8区のバケモノ達は隻眼の王と共に (傘あきさめ傘)
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1話 蟻地獄

はじめまして
傘あきさめ傘です。
以前は秋夜彗の名で名乗っていましたが、
またこのたび、ボクの拙い作品を投稿させて
いただくことにしました。
だから、もしかするとはじめてでない方
もいるかも分かりませんが

今後とも、どうぞよろしくお願いします。



東京8区 とある廃棄地下施設にて

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

喰種…それは人の外見を象りながら、似て非なる存在

2つの目・耳、1つの鼻・口、5本の指、2足歩行、なんでもいいが人間と同じ共通点を挙げればキリがない程、普段の外見的な特徴は全く一緒だ。

あくまで「普段」であるが…。

 

そんな彼らの本性は、人間の肉を貪り喰らう事でしか生きられない怪物。

赫子という、殺傷能力にたけた捕食器官を駆使して、人間を殺め、そしてその肉を食する。

人肉以外のエサは断固拒否する哀れな生き物たち。

 

「じゃぁ、僕たちって人間たちにどう見えるの?」

言うまでもなく人間にとって、喰種の存在は、恐怖であり、脅威であり、なによりも排除すべき存在である。

彼ら人間のなかには家族や友人を殺され、喰種に対して限りない復讐心を燃やすものもいる。

 

「でも、それって…」

そう…。それは、俺たち喰種だって同じことだ。

復習心をたぎらせCCG(いわば喰種の殺し屋)に入局した人間たちが、殺しにかかり同じように俺ら喰種の家族・友人を殺される。

 

「人間たちとおともだちになれる方法はないの?」

 

お兄ちゃんが答えてやろう。

結局のところ、この世界の住人は何度も同じ悲劇を繰り返し、浅ましく愚かしい道化を繰り返しているに過ぎない。

まぁ簡単に言えば、ずっとイタチごっこをしている状態だな。

この前教えたアレな。

最終的にどちらかが、あるいは両方が滅びるかしない限りは、この鳥かごから抜け出すことはまず無理だろう…。

じゃぁ、そうならないためにどうすれば人間たちとお友達になれるかって?

ボッチだったから分からん…。

それが分かっていれば今頃こんな苦労しているはずないんだよなぁ…。」

 

「結局、わからないんじゃん…。」

 

「ちょっと、八お兄ちゃんしっかりして!」

 

「せっかく、いい感じで語り始めてたのに、最後で台無しじゃん。一応いい年した大人なんだから、答えぐらいしっかり出してよ。」

 

「一応ってなんだ、一応って。俺が脳内で人と喰種の共存について一から考えてたってときにお前たちが、突然質問してくるから、こんな感じになったんだろうが。」

 

っていうか、なんで俺の脳内会話を読めるの。ちょっと君たち人間止めてませんか。

あ、人間じゃなかったね、喰種でした。てへ☆八幡いっけな~い!

 

「まぁ、お前たちにはまだ難しい話だから、分からなくていいんだよ。俺ですら分からねぇ事なんだから。だから、分からない事が分かったって思ってくれればそれいい。」

 

「なんか、納得しないけど分かった。」

 

「でも、いつかはちゃんと答えてよね。」

 

分かってくれたようでなにより。

とりあえずこのことはまた今度いつか、いつになるか分からんが考えるとして。

 

「はいよ、つーかもともと何しに来た。」

 

「今日も勉強教えて!あとこの本読んで!」

 

「それで終ったら、いつものアレやって。」

 

「俺は某何でも屋でもなければ、みんなの夢を叶えてくれる青タヌキロボットじゃないんだけど。お前ら少しは俺を休ませてくれよ。このご時世、下の者は上司にこき使われ、使い潰されるのがデフォなんだから…。」

 

こちとら、あーだこーだいろんなことして大変なんだから。

何が大変かって?そりゃあれだよ。

お前らの面倒見たり、イカれた喰種やサイコパスなCCG(例外もいる)を追っ払ったり、戸塚の背後をまもったり、オークションにいって潜入したり、戸塚にコスプレさせたり、情報屋と取引したり、戸塚と遊んだり、戸塚と○○、戸塚と…etc.

そんな感じで色々大変なのである。(主に戸塚のために)

けど、親を失い、よりどころを失ったこいつらをないがしろにするのも、それはそれで気が引けてしまう。ある意味、こいつらの親代わりとして面倒を見るのが、ここの理念であり、役目である訳だから。

それにあの二人が提案してことなんだから、それを尊重しない訳にもいかん。

 

「まぁ、別にいいけど…。」

 

「やった!!」

 

「ありがとうお兄ちゃん」

 

「相変わらず素直じゃないんだから(笑)」

 

「やーい、捻ねデレ!」

 

「うるせ、ほっとけ。で、それぞれ教えてほしいもんは?……ほーん、国語、算数、社会ってわけねぇ。で読む本はグリとグラっと。うわ懐かしいな…っていうか今時グリとグラ知っとる奴とかいんのかねぇ…。」

 

「まぁ、いいや。一応教えるけど、算数に関してはあとで雪ノ下に確認してもらえ。由比ヶ浜はダメだぞ、絶対にダメだ。」

 

「わかった。」

 

「なんで算数はゆきのお姉ちゃんの確認が必要なの?」

 

数学関係は苦手なんだよ…とは言えない。

何せ高校まで点数が二桁乗ったことが一度だってない。

点数が低いことを自慢して粋がっている連中がいるが、そいつらは別に勉強してねぇから、自業自得の末路。

ってか、なんであいつら点数が低いのに、イキリトになれるのかマジ謎

むしろ軽くイラッと来る。

なんならまだ高得点をとって粋がっている連中のほうがマシなくらい。イラッ

 

じゃぁ、俺は勉強してこのざまかって?

はい、そうです。この様ですよ。

なんか文句でもあんのかよ、オイ。

あん?なにそこでクスクス笑って見とるんやワレェ!!ぶち殺すぞホンマ!

これじゃどちらがイキリトなんか分かんねぇな…。

 

とりあえず、納得できそうな軽い言い訳で片づけておく。

 

「最近、目が悪くなってきてな。小さい数字とか見落としがちになるんだよ。まぁ、そういう事。」

 

「ふーん、そうなんだ。」

 

「ゆいお姉ちゃんには見せなくていいんだね。」

 

「ああ、あいつには見せたところでどうせ分からんしな。むしろ見せるな。」

 

「分からないんだ…。」

 

「なんで大学行けたんだろう。」

 

それな、ほんとそれ。

あいつがまさか大学にいけるなんて、夢にも思わなかったわ。

しかも雪ノ下と同じ、県内トップクラスの上井。

偏差値の概念が崩壊するレベルで謎すぎる。

なんなら山手線よろしく一周回って、東京七不思議のひとつにしてもいいレベル。

 

まぁ、そんなことはどうでもいい。

 

「ほいじゃ、さっそく始めていくか」

 

「「「はーい!」」」

 

さてさて、今日はどこを教えるかな、と眠気と疲労で気だるい自分の身体をなんとか奮い立たせてそれぞれの教科書に目を通していると、ジャリッと入り口から重たく砂が潰れたような音が聞こえた。

 

誰だ?…と思って振り返ってみると、白い髪をオールバックにし、同じく、いやそれ以上に艶めいた白いスーツを着込んだ筋肉隆々のおっさんが片手に禍々しい錆びたペンチを持ち、地下のフロア全体を見渡していた。

そして、こちらに視線を寄せると、獲物を見つけた野獣のごとく鋭い眼光で俺を観察し、分厚い舌をひとくくりに舐めまわした。

ふぇぇ、こわいよぉ…雰囲気でわかる!コイツあかんやつやん!(某お祭り男風)

 

「ちょっと、お前らそのまま問題解いていてくれ。少しの間、俺はお客さんの相手をしなきゃいけないから。」

 

「はーい!」

 

「ちゃーん!」

 

「ばぶぅ!」

 

なにそれ、いくらちゃんのモノマネ?

