飛べない少年と飛べる世界 (紡ぎ手@異人)
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第一話「飛べない少年と鷹の少女」
飛崎カナタ 男
所持翼:???
身体能力:低くもなければ高くもない。
性質:気弱、お人好し、非好戦的
特異能力:???
主人公。飛べない翼を持つ少年。ネスト王国において唯一の「非翔病」患者らしいが…?
「やーい!飛べないカナタ!」
「お前の翼、枯れ木だもんなぁ!」
「ちくわ大明神。」
「……誰だ今の!?」
四、五人のいじめっ子に囲まれる少年。
彼の名は飛崎カナタ。フェザーワールドに生きる「人間」だ。ああ、自己紹介がまだだったな。俺の名は…そうだな、"紡ぎ手,,とでも呼んでくれ。別に、夜の月に、白い狼という名でもない。
さて、この世界に於ける「人間」とは、私達の知る人間とは少し異なる。肉体そのもの、そして生活体系は我々とほぼ同じだが、彼らの背には、鳥、または昆虫、はたまた蝶や蛾のような羽、あるいは翼が存在する。……そう。我々から見れば鳥人間と呼べるような者達が、この世界における「人間」だ。しかし、この世界に我々のように翼がない人間はいない。故に、これを聞く君達は、どうか安心してほしい。たとえこの物語の中で彼らが異世界へ渡る力を手に入れたとしても、こちらに来ることは決して無い。なぜならこれは私が紡いでいる物語だからだ。そう、フィクションである。
「や、やめてよ…」
「あぁ?聞こえねぇよ!」
「ぐぁっ!?」
いじめっ子の手がカナタの頬を張る。ここまでの一連のいじめ。その発端は、彼のその翼にある。彼は…カナタは、翼はあるのに、飛べずにいる。他の子達は皆、飛べるというのに。その事実は、いじめっ子達にとって、格好の的に見えたことだろう。これは、我々の世の中においても同じことが見られる。人と違うから。孤立して、傷ついて…しかし、カナタは、一人ではない。
「コラー!またアンタ達!カナタをいじめて!」
「げっ!鷹宮だ!」
「逃げろ!」
いじめっ子達は少女の声を聞くと一斉に飛び立つ。それと入れ替わるようにカナタの近くに降り立つ少女。
「…カナタ、大丈夫?」
「う、うん…大丈夫。」
少女はカナタに手を差し伸べ、カナタは手を借りて立つ。
「全く…下らないことやってるんだから…カナタも少しは立ち向かわなきゃ。」
「だ、ダメだよ!暴力なんて…」
ジト目で言う少女に、カナタは戸惑いつつ返す。カナタはかなり穏やかな性格だ。お人好しでもある。その性質もまた、彼がいじられる要因にもなっている。
「あーもう。優しいなぁカナタは…」
「わ…きょ、キョウカちゃん…?」
カナタを抱きしめている少女の名は、鷹宮キョウカ。その背に鷹の翼を宿した、短い茶髪の少女だ。
「さ、帰ろ。送るよ。」
バサリと翼をはためかせ、キョウカはカナタをお姫様抱っこで抱える。
「わわ…キョウカちゃん!僕は一人で大丈夫だから!」
「地面歩いてたらまたアイツらに絡まれるでしょ。いいから、喋ってると舌噛むよ。」
ビュンッ!と羽ばたき、二人は夕暮れの空に躍り出る。鷹宮キョウカは飛崎カナタの幼馴染だ。そして、彼女は彼を………いや、ここからは紡ぐまい。まだ少女は、彼にそれを伝えていないのだから。
え?東方希望録はどうしたって?あはは、あっちも書きますよ。ただ…思い浮かんじゃったので、つい…
さて、実はこの物語、いろいろな設定が様々なマンガやラノベから取られています。どれだけ分かりますかね…?
ちなみに、ネスト王国は、ネストを和訳すると、巣。となります。つまり、鳥の巣王国ですね。
感想、評価、お待ちしてます!ではでは!
