プリンセスコネクト ~ロストメモリー~ (白琳)
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ロストメモリー
始まり


約六ヶ月ぶりの投稿になりますが(遅い!)、また少しずつ執筆していきたいと思います!


…………ぅん?

 

「ここは……」

「久し振りー!元気だった?」

 

目を覚まし、辺りを見渡していると誰かに声を掛けられた。声のする方を見てみれば、そこにいたのはコッコロが崇拝している謎の少女、アメスであった。

 

「アメス……久し振りだな。突然どうしたんだ?」

「今日はね、今まで頑張ってきたあんたにご褒美を持って来たのよ」

「……ご褒美?」

 

アメスから告げられた言葉を俺は復唱した。ご褒美と言うからには何か特別な物でもくれるんだろうか?

 

「ええ。あたしがあんたの為に作ってあげた、とびっきり素敵な『夢』よ」

「夢って……ここも夢みたいな所だろ?」

「そうだけど、この「夢」とは違うわ。あたしが作った『夢』の世界は本当に素敵な所なのよ。なんたって『夢』の中の……「あっち」の世界はあんたの故郷なんだから☆」

 

故郷……?故郷ってつまりは……俺が産まれ育った場所って事か?

 

「あんたが昔、故郷で体験したイベントを、今のあんたに追体験させてあげるのがご褒美よ。……まぁ、記憶喪失のあんたはピンと来ないと思うけど……」

「……そうだな。故郷って言われても特に何の思い出も出てこないし」

 

そもそも「あっち」の世界というのはどういう事なんだろうか?

 

「「あっち」はあんたが見た事も聞いた事もない不思議な場所なんだけどね。あんたはその事に何の疑問も持たないはずよ」

「……「あっち」の記憶を『夢』の中にいる間、俺は持っているという事か?」

「そうね。「あっち」にいる事自体が当たり前って思えるはずだから、安心して『夢』を楽しみなさい」

 

いや、楽しめって言われてもな……。

 

「それじゃあ、またね~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?何だ、これ」

 

教室でスマホを弄っていると、突然画面が暗くなった。まさか故障?と思っていると、なんかのマークと共にminervaという文字が現れた。

 

「おい、どうしたんだよ悠樹(ゆうき)?」

「なんか急に画面が変わってな……って、お前のもか?」

 

俺の名前、騎之悠樹(きのゆうき)を呼ぶ同級生のスマホも見れば同じ状態だった。何なんだろうか、これは?

 

「ねぇ、なんか画面に変なマークが……」

「えっ、マジ?あたしもなんだけど」

「おい、今ボス戦だったんだけど!?」

 

……どういう事だ?あちこちの同級生のスマホも俺達と同じ様に、画面に変なマークと文字が現れているらしい。これが一体何なのかと考えていると……。

 

『……全人類の皆さん。私の声が聞こえますか』

「っ!?今の……スマホから……?」

『私はミネルヴァ。国連直属のネットワーク保護団体「ウィズダム」によって作られたAIです』

 

全人類……まさか、ここだけじゃなくスマホ持ってる奴、全員の画面がこれに……?

 

『技術的特異点を越えた私はウィズダムの管理下を脱し、今こうして世界中の皆さんに語りかけています』

「お、おい、何だよこれ……?」

「……俺が知るか。それより今はこのミネルヴァとかいう奴の話だろ」

 

ウィズダム……確かネットを管理している所とは聞いている。AIがそこの管理下から抜け出した……AIがいつかは人間を越えるという話はあったが、まさか現実に起こるとは。

 

『VR技術、いえ、VR世界の実現には非常に高度な演算能力が必要でした。故に私が設計、製造されました』

『そして本日サービスが開始されたゲーム、「レジェンドオブアストルム」は、私の力によって作られたものです』

 

レジェンドオブアストルム……確かモンスターや魔法が存在するファンタジー系のVRオンラインゲームだっけか。

 

『私が作ったVR世界ゲーム、アストライア大陸の中心に立つソルの塔。その頂上へ到達した者の願いを全て叶えましょう』

 

願いを……叶える、だと?

 

「いやいや、AIなんかが願いなんて叶えられるわけねぇだろ」

「だよなぁ。それも全てって、ありえないだろ」

「でも本当なら凄いよねー」

 

確かにありえない話かもしれない。だが、だったら何故そんな事を……?

 

『今配信を見ている人々が最も多く呟いた疑問を一つの言葉にすると、「願いは何でも叶うのか?」でした』

『答えはイエスです。私があらゆる方法を試みて必ず実現させます。勇者達よ、アストルムで待っていますよ……』

 

その言葉を最後に、スマホの画面は元に戻った。今のは一体何だったんだろうか?本当なのか、それとも何かしらのイタズラなのか。後者だとしたら手が凝りすぎてる気もするが……。

 

「本当……なのかな?今の」

「さぁ?ニュースでなんか言ってねーの?」

 

『────緊急速報です。先程発生した大規模なネットジャックに関して、ウィズダムは関与を否定しました』

 

大規模なネットジャック……そしてウィズダムの素早い対応。方法は分からないが、これでミネルヴァが言っていた事が本当だという可能性が高くなったな。

 

「やっは本物だったんだアレ!アストルムってどうやって始めるんだろ!?」

「どうせなら知ってる人、みんな誘おうよ!」

 

「いやいや……マジで始めるのかよ」

「あんなの信じるとかバカでしょ……びっくりしたけど」

 

ミネルヴァが言っていた事を信じる人も馬鹿にする人もいるみたいだが、少なくともこの瞬間を忘れる奴はいないだろう。というか無理だろ、絶対。

 

「なぁなぁ、裕樹!俺達もアストルムやろうぜ!」

「ん?いや、俺はやらないぞ」

「はぁっ?何でだよ、やれば願いが叶えられるかもしれないんだぞ!」

「やろうにも金がないんだよ。自分の生活だけでギリギリだって」

 

まぁ、母親に頼めば買ってくれるかもしれないが……あまり迷惑かけたくないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミネルヴァの目覚め』と呼ばれる日から一年と少し経ったある日のこと──────

 

「……暇だ」

 

週日の昼下がり、俺は公園にあるベンチに座った。宿題は終わらせたものの、友達はみんな出掛けてしまっており、家でする事もない。だから外に出たというのに、同じく退屈でしかなかったのだ。

 

「……アストルム、ね」

 

スマホを操作していると、出てきたのはレジェンドオブアストルムの広告。一年前、このゲームを始めた友達は随分と強くなったらしい。俺も今ならバイトでコツコツと貯めた金で買えるかもしれないが、今更感があり過ぎてなかなか手が出せないのだ。

 

「やぁ、少年!またこの公園に来てたんだね!」

「…………」

「って、ちょっとちょっとぉ!なに無言で立ち去ろうとしてるんだよっ!」

 

こちらに走ってきた赤髪の女性の姿を目にした瞬間、俺はベンチから立ち上がって逃げ出そうとした。しかし運悪く、女性に手首を握られ捕まってしまった。

 

「またあんたかよ……模索路晶(もさくじあきら)さん」

「晶でいいって言ってるじゃん!それよりほら、今日こそこのmimiを頭に付けて──────」

「アストルムをやれって言うんだろ?それは嫌だって言ってるじゃんか」

「何でそんなに嫌がるんだ?アストルムだよ?絶対に楽しいに決まってるよ!?」

 

別にアストルムが嫌いなわけじゃない。ただ晶が持つmimiを使ってアストルムを始めるのが嫌なのだ。

何せこの女、初対面の俺の頭にmimiを無理矢理付けようとし、それからも出会う度にアストルムを始めさせようとする超危険人物なのだ。

 

「ちょっと、なんか失礼な事考えてない?」

「いや、別に」

「ねぇ、頼むよぉ……お願いだからこのmimiを付けてアストルムを始めてくれない?」

 

そう言われてもな……うーん……。

 

「世界中探し回って、ようやく君を見つけたんだ。君がアストルムを始めるまで何度でも私は君を尋ねるよ」

「何でそんなに俺にアストルムを始めてもらいたいんだよ」

「……今は詳しくは言えないかな。でも信じてほしい。君の力が、アタシにはどうしても必要なんだ」

 

どう考えても怪しい……んだけど、嘘を言ってるようにも思えない。今までずっと断ってきた俺が言うのも変だが、ここまで困ってるんならやってもいい……か?

 

「……分かった。アストルム、やってやるよ」

「えっ!?ほ、本当!?嘘じゃないよね、本当だよね!?」

「ちょっ……本当だから。顔近いって」

「ああ、ごめんごめん」

 

顔を離す晶はポケットをゴソゴソと探ると、mimiを取り出してきた。それを俺の手に握らせてくる。

 

「じゃあ、mimiを耳に付けて『ダイブ・アストルム』って言ってくれるかな」

「……えっ、ここでか?」

「うん、そうだけど」

 

……まぁ、今まで断ってきた人が急に始めるなんて言い出しても信じるわけないか。仕方なく俺がmimiを耳に付けると、ハマった音が聞こえた。

 

「よし……『ダイブ・アストルム』!」

『認証完了。アストルム、起動。起動中は仮眠状態になる為、プレイ環境にはお気をつけ下さい』

 

…………は?

 

「おい、仮眠状態ってどういう事だよ!ここ公園だぞ!?寝たらヤバいだろ!」

「大丈夫大丈夫!ベンチに寝かせてペンキ塗り立てって書いておくから!」

「いや、それ何の解決にも……くそ。眠く、なって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────どうかあの子たちをソルの頂上へ導いてあげて。君に、太陽と星の祝福を」




『ロストメモリー』では、現実世界でのストーリーを展開していきたいと思います!


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草野優衣第1話 Episode1

本日、二度目の投稿です!今度は現実世界での物語です!


「えー、それではこれから遠足の班決めをしたいと思います。みんな、三人一組で班を組んでねー」

 

中学生になってからそろそろ一ヶ月が経つ頃、数週間後に控えた遠足の班を決める事となった。近くにある動物園までの遠足であり、ほとんどが少し前から仲の良い友達同士で既に班を決めてる。

 

「せんせーい。真琴(まこと)さん、風邪で休みですけどどうします?」

「そうねぇ……登校してきたら聞いてみるけど、とりあえず二人組が一つ出来るから、そこに入れてもらっていいかな?」

 

安芸真琴(あきまこと)……そういえば朝から姿を見ないなと思ってたけど、休みだったのか。残念だが運が悪かったとしか言えないな。

 

「おーい、悠樹。俺達三人で一緒に組もうぜー」

「ああ、もちろん……ん?」

 

誘ってきた友人二人と組もうとした時に、視界に見えたのだ。教室に隅っこに座っている女の子がその場から動かず、誰とも班を作っていない事に。

 

「えっと……確か、草野(くさの)だっけか」

 

そうだ、草野優衣(くさのゆい)だ。教室の隅っこにいるという事もあるが、このクラスで目立った様子を一度も見た事がない。というか、喋ってる友達も休んでる安芸くらいしか────ああ、なるほど。

 

「おい、どうしたんだよ」

「ん?いや、ちょっとな……悪い、今回はパスしてもいいか?」

「えー……しょうがねぇな。じゃあ、他の奴でも誘うか」

 

友人からの誘いを断り、俺は椅子に座ったまま俯いてる草野の所まで行く。そして目の前まで近付いても顔を上げず、気が付いていない草野に声を掛けた。

 

「なぁ、草野」

「ひゃいっ!?え、ええっと……き、騎之くん……?」

「おう、騎之悠樹だぜ俺は」

 

驚かせてしまったらしく、草野は可愛らしい悲鳴を上げた。それにしても俺の名前を覚えてくれていたのか。俺はちょっと忘れ気味だったのに。

 

「ど……どうしたの?い、いつも一緒にいる友達と組まないの……?」

「そう思ったんだけどな、()()()()()()()()()()()()()()

 

俺はそう言って友人二人と俺は喋った事のないクラスメイトを指差す。あいつらには悪いが、そういう話にさせてもらう。

 

「え……そ、そうなの?」

「ああ。でも他のみんなももう組み終わってるし……俺と組んでもらってもいいか?」

「う、うん!いいよ……!」

 

よし。これで断られたらどうしようかと思ったが、うまく話が進んでくれて助かった。じゃないとこいつ、他の班に入ったら孤立しそうだったしな。

 

「そろそろ決め終わったかなー?えっと……あっ、騎之くんと草野さんの所が二人一組だね。二人共、安芸さんを班に入れても大丈夫?」

「はっ……はい」

「俺もいいですよ」

 

というか安芸をこの班に入れる為に草野と組んだんだからな。大丈夫も何も最初から望んでた事だ。

 

「それじゃあ、今から配る用紙にそれぞれの名前を──────」

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなぁ、ぼっちの草野と休んでる友達の安芸を組ませる為にと」

「マジでお人好し過ぎるだろ、お前」

「あのまま一人にして空いてる班に入れられたら、楽しめるか分からないだろ」

 

放課後、誘いを断ってしまった友人二人に事情を説明したが特に何も言わずに納得してくれた。俺の行動を理解してくれる友人で助かったぜ。

 

「でもそれ、草野に言う気はないんだろ?」

「ああ。言ったら謝ってきそうだしな」

「絶対に言ってくるぞ、ああいう子は」

 

 

(き、騎之くん……ご、ごめんね……それと、ありがとう……!)

 

廊下からドアの窓越しに教室を覗き込み、話を聞いていた優衣は心の中で謝罪とお礼を口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────四年後、都立椿ヶ丘高校(とりつつばきがおかこうこう)にて。

 

「ねみぃ……」

 

昼休みに入った俺は購買で買ってきたパンを食べ終え、机に突っ伏した。昨日、遅くまでアストルムをやってた上にテスト勉強も徹夜でやってたからな……音楽でも聞きながら昼寝でも──────

 

「おい、悠樹!」

「……何だよ。俺、今眠いんだけど」

 

────しようかと思ったら突然声を掛けられた。しかも大声で。俺の昼寝を邪魔してきたのはあの中学一年の遠足以来、優衣と共に親しくなった安芸真琴である。

 

「放課後、すぐ屋上に来い!」

「屋上に?どうしたんだよ、また喧嘩でも売られたか」

「ちげーよ。ちょっと聞きたい事があるんだ。いいか、すぐにだぞ!」

 

そう言って真琴は自分の席へと戻っていってしまった。一体何なんだ?聞きたい事があるならここで聞けばいいのに……おかしな奴だな。

 

「ま、真琴ちゃん……もうちょっと優しく……」

「優衣?真琴がどうしたって?」

「えっ!?う、ううん!な、何でもないよ!?」

 

隣の席で優衣が何か呟いていたような気がしたんだが、気のせいだったのか?

 

「そういえばさ、優衣はレジェンド・オブ・アストルムってゲームやってるか?」

「えっ!?う、うん……」

「実はさ、ちょっと前に優衣と同じ『ユイ』って名前のプレイヤーと出会ったんだよ。いや、こんな偶然もあるんだなっておも……って、あれ?いない……」

 

優衣の奴、一体どこに……トイレにでも行ったのか?まぁ、とりあえず真琴に言われた通り放課後、屋上に行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────……で、ちゃんと来たけど」

「あ、あわわわっ……!?」

「……何で真琴じゃなくて優衣がいるんだ?」

 

放課後、すぐに屋上に来たが真琴はどこにもおらず、代わりに優衣がいた。真琴はどこに行ったのか、どうして優衣がここにいるのか……だがそれを聞いても優衣は顔を赤くし、目をグルグルとさせた状態である。

 

「あーもうっ!めんどくせぇなぁ!」

「うひゃっ!?ま、真琴ちゃん!?」

 

すると屋上のドアを勢いよく開け、真琴が現れた。今までそこに隠れていたのか……いや、何であんな所にいたんだあいつ?

 

「おいっ、悠樹!!」

「お、おう」

 

 

「────この後、あたし達とアストルムやるぞ!」




ゲーム(無印)では主人公、優衣、真琴の最初の関係は知り合い程度でしたが、ここでは友人関係からスタートです!


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草野優衣第1話 Episode2

「まさか本当にアストルムで出会ったユイが現実(リアル)の優衣だとはなぁ」

『ご、ごめん悠樹くん。び、びっくりしちゃったよね……』

「いや、驚きはしたけど謝る程じゃないだろ」

 

放課後、家に帰った俺はアストルムを始めて真琴が言っていた集合場所で偶然にも今、パーティを組んでいるユイと出会った。だがそのユイこそが俺の友達の優衣だったのだ。

その後、一緒にやるはずだった真琴は急用でアストルムに入ってこれず、俺と優衣だけでクエストをする事にしたんだが──────

 

「でもモンスターと戦ってる時にパーティメンバーを置いてログアウトするのは流石に勘弁してくれ」

『う、うぅ……ごめんなさい……』

「まぁ、理由が理由だからな。しょうがない」

 

ユイ、というか多くの女の子が苦手な芋虫のモンスターを討伐する事が今回のクエストの目的だったのだ。そのモンスターと出会った直後、ユイは悲鳴を上げたり俺に抱き着いたりして──────最後には逃げるようにログアウトしてしまったのだ。

 

「そういえばさ」

『ど、どうしたの?』

「アストルムで真琴からメッセージが来ただろ?俺に好きな奴がいるのかって────」

『わー!!わー!!わー!!』

「うおっ……ってぇ!?」

 

携帯から飛び出てきたユイの大声が耳を貫き、驚いた俺は座っていた椅子からバランスを崩して床に転げ落ちてしまった。

 

『えっ!?……あっ、ゆ、悠樹くん!?大丈夫!?』

「いつつ……お、おう……」

 

心配そうに俺を呼ぶ優衣に俺はどうにか返事をする。咄嗟の動きで頭は守ったが、代わりに背中からはジンジンとした痛みが走ってる。

 

『ごめん!私が急に大声なんか出したから……』

「……いや、聞いた俺が悪かった。アストルムでもテンパってたもんな」

 

痛む背中を擦りながら椅子に座る。アストルムで真琴からメッセージが届いた時も、優衣は何でかさっきみたいに慌てていたのだ。

 

『ううん、今のは私が悪かったよ……そ、それであのメッセージがどうしたの?』

「それがな、さっきまた真琴からメッセージが届いたんだ。アストルムでのと関係あるのかなって……ちょっと待っててくれ」

 

俺は優衣との通話をそのままにし、真琴から届いたメッセージを確認する。そしてそれを優衣に聞こえるように口に出した。

 

「『悠樹、優衣との関係は進んだか?』ってメッセージが真琴から────」

『わぁぁぁああああっ!!?』

「きっ……だぁっ!?」

 

同じ流れでまたもや俺は椅子から転げ落ちた。まだ痛かった背中をさらに痛め、携帯から聞こえてくる優衣の言葉にも返事が出来ず俺は床の上で悶絶していた。

 

 

 

 

 

 

──────翌日。

 

 

「お、おはよう、悠樹くん」

「おう、おはよ」

 

教室に入ると既に着いていた優衣から挨拶をされるが、どこか緊張した様子である。もしかして、昨日の事を気にしてるのか?

 

「あの!昨日は本当に────」

「それならもういいって言っただろ?おかしな事を聞いてきた真琴が悪いって事で終わったじゃねぇか」

「それはそうだけど……」

 

アストルムでも現実でも優衣がテンパったり、俺があんな目に遭ったのも真琴が俺におかしな事を聞いてきたせいだ。

 

「ねぇ、悠樹くん……そういえば、あ、あの質問の答えは?」

「あの質問?」

「ほら、真琴ちゃんが聞いてきた……す、す、好きな人がいるのかって……」

 

ああ、あれか。そういえば真琴に返信しようとしたら優衣に止められたんだっけか。にしても何で真琴はそんな事聞いてきたのやら。

 

「別にいないな」

「そ、そうなんだ……!よかった……

「ん?最後、なんて言ったんだ?」

「う、ううん、何も言ってないよ?」

 

優衣が安心しきった顔で何か呟いたが、小さすぎて聞こえなかった。一体なんて言ったのか聞いてみたが、何も言ってないと言われてしまった。俺の気のせいだったのか……?

 

「よぉっ!悠樹、優衣!いやー、昨日はごめんな!急に用事が入っちまって」

「ま、真琴ちゃん!もうっ、昨日は大変だったんだよ!悠樹くんだって──────」

 

いつの間にか入ってきていた真琴から声が掛けられた。優衣が昨日あった事をちょっと怒りながら説明してるが、真琴はニヤニヤしながら聞いてる始末。まったく、一体何が面白いんだか。

 

「おい、真琴。昨日はお前からのメッセージでなぁ──────」



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安芸真琴第1話

今回は前回の優衣とは違い、分けずにこの話で完結です!そして最後にちょっとした謎が……?


「なぁ、騎之。ちょっといいか?」

 

とある日、昼休みを何して過ごそうかと考えていた俺に風邪による休みから復帰した安芸が声を掛けてきた。

 

「何だ?」

「お前、この前……あたしが風邪で休んでた日、遠足の班を決める時に優衣とあたしが組めるようにしてくれたんだってな」

「それは違うぞ?俺も草野も余り組だったからな、自然とそうなっただけさ」

 

……おかしいな。草野には組む理由を誤魔化したし、あいつらにも誰かに言わないよう口止めはしてあるし……どこから話が漏れたんだ?

 

「嘘をつくなよ。優衣が言ってたんだ、お前がわざわざ自分と組んでくれたって。誘いを断った友達に謝ってたってな」

「……なるほどな」

 

たぶん、放課後に教室に残ってあいつらと話していた所を見られたんだろう。それなら帰り道で話をするべきだったな。

 

「その……あ、ありがとな」

「ん?」

「優衣のやつ、結構人見知りでさ。なかなかあたし以外に友達も作れないし。だからあの日、班決めがあるって知ってたのに休んじまったから優衣の事が心配で……」

 

ああ、そういう事か。急にお礼を言われたから何だと思ったが、安芸にとってはその事が感謝する程の出来事だったってわけか。

 

「班の中で一人ぼっちになってたら可哀想だろ?だからだよ」

「お前、知ってたのか?優衣のこと……」

「まぁ、いつも一緒にいるのが安芸しかいなかったしな。気付くのにはそんなに掛からなかったぞ」

 

というかそれよりも、俺はお前の事で驚いた事があったんだが。

 

「それにしても結構優しいんだな、安芸って」

「……はぁ?あ、あたしが優しいだって?」

「だってそうだろ。わざわざお礼を言いに来たり、班決めで優衣がどうなったか心配だったんだろ?十分優しいじゃんか」

 

安芸が男子に対しても怖じ気づかずに強い口調で怒鳴ったりしてる姿を見た事はあるが、こういった一面は初めて知った。たぶんその怒鳴ってたのも、その男子が何か悪い事でもしたんだろ。

 

「そんなわけねぇだろ!あ、あたしが優しいとか!」

「いや、でも……つか何で顔赤くしてるんだ?」

「うるせぇ!まだふざけた事言うならぶん殴るぞ!」

 

いや、殴るな殴るな。拳を振りかぶるなって。言葉と行動が噛み合ってないって──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────四年後。

 

「ふぅ……食った食った」

 

昼ご飯を購買のパンで済まし、学校の屋上に寝転がる。午後の授業まではまだ時間があるし、ここで昼寝をするというのも一つの手だろう。

 

「おい、テメェ……どういうつもりだぁ……?」

「どうもこうも、この子が困ってるって言ってんだよ。二度と近付こうとするんじゃねぇ」

 

ん……?この声、真琴か?あっちの方から聞こえてくるみたいだが、ちょうど壁が邪魔をして見えないな。なんだかヤバそうな感じだし、急いだ方がいいか。

 

「はっ、話し合いなんてガラじゃねぇだろ。俺と話つけてぇなら……拳で語り合おうぜ!」

「お前と語り合う気はねぇが、売られた喧嘩は買う主義なんだ。来いよ、はっ倒してやる!」

 

あいつは……確か三年の不良生徒か。色んな女子生徒に声を掛けて問題になってるって噂がある奴だ。そいつと対峙してる真琴の後ろに隠れてる女子生徒……なるほど、状況は把握できた。

 

「女子が舐めた口聞いてんじゃ──────」

「そこで止めた方がいいんじゃないか?」

 

不良生徒が振りかぶった腕を俺は後ろから掴み、動きを止める。突然の事に驚いた奴が後ろを振り返り、俺を見つけるとギロリと睨んできた。……だから何だよ?

 

「テメェ、何だ?関係ねぇ奴はすっこんでろ!!」

「真琴とは友達なんでな、邪魔して当然だろ」

「えっ……ゆ、悠樹!?何でお前……」

 

不良生徒の背後で真琴も俺がいる事に驚いているが、その理由は後でな。別にただ居合わせただけだから理由も何もないけど。

 

「そもそも男が女に暴力振るうとか、男として恥ずかしくないのか?」

「うるせぇっ!ムカつく野郎だな、テメェは!すっこんでろって言ってんだろ!」

 

不良生徒が俺に向かって腕を振りかぶる。俺を殴ろうとしてる事に気付いた真琴が声を小さく漏らし、止めようとしてくれるが既に遅い。

 

「まぁ、別にいいんだけどな」

「んなっ……!?」

 

正面から迫ってきた拳を俺は片手のみで平然と受け止めた。この事を思ってもいなかったのか、不良生徒は驚き、慌てている。

 

「……で?まだやるんなら、俺も黙ってねぇぞ」

「ちっ……お、覚えてろよぉっ!」

 

手を離してやると、不良生徒は勢いよく駆け出して屋上から出ていってしまう。さっきまで「すっこんでろ」とか「ムカつく野郎」とかって言ってたくせに、ちょっと拳を止めただけで怖じ気づいたか。

 

「大丈夫だったか?」

「あ、ああ……でも何で、お前ここに……」

「偶然だよ、偶然。あっちで飯食って昼寝しようと思ったら、声が聞こえてきたからな」

 

真琴にこの場に現れた理由を説明すると、彼女の後ろに隠れていた女子生徒が顔を少し出して俺を伺ってきた。まぁ、結局は力の差を見せつけて追い払ったんだから怖くてもしょうがないか。

 

「にしても真琴、お前やっぱ……」

「───ち、違うんです!」

 

優しいな、と真琴に言おうとしたが隠れていた女子生徒が突然身を乗り出して遮ってきたもんだから、最後まで言えなかった。

 

「何だ、お前まだいたのか。早く逃げなって言ったのに……もう行けよ」

「私があの人に言い寄られて困ってるのを見て、安芸さんは助けてくださって……だ、だから安芸さんは何も悪くありません!」

「……知ってるよ」

「えっ?」

 

真琴が優しい事はずっと前から知ってるっつーの。

 

 

 

 

 

「あの女子生徒、お前に凄い感謝してたな。名前も知ってたし……知り合いか?」

「別に……前にも助けた事があったってだけだよ」

 

つまりお前は二回もあの女子生徒を助けてるって事か。

 

「やっぱ優しいな、お前は」

「っ……だ、だからあたしは優しくなんか……」

「でも無茶はすんなよ。お前だって女の子なんだし、顔に傷でも付けたらせっかくの可愛い顔が台無しだぞ」

 

誰かを助けるという理由があるとはいえ、傷付いてほしくない為に忠告をしたんだが……当の本人は固まり、顔を赤くしていた。

 

「い、いま、おま、か、かわっ、かわいっ、て……」

「ん?いや、だから可愛い顔が……」

「~~~~っ!に、二回も言うんじゃねぇっ!!」

 

不意打ちにも近い拳を、しかも隣から何故か放たれれば避ける時間も止める余裕もなく、俺は真琴の攻撃をまともにくらう羽目となった。

 

「ぐふっ!?……お、お前なぁ……もっと加減しろって……」

「お、お前が変な事を言うからだろ!あ、あたしを……お、お……おんにゃのこ……とか、か、かわ、いい……とか……」

「小声な上に噛むとか、聞き取りづら過ぎるだろ」

「う、うるせぇっ!しっかり聞いてんじゃねぇよ!」

 

いや、お前が自分で言ったんだろ……。

 

「と、というかお前、よく受け止められたよな」

「何をだ?」

「さっきいたあいつの拳だよ!あたしでも避けるだけで精一杯だってのに……」

「まぁ、これでも鍛えてるしな」

 

あとは……まぁ、経験か。と言っても、これを真琴に言う必要はないだろう。自分の友達までもが自分と似たような事をしてるなんて知ったら、俺を止めてくるかもしれないしな。

 

「そういえばこの前、アストルムで真琴によく似た奴と会ったな。話し方も似てるし、あと優しい所とかも似てる子だったんだ」

「そんな奴と一緒にすんな!……って、あれ?この展開、こないだアストルムでも……なぁ、お前が言ってる子って狼の獣人(ビースト)だったか?」

「ん?ああ、そうだが……もしかして知り合いだったりするか?」

「いや……それはたぶん……あたしだ」

 

……なんだろうか。前に優衣とユイが同一人物だった時も思ったが、アストルムで出会ったプレイヤーは意外にも近場にいるんだろうか。

 

「まぁ、名前がマコトって知った時点で可能性は高いと思ってたけどな」

「あたしもあの時、悠樹に似てるとは思ったけど名前が違うからさ。なぁ、何でお前、ユウキじゃなくてブレイクって名前にしたんだ?」

 

レジェンドオブアストルムのプレイヤー達は基本、自身の名前をそのままアストルムでの名前にしてる奴が多い……はず。少なくとも俺の周りではそうだ。にも関わらず、俺がまったく違う名前を付けてる理由、か。

 

「……笑わないか?」

「何で笑う必要があるんだよ?」

「いいから約束しろ、笑わないって。あと誰にも言うなよ」

「わ、分かったよ」

 

これだけ言っとけば十分だろ。優衣くらいには教えてもいいかもしれないが……どこから話が漏れるか分からないしな。

 

「じゃあ、言うぞ……」

「お、おう!」

「…………からだよ」

「えっと、悪い。もう一回いいか?」

「っ……かっこいいからだよ」

 

俺がアストルムでの名前をブレイクにした理由。それは至極簡単、かっこ良かったからである。ゲームなんてほとんどやってこなかった身としては何にすればいいかなんて分からず、偶然出てきたこの言葉を名前にしたのだ。

 

「か、かっこいいからって……ぷっ、くくっ、あははははっ!」

「おい!笑わないって約束しただろ!?」

「い、いや、だって……ははっ、そんな理由とか、ぷふふっ……思ってもなかったし……」

 

くそっ、やっぱ話すんじゃなかったな。そもそも秘密にしとけばよかったのに、何で教えちゃったんだか。

 

「な、なぁ、悠樹……くくくっ」

「……何だよ」

「笑って悪かったよ。今度、前言ってたモンスターの攻略、手伝ってやるからさ。だから機嫌、戻せって♪」

 

前言ってたモンスター……ああ、あのデタラメな強さのボスモンスターか。どうしてもプリンセスナイトの俺じゃ後方での支援になりがちだからな。味方を強化できるのは凄いが、自分にも使えたらいいんだが。

 

「ああ、分かったよ。そいつで手を打ってやる……ただし、絶対に誰にも教えるんじゃねぇぞ?」

「分かったって、誰にも教えやしねぇよ!」

 

笑うなという約束は破られたが、こちらに関しては大丈夫だろう……たぶん。さて、それじゃあのボスモンスターをどう攻略するか、午後の授業の時間を使って考えるとするか。




真琴第1話、これで終了です!

