艦娘と提督 (ためきち)
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1話

 

 

「あっ! 提督お疲れ様です!」

 

 

 これはあれだ。とてもよく出来た、いわゆる完成されたコスプレってやつだな。

人だかりが出来てる向こう側から俺が居る方に向かって笑顔で声を掛けてくるレイヤーさんが一人。

今日も今日とてしっかりと労働に勤しんだ俺に、と言うかこの駅を利用する全ての人に対するご褒美的なやつだろう。

まあ、中にはこういったものに嫌悪感を抱く人もいるだろうけど大体の野郎たちにとってはご褒美に違いない。

膝まで届く長い青色の髪の毛。袖なしセイラ―服とニーハイの組み合わせもグッド。身長だって150前後だろう。ちょうどいい小ささがよかよか。そしてなによりもあどけない笑顔とか最高です。ありがとう。

 

 ≪艦隊これくしょん≫。通称≪艦これ≫に登場する初期艦の一人でもある白露型六番艦五月雨のコスプレ。しかしなんでこんな何にもない田舎で……しかも一人で……?

公式からイベントの告知も出てないし何ならこんな田舎の駅で一人だけでコスプレってのはちょっと……あぁ! ようつべ投稿用動画とかそういう系ね。把握。

はぁ~いいねいいねぇ最高だねぇ! こういうの初めて間近で見たけど普通に可愛いもんなんだな。ネットに上がってるのもちょっとはフォトショ使ってない可能性を信じてみるか……

 

 さてと。そろそろ電車来ちゃうし行くますか。

写真撮りたいけどレイヤーさんを勝手に撮るのはご法度だしな。撮る前に声を掛けようにもこの人だかり。諦めるのが無難よね。今度ようつべで動画探して「俺これ見たわw」ってつぶやこう。うむうむ。

 

 

「あ、あれ!? 提督! ちょっとすいません! 通してください! 提督待ってください!」

 

 

 提督さん呼んでるっぽい。五月雨ちゃんが待ってるんだから一番良い笑顔で相手してやれよ。

しかし、コミケでもないのにレイヤーさんを間近で見れたのはえがった。しかも、五月雨ちゃんだよ五月雨ちゃん。

俺が艦これで唯一ケッコンしてる艦の完璧に完成されたコスプレとかね。明日も仕事頑張れる。やる気元気無敵だって金曜日だもん!えぇ、明日は土曜日。仕事頑張れる。頑張れるよ……五月雨ちゃん……んあーん!! 休みたいよー!!

 

 とまあ、現実逃避してたら後ろから野太い歓声が聞こえてきた。

気になって振り返るとロータリーに止めてあった車から今度は天龍型二番艦。天龍型のこわくて可愛い方の龍田が姿を現した。恰好は改二の方で凄い色気を感じる。

だってあれ凄くない? 見ろよあの太もも。まぶしすぎて直視できないもん。つーか、スカートみじかすぎよね。俺はもう少しロングなスカートさんが好きよ?

 

 でも、五月雨と龍田ってなんかあったかな……別艦種なら比叡とか夕張ならわかるんだけど龍田……わからん。Wikiガン見でろくに史実とか調べてない系提督には艦同士のつながりが導き出せない……本当にすまないと思っている……

あるとすれば、初期艦と最初の方の任務報酬でもらえる艦って感じだったかな。正直覚えてない。ホントごめんねレイヤーさん!

てかさ、龍田と五月雨ちゃんがこっちの方に向かって歩いてきてるじゃん。

提督さんこっちの方に来てんの?まあ、俺には関係ないし横にどいとこ。

 

 

「あらぁ? 提督? どこに行くのかしら~? 早く車に乗ってくれない?」

 

 

 ……? なんでこのレイヤーさんは俺の左の手首を掴みながら提督呼びしてんの?

てか、龍田のレイヤーさんもそんなに身長高くないのね。グッドよ。しかしあれだ。俺の目をまっすぐ見つめないで……照れちゃうでしょ!

 

 

「あ、あの……人違いじゃないでしょうか? 俺に貴女達のような知り合いは居ないと思うんですが……」

 

「いいえ。あっています。貴方は私の提督です」

 

「はい! 提督は私たちの提督です!」

 

「ね? ほら早く来なさい。車で天龍ちゃんも待ってるんだから」

 

 

 あの車の中に天龍もいんのかよ。つか、この人めちゃくちゃ力強いんだけど。

びくともしないと言うかまるで……そういわゆる万力に絞められた様な……痛い。めがっさ痛い。え、なんかどんどん握る力強くなってんだけど? え? 手首ちぎれちゃう! ちぎれちゃうから!

  

 

「あの……その……はい。行きます。行きますから手を離してくれません? めちゃくちゃ痛い……」

 

「うふふ。離して逃げられたら困るでしょ? まあ、私たちの脚力から逃げられるとは思わないんだけどね~」

 

「逃げません。逃げませんから! わかった! 離さなくていい! が、力緩めてー!」

 

「龍田さん! 提督本当に痛そうですよ!? 提督の手が取れちゃいますよー!」

 

 

 その後、龍田さんはちょっと怖いけど魅力的な笑顔と共に力を緩めてくれた。

そして左腕に抱きついてきた。ん? あれ? ……んはっ。やわらかっ! えっ? こんなに柔らかいもんなの?えっ? マジで? 何が柔らかいのか確認したら絶対に歩けなくなるから確認しないけど凄いな女体。あと凄くいい匂い。同じ人類なのか悩んでしまうレベルで俺の身体とは大違いだわ。

てか、今度は右手に五月雨ちゃんがくっついてきた。ふぅー……なんだこれ。なんだこれ。人はこれをハーレムと呼ぶのだろうか……あぁ~死んじゃう。これ死んじゃう。一旦五月雨ちゃんから腕の所有権を返してもらおう。

 ふんっ! 痛い……自分で自分の頬にいいパンチを決めておかないと死んじゃう。このデンジャラスビースト達は自分の魅力がどのレベルだか理解してないんだろ……いや、龍田さんは理解してそうだな……

 

 

「あの……提督? 大丈夫ですか? いきなり自分の頬にパンチしましたけど……もしかして私何か提督の迷惑になるような事を……」

 

「いやぁ五月雨は悪くないよ。悪くないんだ。悪いのは俺なんだ……」

 

「うふふ。さ、行きましょ?」

 

「はい!」

 

 

 そして再び俺の腕にくっついてきた五月雨ちゃん。龍田さんの言葉にとてもいい笑顔で返事をして龍田さんと同時に俺を持ち上げた。

 ……あれれ~? おかしいぞ~? さっきまでいちゃいちゃしてんじゃねーよ! みたいな感じだったのにね?

というよりも持ち上げるってなに? これでもいい年したおっさんだと自覚してるんだけども。いくら二人掛かりでも女性二人で男一人持ち上げられるものか? いや、無理っしょ……

てか待って。二人とも俺より身長低いからってベルト掴んで持ち上げないでくれない? 食い込むの。めがっさ食い込んでるの。コンドルもびっくりなレベルよ、これ。

あっはぁーいや我慢だろう。ここは我慢すべき時。あーでも、我慢してもしものことがあったらね? ほら、今後使う予定が無くても一生付き合っていく相棒のご機嫌取りはやっぱり大事というかね?

 

 

「二人とも申し訳ないんだけど自分で歩けるから俺を持ち上げるのをやめてもらいたい。……かなーって」

 

「龍田さん。やっぱり提督嫌がったじゃないですかー!」

 

「照れ隠しじゃないかしら? ほら、持ち上げてるから凄く密着してるし。うふふふ」

 

「テレ9割痛み1割ぐらいで下ろしてもらいたいんです。お願いします。歩きますから」

 

 

 下ろしてもらえた。ふぅ……これで相棒も安心してくれるだろう。

しかしあれだなぁ。これ付いていくって言っちゃったけどどこに連れて行かれるんだろか。なに? こんな三十路のおっさんをハイエースしてダンケダンケだと? ないわー……こんなんあるとしたらあの車の中に天龍ちゃん(ムキムキなお兄さん)がギッシリみたいな状態からの美人局しか無くない? はぁ……なんで俺なの……なんで俺なの……

 

 今日も普通に家に帰って風呂入ってアニメ見てゲームやって寝て明日も仕事っていうルーチンを決める予定だったのに……美人局ってやっぱり法外な金額を要求してくるものなのだろうか。今月はガチャ回してないし少しだけ残ってるけど来月の事を考えると余裕はない。水着ガチャにコミケ。その後水着ガチャ。なんで前後半で分けるんですかねぇホント。今年もノッブ来いノッブ。

 あぁ、あと甲作戦の進行具合によっては資材を買わないといけないから圧倒的金欠だわ。どうしよう……この美人局から逃げれんものか。このバスターゴリラより力の強いちゃんねーたちから逃げる手段僕にください。

 

 なんて現実逃避してたけど車までついてしまった。

まあ、そうよね。俺が居た位置から車までそう離れてなかったもの。あぁ、車のドアが開いてしまう。

そんで、開いたドアから最初に目に飛び込んできたのは厳ついおにいちゃん達だった。運転席と助手席と助手席の後ろに一人ずつ。やっぱり美人局じゃないですかー。

 

 後ろに居たおにいちゃんが五月雨と龍田に向かって敬礼をしてすぐに車から降りて席をスライドさせて「どうぞ」と俺を後ろの席に座るように促してきた。

えぇー……座りたくない。入りたくない。帰りたい。でもね。そんな俺の意思とは裏腹に先に乗り込んだ五月雨が俺の手を引いてくるんだ。やわらかい。だめだ。男という種はホントどうしようもねぇな。

 んで、おにいちゃんたちに気が回って気が付いてなかったけど運転席の後ろの席には改二仕様の天龍ちゃんが腕組みしながら涎たらして寝てやがったわけよ。おじさんびっくりよ。

つか、待ってやめて。いや、やめないで。でも、やめて! このレイヤーさんマジぱねぇッス! 腕に乗るの!? 初めて見たんだけども? いや確かに龍田さんもでかいけどこれは更に上をいk「早く進んでくれないかしら~」はい。

 

 俺、五月雨ちゃんと龍田さんの3人が乗り込むのを確認して先ほど外に出たお兄ちゃんも乗り込んできた。

どうでもいいけど3人掛けの席の真ん中って居心地悪いよね。俺だけなんだろうか。左右の席のシートベルトが微妙に尻に刺さるというかどっちに避けても座りにくいんだよね。あと、左右が美人過ぎてすごい縮こまってます。タスケテ……

 

 

「それじゃあ、向かいましょうか。車出してもらえるかしら~?」

 

「わかりました」

 

「……ちなみにどこに行くか聞いても? 後、お金はありません」

 

「うふふ」

 

 

 龍田さんそれ答えになってないよ!

そんな龍田さんの受け答えを聞いてすかさず五月雨ちゃんからフォローが入った。

 

 

 

「あ、はい。提督のおうちに向かいます! あと、お金は要りませんよ?」

 

「……ホントに? 家に行くの? お金要らないの?」

 

「どっちもホントです! 提督のおうちは自衛隊の人たちが調べたので間違いは無いと思います」

 

「自衛隊が調べた。え、いいの? そういうの?」

 

「本来は当然のことながらやってはいけないことです。しかし、事態が事態でしたので勝手ながら調べさせてもらいました。事後報告になりますが申し訳ありません。それと自己紹介が遅れました。自分は菊池崇というものです」

 

「あ、いえ。はい。大丈夫です」

 

 

 うん。大丈夫じゃないけど大丈夫。いや、だって視線は向けてないけど絶対に五月雨ちゃん泣きそうだもん。龍田さんは余裕の笑み浮かべてそうだけどね。天龍は知らん。

菊池さんからもらった名刺には菊池さんの名前と階級と所属が簡素に書かれていた。うーむ。2等海尉? どんぐらい偉いのかわからんのよー。社長課長で書いてくれ。

 

 

「ところで貴方はどこまで話を聞かされましたか?」

 

「えっ、あー何も聞かされてませんね。いきなり提督呼びされてここまで連れてこられたので……」

 

「そうですか……まあ、彼女達も自分たちの提督とようやく会えて舞い上がってしまったのでしょう。大目に見てあげてください。そうですね……どうしますか?自分の口から伝えてもいいのですが?」

 

「いえ、ここは私から伝えます。龍田さんもいいですよね?」

 

「当然よ~。貴女が一番提督と付き合いが長いのだものね~」

 

 

 置いてきぼり感がすごいのだわ。でも、五月雨ちゃんが俺の方を向いて覚悟を決めた瞳で俺の事を見つめてきているわけだししっかりと一語一句聞き逃さないように耳の穴かっぽじってよく聞いてやる。

  

 

 

 

 

 

「提督! 実は私達は提督に会いたい一身でげぇむの中から来た本物の艦娘なんです!!」

 

 

 

 

 

 

 さてさてさーて。このレイヤーさんは何を言ってるんだろうか? 本物の艦娘だと? 片腹大激痛なんだが?

流石に私達本物の艦娘なんです! って真正面から言われても信じられないんだよね。だよね。けどね。俺の事を軽々持ち上げるし自称自衛隊のおにいさま方と一緒に居る。

さらにだ。俺の画面だけぶっ壊れるっぽい。だれよこの画面用意したの? え、俺の両親? まあ、そうなるな。うむ。車に乗り込んでから視界の隅どころか中央にお邪魔虫が映りこんでるんだよね。

うん。俺このお邪魔虫見たことある気がしなくも無い。具体的には『どこに進むの?』とかいって羅針盤をくるくる回すように促してくるやつら……

ちくせう……ついに顔に張り付いてきやがった……無視したい。無視したいけど流石に邪魔すぎるんだよこのやろう

とりあえず、羅針盤妖精を顔から引き剥がしながら俺は五月雨に言っておかないといけないことを言うことにした。

 

 

「俺は君達が本物の艦娘だと信じられない。だって、艦娘が居るわけ無いじゃないか……あの子達は二次元の存在なんだから」

 

「妖精さんは私達艦娘か私達の提督にしか見えないし触れられません。それが証拠じゃだめでしょうか?」

 

「自衛隊でも妖精さんを見たり触れたりできないかとそれなりの数の人員を割きましたが誰一人として貴方のように顔に張り付かれてる事に気が付いた人は居ませんでした」

 

「では……その。ホントに信じてもいいと?」

 

「もう。そんなに信じられないなら私のここ見ててください」

 

 

 そういうと龍田さんは頭の上を指差した。そこには龍田の謎艤装でもある輪っかがある。

それに俺が目を向けるとその輪っかはクルクルと回りだしさらにはピカピカと光りだしたのだ。回るにしても真ん中の部分だけとかならすごい技術だな~ですんだんだけど、もう全体がクルクル回ってるわけよ。えーいや、えー。それって針金とかで浮いてるもんじゃないの? てか、結構早い速度で回転すんのね。

 

 

「うふふ。これでどう? 信じられそうですか~?」

 

「正直に言いますとそれを見せられても半信半疑なのは変わらないというのが本音ですね。でも、龍田さんにここまでしてもらったし妖精さんも見たし触った。さっき痛みも感じたし多分夢でもないんでしょうね。あとはまあ、時間の問題かな~って所ですね。戸惑いが隠しきれない」

 

 

 信じてるし信じたい。でも、さ。俺に会いたい一心で艦娘達が二次元を超えて三次元に現れるとかありえないじゃないか。そんなホイホイ二次元の壁を超えられるならもうこの世界二次キャラだらけになっちゃうよと言いたい。なんかそんなアニメ最近見た気がするな。

んーそれにしても俺そこまで愛されるぐらいこの子達のために提督やってたかな……成績も万年大将でランカー装備なんてもらった事ないしデイリー任務だってしょっちゅうサボってるし……つまり世の中に公表されてないだけでランカー達は自分の艦娘達とキャッキャウフフしてるとでも言うのか? うらやまけしからんなこのやろう。

 

 

「菊池さん。……俺の艦娘達以外にも艦娘って現れているんですか?正直、俺ぐらいのプレイヤーの所に現れるぐらいですし日本中に艦娘が現れていてもおかしくないと思うんですけど」

 

「いえ。この様な事は過去1度もありません。貴方の艦娘が日本で唯一の事例になります」

 

「ちなみに俺の艦娘ってこっちの世界に来てどのぐらいの期間になるんですか?」

 

「そうですね。もうあと半月もしないうちに1年になりますかね。最初に訓練中の護衛艦に接触してきたときは我々も貴方同様にそんな話あるかと報告に来た部下を叱ってしまったのですが実際に海の上に立っているのを見た時はまさしく開いた口が塞がらないという感じでした」

 

 

 そりゃ誰だってそうなるし俺だってそうなる。

しかし、1年か。よくもまあ、隠し通せたもんだなと。うちの鎮守府に居る艦娘の数はざっくりで150人ぐらい。

まあ、150人全員が来てる訳じゃないし150人ぐらいなら小中学校の全校生徒の半分いくかいかないかぐらいだし隠し通せない数じゃないか。

ただ、戦艦と正規空母が来てたら別の所で隠しきれないかもしれないな。食費的な意味で。

 

 でも、1年前だろ? 去年も普通にイベントやってたしなぁ。

流石に主力が居ない状態で勝てるようなイベントじゃなかったしもしかしたら行き来出来るのか。

二次元と三次元を行き来出来るとか羨ましすぎるだろ……

 

 

「ちなみにその時は誰が居たんですか?」

 

「あの時は……確か、第一部隊に赤城さん、加賀さん、飛龍さん、蒼龍さん、長門さん、陸奥さん。第二部隊に神通さん、金剛さん、時雨さん、夕立さん、五月雨さん、涼風さんだったと思います」

 

「連合艦隊ッッッ!!! 資材が吹き飛ぶぅ!!! あ、分かった。なんか資材減ったなって思った時期があったんだよ! ちくしょう。イベント前に資材が減ったもんだからあれー?おかしいなぁーって頭捻ってたんだよ。それが原因だったのか……」

 

「最初は大和さんと武蔵さんも行こうとしてたんですけど~止めました~」

 

「それについては良くやったと一応褒めておく。が、何もイベント最終海域突破編成みたいなクソ重連合艦隊じゃなくても潜水艦組でもよかったんじゃないのか?」

 

「最近提督が構ってくれないから資材を減らして構ってもらうでちって言ってたわ~」

 

「おのれでち公……まあ、確かにうちはあんまりオリョクルしないから構ってないって言えば構ってなかったかもしれないな」

 

 

 まあ、正直資材が減ったことはあんまり気にしてない。甲勲章はきちんともらったしそこはいいんだ。

でも、これでハッキリした。こいつら行き来してるわ。しかも、補給とかは向こうで可能。つまり、戦うための準備以外に掛かる生活費だけこっちで賄えばいい。水道光熱費とかそういう諸経費の類。

うちの艦娘がそこんところどう稼いでいたのかは分からんけど、ぐへへ的な展開じゃなきゃいいか。まあ、俺は自衛隊に関しては信頼してるしそういったことはないと思ってる。

あるとすれば演習の手伝いとかかな。荷物運びとかに便利そう。

 

 

「それよりも、結構な数の艦娘がこっちに来てるのか?」

 

「そうですね。基本的に全員来てます。提督が出撃と演習と遠征に出すメンバー以外はなるべくこっちに来てこっちの生活に慣れようって長門さんがおっしゃったので」

 

「やっぱ、向こうとこっちじゃ違うのか?」

 

「ん~そこまで大きな違いはないと思います。でも、やっぱりこっちの方が匂いとか空気感? というのを強く感じるなって言うのはあります! あ、でも一つだけ大きな違いがありました!」

 

「ほー。どんな所が違ったんだ?」

 

「はい! こっちの世界なら提督とお話が出来ます。一方通行の独り言みたいな会話じゃありません! それに提督に触れて提督の温かさを感じる事が出来ます。いくら手を伸ばしても触れられなかったあの頃とは違います。これはあっちでは体験出来なかった大きな違いです!」

 

「な、なるほどな」

 

 

 夕日に照らされた五月雨が満面の笑みを浮かべてとんでもなく恥ずかしい台詞を言ってきた。

五月雨ちゃんってそうよね……天然入ってるっていうか思ったこと躊躇なく言ってくるっていうか……まあ、五月雨が喜んでるならそれでいいか。

にぎにぎと俺の右手を握ってくる五月雨の姿に照れてしまって視線をそらすと、余っている左手を差し出せと右手を出してくる龍田と前を向いていて表情は見えないが絶対ににやけているだろう菊池さん。未だにぐっすりの天龍が視界に入ってきた。

 

 結局両手を弄ばれ無我の境地に至っているともう後5分もしないうちに俺が一人暮らししてるアパートに着くなぁってぐらいの見慣れた道が見えてきた。

これ明日の仕事に響くような疲れにならないといいなぁ……




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2話

 艦娘達の提督を駅で回収し車を走らせること30分。彼が現在暮らしているアパートに着いた。

それなりに年季の入ったアパートだけあって外観はあまり綺麗とは言いがたい。まあ、住む分には問題はなさそうだ。

 

 

「さあ、着きましたよ。申し訳ないのですが天龍さんを起こしてもらっても良いでしょうか?」

 

「え、あ、はい。天龍起きろ。着いたぞ」

 

 

 彼が天龍に声をかけると彼女はパチッと目を開いて涎を乱暴に腕で拭ってから彼の方を見て「おぉ、提督じゃねーか! 居たんなら起こしてくれよなー!」と笑顔で彼の肩を少し乱暴に叩いた。

 

 我々も一応確認のために艦娘達と軽いふれあいをした事がある。彼女達は誇張なしにとても硬かった(・・・・・・・)。人肌に見えたそれは鋼鉄だったというのがほとんどの自衛官の感想だった。

私は担当した艦娘にお願いをして手以外に足や髪の毛も触らせてもらったがそのどれもが鉄と同じぐらいの硬度に感じられた。胸については流石に確認を取ってはいないがおそらく硬い。あんなにもやわらかそうな見た目に反して鉄そのものだったのだ。ちなみに匂いは普通に女性らしい良い匂いがしたのがどうにも不釣り合いで印象に残っている。

 

 しかし、その感想は男性の自衛官のみで一緒に確認を取った女性の自衛官達は一様に柔らかかったし大きかったと言っていた。何が大きかったのか聞き返そうとして彼女達の目が犯罪者を見るそれになっていたため聞き返せなかった。

ゆえに艦娘達は自分が認めた提督と同性にはその柔らかさを解禁しているのではないかという仮説が出ている。

現に彼も叩かれて痛いという風に天龍を叱ってはいるが鉄の塊で叩かれてあの程度で済むはずがない。

やはり、提督には我々に対する硬さは発揮されていないらしい。帰ったら報告書に書いておこう。

 

 4人が降りてから忘れ物が無いか座席の確認をしてから改めて彼のほうへ向き直る。

 

 

「それでは我々はこれで一旦帰らせていただきます。明日の予定に関しては大淀さんから報告があると思いますので後ほど確認しておいてください」

 

「大淀も来るんですか?」

 

「いえ、おそらく既に部屋の中に居るのではないかと思われます」

 

「あーえーほー……マジかー……」

 

 

 彼も男だ。そういう物が部屋に転がっていたのかもしれない。男として同情はするがこれだけの女性に囲まれているんだからざまー見ろという感情が芽生えなくも無い。

 

 

「……心中お察しします」

 

「大丈夫だとは思いたいですけど、まあ、見つかったら見つかったで諦めます」

 

「ははは、流石は提督。肝が据わっていますね。それでは自分達はこれで。また明日お迎えに上がります」

 

「あ、はい。すいません。ご迷惑をおかけします」

 

 

 まあ、こうやって突然の事態にもかかわらず人に頭を下げられる奴は嫌いではないかな。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 寝ている天龍を起こせと菊池さんに言われたので肩を軽く揺すって声をかけた。

