偏屈な男のGGO (ヘレン&コットン)
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プロローグ
ガンゲイル・オンライン。それはVRで体感できるFPSである。FPSプレイヤー達は発表された当時、銃の種類、グラフィック、アタッチメントの自由、オープンワールドなど様々な要素に対し驚愕した。もちろんPVPも可能であり、更にFPSプレイヤー達を歓喜させた。
「今だ!一斉に突っ込め!」
ここは静寂が広がる廃墟。普段はただの寂れた場所だが、今まさにPVPが行われようとしていた。先程一人の男が誰かいるのを確認した。一人の号令をかけると、仲間と思われる者たちが一斉に街の一角の少し大きめの家に突撃していった。
「数ではこちらのほうが多い!とにかく突撃して銃弾を浴びせてやれ!」
「どこの誰だかは知らんが悪く思うなよ!」
号令をかけた男含め5人が銃を構え一気に突撃する。扉を蹴破り、荒々しく敵を探す。敵を見ることなく、2階までたどり着いたので警戒する。だが――
「な、どうした!?」
「一人やられたぞ!」
いきなり仲間が一人音も無く倒された。敵の位置が全く掴めず、全員が動揺する。その数瞬後。
―カタン、と音を立て、外から何かが投げ込まれた。全員がすぐに投げられた物の正体に気づいたが、注意力が落ちていたため号令をかけていた男以外回避行動が遅れる。
「くそったれが!」
男が一階に飛び込んだ瞬間、轟音と共に仲間が全員やられる。幸いにも無事だったが、次に来るであろう攻撃に備えるために急いで玄関に向かう。入ってきた場所に向け、全力で滑り込む。しかし一瞬、入るときにはなかったものが見える。
「しまっ―」
その後はまた、廃墟に静寂が広がる。大人数対一人の戦いは、一人の勝利で終わる。集団がいた場所に、何者かが近寄る。
「全員M16か…個性が無いね」
一人呟き、インベントリにそれをしまう。そしてその場を歩いて去る。微妙な収穫であったため、若干肩を落としながら。
「くそっ!」
「まさか5対1で負けるとはなぁ…」
ここはSBCグロッケン首都であり、活気がみなぎっている。その中の宿の一つに、先程倒された男達がリスポーンしたようだ。
「…ん?知らないやつからメールが来てる」
「お、俺もだ。もしかしてお前らもか?」
全員にメールが来ている。送り元は…
「
「まさかお前も?」
全員が同じタイミングに同じ送りもとからメールが来る。奇妙だと思いつつ全員がメールを開く。
「なになに…M16なんかを使うから勝てない。やはりアサルトライフルといったらこれしかないだろう。だとさ」
「お、何かアイテムが付いてる。罠じゃないよな?」
「流石にメールに罠は仕掛けれんだろ…」
皆が楽しそうに騒ぎながらメールについて話し合う。一人がアイテムを受け取ると…
「AK12?」
「ああ、だからカラシニコフか。M16は…入ってないか…」
カラシニコフとは、著名なアサルトライフルAKシリーズを作った人物である。しかし、皆同じことを不思議に思う。
「これ、わりと高いやつだろ?」
「ああ、少なくともM16よりは高いな」
「まあ、ラッキーと思えばいいんじゃないか?いい武器なんだし」
「気に食わんが、まあ強いなら使うか」
男達は元の武器より高いものをわざわざ送ってきた相手を不思議に思いつつ、AK12を使うことにした。
「まさか倒して赤字とはねぇ…」
肩をすくめながら、ため息をつく男は若干幸薄なように見えた。
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愛銃
GGOの女性プレイヤー数は少ない。滅多に見ないというわけではないが、珍しいと言えるぐらいに少ない。女性プレイヤーは男プレイヤーに守られながらプレイするのが普通であるが、女性プレイヤーで有名なスナイパーがいる。
「ふぅ…」
凄腕女スナイパーことシノンは息を吐いた。現在は山の頂上の茂みの中に潜んでおり、他のメンバー達は一つ向こうの山を進んでいる。今回の任務は狙撃である。しかし、奇妙なことにターゲットは出るか出ないかわからないと言われている。
(まだ見えないわね…本当にいるのかしら)
少し依頼内容に疑問を覚えたところで、他のメンバー達が一斉に物陰に隠れた。敵を発見したようである。シノンはトリガーに指をかけつつ索敵する。
「西方向だ!一人伏せて――」
一人がターゲットの位置を見つけ伝えている途中で撃たれる。しかし、銃声は聞こえなかった。
(サプレッサー…まずいわね、どこにいるか全くわからない)
急いで木や茂み、岩陰などを確認するが見つからない。そうこうしている間に、また一人倒れる。なかなか見つけられず、残りの味方は二人になったときにようやく岩陰に潜んでいるターゲットを見つける。しかし、照準を合わせる前に隠れられてしまった。
「岩の裏だ!手榴弾投げるぞ!」
味方の一人が手榴弾を手にする。しかし、投げる前に手の中で爆発する。
(投げ損ねた…?でも爆発するまでの時間はそんなに短くないはず…)
残りの味方が一人になったところで、ターゲットが駆け出す。最後の味方の居る方向に向かって、アサルトライフルを構える。
「なっ――」
的確に頭を撃ち抜かれた。照準を合わせるのが間に合わなかった。しかし、仇討ちはできる。恐らくターゲットは味方のドロップ品を漁るだろう。
(あの人数を一人とは…化け物ね)
照準を頭に合わせ、トリガーを引く。照準も完璧、敵は止まっている。シノンは命中を確信した。
しかし、ターゲットがいきなりリボルバーを放つ。最後の悪あがきだと思ったが、何故かまだ生きている。おかしい。確かに撃ったはずである。そして男は背中に背負っていたライフルらしき銃を取り出した。
(とにかく、場所を変えなきゃ…!)