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第二話「飛べない少年と少年達の学校」
ネスト王国:国土ではフェザーワールド中最大の広さを誇る王国。所持兵団は白鳩騎士団。その名の通り、所属騎士の翼が白鳩のものでなければならない。魔力を用いた魔法、そして槍術を得意とした兵士が多い。カナタとキョウカの住む国。
クロウ帝国:和を意識した国。建物が大体和風。しかし、所持兵団に関しては黒い噂があり、恐れられている。その兵団とは、鴉之武士。文字通りカラスの翼を持つ侍集団。使う武器も刀や火縄銃と徹底している。兵士の中にはムレ共和国の銃弾を切り裂くほどの猛者がいるとの噂もある。
ムレ共和国:国土としては三大国のうちで最も小さいものの、一番の科学力、経済力を持つ国。一番現代日本に近い建物が建つ国でもある。ムレ共和国にのみ、蝶蛾族や、昆虫族が生きている。
所持兵団は群隊。主に統率力の高い昆虫族の羽を持つ兵士が多い。持ち前の科学力を駆使した銃や戦車といった現代兵器を使った戦いを得意とする。
翌日。カナタは自宅で目を覚ます。まだ太陽も姿を見せ始めたばかり。早起きしすぎたと少し後悔するも、たまにはこんな日があってもいいだろうと思い直す。
「さて、昨日の復習をしないと…」
早起きは三文の徳。この世界においてこの時間に目が覚めるものは滅多にいない。いたとしてもすぐに二度寝する。それをせずに勉強のできるカナタはかなり真面目といえる。
「えっと、河童の"川,,流れ…弘法も"筆,,の誤り…」
どうやらことわざの復習をしているらしいカナタ。と、そこに下から金属が鳴り響く音がする。
「っ…!?」
「カナター!朝だよー!起きてー!朝ごはん!」
さらに聞こえる幼馴染の声。キョウカだ。
「…キョウカちゃん……」
苦笑してカナタは筆箱に筆記用具を収納し、カバンに入れ、それを持って階段をおりる。
「おはよう、キョウカちゃん。」
「ん、おはよ。カナタ…って、え!?着替えてる!?」
「うん。ちょっと目が覚めちゃった。」
そう言ってテーブルにつくカナタ。それを見てキョウカは少し顔を曇らせる。
「もしかして、
「…ううん。もう暫く見てないや。多分何かの音で起きたのかな?」
そう言ってカナタは配膳された料理を見る。
「うわぁ…今日もすごいね…」
「…うん。朝はちゃんと食べないと元気でないからね。」
「うん。ありがとう。じゃあ、いただきます!」
顔をほころばせ、カナタは料理に箸をつける。キョウカもすぐに席につき、朝食を食べ始める。
「そういえば…キョウカちゃんはおうちは大丈夫なの?鷹宮の家って王様を除いて一番高い位でしょ?来て大丈夫なの?」
カナタは心配そうな声を上げる。キョウカは構わずに食べ続け、
「大丈夫だよ。私は期待されてないから。」
「!そんなこと…」
「ホントのことだよ。姉さん達の方がすごいから。私は自由にしてても大丈夫なの。」
カナタの言う通り、鷹宮家は名門も名門だ。フェザーワールドはどこもかしこも階級社会だ。だからといって差別などがある訳では無いが、それが軋轢や、確執を生むことを、現代の我々は知っている。さて、フェザーワールドにおける位の高さは、苗字で見分けることが出来る。
低い方から、地→木→林→森→村→町→門→砦→城→宮となる。さらにこの上に「神」があるが、これは王族のみが名乗ることとなっている。つまり、鷹"宮,,の家の子であるキョウカは、我々から見ればいいとこのお嬢様なのだ。…さて、ここで疑問に思うだろう。…え、気づかない?では、我らが主人公の名前を思い出してみよう。そう、飛崎カナタである。先程の位に、「飛」も、「崎」も存在しなかった。その理由は後ほど紡ぐが、彼が村八分…いや、国八分にされている大きな原因であると言っておこう。
「キョウカちゃんはすごいなぁ…僕なんて階級のどこにもいないのに…」
「…もう。階級なんてただの飾りでしょう?さ、そんなこと話してないで、さっさと食べよう?冷めると美味しくなくなっちゃうよ。」
「…うん。」
カナタには、ほかの家にいるはずの者がいない。ここまで読んでくれた方ならば既に気づいているだろう。
「父さん、母さん、いつ帰ってくるんだろう…」
「っ………」
ポツリと呟くカナタの言葉に、キョウカの心は締め付けられる。そう。カナタには両親が存在しない。それはカナタが何かのクローンだとか、魔法生物だとか、そういうことではなく、ただ単に、両親が死んでしまったのだ。
「さて、そろそろ行こうかな。」
「あ。そうだね。」
ふとカナタが時計を見ると、七時を回っていた。
「じゃあ行こうか。掴まって。」
「さ、さすがに登校する時は一人で大丈夫だよ…」
「昨日みたいなやつに絡まれたら大変でしょ。さぁ早く。」
「うぅ…」
渋々といったふうにキョウカに掴まるカナタ。バサリと羽ばたき、彼らの体は空へ躍り出る。フェザーワールドは浮島だ。下は一面の海。その中に入ったものはおらず、また落ちたものもいない。
「カナタ、寒くない?」
「うん、大丈夫…」
言いつつカナタはキョウカに身を寄せる。
「もうすぐ着くからね。」
そう言うとキョウカは靴箱目掛けて急降下していく。
都立鳥族学園。カナタ達の通う学校である。豊かな自然と広さを誇る学校だ。
「おはよー!」
「おはよう。」
「おあよ…」
「ぬわああああああああんつかれたもおおおおおおん!」
「早スギィ!」
…もっと言えば、自由な校風を持つ学園でもある。
初等部、中等部、高等部に分かれており、試験などは筆記試験を合格し、出席日数にて単位を取得、足りていれば昇学できる。真面目にしていれば普通に卒業可能である。しかし、学校名は鳥族と銘打ってはいるが、勿論蝶蛾族や昆虫族も入学できる。
「お、飛べないカナタがやって来たぞ!」
「っ……」
昨日のいじめっ子がカナタを見て嗤う。カナタは怯え、キョウカにしがみつく。
「…?待て、あれ鷹宮じゃないか!?」
「げ、一緒にいたのかよ!?」
「あんたら…覚悟は出来てんでしょうね!?」
「に、にげろ!」
蜘蛛の子を散らすように校舎へ逃げ込むいじめっ子達。ふぅ、と一息ついてキョウカは改めて校庭へ降り立つ。
