シブリング・オブ・アンレイス(凍結) (嵐川隼人)
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プロローグ
終わりと始まり


※自然災害による残酷な描写があります。お気をつけください。

記念すべき一話目、どうぞ。


『創作は常に冒険だ。所詮は人事を尽くした後、天命に任せるより仕方はない』

 

 採用と押された新作ゲームの計画書を片手に思い浮かんだのは、有名な小説家の名言だ。

 作ること自体は誰にだってできる。しかしそれがどれだけの年月と努力をかけて作った最高傑作であっても、自分以外の人に認められるかどうかは最終的に運に任せるしかない、という意味だと俺は思っている。

 確かにその通りだ。

 先日、俺が働くゲーム会社で新作を作る話が上がった。その際、同じ会社で働いている二人の妹達と一緒に昔考えたものを計画書に書いて提出した。無論他にも計画書を提出した先輩たちもいる。計画書は全部で10枚、その中から一つ選ばれたものを今日発表するということだった。

 俺達三人は会社の人間から見れば新人の部類に入る。そのため、周りから『新人の計画が通るわけがない』とさんざん言われた。正直俺達もそう思っていた。提出した先輩たちの中には過去に8回も発案し、却下された人だっていたからだ。

 そして今日、社長から計画書のタイトルが発表された。

 

 『シブリング・オブ・アンレイス』

 

 一瞬自分たちの耳を疑った。

 俺達が考えたゲームのタイトルだ。

 まさか通ると思わなかった先輩たちは、色々言ってすまなかったと謝りながら拍手で祝ってくれた。

 無論、新人の計画が通ったことに不服そうな先輩もいたが。

 

「だーれだ?」

 

 高層ビルの入り口で待っていると、急な声と共に視界を塞がれる。

 同時に、背中に何やら柔らかいものが当たる。

 

「うーん…………美香?」

「せいかーい!」

 

 名前を挙げると視界が元に戻る。振り向くと、笑顔でこちらを見つめるOLがいた。

 天道美香、24歳。この俺、天道勇人より2歳年下の妹だ。

 いつも明るく、会社のムードメーカーとして重宝されている。

 スタイル抜群の美人で、男性陣だけでなく女性陣にも人気。

 一見可憐な見た目だが、実は元陸上部エース。他に空手黒帯・柔道八段・チャンバラ四段、剣道師範代等を取得しており、結構強い。

 

「驚いたでしょ?」

「ウン、ビックリシタナー」

「なんで棒読みなの⁈」

「冗談だ。それで、残っていた作業は終わったのか?」

「もちろん、もう大変だったよ~。私、凄く頑張った」

「……………………ほとんど私がやったのに」

 

 胸を張ってドヤ顔で頑張ったと自分で言う美香の後ろから、眼鏡をかけた女性が呆れたような声をあげながら現れる。

 彼女の名前は天道朱音。22歳のもう一人の妹だ。

 冷静沈着で無口。というより、俺達以外の人間との会話が苦手。

 IQは125。名大学の理学部を卒業しており、物理と数学が得意。

 

「お疲れ様、朱音」

「うん…………本当はもっと早く終わる予定だったけど、美香がパソコンフリーズさせてしまって、修復に時間が……………」

「うっ、それは………本当にごめんなさい」

「ハハハ、まぁ次気を付ければいいさ」

 

 ドンマイと言いながら、美香の頭をなでる。猫みたいな声を出して笑顔になった美香を、朱音がすかさずスマホで撮る。シャッター音でハッとなったが遅い。朱音はニヤケ顔で彼女を見る。

 

「手伝ったお礼、これで許す」

「ぐぬぬぬ……………」

 

 断ったらどうなるかわかってるよね?的な顔をした朱音に、美香は悔しそうだ。

 このまま見るのもいいが、辺りも暗くなってきたので早く帰ろうと二人に言った。

 

 

 しばらく歩いていると、美香が口を開いた。

 

「それにしても驚いたなぁ。まさか私たちの案が採用されるなんて」

「確かにな。あれを最初に考えたのいつだったっけ?」

「…………勇人が、小6の時。私達が、()()()()()()()()

「…………あぁ、そうだったな。俺達が()()()()()()()()か」

 

 スマホを取り出し、画面に見える幼少期の俺達を見る。

 俺達は三兄妹。しかし、血は全く繋がっていない。つまり、義理だ。

 出会いは15年前。

 夏休みに家族全員で海外旅行に行っていた俺は、帰りの飛行機でバードストライクに遭った。エンジントラブルで操縦不能となった飛行機はそのまま海に墜落した。その直前両親が俺を守るように体を覆ったのを確認したところで意識がなくなり、次に目が覚めたときは病院だった。

 俺が目覚めたのを確認した病院の先生は俺に事情を話そうとしたが、しなくていいと言った。あの時俺をかばうように守ってくれた親の姿が全く見えないことに気付いて、すべてを悟ったからだ。もう、家族はこの世にいないと。

 悲しかった、というより寂しかった。でも失ったものは絶対に戻らないということを知っていた俺は、俺を守ってくれた家族の分も生きようという考えに無理矢理切り替え、前を向くことを決めた。