この状況に対する適応力早すぎませんか君たち3人…。

もうちょっと、お客さんヤバそうな奴だから警戒しなさいよって。

あと俺に対して「気を付けてね」とか「死なないでね」とか言ってくれたっていいじゃん。

…いや、ダメじゃん。デットエンドまっしぐらじゃん俺。

それこそ、なんか静かですねぇ~の詠唱からはじまり、銃弾に打たれてキボウノハナ―を

咲かせたのち、止まるんじゃねぇぞ…とか遺言にしちゃうんじゃねーの?

自分で言ってて、言ってる意味がまるで分からねぇ…。

 

「てか、なんかスゴイマッチョなおじさんが来たね。」

 

 

確かにめっちゃマッチョではある。(CONAMI感)

しかし、こいつ何処かで見たことあるなって思ったら、あいつだ。

堀チエがくれた過去のコクリア脱獄喰種リストに情報があったわ。

「喰らう」ことより「殺し」に趣向を置き、執拗に拷問をして、徹底的にいたぶることを楽しむサディスト喰種。確かえっと、名前は…。

 

「あ、ああ思い出した。13区のジェイソン…ヤモリか」

 

「ご名答。今日ここに来たのもたまたま偶然なんだがね。道端に死に欠けの喰種がいて、そいつがここに恐ろしい化け物がいるっていうから、来てみたんだけど君のことかな?」

 

「知らねぇな、たぶん別の奴じゃねーの。俺が知っている限り、確かにここには化け物じみた奴が2人いるけど、たぶんそいつらのことじゃねえか、知らんけど。」

 

「なに、きみはその化け物喰種と知り合いなのかい?」

 

「まぁ、一応。てか、アンタ仮にそいつらと会ったとしてなにがしたいの?」

 

「決まっているじゃないか、そんなこと。同胞狩りだよ。」

 

「は?あ、ああ…そういうこと。」

 

なるなる、なぁるほどザ・ユニバァ―ス!!、

要は強い喰種を見つけては、そいつを殺し、ここから先は推測であるが共喰い(同胞喰い)をして、さらなる力を求めることが魂胆だろう。

いや、しかしでもねぇ…。

 

「やめたほうがいいんじゃねぇの、マジで強いぞあいつら。」

 

「おや、喰種の君が赤の他人の僕を心配かい?自慢じゃないが、僕はそこらの喰種相手に負けるほどやわじゃないよ。これでもCCGからSレート認定されているからねえ。事前に僕の事を知ってるん程なんだから、それぐらい理解できるだろ。それにここ最近、同族食いや特等殺しを進んで殺っているんだけど、それからというもの力が湧き上がってきて、早くタフで強い奴をぶっ潰して、壊したくて疼いてしょうがないんだ!」

 

「あっそ」

 

 

【挿絵表示】

 

やっぱりこの野郎共食いに走ってたか。

しかも徐々に語気が荒くなって、なんか指パキみたいなことして戦闘態勢に入ってますけど。

となると、赫者かはたまた不完全な半赫者のどちらかだろうけど、どっちも言えるのは、とにかく相手にするのがめんどくせぇ。

ということで、ここは低調にお帰り願う様、促していくとしよう。

 

「悪いけど、今しばらくは多分奴らここに来ないから、今日は帰ってくれないか。あいつらがここに戻ってきたら、お前のとこに行くよう言っとくから。」

 

これでよし。

今日はここにいないから帰ってもらう+お前のところにいつか行くからと言っておくことによって、相手の要件をないがしろにすることなく今日のところはこれで勘弁と穏便に伝えることが出来る。

架空請求業者に対しては、めっちゃ効果的な常套手段なんだよなコレ。

ただしこういった場合、だいたいは相手のところに行かないことが多い。

ソースはあれだ。よく日常会話で使われる「行けたら行く」みたいなやつ。

こう言ったやつの7割がほぼ行かないから、お前らもぜひ覚えておいたほうがいい。

しかし、そんなコイツも俺の意図には気づいているようで、

 

「いやいや。そんなめんどうな事はしなくていいよ。今日は君と遊ぶ(殺す)つもりだから。」

 

俺と殺し合う事を申し出た。ヤモリがしょうぶをしかけてきた。

やだ、うそびっくりー。ハチーチカおうちかえる!

はたまた八幡は逃げ出したのテロップでも良し!

 

「は!?。ちょっと待て俺と遊んだって何も面白くないぞ。そもそも俺戦闘好きじゃないしめんどくさいしむしろ苦手を通り越して嫌いまである。つーか俺このあと後ろのガキの相手しなきゃいけなんだけど、勘弁してくれないか。」

 

「なら、キミと遊んだ(殺した)あと、その子たちの面倒は僕が見るから安心しなよ。大丈夫絶対彼らの悪いようにはさせないから。僕はつまらない嘘が嫌いなんでね。さぁ、はやく遊ぼうよ。」

 

でたよ…絶対悪いようにはしないから、とか言いながら後で必ずろくでもない事をやる奴のパターン。

よく子どもが隠し事をして、母ちゃんが「怒らないから、正直に言いなさい」と言い、そこから落雷が降り注ぐのとまったく同じ原理だが、それよりもコイツの場合、何100倍もたちが悪い。

なんてったって、子供の面倒を見るという名の残虐な拷問なのだろうから。

キッズをいじめる奴はボクが許さない。キリッ!

 

 

 

 

 

はぁ…しかし、でもなぁ…めんどくさ。

え~…マジで戦いたくないんだけど…。

どーしよ……どーしよ……。

 

仕方ない……………………………………………やるか。

ったく本当にもう、しょうがないな!

キッズたちのためにボクが駆除してあげる♥

 

 

「じゃぁ、こうしよう。俺が3分間凌いだら、俺の勝ちで今日のところは引き上げてくれないか。色々まだやり残していることがあるんでね。で、その間に俺を倒せたらお前の勝ち。この施設やガキたちを自由に使ってくれてかまわない。どうする?」

 

「ずいぶん、粋な提案をするねぇ。遊び(殺し)にルールを定めるのは嫌いじゃないよ。よし、それで殺ろうじゃないか。くくくっ、今からもう殺したくてウズウズしてしょうがない。」

 

どうやら、俺の提案はヤモリにお気に召したようだ。

奴の了解を得たところで、ポケットに手を突っ込み、それを真っすぐに奴に見せつける。

 

「この10円玉をあげて地面に着地した瞬間にスタートってことで。」

 

「かまわんよ。」

 

「じゃぁ、やりますわよ――――ほいっ。」

なんて気のないオネェ風掛け声で高々とコインをあげる。

なんで今、俺オネェで言ったんだろう…某虎の子の監督さんに触発されたのかしら。

 

ヤモリを見れば、片手で指の関節を鳴らし、今から始まる戦闘の余韻に浸っていた。

ただし、その嗜虐じみた目は常に俺をとらえている。

 

後ろからガキたちの声が聞こえてきた。

 

「お兄ちゃん、がんばってね~。」

 

「おう。」

 

「白スーツのおじさん。がんばれー!!」

 

「負けるなー!!いい勝負をしてね!!」

 

「おやおや?君たちから応援を貰えるなんて意外だね。一応礼として受け取っておくよ。ありがとう。でも心配はいらないよ。むしろ心配するなら君たちのお兄ちゃんにすることだね。もしかすると、いやもしかしなくても…もう会えなくなってしまうだろうから。」

 

「えーそんなことないよー。」

 

コインが落下を終え、地面に衝突し、跳ね返る・・・。

ヤモリは、姿勢を低くし地面を踏み込み俺との距離を一瞬で詰め、右腕を前に突き出し、俺の首をとらえる――――――。

 

 

 

 

 

 

 

「だって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「お兄ちゃんめっちゃ強いんだから。」」」

 

 

――――――――――はずだったのだろう。

 

 

 

 

 

「はひ…。」

 

間抜けな声をあげ、地面にズサーッと倒れ転がるヤモリ。

何が起きたか全く分からないといった様子である。

その動揺を隠しきれていない目の先には、赤黒い小さな湖が広がっていた。

そして、その赤い湖が出来た元であろう2つの足の切断面からは今なお滝のように血が流れている。

 

「あ、ああああ、ああああああああああ」

 

さらにその後方を奴の視線が口元をわちゃくちゃ呻きながらとらえる。

そこには、地面から突き出た、黒い鋭利状の影が、無数の赤黒く染まった目と、禍々しい大量の牙を並び添えて、ヤモリを囲っていた。

 

 

「はぁぁ~、だから嫌だっていったんだ、戦うのは…。ああ、別にお前が強いとか弱いとかそんなのは関係ねーから。」

 

マジでそんなの関係ねぇ!!そんなの関係ねぇ!!はい〇ッパッピ―☆!!ぐらいの勢いヤモリの強さはガチでそんなの関係ない。(しつこい)

だが、俺の気分は今まさにパロディネタ&セルフツッコミを挟まないといけないくらい、テンションがダダ下がりである。

俺が此処まで戦闘を嫌う理由、それは―――

 

「ただな。床が血で汚れるのがめんどくせぇんだよ、とにかく後始末が大変だから。だからさっさと降参してくんねーかマジで?」

 

そう戦闘が嫌なのは、とにかく終わった後で血の始末がめんどくさいからである。

理由は……また今度でお願いしやす。

 

べ、別に八幡潔癖とかそんななんじゃないから!そこらへん勘違いしないでよね!

