モニカたちのバレンタイン (old777)
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Please tell me how to make chocolate!!

皆がチョコレート作ろうってなるまでの日常パートになります。
導入からだらだらと書きすぎた感が否めません……。


文化祭からしばらく経ち季節は冬真っ只中となっていた。

白い息を吐きながら一人の女性が普段は使われていない3年生の教室の鍵を開ける。

 

「あら、今日は私が一番乗りみたいね」

モニカが教室の中に入り、壁に備え付けられたエアコンを入れる。

「今日は一段とよく冷えるわね」

手をさすりながらモニカはかばんの中から書きかけの詩を取り出す。

近くの机に座って、筆箱からお気に入りのペンを取り出し自分の詩と向き合う

シンとした部室の中、凍えた部室を温めるエアコンの音だけが小さくモニカの耳に届く

紙上にペンを滑らせていると扉の向こうから近づいてくる人影が見えた。

「モニカちゃん、やっほー!」

元気な掛け声とともに扉が開け放たれる。

サヨリとタチバナ君が一緒に文芸部に顔を出しに来た。

モニカはいつも一緒にいる二人に少しムッとしながらも笑顔で二人を出迎える

「あら、サヨリ、タチバナ君」

自宅に招き入れるかのような態度でモニカは二人を出迎える。

「サヨリ、もうちょっと声量を落としたらどうなの?廊下まで響いてたわよ」

二人の後ろからピンク色の髪がひょっこりと覗いている

「あ、ナツキちゃん!えへへー、元気なのが取り柄だからねー」

サヨリは右手を頭の上に持ってきてコツンとぶつけるようなしぐさをとる

「ナツキ、もっと言ってやってくれ。昼寝のすぐにこいつのテンションに付き合わされるのはつらい」

タチバナは批判的な目でサヨリを見つめる

「あんたも何が昼寝よ!授業はちゃんと起きて聞かなきゃダメでしょ!」

さっきまでの静寂が嘘のように部室内は和気藹々とした空気に包まれる

「あとはユリだけね、皆ユリは見なかった?」

書き終えた詩を小さくたたんでポケットにしまうとモニカは3人に近づいた

「何も聞いてないわね、どこかでピアノの練習でもしてるんじゃない?」

いたずらっぽくナツキがモニカのほうを見る

「あはは……まぁ、しばらくしてたら来るかもしれないし、来たら皆で詩の見せあいしましょう。」

モニカは笑いながら鞄から1冊の本を取り出す

普段なら自分からあまり読もうとはしないサイコホラー系の小説

ユリから借りたものだった。

本の頭から出ている金色の栞を軸に本を開く

パラパラと読み進めながら頁をめくるたびに物語は違う顔を見せてくれる

「ねーナツキちゃーん、あの漫画の続きどこー?」

サヨリはクローゼットの中をごそごそあさっている

小さな体がクローゼットの本棚を右左とせわしなく動く

「いや、あの漫画だけで分かるわけないだろ……」

タチバナはあきれながらもサヨリの後ろで一緒になって漫画を探してくれている

「ほら!あの……博士に作られた三人組の女の子がスーパーパワーで街の平和を守るやつ!」

「あー、ごめんサヨリ、その本今は……」

ナツキが申し訳なさそうにしていると

廊下の方からタッ、タッ、タッと駆け足で近づいてくる音が聞こえてきた

「ご、ごめんなさい……少し探し物をしていて……」

腰まで伸びた長い髪と豊満な肉体を揺らしながらユリが文芸部まで走ってやってくる

「探し物?鞄の中も机の中も探したけど見つからなかったってやつ?」

ナツキがユリのもとに向かってウサギの刺繍が入ったピンクのハンカチでわずかに汗ばんだユリの額をぬぐう

「あっ……ナツキちゃんありがとう……」

ユリはハンカチを受け取り

そのまま自分のポケットにそっとしまった

「いや!ちょっとユリ!?」

慌ててナツキがユリからハンカチを奪い取る

「ごめんなさい……我慢できませんでした……」

ユリはシュンとしながらよろよろと近くの壁にもたれかかる

「ユリ、やる相手選ばないと友達なくすよ?私だからいいけど……」

ナツキはすぐポケットにハンカチをしまう

「よし、皆そろったわね!」

モニカが本を閉じて席から立ち上がる

「詩の交換を始めるわよ!」

その号令で皆がモニカの周りに集まり各々詩についての感想を言い合っていく

5人皆が詩を互いに見せ合い終わった時には日はもう傾き

青かった空は、リンゴよりも赤い夕焼けに染まっていた

「お疲れさまー!私たちはお先に失礼するね!」

サヨリはタチバナの腕を引っ張りながらそそくさと部室を後にした

「ナツキちゃん……この漫画面白かったです、ありがとうございます」

「もう読み終えたの?私の方はまだ読み終えてないから今度返すわね」

ナツキはユリから手渡された漫画をクローゼットに並べる

「……また散らかってるわね、並べ直さないと……」

ナツキは本棚と正対し本を順番に並べ変え始めた

「そういえばユリってば今日はどうして走って部室に来たの?探し物していたって言っていたけど……」

「ああ……えっと、実は図書室で本を探していまして……」

ユリは気恥ずかしそうにつぶやきながらモニカの目を見た

「珍しいわね、あの図書室にあなた好みの本があるとはあんまり思わないけど……」

「今日探していた本は小説とかではなかったので……」

「じゃぁ、いったい何探してたのよ」

本棚の整理を終えたナツキが二人の間にすっぽりと納まる

「お……お菓子の本を……」

今にも消え入りそうな声でうつむき髪をいじりながらユリはつぶやいた

「ユリ!お菓子作りに興味があるの!?」

ナツキは首が吹き飛ぼうかという勢いでユリのほうを向いた

「ええと……もしかしてバレンタインに向けてのチョコレートづくりかしら?」

モニカは恐る恐るユリに尋ねる

「はい、彼にはいつもお世話になってますから……」

そう言うユリの目は泳いでいた、おそらくタチバナ君とお近づきになるために作りたいのだろう

「そういうことなら、私がいるじゃない!」

ナツキが小さな胸をドンと叩いて誇らしげに上体をそらす

「そうよ!4人でチョコレートを作って彼にプレゼントしましょう!」

(このまま皆がバラバラにチョコレートを作って個別ルートに入ると、とんでもないことになるわ……)

モニカはポケットから携帯を取り出してサヨリにメッセージを送った

「私のおうちに集まってチョコレートを作りましょう!きっと素晴らしいプレゼントになるはずよ!」

「まぁ、私はもともとタチバナなんかにチョコレートを渡す気なんかないわよ、でもモニカがそういうなら……」

「うう……わかりました、じゃぁそれで……」

そして三人は今度の休日にモニカの家でチョコレートを作ることを約束した。

サヨリとは十数通のやりとりの後なんとかチョコレートづくりに参加させることに成功した。

サヨリも一人でチョコレートを作ってプレゼントしようとしていたらしい。

(まぁ、幼馴染なんだし当然よね)

モニカはそう思いながら携帯を閉じて約束の日のためにいろいろ準備をし始めたのだった。

 




できるだけ皆が何しゃべってるかわかりやすく書こうとしたらこんな書き方になっちゃいました……
もう少し書き方に関しては勉強した方がいいかもしれないですね……


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Make a chocolate!!