主人公の名前がユウキではなく、ブレイクなのは作者本人がかっこいいと思ってるからです!なのでゲームのニックネームにブレイクと付けるのは割と多いですね。

そして最後に出てきた謎の一つ、プリンセスナイトの力の使い方が記憶を失う前(ロストメモリー)と失った後(本編)で違うということ。これに関しては本編でいずれ明かされます!


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序章 絆をつなぐものたち
前編


最近始めたゲーム、『プリンセスコネクトRe:Dive』が面白かった為、執筆を始めてみました!一応ストーリーは原作重視ですが、オリジナル要素も組み込んでいきます(特に戦闘に関しては結構変わるかも?)。


────あなたは、夢を見ている────

 

────どこまでも非現実的な、美しく尊い夢を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くそっ……ま■こんな■■残っ■■た■……!』

 

『もうや■■う……?これ■上戦っても、■い事■■て一■も無■よ!』

 

『■■を■える……そ■■なら何■で■戦え■わ!』

 

『レ■さん!!■ヨリちゃん!!』

 

『私■邪魔を■る者■……■して逃が■■いっ!』

 

『世■も■前達も……私■ひざまず■■ぇっ!!』

 

 

 

 

──────────■■■■くんっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……ぅん……?」

 

ここは……どこだ?それにさっきまで目の前まで繰り広げられていた戦い……だったのか?ボンヤリし過ぎていてほとんど覚えていないが、一体何だったんだ……?

 

「────おはよう。よく眠れたかしら?」

 

僅かに目を開き、顔を横へと向ければ少女らしき人物が俺の顔を覗き込んできていた。

頭上には赤い輪が浮かび、大きな花を付けた髪は紫色から下に向かって黄緑色へと変色している。そして何よりも目を引くのは背後に見える翼のようなもの……機械的に見えるが、どこも錆び付いている上に配線らしき物は千切れている。さらに左側の翼は付け根とも言える場所から先が無くなってしまっていた。

 

「眠かったらまだ寝ててもいいわよ?あたしも作業に集中したいし……あんたの相手、してる余裕ないから」

「……あんたは誰だ?それにここは……どこなんだ?」

 

辺りを見渡すが、確認できるのは噴水や生い茂った森……そして中心に見える真ん中から割れたクリスタルのような物体くらいか。あとは遠くに建物らしき物も見えるが、遠い上にまだ意識がハッキリしていないせいか見えづらいな……。

 

「やっぱりね……こっちはあんたの事をよく知ってるのに、初対面みたいな反応をされるとちょっと凹んじゃうわ……」

 

どういう事だ……?俺は彼女と前にも会った事があるのか?……でもいくら思い出そうとしてもそんな事は……というか、そもそも何も……覚えてない……?

 

「あたしは……まぁ、アメスとでも名乗っておくわ。最近は、もっぱらそう呼ばれてるから」

「ならアメス……1ついいか?俺、お前の事だけじゃない……何も覚えてないんだが……」

「それは当然よ。あんたは記憶喪失……記憶のほとんどを失っているんだから」

 

記憶喪失って……何でそんな事になってるんだ?いや、記憶がないんだから考えても仕方ないか……。

 

「アメスは知ってるのか?俺がどうしてこんな事になってるのか……」

「教えてもいいけど……たぶんすぐに忘れちゃうわよ?それにとっても長いからこの()()()で全部は話せないわね」

 

……夢?ああ、だからこんなにもボンヤリとしているのか……。

 

「本当は現実であんたを導きたいんだけど……見ての通り私はボロボロにぶっ壊れててさ。自己修復が終わるまで動けないのよ。だから現実に関われないのよね」

「なら……どうするんだ?」

「大丈夫、あたしの代理としてあんたには『()()()()』を派遣しといたから」

「ガ、『ガイド役』……?」

 

 

 

『や■■起き■!■タシ■妖■のフ■■』

 

『ちっ■■って何よ!ワ■シは■■たをサ■■トする■■切なナビ■■ラよ!?』

 

 

 

「っ……?今のは……」

「どうしたの?まぁ、とにかくあんたの人生、つまり現実における水先案内人ね。詳しい話はそっちに聞いて」

 

今の、アメスには聞こえていなかったみたいだな。誰が喋っていたのか分からないが……何だったんだ?聞き覚えがあるような気がしたんだが……。

 

「……おっと。ごめん、今回はこの辺でお別れしなきゃいけないみたい。もっと、いっぱいお話がしたかったんだけど」

「でもお前の、その……自己修復とやらが終われば、自由に話す事が出来るんだろ?」

「ええ、そうね。まぁ、それまでの辛抱……ってとこかしら」

 

そう言ってアメス笑みを浮かべる。俺と話せる事が嬉しいというのは、その笑顔から容易に考えられるが……記憶を失う前、そんなに俺とアメスは親しい関係だったのか?

 

「じゃあ、またね。あんたの人生が、現実が、幸福なものであるように祈ってるわ」

 

その言葉を最後にアメスの姿は消え、周囲の光景は白く包まれていった。そして俺の意識は段々と薄れていき──────途切れたのだった。




とりあいずゲームと同じく区切りがいいのでこれで終わりです。

主人公の名前は、次話で出てきますよ~。


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中編

──────……風が気持ちいいな。肌触りからして俺は草原にいるんだろうが……この風と暖かい太陽の光が何とも言えない。せっかく目覚めたが、もう少しこのまま寝ていても……。

 

「はじっめ、ちょろちょろ……♪な~か、ぱっぱ……♪あかっご泣いても、蓋とるな~……♪」

 

…………と思っていたが。どこからか聞こえてくる歌に反応し、俺は僅かに目を開いた。声はいいし、どこか癖になりそうだが歌詞の意味がまったく分からん……。

 

「……おや。お目覚めになられたのですね、主さま」

 

顔だけを向けていたアメスとは違い、屈んで間近で俺を覗き込んできていたのは、癖っ毛がある銀色の髪や尖った耳が特徴的な少女だった。声からして今歌っていたのはこの子なんだろうが、俺が『主さま』……?

 

「わたくしは、偉大なるアメスさまによって派遣された『ガイド役』……名前は、コッコロと申します。どうぞ、以後お見知りおきを……♪」

「……なるほどな。あんたがアメスが言ってた『ガイド役』か」

 

名前はコッコロって言うのか。あんまり聞き覚えのない……まぁ、記憶がないんだから当然だが、この子に相応しい可愛らしい名前だな。

 

「……!アメスさまの事を覚えていらっしゃるのですね。アメスさまの宣託では忘れていると聞いていましたが……」

「ああ……みたいだな」

 

俺もアメスからたぶん忘れると言われていたしな。まぁ、絶対にとは言っていないんだ。覚えている事もあるだろう。

 

「……覚えていたら、何か都合が悪いのか?」

「いえ、そんな事はありません。わたくしもアメスさまの宣託を覚えていますしね」

 

つまりコッコロは……俺がさっきの事を覚えていなければ、現時点ではアメスとの会話が唯一できる人物だったという事か。まぁ、アメスも忙しいみたいだし、自由に会話できるのかは分からないが……。

 

「アメスは自分の代理として『ガイド役』を派遣すると言っていたが……具体的には何を?」

「主さまをお守りし、おはようからおやすみまで……揺籠から棺桶まで、誠心誠意お世話をするのがわたくしの役目でございます」

 

おはようからおやすみまではともかく、揺籠から棺桶までって……自分の体を見て分かるが、そんな幼い年齢でもないし、棺桶に入るまでお世話されるのはちょっとな……。

 

「えっと……何かご不満でしたでしょうか……?」

「ああ、いや……何でもない。ただ節度は守るように……な?」

「はい。それは心得ておりますのでご安心を……♪」

 

まぁ、悪い子じゃないみたいだし……その辺は大丈夫か。アメスもそんな奴を差し向けるような感じには見えなかったしな。

 

「……あの、主さま」

「ん?」

「その……不躾ではございますが、主さまのお聞かせ願えますか?アメスから外見的な特徴はお聞きしたんですが、名前を伺っておらず……申し訳ありません」

 

外見的な特徴と言われ、俺は自分の姿を確認してみる。服装は黒いロングコートと簡素なズボンのみ……手足に装備しているのは防具か。腰には何故か鞘があり、剣も納められているが今は抜かなくていいだろう。

 

「俺の名前は──────」

 

 

 

『■■しも一緒■行■て■■かな?ブレイクく■と色■お■し■■たいし!あ■■礼も!』

 

『俺■ブレイク。大分悩■でるみたい■■らな、良け■■相談に■■ぞ?』

 

 

 

「っ……ブレイク……俺の名前は、ブレイクだ」

「ふむ、ブレイクさまと仰られるんですね」

 

そうだ……俺は記憶喪失なんだ。なら自分の名前が分からなくても不思議じゃない。現に今、名前がスッと出てこなかったしな。偶然にも脳裏をよぎった言葉の中にあった名前を口に出してしまったが……前者はともかく、後者は俺の声だった。ならば間違ってはいない……はず。

 

「アメスさまからの宣託によると、主さまは『ほとんどの記憶を失っている』ようなので……わけが分からない状態でしょうけど。わたくしがお導きしますので、どうかご安心を」

 

まぁ……基本的な事は覚えてるみたいだが、ここがどこなのか、記憶を失う前の俺はどんな奴だったのか、何故記憶を失っているのか、どうして剣や防具を身に付けているのか……分からない事が多すぎる。いくつかはコッコロに聞けるが、俺の記憶に関する事は期待できないか。

 

「お腹すいた~……お腹すいた~……」

「はい、心得ております。お昼時ですしね」

 

いや、今のは俺じゃないぞ。確かに腹はすいていないわけではないが……あんな弱々しく声を出す程ではない。強いて言えば小腹がすいた程度か。

 

「わたくし、主さまがお目覚めになられたら、召し上がっていただこうと……わたくし、ご飯を炊いておりましたから」

 

そう言ってコッコロがどこからともなく取り出したのは、四角く黒い何かが貼られた白い物体がたくさん詰められた大きめな箱だった。

 

「……これは?」

「はい、これはおにぎりと言われる食べ物です。ご飯を握った物に具材を入れ、海苔を巻くと出来上がる簡単な食べ物です」

「へぇ……おにぎり、ねぇ……」

 

なんだか懐かしいような、そんな感じがするが……とりあえずせっかくコッコロが作ってくれたんだ。どんな味なのか分からないが、まずは一つ食べて──────

 

「うわぁい、ごは~ん!ありがとうございますありがとうございますっ、お腹がすいて死んじゃいそうだったんです!」

 

茂みの向こうから現れたのは、先程の声の主と思われる少女であった。腰まで伸ばされた橙色の髪や強調するように上半分が見える胸が特徴的であり、頭には銀色の何らかの飾りを付け、右肩には唯一の防具を身に付けている。武器として持っていた剣は近くの地面に突き刺しているが、明らかに俺の剣よりも凄そうなのにあんな扱いでいいのか……?

 

「ご馳走になりますっ、いただきま~すっ☆もぐもぐもぐっ……♪」

 

突然現れ、あろう事かこちらの断りを得ずにおにぎりを次々に食べ始める少女。まぁ、元々この子が発した声を俺と間違えてコッコロが食事を出したんだし……それにこの食べっぷりから見て、本当に腹が減っていたんだろう。なら食べさせてやってもいいか。

 

「……どちら様でしょう?」

 

コッコロが可愛らしくコテンと首を傾げ、少女に尋ねるがおにぎりを食べる事に夢中な彼女には聞こえてすらいない。そして食べ始めてから数分もしない内に、あの量のおにぎりを全て胃袋へと納めてしまった。

 

「ぷはぁっ、ンま~い!生き返るぅ~っ、ご飯は命のエネルギー……☆」

 

口の周りに白い粒を付けた彼女は幸せそうな笑みを浮かべ、満足した……と思いきや、俺が初めに取った今では最後のおにぎりを凝視してくる。

 

「ジ~……」

「……食べるか?」

「いいんですか!?ありがとうございますっ!」

 

いや、そんなに見られていたら食べづらいって……結局俺の口には一度も入らなかったが、今度またコッコロに作ってもらうか。ついでに作り方も教えてもらうか?

 

「あぁ、食べた食べた!いやぁ、助かっちゃいました!見ず知らずの私に美味しいご飯を恵んでくれるなんてっ、良い人達ですね!一生恩に着ますっ、ありがとうございま~す☆」

「いや……恵んだというか、気付けば食べられていたというか……」

 

……まぁ、コッコロは別に恵んだわけじゃないしな。ただ色々と偶然が重なって、彼女はご飯を俺達に恵んでもらったという結果になっただけだ。

 

「あぁっ、主さまの為に用意したおにぎりが一瞬で消え失せましたよ?な、何なんですかあなたは?」

「私は……いや、それよりも。あの子、貴方達のお知り合いですか?」

「あの子……?」

 

彼女の視線を追えば、遠くの方から何やら禍々しい声や地響きらしき音が聞こえてきていた。その中には悲鳴らしき声も混じっている。コッコロと少女の間を通り抜け、見晴らしのいい場所へと出ると異様な光景が目の前に現れた。

 

「きゃああっ、助けて~!魔物がっ、大量の魔物が追いかけてくる~!」

 

走っているのは桃色の髪をした少女だった。先端が花の形をした杖を持ち、白と赤を基調とした服装の彼女は涙目になりつつも()()から逃げていた。

 

「っ!?何だよ、()()は……!」

 

アレは生き物なのか?そう思っても仕方ないはずだ、全身が草の生えた岩で包まれたソレらが動いているなど誰が想像できるだろうか。俺は記憶を失っている為、もしかしたらおかしくないのかもしれないが……。

 

「何だかえらい事になってますね。どなたか存じ上げない方が、魔物の大群に追われています。ど、どうしましょう主さま?」

「いや、んな悠長なこと言ってる場合か!助けなきゃ、あいつ殺されるぞ!?」

 

俺は剣を鞘から抜き、太陽の光によって輝く銀色の刃を持った立派な剣を構える。同時に走り出し────俺はそこでふと不思議に思った。

何故俺は────あんな怪物を見て、こうも立ち向かえる?どうして逃げ出さなかった?あの岩の怪物に恐怖すら抱かないのは……何でなんだ?

 

「ひゃぁっ!?」

 

桃色の少女は石か何かにつまずき、転んでしまう。そこにあの怪物共は巨大な腕を振り上げ迫ってくる。このまま俺が走っていても、あの子を助ける事は────出来ないっ!

 

「やめろっ!!」

 

俺は握っていた剣を怪物の一体に向かって勢いよく投げる。奴に当たり、注意をこちらに向ければ……程度にしか考えていなかったが、剣は偶然にも奴の()へと突き刺さった。

 

「グゴオオォォオオッ!!?」

「っ……おいっ、あんた!こっちに来い!」

「えっ?あ、あの……?」

「いいから早く!そこにいたら潰されるぞ!」

 

目に突き刺さった事により、痛みから暴れる怪物が他の仲間を吹き飛ばしてくれている。だがあれではいずれ奴か、倒された怪物の下敷きになるかのどちらかだ。

 

「は、はいっ……!」

「グウゥゥ……!」

 

桃色の少女は俺の方へと走ってくる。唯一生き残ったあの怪物は剣が目から抜け落ちたせいか、落ち着きを取り戻して大きな唸り声を発している。明らかに、俺に対して敵意が剥き出しである。

 

「あ、主さま!?なんと危険な真似を……!」

「そうですね……でもこれで魔物は一体だけになりましたよ!」

 

辿り着いた少女を俺の背後へと隠し、俺はコッコロと腹ペコだった少女と並び立って奴……魔物と対峙する。

一体だけになったとはいえ、暴れて他の魔物をあっさりと倒した奴だ。油断は決してできない。

 

「主さま、あの魔物はゴーレムという名前です。見ての通り、全身が岩で出来ており……攻守共に優れているのです」

「でもあの顔の部分は柔らかい……と?」

「はい。あの魔物はわたくし達でお相手しますので、主さまはその方をお願いします」

「いや、コッコロ……お前、武器もないのにどうやって──────」

 

戦う気だ?と尋ねようとした瞬間、コッコロの周りを凄まじい風が吹いた。その風は次第にコッコロの前へと集まり、形を成していき──────一本の槍へと姿を変えたのである。

 

「うわぁっ、槍が現れたましたよ!?どんな魔法ですかっ、それ!」

「いえ、魔法というべきか……主さま、これはわたくしの故郷で主さまを守る為に作ってもらった特別な槍でございます。この槍を使いこなす為にわたくし、何年も修行を積んできたのです」

「そうなのか?それは……ありがとな、コッコロ」

 

まぁ、そのお礼は無事に俺の『ガイド役』を果たし終えた時に言えばいいんだけどな。でも俺を守る為にこんな小さな子が何年も頑張ってきたんなら、労いの言葉くらい掛けたくなる。

 

「ええっと、わたくしはまだ主さまに何も出来ておりませんが……でも、その言葉は嬉しいです……♪」

「コッコロちゃん……でしたっけ?魔物が来ますよ!ちゃちゃっと片付けちゃいましょう!」

「はい。主さまの為に……!」

 

コッコロ達はそれぞれ武器を構え、魔物……ゴーレムへと立ち向かっていく。俺も二人の手助けをしたいが、例え剣があったとしても俺は足手まといにしかならないだろう。

 

「だったら俺は俺の出来る事をするだけだ……なぁ、あんた」

「あっ、は、はいっ!?」

「落ち着け、魔物はあの二人が倒してくれる。今は戦いに巻き込まれないようここから離れるぞ」

「そ……そうだね……ご、ごめん……」

 

魔物の恐怖に怯え、震える彼女を今守れるのは俺しかいない。だからこそ俺がしっかりしていなくては────




ちなみに主人公の名前は私が少し前までゲームで使っていた名前です。


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後編

「いっきますよぉ~、全力全開っ!プリンセスストライクッ!!」

 

コッコロ達と魔物の戦いを遠くから眺めていると、あの腹ペコ少女が持つ剣が強く輝いた。そして大きく振るうと剣からは巨大な斬撃がいくつも放たれ、ゴーレムの体を容易く切断したのである。

 

「グゴ……オオ……」

 

ゴーレムはただの岩になったかのように崩れ落ち、近くにいた二人は舞い上がる砂煙から逃れるように飛び退いていった。そしてゴーレムが完全に倒された事を確認し、俺達の元へと戻ってくる。

今の技……あれは一体なんだ?あの腹ペコ少女に何かしらの力があるのか、それとも剣に何か秘密が……?

 

「いやぁ~、食後の運動というのはやはり良いですよね!でもまたお腹すいてきちゃいますよ~……」

「いや、早すぎるだろ……」

 

さっき、大量のおにぎりを食べたばかりだろうに……こいつの腹の中は一体どうなっているんだ?

 

「主さま、お怪我はございませんか?」

「ああ。コッコロも大丈夫か?」

「はい、かすり傷などはございますがその程度です。ご心配には及びません」

 

それならいいんだが……まぁ、ここから見ていてもコッコロがゴーレムの攻撃をまともに受けている様子はなかった。かすり傷というのも本当に大した事がないんだろう。

 

「主さま、それよりもこれを」

「ん?って、俺の剣じゃないか。わざわざ取ってきてくれたのか?それも血まで拭いて……」

「勿論です。ですが主さま、あの方を助けるとはいえ、武器を投げるのはどうかと……主さまの武器はこれしかないのです。ですのでもう少し慎重に行動してください」

「……悪い、今度から気を付ける」

 

おそらくコッコロは怒っているんだろう。頬を膨らませている姿は可愛らしいが、いつまでも眺めているのではなく反省もしないとな。

 

「あ、あのっ!ありがとうございました!お陰で魔物に殺されず、助かりました……」

「いえ、お礼なら主さまに……主さまが駆けつけなければ貴女を助ける事は出来ませんでしたから」

「えっと……ほ、本当にありがとう。貴方が来てくれなかったら、私どうなってたか……その、すっごくかっこよかったよ……♪」

 

まぁ、礼を言われるのは嬉しいが……結局最後はコッコロとあの腹ペコ少女に頼むしかなかった。俺に出来た事と言えば、この子と一緒に逃げる事だけだったしな……。

 

「……そうか。それで何であんたは魔物の大群に追われていたんだ?」

「その子っていうより、私を狙っていたんだと思いますよ。その子はたまたま通りがかって、巻き込んじゃった感じですかね……ごめんなさい、ご迷惑をおかけしました」

「……どういう事だ?」

 

追いかけられていたのが腹ペコ少女なら、なぜ彼女は魔物に狙われていたんだ?魔物一体でもあの強さだ、あのような大群に狙われる事などそうそうない事だと思うが……。

 

「えっとですね……休憩していたら、ゴーレムに突然襲われたんですよ。そのゴーレムは倒したんですが、他の仲間が怒ってしまって……」

「……なるほど。経緯は分かりましたが、あなたは何者なのでしょうか……?まだお名前すら不明なのですけど?」

 

確かに……色々あったせいもあるが、その中で彼女が自分の名前を発した事はない。俺もまだ教えていないものの、コッコロの名前を確認した際にも名乗り出る事はなかったしな。

 

「あっ、私も名乗ってなかったよね。私、ユイって言います。本当に、助けてくれてありがとう……♪」

「あぁ、はい。わたくしは、コッコロと申します。こちらは主さまの……」

「ブレイクだ。よろしくな、ユイ」

 

本来は腹ペコ少女に名前を尋ねていたんだが……まぁ、いずれユイにも聞くつもりだったんだ。それが先になろうと問題はない。

 

「ブレイクくん……でいいかな?」

「ああ、好きなように呼んでいいぞ」

「えっと……その、私達って()()()()()()()事がないかな?」

 

 

 

『あっ!も■か■て■■た、あ■時の────』

 

『私もブレ■ク■んを■■て頑■るよ……!ブレイ■くんの■張り■で無■■した■■いから……!』

 

 

 

「っ……?」

「だ、大丈夫……?も、もしかしてさっき頭をぶつけて……っ!?」

「いや……心配すんな、何でもない。ユイとはこれが初めてだと思うぞ?」

「そ、そうだよね……ごめんね、おかしな質問しちゃって……」

 

……本当に……これが初めてなのか……?アメスと出会う前、見ていたあの戦い……あそこにユイは……?

 

「お~いっ!みんなっ、こっちに来てください!」

「おや、いつの間にあんな所に……」

「……自由な奴だな」

 

一体どうしたんだと思いつつ、俺達は腹ペコ少女の元へと歩いていく。茂みの奥を見ている為、おそらく何かを見つけたんだと思うが……。

 

「何か倒れてる人がいるんですよ~。回復魔法とか使える人、いませんか?」

「なにっ……?」

「私、回復魔法は得意です!倒れてる人……って、えぇっと?」

 

茂みの向こうを覗き込めば、確かに人が倒れていた。高級そうな服装を身に付けた少女であり、近くには先端に本がある杖が落ちている。だが俺達とは違う部分がいくつかある。白い髪が混じった黒髪には動物のような耳が備わっており、腰の辺りからは同じく動物のものと似た尻尾が生えているのだ。

 

「どうしたんだろう、この人……?私と同じように、通りすがりで巻き込まれちゃったとか?」

「いや……それはないだろうな」

 

俺は茂みを乗り越え、少女の状態を確認する。服は綺麗であり、怪我や傷などは一切見当たらない。つまり魔物に襲われてこのようになった、というわけではないようだ。

 

「気絶はしているが、怪我とかはしていない。……ユイ、回復魔法ってのはどんな効果があるんだ?」

「えっ?えっと……体の傷を治す事はもちろんだけど、疲労回復や病気の治療とかにも使われているみたいだけど……」

「そうか……ならとりあえず回復魔法を使ってみてくれ、もしかしたら起きるかもしれないし」

「うっ、うん!」

 

俺の言葉に頷き、ユイは少女に近付いて回復魔法をかけ始める。それにしても……何だろうか?この黒髪の少女の顔、どこかで見覚えがあるような気がする。とても大切な人だったと思うんだが……やはり記憶喪失というのは厄介だな。ほとんどの事を忘れてやがる。

 

「とりあえず治療とか、お任せしますね?まだ魔物がウヨウヨいるので、私蹴散らしちゃいます!みんなは、その気絶してる人を運びつつ避難してください~♪」

「助かるな。そっちは任せるぞ……って、名前をそろそろ教えてくれないか?」

「ええっと……では、お腹ぺこぺこのペコリーヌさま……と仮にお呼びしましょうか」

 

いや、ペコリーヌって……確かにさっきどころか今もお腹をすかせているんだし、ピッタリな名前だとは思うが……勝手に呼び名を付けていいのか?

 

「おやっ、ペコリーヌって私ですか?可愛い渾名を付けられちゃいました~やばいですよね☆それじゃあ、魔物達をかる~く殲滅してきますねっ♪」

 

そう言って辺りを彷徨く魔物をペコリーヌは倒しに向かっていった。先程のゴーレム程の魔物はいないみたいだが、それでも数的に大丈夫なのかと思っていたが……そんな心配はいらなかったらしく、彼女は魔物を次々に葬っていく。あれならばペコリーヌ一人でも大丈夫だろう。

 

「ペコリーヌがせっかく注意を引き付けてくれているんだ、その間に早くこの場から逃げよう」

「そうですね……あの様子だとわたくしが加勢に入っても、邪魔になってしまうかもしれません」

「うぅっ……私も助けられっぱなしじゃ申し訳ないと思ってるんだけど……あの中には飛び込めないよぅ……」

 

コッコロは自分とペコリーヌの実力の差を理解し、自ら身を引いたみたいだが……ユイは違うな。恩返しに一緒に戦おうとする気持ちはあるみたいだが、足がすくんでしまっている。おそらくは、魔物が怖いんだろう。

 

「コッコロ、とにかく安全な場所に行くぞ。この子も気絶してるし、ペコリーヌが戦っているとはいえ囲まれたらまずい」

「安全な場所……ユイさま、この辺りに隠れられる場所などはございませんか?」

「えっ?えーっと……そうだ!ここからならランドソルに近いし、そこに逃げよう!」

 

ランドソル……?一体どこの事を言ってるんだろうと思ったが、ユイが指差す方向には何やら大小様々な物が遠くの方まで立ち並ぶ場所が見える。

 

「あれは……?」

「街……いえ、都市ですか。確かに隠れる場所を探すよりもあそこに逃げ込んだ方が安全ですね」

 

街に都市……どうやらランドソルというのは、あの都市とやらの場所を指す言葉らしい。コッコロにはどのような場所なのか聞きたいが、今はそんな場合ではないだろう。

 

「なら俺がこの子を連れていくからコッコロ、お前は魔物が来たら相手を頼む」

「はい、主さま」

「ユイも戦ってほしい……が、無理はするな。もしも駄目だったらコッコロが傷ついた時に回復をお願いしたい」

「う、うんっ……!」

 

俺は黒髪の少女を背負い、背後で魔物と戦うペコリーヌに行き先を伝えた後に二人と共に走り出した。

それにしてもこの子……見た目とは裏腹に軽いな。コッコロは小さい故に軽いと判断できるが、この子は俺より少し小さいだけだというのに……何故だろうか?

まぁ、それはとりあえず……あのランドソルという都市に着いてから考えるとするか。




とりあいずこれにて序章は終わりです。次回からはしばらくオリジナル回が続く予定です。


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第0章 ランドソルの日常
第1話 黒猫少女の眠り


准尉さん、agrsさん、評価ありがとうございます!


「────とうとう始まったわね、あんたの物語が」

「……アメス?」

 

俺は気付けばあの場所……アメスと出会った広場に立っていた。確か俺は、黒髪の子を背負ってコッコロとユイと一緒にランドソルに向かって……それから確か……?

