オルガブレイド (シン・ファリド)
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第1話 出逢い
第1話 出逢い 第1節 「新たな異世界」


基本オルガ視点です。たまに変わりますが。


「ぐっ!ううっ…」

「オルガ」

「ああ、ミカか…」

何度繰り返したかも解らないこのやり取り。

もう大体予想は出来る。また別の世界に飛ばされたに違いない。

「オルガが寝てる間に周りの人に色々聞いた。アルストって名前らしいよ、この世界。そんで、この場所はアヴァリティア」

「おいおい…もうこの世界に順応してねえか?やっぱすげえよ、ミカは…」

改めてミカに感心した。よくよく見たらなんか体に見覚えのない石が付いてるように見えなくもないが…拾ったアクセサリーかなんかだろ、多分。後で持ち主に返すように言わねえとな…

「別に。そんな事より…次はどうすればいい、オルガ」

「そうだな…」

今までの例からして、暫くこの世界に居ることになるのは間違いない。住む場所や物資の確保と行きたいところだが…

「…どうやらこの場所、商業が活発で色んな奴が来るみてえだな。上手くやれば…今後が大きく変わる筈だ。」

 

そうだ…俺達はこんな所で止まってられねえ。別の世界に来たってんなら、その世界にある俺達の辿り着くべき場所に、辿り着くだけだ。

 

アヴァリティアをミカと歩き回っていると、港に1隻の船がやって来た。

相当なサイズの、黒色の船だ。

あれを所有してるとなると結構な組織じゃねえのか…?

 

とか思ってたら誰か出てきやがった。1人はどう見ても屈強そうな大男…それと耳の生えた女に…どう見たって人間じゃねえ生物が2体。ありゃあなんだ。この世界の動物なのか?

そんで最後に刀を背負った男が…ん?

 

「おいミカ、あれ…マクギリスじゃねえか?」

「あ、ほんとだ。なんでチョコレートの人がここに?」

その刀を背負った男は仮面を付けていやがった。そして一緒にいる連中との会話、盗み聞きのつもりは無かったが少し聞こえてきた。その声は…どう考えてもマクギリスの声だった。

「俺達みてえに飛ばされてきたのかもな…」しかし知り合いがいるのは助かった。早速情報共有と行こうじゃねえか

早速俺はそいつ…マクギリスのとこに走り出す。そして…

「おお、マクギリス。お前もこっちに来てたんだな。そこの連れは新しい仲間か?それとも…」

色々と聞いてみることにした、んだが…

「チッ…邪魔だ、どけ!」

横の大男がそう叫んだかと思ったら…俺はいつの間にか吹っ飛ばされてた。

「いきなり攻撃…すんじゃねぇぞ…」

早速1回目の死だ。幾ら何でも早すぎだろ。

だが俺は止まらねえ。異世界に飛ばされてから、俺は死にやすくなった代わりに何度でも生き返る力を得た。

「オルガ、大丈夫?」

「へっ…こんぐれえなんて事はねぇ…」

ミカも大丈夫なのは分かってるはずなのに態々聞いてくる。やっぱ根は優しいな、お前は。

 

「おっと…大して力は入れてなかったんだが…随分脆いな、お前。しかし一度気絶した様に見えたが…すぐに起き上がりやがった。そういうアーツか…?」

気絶どころじゃねえ。死んでんだぞこっちは…って言い返そうとも思ったが、また知らねえ単語が出てきた。アーツってなんなんだ…?

「ってかそんなことより、だ。マクギリスってのは何もんだ。こいつの名前はシンだぞ?」

「シン…?なんだよ、マクギリスじゃねえじゃねえか…」

「そういう事だ。俺はお前の知り合いではない。悪いが、道を開けて貰おうか。」

「ああ…分かってる」

どうやら似てるだけで別人だったみてえだ。色々聞きてえ事はあるが…これ以上足止めすんのも悪いってもんだ。大人しくどいとくか。

 

そして大男と、シンと呼ばれた男は去っていく。その後を他の奴らが付いていく…かと思ったが、耳のついた女がこっちに来た。

「あーあ…メツの奴、ここまでやる事無いだろ…人違いで攻撃されるなんて、あんたも運が無いね。見慣れない服装だけど…名前は?」

「俺は…鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ…」

「三日月・オーガス」

聞かれたからにはしっかり名乗る。だが名乗る度に毎度死にかけるのはどうにかなんねえかって思うがな。

「って、あんたどう見てももうすぐ死ぬって顔だけど、大丈夫なのか!?」

「あぁ…こんぐれえなんて事はねえ…」

「あっそ…あ、あたしはニア。こっちにいるのはブレイドのビャッコ」

「ビャッコ、と申します」

耳のついた女と、横にいた動物が名乗る。ってかこいつ喋れるのか!?

まあ、動物が喋る世界なんて幾らでもあったからな。それよりも、それ以上に謎な事があったから早速聞いてみることにする。

「なあ…ブレイドって、なんだ?」

「…はぁ!?あんた、ブレイドも知らないのか!?」

すっげぇ馬鹿にされた。どうやらこの世界じゃ常識だったらしい。

「ま、特別に教えてやるよ。ブレイドってのはね、コアクリスタルに人が同調する事で生まれる生き物。体に青いコアが付いてるから、判別は簡単だけど…ってか、あんたもブレイド連れてるじゃん」

「は?」

「いやだから…その後ろにいる…三日月、だっけ?付いてるじゃん、コア」

マジかよ…どうやらミカはこの世界に来る時に、ブレイドになったらしい。一体どうなって…

「で…ブレイドってのは基本的にドライバーと一心同体で…あ、ドライバーってのはブレイドと同調した人の事。で、ブレイドは攻撃を受けてもコアが壊れない限り死なないんだけど…その代わり、ドライバーが死んだら一緒に死ぬ。そして、コアに戻って…次に目覚める時には、記憶が全部無くなるんだ」

 

…は?ちょっと待て!

その理屈で行くと、さっき俺が死んだ時にミカは全部忘れちまったことになる!そんな…俺が不甲斐ないばっかりに、ミカは今までの思い出を全部…!?

「でも俺、全部覚えてるよ?オルガ、さっき死んだけど」

ミカが俺の意思を読み取ったかの様に言う。

「はぁ!?さっきのあれで一回死んだのか!?ってか死んだ人間が生き返るってなんだよ!?それに…三日月は全部覚えてる!?何一つとして信じらんないよ…」

どうやら俺達にとっては常識になりつつあるこの流れも、やっぱ一般人にゃあ受け入れ難い話らしい。当然っちゃ当然だが…

「しっかしそうなると、やっぱミカはブレイドじゃねえんじゃねえか?」

「かもね…コアがあるってだけでそうかなって思ったけど違うのかも。」

謎だらけじゃねえか…こりゃあ大変な道のりになりそうだな。

「お嬢様。そろそろ戻らないと不味いのでは?」

ビャッコがニアに言う。

お嬢様って事は…いいとこの生まれなのか?それともビャッコが主人をそういう風に呼ぶブレイドなのか?

どっちにせよ、もう会うことはないだろうし、どうでもいい話っちゃどうでもいい話だな。

「じゃ、そういう訳だから。あたし達はそろそろ行くよ。ま、せいぜい頑張りなよ、謎だらけのお二人さん」

上から目線でなんか言われた。さっきから思ってたが初対面ってこと、忘れてやしねえか?しかも見た目からしてこっちの方が年上だと…

「お嬢様はこう言っておりますが、心配しているだけなのです。根は優しい方なので…」

「あっこらビャッコ!また余計なこと言って…」

なんだよ…不器用なだけじゃねえか…そう考えると中々可愛いもんじゃねえか。

 

 

そんなこんなで、2人…いや、1人と1匹も去っていく。

さて…そんじゃ俺達も、行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、名をセイリュウと言う巨神獣(アルス)の上…1人の少年がいた。

彼の名は…レックス。

彼の向かう先もまた、アヴァリティア。

出逢う筈のない2人が出逢う時、誰も知らない物語が始まる…。




どうも、作者です。
マクギリスとシンって似てない?とかいう理由から描こうと思い始めたオルガブレイドですが、どうだったでしょうか?
何故動画では無く小説にしたかと言うと…
…単純に、編集技術が無いだけです。
勿論今後も不定期ながら続けて行く予定です。もし2人の冒険を見届けてくれる人がいるのなら、どうぞよろしくお願いします。


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第1話 出逢い 第2節 「もう一つの出逢い」

オルガのタレントアーツは「希望の華」(HPを1にして発動、効果時間中射撃全吸収&死亡時即復活)で間違いないですね


俺達は今、アヴァリティアを探索していた。

どうやらここには宿も店もあるし多くの人が来る。拠点にするにはピッタリすぎる場所だ。

この世界で使える金なんざ今は持ってねえが、働けば何の問題もねえ。幸い、力仕事のできる場所はたくさんある。

なーんて思いながら歩いてると、何処からか声が聞こえてくる。

 

 

 

「えーっ!そんだけぇー!?」

「ムリ言わないでも、これでも上乗せしてあげてるも」

 

何の会話だ?仕事の報酬とか、そういう話か?

不等な取引なんかだったら止めに入りてえところだが…

しっかし、ここではちょくちょく見かけてたが随分とちんまい種族だな。ノポン族とか言ってたっけな、確か。

「軍需物資なら割り増ししてあげるも」

…この世界の奴らも戦争はしてるんだな。こりゃあ中々穏やかじゃねえな。

「休戦してたスペルビアとインヴィディアは、今じゃ開戦準備の真っ最中だから、いくらあっても足りないも」

「スペルビアにインヴィディア…いつか、俺達がどっちかの側に乗ることになったりするかな?」

黙ってたミカが口を開く。

「確かにその可能性はあるが…まだ何とも言えねえな。もしかしたら両方とも俺達の敵って可能性だってある」

そう…かつては無能な指揮官のせいで仲間を失った事もあった。まあ、今じゃ俺も人の事は言えねえのかもしれねえがな。

辿り着くべき場所に行くために…最善の道を行く。それが今の俺に出来ることだ。

「前も言ったろ?俺はそういうのはパス」

「はー 、あんたくらいの腕があったらずんどこ儲かるのにもー。もったいなも、もったいなもー」

…どうやらあの物資を渡してる方の男は戦争だとかに関わってる訳じゃ無さそうだ。一方あのノポンの方は...ありゃ金儲けのこと考えてる目だ。間違いねえ。

そういや、鉄華団も立ち上げてすぐの頃は金に困ってたっけなぁ...懐かしい話だ。

っと、思い出に浸ってるうちに向こうの話が終わったみてえだ。男が受付のノポンに背を向けた。

そんで、どこに向かうのかと思いきや...こっちに来たじゃねえか。まさか聞いてたのがバレたか...?

「あんたたち、見かけない顔だね。名前、なんて言うんだ?」

違った。ただ初めて見る奴に話しかけてきただけだった。

「俺はぁ...鉄華団団長、オルガ・イツカだぞぉ...」

「三日月・オーガス。あんたは?」

聞かれたからにはキチンと名乗る。そんで相手の名前を聞こうと思ったらその前にミカが聞いてやがった。やっぱ考えることは同じだな。

「俺はレックス。この辺りでサルベージャーやってるんだ。それにしても、鉄華団...か...知らない名前だけど、もしかして遠いとこから仕事で来たとか?」

「まあ大体合ってるが...どっちかと言うと仕事探しだな」

遠いところから来た、だから名前も知られてないって事にはしたが、まさかその「遠いところ」が異世界とは思わねえだろうし、言ったところで信じられる筈もねえな。そこは黙っとくか。

「そっか!じゃあ折角だし、俺が案内するよ!ここ色々あるからさ!」

「そいつは助かる、少し探索はしたが、まだ全部は見て回れてねえからな」

ってなわけで、俺達はレックスにアヴァリティアを案内してもらうことになった。

 

「レックス」

「プニンさん。久しぶりー」

ボディーガードみたいなのを連れたノポンがやってきた。レックスの知り合いらしい。

「相変わらずイキがいい...じゃなかった、威勢がいいも」

おいこいつ何が妙なこと言いかけたぞ。実はなんか裏あるんじゃねえのか。

「まあね。で、何の用?新しい仕事?」

...レックスが意にも介してねえってことは、ノポン族ってのはそういう種族ってことなのかもしれねえな。

「そんなとこだも。ところでレックス、お前確かリベラリタス島諸群のイヤサキ村出身だったも?」

「ああそうだけど、それが何か?」

「すぐに会長室へ行ってほしいも、バーン会長がお前のことをお呼びだも」

「会長が...俺を?」




というわけで今回はここまでです。今回オルガの死に所無かったですね。まあまだ平和だし仕方ないです。
あとオルガ達にとって商会って名前はあまりいい思い出無さそうですよね。


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第1話 出逢い 第3節 「久々の仕事依頼」

この作品のミカはコアからメイス作って生身で振り回します



「よく来てくれたも」

プニンっていうノポンに呼ばれ会長室に行くことになったレックス。折角だから俺達も同行することにしたんだが...会長もノポンじゃねえか...。

「アヴァリティア商会会長のバーンだも」

「俺は鉄華団団長、オルガ・イt」

ピギュッ

「偉いっぽい人が喋ってるんだから勝手に喋ったらダメだよオルガ」

名乗られたからつい反射的にこっちも名乗ろうとしたら怒られちまった。すまねぇ。

「あぁ...は、はじめまして」

こっちに一瞬視線を送りながらレックスが挨拶する。

「そこの2人が誰かは知らんけども...レックスはプニンからずいぶんと腕の立つサルベージャーだと聞いているも。それを見込んでちょっと頼みたいことがあるんだも」

「会長自ら、俺に仕事の依頼を!?」

なんだよ...よくわかんねえけどすげえじゃねえか...

「報酬は10万ゴールドだも」

「じ、じゅうまん!?」

この世界に置いての金が1辺りどのくらいの価値なのかは知らねえが、レックスの反応からして大金みてえだ。

「聞いて驚いたも?ちなみにそれは手付け金も。成功報酬は更に10万プラスだも」

「合わせて20万...マ、マジですか...」

「それだけの報酬が出る大仕事なら、成功すれば地位も名誉も全て手に入る...これ以上ないあんたのアガリじゃあねえのか?」

「俺もそう思ってた...やります、このレックス、全身全霊をもって仕事に当たらせていただきます!よろしくお願いします!あはははははは...」

「お前、仕事の内容は聞かなくていいも?」

言われてみりゃ聞いてねえな。内容を聞く前に受けるとか、まるでミカみたいじゃねえか...

「あ、そうだった。で、どんな仕事なんですか?」

「ホントに大丈夫かも?」

「もちろん大丈夫です」

「まあいいも、話は直接聞けも。いれるも」

そうバーンが言うと、秘書っぽい女がドアを開ける。さあてどんな奴が来るのか...とか思ってたんだが。

 

奥から来たのは、まさかのレックスと会う前に会った集団だった。

猫耳をつけた女、黒い鎧の大男、そして...

「なあミカ、やっぱりあいつマクギリスじゃねえのか?」

「違うって言ってたじゃん」

「だが違う人間の中に魂だけ入ってる例も前あったろ。それかもしれねえぞ?」

「あっ、かもね」

俺達がそんな話をしてる間、レックスはというとその入ってきた客人の方をずっと見ていた。俺達の話も聞いてなかったみたいだな。

「ドライバー、それにブレイド!すっげぇ、1日でこんなに見ることになるなんて...」

どうやら俺達がドライバーとブレイドってことになってるのには気づいてたみてえだ。にしちゃあ反応が違う気もするが...まあいいか。

「依頼内容は、ある物資の引き揚げだ。最近の海流変動で発見された未探査海域のかなり深い所に沈んでいる」

マクギリスみたいな男、確か名前はシンとか言ったか。そいつが口を開き、説明を始める。

「へぇ...それは腕がなるね」

レックスの奴、どこか嬉しそうだな。

「ベテランのチームを紹介するって言ったけど、リベラリタスの出身で、少数精鋭の人材をという希望だったも。それで、白羽の矢が立ったのが...お前なんだも」

「へへへ、悪い気はしないな」

嬉しそうなレックスを見てか、ニア、と前に名乗ってた猫耳娘が笑い出す。

「子供のサルベージャー?シン、今回の仕事って子供の遠足も兼ねてるんだっけ?」

早速毒吐いた。前話したときも思ったが中々上から目線だなこいつ。まあ、あのビャッコって奴は根は優しいとか言ってたが...

「何だよ、見た目が子供っぽいのはアンタだって同じだろ?」

「喧嘩か?俺は嫌だな」

「アタシはこれくらいの額でそんなバカみたいに喜んだりしないよ」

「バカみたいってなんだよ!」

「...まあ、いいか」

ミカが2人を止めに入ったが、二人は聞く様子を全く見せない。結局ミカも諦めた。

しかしそこにあいつか止めに入った。そうビャッコだ。

「レックス様でしたな?此度はお嬢様が大変失礼なことを。何卒ご容赦を」

そう言ってビャッコは一礼する。しっかし喋る虎は前にも何回か見たが、どいつも礼儀正しいような気がする。もしかして虎ってそういう生物だったのか?

「ビャッコ!アンタまた余計な口出しを...」

「よせよニア」

さっきまで喋らなかった大男...メツが口を開く。

「ま、気持ちはわからんでもない。そして、確かめるのも容易い...」

そういい終わるとほぼ同時に、腰につけた旋棍を持ち、レックスを攻撃する。

「守んのは俺の仕事だ!...止まるんじゃねえぞ...」

咄嗟に俺は飛び出して、メツの一撃を受ける。そして本日二回目の死を迎えるが、その間にもメツの奴は今度こそとばかりにレックスに攻撃する。

だがレックスも素人という訳じゃないらしく、攻撃をかいくぐって近くにあったジャンクソードを手に取り反撃する。その反撃をメツは受け止め、暫く2人は向かい合う。

「いきなり何するんだ!」

「なるほど...」

メツはどうやら何かに納得したらしい。俺はその犠牲に死んだ訳だが。

「メツ!子供相手に何やってんだよ!あのでっかい人また死んじゃったじゃん!」

「すぐ起き上がったし死んじゃいねえだろ...それに、この小僧じゃ不安だって言ったのはお前だぜ?」

「アタシはそんなこと言ってないよ」

「言わずとも、思っていたろ?で、結果は見ての通りだ。やるじゃねえか、見たところドライバーではなさそうだが。そのアーツ、どこで覚えた?」

「じっちゃんに教わったんだよ、小さい頃から遊びといえばこればっかりだった」

その言葉を聞いたメツは、少しばかり笑みを浮かべた。なに考えてるのやらな。

「腕は申し分ない、度胸もまぁまぁだ。そこのでかい男の方は...まああそこに住み着いてるモンスター相手の盾ぐらいにはなるだろう。ま、しっかり働いてくれ」

少しバカにされた気がするが、どうやら認められたらしい。ってかいつの間にか俺らも行くことになってないかこれ?

「あのもう一人の小僧だけは実力不明だが...まああいつのブレイドだ。計画の邪魔にはならんだろ。」

小声で何か呟いたような気がしたが...さっぱり聞き取れなかった。ミカの方を見たらなんかを疑ってる様な顔してやがるし、妙なことが起きたりしなきゃいいんだが...。

そしてメツとシン、あとブレイドっぽい奴が帰って行く。はー、と言わんばかりの仕草をした後ニアも去っていき、ビャッコも一礼したあとについて行く。

「ももー!何ともやかましい連中だも。手付け金も、これで必要な装備を買い揃えてから右舷の桟橋に行けも、そこで俺の手配したすばらしい船が待ってるも。あと多分あっちはそこの2人も仕事に来るものだと思っているだろうから、まあ頑張るも」

「えっ」

思わず声を漏らしちまった。

「一緒に話聞いてたんだから当たり前じゃん」

ミカの奴はもうやる気ありって顔だ。

「...勘弁してくれよ...」

そういう訳で、俺達のこの世界での初仕事は、「ある物資の引き揚げ」、となった。だが俺もミカもサルベージなんてやったことねえぞ...




次回は準備して出航するぐらいまでになるかと。早く戦闘シーン入りたいし、頑張らないと!


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第1話 出逢い 第4節 「出航」

シンはマクギリスで
メツはグラハムで
ヨシツネはイオク

つまりイーラ勢はガンダム勢


「...というわけだからさ、行ってくるよ。二、三日で帰ってくるから心配しないで」

「というわけだからさ...じゃないわい!そんなわけのわからん仕事を引き受けおって。依頼主の素性もわからんのじゃろ?」

俺達は今、ゴルドムント帰還の港という場所にいる。ここにじっちゃんって奴がいるらしいんでな。仕事に向かうって話をしにきたわけだが...正直俺は、じっちゃんという呼び名を聞いて、それこそおやっさんみたいな人が出てくるのを想像してた。しかし、そもそも人じゃねえどころか、まさか人が住めるサイズの竜がなんて想像できる訳ねえだろ...

んで、このじっちゃんって竜、なんでもレックスの育ての親的存在らしい。本物の親の方は、もう死んじまったとか...つまり俺らと同じってことだ。

まあそうなると当然心配してくるわけだが...

「会長直々の仕事だよ?大丈夫だって。じゃ行ってくる!」

レックス本人はそう言ってさっさとどっかに行っちまった。

「お、おい!待つんじゃレックスー!...そこの人。すまんがレックスのことを頼んでもいいじゃろか...」

「あぁ。仲間を守んのは俺の仕事だ...!あと俺はオルガ・イツカだぞぉ...」

「俺は三日月・オーガス。」

簡潔に自己紹介を済ませた後、俺もレックスを追いかける。

 

 

道に迷いながらもなんとかレックスに追いつくと、レックスはさっきもらった手付け金を人に渡していた。

「ん、何やってたんだ?」

「あぁ、イヤサキ村の皆に仕送り。買いたいものは買ったしね」

「村に仕送りか...すげえよレックス...」

なんでも、毎回サルベージで得た成果を育った村に仕送りしているらしい。見た感じ俺らより年下にも見えるが、随分できた人間じゃねえか...

「じゃ、やることも済んだし港に行こうか!会長の船が待ってるし!」

「あぁ...分かってる。」

 

「ウズシオを出すのかぁ!会長も豪気だなぁ...!」

港の船を見たレックスのテンションが上がる。確かに中々でけぇ船だ。だが俺達鉄華団の船だって...

「この程度の船でナニ感動してんのさ、ほんとに子供なんだから...」

と、張り合おうとした所にニアがやってきた。あれか?自分達の船はもっとすごいぞーってか?いや確かにあれも中々だったがな...

「子供とか大人とか関係ないだろ!この船のすごさがわかんないのかよ?」

「世間知らずはめんどくさいって言ってんの」

「また喧嘩?まあ、いいけど」

「こいつら、会う度に喧嘩しないと気が済まねえのか...?」

ミカも半分呆れ気味だ。まあしょうがねえか。

「同い年ぐらいのクセにえらそうに...あ、そこのロープ踏んづけてると出航の時に巻き込まれて足が千切れるぞー」

「えぇっ」

「う゛ぇっ」

ニアが飛び退く。俺も飛び退く。そりゃ死んでも死なねえって言ったって、足が千切れるのは嫌だぞ!

「嘘だけどー」

「アンタねぇっ!」

「勘弁してくれよ...」

「当たり前じゃん」

レックスがバカにしたような顔で嘘だと言ってのける。

ほんとに焦ったんだぞ...ミカは最初から嘘だと分かってたっぽいが。

「世間知らずはお互い様みたいじゃないか」

ここぞとばかりに煽り返すレックス。なんか...こういうのも悪くねえなって思えてきたぞ。

「出航するぞレックス。別に見送りもいないんだろ?交代で見張りだ。自分の番がくるまで中で休んでろ」

「りょーかい」「あぁ」「うん」

返事をした後、船内に入ることにする。

そして...船は、未探査海域に向かって出航した。

 

 

 

 

※こっからミカ視点

「おーし、そこの見ねえ顔の奴!レックスから聞いたぜ、お前どっかの団長なんだろ、折角だから音頭取ってみろ!」

「よーしお前らぁ!目的地までまだ時間はある、一杯飲んでくぞおっ!」

オルガが叫ぶ。そういえば、前にもこんなこと合ったなぁ。オルガ、酒に弱いんだし前みたいなことにならないといいけど。

「あ、三日月!見張り交代の時間だから、次よろしく!」

見張りに行ってたレックスが降りてきた。宴会を楽しみたいとも思ったけど...まあ、いいか。

 

 

「ん...?あの船、あいつらの乗ってた黒い船だ。何の様でついてきてるんだ...?」

見張りの仕事をしてたら、チョコの人みたいな人が乗ってた黒い船が見えた。会長室にいたときのメツとかいう奴の発言といい、怪しいとこが多いな...ブレイドは自分で武器を出せるらしいし、後でそのやり方聞いとかないと。

「何だよ...結構寒いじゃんか...。」

「オルガ?」

「ちげえよ!私だよ!ニ!ア!」

「なんだ。オルガみたいなこと言うから...あ、寒いならコート貸すよ」

「あ、ありがと」

オルガがよく言ってる言葉に似た言葉が聞こえてきたかと思ったら、二アが当番でもないのに来ていた。

「下で酒盛りが始まったのはアンタも知ってるだろ、だからちょっと付き合え」

「降りてこいってこと?」

「逆だよ逆。酔っ払いは嫌いなんだよアタシ」

「ふーん...」

1人で見張りしてた方が、仕事には集中できるけど...まあ、いいか。

「な、なあ三日月。ちょっと聞いていいか?」

「別にいいけど?何の話?」

「あのオルガって奴が言ってた...テッカダン?って何なんだ?アルストでそんな名前、聞いたことないし」

「...そりゃそうでしょ。俺達、この世界の出身じゃないし」

「は?」

「俺とオルガはここじゃない元いた世界で一度、死んだ。だけど目が覚めたら...別の世界にいたんだ。そしてそこで色んな問題とか解決してたら...ある日また別の世界に飛ばされて。ずっとそんな感じ。鉄華団は、最初の世界でオルガが作ってくれた、家族みたいな物」

「へ、へぇ...」

「やっぱ信じれない?」

「いや、アンタ達がこの世界のことを全然知らない理由、納得したよ」

納得してくれたみたいだ。じゃあこっちも聞きたかったこと聞こうかな。

「ねえ、ブレイドってどうやって武器作るの?知っておきたいんだけど」

「えっと、コアクリスタルから発生させるだけだけで作れるよ」

「わかった」

早速言われたようにやってみると、バルバトスの武器として使っていたレンチメイスが出てきた。

阿頼耶識で感覚はだいたい掴んでるけど、生身で振り回すのは初めてだし、見張りもしつつ練習しとかないと。

「わ!いきなり振り回すなよ、危ないな...」

「あぁ、ごめん」

「別にいいけど...なぁ、アンタはそこまでして戦いに備えてないといけない理由でもあるのか?」

予想してない質問がきた。別に答えない理由もないし、答えとくか。

「オルガの邪魔をする奴をぶっ潰す為だ。オルガは俺に色んなものを見せてくれる。見せようとしてくれる。だからその邪魔をする奴を潰すんだ。それに、オルガは俺に命をくれたんだ。だから、この命はオルガの為に使わなきゃいけないんだ...」

「へぇ...アンタ凄いな」

「別に?普通でしょ」

「いや...人間ってもっと自分勝手な生き物だと思ってたよ」

「...なんかあったの?」

「まあね。でも、人にするような話じゃないし、黙っとく」

「...ふーん」

よくわかんないけど、まあどうでもいいし別にいいや。

そんなことより、早くこの戦い方に慣れないと。




オルガの死に所さんが無さすぎる


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第1話 出逢い 第5節 「滅と三日月」

とある方に文章倍ねって言われたので倍にしました


「現地到着、各作業員は持ち場に着け!サルベージャーは装備を整えてハッチに集合!」

艦内放送の声が響き渡る。とうとうこの時が来やがったか!

サルベージは初だが...ま、スーツは貸してもらえたし何回か深海探索の経験はある、どうにかなるだろ...いや、してみせる。

言われた通りにハッチに集まると、サルベージスーツに身を包んだレックスやミカ、他のサルベージャーが集まっている。

「目標の物資は深度450の沈没船の中だ。雲海中に没したままの船内を探索するのは困難なので、フロートとクレーンでまずは船内自体を引き揚げる。そののちに各班に分かれ船内を探索。目標を発見次第、回収作業を開始する。では、まずはフロートの取り付け作業からだ、配置に付け!」

隊長のおっさんの説明を聞いて若干ほっとした。フロートってのを取り付けるだけでいいんならどうにかなりそうだ。

「高い金払ってんだから、しっかりやれよー」

上の方からニアの声が飛んでくる。言われなくたってやってやらぁ!

「よーしミカ!俺達鉄華団のこの世界での初仕事だ!気引き締めていくぞ!」

「当たり前じゃん」

ってわけで甲板にでて、雲海へ飛び込む。

この雲海ってのは見た目は雲と同じようなもんだがら、最初は飛び降りたら確実に死ぬぞ!確実にな...って思ってたんだが、中に入ってみるとどっちかと言うと海に近かったんで安心したぜ。

海に潜った俺達は、早速指示通りにフロートってのを取り付けるんだが...あの沈没船、随分古びてんな。何年前のもんだ...?

とか思ってると、クレーンの方が降りてくる。よーし、じゃあこっちも始めるか!

他の奴のを見様見真似でやってみるか...ん、あれ、ここどうやんだこれ。

手こずってる俺を見かねたのか、レックスがこっちにくる。自分の担当のところは終わらせてきたらしい。

手伝ってもらって無事終わらせれたが...そういやミカはどこいったんだ?あいつの担当場所は分かってんだがもういないし...ってことはもうとっくに終わらせてんのか。やっぱすげえよミカは...

ってあれ、レックスの奴いつの間にかいねえな。よく見たら他の奴もいな...

ボンッ

「ヴァァァァァァァァァア!?」

...なるほどな。フロートがもうすぐ膨らむから離れたって訳か。俺は見事にそれに巻き込まれ、ぶつかった衝撃で一瞬死体と化した。すぐに復活し、俺も浮上する。

その頃には引き揚げ作業も終わっており、沈没船が姿を見せていた。

「見事な手際だった、なかなかやるじゃない」

「本業をなめるなって。...まあ、本業じゃない人もいるけど」

甲板に戻ると、ニアとレックスが話していた。その節は迷惑かけたな...

「各班、準備のできた者から進入開始」

おっさんの一声で、探索員が船に突入する。

「さて、俺達も行くか」

メツがそう言い、シンと共に船に向かう。かと思いきやシンの方が急にレックスの方を向き...

「お前も来い」

どうやらレックスにも来て貰いたいらしい。なんか役目でもあんのか...?

「こいつも連れて行くっていうの?シン」

「お前らだけじゃ不安だとよ。ハッハッハ!」

ニアの疑問にメツが代わりに答える。どうやら俺らだけの班じゃ不安ってだけらしい。

「何ボーッとしてんの?言われたろ、ついてくるんだよ」

ニアとレックスもシンたちの後をついていく。

「じゃあ...行くかぁ!」

「俺もいくぞぉ!」

ミカと俺もその後をついていく。ついてこいとは言われてないがまあいいだろ。

 

船内に入るための道を歩いていると...船内に住み着いてたらしきモンスター──キングリター・シースって言うらしい──が出てくる。

「ヴァァァァァァァァァア!」

早速拳銃で応戦するが...あれ、あんま効いてねえなあれ。

そしてモンスターの怒りを買ったのか...思いっきりその前足でぶん殴られ、死んだ。

「何やってんのあいつ...まあいいや、ドライバーの力見せてやる!」

そう言ったニアが攻撃の構えをとった次の瞬間だった。

「邪魔だな、お前...消えろよ...!」

ミカがどっから取り出したのか、バルバトスの武器であるレンチメイスで叩き潰す。そういや、ブレイドは自分で武器を作れるんだったか...

一気に恐怖が込み上げてきたのか、モンスターが逃げの姿勢を見せた瞬間...

「逃がす訳無いだろ。どうせまた出てきてオルガの邪魔をする」

即座にその背中に乗り、レンチメイスの先端を開いて胴体を挟み込み、押し潰す。

「うっわぁ...えげつなっ」

ニアが思わず声を漏らす。

「ほぉ...三日月・オーガス、正直舐めてたが...あいつ、中々やるじゃねえか。それに...いい目をしてるな」

メツの奴もこの感想だ。へっ、あいつは鉄華団遊撃隊長、ミカだぞぉ...あのぐらいどうってことはねえ...

「すげぇ...ドライバーとの協力無しであんなに強いブレイド見たことねえ...」

「全く、どっちがモンスターなんだか...」

ミカの戦いを見てた奴らが戦いの感想を言う。ま、ミカはモンスターっていうか悪魔だけどな。鉄華団の悪魔...それが俺達のかつての敵がミカにつけた通り名だ。

「やっぱブレイドは頼りになるなぁ」

「あんな雑魚が相手だったとはいえ...一方的だったな、アンタの戦い」

「別に?普通でしょ」

レックスとニアの誉め言葉もさらっと流す。

さて、じゃあ敵も片づいたし、船に入るか!

 

「あのクラスのバケモノを簡単に...あの三日月とかいう男、只者じゃあないも。他の奴もきっと相当の実力者...スペルビアでの大事業も順調だし、こいつは...いい金づる見つけたも」

ミカの一方的な蹂躙の映像を見て笑みを浮かべていたのは...アヴァリティア商会会長、バーンだった。

 

 

 

 

「随分進んできたな...」

船内に入ってからも、何度かモンスターに遭遇した。まあ、その度にミカが叩き潰してたんだがな...他の奴らが武器を使ったのなんて、敵が複数で同時に出てきたときぐらいだ。しかし生身でメイスを使うのは初めてのはずなんだがなあいつ...ほんとにすげえよミカは...

 

「見ろよシン。あの紋章、アデルの紋章だ」

メツが塞がれた扉を見て言う。ってかアデルって誰だよ...?

「アデルの紋章って...何のことだ?」

レックスもよく知らない名前らしい。

「おい...その扉を開けろ」

急にシンが口を開く。レックスに言ってるみたいだが...そんな事が出来るのか?

「この扉は”お前達”でなくては開かん」

どうやら出来るらしいが...どういう意味だ?実はレックスはすげぇ力を持ってんのか?正直ピンと来ませんねぇ...って言いたい気分だ。

「オレ達でなくてはって...どういう意味だよ」

「いいから早くやれ、こっちは大金払ってんだぜ」

...説明する気はないらしい。まじでわかんねえことだらけだな...

「どうやって開けるのかな...これか...?」

レックスがアデルの紋章とやらに手を触れると、紋章が青く光り、扉が開く。

よし、じゃあ俺もいkヴァァァァァァァァァア!?

なんだ!?急に足がビリって死んだぞ!

「やはりか...」

シンが呟く。やはりってなんだ!じゃあ止めてくれよ!

「奥にもう一つ扉がある、開いてこい」

俺の死には目もくれずレックスに指示する。つまり全部の扉が開くまで消えねえ罠か...なんだよ...結構ひでえ罠じゃねえか...

 

先に進むと、赤い剣が突き刺さっていた。その奥には、ポッドみてえなもんの中に女が入ってた。

...あの女、中々過激な格好してやがるな。正直ぼっ

「駄目だよオルガ」

「...当然のように心読むんじゃねえぞ...」

なんてこと話してると、赤い剣が緑色に光り出す。

一番剣の近くにいるレックスはそれに圧倒されてるみてえだ。

「間違いない、天の聖杯だ」

シンが目当てのものを見つけたかのように喋る。どうやらあれが例の物資ってやつだったらしい。

しかし...どうみても人にしかみえねえんだが、天の聖杯ってまるで物みてえな言い方だな...

一方レックスの方はと言うと、赤い剣に手を伸ばしていた。

「チッ、小僧ぉ!そいつに触るんじゃねぇ!」

メツが咄嗟に叫ぶ。触られちゃ不味い何かでもあんのか...?

しかし時すでに遅く、レックスはもう剣に触れていた。

それを見たがシンは背中の剣に手をかけ、瞬間移動した。いや誇張表現でもなんでもなく、まじで瞬間移動だった。そう思うくらいの速さでレックスの後ろに移動し...レックスの心臓を刺し貫いた。そして、赤い剣も粉々に砕いた。

...いやちょっと待て!レックスは死んでいいやつでもなければ俺みたいに死んでも大丈夫なやつでもねぇぞ!!

「何やってんだシン!!何のつもりだあんた!!」

「なぜ殺した!レックスが何をしたって言うんだ!」

俺と二アが全力で抗議する。仲間殺しといっても過言じゃねえ行為だ。許すわけにはいかねぇよなぁ!

「せめてもの情けだ。この先の世界を見ずとも済むようにな...」

「正直ピンと来ませんねぇ。ただの言い訳じゃねえのかそれは!」

「余計な手間を...お前が知る必要はねえよ!」

シンの訳わかんねえ言い分に怒りをぶつけてると、メツの奴にぶっ飛ばされた。勿論死んだ。

ってあれ...いつもならすぐに起きあがれるんだが...何でだ...今回に限って...くそっ...

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯を運び出すぞ。ニア!モノケロスを呼べ」

そう言ったメツは、女の子の入ったポッドを担ぎ上げてさっさと立ち去ろうとする。

俺はオルガとレックスの方に向かった。呼びかけてみたりしたけど、起きあがる気配はない。

オルガが異世界で死んですぐに起きないのは珍しい。あいつらが何か妙な真似を...?

とにかく今は...あいつらを追いかけるのが先だな。オルガならきっと無事だ。それより...レックスの敵を討つとしよう。

 

 

あいつらの通った道を辿っていくと、甲板まで戻ってきた。

どうやらあいつら、他の乗組員を皆殺しにするつもりらしい。

まあ...させる訳ないけど。

パンパンパンパン!

距離が離れてたから拳銃で攻撃した。けどそう上手くはいかないのか、有効打にはならなかった。

「チッ、てめぇは...三日月・オーガス!邪魔しにきやがったか!」

「当たり前じゃん」

「...いいぜ、相手になってやる!おいザンテツ、聖杯は預けるぞ!」

「わかったぜ!」

ザンテツって呼ばれた、さっきからずっとメツの横にいたブレイドが女の子入りのポッドを預かる。そういえばあいつの名前初めて聞いたな...まぁ、どうせすぐに消える名前だ。どうだっていい。

さっきまでモンスターにそうしてきたように、メイスを構え、相手を叩き潰そうとする。

けど、そう上手くいかないみたいだな。メツの方も旋棍で受け止めてくる。

「お前の戦い方はさっきまで見てたからなぁ。頼んでもねえのに見せつけてくれたお陰で、今助かってるぜぇ!」

「あっそ」

メツが煽ってくる。だったら...見せてない武器を使いたいとこだけど...。

そう思ってると、急に左腕にワイヤークローが出現する。確かバルバトスの武装だけど...これもブレイドになった影響なのかな...まあいいや。

「これで...殺しきる」

ワイヤークローをメツの腕に巻き付けて捕まえ、引き寄せる。その勢いが死なない内に、メイスを叩き込む。

「がぁっ!チッ...やってくれるじゃあねえか!三日月ぃ!」

「へぇ...まだ生きてる。しぶとい奴だな...」

バルバトスを使って一気に蹴りをつけたいけど、周りの人はまだ逃げ切れてないし、巻き込んで殺しちゃうかもしれないからな...周りの人は殺さないようにってなると、バルバトスを使うのは難しいな。それに、そもそもこの世界でバルバトスが使えるかどうかもわからない。

だったらやっぱり...このままやるしかない。

そう思いながら、メイスの横降りを思いっきり叩き込む。

「いいねぇその目...人の本性剥き出しの目だ」

「はぁ?」

メツが俺の攻撃を受け止めながら意味の分からないことを言い出す。

「人間ってのは破壊したがってるんだ。誰だって何かを破壊したがってる。お前だって...楽しんでるだろ、命を奪う事をなぁ!」

「似たような台詞、前も別の奴に言われたんだけど...っ!」

「ならそれがぁ!お前の本性って事だろう!」

「知らないよそんな事...それに、死んでいい奴を殺すのに加減なんて、いらない」

その言葉通り、加減無しの攻撃を叩き込み続ける。

こうしていれば、いつかはこいつを壊せる筈だ。

「おいおい...俺を忘れてねぇか、よっと!」

「っ!」

後ろから誰かの攻撃が来た。...ザンテツだ。ポッドの方は...一旦下ろしたみたいだな。

「おいザンテツ、助けなんざ求めちゃいねぇぜ?」

「メツにしちゃあ手こずってる様に見えたんでね。加勢するぜ」

「敵が増えた...面倒だな」

ブレイドはドライバーを殺せばコアに戻る。それは分かってるんだから、叩き潰すべき相手は変わらないけど...

「喰らいなっ!」

「っ...!」

メツがアーツを放ってくる。あれ、さっきより攻撃が重くなった...?

「あえて教えてやるぜ三日月、ドライバーってのはブレイドから力を送ってもらうことで、より力を発揮できるのさ!もうお前に勝ち目はねぇ!」

「それを決めるのはお前じゃないんだよ...!」

とは言っても状況が不利なのに変わりはない。どうしようか...って思ってると。

パン!パンパンッ!

「なっ!誰だ!」

銃弾が飛んできた。その発射源の方を見ると...

「俺か?俺は鉄華団団長...オルガ・イツカだぞ...!」

オルガがいた。よかった、やっぱり生きてたみたいだ。

「なんだと...あいつは確かにシンが殺った筈...チッ!ニアがあいつが死んだと言ってたのは冗談じゃなかったって訳か!」

「そういうことだ。さて...レックスを殺した件の落とし前、きっちりつけてもらうぜ?」

「調子に乗るんじゃねぇ...!何度でも蘇るってんなら、蘇る気もなくなるくらいいたぶってやらぁ!」

ドライバーとブレイドが揃った。これで条件は対等だ。

 

 

「さぁ...反撃開始と行こうかぁ!!」




ようやく戦闘シーンですね。ちなみにオルガがどうしてしばらく寝てたのかとかは次回に回します


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第1話 出逢い 第6節 「反撃開始」

希望の華以外を技名にしても別に問題ないのだろう?


時はオルガが三日月と合流する、数分前...

 

 

 

 

 

 

「どこだ、ここ」

 

俺は目が覚めると、やけに広い草原にいた。

空は一面晴天で、ところどころ木も生えてる。

そして絶えず、鐘の音が鳴っている。

レックスも一緒に来てるみてえだ。死後の世界、ってやつか?

だったらとっとと戻らねえとな...レックスはともかく俺は...ん?丘の上の木の陰に人がいるな。ありゃあ...天の聖杯とか呼ばれてた...

 

「さっきの女じゃねえか...」

「みたいだね...取り敢えず、話しかけてみる?」

「そうすっか」

 

俺達は早速その女に話しかけにいく事にした。

 

「あ、あの...」

「...哀しい音...」

「えっ?」

「止まないの、ずっと、ずっと昔から...」

 

レックスが話しかけてみると、女は鐘の音の話をしだした。なんかあったのか...?

 

「止まないって...この鐘の音?法王庁(アーケディア)でも近くにきているのかな。ねえ、ここって...」

「ここは...楽園。遥かな昔、人と神とが共に暮らしていた場所...そして...”私達”の故郷」

 

楽園...そういや、ウズシオに乗ってるときにレックスから聞いたっけな。なんでも、昔はその楽園に人間が住んでたんだが、神に追い出されたって伝説があるらしい。

住む場所を失った人間を見て流石に気の毒になった神が、巨神獣(アルス)って生物を遣わして、人間がその背中とかで暮らすようになったんだと。だが、その巨神獣(アルス)も寿命で死んだりして数が減ってるらしい。だからレックスは、伝説の楽園を見つけだせれば...って考えてたそうだ。

 

「え、嘘!ここが...」

「いい景色じゃねえか...」

 

青空の下、でっかい草原を見下ろせる丘。こんな場所で、団員の皆と馬鹿笑いするのも、いいかもしれねぇな...。

 

「ってそれ、コアクリスタル。君は...ブレイド?」

 

一方レックスの方は、女と話していた。どうやら服の緑色の飾りはコアクリスタルだったらしい。

 

「私の名前はホムラ」

「え?あっ、オ、オレは...」

「知ってます。レックス、でしょ?そしてそちらの人はオルガ」

「なんだよ...自己紹介いらねぇじゃねえか...」

 

いつものあれをやろうと思ったら、どうやら名前は知られてたらしい。いつの間に...?

 

「どうしてオレ達の名前を?」

「さっき、私に触れてくれた時に」

「さっき...」

 

あの赤い剣にレックスが触った時か。まあ、俺は触ってねえけどな...

 

「あれ?そういえばオレ、何でこんな所に...」

「死んだからだぞぉ...俺はこんぐれえ何て事はねえがな」

「その通りです。あなた達は...死んだ。シンに胸を刺し貫かれて...」

「シン?胸を...?」

 

段々思い出してきたのか、レックスの顔が青さめてくる。まあ死になれてる俺はまだしも、普通自分が死んだの思い出したらそうなるよな...

