馴れしくしたら、迷惑よね……」

 

 

アンコ「……」

 

 

千夜「これ以上、リゼちゃんに嫌われたくないし……」

 

 

アンコ「……」

 

 

千夜「…………」ウツムキ

 

 

千夜「ごめんなさいって謝れば、好きになってくれるかしら……」

 

 

シャロ「千夜?」トントン

 

 

千夜「!……シャロちゃん?」

 

 

シャロ「入ってもいい?」

 

 

千夜「うん」

 

 

ガラッ

 

 

シャロ「おばあちゃんから聞いたわ、今日はいつもより元気が無さそうだって」

 

 

千夜「そんなことないわ、気のせいよ」

 

 

シャロ「ふぅん?」ジー

 

 

千夜「…………」

 

 

千夜(もしあの電話の相手がシャロちゃんだとしたら、シャロちゃんは知ってるのよね……わたしがリゼちゃんに嫌われてるって)

 

 

シャロ「なにか悩んでるなら相談くらい乗るわよ?」

 

 

千夜「ありがとう。……ねぇ、シャロちゃん?」

 

 

千夜「……リゼちゃんって、わたしのこと嫌いなのかしら……」

 

 

シャロ「はぁ?リゼ先輩が?そんなはずないでしょ」

 

 

千夜「ほんとう……?」

 

 

シャロ「当たり前じゃない、千夜だってリゼ先輩のこと好きでしょう?」

 

 

千夜(この反応だとシャロちゃんじゃない……だとしたら誰?)

 

 

シャロ「どうしたのよ急に、まさか先輩と喧嘩でもしたの?」

 

 

千夜「……ううん」

 

 

シャロ「……ねぇ千夜?言いにくいなら無理には聞かないけど、もしリゼ先輩と何かあったなら先に謝ってみたら?絶対オウム返しが返って来るはずだから」

 

 

シャロ「もし言いにくいんだったらわたしも手伝うから。千夜にもリゼ先輩にも悩んでほしくないし……」

 

 

千夜「シャロちゃん……」

 

 

千夜「……そうよね、早く解決しないといけないわ」

 

 

千夜(リゼちゃん本人から直接聞けば、すべて解決することばかりだものね)

 

 

千夜「ありがとうシャロちゃん、わたし頑張ってみる」

 

 

シャロ「んっ、一緒に行かなくて大丈夫?」

 

 

千夜「ええ、大丈夫よ」

 

 

シャロ「……そう」プイッ

 

 

千夜「くすっ、ありがとうシャロちゃん。またシャロちゃんに助けてもらって……わたしって本当に臆病ね」

 

 

シャロ「それはお互い様、わたしも千夜に助けてもらったこと何度もあるし」

 

 

千夜「シャロちゃん……ふふっ、ぎゅーっ♪」

 

 

シャロ「抱き付くなぁ!//」

 

 

千夜(明日は土曜日……朝早く行けば、リゼちゃんと二人きりになれるかしら)

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

――翌日 早朝 ラビットハウス――

 

 

リゼ(昨日は最高だったな……やっぱりしょんぼりしている千夜は可愛い)

 

 

リゼ(でもあんまりやり過ぎると嫌われるよな……今日は少し自重するか、ドッキリなのも打ち明けないと……)

 

 

――トントン

 

 

リゼ(んっ、お客さんか?まだ看板も出してないのに)

 

 

千夜「おじゃまします……」ガチャッ

 

 

リゼ「!千夜……」

 

 

千夜「リゼちゃんだけ?チノちゃんとココアちゃんは?」

 

 

リゼ「チノは朝食を食べてるよ、ココアはいつも通りの寝坊だ」

 

 

千夜「そう……」

 

 

リゼ「あの二人になにか用か?」

 

 

千夜「ううん……今日は、リゼちゃんに用があって来たの」

 

 

リゼ「わたしに?」

 

 

千夜「…………」コクリ

 

 

リゼ「何か相談ごとか?」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「言いにくいのか?」

 

 

千夜「…………」コクリ

 

 

リゼ(たぶん昨日のことだろうな……仕方ない、さすがに可哀そうだしそろそろドッキリだとばらしてあげるか)

 

 

リゼ「千夜、あのな、昨日の電話は――」

 

 

千夜「」ジワッ

 

 

リゼ「!?」

 

 

千夜「っく……ぇぅ……」ポロポロ

 

 

リゼ「ち、千夜っ!?すまない、昨日の件はだな――」

 

 

千夜「リゼちゃん!」ギュッ

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「ごめんなさい……ごめんね……もう冗談言ったりしないから」

 

 

千夜「だから、わたしの友達でいて……友達でいてくれなきゃいや……」ガシッ

 

 

リゼ「……!」

 

 

千夜「こんなにリゼちゃんのこと大切に想ってるのに……好きなのに……ぐすっ、リゼちゃんにとってわたしは友達じゃないなんて……そんなのいやぁ……」ポロポロ

 

 

リゼ「千夜……」

 

 

千夜「リゼちゃん……うぅっぇえ……」ポロポロ

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

千夜「…………?」

 

 

リゼ「千夜は、わたしの友達なんかじゃない」

 

 

千夜「……!」

 

 

千夜「いやっ……嫌いにならないでリゼちゃん……!」ポロポロ

 

 

リゼ「千夜は……千夜は――」

 

 

リゼ「千夜はわたしの女神だぁああ!!」ギュッ

 

 

千夜「!?」

 

 

リゼ「すまない!もう二度とこんなことしない!だから許してくれっ!」スリスリ

 

 

千夜「リゼちゃん……?」

 

 

リゼ「全部ドッキリなんだ!ごめんな千夜!ごめんなぁ!!」

 

 

千夜「ドッキリ……」

 

 

リゼ「わたしは最低だ!こんなに優しい千夜をいじめるなんて!千夜ぁ……」ギュッ

 

 

千夜「そうだったの……あの電話も、嘘だったのね」

 

 

リゼ「ああ、わたしと千夜はずっとずっと友達だぞ、いや親友だ、千夜さえよければこれからもずっと一緒にいよう」

 

 

千夜「……」グスッ

 

 

リゼ「千夜!もう泣かないでくれ!ごめんな!」ナデナデ

 

 

千夜「ううん、違うの。安心したら涙が出てきて……良かった、ほんとうに良かった……」ポロポロ

 

 

リゼ「すまない……わたしのこと、許してくれるか?」

 

 

千夜「うん……だってわたしたち、ずっと親友なんでしょ?ねっ、リゼちゃん?」ニコッ

 

 

リゼ「……!千夜……千夜ぁあああ!!」スリスリ

 

 

千夜「リゼちゃん……ふふっ♪」

 

 

――モノカゲ

 

 

チノ(千夜さんとリゼさん……まさか、そういう関係ですか……!?//)

 

 

ココア「ふぁあ……ふぉえ?チノちゃん、こんなところで何してるの?」

 

 

チノ「ココアさんっ!しーっ……」

 

 

ココア「?」

 

 

 

リゼ「千夜っ!可愛いなぁもう!」

 

 

千夜「リゼちゃん、少し痛いわ……!」

 

 

結論:千夜は天使、女神。

 

 

 

V.

 

――リゼの部屋――

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「すぅ……すぅ……」Zzz

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「ん…………」Zzz

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「」

 

 

 

リゼ(どうしよう、帰ってきたらなぜか千夜がわたしのベッドで寝てる……)

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ(いくら考えても埒が明かないか)

 

 

リゼ「おい、千夜」ポンッ

 

 

千夜「むにゃ…………」Zzz

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「千夜、起きろ」ツンッ

 

 

千夜「ん……にぅ……」Zzz

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「…………」ナデナデ

 

 

千夜「ふぁ……ぇへへ……」Zzz

 

 

 

リゼ(かわいい……)

 

 

リゼ(しょうがない、起きるまでそっとしておいてやるか)

 

 

リゼ(ベッドにダイブできなかったのがある意味幸いだ、今のうちに課題を終わらそう)

 

 

リゼ「…………」ナデナデ

 

 

千夜「ふぇ…………」Zzz

 

 

リゼ(無防備だな……)クスッ

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

千夜「…んっ………」パチッ

 

 

千夜「……あれ、ここは……?」ポワポワ

 

 

リゼ「おっ、千夜、起きたか」

 

 

千夜「リゼちゃん……?」

 

 

リゼ「おはよう、もう7時だけど」

 

 

千夜「どうしてリゼちゃんがウチに……?」

 

 

リゼ「寝ぼけてるのか?ここはわたしの部屋だぞ」

 

 

千夜「リゼちゃんの部屋……?」ポワポワ

 

 

リゼ「まずは顔でも洗うか?」

 

 

千夜「ん……」コクリ

 

 

リゼ「ほら、立てるか?」

 

 

千夜「リゼちゃん、おんぶして……」

 

 

リゼ「おんぶ?しょうがないな、ほら」

 

 

千夜「えへへ、やったわぁ……」ポスッ

 

 

リゼ(寝ぼけてココアみたいになってる……)

 

 

千夜「リゼちゃん、ゴ~……」

 

 

リゼ「すぐに着くから寝るなよー」

 

 

千夜「はーい……」Zzz

 

 

リゼ(言ってるそばから……やれやれ)

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

千夜「ごめんなさいね、寝ぼけちゃってつい」

 

 

リゼ「かまわないぞ別に。ところでどうしたんだ?」

 

 

千夜「?」キョトン

 

 

リゼ「いや、なにか用があって来たんだろ」

 

 

千夜「用……うーん、なんだったかしら」

 

 

リゼ「おいおい、まだ寝ぼけてるのか」

 

 

千夜「リゼちゃんのお部屋のベッドで寝たくなっちゃったのか、それとも急にリゼちゃんに会いたくなっちゃったのか」

 

 

リゼ「ははっ、ずいぶんぶっ飛んだ理由だな」

 

 

千夜「なんて、半分は冗談よ」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

千夜「リゼちゃんに会いたくなっちゃったのは、ほんと」

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「ベッドで寝たふりをして待っているつもりが、いつの間にか寝ちゃったみたい」クスッ

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

千夜「ごめんなさい、断りもなくいきなり」

 

 

リゼ「いや、いいんだぞ。千夜と会えて嬉しいし」

 

 

千夜「迷惑じゃない?」

 

 

リゼ「ないよ、むしろ疲れが楽になった」

 

 

千夜「……そう」ホッ

 

 

リゼ「?」

 

 

千夜「良かった、リゼちゃんは嘘つかないから」

 

 

リゼ「こっちこそ悪かったな、せっかく待ってくれてたのに」

 

 

千夜「ううん、勝手に来たのはわたしのほうだから。それにここに着いたの、確か5時半くらいだったし」

 

 

リゼ「わたしが帰ってくる30分前くらいか」

 

 

千夜「ベッドで横になって、すぐに寝ちゃったみたいね」

 

 

リゼ「これからは事前に連絡してくれれば早めに帰ってくるぞ」

 

 

千夜「……うん」

 

 

千夜「……だから、黙って来たんだけど」ボソッ

 

 

リゼ「んっ?」

 

 

千夜「でも、こうして何も言わないで来るのはもっと不躾よね……」

 

 

リゼ「どうしたんだ?」

 

 

千夜「ううん……リゼちゃんって、本当に意地悪だと思って」ニコッ

 

 

リゼ「意地悪……?すまない、わたしなにかしたか?」

 

 

千夜「何もしてないわ。ただ、リゼちゃんがあまりに優しいだけ」クスッ

 

 

リゼ「……?」

 

 

千夜「もう少し、そばに寄ってもいい?」

 

 

リゼ「あっ、ああ」

 

 

千夜「…………」ススッ

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「……えい」ポスッ

 

 

リゼ「おっと……」

 

 

千夜「ふふっ」ニコッ

 

 

リゼ「……千夜って、子供っぽいのか大人なのかわからないよな」

 

 

千夜「そうかしら?」

 

 

リゼ「時々、どう接してあげたらいいか分からなくなる」

 

 

千夜「普段通りでいいわ、その方が嬉しい」

 

 

リゼ「そうか……千夜がそれでいいなら」

 

 

千夜「………………」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「なんだか、こうしてると安心するわ」

 

 

リゼ「……学校で、なにかあったのか?」

 

 

千夜「ううん、なにも」

 

 

リゼ「そうか……何かあったら言えよ。千夜はすぐに一人で抱え込むから」

 

 

千夜「それを言うならリゼちゃんもね」

 

 

リゼ「わたしは――……わたしのことはいいんだ」ワシャワシャ

 

 

千夜「きゃっ……」

 

 

リゼ「あ、すまない、ココアにやるノリでつい……」

 

 

千夜「ううん……いいわこれ、なんだか新鮮」

 

 

千夜「リゼちゃん、もう一回やって?」

 

 

リゼ「んっ、こうか?」ワシャワシャ

 

 

千夜「ひゃっ……♪」

 

 

千夜「リゼちゃん……もっと」

 

 

リゼ「あんまりやって髪が痛んだりしたら大変だ、あと1回だけな」

 

 

千夜「」ウズウズ

 

 

リゼ「よっと」ワシャワシャ

 

 

千夜「きゃっ……ふふっ//」ニコッ

 

 

リゼ(かわいい……)

 

 

千夜「満足したわ、ありがとうリゼちゃん」

 

 

リゼ「もっとやってもいいけど、千夜の綺麗な髪が痛みそうだしな」

 

 

千夜「それなら、代わりにもうひとつだけ、いいかしら」

 

 

リゼ「ああ、なんだ?」

 

 

千夜「えっと――あったわ、これ」スッ

 

 

リゼ「……耳かき?」

 

 

千夜「♪」ニコッ

 

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「リゼちゃんの耳綺麗ね、何もないわ」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「最後は梵天で……」コチョコチョ

 

 

リゼ「ん………」

 

 

千夜「仕上げは……」

 

 

千夜「」フッ!

 

 

リゼ「ひゃっ……!」

 

 

千夜「はい、次は反対側しましょうね」

 

 

リゼ「……なぁ、千夜?//」

 

 

千夜「ん?」

 

 

リゼ「どう考えても逆じゃないか……どうしてお前がする方なんだよ//」

 

 

千夜「あら、ダメ?」

 

 

リゼ「いや……ただその……//」

 

 

千夜「わがまま聞いてくれるんでしょ?」

 

 

リゼ「あれはわたしがする方だとばかり……!」

 

 

千夜「ほらリゼちゃん、おいで♪」ポンポン

 

 

リゼ「うっ……っ~~!//」ポスッ

 

 

千夜「よしよし、良い子ね」ナデナデ

 

 

リゼ「撫でるな!いいから早くやってくれ//」

 

 

千夜「反対の耳は敏感になってるから、痛かったらすぐに言ってね」

 

 

リゼ「……ああ//」

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ「っ……」ビクッ

 

 

千夜「あっ……大丈夫?痛かった?」

 

 

リゼ「いや……平気だ」

 

 

千夜「そう、強い子ねリゼちゃんは」

 

 

千夜「もう少しで終わるから、頑張りましょう」ナデナデ

 

 

リゼ「……千夜、わたしのこと子ども扱いしてないか?」

 

 

千夜「ごめんなさい、こうしてるとつい」クスッ

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「イヤだった?あと少しだから我慢してね」

 

 

リゼ「……嫌じゃ、ない」

 

 

千夜「え……」

 

 

リゼ「たまには、いいかもしれない……//」プイッ

 

 

千夜「……リゼちゃん」

 

 

リゼ「そ、その代わり!二人きりの時だけだぞ!あとココアたちには内緒だからな!//」

 

 

千夜「……ええ」クスッ

 

 

千夜「リゼちゃんとわたし、二人だけの秘密」

 

 

リゼ「…………//」

 

 

千夜「よし……――フッ!」

 

 

リゼ「ひゃあ!//」

 

 

千夜「おしまいよ。よく頑張ったわね」ナデナデ

 

 

リゼ「……っ//」

 

 

千夜「リゼちゃん、良い子良い子♪」ナデナデ

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

――グイッ

 

 

千夜「きゃっ……」

 

 

――ポスッ

 

 

千夜「リゼちゃん?」

 

 

リゼ「次はわたしの番だ。ほら、右側向け」

 

 

千夜「お返ししてくれるの?」

 

 

リゼ「ああ、やられっぱなしは癪だからな」

 

 

千夜「……そう」

 

 

リゼ「んっ、どうした?」

 

 

千夜「ううん。やっぱり、リゼちゃん優しいと思って」

 

 

リゼ「これは復讐だ、勘違いするな//」

 

 

千夜「……また、二人きりの時はしてくれる?」

 

 

リゼ「……ああ、千夜がしてほしいなら」

 

 

千夜「……逆は?」

 

 

リゼ「……千夜がしたいなら、考える//」プイッ

 

 

千夜「嬉しいわ、ありがとうリゼちゃん」ニコッ

 

 

リゼ「ほら、じっとしてろ」

 

 

千夜「んっ……」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

リゼ「いいのか?明日は土曜日だし、泊って行ってもいいんだぞ?」

 

 

千夜「ううん、着替えもないし。それに」

 

 

リゼ「メール……シャロからか」

 

 

千夜「アルバイトから帰ったらいないから、心配してくれたみたい」

 

 

リゼ「やっぱり幼馴染だな。なら早く帰ってあげないと」

 

 

千夜「うん……」

 

 

千夜「ありがとうリゼちゃん、今日は楽しかった」

 

 

リゼ「せっかく会いに来てくれたのに、大したおもてなしもできなくて悪かったな」

 

 

千夜「そんなことないわ、会いに来てよかった」

 

 

リゼ「千夜さえよければ、またいつでも来てくれ」

 

 

千夜「これからは事前に連絡、入れたほうがいい?」

 

 

リゼ「……どうだろう。確かにその方が予定は合わせやすいけど」

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ「でも――こうしてサプライズで千夜に会うのも、悪くない」

 

 

千夜「……!」

 

 

リゼ「お前なりに、なんだか色々と複雑みたいだし」ポンッ

 

 

リゼ「好きなようにしてくれていいぞ」ナデナデ

 

 

千夜「……リゼちゃん」

 

 

リゼ「どんなカタチであれ、千夜と会えるのは嬉しいしな」

 

 

リゼ「二人きりの時なら、少しのワガママくらい聞いてあげられるし」

 

 

千夜「っ……」キュッ

 

 

リゼ「また遊びにこい、待ってる」ナデナデ

 

 

千夜「…………」

 

 

千夜「ねぇ、リゼちゃん」

 

 

リゼ「ん……?」

 

 

千夜「最後に、わがまま……聞いてもらっていいかしら?」

 

 

リゼ「……なんだ?」

 

 

千夜「……ギュって、してほしい」

 

 

リゼ「……お安い御用だ」ギュッ

 

 

千夜「!」

 

 

千夜「…………//」

 

 

リゼ「千夜は、あったかいな……」

 

 

千夜「……ふふっ、リゼちゃん//」ギュッ

 

 

千夜「本当に優しいのね……誰だって勘違いしちゃうわ」

 

 

リゼ「勘違い?」

 

 

千夜「他人のわがままを迷惑だなんて、思ったことないでしょ」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「リゼちゃんに特別扱いしてもらえる子は、どんなに幸せなのかしら」

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

千夜「また、二人で遊びましょうね」スッ

 

 

リゼ「あ……」

 

 

千夜「ありがとう、さようなら」フリフリ

 

 

リゼ「っ……千夜、待ってくれ」

 

 

千夜「?」

 

 

リゼ「……今日、どうして会いに来てくれたんだ?」

 

 

千夜「さっき言った通りよ、急にリゼちゃんに会いたくなったから」

 

 

リゼ「でも……」

 

 

千夜「あとは……そうね」

 

 

千夜「――リゼちゃんのこと、困らせたかったのかも」ニコッ

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「ふふっ、ごめんなさい」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「またね、リゼちゃん」

 

 

リゼ「……千夜!」

 

 

千夜「!」

 

 

リゼ「ごめん……お前の気持ち、何も分かってあげられないけど……」

 

 

リゼ「でも、わたしなんかで良かったら、これからも好きなだけワガママ言ってくれ」

 

 

リゼ「千夜のワガママ、迷惑だなんて思わないから」

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜「……違うわ、リゼちゃん」

 

 

千夜「反対。リゼちゃんだから、わがまま言うのよ」

 

 

リゼ「……!」

 

 

千夜「♪」フリフリ

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「……」

 

 

リゼ「…………ふぅ」

 

 

リゼ「涼しいな……今夜は」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

――甘兎庵――

 

 

千夜「あら……?」

 

 

シャロ「……」ムスッ

 

 

千夜「シャロちゃん、ただいま。こんなところにいたら風邪ひくわよ」

 

 

シャロ「こんな遅くまでどこに行ってたのよ?」

 

 

千夜「んー……そうね」

 

 

千夜「――悪い子になれる場所に、ちょっと」クスッ

 

 

シャロ「はぁ?意味わからないんだけど……」

 

 

千夜「後でゆっくり話すわ、まずはお風呂入りましょう」

 

 

シャロ「ったく、しょうがないわね……無事に帰ってきたからいいけど」

 

 

千夜「ありがとうシャロちゃん、いつも迷惑かけっぱなしね」

 

 

シャロ「んっ、別にそんなことないし……」

 

 

千夜「行きましょう」スッ

 

 

シャロ「うん」

 

 

千夜「♪~♪♪」

 

 

シャロ(嬉しそう……なにか良いことでもあったのかしら)

 

 

シャロ(ほんと、色んなことで心配性なのよね……千夜って)

−−−−−−−−−−−−−−−−

end.



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特別編:Offside
Offside 1.「Fellow out」


――

 

――――

 

――――――

 

 

 

――ラビットハウス――

 

 

 

リゼ「ありがとうございましたー」

 

 

ガチャッ バタン

 

 

リゼ「ふぅ……」

 

 

リゼ(ココアは学校の用事があるから遅くなるって言ってたっけ)

 

 

リゼ「…………」チラッ

 

 

リゼ(もう5時か……チノ、まだ帰ってこないな)

 

 

リゼ(マヤやメグたちと寄り道でもしてるのか……――んっ?)

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

リゼ「いらっしゃいませー」

 

 

チノ「……」トボトボ

 

 

リゼ「チノか、おかえり」

 

 

チノ「…………」トボトボ

 

 

リゼ「……?」

 

 

チノ「…………」フラフラ

 

 

 

リゼ「お、おい……大丈夫か?」

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ「……?」

 

 

チノ「うっ……」バタリ

 

 

リゼ「チノっ!?しっかりしろっ!」

 

 

チノ「…………」

 

 

リゼ「どうしたんだ!誰にやられた!?」

 

 

チノ「…………」グスッ

 

 

リゼ「チノ……?」

 

 

チノ「……っく……うぅ……」グスグス

 

 

チノ「終わりです……バッドエンドです」

 

 

チノ「絶望……終焉……極限の……」

 

 

チノ「お母さん、いますぐそちらに……」ポテッ

 

 

チノ「」チーン

 

 

リゼ「おいっ!?」

 

 

リゼ(良く分からないが、どうやら何か不幸なことがあったみたいだな)

 

 

リゼ「チノ……まずは話を聞かせてくれ」

 

 

チノ「…………」ピクッ

 

 

チノ「聞いて下さるんですか?」

 

 

リゼ「ああ、だから椅子に座って話そう」

 

 

リゼ(床に倒れていたらお客さんに迷惑がかかるしな)

 

 

チノ「……起こしてください」

 

 

リゼ「よっと……」グイッ

 

 

 

 

チノ「…………」

 

 

リゼ「なにがあったんだ?」

 

 

チノ「……マヤさんとメグさんです」

 

 

リゼ「あの二人?まさか学校で喧嘩でもしたのか?」

 

 

チノ「違います、今日もいつも通り3人で仲良く過ごしました」

 

 

チノ「事件が起こったのは放課後です――」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

――教室――

 

 

 

マヤ「チノ、メグ、帰ろっ!」

 

 

チノ「ちょっと待ってください」

 

 

メグ「こうしてみんなで帰れるのもあと少しだね」

 

 

マヤ「チノだけ離れ離れかぁ……なんか複雑」

 

 

メグ「チノちゃん、一人で大丈夫?」

 

 

チノ「はい、千夜さんもココアさんもいますし」

 

 

チノ「それに――たとえ離れても、マヤさんとメグさんとはずっと友達ですから」ニコ

 

 

メグ「チノちゃん……」

 

 

マヤ「成長したなぁチノ、娘を自立させる父親の気分だよ」グスッ

 

 

メグ「わたしは母親かなぁ」グシグシ

 

 

チノ「友達って言った側から!?」

 

 

マヤ「」チラッ

 

 

メグ「♪」コクリ

 

 

マヤ「チノ、ちょっと待ってて」

 

 

メグ「すぐに戻るからね」

 

 

チノ「あっ、はい……」

 

 

ガラッ バタン

 

 

チノ「…………?」

 

 

 

 

チノ「………………」

 

 

チノ(トイレに行ったのかな……?)ガラッ

 

 

チノ「……マヤさん?メグさん?」

 

 

チノ「…………」テクテク

 

 

マヤ「それじゃあ、後でこっそり合流しよっ」

 

 

チノ「!」

 

 

チノ「……」ササッ

 

 

メグ「みんなで一緒に帰りたいもんね」

 

 

マヤ「チノの前で口滑らさないようにね、メグ?」

 

 

メグ「うん、気を付けるよ」

 

 

チノ「……?」

 

 

 

マヤ「じゃあ――チノには秘密で、二人で探しに行こう」

 

 

 

チノ「!?」ガーン

 

 

 

メグ「お揃いのもの、見つかるといいね」

 

 

 

チノ「!?」ガーン

 

 

 

チノ「……………………」

 

 

チノ「………………」

 

 

チノ「…………」

 

 

チノ「……」

 

 

チノ「」

 

 

チノ「…………」グスッ

 

 

チノ「っ……」ゴシゴシ

 

 

 

――タタッ……

 

 

 

マヤ「チノ、お待たせ―!」ガラッ

 

 

マヤ「あれ……チノ?」

 

 

メグ「チノちゃーん?」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

チノ「ということがありました」

 

 

リゼ「チノに秘密でお揃いのものを、か……」

 

 

チノ「二人にとって、わたしは3年間ただの邪魔な存在だったというのが証明されました」

 

 

リゼ「早計過ぎるだろ!?マヤとメグに限ってそんなことあるはずがない」

 

 

チノ「いいえ、きっとそうです」

 

 

チノ「マヤさんとメグさんも、わたしの知らないところでは――」

 

 

 

 

マヤ『チノってほんとめんどくさいよね~』

 

 

メグ『分かるよ~、いつもオドオドしてるし』

 

 

マヤ『これだけ仲良くなってもまだ敬語とかヤバくね?』

 

 

メグ『あともう少しでお別れだし、我慢しよう?』

 

 

マヤ『それもそうだね』キャハハ

 

 

 

 

チノ「ヴぇああああぁぁぁ!」

 

 

リゼ「被害妄想だ!というかなんだその脳内キャラ設定!?」

 

 

チノ「進学で離れ離れになって落ち込んでいたのはどうやらわたしだけだったようです……」

 

 

チノ「お母さん、この世に神はいませんでした……」バタリ

 

 

リゼ「倒れるな!?100%誤解だから大丈夫だって!」

 

 

チノ「しかし仲間外れにされたのは確かです、この真実はなんびとたりとて消せません」

 

 

リゼ「きっとなにか理由があるんだよ、こっそりサプライズとか」

 

 

チノ「わたしの誕生日は12月です、ありえません……っ」グスッ

 

 

リゼ「お、おい……」

 

 

チノ「うにゅ~マヤさんもメグさんもひどいですっ!」ジタバタ

 

 

チノ「イヤですイヤですっ!仲間はずれにしちゃイヤです!」バタバタ!

 

 

リゼ「床が壊れるっ!分かった、確かめてやるから落ち着けぇ!」

 

 

チノ「…………」ジワッ

 

 

リゼ「うっ……」

 

 

リゼ(思った以上に深く傷ついてるなこれは……)

 

 

チノ「………………」

 

 

チノ「」ムクリ

 

 

リゼ「!」ビクッ

 

 

チノ「いいです……わたしは高校なんて行きません」

 

 

リゼ「へっ?」

 

 

チノ「しあわせだった頃の思い出を終の住処に、残りの人生をまっとうします」

 

 

チノ「では……」タタタ

 

 

リゼ「チノっ!?待てって、おい!」

 

 

ガチャッ バタン

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

――チノの部屋――

 

 

 

リゼ「チノ?」トントン

 

 

シーン……

 

 

リゼ「……?」ガチャッ

 

 

 

チノ「…………」フテネ

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「チノ……頼むから起きてくれよ」

 

 

リゼ「マヤとメグと話をするにしても、留守番がいないと出かけられない」

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ「おい、チノ」バサッ

 

 

リゼ「……!?」

 

 

チノ「…………」+オシャブリ

 

 

リゼ「」

 

 

リゼ「………………」

 

 

チノ「モゴモゴ……」

 

 

リゼ「えっと……どういうことだ?」

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ「とりあえずおしゃぶりはずすぞ」チュポ

 

 

チノ「ぷはぁ……わたしはもう赤ちゃんです、店番なんてできません」

 

 

リゼ「どうしてそうなったっ!?」

 

 

チノ「母との優しかった思い出に還るんです、もう現実になんて戻りません」

 

 

チノ「あとは願わくばココアさんにお世話してもらえれば完璧です」

 

 

リゼ「こんな姿見たら天国のお母さんが泣くぞ!いいから出てこいよ」グイッ

 

 

チノ「いやですっ、いやぁ……!」ブンブン

 

 

リゼ(うっ……なんだこの罪悪感は……)

 

 

チノ「むぅ~おしゃぶり返してください」

 

 

リゼ「ダメだ」

 

 

チノ「…………」

 

 

チノ「ひっく……うっ……」グスッグスッ

 

 

リゼ「泣くな~っ!わかった!ほら!」

 

 

チノ「」パアァ

 

 

チノ「はむっ……」

 

 

チノ「…………」ゴロン

 

 

チノ「」フテネ

 

 

リゼ「……はぁ」

 

 

リゼ(参ったな……ココアが帰ってくるまで待つか……)

 

 

 

ダレカー! チノー! チノチャーン!

 

 

 

リゼ「!」

 

 

リゼ「この声は……」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

リゼ「マヤ、メグ」

 

 

マヤ「あっ、リゼ!大変なんだよ!」

 

 

メグ「チノちゃんが行方不明になっちゃったよ~!」

 

 

リゼ「ちょうど良かった、すぐに来てくれ」

 

 

マヤ「えっ?」

 

 

リゼ「チノなら部屋にいる、誤解を解けるのはお前たちだけだ」

 

 

メグ「誤解?」

 

 

リゼ「」カクカクシカジカ

 

 

 

 

 

チノ「………………」

 

 

チノ(さっきの声、マヤさんとメグさんです……)

 

 

チノ(もしかして、わたしが何も言わず帰ってしまったのを心配して……?)

 

 

チノ(……違います、二人にとってわたしは邪魔ものです)

 

 

チノ(このままずっと引きこもり――)

 

 

マヤ「チノぉ!」ガチャッ!

 

 

チノ「!」

 

 

メグ「チノちゃん!」

 

 

マヤ「勘違いさせてごめんなぁ!」ギュッ

 

 

メグ「わたしたちチノちゃんのこと大好きだよぉ」ギュッ

 

 

チノ「マヤさん、メグさん……でも」

 

 

リゼ「今二人から話を聞いた、やっぱりチノの思い違いだ」

 

 

マヤ「高校になったらチノとは離れ離れになっちゃうからなにか三人の繋がりを残したくて」

 

 

メグ「それで、なにかお揃いのものを買おうってマヤちゃんとお昼休みに決めたんだよ」

 

 

 

リゼ「チノには二人でプレゼントしたくて秘密にしてたらしい」

 

 

チノ「……!」

 

 

マヤ「でもよく考えたら、チノだけ仲間外れにされたら嫌だよね……ごめん」

 

 

メグ「わたしたちのせいだよ、ごめんなさい……」

 

 

チノ「マヤさん、メグさん……」

 

 

リゼ「ほらな、チノ。マヤとメグに限ってそんなこと――」

 

 

 

チノ「わたしがマヤさんとメグさんのこと、疑う訳が無いです!」

 

 

 

リゼ「」

 

 

マヤ「え?」

 

 

メグ「チノちゃん……?」

 

 

チノ「リゼさんに協力してもらい、一芝居うってもらいました」

 

 

リゼ「いや……さっきわたしがサプライズだって言ったらありえないって――」

 

 

チノ「ごほっ!こほっ!」

 

 

メグ「チノちゃん!?」

 

 

マヤ「風邪?大丈夫か?」

 

 

チノ「はい……」

 

 

リゼ「………………」

 

 

チノ「お母さん、この世に神はいるのでしょうか」トオイメ

 

 

リゼ「………………」

 

 

チノ「」チラッチラッ

 

 

リゼ「……すまん、マヤ、メグ。さっきのは全て嘘だ、芝居だ」

 

 

メグ「えぇっ!?」

 

 

マヤ「びっくりさせないでよリゼ~!本当かと思ったじゃん!」

 

 

リゼ「ははは……」チラッ

 

 

チノ「♪」パアァ

 

 

チノ「お母さん、わたしは優しい先輩と友人に恵まれ幸せな毎日をおくっています。心配しないでください」

 

 

マヤ「とにかく、ごめんなチノ!いまからみんなで買いに行こう!」ギュッ

 

 

メグ「買うものは決まってるんだよ~兎のアクリルキーホルダー」

 

 

チノ「――はい//」ニコッ

 

 

チノ「リゼさん、これを」スッ

 

 

リゼ「なんだ?」

 

 

チノ「おしゃぶりです、預かっていてください」

 

 

チノ「過去を振り返るのはもう充分です」

 

 

チノ「今も、この先も、変わらずわたしのことを想ってくれている人たちのためにも」

 

 

チノ「わたしは、この現実と戦います」ゴゴゴ

 

 

メグ「チノちゃんから蒼いオーラが……!」

 

 

マヤ「チマメ隊は永久に不滅だーっ!!」

 

 

ガヤガヤ ワイワイ

 

 

リゼ(わたし完全に汚れ役だよな……)

 

 

ココア「ただいまー!あれ、マヤちゃんとメグちゃん?」

 

 

リゼ「ココア、おかえり。色々あってな」

 

 

ここあ「もしかしてお悩み?お姉ちゃんに任せて!」フンス

 

 

 

リゼ(かくして、チノの仲間外れ事件は無事大団円を迎えることができた……)

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

――翌日――

 

 

 

ココア「リゼちゃん」

 

 

リゼ「んっ?」

 

 

ココア「――はい」スッ

 

 

リゼ「これは……」

 

 

ココア「ヘアアクセ。ほら、わたしとお揃いだよ」

 

 

ココア「シックなデザインだし、これならいいと思って」

 

 

リゼ「貰っていいのか?」

 

 

ココア「うん、リゼちゃんへのプレゼントだもん」

 

 

ココア「大学生になっても、わたしたちずっと一緒だよ」ニコッ

 

 

リゼ「ココア……」

 

 

ココア「このアクセ、みんなの分も買おうと思ったんだけど……2つしか売ってなくて」

 

 

ココア「だからチノちゃんには秘密にしてて?」シーッ

 

 

リゼ「ああ、わかった」

 

 

ここあ「その代わり、チノちゃんにはとっておきのプレゼントが――」

 

 

ガチャッ!

 

 

リゼ「!?」

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ「チノっ!?まさか、今の話し……!」

 

 

チノ「わたしには内緒……秘密……」

 

 

リゼ「よりによってそこだけ!?」

 

 

ココア「違うんだよ!ほら、チノちゃんにはちゃんと超難易度アンティークジグソーパズルを――」

 

 

チノ「…………」プクー!

 

 

リゼ「チノ、落ち着け……!」

 

 

チノ「」サッ

 

 

リゼ「新品のおしゃぶり!?」

 

 

チノ「終わりです……絶望です……母との記憶に再びダイブです……」タタタ!

 

 

リゼ「チノ!待ってくれ!話を聞いてくれぇ!」

 

 

ココア「チ゛ノちゃんっ!?」

 

 

 

この後、おしゃぶりを付けて引きこもるチノちゃんをココアちゃんが懸命にナデナデしたことで、無事現実に還ってくることができたそうです……。

−−−−−−−−−−−−−−−

next.




もう少しだけ続きます。


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Offside 2.「[Restructuring] Mad love "前編"」

再編シリーズ第4弾、狂愛の始まりから、狂愛の終焉を描いた本編と追憶編を収録、8話収録。前編は5話収録、後編は3話収録。


I.

 

――――――――――――――――――――――

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

 

小さい頃から、ずっと羨ましかった。

 

 

 

 

一緒に遊んだり、ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、同じベッドで寝たり。

 

 

 

 

常に同じ時間を共有できる家族が欲しい。

 

 

 

 

ある種の諦観にも似た、満たされることのないそんな羨望は。

 

 

 

 

お前がわたしの前に現れてから、すべてが叶った。

 

 

 

 

………………。

 

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

いつからだったのかな。

 

 

 

 

お前がそばにいてくれないと。

 

 

 

 

ココロが――壊れそうになって。

 

 

 

 

 

リゼ「…………ん?」

 

 

リゼ「ここあ……?」

 

 

リゼ「ここあ……?ここあ!」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ここあ「ただいま――……!」

 

 

リゼ「ここあがいなくなった……ここあがいなくなった……」ブツブツ

 

 

ここあ「りぜちゃんっ!」

 

 

リゼ「……?」

 

 

ここあ「りぜちゃん……」

 

 

リゼ「ここあ……?ここあっ!」ガシッ

 

 

ここあ「きゃっ……!」

 

 

リゼ「……どこにいってたんだ」

 

 

ここあ「ひとりで『といれ』まで……りぜちゃん、ねてたから」

 

 

リゼ「っ……どうしてわたしから離れるんだ!」

 

 

ここあ「!」ビクッ

 

 

リゼ「前にも言っただろ!」ドン!

 

 

ここあ「ひゃぅ……」ビクッ

 

 

リゼ「勝手にいなくなったりしたらダメだって!一人でどこにも行ったらダメだって!なぁここあ!」

 

 

ここあ「ぁ……」ガクガク

 

 

リゼ「どうしていうこと聞けないんだ!?」

 

 

ここあ「ごめんなさい……」グスッ

 

 

リゼ「……わたしのこと、嫌いなのか…」

 

 

ここあ「……!」

 

 

リゼ「わたしはこんなにここあのことを愛してるのに……」グスッ

 

 

リゼ「ここあは、わたしのことなんて……」

 

 

ここあ「ちがうよ!わたしりぜちゃんのことだいすきだよ!」

 

 

リゼ「……なら、どうして」

 

 

リゼ「どうしてわたしの側からいなくなるんだっ!」

 

 

ここあ「!」

 

 

リゼ「……どうして」

 

 

ここあ「……ごめんなさい、りぜちゃん……」ブルブル

 

 

リゼ「……!」ハッ

 

 

ここあ「ひっく……ぐすっ……えぅ……」ポロポロ

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

ここあ「ごめんね……ごめんね」ポロポロ

 

 

リゼ「……っ」ギュッ

 

 

ここあ「……?」

 

 

リゼ「ここあ……ごめんな、わたし……」

 

 

ここあ「りぜちゃん……」

 

 

リゼ「怒鳴ったりしてごめん、怖かったよな……せっかく気遣ってくれたのに……」

 

 

リゼ「でも、お前がいなくなると不安になって……怖くて……」

 

 

リゼ「どこにもいかないでくれ……頼む」ブルブル

 

 

ここあ「……りぜちゃん」

 

 

ここあ「……うん、だいじょうぶだよ」

 

 

リゼ「!」

 

 

ここあ「ひとりにしてごめんね、りぜちゃん……」ギュッ

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

ここあ「よしよし、さみしかったね」ナデナデ

 

 

リゼ「………っ」ギュッ

 

 

ここあ「…………」ナデナデ

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

――食堂――

 

 

リゼ「今朝はすまなかったな。お詫びにお昼はなんでも好きなもの作ってあげるぞ」

 

 

ここあ「ほんと?それじゃあかれーらいす!」

 

 

リゼ「カレーか、任せろ。ちゃんと甘口にしてやるからな」ナデナデ

 

 

ここあ「んっ……♪」

 

 

リゼ「ここあはどうする?部屋で待っておくか?」

 

 

ここあ「ううん、わたしもてつだう。えぷろんもってくるね」タタタ

 

 

リゼ「待て、転ぶといけないから一緒に行こう」

 

 

ここあ「……!うん!」ギュッ

 

 

リゼ「おっと……」

 

 

ここあ「りぜちゃん、だっこして?」

 

 

リゼ「しょうがないな、甘えんぼうめ」ヒョイ

 

 

ここあ「えへへ♪」

 

 

リゼ「ここあ……」ギュッ

 

 

ここあ「やっぱりやさしい……りぜちゃん……」

 

 

リゼ「んっ?」

 

 

ここあ「ううん、なんでもない」

 

 

リゼ「隠し事すると尋問だぞ」コチョコチョ

 

 

ここあ「あははっ、くすぐっちゃだめぇ」

 

 

リゼ「ふふっ」ニコッ

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ここあ「この『かれー』おいしい!」

 

 

リゼ「そうか、たくさん食べるんだぞ」

 

 

ココア「……」キョロキョロ

 

 

リゼ「んっ、どうした?」

 

 

ここあ「ゆうしゃさんやおとうさん、今日もいないね」モグモグ

 

 

リゼ「親父や使用人たちは忙しいからな、心配しなくても後で食べるだろう」

 

 

ここあ「わたし、よんでくる」

 

 

リゼ「こら、ご飯の最中に行儀が悪いだろ。明日でいいよ」

 

 

ここあ「でも、みんなでいっしょにたべたいよ……」シュン

 

 

リゼ「……」ピクッ

 

 

リゼ「……………………」

 

 

ここあ「おとうさんたち、よんできちゃだめ……?」

 

 

リゼ「…………」ウツムキ

 

 

 

リゼ「……――のか」

 

 

 

ここあ「え…?」

 

 

リゼ「ここあは、そんなにわたしと二人が嫌なのか……」

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「どうしてなんだ……」ギリッ

 

 

リゼ「わたしと二人でいるのが、そんなに楽しくないのか……」ギリギリ

 

 

ここあ「そんなことない!りぜちゃんとふたりでもすごくたのし――」

 

 

リゼ「ならどうしてそんなに悲しい顔をするんだ!!」ガンッ!

 

 

ここあ「ひゃっ!?」ビクッ

 

 

リゼ「どうしてわたしより使用人や親父のことが出てくるんだ!!」ガンガン!

 

 

リゼ「わたしのことが嫌いなら!わたしといっしょにいるのが嫌ならはっきり言えっ!!」バキッ!

 

 

ここあ「…………」ガクガク

 

 

リゼ「……!」ハッ

 

 

リゼ「スプーンが……――!ここあ……」

 

 

ここあ「…………」ブルブル

 

 

リゼ「ここあ!」

 

 

ここあ「ううっうぇええぇ……!」ポロポロ

 

 

リゼ「ごめんここあ……!わたし、また……」

 

 

ここあ「りぜぢゃん……ぐすっ……ごめんなさい」ポロポロ

 

 

ここあ「ちゃんということきくから…きらいにならないで……!」ポロポロ

 

 

リゼ「違うんだ、ここあ……!わたし……」

 

 

リゼ「ごめん、ごめん……」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……うぇっうぇええんっ!」ポロポロ

 

 

リゼ「ここあ……くっ……」

 

 

 

リゼ「……落ち着いたか?」

 

 

ここあ「ぐすっ……うん」

 

 

リゼ「すまない……さぁ、ご飯を食べよう」

 

 

ここあ「ん……りぜちゃんのとなりでたべてもいい?」

 

 

リゼ「ああ、もちろんだ。ほら」カチャッ

 

 

ここあ「えへへ……りぜちゃんといっしょ」

 

 

リゼ「向かい合わせだと寂しいもんな、わたしもだぞ」ヒョイ

 

 

リゼ「ずっとここあの隣でいたい……」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃんもあまえんぼう……?よしよし♪」ナデナデ

 

 

リゼ「ここあは、優しいな……それにあったかい」スリスリ

 

 

リゼ「このまま、ずっとお前に触れていたい……」

 

 

リゼ「ずっと離れないで、永遠に……」

 

 

ここあ「リゼちゃん……?」

 

 

リゼ「どこにも行っちゃだめだぞ……どこにも」

 

 

ここあ「うん」ニコッ

 

 

リゼ「……」クスッ

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

 

おかしいな……。

 

 

 

 

前と変わらず、幸せなはずなのに。

 

 

 

 

毎日お前がそばにいてくれて、何もかもが満たされているはずなのに。

 

 

 

 

――なのに、どうして。

 

 

 

 

どうしてこんなに、怖いんだろう。

 

 

 

 

わたしは、なにに怯えてるんだ。

 

 

 

 

……いつから、こうなったんだっけ。

 

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

シャロ「――んぱい、リゼ先輩!」

 

 

リゼ「――!」

 

 

シャロ「先輩、大丈夫ですか?」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

シャロ「………………」

 

 

シャロ「なにか、悩みごとですか?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

シャロ「あっ、言いにくいならいいんです。……でも最近のリゼ先輩、なんだか様子がおかしい気がして」

 

 

リゼ「……おかしいか、わたし」

 

 

シャロ「いえその、変な意味ではなくて……」アセアセ

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

シャロ「リゼ先輩……?」

 

 

リゼ「シャロ……少し聞いてくれるか?」

 

 

リゼ「ここあのことで、実は最近……な」

 

 

シャロ「……?」

 

 

 

 

シャロ「ここあのことになると、感情がおかしくなる……ですか」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

リゼ「ここあに嫌われているのかもしれないって思うと、もうまともな判断が出来なくなって……」

 

 

リゼ「気が付いたときには、いつもをここあを怒鳴りつけて……泣かせてしまって……」

 

 

シャロ「………………」

 

 

リゼ「ほんと……なにやってるんだろうなわたし」

 

 

リゼ「こんな調子じゃあ、ここあに嫌われてしまう……」

 

 

シャロ「……嫌いになったりしませんよ、ここあは」

 

 

リゼ「え……?」

 

 

シャロ「リゼ先輩、やっぱり少し変ですよ」

 

 

シャロ「先輩らしくないです、どうしてそんなにここあのことを疑うんですか?」

 

 

リゼ「疑う……?」

 

 

シャロ「リゼ先輩がここあのことを想っているのと同じくらい、ちゃんとここあにも想われているってどうして思えないんです?」

 

 

シャロ「ここあのこと、そんなに信じてあげられませんか?」

 

 

リゼ「……!」

 

 

シャロ「大丈夫です、ここあは、リゼ先輩のこと大好きですから」

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ(わたしが……心のどこかで、ここあを疑っている?)