あっ、でも前平塚先生に言われたんだった…てへ☆

 

 

 

 




またでき次第投稿していきます。
少しでも、面白いと思っていただいた方
勿論面白くない、つまんないと思っていただいても
全然かまいません。
そういう風に色々感じ取ってくれただけでもボクは幸せですので。
今後とも、またよろしくお願いします。


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2話 温心

あきさめです。
2話目になります。




「あ、ああああ、あああああああああああああああ!?」

 

「でだ、喚いているとこ悪いけど…このままやり続けるとお前の血で床があふれ返っちまうんだが、どうする止める?帰る?」

 

出来れば、俺としてはこのまま降参して帰ってくれれば一番嬉しいんだが。

3分設ける必要なかったなぁ…。

いや、まぁ単純に30秒とか、1分とかにしても良かったんだろうけど、絶対その条件だと飲んでくれなさそうだし、主導権取られたくないし。つーわけでヒーローが登場するまでの時間&カップ麺が出来上がるまでの時間がちょうど良いってことで、3分にすることにした。

我ながら安直すぎる時間設定だとは思う。

 

「き、きしゃまああああ!!おれの、おでのあじををおをおお!!」

 

ようやく自分の置かれている状況を認識し、そして俺に対してものすごい形相で、目を血眼にしながら、っていうか文字通り血眼(赫眼)になって、睨んでくるヤモリ氏。

 

おーおーめっちゃ興奮してんなオイ。

そんな鼻息荒くしてると、年がら年中発情期のオッサンに見えてくるからやめんしゃい。

いや、そうさせてしまったのは俺でしたね、はい。すんません。

 

一応、これ以上やり続けるか本人にもう一回確認するとしよう。

 

「おーいもしもーし聞こえてるか一。もう一回言うけどまだやるの?」

 

「あ、あああああ、、ああだmりまえぢゅああああ!!ころしゅう!ころすすうう!!

ぶっごごろろおおろしてやるううヴヴヴ!!」

 

はぁ~ですよねー。

まぁ完全にお怒りモードだから、当然と言えば当然の予想した答えである。。

と、内心ヤモリの戦いに対する執着心に呆れていると、奴の腰から、マゼンダ色の物体が一気に膨張する。

そして、それは徐々に形を変え、3本の鋭くトゲった尻尾に変貌していった。

トゲの一つ一つは、鱗が派生して発達したものらしく、いかにも表面の肉を削り取ることに特化した形状になっている。

これが喰種の持つ相手を殺し、食べるために殺傷性を高めた捕食器官

いわば『赫子』である。

 

形状とあの特徴からして、鱗赫だろうか。

 

「ぶっごヴぁしししsてえええええぐいごろしゅううくヴううヴう!!」」

 

うるせぇな、ここは地下なんだからもう少し音量下げて

発狂しろってんの。痛いのは重々承知してるけどさぁ。

あと何言ってんのか分かんねぇからもっとはっきりと喋ってくれない。

ただ叫ぶだけだったら、赤ん坊やチンパンジーにだってできるんだから、いい歳した大人が下手に喚かないでくれますかね?

いや、そうさせてしまったのは俺ry……

 

だが言語がまともに話せてないってことはアレだな…。

 

 

そう俺の予想に応えるように、ヤモリが右手で指の関節を再度鳴らす。

次の瞬間その3本の鱗赫は、突如形を変え、ヤモリを体を覆い始めた。

赫子は、集中的に奴の右半身を多い、腕は、唸るように巨大な赫子の腕へと変わる。

そして、奴の頭部も腕と同様、赫子に覆われ、口からはひどく唾液を垂らしながら、シューシューと熱のこもった荒い息を吐いていた。

切断した足も、いつの間にか止血しており。断面から赫子が形成され、立てる状態に持ち直している。

さながら、巨大化し、凶暴化した爬虫類の行く末を見ているかのようだ。

まさに怪物(赫者)。

ただし、形状からして発達段階はまだまだ低いことが見て取れる。

半赫者で間違いないだろう。

 

「さてさて、どう対処していくか…。」

 

とりあえず、まずは赫子の分身体を形成して、奴に出向かせ奴の振る舞いと攻撃方法と観察してみることにしよう。

赫子の一部を切り取り、そのまま俺の容姿とそっくりの分身体を作り出して、奴の所に向かわせる。

勿論、たかが分身体の分際なので、本体よりもかなり力は劣るが、相手の力量を図ったり、おとりに使う分ににはちょうどいい。

 

と、そうだった…一応ガキどもの様子を確認してみる。

あいつらヤモリの姿見て怖がってねぇかな、と内心少し不安に思いながら見てみると彼らのリアクションはその正反対の反応を見せており、

 

「わーすごーい!!」

 

「なんか、絵本に登場する怪獣みたい。」

 

「あの赫子の肉、食べたら美味しいかな?」

 

と、それぞれ半赫者化したヤモリに恐怖を抱くどころか、興味を示していた。

心配した俺が馬鹿だったでやんす。

君たちのその強心臓っぷりには、さすがの俺も脱帽ですわ。

でもできれば、もうちょっと恐怖心を抱いて、警戒してほしいと八幡思うな。

一応、俺がいなかったら今のキミたちは赤ずきんちゃんよろしく、オオカミ(ヤモリ)に食べられているところなんだから、まったくしょうがない子たちなことで。

 

ま、それはさておき。

一応、安全のために二階フロアに避難させておこう。

 

そうして一本の手状の赫子を作り出し、ガキたち3人を掴んでぐるぐる巻きにする。

 

「「「わー!」」」

 

感嘆と歓喜の声をあげるキッズたち。

巻き終えた後、一気に二階フロアに赫子をあげ1階を展望できるテラスにそっと3人を下ろした。

 

「お前たち3人はそこで見てろ。勉強会はそのあとでやるから。」

 

「はーい!」

 

「がんばってねー!。」

 

「お肉よろしく!」

 

「おう。」

 

 

【挿絵表示】

 

もうこの際、何もつっこまんわ。

ガキどもの声援に一言答え、再度ヤモリに視線を向けると、

 

「おりゅああ、おらぁあ!!どうだぁああ!!でもおあしもぢぇないだろおお!!うらヴぁあああ!!ははははあはshしゃしゃあはははは!!」

 

俺の分離形成した、赫子の分身体をひたすら狂乱・発狂しながら殴っていた。

分身体とは言え、俺がヤモリに殴られてる様子はなんともシュールなものである。

なんせ片方は発狂しながら殴り、もう片方は無表情でサンドバック状態。

見ている気分としては、〇マ〇ラのサンドバックくんみたいにホームランバットでバッコン、バッコン飛ばされるぐらい複雑な気分である。

 

まぁいい、大体のおおよその攻撃パターンと強さは理解できた。

とりあえず、気を取り直して半赫ヤモリをやっつけるぞー。

やるぞ!やるぞ!!がんばるぞ!!!