そう思い体制を変えた直後、シノンは頭を撃ち抜かれた。その場に残ったのは、ドロップされた愛銃だけ。
「最悪…」
愛銃のヘカートIIを失い、依頼は失敗した。依頼の方は別に気にしなくていい、と言われたが問題はヘカートIIである。とても貴重であり、二度と戻っては来ないだろう。最悪な気分のシノンの元に、メールが届く。
「
(少なくとも知り合いではないわね…依頼してきた人たちの中にもいなかったし)
不思議に思ったシノンだったが、取り敢えずメールを読むことにした。
「"あの遠距離からの狙撃は見事だった。これからの活躍に期待し超出血大サービスだ"…何か付いてきてる」
「KSVK?」
調べてみたらロシア製の対物スナイパーライフルだそうだ。しかし、対物スナイパーライフルであれば良いというわけではない。細かな違いはあるし、思い出もある。
「絶対に見つけ出してやるわ…」
シノンはそう誓い、すぐに行動に移した。恐らくメールを送ったのは元ターゲット。まずは聞き込みからである。
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小さなお店
追跡するうちに分かったことがある。それは名前は知られているが、具体的な容姿や居場所を知っているのは誰もいないということである。しかし諦めるわけにはいかない。
「また収穫なし、か…」
そもそもカラシニコフという名もメールの送り主なだけであるし、本人ではないのではないか。ログアウトする前に、ダメ元で郊外にある小さなガン・ショップに行ってみることにした。
「いらっしゃい」
中にはカウンターに銀髪のショートヘアで同年代に見える少女一人だけがいた。落ち着いた雰囲気であり、少し大人びている。
「カラシニコフという人は知らないかしら?」
「あら、まさか探しに来たの?今会わせてあげるわ」
そういって少女が店の奥に入っていった。なんとなくだが、仲良くなれそうな性格だ。
(それにしても、まさかこんな所にいてすぐに会えるなんてね…)
郊外とはいったものの、それなりに街には近い。案外近くにいたのだなと思っているところで先程の少女が一人の男を連れて戻ってきた。見た感じ20代後半ぐらいだろうか。優しそうな目つきをしており、とてもこの人物が戦場で戦っているのを想像できない。
「おや、君は前のスナイパー君じゃないか。どうだい、調子は?」
成人男性としてはやや高めの落ち着いた声で話しかけられる。本当に優しそうな人だが、あいにくこちらは愛銃を返してもらいに来たのだ。
「私の銃を返してもらいにきたの。どこにやったのかしら?」
「KSVKは気に入らなかったのかい?あれは結構な値段するし強いと思うんだけどね」
男は残念そうな口ぶりでぼやいた。あの銃は試しに撃ってみたが、やはり使用感が違っていて代わりにはならなかった。
「色々な所で違う所があって使いにくかった。やっぱり私は元の銃のほうが好きなの」
「じゃあ仕方がない、返すよ」
男はあっさりと要求に応じた。残念そうな雰囲気なので少し罪悪感はあるが、もっと抵抗されると思っていたので、心配して損をした。
「ほら、これ。KSVKは君にあげるよ。ぜひとも使ってくれたまえ」
ヘカートIIを渡され、さらにKSVKももらった。かなりの赤字だと思うが、大丈夫なのだろうか。そう思っていると、考えていることがわかったのか答えてくれた。
「気にしなくていい。元からお金目当てじゃないからね。そういえば、名前を名乗ってなかったね。私は楓だ。こっちは相棒の――」
「クリスよ。よろしく」
どうやら男の方は楓、少女はクリスというらしい。仲が良い雰囲気であるし、リアルでなにか関係があるのかも知れない。
「私はシノンよ。突然邪魔しちゃったわね。次は何か買いに来るわ」
「待ってるわ。あなたとは仲良くなれそうだしね」
軽い別れの挨拶をしてすこし小さくて暖かかった店の外に出る。なにはともあれ一件落着だ。今度余裕があればもう一度寄っても良いかもしれない。
そう思って去っていくシノンは少し明るく、楽しそうに見えた。
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