Monster Punisher~鋼の狩人~ (鴉神)
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それは鋼の復讐譚

ゲームで語られる人間とモンスターのハンターを通した調和、しかしそんなものが実際あり得るものだろうか。

とゴブリンスレイヤーやダークソウルの暗月にインスピレーションを受けて作った作品です。気取ったような文章ですが所詮書き手は雑魚なので荒が目立つかもしれません。その他にも色々ありますが、楽しんでいただけると幸いです。


「なぁお前ら、『鋼のガレル』ってハンター、知ってるか?」

 

 

 賑わいを見せるある酒場の一角、丸いテーブルを四人で囲んで座り、狩りの達成を祝う為の祝宴を開いていた男達。空になったジョッキや冷えて脂が固まった鉄板なども多くなり、宴もたけなわといった具合に酔いが回ったその頃。茶髪のハンターが思い出したかのように、ふと肴に出来そうな話題を仲間に振る。

 

「いや知らねぇな、有名なのか?」

 

 三人の仲間達は互いに顔を見合わせるような仕草をしつつも、それぞれその名前に心当たりはなく、首を傾げて視線を茶髪の男へと集中させた。

 

「フリーのハンターらしいからギルドなんかで話に出ることは殆ど無いがな、そいつがこの街に来てるんだってよ」

「フリーか、んで有名でも無いってそりゃお前......なんでそいつの話題なんぞ振るのよ」

「いやな、聞く話によると......相当な曲者だって噂でな?所詮噂は噂だが、面白い話だから聞いてくれよ」

 

 酒も回っているからか、ほの赤く染まった顔に興味津々といった表情を浮かべながら、男達はテーブルに前のめりになって話に耳を傾けた。狩人である男達は、そういった手の噂話を好むものである。

 

「そのガレルって男はなぁ、まずその装備を必ず『金属製』の物にしているらしい」

「金属だぁ?そいつはあれか、アロイとかインゴットって具合の......武器もか?」

「あぁそうよ、特注だって話だがお前らも知る通り。モンスターの素材を使った装備と金属のそれじゃあ性能の差は雲泥だ。けどそのガレルは、好き好んで金属製の装備を使うらしいぜ」

 

 串に刺さった肉を頬張りながら男の口から紡がれる話に仲間達は興味をより深く惹かれていく。

 男達はハンターだ、自分達が身を置く世界には伊達や酔狂を織り混ぜる余地が無いということなどよくわかっている。防具はより堅牢な物を、武器はより強力な物を。これを考える事すら出来ない愚者などは狩人になるべきではなく、話に出るガレルという男の行いは愚行そのものである。

 

「全身金属装備の男、なるほど『【鋼】のガレル』ねぇ。そんでぇ、んな偏屈な狩人様は何だってそんなもんを?」

「あぁ、そいつはガレルがギルドに所属しねぇフリーのハンターって理由にもなるがな......モンスターってもんが大ッッ......嫌いらしい!」

 

 口調を強めてその事を強調した男の勢いに、顔を近づけていた男達は唐突なそれに怯んで椅子から転げ落ちかける。お前な、と悪態をついた仲間達に男は軽く手振りで謝罪すると再び話を続ける。

 

「モンスターの装備なんて身につけるのも、握るのも嫌だなんて奴がどうしてハンターなんかやってるかってぇとな......それは「おい、待ってくれ。それって......」んだよ」

 

 調子が乗ってきたように声量を上げていく男の話を、遮って酒場の外をふるふると揺れる指先で示す仲間の一人。視線も自ずとそこに釘付けになり、他の二人も指先に目を向けるとそこで息を呑むようにして動きを止めた。

 

「あれ、あそこの。あいつだ」

 

「お前ら......まさか冗談だ、ろ......」

 

 仲間がこうなった原因に大方の察しをつけた男は自らも体を翻して後方へと視線を向ける。位置としてはかなり遠かった、街道をゆらゆらと歩くそれを認識出来たのはハンターである彼らが常人離れした視力を持っているからこそ、そして気づいたのだ。

 この距離、おおよそ数百メートルは離れているだろうこの間からでもその存在感は圧倒的だった。何よりその偉丈夫は職業柄たくましい者が多いハンターからしても、隔絶した凄まじさである。

 

「で、でけぇ......あいつ、身長2メートルもあるんじゃねぇか?」

「ありえねぇよ、大剣とランス用の盾なんて......まさかだろ」

「あんなサイズの人間があるかよ! 竜人かなにかか、フツーの人間じゃ考えらんねぇ!」

 