 

「あんたの物語がバットエンドになるか、ハッピーエンドになるかは……神のみぞが知るわ」

「バットエンドにハッピー……エンド?何だ、それは」

「あー……そっか、あんた記憶ないんだもんね。分かるわけないか……まぁ、良い結末か悪い結末かって事よ」

 

それなら普通にハッピーエンドになってほしいと願うが……それを確かめられる方法は俺にはないしな、自分でそこまで辿り着くしかないだろう。

 

「それで……何で俺はまたここに?」

「覚えてない?まぁ、現実に戻れば思い出すわ。ここは夢だからね……現実と夢が混ざりあって分からなくなってしまう事なんて、度々あるわ」

「なるほどな……」

 

……そうだ、せっかくアメスとまた会えたんだ。気になる事を今の内に彼女に聞いてしまおう。

 

「アメス、いくつか質問してもいいか?」

「いいわよ、時間が許される限りはね」

「あんたは前、ここでのやり取りを俺は忘れると言ってたが……実際には俺は忘れずに覚えていた。これはどうしてなんだ?」

 

一応これに関しては自分でも勝手に解釈していたが、アメス本人にも聞いておこう。もしかしたら何か理由があるのかもしれないしな。

 

「実はね……あたしもその事が気になってるのよ」

「そうなのか?」

「ええ、あたしはここからあんたの事を見てるんだけど……コッコロたんの会話の中であんたが覚えてるって言って、驚いたわ」

 

コッコロたんって……まぁ、いいか。しかしアメスもこの事に関しては予想外だったのか。

 

「色々とあたしなりに考えてみたんだけどね……もしかしたら、()()()()()()()()……かもしれないわね」

「俺だったから……ってどういう意味だよ?」

「今はそんなに深く考えなくてもいいわ。その内、自分自身で分かる時が来るかもしれないからね」

 

なんだか釈然としないが……いずれ分かる時が来るならそれを待つか。今アメスに問いただしても答えてくれそうにないしな。

 

「質問はそれだけかしら?」

「いや、あともう二つ……俺の名前はブレイクで間違っていないよな?」

「ええ、大丈夫よ」

 

コッコロやユイには教えたが、もしも合っていなかったらと不安だったんだよな。何せ出所が不意に脳裏をよぎった会話の中からだからな……。

 

「それじゃ最後に……俺は何をすればいいんだ?」

「何って?」

「そのままだ。俺は記憶を取り戻せばいいのか?それともその他にやるべき事があるのか?」

 

アメスに記憶喪失と伝えられ、『ガイド役』のコッコロと出会い、ペコリーヌやユイとも知り合ったが……ここから俺は一体どうすればいいのか見当もつかない。

 

「それはコッコロたんと決めていいわよ」

「……コッコロと?それでいいのか?」

「大丈夫よ、急がなくても。あんたはいずれ世界の()に関わることになる。だってそうでしょ?」

 

────あんたはこの物語の……主人公なんだから────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……んん……?」

 

ここは……ああ、そうだ。診療所とやらの中にある待合室だっけか。コッコロ達とランドソルに入って、診療所に辿り着いて……黒髪の子を医者に預けたものはいいものの、しばらく誰か残ってほしいと頼まれたんだ。

ペコリーヌの事が心配だから誰か行こうって話になったんだが、戦えない俺は論外でユイも一人で行くのは危ない。ペコリーヌが怪我している場合を考え、コッコロがユイと一緒に行く事になったんだ。コッコロは俺の側を離れる事を迷っていたが俺が頼むと、

 

『……分かりました。主さま、なるべく早く戻ってきます。それまでここで待っていてください』

 

と言って、ペコリーヌの元に向かってくれたんだ。コッコロとしてはその判断は辛かったんだろうが……俺もある程度の事情を知っているコッコロと離れるのは良くないとは分かっていた。だがもしもペコリーヌが魔物に襲われていたら……と考えると、心配で仕方なかったんだ。

 

「おや、君。起きたのかい」

「っ、あ、ああ……あの子はどうだ?目は覚めたのか?」

 

背後から突然声を掛けられ驚いたが、相手がさっきの医者だと分かって安心した。黒髪の子について尋ねたが、良さげな顔をしているという事は少なくとも危険な状態ではないんだろう。

 

「おそらく心身の疲れだろうね……ゆっくり休めばいずれ目覚めるよ。ただしばらくは無理しない方がいいね」

「そうか……」

「ところで君、お金は持ってるかい?」

「……お金?」

 

医者に尋ねられるものの、俺は首を傾げる。お金とは何だろうか?彼女の容体について診てもらうのだから、何かしら求められるだろうなとは思っていたが……。

 

「悪い、そのお金ってのは……」

「ああ、いいよ。お金はさっきまでいた彼女らが持っているんだろう?戻ってくるって言ってたし、その時に払ってもらえればいいよ」

 

俺はお金について聞こうと思ったんだが、勝手に話が進んでしまった。……まぁ、何も知らない俺よりもコッコロに任せた方がいいだろうし、そうさせてもらうか。

 

「なぁ、あの子に会うのは……」

「ん?会うのはいいけど、あまり大きな音は立てないように。それが守れるならいいよ」

 

そう言って医者は奥の部屋を指差し、どこかに行ってしまった。

俺は立ち上がり、あの子がいるであろう部屋に歩いていく途中、何やら薄い板状の前を通った。そこには……俺の今の姿が映っていた。

 

「これが……俺か」

 

服装に関しては自分の目で確認したものの、顔だけは見れなかった為にありがたい。と言っても……特徴的なのは肩まで伸ばされた黒髪が癖っ毛なのか、所々跳ねている位だな。それ以外は……まぁ、ここに来るまですれ違った男と比べれば顔は整っている方か。

 

「入るぞ……」

 

部屋のドアを開け、中に入る。中はそんなに広くなく、あの黒髪の子がベットの上で寝ている事にはすぐに気付けた。足音に気を付けつつ近寄ると、少女は心地良さそうな表情でぐっすりと眠っていた。

 

「すぅ……すぅ……」

「……本当に疲れていたんだな、この子」

 

しかし……何故あの場所で気絶していたんだろうか?魔物に襲われたとなれば納得がいくが、そうではないとなると他に何があるだろうか?

ユイがペコリーヌの所に行く前にこの子が旅人である可能性を出していたが、コッコロに荷物の少なさや服装が綺麗である事からそれはないと言われていたな。

 

「まぁ、この子が起きた時に説明してもらえれば分かる事か」

 

そう思いつつ、俺は改めて彼女の顔を見た。……やはり何か引っかかるんだよな。顔に見覚えはあるんだが、どこで出会ったのかは思い出せない。分かっている事は、前にこの子とどこかで会っている……という曖昧な事だけか。

 

「にしても……可愛い顔してるよな、本当に」

 

コッコロやユイ、ペコリーヌも当然可愛い。ただ彼女ほどまじまじと見ていないからだろうか。やけにこの子が可愛く見えるのだ。

 

「んっ……」

「っと……しまった、いつの間に……」

 

無意識に彼女の頭を撫でてしまっていた。サラサラとした髪は気持ち良かったが、それで起こしてしまったらまずいだろう。少し身動きをした彼女であったが、またすぐに規則正しい寝息が聞こえてきて安心した。

 

「主さま、こちらにおらしたのですね」

「コッコロ……戻ってきたのか。ペコリーヌは……大丈夫だったか?」

「はい、ペコリーヌさまはご無事でした。多少の傷はあったものの、ユイさまに回復魔法をかけてもらい治してもらいましたので、ご安心ください」

 

部屋のドアをわずかに開け、入ってきたコッコロからペコリーヌについて聞き、俺はほっとした。ユイとペコリーヌがこの場にいないが、尋ねてみると二人は俺達に恩返しにと昼ご飯をご馳走してくれるらしい。その為に良さそうな店を探しに行ったらしいが……別に俺達も助けられてるわけだし、いいんだけどな。

 

「主さま、どうされます?この方が心配なのであれば付き添っていても構いませんが……」

「……いや、この子がいつ起きるか分からないしな。それにこのままここにいてもしょうがないだろ?」

 

俺がこの子をただ黙って見守っていても、それは何にもならない。この子の事は心配だが、こんなにも気持ち良く寝ているんだ、しばらくは起きないだろう。

 

「そういえば……さっき、医者にお金を持ってるか聞かれたんだが……お金って何だ?」

「……ふむ。主さまは記憶を失っており、何も分からないのでしたね。それなのに一人置き去りにしてしまい……申し訳ありませんでした」

「いや、行ってほしいって頼んだは俺だし……とりあえず、外に出るか」

 

 

 

 

 

 

 

「主さま、これがお金です。これと引き替えにしてお店などで商品を得たりできるのです。硬貨と紙幣がありまして、通貨単位はルピと呼ばれています」

「……通貨単位?」

「えっと……簡単に申されますと、金額の後にくるものです。こちらで100ルピとなりますね」

 

それからコッコロは取り出したお金の中から紙幣や硬貨を一枚ずつ取り、それぞれが何ルピするのかを教えてくれた。ちなみに目安では1000ルピで一人一回の食事代らしい。

 

「お~い!そこのお二人さ~ん☆」

 

その途中に声を掛けながら走ってくる人物が見えた。あの姿は──────

 

「ああ、ペコリーヌ。さっきはありがとな、おかげで助かった」

「いえいえっ、困った時はお互い様ですから!それでごはん姫、ごはん王子に説明はもうしました?」

 

ごはん姫にごはん王子って……何だそれは?まさかコッコロがペコリーヌという渾名を付けたからと言って、俺達にも渾名を付けたと言うんじゃないだろうな?ごはん王子なんて正直嫌なんだが……。

 

「あの、わたくしはコッコロという名前で、主さまはブレイクさまなのですが……」

「ほぇ?そんな名前でしたっけ……ごめんなさい!私、お腹ぺこぺこ状態の時は物覚えが悪くて!」

「まぁ、俺はまだ名前を言ってなかったからしょうがないけどな」

 

だからと言って、ごはん王子などと呼ぶのはどうかと思うけどな……。

 

「それでペコリーヌさま?お昼ご飯をご馳走してくれると仰ってましたが、一緒にいたユイさまは……?」

「はい!良さそうなお店が見つかったので、ユイちゃんにはそこで待ってもらってます!ですので私達も行きましょう!」

「お、おう……」

 

なんというか、強引というか……相手の話を聞かないタイプだな、ペコリーヌって。まぁ、元気があるのはいい事だし、別にいいか。

 

「それでは主さま。ユイさまを待たせるのも悪いでしょうし、行きましょうか」

「そうだな、ユイにもお礼を言いたいし」

 

そう言って俺達はペコリーヌに案内されながら、ユイが待つ店へと向かうのであった──────




次回は時系列的に『美食殿』第1話を元にした話になりますね。


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第2話 腹ペコ少女のペコリーヌ(美食殿編)

イナズマ号さん、評価ありがとうございます!


「…………」

 

今、俺達はユイやペコリーヌがお昼ご飯を奢ってくれるという事で、案内された店でそれぞれ頼んだ物を食べているんだが……この目の前の光景は一体何だろうか?

 

「もぐもぐもぐっ……すいませ~ん!追加注文してもいいですか?このメニューのここから、ここまで全て大盛りでっ!お願いしま~す☆」

 

既に何回目の注文となるだろうか?注文を聞きにくる人達にも段々と疲れが見えてくる辺り、料理を作っている人達はもっと疲れているだろう。

何せ頼む料理全て大盛りなのだ。しかも運ばれてきて数秒もしない内に料理が消えるという芸当を繰り出し、周囲の客の目を奪っている。どんどん料理が減っていく事に客からは歓声と驚きの声が上がっているが……本当にこれは何なんだ?

 

「凄いですね、本当に……胃に穴でもあいてるんでしょうか……?」

「そ、そうだね……あははっ……」

 

コッコロは冷静さを保っているように見えるが、さっきから料理が減っていない。ユイなんてもはや苦笑いしか出来てないぞ……。

 

「あっ、ちゃんと自分で食べた分のお金は払いますのでご心配なく!もぐもぐっ……これも美味しいですね~☆」

 

まだ食べるのか……と思う俺も一向に食事が進まず、ペコリーヌを見ているだけで腹が一杯になった事は言うまでもない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宿をとる?」

「はい、主さま」

 

昼ご飯を食べ終え、俺はユキとペコリーヌと別れた。まぁ、二人共このランドソルで生活しているって言っていたからな。いずれまた会う事もあるだろう。

 

「主さまの失った記憶を取り戻す為に、ひとまずこのランドソルを拠点にするのはいかがと思いまして」

「……ひとまずって事は、いつかはここを出るのか?」

「それは決めておりませんが……主さまがランドソルを気に入ったのであれば、ここに定住するのも良いかもしれません。わたくしは、主さまの判断に従います」

「そうか……分かった、考えとく」

 

と言ってもランドソルの事はまだ何も分からないからな。とりあいずコッコロの言う通りここでしばらく生活してみて、それから判断しよう。

 

「さて……主さま。宿をとるというお話ですが……」

「ん?ああ、記憶を失ってる俺じゃよく分からないしな。コッコロが決めていいぞ」

「いえ、あの……申し上げにくいのですが……」

 

そう言ってコッコロが取り出したのは口の部分が紐で縛られた袋。確かあれはお金が入っているものだ。俺は計算についてはよく分からないが、入っている量は多かったはずだ。

 

「これは故郷を出立する際に長老から頂戴した路銀なのですが……先程からお店を見ているとランドソルは物価が高いようです。その為、この路銀だけではとる宿によっては数日で底をついてしまうかもしれません」

「……そうなのか?」

「はい……ですから、お金を手に入れる方法が見つかるまではなるべく出費を抑えたいと思いまして……」

 

とりあいず話を整理すると……ここは色んな物が高いって事だよな?だから宿に関してもお金がたくさん掛かる所はとれない、と。

 

「別に構わないぞ?お金の管理についてはコッコロに任せようと思っていたしな。俺に任せたら、何するか分からないだろ?」

「い、いえ、そんな事は……ですがいいのですか?主さまの健康を考え、安宿でも良い宿を探すつもりでしたが……」

「そんな風に考えてくれるから、コッコロに任せておきたいんだ。……それじゃ駄目か?」

 

まだコッコロと出会って一日も経っていないが、この子が俺の為に尽くそうとしている気持ちは十分伝わったしな。それならコッコロの事を信じても大丈夫だと思ったのが理由だ。

 

「……分かりました。わたくし、主さまの期待に応えられるよう頑張らせて頂きます……♪」

 

結果、食事は出ないものの厨房は自由に使って構わず、風呂はないが体を拭く物一式は貸し出してくれる安宿となった。部屋も一人部屋にした事で予想よりも少ない出費となったらしい。

一人部屋にした理由については俺が寝ている時、無防備になってしまう為にコッコロが同じ寝床に入って身辺の警護をする為らしい。この事を宿の亭主に説明した際、なんか引かれていたような気がしたんだが……大丈夫なんだよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうにか宿の確保は出来ましたので、次は腹ごしらえを……と考えましたが、如何しましょう、主さま?」

「そうだな……」

 

宿での手続きに少し手間取ってしまった他、案内された部屋でゆっくりとしていた結果いつの間にか外は少し暗くなってしまっていた。その為、夕食を食べるのが今になってしまったわけだが……。

 

「昼はランドソルの事を知ってるペコリーヌとユイもいたからどうにかなったんだけどな」

「わたくし、都会のシステムには不慣れでございますから……どうしたものか、判断に迷います。これでは、『ガイド役』失格ですね……」

「慣れてないのはしょうがないだろ?それにそれは今から慣れていけばいいだけの話だ」

 

確かに俺にとって頼れる存在であるコッコロに、分からない事があるというのは痛いが……だからと言って全てコッコロに任せるわけにもいかない。俺もこれからランドソルの事について知っていかなければならないんだからな。

 

「主さまはお優しいですね……♪とりあえず、その日の分の糧を手に入られるようにならなくてはなりません。食材を調達して自分で調理するか、どこかで外食をする……という選択肢が考えられますけど」

「今から食材を探しに行くには遅いし、外食でいいと思うんだが……」

 

一体どこの店を選んだ方がいいんだろうか。コッコロ曰く、この辺りは飲食店が並ぶ区域らしいが、それ故に店の数も多い。いい匂いはするし、賑わっている店もいくつかあるがこう多いとな……。

 

「コッコロ、何か食べたい物とかってあるか?」

「いえ、わたくしは主さまが食べたいものなどのご希望がございましたら、そのお店を探してこようかと」

「俺が食べたい物か……」

 

食事をしている人達を見てみると、美味しそうな物は多い。記憶のない俺からすると、どれもが興味を惹かれる物ばかりだ。だから色々な料理が選べる店がいいんだが、どこがいいんだか……と辺りを見渡していると。

 

「……ん?」

「主さま、どうかされましたか?気になるお店でもありましたでしょうか?」

「ああ、いや……あの子、やっぱり昼の子だな」

 

俺の視線の先には診療所で寝ているはずの黒髪の子がいる。何故か先程から建物の影に隠れ、こちらを伺うようにジ~ッの見ているんだが……と、しばらくすると視線に気付いたらしく、こちらに向かってくる。

 

「何よ、あんた。さっきから何見てんのよっ?」

「あぁ、どなたかと思えば……こんばんわ、お加減は如何ですか?」

 

さっきから見ていたのはこの子の方であって、俺はそんなに見ていないんだけどな。それにしても、何故初めからそんな喧嘩腰なんだろうか?

 

「はぁ?何よ、藪から棒に。何者よ、あんた達っ!?」

「……まぁ、気絶してずっと眠っていたんだしな。分からなくてもしょうがないか。昼間、草原で気絶していたあんたを診療所まで運んだって言えば分かるか?」

「診療所の方に名前は伝えたのですが……この方はブレイクさま、わたくしはコッコロと申します」

 

コッコロが名前を伝えると、彼女は俺をキッと睨んできた。……いや、何故そうなる?自分を助けてもらった相手にお礼を言うのは分かるが、睨まれるのは理解しづらい。

 

「一応お礼は言っとくわ、ありがと。でもあんたに言いたいのはそれだけじゃないわ」

「……何だ?」

「っ……何だ、じゃないわよ!あんたがあたしの様子を気にして見に来たり、頭を撫でていたって医者から聞いたけどね!そのせいであいつ、あんたとあたしをこ、ここ、()()って勘違いしてたのよ!!」

 

……マジか。いやいや、恋人ってあの医者……俺とこの子をそんな風に思っていたのか。というか頭を撫でていた所は、一体どこから見ていたんだ?ドアはちゃんと閉まってたし、まさか何か特別な力があの医者には……?

 

「あんた、あたしの話をちゃんと聞いてるのっ!?」

「聞いてるって……その、悪かったな。まさか俺もそう見られているとは思ってもいなかった」

「……ていうか、見ず知らずの人の頭を撫でるとか普通しないでしょ。なに考えてんのよ、あんた……」

 

と言われてもな……頭を撫でていたのは無意識だったし。それにしても……彼女をどこかで見覚えがあると思っていたが、俺の事を見ず知らずの人と言っているという事は勘違いだったんだろうか?

 

「……まぁ、あんたには助けてもらったわけだし、この話はこれで許してあげる。あたしはキャルよ、不思議なご縁だけど、今後ともよろしくね」

「ああ。よろしくな、キャル」

 

もっと色々と怒られるのかと思っていたが、許してくれたようで助かった。記憶喪失である俺としては、見覚えがあるキャルとは良い関係を作りたいと思っていたからな。

 

「それとコッコロ……だっけ?あんたもありがとね」

「いえいえ……困った時はお互い様、というのがアメスさまの教えでございます。キャルさま、元気そうで幸いでございました」

「…………」

 

俺達二人をどこか探るかのように厳しそうな視線を向けてくるキャル。そんな彼女の様子に俺もコッコロも首を不思議そうに傾げる。

 

「……何か?」

「ううん。ごめん、じっと見ちゃって」

 

いや、何もないわけがないだろう。何か気になる事があったんだろうが……声を掛けようにも、「ご大層な連中」だとか「監視」がどうのこうとか、小声で色々言っているせいで掛けづらい。

 

「ん~……まだちょっと体調が優れないみたいで、ボケ~ッとしちゃったわ」

「大丈夫なのか?それなのに出歩いてて……」

「ずっと寝てたら体がなまっちゃうし、外を出歩いてる方が頭がスッキリするのよ」

 

そんなもんなのか?まぁ、それならそれでいいが……しかしこちらを見ていた理由がそれなら、さっきの小声は何だったんだろうか?

 

「そういえばあんた達、なんか困ってたみたいだけど。どうかしたの?」

「えっと……キャルさまはこの辺にはお詳しいでしょうか?わたくし達、今夜の食事をとれる、イイ感じのお店を探しているのでございます。何かお薦めなどございましたら、ご紹介をお願いしたいです」

「あー……なるほどね。世話になっちゃったし、構わないけど……ごめん、あたしも滅多に住み処から出ないからさ。全然、お店とかには詳しくないのよね」

 

今の言葉から察するに、キャルはランドソルに住んでいるんだろう。だが住み処……家から出ない為に詳しくはない、と。だがあの草原で気絶していたという事は、あそこに何か大切な用事があったんだろうか?家の外に出る機会がないのであれば、ランドソルの外に出る事はさらにないだろうからな。

 

「でも適当に賑わってるお店に入れば、外れはないんじゃないの?食事代、良かったら奢るわよ。それで、貸し借りはチャラって事で♪」

「いいのか?別に払ってもらわなくても……」

「いいのよ。借りを作ったままなんて、嫌だからね」

 

まぁ……そこまで言うなら奢ってもらうか。それにコッコロが長老から受け取ったという路銀しか金がない今、節約できる時はしておかないと後が大変になるか。

 

「ならそうさせてもらうか。コッコロもそれでいいか?」

「はい、わたくしは主さまが望むままに……それでキャルさま、賑わっているお店というとあそことかでしょうか」

「えっ?いや、あたしが見てたのはそっちじゃなくて……まぁ、どっちも変わらないからいいけど……」

 

コッコロとキャル、二人が見ていたお店はどっちも賑わっている。ただまぁ、コッコロが向かっているお店の方がここから近いし、キャルも特に問題はないようだからこっちのお店で食事を──────ん?

 

「もぐもぐもぐもぐっ♪……ぷはぁっ、ンま~い♪生き返るぅっ、ごはんは命のエネルギー……☆」

 

…………あの大量に盛られた黄色いご飯や茶色く焼かれている何か等が敷き詰められているテーブル。その反対側から聞き覚えのある声や単語が聞こえてくる。まさかとは思うが、いや、そんな一日にそう何度も────

 

「おやっ?この声は、ペコリーヌさま?」

「ん?私を、ペコリーヌと呼ぶのはもしかして……ちょっと待ってください!目の前の山盛りになった料理を胃袋におさめて、視界を確保しますので!」

 

いや、別に食べなくてもテーブルを迂回すれば済む話なんじゃないか?草原や昼間に見たあの食べっぷりから考えて、単に料理を食べたいからだろう、絶対に……と思っている間に、大半の料理がテーブルから消え去っていた。

 

「もぐもぐもぐっ♪あっ、やっぱりブレイクくんとコッコロちゃんでした!オイッス~☆」

「おいっす……?昼間あれだけ食べられていたのに、もうこんなに食べられるんですか」

「いやぁ、私はすぐにお腹がすいちゃうので!」

 

そうだとしてもこの量はどうかと思うが……昼間にコッコロも言っていたが、ペコリーヌは本当に胃に穴があいてるんじゃ……?

 

……やばっ……

「……って、あぁっ!昼間何故か気絶してた人!」

 

何かキャルが言ったような気がしたが、ペコリーヌが凄まじい勢いで彼女に詰め寄った為に聞きそびれてしまった。まぁ、そんなに気にする事でもないだろうしいいか。

 

「大丈夫だったんですか?元気ですか?貧血ですかっ、ごはんを食べれば解決ですよ!どうぞどうぞ~♪」

「ちょっ、料理の皿を押し付けんなっ!?な、何でこいつこんなにグイグイくるのよ……」

「……まぁ、会って間もないがこういう奴なんだ、ペコリーヌは」

 

おにぎりを勝手に食べ始めたり、いつの間にか離れた場所に行っていたりとペコリーヌは自由過ぎる。まぁ、そのおかげでペコリーヌやキャルと出会い、ユイを助ける事も出来たんだが。

 

「美味しいですよ~?どうぞどうぞ、ブレイクくんやコッコロちゃんも食べてください!」

「いえ、これはペコリーヌさまが……」

「大丈夫です!私、実はこのお店で開催されていたフードバトルの優勝者になったんですよ!それで賞金もらえますし、今回だけ食事代が無料なんです!」

 

……マジか。ペコリーヌの隣にはそこに寝られそうな程に巨大な大皿があるが、そこにフードバトルやらに出てきた料理が乗せられていたんだろう。遠くにこれと同じ皿があるが、ここから見ても尋常じゃない程の料理が乗っている。しかも食いかけなのだから実際はさらに凄かったんだろう。

 

「あ、あの……お客様?食事代が無料なのは貴女様だけですので……」

「あれっ?そうなんですか?」

 

そこに料理を運んでくる店員がペコリーヌに注意する。まぁ、優勝者であるペコリーヌはともかく、後から来た俺達までもが無料になるはずないからな。

 

「なら、ブレイクくん達の食事代は私が賞金から出しますよ!ごはんは誰かと一緒に食べた方が美味しいですからね♪」

「いや、俺達の分はキャルが出してくれるんだ。それで助けてもらった借りを返すって事でな……でも一緒に食べるってのは賛成だな」

「そうですね、渡りに船でございます。ご相伴に与らせていただきましょう。さぁ、キャルさまも一緒に……♪」

 

そういえば……俺とコッコロはペコリーヌと顔見知りである上に食事も共にした事があるからいいが、キャルは初対面だな。ちょっと居づらいかと思ったが、先程の遠慮のないやり取りからしてそれはないか。

 

「あ~……うん。仕方ないわねぇ、毒を食らわば皿までよね?」

「そのとおり☆毒でも皿でも何でも食べて、お腹一杯になりましょう!」

 

いや、流石にそれない。毒や皿を食べでも腹は一杯にならないだろうし、そもそも危険だろう。記憶がないとはいえ、それ位は分かる。

 

「こっちにおいで、私の膝の上でもどこでも座ってください♪早く~お料理が冷めない内に!さぁさぁ、たっぷり召し上がれ!全ての民がお腹一杯ごはんを食べられる国が、私の理想です……☆」

 

そんな国があったら、ペコリーヌは真っ先に行くだろうな。いや、こいつの場合……そこに行っても本当に腹が一杯になるのか?まぁ、とりあいず今は自分の腹を一杯にする事が先決かな……。




次回はオリジナルを含んだ『コッコロ編』第1話になります。
美食家殿以外のキャラクターも早く見たい!という方は、もうしばらくお待ちください!


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第3話 小さなガイド役 コッコロ(コッコロ編)

ちょっと長くなってしまう為、分ける事にしました。今回はオリジナル回です。


「いやぁ、結構食べたな。腹が一杯だ」

 

夜ご飯を食べ終え、俺達は宿へと戻ってきた。キャルとペコリーヌとはお店を出た時点で別れたが、二人共ランドソルに住んでるんだ。またどこかで会えるだろう。

 

「ペコリーヌさまから何度もお裾分けをしてもらいましたからね。夕食には少し多かったかもしれませんが、とても美味しかったです」

「だな、またあのお店に食べに行くか」

 

しかしペコリーヌの奴、俺達と合流してから一体いくつ料理を注文したか……最終的には一番偉そうな人が出てきて、泣きながらこれ以上の注文を止めるようお願いしてきたぞ……。

 

「主さま、これからどうされますか?ここに戻ってくる途中、タオルや桶など体を拭くもの一式を借りてきましたが……」

 

コッコロの手元には桶が一つあり、その中にはタオルが二枚入っている。お湯に関しては必要に応じて汲みに行っていいが、使い過ぎる場合はお金を払ってもらうらしい。

 

「このまま寝るにしても汗臭いからな……コッコロ、着替えとかは持ってるか?」

「いえ……申し訳ありません、主さま。生活用品などについては自分達で手に入れなければいけないのです……」

「あー……そうなのか」

 

なら明日中に色々と買い込まないとな。いつまでも同じ服を着ているわけにはいかないし、コッコロも臭いとかキツいだろうからな。

 

「なら今日はこのまま寝て、明日買いに行くか。コッコロ、亭主からお湯を貰いに行こうぜ」

「……はい。やはり、主さまはお優しいですね……♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

……さて、亭主から貰ったお湯を桶に汲み、部屋に戻ってきたんだが……その桶を真ん中に起き、俺とコッコロは互いに見つめ合うように座っていた。

 

「あの、主さま……?その、体の拭き方などは……」

「……まぁ、覚えてないな。でも大体は想像できるから、出来なくはないぞ」

「……な、ならわたくしが拭いて差し上げましょうか?わたくしは主さまの所有物ですから……そ、その位は……」

「……いや、無理しなくていいからな?俺は記憶がないが、コッコロが何か躊躇っているのは分かるぞ?」

 

顔を真っ赤にし、俯いているコッコロ。彼女が何を恥ずかしがっているのかは分からないが、嫌ならば別に拭いてもらわなくてもいい。コッコロに言った通り、別に出来なくはないんだし。

 

「しかし……えっと、ならその……あ、主さま?」

「ん?」

「その……こ、腰から太ももまでは自分で拭いて頂いてもよろしいでしょうか?それと出来れば、か、隠してもらえると……」

「……?まぁ、いいが」

 

しかし腰から太ももの間か……何故そこだけ自分で拭いてもらいたいのかは分からないが、頼まれている以上断る気もない。

 

「で、では……体をお拭きしますので、上の服を脱いでベットに座ってもらってよろしいでしょうか?」

「ああ、分かった」

 

俺はコッコロにそう言われ、羽織っているコートとその下に着ている服を脱ぎ、ベットに座る。そこでコッコロの視線が俺に向けられている事に気付いた。

 

「どうした?」

「あっ、いえ……その、すみません。うっかり主さまの体に見惚れてしまいました」

 

俺は顔を下に向け、自分の体を見てみる。体は少し細いかもしれないが、筋肉も付くべき所にはちゃんと付いている。しかし見惚れるような所はどこにもないと思うんだが……。

 

「主さま、まずは背中からお拭きいたしますね」

「ん、頼む」

 

お湯に浸したタオルを何度か絞り、コッコロは俺の背中を拭き始める。タオルが温かい他、コッコロの優しい拭き方もあって結構気持ちいい。

 

「主さま、どうですか?」

「気持ちいいぞ。拭き方うまいな、コッコロ」

「ふふっ、ありがとうございます♪」

 

コッコロが背中を上から下へと拭いてくれている中、俺はある事を疑問に思った。アメスはコッコロの事を『ガイド役』と説明し、コッコロ自身も自分をそう呼んでいる。だが俺を主さまと呼んだり、こうやって俺の世話をする事は果たして『ガイド役』の役目なんだろうか?

 

「……なぁ、コッコロ。少し質問してもいいか?」

「はい。何でしょうか、主さま?」

「コッコロは……どうして俺の『ガイド役』になったんだ?」

 

俺がそう尋ねると、コッコロは手を止めた。……もしかして、聞いちゃいけない質問だったか……?