天龍は一瞬身を捩ったがすぐに目を開き涎を乱暴に拭いて肩に乗っている手の先に居る俺を見つけてキラキラのエフェクトが付きそうな笑顔と共に俺の肩をお返しとばかりに叩いてきた。超痛いんだけど。

 

 

「おぉ、提督じゃねーか! 居たんなら起こしてくれよなー!」

 

「流石にあんだけぐっすり寝てる奴を起こすのも忍びなかったからな。つか、肩痛いから。お前ら自分の力の強さ分かってんの!?」

 

「分かってる分かってるって!」

 

 

 いや、分かってねーだろ。お前らのゴリラパワーで肩叩かれて外れなかった俺を褒めて欲しいレベルだわ。

そんな感じのやり取りをしながら車を降りる。忘れ物は大丈夫かどうか聞かれたがリュックぐらいしか手荷物が無かったから忘れようがない。

そして、菊池さんは明日の予定と大淀という聞き捨てならない単語を口にした。

 

 いや、確かに艦娘が現実世界に現れましたなんて話がこんな30分ぽっちの顔合わせで事が済む訳がないよね。分かってた。てことは、明日の仕事は休めるのかな? 最高じゃんこの子達。流石俺の艦娘。俺の事分かってるわ。

ただし大淀。てめーは微妙だ。流石に青年雑誌を床にそのままというわけではないけど本棚にはしっかりと収納してある。一人暮らしだしね。隠すって習慣がそもそも抜け落ちてる。女性が家に来るわけでもないしね……

 

 菊池さんも俺の表情を見て察してくれたみたいだ。やはり男同士だし通ずるものがあったんだろうなぁ。

肝が据わってると褒められたがここまで来てしまったらもう手遅れ以外の何も無いわけだしな。諦めよう。大淀を俺は信じる。

てか、なに。迎えに来るって事は明日にでも艦娘がいる所に案内してくれるって事なんだろうか。というよりもこの子達を当然の様に置いていったけど。え、俺の部屋5人も入るかな……入れても寝るとき布団敷いて寝転がれる気がしないんだけど。てか、人数分も布団無いし。

 

 

「よっしゃ、ここに居てもしょうがないし提督の部屋行こうぜ。どこなんだ?」

 

「……そうだな。大淀待たせるのも悪いし行くか。1階の奥から2番目の部屋だよ。他にも住んでる人がいんだから静かにしろよ天龍」

 

「わーってるわーってる。川内じゃねーんだからよ。夜になったから騒ぐとかそんな事はしねーよ」

 

「天龍ちゃん偉いわね~」

 

「てめっ龍田! 撫でんな!」

 

「さあー行きましょう!」

 

 

 この中で一番肝が据わってるのは俺じゃなくて五月雨なんじゃないかって俺は思うんだ。

んで、歩き出した時にわざわざ五月雨が俺の前に出てきた。気づけば天龍と龍田もほぼぴったりくっつくように俺の後ろを陣取ってきた。多分、わざわざ五月雨が前を歩いて軽巡二人が後ろを固めたのは俺が提督だからとかなんだろう。

彼女達が1年間どうやって過ごしてきたかはまだ知らないけれど彼女達の常識から考えてみれば上官を守るためにとか考えてるんだろうなぁ。艦隊行動とか詳しくないけど。とりあえず可愛ければいいか。

 

 そいで、アパートなんて端まで行くのに1分も掛からない。俺の部屋まで速攻で着いた。

ちなみに部屋の外に大淀が待っているなんて事は無かったので部屋の中に居るのだろう。今年の暑さは狂ってるからなぁ。エアコン付けて涼んで待ってるのが一番よ。

ドアノブを回したら案の定鍵が掛かっていなかったのでそのまま入った。が、問題発生。靴が入りきらん。

艦娘って上げ底だったりブーツだったりが多いもんだからウチみたいなちっこいアパートだと5人分も靴が並ぶと狭いのなんのって……しょうがないからビニールの上にでも並べるか。

 

 

「提督お帰りなさい。エアコンを付けて部屋を涼しくしておきました」

 

「ただいま。冷房ありがとな。他になんかした? 部屋が少しすっきりしてるような」

 

「はい。部屋の掃除を軽くしておきました。あと洗濯と晩御飯の用意もしておきました」

 

「あぁ、大淀は料理できる勢だったか。あんがとさん」

 

「いえ、提督に喜んでいただけるように頑張って作りましたので楽しみにしておいてくださいね?」

 

「おーい。入ってすぐの所でいちゃこらしてんなー。後がつかえてんだ、後がよ」

 

「悪い悪い」

 

 

 明らかに機嫌が悪いですといった空気の天龍に頭を乱暴に撫でて部屋の中に入っていく。

天龍は龍田の時みたいに怒ったりはしなかったがぐぬぬと怒るべきか喜ぶべきかという難しい顔をしながら俺の後に続いた。

中に入って改めて部屋を眺めるとやはりすっきりしていた。主に本棚が。本棚が!!!

どうゆう事だと大淀の方を見るとにっこりと微笑み返してきた。ははーんなるほどな。俺のウ=ス異本は異界に葬り去られたようだ。

ガッテム! てか、本棚にしまってあった物だけじゃなくて入りきらなくなって床に積み上げられていたウ=ス異本も無くなってんよ! 

あれ? 待てよ。よくみたら艦これの日常系の本は残ってんな。大淀の奴、艦これの全年齢向けの本以外のウ=ス異本と青年雑誌を全部捨てやがったのか……まあ、いい加減量が多くなりすぎてどう減らしていこうか悩んでたしちょうどいいっちゃいいんだけど……

 

 

「大淀さんや?」

 

「はい。なんでしょうか提督」

 

「本棚のこのスペースと床のここら辺に積んであった本はどこ行ったんだい?」

 

「そこにあった本なら私と一緒に来た自衛官の方にお渡しして焼却処分していただくことにしました」

 

「ほー俺の許可なく?」

 

「はい。しかし、提督。ああいった本はやはり不健全かと思います」

 

「いや、まあそれは分かってるんだけどね?一応捨てる前に一言欲しかった。もう一度鑑賞しておきたかったなーって」

 

「あらいやですわ提督。もう本物が目の前に居るんですから本じゃなくてもいいじゃないですか」

 

 

 だめだ。大淀の奴楽しんでやがるわ。多分俺がそんなに怒らないことまで考えての犯行なんだろう。

俺はそんな愉快犯の眼鏡に人差し指の指紋を付けることで仕返しとした。しかも両方のレンズに。

大淀は声にならない悲鳴をあげ急いでレンズを拭いてからこちらを睨んできた。フゥーハハハ! 次からはちゃんと確認を取るんだな助手よ。

そんな感じで大淀で遊んでいたら人をダメにするクッションでダメになっていた天龍が声をかけてきた。

 

 

「なあ提督ぅ。テレビつけろよテレビぃ」

 

「そうだな。今の時間ならクイズ番組でもやってんじゃねぇか?それ見ながら晩飯にでもするか」

 

「あ、でしたら提督。先にお風呂に入ってきてはどうでしょうか? 晩御飯でお腹一杯になってからお風呂というのは人の胃にあまりよくないそうですから」

 

「そうなの? じゃあ、先に風呂入ろうかな。あ、俺からでいいのか?」

 

「もちろんよ~。上司が先に入ってくれないと部下が入りにくいじゃない」

 

「そんなもんか。分かった。先に入らせてもらうよ」

 

 

 そう言って立ち上がり脱衣所に向かおうとすると部屋に入ってからずっと俺の横をキープしていた五月雨も一緒に立ち上がった。

五月雨に向かってなんで立ち上がったんだろうと視線を向けて答えを促したが返ってきたのは首をかしげた可愛い仕草のみ。

言わないって事はトイレかなと納得して脱衣所に向かう。まあ、やっすいアパートだけあって脱衣所なんてありゃしないんだけどね。服脱ぐときは居間のドア閉めればいいか。

と、考えながら五月雨を引き連れてトイレの前兼脱衣所に到着した。俺は手でトイレなら先にどうぞとジェスチャーで促したがやはり彼女は首をかしげる可愛い仕草しかしてくれない。

 

 

「五月雨はトイレのためにここまで付いてきたんじゃないのか?」

 

「え、違いますよ?」

 

「え、じゃあ何か忘れ物? あ、飲みものが欲しいとか?」

 

「いえ、それも違いますよ! 私はお風呂に入る提督のお背中を流そうと思って付いてきました!」

 

 

 ふんす! と気合たっぷりにそう言う五月雨ちゃん。

気合! 入れて! いきます! ってか? うん。アパートの風呂の狭さをなめたらいけない。俺でいっぱいいっぱいなのに五月雨ちゃんもとか無理なのよ。

 

 

「五月雨ちゃん。その申し出は嬉しいよ」

 

「ホントですか! 私頑張って提督のお背中流しますね!」

 

「あぁ、でも今日はやめておこう。この風呂場を見てごらん。でら狭いのよ。二人なんてとてもじゃないけど入れないのさ。それに、ね? 俺は確かに君達の上司的な立場なんだろうけど背中まで流してもらう必要はないんだぞ?」

 

「いえ、それだけじゃありません! だって、提督と私はふ、夫婦じゃないですか! 背中ぐらいいつでも流しますよ!」

 

 

 え、カッコカリって現実世界でも適用されるの? ぐっと両手を胸の前で握り締めて有り余る気合を表現している五月雨を横目に五月雨が帰るようにとまだ開けてある居間のドアの向こうでくつろいでいた大淀に視線を向けた。

大淀はこちらの視線に気が付いて微笑みすがすがしいまでのサムズアップを俺に送ってくれた。

あ、適用されるんですね。よく見りゃ龍田の頭の上のわっかがちょっと早めに回転してる。やっぱ、あれ龍田の心情を表に出す装置なんじゃないですかね。だって、さっきまで欠片も動いてなかったじゃないかあのわっか。天龍はクイズの答えがわからなくてうんうん唸っていた。

 

 

「それに提督。私達ケッコンして4年も経つんです。今まで出来なかった分ちょっとでも夫婦っぽい事もしてみたいな~なんて」

 

 

 やめて。その赤らめた頬が俺の理性を削っていってしまう。しかし、ここは踏ん張りどころだ。ここは五月雨に諦めてもらうんだ。普通に考えて五月雨を風呂場に入れたら色々と我慢できないもん。色々と!

それでなくてもこの場に3人も他に人がいるんだもん。我慢しよう。

 

 

「五月雨ちゃん。今日はこの風呂場の狭さだし諦めてくれ。後日機会があればその時は頼むよ。な?」

 

「大丈夫ですよ提督! 村雨からそういった場合の対処方法を聞いてきましたから!」

 

 

 え、村雨からのアドバイス? あの村雨からのアドバイス? 超気になるんだけど。え、どんなびっくりドッキリな対処方法なの? あの村雨だよ?

 

 

「……………………いや、五月雨ちゃん。その対処があったとしても今日はやめておこう」

 

「提督。そんな顔で断っても説得力がありませんよ。でもまあ、五月雨ちゃんも今日はやめておきましょう? 私の手料理の前に五月雨ちゃんでおなかが一杯になったらやるせないですからね」

 

「うーん。提督と大淀さんがそこまで言うなら今日はやめておきますね。でも、提督とお風呂に入るの楽しみにして待ってますね!」

 

 

 五月雨はそう言うと背伸びをして俺の頬にキスをしてきた。キスをしてきた。ほっぺにちゅーである。やわらか。一瞬だったのにやわらか。まじか。やわらか。

キスをして離れた五月雨はふふっと笑って居間に戻っていった。

なんだよ。俺の嫁がめちゃくちゃ大人な女な件。なに? あれも村雨からのアドバイス? 

はえーどちらにせよだ。この歳までこんな経験の無かった俺にはかなり心臓への負担がきつい。バックンバックンいっとるがな……恋愛クソ雑魚ナメクジすぎんだろ。

 

 えぇ……少なくとも提督LOVE勢筆頭戦艦金剛はこれ以上の火力を秘めていると考えると俺、自分の艦娘達に会ったら死ぬんじゃね? 心臓発作で死ぬよこれ。つか、提督LOVE勢は金剛だけじゃないという恐怖……

いや、まだ全員が全員設定どおりの性格をしているとは限らないし五月雨はケッコンしてるから特別という可能性もある。そうそれだ。五月雨は特別。これでいこう。あいやでも、龍田はケッコンもしてないのに割と俺とスキンシップを取ってきてたな……あの子ケッコンお断り勢じゃなかったか? 天龍LOVE勢のはず。なぜだ……

 

 あーーーーまあ、とりあえず、考えるのは後にして風呂に入ろう。あの子ら待たせるのも悪いしチャッチャと入って出てしまおう。でも、いつも以上にしっかり洗おう。夏だし。女性が居るのに風呂に入ってまだ汗臭いとか絶対ドン引き案件だろうし。

というか、なんか俺が掃除したときよりも心なしか風呂場が綺麗なんだけど。風呂場キラ付け? 艦娘パワーで掃除したら綺麗になるのかそれとも妖精さんパワーなのか。

 

 正直部屋に入った時は本棚へのツッコミでスルーしてたけどコタツ机の上とか大淀の頭の上とかに沢山の妖精さんがくつろいだり走り回ったり飛び回ったり好き放題してたし。

よくある二次創作じゃ妖精さんが話したりしてたけど俺は今のところ彼女達の声を聞いてないんよね。やっぱあれか。よくある提督適性が低いと姿は見られるけど声は聞こえないとかそういう類の話なんだろうか。

 

 つか、一緒に風呂に入ってキャッキャと遊んでいる彼女達の声が聞こえないのがどうにも気持ち悪い。こんだけはしゃいでいるのに音が聞こえてこないというのがある種ホラーだよこれ。

しっかし、一人手に乗せてほっぺたを触ってみると非常にやわっこい。赤ちゃんのほっぺたに近い物質らしい。

 

 

「君らは喋れないのかい?」

 

「! …! っっ! ?」

 

「あー口をパクパク開いてるところを見ると喋れないわけじゃないのか。そーなると俺の提督適性、提督レベルが低いのが原因と考えるべきか。それとも二次元と三次元の壁なのか。そもそも声だけじゃなくて君らが発する音が全部聞こえないところを考えると次元の壁という線が濃厚という事になるのかなぁ」

 

 

 妖精さん達は俺に向かって口の開閉に加えて身振り手振りと何かを伝えようと必死に動いているが何一つ伝わってこない。中には手旗信号で言葉を交わそうとする猛者も居たけど俺が手旗信号を知らないがゆえに全く伝わらない。悲しみ。

まあ、なんで声が聞こえないのかは後であの子らに聞いておこう。

意思疎通が出来るようになれば秋刀魚が捗る。羅針盤で運ゲーなんてものがなくなるかもしれない。

意思疎通が可能になれば2-4ストレートクリア出来るかもしれない。

意思疎通が出来れば大型建造で大当たりを一発で引き当てられるかもしれない。うはー夢がひろがりんぐ!



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3話

私は見ました。バッチリ見てしまいました。

五月雨ちゃんが提督の頬にキスするところをです。まあ、私だけじゃなくて龍田さんもがっつり見てましたけども。

龍田さんなんてキスを見た瞬間に顔を真っ赤な茹蛸状態にして、ついでに頭上にあるわっかも同じぐらい真っ赤に光らせて高速回転させている。少し可愛い。

あのわっかは龍田さんの心の状態をそのまま表すんだよ! と明石が前に教えてくれたのはいつの事だったかしら。

しかし、あっちの世界では回転こそしていてもゆっくりで動いているのかわからないぐらいだったし光ったりもしていなかった。

 

 向こうでの龍田さんはまさに艦隊これくしょんでの龍田の設定通りの性格をしていたがこちらの世界に来たとたんに今までは見せてこなかった様々な表情を表に出している。

それに今戻ってきて真っ赤な顔を両手で包み込み「ああぁぁぁぁぁ……」と悶絶している五月雨ちゃんもいくら姉妹艦の村雨ちゃんからアドバイスを貰ったからといってあんな大胆な事をする子ではなかったはず。

ちなみに一番大胆な事をしているんじゃないかって言うのが天龍さん。確かにキスというのはインパクトとしては大きい。しかし、この部屋に入ってから天龍さんはずっとクッションの上から動かずに大したアクションを取っていない。そしてこのクッションの上から動かないと言う点が味噌である。

 

 あのクッションは私もこの部屋に来たときに一番最初に抱きつきました。何せ布団の次ぐらいに提督の匂いが染み付いている品なのですからね。えぇ、この部屋に来たときにすぐ抱きしめました。もちろん、一緒に来た自衛隊の方は何事かと私の事を怪訝な顔で見てきましたが無視です。

あの瞬間は本当に幸せでした。こっちに来てから長い間我慢をしてきたこの体の全体に提督の匂いが行き渡っているかと思うと……げふんげふん。

そんな幸せが詰まったクッションの上で体を捩っている天龍さんはおそらく提督の匂いを楽しみつつ自分の匂いをクッションに擦り付けているのではないかと思われます。犬ですね。あの耳の艤装は実は犬の耳だったんでしょうか。

 

 そうするとあのクッションの匂いは提督と私と天龍さんのブレンドスメルという事になるのでしょうか。

少し残念ですね。提督と私だけがよかったのですが……少し黒い感情が芽生えそうです。

そんな感じで黒くなっていた私をよそに五月雨ちゃんをちらちらと見ていた龍田さんが意を決したように五月雨ちゃんに話しかけた。

 

 

「ねぇ~五月雨?」

 

「うぅ~……なんでしょうか龍田さん」

 

「そのねぇ~? て、提督のね? そ、そのねぇ~?」

 

 

 先ほどまでの龍田さんよりもさらに顔の赤みが増しわっかの回転数もぐんぐん上がっていっています。

甲高いモーターの音が先ほどよりも大きくなっていますし扇風機の強並みの風が私達の体を叩いてきます。

そんな龍田さんの様子から天龍さんは何か気が付いたらしくニヤニヤしながら口を開きました。

 

 

「どうしたんだよ龍田、お前らしくねぇ。提督のほっぺたはどうだった? って素直に聞きゃ良いじゃねーか」

 

「うぅ……」

 

 

 これである。こちらの世界では天龍型の怖い方とか言われているらしい龍田さんがこれである。

自分で五月雨ちゃんに聞こうとして結局恥ずかしさに負けて言葉に詰まっていた所に天龍さんから言おうとした事を言われて赤面してしまう龍田さんが先ほどまでの五月雨ちゃんと同じように真っ赤な顔を両手で隠している。こんな姿を晒していたらどっちも天龍型の可愛い方になっていまうではないですか。

 

 

「そ、そうですね。提督のほっぺたは時間も時間ですしお髭が少し伸びていてチクッとしました。けど、そこがまた愛らしいというか愛おしいというか」

 

「ふ、ふーん。そうなのねぇ~……」

 

「それに心が凄く満たされて幸せな気持ちで轟沈しそうです。私ここまで幸せな気持ちになった事は一度もありませんでした。やっぱり提督は凄いお方なんですね!」

 

 

 羨ましいなぁ。クッションで幸せいっぱいになっていた私や天龍さんより幸せですってオーラを五月雨ちゃんから溢れんばかりに放射されている気分です。

天龍さんもそれを感じ取ったのか先ほどよりも強めにクッションを抱き寄せました。

龍田さんのわっかはついにプスプスと音を立てて回転数を鈍らせ始めました。

 

 ふふふ。しかし、私にはまだ手があります。

部屋に最初に入り掃除洗濯をして晩御飯の準備を行いました。そう。晩御飯の準備です。

用意したのはしょうが焼きです。最初はカツレツを作ろうと思ったのですが足柄さんに「カツは私の魂よ! 先に提督に食べさせたら許さないんだから!」というありがたいお言葉を頂いたのでやめにしました。

しょうが焼きも男性には大人気だと鳳翔さんと間宮さんからアドバイスを頂いているので問題ないでしょう。アドバイスをもらう時にお二人特製のお漬物を渡されました。明日の朝ごはんはこのお漬物に合うものにしないとお二人に怒られてしまいます。

まあ、お二人のお漬物はとても美味しいので私としてもプラスしかない取引でした。Win-Winというやつですね。

 

 折角晩御飯を用意したんです。提督にあーんの一回二回ぐらいの役得があってもいいはずです。

手料理を食べてもらえてあーんまでするとなるとご褒美三昧のような気がしますが誤差です。

手料理は提督だけでなく他の3人にも振舞いますし目をつぶってもらいましょう。

少しドキドキしてきました。提督に美味しいと言って頂けるでしょうか……鳳翔さんと間宮さんからは及第点というお言葉を頂きました。

料理上手なあのお二人がこれなら提督に出しても大丈夫と言ってくれたんです。自信を持ちましょう。

提督がお風呂から上がったら台所へ行って最後の仕上げをして出来立ての料理を食べてもらいましょう。ちなみに提督が猫舌だという情報は既に入手済みです。重要ですね。

さて、そろそろ提督がお風呂から上がるようなので準備をしましょう。

 

 

「ねぇ。大淀?」

 

「なんでしょう?」

 

「さっきからずぅっと気になっていたのだけどぉ~貴女が連れてきた妖精さんはどこに行ったのかしらぁ?」

 

 

 急に天龍型の怖い方にならないで欲しいんですけど……

立ち上がって台所に向かおうとした私の背後に立って肩を掴み耳元に顔を寄せてきた龍田さんが今まで聞いたことがないような低い声で話しかけてきました。

そして、ここでの私の妖精さんと言えば艦隊司令部施設の3人になるはずです。勿論提督と一緒に入浴中です。さらに言えば入浴中の提督の様子を逐一報告してくれるかわいい3人組でもあります。

えぇ、勿論やましい気持ちはありません。提督がお風呂で溺れたりのぼせてしまったら大変ですからね。他意はありませんとも。

しかしながら、やはりと言うべきかのぼせていないかどうかは提督の体や様子をしっかりと確認する必要があります。ですから、不可抗力から色々な情報が入ってきてしまうのは致し方ないというものです。

 

 

「龍田さん。この件は帰ってからお話するという事でよろしいでしょうか?」

 

「……わかりました。絶対ですよぉ?」

 

「勿論。提督に誓いましょう」

 

 

 この場はこれですませてもらおう。正直練度で言えばこの中では私が一番低いですからね。ちょっとした事で負けてしまいます。

この場で一番練度が高いのはケッコンしている五月雨さんなのは勿論のこと。最初期からいる天龍さんと龍田さんはケッコンしていない状態では最高値。途中から戦場に出られるようになった私はそれよりも一歩後ろといったところです。

私たちの提督はなるべく平均的に育てていくタイプなので一度差が付くとなかなか追いつくのが難しいです。早く私も練度最高値になっていつでもケッコン出来るようになりたいです。提督? 私最大練度になりたいです。

そして、そんな密約を龍田さんと交わしている間に提督がお風呂から上がってしまい居間のドアを開けてしまいました。おしかったなぁ……

 

 

「お先。いつもよりも風呂場が綺麗になってたおかげで風呂にいつもよりも気持ちよく入れたよ。ありがとう。掃除したのは大淀? それとも妖精さん?」

 

「お風呂を掃除したのは妖精さんですね。私は指示を出しただけです」

 

「ほー、やっぱ妖精さんは凄いんだな」

 

 

 提督が妖精さん達の頭やほっぺたをよしよしと撫でていきます。……妖精さんに部屋の掃除を頼んで私がお風呂の掃除をすればよかったです。

部屋の掃除をして提督の好みを把握できたのはとてもよかったですがやはり即物的な報酬も欲しかったです。天龍さんも頭を撫でてもらっていましたし五月雨さんなんてキスもしていました。

