インフィニット・ストラトス-宇宙の戦士と絆の戦士- (KIRIYA)
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それは偶然か、必然か
暗い、暗い廃倉庫の中。
そこにはガタイのよい男が数人と、一人の少年が居た。
彼の名は織斑一夏。
ドイツで開催されている第二回モンド・グロッソに出場している姉・千冬の応援に来たのだが、誘拐されてしまったのだ。
(大丈夫、大丈夫だ。きっと千冬姉が助けに来てくれる…)
体は恐怖で震えているが、心は諦めていない。千冬が来てくれると信じることが一夏の唯一心の支えになっていた。
そこに一人の女性が長い髪をかき上げ現れる。彼女は男達のリーダー的存在のようで、先ほど指示を残して出て行ったのだが戻ってきたようだ。
女性は狂気的な笑みを浮かべると、一夏に向かって叫び始める。
「良い情報を教えてやるよ!織斑千冬は同じく誘拐されたお前の弟を助けて、決勝戦に向かったらしいぜ!お前が誘拐されたことは知らずになぁ!」
一夏の中で何かが崩れた気がした。
千冬姉が来ない?嘘だ、そんなの絶対に嘘だ。
どれだけ心に言い聞かせても、それを突っぱねて絶望が一夏の心を支配していく。
「というわけで、お前はもう用済みだ。大人しく死ね」
一夏の額に銃口が向けられる。しかしその言葉も、その感触も一夏には届いていない。
女性は笑いを崩さず引き金に力を込めて行き、
バァン!
大きな音と共に扉が開かれ、光と人影が姿を見せた。
<ディメンション!マキシマムドライブ!>
「よっと。無事に着いたみたいだな」
電子音声と共に虹色の空間が現れ、その中から白と蒼の戦士が出てくる。
仮面ライダーと呼ばれる戦士の一人―フォースは腕のフォースドライバーと腰のフォースバックルを取り外し、変身を解除する。
フォースの変身者であるフック・アンテラスは辺りを見回すが、目標は見つけられず嘆息する。
「やっぱりいないか…。この世界にいるのは確かなんだが、何処行ったんだ?」
フックは操真晴人―仮面ライダーウィザードと共にファントムと戦闘していたのだが、あろうことかファントムは次元を超えて逃げてしまったのだ。
ゲートの安全のために晴人には残ってもらい、次元を超えることができるフックが追ってきたということだ。
周りは倉庫ばかりでファントムはおろか人のいる気配すらない。
ファントムはどこかの倉庫に隠れていると推測し、フックは一つずつ倉庫を調べていくことにした。
「うへぇ、結構疲れんなこれ。どんだけ倉庫あんだよ…」
しばらく倉庫を片っ端から見ていったが、一向に見つかる気配はない。
ちなみに変身してしまえば一発で見つけられるのだが、その考えは今のフックにはなかった。
「もう疲れた…ん?この倉庫…」
目に付いたのは一つの倉庫。周りと比べて足跡が多く、何かを引きずったような跡もある。
もしかしたらこの中にファントムがいて、この世界のゲートを攫ったのかもしれない。
「…行くか」
もはや触るのは何度目か分からない扉に手を掛け、力を込めて開く。
バァン!