 

「思い出した...俺達はあいつに...大変だ!皆が!このままじゃ商会の皆が!」

 

そう言ってレックスは走り出すが、すぐに頭を抱えて止まる。

 

「だめだぁっ!オレ死んでるんだったぁ...くっそぉ!死んでさえいなきゃあんな奴...」

 

真っ先に人の心配をするのはいいが、肝心なこと忘れんじゃねぇぞ...

ここは俺とミカに任せとけ。さっきはすぐに復活できなかったが、それは多分ここに来るためだ。ならもう行ける筈だ!

早速戻ろうとすると、ホムラが何か決めたような顔で俺達に近付いてくる。

 

「レックス、オルガ、お願いがあります。私を、楽園に連れて行って」

「楽園...って、ここじゃないの?」

「そうだぞ...さっき自分で言ってたじゃねぇか...」

 

突然の正直ピンと来ない申し出に、俺達は疑問をぶつける。

 

「ここは記憶の世界。遠い、遠い私達の記憶の世界。本当の楽園は、あなた達の世界...アルストの中心に立つ、世界樹の上にあります」

「記憶?まぼろしみたいなもんか...でも無理だよ、オレ死んじゃったんだろ?君の手助けはできそうもない」

 

そうだそホムラ...レックスは一般人だぞぉ...俺とはちげぇぞぉ...

 

「私の命を半分あげます。そうすればあなたは生き返る。私の...天の聖杯のドライバーとして」

「天の聖杯の...ドライバー...そ、それって」

「どうします?レックス」

 

命を半分やるだと...?そんな事が出来るとか、すげぇよホムラは...

 

「ここはホムラの故郷なんだよね?」

「えぇ」

「本当に、ある?」

「レックス、あなたの考えていることはわかります。ここに来れば、アルストの運命...死にゆく大地の呪縛から、解き放たれる」

「もう、未来に怯えなくて、済む...なら答えは決まってる!」

 

どうやら、その楽園ってのが俺達の辿り着く場所らしいな。なら...やってやる!

 

「あぁ分かったよ!連れてってやるよ!この先どんな地獄が待っていようと...お前を!俺達が連れてってやるよ!そうだろレックス!」

「ああ、オレも同じ気持ち!行こう、楽園へ!オレ達がホムラを連れていってやる!」

「ありがとう。レックス、オルガ」

 

気持ちは一つだ。なら俺達にやれねぇ訳がねぇ!

 

「じゃあ、俺は先に行く。お前も、ホムラから命分けてもらったらすぐ来いよ!」

「分かってる!すぐ追いつく!」

 

そして...俺は、ホムラの記憶の世界を後にした。

 

 

 

「ねぇ、オルガ。ブレイドの武器をドライバーが持って、ブレイドは力を送ってた方がいいらしいけど...俺はどうしたらいい?」

「じゃあ俺が武器を使うぜミカ。補助は任せたぞ!」

「あぁ...任され、たっ!」

 

ミカのメイスを手にした俺は、メツとザンテツに挑む。

少し重いが...俺だって戦えるって、教えてやらぁ!

 

「こいつ...すぐ死ぬくせに、やるじゃねぇか...!」

「俺は鉄華団団長、オルガ・イツカだぞぉ...こんぐれえ何てことはねぇ...!」

「チッ...復活のアーツといい、面倒な奴だな!だが...幾ら不死身でも、海に沈められちゃあ戻ってこれねぇよなぁ!」

 

そう叫んだメツは、旋棍の横振りで俺を船の外に落とそうとしてきやがった。だがそんなもん、当たらなきゃ問題ないんだぜ!

 

「見せてやろうぜミカァ!俺達がただのガキじゃねえってな!」

「うん、分かってる」

 

声の掛け合いの後に、俺はミカにメイスを投げ渡す。

返ってきたメイスを使って、ミカは一撃、二撃と打ち込んだ後に、思いっきりメツを打ち上げる。

そして、ミカが上に放り投げたメイスを俺が掴んで、とびっきりの一撃を叩きつけてやる!

 

「喰らいやがれぇっ!レイジオブ...ダストォッ!」

 

メツが甲板に叩きつけられる。なんだよ...初めての連携でも結構うまくいくじゃねぇか...とっさに技名まで付けちまったぞ...

 

「あいつら...ブレイドも知らない異世界人なのに...凄い...」

 

俺達の戦いを離れて見てた二アも呆気にとられてるみたいだ。てかいつそれ知ったんだ。ミカが話したか...?

何にせよ、これで俺らの勝ちだ。よかったぜ...

 

「...オルガ、伏せて!」

「え?」

 

ミカが叫んだ直後、エネルギー弾みてえなのが飛んでくる。当然俺に直撃し、俺は死んだ。

 

「油断するんじゃねぇぞ、俺...」

「オルガ...まぁ、いいか」

 

まあやられたのが俺でよかったがよ...まさかまだ立ち上がるのかあいつ...?

 

「そろそろ消えてもらうぜ、お前らぁ!」

「なんだよ...結構ピンピンしてるじゃねぇか...」

 

メツはそこまで傷を負ってる様にも見えなかった。このままじゃまずいな...

メツは一瞬で距離を詰めて、俺を狙ってくる。

その上さっきのお返しとばかりにザンテツと連携してきやがる。

 

「そろそろ終わりにしてやるぜ、オルガァ!」

「こんな所じゃ、終われねぇ...っ!」

 

俺は約束したんだ、ホムラを楽園に連れてってやると!

だから、こんな所で止まれねぇ!止まるわけにはいかねぇんだ!

 

「だろ、レックスッ!」

 

俺の叫びに答えるように、メツの足元が赤く染まる。

熱で、鉄が溶けていく。

そして...!

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

炎の竜巻と共に、レックスが現れる。

それとほぼ同時に、ホムラの入ったポッドが燃え始め、中からホムラが出てくる。

レックスの復活と同時に、ホムラも目覚めたって訳だな!

 

「小僧...その剣、まさか!」

「いきなり後ろからとは卑怯じゃないか...それが大人のすることかよぉ!...ホムラ!」

「はい!」

「いくよっ!」

「はいっ!」

 

メツとシンに向かって、レックスが剣を構える。

よく見たら、ホムラのコアクリスタルに似たのがレックスにも新しく付いてやがる。緑色に光り輝いて、結構かっこいいじゃねぇか...

 

「まあいい。何人増えようと俺達が相手をしてやるぜ。シンの力をそうホイホイ使わせるわけにもいかねぇからな」

「来いよ、天の聖杯ぃ!」

 

焦りを全く見せることもねぇが...俺にミカにレックスにホムラだ。こんだけいて負けるはずがねぇ!

さぁ、俺達もいくぞぉ!

 

「やめなよメツ!相手は子供じゃないか!」

「子供だぁ?冗談はよしな!こいつは...とっくに天の聖杯のドライバーだっ!」

 

ニアが止めに入ろうとするが、聞く耳を持たずにレックスと武器を打ち合うメツ。

そして剣を手足のように振るい、メツと戦うレックス。

だが流石に実力差があるのか、レックスがメツの蹴りで吹っ飛ばされる。

それに追撃を加えるべく、メツがザンテツに旋棍を投げ渡す。

 

「くらえっ」

 

それを受け取ったザンテツが斬撃を放つ。

 

「守んのは俺の仕事だ!」

 

とっさに俺は飛び出していき、その攻撃を受ける。

でっけぇ爆発が起きたが、どうってことはねぇ!

 

「ありがとうオルガ!」

「気にすんじゃねぇよ!こっから持ち返すぞ!」

「ああっ!」

 

レックスはホムラと共に、メツとザンテツに向かっていく。その間もザンテツは斬撃を放ってきたが...全部軌道が逸れてこっちに来やがった。無論...避けきれず、死んだ。

 

「足を止めるんじゃねえぞレックス...」

「何だと...!?おいザンテツ、しっかり狙ってるか!」

「当然だ!だがあいつに全部吸われた...どうなってやがんだ!」

 

そういや忘れてたぜ...俺にはそういう力があるってな!

 

「余所見なんて、随分余裕そうじゃないか!」

 

メツ達が驚いている隙をついてレックスが斬りかかる。

 

「皆、今のうちに!早く!」

 

剣を降り続けながら叫ぶレックス。

その声を聞いて、乗組員達がウズシオに戻っていった。

そういやあいつら、ずっと戦いをみてたのか...中々度胸あるじゃねえか...

 

「メツ、受け取れっ!」

「逃がすかよぉ!」

 

メツが後ろに飛び退きながらザンテツから旋棍を受け取る。そして高いところからエネルギー弾で逃げた乗組員を狙い撃とうとしてやがる。

だがな...それは俺がいる限り当たらねぇぞ!

放たれたエネルギー弾は、当然俺のところにくる。俺は死ぬが、それで皆が守れんなら安いもんだ!

 

「またか...ほんとに厄介な野郎だな!」

「オレ達を忘れんなよ!」

 

レックスとホムラが飛び上がり、一緒に剣を構える。ありゃあでっかいのぶちかます気だな!

よーし!お前らの一撃、あいつに叩きつけてやれ!

 

「「バーニングゥ...ソードォッ!」」

 

炎を纏わせた剣が直撃し、大爆発が起きた。だがメツは...それを受け止めたみたいだな。

 

「小僧...なんでお前如きが...と、言いたいところだが。その瞳の色、もっと注意しておくべきだったな」

「何のことだっ!」

「教えねぇよっ!」

 

鍔迫り合いしながらなんか喋ってるが...遠くてよく聞こえねえ。瞳の色とかなんとか言ってる気がするが...

っと、メツが反撃して、レックスとホムラが飛び退いた。こりゃ休んでもいられねぇな。

ウズシオも遠くに離れたみたいだ。存分に暴れられるなミカァ!

 

「...バルバトス、呼べないみたい」

「何!?珍しいこともあるもんだな...まあ、何の問題もねぇよ!」

 

どうやらバルバトスで瞬殺ってわけにはいかないらしい。だが、今の調子のまま行けば確実にやれる!

 

「行くぞお前らぁ!」

「うん」「ああっ!」「はいっ!」




多分次回で一話終わります
多分


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第1話 出逢い 第7節 「聖杯の目覚め」

中途半端なところで終わるわけにもいかないので文字数少な目になりました()


「やるじゃねぇか、天の聖杯をそこまで扱えるとはな...」

 

レックスとホムラの攻撃の影響で、古代船は所々燃えている。

俺もレックス達の攻撃の余波に巻き込まれながらも、メツに攻撃を浴びせてる。ミカとの連携だって上々の出来だ。一方あのシンって奴は全然動く気配がないが...そんなに力を使っちゃいけねえ理由ってなんなんだ...?

レックスが剣を構えて突撃し、大きく振りかぶる。しかし...

 

「けどな...調子に乗るなよ、小僧!」

 

メツはそれを受け止め、逆にレックスの腹に思いっきり拳を叩き込んだ後に、投げ飛ばす。

 

「「レックス!」」

 

俺とホムラの声が重なる。だがザンテツの妨害が邪魔で中々助けにいけねえ。

 

「ビャッコ!」

「承知!」

 

メツがレックスに追撃するために走り出したのに合わせ、今まで見てるだけだったニアがビャッコに乗る。あいつも追撃に加わる気か...?そう思ったんだが。

 

「はぁっ!」

「何っ」

 

ビャッコが口から水の渦みたいなもんを放って足止めする。ザンテツが守りに入ったから大したダメージにはならなかったが、おかげで俺達も自由に動けるようになった。

ビャッコとニアは、倒れてるレックスを守るように立つ。

 

「何で邪魔をする?頭いかれてんのかニアァ!」

「いかれてんのはそっちだろ!?子供相手に!」

「お前...自分の立ち位置わかってんのか?」

「わかってるよ!けどね...」

「めんどうくせぇぞ、ニア!」

 

メツの奴、中々お怒りの様だな。まあ味方だと思ってる奴に邪魔されたんなら当然なのかもしれねぇが...ん?こっちに来て、どうしたミカ?

 

「返してもらうよ、これ。...頭がいかれてる、だって?俺の仲間を馬鹿にしないで」

 

ミカ、俺からメイスを半ば強引に奪って突撃していきやがった。相変わらず仲間想いのいい奴だなお前は。

...目が殺る気に満ちてやがる様に見えるのは気のせいだよな?怖ぇよミカ...

 

「これでっ!」

「もうそれは喰らわねぇよ!」

 

ミカが腕からバルバトスの武装のはずのワイヤークローを飛ばすが、メツは後ろに飛び退いてそれを避ける。ってかいつの間にそんなもん身につけたんだミカァ!

 

「はぁぁぁっ!」

 

ホムラが倒れたレックスの側に落ちていた剣を手にし、メツに切りかかる。メツはそれを受け止めたが、即座にホムラは空中でバック宙しながら後ろに退く。その着地の隙を狙ってメツが突っ込むが、そんな隙などないとばかりにメツの激しい連続攻撃に対応してみせる。

メツの攻撃を弾きつつ、時々反撃を織り交ぜる。

その反撃をメツも避けてみせ、攻撃の方法を回転斬りに切り替える。

ホムラもホムラで、それを避けきった後に炎を放って攻撃する。

そんなもん通じるかとばかりに防いでみせるメツだが、ホムラの狙いは炎を浴びせることじゃあねえみてえで、その炎の中から現れて奇襲を仕掛ける。しかしメツは、それさえも受け止める。なんだよ...俺達の混ざる隙ねえじゃねえか...

 

「寝起きにしちゃあいい太刀筋してるじゃねぇか。思い出すぜ、500年前を。"その姿"どういうつもりだ?やはり目指すか?楽園を?」

「それが!"私達"の望みです!」

「なら、させるわけにはいかねぇなっ!」

 

なんか意味深な会話してやがる。ってか、500年前ってどういうことだ!?厄祭戦よりも前じゃねえか!随分長生きだな...

色々考えてる間に、いつの間にかレックスも起き上がっていた。一応無事だったみたいで何よりだ。

 

ズズズズズ...

 

...と、そこに突然雲海からの浮上物。いや船だ。

ありゃあ...港に止まってたメツ達の船だな。そういえばミカがついてきてたって言ってたな...って!なんか砲門が出てきたぞ!?しかもいきなり撃ってきやがった!

 

「ホムラ、危ない!」

「させる訳ねえだろ!」

 

俺は咄嗟に飛び出し、砲撃を受け止めた。

辺りは爆風に包まれたし、俺は死んだが...何、他の奴が無事ならそれでいい!

 

「ホムラ、大丈夫?」

「ええ、私は」

「よかった、オルガは?」

「こんぐらいどうってことはねえ...!」

「そっか、ホムラを守ってくれてありがとな!」

 

レックスに感謝されたが、俺からしてみれば心配してくれることの方がよっぽどありがてぇぞぉ!なんせ今までの世界じゃ基本扱いがぞんざいだったからな!

 

ガシャンッ!

 

しかし、そんな俺らの気持ちなんて気にしねえとばかりに他の砲門がこっちを向く。まずいな...あんだけきたら直接のダメージはなくとも爆風で巻き込みかねないな。

 

「やめろぉっ!」

 

今度はさっきの俺みたいにニアとビャッコが飛び出してくる。そしてビャッコがバリアを作り出し、攻撃を止める。しかし数が多すぎる上、俺みたいにいくらでも耐えれる訳じゃねえ。やがて耐えきれずに、バリアを砕かれて爆風で飛ばされる。

 

「ニアッ!」

 

すぐさまレックスが走り出し、雲海に落ち掛けたニアの腕を掴む。そして上を向いてアンカーを発射し、壁にぶっさした。全く、ヒヤヒヤさせやがるな...

 

「しぶといな小僧、だがそれもここまでだぁ!」

 

メツの声と共に、砲門が方向調整を始める。

 

「させる訳ないだろ」

 

ミカがメイスを思い切ってぶん投げる。投げられたらメイスは二カ所ある砲門の片方に直撃して破壊したが、まだもう片方が残ってる。

 

「間に合うか...いや、間に合わせる」

 

コアから次のメイスを発生させるミカ。そして投げようとしたその瞬間、空から火球が飛んできて、砲撃を止める。

その火球を放った者がこっちに向かって飛んでくる。ん?あれって...

 

「じっちゃん!」

 

レックスが叫ぶ。やっぱりあいつだったか!

さしずめ心配から追いかけてきてくれたってとこか?

じーさんはレックスの声に頷いた後、空高く舞い上がる。

 

「シンよ...お前はまだ...そしてあれは...メツか!」

 

じーさんの声が聞こえたような気もしたが、気のせいか...?

 

「セイリュウ...いいだろう、受けて立つ」

 

何かを呟いた後、とうとうシンが剣に手をかける。

じーさんが再び火球を数発放つ。ってちょっと待て!一発こっちきたぞ!

 

ヴァァァァァァァァァァアァァァ!!!!

 

やっぱり庇ったりしなくても死は免れられないもんらしい。ちなみにシンの奴はその火球を居合い切りで一刀両断しやがった。すげぇ剣の腕前じゃねえか...

そんでじーさんの方はというと、その間にレックスの方に接近。どうやら乗せて逃げるつもりみたいだな。

 

「乗るんじゃレックス!」

 

その声を聞いたホムラはビャッコに乗り、そのビャッコもレックスを助けに船の側面を走り出す。

ビャッコが瞬時に二アを口で咥え、レックスの空いた手をホムラが掴む。

ちなみに俺は...ミカに引き摺られながら運ばれていた。急いでるとはいえ雑だぞミカァ!

ビャッコがじーさんの背中に飛び移った一瞬後に、ミカも飛び移る。

 

「ゆくぞ、落ちるなよ!」

「逃がすな、撃て!」

 

飛び去ろうとするじーさん。逃がすまいと砲撃の指示を出すメツ。

何発か食らっちまってるが、それでも耐えながら空を飛ぶじーさん。やるじゃねえかあんた...

 

 

 

 

 

 

 

「船首回頭!主砲用意!」

「無駄だ、射程外だ」

「ちっ、奴ら逃げ切りやがった...」

 

取り逃がしたことを残念そうにするメツ。

だが、こうなったのなら別の策を用意するのみだ。ならばここに長居は不要。

 

「戻るぞ」

「追わないのか?」

「目覚めたのなら、それで十分だ...後はヨシツネに探らせる」

「ふん...そういうことか...」

 

己の考えをメツに伝えて、モノケロスに戻る準備を始める。

 

 

 

 

───────今の今までいなかったのだから、彼等がこの世界に来ることはないと思っていたのだが...想定外だった。

 

「ふむ...何処か楽しそうにも聞こえるな」

 

───────そうだろうか?もしかしたら五百年ぶりの再開に、心が躍っているのかもしれないな。

 

「そうか...だが俺にとって奴等は敵だ。奴等が天の聖杯と共にいる限り、戦いを避けることは出来ないぞ」

 

───────分かっているさ。そして私と君は運命共同体...君が戦うというのなら、私も共に戦うさ。

 

「...ならば、この先も進み続けるとしよう」

 

───────あぁ。我々の、往く道をな。

 

 

 

 

 

            第

            一

            話

          

 

            出

            逢

            い




そういうわけで、次回から二話開幕です。
最後のは...そういうことです。ゼノシリーズといえば説明しないのがお約束なのでしません。っていうかそうじゃなくてもしません。


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第2話 機械仕掛けの人形[ブレイド]
第2話 機械仕掛けの人形[ブレイド] 第1節 「小さなじーさん」


書いてて思ったけどバーンって中々クズムーブしてますねこいつ()
そんなわけでようやく第2話です。ようやく。


「...というわけで、命からがら逃げてきたのですも」

 

ここは、アヴァリティア商会会長室。

通信機のモニターに写るのは、無事逃げ切ることに成功したプニン。一方、その通信の相手は...

 

「というわけでじゃないも、お前はアホかも!どうしてきっちり死んでこないも!後で返金しろって言われたらどうするつもりも!」

 

アヴァリティア商会会長、バーンである。

 

「え?死んで...返金ってどういう...」

「ふん!こっちの話だも」

 

というのも、バーンはウズシオの乗組員の命の代金を既にイーラから受け取っていたのだ。だから、レックスに手付金だけであれだけの大金を渡すことができたという訳である。

 

「で、レックスとそのブレイドはどこ行ったんだも?」

「はい、レックス達を乗せた巨神獣(アルス)は、トルネア海から南に逃げて、その後は行方知れずですも。なにぶん、嵐が激しかったもので...」

「わからない、も?」

「はい、も...」

「で、逃げてきたも?」

「は、はいも...」

「んぐもも...言い訳は聞きたくないも!とっとと戻ってこいも、次の仕事が山盛りになってるも!」

 

そう言い切ったバーンはそのまま通信を切る。

 

「ももも...ウズシオにも保険をかけてたってのにこれじゃ大損だも!」

 

ウズシオも沈めて保険金を頂く算段でいたバーン。彼はノポンの豪商として名が知れ渡っているが、裏ではこういった事にも手を染めているのだった。

 

「それにしても...トルネア海から南ということは...今の時期だとグーラに向かった可能性があるも。グーラのモーフ領事を呼び出せも!」

「わかりました。少々お待ちください」

 

お付きの女性が通信機を触り、モーフ、と呼ばれた男との通信を繋ぐ。

 

「これはこれはバーン会長、先だっては大変お世話になりました。くずもののコアクリスタルも、アヴァリティアブランドを付ければ一級品!それを我がスペルビア本国に売り込むお手並み、さすがはバーン会長、恐れ入ります」

「気持ち悪いおべんちゃらはいらないも。ていうか、通信でコアクリスタルの話するとか、お前もアホかも?法王庁(アーケディア)に傍受されたらどうするも」

「こ、これはっ。す、すみません...」

 

法王庁(アーケディア)とは、アルストでも有名な宗教国家である。だが、ブレイドの元であるコアクリスタルの管理や供給を掌握しているため、先程モーフが喋ったバーンの行いは、知られては不味いのである。

 

「まあ、それよりいい話があるも」

「え?いい話とは?」

「それはも...」

 

──────────────────────

 

「ぐっ!ううっ...」

「うーん...」

 

俺とレックスの目が覚める。ここは...どこだ?

 

「ホ...ムラ...?」

「良かった。レックス、どこか具合悪くありません?」

「具合...あぁ、たぶん大丈夫...ここは?」

「わかりません。どこかの巨神獣(アルス)に流れ着いたみたい」

お、ホムラも一緒だったか」

 

俺は起き上がって、レックスとホムラの声のする方を向いた。向いたんだが...

 

「なんだよ...膝枕してもらってんじゃねえか...変わってくれよ...」

 

そう、レックスの奴、ホムラに膝枕してもらってやがったんだ!

 

「ダメだよオルガ。それはダメだ」

「ん?おぉ、ミカじゃねえか。先に起きてたのか」

 

自然な流れで止められた。まあ、当然か...

 

「あ、三日月さん。皆さんは?」

「遠くにいって迷っても不味いからすぐ近くしか見てないけど、ニアもビャッコも竜のじーさんもいなかった」

「ニア、ビャッコ...じっちゃん...あっ...!」

 

レックスが、さっきまで何があったのかを思い出して飛び起きる。

 

「俺も探さないと!きっとどこかに流れ着いてる筈だ...!」

「俺も行くぞぉ!」

「レックスとオルガが起きたから、全員で手分けして探しに行こう」

 

どうやらミカは、先に皆を探しに行ってくれていたらしい。その間ホムラが、俺らの様子を見ていてくれたみたいだ。

 

 

 

 

「あ、あれって...じっちゃん!」

 

森の中を散策していると、じーさんが倒れているのを見つける。すぐさま俺達は駆け寄っていく。

 

「無事じゃったか、レックス」

 

そう呟くじーさんの身体は、ボロボロだった...。

 

「くそっ!守んのは俺の仕事だってのに...!」

「待ってて、今傷薬を...」

「お前の薬なんぞ、千人分あっても足りんわい...」

 

傷薬を出そうとするレックスを止めるじーさんの声は、まるでもうすぐ死ぬ奴みたいだった...

 

「これもまた運命、泣くなレックス...」

「無理なこと、言うなよ...」

 

当然だ。このじーさんはレックスにとっちゃ親同然だ。それが死のうってのに、泣かない訳がねえ。

 

「別れは一瞬。やがてエーテルの導く先で、また巡り会う...」

 

そう言ったじーさんの全身が光に包まれる。あんた...消えるのか...!?

 

「お前と過ごした日々、楽しかったぞ。また会おう、レックス...」

 

「じっちゃん...!」

「じーさん...!」

 

消えていくじーさんを見て、俺達はただ叫ぶしかできなかった。俺達を守って、こいつは死んだ...その事実に、俺は己の無力さを実感した。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「くそっ、くそぉっ...!」

 

泣き叫ぶレックス。地面に拳を打ち付ける俺。

手で口を覆い、悲しげな顔をするホムラ。ミカも守ってもらった恩を感じてるのか、僅かながら顔が悲しさで歪む。

 

 

 

 

「泣くなと言うとるじゃろうが、レックス」

 

...は?

 

「うっうっ、うわぁぁぁぁぁ...!!」

「レックス」

 

なんだこの、ついさっきまで聞いてたような聞いてなかったような声は...?

 

「じっちゃーーーーんっ!!」

「レーーックスッ!!!」

 

声のする方を俺達が見ると、そこには...

さっき消えた筈のじーさん...をデフォルメしたような謎の生物がいた。

何度か手で目をこすってみるが、そいつは消えない。幻覚じゃあないらしい。

 

「「「えええっ!!??」」」

「...何これ」

 

俺達の叫び声がハモる。ミカも呆気にとられてるみたいだ。

 

「じ、じっちゃん...なのか」

「嘘...」

 

長年一緒にいたレックスでも、これがじーさんだとは分からねえらしい。初めてなった姿なのか...?

 

「当たり前じゃろうが、見てわからんか?」

「えっと...わからないです」

「わかるわけねえじゃねえか...」

「わかるわけないって」

「...何これ」

 

じーさんはさも当然わかるだろと言わんばかりだが、俺もホムラも、レックスだろうとわかるわけなかった。ミカはさっきと同じセリフを放つが...心なしか少し目が冷たくなってる気がするな。

 

「ま、まぁまぁ。今からちゃーんと説明するわい」

「ふーん」

 

ミカの視線が若干怖かったのか、焦りながら説明を始めようとするじーさん。さてはあれだな。本気で心配したのに全然大丈夫そうだったから怒ってるなミカ。

 

 

 

 

 

「...というわけで、全身の代謝を最大限にして身体機能を維持した結果、幼生体にまで退行してしまったんじゃな」

「してしまったんじゃなっつったって...正直ピンと来ませんねぇ...」

「随分便利なもんなんだな、巨神獣(アルス)ってのは」

 

レックスも若干怒ってるっぽいな、これ。

 

「全ての巨神獣(アルス)ができることではないぞ?ワシだからこそできることなんじゃ...」

「理屈は分かったし、もういいよ。喋らなくて」

「...もしかして、レックスも三日月も怒っとる?」

「当たり前じゃん」

「俺は怒ってるわけじゃないけど...ただわんわん泣いてた自分があほらしくなっただけだよ」

 

ミカを怒らせると怖いぞぉ...?何度か殺されたこともあるしな...あとレックス、それについては同感だ。

 

「なんじゃあ、やっぱり怒っとるじゃないか」

「...で、いつ元に戻れんの?」

 

俺の気になってたことをレックスが先に聞いてくれた。すぐに戻れんなら乗せてもらえれば移動手段に困ることはねえが...

 

「そうさのう...300年もあれば元通りじゃ」

「さ、さんびゃくねんっ!?オレ死んじゃってるぞ!?」

「俺も寿命は流石に生き返れねえぞぉ!」

「うむ...まぁ、そういうことになるかのぉ」

「どーすんだよ、家!オレ、もしかして宿無し?」

 

あ、そういやレックスはじーさんの背中の上で暮らしてるんだったな...。

 

「これを機に一人暮らしを始めるとか」

「家賃かかるじゃないか」

「けちくさいのぉ...」

「お金は大事だから仕方ねえぞぉ...」

「ほら、オルガだってこう言ってる。あと、現実的って言ってくれ」

 

 

「でも、無事でよかったよ...っと、のんびりもしてられない。ニア達を探さなきゃ」

「ニア?一緒におったあのドライバーとブレイドのことかの?」

「あぁ、オルガ達と一緒に俺達を助けてくれたんだ。じっちゃん、何か覚えてない?」

「んー...ここに来るまでの間に幾度となく木々にぶつかったからの...その時に落っこちたのかもしれん」

「うーん、それだけじゃ探しようがないな...ってあれ、三日月もいないぞ!?」

 

何!?って...ほんとにいねえじゃねえか!いつの間に...?

 

「あいつ、どこ行っ」ドォンッ!

 

俺の台詞は謎の音で掻き消された。もしかして今の...ミカか!?

 

「今の、ミカの仕業かもしれねえ。いくぞぉ!」

「はいっ」

「あ、この姿で急いで飛ぶの難しいんじゃ、待っとくれ」

「はぁ...じゃあとりあえずここに入ってて!」

「おほっ、こりゃ楽ちんじゃわい」

 

サルベージスーツのヘルメットにじーさんを入れると、レックスも俺の後を追って走り出した。

 

 

 

 

 

[数分前...]

「お嬢様、ここは私に任せて...」

「アンタ一人、置いてける訳ないだろ!」

 

遠くの方から聞こえる声。間違いなくニアの声だ。近くにいる。

オルガ達は置いてきたけど...まあ、多分大丈夫でしょ。

...ん、どうやらニア、モンスターと戦ってるみたいだな。身体は大きいけど数は1...横から攻めて一気に片を付けよう。

そのモンスターはニア達の方だけ見て、俺のいる方向は警戒していない。これなら...一瞬で殺しきれる。

 

...じゃあ、行くかぁ!!

 

──────────────────────

 

...まずい、な。

アタシとビャッコだけでこんなデカい奴をやれるのか...?

ビャッコが自分を囮にアタシを逃がそうとしてくれているけど、一人で逃げるわけにはいかない。

どうすれば...

 

「お嬢様、敵の攻撃が来ます!」

「っ!しまっ...!」

 

相手に向かって飛びかかる攻撃。それをするモンスターは結構多いけど、こいつの身体がデカいから避けきれそうもない...このままじゃ...!

 

ドォンッ!

 

...え?

 

モンスターのでっかい横っ腹に、でっかい武器を叩き込んでモンスターを吹っ飛ばしたのは...三日月だった。

三日月はそのまま古代船でモンスターにやったのと同じ様に、武器の先端を開いて突きつけ、閉じて押し潰し、モンスターを仕留めた。

 

「アンタ...助けてくれたのか?ありがとう」

「私からも...手助け、感謝します。」

「別に?普通でしょ」

 

ウズシオで話したときから思ってたけど、こいつ...アタシの知ってる人間と全然違う。異世界から来たって言ってたし...あいつの世界じゃあれが普通なのかな...?

 

「お、いたいた。おーい、ミカァ!やっぱお前だったか!」

 

オルガって言ったっけ、あのよく死ぬ人。さっきの爆音を聞きつけたからなのか、こっちに近付いてくる。

その後ろにレックスと天の聖杯...ホムラだっけ?がついてきてる。あとよく見たら、レックスのヘルメットの中に妙な生物が住み着いていた。

 

「アンタらも無事だったんだね。で、その見慣れない生き物は何?」

「あー...実はちょっと色々あってね...」

「ん?どうかしたのか?」

「ま、ゆっくり休みながら話すとしようぜ」



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第2話 機械仕掛けの人形[ブレイド] 第2節 「街を目指して」

デーデデーデデーデーデー!デーデデーデデーデーデー!っていうあの焦らせるようなイントロからのレベル81のバルバロッサ登場はほぼ全てのゼノ2プレイヤーが経験したと思うのでネタにしてみました


「これで休めそうだな」

 

俺達は、野宿できそうな場所を見つけたんで、今日はそこで留まることにした。

火はどうすんだって思ってたが、ホムラが火を操れるブレイドだったんで無事解決だ。助かったぜ。

 

「...そういえば、あの時助けてくれたでっかい巨神獣(アルス)は?代わりになんか見慣れない奴がいるけど...」

 

ニアが、あのじーさんが無事なのかを聞いてくる。驚く顔が楽しみってもんだ。何せその見慣れない奴が...

 

「あーその巨神獣(アルス)、ワシじゃよ」

「ええっ、ウソ!何で!?」

 

じーさん本人なんだもんな。期待通りの反応、いい仕事だぜニア!

 

「...ねぇオルガ。楽しそうなとこ悪いけど、そろそろ何があったのか、話聞かせてよ」

「おぉ、忘れてた。んじゃ話すか、レックス」

「だね」

 

俺とレックスは、ニアやビャッコ、そして先にメツ達を追いかけてったミカに何があったのかって話をする。

 

 

 

「...なるほど、その子と楽園にね。...そういえば、まだちゃんとお礼を言ってなかったね。助けてくれてありがとう」

「あのぐらいどうってことねえぞぉ!」

 

まあ、俺は正直最後の方は的になってただけな気もするがな...

 

「ビャッコから聞いた。アンタがここまで運んでくれたって...」

巨神獣(アルス)様、ありがとうございました」

「そういや俺達も礼言ってなかったな...ありがとよ、じーさん」

「助かった」

 

ビャッコがじーさんの方を向いて一礼する。ほんと礼儀正しい虎だな...んでもって、俺達もちゃんと礼を言っておく。こういうとこの筋はちゃんと通しておかねえとな!

 

「礼には及ばん、お前さん達もレックスを助けてくれたんじゃからの」

「いいよ別に...しかし便利なもんだね、巨神獣(アルス)ってのは」

「全ての巨神獣(アルス)ができることでは「「その話はもういいよ」」

 

じーさんがどうだと言わんばかりに喋り出したその瞬間、レックスとミカが遮る。そろそろ許してやれミカ...

 

「いいよもう...って!何じゃその言いぐさは!そもそもお前がそんな訳の分からん仕事を引き受けおったのが原因じゃろがい!じっちゃんはここでのんびりしててよ!とか言って飛び出していきおって...」

「ああはいはいわかりました。オレがぜーんぶ悪いんです。すみませんでしたごめんなさい!」

「テキトーに謝りおってからに、全く、反省の色が見えん!」

 

反省、か。だがホムラの事を考えると...

 

「そりゃできるわけねえよなぁ、レックス?」

「うん。だってオレがあの場所にいなかったら、ホムラはあいつらの言いなりに...そんなの絶対にだめだ。あんな奴らにホムラは渡せない」

「レックス...」

 

レックスが考えてることはやっぱり俺と同じだったみてえだ。その話を聞いてたホムラも嬉しそうで何よりだ。

 

「もうそろそろ夜だな。明日に備えて、そろそろ寝とくぞお前らぁ!」

「おっ、どっかの団長だけあって仕切るのが上手だね!」

 

俺が号令をかけると、レックスが褒めてくれた。ま、鉄華団の団長たるもの、こんぐらいできねえとな!

 

 

 

 

 

 

「ん...なんか眠れないな」

 

まだ夜なのに、目が覚めてしまった。

レックス達は寝てる。オルガは...

 

「止まるんじゃねえぞぉ...」

 

寝言で団長命令してる。言われなくたって、俺はこんな所で止まる気はないよ。

二アは...ビャッコの上に乗っかって仰向けで寝てる。豪快な寝方だな...

 

「えーっと、確かこの辺にしまったはず...あった。」

 

俺はウズシオでの見張りの時に使った毛布と自分のコートを、それぞれレックスとニアにかける。オルガの分は...まあ、いいか。

そういえば、ホムラとあのじーさんはいない...起きてるっぽいな。

少し見渡してみると、湖の近くで話をしてるのが見えた。少し聞いてみようかな。

 

「...お久しぶりですね、セイリュウさん」

「うむ。昔とは随分と印象が変わったのぉ?」

「色々、ありましたから」

 

あのじーさん、セイリュウって名前だったんだ...それに、昔とは随分印象が変わった...か。幼生体から大人になるまでに300年も必要な動物が昔って言うなんて、どれだけ前のことなんだろ。

 

「レックスに命を分け与えてくれたこと、礼を言おう。その上で聞きたい。レックスにした話、あれは本意か?」

「...はい。私の、本当の気持ちです」

 

楽園に行くって話か...オルガもそれを目指してるみたいだし、俺も頑張らなくちゃ。

 

「そうか...ならば信じよう。他の誰でもない、お前さんの言葉を」

「でも...もう一つ目的ができました」

「シンと...メツか。あやつらがおると言うことは、きっとあの男もいるのじゃろうな。」

「恐らくは。彼等を今のままにしておくことはできない」

 

あの男...?誰だろそいつ。まさかチョコレートの人...いや、無いか。よくよく考えてもみたら、もし本当にそうなら会えて嬉しいよとか言いながら出てきても可笑しくないし。

 

「宿命じゃな、天の聖杯の...巻き込むのか?レックスを。」

「...」

「責めとるわけじゃない。あのオルガという男は分からんが、お前さんが望まんでもレックスは首を突っ込むじゃろう。そういう子じゃ」

 

オルガは...頼まれたら間違いなくやるし、頼まれなくても困ってる人を助けようとしてきたことは何度もある。そして、オルガがそれを望むなら...俺もその道を進む。

 

「...レックスを頼んだぞ」

「はい...」

 

そう言うと、話が終わったのかセイリュウが戻ってくる。そしてようやく俺に気づく。

 

「なんじゃ三日月、盗み聞きとは趣味が悪いのぉ」

「ごめん」

「いいんじゃよ別に。聞かれてまずい話ではないしの。ところで、三日月に聞きたいことがあったんじゃ。」

 

聞きたいこと?俺なんかよりよっぽど色々と詳しそうなのに、何を聞こうって言うんだろ。

 

「ん、何?」

「あの暴力的とも言っていい程の桁違いのパワー、並のブレイドが出せるものではないわい。その力...どうやって得た?」

「...別に?普通でしょ。俺はただ、仲間のために全力で出来ることをやってるだけだ。邪魔する奴は全部敵...だから、全員潰すんだ。」

「なるほどのう...その覚悟が、おぬしに力を与えておるのかもな。じゃが...その覚悟は時として、焦りになるかもしれん。くれぐれも...強大な力の使い方を誤るなよ」

 

言われなくても、そのつもりだ。

そうは思ったけど...アドバイスとして素直に受け止め、頷いておいた。

 

 

 

 

「ふあぁぁぁぁ...おはよう、皆...ん?毛布?」

「おはよぉございます」

「おはよー...ってあれ?このコートって確か...」

 

俺、レックス、ニアがほぼ同時ぐらいのタイミングで起きる。そして気づいた。ミカの奴、自分のコートや毛布を人にかけてたんだな...ほんと、お前は優しくてかっこいいな。

 

「さてと...取りあえず近くの街か村にでも...と思ったけどここどこだ?」

「お前...」

「グーラだよ。スペルビア帝国グーラ領。」

 

スペルビア...確かインヴィディアってとこと戦争してるっていう国だったな。今は休戦中らしいが。

 

「今はグーラの巨神獣(アルス)の...お腹辺りかな」

「そうかぁ、ここがグーラなんだ」

「グーラ?お腹辺り??全然わかんねぇぞぉ!」

「ちょっと黙ってて」

「すいませんでした」

 

話は黙って聞けとばかりに怒るミカ。いやまあ当たり前か。当たり前だな。当たり前じゃねえか...

 

「ま、まぁまぁ三日月、落ち着いて...ん?そういえばニアのその耳、もしかしてグーラ人?」

「遅いよ、今頃気づいたのか?」

「グーラはお嬢様の故郷なのです」

「へぇ...それは心強いや」

 

グーラ人ってのはどうやら皆耳が生えてるらしい。ニアを見る限り獣人...とはちょっと違うみたいだがな。

 

「街に行きたいんなら、まずはこの森を抜けないとね。道なりに登っていけば平原に出るはずさ。街はその先」

「よし、まずはそこに向かおう」

「よーしお前らぁ!またモンスターが出てこないとも限らねぇ。気ぃ引き締めて行くぞぉ!」

 

そんなわけで、俺達一行は街を目指して走り出した。

 

 

「うわぁ...!ものすごく広い平原!」

「壮観じゃの」

「すげえよ、グーラは...」

「景色...凄く、綺麗だ」

 

平原があるって話は確かについさっき聞いたがよ...こんな広いとはな...目的を忘れて駆け回りたくなってくるぜ。

 

「あぁ、こいつは感動もんだよ。じっちゃんの狭い背中とは大違いだ」

「むむっ、一言余計じゃわい」

 

狭い背中って...ま、この平原に比べたら狭く感じるわな。正直、これに比べたらイサリビもハンマーヘッドも小さく見えるぞ。

 

「向こうに見えるのがグーラで一番大きな街、トリゴ。とりあえず街までは送ってく。着いたら、そこでアタシ達の役目は終わり」

「?待ってくれ。そりゃどういう意味だ?」

「どういうって、アタシはアンタらと一緒にいることはできないからね」

「それって、あいつらのことがあるからか?」

「出会ってから日が浅いとはいえ、一応...仲間だからね」

 

仲間か...仲間と離れたくないって思うのは当然のことだよな。だがあいつらは...

 

「あいつらが仲間?二アを殺そうとしたんだぞ?」

「それでも...アタシの居場所はあそこにしかないんだ...」

 

居場所...こりゃ複雑な事情がありそうだな。

ニアも色んなもん抱え込んでるんだな...ここは鉄華団をあいつの居場所にしてやりたいところだが...提案する前にあいつが先に進み始めちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「足を止めるなぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「言われなくてもそのつもりだよ!!!ていうかアンタのせいだろ!!!!」

「喧嘩してる場合じゃないって!!くるよ!!!」

「あ”っ...ヴァァァァァァァァ!!!!」

「オルガッ!」

「止まるんじゃねぇぞ...」

「だから!!!言われなくてもそうするよ!!!!!」

 

...なんでこんな事になったのか、説明する必要があるよな。

というのもだな...どうやらこのアルストって世界は地域ごとに敵の強さにある程度纏まりがあるわけじゃねえみたいでな?とんでもねえデカさのゴリラが歩いてるのを見かけたんだ。だがそん時の俺らはここらのモンスターを相手にうまく戦えていた。だから体がでかい奴相手でもいけると思ったんだ。

二アが

 

「いやあいつはダメだ!この辺りじゃ有名なユニークモンスターなんだぞ!?」

 

とか言ってたのも無視してな。攻撃したんだ。そしたら次の瞬間...そのゴリラの腕の一振りで俺はぶっ飛ばされ、死んじまったってわけだ。そしてゴリラはその後もしつこく追いかけ回してきて、この有様だ。

 

「こ、これ以上走るのは流石に体力が...!ってあれ?追いかけてこない?」

「バルバロッサの奴...オルガに死体蹴りしてないかあれ?」

「怒らせたのはオルガだし、まあいっか。」

「ええっ!?」

「あいつの気が済むまで、アタシらはここで見守ってよう...」

「二アまで!?でもまあ...それが一番か」

 

聞こえてんぞお前らぁ!ほんとすみませんでした!

しかしそろそろ許してくれてもいいんじゃねえのかゴリラさnヴァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

「...あんだけ殴られても原形とどめてるの、凄いなアンタ」

「こんぐらいどうってことねぇぞぉ...」

「いや、流石に痩せ我慢が過ぎるだろ...」

 

結局、あのゴリラが帰って行ったから俺は無事解放された。じゃあ今度こそトリゴに行くか...

 



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第2話 機械仕掛けの人形[ブレイド] 第3節 「帝国の宝珠」

動画作ってたり検定だったりで遅れました


「ここがトリゴの街か」

「結構広いじゃねえか...」

 

でっけぇ化け物から逃げ切った...逃げ切った?

まあ何にせよ、あいつをどうにかした俺達は、無事トリゴの街に辿り着いた。ようやく休めんのか...

 

「変わらないな...」

「ニア?」

「...なんでもない」

 

ニアが少し俯く。グーラ出身の人間にしか分からない何かがあるのか?ま、なんでもないって言ってるし気にするこたぁねえだろう。

 

「さて、と。宿屋までは案内するよ。そこでお別れだ」

 

そう言うとニアは一番に歩き出す。別れか...まあ、仕方ねえか...

さ、んじゃ俺達も行くか。

 

 

 

 

 

 

 

「...ん?」

 

俺達は街中を歩いていた。んで、掲示板を見つけたんだ。

そこには、手配書が貼ってあった。帝国の反逆者、イーラの者がどうのこうのって書いてあるな。その手配書の人相書きにはあのシンの顔があった。イーラってのがあいつらの組織名か。なるほどな。

んで、手配書は3つあったんだ。まあ当然っちゃ当然なんだがな。

で、シン、メツときて最後の一人はやっぱり...

