ヒカルと佐為と知らない幼馴染 (ウメタロ)
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第一話

時は遡り、進藤ヒカルは逆行者である、そしてその相棒ともいうべき藤原佐為もまた逆行者であった。

2人は再会を涙ながらに喜び、また碁が打てることを幸せに思っていた…、一つこの知らない幼馴染を除いては…。

 

「ヒカルぅ〜待ってよぉ〜」

女の子の声、ヒカルにとっては唯一の幼馴染であった藤崎あかりの声であった。

「ハクも早くしないと学校遅れるよぉ〜」

「わかってるよ、でもこの詰碁がさ…」

二人の後を追うように一人の子供が本を読みながらついて行っている。

「本読みながら歩いてると転ぶって先生にいつも言われてるじゃない!」

立ち止まりぷりぷり怒っているあかりを見て、ヒカルと佐為は(この頃のあかりってでけぇな)「やっぱりあかりちゃんは可愛いですねぇ」とそれぞれ思うところがあった。

そしてそのあかりの後ろの幼馴染を見るたびに、(絶対こんな奴いなかったよな?)「いませんでしたねぇ」と二人で話し合うのであった。

 

この幼馴染どうやら黒井ハクという名前らしいということ、真っ黒な髪と真っ白な肌が特徴であるということと、どうやら囲碁の本をしょっちゅう?読む時があるらしいということが、ヒカルと佐為の中で調べた結果らしい。

授業中でも読んでいるので最近の佐為は授業を受けつつも、囲碁の本も覗けて歓喜しているのだが、ヒカルからすると自分は堂々と覗きに行けないのが残念でならなかった。

そしてバレるたびに先生に怒られるのだが、成績は優秀なので、禁止にされるほどではないらしい、ということまでわかっているのだが。

 

ヒカルからすると、授業の内容は小学生の内容なのだが、頭が逆行しているおかげで前ほどは成績は悪くない、むしろ優秀なほうでヒカルの両親は一時期心配したようだ、祖父の蔵で倒れてから急に成績は良くなるわ、あかりと積極的にいるようになるわ、おまけに幼馴染であるハクのことをすっかり忘れているわで、大騒ぎになった、もっともヒカルも佐為もその時逆行してきたのだが、病院で検査したところ一時的なものであるようで、健康上は問題ないと言われ安心してようではある。

もっとも父親は心配はしていたが、さほど心配ではなく、ヒカルの成績が上がったことにただただ喜んでいた、なぜなら妻の小言を聞く回数が少し減ったからである。

 

一方でヒカルも困っていた…、今までのことを思い出すのも苦労していたし、しかし佐為がいたおかげで、大半のことは不自然な形にならずに済んだのは幸いであった、そして佐為がいることが何よりも嬉しかったが、ハクというイレギュラーがどうにも腑に落ちずにいて、ハクに対して警戒心を抱いていたが、ハクは自分を忘れられていると言われたにも関わらず、それほど気にせず無事で良かった、と思いやりのある言葉をもらったので、悪いやつではないのだろうと、ヒカルと佐為の脳内会議で様子見という結論に至ったのであった。

そんな中ヒカルは意を決してハクに何を読んでいるのか、知らない程を装いながら聞いてみた

「ハクお前それ何読んでるの?」

ハクは意外だという顔を見せながら

「本読んでる時にヒカルが声かけてくるなんて珍しいね、いつもは早く本読まない時期がこい!って言ってたのに」

笑いながらハクは表紙を見せて囲碁の本だよっていうことをヒカルに教えた。

「いつもヒカルは俺が本を読んでる時は全然見向きもしないのに、急に声かけてくるなんてヒカルお前本当に大丈夫か?」

ハクはヒカルが倒れてから何かが変わったのか察しているような感じがして、ヒカルは急いでごまかすことにした。

 

「いや別に大したことないんだけどさ、いつも熱心に読んでるから気になったんだよ」

「囲碁の本だよ、ヒカルいつも俺が囲碁の本読んでるとジジくさいっていって外にいつも遊びに出てるじゃん、それで読まなくなった時を見計らっては外で遊ぼうっていうから意外でさ」

ハクは笑った。

そこでふとヒカルに一つの疑問が思い浮かんだ、本を読まない時期があるってどういうことだろう?という疑問である。

このハクという少年はどうやら囲碁に熱中しているときもあれば、ぱったりと囲碁の本を読まなくなる時があるという、あかりから聞いた情報ではあるが、それ故にヒカルはその時期になるとヒカルはハクを遊びに連れまわすらしいということなのであった。

この世界に逆行してまだ碁を打てないことにヒカルも佐為もフラストレーションが溜まっているせいか、思い切ってハクに碁が打てるかどうかを聞いてみることにした。

「ハクはその囲碁ってやつが打てるの?」

ハクはまたも意外そうな顔だが少し嬉しそうに、「少しなら打てるよ」とヒカルに返した。

 

これはもしかしたらチャンスかもしれない!

ヒカルはそう思った、なぜならヒカルの家には祖父からもらった碁盤がまだないからである、どうやって買ってもらおうか考えてはいたが急に祖父に勝ってしまっては怪しまれる、ならばこのハクと打って腕を磨いたとすれば、多少不自然さはなくなるのではないか?とニヤリと思いついたのであった、佐為にも相談したが、それが一番無難かもしれませんねと、肯定したのでその作戦で行こうと決めたのであった。

 



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第二話

「久々にヒカルとあかりがうちに来たね」

そういいながら、囲碁の本などを片付けながら言う。

ヒカルがハクの家に行くと言うので、何か怪しいと言うことを察したのか、あかりも付いて来ていた。

「そうだっけ?色々思い出して来たけど、確かにハクの家がなかなか思い出せなかったからそうなのかもな」

ヒカルは調子よく誤魔化しにいくが、

「何言ってんのヒカル! いつもハクの家に来ては本ばっかでつまんねぇ!ってゲームやりながら言ってたじゃない!」

とあかりに突っ込まれる。

 

佐為があちゃーという顔をしているのを尻目に、ヒカルもあちゃーという顔で、

「そうだったな!今思い出したわ!やっぱハクの家って本ばっかだよな!」

とぺろっと舌をだし、また誤魔化した。

怪しいとは思うものの、ヒカル自身あかりに最近優しいので、あかりも深くは突っ込まないことにしたらしく、今日は何するの?とハクに聞いていた。

「今日はヒカルが碁を打ちたいっていうからさ、碁を打とうと思うんだけど…」

そういうとあかりが実に意外そうな顔で、

「嘘でしょ!?ヒカル!」

となぜかヒカルを睨む。

「碁を習っちゃ悪いかよ…!」

とヒカルは返すが、あかりは即座にヒカルの額に手を当てて、「熱はないみたいね」と確認していた。

「熱なんてねぇよ!」と軽くあかりの手をはたきながらヒカルはムッとしたが、ハクはそのままニコニコしていて、

「せっかくヒカルがやるって言ってるんだから、試しにあかりもやってみたら?」

とヒカルに助け舟をだした。

 

「そうそう!あかりもやってみようぜ!意外と面白いかもしれねぇぞ!?」

意気込んでヒカルがいうものだから、あかりは何故か一層怪しんで、「何が目的…?」とヒカルに突っ込んだ。

むむぅっとなったヒカルは佐為にどうしたもんか?と問うと、佐為は「私に聞かれても…」といいつつ、「ヒカルのお祖父様と絡めればよいのでは?」といったところで、ヒカルの頭に電球がついて、「いやね…爺ちゃんに囲碁で勝てれば小遣いがもらえんだよ…」

へへへと邪な顔をしながらあかりに対して誤魔化した。

「もう…そんなことだと思った!」とあかりはある意味ヒカルらしいヒカルが見えて安心したのであった。

そんな痴話喧嘩のようなものを見ながらハクはそろそろ始めようかと、五目並べや碁の基本を二人に教え始めた。

 

ヒカルや佐為からすると基本中の基本なものだが、あかりには新鮮だったらしく、へぇーそうなんだ、と楽しそうに学んでいるところをヒカルは(やっぱこの頃のあかりってでけぇよな?)と佐為に聞き、「何をいってるんですか、今度こそあかりちゃんを大事にするんですよヒカル!」とたしなめられ、(へいへい、わかりましたよーだっ!)と脳内で話し合っていた。

「とまぁ、こんな感じなんだけど、どうかな?」

とハクは二人に聞く。

「おーう、わかったぜ、これで爺ちゃんに勝てるかな!」などと調子のいいヒカルと、

「すっごい楽しかったよハク!」と感動の目でハクをみるあかりに満足したのか、

「それは良かった!また囲碁知りたくなったらやろうよ!」とここ最近で一番嬉しそうなハクがいて、ヒカルはともかくあかりも嬉しそうであった。

 

(ハクってもしかして結構碁が打てるんじゃね?)

帰り際ヒカルはあかりを家に送りがてら、佐為と脳内で話をしていると、佐為は

「教え方のうまさをみるに、年齢に対して少なくともかなり打てるのでは?」

「ヒカル!私ハクと打ちたいです!!打たせてください!!!」

とわがままに対し、

(やーーだねっ!打つとしたらまず俺が先ーーー!!)

という子供の喧嘩をしながらも、どこまでハクは打てるのか?という疑問が二人に沸いた。

「あーーー囲碁面白かったなあかり! この調子で爺ちゃんに勝って小遣いもらいてぇ!」

もっともらしいことを言うヒカル

「もーっヒカルったらそればっかり!」

怒りながらもやはりヒカルと一緒にいれて嬉しかったあかりには花のような笑顔があった。



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第三話

そんなこんなで、ハクに二人は教わり続け、その指導が大変わかりやすいのもあって、囲碁が打てるようになるであろう頃を見計らって、ヒカルはハクに碁を挑むことにした。

「ハク、囲碁で勝負しようぜ!!」

意外そうな顔を見せたが、すぐ喜んだハクは

「よし!そろそろ打てるだろうから打とうよ!」と乗り気になり、碁の勝負が始まるところを、佐為が私に打たせてください攻撃をヒカルに仕掛けジタバタしていたが、するっとスルーしたヒカルに怨嗟の声を上げていた。

「置石はどうする?」との声をヒカルは「馬鹿野郎!男と男の勝負に置石なんていらないやーーい!!」とわがままを押し通した。

 

しかし、碁が始まると一転みんな静かになり一手一手が進む、ヒカルとしてはハクがそれなり以上に打てることに気づいてはいたが、想像以上に打てることに相対してやっと気付いた、佐為もそれに気づいたのか、じっと碁盤を見つめている。

対局は終始ハクの優勢で始まり、ハクの勝利に終わったが、ヒカルとしてもハクの腕前を見るために挑んだ碁なので勝つわけにはいかなかったが、ハクの実力の底はそれゆえに分からずじまいだった。

対局が終わるとハクは「ヒカル!!お前天才なんじゃないか!?」と碁を始めたばかりだと思っているヒカルに声をかけた。

ぐぬぬ負けたという顔をしながら、「ハクに勝てないんじゃ爺ちゃんに勝って小遣いもらえないじゃん!」と負け惜しみを言うことにしたヒカルに対し、「このままいけばいずれヒカルの爺ちゃんのヘソクリも全部もらえるんじゃない?」と少しヒカルの邪な顔が移った形でハクはニヤリと笑った。

その対局を傍で見ていたあかりが怒るのは至極当然のことであったのは言わずとも分かることだろう。

 

家に帰ったヒカルはハクの棋力に対して佐為と相談することにした。

「佐為、今日打った感じどれくらい打てると思う?」

「今日見た所少なくともプロ並みに実力はあると思いますね」

佐為は帰るまでずっと口惜しそうにしていたが、ヒカルに聞かれると真面目にそう返した。

「俺はさハクのやつ、俺が本気で打ったら勝てっかな?ってそういうレベルなんじゃねぇかな?って今日打って感じたよ」

直接相対したからこそわかる、気持ちをヒカルは佐為に伝えた。

「ヒカルがそれほどまでいうとは…」

佐為は驚いたが得心がいったようで、

「確かにいずれにせよ只者ではないのが今日でわかりましたね」とヒカルのいうことに賛同したのである。

その後佐為がハクと打ちたい打ちたいとずっと言っていたが、お小遣いを貯めた携帯碁盤で対局することにより、打ちたい攻撃は終息を終えたとか終えてないとか。

 

しかしそんなハクとの再戦が叶うのはしばらく後のことになるだろうと思い知った日が来た。

ハクが途端に碁に興味をなくしたのである。

ヒカルとしてはハクの実力が気になっているものの、自分が急に打てては怪しまれるのを防ぐために少しづつ上手くなったフリをして、実力を引き出そうと思ったが、その矢先の事であった。

「ヒカルーー今日放課後外で遊ぼうぜー!」

ハクが今までのハクと打って変わって、アウトドアなタイプになったことにビビったヒカルは、そういえばあかりがそんなことを言ってたなと思い出し、残念に思った。

「ハクお前碁はいーの?」と聞くとこの頃は

「碁は面白くないからいい」といってとんと碁を忘れたかのように碁打たなくなったのである。

「また面白くなりそうだったら打つけど、それまで碁はいーよ」と昔のヒカルなら諸手を挙げて喜んだであろうが、今のヒカルにはショックでしかなかった…、自分の新たなライバルが急に碁を打たなくなるなんて、自分が佐為を失くして碁打たなくなった時の周りの気持ちが少しわかったような気がした。

しかしあかり曰くまた時間を置くと碁に夢中になるということはあらかじめ聞いていたので、チャンスはまだあると希望を見出したヒカルと佐為なのであったが、その時にもやはり佐為は次こそは私が打ちたいと、ヒカルに打ちたい攻撃をしたのであるが、解決策を見つけるから待ってとしか言えないヒカルなのであった。

 



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第四話

そんなハクを尻目にヒカルにはやることがあった。

それは自身の祖父との碁と塔矢との邂逅である。

祖父との勝負は買って自分が長年使っていた碁盤と出会うため、しかし塔矢との邂逅にはどうすべきか悩んでいた。

「なぁ、佐為、じーちゃんとの勝負でちゃんとした碁盤はもらえると思うけど、塔矢とはどうするべきだと思う?」

手始めに佐為に聞くことにしたヒカル。

 

「それはヒカルのやりたいようにやればいいと思いますよ、あの時のように私が打ってもいいですし、ヒカル自身が新たに打っても結果はそう変わらないと思います」

できれば私が打ちたいですけど…とやはり碁が打ちたそうな佐為であった。

「俺は佐為に打たせるのが無難かなぁって思ったんだけどさ、一番面白そうなのはハクに打たせることだと思うんだよな!」

少し興奮したようにヒカルがいう。

「ハクに打たせる? そういうことですか、ヒカルも意地が悪くなりましたね」

最初何を狙っているのかわからなかった佐為だが、意図を察するとふふっと笑みをこぼした。

 

「でもハクがあの調子じゃあなぁ…」

と碁にさっぱり興味をなくしている新たなライバル候補をヒカルは思う。

「しかしハクと塔矢を打たせるのは私も名案だと思いますが、問題は時期ですね、もうあまり時はありませんから、私たちのどちらかが打つしかないのでは?」

佐為がそう問いかけると、ヒカルは

「そうだけどさ、これならハクの実力がどれほどか見れると思ってさぁ〜、未だに実力がどれくらいなのかわかれないのが悔しいよなぁ」

とっとと本気で打ちてぇよ…と愚痴をこぼすヒカル。

「いっそのことあかりちゃんとハクには自分が逆行者だということを話してもいいのでは? そうすればハクと本気で打てますよ!」

とシンプルな解決方法を示す佐為ではあるが

「そんな簡単に自分が今までの進藤ヒカルじゃないって言えっかよ」

と複雑そうにしているヒカル。

「でもいずれにせよ言った方がいいことなんかなぁ…?」

ヒカルと佐為には尽きない悩みであった。

 