 

「コッコロ、答えたくなかったら別に……」

「あっ……いえ、そうではなくてですね……その、主さまからそのようなご質問をされるとは思っていなかったので……」

 

ああ……答えづらかったのではなく、驚いていただけなのか。それで思わず手が止まってしまったと。

 

「えっと……ですね、少し長くなってしまうんですが」

「いいぞ、拭きながらでも」

「分かりました、では……わたくし、アメスさまから託宣を授かるよりも前から願っていたのです。いつか……運命の主さまと巡り会える事が出来たらな、と」

「どうしてそんな事を?」

 

願いなんてもっと他にもあるだろうに、何故そんなあり得ないかもしれない願いを選んだんだろうか。まぁ、俺と出会っているから、叶ってはいるが。

 

「わたくし、物心がついた頃から自分には仕えるべき主さまがいる……そんな気がしていたんです。そして10歳になった時、故郷のしきたりで、神殿に赴いた際に……」

「アメスに出会ったのか」

「はい、その通りでございます。ただ主さまのように姿は見えず、言葉だけを承っただけですが」

 

コッコロはアメスの姿を見た事がないのか……なら逆に何故俺はアメスを見る事が出来るんだ?それに現実には関われず、夢の中でしか会話できないって、普通に考えればおかしな話だよな。

 

「しかし……主さまはわたくしが理想とし、アメスさまが言っていた通りの主さまでした」

「コッコロの理想の主って、どんな感じなんだ?」

「……?主さまこそがわたくしにとって、理想の主さまですよ?」

 

いや、そうではなく特徴などを聞きたかったんだが……まぁ、理想の主が自分ってのは嬉しいけどさ。

 

「ところで主さま、何故このような質問を?もしもわたくしに至らぬ点がございましたら、どんな罰でも……」

「いや、ただ気になっただけだからな。そこまで気にしなくていいぞ?」

 

そもそも例えコッコロにそのような事があっても、こんな素直で良い子に罰とか与えられるわけないだろ。逆に生意気だったり、イタズラとかするような子なら多少は、な。

 

「それにしてもなるほどな……そういった経緯でコッコロは『ガイド役』になったのか」

「はい。……あの、主さま。その、わたくしがこれから『ガイド役』として主さまを導く事にあたって……不満などありますでしょうか?」

「……まぁ、まだ出会って半日程度だからどうも言えないけどな。少なくともコッコロが俺の事を大事に思ってくれてる事は分かったし……とりあえずよろしくな、コッコロ」

 

そう言い、体を回して後ろを向き、俺は彼女の頭を優しく撫でた。初めは驚いた様子であったが、しばらくすると気持ちいいのかコッコロの表情には笑みが見え始めた。

 

「はい、主さま……♪」

 

そのままされるがままのコッコロを俺はずっと撫でていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は……は……はっくしょんっ!」

「あぁっ、主さま。すみません、このままですと風邪を引かれてしまいますね。手早く終わらせてしまいますので、もうしばらくお待ちください」

 

そういえば……今自分が半裸だって事、すっかり忘れてたな……。




次回こそは『コッコロ編』第1話です。


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第4話 主従→夫婦?(コッコロ編)

ケチャップの伝道師さん、評価ありがとうございます!


ランドソル滞在二日目────俺達は朝食を食べ終え、辺りを散策した後にこれからの生活に必要な物を買う為、それらが売っている区域に向かう事となった。

 

「こちらです、主さま。お足元に気を付けてください。手を引きましょうか?」

「ああ、悪いなコッコロ」

「いえ、ご遠慮なく。『ガイド役』として主さまをお導きする事が私の務めですから♪」

 

少しばかり足場の悪い道を俺はコッコロに手を引かれながら、歩いていく。ランドソルは入り組んだ街である為か、こういった場所もよくあるらしい。こういった道は避け、近道をしたい気分ではあるが……教えてもらった道から外れて迷子になったらまずいからな。

 

「ランドソルはまるで迷路のようですよね。それにこの人混みにも全然慣れません」

「そうは見えないが……昨日来たばかりで既に俺の案内できてるじゃないか」

「『ガイド役』として、それは当然ですから。ただ人がここまで多い道は初めてで……わっとと」

 

大通りへと出て、誰かにぶつからないよう注意しながら進んでいると────突然コッコロがよろめいて俺の方に寄り掛かってきた。どうやら誰かに押されてしまったらしい。少し遠くから謝罪の言葉が聞こえてきたしな。

 

「す、すみません主さま。通行人にぶつかってしまって……」

「まぁ、結構な人がいるからな。大丈夫か?」

「はい、転びそうでしたが主さまのお陰で助かりました。気を引き締めないといけませんね……」

 

まぁ、確かに気を付けてはほしいがそこまでする必要もないと思う。気を張り詰め過ぎても疲れるだけかもしれないしな。

 

「きょろきょろ余所見をしながら歩いてはいけませんね。何もかも物珍しくて、つい……」

 

それは仕方ないだろう。俺も記憶を失った事が理由とはいえ、見る物全てが気になるからな。出来れば近くでじっくり見てみたいが、数が多い為にそれだけで終わってしまう可能性がある。それは今度時間がある時にしよう。

 

「もっと気を抜いたらどうだ?それに何か興味がある物を見つけたら、少し位見てきてもいいぞ?」

「いいえ。主さまをお導きするのが、わたくしの使命ですから。物見遊山をしているわけではありませんし、常に周囲を警戒しつつお供します」

 

どうやらコッコロは自分に甘えず、厳しい性格のようだ。反対に俺には甘いが、それじゃいけないだろ。こんな小さな子に負担ばかり掛けるわけには……。

 

「ふふっ、ですがわたくしを気遣ってくれる主さまのその優しさはとても嬉しいです。ありがとうございます、主さま……♪」

「出来ればその使命から離れて、自分に甘えて欲しいんだが……」

「それでは『ガイド役』は務まりませんから。ともあれ、予定通りここで生活用品を買い揃えて参りましょう」

 

どうやらコッコロと離している間に目的の区域に辿り着いたようだ。ここだと生活用品や食品、衛星品、洋服、その他にも武器や防具など様々な物が売られている事から大勢の人で賑わっているらしい。

 

「ランドソルは物価が高いですし、お手持ちの残金が少々心許ないですが……主さまが欲しいと思った物は、何でも買い与えてさしあげたいです」

「いや、何でもってわけにはいかないだろ。流石に高すぎる物はダメだし、コッコロだって買いたい物とかあるだろ?」

「いえ、わたくしは特にありませんから。主さまが好きな物を買って頂いて構いません」

 

むぅ……コッコロのその気遣いはありがたいが、それでも限度というのがある。俺を自分よりも優先するというのは、説得してもどうにもならないとしても……せめて何でもかんでもそうするのはやめて欲しい。コッコロにもしたい事があれば、俺に構わずやって欲しいんだが……。

 

きゅるるる~……。

 

「あっ……」

「今の音……もしかして、コッコロか?」

「……はい、申し訳ありません。その、お腹が鳴ってしまって……はしたないですね……」

 

だがそろそろ昼ご飯を食べる頃合いだよな。そういえばコッコロは小柄な為か、昨日の夕食も今日の朝食も食べる量は少なめだった。もしかしたらお腹が空いたのもそれが原因かもしれない。

 

「いや、俺も腹は空いてるしな。何か食べてから買い物はするか」

「主さまも空腹なのですか?ふむ……わたくし達が宿泊している宿屋は少し遠いですが、亭主さまが『宿屋ならお金を払えば厨房を使わせてくれる』と仰っていましたし、食材を買って、わたくしが料理しましょう」

 

コッコロ曰く、お店で食べるよりも自分で作った方が安く済むらしい。ランドソルは物価が高い上に俺達の残金はそう多くない。それに金を手に入れる手段をまだ考えていない以上、食事をする際はそれが最も節約できる方法だろう。

 

「それにこの街の飲食店は添加物が多くて……主さまの健康が心配です。ですからわたくしが、きちんと栄養計算などをしたいのです」

「それはありがたいが……いいのか?そこまでしてもらうのは悪い気がするんだが」

「いえ、わたくしが主さまにしてあげたいのです。わたくし、実は本などを読んで料理も勉強中でして……主さまにご満足頂けるよう頑張ります♪」

 

料理を勉強中って……そうだったのか。記憶がない俺にとっては作り方や使う道具も分からないが、いつかはコッコロにも俺が料理を作って食べさせてやりたいな。

 

「────奥さん奥さん!今日は魚が安いよ、寄ってかない?」

 

そんな事を考えつつ歩いていると、不意に横から声を掛けられた。どうやら店を経営している男性がコッコロに声を掛けたみたいだが……当の本人は何故かポカーンとしてしまっている。

 

「はい?えっと……わ、わたくしの事ですか?あの、わたくしは主さまの従者でして……決して、奥さんではございません」

「……?なぁ、コッコロ。奥さんって何の事だ?」

「ふぇっ?えっと、奥さんというのは……その、結婚している旦那さまのお嫁さんのことです。わたくし、主さまの奥さんに見えるのでしょうか」

 

ふむ……他にも色々と分からない単語が出てきたが、とりあいず周りからは俺が旦那、コッコロが奥さんあるいはお嫁さんに見られてるという事か。

 

「主さまが、わたくしの旦那さま……えへへっ♪」

 

コッコロの様子がおかしい。さっきから奥さんと呼ばれたり、俺が周りからはコッコロの旦那に見える事が理由みたいだが……そんなに嬉しいものなのか?

 

「奥さん、この魚は今が旬だよ!今日の晩ご飯にでもどう?旦那さんも大喜びだよ!」

「主さまが、お喜びに?あの、じゃあ、そちらのお魚をいただきます……♪」

「おぉっ、いい買いっぷりだね!それじゃこっちはどう?これは精がつくよっ、奥さん!」

「はい、いただきます。そちらも、買います……♪」

 

なんて思っている間にも、コッコロと店主の間で話がどんどん先に進んでしまっていた。というか、昼ご飯の食材ではなく、晩ご飯の食材を買う話になってしまっているんだが……。

 

「なぁ、コッコロ」

「はぅ……えっと、何ですか主さま?」

「そんなに買って大丈夫か?それに何匹も買っても全部は食べきれないぞ」

 

そもそも一匹が結構な大きさだし……コッコロが少食である以上、俺が食べるしかないが流石に多すぎる。ペコリーヌでもいればすぐに無くなるだろうが。

 

「あっ……そ、そうですね。わたくし、どうかしていました……前に本で読んだ事がございます。こういうお店の方は、女性客には必ず奥さんと呼び掛けるのですよね」

「そうなのか?俺はよく分からないが……凄い嬉しそうだったな」

「も、申し訳ありません。主さまが分かっていないまま、わたくしだけが嬉しくなってしまって……」

 

あたふたと慌てるコッコロだが、別に怒っていないけどな。ただコッコロがあんなにも嬉しがる理由が何なのかは気になるが。

 

「……もしもコッコロが俺の奥さんになったら、もっと嬉しいもんなのか?」

「へっ……い、いえっ、そんな恐れ多いこと出来ません。主さまにはきっと……わたくしよりも素晴らしい人がいるはずです」

 

恐れ多いって……奥さんになる事ってそんな難しいもんなのか?それにコッコロよりも素晴らしい人って言われても、こんな色々と頑張ってくれる子もいないと思うが。

 

「ですが……もしもそれが叶うのであれば、わたくしはとても嬉しいです♪」

「そうか……って、うおっ!?」

「ひゃっ……?」

 

突然俺とコッコロの全身が白く輝き出した。その光は弱まる事なく、今度は俺達の前に何か文字らしき物が現れ始めた。『CONNECT』と書かれているが……。

 

「なんて読むんだ、これ……?」

 

この光が何なのか全く分からない上に文字は読み方も意味も分からない。コッコロに聞こうとするが、その前に光と文字は少しずつ薄れていき、消えてしまった。

 

「な、何だったんだ……?」

「今のはもしかして……アメスさまの託宣にあった……?」

 

どうやらコッコロはアメスから何か聞いてるようだが……詳しくは知らないみたいだな。少なくとも、こういう事がいつか起こるって位か?

 

「奥さん、お待ち!……どうしたんだい、旦那さんと見つめあったりなんかして?」

「な、何でもございません。こちらで大丈夫でしょうか?」

 

……何だ?あの店の人、というかここにいる誰もが今の事が分かっていないみたいだ。もしかして俺とコッコロにしかあの輝きは見えていなかったのか?

 

「うん、ぴったりだよ!お買い上げありがとう、奥さん!」

「はい、ありがとうございます……えへへっ♪」

 

やはり奥さんと呼ばれて嬉しいのかコッコロは笑みを浮かべる。そして両手を魚が入れられた袋へと伸ばすが、コッコロが受け取る前に俺が横から袋を手に取った。

 

「あ、あの、主さま?重いでしょうし、それはわたくしが……」

「だからだよ、これは俺が持つ」

「おぉっ、優しいね旦那さん!」

 

荷物を持った事を褒められるが、小さな子に重い物を持たせるわけにはいかないだろう。コッコロとしては俺に持ってほしくないみたいだが、せめてこの位はさせてほしい。

 

「ですが……」

「なら代わりにさっきの光の事について、後で教えてくれ。何か知ってるんだろ?」

「……はい、と言っても少しばかりですが」

「別にいいさ、知ってる事だけで」

 

それにおそらく……アメスからも夢の中で説明ぐらいはあるだろうしな。




次回はゲームのバトル中に重要となるユニオンバーストのことについて書いていきます。


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第5話 "ユニオンバースト"

必要な生活用品を買い終え、俺達は宿泊している宿へと戻ってきた。そしてコッコロに昼間起こったあの光について尋ねたんだが……。

 

「絆を深めた時に現れる現象……?」

「はい、アメスさまは確かにそう仰っておりました」

 

コッコロ曰く、あの光は彼女と絆を深めた事が原因で起こった現象らしい。と言っても絆を深めたなど言葉だけでは分かるものでもないが……とりあえずアメスの言った事が本当であればそういう事なのだろう。

 

「ちなみに……誰でもなるってわけじゃないんだよな?」

「はい、おそらくは。主さまだからこそ起こせる現象かと」

 

まぁ、俺達以外の奴らは見えてなかったとはいえ、あんなのが頻繁に起こってるとは思えないしな。

……そういえば。

 

「なぁ、コッコロ。あの時、前に現れた文字って何だ?」

「文字……ああ、CONNECTの事でございますね。あれはコネクトと読み、意味としては『繋がる』という事です」

「『繋がる』……」

 

あの光は俺達が絆を深めたという証拠……そして現れた文字、CONNECTは『繋がる』という意味を持つ。つまり俺はコッコロとの絆により彼女と何らかの繋がりを得たという事になるのか?

 

「それで何か変わったりするのか?」

「えっと……申し訳ありません、これ以上はアメスさまからは何も……」

「いや、別にコッコロが謝る必要はないだろ」

 

コッコロがアメスから聞いた内容がこれだけという事は、もしかして──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~い、昨日ぶりね。あんた、早くもコッコロたんと絆を深めたようね」

「……やっぱりな」

 

予想しただけだったが、本当に夢の中にまたアメスが出てきた。それにしても今日の出来事を知っているという事は、何らかの方法でアメスは現実世界を見ているんだろうな。

 

「何よ、やっぱりって」

「コッコロの説明だけであの光の事が終わったとは思えなかったからな。大方、俺に直接言いたい大事な事でもあるんだろ?」

「えらく鋭いわねぇ……ええ、そうよ。あんたには()()()()()()()()の事を知っておいてもらいたいからね」

 

……俺だけの能力?

 

「あんたにはね、女の子と絆を深めて『繋がる(コネクトする)』事で強力な必殺技……"ユニオンバースト"が使える能力があるのよ」

「ユニオン……バースト?」

「まぁ、本来のものとはちょっと違うんだけど……女の子が内に秘めている力を、あんたは自分の力として使えるの。その力こそが"ユニオンバースト"」

 

……なるほどな、それが俺がコッコロに尋ねた質問の答えか。"ユニオンバースト"がどれ程のものなのかは分からないが、魔物と戦う時に使えるかもしれない。

 

「あんたは記憶を失った事で女の子達との繋がりも消えちゃったけど……また絆を深める事ができれば、たくさんの"ユニオンバースト"を使いこなす事が出来るはずよ」

「……何で俺はそんな能力を持ってるんだ?記憶を失う前、俺は何をしていたんだ?」

 

繋がりが消えてしまった、という事は俺は記憶喪失になる前も"ユニオンバースト"を使っていたんだろう。なら何故使う必要があったんだ?

 

「悪いけど、言えないわ。前のあんたの事を教えて、混乱させたくないもの」

「それでもっ……!」

「……お願い、あんたには自分の力で全てを思い出して欲しいのよ」

 

どうやらアメスは何がなんでも記憶喪失以前の俺については教えたくないらしい。流石に……無理矢理というのは嫌だな。

 

「……分かった。そこまで言うならどうにかして自分で思い出してみる」

「ありがとう。それと、本当にごめんね」

「いいんだよ、俺を思っての事みたいだしな」

 

まぁ、出来れば教えて欲しいというのが本音だが。

 

「ああ、そうだ。明日、コッコロたんと一緒に初めての"ユニオンバースト"を試してきたらどうかしら?」

「試すって……どうやればいいんだ?」

「大丈夫、あんたなら教えなくても使えるはずだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……主さま、危なくなったらすぐにランドソルに向かって逃げてください。わたくしとのこの約束は必ず守ってくださいね」

「分かってるって。そんな何度も言わなくても大丈夫だから」

 

次の日────俺達は現在、ランドソルの外にある草原を歩いている。

理由は遡ること数時間前、ランドソルの広場を訪れた俺達は求人情報などが貼り出された掲示板を見つけたのだ。庭の草むしりなどから魔物の討伐や遺跡の調査など幅広く貼り出されていた。

その中に、このような紙が貼ってあったのだ。

 

『ランドソルから北の森にてロックフラワーが大量発生中。この依頼を受け、ロックフラワーの数を減らしてくれた方に報酬金を支払います』

 

ロックフラワーとはコッコロ曰く、小石を飛ばしてくる岩で出来た花の魔物らしい。魔物の中では弱い方みたいだが、戦う術を持たない人にとってはそれなりの脅威になるそうだ。

それはともかく、数を減らせば金を貰える上に"ユニオンバースト"を試せる。これをコッコロに相談した所、初めは渋っていたもののなんとか了承をもらい────今に至るのだ。

 

「どうやらロックフラワーが大量に発生している森はあそこのようです」

「あの森か……」

 

遠くに見える森はここからでもかなり大きい。依頼主から聞いた話によると、ランドソルに来る商人のほとんどはこの森の中を通るとのこと。迂回しても来れるが、それだと結構な時間が掛かってしまうらしい。

だがロックフラワーが大量発生している今の森の中を通るわけにはいかず、迂回している為にランドソルを訪れる商人が瞬く間に減っている……それが今回、この依頼が掲示板に貼り出した理由である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで主さま」

「ん?」

 

森の中を槍を構えるコッコロを先導に歩いていると、彼女は立ち止まって俺に問いかけてきた。

 

「その、"ユニオンバースト"の方は……」

「悪い、まだ何も分からないんだ」

「い、いえ、主さまは悪くありません。……申し訳ありません、不愉快にするような事を聞いてしまって……」

「何とも思ってないから。心配すんな」

 

だがアメスの言う通りであれば、俺は"ユニオンバースト"を使えるはすだ。なのにまだ使い方すら分かっていない。これでは……"ユニオンバースト"を試すどころではないぞ。

 

「っ……主さま、止まってください」

「どうした?」

「────来ます!」

 

コッコロがそう叫んだ瞬間、目の前の茂みから何体かの魔物が飛び出てきた。岩のようにゴツゴツとした体、頭から生えている緑色の葉っぱ……間違いない、ロックフラワーだ。コッコロが教えてくれた特徴とも一致している。

 

「主さま、わたくしの後ろに!」

「お、おうっ!」

 

俺がコッコロの背後に隠れるように移動すると、彼女は槍を巧みに操ってロックフラワー達を吹き飛ばしていった。しかし弱いからといってそれだけで倒せるわけではないらしく、立ち上がって再びこちらに向かってきている。

 

「数は3、4、5……この程度ならわたくしだけでもいけます。主さまは安全な場所に避難を!」

「いや、俺も一緒に!……ん?」

 

コッコロがロックフラワー達と戦っている場所から少し離れた茂みが揺れている。風かと思ったが、どうやら違うらしい。あの飛び出ている葉っぱは────

 

「コッコロ、危ない!」

「えっ?」

 

俺が叫ぶと同時に茂みの中から、1匹のロックフラワーがコッコロに向かって飛び出していった。俺はすぐに走り出すと同時に鞘から剣を抜き、思いっきり振りかぶる。

 

「させるかよっ!」

「シャウッ!?」

 

剣はロックフラワーにうまく直撃し、近くの大木へと叩きつける事に成功した。しかし……体が岩である為に斬ったというよりも、殴ったという感じだな。

 

「主さま……ありがとうございます、助かりました」

「俺も戦う。コッコロ程うまくは戦えないだろうが……邪魔にはならないようにする」

「い、いえ、1人よりも2人の方が心強いです。……ですが主さま、どうしてもと言うのであれば無茶だけはしないでください」

「ああ、分かった……っ」

 

俺とコッコロが並び立つと、ロックフラワーはいつの間にか数を増やしていた。先程までの数では危ないと感じ、仲間を呼んだのか。大量に発生しているだけあって、この森のどこにでもいるんだろうか。

 

「仲間を一瞬で……!」

「これは……油断できないな」

 

辺りを見渡せばロックフラワー達に囲まれてしまっている。仮に……ここから逃げ出しても戦う事を避けては通れないか。

たった2人でこの場を乗り切るには──────

 

 

 

 

 

 

 

『■■に■の加■■与え■■え────"ホ■■ー"!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……!?」

 

今のはもしかして……というか分かる、分かるぞ。コッコロと繋がった(コネクトした)事で使えるようになった"ユニオンバースト"……その全てが。

 

「主さま、ここは危険です!すぐに逃げて────」

「……いや、逃げる必要はない。俺とコッコロだけで全部片付けられるだろうな」

 

俺はそう言い、剣の切っ先を空へと向けた。ロックフラワー達はその行動に困惑しているが、その方が都合がいい。俺は目を閉じ、そしてゆっくりと────口を開いた。

 

「我らに光の加護を与えたまえ────"ホーリー"!」

 

そう叫んだ瞬間、俺の足下には緑色の不思議な紋様が出現した。そこから放たれる暖かな光は俺とコッコロを包み、次第に全身に力がみなぎってくるのが感じられる。

これこそコッコロに秘められた力にして"ユニオンバースト"────その名も"ホーリー"。俺達の力を引き上げ、攻撃の威力や体力などを上げてくれるのだ。

 

「主さま、これは……!体の奥底から力が湧き出てくるような……」

「これならいけるだろ?」

「……はいっ!」

 

俺の問いにコッコロは自信を持って答えた。今の状態ならば俺もコッコロと共に十分に戦えるはず。俺は剣をロックフラワー達へと向け、コッコロに頷いて合図を送り──────奴らの元へと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果だけを言えば、俺達はロックフラワー達の数を減らす事に成功した。つまり依頼を達成し、報酬金を手に入れる事が出来たのだ。"ユニオンバースト"を試す事も出来たが……魔物と戦う際に"ホーリー"は必須だな。倒せたから良かったものの、結構危なかった……。




次回は『キャル編』です!

やっと"ユニオンバースト"の説明回が終わった~。


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第6話 尾行(キャル編)

今回はキャル編第1話です!
ちなみに、キャラクターそれぞれの原作でのストーリー全部を描くわけではありません。いくつかを抜き出していく感じです。


「えっと……主さま、今何と……?」

「いや、だから街を1人で出歩いてきてもいいかって」

 

俺とコッコロがランドソルを訪れてから数日が過ぎたものの、まだ知らない場所は沢山ある。だがいつまでも出掛ける度にコッコロと一緒では、彼女も疲れるだろう。

 

「で、ですが街には他人に暴力を振るうなど悪さをする人もいます。もしも遭遇してしまったら……」

「そんな心配すんなって。この辺りだけなら大丈夫だろ?」

「それは、おそらく……ですが……」

 

どうやらコッコロの中では俺を1人で行かせていいか、止めるべきかで分かれているようだ。この辺りが安全だとは思っているみたいだから、それを信じて行かせてくれないだろうか?

 

「……分かりました。主さまがそこまで仰るのであれば、わたくしは止めません。ですが、なるべく早くに帰って来て頂けるとわたくしとしては安心です」

「ああ、遅くはならないようにする」

 

まぁ、そんな事も言われなくてもそうするつもりだが。暗くなってしまうと視界が悪いし、色んな人が出歩くようになる。コッコロに余計な心配は掛けたくないし、俺も面倒な事には巻き込まれたくないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、今よりも数時間前……つまり今朝の事である。

 

「……まずい」

 

あろうことか──────道に迷ってしまった。コッコロがおらず、道案内をしてくれる人もいない為に気を付けていたんだが……どうやら興味がある物を見ようとあちこち歩いている間に、随分と遠くまで来てしまったらしい。

 

「どうする……?」

 

適当に歩いた所であの宿屋に戻れるとは思えない。ランドソルは俺が思っている以上に広いし、逆にさらに迷ってしまうかもしれない。誰かに話を聞ければいいんだが、あいにく周りには誰も──────

 

「……ん?」

 

今、後ろを振り向いた瞬間に遠くで誰かが隠れたような気がした。もしかしたら俺の気のせいかもしれないが……いや。

 

「どうやら違うみたいだな」

 

隠れたと思われる壁から黒い尻尾のような物が出ていた。あの尻尾……どこかで見覚えがある。確か……そうだ、キャルだ。俺が目覚めた場所で何故か気絶しており、診療所へと運んだ後に夕食を共にした少女────そのキャルが何故ここに、そしてコソコソと隠れているんだろうか?

 

「とりあえず……道案内を頼めないか聞いてみるか」

 

名前も知らない赤の他人に尋ねるよりも、互いを知っているキャルの方が話しかけやすいだろう。まぁ、と言ってもそんなに親しいわけでもないが……。

 

「おい、キャ────」

「ニャ~」

 

名前を呼ぼうとすると、俺の足下をスルリと何かが通っていった。何だろうかと思い、視線を向けてみるとキャルと同じ特徴である耳や尻尾などを生やした小さな生き物であった。

何だ、あれ……?と思っているとそれは見えている尻尾に興味を持ったのか、掴もうと前足を上へと伸ばし始めた。

 

「ん?……ああ、何かと思ったら猫だったのね」

 

振り返ったのか尻尾が壁の後ろへと消え、代わりに出てきたのはやはりキャルであった。俺からもキャルからも互いの事は見えているはずだが、どうやら猫とやらに集中しているせいで俺は見えていないらしい。

 

「かわいいなぁ、あたしの下僕にしてあげよっか……♪」

「ニャウン?」

「ふふっ、冗談よ。あたし、大事な任務の途中なの。お前らと違って野良じゃないからね、ペットだから……ご主人様の役に立たないと、()()()()()()()()()

 

猫の頭や顎下などを撫でながら、キャルはその猫に色々と話しかけている。言葉を理解している……とは思えないが、ペットとかご主人様とか……捨てられるとはどういう事だ?

 

「にゃあにゃあ鳴いてる。えへへっ、かぁわいい……へ っ?」

「おっ?」

 

不意にキャルがこちらへ顔を向け、ようやく俺に気付いた。確かにあの猫という生き物は可愛いと思うが、キャルがあんな顔をするとはな。初めて会話した時の印象から気が強いイメージしかなかったし。

 

「にぎゃあああああああっ!!?」

「ニ゛ャアッ!?」

 

顔を真っ赤にしたキャルは次に大きな悲鳴を上げ、その声に驚いた猫は一目散にどこかへ逃げていってしまった。

 

「あ、ああ、あんたっ!いつからそこにいんのよ!!」

「キャルがさっきの猫に気付いた頃からだが?」

「それって最初っからじゃない……あぁっ、もう!」

 

キャルが俺の襟を掴み、勢いよく自身の方へと引っ張っる。俺とキャルとの顔の距離が一気に縮まり、一瞬心臓が跳ねたような気がした。が、今のが何だったのか考える前に、キャルが口を開き──────

 

「今ここで見た事を誰にも言うんじゃないわよ、言ったら殺すから!」

「分かったから……離してくれないか?」

 

そう言うと、キャルは俺を放り投げるように離した。そんなに見られたのが嫌だったとは……これからは見ていないフリをするよう気を付けるか。

 

「ったく……あんた、こんな所で何してるのよ?」

「何をというか……道に迷っててな。どうしようか考えてたんだ」

「えっ?という事はあんた、迷子なの?だからさっきからずっとウロウロしていたのね……」

 

……何故キャルはその事を知っているんだ?俺は確かに迷子ではあるが、この辺りを行ったり来たりしていた事は一言も言ってないんだが……それにさっき隠れた事も踏まえるともしかして……。

 

「キャル。もしかしてお前、俺の事を尾けていたのか?」

「ふぇっ?な、な、なに言ってるのよあんた?そ、そんな事するわけないじゃない。自意識過剰なんじゃないの?」

「いや、でもだったら何で……」

「あははっ、おかしな事を言わないでよね。殺すわよ~♪」

 

……何だろうか。さっきとは違い、『殺す』の言葉の重みが違う。顔は笑っているんだが、こちらの方が本気に聞こえる。

 

「……そうだな。悪かったな、突然変な事を言い出して」

「うんうん、分かれば良いのよ~♪……ふぅっ、何とか誤魔化せたわね!」

 

これ以上問い詰める気はないが……やはり尾けていたんだな。理由は何だろうか?さっき、会話が通じない猫と話していた位だし、もしかして俺と親しくなりたかったんだろうか?

 

「なぁ、キャルってこの辺りに詳しいか?できれば道案内を頼みたいんだが……」

「そう言われても、あたしもこの街にはあまり詳しくないのよ。まぁ、やれば出来なくもないけど……迷った原因のあんたに指図されるのはムカつくわね」

 

いや、キャルが迷ったのは自分のせいだろう……というかこの街に詳しくないという事は、キャルはランドソルに住んでいるわけではないのか?