 入院してから3週間後、完治した俺は先生の紹介で近くの孤児院に送られた。

 孤児院では、俺のように不慮の事故などで孤児になってしまった年下の子供たちが23人もいた。更にその孤児院はつい最近建てられたらしく、従業員は60代の院長とその妻である副院長の二人だけだった。

 孤児院に着いた時、院長が俺の部屋に案内してくれた。その部屋で出会ったのが、朱音と美香だった。

 院長に聞いてみたところ、二人もその日に送られた孤児だった。

 突然家族を失ったショックで言葉を失っていた二人。院長たちも何とか心を開かせようとしたらしいが、無理だったという。

 だが、俺には二人の気持ちが何となくわかった。

 そして俺がその場でできる打開策を考えた結果、思いついたのが、

 

『俺の家族になってくれないか?』

 

 それが俺達の始まりだ。

 当時の俺には、ただ家族がいなくて寂しいという感情を埋めたいという気持ちもあった。

 最初はぎこちなかった。いきなり赤の他人に家族、つまり兄妹になれと言われても混乱するだけだっただろう。

 しかし日を重ねることに俺達は仲が良くなっていき、気が付いた時は文字通りの兄妹になっていた。

 そしてある日、美香が俺に『もし生まれ変わることができるなら、また三人で兄妹になりたいな』と言った。

 父親がゲーム関係の仕事をしていたことを思い出した俺は、二人にそれができるゲームを作ろうと提案した。

 道具の設定は朱音が、種族やキャラメイクの設定は美香が、そして魔法やスキルの設定は俺が考えた。

 『【転生者】という名のプレイヤーが【第二の人生】を歩む』をコンセプトとした自由な世界観を求めた俺達が試行錯誤を繰り返し、完成に近づいたゲーム、それが【シブリング・オブ・アンレイス】だ。

 シブリング─────Siblingとは英語で“兄妹・姉弟”という意味。そしてアンレイス─────Unraceとは英語で“異種族”という意味だ。つまり、“異種族の兄妹”が最大のテーマだ。

 といっても詳しいストーリーはまだ出来上がっていないので、これからだが。

 ただそれ以外の設定は決まっている。

 

「懐かしいなぁ。あの時は本当にびっくりしたよ。会うなり『俺の家族になってくれないか。キリッ』って言うんだもん」

「キリッ、とは言ってない。それにあの時はそれが最善策だと思ったんだよ。不満か?」

「そんなことはないよ!むしろ良かったと思ってる」

「うん。勇人が言ってくれなかったら、今の私達はなかった……………断言できる」

「……………そうか」

 

 真正面からこうも正直に褒められると恥ずかしくなる。

 顔が紅潮してきたのを感じ、何とかごまかそうとすると美香が何かを思い出したように自分のカバンを開けた。

 

「そうだ!この間、私たちをイメージした試作キャラを描いてみたの」

 

 これなんだけど、と透明なファイルから三枚の紙を取り出した。それぞれ3Dのイラストと俺達の名前、そしてその横にステータスらしきものが書かれている。どれもよくできている。

 

「へぇ、すごいじゃん」

「でしょ?色々考えて書いてみたの。気にいってもらえるかな?」

「……………うん、気に入った」

「本当?よかった!ちなみにそれぞれのキャラを詳しく説明すると……………」

 

 美香が試作のキャラの説明をしようとした時だった。

 視界がグラっと歪み、全身がよろけるような感覚が走った。

 その感覚は一瞬で終わる。しかしこの感覚が走った後、俺達は今まで感じたことのない不安や恐怖を全身に感じていた。

 周りの動きがとても遅く見える。時間でいえばほんの数秒だけだっただろうが、俺達にはその10倍は長く感じた。

 そして次の瞬間、さっき感じたものとは比べ物にならないほどの大きな揺れが俺達を襲った。

 

「じ、地震だぁぁぁ!」

 

 突然発生した地震に近くの歩行者が叫ぶ。

 それを皮切れに周りの人々が悲鳴を上げ始めた。

 揺れの大きさは尋常ではなく、立つことさえ困難だった。

 コンクリートの道路にひびが入り始め、建物も大きく揺れ始める。

 バタン、と板が倒れる音が響く。視線を向けると、そこには工事中と書かれた看板が……………()()()

 

 ギィィ……………!

 

 上空から金属同士がひしめき合う音が鳴る。

 まさかと思い見上げると、クレーンで吊り上げられた複数の巨大な鉄骨が地震で揺れていた。

 更によく見ると、揺れの影響で重心が徐々にずれてきている。

 まずいと思った俺は、体勢を崩して身動きが取れなくなっている朱音と美香に飛び込んだ。

 それと同時に鉄骨が滑り落ちてきた。

 

「朱音ぇぇぇぇぇぇ!美香ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 必死に叫んで二人に手を伸ばす。

 俺に気が付いた二人も手を伸ばす。

 届いた!そう思って引っ張り抱きしめた瞬間、鉄骨が無慈悲にも俺達の体を潰した。

 俺達が死を覚悟した瞬間だった。

 

『もし生まれ変わることができるなら、また三人で兄妹になりたいな』

 