無事爺ちゃんとの碁に勝ち、ヒカルと佐為は長年使っていた碁盤との再会に喜んで、一局打ちながらヒカルは

「やっぱこの碁盤が一番しっくりくるよなぁ」

と感慨深げに呟いた。

「そうですねぇ、それにしてもヒカルは本当に強くなりました、今では私と対等に渡り合えるようになっているとは…」

逆行して、初めて二人が携帯碁盤で打った時、佐為は驚嘆していた、まだまだ自分の足元にも及ばないと思っていた弟子があれから10年経っていたというが、ここまで腕を上げているとは…。

「バッキャローこっちは元の世界だと本因坊背負ってんだよ!おいそれと負けられるか!」

とヒカルは意地を張っている。

「あんなに小さかったヒカルが本因坊にまで上り詰めるなんて…、やっぱり信じられませんね!」

パタパタ袖を振りながら佐為は抗議するが、

「じゃあ今目の前で打ってる俺は偽物だっていうのか?佐為?」

ふっふっふっと形勢がヒカルに傾いたのをいいことにヒカルは意地悪く笑った。

「!? やりますね、流石は本因坊…ですが私も本因坊なのですよ!」

形勢が悪くなり、むむっとなるが少し考え直し形勢を立て直した佐為。

「しっかし他の奴らと打てないともの足りねぇのがあるのも確かだよなぁ… 俺は佐為とだけ打てればもうそれで良いと思ったけど、まさかハクっていう知らない幼馴染がいて、そいつがかなりの実力を秘めてるってなると打ちたくなるのが碁打ちの性ってやつだよなぁ」

それに対しては佐為も同意した。

 

「そうですねぇ、私もこんなに強いヒカルと、いえ強さは関係なくまたヒカルとこうして打てるだけで幸せなのに、あのハクという者は底知れぬ何かがあって、どうしても知りたくなってしまいますね。」

人の欲望とは底知れないと、幽霊の佐為が言う。

「確かに底知れねぇよな、だって幽霊になってまで碁を打つやつまでいるからな」

二人は笑った、ひとしきり笑った後、

「案外虎次郎の生まれ変わりを神様が用意してくれたとかそういうことってあったりするかもな」

ニシシとまた笑ったヒカル

「そうだといいですね、それに成績もヒカルより優秀ですし、おとなしいですから、案外そうなのかもしれませんね」

少し人の悪い顔をしながら笑う佐為

「うっせーな!成績なんてどーでもいいの!これからも碁打ちで食ってくんだからさ!」

ツーンとした顔のヒカル

 

「そういえばヒカルは今回も碁のプロになるのですか?」

思い出したかのように聞く佐為

「まぁ…俺が食ってくにはこれしかないしなぁ…他にできることがありゃそれもいいかな?って思ったけど、やっぱ碁を打って暮らせるだけでも万々歳だよ」

暮らしのことに対して真面目に考えていたヒカルに対し佐為は感動した。

「ヒカルも大人になったんですねぇ…」

「そりゃ大人にもなるっつーの、あれから10年以上経ってんだからさ」

色々大変だったんだぜ〜、と言いながらヒカルはその当時当時に思いを馳せているようだ。

「ところであかりちゃんとは私が消えてからどうなったんですか?」

思い立ったことで一番気になることを佐為は聞いた。

「あぁ〜、あかりか…俺と結婚したよ…?」

なぜか疑問形だったヒカル

「えぇぇ!?結婚したのですか!?ヒカルが!?嘘でしょう!?」

信じられぬ顔をする佐為であったが、

「いやさ、なんかあくる日にこれ書いてくれってあかりに出されてさ、それが婚姻届だったのよ、そいでそれ書いて気がついたら結婚しててさぁ」

あっはっはーっと笑いながらヒカルがいう。

 

「ヒカル…あなたって子はどうしようもないですね…」

呆れる佐為であったが過ぎたことはもうどうにもできないので、

「今回こそはあかりちゃんをしっかり幸せにするんですよ!」

そう釘を刺した。

「わかってらい、前の時よりは良くするように努力はするさ! それに前の時もあかりはそれでいいのか?って後で聞いたけど、幸せだって聞いたから大丈夫だよ!…多分」

勢いよく言ったものの最後は不安なヒカル

「その多分を絶対にするのがヒカルの男の見せ所でしょ!」

佐為が厳しい言葉と厳しい一手を打ったところで

「だぁーーーい!投了だぁーーい!」

碁盤をひっくり返しそうな勢いでそのまま話題も投了したヒカルは、その場でひっくり返ったのであった。

 



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第五話

ヒカルは塔矢名人の経営する例の碁会所にきていた。

「ハクも今だに碁に興味ねぇみたいだし俺達で塔矢と打つかぁ」

とかなりめんどくさそうにしているヒカル

「なんでヒカルはそんなに塔矢と会うのにめんどくさそうなのです?」

不思議だと思い聞く佐為

「だってよぉ、あれから俺が因島とか行くたびについてくるようになったんだぜ?嫌になるぜまったく」

うざそうにしながらヒカルが言う

それを察した佐為は少し悲しい目をしながら

「ヒカル…ごめんなさい」

と謝った。

 

「いいんだよまたこうして会えたじゃねぇか! もう過去のことは言いっこなし! それでよぉ塔矢が毎年因島の旅行プランとか立て始めてよぉ、こっちは自分のペースで行きたいのに嫌になるぜ全く!」

佐為はその光景を脳裏に想像し、少し笑った

「だからあいつとはもっとほどほどに絡みてぇんだけどなぁ」

塔矢に対してドライなヒカルに対して佐為は

「昔は塔矢塔矢だったのに今度はハクハクですか、これが噂の三角関係ってやつですかね?」

と楽しそうに佐為は呟いた

「そんなんじゃねぇ~よ!」

図星をつかれて形勢が悪いと察したヒカルは碁会所に足を踏み入れたのであった。

「いらっしゃいませ~ あら!子供一人!?」

と市川は驚いた。

「うん、子供一人だけどいい?」

(市川さんわっか!!!)

と過去を遡ってきたものがいるならば、なら誰もが思うであろう感想を思いながら、ヒカルは言う。

「いいわよ 大歓迎!子供は500円だけど棋力はどれくらい?」

そう市川が聞くと

「棋力はね 本因坊クラスかなぁ?」

とふざけた声を出しながらヒカルが言う

「だからここで一番強い子と打たせてよ!」

と畳み掛けた。

 

市川は少しドキッとしたが、冷静になって

「ここで一番強い子はいるにはいるけどぉ…」

といったところで、

「君、本因坊クラスに強いの?すごいね、僕と打とうよ」

と例のおかっぱ頭の少年がやってきたのであった。

前より食いつき気味に来た塔矢に対してやはり面倒になったヒカルは

「う、うん打とう打とう」

と若干引き気味に答えた。

「その年で本因坊クラスだなんてお父さんが聞いたらびっくりするだろうな」

となぜかワクワクしている塔矢アキラである

「お前なんでそんな食いつきいいんだよ…」

と半ば呆れ顔をしているヒカルにアキラは

「だって名人が経営している碁会所に本因坊が来たってなったら誰もが興味持たない?」

とごく自然に返してきた

(あちゃ~ 言われてみるとここで名人並っていえば月並みだけど本因坊は珍しいからかぁ)

と拙い自分を少し呪ったヒカルだった

「君、名前は? 置石はどうする?」

と聞くアキラに対して

「俺? 進藤ヒカル、置石だぁ? いらねーよ 互先互先」

というヒカルの声

「そりゃ本当に本因坊だったら僕が置石置かせてもらうくらいだから当然か」

なぜか納得しているアキラなのであった

そうして始まった対局だが、ヒカルは佐為に相談した。

 

(佐為…お前打つか?)

佐為は首を振り、

「ヒカル私が打ちたいのは山々ですが、やはり貴方が打つべきでしょう、おそらく生涯のライバルの一人になるであろう者と…」

そう佐為は観戦を決め込んだ。

(しゃあねぇ、俺が打つか…)

そう決めて碁石を握った。

一手一手展開が進むごとにアキラの顔は強張っていった

(これは…指導碁だ…なんてわかりやすい…)

自分のはるか高みから見下ろしてくるこの少年をアキラは信じられずにいた

(この一手なんて僕の碁打ちとしての才能を確かめているようだ)

そうアキラが自分に対する指導碁に対し必死に食らいついて行く間に対局は終わった、

結果は言うまでもなくヒカルの勝利に終わった。

項垂れているアキラに対し特になにも言うことなく

「また縁があれば打とうな」

今回はなるだけ角が立たないようなおかつドライに接することに決めたヒカルはそれだけ言って帰っていった。

 

帰りに市川さんに子供囲碁大会のチラシをしっかりもらっていくのも忘れなかった。

「やっぱ塔矢は塔矢だったなぁ」

ヒカルは塔矢アキラが塔矢アキラであることに安心した様子で呟いた。

「随分力を入れた指導碁でしたね」

佐為も納得の表情で返した。

「まぁな 本因坊クラスって名乗ったからには本因坊クラスの指導碁くらいはしてやらねぇとなって思っちまったんだよ」

「本因坊は大変ですねぇ」

他人事のようにいう佐為であるが、

「どっかの本因坊に憧れて、本因坊になったやつもいるくらいだからなぁ」

と口を尖らしながらもやはりいつもの相棒が隣りにいることが嬉しそうなヒカル

「そうですね、どっかの囲碁幽霊が二人の本因坊を誕生させてしまったわけですもんね」

うふふと弟子の成長を喜んでいる佐為

「うっせーやい!調子にのんな!」

そんなことを言いながら帰路につく二人なのであった。



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第六話

ヒカルと佐為は歓喜した! なぜならば朝一緒に登校している幼馴染が帰ってきたからだ!

具体的にどう帰ってきたかというと、ハクがまた碁の本を読み出したのである。

「ほらねヒカル、また囲碁に夢中になり始めたでしょ?」

ヒカルに何回も確認されたあかりはどうだ!と言わんばかりに胸を張った。

「うおおおおおお! ハク帰ってきたのか!!」

「なんだよ、帰ってきたって…、前と逆になってね?ヒカル?」

歓喜しているヒカルを若干気味悪そうに見るハク

「まぁまぁいいじゃん! それよりも今日学校終わったら碁打とーぜ!」

囲碁にハマってくれたことが嬉しかったのか、ハクもそれ以上は気にせず

「いいよいいよ! 打とうよ!」

と返してきたので、あかりも

「あたしも行く~~!」

と言ったので放課後はハクの家に集まることになったのだった。

 

放課後ハクの家に集まると、ヒカルは素早く参考になりそうな囲碁の本を品定めし、

「ハク! これ借りてくなーー!」

遠慮せずにバッグにまずは押し込むヒカル

「もーーーヒカルったら!! ハク、ごめんね」

あかりが代わりに謝るが気にせずハクは

「いいよ! だってヒカルが碁にハマってくれたからこれから一緒に打てるから本くらいいくらでも貸すよ」

といって意に介さなかった。

(しめた! これで棋力が上がった言い訳ができる)

としたり顔のヒカル、そして新しい様々な碁の本が見れる~~~!!と歓喜している佐為

あかりと碁を打っているハクを見ているヒカルと佐為

(しかしハクも良い指導碁打つよなぁ)

「本当に丁寧な指導碁を打ちますねぇ」

あかりに対して非常に丁寧な指導碁をうつハクに感心する二人であった。

 

「よし、こんなところかな、あかりもちゃんとした碁が打てるようになってきたね」

嬉しそうにいうハクと嬉しそうなあかりに少し嫉妬したヒカルは

「次は俺とだーー!」

待ってましたと言わんばかりに身を乗り出していった。

「そんなにあわてなくてもちゃんとヒカルと打つから大丈夫だよ」

「置石はなしだったよね?」

「あったりめーよ!」

ヒカルは意気込んで、前よりちょっと上手くなったふりをして、打つことにした。

「くっそーーーまた負けたぁ!」

頭を抱えているヒカル

「やっぱヒカル天才だよ」

「ちょっと教えただけでこんなにうてるようになるなんて…」

ハクは感嘆しているようであった。

「お前に勝てないんじゃ意味ないやい!」

そういつものように負け惜しみを言っているヒカルなのだが、段々とその言葉は本心に近いものになってきていてもどかしくなっていた。

 

「もうヒカルのお爺ちゃんにも勝ったんだろ? ヒカルのお爺ちゃんってアマでも強い方だから、お前院生になれるんじゃねぇの?」

そうハクはまくし立てるが、ヒカルはふと思い立って

「俺がその院生だかなんだかになれるんだったら、ハクはもうプロになれるんじゃねぇの?」

と将来のことについて探りを入れてみることにした。

「僕はダメだよ…どうしても囲碁を打ちたくなくなる時期とかがあるから…プロになったらそんなこと言ってられないでしょ? だから趣味のままでいいんだ…」

今までで一番哀しそうな目をしたハクに対して、ヒカルはしまったと思い

「ごめんな…」

謝るしかなかった…。

あかりも悲しい顔をしているが、気を取り直したように、そんなことより碁を打とうよ!と気を利かして沈んだ空気をとうにかしてくれようとした。

それに対してヒカルも佐為もハクもやっぱあかりはいい子だなっと感じたのである。

そうして三人いや四人は帰りの時間まで囲碁を打ち続けた。



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第七話

あっ!と思い立ったのはあくる日のこと、ヒカルは碁の本をほっぽり出し、バッグの中を漁った、子供囲碁大会の日である。

「…行きたくねぇ…!」

必ず塔矢アキラが来ることはわかっているが故に面倒なヒカルなのである。

「ですがここまできたら行くしかないのでは?」

佐為はある意味塔矢アキラに責任を果たさねばならないのでは?とヒカルに諭した。

「そりゃそうなんだけどさぁ…これから付きまとわれるとなると億劫で…」

まるで老人のようなことを言うヒカルに佐為はちょっとおかしくなってしまった。

 

「ですが今回はヒカルが指導碁を打ったことにより、少なからず違う影響があるのでは?」ということで、やはり子供囲碁大会に行くことにした。

子供囲碁大会は活気に満ち溢れていた。

佐為も二回目ではあるとはいえ、やはりこれだけの子供達が囲碁に夢中になっているのを見て嬉しそうである。

それだけでもやっぱり来たかいはあったなぁと思えたヒカルなのであった。

「さすがに前回のようなポカはしないようにしないとな」

ということで傍観を決め込んでいるヒカルはひとしきり楽しんだ後、外で待つことに決めた。

 

すると塔矢アキラが全力でダッシュしてきて、「進藤!進藤ヒカル!」

息を切らしながら迫ってきた、

「おぉ塔矢か、どうしたん?子供囲碁大会に参加しにきたの? あいにくだがもう終わっちまったぜ?」

さも偶然を装ってヒカルが問う、

「君は参加したのかい?」

「いんや、見学だけしにきた、なんかあったの?」

「その、君とまた打ちたくて、もしかしたらここで会えるかと思ってきたんだ」

「おう、なら打つか? でも俺金ないから席料支払えないぜ?」

回避できるもんならしたいとおもったが、

「席料なんていらないよ、僕と打ってほしい!」

やっぱ打つことになるかぁと諦めムードのヒカルは結局ついて行くことにした。

そしていつもの碁会所にたどり着いたので、打つことにした。

 

アキラは大分検討をしていたようで、前より腕は上げたが、それでもまだヒカルの足元にも及ばなかった、しかし確実に成長を実感した碁ではあった。

「いい碁だったよ、また縁があったら打とう」

そう言って帰ろうとおもった時にアキラがふと、ヒカルに問いかけた、

「君はプロになるのか?」

その問いに少し考えたあとヒカルは

「プロにはなると思うけど、いつかはわからねぇな」

そんな玉虫色の発言に塔矢は急に声を大きくした

「じゃあプロ試験を受ける時は教えてくれないか? 君が受ける時に僕も受けるよ!」

えぇーーっと戸惑いを隠せないヒカル

「いいじゃん塔矢はとっととプロになれば、俺には俺のやりたいことがあんの!」

「そのやりたいことっていうのはなんだ!? 教えてくれ!」

まためんどくさくなりそうだなぁとおもったヒカルは、トンズラをこくことにきめた。

「そんなプライベートなことまだ知り合って間もないのに聞くなよ! とにかく俺には俺のやりたいがあるの!」

じゃあな!っと逃げるように碁会所を出ていった。

 



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第八話

最近のヒカルは上機嫌である、なぜならハクとここ最近は毎日打てるからである。

本気で打てないストレスはあるが、自分が打つ碁に対して、佐為とはまた違った美しい碁を打つハクに惚れていた。

あかりとハクの碁を見ている時に何気なく見渡したら、ある物が目に入った…。

それはまだこの頃では普及まもない物であるPCであった!