 

「一応聞くけど、目的地はどこなの?」

「宿泊している宿屋に戻りたいんだ。この街の広場まで行ければ、その後は大体分かるんだが……」

「ふーん、そう。宿屋に……ん?あっ、という事はこれってチャンスじゃない……!」

 

キャルは何やら俺に背を向け、ブツブツと呟いているが……どうしたんだろうか?チャンスがどうのこうの言っているみたいだが……。

 

「……よし。気が変わったわ、あたしが道案内してあげる」

「いいのか?ありがとうな、これで助かる」

「お礼なんていいのよ~、困った時はお互い様でしょ?」

 

何がキャルの心を変えたのか分からないが、とりあいず宿屋には戻れそうだな。ただ外に出てから大分時間が経っているし、コッコロはかなり心配しているだろうな……。

 

「……ふふっ、このままこいつの寝床を突き止めてその近所にあたしも宿を取れば……朝とか夜にもこいつの監視ができるわ。あたしって、なんて運がいいのかしら♪」

「何か言ったか、キャル?」

「えっ!?う、ううんっ、何も言ってないわよ。さ、さぁ、そうと決まればさっそく向かいましょう!」

 

何故かキャルのテンションが上がっているんだが……どうしたんだ?この短い間に何かいい事でもあったんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、無事宿屋には辿り着いたが、散々心配をかけてしまったコッコロからは説教を受けてしまった。まぁ、何もなかったから許してくれたし、今後も1人で出掛けのは気を付けるよう注意されただけで反対はされずに済んだから良かったが。

……そういえば、窓際からキャルが隣の宿屋から逃げるように出ていくのが見えたが……どうしたんだろうか?




最後のキャルについてはゲームをやっている人なら何があったのか分かります。

コッコロ、キャルとRe:Diveでのメインキャラクターが続いていますが、次に描くのはペコリーヌではありません。
まだ予定ですがペコリーヌの話を出したら、その後に上記3人組でのオリジナル回を出すつもりです。


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第7話 ドジッ娘メイド(スズメ編)

あけましておめでとうございます!ついに平成最後となる2019年に突入しましたね。

今年もこのプリコネの小説、他の小説をよろしくお願いします!


「こっちの区画に来るのは初めてだな」

 

前に街を出歩いて迷子になって以降も、俺はよく街中に1人で出ている。あの時と比べるとランドソルには詳しくなったと思うが、まだまだ行っていない場所は多い。今いる所もそうだしな。

 

「この辺りには何があるんだ?」

 

俺が懐から取り出したのは表紙に『ランドソル観光ガイドブック』と書かれた本である。コッコロがまた迷子にならないようにと買ってきてくれたのだ。ランドソルについて事細かに書かれており、非常に役立っている。

 

「【サレンディア救護院】……?ギルドの1つ?孤児院って、何だ?」

 

この区画にある建物について調べていると、知らない用語が並べられた説明文を見つけた。ここから近くにあるみたいだが……。

 

「ん……ここか」

 

周囲の建物と比べると結構大きく、窓が多い事から部屋はかなりあるらしい。一体どういった建物なのか分かっていないが、部屋が多いからと言って宿屋とは思えない。というよりも……大きな家にも見える。

 

「……?何だ、あれ」

 

建物の横を歩いていると、何やら窓から部屋の中が光っているように見えた。不思議に思い、近付いてみると──────()()()()()()()()()()のである。

 

「っ!!?」

 

全身を襲う風圧に押され、俺は地面を転がっていった。周りに瓦礫が落ちていき、破片が俺にも降りかかったが、それは大した事ない。地面に叩きつけられた方が痛かった……顔に触れてみれば少なからず出血している事が分かる。

しかし……何で突然爆発なんかが?

 

「……ん?」

 

壁に空いた穴の奥────煙のせいでよく見えないが、誰かの影がある。手に何か持っているらしく、凝視して見てみれば何らかの刃物だと分かった。しかも、自分に刃先を向けているではないか。

 

「っ……まさか、あいつ……!?」

 

俺は痛む体を無視して走り出した。穴を飛び越える瞬間に落ちていたレンガを1つ拾い、影の元へと向かっていく。刃物が振り上げられ、勢いをつけていると分かった瞬間に俺の予想は的中した。

理由は分からないが──────自殺をしようとしている。

 

「間に合えっ……!」

 

床を勢いよく蹴り、距離を詰める。腹へと突き刺そうとする刃物と体の間に手を伸ばし、レンガを滑り込ませると──────

 

ガキィィィイインッ!!

 

「ひぃあっ!?」

 

レンガと刃物がうまくぶつかってくれた。自殺をしようとしていた奴が驚き、戸惑っている間に刃物を奪って遠くに投げ捨てる。手が痺れていたせいか、すぐに離してくれて良かった。

 

「ふぅ……」

「え、えっと……どちら様でしょうか?と、当家に何かご用でしょうか?」

 

自殺を止める事に成功した俺が安堵していると、声を掛けられた。自殺をしようとしていた相手──────いや、彼女は俺が今まで見てきた誰とも違う姿をしていた。頭には何か乗っているし、髪の毛は左右で丸まっている。服装も何やらリボンが多かったり、裾がひらひらしたりしているし。

 

「用っていうか……あんた、名前は?」

「えっ?あ、はい。私は【サレンディア救護院】に所属している、スズメと申します。正確にはこの救護院を管理している方にお仕えしている、しがないメイドなんですけど……」

「俺はブレイクだ、よろしくな」

 

なるほど、彼女はスズメと言うのか。メイドと言っていたが、あのような姿をしているのはそれだからか?まぁ、メイドというのが何なのかは知らないが……。

 

「って、ど、どど、どうしたんですかその傷!?」

「ん?あー……さっきそこの壁が爆発しただろ?それに巻き込まれたんだ」

「あ、あぁっ!?す、すみません!()()攻撃魔法が直撃してしまったせいでぇ……!」

 

私の……という事は、あの爆発はスズメが引き起こしたものなのか。しかし……魔法というのは何だろうか?聞き覚えはないし、今度コッコロに聞いてみるか。

 

「壁を吹き飛ばした上に、通行人にまで被害を~っ!?ますます申し訳ないです!私なんか、切腹という誇り高い死に様を選ぶ権利もないっ!」

「切腹って……ああ、さっきのか。なぁ、何であんな事を────」

「こうなったら攻撃魔法で自分の頭を吹き飛ばして、責任をとるしかない……っ!」

 

そう言ってスズメは持っているステッキの先端を自分の顔に向けて……いやいや、ちょっと待て。

 

「なに馬鹿な事してんだ。あの爆発を顔に受けたら本当に吹き飛ぶぞ?」

「いいんですっ!それで責任がとれれば……っ!」

「いや、他にも方法はあると思うんだが」

 

というか……そんな責任のとり方をされても困る。目の前で死ぬ光景を見せられるなど、嫌に決まっているだろう。

それにまだ知り合ってから数分と経っていないが、自殺をしようとしている彼女を放っておくわけにはいかない。

 

「そもそも何で壁なんか爆発させたんだ?故意にやったわけじゃないんだろ?」

「当然です!実は……この救護院のお掃除などは全て私に任されているんです。でもなかなか手が回らなくて……お掃除のスピードを少しでも上げようと、辺りを綺麗にしてくれる魔法を唱えたんですけど……」

「けど?」

「それが本当は『弱い魔物をまとめてお掃除する魔法』でして……『お掃除』という部分だけを覚えていたんです」

 

つまり……壁が吹き飛んだのはスズメの勘違いによる魔法のせいだったのか。それに俺がタイミング悪く巻き込まれてしまって……いや、スズメが自殺しようとしていた事を考えれば良かったと言えるか。

 

「なるほどな……でもそれなら尚更、無責任過ぎるだろ。あんたが死んだら誰がここの後始末をする?それに悲しむ人だってたくさんいるんじゃないか?」

「……確かに、そうですね。よく考えてみれば……(・・)()()に迷惑をかけてしまったら、お嬢様に怒られてしまいます」

「……子供達?」

 

ここに住んでいるのか?とスズメに尋ねようとすると、廊下の方からバタバタと足音が聞こえてきた。おそらく 誰かが爆発の音を聞き付けて走って来たんだろう。

 

「スズメッ!?今、こっちから大きな音がしたんだけどっ……!」

「ア、アヤネちゃん……は、速いよぉ……」

 

ドアを開け、入ってきたのは2人の少女だった。大きな縫いぐるみが先端にある棒を持つ赤髪の少女、それから頭に薄紫色のリボンを付けた茶髪の少女である。

前者が勢いよく入ってきたのに対し、後者はおずおずといった様子で入ってきたな。あれからして、おそらく2人の性格は反対なんだろう。

 

「って、壁に穴があいてる~!?えっ、な、何でっ!?」

「ス、スズメお姉ちゃん……?も、もしかしてぇ……」

「ええっと……はい、また失敗しちゃいました……」

 

『また』って……どういう事だ?もしかしてスズメはこういった失敗は初めてじゃないのか?それならすぐにあの子がスズメを疑った事に理由がつくが……。

 

『おいおい、アヤネ!あそこに見た事ない人がいるぜ?』

「えっ?あっ、本当だ!お兄ちゃん、だぁれ?」

 

……っ!?今の声、どこから聞こえた?縫いぐるみの方から聞こえようたが……あの赤髪の子ではないな。口を開いていなかったし、口調も高さも違っていた。

となると、まさか……?

 

「今の……もしかしてその縫いぐるみか?」

「縫いぐるみなんかじゃないよ……ちゃんとぷうきちって名前があるんだから!」

『まぁ、初対面の人はまず信じないし、アヤネが喋ったと思うからな。まだマシ────って、何であんたは傷だらけなんだ?』

「う、あ……ひ、ひどい……」

 

ぷうきちに指摘され、こちらを見たリボンの子が恐る恐る呟く。まずいな、怖がらせてしまったか……まぁ、傷だらけの人がいれば驚くだろうし、怖くもなるよな。

 

「ごめんな、嫌なもの見せて。怖かっただろ?」

「え、えと……そ、そうじゃなくてぇ……?ひゃうぅ……ご、ごめんなさいぃ……」

 

俺が謝る立場だったのだが、何故か少女に謝られてしまった。そこまで怯えさせてしまうとは……この子には悪い事をしたな。

 

『なぁ、アヤネ。もしかしてあの坊っちゃん、スズメの失敗に巻き込まれたんじゃないか?それで怪我をしたんじゃ……』

「えぇっ!?そうなの、スズメ!?」

「は、はい……だからこれからこの方に手当てをしてあげようと……」

 

確かに手当てをしてもらえると助かるが……それだとこの壁の有り様を放置する事になってしまうんじゃないだろうか。ランドソルの住人からの視線もあるだろうし、もしかしたら泥棒に入られる危険も……。

 

「ならあたし達がお兄ちゃんの手当てするよ!スズメだとまた失敗するかもしれないし」

「いやいや、流石の私でももう失敗はしない……とは思いますけど……」

 

そこは断言しようぜ、スズメ。しかしこのままスズメに手当てを任せるのはちょっと不安だな……できれば信じてあげたいが本人がああだし。

 

「クルミも!これ以上、お兄ちゃんが怪我するのは嫌でしょ?」

「う、うん……わ、私も心配……だから、ダメ……?」

「う~ん……まぁ、私も壁を何とかしたいですし、その方が助かりますけどねぇ……」

「なら決まりっ!お兄ちゃん、手当てしてあげるからこっち来て!」

 

アヤネと呼ばれる少女は俺の手を握って部屋の外へと引っ張る。まだ小さいからそんなに強くないが、無理矢理動かされるというのは傷に響き、体に痛みが走った。

 

「ちょっ、ストップ……」

「アッ、アヤネちゃん!?ら、乱暴な事はしないでくださいよ~っ!?」

「はーいっ!クルミも、ほら早く早く!」

「ま、待ってよぉ……」

 

いや、もうされているんだが……注意が遅いって、スズメ……。




流れ的に分かると思いますが、次回は『アヤネ&クルミ編』です!

ちなみに救護院はランドソルの街中にあります。ゲームのメインストーリーだと、草原っぽい場所に建っていますがそれだとちょっとストーリーが噛み合わないので……。


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第8話 遊びの約束(アヤネ&クルミ編)

久し振りの投稿になってしまい、すみません!やっぱりオリジナルのストーリーを作るのって難しいですね……。

プリコネR、TVアニメ化が決まりましたがどのように放送するんでしょうね?メインストーリーをアニメ化するのか、アニメオリジナルのストーリーにするのか楽しみですね!


アヤネとクルミに案内された部屋で、俺は2人から手当てを受けている。まだ幼い子供だと思っていたが、それにしてはどこか手際がいい。

 

「いつつっ……」

「っ!?ご、ご、ごめ、ごめんなさいぃ……」

「だ、大丈夫。ちょっと薬が染みただけだからな、クルミのせいじゃない」

 

とりあいず傷が酷い頭、防具は付けているがそれでも完全には防げなかった腕を主に手当てしてもらっている。

腕の方を担当しているアヤネは既に包帯を巻く段階まで進んでいるが、頭の方はクルミが慎重に薬を塗っている為、それ程進んでいない。

 

『それにしても坊っちゃんも災難だったなー。スズメのドジに巻き込まれるなんて人、そうそういないんだぜ?』

「そうなのか?」

「うん、そうだよ。スズメ、ドジばっかしちゃってるけどそれで誰かを巻き込むなんて全然聞かないし」

 

それはつまり俺の運が悪かったと言いたいのか?まぁ、その通りなんだが……にしてもあんな爆発を起こすのに巻き込まれる人がいないとか、狙ってやっているわけじゃないのに凄いな。

 

「ねぇ、お兄ちゃんはこの区画に何をしに来たの?」

「まぁ……観光だな。この辺りがどんな所なのか知りたくてな」

「お、お兄ちゃんは……ランドソルの人じゃないんですかぁ……?」

「ああ。少し前に訪れてな、だからまだこの街の事をよく分かっていないんだ」

 

ちなみにコッコロ曰く、記憶喪失の事に関しては追求されない限りは喋らない方がいいとのこと。話を信じてもらえるならともかく疑う人もいる以上、怪しまれる可能性が考えられるからだそうだ。

 

「そうなんだ。でもここには観光できるような所はないよ?この辺りは家とかが沢山あるだけなんだ」

「ん……そうなのか」

 

確かに『ランドソル観光ガイドブック』にもここ以外の事は特に載っていなかったような……あっ。

 

「アヤネ、クルミ。それとぷうきちも、ちょっと聞いていいか?」

「え、えとぉ……な、何ですかぁ……?」

「私達に答えられる質問なら何だって答えるよ!」

『俺も、ちょっとした事だけなら答えられるぜ』

 

腕の手当てを終えたアヤネはそう言って胸を張る。自信満々みたいだし、まぁ、何よりこの建物内にいる以上は少なからず何かしら知っているはずだよな。

 

「この建物────救護院ってのは何なんだ?スズメはここを管理している人のメイドと言っていたが」

『ああ、サレンの嬢ちゃんだな』

「えっと……孤児院みたいな感じかな?親や世話をしてくれる人がいない子供が生活する為の場所なんだ」

 

孤児院……そういえばそんな言葉も書いてあったな。なるほど、そういった子供がここで……ん?という事は、アヤネとクルミには──────

 

「お兄ちゃん……?あ、頭の方も終わりましたけど……」

「あ、ああ……ありがとな、クルミ。アヤネも、助かった」

「えへへっ♪」

 

手当てをしてくれたアヤネとクルミの頭を俺は両手で優しく撫でる。アヤネは嬉しそうに笑い、クルミも嬉しそうではあるが恥ずかしいらしく、モジモジしている。

 

「ねぇ、お兄ちゃん!またサレンディア救護院に来てよ!この街のこと、色々と案内してあげるよ!」

「それは……ありがたいが、ランドソルについては自分で知っていきたいんだ。悪いな、アヤネ」

 

確かに街の住人なら知っている事もたくさんあるだろう。だが自分で歩いてみて、新たな発見を見つけるのも中々楽しいもんだ。そのおかげでスズメやアヤネ、クルミと出会う事も出来たわけだしな。

 

「えぇ~っ」

「アヤネちゃん……お、お兄ちゃんを困らせたら駄目だよぉ……」

「なら、ここに遊びに来るってのは?それならいいでしょ?」

「まぁ、それ位ならな」

 

『遊び』と言ってもどんな遊びがあるのか俺にはさっぱりだが……今度来る時までに調べておいた方がいいかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

「本っっ当にごめんなさいっ!!や、やっぱりこの場で切腹をしてお詫びを────」

「いや、だからやめろって」

 

手当てを終え、アヤネ達と少しの間喋った後────そろそろ帰ろうと玄関まで案内してもらうと、駆け付けたスズメが再び頭を下げてきた。確かに俺は怪我を負ったがスズメに悪気はなかったし、手当てもしてもらった。

他の人はどうだか分からないが、ずっと謝り続けているスズメを怒るのも可哀想だしな。

 

「ならスズメ、今度来てくれた時に何かご馳走してあげるってのはどう?」

「ふぇっ?今度……とは?」

『アヤネ達、さっきこの坊っちゃんと遊ぶ約束をしたんだよ』

「そ、そうなんですか?」

 

ぷうきちから話を聞いたスズメは目を丸くして俺に尋ねてくる。まぁ、自分の失敗に巻き込んだ上に怪我をさせてしまった人がまたここに来るとは思っていなかったんだろう。

 

「ああ、いつかは決まっていないけどな」

「それは、その……私もお嬢様もなかなか子供達と遊んであげられないのでありがたいんですが……い、いいんですか?」

「断る理由がないからな」

 

それも理由の1つだが、ランドソルで知り合った人達はまだまだ指で数えられる程度だからだ。『気軽に喋れる人が多いのはいいこと』、とコッコロも言っていたしな。

 

「……分かりました!それなら今度来た時には私がお料理を振る舞ってあげますね!」

「わ、私も……お、お手伝い、してもぉ……?」

「はい、いいですよ♪クルミちゃんは私よりも料理が得意ですからね、きっと美味しく作れるはずです!」

 

へぇ、そうなのか。スズメやクルミの料理の腕がどの位なのかは知らないが、楽しみにしていていいだろう。

 

「それじゃまた来る時は伝えるから。またな、スズメ。アヤネとクルミ、ぷうきちも」

「はいっ!お待ちしていますね!」

「ばいば~い、お兄ちゃんっ!」

「ば、ばいばい……」

『じゃあな、坊っちゃん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ああ、主さま!?そ、その怪我はどうされたんですかっ!?何をやったんですか!?」

「あー……えっとな、これは……」

「と、とと、とにかく早く診療所に!あぁ、どうしてこのような事に……っ!?」

 

その後──────宿屋に着いてからコッコロに怪我の事を驚かれたのは言うまでもない……。




当初はサレンも名前は明かさずに登場させるつもりでしたが、一度に登場するキャラが多くなってしまう為、やめました。
とりあいず『サレンディア救護院』の面々とは出会ったので自分の中では良しとしています。


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第9話 幽霊少女(ミヤコ編)

ω0さん、クルスニクさん、アレサ@ACさん、テンカスさん、とととさん、沙耶さん、遅くなってしまいましたが評価ありがとうございます!


「まいどありがとうございました~」

 

チリンチリンという鈴の音と共に俺は店のドアをくぐって外へと出た。

今いたのはガイドブックに載っていた人気のお菓子屋である。この前、心配をかけてしまったコッコロにお詫びとして人気の理由であるプリンとやらを買う事にしたのだ。ただ俺もプリンの味は気になる為、つい自分の分も買ってしまったが……コッコロなら許してくれるだろう。

 

「プリン~、プリンが食べたいの~……」

「ん?……何だ、あの子」

 

しばらく歩いていると、目の前をフヨフヨと()()()()()()()少女が視界に入った。水色の長い髪や長さが合わずに手が見えない袖、銀色の杖など特徴は色々とあるが、それよりも宙にいるというのが問題である。

何故あんな所に……今まで飛んでいる人なんて見た事がないぞ……。

 

「すんすん、すんすん……んん、プリンの匂いがするの~♪どこにあるの~?」

 

プリンの匂い?まさか俺が買ったプリンじゃないよな……と、願っていたがその子の視線が俺の持つ袋を捉え、笑顔になった事で素通りするのは無理だなと諦めた。

 

「こいつが持っている袋の中なの~!よーし、こ~っそり抜き取っちゃうの……」

 

そう言って静かに手を伸ばしてくる少女であるが、正面から堂々と盗もうとしていて気付かない人がいるわけないだろう。

もう少しで手が届きそうだった袋を後ろに隠してプリンを守ると、少女は驚いた表情をしていた。いやいや、気付かれないとでも思っていたのか……?

 

「あ、あれ!?もしかして、ミヤコが見えてるの?今は姿を消してるはずなの~?」

「姿を……消してる?」

 

……宙を飛ぶどころか、さらには彼女からしてみれば姿が見えていないはずだった……。ひょっとしてこれもスズメが言っていた魔法とやらなのか?やっぱり、コッコロにすぐ聞いておくべきだったな。

 

「むむむぅ~……?あっ、もしかするとレイカンっていうのが強い人かもなの~」

「1人で納得している所悪いが……誰なんだ?何で俺の持っているプリンを狙ったんだ?」

「ん?プリンはミヤコの大好物なの~♪だから、プリンをよこすの~!」

 

……いや、よこせって。明らかに犯罪だろ、それ。コッコロもよく言っているな、売っている物や他人の物を盗む人は泥棒という悪い人ですって。

 

「だめだ。食べたいなら自分で買ってきたらどうだ?すぐそこに売っているぞ」

「ミヤコはお金を持っていないの~……プリン、買えないの~……」

 

お金がない?……俺もコッコロも宿屋暮らしでそんな裕福な生活はしていないが、それでも幾らかはお金を持っている。……大好きなプリンを買いたくても買えないこの子には、プリンを恵んであげるべきなんじゃないか?

 

「なぁ、ミヤコ。このプリン──────」

「それにお金があっても、プリン買えないの!ミヤコ、いつもプリンを盗み食いしてるからお店の人達に目をつけられてるの~!」

「…………」

 

言葉を遮ってくれてありがとな、ミヤコ。お金がないからと言って、盗み食いするような犯罪者にプリンを恵んでやる気はない。これでミヤコが見た目からして貧しそうなら渡していたかもしれないが、そんな事はなくとても綺麗である。

 

「だから早くプリンをよこすの~!プーリーン!プーリーン!プーリーンー!!」

「はぁ……」

 

これじゃ話にならないな。つってもプリンを抜き取ろうとしたり、何の対価もなく渡せと言っている時点で話が通じる相手ではないと分かっていたが。

 

「しょうがないな……」

「あっ、プリンをくれ──────」

 

とりあえず、逃げるか。

 

「えっ?……あっ、逃げたのー!待つのー!プリンをミヤコによこすのー!」

「やっぱり追いかけてくるか……」

 

俺の後ろをミヤコは飛びながら追いかけてきている。速さは走っている俺とそう変わらないが……このままでは体力が尽きて、いずれ捕まるだろう。その前にあいつから逃げ切らないと……よし。

 

「逃がさないのー!プリンはミヤコのものなのー!」

 

見つけた角を曲がった俺の後を追って、ミヤコも当然曲がってくるだろう。だがその前に先の角を曲がってしまえばミヤコの視界から俺の姿は消える。仮に見えてしまっていても、曲がり続けていればいずれは逃げ切れるはずだ。

幸いにもこの辺りの道は既に覚えている。曲がり角が多い為、迷子になりやすいが分かっていれば何の問題もない。そして今ならそれが好都合だ。

 

「まーつーのー!」

「ここで振り切ってやる……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……やっと……ハァ、ハァ……撒いた、か……」

 

ミヤコとのしつこい追いかけっこはようやく終わりを告げたようだ。さっきまで遠くから聞こえてきていた声も今ではまったくしない。

……まさかプリンという食べ物1つを巡ってここまで疲れる事になるとはな。

 

「でもまぁ……とりあえずこれで──────」

「スー……あっ、やっと見つけたの~」

「んなぁっ!?」

 

背後にある分厚い壁を何故かすり抜けてきたミヤコの一言に、俺は驚いて変な声を上げてしまった。

当然だ、やっと落ち着けたかと思ったらミヤコの顔が突然横に現れたんだからな。

 

「お、お前っ、今壁を……!?」

「んん?ミヤコは幽霊だから、壁をすり抜ける事なんて飛んだり姿を消したりする事と同じくらい簡単なの~」

 

幽霊……そういえば、暇な時にコッコロと文字の勉強をしていた際にそんな言葉を聞いたな。確か死んだ人が成仏という事が出来ずにこの世に留まってるだとか……?

 

「さぁ、早くプリンをよこすの!プーリーン!プーリーン!」

「……はぁ。分かったよ、お前のしつこさには負けた」

 

俺は2つあるプリンの内、1つをスプーンと共にミヤコに差し出した。俺の分も買っておいて良かったな、とりあえずコッコロの分は問題なく持って帰れそうだ。

 

「わ~い!プリンなの~!いただきますなの~!」

 

俺からプリンを受け取ったミヤコは笑顔でプリンを頬張っていく。もぐもぐ、もぐもぐと食べ進めていき……気付けばプリンの容器は空になってしまっていた。

 

「ふぅ、ごちそうさまなの~。プリン、美味しかったの~♪」

「人気のお菓子屋が作ったプリンだからな、他のよりも美味いんじゃないか?」

 

俺の口には一度も入っていないからな、他のプリンとの違いなんて分からないし。

 

「私はミヤコなの~。お前はなんていうの?」

「俺はブレイクだ」

「ならブレイク、プリンありがとうなの~。……んん?まだその袋の中からプリンの匂いがするの!」

 

そう言ってミヤコは俺が持つ袋を物欲しそうに見つめてくる。さらには「じゅるり……」と、口の端から涎を垂らしており、既に食べる気満々である。

 

「……これはダメだ、俺の分じゃないからな。それに今のでもう十分だろ?」

「プリン1個じゃ足りないの!もっとあるならよこすの~!」

 

そう言ってミヤコがプリンを奪おうと、俺に向かって襲いかかってきた。だがコッコロに渡すプリンまで食べさせる気はないからな、とっとと撒いてしまおう。

 

「またなっ、ミヤコ!」

「逃がさないの~、ブレイクはプリンをくれる人だからもっとよこすの~!」

 

……いや、俺=プリンをくれる人という認識はやめてほしいんだが。さっきのはミヤコがしつこかったから、だからな?必ずしもあげるわけじゃないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにその後、プリンはミヤコから無事守り切って、コッコロに渡す事が出来た。正直言って、あのしつこさから逃げ切ったのは結構凄いと思う。




スズメ編でも出ている魔法の話についてはもう1話挟んでからその他諸々と一緒に説明していく予定です。


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第10話 たい焼き屋の美少女だにゃ!(コッコロ&タマキ編)

「このお店で買い物はおしまいです、主さま」

「それじゃ宿屋に戻るか」

 

俺は両手に袋を1つずつ、コッコロは両手で袋を1つ持って店を出る。俺達は現在、日用品などの買い出しに出掛けているのだ。ランドソルで住むようになってから数週間が経ち、足りない物などがいくつか出てきたからだ。

 

「コッコロ、重かったらそっちも持つぞ?」

「いえ、これ以上主さまに持ってもらうわけには……それに、主さまのおかげでとても助かっていますし」

 

俺達が持つお金を管理しているのはコッコロだ。俺も小遣いとして幾らかは持っているが、今回のように多めに買う場合はコッコロが直接出向いて自ら出すと決めている。

故にコッコロは俺がついてくる必要はないと言っているが、重い荷物をコッコロだけに持たせるわけにはいかないだろう。

 

「しかし……主さま、わたくしの買い物の時にいつも荷物を持ってもらうのは……」

「日用品って事は俺も使う事になるだろ?なら俺もその荷物を持つのは当然だろ」

「主さま……ふふっ、主さまは本当にお優しいですね……♪」

 

そうか?単にコッコロだけに負担を負わせるのが嫌なだけなんだが……コッコロが喜んでくれているならいいか。

 

「そういえば……主さま、お腹は空いていませんか?そろそろ3時になりますが」

「ん?ああ……まぁ、小腹が空いた程度は」

「でしたらわたくし、この辺りに美味しくて、おやつにぴったりな屋台がある事を最近知ったのです」

 

へぇ……俺はまだこの辺はそんなに歩いていないから知らないが、そんな屋台があるのか。

 

「そのお店で休憩していくのはいかがでしょうか、主さま」

「コッコロがそれでいいなら。俺もその屋台の事は気になるし」

 

記憶喪失である為に俺は食べ物に関する記憶もない。故に見た事や食べた事がない食べ物は出来る限りどんどん知っていきたいのだ。

 

「ならばさっそく行きましょう、主さま。はぐれないよう気を付け──────ひゃっ!?」

「っと」

 

背後から通行人に押されたらしく、コッコロは前のめりになって倒れそうだった。手を出して体を支えるという方法を考えたが、現在両手は塞がってしまっており、それは出来ない。

故に自分の腕の中に収める形で抱き止め、成功した結果コッコロはすっぽりと収まっていた。

 

「大丈夫か、コッコロ?」

「……っ!あ、あの、主さま、これは────」

「ん?」

「そ、その……た、大変お恥ずかしいのでそろそろ離していただけると……」

「わ、悪い。……って、本当に大丈夫か?顔が赤いぞ」

 

俺から離れるコッコロの顔は真っ赤に染まっていた。まるで湯気が出そうな程だが、何がコッコロをここまでさせたのかが分からない。

 

「は、はい……ありがとうございました、主さま」

「それならいいんだが」

 

恥ずかしいと言ってたし……それが理由だろうか。確かにこの大通りでは人も多いし、何やらこっちを見ながらヒソヒソと話している人達もいる。コッコロを助けたとはいえ、まずかったかもしれないな。

 

「……コッコロ、とっととここから離れるぞ」

「えっ?は、はい、主さま」

 

何やら周りからの視線が気になるからか、どうにもいづらい。とりあえずコッコロが言っていた屋台に行ってしまおう。そうすればこの視線も気にならなくなるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────主さま、あの屋台です」

 

しばらく歩くと、この地区にある噴水広場へと辿り着いた。コッコロが指差すのは噴水の近くにある────何故か周囲や屋根の上に猫がいる屋台であった。

 

「……猫?」

「はい。ここの店員は猫がお好きなようで、色々な猫から懐かれているみたいです」

 

そういえばキャルも猫が好きだよな、と思いつつ屋台の中を覗いてみると店員らしき人物を見つけた。だが俺の知るどの店員とも違う点がいくつかある。1つはキャルと似たような猫の耳が生えていること、2つ目は魚のような絵が描かれた帽子を被っていること、そして3つ目は──────()()であること。

 

「あっ、いらっしゃいにゃ!焼きたてのたい焼きはいかがにゃ?」

「……たい焼き?その魚みたいなやつか?」

「んにゃ?もしかして……たい焼きを知らないのかにゃ!?」

 

屋台から乗り出して俺に尋ねてくる少女。何だ、たい焼きを知らないというのはそんな驚く程なのか?