 

 

リゼ(あんなに、純真なここあを?)

 

 

リゼ(………………)

 

 

リゼ(……そうか)

 

 

リゼ(……だから、こんなに)

 

 

シャロ「リゼ先輩?」

 

 

 

リゼ「……どうすれば、いいんだ」ガクッ

 

 

 

シャロ「っ!?」

 

 

リゼ「わたしは……ほんとうにここあの側にいてもいいのか……」

 

 

リゼ「こんなわたしが、ずっとここあに愛してもらえるのか……」

 

 

シャロ「リゼ先輩……?」

 

 

リゼ「分からない……怖い……」ブルブル

 

 

リゼ「この気持ちをどうすればいい……教えてくれ、ここあ……」ガクガク

 

 

シャロ「先輩!しっかりしてください!」

 

 

シャロ「どこか座る場所……!」

 

 

シャロ「――もしもし千夜!手が空いてたら公園まで来て、リゼ先輩が……!」

 

 

リゼ「ここあ……ここあ……」ガクガク

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

リゼ(今日はチノにも千夜にもシャロにも、みんなに迷惑かけてしまったな……)

 

 

リゼ(……すっかり遅くなった)

 

 

リゼ(ここあ……いなくなったりしてないよな?)

 

 

 

――リゼの部屋――

 

 

リゼ「…………」ガチャッ バタン

 

 

ここあ「すぅ……すぅ…………」Zzz

 

 

リゼ「……良かった」

 

 

リゼ「ここあ、ただいま……」ナデナデ

 

 

ここあ「ん……♪」Zzz

 

 

リゼ「……ここあ」スッ

 

 

リゼ「ふふっ、かわいいな……おまえは」ナデナデ

 

 

リゼ「それに、優しい……」スリスリ

 

 

ここあ「…………」Zzz

 

 

 

リゼ「……だから、なのかな」

 

 

 

リゼ「いくら側にいても、抱きしめても……」

 

 

 

リゼ「こんなに不安が消えないのは……」ギュッ

 

 

 

ここあ「んっ……」Zzz

 

 

リゼ「お前がずっとそばにいてくれるって、確証がほしい……」

 

 

リゼ「一生どこにもいかないでくれるっていう、確証がほしい……」

 

 

リゼ「……どうすれば、手に入るんだろう」

 

 

リゼ「なぁ、ここあ……」

 

 

ここあ「ん……りぜちゃん……?」ポワポワ

 

 

リゼ「おはよう、ここあ……ただいま」ニコッ

 

 

ここあ「んっ……」クシクシ

 

 

ここあ「りぜちゃん、おかえりなさい!」ギュッ

 

 

リゼ「おっと……ふふっ」

 

 

ここあ「きょうはおそかったね、おつかれさま」

 

 

リゼ「!」

 

 

ここあ「ちょっとだけ寂しかったよ、えへへ」ニコッ

 

 

リゼ「……!」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

ここあ「ん……リゼちゃん?」

 

 

 

リゼ「……すまない」

 

 

 

リゼ「そっか……そうだな」

 

 

 

ここあ「?」

 

 

 

――ギュッ

 

 

リゼ「ここあ……大丈夫だ」

 

 

リゼ「もう、邪魔させないからな」

 

 

リゼ「もう誰にも……お前との時間を」スリスリ

 

 

ここあ「りぜちゃん?」

 

 

リゼ「ふふっ……ここあ……」スリスリ

 

 

リゼ「なにがあっても、お前と一緒にいるぞ……ずっと、ずっと」ハイライトオフ

 

 

リゼ「ここあのためなら、わたしは……」

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

II.

 

―――――――――――――――

 

 

 

ここあ……ここあ。

 

 

 

 

……ここあ?

 

 

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

わたしもう、リゼちゃんのことすきでいられないよ……。

 

 

 

いきなりおこったり……いまのりぜちゃん、こわい……。

 

 

 

ちのちゃんのところに―――らびっとはうすに、もどるね……。

 

 

 

さようなら……。

 

 

 

りぜちゃん……きらい。

 

 

 

――

 

――――

 

 

――――――

 

 

 

 

いやだ……。

 

 

 

 

いかないでくれ……。

 

 

 

 

お前に見捨てられたら、わたしは――

 

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

ここあ「りぜちゃん、りぜちゃん!」ユサユサ

 

 

 

リゼ「うぁああああぁっ!!!?」

 

 

 

ここあ「!」

 

 

リゼ「はぁ……はぁ……!」

 

 

リゼ「…わたしの、へや……?」

 

 

ここあ「りぜちゃんだいじょうぶ!?」

 

 

リゼ「……!」

 

 

ここあ「ずっとうなされてたよ……?どうしたの?」

 

 

リゼ「ここあ……か?」

 

 

ここあ「……?」

 

 

リゼ「ここあ……ここあっ!!」

 

 

ここあ「きゃっ……!」

 

 

リゼ「っ……!」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「ぐすっ……ひっく……」ポロポロ

 

 

ここあ「こわいゆめでもみたの?」

 

 

リゼ「ここあ……」グスグス

 

 

リゼ「どこにも行かないよな……わたしのこと、嫌いじゃないよな……?」

 

 

ここあ「……?りぜちゃんのことだいすきだよ、どこにもいかないよ」

 

 

リゼ「ほんとうか……?」

 

 

ここあ「うん。だから、なきやんで?」

 

 

リゼ「……っ」ギュッ

 

 

ここあ「こわかったね、よしよし」ナデナデ

 

 

リゼ「っ……」ガリッ…ガリッ…

 

 

ここあ「いつっ……」

 

 

リゼ「ここあ……っ」

 

 

ここあ「りぜちゃん……」

 

 

ここあ「………………」

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

 

お前は、わたしを受け入れてくれる。

 

 

 

………………。

 

 

 

泣いていると、小さな身体で、精一杯抱きしめてくれる。

 

 

 

………………。

 

 

 

わたしには、お前がいればいい。

 

 

 

………………。

 

 

 

お前との毎日が愛しくなるにつれ。

 

 

 

………………。

 

 

 

外の世界が、億劫になってくるよ。

 

 

 

………………。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

――翌日――

 

 

リゼ「…………」

 

 

シャロ「…………」

 

 

リゼ「…………」

 

 

シャロ「あの、リゼ、先輩……?」

 

 

リゼ「ん……?」

 

 

シャロ「最近、また寝不足ですか?」

 

 

リゼ「いや、そんなことないぞ」

 

 

シャロ「でも、目の下にクマが……」

 

 

リゼ「……これか」

 

 

リゼ「実は昨日、嫌な夢を見てな……」

 

 

シャロ「悪夢ですか?」

 

 

リゼ「ああ、思い出したくも無い」

 

 

シャロ「もしかして、ここあのことで何か……」

 

 

リゼ「……」ピクッ

 

 

シャロ「あっ、ごめんなさい!思いだしたくないですよね……」

 

 

リゼ「………………」

 

 

シャロ「そ、そういえば、ここあは元気ですか?最近あんまり会えて無くて……」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

シャロ「また、会いに行ってもいいですか?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

シャロ「リゼ先輩……?」

 

 

リゼ「すまない、そろそろいくよ」スタスタ

 

 

シャロ「あっ、先輩……」

 

 

シャロ「……………」

 

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

――ラビットハウス――

 

 

リゼ「…………」

 

 

チノ「…………」

 

 

リゼ「…………」

 

 

チノ「……き、今日もお客さん、少ないですね」

 

 

リゼ「そうだな……」

 

 

チノ「…………」

 

 

チノ「リゼさん……あの……」

 

 

リゼ「……?」

 

 

チノ「……ここあさんは、元気ですか?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

チノ「リゼさん……?」

 

 

リゼ「ああ、元気だぞ」

 

 

チノ「そうですか」

 

 

リゼ「早くここあに会いたい……」

 

 

チノ「…………」

 

 

リゼ「んっ……もうこんな時間か、帰ろう」

 

 

チノ「あ……ま、待ってください」

 

 

リゼ「……?」

 

 

チノ「えっと、少しお話しませんか?あ、そういえば昨日マヤさんが……」

 

 

リゼ「すまないチノ、また今度でいいか?ここあが待ってるんだ」

 

 

チノ「ぅ……で、ですが、その……」

 

 

リゼ「急いでるんだ、ごめん」

 

 

チノ「あっ…………」

 

 

ガチャッ バタン

 

 

チノ「……!」ピポッパッ

 

 

チノ(千夜さん……出てください……!)

 

 

チノ(でないと……リゼさんが帰って……)

 

 

 

 

…………っ。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

――甘兎庵――

 

 

千夜「………………」ナデナデ

 

 

ここあ「んっ……」Zzz

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜(やっと寝てくれたわ)

 

 

千夜「……………………」

 

 

 

――スッ

 

 

 

千夜「……!」

 

 

 

千夜(背中のこれ、引っかき傷……?)

 

 

千夜(お腹のこのアザ……)

 

 

千夜(肩のこの傷、指の痕……?)

 

 

千夜(腕以外にもこんなにたくさん……)

 

 

千夜(……やっぱり)

 

 

 

千夜「ここあちゃん……?この傷、転んだんじゃないわよね?」

 

 

千夜(これ……間違いなく――)

 

 

 

 

リゼ「――千夜」

 

 

 

 

千夜「!?」ビクッ

 

 

リゼ「ここあ……やっぱりここにいたのか」

 

 

千夜「り、リゼちゃん……いらっしゃい」ニコッ

 

 

リゼ「寝てるのか?」

 

 

千夜「ええ、遊び疲れたみたい」

 

 

リゼ「そうか。……千夜、これからは連れ出すなら一言連絡してくれ。帰ったら部屋にいないから驚いた」

 

 

千夜「ごめんなさい……」

 

 

千夜「……」チラッ

 

 

千夜(チノちゃんから着信来てる……気付かなかった……)

 

 

リゼ「世話になってすまないな。すぐに連れて帰るよ」ヒョイ

 

 

千夜「あっ……」

 

 

リゼ「ありがとう、またな千夜」

 

 

千夜「リゼちゃん、待って」

 

 

リゼ「?」

 

 

 

千夜「……ここあちゃんの、腕や身体のアザ」

 

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「ここあちゃんに聞いたら転んだって言ってたけど……違うわよね?」

 

 

リゼ「……」

 

 

千夜「リゼちゃんの、しわざ……?」

 

 

リゼ「……」

 

 

千夜「ねぇ、リゼちゃん……?どうしちゃったの?」

 

 

リゼ「……」

 

 

千夜「どうしてここあちゃんにひどいことするの……?」

 

 

リゼ「……っ」

 

 

千夜「ここあちゃんのこと、あんなに可愛がってたのに……溺愛してたのに……」

 

 

リゼ「……っ!」ギリッ

 

 

千夜「なのにどうして……まさか、ここあちゃんのこと虐待して――!」

 

 

 

リゼ「うるさいっ!!!」

 

 

 

千夜「!?」ビクッ

 

 

リゼ「お前にわたしの気持ちの何がわかるんだっ!!」

 

 

 

千夜「……!」

 

 

ここあ「ふぉぇ……?」

 

 

千夜「リゼちゃん……」

 

 

リゼ「……すまない、千夜」

 

 

リゼ「ごめん……今日は帰るよ」

 

 

リゼ「…………」ガチャッ

 

 

千夜「リゼちゃん、待って……!」

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「リゼちゃん……」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「………………」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

『千夜「どうしてここあちゃんにひどいことするの……?」』

 

 

 

 

二つ返事で返せる答えを持っていながらそれを口に出さないのは、わたしがまだ正常である証なのか、あるいは認知した上での現実逃避の表れなのか。

 

 

 

 

薄々気付いてはいたのだ。識見において明らかに欠けていることも。

 

 

 

 

……でも。

 

 

 

 

心の奥から絶え間なく滲み出るドス黒い感情は、わたしにとって紛れもなく現実で。

 

 

 

 

その行動原理を、行動を抑止する方法も持ち合わせていない。自制心も理性も、今となっては飾りだ。

 

 

 

 

わたしはお前を、虐待したいんじゃない。お前を、泣かせたいんじゃない。

 

 

 

 

わたしは……ただ。

 

 

 

 

『お前の特別でありたいだけなんだ』

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

――翌日 甘兎庵――

 

 

 

千夜「リゼちゃん……前より痩せた?」

 

 

リゼ「……そうかもな」

 

 

千夜「ちゃんとご飯食べてる?」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

千夜「待ってて、栗羊羹でも」

 

 

リゼ「いや、いい」

 

 

リゼ「最近、何を食べてもおいしくないんだ」

 

 

リゼ「甘いとか、辛いとかは分かるんだけど」

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ「……ごめん」

 

 

千夜「ううん、大丈夫よ」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「……リゼちゃん?」

 

 

千夜「……あのね、こんなこと言ったら嫌われちゃうかもしれないけど、でも……言わせて」

 

 

 

千夜「リゼちゃん……きっと病気よ?」

 

 

 

リゼ「……そうだろうな」

 

 

千夜「……!」

 

 

千夜「分かってたの……?」

 

 

リゼ「ここあに暴力を振るって果てや味覚までおかしくなってきてるんだ、気付かないほうがおかしい」

 

 

リゼ「昨日は千夜に八つ当たりまでして……」

 

 

千夜「………………」

 

 

 

 

リゼ「わたしは……狂ってるんだろうな」

 

 

 

 

千夜「……そうかもしれないわ」

 

 

千夜「でも、リゼちゃんよ」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「たとえどんなに狂っていても、リゼちゃんはリゼちゃんだから」

 

 

千夜「わたしの大切な友達……わたしだけじゃないわ、チノちゃんにとってもシャロちゃんにとっても」

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

千夜「リゼちゃん……近いうちに一度、病院に行きましょう」

 

 

千夜「なにかあったらここあちゃんのことはわたしが面倒見るから……ね?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「…………」チラッ

 

 

ここあ「ん……」Zzz

 

 

リゼ「……少し、考えさせてくれ」

 

 

千夜「ここあちゃんと離れ離れになるのがイヤ……?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「そう……わかったわ」

 

 

千夜「急に呼び出してごめんなさい。……ここあちゃんも付いてくるなら、わたしから訪ねて行けばよかったわね」

 

 

リゼ「すまない、今日に限って聞き分けが悪くてな……」

 

 

千夜「リゼちゃんのこと、好きなのね」

 

 

リゼ「こんなに酷いことしてるのにな……不思議な奴だよ」

 

 

リゼ「……ここあ」ナデナデ

 

 

ここあ「ふぉぇ……」Zzz

 

 

リゼ「遅くなってごめんな、帰ろう」ヒョイ

 

 

リゼ「邪魔したな、千夜」

 

 

千夜「……リゼちゃん」

 

 

リゼ「……?」

 

 

千夜「最後に、これだけは言わせて」

 

 

千夜「わたし、リゼちゃんのことも大切だけど、ここあちゃんのことも同じくらい大切なの」

 

 

千夜「二人のどっちにも、絶対不幸になってほしくない」

 

 

千夜「……だから、ね」

 

 

 

千夜「もし、リゼちゃんがこれからも今のままなら……ここあちゃんに、暴力を振るったりするのなら」

 

 

 

千夜「例えリゼちゃんに嫌われたとしても、ここあちゃんに恨まれたとしても、わたしはリゼちゃんとここあちゃんのこと、引き離すから」

 

 

千夜「リゼちゃんのこと、無理矢理にでも病院に連れて行くから」

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「……ごめんなさい」

 

 

リゼ「……千夜?」

 

 

千夜「……?」

 

 

リゼ「……ありがとう」ニコッ

 

 

千夜「リゼちゃん……」

 

 

リゼ「優しいな、千夜は」

 

 

リゼ「お前だけじゃない、チノも、シャロも……」

 

 

リゼ「逃げられる場所が、あまりに多すぎるよ」

 

 

千夜「え……」

 

 

リゼ「……」ガチャッ バタン

 

 

千夜「………………」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

――リゼの部屋 IN ベッド―

 

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

『千夜「なにかあったらここあちゃんのことはわたしが面倒見るから」』

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

 

ここあと離れ離れになるのは、嫌だ。

 

 

 

 

それ自体は紛うこと無き本音で、どれほどの嘘を心に重ねようとも揺らぐことのない本心だ。

 

 

 

 

――でも。

 

 

 

 

それはあくまで、わたし自身の幸福という身勝手極まりないものにおいて焦点を当てただけの結論で。

 

 

 

 

そこにここあの幸福を加味するのであれば、全く正反対の結論に至る。

 

 

 

 

――わたしの側から、離れてほしい。

 

 

 

 

一見矛盾した二律背反の願望は、それでもなおコインの裏表のように繋がっていて。

 

 

 

 

どちらも嘘偽りのない、わたしの本心で。

 

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

 

結局、自我を通してここあの全てを無理矢理奪うことも、ここあのことを想って手に入れた全てを投げうつこともできない。

 

 

 

 

正常にも、狂気にもなれない。

 

 

 

 

そんな中途半端な自分に苛立って、またお前に理不尽な暴力を振るってしまう。

 

 

 

 

お前に嫌われることでしか、正常な結論に振り切る術を知らないから。

 

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

 

矛盾行動の根底には、味覚を狂わすほどにまで悩んだ末に同一された行動原理が確かに存在している。

 

 

 

 

リゼ「わたしは――本当に狂っているのか……」

 

 

 

 

ここあ「りぜちゃん」ヒョイ

 

 

リゼ「ん……?」

 

 

 

ここあ「だいじょうぶ?つかれたの?」

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

ここあ「そうだ、わたしがなでなでしてあげるっ」

 

 

リゼ「……撫でてくれるのか?」

 

 

ここあ「りぜちゃん……――」スッ

 

 

リゼ「……!」

 

 

ここあ「なでなで、なでなで♪」

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

伸ばされた小さな手は、いつも暖かくて。

 

 

 

人肌やぬくもりなんて概念をいとも簡単に飛び越えて。

 

 

 

視界に映る景色も、目に見えない気持ちの黒色さえも塗り替えてくれる。

 

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

リゼ「抱きしめても、いいか?」

 

 

ここあ「うん!――えいっ♪」ポスッ

 

 

リゼ「…………」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃん、げんきになった?」

 

 

リゼ「ああ……」

 

 

リゼ「ここあがいれば、すぐに元気になれるよ」

 

 

ここあ「えへへ」ニコッ

 

 

 

 

屈託のないお前の笑顔は。

 

 

 

またわたしを、逃げ道の無い袋小路へと追いやってくる。

 

 

 

お前のことより、自分の気持ちを優先しろと言わんばかりに、

 

 

 

優柔不断、偽善者、悪人、狂人。

 

 

 

自分を責める言葉は枚挙に暇が無いほど浮き出てくるが、悲しいかな、それも詮無いことの一言で折り合いが付いてしまうのだ。

 

 

 

リゼ「ここあ……」スリスリ

 

 

ここあ「りぜちゃんくすぐったいよぉ」キャッキャッ

 

 

 

 

例え狂っていても、正常でも。

 

 

 

お前に触れて感じられるぬくもりだけは、変わらないのだから。

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

シャロ「あっ、リゼ先輩……!」

 

 

リゼ「ん……シャロか」

 

 

シャロ「あの、今日は部活の助っ人じゃあ……?」

 

 

リゼ「気分が乗らないから断ったよ。どの道、今のわたしじゃ役に立てないだろうし」

 

 

シャロ「そうでしたか……」

 

 

リゼ「シャロも帰りか?」

 

 

シャロ「はい……あっ、良かったら久しぶりにどこか寄っていきません?そういえば最近ステーショナリーショップの横にスイーツのお店がオープンしたそうですよ」

 

 

リゼ「スイーツ、か」

 

 

シャロ「よろしければ、リゼ先輩もどうです?」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

シャロ「ここのタルト、クラスの間でも評判なんですよ」

 

 

リゼ「おいしそうだな……どれ」

 

 

リゼ「……」モグモグ

 

 

シャロ「わぁ、おいしいですね……!」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

シャロ「リゼ先輩、どうですか?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「……」

 

 

リゼ「」

 

 

シャロ「先輩……?」

 

 

リゼ「シャロ、ごめん。もう帰るよ」

 

 

シャロ「えっ?」

 

 

リゼ「感想はまた明日教えるから、すまない」

 

 

シャロ「リゼ先輩!?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

リゼ「ただいま」ガチャッ

 

 

ここあ「あっ、りぜちゃん!おかえりなさい」タタタ

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

ここあ「ふぉぇ?りぜちゃん、そのふくろなに?」

 

 

リゼ「これか?これはお前へのお土産だ」

 

 

ここあ「おみやげ?」

 

 

リゼ「ああ。ほら、チーズタルトだ」

 

 

ここあ「わぁ、おかし!」ピョンピョン

 

 

リゼ「晩御飯前だけど特別に食べていいぞ」

 

 

ここあ「ほんと!えへへ、いただきます♪」

 

 

ここあ「………………」モグモグ

 

 

リゼ「どうだ?」

 

 

ここあ「ん……すっごくおいしいよ!」

 

 

リゼ「……!」

 

 

ここあ「はい、りぜちゃんも、あーん」

 

 

リゼ「大丈夫だぞ、わたしの分もある」スッ

 

 

リゼ「…………」

 

 

パクッ

 

 

リゼ「…………」モグモグ

 

 

リゼ「――!」

 

 

ここあ「どう?」

 

 

リゼ「ああ……おいしい」ニコッ

 

 

リゼ「ちゃんと、味がわかるよ」

 

 

ここあ「?」

 

 

リゼ「ふふっ……」ヒョイ

 

 

ここあ「りぜちゃん?」

 

 

リゼ「やっぱりお前がいないとダメみたいだ……」ギュッ

 

 

ここあ「がっこうでなにかあったの?よしよし」ナデナデ

 

 

リゼ「ここあ……」スリスリ

 

 

 

リゼ(わたしは、どうすればいいんだろう)

 

 

 

ここあ「…………?」

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

――夕方 ラビットハウス――

 

 

チノ「……そうですか」

 

 

千夜「きっとリゼちゃんも、色々と辛いんでしょうね」

 

 

チノ「………………」

 

 

チノ「でも……このままだと、ここあさんも、リゼさんも……」

 

 

チノ「なんだか……遠くに行ってしまうような気がするんです」

 

 

千夜「……大丈夫、わたしが何とかするわ」

 

 

千夜「だから、チノちゃんは今まで通りリゼちゃんに接してあげて?」

 

 

チノ「………………」

 

 

千夜「みんなそれぞれができること、精一杯頑張りましょう」

 

 

チノ「……はい」

 

 

千夜「無理させてごめんなさい……必ず、また元通りになるから」ナデナデ

 

 

チノ「…………」グスッ

 

 

千夜「…………」ギュッ

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

千夜「……」ガチャッ バタン

 

 

シャロ「千夜、お疲れ様」

 

 

千夜「!シャロちゃん……」

 

 

シャロ「チノちゃん、どうだった?」

 

 

千夜「うん……やっぱり辛そうね……」

 

 

シャロ「そう……無理もないわ」

 

 

千夜「解決法も見つからないから余計に辛いのよね、きっと」

 

 

シャロ「……ここあの痣のこと、チノちゃんに教えなくていいの?」

 

 

千夜「……チノちゃん、きっとショックで泣いちゃうと思うから」

 

 

シャロ「…………」

 

 

千夜「シャロちゃんの方はどうだった?」

 

 

シャロ「一緒に寄り道はできたんだけど、タルトを一口食べたらなぜかリゼ先輩すぐに帰っちゃって……」

 

 

千夜「…………」

 

 

シャロ「確かに様子は変だけど……ちゃんとここあの分も買ってたし、千夜の言うようにわたしもリゼ先輩がここあを虐待しているようには見えないわ」

 

 

シャロ「最近は部活の助っ人まで断って真っ直ぐ家に帰ってるみたいだし……むしろ、前以上に溺愛してるように見える」

 

 

千夜「……あまりに、愛し過ぎるのかしら」

 

 

シャロ「えっ?」

 

 

千夜「知ってるシャロちゃん?愛情と憎悪って対極にあるような気がするけど、実際は紙一枚程度の隔たりだそうよ」

 

 

千夜「……手遅れになる前に、どうにかしないと……」

 

 

シャロ「千夜……?」

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

『みんなそれぞれができること、精一杯頑張りましょう』

 

 

チノ「………………」

 

 

チノ(明日は午前まで……リゼさんは通常授業……)

 

 

チノ「…………」

 

 

ここあ(チノちゃん、また二人でおでかけしようね!)

 

 

チノ「……ここあさん」

 

 

チノ「……っ」グッ

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

――翌日――

 

 

トントン

 

 

ここあ「ふぉぇ……?だあれ?」

 

 

チノ「失礼します」ガチャッ

 

 

ここあ「ちのちゃんっ!」

 

 

チノ「ここあさん……」

 

 

ここあ「ちのちゃーん♪」ギュッ

 

 

チノ「久しぶりですね、元気でしたか?」

 

 

ここあ「うん!ちのちゃん……」スリスリ

 

 

チノ「……?ここあさん、腕、怪我したんですか?」

 

 

ここあ「――!うん……ころんだの」スッ

 

 

チノ「そうですか……気を付けないとダメですよ」

 

 

ここあ「えへへ……」ニコッ

 

 

チノ「ここあさん、今日はいい天気ですね」

 

 

チノ「良かったら、二人でどこか遊びに行きませんか?」

 

 

ここあ「……!おそと……?」

 

 

チノ「はい、この前ケーキを買いに行ったデパートまで散歩しませんか?ここあさんの好きなもの、なんでも買ってあげますよ」

 

 

ここあ「………………」

 

 

チノ「ここあさん……?」

 

 

ここあ「ちのちゃん……わたしといきたい?」

 

 

チノ「もちろんですよ、ここあさんといっしょに行きたいです」

 

 

ここあ「……そっか」

 

 

チノ「……ダメですか?」

 

 

ここあ「……ううん!わたしもちのちゃんといきたい!」

 

 

チノ「!」

 

 

ここあ「いっしょにおさんぽいこっ♪」

 

 

チノ「くすっ……はい、たくさん遊びましょうね」

 

 

ここあ「うん」ニコッ

 

 

ここあ「………………」

 

 

ここあ(りぜちゃん……ごめんね)

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

チノ「…………」

 

 

ここあ「♪~♪♪」

 

 

ここあ「こころぴょんぴょんまち♪かんがえるふりして――」

 

 

チノ「ここあさん」

 

 

ここあ「ん?」

 

 

チノ「……」キョロキョロ

 

 

ここあ「ちのちゃん?」

 

 

チノ「少し、内緒話ししてもいいですか?」

 

 

ここあ「ないしょばなし?わかった、しっーだね」

 

 

チノ「ありがとうございます」ナデナデ

 

 

チノ「……最近、リゼさんの様子が変だと思いませんか?」

 

 

ここあ「りぜちゃんが?」

 

 

チノ「ここあさんに対して、前以上に過保護になったといいますか……」

 

 

チノ「上手く表現できないんですが……その、見ていて異常なように感じて……」

 

 

ここあ「そんなことないよ?りぜちゃんはいつもやさしいもん」

 

 

チノ「もちろんそうですが……」

 

 

ここあ「…………」

 

 

チノ「なにか、変わったこととかありません?」

 

 

ここあ「だいじょうぶだよ」ニコッ

 

 

チノ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん……ちのちゃんになにかしちゃった?」

 

 

チノ「いいえ、わたしには特に……」

 

 

ここあ「そっか……ちのちゃん?」

 

 

ここあ「りぜちゃんのこと、きらいにならないであげてね?」

 

 

チノ「……ここあさん」

 

 

チノ「大丈夫ですよ、リゼさんのこと絶対嫌いになったりしません」ナデナデ

 

 

チノ「だからここあさんも、何かあったらすぐに教えてくださいね」

 

 

ここあ「うん!」

 

 

チノ(ここあさんは何も変わっていない……やっぱりわたしたちの気のせいでしょうか……)

 

 

ここあ「ちのちゃん?」

 

 

チノ「――そろそろ3時ですね、帰りましょうか」

 

 

チノ(リゼさんが帰ってくる前に送り届けてあげないと)

 

 

ここあ「ちのちゃん、『て』つなごう?」

 

 

チノ「いいですよ」クスッ

 

 

ここあ「えへへ♪」ニヘラ

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

――天々座家――

 

 

ここあ「ただいま~!」ガチャッ

 

 

チノ「…―――!」

 

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

チノ「リゼさん……!?」

 

 

リゼ「……チノだったのか、ここあを連れ出したのは」

 

 

チノ「あ…………」カタカタ

 

 

ここあ「りぜちゃん……」

 

 

リゼ「胸騒ぎがしたから急いで帰ってきてみれば……」

 

 

チノ「はうぅ…………」ガクガク

 

 

リゼ「――チノ?」

 

 

チノ「!」ビクッ

 

 

リゼ「千夜にも言ったが……連れ出すのなら連絡してくれ」

 

 

チノ「ご、ごめんなさい……」

 

 

リゼ「……ここあが世話になったな」

 

 

リゼ「ありがとう……戻ってくれていいぞ」

 

 

チノ「あ、あの……」

 

 

リゼ「……?」

 

 

チノ「……リゼさん……最近、なにか疲れていませんか?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

チノ「もし何かありましたら、ここあさんのことやラビットハウスのことは引き受けますから……その……無理しないでくださいね?」

 

 

リゼ「……ああ、ありがとう」

 

 

チノ「では、また……」

 

 

ここあ「ちのちゃん」

 

 

チノ「?」

 

 

ここあ「きょうはありがとう」ニコッ

 

 

チノ「ここあさん……」

 

 

ここあ「……ごめんね」

 

 

チノ「え……」

 

 

リゼ「……」バタン

 

 

チノ「あ……」

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「……また、約束を破ったな」

 

 

ここあ「……ごめんなさい」

 

 

リゼ「……こい」グイッ

 

 

ここあ「あっ……」

 

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

どうしてみんな、わたしからここあを奪う……?

 

 

 

 

どうしてみんな、邪魔をするんだ……。

 

 

 

 

わたしが不安に駆られるのが、そんなに楽しいか……?

 

 

 

 

ここあにとってふさわしい人間でいられないわたしを、嘲笑いたいのか。

 

 

 

 

ここあとわたしを、引き裂きたいのか。

 

 

 

 

……わたしのシアワセを、うばいたいのか。

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

……違うよな。

 

 

 

 

分かっていながら、また繰り返す。

 

 

 

 

意と反する矛盾した行動を、ただ永遠に。

 

 

 

 

――リゼの部屋――

 

 

パシン!

 

 

ここあ「きゃっ!」

 

 

ここあ「うぅ……」グスッ

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

リゼ「なんで……どうして…………」ハイライトオフ

 

 

リゼ「ここあ……どうしてわたしのものになってくれないんだ……」

 

 

ここあ「りぜちゃん……」ブルブル

 

 

リゼ「やっぱり消えないアザでも作らなきゃダメみたいだな」ググッ

 

 

ここあ「あぁっ゛!りぜちゃんやめて……いたい」ポロポロ

 

 

りぜ「ここあ……」ガリッ…ガリッ…

 

 

ここあ「いたいよぉ……!ごめんなさい、ごめんなさい……」ポロポロ

 

 

リゼ「わたしは愛してるんだ……この世で一番お前のことを……」

 

 

リゼ「なのに……なのにお前は……」

 

 

リゼ「……っ!」グググ

 

 

ここあ「りぜちゃん……ぅぇぁっ……!」

 

 

リゼ「ここあ……ここあ……!」

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」ナデナデ

 

 

リゼ「グスッ……グスッ……」ポロポロ

 

 

ここあ「…………」ナデナデ

 

 

リゼ「ぅぐ……ひっく……」

 

 

ここあ「りぜちゃん、なかないで……?」

 

 

リゼ「ぇぅ……ぅっく……」ポロポロ

 

 

ここあ「よしよし……」

 

 

リゼ「ここあ……ごめん……」

 

 

リゼ「痛かったよな……ごめんな、ごめんな……」ポロポロ

 

 

ここあ「だいじょうぶ……だいじょうぶだよ」ナデナデ

 

 

リゼ「ここあぁ……うぅっうぇええぇ……」ポロポロ

 

 

ここあ「わたしがりぜちゃんのことひとりぼっちにしたから……」

 

 

リゼ「ひっく……ぇぅ……」ポロポロ

 

 

ここあ「ごめんね、もうはなれたりしないよ」

 

 

リゼ「ここあ……っ!」ギュッ

 

 

ここあ「…………」ナデナデ

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

――深夜 IN ベッド――

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん、ねるまえにえほんよんで?」

 

 

リゼ「ああ、いいぞ」

 

 

ここあ「やったぁ!えっとね、このまえかったこれがいい」

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「……ここあ?」

 

 

ここあ「ん?」

 

 

リゼ「絵本を読む前に大事な話がある……いいか?」

 

 

ここあ「だいじなおはなし?」

 

 

リゼ「ああ、ここに座ってくれ」

 

 

ここあ「りぜちゃんのおひざじゃだめ?」

 

 

リゼ「……ダメだ」

 

 

ここあ「」シュン

 

 

――ポスッ

 

 

ここあ「りぜちゃん、どうしたの?」

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

リゼ「…………っ」

 

 

ここあ「……?」

 

 

リゼ「…………」ウツムキ

 

 

ここあ「りぜちゃん?」

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

 

 

リゼ「――明日から、ラビットハウスに戻ってくれ」

 

 

 

 

ここあ「……え」

 

 

リゼ「チノのところに戻ってくれ……千夜のところでもいい、シャロのところでもいい……わたしから離れてくれ」

 

 

ここあ「…………」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「……どうして」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「わたしのこと、きらいになっちゃった……?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「やくそくやぶったから……?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「グスッ……ごめんなさいりぜちゃん、もうしないから……」ウルウル

 

 

ここあ「だからきらいになっちゃやだ……」ジワッ

 

 

リゼ「違うんだ、ここあ」

 

 

リゼ「お前のことは好きだぞ……わたしもできれば、ずっといっしょにいたい」

 

 

リゼ「でも、もう無理なんだ……」グスッ

 

 

ここあ「……!」

 

 

リゼ「さっきみたいに、お前のことを叩いたり怒鳴ったりしてしまう……お前のことが、大切でたまらないのに……なのに……」

 

 

ここあ「………………」

 

 

リゼ「ごめんな、ここあ……千夜やみんなの言う通りなんだ」

 

 

 

 

リゼ「わたしは、狂ってるんだよ」

 

 

 

 

リゼ「これ以上お前といっしょにいたら、なにをしてしまうか分からない……」

 

 

リゼ「もうお前といっしょにいられない……これ以上お前のそばにいたら……」

 

 

ここあ「いやっ!」

 

 

リゼ「!」

 

 

ここあ「いや……いやだよ……!」フルフル

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

ここあ「……っ」ギュッ

 

 

ここあ「だいじょうぶ……わたし、へいきだから」

 

 

ここあ「だからどこにもいっちゃダメ……」グッ

 

 

ここあ「りぜちゃんとはなればなれになるの、いやだよ……」グスッ

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

リゼ「ありがとう……嬉しいぞ」

 

 

リゼ「でも、分かってくれ。わたしなんかといっしょにいたら、お前まで……」

 

 

ここあ「っ……!」フルフル

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

ここあ「ちがうよ……」

 

 

ここあ「りぜちゃんは、まえよりさみしがりやになっただけだもん……」グスッ

 

 

ここあ「あたたかいよ……やさしいよ」

 

 

ここあ「わたしのすきなりぜちゃんだよ……」ジワッ

 

 

ここあ「……くるってなんかないもん」ポロポロ

 

 

リゼ「……!」

 

 

ここあ「みんなりぜちゃんにひどいこといっちゃだめ……」ポロポロ

 

 

ここあ「りぜちゃんをなかせたら……だめ……」ポロポロ

 

 

ここあ「りぜちゃん……っ!」ギュッ

 

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

――狂うって……なんなんだ。

 

 

 

 

大多数の常識や、社会の枠組みから逸脱したら?

 

 

 

 

人知では図りえない感情を持ってしまったら?

 

 

 

 

もし偏狭な枠から一歩外に踏み込んだ人間が、狂気だとするのなら。

 

 

 

 

いま見ているのは、以前のわたしが見ていたのとは似ても似つかない世界なのか。

 

 

 

 

……でも。

 

 

 

 

それももはや、どうでもいいことだ。

 

 

 

 

目の前にいる小さなこの子は、わたしのとって何ら変わりの無い天使なのだから。

 

 

 

 

この子は、いまのわたしでも良いと言ってくれたのだ。

 

 

 

 

今のわたしを、好きだと言ってくれたのだ。

 

 

 

 

なら、もう……。

 

 

 

 

この子と離れるくらいなら……この子の気持ちを否定してあまつさえ、自分の気持ちを否定することでしか元に戻れないのなら。

 

 

 

 

正常な世界なんて、もう要らない。

 

 

 

 

わたしには、ここあだけがいればいい。

 

 

 

 

お前となら、今のままでも十分幸せでいられるのだから。

 

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「……ここあ?」

 

 

ここあ「?」

 

 

リゼ「んっ……」

 

 

―チュッ

 

 

ここあ「!」

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「ありがとう……」ナデナデ

 

 

リゼ「お前がそういうなら、きっとそれが正しい……いや、真実なんだ」

 

 

リゼ「ここあ……」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……あったかい……」

 

 

リゼ「ごめんな……わたしはもう、絶対にお前を諦めたりしない」

 

 

リゼ「誰に何を言われようと、お前の側にいる……」

 

 

リゼ「お前の気持ちを、言葉を否定しようとするものは、わたしが全部失くしてやる……」

 

 

リゼ「例えどれだけ自分を嫌いになったとしても、お前がわたしのことを好きだと言ってくれるなら……お前が、わたしを必要としてくれるなら……」スッ

 

 

ここあ「……りぜちゃん」

 

 

 

 

リゼ「――たとえ誰をころしても……お前をころしてしまったとしても。ここあが望んでくれるなら、永遠に、ずっと、一緒にいたい」

 

 

 

 

ここあ「…………」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「……うそじゃない?ほんと……?」

 

 

リゼ「ああ」

 

 

ここあ「……っ」ギュッ

 

 

ここあ「よかった……」

 

 

ここあ「一緒にいてもいいんだね……」

 

 

 

ここあ「いくらりぜちゃんにたたかれても……わたし、どこにもいかなくていいんだね」

 

 

 

リゼ「ああ……」

 

 

ここあ「りぜちゃん、すき……だいすき」スリスリ

 

 

ここあ「なにをされてもずっと、りぜちゃんのことがいちばんすきだよ……」

 

 

リゼ「ふふっ……ここあ……」

 

 

リゼ「わたしもだ……すきだ、だいすきだ……」

 

 

リゼ「あははっ……あったかいな……お前は」

 

 

リゼ「もう、何も要らない……」

 

 

リゼ「お前のぬくもりさえあればいい……」ギュッ

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「もうわたしは、大丈夫だからな」ニコッ

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

 

III.

 

―――――――――――――――

 

 

 

――天々座家 リゼの部屋――

 

 

リゼ「…………」キュッ

 

 

ここあ「りぜちゃん、たいそうふくもった?」

 

 

リゼ「ああ、玄関に置いてある」

 

 

ここあ「じゅんびかんりょうだね」

 

 

リゼ「…………」ナデナデ

 

 

ここあ「ん……そろそろしゅっぱつ?」

 

 

リゼ「……そうだな」チラッ

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「まだ少し早いな……」

 

 

リゼ「ここあ……抱きしめてもいいか?」

 

 

ここあ「えへへ、いいよ」ニコッ

 

 

――ギュッ

 

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「りぜちゃん……あったかい?」

 

 

リゼ「ああ……」

 

 

ここあ「よかった……いっぱいあっためてあげるね」

 

 

リゼ「わたしの身体、冷えてるか?」

 

 

ここあ「そんなことないよ、りぜちゃんもぽかぽか♪」

 

 

リゼ「そうか……こんなの巻いてても意味無いんだがな」

 

 

ここあ「かして!」

 

 

リゼ「んっ……?」シュル

 

 

ここあ「まふらーもいっしょにあたためてあげる」ギュッ

 

 

リゼ「ここあ……ふふっ、優しいな、お前は」スリスリ

 

 

ここあ「どう、あったかい?」

 

 

リゼ「ああ、ここあのぬくもりだけはちゃんと分かるぞ」

 

 

ここあ「りぜちゃん……ひとりでだいじょうぶ?」

 

 

リゼ「心配するな、すぐに帰ってくるから」

 

 

ここあ「んっ、いってらっしゃい!」

 

 

リゼ「」ニコッ

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

 

大丈夫。

 

 

 

 

お前がいてくれるなら。

 

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

 

この色彩を持たない景色も。

 

 

 

 

極寒すらも感じられないほど歪んだ体感も。

 

 

 

 

生きるために味のしない物を口に運ぶ義務も。

 

 

 

 

もはや苦痛でしかない、お前といる以外の時間も。

 

 

 

 

ここあの笑顔を見るだけで、全て耐えられる。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ(やっと終わった……)

 

 

リゼ(次はラビットハウスか……)

 

 

リゼ(………………)

 

 

 

リゼ(……遅いな)イライラ

 

 

 

シャロ「先輩、お待たせしました」ハァハァ

 

 

リゼ「シャロ……」

 

 

シャロ「すいません、ホームルームが長引いて――」

 

 

リゼ「帰るぞ」

 

 

シャロ「へっ?あ、は、はい……」

 

 

リゼ「…………」チッ

 

 

シャロ(リゼ先輩……いま、舌打ちしたわよね)

 

 

シャロ「…………」ビクビク

 

 

リゼ「…………」スタスタ

 

 

シャロ「せ、先輩……?」

 

 

リゼ「……なんだ?」

 

 

シャロ「えと……そ、その……」

 

 

リゼ「早く言え」

 

 

シャロ「あぅ……いえ、なんでも……」

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

リゼ「…………」スタスタ

 

 

シャロ「あっ、リゼ先輩……!」

 

 

 

 

リゼ「着いた……またな、シャロ」

 

 

シャロ「は、はい……いつも自宅まで、すいません」ペコリ

 

 

リゼ「ああ」

 

 

シャロ「…………」チラッ

 

 

リゼ「……?」

 

 

シャロ「…………」

 

 

ガチャッ バタン

 

 

リゼ「……」フゥ

 

 

リゼ(4時には間に合うか……)

 

 

千夜「あらリゼちゃん、おかえりなさい」

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「いま帰り?」

 

 

リゼ「千夜か……ただいま」

 

 

千夜「良かったら少し寄っていかない?試作メニューで良ければサービスするわ」

 

 

リゼ「いや……いい」

 

 

千夜「この間のここあちゃんの件、ゆっくり話したいの」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「リゼちゃん……お願い」

 

 

リゼ「……悪いけど、今日は急いでるんだ」

 

 

千夜「待ってリゼちゃん、せめて10分だけでもいいから――」

 

 

リゼ「……」ダンッ!