「ハク!そういやお前パソコンもってたんだ?」

「え? まぁ持ってるよ、ちょいちょいネット碁とかしてるくらいかなぁ」

何気なくいうハク、ここでヒカルに電流が走った!!!

(佐為!!ネット碁だ!!!ネット碁なら俺もお前も全力でハクと打てるぞ!!!)

(なんと…やはり囲碁の神様は我々の味方なのですね)

歓喜のあまり泣き出してる佐為を尻目に、ヒカルはなんとかハクのネット碁情報を聞き出すことにした。

 

 

今日もいつもの時間に現れるはずだ…。

そう思いPCに電源を入れて待機する人間がここに一人いた、緒方精次九段である。

彼は人づてにある無敗ネット碁棋士の話を聞き話半分で、試しに見て見たところその場でその棋士の虜になった。

(早くログインして俺と打て…kuroshiro!!!)

 

 

ネット碁に彗星の如く現れた棋士kuroshiro、彼に勝てたものはまだ一人もおらず現在のネット碁界ではすでに伝説とまでかしている。

現れては消え、そして気が付いた時にまた現れては消えるので、囲碁の幽霊なのではないか?とまで言われているのであった。

ヒカルと佐為はその情報を仕入れたとき心の底から歓喜した、自分たちの読みが想像以上の代物だったからである。

 

ハクの棋力がそこまでと知った瞬間二人の頭の中はハク一色に染まった。

早く全力のこいつと打ちたい、この者と打てば神の一手が見れるのでは!? 二人はなんとかPCを手にする方法を考えたが、インターネットカフェ以外には考えがつかなかった…。

インターネットカフェではお金がかかるので今の自分たちでは行けない、世知辛いものを感じ佐為はあまりの哀しみに泣き出す始末であった。

 

しかし解決策というのは思いもしないところでやってきた。

ある日の事夕飯を家族で食べているヒカルがPC〜ネット碁〜などと唸っているところを見た父は、

「なんだヒカル? PC使いたいのか? 父さんのでよければ使ってもいいぞ」

と鶴の、いや神の一声が舞い降りたのである。

「最近はお前の学校での成績もいいみたいだしな、それに碁も覚えて親父も喜んでたしな、爺ちゃん孝行してるご褒美だ!」

と父は言ってくれたのである。

母は貴方!そういって甘やかすのはよくないだのなんだのいってるが、実際成績も良くなり、祖父からの評判も良好となっている今ではそこまで強くは言えないのであった。

 

そんなわけで夕食が終わった後、PCを使わせてもらうことになったのだが、一つ問題が発生した…。

ヒカルと佐為どちらが先に打つか?である。

この問題は当人たちにとってまさに死活問題なのであったが、ヒカルはいつもハクと全力ではないが、打っているでしょ!!!という怨嗟の声がめいいっぱいこもった佐為の抗議により、ヒカルは折れざるを得なかった。

ここに前の世界で無敗の棋士であったsaiが再び降臨することになった。

「kuroshiroは、ハクはどこです!? ヒカル早く探して!!」

と急かす佐為なのだが、ヒカルとしても早く探して自分も打ちたいと思っているが故に早く探してはいるのだが、残念なことに毎回毎回事あるごとに対局中なので、見学または他の対局相手を選ぶしかない悲しさがあった。

 

そしてやはり自分たちも体験したが故にわかる、対局申請が多いのであろう、kuroshiroに対局を受けてもらうには、それだけ対局終了してからの対局申請の速さか、それだけネット碁で実力を見せつけて目をつけてもらうか、ということが嫌でもわかることになったので、まずはkuroshiroに並ぶ無敗棋士になることに二人は決めたのであった。

理由は簡単ヒカルは機械が苦手ゆえに対局申請が恐ろしく他の者たちに比べて遅いからである。

どれくらい遅いかというと、kuroshiroが次の対局を始めたあとに申請を送るというレベルで遅いのである。

初期の設定では持ち時間が少なすぎるので、持ち時間を長めに設定してじっくり打ちたい、というヒカルも佐為も二人が思っていることなのだが、この設定にも時間がかかり、結局他の人たちにkuroshiroとの対局を掻っ攫われるのである。

これには佐為はご立腹で、ヒカルのばか!!もっと早くしてください!などといつものパタパタ袖振り攻撃をそのたびに食らうので、たまらず後者の策を取らざるを得なかった。

 

 

「くそっ!!!また選ばれなかったか!」

ダンっと机を叩いてコーヒーを一口ぐびりと飲んでタバコで一服いれる、どこかのプロもまた選ばれずに悲しみを背負っていた。



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第九話

kuroshiroはsaiのように相手を問わずに打っている節があるので、競争率の高さは比ではなかった、それこそ前の世界でのsaiのように打てただけで自慢できるレベルである。

そうやって日々を過ごしていた頃、ハクが珍しくネット碁の話をしてきた。

「ヒカル!最近さネット碁で凄い強い人が現れたんだ!!」

どうやらこのハクという少年自分の強さには無頓着らしい。

「え!? そんな強い奴がいるの!?」

驚いたふりをして、頭の中でsaiでありますようにと願うヒカルと佐為なのであった…。

「うん!!saiって言うんだけどさ! 凄いんだよここ最近急に出てきて無敗なんだよ!!」

と興奮しながら話すハクに対して

「お前も無敗なんじゃないのかよ?」

と冷静に返すヒカル。

 

「そりゃそうなんだけどさ、きっと僕の場合は運が良くてたまたまなだけだよ」

相変わらず自分の実力には無頓着なハクだが、残念そうな顔をしていたのでヒカルは聞いてみると、

「この前saiに何回か対局申請してみたんだけど、全然対局できなくてやっぱり本当に強い人は打ってくれないなぁって思って…」

その言葉を聞いた瞬間ゲェ!?っという声がヒカルと佐為から出ていたのであった。

「ゲェッ!?ってどうかしたの?」

不思議な顔をしているハクに対し、いやなんでもないと誤魔化すヒカル、これに対し佐為の哀しみはこれ以上ないくらい深まっていた…久々にヒカルの体調に影響を及ぼすほどに…。

「ごめんちょっとトイレ!」

トイレに駆け込んだヒカル、そして泣き崩れている佐為…。

「こんな好機を何回も逃しているなんて…痛恨の至り…」

「まさか向こうから申請してきてくれてるとは思わなかったしなぁ…、次からはちょっと対局申請一人一人チェックした方がいいかも…?」

と反省したヒカルと佐為なのであった…。

 

なんて美しい碁なんだろう…。

そういって一筋の涙を流したのはこの対局をもっとも間近で見ていた進藤ヒカルであった。

黒と白の模様が入り混じって手をつないだかと思うと離れて、また手を繋いだかと思うと離れる。

ダンスを踊っているような美しい碁であった。

kuroshiroとsaiの対局が叶うのはそう遠いはなしではなかった。

すれ違いの日々が続いたが、ついに念願叶って対局が成立したのである。

『ヒカル!!ついにこの日が来たのですね…』

佐為は天を仰ぎ天に感謝している中、ヒカルは慎重に対局を成立させたのであった。

持ち時間は3時間、ネット碁としては長い時間の設定で対局は、黒がkuroshiro、白がsaiで粛々と始まった。

どっしり構えたkuroshiroに対しsaiもまたどっしり構え、戦いは膠着していたが、その一手一手全てが美しかった。

ヒカルは人の碁がこんなに甘美な碁に感じられたのは、佐為の碁とあかりの碁以来であるが、今またさらなる甘美な碁に酔いしれることができるとは思いもしなかったのである。

気がついたら涙がでていた、この対局を一番の特等席で観れたことに…。

『ふぅ…投了です…』

佐為が投了を宣言した。

 

ヒカルとしてもこれには驚いたが盤面を見れば最後の形勢は明らかであった。

コミを入れてもsaiが3目半とどかない…。

こんなにも美しい碁を自分は打てるだろうか?と考えながら投了ボタンを押した。

『ヒカル…世の中にはこんなに素晴らしい打ち手がいるのですね…、ますますこの世に未練が出来てしまいました』

そう笑った佐為の顔は未練と言いながらスッキリした顔をしていた。

「あぁ、この世には俺たちよりももっと碁が打てる奴がいる、そしてそれがこんなにも近くにいるなんて俺たち、幸せ者だよな」

二人して嬉し泣きをしていた、最中ピコン!と音がなった。

「今までで一番楽しい碁でした! よかったらまた打って頂けないでしょうか!?」

kuroshiroからのチャットであった。

これには二人もびっくりしたが、思い直すとここまで美しい碁を打ったのだ、それも当然だろうと思い返し、佐為にどうする?とヒカルは聞いた。

 

『もちろん!!!何度でもこれから対局をお願いいたします!100局でも1000局でも打ちましょう』

佐為は興奮してヒカルにそう返すよう催促した。

この囲碁サイトにはフレンド機能というのがあるらしく、kuroshiroとsaiは晴れてフレンドになり、これからも切磋琢磨していくことになる、その中で不満を募らしている人物がいた、ヒカルである。

「俺もハクと本気でうちてぇよ!畜生!こんなん見せられて俺は本気で打てないなんて…」

先ほどの嬉し涙と打って変って、悔し涙に変わったヒカルに対し佐為は『まぁまぁきっと機会はありますよ』と宥めるしかなかったのであった。

余談ではあるが、この夜の検討は深夜に至るまで続いたという。

 

 

kuroshiroにsaiこいつらは一体何者なんだ!? こんな碁を打つやつなんてプロでもいないぞ…、一部始終余すことなくみていた、白スーツの男はただただタバコとコーヒーを嗜みながら、この一局を食い入るように眺めていた。



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第十話

あくる日ヒカルは街を歩いていると、「あ!進藤ヒカル君よね!?」と声をかけられた、市川さんである。

「お願いがあるの! 今から囲碁サロンに来てくれない!?」

あぁそうか、塔矢名人に会える時かと思い返したあとヒカルはわかりました、とついていくことにした。

車の中で佐為と話をした、(佐為、お前塔矢名人と打ちたい?)

『ヒカル私は先日kuroshiroと打たせていただきました、今度は貴方が塔矢名人と打ってはどうですか?』珍しく謙虚な佐為。

(なんだよ、いつもは打ちたい打ちたい言う癖に)

フンとしているヒカルに対し、

『私はこの前kuroshiroと全力で打つことができました、ヒカルは今だれとも全力で打てなくて悔しい思いをしているでしょう、その不満を解消してあげたいのです』

そう佐為が言ってくれたので、遠慮なくヒカルは塔矢名人と打つことにした。

(でもいいよなぁ佐為はこれからkuroshiroと打ち放題なんてさ、羨ましいったらないぜ)

少し根に持つヒカルであった。

 

囲碁サロンについたとき、目の前には白スーツの男と、落ち着いた面持ちの和服の男がいた。

「君がアキラを二度も負かした進藤君だね? 息子が世話になった」

そう和服の男が話しかけて来た。

「はい、たまたま近い年の子がいなかったので、打たせていただきました」

丁寧に返すヒカル。

「君の実力が知りたい、一局お願いできるだろうか?」

「望むところです」

お互い知りたいものを知るための対局が始まった。

あらかじめアキラから棋譜を見せてもらっていたが故に置石など無粋な真似はすまいと、握ることにした。

黒はヒカル、白は行洋で対局することになった。

(この頃の塔矢先生も強いけど、まだこの頃なら俺は勝てる自信がある!)

そう思い、一手を打ち始めた。

じっくり様子見をしようとしていた、行洋相手に、ヒカルはガンガン攻め立てた。

行洋の地を奪っていく、ヒカルに対し、隣にいた緒方は驚愕していた。

この歳で塔矢名人に対し攻撃的に優勢を保つとは只者ではない…。

そしてその相手が自分でないことに、嫉妬すら覚えていた。

「ありません」

対局も終盤、攻撃的なヒカルに対し粘っていた行洋はついに投了を切り出した。

まさかこんな年端もいかない子供が塔矢名人を圧倒していいのか!? 緒方は狼狽えていたが、必死に冷静を保っていた。

 

「saiは君か?」

急に切り出して来た行洋に対しヒカルはびっくりした。

しかし、ここは知らぬふりをして

「saiってなんですか?」

と逆に聞き返した。

「そうか、君はsaiではないのか、kuroshiroというネット碁の棋士は知ってるかね?」

「ネット碁はやったことないです」

と嘘をつくヒカル厳密に言えば嘘ではないのだが。

「君やsai、そしてkuroshiro世界は広いものだな」

感慨深げな行洋に対しヒカルはどうしたのか聞いてみた。

「ネット碁棋士にkuroshiroとsaiという棋士がいてね、両方とも無敗の棋士であったらしいが、私はネット碁というものがどうも胡散臭く感じてしまっていてね、しかしそこの緒方君が棋譜を持って来てくれたんだ、それを見た瞬間私の囲碁に対する見識がどれだけ狭いか痛感させられたよ、そして君と打ったことによりなおさらね」

ははは、と笑いながら行洋は言う。

「そんなことないです、塔矢名人もすっごい強い棋士だと俺、いや僕は思ってます」慌ててフォローするヒカルであるが、

「ふふっ、気兼ねしなくていい、今の一局で君が私を上回っていることが、わかった。 いやはや碁の世界は広いものだ、できるなら私もkuroshiroとsaiと打ってみたいものだ」

行洋はネット碁に対してやる気があるように思えた。

 

「進藤君、君はネット碁はしないのか?」そんな行洋の問いに、ヒカルは返答に困った。

「できたらいいんですけど、パソコンがないんです」

たははっと返すヒカル。

「そうか、それならよければ私の研究会にこないだろうか? 君なら大歓迎だ、何よりアキラが喜ぶだろう、あれから君のことをこの囲碁サロンでずっと待っているからね、たまにはアキラと打ってくれないだろうか?何より私もまた君と打ちたい」

親バカですまないなっと謝りつつ行洋は切り出していく。

(佐為?どうする?)との相談に『いいのではないでしょうか? それに行洋と打つことにより、kuroshiroとの対局に備えて勝負勘も養わねば!』という佐為の一言により、時間の会う時でよければという条件で参加することにした。

これには行洋も喜び、ありがとうと、感謝の言葉をヒカルに伝えた。

そしてひと段落を終えた頃、ある男は我慢の限界を迎えた、「進藤!俺とも打て!!」緒方である。

もう夕方近くでヒカルは帰らないといけない時間なので、そこは行洋が今度は緒方君とも打ってくれないだろうか?と助け舟を出した上で、無事帰路に着くことができたのである。

つくづく恵まれない緒方であった。

しかし、研究会にきてくれるならチャンスはいくらでもあると、限界を迎えていた緒方であったが塔矢名人の手前、なんとか堪えることにした。

 