龍田さんはどうだったかわかりませんが私は眼鏡を触られただけという……これはいわゆるレギュレーション違反というやつでは。

どうせ提督お迎え組だった龍田さんだって提督とのふれあいを楽しんだはずです。

私も提督とイチャイチャしたいんですけど。したいんですけど。これはもうあーんを必ずやってイチャイチャしないと溶けます。

明日には向こうに行くわけですからね。今日中にイチャイチャしないと私の番がいつになるかわかったもんじゃありませんし……

 

 

「提督。晩御飯にしますので座って待っていただけますか?」

 

「ん? 風呂入らないのか? あー。男が入った後だしお湯はりなおす時間があるから先に晩御飯って事?」

 

「もう。そんなわけないじゃないですかぁ~。むしろ、ごっほ。いえ~なんでもありません~」

 

「……私たちが入ってから晩御飯にすると流石に時間的に遅すぎますからね。私たちは晩御飯を食べてから入ります。それに明日の予定についても提督にお話ししないといけませんから」

 

「あーそういやその話もあったな。わかった。んじゃま、先に晩御飯にするかー。何か手伝う事あるかい?」

 

「いえ、もうすぐ出来るので提督は座って待っていてください」

 

「しかし、今どきは準備を女性に押し付けるとだな」

 

「いいんですよぉ~提督は私たちに世話を焼かれるために存在してるようなものなんですからぁ~。天龍ちゃん?」

 

「ん? あぁ、ほら提督ここ座ってろ。このクッション座りやすいしテレビも見やすいぞ。五月雨こいつの横で見張っとけ」

 

「わかりました!」

 

「いや待て天龍。俺がここに座るのはいい。お前と五月雨が横に座るのもまあいいとしよう。だが、もたれかかるな。額をこすり付けるな。角がいてぇんだよ! それのせいで手元がぶれて演習と遠征ができねぇから」

 

 

 やっぱり天龍さんは犬ですね。と、それはともかくギルティです。

おそらく画面の向こうでは血の涙を流す同胞達が沢山いることでしょう。そうです。実は向こうからこちらの様子はノートPCに備え付けてある内蔵カメラから見えているのです。それに提督はマイクを外付けでつけているので音声もあちらに丸聞こえです。巻雲ちゃんは別に冗談で画面の向こうから見ていますと言っていたわけじゃないということですね。

 

 提督がお風呂上りのパンツのみの状態で遠征確認したり、熱唱しながら演習を行ったり、余所見をしながら戦意回復作業に努めたり、出撃して初戦大破した子が出ると「どんまいどんまい。次がある。うちの子は強いんだ大丈夫大丈夫」とその子と自分に言い聞かせるように独り言を呟いているのも見て聞いています。

他にも提督が私達の装備を載せかえるときに「誰が持ってるんだぁ」とため息混じりに私達一人一人の装備を調べている時もそうです。いつも私が持ってますと装備を持っている子が声を上げますが提督には何も聞こえていないため悔しい思いをしていたものです。

しかし、こちら側に来れたのですから次からは私達から誰が持っているか教えることが出来ます。

少なくとも装備の件に関してはすぐに改善が出来そうです。

 

 と、これ以上のことは帰ってから皆さんと考えましょう。

今は提督の晩御飯の用意です。もし、ここでおいしくないなんてお言葉を頂いた日には私大淀は解体申請も覚悟の上です。

下ごしらえはバッチリ。後は焼くだけです。私はわさびを少しだけ入れるのが好きなので提督にもそのおいしさを楽しんでいただけたら幸いなのですが……向こうから見ていたときの提督の食生活を分析する限り好き嫌いはあまりない様なので大丈夫だとは思うのですがどうも不安になりますね。

もうすぐご飯も炊き上がりますし一緒に台所に来た龍田さんが作っていたお吸い物ももうすぐ出来上がるみたいです。

ちらりと提督たちの方を見てみると演習と遠征が一段落ついたらしい提督を真ん中に三人揃ってテレビのクイズ番組に見入っていました。

あんなに提督にくっつくだなんてうらやまけしからんというやつですね……提督の目の前に置いてあるノートPCからこちらの様子を見ている秘書艦の狭霧ちゃんがどんな顔をしているのか気になりますね。

 

 というか、このまま料理を持って行ったら確実に提督から離れた席に座ることになるのでは?

提督は当然上座です。その隣は五月雨ちゃん。そしてその正面に天龍さん龍田さんが座るはずです。

そうなってくるとテレビの前を陣取るわけにはいかないので台所側に座らないといけません。

遠い……提督が果てしなく遠い……こんなに遠くてはあーんなんて夢のまた夢……い、いちゃいちゃしたかった……もうかくなるうえは夜這いをかけるしかないのでは? 他の人がいるとかもう関係ないのでは? 

 

 

「大淀さんは提督の隣でいいですよ? 晩御飯作ってくれましたし明日の話も隣同士のほうがしやすいですよね?」

 

「五月雨ちゃん!ありがとうございます!」

 

 

 五月雨ちゃんマジ天使。こちらの人はとても使いやすい言葉を作るものです。

いやーホント五月雨ちゃんは天使ですね。私だったら絶対にこんな提案できません。あ、もしかして正妻の余裕というものを見せ付けられている状態なのでしょうか?

いえ、五月雨ちゃんは絶対にそんな黒い感情無しに私に席を譲ってくれたはずです。天使ですね。

 

 さて、五月雨ちゃんを心の中で拝みながら配膳してしまいましょう。

提督にはでんと座ってもらってというか立たせません。今まで私達を育ててくれた恩をやっと返せるようになったんですからね。どんどん甘やかしていきます。

 

 

「お茶ぐらい注ごうか?」

 

「ダメですよぉ~提督は何もしないでご飯が並ぶのを待っていてくださいねぇ~」

 

「ま、たまにはいいじゃねぇか提督。龍田みたいな可愛いやつに世話やかれるなんてそうそう無いことだぞ? おとなしくしとけって。な?」

 

「……確かにそうだな。お前達みたいな可愛い子に世話やかれるなんてメイド喫茶にでも行かないと一生無いと思ってたしな。今後あるか無いかだしありがたく世話をやかれるか」

 

「それでいいんだよそれで! オレ達のトップなんだからでーんと構えとけ提督!」

 

「そうですよ提督! でーんと構えといてください! って、あわわわわー!」

 

「あ、あっぶな! 五月雨大丈夫か?」

 

「はいー……提督が支えてくれなかったらペットボトルを机の上のお料理に落とすところでした……ありがとうございます!」

 

「ペットボトルを落とすどころか五月雨自身が料理にボディプレスしそうだったけどな。まあ、怪我が無いようでなによりだわ」

 

 

 一瞬天使が悪魔になりそうでしたが流石提督です。あの一瞬で動ける一般人というのはなかなかいないと思います。

日ごろから体型を崩したくないと軽くではありますが筋トレをしてきた成果というものでしょう。毎日画面の向こうから応援していたので間違いないと思います。

さて、配膳が完了しました。まず提督に食べていただきましょう。

さあ、いきますよ大淀。私は連合艦隊の旗艦も務めたんです。このくらい出来なくてどうしますか。いきますよ。いくんです。さあ、私動いて! あーんとしょうが焼きを提督に食べさせてあげるだけです! 早く動いて私の右腕!

 

 

「ん、大淀の作ったしょうが焼き美味いな。ん~わさびの香りが少しだけするな。こういうの初めてだけど好きだわ。うんうん。美味しい。白米とも凄く合う。いいなぁこれ」

 

「ん~美味しいですね! 私はお料理が出来ないので尊敬しちゃいます!」

 

「提督。こっちのお吸い物も美味いぞ。これは龍田が作った味だな」

 

 

 あぁ……私はここで死ぬんですね……あーんは出来なかったですがここまで提督に褒めていただいたんです。嬉しくて心臓が張り裂けてしまいそうです……手が震えて上手く箸が持てません。顔が……顔がにやけてどうにかなってしまいそうです。

 

 

「お、こっちのお吸い物も美味しい」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「だろ? 龍田は料理が上手いんだよ。オレの自慢の一つだな」

 

「いい妹だな。俺の妹も俺と一緒で料理なんて毛ほども出来なかったからなぁ。そういう妹は羨ましいわ」

 

「そうだろそうだろ? もっと褒めても良いんだぜ」

 

「もう! 天龍ちゃん!」

 

 

 私がトリップしてる間に私のしょうが焼きの話が終わってた件について提督と話し合いがしたいのですが?

もっと私のしょうが焼きも褒めてもらいたかったです。提督の腕に抱きついて頭撫でてもらいながら褒めてもらいたい……はぁ……

まあ、仕方が無いと諦めましょう。食べてもらえて少しでも褒めてもらった。今はこれで満足しておきましょう。

 

 

「なんてこった。しょうが焼きのタレを吸ったキャベツも白米に合ってめちゃくちゃ美味いじゃあないか! いや、まあ分かってたことではあったんだが予想より合う。いい感じのしんなり具合だ。大淀はいい奥さんになるな。……いや、すまない。こういうことはセクハラになるんだったっけか。忘れてくれ。美味いって部分だけ覚えててくれればいいからさ」

 

 

 これはもうケッコン秒読みなのでは?

セクハラ? どんとこいなのですが? 提督からのいい奥さんになるなという台詞にはきっと大淀とケッコンしたいという願望からうまれt……龍田さんから物凄く殺気が飛んできます。だから、急に怖い方の天龍型にならないでと……

それはそうと提督はもうすぐ食べ終わりそうですね。提督はあまりおかわりをする程食べるタイプでもなかったはずなので私も早く食べて明日の件の話をしなくてはいけません。

大丈夫。我々はなんだかんだ言っても人ではありません。多少の早食い程度なら健康に影響が出るといった事はありません。

というか、このぐらいの早食いでどうこうなっていたら戦艦や空母の方々はどうなってしまうのでしょうか……

 

 ご飯も食べ終わり食器も下げて人心地といったところで提督の方へ向きます。

というか、折角五月雨ちゃんに席を譲ってもらったのに食事中に明日の話をすることが出来ませんでした……その点は五月雨ちゃんごめんなさい。

 

 

「提督。それでは明日の話をしましょうか」

 

「そうだな。よろしく頼むよ」

 

「では、結論から申し上げます。提督は明日より海上自衛隊に入隊し艦娘専属提督という新たな役職に就いていただきます。今勤めている会社も辞めていただき、住む場所もこのアパートから明日の正午には我々艦娘が住んでいる無人島に建設された鎮守府に移っていただきます」

 

 

 提督の顔を見ずにここまで言い切りましたがどんな顔をしているのでしょうか。怒っていないといいのですが……




11/23 誤字修正しました。報告ありがとうございます。


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4話

 大淀の作った美味しい晩御飯を食べ終わり人心地ついていたら割とびっくりな爆弾を投下されましたまる。

今の仕事を辞めれるのは大変ありがたい。でもその代わりに自衛隊に入隊ですかぁ……正直俺もオタクだ。自衛隊が活躍するアニメもよく見ていた。ゆえに憧れたこともある。

しっかし、調べれば調べるほど聞けば聞くほど俺には絶対耐えられないものがそこにあるのよね。

俺自衛隊に入隊なんてしたら2時間掛からないで弱音を吐く自信があるわ。むりむり。

でもだ。彼女たちが住んでいる無人島に行くって事はそういった訓練は無い可能性もあるよね。神通が怖いけど。

 

 まあ、あれこれ考えてもね。俺の隣で話を始めた大淀も。目の前に座ってずっと下を向いている龍田も。その隣で腕を胸の前で組んで目を閉じている天龍も。そして、まっすぐと俺の目を見てくる五月雨も。

この部屋に居る子たちだけでこれだ。きっと鎮守府にはこれ以上の思いで溢れてるんだろうなぁ。

俺にそれを背負えと? 今までのほほんと流れ流され生きてきた俺に女の子……今何人居るんだったかな。確か150人近いよな。それを背負えと? 

 

 

「ちなみに何だけどさ」

 

「勿論提督には拒否権があります。例え提督がこの話を断ったとしても私達は今まで通りゲームの中でずっと提督の指示に従い戦っていくつもりです。断ったからと言っていきなり鎮守府から全員居なくなるという事はありません。その事だけは頭の中に入れて置いていただければ幸いです」

 

「あ、うん。わかった」

 

 

 そんな覚悟に満ち満ちた目で言わんでくれよ。俺が悪いことしてるみたいじゃん。

ちなみに俺が声を出した瞬間に龍田が少し強張ったのが視界の端に映った。この龍田も良いけど俺は自信たっぷりの龍田の方が好みです。なんかいじめてるみたいで心が痛い。

 

 

「ふむ。で、ちなみに何だけどさ」

 

「え、はい」

 

「明日は何時出発? ほら、もう21時前じゃん? 朝4時起きですとか言われたら明日の準備とか寝る支度とか急がないといけないじゃん?」

 

「あ、えっと……」

 

「提督。明日は、6時にはここを出ます。だから、えっと5時ぐらいに起きればいいと思います。朝ごはんには大淀さんが間宮さんと鳳翔さんから預かった漬物も出すとおっしゃっていたので楽しみにしておいてくださいね!」

 

「ほー漬物かぁ。俺はおばあちゃん子だから漬物にはうるさいぞ」

 

「あの……提督?」

 

「うん? あぁ……勿論行くさ。皆待ってんでしょ? ゲームの企画開発者とか原画担当の人の所じゃなくてただ育てただけの俺に会いたいってのはやっぱり提督冥利に尽きるというかね。やっぱり、俺もオタクだしリアルの艦娘に会いたいといいますか……」

 

「もう……締まらないですねぇ」

 

 

 背負う覚悟とかは無いけど会いたいよね。無責任なのはわかってるけどリアルな艦娘に会えるんだったら会いたいよね。

ただ問題があるとすればこの4人だけでこの可愛さな訳だ。あと約140人近く居る可愛い艦娘に会って平然を保てるのかが一番のネックよ。

4人なら許容範囲内。妹と接してるぐらいの気持ちで居られる。と言うか居る。居るしかない。

そう。ここである程度慣れておかないとたぶん俺は死ぬ。だって、金剛って容赦なく抱き着いてきそうじゃない? アニメでもそうだったもんね。死ぬ。

もう四捨五入すれば三十路の俺だけど女性と付き合ったことなんてない。手だって母親と妹ぐらいしか繋いだことないピュアッピュアな男の子よ?

あー……さっきのほっぺにちゅーは夫婦なのでセーフ。

 

 

「って、え? 5時起き? はっや。え? 大淀は何時起きになるんだ?」

 

「提督。艦娘は一週間ぐらいなら眠らなくても平気な作りをしているので何時に起きるという以前に本日は寝ませんよ? 一晩中提督の護衛を行います」

 

「護衛って……いやまあ、遠征でも普通に48時間とかあるもんな。海のど真ん中で寝るわけにもいかないしそういう体の作りでもおかしくないか。あと、自分を物みたいな言い方をしない」

 

「す、すいません」

 

「許す」

 

「まあ、そんな理由もあって最初は川内型を派遣しようって話があったんだけどな。川内の奴を五月雨と大淀と神通だけじゃ抑えきれないからだめだって長門達に言われてよ。あいつ自身も絶対に提督見たらハッスルするからダメだと思うって珍しく真顔で答えてたな」

 

 

 ハッスルするってなんか卑猥よね。しかも、川内とかいう美人と可愛いの中間の子がいうと余計にさ。

まあ、それに川内型は3人だろ? 天龍型より多いとかこの部屋に入らない。絶対に入らない。

川内はかわいいうるさい。神通かわいいかわいい。那珂ちゃんうるさいかわいい。絶対ご近所迷惑だわ。

 

 

「それじゃあ、オレは風呂に入っちまうぞ? それとも五月雨が先に入るか?」

 

「いえ、天龍さんから入ってもらって構いませんよ」

 

「待て天龍。先に机をそっち側に出させてくれ。流石に机を出しっぱなしだと布団敷けないからな」

 

「別に提督だったらオレの裸見てもいいんだぜ?」

 

「遠慮しとく。五月雨ちゃんが怖いからな」

 

「えっ……はっ! そうですよ! 天龍さん! ダメです!」

 

「冗談だよ冗談! ほら、提督は座ってろよ。向こうに行くついでにオレが置いてきてやる」

 

 

 結局天龍がイケメンスマイルを放ちながら机を持っていってしまった。

天龍の裸……見たいに決まってるんだよなぁ……ただ、嫁である五月雨ちゃんもそうだけどギギッ……ギギギ……と錆びた自転車のブレーキが出すような音を奏でる龍田のわっかがちょっと怖かった。茶化して断る以外にこの難局は越えられないと俺の本能が叫んでいた。

やっぱりこの龍田にもそういう天龍ちゃん大好きみたいなノリあるんじゃん。いいよ。それでこそ龍田だ!

 

 机が無くなって多少広くなった居間に布団を敷く。

万年床状態だった俺の布団は大淀が綺麗に洗濯してくれていた。てか、よく乾いたね。夏の日差し様様って事でいいのかしら。大淀が何時からウチに居んのか知らんけども。

とは言うもののだ。一人暮らしの家に布団がそう何組もあるわけが無い。友人が泊まりに来る用に1組余分にあるぐらい。はてさてくまったくまった。

なんて腕を組んでいたら肩に乗っていた妖精さんが俺の頬をつついてから私に任せろと言わんばかりに勢いよく胸を叩いてむせてた。

 

 

「おいおい。大丈夫か妖精さん」

 

「!!!!!!!」

 

「大丈夫です! らしいです!」

 

「あ、やっぱり艦娘は妖精さんの声聞こえてるのか」

 

「はい。えっと、明石さんが言っていたんですけど妖精さんの言葉は周波数が違うから普通の人間には聞こえないって言ってました」

 

「あーそういう感じなのね」

 

「提督。妖精さんに何か話があるときは近くに居る艦娘に頼んで通訳してもらう形でお願いします」

 

「なるほどね。了解。さて、それで妖精さんはこの布団問題をどう解決するんだ?」

 

 

 そうやって話を振ると妖精さんはふふふと不敵な笑みを浮かべて自分の服の下に手を入れた。

その次の瞬間、服の下から1組の布団をどるんと抜き出した。しかも、妖精さんサイズでは無く普通の人間用のサイズの布団である。

 

 

「は?」

 

「妖精さんはね~? 服の下に色々収納出来るみたいなんですよ~」

 

「なんじゃそれ。物理法則ガン無視かよ。いや、まあ浮いてる時点でなんでもありみたいなもんか……とりあえず、さす妖って事でいいか。うん。いい」

 

「布団は確保出来ましたけど4枚も並べるとぎゅうぎゅうですね……」

 

「エアコンが効いてるとはいえこのギチギチ感は絶対暑い」

 

 

 てか、俺ここに寝れない。色んな意味で絶対寝れない。もう全員が風呂に入った段階で台所の横に布団敷くか。

ドア開けて冷房届くようにしてもらえば問題ないだろ。……たぶん。

 

 

「ふむ。俺はあっちに布団敷いて寝るか。この際男女が近くで寝るのはしょうがないにしてもこの状態は余り健全では無いからな。あと絶対暑い」

 

「暑いのはわかりました……ただ、提督を台所の下で寝かせるというのは承服しかねます」

 

「わかりました! 提督と私は夫婦です。ので! 窓提督私で寝れば問題ないのでは?」

 

「提督が窓際というのは襲撃されたときに……」

 

「襲撃て……アニメじゃないんだから。いやね、五月雨ちゃん。俺は出来る事ならここで寝たくないんだ。あぁ! 違う! 龍田! 君達艦娘が嫌いとかそういう話じゃないんだ。俺はね」

 

 

 と、理由を言おうとした所で「おさきー」と烏の行水ということわざがぴったりな早さで天龍が風呂から上がってきた。

ドライヤーを使わなかった上にタオルでの拭きも甘かったのが見ただけで分かる程の水も滴るいい女具合。

暑いもんな。わかる。と同意してしまいそうなタンクトップにホットパンツという布面積ギリギリの服装。

てか、そのけしからん胸部装甲のせいで腹が丸見えじゃねぇか! へそ!!!!

 

 

「あちー。なあ、提督ーアイスとかねぇのか?」

 

「……あるぞ。冷蔵庫に入ってるから適当に食っていいから」

 

「おー流石提督太っ腹だな!」

 

 

 くるりと回れ右をして冷蔵庫を目指して歩き出す天龍。と、その天龍の髪を乾かそうとタオルを持った龍田が部屋を出て行った。

 

 

「俺は、俺はね。あんなのが近くに居たら寝れない自信があるんだ……」

 

「天龍さんの服装は確かに大胆ですからね。でも、どうしましょうか……う~ん……」

 

「ん~もう妖精さんに良く寝れるお薬でも出してもらいましょうか?」

 

「あ、そんなのもあんのね」

 

「はい。服用して5分ほどで確実に寝ます。更に付け加えれば起きる時間も指定できる優れものです」

 

「ほーそりゃすげぇ。それで、副作用は?」

 

「一度服用すると時間まで何をされても絶対に起きません。四肢をもがれても水に沈められても絶対に起きません。それ以外の副作用は基本的には市販で売られている睡眠薬と同じですね」

 

 

 何をされても起きない。ひらめいた!

いやいやいや、今回薬飲むの俺だから。てか、絶対に起きないとか怖すぎひん?

これは妖精さんにクーデターを起こされたら全員寝ている間にやられる。静かなるクーデターですわ。

 

 

「俺、睡眠薬って飲んだこと無いんだけどあれって朝起きるとき頭がもやもやするって聞いたんだけど」

 

「そこは妖精さんですから。時間になったら完全覚醒です。と、いうわけで提督。おやすみなさい」

 

「はいっ!?」

 

 

 大淀がにこりと笑った瞬間に目の前に大玉の飴の様な形をした玉を持った妖精さんが俺の口に飛び込んできた。

驚いて妖精さんを噛み切りそうになったがそこは堪えて妖精さんの足を摘んで外に出した。

しかし、その妖精さんの手には先ほどの玉は無く俺の喉を何かでかいものが通過していく感覚だけが残る。

どういうことだと大淀と五月雨の方を見たが、大淀は妖精さんにぐっと親指を立てているし五月雨はただただ目を見開いて驚いていた。

先ほどの説明であった睡眠薬を飲まされたとすれば5分後には俺は夢の中という事になる。起きる時間は指定していないから一体いつ起きるかもわからない。大淀は後でおしおきだな。

 

 

「五月雨。俺の体は頼んだ」

 

「は、はいっ! 五月雨にお任せください! 何があろうとも提督のお体は五月雨が守りますね!」

 

 

 大淀にアッパーをかましていた五月雨は俺の声を聞くと笑顔で振り返ってそう答えてくれた。

そして、俺のまぶたは頑張って閉じないように力を入れてみたがまるで抵抗なんて無かったといわんばかりに容赦なく閉じ、同時に意識も吹き飛んだ。絶対5分も経ってないぞこの野郎。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「もう! いきなり飲ませるのは危ないじゃないですか! のどに詰まったらどうするんですか!」

 

「しかしですね五月雨ちゃん。おそらくあのままだと提督は薬を飲むのを渋って時間ばかりかかってしまいました。最終的には飲んでいただく予定でしたし結果オーライという事で」

 

「もうっ! 次こういう事するときはちゃんと言ってください!」

 

「大丈夫です。もうこういう事をする予定は今の所ありませんからね」

 

 

 後ろに倒れて後頭部を壁にぶつけようとしている提督を急いで抱き寄せてから大淀さんに抗議します。

提督だってちゃんと言えば分かってくれたはずです。何せ私達の提督なんですから!

それよりも提督を胸に抱いていると心がぽかぽかしてきます! あぁ、私の大切な人が腕の中に居るというのはこんなにも素晴らしいものなのですね! 帰ったら白露達にも教えてあげなくちゃ!