 

 

千夜「……!」ビクッ

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「リゼちゃん……?」

 

 

リゼ「聞こえないのか……急いでるんだ」

 

 

千夜「……ごめんなさい」

 

 

リゼ「……すまない」

 

 

千夜「ううん……またね」

 

 

リゼ「ああ……」スタスタ

 

 

千夜「………………」

 

 

千夜「……っ」キュッ

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

チノ「………………」ビクビク

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「……チノ」

 

 

チノ「っ!は、はい……?」

 

 

リゼ「服の袖、汚れてるぞ」

 

 

チノ「あっ……」

 

 

リゼ「拭いてやるからじっとしてろ」

 

 

チノ「ありがとうございます、リゼさん……」

 

 

リゼ「………………」フキフキ

 

 

チノ(リゼさん、優しいままだ……)

 

 

チノ(でも、じゃあこの違和感は……)

 

 

リゼ「よし……」

 

 

チノ「っ……あの……」

 

 

リゼ「んっ……?」

 

 

チノ「――あっ……リゼさん、左手になにか――」スッ

 

 

 

――ピトッ

 

 

 

リゼ「――――!」

 

 

 

チノ「糸クズがくっ付いて――」

 

 

リゼ「うわぁあっ!!」ドンッ

 

 

チノ「っ!?」ドタッ

 

 

チノ「うぅ……リゼ…さん?」

 

 

リゼ「はぁ……はぁ……!」ブルブル

 

 

チノ「……!」

 

 

リゼ「チノ……ごめん、大丈夫か?」

 

 

チノ「は、はい……リゼさんこそ……」

 

 

リゼ「っ……すまない」

 

 

チノ「どうかされたんですか……?」

 

 

リゼ「なんでもない……気にしないでくれ」

 

 

リゼ「本当にごめん……」

 

 

チノ「………………」

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

 

触れられた瞬間に感じたおぞましい感覚は、もはや嫌悪感などという概念を遥かに超えていた。

 

 

 

 

人間が生理的に受け付けないであろう音、光景、匂いの全てを触覚という刺激に集束されたような、あたかもそんな気さえした。

 

 

 

 

その意味合いにおける原因は、当然チノではない。

 

 

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

 

味覚の次に触覚までもが後に続くように、正常を踏み越えてしまっただけだ。

 

 

 

 

それがなぜあんな感覚だったかまでは、知る由も無いが。

 

 

 

 

リゼ「…………!」タタタ

 

 

 

 

だがこの一抹の不安と恐怖は、そんなことについてではない。

 

 

 

 

そう、わたしにとって『人』と触れ合う触覚の有無など、今や『そんなこと』なのだ。

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

リゼ「ここあ……!」

 

 

ここあ「りぜちゃん、おかえりなさい!」

 

 

リゼ「……っ!」ギュッ

 

 

ここあ「わわっ……りぜちゃん?」

 

 

リゼ「ここあ……手を」

 

 

リゼ「――わたしの手を、握ってくれないか?」

 

 

ここあ「りぜちゃんとあくしゅ?うん、いいよ♪」

 

 

 

――ギュッ

 

 

 

リゼ「……!」

 

 

 

ここあ「おそとさむかったんだね、りぜちゃんの『て』つめたくなってる」ニギニギ

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「りぜちゃんもにぎりかえして?あくしゅしよう♪」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「ふぉぇ?りぜちゃん?」

 

 

リゼ「良かった……お前の手、あったかい……」

 

 

リゼ「ここあ……ここあ……」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「ふふっ……ここあ……」

 

 

ここあ「りぜちゃん、またおそとでさみしくなっちゃった?」

 

 

リゼ「ああ、でももう平気だ」

 

 

リゼ「ここに帰ってきて……こうしてお前と抱き合っていれば……」

 

 

リゼ「この嫌な現実を、全て忘れられる」

 

 

リゼ「ここあ……ずっと一緒だ……」スリスリ

 

 

ここあ「うん……」ギュッ

 

 

 

 

大丈夫……。

 

ここあが、いれば……。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

リゼ「今日は麻婆豆腐、か」

 

 

ここあ「おいしそう……!」キラキラ

 

 

リゼ「ここあ、食べられるか?」

 

 

ここあ「うん、めいどさんがあまくちにしてくれたの」

 

 

ここあ「……りぜちゃんは?」

 

 

リゼ「んっ……食べるよ」

 

 

リゼ「いただきます……」パクッ

 

 

リゼ「…………」モグモグ

 

 

ここあ「どう……?」

 

 

リゼ「……辛いな」

 

 

ここあ「やっぱり、おいしくない……?」

 

 

リゼ「ああ、そうだな」

 

 

ここあ「そっか……」シュン

 

 

リゼ「でも大丈夫だ、ここあと一緒に食べるだけでまだおいしいと思える」

 

 

リゼ「だから気にしないでいいぞ」

 

 

ここあ「うん……」

 

 

リゼ「嫌な思いさせてごめんな」

 

 

ここあ「ううん、へいきだよ」

 

 

リゼ「たくさん食べろよ」ニコッ

 

 

ここあ「…………」

 

 

ここあ「りぜちゃん……」

 

 

リゼ「……」モグモグ

 

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

味なんか、いらない。

 

……ここあが、いれば。

 

 

 

 

――深夜 IN ベッド――

 

 

リゼ「ふふっ……」スリスリ

 

 

ここあ「りぜちゃん、またあまえんぼう?」

 

 

リゼ「ここあ……」ギュッ

 

 

リゼ「お前は天使だ……」

 

 

リゼ「わたしには、お前しかいない……」

 

 

リゼ「わたしが生きていることを実感できるのは……もうお前のそばだけだ」

 

 

リゼ「しあわせだ……こうしてお前と抱き合っている間がいちばん………」

 

 

ここあ「うん……わたしもだよ……」ギュッ

 

 

リゼ「暖かいな……ずっとこのままでいたい……」

 

 

リゼ「もう明日なんて来なくていい……永遠に……」

 

 

 

――スッ

 

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「ここあの首は、細いな……」

 

 

リゼ「少し力を込めたら……簡単に締まりそうだ……」

 

 

ここあ「…………」

 

 

リゼ「しんでもお前と一緒にいられるなら……それも悪くないんだけどな……」

 

 

ここあ「りぜちゃんとふたりで、しぬの……?」

 

 

リゼ「ああ……でもわたしなんかのためにここあが犠牲になることは無い」

 

 

リゼ「うそだ……冗談だよ」

 

 

ここあ「……っ」ギュッ

 

 

リゼ「ごめん、怖かったな……」ナデナデ

 

 

ここあ「りぜちゃん、いなくなっちゃいやだよ……?」

 

 

リゼ「ああ、どこにもいかないぞ」

 

 

 

 

リゼ「お前がこの世に生きている限り――――どこにも」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

――翌日――

 

 

 

『配慮』という行為について、人は少し見識を深めるべきではないだろうか。

 

 

 

ドア一枚で隔たれた現実に戻されることが今のわたしにとってどれほどの苦痛か、千夜ははっきり分かっているだろう。

 

 

 

ましてや人としての責務や尊厳を放棄することが出来る休日の、それも早朝ときている。

 

このイライラ指数、常識のある人間ならば察するにあまりある。

 

 

 

人一倍気遣いが出来る千夜のことだ、恐らく当初は平日の帰り道にそのチャンスを窺っていたに違いない。それならば昨日『偶然』会ったことにも合点がいく。

 

 

 

しかし、昨日の不躾極まりないわたしの態度からそれは無理だと判断したのだろう。

 

平日の学校帰りは今となってはもはや地獄から天国への帰路なのだ、寄り道なんてする余裕は無い。

 

 

 

つまるところ、一見配慮が欠けているかに見えるこの狼藉は、千夜なりに精一杯わたしの気持ちを配慮した上での結論だったのだろう。

 

 

 

なぜなら千夜には、『見限る』や『見捨てる』などといった諦観は選択肢すら存在しないから。

 

 

 

千夜は――――あまりに優しいのだ。

 

 

 

それが薄々察せる故にか、その優しさを億劫としか感じることができない今のわたしの感情を、よりいっそう逆撫でするには十分過ぎるほどの材料だった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――甘兎庵――

 

 

 

千夜「リゼちゃん……さいきん寝不足?」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

千夜「ちゃんと寝ないとダメよ、また少し痩せたみたいだし……」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「そうだわ、昨日言ってた新作メニューでも――」

 

 

リゼ「千夜、前置きはいいから早く言ってくれ」

 

 

千夜「…………」

 

 

千夜「……りぜちゃん?」

 

 

 

千夜「ここあちゃん、げんき?」

 

 

 

リゼ「……元気だ、昨日もたくさん遊んだ」

 

 

千夜「そう……」

 

 

千夜「今でもう2週間近く会ってないわ……近いうちにまた会いに行ってもいい?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「ダメ……?ならまた連れてきてもらっても……」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「……りぜちゃん」

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「ねぇリゼちゃん?この前言ったこと覚えてる?」

 

 

千夜「もしリゼちゃんがこのままなら、わたしは嫌われても二人のこと引き離すって」

 

 

千夜「……いまのリゼちゃん、前よりずっとひどくなってるわ」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「ごめんなさい……もう、これ以上は見過ごせない」

 

 

千夜「ここあちゃんのことが心配で、胸が張り裂けそうなの……」ブルブル

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「お願いリゼちゃん、ここあちゃんのことはわたしたちに任せて一度病院に行って?」

 

 

千夜「みんなで付いていくから……」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「どうにもならないかもしれないけど、でもこのままじゃあ――」

 

 

リゼ「……千夜、さっきからお前は何を言ってるんだ」

 

 

千夜「えっ……?」

 

 

リゼ「どうして怪我でも病気でもないわたしが病院なんかに行かなきゃならない?」

 

 

千夜「……!」

 

 

リゼ「ここあを任せろだと?別にお前たちに任せなくても平気だ」

 

 

リゼ「わたしはここあを、ここあはわたしを必要としてくれてる……お前たちが出る幕じゃない」

 

 

リゼ「用件はおしまいか?もう帰るぞ」

 

 

千夜「リゼちゃん……待って!」

 

 

リゼ「……?」

 

 

千夜「どうしちゃったのリゼちゃん!ねぇ!」

 

 

リゼ「うるさい、大声出すな」

 

 

千夜「この前言ってたわよね、自分が狂ってきてるって……!」

 

 

リゼ「……あれは、わたしの勘違いだったんだ」

 

 

リゼ「本当に狂っているのは――――千夜、お前たちのほうだ」

 

 

千夜「……!?」

 

 

リゼ「わたしは狂ってなんかいない……ここあがそう言ってくれた」

 

 

リゼ「ここあは本当のことしか言わない……わたしが原因じゃないのなら、お前たちがおかしいだけだ」

 

 

千夜「リゼちゃん……」

 

 

リゼ「帰るぞ、ここあを待たせてるんだ」

 

 

千夜「リゼちゃん待って!……やっぱり狂ってる、優しいリゼちゃんがこんなこと言うわけないわ!」

 

 

リゼ「……」ピクッ

 

 

千夜「わたしの知っているリゼちゃんは現実から目を逸らして殻に籠もったりしない!そんな卑怯者じゃない!」

 

 

千夜「りぜちゃん……お願い、戻ってきて……」グスッ

 

 

リゼ「…………」ツカツカ

 

 

千夜「……?」

 

 

――グイッ!

 

 

千夜「!」

 

 

リゼ「千夜……お前、今なんて言った?」

 

 

千夜「リゼちゃん……?」ガクガク

 

 

リゼ「わたしのことを狂ってるって……ここあの言うことが嘘だとでも言いたいのか!?」

 

 

千夜「きゃっ!」

 

 

リゼ「ここあの言葉を否定するんだな……!」ググッ

 

 

千夜「リゼちゃんやめて……苦しい……!」

 

 

リゼ「そうか、お前はわたしから何もかも奪うつもりか……ちょうどいい、二度とこんな真似ができないようにしてやる!」

 

 

千夜「うぅっ……ぁ……!」

 

 

 

ガチャッ

 

 

シャロ「千夜?リゼ先輩来てるの――――っ!?」

 

 

シャロ「千夜っ!!?」

 

 

千夜「シャロ、ちゃん……!」

 

 

シャロ「っ!」ドンッ

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「はぁ……はぁ……!」

 

 

シャロ「千夜、大丈夫!?しっかりして!」

 

 

千夜「だい、じょうぶ……平気よ」

 

 

リゼ「シャロ……」

 

 

シャロ「リゼ先輩、なにやってるんですか!!」

 

 

シャロ「一体何があったんです!?どうして千夜にこんなこと――!」

 

 

リゼ「どけっ」ドンッ

 

 

シャロ「きゃっ……!」

 

 

千夜「シャロちゃん……!」

 

 

リゼ「…………」

 

 

シャロ「リゼ、先輩……?」ブルブル

 

 

千夜「……っ」ガクガク

 

 

リゼ「……もうわたしには金輪際かかわるな」

 

 

リゼ「迷惑なんだ、わたしはここあさえいれば幸せなんだ」

 

 

リゼ「お前たちは必要ない」

 

 

千夜シャロ「……!」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ガチャッ バタン

 

 

千夜シャロ「………………」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

 

これで、邪魔が減った。ここあとの時間が守られた。

 

 

 

 

リゼ「あれ……わたしの家……どっちだったけ」

 

 

 

 

喜べばいいじゃないか、何も悔やむことは無い。

 

 

 

 

リゼ「もう夜か……おかしいな、さっきまでは朝だったのに……」

 

 

リゼ「早く帰らないと……」

 

 

 

 

ここあを抱きしめれば、全て忘れられるのだから。

 

 

 

 

リゼ「歩いていれば、そのうち着くだろう……」

 

 

 

 

平気だ……なんでもないさ。

 

ここあが、いれば。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……

 

 

 

あれから何時間、色彩はおろか白さえ存在しない廃れた世界を放浪しただろうか。

 

 

時はいついかなる時でも無情なのだ。

 

 

幸福な時間はまるで針が狂ったかのように、刹那の如き早さで過ぎて行くのに。

 

 

その癖、不幸な時間はまるでこの世が停止したかのように刻一刻と現実を刻み付けてくる。

 

 

わたしが経験しているこれは、一体どっちなんだろう。

 

 

 

リゼ「……!」

 

 

 

永遠に終わりそうに無い無機質世界の徘徊の最後は、意外なまでにあっけなかった。

 

 

物事の結末というのは得てしてそういうものだ。頭の中で組み立てた木細工や机上の空論を準えて美しく終わるほうが珍しい。

 

 

この突拍子な結末に安堵して笑うあたり、わたしにとっては『不幸な時間』だったのだろう。

 

 

 

考えることを放棄しなければ、先ほどの暴挙が矛盾であったことを冷徹に突きつけてくる。

 

千夜とシャロを捨てて幸福を手に入れたはずが、切り離せない不幸までをも懐に入れてしまったのだから。

 

 

 

 

『ここあの側に戻れば、全てを放棄できる』

 

 

決死の覚悟や長考の末の選択などとは程遠い――ただ、助かりたいという気持ちだけで目前のドアを引く。

 

 

 

チノ「いらっしゃいませ――……!?」

 

 

チノ「リゼさん……!」

 

 

リゼ「……チノ」

 

 

リゼ「……ここあはどこだ?どこにいったんだ?」

 

 

チノ「ここあさん……?」

 

 

リゼ「はやくあいつに会わないと……頭がおかしくなる……」

 

 

チノ「あぅぅ……り、リゼさん、落ち着いてください」

 

 

チノ「ここはラビットハウスです、ここあさんはリゼさんのおうちですよ」

 

 

リゼ「ラビットハウス……?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

チノ「リゼさん……?」

 

 

リゼ「……ふふっ、あはは……くくっ……!」

 

 

チノ「……!」

 

 

リゼ「どうしてとっくに切り捨てたはずのここが……いまになって……」

 

 

リゼ「わたしはここあがいればいいんじゃなかったのか……」

 

 

チノ「リゼさん……しっかりしてください!」

 

 

リゼ「チノ……すまない、家に帰るつもりがどうやら間違えたらしい」

 

 

チノ「…………」

 

 

リゼ「もう続けられそうに無いな、ここも」

 

 

チノ「……!」

 

 

チノ「ラビットハウス、辞めてしまうんですか……?」

 

 

リゼ「ああ……どっちみちいつかはお前も邪魔になる……ちょうど良かった」

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ「いままでありがとう……じゃあな」

 

 

チノ「……待ってください!」

 

 

リゼ「……」

 

 

チノ「…………っ」

 

 

リゼ「なんだ……?お前もわたしとここあを引き離すつもりか?」

 

 

チノ「……リゼさん」

 

 

 

チノ「――いってらっしゃい」

 

 

 

リゼ「………!」

 

 

チノ「また、帰ってきてくださいね」

 

 

リゼ「……チノ、お前」

 

 

チノ「いまのリゼさんは、狂ってなんていませんよ」

 

 

リゼ「――!」

 

 

チノ「昨日とは違います……元の優しいリゼさんです」

 

 

リゼ「………………」

 

 

チノ「リゼさん?」

 

 

チノ「手……握ってみませんか?」

 

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

目前に差し出された小さな手は、以前わたしに禍々しいほどの不快感を与えた。

 

 

 

ここあ以外の存在に温かみを感じることを放棄してしまった感覚とも、かれこれ2週間の付き合いだ。

 

 

 

この手に触れることで得られるのは、耐え難い絶望のみで決して幸福でないことは火を見るより明らかだった。

 

 

 

昨日までのわたしであれば、どうしていただろうか。

 

 

 

何の躊躇いも無く、その手を拒んだだろう。

 

 

 

無視すればよいのだ。さもなくば、振り払えばよいのだ。

 

 

 

――本能は――心は――躊躇なく、その手を握ることを選ばせた。

 

 

 

リゼ「――――!」

 

 

チノ「……温かいですか?」

 

 

リゼ「………っ」ギュッ

 

 

チノ「……いつでも、帰って来てください」

 

 

チノ「ここあさんのこと、よろしくお願いします」

 

 

リゼ「……お前も、千夜も、シャロも」

 

 

リゼ「どうして……わたしのことなんか……」

 

 

チノ「……それは――」

 

 

リゼ「……っ!」

 

 

チノ「あっ……」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

 

こんなお話しを、知っていますか。

 

 

とある小さな町で、戦争が起きました。

 

 

心優しいある青年は、命より大切な家族を守るために。

 

 

人として大切な、相手を思いやる心を放棄したそうです。

 

 

戦争は、終わりました。

 

 

甲斐あって、青年は無事家族を守りきることが出来ました。

 

 

……しかし。

 

 

心を失った青年には、もう『大切』な家族などいなかったのです。

 

 

青年は、大切なものを守るためにそれと等しきものを犠牲にしたことに。

 

 

全てを失うその時まで、気付けませんでした。

 

 

気付いた時には、既に遅かったのです。

 

 

 

 

人の描いた物語に、不躾にも『たられば』の仮定を埋め込むのであれば。

 

 

もし、全てを失う前に気づいていれば。

 

 

青年は、幸福にはならずとも。

 

 

まだ、後悔とはちがう涙を流せたのではないでしょうか。

 

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

リゼ「……ここあ――ただいま」

 

 

ここあ「りぜちゃん!おそかったね、しんぱいしたよ」

 

 

リゼ「ごめん……色々あってな」

 

 

ここあ「……?」

 

 

リゼ「……お風呂、入ろうか」

 

 

ここあ「うん」ニコッ

 

 

リゼ「……」ヒョイ

 

 

ここあ「きょうもいちにち、おつかれさま」ギュッ

 

 

リゼ「ここあ……ありがとう。やさしいな、お前は」スリスリ

 

 

ここあ「んっ……♪」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

ここあ「えいっ、えいっ!」ピコピコ

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「あっ……りぜちゃん、またけいたいなってるよ?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん?」クイクイッ

 

 

リゼ「んっ……?」

 

 

ここあ「はい」スッ

 

 

リゼ「メールか……」

 

 

ここあ「だれから?」ヒョコ

 

 

リゼ「誰でもいい。……もう、関係ないしな」コトッ

 

 

ここあ「ふぉぇ?」

 

 

リゼ「10時か……ここあ、歯磨きしてそろそろ寝るか」

 

 

ここあ「うん!いっしょにねるっ♪」

 

 

リゼ「…………」ニコッ

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

――IN ベッド――

 

 

『ずっと関わるわ、リゼちゃんに嫌いって言われない限り。リゼちゃんのこと大切だから、大好きだから』

 

 

『どんなことになっても、リゼ先輩のこと必ず元に戻しますから』

 

 

『リゼさん、しばらくゆっくり休んでください。いつでも帰ってきてくださいね』

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「ちやちゃんから?」ヒョコ

 

 

リゼ「……ちがうよ」スッ

 

 

ここあ「おへんじしなくていいの?」

 

 

リゼ「ああ、ここあとの時間を割きたくない」

 

 

ここあ「りぜちゃん、きょうだれかとあった?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「なんだかずっとへんだよ?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「また、いやなこといわれちゃった?」

 

 

リゼ「……」

 

 

 

――ギュッ

 

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「……っ」ギュッ

 

 

ここあ「よしよし……どうしたの?」ナデナデ

 

 

リゼ「……今日、みんなとお別れしてきたよ」

 

 

ここあ「……!」

 

 

リゼ「ラビットハウスも辞めてきた、これでもっとお前と一緒にいられる」

 

 

リゼ「まだしつこく関わってくるようなら、学校だって――外に出る事だって辞めたっていい」

 

 

リゼ「これでもう、わたしとここあを邪魔する奴は誰もいない……ずっと、ずっと一緒にいられる」

 

 

ここあ「……りぜちゃん」

 

 

リゼ「ここあ……喜んでくれるか?」ジワッ

 

 

ここあ「!」

 

 

リゼ「わたしはお前のために、全てを犠牲にしたんだ……」ポロポロ

 

 

リゼ「親友も、居場所も、思い出も……なにもかもを」

 

 

リゼ「お前と二人だけになるために……」ポロポロ

 

 

ここあ「………………」

 

 

リゼ「だから……ここあも忘れて欲しい」

 

 

リゼ「チノのことも、千夜のことも、シャロのことも……わたし以外の全てを」

 

 

リゼ「わたしだけを、永遠に見てくれ……」

 

 

ここあ「…………」

 

 

リゼ「おかしいな……こんなに幸せなのにな」ポロポロ

 

 

リゼ「涙が……止まらない……」ポロポロ

 

 

ここあ「……」

 

 

リゼ「ここあ……?」

 

 

ここあ「……りぜちゃん」

 

 

 

IV.

 

―――――――――――――――

 

 

ここあ「――うん、わかった」

 

 

リゼ「……!」

 

 

ここあ「ずっとずっと……りぜちゃんだけをみてるよ」

 

 

ここあ「りぜちゃんいがい、もうなにもいらない」

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

ここあ「ちのちゃんのこともちやちゃんのこともしゃろちゃんのことも……」

 

 

ここあ「――ぜんぶ、わすれるね」

 

 

リゼ「……!」

 

 

ここあ「りぜちゃん……えへへ、りぜちゃん……」スリスリ

 

 

ここあ「わたしだけのものだよ……えいえんに、ずっと」

 

 

ここあ「もう、そばからはなれちゃだめ……」ギュッ

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

リゼ「ああ……ずっと一緒だ。今度こそ、ずっと」

 

 

リゼ「もう、涙なんて流さない……後悔も無い」

 

 

 

リゼ「――結局、お前といられる以上の幸福なんて、この世にはなかったんだ」

 

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

Prrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr――

 

 

………………。

 

 

Prrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr――

 

 

………………。

 

 

Prrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr――

 

 

 

ここあ「んっ……」

 

 

リゼ「……」ガシャッ!

 

 

 

……………………。

 

 

 

パープル迷彩のハードケースに包まれたスマートフォンは、銃弾の前に呆気なくその機能を停止した。

 

 

 

これでもう、外の世界とわたしたちの世界を繋ぐものは存在しない。

 

 

 

この切り分けられた世界の中では、もう何も。

 

 

 

ここあ「ふぉぇ……なんのおと?」ポワポワ

 

 

リゼ「なんでもないぞ……ほら、目を瞑れ」

 

 

リゼ「たくさん寝たら、ご飯にしような」

 

 

ここあ「うん……」

 

 

リゼ「ふふっ……」クスッ

 

 

 

 

ここあが――天使が、そばにいる。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

――1週間後――

 

 

千夜「………………」

 

 

――ガラッ

 

 

千夜「いらっしゃいま――……おかえりなさい、シャロちゃん。アルバイトお疲れ様」

 

 

シャロ「ただいま」

 

 

千夜「……今日も、また?」

 

 

シャロ「……」コクリ

 

 

千夜「そう……」

 

 

シャロ「先輩、学校にもいなかったわ」

 

 

千夜「………………」

 

 

 

Prrrrrrrrrrrrrrrrr――

 

 

 

千夜「あら……?」

 

 

千夜「チノちゃんからの報告メールね」ピッ

 

 

シャロ「」チラッ

 

 

 

『リゼさん、今日も来ませんでした』

 

 

 

シャロ「………………」

 

 

千夜「かわいそうに……」

 

 

シャロ「学校にすら来てないんだもの、ラビットハウスになんて来るわけ……」

 

 

千夜「ええ……そうね」

 

 

千夜「でも、こうして報告メールだけでも頼んで少しでも希望を持たせてあげないと……」

 

 

千夜「――二人の帰りを待っているチノちゃんが、あまりにかわいそうでしょ」

 

 

シャロ「……千夜」

 

 

千夜「ありがとうシャロちゃん、家に帰ってゆっくり休んで」

 

 

千夜「わたしも7時だしそろそろいくわ」

 

 

シャロ「……わたしたちのやってることだって、チノちゃんと変わりないわよ」

 

 

千夜「くすっ……そうね」

 

 

シャロ「…………」グスッ

 

 

千夜「……行ってくるわ」ニコッ

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

――ラビットハウス――

 

 

チノ「………………」

 

 

ここあ『ちのちゃん!あっちのおきゃくさん、ほっとみるくとかふぇおれだよ』

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ『チノ、大丈夫か?体調が悪いなら無理するなよ』

 

 

チノ「……………」グスッ

 

 

ここあ『おわったね~!ちのちゃんりぜちゃん、おつかれさま!』

 

 

チノ「…………」ジワッ

 

 

リゼ『ちゃんとお手伝いできたな、偉いぞここあ』

 

 

ここあ『んっ……♪』

 

 

チノ「っく………ぇぅ………」ポロポロ

 

 

――ガチャッ

 

 

チノ「!」

 

 

リゼ『ただいま!』

 

 

ここあ『ちのちゃん!』

 

 

チノ「ここあさん!りぜさん……!」

 

 

お客「……?」

 

 

チノ「あ……」

 

 

チノ「………………」

 

 

チノ「…………」

 

 

チノ「……っ」グシグシ

 

 

チノ(待つって、約束でしたよね……)

 

 

チノ(たとえ一人でも、二人が帰ってくるまで、ずっと守りますから)

 

 

チノ(ここあさんとリゼさんとの、大切なこの場所を……)

 

 

チノ「……」グッ

 

 

チノ「……いらっしゃいませ、ラビットハウスにようこそ」ニコ

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

千夜「…………」

 

 

使用人「あっ……」

 

 

千夜「こんにちは」ニコッ

 

 

使用人「どうも……」ペコリ

 

 

千夜「今日も寒いなかお疲れさまです」

 

 

使用人「いえ、それはこちらのセリフで……」

 

 

千夜「どうですか、様子は」

 

 

使用人「…………」フルフル

 

 

千夜「そうですか……」

 

 

使用人「……申し訳ありません」

 

 

千夜「これ、ここあちゃんとリゼちゃんに。使用人さんの分も入ってますので」スッ

 

 

使用人「……いつも、ほんとに」

 

 

千夜「気にしないでください、わたしが勝手にやっているだけですから」

 

 

千夜「気持ちは、みんな同じなんです」

 

 

使用人「…………」

 

 

使用人「すいません……できれば黙っておきたかったのですが……」

 

 

使用人「このお菓子は……お嬢たちは――」

 

 

千夜「分かっています」

 

 

使用人「……!」

 

 

千夜「でも……こうでもしていないと、耐えられないんです……」ジワッ

 

 

千夜「無駄だと分かっていても、諦められないんです……」ポロポロ

 

 

使用人「………………」

 

 

千夜「……ごめんなさい」グシグシ

 

 

使用人「いえ……お嬢は、あなたみたいにとても良い友人を持っていたんですね」

 

 

使用人「なのに……」

 

 

千夜「……ここあちゃん、りぜちゃん……」

 

 

使用人「待っててください、いつかは必ず」

 

 

使用人「その時までどうか……お嬢たちのこと、見捨てないで頂けると」

 

 

千夜「もちろんです、二人ともわたしの大切な親友ですから」

 

 

使用人「ありがとうございます……」

 

 

千夜「……明日も、持ってきていいですか?」

 

 

使用人「ええ、お待ちしています」

 

 

千夜「……」ニコッ

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

――深夜 天々座家――

 

 

 

使用人「………………」スタスタ

 

 

使用人「…………」

 

 

使用人「……お嬢?」トントン

 

 

使用人「………………」

 

 

使用人「……」ガチャッ

 

 

 

キイィ……

 

 

 

リゼ「ここあ……」スリスリ

 

 

ここあ「あははっ……りぜちゃん、ふふっ……」

 

 

リゼ「かわいい、かわいいな……」

 

 

ここあ「りぜちゃんすき……もっとぎゅってして」

 

 

リゼ「ああ、壊れるくらい抱きしめてやるぞ……」ギュッ

 

 

リゼ「しあわせだ……こんなにお前がそばにいる……こんなに、お前のぬくもりを感じられる」

 

 

リゼ「お前を、独り占めできる……」

 

 

リゼ「やっとわたしだけのものになった……もう、誰にも渡さない……」

 

 

リゼ「ここあ……わたしの、わたしだけのここあ、ははっ、あはは……!」

 

 

ここあ「りぜちゃん……わたし、しあわせだよ」

 

 

ここあ「どこにもいかないで……」

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

 

使用人「………………」

 

 

使用人「……」

 

 

――ガチャッ バタン

 

 

 

 

……………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

V.

 

ここあ「……りぜちゃん」

 

 

 

ここあ「――おやすみなさい」ナデナデ

 

 

リゼ「……!」

 

 

ここあ「め、つむって?」

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

ここあ「ねっ…?」

 

 

リゼ「…………」スッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……いまはなにもかもわすれて、ねむろう」

 

 

ここあ「そうすれば、またわらえるようになるから……」

 

 

リゼ「…………」グスッ

 

 

ここあ「よしよし……たくさんなやんで、つかれたね……」ナデナデ

 

 

ここあ「わたしのために……ありがとう、りぜちゃん」

 

 

リゼ「…………」ポロポロ

 

 

ここあ「わたしが、こもりうたをうたってあげる」ニコッ

 

 

ここあ「……こころぴょんぴょんまち、かんがえるふりして……――♪」

 

 

 

 

 

リゼ「………………」Zzz

 

 

ここあ「…………」クスッ

 

 

ここあ「わいるどぎーす?りぜちゃんのこと、おねがい」

 

 

 

ここあ「りぜちゃん、さみしがりやさんだから……ちゃんとそばにいてあげてね」

 

 

ここあ「……」スッ

 

 

 

 

ここあ「たしか、ここをおして……」ピッ

 

 

ここあ「……………………」prrrrrr

 

 

ここあ「……ちのちゃん?」

 

 

ここあ「うん、わたしだよ」

 

 

ここあ「……だいじょうぶ」

 

 

ここあ「あのね……ちのちゃんにおねがいがあるの」

 

 

ここあ「――――――」

 

 

ここあ「うん……ありがとう、まってるね」ピッ

 

 

ここあ「…………」

 

 

ここあ「……りぜちゃん」ギュッ

 

 

ここあ「ごめんね……ほんとは、ずっといっしょにいたかったよ」

 

 

ここあ「わたしもりぜちゃんのこと、ひとりじめしたかった……」

 

 

ここあ「……ん」チュッ

 

 

リゼ「……ここあ」Zzz

 

 

ここあ「……」ニコッ

 

 

ここあ「ちのちゃんのところに―――らびっとはうすに、もどるね」

 

 

ここあ「さようなら……」

 

 

ここあ「りぜちゃん……すき」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

……………………。

 

 

 

愛しているはずが、壊して。

 

 

 

……………………。

 

 

 

そばにいたいはずが、離れて。

 

 

 

……………………。

 

 

 

抱きしめるはずが、傷つけて。

 

 

 

……………………。

 

 

 

不純な生き物である人間に、「純粋な人間」などという矛盾が存在しないように。

 

 

 

矛盾しない愛憎なんて、都合の良いものはこの世に無い。

 

 

 

……今のわたしには、それがやっと分かるよ。

 

 

 

なぁ――ここあ。

 

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

――2週間後 AM7:00――

 

 

千夜「…………」スタスタ

 

 

千夜「………………」

 

 

――トントン

 

 

千夜「リゼちゃん」

 

 

リゼ「……千夜か」

 

 

千夜「おはよう、昨日は良く眠れた?

 

 

リゼ「………………」

 

 

千夜「そう……無理も無いわ」

 

 

千夜「今日はいい天気よ。昨日よりずっと温かい」

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

千夜「……そこからだと、分からないわよね」

 

 

リゼ「ん……小さいけど窓くらいはあるぞ。いい天気なのは分かるよ」

 

 

千夜「…………」

 

 

リゼ「毎日、すまないな」

 

 

千夜「ううん、リゼちゃんのためだもの」

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

千夜「言ったでしょ、どんなに風になってもリゼちゃんはリゼちゃん。わたしは、リゼちゃんのこと大切だって」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「早く帰ってきてね……ずっと待ってるから」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

千夜「リゼちゃん……――はい」スッ

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「ハンカチ……涙、ちゃんと拭いて」

 

 

千夜「リゼちゃんがその部屋から出られたら、返しに来てね」

 

 

リゼ「…………」

 

 

千夜「それじゃあ、また明日来るわ」

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

千夜「?」

 

 

リゼ「ありがとう……ごめん……」

 

 

千夜「……」クスッ

 

 

千夜「リゼちゃん……頑張って」

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

――PM4:00――

 

 

シャロ「…………」

 

 

――トントン

 

 

シャロ「リゼ先輩……起きてますか?」

 

 

リゼ「ん……シャロか」

 

 

シャロ「こんにちは……いま、少しお時間いいですか?」

 

 

リゼ「ああ、やることも無くて暇してたところだ」

 

 

シャロ「……これ、学校のプリントです」スッ

 

 

リゼ「ありがとう、いつもすまないな」

 

 

シャロ「あとこれ、クッキーですけどよければ……」

 

 

リゼ「シャロが焼いたのか?」

 

 

シャロ「はい……えっと、いちおう、その」

 

 

リゼ「……ココア味、か」クスッ

 

 

シャロ「っ……すいません、嫌な思いをさせたんじゃあ……」

 

 

リゼ「そんなことない、嬉しいよ。……食べてみてもいいか?」

 

 

シャロ「は、はい、美味しくないかもしれませんけど……」

 

 

リゼ「…………」モグモグ

 

 

シャロ「…………」

 

 

リゼ「おいしい、ちゃんとココアの味がする」

 

 

シャロ「」ホッ

 

 

リゼ「ありがとうシャロ、おかげで元気が出たよ」

 

 

シャロ「いえ……」

 

 

リゼ「…………………」

 

 

シャロ「……っ」

 

 

シャロ「……リゼ先輩、その」

 

 

リゼ「?」

 

 

シャロ「……ここあのこと、悪く思わないであげてくださいね?」

 

 

シャロ「ここあは、リゼ先輩やわたしたちのことを思って……」

 

 

リゼ「分かってるよ」

 

 

リゼ「ここあのこと、これっぽっちも恨んでいないさ」

 

 

 

リゼ「……むしろ」

 

 

 

リゼ「ここを出られたら、一番に感謝の気持ちを伝えて……そして、ちゃんと謝りたい」

 

 

リゼ「――お前のお願いを……最後まで聞いてあげられなくてごめんって」

 

 

シャロ「お願い……?」

 

 

リゼ「いや、なんでもない……忘れてくれ」

 

 

リゼ「……今日は、いい天気らしいな」

 

 

リゼ「ラビットハウス……賑わってるといいけど」

 

 

シャロ「リゼ先輩…………」

 

 

リゼ「早く、元に戻りたいな……」

 

 

シャロ「大丈夫です、すぐに戻れますよ」

 

 

シャロ「ラビットハウスも……ここあも、わたしたちも、みんなリゼ先輩のこと待ってますから」

 

 

シャロ「早く直して……また、みんなでどこか行きましょうね」

 

 

リゼ「…………ああ」

 

 

リゼ「千夜……さっそく役に立ったよ、これ」フキフキ

 

 

シャロ「先輩……?」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

チノ「リゼさん、こんばんは」

 

 

リゼ「チノ……今日も来てくれたのか」

 

 

チノ「リゼさんにお話したいこと、たくさんありますから」

 

 

リゼ「くすっ、いつもの報告か?」

 

 

チノ「はい、それと……」

 

 

チノ「……いえ、なんでもないです」

 

 

リゼ「……?」

 

 

チノ「今日はお客さんが多くて大変でした、ここあさんと二人でどうにか乗り切れましたが」

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

チノ「お店のためにも、ここあさんのためにも、お願いします、リゼさん」

 

 

リゼ「ああ……」

 

 

リゼ「――必ず、ラビットハウスに戻るよ」

 

 

チノ「……約束ですよ」

 

 

リゼ「……チノ?」

 

 

リゼ「遅くなったけど、言わせてくれ」

 

 

 

リゼ「……ごめん、それと、ありがとう」

 

 

 

チノ「!」

 

 

リゼ「あの時、チノのところに……ラビットハウスにたどり着いたのは、きっと偶然なんかじゃなかったんだ」

 

 

リゼ「わたしはお前に……助けを求めていたんだと思う」

 

 

リゼ「千夜とシャロを自分で突き放しておきながら、離れられるのが怖くて……残ったお前にすがったんだろうな」

 

 

リゼ「まだ引き返せる可能性がほしくて……心の中で、必死に手を伸ばしていたんだ」

 

 

リゼ「お前の手があんなに暖かったのも、きっと……」

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ「なぁチノ?」

 

 

リゼ「――もう一度、握らせてもらってもいいか?」

 

 

チノ「はい……もちろんです」

 

 

――スッ

 

 

リゼ「……」ギュッ

 

 

チノ「……どうですか?」

 

 

リゼ「あったかいな……あの時と同じだ」

 

 

リゼ「例え手だけでも、チノのぬくもりが伝わってくるよ」

 

 

リゼ「ふふっ……ありがとう、チノ」

 

 

チノ「……」ギュッ

 

 

チノ「リゼさん……指切りしましょう」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

チノ「指きりです、小指、絡めてください」

 

 

リゼ「……」スッ

 

 

チノ「指きりげんまん……優しいリゼさんが、これからもずっと一緒にいてくださいますように」

 

 

リゼ「!」

 

 

チノ「約束しましたよ、嘘ついたら針千本です」クスッ

 

 

リゼ「……チノ」

 

 

チノ「そろそろ帰りますね……――あ、最後にわたしも、遅くなりましたけど……」

 

 

 

チノ「リゼさん……おかえりなさい」

 

 

 

リゼ「……!」

 

 

 

チノ「今度は、ラビットハウスで待ってます」

 

 

チノ「また明日……おやすみなさい、リゼさん」

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

…………………………。

 

 

 

あの日。

 

 

深い忘却から目覚めると、そこは見慣れた部屋とは似ても似つかない白い空間だった。

 

 

まるで様式美を頑なまでに意識したような殺風景の中、まず最初に感じたのは病院特有の消毒液の匂いだ。

 

 

泥酔していたわけでもなく就寝を決めた場所が記憶と違えば、常人であれば戸惑い、現実、もしくは記憶を疑うのが妥当だろう。

 

 

だが、わたしの場合現実を現実として受け入れるのにそれほどの時間は要さなかった

 

 

 

――抱きしめていたはずの、ここあがいなくなっていた。

 

 

 

ただそれだけの事実が、目の前の現実を理解するための判断材料としては十分だったのだ。

 

 

医師や使用人たちは大方わたしが発狂するとでも踏んでいたのだろうか、訝しげにこちらを見つめる視線だけが印象に残っている。

 

 

その後、神経科の医師からやはりというべきか黒の診断書を出されたが、幸いにもなんとか入院だけは免れることができた。

 

 

できることなら自宅療養を望んでいたわたしの気持ちを察してくれたのか、聞くところによるとどうやらここあと仲良しの使用人が担当医師に口を利いてくれたらしい。

 

 

不幸中の幸い……といえば、聞こえは良いが。

 

だが、わたしに与えられたのは自宅療養とは名ばかりの、ある意味では入院よりずっと辛い責務だった。

 

 

精神的病とは軽重問わず、『時間が自然と心を癒す』以外に明確な治療法などこの世には無いのは周知の事実だ。

 

しかし、どうやらわたしの場合はそんな生易しいものではないらしい。

 

 

 

リゼ「……もう、そろそろ夜か」

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

現実世界とは切り分けられた、最低限の生活用品以外は何も無い虚無空間。

 

 

これが、正常と呼ばれる線引きを越えてしまったわたしに課せられた、罰だ。

 

 

ここは間違いなくわたしの生まれた場所で、わたしの自宅で。

 

 

今も変わらず心休まる場所であり、そして、ここあと生活を共にしてきた現実の地続きだ。

 

 

……でも。

 

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

わたしのために造られたこの部屋はまるで、この一貫の出来事が全て空想であったと言わんばかりに正当なる純白を押し付けてくる。

 

 

当然だ、正気に戻すというのがこの精神的病の解決法だとするなら、狂気にまみれていた記憶は全て取り除かなければならない。

 

 

一度狂気の境に踏み込んだ、あるいは踏み越えてしまった人間は、もう二度と表の現実で心の底から笑うことは許されないからだ。

 

 

しかし、そんな思惑を受け入れこの責務を全うするわけには断じていかない。

 

 

ここあ、チノ、千夜、シャロ……わたしの大切な人たちがくれた『優しさ』や『思いやり』を、そう易々と投げ捨てられるはずが無い。

 

 

例え不見識に思われようとも、この記憶を消し去るわけにはいかないのだ。

 

 

人間というのは、必ずしも良い記憶だけがその人を立派に成長させるとは限らないのだから……。

 

 

 

リゼ「……今日は、パスタか」

 

 

 

味覚、聴覚、視覚、感覚の確たる刺激。

 

生きていることを、何の疑いもなく生きていると思える。

 

現実を、現実と認識できる。

 

そんなごく当たり前な事実に、いまは心から感謝できる。

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

その夜。

 

突然訪れた来訪者の気配を、わたしはなぜか自然と察することが出来た。

 

 

虫の知らせなどという言葉で片付けられるものではなく、これは――――そう、適切な言葉で言い表すとするなら、たぶん『繋がり』だ。

 

 

 

リゼ「……ここあか?」

 

 

 

声をかける前に突然名前を呼ばれたせいか、ビクリと身体をすくませる気配が伝わる。

 

 

 

ここあ「……りぜちゃん」

 

 

 

白い壁に隔たれた向こう側の世界から、聞き慣れたのになにか懐かしい、ここあの声が届く。

 

 

たった2週間ぶり程度にも関わらず幾星霜の時を経て再会したような、そんな錯覚さえ思わせる。

 

 

 

リゼ「会いに来てくれたのか」

 

 

 

たわいもない会話の切り出しのあと、どれほどの沈黙が続いただろうか。

 

それは5分だったのかもしれないし、実際は5秒だったのかもしれない。

 

だがわたしの言葉が知らぬうちにここあを傷つけてしまったのかと、不安に駆られる暇さえあった。

 

 

 

ここあ「りぜちゃん……ごめんなさい」

 

 

 

静寂を壊して返ってきたのは――わたしに向けられた、謝罪の言葉。

 

 

それには、どんな意味合いが込められていたのだろう。

 

齢6歳にも満たないであろう彼女の中で、どんな思量を通じて吐き出された気持ちだったのだろう。

 

 

わたしは、所詮わたしの知ることしか知らない。

 

考えることはできても、ここあの気持ちになることは到底できない。

 

だからこそ――自分なりの精一杯の気持ちを、声に乗せて返す。

 

 

 

リゼ「ここあ、ありがとう。……わたしのほうこそ、ごめん」

 

 

 

わたしがここあに伝えたい、全てだった。

 

 

 

わたしは、誰よりお前を愛して、お前に愛されたかった。

 

でもそれと同じくらい、お前との関係が、みんなとの関係が変わってしまうことを心のどこかで恐れていたのだろう。

 

 

だからお前と肉体で愛しあうこともできず、そのくせ人一倍強い特別な繋がりが欲しくて……あろうことかお前に、暴力を振るってしまった。

 

 

狂っているという一言で片づけるのであれば、それまでかもしれない。

 

 

だが、少なくともわたしはお前を愛していたということに関しては、他の誰にも劣らない確かな自負があるのだ。

 

この気持ちだけは、誰にも負けてはいない。

 

 

――もし。

 

 

肉体関係以上に、恋愛倫理における概念で強固な繋がりがあったとしたら。

 

 

抱きしめる以上に、お前を汚す以上に、愛することができていたとしたら。

 

 

わたしは、お前を傷つけずに済んだのかもしれない。

 

 

しかし悲しいかな、人知に収まる範疇では。

 

人の英知で栄えた科学文明の力を持ってしても今なお、そんな繋がりはこの世の歴史にすら見つかっていない。

 

 

これが……『ごめん』だ。

 

 

 

リゼ「お前は……本気でわたしなんかのことを、愛してくれていたんだな」

 

 

ここあ「……!」

 

 

 

正常という枠を外れていた、あの時。

 

ここあは、わたしを受け入れてくれた。

 

 

逃げ出せたのに。

 

否定することだってできたのに。

 

 

ここあはそのどちらをも拒み、受け入れることを選んでくれたのだ。

 

 

悲しませないために、常識や現実を否定してもなお。

 

わたしが狂っていないと、庇い、信じてくれた。

 

 

 

お前は、わたしなんかよりずっと強かった。

 

わたしのために全てを投げうつ覚悟も、できていたに違いない。

 

 

 

もしあの時……わたしが涙なんて流さなかったら。

 

きっとお前はわたしと共に、最後まで堕ちることを躊躇なく選んだことだろう。

 

 

ここあは、わたしが全てを投げうつ覚悟がないことを、察してくれたのだ。

 

だから、側から離れた。わたしのために。

 

 

ここあの『ごめん』は、きっと。

 

 

あまりに優しい故に、わたしが狂気に染まることを止められなかった。

 

あまりに愛する故に、全てを受け入れて一緒にいてくれた。

 

あまりに慈しむ故に、最後はわたしの側を離れた。

 

 

その意味合いを全部込めた上での、謝罪だったのではないだろうか。

 

 

結局、踏み越えてしまったのも、その先に踏みとどまり続けることが出来なかったのも、全てはわたしの意気地なしがたたったせいだ。

 

わたしはあまりに身勝手で、それでいて臆病すぎた。

 

なにもかもが、中途半端だったのだ。

 

 

……………………。

 

 

――しかし。

 

 

リゼ「ここあ……手、かしてくれないか?」

 

 

ここあ「て……?」

 

 

リゼ「ああ」

 

 

 

先ほどの気持ちが嘘偽りで無いことくらい、こんなわたしでも伝える資格があってもいい。

 

 

 

 

わたしの生きる現実と――ここあの生きる現実を繋ぐ、小さな隙間。

 

そこから差し出された小さな手は、今まで何度もわたしがすがってきたものに間違いなかった。

 

 

暖かくて――尊い、ここあの手。

 

冷えきった両手を――迷うことなく、重ねた。

 

 

 

リゼ「ここあ……愛してるぞ」

 

 

 

むせび泣くような嗚咽が、すぐに響いた。

 

その涙の真意は、その後ここあの紡いだ言葉が答えだろう。

 

 

 

ここあ「りぜちゃん……また、むかえにきてくれる?」

 

 

リゼ「ああ」

 

 

ここあ「またりぜちゃんと、いっしょにいていい?」

 

 

リゼ「いっしょにいてくれ。お前は……わたしの大切な家族なんだから」

 

 

ここあ「――!……りぜちゃん」ポロポロ

 

 

リゼ「……」ニコッ

 

 

ここあ「はやく……グスッ、はやくかえってきてね」ポロポロ

 

 

ここあ「約束だよ」ポロポロ

 

 

リゼ「ああ……」

 

 

 

幸福は、いつだって。

 

動いている時間の中にしか存在しえない。

 

だから……いつかは、必ず。

 

その日は、訪れるから。

 

 

 

リゼ「いつもみたいに、おりこうにして待ってるんだぞ」

 

 

リゼ「なっ……ここあ」ニコッ

 

 

 

……………………。

 

…………。

 

……。

−−−−−−−−−−−−−−

next.