 

それで赫者との闘い方は、主に二通りあるのだが、

まずひとつめは持久戦。

そしてふたつめは短期戦である。

まぁ、今回の場合、いや今回じゃなくても短期戦を採用。

赫者は、見た目の姿から分かるように、通常の喰種とはケタ違いの攻撃力及び耐久性を備えている。

一発でももろに喰らえば、それが例え強力な喰種でも致命傷になりかねない。

ただし、もちろん弱点もある。

それは、言語能力そしてそれを司る思考能力が著しく低下すること。

これにより、周囲の状況・環境に合わせた戦いが困難になり、ごり押しのパワープレイに走りがちになる。

つまりは攻撃や行動が単調化し読みやすく、戦略的な頭脳プレイを駆使して戦う喰種&CCGのメンツに対しては突破されることがあるということ。

また、その強大な力を発揮するためには、膨大な赫子のエネルギーが必要であるため、普段の戦闘に比べて、体力の消耗が激しい

 

そして、もう一つの弱点を挙げるとするならば。

それは覆っている赫子を剥がされると徐々に戦闘能力が低下することである。

これらの弱点を照らし合わせて、戦っていけばあとは持久戦、短期戦どちらでも構わない。

まぁ、そういうことです。

 

で、俺はどっちかっていうと、今日に限らずだが短期戦が好ましい。

戦闘に対して、赫子が短期戦に特化している性能だから、要は適材適所ってやつ。

じゃぁ、俺の赫子がどんな感じかって?

ははは、教えてやろうではないか!

まずはとにかく速い!速すぎて某○○○のごとくの主人公のスピードが止まっているかのように見えるレベルで速い。

まさに速きこと島風のごとく!40ノット以上の快速なんだから!

 

あと鋭い!そして形も自由自在・千差万別・多種多様!超便利!

それと目がたくさんある!手も歯も!超真っ黒!ぶっちゃけ超気色悪い!

あと全然見えませんが、これでも赫者です。はい。

まぁ、ボクの赫子自慢はこんな感じですね。うん。

 

誰に対して、こんな下らない事を言っているのか、自分でも訳わからんが、いい加減ふざけてないでさっさとやる事にしよう。

 

「う~し、それじゃぁとっとと片づけて外におっぽりだそうか。」

 

と、いう事でこの後どういった感じになっていったかというと、攻撃性に特化した無数の赫子を作り出して、四方からとにかくヤモリの赫子を剥いで剥いで剥ぎまくるごり押しプレイ。そして、その剥いだ赫子は俺の赫子が捕食しつつ、同時並行で一方的に攻撃して無力化していく流れとなっていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…結局床は血まみれかよ……これなるべく外に持ち出さねぇようにしねぇとなぁ。CCGの連中に足取りを付かせないためにも。」

 

 

 

「うっ・……くそ・……おまえ……っつ…。」

 

戦闘が終わり、へこんだ地面とそこラ一帯に広がるヤモリの血に俺は辟易としていた。

その俺に完全に外部の赫子を剥ぎ取られ、赫子状態の狂乱から解放され地面に這いつきながら悪態をつくヤモリ。

 

奴の状態はというとまず手足は一切切断していない。

ただ抵抗しないように紐状に赫子でぐるぐるにしてある。

一応、赫胞の損傷はそこまで激しくないから、死ぬことはないだろうけど、ただもう赫子を再生するだけのエネルギーは残っていない状態ではある。

まぁ止血は済んでるから、血が流血する心配はないだろうが

これ以上の戦闘は事実上不可能なはずだ。

 

「もう、これでいいか。別にアンタの命を取るつもりはこちとらはなからなかったから、マジでこれで引き上げてくれない?あと今日言ってた他の2人もえげつない程強いから、もうこれ以上、俺らと関わるのはやめてくれ。別によそでアンタがどんぱち他の喰種と殺りあうのは、一向に構わんから。」

 

そう言い終えて、ヤモリの体を赫子を巻き付け、地上へと持ち運ぶ。

 

「じゃぁ、コイツ外に返してくるから、ここで待っていてくれ。」

 

「わかった。」

 

「帰ったら、勉強教えてね。」

 

「っていうか、そのおじさんの赫子、ボクもたべたったぁー。」

 

「口に入れたところで、強烈な吐き気と悪夢に襲われるだけだからやめとけ。じゃ、ちょっくら行ってくる。」

 

地上へと続く階段を駆け上がり、人気の少ない暗がりの小道に出る。

あたりはすっかり夕方、夕日の赤い射光がわずかに差し込み、俺の頬を照らす。

そろそろ、雪ノ下達が帰って来る頃かな。

まぁ、この現場を見られるのも、後で問い詰められそうで色々とめんどうだから、さっさとコイツを放置して帰ろう。

どこで、下ろそうか…。

と、悩んでいると左前方から、のそのそと誰かが近づいてきた。

逆光で暗くてわからんが段々と近づくにつれ、ようやくそいつの全貌が明らかになる。

背の高い、それに合わせた独特の外套を身に包み、顔には不気味な口だけが描かれたマスクを着用している。

近づいてきても、特に話しかける様子はなく、終始無言。

こんな特徴の塊としか言いようがないやつは、俺の中では一人だけ。

去年こいつらの組織とどんぱちやって、危うく生死を掻い潜ったくらいだから、そう忘れるはずがない。

 

「アオギリの樹のところの、ノロだよな。いっとくが組織の勧誘ならお断りだ。お前らのところには入らいないし、双方が下手に干渉しないって言う決議であの戦いのあと決まっただろ。それとも、今日はなんか別の要件で来たのか?」

 

「…………………………………。」

 

無言。相変わらずの超無言スタイル。

ただ、言葉として出さなくても、無視をするわけでもないこいつは、俺の問いにスッと手を前に突き出し、人差し指を突き出す。

その指先の延長線のものがお目当てということなのだろう。

 

「もしかして、コイツの迎えか?」

 

俺の確認に無言でうなずき、背後から環形動物のような不気味な赫子を取り出し、ヤモリを回収していく。

ということは、この様子だとヤモリもアオギリの樹に所属していることになる訳だが。

部下の管理ぐらいしっかりしといてくれよ、幹部さんよ……。

中間管理職の大変さは俺にも大体理解できるけど、一応部下の躾は上司の責任なんだからさぁ…。

そう考えると、部下は部下で上司に酷使されなきゃいけないし、上司は上司で部下の失敗の責任を取らなければいけないから、どっちにしろ社会に出て働きたくねーな。

うん、俺の考えていることはやっぱり間違いじゃなかったね。

これなら八幡一生ニートでいいや

そしてここに宣言する、働いたら負けだ と!

 

まぁ、終わった事だし、もういい。

そう言えば、確かこのノロも赫者だったけか?。

あの時、こいつは戦闘に加わっていなかったからどんな能力を秘めているかは全く知らんが、多分見た目と同様、一筋縄ではいかなそうな雰囲気は感じ取ることはできる。

 

「要件はこれで終わりか?一応こいつにも言っといたけど、上の奴ら…なんだったけ?エトとタタラだっけか。あいつらにも、もう一回俺らに変に関わらないよう部下たちに注意しといてくれよ。マジで。」

 

「……………………スッ」

 

そういって人差し指を突き出した手とは、反対の手で今度は時計を掲げてきた。

ピピピと小煩いアラームが鳴り、それと同時に奴は元来た場所へと翻していく。

どういった行動原理で動いてるのか、ホント分からんやっちゃな。

 

 

しかし……ふぅ、短時間の出来事ではあったが、終わってみればかなり疲れたわ。

もともと、今日は休養日で一日中、地下でゴロゴロするはずだったのに、畜生…。

どうしよう…帰ったら血の処理もしないといけないし、ガキたちの勉強見るのもだるいしなぁ、ホントどうしよう。

まぁ、見てやるって言っちまった手前、やらない訳にはいかないが…。

 

「あーでもガキたちの面倒、もう全部雪ノ下達に丸投げしたい。」

 

「何自分の仕事を、他人に丸投げしようとしてるのかしら、そこの押しつけ谷君は。」

 

「うおっ、びっくりしたー。なんだよ急に声をかけてくるなよ。思わず驚いちまったじゃねーか。」

 