 かつて美香が言っていた言葉を思い出す。

 あぁ、そうだな…………

 生まれ変われるなら、また…………家族、に…………

 それを最後に、俺の……………俺達の意識は、この世を去った。

 

 

──────

────

──

 

【シブリング・オブ・アンレイス】

 

 “異種族の兄妹”という名を持つ彼らの夢は、突然の悲劇と共に消えた。

 しかし、彼らが必死に作り上げた“設定”は、新たな異世界を作り出すきっかけとなった。

 彼らが良く知る“概念(ルール)”のもと誕生した、彼らの知らない“歴史(ストーリー)”が存在する世界。

 “設定(イデア)”によって作り出された肉体と魂がリンクした彼らは、歴史が刻まれた新世界に転生する。

 この転生が彼らにどのような影響を及ぼすか……………それは、誰にも予想できない。




圧倒的駄文、でも面白けりゃいいと思うこの頃。


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転生後の世界
転生しました、俺達の世界に


2話目、どうぞ


「「「………………」」」

 

 薄紫色のケモ耳少女、黒い角の生えた赤髪の女性を前に、尻尾と羽を生やした白髪の男、つまり俺が向かい合った状態で沈黙が続く。

 そりゃそうだ。この状況を一体誰が理解できると言えようか。

 まず俺達はさっき鉄骨に潰されて死んだ。それは実際に体感した、紛れもない事実だ。

 ここまではいい。問題はその後だ。

 死んだはずの俺達は、再び意識を取り戻した。

 最初は死後の世界かな、と思ったよ。でも違った。

 目を覚ました俺達が次にいたのは、どっかのファンタジーゲームでありそうな巨大な森のど真ん中。

 風の流れも感じるし、空気もうまい。

 木がガサガサと揺れる音も聞こえる。

 どう考えてもあの世とは思えないぐらい色々とリアルすぎる。

 そして体を起こして状況を確認しようとしたとき、目の前に湖の水面があった。そこに写っていたものを見て固まった。

 左にいた少女は薄紫色の短髪で、頭から猫のような耳が生えている。瞳は青く、紫のワンピースの上にウサ耳の黒いフードを着用している。身長は150㎝前後と小柄で、猫の尻尾が生えている。

 右にいた女性は真っ赤なポニーテールで、額から黒い角が生えている。瞳も真っ赤で、白いTシャツと黒いジーパンの上に赤いコートを羽織っている。身長は170㎝前後で、少し細身。

 そして最後に俺の目の前に写った人物。白髪の短髪で、頭部の側頭部からねじれた角っぽいものが前から後ろにかけて生えている。瞳は黄色く、服装は……………何といえばいいだろうか。『どこかの王国の王子が戦に参加する際、鎧の下に着ていそうな白黒の騎士団長を思わせる見た目』と表現すれば分かってくれるだろうか。身長は180㎝前後とこの三人の中では一番背が高く、もうドラゴンだろこれ、としか言いようのない巨大な翼と尻尾が生えている。

 状況が混乱しそうになったのでとりあえず三人集まって整理しようと考え、今に至る。

 

「……………あー、一応確認のため自己紹介するぞ。俺は天道勇人、ゲーム会社で働いている26歳独身。さっき鉄骨に潰されて死んだ。そっちの角を生やした女性は?」

「えーっと、私は天道美香、義理の兄である天道勇人と同じゲーム会社で働いている24歳。私も鉄骨に潰されて死んだ。次は、猫っぽい人」

「……………天道朱音、勇人の義妹で22歳。以下同文」

 

 予想はしていたが、やっぱり朱音と美香だった。

 三人同時にため息をつく。

 そして同時に理解した。

 いや、正確にはすべてを理解したわけではない。他にもわからないことは沢山ある。

 ただこの状況で理解できることは一つだけある。

 

 “転生”

 

 どうやら鉄骨でつぶされた俺達は、不幸中の幸いと言えるのか、その“転生”を果たしてしまったらしい。

 しかも、前とは全く違う姿として。

 それにしてもこの二人(俺を含めると三人)、何か既視感があるんだよな。

 

「なぁ、美香。俺、この姿達をどこかで見たことがあるような気がするんだが…………」

「それはそうよ。だってさっき見せてたし」

「見せてた……………あぁ、あれか」

 

 思い出した。

 そうだ、地震が起きる前に美香が見せてくれた試作キャラの三人に似てる、というかほぼ一緒だ。

 

「ちなみに私が≪鬼人族(オーガ)≫で朱音が≪獣人族(ワービースト)≫、勇人が≪竜人族(ドラゴノイド)≫っていう種族だよ」

「ふぅん……………」

 

 何となく手を握ったり開いたりしてみる。

 見た瞬間は驚いたが、実際に動かしてみると妙に馴染んでいる。

 背中の翼や尻尾だってそうだ。

 人間だった前世にはなかった器官。しかしそこに大きな違和感を感じない。

 動かし方だって何となくわかる。

 朱音も同じことを考えているようで、顔の側面に手を当てては頭の耳に添えるを繰り返している。側面は髪の毛で覆われておりよく見えないが、彼女の動きから推察して、そこに耳は存在しておらず、頭の上に移動しているようだ。