 

 

「あれ? 提督はもう寝ちまったのか? てか、五月雨それいいな。オレにも抱かせてくれよ」

 

「……う~」

 

「ちょっとぐらい良いじゃねぇか。どうせ鎮守府行ったら唯一のケッコン艦として色々出来るんだろ? 色々とさ。だったら今少しぐらいいいだろ? 龍田のやつが風呂から上がったら多分寝るまであいつに取られちまうしな」

 

 

 提督を手放すのは物凄く寂しいですが確かに独り占めというのは少し悪い子だったかもしれません……

天龍さんだって提督の事が大好きなはずです。ずっと触れ合っていたいはずです。

でも、龍田さんがお風呂から上がったら平気で提督さんとの触れ合いを譲るつもりみたいです。

たぶん私のお姉ちゃん達は絶対にそういうこと出来ないんじゃないかなーって思います。

 

 

「わかりました。私は提督をお迎えに行く時もそれなりにスキンシップ取れましたしここは天龍さんに提督をお任せしますね?」

 

「おう。任せとけ。よっしゃ、提督! 世界水準を超えた膝枕をしてやるよ」

 

 

 天龍さんに提督を預けると嬉々として膝枕をしながら提督の頭を撫で始めました。

天龍さんはよく暁ちゃんや響ちゃんに膝枕をしているからこういったことは得意なんだと思います。

ただ、天龍さんはそのおそろしくおおきなきょうぶそうこうのせいで提督の顔はろくに見えていないんじゃないかと……だってアレ私の頭ぐらい大きいですし……提督は今のところ私を、私だけをケッコン艦としてくれていますがこれから直に私達と触れ合っていくわけですし……ああいった武器を備えている人たちに提督が取られないか本当に心配です。

提督が皆さんと仲良くするのは私もすごく嬉しいのだけど、それでも一番はやっぱり私がいいなぁーってそう思っちゃいます。

 

 それから30分程で龍田さんがお風呂から上がってきて天龍さんから提督を慎重に預かり自分の膝の上に提督の頭を乗せました。

それで、龍田さんの次に私がお風呂をいただいて、改めてこのお風呂じゃ提督と二人だと狭いなーと実感し、早く提督の近くに行きたかったのでいつもより早めにお風呂から上がって提督の右隣の布団を陣取り、夜間警戒として寝ない大淀さんに挨拶をして眠りにつきました。

ちなみに左隣は龍田さん。一番窓際に天龍さんが眠ることになりました。

 

 

「それじゃあ、大淀さん。今晩はよろしくおねがいしますね?」

 

「はい。皆さんはしっかりと休んで明日に備えてください。おやすみなさい」

 

 

 明日はついに提督を鎮守府にお招きする日です。大規模作戦の時の様な緊張感で頑張ります!

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 徐々に体が覚醒していくという感覚がハッキリと伝わってくる。

あぁ俺生きてる。五月雨ちゃんありがとう。と心の中で感謝の言葉を述べながら起き上がろうとしたが体が動かない。

やっぱり副作用が人間用じゃなかったんじゃないの? と不安になって来たが首を動かして左右を確認して謎が解けた。

右腕に五月雨、左腕に龍田。これじゃあ動かない訳だ。何せ彼女達の力はゴリラを凌駕する。

彼女達と初めて会った昨日体験してるし間違ってないと思う。徐々に腕に鈍痛の様なものを感じ始めているのも証拠の一つといえよう。

しかし、これではトイレにも行けない。幸い朝に起こる男性特有のあの現象は起こっていないので薬が何かしたと考えられる。俺だってまだ枯れてないはずだもの。

 

 

「んんっ。大淀ー助けてー」

 

 

 咳払いをしてから大淀に助けを求めると扉を開けて大淀が顔を覗かせた。

 

 

「あ、提督。おはようございます。少し待ってくださいね」

 

 

 そういうと大淀は肩に乗っていた妖精さんから笛を一つ受け取った。

もしかして総員起こしやるの? その笛をこのまだ朝か夜か分からないような時間に鳴らすつもりなの?

という俺の心配をよそに大淀は少し息を吸ってから笛に思い切り息を吹き込んだ。

 

 音が聞こえない。あまりにも大きな笛の音で俺の耳がどうにかなってしまったという話ではなく音が聞こえない。

が、俺に絡み付いていた二人と窓側で行儀良く寝ていた天龍には音が聞こえているらしくもぞもぞと動き始めた。

 

 

「はーい。皆さん起きて下さい。時間です。顔を洗ってからご飯にしましょう」

 

「おはようございます……ていとくぅ……」

 

「五月雨ちゃんがまた寝そう。龍田が俺の腕から離れないというかさっきより密着度が増した気がする。ほら、肩におでこを押し付けないで早く離れて。太ももで俺の手を挟むな! それだけはホントだめ! てか、トイレが俺を呼んでいるんだ。頼む龍田。駄々をこねないでくれ! 天龍!」

 

 

 龍田が意外にも朝に弱いことを知り天龍がやはりいい奴だと再確認してからトイレを済ませ既に布団が妖精さんの服の下に仕舞われコタツ机がセットされた部屋に戻ってきた。

朝はシンプルに白米にみそしると鳳翔と間宮さん特製漬物だけらしい。

 

 

「今日はこの後船に乗って移動があります。確か提督は船に乗ったことが無かったと記憶していますし、食べ過ぎて気持ち悪くなるという可能性もありますから」

 

「なるほど。それは確かにそれはありえる。船か……吐かなきゃいいけど……お、漬物美味い。ご飯が進んでしまう。折角の大淀の心遣いが……」

 

 

 結局朝5時から茶碗2杯の白米を平らげてしまうという大淀の心遣いを無駄にする俺であった。

なんもかんも美味しすぎる漬物が悪いんだ……島に着いたらもっと食べさせてもらおう。




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5話

 そこそこに膨れてしまった腹を気にしながら寝巻きを脱ぎ捨て外出用の服に着替える。

持って行く荷物の準備はちっともやれずに寝かされてしまったのだが大淀と五月雨ちゃんがある程度の日用品をかばんに詰めておいてくれたらしい。

となると下着を見られたのか……まあ、この歳になってしまうとパンツを見られようが特に何か感じるものでもない。しょせんパンツである。

3枚500円とかのセール品なんだけどダサいとか思われなかっただろうか……とか思ってない。

 

 

「さてとそろそろ出る時間だよな? もう自衛隊の人達は到着してたりする? してるんなら待たせるのも悪いし出るか」

 

「そうですね。そろそろ出ましょう」

 

「あーちょっと待て提督。オレから出るからちょっとそこで待ってろ」

 

「ん? あぁ、いいぞ」

 

 

 天龍の耳型艤装が小さな駆動音を立てながら若干動いたのを見て玄関の外に誰か居るんだなと素人ながら察して天龍に道を譲る。

まあ、昨日の今日だし普通に考えれば菊池さんもしくは自衛隊の人が時間だと教えに来たのが妥当な考えだし俺の肩を掴んでいる龍田の表情もいつものニコニコ顔だから問題ないと思っている。

実際、天龍が開けたドアの向こう側には菊池さんが立っていた。

 

 

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 

「おはようございます。ぐっすり寝たと言えば寝れましたね」

 

「それはよかった。それではそろそろ時間ですので外に待たせてある車まで行きましょうか」

 

 

 菊池さんの先導で昨日と同じ車まで全員で移動する。

昨日と違って大淀が追加になった分自衛隊の人が一人減っていた。が、それは同じ車に乗る自衛隊の方が減っただけで車の方が一台増えていた。

増えた車の後ろの席はスモークガラスで中にどんな人が何人乗っているのか確認できなかったけど運転席の人は普通に確認できた。

うん。なんか物凄く物々しい雰囲気だなと。

 

 

「私が言うのもなんですが彼らの事はあまり気にしないほうがいいかと。自衛隊にも我々の様な艦娘と友好的であるべきという考えと危険物と判断してすぐに処分すべしという考えがありまして。彼らは後者側の人間という事になります」

 

「あーわかります。そういう感じなんですね」

 

「理解が早くて助かります。まあ、彼らだって出来る事なら彼女達と敵対はしたくないでしょうし予定通りに行程をこなしていけば特に問題は起こらないはずです」

 

 

 なんともフラグめいた台詞を言いながら菊池さんは右手を頭の後ろにまわして困ったように笑っていた。

まあ、艦娘処分派の彼らの考えも分からなくはない。いきなり、二次元のキャラクターが三次元の世界に現れました。仲良くしましょう! とか言われても次元を自由に行き来出来る生き物による侵略活動とか考えも不思議じゃないからね。多分殲滅力ならディ○ボロモンにも引けを取らないだろう。

 

 艦娘って見た目可愛いし天使達の集まりみたいな所があるけど、その実、二足歩行の軍艦だからね。なんだろう。こんな言い方するとメタ○ギアの親戚っぽい。

俺を持ち上げた腕力からも分かるように見た目通りの少女然とした華奢な身体能力とはいかないだろうし、天龍や龍田が普通に展開している耳型艤装やわっか艤装も然り。

あれ風呂上りには装備されてなかったから艦娘か妖精さんの不思議パワーで出し入れしている可能性がある。

ゆえにこの子達がその気になればすぐにでもゲームで見慣れた主砲副砲魚雷その他の艤装を装備して戦えるんだろうなと予想できる。

 

 そんな人智を超越した科学の塊が目の前で大手を振って歩いてたらそりゃ警戒するよねって話だわな。

しかも、こちらの世界に現れた理由が「提督に会いたかった」とか信じられるわけがない。

そんなよく分からない生き物が提督を迎えに行くから町に出るとか絶対許可したくなかったし、したくもなかっただろうに。

でも、艦娘の機嫌を損ねるわけにもいかないという事であの人達なんだろう。

多分、昨日も周りを観察する余裕がなかっただけで居たのかもしれない。なんなら俺が家に帰った後もずっと。

え、大淀が言ってた護衛ってもしかしてあの人達が俺に何かするかもって事で言ってたのか?

 

 

「提督? どうした暗い顔して。酔ったか?」

 

「いや、大丈夫。まだ酔ってないぞ」

 

 

 隣の座席に座った天龍が下を向いていた俺の顔を覗き込みながら心配そうに尋ねてきた。

 

 

「あーならあれか。後ろの連中か? あれなら心配すんな。オレらに喧嘩売るような度胸はねぇよ。自衛隊の装備じゃ艦娘の装甲は抜けない。駆逐艦ですらキズ一つ付かなかったぐらいだしな」

 

「キズ一つ付かなかった?」

 

「おう。武蔵が自分達の耐久性能を知りたいとか言って自衛隊に要請して、最初は拳銃から最後は砲撃まで喰らっててな。そんでもって、それを見てた清霜と朝潮がいつの間にか武蔵と一緒にちょろちょろとな。自衛隊も戦艦は無理でも駆逐艦ぐらいはってやってはみたものの全く装甲が抜けなくてな。衝撃はあるみたいなんだがダメージ自体はなし」

 

「明石さんと妖精さんが言うには~艦娘にはバリア機能が備わってるから現存している兵器では艦娘にダメージが通らないらしいわよ~」

 

「まあ、それでも核ぐらいなら何とかなるらしいけどよ。前提としてこの国には核が無いし人的被害も尋常じゃない。現状無害の連中に核使って国民に無理を強いるわけにはいかないからな」

 

「……まあ、武蔵の性格はよく分かってるつもりだからそういう行動に出そうだなってのもわかる。清霜は憧れの戦艦の真似して。朝潮は……まあ俺を守りたいとかそういう理由だろうな。しかしだ。そんな轟沈しそうな事しないで欲しかった。俺の心臓止まるかと思ったぞこのやろう」

 

「許してやれよ。あいつらだって提督を守りたいって理由でそういう事したんだからよ」

 

 

 だからと言ってである。何気なくゲーム画面開いて武蔵を探したら居なかったとかなったら俺は死んでしまう。

大切に育ててきた艦がいきなり居なくなるとかもう引きこもり案件である。運営に連絡して連絡が返ってくるまで仕事はサボると思う。辛すぎて働ける自信が無い。

清霜だって朝潮だって居なくなったら泣くし鬱に陥る自信がある。

 

 

「しかし、あれな。よく自衛隊も艦娘を攻撃したな」

 

「後ろ付けて来てる奴らを焚きつけたらすぐだったらしいぞ」

 

「よくそれで後ろの連中も諦めないな……」

 

「上からの指示ってのもあるんでしょうけど~まあ、あの人たちも最悪提督を捕まえてどうこうって話してたらしいし~?」

 

「えっ」

 

「まあ、提督にはもう妖精さんも付いてるしオレ達も離れる予定が無いから安心してろって、な?」

 

 

 任せとけと豊満な胸を叩く天龍とうふふ~と笑う龍田の姉妹に挟まれながらちらりと後ろを見ればなんとも無表情な男性と目が合った。

目が合うって事は向こうも俺の事を見ていたという事になる。まあ、確かにだ。艦娘云々を横に置いておいても土曜日のあさっぱらから護衛の様なワンチャン拉致出来たらして来いみたいなよく分からない任務に駆り出されたらあんな顔になるよな。

分かる。俺もさっきからブーブーなってる携帯を見たくない。

朝6時だぞ? うちの上司は一体いつ家に帰って一体いつ出社してるんだ。

てか、うん? あれ、よく考えてみたら俺仕事の引継ぎを全くしないで会社を辞めるって流れになってるよね?

普通に社会人としてダメダメなのでは? どうしよ。もう港見え始めてるんだけど。今更会社に戻してくださいとは言えないよな。後でメールで引継ぎ内容を送るしかないかなぁ。

 

 

「今度はウンウン唸りだしてどうしたんだよ」

 

「いやな。上司とか同僚に俺の業務の引継ぎを全くしないで出てきてしまったからそれをどうすべきか考えててな」

 

「あぁ、それなら港に着いてから軽く、鎮守府に着いてからしっかりと我々に説明していただければこちらで対処しますよ。流石にこれから会社に戻るとなると後ろの連中にどやされるだけでなく鎮守府で貴方を待っている艦娘達にも何を言われるかわかりませんからね」

 

「すいません。お手数おかけします」

 

「いえ、これも仕事ですから。お気になさらず」

 

 

 しかし、そうは言ったものの口頭のみでしっかりと説明できるだろうか。

仕事の資料は全部会社だし絶対抜けとか出る。まあ、抜けた分は後で聞いてくるだろうし数時間後の俺に対応は任せよう。

と、無責任な考えに行き着いたと同時に俺達が乗っている車も港に到着した。

とは言うもののこの時間は漁師の皆様が絶賛お仕事中。港とは言っても端も端の何とか港の一部ですと言えなくも無い所に停車した。

停車したすぐ横の海には漁船に酷似した船が一艘だけ停泊していて、よくよく目を凝らしてみて見れば妖精さんが何やら慌しく走り回っているのが分かる。

 

 

「妖精さんが沢山居ますね」

 

「その様ですね。実は私達がここに船を泊める時も手伝ってくれたのですが、いかんせん我々には妖精さんの姿が見えないので独りでに帆やらロープやらが動き回っている様にしか見えずちょっとした恐怖体験の様な物をさせてもらいましたよ」

 

「それは……なんだかすいません」

 

「いえ、とても面白い体験でしたよ。さて、それでは一度前職の引継ぎの件と今後の予定を今一度確認したいのであそこの小屋に向かいましょう」

 

「わかりました」

 

 

 菊池さんの案内で昔網を手入れをしていたであろうボロボロの小屋に入り、中に用意されていた椅子に座って机を間に挟んで向かい合った。

ちなみに五月雨ちゃん達は小屋の外で待機。なんでも鎮守府から更に艦娘がここに来るらしいのと菊池さんが男だけで話したい事があると入室を断ったのもある。ちなみに俺の護衛は妖精さん5人。

菊池さんは「とりあえずは」と言って「箇条書きでいいので前職の引継ぎ内容を書いてください」と紙を渡してきたので本当に箇条書きで書いて渡してしまったけど引継ぎってこんな簡単でいいのかな。マニュアル無し、口頭のみの説明でどのぐらい仕事が出来るんだろうか。

自衛隊の人って体だけじゃなくて頭の出来も超一流なんだろうか。

なんて、くだらない考えに耽っていると菊池さんが今度は分厚い紙束を俺の前に出してきた。

 

 

「……こいつは?」

 

「鎮守府に着任するにあたってのお願いみたいなものでしょうか。国としてはやはり艦娘よりも国民を第一に考えないといけませんので」

 

「なるほどぉ……」

 

「分かります。こんなに分厚い紙束読みたくありませんよね。そうですね……端的に言えば艦娘達を日本の領海内から出さないでください。艦娘達を許可なく海上に出撃させないでください。艦娘達を利用して戦争を起こさないでください。それが守れるのであれば生活に必要な物資は日本が提供します。といった事が記されています。まあ、鎮守府に着いてから読んでいただければ構いません。艦娘の方々には一応こちらからも説明はしていますが貴方からの指示程絶対的な効力はありません。読み終えたら艦娘の方々に念押しの方お願いします」

 

 

 ちらりと読んだけど既に国民の中から俺の存在は消されているらしい。まあ、うん。

そりゃそうよね。なんたって艦娘の提督だもん。いわゆるコラテラル・ダメージというものに過ぎない。致し方ない犠牲というものだ。

てな具合に俺にとってもネタに走れる程度の認識。縛りだってさっき菊池さんが言った所が主だったもので携帯電話を使用するなとかそういったものもなさそうなので問題はない。なんなら前職より給料がよくなる始末。課金額が増えてしまう危険性。

 

 まあ、彼らからしてみたら未知の生物の管理を任せるのだからそれなりの手当てはだしておいてお金でも縛っておこうっていう考えもあるのかもしれない。

どのような場面においてもお金というものはやはり強力な鍵の一つだからね。人間はお金大好き。

 

 

「それともう一つ伝えておかなければならないことがあります」

 

「なんでしょうか?」

 

「貴方には基本的に1年中鎮守府に居てもらう事になるのですが……その時我々自衛隊は基本的には鎮守府に居ません。鎮守府にいる人間は貴方一人になります。ですので、なにか問題が起きた際に我々はすぐに助けには行けないと思っていてください」

 

「わかりました。何も起こらない事を祈っておきます」

 

「……そうですね」

 

 

 今の間はなんだったのだろうか。こいつ理解が足りないなみたいな反応だった気がしてちょっと不安になるじゃん。

いや、まあ確かにアマ○ン・リリーみたいな所に男一人という非常に肩身の狭い状況になるのは俺だって不安だ。艦娘の子達って目のやり場に困る格好をした子が盛り沢山だからね。

提督の視線分かってるんだからね? なんて言われた日には鎮守府から男が居なくなる自信がある。

というか俺本当に大丈夫だろうか。女約150人に対して男1人とかもう完全にヒエラルキー的には一番下よ。ちょっとお腹痛くなってきた。

なんて顔をしかめた俺を苦笑いして見ていた菊池さんが口を開こうとした瞬間に小屋の扉を叩く音が聞こえて、菊池さんは一度半開きになった口を閉じて咳払いをしてから入室許可を出した。

 

 

「失礼します。お話の途中で申し訳ありません」

 

「いえ、話はちょうど終わった所だったので問題ありませんよ」

 

「五月雨ちゃんどうしたんだ?」

 

「はい! 鎮守府からお迎えの子達が到着したので提督に是非挨拶して頂きたいなと思って!」

 

「おぉ、誰が来たんだ?」

 

「それは会ってからのお楽しみ、です!」

 

「でしたら、話も終わりましたしもう船の方に向かいましょうか」

 

「はい、わかりました。じゃあ、五月雨ちゃん行こうか」

 

 

 ニコニコとまぶしい笑顔の五月雨ちゃんが俺の手を引いて到着したばかりの艦娘の所に連れて行ってくれた。

そこに居たのはスク水ゼッケンの潜水艦二人組み。

ツインテールかと思いきや実はトリプルテールだった青紫髪が特徴の伊19に金髪おさげに眼鏡装備の伊8だった。

二人とも足元に水溜りが出来ている所を見ると今しがた海から上がったばかりなんだろう。髪なんかも水に濡れて頬やおでこに張り付いている。

そんな二人は近づいてくる俺と五月雨ちゃんに気が付きイクはこれでもかと破顔していき、はっちゃんはポーカーフェイスを維持しようと頑張っていたが良く見れば口元が緩んで微妙なニヤケ面になっていた。

そして、あろう事かイクは「てーとくなのねー!」とびしゃびしゃと海水を撒き散らしながら俺に向かってダイブしてきた。

 

 潜水艦の艦娘を見たわけだけど駆逐艦より小さいとは思わなかった。俺の胸ぐらいの高さに顔がある。

しかしながらその胸部装甲は天龍や龍田にも引けを取らない程豊かで実りあるものだという事を主張するかのようにばるんばるんしてる。トランジスタグラマーここにあり。つまり空で言えばド○フである。ナ○メアお姉ちゃんもこのぐらいのサイズ感なのだろうか。

とまあ、現実逃避していても目の前に迫り来る豊満なおっぱいからは逃げられない。フライングボディプレスかな? 艦娘のジャンプ力どうなってんの?