「…あ、ありがと…キョウカちゃん。」
「いいよ。さ、教室行こ。勉強で見返そう。」
「うん…!」
二人は並んで歩き、教室へ向かう。
鳥族学園は勿論男女共学だ。クラスにおいてもそれは変わらない。
「おはよー!」
「おはよう。キョウカちゃん。」
「あ、シホちゃん、おはよう。」
教室に入ると、キョウカはクラスメイト達に声をかけられる。鷹宮という肩書きはやはり強い。
「…またカナタくんと来たの?」
「…うん。」
「ダメだよ。知ってるでしょ?カナタくんは……」
「言わないで。…お願い。」
キョウカにとって、カナタを悪く言われるのは我慢ならなかったのだろう、シホの言葉を止める。チャイムがなり、始業を告げる。皆にとっての日常の始まりだ。
一日の終わり。カナタは話しているキョウカを置いて、一人で帰る。カナタの頭の中はぐちゃぐちゃしていた。今日はこんなことをされた、こんなことを言われた…明日はどんな目に遭うのだろうか。いつか、自分は死ぬのでは無いか………そこまで考えて、上からの衝撃に思考を中断された。
「っ!?」
「ははは!飛べないカナタ!悔しかったら飛んでみろよ!ははは!無理かー!翼はピクリとも動かねぇもんなぁ!やーい!親知らずの飛び方知らずー!お前の親は不死鳥に飛ぶことも出来ずに死んだってなぁ!」
「───ッ!」
瞬間、カナタの
「………して。」
「ああ?聞こえねーよカナタ!」
「…取り消して!僕の父さんと母さんを馬鹿にしたこと…その事を!」
「はは!取り消して欲しかったら勝ってみろ!どうせお前じゃ俺のとこには来れないよ!」
上から見下してくるいじめっ子。カナタは自分ではなく、自分の親を馬鹿にされたことに腹を立て、悔しさに拳を握り締める。…翼が、熱い。心の奥に火がついたようだ…
「ぐ…あ……」
カナタの枯れ木の様な翼に、炎が灯る。
「あ…あああ…あああああああああっ!」
「な、なんだ!?」
いじめっ子が閃光に目を覆う。光が収まると、そこには────
「…許さない…」
泣きながら、燃え盛る翼をはためかせ空中に立つカナタの姿があった。
さぁ、これより物語は始まる。
少年よ、足掻け。これは、君が主役の物語だ。君が、心と共に空へ羽ばたく物語だ。
はい。カナタ君の覚醒です。
果たしてカナタ君の持つ翼はなんでしょうかね…?
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第三話「飛べない少年と燃える翼」
はーいよーいスタート!
いじめっ子からすれば、なんの冗談だ、と思うことだろう。ここ2.3年の間、翼がはためきもしなかったカナタが燃え盛る翼を背に、自らの力で空を飛んでいるのだから。
「な、なんで飛べてるんだよカナタ…それに…!」
少年の背で燃え続ける翼。
「取り消してよ。」
カナタの眼はいつもの穏やかな眼から一転、凶暴な、それこそ、猛禽類のような鋭い眼となり、いじめっ子…いや、もはやただの
「僕の父さんと母さんを侮辱したことを…取り消せェッ!」
「ヒィィッ!」
もう彼に選択肢など無かった。その場に震え、固まることしか出来ない。
「取り消さないなら…!」
カナタの手が子供の首を掴む。
「ぐぎゃあ!」
涙やら鼻水やらでくしゃくしゃな顔が、苦悶に歪む。明らかに強化されている握力。子供の首は、抵抗も虚しくどんどん締まっていく。
「ぐ…が…は…っ!」
「取り消せ…取り消せッ!」
カナタの語気はさらに強くなる。そうして、今にも子供の首がへし折られる────その寸前。
「カナタ!」
「!!」
カナタの耳に、キョウカの声が響く。
「キ、キョウカちゃん…?」
翼の炎と、腕の力が弱まっていき、カナタと子供をゆっくりと地へと誘う。二人が足をつけると、すぐにカナタは自分の腕に気づき、既に緩まっていた腕を離す。捕まっていた子供は咳き込みつつも一刻も早く此処を離れようと駆け出す。が、その前に飛んできたキョウカが立ちはだかる。
「な…なんだよ!?」
子供の声には怯えしか感じられなかった。キョウカは自分の中の怒りの炎が収まっていくのを感じつつ、子供に言い放つ。
「もうわかったでしょ?もう、カナタにちょっかいかけるのはやめて。」
キョウカの言葉に、子供は、
「あんな化け物に近づくなんて、こっちから願い下げだ!」
と、叫びつつ自らの翼で飛び去っていった。
「…!カナタ!」
キョウカは子供を一瞥するとすぐに立ち尽くしていたカナタに駆け寄る。
「キョウカちゃん…嘘だよね?僕の父さんと母さんが死んでるなんて…」
そう言うカナタの目に光は無い。先程の炎も消え、枯れ木のような翼に戻っている。キョウカは無言でカナタを抱きしめる。
「大丈夫。きっとカナタの両親は生きてる…私も…私も一緒に探すから…」
「うん…」
カナタには見えていなかったが、キョウカの頬には、一筋の涙が流れていた。彼女は真実を知っているからだ。そしてそれをカナタに告げられずにいる。カナタを悲しませまいとする気持ちでついた嘘は、積もり積もってキョウカの心を傷付けていた。
「さ、帰ろう?今日は腕によりをかけてご飯作ったげるから。」
「うん!」
それでも告げる訳にはいかない、とキョウカは思う。飛べないという絶対的ハンデがあるのに加えて、両親を失っていることまでカナタが知ってしまえば、カナタがどうなってしまうか─────キョウカは聡い子であった。しかし、警戒心は足りなかった。二人が飛び去った後、
───ネスト王国・王宮・王の間───
夜の帳も落ち、静寂に包まれた王の間。その最奥に聳える玉座に座り、机と睨めっこをしている男。彼こそ、ネスト王国第六代国王、鷹神シンヤである。
「…ついに目覚めたか…」
鷹のように鋭い眼がさらに鋭くなる。
「厄鳥・
シンヤは拳を握り締め、空を見上げる。
「…シロウ…カナリア…カナタは、きちんと守り抜くからな…」
シンヤの決意の言葉は虚空に溶け込んでいく。
「そうだ、カナタを養子としよう。それならば直接守れる。……さて、それならばあの服屋にオーダーメイドを…」
ネスト王国の善き王、鷹神シンヤ。彼の一日はまだ終わる気配を見せない。そして、その様子を窓から覗く鴉が一羽。その眼は紅く、シンヤの持つ書物に────
「!