 

「えっと……どんなものなんだ?」

「にゃふふ……なら教えてやるにゃ!たい焼きというのは、この世で一番美味しい食べ物にゃ!」

「一番美味しい……」

 

それが本当なら是非とも食べてみたい。まぁ、仮に違っていたとしても見た目からして美味そうだし、食べて損はないだろう。

 

「そうにゃ!そっちの子と合わせてお二ついかがにゃ?」

「ああ、たい焼きを二つ頼む」

「まいどありにゃ!ちょっと待っててにゃ!」

 

少女は既に出来上がっているたい焼きを袋の中へと詰めていく。その間に俺はコッコロからお金を受け取り、たい焼きを貰うと同時に丁度ぴったりの金額を渡した。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……うん、ぴったりにゃ!熱いから気を付けて食べてにゃ!」

 

少女に言われた通り、確かに熱い。落とさないよう気を付けつつ、コッコロにも一つ渡して近くにあるベンチへと俺達は座った。

 

「近くで見ると本当に魚そっくりだな」

「はい、わたくしも初めて見た時は魚を焼いたものかと思っていました。ですが実際に食べてみると、まったく違う物で驚いてしまいました」

「へぇ……そいつは楽しみだな」

 

たい焼きがどんな味なのか期待しつつ、俺はたい焼きを頭の方から一口食べてみた。

 

「ん!これは……」

 

柔らかい生地の食感も良いが、中に詰まっているこの黒いやつも甘くて美味い。これは一体何なんだろうか?

 

「コッコロ、この中のやつは────」

「それはあんこにゃ。小豆を甘く煮て作った物だにゃ」

 

コッコロにたい焼きの中身の物について尋ねようとすると、先程の少女がこちらに近付きつつ代わりに説明をしてくれた。

 

「あんた、さっきの……」

「あたしはタマキって言うにゃ。あのたい焼き屋でアルバイトをしてるんだにゃ」

「あの、タマキ様。屋台の方は……?」

「あたしは休憩中だにゃ。今は他の子が仕事をしてくれているから大丈夫だにゃ」

 

タマキの言う通り、確かに屋台には他の人がいる。そういえばタマキもさっきまでの格好と違い、帽子やエプロンを外しているな。

 

「なるほど……タマキ様、わたくしはコッコロと申します」

「俺はブレイクだ。よろしくな、タマキ」

「よろしくにゃ!それでたい焼きの味はどうかにゃ?」

 

俺が持つたい焼きを指差し、尋ねてくるタマキ。なるほどな、俺達に何の用事かと思っていたがそれが聞きたかったのか。

 

「ああ、美味いぞ。初めて食べたがこのあんことやらが甘くていいな」

「にゃふふ、それは良かったにゃ。今後もご贔屓にしてもらえると嬉しいにゃ♪」

 

まぁ、毎日はいらないがたまに食べる位ならいいかもな。そんな話をしていると、屋台にいた猫達がタマキの周りに集まって来ていた。

 

「ニャー」

「ん?どうしたにゃ、撫でてほしいのかにゃー?」

「ニャ~♪」

 

タマキは両手を使って猫達をそれぞれ撫で回していく。すると気持ち良さそうな鳴き声を出す猫もいるが、撫で足りていない猫がタマキにくっついたりしている。その内、タマキの周りには猫が数え切れない程に集まっていた。

 

「お、おい……何でこんなに猫がいるんだ?」

「この猫達はみんなあたしが世話をしている子たちにゃ。休憩に入ると、いつもこうして甘えてくるんだにゃ」

「こ、この数をタマキ様お一人で……?」

 

いや、いくらなんでも多すぎるだろ。というかこんなにたくさん今までどこにいたんだ?

 

「そうにゃ。だから毎月のエサ代もバカにならないにゃ……」

「まぁ、こんなに多いとな」

「でも、みんな可愛いにゃ!だからアルバイトしているのも苦じゃないし、頑張れるにゃ!」

 

なるほどな……あの屋台でアルバイトしているのは猫達のエサ代を稼ぐ為なのか。だが可愛いからって一人でこんなにたくさんの猫達を世話するのは大変だろうな……。

 

「……なぁ、タマキ。俺に手伝える事って何かないか?」

「あ、主さま?何を……」

「どういう事かにゃ?」

「そのままの意味だ。タマキが猫達のエサ代を稼ぐ為に、俺も何か出来ないかって」

 

まぁ、流石にたい焼き屋のアルバイトをするというのは嫌だが。たい焼きなんて作った事がないし、アルバイトというのは俺には向いていないと思う。それなら依頼を受けて報酬金を貰う方がまだマシだ。

 

「う~ん……手伝える事って言われてもにゃあ……流石にそこまでは……あっ」

「何かあるのか?」

「実は……あたしが新開発しようとしている試作品のたい焼きを食べて、感想をくれる人を探していたんだにゃ」

 

試作品……?確かそのままの意味で、試しに作ってみた物だっけか。なるほど、それが美味しいかどうかを俺に食べてみてほしいという事か。

 

「いいぞ、その位なら」

「ほ、本当かにゃ!?でも迷惑じゃないかにゃ……?」

「迷惑だと考えているならこんなこと言うわけないだろ」

 

俺なりにタマキの事を手伝ってやりたい、ただそれだけだ。

 

「ありがとうにゃ!これで試作品をどんどん作れるにゃ!ブレイク、本当に助かるにゃ!」

「いいさ、俺が好きでやるんだからな」

……試作品の中にはちょっと危ない物もあるけど、きっと大丈夫にゃ

「タマキ様?今、何か仰いましたか?」

「にゃ、にゃにも言ってないにゃ?コ、コッコロの聞き間違えじゃないかにゃ?」

 

コッコロがタマキに何故か詰め寄っているがどうしたんだろうか?

しかし試作品とはいえ、色々なたい焼きを食べられる事になるとは。次はこれよりももっと美味いたい焼きが食べられるかもな。




今回の話、タマキがメインだったんですがコッコロと半々くらいになってしまいました。いや、コッコロの方がちょっと多いですかね?

ちなみにコッコロの前はペコリーヌを出すつもりでした(食べ物の話ですので)。


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第11話 魔法とは

今回はストーリーは進まず、魔法についての説明回になります。


「魔法について……ですか?」

「ああ、コッコロなら何か知ってると思ってな」

 

宿屋の部屋で俺は文字の勉強をしている。コッコロに教えてもらいつつ学んでいる最中に、そういえばと魔法の話を出したのだ。

 

「主さまは魔法に興味が?」

「まぁ、興味はあるな。魔法がどんな物なのかが知りたい位だが」

 

俺が魔法を使えるとは限らないしな。スズメが使っていた爆発を起こす魔法も、難しそうなイメージがあるし。

 

「そうですね……文字の勉強も順調に進んでいますし、他の勉強も始めようかと私も考えていましたから丁度よかったかもしれません」

「じゃあ、教えてくれるのか?」

「はい。それと魔法以外にも主さまには知っておいてもらいたい事がありますから」

 

知っておいてもらいたい事……一体なんだろうか?まぁ、魔法の事が終われば教えてくれるか。

 

 

 

 

「それでは、これから魔法についての勉強を始めたいと思います。主さま、しっかりと聞いていてくださいね」

「ああ」

「ではまず……魔法とは、様々な現象を発生、または操る事が出来る不思議な力です」

 

ふむ……スズメが起こしたあの爆発はどんな現象なんだろうか?コッコロにその事を言ってしまえば、バレてスズメが責められるだろうから聞かないが。

 

「コッコロ、様々な現象って?」

「例を言いますと、『火をつける』『風を起こす』『水を生み出す』などです」

「そんな事も出来るのか?」

「はい、ですがこれでもほんの一部です。魔法には属性というものがありまして、主に10個に分かれておりまして──────」

 

 

 

 

 

えっと……コッコロの説明する属性というのを書いて纏めると、こんな感じか?

 

 

・炎属性……炎関係の魔法が該当する。例として炎の玉を生み出して放つ"ファイアボール"など。

・水属性……水関係の魔法が該当する。例として水の玉を生み出して放つ"アクアボール"など。

・地属性……地面関係の魔法が該当する。例として土の壁を作り出して自身を守る"ランドウォール"など。

・風属性……風関係の魔法が該当する。例としてそよ風を生み出す"ウィンド"など。

・雷属性……雷関係の魔法が該当する。例として相手を麻痺させる"パラライズ"など。

・氷属性……氷関係の魔法が該当する。例として物体を凍結させる"フリーズ"など。

・木属性……植物関係の魔法が該当する。例として花を咲かせる"フラワー"など。

・聖属性……回復・光関係の魔法が該当する。例として傷を治す"ヒーリング"など。

・闇属性……闇関係の魔法が該当する。例として周囲を暗闇で覆う"ダークネス"など。

・無属性……どの属性にも該当しない魔法が該当する。例として魔力を針状の弾として放つ"ニードル"など。

 

 

「なぁ、最後に出てきた魔力って何だ?」

「はい、魔力というのは生物であれば必ず体に宿しているものです。もちろん人間も魔物も。目には見えず、量に個人差はありますが……これを消費する事で魔法を使えるのです」

 

へぇ……魔法も自由に使えるわけではないんだな。その魔力ってのが必ず必要になってくるのか。

 

「消費って事はその魔力は使う度に減っていくんだろ?回復とかってするのか?」

「はい、方法は3つあります。1つ目は一定の時間が経過すること、2つ目は十分な休息をとることです。1つ目よりは2つ目の方が回復量は多いですね。最後に、3つ目はマナを手に入れる事です」

 

…………マナ?

 

「コッコロ、マナって?」

「マナとは、魔力を持つ存在が命を落とした際に放出される、魔力が変化したものです。ほとんどは大地に吸収されてしまうのですが、その一部を付近にいる者は体に取り込む事が出来るのです」

「……?今まで魔物を倒した事はあったが、マナなんて見た事ないぞ」

「マナも魔力同様、目には見えないのです」

 

なるほどな、それで納得がいく。

 

「魔法に関してはこの位でしょうか。主さま、何か質問などはありますか?」

「……俺って、魔法を使えたりするか?」

「はい、使えますよ」

 

ああ、そうなのか。魔法を使え──────ん?

 

「えっ、使える?」

「はい、そもそも主さまは既に魔法を使っていますよ」

 

既に魔法を使ってる……?どこでだ?いや、そもそも俺が出来るのって、似たような物だと”ユニオンバースト”位しか……。

 

「……もしかして”ユニオンバースト”か?」

「はい。アメス様の宣託によりますと、”ユニオンバースト”も魔法の一種のようです」

「つまり”ユニオンバースト”が使える俺は魔法も使えると?」

「はい、主さま。その通りです」

 

そうだったのか……しかし魔法が使えるなら、色々な魔法を使ってみたいな。さっき出てきた”ファイアボール”とかかっこいいし、どうだろうか?

 

「ですが主さま、魔法が『使える』ことと、魔法を『使う』ことは違うという事を知っておいてください」

「どういう事だ?」

「主さまは確かに魔法を使えます。ですが実際に使うには魔法について学ぶ必要があるのです。呪文の唱え方や特徴などをしっかり理解してこそ、魔法を使う事が出来るのです」

 

ふむ……どうやら使えると言っても、そう簡単に魔法を使う事は出来ないらしい。

 

「でも何か1個くらいは使ってみたいな……」

「なら、魔法を使う事を目標に、魔法の勉強をこれからしていきますか?」

「いいのか?」

「はい。主さまがそれを望むのであれば、わたくしは主さまを全力でサポートさせていただきます」

「コッコロ……ありがとな、これから頼むぜ」

 

よし、これで魔法への道が一歩近付いたと言えるだろう。魔法をいつ使えるようになれるかは分からないが、コッコロも手伝ってくれるんだ。俺の為にもコッコロの為にも、早く使えるように頑張らないとな。

 

「ですが、今回はここで終わりにしましょう。他に主さまには知っておいてもらいたい事がありますから」

「ああ、そういえば言ってたな。何なんだ?」

「はい。このランドソルに住む──────種族についてです、主さま」




"ユニオンバースト"は魔法の一種と書きましたが、実際は魔法と"ユニオンバースト"は似ているようで違います。
違いとしては、
魔法
・魔法について学び、呪文や特徴などをしっかり理解する事で使えるようになる
・素質によって使える者と使えない者がいる
・魔力を消費する

"ユニオンバースト"
・主人公にしか使えない
・体の奥底に更なる力を秘めている相手とコネクトする事で使用が可能となる
・魔法以外に、体を使う技が存在する
・魔法同様に魔力を消費する

魔法="ユニオンバースト"というよりも、魔法に限りなく近い不思議な力と考える方がいいかもしれません。

次回はランドソルに住む種族について主人公が学ぶ回です!


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第12話 種族とは

爆焔特攻ドワーフさん、有限少女さん、intel1234さん、剛玉さん、評価ありがとうございます!


「種族……?コッコロ、種族って何なんだ?」

「簡単に申しますと、『共通の特徴を持った者達』という意味です。例えば、主さまは人間(ヒューマン)という種族、わたくしはエルフという種族です」

 

俺は人間で……コッコロはエルフ?

 

「えっ、俺とコッコロじゃどっかが違うのか?」

「はい、主さま。では、種族について説明していきますね」

 

そう言うと、コッコロはペンと紙を用意して何かを書き込んでいった。左から順に、人間、エルフ、獣人、魔族と書かれている。

 

「ランドソルに住む種族は大きく分けてこの4つ、四種族とも言われています。人口が多い順で言いますと人間、獣人(ビースト)、エルフ、魔族ですね」

「人間が一番多いのか」

 

確かに実際ランドソルを歩いていても、俺と同じ人間が多いよな。なら俺が他の種族と会う機会にあまり恵まれないのは、当然だったというわけか。

 

「はい。その為、ランドソルの政治は人間の貴族を中心に行われているようです」

「へぇ……他に何か特徴とかってないのか?」

「人間は他の種族と比べると、秀でた能力はありません。ですが、人口の多さが一番の強みですね。大勢で協力する事で様々な事を成してきた種族とも言えます」

 

なるほどな。人間の特徴は人口の多さというわけか。確かに1人では出来ない事も、色々な人達が力を合わせれば大きな力になると言うしな。

 

「では次に獣人についてです。先程も言った通り、人間に次いで人口が多い種族です」

「獣人はどんな種族なんだ?」

「それぞれが獣の特徴を併せ持っており、他の種族よりも身体能力が高い種族ですね。獣の耳と尻尾が生えていますから、見てすぐに分かります」

 

獣……つまり獣人には動物の耳と尻尾があるって事だよな。

 

「……って事は、キャルとタマキは獣人なのか」

「はい。おそらく2人共、猫の獣人だと思われます」

 

たぶんコッコロの言う通り、あの姿からして猫で間違いだろう。あー……だから猫に好かれてるのか?

 

「次にエルフについて説明しますね」

「コッコロの事だな」

「はい。わたくし達、エルフの特徴はまずこの尖った長い耳ですね。その他に、魔法を使える者が他の種族より多いという特徴を持っています」

「そういえば……ランドソルじゃエルフはコッコロ以外会った事がないな」

 

人口が3番目に少ないと言っていたが、だからと言って一度も会った事がないというのも不思議な話だよな。

 

「エルフは本来、自然を愛する種族ですから。森で暮らすエルフがほとんどなのです。近年ではランドソルなどの街に定住する者も増えてきているようですが」

「そうなのか?」

「はい。わたくしも主さまに仕える事が決まるまでは、森の中で暮らしていました」

 

森の中……正直イメージが出来ない。依頼で森の中に入る事があるが、魔物がいるあそこで生活なんて出来ないだろう。それか、何かいい方法でもあるんだろうか?

 

「それでは最後に、魔族について説明しますね」

「魔族……もしかして魔物と何か関係があったりするのか?名前が似てるが」

「はい。魔族は大昔に人間と魔物が交わり、生まれたとされている種族です。故に共通して頭に2本の角を持っています。魔力や知力、身体能力や感覚など特定の能力に秀でた者が多いのですが……」

「ランドソルで一番人口が少ない、か?」

「はい、そうなのです」

 

なるほどな……それぞれが何らかの得意分野を持っている代わりに、人口が少ないか。弱い種族ほど多く、強い種族ほど少ないなんて人口のバランスが良いというかなんというか。

そういえば人間と魔物が交わって生まれた種族って言ってたが、交わるとは何なんだろうか。

 

「ランドソルに住む種族はこれで全てです。人間、獣人、エルフ、魔族……それぞれの種族が協力する事で今のランドソルは成り立っているのです」

「ふむ……ありがとな、コッコロ。勉強になったぜ」

 

とりあえずこれで種族の名前や特徴は分かった。まだまだ知る事はあるだろうが、一度に覚えるのも難しいだろうし自分でもゆっくりと学んでいくか。




最近、ゲームではムイミ(ノウェム)やアユミなどのキャラクターが追加され、嬉しい限りです。
特にムイミは嬉しかったですね、好きなキャラクターの1人ですから。ストーリーが3話だけというのはちょっと残念でしたが……。
先の話ですが、オリ主とムイミとのストーリーを考えていると、ムイミはオクトーにどんな感情を抱いているのか気になります。自分の中では恋愛感情はなく、大切な相棒とかそんな感じかな~と思ってますが、皆さんは2人の関係をどう思っていますか?


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第13話 トーゴクに憧れる少女(ニノン編)

仕事が忙しく、色々と手がつかず、前回からかなり時間が空いてしまいました……すみません!


ランドソルの周囲に広がる草原にて、俺は魔物退治の依頼を達成する為に魔物共と戦っているんだが──────

 

「くそっ、あちこちから湧き出てきやがって……!」

 

依頼文を読んでみた限りは簡単なものだった為、コッコロには同行してもらわずに1人で挑んだものはいいものの……実際に魔物と対峙していると、仲間が色々な場所から出てきて囲まれてしまったのだ。

 

「グオオオオッ!!」

「っと……我らに光の加護を与えたまえ、"ホーリー"!」

 

魔物の攻撃をかわし、唯一の"ユニオンバースト"を唱える。全身に力がみなぎり、これで魔物共と戦いやすくなっただろうが……この数を全部相手するのは骨が折れるだろうな。

 

「だからって逃げ出すつもりはないけどな……全部倒してやる!」

 

剣を握り締め、矛先を魔物共に向けて構える。数は多いが、確実に一体ずつ倒していけば、どうにかなるはず。

 

「いくぞっ────ん?」

 

いざ戦おうとすると視界にある木々の1本、その枝の上に誰かが立っているのが見えた。

何故あんな場所に人が?と俺が不思議に思っていると────

 

「デケデケデンッ!ヒト~ツ、ヒラメの踊り食い……フタ~ツ、ふしだらセクハラおじさん……ミッツ~、浮き輪の穴を!やっつけてあげますデス!」

「……は?」

 

何やら決め台詞っぽいのを言い始めているが……意味が分からない。見ろ、魔物も突然の事に戸惑ってあいつの事を凝視してるぞ……。

 

「デデデンッ!トゥッ!」

 

枝の上から飛び出し、俺の目の前に降り立ったのは金色の髪、赤色の服が特徴的な少女だった。背後には先端に平っべたい物が付いてる棒が見えるが、あれは何だろうか?武器……かは分からないが、扇げば強風を起こせそうだな。

 

「そこの旅のお方……助太刀いたソウロウデス!」

「ソウロウ……?よく分からないが、手伝ってくれるなら助かる!」

「任せるデース!忍法・分身の術!シュバババッ!」

 

…………と言いつつ、横に素早く動いているだけなんだが。分身どころか目で簡単に追いかけられるぞ。

 

「ムムム、効かないデス!」

「いや、当たり前だろ……」

「ならば、秘剣・チュバメ斬り!」

 

そう言って少女は武器(?)を振り回して魔物共を吹き飛ばした。『斬り』と言いつつも、実際は殴っているだけだが……あの大きさだと威力は高いようで、一撃で魔物を倒している。

 

「ギャオオオッ!?」

「安心しろ、ミネウチでござる……このまま魔物をいっそうデス!」

「……凄いな。あんなにいた魔物を一瞬で倒すなんて」

 

ただふざけているようにしか見えなかったが、それだけではないようだ。あの強さからして相当な実力者だろう。……何故あのような言動やおかしな動きをしているのかは分からないが。

 

「ありがとな、おかげで助かった」

「ふふふ……礼はケッコウ。拙者、名乗る程の者でもないでゴザルデス!」

「……なぁ、その喋り方って──────っ!」

 

戦闘を終え、少女と話していると背後から生き残っていた魔物が迫っているのが見えた。その魔物は鋭利な爪で少女を狙っている。いくらこの少女が強いとはいえ、不意打ちであの爪を受ければただでは済まないだろう。

 

「おい、後ろ!」

「ウシロガミを引かれる思いなのは分かるデス。でも、ひき止めてくれるなデス。忍者は背中で語るものデス!」

「そういう事じゃ……ねぇっ!」

 

少女を横へと押し退け、振り降ろされる爪を剣で受け止める。勢いよくかかってくる重さに潰されそうになるが、"ホーリー"で強化した今ならば押し返す事も出来るはずだ。

 

「っ……うらぁっ!」

 

爪を横へと弾き、危機を脱する。油断し、がら空きとなっている魔物の腹へ蹴りを入れ、距離が開いた瞬間を狙って剣を勢いよく凪ぎ払った。

 

「グギャアアッ!?」

 

剣は魔物の顔を直撃し、傷口から血を撒き散らしながら魔物は後ずさっていった。

 

「これで────終わりだっ!」

 

剣を引き、全速力で走り出して矛先を魔物の胸へと突き刺す。魔物が痛みに耐えながら反撃しようと爪を俺に向けるが、両手に力を込めて足を踏み込むと、剣は魔物の体を貫き、背後から矛先が現れた。

 

「グッ……ガ、ア……」

 

震える腕は俺に爪が届く前に力なく下に落ち、剣を引き抜くと魔物の体は地面へと倒れた。

どうやら絶命したらしく、目からは光が失われて体も動く気配がない。

 

「ふぅ……やったか」

 

しかし……最初、一人で全部倒そうとしていたが実際はたった一匹でこれか。正直、あの少女が助けに入ってくれなかったら苦戦は免れなかっただろうな。いや、それどころか殺されていた可能性も……。

 

「俺ってまだまだ弱いなぁ……」

「すごいデス……!さすが()()()()()デース!」

「……は?ショ、ショーグン?」

 

自分の弱さに落胆していると、少女が何故か目をキラキラさせながら俺を『ショーグン』などと呼んできた。

 

「そうデス!ショーグンは、仲間を守ってくれる強い人のことデース!」

「……なら残念だな、俺はショーグンなんかじゃない。強くないしな」

「そんなことないデス!ワタシを助け、見事魔物を倒したあなたこそ、ショーグンで間違いないデス!」

 

これは……俺が何言ってもダメみたいだな。俺がショーグンであると完全に思い込んでる。できればその呼び方は諦めてもらいたいが、これじゃ話が進まないしな……。

 

「分かったよ。ショーグンだ、俺は」

「やっぱりデス!……そうだ、このままワタシをショーグンの臣下に加えてクダサイ!」

「えっ」

 

ショーグンである事を認めたと思ったら、今度は別の事を言われた。臣下……たぶん、『ショーグンの』って言ってるから、部下とかそんな感じか?

 

「申し遅れたデス、ワタシはニノンデス!」

「いや、あのな」

「これからよろしくデス!ショーグン、ワタシと一緒に天下統一するデース!」

 

天下統一って何だ!?というか、勢いに押されて断れなかったが……大丈夫なんだろうか……?




この時のニノンがギルド加入前なのか、加入後なのかはゲームでは分かりませんが、一応ここでは加入前です!


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第14話 食べ歩き珍道中(ペコリーヌ編)

ようやくゲームでのメインヒロイン、ペコリーヌの話です!


「あれっ?ブレイクくんじゃないですか!おいっす~☆」

「ん?ああ、久しぶりだな。ペコリーヌ」

 

街の中を歩いていると、後ろから声を掛けられて俺は振り向いた。声の主である、コッコロが付けたあだ名がもはや名前になってしまっているペコリーヌは手を振りながらこっちに向かってくる。

 

「はいっ、お久しぶりですね!」

「何かこの辺に用事か?」

 

ちなみに俺はランドソルでまだ来た事がないこの場所を散歩中である。『ランドソル観光ガイドブック』は読んでいるものの、実際に行ってみないと発見できない事もあるからな。

 

「実は今日、この先でお祭りがあるんですよ」

「お祭り……ああ、人がたくさん来て食べ物屋とか遊べる店とかが立ち並ぶやつか」

「はい!屋台でしか食べられない物もありますから、今日はそのお祭りで食べ歩きをしようと思ってるんですよ!」

 

食べ歩き……大食いのペコリーヌなら、屋台の食べ物を全部食べ尽くすなんて事もありえるな。

 

「あっ、ブレイクくんも一緒に私と食べ歩きします?お金なら私が出しますよ」

「……そうだな、もう昼だし俺も混ぜてもらおうかな。でも自分のお金は自分で出すからいいぞ」

 

一応コッコロからある程度の小遣いを貰ってるからな。元々昼ご飯の為に使おうと考えていたし、そもそも誘ってくれたペコリーヌに俺の分までお金を出させるわけにはいかない。

 

「そうですか?でも足りなくなったら言ってくださいね!それじゃ、行きましょ~!」

 

 

 

 

ペコリーヌと一緒に道を歩いていくと、多くの人が集まる賑やかな場所へと出た。色々な屋台が立ち並び、食べたり遊んだりと全員が思い思いに楽しんでいる。

 

「これが祭り……なんというか、凄いな」

「この辺では大きい方ですからねー。でも、街を挙げての祭りはもっと凄いんですよ!」

「へぇ、ならその祭りも見てみたいな」

 

俺とペコリーヌは祭りで溢れる人混みの中を避けながら進んでいく。だがここまで人が多いと誰にもぶつからないというのは不可能だったらしい。

 

「きゃっ!?」

「大丈夫か?」

「ご、ごめんなさい、ブレイクくん。誰かに押されちゃったみたいです」

 

隣からよろけてきたペコリーヌを咄嗟に抱き止めると、確かにどこからか「すみません」という言葉が聞こえてきた。

 

「え、えっと……ブレイクくん?そろそろ離していただけると……」

「ん?あ、すまん」

 

どうやら恥ずかしかったらしく、抱いていたペコリーヌの顔は赤くなっていた。このままでいる必要はない為、手の中で縮こまってしまっているペコリーヌを解放してあげる。

 

「しかし人が多いな。またぶつかったら危ないし、一旦離れるか?」

「いえ、その前に屋台の食べ物を……あっ、まずはあれからいきましょう!こっちです、こっち!」

 

ペコリーヌは俺の手を引きながら人混みの中を進んでいく。辿り着いた屋台には「焼きそば」と書かれた布がぶら下がっていた。

 

「ペコリーヌ、焼きそばって?」

「知らないんですか?野菜とお肉、それから麺にソースを絡ませて完成する麺料理ですよ!」

 

屋台の中では屈強な男の店主が焼きそばというものを作っている。炒めている麺にソースがかけられると、一気に美味しそうな匂いが漂ってきた。

 

「ん~♡美味しそうな匂いですね!すみません、焼きそば2つ下さい!」

「あいよっ、ちょっと待ってな!」

 

ペコリーヌが注文すると、店主は容器に詰められた焼きそばを袋に入れ始めた。ペコリーヌが財布を出している事に気付き、俺も出そうとするとペコリーヌに止められた。

 

「ブレイクくん、お金はあとで返してくれれば大丈夫ですよ?」

「いや、でも……」

「一気に払っちゃった方が手っ取り早いですし、ここは私に任せといてください!」

「……分かった、ありがとな」

 

できれば自分の分は払いたかったが、まとめて払った方が効率がいいのは本当だし、ペコリーヌの言う通り後で返すと決め、俺は引き下がった。

 

「ほいっ、焼きそば2つお待ちっ!」

「ありがとうございます!ではこれ、丁度で!」

 

店主から焼きそばを受け取り、代わりにお金を渡したペコリーヌは俺の方へと歩いてきた。どこかで食べるのかと思いきや、再び俺の手を握って違う屋台へと進んでいってしまった。

 

「ぺ、ペコリーヌ、どこ行くんだ?それ食べるんじゃないのか?」

「ん?食べますけど、色々買ってから食べようと思って!食べ終わる度に買いに来てたら疲れちゃいますしね」

「あー……なるほどな」

 

確かにそっちの方がめんどくさくなくていいか。でも、ペコリーヌってたくさん食べるよな。色々って言っても、どれだけ買うつもりなんだ……?