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Offside 3.「[Restructuring] Mad love "後編"」

前編の続き


I.

 

……………………

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

……あれは

 

 

 

 

 

 

 

……闇

 

 

 

闇、闇闇、闇闇闇

 

 

 

闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇やみやみやみやみやみやみ

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

―――――――――――――――――

 

『●』

 

 

 

 

リゼ「っ……!」ググッ

 

 

ここあ「いだっ…りぜちゃんやめて……!」ポロポロ

 

 

リゼ「また……勝手にわたしのそばから……!」

 

 

ここあ「いたいよぉ!」

 

 

リゼ「うるさいっ!!」パシン!

 

 

ここあ「ひゃぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

リゼ「お前はわたしのことが嫌いなんだろう!」ギリッ

 

 

ここあ「ちがう、ちがうよ……!」ポロポロ

 

 

リゼ「だからチノのところにいったんだろう!」

 

 

ここあ「ちがう!りぜちゃんのことだいすきだもん!」

 

 

リゼ「嘘を付け!」パシン!

 

 

ここあ「うぇっうえぇええ……!」ポロポロ

 

 

リゼ「正直に言わないか!!」

 

 

 

 

 

 

 

リゼ「……本当は……嫌いなんだろう……」グスッ

 

 

ここあ「……!」

 

 

リゼ「ここあは、わたしのことが……」ジワッ

 

 

 

――ポタッ

 

 

 

リゼ「いやだ……」

 

 

リゼ「わたしの側から…いなくならないで……」ポロポロ

 

 

リゼ「ずっと……そばにいてくれ……っ」

 

 

リゼ「ここあ……っ!」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……っ」グスッ

 

 

 

 

 

 

 

ここあ「んっ……」ゴシゴシ

 

 

ここあ「りぜちゃん……だいじょうぶだよ……」

 

 

ここあ「わたしは、いなくならないから……」

 

 

ここあ「ずっと、りぜちゃんといっしょにいるよ……」

 

 

ここあ「だから、なかないで……?」

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

ここあ「よしよし……こわかったね」

 

 

ここあ「あんしんして……」

 

 

ここあ「りぜちゃんのこと、だいすきだから……」ナデナデ

 

 

 

 

 

 

 

リゼ「……っ」ギュッ

 

 

ここあ「ごめんね……」

 

 

リゼ「…………」ポロポロ

 

 

ここあ「ごめんなさい……」

 

 

リゼ「……っ!」ポロポロ

 

 

 

 

……やめて、くれ。

 

 

 

 

お前は、何も悪くない……。

 

 

 

 

リゼ「ここあ……」

 

 

 

――スッ……

 

 

 

 

依存……

 

 

終わりのない――依存

 

 

終わることのない――依存

 

 

依存……依存……――

 

 

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『〇』

 

 

――AM8:00――

 

 

 

……朝、か。

 

 

 

人間の『慣れ』、というものはつくづく恐ろしい。

 

動悸を激しくさせながらベッドから飛び起きていた頃が、今でも遠い昔のようだ。

 

 

 

自分というまぎれもない証である手のひらを見つめ、ホッと肩をなで下ろす。

 

 

 

良かった。

 

 

 

どうやらこれは、『現実』らしい。

 

 

 

………………。

 

もう何度目になるだろうか。

 

あの悪夢を見るのは。

 

 

 

記憶というものは、例えどれほどの月日が流れようとも完全に消えることは無い。

 

あまつさえ『トラウマ』というものは律儀なことに、持つ者の生活を絶えず見つめ、牙を立てる機会を常に伺っている。

 

人間の就寝時、寝込みというものは格好の餌食なのだろう。

 

 

 

一度十字架を背負ってしまった人間は、生涯を全うするまで永遠にそれと向き合わなければならない。

 

わたしの場合、その原因が他でもない自業だったのだから皮肉な話だ。

 

 

 

リゼ「……いい天気だな、今日も」

 

 

 

悪夢、か。

 

有り体に言えば頻繁に見るこの悔恨の過去は、苦痛ではあるが実は悪夢という訳ではないのだ。

 

 

 

リゼ「……元気にしてるかな、今日も」

 

 

 

かつて同じ『現実』を生きていたあの子の顔を……少しでも思い浮かべられる。

 

 

違う現実にいる皆の顔を……鮮明に思い出すことができる。

 

 

白い空間、虚無、正常な世界。

 

 

 

わたしは、今日も生きている。

 

 

 

今はまだ、みんなとは違う、無機質な現実を。

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『〇』

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

深い眠りから覚めると、最初に飛び込んできたの眼が眩むほどの光だった。

 

――まぶしい。

 

『朝』だ。

 

一生続くと思っていた昨日までの暗闇は、塗り替えられたらしい。

 

 

おもむろに上体を起こす。

 

白と黒の景観に、誰かが立っていた。

 

 

わたしの元へと近づいてくる。

 

一歩、また一歩と。

 

 

 

「ここがどこか、分かりますか?」

 

 

 

子供に諭すような優しい声色。黒いネクタイに白いスーツ。

 

こちらを見つめるその表情には、幾分の憐れみとわずかな畏怖の念を抱いているのが見て取れた。

 

 

 

周囲を見回す。

 

純白の空間、消毒液の匂い……――――あの子が、いない。

 

それから数秒の沈黙のち、なんとか言葉を紡いだ。

 

 

 

「病院……か」

 

 

 

毒気を抜かれたわたしの言葉に、呆気にとられたのだろうか。

 

それとも、想像していた返答とはあまりに似つかない狂人の答えに、思わず感情が抜け落ちてしまったのか。

 

 

しばしの間わたしの顔をじっと見つめていた男は、足りない言葉を模索するように口を開こうとしては、なにかを言い淀んだ。

 

まるで触れてはいけない禁忌の箱を、もしくは繊細な飴細工を扱うかのように、わたしがなにより知りたいであろう『彼女』の以後を、どう伝えるべきなのか。そんなところか。

 

 

 

こちらから確信に触れるべきなのか、少し躊躇った。

 

だが、わたしはもう既に悟っていたのだ。

 

 

 

――その名を聞いても、もはや発狂してすがりつく気狂いすらも自分の中に残っていないと。

 

 

 

「――ここあは?」

 

 

 

突然の不意打ちに、男の双眸が大きく見開いた。

 

隣にいる純白の衣を纏った人物と顔を見合わせ、二人でわたしの心の根底にある深淵を訝しげに凝視する。

 

 

わたしは、どんな顔をしていたのだろう。

 

朧げな心情に虚ろな眼差しを携え、瞳に諦観でも滲ませていたのか。

 

 

純白の衣が隣で頷くと、スーツの男は意を決したかのように重い口を開いた。

 

 

 

「無事ですよ。……ご安心ください」

 

 

 

「……そうか」

 

 

 

その事実さえわかれば、十分だ。

 

他にもう、何も望んだりしない。

 

 

 

「良かった……」

 

 

 

「……お嬢」

 

 

 

「ははっ……よかった…………」

 

 

 

わたしは、たぶん泣いていたのだろう。

 

 

それは悲しさから、安堵から、背反する二つの感情からにじみ出てくるようなとても不思議な感覚だった。

 

 

 

良かった……?

 

 

 

お前を失ったのに。

 

 

 

おかしいな……。

 

 

 

でも、まぎれもないわたしの本心だ。

 

 

 

「……いまは何も考えず、どうかおやすみください」

 

 

 

その言葉……。

 

最後にあいつも、言ってたっけ。

 

 

 

ふと抗えない脱力感に襲われ、糸が切れた操り人形のようにベッドへと倒れこむ。

 

そのままわたしの意識は、徐々に深い眠りへと誘われた。

 

 

 

こんなに心が落ち着くのは、いつ以来だろう。

 

 

 

………………。

 

 

 

これでもう、お前を傷つけなくて済む。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『●』

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

リゼ「ただいま」ガチャッ

 

 

リゼ「あれ……?」

 

 

リゼ「ここあ……?」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「」チラッ

 

 

 

PM4:29

 

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「……遊びに行ったのか」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ(せっかく、急いで帰って来たのに……)

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

 

――1時間後――

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ(……遅いな)

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ(課題、済まさないと……)

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

ここあ「りぜちゃん、ただいま!」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「リゼちゃん?」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「りぜちゃん、ただいま?帰ってきたよ?」グイッ

 

 

リゼ「!」ハッ

 

 

リゼ「ここあ……おかえり」

 

 

ここあ「ただいま!りーぜちゃん♪」ギュッ

 

 

リゼ「ふふっ」ヒョイ

 

 

リゼ「だれかのところに行ってたのか?」

 

 

ここあ「うん!しゃろちゃんのところ!」

 

 

リゼ「今日はバイト休みだったんだな」

 

 

ここあ「あしたのあしたがまたおやすみなんだって」

 

 

リゼ「そっか。なにして遊んでたんだ?」

 

 

ここあ「ん~……ないしょ!」

 

 

リゼ「……!」

 

 

ここあ「しゃろちゃんとのひみつなの」シーッ

 

 

リゼ「……………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん?」

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

ここあ「?」

 

 

リゼ「晩御飯、食べようか」ニコッ

 

 

ここあ「うん!」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

今にして思えば。

 

 

 

あの頃から既に、芽生え始めていたのかもしれない。

 

 

 

わたしの中の……狂った感情が。

 

 

 

――狂気が。

 

 

 

ただ、愛情という隠れ蓑で覆い隠されていただけで。

 

 

 

そのカタチが変わってしまうのは、むしろ必然だったのか。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

リゼ「ただいま」ガチャッ

 

 

リゼ「…………?」

 

 

リゼ「ここあ?」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ(いない……また遊びに行ったのか)

 

 

リゼ「……お絵描きしてたのか」

 

 

リゼ(これ……千夜かな)

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「……」ペラッ

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

 

――PM6:42――

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

ガチャッ

 

 

ここあ「りぜちゃん、ただいま~!」

 

 

リゼ「……おかえり、ここあ」

 

 

ここあ「おそくなってごめんね」

 

 

リゼ「千夜と遊んでたのか?」

 

 

ここあ「うん、いっしょに『おかいもの』いったんだよ」

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

ここあ「ばんごはんもいっしょにつくったんだ、おむらいす!」

 

 

リゼ「晩御飯……食べてきたのか」

 

 

ここあ「こんど、りぜちゃんもいっしょにつくろうね」

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

リゼ「お絵描き帳、遊びに行く前にちゃんと片づけないとダメだろ」

 

 

リゼ「机の上に置きっぱなしになってたぞ」

 

 

ここあ「あれ、りぜちゃんにみせるのわすれないようにおいてたんだよ?」

 

 

リゼ「それでも直すって約束だろ」

 

 

ここあ「うぅ……ごめんなさい」

 

 

リゼ「分かればいい、これからは直そうな」

 

 

ここあ「うん……」

 

 

リゼ「わたしもご飯を食べてくるか」

 

 

ここあ「あっ、まってりぜちゃん、きょうかいたのみて!」

 

 

ここあ「これね、ちやちゃんだよ、ほらっ」パラッ

 

 

リゼ「片づける時に見たから知ってるよ」

 

 

ここあ「ぁ……」

 

 

リゼ「少し待っててくれ、終わったらお風呂に入ろう」

 

 

ここあ「…………」

 

 

ここあ「」シュン

 

 

リゼ「あっ……ご、ごめん、ここあ」

 

 

リゼ「上手に描けてるな、色も綺麗に塗れてるし」

 

 

リゼ「これはアンコか、可愛いな」

 

 

ここあ「……うん」

 

 

リゼ「そうだ、後でなにか一緒に描かないか?」

 

 

ここあ「りぜちゃんとおえかき……?」

 

 

リゼ「ああ、ここあの描きたいものを描こう」

 

 

ここあ「……!うん!」ニコッ

 

 

リゼ「」ホッ

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん?」

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

リゼ「デザートだけでも食べないか……?一人じゃ寂しくてな」

 

 

ここあ「わかった、いっしょにたべよっ♪」

 

 

リゼ「ありがとう」ヒョイ

 

 

ここあ「だいにんぐまでしゅっぱーつ」

 

 

リゼ「……」ギュッ

 

 

リゼ「ここあ…………」

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「……」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

……どうして、あんな態度を取ってしまったんだろう。

 

 

 

ここあを悲しませたかった……?

 

 

 

あいつに嫌な思いをさせたかった……?

 

 

 

好きなのに……?

 

 

 

大切なのに……?

 

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

……。

 

 

 

 

ここあ「ここはぴんくで~ここはむらさき♪」カキカキ

 

 

リゼ「はみ出さないようにな」

 

 

ここあ「うん!」

 

 

リゼ(二人で寝ころびながらお絵描き……幸せだ)

 

 

ここあ「りぜちゃん、ここの『せん』かいて?」

 

 

リゼ「ああ、任せろ」

 

 

ここあ「あとね、ここにわいるどぎーすも」

 

 

リゼ「この辺だな」カキカキ

 

 

ここあ「あっ、ぴんくいろおれちゃった……」

 

 

リゼ「削ってやる、貸してみろ」

 

 

リゼ「よっ……」スッ

 

 

ここあ「あ、りぜちゃんすわっちゃだめ」

 

 

リゼ「少し待ってくれ。ゴミ箱は……あった」

 

 

リゼ「このナイフでいけるか」

 

 

リゼ「…………」シャッシャッ

 

 

――ポスッ

 

 

リゼ「んっ?」

 

 

ここあ「りぜちゃんのひざまくら」ニヘラ

 

 

リゼ「こら、いまは危ないだろ」

 

 

ここあ「いいの~」ギュッ

 

 

リゼ「甘えんぼうめ」ナデナデ

 

 

ここあ「えへへ//」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

――PM10:22――

 

 

 

ここあ「すぅ…………」Zzz

 

 

リゼ「…………」ナデナデ

 

 

ここあ「ん………すぅ……」Zzz

 

 

リゼ「…………」ナデナデ

 

 

リゼ「ここあ……」ギュッ

 

 

リゼ「…………」スリスリ

 

 

ここあ「ふぉぇ……」Zzz

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

翌日、学校から帰宅するとまたここあの姿が無かった。

 

 

時計を見やると4時7分、また遊びにでも出かけたのだろう。

 

 

昨日といい、一昨日といい。

 

暇を持て余したゆえに、突発的な衝動に駆られたのだろうと自分の中で折り合いをつけていたが。

 

3日も続くところを見ると、どうやらここあが出かけているのは自発的なものらしい。

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

なんだろう、ふつふつと湧き出てくるこのやり場のない憤りは。

 

 

 

昨夜も変わらず、わたしはここあと触れ合い心を交わした。

 

お絵描きをしながらも、たわいもない話をしてじゃれあっては笑顔を咲かせた。

 

就寝の際も、布団に入るといつもわたしのぬくもりを求めるかのように擦り寄っては甘えてくる。

 

わたしもそれを受け入れ、互いの幸せを噛みしめ確かめ合う。

 

 

そんな満たされた毎日を、日常を、枚挙に暇が無いほど一緒に重ねてきた。

 

 

 

……なのに。

 

 

 

自発的な行動であれば、恐らく昨日から。

 

いや、計画があったなら3日前から既に今日出かけることを予定していたのだろう。

 

 

それならば、なぜわたしにその旨を伝えるなり事前に断っておく程度の忖度ができないのか。

 

まだ幼いから、純真無垢だからと言ってしまえばそれまでだが。

 

 

しかし、わたしもそこまで朴念仁ではない。

 

ここあがその程度の気づかいが出来ないような常識に欠けているとは思えない。

 

 

乱暴な言い方ではあるが、あの子は年端のいかない年齢ながらも人の目や評価を人一倍気にするきらいがある。

 

むろんそれは見栄や八方美人などの保身からくるものではなく、みんなに嫌われたくないというある種の強迫観念からだろうが。

 

 

その辺を考慮すれば、やはりわたしに対して一言も無しというのにはどうしても疑問が生じる。

 

 

ここあはわたしになんでも話してくれるし、わたしに心配をかけまいと普段から細かいところまで気を配ってくれている。

 

 

自分がいなければわたしが悲しむことも理解しているはずなのに、どうして……。

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

絶え間なく浮き出てくる腑に落ちない疑問はやがて焦燥感へと変わり――それが不安に変わってしまうのにそれほどの時間は要しなかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

不安は、2時間が経過するころには、既に『懐疑心』へとその姿を変えていた。

 

 

あれこれ思案しているうちに行き付いた、どうしても否定することができない、ひとつの推論。

 

 

 

ここあが、わたしを意図的に避けているという、万が一の可能性。

 

 

 

……考えたくない、それは。

 

 

でも、なぜだろう。

 

 

皮肉なことに、そう考えると全ての疑問が腑に落ち、辻褄も合ってしまう。

 

 

わたしの帰宅する頃合いを見計らって故意にみんなの元へと行けば、遊びに行ったという体裁で少なくとも6時ごろまではわたしと一切顔を合わせずに済む。

 

 

遊びに行く旨をあえて伝えなかったのも、そういった気持ちの表れだとしたら?

 

 

リゼ「……秘密」

 

 

『しゃろちゃんとのひみつなの』

 

 

2日前のここあの言葉が脳裏をよぎる。

 

 

秘密……何の秘密なんだろう。

 

 

悩み?相談?わたしじゃなくシャロに?

 

 

わたしじゃ役に立てないから?

 

 

それとも、わたしに言えないことだから?

 

 

ここあが、わたしに言えないこと。

 

 

 

昨日は、確か千夜のところだった。

 

 

シャロと共有するだけでは、その『秘密』は問題消化できなかったのか。

 

 

だから翌日に千夜のところへ。二人で考えるよりも三人、そうして解決策を練ってなにかの光明の兆しをこっそり探しているのか。

 

 

被害妄想に近しい邪推を頭から破棄しようにも、『万が一の可能性』がより一層現実味を帯びたせいで、もはや自分では止めることができない。

 

 

憶測にも関わらず、それが全て紛うこと無き真実のような、そんな気さえしてくる。

 

 

 

ここあが……本当は、わたしのことを嫌っている。

 

 

 

好きだなんて口ではなんとでもいえる。

 

 

もし今までの積み重ねが、全てわたしの一方的なものだったとしたら。

 

 

人一倍相手の気持ちを配慮できるここあが、一人ぼっちで悲しいわたしに慈悲をかけてくれていたとしたら……。

 

 

自分の気持ちを押し殺してまで、無理に受け入れてくれていたとしたら……?

 

 

リゼ「っ……」

 

 

否定したいのに、否定できない。

 

 

ここあは、そんな奴じゃない。あの子に、そんな裏表なんてあるはずがない。

 

 

分かっているのに。信じているのに。

 

 

 

……もう辞めよう、これ以上考えても悪化の一途を辿るだけだ。

 

 

 

重い腰をベッドから起こし、課題を済ませるべく勉強机の前へと腰を掛ける。

 

とは言ったものの、当然装いだけで肝心のペンは一向に進まない。

 

 

教科書や参考書が大きさ順に整頓されている本棚、その一番右端の可愛らしいスケッチブックをおもむろに引っ張り出す。

 

 

ここあのお絵描き帳。無地で味気なかった表紙は買った初日にたちまちカラーリングを施され、今ではウサギやネコ、ワイルドギースの絵などがところ狭しと描かれている。

 

わざわざ二人でシール用紙を買ってきて、絵を描いてから張り付けたんだっけ。懐かしいな。

 

 

感慨にふけって最初のページから1ページ、また1ページと読み漁る。

 

改めて覗くここあの描いた世界は、様々だった。ステッキを持った魔法使いらしき女の子、アンコ、ティッピー、親父、使用人、チノ、千夜、シャロ……自分が触れたもの、感じたこと、大切なもの、気持ち、日々の想いを絵というカタチで絶えずここにしたためてきたのだろう。好きなものを好きなだけ、目一杯描きこんでいるのが見てわかる。

 

 

中でも嬉しかったのが、70ページ以上埋められたお絵描き帳の半分以上にわたしが描かれていたこと。表紙のシールに描いてあげたここあとわたしの絵をどことなく模写しているようだし、恐らく至る所にあちこち描かれている似顔絵は『わたし』とみて間違いなさそうだ。

 

 

一緒にお絵描きをしている時も毎回描いてくれていたような気がするが、こんなにたくさんとは。

 

一人でお留守番をしているときも、わたしのことを思い浮かべながらこの白いページに鉛筆をはしらせてくれていたのだろうか。そう考えると自然と笑みがこぼれた。

 

 

 

だが、見た記憶に新しいページで、ふと手が止まる。相関関係であるかのように、先ほどまでの微笑みも顔から消えていた。

 

 

 

大きなスケッチブックに、大きく描かれている千夜。

 

丁寧に色鉛筆で細かく色分けされた着物、髪飾り、肌。子供の絵であれどここまで描くにはゆうに1時間はくだらなかっただろう。

 

少なくともわたしが見ている限りでは、ここあは大切なものを描く際に時間と手間は全く惜しんでいる様子はない。故にお絵描きに誘われた際は、わたしもだいたい1時間半を見積もっている。

 

 

「……………………」

 

 

この絵を描いているとき、あの子は無地だったページに何を想い、どう向き合っていたのだろうか。

 

心を弾ませ、時間の経過を待ち望み、千夜と会える瞬間の高揚をこの絵に描き表していたのかもしれない。

 

その間、きっとわたしは蚊帳の外。わたしが学校でここあと会えるのを心待ちにしていた時、あの子は全く別の、千夜を想い、わたしの存在など頭からスッポリ抜け落ちていた

 

のか……。

 

 

 

「っ……」

 

 

にわかに心の奥に痛みが走る。

 

その原因はどんな鈍感な人間にだって察しがつく、自分のことであればなおさらだ。

 

鏡を見てみたいが、ちっぽけな自尊心がそれを許さない。

 

 

きっといまわたしは、苦虫をかみ殺したような顔になっているに違いない。

 

でも、到底認めたくなかった。

 

 

 

わたしがずっと想っている間……同じようにわたしを想ってくれていなかったのかもしれないここあに、理不尽極まりない恨みを抱いているなんて。

 

 

千夜に……大切な親友に、ドス黒い嫉妬の感情を向けているなんて。

 

 

 

自分という人間が、そこまで醜いものだなんて。

 

 

目を逸らすことのできない事実から逃げ出すさながら、咄嗟に次のページをめくる。

 

 

仲良く寄り添うわたしとここあの絵。

 

わたしが形を描き、ここあが色を塗り、二人で描いた、二人の絵。

 

 

ここあに抱きつかれている色鉛筆のわたしが、真っ黒な今のわたしを見つめていた。

 

鏡を見ずとも、鏡合わせになる。

 

心を見透かされているような、不快感。

 

 

 

昨日わたしがここあと描いたこの絵は……何を意味していた。

 

 

 

……塗りつぶしたかった?

 

 

 

千夜の絵を、ここあの、気持ちを。

 

 

 

絵の中だけでも、わたしだけのものにするために?

 

 

 

わたしだけを、見てもらうために?

 

 

 

……絵の中だけ?

 

 

 

――絵の中までも。

 

 

 

――全てを、奪い去る。

 

 

 

――奪い去りたい。

 

 

 

――ここあの、気持ちを。

 

 

 

ここあの笑顔のためじゃなく……自分のために。

 

あいつの気持ちを、ダマシタ……?

 

 

ここあを優しく抱く綺麗なわたしが、歪んだ肉細工のわたしを完膚なきまで責めたてる。

 

 

見つめ合っているうちに、手に持っていたスケッチブックが、力なく崩れ落ちた。

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――PM6:40 リゼの部屋――

 

 

 

ここあ「ただいま!」ガチャッ

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん、かえってきたよ!」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん、りぜちゃん?」クイックイッ

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

ここあ「ただいま、えへへ♪」

 

 

リゼ「……おかえり」

 

 

ここあ「おそくなってごめんね、しゃろちゃんとあそんでたの」

 

 

リゼ「シャロと……そうか」

 

 

ここあ「?」

 

 

リゼ「楽しかったか?」

 

 

ここあ「うん!」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん……あのね……」

 

 

リゼ「……?」

 

 

 

ここあ「――はい」スッ

 

 

 

リゼ「……これは?」

 

 

ここあ「はーぶくっきー、しゃろちゃんとつくったの」

 

 

リゼ「クッキー……」

 

 

ここあ「きのう『あまうさあん』であるばいとして、ちやちゃんにざいりょうかってもらったんだよ」

 

 

ここあ「りぜちゃんに、さぷらいずぷれぜんと!」

 

 

リゼ「!」

 

 

ここあ「ないしょにしててごめんね」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「おどろいた?びっくりした?」ワクワク

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「……」

 

 

リゼ「」

 

 

 

ここあ「……?りぜちゃん?」

 

 

 

リゼ「……!」ハッ

 

 

リゼ「あ……ありがとう、ここあ!わざわざわたしのために作ってくれたんだな」

 

 

リゼ「とってもおいしそうだ。ちゃんとアルバイトまでして、偉いぞ」ナデナデ

 

 

ここあ「ぁ……!」パアァ

 

 

リゼ「サプライズ大成功だ、嬉しいよ……」ギュッ

 

 

ここあ「よかった。りぜちゃん、よろこんでくれた//」ニヘラ

 

 

リゼ「わたしなんかのために……ありがとうな、ここあ」スリスリ

 

 

ここあ「うん//」

 

 

リゼ「まずは手を洗ってこようか、ここあも一緒に食べよう」

 

 

ここあ「ふぉぇ、いいの?りぜちゃんにつくったんだよ?」

 

 

リゼ「ああ、ここあと一緒がいい」ヒョイ

 

 

ここあ「ほんと!じゃあ、たべる!」ニコッ

 

 

リゼ「……っ」ギュッ

 

 

ここあ「わわっ……りぜちゃん?」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「…………」

 

 

リゼ「……」

 

 

リゼ「」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

――PM11:07 ダイニング――

 

 

 

透明なコップに注がれた水を、おもむろに飲み干す。

 

 

味気の無い感触が喉を潤し、勢いよく体内へと流れ込んだ。

 

 

透明な水道水は、その透き通った美しい色とは裏腹に不純物を多く含んでいるらしい。

 

 

キッチンには常備ウォーターサーバーが設置されており、いつでも比較的不純物を含まない純水を飲むことが出来る。

 

並ぶように置かれたコーヒーベンダーのほうは、わたしとここあを除いて大人しかいないこの家では圧倒的な人気だ。

 

故にわざわざ洗い場の蛇口をひねり、水道水を汲むことなどまず無いと言っていい。

 

 

しかし、今は故意にでも不純物を身体に取り込みたい気分だった。

 

感傷的な気分に浸りたいわけではない、ただ、純水は恐らく受け付けられない。

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

あの時、わたしは何を思ったのだろう。

 

 

わたしの反応を心待ちに目を輝かせるここあを見て、いったい何を考えたのか。

 

 

たとえ刹那でも……その黒い感情は確かに芽生えていた。

 

 

言い訳などできない。取り繕うにもその術がない。あんな衝動に駆られた自分が許せなかった。

 

憎くて、醜くて、どうしようもなかった。

 

己自身を甘く許すなどという器用な思考回路は、あいにく持ち合わせていない。

 

 

 

リゼ「…………っ」

 

 

 

頭を抱える。両手で顔を覆う、というほうが正しい。

 

 

わたしの邪推は当然のことながら、杞憂に終わった。

 

 

ここあはただわたしの笑顔のために、自発的な行動を秘密にしているに過ぎなかった。

 

 

あの子は、わたしの喜ぶ顔が見たかった……本当にただ、それだけのことだったのだろう。

 

 

わたしはただその事実に驚き、安堵し、そして感謝し、その思いやりを受け止める。

 

これだけのことだ。コロンブスの卵が如く、実に簡単な原理だ。

 

はからずとも常人であれば、あの笑顔と気持ちを前にこうならない方がおかしい。

 

 

これで2度目……つくづく、最低だった。もはや人間ですらない。

 

ガラス細工の器に、不純物を飲み込んだ、歪んだ不純物であるわたしが――映る。

 

 

認めたくなかった。見たくなかった。

 

 

ここあの笑顔を曇らせようとした……あの子の気持ちを無下にしようとした、そんな自分がいたなんて。

 

 

 

どうして、こんな風に思ってしまう。

 

 

好きなのに。

 

 

大切なのに。

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

破滅願望。幸福の二律背反。人の潜在的な欲望が持つ矛盾が、現実味を帯びて襲い掛かってくる。

 

ここへやってきたのも、あの子の――ここあの側にいると、もう耐え難い自責に駆られてしまうから。

 

 

所詮はわたしも人間だった。矛盾だらけだ。

 

 

……自分を罵るだけ罵ったら、部屋に戻ろう。

 

あの子の側にいてもいい、少しでもそう思えたら、あの居場所へと帰ろう。

 

 

 

その日から、なにかがわたしを見つめていた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

3度目の正直は、世迷言だった。

 

 

翌日、またここあはいない。

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

はからずとも胸にはしる嫌悪感。自然と腕に力が加わる。

 

 

サプライズは、終わったはずだ。

 

 

わたしは取り繕いながらも笑顔でそれを受け取った、この一連は昨日で幕を閉じた。

 

 

なら、今日はわたしのためではなく、自分自身の欲求のために出かけたのか。

 

わたしと会うことなんかよりも、ここあにとって『優先すべき欲求』を満たすために。

 

 

 

スタンドミラーに映る自分の姿が、痛々しいほど惨めに思えた。

 

 

 

身勝手極まりないことは承知の上だが、それでもなお求めてしまうのが人間だ。期待するのが人の性だ。

 

 

 

……ここあ。

 

 

 

――わたしと会うことを、なによりも心待ちにしてくれないのか?

 

 

 

わたしは、こんなにお前を求めているのに……。

 

 

 

学校にいる間も、ずっとお前のことを考えていたのに……。

 

 

 

独りよがりなのか……?

 

 

 

わたしの、独り相撲か……?

 

 

 

……どうして、一方通行なんだ。

 

 

 

どうして、わたしのことを見てくれない。

 

 

 

リゼ「…………っ」

 

 

 

気が付けば、衝動的に足元にあったクズカゴを蹴飛ばしていた。

 

 

物理法則に従い、倒れたクズカゴの中に詰まっていたゴミが辺りに散乱する。

 

 

せっかく昨夜、ここあと掃除したのに。一体なにをしているんだろう。

 

 

両腕が、痛い。

 

無意識に固められた両拳が、奥底に封じ込めた感情を決壊寸前へと追いやっていった……。

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

ここあ「ただいま~!」ガチャッ

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん、ただいま!」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「……?」

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

ここあ「きょうはね、『あまうさあん』にいってたの」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん!て、だして?」

 

 

リゼ「……手?」

 

 

ここあ「――はい」スッ

 

 

 

綺麗な赤い包装が施された小箱が、わたしの右手へと添えられた。

 

 

 

ここあ「ぷりんたると。しゃろちゃんとちやちゃんといっしょにつくったんだよ♪」

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

 

これは……なんだ。

 

 

 

 

ここあ「りぜちゃんのぶんと、わたしのぶんがはいってるの」

 

 

 

これは……なんなんだ。

 

 

 

ここあ「ばんごはんのあとに、ふたりでたべようね」

 

 

 

嬉しい……――憎い。

 

 

 

ここあ「りぜちゃんと、たべさせあいっこするの//」ニヘラ

 

 

 

嬉しい――憎い――嬉しい――憎い嬉しい憎い嬉しい憎い嬉しい憎い嬉しい憎い嬉しい憎い嬉しい憎い嬉しい憎い嬉しい憎い嬉しい憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。

 

 

 

ここあ「●×※□〇△―――――」

 

 

 

ここあの声が――聞こえない。

 

 

 

 

感情が――壊れる。

 

 

 

 

ここあ「……?りぜちゃん?」

 

 

 

リゼ「――なんだろう……」ギリッ

 

 

 

ここあ「ふぉぇ?」

 

 

 

リゼ「わたしのことが……嫌いなんだろうっ!!!!」バシッ!

 

 

 

ここあ「きゃ……っ!!」

 

 

 

ここあからのプレゼントが……わたしの手から、力いっぱい放たれて。

 

 

目がけたここあの頭に、直撃した。

 

 

 

リゼ「嫌いなら嫌いだとはっきり言えっ!!こんなもので、誤魔化すなっ!!!!」

 

 

 

ここあ「……!」

 

 

 

力なく尻もちを付いたここあが、怒鳴り狂うわたしを、見上げている。

 

小さな肩が震え、先ほどまでの笑顔はおろか、表情からは一切の色が消えていた。

 

 

天真爛漫で感情豊かなここあがこんな顔をできるなんて、にわかに信じられなかった。

 

ここあもまた、目の前に起こった現実が……なんの前振れもなく自身に振り注いだ厄災が、信じられなかったのだろう。

 

受け入れまいと……受け入れたくないと、バイオレットの瞳が、輝きを潜めてわたしを捉えていた。

 

 

我に返り、自分の起こしてしまった悲劇が認識できた頃には、もうなにもかもが手遅れだった。

 

 

 

ここあ「ひっく……うぇえっええぇん!!」ポロポロ

 

 

 

ここあが。

 

わたしの大切な、ここあが。

 

わたしのせいで、泣いてしまった。

 

泣かせてしまった。

 

 

たったの数秒で……わたしは、かけがえのないここあとの『幸せな時間』を、『気持ち』を、ここあとの関係を、全て砕いてしまった。

 

決して取り戻すことなど出来ないのに。それを、分かっていながら……。

 

 

 

リゼ「ここあ……っ!」ギュッ

 

 

 

抱きしめるしか、なかった。

 

何を言っていいのかさえわからない。どうしてこんなことをしてしまったのか、頭では理解できていながら、それを言葉にすることさえ。

 

言葉にしてしまえば、もはや――否、言葉にせずとも、わたしは既に狂人だった。

 

 

 

リゼ「ここあ……ごめんな……ごめん…ごめん…ごめん……っ!」ポロポロ

 

 

 

他に言葉が見つからない、勝手に涙が溢れる。

 

 

ここあ「りぜぢゃん……ごめ゛んなざい……っ!」ポロポロ

 

 

 

嗚咽を押し殺した涙声で、ここあは言葉を紡いだ。

 

 

どうして……お前が謝るんだ。

 

お前は何も悪くない、何もしてない。

 

 

 

リゼ「ここあ……わたし……っ!ごめん……ごめん……!」ポロポロ

 

 

 

返す言葉もないまま、壊れたトーキング人形のようにひたすら謝罪を繰り返すことしかできない。いたたまれずに右肩にあったここあの頭を胸元に引き寄せる。襟首に赤黒い何かが付着した。

 

 

 

リゼ「ここあ……!うぅ…っく……っ!」ポロポロ

 

 

 

血だった。額の右側から流れ出た血液が、ここあのか細い首筋までもを辿り、直線状に頬を真っ赤に濡らしていた。

 

 

わたしが……ここあを、傷つけた。怪我をさせた。暴力を振るった。

 

 

湿った舌先で、ここあの可愛い顔を真っ赤に染めた血液を舐めとっていく。

 

首筋から頬に、そして額に、ここあの体から溢れ出てしまった生命のしるしを一滴も余すことなく。

 

根源である額の外傷に、痛くないようにゆっくりと吸い付く。ここあの額に、唇を重ねる形。

 

血特有の鉄に似た独特な味が、口の中に広がった。

 

 

処置を終え、身体を少し離してここあと向き合う。

 

両肩に置いた手から、まだ微かな震えが伝わってきた。互いの瞳に互いを映す、相対的な鏡合わせ。

 

 

 

自己嫌悪にまみれたわたしの情けない泣き顔を見たここあは、またぶり返すように泣きじゃくり、縋りついてくる。

 

 

 

ここあ「りぜちゃん……っ!」ギュッ

 

 

どうしてあげることもできない。

 

ここあが一体、何をしたというんだ。

 

この子はまだ幼い。きっと昨日のクッキーを受け取ったわたしの笑顔が嬉しくてたまらなかったのだろう。

 

だからもっと喜んでもらえるよう、また内緒でお菓子を贈ろうと考えたのだ。

 

 

それをわたしは、怒鳴るどころか無下にして、壊して――あろうことか、傷つけてしまった。心も、身体さえも。

 

 

この子の行動原理の結果は、常に相手に委ねられている。

 

喜んでもらいたいというただ純粋な願いは、ここあ自身がどれだけ努力をしようとも最後は相手によって実り、もしくは枯れてしまうのだ。

 

ただひたすら実ることを疑わずに信じてきたここあにとって、わたしの行動は正に青天の霹靂だったのだろう。

 

 

悪意などを全く知らないゆえに、無垢で尊い。

 

でもその純白は、ほんのわずかな黒い悪意を混ぜただけで、たちまち白ではなくなり、ただのグレーになってしまう。

 

そんな危うい均等に気付かぬまま、わたしはただ己の感情に従い、ここあを――穢してしまった。

 

 

そんな壊れたガラス細工のような痛みを癒すためには、ただ自分の出来得る愛情表現の全てをふるってこの子を包んであげるしかない。

 

それ以上の術を人間は持ち合わせてなどいない。

 

 

ここあの心の痛みを、涙を拭うためになら、わたしは全てを投げうっても――

 

 

 

ここあ「――泣かないで……」ポロポロ

 

 

 

 

――――!

 

 

 

 

ここあ「ごめんね……大丈夫だよ……。だからもう、泣かないで……?リゼちゃん……」グスッ

 

 

 

 

ここ…あ……?

 

 

 

……なにを……言ってるんだ。

 

 

 

……まさか。

 

 

 

お前が……泣いているのは……。

 

 

 

……その涙は――

 

 

 

 

ここあ「りぜちゃんはわるくないよ……ごめんね、ごめんね……っ」ギュッ

 

 

 

 

――…………。

 

 

わたしの頭は、もはや真っ白になっていた。

 

 

思いやりのある人間……?

 

優しい人……?

 

温かい心……?

 

 

そんなものは全て、人間という生き物が汚れた世の中で勝手に祀り上げただけのただの妄信に過ぎなかったのだ。

 

 

人間は、不純だから人間である。

 

純粋な人間など、この世にはいない。

 

純粋に見えるのなら、それはその相手が何かを潜めていることに他ならない。

 

 

なにかの小説で耳にした先人の言葉。それをずっと信じてきた。

 

しかし、今のわたしには分かる……分かって、しまった。

 

 

それすらも、人の無知が生み出した惨めな戯言に他ならないと。

 

 

それを何の疑いもなく信じていたわたし自身も、その一人であったことを。

 

 

 

わたしは、知ってしまったのだ。

 

 

 

本当の、慈愛を。

 

優しい、という言葉の真理を。

 

『純粋』な、人間を。

 

 

――人間?

 

 

違う。もしかしたら、ここあは人間ではないのかもしれない。

 

 

――天使。

 

 

空想ではない、偶像でも虚像でもない人の形を司った――天使。

 

 

この子との邂逅は、いかなるものであったか。

 

突如として唯一無二の親友を失い、この子は忽然とわたしの前へと現れた。

 

そして……いつしかこの子は、わたしにとってかけがえのない存在になっていた。

 

 

消えた親友が帰ってこないことを嘆く哀情以上に、失わずに済んだことを安堵し、慶ぶほどにまで。

 

 

この子は……ここあは、天使なのかもしれない。

 

 

世間的に見れば裕福であろうわたしの、幼いころからポッカリと空いていた心の隙間。

 

愛情や幸福ではなく、同じ時間を、ただ同じように共有できる、家族。

 

永遠に満たされないはずだった、諦観に満ちた願い。

 

 

そんなわたしを哀れに思った万物の創造主が。

 

 

 

――この子を、授けてくれた。

 

 

都合の良すぎる解釈。自愛をこじらせた故の妄想。

 

構わない、それでもいい。もはやその程度のことなどわたしにとって関係ない。

 

 

今なら、はっきりと分かる。

 

 

わたしは、この子が側から離れてしまったら――狂う。

 

この子がいなくなってしまったら――もう、生きることすらもかなわない。

 

 

天使。わたしの天使……そう、ここあは天使なんだ。

 

 

だから、わたしを許してくれる。こんな穢れた心を持つ人間にすら、慈悲をかけてくれる。

 

例え、黒い悪意を幾度となくぶつけたとしても。

 

この子が、純白の天使が、黒色に染まることは決して無いのだ。

 

 

故に、尊い。

 

その尊さゆえに、側にいるもの、見るもの、全てを無自覚に傷つける。

 

無邪気で残酷な天使。それは慈悲の欠片もない悪魔にも等しい。

 

過ぎたる光が、闇と等価であるように。

 

 

 

リゼ「ここあ……」スッ

 

 

ここあ「……?」

 

 

おもむろに、身体を離す。

 

 

誰だ……この子を、泣かせたのは。

 

わたしの天使を、傷つけたのは。

 

許さない。ここあを傷つけるものは。この子を、傷つけたものは、絶対に。

 

 

例えここあが許しても、わたしが――絶対。

 

 

 

リゼ「…………っ!」ガンッガンッ!

 

 

 

ここあ「……っ!?」

 

 

 

わたしは、ここあをいじめたわたしを。

 

 

――頭を、何度も、何度も、壁に打ち付けた。

 

 

 

ここあ「りぜちゃん……!?りぜちゃんっ!!」

 

 

 

ここあと同じ怪我。

 

こんなものでは済まない、この憤りは。

 

 

リゼ「……」ガンッ!ガンッ!

 

 

ここあ「やめてぇ!りぜちゃんっ!いやぁああ!」

 

 

――天使の慈悲に免じて、その日。それ以上の自傷は留まった。

 

その日から、わたしが、わたしを見つめていた……。

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

II.

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

 

……………………

 

 

 

………………

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

……りぜちゃん。

 

 

 

 

……ん?

 

 

 

 

……好き。

 

 

 

 

……わたしもだ。

 

 

 

 

……ほんと?

 

 

 

 

……ああ。

 

 

 

 

あのね……なら、どうして。

 

 

 

 

――ひっかいたり、たたいたりするの?

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

……好きで、大切で、どうしようもないから。

 

 

 

――だから、憎い。

 

 

 

……憎くて、憎くて、どうしようもない。

 

 

……大好きだから。

 

 

好きだから。

 

 

 

 

……そっか。

 

 

 

……ここあは、ピンクが好きだよな?

 

 

 

うん。

 

 

 

ハートを、ピンク色で塗ると……全部塗り終えると。

 

 

 

――もう、それ以上塗ることが出来ないんだ。

 

 

 

その上から、違う色を塗るしかなくなる。

 

 

 

ピンクよりも薄い色は、色付かない。濃い色も、混ざってしまう。

 

 

 

――でもな。

 

 

 

黒色だけは、塗ることが出来るんだ。

 

 

 

何にも染まらずに、何よりも強く。

 

 

 

黒色は、決して塗りつぶされることは無い。

 

 

 

 

確かな愛情を――証明できる。

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

『〇』

 

 

 

――病院――

 

 

 

「愛情の裏返し、ですか?」

 

 

エメラルドグリーンの瞳が、バツの悪そうな神経科の医師を見据える。

 

空調機から出る微かな風が、彼女の美しく煌びやかなロングヘアをたなびかせた。

 

 

己の持ちうる全知を使い、なんとか辿り着いた結論は、そんな締まりのないありきたりな答え。

 

狂気を知らぬ一介の人間である医師には、それ以上の何かに辿り着くことはかなわなかった。

 

 

「……そうですか」

 

 

彼女もまた、言葉を詰まらせた。

 

人一倍相手の気持ちを察することが出来る黒髪の少女は、議題の対象である友人の行動原理が理解できないわけではなかった。

 

少なくとも、狂気に染まった人間を一度目の当たりにした少女は、無垢な正気しか知らぬ医師などよりもずっと深く心の深淵を覗くことができる。

 

 

 

そう……『愛情』の裏返しだったのだろう。

 

 

 

確固たる、絶対的な繋がりを求めての。

 

 

 

あまりに愛する故に、矛盾する。

 

 

創造が、破壊からしか生まれぬように。

 

 

 

技術の革新的な進歩が、常に『争い』と共に飛躍してきたように。

 

 

 

――憎しみが、愛情と等しく、『相手を想う』ことであるように。

 

 

 

「……………………」

 

 

 

体裁上『特別室』と銘打たれた、無機質な一室に隔離された友人を思い、慈しむ。

 

 

どうして、もっと寄り添ってあげられなかったのだろう。

 

 

踏み込むにはあまりに遅すぎた。知りえた時には、何もかもが手遅れだった。

 

 

きっと彼女は、如何ともしがたい苦悩を一人で抱え、誰にも理解を得られないまま。

 

帰る居場所を失くした迷い子のように……狂気と正常、自尊心と自己嫌悪の狭間を延々と彷徨っていたに違いない。

 

 

そんな中、唯一自分を受け入れてくれる存在が。

 

――救済の天使が、舞い降り、包み、寄り添ってくれた。

 

 

彼女の少女への病的依存は、むしろ必然だったのかもしれない。

 

 

誰だって、独りは怖い。

 

どんな人だって、誰かに必要とされたい。愛されたい。

 

自己の証明を、どこかで欲している。

 

 

ただ一つの掛け違えは。

 

愛するその子があろうことか苦しみの元凶であり、愛すべき存在でありながらも最も忌むべき存在であったこと。

 

 

同一でありながらも背反する二つの感情が、彼女を更なる袋小路への奈落へと追いやってしまったのだろう。

 

 

 

「……リゼちゃん」

 

 

 

今なら分かる。

 

『書経』に記された立派な言葉など、人がいかに無垢で無知なのかを証拠立てる稚拙な証明に他なら無かったのだと。

 

 

万物の霊長……万物の中で最もすぐれているもの、すなわち人間。

 

 

――人間。

 

 

一体誰がそんな戯言を裏付けもなくしたためたのであろうか。

 

 

 

必然にもがき苦しんでいた彼女に、ただ狂気というレッテルを貼って、理解することはおろか手を差しのべようともしなかったのに。

 

 

 

人が勝手に作り上げた、都合の良い最低限の『社会ルール』。

 

 

人はその枠組みを逸脱した者には、『犯罪者』や『狂人』などという蔑称を用い、ただ蔑ろにする。

 

自尊心を満たすため。己自身を、『枠組みを逸脱した人間』よりはまともで優れた者であると思い込むため。

 

さもそれが、『枠組みを逸脱した人間』にふさわしい呼称であるかのように。何の疑いもなく厚顔無恥に。

 

 

だが、それも詮無きことなのだ。

 

なぜなら。

 

 

『現実に行動』さえ起こさなければ、人はいかなる価値観や癖を持っていたとしても『まともで正常である』という証を得られるから。

 

 

そう……たとえカニ〇リズムでも、嗜虐でも、シカンでも、サ〇ジン癖でも。

 

妄想や空想……フィクションの世界であれば……現実で無ければ、全ては許される。

 

 

空想は、自己が正常な人間であるという自尊心を満たすために、一役も二役もかっているのだろう。

 

 

人は、自分がまともで正常あるという証を得ねば。

 

社会の枠組みを外れた者や弱者を利用せねば、存在できない寂しい生き物なのだろう。

 

 

 

「………………」

 

 

 

上辺だけで塗り固められた世の中の成り立ちを知ってしまった少女には、もう友人を責めることなど到底不可能だった。

 

 

少女は、知ってしまったのだ。

 

 

線引きの全ては、自尊心を満たすものとそれに利用されるものに他ならないと。

 

 

誰も、人を蔑む権利はない。レッテルを貼る権利すらもない。

 

まともな人間など、この世にいない。正常などこの世に無いと。

 

 

 

いじめ――嗜虐心。

 

 

犯罪者――妄想者。

 

 

優しさ――自己満足。

 

 

考察――自己完結。

 

 

思いやり――自己愛。

 

 

自傷――自己実現。

 

 

哀れみ――自尊。

 

 

寛容――自己正当化。

 

 

正常――狂気。

 

 

 

全ては、等価だった。

 

体の良い、隠れ蓑。

 

 

もしかしたら彼女は、気付いて向き合ったのかもしれない。その矛盾に。

 

そして、穢れて傷ついて、最後は翼をもがれた。

 

 

……不幸中の幸いは、また笑いあえる日が来ると。

 

いつか元に戻れる日が来ると、確信に近い希望を持てることか。

 

 

 

「……ふふっ」

 

 

 

リゼちゃん……もしかしたらもう、わたしも変になってるのかもしれない。

 

黒の診断書を出されたリゼちゃんの気持ちがこんなにも分かるって、おかしいかしら。

 

それとも、的外れ?