 

「何だこれは...もしかしてこれがアタシ!?」

 

ニアかと思ったんだ。だが若干違った。

ニアとビャッコが混ざった...よくわかんねえ謎の生物が描かれていた。

 

「何とも上手く特徴を捉えた人相書きで...」

「えっ?何だってぇ!?」

「あぁいえ、どうやら私とお嬢様の情報がごっちゃになっているようですね。これは心外」

 

まあ、特徴を捉えていない訳じゃあねえな。二人分混ざってるだけで。

 

「しっかしまあ、こんだけ似てなけりゃあバレて追いかけ回されねえかもしれねえし、一周回っておもしれぇからいいんじゃねぇの?なぁニア」

 

二アを落ち着けようと思って言った冗談だったんだ。

 

「いい訳、ないだろ!」

グシャー

「俺も死にたくて死んでる訳じゃねえし、俺死にやすいからよ...いきなり殴るんじゃねえぞ...」

 

ダメだったみてえだな。

 

「うーっ...きーっ!」

 

怒りが収まらない二アは、その手配書を引っ掻いてビリッビリに破いちまいやがった。

 

 

 

 

 

「さぁ、他に勇気のあるものはいないか!君のその勇気で、明日のスペルビアを支えるんだ!あーもちろん、月々の給料だけじゃない。恩給だって出る!勲功を積めば、爵位だって賜られる!偉大なるスペルビア皇帝、ネフェル陛下のために、君の勇気を見せてくれ!さあ名乗り出よ、明日の英雄よーっ!」

 

先に進んでいくと、兵士みたいなのが二、三人、旗を立てて演説してやがった。

 

「なんだあれ...胡散臭っ」

「ドライバースカウトか」

「ドライバースカウト...?」

「最近じゃ、街中でドライバーを募集してんだ」

 

どうやら悪質な勧誘とかではねえらしい。にしても、国の兵士が街中でスカウトってことはつまり、一般人を兵士にするも同然のことだろ?何処の世界でも戦事情はあんま変わんねえな...

 

「同調できる者は日々減っています。軍人の中にもいなかったのでしょう」

「ドライバーを募集とか同調って、何のこと?」

「見た方が早いよ」

 

レックスはその辺の事情はまだ察せてないみたいだな...

まあ見た方が早いってニアも言ってんだ。ここは見物といかせてもらおうぜ。

 

 

「やめなよ兄ちゃん、危ないよー!」

「兄ちゃんにもしものことがあったら、ボクたちどうすればいいの?」

「わ、わかってるさ。だけど、もしこの僕がドライバーになれたら...」

 

あれがドライバー志望の人か。ところで危ないってどういう...

 

「どけ!青びょうたん」

「うわぁっ!」

 

おい、別の奴が横から割り込んで突き飛ばしていきやがったぞ。ああいうのは気に食わねえが、指名手配中のニアがいる以上街中で騒ぎはあんまり起こせねえしなぁ...

 

「さあ、俺にふさわしいブレイドよ、力を貸してもらおう!」

 

その間にも、その割り込んできた奴がコアクリスタルに手を触れちまった。んでそいつは、なんか黄色い光に包まれながら足がガクガクしてやがる。なんだ?どっか痛めたのか?あんな真似するから罰が当たったのかもな。

 

「ありゃダメだな」

「じゃな」

 

その様子を見ていたニアとじーさんが口を開く。ダメってそりゃどういう意味で...

 

「おおおおおぉ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ブシャァッ

 

な、なんだ!?今あいつ、身体中から血噴き出して倒れたぞ!いくら因果応報っつってもやりすぎじゃねえのか!?

 

「おおっとぉ、これは見かけ倒しだぁ!残念!」

 

兵士が2人出てきて、すぐにそいつを運び出していく。

 

「残念!じゃねえよ!今血噴き出してたじゃねえか...」

「コアの負荷に耐えられなかったんだよ」

「残念ですが、資格のない者がコアクリスタルに触れるとああなってしまうのです」

 

俺の疑問にニアとビャッコが答えてくれた。なんだよ...結構おっかねえじゃねえか...

 

「負荷に耐えきれないと流血か...阿頼耶識みたいな物ってことだね」

「その、アラヤシキ?ってのが何なのかは知らないけど、納得できたならいいや」

 

ミカも理解できたみてえだ。そういや阿頼耶識の方も情報量に耐えきれなくてやべえことになりかけた奴が何人かいたな...

 

「兄ちゃん!」

「だ、大丈夫だ。兄ちゃん、絶対にドライバーになってお前達に良い暮らしをさせてやる」

 

家族のために、危険な道でもって関係無く...俺みてえじゃねえか...

そんな強い意志があるんだ、きっとやれんだろ!

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そいつはコアに触れ、さっきの奴と同じ様に叫びだした。だがこいつは、さっきの奴とは違い、震えてはいなかった。これなら、もしかすると...!

 

「おめでとう、かな」

 

ニアがそう呟いた一瞬後に、そのコアは槍に変化し、あいつの横にブレイドが誕生した。

 

「や、やったぞー!」

「兄ちゃん!」「やったね兄ちゃん!」「兄ちゃーん!」

 

「コアクリスタルが、武器になった...」

「ブレイドとは、ああして誕生するんじゃよ」

「え?でもオレの場合は...」

 

なるほどな。人間がコアクリスタルに同調してブレイドが生まれるってのは、ああいうことか。でもホムラは最初っからコアクリスタルじゃなかったような...

 

「アンタの場合は特別。ホムラ、天の聖杯なんだろ?だったら何が起きたっておかしかない。っていうか、命分けて貰うとかもうすでに理解不能。まあ、横にもっと理解不能なのいるけどな!」

「理解不能で悪かったな!俺だって好きで何度も死んでる訳じゃねぇって言ってんだろ!」

「ところでその天の聖杯って何?シンとメツ(あいつら)もホムラのことをそう呼んでいたけど」

 

レックスが話に割って入ってくる。まあ確かにそれは俺も気になってたがな。

 

「アタシだって、伝説のブレイドってことくらいしか知らされてない。っていうか、本人に直接聞きなよ。さ、行くよ。後は叙任式とか、つまんない式典ばっかさ」

 

言い終えた二アは、とっとと先に進む。

じゃ、俺らも行くか...っと、ミカがなんか不思議そうな顔してるな。

 

「どうした、ミカ」

「いや、大したことじゃないんだけどさ。俺、さっきのあのブレイドを始めて見た気がしないんだよね。なんか...実際に見た覚えはないのに、知ってる...みたいな」

「なんだそりゃ...ここに来るまでの道のりで何人かドライバーもいたし、他人の空似ならぬ、他ブレイドの空似とかじゃねえのか?」

「そうかも...まあ、いいけど。じゃ、皆を待たせちゃ悪いし、行こっか」

「そうだな」 

 

 

 

 

 

 

「...それにしても、コアクリスタルに触れるとブレイドが生まれてくるだなんて、やっぱすごいよなぁ...」

「私達ブレイドの本体はコアクリスタルと呼ばれる、宝石に似た素子なんです。触れた者に適性があった場合のみ、自身の体細胞を増殖させて分離体を生み出す...それがブレイド」

「なるほどな...」

「へぇ...」

 

ホムラがブレイドの仕組みについて詳しく説明してくれる。コアクリスタルが本体か...二アが前に「ドライバーが死ぬかコアクリスタルを破壊されない限り大丈夫」って言ってた理由がよくわかったぜ。

 

「っていうか、始めて知ったみたいな感じだけど、三日月はブレイドなんでしょ?オルガは知ってるんじゃないの?」

「あぁ、そういえばあの時はニアしかいなかったね。俺とオルガ、異世界人だから。俺はこの世界にくるときに、なんかブレイドになってた」

「...全然意味がわからないんだけど」

「大丈夫、アタシもよくわからん。この世界のことについて2人が知らなさすぎる理由は納得できたけど」

 

ま、普通はそうなるわな...他の世界じゃ同じ境遇の奴らもいたが、ここにはいねえみたいだしな。

 

「まー要するにじゃ。ドライバーとコアクリスタルが運命的に巡り会ってこそ!ブレイドが誕生するということじゃな」

「生まれ出るブレイドの容姿は千差万別。人に近いものから私のようなものもおります」

「ドライバーの個性や精神が反映されてるって説もあるね」

「ドライバーとブレイドの出会いは、とっても神秘的なんですよ!」

 

嬉しそうに語るホムラ。そういや...ホムラもさっきのブレイドみたいに誰かから生まれたのか...?それとも天の聖杯だから自力で生まれられるー、とかなのか...?

 

 

 

 

「一同!抵抗するな」

 

誰かの声がしたと思ったら、さっきの兵士と同じ格好の連中が来やがった。何の用だ...?

 

「その者、帝国に仇なす反逆者、イーラの者であろう!」

「イーラ...ち、ニアは違う!」

「そうか?白き獣のブレイドを連れたグーラ人のドライバー、手配書の人相書きにそっくりではないか!」

「似てねぇよ!!」

 

即座に否定するニア。絵の上手さと似てる似てないは別だからな。他の2人はまじでそっくりだったが。

 

「で、オルガ。俺どうすればいい?あいつら潰せばいいの?」

「いやお前、流石にそれはまずいだろ...まだ様子見だ。やるのはあいつらが仕掛けてきてからでも遅くねえ」

 

別にあいつらは今の所俺らの邪魔をする敵じゃあねえ。可能なら穏便に済ませてえところだが、さて...

 

「ふん。ところでそこの2人、見た所お前らもドライバーの様だが、登録ナンバーは?」

「え?と、登録...」

「あぁ?んなもん知らねぇに決まってんだろ!」

「すべからくドライバーとなった者は、アーケディアへ届け出なくてはならない。登録ナンバーがないということは、さてはお前、モグリのドライバーだな?」

「違う!オレ達は...」

「お前達を連行する!申し開きは、領事閣下の前でするがいい!」

 

結局戦闘になっちまうみてえだ。まあ、なるならなるでこっちだってやってやるよ!

 

「レックス、オルガ。今からアタシとビャッコで仕掛ける。その隙にアンタ達は...」

「行くぞミカァ!俺達の前に立ち塞がる奴は、どこの誰だろうとぶっ潰す!」

「あぁ。邪魔する奴は全部敵だ」

 

二アがなんか言いかけた気がするが、無視して俺達は突撃する。

 

「...あの人たち聞いてないけど」

「みたいだね...しょうがない、いくよ!」

「て、抵抗するのか!?来るのか!?ひ、怯むな!相手は少数...取り囲んで引っ捕らえ...」

「パクス警備長!包囲網、破られました!」

「つ、強すぎる...!流石はドライバー!」

 

へっ、当たり前だろ?俺が本気なら、ミカはそれに応えてくれる。そうなりゃお前らに勝ち目なんてねぇ!

 

「レックス、オルガ。今だ!」

「逃げんのか?」

「当たり前だろ!?ほら早く!」

「しょうがねえか...退くぞミカァ!」

 

逃げることにした俺達の前に、いきなり青い炎の壁が現れる。

 

「ま、待ってくヴァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

「オルガ!くっ、何なんだこの炎の壁は!」

 

急な炎の出現に、俺は巻き込まれ見事に炙られちまった。

 

「騒がしいですね。せっかく束の間の休暇を楽しんでいたのに」

 

振り返ると、青い服を着て双剣を構えた女が歩いてきていた。炎を発生させたのもこいつのようだ。

 

「カ、カグツチ様」

「カグツチ?ブレイドか!でもドライバーは?」

「私のドライバーは現在、ある任務で遠征中です。今は私一人」

「ふははははは!カグツチ様は、スペルビアの宝珠とも呼ばれる、帝国最強のブレイド。ドライバーなくしてもこの力、観念しろ!」

「...オルガ、下がってて。こいつ多分強い。俺がやる」

 

いくら生身の戦闘にまだ慣れてないっつったって、ミカがそこまで言うとは随分やるみてえじゃねえか...

 

「けどな、この世界じゃドライバーがブレイドの力を借りて戦った方が強いんだろ?お前は補助に回ってくれ」

「あ、そうだった」

「お前...んじゃそういうわけだ。ミカがここまで言うんだ、あいつは相当強い。お前らも気ぃ引き締めろよ!」

「言われなくとも!」「わかってるよ!」

 

「翠玉色のコアクリスタル...まさかとは思ったけれど...いいでしょう。パクス警備長、殺生は禁じます。彼等を生きたまま捕らえなさい」

「はっ!おいっ、例のものを」

 

向こうは向こうで何か話してたみてえだが...関係ねぇ!

よし、行くぞお前らぁ!



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第2話 機械仕掛けの人形[ブレイド] 第4節 「ノポンの少年」

カグツチさんの事をおばさんって言った人はもれなく全員焼かれる かもしれない


「『ソードバッシュ!』」

「『バタフライエッジ!』」

 

レックスとニアの同時攻撃がカグツチに向かう。

 

「遅いですね、『陽炎』」

 

だが、それが当たる前にカグツチは剣の先端を伸ばし...蛇腹剣って奴だな。それに炎を纏わせて振り回すことで防御と反撃を同時にやってくる。その上、その剣に纏わせた炎を攻撃と同時にバラまく事で、俺らの足場まで少しずつ減らしていきやがる...。

さっきからずっとこんな調子だ。横にいたパクス警備長ってのは肩書きの割に大したことなかったが、流石に格が違うってか。

 

「あの剣、厄介だな...ミカァ!あれどうにかできるか?」

「引きつけるぐらいなら」

「じゃあ頼むぜ、ミカ!」

 

よし...俺達が本気ならミカは必ず応えてくれる。あいつなら...!

 

「その戦い方、いい加減鬱陶しいんだけど...!」

 

ミカは手に着けたワイヤークローを発射する。

 

「鬱陶しい?これは計略っていうのよ。...『渦龍』!」

「やっぱり防がれるか...でも...気はそらせた!」

 

使ってるのがワイヤークローとはいえ、ミカが相手でも互角にやり合うあたり相当戦いの才能があるらしい。だがな...

 

「こっちは...」

「1人で戦ってるんじゃない!」

「っ!」

 

カグツチがミカの攻撃を防ぐのに気を取られているその隙に俺とレックスで一気に攻める。

俺のメイスとレックスの剣が直撃する。流石に効いたろ!

 

「...中々やるようですね」

「このまま押し切るよ!ホムラ!」

「はい!」

 

レックスはホムラに剣を渡す。ホムラは

その剣を自分の周りで円を描くように回しながら力を貯める。

 

「『フレイムノヴァ』!」

「『燐火』!」

 

ホムラとカグツチの炎がぶつかり合う。炎はちょうど二人の真ん中でせめぎ合った後に爆発。どっちにも大したダメージにはなってねぇ。

 

「ドライバー抜きでこれか...」

「帝国最強の名は嘘じゃねえってか?勘弁してくれよ...」

 

「諦めるな!数はこっちの方が上だよ!」

 

そんな声がした後、ニアとビャッコがカグツチに飛びかかっていく。だが...

 

「ぬぉっ!?」

「ビャッコ!?うわぁっ!」

 

カグツチの後ろから飛んできた網に、二人そろって捕まっちまた。な、なんだ...!?

 

「エーテル遮断ネットだ!うははははははは、大気からのエーテル流を遮断されては、得意のアーツも撃てまい!」

「ブレイドにも弱点はあります。その一つがこれ...力の源であるエーテルの流れを遮られること」

 

エーテルってのが何なのか正直ピンと来ねえけど、つまりあれにやられちゃぁ力が出せなくなるってわけか!また厄介なもん持ってきやがって...

 

「ニア!ビャッコ!」

「逃げろ!アタシ達に構うな!」

「無理言うな、見捨てるなんてできる訳ないだろ!」

「そうだぞニアァ!レックスの言う通りだ!俺らは...!」

「アンタらにはアンタらの目的があるだろ?それを果たせ!」

「でも!」

 

くっそ、一気に状況が悪くなっちまった、どうすりゃあいいんだ...!

 

「オルガ、一旦退いて立て直そう。ここで全員捕まったら終わりだ」

「ちっ...今はそうするしかねぇか...!」

「...逃がしません」

 

くっそ...逃げ道が炎で塞がれちまった...

一旦退くしかない、って結論を出さざるを得なかった俺達にカグツチが追い討ちをかけてきやがった。いよいよマズいな...

 

だが。そんな俺達を救うかのように、小型のミサイルがどこからか飛んでくる。

それはカグツチに当たる...訳ではなく、狙いが逸れて水道管にぶつかる。

だが、水道管に穴を空ける威力はあったようで、辺りが水で濡れる。勿論炎も消えた。

 

「今なら...やるよホムラ!」

「はいっ!」

 

「「『バーニングソード』!!」」

 

レックスとホムラの最大火力、『バーニングソード』が炸裂する。周りが水に濡れてる中で放ったからなのか、着弾と同時に水蒸気爆発を起こす。

それによってあいつらを倒せるなんて思っちゃいないが、目くらましには充分だ!今のうちに逃げ...あっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでいい...逃げ切れよ、皆...って」

 

皆の無事を祈るニア。

 

「この水流の中であの技。天の聖杯、やはり本物か...ところで」

 

技の威力から、ホムラが本当に天の聖杯だと確信するカグツチ。

 

「アンタ、何をやってんの」

「貴方、逃げたはずでしょう?」

 

そして、二人から同時にツッコまれるのは俺、オルガ・イツカだぞぉ...

 

「俺は止まんねぇからよ...」

「いや止まってんじゃん」

「...パクス警備長。ついでにこの者も捕らえておきなさい」

「待ってくれ!俺はただ逃げようとしたら転んでその衝撃で死んでただけなんだ!一回ぐらい見逃してくれ!頼む!頼む!たのヴァァァァァァァアァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい...こっち、こっち、こっちだも。逃がしてあげるも」

「...あんた誰?」

「はやくっ、はやくも!」

 

一度逃げることにした俺達は、全速力でグーラを走り回っていた。そしたら、近くのドアがいきなり開いて、誰かが出てきてこうなった。も、って語尾についてるし、ノポン人かな。

なんか怪しいけど、大人しくそのノポンについて行くことにした。

 

「ありがとう、助かったよ。でもどうしてオレ達を?」

「何となくも」

「何となく?」

「っていうのは嘘も。ホント言うと、いっつもイバりちらしている兵士に、完成したばっかのロケットカムカムをお見舞いしてやろうと思ってたも。そこへちょーど兄ちゃん達が追われてきたんだも。外れて水道管にあたっちゃったけど、結果オーライだも!」

「へぇ、さっきのはあんたが...」

「トラだも」

「トラっていうのか。オレはレックス、こっちはホムラ」

「よろしくお願いします」

「俺は三日月・オーガス」

「よろしくも、もふふー」

 

ほら、オルガ。いつものあれ早くやらないと...あれ?

 

「...もしかして、オルガいない?」

「うわほんとだ!いつの間に!?」

「...一緒に逃げようとしてたでっかーい男の人なら、逃げようとして転んでそのまま起きなかったも」

「ふーん」

「なんか反応薄くない!?あの人三日月のドライバーでしょ!?」

「そうだけど、まぁ、いいかなって」

 

どうやらオルガは転んだ拍子にまた死んだみたいだ。ほんとに衝撃に弱くなったなぁ、オルガ。

 

「...で、実は助けたのにはも一つ理由があるも。でもこれは、トラんちに着いてからゆっくり話すも」

「へー、別に聞いてないけど」

「三日月!?聞いてあげよう!?」

「そうですよ、トラ君可哀想」

「...わかった」

「あれおかしいも、視界が歪んできたも」

「ごめんなさいトラ君。三日月さん、仲間には優しいんですが...」

 

色々あったけど、俺達はトラの家に向かうことになった。

 

 

 

 

 

一方、スペルビア軍トリゴ基地の港にて。

そこに、巨神獣(アルス)の神経にスペルビアの技術を使って信号を送り、制御することで操作する、巨神獣(アルス)戦艦がやってくる。

巨神獣(アルス)戦艦の格納庫から、外に出てくる影が1人。

その名はメレフ。

帝国最強のブレイド、カグツチのドライバーである。

 

 

 

 

 

「で、助けたもう一つの理由なんだけども...実はトラ、ドライバーと仲良くなりたかったんだも」

「へぇ。トラ、ドライバーに興味あるんだ」

「当然だも!ブレイドと一心同体になって、すんごい力を使えるドライバーはすんごいんだも!だからレックスのアニキのオトモになりたいんだも」

「...トラ、オレまだ新米ドライバーだしさ、アニキっていうのとはちょっと違うかなぁって」

「新米でもドライバーはドライバーだも。えらいんだも、イバりちらすも」

 

...威張り散らす、か...オルガのあれは威張ってるのとはちょっと違うな。っていうかそんな周りに威張り散らすオルガは...なんかやだ。

 

「威張り散らしはしないけど...よーしわかった、アニキって呼びたいなら止めないよ。でも、オトモとかじゃなくてトモダチになろうぜ」

「ホントかも!?トラ、アニキのオトモダチになるも、やったもー!!」

「なんだか変わった奴だなぁ...」

 

兄貴って言うと、オルガが「名瀬の兄貴」って言ってたのを思い出すな。二人の関係もあんな感じになるのかな?

 

「そうだトラ、軍に捕まった人がどこに連れて行かれるのか知ってる?」

「レックス、もしかしてニア達を?」

「うん。助けられたら助け返せ。サルベージャーの合言葉その2だ。三日月も協力してくれると心強いんだけど、来てくれる?」

「当たり前じゃん」

 

助けられたら助け返す。その言葉には賛成だ。

助けてもらっといていざとなったら見捨てるなんて、それじゃ筋が通らない。オルガならきっとそう言う筈だ。

 

「もも...それは街で色々と情報を手に入れないと分からないも。それよか、まずはゴハン食べるも。運動した後は、ゴハン食べないと考えまとまらないも」

「ご飯は後でいいよ、今は皆の居場所を...」

グゥー

「ほら、やっぱアニキもお腹ぐーぐーだも」

 

レックスの腹の虫は正直みたいだ。でも、俺も腹減ってきたしちょうどいいや。

 

「あの...良かったら私が何か作りましょうか?」

「ホムラ、料理できるの?」

「うふふ、煮物焼き物蒸し物揚げ物、火を使った料理なら何でもござれです!」

「おぉー」

 

料理かぁ。料理は具材が大きい方が食べてるって感じがして好きなんだけど...まあ、どっちでもいいや。

あ、そういえばさっきのこと...

 

「ねぇトラ」

「なんだも?まさかまた何かトラに酷いこと言うも!?」

「違うよ。別に俺達を利用しようって訳じゃないみたいだし、むしろ匿ってもらってるから、さっきのこと謝っとこうと思って。ごめん」

「も!?...三日月ってほんとに優しかったんだも...実は今まで信じてなかったも」

 

まぁ、普通そうなるよね。

 

「あ、だったらトラ、謝ってもらう代わりに頼みたいことがあるも」

「何?出来ることならするけど」

「トラ、今はまだ戦えないけども、ある作業が完了すればトラも戦えるようになるも!だから、その時に戦いの師匠になってほしいも!」

「俺が師匠?」

「そうだも!さっきの戦いを見てて思ったんだけども、三日月すっごく強いも!だから...ダメも?」

「そんなことでいいんならね」

「やったもー!!」

 

人に教えるのはあんまりしたことないけど...期待されてるんだし、頑張らなくちゃ。



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第2話 機械仕掛けの人形[ブレイド] 第5節 「料理と謎とパーカーと」

ブラピとリドリーで世界戦闘力100万越えたので流石にそろそろ書かなきゃと思いました まる


「美味い、美味いよホムラ!」

「うまうまだもー、ほっぺおっこちちゃうもー!」

「こんな美味いモン食ったのは120年ぶりじゃ」

「アトラの料理もおいしかったけど、ホムラの料理もいいね」

 

トラの家に置いてあった食材を使って、ホムラが料理を作ってくれた。で、それを皆で食べてるんだけど...おいしいな、これ。

 

「久しぶりの料理なので、腕がなまってたらどうしようって思ってたんです」

「なまるどころか、最高だよホムラ!」

「火星ヤシと一緒に食べても合うね」

「へぇ、ヤシかぁ。一個貰ってもいいかな?」

「ん。どうぞ」

「サンキュー!...ん゛っ!?」

「あ、ハズレだね」

「な、なんだよそれ!?」

 

火星ヤシも、ハズレさえ引かなきゃ美味しいんだけどね。人に渡す奴に限って大体ハズレちゃうの、なんでだろ?

 

「それにしても不思議だも...ホムラちゃん、火を使うブレイドだも?さっき水道管ぶっ壊した時も火の力使えてたも」

「そういえばそうだね、あのカグツチとかいう帝国のブレイド、あれもホムラと同じ火を使うブレイドだったけど、向こうはかなり影響を受けてた。でも、ホムラだけ影響を受けてないのが何か変だったりするの?」

 

まだこの世界のことは詳しくない。聞けることは聞いとかないとね。

 

「この世界には、エーテルっていう属性の力があるも。火とか水とか風とか...他にも色々あるも。ドライバーもブレイドも、このエーテルの力を源にするも。で、火は水に弱いも。だからあのブレイドのねーちゃんは、水ばしゃーんしてパワーダウンしたも」

「でも俺とホムラの力は問題なく発揮できたぞ」

「どうしても?」

 

エーテル...だからあのエーテル遮断ネットとかいう奴がブレイドの弱点なんだな。

 

「えーっと...私の属性、火じゃないので...」

「もももー!?火じゃないのに、何で火の力使えるも!?」

「そ、それには結構複雑な事情が...」

「どしても?その複雑なジジョー、すっごくキョーミあるも!」

「え、えーと、それは...その...」

 

複雑な事情、か。

─────────────────────

「...お久しぶりですね、セイリュウさん」

 

「うむ。昔とは随分と印象が変わったのぉ?」

 

「色々、ありましたから」

─────────────────────

...きっとあのじーさんは分かってて黙ってるんだろうな。だったら話を逸らした方が良さそうかな。

 

「ダメだよトラ。ホムラが困ってる。」

「もー...」

「三日月の言う通りだ。いいかトラ、人には言えない事情ってもんがあんの。だよね?」

「ごめんなさい、そのうちお話できる時がくれば必ず」

「いいよそんなこと。さ、それよりニア達を助けること、考えよう」

 

レックスが自分と同じ意見で助かった。にしても、天の聖杯って一体なんなんだろ。バエルみたいな伝説だけの存在って訳でも無いみたいだし。

 

「まずは街に出て情報を集めないとだも」

「ふむ...しかしワシら既にお尋ね者になっているかもしれんからのぉ。特に、天の聖杯であるホムラや、見慣れぬ服装をしている三日月は目立つ」

「ごめんなさい...」

「え?あー...なんかごめんな」

「ダイジョウブだも、トラにいい考えがあるも」

 

...なんか嫌な予感がするな。

 

 

 

 

 

 

 

「...何これ」

「でも、これなら私だってバレませんよね」

「でもこれ...まあ、いいか」

 

流石に犬の耳の付いたパーカーを着せられるなんて思わなかった。っていうか、なんでこんなに小さいノポン族のトラが人間用の服持ってんだろ。

 

「さ!アニキのトモダチ、探しにいくも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり時は少し遡って、戦艦到着直後のトリゴ基地港。

 

「メレフ特別執権官!いかがなされました、突然のご来訪とは...前もってご連絡くだされば、歓迎の催しを開きましたものを」

「生憎、その手のモノは苦手でね。常に辞退させて貰っている」

「何を仰います。メレフ様程のお方、万全の体制をもって遇さねばネフェル陛下に顔向けできません!」

 

戦艦でスペルビア本国よりやってきたメレフ。そしてそれを出迎えるモーフ。

一見敬意を持った態度で出迎えているようにも見えるが、その実、モーフは少し前にバーンからある話を聞いていた。それは、天の聖杯がグーラに向かったかもしれないという話だ。天の聖杯は強大な力を持っていると伝説でも語られる存在であるため、モーフはそれを手に入れることで、本国への凱旋や、バーンに売りつけることで大金を手にする、といった計画を考えていた。そのためには、メレフより先にホムラを手に入れなければならない。だから、こうして必死に足止めしようとしているのであった。

 

「いかがでしょう、これより晩餐の準備をさせます。メレフ様にはそれまでの間...」

「随分と早かったですね。到着は明日かと思ってたのに」

「カ、カグツチ様」

 

モーフの後ろから、カグツチがやってくる。自身のドライバーが到着したという報告を聞き、港に来たのだ。

 

「天の聖杯が見つかったのならば、急がせもする。おかげで船のエンジンは整備工場行きだがな」

「天の聖杯!?な、なぜそれを」

 

つい、本音を漏らすモーフ。

 

「何か問題でもあるのかね?モーフ君」

 

一瞬、目つきの鋭くなるメレフ。

 

「い、いえ。滅相も、ございません」

「聞けば、イーラのドライバーを捕らえたという。どこにいけば会えるのかな?」

「えっ?会って、どのような...」

 

モーフからしてみれば、イーラのドライバー...つまりニアは、天の聖杯自信でもなければそのドライバーでもない。捕まえても自分は得はないのに真面目な兵士が勝手に捕まえてきた、程度の認識でしかなかったので、つい疑問に思ったのだ。

 

「モーフ君。どこに行けば会えるのかな?」

「はっ、はいっ!すぐにご案内を!」

 

メレフの気迫に気圧され、モーフは従わざるを得なくなる。

一体何の目的で?まさかあのドライバー達も天の聖杯について何か知っているのか?

様々な考えを巡らせながら、モーフはメレフをニアとオルガの下へ案内した。

 

 

 

 

「さて、どうみたってお偉いさんのあんたが俺を呼びつけた用件はなんだ。言っとくが仲間を売る気はねえぞ」

「ふっ、よくわかってるじゃないか。だがその気がないのは困るな」

 

独房に放り込まれてたところで急にこのメレフって奴に呼び出され、こうして話してるのが今の俺の状態だ。二アはすでに呼ばれた後みたいだな。ミカもいねぇしこっから脱出すんのは難しいか...

 

「だが、この街の外に出たという報告はない。いずれ見つかり、そして捕らえられるだろう」

「っ!待ってくれ!あいつらは俺の言うことを聞いて動いてただけなんだ!頼む!俺ならどうにでも殺してくれ!何度でも殺してくれ!首跳ねてそこらに晒してくれてもいい!だから...!」

 

あいつらはこんな所で止まっていい奴らじゃねぇ!あいつらには行きたい場所があるんだ...!

 

「知らないのか?天の聖杯の力は天を裂き地を灼く。彼等の目的次第では、放っておくことはできない。イーラのドライバーと行動を共にしていたとなれば、彼らがイーラの仲間である可能性もある」

「イーラ?違うな!あいつらは...あいつらは鉄華団だ!」

 

咄嗟に嘘ついちまったが...悪の組織の一員扱いよかよっぽどマシなはずだ...!

 

「そうか。だが仮に彼らがイーラとは無関係で、その「鉄華団」の仲間だとしても、その団の目的が不明である以上、見逃してやることはできないな。」

 

ごもっともだ。名前が知られてねぇってのは不便でならねぇな...。

 

「それと、だ。君にはもう一つ聞きたいことがある。君のブレイドである、あの少年のことだが」

「あぁ?ミカがどうしたってんだ」

「ミカ...やはり知らぬ名だな。あれ程の力を持っているのなら、名前が知れ渡っていてもおかしくないと思ったのだがな。あの力、どうやって得た?」

「知らねえよ。俺もあいつも生きてく為に目の前のもんにしがみついて進んできたんだ。それにあいつは強くなきゃ生きていけねぇことを俺以上によくわかってる。そんだけだ」

「なるほどな...」

 

なんか考え事してんな。まさか今の発言だけで何か察したってのか...いや、流石にねぇか。

 

 

 

 

「メレフ様、何か気になることでもありましたか?」

「カグツチか。そういう風に見えたか?」

「えぇ」

 

その通りだ。やはり長年のつきあいともなれば、そういった起伏も読み取れるものだな。

 

「...二人のドライバーの話に嘘がなければ、あの少女はイーラとの関わりを断ったようだ。そしてあの見慣れぬ服装や名、それに反してお前と互角に戦えるほどの実力。不思議なものだな...まるで異世界から急に現れたかの様だ。」

「そのようなことが起こり得るのですか?」

「わからんさ。この世界にはまだまだ我々の知らぬことが溢れている。ただ...」

「ただ?」

 

───「知らねえよ。俺もあいつも生きてく為に目の前のもんにしがみついて進んできたんだ。それにあいつは強くなきゃ生きていけねぇことを俺以上によくわかってる。そんだけだ」───

 

「彼らには彼らなりの意志がある、ということだけはよくわかったよ」

「...なるほど。では...聖杯の件、どうします?」

「引き続き捜索...の必要もないな。話を聞く限り、彼らは仲間らしい。ならばそれを利用させてもらうだけだ」

「...承知しました」

 

さて...天の聖杯のドライバー。一体どれほどの者か、試させてもらおうか。




ちょっといつもより文字数少ないな ゆるして


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第2話 機械仕掛けの人形[ブレイド] 第6節 「鉄の華、起動」

今日クリスマスイブやぞ 予定なんてねぇよ


「ニアとビャッコさん、それにオルガさんが処刑されるなんて...」

 

耳のついた変なパーカーで姿を隠しながら情報収集して、捕まった皆は近日中に処刑されるってことがわかった。

あと、ニアって名前が十数年前のエチェル?ってとこの領主と何か関係があるみたいな話をしてる人もいたけど、そこはまあどうでもいいや。

 

「入港した軍艦の中というのがまたやっかいじゃな、どうやって助け出したもんか」

「軍港はケーカイゲンジューだも」

 

机の上にトリゴの街の地図を広げて、作戦を考える。

 

「やっぱりここは男らしく正面突っ...」

「だめです!皆が危険な目にあっちゃいます」

「そうだよレックス。それはダメだ」

「まぁ...そうだよね」

 

まあ、もし正面突破しか方法がないなら、俺が全部の敵を片付けるけどね。仲間を守るために、出来ることをやるのが俺の役目だ。

 

「...ここ、これ大樹の根っこですよね?この図が正確なら、岸壁から伸びた根が船底まで続いてるみたいです。そしてこれが、船底の物資搬入口。ここから入れないかしら?」

「なるほど、根を伝って船底の搬入口からか」

「そこなら警備も手薄だも。おまけに、夜は物資の搬入やってないも」

「決まりみたいだね」

「じゃな」

 

どうやらもっと安全に入れそうな場所があったみたいだ。だけどどちらにせよ戦闘は起きるだろうし、準備はしておかないと。

 

「もっふっふー」

「トラ?」

「皆に見せたいものがあるも」

 

トラ、一体どうしたんだろ。もしかして、さっき言ってたある作業ってやつのことかな?

 

「これが、誰にも見せたことのないトラだけの秘密...人工ブレイドなんだも!」

 

トラがカーテンを捲ると、そこにいたのは俺達とそんな変わらないくらいの大きさの女の子...いや、人型の機械だった。

 

「人工ブレイド?」

「トラは、ドライバーに憧れてたも。でもトラには...トラにはドライバー適性がなかったんだも...」

「何でそんなこと決めつけるんだよ。そんなのやってみなけりゃ...やっちゃったのか?」

「トラは一年前、ドライバースカウトに志願したんだも...」

「ダメだったんだ...」

 

俺達全員の頭の中に、さっきのドライバーになろうとした人が失敗して全身から血を吹き出した光景が浮かぶ。

 

「トラくんもあんな目に...」

「そうだも...三日三晩、鼻血が止まらなくてたいへんだったも」

「そ、それだけ...?」

「それだけじゃすまないも!鼻血だって、出血多量で死ぬこともあるも!」

「聞いたことないなぁ...」

「ま、それは置いといても」

「置いとくんだ...」

 

鼻血で死ぬ...

...オルガじゃん。

 

「とにかくこの人工ブレイドが完成すれば、適性がないトラでもドライバーになれるも」

「しかしすごいもんじゃの、トラ。お主が一から作ったのか?」

「作り始めたのは、じいちゃんと父ちゃんだも。でも、じいちゃんは死んじゃって、父ちゃんもどっかへ行っちゃったも...だからトラは、こいつを完成させて、ドライバーになって大活躍するも!そしたら、噂を聞きつけた父ちゃんも帰ってきてくれるも」

「トラくん...」

 

じーさんの質問に答えるトラ。トラも親がいなくなって1人か...この世界にもそういう人って多いのかな?

 

「ところでトラ...この人工ブレイド、見たところほとんど完成しているようじゃが、後はどうすればいいんじゃ?」

「もっふっふー、後は足りないパーツをいくつか買ってくればいいも。でもトラ、お金ぜんぜん持ってないも」

「えーっ、マジで!?ぜんぜん?1ゴールドも?」

「すっからかんも」

「...レックス、ニア達は俺達で助けにいこっか」

「待ってくれも!!完成したらとてつもなくすんばらしい戦力になれるも!!」

「...つまりお金を貸してくれってことだよね。でも俺はこの世界のお金なんて持ってないし...レックスは?」

「金額によるなぁ...」

「あ、貸すんじゃなくて出してくれたらもっと嬉しいも」

 

...ちゃっかりしてるな。ノポンって、お金にがめつい種族なのかな...?

 

「...で、いくらいるの?」

「だいたい6万ゴールドも」

「ろくまんっ!?さすがにそれは...」

「ねぇ、レックス。トラくんにも手伝ってもらいましょう。お金だったら、私が何とかするから」

「何とかするって、どうするの?」

「まっ、まさか身体を売っ...」

 

ピギュッ

 

「ちょっと...黙ってろ...!」

「冗談だったんじゃ...」

「ったく...いい加減にしろ、クソジジイ!」

「ふ、2人とも落ち着いてください。気にしてませんから...それよりも、これを」

 

じーさんの胸ぐら...は小さすぎて掴みにくいから、頭を掴んで怒ってた俺と、同じ怒っていたレックスを抑えつつ、ホムラが右耳のピアスを外す。

 

「天然物だから、売れば6万くらいにはなると思う」

「だめ、そんなの受け取れないよ」

「でも...」

「ええい、オレも男だ!わかった!パーツ代、全額オレが持つ!」

 

皆の反応からして大金なのは間違いないんだろうけど...レックスのそういうとこ、なんかオルガみたいだな。

 

「ももーっ!アニキは男の中の男もーっ!」

「その代わり、ヘンテコなブレイドだったら承知しないぞ」

「それは任せても」

「よし、じゃあ行くぞ!」

「もーっ!」

 

俺とホムラは、正体を隠すのに使ったパーカーをもう一度着て、レックス達を追いかけた。

 

「...勢いに任せて外に出たのはいいけど、人工ブレイドの完成には何が必要なんだ?」

「かんぺき測距センサ一個と、ビヨンコネクタが三個必要も」

「聞き慣れない単語ですね」

「かんぺき測距センサは人工ブレイドの目の役割の補助に使うも。これが中々高価な素材なんだも。で、ビヨンコネクタは色々用途はあるけども、主に帽子が落下するのを防ぐも」

「...その辺の紐でいいでしょ、それ」

 

つい本音が出ちゃった。他にまともな用途があるんならいいんだけど...

 

「それで、どこのお店で売っているんですか?」

「雑貨屋マージャも!トリゴの街に入って少し左手に入った所にあるも」

「そこなら前を通ったことがありそうじゃな」

「よし、出発だ!」

 

 

 

 

 

「...で、どうする?」

「ビヨンコネクタはサルベージするとして...問題はかんぺき測距センサじゃな」

 

雑貨屋マージャに向かった俺達は、店員のサレスって人から話を聞いた。

どうやら、ビヨンコネクタはサルベージで取れる上に、今は取れやすい時期らしい。

けど、かんぺき測距センサ...長いなぁこの名前。センサでいいや。

で、センサの方は、在庫が無いみたいで、レックス曰くサルベージで取れるっていう話も聞かないみたいだ。

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

広場でどうするか考えてると、後ろからグーラ人の大男が話しかけてくる。

 

「俺はチェパーン、植物学者でな」

「植物学者!?人は見かけによらないも!」

「トラ、失礼だ...」

「もっ!?ごめんなさいも」

「いいさ、よく言われるからな...実はラスカム離島へフィールドワークに行きたかったんだが、モンスターがいて引き返してきたんだ。そこで帝国軍に依頼したが、忙しいらしく取り合ってもくれねぇ。それで、腕の立ちそうなアンタ達に依頼すれば容易い仕事じゃないかと思ったんだ。頼みを聞いてくれたら、倉庫に眠ってるかんぺき測距センサをくれてやるが...どうだ?」

「渡りに船ですね」

 

モンスター退治ぐらいならいくらでもやってやれる。となれば、決まりだ。

 

「じゃあレックス、サルベージの方は任せる」

「あぁ!三日月、そっちは頼んだよ!」

「トラもついていくも!」

「では私はレックスの方に」

 

そして俺達は、俺、トラと、レックス、ホムラ、じーさんの二組に別れ、出発した。

 

 

 

 

 

「あれがチェパーンって人の言ってたモンスター?」

「そうだも。トラも一緒に戦いたいけど、囮かエサになるくらいしかできないも...」

「いや、トラはそこで見ててくれればいいよ。俺が倒す」

 

それだけ言って、まずはメイスを投げつける。

敢えてモンスターの手前に落として、砂煙を起こす。それが目くらましとして機能している内に飛び込み、地面に刺さったメイスを引き抜きながら跳び上がる。

そして、落下の勢いを乗せてメイスを叩きつけると、モンスターは倒れていた。

 

「で、俺の弟子になるんだっけ。なんか参考になった?」

「...一瞬すぎて参考にできないも」

「え?あー...ごめんな?」

 

 

 

 

「お...戻ってきたか。無事ジュペン・クライブを倒してくれたようだな。俺の見る目は間違ってなかったってこった。これが約束のかんぺき測距センサだ」

「うん。ありがとね」

 

で、あとはレックス達が戻って来たら...って行ってたら来たみたいだ。じゃ、トラの家に戻るとしよう。

 

 

 

 

「よし、終わったも!後はエネルギーチャージして起動すればいいも」

 

手に入れた部品を取り付ける作業が完了したみたいだ。いよいよ人工ブレイドが動き出すみたいだ。

 

「ニア達が処刑されてしまうまでもう時間がない。急ぐんじゃ、トラ」

「うん、わかったも。人工ブレイド、お前が目覚める時がき...」

 

そう言いながらトラが手...に見えなくもない羽?を起動の為のレバーに手をかけたその瞬間。

 

「ダメよトラくん」

「え、な、何でだも?」

「人工ブレイドなんて呼んでたら、かわいそう。ちゃんと名前をつけてあげて。トラくんが考えた名前を...」

 

なんで止めるのかと思ったけど、そういうことか。

名前は大事だもんね。人工ブレイドなんて呼び方、確かに駄目だ。

 

「そ、そうかも...実はトラ、もう考えてあるも。こいつの名前...」

「そっか。じゃあ迷うこともないな」

「だね。じゃあトラ、始めて」

「わ、わかったも!」

 

気を取り直して、今度こそ本当に起動するみたいだ。

 

「さぁ、目覚めろも...トラだけの人工ブレイド、ハナッ!」

 

トラがレバーを引くと、目の前の少女を模したロボットが動き出す。

 

「...おはようございますっ!ご主人さまっミ☆」

 

...何これ。いや、ほんとに...何これ?

レックス達も唖然って感じだ。そりゃそうだよね。

 

「ちょちょちょ、ちょっとまったもー!!い、今のはナシも!せ、設定を間違ったもー!!」

 

慌ててトラが機械を弄り、人工ブレイド...ハナを一旦停止させる。

 

「こ、こんどこそ大丈夫も!そ、それでは気を取り直して、スイッチオンだも!」

 

トラが再びレバーを引き、ハナも再び動き出す。

 

「おはようございますも、ご主人」

「せ、成功だも!これがトラの自信作!セカイ初の人工ブレイド、『ハナ』だもっ!」

「おおーっ」

「すごい!」

「こりゃたまげたわい」

「うん。こんなこと、オルガにだってできない」

 

今度こそ成功みたいだ。さっきとは別人みたいだけどね。なんであんな設定にしてたんだろ...