 金属製の鎧は重い、ハンターの多くがモンスター素材の装備を使うのは強度も重量も様々な観点から見てそちらの方が優れているからだ。金属の鎧でモンスターの攻撃を防ぐとなると、それは騎士などが装着する鎧よりも遥かに重くなる。

 街道を歩む男は巨人と言っても差し支えない体躯であり、その身を覆う鎧もまた通常のそれよりも遥かに重たいだろうに、加えてハンターの扱う武器の中で最も重いと言われる大剣。

 それを携えていながら同時に槍使いが構える大型のシールドまでも背負っているのだ。

 装備全ての重量、それは金属製であることを考えれば9,80......もしかすると三桁に届くかもしれない、それだけの重装備。それを気にする様子も負荷にする気配もなく平然と歩く男を見てハンター達はまさか、まさかとは思うがあの武器を、片手剣と同じ要領で扱ったりするのではないかという破格のスケールの幻視を見た。

 

「マジかよあれが......わかるな、あいつはヤバい。そういやフリーのハンターなんだったか、どうしてギルドに所属してねぇんだ?」

 

 街角へ姿を消した大男を見送った彼らは興奮冷めやらぬ様子で、テーブルをバンバンと叩きながら話の続きを促す。周りのハンター達の話題も、そのテーブルから飛び火した鋼の大男の話で埋め尽くされていた。

 

「ギルドに所属してねぇっつうのはよ、要するにギルドじゃ認可出来ねぇ仕事を、狩りをしてるって訳よ。ギルドは別に法を持ってる訳じゃねぇから余程の密猟者なんかじゃなきゃ処罰もされんのだが......あいつの呼び名はもう1つあるんだ。主に依頼人達から呼ばれる名だけどな」

 

 余所のテーブルのハンター達も席を立ち、酒場は茶髪の男達を中心に輪が出来たようだった。酒場のざわめきと空気は今一人の男の話題が核になるという異常な事態である。

 

パニッシャー(罰する者)、やつは畏敬の念を以て呼ばれている。格安の値段でどんなモンスターかにも関わらず、それが獣害にあった依頼人でさえあれば要求通りの狩りを行う、ギルド非公認の英雄様よ」

 

 