 

 ぼかぁね、ただの一般人なんだぞぉ? この角度で喰らったら死ねる。ちょっと後ろに下がって喰らおう。

そう思って右足を後ろに下げた瞬間にイクが俺に抱き付いてきた。

ぐぎぎ、ろくに鍛えてない人間に小学生サイズの人間が飛びついてきてふらつかないわけが無い。

踏ん張り切れないと思った矢先後ろから五月雨ちゃんが俺の背中を押して支えてくれた。

いや、危なかった。背骨へし折れるかと思ったわ。

 

 

「てーとく! おはようございますなのね!」

 

「グーテンモルゲン、提督」

 

「おはよう、二人とも。さっそくだけどイク。悪いんだけど降りてくれないか?」

 

「嫌なのね! もう少しだけこうしてていいでしょ? イクも寂しかったんだからね?」

 

「……少しだけだぞ」

 

「こういう事しても怒らないからてーとくの事大好きなのね!」

 

 

 そう言ってイクは更に足に力を込めてより強固なだいしゅきホールドにしてから頬を俺の首元にすりすりとこすりつけてきた。

これやばい。イクの体が柔らかすぎてやばい。イクのツインテールがさっきから顔に当たって痛くてやばい。イクの圧迫感が凄くてやばい。イクのびしょびしょのスク水がやばい。イクの匂いが良すぎてやばい。後ろから支えてくれる手の強さが増してやばい。真正面に居る龍田の能面みたいな顔が怖くてやばい。

もう色んな思いで一杯一杯になっているとおずおずとはっちゃんが近づいてきた。

 

 

「提督。はちもやってもらってもいいですか?」

 

「はっちゃんって意外とはっきり言うのね」

 

 

 はい。おしまい。とイクの背中を叩く。少しぶーたれたものの抱っこちゃん状態は解除してくれた。

そして、案の定服はびちゃびちゃになって肌に張り付いてきていた。

もうどうせならとやけくそ気味にはっちゃんに向かって手を広げれば、はっちゃんは広げた手の中に納まり抱きしめてきた。

イクのでたらめな大きさに惑わされがちだがはっちゃんだって大きい。ものすんごく大きい。

なんて考えてたらちょっと怖い顔の眼鏡のお姉さんが声を掛けてきた。

 

 

「提督。そろそろお時間です。船に乗船してください」

 

「あ、悪い。じゃあ、はっちゃん。おしまいね」

 

「あ……はい。わかりました。また鎮守府でお願いしますね」

 

「イクもお願いするのねー!」

 

「まあ、時間が合えばな」

 

「なら毎日でもやってもらうのねー!」

 

 

 と、ぶんぶんと腕を振って喜びを表しながらイクは海に飛び込んで行きそれに続いてはっちゃんも海に飛び込んで行った。

にしても潜水艦がお迎えとはちょっと予想してなかった。てっきり長門とか金剛辺りが出張ってくるもんだと思い込んでたわ。

 

 

「てっきり戦艦辺りが来ると思ってた」

 

「流石に海の上を人の形をした生き物がなんの動力も無しに移動している光景は何とも言い難いですから。海の中を自由に移動できる潜水艦の方がこの辺りでは一番護衛に向いているんです」

 

「あーなるほど。確かにそうか」

 

 

 隣で荷物の積み込みを手伝ってくれた自衛隊の人から搬入リストを受け取りながら大淀が答えてくれた。

うむ。そりゃそうだよね。水の上を走れるのは金○番長か列○王ぐらいなもんだ。

 

 

「それでは、我々はここまでです。鎮守府までお気をつけて」

 

「あ、すいません。お世話になりました」

 

「これからが大変だと思いますが頑張ってください」

 

「はい。何とかやってみようと思います」

 

 

 最後に菊池さんと握手する。俺と艦娘全員が船に乗り込んだのを確認して妖精さん達が船を動かしていく。

菊池さん及び自衛隊の皆さんの敬礼を受けて俺の乗る船は港からどんどん離れていきついには鎮守府を目指して出港した。




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6話

どんぶらこどんぶらこ、と船に揺られて1時間。

この時間だとまだ漁師の皆様が沖で漁をしている真っ最中らしく少しだけ遠回りのルートで鎮守府まで向かうらしい。

 

 

「提督……大丈夫ですか?」

 

「割とだめくさい……」

 

 

 我輩、車でも数分乗ったら酔うレベルの乗り物酔いなのでござるよ……

さっきの車は大丈夫だったから今日は船も大丈夫な気がする! って心の中で油断しきってたけど案の定ダメだった。

多分、車に関しては昨晩のスペシャルな睡眠薬がまだ残ってたとかそんな理由だったのかもしれない。

船べりにだらしなく頬を乗せてダウンしている俺の背中を五月雨ちゃんが優しくさすってくれる。手持ちにひ○んマシン01が無いのが残念で仕方が無い。

 

 ちらりと下を見てみれば水面ギリギリまで浮上したイクの姿が見えた。

俺の事が心配そうな顔で泳いでいる。仰向けでこの船と同じ速度で泳げるとかやっぱり艦娘はすげーや。

見る感じ手足をべらぼうな速度で動かしているといった様子は見受けられない。どちらかといえば頭の先からつま先までまっすぐ伸ばして……何て言ったかな、あのイルカみたいなぐねぐね泳ぎ。ドルフィンキックでいいんだっけか。

水泳とかで飛び込んだ後に少しだけぐねぐねと泳いでるあれ。あれの仰向け版。

正直、あれ難しいよね。昔も昔、学生時代に挑戦したときは水中なのに陸に打ち上げられた魚みたいだなと友達に大笑いされた事がある。ぐねぐねが出来なくてビクンビクンって感じになってたらしい。

その点、イクは綺麗にぐねぐねしてる。流石だなと思いましたまる。

 

 

「イクのぐねぐね綺麗だな……」

 

「ぐねぐね……? あぁ! アレはバサロキックって言うらしいです! 本来はこう、腕もまっすぐ伸ばしてぐねぐねと泳ぐんですけどイクさんは……やってませんね」

 

「やっぱり人より力が強いから水の抵抗を減らすとかそういう考えはないんだろうなぁ。なんだかイルカみたいだな」

 

「イルカ」

 

 

 というよりも腕を伸ばす云々よりもあの胸は絶対に水の抵抗を受けまくりだと俺は思うんだ。

だってあんなに出っ張ってんだぜ? さっき腕を伸ばした五月雨ちゃんを見てしまったから余計にそう思ってしまうんだ。いや、俺はそんな五月雨ちゃんが大好きなんだけどね?

 

 そんなくだらない考えに耽っていると俺達の会話を聞いていたらしいイクが急に速度を落として船の後ろの方へ行ってしまった。イルカって言われるのは流石に潜水艦的には許せなかったのだろうか。

なんて焦っていると突如船の横で何かが爆ぜた。

いや、正確には何かが勢いよく海中から飛び出してきたらしい。

その何かは飛び出してきたついでに俺と五月雨ちゃんに向かって大量の海水を浴びせてきた。

まあ、何かって言うかイクなんだけどね。ゾー○リンクみたいに回転しながら勢いよく海中から飛び出したらしい。

 

 

「ぬわっ! つめてぇ!」

 

「きゃっ!」

 

「イクはおちゃめなイルカだからぁ観客に向かって水を飛ばしちゃうのね! てへぺろなのね!」

 

「ちくしょうこの野郎。可愛いから許す!」

 

「むふふ~」

 

「だが、こいつが許すかな!」

 

 

 実は俺と五月雨ちゃんに近づいてきていた龍田も一緒に濡れ鼠になっていた。きゃって悲鳴を上げたのは龍田だったりする。

張り付いててエロい。張り付いててエロい。大事な事だから2回でも3回でも言っていこう。

ちなみに五月雨ちゃんもしっかりと濡れ鼠になってる。

五月雨ちゃんが声を上げなかったのはびっくりしすぎて声を出す暇なくひっくり返ってしまったからに他ならない。

五月雨ちゃんに手を差し伸べて起こしてあげるついでに、ついでによ? 邪な考えなんてちっとも無いけど、五月雨ちゃんの濡れた服をちらちらと見ていて思ったんだが、これだけ派手に濡れたのに透けないもんなんだなぁ、と。多分、普段はもっと濡れるだろうから濡れても透けない素材とか使ってるんだろう。

とは思うけど、これだったら未知の技術使いまくってるんだし水をはじく服にした方がいいんじゃないかなって俺は思いましたまる。

 

 なんて考えてたら、龍田が船べりに右足を乗せて何もない空間から薙刀を取り出し海の中のイクに視線を向けていた。

ふむ。やっぱり艦娘特有のとんでも能力で艤装の展開が可能らしい。

アニメ仕様みたいにガシャコンガシャコンと装備していく方式じゃなかったのはちょっと残念。アニメでの艤装装着方法は割と嫌いじゃない。むしろ好き。ロマンがあって大変よろしい。

まあ、この子達の装備の出し方はどこぞの英雄王ぽくてこれはこれであり寄りあり。

 

 そういえば龍田って改二になって無条件先制対潜が出来るようになったけどイクは大丈夫なのだろうか。

案の定、龍田が居たとは思っていなかったイクはやばいと言う顔をして船の下に隠れてしまった。

そうよね。わかるわ。龍田無表情だもん。ニコニコもしてないんだもん。怖いよね。

それから、「もう……」と息を吐いてから龍田は薙刀を仕舞って服をパンパンと何度か叩いた。

するとビシャアと服から水が落ちてきて龍田の着ていた服が濡れる前の状態に戻っていた。ほう瞬間脱水&乾燥ですか。たいしたものですね。

 

 

「五月雨ちゃんはあれやらないの?」

 

「服間違えちゃって出来ないんです……」

 

「艦娘の服には種類があるのかい?」

 

「はい。出撃とか遠征用に濡れてもすぐに乾かす事が出来る服とそれ以外の時の普段着用があるんです。けど……私間違えてすぐに乾かせる服を昨日着てしまって……今日は濡れても乾かせないんです……」

 

「あぁ、なんか安心した。そのドジっ子具合こそ俺の五月雨ちゃんだわ」

 

「私は喜んでいいのでしょうか……」

 

 

 うぅ……と涙目になっている五月雨ちゃんはかわいい。異論は認める。だがかわいい。

というか、服の種類分ける必要ある? 脱水乾燥が瞬時に出来るとか最強の服だと思うんだけど。臭いとかどうなんだろか……付かないなら完全無欠の服じゃん?

 

 

「提督はきっとこの乾く服最強じゃんとか考えてると思うんですが、龍田さんが着てるあの服って確かに汚れとかはすぐに落ちるんですけど……その臭いとかが落ちなくて……臭いっていうのは向こうの世界に無かった概念なのでこっちの世界ではあの服をずっと着てるとか出来ないんです」

 

「なるほど。臭いは落とせないのか。まあ、そうよなぁ。ゲームから現実世界に匂いを届けるシステムがあったら神過ぎてゲーマー全員昇天してしまう」

 

 

 ちなみに俺の艦これには匂いシステムが導入されたと言っても過言ではない状態になったわけだな。神アプデじゃん。

ちなみに今は物凄く磯臭い。いい匂いとかそんなのは吹き飛んでる。三人とも海水を頭から浴びたんだから当然と言えば当然。

俺と五月雨ちゃんは濡れてるからこその磯臭さが凄く、龍田はしっかり乾燥済みだけど乾燥したからこその磯臭さが凄い。瞬間乾燥のある意味欠点だな。

 

 

「とりあえず、タオルだなタオル。ある場所わかるか?」

 

「はい。ちょっと待っててくださいね!」

 

「んで、龍田は何用があって俺らの方に来たん?」

 

「用が無いと提督に近づいたらダメなのかしらぁ?」

 

「いや、そんな事ないさ」

 

「うふふ。まあ、今回は用があるんだけどねぇ。大淀が船長室に来てほしいんですって」

 

「おっけ。じゃあ、五月雨ちゃんにも船長室に来てほしいって伝えてきてくれる?」

 

「りょーかいしました~」

 

 

 どっこいせと立ち上がり服から水を絞りながら船長室に向かう。

まあ、小さくはないけどそこまで大きな船でも無いから数歩で船長室に着くんだけどね。

船長室の扉をノックして中からの返事を待ってから扉を開ける。

 

 

「お呼び立てして申し訳ありません、提督。もう少しで鎮守府に到着するので着替えをと思いまして」

 

「着替えってやっぱりあの白い軍服?」

 

「はい、そうです。夏に着るのが白色の第二種軍装。冬に着るのが黒色の第一種軍装と覚えていただければ大丈夫です」

 

「あー着るのはいいんだけどこれからもずっと仕事着として着続けないとダメ……とか?」

 

「うふふ」

 

「龍田にしてもイクにしても君らそうやって可愛く微笑んでれば俺をごまかせると思ってるんだろ? 正解だよこのやろう!」

 

 

 美人はずるいと愚痴りながらも大淀から服を受け取り、丁度よく船長室に現れた五月雨ちゃんからタオルも受け取りつつ妖精さんが作り出した簡易更衣室に入り体を拭いてから着替えを済ませる。

ちなみに磯臭さは着替えている最中に妖精さんが吹き飛ばしてくれた。原理は分からない。流石妖精さん。

んで、妖精さんにも変な所は無いか確認してもらったが大丈夫というジェスチャーを頂いたのでカーテンを開けて簡易更衣室から出る。

ちょっと気恥ずかしさを感じながら船長室を見渡すと天龍と龍田の二人も船長室に来ていたらしく目が合った。

 

 

「おぉ、似合ってんじゃねぇか」

 

「うふふ~かっこいいですよぉ~」

 

「そ、そうか? 全身真っ白な服なんて着たこと無いから少し恥ずかしいんだが……」

 

「いえ! 提督って感じがして私はいいと思います!」

 

「はい、ビシっとしていて素敵ですよ」

 

「あまり褒めないでくれ……恥ずかしいって言ってんだろ……」

 

 

 男の照れ顔なんて誰得なんだよ……

しっかし、ホント真っ白だな。こんな服着て食事とか出来る自信ないんだけど。絶対に零してシミを作る自信がある。

海軍と言えばカレー。死んだな。ぷっぷくぷーってバカにされる未来しか見えない。もしそうなったら俺は石油のアルカナとして目覚めてうーちゃんにぷっぷくぷーするしかない。

まあ、あれだな。カレーとかシミが落ちにくそうな物を食べる時は上着脱ごう。それしかない。

 

 俺の照れ顔を見てホクホクしていた大淀がおもむろに右耳に手を当てた。何か着けている感じはしないけど多分艦娘パワーか何かで無線でも繋いでるんだろう。

何度か頷いて「わかりました」と返事をした大淀が俺の方に向き直った。

 

 

「提督。あと、30分ほどで鎮守府に到着します」

 

「あと、30分か……緊張してきた」

 

「ふふ、そう身構えなくても平気よ~。ずっと貴方と一緒に戦ってきた仲間が待ってるだけなんですからねぇ~」

 

「そうは言うがな、龍田。正直な所、俺は君達だけで割とキャパオーバー気味なんだ。俺の心臓は持つだろうか……」

 

「そうしますと……提督着任のパレードはどうしますか? 艦娘全員で海上に整列してお出迎えの予定なんですが……提督、耐えられそうですか?」

 

「え、そんな事予定してたの? 勿論、中止にしたいけどなんか特別な準備とかした? してたのならそれを無碍にするのもなぁ……」

 

「いえ、特には予定していないはずです。強いて言うなら、おそらく全員が気合を入れてめかしこんでる可能性はあります」

 

「…………あーじゃあ、やるか。女性が気合入れてめかしこんでるのならそれは特別な準備だって妹も言ってたしな。でも、海上に整列するのは無し。この炎天下で海上なんて太陽の光が反射しててすごい暑いしな。それに君らがいくら頑丈とは言え日焼けとかはするんだろ? だから、整列はなし。するにしても涼しい建物の中でなら許可するって事で一つ」

 

「わかりました。連絡しておきます」

 

 

 そう言うと大淀は再び耳に手を当てて鎮守府に連絡を入れてくれた。

いや、だって海上に整列ってもうすでに菊池さんから渡された分厚い紙束に書かれていた「勝手に出撃させない」に抵触してるじゃん?

菊池さんも言ってたけどこの子達はホントに俺優先で自衛隊から言われた事は二の次って感じなのかもしれない。

これは……本当に大丈夫だろうか。だって、大淀すら海上に整列するって事に何の疑問も感じてなかったみたいだし何より鎮守府にはしっかりしてそうな陸奥とか鳳翔さんも居るはずなんだ……

勿論すでに許可が下りてるならいいんだ。イクとはっちゃんはそのパターンだろうしね。

でも、今回の事はなんとなくだけど許可は取ってないと思う。サプライズ……いいよね。とか提督の着任なんだから当たり前。ぐらいの気持ちだと思う。

 

 鎮守府に着いたらマジでこの紙束読まないと。

この子達に命令と指示を出せるのは自分だけだとちゃんと認識しなければいけないぽいし……

可愛い二次元の女の子に会えるとかそういう考えだけで鎮守府生活したかった……

 

 

「あ、そうだ。提督。これ舐めとけ。多少は効果あるだろ」

 

 

 そう言って天龍は赤色の袋を俺に投げてよこした。

袋には梅干しと書かれた飴の袋で見ただけで口の中がすっぱくなった。

 

 

「船酔いに効くのかはしらねぇけど乗り物酔いって言えば梅干しだって自衛隊の奴が言ってたのをさっき思いだしてよ。ちょっと探すの手間取って今更感はあるけど無いに越したことはないだろ」

 

「いや、助かる。正直イクのおかげで多少は治まったけどそれでもまだ気持ち悪かったからな。とりあえず、着くまで舐めてるわ。お前らもいるか?」

 

 

 いただきます、と全員が一つずつ飴玉を持っていって舐め始めた。

全員ほぼノータイムで返事するもんだからおじさん少しびっくりしました。何、君ら俺がそういうってわかってたの? 

それと飴を口に入れた瞬間の五月雨ちゃんの顔は脳内HDDに保存は確定ですね。

梅味だもんな。いくらかマイルドになってるとは言えすっぱいもんはすっぱい。

そんな様子をじっと見続けていたら五月雨ちゃんと目が合い、五月雨ちゃんは恥ずかしそうに目をそらした。

俺の嫁は今日も可愛い。とによによしていたら五月雨ちゃんがこほんと咳払いをしてから声を掛けてきた。

 

 

「提督は梅干し食べて顔がきゅっとならないんですか?」

 

「ならないって言ったら嘘になるよな。でもまあ、五月雨ちゃんとは梅干しを食べてきた時間が違うからな。向こうじゃ梅干しなんて無かったろ? その点俺は毎年の様におばあちゃんから梅干しが送られてくるからちょっとやそっとの梅干しじゃすっぱいとすら思わないのだよ」

 

「なるほど……確かに私が食べ始めたのはこちらに来てからですしね。提督のおばあちゃんの梅干し……どのぐらいすっぱいんですか?」

 

「ん~言葉に表すのは難しいな。五月雨ちゃんたちが普段食べてるレベルを確認してみないことにはなんとも言いがたい。まあ、この梅飴ですっぱいと思ってるなら俺のおばあちゃんの梅干しなんて食べたら……そうだな。あまりのすっぱさに口に入れた瞬間に吐き出すレベルかもしれないな」

 

「そ、それは想像しがたいですね……」

 

 

 五月雨ちゃんの顔が真っ青になっている横で飴をバリバリと噛み砕いていた天龍が「梅かぁ……」と呟いた。

 

 

「梅って言ったら大体飲兵衛達が梅酒造るのに持って行っちまって殆ど梅干しを作れてなかったな」

 

「それ酒税法的には大丈夫なのか……?」

 

「ポーラが酒造るのに必要な資格全部取ってたから平気だと思うぞ」

 

「あの子の酒に対する情熱はマジで評価するわ」

 

 

 びっくりなんだけど? ポーラはそこまで行き着いてしまったのか……

てか、そんなに簡単に資格を取れるもんなんだろうか。それとも艦娘なんていう摩訶不思議アドベンチャー相手にあーだこーだ言いたくないし言われたくないからほいほい資格を渡してしまったとかなんだろうか。

まあ、とりあえず俺がポーラに言う事は一つだけだな。駆逐艦の教育にも良くないし造りすぎたら俺権限で資格剥奪。

俺自身あまり酒を飲まないから酒飲み達の気持ちを理解できないってのもあるけど、何事も過ぎたるは及ばざるがごとしって言うしほどほどが一番よ。ポーラが脱ぎだしたら俺困るし。色々困るし。困るし。

 

 

 「資格があるといっても造り過ぎないようにだけは注意しておくかな。鎮守府がいつの間にか造酒蔵とか笑えないからな」

 

「あぁ、それはマジであるからな。ポーラの奴酒となるとなかなかにずる賢いからな……」

 

「この前なんてザラさんからお酒隠す為に駆逐艦の部屋に運んでたものね~」

 

「はぁ~……あいつ当分酒禁止令だな」

 

 

 既に駆逐艦の子に被害が出てたか……お前だってそれが睦月型とか朝潮型の子達だったらもうどう足掻いてもアウトな絵面だからな。

いくら改二が増えてそれなりに大人っぽくなってきたとは言え小さいお子様達に酒ってなぁ。

え、何もうお説教案件って嫌なんだけど。まだ鎮守府に着いてすらないんだぞ?

いや、まあ、もう目と鼻の先にあるっちゃあるんだけどね。まだ上陸してないし着いてない判定よね。

 

 妖精さんがせっせと着港準備をしていくのを横目に口に残っていた三個目の飴を噛み砕いて襟を正す。

五月雨ちゃんも俺の背中に回って肩や背中を軽くはたいてくれた。そして、五月雨ちゃんの「よし!」という言葉を聞いて現場猫を思い出しつつ龍田から手渡された軍帽を被る。

大淀が笑顔で船長室の扉を開けてくれて、一歩その扉の外に出ると外で待たなくてもいいって連絡をしたはずなのに波止場には所狭しと艦娘達が整列している光景が目の前に広がった。

そしてその中から一人俺の方へ一歩踏み出した黒髪美女。

 

 

「提督。お待ちしておりました」

 

「なあ、長門。俺は暑いし外で待たなくてもいいよって連絡させたはずなんだけども……」

 

「はい。確かにその様に連絡を受けました。ただ、私も含めてここにいる艦娘達は全員提督に少しでも早く会いたくて待ちきれなかったのです。どうかその想いに免じて今回だけはご容赦いただけませんか?」

 

「……まあ、数人は出迎えに来る奴が居るかなとは思ってたしな。ただ、一つだけ聞きたいんだけどさ。日焼け止めはしっかり塗ってからここに来たんだよな?」

 

「! 勿論です」

 

「なら良し。海に出てるわけでもないし怒る理由は無いな。こう……恥ずかしくはあるけど俺なんかの出迎えをしてくれた事は嬉しいしな」

 

 

 男のテレ顔再び。いや、ホント誰得?

でもよぉ、こういうの慣れてないんだもん。普通、美人にお出迎えされるような状況に慣れてる一般人とかいる? いやぁ居るわけないんだろ。

改二仕様の美人でかっこいい我らが長門がまっすぐと俺の目を見てそうお願いしてきてるんだ。

これで許さないとかちょっと僕にはできませんね。はい。

確かに世の上司の皆様だったら命令違反とかで怒るのかもしれないけど、俺は寛容な上司を目指そうと思います。

 

 とりあえず、この微妙に揺れ続けている船から降りてしっかりと俺を支えてくれる大地に移動しよう。

なんて考えつつ今日からお世話になる鎮守府に向かって歩みを進めた。



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7話

「長門、提督があと30分ぐらいで到着するらしいわよ」

 

「あぁ、わかった。ならばそろそろ整列させなくてはな」

 

 

 提督の出迎えをすべく身なりを整えていた私と陸奥宛に提督の護衛に向かったはちから打電が届いたらしい。

もうまもなく提督と会えるのだと思うとなんだか胸の奥が熱を持っていくのを感じる。

 

 

「それなんだけど大淀からも連絡が来て海上に整列して提督の出迎えをするのは中止にしますって」

 

「何?」

 

「提督がね? 恥ずかしいから中止にしたいって言ってきたんですって」

 

「ふふ……ならば仕方が無いか。提督の指示ならば中止にしよう」

 

 

 我々がこちらの世界に来てから約1年経つがようやくこちらの世界でも提督と会うことが出来る。

自衛隊に、というよりもこの国からの許可がやっと下りた。

我々は提督に会いたかっただけなのにあれやこれやと条件を付けて「会いたかったら我々に協力しろ」と実験の毎日。

 

 まあ、しかし結果はあの研究者達の顔を見れば一目瞭然だった。

それもそのはずだ。採血しようにも我々の肌には針なんて刺さらないし刃物でも傷がつかない。

触診をしても脈も測れない上に鋼鉄と変わらない硬度の腕を触ったところで医者が一生懸命機械に聴診器を当てている様な状態。

それならば服を脱げと言われ無理やり脱がされそうになった子も居るようだが妖精さんが脱げないように細工をしていてスカートすら捲れない状態になっていた。

 

 妖精さんが言うには「これは全て提督の重い想いから来る不思議パワー」と言っていたが、要するに提督が最初に我々に施してくれる保護機能が我々を守ってくれるらしい。

いの一番にそれを理解した秋雲も「ヒュー!」と言って「とりあえず秋雲達は提督に愛されてるってことだね」と近くに居た駆逐艦達に説明していた。

 

 

「一応全員に出迎え中止って伝えたけど……長門? 聞いてる?」

 

「ん? あぁ、すまない。通達ありがとう。で、陸奥はどうする?」

 

「どうするって言われてもねぇ……どうせ長門だけでも波止場から出迎えようとか思ってるんでしょ? 勿論、私も一緒に迎えに行くわよ。今日は私のお気に入りのいい匂いがする日焼け止め使ってるから提督に匂いの感想貰いたいしね」

 

「ふむ……どうにも陸奥には隠し事が出来ないみたいだな。確かに私一人だけでも出迎えをするつもりだった。いくら恥ずかしいからと言われても提督の出迎えが居ないというのは問題だからな」

 

「ふふ。でも、どうやら私達だけじゃないみたいよ?」

 

 

 ほら、と陸奥に言われ窓から波止場を見てみれば既に数多くの駆逐艦達が集まっていた。

全く……とため息交じりに言葉を零すと同時に横から陸奥が私の頬を両手で挟んだ。

 

 

「ねえ長門。今日ぐらいはもう少し化粧してみない?」

 

「私としてはもう充分してるつもりなんだが」

 

「スキンケアと薬用リップだけして化粧したなんて今時の小学生でも言わないわよ!」

 