「やっぱ塔矢先生は強かったなぁ」

そう満足げに呟くヒカル。

『しかし、まだあの頃のように碁が変わってないので少し物足りない感じはありましたね』

弟子の勝利に満足するも物足りげな佐為。

「でも絶対塔矢先生はまた強くなるぜ、俺も佐為もそうだけど、ハク、kuroshiroがこの世にいて、あんな強い奴が碁を打ってるんだからさ!」

『間違い無いですね、私も彼の碁には感銘を受けました、あれほどの逸材に出会わせてくれた碁の神に感謝せねば』

天に祈りを捧げている佐為。

「大げさだなぁ、でもそれだけ、碁の神様から俺たちが選ばれたってことかもしれないから、もっと頑張らないとな」

『そうですね』

へへ、ふふっと二人は笑っていた。



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第十一話

あくる日の事、ハクとヒカルは二人で碁を打っていたのだが、突然ハクが恐れ恐れ切り出してきた…。

「あのさ、ヒカル、お前の隣にいる烏帽子の人って誰なの…?」

「は…!? ええええええ!?」

ヒカルと佐為は仰天した。

「お前、佐為が見えるの!?」

「うん、最初からずっと…、でもさお化けだと怖いと思ったからずっと言えなかったけど、ここ数ヶ月で悪そうじゃなさそうだなって思って思い切って聞いてみたんだけど…」

やっぱ怖いお化けなのか!?と後ずさりしたハク。

「……なんだよぉもぉおおお! ハク見えるなら早く言ってくれればよかったのに!!」

は?と呆然とするハク。

『ハクは私の声も聞こえるのでしょうか?』

「うん、ずっと聞こえてたよ…」

「ということは貴方がsai?」

『そうです、名前を藤原佐為と申します』

佐為は自己紹介をして、ハクもそれに答えた。

「あの、黒井ハクっていいます」

『ふふふ、私が見えるということは本当に虎次郎の生まれ変わりなのかもしれませんね』

佐為はふわりと微笑んだ。

「改めて見ると綺麗な人だなぁ」

できる限り見ないようにしていたようで、まじまじと見ているハク。

『ヒカルお前が急に囲碁覚えたいって言ったのはこの佐為さんのおかげなの?」

「そうだよ、うーん、どこから話すべきかなぁ」

ヒカルは悩んでいた。

『ここまできたら全て話してしまってもいいのでは? それにヒカルも全力でハクと打ちたいでしょう?』

その甘い誘いにヒカルは屈するしかなかった。

 

「そういうことだったんだ」

逆行してきたことも含め、ヒカルは全てを話した。

「ごめんな、ハク、俺はお前の知ってる進藤ヒカルじゃ無いんだ」

元の自分の世界ではハクはいなかった故に、警戒心を持ってしまったことを謝った。

『いいんだよヒカル、それよりも僕はヒカルが、僕がいてもいなくても囲碁を好きになってくれたことがとても嬉しいんだ、佐為さんに感謝しなくちゃね」

『なんていい子なんでしょう』

感激のあまり佐為は泣き出した。

「それは置いといて、もっと早く言ってくれれば本気でお前と打てたのに、なんでもっと早く言ってくれなかったんだよぅ!!」

「俺はずっとお前と本気で打ちたかったんだよ!!」

ヒカルの鬱憤が爆発した。

「あはは、だってお化けとかそういうの怖かったし、他の人、あかりとか見えてなかったみたいだから、怖くて…ね」

まぁそれもそうかと、納得したヒカルであったが、自分の苦労を知って欲しかったヒカルは

「佐為とお前を打たせるためにネット碁とかどんなに苦労したことか…はぁ…』

ため息をつくヒカル。

『ヒカルごめんって、これからはネット碁でもここででもいつでも打てるじゃない!」

そう息巻くハクに、ヒカルは機嫌を直した。

「よし! なら一局打ち直すぞ!」

そう言ってヒカルは今やっている対局を崩して、本気の対局を申し込んだ。

「あの本因坊秀策と打てて、それにその弟子と打てるなんて僕はなんて幸せ者なんだろう』

そんな幸せを噛み締めながら、ハクはヒカルとの対局に挑んだ。

 

今回の対局はネット碁とは違い面と向かってなので、待ち時間は設けずゆっくり打つことにした。

相変わらずどっしりと構えているハクに対して攻撃的な碁と絡め手をつかって、ハクを翻弄しようとするが、なかなか引っかかってくれず、最後はハクの勝利で終わった。

「くぅーーーあと四目半足りなかったかぁ」

「ふぅ、危なかったよヒカルさすがは本因坊だね」

「そんなお世辞はいらないやい!」

『二人ともとてもいい碁でしたよ、私とハクの対局に負けず劣らず胸が踊る対局でした』

佐為は最初から最後まで興奮して見ていた。

「ここはもう少し守りを固めるべきだったなぁ」

『そうだね、こっちを守って違う場所で勝負を仕掛けたほうが、得したと思う」

『わたしはこちら側を攻めるべきだったと思います』

そういって、囲碁界トップクラスの三人の検討は夕方過ぎまで続いていった。

唐突にヒカルはもう隠すのはやめだ!

俺もネット碁を打つ!といいだした。

「どうしたの急に」

「だってよぉsaiとkuroshiroはフレンドになってるのに俺だけネット碁で蚊帳の外は嫌なんだよ!」

とヒカルらしい嫉妬を露わにしたところ、佐為とハクは笑って。

「ヒカルがやるならもちろんネット碁でも打とうよ、そうすれば夜も打てるしね」

あはとハクは笑ったが、佐為もそうですね、と肯定したところ急に態度が変わり

『いけません! そうなったら私とハクの打てる時間が減ってしまうじゃありませんかヒカルぅーー』とポカポカ攻撃してきた。

 

「うっさいやい! 俺だってこれからハクと打ちたいの! 佐為だってこの前何局もハクと打ってたろ! ずるい!!」

ヒカルは再度鬱憤を爆発させた。

『それはそうですが…』

気まずそうな佐為はこれ以上反論できなかった。

「ところであかりにはこの事を言うの?」

ふとハクが思い立ったように言い出した。

「あー、それだよなぁ〜、いつか言おうとはおもってるんだけどなぁ」

悩んでるヒカルに対して、

「いつかいうべき時が来たら言えばいいんじゃないかな? あかりならきっと信じてくれるよ」

そうハクは微笑んでくれた』

ありがとなハクとヒカルは安堵の表情を見せた。

「ハクはこれからどうするんだ? ネット碁でお前めちゃくちゃ有名になってるけど、表舞台にはでないの?」

これからの事を聞くヒカル

「そのことだけど僕はネット碁とヒカルたちと打てれば満足だよ、それに例の持病にみたいなのもあるからね」

そう悲しげにつぶやいたハク

 

「それってどうにかならないのか?」

対応策を練ろうとするヒカルに対し、

「昔からあれこれ試したんだけど、どうしてもダメな時はダメなんだ、ごめんなヒカル、佐為さん」

「そっか」残念そうなヒカルだが

『仕方がないですよヒカル、こうして打てる時があるだけ感謝しましょう』と二人をなだめる佐為

「そのかわり打ちたい時はとことん打とうよ! いやっちゅーほどさ!」

ニカッと笑ったハクに対して二人も笑って

「そうだよな! 打てる時に打ちまくろうぜ!」

そう笑って三人はその日の碁を終えたのであった。



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第十二話

 

こうして懸念材料があかりだけになった今進藤ヒカルには敵はいないのであった!

「ちょっとヒカル!聞いてるの!?」

「なんだよぉ聞いてるよぉ〜」

最近私をのけ者にして2人でハクの家で何してるのよ!?

進藤ヒカルに敵はいないのであった?

(これは年貢の納め時ってやつかなぁ…)

『そうかもしれませんねぇ…』

「何って碁を打ってるだけだよ〜」

「嘘ね!だって碁を打つだけなら私がいても

いいじゃない」

涙目になりながらあかりがそう言い始めたところでヒカルは観念した。

「わかった、あかり全部理由を話すから泣くなって!!」

ヒカルは佐為がいつもパタパタしてるのを真似したんだかしてないんだかで、パタパタあかりをあやしている。

佐為と違ってまったく意味をなしていないパタパタであった。

 

ハクもいると話が早いということで、ハクの家にみんな集合することにした。

「というわけでうちなのねヒカル…」

「おう!ハクわりぃなぁ たはは」

「ハク、迷惑かけてごめんね」

「何々あかりはなんにも悪いことしてないよ! 悪いのは全部ヒカルのせいだから…」

しれっと全ての責任をなすりつけて知らぬ顔のハクであった。

「ハクお前にも責任の一端はあるんだぞ…!!」

多少なりともその間あかりをさけていたのは事実だったため、ハクも観念することになった…。

ヒカルがあの日からヒカルでない話を始めて今に至るまでを喋っていると、あかりは、なぁんだ、大したことないじゃないと相槌を打ってきた、思えばヒカルがお金欲しさといえど囲碁を始めるなんておかしい!ハクの存在を忘れてるなんておかしい! あかりからすればおかしすぎるくらいのおかしいでヒカルは埋め尽くされていたのだ、それが解決した今! あかりは清々しい顔をしていた。

 

しかし進藤ヒカルが逆行者だということ、藤原佐為という囲碁幽霊にだけは恐怖心をのぞかせていたが、そこはハクも囲碁だけの幽霊だから大丈夫だよとアシストを入れてくれたし、綺麗だというのでいずれ似顔絵を描いてもらう予定だ。

そして1番乙女の気になるところ!

進藤ヒカルは誰と結婚したのか!?

それは本人や周りはけして口を割らなかったのである。

はたして自分はヒカルと結婚できたのだろうか?未来を考えるときりがないが、心配になってしまっていた。

悪いようにはなってないみたいだよ、とハクが言ってくれたからには悪いようにはなっていないのであろう。

やはり持つべきものは善なる幼馴染である。

悪なる幼馴染は誰かは置いておいて。

あかりとしてはやはりヒカルやハクが全てを話してくれて嬉しかったのである。

その反面色々とバラさないよう約束はさせられたが…。

でもこの秘密も今まで遊んでた三人いや四人の約束だから精一杯守ろうと思うあかりであった。

そしてちゃっかりヒカル佐為ハクの三人から指導碁をしてもらえるように調整しているところがあかりらしいところである。

三者三様に様々なリアクションで面白かったようだ、途中誰があかりを1番うまく育てられるかという勝負にもなりかけたらしいが、そんなことしてる暇があったら碁打ちたいってことで指導碁程度ならということで、手を打ったのである。

本因坊秀策、未来の本因坊、そしてネット界無敗の棋士、この三人に贅沢にも指導碁を打ってもらえる身分に藤崎あかりはなったのであった、知る人が知ったら卒倒するであろう待遇である。

 

一通り話し終えたところで、いつもの会話に戻ることにしたらしいヒカルとハク

「ハク、いつ俺とネット碁するよ? またsaiとkuroshiroのときみたいに、世界中をあっといわしてぇなぁ!!」

そういうとハクも満更じゃないのか

「あまり騒ぎになるのは好きじゃないけど、あの時みたいな対局はまたしたいなぁ…、ネット碁って対面するのとは、また違う緊張感があっていいよね」

そういうハクにヒカルが

「そうだなぁ やっぱミステリアスなのがいい!!っていうのもあるみたいだぜ、緒方さんなんて俺が本因坊になったときにもまだsaiっていってたからなぁ」

あかりがあることにふと気付いて手を挙げたところ

どしたぁと2人とも視線をこちらに向けたので…ちょっと萎縮…

「saiの正体とかkuroshiroの正体はこのままずっと秘密で行くの?」

あぁそのことについてか、ヒカルが頭をかきながら、「saiは俺についてる幽霊だしさ、それにkuroshiroであるハクは持病もちだろ? それなら実名晒して余計なリスク背負う必要はないと思ってさ」

「正体を表せって輩もいるかもしれないけど、このご時世、ましてや日本じゃ何をいうにもするにも匿名匿名、なら俺たちも匿名で行こうぜってことにしたわけよ」

「へぇ〜ヒカルにしては考えたんだね」

「それ僕の受け売りだよ」

速攻でネタバラシされてしょぼくれたヒカル。

 

「まぁあかり見てなよ…俺たちが碁界全てを動かしていく様をよ!」

自信満々のヒカルに、ちょっと苦笑いのハク

そしてこれからどうなるのかワクワクしている佐為なのであった。



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第十三話

 

そして現在進藤ヒカルは塔矢邸の前に立ちつくしていた。

(やっぱでけぇなぁ塔矢の家)

『そうですねぇ』

研究会に誘われたのでせっかくだからと、出席することにしたヒカルなのだが、初めての道だからわからないだろう、ということでタクシーを使う予定だったのだが、とある白いスーツの個人タクシーに捕まってしまい、するすると塔矢邸についたのであった。

「何を見ているんだ早く入るぞ」

白いスーツの個人タクシーの人はどうやらここの人らしく何気なく塔矢邸に入っていった、すれ違いざまに「進藤!きたのか!!」

さぁ早く上がってと引っ張られもはやなすがままに研究会に出席することとあいなった。

「進藤君きてくれたんだね、本当にありがとう、また君と対局できるかと思うと胸がワクワクしてね…昨日は寝付けなかったよ」

自分をあっさり負かした相手がいることが嬉しくて塔矢行洋はヒカルに席に座るよう伝えた。

「今日の研究会はこの前の私と進藤君の一局にしようか」

「是非お願いします!」

ヒカルとしては塔矢行洋の狙いが知りたかったので、この検討こそ求めていたものであった。

ほかに異論を出す弟子もいなかったので、研究会はこれに決まった。

 

『この碁は序盤から終盤に至るまでヒカルが攻めっぱなしで終わった碁ですね』

(うん、この頃の塔矢名人はまだsaiと打ってないからね、名人自身の碁が若くなる前だから通じた碁だと思う)

『確かに行洋にしてはまだ受けが甘いところが多々ありますね、それが積み重なりこの形になったわけですね』

「進藤ここの一手は初めから読んでいたのか?」 白いスーツの個人タクシーの人緒方九段が発言をして、ヒカルはハッとしてから

「そうそう、あ…そうです、ここは読んでいたのでこっちにあらかじめ置くことにしておきました」 前世があるというのに、未だに緒方に対しては敬語慣れしていなかったヒカルである。

それを知らずに笑って、自分の言葉でいい、教えてくれ。 と緒方はこの碁について検討を積極的にしていた。

 

塔矢アキラも積極的に父に一手の真意を聞いていたりと、この検討は非常に実りのあるものであった。

 

終わり際アキラ緒方からの僕と、俺と打て攻撃を食らったのだが、それを置いておいて進藤ヒカルには塔矢行洋に言うべきことがあった。

「塔矢先生、俺ネット碁が出来るようになったんだ、だからsaiとkuroshiroと打ってきます!」

「そうか、私も同じことを言おうと思っていた…緒方君あれを…」

はい…と緒方はノートPCを取り出しすでに準備は万端だといわんばかりの姿勢であった。

 

「これからの時代ネット碁の時代が必ず来る、それに乗れぬようではここで朽ちていくようなものだ、私も進藤君そしてsaiとkuroshiroを追うつもりだ」

「名人だなんだと呼ばれていた自分が恥ずかしいな」はははと行洋は笑い。

「この中では私はただの塔矢行洋だ、名人でもなく肩書きも何もない、ただの碁打ちさ」

笑いながら言っているのを見るに、ヒカルと佐為は行洋が近いうちプロ棋士を引退するだろうということを悟った。

誰よりも一手を求め、さらなる一手を求める行洋だからこそネット碁はあっているのかもしれないな…、そうヒカルは思った。

 

「緒方君ここはどうやるのかね」

眼鏡をしつつ緒方九段に、聞いている塔矢先生を見る限りまだまだ先になりそうだなぁ、と佐為と2人でひっそり笑ったのは秘密だ。

 

「進藤!君がネット碁をやるなら僕ともやってくれないだろうか!?」

やはりきたか塔矢アキラ!!!

「そうだ進藤俺とも打て!!」

やはりきたか白スーツの個人タクシーのおっちゃん!!!