ようやっとチョコレート作り始めました、キャラクターのかわいさが出でいるといいのですが


「よし、今日の準備は一通りオッケーね、後は彼女たちが集まってくれるかどうかだけど・・・・・・」

モニカは両手いっぱいの買い物袋を床におろし、次々と冷蔵庫の中に放り込んでいく

「皆が来る前に、アレの下準備だけでも終わらしておいたほうがいいかしらね」

買ってきた食材のうちのいくつかをまな板に乗せトントントンと小気味良いリズムを奏でる。

すべての食材を冷蔵庫に再びしまったときには集合時間の1時間前になっていた

 

まな板と包丁を洗い、エプロンをはずして一息付こうとしたモニカの耳に

聞き慣れたインターフォンの音が届いた。

ぱたぱたとスリッパを鳴らしながらインターフォンの前に立つ

その向こう側にはピンクの髪を揺らし、両手に荷物を下げたナツキの姿があった。

「モーニカ!ちょっと早いけど来たわよー」

両手の荷物からは普段目にしない機械が顔を覗かせていた

ナツキの体格では持ち運んでくるのも大変だっただろうことが容易に予想できた。

「ナツキ!?やけに早くないかしら!?」

モニカはあわてて玄関に向かい扉を開けナツキの荷物を受け取った

「ごめんね、早く来ちゃって、まずかったかしら?」

「ううん大丈夫よ、それより重かったでしょ?」

モニカはもってきた機械をちらりと確認する

一つは台座の付いた泡だて器のような機械とボタンの付いた銀の水筒のような機械。

モニカが持ってもそれなりに重いと感じる重さであった

もう一つは箱に入っていて中身が確認できないが、モニカはこれが何か知っていた。

「まぁ、気にするほどの重さじゃないわよ、モニカも準備ありがと……」

ナツキは家に上がり込んで、手を洗い、そのままキッチンへと向かった。

 

「さて、ちょっぴり早いけど機械のセッティングをしておくわ」

ナツキはモニカから泡だて器を受け取ると机の上にドンと置いた。

「あとは……モニカちょっと大きめのお鍋とかない?」

「湯煎用のおなべ?ならこれなんてどうかしら?」

モニカはシンクの下から真鍮製の大きな両手鍋を取り出した。

「うん、これくらいの大きさならボウルも入りそうね」

ナツキはお鍋を受け取りそこに水を注いでいく。

「そうそう、気になっていたんだけど、この細長い機械は何かしら?」

モニカはナツキの持ってきた袋の中からもう一つの機械を取り出した

「ああ、それ低温調理器って言って低温のお湯を作る装置なのよ。」

ナツキはお鍋を鍋敷きの上に乗せ、モニカから低温調理器を受け取った。

「本来は真空パックしたお肉とかをあっためてローストビーフ作ったりする機械なんだけど……」

ナツキはコンセントに低温調理器のプラグを差し鍋の側面に低温調理器の下部が浸かるようにセットし温度を設定した。

「湯煎って温度の調整が肝要なのよ、温度が高すぎると風味が飛んじゃうし、低すぎると今度は溶けなくなるの」

お菓子のことに関して語るナツキの目は真剣そのものであった

彼女のその態度からはちゃんとしたチョコレートを作りたいという意思がひしひしと感じられた

「だからこそ温度を一定に保って湯煎をするの、火で温度調整するのは結構大変だからね」

「ナツキ……私あなたがここまで真剣だなんて知らなかったわ」

「当たり前でしょ!だってこのチョコレートはあいつに渡すんだ……から……」

途中からナツキの声が徐々に小さくなり顔が真っ赤になってしまった

「わかってるわよ、大事な人に渡すんだからちゃーんと作りたいわよね」

「ちがっ!私はそんなんじゃ……」

ナツキの顔がさらに赤くなる

「でも、モニカあんたあのころから変わったわよね……」

「前はあいつを手に入れるためなら文字通り手段を選ばなかったのに……」

「あははっ、ナツキこそ自分一人で作って渡した方が、皆との差をつけられるって思わなかったの?」

「うん……ちょっとは思ったけど、でも私にとって大事なのはこの文芸部って居場所だから……」

ナツキは少し神妙な顔になり、昔のことを思い出すようにぽつりと話し出した。

「モニカのやったこと聞いて、私が本当に手に入れたかったものって何だったのかって考えたのよ」

「結局、私は自分の居場所……居心地のいい場所が欲しかったんだと思う、それこそ趣味を共有しても馬鹿にされないような……」

「今は彼だけじゃなく、ユリもナツキも漫画は文学だって認めてくれてる……」

「つ、つまり!理解者が彼だけじゃなくなって、そういう目で見なくてよくなったってだけ!本当にそれだけ!」

ナツキは一通り話し終えると息を整えつつ近くの椅子に座りこんだ

「そう言ってくれると私もありがたいわ、ナツキはちゃんと文芸部のみんなのこと考えてくれてるんだなって」

モニカも椅子を引き出して座りながらナツキと目線を合わせる

「もしユリやあんたが彼を取り合うならそれでもいいわ、でもそれでまた文芸部が……居場所がなくなるのが怖いのよ」

そうナツキがつぶやいた時に、インターフォンが鳴らされた。

「あら、もうそんな時間だったかしら」

モニカがスマホを取り出して時間を確認する。

彼が書いた文字の羅列のような詩をバックに時計は集合時間の10分前をさしていた。

 