 

「どうだもー?感心したもー?トラ、すんごいもー?」

「ああ、ホントすごいやトラ!いやぁ、さっきはびっくりしたよ。てっきりそういう趣味なのかと...」

「ト、トラにそんな趣味があるわけないも!ア、アレは...そう!センゾーじいちゃんの趣味も!きっとそれが残ってたんだも!」

「ほんとーですか?」

 

ホムラが凄い疑うような目でトラをじーっと見る。

 

「ほ、ほんとー...も...ももっ!?」

 

トラは必死で誤魔化そうとしてたんだけど...急に叫んで別の方向を見るから何かと思ってそっちを見た。そしたら...タンスから人間用の...確か前行った世界じゃ『メイド服』って呼ばれてた奴が転がり落ちてきていた。

...って、やっぱりそういう趣味じゃん。

 

「...ということだそうなので。レックス、三日月さん。行きましょう、ニア達を助けに」

「ああ、急ごう」

「だね」

 

いよいよ救出開始だ。ちょうど今は夜だし、行くしかない。

 

「というわけで、ハナですも。今後とも、よろしくなのですも」

 

ハナがこっちを向いて、礼儀正しく一礼する。

うん、こっちこそよろしく。



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第2話 機械仕掛けの人形[ブレイド] 第7節 「救出作戦」

スマブラにレックスきてほしいなとは思うけど可能性抜きの願望のみで言うならシンの方が使ってみたい感ある


「それで、二アが捕まってる巨神獣(アルス)戦艦へはどういうルートで行けばいいんだろ?」

「ちょうど雲海が引いたみたいじゃから、ホムラの言っていた大樹の根っこを目指すべきじゃろうな」

 

トラがハナを起動させ、俺達はいよいよ戦艦へと乗り込む。タイミング良く雲海が引いてくれたみたいだから、予定通り根っこから乗り込むことになった。

 

「あの根っこが伸びていたのはガレグロの丘の少し先だったも。ここからだと、階段を一番上まで上ってから吊り橋を渡って門をくぐれば、ガレグロの丘に着くも」

 

「スペルビア帝国軍の見張りは大丈夫でしょうか?」

「スペルビア帝国軍の基地周辺は厳重に警戒してるけども、ガレグロの丘までなら問題ないも」

「決まりだね」

「はりきって行きましょうも」

 

さて、皆を助け出さなきゃ。

 

 

 

 

「あれが巨神獣(アルス)戦艦も」

「へー。立派だね」

「これもインヴィディアとの再戦に向けた帝国の準備のひとつというわけじゃの」

「あ、見て。あそこ。ホムラの言ったとおり根が搬入口の下まで伸びてる。この下から回れそうだな、行こう!」

 

ガレグロの丘に着いた俺達。じっと眺めたことはさっきまでなかったけど、この戦艦、よく見るとかなり大きいな。皆を捜すのは結構大変そうだ。

そして、木製の倉庫の屋根を飛び移ったり、はしごを登り降りしたりしながら俺達は下へ降りていく。途中で、オルガなら死んでたなって思うような着地の衝撃も味わいつつ。

伸びた木の根っこの先端までたどり着いた俺達は、戦艦を下から見上げる。

 

「結構高さがあるなぁ」

「俺のワイヤークローやレックスのアンカーは多分届くけど...ホムラ達はどうする?」

「俺が上から引き上げるよ。待ってて」

 

そう言うと、レックスが最初に登り、上からアンカーを垂らす。俺も登っておこっと。このワイヤークロー、便利だな。

 

「まずはホムラから。捕まって」

 

笑顔を浮かべてこっちを見るレックスだった。けど...ホムラが捕まった瞬間、一気に表情を崩して体制もよろける。

 

「うっ!お、重い...」

 

その勢いは、サルベージャースーツのヘルメットに入っていたじーさんが咄嗟に飛び出すぐらいだった。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

レックスの言葉を聞いたホムラがすぐさま手を離し後ろに退く。結果アンカーは凄い勢いで上に戻っていき、レックスは尻餅をつく。

 

「い、いってぇ...」

「レディーに向かって重いとは、デリカシーのない奴じゃの」

「駄目だよレックス。失礼だ」

 

重いなんて言ったら、失礼だからね。そういうとこはちゃんとしとかないと。

 

「そうだも!デリカシーないも!」

「ごめんなさい!本っ当にごめんなさい!」

「い、いや、そういう意味じゃなくて...」

 

下からトラの叫び声と、謝るホムラの声が聞こえてくる。レックス、そういうつもりじゃなかったのかもしれないけど誤解を生むようなことは言うもんじゃないよ。

 

「確かにトラより重いも。でもそれは、立派にセーチョーしてる証拠だも!いいことだも!すっごくいいことだもっ!」

 

それ、フォローになってるのかな...?

なんて言ってると、突然ハナが足のブースターから火を噴き出しながら飛び上がり、一気に上まで登ってくる。

 

「ハナが引き上げますも。さあ、捕まってくださいも」

 

レックスが再びアンカーを垂らす。それにホムラが捕まると、今度はさっきみたいなことにもならず無事ホムラを引き上げれた。

 

「凄い力だ...」

「ハナは人工ブレイド。このくらいラクショーですも。ゴンザレスだって引き上げられますも」

 

ゴンザレスって如何にもモンスターって名前してるけど...ホムラ、どうみても気にしてるように見えるし。

その後、特に何事もなくトラも引き上げ、無事潜入に成功した。

 

 

搬入口から中に入り込み、トラ曰くクラウドタンク室っていう部屋を通り抜ける。中に住み着いていたモンスターも倒して道を開き、はしごを登って上の階へ上がる。

 

「なっ...侵入者!?くそ...大人しくしろってんだ!」

「お前こそ大人しくしてろ...!」

 

やっぱりというか案の定というか、スペルビアの兵士が見回りをしていた。けど、向かってくる度に全部潰して先に進んだ。

 

「...ご主人。この辺りのどこかにブレイドがいますも」

「ハナ、そんなことがわかるのかも?」

「はい。何かブレイドの波動って感じですも」

 

辺りに鍵のかかった部屋が多くある通路に着いたところで、ハナがそんなことを言い出す。どうやら近くにビャッコがいるみたいだ。

 

「片っ端から開けてみましょう」

「だね。それが一番早いや。」

 

ってことになったから、俺がメイスでぶっ壊して、ホムラが焼いて穴を開けるって方法で、それぞれドアを片っ端から開けていった。いやこれ開けたって言わないな。まあいいか。

そして何個目かのドアをホムラが焼いて、その先には...

 

 

ビャッコがいた。

 

「あのう...ヤケドとかしてませんか?」

「ホムラ、だから火が強すぎだって」

「ごめんなさい、加減が難しくて」

 

開いた穴を覗き込みながら、そんな話をするホムラとレックス。

 

「ホムラ様、レックス様!」

「おぉ、無事じゃったか、ビャッコ」

「間に合ったみたいでよかった」

「よかったもー」

「ほらご主人、やっぱりここにいたですも」

 

巨神獣(アルス)様と、三日月様と...ええと、どちら様ですか?」

 

 

「ビャッコ、いきなりで悪いけど二アがいる場所わかる?」

「もちろんです。私と同調した、たった一人の方ですから」

 

トラとハナの説明を終えて、ビャッコを部屋の外に出す。

 

 

「...ところで、三日月様がいればオルガ様の場所は分かる筈なのでは?」

「え、そうなの?...あ、なんかわかった気がする」

「適当だなぁ...」

 

どうやら、ブレイドはドライバーの居場所がわかるらしい。覚えておこう。

 

「助けに行こう。処刑なんかさせるわけにいかない」

「はい。お願いします」

 

ビャッコをチームに加えて、艦内を駆け回る俺達。

入り組んだ通路を走り抜けて、2人の兵士が入り口を見張っている部屋を見つける。

 

「間違いありません。あそこです!」

「よし、行こう!」

 

躊躇なんてしない。してられない。

俺達は兵士に向かって走り始める。

 

「なんだ貴様ら!」

「テロリストの仲間か!」

「仲間だけど...テロリストなんかじゃない!」

 

レックスのその声が合図となって、戦闘が始まった。

扉の見張りを任されてるだけあってか他の奴らより強そうだ。けど、負けてはいられない。

兵士が銃で攻撃してきたけど、ドライバーと俺はそれぞれの手にした武器で弾き、ブレイドの皆はエーテルでバリアを作って防ぐ。

 

「お返しだっ!」

 

レックスが剣を振るって炎を放つ。炎は上手く敵兵に当たり、片方の兵士を怯ませる。

 

「やらせるかよ!」

 

もう片方の兵士がグレネードを取り出し、投げる。流石にあれは危ない...!

 

「させないも!」

 

グレネードが爆発するが、大した被害はでなかった。

トラが咄嗟に飛び出し、背負った盾を使って防いでくれたからだ。

 

「守るのはトラ達の役目だも!」

「ですも」

 

...オルガの負担も、この世界なら少しは減りそうだね。

まあ、とりあえず今は...

 

「あっぶねぇ、なぁ!」

 

こいつらを潰す、ただそれだけだ。

 

「ホムラ、とどめ頼む!」

「はいっ!...『フレイムノヴァ』!」

 

エーテルを使って熱を生み出し、それを使って攻撃する。ブレイドって色んなことができるんだな...

ホムラの一撃で兵士が完全に倒れる。

 

「よし!これで中に入れる!」

「うん、早く二アを助けよう」

 

俺達は兵士の守っていた扉を開け、中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

...独り、だな。

前にもこんなこと、あったなぁ...

捕まって、閉じ込められて...

あの時は、シンが助けてくれた...

でも、もうあんな事はないんだろうな...

分かってるけど...それでも...

 

ガチャッ

 

扉の開く音だ。もしかして...

 

「シン...」

 

 

 

 

「ニア、生きてる?」

 

...三日月...?何でこんなところに...?

 

「大丈夫か、ニア!」

 

レックスまで...逃げろって言ったのに...?

 

「三日月、レックス...アンタ達...」

「遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」

 

ビャッコ...アンタも助けてもらえたんだ...よかった。でも...

 

「いいんだ。誰も来てくれるはずないって、思ってたから...」

「は?あんた何言ってんの?」

「三日月...?」

「仲間は見捨てない。捕まった仲間を助けにくるのは、当然のことだ」

 

そう言って三日月は手を差し伸べてくれた。かつて、シンがアタシにそうしたように...

 

「...ふっ、やっぱ凄いよ、アンタ」

「別に?普通でしょ」

 

アタシはその手を掴んで立ち上がった。もしかしたら、アタシの居場所は...。

 

「アニキ達、脱出ルート見つけたも!」

「ノポン族...?」

 

ノポン族が開いた扉に体半分隠しながらこっちを覗いてる。

前はいなかったけど...新しく仲間を見つけたのかな...?

 

「お力を貸してくださった...」

「新しい仲間だ」

 

やっぱりそうだったみたいだ。

 

「よ、よろしく...」

「さぁ、こんなところに長居は無用じゃ!オルガも助けだして、さっさと脱出するぞ!」

 

じーさんの声が聞こえてきたと思ったら、ホムラ、これまた見たことない...ロボット?が同じように顔を出してきて、そのロボットの子の頭にじーさんが乗っていた。

..随分と増えたなぁ...

 

 

 

 

「あーいたいた。ほんとにブレイドってドライバーの場所わかるんだね」

「おぉ、ミカ」

「おぉじゃないよ。こんなところで捕まって...ほら、いくよ」

「待て待て待て!急いでるのは分かるが引きずるな!待てって言って...ヴァァァァァァァ!!!」

 

いきなり扉がぶっ壊れるから何事かと思いきや...ミカ達が助けにきてくれたみてぇだ。けど引きずるのは勘弁してくれよミカァ!!

 

 

 

 

通路を走りながら、俺達はドライバーとブレイドについてとか、今まで何があったのかとか、色々と話を聞いた。色々と大変だったみたいで、迷惑かけちまったな...

んで、ブレイドにはロールっつー役割があって、それは攻撃、回復、防御の三種類あるとか。

ホムラは攻撃だし、ビャッコは回復。ハナって呼ばれてるこの新しい仲間は防御なんだとよ。だがハナに関しては、トラっていうこのノポン族曰く「設定を変えれば何でもできるも」だそうだ。

で、一緒に戦ってるブレイドのロールによってドライバーの戦い方も変わるんだとよ。

...因みに、俺は仲間を守るのが役目だからてっきりミカは防御になるのかと思いきや...「誰がどう考えても攻撃も」だとよ。まあ、そりゃそうか...

さて、そんな話を聞きながら進んでると、俺達は格納庫前の扉にたどり着いた。

 

「もももー、鍵が掛かってて開かないも」

「ハナの力でも無理そうですも...」

「もうちょっとだってのに...!」

「どこかに鍵があるはずじゃが...」

 

鍵なんて探してたら時間がかかっちまう。だったらここは...

 

「関係ねぇよ、んなもん!」

「オルガ!?でも、どうやって...」

「ハナ1人じゃ無理なんだってな?じゃあ、全員の力を合わせるだけだろ!」

「そっか、それなら...!」

 

よーしお前ら、いくぞぉ!

 

「「『バーニングソード』ォッ!」」

「「『メイルシュトローム』!」」

「「『ジェットカムカム』!」」

「『レイジオブダスト』」ッ!!」

 

全員が、それぞれのブレイドと力を合わせて放った一撃。

その全てが扉に直撃し、扉は見事木っ端微塵だ。

 

「よし、これで脱出できる!」

 

俺達は、外に向かって走り出した。だが...

 

「逃げ出す気なんでしょうけど...そうはいきませんよぉー!」

 

出口の方から、捕まってるときに見かけた男...確か名前はモーフっつったか。そいつがブレイドと思われる重装備のでっけぇ怪物を連れてくる。

 

「イーラのテロリストを捕らえたという実績が、取り逃がした汚点になってしまうのは困るの。翠玉色のコアクリスタル、お前は天の聖杯ぃ!いまいましいけど、メレフの読み通りだったというわけね」

「ホムラのことを知っている?お前もホムラを狙っているのか!」

「お前もぉ?当たり前でしょー!天の聖杯、その力は空を裂き大地を割る、アルスト史上最強のブレイドォ!聖杯を求めない者は、その価値を知らない愚者のみ!そして私は愚者ではない!だーから私は聖杯を手に入れ...」

 

パァン!

 

「ごちゃごちゃとうるさいな...!」

 

ミカの奴、長話を聞くのに飽きたのか、それとも欲まみれのクズ野郎にイライラしてたのか、とうとう発砲しちまった。だがモーフの奴、素早い動きで後ろで控えてたブレイドの後ろに隠れやがった。

 

「チッ...じゃあこれなら!」

 

今度は横に回り込んで、そこから射撃する。だが、モーフはまたブレイドが攻撃を受けるように移動しやがる。

 

「あいつ...!ブレイドを楯にするような戦い方を!」

「はぁ?何を言ってるのぉ?ブレイドはいくら傷ついても再生する。けれどドライバーが死んでしまえば元のコアに戻ってしまう」

「だからブレイドが楯になるのが当然だって?アンタ最低だね、身体の傷は再生しても、ココロの傷は、なかなか癒えないんだよ!」

 

...?ニアの奴、まるで自分のことみたいに言って...

 

「はーっははーっ!私にはブレイドの気持ちがわかるんですってー?お優しいドライバー様もいたもんねぇー?」

 

しっかし本当に腹立つ野郎だなこいつ。

 

「ミカァ!お前らぁ!そんな戦い方じゃあ俺らにはかなわねぇって教えてやろうぜ!」

「ああっ!俺達の力、見せてやろう!皆行くよ!」




多分今年最後の回かな 格納庫の鍵取りに行くとこは特に見所ないしすっ飛ばしました いいよね?


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第2話 機械仕掛けの人形[ブレイド] 第8節 「新生鉄華団」

あけましておめでとうございますうううううううう(遅刻)
モーフのブレイドに固有名ないの呼び辛すぎる


モーフの戦い方は、陰湿って言う他ねえような戦い方だった。

ひたすらブレイドの後ろに回って、そっから銃を撃ってきたり爆弾放り投げてきたり、だ。

んで、楯にされてるあいつはブレイドだから傷は再生する、と。

下手すりゃ永遠に続きかねないが、少なくとも俺らの負けはありえねぇ。

 

「なんなのよこいつらっ!攻撃しても全部あの変な前髪の男の方に飛んでくし!あーもう!早くあいつら潰しなさいよ!この役立たず!」

 

ほら見ろ。楯扱いしてたブレイドに攻撃まで任せ始める始末だ。銃弾なんて俺がいる限り俺の仲間に当たりはしねぇ。あと変な前髪で悪かったな。

んでもって、そのブレイドの守りも、そろそろ突破できそうな頃合いだ。だろ、ミカァ!

 

 

 

 

 

 

 

数十分前、艦内の通路にて...

 

「そういやミカ、ここにきてから戦ってるときに何か言ってないか?」

「え?あー...レックスもホムラも、戦ってるときそんな感じじゃん?」

「言われてみればな...」

 

通路を走りながら、俺はミカに気になってたことを聞いてみる。言われてみると、確かにレックス達は戦闘中に声掛けをしている。

 

「しかし、お前がそういうことするのは珍しいだろ?」

「周りに合わせてみようかなって。それにオルガも叫んでたじゃん。技名」

「あれか?あれはその場のノリで付けただけだしよ...」

「でも格好良かった。俺も何か欲しいな」

 

...ミカ、ブレイドになって色々変わったな。前までなら絶対こんなこと言ってなかったぞ。

 

「...!」

 

ふと、ミカが何か思いついたような顔をした。

 

「どーした?」

「いいのが思い浮かんだ。俺らしい技。次の敵で試してみる」

「おぉ、いいんじゃねぇの?楽しみにしとくぜ」

 

 

 

 

 

結局次の敵とはいっこうに出会わず、今このモーフってのと戦ってるんだが...ミカ、お前ならいきなり本番でもいけんだろ?

 

「やっちまえ、ミカァ!」

 

俺はミカのメイスを思いっきり宙に放り投げた。それをミカが受け取って...手に装着したワイヤークローを消し、代わりにいつぞや使ってた滑空砲を出現させ、手に取る。

モーフのブレイドの正面に立ち、まずは滑空砲を一撃、直撃させて敵の動きを封じる。

その後、滑空砲を消して、すぐさまモーフのブレイドの懐に飛び込み、メイスを両手で大きく構えて1回、2回と左右に力強くスイング。

そして、そのメイスを相手に向けて構え、トドメの突きをお見舞いする...!

 

「...『鉄華戦闘機動・ブロウ』」

 

なんだよ...結構かっこいいじゃねぇか...

その一撃をまともに受けたブレイドの方は紙くずの様に吹っ飛ばされる。あのモーフって野郎もそのブレイドの後ろにいたもんだから、巻き込まれて一緒に壁に叩きつけられる。

 

「なぜ...こんな子供達に...聖杯を手に入れて...本国へ...凱旋...」

 

それだけ言い残すと、モーフの奴は気を失った。ブレイドの方も、倒れたまま動かねぇようだ。

 

「俺らの勝ちだな」

「二ア達を処刑しようとするからだ」

「違う...こいつらはアタシ達を本国へ送ろうとしてた!」

「ん?俺は知らねえぞ?」

「たまたま聞かされてないだけだよそれは!レックス、三日月、罠だよこれは!」

「罠?じゃあニア達が処刑されるって触れはウソ!?」

「でも、どの道来なきゃ皆は捕まったままだった」

「...そうだよ!罠とかそんなの関係ない!」

 

ふっ、俺達鉄華団は例え罠が前にあっても、罠ごと噛み砕いて進むからな!まあ、今回は俺はその罠にかけるための餌扱いだったわけだが...

 

「アニキ!今は話してる場合じゃないも!はやく逃げるも!」

「ご主人が正しいですも。追っ手がくる確率は高いですも」

「そうじゃな、急ごう。まずは街の外へ逃げるんじゃ」

「よーし、行くぞお前らぁ!」

 

俺達は格納庫を後に、外への道を走っていった。

 

 

 

 

戦艦の外にでて、連絡橋を越えて、もうすぐでスペルビア軍の基地からも出られるっていうまさにその時だった。

俺達の行く手を、青い炎が阻む。

 

「この炎は!」

「あいつか!」

 

ホムラとレックスがその正体に気付く。無論、俺らも気づかねえ訳がねぇ。

 

青い炎の奥からやってきたのは、カグツチとかいうブレイドと...俺を呼びつけて尋問してきやがった...メレフって奴だ!前はカグツチの方が持ってた蛇腹双剣を、今回はメレフが持ってやがる。なるほど、あいつはドライバーだったってわけか!

 

「今度はドライバーと一緒ってか」

「炎の輝公子...メレフ!」

「メレフ?」

 

ビャッコはあいつについて知ってるみたいだ。にしても大層な肩書きだな...

 

「スペルビア帝国、特別執権官メレフ。帝国最強のドライバーにして、同じく帝国最強のブレイド、カグツチの使い手」

「最強×最強でチョー最強ってわけか」

「だがそれがなんだってんだ、俺らはこんな所で止まるわけにはいかねぇんだ!」

「いい闘志だ...仲間のために我がスペルビアの戦艦に乗り込んできただけのことはある」

 

相手がどんだけ強かろうと、それを乗り越えて俺らは進んでく!それだけだ!

 

「アンタでしょう...アタシ達が処刑されるってウソの情報を、レックス達の耳に入れるよう細工したのは!」

「良い勘をしているな。そう、君は君で利用価値がある。しかし...」

「レックス達はもっと利用価値がある」

「少し違うな。翠玉色のコアクリスタルは天の聖杯の証し...そのブレイドが真に天の聖杯であるのなら、私にはやるべきことがある」

「ああ?なんだそりゃ」

 

あれか?国のために天の聖杯の力を自分の物にするってか?んなことさせねぇぞ!

 

「空を裂き大地を割るその力...二度と世界を灼かせるわけにはいかない」

「ホムラが世界を灼いただって?いい加減なことを言うな!」

「知らないのか?500年前の聖杯大戦での出来事を。3つの巨神獣(アルス)を雲海の底深くに沈めた伝説の力を...」

「あんな馬鹿でかいもんを3つも...!?」

「全て歴史が語る事実だ」

 

その言葉を聞いた俺達は、ホムラの方を見る。ホムラは俯いて何も言わねぇ。本当...なのか...?

 

「...わかったぞ。ホムラを戦争の道具にするつもりだろ!誰がそんなことさせるもんかっ!」

「そのような力を野放しにできない、と言っている」

「いやだ、と言ったら?」

 

その瞬間、メレフが蛇腹双剣を展開し、後ろの青い炎も勢いを増す。

 

「力尽けでも君達を拘束する」

「...だったら全力で言ってやる。ぜーったいに!い!や!だ!」

 

その言葉を合図に、レックスが腰にしまった剣を抜き、二アもツインリングを、トラもハナシールドの中心からドリルを展開し、構える。

俺もミカのメイスを両手で強く握り、いつでも始められるように構えておく。

 

「ふっ...ならばその意志、等しく力で見せてみろ、少年!」

 

 

 

 

「『ローリングスマッシュ』!」

「『ぐんぐんドリル』!」

 

レックスが大きく前転しながら剣を地面に叩きつけ、炎を起こし、トラはドリルを回転させながら突撃する。

だが、メレフは双剣を振り回してそれを軽くいなす。

 

「だったら後ろから!『ジェミニループ』!」

「俺も行くぞ!」

 

二アがツインリングにエーテルを纏わせて、思いっきり投げる。俺はメイスを引き摺りながら走っていき、当たる間合いで振り上げる。だが...

 

「そうはさせません」

 

カグツチがエーテルでバリアを作り出し、俺達の攻撃を防ぐ。届かねえか...!

 

「隙だらけだぞ?『蒼炎剣・弐の型・明王』!」

 

攻撃を弾かれた俺がよろけたその一瞬に、双剣を左、右と連続で振り上げ下ろして攻撃し、続けて双剣を同時に振り上げ叩きつける。それをモロに受けた俺は燃え上がりながら吹っ飛ばされる。

 

「オルガ!」

「俺は死んでも生きてられるからよ...止まるんじゃねぇぞ...」

「あの男...一度死んだのか?だが、すぐに...」

 

衝撃でやられた俺だが、すぐさま起き上がり戦いを続行する。流石の特別執権官様も驚きを隠せねぇみてぇだ。

 

「俺は殺したって死なねえ体でな!悪いが勝たせてもらうぜ!」

「さて、ブレイドの方は...変化なしか。ドライバーが死んでも記憶と身体を保っていられるブレイド...やはり君たちは謎が多いが、今はひとまずその強大な力を封じさせてもらおう」

「は?んなもん無理だって...ヴァァァァァァ!!」

 

メレフが剣を振るうと、俺の足下に炎が出現し、俺を焼く。だがこんなもん、すぐに...

 

「こんぐらいどうってことね...ヴァァァァァァ!!」

 

くっそ、確かに生き返ったのに、またすぐにやられちまった!なにが起きて...

 

「見た所君は、多少の傷で死に至る。だが、ブレイドはコアには戻らず、君自身もすぐに蘇生する。蘇生の際に移動することはできない...ならば君の足下に常に炎を発生させておけば、君は何も出来ないだろう?」

 

ちっ!俺の弱点をあっさり見抜きやがった!そうだよ、その通...ヴァァァァァァァァァ!!

 

「オルガ!...だったら俺が」

 

ミカが炎を浴びながら俺の落としたメイスを拾い、メレフに向かっていく。だが...

 

「そして、いくら君が強かろうとブレイド単体で出せる力には限界がある」

 

ミカの攻撃を捌いていくメレフ。まずいな、こりゃあ...

 

「そろそろ終わりにしようか。『蒼炎剣・弐の型・烈火』!」

 

メレフが双剣を交差させて構え、それを解くと同時に炎を解き放つ。

爆発に巻き込まれ、レックス達全員を吹っ飛ばす。

剣を地面に刺して何とか倒れずに耐えたレックスとホムラに追撃を加え、ホムラは倒れちまった。

 

「ホムラ!」

 

ホムラを守ろうと、双剣の攻撃を一つの剣で防ごうとするレックス。だが、状況が悪いのは誰が見ても明らかだ。

 

「はぁっ!」

「ぐうっ!」「ああぁぁっ!!」

 

メレフの一撃がレックスの腕を焼いたとき、ホムラも一緒にダメージを受けている。なんでだ?命を分けた影響か?くっそぉっ...自力じゃこの炎から抜け出せねぇし、誰かに助けてもらうにもあいつに隙が無さ過ぎる...

 

「どうした!君の意志の力とはその程度のものか!」

 

言い放ちながら次の一撃を放ち、レックスが倒れる。だがレックスも立ち上がり、反撃をお見舞いする。メレフはそれを受け止めつつ、宙返りで退く。

 

「ホムラは渡さない...聖杯とか力とか、ホムラをもの扱いしてるお前なんかに!」

 

そう言いながら、苦しい中で敢えて笑ってホムラに手を差しのべる。ホムラもその手を掴み、立ち上がる。

 

「ホムラには行きたいところがあるんだ!その気持ちを、お前に閉じ込められてたまるかっ!」

 

レックスがホムラの力を借りて剣に炎を纏わせ、それを掲げる。いけえっ、レックスッ!

それを振り下ろして放った一撃。威力はかなりのもんの筈だが、それでも奴には通じねぇ。

 

「直線的で分かりやすい攻撃だな。天の聖杯といえど、ドライバーがこれでは...」

 

容易く炎を弾くメレフ。その炎は...こっちに飛んできてるじゃねぇか!!ヴァァァァァァ!!!

爆風に巻き込まれたおかげで、偶然にも脱出成功だ!よし、俺も一撃入れてやらぁ!いつものあの技だ、名前を付けるなら、そう!

 

「『カウンターアタック』!」

 

まんまじゃねぇかって?いいんだよそんなのは!

とにかく、俺の受けたダメージを強化して銃弾に込め、相手に返すこの技!流石に効くだろ!?

 

「っ!」

「メレフ様!」

 

ちっ...咄嗟にカグツチの方がバリアを貼りやがった。なんつー反応速度だよ...

 

「だ、大丈夫か?皆...」

「何とかね...」

「俺はまだまだいけるぞぉ...」

「オルガ、抜け出せたんだね。これ返しとく」

「おおミカ、サンキューな」

 

ミカからメイスを返してもらった俺は、いつでも始めれるように構えておく。

 

「あの二人、すんごく強いもー」

 

倒れっぱなしだったトラとハナが起き上がる。皆、無事みたいだな。

 

「このままじゃオレ達...何とかしないと...何とか...あいつの属性は火、火は水に弱い...水...」

「水ならあるよ」

「三日月?」

「街の外の、給水搭。この街に来る途中で見た」

 

ミカ、よくそんなことまで覚えてるな...よし、道は開けた!あとは突っ走るだけだ!

 

「皆!あと少し、走れるか!?」

「え?ああ!」

「よしっ、来い!」

 

戦いの中で、出口を塞いでた炎は消えてやがる。今が好機ってやつだ!

 

 

 

 

「ホムラ!最大火力いける?」

「はいっ!あと二回ぐらいなら!」

「十分!」

 

街の外に出てしばらく走ったところで止まり、追いかけてきたメレフの方に向き直る。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

さっきと同じ様に、剣を掲げて炎を纏わせるレックス。

 

「いっけぇぇぇ!!!」

「芸が無さ過ぎるぞ、少年!」

 

当然さっきと同じ様に、あいつに簡単に止められ、弾かれる。そしてそれは、さっきと同じ様に俺のところに飛んでくる。だから、俺も...!

 

「もう一発いくぜ!『カウンターアタック』!」

「...当たらない...いや、当てる気の無い軌道?何が狙いだ?」

 

メレフの言う通り、俺の一撃はメレフから大きく逸れた位置を狙った。そりゃそうだろ、何せ俺たちの狙いは...!

 

「予想通り!」

 

レックスがアンカーを俺の狙った場所...給水搭の柱に向かって打ち、巻き付ける。俺のさっきの反撃には、ホムラの炎の力が込められてる。だからそれは、金属を熱して、柔くする。

 

「ハナ!頼む!」

「リョーカイですも」

 

トラと一緒にいたハナが、足のスラスターから火を噴いて飛び上がり、レックスの近くで着陸する。

 

「貯水タンクだと!?狙いはそれだったか!」

「今更気づいても遅いぜ!やっちまえ!レックス、ハナァ!」

 

レックスとハナが力を込めてアンカーを引っ張る。

阻止しようとするメレフだが、ホムラやミカ、ニアやビャッコの足止めを受け、失敗する。

 

「引けぇーっ!」

 

給水搭は見事にぶっ倒れ、辺り一面が水浸しになる。火属性のあいつらは力が弱くなるが、聞いた話じゃホムラはんなもん関係ねぇらしいな!

 

「うおおおおおおおおおおおお...!」

「しまった!」

「「『バーニングソード』ッ!!」」

 

水浸しの中で炎の大技ってわけで...見事に水蒸気爆発ってヤツが起こった。

んで、その爆発の起きてる間に俺達は無事、逃げ出すことに成功した。

 

 

 

 

 

...まさか、傷一つないとはな。

 

「心外だな」

「何がです?」

「このメレフ、まさか戦いで手を抜かれるとは」

「あの少年がですか?」

「そうだろう?当てることもできたはずだ。なのにわざと外した...」

「機転も効くようですね」

 

─────その気持ちを、お前に閉じ込められてたまるかっ!────

 

天の聖杯...あの少年と共にあるのなら、解き放ってみるのもまた一興か。

いずれまた会うことになるだろう。その時にはまた今一度...

 

 

 

 

 

 

 

 

「...追ってこないようですね」

「逃げ切れたみたいだね」

「とりあえず、一休みしよう...もう限界~」

「トラもー...はひはひも~」

 

止まるんじゃねぇぞ...って自分に言い聞かせて走り続けたからな。流石に俺も疲れたぜ...

 

「...じゃあね」

「お世話になりました。皆さんの旅のご無事を願っています。では...」

 

...あぁそうか。そういやニア達とはここでお別れだったな...残念だが...

 

「ねぇ、ニア」

「ん?なんだよ、三日月」

「来ない?鉄華団に」

「...え?」

 

ミカにしては珍しいな。去る奴を引き止めるなんて。

 

「前に言ってたよね。居場所はあそこにしかないって...」

「あ、あぁ...」

「そんな事は無い。鉄華団は、仲間を...ニアを歓迎する。だろ?オルガ」

「そりゃそうだ」

「それに俺も...折角できた仲間と離れちゃうのはやだしね」

 

ミカ...確かに、団員の居場所になってやって、いつかみんなでどっかに辿り着く。鉄華団ってのはそういうもんだったよな。勿論、ニアの居場所にだってなってやるさ。

 

「やだしって...ふふっ」

「ん?なんかおかしなこと言ったっけ」

「いや...年相応に我が儘だって言うんだなって」

「まあミカもそういうとこあるからなぁ。この前なんて『連れてって』ってねだってきやが...ヴァァァァァァ!!!」

「ちょっとオルガ黙ってて。で、どうするの?ニア」

「...分かったよ。アンタ達になら、アタシもついて行きたいかな。楽園目指すんだっけ?本当にあるんだろうね?」

「あぁ。ホムラが故郷は楽園だって言ってた!だからある!」

 

レックスが横からここぞとばかりに喋る。まあホムラは嘘をついてる風にはぜんぜん見えねえしな。

 

「そ。...緑溢れる天空の大地、か...。伝説が本当なら”アタシら”だって...」

 

 

 

 

 

 

「あ、だったらよ。レックス達も来るか?鉄華団」

「いいの?」

「あぁ?いいに決まってんだろ!」

「じゃー遠慮なく!」

「トラもいくもー!」

「ご主人は遠慮が無さ過ぎですも」

「もっ!?」

 

 

いいもんだな、こういうの。

よーし、新生鉄華団、本格始動だぞぉっ!!




ごめんなさい レックスとホムラのイチャイチャキャンプは尺の都合で消えました はい


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第3話 戦
第3話 戦 第1節 「名を冠する者たち」


ようやく2/10終わったのかと思うと先は長いですね()



とある場所の、雲海の底深く。

そこに存在するのは、かの者達、「イーラ」の基地の様な場所。

モノケロスという名の彼等の船が、港に到着し、シンとメツ、ザンテツが中から出てくる。そしてそれを1人の男が出迎える。

 

 

「お帰りなさい、シン」

「ヨシツネか...」

 

青い鎧を纏い、眼鏡を身に着けた男が口を開く。名はヨシツネ。

 

「天の聖杯の目覚め、誤算でしたか?それとも...まぁ僕の脚本には最初から書かれていましたけど」

「終わってからなら何とでも言えるよねー。っていうかヨシツネ、アンタ小者っぽーい」

「うるさいよカムイ」

「あらこわーい♪」

 

ヨシツネ達の上の方から声がすると、ヨシツネのブレイド、カムイが飛び回りながら降りてくる。

 

「他の3人はどうした?」

 

メツがヨシツネに訊ねる。

 

「サタヒコはスペルビアの”工場”を視察に。我が愛しの”妹”はいつもの狩りですよ。きっとまた、たくさんのドライバーが餌食にされているに違いない」

「例の千本狩りか。コアの数を集めればいいってもんでもなかろうに...で?ヴィダールはどこだ?」

「今戻った、ヨシツネ。...シン達の方も終わっているようだな」

「ヴィダール。何をしていた?」

「少し外に出て情報を集めてきた。どうやら、例の定期便が出航したようだ」

「アーケディアでの洗礼か。律儀な奴らだ...」

 

ヴィダールと呼ばれた仮面の男が、シン達の使っていた船とはまた別の船から出てくる。シンの仮面とは違い顔すべてを覆うそれは、感情の変化を他に悟らせない。

 

「...聖杯の現在位置はわかるか」

「誰に聞いているんです?わかるに決まってるじゃないですか。...カムイ!」

「へいへーい」

 

カムイはエーテルを操作すると、アルストの地図のような物を作り出す。その中の、グーラと同じ形をした地点に、青や赤の光が見える。

 

「現在、グーラ領を街から離れるように移動してますね」

「街を離れてだと?そっちにゃ何もないだろう」

「そのまま外に出るのかもしれない」

「...そうか。定期便と聖杯か...定期便は俺が行こうか?」

「いや、お前はメツやヨシツネと聖杯を追え」

 

ヴィダールが定期便の対処に向かおうとするが、それをシンが止める。

 

「了解だ。なら定期便はお前が?」

「いや...」

 

そう言うと、シンが一瞬光に包まれる。そしてすぐに姿を現すが、その仮面の色は変化していた。

 

「此処からは...”私”の出番だ」

「なるほどな」

 

「ところで、二アはどうします?」

「所在が知れたのか?」

「えぇ。ほら、この光点。波長からみてビャッコのものじゃないかと。どうやら天の聖杯と一緒に行動しているみたいですねぇ」

「...君の好きなようにするがいい」

「なるほど...ではお言葉に甘えて」

「モノケロス、このまま使わせてもらうぜ」

「ああ。構わない」

 

会話を終えると、シン...いや、シンとよく似たその男は、港を立ち去っていった。ヴィダール、メツ、ヨシツネもまた、出発の準備を始めた...。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?そいつは何だ?」

「雲海羅針盤。サルベージャー必携、雲海の地図みたいなもんだよ」

 

レックスが懐から物を取り出してきた。どうやら羅針盤らしい。

 

「ここをこうして、こうやって...今日何年の何日だっけ?」

「ええっと、神暦4058年の9月5日です」

 

すぐさまホムラが答える。...ん?9月5日...クガツ・イツカ...!?

 

「今は...9月5日で...俺は...オルガ・イツカだぞぉ...なんだよ...結構似てるじゃねぇか...」

「は?」

「...何言ってんのさアンタ」

「意味不明ですも」

「...すみませんでした」

 

ちょっとふざけたら三方向からきつめのツッコミが飛んで来やがった。っていうかしれっとミカが一番シンプルかつ辛辣だな!?ある意味流石だぜミカァ...

 

「まぁまぁ。で、年月日を入れると...ね?」

 

そう言ってレックスは羅針盤を皆に見せる。なるほど、こうやって生き物である以上決まった場所に留まらない巨神獣(アルス)の現在位置や距離関係がわかるんだな。随分便利じゃねぇか...

 

「世界樹にはここグーラからが一番近いようじゃの」

「問題は船だな」

「街からの船は全て軍が管理してますから」

「まぁ、無理だよね」

「だよなぁ...うーん、どうするか」

 

いざとなりゃあ奪ってでも...いや、皆を危険に晒す訳にはいかねぇしな...

 

「船に乗れればいいのかも?トラ、いいとこ知ってるも。グーラのお尻のところで船造ってる人がいるも。センゾーじいちゃんの知り合いだった、ウモンっておっちゃんも。ジジョーを話したら貸してくれるかも」

「へっ...光が見えてきたじゃねぇか!いくぞおめぇらぁ!」

 

俺達は、早速グーラの尻付近に向かうことにした。

だが、その途中で俺らの前に、とんでもねぇ奴が現れやがった...。

 

 

「ぐぅっ!?」

 

急に俺の背中に、弾丸みてえなもんが突き刺さる。その一撃でぶっ倒れたが、すぐに俺は起き上がってその正体を確かめた。

 

「こいつは...鳥の羽か?」

「鳥の羽...まさか!」

「...話してる暇もなさそうだよ、オルガ。敵が来る」

「ん?」

 

ミカが向いてる方を見ると、でっけぇ鳥が飛んでやがる。ほんとにこの世界にはいろんなのがいんだな...ん?どうしたニア。青ざめた顔して。

 

「あいつ...『狙撃のゴス』だ!獲物を一度見つけたら容赦しないってことで有名なモンスターだよ!」

「もっ!?逃げるも!!危険すぎるも!!」

「いえ、相手は空を飛べますも。逃げても追いつかれるのは明白ですも」

 

おいおい...とんでもねぇのに目を付けられちまったな。けどここで退くわけにはいかねぇ!

 

「逃げ場がねぇんなら倒して進むだけだ。強いっつったって不死身の化け物じゃねぇんだ。なら俺達鉄華団にやれねぇ訳がねぇ!だろ、ミカ!」

「あぁ。俺達の道を邪魔する奴は、どこの誰でも全力で潰す」

「ったく...まぁ、アンタならそう言うと思ったけどさ。いいよ!やってやろうじゃんか!」

「ももも...団長、カッコいいも!トラもやってやるもー!!」

「オレ達はこんなところで止まってられない!行くよ、皆!」

 

全員が武器を構えたその時、羽ばたきながらこちらの様子を伺ってるだけだったゴスの方も動き出す。

さっき俺の背中に突き刺さったのと同じ黒い羽を、今度は何個も同時に放ってくる。だが俺にはあの力があるから、全弾俺のところに飛んでくる。それを俺は受けきって、反撃をお見舞いする。

 

「『カウンターアタック』!」

 

その一撃は頭にしっかり命中する。だが向こうもバカじゃねぇのか、遠距離攻撃が意味をなさないと判明した瞬間飛び回りながら爪で攻撃する方法に切り替えてきやがった。

 

「うわっ!」

「レックス!」

「傷はアタシが治す!『ヒーリングハイロー』!」

「サンキュー、ニア!」

 

二アがツインリングの片方を掲げると、緑色のエーテルの波が辺りに広がる。仲間の傷を癒やすアーツだ。やるじゃねぇかニアァ!

 

「空中戦は任せるも!ハナ!」

「リョーカイですも」

 

ハナが足のスラスターから火を噴かせながら空へ飛び上がり、トラから受け取ったシールドを展開させてドリルにする。そして勢いよく突撃し、素早く動くゴスの羽を掠める。なんだよ...案外どうにかなりそうじゃねぇか。

 

「この調子ならいけそうじゃねぇか?」

「...いや、アイツが恐ろしいのはこっからだよ。」

「なんだと?そりゃどういう意味だ、ニア」

「アイツは、弱ると大きな声で叫んで仲間を呼ぶって、本に書かれてた。」

「何!?そいつを止める方法はねぇのか!?」

「確か...水と闇の強いエーテルを短い間に連続でぶつければ、モンスターの仲間を呼ぶ行動は封じれるって聞いたことある。けど、水はアタシとビャッコで何とかできても、闇は...」

 

ゴスの攻撃を回避しながら、とんでもねぇ事実を知る俺。しっかし、どうにかできる方法がわかってんのにそれを実行できねぇっつーのはかなりきついもんだな...

 

ホムラは炎。ビャッコは水。ハナは確か...地って言ってたな。ん...?待てよ?

 

「そういやミカは、何の属性なんだ?」

「...あー、わかんない。試してみる」

 

そう言ったミカは、俺からメイスを受け取り、それにエーテルを込めて、放つ。

その一撃はゴスに直撃するとまではいかなかったが、ダメージを与えれている。

 

「今のエーテル...闇だも!すごいも!」

「本当か!よーし、後は当てるだけって訳だな!」

「隙はオレ達で作る!ニアとオルガは構えといて!」

「あぁ!」

 

即席の作戦通りにレックス達は動き始める。にしたって隙を作るってどうやる気だ...?

 

「トラ!これ使って!」

「わかったも!」

 

そんな会話の後、2人は変な仮面を付ける。なんだあれ...?

そこから少しすると、今までこちらを満遍なく狙いに来ていたゴスがレックスとトラだけを狙うようになった。

んで、どこか怒った様な声をあげながら突進していくゴスを、トラがシールドで受け止める。

 

「今だぁっ!」

 

すかさずレックスがアンカーショットを放ち、上手く身体に巻きつける。そしてそのアンカーをハナが掴んで、思いっきり引っ張り、後ろに投げ飛ばす。

 

「転倒したも!今がチャンスも!」

「わかった!行くよビャッコ!」

「了解です、お嬢様!」

 

二アがビャッコの上に飛び乗り、ツインリングをゴスの方に投げつける。ツインリングはゴスの身体を切り刻むように飛び回った後、ニア達の方に戻ってくる。それをニアは飛び上がりながら手で、ビャッコは口で一つずつ掴む。そして...

 

「「『メイルシュトローム』!」」

 

落ちてきたニアと、下で構えていたビャッコが、×の字を刻むような斬撃を叩き込む。なるほど、これがあいつらの最高の一撃って訳か!だったら、俺らだって負けてられねぇなぁ!

 

「行くぞ、ミカァ!」

「わかってる」

 

俺からメイスを受け取って、一発、二発と全力でスイングした後に、思いっきりアッパーをぶちかます。いつぞやのメツの時とは違い、ゴスの巨体は流石に打ち上げられなかったが、俺らのやることは変わらねぇ。

 

「「『レイジオブダスト』」ッ!!」

 

上に投げられたメイスを俺が飛び上がって掴み取り、落下の勢いを乗せてメイスを叩きつける。

その時、さっきのニア達の攻撃で蓄積してた水のエーテルが、メイスに込められてる闇のエーテルと反応したのか、その二つが混じり合ったような爆発が起きる。それに見事に俺は巻き込まれ死んだわけだが、その爆発を一番モロに喰らったのは間違いなくあいつだ。

 

「どうだ...?」

「まだ、倒せてはないみたいだよ」

 

それでもゴスは起き上がり、敵意を見せる。そして、さっきまでは聞かなかったような声を出して叫び始めるが...何も起きない。

 

「なるほど、今のが仲間を呼ぶための声って訳か」

「けど、呼ぶことはできない!」

「あぁ。このまま畳みかけるぞお前らぁ!」

 

そっからも、俺達は戦い続けた。そして、遂に...!

 

 

 

キィィィッ...

弱々しい声を出しながら、ゴスが墜落し、消えていく。他のモンスターを倒した時と同じ感じだ。ってことは!

 

「倒せた、ってことか?」

「みたいだね」

「よーしっ!これで先に進めるね!」

 

無事先へ進めるようになった俺達。と、ふと横を見ると妙な墓みてぇなもんが...こんなもんさっきまであったか?狙撃のゴス、って書かれてるが...

 

「あぁ。それは『名を冠する者の墓』。あんまり軽々と触れない方がいいよ?」

「あ?なんでだ?」

「その墓に再戦の意志を示すと、モンスターが蘇るんだってさ。今までこの墓自体みたことなかったから信じてなかったけど...墓が出てきたってことは、多分本当だよ」

「エェ゛ッ」

 

急いで飛び退く俺。あんなんとまた戦うとか冗談じゃねぇぞ!

 

「...ってそんなことより!さっさとウモンって人のとこにいくぞ!」

「そうだね。よし、行こう!」

 

当初の目的を思い出し、俺達は改めてグーラの尻目指して出発した。

 

 

 

 

 

 

「おっちゃーん、ウモンのおっちゃーん、どこにいるもー?」

「誰だも?人が仕事中だってのに騒がしい奴も...って何だ、トラじゃないかも」

「久しぶりも、おっちゃん」

「おう、久しぶりも。1年ぶりくらいも?」

「うん、ちょうどそのくらいも」

 

俺達が進んでいった先には、小さめの造船所があった。んで、その中に入ってみると、結構大きめの船が停まってて...あと、一人...いや、一匹か?のノポンが出てきた。どうやらこいつがウモンみてえだ。何となく想像はしてたが、ウモンもノポンだったのな。

 

「にしても、1年見ない内にずいぶんでかくなったも。オトモもたくさん連れて...」

「おっちゃん、レックスのアニキ達は、オトモじゃなくてオトモダチも」

 

友達か...悪い気はしねぇが、俺らはそんなもんじゃねぇぞ!