 何とも不思議な感覚だ。

 美香はぶっちゃけ角が生えていること以外人間と同じ構造をしているから、馴染むのはすぐわかる。

 しかし人間とはかなり異なる構造をした姿になった俺達でも同じように馴染むことができるのは、前世の俺ならおそらく考えられないだろう。

 やはり転生した際、身体の変化と共に感覚も変化するからだろうか。

 転生した主人公達が、新しい姿になっても不自由なく体を動かせる理由が分かった気がする。

 ……………転生した主人公達で思い出したが、その転生者の中には確かゲームにおける自分の設定が実際に反映された人もいたな。

 

「そういえば、美香が種族の設定を作ったんだよな?」

「うん、そうだよ」

「じゃあさ、俺達の種族の設定を色々教えてくれないか?」

「いいけど……………なんで?」

「いやさ、よくゲームの世界に転生した主人公とかで、ゲームの設定が実際に反映されたって人とかいたじゃん?もしかして俺達も……………なんて」

「そんなうまい話があるとは思えないけど……………わかった。それじゃあ軽く説明するね。

 

 まずは勇人の竜人族(ドラゴノイド)から。竜人族は、人間と竜の二つの特徴を持った種族。成長の個体差が激しく、魔法に特化した者もいれば物理攻撃に特化した者もいる。竜人族同士で集団行動をすることは極めて少なく、基本単独行動。

 次に私の鬼人族(オーガ)。鬼人族は、額から1本または2本の角が生えているのが特徴の種族。力強く、破格の戦闘能力を持つ個体が多い。とても仲間思いで、裏切りを誰よりも嫌う。また上下関係を大切に重んじる。

 最後に朱音の獣人族(ワービースト)。獣人族は、猫や犬等の動物に見られる特徴を持った人型種族。五感の内視覚・聴覚・嗅覚がずば抜けて高く、足の速さではどの種族にも負けない。基本集団行動で、中には夜行性の者と昼行性の者がいる。

 

 こんな感じかな。もっとわかりやすく説明するなら、龍人族はステータスが運試しのソロプレイヤー向け、鬼人族はバリバリの前衛戦闘派、獣人族は索敵による奇襲・偵察タイプだね」

「へぇ。ちなみに鬼人族の力ってどれぐらいだ?」

「うーん、そうだね……………一応、あそこの木くらいなら蹴りで折れるくらいかな?」

 

 美香が例として指さした木を見てみる。

 ビル5階分はある立派な木だ。

 幹の直径は約150cmと言ったところか。

 

「蹴り方は?」

「えっとね、こんな感じ」

 

 さらっと聞くと、美香が何の疑問もなく『えいっ』と空手の要領でその木に後ろ回し蹴りをぶつけた。

 ドンッ、という物が物に当たったような音はならず、バキィ、という明らかに何か太い物が折れたような音が鳴った。

 えっ?と思った瞬間、美香が蹴った部分から凄まじい速度でひびが入り始め、木が勢いよく折れた。

 本人は軽い気持ちで蹴ったのだろう、まさかの出来事に放心状態となり、口をあんぐり開けてポカーンとしている。

 折れた木はそのまま大地に倒れ、森全体に地響きを発生させた。

 しばらくその状況に俺達が呆然としていると、美香が何事もなかったかのような表情でこちらに顔を向けた。

 

「……………ね?こんな感じで折れるよ?」

「うん、とりあえず美香の力が凄まじいってことはよくわかったよ」

 

 多分鬼の力に空手の技術が加わったことで威力が倍増したのが原因だと思うが、何にせよ蹴り一発で大木を折ったのは驚きだ。流石は異世界。

 まぁ、やった本人が一番驚いていると思うが。

 しかし、この折れた木どうしよう。

 さっき大きな音を立てて倒れたからな、この森にいるかもしれないモンスターが聞きつけて俺達を襲いに来る可能性がある。

 来たところで美香が馬鹿力で折れた木をぶん回せば何とかできそうな気もしなくはないが、この世界について知らないことが多すぎる今、可能なら戦闘は避けたい。

 けどこういう時に限って何かしら起きるのが世の常なわけで、

 

「……………何か、来てる」

 

 朱音が頭部の耳をピクピクと動かし、何かが近づいていることを俺達に伝える。

 これがフラグというものか。

 そしてどうやら美香の設定は、朱音にも反映されているようだ。

 現に俺達には何かが来ている気配すら全く感じない。

 しかし彼女はしきりに耳を澄ませて、森のある一点を見つめていた。

 

「朱音、何か聞こえるのか?」

「うん……………何かが、二足歩行で走ってる……………二人?一人はとても必死に走っていて、その後ろをもう一人が走っているみたい……………追いかけられてる?」

「追いかけられてる?もしかしてそれ、誰かが誰かに襲われているってことなのかな?」

「多分……………逃げている人が何かしゃべってる……………女性?『捕まりたくない、助けて』って」

「声もわかるのか……………それにしても助けて、か。これで完全に襲われていることは確定したな」

「だね……………あ、見えてきた……………っ⁈」

 