シンヤは気配に気づき、羽を飛ばす。…が、そこに貫かれた鴉の姿は無い。
「…サクヤめ。」
狡猾な鴉はもう、動き出していた。
終わり!閉廷!プレイした感想。二度とやるか!
嘘です。続き書きます。勿論ね。
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第四話「烏の翁と鴉姫」
フェザーワールドの北に位置する国、クロウ帝国。この国は、現代に生きる我々から見ても、「和」を意識した国と言える。我々がもしこのクロウ帝国に入ることができれば、出てきた時の感想は恐らく、「映画村の国ver」であろう。フェザーワールドの南西に位置するムレ共和国は対照的に近未来なのだが、それを語るのは後にしよう。さて、今回なぜカナタたちの住むネスト王国ではなく、クロウ帝国にスポットが当たっているのか。…答えは単純だ。前回(第三話)のラストにおいて、シンヤを監視していた鴉がいたはずだ。アレが関係している。
「…ハァッ!」
閃く一刀。その一本が描く軌跡には迷いがなく、死を臭わせることが無い。
「…スゥ―…」
刀を振るうは一人の老人。その手に持つは名刀・
「相変わらずの剣の冴えね?ゴエモン?」
ふと、老人の肩に一羽の小柄な鴉が止まる。
「…姫。戯れはほどほどになされよ。危うく斬るところでござったぞ。」
「あら、ごめんなさい。でもこの子はただの人形同然よ?」
姫の台詞に思わず眉をひそめる老人。
「あら、少し癇に障った?でも本当のことよ。」
「…無益な殺生は好まぬ故。」
「…そう。まぁ手駒は減らないに越したことはないし、ありがたいんだけどね。」
「して、今回の本意は?ただ世間話をしにきたわけでもなかろう。」
「ええ。もちろん。本題はここからよ。」
鴉の目が鋭くなる。
「…
「!して、今回は…」
「…飛崎カナタ。まだ子供よ。ネスト王国の辺境地帯に住んでる。
「!なんと…」
「これは由々しき事態よ。まだ心が成長しきってない子供の中に厄鳥がいる。」
「…儂に、鍛えろ、と?」
「そこまでは言わないわ。でも、ネストに置いておくよりも面白…コホン、安全だと思うの。」
「…女狐。」
姫の言葉に老人が毒づく。
「とにかく、
「…承知。」
もとより、この老人に拒否権などない。
「すべて御心のままに。鴉神サクヤ殿。」
「期待してるわ。鴉神ゴエモン。」
そう言うと、老人…ゴエモンの肩から鴉が飛び去った。。
「さて…飛崎カナタ…か…まず見て見ぬことには…」
刀を撫で、ゴエモンも飛び立つ。目標はもちろん、ネスト王国、飛崎家。黒き羽が一枚、景色に溶け込んだ。
――――――クロウ帝国:サクラ城:天守閣――――――
「ふふ…これで厄鳥が二羽…」
クロウ帝国の中心、サクラ城の頂上たる天守閣。そこに、クロウ帝国の姫こと、鴉神サクヤは居る。彼女の笑い声は、妖しく、遠く響いていく。
――――――ネスト王国――――――
「5+3=8…4+4=8…2+6=8…」
カナタは家で一人、宿題に励んでいた。いつになったら親は帰ってくるのか。そう思いながら。
「よし、これで終わり…!」
陽が沈みかけたころに今日の分の勉強を終えたカナタ。夕飯を作ろうとしたその時、家の呼び鈴が鳴った。
「?誰だろう…はーい!」
パタパタとドアへ駆けていくカナタ。ドアを開け、閃光を目にした瞬間、カナタの意識は落ちた。
さぁ、カナタは一体どうなってしまうのやら…
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第五話「烏の翁と鷹の王」
「…容易い。」
カナタを脇に抱え、ゴエモンは独りごちる。
「童とはいえ…余りに警戒心が無さすぎるのではないか…?」
ともかく任務はこれで完了だと、翼をはためかせる。
「待て。」
「!」
その一言で、ゴエモンは動きを止めた。
「おや。ネスト王国の王ともあろう御方が、供も連れず何の用ですかな?」
ゴエモンはカナタを抱えたままとぼけてみせる。
「巫山戯るなよ
「…そちらこそ、戯れはよして頂きたい。」
二人の間に、火花が散る。
「カナタを返してもらうぞ…」
シンヤの翼が大きく広がり、
「…押し通る…」
ゴエモンの腕が名刀・
「む!?」
「!?不味い!