 

 

……会えたら、聞いてみましょうか。

 

お互い、真理を知ってしまった者同士。

 

また、笑いあいましょう。笑えると、いいな。

 

 

 

「……リゼちゃん」

 

 

 

きっと、わたしたちなんかでは計り知れないほどに。

 

 

人知では、言葉や行動では証明できないほどに。

 

 

 

――壊したいほどに、大切だったのね。

 

 

 

ここあちゃんの身体にあった無数の傷跡が、痣が。

 

 

 

リゼちゃんの愛情の深さを、皮肉にも表してた……。

 

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

『●』

 

 

 

リゼ「……っ!」グググ!

 

 

ここあ「いだっ!ぁぁ゛……っ!」

 

 

リゼ「ここあ……っ」ガシッ

 

 

ここあ「ぃや……痛いよぉ……!」ポロポロ

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「ぇぐ……りぜちゃん……グスッ、どうして……?」ポロポロ

 

 

リゼ「……っ」ジワッ

 

 

リゼ「…………」ポロポロ

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」グスッ

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

リゼ「……………………」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……もうあさだよ?ごはんたべて、がっこういかなきゃ……」

 

 

リゼ「…………」フルフル

 

 

ここあ「……りぜちゃん」

 

 

リゼ「……いやだ、お前と離れたくない」

 

 

ここあ「…………」

 

 

リゼ「どこかに行くかもしれない……いなくなるかもしれない……」

 

 

ここあ「いなくならないよ……?どこにもいかないってやくそくするから……りぜちゃんのこと、おうちでまってるから」

 

 

ここあ「だから……ねっ?」

 

 

リゼ「…………」グスッ

 

 

ここあ「いっしょにごはんたべて、よういして、『げんかん』までいこう?」

 

 

リゼ「……」コクリ

 

 

ここあ「よしよし……」ギュッ

 

 

リゼ「ここあ……っ」

 

 

リゼ「帰ったら、また抱きしめてもいいか……?」

 

 

ここあ「うん、たくさんぎゅってしようね」

 

 

リゼ「………………」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……」ナデナデ

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

ここあ……。

 

 

 

 

……わたしの天使。

 

 

 

 

――存在証明。

 

 

 

 

天使は――決して穢れない。

 

 

 

 

不純とは違う――純粋で、崇高な存在。

 

 

 

純粋は――矛盾を持たない。

 

 

 

持たないが故に――遠くにある。

 

 

 

そばには――いてくれない。

 

 

 

……………………。

 

………………。

 

 

 

だから、依存は。

 

 

 

常に、一方的で。

 

 

 

天使は……ここあは、わたしを慈悲深く包んでいるに過ぎない。

 

 

 

天使の慈悲は……特別な愛情ではない。

 

 

 

その愛情は――全ての人間に、平等に注がれる。

 

 

 

――いやだ。

 

 

 

いやだ、いやだ、いやだ。

 

 

 

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ。

 

 

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

証明。

 

 

 

特別である――証明。

 

 

 

特別な――愛情。

 

 

 

証明する――術は。

 

 

 

あの子を――天使を、不純にするしかない。

 

 

 

不純は――人間。わたしと、同一。

 

 

 

不純にする――術は。

 

 

 

歪んだ愛憎の、いずれかでしかない。

 

 

 

暴力、罵声、凌辱――嗜虐。

 

 

 

……おかしいな。

 

 

 

幸せなのに。

 

 

 

苦しい。

 

 

辛い。

 

 

悲しい。

 

 

………………。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

美しいものを汚したい、というサディズム。

 

いじめたいという、嗜虐心。

 

それは無価値な自分自身に、価値を見出す術なのかもしれない。

 

 

誰だって、かわいそうな子が好きだ。

 

極めて安全な立場から……辱め、苦しめ、凌辱する。

 

人間の本能は、極めて醜く、そして汚い。

 

そう……自分よりも弱いものが、好きでたまらないのだ。

 

イニシアチブを取りたいのは――何もない自分を、取り繕うがため。

 

 

だから時に――手を差しのべる。

 

 

か弱いものに――快感を、興奮を、覚える。

 

 

不幸は、蜜の味ではない。

 

不幸は――人を、人であらざる者に変える。

 

 

 

――魔。

 

 

 

 

リゼ「ここあは、わたしに嫌われてもいいんだな?」

 

 

 

極めて冷徹を装い、そんな言葉を投げかける。

 

脊髄反射の如く、ここあは懇願するかのようにかぶりを振った。その様は、強迫観念によって動くパラノイアを連想させる。

 

 

ここあ「いや……!いやだよ……!」

 

 

縋りついてきたここあの双肩は震え、既に涙腺は決壊していた。

 

離れ行く不確かなものを引き寄せるかのように、わたしの身体を固く抱きしめ、決して離そうとしない。

 

 

こちらを見上げ、わたしの虚言に畏怖し怯えるここあ……その姿に、天使の面影はない。

 

姿形のない絶対的な存在を崇め奉り、根拠のない神や悪魔を疑いもなく信仰する、『人間』特有の観念。それに似た脆弱さを露呈させる。

 

 

ここあが人間であることを、わたしが確信できる唯一の手段。

 

ここあからの愛情を……愛情が一方的でないことを確かめられる、唯一無二の方法。

 

 

わたしからの愛情に縋るここあと、縋られるわたし。

 

 

依存するここあと、依存されるわたし。

 

 

縋る天使と――縋られる人間。

 

 

懇願スル天使ト――蹂躙スル人間。

 

 

 

快感だ……。

 

 

 

ここあが、わたしに縋っている。

 

わたしなんかを、必要としてくれている。

 

わたしからの愛情の枯渇に、泣き怯えている。

 

 

 

快感だ……。

 

 

 

天使を穢す、優越感。

 

ここあを、人間に――不純物にする。

 

自己の存在証明を確立することができる、至福の瞬間。

 

 

 

ここあ「きらいにならないで、りぜちゃん……!」ポロポロ

 

 

 

無言のままここあを抱き上げ、ベッドへと横たえる。その上に、覆いかぶさる。

 

この子なりの力一杯の抱擁は、ほんのわずかな力によっていとも簡単に引き離せる。

 

無力で、純真な、わたしの愛しい天使。

 

華奢な肢体、幼さ故のきめ細やかで柔らかい肌、か細い首筋……ここあの存在を形取る、全てが手中にある。

 

 

 

リゼ「……ここあ」

 

 

おもむろに頬を撫でてみる。

 

ビクリと身体をすくめ、潤んだ瞳がわたしの顔を覗き込んだ。

 

 

欲望、衝動、虚栄、嗜虐心……透明な表情の下に隠された真意を覗けなかったのか、すぐさま恐怖を覆い隠すように目を瞑る。

 

そんな仕草はことさらわたしの理性を侵し、ドス黒い感情を増長させた。

 

 

 

めちゃくちゃに――したい。

 

 

優位性を保てる――この立場から。

 

 

極めて、冷酷に、この子に、何の慈悲も愛情もなく。

 

 

ただ、身体だけを求めて。

 

 

 

ここあ「きゃっ……!」

 

 

 

支配欲、イニシアチブ。

 

ここあを、傷つける。心も、身体も。

 

満たされる、ちっぽけな自尊心が。

 

 

 

さも道具を扱うかのように、ここあの髪の毛を掴む。

 

 

 

ここあ「いたっ!ぁぅ……っ……!」ガクガク

 

 

 

わたしに嫌われたくない……ただ、その一心で。

 

必死に恐怖を押し殺し、自分という尊厳を捨ててまでも抵抗しようとしない。

 

例えこのまま秘部に手を伸ばそうとも。この子は、わたしを拒まないだろう。

 

 

 

わたしからの覚束ない愛情を、求めるために。

 

 

 

『……違う』

 

 

 

何をしても、許される。

 

 

 

例え凌辱しようとも、暴力を振るおうとも。

 

 

気持ちをないがしろにして、身体だけを蹂躙しても。

 

 

 

『――違う』

 

 

 

ここあは天使だから、許してくれる。

 

 

どれだけ穢しても、純白のままなんだ。

 

 

例え人間だとしても、ここあはわたしのことが好きだから。

 

 

相思――相愛だから。

 

 

 

『……違うだろ』

 

 

 

声が……聞こえる。

 

 

視界が……ぼやける。

 

 

……幻聴?

 

 

違う、わたしだ。

 

 

 

――極めて安全な立場から、可哀そうなここあを虐める、紛れもない『わたし』を。

 

 

――ここあのことが大好きで、真っ直ぐな愛情を与える、他の誰でもない『わたし』が見つめていた。

 

 

 

傲慢なんだ。

 

 

大した人間でもないのに、そんなに尊い子を、自分の物にしようだなんて。

 

 

 

……愛情が一方的でいいのなら。

 

どうせ一方的でしかないなら……人間は、自分に自信を持てるものなんだ。

 

 

 

傲慢なんだ。

 

 

わたしのもの?わたしのここあ?

 

わたしなんかが側に寄り添わなくても――違う。

 

寄り添う資格も、寄り添う必要もないんだよ。

 

わたし如きが。

 

 

 

寄り添って『あげたい』なんて――嘘だ。

 

本当は……わたしが、そうしたいから。

 

この子の全てが、欲しいから。

 

わたしだけのものにしたいから。

 

わたしがこの子にとって一番でありたいから……。

 

 

 

傲慢なんだ。

 

 

自己満足、だろ。

 

そうやって言葉にして証明しないと、行動で示さないと。

 

ただの自己満足であることに、気付いてしまうから。

 

独りよがりの愛情に、固執してることに。

 

 

 

仕方がないんだ。

 

こうすることでしか、この子はわたしの側にいてくれないから。

 

わたしのものにできないから。

 

 

 

傲慢なんだ。

 

 

 

無価値な自分を棚に上げて、一方的に愛情を貰おうなんて。

 

 

愛したい、なんて。

 

愛してあげたい、なんて。

 

愛してほしい、なんて。

 

愛されたい、なんて。

 

 

 

………………。

 

 

 

傲慢なんだ。

 

 

 

好き、なんて。

 

嗜虐心、なんて。

 

この子は、わたしの奴隷じゃない。

 

興奮を満たす道具じゃない。

 

一方的に愛情や暴力の代わりに……身体だけが、欲しいんだろ?

 

 

 

…………。

 

 

 

ここあの気持ちなんて、考えていないだろ?

 

どうでもいいんだろ?

 

わたしさえよければ、それで。

 

その暴力は、行為は――愛情の証明ではなく。

 

――ただの、押しつけだ。

 

 

 

……。

 

 

…………。

 

 

………………。

 

 

 

――嫌いに、なってくれないから。

 

 

 

………………。

 

 

 

……嫌いに?

 

 

 

――嫌われたくない。

 

 

 

ここあを壊してしまう。

 

 

 

……壊したい。

 

 

 

離れて、くれ。

 

 

 

――依存してほしい。

 

 

 

やめろ。

 

 

 

もう、ヤメテクレ……。

 

 

 

ここあを、いじめないで……泣かせないで……叩くな、求めるな、愛してあげるな、苦しめるな……。

 

 

 

わたしの――大切な、ここあを。

 

 

 

 

リゼ「うぁああああああぁ!!!!!??」

 

 

 

 

ここあ「っ!?」ビクッ

 

 

 

相反する、二元された行動原理の先に。メッキで固められた、心の根底に。

 

無理矢理押さえつけていたものが、溢れ出た。

 

 

 

リゼ「嫌わないでくれっ!!!独りにしないでっ!!ごめんここあ!許して!許してくれっ!」ガッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……!?りぜちゃん!」

 

 

リゼ「ここあぁ、わたしを見捨てないで!うぁぁあ!頼む……たのむ……!」ポロポロ

 

 

ここあ「りぜちゃんっ!なかないで!いやぁ……!」ポロポロ

 

 

 

もう、何も分からない。

 

自分の感情も、気持ちさえも。

 

何が間違っていて、何が正しいのかさえ。

 

 

 

のしかかるかのように、ただ目前にいる誰よりも愛しく誰よりも憎い相手を抱きしめる。

 

知覚を振るい、温もりを、香りを貪る。

 

 

リゼ「嫌いになってくれ、嫌いにならないで……側にいてくれ、離れてくれ……ここあ、好きだ……傷つけたい……壊したい……愛してる……」ポロポロ

 

 

 

狂った言葉を吐きながら咽び泣くわたしの身体に、小さな慈愛の手がまわされる。

 

背中を引っ掻くわたしと、撫でるここあ――相手を想う同一の行動は、対照的に。

 

 

 

ここあ「りぜちゃんの、したいようにしていいよ?」グスッ

 

 

ここあ「りぜちゃんのこと、ぜったいきらいになったりしないから……」ジワッ

 

 

 

それは、好意……?慈悲……?それとも憐憫……?

 

情動を覆い隠す、絶対的な天使の言葉。ここあの、言葉。

 

 

 

ここあ「だいすきだから……」ポロポロ

 

 

 

抗えない、抗う術がない、無力で不純な生き物でしかないわたしには、到底。

 

 

届かない、触れてはいけない、触れたら、わたしは掻き消される。

 

 

白と黒は、交わってはいけない。

 

 

 

――なのに。

 

 

 

ここあ「りぜちゃん……」グスッ

 

 

 

わたしの腕の中には、小刻みに震える脆弱な生き物がいる。

 

不純な狂人にさえ、その気になれば力づくで穢されてしまうほど、か弱い天使が。

 

そしてこの子は、間違いなく『ここあ』なのだ。

 

 

翼は無い。神秘的な力なんて無い。ただ、分け隔てない愛念を司るだけの、無力な生き物。

 

それでいて、わたしが畏怖する崇高な存在。

 

 

嗜虐とは真逆の、弱いものを守ってあげたい保護欲。

 

怖いものに触れたいという、人間の欲望的衝動。

 

そして――崇高なものを穢したい、征服欲。

 

 

全ては共存し、矛盾し、わたしの中に存在する。

 

 

それはいずれも、ここあに縋り、依存することでしか……満たせない。

 

 

 

リゼ「……っ」ギュッ

 

 

 

どうして、こうなる。

 

 

こんなに好きなのに。

 

こんなに幸せなのに。

 

こんなに満たされているのに。

 

 

どうして、こうなってしまう。

 

 

好きだから、不安になって。

 

幸せだから、不安になって。

 

満たされているからこそ、不安になって。

 

 

 

 

リゼ「ここあ……っ」ポロポロ

 

 

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『〇』

 

 

 

――ラビットハウス――

 

 

 

「……ここあさんは?」

 

 

「んっ……部屋で寝ているよ」

 

 

問いかけに、男は淡々とした口調でそう答えた。

 

少女が思いやり慈しむ相手は、とある出来事から解放され、ゆうに20時間を超えてもなお深い眠りについている。

 

 

「ここあくんも限界だったんだろう……」

 

 

男は少女の不安を察したように、向かい側のダイニングチェアへと静かに腰を掛けた。

 

内気で謙虚な少女も、肉親である男……父親には、ある程度の心内を話すことが出来る。

 

 

LEDに照らされ、少女のライトブルーの髪がひと際美しい輝きを放っていた。

 

静まらない胸の内を秘めた少女の曇った表情とは裏腹に、神々しい印象を受ける。

 

 

「………………」

 

 

水を打ったような静寂。

 

男はただ少女を見つめ、少女は必死に押さえつけていた寂寥が漏れたように、目尻に涙を浮かべた。

 

 

無理もない。少女はこの一件で、最も近しく大切な親友二人を一時的とはいえ喪失してしまったのだ。

 

やりきれない結果に対し、自責の念や悔恨、彼女なりの忸怩たる思いがあるのだろう。

 

その辺の気持ちは、周りの人間が汲み取ってあげるべきだ。慰めの言葉も罵倒の言葉も不要。

 

男の為すべきことは、愛する娘が再び笑顔になれるよう、ただ傷心を癒やし、寄り添うだけ。

 

 

 

「……チノ、これだけは、覚えていてほしい」

 

 

 

名前を呼ばれた少女が、おもむろに顔を上げる。

 

 

 

「自身の過ちや過失を、相手のせいにしてしまうのは『自分への甘さ』だ。根拠のない自信を振りかざし、自分を過大評価するのはとても見苦しい。人は謙虚で、どんなことに置いても必ず自分を戒めなければいけない。反省は、大切だ。分かるね?」

 

 

 

返答を待たずして、男は続ける。

 

 

 

「でも……自分を卑下して、何もできない、最低だと思うのも同じく、『自分への甘さ』だ。頑張ろうとしない自分を許し、これでいいと満足してしまう。それは、気づかぬうちに自分に勝手な評価をしていることにままならない。反省や戒めは、都合の良い言い訳を作ることじゃない。……分かるかい?」

 

 

「………………」

 

 

男は立ち上がると、押し黙る少女の頭に軽く手を乗せ、諭すように撫でる。

 

 

 

「自分に甘くても、卑屈でも、ダメなんだ。……難しいね」

 

 

 

何より厳しく、残酷な言葉であることは分かっていた。

 

だが、自身の娘であれば必ずやその言葉の真意を理解してくれる。

 

男には、確信に近い確かな根拠があった。下手な同情よりも、今の彼女にはこれが一番の特効薬だ。

 

はからずも不幸な人生を歩ませてしまった、優しい自慢の一人娘。この問題も、必ずや乗り越えてくれるに違いない。

 

 

 

「……そろそろ部屋に戻って、ゆっくり寝なさい」

 

 

「……お父さん」

 

 

 

踵を返した男の背中に、先ほどまでとは違う、はっきりとした少女の声。

 

男の口元に自然と微笑みが漏れた。

 

 

 

「ありがとうございます……おやすみなさい」

 

 

 

少女もまた、向き合う。

 

戒めや自責の先にある、何よりも厳しい――現実に。

 

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

『●』

 

 

 

暗黙の了解……この世の不文律、と言うものはいついかなる時に置いても不条理だ。

 

しかし、悲しいかな。成文律はもっと不条理なのだ。

 

 

わたしは狂人ではない。正常。

 

この世界ではまだ、はっきりとそう言えるのだろう。

 

 

ここあにどれほどの暴力を振るおうとも、一方的に身体を穢そうとも。

 

明るみに出ぬ限り、わたしは正常。

 

 

これが、こんなあいまいな線引きが。この世の正常と狂気を分け隔てている。

 

故に、わたしを裁こうとするものはいない。責めようとする者もいない。

 

……なにが、犯罪者だ。そんなものは、ただのレッテルだ。

 

正常なんてどこにもない、まともな人間なんて、わたしを含め誰もいない。

 

 

 

……だから。

 

 

 

わたしは、わたしが裁く。

 

 

 

言ったはずだ。

 

わたしの大切なここあを傷つけるものは、誰であろうと許さない。

 

 

 

――わたし自身も。

 

 

 

リゼ「…………」スッ

 

 

 

護身用に携帯している、小さな刃物。

 

本来の用途に使われたことのない鋭利な刃先が、凶悪なまでにその殺傷力を主張している。

 

これなら、充分だろう。

 

 

 

刃先を突き立て、二の腕の方に沿わすように這わす。

 

血液を紙一重で保護している皮膚が裂け、とめどないほどの血流が溢れた。

 

不思議と痛みは感じない。……いや、違う。

 

この痛みは、むしろ快感だ。

 

 

まるで、親のカタキである対象に幾度となく憎悪を込めて凶器を突き立てるかのように。

 

 

最も忌むべき対象を傷つける……その行為のもたらす意味が、痛みが、何よりも心地よい。

 

憎しみしかないこの身体を傷つけるのに、なんのためらいも迷いもない。

 

 

 

リゼ「わたしのここあを傷つけたのはお前か……」

 

 

 

横に深く切り裂くと、赤い体液が吹き出し、近くにあったわたしの顔と身体を赤く染めた。

 

 

 

リゼ「ふふっ……あはは……!」

 

 

 

こんなものじゃ済まさない。

 

二度と、ここあを傷つけられないようにしてやる。

 

 

 

リゼ「よくも、わたしのここあを……!」

 

 

 

刃物を持った右腕を高くかざし、思い切り突き立てようとした正にその時だった。

 

 

 

ここあ「りぜちゃんっ!!!!!!!!」

 

 

 

聞き慣れない、空を裂くような叫び声。

 

わたしの自傷の手が、自然と止んだ。

 

 

 

ここあ「りぜちゃん!しっかりしてっ!!しんじゃだめ!!りぜちゃんっ!!!!!」

 

 

半ば狂ったように泣き叫ぶここあの声が、わたしの耳に届く。

 

ようやくまともな思考を取り戻したのも束の間、裂傷だらけの左腕に鋭い痛みが走る。

 

辺りを見回すと見慣れた景色はどこにもなく、随所に飛び散った血痕……わたしの身体が、鮮血で赤く血塗られていた。

 

 

ここあ「しなないで!!しなないでぇ!!」

 

 

 

ここあが……泣いてる?

 

 

 

リゼ「ここあ……?」

 

 

ここあ「りぜちゃん!?りぜちゃん!!」

 

 

 

縋りついてきたここあの服が、肌が、たちまち赤く染まっていく。

 

闇が、光を侵食するように。純白のここあが、朱に染まる。

 

 

 

リゼ「ここあ……」ナデナデ

 

 

ここあ「りぜちゃん……ううっうぇええええん!!!」ポロポロ

 

 

 

……どうして、泣いているんだ?

 

どうして、ここあが泣くんだ……?

 

 

わたしは、お前を虐めたわたしを、切り刻んでいただけなのに。

 

ここあ……お前は、自分に害を及ぼす存在にまで、慈悲をかけるのか?

 

 

 

ここあ「やめて……もうこんなことしないで……しちゃだめ……!!」ポロポロ

 

 

リゼ「ここあ……わたしは、おまえを虐めたんだ。だから……」

 

 

ここあ「いじめてない!!りぜちゃんはなにもしてない!してないよ……!」ポロポロ

 

 

ここあ「おねがい、もうわたしのたいせつなりぜちゃんをきずつけないで……わたしはどうなってもいいから……!!」ポロポロ

 

 

激しくかぶりを振り、わたしを精一杯の力で抱きしめるここあ。

 

血で濡れた右手から……ここあの大切な、わたしの大嫌いな、わたしを傷つけた刃物が。

 

……力なく、滑り落ちた。

 

 

 

……………………。

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

天使は……わたし自身を傷つけることすらも許さない。

 

咽び泣き、慈しむ。

 

 

わたしは、ここあを虐めるわたしを傷つけることもできない。

 

 

この子は、泣いてしまうんだ。

 

 

自分を傷つけられることよりも、ずっと深く悲しんで。

 

 

 

ここあ……。

 

ここあ、ここあ、ここあ。

 

ここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあここあ。

 

 

 

リゼ「ここあ……どうしたらいいんだ……」ガクッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」グスッ

 

 

 

抱きしめる、天使を?ここあを?

 

違う、わたしの命よりも大事な存在を。生きる意味を。

 

 

 

リゼ「ここあ……教えてくれ……」ポロポロ

 

 

リゼ「わたしは……生きていていいのか……」ポロポロ

 

 

リゼ「お前のことを、好きでいていいのか……」ポロポロ

 

 

 

…………………………。

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

……。

 

 

 

わたしが、わたしを見つめている。

 

狂ったわたしが、狂ったわたしを。

 

 

 

……もう、どうでもいい。

 

わたしの存在証明は、ここにある。

 

 

 

 

 

ここあ「りぜちゃんは、いきていていいんだよ……だいじょうぶ」ポロポロ

 

 

ここあ「わたしのこと、すきでいて……いてくなきゃ、やだ……」ポロポロ

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

III.

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

『〇』

 

 

快晴の中、かりそめの目的地に向かい歩みを進める。

 

幼馴染の情報によると、甘兎庵から徒歩で約20分。確かであればあともう少しで見えてくるはずだ。

 

 

「あっ!しゃろちゃん、あれ!」

 

 

傍らでわたしの手を握っていた少女が、忽然と駆け出す。

 

人為的に形成された石畳みの歩道に歩みを進ませること18分、喧噪に包まれた景色が視界に飛び込んできたところでホッと胸をなで下ろす。

 

情報との誤差2分、どうやら出まかせでは無かったようだ。

 

 

「ここあ、先に行っちゃダメよ」

 

 

やんわりとたしなめると、戻ってきた少女の小さな手が再び繋がれる。

 

土曜日の真昼間、恐らく中も休暇を楽しむ人たちで雑踏しているに違いない。はぐれないようにしないと。

 

 

「欲しいもの、見つかるといいわね」

 

 

「うん!」

 

 

なんでもここのデパートは日用品や雑賀はおろか、有名なブティックや洋菓子、老若男女が求めるもの全てを一つの建物内に結集しているらしい。

 

この子がお気に召すものも当然備わっていることだろう。

 

 

 

片手でポーチを開け、財布の中身を再度確認する。

 

チノちゃん、千夜、リゼ先輩宅の使用人さん、みんなで出し合った『ここあとお出かけ用』の資金。

 

ピン札と呼ばれる美しい万札が5枚と、真ん中折れの皺が付いた5000円や1000円札が十数枚入っている。

 

金銭面は全く心配は無い。むしろこれほどの大金を財布で持ち歩いたことが無いせいか、妙な緊張感と不安に駆られてしまう。

 

 

「………………」

 

 

チラリとここあの方を見やる。

 

良かった……どうやら今は心から目の前の期待に胸を弾ませてくれているようだ。

 

いつもの寂しそうに影を差した笑顔は、まだ見受けられない。

 

 

この子は天真爛漫でありながら、相手を不快にさせないようにするという気遣いに関しては、下手な大人以上のきらいを見せる。

 

それを察せるものからすれば、あの悲しい笑顔を見るのは心臓を鷲掴みにされたように痛く、辛いものだった。

 

 

静寂はどうしても人に考える猶予を与えてしまう、人のごった返すこの場所をあえて選んだのは、千夜なりの気遣いだったのだろうか。自意識過剰かもしれないが、ここあではなく主にわたしへの。

 

 

「さて、行きましょうか」

 

 

処世術で培った笑顔を繕い、ここあを促す。

 

リゼ先輩と離れ離れになって以来、健気にカラ元気を装うここあのためにと毎週休日に交代で催すことになったおでかけ。今週はわたしの番だ。

 

 

無論『義務』や『面倒』などという気持ちは微塵もない、ここあと二人きりで時間を共有する役得は本来の目的を加味しても何物にも代えがたい喜びがある。

 

 

 

変わらない、日常。

 

 

 

元に戻りつつある、幸せな時間。

 

 

 

しかし、完全に元通りになることは無いだろう。

 

 

……リゼ先輩。

 

 

あなただけが、いない。

 

 

ただ、あなただけが。

 

 

「………………」

 

 

今日もまた、心の中で祈る。

 

 

昨日と同じく、たった2つの願い事を。

 

 

 

少しでも――ここあが元気になりますように。

 

 

 

リゼ先輩――早く帰ってきてください。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

『●』

 

 

 

…………。

 

 

 

…………?

 

 

 

……もう、朝か。

 

 

 

…………。

 

 

 

……一日が、始まる。

 

 

 

リゼ「…………」

 

 

 

意地の悪い睡魔に抗えなかった己自身にまた傷の一つでも付けてやりたい衝動に駆られたが、ここあのためにもこみ上げる悔恨をグッとこらえた。

 

 

もはや地獄となった日常、唯一の加護領域であるベッドから重い腰を上げる。

 

……いや、違う。

 

加護領域は、ここあの側。この子がいないのであれば、ベッドで横になるなど『生きていく上での苦痛の義務』の一つに過ぎない。

 

無神世界に提供されたわたしの安寧は、その名の通り世界にたった一つで、ほんのわずかしかないのだ。

 

 

しかし、この世の義務というのは、その救済に易々と縋りつくことすらも許さない。

 

学校、仕事、世間体……人間に纏わりつく責務などというやつは、どこまでわたしを苦しめるつもりなのだろう。

 

 

ここあ「んっ……?」

 

 

絶え間ない数々の仕打ち。本来ならば、もうこんな世界にとっくに未練などない。

 

味覚、視覚、感覚……知覚が徐々に狂いつつある今、もはやわたしには何も残されていないのだ。

 

 

 

――ただ、この子を除いて。

 

 

 

リゼ「ここあ……おはよう」

 

 

ここあ「おはよう……ふぁぁ……」

 

 

リゼ「顔を洗おうか。……よっと」

 

 

返答を聞かずして、おもむろにここあを抱き上げる。

 

 

リゼ「んっ……」

 

 

温かい体温。芳しい少女の香り。

 

わたしが人間でいられる、唯一の時間。

 

生きていることを疑いなく生きていると認識できる、至福の瞬間。

 

何物にも代えがたい、天使の翼と肢体に優しく包まれているかのような、安らぎの時。

 

 

わたしは、このために生きている。

 

 

生きている意味など、他に要らない。

 

必要とし、必要とされる……どちらが欠けても崩れてしまう危うい均等の中、互いの存在に安堵し、喜悦し、縋りひたすら求めあう。それが今のわたしの幸福。

 

 

ここあ「りぜちゃん……」スリスリ

 

 

共依存……だっけか。どこかで聞いたことがある。

 

ただ、わたしの場合は少し違う。

 

 

悲しいかな、きっとわたしとここあでは、ベクトルが違うのだ。

 

 

 

ここあ「きょうも、がんばろうね……?」

 

 

 

もう、義務なんてどうでもいいのに。

 

わたしにはお前さえいれば。

 

 

 

 

ここあ……。

 

 

 

 

お前は、まだわたしを、人間でいさせてくれるんだな。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

――お昼――

 

 

 

??「リゼ?」

 

 

メイドの作った弁当を無心に口に運んでいると、聞き慣れた声に思わず手を止める。

 

気の抜けたような話し方と少し垂れた目が特徴的な、なんともつかみどころのない印象を受けるわたしの幼馴染。吹き矢部部長、ユラ。

 

仲が良いのは確かだが、学校では特別これといった絡みは無いので思わず言葉に窮する。

 

 

彼女の両手には購買で購入したであろう人気で予約必須のチーズサンドと比較的安価なハニートーストが抱えられていた。わざわざここに来たことからして相手の目的を確信しつつも、一応体裁として聞いてみる。

 

 

リゼ「どうしたんだ?」

 

 

ユラ「はぶられてさぁ、かくまってもらっていい?」

 

 

いつものおどけたポーカーフェイスでユーモアのある返し、彼女は今日も平常運転らしい。

 

言及するまでも無いが、つまりここで昼食を一緒に食べてもいいかということだ。

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

正直あまり乗り気ではなかったが、事実上わたしには一択しかない。

 

 

ユラ「ありがとう、持つべきものは幼馴染だね~」

 

 

相も変わらず表情は変わらぬが、嬉々とした様子でわたしの机にパンを散乱させる。

 

この調子である、これだから彼女は厄介なのだ。

 

 

はぶられた、などというのは間違いなく嘘だろう。

 

そもそもはぶられた人間は、捨てられた子犬のような目をして知り得る近しい知り合いに頼るという不文律のテンプレートが存在する。

 

 

わたしの自意識過剰でも無ければ、ハナからわたしと昼食を共にするためにここに足を運んだに違いない。

 

 

ユラ「ここのハニトーさ、割りといけるんだよ~」

 

 

わたしの席の前にあるクラスメイトの椅子には腰を掛けようともせず、立ったまま隣でハニートーストの袋を破るユラ。

 

 

席の主が内気な子だった場合、仮に用があっても、席に居座った自分に声をかけられずに困ってしまうのではないかという可能性を考慮した上での配慮だろう。

 

 

こういうところは、昔から何も変わっていない。千夜にも通ずる遠回しな、それでいて優しいさりげない気遣い。

 

 

ユラ「……リゼさぁ」

 

 

数十秒ほど無言を貫いていたユラだったが、わたし様子を観察して確信を得たのか、本題である『わたしに会いに来た理由』を口開く。

 

 

ユラ「最近、元気ないよね。なにかあった?」

 

 

リゼ「……いや」

 

 

ユラ「じゃあ、久々に吹き矢部に来ない?」

 

 

リゼ「………………」

 

 

自分で発した言葉の矛盾に、つい返すべきあいまいな返答を失ってしまう。

 

無理もない、部活の助っ人などこの3週間全て断っている。周りの人間からすれば何もないという方が強引だろう。

 

 

ユラ「……ごめん、冗談」

 

 

追及されると思ったのも束の間、彼女はゆっくりと息を漏らして自ら要望を早くも放棄した。

 

これ以上は無駄だと諦観にも近い感情で折れたのか、もしくはわたしの気持ちを汲んでくれたのか。いずれにせよユラは人の心の核心に触れながら、踏みとどまる線引きを弁えているのは確かなようだ。

 

 

ユラ「リゼの後輩のあの子にさぁ、わたし無き後の吹き矢部を任せたいんだけど、リゼからも頼んでくれない?」

 

 

それからチャイムのけたたましい音が鳴り響くまで、ユラが先ほどの話を掘り起こしてくることは無かった。

 

結局終始たわいもない会話を何度か交えただけだったが、一応彼女なりの目的は達したらしく、ご満悦で教室を去って行った。

 

 

今日は彼女のおかげで、生きるために味の分かりもしないものを飲み込む行為のストレスが和らいだことだけが幸いだ。

 

 

 

ハニートースト……か。

 

 

 

――どんな味だったっけ。

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――翌日 朝――

 

 

朝から耳に雑音が鳴り響く、不協和音も甚だしい。原因は不明。

 

 

不快極まりなかったが、ここあの前では何とか平静を装うことが出来た。

 

余計な心配をかけて、またあいつの笑顔を曇らせたくない。

 

 

そう……なんてことないさ。

 

わたしには、ここあがいるのだから。

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

そろそろ出発の時間だ。

 

どうせ極寒はおろか自分の体温さえ感じられないのだ、最低限周りから不思議に思われない程度の身なりをしていれば問題ない。風邪など引くことが出来たらわたしとしてはこの上ないほどの役得だが、ここあが悲しむので故意にはしない。

 

 

二人きりでの朝食を終え、学校に出かける前の恒例のハグの時間。

 

のはずだが、ここあの姿が無い。

 

この機を逃してしまうと、今日の午後6時頃まで『人の温もり』とはおさらばになってしまう。

 

玄関に向かう際に辺りを探してみたが、結局ここあとは会えないまま地獄への入り口に辿り着いてしまった。

 

 

はからずもいつものように、扉の前で深いため息が出る。

 

これから起こる受難に憂鬱とした気分になっているのはもちろんだが、実のところそれよりもここあとハグできなかったことの方が神経を憔悴させている。

 

 

……今日はもういい、外とのどうでもいい関わりなど適当に終わらせて早く帰ってこよう。

 

 

失意の底にあるほんの僅かな気持ちを叱咤激励し、重い歩を進ませる。

 

門扉を開くと、動いている何かが視界の両隅に入った気がするが気にも留めない。

 

どうせ使用人たちだろうが、ここあ以外の存在になどもはや価値も無ければ興味もない。

 

 

関与なく通り過ぎるつもりが、今日はなぜかわたしに向かってなにかをしきりに喚いている。

 

後ろから肩を掴まれたところで、堪忍袋の緒が切れた。

 

 

リゼ「さわるなっ!!」

 

 

感情のまま一喝すると、おずおずと手が離れる。

 

今日はただでさえなにやら耳鳴りがひどいのだ、これ以上わたしの気持ちを逆撫でする気なら誰であろうと容赦しない。

 

 

憤りをなんとか消沈させ、河川に跨る石橋を渡って目的地の学校を目指す。

 

気のせいだろうか、道行く度にすれ違う人が訝しげにこちらを見ている気がする。

 

 

……自分の顔が酷い有り様になっているのは鏡を見なくとも察しが付く、あまり気にせずともいいだろう。

 

 

 

……学校、か。

 

 

 

どうしてわたしは、学校なんかに向かっているんだ。

 

 

 

なんのために?

 

 

 

ここあがいない場所に、わたしの存在理由などないのに。

 

 

 

……わたしは、何をしているんだ。

 

 

 

「――ぜちゃん!」

 

 

 

色彩の無い狂った世界に、突如として耳に響いた天使の声。

 

反射的に、振り返ると。

 

 

ここあ「りぜちゃん!まって!」

 

 

天使が――ここあが、泣いていた。

 

 

リゼ「ここあ……?」

 

 

ここあ「りぜちゃん、これ――」

 

 

リゼ「ここあっ!」

 

 

ここあ「!」

 

 

抱き寄せる―ー飛び掛かると言ったほうが正しいかったのかもしれない。

 

内側から滲み出てきた怒りにも悲しみにも等しい強烈な感情は、もはや制御することがかなわなかった。

 

ここあの華奢な身体がいつにもまして震えている。冷たくなっている。頬を絶え間なく伝う確かな雫。

 

……分からない。わたしと朝食を食べて離れた以降、いったいどんな経緯があったというのだ。

 

 

リゼ「どうしたんだ!どうして泣いてるんだ!?」

 

 

ここあ「っ……!?」

 

 

唐突な叫びに面食らったここあが、呆然とわたしを見つめている。

 

構いもせずに言葉を続けようとしたが、その瞳の色から幾分の悲哀を感じ取った時。

 

 

わたしは――ようやくその意味に、気が付いた。

 

 

リゼ「……それ」

 

 

ここあが手に携えていたのは、淡いパープル模様1色で彩られた、わたしの傘。

 

ずっと以前に、ここあが選んでくれて購入した、わたしの大切な思い出のひとつ。

 

 

ここあ「りぜちゃん……」

 

 

 

 

ここあ「きょうは――『あめ』だよ……?」

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

……そうか。

 

今朝からの耳鳴りも、使用人たちの不躾な態度も、すれ違う人間たちの挙動も。

 

 

看過できない疑問の答えは、これだったのか。

 

ここあは、泣いていたんじゃなかった……雨に濡れていただけ。

 

 

 

異常なのは――わたしの方だった。

 

 

 

……………………。

 

 

 

空を、見上げる。

 

曇っているのだろう。

 

黒色だけで、何も分からない。

 

 

 

頭を触ってみる。

 

びしょ濡れなのだろう。

 

冷たいのかさえ、分からない。

 

 

 

頬を手でなぞってみる。

 

泣いているのだろうか、それとも雨の雫だろうか。

 

分からない。

 

 

 

笑顔を繕ってみる。

 

ここあが、不安げにこちらを見つめている。

 

どうしてあげたらいい、分からない。

 

 

 

目の前にいる、ここあを抱きしめる。

 

天使なのだろうか、人間なのだろうか。

 

人間ですらないわたしには、分からない、

 

 

 

濡れている身体を寄せ合う。

 

冷たいのだろうか、温かいのだろうか。

 

温かい、わたしは、とても。

 

 

 

リゼ「ここあ……帰ろう」

 

 

ここあ「え……」

 

 

リゼ「風邪ひくぞ、帰ったらお風呂に入ろう」

 

 

ここあ「でも、がっこう……」

 

 

リゼ「帰ろう」

 

 

ここあ「…………うん」

 

 

 

降りしきる雨の中、ここあを抱き上げ、ついさっきまで歩いてきた家路を辿る。

 

どうして、この子を独りぼっちにさせてしまったんだ。側にいてあげれば、こんなことにはならなかったのに。

 

そもそも、学校になんて行かなければ。

 

 

 

……………………。

 

――学校は、義務だから。

 

 

 

ここあより大切な義務って、なんだ?

 

生きることよりも大切な義務?

 

生きるための、義務?

 

違う。

 

義務のために、生きる。

 

義務のために、苦しむ。

 

義務のために……。

 

 

 

誰を責めたらいい、何を責めたらいい。

 

わたしを責めれば、ここあが悲しむ。

 

それなら、やっぱり外の世界がいけないんだ。

 

 

 

……帰ろう。わたしがわたしでいられる場所に。

 

安寧の地に。

 

ここあと二人だけの、幸福な場所に。

 

 

 

雨は止まない。

 

止む気配もない。

 

わたしを濡らし、存在を拒む。

 

 

ここあが、強く抱きついてくる。

 

泣いている?分からない。

 

でも、これだけは分かる。

 

わたしを受け入れてくれるのは、やっぱりお前だけだ。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

『〇』

 

 

 

「しゃろちゃん、みて!」

 

 

胸に抱きかかえたヘンテコなぬいぐるみを差し出してくる。うさぎだろうか、見ようによってはきつねに見えないことも無い。

 

 

「可愛いわね、これにする?」

 

 

わたしの問いに首を横に振ると、またぬいぐるみコーナーへと駆けて行ってしまった。また違うぬいぐるみを棚から引き出しては満開の笑顔を咲かせている。

 

密かにこちら側の財布事情を気にしているのだろうか、あの子なら十分にあり得る。

 

 

しかし千夜やチノちゃんの報告を聞くところによると、わたしに限らずショッピングに来た時はいつもこの調子らしい。執拗に何かを欲しがったことは一度も無いそうだ。

 

この年頃には遠慮などと言った気遣いとは無縁のはずなのだが。

 

 

当初はわたしもリゼ先輩の教育の賜物かと推測したが、以前にリゼ先輩が全く同じことで悩んでいたことを思い出し、己の推理が的外れであることを早くも思い知る。

 

 

誰に教わることも無く、これは自然なあの子自身の性格なのだろう。

 

 

モカさんが溺愛したのも頷ける、リゼ先輩が天使と妄信してしまったのも、無理は無いかもしれない。

 

子供らしからぬ一面を持ちながらも、子供らしい可愛さもちゃんと持っている。

 

リゼ先輩の猫可愛がりは責める方が酷だったと言うものか。

 

 

適当にぶらついているとあっと言う間に11時過ぎ、そろそろお昼時だ。

 

昼食のため一旦フードコートに向かうとしよう。

 

 

「ここあ、お昼ごはんにしましょう」

 

 

「うん!」

 

 

腰元辺りに勢いよく飛び込んできたここあの頭を撫でる。上目遣いにこちらを見上げている姿が可愛い、自然と顔がほころぶ。

 

 

「何か食べたいものある?」ナデナデ

 

 

「えっとね、ぱんのはんばーぐ!」

 

 

「パンのハンバーグ……ハンバーガー?」

 

 

ポテトフライとジュースも付いていたとのこと。

 

間違いなく正解のようだ。

 

先週チノちゃんとお出かけした時一緒に食べたらしい。ジャンクフードは百害あって一利なしだが、1週間に1回健康を損なわない程度なら構わないだろう。

 

なにより、この笑顔を無下にすることはわたしには到底不可能だ。

 

そう考えると、好き嫌いを注意したりマナーを厳しく躾けていた辺りリゼ先輩はやはりさすがと言わざる負えない。

 

 

ここあに気付かれないよう、ゆっくり大きく深呼吸。

 

今はただこの子の笑顔のために、自分にやれることをやる。

 

 

小さな手を握り、ここあの望む小さな幸せへと向かう。

 

きっと少しの間……ほんの少しだけでも、また笑顔になってくれるだろう。

 

 

この手を握るのは、きっと本来わたしの役目ではない。

 

このポジションは、埋めることはできない。

 

 

――だから。

 

埋め合わせるのではなく、繋いでおきます。

 

 

リゼ先輩が、繋ぎ直せるように。

 

代わりではなく、この子とあなたの、友人として。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

『●』

 

 

 

歪んだ世界の中、ただずっと、ひたすらここあを見つめる。

 

 

わたしは生きている。

 

わたしに分かるのは、ただそれだけ。

 

 

あとは、ここあが教えてくれる。

 

 

わたしは生きている――生かされている。

 

ここあのために――ここあによって。

 

 

 

ここあ「んっ……?」クシクシ

 

 

リゼ「おはよう」

 

 

ここあ「りぜちゃん……?はやおきだね」

 

 

リゼ「ああ、寝てないからな」

 

 

ここあ「え……」

 

 

表情が見る見るうちに曇っていく。

 

わたしはまた何か地雷を踏んでしまったのだろうか。

 

 

ここあ「……ねむれなかった?」

 

 

リゼ「いや、寝たらすぐ離れ離れになるじゃないか。わたしはここあと一秒でも長くいたい」

 

 

おかげで今日はいつもよりも幾分気持ちが楽だ。

 

9時間以上ここあを抱きしめていたおかげか、身体も温かい。

 

 

ここあ「……そっか」

 

 

透き通った笑顔で微笑むと、おもむろにわたしの背中へと手を回し、強く抱き付いてくる。

 

まるで不幸な犬猫を慈愛の手で包み込む、慈悲の天使であるかのように。

 

 

どうして、わたしを哀れんでいるんだ?