 俺達の耳にも何かがガサガサと音をたてながら近づいてきているのを感じた時、朱音にはその姿が見えてきたようだ。かなり青ざめていることから、状況は思わしくないことがうかがえる。音がだんだん大きくなってきた。

 

「ひどい怪我……………逃げているのは、エルフ?。そして追いかけているのは、人間っぽい」

「……………ちなみにここに着くまではあとどれくらいだ?」

「…………………………今!」

 

 朱音が叫んだのと同時に、茂みから何かが飛び出してきた。

 人のようだが、耳がとがっている。朱音の言う通り、エルフのようだ。

 髪は黄色く無造作に伸びきっている。

 服はその原形を留めておらず、ボロボロになっている。

 身長は160cm前後。

 全身が傷だらけで、足からは血が流れていた。

 グリーンアイの瞳が必死にこちらを見つめている。

 

「君、大丈夫か?」

「………………………っ⁈」

 

 状態を確認しようとすると、何かに気付いた彼女は俺達の後ろに隠れた。

 すると今度はその茂みから、見るからに悪役系モブの顔をした汚い禿げのおっさんが現れた。

 おっさんは俺達の後ろに隠れたエルフを見て、俺達に話しかけてきた。

 

「おい魔物共!今お前らの後ろに隠れたエルフをこっちに渡せ。そうすれば命だけは助けてやる」

 

 うわぁー、完全にモブキャラの発言だよこれ。

 俺達めっちゃなめられてるよ。

 ふと、何か殺気のようなものを感じる。二人に目を向けると、お怒り状態だった。

 そりゃそうだ。今俺達の後ろに隠れたエルフの状態を見て、このおっさんの発言を聞いて、腹が立たない方がおかしい。

 なので、俺が先陣を切って、

 

「エルフよりもおっさん、俺はあんたの将来が心配だぜ」

「俺の将来だと?」

「あぁ、だってお前あれだろ?()()()()()だけじゃなく、()()()()()()、ってやつ」

「なっ⁈」

「「ぶっ‼」」

 

 頭を指さして挑発した。

 おっさんは突然のおやじギャグ兼罵言に驚く。

 両隣にいた二人は俺のギャグがツボになったのか吹き出して笑っている。美香に関しては腹を抱えている。

 後ろのエルフはきょとんとしている。

 

「……………て、てめぇ……………魔物の分際で調子に乗るなよ!」

 

 怒りが頂点に達したおっさんは、腰に掛けていた剣を抜き、矛先を俺達に向けた。

 いや、あれは剣と言っていいのか?

 確かにあれを収納している鞘は紛れもなく剣の形をしている。

 しかしそこから抜かれたのは、剣のような刃をいくつも持った鞭だ。

 あんな特殊な鞭……………いや剣?やっぱ鞭?あーもうわからん、とにかくへんてこりんな武器を俺達に向けた。

 

「驚いただろ?この剣はそこらの剣とは一味違うぜ。こいつの名は」

鞭剣(ウィップソード)。剣形態と鞭形態の二つの姿を持つ武器。近くの敵は剣で、遠くの敵は鞭で攻撃と臨機応変に戦うことができる。しかしその構造の難しさから扱えるものは少ない。ジャンルは剣」

「そうそう、鞭剣といってな……………って、おい!俺の説明を横取りするんじゃねぇ!」

 

 おっさんが説明する前に朱音が解説をする。

 というかやっぱり剣なのね、あれ。

 

「というか朱音、知ってるの?」

「うん。なんか見たことがあったから」

 

 見たことがある?

 転生してからあんなの見たことあったか?いや、俺はない。

 とすると、前世でか?でも前世であんなの見る機会なんて一度も……………

 いや、まて、まさか。

 

「ちぃ、さっきから鬱陶しい奴らだ。この一撃で灰にしてやる!【縛炎陣(フレイムサークル)】!」

 

 おっさんが鞭をグルグルと回しながら魔法を唱える。すると鞭に炎が纏い始め、渦になった炎が俺達に方向を向ける。

 けど俺はおっさんの魔法を聞いた途端、ある仮説にたどり着いた。

 そして俺は気付いた。この世界の概念について。

 炎が襲ってくる直前、俺は後ろのエルフの子に質問した。

 

「……………一つ質問なんだけどさ、君って“転生者”に、会ったことある?」

「……………⁈(コクッ)」

 

 言葉は出なくとも、首を上下に振って肯定する。

 俺の質問と彼女の反応を確認した美香と朱音は、その意図をすぐに理解した。

 やはりそうか。

 転生者をこの子が知っている。

 それが分かっただけで、俺達はこの世界の構造をおおよそ予想できた。

 美香が設定した種族の能力の反映。

 朱音が前世で見たことがあるという武器。

 転生者の存在。

 そして俺達がこの姿になっていること。

 それらは全て、ある一つの仮説を成り立たせるのには十分だった。

 

「なら話は早い。美香、朱音、今からちょっとあのおっさんにとっておきをお見舞いするから、その子と一緒に少し離れておいて」

「あいあいさー。派手にやっちゃって!」

「うん、了解。エルフさん、こっち」

 

 朱音と美香がエルフの子と一緒に先ほど倒した木の陰に隠れる。

 おっさんの炎の渦がこちらに迫ってくる。

 