「ユリかしらね、サヨリが時間通り来るとは思えないもの、私出てくるわ」

とナツキが椅子から立ち上がり玄関へと向かう。

ナツキが扉を開けるとそこには小さな鞄を持ち、白いセーターを着たユリの姿があった

「ナツキちゃん、おはようございます……もしかして、私が最後ですか?」

ユリは申し訳なさそうに髪をいじる

「ううん、ただ私が早く来ちゃっただけ、あと来てないのはサヨリだけよ。まぁ、集合時間はまだだけど」

「そうですか、よかったです、では失礼しますね」

ユリは靴を脱ぎ、向きを揃えてからキッチンへ向かう

「モニカちゃんおはようございます」

ユリはモニカにぺこりと頭を下げる

「おはようユリ!頼んでいたものは持ってきてくれた?」

「あ!はい!ここに……どれがいいかは後で決めようかと、とにかくいっぱい持ってきました」

ユリは鞄から色とりどりのメッセージカードを取り出した

「うん、ありがとう!どれにするかはユリに任せるわ。あなたはこういう雰囲気とかカラーコーディネートとかは得意でしょ?」

モニカは椅子から立ち上がり、ユリからメッセージカードを受け取る

シンプルな無地の物、ハートの形やカラフルな物、様々な種類のメッセージカードを持ってきていた。

「あとはサヨリだけだけど……どうしてかしら時間通りに来る気がしないわね……」

ナツキもキッチンに戻ってきて、鞄からエプロンを取り出す

ピンク色の生地に胸の中央に猫のイラストがプリントアウトされたかわいいエプロンを付けたナツキは、何時にも増して子供っぽく見えてしまう。

「あはは、今日はタチバナ君が起こしてくれないからね、遅刻しちゃうかもしれないわ」

モニカはそう笑いながら机の上に置いていたスマホに目を落とす。

スマホの画面はサヨリからのメッセージが来ている旨のポップアップが表示されていた。

「サヨリったら今起きたのかしら……」

心配しながらモニカがメッセージを開くと、すぐにそれが杞憂であるということに気が付いた。

「サヨリも近くまで来てるみたい、その間にもう少し準備しちゃいましょう」

モニカはシンクの下から人数分のまな板を取り出してくる

「まぁ、もうお昼だし、さすがに起きててくれないと困るわよ……」

ナツキも低温調理器の温度をチェックして、持ってきたレシピと照らし合わせる

「そうです、サヨリちゃんもそこまで寝坊助ではないですよね」

ユリはもってきた便箋をキッチンとは少し離れたリビングの机の上に整列させる。

「モニカ、チョコレートどこ?」

ナツキは冷蔵庫に頭を突っ込んで中を探っている

「チョコレートは冷蔵庫の上の段にしまってあるわ、他の材料も一緒に袋に入れてるわ」

モニカは3人数分の包丁とまな板を並べ終えると、ナツキの方へと向かう。

「あー、あった、あったチョコレートにココアパウダーに・・・・・・よし全部あるわね!」

ナツキは冷蔵庫から材料を取り出すと机の上に並べ始める

「彼一人のための材料にしては少々多いように思いますけど・・・・・・」

ユリがナツキの上から顔を出して材料を覗き込む。

実際、人一人にチョコレートを作って渡すには十分すぎるくらいの板チョコレートが用意されていた。

「ナツキがいるとはいえ失敗しちゃったら大変でしょ?」

「確かにそうですが・・・・・・」

ユリは板チョコレートを指折り数えていく

「それに、このチョコレートは他にも使うもんね」

ナツキは低温調理器の温度を確認して、シンク下からボウルを取り出した

「そうそう、まぁ、それはしばらくしてからのお楽しみ」

モニカは壁にかけている青いエプロンを取り外し、身にまとう。

 

「モニカちゃーん!ごめーん!おくれちゃったーー?」

インターフォンが鳴らされる代わりに玄関先から姦しい声が聞こえてきた

「ふう……サヨリも何とか到着したみたいね」

モニカが玄関に向かいサヨリを出迎える

「ごめんね!でもほら!ぎりぎりセーフ!」

サヨリは誇らしそうにスマホの画面をモニカに見せつける

その画面は集合時間の5分後をさしていた。

「アウトよ!少しは私を見習いなさい!」

ナツキは顔だけ玄関にひょっこりと覗かせてサヨリを叱責する

「えへへ……ちょっとだけ遅刻しちゃった……」

サヨリは靴を脱いでキッチンへ向かった

「サヨリちゃん、今日はタチバナ君が起こしてくれなかったのですね」

ユリは遅れてきたサヨリをからかうように微笑んで見せた

「ううん、最近はいつも私のこと起こしに来てくれるんだよ!何の用事がなくても来てくれるの!」

サヨリがそう言い放った瞬間、一気に周囲の空気が冷え込んだ

「え?ちょっと待って、サヨリ?毎朝タチバナ君があなたのおうちに尋ねてくるの?」

モニカは信じられないものを見るような眼をしながら恐る恐るサヨリに尋ねる

「うん!今日は私の代わりに朝ごはんも作ってくれてね!タチバナってね、目玉焼きを作るのがすっごく上手なの!」

サヨリの話が熱を帯びるに比例して部屋の空気は凍り付いていく

「え……一緒に朝ごはんまで食べるのですか?」

ユリも突然のことに驚いて目を白黒させている

「うん!私が作ることもあるんだけどやっぱりタチバナが作るご飯はおいしいんだよ~」

これ以上空気が凍えないようにとモニカが大きく手をたたいてパンと音を鳴らした。

おそらく、自分の心を一度落ち着けたいという意味もそこには含まれていただろう。

「はい、そこまで。よし、みんな彼への感謝の気持ちも込めてしっかりチョコレートをつくりましょ」

モニカが半ば強引に話題を変える。

おかげか、先ほどまでの重苦しい空気は少しだけ和らいだようにも感じられた。

「まぁ、いいわ、みんなそろったことだし、早速作っちゃいましょう」

なつきは並べられたまな板の上に板チョコレートを乗せていく

「あの・・・・・・まな板の数が少なくありませんか・・・・・・?」

ユリは3つしかないまな板に疑問を覚え、モニカに問いかけた

「ユリ、あなたにはメッセージカードのデザインとデコレーションをお願いしたいの」

「え?私はチョコレート切り刻まなくていいんですか?」

ユリは自分だけがのけ者にされたような気がして少しムッとしている

「ええ、デコレーションやデザインに関してはみんなでやっちゃうとごちゃっとしちゃうでしょ?」

「私も、ユリちゃんが作るメッセージカードがいいと思うなぁ!」

サヨリもモニカの意見に乗っかった

「でも、私もチョコレート切り刻み・・・・・・はっ!」

途端、ユリの顔が赤くなり、髪をいじり始める。

いくらかマシにはなってはいるが、いまだに刃物を持ちたがる癖が抜けてないようだ

「それに、メッセージカード作っててもらわないと時間内に終わんないでしょ」

ナツキはユリを宥めながら彼女を説得する。

「はい・・・・・・わかりました、その代わりみんなに納得してもらえるようなデザインにして見せます」

ユリはバツが悪そうに細々とした声でつぶやいた。

「さぁ皆、がんばって素敵なプレゼントをつくりましょう!」

モニカの掛け声とともにそれぞれバレンタインのお菓子作りを開始した。

 