目に広がるのは予想とは違い、それであって異質な光景。
黒ずくめの男達が数人と、銃を持った女性。女性の近くにはパワードスーツのような機械がある。
その先には少年が居て、虚ろな目でこちらを見ている。
「Differents's who!?(貴様、何者だ!?)」
「Person or the police!?(警察の人間か!?)」
「…目的とは違うが、これはこれでほっとけないな」
意識を目先の相手に集中させ、状況を把握する。
男は三人、うち二人がそれぞれ銃とナイフを持っている。
これなら生身でいけると判断し、まずは素手の男に一気に接近。
「もらった!」
「ガッ!?」
鳩尾に拳を打ち込み、意識を刈り取る。まずは一人。
続いてナイフで斬りかかってきた男の腕を掴み、ナイフを蹴り上げる。
落下してきたそれを左手でキャッチすると、銃の男へ向かって投擲。
その間に右の拳を目の前の男に軽く打ちつける。
「…ホアチャァ!」
「「グァァァ!?」」
星心大輪拳の技で男をふっ飛ばし、ナイフに気を取られていた男に激突。
二人が気絶したのを確認し、フックは一つ息を吐いた。
「くっそ、役に立たない奴らだな!こうなったらアタシが殺してやるよ!」
「ん、なんだあれ…?」
女性は標的を一夏からフックへと変え、佇んでいた機械―インフィニット・ストラトスを起動させる。
日本製の第二世代型IS<打鉄>を纏った女性を見てフックは首を傾げる。ついさっきこの世界に来たばかりの彼はISのことを分かっていない。
しかし打鉄がスラスターを吹かして接近し、加えてその手に近接ブレードが握られているのを見たフックは思考を切り替える。
「死ねぇ!」
「あの機械は知らないけど、武器持ちなら…、フォースカリバー!」
フックが叫ぶと右手に蒼い光が集まり、フォースの武器であるフォースカリバーが生成される。
ISが拡張領域から武器を取り出すのに似た動作を見た女性は驚くが、構わず剣を一閃する。
しかし、対抗するように振り上げられたカリバーは近接ブレードをたやすく両断し、すれ違い様に打鉄の非固定部位をも真っ二つにした。
間を空けることなく爆発するスラスター。
破片が辺りに弾け飛び、一夏やフックの方にも襲い掛かる。
反射的に目を瞑る一夏だが、その前にフックが割って入った。
USB型のMP3プレイヤーを大きくしたようなガイアメモリ―フォースメモリを取り出すと、レバーを操作。
ガイアディスプレイが緑色の「C」に変わったところで操作を止め、メモリをカリバーに装填する。
<サイクロン!マキシマムドライブ!>
「よし、おりゃぁっと!」
緑色の風を纏った斬撃が放たれ、破片は全て吹き飛ばされる。
すかさず女性の方を見ると、その顔には驚愕の色が浮かんでいた。
見ると破壊された非固定部位側の特徴的な長髪が切られ、一文字になっていた。カリバーを非固定部位に当たるよう進路を変えたときに一緒に斬ってしまったようだ。
「ISの武器を簡単に破壊して、絶対防御も通用しない…アンタは一体何者だ!?」
「ISに絶対防御…?何のこと言ってるのかよく分からんが、決めさせてもらう!」
カリバーを構え直して再び接近、アーマーの部分のみを狙って切り刻んでいき、破片が飛び散る。
エネルギー、もしくは被ダメージ量が限界を迎えたのか、打鉄は機能を停止し女性を排出する。
それを受け止めるようにカリバーのグリップを鳩尾に打つと、呻き声と共に女性は気を失った。
フックはふぅ、と一息付くと一夏の方へ向かおうとする。
が、その前に倉庫の入り口から声が聞こえてくる。
『よし、これだけ隠れている場所を変えていれば見つからな…げっ!』
「あっ、ファントム!」
女性達に気を取られていてすっかりファントムのことを忘れていたフック。
先ほどよりも強い警戒心を放ちながら、カリバーを地面に刺し、懐からフォースドライバーを取り出す。
それを腰に押し当てるとベルトが生成、ドライバーと二段式になっていたフォースバックルに分かれる。
ドライバーを左腕に装着すると、ファントムはその隙に逃げだそうとしていた。
『よし、今のうちに…』
「逃がすか!」
<バインド!プリーズ>
取り出した指輪をベルトに取り付けられているFウィザードライバーに翳すと、ファントムの周りに魔法陣が出現。
そこから鎖が飛び出し、ファントムを拘束する。
ファントムがもがいている隙にフックはフォースメモリを取り出し、スタートアップスイッチを押す。
<フォース!>
「変身!」
ドライバーにメモリを装填しスロットを閉じるとフックが蒼い光に包まれ、それが晴れると仮面ライダーWに酷似した白と蒼のライダー、フォースが現れる。
『ぐぐぐ…ふんぬ!』
「さぁ、お前の罪を数えろ!」
ファントムがバインドを力ずくで振り解くのと、フォースがカリバーを抜き取るのはほぼ同時だった。
一気に接近するフォースの攻撃を手に持った鎌で受け止めるファントム。