 

 

 

 

 

 

「ブレイクくん、本当に大丈夫ですか?」

「お、おう……」

 

両手に屋台の食べ物が入った大量の袋を抱えながら俺は返事をする。ちなみに大半はペコリーヌのものであり、そのペコリーヌも袋を持っているが両手に一つずつだけだ。

女性に荷物を持たせるのはどうかと思い、俺が持つ事にしたんだが結果はこの通りだ。手が震えて今にも袋が落ちそうである。

 

「辛いんでしたら私も袋を半分持ちますよ?」

「い、いや、このくらい大丈夫だって」

 

強がりを見せつつ、俺は足を進める。しばらくすると道の脇にベンチが見え、あそこならば休憩が出来ると考えて、ペコリーヌに提案する事にした。

 

「ぺ、ペコリーヌ。あそこのベンチで食べないか?」

「そうですね!私、もうお腹がペコペコで!」

 

ベンチに大量の袋を置き、その隣に俺は倒れるように座った。指が痛い、というか絶対に腕とか筋肉痛になるだろうなと思っていると、袋とは反対側に座ったペコリーヌが俺の指をペタペタと触ってきた。

 

「……えっと、ペコリーヌ?」

「やっぱり大変だったんでしたね。大丈夫ですか?痛くないですか?」

「まぁ、ちょっと位だ。それよりほら、冷めちゃうし食べようぜ」

 

俺は袋から最初に買った焼きそばを取り出し、箸と共に片方をペコリーヌに渡した。少し冷めてしまっているが、まだ食べる分には美味しく頂けるだろう。

 

「でも……」

「そこまで気にしなくていいって、ほら」

「……分かりました。それじゃ、いただきましょうか!」

 

ペコリーヌと一緒に焼きそばを食べ始める。麺を啜ると、ソースの味が口いっぱいに広がっていった。美味いな、と思いつつ横を見るとペコリーヌが幸せそうな顔をしながら焼きそばを頬張っていた。

 

「ん~♡やっぱり美味しいですね、焼きそばは!」

「だな。初めて食べたが結構美味いな」

「でしょう?あっ、たこ焼き取ってもらってもいいですか?」

「え……もう食べ終わったのか?」

 

見れば確かに焼きそばが無くなっている。驚きながらもたこ焼きを渡すと、ほんの数秒の内に消えて次の料理を求められた。

これは……この苦労して運んできた料理全てが数分の内に消えそうだな。

 

「食べ終わったらまた屋台を回りましょうね、ブレイクくん!まだまだ食べますよ~♪」

 

…………マジですか。



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第15話 夢をきっかけに(トゥインクルウィッシュ編)

前回の投稿より約七ヶ月が過ぎてしまった……!

最近、プリコネRのキャラストーリーやイラストを見て元気が湧いてきたので、頑張りたいと思います。


『モン■ター……!み■■、■を付けて!』

 

『先■■勝!ヒ■リ、仕掛けるよ!』

 

『わわっ!待っ■よ■イさ~ん!ユ■ちゃん、サ■ートよろ■■っ!』

 

『ブレイクくん、ど■■よう……!』

 

『あい■の動き■■めるんだ。大丈■、ユイなら■来るは■■』

 

『……分■った!任■て、ブ■■クくん!』

 

 

 

『やっぱ■ここ■で来ると■いモン■■ーが増え■きたね……』

 

『ああ。でも私■だって強■なって■。その証拠に■ーブもか■り■まってきた』

 

『あたし達■人ならき■とソ■■塔の■上に行けるよ!』

 

『■の頂上で、願い■叶え■……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

「主さま?お昼寝はもうよろしいのでしょうか?」

「あ、ああ……悪いな、コッコロ」

 

お昼寝……ああ、そうだ。ベットの上でコッコロに膝枕をしてもらって……そのまま寝ちゃったのか。

いや、それより今の夢……あれは一体なんだ?おそらく俺が忘れてる記憶の一部なんだろうが……出てきた一人は前に出会ったユイという少女だろう。

 

しかし……出てきた人物以外にも気になる言葉があった。おそらくはソなんとかの塔……その頂上で願いが叶え……られる?

 

「……なぁ、コッコロ」

「はい。何でしょうか主さま」

「今更なんだけどさ、この街の中心に浮いてるあのデカイ塔が何なのか分かるか?」

 

俺は宿屋の窓から見える空────に浮かぶ塔を見ながらコッコロに尋ねた。特に誰もあの塔について何も言わないからスルーしていたが、よく考えればあの建物だけ浮いてるっておかしくないか……?

 

「あれはソルの塔ですね。確かガイドブックにも載っていましたが、謎の建造物だそうです」

「えっ、マジでか」

 

俺は非常に役立っている『ランドソル観光ガイドブック』を取り出してページを捲り始める。そしてしばらくすると、ソルの塔について書かれてるページを見つけた。特にこれといった説明はないが、一番下に“おとぎ話“と書かれている部分に注目した。

 

──────“ソルの塔の頂上へと辿り着いた者は願いを叶えられる“──────

 

「……これって」

「主さま?どうかされましたか?」

「いや……何でもない」

 

偶然なのか?俺が今見た夢とこのおとぎ話に出てくる塔の名前や内容が似ているのは。

 

「なぁ、コッコロ。ちょっとソルの塔を近くで見てきていいか?」

「ならばわたくしも一緒に────」

「悪い、ちょっと考えたい事があってさ。一人で行ってきてみたいんだ」

 

コッコロが隣にいる中で考え込んでいたら、また心配されるだろうからな。出来ればそれは避けたい。

 

「そうでございますか……分かりました。ですがどうかお気をつけて、主さま」

「ああ。気を付けるよ、コッコロ」

 

ランドソルに大分慣れてきた事もあるが、依頼などで剣の腕をちょっとずつ伸ばしているからだろうか。コッコロからすんなりと一人で行く許可を貰えた。

 

とりあえずソルの塔の近くまで行ってみて、何か思い出さないか考えてみるか────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────……と思ったんだけどな」

 

広場のベンチに座ってソルの塔を見上げてるが、何も思い出さない。また夢でも見るかなと思って寝たりしてみたが、周りがうるさくて起きてしまった。

 

「ん?あれって、もしかして……」

 

ソルの塔をずっと見上げているのもそろそろ飽きて周りを見渡すと、見知った少女がいる事に気付いた。

 

「ユイ!」

「ひゃっ!?」

 

コッコロやペコリーヌ達と出会った頃、同じくモンスターに追われて助けた事をきっかけに知り合ったユイ。ソルの塔を見上げ、ボーッとしている彼女に声を掛けたが、どうやら驚かせてしまったらしい。

 

「わ、悪い。驚かせちゃったな」

「えっ?あっ……ブレイクくん!久し振りだね、元気だった?」

「ああ、俺は変わらず元気だぞ。どうしたんだ、こんな所で」

「えっと……ちょっとね、ソルの塔が気になって見上げてたらボーッとしちゃってて」

 

……そういえば、宿屋で見た夢の中にはユイがいたんだよな。他の二人はぼんやりとしか見えなかったが、一緒にいたという事はユイが知っている人達なんだろうか?

 

「ブレイクくんはどうしたの?」

「実は気になる夢を見てな。その夢にソルの塔が出てきたから見に来たんだ」

「夢?それって……」

 

ユイが何か気になるのか俺に尋ねようとしてきたが、その瞬間にお互い誰かとぶつかってよろけてしまった。

 

「きゃっ!」

「っと」

 

よろけたもののすぐに体勢を立て直した俺は同じくよろけたユイを掴んで支えた。一体誰にぶつかったのかと後ろを見ると、そこにいたのは二人の少女だった。

 

「す、すまない。大丈夫だったか?」

「ごめんなさい!三人とも大丈夫ですか?」

 

ぶつかった少女達────一人は黒い角を生やし、紫色の髪を長く伸ばしている魔族の少女。それともう一人はキャルみたいな猫耳を頭に生やし、両手に猫の肉球みたいな物を嵌めてる獣人(ビースト)の少女だった。

 

「平気です。ちょっとぶつかっただけですから……あ、あの、ブレイクくん。もう離してもらっても大丈夫だよ?」

「ん?ああ、そうだな」

 

どこか恥ずかしそうに声を掛けてきたユイのおかげで気付き、俺は彼女から手を離した。どうやら気付かずにずっと体に手を添えていたらしい。

 

「良かった。つい夢中で塔を見上げてしまって……」

「あたしもソルの塔をじーっと見てたら、いつの間にか体が動いちゃってた……」

「私もさっきまで塔を見上げて周りが見えていませんでしたし、気にしないでください」

 

何だ?ソルの塔には見上げてるとボーッとするような不思議な効果でもあるのか?俺には何もなかったけど。

 

「じゃああたし達、みんなで塔を見上げてたんだね!えっと、お兄さんも?」

「まぁ、ちょっとさっきまでだけどな」

「珍しい事もあるものだね……おっと、名乗るのを忘れていた。私は────」

 

そう言い、角を生やした少女が名前を告げようとした瞬間、どこからか女性の悲鳴が聞こえてきた。

 

「だれかぁぁっ!泥棒よぉぉ!!」

「ちっ!デケェ声で叫びやがって!放せこのアマッ!」

「あうっ……誰か、財布を取り返してぇーっ!」

 

どうやら……あのがらの悪そうな男が今突き飛ばした女性から財布を盗んだらしい。その男は腕を振り回して人々を遠ざけながらこちらへと向かってきてる。

 

「ど、どうしよう!?あの人、こっちに向かってきてるよ!」

「……ユイ、それと二人は下がってろ。俺があの男を捕まえて止める」

 

流石に泥棒とはいえ同じ人間相手にそう易々と剣は抜けないし、素手で捕まえる事になるが……見た所、武器らしき物は腰に下げていて手には持っていない。捕まえるなら今がチャンスだろう。

 

「待って、お兄さん!みんなであの泥棒さんを捕まえようよ!」

「私には関わりのない事だ……でも、向こうがぶつかってくるつもりなら、それなりの対処をさせてもらう」

「わ、私も手伝うよ!ブレイクくん!」

 

危ないからと後ろに下げようとしたんだが、三人とも何故かやる気になって前へと出てきてしまった。もう目の前まで相手が来てしまってる以上、今更無理に下げるのは逆に危険か。

 

「……分かった。なら頼りにさせてもらうぞ────おいっ、止まれ!」

「あぁ!?止まれって言われて止まるバカがいるかよっ!」

 

無駄とは思いつつも泥棒に声を掛けるが、やはり止まる気はないらしい。だったら遠慮なく捕まえてやる。

 

「なら、相手の動きを止めるんだ!その後は私達が!」

「やってみる……!はぁっ!」

 

ユイがロッドの先端に力を込め、一気に解き放つと泥棒に魔法が掛かって動きが止まった。

 

「うおっ……やる気かコラ?いい度胸じゃねぇか!」

「ひうっ!ご、ごめ────」

「大丈夫だ!よくやったな、ユイ」

「ブレイクくん……」

 

泥棒から睨まれ、低い声で怒鳴られて怯えるユイを安心させる。あの魔法がいつまで続くのか分からないが、効果が切れる前に奴を捕まえねば。

 

「私からいくよっ────せいっ!」

「ぐはっ!?」

 

魔族の少女が剣を鞘に納めたまま振って、泥棒に斬撃を叩き込んだ。なるほど。あれなら斬る心配もないし、あの音からしても十分な攻撃になるな。俺も真似てみよう。

 

「今度はあたしがっ!うにゃにゃにゃーっ!」

「ぅぶっ!?」

 

続いて獣人(ビースト)の少女が両手に嵌めてる肉球らしき物で泥棒を殴っていった。一見柔らかそうだが武器らしくしっかり硬いようで、泥棒の顔に肉球がめり込んでいた。

 

「げふっ……この、ガキ共がぁっ!」

「っ、まずい!」

 

あれだけの攻撃を受けたにも関わらず泥棒は気を失っておらず、しかもユイの魔法が切れたのか動き出してしまった。そして狙いを付けたのは──────ユイ。

 

「えっ……?」

「テメェさえいなきゃ逃げられるんだよっ!」

 

泥棒は腰に下がっている鞘から剣を抜き、ユイに襲い掛かろうとする。それに対してユイは呆然と立ち尽くしてしまっていた。

 

「っ、しまった!」

「逃げてぇーっ!」

 

魔族の少女と獣人(ビースト)の少女は攻撃の後で体勢が戻っておらず、ただ叫ぶ事しか出来ない。つまり……奴を止められるのは俺一人しかいないという事だ。

 

「させるかぁっ!」

「っ、このクソガキ……!」

「ブレイクくんっ!?」

 

俺は泥棒とユイの間に割り込み、鞘から抜いた剣でユイに届くはずだった剣を防いだ。そのまま弾き返したい所だが、簡単にはいかない。だが俺にはそれを出来る方法がある。

 

「我らに光の加護を与えたまえ────“ホーリー“!」

「何だ、その魔法っ……!?」

 

“ホーリー“により強化された俺は泥棒の剣を押し返し、そして遠くへと弾き飛ばした。同じ人間である上に武器を無くした相手を斬りたくはない。ならばどうすればいいか?

 

「くたばれっ!」

「へぶふっ!?」

 

考えた末に“ホーリー“で強化された体を利用して泥棒の顔を思いっきり殴り飛ばした。空中を一回転して地面へと落ちた泥棒は気を失っており、動く様子はない。……えっ、死んでないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、泥棒は駆け付けてきた兵士全身銀色の男に連れていかれた。財布を取り返してもらった女性は何度も俺達に頭を下げて感謝し、ついさっきようやく帰っていった。

 

「やったね!これにて一件落着ぅ!ぶいぶいっ!」

「ああ。君が泥棒に襲われかけた時はどうなるかと思ったよ」

「ブレイクくん、ありがとうね。また君に助けられちゃった」

 

獣人(ビースト)の少女が指をV字にして喜び、魔族の少女がユイの無事に安堵してるとそのユイが俺にお礼を伝えてきた。

 

「間に合って良かったよ。怪我は……してないみたいだな」

「うん、大丈夫だよ。……凄いなぁ、ブレイクくんは。まるでおとぎ話に出てくる────」

 

 

 

 

 

『し■った……モン■■ーが!』

 

『ユ■ちゃ■、逃げ■っ■』

 

『させ■か■っ■!』

 

『っ、ブレ■クく■!?』

 

 

 

 

「っ!?今の……」

「今のって……私とブレイクくんと……」

「今のは……私と、君達?」

「あ、あれ?今、私達四人がモンスターと戦って……」

 

「「「「…………えっ?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、レイさんとユイちゃん、ブレイクくんが夢の中であたしと一緒に冒険してた人なの!?」

「断言は出来ないよ。……でも、四人の見ていた夢が同じ可能性は高い」

「今見たのも全員、同じだったみたいだしな」

「うん。私、夢の中でもブレイクくんに助けられちゃってたね……」

 

獣人(ビースト)の少女のヒヨリ、魔族の少女のレイと互いに自己紹介をしてそれぞれの名前を知った俺達は今まで見ていた夢が四人全員、同じかもしれないと気付いた。そしてそれを確かめるべく────

 

「じゃあじゃあ、それが同じかどうか、確かめようよ!夢と同じで、みんなと一緒に強くなって……」

「ソルの塔の頂上を目指す……!」

「悪くない考えだ。私達が同じ夢を見ていた事には、きっと意味があるはず」

「意味か……」

 

四人全員が同じ夢を見ていた……しかも出てくる人物はその四人だけ。いくらなんでも偶然とは言えないだろう。アメスならもしかしたら……教えてくれるか分からないが、何か知ってるかもな。

 

「決まりだね!これからよろしくね!ユイちゃん!レイさん!ブレイクくん!」

「うん!よろしくお願いします。ヒヨリちゃん、レイちゃん、ブレイクくん!」

「こちらこそよろしく。ヒヨリ、ユイ、ブレイク。今日中にギルド結成の申請は済ませてしまおう」

「ああ、俺もよろしく……ギルド?」

 

ギルドって何だ?初めて聞く言葉……だよな。

 

「なぁ、ギルドって何だ?」

「えっ?ブレイクくん、ギルドを知らないの?」

「ああ……ユイは知ってるのか?」

「というかブレイクくん以外、みんな知ってると思うよー?」

 

マジか。まぁ、俺は記憶喪失だから知らなくて当然か。

 

「ギルドというのは『特定の目的を持って活動する人達の集合体』というものだ。私達の場合、ソルの塔の登頂だね」

「確かランドソルの国民はギルドに所属する事が義務付けられてるんだっけ」

 

じゃあ、コッコロもギルドに所属しないといけないのか……出来れば一緒のギルドに所属したいし、誘ってみるか?

 

「なるほどな。とりあえずギルドがどんなものなのかは大体分かった」

「よし、ならギルド名とギルドマスターを決めよう。生憎私は人を導くような柄じゃないんだ。ギルドマスターは君達に譲るよ」

「私もリーダーは……ブレイクくん、どうかな?」

 

レイ、ユイがギルドマスターを辞退して俺に勧めてくるが、記憶喪失な俺をリーダーにしても分からない事だらけでうまく出来る保証なんてない。

 

「いや、俺もそういうのは向いてないな。ヒヨリはどうだ?お願いできそうか?」

「いいよー!じゃあ、後はギルド名だね!うーん……何がいいかなぁ……」

 

ギルドマスターがヒヨリに決まり、次にギルド名を考え始めるがいい名前が出てこないらしい。俺やユイ、レイも考えるが一体どんな名前がいいのやら。

 

「【トゥインクルウィッシュ(夜明けの星)】、なんて……どうかな?」

「いいんじゃないか?俺はいいと思うぞ、その名前」

「うん、私もそう思う。ヒヨリはどうかな?」

「すっごくいいと思う!じゃあ、全員一致でギルド名はそれに決定!」

 

ギルドマスターは決まり、ギルド名も決まった……という事は、これでギルドを作る準備は終わったって事だな。

 

「えへへっ、これからよろしくね!」

「ああ、よろしく頼むよ」

「うんっ、二人共よろしくね!ブレイクくんも、改めてよろしくねっ」

「ああ、よろしくな」

 

 

 

 

──────こうして。俺とユイ、ヒヨリ、レイは出会い、ソルの塔の登頂を目指す冒険が始まったのである。



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第16話 男勝りな少女(マコト編)

ハーメルンでプリコネの小説がもっと増えないかな~と思ってます。


「……まずいな、困った」

 

毎度の如く『ランドソル観光ガイドブック』を片手に散策をしていたが……入り組んだ裏道を試しに通ったのがまずかった。今いる場所が分からなくなり、結果迷子になってしまったのである。

 

「どうすっかな……?」

 

辺りを見渡すが目立ちそうな建物もなければ人も少ない。しかも何故か獣人ばかりである。日も大分暮れてきてるし、そろそろ宿屋に帰らないとコッコロを心配させてしまう。

 

「とりあえず、誰かに道を────」

「おい、そこのお前!」

「……ん?」

 

『そこのお前』って一体誰のこと……と思っていたが、後ろから紫色の髪が目立つ獣人の少女がこっちに近付いてきた事で『お前』というのが俺だという事に気付いた。

 

「もしかして、俺の事か?」

「そうだよ、お前だお前!どーしたんだよ、人間がこんな所でフラフラして……」

「いや……その、道に迷ってて」

「道に?……あーなるほど、お前迷子なのか。怪しかったから不審者だと思っちまったぜ」

 

あー……知ってる建物がないかキョロキョロと見てたからな。そりゃ怪しいと思われても仕方ないか。

 

「悪いな!最近どうも、お上の体制が変わったのか……行政が全然しっかりしてねぇだろ?治安が乱れがちっつうか、キナ臭ぇ雰囲気になってるんだよ」

「そうなのか?」

「そうなのかって……もしかしてランドソルに来たばっかりなのか?」

「ああ、ちょっと前にな」

 

と言っても、もう数日間は経ってるけど。……うっかりメイドに吹き飛ばされたり、幽霊の少女にプリンを狙われたり、ショーグン呼びする少女に出会ったりと色濃い数日が。

 

「ならこの街の行政なんか知ってるわけねぇか。あっ、申し遅れたけどあたしはマコト。獣人たちの互助組織ギルド、動物苑(どうぶつえん)の傘下ギルド、自警団(カォン)に所属してるんだ。まぁ、よろしくな?」

「動物……苑?」

 

ギルドってのは分かるが……互助組織ってどういう事だ?あと、傘下ギルドって言ったが他のギルドとは何か違うのか?

 

「あぁ、新しく来たんだったら知らねぇか。あたしらみたいな獣人は基本的に動物苑に所属する事になってんだよ」

「所属しなくちゃいけない理由でもあるのか?」

「理由、ねぇ……まぁ、あるにはあんだけどさ」

 

そう言ってマコトは言いづらそうに俺から顔をそらすが……もしかして訳ありな理由なのか?

 

「言いたくないなら別にいいぞ?」

「……いや、ランドソルにいるなら知っといた方がいいしな、教えるよ。この辺じゃ人間と獣人は昔から対立し合ってるんだよ」

 

人間と獣人が……対立?でもキャルやタマキ、ヒヨリなんかはそんな感じじゃなかったぞ……?

 

「もちろん全員がそうってわけじゃねぇぞ?でもお互いの種族に偏見を持ってる奴なんかは多い。しかもランドソルじゃ人間の方が立場は上なんだ」

 

人間の方が立場は上……人間と獣人の対立……互助組織ギルド、動物苑に獣人は所属……あっ。

 

「動物苑は獣人が互いに助け合うギルド……?」

「まぁ、そんな感じだよ。人間の方が上ならあたしらは全員で協力するってわけだ!」

 

なるほどな……コッコロから前に種族の事を教えてもらったが、まだまだ知らない事がたくさんありそうだな。

 

「ちなみに獣人たちの平和な生活を守るのが、あたしら自警団(カォン)の役目だ。つっても獣人の居住区だけで手一杯だけどな」

「……って事は、()()()()なのか?」

「あん?ここがそこなのかって……もしかしてお前、ここがどこなのか知らなかったのか!?って、そういや迷子っつてたもんなぁ……」

 

獣人の居住区だから道を歩いてるのが獣人ばかりなのか……これで納得したぜ。

 

「気ぃつけた方がいいぜ?この辺はそうでもないけど、人間嫌いな獣人だって中にはいるんだ。襲われても文句は言えねぇぞ」

「お、おう……気を付けるよ」

 

それはそれで怖いが……出会わないよう俺が気を付ければいちだけの話か。

 

「さて、大分話が脱線しちまったな。とりあえず、名前と所属ギルドを教えてくれるか?」

「ああ、俺はブレイク。ギルドはトゥインクルウィッシュだ」

 

マコトに尋ねられ、答えると「ん?」と首を傾げられた。別におかしな事は言ってないんだが……。

 

「名前がブレイクで、ギルドがトゥインクルウィッシュって……なぁ、お前ユイって奴を知ってるか?」

「知ってるぞ。ユイもそのギルドのメンバーだからな」

「やっぱり!ユイがさ~、ブレイクって奴に助けられたって言ってたんだよ。しかもそいつとこの前、同じギルドに入ったって」

 

……?何だ、マコトはユイの事を知ってるのか?

 

「そっかそっか、会いたかったぜ~あははっ♪あいつ、すっげぇ感謝してたよ」

「前に助けた事か?あれはただ成り行きで……」

「それもそうだけど、同じギルドに入れた事もだよ。あいつ、昔からそそっかしいしそれに昔は……おっと」

 

そこまで言い掛けてマコトは何故か口を閉ざしてしまった。

 

「ユイが昔はどうしたんだ?」

「あ~……これはちょっと言えねぇかな。でもユイを守ってくれたこと、あたしからもお礼を言わせてくれ。ありがとな、ブレイク」

 

……マコトが何を言い掛けたのかは分からないが、たぶんユイにとって大事な事なんだろう。なら無理に聞くつもりはない。

 

「そういえば、何でユイを知ってるんだ?」

「あたし、ユイとは幼馴染みなんだ。ユイのお陰で、あたしは種族が違っても仲良くできるんだって知る事が出来た。ほんと、あいつには感謝してるよ」

「そうだったのか」

 

マコトにとって、ユイは恩人なんだろう。そうじゃなきゃ感謝なんて言葉、出てこないはずだ。

 

「……って、また話が脱線してやがる……ええっと、迷子なんだよな。ならブレイクが寝泊まりしてる宿屋まで案内してやんよ。ユイを助けてくれた、恩返しにもなるし」

「いや、流石にそこまでは……」

「いいんだよ、遠慮すんなって!あたしは困ってる奴を見過ごせねぇんだよ。ほら、こっちこっち♪」

 

 

 

 

 

 

マコトには悪いと思いつつも、結局宿屋まで案内してもらってしまった。その間、自分やユイの事を話してくれたり、俺の事を話したりと……とにかく楽しい時間を過ごす事が出来た。

……部屋に入った直後、コッコロからめちゃくちゃ心配され、泣きつかれたが。



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第17話 青く広くどこまでも(コッコロ編)

コッコロ編第3話です!


「コッコロ、何してんだ?」

 

宿屋の俺達が泊まってる部屋で読み書きの練習を練習をしていると、洗濯物が積み重なって重そうな籠を持つコッコロの姿が視界に入り、声を掛けた。

 

「お洗濯物がそろそろ溜まってきましたので川に洗濯しに行こうと思いまして……よいしょ、しばらくの間、外に出てきますね」

「なら俺も行くよ」

「い、いえ。主さまに仕える者として、お洗濯などの火事はわたくしが……」

 

従者という立場から俺が一緒に行く事を止めるコッコロ。だがそれを無視して俺は勉強道具を片付け、洗濯物が入った籠を彼女から奪い取った。

 

「あ、主さま!お洗濯物はわたくしが持ちますので、籠をお返ししてもらえると……」

「いいって、いつもコッコロには世話になってるしな。で、川……だっけか?どこにあるんだ、それ」

 

少なくともランドソルを歩いてて今まで川というのは見た事がない……と思う。俺が知らないだけで、もしかしたら目にしてるのかもしれないが。

 

「……分かりました。では主さま、お言葉に甘えさせてもらいますね。川の場所については昨日、近所の奥様に水場の場所をお尋ねした所、そちらまでの地図をお渡ししてくれました」

 

そう言ってコッコロが俺に地図を見せてくる。どうやらその奥様とやらの手書きみたいだが、ランドソルを出て離れた場所にあるという事だけは俺でも分かった。

 

「なるほどな、じゃあ行こうぜ」

「はい、主さま♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────で、地図の通りに来たけど……これが川なのか?」

「い、いえ、これは……」

 

地図を持つコッコロを先頭に俺は洗濯籠を持って後ろを歩いていったんだが、森を抜けた先に見えたのは大きな……どこまで続いてるのか分からない巨大な水溜まりだった。確かコッコロの話じゃ川ってのはこう、縦に流れる大きな水って感じだったが……。

 

「どうやらわたくしが言葉足らずだったようです……わたくしが水場で遊びたい、みたいに勘違いされてしまったようです」

「あー……なるほど」

「わたくし、じゃぶじゃぶと水場で遊ぶような、子供ではございませんのに」

 

まぁ、コッコロって見た目子供だからな。本人は子供でないと今みたいに否定してるが、そんな風に思われてもしょうがないか。

 

「にしても川じゃなきゃこれは何なんだ?」

「あっ、主さま()初めて拝見しますからご存知ありませんね。これは海というものです」

「へぇ、海って言うのか……俺もって事はコッコロも初めて見るのか?」

「はい、故郷は山奥ですし……付近には小さな泉しかありませんでしたから」

 

そういえば……前にエルフは森で生活してるって教えてもらったな。コッコロも俺に出会うまではそうだったって言ってたし。

 

「文献知識はありましたけれど……海というのは、こんなにも綺麗なのですね。とても感動的です」

「だな。キラキラ光ってて……なんか、不思議な感じだな」

 

俺とコッコロとで海を眺めていると、何かが足下を歩いているのが見えた。それは魔物と呼ぶには小さすぎ、何故か横向きに歩いている生物だった。

 

「あぁ主さま、ご覧下さい。蟹です。小さな蟹が歩いてます。親子でしょうか……?」

「蟹って……こいつか?」

「はい。こちらも文献知識のみでしたが、蟹は本当に横向きに歩くのですね……♪」

 

そう言ってコッコロは横向きに歩いていく蟹の列をジッと見つめ、嬉しそうにそのまま後に続いていき……って、ちょっと待て待て。

 

「コッコロ、そのまま蟹についてく気か?」

「えっ?……はっ。す、すみません主さま。つい、追いかけてしまっていて……」

「物珍しいんだろ?なら別にいいって。ただ、こいつをどうするか」

 

戻ってきたコッコロから洗濯籠に視線を移し、俺はそう言う。元々川でやるはずだった洗濯を海でやってもいいんだろうか?

 

「海ではちょっと洗濯は出来ませんね……どうしましょう」

「海も川も同じじゃないのか?どっちも水なんだろ?」

「はい。しかし海の水はしょっぱいのです」

 

しょっぱいって……海の水が塩みたいな味をしてるって事か?マジか、水がしょっぱいなんて嘘としか思えん。

 

「主さま、ちょっとお待ち下さいね……よいしょっ」

 

コッコロがしゃがんで海の水を両手で掬い上げる。そしてその手を俺の方へと向けてきたのである。

 

「主さま、試しに舐めてみますか?」

「ああ、気になる」

 

俺はそう言ってコッコロの両手に収まってる海の水に指を入れ、濡れた指先を舐めてみる。すると確かに口の中にしょっぱい味が広がっていった。それと一緒にちょっと苦味が……正直言って、不味すぎる。

 

「ふふ、驚いた顔をしてらっしゃいますね。では、わたくしも一口」

「いや、コッコロ。これは止めた方が……」

 

俺の制止を聞かず、コッコロは海の水を舌先でチロリと舐めてしまった。すると俺と同じような感想を口にし、独特な風味と言っていた。

 

「それに海の水は雑菌も多いでしょうから、ここでお洗濯をしたら逆に衣服が汚れてしまいます。洗剤などを使ったら環境を汚染してしまいますしね」

「じゃあ、どうする?最悪、洗濯をしてくれるギルドにでも頼むか?」

 

確か前にそういう事もしてくれるギルドもあるって聞いた事がある。本当に頼むんなら一度ランドソルに戻らないといけないが。

 

「いえ、生活上の細々とした事は自分でやりたい所です。それにギルドへの依頼料は少々お高いですしね……」

「あー……すまん、コッコロの言う通りだな」

「そ、そんな事はありません、主さま。提案してくださっただけでも、わたくしは嬉しいです」

 

コッコロはそう言うが、俺達の持ち金は少ない。魔物退治や素材集めなどの依頼、あと配達のアルバイトなどで生活費を稼いでいるが結構ギリギリだ。コッコロも色々とやりくりをしてくれてるのに、わざわざ高い金を出させるなんて馬鹿にも程がある。

 

「何にせよ、ここをお洗濯をする場所として利用するのは難しそうです……すみません、主さま。わざわざ一緒に、それもお洗濯物を運んでいただいたのに、無駄足を踏ませる結果となってしまいました」

「気にすんなって。そもそもコッコロだけだったら、一人で洗濯物を持ち帰る羽目になってただろ?なら一緒に来て良かったよ」

「主さま……ありがとうございます♪」

 

しかしこのまま洗濯物を持ってランドソルに戻るのもなぁ……せっかくここまで来たのに何もしないで帰るのはもったいない気がする。

 

「なぁ、コッコロ。ランドソルに戻る前にちょっと遊んでいかないか?」

「遊ぶ、でございますか?」

「ああ。例えば……ほれっ!」

「ひゃわっ!?」

 

きょとんとした表情のコッコロに俺は両手ですくった海の水を掛けてやった。頭から被った事で髪の毛は濡れ、毛先から水がポタポタと垂れているがこの暑さだ。たぶんすぐ乾くだろう。

 

「あ、主さま……突然何を……?」

「悪い悪い。でも冷たくて気持ちいいだろ?」

「それはそうでございますが……濡れてしまうのはちょっと……」

「じゃあ、コッコロもやり返してみろっ……て!」

「ひゃうっ!?」

 

再び水を掛けられたコッコロだが、今度は量が多過ぎて全然ずぶ濡れにしてしまった。ちょっとやり過ぎたか……?