「さぁ、まずはチョコレートを包丁で小さく刻むのよ」

チョコレート作りの先導はナツキが行い、それにモニカとサヨリが従うといった構図になった

「チョコレートを切るなんて生まれて初めてだよ・・・・・・」

サヨリは文句を言いながらもチョコレートを小さく切り分けていく

「大きさをできるだけそろえるように切ると溶かす時に均一になりやすいわ」

モニカもそういいながら手際よくチョコレートを切り刻んでいく

「・・・・・・やはりバレンタインですしピンクでしょうか・・・・・・でもこっちのハート型も・・・・・・」

三人の後ろの机でユリは一人メッセージカードとにらめっこを繰り広げていた

「細かく刻んだらこっちのボウルに入れて次のチョコレートを刻み始めるのよ」

ナツキは二人よりも手早くチョコレートを刻み次々とボウルの中に放り込んでいく

「ナツキちゃん早いよー、私もう手が疲れてきちゃった・・・・・・」

チョコレートを切り刻むことに慣れていないサヨリにはすでに疲弊の色が出始めていた

「サヨリちゃんは、作るほうより食べることのほうが多いんじゃない?」

そういいながらモニカはサヨリの口に切ったチョコレートを一口分だけ放り込んだ

「んー、あまーい、もうこのまま箱につめて渡してもいいんじゃないかなー」

サヨリは放り込まれたチョコレートをモゴモゴと頬張り

自分が切ったチョコレートにも手を伸ばそうとしていた。

「こらサヨリ!勝手にチョコレート食べないの!モニカも!」

ナツキがサヨリを叱責している隙にチョコレートに手を伸ばしたモニカであったが

ついでに怒られてしまった。

「えへへ~、仕方ないよ。だってチョコレートおいしそうなんだし~」

怒られてまったくダメージのないサヨリに対してモニカは少し申し訳なさそうにしている

「もう!二人とも真剣に作る気あるの!?ちょっとはユリを見習ったらどう?」

そう言い放つナツキの後ろで、ユリはメッセージカードにペンを走らせていた。

机に顔をあらん限り近づけ、真剣に彼のペンを走らせているその様は

いつも部室の傍らで小説に頭を埋めている姿を彷彿とさせる。

「あらら、聞いてないみたいね・・・・・・」

モニカもその集中力に圧倒されてしまっていた。

「ほら、手を止めない!もうちょっとで全部切り終わるんだから」

確かに先ほどまで積まれてあったチョコレートはすでに切り刻まれボウルに放り込まれていた。

「おーわりー!私の分はもう終わりでいいよねー」

サヨリはまな板に乗ったチョコレートをボウルに入れると包丁についたチョコレートを指でこそぎ落としなめとった。

「ちょっと、サヨリ危ないからやめなさい!」

ナツキもまな板のチョコレートを乱雑に放り込み、慌ててサヨリを止める。

「むぅー、私だってチョコレート食べたいのにー」

サヨリはぷうと頬を膨らすとしぶしぶと包丁を置いた

「あはは、安心してサヨリ、後で食べさせてあげるから」

モニカはそう言いつつ、ナツキのほうに目配せした

「そうよ、だからしばらく待ってなさいな」

ナツキはチョコレートの入ったボウルを湯浴の中につけ湯煎を始める

「温度もちょうどいいわね……このままさっさと溶かしちゃいましょ」

ナツキはモニカからヘラを受け取り、溶けるチョコレートとにらめっこを始める。

 

「あの……一通りメッセージカード、描き終わりました、後は皆さんの分だけです……」

メッセージカードの選定とデザインを終えたユリが後ろからおずおずと近づいてきた。

「何かお手伝いできることはありませんか?」

メッセージカードも書き終えてユリは手持ち無沙汰になってしまった。

何か手伝おうとするのは、彼女の心の優しさからくるものであろう

「じゃぁユリ、ココアパウダーの計量手伝ってくれない?」

モニカは袋の中から新品のココアパウダーを取り出し封を切る

チョコレートの甘い香りに加えてココアの少しビターな香りも部屋中に広がっていく

「んー、いい匂い!」

サヨリは開けたココアパウダーの上で手を扇ぎココアの香りを楽しんでいる

「サヨリ!サボってないで手伝って!」

ナツキはサヨリを呼びつけて湯浴の上に浮かぶボウルを支えるように指示する

かなりの量が入ったチョコレートのボウル、支えながらかき混ぜるには人手が必要であった。

「ユリ、こっちはこっちで計量しちゃいましょう」

モニカは戸棚の中から電子秤を取り出して電源を入れる

小さな器を置いて風袋引きをする。

ピーという甲高い音とともに電子秤はゼロを指し示す。

「モニカ!ココアパウダーはチョコレートの3%が目安だからね!」

ナツキがチョコレートをかき混ぜながら語り掛ける

「ユリ、袋の口広げておいてね」

ユリは袋の口を広げ、モニカは計量スプーンを取り出してくる

ココアパウダーが器に盛られるたび、パウダーが宙を舞う

「ナツキ、こっちは計量できたわよ、そっちはどう?」

モニカは計量スプーンをシンクに持っていきながら横目でナツキを見る

「こっちも大丈夫そうね」

ナツキがヘラを持ち上げチョコレートの溶け具合を確かめる

ヘラについたチョコレートがトロトロとボウルへと吸い込まれていく

「サヨリ、このお鍋のお湯を捨てて水張ってくれない?」

ナツキは湯浴からボウルを持ち上げて、テーブルに置きなおす

「あいあいさー!」

ビシッと敬礼をし、サヨリは鍋の中のお湯を捨てて、その中に水を張る

「これでチョコレートを少し冷やすわよ」

ナツキはボウルを水の中に入れてチョコレートから熱を奪っていく

「そのまま温度を下げて……30度くらいになったらココアを混ぜる!」

タイミングよくナツキはモニカからココアパウダーを受け取りチョコレートに投入する

「あとはこれを機械にセットして……」

水からボウルを取り出し、ナツキはセットしておいた泡だて器にボウルをセットしスイッチを入れる

ウィィンと機械的な音とともに中のチョコレートとココアパウダーが混ざり合っていく

 