「わかったよ 後でID教えるからそれでフレンドになれば、いつでも打てるはずだから、それで勘弁してよ…」

「進藤君ついでに私のも頼むよ」

こうして始まる前から進藤ヒカルのアカウントには3人のフレンドの予約がなされたのであった。



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第十四話

 

「よし、設定完了!」

『ついにここから始まるのですね』

何やら感慨深げな二人。

「始まるってお前とハクはもう始まってるけどな…!!」

ジト目で佐為を見つめるヒカルであった。

『あら、そうでしたね、ホホホ』

「まぁそれはいいとして、俺のネット碁は今日から始まるぜ!!」

IDはHika 最初は大文字にするということでヒカルは少し大人になっていたのだ。

 

「さぁ〜てと、とりあえず一局打つかぁ」

腕を軽く回しながらヒカルは呟いたところであっ!とあることに気づいたのであった。

「zelda…和谷いんじゃーん! これはいっちょ揉んでやるか」

ニシシと笑ったヒカルであるが、

『あまり酷なことはするべきではありませんよ?』 佐為に釘を刺され、

「そんな酷いことはしねぇよ、指導碁指導碁」と思い直したのであった、本当はコテンパンにしてやりたい気持ちがヒカルにはあったようだ。

 

zeldaに対局申し込みをして承諾をもらったヒカルは、よぉし久々に和谷と打てるなぁと懐かしむように碁に興じた。

 

「この頃の和谷ってもっと弱いかと思ったけど、意外とあの時より強くなってね?」

なんでだろう?と頭を悩ましているヒカルであったが、kuroshiroとsaiの存在がネット碁そのもののレベルを上げていたからに他ならないのであった。

それでも変わらず指導碁のままなのはヒカルがそれだけ高い棋力を持つことの証左といえる。

 

「よし!こんなところか、にしても和谷強くなってんなぁ、こりゃプロ試験前の時より早く受かるんじゃね?」

『どうでしょうねぇ』と佐為と話ししていると、ピコンとチャットが飛んできた。

「シドウゴアリガトウゴザイマシタ、マタウッテイタダケナイデショウカ?」

「おぉ!指導碁って気づいたかぁ!」

そういって返信しようとしたヒカルだが、いや待て!出来るだけ匿名でと、みんなで相談したはずだと己を戒めて、チャットを閉じたのであった。

『賢明ですよヒカル、前のヒカルがヒカルだっただけに…』

「うっせーやい!」少し恥ずかしげに佐為に言い返すヒカルであった。

 

そうして相手を探していると、kuroshiroがいつもの如くいたのでこりゃ対局だな! ヒカルは思ったが、対局中なのと、もっとヒカルの中でsai対kuroshiroを超える演出がしたかったのでまた後にすることにした。

 

「佐為、見てろよ!お前の時よりもっと人が集まってる時に良い対局しちゃうもんねぇ!」 ふっふっふと、何やらねじ曲がった思考をし出している弟子を見ている気がするが、自分が先に全力で対局しただけに申し訳ないので何も言わず扇子を口に当て、他所を見る師匠がそこにはいた。

さらに相手を探していると、Akira

 

恐らく塔矢アキラだろう、この前の研究会で打ってやれなかったからなぁ、と何故か罪悪感を持ったヒカルは打ってあげることにした…。

こちらも指導碁でいくつもりだったが、電話により相手が置石を所望してきたので、そちら側にシフトすることにした。

「名人に比べるとまだまだ受けと捌きが甘いよなぁ」とアキラの地を無情にも侵食していくヒカルだが、それに必死で食らいつくアキラを見て、「なんだかんだでこいつ天才だよなぁ…」と呟いた、『この歳でここまで打てるようになっているとは驚きですね』

やはり囲碁というのは面白い、自分たち、いや、kuroshiroという存在が和谷やアキラひいては全国の碁打ちをレベルアップさせてると思うと、やっぱりハクという存在が二人の中でさらに大きくなるのを感じるのであった。

 

「きっと碁の神様はハクを超えろって意味で、俺たちをここに来させたんじゃねぇかなって思うんだけど、佐為はどう思う?」

クルッと椅子を体ごと佐為のほうに回しながらヒカルは言う。

『私はね、ヒカル、また貴方に会えただけで、それだけで嬉しいのです。 これ以上神様に望むのは強欲というものでしょう…』

「なんだよ…それ…」

少し涙ぐみながらお互い湿っぽい空気になる。

「でもハクとうちてぇだろ?」

そんな湿っぽい空気を吹き飛ばすかの如く、ニカッと笑うヒカル

『はいーー 打ちたいですぅ!!』

その意を察して佐為も明るくつとめた。

「でも次kuroshiroと打つのは俺ーーー!!!」

『ヒカルッッ ひどいッッ!!!』

ガッハッハと笑顔と怨嗟と吐き気が混じったひと時だったが、二人にとっては幸せなひと時だった。

 



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第十五話

ついにこの日が来た!

晴れて念願のHika対kuroshiroである。

お互いスケジュールをすり合わせつつ、かつ怪しくないよう、そして多くの人に見てもらえるようにした。

 

「お膳立ては十分だな」

ヒカルは少し震えつつ呟いた。

『ヒカル、武者震いですか』

「あぁ、こうやって改めて人の目がある中でやるとなると、緊張しちまうな」

プルプル手が震えながらも、kuroshiroに対局申し込みをした。

当然了承の文字が。

 

自分は未来では本因坊にもなった、佐為の弟子として恥じないくらいの打ち手にもなれたと思う、だが何故だろうこのkuroshiro、ハク相手だとひりつくような緊張が胸を占める。

分かっている、自分の力量を超える打ち手が目の前にいるのだ、この目の前にいるのは自分の師を破り未だ無敗の無敵の棋士。

「上等だぜ、いつもハクの家ではしてやられてるけど、この場では俺がとらせてもらう…」

そう息を吐き一手目を打った。

待っていたと言わんばかりに応手が打たれ、局面は瞬く間に殴り合いの様相を帯びてきた。

『こんなに両者力強く打ち合うとは』

佐為ですら驚くほどの力碁。

一手一手が命の張り合い、一手読み違えれば、即座に負けを示すほどの対局。

しかしヒカルには今回はこれしかないと思っていた、地力では上をいかれている相手なので、多少汚くとも今回は勝ちをとるため、力碁を選択したのだ、師匠の敵討ちも心の中ではあるだろう。

 

そして何より自分こそが最強の碁打ちだと証明したかった。

もう進藤ヒカルは佐為や様々な大人に守られて育つ棋士ではなく、一人で立ち、一人で打つ棋士として存在していた。

佐為はそれが誇らしかった、自分がいなくなった後のことは聞いたが、碁をやめるという話までいったとき、自分は消えるべきではなかったのでは?とはらはらしてしまったが、うまく立ち直った話を聞き、それによりやはり自分はあの時消える定めで良かったのだと思えた。

 

もうこの子とは対等の関係だと思えたのはいつだろう…?

あぁ、ハクとヒカルが家で打っていたときだ。

あの時から対局が終わると、昔はすぐ私の方を向いていたヒカルは、気がついたら相手の方か碁盤に集中するようになってた。

ハクに勝てなくて、真剣に検討をする、私の方を向く時はあるけど、1番最初ではない。

 

この子は私がいない間に成長していたのだ、10年と言っていたか?その歳月があの少年をここまで立派な棋士にしたのだ、そしてまた私の前に現れてくれた…、あの頃の姿のままで。

 

私はあの時のままだけれど、それでもあの子は良いといってくれた、

「師匠とか弟子とかそんなんどうでもいいの! 俺は佐為が側にいてくれてこうやって碁を打ってくれるだけでいいんだよ!」

そういってくれたのに、この子ったら、らしくない力碁で、私を倒したハクを何としてでも、ネットとはいえ公式の場で倒そうとしてくれている。

(なんと師匠思いの弟子でしょうね)

佐為は心の中でそう思った。

しかしそこは囲碁幽霊、『だからこそkuroshiroを倒すのは私が先ですよ』

そう呟き目を光らせ燃えていた。

 

「ふぅーーっ 届かなかったかぁ、らしくねぇ碁にしちまったなぁ」

そう言ったヒカルは清々しい顔をしていた。

「投了っと、佐為ごめんな、こんな無様な碁を見せちまって」

ヒカルは謝ったが、

『何を言うのです、何が何でも勝ちたいっ!、そういう気迫、進藤ヒカルとしての棋士の誇りを見させていただきましたよ』

佐為は微笑み、ヒカルは笑った。

「何が何でも勝ちたかったんだけどなぁ、まぁ、まだ次があるか!」

『そうです、また次があります』

佐為自身もその気で常に取り組んでいる、自分だけが最後じゃないよな、そう思ったヒカルは、

「佐為、お前もう消えないよな?」

急にしゅんとした面持ちで聞いてきた弟子

『消えませんよ、少なくともkuroshiroを倒すまではね』

ごごごと後ろで炎が燃えているがごとく、燃えている佐為がそこにはいた。

 

ニコッとヒカルは笑い、

「ずっとこうだったら良いのにな…」

誰にも聞こえないようにヒカルは呟いた。

『ヒカル!?何か言いました!?』

盤面に釘付けになっている佐為。

「なんでもねぇよ! 検討どうすっか?」

今からでもハクの家に乗り込むか!?っとやる気満々のヒカルに、検討検討〜〜と喜んでいる佐為はハクの家に検討をしにいったのである。

 



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第十六話

 

「そっかぁ、そろそろ中学生かぁ」

パチと一手を打ちながらヒカルは考える。

『今までと同じ中学に通うのですか?』

スッと扇子を指し示し、佐為は答える。

「それがさぁ、海王中に行けばお袋が新しいPC買ってくれるんだよなぁ」

どうやら進藤ヒカルの母は、ヒカルの成績が良いことにつけ込んで、私立中学にねじ込もうとしてるらしい。

 

『新しいPC!? それがあれば今以上にネット碁が出来るのでは!?』

歓喜する佐為。

「そうなんだけど、なぁんか塔矢と同じ中学ってのが嫌なんだよなぁ」

塔矢に研究会では、毎回打ってくれとせがまれるので、うざったく感じてしまっているヒカル。

「海王中にいったらそれがまたひどくなりそうでなぁ…」

『ハクとあかりちゃんはどうするのでしょう?』

あ〜、そうだなとヒカル。

「二人とも葉瀬中なんじゃねぇかな?」

『ならば葉瀬中のほうがよいのでは?』

至極もっともな意見の佐為。

「それに筒井さんや加賀に三谷もいるしなぁ、今回は三谷とはうまくやりてぇなぁ…」

「二人に相談して二人とも葉瀬中だったら葉瀬中でいいか…!」

そう言って新PCの誘惑を断ち切ったヒカルなのであった。

 

 

「「え?海王中だろ(でしょ)」」

「え?嘘だろ」

二人の意見を聞いてヒカルは目の前が真っ暗になりそうだった…。

「「うっそーー!!」」

二人合わせてヒカルを騙してきたらしい。

「お前らなぁ!!!」

「いやぁヒカルはからかい甲斐があるねぇ」 「そうだね、ハク、最近ヒカル付き合い悪いんだもん」

うっ…と詰まったヒカル。

「それは悪かったよ、ネット碁に忙しくてさ…あははは」

「Hika対kuroshiroの対局凄かったねえ、私リアルタイムで手に汗握っちゃったよ!」

そんな中でもあかりは囲碁に理解があり、有難いと思うヒカルだった。

 

「でもあんな勝ちに急いだ無様な碁にするんじゃなかったぜ」

ちぇっ、と舌打つヒカル

「そんなことないよ、絶対勝ってやるって気迫が伝わってきたいい碁だったよ」

『そうですよヒカル、最近では見なかった気迫があの碁にはありました、あの一局で私もまた気が引き締まりましたよ』

ほら、佐為も褒めてるとハクが言うが

「いいなぁ、二人とも佐為が見えて…」

仲間はずれのあかりが少し膨れた。

「あかり気にすんなって! こんな犬ころみたいなやつ見えても見えなくても一緒だって!」

「犬ころは言い過ぎじゃない?ヒカル…」

『犬ころですとぉ!! 師に向かってなんと言う口の利き方!!』

佐為がパタパタしだしたので、放っておくことにしたヒカル。

「それでだ! 話は戻すけど、葉瀬中だよな二人とも!!」

ギラリと目を光らせ釘をさすヒカル。

「そんなこといわれても葉瀬中だし」

「私もヒカルが葉瀬中なら葉瀬中だし」

「いよっし!! じゃあ葉瀬中!決定!」

こうして三人の中学進路相談は終わったとか終わってないとか?

 

ちなみにヒカルはそのあと母に拝み倒して新PCをちゃっかり買ってもらったらしい…!

 




海王中か葉瀬中か迷った末に葉瀬中…。
葉瀬中のイベントを描ける気がしません…。
囲碁部どうしよう…。
そして溢れでるネタ切れ感…。
書きたいネタ自体はまだ多少あるものの、そこにつなぐネタが…。


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第十七話

 

 

ヒカルは見ていた。

この一手の先には何があるんだろう?

その一手の先には何があるんだろう?

あの一手の先には何があるんだろう?

黒、sai 対 白、kuroshiroのネット碁では二回目となる対局であった。

黒が白を覆うように、白が黒を覆うように、どちらに偏るわけでもなく均等なバランスだ。

ただほんのちょっと白が濃かっただけ、ただそれだけだった。

『終局…ですね』

ふぅ、と一息入れた佐為は口惜しそうにこぼした。

「綺麗だ…」

ヒカルが呟く、『ええ、とっても…』

つーっとヒカルの頰に涙が流れていた。

「畜生!なんでお前達の碁はこんな綺麗なんだよ!! ずりぃぞ!!!」

涙を乱暴に拭きながらヒカルが喚く。

『何故でしょう? 何故かハクとはこういう碁になってしまうのです』

何故かわからない風に語る佐為。

「嘘だい! いつもはもっとバチバチした碁を佐為だって、ハクと打ってるだろ!!」

『そうなのですが…何故でしょうね?』

ふふっと笑って誤魔化す佐為。

『この一局を余人が見るとなると、どうもハクとはこういった碁になってしまうようです』

「でも俺はこの碁の美しさがわかるところにいるんだな」

鼻をかみながらヒカル。

『そうです、この碁の本当の美しさを貴方はわかるところまできている、恐らくはあの者も』

あの者とは塔矢先生のことだろう。

 

 

「素晴らしい碁だ、こんな碁がネットというものを介して世に伝えられるとは…」

愛機であるノートPCを見ながら、あることを思いつく塔矢行洋。

「棋譜…棋譜をとらねば…どうすれば…? 緒方君はどこだ…? アキラでもいい!」

自分で並べられるのに、何か形に残すべきだという警鐘にかられた、塔矢行洋であった。

 

 

『でもヒカルだってハクと美しい碁を打っているでしょ』

すっかりヒカルをなだめるモードになっている佐為。

「本当に?」すっかりいじけて部屋の隅っこに座っているヒカル。

『本当ですとも、私だって本当は二人の対局にいつも感動していますが、我慢しているんですよ!』

「本当の本当に?」

『えぇ!そりぁもう!この前のあの一局なんてもう涙なしでは見られませんでしたよ!』

「でも泣いてなかったでしょ?」

『あ、そのーー、これから紡げば良いではありませんか!』

ジト目で佐為を見るヒカルだが、

「まぁ…、そりゃそうだよな! 俺には俺の碁があるんだ、佐為とは違う形かもしれないけど、俺なりに紡いでいくよ!」

『その調子です!』

ホッとしたと同時に、佐為という自分の殻を破っているヒカルに、佐為は密かに感動していた。

「次を見てろよーハクー!!」

ヒカルのご近所迷惑にならない程度の叫びが夜を木霊した。

しかしその願いとは裏腹に、翌日ハクは碁への興味を失っていたのであった。

 




囲碁もできないのに、対局シーンはやはり無理がありまする…。
でもなんとか形にしたくて、物として残したくて、こうなりました。
ヒカルの碁はそんな囲碁がわからない私でも楽しいと思える凄い漫画、アニメだったんだなと再認識させられました。


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第十八話

 

「あかりーーーー!!!」

そうヒカルの叫びが聞こえるのはあかりからしたらわかりきったことだった。

「ヒカル〜いつ治るかなんてわからないわよぉ!」

私に聞いてもしょうがないじゃないというあかり。

 

「だってよぉ……」

理由は簡単、ハクが碁に興味をなくしてしまったからだ。

「ヒカル!囲碁は置いておいて外で遊ぼうよ」

普段からは想像もつかないほどのアクティブさでヒカルを遊びに誘うハク。

『しかし妙ですねぇ、妖にでも憑かれてるのでしょうか?』

佐為も自分の知識をフル動員した結果そう言った答えに至ったが、

「佐為! そんな怖いこと言うのやめてよね!」

本人に一蹴されてしまった。

しかしヒカルが

「そうだよ、お祓いいこうぜお祓い!」

佐為ナイスアイデアー!とヒカル

「お祓いなんて小さい頃に行き飽きたよ、むしろ碁を面白いと思ってる時の方が、今の僕にとってはよっぽど妖にでも憑かれてるよ!」

「だ、だめだこりゃ…」『これは…だめですねぇ』

治る日を待つしかないと観念したヒカルと佐為なのであった。

 

そうして中学生活が始まりを告げた頃、ヒカルは考え事をしていた。

『ヒカルどうしたのです?』

(うーん、今回院生になるか、プロ試験そのまま受けるか悩むんだよなぁ…)

『ヒカルの腕では院生はいささか無理があるかと…』

(だよなぁ)机に左に突っ伏していたのを右に変え。

(でも伊角さんや和谷達にまた会いてぇしなぁ…)

(家族を説得するにも院生が1番楽だしなぁ…)

『とりあえず院生試験を受けてみるというのはどうです?』

(それだ!)ガバッとおきあがり

(出たとこ勝負でいくかぁ!)