 

~~~

 

 

 

「失礼する」

 

 靴の砂をカツカツと落としながら年季の入った木製の扉を軋ませながらも開き、依頼人の家へと入室する。ドアの低さに若干屈みながら中に入ると、そこでは暗い瞳をした若い男が、ソファーに沈むようにして座っている砂が目についた。男はこちらの声で弾かれたようにして顔を上げ、素早く立ち上がり軽く一礼をする。

 

 

「あぁよかった、本当に来てくれたのですねパニッシャー......」

「お前が俺に依頼を寄越した、ルカナだな?」

 

 会釈する程度で礼を返し、扉を後ろ手で閉めて足を進める。ソファーに座り直した男、ルカナは俺の問いを頷くことで肯定するとテーブルの向かいにある椅子に座るように促した。

 

「あ、お座り下さい。今お茶を」

「構わない、茶も要らん。立ち話で済ませる」

 

 好意は受け取っておくが俺の体に合う家具はそうないものだ、下手に合わない椅子に座るよりも立っていた方が具合がいい。それにどうせ長居するつもりもないのだ。

 

「今からお前の依頼通りに、デルセン高原のラージャンを討伐しに向かう。何か追加のオーダーはあるか?」

「いえ、ありませんが......本当によろしいのですか?凶暴なラージャンの討伐など到底10000zで受けていただける依頼ではないでしょう。私としてはもう少し......」

 

 自身のルールとして決めていることだが、俺はこういった手の依頼では10000z以上の金額は要求しないようにしている。あくまでも誠意と気持ちがあればいいのだが手持ちに困窮しているというのであれば別に無償で受けてやっても構わない。

 

「俺はこれ以上の金額を依頼人から受けとるつもりは無い。あくまでも俺が受けようと思った仕事だけをしている訳だからな。その前にお前が討伐を依頼したモンスター、ラージャンへの思いを聞かせてもらおうか」

 

 俺にとっては依頼人から何故仕事を頼んだのかという話を聞く方が有意義な収益となる。自分一人では燃え尽きてしまうのだ、モンスターを憎む焔......それを燃やす薪が。俺には兄弟と交わした誓いを保ち続ける為には、他者の憎悪もくべてもらう必要がある。

 

「えぇ、私には妻がいました。とはいえ契りを結んでからはまだ短いのですが、彼女はハンターでした。名を轟かせるような腕利きとは言えないまでも、私は商店員として働き、支え合って生活していました」

 

 空になっているティーカップを握りしめる男の顔は、青ざめているもののそれは憤怒と悲哀に震えていた。その感覚はモンスターを、ラージャンを憎まんとする報復心であり、俺の心に深く染み入るものだった。

 

「彼女がランポスの狩猟に向かったその日、私は絶望の淵へと突き落とされました。古龍級生物ラージャン、神出鬼没のそれが偶然にも狩場にて彼女と鉢合わせてしまったのです」

「ふむ」

「彼女が討伐、ましてや逃げ延びる事ができる相手ではなく......ハンターズギルドから死亡通知と一緒に送られてきた彼女の遺体は見るに耐えないほど無惨に破壊され、棺の前で一晩中......いえ、三日三晩嗚咽と慟哭に耽る生活でした」

 

 いい、とてもいい怒りだ。やはりそうだ、そうだろうとも。モンスターなどそんなものだ、存在するだけで人を殺し、絶望させる悪魔のような最低最悪の汚物どもなのだ。男の話を聞きながら自らにそう言い聞かせる、こうしておけば例え俺の憎悪が消えようとも、他者のそれを薪に出来る。

 

「憎めども憎めども、ラージャンの討伐依頼はギルドに承認されず先送りになるばかり。希望が何処にも消えてしまったその時に、あなたの噂を耳にしました......どうかあなたに、非力な私に変わって復讐をしていただきたいと......」

 

 

 

 

 街を出る商隊の長に話をつけ、貨物に同乗させてもらう。進行方向は隣街、ちょうどデルセン高原を横切るルートを進んでくれる。仕事内容上ギルドに所属する訳にはいかない俺の移動手段はもっぱら徒歩かこれだ。いくばくかの金は払うが、目的地までの護衛も兼ねた移動は貴重な足である。

 

「ギャッ、ギッギイッ!」

 

 貨物に惹かれてやって来た鳥竜達、後方を追従するように走るそれらに対して、俺は立ち上がる事もなくポーチから数本の投げナイフを取り出しランポスの足目掛けて投擲する。直接に進んだそれはランポスの足に深く突き刺さると花火のように血が吹き出し、揃いも揃って転倒する。

 

 

「ギャアッ!? ギャガァッ!!」

 

 よろめきながらも立ち上がり、こちらを威嚇するランポス。俺はそれを一瞥し、深く......息を吐き出すとびくりと体を跳ねさせた連中は怯えながら足を引き摺り姿を消した。

 

「殺さんのかにいさんよ?」

「その価値もない」

 

 目的地にたどり着いた俺は商隊長に礼を言い、武具の準備を整えて狩場へと向かう。奥地からはプンプンと匂うものだ、汚ならしい汚物。人殺しの悪臭が。

 

「改めて見てもでけぇもんだなあんた。まぁ気をつけろよ」

「重々承知」

 

 剣の反り側が鋸刃となった特注の大剣を背負い、意識を極限にまで研ぎ澄ませる。

 これより報復、制裁の時間だ。罪深き獣は疾く死に絶えるがいい......

 

 

 

~~~

 

 つまらぬ、まるでつまらん。この地に新たな闘争を求めてやって来たのはいいものの、どうやらてんで見当違いの場所へ来てしまったようだ。

 

「フンッ」

 

 首をへし折り、脆くも生き絶えた赤い飛竜の死骸を無造作に放り投げる。斜面に従って滑り落ちていくそれを何の気なしに眺めて、しかし意味がある筈もなく大した収穫も無かったこの高原を後にしようかと思った刹那。

 

 グァバッッツ、と飛竜の死骸が文字通り真っ二つに分かたれた。目の前で起きた光景を脳が理解しなかったが、切断された死体の間に立つ人間を見て自身の体は歓喜に打ち震えた。

 人間としてはあまりにも巨大、しかし僥倖だった。遠目からでもわかる絶対的な強者。これこそ自分が求めていた力の釣り合う相手だ。喜びと威圧の咆哮を渓谷に轟かせ、地を揺らしながら突進してくる人間を見て。

 

 

 

なんだこいつは、と。

 

そう思った。

 

 

 

「穢れは潰す、人殺しは穢れだ」

 

 

 この自分の体が、人間の持つ大盾で殴り倒され、仰向けにされている事に気がついたのはそのギラリと輝く剣の光沢を理解した時だった。

 違う、これは違う。自分が求めていたものはこれではない。必死に剣を振りかざす人間に向けて右拳を、渾身の力で振り抜く。胴体を捉え、人間の命など容易く奪い去る一撃、だがそれは軌道を変えて落とされた剣に易々と引き裂かれ、砕けた骨と血潮が噴き出す。