 

「いーや違うなトラ。俺達鉄華団はなぁ...家族だ!」

「...ということだから、オトモダチじゃなくて家族も!」

「そうか!トラの家族かも!家族が増えるのは良いことも!...ところで今日は何の用でここに来たも?」

 

おおそうだ、本題に入らねえとな。

 

「実はウモンのおっちゃんに船を貸してもらいたくて来たも」

「船?船だったらトリゴの港にたくさんあるも。なんでわざわざこんなとこまで来たも?」

「ん...そ、それは...」

 

やべぇ!なんとか誤魔化せトラァ!!!

 

「トラ、ハナを作るのに金全部使っちゃったんだってさ」

「そ、そうも!それで、気分転換にちょっと船旅したいなぁ...なんて思ったんだけども、船代が...」

 

よーしミカ、ナイスフォローだ!

 

「そんなテキトーな嘘ついちゃって、大丈夫なんだか...」

「金を使い果たしたのは嘘じゃないし、いいんじゃない?」

「そうだぞニア。しょうがねぇ」

「...はいはい。そういうことにしときますよっと」

 

後ろで小声で話す俺達。だがこれも楽園に行くためだ。許してくれよウモンさん!

 

「ハナ...それってセンゾーさん達が研究してた?」

「ハナですも。よろしくおねがいしますですも」

「おおーっ!これがその!いやーすごいも!さすがセンゾーさんの孫も!よしわかったも。そういうことだったらいつでも船を...と言いたいんだけども今は無理も。実はこの船...未完成なんだも...」

 

言われてみると確かにこの船、未完成じゃねえか!!くっそ、ここにきて...

 

「あとちょっとで完成なんだけど、材料が足りなくて作業が止まってるも」

「ってことは、もしオレ達が材料を集めてきたら...」

「もちろん、急いで船を造って貸してやるも」

「決まりだな!いくぞお前らぁ!!」

「わかったも!皆で材料集めに行くも!」

 

よーし、さっそく出発だ!何事も早い方がいいからな!!

 

「...ところで、材料って何が必要なの?」

「おぉ、忘れてた」

「えーと、パズルツリーとダイヤオークだも」

「...それ、こんなかにあったりしない?」

 

そういうとミカは、火星ヤシをいつもいれてるのとは反対側のポケットから、木材だの植物だのを取り出す。

 

「ミカお前、いつの間にそんなもん見つけてたんだ...」「トリゴに向かってる途中で。火星ヤシ、もうすぐ無くなっちゃうから代わりになりそうな物ないかなーって」

「なるほどな...」

 

お前、チョコレートと火星ヤシ大好きだからな...チョコレートはともかく、火星ヤシは多分この世界には無いだろうしな。

 

「もっ...どっちもあるも。しかも必要な分以上にも!これで船体は完成するも」

 

ミカ...一体どんだけ採取してたんだよ...

 

「何にせよ手間が省けていいじゃん!」

「じゃあ、完成を待つとしましょうか」

 

ってなわけで、外も暗かったし、俺らは造船所で一夜を過ごすことにした。




ユニークと戦闘させないと気が済まない病 そろそろ控えます


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第3話 戦 第2節 「懐かしき顔」

ようやくテストも検定も一段落したので更新再開です


「それじゃあ借りてくも、おっちゃん!」

「ありがとう、ウモンさん!」

「サンキューな!」

「おー!船旅、楽しんでこいもー!」

 

俺らは完成した船に早速乗り込んで出発する。勿論お礼を言うのも忘れねぇ。が、最後の一言で嘘ついてるのを思い出しちまって少し申し訳なくなったぞ。後で詫びるから許してくれ!!

 

 

 

 

 

「これが世界樹...」

広い広い雲海の上を進み、いよいよ世界樹が近くに見えてくる。ほんとにでっけぇな...

 

「こんなに近くで見るのは初めてだよ」

「...見て。周りの雲海、滝みたいになってる」

「うわぁ...すごい流れだね。落ちたら助かりそうもない」

 

ミカの言う通り、世界樹の周りの部分の雲海は滝みたいになっていて、間にはでっけぇ空洞が出来上がっていた。こりゃあそう簡単には行かせてくれなさそうだな...

 

「来たのはいいけど、どうやって向こう側に行ったらいいんだ?ねぇ、ホムラ...ホムラ?」

 

そう言ってレックスがホムラに話しかけてみるが、ホムラは何やら真剣な顔で雲海の方を眺めていた。何か気になることでもあったか...?

 

「...逃げて、レックス!ここにいちゃだめ!」

「に、逃げろって?どうしたんだよいきなり...」

「そうだぞホムラ!俺らはあそこ目指して進んでるんだろ?なんで逃げ...ヴヴヴァァァァァァァ!?!?」

 

俺が喋りかけた丁度その時。船が思いっきり揺れて、俺は見事に壁に体を打ちつけて希望の花を咲かせる。

 

「おい...何が起きたってんだ!?」

 

すぐさま起き上がって前を見ると...そこにいたのは...

 

 

 

紫色の、龍だった。

圧倒的な巨体と威圧感を持って現れたそいつを見て、俺はとっさにあのモビルアーマーを思い出したくれぇだ。そんだけの化け物が、今目の前にいる。

どうする...?ミカはどうやらバルバトスを呼べねぇみてぇだし、ホムラの言ったように逃げるしかねぇのか...!

 

「サーペント!」

 

...ん?ホムラ、あいつのこと知ってんのか!?

 

グォァァァァァァアァ!!

 

だが、ホムラの叫びを無視するように、ヤツは吠える。敵意剥き出しじゃねぇか...!

 

「サーペント?」

「早く!」

「わ、わかった!」

 

レックスがホムラに聞いてみるが、当のホムラはとにかく逃げろって言いたげだ。実際逃げないとやべぇのは伝わってくるし、レックスも操舵輪を全力で回して船をUターンさせる。

 

「やめて、サーペント!どうしたの?私の声が聞こえないの?...まさか!」

 

ホムラが心当たりがあるかのような反応を見せるが、アイツは...サーペントはお構いなしに尻尾を雲海に叩きつける。やめろ!その巨体でんな真似するのはやめろ!!

急いで逃げる俺達。しかし、追撃は来なかった。

 

「...あいつ、帰ってったよ」

「本当だ。どうしたんだ?あいつ突然...うわっ!?」

「どうしたレック...なんだありゃぁ!?」

「あれ...インヴィディアの巨神獣(アルス)!」

サーペントが世界樹の方に帰って行き、安心したのも束の間。目の前にはでっけぇ鯨...型の巨神獣(アルス)が大口開けて待っていやがった。やばくねぇかあれ!?

 

「や、やばい...食われる!」

 

あろうことかあの野郎、吸い込み始めやがった!完全に食う気じゃねぇか!!

んでもって結局俺らは、船ごと全員飲み込まれちまった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてててて...」

「どうやら、なんとか助かったみてぇだな」

「だね...とりあえず皆の無事を確かめないと。ホムラ!皆ー!」

「ミカァ!お前らぁ!無事かぁ!」

 

ここは...巨神獣(アルス)の体内、なのか...?

ひとまず合流を優先することにした俺らは、大きな声で皆を呼んでみる。

 

「こ、ここです...」

 

声のする方を向いてみると、ホムラが立っていた。

...周りが暗いせいでよ...ホムラの服の緑色の光が目立っててよ...しかもその光の形と場所のせいでよ...正直刺激がつよピギュッ!!

 

「ダメだよオルガ。欲がダダ漏れだ」

「勘弁してくれよミカ...無事でよかったけどよ」

 

合流早々ピギュッされた俺。まあ、俺が悪いから仕方ねぇか...。

 

「いってぇ...」

「も~」

 

他の皆もやってくる。どうやら全員無事みてぇだな。

 

「皆さん、出口を探しませんか?インヴィディアの街は背中の方にあると聞きます。何とかそこに出ることができれば...」

 

ビャッコの提案だ。だが出口を探すのには賛成だな。このままここにいると、下手すりゃ消化液の類に溶かされそうだしな。

 

「...あそこ、今何か光りましたも。誰かいるですも」

「まさか?見間違いじゃないのかい?」

「見間違いじゃないですも。ふわふわーと動いてましたも」

 

ハナが急に言い出す。ん?ふわふわ...光...

 

「まさかそれってあれか!?人魂とか、そういうやつか!?」

「いやそんなわけないだろオルガ!変なこと言うなよ!」

「いやいや、案外ほんとにそうだったりしてー!」

「レックスもよしなよっ!そういうの!」

「何だニア、怖いのかよ?」

「く、くだらないって言ってんだよ!子供かよっ!」

「やっぱ怖いんだ。そっかー、二アは人魂が怖いのかぁ」

 

ここぞとばかりに煽るレックス。俺はあんまり人のこと言えねぇけどな!!

 

「うっさいなぁ...て、あれ?ホムラは?ホムラがいない!」

「え、さっきまでそこに...ホムラ、ホムラ!」

「...ホムラならさっき...いや、面白そうだし言わなくていいや」

「...おい待てミカ、何企んでんだ...?」

「別に?大したことじゃないよ」

 

どうやら俺らのやり取りはレックス達には聞こえてないらしい。無事みてぇだから安心したが、ミカのやつ何考えて...

 

「呼びましたぁ?」

「うわぁぁぁっ」

「ヴヴァァァァァァァ!?」

 

いきなり俺らの後ろから声がした。振り向いてみるとそこにいたのはホムラだった。

 

「な、何やってんだよ!やめろよ、そういうの!」

「何って、向こう側をちょっと確認に。どうしたんです?」

 

さてはミカの奴、こうなることを予想して敢えて言わなかったな!?

で、当のミカはというと...ちょっと笑ってるぞあいつ!!横にいる二アも小馬鹿にするような笑みを浮かべてこっちを見てやがる!!!

 

「ん、おお。随分と明るくなったわい」

 

悔しがる俺とレックスを余所に、ホムラは小さめの炎の球体を作り出し、辺りを照らしていた。

 

「ハナもお手伝いしますも」

「もっと明るくなったも!」

 

ハナも、目からビーム...ならぬ目からライトで前を照らす。これでだいぶ見やすくなったな!

 

「こんだけ明るけりゃあなんも怖がる必要はねぇな。出口を探すぞ!」

 

そうして俺らは、出口を探すために巨神獣(アルス)の体内を走り回った。

 

 

 

 

 

 

走り回ってたどり着いたのは、他より明るめの大空洞だった。じーさん曰く、インヴィディアの巨神獣(アルス)は背中の体表が半透明だから、外の光が届いてるんだそうだ。つまり、光のくる方に辿っていけば出られるってことだよな!

だが、そう上手くいくことなんざそうそうねぇ。案の定というかなんというか、邪魔が入っちまうわけで。

 

「待ちな」

 

声と共に、人が2人、上から飛び降りてくる。片方はでっけぇ大男で、もう片方はフードで顔がよく見えねぇ。

その後から、鳥...いや、鳥人と、やたらでっかい腕を浮遊させて構えた女剣士も降りてくる。多分こいつらはブレイドだな。

更に更にその後ろに、2人の男。それぞれの横にいるのは、前にグーラで見たのと似たブレイドだ。

 

「この辺りじゃ見ない顔だな。さしずめ漂流してる最中に、巨神獣(アルス)に飲まれでもしたってか?...ん?そのブレイド...翠玉色のコアクリスタル...」

「!まさかてめぇも...」

 

翠玉色のコアクリスタルは天の聖杯の証。グーラで嫌という程聞いたフレーズだ。それを知ってやがるってことはこいつもホムラを狙ってやがるかもってことだよな!

 

「なるほど...噂は本当だったみたいだな、ヴァンダム」

 

横のフードの男が口を開く。...ん?なんか今の声聞き覚えがあるような...?

 

「噂って何のことだ」

「ドライバーなら誰しも一度は耳にする伝説のブレイド、天の聖杯。それが500年ぶりに目覚めたって噂のことさ」

「しかし、そのドライバーがお前みたいなガキだってのは流石に予想外だけどな」

「オレがドライバーじゃいけないのか?」

「別にいけなかねぇな。...そいつが普通のブレイドなら、な」

「だがそいつは普通じゃねぇ。お前にゃ過ぎたシロモンだよ。小僧、天の聖杯とその剣を渡しな」

 

ちっ!やっぱり予想通りか!

 

「まさかお前もホムラを!誰が渡すもんか!」

「あぁ!俺らには辿り着くべき場所がある!それまで止まるわけにはいかねぇんだよ!」

 

すぐさま俺らも戦闘態勢に入る。

 

「威勢だけはいいな、小僧...」

「まあいいさ。やんちゃするガキを叱ってやるのは大人の役目だからな。...行くぞ、ニューツ」

「了解であります!」

「よぉしスザク、あの小僧は俺達でやるぞ」

「分かったぜ、ヴァンダム」

 

2人の男がそれぞれのブレイドから武器を受け取り、構える。戦闘開始だ、行くぞお前らぁ!!

 

 

「『マッスルスラッシュ』!」

「『ソードバッシュ』!」

 

リーダー格の大男...ヴァンダムが、両手に持った斧を交差させながら突撃してくる。対するレックスも剣で突きそれを止める。

ニアとトラは...後ろにいた2人と戦ってるみてえだな。

相手もドライバー4人、こっちもドライバー4人。1対1となると、俺の相手は...!

 

「余所見たぁ、随分余裕そうじゃねぇか」

「っ!!」

 

やっぱりこのフード男か!

だが、そう簡単にやられるほど俺らも弱くはねぇぞ!

俺はまずフード男に数発反撃を入れる。見事に防がれダメージを与えれはしなかったが、注意はひけた!

 

「ミカァ!」

「任せて」

 

俺は頭上に向かってメイスを放り投げる。それを分かってたように飛び出したミカがキャッチし、空中から落下の勢いをつけて攻撃。

 

「ほぉ...いい連携だな」

 

だがフード男の方はその一撃をさっきブレイドのニューツから受け取っていた刀で受け止めながら余裕そうにしてやがる。

 

「ちっ、防がれたか...だが次はそうはいかねぇぞ!」

 

ミカからメイスを受け取って次は俺が攻め込む。ミカがでっかい一撃を決めてくれりゃぁそれだけで勝ちが近づくんだ。ならその隙を作ってやるのが俺の役目だよなぁ!

 

「...!」

「よし、今だっ!」

 

一瞬あいつがよろけるのを見て、俺はミカにメイスを投げ渡す。さっきは上から行って防がれたから、今度は後ろから入れ替わるように攻撃してもらう。ミカもそれを察して後ろで構えてくれてたしな。

よーしミカ、受けとれっ!

 

「甘いでありますよっ!」

「何っ!?」

 

そのパスは、エーテルバリアを張りながら割り込んできたニューツに防がれる。

しかもニューツはオレとミカの間に陣取り続けてやがる。これじゃ連携もままならねぇぞ...!?

 

「次はこっちから攻めさせてもらうぜ?オルガ」

「...!?あんた、何で俺の名前を...」

 

俺の問いかけなんて思いっきり無視して、あいつは突っ込んでくる。炎を纏わせた刀の連続攻撃に、なすすべなく俺は死ぬ。

すぐさま復活できるが、初見の筈にもかかわらず分かってたかのように続けて攻撃を叩き込んでくる。こいつ、本当に何者だよ!?

ミカの方は...ニューツのバリアに阻まれ続けて動けねぇみてえだ。武器さえ弾かれてなきゃこんなことにもなんねぇのに...!

 

「もう逃げ場はないぞ!食らえっ!」

 

声がする方を見ると、レックスが戦っている。ヴァンダムを壁際まで追いつめて、剣を掲げている。なんとかなりそうか...ん?ホムラの奴、なんか苦しそうだな...?

 

「...えっ!?」

 

直後、展開していたレックスの剣が閉じる。あれじゃアーツは放てねぇんじゃ...!

 

「...終わりだ!小僧!」

 

ヴァンダムが斧を構えて突撃する。まずいっ...!

 

 

 

 

 

 

「小僧、お前ドライバーに成り立てだろ?」

 

後少しでレックスの首が飛ぶってとこで、ヴァンダムは止まっていた。

 

「ドライバーってのはな、ブレイドから送られたエネルギーを一時的に武器に溜めて、それをアーツとして使うんだ。溜められる量にも自ずと限界はある。後先考えずにアーツを放てば、いかに天の聖杯だろうと...ガス欠にならぁ」

 

...つまり、レックスはバンバンアーツを放ちまくって、逆に負けたと。しっかし、なんでそんなことを教えてくれんだ...?

 

「ア、アンタ達、一体...」

 

ヴァンダムが止まるのに合わせて、他の奴らも攻撃を止めていた。気がつきゃ、ミカが隣まできてる。

 

「俺の名はヴァンダム。この先の村で、傭兵稼業をやっている。さ、ついてこい。天の聖杯の力、楽しませてもらった礼に、メシでも食わしてやる」

 

なるほどな、俺らを試してたとか、そういうあれか...だが俺にはどうしてもわかんねぇことがある。ちゃんと聞いとかねぇと。

 

「なぁ。そこのフード被ったあんた...何者だ?」

「...はっ。村についたら言うつもりだったってのに、急かすねぇ...まあ、いいけどな。ほらよ」

 

そう言いながらフードを取り、見せた顔は...

 

 

 

 

 

「よっ。久し振りだな、オルガ」

「...兄、貴...!」



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第3話 戦 第3節  「吹き荒れる風」

結局17:00に間に合いませんでした 許して


「...なるほどな。楽園に行くために世界樹に近づいたら飲み込まれたってか。そりゃ災難だったな」

 

俺達は、ヴァンダムさん達が傭兵をやってるっていうフレースヴェルグの村の正門までやってきていた。

 

「ヴァンダムさん達は、何であんな場所に?」

「ここの巨神獣(アルス)はな、定期的に外のもんを飲み込むんだ。村で使えそうな物資が流れ着いてないか探しに行ってみたら、お前さん達と出くわしたってわけさ」

「そうだったんだ」

 

巨神獣(アルス)っつっても色々いんだな...ってかそんなことより、俺にはもっと聞きてえことがある!

 

「えーっと、ヴァンダム...さん」

「ん?お前は...オルガだったな。名瀬から話は聞いてるぜ」

「兄貴から?」

「おう。いい弟分がいるってな」

「そうだったのか...兄貴はいつからここに?」

「数ヶ月前から世話になってるな。お陰でブレイドとの連携もだいぶ出来るようになった。お、そうだ。俺のブレイド、他にも何人かいるから見ていくか?ヴァンダム、そんくらいの時間はあるよな?」

「おう、メシができるまで時間はあらぁ」

「だとよ。ほら、ついてこい」

「...兄貴、まさか...」

 

兄貴、どうやら色んなブレイドと同調してるらしい。

...俺の予想が正しければ多分そのブレイドは...

 

 

 

 

 

「お前ら、帰ったぞ」

「お帰りなさい、私の名瀬さん」

「アザミだけのモノじゃないですから!...って、そこの人達、お客さんですか?」

「ん?誰だ?強いヤツか?」

「...やっぱり女だらけじゃねえか...」

 

案の定だった。しっかもかなり濃いメンツなのが一瞬で分かったぞ...

 

「紹介するぜ。こいつらはアザミ、ウカ、ヤエギリだ」

「...皆さん、随分とお強いようですね。見ているだけで伝わってきます」

 

ビャッコが瞬時にその強さを感じ取ったみてえだ。持ってる武器もいかにもな感じだしな。

 

「...って、ちょっと待って」

「ん?どうしたレックス」

「ドライバーって、そんな何人ものブレイドと同調できるの?」

「あ...言われてみりゃあ、確かにそうだな」

「同調しているブレイドが増えれば、単純に戦力の増強にも繋がるから、お前らもやってみるといい」

「おお...そうと決まりゃあ早速...」

 

戦力が増えれば、より強大な敵にも打ち勝てる。それに、仲間が増えるのはいいことだしな!

 

「だがなオルガ。お前は駄目だ」

「な、なんでです?」

「知らなかったか?ブレイドはドライバーが死ねばコアに戻る。死ぬことが前提のお前の戦いには合ってねぇ」

「あ...でも、ミカは全然そんなことにはなってませんよ?」

「あーそれ、トラも不思議だったも。なんでミカ、コアに戻らないし記憶もそのままなんだも?」

「そうだな...異世界から来たが故の特例、ってヤツかもな」

「ふーん...まあ皆を守れれば何でもいいや」

「...ドライバーが死んでも、コアに戻らない...」

「ん?どうしたホムラ。もしかして、天の聖杯には何かわかるのか?」

「あ、いえ...なんでもありません」

 

そういえば、ブレイドはそういうルールだったな...ちくしょう...。

 

「まあまあ、落ち込むなって。同調はアタシ達だってできるんだから」

「ああ。仲間を増やすのはオレやニアに任せてよ」

「すまねぇ...サンキューな」

 

そうだな...こんなとこで落ち込んでてもしょうがねぇ。俺は俺の出来ることをしねぇとな。

 

「お前らぁ、メシの用意が出来たぞ」

「おっと。話の続きはメシを食いながらだ」

 

俺達は、ひとまず広場のテーブルに移動することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまい、うまい、うまい」

「オルガ、少し落ち着きなよ」

 

出された料理が美味いもんだから、つい語彙が死ぬ俺。だがそれだけこれが美味いんだからしょうがねぇだろ。うん。

 

「あ、私、お水汲んできますね。ヴァンダムさんは?」

「すまんな。俺はビールを頼む」

「おっ、じゃあ俺もいただこうかね」

「兄貴...よし、俺も」

「ダメだよオルガ、オルガ酒弱いんだから」

「...すみませんでした」

「えっと...行ってきますね」

 

ホムラが水を汲んでくるって言い出すと、ヴァンダムさんと名瀬の兄貴がビールを代わりに頼む。俺も一緒に飲もうと思ったんだが、隣のテーブルで飯を食ってたミカに止められた。まあ、いつぞやの宴会の時は後で酷い目に遭ったからな...

 

「何だ?ここのメシは口に合わんか?」

「ん?どうしたレックス。美味いぞ?」

 

ヴァンダムさんが話しかけた方を見ると、レックスが座ってたが、飯を前に止まってやがる。全く、どうしたってんだ?

 

「...ヴァンダムさんも、戦争してんの?」

「傭兵が気に入らないか?」

「そういう訳じゃない、けど」

 

なるほど、そういうわけか。レックスは確か、戦争に関わる物とかは扱わねぇって前に話してたな。それで、傭兵のことを考えてたと。

 

「...レックス、お前サルベージャーだろ?サルベージャーが引き揚げるものの中には軍需物資も多い。それはどう考える?」

「オレはそういうものは扱わないよ」

「同じことさ。磁流コンパスもエーテルコンロの調整バルブも、軍や兵士の助けになっている。お前が食ってるそのパンのルスカ粉だって、スペルビア政府から調達したものだ。この世界は戦で満ちている。その中にあって、誰かと関係を持って生きる以上、それは戦に荷担してるってことさ。違うか?」

「それは...」

 

なるほど、な。そんな考え方はしたことなかったな...

 

「レックス。お前は天の聖杯のドライバーなんだろ?じゃあ戦なんて、嫌でもお前についてくる。じゃあどうする?そんなに逃げたきゃ、ホムラを置いてきゃそれで終いだ。けど...ま、考えてみることだな」

「兄貴...」

 

兄貴が話し終わると、ヴァンダムさんが立ち上がる。

 

「よし、行くぞ。支度しろ」

「え、行くってどこに?」

「いいからついてこい」

 

それだけ言うと、ヴァンダムはスザクと一緒に歩いていった。

 

「ヴァンダム...ま、いいか。あいつの分のビールは俺が頂いとくとするかね」

「ちゃっかりしてますね、兄貴...」

「まーな」

 

さて...と。じゃあミカ達にも声かけるとするか。

 

 

 

 

「いや、俺は火星ヤシ食べるから...」

「いーじゃーん!一回でいいから食ってみろって!」

「...」

 

見てみると、そこにいたのは、魚料理を食わせようとするニアと、頑なに拒否するミカ。そういやミカ、魚の見た目がそもそも苦手だったっけな...けどよ...人が真面目な話してたときによ...

 

 

「何やってんだミカァッ!!ニアァッ!!」

 

 

 

「...で、付いて来いって言ったくせにどこにもいないな...勝手なおっさんだなぁ」

「ヴァンダムさん、どこへ行ったんでしょうか?」

「...あ。いた」

「本当かミカ。どこだ?」

「あそこ。さっき俺達が入ってきた門とは別のとこの門」

 

ミカがそう言いながら指差した方を見ると、確かにヴァンダムさんとそのブレイドのスザクがいる。んじゃ、早速向かうとするか。

 

 

 

 

 

「随分と待たせてくれるな、新米ども」

 

出向いて早々に、スザクの一言が突き刺さる。

 

「すみませんですも」

「ヴァンダムのおっちゃんがさっさと行っちゃうのが悪いも」

 

素直に謝るハナと、正直に喋っちまうトラ。いやトラ、確かにそうだけどよ...

 

「ハッハッハッ!すまんな」

「えーっと、ヴァンダムさん。そういえば、珍しい武器をお使いでしたよね?」

「ツインサイスって言うんだぜ。この辺りでも使い手はヴァンダムくらいだ」

 

ホムラが、前から気になっていたことをヴァンダムに聞くと、代わりにスザクが答える。

 

「ツインサイス...サイス...メイス...なんだよ、結構似てんじゃねぇか...」

「え?」

「は?」

バンバンバンッ!

 

レックスとニアの意味が分からないと言わんばかりの声が聞こえた直後、俺はミカに殺されていた。自分でも言った後でつまんねぇなって思ったけどよ...即座に弾丸ぶち込むのは勘弁してくれよミカ...

 

「...さて。本題に入るぞ。大噴気孔付近に異常な力の反応があるって調査を依頼されていたんだが...どうだ?手伝ってみる気はないか?」

「いいよ。ただし、手間賃はきっちり貰うからね」

 

レックスもレックスで、いい性格してるよな。ほんと。

 

「言うじゃねぇか。んじゃ行くぞ」

 

そうして俺達は、大噴気孔に向かって出発した。

...因みに兄貴は、村の方に何かあってもいいように待機するらしい。これで安心だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルガ達が村を出発した頃の大噴気孔付近...そこには、二人の男がいた。

 

「...あれが、例の巨神獣(アルス)ですね」

「その様だな...ヨシツネ、天の聖杯の場所は?」

「えーっと...?ふむ、こちらに向かっているようですよ」

「丁度いい。コアクリスタルのついでに天の聖杯も手に入れてしまおうか」

「ふふ...即席の脚本がそう上手く行くとは思えませんが、どの道天の聖杯の力は僕達の物にする。それが早くなるのなら好都合です」

「そうだな...まずは俺が戦おう。お前は俺が仕留め損ねた時に出向いてくれ」

「えぇ。いいですよ?ヴィダール」

 

天の聖杯を狙う者達...名をイーラ。

彼らもまた、動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ...なんだこれ...?」

「初めて見るのか?これがエーテル瘴気だ」

 

俺達が村を出て、目的の場所に向かって進んでいると、風が竜巻みてぇになって行く手を阻んでいる場所に着いた。エーテル瘴気...って、なんだそりゃ?

 

「エーテル瘴気?」

巨神獣(アルス)の身体から漏れ出る毒素、いわゆる老廃物だ。俺達も汗をかくだろ?似たようなもんさ」

 

へぇ...こういう話を聞くと、巨神獣(アルス)もちゃんとした動物なんだなって再確認するな。ぶっちゃけそういう形の大陸って言われても信じちまいそうなくらいだからな、巨神獣(アルス)は。

 

「こんなのがあっちゃ先に進めないよ?他に道も無さそうだし...」

「まぁ見てな」

 

そう言うと、ヴァンダムさんがツインサイスを構える。

そして、後ろでスザクが飛び上がり、羽ばたいて風を起こす。その風をヴァンダムさんが瘴気に向かって飛ばすと、瞬く間に瘴気が消えていった。

 

「ま、ざっとこんなもんだ。さぁ、進むぞ」

 

瘴気が消えた道を、俺達は再び進み出した。

 

 

 

 

 

 

目的地まで後少しってとこで、モンスターに出くわした。確かあの見た目は...アルドン、って奴だな。ヴァンダムさんや兄貴と会う前に何度か戦闘したが...

 

「アルドンか...お誂え向きだな。レックス、アンカーを使うのは得意か?」

「まあ、そこそこには」

「ちょっと貸してみろ」

 

レックスからアンカーを受け取ると、射出口をアルドンに向ける。そしてアルドンの足めがけて撃ったかと思ったら、アルドンの足に絡ませ、そのまま引っ張って転倒させた。

 

「伸びきったところでワイヤーをたわませるのがコツだ。実践でやってみせろ。さっきは不意打ちだったから上手く行ったが、相手が警戒してると簡単にはいかねぇ。相手の態勢が崩れた時を狙え」

 

そうヴァンダムさんが言っている頃にはアルドンは起き上がり、怒りを露わにしていた。

 

「こっち向けも!」

「その先に俺らはいるぞ!」

 

まずは俺とトラでアルドンを軽く叩き、気を逸らす。

 

「崩れろっ!」

 

そこを二アが、ツインリングで一閃。アルドンがよろける。

 

「今だ!アンカー、ショット!」

 

レックスがアンカーを放つ。そして...

 

...見事に、アルドンを転倒させやがった。

よし、レックスは上手くやってくれた。じゃあ後はとどめを刺すだけだな!

 

「オルガ!」

「あぁ...わかってる!」

 

ミカからエネルギーがメイスに送られてくる。俺はそのメイスを思いっきり振りかぶって、下から打ち上げるようにぶん殴った。

その一撃で、アルドンはぶっ倒れた。討伐成功、ってやつだな。

 

「一度見ただけでモノにするとはな。やるじゃねぇか」

「へへへっ」

「...いいかお前ら、ドライバーのアーツってのはな、何もブレイドの力に頼ったアーツが全てじゃない。アーツを使ってブレイドを守るのがドライバーの役目だ」

「ブレイドを、守る?」

「そうだ。ブレイドに頼り切るな。流れてくる力を常に意識しろ。無駄遣いせず、確実にアーツを決め、守れ。それができて、初めて一人前のドライバーになれる」

 

一人前...随分大変そうだが、そんなんで挫けてられねぇな。頑張らねぇと。

 

「だが、一人前っつったってそう遠い道のりでもねぇ。さっきの技だって、会得するのに俺は5年かかってる。だがお前は一度見ただけでモノにしちまった。レックスをサポートする他のヤツらの動きも、中々どうして大したモンだ。おまえ等、見どころあるぜ?」

「へっ...俺は鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ...こんくらいなんてことは」

ピギュッ!

「調子に乗るのはダメだよオルガ」

「正論じゃねぇか...すみませんでした」

「はっはっは!まぁ、浮かれすぎもよくねぇ。鍛錬を怠るなよ」

 

多分為になるであろう話を聞いた俺達は、再び目的の場所に向かおうとした。しかし...

 

「うわっ、モンスター!」

「エルダー・スパイド...大物だな。この先で何が起きてやがんだ?」

「...待って。あのモンスター、傷だらけだ」

「ん?...おお、ほんとだな」

 

奥から、蜘蛛型のモンスターが現れる。横には...多分あれはブレイドだな。モンスターとも同調できんのかよってツッコミはさておいて...あんなでっけぇのをあそこまで追い詰める奴って一体...

 

 

グシャァッ!

 

とか思ってた矢先、何者かがそのエルダー・スパイドの横から飛びかかり、膝蹴りを叩き込む。

その瞬間、辺りに風が吹き荒れる。風属性のブレイドなのか...?

それを受けたエルダー・スパイドは...倒れ、起き上がらない。横にいたブレイドがコアに戻ったってことは、死んだんだな...。

 

「お前達を待っていた」

 

その何者かは...マクギリスのとはまた違う、顔全体を覆うタイプの仮面を付けていた。

そして、着ている服は、これまたどっかで見たような、見てないような...ガンダムの中にあんなんがいた気がする、そんな感じの見た目の鎧だ。

 

「ヴィダールっ!なんでここに!」

「決まっている、天の聖杯だ。そのついでにコアクリスタルを集めていた」

 

ニアだけが名前を知ってるってことは、多分イーラの連中だな。けど...ヴィダール...?

 

「ヴィダール...?どっかで聞いた名だな」

「ええっ!?じゃあアンタらと同じ世界の出身ってこと?」

「かもしんねぇ...けどそんなことは今は関係ねぇ!お前らぁっ!行くぞ!」

 

そして、俺達鉄華団と謎の仮面男の戦いが始まった。



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第3話 戦 第4節  「知ってる奴」

久々な上になんかいつもより少ないですねー?ごめんなさい


「行くぞ」

 

ヴィダールと名乗ったその男は、腰に差したレイピアを引き抜くと、一直線にこっちに向かってくる。

 

「させるかよっ!」

 

それをレックスが止める。だが、ホムラが力を送ってるにも関わらずそのパワーは互角みたいだった。

 

「天の聖杯の力を渡せ。それは俺たちにこそ必要な物だ」

「お前もホムラを物みたいに言って...そんなヤツらにホムラは絶対渡さない!」

「そうか、ならば...奪うだけだ」

 

そう言ってヴィダールは鍔迫り合いを止め飛び退くと、片方の足...否、膝に風のエーテルを集め出す。まさか...!

 

「やべぇ、さっきのモンスターを仕留めたのと同じ攻撃が来るぞ!」

「あのエーテルの量...いかん!逃げるんじゃレックス!」

「...っ!」

 

ヘルメットの中のじーさんも叫ぶ。どうやら俺の勘は間違ってなかったらしい。出来れば間違ってて欲しかったけどなぁっ!

 

「...『スターライト・ニー』!」

「させねぇよ!」

「オルガ!」

「...今の技は...」

 

俺は咄嗟に飛び出して、レックスを庇う。俺は紙屑みたいに吹き飛ばされ、死んだ。だがすぐに起き上がり、戦闘に復帰する。レックスは...無事みたいだな。ホムラの方は...なんか信じられないって感じの顔してるが、どうしたんだ...?

 

「...オルガ。俺がやる」

「ミカ...一人でやろうってのか?」

 

起き上がったばかりの俺のところに、ミカがやってくる。

 

「それが一番皆が安全だ。それにさっきのあの動き...あいつ多分、知ってる奴だ」

「ミカお前...分かった、でも無理すんじゃねぇぞ」

「うん」

 

会話を終えると、ミカは俺からメイスを受け取り、ヴィダールに向かっていく。

さて、俺達もいつミカがピンチになってもいいように構えとかねぇと...ま、大丈夫だとは思うけどよ。

 

「さっきの技...まさかあの人って...」

「ん?どうしたホムラ」

 

そういやホムラはさっきあいつの技を見て驚いてたな。何か知ってるのか?

 

「あっいえ、気にしないでください。多分、気のせいだから...」

 

...誤魔化されちまったな。まあ、いずれわかるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────

あれの正体は、多分あいつだ。

だったら...その動きもある程度読める。

 

まずはワイヤークローで牽制しにかかってみる。

けどあいつは後ろにほんの少し下がって避け、そのまま凄まじいスピードで距離を詰めて背後をとってくる。...うん、やっぱり同じだ。

だから俺も、それを読んで、ワイヤークローを飛ばした直後に振り向き、メイスを構えておいた。

さあ...どうくるか。

 

「ほう...同じ手は通じないか。ならば」

 

そしたらヴィダールは、レイピアを持たない方の手で腰の拳銃を引き抜き、散弾をまき散らすように放ってきた。

流石に全く同じ動きはしなかった...けど、この武器も知ってる。

俺はメイスを盾に銃弾を弾く。その間に距離を取られるけど、銃弾が俺に通じないのは分かってるはず。ならきっと...

 

「これはどうだ?」

「やっぱりそう来たね」

 

今度は足の先の部分にエーテルを集め、こっちに飛びかかってくる。さっきとはちょっと違うけど、大体予想通りだ。

 

「それを待ってた...『鉄華戦闘機動・ブロウ』!」

 

俺はその攻撃に合わせてメイスを構え、敵を突いた。

砲撃無しの簡易版だけど、充分傷を負わせられる筈。

そして、そのままメイスに込めたエーテルを放出し、爆発させる。これで倒せてれば楽なんだけど...どうなった?

 

「...あれ?」

 

 

─────────────────────────

ミカの一撃が、確かに決まった。

だが、爆煙が晴れる頃にはそいつはいなかった。死体とかそういう類の物も転がってねぇし...逃げられたか?

 

「ごめんオルガ、逃がしたかも」

「問題ねぇ。次来た時にまたぶっ倒すだけだ」

 

真っ先に謝ってくるミカ。いいっての。気にすんじゃねぇよ。

 

「けど、あいつ強かったね」

「トラ、見てるだけで何にも出来なかったも...」

「ご主人は役立たずだったってことですも」

「ハナァッ!?」

「案外そうでも無さそうだ」

「そりゃどういう意味なんだ、ヴァンダムさん」

 

ヴァンダムさんが妙な事を言う。

 

「レックス、オルガ。あいつ、どうもお前さん達だけを狙ってたみてえなんだ。実際、俺も今回は戦ってなかった様なもんだったしな」

「そういえば...」

 

言われてみれば、確かに戦ってたのはほぼレックスとミカだった。レックスが狙われる理由は分かるが...

 

「ミカも普通のブレイドとは思えないくらいの力持ってるし、その力が欲しかった、とかじゃないの?」

「ニア...そうだ、二アは何か知らねぇのか?」

「アタシは知らない。イーラにも入ったばっかだったし、目的とかも聞かせてもらえてなかった」

「そうか...」

 

んー、やっぱ謎だらけだな。今までの異世界の中でも謎の多さならかなり上に来るくらいだ。

けど、俺達のやることは変わんねぇ。敵をぶっ倒して、いつかどこかに辿り着く。それだけだ。

 

「...チッ、やっぱり手遅れか」

「ヴァンダムさん?」

「あれを見てみろ」

 

ヴァンダムさんが指差した先には、巨神獣(アルス)が倒れていた。だが...程なくして消滅した。

 

「確認された異常な力の反応って、あれのことだったの?」

「あぁ。ブレイドのコアってのは巨神獣(アルス)から生み出されるんだが...もうあいつに奪われた後だったみたいだな」

巨神獣(アルス)から...ブレイドが...」

 

コアって、そうやって生まれてたんだな...

 

「そして、生まれたコアは数多のドライバーと出会い、その死を経験し、そしてまた記憶を新たにして別のドライバーと同調していくんだ。巨神獣(アルス)の死、ドライバーの死...数え切れない程の死の上にブレイドはある。意志ある再生が、歴史を作ってるんだ」

「歴史を...か」

 

だとすると、コアクリスタルを奪っていくあいつらイーラの目的は...まさかその歴史を終わらせることなのか?いや...流石にそれはねぇか。あいつら、強いとはいえただのテロリストの筈だしな。

 

「さ、帰るぞ。ここまでの戦いで受けた傷を治さねぇとな」

「そうですね。...よーしお前ら、村に戻るぞ!」

「そんなに気合い入れなくても...ま、オルガらしいけどね」

「だろ?」

 

嫌な想像を頭の中から追い出して、俺は皆と村に帰ったのだった。

 

 



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第3話 戦 第5節 「力」

ペース上げろ定期


村に戻ってきた俺達。

トラはハナを相手に特訓中、二アはビャッコの毛の手入れか。で、ヴァンダムさんは座り込んで何か考えてるみてえだな。名瀬さんは村人からの依頼で今は留守にしてるらしい。レックスはというとホムラに手当してもらってるみたいなんだが...

 

 

 

「いででででで...」

「ほーら、動かないで。男の子なんだからこのくらいガマンです」

「そんなこと言ったって染みるもんは染みるって!そういうホムラはどうなのさ?」

「私はこんなのへっちゃらで...」

 

チョンチョン

 

「いったぁぁぁぁぁい...!今ワザとでしょ?ワザとやりましたよね?ね!?」

 

あいつら、昼間っから見せつけてくれるなぁ...ぐぐぐ...

 

「オルガ、羨ましいの?」

「あ、いや、俺は女なんて別に...」

「嘘は駄目だよオルガ。吐くならせめて顔に出さないようにしなきゃ」

「そんな分かりやすかったか...?」

「うん」

「勘弁してくれよ...」

 

まあ実際、羨ましいんだけどよ...

 

「やってないやってない!フツーに塗っただけ...」

「嘘、こう塗りましたよ!こう...」

「ぐぉぉぉぉ...!」

 

...ほんと、何やってんだあいつら。

 

「お前ら!ちょっと見せてみろ」

 

ん?ヴァンダムさん、急に立ち上がって...一体どうしたんだ?

 

「何てこった...どうしてブレイドであるお前が、傷を負ったままなんだ?しかもレックスと同じ場所に...」

 

レックスはホムラと顔を見合わせた後、ヴァンダムさんに、ホムラから命を分けてもらったことや、ダメージの連動が起きていることを話した。

 

「...信じられん、そんなことってあるのか?」

「でも、事実だしね」

「そうか...ブレイドはどんな傷を負ったとしてもすぐに回復する。コアを破壊されるか、ドライバーが死なない限り不死身だ。しかしお前らは...」

 

...ん?ちょっと待て。

 

「ミカ、お前不死身なのか?」

「あー...そういえばここに来てから対した怪我してないかも」

「おいおい...いよいよ俺の存在意義が怪しいな」

「そこは大丈夫。ブレイドはドライバーがいてこそ、みたいだし。それに、オルガにしか出来ないことだっていっぱいあるから」

「ミカ...」

 

相棒の言葉に救われつつ、話の続きを聞くことにする。

 

「まぁ仕方ないよ。こうなっちゃったんだから」

「困ったもんだな、これじゃあどっちがぶっ倒れてもアウトじゃないか」

「一人前のドライバーはブレイドを守るんだろ?ならオレは、ホムラを守ってみせる」

 

そうか、守る...

 

「仲間を守るのは団長の仕事、だろ?オルガ。皆を連れて行くのだってそうだ。だから...」

「あぁ。そうだったな」

 

そうじゃねえか...例えミカが死なない体だとしても、俺が皆を守るってのに変わりはねぇよ。当たり前のことじゃねぇか。

 

「口で言う程簡単なこっちゃないぞ」

「ヴァンダムさん。オレさ、この命をくれたホムラのために、二度と死なないって決めたんだ。だから絶対に死なない。そして必ず、楽園に行ってみせる。ホムラと一緒にね」

「レックス、お前...」

 

そうだな。俺も...お前らを本当の居場所(らくえん)まで連れてってやるよ。それが俺の...

 

 

「楽園に行く?聞き捨てなりませんね」

 

...誰だ?俺らの作戦をぶっ壊した誰かさんにそっくりな声だったが...

声のした方に振り返ると、青い鎧に身を包んだ男が立っていた。傍らにブレイドらしき女を連れて。

 

「困るんですよ、脇役ごときに出しゃばった真似をされるとね。脚本が台無しじゃないですか」

「ヨシツネ!」

 

真っ先に反応したのは...ニアだ。ってことはイーラの奴か!

 

「裏切り者に名前を呼ばれる覚えはありませんよ」

「裏切り者、裏切り者ー♪ニアちゃんってば、とんだ悪女だったってワケだー」

「アタシは裏切ってなんかない!」

「ならなぜそこに?そこがあなたの居場所とでも?」

「アタシは...」

 

ニア...やっぱり今までの仲間達と敵対したくはねぇんだな...

 

「...ヨシツネ。アンタ、何だってここに?」

「そりゃあそこにいる天の聖杯ですよ。主演女優の姿ぐらい見ておきたいじゃないですか」

「シンの差し金かい」

「ご明察。あーそうそう...シン達からあなたのことは好きにするようにって言われました。意味、わかりますよね?」

「そんなっ...嘘だ!」

「おやショック?まさか見限られないとでも思ってたぁ?お花畑すぎるでしょう」

「っ...」

 

かつての仲間でも敵なら容赦はしない...その姿勢は理解できるがこっちだって団員をやらせる訳にはいかねぇんだよ!

 

「...おいおい。村に戻ったら休憩しようと思ってたんだがね...」

「っ!兄貴!」

「話は聞かせてもらった。ホムラ...お前さん、随分人気者じゃねぇか」

 

このタイミングで帰ってきてくれたのか!ありがてぇ...!

 

「おっと、これ以上脇役は必要ないのですが」

「そりゃあ悪かったな、こっちもお前の脚本通り動く気は毛頭ねぇんだ」

「そうですか...脚本家に逆らうキャストなど不要です、一瞬で退場させてあげましょう」

「望むところだ...お前のその声聞いてると、無性に腹立ってくるんだよ...ニューツ!ヤエギリ!」

「了解であります!」

「おっ、さっきのモンスターより強そうじゃん!いいねぇ...!」

 

おぉ...兄貴の戦闘技術は俺ら以上だ、こりゃ頼りになる...!