 

 

「次の方どうぞー」

「はい!失礼します!」

とっとことっとこ、ストンと篠田師範の目の前に座るヒカル

「君が進藤ヒカル君だね、塔矢名人から話は聞いています」

(なんですと!?)

そんな話はしてないはずなのに…。

あっ院生になるかプロ試験を受けるか、みたいな話は、そういえば前の研究会でしたなぁ…。

「正直君の実力で院生に来られると非常に困る…」

篠田師範も眉を曲げ困った顔。

「だけど塔矢名人に頼まれた手前それも無下にできない…」

「提出してもらった棋譜に問題は強すぎるということ以外ないからね」

あちゃとした顔のヒカル

 

「特別措置ですが、条件付きで院生になることを認めましょう」

「やったぁ!!」

「進藤君喜ぶのはまだ早いですよ。

君に一つの条件を言い渡します、弱者を嬲るような碁を打たないこと、これだけです」

「へ?それだけでいいんですか?」

狐につままれたような顔のヒカル

 

「それだけでいいです、実力のほどはどう隠したってバレてしまうものでしょうからね」

「あ、二つ目のこれもつけようか、二つ、私の指導碁を手伝うこと」

「院生研修が終わった後の指導碁を君に手伝ってもらいたい」

全然それくらいだったらやります!とブンブン縦に首を振っているヒカル

「よかった、それならば君の院生試験は合格です! 来週からきてください」

 

「いっやったぁぁぁぁーー!!」『やりましたねぇヒカル!』

(これで和谷たちに会える…!)

「ちょうど帰りだから少し顔合わせしていこうか」

「はい!」と篠田師範についていった。

 

「あ!わ」 (危ねぇ!)

「あわ?」どうしたんだよ?何か言いたいことあったのか?

目の前に和谷が出てきたので急に呼びそうなのを堪えたヒカルであった。

「なんでもないです」そう絞り出すと

「受かった?」 和谷が聞く

「受かった!」ヒカルが答える

「おーこの子受かったってよぉ」

ざわざわ うぉーなど歓声が上がりつつ、

「これからよろしくな、俺は和谷、こっちは伊角さん」

「来週からお世話になります進藤ヒカルです、よろしくお願いします」ぺこりと頭を下げた。

みんな口々によろしくーといっていた。

(院生生活これから楽しみだな佐為!)

『ええ、ここにいる者達をみっちり鍛えましょう』佐為はもう院生達を鍛える気満々らしい…。

 



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第十九話

碁界に激震はしる!?

塔矢行洋がネット碁デビュー!

 

このことについては彼にまず話してもらうべきだろう、緒方九段です!!

「初めて名人がネット碁に興味をもってくださったのはkuroshiroの棋譜を持ってきた時だと記憶している」

「あの時は大した相手がおらず名人の心を揺るがすほどの棋譜を出せなかったのが歯がゆかったな…」

大変でしたねぇ緒方九段!

「いや、大して大変ではなかったのです、そのすぐあとにsaiが現れてくれたからね…」

あのkuroshiroと対局するまで無敗だった棋士ですよね?

「そうです、そこまでの者とkuroshiroとの対局…これで熱くならなかったらモグリですよ」

「どうやらこの対局の棋譜が決め手になったようで、先生は私にパソコンが欲しいといってきましてね」

即座に見繕ったわけですね!

「そうです、名人のことですから持ち運べる、画面が大きいなど、そういったものも全て兼ね備えたものを用意いたしました」

さすが緒方九段ですね。

 

「いや、それほどでも」

実際塔矢名人はパソコン操作の方はどうなのでしょう?

「あ〜、苦労していらっしゃる…」

「碁を打つだけならなんとかなるのだが、まだチャットや棋譜関連がわからないみたいでね」

しかしあのお年で新しいことを始めるとは感心しますねぇ

「まったくです、ここまで自分の師匠が若くなるとは私も予想できませんでした」

「今はお時間がとれないので、kuroshiroやsai、そしてHikaの対局を観戦しているだけだが、いずれ必ず対局したいとおっしゃってました」

そうですか、となるといずれはネット碁でも塔矢行洋の碁が見れる! とみていいんですね?

「間違いないでしょう」

わかりました、今回はインタビューありがとうございました。

「ありがとうございました」

 

 

「塔矢先生、頑張ってPCの操作覚えてるもんなぁ」

本のページをめくりながらヒカルは呟く。

『そうですねぇ、いずれはネット碁でも素晴らしい碁を見せてくれることでしょう』

「kuroshiroとtoyakoyoとの対局かぁ」

椅子の背もたれに体を預けるヒカル

「待てよ!? この対局はすげぇ金とれるんじゃね!?」 ぐふふと笑うヒカルだが

『またそんなこと考えて…そんなこと考えても、第一ハクが戻ってこないかぎり実現もしなければ、戻ってきてもヒカルにお金が入るわけないですからね!』

パタパタとたしなめる佐為。

 

「でもよぉ、タイトル戦に相応しいくらいの対局になるのは間違いねぇよなぁ」

『それは間違いないですねぇ』

「楽しみだよなぁ」

『楽しみですねぇ』

そういって本を閉じたヒカルであったが、ハッと閃いた。

「ネット碁にもタイトルがあればいいのに!」

『どういうことですか?ヒカル?』

「ようはネット碁でも名人とか本因坊とか作ったら面白いんじゃねぇの!?」

『わぁーー、それは面白そうですねぇ』

「そうすりゃタイトル戦がめちゃ熱くなりそうじゃねぇか!?」

『でもその基準や日程は誰が決めるのでしょう?』

あ…となったヒカル。

 

「そりゃあ…ネット碁の運営の人とか…?」

『それはいいですが、そもそも誰でも自由に打てるのがネット碁なのに、タイトルなどを用意して人を縛るのはどうなんでしょう?』

ぐぎぎとなったヒカル。

「佐為の言う通りだ…やりたい時にできるのがネット碁の良さだもんなぁ…」

『ですがそういったタイトルをネット碁でも欲しい!と思うものもいるでしょうね』

「それでハクが面白そうとかいって戻ってきてくれれりゃいいんだけどなぁ…」

『そんな簡単にもどってきたらこんなに私たち苦労してない気がします…』

やはり待つだけなのかと、がっくりした二人であった。

 



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第二十話

おかげさまで20話までくることが出来ました。
皆さま読んでいただきありがとうございます。
本当に勢いで書いてるだけなので終わりが見えませんが、見続けてくれたら嬉しいです。
森下九段はなんとかだしたい!っと思いこの形になりましたが、出すのは難しい気がする…、とも思っている私です…。


 

 

今日はヒカルの院生手合い初日

「またここからプロへの階段が始まるんだなぁ」

『そうですねぇ』

「なんか懐かしいよな」

『懐かしいですねぇ、えいっえいっ』

佐為が偽物の魚に今だに引っかかってるのを見て笑うヒカル。

「おう、進藤、おはよう」

「あ、和谷!おはよう」

和谷がやってきた。

「和谷さんだろ!俺は一個上だぞ!」

「えぇ〜、いいじゃん、和谷は和谷だろ!!」

そんなやりとりをしていると、

「お、進藤に和谷おはよう」

伊角がやってきた。

「「伊角さんおはよう」」

二人がなぜかハモったところを伊角が笑う。

「進藤、お手並み拝見だな」

そう伊角がいうと、和谷も同意して、

「ちゃんと俺たちのところまでこれるかみてやるよ」

「おう!見てもらおうじゃねぇの!」

自信満々のヒカル

(といっても本因坊にまでなったやつがここでこけちゃ笑えねぇよなぁ)

少しそんなことを考えて笑いそうになる。

「よし!今日は誰だろ?」

気合いをいれて対戦相手表を見に行くヒカル

「内田さんかぁ」

(院生生活どうするか考えたけど、ゆったりやろうと思ってるんだけどなぁ)

 

そんなことを考えて対局の場に座り、時間が来ると篠田師範の声が

「始める前に皆さんに聞いて欲しいことがあります、進藤ヒカル君の棋力はすでにプロ高段者クラスですので負けても気にしないように」

「「まじかよ…」」「「嘘だろ」」

「なんで院生になる必要があるんだよ」

との声が、

「静かに! 家庭の事情で院生になるという手段を取らざるを得なかったので、院生になってもらいました。 皆さんも今のうちに進藤君に教えを請ういい機会だと思います」

(ゆったりやろうと思ったのにこれじゃ勝てって言われてるようなものじゃないかぁ)

顔が多少赤くなるヒカルなのであった。

(あいつそれほど強いのかよ…)

和谷は対局が終わったらすぐ見に行くことを心に決めたのであった。

「それでは対局を始めてください」

みんなの対局が始まった。

みんなの予想がどうかはわからないが、一番早く対局が終わる人は決まっていた。

「ありません」

内田が礼をした。

「ありがとうございました」

ヒカルも続けて礼。

もちろん指導碁ではあるが、それでも一番早く対局が終わってしまった。

その後のフォローも忘れずに、しっかり検討をして内田のフォローをしてあげるヒカル。

「ここはこうすれば、これだけ得したんだよね」

「あぁ、確かに」

内田も腐らず指導を受けたため、非常に有意義な時間になったのである。

そんな中人だかりが、ヒカルのところに段々と出来ている頃、和谷も混ざった。

それを見た一同は、これは確かに教えを請うたほうがいいレベルだと悟った。

 

ひと段落したところをすかさず和谷が、

「進藤、お前うちの先生の研究会とか興味ない!?」といいだしたため、多少そういう類を狙っていた輩たちからブーイングがでたが、和谷がその中でも一番強かったため、黙らざるをえなかった。

(きた!) そうヒカルは思いつつも冷静に、

「和谷の先生って誰?」ときくと、

なぜかちょっとばつが悪そうに、「森下九段だよ」との声が、

ヒカルはそこで目を輝かせ、「森下先生なら行く」と快諾してくれたヒカルに対して、

和谷は(進藤って変なやつ…)と認識し始めたのであった。

他にも何人か研究会に誘ったが、さりげなく断られたため、和谷はその何人かからなぜか嫉妬の恨みを買うことになり、さらに和谷は(なんでうちの先生なら行くって言ったんだろ?、進藤ってやっぱ変なやつ)となったのはまた別のお話。

 

 



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第二十一話

 

 

あくる日ヒカルが一組にあがりしばらくした頃、奈瀬明日美は悩んでいた。

「あの碁会所でもないかぁ」

ある日を境に奈瀬は碁会所巡りが趣味、いや使命になっていた。

それはとある碁会所で、自分に指導碁をしてくれた人を探すためであった。

落ち込みながら院生室に入っていくと、和谷が「まだ王子様はみつかんねぇのか?」と茶化してきた。

「うるさいわね〜」 そういいながら進藤が指導碁をしている場所に行く。

ヒカルは不思議に思っていた、(奈瀬ってこんな碁会所巡りに必死だったけ?、それに王子様って誰だ?)

気になったヒカルは聞いてみることにした。

「奈瀬!王子様ってなんのこと?」

ヒカルから聞かれるとは思っておらず、びっくりして少々顔が赤くなった奈瀬が答える、

「あのね、私に指導碁をしてくれた人がいて、私その人に先生になって欲しくてずっと探しているの!」

そう興奮しながら話す奈瀬にヒカルは妙に納得した。

(そっか、その人を探すために碁会所巡りしてるから前より強くなってるんだな)

「その人はまだ見つかんないの?」とヒカル、「そうなのよ、でもどうしても私の先生になって欲しくて…、外見は忘れもしない、真っ黒な髪に真っ白い肌の子なの」

 

ん…見たことあるような、とヒカル

「ちょっとその指導碁並べてくれない」

「わかったわ」そういって並べ出す奈瀬。

「でも進藤くらいの年でそんなに強い奴なんてそんなごろごろいないだろぉ」と和谷が飲み物を飲みながら言っていると、並べてもらった指導碁を見て、ヒカルは

(なぁ佐為、これってハクの指導碁じゃないか?)そう佐為に聞くと『この綿密かつ丁寧な指導碁はハクに違いないでしょうね』との声。

しかし大っぴらには存在を開かせないので後でこっそり奈瀬に「あのさ、あの指導碁を打ってくれた人、知ってるかもしれない」と答えたところ。

「進藤!?本当にお願い!その人に会わせて!生涯の碁の先生になってほしいの!」

と頼み込まれてしまった。

「でもそいつ、今囲碁に興味がねぇんだよ」と答えると、

「どうして!?囲碁辞めちゃったの!?」と、少し泣きそうな奈瀬。

「いや、辞めてはいない、けどとにかく囲碁に今は興味がねぇみたいなんだ」そう答えるしかなかった。

しかし奈瀬は諦めきれないようで、「会える時になったらいつでもいいから、連絡してほしい」とまで頼み込まれてしまった。

こうまでされると会わせてあげたくなるのが人の性、もしハクが帰ってきたら会わせてみようと佐為と相談して決めたのであった。

 

そしてしばらくして、ヒカルはネット碁をしていると、ピロンと音がした。

kuroshiro が ログインしました。

「もしかして! もしかして!!」

『もしかすると!?』

二人は顔を見合わせていた。

翌日学校に行くためにハクを待っていると、

あの囲碁の本を片手に歩いてくる見慣れた姿が…!!