 

「オ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!??」

 

「お前達に不条理に殺されるのは、人間はもううんざりだ」

 

 左腕が大盾で押し潰され、えもいえぬ激痛が全身へ伝達し暴れまわる。もはや腕は動かすこともままならず、口腔内に気功を集中させ雷撃を放とうとするその身振りすら、人間は許さなかった。

 

「だから、惨たらしく死ね」

 

 大剣が口に突き立てられ、口角は切り裂け喉が潰される。頸椎こそ断たれなかったものの自身の攻撃の牙はこれで全てもがれたに等しい。そんなことも、体をつんざく苦痛の前では些細な問題に思えたが。

 

「ーーーーーー!!ーーーーーーーーー!?」

 

 霞んだ視界の中で人間は剣を口から抜き、それから角を断ち毛皮を剥ぐと最後に片足の健を切断だけして命を奪う事なく去っていった。

 

「グヒューー......グヒューー......」

 

 こちらの死を確認しなかったというのか?鎧の内に微かに見えた瞳からははち切れんばかりの殺意と怒りが見受けられたが、それが一体な「ヴォオオ!!」

 

 咆哮の聞こえる先に首を捻って視線を向けると、そこには先ほど殺した飛竜と同じような姿の翠竜が口から焔を漏らして、あの人間と同じように怒りを剥き出しにして突進してきていた。

 

 

「抵抗も出来ぬまま、なぶられ惨めに死ぬがいい」

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、ありがとうございます」

 

 ただ彼は、その強靭な肉体を以てモンスターを裁き続ける。

 

「あれが鋼......ガレルか」

「ここ最近暴れてた高原の金獅子、あいつが狩っちまったんだってよ。あり得ねぇわマジで......」

 

 当の昔に本人の、モンスターへの憎しみは消えていたのだとしても。兄弟に誓った約束を違えることなく、ひたすらに憎悪を焚き付けていく。

 

「やはりアレは、ハンターズギルドにとって都合がいいものではないわね」

 

罰する者は止まらない。




どうでしたでしょうか。面白いと思っていただけたなら感想やお気に入りなどをしていただけると書き手としても幸いです。



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ギルドの目、監視者は

 まずは一つ、無駄な咆哮で此方を目一杯に威嚇するティガレックスの圧を気にすることなく懐に潜り込んで胸部を深く斬りつける。

 堅牢なあばら骨も易々と砕き、肉体を傷つけた大剣は返り血に塗れ、より憤怒の情を増したように思える。

 

「ラッ、ガァアッ!!」

 

 怒るティガレックスはその心情によって筋を強張らせ、己の内臓が外部に流れ出る事を防いだがそれも時間稼ぎにしかならない。

 両腕を眼下に居る俺目掛けて力任せに振り下ろす。行動をあらかじめ予想していた俺は、既に大剣を背中に担ぎ直して回避行動を取っていた。

 背後から聞こえる轟音、共に伝わる衝撃からこのティガレックスも中々、モンスターだらけの自然界において頂点捕食者としての地位を確立していたのだろうが。

 

「狩る者に目をつけられればこの様だ。お前は人間の禁忌に触れた」

 

 右足の前を潜り抜けるようにして動いた俺は、そこから完全に立ち上がるのではなく背中の剣の柄に手を掛け一閃。ザシュッ、と気味の良い音がするのを感じとりながら体勢を建て直しティガレックスに向き直る。するとどうだろうか。

 抜刀術と言えるまで大した業では無かろうとも、大剣の一撃は我が身の体重全てを込めて放ったそれ。硬度はともかく薄っぺらい鱗しか守る物が無い足は一刀にて折られ、使い物にならなくなった。

 ティガレックスの厄介な突進、その柱である脚力はこれで封じたも同然、元より瀕死の体だ。そこからの末路は普段語るべくもないものだが、いつもなら決着の決まり手になったその一撃を受けてなおも轟竜は目を見張る抵抗を見せる。

 

「ギィ......ガァァァァァァァァッッ!!!」

 

 足と胸部から夥しい量の鮮血を噴き出しながらも、両腕片足を基点として体を大きく回転させてこちらを排除せんと反撃に出た。

 

「うっ、ぐぉ......」

 

 咄嗟に盾を全面に突き出してティガレックスの攻撃が直撃するのを避ける。ゴインッ、と鈍い音を立てて衝撃を受けた盾は歪むなど損傷は無いものの右腕は、痙ったようにビリビリと痺れを残す。