「……陸奥は今時の小学生をなぜ知っているんだ?」

 

「そんなものは娯楽室にあるパソコンを調べればいくらでも分かるわよ。ほら、早くそっちの椅子に座って!」

 

「しかし、時間が……」

 

「普段メイクしないから知らないのかもしれないけどそこまでしっかりやらなければ10分ちょっとで終わるわよ。それに長門は元がいいから殆どいじらなくてもいいからもっと早いかも」

 

 

 そう言って椅子に無理やり座らされた私の顔に陸奥が次々に何かを塗りこんでいく。

正直化粧というものは息苦しく感じるからあまり好きではない。と、陸奥にそう言ったら「慣れよ慣れ」と言いながらいくつか化粧品をくれたが結局化粧水ぐらいしか使わずにしまいこんでしまった。

そして案の定その事が陸奥にバレてプリプリと怒られてしまったものだ。

 

 

「はい、おしまい。今日は顔を手で擦ったりしたらダメだからね?」

 

「あぁ、分かっているさ。しかし……やはり化粧というものは息苦しいな。色々と動きが制限されるし、何より提督はあまり化粧をしない女性の方が好みだと言っていたらしいしな」

 

「はぁ……そんなの化粧の事をこれっぽっちも知らない女日照りが続いている男が言った事よ。気にするだけ無駄よ無駄。どうせ提督の事だから間近で見たって化粧してるかどうか何て分からないんじゃない?」

 

「流石にそこまで分からない人でもないだろう。さあ、私達もそろそろ行こう」

 

 

 もう既に提督が乗っている船が目視出来る距離まで近づいてきている。

少しばかり早足で波止場まで向かい他の子達に断りを入れて先頭まで移動していく。

 

 

「ヘーイ! 長門! 遅かったデスネ?」

 

「あぁ、すまない」

 

 

 先頭まで移動すると島風のすぐ後ろ、2番手の位置に金剛型四姉妹が並んでいた。

 

 

「ん? あぁ、なるほどなるほど。そういう事なら仕方が無いと思いマース! 長門はそういうのに興味が無いと思っていたのデスがやはり提督には綺麗に見てもらいたいデスからネ!」

 

「あ、長門さん今日はお化粧しているのですね! 榛名も良いと思います!」

 

「陸奥が今日ぐらいはと言ってな」

 

「ウンウン! 第一印象と言うのは大切デスからネ! きっと提督も見惚れてくれますよ!」

 

「……そうだな」

 

 

 提督が私にそういう感情を向けてくれるかもしれないと想像すると少し顔が緩んで少し熱くなってしまった。

いかんな。もうすぐ提督が到着してしまうのにこんなだらしが無い顔は見せられない。引き締めていかねば。

 

 

「!!! 長門! やっぱりその顔は絶対提督の前でしたらノーデスよ? いいですネ? お願いしますヨ?」

 

「そう? 今の顔すれば提督だって見惚れるどころか……」

 

「だからデース! やっぱりダメなんデス! 提督の視線はワタシが独り占めにするんデース!」

 

 

 金剛が急に駄々をこね始めた理由が分からず陸奥に視線を向けてみたが微笑まれただけで答えが返ってこなかった。

そんなやり取りをしていると島風が私の腕を引っ張りながら「船が港に入ってくるよ」と教えてくれた。

「ありがとう」と頭を撫でながら全艦娘に通信を繋げる。

 

 

「提督が到着された。総員、気をつけ。次に提督の指示があるまでその場で待機」

 

 

 私の指示を受けた艦娘達が一斉にその場で気をつけの姿勢を取る。おそらく今この鎮守府内で気をつけの姿勢をとっていないのは間宮達主計科だけだろう。

そうこうしている内に提督達が乗った船が波止場に着港した。

妖精さん達が慌しくタラップの用意などをしているのを眺めていると船長室の扉が開き中から第二種軍装を着た男性が出てきた。

 

 帽子を被っているせいか普段見ている姿と大分印象が違うがそれでも見間違うはずが無いあの顔。提督が私達の元へやってきてくれた。

そんな提督の姿が見えた瞬間に後ろで待機している全艦娘達からグッと圧の様な物が増すのを感じる。それはそうだ、私だけじゃない。ここにいる全ての艦娘がこの方の到着を待っていたのだから。

1年も待たされたんだ。きっと誰も彼もが今すぐにでも提督に話しかけたい気持ちで溢れているに決まっている。

 

 私はそんな思いを背中に感じながら命令違反をしてまで出迎えをしている我々の姿に眉をひそめている提督の方へと一歩踏み出して声を掛けた。

 

 

「提督。お待ちしておりました」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 妖精さんが掛けてくれたタラップを渡って俺は揺れてない大地にようやく足をつけれた。

あ、だめだこれ酔う。今まで揺れてたのに急に揺れなくなったもんで脳みそがバグってる。今すぐにでも座り込みたい……とは思うもののすぐ目の前にはかっこよくて美人な長門が居てその後ろには俺がゲーム内で所有しているであろう艦娘が勢ぞろいして俺に注目しているわけだよ。座り込めるわけないよなぁ。つらたにえん……

 

 にしても、だ。この子らもしかしてこのくっそ暑い中ずっと気をつけの姿勢で俺の事待ってたとか無いよね?

ギリギリになって俺の船が見え始めてから整列したんだよね? いや、それでも充分長時間だと俺は思うよ?

きっと中には嫌々整列した奴とかいるだろう。だって暑いもん。

 

 

「長門、くっそ暑いしもう解散させていいぞ」

 

「わかりました」

 

 

 長門が耳元に手を当てて数秒もすると奥から順に冷房が効いているであろう建物の中に入っていく。

その時に必ず「提督後でお話してくださいねー!」みたいな事を叫んでから入っていくから俺はそれに答えるべく手を振り続けていた。

うーむ。遠くから見てもどの子も可愛いし綺麗だしかっこいい。艦娘マジですげぇ。

この子達をデザインした絵師の方々には頭が上がらんて……勿論このゲームを生み出してくれた人たちにも感謝だな。

 

 なんて考えながら手を振っていたらほとんどの艦娘は建物の中に入っていった。ついでに天龍と龍田も他の皆と一緒に移動してと言っておいた。そこでここまでのお礼を言ったら天龍に「礼ならいい。後で飯に付き合えよ」と男らしい台詞を言われてしまった。くっそかっこいいなあいつ。

俺らもそろそろ移動したい。暑いもん。何なら背中に張り付いた島風の分だけ暑い。この子の性格ならすぐに建物の中に入っていくと思ったら長門の指示が出た瞬間に俺の背中に張り付いた。

 

 

「てーとくー暑いから早く鎮守府の中に入ろうよー!」

 

「そうだな。てか、暑いなら背中に乗るなよ。密着してる分更に暑い」

 

「日差しは暑いけど、抱きついてる分は暑くないから平気でーす」

 

 

 聞く耳を持たない島風は俺の背中で「早く早くー!」と嬉しそうな声を発しながらゆらゆらと横に揺れながら建物の方を指をさしていた。

まあ、このぐらいなら昔も昔に妹相手によくやっていたから問題ない。というか懐かしい。というか最近は妹が冷たいもんだからこういうやりとりが嬉しいまである。妹も大人になったという事か……

ぐすんと心の中で涙ぐみながら昔の癖で背中の方に手を回して島風の尻を支えようとした所で大淀のインターセプトが入る。

 

 

「提督、手はその位置よりも太ももの下を通して自分の手を握ると負担が無くていいですよ」

 

「へーそうなのか。昔、妹にやってた時は手を背中の方にまわしてやって座ってもらうって感じだったんだけどな」

 

「えぇ、とても軽い子供相手なら良いですけど駆逐艦ぐらいの大きさの子にはこちらの方が負担が無くて良いかと」

 

「なるほど。ありがとう」

 

 

 大淀にお礼を言って言われたとおりに腕を動かすと確かに楽かもしれない。比較対象がもう何年も昔の記憶だから不確か極まりないという点はそこらへんに捨てておくことにしよう。

ただこれ密着度増したなぁおい。島風の太ももあっつい。お腹も暑い。アレなのか。艦娘って炉がどうこう言ってる描写があったような無かったような……

つまり島風が俺に密着しても暑くないって言ったのは自分よりも体温が低い俺に引っ付いてた方が若干だけど涼しいみたいな意味が含まれた可能性があるって話?

島風の俺の頬に頬を当てて「ヒゲがチクチクするけどちょっと冷たい」って言ってるしな。確信犯かよおい。

 

 てか、今更感半端じゃないけどこの子ら汗全然かいてなくない? え、艦娘ってもしかして汗かかない又は汗を任意で抑える事が出来るのだろうか。

前に居る長門と陸奥に気が付いたら腕を組んできていた金剛にしても全然汗をかいていない。

逆に俺はダラダラとそれなりに汗をかいているからちょっと恥ずかしくなってきた。俺、汗臭くないだろうか。頑張ってくれ制汗スプレー!

 

 …………? 待ってくれ。俺はいつ金剛に腕をとられたのだろうか……確かに島風をおんぶしているこの姿勢だと腕を組みやすいもんな。

龍田の時もそうだったけどこの体勢って当たる。龍田は少し身長が低めだから肘ぐらいに当たってなんとなくあたってるんだろうなって感じだったんだけど金剛は戦艦だからなのだろうか身長が俺とほぼ変わらない。

上腕三頭筋に当たってるのがわかってしまう。服の縫い目の固い部分が当ってる。

記憶が確かならばあれは胸辺りにある部分のはずなんだよね。

 

 

「金剛さんや。暑いからあんまり引っ付くのはね?」

 

「ふふっ分かってマス分かってマス。提督は恥ずかしいんデスネ? 腕組んでマスからネ! 大丈夫デスよ! 分かってやってマスから!」

 

「それもある! それもあるんだがそれ以上に島風が引っ付いてきている事によって倍プッシュで汗かいてるんだ。分かるだろ?」

 

「あぁ、提督は汗臭いから近づくなと言いたいんデスネ? それもノープロブレムデス! 相手の汗が臭いと思うのは相性がよくないからと明石が言ってたけど私は提督の汗を臭いとは感じません! これは提督と私の相性がとても良いという事デース! つまり提督と腕組みしても良いという事になるネ!」

 

「あぁ、うん。いや、汗臭くないならそれでいいんだけど、じゃなくて金剛や上に乗ってる島風は良いとして他の子は違うかもしれないだろ? だからあまり無駄に汗をかきたくないんだ」

 

「それは問題ないと思いますが……しかしながら、金剛さん。提督は普通の人間なので余り汗をかきすぎると汗臭さを気にするどころか脱水症状になる可能性もありますから」

 

「む~わかりました~……じゃあ、冷房が効いてる室内に入ったらまた腕を組みマース……」

 

 

 大淀の一言でしぶしぶと腕を解いていく金剛。暑い物が離れて若干涼しくなると同時にやってくる名残惜しさ。

島風の物とは違う良い匂いも離れていくし、お互い服の上からだったからよくわからなかったがやっぱり押し付けられてるっていう感覚は捨てがたかった……

とか考えていたら解いていっていた金剛の手が途中で止まって俺の二の腕辺りを掴んだ。

 

 なんだこの手はと目で訴えながら金剛を見るとニコニコ顔で「これなら密着してないからそう暑くはないはずデース!」と元気に言われた。

追加で腕は組んでない。言うなれば腕に手を引っ掛けてる状態だと金剛は豊満な胸を張って宣言してきた。

そんな金剛の後ろから「流石はお姉様!」「確かに腕は組んでいませんね。この霧島もこのような方法は思いつきませんでした」「榛名も今度真似してみます!」と称賛の声を上げて金剛を持ち上げる三姉妹。

やんややんやと騒ぐ三人の声を聞きながら「しゃーない」と諦めの声を出すと金剛の機嫌がよくなったような気がした。これがアニメや漫画だったら花が咲き乱れてたんじゃないだろうか。

 

 

「あ、長門すまん。待たせたな」

 

「いえ、問題ありません」

 

「私は問題ありよ。提督ってば島風と金剛ばっかり構うんだから。お姉さん寂しかったわよ?」

 

「陸奥。提督、申し訳ありません」

 

「いや、俺の方が悪いからな。陸奥も悪かったな」

 

 

 と謝ったらなんか陸奥が手を広げて近づいてくる。いや、待って。まじで待って。

抱きつかれるッと思って身構えたけど陸奥の手は予想に反して俺の両頬をがしりと挟んで顔を固定してきた。

何をするのかと思ったら徐々に顔を近づけてくるじゃあないかッ! あかんて!

 

 

「ほら、提督。謝るときは人の目を見ないと」

 

「むー! 陸奥! 近いデス! それ以上はダメデース!」

 

「陸奥暑いから近づかないで」

 

「ん~ほら、謝るんだったら誠意って必要じゃない? だから、提督にキスっていう誠意を見せてもらおうと思ったけどそう簡単に提督の唇は奪えないか。うふふ、あらあら。冗談よ冗談。金剛も五月雨もそんな怖い顔しないで? さ、早いとこ涼しい執務室に行きましょ?」

 

「陸奥っ!」

 

「長門。俺は平気だから。未遂ならセーフよセーフ。それより陸奥が言ったようにいい加減ここに立ってるの暑いし疲れてきたからちゃっちゃか移動しようぜ」

 

 

 セーフ。セーフなんだよなぁ。まあ、俺には五月雨ちゃんが居るしセーフだった事に関しては何も思ってないよ? 妻(仮)帯者だからね。何も思ってないよ。思ってない。うん。思ってない。

それにしても陸奥もいい匂いだった。こう、ふわって、ふわって匂いが近づいてくるって感じ?

良い柔軟剤使ってるか良い匂いがする化粧品とかあるんだと思う。すごかったです。

 

 

「わかりました。それでは付いてきてください」

 

「あ、そういえば長門ってゲームの中じゃ敬語なんて使ってなかったろ? こっちでもゲームの時みたいな感じでいいから。かたっくるしいのは無し無し。俺は自然体な艦娘の姿が見たいんだ。島風のこれも金剛のそれも陸奥のあれもそういうのが提督としては嬉しいもんさ」

 

「……そうか。提督がそう言うならそうしよう。では、提督よ。これから貴方が暮らす鎮守府を案内しよう」

 

 

 長門は付いて来いと改二仕様のめっちゃかっこいいマントをはためかせて鎮守府の方へ歩いて行く。

それに続いて歩きだしようやくこの灼熱地獄から脱出できると内心ホッとする。

島風と密着している背中が本格的に汗でびしょびしょのびしょになってきてるんだもの。やばいってこれ。たぶん絞れる。島風の服も俺の汗でびしょびしょなんじゃないか……? 大丈夫なんだろうか。

 

 なんて焦っている俺とは裏腹に島風はいまだにテンション上げ上げで俺の上で左右に揺れている。

小さい子ってこういうところあるよね。好きな人と一緒に居られればそれだけで楽しいみたいな。自分と相手の状況は後回しみたいな。どんなに暑くてもお母さんに抱っこされていたい子供的な。

 

 なんていうか島風は俺に対して自由に接してくるから俺の懐かしいをどんどこ引き出していく天才みたいな状態になってる。時津風も割と自由枠だし似たような事をしてくるかもしれないな……あ、あと海防艦のちびっこ軍団もしてきそう。

うん。とりあえず、その子らに会ったら夏場に外で抱きつこうとするなって言おう。いくら懐かしさを感じてても暑い。死ぬ。




6/28 誤字脱字修正。報告ありがとうございます。


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8話

 あーなんて言うかそこまで涼しいわけじゃないけど暑いわけでもない。

市役所とかそういう所の涼しくもなければ暑くもない冷房の温度って感じ。

だけども廊下の窓にカーテンもブラインドもついてるわけでもないからずっと立ってると暑くなってくる。

夏やべぇなぁ。今年は特にやばいもんなぁ……

 

 

「ようこそ提督。ここが今日から貴方の職場よ」

 

「ここから階段を上がらずに右に行けば駆逐艦と軽巡それに特務艦達の寮。左に行けば食堂や工廠、入渠ドック……まあ、風呂場がある。次に階段を上がって左に行けば重巡と戦艦、空母達の寮。右に行けば執務室と提督の私室や資料室がある。他にも施設は沢山あるがいっぺんに言っても覚えきれるものでもないだろ。後で案内もするがとりあえずそれだけは覚えておいてくれ」

 

「了解了解。俺の部屋は階段上がって右な。パッと見た感じ執務室とかにもあんな感じでなんの部屋か分かるようにプレートが付いてるんだろ? なら平気だと思うぞ。それにもし俺が忘れてもここには沢山教えてくれそうな子達が居るしな」

 

 

 ご丁寧に部屋の一つ一つに学校の教室の扉の上に付いてるようなプレートがあり、ここはなんの部屋とか誰と誰と誰の部屋といった感じに表示がされていた。

いや、まああのプレートは学校じゃなくてもあったか。大事よね。名前書いておかないと分からなくなるし。

 

 

「提督ぅー! 私達の部屋は2階に上がってすぐだからいつ来てもいいからネ? そ・れ・と・も、今から来ちゃいますカ? 腕によりをかけて美味しい紅茶を用意するネー!」

 

「金剛。すまないが提督にはやらねばならない仕事がある。だから先に執務室に向かいたいのだが……その前に島風。そろそろ提督から降りるんだ」

 

「えぇー……」

 

「島風。すまないが俺からも頼む。腕がそろそろきついし何より俺は島風をおぶったまま階段を上がれる自信がない。運動不足で不甲斐ない俺ですまない」

 

「むぅー……」

 

 

 しぶしぶと俺の上から降りていく島風。そんなにも俺に引っ付いていて楽しかったのだろうか。

どう考えたって俺に乗ってたんじゃ遅くてつまらなかっただろうに。てか、案の定島風の服びちょびちょやんけ。

全部俺の汗なのだろうか。いや、よく見りゃ島風もほんのり汗かいてる様に見えなくもない。

まあ、そうは言ってもほとんど俺の汗なんだろう。絶対ぐしょぐしょで気持ち悪い。

 

 

「あーあ……俺の汗で服びしょびしょじゃねーか。着替えあるんだろ? それ持って一回風呂に行ってきなさい。シャワー浴びてすっきりするんだぞ」

 

「うげぇ……ホントだ。んーじゃあ、ついでに連装砲ちゃんも一緒に洗ってあげよっと! 提督また後でねー!」

 

「廊下は走るなよ」

 

「はーい!」

 

 

 元気に返事したくせに島風はキーンという効果音が出そうなポーズをして走り出した。

いや、俺今廊下は走るなって言ったよね? あれかい? 島風的には走ってるに含まれませんって事か?

なんて島風の後姿を見ていたら駆逐艦の寮の方からドラム缶みたいな形の物が3つ程走ってきた。

あぁ、あれが連装砲ちゃんか。よく見りゃ頭の上にお風呂セットみたいなの乗せてるし。着替えとか持ってこさせたって所かな。

 

 それと、分かってはいたけど連装砲の遠隔操作は可能なのか。ん~感覚的には空母達の戦闘機と似たようなシステムなんだろうか。

でも、アレは戦闘機の中に妖精さんが乗って操縦してるってイメージがある。戦闘機の上でかっこいいポーズしてる瑞鶴似の妖精さんとかああいう子達。

確か……連装砲ちゃんって図鑑に載ってないはずだからどんな妖精さんが乗ってるのかちょっと気になる。

 

 

「提督。ちなみに連装砲ちゃんの中には誰も居ませんよ」

 

「大淀は俺の心の中が読めるのか?」

 

「いえ、ただ提督が連装砲ちゃんの事をじっと見ていたのでそういう事を考えてたんじゃないかなと。連装砲ちゃんは島風ちゃんが考えてる事を受信して動いたりある程度の事なら自分で考えて動けるみたいです」

 

「半自立型兵装って事? かっこいいじゃん」

 

「島風ちゃんにそれを言ってあげると喜ぶと思いますよ!」

 

「そうですね。あ、あと提督に注意していただきたいのですが連装砲ちゃんにしても連装砲くんにしてもあの可愛らしい見た目で重量は3トン以上あります。くれぐれも交通事故に合わないように気をつけてください」

 

「3トン……あんなにちっさいのによく道路を走ってたトラックぐらいの重量なのか……やべぇな」

 

 

 中身ギッチギチじゃん。

いや待て。ゆうて大きさなんて一番でかいやつで島風の太ももぐらいの高さしかないんだぞ。

中身ギッチギチとかそういうレベルじゃないと思うんですけど……

やはりあれも艦娘の不思議技術の賜物という事か。

 

 

「さて、それと金剛もだ」

 

「ノゥ! 絶対にノゥ! 執務室だって別に狭いわけじゃないじゃないですカ!」

 

「提督の使う部屋なんだ。狭いわけがない。ただ、全員が座るだけの椅子がない」

 

「じゃあ、立ってマス! それか提督の膝の上に座りマス!」

 

 

 イヤイヤと駄々をこねる金剛。駆逐艦の方が物分りがいいって問題だと思うんだよね。

それにだ、島風が俺の上から降りた事と冷房が効いた室内に入った事の二つが起こった結果。金剛は当ててんだよとかそういうレベルじゃないぐらいに俺の腕を抱きかかえていた。そう抱きかかえている。もう挟んでるんだよって状況よ。

 

 いやね? ほら、最初はおっふ最高でござるって感じだったのよ。

けどさ……イヤイヤするたびに金剛が左右に揺れるわけさ。俺の二の腕と前腕をガッチリホールドした金剛が揺れるたびに俺の体も右に左に揺れて結構痛い。肩にくるんだよね。

金剛の胸が俺の腕を挟んでいるって事実があっても痛いから離して欲しいっていう結論にたどり着く。

が、金剛が俺の腕を離す気配は全くもって微塵も感じられない。

 

 

「ここは長門の言うとおり金剛達は一旦解散って事でいいか?」

 

「提督ぅ~……」

 

「あー……わかった。今日は行けるか分からないが落ち着いたら金剛の入れたお茶を飲ませてくれ。今はそれで手を打ってくれないか?」

 

「絶対ですカ?」

 

「勿論。お茶会の作法とかは知らないからその時教えてくれると助かるな」

 

「ノープロブレムネ! その時はみっちり教えてあげマス!」

 

「ありがとう。それじゃあ、そろそろ腕を離してくれないか?」

 

「提督はもう忘れてしまったんですカ? 執務室は2階デース。つまり階段を上がるまでは提督から離れなくても良いという事になりマスネ」

 

 

 んふふ~と俺の腕を抱きしめて嬉しさ一杯の金剛とそれを見て幸せ一杯な妹3人。

俺は恥ずかしすぎて見れないけど絶対に金剛からハートが一杯飛び出てるに違いない。いやほんと、恥ずかしいんだけど?

そりゃまあ、イクとはっちゃんにはハグしてあげたけどあれはまだ身長が小さいから子供相手ってイメージが先行してくれたおかげでどうにかなった。

 

 けどさ? 戦艦はもう割とアウトだよね。

完全な大人バディが色々と想像させてしまう。そう、色々と!

服越しだけどはっきりと分かるあれやこれがもうね、もう、こう、あれであれね。やばい。

元々無い語彙力が更に消失していく感覚をヒシヒシと感じてしまう。

ぐっ……これが大人な女性のバディ!!!

 

 なんて翻弄されつつも階段を上がればなんて事無い一階と似たような造りの廊下が左右に伸びている。んで、向かって左が艦娘寮だったか? 