急に声を掛けられ、思わずのけ反ってしまったが、どうやら大学から帰ってきた雪ノ下と鉢合わせになってしまったようだ。

由比ヶ浜の姿は見えないが、どこか寄り道でもしているのだろうか。

と考えていると、雪ノ下の肩が小刻みに震えているのが見て取れる。

 

「あら、普段喰種に対しては冷静沈着でいるあなたが、私のような人間相手に動揺するなんて、珍しいこともあるものね。ある種これはあなたの弱点ではなくて?」

 

けっ、ほざいてろ。

その口元を手で抑え、クスクスと心底面白可笑しく微笑している姿に不覚にもドギマギしてしまったため、これ以上口答えする気もないが。

代わりに半眼で雪ノ下をジッっと咎めていると、その後ろから遅れて由比ヶ浜がパタパタ急いで帰ってきた。

 

「ただいまー。はぁ、今日も大学の講義疲れたぁー。ヒッキー今日何か変わったことあったりした?なんか夕方頃に外に出てるのも意外だなーっと思って。」

 

「それもそうね。いつも暗がりでゴキブリのようにしぶとく潜んで暮らしているあなたが、そもそも地上に出ること自体、あまりないことなのにね。」

 

「はっ、あまりゴキブリを舐めんなよ。

人間や喰種が生まれる太古から、姿・形変わらず今の今まで生き続けているんだから。その生命力の高さに俺たちは敬意を表することが大切だろう。気持ち悪いが。

それになんか、ぼっちだった奴らからしたら、何となく共感するじゃん。気持ち悪いが。

大型の肉食恐竜(リア充)に常に太陽の元での華やかな環境(学校生活)を占領され、暗がりで寂しく貧しい暮らししか生きていけないゴキブリたち(ぼっち)。

しかし、隕石衝突・氷河期の到来により、肉食恐竜及びその他の地上生物の大半は絶滅するなか、ゴキブリはしぶとく柔軟に厳しい環境を乗り越え、現代まで長らく種を存命を維持し続けることに成功したのだ。

だが時代が変わっても、彼らの存在が地上生物に持てはやされることはない。

カサカサと素早く動く気色悪い動きは、人間にとっては生理的に受け付けず、排除されるべき存在として、忌み嫌われそして真に孤高で惑星最強生物として君臨することになったのである。まさにTHE BOCHI!

つまり何が言いたいかっていうと「ゴキブリ=ぼっち」ということであり、「ゴキブリ=孤高で最強」、代入して「ボッチ=孤高で最強」という結論が成り立つ。

ここに俺はぼっち最強至上主義を唱える。」

 

「何を長ったらしく力説するかと思えば、そんな下らないことを考えるくらいなら、もう少しこの歪んだ世界を打破する解決案を考えてほしいのだけれど。まぁ、あまり否定できないのが尺ではあるわね。」

 

「あ、あははは……。でも確かになんかすごそう。相変わらずだねヒッキーは。」

 

ゴキブリの立派な生活史が分かってくれたようで、よろしい。

しかし、そんな苦笑も一転して二人は暗い表情に変わり、

 

「でも…本当に今日は何もなかったの?袖に返り血がついているみたいだけれど」

 

「あっ、本当だ!?……大丈夫ヒッキー?なんかあったりしたの。」

 

何かあったのではないかと、問うてくる。

やべ…返り血落としてから外に出てけばよかった…。

一応気を付けてはいたが…こんな袖裏のわずかな血の跡も見逃さないとは、流石雪ノ下である。

 

まぁ別にそんな心配するような事をしたわけじゃない。

ただ単純によその荒くれものさんが入って来て、喧嘩になって返りうちにしたってぐらいだから。

いや、どうせそのことを心配しているんだろうけど。

とりあえず誤魔化すことにしようか…。

 

「いや、別に何もねぇよ。ただ何となく外に……。」

 

言い終える前に途中で中断する。

いや、違うだろ。

そうやって今まで変に隠し事して、心配させて、そしてそれが時として亀裂を起し、俺たちはすれ違いを起したんだろうが。

例えばあの修学旅行の一件なんかはまさにそうだ。

あの時、しっかり彼女たちに俺が言葉を伝えていれば、あんなデカい騒ぎにはならなかったと思う。

 

 

そして、その数か月後の冬の夜に起きたある出来事で俺たち3人は約束した。

 

『何か辛いこと、めんどうな事、どんな些細なことでもいいから何かあったらなるべく話して。』

 

『あなたの背負っているもの、少しで良いから私たちに分けてくれないかしら。あなたの辛い顔を見ると、私たちまで辛くなってしまうのだから…。』

 

 

 

あの時、彼女2人は、辛そうに涙を流しながら、そして優しい顔でそう俺に言いかけてくれた。

そして、俺もその時誓ったはずだ。

その時、その時の自分のできる限りの「最善の選択」をとること。

それをいつも心にしまっていたはずなのに、いざという時に忘れてしまう。

ホント、どうしようもねぇやつ。

自分で言うのもなんだが。

 

でも、そんなしょうもない事をしてしまう俺にこの二人は手を差し伸べてくれた。

そして今なお俺の、俺たちの背中を支え続けているのだから…。

 

だから、ここは正直に話すとしよう。

今俺のできる「最善の選択」をとるために…。

色々小言を言われるだろうけど。

まぁそれにどっちにしろ地下にいるガキが今日の事を話すだろうしな。

あと地下にある血の海で、どっちにしろアウトであることは変わらない。

説教より彼女たちがその惨状にビビらない事の方が心配である。

でも多分大丈夫だろう。今までも何度か見てきているから。

 

「いや、悪い。あったわー。超あった。むしろ何もないことがなかったくらい超あったわー。まぁ、地下に行ったらガキの勉強教えながら色々話すわ。」

 

「やっぱり、何かあったのね……・。じゃぁ、地下でゆっくり聞かせてね。」

 

「うん!聞かせて!」

 

そういうと、二人の表情も明るくなる。

何となく分かっていたことだが、そう優しさと嬉しさを滲ませた表情をされると、こっちもどう反応すればいいか分からなくなる。

まぁ、今日のところは

 

「はいよ、じゃぁ、ガキたちのところに行くか。」

 

「ええ。」

 

「うん!!」

 

 

これで良しとしよう。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

おまけ

 

「ところで、雪ノ下。一応全部俺が教えるけど、算数に関しては最後お前がチェックしてくれないか?計算苦手だからさぁ。」

 

「はぁ、飽きれたものね。筋道立てて物事を説明したり、計算して戦略を立てて行動することが得意なあなたが、なぜ数理関連科目ができないのか、理解に苦しむわね。一つの謎だわ。」

 

「いや、謎って言えば由比ヶ浜がお前と同じ上井大学に行けたことの方が、謎すぎるだろ。それこそ宇宙の法則が吹っ飛ぶレベルくらいに。」

 

「ちょっ!?ヒッキーそれどういうことだし!!」

 

「それもそうね。」

 

「ゆきのん、納得しないでよー!!」

 

「つーわけで由比ヶ浜。お前はガキたちの勉強は教えなくていいから。むしろ教えたらお互い不幸になるだけだから勉強が終わった後、グリとグラでも読み聞かせ頼むわ。」

 

「ええ、よろしくね由比ヶ浜さん。」

 

 

「ちょっと二人ともバカにしすぎだからー!!…ところでグリとグラって?」

 

「「え・・。」」

 

まじですか…。

 

 

 



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3話 羽化

東京8区 廃棄地下施設 二階フロア リビング

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「東京都20区、建築中高層ビルの鉄骨落下事故・大学生と女性の合わせて二人が重傷。

その後、大学生の青年は一命を取り留めるも、女性は安否不明……ほーん。」

 

ヤモリとの一軒から早々2か月余りが経っていた。

特にあれから、何もなく平穏な日々がとりあえずは続いている。

相変わらずのように、俺は地下にて(雪ノ下曰く)ゴキブリのように身を潜め、ゴロゴロしながら新聞を広げて、最近起きた一連の事件・事故等などに目を通していた。

そこで目についたのが、この20区で起きた鉄骨落下事故。

ただ普通の事故のように思われるが、なんでだろ。

なんでだろ~、なんでだろう~、なぜかなんでだろ~ぐらいのテ○&ト○並みにうさん臭い。

いや、別にその二人はうさん臭くないけど、全然。

どっちかって言えばおやじくs………ゲフン、ゲフンモルスファ!!。

ごめんなさい、失言です。でも、ボクは大好きです。はい。

ただホントなんでか知らんが、すごい違和感を感じる。

たぶん……恐らくだが、その違和感の正体は、20区にいる「奴」のせいだと思うのだが。

 

「確かにどこか、うさん臭い内容の記事ではあるわね。」

 

新聞を伏せて、その先にいる声の主に視線を向ける。

俺の座っているのとは反対側のソファで雪ノ下が紅茶を飲みながら、片手に単行本を持ち、

俺の読んでた記事の内容について言及してきた。

その隣では、由比ヶ浜がお菓子をもしゃもしゃ食べながら、スマフォをいじっている。

 

「なに。やっぱこの事故について、お前も違和感を持ってるんか?っというかよく俺が考えていることが分かったな。」

 

お前もこの記事を読んでいたのか?なんて愚門は聞かない。

だって膨大な博識の持ち主ユキペディアさん、はたまたユキエもんだもん。

なんでもしってるもんねー。わーすごい偏見。はちまんわるい子!