言うが早いか、ゴエモンはカナタを空へ向かって投げた。
瞬間。炎が広がった。
「アレが…」
「おいおい。大事なカナタの身体だぜ?丁重に扱えよ。」
いつものカナタらしからぬ口調。燃え盛る翼を広げ、腕を組み、二人を見下ろすカナタの中の鳥。
「厄鳥・
「ああ、久しぶりだなぁ、鷹神…六年ぶりくらいかぁ?」
「カナタに戻れ!」
「おいおい無茶言うなよ。
シンヤはゴエモンを睨む。
「…儂は任を遂行したまで。不死鳥よ、一緒に来てもらおう。」
ゴエモンは取り合わず、カナタを見上げる。
「ハ。人を誘うにしては乱暴にすぎるな。落第点だ。出直せよ、
カナタは手に炎を灯し、臨戦態勢をとる。
「…傷付けたくはなかったが…仕方ない。」
ゴエモンは刀を抜き、構える。
「っ…カナタを傷つけさせはせんぞ!」
シンヤは二人の間に割って入る。
「…退かねば斬る。」
ゴエモンの目は揺るがない。
「退くものか!カナタは私の─────」
セリフを最後まで言うことは出来ずに、閃光が走る。
「ッ!?」
直後に、鮮血が舞った。
「………!?カナタ!?」
「ったく。容赦ねぇな。六歳児の腕飛ばすか?普通。」
そこには、自分の腕でシンヤを守った
「カナタお前…!」
「勘違いすんな。アンタにはカナタが世話になってる。俺はカナタに生きさせられてる。だから俺はあんたを守る。死なねぇ命賭けてな。」
ニィッ…と
「面妖な…」
ゴエモンは毒づく。
「ハ。
「…ならばもう一度少年に起きて貰うまで。」
ゴエモンは刀を退く気は無いようで、かなり殺気立っている。カナタは笑いつつも、内心焦っていた。
(まずい…圧倒的なまでの実力差ってのは不死性だけじゃどうしようもねぇ…かといって、逃がしてくれそうもない…)
「…参る!」
ゴエモンが迫ってくる。
「チッ!」
カナタは翼を使って体を覆い、身を守ろうとする。がらゴエモンはクロウ帝国最強の侍。炎の翼など───ザンッ!と切り落とす。
「ぐああっ!」
「カナタ!」
シンヤが羽弾を飛ばすも、ゴエモンは一刀を以て全て弾き落とす。
「チ…マジで速ぇな…」
「少年はまだ起きんか…?」
「答える義理はねぇな。」
翼が炎で蘇る。
(…う…)
「!チィッ…嫌なタイミングで…」
カナタが目覚めかけ、翼の炎がだんだんと衰えていく。
「!起きたようだな。」
ゴエモンは刀を収め、落ちていく
「っ待て!」
「断る。ではな。」
ゴエモンはカナタを抱えたまま、クロウ帝国へ飛び立ってしまった。
「く…すぐに取り戻しに行かねば…!」
シンヤは装備を整えるため、すぐに王宮へ向かった。
ゴエモン強いぃ…
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第六話「飛べない少年と烏の翁」
「ん…う…」
夜風の音と冷たさでカナタは目を覚ました。目に見える景色はとめどなく流れていく。どうやら飛んでいるようだ、とカナタは把握する。
「起きたか、少年。」
上からしわがれた声がした。視線を声のした方へ向けるの、鋭い目をした老人がカナタを抱えていた。
「突然のことで困惑しておるかもしれぬが、落ち着いて聞いて欲しい。」
と、老人…ゴエモンは一呼吸おいて、
「ここはお主のいた国ではない。」
「ここ…クロウ帝国…ですか?」
「!もう見抜いたのか…?」
カナタの指摘にゴエモンは目を見張る。
「この和風な建物はクロウ帝国特有ですから。…でもなんで僕がここに…?」
ゴエモンはその問いには答えず、自分の住む庵に降り立つ。
「ここは儂の家だ。しばらくはここで暮らしてもらう。」
「暮らしてもらうって…僕は貴方を知らないんですよ?質問にも答えてもらってないし…」
「その辺りも含めて中で話そう。」
カナタは少しばかりの警戒心と共に、ゴエモンの家に入って行った。
──ゴエモンの家──
ゴエモンの家の中は質素な造りとなっていた。モノが少なく、いつここを離れても大丈夫なくらいに。
「座れ。」
「あ、はい…」
ゴエモンに催促され、座布団に二人、向かい合うように座る。
「自己紹介が遅れたな。儂は鴉神ゴエモン。」
「!"神,,…?」
「ああ。やはり賢いな。名字で儂がどういった存在か、ある程度察するか。それに、違和感にも気づくとは。」
ゴエモンは感嘆の声を漏らす。
「だって、今のクロウ帝国の王様って…」
「左様。今のクロウ帝国の当主は鴉神サクヤ殿である。」
「ですよね。じゃあ…?」
「儂は特別に、鴉神を名乗ることを許されておる。」
ゴエモンは翼を一度バサリとはためかせ、
「儂の翼がお主同様、特別だからだ。」
「…?僕と、同じ…?」
カナタはふと、自分の枯れ木のような、はためきもしない翼を見る。ゴエモンの立派な烏の翼に比べると、月とスッポンだと思い、不思議がるカナタ。それを見たゴエモンは、
「…まさか、お主、自分の翼が何なのか、理解しておらぬのか…?」
ゴエモンはまさかと思いつつ問う。するとカナタは、
「は、はい…」
と、躊躇いがちに頷いた。ゴエモンは一つため息をつく。
「…鷹神め。甘いにも程があろう…」
と小さく呟き、
「落ち着いて聞くがいい、少年。」
「あ、カナタです。」
「…む?」
ゴエモンは一瞬、何のことか分からなかったが、すぐにカナタが自己紹介したのだと思い至り、笑った。
「カナタか、佳い名だな。」
本当はゴエモンはカナタのことを知っていた。だが、それでもゴエモンはカナタのことを"少年,,と呼ぶつもりだった。
「はい。父さんと母さんがつけてくれた名前です。今は、外国のどちらかで仕事中ですけど、いつか帰ってくるって信じてます。」