 攻撃と体勢の移行を同時に行ったティガレックスの顔は、その視線は俺の方を向き、海よりも深い憎悪を剥き出しにしたような殺意が真正面からぶつかる。

 轟竜は足を引き摺りながらも腕の力で前進し、ガチガチとアギトを打ち鳴らして俺を噛み殺そうと躍起になっている。

 

「フン!」

 

 痺れは残るものの右腕の盾でティガレックスの顔面を殴りつける。腕全体を三節棍のように撓らせ、抉り込んだそれは反撃を予期もしなかったティガレックスには不意討ちとなり、頭部を打撃に激しく揺さぶられるとガクンと倒れる。

 

「アロ、ア、ガガ......?」

 

 ちょうど顔面が俺の真横に来る形で倒れた。しかしサイズ的にこの首を跳ねるというのはさすがに骨だ。盾を仕舞い大剣を両手に持つ、鋸刃の背側を正面に向け轟竜の首にあてがい、体重を込めて勢いよくそれを引く。

 ばちばちと剥がれ飛ぶ鱗と徐々に裂ける皮と肉。脳震盪を起こし立ち上がれないティガレックスは恐怖の絶叫を上げることすらままならず。

 

あとはもう、それだけだ。

 

 

~~~

 

「すげぇな......ラージャンに立て続け今度は荒野の主ティガレックスまで」

「俺達街のハンターいらなくなっちまうじゃねえか」

 

 この街に鋼の狩人、ガレルがその姿を現すようになってからは伝聞は一気に広まった。腕利きハンターであるというのも十分に興味を惹くが、何せ語るべき特徴が多すぎる。飛び火するように広まった巨人の噂はハンター達の琴線にも触れる。

 俺達の仕事を奪ってくれるな、とまでは行かないものの急に現れた余所者がこうも活躍を見せ、本人は気にするでもないがちやほやされている様子は一部のハンターには気にくわないものだった。血の気が荒い彼らの中には、当然喧嘩を売る者もいた。

 だがそれが全く別次元の存在だと理解するのには、そう時間は要さなかった。何せ対面した時に自分の視線にあるのはまだ胸元なのである。自分よりも大きなモンスターに挑むなどハンターとしてはざらにあること、しかし自分よりも大きな人間に挑むというのはまた少し意味が違う。

 逃げ去り、また殴ったとしても鋼鐵で手を痛めるだけだったハンター達はもはやガレルを英雄的な目で見るようになっていた。

 

「何食ったらあそこまでデカくなるよ?」

「正直人間なのかも疑うぜ、突然変異かよ」

 

 素顔を見た者がいた。語るにガレルの耳は普通だった。何のことはないその証言は人々に衝撃を与えたことだ、何せこれでガレルがただの人間だと証明されたのだから。

 竜人族という種族がいる。高い知能を持つ亜種人類である彼らからは1000年に1度巨人のような長身のそれが産まれるという。ドンドルマの大長老などがその例だが、彼もそうなのではとされていた予想はこの証言により覆ったのである。最も、彼の指がきちんと5本あることには誰も関心を向けなかったようだが。

 

「尊敬しちまうよな、男としては。あの偉丈夫で腕利きの狩人、しかも素顔は男前だとか。天は一物も二物も授けやがるな」

「モテるんだろうなぁ、おいほら見ろよ。あそこのネーチャン、ありゃガレルが気になってる感じだぜ?」

 

 狩人達の会話だ、そんな方向にも向く。クールなのが人気なものかと愚痴に似た感想を述べるハンター達の姿には、何処か哀愁が感じられる。

 

「はーあれまぁベッピンだ。うらやましいなぁこんちくしょう......ん、どうしたよお前」

「いやぁ、そうだけどさ。あんな美人、この街にいたものかね......って、あれ何処行った?」

「消え......ただ紛れただけだろう」

 

 それはそうとして、ガレルの存在を良しとしない者がいるのは必然のことだろう。

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 人混みに紛れている、誰かが後をつけているな。一人で、こういう事を仕掛けてくる人間は久しく見ていないが......ハンターだろうか。少し違う気もするが、このままストーキングされるのも癪だ。分かりやすく人気の少ない場所に行ってやろう。

 

「ねぇ、そこの貴方。どうやらわかっているようだけれど止まってもらえないかしら?」

 

 思いの外早く声を掛けて来たものだ。しかし尾行者が女というのは意外だったな、など振り返りながら暢気にそう思っていれば。

 

「近くで見ると随分大きいわね、さすがに。あら失礼」

 