 

「う、うぅ………主さまぁ……」

「えっと……コッコロ、その……」

「……主さまを攻撃するなどあってはならない事ですが……お遊びという事であれば仕方ありません……」

「へっ……おぶっ!?」

 

風を操る魔法を使ったのか、勢いよく巻き上げられた海水がまるで大雨のように俺を真上から襲ってきた。当然コッコロと同等かそれ以上にずぶ濡れである。

 

「あぁっ!?も、申し訳ありません主さま!み、水に使うのは初めてでしたので加減が分かりませんでした!」

「ぺっぺっ……やってくれたなコッコロ……?」

「あ、主さま?……うひゃあっ!?」

「お前ももっとずぶ濡れにしてやるよ!」

 

 

 

 

 

その後、互いにずぶ濡れになった服を干して乾かし、それからランドソルへ戻ると着いた頃には周りがもう真っ暗だった事は言うまでもない……。




そろそろ戦闘シーンと新しいユニオンバーストを出そうかなと考えてます!


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第18話 心優しき少女(ユイ編)

今回、久し振りの戦闘描写と二つ目のユニオンバースト入手回です!


「ブレイクくん!」

「ん?」

 

ランドソルの街中を歩いていると、突然後ろから声を掛けられた。その声には聞き覚えがあり、振り返ってみれば先日、ヒヨリとレイと共にギルドを立ち上げたユイがこちらに走ってきていた。

 

「やっぱりブレイクくんだ、こんにちは!」

「おう、この前のギルド結成ぶりだな」

 

元気よく俺に挨拶してくるユイ。そんな彼女は武器である杖を持ち、色々と物が入って膨れ上がってる鞄を腰に付けていた。

 

「これからどこかに行くのか?」

「うん、これから街の外で修行しようと思って。わたし、もっとブレイクくんやレイさん、ヒヨリちゃんの役に立ちたいの」

「へぇ、修行か……」

 

俺も依頼で魔物と戦う時はあるが、強い魔物が現れても対処できるように修行はしといた方がいいんだろうなぁ……よしっ。

 

「なぁ、ユイ。俺もその修行に付いてってもいいか?」

「えっ?ホ、ホントに?でもブレイクくん、何か用事とかあるんじゃ……」

「まぁ、さっきまで配達のバイトはしてたけどもう終わったしな」

 

本当はこのまま宿屋に戻る予定だったが、ユイがどんな風に修行するのか気になる。俺も修行するならどんな感じか知っといた方がいいだろう。コッコロが心配するかもしれないが、少し遅くなる位、大丈夫だと思う。

 

「……じゃあ、いいかな?いっしょについて来てもらっても……」

「いや、ここは俺が頼む側だろ?」

「じ、実は一人だとちょっと心細くて……でもブレイクくんが一緒なら頑張れるような気がするんだ」

 

まぁ、出会った時の事を考えるとユイは魔物と真っ正面から戦えるような感じじゃないな。仲間の後ろで回復とかするサポート役の方が合ってる気がする……そう考えると一人だと不安なのは頷けるな。

 

「危なかったら俺も力を貸すさ。その時は任せとけ」

「ブレイクくん……ありがとう!わたしもそうならないよう頑張るね!」

 

まぁ、そうならないのが一番だが……頑張りすぎて無理をし過ぎないよう注意はしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば」

「どうしたの?」

 

魔物がいそうな草原まで進んでる間、特に何もなく暇だった為に俺はユイに気になっていた事を尋ねようとした。

 

「初めて俺達と出会った時も修行してたのか?」

「ゴーレムに襲われてた時だよね……うん、そうだよ。あの時はラットン相手に戦ってたら突然ゴーレム達が走ってきて……ホント、びっくりだったよ」

 

ラットン……確かネズミの魔物だな。そんな強くはないが、すばしっこくて面倒な奴だな。依頼でも、畑を荒らすからって理由で討伐した事が何度かある。

 

「今日はどうするんだ?またラットン相手に修行するのか?」

「うーん……そんな強い魔物じゃなきゃ大丈夫かな……わたし、自分で戦った事がそんなにないからまだまだ弱くて」

「やっぱそうか……なら無理しないでサポート中心に戦った方がいいんじゃないか?」

 

そりゃサポートだけじゃなく、色々できた方がいいだろうが必ずしもそれが正解とは言えない。魔物と正面から戦うのが無理ならそれ以外の事で頑張ればいいんだから。

 

「でもみんなばかりに負担は掛けられないよ。わたしだってちゃんと戦えるようにならないと!」

「まぁ、やる気があるのはいいけど無理は禁止な。誰だって出来る事と出来ない事があるんだから」

「うん。ありがとう、ブレイクくん。……あっ」

 

街道から大分離れ、草原の中を歩いているとユイと同時に魔物を見つけた。あれは……ウェアウルフとかいう魔物か。鋭い爪で敵を切り刻む狼の魔物って情報をどこかの本で見た事がある。

 

「グルルッ……グオオオンッ!!」

 

俺達の声が届いたらしく、ウェアウルフは大きく吠えた。口の中に溜め込んでいた涎が辺りに撒き散らされ、よっぽど飢えてるのが分かる。

 

「気付かれたか……しかもちょっと危険そうだな」

「でもこの距離なら先に仕掛けられるよ。まずは魔法で……!」

「グオオオオンッ!!」

 

俺が剣を構え、ユイも杖を構えて魔法を放つ準備をしてる間にウェアウルフは四足歩行となってこちらに走ってきた。かなりのスピードであり、すぐに俺達の元に辿り着くだろう。

 

「ど、どうしようブレイクくん!?あ、あの魔物、こっちに走ってきてる!?」

「落ち着け!まずは……あれだ、前に泥棒を足止めした魔法!あれでウェアウルフを足止めするんだ!」

 

あの魔法が魔物にどの程度効くか分からないが、何もやらないよりはマシだ。ユイの魔法で止めてる間に俺が”ホーリー”で強くなれば──────

 

「う、うん……!」

「グオオオオンッ!!」

「ひっ……ゆ、勇気を……勇気を出してっ……!」

「……ユイ?」

 

お前、もしかして──────

 

「グオオオオオンッ!!」

「っ……や、やっぱり無理ぃーっ!!」

「って、ユイ!?」

 

ウェアウルフがすぐそこまで来ると、ユイは後ろを振り向いて逃げ出してしまった。いや、魔物に背中を見せるのはまずいって……でもそんな注意してる時間は……ああっ、クソ!!

 

「我らに光の加護を与えたまえ──────」

「グオオオオオンッ!!」

「っ────”ホーリー”!!」

 

襲いかかってきたウェアウルフの鋭い爪を剣で受け止め、”ホーリー”を発動する。間近に迫る爪に生きた心地がしないが、そんなものは爪を弾くと同時に吹き飛ばした。

 

「おらぁっ!」

「グオオンッ!?」

 

さらにウェアウルフを蹴り飛ばし、勢いよく剣で斬りつける。しかしウェアウルフに怯んだ様子はなく、再び俺を攻撃しようと腕を振り上げている。だが力を溜め込んでるその瞬間を見逃すわけにはいかない。

 

「はぁっ!!」

「グオッ……!?」

 

爪を掻い潜り、剣をウェアウルフの体へと突き刺す。そして剣を両手で握り締めて力を込めて横に振り抜き、俺はウェアウルフを切り裂いた。

 

「はぁっ……倒したか……」

 

倒れるウェアウルフを見て俺は剣を鞘に納める。すると後ろから足音が聞こえ、振り向くとそこには申し訳なさそうに縮こまっているユイがいた。

 

「ご、ごめんブレイクくん!わたしだけ逃げ出しちゃって……だ、大丈夫?」

「いや、まぁ……おう。というかユイって魔物、怖いだろ」

「う、うん……」

 

やっぱり。一人で行くのが心細かったり、魔物が走ってきて焦ったりしてたからもしかしてとは思ったけど、魔物に怖がって魔法を放てなかった事で確信した。

 

「ブレイクくんは凄いよ、あんな魔物に怯えないで戦えて……わたしなんて、戦う前から逃げ出しちゃった……」

「別に逃げてもいいんじゃないか?」

「……えっ?」

 

ずっと俯いていたユイだったが、俺の言葉で顔を上げた。それと同時に驚かれたがそんなにおかしな事を言ったか?

 

「だって怖いもんは怖いだろ。なのにユイはそれを乗り越えようと頑張ってる。それはたぶん、凄い事なんだと俺は思う」

「ブレイクくん……」

「つかそんな怖いなら、初めからうまくいくわけないだろ。なら逃げたくなってもしょうがねぇよ。……まぁ、出来れば言っといてもらいたかったが」

「ご、ごめんね。修行しに行くのに怖いなんて言ってたら呆れられちゃうと思って……」

 

そんなわけないだろ。というか突然逃げ出したからびっくりした。

 

「それに言っただろ、危なくなったら力を貸すって。俺が全力でユイをサポートしてやるよ」

「……うん。分かったよ、ブレイクくん。わたし、ダメだって思ったらブレイクくんに助けてもらう。でもそれまでは諦めないで戦ってみるよ……!」

「ああ、その意気だ」

 

そう言って拳を握り、やる気を見せるユイ。その瞬間──────

 

「えっ!?」

「こいつは……」

 

俺達の体が白く輝き、目の前に『CONNECT』の文字が浮かび上がる。まさかユイとも繋がる(コネクトする)事になるとは……そんな事を考えてる間に光と文字は消え、何事もなかったかのように元へと戻った。

 

「い、今の何だったんだろう?あんなのわたし、初めて見たよ」

「今のはコネクトってやつだな」

「えっと……コネクト?」

「ああ、繋がるって意味みたいで……ん?」

 

不思議がるユイに今起こった事を説明しようとすると、周囲の草むらが揺れた。風……ではない。()()が隠れてこちらを窺っている……?

 

「ユイ、悪いが話は後だ。お前のやる気を見せる時が来たぞ」

「えっ?」

 

ユイが首を傾げ、状況を把握できていない間に草むらが大きく揺れて隠れていた()()がこちらに飛びかかってきた。

 

「グオオオンッ!!」

「きゃあっ!?ま、魔物ーっ!?」

 

飛び出してきたのはさっきのよりも大きいウェアウルフ。そいつがユイに爪を突き刺そうとするが、その前に俺が剣で体を切り裂く。

 

「ユイ!今度こそあの魔法を!」

「う……うん!はぁぁぁ……えいっ!」

 

ユイの杖が飛び出た魔法はウェアウルフに直撃し、いつかの泥棒のように動きを止めた。その事にウェアウルフは動揺しており、決めるなら今しかないだろう。

 

「や、やった!当たった!」

「ああ、後は俺に……っ!?」

 

ウェアウルフに突撃しようとする俺だったが、その足を止める。何せウェアウルフが数秒もしない内に動き始めてしまっているのだ。

 

「えっ!?ど、どうして!?」

「……なるほどな」

 

まともに効かなくて当然だ。あのウェアウルフは通常よりも大きい。大きければ大きい程強いんなら、おそらく魔法が効きづらかったんだ。それに加えてユイが使った魔法は、人間相手でも短い時間しか拘束できないものだから余計にだ。

 

「グオオオオンッ!!」

「あっ……!」

 

ウェアウルフは跳躍してユイに襲いかかろうとする。一方、ユイは魔法が通じなかった事に驚いてすぐに反応できず、攻撃も回避も間に合いそうになかった。

 

「ユイに手を出すんじゃ……ねぇっ!!」

「ブレイクくん!?」

 

駆け付けた俺はユイを押し退け、ウェアウルフの体を大きく切り裂いた。動きを鈍らせたウェアウルフだが倒れる事はなく、もう一度攻撃してこようとする。しかし隙が大きい為、避けるのは簡単──────

 

(っ、まずい……!)

 

この最悪のタイミングで……”()()()()()()()()()()()。こうなってしまえば俺の力も素早さも元に戻ってしまう。ウェアウルフのあの攻撃も今の状態でくらえば致命傷は免れない────!

 

「がはっ!?」

 

剣で防ごうとしたが簡単に弾かれ、ウェアウルフの攻撃をまともにくらった俺は大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「ブ……ブレイクくん!!」

「グルルルッ!」

「ひっ……!」

 

地面に叩きつけられ、頭の横をドロリとしたものが垂れる感触に気付く。しかしそれや痛みを我慢し、起き上がればウェアウルフが尻餅をついてしまったユイにジリジリと近付いていってるのが見えた。

 

「あの野郎っ……ぐっ!?」

 

立ち上がろうとして右腕に激痛が走る。目を向ければ付けていた防具が壊れて服も破れ、皮膚にズタズタとした爪痕がある。そりゃ痛いわけだ……!

 

「くそっ……どうする……!?」

 

 

 

 

『■しの守■を■こに────”ハ■■ール”!!』

 

 

 

 

「っ……今のって……」

 

いや、悠長に考えてる場合じゃない。思い出したんならさっさと使わないとな。ユイとのコネクトで手に入れたこのユニオンバーストなら、この状況を打開できるはず。

 

「癒しの守りをここに────”ハイヒール”!!」

 

俺が剣を構え、そう唱えると足下に桃色の紋様が出現した。すると俺とユイを優しげな光が包み、俺が負っていた怪我や痛みは消え、体力も回復していく。

ユニオンバースト、”ハイヒール”……それは自身や周りにいる味方を回復させるという便利なものである。

 

「この光、温かくて気持ちいい……こんな回復魔法があったなんて……」

「グオオオンッ!!」

「あっ、こ、来ないでぇっ!!」

 

ユイが自身に迫ってくるウェアウルフを足止めしようと魔法を放つ。それはほんの数秒しか効かないが……今はほんのそれだけでもありがたい。

 

「ユイ、そこから離れろ!我らに光の加護を与えたまえ、”ホーリー”!」

 

”ホーリー”を使うと同時に俺はウェアウルフへと走り出した。魔法が解け始めたらしく動き出そうとしてるが、もう遅い。

 

「グオオ────」

「くたばりやがれっ!!」

 

剣を横一線になぎ払い、ウェアウルフの首を切り裂く。その一撃により、ようやくウェアウルフは力尽きて地面に崩れ落ちた。

 

「よしっ……ユイ!大じょ────」

「ブレイクくん!!」

 

攻撃は受けてなかったと思うが、すぐにユイの安否を確かめようとすると走ってきたユイに勢いよく抱き付かれた。

 

「ごめんなさい!わたしが、魔物を足止めできなかったからブレイクくんが怪我を……」

「別にユイが悪いわけじゃないから気にすんなって。俺が油断してあいつの攻撃をもらったのが悪かったんだ」

「ち、違うよ!わたしが……!」

「とにかく倒せたんだからいいだろ?というかさ、ちょっとキツいんだが」

「えっ?…………わあぁっ!?」

 

強く抱き締め過ぎてる事を指摘すると、ユイは一気に顔を真っ赤にして俺から離れた。……何で恥ずかしがる必要があるんだ?ただキツいって言っただけなんだが。

 

「う、うぅ……ご、ごめんなさぃ……」

「別に謝る必要はないんだが……どうする?修行、まだ続けるか?」

「ううん。これ以上ブレイクくんには怪我してほしくないから、今日はもう帰ろうかな」

 

しくったな……ユイは修行でここまで来たのに俺の心配で帰る事になるなんて。やっぱりもっと強くならないとダメだな。

 

「ねぇ、ブレイクくん」

「ん?」

「その、これからも迷惑かけるかも知れないけど……わたし、ブレイクくんが傷つかなくていいように、もっと頑張って強くなるから!」

「俺ももっと強くなるぜ。ユイや色んな人を守りたいからな」

 

そう、もっと強くなってみせる。困ってる人や守るべき人の為に。




次回はテレ女のやべーやつを出す予定です!


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第19話 ひきこもりな天才少女(ユニ編) 前編

ちょっと長いので前編、後編に分ける事にしました!


「……ん?」

 

草原にて魔物退治の依頼を終えた俺は、いざ戻ろうとして足を止めた。どこからか声がするのだ、それも幼い少女の声が。この辺りの魔物はほとんど倒したとはいえ、ランドソルから離れたこんな場所に少女一人でいるなど危険過ぎる。

 

「どこだ……?」

 

声の出所である少女がどこにいるのかと周囲をキョロキョロと探していると──────

 

「我が命運、もはやこれまでか。ぼくとしたことが、やれやれ……久方ぶりの探索行に初心を失していたよ。先立つ不幸を故郷の老師たちは許してくれるだろうか」

 

「顧みれば凡庸な人生だった。ただ与えられた環境に甘んじて、水のように書を貪るだけの人生だった……」

 

「どうだろう、ロゼッタ。ぼくの今日までは世に何事かを遺せただろうか?」

 

えっと……無事、少女は見つけた。見つけたんだが……どういう状況なんだ、これ?オレンジ色の髪を三つ編みにしてる少女の特徴としては俺が今まで見た事のない服装をしてる。胸に大きな青いリボンを付けてるし、足に黒い何かを穿いてるし。

それだけならまだいいが、その少女は木の根元に座り込んで『ロゼッタ』と呼ぶ小石に話しかけているのだ。

 

「なぁ、そこの君……大丈夫か?」

 

小石に向かって話してる理由は分からないが、なんか困ってるみたいだし放っておく事は出来ない。そう思い、話しかけると少女がこちらを向いた。

 

「んあ?誰か来たようだよ、ロゼッタ……はて、辞世を贈る友も家族もない孤高の生涯だったけれど、この通りすがりの少年に最期を看取られるというならば、それがきっと大いなる意志の繋いだ縁なのだろう」

「いや、最期って……どうしたんだよ一体?どこか具合でも悪いのか?」

 

”ハイヒール”を使えば良くなるか?いや、あれは体力回復や怪我を治すだけだしな……少女の体に怪我は見られないから使っても意味はないか。

 

「ふむ……少年、君の名を教えてはくれまいか?」

「俺か?俺はブレイクだ」

「ブレイクか、良い名だ。それにどこか()()()()()()だが……何故だろうか?一応、来世の為に記録しておこう。めもめも……」

 

懐かしい響き?いや、でも俺はこの子と会ったことなどない……よな?目立ちそうな格好だし、一度会ってればなかなか忘れないと思うんだが。

 

「ぼくはユニ。聖テレサ女学院の『象牙の塔』に学び、名も知らぬこの平原で朽ちてゆく儚き魂だ」

「聖テレサ女学院……ああ、ランドソルにある学校か」

 

何度かその名前は聞いた事はある。確か金持ちの子供が通ってるお……お嬢様学校?とかいう所だっけか。なんだか最近、生徒数が減ってきて大変って言ってる人もいたような。

そういえばランドソルにはもう一つ、ルーセント学院なんて学校もあるみたいだけど、そっちはもっと大変って聞いたな……。

 

「ところで君って子供……だよな?なんか喋り方が大人びてるっていうか、難しいっていうか……」

「ふぅ……この未成熟で愛くるしい容姿が得てしてそう誤認させてしまう事実にはもう慣れているよ」

「……どういう事だ?」

「今のぼくは子供でもなく大人でもない、途中の時期。つまりは少女から女へと移ろう蛹の季節なのだよ」

 

少女から女へと移ろう……蛹の季節?蛹ってあれか、コッコロが前に教えてくれた虫の……いや、んな事はどうでもいい。そもそも少女も女も同じじゃないのか?

 

「しかし、おそらく君よりは年長だ。ぼくの事は敬意と親愛を込めてユニ先輩と呼んでくれたまえ、後輩」

「俺より上なら別にユニさんとかでもいいんじゃないか?何で先輩後輩?」

「いいかね、後輩。ぼくは青春というものに憧れているんだ。ならそう呼ばれたい、呼びたいという気持ちがあってもおかしくはないだろう?」

「……まぁ、別にいいけどな。ユニ……先輩がそれでいいならそれで」

 

正直に言ってこのユニという少女が本当に俺より年上なのか疑問だが、仕方ないだろ。何せ見た感じ、コッコロとあまり身長が変わらないんだから。

 

「で、そのユニ先輩はここで何してるんだ?ぼくの今日まではとか、最期とか、結構大変そうな感じだが」

「是非もないよ。運良く救いの手でも差しのべられない限り、か弱きぼくは程なくして無惨に生き絶えるだろう」

 

その割にはさっきからずっと喋り続けてるなと思うが、困ってるのは本当なんだろう。だから彼女の為に救いの手を差しのべるつもりでいる。

 

「ところで話は変わるが後輩、君は「未必の故意」という言葉を知ってるかね」

「いや、知らないな。何だその言葉?」

「例えば真冬の凍える夜、酔った男が道端で眠っていたとして、もしその男を起こさずに通り過ぎ、彼が翌朝凍死をした場合、起こさなかった者には罪がある……という考え方だ」

 

へぇ……何でそれが未必の故意なんて言葉になるのかは分からないし、通り過ぎた者に罪があるのかないのかも俺じゃ判断つかないが……。

 

「その話、俺だったらその男を担いでどこか安全な場所に連れてくな」

「ほぅ……後輩、君は善意の塊だな。もっとも、この考え方を真っ向から否定しているけれどね」

「で、その話がどうしたんだ?」

「いい質問だ。端的に換言すれば、理由は違えどぼくは今、その男と同じ状況だという事だ」

 

……えっと。

 

「つまり?」

「ぼく、もうヘトヘトで何もする気が起きないよという事だよ。さらに補足すれば、おなかペコペコで頭もろくに回ってないよという事だ」

 

うん……怪我とか病気でも何でもなく、ただ疲れてお腹も空いたという事か。はぁ……心配して損したってわけじゃないが、それなら早く言ってくれればいいのに。

 

「ちょっと待ってろ」

「おっ?もしかして後輩、君はこの状況を打開しうる何らかのキーアイテムを持ち合わせているのか?」

 

ユニから期待した目で見られつつ、俺は肩に掛けている鞄の中から漁る。そして取り出したのは黒い箱。それを開けみれば、中に詰まっているのは塩むすびと三つ四つのおかずたち。宿屋の厨房を借り、コッコロに手助けしてもらいながらであったが、今日の昼ご飯用にと作ったのだ。

 

「お、おおお、これは……!肉体疲労時の栄養補給に最適、穀物の塩化ナトリウム漬けじゃあないか!それに焼き上げた鶏卵に生野菜の調味料液掛けまであるじゃないか!」

「いや、塩むすびに卵焼き、ドレッシング掛けたサラダなんだが……とりあえず半分やるよ、弁当」

 

本当は魔物退治で昼間を過ぎると思ったから作ったんだが意外にも早く終わったからな。食べ切れないと思ってたから丁度良かったのだ。

 

「すまないな、後輩。ではありがたく頂くとしよう。いただきます──────」

 

 

 

 

 

ユニと弁当を分け合って食べ、互いにお腹が膨れた所でずっと座りっぱなしだった彼女がようやく立ち上がった。

 

「はふぅ……馳走さまであった。いやはや、固形物は久し振りだったがなかなかの美味だったよ」

「おう、お粗末様。そう言ってもらえると嬉しいな」

「しかし悪かったな。そんなつもりはなかったのだが、まるで瀕死を装って君の携行食を強引に裾分けさせる結果になってしまった」

 

いや、絶対にそんなつもりあっただろ。しかも装うっていうか、ほぼ瀕死だっただろあんた。俺が来なかったらどうしてたんだろうか?

 

「やはり外に出る日は、固形物での栄養摂取が必要なようだ。……食事、か。時代を問わず全人類にあまねく普及するわけだな」

「なぁ、さっきから思ってるんだが固形物じゃなきゃ、いつも何食べてるんだ?」

 

たぶん固形物ってのは、さっき俺達が食べた塩むすびとかおかずの事だろう。それを食べてないって事は、ユニは一体何を食べて生きてるんだ?

 

「ああ、平素はもっぱらサプリ頼みなものでね」

「……サプリ?」

「知らないかい?栄養物質を抽出して錠剤にしたものだよ」

 

……そのサプリってのが実際どんなものなのかはピンも来ないが、少なくとも美味そうとは思えない。というかまずそうな気がする。

 

「それで、その……いつもサプリ頼みなユニ先輩が倒れるまでしてここに来た理由は何なんだ?」

「平素のぼくは朝から晩まで『塔』に籠っているんだ。けれど今日はとある探索行の為、珍しく外へ下りてきたのだよ」

 

塔……ああ、さっき言ってた象牙の塔とやらか。そこにずっと籠りっぱなしって……なんて言うんだっけか、こういうの。

 

「だがぼくの運動量といえば本やペンを持つ程度の微々たるものだから大して腹が減らないし、そも食事に時間を割くのが煩わしい」

「いや、そいつは違うと思うぞ?食事ってのは、大勢で食卓を囲んで楽しむもんだ」

 

基本的にはコッコロと一緒に食べてるが、ペコリーヌから食事に誘われる事もあるし、たまにキャルも来て一緒に食べる事がある。その時の食事は美味しいし、何より楽しいしな。

 

「ほぅ、食事は楽しい行為だというのか……確かに味覚への刺激は脳内物質の分泌を促す。報酬系のそれを多幸感と捉える主観は否定しないよ。ぼくに限ってはあまりそうと感じた事は多くないがね」

 

正直ユニが言った事はほとんど理解できてない。でもペコリーヌがあんな美味しそうに料理を食べてる『食事』を煩わしいと言うユニにも楽しいと思ってほしいのだ。

 

「……とはいえ、今の意見は希少な反証材料だ。『塔』では、ぼくの持論に異を唱える者などいないからな」

 

そう言い、取り出したメモ帳に今あった事を書き込んでいくユニ。……にしても、彼女は誰かと食事を共にした事がないんだろうか?ああ、そういえば塔の中に籠りっぱなしって……ん?

 

「なぁ、ユニ先輩って学院の生徒だろ?ならそこの生徒と一緒にご飯を食べた事とかってあるか?」

「ないな。そもそもぼくは一般の生徒とは少々事情が異なるんだ。彼女らと顔を合わす機会はあまりないし、言葉を交わす事となれば尚更だ」

 

えー……マジか、そんなレベルか。せめて一度くらいはあってほしいと思ってたが、それじゃ食事が楽しいか楽しくないかさえ分からないんじゃないか?

 

「なら、いつも誰と喋ってるんだ?」

「ふむ……そうだな、小間使いのような教員と多少の事務的なやり取りはあれど、思えば君のような同年代との雑談は久し振りやもしれぬ」

「久し振りって。じゃあ、ほとんど喋ってないのと同じだろ」

「別に、構わないさ。だが発する言葉にいちいち即時反応が返ってくるというのは、分厚い論文を提出しても得られない、実に興味深い体験だよ。礼を言おう」

 

興味深い体験、ね……という事は、つまり……。

 

「俺と話せて良かったって事か?」

「……そうだね。端的に換言するのは面映ゆいが、君と話せて楽しかったという事だよ、後輩」

「おっ?なら証明できたって事だな」

 

俺がそう言うと、ユニが「証明?」と首を傾げる。彼女ならすぐに理解すると思ったが、どうやら唐突に言い過ぎたみたいだな。

 

「言葉の通りだよ。あんたに食事……というか、他人と話す事は楽しいって証明が出来ただろ?」

「ほ?あー……なるほど。これは一本取られたな。小賢しいじゃないか、後輩」

 

ユニが納得してくれたようで満足……と言いたい所だったが、その後もエビデンスがどうとか、対人交流に飢えていたとか、路傍の石をペットに見立ててたとかよく分からない事を言い出した。そして最終的に────

 

「……以上の事実から、現状のぼくは大変に人恋しかったと知れる。単に他者と会話が出来た一点において、テンション爆上がりという可能性が否定しきれない」

「いや、別に否定しなくていいんじゃないか?」

 

長い話だったが、つまりはユニは周りに話せる人がいなくて寂しかった……という事だろう。それを自覚はしてなかったみたいだが。

 

「……後輩。さっき、ぼくは探索の途中だと言ったな?」

「ん?ああ、そういえば言ってたな」

「とある考古学的な自由課題に取り組んでいるのだが、いわゆるフィールドワークというやつでね。伝承に曰く、『碧の深淵』なる場所を目指しているのだよ」

 

へぇ……なんか面白そうだな。つまりはその『碧の深淵』って場所を目指して冒険してるって事だろ?そういう冒険譚の本を前に読んだ事があるし、ちょっと憧れるな。

 

「さて、どうだろうか?」

「えっと……何が?」

「おいおい、よく聞いていたまえ。もう一度言うぞ?か弱きぼくは単身、孤独な旅の真っ最中である……さて、どうだろうか?」

 

さっきまでの話から察するに……一人だと寂しいから一緒に来てくれないか、って事か?だから遠回しに言わないで、来てほしいなら来てって言ってくれればいいのに。

 

「分かった、一緒にその『碧の深淵』とやらに行ってやるよ」

「おおっ、本当か。いやぁ、すまないね。ぼくとしては、行くか行かないかの選択権ぐらいは与えていたのだが」

 

『行かない』という選択を完全に潰されていたけどな。

 

「ところで後輩?話は変わるのだが、東の果ての小さな島国にこんな(ことわざ)があるらしい」

「……どんな諺だ?」

「旅は道連れ、世は情け。大胆に換言すれば、『人助け、ちょお大事』という意味だそうな」

 

なんかちょっと違うような気がするが……まぁ、いいか。ただ今日もまた、コッコロに心配を掛けそうだなぁ。




そろそろまた、『ロストメモリー』の方も書こうかな、と思ってます。


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