「…!カナタよ、お主の名字は…」
「あ…飛ぶに崎で、飛崎って言うんですけど、本来は鳶地って名字だったらしいんですけど…」
カナタがそこまで言うと、
「!鳶地とな!?まさか、お主の父は…」
「僕の父さんですか?父さんの名前は…シロウ!鳶地シロウって言います。」
瞬間、ゴエモンの目が見開いた。
「鳶地シロウ…やはりあの時の…」
その言葉に、今度はカナタが反応した。
「父さんを知ってるんですか!?今、どこに!?母さんは!?」
「お、落ち着け!儂も今気付いたばかりなのだ!それに、儂とあの男は先の戦乱の折に手合わせしただけなのだ!」
「!そ、そうですか…」
ゴエモンの言葉に、手がかりを期待していたカナタはしゅんとする。
「…僕、生まれた時から1度も父さんと母さんの顔を見た事がないんです。」
「!な…それは、真か?」
「はい。あ、写真で顔は分かってますけど、会ったことがないお金はあ幸いお金は送られてくるので、生活に困ることはないんですけど、手紙も何もないんです。周りの人は、死んだとか、
ゴエモンは絶句した。この子は、親を知らないのだと。ゴエモンにもその昔、親がいた。もちろん今はもう墓の中で永遠の眠りについているが、愛してもらった記憶は確かにゴエモンの中で息づいている。しかし、カナタにはそれがない。カナタの身の上を聞いて、ゴエモンの心は決まった。
「…カナタよ。…空を飛びたいとは、思わぬか?」
その日、カナタは運命に攫われた。
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第七話「鷹の王と鴉姫」
カナタがゴエモンと話しているのと時同じくして、ネスト王国の王、鷹神シンヤは剣を携え、一人で皆の反対を押し切ってクロウ帝国に向けて飛び立とうとしていた。
「王!お待ちください!」
「厄鳥など!」
「五月蝿い!カナタはあの英雄、鳶地シロウの息子なのだぞ!?その妻、カナリアに世話になったものも多いであろう!その恩に報いる気は無いのか!?」
シンヤの一喝で臣下達は竦む。
「私は王だ!このネスト王国の!カナタは辺境とはいえ、このネスト王国の民なのだ!私の国の民なのだ!そのカナタがクロウ帝国に攫われたのだ!助ける理由など、それだけで十分だ!」
「し、しかし!」
「王にもしもの事があれば!」
臣下が必死に声を絞り出す。だが、シンヤの決意は揺るがない。
「その時は貴様等が勝手に仕立てあげれば良い!とにかく私は行く!」
そう言って、カナタを取り戻す為、シンヤは夜空へ飛び立った。その、真横に。
「あら、どこまで?」
一羽の鴉が飛んできて、シンヤに話しかけてきた。
「!サクヤ…!」
シンヤは羽弾を飛ばそうとして、止めた。サクヤに訊くべきことがあったからだ。
「…カナタを攫って何がしたい?」
「さぁ?ただのお話かしら。」
「はぐらかすな。私はお前がカナタに厄鳥が封じられていることを知っていることを知っているのだぞ?」
シンヤが目を鋭くすると、鴉の向こうのサクヤは少し呆れたように、
「相変わらずの"千里眼,,ね。まぁそうね。彼──そう、カナタ君。彼の中に
「招待?誘拐の間違いだろう。…?待て、理由は一つではない、だと?」
その言葉は、シンヤをその場に留まらせた。
「ええ。私は彼に興味があるのよ。ああ、恋愛的な意味ではないわよ?」
サクヤの言葉に、シンヤは食ってかかる。
「あ、当たり前だ!カナタはまだ六歳なのだぞ!?」
「あら、子供なのは知っていたけれど、まだ六歳とはね…ゲンジ物語でも演じてみようかしら。」
「っ…やはり直ぐに取り戻さねば…」
「冗談よ。流石に年齢差がありすぎるもの。」
こういう時程、サクヤを殴りたい時は無いとはシンヤの弁である。そもそも、鴉神サクヤとはこういう女だ。人をおちょくるのが得意な上に好きなのだ。それにふわふわとして掴みどころがない。まるで飛べる彼らでさえ掴めない雲のように。
「彼はさっきも言っていたようにまだ6歳。しかも、生まれの親を知らない。」
「…!?まさか!」
シンヤがハッとすると、サクヤは鴉の奥で笑う。
「そう。ゴエモンに育ててもらうわ。」
と、サクヤは言い放った。
「…お前はカナタを知らない。」
「あら、なんの事かしら?」
「カナタは親がまだ───」
生きていると信じている。そう言おうとした矢先、サクヤが口を挟んだ。
「なんだ。
「!?な…」
「そんなつまらない事はどうでもいいのよ。カナタ君の親…鳶地シロウとカナリア…だっけ?その二人は死んだ。そう伝えればいいだけだもの。」
「…カナタは信じないぞ。余程近しいものでない限り…」
シンヤは再び動き始める。
「そう。例えば…いつもカナタ君の近くにいるあの子とか?」
「ッ!」
サクヤの推理にシンヤは顔が硬直する。
「図星のようね。ふぅん…じゃあゴエモンに頼んで連れてきてもらおうかしら。」
「ふざけるな!カナタだけに飽き足らずキョウカにまで手を出すなど…!」
「へぇ、キョウカちゃんっていうんだ、その子。ちょっと興味、湧いてきちゃった。」
「っ…」
これ以上話しては余計な事まで吐かされてしまう。そう思ったシンヤはギュンッ!とスピードを上げた。
「あら。相変わらず早いのね…さて、上手くやって頂戴ね?ゴエモン…」
鴉はサクラ城に向かって飛んで行った。
もう日も暮れた。カナタがどうなるのか…それは、誰も知らない。
現在公開可能な情報。
飛崎カナタ(鳶地カナタ)
性別:男 誕生日:8月11日
性質:温厚
所持翼(偽):
所持翼(真):???