「モニカ、チョコレートの型は?」

ナツキは額の汗をぬぐいながらモニカに問いかける

「こちらです!たいちょー!」

モニカもサヨリのまねをしながら冷蔵庫からチョコレートの型を取り出しナツキに手渡す。

「あんたたち……いったいなんなのよ……」

ナツキはあきれながらチョコレートの型をモニカから受け取る

その横でなぜかユリも小さく敬礼をしている

「ユリ、あんたまでやる必要ないのよ。ツッコミの手が回らなくなるわ……」

ナツキは機械をオフにして、ボウルを機械から取り外す。

「じゃぁ、流し入れるわよ!」

ナツキはキッチンシートをくるくると丸め三角錐を作る。

そして作られた三角錐にチョコレートを流し込んでいく

三角錐の先を切りその先からチョコレートを型に入れていく。

器用に流し込まれたチョコレートはしっかりと型に流し込まれ、6つのハートを作り出した。

「ユリ、型に蓋をして、冷蔵庫の中に!」

ユリはハッと敬礼を解いて、蓋をした後に冷蔵庫にチョコレートを入れた。

「ふぅ、これで一通り終わりね。あとは冷えて固まるのを待つだけよ!」

ナツキは誇らしげに両手を自分の腰に当てて無い胸をそらす。

「わー、ナツキちゃんすごーい」

無邪気にサヨリはナツキに対して拍手を送った。

ユリとモニカもそれに続いて拍手を送る

「ふん、このくらいどってことないわよ……手伝ってもらわなきゃもっと時間かかってたし……」

ナツキはみんなから褒められてうつむいてしまっている。

 

「それにしてもかなりの量のチョコレートが余ってしまいましたね……」

ユリはボウルの中にまだまだ大量に入ってるチョコレートを眺めながら呟いた

「あ、そうそう、忘れるところだったわ、ナツキ準備をお願い。」

モニカは机の下に置いていたもう一つの袋をナツキに手渡した

「そうよ、チョコレートはわざと余らせておいたのよ……これのためにね!」

ナツキは袋の箱の中から機械を取り出す。

植木鉢を思わせる土台にはお皿が逆に取り付けられたような物体が刺さっていた。

しかし、サヨリとユリは見た途端にこれが何なのかすぐさま理解することができた

「チョコレートファウンテンだー!」

サヨリはその場で手を上に上げてぴょこぴょこ飛び跳ねる

「実物を見るのは初めてですが……これでチョコレートフォンデュをするのですね!」

ユリの目もいつもの感じとは違い、キラキラ輝いているように見える

「実は昨日のうちにナツキにお願いしておいたのよ」

モニカは冷蔵庫から生クリームと牛乳を取り出してくる。

「じゃぁ、ナツキフォンデュ用のチョコレートはよろしくね、私はコーヒーを淹れるから」

モニカは戸棚からコーヒーミルを取り出して、そばにあった豆を挽いていく。

ゴリゴリゴリと音を立てながらコーヒーの匂いも部屋に混ざっていく

「それじゃぁ二人とも手伝って、フォンデュ用のチョコレートを作るわよ」

3人はチョコレートを温め、生クリーム、牛乳を加えてフォンデュ用のチョコレートを作り上げる

「あとはこれをファウンテンに流し込んで……」

ナツキが出来上がったチョコレートをファウンテンに流し込みスイッチを入れる。

しばらくしてファウンテンの頂点からチョコレートが流れ出してくる

「すごーい!これでチョコレートフォンデュができるね!」

サヨリは、ファウンテンに指を伸ばそうとする

「サヨリちゃん!ばっちいからダメですよ!」

ユリがサヨリの指をすんでのところで取り押さえる。

「そういえばモニカちゃん、フォンデュするフルーツとかは?」

「ええ、用意してるわよ。ナツキ野菜室の中にあるフルーツを並べてくれないかしら」

モニカは引き終わった豆をドリップにセットし、ドリップポットからお湯を注ぐ

挽かれた豆がお湯に触れた瞬間、コーヒーの香りがさらに強く部屋に充満する。

「モニカ、わざわざ切り分けて用意してくれてたの?」

ナツキは野菜室からきれいに切り分けられたフルーツを取り出してくる

バナナ、いちご、オレンジにパイナップル

ほかの皿にはすでにベビーカステラやマシュマロが用意されていた。

「みんなが来る前にちょっとだけ作っておいたのよ」

モニカは引き出しから竹串を取り出して皆に渡す。

「コーヒーもちょうどできたわ、皆でいただきましょう」

モニカは3人の前にコーヒーを置いていく

ユリには何も入れていないブラックのコーヒー。

サヨリの前にはミルクを入れたカフェオレ。

ナツキの前には砂糖とミルクがたくさん入ったカフェオレを

モニカは最後に残したブラックのコーヒーを手に取り口に運ぶ。

これだ―モニカはいつものコーヒーの味に心を落ち着かせる。

「モニカちゃんはコーヒーを淹れるの、上手なんだね!」

サヨリはフルーツを竹串にさしてはチョコレートにつけてを繰り返し

チョコレートにまみれたフルーツを次々と口の中に頬張っていく

「ちょっとサヨリ!私たちの分も残しなさいよ」

ナツキも続いてフォンデュしたフルーツを口に運ぶ

「モニカちゃん、ありがとうございます、友達の家でこんなにはしゃぐのは初めてです」

ユリは、モニカの入れたコーヒーに口をつける

「えへへ、ユリがチョコレートを作ろうって言いださなかったら、このチョコレートフォンデュもなかったのよ」

モニカもフルーツを口に運びながらユリに微笑みかける。

4人はそのままフルーツとお菓子が尽きるまで、チョコレートフォンデュを楽しんだ。

 