しかし徐々にフォースが押していき、カリバーを振り切ったところで大きく吹き飛ばされる。
このままでは勝てないと思ったファントムは、何か利用できる物はないかと辺りを見渡す。
すると、この状況に驚いて固まっている一夏の姿を見つけ、ファントムは心の中でほくそ笑む。
『もらった!』
「え?うわぁっ!」
「ッ!しまった!」
すかさず一夏を人質とするファントム。一夏の首には鎌が添えられており、少し手を動かせばすぐに首を刎ねられるだろう。
下手に動けば一夏がどうなるか分からないので、フォースは思うように動けない。
『そうだ、そこから動くなよぉ。こいつがどうなっても知らないぜ?』
「…」
少しずつ後退していくファントム。フォースは動こうとしない。
そして出入口の辺りまで来てファントムが後ろに目を向けた瞬間。
「…今ッ!」
<コネクト!プリーズ>
シフトレバーを素早く操作し、予め付け変えていたコネクトのリングを翳す。
現れた魔法陣にフォースはカリバーごと腕を突っ込む。魔法陣が繋がる先、そこは。
「でりゃぁっ!」
『ぐわっ!?い、一体何が…!?』
ファントムの背中。カリバーの一閃を受けたファントムは大きくよろめき、一夏を手放してしまう。
フォースはすかさず一夏を救出し、ファントムの前に立つ。
背後からの不意打ちは想像以上に効いているようで、立っているのがやっとのようである。
『くっそ、背後と空間繋げて斬るなんて卑怯だぞ!』
「人質取ってた奴が言うことか!これで決まりだ!」
<フォース!マキシマムドライブ!>
ドライバーのメモリスロットを開き、再び開くことでメモリのエネルギーが増幅される。
そのエネルギーは右足に集まっていき、フォースは大きく跳躍する。
「フォースストライク!」
『うっ、ウワァァァァァ!?』
エネルギーを右足に集中させた「フォースストライク」が炸裂し、ファントムは爆散。
爆炎を背景に着地したフォースは再び一息付くと、そのまま無言で立ち去ろうとする。
「…待ってくれ」
「ん?おぉ、お前怪我は無いか?」
何か思うことがあるのか、フォースを呼び止める一夏。
彼の身を案じながら近づくフォースだが、一夏は問いの答えは返さず言葉を紡ぐ。
「…何で助けたんだよ」
「え?」
「何で俺なんかを助けたんだよ!優秀な家族とはいつも比べられるし、その家族からも裏切られた!俺にはもう何も無いんだ!」
「…」
今までの悲痛な思いをぶつけていく一夏。
声を荒げ、涙を流しながら叫ぶ彼の話をフォースはただ黙って聞いている。
「いっそ、殺して欲しかった…。俺がこれから生きていく意味なんてあるのかよ!
…こんな俺が、生まれてきた意味なんて無かったんだ!」
「…よっと」
「あだっ!?」
急にデコピンを食らい驚く一夏。
そんな彼の様子は無視してフォースは呆れたように話し始める。
「生まれてきた意味が無い?バカなこと言うな、まだまだ子供なのにそんなこと分からないのは当然だ。現に俺だって分かってるわけじゃないし」
「…」
「それに、優秀な家族と比べられてたって?そんな周りの評価を鵜呑みにしてどうすんだ、自分の価値は自分で決めるものだろ?」
言われたことに対して全て論破していくフォースに、一夏は無白と蒼の戦士はカリバーを一夏に向けると、締めくくるように言葉を紡ぐ。
「お前、これから生きていく意味が分からないって言ったよな。だったら俺がやるよ。
自分が生まれた意味、そして自分がどうやって生きていきたいかを見つけること。これがお前の生きる意味だ」
「意味を、見つける…」
「そ、人間分かんないことだらけだ。俺も生まれた意味はまだ分かってないし。
でも、この力を使って誰かを守れるなら、笑顔になれるなら俺は戦う。それが今の俺の生きる意味かな」
フォースはカリバーを下ろすと、踵を翻して去ろうとする。
一夏は目を閉じ涙を拭うと、何かを決心したように目を見開く。
「待ってくれ!」
「ん、今度はどうした」
「…俺も、一緒に連れていって欲しい。俺もあんたみたいな強い人に、生きる意味を持つ人になりたい」
それは先ほどまでの自暴自棄な瞳とは違い、強い意志を持ったものだった。
フォースは困ったように唸りながら考えるが、やがて首を縦に振る。
「分かった、ついて来い。そういや名前聞いてなかったな、なんて名前だ?」
「一夏、織斑だった一夏」
「よし一夏、俺にしっかり捕まってろ」
<ディメンション!マキシマムドライブ!>
二人の前に虹色の空間が現れ、その中へ飛び込む。
一夏誘拐の情報を聞いて駆けつけた織斑千冬と警官隊が見たものは、飛散した打鉄の装甲だったものと、激しい戦闘の痕を残す抉れた地面だった。
この作品では一夏の誘拐(第二回モンド・グロッソ)は中2の春に起こったものとしています。
また、しばらくはIS学園に入る前の話が続きます。
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