 

「よし、俺達も...」

「いや、必要ねぇ」

「何でだ兄貴!1人でやるってんですか!?」

「1人、ではねぇけどな。それに今は、俺の知ってる技術をお前達に見せてやりてぇんでな。悪いが下がっといてくれ」

「...分かったぜ、兄貴」

 

兄貴の眼は本気だった。普段の飄々とした感じはどこにもねぇ。

 

「...ユウ、ズオ!村の連中を避難させろ!あいつがイーラのヨシツネだとしたら、被害が及ぶかもしれねぇ!」

「了解です!」

 

ヴァンダムさんに名前を呼ばれた2人が走り出していく。そしてこっちも、もうすぐ始まりそうだった。

 

「...名瀬さん、だっけ?ヨシツネのブレイド、カムイは空間のエーテルエネルギーを操ってこっちが使う属性とは相反する場を一瞬で作り出すことができるんだ」

「なるほど...こっちの属性に対して有利な場を作って戦えると。一見厄介だが...いや、そうでもねぇな」

「舐めた事を言ってくれますね...ならば僕とカムイの力、特等席で拝ませてあげましょう!」

 

ニアのアドバイスを聞く限り、相当手強い風に聞こえたんだが...本当に大丈夫なのか兄貴...?

 

「まずは...っと」

 

兄貴がニューツから受け取った刀を手に斬りかかる。ヨシツネも腰にかけた双剣を引き抜き、攻撃を防ぐ。

 

「なるほど...炎属性。カムイ!」

「りょーかい!」

 

後ろでカムイが何かをする。

 

「あいつ、何しやがった?」

「...エーテルの流れが変わった。さっき、ニアが言ってたのを使ったんだと思う」

「そうか...ってことは今は炎の力は弱まるってことか?」

「多分」

「なるほどな...兄貴、一体どうする気だ?」

 

ミカがエーテルの変化を感じ取り、その原因を見抜く。

これだとあいつ有利のまま進んじまうんじゃ...

 

「そらよっ!」

「ふふっ、もうあなたの攻撃は通じませんよ!」

「おっと...こりゃ確かに弱まってるな」

 

やっぱり、少しずつ押され始めてる。どうすんだよ...!?

 

「んじゃ、そろそろ交代だ。ヤエギリ!」

「任せなっ!」

 

その掛け声と共に、遠くに居たはずのヤエギリと兄貴の後ろから力を送っていたニューツの位置が入れ替わり、武器も刀から斧に変化する。

 

「ブレイドスイッチですか...味な真似を!」

「相手に弱点があってそれを突けるのに、突かない理由はねぇだろ?」

「くっ..次の属性は...」

「遅いぜ!」

 

兄貴が斧で一閃決めた直後に、その斧を上に向かって投げる。これは...!

 

「決めるぞヤエギリ!」

「見せてやる、アタシの力を!」

 

斧を手にしたヤエギリは瞬時に間合いを詰め、連続斬りを叩き込む。風を纏った連続攻撃がヨシツネを追い詰め、そして...

 

「「『天来・羅刹大連撃!』」」

 

再び斧を手にした兄貴の、一際大振りな一撃が決まる。

ヨシツネは大きく吹っ飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。

 

「...くっ、脇役が生意気な...カムイ!」

「ほいっ!」

 

またさっきのが来るか?けど通じないってわかったばっかじゃ...

 

「おっと、これ以上は勝手な真似させねぇぞ?」

 

ヴァンダムさんが飛び入る。武器は...持っていない?

俺はもしかしてと空を見上げる。やっぱりだ。

ツインメイスを手にしたスザクが飛んでいる。

スザクは突如身体を回転させると、巨大な竜巻を生み出して攻撃した。

その竜巻自体に大した攻撃力は無かった。だが...

 

「いやぁぁー!何よこれー!」

「エーテルの流れが乱された!ちぃっ、これじゃあ...」

 

あいつの力を封じたみたいだ。だがさせた所で特に問題なんて無かったんじゃねぇのか...?

「随分と脆かったな、お前の技」

「ちぃっ...脇役どもがそろいもそろって...興がそがれました。カムイ!物語を再考するよ」

「ふぅ...りょーかい」

 

そう言い残すと、ヨシツネとカムイは凄まじい跳躍力で逃げ去った。

 

「おいおい、俺にやらせてくれる流れじゃねぇのかよ?」

「まあいいじゃねぇか。お前の教えたがってた『技術』はもう見せたじゃねぇか」

「まあな」

 

技術...さっきの入れ替わりのことか?

 

「ヴァンダムさん、なんで乱入したの?さっきの技なら効かないんじゃ...」

「あー、それは俺も思ってた。別に兄貴一人でもどうにかなったんじゃあねえのか?」

「確かにな。だがもし、あいつが別の技を使おうとしていたら?もしそれが俺達にとって致命的な影響を与える物だとしたら?一瞬の油断で、戦況は大きく変わる」

「それは...」

 

確かにその通りだ。俺は思いっきり油断していた。もし戦っているのが俺だったなら、負けていたかもしれねぇ...いや、そもそも最初のあいつの技すら破れてなかったかもな...。

 

「ま、もし仮にヴァンダムが来なくてもどうにかしてたけどな?」

「...」

「ん?どうしたオルガ...」

「いや...」

 

名瀬さんやヴァンダムさんがいなかったら、あいつを追い返す事は出来なかった。俺には、まだまだ力が足りない。

こんなんじゃ、誰も守れねぇ...それどころか。

この前俺達の前に現れたヴィダールって奴、あいつは多分俺らと同じ世界の奴だ。もし俺がこの世界に来たせいで...レックス達と一緒にいるせいであいつが襲ってきたんだとしたら。俺はあいつらの敵を増やすことしかしてねぇじゃねぇか。だったら...

 

「...ヴァンダム、任せるぜ」

「おうよ」

 

...?

 

「レックス、オルガ。こっちこい」

「え?あっはい...」

 

俺とレックスはヴァンダムさんに呼ばれ、ついて行った。よく見るとレックスも何か悩んでるみたいだった。やっぱ、力が及ばないことを気にしてるんだろうな...

 

村にいくつもある小屋の内の一つ、その中までやってくると、ヴァンダムさんは俺達に問いかけた。

 

「なぁ、お前ら。俺とあのヨシツネって奴の違いは何だと思う?」

「そりゃあ、あいつはホムラを狙う連中の一人で、悪い奴で...」

「ヴァンダムさんは...いい人?」

 

俺達が問いに答える。するとヴァンダムさんは首をかきながらこう言った。

 

「ははっ。そいつはありがたいこったが、どっちも違いはないって言ったらどうする?」

「「...?」」

 

その問いの意味が、俺達にはよくわからなかった。違いはあるじゃねぇか。一体どういう...

 

「村の連中は義のために戦をしてると信じている。けどな、義のある戦なんて、存在しねぇんだ。義なんて言葉はな、手前勝手な強弁よ。戦は戦。自分を守ろうとすればする程、そこには対立が生じる。それが拡大したのが戦だ。つまり...俺には俺の、奴には奴の戦があるってことだ」

「でも、あいつのやってることは...」

「当然だ。肯定なんかしねぇよ。お前ら、戦は力だ。だが、力はそれを使う者の心の形でいかようにも変化する。力を恐れ、守ることを放棄しちまったらそこで終わりだ。何が正しくて何が間違ってるかなんて、誰にも決められねぇ。ならとことん、お前ら自身の大事なものを守れ。それがお前らの戦だ」

 

「オレ達の...戦...」

 

大事なもの、と言われた時、俺達は同じ方を向いていた。鉄華団の皆...それが俺の大事なもの。

そうだ...考えてみりゃあ昔から俺はそうだ。

大事なもん守るために後先考えねぇで突っ走って、そのせいで敵が増えたらそいつらも倒せばいい。俺はそうやってここまで来たんだ。

だったら、俺のせいでとか考えねぇで、皆を守って、連れてって...止まらず進み続ければいいじゃねぇか。

それが...俺の戦だからな。



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第3話 戦 第6節 「極と書いて、アルティメット」

「おうお前ら。どうした、こんな朝っぱらから」

 

ヨシツネの襲撃から、一夜が明けた。

俺達は、ヴァンダムさんと兄貴のとこに来ていた。

というのもニアが、「ヨシツネ達との事を話しておきたい」と言い出したことから始まり、ミカが「じゃあ俺もついてく」と言い、俺も俺もって感じで最終的には全員ついてくことになったって訳だ。

 

「昨日は助かったよ、アンタ達がいてくれて。それでね、あのヨシツネって奴、あいつのことなんだけどさ...アタシさ...」

 

そこまで言って、ニアが俯く。

昨日聞いた話じゃ、傭兵団もイーラの連中に襲われたことが何度もあるらしい。そんな奴らと元仲間とか、そりゃあ少しは感じるところもあるよなぁ。

 

「実はあいつと、なか...」

「傭兵をやってるとな、色んな事情を持った奴と出会うんだ」

 

でもしっかりと向き直って、二アが正直に言おうとしたその時、ヴァンダムさんがそれを遮って言った。

 

「国のため、家族のため、金のため...様々な理由で戦ってる奴らとな。中には、女と男なら女を取るだろ?なーんて言って女のブレイドをたくさん連れてる奴もいるし、後はそうだな...胸に妙なクリスタルこさえて、彼女のためだー...なんて変わった奴までいる」

 

前者は兄貴か。で、後者は...

 

「オ、オレ?い、いや、オレはただ...」

 

照れくさそうにレックスが頭をかく。

 

「ニア、お前は今、こいつらと共にいる。ならそれでいいじゃねぇか」

「ヴァンダム...アンタは...」

 

なんだよ...いい話じゃねぇか...

 

「それより、レックス、オルガ。楽園に行きたいって言ってたよな?」

「あ、はい...」

「でも、世界樹にあんなのがいたんじゃ、誰も近づけないよ。商会の飛行船で渡ろうとしても墜とされちゃうだろうし...」

 

サーペント...あいつがいる限りこっちに勝算はねぇ。どうにかして退いてもらうか、気づかれないように行くか...

 

「インヴィディア王都に俺の古い知り合いがいる。そいつなら、行き方を知ってるかもしれん」

「ほんとに!?」

「ああ、ちょうど王都に行く用事がある。ついでに紹介してやるよ」

「ありがとう、ヴァンダムさん!」

「なぁに、これも何かの縁だ。気にするな。...じゃ、準備が出来たら村の正門に来い」

 

 

俺達は準備をする為に一度その場を去る。

...ん?兄貴、ニアを呼び止めて...

 

「ニア。お前、好きだって思う誰かはいるか?」

「はぁっ!?何聞いてんのさ急に!」

「落ち着けっての。...いいか?女ってのは、太陽なんだ。太陽がいつも輝いてなきゃ、男って花は萎びちまう。だからもし、そういう人がいるんなら...そいつの太陽になってやれよ」

「...ま、まぁ...覚えとく」

 

...よく聞こえねぇが...まあ、盗み聞きの趣味もねぇし、いいか。

んじゃ、さっさと準備して、王都に向かうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、出発するか。名瀬、留守中頼むぜ」

「任せとけ。にしても...ヴァンダム、生き生きしてるな?」

「へへ、まぁな。頼んだぜ」

 

俺達一行は村を出て、首都「フォンス・マイム」を目指して歩き始めた。

そして...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーケディアへと向かう定期便...此処には多くのコアクリスタルがある。

だがこの船を向かわせる訳にはいかない...これ以上奴に勝手させない為にも。

 

向かってくる兵士達。俺は黄金に輝く双剣を引き抜き、すれ違いざまに斬る。

所詮はその程度...個人の持つ唯一絶対の力の前では、只の兵士など無力と化す。

 

船内を歩き、角を曲がると...ブレイドを従えた兵士が待っていた。

 

実力差も理解できないドライバーと共に戦わなければならないブレイド...

哀れなものだな。せめてこの手で...終わらせてやろう。

目の前のドライバーを雷のエーテルで一掃する。ブレイド達は、皆クリスタルへと戻っていく。

 

そして最後の扉を、文字通り切り開くと、予想通り大量のコアクリスタルがあった。

 

これでまた、俺達の理想へと近づけた...

 

...さあ、新しい時代の夜明けは目前だ...!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構歩いたんじゃねぇか...?」

「いや、まだフォンス・マイムまでは遠いな。どうしたオルガ、もう限界か?」

「なっ...そんなこと!」

「ハハッ、元気そうで何よりだ」

 

村を出てからだいぶ歩いた。道中にはモンスターもうじやうじゃいるし、ここまで来るのにも時間がかかったが...どうやらまだまだらしい。こりゃあ骨が折れるな...

 

「天の聖杯の噂、ほんまもんみたいやなぁ」

「誰だ!?」

 

どこからともなく聞こえてくる声。その直後、俺達の前にフードを被った男と女の二人組が現れる。

 

「ガキのくせにいっちょまえにしよってからに、ボンには荷が重いわ。ワイが天の聖杯のドライバーになったるさかい」

 

そこまで男の方が言い終わると、二人組は全く同じ動きでこっちを指差し、男が言った。

 

「その娘、今すぐ渡しぃや」

「...え?何?ヴァンダムさん、またあのくだりやるの?」

 

確かに兄貴もフード被ってたが...こんな胡散臭くは無かっただろ...

 

「俺はあんな奴知らんぞ」

「ふぅん」

 

やっぱそうだよなぁ...ほんとにあいつ何者だよ...?

と、思ってると、その二人組はフードを上げて顔を見せる。...やっぱり知らねぇ顔だけどな。

 

「まさか、お前は...!...誰?」

「知らねぇのかよ!いや俺も知らねぇけど!」

 

ついツッコミをいれる俺。一方向こうは...ズコーッて音が似合いそうなよろけ方をした後、体制を立て直した。

 

「ワイのことを知らんやと...?おんどれどこのドライバーや!」

 

上に腕を振り上げたりこっちを指差したり。いちいち動きが大袈裟だなこいつ!

 

「ワイの名は...ジーク!B!(アルティメット)!玄武!極と書いてアルティメットと読む!アルスト最凶のドライバーや!」

 

またしても大袈裟な動きと共に名乗る男。っていうか名前長いな!

しかし、それでもまだ満足しないのか、男...ジークは喋り続ける。

 

「ワイのブレイド、サイカが剣!紫電参式轟の!サビになりたいんやったら...かかってこんかぁい!」

 

背中の大剣を引き抜き、構えるジーク。

...ん?ちょっと待て?

 

「獅電...?まさかMS!?」

「多分字が違う。オルガ、ちょっと黙ってて」

「...すみませんでした」

 

相変わらずミカは厳しいな...しかしミカが文字の違いを分かるようになってるのも、嬉しいもんだな。教えて貰っといてよかったな、ミカ。

 

「...いや、いい」

 

そんな俺の小さな感動の余所で、レックスはジークを無視して通り過ぎようとしていた。しかもホムラ達も行っちまうもんだから少し可哀想になってくる。

 

「い、いいって...あー、ちょ、ちょ...おんどれ、ちょっと待ていや!」

「何っだよ!めんどくさい奴だね!」

 

凄まじいスピードで回り込んでくるジーク。

...少なくとも足の速さは最強、ってことか?

 

「ぐっ...お前ら、ワイら三人をなめとんのか?」

「三人って...二人じゃん。あと一人は?」

「あぁ?決まってるやんけ。ワイらのアイドル、このカメキチがみえへんのか......てあれ?カメキチ?カメキチどこいった?」

 

服の中を探り始めるジーク。が、どうやら目当てのものは見つからなかったらしい。

 

「カメキチィィィィィッ!」

「...何これ」

 

あぁ、ミカが飽きてきてるな...銃は出すなよ...?

で、そのカメキチっての、折角だし少し探してやるか...

 

「...あっ?かわいい...!どうしたの?こんなところに君一人で」

 

ホムラがしゃがみ込んで手を出す。立ち上がったところでホムラの手元を見ると、亀がいた。まさかカメキチってこいつか...?

 

「あーっ!カメキチ!何勝手に触っとんねん!」

 

やっぱりそうらしい。絶妙に気持ち悪さを感じる走り方でこっちまで来ると、ホムラから亀を奪い取って帰って行く。

 

「...あいつ、ホムラごと連れてけばいいのに、何でワザワザ亀だけもってったんだ?」

「さぁ...バカなんだろ」

「...!!...ま、まぁええわ」

 

亀をブレイドのサイカと一緒に愛でていたジークが、バカと呼ばれたのに気づき、ショックを受けたような顔でこっちを向く。

 

「とにかくそいつはワイのもんや!いややったら実力で、このワイを倒してみぃや!」

 

再び大剣を構えるジーク。その顔は...心なしか、カッコつけてるように見え...

 

「うわっ!こいつマジモンだ!」

 

ニアには見事、やばい奴として認定されてしまったようだ。とにかく、倒さなきゃ進めねぇなら、やるしかねぇな!

 

「ミカ!援護頼むぜ!」

「分かってる」

 

ミカから力が送られてくる。俺はメイスを握り締めジークに向かっていき、振り下ろす。

...が。

 

「『破天剛勇爆雷昇(スカイハイブレイブサンダー)』!」

 

ジークは雷を纏った大剣をアッパーするように振るい、俺の攻撃を迎え撃つ。っていうか技名まで長ぇなぁ!?

 

「じゃあ次はオレが!『ソードバッシュ』!」

「甘いで!『超絶迅雷閃光斬(ダイナミックスパーキングソード)』!!」

 

レックスが剣を構えて突っ込むも、ジークの一撃で弾かれ、そのまま二撃、三撃と喰らってしまう。

 

「うわぁっ!」

「レックス!『ヒーリングハイロー』!」

「っとと...サンキューニア!」

 

すかさずニアが回復のアーツ。ほんと、頼りになるなあの力!

 

「トラとハナで引きつけるも!こっち向くもー!」

 

トラがいつぞやのゴズ戦で使用した仮面を装備する。何でも、「ノポンの仮面」って代物で、モンスターの注意を逸らすことができるらしい。けど...

 

「待って、あいつはドライバーだから通じないんじゃ」

「もっ!?確かにも!」

 

やっぱそうなるか!やっぱり駄目か...?

 

「...なんや、無性にあのノポン族攻撃したくなってきたわ」

「...なんで通じてんだよ」

「さぁ...バカなんだろ」

 

ひっでぇ言われようだなぁ...まあこっちとしてはありがてぇが。

 

「言ってる内に背中向けたぞ!アレやるぞアレ!レックス、ニア!」

「あ、昨日やったやつか!分かった!」

「なら、まずはアタシが...!崩れろぉっ!」

 

ツインリングを手にしたニアが、隙を見せたジークの背中を斬る。

 

「おっととと...やってくれるやんけ、こっちも反撃させてもらうで...っ!?」

「させない、よっ!」

 

続けてジークの足下に向かってレックスがアンカーショット。そのまま足に巻き付け、引っ張って転ばせる。

 

「『ブレイク』からの『ダウン』...上出来だな!折角だ、続きも見せてやる!...『マッスルスマッシュ』!」

 

ヴァンダムさんがツインサイスを手にダウンしたジークに近づくと、上に打ち上げるように武器を振るう。

 

「なんやなんや!?降ろしぃや!」

「トドメだオルガ!やっちまえ!」

 

風のエーテルの力か、ジークは宙に打ち上げられたまま滞空している。

...じゃあ望み通り、地面に叩きつけてやるよ!

 

「うおらぁぁぁぁぁっ!」

 

気合いを込めて、一撃。メイスを思いっきり喰らわせ、ジークは地面へと落ちる。だが自称最凶は伊達ではないのか、即座に受け身を取り後ろへ下がる。

 

「な、なかなかやりよるな...けどなぁ、ワイの究極アルティメット技を見たら、その薄ら笑いも凍りつくで」

「...別に笑ってないけど」

「しかも、究極とアルティメットかぶってるし」

「...いくでぇ...うぅりやぁっ!」

 

ミカとニアのツッコミも無視して剣を振るい構えるジーク。

その瞬間、凄まじい量の雷のエーテルが溢れ出す。

こいつ、まさか本当に強いんじゃねぇか...!?

 

「轟力降臨!『極・雷斬光剣(アルティメット・ライジングスラッシュ)』やぁっ!」

 

ジークは跳び上がり、降下の勢いを乗せて大剣を地面に叩き込む。

雷はジークを中心として「極」の文字を大きく地面に刻む み、傷跡を残す。

 

...だが、どうやら攻撃範囲はその文字の届くところまでのようで、ちょうど俺達にはあと少し届かなかった。

 

「ふっ...」

 

最も、向こうは最初から当てる気が無かったのか、「どうや?凄いやろ?」とでも言いたそうな顔をしている。

 

...が。しかし。

 

バキバキッ...

 

「あ...」

 

ホムラが声を漏らす。それもその筈だ。...なんせ、地面がさっきの技の衝撃で割れ始めてるんだからな。

 

「うおぉっ!?」

「きゃぁっ!」

 

地面はそのまま崩れ落ち、奇妙なドライバーとそのブレイドは下へ下へと落ちていく。

 

「おんどれぇぇぇぇぇぇっ!」

 

辺りに響く叫び声を、残して。

 

「な、何だったんだ、あいつら...」

「さぁ...バカなんだろ」

「希に見る、な」

「いこいこ、時間が勿体ないよ」

「...です、ね」

 

まるでさっぱり訳が分からないままだが、俺達は首都へ向かって再び歩き始めた。



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第3話 戦 第7節 「英雄と聖杯」

お久しぶりですね!!!!何もかんも風花雪月が楽しすぎるのと学校が忙しいのが悪い


ジークを倒した俺達はそのまま道を進んでいき、「セースロア水田」って場所にたどり着いた。

奥にはとにかく大きな街が待っていて、その手前に巨大な...飛行船?が停まっている。

 

「おぉ、着いたな。ここが首都、フォンス・マイムだ」

「なんだよ...思ってたよりだいぶでかいじゃねぇか...」

 

どうやら目的の場所に着いたみたいだ。ようやく休めるか...?

 

「スペルビアとの開戦の噂、いよいよ本当かもしれませんね」

「ここんところ軍備を拡張してたからな。戦艦の数も増えている」

 

その飛行船を見上げて、ビャッコが口を開く。

開戦...そういや前にアヴァリティアでそんな話を聞いたっけか。まあ、そのスペルビアには喧嘩売っちまって逃亡中も同然な訳だが。

 

「それにしても、ヘンテコな形の船ですも」

「むやみに巨神獣(アルス)を改造することなく、兵器として運用する。自然主義のインヴィディアの特徴だな」

「商会でも沢山のインヴィディア船を見たけど、スペルビアとは運用思想が真逆なんだよね」

「だからこそ争いも起こりやすいというわけですね」

「昔から犬猿の仲じゃったからのぉ」

 

なるほどな。同じ巨神獣(アルス)を使った兵器でも、国によって全く違い...そういう考え方の違いから争いが始まる、と...。

 

「傍目にはスペルビアの方が印象悪いよね。ゴテゴテ機械をくっつけちゃってさ」

「...いや、俺は結構好きだぞ?あれ。最高にカッコいいじゃねぇか」

「...オルガ、少しは巨神獣(アルス)のことも考えたら」

「...すみませんでした」

 

すかさずミカが冷たい視線を刺してくる。

そうだよな...あんな大量に付けられたらいくら何でも気分が...

 

「いやぁ、そういうもんでもないぞ?当の本人は意に介しておらんじゃろう」

「えー?あんだけ痛そうな改造されても?」

巨神獣(アルス)は人と共に在る。そういうもんじゃからな」

「ふーん」

 

そういうもんなのか、巨神獣(アルス)って...

 

「ワシなんて背中に小屋を建てられたり、尻にクレーンを刺されたり、七輪を焚かれたりしても文句一つ言ったことがないぞぉ?」

「七輪は喜んでたじゃないか」

「うぅむ、あれは気持ちが良かったのぉー!...またやってくれんかの?」

「...今やったら巨神獣(アルス)の丸焼きになっちゃうよ」

「確かに」

 

つい、笑みの零れてしまいそうな話を交わしながら、俺達は正門を潜り、街中へと入っていった。

 

 

 

 

「...ねぇ、あれ何?」

「どうしたミカ?...何だ、人が並んで...物を受け取ってる、のか?」

「配給所だ。少ない物資を国の管理下で分け与えているんだが...ほとんど早い者勝ちってのが実情さ」

 

そうか...前まで戦争してた上に、今もまた開戦準備中ともなれば、物資も限られたものになっちまうか。

 

「よし、今日はこれで最後だ」

 

兵士がそう言いながら女の子に物資を渡そうとしたその瞬間だった。

 

「きゃぁっ」

 

その女の子が、誰かに押しのけられる。女の子はその勢いのまま倒れてしまい、そこにその何者かが割り込んでくる。

 

「お、俺は国のために働いた兵士だぞ!優先的に配給を受け取る、け、権利があるはずだ!」

 

割り込んできた兵士が叫んでいると、その女の子は起き上がって困ったような表情で兵士を見上げる。

 

「な、何だよその目は?子供は大人の言うことを聞いてればいいんだ...ぐぇぇっ!?」

 

直ぐにでも怒鳴り散らしそうな勢いだったその兵士の懐に、小さな影が潜り込み、そしてその手首を掴み、捻る。

...隣には、さっきまで居た筈の相棒がいなかった。

 

「ねぇ。この腕...何?」

「ぐぁぁぁっ...!」

「ほらその物資、返しなよ」

 

やっぱお前か、ミカ...

顔は特に怒ってる訳じゃない。が...その淡々とただ獲物を潰していくかのような様子は、殺気立った獣なんぞより余程恐怖を覚える。

 

「大丈夫?...何てことするんですか!こんな小さな子に!」

「あ、あぁ?何だお前らぁっ...ぐぅぅっ...!」

 

女の子の方にはホムラが駆け寄ってあげている。他の皆も、続々とその周りに走ってくる。

ホムラが怒りを露わにしている間も、やはりミカはその腕を止めない。ほんと、怖ぇよミカは...

 

「ミカ、取りあえず落ち着きなって!」

「......」

「あーダメだ、聞いてない」

 

二アが宥めてみるも、聞く気配はまるでない。

 

「シショー、流石に可哀想だも。離してあげた方がいいも」

「...え?あーごめん、今気づいた。うーん...まあ、いいか」

「く、くそっ...バカにしやがって!」

 

放り投げる様にその兵士を解放すると、あろうことか武器を取り出して攻撃しようとしてきやがった!

そっちがそう来るなら...ん?来ないな?

 

「そ、そのコアクリスタルの色...まさか...ひぃぃぃぃっ!」

 

ホムラを見ると、どうやら天の聖杯の特徴を知っていたらしく、尻尾を巻いて逃げて行きやがった。

 

「あんな一介の兵士まで知ってるとは。こりゃ相当ホムラの噂が広まってるな」

「...ごめんなさい。ローブ、羽織っておくべきでした」

「誰が広めてるですも?」

「俺が聞いた話じゃ、どっかのノポンの豪商だって話だが」

 

...ノポンの豪商といやぁ...1人知ってるような気がするんだが...あいつの名前、なんて言ったっけか...?

 

「ヴァンダムのおじちゃん?」

「ん?お、お前!もしかしてイオンか?」

 

さっきの女の子がヴァンダムに話しかける。どうやら2人は顔見知りらしい。

 

「見違えたぞ!コールのじいさんは元気か?」

「...」

「そうか...あまり良くないか」

「ヴァンダムさん?」

「ん?あぁ、この子はイオン。俺の知り合いんとこの子だ」

「へぇ...よろしくな、イオン」

 

イオンに挨拶を済ませると、さっきの兵士が仲間を連れてくる前に俺達は移動することにした。

 

 

 

 

 

 

「...おや?ここは劇場のようですが」

 

いくつもある階段を登って上へ上へと進んでいくと、大きなホールの様な建物が見えてくる。

 

「あぁ。俺の知り合いな、ここの劇団で座長をやってるんだ」

「へぇ...劇団か」

「今の時間は...そろそろ公演開始か。ついでだ、劇を覗いていこうや」

「題名は何だ?えーっと...『鉄血の...』?」

「それは一個前のだよオルガ。今からやるのはこっちの『英雄アデルの生涯』ってやつ」

 

おっと、そっちだったか。

あの題名を見た瞬間、一瞬一度も転生していない時のあの世界のことを唐突に思い出したんだが...まあどうでもいいよな、そんなこと。

 

「おおそうか、悪いなミカ。...にしても、英雄の話か。これがアグニカだったらマクギリスが飛びつきそうなもんだが」

「いえ、『私の思い描くそれとは違う』なんて言って、抗議しにいくかもしれませんよ?」

「確かに、それもあるかもしれねぇな!...ん?ちょっと待て。何でホムラがマクギリスを知って...?」

「...い、いえ!そういう訳ではなく...ただ、英雄に抱くイメージというのは人それぞれですから、そういう人もいるかもなぁ、と...」

「...?そ、そうか。まあいい、とにかく今は思いっきり楽しむとしようかぁ!」

「おー!」

「ももー!」

「楽しむのはいいが、他にも客はいる。中では静かにしてるんだぞ?」

「「「はーい」」」

 

静かに楽しむことを約束して、俺達は中へ入り、席について開演を待つのだった。

 

 

 

 

 

「───その時私は見た!暗黒の力が全てを飲み込むさまを!人も!巨神獣(アルス)も!暗黒の渦へと飲み込まれていく姿を!このままでは世界は終わる、終わってしまう!」

 

大きな身振りと共によく響く声で男が語る。どうも、その英雄アデルの弟子役みたいだ。

 

「だがその時、満身創痍の身を起こし!我が師、英雄アデルは決断したのだった!」

 

その声の直後、独特な鎧に身を包んだ男が舞台上の船の甲板に現れる。

 

「神よ!我に力を!暗黒を灼き払い、世界を照らす光の力を!」

 

そう叫んで船の上から飛び降り、敵(役の人達)の前に立って剣を構えていると、白い服や羽に身を包んだ女の人形が吊るされる。

 

「おお、そなたは天の聖杯!神の僕!どうか、我に力を!この世界に光を...!」

 

男が叫ぶと人形も動き出し、赤く輝く粉を振り撒いた。

すると見る見るうちに敵は倒れていき、戦いが終わった。

 

「こうして暗黒は払われた。しかし!その代償は大きかった。多くの大陸が、雲海の底へと沈んでいったのだ...」

 

場面は移り変わり、倒れた聖杯とそれを見る英雄が舞台に立つ。

 

 

「神の僕よ...そなたのおかげで世界は救われた。その命の代償、我が償おう。我は語り継ぐ!そなたの伝説を...!我の名と共に、永遠に...」

 

幕が降り、観客が拍手する。どうやら、終わったみたいだ。

勿論俺達も拍手は忘れない。いいもん見せてもらったし...ん?ホムラ、ボーッとしてどうしたんだ...?

 

 

 

「おじいちゃんなら廊下の奥の部屋にいます。ヴァンダムのおじちゃんに会えたらきっと喜ぶと思うな」

「そうか。サンキューな」

 

公演が終わって外に出た俺達は、ここへ来た本来の目的でもあるイオンのじいさんのコールって人に会いに行く事にする。

イオンに言われた通り、廊下を通って部屋に向かうことにした途中、ミカとニアが後ろからレックスに話しかけてきた。

 

「ねぇ、レックス。ちょっとまずくない?」

「まずいって、何が?」

「今のあれ、天の聖杯って事はホムラのことでしょ?巨神獣(アルス)を沈めたって話も、あのメレフって人の言ってたことと同じだし」

「...あー、確かに」

「何でよりによって演目がアレなのさ...アンタ、ちゃんとフォローしときなよ?」

 

二アは最後にそう言うと、先に廊下を歩いていこうとする。

 

「フォローって...どうやって?」

「そんなの...自分で考えなよ」

「えー何だよそれ...オルガ」

「悪い、その手の事は俺に聞くな。何ならミカの方が得意だ」

「ミカ」

「駄目だよレックス。これはレックスがやらなきゃいけないことだ」

「...ダメかぁ...」

 

ニアが呼び止められるもバッサリと切り捨て、俺は正直に答える。頼みの綱だったミカも、やはりと言うかアドバイス無し。ま、ドライバーたるもの、ブレイドのフォローくらい自分で出来るようになっておこうっていうミカなりの...優しさ...なのか...?

 

「...おっと。悪いが俺は先に行くぜ」

「待っ...あ、ホムラ」

 

チラッと後ろを見たら、もうホムラが近くまで来てたからな。邪魔する前に退場しとくべきだよな。うん。

どうにもどもった様子の我が団員を見て少し気の毒になりつつも、俺は廊下を進んでいった。

 

 

 

 

 

...数分後、合流した時にセイリュウのじーさんから「てんでダメじゃった」と報告を受け、何やってんだレックスと叫んだのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「入るぜ、じいさん。...おいおい、また増えたんじゃないか?」

「何だ、ヴァンダムか。人の趣味にケチをつけるな」

「戦友相手に何だはねぇだろ」

「戦友?」

「あぁ。傭兵団を作る前はフリーでな。若さに任せて、コールのじいさんとあちこちの戦場を駆け巡ったもんさ」

 

なるほど...道理で強い訳だ。

それにしてもこのコールってじいさん、中々変わった雰囲気の人だ。フードで顔を覆った、年寄りの男。だがその風貌や聞いていた話の割には、意外と元気そうにさえ見える。

 

「情に絆されてすぐロハにする誰かのおかげで、金にはならんかったがな」

「ハァッハッハッハッハッ!そりゃお互い様だろ。劇団なんか始めやがって」

「ふん。で、今日は何の用だ?」

「じいさん、無駄に長く生きちゃいないだろ?知ら...」「頼む!知ってることがあるんなら何でもいいから教えてくれ!俺はこいつらを楽園へ連れて行ってやりてぇんだ!首ハネてそこらに晒してくれても構わねぇから!たの...」

 

バンバンバンッ!

 

「...いきなり詰め寄ったら驚いちゃうでしょ。駄目だよオルガ」

「それは悪かったけどよ...いきなり発砲もだいぶ驚くだろミカ...」

 

相棒の制裁により、俺は正気に戻る。

楽園について知ることが出来るかもと思うとつい、止まらなくなっちまった。悪いことしたな、全く...

 

「...楽園だと?行ってどうする?あそこには...」

 

!?

このじいさん、まさか楽園を本当に知ってんのか...!?

...いや落ち着け俺。早とちりはよくねぇ。落ち着いて話を聞くぞ...

 

「!...そのコアクリスタル、あんたは...あんたが目覚めたってことは、ドライバーは...」

「オレさ」

「お前が...まさか、子供とは...ふーむ...」

 

じいさんは考えるような声を出すと、改めてもう一度話し始める。

 

「世界樹への渡り方を聞きに来たということは、一度は行ってみたんだな?」

「うん。でもダメだった」

「だろうな。アレがいる限り誰一人として世界樹には渡れん。アレは世界樹を守っている」

 

サーペントのことまで知ってんのか...ほんと何者だよこのじいさん。

 

「だが...かつてただ一人だけ、世界樹を登り神に会いに行った者がいる」

 

...は?

あれを...あの高さの樹を、登ったってのか...!?

 

突如として知らされるその話は、俺達を驚かせるには十分過ぎる物だった...。



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第3話 戦 第8節 滅の暗躍

「世界樹を?本当に?」

「うむ。その男ならアレのことを...世界樹への渡り方を、知っているかもしれん」

 

世界樹を登った男。その話が本当なら、そいつに聞けば渡り方だって分かる筈だ。

だったら...!

 

「そいつは誰だ?どんな名前だ!?」

「っ!うむ...」

「コールさん、教えてくれ!オレはどうしても楽園に行きたいんだ!」

「俺からも頼む!あんたの知ってること、俺達に教えてくれ!」

「教えても良いが...その前に、二人だけで話をさせてくれないか。そこの、天の聖杯と」

「ホムラと?」

 

ホムラと話...?聖杯と二人で話すようなことなんて...この前メレフが言ってたり、さっきやってた演目にもある大戦の話か...?

 

...いや、歴史で語られてる事と本人の体験は違うだろうし、もしどっちもその場に居たってんならあのじーさんは500歳になるし...意味分かんねえな本当。

 

 

────────────────────

 

 

 

「...コールさんなんでしょう?あの物語を書いたのは」

「すまなかったな。思い出させてしまったか」

「いいえ。とても──懐かしかった」

「ふ、無理せんでいい。本当にすまなかった。...残したかったんだ、あの時のことを。誰かに伝えたかった...あの時のわしらの姿を」

 

コールさんはそこで言葉を切った。そして、私に問い掛けてくる。

 

「再び使うのか?あの力を」

 

"あの力"。

かつて、目の前の総てを灼き、滅ぼし、沈めた力。

使いたい訳が無い。

けれど、もし"彼"が力を取り戻し、再び現れるならその時は...

 

「...わかりません」

 

私は、心のままに答えた。

 

「この世界、二度は耐えられんぞ」

「わかっています。できれば使わないでいたい。そう願っています...でも」

「世界樹への行き方を知っているのは"あの男"だけだ。会えるのか?あの男に。それを確かめたかった」

「会います。それが私の運命ならば」

「そうか...」

 

 

「さっきの少年...」

「レックスって言います。とっても元気で、優しい人です」

「どことなく似ているな」

「えぇ」

 

誰に、とは言わなかった。

お互い、それが誰か分かっていたから。

...きっと、あの日から予感していたのだろう。あの子は、彼に似ていると。

だから、あの日...

 

「わかった、力を貸そう」

「ありがとう、ミノチさん」

「ミノチか──その名、忘れていたよ」

 

遠い昔、共に戦った者の名前を呼んで、私達は話を終えた。

 

 

────────────────────

 

 

「さぁて、どこにしまったかな...」

 

話が終わったらしく、コールのじーさんは俺達を呼ぶと、物を探し始めた。

何でも、渡しておく物があるそうだが...

 

「うっ!」

ゴホゴホ、ゴホッゴホッ!

 

「おじいちゃん!」

「大丈夫か、じいさん!」

「だ、大丈夫だ...すぐ、治まる...心配ない...心配ない」

 

そうは言ってもじーさん、あんたまだ咳き込んで...!

 

「話なんてしてる場合じゃ無さそうだよ、オルガ」

「みてぇだな...お前ら、今日は引き上げるぞ」

「悪かったな、じいさん」

「ヴァンダムさんが謝ることはねぇ、俺が無理に話そうとしたから...」

「いや、いい...良ければ明日、また来てくれ」

「...!すまねぇじーさん、感謝するぞ」

 

俺達はそのまま劇場を出て、この街をよく知るヴァンダムさんに連れられ宿に向かった。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「本当に、今日は懐かしいことばかりだ...」

 

レックス達に渡すつもりだった物を取り出し終えたコールが、背後の招かれざる客の気配に気付き、振り向く。

 

「言っとくが、同窓会をしたくて来たわけじゃねぇぜ?」

 

そう語る大男...名は、メツ。その横には...仮面の男、ヴィダールがいた。

 

「天の聖杯ならもう旅立ったよ。同じ根を持つ者よ...」

「フッ、抜け抜けと...」

「随分身体の具合が悪いみたいだな。この街には高性能な医療器具も、優秀なブレイドもいないらしい。俺の仲間とそのブレイドなら、その身体に滞ったエーテルの流れを元に戻せるだろう」

 

仮面によりくぐもった声で、ヴィダールが語る。これから取引を持ち掛けると言わんばかりに。

 

「だから力を貸せ、と?フッ、己の生に固執することなど、もうあり得んよ。わしは充分に生きた」

「いいのか?引き取った子供らが悲しむぞ」

「子供達は皆、強い子だ」

「そうか...ならば、500年前の事に囚われる俺は、弱く見えるか?」

「...」

 

取引の破綻を理解したヴィダールは、メツと共にその場を去っていった。

 

 

「取引はどうでしたか?」

「この通り、だ」

「なるほど、失敗...ですが」

 

二人は、外で待っていたヨシツネと合流する。

更なる命を、という条件を持ってしても断られたことにヨシツネは驚きを隠せなかったが...

 

「どうやら別の獲物は釣れたようです。出てきてください。彼らの話...聞いていたのでしょう?」

 

柱に向かって呼び掛ける。その陰からは...イオンが現れた。

 

「あなたたちなら、おじいちゃんを助けられる?」

「助かるよ。そう、ほんのちょっとだけ、力を貸してくれるだけでいいんだ」

 

優しい笑みを貼り付けたまま、ヨシツネはイオンに近づき、そして...

 

 

 

 

 

 

「起きてオルガ、客だよ」

「起きろレックス!」

「ぐっ!ん...?」

「ふわぁ...こんな朝からどうしたんだ?」

「じいさんが呼んでる!急ぎの用だ!」

 

コールのじーさんが...!?

かなりの一大事なのは間違いない。俺達はすぐに飛び起き、宿を出た。

 

 

 

「どうしたんだ、じいさん!」

「イオンが...いなくなった!恐らく、奴らだ!」

「奴らって?」

「お前達が帰った後、メツと...もう一人の男がわしのところに」

「メツだって!?」

 

嘘だろ...!あいつらが、じーさんのとこに!?

やっぱこのじーさん、タダ者じゃ...ってそんなことより、だ!

 

「もう一人...それ、誰?」

「名は知らん、顔全体を覆うような仮面をした男だ!」

「ヴィダール...!でも何が目的であいつら、イオンを?」

 

もう片方もイーラか...しかし、ニアも言ってるけど、なんでイオンを狙って...?

 

「...待ってニア、ホムラは?」

「ミカ...?アタシが起きたときにはいなかったけど」

「...ってことは、誰も今日ホムラに会ってない!ホムラ、もしかしてイオンのこと知ってたんじゃ?」

「あり得る話だ、あの二人ならば」

「バッカヤロウ、一人で助けにいったのか?」

「すぐ追いかけないと、何処に行ったんだろ?」

 

そうだ、追いかけたくても何処にいるのか分からないんじゃ意味がねぇ!あいつ、俺達に何にも言わねえで...!

 

「場所は...わかる...恐らくは、カラムの遺跡...」

「カラムの遺跡、だと?」

「500年前、英雄アデルが率いた抵抗軍決起の地。天の聖杯が、目覚めた場所だ...!」

「なるほどな、ホムラを目覚めた場所に誘い出して、捕まえるって訳か!」

 

レックスと出会って間もない頃、メツとも少しだけ一緒にいた。だからあいつの性格も何となくわかるが...確かにあいつなら、そういうことしそうだな! 

 

「コールさん、カラムの遺跡はどこ!」

「大階段を登った先だ!」

「...よし、聞いたな?お前らぁ!相手はメツにこの前のヴィダールだ!気ぃ引き締めて行くぞぉっ!」

 

宿の主人にコールさんを任せて、俺達はカラムの遺跡に向かって走り出した。



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第3話 戦 第9節 黄金の願い

第3話最終節になると思ったら!!!なりませんでした!!!!!更新遅い!!!!!!!


「...醜態だな。いつまでその姿でいるつもりだ」

「どんな姿でいようと関係ない。これが今の私。あの子はどこ?」

 

カラムの遺跡。皆を置いて1人ここまで来た私は、メツに問う。

 

「ヨシツネほどゲスじゃないんでな」

 

振り向いたメツが顎で差した先を見ると、確かにイオンが眠っていた。

死んではいない。ひとまずは無事でよかった。

 

「クククッ、ゲスだってさ」

「チッ、喉元に刃物でも突き立てた方が効果的だってのに...知りませんよ?」

 

声のする方を見ると、男と浮遊するブレイドが1人ずつ。恐らく男の方がヨシツネ。

 

「俺の目的はわかってるよな?」

「あの人も...あの人達も同じなの?」

「俺はアイツらのために存在している。それが答えだ」

「そう...」

 

聞きたくなかった答えに私は俯きかけたけど、すぐにメツを見据え、睨みつけてみせる。

 

「その目...気にいらねぇ」

 

反抗心を示す私を不快に思ったのか、メツは旋棍を取り出して構え、ザンテツから送られたエーテルを使って風の斬撃を放つ。

 

「ふっ!」

「...くっ!」

「ふん!はぁっ!」

「うっ、あぁっ!」

 

私は咄嗟にエーテルバリアで防いだけれど、止まらないメツの攻撃により、最後には態勢を崩されてしまう。

 

「はぁ...はぁ...うぅ...はぁ...」

「おぉやおやぁ...どっちがゲスなんだか」

「...まだその目をするか。どこからくるんだその自信は?独りでも使えるってか!あの力を!」

 

あの力...どんな存在をも凌駕する聖杯の力...でも、私は...!

 

「私は使わない!あなたにも使わせない!」

 

そう叫び私は、身体に残るエーテルを放出して私自身よりも大きな火球を作り出し、放つ。

 

「へぇ?ドライバーなしでよくやりますね」

「ふん!俺の力を忘れたか!」

 

しかしメツは、いとも容易くそれを切り裂き、平然と同じ場所に立っている。

 

「今のお前じゃ俺は倒せんぞ」

 

今の一撃で倒せないのは分かっていたけれど、こんなにも力に差があるなんて...

流石に驚き、一歩引く私。それを追い詰めんとするメツ。

そこに...

 

「ならオレがぶっ倒してやるよ!