 

わたしは、こんなに幸せなのに。

 

 

ここあ「ゆめのなかでもずっと、いっしょにいてあげられたらいいのにね……」

 

 

ここあ「りぜちゃん……ごめんね……」

 

 

リゼ「ここあのせいじゃないぞ。それに、今さら現実も夢も変わりない」

 

 

むしろ、お前以外のこの『現実』は。

 

もはや、悪夢と等価だ。

 

わたしにとっての現実は、あと30分……。

 

お前と離れ離れになるまでの、あとわずかな時間だけなのだから。

 

 

 

……………………。

 

ここあ……。

 

わたしがいない間に、どこかに行ったりしないよな。

 

 

……しないよな。

 

 

お前は、天使だから。

 

わたしを見捨てたりしない。

 

 

お前は、人間だから。

 

翼なんて、ない。

 

 

ここあは、天使だから。

 

ただ、翼を持たないだけで。

 

 

ここあは、人間だから。

 

翼があっても、飛べない。

 

 

ここあは、人――――使だから……。

 

●×※□&%……。

 

 

飛べないんだ。

 

わたしの側にいる。

 

どこにも行かない。

 

 

矛盾している?どうでもいい。

 

世の中が矛盾に満ちているのは今に始まったことじゃない。

 

 

 

さて、今日も頑張ろう。

 

正常でいるために?人間でいるために?

 

違う、ここあのために。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

ここあ「りぜちゃん……だいじょうぶ?」

 

 

リゼ「ああ、行ってくる」

 

 

本心を言えば今にでも縋りつきたいが、余計ここあの不安を煽るような気がしてグッと堪えた。

 

柔らかい頬に軽くキスを残し、挨拶を交わしてここあの元を一歩、また一歩と離れる。

 

 

決して振り返らない。一度振り返ってしまえば、勝手に足が戻ってしまう。

 

わたしは正常なんだ、正常でいなければいけない。

 

 

行こう……。

 

学校に、行かなければ。

 

 

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

天気快晴なれど我が心曇天なり、か。

 

いや、快晴かどうかすらも怪しい。

 

 

見えているものが正しいかなんて、誰にも証明する術は無いのだから。

 

目に映るもの――現実というカタチは、ただ、大多数の見解で成り立っているというだけで。

 

 

人はそれを何の疑いもなく、鵜呑みにするしかないのだ。

 

それが、まともに生きる唯一無二の方法だから。

 

 

……今日は晴れているのだろうか。本当に晴れているのだろうか。

 

雨だったら、またここあに会えるのに。

 

 

泣いたら、雨になる?

 

……ならないだろうな、雨になるのはわたしの世界だけ。

 

 

わたしには、自分を信じる勇気が無い。

 

だから自分を蔑んで、安寧を得るしかない。

 

そうやって自分を許してあげるしかない。自信のない自分を。

 

いいじゃないか、自意識過剰で傲慢な人間よりは遥かに良い。

 

 

……その卑屈さが――本当は、何よりの傲慢なんだろう。

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

ここあは、卑屈で傲慢なわたしが、好きなのか。

 

それとも、根拠のない自信を振りかざす、傲慢なわたしが好きなのか。

 

あいつにとって、一番良いわたしでありたい。

 

でも、分からない。

 

 

……愛情が、一方的なものでいいなら。

 

 

思い込みでも妄想でも。相手を愛し、相手に愛されている。

 

そう確信が持てるなら、こんなに悩まなくてもいいのに。

 

 

一方的な愛情……感情、言葉ほど、居心地の良いものは他に無いのだから。

 

 

相手がいなくても、自己満足で完結できる。

 

 

でも、それには相手が必要。

 

 

矛盾している、これもまた。

 

 

 

……天使なら、答えを知っているだろうか。

 

帰ったら聞いてみよう。

 

きっと答えを教えてくれる。

 

 

 

近道の公園を抜け、噴水が設けられた広場を通る。

 

ここまで来ればあと5分もかからない、今日は間に合いそうだ。

 

 

……………………。

 

 

大きな時計台がまだ猶予があることを教えてくれたので、ここあが好きなイチゴのケーキを買うためにスイーツ店にでも行くとしよう。

 

確かオープンは9時半だったか。ゆっくり歩けば良い時間になるだろう。

 

 

カバンが、重い。

 

置いて来ればよかったな。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

『〇』

 

 

 

――甘兎庵――

 

 

 

「ちやちゃん、ただいま!」

 

 

「あらここあちゃん、おかえりなさい」

 

 

戸が開くや、店内に響き渡る明るくて大きな一声。

 

駆け寄ってくると、わたしの腰にギュッと両手が回された。小さい身体を抱き上げいつものように頬ずりをすると、少女は照れたような笑みを浮かべる。

 

 

「ただいま」

 

 

「シャロちゃん、おかえりなさい」

 

 

続くように帰宅した幼馴染から、『上手くいった』のハンドシグナルを受け取る。

 

肩にかけたポーチ以外に、左手に新しい荷物がぶら下がっていた。

 

この子の欲しいものが、ようやく見つかったようだ。

 

 

「ここあちゃん。お出かけ、楽しかった?」

 

 

「うん!おひるに『はんばーがー』たべたよ!あとね――」

 

 

今日の出来事を嬉々として話す少女。聞いているこちらまで思わず笑顔になる。

 

本題に映るはずだったがタイミングをしばらく失い、踏み込むまでに5分程度の時間を有した。

 

 

「そう、たくさん遊んだのね」

 

 

後頭部を優しく撫でると、気持ちよさそうに目を閉じている。

 

幼馴染の方を一瞥し、自然を装い核心に触れてみた。

 

 

「シャロちゃんに、何か買ってもらったの?」

 

 

「――これよ」

 

 

その問いに答えたのは、少女ではなく隣で沈黙を貫いていた幼馴染だった。

 

袋から取り出されたのは、何の変哲もない極めて普通の白いうさぎのぬいぐるみ。

 

特別な何かを期待していただけに、つい言葉に窮してしまう。

 

 

「……ぬいぐるみ?」

 

 

「ううん、メッセージドール」

 

 

「……!」

 

 

少女がなぜこれを欲しがったのか。幼馴染の複雑な表情。上手くいったという報告の、本当の意味。

 

全ての理解は、その一言で済んだ。

 

 

「……ちやちゃん?」

 

 

呼ばれて、再び腕の中にいる少女と目を合わす。

 

不安を宿したバイオレットカラーの瞳が、輝きを潜めてこちらを覗いていた。

 

 

隣にいる幼馴染も、きっとこの子と同じ答えを、わたしに望んでいるのだろう。

 

本来ならばいち早く、その答えをこの子に与え、安心させたかったのだろう。

 

だが、彼女の独断では決められず、結局わたしにその決断を委ねたと言ったところか。

 

 

もちろん、考えるまでもない。

 

少女の瞳をしっかりと見据え、答えを口にする。

 

 

「みんなで描いて、今夜持って行ってもらいましょう」ニコッ

 

 

「……!」

 

 

ツンケンで笑顔を滅多に見せてくれない、大切な幼馴染と。

 

明るい笑顔がとても良く似合う、親友の少女。

 

たちまち満開に咲く、二つの笑顔。

 

これを見られただけでも、わたしの決断は間違っていなかったと確信が持てる。

 

 

「よかったわね、ここあ!」ナデナデ

 

 

「うん!」ニコッ

 

 

「……………………」

 

 

メッセージ、なんて書こうかしら。

 

 

この温かい気持ちが……みんなの想いが。

 

 

 

――リゼちゃんに、届きますように。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『●』

 

 

 

門扉の前に、また黒い奴らが群がっている。

 

 

わたしに気付いた途端、まるで動物園で珍しい生物を見たかのように、こちらを訝し気に見つめている。ある者は隣の黒色と互いに顔を見合わせている。

 

何か言いたげな、それでいて言い淀むようなその態度に、またわたしの中の憤りが目下青天井に上昇する。

 

 

いったい何が言いたいんだ。何かあるならはっきり言え。

 

まるでわたしが狂っているような、正常でないものを見るようなその態度が気に食わない。

 

天使の言葉を否定するつもりなら、わたしがお前らの存在を否定してやる。

 

 

無視して通り過ぎようとすると、一人の黒色が何かをわたしに向かって小さく呟いた。

 

……何を言ったのだろう。

 

いや、何かは何かのままでいい。

 

わたしには関係ない。

 

例えば石につまずいたとして、その石はわたしの今後の人生に影響があるだろうか。

 

転んで大怪我でもしない限り、それは5秒もせぬうちに記憶から抹消される程度の存在なのだ。

 

わたしに関わっておきながらも、全く影響のない存在。あの黒色たちは、言わば石。

 

違う、あいつらだけじゃない。天使以外の全てが、石。

 

色彩のない、言葉を発するだけの何か。

 

 

天使は違う。天使は、違う。

 

希望的観測?違う、違う、違う。

 

必然なんだ、これは。

 

 

天使が、わたしの全てなのは。

 

太陽が輝いているくらいの常識、当たり前なこと。

 

……天使?

 

 

わたしの大切な家族とは違うナニカ?

 

わたしの大切な親友とは違うナニカ?

 

人間であり、幼い姿をした大好きなあの子とは違うナニカ?

 

 

……一緒だ、どっちも。

 

今さら変わりはない。

 

 

待っていろ、すぐにお前の大好きなイチゴのケーキを持っていくから。

 

笑顔になってくれ、笑ってくれ。わたしを必要としてくれ。

 

お前に求められることだけが、今のわたしの全てだ。

 

 

扉を開く。

 

 

扉にぶつかる。

 

 

扉を開く。

 

 

何かにぶつかる。

 

 

何かを蹴飛ばす。

 

 

良かった、開いた。

 

 

悪意を持ってわたしの邪魔をしようとしたそれが悪い、自業自得だ。

 

 

あと少し、あと少しだ。

 

 

わたしの加護領域まで、あともう少し。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

リゼ「ただいま」ガチャッ

 

 

ここあ「……!」

 

 

いた……天使だ。

 

知覚が癒されていく。

 

――わたしは、生きている。

 

 

リゼ「天使、遅くなったな」

 

 

ここあ「りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「ほら、お前の好きなショートケーキだぞ」ニコッ

 

 

ここあ「てんし……?」

 

 

リゼ「チーズケーキもチョコケーキも買ってきてある、全部食べていいからな」

 

 

ここあ「………………」

 

 

リゼ「……?」

 

 

どうしたんだ……?浮かない表情なんてして?

 

喜んでくれると思って、せっかく朝から買ってきたのに。

 

 

リゼ「天使?」

 

 

ここあ「りぜちゃん……あのね」

 

 

天使の小さい手が、穢れ切ったわたしの手を優しく包む。

 

温かい……これが、天使の手。人間とは違う。

 

 

 

ここあ「がっこうは……?」

 

 

 

リゼ「学校?……ああ、そうだったな」

 

 

すっかり失念していた。そんなどうでもいいこと。

 

故意では無いにせよ、少しの悔恨くらいはある。

 

 

リゼ「お前の喜ぶ顔が見たくてな、ごめん……明日はちゃんと行くよ」

 

 

リゼ「だから、今日はずっと一緒にいよう」

 

 

リゼ「一緒にいてくれ」ニコッ

 

 

ここあ「………………」

 

 

リゼ「天使?」

 

 

ここあ「……りぜちゃん……ちいさくなって?」

 

 

リゼ「んっ、こうか?」

 

 

――おもむろに。

 

天使の慈悲の手が――わたしの首元に回される。

 

 

ここあ「ごめんね……」ギュッ

 

 

リゼ「……?」

 

 

ここあ「わたしが、ついていってあげればよかったね……」

 

 

リゼ「ケーキを買いに行くくらい一人でも大丈夫だぞ?どうしたんだ急に」

 

 

ここあ「ううん……なんでもない」グスッ

 

 

ここあ「ありがとう……りぜちゃん……」ジワッ

 

 

ここあ「やっぱりりぜちゃんは、やさしいままだよ……」ポロポロ

 

 

天使が――泣いている。

 

どうして?分からない。

 

 

わたしは笑う、さめざめと。

 

わたしは泣く、しめじめと。

 

分からないから、笑う。分からないから、泣く。

 

 

 

リゼ「天使、泣かないでくれ……」ナデナデ

 

 

ここあ「りぜちゃん……」グスッ

 

 

リゼ「ん……?」

 

 

ここあ「いっしょに、おえかきしよ……」

 

 

リゼ「……ああ」スッ

 

 

立ち上がり、本棚からスケッチブックを引っ張り出す。

 

 

ここあの大切なお絵描き帳。

 

 

わたしの大好きな、ここあの。

 

 

これはここあの描いたものだ、何の不思議もない。違和感もない。

 

 

ここあが、一生懸命描いたものだ。

 

 

 

リゼ「今日は何を描こうか?」

 

 

ここあ「…………」

 

 

リゼ「ここあ――おいで」ニコッ

 

 

ここあ「……!」

 

 

――また、泣き出してしまった。

 

今日のここあは、いつも以上に泣き虫だ。

 

お前は、笑顔のほうが似合うのに。

 

 

ここあ「うん……わたしだよ……」ポロポロ

 

 

ここあ「りぜちゃん……っ」ギュッ

 

 

 

ここあが――泣いている。

 

どうして?分からない……。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

『〇』

 

 

 

……白昼夢?

 

 

――いや、現実だ。

 

 

「――ゼさん」

 

 

……呼んでいる。

 

 

「リゼさん」

 

 

かつてわたしが生きていた、現実から。

 

 

「……チノ?」

 

 

呼び声の主は安堵したように息を吐くと、先ほどよりも明るい声色で続けた。

 

 

「リゼさん、こんばんは。いま大丈夫ですか?」

 

 

「ああ」

 

 

「絵を――描いていたんだ」

 

 

「絵?……そうですか」

 

 

「………………」

 

 

「上手く描けましたか?」

 

 

「どうだろう……一人じゃあな……」

 

 

会話が途切れ、しばしの沈黙。

 

互いが互いに、言葉を続けて良いのかどうか。

 

隔たりを挟んでの……ここでのチノとの会話は、いつもこんな感じだ。

 

わたしにとっては、これが逆に心地よい。チノらしくて思わず微笑んでしまう。

 

向こうからは見えない、これくらいの役得は許されても良いだろう。

 

 

「――あの」

 

 

助け舟を出そうと思っていた矢先、先に静寂を壊したのは珍しくチノの方だった。

 

 

「リゼさん……これ」スッ

 

 

唯一向こう側の現実に触れることを許された、小さな隙間。

 

そこから差し出されたのは、その隙間にぴったりと挟まってしまいそうなほどの、綺麗な包装紙に包まれた何か。

 

 

「これは?」

 

 

「ここあさんからの、プレゼントです」

 

 

「……!」

 

 

「あと、わたしたちからの気持ちも……」

 

 

破れないよう丁寧に包装を解くと、中から出てきたのはカラーリングを施されたうさぎのぬいぐるみだった。

 

カラーペンで所々に描かれているのは、わたしに向けられた、大切な人たちの言葉。

 

 

「この黄色は、シャロだな、こっちの緑色で書かれたのは千夜か」

 

 

字の形はもちろん、書いている言葉にまでそれぞれ性格の特徴が出ている。

 

シャロは律儀に、千夜はクスリとくる温かい文章。チノは――いつも通り、まさしくチノだ。

 

 

「文章だと少し大胆だな、チノって」

 

 

「あ、後で読んでください//」

 

 

「………………」

 

 

見当たらない……あの子の言葉が。

 

まだ文字は書けないだろうし、代わりに書いてもらったのか。

 

だとしたら、このぬいぐるみに書かれているいずれかの言葉があの子の?

 

 

わたしの疑問を察したのか、チノは取り繕うように、それでいて諭すようにゆっくりと口を開いた。

 

 

「赤いリボン」

 

 

「……首元にある、これか」

 

 

恐らく既成の代物では無いであろう、首元に巻かれた赤いリボン。

 

メッセージドールにはそぐわない原色の装飾品。

 

 

「内側に、ここあさんのメッセージが書いてあります」

 

 

「……あいつらしいな」

 

 

「………………」

 

 

「あとで読んでみるよ」

 

 

壁の隔たりの向こう側でも……顔を見なくとも、チノは気付いてしまったのだろう。

 

わたしが――笑っていることに。

 

わたしが――泣いていることに。

 

 

嬉し泣きや感涙とは違う、何か。

 

はかり得ることのできない、相反する同一の感情。

 

 

 

……………………。

 

 

 

メッセージドールなのに、体に書かないのも。

 

無地のぬいぐるみに、リボンを付けてあげるところも。

 

自分だけでなく、みんなの気持ちをプレゼントしてくれるところも。

 

 

 

――全部、ここあだ。

 

 

 

「……みんなに伝えておいてくれ」

 

 

「――ありがとう、って」

 

 

「……!」

 

 

「チノも――ありがとう」

 

 

 

言葉は、不器用だ。

 

 

これ以上のことを、伝えることが出来ないのだから。

 

 

 

抱きしめる――愛する――体を重ねる――暴力――支配――嗜虐――。

 

……………………。

 

――涙――言葉――気持ち。

 

 

 

いいんだ、これで。

 

 

特別なんて、いらない。

 

 

それ以上のことを証明する術が無いのなら。

 

 

信じてさえ、いれば。

 

 

愛情は――いっぽう的では、成立しないのだから。

 

独りよがりは、紛れもない自己愛だ。

 

 

 

 

「……リゼさん」

 

 

 

「やっぱりリゼさんは、優しいままですね」

 

 

紡がれたチノの言葉と共に。

 

かつて聞いたあの子の言葉が、聞こえたような気がした。

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『●』

 

 

………………。

 

ここあの描いた可愛いウサギに、黒色を塗る。

 

 

 

リゼ「こっちのは何色にするんだ?」

 

 

ここあ「そのこはね、きいろだよ」

 

 

リゼ「きいろ……これか?」

 

 

ここあ「ううん、こっち」スッ

 

 

リゼ「…………」

 

 

手渡された黒い色鉛筆で。

 

隣のウサギを、黒く塗りつぶす。

 

 

ここあ「りぜちゃんまって、みみはぴんくにするの」

 

 

黒い色鉛筆を持ったここあが。

 

耳だけを黒く塗りつぶしていく。

 

 

リゼ「目は何色にするんだ?」

 

 

ここあ「あおいろ!」

 

 

リゼ「これか?」スッ

 

 

ここあ「ううん……これだよ」

 

 

リゼ「………………」

 

 

黒い色鉛筆で。

 

ウサギの瞳を、黒く塗りつぶす。

 

 

ここあ「――できた!」

 

 

ここあ「りぜちゃん、みて!」

 

 

二羽のウサギが寄り添いあっている、ここあの絵。

 

黒一色で塗りつぶされたその絵は、わたしにはシルエットにしか見えない。

 

 

りぜ「ああ、上手く描けたな」ニコッ

 

 

ここあ「………………」

 

 

ここあ「……りぜちゃん」

 

 

リゼ「んっ……?」

 

 

ここあ「ごめんね……おえかき、たのしくない……?」

 

 

リゼ「そんなことないぞ、ここあとなら何だって楽しい」

 

 

お前と同じ時間を分かち合えるなら、それでいい。

 

笑顔で喜んでくれるのなら、何でもいい。

 

 

リゼ「わたしのほうこそ、ごめんな」ギュッ

 

 

ここあ「ん……」

 

 

小さい身体を抱き寄せ、柔らかい頬に口づけをする。

 

心配いらない……お前のぬくもりは、匂いは、色は、存在は、ちゃんと分かるのだから。

 

 

りぜ「…………」

 

 

ここあ「だいじょうぶ?りぜちゃん……?」

 

 

リゼ「ああ……」

 

 

ここあ「わたしのこと、みえてる……?」

 

 

リゼ「ここあの綺麗な目が見えてるぞ」

 

 

ここあ「りぜちゃんのほうがきれいだよ」

 

 

リゼ「そんなことない」

 

 

ここあ「ううん、りぜちゃんのやさしい目、すき……」

 

 

瞼をゆっくり撫でてくる温かい手が、心地よい。

 

 

ここあ「はやくなおるといいね」ナデナデ

 

 

リゼ「……そうだな」

 

 

リゼ「でも、本当は治らなくてもいいんだ」

 

 

 

リゼ「――お前以外、余計なものを見たくない」

 

 

 

ここあ「………………」

 

 

リゼ「せめてお絵描きくらいは、また一緒にしたいな」

 

 

ここあ「…………」グスッ

 

 

リゼ「……?ここあ?」

 

 

ここあ「りぜちゃん……っ」ギュッ

 

 

ここあ「だいじょうぶ……だいじょうぶだよ」ジワッ

 

 

ここあ「どんなふうになっても……わたしは……」ポロポロ

 

 

 

依存……。

 

依存を越えた、存在証明。

 

生きるための、微かな灯。

 

 

わたしの生と死を分け隔てているのは、もはや幸福や命などではない。

 

 

この黒い世界には、お前しかいない。

 

 

だから、お前が世界で、わたしの生きる意味。

 

 

ただ、それだけのこと。

 

 

ここあ……泣かないでくれ。

 

 

わたしを哀れむことなんて、何もないんだ。

 

 

こうしているだけで幸せなんだから。

 

 

……しあわせ、なんだ。

 

 

……しあわせ。

 

 

………………。

 

 

…………。

 

 

……。

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『〇』

 

 

 

――PM10:00――

 

 

チノからもらったウサギのぬいぐるみを、抱きしめる。

 

 

何か、懐かしい感じがした。

 

 

 

温かい……。

 

 

 

……………………。

 

 

あと、少し。

 

 

きっとあと、もう少しだ。

 

 

ここを出ることが出来たら、みんなになんて言おう。

 

 

まずは、お礼だな、あとは謝罪。

 

 

 

「………………」

 

 

 

解いたリボンの内側に拙い字で書かれていた、言葉。

 

 

 

お返しのつもりなのだろうか。

 

そう言えばあの時、ここあからは聞かなかったな。

 

 

 

相手への愛情を証明する――ただ、ひとつの言葉。

 

わたしは、これ以上のものを求めるあまり。

 

 

 

周りの大切ななにもかもを、傷つけてしまった。

 

 

 

――だから。

 

今度は、信じる。

 

 

 

これ以上のものは――想う気持ちで、伝えればいい。

 

 

 

力いっぱい抱きしめる、みんなからの愛情を。

 

ここあからの、愛情を。

 

 

 

「わたしも――愛してるぞ」

 

 

 

――あ・い・し・て・る。




−−−−−−−−−−−−−−
next.

あとがき
激辛味噌ラーメンうめぇー(涙目)


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Offside 4.「[Restructuring] under film "Young"」

再編シリーズ第5弾、前々作と前作のエピソードからセレクトした6話収録。


I.

 

――ラビットハウス ココアの部屋――

 

 

ここあ「このこーひー(ミルクココア)あまくておいしい」ゴクゴク

 

 

チノ「というわけなんです」

 

 

シャロ「あれ……ココアよね?」

 

 

千夜「まぁ、可愛いわね♪」

 

 

リゼ「チノ……これはいったいどういうことなんだ?」

 

 

チノ「すいません、わたしにもさっぱり……」

 

 

ここあ「ちのちゃん、このおねえさんたちだーれ?」

 

 

チノ「リゼさん、千夜さん、シャロさんです」

 

 

ここあ「りぜちゃんと、ちやちゃんと、しゃろちゃん?」

 

 

チノ「いえ、こちらがリゼさんでこちらが千夜さんです」

 

 

ここあ「こっちがしゃろちゃんで、こっちがちやちゃんとりぜちゃん……おぼえたよ!」

 

 

千夜「ココアちゃんはおりこうさんね」ナデナデ

 

 

ここあ「えへへ」ニヘラ

 

 

シャロ(可愛い……)

 

 

リゼ「ココアのやつ、もしかして記憶をなくしてるのか?」

 

 

チノ「はい、どうやらそうみたいです」

 

 

シャロ「とりあえず、どういった経緯でこうなったのか教えてもらってもいい?」

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

リゼ「朝起きてココアの部屋に入って布団をめくったら、この小さいココアが寝ていた、か」

 

 

シャロ「困ったわ、何も手がかりが無い……」

 

 

千夜「まるでアニメや漫画みたいね」

 

 

リゼ「タカヒロさんやモカさんにもどう説明すればいいか」

 

 

チノ「幸い、今はまだ夏休みですので学校の方は大丈夫ですが……」

 

 

シャロ「遅くても夏休みが終わるまでには何とかしないと」

 

 

千夜「そうね、このココアちゃんも可愛いけど、やっぱり元のココアちゃんに戻ってほしいわ」

 

 

リゼ「ずっとこのままだった場合、元のココアはどうなるんだろう……」ナデナデ

 

 

ここあ「?」

 

 

チノ「ココアさん……」

 

 

 

チノ(その後話し合いは続きましたが、結局誰も良い案は一つも浮かばず、おのずとその場は解散する形となりました)

 

 

チノ(また、父にココアさんのことを打ち明けると、おじいちゃんとティッピーの一件があったからか、早々に理解して貰うことができました)

 

 

チノ(いつもお姉ちゃんぶっていたココアさんの面影はなく、幼いココアさんはわたしの後ろを雛鳥のように付いてきます)

 

 

 

ここあ「わぁ、せんたくものがいっぱい」

 

 

チノ「ココアさん、洗濯籠に入らないでください」アセアセ

 

 

ここあ「もふもふしちゃダメ?」

 

 

チノ「汚いのでダメです」

 

 

ここあ「…………」シュン

 

 

チノ「あっ……」

 

 

チノ(こういった場合、どうすれば……)

 

 

チノ「え、えっと……これが終われば、ご飯にしましょうか」

 

 

ここあ「ごはん!」パァ

 

 

チノ「」ホッ

 

 

チノ「何が食べたいですか?」

 

 

ここあ「えっとね、パンとハンバーグとオムライスと、あと――」

 

 

チノ「そんなに食べられませんよ、どれか一つにしましょう」

 

 

ここあ「じゃあオムライス!」

 

 

チノ「分かりました、今日の晩御飯はオムライスにしましょう」

 

 

ここあ「わぁい!ちのちゃんだいすき!」ギュッ

 

 

チノ(可愛いです……//)

 

 

 

――キッチン――

 

 

ここあ「ちのちゃん、わたしもおてつだいする」ピョンピョン

 

 

チノ「お手伝いですか?別に手伝ってもらうようなことは……」

 

 

ここあ「ないの……?」

 

 

チノ「うっ……で、では、この卵をといてください」

 

 

ここあ「まかせて」フンス

 

 

チノ「泡立てないように、ゆっくり混ぜてくださいね」

 

 

ここあ「はーい」カチャカチャ

 

 

チノ「あれ……そういえば、ココアさんはトマトが嫌いなはず……」

 

 

チノ「ココアさん、ケチャップは大丈夫なんですか?」

 

 

ここあ「ケチャップはあまいからすきだよ♪」

 

 

チノ「」

 

 

 

チノ「完成です」

 

 

ここあ「わぁ……!」キラキラ

 

 

チノ「あとは上からケチャップを」

 

 

ここあ「ちのちゃん、わたしにやらせて」

 

 

チノ「?」

 

 

ここあ「♪~♪♪……できた!」

 

 

ここあ「ちのちゃんのもかいてあげる」

 

 

チノ「あの、これは?」

 

 

ここあ「ちのちゃんとわたし、なかよしだからてをつないでるの」ニコッ

 

 

チノ「……!」

 

 

ここあ「これがわたしで、こっちのおおきなこがちのちゃん」

 

 

チノ「そうですか……ありがとうございます、ココアさん」ナデナデ

 

 

ここあ「えへへ~」ニヘラ

 

 

ここあ「いただきまーす」

 

 

ここあ「んっ……おいしい!」

 

 

チノ「ココアさん、晩御飯を食べ終わったらお風呂に入りましょう」

 

 

ここあ「うん!ちのちゃんといっしょにはいる!」

 

 

チノ「いっしょに……ですか?」

 

 

ここあ「ふたりであらいっこするの」

 

 

チノ(なんだか元のココアさんとあまり変わってないような気がします)

 

 

 

――夜――

 

 

ここあ「このふくブカブカだね~」

 

 

チノ「やはりサイズが合いませんか」

 

 

チノ(明日にでも子供用の服を買いに行かないと)

 

 

ここあ「でもおばけみたいでおもしろいかも」

 

 

チノ「ココアさん、そろそろ寝ましょう」

 

 

ここあ「はーい!ティッピーおいで」ギュッ

 

 

ここあ「うーん、もふもふでいいにおい」スリスリ

 

 

チノ「…………」ナデナデ

 

 

チノ(妹がいたら、こんな感じなのかな)

 

 

チノ(これが、お姉ちゃんの立場……確かに悪くはないですが……)

 

 

チノ(でも……やっぱりわたしは――)

 

 

 

ココア『チノちゃん、もう一回お姉ちゃんって呼んで?』

 

 

ココア『眠れないの?それじゃあ一緒に寝よっか』

 

 

ココア『お姉ちゃんに、任せなさい!』

 

 

 

チノ「……………………」

 

 

チノ「……ココアさん」

 

 

ここあ「ちのちゃん……?」

 

 

チノ「えっ……――あ」

 

 

――ポロ

 

 

チノ「ご、ごめんなさい……なんでもないですから」グスッ

 

 

ここあ「どこかいたい?おいしゃさんよぶ?」

 

 

チノ「平気ですよ、心配しなくて大丈夫です」

 

 

ここあ「むりしちゃだめ……ちのちゃん、つらそうだもん」

 

 

チノ「っ……」

 

 

ここあ「ちのちゃん?」

 

 

チノ「――ココアさんっ!」ギュッ

 

 

ここあ「!!」

 

 

チノ「いなくならないでください……元に戻ってください……!」

 

 

チノ「ココアさんがいなくなるなんて嫌です……妹じゃなく、ずっとわたしのお姉ちゃんでいてほしいんです」

 

 

チノ「ココアさんとの思い出が無くなるなんて嫌なんです……!」ポロポロ

 

 

チノ「ココアさん……ココアさん……っ!」

 

 

ここあ「ちのちゃん…………」

 

 

――ポンッ ナデナデ

 

 

チノ「!………ココアさん?」

 

 

ここあ「よしよし」ナデナデ

 

 

ここあ「ちのちゃん、おててかして?」

 

 

チノ「えっ……」

 

 

――ギュッ

 

 

ここあ「はやくちのちゃんのおねがいがかないますように。はやく、ココアおねえちゃんがかえってきますように」

 

 

ここあ「おまじないだよ」ニコッ

 

 

チノ「…………!」

 

 

ここあ「わたしね、おおきくなったらまほうつかいになるの。まほうでみんなのおねがいをかなえてあげるんだ」

 

 

ここあ「ちのちゃんのおねがいも、かなえてあげる」

 

 

チノ「……」グスッ

 

 

チノ「ありがとうございます……ココアさんは優しいですね……」ギュッ

 

 

ここあ「ちのちゃん、なかないで」

 

 

チノ「はい……もう泣きませんよ」

 

 

チノ「だってココアさんは、絶対わたしに嘘なんてつきませんから」ニコッ

 

 

ここあ「ちのちゃんがわらった!わーい!」

 

 

チノ「ココアさん……おやすみなさい」ナデナデ

 

 

ここあ「んっ……おやすみなさい♪」

 

 

チノ(小さくても、やっぱりココアさんはココアさんです)

 

 

チノ(わたしの、大切な……――)

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ここチノ「………………」Zzz

 

 

ティッピー(チノ、心配せんでもいい)

 

 

ティッピー(ココアのおまじないは効く……必ずな)

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――翌日――

 

 

チノ「今日はココアさんの服を買いに行く予定ですが……」

 

 

リゼ「わたしも付いていこう、一人じゃかさばるだろうし」

 

 

チノ「ありがとうございます、助かります」

 

 

リゼ「で、ココアはどうする?」

 

 

ここあ「りぜちゃんとちのちゃん、おかいもの?」

 

 

リゼ「ああ、隣町のデパートまでな」

 

 

ここあ「わたしもいきたい!」

 

 

チノ「しかし、迷子にならないでしょうか?」

 

 

リゼ「そうだな、夏休みだから電車の中も混んでるだろうし……」

 

 

ここあ「あぶないからおるすばん?わかった!」

 

 

チノ「でも、父は仮眠中ですし、ココアさんを一人でおいていくわけには……」

 

 

ここあ「ちやちゃん!」

 

 

チノリゼ「!」

 

 

ここあ「ちやちゃんとしゃろちゃんといっしょにあそびたい!」

 

 

リゼ「そうか、あいつらがいたな」

 

 

チノ「わかりました、連絡してみます」

 

 

リゼ(今日は甘兎庵は定休日だし、恐らく大丈夫だろう)

 

 

リゼ「いいかココア、千夜やシャロにわがまま言っちゃダメだぞ?」

 

 

ここあ「はーい!」

 

 

リゼ「よし、いい返事だ。いい子にしてたらお菓子買ってきてあげるからな」ナデナデ

 

 

ここあ「ほんと!りぜちゃんありがとう」ギュッ

 

 

リゼ「おっと……ふふっ」

 

 

 

II.

 

――シャロの家――

 

 

シャロ「ふぅ~お掃除完了っと」

 

 

シャロ(キッチンよし、床よし、窓ふきよし、あとはゴミ袋を捨てるだけね)

 

 

シャロ(ずっと気になっていたけど、やっと掃除できる日が来たわ)

 

 

シャロ(せっかくの休日……これが終わったら千夜でも誘ってラビットハウスに行こうかしら)

 

 

シャロ「見かけはボロ屋でも、せめて中身くらいは綺麗にしなくちゃ!」

 

 

シャロ「って、言ってるそばからあんなところにゴミが」

 

 

シャロ(おかしいわね、ちゃんと掃除機で吸ったはず……)

 

 

シャロ「――あれ、なにこれ、スーパーボール……?」

 

 

シュウウウ!

 

 

シャロ「け、煙!?」

 

 

シャロ「あわわわ!窓、窓を開けないと!」ガチャガチャッ

 

 

??「突入!突入!」

 

 

シャロ「!?」

 

 

千夜「せいっ!」マド ヒョイ

 

 

 

シャロ「千夜っ!?」

 

 

ここあ「とりゃあ!」ドア バタン!

 

 

シャロ「ココア!?」

 

 

千夜「ココアちゃん、まずはクラッカーで牽制よ」

 

 

ここあ「らじゃあー!」パン!

 

 

シャロ「ひゃあああぁ!!」

 

 

千夜「敵がひるんだわ、一斉攻撃!」

 

 

ここあ「いくよー!」

 

 

千夜「隠し玉、紙吹雪!」パラパラ

 

 

シャロ「ちょっと!?」

 

 

ここあ「ちやちゃんすごーい!」キラキラ

 

 

千夜「必殺、模擬刀一閃!」ポコッ

 

 

ここあ「もぎとーいっせん!」パコッ

 

 

シャロ「いったい何がどうなってるのよぉ!!?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

シャロ「………………」ボロボロ

 

 

千夜「ふぅ~やったわねココアちゃん、悪党キリマンシャロを倒したわ」

 

 

ここあ「わーい!」ピョンピョン

 

 

ヘヤ グチャグチャ

 

 

シャロ「」

 

 

千夜「シャロちゃん、驚かせてごめんなさい」

 

 

シャロ「……これは、どういうこと?」

 

 

千夜「今日一日ココアちゃんを預かることになったから、一緒にRPGごっこをしていたの」

 

 

千夜「シャロちゃんとも一緒に遊びたいっていうから、サプライズを兼ねて誘いに来たのよ」

 

 

ここあ「しゃろちゃん、いっしょにあーそぼ」ニコッ

 

 

千夜「ということでシャロちゃん、わたしたちと遊びましょ♪」

 

 

シャロ「……なるほどね」

 

 

シャロ「ココアは小さいから仕方ないとして……」スタスタ

 

 

千夜「しゃ、シャロちゃんどうしたの?なんだか怖いけど……」

 

 

シャロ「ふふふ…………ちーやーーー!!」ゴゴゴ

 

 

千夜「ひっ!?」ビクッ

 

 

シャロ「また一からやり直しじゃないのぉ!!この和菓子バカァ!!!!」ギュー

 

 

千夜「いたい!ほっぺたのびちゃう~ごめんなさい!」

 

 

ここあ「しゃろちゃんつよい!さすがはボスだね!」

 

 

 

千夜「しくしく……おばあちゃんにもぶたれたことないのに」グスッ

 

 

シャロ「嘘つくんじゃないわよ」

 

 

千夜「てへっ」

 

 

シャロ「はぁ…………ココア、悪いのは千夜だから甘兎庵に戻ってていいわよ?」

 

 

ここあ「ううん、わたしもちらかしたもん。それに、はやくおわらせてしゃろちゃんといっしょにあそぶの」

 

 

シャロ「ココア……」

 

 

ここあ「みんなでやればはやくおわるよ、がんばろー」

 

 

シャロ(ダメ……こんなに純粋で可愛いココアを千夜なんかのそばにいさせちゃ絶対に!)

 

 

千夜「シャロちゃんも小さい頃は純粋だったのに、今ではその面影も無いわ……悲しい」

 

 

シャロ「心を読むなぁ!だいたいこんな性格になったのはあんたのせいよ!」

 

 

千夜(自分がひねてるって自覚はあるのね)

 

 

ここあ「しゃろちゃん、ちやちゃんをいじめたらやだよ」クイッ

 

 

千夜「ココアちゃん……!」

 

 

シャロ「ココア、覚えておいて。あのお姉さんのいうことは全部デタラメだから信じちゃダメよ」

 

 

千夜「シャロちゃん、さすがのわたしでも今のは傷ついたわ」

 

 

ここあ「でたらめ?」キョトン

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

ここあ「このようかんおいしい」モグモグ

 

 

シャロ「おかげですぐに片付いたわ、ありがとうねココア」ナデナデ

 

 

ここあ「えへへ~」ニヘラ

 

 

シャロ「千夜も、その……一応手伝ってくれてありがとう」ゴニョゴニョ

 

 

千夜「ふふっ、シャロちゃんのそういう律儀なところ好きよ」

 

 

シャロ「いちいちからかうな!//」

 

 

千夜「わたしが散らかしたんだもの、後始末は当然だからお礼を言われることじゃないわ」

 

 

シャロ「ん……わかってるけど」

 

 

千夜「お掃除くらい、頼まれればシャロちゃんがバイトしてる間に終わらせておくのに」

 

 

シャロ「それはダメ、千夜だって甘兎庵で忙しいし。それに、幼馴染をそんな風に使いたくないし」

 

 

千夜「もう、シャロちゃんたらほんとにいい子ね」ギュッ

 

 

シャロ「にゅ~抱き付くなぁ!//」

 

 

ここあ「わたしももふもふしたい!」

 

 

千夜「いいわよ、ココアちゃんも一緒にレッツモフモフ!」

 

 

ここあ「しゃろちゃんもふもふ~」ギュッ

 

 

シャロ「誰か助けてぇ!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

ここあ「あんこはもふもふよりもふわふわだね」スリスリ

 

 

あんこ「……………………」

 

 

千夜「ここあちゃん、そろそろお風呂に入りましょうか」

 

 

ここあ「わーい!ちやちゃんとしゃろちゃんといっしょにおふろ~」

 

 

シャロ「えっ、わたしも?」

 

 

千夜「当然じゃない、昔みたいに体の隅まで洗いっこしましょう」

 

 

シャロ「ちょ……ココアがいる前でなにいってるのよ!//」

 

 

ここあ「?」

 

 

千夜「あら、ならココアちゃんがいなかったらさせてくれるのかしら?」

 

 

シャロ「させないわよ!しないわよ!もういい着替え持ってくる!」プンスカ

 

 

千夜(一緒には入ってくれるのね、さすがはシャロちゃん)

 

 

ここあ「しゃろちゃんなんでおこってたの?あらいっこたのしいのに」

 

 

千夜「たぶん照れ屋さんなのね、昔はそうでもなかったんだけど」

 

 

ここあ「きっとおとなになったんだね」

 

 

千夜「そうね、ココアちゃんはいつまでもそのままでいてね」

 

 

ここあ「うん♪」

 

 

千夜(なんだか昔のシャロちゃんとお話してるみたい)クスッ

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

――浴室――

 

 

千夜「さすがに3人だと少し窮屈ね」

 

 

シャロ「だからわたしは後でもいいって言ったのに」

 

 

ここあ「おふろはみんなではいったほうがたのしいよ」

 

 

ここ千夜「ね~」

 

 

シャロ「……まぁ、そりゃわたしだって楽しいけど」

 

 

ここあ「しゃろちゃんも、きょうはわたしたちといっしょのおふとんでねよっ♪」

 

 

シャロ「えっ!?」

 

 

千夜「いいわね、みんなで寝ましょうか」

 

 

シャロ「ちょ、ちょっと、勝手に決めないでよ」アセアセ

 

 

ここあ「だめなの……?」

 

 

シャロ「うっ……」

 

 

千夜「ひどいわシャロちゃん、幼馴染とこんな小さな子が一緒に頼んでるのに……それを無下に断るだなんて」

 

 

シャロ「ああもう!わかったわよ!」

 

 

ここあ「やったぁ!しゃろちゃんもいっしょ」ギュッ

 

 

シャロ「きゃ……まったくココアは、しょうがないわね」クスッ

 

 

ここあ「しゃろちゃんのかみ、ふわふわしていいにおい」

 

 

シャロ「…………」ナデナデ

 

 

シャロ「可愛いわね……元のココアとこのココア、二人にならないかしら?」

 

 

千夜「わたしも考えてたわ、でもそうはいかない……神様って残酷ね」

 

 

シャロ「……ココア」

 

 

ここあ「ちーやちゃん」ギュッ

 

 

千夜「ココアちゃん……ふふっ」ギュッ

 

 

ここあ「……あれ?」

 

 

千夜「んっ、どうしたのココアちゃん?」

 

 

ここあ「しゃろちゃんはつるつるだったけど、ちやちゃんはふわふわしてきもちいいね」

 

 

シャロ「」

 

 

千夜「…………」

 

 

ここあ「あっ、わかった、ちやちゃんはおっきいからだね」

 

 

千夜「ココアちゃん、しー、ダメよそれ以上は」

 

 

シャロ「……………………」

 

 

千夜「あ、あの……シャロちゃん、大丈夫よ、きっとシャロちゃんは大器晩成型で――」

 

 

シャロ「~っ!もう出る!」ザバッ

 

 

千夜「ああ、待ってシャロちゃん!」

 

 

ここあ「ふぉぇ?」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

――千夜の部屋――

 

 

千夜「シャロちゃん、ご機嫌なおして?」

 

 

シャロ「……別に怒ってないし」

 

 

シャロ「はぁ……やっぱり貧困のせいかしら」

 

 

千夜(原因と思ってることが生々しい)

 

 

ここあ「しゃろちゃんごめんね、わたしのせい?」

 

 

シャロ「ココアのせいじゃないわ、悪いのは全部千夜だから」

 

 

千夜「発育までわたしのせいなの!?」

 

 

シャロ「……ココアも、今はこんなだけど大きくなったらあれくらいになるのよね」

 

 

シャロ「はぁ……羨ましい」

 

 

ここあ「?」

 

 

千夜「元気出して、こんなものただの飾りよ」

 

 

シャロ「あんたに言われると皮肉にしか聞こえないんだけど!?」

 

 

千夜「そんなにひねくれちゃって……悲しいわ」

 

 

シャロ「重ね重ねだけどあんたのせいだからね!?」

 

 

千夜「ココアちゃん、ひねくれシャロちゃんなんて放っておいて一緒に寝ましょう」

 

 

ここあ「みんなでおふとん!」タタタ

 

 

シャロ「仲間外れにするなぁ~わたしも寝る」

 

 

千夜(なんだか妹が二人できたみたいで楽しいわ)ニコニコ

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

ここあ「すぅ……すぅ…………」Zzz

 

 

シャロ「もう寝ちゃったわ……余程疲れてたのね」

 

 

千夜「今日はいっぱい遊んだものね」

 

 

シャロ「悪役がわたしばっかりだったのが全然納得できて無いけど」

 

 

千夜「あとは、ココアちゃんが眠るまでシャロちゃんがずっとさすってあげてたおかげかしら」

 

 

シャロ「ぅ……なんで気づいてんのよ、ばか//」

 

 

千夜「シャロちゃんって意外と子供好きなのね、ちょっと驚きだわ」

 

 

シャロ「……好きとか嫌いとかじゃなくて」

 

 

千夜「?」

 

 

シャロ「ほら、チノちゃんの話によると、この子はその……ココアなんでしょ?」

 

 

シャロ「元のココアに戻ってきてほしいのはもちろんだけど、そうなるとたぶん、千夜の言う通りこの子はいなくなっちゃうと思う」

 

 

シャロ「だからその……いなくなってから後悔しないように、ちゃんと可愛がってあげたい。この子にもせめてお別れの時までは笑顔でいてほしいから」

 

 

千夜「シャロちゃん……」

 

 

シャロ「あ、あとほら!小さくなってもココアはココア、大切な友達だし」

 

 

千夜「…………」クスッ

 

 

千夜「ごめんなさい、前言撤回。シャロちゃんはひねくれてなんて無かったわ」

 

 

千夜「シャロちゃんはずっと優しいまま……あの頃と一緒」ニコッ

 

 

シャロ「……千夜もね」プイッ

 

 

千夜「まぁ……!ココアちゃん、シャロちゃんが褒めてくれたわ。明日は大雪かしら」

 

 

ここあ「んぅ………」Zzz

 

 

シャロ「起こすなぁ……!早く寝てよ」

 

 

千夜「おやすみなさい、シャロちゃん」

 

 

シャロ「ん……おやすみなさい」

 

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

――翌日 ラビットハウス――

 

 

千夜「こんにちは♪」ガチャッ

 

 

シャロ「おじゃまします」

 

 

チノ「千夜さんシャロさんこんにちは、昨日はありがとうございました」

 

 

ここあ「ちのちゃん!ただいま~!」タタタ ギュッ

 

 

チノ「ココアさん、おかえりなさい。いい子にしてましたか?」ナデナデ

 

 

ここあ「あ……え、えっと」

 

 

シャロ「いい子だったわ、悪いことなんてひとつもしてない。ねぇ千夜?」

 

 

千夜「ええ、小さくてもココアちゃんはココアちゃんね」

 

 

チノ「そうですか、安心しました」

 

 

リゼ「おっココア、帰ってきてたのか」

 

 

ここあ「あっ、りぜちゃんだ!りぜちゃ~ん」タタタ

 

 

リゼ「よっと」ヒョイ

 

 

ここあ「わぁ♪」

 

 

リゼ「どうだ、楽しかったか?」

 

 

ここあ「うん!あのね、ちやちゃんとしゃろちゃんとあそんで、くりようかんたべて――」

 

 

リゼ「そうかそうか。でも二人に迷惑かけなかったか?」

 

 

ここあ「……ちやちゃん?」

 

 

千夜「迷惑だなんて全く、すごく楽しかったわ」ニコッ

 

 

ここあ「……しゃろちゃん?」

 

 

シャロ「またいつでも来なさい、バイトが無い日なら遊べるから」ニコッ

 

 

ここあ「ふぁ……」パァ

 

 

リゼ「…………」クスッ

 

 

リゼ「ココア。迷惑かけなかったか?」

 

 

ここあ「うん!いいこにしてたよ!」ニコッ

 

 

リゼ「えらいぞ~!ほら、わたしから約束のご褒美だ」

 

 

ここあ「ありがとうりぜちゃん!でもこれなーに?」

 

 

リゼ「これはな、こうしてこのキャンディーを粉に付けて――」

 

 

ここあ「わぁ~」キラキラ

 

 

ホラ、アーンハ アーン ドウダ ……オイシイ!