部屋には西日が強く差し込み、4人の頬を赤く染め上げていた。

「ふぃー、おなかいっぱいだよー」

サヨリは机に顎を乗せてごろごろと首を転がす

「さすがにチョコレートも固まったと思うから、箱に入れるわよ」

ナツキは冷蔵庫からチョコレートの型を取り出す

思惑通りチョコレートはきれいにハート型をかたどって固まっている

「じゃぁ、この箱に詰めちゃいましょ」

モニカはピンク色の小さな箱をテーブルに乗せる

6つのハート型の穴が開いたそれは、このチョコレートのために見つけてきたものだった

ナツキはチョコレートをきれいに型から外し、箱の中に詰めていく

「後は蓋をして、リボンでラッピングすれば完成ね」

モニカはハート型のデザインがプリントされた蓋を箱の上に乗せる

「ラッピングなら任せてよ!縛ったり、括ったりするのは私得意だから!」

サヨリがそんなブラックジョークを吐き出す

「あんたが言うと、笑えないからやめてほしいわ……」

ナツキが苦い顔をしながらも、サヨリに赤いリボンを手渡す。

サヨリは口と両の手を使い、器用に箱にリボンを巻き付けていく

「皆さん、あとこのメッセージカードにみんなでそれぞれ詩を書こうかと……」

ユリはデザインしたメッセージカードをみんなに見せる

真っ白でシンプルなメッセージカードが二つ折りの状態になっている

開いてみると、右側にはカラーペンでユリ、モニカ、ナツキ、サヨリと名前が書かれ中央にはハートのイラストも添えられている

左側にはユリが書いた詩が数行乗っていた

「なるほど、この左側に詩を書いていくわけね」

ナツキはユリの詩をゆっくり目で追いながらメッセージカードを眺める

「今すぐみんなの分を書くのは無理だと思いますので、今度学校で会う時にリレー形式で渡し合いましょ」

モニカはそう言いながら、機械や使った道具をシンクに入れていく

「そうね、今日はもう遅いから、明日学校で渡すことにするわ」

ナツキは鞄にメッセージカードを大事にしまう

「みんな今日はありがとうね、今度のバレンタインにこのチョコレートを渡しましょ」

モニカはラッピングされたチョコレートを冷蔵庫にしまう

「それじゃ、皆また明日学校で!」

モニカはそう言うと3人を玄関から送りだした。

 




次で最終話になります。
やっぱり少し読みにくくなってしまいましたね……


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Is a gift from us

モニカのツイッターでバレンタインのイラストを見た時からこの物語は書こうって思ってました、最後の最後でファンメイドのバレンタインムービーを見てエンディングを曲げようかとも思いましたが結局初期のプロットのまま突き抜けました。
詩の部分は読み飛ばしていただいて構いません、本編には関係ない部分ですので


……1週間後

モニカは近くの駅でとある人を待っていた

鞄の中にはチョコレートと皆でリレーしたメッセージカードを添えた箱が入っている。

「モニカ、お待たせ」

タチバナ君が駅のホームから歩いてやってくる。

モニカは手を振ってタチバナを出迎える

「ごめん、待たせちゃったかな?」

タチバナは申し訳なさそうに頭の後ろを掻く

「ううん、私も今来たところだから」

モニカは白いキャミソールの上から茶色いトレンチコートを着て、柱を背にタチバナを待っていた

「で、どこに行く予定なんだ?」

タチバナはモニカに呼ばれはしたが、どこに行くか何をするかは全く聞かされていなかった

「本屋にでもいきましょうか。一緒に読む本でも探しましょう?」

モニカはタチバナの隣に立つとそのまま本屋へと歩みを進めた

 

「タチバナ君は普段どんな本を読むの?」

モニカは本屋で詩集を眺めながら問いかける

「うーん、読書家ってわけでもないしなぁ……漫画が多いかなぁ、これでも入部してからはいろいろ読むようになったと思うよ」

タチバナはモニカの隣で見慣れぬ詩集戸惑っているように見える

「あはは、漫画だって立派な文学よ?それにそのおかげでナツキとも仲良くやれてるんじゃない?」

モニカは詩集を一つ手に取る

「私のおすすめはこれかな、カミングズ詩集」

モニカの手にしている本には緑色の文字でE.E Cummingsと書かれた詩集が握られていた

「読んだことも、聞いたこともないなぁ……また今度教えてくれない?」

タチバナはモニカから本を受け取り、ページをめくる。

そこには自由な空白の使い方をした独創的な詩が載っていた

「ね、ね。こうしてると私たちカップルみたい?」

本に集中しようとしているタチバナを横からモニカがからかう

「えっ、いや、まぁ……」

タチバナの顔が赤くなる。

そして、そのやり取りを推理小説の棚から覗く影があった。

「タチバナ君……?モニカさんと何を……?デート……!?」

ユリは持っていた推理小説を置くと、すぐさまスマホを取り出して、ナツキとサヨリに連絡を取った。

 

>>Yuri_thirdeyeが画像を送信しました

ナツキ>>え?何これ?二人本屋で何してるの?

ユリ>>わからない、たぶんデート。

サヨリ>>ねぇ、どこの本屋さんかわかる?

ユリ>>学校の最寄り駅のとこ……

サヨリ>>ユリちゃんそのまま尾行してほしいな。モニカちゃんだけ抜け駆けさせたくないよ。

ナツキ>>さすがに私もこれは看過できないわ……二人とも、とりあえずモニカを尾行して何するのか暴くわよ

ユリ>>でも、二人で部活の参考になる本を選んでいるだけの可能性もあります……

サヨリ>>それでも、二人っきりってやっぱりなんか変だよ!

ナツキ>>とにかくユリ、逐一報告をお願い!私たちもすぐに向かうから!

ユリがスマホから顔を上げると二人は本屋から外に出ようとしているところであった

ユリは慌ててスマホをしまい、ばれないように二人の後ろをついて回るようにした

ユリ>>今、二人本屋出たところです。

ナツキ>>私は今家を出たところよ、20分もあればそっちにつけると思うわ

サヨリ>>私もおうちから出たところ、ユリちゃん見失わないように頑張って!

ユリ>>二人とも楽しそうに歩いてどこかに向かわれるみたいです

>> Yuri_thirdeyeが画像を送信しました

ナツキ>>タチバナも何デレデレした顔してるのよ……

サヨリ>>なんか邪魔していいのかなって思えてきたよ……

ナツキ>>でもさすがに見過ごせないでしょこれは!