「小僧...!」

「レックス!皆!」

 

レックスが...皆が、現れた。

大きく飛び上がって剣を振るうレックス。それを受け止めるべくバリアを張るザンテツ。

剣は弾かれ後ろへ飛び退いたレックスは、私を守るように立つ。

 

「ヴァンダムさん、イオンを頼むぜ!」

「おうっ!」

 

オルガが叫んだその先では、ヴァンダムさんが素早くイオンの下へ駆けつけ、抱えている。

 

「ほらご覧、こうなる。...ったく世話がやけますね。カムイ!殺るよ!」

「待ってたにゃー!」

 

ヨシツネもブレイドの名を呼び声をかけ、メツの横に立つ。

 

「いつまでも増え続ける鼠共め...その命、あるべき場所へ返してやろう」

 

冷たく刺すような声と共に、何処かに控えていたヴィダールも現れる。

 

「お前らぁ!こいつらの好き勝手にやらせる訳にはいかねぇ!全力でぶつかって、勝つぞぉっ!」

 

団長の声を合図に、戦闘が開始した。

 

──────────────────────

 

「俺とミカでヴィダールの奴をやる!レックスはメツ、トラはヨシツネだ!二アは皆の傷を回復させてくれ!」

「「分かった!」」「任せるも!」

 

俺の指示に従って、皆が散開する。

俺はメイスを握り締めて、俺達の敵へと向かっていく。

 

「ホムラは渡さない!『ローリングスマッシュ』!」

「お前のそれは、蛮勇ってんだよ!『スパイラルソバット』!」

 

横でレックスとメツがアーツを撃ち合う。

だが、レックスが武器なのに対しメツは蹴りであるにも関わらず、メツの方が力で押している。

 

「余所見とは舐めた真似を。『ノーブルランサー』!」

「ぐぅぅぅっ...!」

 

一瞬の隙を突いてヴィダールが地を蹴り距離を詰め、レイピアを突き刺してくる。

それはまあ見事に突き刺さったが...お陰で銃の狙いがつけやすいぜ!

 

「喰らいやがれ...ヴぅぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「!!」

 

咆哮と共に俺が放った銃弾は、ヴィダールの仮面に弾かれる。だが、この一撃は相手から受けた傷により強くなる、いわば反射技。

弾かれても、その威力、衝撃で一瞬態勢を崩すぐらいは出来る。

 

────その隙があれば、あいつが食らいつく。

悪魔とさえ呼ばれた、あいつが!

 

「やっちまえ、ミカァッ!」

 

直後、後ろで待機していたミカが、地面を蹴り、俺の横まで滑り込む。

それを確認した俺は即座にメイスを手放し、ミカがそれを握る。

そこに思いっ切りエーテルを流し込んで、ミカが一撃、二撃。往復する様に殴打。これは...!

 

「『鉄華戦闘機動・ブロウ』!」

 

やっぱりな!ミカが編み出した、必殺の一撃!

この前あいつと戦ったときは決まる前に逃げられたが...今度こそ、ぶちかましてやれぇっ!

 

「...同じ技が通用すると思うか?」

「ダメか...!」

 

だがあいつも、その攻撃の全てを寸前で避けてみせる。

 

「やっぱりこいつ...やばいな」

「...やはり、お前達は...」

「...は?何か言った?」

 

奴の仮面の奥から、冷め切った様な声が、聞こえてくる。

 

「やはりお前達は、何かを奪う為では無く...生きる為、居場所を守る為に戦っている。実に真っ直ぐで、人間らしい」

「どうしたいきなり...何が言いてえんだ?」

「この世界とは違うと言いたいんだ。この世界には、権力、威力、暴力、そして人間の欲...醜い物が渦巻いている」

 

その声は段々と、怒りを帯びていく。

 

「俺達の邪魔をすることは、そんな醜さを守るのと同じだ。そうだとしてもお前は、聖杯を守るのか?」

「何言ってやが...」

「さっきからうるさいなぁ、ゴチャゴチャと」

 

俺が問い返すより早く、ミカがメイスを振るう。

この世界に来て、色んな人と出会って、色んな物を見て...確かに、見るに耐えねぇ欲塗れの連中もいたが、それ以上に、助け合い、共に生きる人やブレイドを行く先々で見てきた。その中であいつは、きっとこの世界を...皆を、好きになってたんだろうな。俺と同じように。

だから、なのだろう。

 

「もういいよ、喋らなくて」

 

敵に投げかける声、獲物を見据える冷たい目には、怒りが満ちていた。

 

「...そうか、なら...」

 

一方ヴィダールも、その膝に風のエーテルを纏わせる。

 

「望み通り...歪んだ世界の礎となるがいい!『スターライト・ニー』!」

「とっとと消えろよ...『鉄華戦闘機動・ソーバイティング』!」

 

それに対するミカは、メイスの先端をレンチメイスへと変化させ、それを展開し、ソーの部分を回転させる。

凄まじい量のエーテルがぶつかり合い、辺りが爆風に包まれる。

そしてほぼ同時、近くでもう一つの爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人しく倒れたらどうだ、小僧!」

「イヤだね!お前らこそ、さっさと諦めろ!」

「そいつは出来ない相談だなぁっ!」

 

オレとメツの武器の打ち合い。

中々いい一撃は決まらないけど、それは向こうも同じだった。

力ではオレが負けている。でも、それなら受け流すように受ければいいんだ!

 

「チッ...なら...」

「動きが止まった!チャンス!『ダブルスピンエッジ』!」

 

メツが動きを止め、構えを取った。

何をする気かは分からないけど、今一気に攻めるしかない!

 

「効かねぇよ...『チャクラバースト』!」

「うわぁっ!?」

「まだ終わらねぇぞ?『ハンマーバッシュ』!」

「がっ...!」

 

けど、いつの間にか展開されていたエーテルバリアに剣が弾かれ、更にメツのアーツの直撃で上に打ち上げられる。

そして、オレが落下するのに合わせて旋棍での追撃を決めてくる。

抵抗もできず直撃を浴びたオレは、後ろに大きく吹っ飛ばされる。

本当に、強い、けど...!

 

「オレだって、負けられないんだ!『アンカーショット!』」

「何っ!」

 

オレはメツの攻撃で吹っ飛ばされながら、咄嗟にアンカーを放つ。

それをあいつの腕に巻き付け、すぐさま回収する。

流石にそれでメツを引き寄せることは出来ない。逆にこっちが引っ張られる。でもそれはわかってる!

 

「おぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!」

「ぐっ!?」

 

引っ張られる勢いのまま、剣を大きく降ってメツに叩きつける。

 

「このまま決めるよ!ホムラ!」

「はいっ!」

 

メツを吹っ飛ばし返したオレは、すぐにホムラに剣を渡す。

ホムラもオレの意図を察して、エーテルを解放していく。

 

「『フレイムノヴァ』!」

 

放たれた炎がメツに直撃し、爆発を引き起こす。

それと同時に、オルガ達の方ではより大きな爆発が起きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃあ!見たかお前らぁっ!」

「ホムラは渡さない!誰だろうと絶対!」

 

ミカとヴィダールの激突を制したのは...ミカだった。

完全勝利とまではいかなかったが、それでも押し返してみせたんだ。

続いてレックス達も、メツに一撃お見舞いした。

これでくたばってくれれば、後はあの声の腹立つ野郎をぶっ倒せば...!

 

「ちぃっ...やってくれるじゃねぇか...」

「どうやら、想定以上の強さの様だな」

 

...まだ、足りねぇか...!だがここで折れる訳にはいかねぇ!

 

「ミカ、メイスを...」

「...おやおやぁ、随分苦戦しているみたいですね?」

「...ヨシツネ...!?おいトラ、無事か!?どこにいる!?」

 

散開した後、トラが相手していた筈のヨシツネがメツ達の前に現れる。

 

「オルガ...気をつけるも...」

「トラ!...ボロボロじゃねぇか...!二アはどうしたんだ!?」 

 

声のする方に振り向くと、トラが傷だらけで倒れていた。見渡してみると、ニアとビャッコまでやられている。俺はすぐさま駆け寄ったが...一体何が...!?

 

「まとめてあいつにやられたも...あいつのブレイドが何かした瞬間、トラたちのブレイドが...!もっ!?」

「危ねぇ!」

「オルガッ!」

 

トラが一言ずつ、言葉を繋げるのを阻むように、雷のエーテルが放たれ、迫り来る。俺は咄嗟にトラを庇い、死ぬが...大したことはねぇ!

 

「はい、そこまでです。ネタバレは大迷惑なんですよ。...ま、こんな陳腐な物語には過ぎた演出なのですが...カムイ!次はこの辺り一帯、全部だ!」

「へいへーい♪最終章、かにゃ?」

 

カムイと呼ばれた奴のブレイドが、ヨシツネから武器を受け取り空へ舞い上がって、空中で翼を畳む。力を貯めた後、翼を展開すると同時に赤い波動の様な物を放つ。

だが...

 

「...あぁ?何ともねぇぞ?」

「こんな、こけおどし...!」

 

レックスがすぐさま突撃を仕掛ける。

俺もそれに続こうと思ったが...

 

「ダメだ、レックス...!」

「ニア!起きたか!」

「アタシのことなんていいから、早くアイツを止めろっ!返り討ちに...うっ!」

「ニア!...わかった、お前らはそこでじっとしてろよ!」

 

ニア達に声を掛けて、俺は戦いの場に戻る。

レックスは、ヨシツネを倒さんと飛びかかっていた。

 

「何だよ、何も起きてな...!?」

 

だが、その剣は、ヨシツネの、武器も持たぬ素手で、いとも簡単に受け止められてしまった。

 

「ブレイドは、空間に存在するエーテルエネルギーを武器のクリスタルへ送り込んで力を発生させている...僕達には、その流れさえも操ることができる!」

 

ヨシツネの言葉の直後、メイスから力が抜けていくのが分かった。つまり、奴らは今、本当にエーテルを操っている...!

 

「こうなってしまえば、力の差は圧倒的になる...私も先程、お嬢様に力を送れずに...!」

「ビャッコ!そうか...それでお前らはやられたのか...!」

 

いつぞやの戦いの時の、ヴァンダムさんの判断は正しかった...!けどヴァンダムさんはイオンを避難させてるし、戻ってきてくれたとしてももう、あいつの能力は乱せない...!

 

「今更気づいても遅いぜ!おらぁっ!」

「させねぇよ!」

 

メツが俺達の息の根を完全に止めようと、飛びかかってくる。

メイスでその一撃を受け止めるが...明らかに押されてる。押し返せない。

 

「お前ら!何でホムラを欲しがるんだ!」

「愚問ですね、天の聖杯の力が欲しいからですよ!」

 

一方でレックスの方はと言えば...押し返されるも、負けずに立ち向かおうとしている。だが、呆気なくヨシツネの双剣に武器を弾かれ、追い詰められる。

 

「悪く思うな。俺達はこの道を進むと決めた」

「ヴィダール...!お前ら、天の聖杯の力で何をしようってんだ!」

「シンの望み...そして、俺達の望みを叶える。全ての人間の...抹殺だ」

「何だと...!?」

 

全ての人間の抹殺...並大抵の覚悟で掲げるような目標じゃない。こいつらに、一体、何があったってんだ...!

 



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第3話 戦 第10節 総てを灼く光

久しぶりの更新 なんか文字数いつもより多い!!


「はぁっ!」

「ニア!?くそ、じっとしてろって言っただろ!」

 

少しずつ追い詰められていく俺達。ブレイドからのエネルギーの供給が断たれた今、武器に残っている分が切れれば俺達は終わりだ。

そんな状況で、レックスとヨシツネの間に二アが飛び込んできた。今の状況じゃ、満足に回復のアーツも使えねぇだろ...!?

 

「じっとしてられるかよ!本当にシンが言ったの?人間は全て抹殺するって...!」

「今さらだね!わかっていたはずだ、君には!人間の本当の姿が!」

 

ツインリングと双剣の応酬になったが、ニアの方が圧倒的に不利だ。次第に押されていく。

 

「あ...」

「バカ野郎!止まるな!」

 

トドメを刺そうとするヨシツネ。俺達が守りにいくより早く、聞き覚えのある声がする。

 

「ヴァンダムさん!スザク!」

 

ヴァンダムさんが戻ってきた。ニアを引っ張り攻撃の当たらない場所へ移動させ、すかさずスザクがヨシツネの前に立って臨戦態勢を取る。

 

「見ただろう?王都を。スペルビアに攻め入るための船、武器、兵士...他を踏み台にしてでも生きようと精一杯な連中を。実に滑稽な姿じゃないか。今じゃ世界のどこにも、あんなものがうじゃうじゃある」

「今だけじゃねぇぜ。500年前からちっとも変わってねぇ」

 

ヨシツネはそのままスザクと戦い、一方メツはレックスに狙いを変えて攻撃する。

 

「そりゃあ(おやじ)も見放すさぁ!」

 

レックスも無抵抗ではやられず、今度はメツを押し返す。だが、息はもう上がってきている。

 

「いいえ、変わってないのはあなた。(とうさま)は人間の抹殺なんて望んでない」

「なら俺達はなぜ存在する?おかしいだろ?俺達は“こいつらを消し去るためにこの世界に降誕”したんだからなぁ...はぁっ!」

 

次の瞬間、メツが力を解放する。紫と、黒の...今までのあいつの攻撃とは、明らかに違う。

 

「この力...あいつ自身から出てる」

「やっぱりか!?あいつ、何者なんだよ...!」

 

ミカも、異変に気づいている。俺の直感は正しいみたいだ。

 

「メンドクセェから終わりにするぞ!ヨシツネ、ヴィダール!」

「同感です!」

「あぁ」

 

真っ直ぐにレックスとホムラへと攻撃を仕掛けるメツ。ホムラがエーテルバリアを作り出すも、呆気なく破壊され、2人は吹き飛ばされる。

直後、ハナがトラを持って飛んでくる。

トラがドリルを展開したハナシールドを持ち、ハナがそれを運んでぶつけるという戦い方。恐らくトラが傷のせいで動きが鈍ってると判断したんだろう。しかし。

 

「させねぇぜ」

「「うわぁぁっ!」」

 

ザンテツがそれを容易く弾く。そのまま追撃を浴びて吹き飛ばされ、壁に激突する。

 

「トラ!ハナァッ!ちっ、これ以上させるかぁぁっ!」

「無駄だ」

「ぐっ...ヴゥァァァァァァッ!!」

「オルガッ!」

 

俺はメイスを持ってメツに向かっていくが、ヴィダールが間に現れ、俺の攻撃をレイピアで受け止める。

こうしている間にも、どんどんエネルギーは減っていく。やはり押し返せず、俺はヴィダールの蹴りを浴びてぶっ飛ばされた。

 

「いい加減しつこいよ、君も」

「ぐぉぉっ!」

「ビャッコ!」

 

ヴァンダムの相手をカムイに任せたヨシツネが、ニアを追い詰め、剣を振るうが、ビャッコが飛び込み、二アを庇う。

 

「貴様ぁっ!」

「遅い」

「はっ...うわぁっ!」

 

怒りを露わにしたニアだったが、俺を吹っ飛ばして手の空いたヴィダールの蹴りを食らい、倒れてしまう。

 

「ニア!トラ!オルガ!...くっそぉっ!」

「やめろレックス!今は無理じゃ!」

 

じーさんの制止も聞かず走り出すレックスも、もう殆どエネルギーが剣に残っていないのか、簡単にザンテツに弾かれる。

 

「レックス!」

「これ以上、皆はやらせな...!?」

 

ホムラとミカが、同時に動くも...メツの攻撃が、防ぐ間もなく入ってしまう。

 

「ふん。この小僧は兎も角...女を殴るのはいい気はしねぇな」

「切り刻んでおいてよく言うよ」

 

まずい、ホムラがやられた...あいつの目的は、ホムラの力...!

 

「渡さねえぞぉっ!」

「ヴァンダムさん...!スザク...!」

 

賺さずスザクが上空から無数の弾丸で攻撃する。良かった、けどこのまま続ければ結局...!

 

「くっ、領域外からの攻撃か」

「チッ、あの大男!」

「面倒だな...だが、そんな位置からの豆鉄砲、いくら撃とうが当たることはない」

 

どうやら今ヴァンダムさん達がいる場所はヨシツネの力の範囲外のようだ。それは安心だが...それだけ距離が離れてるせいで威力も相当弱まってる。結局状況はひっくり返らねぇ!

 

「そんなこたぁ...百も承知だぁぁぁぁっ!」

「ヴァンダムさん...何やって...!?」

 

スザクからツインサイスを受け取ったヴァンダムさんは、力強く叫んだ後、そのツインサイスを...自らの身体に突き刺した。

 

「貴様...まさか...!」

「武器に残ったエネルギーを直接体内に送り込むために...無茶苦茶な男だ」

「へっ...こうすりゃエーテルの流れなんかは関係ねぇってわけだ!どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

武器を身体に刺したヴァンダムさんは、ブレイドの如くエーテルを放つ。くそぉっ...!ヴァンダムさんはあんなことしてまで戦ってくれてんのに、俺が地面に転がってる場合かよ...!

レックスの方を見ると、あいつも立ち上がろうとしてる。あいつも気持ちは俺と同じ筈...!

 

「ヴァンダムさん!俺達も...!」

「逃げろ!ホムラを連れてさっさと逃げやがれ!」

「はぁっ!?何言ってんですかヴァンダムさん!」

「そんな...そんなこと、出来るわけないだろ!」

 

「オルガぁっ!お前は団長やってる男なんだろ!皆と一緒に行きてぇ場所があるんだろ!?時には逃げることも忘れんな!レックス!お前だって...死なないんだろ!?死ねないんだろ!?だったらこんなところで止まるんじゃねぇ!」

 

2対3の戦いを続けながら、ヴァンダムさんは叫ぶ。

確かにその通りかもしれねぇけど...だからって...!

 

「生きて、生き延びて!楽園にいくんだぁぁぁっ!」

「...っ!!」

 

かつて、仲間を庇って初めての死を迎え、仲間たちに止まるなと命じたことが頭によぎる。

きっとヴァンダムさんもこのままやれば負けて死ぬのは分かってる。

ここから逃げて前に進めって俺達に言ってるんだ。

言われた方は、こんなにも苦しいのか?

けど、ここにいたって全員死ぬのは変わりない。

だったら...!?

 

「いかせねーよ」

「ぐぅっ!」

 

そうこうしてる間にも、ヴァンダムさんは追い詰められていく。限界を迎えようとしてる!

そしてメツが、旋棍を振るい...

 

「いいかぁレックス、オルガ...!お前の戦を、戦え──!」

 

その言葉を最期に、ヴァンダムさんはメツの攻撃を受け、地に伏した。そしてスザクも、コアクリスタルに戻る。それはドライバーの死を意味する。永遠に、目覚めることはない...。

 

「ヴァンダムさぁぁぁぁぁぁんっ!」

 

レックスが悲しみと怒りを込めて叫ぶ。ふらついた動きで剣を構えながら突進する。だがそれじゃ意味が...!

 

「待てレックス!下がれぇっ!」

「よくもヴァンダムさんを!ヴァンダムさんをぉっ!」

 

俺の言葉はレックスには届いてなかった。

俺だってそうしてぇよ...!仇を討ちにいきてぇよ!でもそれじゃぁ俺達が守ってもらった意味がねぇだろ...!

 

「鬱陶しいぞ小僧!」

「ぐぁぁっ!」

 

当然、そんな攻撃が届くわけがない。メツの回し蹴りで呆気なく吹っ飛ばされる。

 

「くそぉっ...こんなところで...!こんなところでぇっ...!」

「消し飛べ」

 

メツがレックスにトドメを刺そうとした瞬間。俺の目の前で、二つ目の命が奪われようとした瞬間。同じ夢を見た団員を失いそうになったその瞬間...。

 

「レックス───!」

 

ホムラの声と共に、凄まじい光が放たれ、辺りを包んだ。

その光が消えたとき、ホムラは──────

 

 

 

 

──────姿を変えていた。

 

「ホムラ?これは...」

「何が起きてんだ...?」

 

赤い短髪の少女とも言うべき姿のホムラはいなくなり、そこには金色の長髪の、大人びた姿があった。

変化はそれだけでは止まらず、レックスが持つ剣も形を変えていく。

 

「...そ、そんなものになったからって、何だってんだーっ!」

「...待て!止まれヨシツネ!」

 

ヨシツネが双剣を構えて突撃してくる。だがそれを、ヴィダールが止めようとする。

ヨシツネは聞く耳も持たない様子だが、わざわざ止める程の何かがあるのか...?

 

「...」

「馬鹿野郎、上だっ!」

「なっ!?」

 

ヨシツネの方を向いたホムラ(?)の額の水晶が、突然輝き出す。

それを見たメツが上を見上げながら叫ぶ。そして、次の瞬間...

 

 

モビルアーマーのビーム兵器にも似た光線が、天から降り注いだ。

 

「がぁぁっ!?」

「ヨシツネ!」

 

しかも、一発じゃない。

何発も何発も、続けて発射され、地を灼き払っていく。

 

「...やっとお目覚めか!ヒカリィッ!」

「ヒカリ、だって?ホムラ、その姿は...」

「私はホムラじゃない」

「はぁ?お前何言って...」

「私はヒカリ。ホムラは私が作り出したもう一つの人格」

 

ヒカリ?もう一つの人格?本当に何言ってんだよ...!?さっぱりわかんねぇ...!

 

「人格って...」

「よそ見しない!」

「あ、あぁっ!」

「集中して!君が集中してくれないと私から力を渡せない」

 

力を渡す...そういや、ヨシツネの力はまだ消えてない筈なのに、今のレックスはメツとも打ち合えている。こいつは一体...?

 

「馬鹿なぁっ!僕の力がまるで役に立たない!どこからあれだけの力を...!」

「だから止まれと言ったんだ...あいつの力の源はエーテルではない」

「エーテルじゃ、ないっ!?」

「その姿...いいぜヒカリ、高鳴ってきたぁ!」

 

メツが武器を構え、突っ込んでくる。一直線ではなく、攪乱するように右に左に曲がりながら。

ヴィダールもそれに合わせ、メツとは反対に位置取りながら向かってくる。

 

「まずいぞレックス、あれを防ぐのは...」

「オルガは黙ってて。レックス、いくわよ」

「なっ...」

 

ヒカリ、こいつ結構言葉がきついぞ...?ってか何をやる気で...

そう考える俺を余所に、ヒカリは再び力を放出した。

 

 

─────────────────

 

「これは...」

 

メツとヴィダールの動きが、急に遅くなった。

それどころか、動きの軌跡が見えるようになった。

何をしたんだ、ホムラ...じゃなくてヒカリ。

 

「因果律予測」

「いんがりつ?」

「未来に起こる出来事を視覚化してるの。彼らの動きの軌跡、その先を読んで...反撃して」

「わかった!」

 

難しいことはよくわかんないけど、つまり...敵の未来の動きが分かるってことか!

どう来るかさえ分かれば、こっちの物!

 

 

「ここだぁっ!」

 

メツとヴィダールの交差する連携攻撃の、メツの一撃目を交わし、続けて向かってくるヴィダールに剣をぶつけて押し返す。

 

「...今のを防ぐか...!」

「気を逸らすな!続けてくるぞ!」

 

メツの言葉通り、ヒカリは再び光線による攻撃を始めた。

但し次は範囲と数を重視した、不可避の物量攻撃。

防御の姿勢を取るのが遅れたヨシツネに対し、オレは畳み掛けた。

 

「な、何なんだ!こいつらの連携は...これじゃあ対処のしようがないっ!」

「コレが、天の聖杯の本当の力だ!懐かしいぜ...待ってたんだよ、この時をずっと!」

 

メツが、まるで昔のライバルにでも出逢ったかのような笑みを浮かべ、叫ぶ。

 

「なぁ、ヒカリィィィィッ!!」

 

 

 

 

「ヨシツネー!あんなのが出てくるなんて、カムイは聞いてないよーっ!」

「全くですよ!僕の力が通じないなんて...!」

 

ヨシツネがいる限りは他の皆は動けないまま...まずはヨシツネを何とかしなきゃいけない!

 

「『ダブルスピンエッジ』!」

「ぐっ...この脇役がぁっ!」

 

よし、ヒカリの力のお陰でこっちが押してる!

このまま行けば、勝て...

 

「させるものか」

「っ!!」

 

すぐさまヴィダールが飛んできて、蹴りを入れようとしてくる。

ヒカリがエーテルバリアを作りだして防いでくれたから何とかなったけど、危なかった...強くなったからって油断するなってことだな!

 

「俺が相手になるぜ、小僧!」

「メツ...!お前に構ってる暇はない!」

「ツレねぇこと言うなよ...500年待った分、目一杯楽しませてもらうぜ!」

「くっそぉ...!」

 

今のこの力なら、メツが相手でも互角以上に戦える。けど、相手は3人。対してこっちはヒカリ以外のブレイドは戦えない...オレがメツで手一杯な隙に狙われたらまずい!どうすれば...あれ、そういえば...

 

────────────────

「オルガのその銃で撃つやつ、凄い威力だよな!前から思ってたんだけど、あれもアーツなのか?」

「アーツ...まあここじゃそういうことになってんのかもな。異世界を渡り初めてから手に入れた力なんだが、受けた攻撃の威力を銃弾に込めて撃ち出すんだ。受けた傷が深いほど威力も上がるぜ」

「へぇ...攻撃はどんなものでもいいの?」

「あぁ。基本的に俺は死んでも死ねねぇからな。因みに狙いも外したことは...殆ど無いぜ」

────────────────

 

...いやこの方法はいくら何でもオルガに悪い!じゃあどうすれば...

 

「レックス!」

「え、オルガ?」

「さっきからこっち見やがって、分かってんだよ!何か作戦があるならやってみやがれってんだ!合わせてやるからなぁ!」

 

どうやらバレバレみたいだ...だったら、やってやる!

 

「ヒカリ!オルガにさっきの攻撃、出来る!?」

「可能だけど...正気!?」

「正気だ!オルガも行ける?」

「...なるほど、お前の作戦分かったぜ!来やがれヒカリ!」

「はぁ...無事は保障できないわよ!?」

 

ヒカリはオレの指示通り、空から光を降らせる。

それはオルガに直撃し、その余波で地を割った。しかし...

 

 

「...へっ、いい攻撃だヒカリ!」

 

オルガはそれでも、立っていた。

その手に持った銃は、さっき降り注いだそれと同じ輝きを纏っていた。

 

「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇっ!!『カウンターアタック』!」

 

雄叫びと共に放たれた銃弾は、メツ達の合間を縫う様に進み、そして...

...ヨシツネのブレイド、カムイのコアクリスタルに直撃した。

 

「何だよ、結構当たんじゃねぇか...」

「よーし!作戦成功!」

 

コアクリスタルが壊された時、ブレイドは消える。

そしてカムイが消えるということは...その力の影響も、無くなる!

 

「力が...送れる」

「アーツも使える...!こっから反撃だーっ!」

 

アーツが再び使えるようになったことで、二アが皆の傷を回復させ、戦いに復帰する。

一気に状況が、こっちに傾いた!

 

「あ、あれ...?」

「なっ...カムイ?」

「ヨ、ヨシツネ...」

「カムイ...カムイィィィーッ!!」

「チッ...こいつは不味いな」

 

ヨシツネの慟哭が聞こえた。

きっとあいつも、ドライバーとしてブレイドとの絆があったんだろう。

...でもあいつは世界中の人を殺そうとするようなヤツだ。悪いけど...倒すしかない!

 

─────────────────

 

「今までのお返しはたっぷりするぜ!『レイジオブダスト』ォッ!」

 

俺は力の漲ったメイスを握り、まずメツに向かっていく。

その一撃に合わせて向こうもエーテルバリアを張ってくるが、賺さずミカにメイスを投げ渡し、入れ替わる。

今まで何も出来なかった鬱憤と怒りを晴らすかの如きミカの連撃は、バリアを容易く打ち砕く。

そして、一瞬よろけたその身体に、ミカから返してもらったそのメイスを叩きつける。

 

「ぐあぁぁぁっ...!」

 

メツは後ろに控えていたザンテツごと吹き飛ばされ、瓦礫に激突する。

 

「好き勝手してくれる...!」

「ヴィダール!」

 

ヴィダールが飛び上がって蹴りの構えを取る。

...が、それを喰らうことはなかった。

 

「好き勝手やってるのはどっちだも!」

「させませんも」

 

トラとハナが、攻撃を防いでいた。

その目にはやはり、怒りが宿っていた。

 

「ハナ、決めるも!」

「りょーかいですも、ご主人!...『ハナドリル』!」

 

トラから武器を受け取ったハナは、ドリルを展開しヴィダールに突撃。蹴りを弾かれた直後で回避も取れない状態の奴に、強烈な一撃が炸裂した。

 

「敵は2人とも倒れて動けない...ここで決めるわよ、レックス」

「...あぁ、分かった!」

 

ヒカリとレックスが横に並び立って、1つの剣を共に掲げ、力を高めていく。

 

「「『セイクリッドアロー』!!」」

 

天から、無数の光線が降り注ぐ。

最早ブレイドの力によるバリアなんて意味をなさない。

全てを砕いて、灼き尽くす無茶苦茶な攻撃。

そして遂には...ザンテツのコアクリスタルを、破壊した。

 

「チッ...退くぞ!」

「あぁ」

 

メツが地面を殴り、ヴィダールが地面を踏みしめて、それぞれのエーテルを放って土煙を巻き起こす。

それが消えたときには...もう、逃げられていた。

 

「ヴァンダム、さん...」

 

敵の逃走。即ち、俺達の勝ちだった。

だが素直に喜べる程図太い奴なんて、この場には存在しなかった。

 

「うぅぅ...うわぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!ううっ...あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっっ!!」

 

夜が明け、晴れた空の下、レックスの慟哭が、辺りに虚しく響いていた。

 

 

 

            第

 

            三

 

            話

 

          

 

 

 

            戦



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第4話 天の聖杯
第4話 天の聖杯 第1節 「炎と光」


よーし比較的早い更新!()


かつて、アルストに存在した1つの王国。

平穏だった筈のその国は、ある日二色の光線により悉く破壊された。

閃光に飲み込まれていく国を避難して見守る国民達、その頭上には...

...ヒカリが、居た。

 

 

────────────────────

 

「魂は死せず。また、彷徨うこともなく受け継がれるのみ。幸いなるかな、命の結束。世は全て輪環のことわりの中に」

 

ここは、ヴァンダムの墓の前。

ビャッコが弔辞を述べ終えて墓の前を退くと、次はイオンが前に出て花束を添える。

 

「ごめんなさい、ヴァンダムさん...あたしが、あんな奴らの話を聞いたばっかりに...ごめんなさい...!」

「...君が悪いんじゃない。いずれあいつらはオレ達の前に現れたと思う。オレ達皆、ヴァンダムさんに命を救われたんだ。今は、ありがとうって、送ってあげよう」

 

泣き崩れるイオンに、レックスが言葉をかける。

そして、立ち上がって墓と向かい合い、口を開く。

 

「ヴァンダムさん...オレ戦うよ。オレの戦を、ホムラと一緒に」

「...俺も行くぜ、ヴァンダムさん。もう二度と、俺の前で誰かを死なせたりしねぇから...俺自身の戦を戦い抜いてみせるから...安心して、眠ってくれ」

 

レックスに続いて、俺もヴァンダムさんへの挨拶を告げた。

次に来る時は...胸張って、戦い抜いたぞ、辿りついたぞって語れる様に...やってやる。団員を守んのは...俺の仕事だ。

 

「ホムラ...」

 

後ろからやってきたのは、ホムラ。

ホムラは墓の前に立って、守ってくれたことを感謝し、死なせる結果になってしまったことを謝るかの様に、一度、礼をした。

 

「もう、いいの?」

「えぇ...」

「そうか...一生起きないんじゃないかって心配してたんだ。...ところでホムラ、昨日のことなんだけど」

 

レックスが話を切り出した。まあ、あんなもんを見せられたからには、聞いておかねぇといけねぇよな。

 

「ヒカリって言ったっけ?何で急にあんな風になったの...?」

「え?そ、それは...」

「アタシも知りたい。あの力、普通じゃなかったよ。アレが天の聖杯の本当の力?」

「俺からも頼むぜ。話し辛いことなのかもしれねぇが、仲間のことはちゃんと知っておきてぇ。あの時何が起きたのか...教えてくれ」

「ええと...あれは...つまり...」

 

ホムラが答えに困っていると、その胸元のクリスタルが光り出した。

その光はホムラの全身を覆い、そして...

 

光が消えると、姿が変わっていた。

 

「ホ、ホムラ...」

「...どうして?どうして私を起こしたの?」

 

ヒカリ、と名乗っていたその少女は、不機嫌そうな、怒りを隠せないような表情でレックスに歩み寄り、問い詰める。

 

「起きたくなかったのに...出てきたくなかったのに!この力を使いたくなかったからあの子に代わってもらっていたのに...何で起こしたの!?」

「お、起こすって...」

「君が、もっとしっかりしてれば!起きずに済んだの!この力を使わずに済んだの!ヴァンダムって人に言われてたんでしょ?力を効率よく使えって、今は逃げろって!」

 

ヒカリは凄まじい勢いでまくし立てる。暫く止まりそうもない。

にしても...起きたくなかったってのは妙だな。巨神獣(アルス)を沈めたって話と関係あるのか?

 

「無理して無茶して、でコレって!もうサイアクじゃない!」

「わ...」

「何であの時─」

「わかってるよそんなこと!わかってたよ...あのままじゃだめだって」

「レックス...」

「あいつらに君を渡したくなかった...君を守りたかったんだ!」

「え...やだ...と、とにかく!疑問があったらあの子に聞いて!以上!あとよろしく」

 

お、なんだ?急に話切り上げたぞ?

こりゃもしかして...いや、突っ込んだら俺もあいつらのブレイドと同じ末路を辿りそうだし...やめておくか。

 

「あ...ずるい...」

 

一方そのヒカリはというと、また光に包まれて、ホムラの姿に変わっていた。

 

「ごめんなさい。皆さん、お騒がせしました」

 

続けて見るとあれだな、ほんっとに全然違う性格じゃねぇか...

 

 

 

───────────────────

 

「私とメツは天の聖杯。この世界を消し去ることができる程の力を与えられて生まれたブレイドでした...」

「...は?待て待て...ホムラはともかく、メツもなのか!?」

 

フォンス・マイムの、劇場の中。

公演していない時間を借りて、俺達はホムラの話を聞いていた。

そこでとんでもない事実を知ることになった訳だが。

 

「はい。...一人の男が神に会うために、世界樹を登って、楽園を目指しました。でも、楽園へと辿り着いた男は、神には会えませんでした。男は、神の御座に辿り着いた証しとして、コアクリスタルだった私とメツを持ち帰りました。そして...アルストに戻った男は、メツを目覚めさせたんです。何のために目覚めさせたのかはわからない。欲のためか、力のためか。それとも...」

 

まじかよ...あんな馬鹿でかい木を登った奴がいるのも驚きだが、まさかメツにもドライバーがいやがったなんてな。だがホムラは500年前には既に目覚めてた...そんでホムラとメツは同じ人が持ち帰ったって話だから、流石にそのドライバーはもう死んでるか。

 

「目覚めたメツは、天の聖杯として与えられた力を、世界を消し去る力を振るいました。何の疑いもなく、純粋に、それが当然のこととして。私はそんなメツを倒すため、一人のドライバーの求めに応じて目覚めました。...私とメツは戦った。激戦の末、私はメツを倒すことができたけれど、その戦いで3つの巨神獣(アルス)が沈んでしまった」

 

メレフの話は本当だったって事か...にしても、どんだけ壮大な戦いをしたらあんなでっかいもんを3つも沈めれるんだよ?もしかしたらメツも...まだまだ全然本気じゃないのかもな。

 

「戦いの後、私はこの力が二度と目覚めることがないよう封印し、この姿、この人格となって眠りにつきました。...500年前の出来事です」

「聖杯大戦じゃ。ヒカリを目覚めさせたのは、古王国イーラの英雄アデル。アデルは世界を守るため、ヒカリのドライバーとして戦った。ワシら巨神獣(アルス)もその戦いに加わった。人と共に生きる...それがワシら巨神獣(アルス)の運命じゃからの」

「じっちゃん...」

「じーさん、あんた結構凄い奴なんだな」

「お世辞は後で聞いてやるわい。...アデルは眠りについたホムラを一隻の船に隠し、誰の手も届かぬ雲海の底深くに沈めたんじゃ」

「その船を、オレが見つけたのか...そしてオレとホムラは...」

 

そう考えてみると、バーンとかいうあの会長が大金使ってレックスに依頼してきたのも納得だな。古代の英雄の沈めた船なんて宝船もいいとこだ。

 

「私達の出会いは...運命だったと思います。でなければ、ヒカリちゃんは目覚めなかった。あの場所...夢の中の楽園で、私とヒカリちゃんはいつも話をしていました。いつか、私達が目覚める時がきたら、その時は楽園に還ろうって。還って、私達の本当の目的を果たそうって」

「本当の目的...もっかいメツを倒すってことか?」

 

俺が聞くと、ホムラは静かに頷いた。

 

 

 

────────────────────

「ねぇ、オルガ」

「んぁ?どうしたよミカ」

「あの時はごめん。もっと早く敵を倒すべきだった」

「...お前が気にすることじゃねぇよ」

 

その日の昼頃。俺達はフォンス・マイムの宿の自室にて、各自休憩を取っていた。

俺とミカは同じ部屋だったんだが、そこでミカが話しかけてきた。

 

「誰か一人のせいで仲間が死んだなんて、そいつを馬鹿にしてる。...前、お前が似たようなこと言ってなかったか?」

「...そうだったかも」

「だろ?ヴァンダムさんが殺されちまったのは辛ぇし、あいつらは許せねぇ。でも...いや、だからこそ、後悔なんざしてる暇はねぇ。前向いて突っ走るぞ、ミカ」

「...うん。行こう、皆で」

 

仲間が死ぬのは、そりゃ勿論出来るだけ避けてぇ。

けど、いざ実際にそうなった時、いつまでも止まってるつもりもねぇ。

だから、止まらずに進み続ける。

今までも...これからも。

 

「...あ、そろそろ出発の時間だよ」

「ん?おぉ...みたいだな。んじゃあ、行くとするか」

 

この先何が待ち受けてるかなんて誰にもわからねぇ。

けど、こいつと...皆となら、必ずやれる。

だから俺は...迷わねえ。

─────────────────────

 

「...なんだ、これ?」

「それを持ってアーケディアへ行け。その短剣の持ち主が、楽園への道を開いてくれるだろう」

 

俺達は出発前、コールのじーさんから短剣を受け取った。

青と紫が入り混じったような色で輝くクリスタルが印象的だが...こいつは...

 

「この剣...ブレイドの武器か?持ち主ってのは誰だ?」

「わしのドライバーだった男だ」

「ドライバーって?え?まさか?」

 

コールのじーさんは驚く俺らの反応を見透かしていたかのように、服の胸元を開く。

するとそこには...武器と同じクリスタルが埋め込まれていた。

 

「コールはブレイドじゃ。聖杯大戦を共に戦った...な。本当の名をミノチという」

「ブレイドなのにおじーさんみたいだも。何でも?」

「忌避の者、マンイーターだからな。わしは」

「マンイーター?」

「人の細胞と融合を果たしたブレイドのことだ。聖杯大戦よりずっと以前、人とブレイドの更なる可能性を模索した者達がいた。わしはそんな者達の手によって創り出された、ブレイドのなれの果てだ」

 

おいおい、まじかよ...人の細胞を得たブレイドなんてもんもいやがるのか...

 

「昔の人はどうしてそんなことをしたも?」

「人間と融合したブレイドは、より特異な能力を身につける可能性があったからだと聞く。だが成功例は僅か、ほとんどが失敗したようだ。わしもその一人...わしはその代償として、無限の寿命を失った。もうあまり長くはないだろう」

「おじいちゃん...」

 

なるほどな、融合に成功すればもっととんでもねぇ能力が目覚めるかもしれないが、失敗すれば人間と同じように寿命で死んじまう様になる、と。...いやそれでも500年も生きてるんだから、やっぱすげぇよブレイドは。

 

「それが潰える前に、お前の行く末を見てみたい。その短剣は道標だ。歩いて、くれるか?」

「...あぁ、当然だ!折角道が開けたんだ、歩くなんて言わず、突っ走ってやるよ!」

「だよね、オルガ!...あぁそうだ、コールさん。オレからも一つお願いがあるんだけど」

「何だ?」

「今度はさ...ヴァンダムさんの物語、書いてくれないかな」

「ヴァンダムの?」

 

レックス、何を言い出すかと思ったが...そうきたか!

あの人は皆の為に目一杯出来ることをしてたんだ、ならそれを語り継いでいくってのは...いいんじゃねぇの?

 

「そして、劇団の人達に演じて欲しいんだ。楽園を見つけたら報告に戻るからさ、その時に見せてよ!」

「...そうだな。それがわしの責務かもしれんな。いいだろう、約束しよう。その代わり...必ず、戻ってこいよ?」

「わかった!約束するよ!」

 

約束...か。

なら、全力で果たさねぇとな。

俺は渡された短剣をしまって、決意を新たに、団員達と共に再び進み出した。

 

──────────────────────

「そうか...惜しい男を失っちまったもんだな」

「はい...」

 

俺達は、アーケディアに向かう前に、フレースヴェルグまで戻ってきていた。

名瀬の兄貴に、一連の出来事の報告と挨拶をしておくために。

 

「...兎に角、報告ご苦労だぜオルガ。この傭兵団の事は俺に任せといてくれ。...それと、こいつを持っておけ」

「...これは?」

「通信機、だ。お前らはこの先も進んでいくんだろ?何かあったら俺を呼べ。やれるだけのことはやってやるよ」

「感謝します、兄貴...では、出発します」

「おう。お前の進む先...楽しみにしてるぜ。オルガ」

 

兄貴から通信機を受け取って、俺達は村を出た。

...「行く末を見てみたい」、「楽しみにしてる」...

託された想い、裏切るわけにはいかねぇな。

さーて、気い引き締めて行くぞぉっ!




というわけで 原作ではレックスに託されていた傭兵団ですがこちらでは名瀬さんが引き受けることに
とはいえ通信機があるので原作で傭兵団が必要になった箇所ではきっと動いてくれるはず()


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第4話 天の聖杯 第2節 「スペルビアへ」

課題が!思ったより!!多すぎました!!!!!


「商会に戻ってから、スペルビアを経由して、法王庁が最短ルートだなぁ」

「港に商会の船が来ているかもしれんの」

「なら、タダで乗れそうだね。行ってみよう」

 

村を出て、俺達はルート確認をしていた。...というより、してもらっていた。この手の事はどうしてもレックスの方が遥かに詳しいからな。...ん?ちょっと待て。

 

「お金いらねぇのか?」

「サルベージャーならタダで乗れるんだ。皆のことも交渉してみるよ」

 

ありがてえ話だ。懐に余裕があるって訳でもってない以上、節約できるとこはとことんしねぇと。

そしてレックスの言葉通り、フォンスマイムからアヴァリティア行きの商会の船は確かにタダで乗ることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、レックスも!」

「あのでかい人も一緒も!」

「生きてたのかも!」

「何かいっぱい、オトモ連れてるも!」

 

ん?あれは...あぁ、いつぞやの仕事の時、一緒に来てたノポン族じゃねぇか。俺らが戦ってる間に逃げ切れたんだな!

 

「はいはい、話は後でなー...さて、と。オレは帝国行きの船の手配してくるから、皆は先に宿に行っててよ」

「俺も行くぜ。この世界のことも色々知っとかねぇといけねぇしな。...ミカ、もしもの時は皆を頼むぜ」

「うん、また後で」

 

団員たちを見送って、俺とレックスは船の手配に向かった。

 

 

 

「スペルビア帝国行きの船は4階のゴルドムント飛行甲板から出てるんだよな、確か受付があって、そこで船の手配ができたはず...」

「じゃあ、上まで登ればいいんだな?何だよ、簡単じゃねぇか...」

「あっちょっと、ストップオルガ!」

「俺は止まんねぇからよ...!お前も止まるんじゃねぇぞ...!」

「今は止まってくれ!頼むよー!」

 

楽園への道が見えたってんだ。こんなもん急ぐしかねぇだろ!大丈夫、あんなことミカには言ったが敵なんて出てくるとも思えねぇし...!

 

 

 

 

 

...数十秒後、俺はレックスの言葉の意味を完璧に理解した。

そう。ずばり。

 

「あれ、ここさっきも通ったか...?」

 

迷子だ。

そこから更に数分、俺はレックスに無事発見され、今度はちゃんとついていって、目的地までたどり着けたのだった...。

 

 

 

「スペルビア帝国行きの船に乗りたいんだけど...えーっと...8人...いや、人...?まあとにかくそれぐらい」

「もももっ!?久々の団体さまも...団体さまの場合はお得なサービスがありますも。全員まとめて4000Gで乗り放題ですも」

「オレは見ての通りサルベージャーだから、タダで乗せてもらえるよね?」

「そうでしたも。こういう場合は値引きして、3000Gになりますも」

 

俺達は船の手配を進めていた。この「ムルムル」っていうノポンがその受付らしい。

...ん?待て。さっきの船は全員タダで乗れて...