 

 

 

チノ「リゼさん、ハマりすぎです」

 

 

シャロ「先輩って可愛いものとか好きだから……」

 

 

千夜(ほほえま~)

 

 

チノ「これで、今日のお泊り場所は決まりですね」

 

 

リゼ「ココア、あとで試着室に行こう。昨日買ってきた服やパジャマの――」

 

 

ここあ「あたらしいパジャマ?じゃあね、きょうはりぜちゃんのところがいい!」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

ここあ「りぜちゃん、おとまりしてもいい?」

 

 

リゼ「ココアが、わたしの家にか?」

 

 

ここあ「うん、りぜちゃんのおうち!」

 

 

リゼ「……ああ、もちろんいいぞ」ナデナデ

 

 

ここあ「やったぁ♪」

 

 

リゼ「その代わり今日は午前までだから、お昼までちゃんといい子にできたらな」

 

 

ここあ「わかった、いいこにしてる!」

 

 

リゼ「よしよし、おりこうだな」ナデナデ

 

 

ここあ「えへへ~」ニヘラ

 

 

チノ&千夜シャロ(扱い方がプロ……)

 

 

 

III.

 

リゼ(幼くなってしまったココアがわたしの家に泊まりに来ることとなった)

 

 

リゼ(ラビットハウスでのバイトは午前中で切り上げ、今日はお昼頃にココアと一緒に帰宅だ)

 

 

リゼ「着いたぞココア」

 

 

ここあ「………!」

 

 

リゼ「んっ、どうしたんだ?」

 

 

ここあ「すごーい!おしろみたいないえ!」キラキラ

 

 

リゼ「そうか?」

 

 

ここあ「りぜちゃんってこのまちのおひめさまだったんだね!」

 

 

リゼ「いや違うぞ。ただの高校生だ、すくなくともわたしは」

 

 

ここあ「あっ、くろいふくのおじさんがたってる。あのひと、りぜちゃんのおとうさん?」

 

 

リゼ「!」ハッ

 

 

リゼ(しまった!そうか、あいつらがいたんだ!)

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん?」

 

 

リゼ(くっ……お泊りする以上、あいつらやメイドたちに見つからずに過ごすのは不可能に近い)

 

 

リゼ(親父に見つかったらややこしくなりそうだし、ここはあいつらにだけ話して口止めしておくか)

 

 

リゼ「あれは父親じゃないぞ、この家のアルバイトさんだ」

 

 

ここあ「アルバイトさん?パンとかつくるの?」

 

 

リゼ「そうだな。ご飯を作ってくれたり、危ない目に遭わないか守ってくれているといった感じだ」

 

 

ここあ「わかった!ゆうしゃだね!」

 

 

リゼ「まぁ、それでもいいか」

 

 

黒服「!」

 

 

リゼ(あっ、気づいたらしい)

 

 

リゼ「……ただいま」

 

 

黒服「お、お嬢、その子は……!?」

 

 

リゼ「違うぞ!この子はただ友達の家の子で――」

 

 

ここあ「ゆうしゃさんこんにちは♪」

 

 

黒服「こ、こんにちは……――ゆうしゃ?」

 

 

リゼ「おっ、ちゃんと挨拶できたな。偉いぞココア」ナデナデ

 

 

ここあ「えへへ~」ニコッ

 

 

黒服「お嬢……つかぬことお聞きしますが、その……」

 

 

リゼ「違うと言ってるだろ!この子はだな――」

 

 

 

黒服「なるほど……そういうことですか」

 

 

リゼ「とにかくだ、親父に勘違いされると面倒だからこのことは黙っててくれ」

 

 

黒服「っ……しかし、いくらお嬢の頼みとはいえ、俺たちもプロ。雇い主を裏切るわけには……」

 

 

リゼ「親父が人の話を聞かないのは知ってるだろ?お泊りくらい大目に見てくれよ」

 

 

黒服(他の誰でもないお嬢の頼み……聞いてあげたいのは山々だが、ここは心を鬼にして――)

 

 

黒服「お嬢、申し訳ありませんが――」

 

 

こころ「ゆうしゃさん、りぜちゃんのおねがいきいてあげて?」クイッ

 

 

黒服「……!」

 

 

リゼ「ココア……」

 

 

こころ「きょうここにおとまり、させてください」テ ギュッ

 

 

黒服「うっ……」

 

 

リゼ「いいぞココア、そのままゆうしゃさんとお約束しようか」

 

 

黒服「約束……?」

 

 

ここあ「ゆーびきりげーんまん、ゆびきった♪」

 

 

黒服「ぐぼぇあ!!」ブシャ

 

 

リゼ「ふっふっふ、これでもまだわたしを裏切れるか、ゆうしゃさん」

 

 

黒服「くっ……お嬢」ギリッ

 

 

リゼ「いいのか?これ以上食い下がったら……」

 

 

黒服「え……あっ」

 

 

ここあ「……」シュン

 

 

黒服「ぅ…………わ、分かりやしたよ。このことは秘密にしておきます」

 

 

リゼ「ありがとう、助かるよ」

 

 

ここあ「ふぁ……」パアァ

 

 

黒服「他の者たちにも伝えておきますのでご心配なさらず、では……」

 

 

ここあ「まって」ギュッ

 

 

黒服「!?」

 

 

ここあ「ゆうしゃさんありがとう。これ、おれいのプレゼント」

 

 

黒服「あ……いえ、どうも」

 

 

リゼ「優しいなココアは。さぁいこっか」

 

 

ここあ「さようなら~!」フリフリ

 

 

黒服「………………」アメダマ

 

 

黒服(約束、守らないと)グッ

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

――リゼの部屋――

 

 

リゼ「よかった、サイズピッタリだな」

 

 

ここあ「もうおばけじゃなくなったね」

 

 

リゼ「チノの服でもダボダボだったからな。どうだ、動きやすくなっただろう」

 

 

ここあ「うん!――えいっ」ダキッ

 

 

リゼ「おっと……ふふっ」

 

 

ここあ「りぜちゃん、あーそぼ♪」ニコッ

 

 

リゼ「いいぞ、なにしてあそぼうか?」

 

 

ここあ「えっとね、ゲームとえほんとぬいぐるみと――」

 

 

グー

 

 

ここあ「あっ……」

 

 

リゼ「まずはご飯からだな」ナデナデ

 

 

ここあ「おなかすいたね」

 

 

リゼ「そうだな、ココアは何が食べたい?」

 

 

ここあ「えっとえっと……ハンバーグ!」

 

 

リゼ「ハンバーグか。よし、ちょっと待ってろ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「ココア、大丈夫か?」

 

 

ここあ「うぅ~むずかしいよ」

 

 

リゼ(ナイフとフォークはさすがに早すぎたか)

 

 

リゼ「確かこの辺に……ほら、割り箸だ」

 

 

ここあ「おはし!」

 

 

リゼ「こんなの使ったら余計食べにくいよな」

 

 

ここあ「りぜちゃんも?」

 

 

リゼ「ああ、正直言ってわたしもこういうかたっくるしいのは苦手でな」

 

 

ここあ「えへへ、おそろいだね」

 

 

リゼ「ほら、早く食べないと冷めるぞ」

 

 

ここあ「いただきまーす」

 

 

ここあ「んっ……おいしい!」

 

 

リゼ「ソースが口に付いてるぞ、もっと小さく切って食べないと」

 

 

ここあ「ふぉぇ?どこ?」

 

 

リゼ「ああこら、手で触ったら汚れちゃうだろ。いま拭いてやるから」フキフキ

 

 

ここあ「んっ……ありがとうりぜちゃん」ニコッ

 

 

リゼ「ふふっ、ゆっくり噛んで食べるんだぞ」

 

 

ここあ「はむっ……うん♪」

 

 

 

ここあ「――!」

 

 

リゼ「んっ、どうしたんだ?」

 

 

ここあ「これ、にんじん……」

 

 

リゼ(そういえばココアってにんじん苦手だったっけ)

 

 

ここあ「りぜちゃん……かわりにたべて?」

 

 

リゼ「ダメだ、ちゃんと自分で食べなさい」

 

 

ここあ「でも、にんじんきらい……のこしちゃだめ?」

 

 

リゼ「ダメだ」

 

 

ここあ「にんじんいやぁ……!」フルフル

 

 

リゼ「ココアっ!」

 

 

ここあ「!」ビクッ

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「ひっく……ぐすっ……」ウルウル

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「ぇぅ……」モグモグ

 

 

ここあ「ん……」ゴクン

 

 

リゼ「……えらいぞ、ココア」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃん……わたし、にんじんたべられたよ?」

 

 

リゼ「ああ、よく頑張ったな」ナデナデ

 

 

ここあ「だからわたしのこときらいになっちゃやだ……」ジワッ

 

 

リゼ「なるわけないだろ。ココアのことが嫌いだから怒ったわけじゃないぞ?」

 

 

ここあ「ほんと……?」

 

 

リゼ「そうだ、ご褒美になにか買ってやろう。何がほしい?」

 

 

ここあ「ほしいもの……?それじゃあ、えほん!」

 

 

リゼ「絵本?」

 

 

ここあ「りぜちゃんといっしょによむの」ニコッ

 

 

リゼ「そうか、ならお皿を片付けたら本屋に行こう」

 

 

ここあ「わーい、ふたりでおでかけ~♪」ピョンピョン

 

 

リゼ(かわいい……)

 

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

――リゼの部屋――

 

 

リゼ「大きな猫は3匹のネズミがくれた桃を抱え、何もせずそのまま去っていきましたとさ」

 

 

ここあ「ふぉぇー……」

 

 

リゼ「……おしまい♪」

 

 

ここあ「おしまい?」

 

 

リゼ「これでめでたしめでたしだ」

 

 

ここあ「そっかぁ。ねこさん、ねずみさんたちのことたべなかったね」

 

 

リゼ「どうしてだと思う?」

 

 

ここあ「きっとねずみさんたちがやさしかったからだよ」

 

 

ここあ「きもちがねこさんにも伝わったんだね」

 

 

リゼ「ふふっ、そうだな、きっとココアの言う通りだ」ナデナデ

 

 

ここあ「えへへ」ニコッ

 

 

リゼ(おっと、もうこんな時間か)チラッ

 

 

ここあ「りぜちゃん、つぎはこれよんで?」

 

 

リゼ「ココア、先にお風呂に入ろうか。お風呂が終わって、晩御飯を食べて歯磨きして、それからにしよう」

 

 

ここあ「おふろ?りぜちゃんといっしょに?」

 

 

リゼ「ああ、そのあと一緒にご飯を食べて、一緒に歯磨きしよう」

 

 

ここあ「……!」パアァ

 

 

ここあ「うん!りぜちゃんとおふろはいる!」ダキッ

 

 

リゼ「よーし、いくか」ヒョイ

 

 

ここあ「♪」キャッキャッ

 

 

リゼ(なるほど、モカさんの気持ちも分からんでもない)

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

――夜――

 

 

リゼ「よし、いいぞ」

 

 

ここあ「わぁ、このパジャマもふもふしてる」

 

 

リゼ「電気消すぞ~早くベッドに入れよココア」

 

 

ここあ「まって~けしちゃだめぇ」

 

 

リゼ「ははっ、冗談だ。ほらおいで」

 

 

ここあ「♪~このベッドふかふか」スリスリ

 

 

リゼ「ちゃんと入ったな。よし、消灯だ」カチッ

 

 

ここあ「……まっくら」

 

 

リゼ「んっ、怖いなら豆球付けるか?」

 

 

ここあ「ううん、りぜちゃんがいるからへいきだよ」

 

 

ここあ「あっ、でも……て、にぎっててほしいな」

 

 

リゼ「お安い御用だ」ギュッ

 

 

ここあ「ぁ……――えいっ♪」ダキッ

 

 

リゼ「おいおい、抱き付いたら暑いぞ?」

 

 

ここあ「おへやがすずしいからだいじょーぶ」ニコッ

 

 

リゼ「まったく、しょうがないやつめ」ナデナデ

 

 

ここあ「んっ…………」

 

 

リゼ「早く寝ないと明日は早いぞ」

 

 

ここあ「朝起きたらラビットハウスにいくの?」

 

 

リゼ「その時一緒にお前を送り届けるよ」

 

 

ここあ「………………」

 

 

リゼ「どうした?」

 

 

ここあ「……もう、りぜちゃんとあそべない?」

 

 

リゼ「そんなことないぞ、またいつでも来い」

 

 

ここあ「……うん♪」

 

 

ここあ「おやすみなさい、りぜちゃん」

 

 

リゼ「ああ、おやすみ、ココア」

 

 

 

ここあ「……すぅ……すぅ…………」Zzz

 

 

リゼ(だれかと一緒に寝るなんて、何年ぶりだろう……)

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「ん……」Zzz

 

 

リゼ(明日からはまた、一人きりか……)

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「……ココア」

 

 

 

――翌日――

 

 

リゼ「おはよう」

 

 

チノ「おはようございます」

 

 

ここあ「ちのちゃんただいま~!」

 

 

チノ「ココアさん、おかえりなさい」

 

 

チノ「楽しかったですか?」

 

 

ここあ「うん!りぜちゃんとたくさんあそんだよ」

 

 

チノ「そうですか。リゼさん、ありがとうございました」

 

 

リゼ「いや、わたしも楽しかったし。ココアはちゃんとおりこうさんだったし、なっ?」ナデナデ

 

 

ここあ「ん……♪」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

ここあ「……りぜちゃん?」

 

 

リゼ「えっ……あ、すまない、はは……」

 

 

ここあ「………………」

 

 

リゼ「わたしとチノは今から仕事だ、ココアは2階にいるか?」

 

 

ここあ「ううん、りぜちゃんといっしょにいる」ニコッ

 

 

リゼ「そうか。なら、いつも以上に頑張らないとな」

 

 

 

――厨房――

 

 

リゼ(とはいっても、わたしはほとんど厨房にいるわけだが)

 

 

リゼ「……………………」

 

 

――クイックイッ

 

 

リゼ「んっ……ココア?」

 

 

ここあ「…………」

 

 

リゼ「どうしたんだ、おトイレか?」

 

 

ここあ「ううん……」

 

 

リゼ「…………?」

 

 

ここあ「…………」モジモジ

 

 

リゼ「……言いにくいのか?」

 

 

ここあ「…………」コクッ

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

――ポスッ ナデナデ

 

 

ここあ「!」

 

 

リゼ「大丈夫だ、怒らないから言ってみろ」

 

 

ここあ「……あのね」

 

 

リゼ「……?」

 

 

ここあ「わたしもね……りぜちゃんと――」

 

 

チノ「リゼさん、チーズサンド2人前お願いします」ガチャッ

 

 

リゼ「!ああ、了解だ」

 

 

ここあ「あ…………」

 

 

リゼ「すまないココア、後でもいいか?」

 

 

ここあ「う、うん!ごめんね」

 

 

ここあ「………………」シュン

 

 

リゼ(ココア……?)

 

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

リゼ「ふぅ~今日は結構忙しかったな」

 

 

チノ「わたしとリゼさんの二人だけですから」

 

 

リゼ「いつもはココアが接客だもんな」

 

 

リゼ「……さて、そろそろ帰るか」

 

 

チノ「今日もお疲れさまでした」

 

 

リゼ「お疲れさん、チノもゆっくり休めよ」

 

 

ここあ「りぜちゃん、これ……」

 

 

リゼ「んっ、ココア……持ってきてくれたのか、ありがとう」

 

 

ここあ「かえっちゃうの?」

 

 

リゼ「ああ……また明日な」

 

 

ここあ「でも、あしたはおやすみだってちのちゃんがいってたよ」

 

 

リゼ「……そういえばそうだったな」

 

 

リゼ「じゃあ、ココアに会いに来る」

 

 

ここあ「ほんと……?」

 

 

リゼ「明日もまた一緒に遊ぼう、なっ?」

 

 

ここあ「!……うん」

 

 

リゼ「それじゃあ、な」

 

 

ここあ「りぜちゃん、おやすみなさい」

 

 

リゼ「…………」ガチャッ

 

 

ここあ「…………」

 

 

リゼ「…………」チラッ

 

 

ここあ「…………」

 

 

リゼ「っ……――――こ、ココア!」

 

 

ここあ「……?」

 

 

リゼ「良かったら、今日も一緒に、わたしの家に帰らないか!?」

 

 

ここあ「――!」

 

 

ここあ「♪」ニコッ

 

 

リゼ「おいで、ココア」

 

 

――ギュッ

 

 

 

IV.

 

――リゼの部屋――

 

 

ここあ「すぅ……すぅ……」Zzz

 

 

ここあ「………ん」

 

 

ここあ「ふぁ~……」

 

 

ここあ「あれ……りぜちゃんは?」

 

 

リゼ「ココア、起きたのか」

 

 

ここあ「おはようりぜちゃん、ふぁぁ……」プワプワ

 

 

リゼ「ははっ、眠たそうだな。洗面所で顔洗って歯磨きしてこい」

 

 

ここあ「はーい……」

 

 

 

ここあ「……あれ?せんめんじょどこだっけ?」

 

 

リゼ「すぐそこだ、お風呂場の隣――って、髪もボサボサじゃないか」

 

 

ここあ「うぅ~りぜちゃん、なおして?」

 

 

リゼ「しょうがない、一緒に行ってブローしてやるよ」

 

 

ここあ「くしとドライヤー?やったぁ」

 

 

リゼ「ほら、洗面所にいくぞ」

 

 

ここあ「うん♪」ギュッ

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

リゼ(朝ご飯までまだ少し時間があるな)チラッ

 

 

ここあ「りぜちゃん、はやおきしてなにしてたの?」

 

 

リゼ「んっ、これか?学校の宿題だ」

 

 

ここあ「しゅくだい?」

 

 

リゼ「勉強だよ。早めに終わらせておかないとな」

 

 

ここあ「おわるまであそべない?」

 

 

リゼ「そうだな、数学はあと一枚だけだしもう少し待っててくれるか?」

 

 

ここあ「うん、おわったらたくさんあそぼうね」

 

 

リゼ「ああ、いい子にしててくれよ」

 

 

 

リゼ「………………」カキカキ

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ「………………」

 

 

 

シーン

 

 

リゼ(みょうに静かだな……ココアのやつ、待ちくたびれて二度寝したのかな?)

 

 

リゼ「………………」チラッ

 

 

ここあ「…………」ギュッ

 

 

リゼ(ワイルドギースを抱っこしながらベッドに座ってるだけだ……)

 

 

リゼ(そうか……喋ったらわたしに迷惑がかかると思って……)

 

 

リゼ「…………」カキカキ

 

 

リゼ(いい子だな、ほんとに)

 

 

リゼ(……早く終わらせないと)

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「……よし」ガタッ

 

 

ここあ「おしまい?」

 

 

リゼ「今日の分はな」

 

 

ここあ「わーい!」

 

 

リゼ「ふふっ……――よっと」ダキッ

 

 

ここあ「えへへ♪」

 

 

リゼ「ココアのおかげで早く終わったよ、静かにしてくれてありがとうな」

 

 

ここあ「おべんきょうしてるときはね、いいこにしてたらはやくおわるの」

 

 

リゼ「そうか、ココアはおりこうさんだな」ナデナデ

 

 

ここあ「りぜちゃん、あーそぼっ」

 

 

リゼ「そうだな、朝ご飯食べたら今日はどこかに出掛けるか」

 

 

ここあ「おでかけ!いきたい!」

 

 

リゼ「お昼は向こうで済ますとして、散歩ついでにデパートまであるこう」

 

 

ここあ「りぜちゃんとおさんぽ♪りぜちゃんとおかいもの♪」

 

 

リゼ「そうと決まればほら、まずは朝ご飯を食べないとな」

 

 

ここあ「うん!りぜちゃんはやく~」

 

 

リゼ「降ろしていいのか?」

 

 

ここあ「ううん、このままがいい」

 

 

リゼ「この甘えん坊め」ワシャワシャ

 

 

ここあ「♪」キャッキャッ

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

 

ここあ「わーくわくてくてくどこへゆーくの♪」

 

 

ここあ「なぁんとかなるさとうえむいーて♪」

 

 

リゼ「おっ、あれシャロじゃないか?」

 

 

ここあ「シャロちゃん!どこ?」

 

 

リゼ「あのクレープ屋だ、おーいシャロ」

 

 

シャロ「あっ、リゼ先輩、ココア」

 

 

ここあ「シャロちゃーん!」トテトテ

 

 

リゼ「ココア、そんなに走ったら危な――」

 

 

ここあ「きゃっ!」ドテッ

 

 

リゼシャロ「!?」

 

 

ここあ「うぅ……」グスッ

 

 

シャロ「ココア、大丈夫?」アセアセ

 

 

リゼ「どこか怪我したのか?」

 

 

ここあ「ひざすりむいちゃった……」

 

 

リゼ「擦り傷か、血は出てるが軽傷だな」

 

 

シャロ「絆創膏でしたら持ってますけど……」ガサゴソ

 

 

リゼ「その前にまずは水で洗い流そう、ほらつかまれ」ダキッ

 

 

ここあ「うん……」

 

 

 

リゼ「これでよし、と」ペタッ

 

 

リゼ「もう痛くないか?」

 

 

ここあ「うん、ありがとうりぜちゃん」

 

 

リゼ「まったく、勝手に走っていったらダメだろう?」

 

 

ここあ「ごめんなさい……」シュン

 

 

リゼ「もし頭なんて打ったりしたら病院に行かなきゃいけなくなるぞ」

 

 

ここあ「びょういん……もしかして、ちゅうしゃ?」ブルブル

 

 

リゼ「ああ、そうなったらココアも嫌だろう?わたしやチノたちだって心配する」

 

 

ここあ「ちゅうしゃいやぁ……もうかってにはしらない、りぜちゃんとゆびきりする」

 

 

リゼ「約束だぞ」

 

 

ここあ「」コクリ

 

 

リゼ「よし……ほらココア、クレープだ」

 

 

ここあ「わぁ……!」キラキラ

 

 

リゼ「イチゴとチョコ、どっちがいい?」

 

 

ここあ「イチゴ!」ピョンピョン

 

 

リゼ「こぼさないようにゆっくり食べるんだぞ」

 

 

ここあ「いただきまーす」パクッ

 

 

ここあ「んっ……おいしい♪」ニコッ

 

 

リゼ「よかったな」ナデナデ

 

 

 

リゼ「すまないシャロ、これ代わりに食べてもらえるか?」コソッ

 

 

シャロ「えっ?そ、そんな、いただけません!」

 

 

リゼ「さっき朝食食べたばかりだからあんまりお腹も減ってないし、それにその……」

 

 

シャロ「?」

 

 

リゼ「これ以上食べると、怖くてしばらくの間体重計が遠のきそうでな……」

 

 

シャロ「な、なるほど……」

 

 

リゼ「というわけで頼む!このクレープ貰ってくれ」

 

 

シャロ(どうしよう……わたしも最近体重が増えてきて不安なのに……でも他ならぬリゼ先輩の頼みだし、滅多に食べられないクレープだし……)

 

 

シャロ「っ……わかりました、それじゃあいただきま――」

 

 

あんこ「」ドスン ベシャ

 

 

リゼ「うわぁ!?」

 

 

シャロ「」

 

 

千夜「あんこやーい、だいじょうぶ?」

 

 

千夜「ってあら、シャロちゃんとリゼちゃん?」

 

 

リゼ「千夜、なんでこいつが空から?」アンコ

 

 

千夜「なんだか懐かしいわね、このくだり」

 

 

リゼ「えっ?」

 

 

シャロ「ち~や~!」ゴゴゴ

 

 

千夜「ごめんなさいシャロちゃん、これで3回目ね」

 

 

シャロ「どこまでわたしにクレープ食べさせない気なのよ……はぁ」グスッ

 

 

千夜「お詫びにたくさん買っていくわ、食べきれない分はシャロちゃん家の冷蔵庫にしまっておくわね」

 

 

シャロ「!……千夜」

 

 

リゼ「いや……さすがに何本も食べると……」

 

 

千夜シャロ「あっ」

 

 

 

ここあ「♪~♪♪」モグモグ

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

――デパート――

 

 

ここあ「りぜちゃん、これなーに?」ヌイグルミ

 

 

リゼ「これはマンボウだな」

 

 

ここあ「もふもふしててかわいいね」

 

 

リゼ「ぬいぐるみだからな」

 

 

ここあ「あっ、ティッピーだ」

 

 

リゼ「あれは羊だと思うぞ」

 

 

ここあ「ひつじさんもかわいい」スリスリ

 

 

リゼ「なにか欲しいものがあったら言えよ、あんまり高いものは買えないけど」

 

 

ここあ「うん!あ、あれうさぎさんだ~」タタタ

 

 

ここあ「あっ」

 

 

ここあ「はしっちゃだめ、はしっちゃだめ」テクテク

 

 

リゼ「えらいぞ」ナデナデ

 

 

ここあ「えへへ、りぜちゃんとゆびきりしたもん」

 

 

ここあ「このうさぎのぬいぐるみ、ワイルドギースにそっくりだね」

 

 

リゼ「気に入ったか?これでよかったら買ってやるぞ」

 

 

ここあ「ううん、いい」

 

 

リゼ「いいのか?」

 

 

ここあ「りぜちゃん、そのキリンさんとってー」

 

 

リゼ「これだな、よいしょっと……」

 

 

ここあ「ここのおみせ、モフモフだらけ♪」スリスリ

 

 

リゼ(そんなこんなで時間はあっという間に過ぎていった)

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――夕方――

 

 

ここあ「たのしかったね」

 

 

リゼ「結局なにも買わなかったが、ほんとによかったのか?」

 

 

ここあ「もふもふできたからいいの」

 

 

リゼ「あのうさぎのぬいぐるみくらい買ってやるのに」

 

 

ここあ「ううん、あのこよりもりぜちゃんのおうちにいるワイルドギースのほうがすきだから」ニコッ

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

ここあ「あ、でもひとりでさみしそうだからおともだちをかってあげたほうがよかったかな?」

 

 

リゼ「ふふっ、そうだな」ヒョイ

 

 

ここあ「りぜちゃん?」

 

 

リゼ「ココアは優しいな」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃんもやさしいよ?」

 

 

リゼ「それに、あったかい」

 

 

ここあ「りぜちゃんもぽかぽかだよ~♪」スリスリ

 

 

リゼ「よし、明日はワイルドギースの友達を作ってやるか」

 

 

ここあ「おともだち……りぜちゃんつくれるの!?」

 

 

リゼ「ああ、ココアもいっしょに手伝ってくれるか?」

 

 

ここあ「てつだう!りぜちゃんといっしょにつくる!」キラキラ

 

 

リゼ「そうと決まれば、明日に備えて今日は早めに寝るか」

 

 

ここあ「お風呂に入って、歯磨きして、ええと、それからそれから――」

 

 

リゼ「まずは家に帰らないとな」

 

 

ここあ「うん!」

 

 

リゼ「それじゃあ、帰るとするか」

 

 

ここあ「りぜちゃんのおうちに」

 

 

リゼ「いや、違うぞ」

 

 

ここあ「ふぉぇ?」

 

 

リゼ「わたしたちの家にだ」

 

 

ここあ「ふぁ……!」

 

 

リゼ「ここあ……帰るか」ニコッ

 

 

ここあ「うん!」ニコッ

 

 

 

ここあ「でーきるよきっとねきみとなーら♪」

 

 

リゼ「できる♪」

 

 

ここあ「できない♪」

 

 

リゼ「できる♪」

 

 

ここリゼ「やっちゃおう♪」

 

 

 

――深夜――

 

 

チノ「すいませんリゼさん、こんな夜分遅くに」

 

 

リゼ「それは構わないが、用があるならこっちから出向いたのに」

 

 

チノ「いえ……それだと、その……」チラッ

 

 

ここあ「すぅ……すぅ……」Zzz

 

 

リゼ「……なるほどな」

 

 

チノ「場所を変えますか?」

 

 

リゼ「いや、大丈夫だ。今日は疲れてぐっすり寝てるよ」

 

 

チノ「そうですか……では」

 

 

リゼ「………………」

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ「……ココアを元に戻す方法が分かったのか?」

 

 

チノ「っ……はい」

 

 

リゼ「そうか……なら良かったじゃないか」

 

 

チノ「リゼさん……」

 

 

リゼ「わたしもココアの子守が疲れてきたところだったんだ、ちょうどいい」

 

 

チノ「…………っ」キュッ

 

 

リゼ「で、どうすればいいんだ?」

 

 

チノ「何もしなくても大丈夫です。ただ、恐らく明後日には……7日目には、ココアさんの魔法が効いてくるとおじいちゃんが――こほん、元に戻ってしまうような、そんな気がします」

 

 

リゼ「一緒にいられるのは、明日までか」

 

 

チノ「はい……」

 

 

リゼ「………………」

 

 

チノ「リゼさん……?」

 

 

リゼ「……わかった」

 

 

チノ「………………」ウツムキ

 

 

リゼ「どうしたんだチノ?元通りになるのに一体何がそんなに引っかかってるんだ?」

 

 

チノ「……リゼさんは、悲しくないんですか?」

 

 

リゼ「そりゃ悲しいさ、でも、いつかは別れが来ると覚悟していたからな。それが偶然明後日になっただけだ」

 

 

チノ「………………」

 

 

リゼ「わざわざすまないな、もう遅いから泊まっていくか?」

 

 

チノ「いえ、着替えもありませんので……今日のところはおいとまします」

 

 

リゼ「そうか……危ないから送っていくよ」スクッ

 

 

チノ「でも、ココアさんは――」

 

 

リゼ「ココア、ちょっと行ってくるな」ナデナデ

 

 

リゼ「ワイルドギース、ココアのこと頼んだぞ」ポスッ

 

 

チノ「…………」

 

 

 

リゼ「………………」テクテク

 

 

チノ「………………」テクテク

 

 

チノ「……あの、リゼさん?」

 

 

チノ「明日はココアさんのためにラビットハウスでパーティーを開こうと思うんですけど、どうでしょうか?」

 

 

リゼ「みんなでお別れ会か?」

 

 

チノ「はい、せめて最後だけでも良い思い出をと……」

 

 

リゼ「そうだな……できれば、遠慮してもらいたい」

 

 

チノ「えっ……?」

 

 

リゼ「明日はココアと一緒にぬいぐるみを作る約束をしてあるんだ」

 

 

リゼ「たぶん一日仕事になる。約束くらい守れないと、一生悔いが残りそうでな」

 

 

チノ「そうですか……わかりました」

 

 

リゼ「すまないな、チノたちもお別れを言いたいはずなのに」

 

 

チノ「いえ、気にしないでください」

 

 

チノ「きっとココアさんも、一秒でも長くリゼさんと一緒にいたいはずです」

 

 

チノ「わたしたちは、大丈夫ですから」

 

 

リゼ「……ありがとう」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

チノ「送ってくださってありがとうございました」

 

 

リゼ「いや、こちらこそありがとう」

 

 

リゼ「また明後日にな、おやすみ……」

 

 

チノ「リゼさん、待ってください」

 

 

リゼ「?」

 

 

チノ「これを」スッ

 

 

リゼ「写真……?」

 

 

リゼ「これ、今朝の公園でクレープを食べたときの……」

 

 

チノ「シャロさんが撮ったみたいで、千夜さんがプリントアウトしたそうです」

 

 

チノ「リゼさんに渡してほしいとお昼にあずかったので」

 

 

リゼ「ふふっ、上手くツーショットになってるな」

 

 

チノ「リゼさん、ココアさんのことよろしくお願いします」ペコリ

 

 

リゼ「ああ、任せておけ」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「……………………」

 

 

リゼ「……明日まで、か」

 

 

リゼ「いちおう、覚悟はしてたんだけどなぁ……」

 

 

リゼ(たったの3日間一緒にいるだけで、別れってこんなに寂しいものなのか……)

 

 

リゼ「…………」スッ シャシン

 

 

リゼ「ははっ……こうやってみると姉妹みたいだな」

 

 

リゼ「はは……は…………」

 

 

リゼ「……明日は、一緒にぬいぐるみを作ろうな」

 

 

リゼ「お前の好きなものを食べさせてあげるからな」

 

 

リゼ「野菜を残しても怒らないからな……」ポタッ

 

 

リゼ「一緒にお風呂に入って、一緒に寝ような……」ポタッ

 

 

リゼ「明日はずっと……ずっと一緒にいるからな、ココア」ポタポタ……

 

 

 

V.

 

――リゼの部屋――

 

 

ここあ「りぜちゃん、おきて~」ユサユサ

 

 

リゼ「……ん?」

 

 

ここあ「おはようりぜちゃん、きょうはねぼすけさんだね」

 

 

リゼ「もうあさか……」

 

 

ここあ「わたしひとりでりぜちゃんよりもはやおきできたよ、えらい?」

 

 

リゼ「ああ、おりこうさんだ」

 

 

ここあ「えへへ」ニコッ

 

 

 

リゼ「顔洗ってくるから降りてくれるか?馬乗りになられてると起き上がれない」

 

 

ここあ「ううん、もう少しこのままがいい」ギュッ

 

 

リゼ「!」

 

 

ここあ「今日もたくさん遊ぼうね」

 

 

リゼ「ココア……」

 

 

ここあ「りぜちゃんといっしょ♪リゼちゃんといっしょ♪」

 

 

リゼ「……っ」

 

 

ここあ「あれ……?りぜちゃんのめ、まっかっかだよ?どうしたの?」

 

 

リゼ「これは……なんでもないよ、気にするな」ナデナデ

 

 

ここあ「?」

 

 

リゼ「よっと」ヒョイ

 

 

ここあ「ふぉぇ?」

 

 

リゼ「洗面所に行くのが怖いから付いてきてくれるか?」

 

 

ここあ「りぜちゃんこわがりさん?おねえちゃんなのに?」

 

 

リゼ「そうだな……ひとりになるのが怖い臆病者なんだ」

 

 

リゼ「ココアよりも、ずっとこわがりだ……」

 

 

ここあ「そっかぁ、じゃあいっしょにいく!」

 

 

リゼ「ありがとう、ココアは優しいな」

 

 

ここあ「わたしにまかせなさーい♪」

 

 

リゼ「…………」ギュッ

 

 

ここあ「わわっ……りぜちゃん?」

 

 

リゼ「ごめんな……やっぱり怖い……」

 

 

ここあ「ふたりだからだいじょうぶ――そうだ!」

 

 

ここあ「わたしがりぜちゃんにおまじないしてあげる」

 

 

リゼ「おまじない?」

 

 

ここあ「てをにぎって……」ギュッ

 

 

ここあ「りぜちゃんのこわがりさんがなおりますよーに」

 

 

リゼ「――――!」

 

 

ここあ「これでもうだいじょうぶだよ」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん、おかおあらいにいこ?」

 

 

リゼ「!」ハッ

 

 

リゼ「そ、そうだな……」

 

 

リゼ「ココア、ありがとう」ナデナデ

 

 

ここあ「うん♪」

 

 

リゼ(……………………)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

リゼ「次はここを縫うんだ」チクチク

 

 

ここあ「ここだね」チクチク

 

 

リゼ「指を刺さないように気を付けろ」

 

 

ここあ「だいじょーぶ!」

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

リゼ「最後は背中を縫って……よし、完成だ」

 

 

ここあ「ワイルドギースのおともだちできたー♪」ピョンピョン

 

 

リゼ「横に並べてみるか」

 

 

ここあ「わぁ……!」

 

 

リゼ「ふふっ、サイズもちょうどいいな」

 

 

ここあ「ワイルドギースよろこんでる?」

 

 

リゼ「ああ、ココアのおかげだ」

 

 

ここあ「りぜちゃんとふたりでつくったから、なまえはココリゼだね」

 

 

リゼ「そのままだな……」

 

 

ここあ「ココリゼ、ワイルドギースとなかよくするんだよ~」

 

 

リゼ(どうしよう、一日かかると思ってたけど意外とはやくおわってしまった)

 

 

リゼ(チノの言ってたパーティー、断らないほうが良かったかもしれないな……)

 

 

リゼ「ココア、まだお昼だけどどうする?どこか行きたいところがあれば連れて行ってやるぞ?」

 

 

ここあ「ラビットハウスにいきたい!」

 

 

リゼ「ラビットハウス?」

 

 

ここあ「うん、そのあと『あまうさあん』で、そのあとはしゃろちゃんのおうち!」

 

 

リゼ「みんなのところにか?別に構わないが……」

 

 

ここあ「りぜちゃんとふたりでおさんぽしながら、みんなにあいにいくの」

 

 

リゼ「そうか……わかった」

 

 

リゼ「転ばないように、手を繋いでいこうか」

 

 

ここあ「うん!」ギュッ

 

 

リゼ「…………っ」ギュッ

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

――ラビットハウス――

 

 

リゼ「おじゃまします」

 

 

ここあ「ちのちゃーん!」

 

 

チノ「ココアさん……!」

 

 

リゼ「すまない、思っていたよりも早く終わってな」

 

 

チノ「そうですか、でしたらいまからでも……」

 

 

リゼ「気持ちはうれしいが……遠慮しておくよ」

 

 

リゼ(これ以上仲良くなると、別れがもっと辛くなる……)

 

 

チノ「リゼさん……」

 

 

ここあ「ちのちゃんもりぜちゃんもどうしたの?」

 

 

チノ「なんでもないですよ。ココアさん、リゼさんのおうちで何かしてたんですか?」

 

 

ここあ「うん!あのね、りぜちゃんといっしょにワイルドギースのおともだちをつくったの。ココリゼっていうんだ」

 

 

チノ「そうですか、最後までちゃんと作れたんですね。偉いです」ナデナデ

 

 

ここあ「こんどはちのちゃんとふねをつくりたいな」

 

 

チノ「ボトルシップですか、まだココアさんには難しいですよ」

 

 

ここあ「じゃあ、もっとおおきくなったらいっしょにつくろうね」

 

 

チノ「……はい、そうですね」

 

 

チノ「っ……」ギュッ

 

 

ここあ「ふぉぇ?」

 

 

チノ「ココアさんが大きくなってわたしよりもお姉ちゃんになったら、一緒に作りましょう」

 

 

ここあ「えへへ、ゆびきりげんまん」

 

 

チノ「はい……」

 

 

チノ「ゆーびきりげんまん――」

 

 

ここあ「――ゆびきった♪」

 

 

チノ「…………」グスッ

 

 

チノ「任せてください……ちゃんと約束、守りますから……」ギュッ

 

 

ここあ「ちのちゃんあまえんぼうさん?もふもふ~」ギュッ

 

 

チノ「ココアさん……」ジワッ

 

 

リゼ「っ…………」

 

 

チノ「リゼさん……ココアさんのこと、よろしくお願いします」

 

 

リゼ「ああ……まかせておけ」

 

 

リゼ「ココア、そろそろいこうか」

 

 

チノ「ココアさん……さようなら」

 

 

ここあ「チノちゃんばいばい!」

 

 

ここあ「オムライス、おいしかったよ。ちのちゃんだいすき……」チュッ

 

 

チノ「!」

 

 

ここあ「またね」ニコッ

 

 

チノ「え……」

 

 

リゼ「チノ、また明日な」

 

 

ガチャッ バタン

 

 

 

チノ「ココア……さん……?」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

――甘兎庵――

 

 

リゼ「いきなりですまないな」

 

 

千夜「ううん、来てくれて嬉しいわ。もう会えないと思ってたから……」

 

 

ここあ「あんこ、はいあーん」

 

 

あんこ「…………」モグモグ

 

 

千夜「チノちゃんはどう?」

 

 

リゼ「辛そうだったよ……だから、ここに逃げてきた」

 

 

千夜「そう……でも、後悔するよりきっといいと思うわ」

 

 

千夜「リゼちゃんは?大丈夫なの?」

 

 

リゼ「そうだな、覚悟はしていたんだけど……」

 

 

千夜「両目とも真っ赤っかね……ごめんなさい、当然よね」

 

 

リゼ「……千夜のほうは?」

 

 

千夜「わたし?ふふっ、どうかしら?」

 

 

リゼ「……ごめん、聞かなくても良かったな」

 

 

千夜「永遠の別れってわたし、まだ一度も経験したことないの」

 

 

千夜「だからかしら、もう会えないって言われてもあまり実感が湧かないわ……」

 

 

千夜「でも不思議ね……人間、自分の気持ちなんて分からなくても、いざ現実を突き付けられると自然と涙が出てくるものなんだから……」ジワッ

 

 

リゼ「千夜……」

 

 

千夜「ごめんなさい……リゼちゃんも辛いのに、わたし……」グスッ

 

 

リゼ「いいんだよ……お前が我慢する必要なんてない」

 

 

リゼ「悲しいなら好きなだけ泣けばいいんだ……」ギュッ

 

 

千夜「っ……リゼちゃん……!」ポロポロ

 

 

ここあ「ちやちゃんだいじょーぶ?」

 

 

千夜「ひっく……ここあちゃん……」

 

 

ここあ「げんきだして、ちやちゃん。よしよし」ナデナデ

 

 

千夜「ココアちゃん……ありがとう、嬉しいわ」ダキッ

 

 

ここあ「もうかなしくない?」

 

 

千夜「ええ……ココアちゃんを抱っこしてたら悲しみなんて消えちゃった」

 

 

ここあ「わーい!」キャッキャッ

 

 

千夜「ふふっ、ココアちゃん……また羊羹、食べに来てね」

 

 

ここあ「うん!またたべにくる~♪」

 

 

リゼ「千夜……」

 

 

千夜「リゼちゃんありがとう、もう大丈夫よ」グスッ

 

 

リゼ「そうか……」

 

 

リゼ「ココア、そろそろいこうか」

 

 

ここあ「はーい」

 

 

ここあ「ちやちゃん、ばいばい!」

 

 

千夜「ココアちゃん……さようなら」

 

 

ここあ「たくさんあそんでくれてありがとう。ちやちゃんだいすき……」チュッ

 

 

千夜「!」

 

 

ここあ「♪」タタタ

 

 

ガチャッ バタン

 

 

 

千夜「どうして…………」

 

 

千夜「……うそ………ココアちゃん……」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

――シャロの家――

 

 

ここあ「ワイルドギース、おいで~」

 

 

ワイルドギース「」フンッ

 

 

シャロ「うぅ……ぐすっ……」ウルウル

 

 

リゼ「すまないシャロ、来ないほうが良かったか?」

 

 

シャロ「いえ、ただもう会えないと思ってたから……」グシグシ

 

 

リゼ「突然ココアがみんなの家に行きたいって言いだしてな」

 

 

シャロ「でも、どっちにしろこれが最後のお別れなんですよね……うぅっうぇえぇ……」ポロポロ

 

 

リゼ「シャロ……っ……」

 

 

ここあ「シャロちゃんもなきむしさん?」ヒョコ

 

 

リゼ「!」

 

 

シャロ「ココア……」ポロポロ

 

 

ここあ「ないたらしあわせがにげていくんだよ?だからなきやもう?」ナデナデ

 

 

ここあ「みんながいるよ、だからだいじょーぶ!」ギュッ

 

 

シャロ「でも……ココアは……!」ギュッ

 

 

シャロ(あんたがいなくなったら、『みんな』じゃない……)ポロポロ

 

 

リゼ「…………っ」グッ

 

 

ここあ「シャロちゃん、よしよし」

 

 

シャロ「ここあぁ……なんで……どうして……」ポロポロ

 

 

リゼ(……どうすることもできない苦しみを前に、自分一人の力でいったい何をすればいいんだろう)

 

 

リゼ(嫌なことがあったとき、今まで何度もそんなことを考えてきたけど……いまだに答えなんて出ない)

 

 

リゼ(――どうしようも、ないのだから)

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

リゼ「シャロ、落ち着いたか?」

 

 

シャロ「はい、取り乱してすいません……」

 

 

リゼ「気持ちはわかるさ、気にするな」

 

 

リゼ「ココア……もうすぐ夕飯だ、そろそろ帰ろうか」

 

 

ここあ「うん。しゃろちゃん、バイバイ」

 

 

シャロ「ココア……またね」

 