「隠れたって無駄だ!なんせ【縛炎陣】は」

「視界に入るもの全てを焼き払う火属性の広範囲攻撃スキル、だろ?」

「っ⁈ふ、ふん、魔物のくせによく知ってるじゃねえか」

「まぁな。でもなおっさん、それで俺達に勝てると思ったら大間違いだ」

「いちいちむかつく言葉を並べるんじゃねぇ!」

「事実を言ったんだけどなぁ……………仕方ない」

 

 体を横に向け、右手をおっさんに向ける。

 脳内で発動したい魔法(スキル)を想像し、キーボードを打つ要領で詠唱(コマンド入力)する。

 すると右手からバチバチと炎が発生し始め、やがて手のひらサイズの大きさに変化した。

 不思議とそれからは熱さを感じない。これが魔法か。

 おっさんが「死ねぇ」とか「くたばれぇ」などとほざいているが、その言葉そのまま返してやるよ。

 

「一発しか撃たねえから、死ぬなよおっさん?」

「うるせぇ!死ぬのはてめぇだ!」

「やれやれ、じゃあ行くぜ」

 

 炎の渦が俺を包む直前で右手を大きく後ろにさげる。

 そして当たる直前に魔法の名前を叫び突き出した。

 

 

 

「エクストラスキル【爆炎砲(ブラストバァン)】」

 

 

 

 次の瞬間、俺の右手が眩しいぐらいに光り、直後おっさんの魔法を打ち消し、そのままおっさんに直撃。

 その後どうなったかはもう想像できるだろう。

 俺の予想をはるかに上回る威力の爆炎を起こしたそれは、おっさんを黒こげにし、森の一部を文字通り消滅させた。

 おっさんの魔法の威力を手榴弾並と仮定するなら、俺の魔法はおそらくダイナマイト並だ。

 このとき俺の心にあったのは、やっべやりすぎた、という感情だけだった。

 けれどこれで仮説は立証された。

 俺達はこの世界の概念を知っている。

 この世界に存在する魔法やスキルは俺が作ったもの。

 この世界に存在する種族の設定、つまり種族ごとの能力は美香が作ったもの。

 この世界に存在する道具は朱音が作ったもの。

 そう……………俺達が考えたゲーム【シブリング・オブ・アンレイス】の設定が、そのままこの世界の概念として反映されている。

 何故そんなことが起こったのかはわからない。ただ、その事実だけははっきりとしていた。

 『第二の人生』をコンセプトにした世界、俺達が望んだ世界。

 その世界が今、現実として目の前に存在している。

 俺は心の中で転生させてくれた神に感謝していた。

 俺達は転生者。転生先は、俺達の世界。俺達は、俺達が望んだ世界で、第二の人生を迎えることになった。

 

「……………まぁそれはさておき、これどうしよう」

 

 先程の魔法で黒焦げになって気絶しているおっさんとその後ろに広がった元森の部分を見ながら、俺はこれの後始末をどうしようか考えることにした。

 ……………とりあえずおっさんはそこら辺のツルで縛って吊るしとくか。




どうしても展開がはやくなってしまいます。


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エルフ族との邂逅

三話目、どうぞ。


 モブのおっさんと戦闘(一方的)で勝利した後、おっさんをツルで吊るしあげた俺は大木の陰に隠れている朱音と美香のところに向かった。

 彼女と一緒に隠れていたエルフの子の状態はというと、意識を失ったのか美香に膝枕されていた。

 朱音が確認したところ命に別状はないようだ。

 安心して大木に腰掛ける。するとカランという瓶に当たった音が聞こえた。何だろうと思ってみてみると、そこには綺麗な色をした液体が入った手のひらサイズの瓶が沢山置かれていて……………って、ちょっと待て!

 

「えっ?はっ?ちょ、これってまさか、ポーション⁈」

「うん、当たり」

「当たり、じゃねぇよ!一体どうしてここにポーションがあるんだ!しかも大量に!」

「……………なんか、出来ちゃった」

「は?」

 

 俺がエクストラスキル放った時に何があったのかは、美香が話してくれた。

 何でも俺の指示に従って隠れた場所に偶然『ヤエグラ(くさ)』という珍しい薬草があったらしい。

 そしてそれを見つけた朱音が、エルフの子の傷を治せるんじゃないかと思い掴んだ瞬間、何かのスキルが発現したような声が脳に響いたという。

 んで、俺が放った【爆炎砲】の爆風に目をつぶり、収まったころに目を開けたらなんと掴んでいたヤエグラ草を含めた周辺の薬草が全部ポーションに変化していて、理由はともかくこれだけあれば十分だと思い使ったところ、まさかの一本だけで事足りるという結果に。

 確かによく見てみると、さっきあったエルフの子の傷が完全になくなっている。

 

「で、その余りがこれ全部、と?」

「うん」

「……………なぁ朱音。ちなみにスキルの名前は何て言ってた?」

「えっと………ユニークスキル【創造(クリエイト)】って」

「マジかよ」

 

 朗報、朱音はチートスキルを手に入れた!

 あの状況でこの子、しかもそのスキルを手にするとは………やはり天才か!