 声は7メートル程先から聞こえた感覚だった。しかしいざ振り返ってみれば声の主はすぐ側にいた。近づいた気配も感じなかった、とはいえそれも今のところ俺への害意が無かった故だろう。そうでなくともこの身のこなしは常人に出来るものじゃない。

 

「ギルドナイトか? それとも王立騎士か?」

「ナイトよ、女だけどね」 

 

 身長で俺を上回る人間はめったにいないが、平均的な身長の感覚というのは理解している。この女もその性にしては高身だ。

 目鼻立ちはスッとシャープ、ブロンドの纏めた髪に青い瞳。美人の分類に入るな、長めの睫毛が美しさを引き立てるようだ。

 

「ギルドナイトが俺に何の用だ?」

「惚けられてもね......まぁいいわ。貴方には出来るだけ早くこの街を去ってもらいたいのよ」

「......?」

 

 予想外の要求に思わず首を傾げた。街を出ていけ、という意味だろうが何故そんなことを頼むのか。

 

「ギルドに法権は無い筈だ、強制退去ではないが一応理由を聞いておこう。俺のこの街での仕事は、まだ残っているのでな」

「いいでしょう、まず名乗っておこうかしら。私は『マリアンヌ』長いならマリアでも構わないわ」

「ガレルだ、知っているだろうがな」

 

 適当な壁に寄りかかって腕を組み、マリアと名乗るギルドナイトの話を聞く。

 

「問題はね、貴方自身というよりはその影響。ギルド所属のハンターやハンターになろうとしている人達への印象なのよ」

「と言うと?」

 

「ここからは一方的に言わせてもらうけど......貴方はフリーとして活動しているハンター。それ自体に問題はないわ、ギルドが請け負う手続きと同じ手順を踏んだ上でしっかりと準備をしてモンスターを狩っているから。

 そうして自力だけでその腕のハンターに登り詰めているというのは褒めたいくらいよ、ただそれで名が広まるのは良くない。貴方はいいけどそれを考え無しのハンターが、俺も自分もフリーでやっていくなんて言い出したらもう......」

 

 録な手続きもしない違法となったハンターが増え、ギルドの仕事が大いに増えるというところか。

 

「そう、貴方の存在はギルドにとっても都合が良くないわ。ギルド非所属の英雄なんて、目立つ話だわ。出来れば要求を飲んでもらいたいのだけど」

 

 ふむ......それは、残念だが出来ない相談だ。少なくともあと一件、片付けなければならない依頼がある。この街にはそれでもう用は無い。

 

「それくらいなら良いかしら......あぁあと、それならそのクエストには同伴だけさせてもらうわ。本当に違法行為が無いか、確認する為にね」

 

 ご苦労な事だ。俺の仕事も、誰かがやらなければそれだけ人の心に蟠りが残る。理解してもらえるならありがたい。

 

「ここからは個人として気になる話だけど、貴方は何故ギルドに所属しないでフリーの活動をしているの? 古龍をも狩った話も聞くわ、なのにその時要求した報酬は10000zなんて法外な安さとも」

 

 勘違いされぬように言えば、俺に狩人などという尊い名を語る気はない。俺はただモンスターを、人殺しの穢らわしい汚物を依頼人の心情を汲んで、死刑執行を代行しているだけだ。復讐者、パニッシャーがいいところなのだ。力なき人、弱き民、それらの無念を晴らすのに復讐以外の手があろうものか。

 

「まぁそう言いながらも、モンスターの死骸はギルドのハンターと違い全て俺の手元へ入る。それを適当に売り捌けば活動資金には充分だ」

「じゃあそういう訳だから、悪いけどしばらく監視してるわ。狩りに行きそうだったらその時に合流する」

 

 ギルドからこういった刺客が来た事が無いわけではない。それでも今回の事案は少し、異変が起こりそうな予感がした。



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しかしそれは常人が背負うものでなく

 ビーム状に放出されたライゼクスの雷撃を火花を撒き散らしながらも大盾で防ぐ一方、その勢いに後退させられるどころか徐々に距離を詰めていけるその胆力に呆れて溜め息が出る。

 ガード性能とか強化とか金剛体とか、彼の装備にはそういう特殊効果を発生させるスキルはついていないらしい。ただ無理矢理鎧の強度を高める過程で失われたと、装飾品のスロットを作るくらいならそこに追加で金属を詰め込むと。

 だから彼は、純粋に自分の力だけであの芸当を披露して見せている事になる。ある時は振り回された尻尾を盾で弾いて逆回転させ、顔面へシールドバッシュの一撃だけで冠甲を粉砕したことも。森全体を揺らすような咆哮に対して物怖じせず、むしろ咆え返してライゼクスを怯ませたことも。

 