そう思って左を見れば一番手前のドアの上に金剛型と書かれたプレートが付けられている。

ちなみにその次のドアの上には赤城と加賀の名前が書かれたプレートが付いているところを見ると別に艦種で順番ってわけじゃないらしい。

 

 

「うぅ……もう二階に着いてしまったネ……」

 

 

 本気で残念がっている金剛を見ると多少の罪悪感とホントなんで俺なんかをこんなに好きになれるんだろうという気持ちになる。

 

 

「今はここまでデスガ! 今後も提督の隙を見て沢山アタックしていくので覚悟しててくださいネー!」

 

「お、お手柔らかに頼むわ」

 

「早速隙ありデス!」

 

 

 俺の腕を離して部屋に向かおうとしていた金剛がクルリとその場で回転して俺のほうへダイブしてきた。

まあ、勿論俺にはそんな一瞬の出来事に反応できる程の身体能力はないから金剛が俺を完全にホールドしてから逃げようとした。

が、まあね。ホールドされてるから動けなかったよ。それとダイブからのホールドの衝撃に耐え切れなかった俺の体はその場から動きはしなかったものの首だけが後ろに傾いた。これ知ってる。交通事故ってやつでしょ。鞭打ち案件じゃん……

そして、そんな俺の状態に気が付かなかった金剛はそのまま俺の頬にキスをしてくる。

 

 

「あぁ! 提督なんで避けたんですカ!!」

 

「首がメタクソいてぇ……いや、今のは避けたわけじゃないんだけどね。けど、まあ、キスされそうになったら避けるよな」

 

「な、何でですカ!」

 

「なんでって……金剛がいつも自分で言ってたじゃんか。時間と場所をわきまえなヨーって」

 

「Oh……なんてこと……私の台詞が原因だっただなんて……わかったネ。次はしっかりムードを整えて挑むとしマース。それじゃあ、提督! 次はディナーで会いまショウ!」

 

 

 そう言って金剛はもう一度俺の事をちょっと強く抱きしめてから妹3人を引き連れて部屋に戻っていった。

にしてもあの3人全然喋らんかったな。比叡なんかはもっと騒がしいイメージがあったんだけども……やっぱりその辺りもこっち側に来て何かが変わったんだろうか。

 

 

「提督、首は大丈夫ですか?」

 

「うん? まあ、うん。痛いけど多分平気じゃないかな」

 

「一応、執務室で妖精さんに見てもらいましょう」

 

「妖精さんってそんな医者みたいな事も出来るのか」

 

「えぇ、簡単な物に限られますけど可能です」

 

 

 妖精さんチート過ぎでは? チート過ぎて童話○害とか引き起こされないか心配なレベルなんだけど……

とりあえず、妖精さんが欲しがった物は出来る限り渡しておこう。ボイコットもなかなかにしゃれにならないから福利厚生がしっかりした上でちゃんとやり過ぎないように注意していこう。

 

 首を押さえながら長門に付いて歩くこと数歩。うむ。階段から資料室を挟んで二つ目の部屋が執務室だった。

なんかこういう部屋って結構奥まった場所にあったりするイメージだったからちょっと拍子抜け感がある。

確かアーケードでももうちょっと歩いてたと思う。やった事無いからPVとかでそんな感じだったなーぐらいの記憶だけど。

 

執務室と書かれたプレートの下には他の部屋よりも素材が良さそうで装飾もちょいと豪華な扉が2枚。

なんてったか……観音開きだっけ? たぶんそんな感じで開きそう。

そんな感じで余計な事考えながら俺は執務室の扉を開いた。うむ。思った通りの開き方したわ。

 

執務室の内装と言えば俺が画面越しに四六時中みていた物と全く一緒。と思いきや見たことない物もちらほらと設置されていた。

俺がゲーム内で設置していて目に見えていた物と言えば秘書艦と提督の机に長門模型の桐箪笥に夜戦主義の掛け軸ぐらいなもん。

壁床窓なんてのは建物によってだろうしね。

 

 んで、見覚えのない物。

冷蔵庫にIHヒーターなどなどの調理器具一式や資料を入れるためのなんかおしゃれな感じの高そうな戸棚にお偉いさんの部屋にしか無さそうな革張りのソファに机。

もうね。庶民には調理器具ぐらいしか馴染みが無くて今すぐにでも帰りたい。

ここで仕事をしろとか結構な罰ゲームなのでは?

 

 ここがホントに俺の部屋? って具合に後ろに居る艦娘達に視線を向ければその通りと深く頷かれてなんなら長門に背中を優しく押されながら「さあ、まずはソファに座ってくれ」とイケメンなエスコートをされてしまった。

ソファすっごい。適度な反発感っての? 座っただけで「あ、これ高いよ」って感じで尻が訴えてくる。

 

 

「さて、仕事があると言ってここまでつれて来たが実は今日のところはそんなものはないんだ。ただ、提督にいくつか報告をしておかないといけないことがあったから最初にこの部屋に来てもらった」

 

「報告?」

 

「そうだな……まず、提督は最初に私達が接触した人類は自衛隊だと聞かされているだろうがそれは間違いだ。私達は最初に貴方のご家族に会いに行ったんだ」

 

「なんでまた俺より先に?」

 

「それは私達が危険だと判断された場合、提督と提督のご家族が人質にされると判断したからだ。その為最初に提督のご家族に接触して妖精さんを配置してきた。妖精さんを配置した今なら仮に自衛隊が攻撃を仕掛けてきても一週間はご家族を守りきれるはずだ」

 

「妖精さんすご……てか、誰が行ったのかは知らないけど俺の両親は君ら……艦娘についてなんか言ってたか?」

 

「いや、流石に提督のご家族に私達が艦娘だとは明かしていない。近々あなたの息子さんをヘッドハンティングするのでその挨拶に来ましたと外堀を埋める風に説明してきた」

 

「私と長門で行ってきたんだけど、提督の妹ちゃんに「どちらかが彼女だったりするんですか?」って聞かれてちょっと可愛かったわ」

 

「それは悪かった。あいつまだ高校生だからなぁ。そういうのが大好物な年頃なんだ」

 

「構わないわ。私も「まだ違うの。だから提督の好きな物教えてくれないかしら」って聞いたらちょっとお得な情報教えてもらえたもの」

 

 

 茶目っ気たっぷりにウインクを放つむっちゃん。

妹は何をこのお姉さんに教えたのかお兄ちゃんとても気になります。

それと俺の首を見るための妖精さんを連れてきた眼鏡のお姉さんが「そんな情報聞いてません……」って妖精さんを握りつぶしそうになってるのがちょっと怖いです。ようせいさんかわいそう。

あと更にその後ろをお盆に人数分の湯のみと急須を載せておっかなびっくり歩いてる五月雨ちゃんも結構怖い。

 

 

「だから仮に何かあっても提督のご家族は安全だから安心して欲しい」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「当然の事をしただけさ。さて、次にだが、私達の事だ。私達はゲームのキャラクター。ゲームのキャラクターなんだから当然データを消されたら私達も消える。この国のトップ達も最初に提督の艦これのデータを消す事で私達を消そうとしてきたよ」

 

「でも、ここに居るって事はデータをどうにかして守ったって事だよな?」

 

「えぇ、そこは明石と妖精さんがやってくれました。ハッキングして私達のデータを根こそぎ抜き取ってサーバーと隔離してこの島に保管してあります。ここが攻め込まれて私達が負けでもしない限りは私達は消えたりしません」

 

「実質絶対に消えないって事ね。でも、ほら改二とか新艦娘が実装されたらここにあるデータもアップデートするんだろ? その時にウイルスとか仕込まれたりしないのか?」

 

「問題ありません。機関の方々には既に根回しが済んでいますので。向こうも諸手を挙げて私達を歓迎してくれました。まあ、ハッキングした件については言ってくれれば渡したのにと少し怒られましたけど」

 

 

 既に運営さんを抱え込んでござったか。

やっぱりクリエイターな人達は自分の考えた物が現実世界に出てきたら嬉しいんだろうか。

じゃなかったら普通国を敵に回してまで艦娘の味方なんてしないよな。

 

 

「提督のご家族を守る。そして私達の存在をこの世界にとどまらせる。この二点が我々と提督が一緒に居るために必要最低限の事だと判断し先行して事に当たった。そして、それから提督の知る自衛隊との接触に繋がるな」

 

「提督と一緒に居たいから私達頑張りましたって事ね。褒めてくれてもいいのよ?」

 

「あぁ、よく頑張ったな。正直、俺は最初に五月雨と龍田に会ってからそんな事一度も考えなかったからな。流石だと思う」

 

 

 いやホント。俺、家族の事どうすんべなんて一切考えてなかったからね。お茶美味しい。

しょうがないじゃない。なんとか現代っ子と言えなくもない平和ボケした年齢の野郎にそんな作戦を考えろとか言われても返事だけよくて何もできないパターンよ。

うーむ。そんな俺の下につく俺より頭のいい部下達。つまり、「あれだな?」「あれでございます!」みたいな会話になる。ポン骨かな? 

いやでも、あの人はそれなりに頭が回る人だったからいいんだけど俺全く回らんからなぁ。くまったくまった。

 

 

「あぁ、それとわざわざ自衛隊ひいては日本と接触を図った理由だが簡単な事だ。先の話でも分かるように我々が隠れて提督と接触するのはたわいないことだ」

 

「確かに提督と会うのは簡単だったの。でも、ほら、提督の住んでた部屋ってとても狭いじゃない? そうなると順番決めて提督と会わないといけない。折角この世界に来たのに提督に会えないのってなんか寂しいじゃない?」

 

「じゃあ、どうしよっかってなって考えてたら誰かが言ったんです。提督はそんな大きな土地を用意できない。私達も用意できない。じゃあ、お金と権力がある人にお願いすればいいんじゃないかなって」

 

「だから、私達は日本に接触しました。それから色々あって一年も掛かってしまいましたがなんとか提督と一緒に居られる島を手に入れられました。だから、安心してください」

 

 

 ずっと一緒に居られますよ。と声を合わせる4人。

長門と陸奥の影のある笑顔は割と迫力あるし大淀なんてどうやってるのかわからないけど眼鏡が曇って目が見えない。だが、おしい!

五月雨ちゃん順番待ちでちょっとそわそわしてたし何かを読んでるかのような喋り方だったのがいけない。

あの演技できてますってドヤッてる顔は物凄く可愛いから許す。でも、全く出来てないからね。超かわいい。というかあの順番に喋るやつを練習したのかなって思うとちょっと笑える。

あとおじさん大淀が言った「色々あって」の部分が気になります。

色々って色々な意味があるんだよ色々と。

 

 

「五月雨、今のやつどのぐらい練習したんだ?」

 

「えっと……大体二日ぐらいです。明石さんが提督こういうの好きなんですよって教えてくれて」

 

「わかった。この件は後で明石に言ってこよう。あと自衛隊と接触してからの一年間の内容。大淀報告してくれ」

 

「わかりました。ついでにお茶請けも出しましょうか。ちょっとお高いカステラです」

 

 

 そう言ってキッチンスペースの戸棚からちょっとお高そうな箱を取り出して切り分けて各人の目の前に並べていく大淀。

お高いカステラすごい。ふわっふわなのにしっとりしてる。いやーお高いカステラすごい。

そんなカステラを楽しみつつ大淀の報告を聞く昼下がりの一四○○。俺は昼飯を食ってないしなんなら午前の演習をこなしていない事に気が付く数分前の事だった。



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9話

 大淀からの報告を聞いて若干イラッとしつつもホントにそんな漫画に出てくるようなタイプの人達が居るんだなと驚いてもいた。まあ、目の前にはゲームのキャラが居るんだけどね。

と、報告し終わったら大淀にごくろうさまと湯飲みにお茶を注いであげつつちらりと時計を見れば14時半。

はぁー……演習やってね……いつもなら朝起きてPC点けて立ち上がるの待ちつつ出勤の準備してという流れで午前演習終わらせてたけど今日はいつもと違う特殊な朝だったからね。忘れてた。

 

 

「そういえば、艦これはその机の上にあるパソコンでやればいいのかな?」

 

「あ、はい! その通りですよ、提督!」

 

 

 五月雨ちゃんにありがとうとお礼を言って秘書艦と提督の机まで行き設置されているデスクトップPCを立ち上げて艦これのページを開く。

めっちゃくちゃ回線速度速いんですけど。有線無敵かよ。こんなんじゃ無線のノートPCに戻れない体になってしまう……

あれこういうのってハードディスクのが重要だっけ? まあいいか。

それより重要なのは俺が机に備え付けられている椅子に座ろうとした時の事だ。

 

 

「あ、提督。座るのちょっとだけ待ってもらえますか? ごほん。提督が鎮守府に着任しました! これより艦隊の指揮に入ります!」

 

 

 と、五月雨ちゃんが新規ボイスを披露してくれたのだ。しかも、指揮開始ボイス。最高かよ。

これで五月雨ちゃん新規ボイスが来ない難民も救われるな。

少なくとも俺は救われた。ありがとう艦これ。ありがとう五月雨ちゃん。

 

 感動しつつもマウスを動かし任務のボタンを押せばそこには水着の大淀。

体をずらしてソファの方を見れば美味しそうにカステラを食べる大淀。

これはどっちが本体なんだろうか。普通に考えれば本物は画面の向こう側に居る方だよな。

それともこの子は任務娘という別な子だったりするのだろうか。それはないか。

 

 まあ、あれよ。何を以て本物と判断するのかという問答はきっとこの子達の中で既に決着がついてるだろうし俺がわざわざ蒸し返すのも悪いって話よね。

つまり、俺が出来る事は心を無にして任務にチェックを付け、遠征出して、単艦放置アニキ達から勝利を貰って午前演習が終わったら単艦放置にするだけさ。

他にもデイリーはあるけど今日は演習遠征だけでいいよね? 多分、この後も予定あるだろうし寝る前にやればいい。無ければ今やってしまうか。

 

 

「さて、と。演習も終わったし遠征も出した。この後の予定は何かあったりするのかい?」

 

「この後の予定は、一九○○に提督の歓迎会を行う予定になっています」

 

 

 まだ15時だし結構時間はあるじゃん。じゃあ、さくっとデイリー済ませてしまうか。速度重視で1-1と2-2でさくっとな。

と、マウスを操作していると大淀が画面を覗き込んできた。水着のお姉さんといつもの服のお姉さんが並んでいる。

 

 

「提督。今週はまだろ号任務が終わっておりません」

 

「……そんな任務もありましたね」

 

「えぇ、ありますよ。ちなみに今週は一度もチェックを付けていないので未だ撃破数は0のままです。大丈夫ですよ提督。2-2へ25回程出撃すれば終わります。時間にして1時間かかるかどうかです」

 

「やっぱり補給艦50隻撃破は長いと思うんだ。補給艦が10隻ぐらい出てくる海域が欲しい」

 

「提督! 頑張りましょう!」

 

「あ号任務はいつも月曜日に終わらせてるじゃないか。そんな感じでろ号もすぐに終わるさ」

 

「提督。今は夏の大規模作戦目前よ。高速修復材がいくらあっても欲しい時期。めんどうなのは分かるけど行くべきだと思うわ」

 

「……そうだな。レイテで資材が吹き飛び、艦これ2期に移行で通常海域突破しなおしくらってうちの鎮守府には今バケツが800個しかないんだもんな。絶対足らなくなるのは目に見えてるか……」

 

 

 レイテは必死だったぁ。まあ、必死だったのは前編だけだったけども。

前編は純正西村艦隊でどうしても攻略したかったから仕事中でもゲージ削りしてたレベル。

いや、だってそもそもあの海域難し過ぎただろってね。ボスマス出すだけで虫の息だったもの。

で、あの地獄を乗り越えて資材回復に勤しんでたら2ヶ月後ぐらいには後編始まってんだもんね。資材回復追いつきませんでしたわ。

そのせいで最終的にはバレンタインチョコ砕いちゃったんだよなぁ……はぁ……つらたん。

結局資材回復が追いつかなかったうちの鎮守府は前段は甲だったけど後段からは乙で楽々クリアーしたんだよね。

だからうちにはデストロイヤーが居ない。欲しかった……デストロイヤー欲しかったぞコノヤロー!

甲と乙の差が酷過ぎると俺は常々思っている。乙を上げろって事じゃなくて甲を下げてくれって話よ。

 

 

「提督はいつも全海域の攻略に成功しても掘りで失敗するものね」

 

「おっと、その言葉は俺に大ダメージだぞ?」

 

「駆逐艦で4すろっとって凄いですよね! 私も改二になったら4すろっとにならないかなぁ」

 

「そうだな。うちにはタシュケント居ないからな。五月雨ちゃんがそうなってくれたら提督的に超嬉しい」

 

 

 そう。うちはタシュケントおりゃん状態なのだよ。

久々に掘り失敗してあの時は物凄くへこんだ。へこみにへこんだ。それはもうへこへこだった。

イベント中に何度資材が3桁に突入した事か……グロ画像過ぎてため息しか出なかったよ。うん。

 

結局ろ号をやり終わったら次はい号だ2-5だと任務だけでなくEX海域もやるはめになった。

まあ、多分言われなかったらやらなかった。こうね。やろうやろうとは思ってるんだよ?

でも、こう出撃すると資材が減るって思うとなかなかね。やってみたらすんなり終わったりするんだけどね。

 

 

「心なしかろ号をやる前よりもバケツが減った気がするんだが」

 

「確かにバケツちょっと減っちゃったけどその他の資材が増えたと思いましょ?」

 

「バケツ増やしたかったんだけどなぁ……しゃーなし。いつかはやるもんだしな。長距離演習航海で地道に増やすか」

 

 

 帰ってきた遠征組を速攻で再出発させる。

これたまにミスって補給せずに出発させちゃうのよね。あれ軽く焦って謝る。誰にって補給せずに遠征しに行った子達にね。うおーんごめんよ。いつもより沢山食べるんだよ? よし。じゃあ、もっかい遠征行ってきてね。って感じで。

 

 そしてそれをよくやる第2艦隊の旗艦は霞。俺会ったら絶対怒られる気がする。

そんな霞に絶対に会うであろうイベントの時刻まで残り2時間。

2時間どうやって暇をつぶすか……金剛の所に行って茶しばくにしても晩御飯前にお腹たぽたぽにするのもなぁ……明石は、なんか話が弾んで2時間で終わりそうな気がしないからダメだな。

あ、丁度いいイベントがあるじゃん。

 

 

「そういえば、まだ俺の部屋を見てないな」

 

「提督のお部屋でしたら執務室から行けますよ? そこのドアを開けたらすぐです!」

 

 

 そう言って五月雨ちゃんはいわゆる画面越しに見ていたときには見えなかった位置に設置されているドアを開けた。

そこには俺が住んでいたアパートの一室が完全再現されていた。

この執務室みたく無駄に広かったりはしない適度な手狭感が妙に嬉しい。

台所に風呂トイレなんかの水回りもそのまんま。てか、執務室のキッチンスペースよりもアパートの台所の方がちゃっちぃってなんかへこむわ……

 

 

「マジか……こいつは凄いな」

 

「一部屋ぐらいは以前までと同じ環境の方が提督も休まるだろうと思ってな。置いてある家具なんかも提督の部屋から持ってきたものだ。妖精さんが自分より大きなものを収納できるのは知っているだろ? それを利用して提督がここに来るのと同時に引越しも済ませてしまったのだよ」

 

「いやーうん。助かるわ。正直自室まで広かったらどうしようかと思ってたところだったんだ」

 

「一応広めの部屋も用意してありますがそちらも確認しておきますか?」

 

「え、まだ俺の部屋があんの? ……そうだな。一応見ておこう」

 

 

 執務室から出て3個ほど扉を通り過ぎた先に提督の私室と書かれたプレートが掲げられた部屋に着いた。

てか、普通に考えて私室が二つってどういうレベルの金持ちになったら起こりうる現象なんだろうか……と考えながら大淀から渡された部屋の鍵使って扉を開けた。

そして、そこはアパートの一室とは大違いの広さの部屋が君臨していた。

 

 あのアパートの一室が一体いくつ並んだら同じ広さになるんだろうってぐらい広い。

窓も同様に広い。うん。これはあれだ。ドラマとかで見るありえないぐらい広いマンションの一室だ。もう広い以外言ってねぇな。

つか、ドラマじゃあるまいしバーカウンターがあるとか普通の部屋じゃありえないと思うんだ。どんだけお洒落さんなんだよ。

 

 そう、それからベランダね。こっちもめちゃんこ広い。ここだけでアパートの一室より広い気がするわ。

あと備え付けのシャレオツなテーブルと椅子や芝生に鉢植えに入った数々の植物……ベランダに芝生ってどんなバグが発生したら生えてくるんだろうか。

 

 

「ひっろー……」

 

「この部屋も提督の私室になりますので是非お使いください」

 

「絶対持て余す自信あるわ。えー……いや、えぇぇぇ……」

 

「あ、提督提督。へんな声出してないでこっち来てみて」

 

「あん?」

 

 

 部屋の中を物色して回っていた俺を陸奥がニコニコと笑いながら手招きする。

ちなみに俺が変な声を出して見ていた部屋は風呂場でした。普通にビビりましたまる。

んで、陸奥が呼んだそこはまだ中を見ていなかったドアでそこを開けて中を見てみればバカみたいに大きいベッドが鎮座していた。

仮に俺が寝転んで両手を広げても端に手が届かないような大きさ。これはいわゆるキングサイズベッドというやつだろうな。

 

 

「ね、このベッド少し大きいと思わない?」

 

「確かに大きいな。これはちょっと少年心をくすぐるサイズだ。お、しかもいい感じの反発力じゃん」

 

「この何人か一緒に寝れそうなぐらい大きいベッド。何のためにあるか分かる?」

 

「えっ……」

 

「……♪」

 

 

 あーはいはいはい。右腕を掴んでくる手と陸奥の目を見て俺は確信した。確信した。確信した。かく! しん! した!