 

「えっと勇人?朱音が手に入れたスキルって、何なの?」

「ユニークスキル【創造(クリエイト)】。材料さえあれば何でも作り出せるチート錬金兼収納スキルだ。確か朱音は錬金っていう、物と物を組み合わせて新しい物を作り出す機能を作ってたよな?」

「うん。正確には、プレイヤーが手に入れた錬金のレシピに書かれた特定の材料を組み合わせて、レシピの道具を作り出す機能」

「そうそう。そして朱音、その錬金で作り出せるものはある程度決まってるだろ?武器の形とか、道具の能力とか」

「もちろん、というか当たり前」

「そう、当たり前だ。けど【創造】は違う。簡単に言えば【創造】は、【シブリング・オブ・アンレイス】のアイテムクリエイターそのものになれるスキルだ。ゲーム内にはない新たな武器や道具の生成、更にスキルで作ったものにはある程度自由に能力を付け加えるだって可能。つまり、『即死効果を持つ必中のレールガン』なんていう小学生が考えそうな『俺最強』武器とか、『一回使えばあらゆる攻撃を受け付けなくなる無敵状態になるチートアイテム』とかも材料次第で作れるってことだ」

「「何そのありえないぐらいぶっ壊れ性能のチートスキル」」

「そんなスキル作ってたの勇人⁈ダメでしょそれ‼」

「ゲームバランス崩壊、免れない」

「そういわれると思ったから俺は没にしたんだよ!絶対に黒歴史になるって思ってさ!それがなんで、よりによってリアルアイテムクリエイターである朱音に発現してるんだよ⁈」

「そんなの勇人が作ったからでしょ⁈」

「だから没にしたって言っただろ!存在しないはずのスキルなんだよ!」

「でも実際に発現した……………何で?」

「俺が聞きてぇよ!」

 

 さっきも言ったように、このユニークスキル【創造】は、本来【シブリング・オブ・アンレイス】には存在しないはずのスキルだ。

 その破格の自由度によるバランス崩壊が起きると思って、作ってすぐに破ってゴミ箱にダンクシュートした。それは確実だ。

 なのになぜその黒歴史が今、この世界で存在して……………

 は!まさかこの世界には、俺が作った没ネタのスキルが他にも存在しているのでは?

 もしそうだとすれば、色々やばいぞ!

 その没スキル、全部ぶっ壊れ性能だし!

 あ、でも全部ユニークスキルだから、世界でたった一人しか持たない能力っていう設定だし、複数いないだけマシか?

 そしてその中でもかなりやばい【創造】が朱音に発動したのが幸いか?おかげで世界中に核爆弾の雨がふる、なんてことにはならないと思うし!

 そうだ。そういうことにしよう!

 考えをポシティブにするんだ!

 

「……………まぁ、出てしまったものは仕方がない。本職クリエイターの朱音以外にこのスキルが発動していないってことだけでもラッキーってことにしよう」

「……………そうだね。朱音なら【創造】ってスキル使いこなせそうだし。それに、あまり悪いこともし無さそうだし」

悪いこと……………うん、しない」

「おい、なんだ今の間は?」

「気のせい気のせい」

 

 なんか企んでそうな気がしたが、まぁいいか。

 朱音は頭もいいし、真面目だから。

 

「ところで勇人、あの森どうするの?」

「森?……………あぁ、すっかり忘れてた」

 

 朱音のポーションの話で夢中になり、エクストラスキルぶちかまして焦土になった森のことをすっかり忘れていた。

 エルフの子の状態も確認できたし、おっさんも捕縛できたし、後はこれをどうするかだな。

 本当は今すぐエクストラスキルで元に戻せなくもないが、魔力が心配だ。

 ぶっちゃけさっきの【爆炎砲】で、魔力っぽい何かが一気に体から無くなった感覚があった。量でいえば多分5割強ぐらいか?もしエクストラスキルで使用する魔力が全部それぐらいだとして、次発動したら多分俺ぶっ倒れる。できればそれは避けたい気持ちだ。

 

「かといって、このままの状態にするのはなぁ………なんか申し訳ない」

「なんかって………でも確かに、こんな爆炎で森を消滅させたのはまずいと思う」

「うん。もしかしたら、このエルフの人達が怒ってこっちに来たりして」

「エルフ……………そういや美香、エルフってどんな種族なんだ?」

「うーん………簡単に言えば、『森の守護者』ってところかな?」

「森の守護者って、完全に俺がやばいやつじゃねえか」

「かもね。でもまぁ、基本的には話が分かる種族だし、真実を言えば許してもらえると思うよ」

「だといいんだが。最悪この子を守るためにしましたって言えば済むか?」

「多分ね。ちなみにエルフ族は比較的女性が多い種族で、森のことなら何でも知ってることから『森のレンジャー』とも呼ばれてるよ。とがった耳を持っているのが特徴で、動物たちの必要以上の無駄な殺生を嫌ってる」

「必要以上って、どんな時に必要なんだ?」

「大体は食事の時。ほらエルフって木の実しか食べないイメージがあるじゃない?あれ、私どう考えても栄養偏るじゃんって思ったのよ。だからさ、どうやったら『森の守護者』というイメージを崩さずにバランスよく栄養を取るように出来るかなって悩んだのよ」