 

「あなたが、だいたい文字を声に出して読むときなんて、何かそれに対して疑わしく思っているってときだもの。」

 

まじですか!?俺にそんな癖があるの。

何気なくいつも口に出して読んでた自覚は多少なりともあったけど。

よく考えたら…っていうかよく考えなくてもそれって周りから見たらただの痛い人にしか映らないんじゃ…。

これからはもう声に出して、本なり新聞なり読むのはやめよう。特に人のいる前とかでは。

いや、でもこれやめたところで俺の痛さは抜けねぇな、うん。

あらやだはちまん、一生痛いまま人生を過ごすことになるなんて、なんて哀れなボッチなんでしょう。

あっ違った、痛いのはデフォルトなのね♪プークスクス(白目)

 

 

「それに………。」

 

と、一言付け加えて。

 

「もう何年、あなたたちと付き合っていると思ってるの。」

 

付き合う、って言い方には少し語弊があると思ってしまうが、確かにもう5年も経てば、それなりに相手の事は分かってくるようにはなる。

まぁ、分かったところで完璧に相手のことを理解したという事にはならんが……。

ただ、その言葉には、発した声以上の重みがある。

だからだろう。ついつい俺もこいつらとの今まで思い出を噛みしめつつ、その言葉には深く納得してしまう。

 

「確かにな…。」

 

「そうだね!!」

 

いつの間にか、携帯を見ていた由比ヶ浜も聞いていたのか、耳を傾け、笑顔で小さく相槌を打つ。

おそらくこいつも、今までの俺たちとのやり取りを思い出しているのだろうか。

あくまで、俺の勝手な憶測ではあるが、そういった感じに見えてしまう。

 

少しの間、余韻に浸っていると。

由比ヶ浜がおもむろに口を開き、疑問を投げかけてきた。

 

「でも、なんで2人はこの事故の内容について、疑問に思っているの?」

 

「俺の場合、この二人の患者の搬送先がどの病院になるか気になってな。重傷だった場合、なるべく大規模な病院へと搬送されるだろう。となると、20区で大規模な病院つったら、嘉納総合病院だ。ここまで言ったらお前でも分かるはずだ。その病院内で、最も医学の分野を専攻し、最高峰の医療技術を有している奴と言えば、一人しかしない…。」

 

俺が問を言うのに間をあけていると、雪ノ下がその答えを口にする。

 

「嘉納昭博……というわけね。」

 

「でも、その人って確か……。」

 

「ああ、俺を『こんな体』に作りかえやがった元凶だ。まぁ、そんなことはどうでもいい。だからその患者が奴の元に行きわたっていないのか否か考えててな。最悪の場合また新たな『俺やあの2人』が作り出されるんじゃないかと懸念しているってわけよ。」

 

嘉納が俺ら3人に仕出かしたこと。それは「人間の喰種化人体実験」

人間だった俺たちをある喰種の赫胞を植え付け、地獄ともいえる様々なプロセスの経て、喰種へと段階を踏んでいく過酷な実験内容。

俺はその時に、人間としての身体から喰種の身体へと変えられたのである。

しかも、その植え付けられた赫胞は、いずれも持ち主が元赫者であり、半喰種として実験プロセスを行った当時は暴走しまくり、同じく実験体として利用され、喰種化に失敗した多くの人間を俺たちは○した。

あの時の事は今でも鮮明に嫌になるくらい覚えている。

なぜ人間であるはずの奴が、そんな強力な喰種の赫胞を手に入れられたか詳しい経緯は分からんが、とある情報屋によれば、嘉納は昔、「CCG」に配属していたということらしいということ。

まぁ、奴のおかげで俺の人生は180℃大きく変わってしまったが、そんな中でもこいつらや戸塚に会えたことは唯一の救いだったといえる。

え、ざいもくざ?だれそれ?あ、ああ、あいつか…。

まぁ、いいやつだったよ。

と、過去の忌々しい記憶を思い返していると由比ヶ浜が首をかしげながらまたまた俺に疑問を投げかけてきた。

 

「でも、その喰種のなに?赫胞だったけ?がないと、ヒッキーみたいにはならないんでしょ?」

 

「ああ由比ヶ浜の言う通り、いくらあのマッドサイエンティストが半喰種にできる技術を要していたとしても、その材料がなければ成立することはない。だがこの状況を推測する感じ、どちらかが喰種である可能性が極めて高いな。」

 

「え?どうしてそう言えるの?」

 

「この記事に書いてある事故当時の状況を想像してみれば分かると思うが。普通建築中の高層ビルがあったら、その真下付近は必ずって言っていいほど立ち入り禁止区域になっているだろ。普段なら、絶対に近づかない場所に近づくって事はよっぽど他人に見られたくない奴が何かを仕出かす時にやる方法だ。しかも事故が起きた時刻は夜9時あたり。となると暗がりで人気のない場所でターゲットを狩る存在は何かと言えば……。」

 

「喰種、ということね。」

 

またまた雪ノ下が俺が答えを言う前に、正解を言い当てる。

う~ん、君こういったクイズ関連のことはほんとだいだい大好きですねぇ。ええ。

本当は由比ヶ浜に答えてほしかったんだけど、まぁいいや。

 

「そういうこと。以上から20区の事故から導き出される嘉納の存在、安否不明の女性=喰種説を仮説としてたてると、『第二、第三の俺たち』が出来る可能性があるってこと。いや、本当に可能性だけで現実に起きなければ、何も心配はないんだけど。」

 

ほんと、これがただの机上の空論で終わってくれれば、こちとら変に動くことも、警戒することもないんだけどなぁ。

と、それとなく楽観的に考えていると

 

「なら、その『可能性』はもしかしたらもうすでに現実として起きているのかもしれないわね。」

 

雪ノ下が手に持ったスマフォの画面を訝しげに見ながら、とんでもない事実を突きつけてきやがった。

え、まじで…。

 

「それはどういうことだ?」

 

俺がその真意について探ろうと雪ノ下に尋ねると、彼女は画面からいったん目を離し、姿勢を変え由比ヶ浜と正面から相対する格好になる。

 

「由比ヶ浜さん、上井大学で1週間前、一年の学生が事故で病院に運ばれたって、学内のポータルで連絡があったわよね。」

 

「うん、あったけど……。」

 

「その学生の名前は『金木研』。その比企谷君が見ていたのとは別の記事を今ネットで調べてみたら、こっちには名前が書かれていて同一人物だったわ。女性の方は名前は公開されていないようだけれど。そして、これがその金木さんの写真。」

 

【挿絵表示】

 

そう言い、雪ノ下は自身のスマフォの画面を俺たちに向け、Twitter上にアップされている金木の写真を見せる。

こいつが、金木研。なんともまぁTHE HU☆TU☆Uの大学生ではあるが、どことなく女性に狙われそうなほのぼのとした雰囲気を醸し出している。

もしどちらかが喰種だとしたら、まず間違いなくこいつはただの人間で被害者になるだろう。

 