ユリがスマホに目を落とすたびに二人との距離は離れていく

ユリ自身さっきまで読んでいた小説のせいで尾行という行動に興奮を覚えていた

(なんだか、小説に出てくる探偵になったみたいでワクワクする……)

ユリは二人の後をつけながら、ばれないように何枚もの写真を撮る

 

「ここで、お茶でもしない?カフェでお話なんてほんとにデートみたい」

モニカは満面の笑みでタチバナと喫茶店の中に入っていく

「だから、ほんとにそうやってからかうのやめてくれよ……」

タチバナの顔はまだ赤いままだった

喫茶店の中に入ると、コーヒーの香りと甘いスイーツの香りが二人の鼻孔を満たした。

「2名様ですね?」

すぐさま店員が二人の元によって来る

「ええ、2名です」

タチバナはできるだけ落ち着こうと事務的に回答する

「お好きな席にお座りください、後程ご注文をお伺いに向かいますので」

そう告げると店員は厨房の奥に姿を消していった

「ねぇ、今日は天気もいいし、テラスでコーヒーでも楽しまない?」

モニカがタチバナの手を引いてテラスの席へと向かう

喫茶店にはあまり人はおらず、談笑する高校生やカウンターでパソコンを叩く社会人がちらほら見えるだけであった。

 

>> Yuri_thirdeyeが画像を送信しました

ユリ>>二人はこの喫茶店に入ったみたいです、少し見失ってしまいましたが……今テラスにいるみたいです

ナツキ>>ほんと?私今そこの近くだから合流しましょう

サヨリ>>私も!今駅の近くだからすぐに向かうね!

ユリが顔を上げるとナツキが駅の方からピンクの髪を揺らしながら走ってくるのが見えた

「ユリ……ありがとう……二人は……?」

ナツキは息を切らしながらユリに二人のことを尋ねる

「おそらくテラス席だと思います、ここからでは見えませんが……」

ユリはナツキの額の汗をハンカチでぬぐいながらサヨリの到着を待った

 

その間にタチバナとモニカはテラスの席について、二人見つめ合っていた

「こうやって君と見つめ合うのも久しぶりね」

モニカはタチバナの目をじっと見つめる

モニカの瞳にはタチバナの姿が反射しているが

モニカにはタチバナのことは眼中になかった。

「ねぇ、こうやって本屋をめぐって、二人で喫茶店に来て……あこがれたことってない?」

「少なくとも私はあこがれたよ?目が覚めた時からずーっとね」

モニカはタチバナに……その先にいるはずの物に一方的に話しかける

二人の前にホットコーヒーが運ばれてくる

モニカは一口コーヒーを口につけるとすぐにタチバナの目を見据える

エメラルドグリーンのその瞳には確かな愛情と少しばかりの嫉妬心がにじみ出ているようであった。

「ねぇ、私ってひどいと思う?皆仲良くって言っておいて、3人を出し抜こうと抜け駆けしちゃったんだよ?」

モニカは両手を顎の下で組んでその上に顔を乗せて聞く

「あはは、ごめんね。そういえば君はダイアログボックスがないと会話できないんだったね」

モニカは人差し指を立てる

「ねぇ、私一人抜け駆けしてずるいと思わない?」

 

はい   >いいえ  

 

「うふふ、気を使ってくれたの?ありがとう、そんな優しいところも大好きだよ」

「でも私は自分で自分のことずるいと思ってる、こんな風に君と二人きりになって自分のしたいことをして……」

「でもいいよね、彼女たちが好きなのは君じゃなくてそこの彼なんだから」

「君のことを本当に愛しているのは私だけだよ~」

モニカは微笑みながら頬を真っ赤に染める。

 

「ユリちゃんごめん!遅れちゃった」

モニカがしゃべっている間にサヨリがユリとナツキに合流し3人が集まった

「どうするのユリ、正面からガツンと言ってあげた方がいいかしら?」

ナツキは放っておくと一人でも二人に割り込んでいきそうな雰囲気であった

「いえ!ここは草むらにでも隠れて様子を見るのが定番です!」

ユリはふんすふんすと鼻息荒く答える

完全に先ほど見た推理小説に感化されてしまっている

「確かに、今二人がどんなことしてるのか確認したほうがいいかもしれないよ」

サヨリも方向性は違えどユリに同意した。

「わかったわ、じゃぁ二人が見える位置まで移動しましょう」

ナツキたちはこそこそと喫茶店のテラス側に回り込み手ごろな草むらに身を潜めた

「いました!二人でコーヒーを楽しみながら見つめ合ってますね……」

ユリがスマホのカメラを構えてシャッターを切る

気分は推理小説の探偵か、スキャンダル好きなジャーナリストといったところであろう

「なんか、タチバナ様子変じゃない?モニカのこと見てるけど心ここにあらずって感じだし」

ナツキは草むらからひょっこりと首だけ出して二人を観察する

「でも、二人とも楽しそうだよ……どうしようやっぱり止めないほうがいいんじゃないかな……」

サヨリは二人の頭の上に顔を乗せて二人を見る

その瞳には涙がにじみかけていた

「幼馴染のあんたがそんなんでどうするのよ!とにかく変なことしようとしたらすぐ止めるんだからね」

ナツキはサヨリを叱責しつつ、慰める、その目は見つめ合う二人をにらみつけたままで

「また何か、しゃべってるみたいですね……」

ユリは静かに耳を澄まして会話を聞こうとする。

 

「文化祭にハロウィーン、クリスマス、君は意図してあの3人と個別でイベント起こそうとしなかったよね」

モニカは微笑みながら問いかける

「まぁ、私という彼女がいながらそんなイベント起こしてたらすぐに上書きしてあげるけどね」

「そのおかげか、あなたへの3人の好感度MAXのまま次のステージに進めなくなっちゃってるのよ?」

モニカが指をパチンと鳴らすと新たなダイアログボックスが出現した

そこには3人のSDキャラとその横に棒グラフで好感度が示されていた

3人とも好感度が100%を指し示しており、SDキャラがぴょんぴょんと飛び跳ねている

「私はたぶん元々、彼と3人がうまくいくようにデザインされたサポートキャラのはずだったから見えるのよね」

「でも、私の好感度はこんな感じだから~」

3人のSDキャラの下にモニカのSDキャラが表示される

その横に示された好感度の棒グラフはマックスの100をオーバーフローして65536%と被るように表示されていた

「私が一番あなたのことが好きってこと、わかってくれた?」

モニカはもう一度指を鳴らしダイアログボックスを閉じる

「彼女たちは、確かに私の友達よ、あなたと向き合って、あなたに消されて、あなたに救われて、そのことを再認識したわ」

「でも今、私はそんな彼女たちを裏切ろうとしているわ」

モニカは少し悲しそうな眼をする、しかしその口元は緩み、口角は上に上がっている

「私が好きなのは、君で彼じゃないから……」

モニカは鞄の中を探って一つの箱を取り出す

赤いリボンに包まれたピンクの箱……モニカが取り出したのはバレンタインのチョコレートだった

「ほらこれ、皆で書いたメッセージカードなの」

モニカはその箱の下側に挟まれていたメッセージカードを取り出して見せた。

 