「いや、めっちゃどうでもいいところで悩んだなお前」

「何言ってるのよ、こういう細かい設定を考えるのが楽しいんじゃない♪それで私は考えた。『動物や植物たちがもたらす恩恵をものすごく大事にする種族ってすればいいじゃん!』てね。そうして出来たのがさっきの『必要以上殺さない』って設定。結構上手くできてるでしょ?あとは、自分の命にかかわる状況になったりとか、どうしても殺さざるを得ない時とかぐらいかな」

「まぁ、上手か下手かでいえば、上手だな。ゲームになってたら多分ものすごくいらない設定になりそうだけど」

「まあまあ、そこは気分の問題だし、いいじゃない」

「ところで美香、エルフ族って強いのか?」

「どうだろう。エルフ族は基本弓を使った遠距離戦闘や回復魔法を得意とした支援タイプだから、ソロには向いてないと思う。あ、でも集団になると結構強いかも。あとフィールドが森だったら尚更強くなるかと」

「フィールドって……………俺達地形の設定なんてまだしてなかったぞ?」

「だから、そこは気分の問題だって!あぁ、あともう一つ。勇人と朱音ってさ、エルフといえばこの子みたいなカラーリングをイメージしてるでしょ?」

「あぁ、髪は黄色で目が緑、服も緑っていうのがセオリーだな」

「うん……………違うの?」

「頭が固いなぁ、二人とも。エルフていうのは基本的に『耳がとがっている』のが一番の特徴なの。つまりカラーリングとかに決まりはない、だから私はキャラメイクの設定で色んなカラーリングのエルフ族を作ったの。そしたらみんなすごく綺麗で可愛くなっちゃって!もう興奮が止まらなかったわ!思い出しただけで……………フヘヘヘ」

 

 美香が自分の世界に入ってしまう。

 そういえば美香って可愛い人形がものすごく好きだったな。

 キャラメイクの時、人形に似たものを感じたのだろう。

 顔はめっちゃダメな状態になってるけど。

 というかフヘヘヘって、不気味な笑い方だな、おい。

 気を付けないと変質者と思われるぞ?

 

「動くな、静かに手をあげろ」

 

 そうそう、こんな風に後ろから首元に剣を近づけられて動くなって言われて警察みたいなのに捕まってしまうぞー……………って、うん?

 

「「「え?」」」

 

 突然の女の声に間抜けな声を出してしまう。

 さっきまで誰もいなかったはずなのに、気が付いたらエルフ族と思しき集団に囲まれてしまっていた。全員こちらに弓を構えている。

 さすがの美香も現実に戻ってきたらしく、今の状況に混乱している。

 二人に視線を向けて、とりあえず言われた通りにしようと俺達は手をあげた。

 

「……………やけに素直だな。少しは抵抗するものだと思っていたが」

「えっ、抵抗したほうが良かった?」

「いや、我々としてはそのほうが助かるのだが……………まあいい」

 

 リーダーと思われる女性エルフが指を鳴らす。

 すると何人かエルフが俺達に近づき、本当の警察っぽく後ろに腕を回され手錠らしきものを掛けられた。

 そして美香の膝の上で眠っているエルフの子を彼女たちが回収し、俺達はその場で立たされた。

 

獣人族(ワービースト)鬼人族(オーガ)、そして竜人族(ドラゴノイド)、お前達の身柄は我々が拘束させてもらう」

「「「はーい」」」

「この後お前達には我々の国に来てもらい、この惨状となった森や彼女と出会った経緯などについて詳細に話してもらう」

「「「了解でーす」」」

「それと、この大量のポーションは全て没収するが、構わんな?」

「「「どうぞどうぞ」」」

「あと、まさかとは思うが、あの吊るされた人間はお前達のな」

「「「エルフを襲って楽しんでそうな奴が仲間な訳ありません。むしろ敵です、あんなクソザコハゲ頭腐れ外道」」」

「そ、そうか。ならいいんだ」

 

 あのおっさんをエルフたちが拘束しようとする際、リーダーエルフが仲間かと聞いてきたので、きっぱりと否定させてもらった。

 他は別に疑われても仕方がないと思うけど、それだけは絶対認めない。

 あんなやつが仲間とか人間失格、というより生物失格だろ。

 

「……………本当に抵抗どころか口答えすらしないな。ここまでくると、逆に何かされそうで怖くなってきたぞ」

「それは…………なんかごめん」

「別に謝る必要はないのだが……………全く、不思議な奴らだ。ではついて来い」

 

 リーダーエルフが歩き始めたので、俺達もその後を追うようについて行った。

 一応俺達に掛けられた手錠は繋がっているようで、一人のエルフがその末端と思われる縄を掴んで俺達の横を歩いていた。本来なら彼女が俺達を引っ張って連れて行くはずだったのだろう、あまりにも素直について行く俺達を見て複雑そうな表情をしていた。

 今度からは少し反抗してみようかな、そんなことを思いながら俺達はエルフたちの国へと向かったのだった。




スキルなどの設定を1から作る小説家の皆さんを尊敬します。


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