「流行る訳だわ、彼の詩。英雄の題材には打ってつけ過ぎる」

 

 結晶のような外見の翼爪に碧雷を帯びながらガレルを抹殺しようと必死に地を叩きつけるライゼクス。その猛攻を切り伏せ、受け流し、防ぎ、爆心地のような危険地帯と化した筈の立ち位置でもその銀色の輝きは曇らず陰らず。ライゼクスが悲鳴のような、いや事実悲鳴を上げながら飛び退くとそこには彼が無傷で立っていた。

 見ているだけで気分まで悪くなってくる暴れようも抑える気配りは更々無いのか。それならばと突進でガレルを轢き殺そうと駆け出したライゼクスを彼は見据える。大剣を背中へとひっかけ、けれど彼が取った行動は回避ではなかった。

 

「なにアレ、冗談でしょ......」

 

「かぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

「グガァァァァァァァ!!」

 

 双眼鏡のレンズから覗くその光景。常識と見識のある人間にこの光景を説明したのなら失笑に付される事はまず間違いないだろう。何よりも実際にこの光景を目撃している私でさえ信じられないという思いの方が強いのだ。

 ハンター(化け物)モンスター(怪物)が、がっぷり四つとでも言わんばかりに互いに体を押し付け合い、その力関係が拮抗している。彼の事は化け物と形容したが誰にそれが否定出来ようか、両腕でライゼクスの顎を抑え込み、あまつさえその巨体が動きだそうとするのを罠も無しに自身の筋力だけで押し留めているのだから。

 

「この場合おかしいのは彼の方だけでいいわよね」

 

 人間に力負けするライゼクス、ではない。ライゼクスに力で勝ろうとする人間がおかしいのだ。情報は確かとは言えあの馬鹿げたまでの体躯に怪力を見ると、ドンドルマに鎮座する大長老の全盛の力にも比肩するように感じ、自分と同じホモサピエンスなのかという所が疑わしい。

 

「駄目よ私、一応彼らは本気で命の駆引きをしているんだから。......でもねぇ」

 

 飛竜として、モンスターとしては屈指の巨体を誇るライゼクスが一人のハンターの腕で薙ぎ倒される。数分間に渡る拮抗の崩壊はライゼクスが踏み締める右足の芝生がとうとう捲れて滑り、態勢を僅かに崩した所から起こった。支点のズレに巨体が傾く、それだけで運動エネルギーのベクトルは総じてガレルへと向けられていたものから真下へと変相する。

 一方でガレルの方も倒れ込んだライゼクスに全体重を掛けていたのだから彼も前向きにつんのめる。しかし彼は同じように姿勢を崩す事はなく、そこから即座に背部へと吊り下げた大剣を勢いそのままに振り抜いた。

 

 

 

 ハンターの背負う大剣は結局武器として運用する以上、本人の身長を上回るようなサイズの物は扱うことは出来ない。それは巨人のごときガレルとて同じ、特別製だという大剣も180cm......それでも一般的な男性ハンターと同じ規格の剣を軽々しく、あるいは片手で振り回しているのだけれど、やっぱりモンスターの全長には及ぶ筈が無いのよ。

 だからこそ、私もその時ばかりは自分の目を疑った。簡単に見積もるとおおよそ20m程もあるライゼクスの体が、たった2m弱の剣で一刀両断されていたんだもの。

 駄目だわ、もう限界。真っ二つになったことでさらけ出されたライゼクスの諸々がトドメになって私はとうとう吐き気を催した。込み上げて来た胃液で喉が痛く、水筒の水を口に含み吐き出した。

 

 

「終わったぞ。何か問題はあったか?」

 

「そうね......まずは、いや何でも無いわ」

 

 このライゼクスは上位相当の個体だった。かなりの力を持っているとは言え討伐出来るハンターは少なくない。けれど、どこのハンターにこれと同じ事が出来るかしら。私に下されたギルドからの指令が彼の狩りを観察するだけで本当によかった。共闘しろなんて言われていたら間違いなく咆哮の時点でリタイアしていたし、もし『ギルドナイト』らしく始末などを命じられていたら......

 

「いいわ。この街での貴方の仕事もこれで終わり。私の監視もね」

 

 これからも彼の噂を聞く機会はあるかもしれないけど、直接関わるのも最後、まぁ人生に一度くらいはこんな不条理の塊を目にしておくのも一興だったんじゃないかしら。

 

 