「そして、その事故が起きたのが1週間前。私が記事に対して違和感を感じたのも、比企谷君と同じく嘉納のことが頭によぎったせいだけれど、もう一つはこの写真を見てその記事に書かれている『重傷』というワードにも疑問を感じたわ。ケガの度合いがどの程度によるか分からないけれど、重傷なら最短でも半年、最長で後遺症が残れば数十年費やす患者だっているでしょ。」

 

「まぁ、確かに。」

 

「そうだよね……。」

 

雪ノ下の説明に俺と由比ヶ浜は納得し相槌をうつ。それを確認して、再び彼女は話はじめる。

 

「それで、今見せた彼の写真を見て、この人何処かで見たことがあるわと考えていたら、今日たまたま大学に彼がいたことを思い出したわ。」

 

「え―――――!!」

 

「まじですか、それは…。」

 

うわぁ……これはもうほぼ確定事項じゃねーか。

 

「普通、重傷を負って1週間で退院して何事もなかったかのように過ごせる人なんていないでしょう?それに彼の傍にいた学生も彼の様子に心底驚いていたわ。最初はなぜあんなにビックリしていたのか不思議に思っていたけれど、この一連の内容で納得できたわ。恐らく、もう一人の女性の方が喰種だと断定すれば、間違いなく彼は嘉納の手によってあなたのような「半喰種」にされていると考えた方がいいわね。」

 

はぁぁ~…もう最悪だよ……最悪……。

どうしてくれんですかね、喜納さんよ。

つーか何がしたいかさっぱり理解できねーな、あの藪医者のやることは…。

 

あんたが前言ってた、この世界の歪んだ鳥籠を破壊するだっけかなんか知らんけど、自己満(理想だか野望だか計画かは分からんけど)のために、あんまり関係ない奴を巻き込むのはやめてくれませんかね。

いや、俺らももちろん関係ない奴の部類に属するんだろうが。

 

今直接あって文句の一つや二つ言いたいところではあるが、どうせ言った所で状況が改善することはないだろうし、それに多分面会させてくれねーだろ。

絶対裏で手を引いてる連中がいるだろうし、こっちも下手に姿を見せて、公(CCG)に露見される訳にもいかないしな。

ふ~む…どうしたもんかねぇ……。

 

仕方ない、最近顔を出していなかったし、ちょっくら行ってみることにしようか。

20区にある懐かしのあのお店へ。

久しぶりにあそこのコーヒーも飲みたいし。

もしかすると、芳村のじいさんなら、何かしらの有力な情報は得ているかもしれない。

それに一応あの方は、ある意味で俺たちの育ての親でもあるわけだから。

 

 

 

……………まぁいい、とりあえず行ってみるか。

そう意気込み、ソファに架けていたコートを掴み急ぎ早に羽織る。

 

「ちょっと、『あんていく』に行って、芳村のじいさんのところ聞きにいってくるわ。」

 

一声かけ、地下通路へ続く扉のボタンを押す。

この通路を駆けることによって、地上より早く一気に20区へ行くことが出来る。

また、俺の赫子の特性上、太陽の光のと届かない環境下で力を最大限発揮できるため、この赫子を使っていけば、あら不思議たった数分であんていくに到着つくことができるのである。

ただ逆説的に言えば光の届く場所では、本来の力を機能できないという裏付けでもあるが…まぁ、そんなことは適材適所だし、無理をすればどうとにでもなる。

 

「私たちも行かなくて平気なの?」

 

「もし大変だったら、一緒に行こうか。っていうか正直行きたい!」

 

「いや、いいって別に。そんな大変な用事じゃねーから。それとも何か、お前らそんなに俺といたいの?もしかして俺のことが大好きなの。」

 

冗談交じりでとぼけて言う。こういえば、嫌がってついていく事はないだろう。

しかし、今いった事を、俺はすぐに後悔するはめになる。

 

 

「何バカなこと言っているのかしら。もしかしなくても、そうなのだけれど。」

 

「うん!!どんなになってもヒッキーのこと大好きだよ!」

 

「………………………………そ、そうですか……。」

 

そんな〇川の火の玉ストレート並みの直球で言われても困るのだが…。

いや、確かにあの約束の日にお前ら2人からの告白はもらいましたよ。

ええ、もらいましたとも。

でもなに、なんて言うの…ちょっときみたちこういう方面に強くなりすぎやしませんかねぇ。

いや、そもそも俺がヘタレすぎるのか。告白の返事もしていないで、キープしっぱなしみたいになっちゃってるし。つーかなってるし!(逆ギレ)

なにその、どこぞのハーレム主人公みたいな展開。

そんなの俺得じゃねーし、誰得でもないんですけどぉおお。

そもそも陰キャの代表格である俺が学内トップクラスの美女二人から告白されるとか、地球一周回るどころか、太陽系一周して逆回りするレベルでおかしい話である。

だって、そうだろ。

捻くれ ボッチ ひきこもり ゴキブリ ゾンビ 黒歴史 

以上が俺を司る上での重要なファクターであるが、これらを並べてモテる要素がどこにあるのって話。

モテモテになるのは〇ト先輩だけで充分である。

 

だが本当におかしい。前までこういった場合、雪ノ下なら

「何寝言をほざいているのかしら、この自意識過剰谷君は。そもそも私があなたに好意を抱く理由がないのだけれど。確かに奉仕部としてのあなたのこれまでの行動は、私の中で最大級の評価に値するけれど、それがわたしがあなたに対して好意を抱くことには直結しないはずよ。そもそも、あなたは……クドクド」

 

みたいな長ったらしい文句をしゃべり続ける羽目になり、由比ヶ浜なら。

 

「ヒッキーキモイ!マジキモイ!死んじゃえ!!」

みたいな小学生レベルの文句言われる羽目になっていたが、いや、それはそれで傷つく。

 

だけどなぁ……ほんと変わり過ぎだろ。

それとも俺が変わってないだけなのか……・。

 

やばい。なんかさっきから心臓バクバクするし、顔が熱くてしょうがないんですけど。

落ち着け、ここは平常を保つために落ち着いて一首読むとしよう。

病気かな 病気じゃないよ 病気だよ 恋の病も 病気となりけり(病気)

これは病気ですね、うん

。まず一首読んでいる時点で、俺の頭がもう病気(白目)

 

「あらあら、顔が少し赤いわよ。変な風邪でも引いたのかしらね、恋煩い君。」

 

超満面の笑顔で俺の表情を心底楽しむ雪ノ下。

うるせ、ほっとけ。お前ぜってー分かってて言ってるだろ。

しかも最後もはや原型留めてないんですけどそれは。

 

「ヒッキー、可愛い。」

 

対して、えへへっと、照れ笑いを浮かべながら、俺を見つめる由比ヶ浜。

いや、お前は俺に可愛さ求めてんじゃねーよ。俺が可愛いとか誰得だっつーの。

確かに最近、「キモ可愛い」という造語があった気がしたが、あれ主に深海生物とかその他の気色悪いけどなんか愛嬌のある生物に使われることが多いんだっけ、いや知らねーけど。

ただ俺とそいつらを同じカテゴリーに入れるのは、ナンセンスすぎやしませんかね。

まぁ、もうどうでもいいか。

 

「あーもう……もういい分かった。そんなに付いていきたいなら、勝手に付いていけばいいだろ。その代わり物騒な喰種に遭遇しても、知らねえからな俺は。」

 

あー分かったよ!連れてってやるよ!どうせ後戻りは出来ねぇんだ。

連れてきゃいいんだろ!!みたいなどこぞの団長のように悪態をつく俺氏。

こうでも投げやりにならんと、気持ちの整理がまじでつかなくなる。

ベッドがあったら、今頃悶えて「俺はどうすればいいんだ―!!」とか言いながら、アイデンティティクライシスに陥るレベルで今物凄い荒れている。

 

「ええ、それでかまわないわ。」

 

「とか言いながらヒッキー絶対あたしたちのこと守ってくるくせにー。」

 

あーあーなにいってるのか、きこえないなぁ。いまのボクのみみはミュートモードでーす。

ばじとうふうでーす。よってなにもきこえませーん。はい、ざぁんねん!