「ハク! 戻ってきてくれたのかぁ!!」

ヒカルはボロボロ嬉し涙を流しながら、ハクに抱きついた。

『よかったですねぇ!』佐為も嬉し涙を流している。

「大げさぁ〜…」若干引いてるあかりがいるが、そんなのは御構い無しだ。

「また碁が打てるんだよな?そうだよな?」

そうヒカルが聞くと、ハクは

「そりゃ打つさ! 碁ほど面白いものなんてこの世にないからね!!」

当然だろ?と言わんばかりに言ってくれて、ヒカルは大いに安心したと同時に、奈瀬のことも思い出していた。

 

しかしどう切り出そうか迷っているヒカル、しまいには「ハク!お前に紹介したい女の子がいるんだよ!」といい出す始末。

これには ハクもあかりも佐為も 「「『はあ!?』」」である。

ぽかーんとしている三人を前に、「奈瀬っていう院生がいてさ、ハクに指導碁を打ってもらったらしいんだよ!!」やっと本題を話して、あかりのジト目を避けることができたヒカルなのであった。

 



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第二十二話

 

「会うのは構わないけど、先生とかそういうのはちょっと…」

「それでもいいから、会ってやってくれよ!」

そう頼み込むヒカル。

「わかった、前にあったことがあるわけだから、初めてじゃないしね」

他の院生達には内緒でという条件で、会うことにしたハク。

ヒカルもそこは細心の注意を払って、奈瀬に伝えたところ奈瀬も理解したらしく、誰もいないところで狂喜乱舞したらしい。

 

 

「進藤?あたし変じゃないよね?」

そう言ったのは奈瀬である、何回も言われてもう変じゃないというのも疲れたヒカル

「へーへー、大丈夫だよぉー」

奈瀬の気持ちを考えるのが面倒になり早足で、ハクの家に向かうヒカルを追いかける奈瀬。

「ちょっと進藤速いわよ〜」

少し汗をかいたが、ハンカチで拭い、髪の毛を整える。

「ついたぞ〜」

「ちょっとまっ」ピンポーーーン

「はいはい」

感動の対面のはずだが、タイミングが早かった

「奈瀬あしゅみです! お会いしていただきありがとうございます」

(あ、噛んだ)その場にいたみんなが思ったことである。

奈瀬は顔が真っ赤になり、ヒカルは奈瀬に蹴られた。

「あーん、もう最悪」

家に入れてもらい、まだ顔が赤い奈瀬に、ハクは

「いいじゃないですか、また出会えたんですから」とのんびりしている。

「それはそうと、先生!!お願いがあります!!」

「僕は先生じゃないよぉ、黒井ハクって言う名前なの」

のんびり、先生と呼ばれるのは否定して自己紹介をした。

「ハク先生!!お願いです!弟子にしてください!」

奈瀬の勢いの良い土下座である。

「僕は先生じゃないし、貴方の先生になるつもりもないです」

しっかり断られる奈瀬。

「どうしてダメなんですか!?」

理由を聞くと、

「理由は一つ、僕には囲碁に興味がなくなる持病みたいなものがあるからです」

そうはっきりといいはなった。

「そんな人間が誰かの囲碁の先生になるなんて無理ですよ」

最初とは裏腹に自信なさげにハクは呟く。

「そんなことないです! ならなぜあの時指導碁を打ってくれたんですか!?」

「あの時は碁会所で暇だったし…」

「先生になってくれるから指導碁を打ってくれたんじゃないんですか!?」

「あ、うえええ!?」

「そうですよね!?」

「いや、その」

「そうですよね!?」

『いやはや押しが強いですねぇ』

「まったくだよ…どうにかしてよ、ヒカルに佐為…」

相手が幽霊にもかかわらず、知らない人の前で会話するほどハクは困っていた…。

(どうにかしてよヒカル二歳?)どう言う意味だろう?と奈瀬が考えていたところ…。

「わかった、先生になるから、でも条件があります」

ぱあっと奈瀬の表情が明るくなって、

「なんでもします!」

「なんでもしなくていいです、ただ僕の弟子だとかそういうのはちょっと他所では言わないで欲しいんだ…」

「え…、なんでですか?」

奈瀬の表情が曇る…。 おそらく自慢したくて仕方なかったのだろう…。

「うーん、どうしようか?ヒカル?」

「もういいんじゃねぇの?なんでもしますって言ってるわけだし!」

ヒカルがもう言っちゃおうぜっと言い出した。

「ハクはさ、kuroshiroなんだよ?」

「はっ? ハクは黒白?」

どういうことっと奈瀬が聞き直すと、

「ネット碁のkuroshiroはハクなの!!」

理解の遅い奈瀬にこれ以上ないくらいわかりやすくいった…。

「え…、嘘でしょ?」

「本当だよ」

「あのネット碁史上最強っていわれてるkuroshiro!?」

「そうだよ」

「だってあのsaiとHika、進藤に勝った人!?」

「だからそうだっていってるじゃん」

「嘘……」

奈瀬の時がしばらく止まった…。

 

「いつになったら帰ってくるんだろうね」

呑気に構えてるハクと

「いつでもいいよ、それより碁でもうとーぜハク」

碁を打とうとするヒカル

 

「やったぁーーーーー!!!」

急に喜んだ奈瀬に、びびった三人なのであった…。

「だからね、秘密にしてね…」

そう釘を刺すハクに

「先生、いや師匠!わかりました! うふふふふ」

どうやら自分の師匠がそんなにすごい人物だとは思いもよらず、喜んでいる奈瀬なのであった。

「それと、持病がでたら指導はできないよ、本当にそれでもいいんだね?」

「それでもいいです、私は貴方に教えてもらいたいんです」

わかりました、そう観念したハクであった。

「せっかく師弟になったんですから、記念の指導碁お願いします!」

「えっ、ちょっと」

ヒカルが打とうとしていたのをどかして奈瀬がいう

「まぁ、記念だしね」

そういうことで、ごめんヒカル、といい二人は碁を打って、ヒカルは手持ち無沙汰になったのであった。

 




ここは書きたいシーンだったので割とすんなり目に書くことができました。
でも自分が思ってるよりあっさりした出会いになってしまったのが、少し残念。
いつかこの二人のはじめて出会った時の、指導碁書けたらいいなぁ〜、と思います。


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第二十三話

 

今日は塔矢名人の研究会。

 

昔と違い、緒方九段や名人自ら探してきたネット碁の検討が多くなり、デジタル化が進んできた塔矢門下であった。

ヒカルは未だ塔矢門下ではないものの、面白いネット碁の検討が多いので頻繁に出入りしている。

 

今回のテーマは名人ネット碁を打つ、であった。

あらかじめ準備をしておいたヒカルに、名人が対局申請を送り、対局をする。

ただそれだけなのだが、この設定など全て名人自らがしたうえで送るとのことである。

「ええっと、持ち時間は二時間、コミは…」

ぶつぶついいながらも着々と設定をしていく塔矢名人、初対局がHikaで私には贅沢だといっていたが、とても嬉しそうにしている塔矢名人を見ているとこちらも嬉しくなってくるので、ヒカルは対局を受けることにしたのだった。

対局が始まるまでは手つきがおぼつかない人だったのだが、対局が始まると一変、碁打ち塔矢行洋が現れた。

 

「これがネット碁の世界…」

「進藤君は見えないが進藤君の気迫を感じる」

一手が進むごとに、ヒカルには行洋が、行洋にはヒカルが伝わっていく。

さすがに画面が慣れ親しんでる碁盤と碁石も使って、対局の盤面を写していく。

やはり進藤君は強い、守ってるだけでは拉致が開かない、そう感じ攻めたところを、上手く絡めて手で逆転され、結果はヒカル二目半勝ち、塔矢名人もkuroshiroなど時代の最先端の棋譜を集めていたから、この差ですんだのであろう、でなければ普段ネット碁の最先端をいくHikaにここまで食いつけなかったはずだ。

 

名人は眼鏡を外し、天を仰ぎ、いい碁だった。 そういって投了を押したのであった。

ここまで誰の手も借りずにネット碁ができたことに、対局よりも満足がいっているようだ。

今までは何かあれば「緒方君! アキラ!」だったのが、今日は一回も呼ばなかった、

ついにネット碁棋士、塔矢行洋はここに一人で立ったのだ!!

 

「先生対局内容は置いておいて、おめでとうございます!」

「父さんおめでとうございます」

「これでやっとkuroshiroやsaiに試合が挑めるな」 ハハハと笑った塔矢名人であるが、チャットも忘れない

「オメデトウゴザイマス」とのヒカルのチャットにも、「アリガトウ」と短いながらもチャットで返すことができるようにまでなっていた。

この調子でいけば、toyakoyoの名が広まるのも時間の問題、saiやkuroshiroは強い相手にも申請をしてくるから、このまま対局していけば、いずれこの二人とも対局できるだろう。

そう塔矢行洋は満足し、棋譜も保存し、次の戦いへ向かうのであった…!

 

 



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第二十四話

 

あくる日ヒカルは院生達に指導碁をしている中でも、奈瀬の実力はぐんと伸びていた。

ハクの教えが効いているのだろう、一組でも上位常連になり始めたのである。

 

元々碁会所巡りで強くなっていたのに、さらにハクの教えのおかげで安定度が増してきていた。

「進藤、本当にありがとうね、紹介してくれて」

「別に気にしなくていいよ、ハクとの縁があったから、弟子になれたわけだし、そもそも縁がなかったら、指導碁を打ってもらうこと自体なかっただろうしね」

こっそり二人が話していると、

「進藤! 今度いつkuroshiroに挑むんだ!?」と和谷の声。

「そんなこと言われたっていつになるかわかんねぇよ!」

「いつまでもkuroshiroに無敗のまんまってわけにはいかねぇだろ!!」

「そりゃそうなんだけどさ…」

呟くヒカルであった。

 

久々にkuroshiroとHikaとの対局が実現した。

今回は珍しくハクがヒカルに申し込んだ形となった。

「いやさ、弟子の奈瀬がね、師匠のかっこいいところ見たいとかいうから…」

割と動機は不純な理由であった。

もちろんヒカルとしては断る理由はなかったので、「師匠のかっこ悪いところ見せてやる!」そう奈瀬に言っとけ!とヒカル

佐為も傍らで『その調子ですよヒカル』と応援している。

 

昨今のネット碁界では、kuroshiro sai Hikaと強者のトライアングルが出来ていた、うち一人であるHikaだけは正体を隠していないので、進藤ヒカルだということは、知れ渡りはじめたが、以前としてkuroshiroとsaiは謎のままであった。

その中でtoya koyoが名乗りを上げ始め、ネット碁界は白熱した状況下にある。

 

誰がkuroshiroを破るのか? これが一番だが、そのkuroshiro以外に負けてないHikaとsaiにスポットが当たりはじめてしまった。

何故Hikaとsaiは対局をしないのか?

インする時間が噛み合わないのかを疑われ始めたのである。

これはまずいとヒカルは考え始めたが、よくよく考えたら、ハクに代打ちしてもらえばいいじゃないか、という結論にたどり着き、その疑いは闇へと葬られることになる。

 

そして肝心の対局はというと…。

「むむむ…だぁぁぁぁ! 2目半足りねぇ!!」

どうやら今回もHikaが敗北を喫したようだ。

『惜しかったですねぇ…』との佐為の言葉。

「あともうちょっとまできてそうなんだよなぁ」手応えは掴んできているヒカル。

佐為だってそうだろ!?と振ると、

『私も今少しという手応えは確かに感じています』手を少し伸ばす仕草をしている佐為。

「ハクの家で打ってても、手応えは感じてるんだよ…、でもあと一歩がとどかねぇー…」

と悔しそうなヒカル。

『弟子にかっこいいところを見せれて今はさぞかし気持ちいい思いをしてるでしょうねぇ』

あ!とヒカルは思いだし、「くそーーー、かっこいいところになっちまったじゃねぇか!」キィーーっとさらに悔しがるヒカルであった。

 

 

 




筆が…進まない……。
もう走れないかもしれませぬ…。
まだ走りたい……でも走れない……。


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第二十五話

今回から非ログイン状態でも感想を書けるように、設定を変更しました。
匿名でも感想を書けるようになったので、嫌なこと書かれると怖いなぁ、とも思っております。

そして今回の話は割とボツネタにしようかと思っております。
ただよくあるネットゲームなどの運営で、違う…そうじゃない…。
と運営などに感じてる人も多いのでは?と思い、こういった話もどうだろうか?と感じて書きました。


ワールド囲碁ネットトーナメント!!

それは最強のネット碁棋士を決める戦い…。

この戦いを勝ち抜いた一人にはネット碁最強の称号が贈られます!!

テレビを見ているヒカル。

「これって皆でるのかな?」

『みんなといいますと?』

「ハクとか塔矢名人だよ」

『どうなんでしょう?』

「ハクとか塔矢名人はこういうの興味なさそうだもんなぁ〜」

「俺だけ出て、もらってもいいけど、それじゃあ面白くないしなぁ」

『面白くないですか…』

ニヤッとなったヒカル

「最近ずさんな運営に一撃食らわすかぁ」

ヒカルの作戦はこうだ、そうそうに自分は参加を辞退して、他の人たちにも辞退を用足して、辞退してもらう。

そして最後には誰もいなくなり、イベントが開催されなくなるという手法である。

 

最近ワールド囲碁ネットのサーバーの調子が悪く、一向に良くならないことに嫌気がさしたヒカルが考えた、ボイコットである。

これにはハクも同じ思いであり、ヒカルと共にボイコットすることに決めた。

 

そうなると困るのが運営、あらかじめ出てもらえるだろう、もしくはでてもらえるかもしれない、目玉棋士全員が出なくなったことにより、イベントが成り立たなくなり、ご破談のはずだったのだが、出てくれる選手を探してきたらしい。

もちろんkuroshiro達とは比べ物にならないレベルの選手たちではあるが…。

 

イベント当日

「はい、みなさんこんばんは〜! 最強のネット碁棋士を決める戦いへようこそ〜!」

嘘つけ〜! やらせだろ〜!などのコメントが飛び交う中。 みんな!kuroshiroとsaiの対局始まったってさ!というコメントが来た瞬間、公式放送は閑古鳥になった。

同時にkuroshiroとsaiが対局を始め、

公式放送にいた数万の人ほとんどが、大移動してこの二人の棋戦の観戦に回った。

 

しかし間が悪いことに、その大移動により、サーバーに多大な負荷がかかり、全ての対局が落ちてしまった。

公式放送は閑古鳥ではなくなったものの、運営の愚痴大会になってしまい、サーバーも落ちたことによりイベントも中断、と運営は散々な目にあってしまったのであった。

 

あちゃーとヒカル、あららと佐為。

「こんなことになるなんて俺たちもだけど、運営もついてねぇよな」

『またできなくなってしまったのですか?』

ポンポンとPCを叩く佐為。

「またしばらく時間が経たないとできないし、もしかしたらネット碁でやるのは限界かもなぁ」

ふーむと考えながら、椅子の背もたれに体を預けるヒカル。

『せっかく世界中の人たちと碁が打てるのに残念ですねぇ』と佐為。

「お前はハクと打てればそれでいいんだろ!?」

そう聞くと、それもそうですね、と佐為からの返事が。

俺もそうなんだけどさ、と呟くヒカルだが、

「俺たちの対局を見て、俺たちよりも打てるやつが出てくるかもしれないだろ? そのためにもネットに棋譜は、残して置くべきなんじゃないかって思ってさ…」

言われてみるとそれも大事ですね、と同意する佐為。

「しばらくはフレンド部屋で打って、他で棋譜を上げることにするかなぁ」

一人悩むヒカルに問題は任せ、自分は早くPCの調子が良くなるよう、ポンポン叩くしかない佐為であった。

 




活動報告でも書きましたが、第一話から第十一話あたりまでを、見やすいように簡単な改行編集などをいたしました。
見やすくなっていれば幸いです。


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第二十六話

 

あくる日の塔矢研究会にて

「進藤君kuroshiroやsaiと対局したいのだが、どうしたらいいかね?」

急に聞かれてビクッとなるヒカル。

「そうだぞ、俺にもコツを教えろ進藤!」

息巻く緒方。

「えぇ!? そんなこときかれてもわからないです、ただ夢中で対局ボタンを押したら、対局が叶っただけで…」

そう誤魔化すヒカル。

「そうか、進藤君は運が良かったのだね」

眼鏡を外し、拭きながら塔矢名人が言う。

「でもやっぱり実力だったり、塔矢先生の場合、塔矢先生本人だってことがわかれば、kuroshiroやsaiも対局してくれると思います、俺だって始めた頃は見向きもされませんでしたし」

尤もらしいアドバイスをしながらも心が痛いヒカル。

「進藤!一局打ってくれ!」アキラが言う。

「おう、いいぜ、どれだけ強くなったか久々に見てやる!」

ヒカルが言って対局が始まった。

 

そんな中kuroshiroに挑むために対局設定をあれでもないこれでもない、と弄っている二人、進藤持ち時間はいくつでやった?、など設定について色々聞かれるが律儀にヒカルは覚えてる範囲で答えていく、そんなことはsaiで対局を受ける時、一切見てないとは言えないヒカルであった…。

 