 帰りの竜車に揺られながら眠っているのかそれとも起きているのか。腕を組んだまま兜にくぐもった呼吸音だけを発して座っている彼を見つめる。ガレルという男はどうしてこの道を選んだのだろうか。真っ当にハンターとして身分を固め、ギルドからの仕事をこなしていたなら今頃その階級は間違いなくモンスターハンタークラスでしょう。

 HR0の大男が古龍を単身で討伐したという話はギルドによって噂との扱いに押し留められたものの、知っている者は知っている。

 罰する者、報復の代行者、復讐の執行人。何が彼をそうまでして駆り立てるものか。とかく彼がモンスターに憎しみを抱くような、過去に何かがあったという事はわかる。けれど不意に見た彼の顔はまるで、モンスターを憎まなくてはいけない、というような強迫観念に似た情景が感じられた。

 

「でもそんな彼を、必要とする人は存在するのね」

 

 今回の依頼にしてもそう。復讐心は当人以外ではきっと理科出来ないのよ。誰よりも依頼する人間の立場がわかっている上で最上級の強さのハンター。もはや化け物じみた彼の終着点がどんなものになるのか......それを想像すると、何か酷く胸騒ぎを覚えた。

 

 

 

 

ライゼクスの死体を見下ろしながら、こいつの犠牲になった少女の事を想う。依頼主から事の顛末を聞いた、病に伏した母親を治す為には市場に出回らない貴重な薬草が必要だと。父親の制止も聞かずに、母を想うあまりに飛び出した少女は結局、ライゼクスの縄張りに踏み込んで命を落とした。

 どうして幼く健気な娘は殺される必要があっただろうか。縄張りに謝って入った彼女が、自分に危害を加えるとでも思うのか。理由は簡単だ、少女が何をするかなどというのは関係がない。縄張りに入った、視界に入ったから殺すのだ。お前達モンスターはいつもそうやって理不尽に人間を殺し続けてきた。

 誰かに諭された事がある。そうやってモンスターが人間を殺すのは、家に入り込んだ虫を叩き潰す人間の行動と変わらないのだと。物知り顔の連中は決まってそんな戯言を吐く。世の常を説くように破綻した理論をほざく彼らは至極残念な頭をしているのだろう。虫と人間の命の価値が同じものか。一度に大量の卵を産み落とされ、そこからある程度生きていればいいかと、だがそんな事すらも思考に無く種を増やす役割の為だけに沸く虫が。人間の命が虫けらと同等に扱われる道理があるだろうか。

 遺灰を幾らか納めた壺と回収した遺品、傍らに落ちていたチェーンの切れたペンダントを手に黙祷を捧げながら、俺は同行者の元へと足を進める。

 ギルドが俺を好く思わないということは聞かされたが、今回の狩りの内容は何か問題など無かっただろうか。彼女に聞くと少し含みはあったものの特に危惧すべき内容も無かったと。俺も兄弟との約束を果たすまでは止まる訳にもいかない。過激な攻撃は避けるよう心掛けたが......見られているというのもやりづらいものだ。

 帰りにもずっと視線を向けられていたが、さすがに街に戻ると監視も終了のようで俺はすぐさま依頼主の住居へと足を運んだ。

 

「入るぞ」

 

 返事はない。仕事前に来た時もそうだった、依頼主の男はある研究につきっきりになっているという。乱雑に散らばった文献に記載されている内容は決まったカテゴリーと言うものは無く、しかしよく取り上げられているのは『モンスターを操る狩人』の伝記であった。

 

「これは」

「ぉぉ、貴方もそれが気になるか......」

 

 古本を片手にか細い声の主を探すとそこには依頼人の、酷く窶れて死人のような足取りの男がふらふらと暗い闇の中から現れた。どれ程の日数睡眠を取っていないのか、或いは取ることも出来ないのか。窪んだ眼孔は醜く黒ずんでいて、全体的な風貌はとても健常者とは言い難いものだったがそれでも問題は無いのだと。

 

「電竜は間違いなく討伐した。そして、これを」

 

 ポーチに収納した遺品を男に差し出すとそれを手に取った瞬間全ての糸が切れたように崩れ落ち、それらを胸に抱き締めながら嗚咽と静かな慟哭が漏れ出した。そうして時間が暫く過ぎた頃、もうここにいる理由は無いかと踵を返そうとする中で微かに聞こえた男の呼び声に動きを止める。

 

「ここにある書物はな、みな竜操術や乗り人という区分ものばかりだ。罰する者よ......私が打ち明ける考えを裁定してはくれまいか? この考えが善であるのか、それとも悪であるのか」

 

 

 

 

 

 

「ーーあぁ、きっとそれは......善い事だろう」



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