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第八話「飛べない少年の望み」
「カナタよ…空を飛びたいとは思わぬか?」
それは、カナタの生まれてからずっと持っていた願い、望みであった。
「…勿論です。…でも…」
カナタは自分の翼を見る。どんなに空を飛びたいと、この世界の人間ならば誰しもが出来ることを願っても、ピクリとも動くことの無い枯れ木のような翼を。
「お主の翼は本来は鳶で間違いなかろう。しかし恐らく、その翼は焼け落ちてしまったのであろう。」
ゴエモンの言葉に、首を傾げるカナタ。
「焼け落ちる…?斬られたのでは無く…?」
「ああ。儂はお主の中にいる鳥が何なのか知っておる。」
「僕の、中に…?」
カナタは胸に手を当て、その手をにぎりしめる。
「左様。三厄鳥という言葉に聞き覚えは?」
ゴエモンの問いに、カナタは戸惑うことなく、
「はい。三つ足の
「うむ。その三厄鳥が宿主を乗っ取った時、災いが起きるという。」
カナタは何故今厄鳥の話が出てくるのか分からなかった。
「お主の父、鳶地シロウが伝えなかったのであろうな…しかし、お主が飛びたいと真に望むのならば、知っておかねばなるまい。…覚悟はよいか?」
ゴエモンの射抜くような視線に晒されるカナタ。恐怖で一瞬たじろぐも、すぐに立ち直り、
「…はい。たとえ僕の中にどんな鳥が宿っていても、僕は飛ぶことを望みます。」
真っ直ぐ、ゴエモンを見つめ返した。
「…ふ。お主ならばそう言うと思っていた。では、心して聞くが良い。お主の中にいる鳥は────」
カナタは息を呑む。
「
「っ…!
ある程度ヒントはあった。燃え尽きた翼。ネスト王国の皆が
「ああ…だから大人は僕を…」
ネスト王国の大人達がカナタに向けていた態度。
「カナタよ、大丈夫か?」
「─ええ。はい。大丈夫です。でも、僕の中にいるのが
カナタの言葉をゴエモンは遮り、
「分かっておる。飛ぶ為の修行はつけてやる。」
「…!」
ゴエモンの苦笑にカナタは目を輝かせる。
「ただし、かなり危険だ。」
「構いません。飛ぶ為なら!」
そこからは早かった。二人がやってきたのは、かなりの標高を誇る山。その頂上。
「…あの、ゴエモンさん…」
「なんだ?怖いか?」
「…そりゃ怖いですよ!いきなり────」
「ほっと。」
ゴエモンはカナタの話も聞かず、ドン、と押した。
「たっ!?にぃぃぃぃぃっ!」
「上がってこい。
吹き荒ぶ風。あまり想定していなかったこともあり、薄着だったのが不味かった。手足の感覚が失せていく。
「死ぬ!このまま地面に激突でもしたら…!」
もう、寸前まで死が近づいてきていた。もう終わりだと思って、目を閉じた。その瞬間、地に足がついた。
「…え…?」
驚いたカナタは目を開け、さらに驚愕する。見渡す限り何も無い空間。晴れた空に、自分と空を写す水面。我々の世界で言う、ウユニ塩湖のような世界。その中心に、カナタは立っていた。
「ここは…」
カナタがあたりを探ろうと一歩を踏み出したその瞬間、ガシャンッ!と音がした。それも、頭上から。
「…?アレは…」
空の真ん中で揺れる、ひとつの鳥籠。そこから時折炎が出たり、鳥のくちばしが見えた。
「!アレが…でも、空じゃ…」
籠の中を見たいと思ったカナタだが、彼は飛べない。しかし。
「…!?浮いてる…!」
カナタの体はふわりと浮いた。そして、蜘蛛の糸に引っ張りあげられるカンダタのように、カナタは鳥籠の元へたどり着く。
「…貴方が…
カナタが声をかけると、ガツン!とくちばしで籠をつついていた動きが止まり、
「…よぉ、誰かと思えば宿主じゃねぇか。こんなつまんねぇ
熱の厄鳥はフランクに、カナタを嘲笑った。
さぁ、ここから2人の物語は始まる。
少年は彼方へ羽ばたく為。
厄鳥は誓いを果たす為。
死なない命をかける。
その日、少年は運命と出会う。
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第九話「飛べない少年と熱の厄鳥」
バンドリもやってるし、スクフェスも…あれ、音ゲーばっかじゃねぇかおめぇのスマホォ!ててごもやってますよー!