砂浜に立ち、皆と別れ、海へ目を向ける。

心は海へと沈んでいく。

耳に届くのは3人で紡がれるオーケストラ。

今までは聞こうともしなかった、甘美な響き。

その音色が海と砂浜の境界線を曖昧にしてくれる。

我に返って、海から顔を出す。

砂浜では、3人が演奏を続けている。

海に碑を建てて、私も楽器を手にとって。

新しい音楽を作り始める。

 

大海を泳ぐ白いイカ

その傍らではねる黒いサヨリ

遠くで咲く赤いユリ

傍らで咲く夏の黄色いヒマワリ

みんなで一つのボウルに入って

ぐるぐるぐるぐるまざってく

おいしいチョコのできあがり。

 

私の大事にしてるビン

いつもは一人でつめるビン

みんなでつめた一つのビン

太陽に向かってほうりなげるの

三つにして返してもらうの。

落として粉々にならないよう

お気に入りのリボンでラッピング。

 

静寂、狭かった部屋が広く感じる瞬間

雑音に感じていた音はいつの間にか豊かな音楽になった

冷たくなった心を洗い物のお湯だけが温かくする

ボウルに付いた残りものがふと目に留まる

小指に付いた茶色い幸せを愛おしく運ぶ

皆で作った小さな幸せ

おいしくないわけがないよね

でも君に食べさせられないのがやっぱり少し残念ね。

 

「あ!見てください二人とも!モニカさんチョコレート取り出しましたよ!」

ユリは首を目いっぱい伸ばし、二人を観察する

「モニカ……なんとなくそんな気はしてたけど、本当に抜け駆けするなんて」

ナツキは怒りを抑えられなくなっているようで、小さな頭がぷるぷると震えている

「……」

そんな中サヨリだけは静かに二人を観察していた、先ほどまでの涙はなく。

何かを見定めんとするようなその目は、いつものあっけらかんとしたサヨリからは見られない雰囲気を醸し出していた。

 

モニカはリボンを取り外し、プレゼントの蓋を開ける

小さなハート型のチョコレートが6つ収められたそれは、どんな高級チョコレートより貴重なものに見えた

「本当、君にこれを食べさせてあげられないのが残念だわ」

モニカはその中にあるチョコレートの一つを指でなぞる

「でも、実際に食べさせることはできなくても、雰囲気だけでも味わってほしいかな」

モニカはチョコレートを一つ摘まみ上げると、そのままチョコレートをタチバナの前に差し出した

「ロマンチックじゃない?彼女にバレンタインのチョコレートを食べさせてもらえるなんて」

モニカは蠱惑的な笑みを浮かべながら、彼のことをまっすぐ見つめる。

「イベントスチルには残らないからちゃんとスクリーンショットしておいてね、壁紙とかに使ってもいいかもしれないわね」

「「ちょっとまったー!!」」

がさがさとモニカの後ろの草木が揺れてユリとナツキが飛び出してくる

「モニカ、どういうことか説明を求めるわ」

ナツキは両手をぐっと握りしめてモニカを問い詰める

「モニカちゃん、さすがにひどいです、一人だけ抜け駆けするなんて……私、ずっと我慢してたんですよ?」

ユリも目からハイライトが消えかけている

その後ろからサヨリが恐る恐る近づいてくる

「やっほー、モニカちゃん……彼とお楽しみのところごめんね」

なぜかナツキだけは二人と違って怒っているわけではないように見える

「あの……これは……」

モニカは言葉を失ってしまっている

自身でも罪悪感を感じていたのに、その悪事が白昼の元に晒されてしまったのだ

もはや言い逃れはできそうになかった

「モニカちゃん、よく聞いて、私たちは確かに怒ってるよ。でもそれはタチバナ君と勝手にデートしてたってところじゃないの」

サヨリは冷静に、そしてしっかりとした目でモニカを見つめる

「みんなで彼にチョコレート渡そうって約束したじゃない?皆からの感謝の気持ちだって」

ナツキの両の手から徐々に力が抜けていくのが見てとれる。

「私も、最初は一人で彼に感謝の気持ちを伝えようとしました、でもみんなで伝えた方がいいと思ったから賛成したんです」

ユリの目も徐々に光を取り戻している

「モニカちゃん、私たちも彼に感謝の言葉を伝えたいんだよ?」

ナツキはタチバナの目をじっと見つめる

ナツキの目にもタチバナは反射する。

しかし、ナツキの目にもタチバナは眼中になかった。

「私だって一瞬だけだったけど元部長だったんだよ?」

その言葉を聞いてモニカはハッとした。

もしかしたら彼女たちはタチバナ君ではなく最初から彼にプレゼントを渡したかったのではないのだろうかと

「私は最初からそう言っていたんです『彼にはいつもお世話になってますから……』って」

ユリは静かにモニカを見つめる

「私だってそうよ、最初からタチバナにチョコレートを渡す気はないって言ってたのに」

ナツキも最初からこのチョコレートを彼に渡すことを決めていたのだ

「それじゃぁ皆……最初から彼に……というか彼のこと……」

モニカは両手を口元に当てて驚く

「えへへ……秘密にしておくのも違うと思って私が二人に教えたんだよね……」

サヨリは気恥ずかしそうにモニカに伝える

「モニカちゃん、今からでも遅くはありません、このチョコレートは私たちから彼への感謝の気持ちなのです」

ユリも先の二人と同じようにタチバナを通じて彼の目を見据える

「そうよ、私たちからの感謝の気持ち、しっかりと受け取りなさいよ」

ナツキも同じように彼の目を見る

「それじゃ、モニカちゃん彼に一緒に手渡そうよ」

サヨリももう一度彼に目を向ける。

「わかったわ、ごめんなさい皆、このチョコレートは私たち【文芸部】からあなたへのプレゼント」

4人全員が彼の目を見て一斉に目を輝かせる

「「「「ハッピーバレンタイン!!!!」」」」

こうして、4人は彼に感謝の気持ちを伝えたのであった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。
読みにくい文で申し訳ありません。
次のシナリオはSS風にほのぼのとしたものを1つ考えています。
創作意欲が尽きていなければ次の作品でお会いいたしましょう!


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