黙っちゃいられねぇ。ここはビシッと言ってやる!

 

「おいちょっと待て。フォンスマイムからここまで来るときに使った船は連れもタダだったぞ?」

「ももっ、見ない顔も...じゃあ聞くけども、全員で何人乗るんでしたも?」

「あ?8人...人かどうか微妙なのもいるが、まあそんなとこだな」

「そのうちサルベージャーは何人ですも?」

「俺とミカも一回だけ参加したことはあるが...ちゃんとそういう仕事になってんのはレックスだけだな」

「じゃあ3000Gは払って欲しいですも。タダで団体さまを運ぶ程ムルムルの懐は潤ってないですも」

 

こいつっ...確かにこれだけいてサルベージャー1人でタダにしてもらうのも変な話ではあるけどよ、インヴィディアん時はな...!

 

「ぐぐっ...おいレックス...」

「流石、アヴァリティア商会のノポンだよ...仕方ない、流石にそれぐらいのお金は持ってるし、払って宿に戻ろう」

「...そういうもんなのか...分かったよ。ほら、持ってけ」

「まいどありですも!乗りたくなったら声をかけて欲しいですも。団体さんに合わせて出発してあげますも」

 

スペルビア行きの乗船券を受け取り、俺達は皆の待つ宿へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってな訳で、出航は明日する事にした。世界樹を目指す旅である以上、いつ何が起きるかわからねぇ。お前ら!気ぃ引き締めて準備しろ!」

「承知いたしました」

「りょーかいですも」

 

オルガが戻ってきて、経緯を聞かせてくれた。そして、明日までに各自準備ということになった。

...まあ、ブレイドの俺は準備することも特にない気がするけど。

 

「ねぇねぇ、ミカ」

「ニア?どうかした?」

「オルガって、そのー...前居た世界でもあんな感じだったの?」

 

近くの席に座っていた二アが聞いてくる。

 

「んー、まあ。いつも皆の先頭に立って、引っ張ってくれる。そこは同じだ...けど色々、変わった気がする」

「変わった?そうなのか?」

「うん。おかしなこと言う回数もだいぶ増えたし、変な事するのも多くなった」

「...悪化してない?それ」

「確かに。けど多分...オルガ、なんだかんだで楽しいんだと思う」

「楽しいって?」

「異世界巡りのこの旅が。昔は、ただ明日生き延びる為に戦う、誰がいつ死んでもおかしくない...みたいな感じだったし。そんな状態じゃなくなって、気が楽になったのかも」

 

まあ、度が過ぎる時は銃撃ってでも止めるんだけどさ。今のオルガは死なないし。

 

「なるほどね...それでもアタシには、随分気を張ってるように見えるけど」

「そりゃね。気が楽になったからって、オルガは団長としての役目に手は抜かないし」

「じゃあ...アタシ達で支えてやらないとな」

「分かってる。道は俺達で切り開くんだ」

「あぁ!」

 

今までもそうしてきた。そして、これからも。

いつかたどり着くために...その先を見る為に。

 

「...あ!あそこ魚料理売ってるじゃーん!一個食べてみよ?な?」

「...そういえば、火星ヤシは無くてもチョコレートくらいならあるかな。探しに行こっと」

「あっ逃げるなっ!じゃあわかった!せめて一口だけ!絶対美味しいってなるから!」

「やだ」

 

なんかもう見た目がやだし。うん、仕方ない仕方ない。

結局今日も魚を食べることはなく、宿で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うごーっ...がーっ...」

「すぅーっ...」

 

...いやぁ、最高にふっかふかのベッドじゃねぇか...何時間でも寝てられるぜ...

 

「んー...え、あ...えっ...?」

 

とはいえ、そろそろ起きた方がいいか...いややっぱもう少しだけ...

 

「あぁぁぁぁっ!?」

「うわぁっ!?」

 

...おいなんだ、人が気持ち良く寝てるってのに煩いじゃねぇか...この声...レックスと...ホムラか?

ってなんでホムラが男部屋にいるんだよ!?まさかレックスの奴...!?

団長としてそういうのはちゃーんと言っておかねぇと!勢いよく飛び起きた俺の目に映ったのはホムラ、ではなく...ヒカリだった。

 

「君っ、いつからそこにっ!?な、何で人のベッドで寝てるのよっ!」

「い、いや...」

「なに...うるさいなぁ...」

 

あまりの騒がしさにミカも寝てられなくなったみたいだ。しかしヒカリ、あいつ何やってんだ...?

 

「きゃーっ!ヘンタイ!ケダモノ!チカン!」

「ちょっ、ちょっと待って...いたっ!」

「...!レックス!」

「ミカおまえっ、何しようとし...ヴアァァァァァァァァァッ!!!」

 

ヒカリはベッドから降りると全速力で机に向かい、上に乗っていたものを手にとっては手当たり次第に投げ始めた。

その一撃目がレックスに炸裂したと同時にミカは状況を何となく理解したのか、俺をその斜線上に突き飛ばした。

当然残りの弾は全て俺に直撃。為すすべなく俺は死んだ。

...いや、別にいいけどよ。扱いが雑すぎるぜミカァ...

 

「こっ、ここ!オレの部屋!おっ、男部屋!」

「...ん?あ...」

 

そうこうしてる内にレックスが、何とかヒカリを止めてくれたようだ。

 

「...またやっちゃったのね。無意識の内に...私ったらもう、バカッ」

「む、夢遊病というやつですか?」

「...見たでしょ」

「え?」

 

おっと?話が噛み合ってねぇぞ?大丈夫か...?

 

「エッチ!」

「...えぇぇぇぇぇっ!?」

 

一言言い残して、ヒカリは部屋から出て行った。やっぱり大丈夫じゃねぇじゃねぇか...

しかしこりゃひでぇな...上手くやってけるか不安ではあったが更に不安になったぞこれ。

...だが。

 

「あんな格好しとって見るなと言われてものぉ...」

「全く同感です」

「もうちょっと露出を抑えるとか...できんもんじゃろか」

「俺は大好きだぞぉ...」

「は?」

「すみませんでした...」

 

いやだって。いいもんじゃねぇかああいう服。

...まあ、ミカの氷点下より冷たい視線に刺され、黙らざるを得ない訳だが。

 

「...オルガ殿」

「ん?どうしたビャッコ?」

「...私も大好物ですよ」

「えっ」

 

...こいつ、この顔でこれか...だが理解者がいるのは嬉しいもんだ。

人とブレイドの、奇妙な友情が芽生えた瞬間だった。

 

 

 

 

「...ホ、ホムラぁ...?」

「あ、おはようございます」

「えっと、さっきは...」

「ごめんなさい。ヒカリちゃん、寝ぼけると徘徊する癖が...」

「そう...なんだ」

 

全員起きたんで、宿から外に出て。

今は、朝食の時間だ。

レックスは...さっきの事を聞きに行ってるみたいだな。

 

「変なことしませんでした?」

「やっ!してない!してない!!オレなーんにも」

「いえ、そうじゃなくて。ヒカリちゃんが」

「あ、あぁ...ヒカリ、ね」

 

おいおい早とちりするなよレックス。逆に怪しまれるぞ?

 

「ちょっと...物を投げられたくらいか、なぁ...」

「やっぱり、これその時のですよね。ごめんなさい、痛かったでしょ?」

 

ホムラが席を立って、レックスのおでこ...さっき物をぶつけられたとこを撫で始める。

いやレックス、お前...!

 

「俺も!俺も物ぶつけられたぞぉっ!」

「...オルガは傷すぐ治るんだから仕方ない」

「畜生...この体質が今だけは憎いぞ...」

「いやオルガは不死身のままじゃないと困る。撃ったり盾に出来ない」

「!?」

 

ミカからすっげぇ怖い言葉が聞こえた気がするが...慣れって事でいいんだよなぁ!?これ!

 

「あっあぁ、大丈夫!ほんと、平気だから!」

「...そうですか?私、まだちょっとズキズキしてるんですけど」

 

 

 

「いいもんじゃなぁ...若いってのは」

「全く同感です」

「俺も一応若い筈だぞぉ...」

「しつこい」

「はい」

 

ばっさり切り捨てられる。

...あ、もしかしてミカ、寝てる時にうるさくされたから機嫌悪いのか...?

 

「...けどよ、ああいう人、いつか欲しいもんだぜ...なぁじーさん?」

「うむ...ワシらも欲しいなぁ...」

「やっぱそうだよな?ほらビャッコも。そう思わねぇか?」

 

悲しい男達の談義が始まった。

けど丁度ここにいるミカは既に...なぁ...とか思うと尚更悲しいぞ俺は。

...しかも。

 

「いえ、私は結構です...」

 

まさかの裏切り。

奇妙な友情に、早くも亀裂が入った瞬間...かもしれない。

ミカ以外の俺達一同は顔を見合わせて、少しの間沈黙が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはスペルビア帝国、皇宮。

私は...皇帝陛下へと天の聖杯に関する報告をするべく、帰還していた。

...いや、厳密に言うなれば。

天の聖杯と、その仲間の件の報告だ。

 

「メレフ様、どう説明します?不死身の、男など...」

「...だが、それが事実である以上はそう報告するしかない。近頃イーラの連中の被害が更に増えた事と関係している可能性もある」

「承知しました」

 

オルガと、ミカ...何度死んでも立ち上がるドライバーに、ドライバーが死のうと影響を受けないブレイド。

その実力に反し一切の噂も無く、突如として現れた...

...調査を進めなくては。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰還いたしました、皇帝陛下」

「ごくろうさまでした。カグツチも」

「恐れ入ります」

「久し振りだね、カグツチ」

「あなたも元気そうね、ワダツミ」

 

ワダツミ...それは、皇帝陛下のブレイドの名。

凄まじい剣の腕前に、エーテルの扱い。

私も信頼の置ける、皇帝陛下の護衛人。

 

「天の聖杯...やはり本物でしたか」

「はい」

「少年ですか?」

「格好から、サルベージャーの様でした」

「ふむ...」

「...それと。鉄華団、と名乗る謎の一団が動き始めました。天の聖杯のドライバーも、彼らと共に行動しています」

「聞かない名前ですね...イーラとの関係は?」

 

イーラとの関係。

彼らの言葉を信じるならば敵同士。

...だが、あの団長を名乗る男、オルガは仲間想いのようだった。もしイーラと協力しているのなら、嘘を吐く理由になる。

だが...

 

「...恐らく、敵対しているものかと」

「...メレフ様...?」

 

あの時の、あの者達の眼...

微塵も悪意を感じさせない、真っ直ぐな眼。

あれを、信じてみる事にした。

...とはいえ、調査を止める訳ではない。その先で何らかの障害になると判断すれば、その時排除するだけだ。

 

「そうですか...是非一度、会ってみたいですね」

「お望みとあらば」

 

皇帝陛下も、こう言っている。

もし何らかの形でスペルビアに現れたなら、どうにかして連れてくるとしよう。

 

「先刻、法王庁(アーケディア)行きの輸送船が襲われたとの報が入りました」

 

ワダツミが、書類を渡してくる。

どうやら、その一件の物の様だ。

 

「輸送船が?」

「積み荷はコアクリスタルとのことです」

「コアクリスタル...イーラですか」

「恐らく。運良く脱出できた者の話では、銀髪の、仮面の男だったそうです」

「...銀髪の仮面の男...シンですか」

 

仮面の剣士...シン。

その圧倒的な実力で、これまでにも甚大な被害をアルスト中で出してきた。

ある時は長剣で全てを断ち、ある時は黄金の双剣で障害を斬り刻む。

 

「これで三隻目。インヴィディア側でもかなりの被害が出てると聞きます」

「...申し訳ありませんでした。トリゴで捕らえたイーラの少女、厳しく尋問すべきでした。私の責任です」

 

まさか、そんな事態になっていようとは。

今イーラと共にいないとしても、その計画を知っている可能性はあった。聞き出すべきだったか...

 

「あなたが必要と思ったから、自由にさせたのでしょう?ならばそれで十分です。それに、相手がシンであるのなら...5000の兵を持ってしても、どうにもできなかったでしょうしね」

 

...確かに、そうだ。

あの男の力は圧倒的。

悪戯に兵を向かわせても、死体が増えるだけ。

...何故その強大な力を、破壊と簒奪の為に使うのか。

いつしか捕らえた暁には、一つ残らず吐かせてやろう。

 

「今の問題は別にあります」

「と、おっしゃいますと?」

「元老院が独自にユーディキウムの発掘調査を再開しました」

「開戦派...ローデリッヒ議員...」

「コアクリスタルを失ったことで焦りが出たのでしょう...ユーディキウムはとても繊細な地です。下手にインヴィディアを刺激すれば...」

「委細承知いたしました。元老院に不穏な動きあらば、掣肘も致しましょう」

 

次の任務は決まりだ。

下手な真似をしないでくれると助かるが...いざ、という時はこの手で。

 

「お願いします。"従姉さん(ねえさん)"...」

 



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第4話 天の聖杯 第3節 「意志を継いで」

本当にごめんなさい!!!!!!!!


「...おいレックス、何か光ってねぇか?」

「本当だ──何だ?」

 

朝食も無事に終え、俺達が乗る船の出る『ゴルトムント飛行甲板』へと向かっている途中。

レックスのポーチの中から、青い光が漏れ出し始めた。

 

「...スザクのコアクリスタルが。今まで石みたいになってたのに、どうして?」

「本当じゃねぇか...なんで急に」

 

レックスが取り出した光源は、確かにあの日コアに戻ったスザクだった。

一体どうしたってんだ。

...まさか...?

 

「知らないのかい?コアクリスタルはね、色を失ってもしばらくすると復活するのさ」

「復活?」

「また同調できるようになるってこと」

 

やっぱり、そういうことか。

ブレイドはドライバーと同調して生まれ、ドライバーの死と共にコアに戻る。そして、時が経って...また、新たなドライバーのブレイドになる。

その準備が、出来たって事なんだな。

 

「じゃあ、今同調させれば──」

「新しいスザク殿が誕生することでしょう」

 

新しい、スザク。

そいつはつまり、前の記憶を全部忘れて、新たなブレイドとして目覚めるって意味だ。

...ま、こいつを託されてんのはレックスだ。だから──

 

「──どうすんだ、レックス」

 

レックスに、問う。

俺としちゃあ、仲間が増えるのは助かるし、嬉しいが...それでも、無理矢理やることじゃねぇからな。

 

「...どうしようかな。ヴァンダムさんの大切なスザクだし、そう軽々しくは扱えないよ」

「まぁ、アンタが託されたようなもんなんだからさ。好きにするといいよ」

「ニアの言う通りだ。そいつの事はお前に任せるぜ、レックス」

「オルガ...うん」

 

俺が言うより先に、ニアが言っちまいやがった。

...ま、考えが同じなのはいい事だがな。

皆、こう言ってんだ...自由に決めろよ、レックス。

 

「...そろそろ出航の時間だったよね、オルガ」

「ん?まあそうだが...どうしたってんだ、ニア」

「先に行って、乗船手続きしてくるよ!」

 

そう言うニアは、今すぐにでも走り出しそうだった。

おいおい...んな急ぐこたぁねぇだろ?

 

「全部自由席だから。好きな席を選びたいんでしょ、二アは」

「おっミカ、大正解ー!じゃ、行ってくる!」

「なるほどな...っておい待て!」

「あぁー?なんだよオルガー!」

「俺らの分も忘れんじゃねぇぞ!飛びっきりの席選んどけよー!」

「分かってるってー!」

 

...よし、聞こえたな。これで席は安心だ。

 

「にしても...あいつもまだまだ子供だな、やっぱ」

「人のこと言えないでしょ、オルガ」

「...ははっ、違いねぇな。でも、お前も折角ならいい席がいいだろ?なぁ、ミカ」

「...うん」

 

走り去るニアを見送りながら俺が呟くと、ミカが賺さず突っ込む。

ま、俺らの分も取っといてくれんならありがてぇ。折角の船旅、特等席で楽しもうじゃねぇか。

 

「...ご主人。誰か、走ってきてますも」

「ハナ?誰かって誰...もっ!?」

「あぶねっ...おいこら!気をつけやがれ!」

 

とんでもねぇ勢いで、ガキが俺らの近くを走り抜けていく。見た目からして...グーラ人か。

あぶねぇあぶねぇ...ハナが予め言ってくれなきゃ、ぶつかって無駄死にかますとこだったぜ...ついつい怒鳴っちまった。

 

「...レックス!鞄が...!」

「え...あ、本当だ!ない!」

 

ホムラが、異変に気付く。

さっきの奴が盗んでいきやがったんだ。

あの鞄にはスザクのコアクリスタルも入ってたんだ...クソッ、やってくれるじゃねぇか...!

...だが相手が悪かったな。

何せ俺らは鉄華団。そしてここには...

 

「逃がすなよ、ミカ!殺す必要はねぇ、とっ捕まえて話聞き出すぞ!」

「...分かってる」

 

ミカが、いるんだよ!

間違っても逃げられると思うんじゃねぇぞ、泥棒!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...おし。完璧だぜ、ミカ」

「別に、普通でしょ。素人の子供相手なんだから」

「ま、そりゃそうか...手、離してやれ」

「分かった」

 

あいつはグーラ人だっていう俺の考えは正しかった。

んで、色々考えた結果...あいつは船を奪って逃げ帰る気なんじゃねぇかって予想した。

だから、途中でニアと合流しつつグーラ行きの船が泊まっている場所まで走ってきてみると...まあ見事に、いた。

そのままねじ切られそうな勢いで、ミカに腕を握り締められるあいつが。

流石に子供相手だし、ここまで追い付けば逃げられるとも思えねえから...手は、離させたが。

 

「さて、と。んじゃあ...奪ったもん返しやがれ」

「...っ!だ、誰がっ!」

「...オルガ、顔怖いって」

「お?...あぁそうか。悪い、癖でな」

 

つい、今まで誰かにケジメつけさせようとしてた時みてぇな喋り方と顔になっちまった。

そうだよな。敵対してる奴らならともかく...幾ら何でも、こんなガキ相手にする顔じゃねぇよなこれは。

 

「なぁ。まだ子供だろ?盗んだもの、返してくれないか?」

「...お前だって子供じゃないか!」

「これでも一応社会人なんだぜ?...さぁ、返してくれ」

 

レックスが、真剣な顔で語りかける。

ガキはまだ反抗的な姿勢を崩さないが...それでも、あくまでレックスは向こうから返してもらうつもりみたいだった。

 

「イヤだ。返さない!どうしてもってんなら、力尽くで取り返してみ──がっ!?」

「...力尽くで...何?」

「おいミカ、お前...」

「こいつがやってみろって言ったから。それに、この方が速いし」

 

我慢の限界、みてぇだな。

ミカが、叫ぼうとしたこいつを取り押さえ、その上でレックスの鞄を取り返した。

ミカの実力なら、まあ余裕だろうが...やっぱり容赦ねぇな、お前。

...仲間の大切なもん奪われて、怒ってたんだろうけどな。

 

「さ。言われた通り力尽くで取り返したぜ?まあ、ミカがだけど...にしても、まだ十になるかならないかじゃないか。何でこんなことしたんだ?」

「......」

「...ねぇ。黙ってたら分かんないんだけど」

「ミカ...もう少し優しく、ですも」

「なんで?」

「シショー!子供も、相手子供もー!」

 

あくまで話を聞いてあげる感じで話すレックスと、滅茶苦茶急かすミカ。ミカを宥めるのは、トラとハナのコンビだ。

いやまぁ...気持ちは分かるけどよ、一旦落ち着けってのミカ!

 

「なぁ、何か事情があるんだろ?もしかしてお金に困ってるのか?」

「馬鹿にするな!金になんか、困ってるもんか!」

「なるほど。金には困ってない、と...」

「...素直に話すほうがいいも。悪いようにはしないも?」

「そういう事だ。何かあったんなら、遠慮なく話してくれ」

 

中々話が進まないところで、トラが語りかける。

無論、俺も同じように思ってる。

俺らに出来ることなら、全力でやってやるさ。

それに、仮に俺がそう言わずとも...今の鉄華団(こいつら)は、そう願う奴らだしな。

 

「──敵討ちだ」

「敵?」

「村の皆の、敵討ちをしたかったんだ」

「...まさか、ブレイドを同調させるつもりだったのか?」

 

おいおい...ありゃ適性が無きゃとんでもない事になっちまうんだぞ?当然それも分かってるだろうし、よっぽど覚悟決まってやがるな、コイツら。

村の皆の、敵討ち...俺らがガキの頃から、必死で足掻いて生き抜いてきたのと同じぐらいの強い意志で、コイツもそれを願ってやがんだ。

けどまぁ...幸い、ここには俺らがいる。だから、コイツに無理させたりはしねぇ。

 

「じゃあ...詳しく説明してくれ。力になってやる」

「......」

 

少し俯いて考え込んだ後、そいつは...今までに何があったのかを、語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「野盗に、村を...」

「小さいけど、平和な村だったんだ...それを、水が出るって理由だけで...!」

「生き残ったのは?まさか、お前一人なのか...?」

「...まだ、グーラにいる。だけど、俺と同じぐらいの子供が...数人だけ」

「...ひでぇ話だ」

 

コイツとその生き残り達は、きっと普通に暮らしてたんだ。にも関わらず、その「居場所」を下らねぇ理由でその野盗共は奪いやがったんだ。

許せる訳が、ねぇ。

 

「...名前は?」

「俺の?それとも、村の?」

「両方」

「...リリオ。村の名前は、イラーダ」

「イラーダ村...俺らが前にグーラに行った時は聞かなかった名前だな」

「グーラの端にある小さな村だからな...知っている人は少ないよ」

 

リリオ、と名乗ったソイツは、俺の言葉にそう答えた。

...知ってる奴が少ない。だから狙われたんだろうな。

そんな辺境の村が一個襲われたからって、気にする奴はそうそういねぇ...とか思ってやがるんだろう。

ったく、野盗らしいクソみてぇな考え方だ。

 

「...リリオ、事情は分かった。けど、人のものを盗るのは良くないな。...それに、コアとの同調は危険だ。もし失敗したら、どうす──」

「...生き残りの奴らの内、誰か一人でも成功すれば良かったんだろ。そいつが皆の敵を討てば、例え死んでも悔いは無い...そんなとこだろ?リリオ」

 

リリオは、無言で頷いた。...やっぱり、そういうことだったか。

ったく...何処の世界にも、年に不相応な覚悟を決めなきゃいけねぇ奴はいるもんだな。

だが、もうそんな真似はさせねぇ。

絶対に俺らが、ソイツらをぶっ潰してやる。

 

「...相手の、場所は?」

「双樹の丘に大きな洞窟がある。そこが奴らのアジトさ」

 

ここまで話を聞いていたミカが、口を開く。

あの目は...へっ、まるで俺らの作戦を聞いてる時みてぇだ。

やる気、だな。

それなら...じっとしちゃいられねぇ!

 

「レックス。ここお前の職場だったよな...船、借りてこれるか?」

「任せて。知り合いを当たってみる!」

「...え?」

 

意図は伝わったみたいで、レックスは早速近くの...恐らく仕事仲間の所へと向かい、話を始めてくれている。

戸惑うリリオを前にしながら...俺は、団員達に聞こえるように声を張り上げて、叫ぶ。

 

「行き先変更だ!次はグーラに行って、ソイツらをぶっ潰す!たがが野盗だからって油断すんな、気ぃ引き締めて行くぞォッ!」

「──お前...何なんだよ...?何でそこまで...」

「...俺は鉄華団団長、オルガ・イツカだ。お前らの敵、討ってきてやるよ」

 

そう言って俺は、手を差し出した。

リリオはそっと自分の手を出し...少し乱暴に、握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリオ!戻ってき──っ、その人たちは?」

「心配すんな。お前らの敵じゃねぇよ」

「この人達...俺達の代わりに戦ってくれるって」

「ほ、本当に?」

 

レックスが借りてきてくれた船に乗って、グーラに戻ってきた俺達。

野盗との戦いに巻き込んだら危ねぇから、まずはリリオを仲間の元に送り届けた。

まあ当然ビビられたが、リリオがちゃんと説明してくれたお陰ですぐに誤解は解ける。

...だが。何だか焦ってるみたいだな。何かあったか?

 

「...って、それより!大変なんだリリオ、奴ら近々トリゴの街を襲うって!」

「それ本当か!?」

「うん、さっき奴らの仲間が街で話してるの聞いたんだ。多分下見に来てたんだと思う...領事がいなくなって統率が乱れてる今が狙い目だって言ってた」

 

...そりゃ思った以上にヤバいな。今度はあの大きな街をターゲットにして、色々奪っていってやろうってか...

俺達はトリゴじゃ一度追われた身だが、にしたって見過ごせる事じゃねぇ。ますます急がなきゃいけなくなってきたな。

 

「なるほど...確かに、襲撃するなら今かもしれませんね」

「あの領事に統率力があったのかは疑問だけどね」

 

ビャッコが納得する横で、ドライバーの二アが言葉を洩らす。

いやまあ、確かにアイツが部下を纏めたり出来そうかって言われれば、出来てなさそうだが...

...ん?待てよ?

領事がいなくなって、統率力が...だから今襲撃を...

 

「...なるほど。こりゃ余計に俺達がやらなきゃいけねぇな」

「そうじゃな──あの時の行動が、襲撃のきっかけを作ったようなものじゃ」

 

やっぱりそうだよな。

領事がいなくなった、その一番の原因は間違いなく俺らだ。

ああするしか無かったとはいえ、その結果こうなっちまってる。

なら...ケジメは俺らでつけなきゃいけねぇ。

 

「よし。リリオ達は街の衛兵に伝えに行ってくれ。オレ達は双樹の丘に行ってくるよ」

「伝えるって...野盗のこと?」

 

レックスが出発する準備を整えつつ、リリオ達にそう言う。

衛兵...?別にそんな奴ら呼ばねぇでも、俺らで何とでも出来るだろ。

 

「野盗の話をしたところで信じちゃくれないだろ。そうじゃなくって、オレ達のことさ。給水塔を壊した連中が双樹の丘に隠れてるって伝えるんだ」

「...レックス。どういうつもりだ?」

「まぁ...その内わかるよ。とにかく、頼んだぜっ」

 

...何だよ、今教えてくれねぇのかよ...まあ、いいけどよ。

レックスの事だ。何かしら良い考えがあるのは間違いない。

だったら...俺はそれを信じて進めばいい。

止まる理由も、止まってられる時間もねぇしな。

 

「...じゃ、話も済んだしそろそろ行くか!奴らの居場所は双樹の丘...だが、そこまでどうやって行くか...そうだニア、お前なら分かるか?」

「当たり前だろ?皆、アタシとビャッコについてきて!」

「よし分かった、頼りにしてるぜニア!」

 

ニアがビャッコに飛び乗り、真っ先に走り出す。

これならあっさり到着しそうだな...さぁ、全速力で行くぞぉっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──こいつは...」

 

草原を駆ける俺らの足は、ある場所で止まった。

そんな俺らの目の前に広がっていたのは...見覚えのある、竜巻みたいな風。

確か、これは...

 

「...オルガ。インヴィディアで見たのと同じやつだ」

「ミカの言う通りのようじゃな。間違いない、あの時と同じものじゃ」

 

ミカの言葉にじーさんが同調する。言われてみりゃあ、確かにそっくりだ。

...と、なると。この先を進むには...

 

「スザクの力なら、きっと...」

「だな...お前が同調してくれ、レックス」

「...うん。じゃあ、いくよ──」

 

レックスはスザクのコアクリスタルを取り出し、同調を開始する。

コアの放つ光がだんだんと強くなっていく。

そして、コアはブレイドを形作る。

...俺らの記憶に強く残る、スザクの姿を。

 

「──お前が俺の新たなドライバーか。随分と小さな奴に起こされたもんだが、まぁよろしく頼むわ」

 

だが、当然スザクは俺らの事を知らない。

仕方ねぇ事ではあるんだけどよ...ヴァンダムさんの事も忘れちまってると思うと...何か、な。

 

「...何だか、物言いがヴァンダムと似てるね」

「ヴァンダム?誰だそれは?」

「アンタの前のドライバーさ」

「俺の、前の...」

 

ほら、な。

初対面でいきなりやり合った事も、一緒にイーラの連中と戦った事も、全部忘れちまってるんだ。

なんで...ブレイドってこうなんだろうな。

もしこの世界に神なんてもんがいるんなら...一度聞いてみてぇもんだ。

 

「──スザク、頼みがあるんだ。この障害物、取り除けないかな?」

「...これか?この程度のもの、造作もない」

 

レックスの頼みにさらっと答えてみせたスザクは、羽ばたいて風を起こす。

その風はいとも容易く瘴気を打ち消し、俺らの進む道を開いた。

 

「すごいや...!あれだけのものをあっという間に」

「ふん、造作もないと言っただろう?」

「サンキュー、スザク!」

「......」

 

満面の笑みを浮かべながら礼を言うレックス。だが、言われた側のスザクは...何か考え事をしているようだった。

 

「スザク?」

「...一つ聞きたい。俺の前のドライバー、ヴァンダムという者...どんな人間だった?」

 

...そういう事か。

まあ、そういうのは気になるもんなのかもな。かつての自分がどんなドライバーと一緒にいたのか...俺だって、同じ立場だったら聞きたくなりそうだ。

...ま、俺は誰の事も忘れるつもりはねぇけどよ。

 

「──すごく強くて、強面だけどとっても優しくて...命の恩人なんだ」

「...そうだな。今俺らがここにいるのは、ヴァンダムさんが俺らを守ってくれたからだ」

 

思い出すのは、あの日の戦い。

生きて、生き延びて、楽園に行くんだ...ヴァンダムさんは、俺らにそう言った。

...そうだ。俺は必ず、『楽園』に辿り着くんだ。

新生鉄華団の皆と、一緒にな。

 

「そうか...ならば、俺はお前達を守れば良いんだな?」

「え?」

「その者の意志を継ぐことが、俺がすべきこと。俺は...ブレイドを、そういうものと考えている」

 

...そうか。

それが、ブレイド...なのかもな。

ドライバーが死ねばコアに戻り、記憶を失う。

だがそのコアは、確かに誰かに受け継がれる。

そして新たに生まれ変わったブレイドは、新しいドライバーの元で生きていく...かつてのドライバーの、意志を継いで。

そうやって大切なもんを未来に繋いで、前に進んでいく...そう考えると、死んだら何もかもお終いって訳でもねぇんだな。

 

「俺は鉄華団団長、オルガ・イツカだ。よろしくな、スザク」

「あぁ。ヴァンダムが守ったお前達を...今度は俺が、この力で守り抜こう」

 

...ヴァンダムさん。

俺らは絶対に辿り着く...絶対に止まらねぇからよ。

だから、その先で...俺らの事、見ててくれよ。



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第4話 天の聖杯 第4節 「帝国首都」

ギリギリ8月中に間に合いました そろそろペース上がる...といいなぁ......


「...どうする?奴らそこそこの数、それにブレイドもいるよ?」

 

野盗のアジト、その手前までやってきた俺達。

物陰に隠れながら観察してみると、敵は3人みてぇだ。

しかも全員ドライバー...やっぱり油断は出来ねぇ。

だが、だからといって回りくどい事やってる場合でもねぇ。

レックスの提案で、ここにはいずれ衛兵が来る。そうなりゃ俺達もじっとはしてられなくなる。

そうなる前に、奴らを片づけるには...一つしかねぇ。

 

「関係ねぇよ。例え罠があったとしても、罠ごと食い破ってやるだけだ...だろ、レックス」

「うん。小細工してる時間も無いし...それに、今のオレ達なら勝てるさ」

「そう言うと思った...ま、嫌いじゃないけどね」

 

こんな所で止まってるようじゃ、楽園になんて到底辿り着けねぇしな。

俺達はこんな所じゃ終われねぇ...その想いは全員同じ筈だ。

 

「あと、殺すことが目的じゃないから...やり過ぎないよう注意ね。...特に、ミカ」

「分かったけど...別に、あいつら死んでいい奴でしょ」

「殺さなくたって、街を守る方法はある...だろ?」

「...そっか、その為に...」

 

...ぶっちゃけ、ああいう連中は改心なんてしねぇと俺は思う。

けどまぁ、レックスはこういう時頭の回る男だ。何か考えがあるのは間違いねぇし、今はその通りにするとしようか。

 

「んじゃあ、行くぜお前ら。あいつらの野望、ぶっ潰すぞ!」

 

号令と共に、俺は物陰から飛び出す。

 

「お前ら、武器を置け!街には行かせない!」

「!?何だぁてめぇらは...ガキ共が何の用だ!」

「一つしかねぇだろ...お前らの相手は俺達鉄華団だ!」

「こいつら、どうやって計画を...まぁいい!ガキ共はぶち殺せ...街への見せしめにするんだ!」

 

当然、奴らも素直に従いやしねぇ。

んな事は分かってる。だから...俺達は、それぞれの武器を構えた。

 

「まずは態勢を崩すよ!オルガ!」

「任せろ!うぉぉぉらぁぁっ!」

 

まずは俺とニアが先陣を切る。

俺の手にしたメイスとニアのツインリングが、ほぼ同時に敵に迫る。

それは直撃とはいかなかったが、それぞれが狙った相手の態勢を崩すことには成功していた。

 

「『アンカーショット』!」

 

すかさずレックスが、アンカーを敵の足元に放つ。

ヴァンダムさんから教わった方法で、野盗どもを容易くダウンさせてみせた。

 

 

「スザク!」

「任せろ!」

「サンキュー!行くよ、『サイクロンスマッシュ』!」

 

続けてレックスは武器を持ち替え、ツインサイスを振るってアーツを放つ。

そのアーツは転倒した二人の野盗に直撃し、二人とも起き上がらなくなる。

だが、ブレイドはコアに戻らない...ドライバーはちゃんと生きてるな。

...何だよ...同調して初の戦闘だってのに、ちゃんと連携できてるじゃねぇか。

すげぇよレックスは...俺達も負けてられねぇなぁっ!

 

「ミカ、滑空砲をあいつの足下に撃て!」

「分かった」

「あぁ?そんな事したって無駄...っ!?」

 

俺の指示の直後に、爆音が鳴り響く。

それは敵には当たってない。だが、爆発による煙がその視界を覆い隠す。

へへっ...思うように動けねぇだろ!

 

「...ちょっとオルガ、これじゃこっちからもアイツの場所分かんないよ!」

「ニア...いーや心配要らねぇ。なぁ...そうだろ、ミカァ!」

 

俺の言葉に応えるように、煙の中を鉄塊が駆ける。

獲物の場所は、あいつには分かり切ってる。

そして...やがて、鈍い打撃音が鳴る。

一回、二回...ん?

待て待て、二回?

 

「...あれ、ハナ?」

「ハナは人工ブレイドも。煙幕なんかで敵を見失ったりしないも!」

「そういう事か...まあ何にせよ、これで片付いたな」

 

二度目の打撃を喰らわせたのは、ハナの鉄拳だった。

ぶっちゃけ過剰かもしれねぇが...殺さない分には問題ねぇ。

これで目的達成だ。...んでレックス、結局どうして衛兵なんか呼んだんだ...正直ピンと来ねぇぞ。

 

「──おいでなすったの」

「どうしたじーさん...お、ありゃ呼んだ衛兵じゃねぇか」

 

噂をすれば影というやつか。衛兵が四人、こっちに向かってくるのが見えた。

しかしこのまま居座ってたら、俺達も捕ま...

 

「...そうか。このために知らせに行かせたのか」

「え?そりゃどういう事だニア」

「レックスは、最初から野盗を衛兵に捕まえさせるつもりだったんだ」

「こいつらを罰するのはオレ達じゃない。だろ?」

「......マジかよ。なるほどな、やっと理解出来たぞ」

 

理解するのは遅れたが、すぐに納得できた。

この世界は私的な理由での人殺しが許される世界じゃないみたいだしな。ずっと殺し合い続きだった俺達ならまだしも...こんな世界で育ったレックスにとっては、当たり前の選択なのかもな。

 

「となれば、長居は禁物ですね。この人達のことは軍に任せて、退散しましょう」

「そうだな。んじゃ...一旦アヴァリティアに帰るか!」

 

さぁ、今度こそスペルビア目指して出発だ。

もう何も起きねぇといいが...ま、旅ってもんは大抵上手く行かねぇ。

気ぃ引き締めていかねぇと、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて...どうするかな」

「どうするって...オルガ、何を悩んでるの?」

「いや...あいつら、この先どうしていくんだろうなってな。敵を討っても住む場所は勿論戻ってこねぇからよ」

「あー...そうだなぁ。オレ達が連れて行く訳にもいかないし」

 

帰りの船に戻るまでの道を歩いている途中...俺が言葉を零すと、レックスが聞いてくる。

鉄華団をあいつらの居場所にする...それも考えはしたが、昔と今じゃ色々事情が違ってくる。

天の聖杯を狙う奴らや、イーラとかいうテロリスト...そんな連中との戦いに、戦う術を持たないあいつらを巻き込む訳にはいかねぇ。

 

「...いや。一つ、方法があったな...悪いレックス、こっからインヴィディアまで船動かせるか?」

「え?まぁ、位置は把握してるから問題ないけど...なんで?」

「後で話すから、今の内に他の奴を集めて準備しといてくれ。俺は先に、こいつを使って話をしてくるからよ」

「...!あぁ、分かったよ!」

 

俺が取り出した物を見たレックスは、笑って駆け出していく。

それが何を意味するのか...レックスには、どうやら伝わったらしい。

まあ、当然だよな。だって、俺が取り出したのは...名瀬の兄貴から受け取った、通信機なんだからよ。

 

────────────────────────

「──では、お願いします...兄貴」

「おう。後は俺達に任せておけ」

 

俺が兄貴に頼んだのは、あの子供達の衣食住についてだ。

名瀬さんとそのブレイド達はすげぇ強いし、他にも傭兵が沢山いた。あの村なら、きっと安全だと思ったからな。

兄貴も、行くあてが無いグーラ人の子供がいるって話をしたら、すぐに聞き入れてくれた。これで、あいつらも大丈夫だ。

 

「自分はニューツであります!皆さん、ここに来たからにはもう安心ですよー!」

「私はウカです。こっちはスケタンで、こっちはカクタン!よろしくお願いしまーす!」

「...どうだ。上手くやっていけそうか?」

「オルガ...うん」

 

既に、名瀬さんのブレイド達が子供達と仲良くなろうとしていた。リリオもこう言ってるし、心配なんて要らなさそうだな!

 

「よし...んじゃ、今度こそ本当にスペルビア目指して出発だ。お前ら、早速準備して──」

「「スペルビア!?」」

「...ん?どうしたんだ二人とも...」

 

俺が皆に号令をかけようとした瞬間、二人のブレイドが反応する。

よく見ると...ニューツは目を輝かせていて、一方ウカは...怒ってねぇか?これ。

 

「スペルビアなんて...あんな、巨神獣(アルス)を改造して兵器にするような国!私許せません!」

「聞き捨てなりませんねウカ殿!巨神獣(アルス)兵器は、特にスペルビア帝国の技術は素晴らしいものでありますよ!そもそもあれは──」

 

 

 

 

「...悪いオルガ。無視してくれ」

「あ...はい...」

 

突如、スペルビアに関する考えの違いで喧嘩が始まった。

 

「あいつら、スペルビアの話題が出るといつもこうなんだよ。まさか巨神獣(アルス)兵器好きと巨神獣(アルス)兵器嫌いの両方と同時に同調しちまうとは、俺も思わなかったね」

「......兄貴も大変ですね」

「ま、手の掛かる奴の面倒を見るのも大人ってもんだ...それに。これもこれで退屈しねぇし、悪くないもんだぜ」

 

まあ、それは同感だ。沢山の仲間と一緒にわいわいやれれば、それだけで楽しくなるしな。

それに、兄貴もこの世界にすっかり馴染んでる...前から分かっちゃいたけど、それでも嬉しいもんだ。

 

「今のお前は...楽園を目指してるんだったな。必ず辿り着けよ、オルガ。今度は...全員でな」

「...はい。皆は、俺が守り抜きます」

「いい眼だ。...さ、行ってこい」

 

全員で、辿り着くべき場所に辿り着く。

かつては出来なかったそれを、あいつらと成し遂げる為に。

俺は一言誓いを口にして、船に向かう。

勿論、あいつらと一緒にな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし...到着したな。ここがスペルビアか...」

「やっと着いたね...船旅も長かったけど、今日は色々あったし」

「本当にね...無事に着いて良かったよ」

 

インヴィディアを出発した俺達は、まずアヴァリティアに戻った。

俺達はそこで借りた船を返し、その後乗船券を持って飛行甲板まで向かう。

声をかけてくれれば、それに合わせて出発する...そういう事になってたお陰で、無事に船に乗ることも出来た。

そっから長い船旅を経て、俺達はスペルビアに着いたって訳だ。

 

「それにしても...意外と何もないところですも」

「ここが街から外れた所にある港だからではないでしょうか」

「そうじゃろうな。まずは帝国首都を目指さんとな」

「船の中で聞いたけど...港を右手の方に抜けて一本道らしいよ、オルガ」

「そうか...よし分かった。んじゃ、早速行くか!」

 

ミカはほんとにしっかりしてるな。いつも助かるぜ。

早速俺達は、帝国首都の方角に向かって一直線に走り出した。

 

────────────────────────

 

「ここが帝国首都かぁ...」

「流石に首都って言うだけあるな。相当広いじゃねぇか...」

 

目的地についた俺達を出迎えたのは、巨大な建物が幾つも並ぶ景色だった。

今まで訪れてきたグーラやインヴィディアは自然が豊かな国だったが...ここは機械技術が相当発達してるらしい。街の外は荒野だし、正反対って感じだ。

まあ...俺やミカは、こういう風景の方が馴染み深いけどな。

 

「...もしもし...あなたはトラさんですかも?」

「ん?誰だあんた...トラ、知り合いか?」

 

さてどうするか...と考えていると、眼鏡を掛けた水色のノポンに後ろから話しかけられた。

なーんか胡散臭い見た目だが...見た目で判断するのも良くねえな。トラの知り合いかもしれねぇし。

 

「えーっとー...おっちゃん、トラのこと知ってるのかも?」

「あぁ...覚えていただけてないですも...ムイムイですも、あなたのお爺さま、センゾー博士の助手だったムイムイですも!」

「......あぁーっ!おっちゃん、あのムイムイかも?そっかー、おっちゃん影が薄っぺらいからすっかり忘れてたも」

「...トラ、お前なぁ」

「いえいえ、とんでもないですも。あの頃、トラさんはまだ幼かったからムリないですも」

 

目の前の胡散臭かったノポンの正体ははっきりした。偽物って訳でも無い...よな?

そういや、レックスから聞いた話だが...トラのじーさんと父親はハナを最初に作り始めた二人だったな。んで、その時の助手がこいつって事か...トラは忘れてたみたいだが。

 

「それにご主人の頭の中は、ハナをパワーアップさせることでいっぱいいっぱいだったですも」

「...!何と、これは...人工ブレイドじゃないですかも!」

「そうだも。じいちゃんと父ちゃんが残した設計図をもとに、トラが完成させたんだも」

「おぉ、素晴らしいですも...センゾー博士が生きていたら、きっと喜ばれたにちがいないですも」

 

...そういや、トラのじーさんは既に死んじまってて、父親は行方不明だったか。二人が途中で終わってしまった事を、最後までやり遂げた...やっぱりトラもすげぇよな。

...待てよ?あくまで行方不明...もしかしたら、こいつなら居場所を知ってるんじゃねぇのか?

 

「ムイムイ、父ちゃんがどこへ行ったか知らないかも?」

「......研究所が襲われたあの日、私はおつかいに出ていて...戻ってきたら、センゾー博士のご遺体を見つけたんですも。けど、タテゾー博士のお姿はどこにも──」

 

...そうか...流石に知らねぇか。

肝心な時に離れちまってたんだな...そりゃ辛い話だ。

 

「...おつかいって、何の?」

「え...?それは勿論、必要なパーツや博士たちのご飯を...」

「...そっか」

「ミカ...?」

 

何か、気になることでもあったか...?

鋭いミカの事だ、何か思うところがあったのかもしれねぇが...まぁ、今はひとまず置いておくか。

 

「...そっか、ムイムイも知らないんだも...」

「がっかりするなですも、ご主人。きっと会える日が来ますも。根拠は全くないですけども」

「あぁ、そうだぜトラ。旅を続けてりゃ、何処かでばったり会えるかもしれねぇし...それに、ハナも立派にやってるんだ。いつか噂を聞いた向こうの方から会いに来るかもしれねぇぜ?」

「ハナ、ダンチョー...ありがとうも。トラ、落ち込むのはやめるも!」

 

あぁ、前向いて進み続けるのが一番だ。

根拠は全くねぇけど...ずっと止まらなければ、何とかなる事だってあるんだぜ。

 

「あぁ皆さん、この街についたはかりのご様子なのに、お引き留めしてしまいましたも!この先に知り合いの宿がありますも。温泉が有名な所で、よければお安く泊まれるように口をきいておきますも」

「本当か?そりゃ助かる」

 

...やっぱり、いい奴で間違いなさそうだな。

お金に余裕がある訳でもねぇし、俺達はその言葉に甘えて宿に泊まる事にした。



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