初めてカナタが
「で?何の用だよ。とっとと要件言えって。」
「え?あ、ああ…僕の今の状況、分かります?」
カナタは確認を取るように尋ねる。すると
「ああ。
「はい、それで…」
「いいぜ。」
「翼を───え?」
カナタがキョトンとすると、
「ハ。このまま地面にKissして現世からgood-byeは嫌なんだろ?力を貸してやるっつってんだよ。ただまぁ、条件付き、だがな。」
「条件…?」
カナタはその言葉を聞き、少し身構える。
「別に心配しなくても命や体を要求したりなんかしねぇよ。6歳児なんて食っても喉にぶっ刺さるだけだしな。それに、6歳児からものを貰おうとしたって、貰えるもんはたかが知れてるしな。」
「俺が要求すんのは…面白い人生、だ。」
「は…?」
「俺の翼や力を使って、せいぜい面白い人生を送って俺を楽しませろ。それが出来ないなら、俺はお前を乗っ取る。」
籠のギリギリまで顔を近づけ、カナタに迫る
「えと…面白い人生…とは?」
「ああ?んなもん俺の裁量に決まってんだろ。お前はただ夢追っかけてりゃいいんだよ。」
投げやりなように言う
「と、とにかく、力を貸してくれるなら…」
カナタは籠に背を向ける。その背を見つつ、
「頑張れよ、カナタ。」
瞬間、カナタの背に、燃え盛る翼が広がった。
──現実──
スゥ…と目を開ける。もう、自分が下に落ちている感覚はなかった。その背にあるのは、過去のみすぼらしい枯れ木のような翼ではなく、爛々と輝き燃え盛る炎の翼であった。
「──すごい…」
上を見据え、ふわりと上に向かって飛ぶ。そう意識した瞬間、景色が一転した。
「…え?」
下を見れば、カナタが先程まで呑まれていた谷がはるか下にあった。
「速い…!高い…!」
カナタは自分が自由に空を飛べることを認識した瞬間に、目を輝かせた。自分が生まれてから望んでやまなかったもの。どこまでも飛べる翼。それが手に入ったことを認識した途端、世界が美しく見えた。
「カナタよ。成し遂げたようだな。」
カナタの背後から、しわがれた声がした。
「ゴエモンさん…!」
カナタが振り返ると、ニコリと笑うゴエモンが烏の翼をはためかせ、同じ高さにいた。
「ゴエモンさんも…僕と同じだったんですね。」
カナタの言葉に、ゴエモンはさほど驚いた様子もなく、
「
「…」
淡々と語る。
「お主を見出したのはサクヤ殿だ。サクヤ殿にはお主が目覚めたならば連れて来いとの命を受けている。」
ゴエモンは手を差し出し、
「来てくれるな?」
鋭い目で、カナタを見て言った。カナタは躊躇いがちに、ゆっくりと手を伸ばし、その手を取る、その寸前。一閃。
「っ!?」
「全く…いいところで。」
「カナタは返してもらう!」
飛ばされた羽弾を刀で切り落としたゴエモンと、羽を飛ばしたシンヤが睨み合う。
「王様…!?」
カナタはシンヤを見て目を丸くする。
「カナタ!こっちへ来るのだ!ネストに帰ろう!」
シンヤはカナタに手を伸ばす。しかし、冷ややかな声で、
「その腕…切り落とされたいのか?」
刀に手をかけたゴエモンが警告する。
「っ…カナタを攫っておいて…!」
一触即発。その間に。
「っ…ダメです、暴力なんて!」
カナタが割って入る。
「ゴエモンさん、刀から手を下ろしてください!」
「断る。下がるのだ、カナタよ。お主をもう斬りたくはない。」
ゴエモンの意志は固い。
ならばと、カナタはシンヤに語りかける。
「王様、退いてください…!」
「断る。」
シンヤも下がらない。しかし、ここでカナタが下がれば、必ずどちらかが大きく傷つくことは避けられない。二人共にお世話になったカナタにとって、それは避けなければならないことだった。
(でも…どうすれば…!?)
【よお、困ってんな、カナタ?】
(っ!?
【この状況を何とかしたいんだろ?俺に任せな。】
やべぇめっさ久しぶりになった…なかなか書けずすみませんね…
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第十話 不死鳥と無垢なる赤子
それは、突然だった。それは、燃やし尽くした。眼前に立ち塞がる者を。自らを傷つける者を。
「キュオオオンッ!」
曰く、それは厄災だと。
曰く、それは天災だと。
人への憎しみを薪に燃え上がる体、憎悪に満ちた眼。絶えず光を放ち、炎の羽を飛ばし、火炎を吐き、ネスト王国を火の海とした炎翼の厄鳥・
その生まれて間もない子は、叫んでいた。ほかの人間達には泣き声にしか聞こえぬその喉で、確かに、「飛びたい」と。赤子はそう言ったのだ。
「誰も見た事のない高みまで飛んでみたい。遥か彼方まで。」と。
動きが止まり、視線が赤子に釘付けになる。
「───なんて綺麗な翼してやがる…」
「
人間の声に、意識が現実に引き戻される。月のように白い銀髪に、鳶の翼。名は確か──
「鳶地を援護しろ!」
矢が何本も飛んでくる。火炎を吐き、矢をほとんど焼き尽くす。そう。男の名は鳶地。鳶地シロウ。
「ッ!?」
翼を射られ、地に堕ちる
「…
「!?」
「
シロウは赤黒く輝く剣で
「キュオオオンッ!」
─???─
地に、空が写し出されている。どこまでも広がる、青い空。
「ここは…?」
「何故だ…」
突然変わった景色に驚くシロウ達の上空から声が響き、2人は空を見る。
「カナリア、カナタを頼む。」
「ええ…でもここは…」
「何故だッ!」
空から
「っ…
「鳶地シロウ…テメェ本気か?そのガキに俺を封印するってのは…」
「…ああ。」
「何故だ!?カナタはてめぇらの子供じゃねぇのか!?」
「そうよ…」
「なら何故!?」
「簡単さ。カナタなら、お前と友達になれるかもしれないって…な。」
「!?な…」
「私たちは、鳥籠に狙われている。けれど、カナタだけは守り抜きたい…」
「
「……」
別に、
「いいぜ。」
「!!」
「ただし、代償はいただく。」
「!ああ、言ってくれ。」
どうやら、2人の意思は固いようだった。
「お前らがカナタの成長を共に見る時間、十数年分だ。」
代償は限りなく辛いものにしようとした。けれど。
「…なんだ。それなら。」
「ええ。構いません。」
この言葉には、負けたと思った。
カナタが産まれたばかりの時のお話。
こらそこ、とある黄色い閃光みたいな感じだとか言わない。
書いててここまで似るかぁ…って俺も思ったから。
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