そうして打っていると、アキラが苦しそうにしている、今の一手が痛いところをついたからだ。

長考しだすアキラを他所に、ヒカルは懸念を口にした、

「でも塔矢先生とsaiやkuroshiroの対局なんてやったらまたサーバーが落ちるかもなぁ…」

「そのサーバーが落ちるとはどういうことなのかな?緒方君?」

はい、とわかりやすく説明する緒方。

「ふぅーむ、それは厄介な問題だね」

渋い顔の塔矢行洋。

「しかし、近いうちにサーバーは増強されるらしいので、先生ご安心を」

「そうなの!?緒方さん!?」

びっくりしたヒカル。

「なんだ今度の更新予定を見てなかったのか? この前のイベント失敗で懲りたのか、すぐにサーバー増強は報告されていたぞ」

「そっかぁ、ならよかったぁ」

ヒカル自身もハクとネットという公式の場で打ちたかったので、安心していた。

 

そんなことを話ししていると、長考していたアキラが「ありません」と頭を下げた。

「えぇ? まだあるよ塔矢」と伝えるが、

今の僕じゃわからないというので、伝えると目から鱗というように、塔矢は検討して吸収していった。

 

今回も塔矢名人はPCに張り付いてkuroshiroの対局を見ていた、もう慣れたもので相手のレベルによって見る見ないなどの、取り捨て選択もできるようになってきていた。

今回はkuroshiroの相手はなかなかの打ち手のようで、緒方九段と二人で対局申し込み設定の傍ら見ていた。

「今のは良い一手ですね、これはkuroshiroも困るか?」

「この程度で困るレベルではないよkuroshiroは」と塔矢行洋

PCの横にある碁盤で並べつつ、二人に言った。

「アキラ、進藤君、検討が終わったらこっちを見ないかね」 なかなかの碁が繰り広げられているよ。

そういうと二人はわかりました、ともう少し検討してから加わることにした。

 

「しかしまだkuroshiroに食い下がるか、この中国の者、おそらくプロでしょうね」

「そうだろうな、中国でもトッププロに入る者だと私も思う」

「む…ここで長考か」

「悩みますね、ここからどうするか」

「果たして生きる道はあるんですかね?」

そう緒方が聞くと、

「わからない、少なくともこの短い時間に見つけなければ中国の者の負けだということだ」

刻々と経つ時間の中で、ヒカルとアキラが対局を見にきた時に、中国のプレイヤーは投了ボタンを押していた…。

kuroshiroが中国の強豪プレイヤーに勝ったのである。

過去にkuroshiroに挑んだ国外プレイヤーは山ほどいたが、今回は相当強かったらしい。

 

対局が終わり、四人で検討をしようと塔矢行洋は提案し、今回のメインテーマはこの対局の検討で終わったのであった。

 

 




筆が進まないって言った割にはさっくりとかけた話…。

ネタが欲しい……。切実


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第二十七話

 

 

奈瀬明日美はワクワクしていた。

今日が何回めかのハク研究会だからである。

ハク研究会とはいわゆるハクとヒカルと奈瀬、そしてあかりでやる細々とした研究会なのだが、奈瀬自身何よりも価値のある研究会だと思っている。

ピンポーン、インターホンを押すと、

「ほいほい」っとなぜかヒカルがでてきた。

なんだ奈瀬かと呟き、ハクに奈瀬がきたぞぉ〜と伝えるのであった。

奈瀬からしたら、なんだとはなんだという気持ちではあるが、師匠に会えるので気にしないことにした。

ちょうどみんなの分の飲み物を用意しているハクがいた。

「お、おはよう」「おはようございます!」

そう挨拶を交わしあうと、飲み物を置くハク。

 

「あかりちゃん、おはよう」「奈瀬さん、おはようございます」

生徒同士の間柄を良好に保つのも、研究会を長続きさせる秘訣と思い、奈瀬はあかりとも積極的にコミュニケーションをとるようにしている。

もちろん元々この二人は相性がいいようであるから心配はいらないと思われる。

いつもの通り、ハクは奈瀬と、ヒカルはあかりと指導碁を打つ、たまにハクとヒカルが逆になるが、それも指導の一環である。

 

「そろそろプロ試験だねぇ」

打ちながら話すハク。

「うーん、そうだなぁ」「そうですね!」「二人とも、プロ試験頑張って!」

と各々の声。

「そういえば、塔矢アキラ君も受けるんだっけ?」

そうヒカルに聞くハク。

「あ〜、塔矢も今年受けるって言ってたなぁ」 「えぇ!?それじゃあ今年の枠は一つしかないってこと!?」

奈瀬ががっくりしていると、

「何? プロ試験、自信がないの?」とハク

「いえ! 受かってみせます!」焚きつけられて自身を奮い立たせる奈瀬。

「その意気だよ」自分の弟子が奮い立ったのに、少しホッとしたハク。

「戦う前から枠がないと思っちゃいけない、むしろ自分がその枠の一つだ!って思わなきゃ」弟子をさらに奮い立たせようとするハク

「そうですね、その通りですよね!」

うまく乗る奈瀬

そんな中みんなから確定枠に思われてるヒカルに調子はどう?と聞くハク

「調子は悪くないよ、それにプロ試験なんて何が起こるかわからないからね、気を引き締めないと」と殊勝な言葉を言いつつ

「まあっ、kuroshiroとsai以外のやつには負ける気はしねぇけどな」自信満々なヒカルであった。

 

「もぉ〜っヒカルったら自信過剰なんだから」とあかりが突っ込んでくるが、

「事実だからしょうがないだろぉ!」と痴話喧嘩を始めた二人を置いておいて、

「でも確実に強くなってるから、プロ試験、きっと受かるよ」とハクが奈瀬を励ました。

「師匠…ありがとうございます!」少し涙ぐみながらも、キリッとして言葉を受け取る奈瀬。

じゃあ今度は逆でやろうか?のハクの声に、そうだなとヒカルの声。

「いっちょ揉んでやるよ奈瀬!」

「よろしくお願いします!」と気合を入れる奈瀬。

 

そんなこんなでハク研究会は過ぎていくのであって、そして奈瀬にとって最悪なことに、プロ試験前にハクが碁に興味をなくしたのであった。

 



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第二十八話

 

プロ試験の結果は言うまでもなく、ヒカルが全勝、塔矢アキラが1敗と順当な結果になった。

その中で三人目は中山という外来が受かったのである。

奈瀬は中山、伊角とプレーオフまでもつれこんだが、そこで力尽きたのか、プレーオフで負けてしまった。

あと一歩だっただけに悔しい敗戦であった。

奈瀬は泣きに泣いた、泣きに泣いたあと、来年こそはという思いを新たにしたのであった。

その頃には、ハクも戻ってきていたため、奈瀬をみんなで慰めていた。

 

「惜しかったねぇ、でもよく頑張ったと思うよ」

ハクが奈瀬を慰める。

「ありがとうございます、師匠、師匠の教えがなかったらここまでこれませんでした」

確かにそうだな、とヒカルは思った。

 

それまでの奈瀬は碁会所巡りをしていたから、前の世界よりは強かったが、まだ明らかにプロになるには足りない強さだったからだ。

それがプロ試験中は教えが受けられなかったとはいえ、プロ試験までの教えでここまで奈瀬が強くなるとは…、これにはヒカルも佐為もハクの指導力の高さに驚いていた。

 

「来年にはきっとプロになれるよ!」あかりの慰めに、「ありがとう」と返す奈瀬。

「それじゃあ、これで僕の教えは終わりかな」そう言ったハクに奈瀬は驚いた。

「何をいってるんですか!?師匠!これからもよろしくお願いします」そう改めて挨拶するの奈瀬。

「プロ試験の大事な時に教えてあげられなかった、ひどい師匠でもいいのかい?」悲しく聞き返すハク。

『何いってるんですか! 私はそれを覚悟で弟子になったんです、後悔なんてしていません!

また来年もよろしくお願いします!」有無を言わせず奈瀬が頼み込む。

「それじゃあまたよろしくね」控えめにハクが言った。

 

そして時は流れ、合同表彰式が行われた。

その中に新初段である、進藤ヒカル、塔矢アキラは、新初段授与式にでるため控えていた。

「そういえばまだ言ってなかったよな、塔矢、プロ合格おめでとう」ヒカルから急に言われびっくりするアキラ。

「あぁ、ありがとう、面と向かって言われるのはこれが初めてだな…、進藤こそ、プロ全勝合格おめでとう」全勝と付け加えてお返ししてやったつもりのアキラだが、ヒカルには通用しなかったようだ。

「おーん、まぁこんなもんだよな」

そうぼーっとしていたヒカルであったが、そんな中塔矢行洋がこちらにきて、

「進藤君、アキラ、二人ともプロ合格おめでとう」 「「ありがとうございます」」

ヒカルは至って自然に、アキラは父にいわれ少し緊張しながら言った。

「進藤君、君とは次の新初段シリーズで打たせてもらうことになったから、それを伝えようと思ってね」

えっ!?、となったヒカルである。

「公式の手合いまで、待てなくてね、天野さんに頼んでしまったよ」ハハハと、行洋。

「いいんですか?本気でやっても?」そう目が鋭くなったヒカルに対し、行洋も鋭くなり

「もちろん」と返した。

「楽しみです」そうヒカルが言うと、行洋も「私もだ」と二人して笑い合っていた。

アキラは隣で、いつかは自分もこの二人の前に立つ、と覚悟を新たにしていたのであった。

 




プロ試験編を期待していた方々に申し訳ないと、お詫びを…。
正直プロ試験編を最初からやるとなると勝ち星の計算から何からしなくてはいけなくて、自分が楽しめて書けないのが嫌だったので、飛ばさせていただきました。
今、楽しめて書けてるかといわれると、非常に微妙なラインだったりします…。
無理しないようにしよう…!


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第二十九話

「進藤君、インタビューいいかな?」

そう言ったのは取材の天野であった。

「いいですよ」

ヒカルは時間もあるので、インタビューを受けることにした。

「君がネット碁のHikaだって話してる人が多いけど、それは本当かい?」

「本当ですよ」

これだけでもスクープだ!っと書き込む天野

「saiとkuroshiroについては誰か予想はつかないのかな?」

「ぜーんぜん、どんな人かは興味はあるけど、それよりもその二人と碁が打てるのが幸せだね」

知らぬ顔で答えていくヒカル。

「この前のkuroshiroとの対局は惜しかったけど、進藤君はどう思ったのかな?」

「この前のは本当に惜しかったと思う、本当にあと一歩だったんじゃないかな?って思ったよ、いや思いました」と言い換えたところで、天野は自分の言葉でいいよと言ってくれたので、自分の言葉で言うことにした。

 

「だからあと一歩がなにかを考えないとね、それが分かれば勝てる気もするし、それが分からなければ永遠に勝てない気もするんだよね」若干興奮しながらヒカルは言う。

ほほう、とペンを握る手に汗も握る天野

 

「今のネット碁の世界についてはどう思うかな?」

「ネット碁の世界っていうと、ネット碁にいる人たちのことでいいのかな? 面白いと思うよ、色んな打ち手がいるし、塔矢先生もだからこそネット碁を覚えてるんじゃないかな? それこそ色んなプロの人が今参戦しにきてて、群雄割拠!って感じじゃないかな?まぁ二番手三番手は絶対譲らないけどね」

強気だねぇとの天野の声

「そりゃそうさ、ネットの本因坊秀策と言われてるsaiと碁界史上最強といわれてるkuroshiroが今この時代で打ってるんだよ、ここで碁を打たなきゃいつ打つのさ!って感じだよね」ヒカルのトークにも熱が入る。

天野はそれに対して、自分が現代碁の申し子と言われてることにどう思ってるかヒカルに聞いた。

「自分が現代碁の申し子なんて恐れ多いと思う、でもsaiやkuroshiroから一番碁を盗めてるのは自分じゃないか?って自負はあるよ」

 

「だからそういう意味ではsaiより早くkuroshiroに勝ちたいって思いはあるよね」

saiに競争心があると?天野は聞く

「一番あるさ!! 多分向こうも意識してるんじゃないかな?と思ってるよ」

したり顔でいうヒカル そのしたり顔にアカンベーで応戦する佐為。

「いずれにせよ、ずっと碁を打ちたい二人だと思う、こんな打ち手に恵まれるなんて…。

生涯に一人いればいいのに、二人もいるんだ! 俺は今最高に幸せだよ」

そう天野にいうと、おぉとペンを落としかけていた。

天野さんペン!というと危なかった、とペンを取り直す。

「進藤君、これ全部記事にしていいのかな?」

「もちろん! だから週刊碁は俺、Hikaを応援してよね!」 ニヤリとヒカルが笑う。

もちろんだよ、ありがとう進藤君!と握手して天野とは別れた。

 




このインタビューは楽しくかけました。
頭の中でもキャラが走ってくれました。


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第三十話

おかげさまで30話まで来ることができました。
見ていただいた方にお礼と、今更ながらネット碁でのヒカル対佐為をお送りします。
本当に今更ながらになってるけど大丈夫だろうか…?



進藤ヒカルと佐為にとっては大事な1日がやってきた。

Hika対saiが実現するのである。

ハクの家でsaiを佐為の指示でハクに打ってもらうという手順。

佐為が側にいないという久々の感覚を味わっているヒカルだが、負けるわけにはいかないと奮起している。

何故なら、この一局でkuroshiroに一番近いのはどちらかが決まるのだ。

「ヒカルー、準備はいいかい?」

「おう」と気合十分のヒカル。

「佐為も準備はいいかな?」

『はい』こちらも気合十分である。

じゃあ対局申請送るねっとハクがいい、ヒカルはそれを受け取り対局が始まった。

 

「なんか新鮮だなぁ」とハク。

『そうですね、私も虎次郎とヒカル以外の人に打ってもらうのは初めてですから、新鮮です』と佐為。

二人して和気あいあいと打ってるのに対し、ヒカルは一人黙々と打っていた。

久々の感覚、佐為がいなくなってから、自分一人で打ってきた感覚、それが今取り戻ってきている感じがした。

そんな中ヒカルが仕掛けた、

『むっ』と佐為もヒカルが仕掛けてきたのを感じ取った。

ハクもそれがわかり、できる限り邪魔をしないよう黙ることにした。

佐為は感動していた。

(ヒカル…本当に強くなりましたね、今では私と対等に打ち合う立場になっている、並々ならぬ努力をしたのでしょう。 しかしまだ負ける気はありません!)

佐為はヒカルに対し、応手を打つと、今度はヒカルが「むぅ」っと唸った。

(やっぱり佐為はつえぇや、でも俺だって前の世界では本因坊を名乗ってたんだ、もう佐為に見守られてたころの子供じゃないんだよ)

そうしてヒカルもまた一手を返していった。

 

お互いが一手一手を打ち合っている中、ハクもまた新鮮な思いでこの対局を見ていた。

(なるほど、ヒカルはこうやって佐為が打ってるのを見てたんだ、これは勉強になるなぁ)

この対局でハクも吸収するべきものがあると感じて、吸収していくのであった。

 

そうしてヒカルと佐為の対局も終盤になり、

「……くぅーー、投了!」との声が響き渡った。

「あと一目半〜〜……」嘆くヒカル。

『ふぅ…いい碁でしたねヒカル、ハクにも感謝します』とやりきった感ある佐為。

ハクも「勉強になったよ」と佐為と話している。

「もう一局!!」とのヒカルの声。

せっかくここまで用意したんだし、とことんやったら?とハク。

『そうですね、受けて立ちましょう』と続けてあと二局やることになり、その二局も一勝一敗で、結局はsaiの勝ち越しで終わったのであった。

 

「あ〜負け越しちまったけど、楽しかったなぁ」というヒカルに対して、

『やはりこういった公式の場でやるとまた一味違っていいですねぇ』という佐為

「今日は楽しかったよ、また次のHika対saiが楽しみだね」とハクがつなげた。

「当然次もやるに決まってらい!」kuroshiroを一番に追っているのは自分だとどうしても証明したいヒカルなのであった。

そんなヒカルを尻目に『ハク! 次はいつやりましょうか?』とハクと相談している佐為がいて、ヒカルがずりぃ!と叫んだ。

『ずるいとはなんです、私が勝ち越したんですから、次kuroshiroと打つのは私ですよ!』勝者に言われてはぐうの音もでないヒカルであった。

 

 



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