 

「じゃぁ、ここで待ってるから、今すぐ準備してきてくれ。」

 

「わかったわ。」

 

「了解~。」

 

そう言って一旦自分たちの地下部屋に戻る。

一応、あいつらはここの地下施設の隣にあるシェアルームのアパート生活を送り、そこからいつも大学へ通っているが、ここにもあいつら専用の地下部屋を設けており、こちらでの生活も可能にはしている。

まぁ、本人たちがここでも暮らしたいっていうんだから、俺には止める権利は全くないが、それにしても、さっきは調子づきやがって、ったく…。

 

そう心で文句をボヤキながら、拗ねてぼすっとソファに顔を埋めていると、地上階段へ続く入り口から美しい声が響き渡る。

 

「ただいま~。八幡帰ってきたよ。」

 

こ、この声はマイグレートスイートハニーエンジェル、トツカエル!

久々の声にやばい。さっきの精神的疲労のせいか、うっすらと涙がでてくる。

 

「と、戸塚―!会いたかったよぉ!お前がいなくてめっちゃ辛かったんだから。」

 

急いで1階へと飛び降り、戸塚の前に全速力で行くと、俺はおよよ、およよと泣き崩れる。

 

「あははは。大袈裟だよ、八幡。たかだか1週間じゃない。そういう事は僕じゃなくて雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに言ってあげなよ。」

 

「いや、戸塚と1週間会えなくなったってことは、俺が死ぬまでの間に戸塚に会える時間が1週間分縮まったってことだ。これ以上の大問題があってたまるか!なんならこの世界と天秤に架けてでも、俺は戸塚との時間を大切にする。」

 

「もう、すぐそうやってふざけたこと言うんだから。嬉しいけど、もうちょっと真面目になってよね。」

 

そう言って戸塚はぷくっと頬を膨らまし、フンと顔を横にそむける。

やばい、なにそれめっちゃ可愛い。その膨らんだあわよくばほっぺをぷにぷにぽよぽよしたい。

そうやって戸塚のほっぺをを触れる機会を伺っていると、今度は騒音レベルの煩い声がフロア全体に響き渡る。

 

「とっぅ!!けぷこんけぷこん!材木座義輝!これにてアジトに帰還!」

 

「…………あー材木座。帰ってきちゃったかー。」

 

「久しぶりだな、八幡。それにしてもお主何故そのような如何にも、うわーどうでもいい奴がかえってきたよ……みたいな顔をしているのだ?流石の我でも傷つくぞ。」

 

「いや、別にそんなことねぇけど。ただ、なんでもう少しまともな時に帰ってこないのかなーコイツは、みたいには思っているけど。ほら、前言ったヤモリの時とか。あん時お前が相手してくれれば、俺ずっと一日中ゴロゴロできたし、たまにガキの面倒見るくらいで終わったのによお。まぁ別にいいけどよ。」

 

【挿絵表示】

 

「それについてはかたじけない。あの日はちょうど奴の出身地の13区にいてな。我も早めに調査を終わらせて、アジトに帰ろうかしていた時に荒くれ集団の喰種に大勢で囲まれてしまってな。致し方なく力を抑えて相手をしていたら、翌日まで掛かってしまったわけよ。」

 

「あっそ、そうだったのね……どうでもいいけど、ごくろーさま…。」

 

そんな奴ら無視して、さっさと帰ってくりゃいいものを。

ただそれらの荒くれものの挑発に乗るのが、材木座と言う男である。

コイツは俺と違って短期戦を好まない。

別に短期戦が苦手だからとかそんなのじゃない。

ただ、コイツが赫者化して、早期に相手を倒そうと考えたら、辺り一面火の海になること間違いなし。だから、コイツはあえて力をセーブして、相手と同等の力量で戦う事を望むのだ。

 

「それしてもそのヤモリとやら。我も区を回るうちに色々喰種に尋ねてみたが、聞けばあやつ、数か月前まで13区を仕切っていたリーダーらしいではないか。そのリーダー格の強さ、ぜひ我も受けてみたいところであったぞ。」

 

またコイツはヤモリと違った意味で戦闘凶でもある。

自らを腕試し(笑)と称し、各区の強力な喰種を相手に常々と決闘申し込んでは、完膚なきまでに叩きのめし(無論殺しはしないが)、自身の強さに酔いしれているだけのただのアホ。

もう出会ってから5年の月日が経過したが、未だコイツから中二病が抜ける気配は一切感じられない。

こいつにとって、各区の喰種に関する調査、CCGの動向調査は二の次でしかない。

 

「まぁ、あいつ。一応生かしておいたから、また何処かで会えばそのうち戦えるんじゃねえの。知らんけど。たぶん、もう関わることはないと思うが。つーか俺この後雪ノ下達と20区にある『あんていく』に行く事になってくるから。詳しい報告ははまた後で教えてくれ。」

 

「なにデートか?己八幡…。ついにリア充への道を駆け上りおって、ぺっ!」

 

「頑張って、八幡!」

 

「ちげーよ、まぁ一言で言えば『俺たち』の後輩が出来るかもと言った具合だ」

 

俺の一言に、今ので言ったことを全て理解したのか表情が強張る。

 

「今なんと!」

 

「それって、僕たちと同じ「半喰種」が新たに誕生したってこと?」

 

「そういうこと。詳しくは帰ってから説明するわ。お前たちは悪いけどここで留守を頼みたい。それでまぁ、疲れてるとこ悪いけど今昼寝をしているガキたちの面倒を起きたら見てやってくれなると助かる。」

 

「うん、わかったよ。じゃぁ、気を付けてね八幡。」

 

「あいや承知した。必ず生きて戻って参れ、八幡よ!」

 

「言われなくても分かってるよ。っていうか別に今日はあんていくへの聞き取り調査だけだから物騒な事にはならん。おっと、あいつらが戻ってきたからそろそろ行くわ。」

 

雪ノ下達と合流し、一応、戸塚達との一連のやり取りを伝えておく。

二人とも了承したようで、戸塚と材木座の方に振り返る。

 

「それじゃあ、戸塚くん、廃材くん。帰って来て早々疲れているところ申し訳ないけど、お留守番の方よろしくね。」

 

「じゃあね、彩ちゃん、中二。行ってくるよ!」

 

「うん、いってらっしゃい。」

 

「ほむん。行って参れ!時に雪ノ下殿と由比ヶ浜殿。そろそろ本当に我の名前をいい加減覚えて欲しいのですが…。」

 

材木座の返答はスルーして、地下通路に続く階段を降り続ける。

地下のトンネルに到着すると、足から赫子を発生させ、雪ノ下と由比ヶ浜に声を掛ける。

 

「じゃぁ、お前たち悪いけど嫌かもしれんが、俺の近くに来てくれない。」

 

「わかったわ。」

 

「は~い!よろしくね。ヒッキー。」

 

「はいよ…って、ちょっと待て。近い近い近い、近いから。頼むからもう少し離れろ。」

 

いや、ほんと近いから。まじで。なんかいい香りするし、こそばゆいし、なによりめちゃくちゃ恥ずかしい。

あとそんなに近くにいると俺の菌が移っちゃうから、比企谷菌に。

 

「えへへ。ヒッキーあったかい……。」

 

「別に減るものじゃないでしょ。こんな可愛い美少女2人とくっつけるだけでありがたく思いなさい。」

 

「自分で、可愛いとか美少女とか言うのかよ。まぁ、そうだけど。つーか、お前らからくっ付いてきたんだろうが。」

 

「…………はぁ、もう降参だ、好きにしてくれこの際。」

 

「ええ、そうするわ。」

 

「えへへへ。」

 

くっそ、今日は本当に精神がゴリゴリ削られる。

取りあえず、さっさと20区に到着して、芳村のじいさんのところに行くとしようか。

 

そうして黒い赫子が瞬く間に俺らの周りを取り囲み、辺り一面は真っ黒になる。

俺らを包み終えた赫子は、そのまま猛スピードで20区へとつながる通路へ直行し始め、あんていくへと進み始めた。

 

 

 

あっ、そう言えば店長もだけど、あのクソガキもどうしてるのかしらねぇ…。

 

 

 

 



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