 

ここあ「しゃろちゃんだいすきだよ、いっぱいめいわくかけてごめんね」チュッ

 

 

シャロ「……!」

 

 

ここあ「♪」フリフリ

 

 

ガチャッ バタン

 

 

 

シャロ「……まさか、ココア…………」

 

 

――ジワッ

 

 

シャロ「ぅっぐ……あんた、どうして……」グスッ

 

 

シャロ「ココアぁ……ココア……!」ポロポロ

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

――深夜 リゼの部屋――

 

 

ここあ「こころぴょんぴょんまち、かんがえるふりしてもうちょっと――♪」

 

 

リゼ(もう残された時間も少ない……これが終わったら、あとは寝るだけか)

 

 

ここあ「♪~♪♪」

 

 

リゼ(目が覚めれば、この幼いココアはいなくなる……それで、全て元通りになる)

 

 

リゼ(――はずなのに)

 

 

リゼ(……本当に、これでいいのか)

 

 

リゼ(このままで……ココアに何も告げないまま、お別れしていいのか)

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

――IN ベッド――

 

 

リゼ「電気、消すぞ」

 

 

ここあ「うん」

 

 

リゼ「…………」カチッ

 

 

リゼ「ここあ……おいで」

 

 

ここあ「うん♪」ギュッ

 

 

リゼ「……………………」

 

 

ここあ「きょうはみんななきむしさんだったね」

 

 

リゼ「……そうだな」

 

 

ここあ「りぜちゃんは?」

 

 

リゼ「……さぁな」

 

 

ここあ「……そっか……そうだよね」

 

 

ここあ「だって……りぜちゃんは――」

 

 

リゼ「――なぁ、ココア?」

 

 

ここあ「?」

 

 

リゼ「今からお前に大事な話がある」

 

 

リゼ「……聞いてくれるか?」

 

 

ここあ「……うん」

 

 

リゼ「……ありがとう」

 

 

リゼ「……ココア」

 

 

ここあ「りぜちゃん、どうしたの?」

 

 

リゼ「…………っ」

 

 

ここあ「りぜちゃんのからだ、ふるえてる……こわいの?」

 

 

リゼ「ああ、怖い……怖くて怖くて、どうかなりそうだ」

 

 

ここあ「だいじょーぶ、わたしがついてるよ」

 

 

リゼ「……でも……もう会えない」

 

 

ここあ「え?」

 

 

リゼ「今日が終われば、もうお前とは会えないんだ!」

 

 

ここあ「!」

 

 

リゼ「――っ」ギュッ

 

 

ここあ「リゼちゃん……?」

 

 

リゼ「……っ」ギュッ

 

 

ここあ「いたいよ……りぜちゃん……」

 

 

リゼ「ココア……ココア……!」ジワッ

 

 

リゼ「お前はほんとは、ここにいる人間じゃないんだ……」

 

 

リゼ「この場所にいたのは、お前よりもずっと年上のココアで……」

 

 

リゼ「その子がいなくなった日に、お前が現れた……」

 

 

リゼ「でも、お前自身が願ってくれた……その願い通り、きっとココアは帰ってくる」

 

 

リゼ「お前がいなくなる代わりに……」ポロポロ

 

 

ここあ「………………」

 

 

リゼ「お前がどうなるか、わたしにも分からない……」

 

 

リゼ「消えるのか、どこかに行ってしまうのか、わたしたちの記憶の中からさえも消え去ってしまうのか……」

 

 

リゼ「お前のことを忘れたくないのに、もしかしたら忘れてしまうのかもしれない……」

 

 

ここあ「りぜちゃんが……わたしを……」

 

 

リゼ「すまない……ずっと黙っていた」

 

 

リゼ「お前の方がわたしよりもずっと怖いはずなのに……わたしは、お前の泣き顔を見るのが怖くて……」

 

 

リゼ「お前の言う通り、わたしは臆病者だ……最低だ……」

 

 

リゼ「ごめんな……ごめんなココア……」

 

 

リゼ「もう、一緒には居られないんだ……」ポロポロ

 

 

ここあ「……………………」

 

 

リゼ「怖いよな……なのに、わたしはお前を抱きしめることしかできない……」

 

 

リゼ「なにもしてあげられない……」ポロポロ

 

 

ここあ「……ううん、そんなことない」

 

 

ここあ「りぜちゃん、かおあげて?」

 

 

リゼ「……?」

 

 

ここあ「わたしね、りぜちゃんたちとであってから、まいにちたのしかったよ」

 

 

ここあ「りぜちゃんからも、ちのちゃんからも、ちやちゃんからも、しゃろちゃんからも、おもいでややさしさ、いっぱいうけとったよ」

 

 

ここあ「たくさん、たくさん、しあわせだったよ」

 

 

ここあ「みんなのこと、ぜったいにわすれない」

 

 

ここあ「きえても、いなくなっても、ぜったいに」

 

 

ここあ「だから、だいじょーぶ」ニコッ

 

 

リゼ「……!」

 

 

ここあ「みんなのとのおもいでがあれば、わたし、こわくないよ」

 

 

リゼ「ココ…ア……」ポロポロ

 

 

リゼ「お前は……なんで、どうして……」

 

 

ここあ「でもね、まだすこしこわいな」

 

 

ここあ「さいごにひとつだけ、りぜちゃんにちゃんときいておきたいの」

 

 

リゼ「わたしに……?」」

 

 

ここあ「あのね……」

 

 

 

ここあ「りぜちゃんは……わたしのこと、すき?」

 

 

 

リゼ「――!」

 

 

ここあ「わたしがいなくなったら、かなしんでくれる……?」

 

 

リゼ「……そんなこと」

 

 

ここあ「きのうちのちゃんがきたとき、りぜちゃんわたしのことめいわくだっていってたから……」

 

 

リゼ「!」

 

 

ここあ「あんまりかなしくないって……はやくもとにもどってほしいって……」

 

 

リゼ「ココア……お前、今日が最後だって知ってて……だからみんなのところに……!」

 

 

ここあ「ごめんなさい……」

 

 

ここあ「でもね、きえちゃうってわかったときも、あんまりこわくなかった」

 

 

ここあ「ううん、りぜちゃんにきらわれてるかもしれないってわかったときのほうが、ずっとこわかった……」

 

 

リゼ「……ココア」

 

 

ここあ「りぜちゃん、さいごにきかせて……うそついちゃ、だめ……」

 

 

リゼ「…………」

 

 

ここあ「りぜちゃんは……わたしといっしょにいるの、いやだった?」

 

 

ここあ「はやくわたしとおわかれしたかった……?」グスッ

 

 

ここあ「わたしのこと、めいわくだった……?」ジワッ

 

 

ここあ「わたしのこと、きらいだった……?」ポロポロ

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「ひっく……ぅえぇ……」ポロポロ

 

 

 

リゼ「――――きだ」

 

 

ここあ「え……」

 

 

リゼ「好きだよ……大好きだ」

 

 

ここあ「……ほんと?」

 

 

リゼ「わたしがお前との約束で、嘘ついたことがあったか?」

 

 

ここあ「……ううん」

 

 

リゼ「この期に及んで、もう嘘なんてつけないよ」

 

 

リゼ「あの時はチノを不安がらせまいと強がりを言ったが……もうわたしも堪えきれそうにない」

 

 

ここあ「りぜちゃん……」

 

 

リゼ「好き……ココアのことが、好きだ」

 

 

リゼ「誰よりも一番、世界で一番、お前のことが好きだ」

 

 

リゼ「誰が忘れても、わたしはお前を忘れない」

 

 

リゼ「お前との思い出も、お前の笑顔も、お前の言葉も声も、全部……」

 

 

リゼ「全部……ずっとずっと、覚えてる……」

 

 

ここあ「…………!」

 

 

リゼ「たとえ1秒でも長くお前のそばにいたい。ココア……一緒にいてくれるか?」

 

 

ここあ「うん……」

 

 

ここあ「わたしも、りぜちゃんといっしょにいたい」

 

 

ここあ「りぜちゃん、すき……だいすき」

 

 

ここあ「いちばんりぜちゃんのことが、だいすきだよ……♪」チュッ

 

 

リゼ「ココア……これはな、頬にするもんなんかじゃないぞ」

 

 

リゼ「ほんとは、こうするんだ……」

 

 

――チュッ

 

 

ここあ「んっ……」

 

 

リゼ「他になにかしてほしいこと、あるか?」

 

 

ここあ「ううん……なにもない」

 

 

ここあ「もうこわくないよ……だって、こんなにしあわせだもん」

 

 

ここあ「りぜちゃんとふたりなら、もうなにも……」

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

ここリゼ「…………」ギュッ

 

 

ここあ「ねぇリゼちゃん……ねても、いい?」

 

 

リゼ「……ずっと、そばにいるよ」

 

 

ここあ「えへへ……ありがとう……」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ここあ「りぜちゃん……」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

ここあ「りぜ……ちゃん……」

 

 

リゼ「……大丈夫、ちゃんといるぞ」

 

 

ここあ「さいごに……おねがい、わすれてた……」

 

 

リゼ「……?」

 

 

ここあ「またいつか、りぜちゃんとあえますように……」ギュッ

 

 

リゼ「……ココア」

 

 

ここあ「おやすみなさい、りぜちゃん……」

 

 

リゼ「……ああ」

 

 

 

リゼ「――おやすみ、ココア」

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

………………。

 

――あれ……。

 

あの感じ……どこかで――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

――公園――

 

 

ワイワイ キャーキャー

 

 

りぜ(……いいなぁ)

 

 

りぜ(どうしてわたしにはともだちができないんだろう……)

 

 

りぜ「……ふつうのいえにうまれなかったから……」ブランコ

 

 

りぜ「……はぁ」

 

 

りぜ「たくさんともだち、ほしいな……」

 

 

ここあ「ブランコ!わたしもまぜて~!」

 

 

りぜ「うぇえ!?」ビクッ

 

 

ここあ「おしてあげるね!えいっ!」

 

 

りぜ「ちょっとまってくれ!べつにブランコしたいわけじゃあ……!」

 

 

ここあ「そーれ!いち、にっ!」キャッキャッ

 

 

りぜ「やめろ~!やめて~!」

 

 

 

りぜ「ひどいめにあった……」

 

 

ここあ「ごめんね、ブランコに乗ってたからつい」

 

 

りぜ「ひとりきりでブランコなんてするはずないだろう……――!」ハッ!

 

 

ここあ「おねえちゃん、ひとりぼっちなの?」

 

 

りぜ「っ~!……そうだよ、わるいか」

 

 

ここあ「おともだちさがしてる?」

 

 

りぜ「……うん」コクリ

 

 

ここあ「それじゃあおともだちになろう!」

 

 

りぜ「えっ!?」

 

 

ここあ「わたしとおねえちゃんはいまからおともだち♪」

 

 

りぜ「……おまえ」

 

 

もか「ここあ~どこ~?」

 

 

ここあ「あっ、でももういかなきゃ……そうだ!」

 

 

――ギュッ

 

 

りぜ「!」

 

 

ここあ「いつかたくさん、おともだちができますように」

 

 

ここあ「おねえちゃんにおまじない♪」

 

 

りぜ「……おまじない」

 

 

ここあ「それと――」

 

 

ここあ「またいつか、おねえちゃんにあえますように」

 

 

りぜ「…………」

 

 

もか「ここあ~おいていっちゃうよ~!」

 

 

ここあ「じゃあね、ばいばい」フリフリ

 

 

ここあ「おねえちゃん、まって~!」タタタ

 

 

りぜ「」ポカーン

 

 

りぜ「………………」

 

 

りぜ「はじめてのともだち……なまえ、きいてなかった……」

 

 

りぜ「………………」スッ

 

 

りぜ「……ともだち、できるかな」

 

 

 

――そうだ。

 

あの時、わたしにまほうをかけてくれたのは――

 

わたしと、初めてともだちになってくれたのは――

 

……………………

 

………………

 

…………

 

……

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――早朝――

 

 

ココア「ふぉぇ……もう朝?」

 

 

リゼ「……おはよう、ココア」

 

 

ココア「んっ……リゼちゃん?どうしてリゼちゃんがここに……」プワプワ

 

 

リゼ「ここはわたしの家だ……まぁ話せば長くなる」

 

 

ココア「昨日の夜チノちゃんと遊んで、その後自分の部屋で寝たはず……」

 

 

リゼ「……この1週間、何も覚えてないか?」

 

 

ココア「1週間……?」キョトン

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

リゼ「気にするな……よく帰ってきてくれたな」ナデナデ

 

 

ココア「リゼちゃん……?」

 

 

リゼ「おかえり、ココア……」ギュッ

 

 

ココア「えへへ……リゼちゃんもふもふ♪」

 

 

リゼ「……よかったよ、ほんとに」

 

 

――ポタッ

 

 

リゼ「お前が帰ってきてくれて、良かった……」ポロポロ

 

 

ココア「リゼちゃん、怖い夢でも見たの?よしよし」ナデナデ

 

 

リゼ「ふふっ……ココア……」

 

 

リゼ「おかえり……」グスッ

 

 

リゼ「ははっ……あはは…………」

 

 

リゼ「よかった……よかったなぁ……」ポロポロ

 

 

 

VI.

 

――ラビットハウス――

 

 

リゼ「……………………」

 

 

 

ここあ『りぜちゃん、あーそぼっ♪』

 

 

ここあ『いっしょにおでかけ!』ピョンピョン

 

 

ここあ『ふたりでいっしょならだいじょーぶ!』

 

 

ここあ『りぜちゃん、だいすき♪』

 

 

 

りぜ「……………………」

 

 

 

リゼ「…………ここあ」

 

 

チノ「リゼさん」

 

 

リゼ「ん……チノか。すまない、少しボーっとしてた」

 

 

チノ「お客さんも来ないので、イスにでも座ってゆっくりしててください」

 

 

リゼ「いや、テーブルでも拭いておくよ。その方が気がまぎれるしな」

 

 

チノ「……リゼさん、すいませんでした」ペコリ

 

 

リゼ「?」

 

 

チノ「わたしのせいです……わたしがここあさんのこと、リゼさんに押し付けたから……」

 

 

リゼ「なに言ってるんだ、わたしが勝手に連れて行っただけだろ」

 

 

チノ「こうしてリゼさんが一番辛くなることも分かっていたのに、わたし……」

 

 

リゼ「……チノ」

 

 

チノ「最後の最後まで、全てリゼさんに押し付けてしまって……ごめんなさい」

 

 

リゼ「…………」

 

 

――ポンッ ナデナデ

 

 

チノ「……?」

 

 

リゼ「お前のせいなんかじゃないさ、むしろ、ありがとうだ」

 

 

リゼ「チノだけじゃなく、千夜とシャロにも……ここあと最後に二人きりにしてくれたみんなにな」

 

 

リゼ「おかげさまで、不思議と後悔はしてないんだ」

 

 

リゼ「最後までいっしょにいられて、良かったって思ってる」

 

 

リゼ「悲しいけど、これでよかったんだ」ニコッ

 

 

チノ「リゼさん……」

 

 

リゼ「だから、な?」ナデナデ

 

 

チノ「んっ……」

 

 

リゼ「お前に感謝こそすれど、恨むつもりなんてさらさら無い」

 

 

リゼ「後ろめたさなんて感じなくていいんだぞ」

 

 

チノ「……はい」

 

 

リゼ「よし……さぁチノ、今日からまたラビットハウス再開だ。気合入れていくぞ」

 

 

チノ「はい♪」

 

 

チノ「でも、リゼさん」

 

 

リゼ「んっ?」

 

 

チノ「後悔していないのでしたら、さっきはいったい何を考えていたんですか?」

 

 

リゼ「……そうだな」

 

 

リゼ「後悔は無いんだが、ひとつだけ心残りがな……」

 

 

チノ「……?」

 

 

ガチャッ

 

 

リゼ「おっと、お客さんだ。チノ、コーヒーのほう任せたぞ」

 

 

チノ「あ、はい」

 

 

チノ(……リゼさん)

 

 

リゼ「いらっしゃいませ、こちらメニューです」

 

 

リゼ(小さい頃、わたしに魔法をかけてくれたあの子はお前だったのか――聞きそびれたな)

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

リゼ「ふぅ…………」

 

 

チノ「お疲れ様です」

 

 

リゼ「お昼時はさすがに忙しいな」

 

 

チノ「わたしとリゼさんだけですから」

 

 

リゼ「ココアはまだ起きてこないのか?」

 

 

チノ「いえ、ココアさんは今週はオフです」

 

 

リゼ「あいつが休むなんて珍しいな」

 

 

チノ「1週間の間の記憶が一切無いことが思っていたよりもショックだったようで」

 

 

チノ「今日は気分転換を兼ねて、甘兎庵に行くと言ってました」

 

 

リゼ「千夜のところか」

 

 

チノ「はい、さきほど写メが送られてきました」スッ

 

 

『千夜月5本食い達成だよ!』

 

 

リゼ「ははっ、この調子ならもう大丈夫そうだな」

 

 

チノ「まったくです、心配して損しました」クスッ

 

 

リゼ「こりゃ後からダイエットに付きあわされそうだな」

 

 

チノ「その時は3人で頑張りましょう」

 

 

リゼ「いや、チノはそれ以上痩せなくていいと思うぞ」

 

 

チノ「仲間はずれは嫌です……」

 

 

リゼ「そうか、わかったよ」ナデナデ

 

 

チノ「♪」パァァ

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――リゼの部屋――

 

 

リゼ(……そっか)

 

 

リゼ(千夜のやつ、もう約束を果たしたんだな)

 

 

リゼ「とすれば、明日あたりにチノとボトルシップつくり、明後日あたりにシャロとデートか」

 

 

リゼ(シャロのやつ、ここあのことを思い出して泣かなければいいが)

 

 

リゼ「……さてと」ベッド ポスッ

 

 

リゼ(……わたしの約束は、いつになるのかな)

 

 

リゼ(明日か、1年後か、はたまた10年先か……)

 

 

リゼ(………………)

 

 

リゼ「まぁ、ゆっくり待つとするか」

 

 

リゼ「いつかは必ず会える。なぁ、ワイルドギース。それと――」

 

 

リゼ「なぁ、ココリゼ。……うーん、やっぱりしっくり来ないな」

 

 

リゼ「……よし、お前の名前は変更だ」

 

 

リゼ「――なぁ、ここあ♪」ギュッ

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

――6日後 リゼの部屋――

 

 

ココア「リゼちゃんの部屋、模様替えした?」キョロキョロ

 

 

リゼ「いや、物が増えただけだと思う」

 

 

ココア「そっかぁ、そういえば本棚がこの前より溢れてるね」

 

 

ココア「あれ……これ全部絵本?」

 

 

リゼ「ああ、この前急に読みたくなってな」

 

 

ココア「懐かしいなぁ、わたしも小さいころ読んだよ~」

 

 

リゼ「ココアは小さい頃から読書好きだったんだな」

 

 

ココア「うん!でもさすがに文字が読めなかった頃は読み聞かせだったけどね」

 

 

ココア「お姉ちゃんのお膝の上に乗っていっしょに読んだんだ」

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

ココア「あっ、写真立てだ!」スッ

 

 

リゼ「!」

 

 

ココア「この子だれかな?リゼちゃんの親戚?」

 

 

リゼ「いや違うぞ。――友達だ、大切な」

 

 

ココア「へぇ~、二人とも仲良しなんだね」

 

 

リゼ「そうか?」

 

 

ココア「うん!だってこの子すごく幸せそうだよ、ほら」

 

 

リゼ「……そうだな、そうだといいが」クスッ

 

 

リゼ「なにせ、わたしの初めての友人だからな」

 

 

ココア「ふぉぇ?どういうこと?」

 

 

リゼ「なんでもないよ、そろそろ寝ようか」

 

 

ココア「リゼちゃんといっしょに寝るの、久しぶりだね」

 

 

リゼ「6日前にいっしょに寝ただろう?」

 

 

ココア「記憶が無いから覚えてないよ~」

 

 

リゼ「いいから早く布団に入れ」ポンポン

 

 

ココア「はーい、だいぶ!」ポスッ

 

 

リゼ「電気消すぞ」カチッ

 

 

 

ココア「……………………」

 

 

リゼ「……………………」

 

 

ココア「リゼちゃん、まだ起きてる?」

 

 

リゼ「ああ」

 

 

ココア「良かったら、少しお話し聞いてもらってもいい?」

 

 

リゼ「ん、いいぞ」

 

 

ココア「……あのね、いまこうやってリゼちゃんと二人で寝てたら、ふと思い出したんだ」

 

 

ココア「――わたし、むかし公園のブランコでリゼちゃんにそっくりな子に会ったことがあるの」

 

 

リゼ「――!」

 

 

ココア「一人で寂しそうにブランコで遊んでて……お友達がほしいって言ってた」

 

 

リゼ「………………」

 

 

ココア「わたし小さい頃は魔法使いになりたかったから、その子に魔法をかけてあげたんだ」

 

 

ココア「たくさんお友達ができますようにって♪」

 

 

ココア「これだけのことなんだけど、なんとなくリゼちゃんに話したくて。ごめんね急に」

 

 

リゼ「いや、面白い話だったよ」

 

 

ココア「あの子、今頃どうしてるかなぁ」

 

 

リゼ「たぶん、幸せになってると思うぞ」

 

 

リゼ「お前の魔法のおかげでな」

 

 

ココア「そうかなぁ、そうだといいな」

 

 

リゼ「良い友達に囲まれて、毎日を楽しく過ごしてるさ。きっとな」ナデナデ

 

 

ココア「んっ…………♪」

 

 

リゼ「………………」クスッ

 

 

リゼ「ココア、ありがとう」

 

 

ココア「ふぇ……?」ウトウト

 

 

リゼ「お前は、本当の魔法使いだよ」

 

 

ココア「すぅ……すぅ……」Zzz

 

 

 

リゼ「さて……これで、心残りも消えたな」

 

 

リゼ「あとは……」チラッ

 

 

ココア「ん……えへへ……」Zzz

 

 

 

ここあ『またいつか、りぜちゃんとあえますように……』

 

 

 

リゼ「もう一回、約束を果たすだけだ」

 

 

リゼ「……ふふっ♪」

 

 

リゼ「またいつか、会えるよな」

 

 

リゼ「――ここあ」

 

 

 

−−−−Bonus−−−−

 

VII.

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

翌朝。

 

別れは、来なかった。

 

幸か不幸かは分からない。

 

親友だったココアは、戻ってこないのだから。

 

 

でも。

 

 

お前を失わずに、済んだ。その事実は、わたしにただ『喜び』と『安心』という人にとって幸福の象徴である二つを与えてくれた。

 

その僥倖の前には、頭の中で散々引っ掻き回した理屈や精神論は何の意味もなさなかった。

 

 

 

あの後、どれほどの時間お前を抱きしめていただろうか。

 

嗚咽を響かせながら、お前の存在を確かめ、温もりを貪り、身体を蹂躙するかのように重ね。

 

ひたすら目の前の現実が、幻や偽りでないことを五感で感じて。

 

 

 

落ち着きを取り戻した後、お互いの涙や鼻水でくしゃくしゃになった顔を見合わせて。

 

喜悦の涙を滲ませ抱き付いてきたお前を受け止めた時。

 

 

わたしは、思った。

 

 

例えこの世が、全ての常識がお前の存在を否定しようとも。

 

 

例え誰を、世界中を敵に回したとしても。

 

 

一生、永遠にずっと。

 

お前と、一緒にいたい。

 

 

 

ここあ。

 

 

 

わたしの家族になってくれて、ありがとう。

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

わたしが無意識に口ずさんでいた歌が気になったらしい。

 

教えてほしいと言うので、CDを聞かせてあげた。

 

 

曲に合わせて膝の上で楽しそうに歌う姿が微笑ましい。

 

「上手に歌えたな」と褒めてあげると、今度は「一緒に歌おう」とデュエットのお誘い。

 

 

ずっと頭を撫でていたせいか、しばらくすると可愛い寝息を立てて眠ってしまった。

 

きっと遊ぶ時も歌う時も、いつも一生懸命なのだろう。

 

柔らかい頬をこっそりプニプニしたことは、眠っていたので無罪だ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

ヘアピンをプレゼントしてくれた。

 

ガーリーなデザインだが、いわくわたしに似合うらしい。

 

お前は嘘なんて言わない、きっと本心からだろう。

 

 

わざわざ早起きしてラビットハウスや甘兎庵、シャロの家を回って自分で働いたお金で買ってくれたそうだ。

 

みんなにメールでお礼を送っておいた。一日中振り回された使用人に申し訳なかったが、あいつも内緒でなにかプレゼントをもらったらしい。

 

 

問い詰めても口を割らないので諦めたが、わたしにだけじゃなかったのがちょっぴり悔しいな。

 

 

ともあれ。お前が、わたしのために頑張ってくれた。

 

その事実だけで、このプレゼントは世界で一番価値のあるものに違いない。

 

 

ここあ、ありがとう。

 

大切にする、わたしの一生の宝物だ。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

学校から帰ってみたらここあがいなくなっていた。

 

千夜が午前授業だったらしく、甘兎庵に遊びに行ったらしい、

 

 

ラビットハウスがオフなので思う存分遊ぼうと思っていた矢先、とんだ誤算だ。

 

とりあえず課題を終わらせて帰りを待つことに。

 

 

しかし、6時を過ぎても一向に帰ってくる気配が無いので千夜に連絡してみる。

 

なんでも、アルバイトからシャロが帰るのを待っているらしい。

 

 

既に夕飯もおよばれしたらしく、「このままウチにお泊りさせましょうか?」などととんでもない提案をしてきたので断固として拒否。すぐに甘兎庵までここあを迎えに行った。

 

 

ちょうどタイミングよく帰ってきたシャロと挨拶を交わし、ここあと二人で真っ暗な家路を辿る。

 

 

シャロと遊べなかったのが残念だったのか、少し寂しそうだったのでコンビニに寄ってここあの好きなデザートを買ってあげた。

 

 

これを書き終えたら、今日もここあと一緒に同じベッドで就寝だ。

 

すまないな千夜。ここあと寝るのはわたしの役目だ。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

ここあがおもらししてしまった。

 

お手洗いに行くよう起こしてあげなかったわたしの判断ミスだ。

 

 

使用人たちが洗濯してくれている間も、罪悪感からかずっと涙目だった。

 

千夜いわく、一番の理由はわたしに嫌われるかもしれないと不安だったのではないかとのこと。

 

 

もちろんそんな心配は杞憂を通り越している。

 

わたしがここあを嫌いになるなんてこと、天地がひっくり返ってもありえない。

 

可能性という問題において、これほど絶無という言葉がぴったりなものは他にない。

 

 

しかしお昼を過ぎても一向に元気が無く、ずっとションボリしていたが。

 

千夜やみんなのおかげで、ここあの笑顔は夕方になる頃には戻っていた。

 

 

千夜のアイデアで、ここあを一人でおつかいに行かせることになったのだ。

 

千夜と二人でこっそりストーキングはしていたけど、ここあにとっては買い物かごひとつでの初めてのお買い物だ。

 

 

わたしに喜んでほしい、そんな理由のために頑張って。

 

転んでも怪我しても泣かずに、立ち上がって。

 

 

お前の強さ、優しさ。わたしはちゃんと見ていたぞ。

 

 

ありがとうここあ、お前は本当に健気で強い子だ。

 

さすがはわたしの家族だな。

 

 

サプライズパーティ、はしゃぎすぎて疲れたのかな?

 

綺麗になったベッドでぐっすり眠ってる。

 

そろそろわたしも寝るか、いつも通り、お前の隣で。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

 

今日は久々の雨、結局夕方まで降り止まなかった。

 

 

インドアにはもってこいの天気なので、ここあと二人でゲームに興じているとあっと言う間にお昼過ぎになった。誰かと一緒にやるとゲームもこんなに楽しいのか。その相手がここあなら尚更だ。

 

 

お昼ご飯を終えて何となくぼんやりしていると、ここあが窓から興味深そうに外の景色を眺めていたので、一緒に連れて雨の街を散歩することに。

 

 

しばらくは目新しいことに落ち着きなくはしゃいでいたが、橋に差し掛かる頃にはゆっくりと隣を歩いて、雨の世界を不思議そうに見回していた。

 

 

雨によって容易に塗り替えられた普段と一線を画す世界は、静寂とも喧噪ともいえる無機質な音だけを響かせ、まるで世界に二人だけのような、そんな錯覚さえも思わせる。

 

 

「リゼちゃんとわたし、二人だけの世界みたいだね」

 

 

お前がいきなり、突拍子もなくそんなことを言うものだから。

 

 

心が、見透かされたみたいで。

 

 

お互いの心が、通じ合ったようで。

 

 

ほんの一瞬だけでも、世界でお前と二人だけになりたくて。

 

 

雨ざらしのなか傘をたたみ、慌てて駆け寄ってきてくれたお前を抱きしめて。

 

 

小さな傘の下に創られた、雨の降っていない小さな世界に、二人で身を寄せて。

 

 

お前は、わたしに何も聞いてこなかったな。

 

 

ただ少し照れた様子で笑顔を浮かべて、身体を預けてきて。

 

あんなに長い間お互い言葉を失くしたのは、今日が初めてだったかもしれない。

 

 

家に帰るまでの間、あの小さな空間、ほんのわずか存在した二人だけの世界は。

 

きっと神様すらも、見落としていたに違いない。

 

 

少しおかしいことを書きすぎたな。

 

頭もボーっとするし、そろそろ休もう。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

早朝、身体が気だるくてベッドから起き上がれなかった。

 

どうやら風邪を引いてしまったらしい。

 

 

この前の散歩の時からおかしな感じはしていたが、まさかここあと水族館に行く予定だった今日に発症するとは。

 

 

解熱剤を飲んで無理にでも行くつもりだったが、ここあと使用人二人に自重を促されたので渋々断念。

 

本日は大人しく自宅療養だ。

 

 

風邪がうつらないようここあは別室に向かわせた。

 

 

約束を守れなかった挙句ここあに気遣われてしまった自分が情けない。

 

久々の長い一人ぼっちの時間が寂しい。

 

 

おかしいな、ずっと当たり前だったはずなのに。

 

人間、一度でも生活基準を高めてしまうとそこから下げることはできない。どうやらあれは本当のようだ。

 

 

お昼過ぎ、暇を持て余しているとここあが部屋に昼食を持ってきてくれた。

 

小さい体に不釣り合いな大きいマスクを付けているのがかわいらしい。

 

 

使用人と一緒に作ってくれたおかゆをフーして食べさせてくれる。

 

鼻が詰まってろくに味もしないはずなのに、不思議だ。

 

お前が作ってくれたというだけで、どんな料理よりおいしい。

 

 

お昼からはずっと側にいてくれた。

 

マスクを付けているから大丈夫、か。

 

 

使用人もわたしも、嘘つきだ。

 

ここあ、マスクはあくまで予防だけで近くにいたら風邪はうつるんだぞ。

 

同じベッドで横になったりなんてしたら、確実に。

 

 

なのに。

 

それでもわたしは、お前に側にいてほしい。

 

純粋なお前を騙して、自分勝手な気持ちを優先したことを許してくれ。

 

咳をするたび、心配そうに背中を撫でてくれるここあが愛おしい。

 

 

今夜は甘兎庵に泊まりに行ってしまうのか、まぁ仕方ない。

 

お前や千夜が看病してくれている間に寝るとしよう。

 

 

風邪が治ったら水族館に行こうな、お前が見たがっていた大きなエイを一緒に見よう。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

今日は通常通り、ラビットハウスでアルバイトの日。

 

チノが承諾してくれたので、一旦学校から帰宅してここあをラビットハウスへ連れていくことに。

 

 

迷惑をかけてしまわないか心配だったが、一生懸命お手伝いをしている姿を見てわたしもチノも思わず顔がほころぶ。

 

笑顔でおもてなしする様もお客さんに好評だ。

 

 

チノも普段以上に表情が豊かだったし、わたしも否が応でもモチベーションが上がる。

 

ここあも、「一人でお留守番よりずっと楽しい」そうだ。

 

今後はここあが行きたいと言ったらできる限り連れて行ってあげよう、もちろんチノも二つ返事で快諾してくれた。

 

 

しかし。

 

やはり疲れたのか、まだ9時半なのにベッドでぐっすりだ。

 

いつもなら一緒に絵本を読んだりしている頃なのに。

 

寝る前にここあと話したり遊んだりできないのが寂しい。

 

 

あちらを立てたらこちらが立たず、たったの24時間なんて一日は短すぎる。

 

365日、ここあやみんなと過ごせる時間は1日たりとて無駄にできないのに。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

 

ここあのことがとうとう親父にバレてしまった。

 

しばらく外国に行っていたとはいえ、今までバレずに隠し通せていたのが奇跡か。

 

ここあと仲良しの使用人が、親父にかいつまんでここあを預かることになった経緯を説明してくれたらしい。

 

にわかに信じがたいことだが、親父は納得してくれたのだろうか。

 

 

ついカッとなってゴム弾を撃ち込んでしまったが、嫌な顔一つせずむしろ歓迎してここあを迎え入れてくれた親父には感謝だ。

 

今日一日ずっと遊んでくれたみたいだし。遊び方や素行に少々問題はあったものの。

 

 

ここあも親父を「おとうさん」と呼び慕ってくれている。

 

きっと新しい家族として上手くやっていけるだろう。

 

 

ありがとう親父。

 

今度お礼に、バイト代でワインオープナーでも贈るよ。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

日曜日。

 

唐突な親父の提案で、車でショッピングモールまで遊びに行くことに。

 

ここあがみんなで行きたいと言うので、チノや千夜、シャロも誘って大勢でお出かけだ。

 

 

初めて来る場所に嬉々としてはしゃぐココアが可愛い。チノも平静を装っているものの遠出はやはり新鮮なんだろうな、いつもよりも幼く見える。

 

親父がはしゃいでいたのはいい歳して恥ずかしい以外の何物でもないが。

 

千夜も親父のテンションに合わせなくていいんだ、シャロが付いていけず困っていたぞ。

 

 

ゲームセンターに雑貨店巡りを終え、フードコートで昼食。

 

親父の奢りだから好きなものを食べればいいのに、なぜか満場一致でジャンクフードを食べることに。

 

 

ここあの口に付いたケチャップを拭いてあげるチノを見てると本当の姉妹という気がするな。

 

姉と妹の立場は以前とは逆だが。

 

 

隅から隅まで散々遊び終えた頃には既に6時を回っていた。

 

 

騒がしかった行きとは違い、帰りの車内は水をうったように静かだった。

 

さすがに遊び疲れたのだろう、起きていたのは運転席の親父とわたしと千夜だけだ。

 

 

シャロとチノ、二人から肩に頭を預けられている千夜を見ていると正にみんなの保護者といった感じがする。一切動けなくて辛いだろうに優しいな千夜は。

 

 

わたしの膝の上で眠るここあ、眠たくなったらわざわざわたしの元にやってくるのが愛おしくてたまらない。

 

 

信号に引っかかった時、ミラー越しに後ろを見て微笑んだだろう親父、一瞬でも見逃さなかったぞ。

 

言葉はほとんど無かったけど、帰り道すらも充実に満ち足りたかけがえのない時間だった。

 

 

時々思う。

 

こんなに幸せで、本当にいいんだろうか。

 

 

幸福は味わいすぎるとやがては退屈になる、と聞いたことがあるが。

 

それでもなお、この時間を永遠に失いたくないと思うのは。

 

わたしの見識が、浅はかなのかな。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

 

この前のツケが回ってきたのか。

 

ここあと、初めて喧嘩してしまった。

 

 

武器庫に鍵をかけ忘れていたわたしの責任なのに、銃を持ったここあを見たら冷静な判断ができなくなった。

 

ほんとに何もなくて良かった。お前が怪我したら、動けなくなったりしたら、わたしは、もう。

 

 

ここあと仲良しの使用人と千夜のおかげで、仲直り自体はすぐにすることが出来た。

 

やっぱり千夜はすごい、わたしなんかよりずっと大人だ。

 

 

銃を磨いて真黒になったここあのハンカチは、この前のヘアピンと一緒に宝物として閉まっておいた。

 

わたしが喜ぶと思って、一生懸命磨いてくれたんだよな。

 

このハンカチの汚れは、全部お前の優しさだ。

 

ありがとうここあ、でもこれからは危ないことはやめてくれ。

 

わたしは、お前が元気でいてくれればそれで十分幸せなんだ、他に何もいらない。

 

新しく買ったハンカチ、気に入ってくれて良かったよ。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

リゼ「………………」

 

 

リゼ(さて……今日は――)

 

 

千夜「甘兎庵でこっそり餡蜜を食べました、とか?」ヒョコ

 

 

リゼ「わぁあ!?」ビクッ

 

 

千夜「ふふっ♪」

 

 

リゼ「ち、千夜、いつの間に……!」

 

 

千夜「さっきからずっと。リゼちゃん真剣に読んでたから」

 

 

リゼ「ぅぁ…っ……み、見たのか……?//」

 

 

千夜「ごめんなさい、嬉しいことがたくさん書いてあったからつい」

 

 

リゼ「!……~~~っ//」プシュー

 

 

千夜「ここあちゃんと一緒に過ごすようになってからの、日記?」

 

 

リゼ「……ああ、あったこと、忘れたくないから書き留めておきたくて//」

 

 

千夜「そう、リゼちゃんらしいわ」クスッ

 

 

リゼ「……っ//」

 

 

千夜「……リゼちゃん?」

 

 

リゼ「?」

 

 

千夜「わたしも、リゼちゃんが友達で幸せよ」

 

 

リゼ「!」

 

 

千夜「わたしだけじゃない、チノちゃんも、シャロちゃんも、ここあちゃんも」

 

 

千夜「みーんな、リゼちゃんのこと大好き」

 

 

リゼ「……千夜」

 

 

千夜「だから、これからも良い思い出たくさん作りましょう」

 

 

千夜「その日記帳が、1か月で全部埋まっちゃうくらい」ニコッ

 

 

リゼ「……!」

 

 

リゼ「……ああ、そうだな」

 

 

リゼ「みんなとなら、それも簡単に達成できそうだ」パタン

 

 

千夜「あら、書かないの?」

 

 

リゼ「帰ってから書くよ。……千夜?」

 

 

千夜「?」

 

 

――ポンッ

 

 

千夜「!」

 

 

リゼ「いつも、ありがとう」ナデナデ

 

 

千夜「……リゼちゃん、今日もここあちゃんとハグした?」

 

 

リゼ「んっ?ああ、出かける時に。毎日20回以上はしてるからな」

 

 

千夜「ここあちゃんの匂いがする」スンスン

 

 

リゼ「そうか?」

 

 

千夜「最近はずっと。もうこれが『リゼちゃんの匂い』になっちゃってるみたい」スンスン

 

 

千夜「あっ、でも良い匂いだから気にしないで?」

 

 

リゼ「……自分だとよく分からない」スンスン

 

 

千夜「ここあちゃんもね、いつもリゼちゃんの匂いがするの」

 

 

千夜「ここあちゃんもリゼちゃんも、二人とも同じ匂い……」

 

 

リゼ「……そうか」

 

 

千夜「それだけ。ごめんなさい引き留めて。また来てね」フリフリ

 

 

リゼ「ああ……ごちそうさま」

 

 

 

――ガチャッ バタン

 

 

 

千夜「……リゼちゃん」

 

 

千夜「ここあちゃんと出会えて……」

 

 

千夜「新しい家族ができて、良かったわね」

 

 

千夜「……♪」ニコッ

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

リゼ(ここあの匂い、か)

 

 

リゼ「――ただいま」ガチャッ

 

 

ここあ「りぜちゃん!」

 

 

リゼ「!……ここあ」

 

 

ここあ「おかえりなさい!」

 

 

リゼ「くすっ、わざわざ待っててくれたのか?」

 

 

ここあ「早く帰ってきてほしくて」

 

 

リゼ「そうか……ありがとう」ナデナデ

 

 

ここあ「えへへ」ギュッ

 

 

リゼ「よっと」ヒョイ

 

 

リゼ「……」スンスン

 

 

ここあ「ふぉぇ?」

 

 

リゼ「安心するな……お前の匂いは」

 

 

ここあ「りぜちゃん?」

 

 

リゼ「なんでもないよ」

 

 

ここあ「?」

 

 

リゼ「まずはお風呂に入ろうか、その後一緒にご飯だ」

 

 

ここあ「ぁ…うん!」

 

 

リゼ「ここあ……」ギュッ

 

 

ここあ「んっ……♪」

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

〇月〇日

 

 

 

イギリスの陸軍で作家であったジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンは。

 

かの有名な『ホビットの冒険』という小説で、こんな言葉を残している。

 

 

『もしわたしたちがみんな。貯めこまれた黄金以上に。食べ物と喜びの声と、楽しい歌を歌えていたら。なんとこの世は楽しかったのだろう』

 

 

彼がいかなる邂逅を得てこのような真理に辿り着いたのかは分からない。

 

 

ただ、わたしに言えるのは。

 

 

トールキンが求めた幸福は、少なくとも間違いではなかったということだ。

 

 

 

胸を張って言える。

 

 

『今』が、幸せだって。

 

 

 

幸福なんてものは。

 

 

欲しがるものじゃなくて。

 

後から気が付いたり、自分で気づくものなんだよな。




−−−−−−−−−−−−−−−
next.

あとがき
次回で完結します。


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Offside 5.「Magical things」

ココア「へい!らっしゃいっ!今日は新鮮なネタが入ってるよ!」

 

青山「じゃあ、この「空と大地と花と美しい世界」と「永遠の美しい涙」を一つ」

 

ココア「OK!6番さん、「空と大地と花と美しい世界」と「永遠の美しい涙」を一丁!」

 

青山「あと、「色の無い世界に落とした涙」も」

 

ココア「「色の無い世界に落とした涙」も追加!」

 

千夜「OK!「空と大地と花と美しい世界」と「永遠の美しい涙」と「色の無い世界に落とした涙」ね!」

 

マヤ「何だか分からないけど、この「フローズンエバーグリーン」1つ!」

 

メグ「私はこの「海に映る月と星々」を」

 

ココア「2番さん、「フローズンエバーグリーン」と「海に映る月と星々」を一丁!」

 

千夜「「フローズンエバーグリーン」と「海に映る月と星々」ね!OK!」

 

マヤ「ココアのアネキ、凄い生き生きしているな」

 

メグ「千夜さんも生き生きしているわよ」

 

 

閉店後

 

 

ココア「千夜ちゃん、おつかれ~」

 

千夜「ココアちゃんもお疲れ~」

 

ココア「何か今日は凄い楽しかったね」

 

千夜「私も凄い楽しかったわ」

 

ココア「前にここで働いた時も楽しくて謎の充実感を感じたけど、今日も感じているよ」

 

千夜「私も」

 

ココア「これって何だろう?」

 

千夜「それはね」

 

 

「魔法のようなものだと思うわ」

 

 

ココア「魔法かぁ~、確かに魔法に掛かったみたいだね」

 

千夜「私も魔法に掛かったみたいに感じるわ」

 

ココア「その魔法を私たちに与えた魔法使いは誰なんだろう?」

 

千夜「多分、私たちの近くにいると思うわ」

 

ココア「えっ、どこ?」キョロキョロ

 

千夜「…」

 

千夜「ココアちゃんはこの言葉を知ってる?」

 

ココア「えっ、何?」

 

千夜「ある本に書かれていたんだけど」

 

千夜「ある魔法使いは言ったの」

 

 

「「もしも好きな人がいたら、その人に必ずキスをしなさい」と」チュッ

 

 

ココア「ち、千夜ちゃん…///」

 

千夜「ごめんなさい、突然キスして」

 

ココア「ねぇ、千夜ちゃん、私もある本で魔法使いが言っていたんだけど」

 

 

「「両想いになりたいなら、必ずキスをするのです」と」チュッ

 

 

千夜「ココアちゃん…///」

 

ココア「もしかして千夜ちゃんも同じ本を読んでいたの?」

 

千夜「ココアちゃんも読んでいたの?」

 

確かめ合った後

 

 

ココア「まさか千夜ちゃんも同じ本を読んでいたなんて…」

 

千夜「ほんと、私たちって何もかもピッタリだわ」

 

ココア「これも魔法かな?」

 

千夜「ううん、違うと思うわ」

 

千夜「だけど」

 

 

「誰かが別の魔法を使ってこんなにピッタリな私たちを巡り合わせたと思うわ」

 

 

ココア「その魔法使いって…」

 

千夜「きっと神様だと思うわ」

 

ココア「神様って凄い魔法使いなんだね」

 

千夜「「運命」も「奇跡」もみんな魔法のようなものだと思うわ」

 

 

寝室

 

 

ココア「千夜ちゃん、もふもふ~」

 

千夜「もふもふ~」

 

千夜「これも本の中で魔法使いが言ってましたね」

 

ココア「「魔法使いは言いました。「両想いになれたなら好きな人をもふもふしなさい」」と」

 

千夜「今夜は私と一緒に寝ましょう」

 

ココア「確か、寝る前にも魔法使いは何か言ってたよね」

 

千夜「うん、言ってたわ」

 

 

ギュッ

 

 

千夜「「魔法使いは言いました。「寝る時は好きな人を抱きながら寝なさい」と」

 

千夜「だから今夜はココアちゃんを抱いて寝るわ」

 

ココア「私も千夜ちゃんを抱いて寝るよ」ギュッ

 

 

翌朝

 

 

シャロ「気になって千夜の寝室に入ってみたけど」

 

ココア「…zzz」

 

千夜「…zzz」

 

シャロ「何抱きながら眠っているのよ!」

 

シャロ「まるで魔法に掛かったかのように全く体が離れていないわね」

 

シャロ「まさに一心同体ね」

 

シャロ「…」

 

シャロ「私もリゼ先輩とあんな風に眠ってみたいな」

 

シャロ「私とリゼ先輩にも魔法が掛かって欲しい…」

 

シャロ「だから神様…」

 

 

 

「私とリゼ先輩にも魔法を掛けてください!」

 

「お願いします!」

 

 

 

シャロ「寝ている所を邪魔をしてはいけないから、そろそろ帰るわね」

 

シャロ「千夜、ココア」

 

 

 

「お幸せに」

−−−−−−−−−−−−−−−

end.



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