はい。女性経験皆無マンな俺だけど流石に気が付きましたわ。

 

 

「あっいや、ね?」

 

「ふふ。焦ってる提督も可愛いわね。あぁでも、誘っておいてなんだけどまだダメみたいなのよ。明石がもうちょっと待ってくださいって」

 

「へっ? あ、あぁ、別に気にしてないから大丈夫だぞ。うん」

 

「そう? まあ、その時が来たら楽しみにしておいてね?」

 

 

 最後は耳にキスとささやき。エロ過ぎかよ……流石二番艦……

びっくりして飛びのいた俺に投げキッスの追撃までしてくる余裕。大人のお姉さん過ぎて勝てる気がせぬ……

つまり陸奥よりお姉さんな長門はもっと凄い事になるという事にならないだろうか。

まだうちの長門がポンコツかどうか確認できてないからな。

俺はあの「新たな仲間が進水したようだ」って台詞がお姉さん感たっぷりで大好きなんです。大好きです。

つまり長門型は二人ともお姉さん感が凄いという結論に達したわけだな。すごい。

 

 

「まあ、最初はやっぱり五月雨からよね」

 

「……さぁ?」

 

「こういう事は言いたくないんだけど……あまりこじらせるのはよくないわ。あんまりにもこじらせると最初が五月雨じゃなくなるわよ」

 

「分かってはい……えっ? 何? ごめんやっぱ分かってないかも。五月雨が愛想尽かすとかそういう話ではなく?」

 

「それはありえないわ。私が警告してるのはあんまりにも五月雨と進展がないようだと他の子が痺れを切らして提督を襲うわよって話」

 

「ははは。まさかまさか」

 

「うふふ。そのまさかまさかよ。だって常識的に考えてもみて? 私達ゲームのキャラクターがディスプレイの向こう側からこの現実世界に出てこれると思う? あ、拡張現実とかそういうのは抜きね」

 

「まあ……ありえんよな」

 

「つまりそういう事よ。私達次元の壁を軽く突破できるぐらいには愛が重い自信があるわ」

 

 

 ニコニコと笑いながらじっとこちらを見つめる陸奥の目は笑ってなかった。

笑ってるのに笑ってない。我ながら何を言ってんだって感じだけどそれ以外に表現しようがないんだもの。

さっきの三文芝居よりきゅってなったわ。

 

 

「でも、まあ愛の形は人それぞれだから。全員が全員提督を押し倒そうとはしないと思うわ。ん~確か鳳翔とか大鯨なんかは提督の事を何も出来ないダメ人間にしたいって言ってたわね」

 

「待って。それはそれで不穏なワードなんだけど?」

 

「あとは……そうね。鈴谷なんかはこっちに来てから干物化してるから提督に世話させるんだーとか言ってたわよ」

 

「えっ鈴谷が? あのスクールカースト上位ですみたいなキャラクターが?」

 

「えぇ。一日のほとんどを娯楽室で同じようなごろごろ組と一緒にゲームしたりドラマみたりして過ごしてるわ」

 

「まじか……いや、そういう鈴谷も確かに見てみたいな」

 

「そんな感じですぐにでも提督を押し倒したいって子だけじゃないわ。まあ、表面上ではそう言ってるけどこっちの世界に来たからには提督への想いはかなり重いんだけどね」

 

 

 安心させた上でそういう事言うのね……

まあ、話の最初に明石から待ったがかかってるって言ってたし押し倒される云々はすぐに起こることじゃないだろう。うん。

とりあえず、あれやこれやを明石に確認する必要があるな。明日にでもまとまった時間を作って明石のとこに行くかな。

そんな算段をつけていると陸奥が「あぁそういえば」と手をポンと叩きながらとんでもないことを言ってきた。

 

 

「言い忘れてたんだけど提督の後ろにずっと川内が居るの気がついてた?」

 

「はぁ?」

 

 

 そう言われて後ろを見たけど誰もおらんぞよ。

いやしかし、艦娘の超絶不思議パァウァーがあれば不可能ではないのかもしれない。てか、仮に後ろに居るとしていつから居るんだろうか。

関係ないけど昔読んだド○クエの4コマ漫画にこんな話があったなと思い出しながら陸奥の方へ視線を戻す。

 

 

「誰も居ないけど……?」

 

「ホントに?」

 

「……ホントに」

 

「じゃあ、名前呼んでみたら? 居るかどうか分かるかもしれないわよ?」

 

「川内……居るのか?」

 

 

 なんて声を出してから思い出したんだ。

そう。五月雨ちゃん達が初めて俺に会いに来た日のことさ。天龍は言っていた。川内は俺に会うとハッスルするってな。

導き出される結論は……川内が押し倒すサイドの艦娘であるという可能性。

まあ、ここには沢山人が居るんだ。大丈夫だろう。何かあれば陸奥だって助けれくれるはず。助けてくれるよね?

なんて考えながら待つこと1分弱。多分そのぐらい待った。待ったという態でいく。まあ、そのぐらい待てば流石に真後ろに居るはずの人間を呼んで返事の一つもないという事は陸奥が俺をからかったという事に他ならない。

陸奥に文句の一つでも言ってやろうと思った矢先。俺のわき腹の横から腕が生えてきた。

 

 その瞬間俺は「ひゅいっ!」とかいう情けない悲鳴を上げながら前方に逃げた。

が、俺のその行動を見越していたのか陸奥が両手を広げて俺を抱きしめる態勢になっているのに気が付いてつま先で踏ん張って止まってしまった。

ゆえに捕まった。この二の腕辺りまである長い指ぬきグローブは間違えもしない。せんdっ……!

 

 

「いてぇ! 川内、力入れすぎ!」

 

「だって、今提督逃げようとしたでしょ? 私悲しかったんだから」

 

「川内、人間ってのはな、びっくりするとその場から逃げようとしちゃう生き物なんだ。だから、さっきの反応はしょうがない事なんだよ。だから、ちょっと緩めて? 俺こんなに圧迫されるの初めてだからもどしそう……」

 

 

 俺の言葉を聞いて川内がゆるゆると力を抜いていってくれた。

まあ、離したわけじゃないんだけどね。背中にコシコシとおでこをこすりつけてきてるんだ。

なんだっけ。犬だか猫もこうやって自分の匂いをつけてこれは自分の物だって感じでマーキングするんだよね。

うん。そういうのは夕立とか多摩の分野じゃないのかなって思います。

 

 

「だから言ったでしょ? 川内が後ろにいるわよって」

 

「あぁ……ほんとに居たな。で、川内はいつから俺の後ろに潜んでたんだ?」

 

「え? そんなの提督が島に着いた時からだよ? もう駄目だったんだ。提督を見た瞬間体が動いてたもん」

 

「え、そんなに早くから居たんかよ。だったら声かけてくれればよかったのに」

 

「いいんだよ、私は。こうやって提督の背中を取ってるってだけでも興奮するから」

 

「そうか……」

 

「ね? 何も押し倒すだけじゃないのよ」

 

 

 そのようでございますね。

ニコニコと笑う陸奥になんか息が荒くなってきた川内に理解が追い付いていない俺。う~ん。カオス!

てか、よくよく考えてみたら目の前の艦娘も背後の艦娘も両方ともCV一緒じゃん。前門のあ〇ねる後門のあや〇る。すげぇなこの状況。

まあ、元のことわざとは意味が全然違うんだけどね。陸奥の後に川内とか提督的にはご褒美なのです。

 

 あ、ちなみに前門と後門を超えた後に寝室の門もある。具体的には聖剣の担い手と同じ声の眼鏡のお姉さんも居る所がそう。

一体どこから見ていたのかわからないけど怖い。俺の予想だけど割と最初のほうから見てたと思う。怖い。



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10話

 結論から言えば特に何もなかった。俺への被害は。

残念ながら寝室の門は艦娘ゴリラパァウァーで一部がひび割れてしまった。かわいそうに。

そして、寝室の入り口にヒビを入れた大淀はまるで何もありませんでしたという態度で極々普通に俺に話しかけてきた。

 

 

「提督。そろそろお時間になりますので食堂の方へ移動しましょう」

 

「え、もうそんな時間? じゃあ、先にシャワー浴びて服も新しいのにしたいんだけど、そのぐらいの時間はある?」

 

「えーそれはもったいないよ提督。すぅー……はぁー……こんなにいい匂いなのに」

 

「川内が良くても他の子が嫌かもしれないだろ。てか、俺が嫌だ。服が乾いてきて自分でも汗臭さを感じ取るレベルになってきてる」

 

 

 俺の言葉を聞いて「ん~」と唸る大淀を横目に川内の腕を剥がしにかかる。

が、全くもってピクリとも動かない。川内に力を入れて踏ん張ってますという雰囲気を一切感じないあたり人間と艦娘の出力の違いを見せつけられているようで少しへこむ。

ちなみに川内はそんな俺の奮闘を無視するように鼻息荒く俺の匂いを嗅ぎまくっている。真面目に恥ずかしいし鼻息が結構くすぐったい。

 

 相性がいいと汗もいい匂いに感じるなんて話をさっき聞いたけどそれでも限度って物があると俺は思うんだ。

流石に川内のこれはいい匂いだから沢山嗅ぎたいというよりもくさい匂いが癖になってきた臭いフェチの行動なんじゃないかと思えてきた。

 

 

「川内ってもしかして臭いが強いものとか好きだったりするか?」

 

「え? ん~そんな事ないと思うけどなぁ」

 

「でも、貴女納豆が好きだとか言って3食全部に納豆出してもらってるじゃない」

 

「納豆はノーカンだよ。納豆だもん」

 

「ノーカンの理由になってないんだが? ちなみにだけど匂いの少ない納豆とかではなく?」

 

「那珂の笑顔が固まるレベルよ」

 

「アウトじゃねーか」

 

 

 川内の腕が少しずつ食い込んでいくのを感じるんだが。

まだ我慢できるレベルだけど少し息苦しい。大淀ー! まだかー! 早くぅ!

 

 

「お待たせしました。10分程なら時間がありますがいかがしますか?」

 

「10分? まあ、そのぐらいあれば余裕かな。シャワー浴びるだけだからね。悪いんだけど替えの服の用意をしてもらってもいい?」

 

「わかりました。では、この部屋に備え付けてあるお風呂を使ってみたらどうでしょうか?」

 

「……そうだな。時間もないしあっちに移動する時間がもったいないか」

 

 

 そう言って風呂場に移動する。

さっき変な声出しながら風呂場の中は見たからどこに何があるってのは把握してるから大丈夫なはず。

あと、浴室の鍵ね。これ重要。もしかしたら俺の後ろにまだ誰か隠れてるかもしれないからね。鍵をかけて変なものを見せてしまうみたいな事故を未然に防いでいかないと。

大丈夫。一緒についてきた妖精さんに洗濯物を置いておく場所なんかは教えてもらえるからね。

 

 男の風呂なんてのは常にラディカルでグッドなスピードと相場が決まってる。烏の行水というやつね。

バッと入ってバッと出てきました。男の入浴がサービスシーンになるのはゴールデン〇ムイだけ。

バスタオルは備え付けの物を使って下着を……下着かぁ。

どうするべさと悩んでたら妖精さんが服の下から俺の下着を取り出して渡してくれました。

 

 

「ありがとう。でも、次からは先に出しておいてくれていいからね。ちょっと流石にデフォルメ幼女の服の下で温めた下着ってのは犯罪臭が尋常じゃないんだ。頼むね?」

 

 

 俺の言葉に敬礼で答えてくれたので次は大丈夫だと思う。

とか言ってたら次はワイシャツを服の下から取り出して俺に渡してきた。まあ、そうよね。全部そうやって持ってきたに決まってるよね。

ありがとうとお礼を言いながら渡される衣服を着用していく。

結局靴以外がデフォルメ幼女の服の下で温めた物な俺氏。なかなかに犯罪チックである。

 

 

「悪い。待たせたな」

 

「いえ、5分程でしたし大丈夫ですよ」

 

「ちゃんと汗は流せた?」

 

「あぁ、バスタオルもふわふわでどんどん水を吸い取るから拭くのも楽で助かった」

 

「あれは毎日鳳翔なんかが主立って洗濯しているものだ。お礼なら彼女にしてあげるといい」

 

「そうか。わかった。後で言っておくよ。で、川内はどこに行った?」

 

「川内さんなら先に行って待ってるねーと言って行っちゃいました!」

 

 

 臭いの薄くなった俺には興味がないという事なのだろうか。

それはつまり納豆に負けた状態? いや、でも納豆と勝ち負けを競ってもそれはそれでどうなんだろうか……

 

 

「それでは提督。食堂に行きましょう」

 

「わかった。案内よろしく」

 

 

 大淀を先頭に食堂を目指して移動を開始。今更だけどこうやって何人かでまとまって部屋を移動するのは移動教室ぽくて結構好きかもしれない。

懐かしきかな学生生活。まあ、あの時は周りにこんな綺麗所なんて居なかったけどね。野郎だけでわいわい騒ぎながら移動したもんよ。

 

 んで、移動が済んで食堂の前。

ちなみに長門と陸奥、五月雨ちゃんは先に中に入っていった。廊下には大淀と俺だけ。

こういう仕切り担当が大淀ってのはわかるけどこの子だけ働きすぎじゃないかなって思えてきたんだけど?

実際、今大淀作成の本日の歓迎会式次第を俺に手渡して上から順番にプログラムの内容の説明をしてくれている。

けど、これ何回読み直しても歓迎会って感じじゃないんだよね。

わかる。わかるよ。これは何分とかこれは何時間とか時間区切ってはじめと終わりを明確にしておきたいのもわかる。

提督である俺を持ち上げるために一所懸命考えてくれたんだろうなってのもその顔を見ればわかる。

 

 

「だからこそ。だからこそだよ、大淀」

 

「何がですか? どこかおかしな所がありましたか?」

 

「あぁ、いや。大淀が作ってくれた歓迎会のスケジュールは完璧だと思う。とてもよく出来てるよ。俺も仕事で何回か作ったことはあるけどこれ結構めんどくさいよなぁ。俺的にはもうやりたくない」

 

「大丈夫ですよ。今後、こういった仕事は私が作って提督が確認といった風になりますから」

 

「あ、ほんと? そいつは助かる。じゃあ、早速今回のこれについてだけどこれはダメだよ大淀君。完璧だとかよく出来てるって言ったけど宴会としては堅すぎるからやり直しだな」

 

 

 俺は式次第に書かれた時間が来ていないのにもかかわらず食堂の引き戸を開け放ち中に入っていく。あ、引き戸の先は下駄箱なんですね。ちょっと勢いよく入ったのに恥ずかしいじゃん。なんもかんも曇りガラスが悪い。

んで、靴を下駄箱に入れてさらにその先にあった引き戸を開けて中に入ると最初に目に飛び込んできたのは俺に向かって敬礼をしてくる艦娘達だった。

 

 

「うぇ、いつから敬礼して待ってたんだ? あ、敬礼はやめていいぞ」

 

「私達が食堂に入ってからだな」

 

「あーなるほどね。よろしい」

 

「提督。私は何かまずい事をしてしまっただろうか? 次の時の為に教えてもらってもいいか?」

 

「ふむ……長門、それに大淀。君たちは何も悪い事なんてしてないさ。俺の為を思ってしてんだろ? ならいいんだ。俺はうれしいよ。でも、それと同時に俺は悲しい。なんでだと思う? あーそうだな。じゃあ……うん。こういう時は吹雪だな。なんでだと思う?」

 

「うぇっ! 私ですか!?」

 

 

 たまたま俺が立っている位置の近くに居ただけという理由で吹雪を指名すると吹雪はなるべく女の子が出すべきではない声を出しながら俺の方へギュオンという効果音と共に振り返った。

いきなりの事に頭が動いていないのか口元まで持ってきた手をもにょもにょと動かしながら「あ、え、えーっと」と混乱しまくりの姿は非常に愛らしい。やっぱり艦これは芋に限る。

 

 

「残念ながら時間切れとなった為、吹雪君は後で一発芸の刑です」

 

「えぇー! 司令官それは理不尽過ぎません!?」

 

「大丈夫。お供に長門と大淀つけてあげるから。じゃあ、次は白雪ね。白雪が答えられなかったら次は初雪だからな。考えておけよ? 初雪の次は深雪様かもしれないし別の誰かかもしれない」

 

 

 吹雪の「なにも大丈夫じゃありませーん!」という叫びを無視して白雪を指名する。

それと同時に次に当たる予定の初雪の顔を見てみれば眉間に皺を寄せて全力の嫌だアピールをかましているのが見えた。正直めっちゃ笑いそうになったんだけど?

まあ、でも白雪多分わかってるよね? だってこの子、キャラソート的には2番目だからね。最古参も最古参よ。

 

 

「そうですね。私は歓迎会にしてはちょっと堅苦しいかなって思ってました。だって、司令官と私たちの仲ですし。今は特に業務時間内というわけじゃないですからね。司令官は堅苦しいの苦手ですし最初から無礼講と言って騒ぐ方が好きなのでは?」

 

「いやー流石は白雪だな。ほとんど正解。じゃ、リベンジマッチだ吹雪。答えられたら一発芸はなしにしてやろう」

 

「が、頑張ります!」

 

「よし。じゃあ、吹雪。俺とお前はなんだ?」

 

「うぇっ!? な、なんだ? え、えぇぇー……なんだ?」

 

「5、4、3……」

 

「短い! 司令官! 制限時間が短すぎます!」

 

「2、1……」

 

「あ、えっと! あぁぁぁぁぁ家族! 司令官! 司令官と私は家族です!」

 

 

 0と同時に吹雪の肩を叩こうと思っていた俺の両手が止まる。

そしてそのまま肩ではなく右手を頭の上へ左手を顎の下に持っていって目を閉じて俺の判決を待つ吹雪を思いっきりよしよしと撫で繰り回した。

 

 

「てっきり上司と部下っていうのかと思ったけどよくわかったな。当てずっぽう?」

 

「い、いぎぇ……そぎょ、しれいぎゃんもそう思ってでぎゅれたらうぃうぃにゃって」

 

「大丈夫だよ。俺も吹雪もそうだし、他のみんなも全員家族だと思ってる。だからさ、次から宴会開くときは式次第なんていらないし俺に向かって敬礼はいらないかな。宴会やるなら集合! 乾杯! 満足したやつから解散! ぐらいの気持ちでいいよ。正直、俺と皆は対等。俺はそう考えている。てか、ね。上下関係かたっ苦しいのでなしでお願いします」

 

「ふふ、しれいぎゃんてりぇてましゅね」

 

「吹雪さっきから面白しゃべり方してるな」

 

「えぇぇぇ! しれいぎゃんがなでぇりゅきゃらでしゅよ!」

 

「マジで笑える。にしても開幕お説教みたいな感じになって悪かった。よし。じゃあ、とりあえず全員グラスを持てぇい!」

 

 

 

 ほんとはね? ほんとはもうちょっと軽い感じでやるつもりだったんだけど想像以上に長門と大淀が真面目ちゃんだったせいで一瞬ガチ説教みたいな雰囲気になってしまってこちらとしては吹雪を使って場を和ます以外手段がなかったんだ……吹雪……なんて万能型な主人公なんだ……

 

 見渡して全員がグラスを持っているのを確認する。いや、待て。あの飲兵衛集団グラスじゃなくてお猪口なんだけど? 一発目から日本酒キメるつもりかよ……まあ、いいか。好きなもん飲みなさい。

よし。大丈夫かな。俺も鳳翔さんからグラスを受け取って喉の調子を整える。

 

 

「ん゙ん゙っ……えーまあ、開幕から白けるような事やってごめんね? でも、俺が言いたいことは伝わったと思う。思いたい。まあ、よくわからんって子が居たら後で聞いてくれ。いくらでも答えるよ。それじゃあ、とりあえず一言だけ。ありがとう。こんな俺に会いに来てくれて本当にありがとう。俺から皆に送る言葉はその一言だけだ。よし! それじゃあ、グラスを上げてー……はい、かんぱーい!」

 

 

 マジでね。自分から注目されるように話を始めたのは良いけど300近い目に注目されると恥ずかしいわ結構怖いわで最後の方は早口で乾杯までもっていってしまった。

俺の乾杯に合わせて飲兵衛集団がノータイムでかんぱーいと声を上げてくれたおかげで他の子達もそれにつられて乾杯と復唱してくれた。ありがとう飲兵衛集団。ポーラの酒はしばらく見て見ぬふりをしてやろう。

 

 じゃあ、俺も席に着いてなんか食べるか。すきっ腹にビールはなかなかに堪える。と、思ったけど俺の席は? 

ちなみにこの鎮守府の食堂は畳と掘り炬燵形式らしい。いいよね、掘り炬燵。掃除大変そうだけどいいよね。

一応奥の方にテーブル席も用意されていて掘り炬燵に慣れていない海外艦に配慮しているのだろう。

でも、パッと見た感じ海外艦も結構な数が掘り炬燵の方に座ってる感じがする。

 

 さて、どこに入れてもらおうかな。

ここに居るのはよく考えなくても俺以外は全員艦娘。自分から「みんなはこれまでもこれからも俺の家族だ!」みたいなファミパンを放ったくせにあまりの顔面偏差値の高さにビビってる。

いや、ほらやっぱり美人に声かけるのって勇気がいるじゃん? 自分との差を見せつけられて話しかけられるほど俺は強くない。

だから、俺は吹雪の横の誕生日席によっこいしょうきちと座り込んだ。

 

 

「え、司令官。ここでいいんですか? もっと戦艦の皆さんとか空母の皆さんの方がいいんじゃないですか?」

 

「いや、ほら。あっちのお姉さま方食べるので忙しそうな感じがするんだよね。それならまだ駆逐艦の方が人間味溢れる食事量かなって。まあ、ある程度腹が膨れたら歩き回るからそれまでは一緒に食事しよう。あ、それから大淀も自分の席に行っていいからね? 今日も疲れたろ? 沢山食べて沢山飲んでゆっくり休んでね」

 

「えっ……あ、はい。それでは失礼します」

 

 

 俺の言葉に返事をしてとぼとぼと歩いていく大淀の背中は寂しそうに見えた。

が、大淀は俺のそばに居ると働いてしまいそうなのでここは心を鬼にして大淀を送り出す。

うちの鎮守府はブラックではなくホワイトなのです。女の子がブラックになっていいのはプ〇キュアだけ。

 

 

「司令官は何が食べたいですか? 小皿によそいますよ?」

 

「どれもおいしそうだな。じゃあ、とりあえずその沢山ある卵焼きを何個かと唐揚げをお願いできるか?」

 

「卵焼きと唐揚げですね」

 

「あ、司令官飲み物はどうしますか? 次もビールですか? それとも日本酒とか焼酎ですか?」

 

「いや、このあと歩き回る事を考えたらソフトドリンクの方がいいな。麦茶とかあったらいいんだけど、悪いが吹雪持ってきてくれるか?」

 

「任せてください!」

 

「お、司令官! このお稲荷さん美味しいぞ! 司令官も食べてみろよ!」

 

 

 俺が席に座って妖精さんからおしぼりを貰って手を拭いている間に吹雪型の2、1、4番艦から怒涛のラッシュ攻撃を喰らった。

白雪におかずをよそってもらい吹雪に飲み物の補充をしてもらって深雪様からお稲荷さんアタック。このお稲荷さんべらぼうにおいしいんだけど。え、なにこれ。無限に食えそう。

ちなみに初雪はマイペースにおかずをよそってもそもそと食べていた。え、なにこれ。べらぼうにかわいいんだけど。無限に見ていられる。

 

 

「ちょっとあんた。姉たちに何させてんのよ。自分のことぐらい自分でしなさいな」

 

「大丈夫だよ、叢雲ちゃん。なんか司令官のお世話するのちょっと楽しいかも」

 

「白雪が楽しいかどうかじゃないわ。こいつが自分で自分の世話が出来なくなったらどうすんのって話よ」

 

「そうなったら……それはそれで」

 

「よくないから言ってるんでしょ!? ほら、あんたもアホ面してないで白雪から小皿奪い取って自分でよそいなさい!」

 

 

 叢雲が想像以上におかんやってる。最高かよ。生きててよかった。

しかしこれ以上睨まれたくないので白雪にお礼を言って途中まで盛り付けられていた小皿を受け取る。そこからちょろちょろっと付け足しで小皿を重くしてから自分用の割りばしを割った。

その時ちょうど吹雪も飲み物を持って戻ってきてくれた。芋だなんだ言われてるけどこの笑顔最高なんだよなぁ。

まあ、改二だから改よりもシュッとしてて芋成分少な目だからってのもあるかもしれないけどね。

 

 

「お、吹雪も飲み物ありがとな」

 

「いえ、このぐらいお安い御用ですよ司令官!」

 

「吹雪もあんまりこいつを甘やかしたら駄目よ」

 

「えーこのぐらい甘やかしたうちに入らなくない?」

 

「入るわよ。それでなくてもこいつを甘やかそうと躍起になってる連中が居て頭が痛いってのに……」

 

「叢雲ちゃんも司令官の事お世話してみたら? あ、初雪ちゃんは何か食べたいものある?」

 

「司令官の前にあるお刺身が食べたい」

 

「これか? 俺がよそってやるよ。皿くれ皿」

 

「ん! このお稲荷さん美味しいですね司令官!」

 

「あ、司令官! 深雪様にも刺身くれ!」

 

「あんたらね!」

 

「叢雲もそうかっかしなさんなや。ほれ、叢雲の刺身とお稲荷さん。刺身のおかわりが欲しかったら司令官にな!」

 

「あ、ありがと。……はぁ、もういいわ。私も食べよ。でも、あんた達司令官をこれ以上甘やかすんじゃないわよ」

 

 

 その後お稲荷さんを頬張った叢雲はキラキラと輝きながら「え、これ美味しすぎない?」と興奮と困惑を織り交ぜながら、先ほどまでの怒りをどこかに吹き飛ばしてリスのようにほっぺたを膨らませながら食事を開始した。可愛すぎかよ……どうなってんだ吹雪型……

 

 ちなみに磯波と浦波もその場に居るのだけどこちらの会話に参加せずにいた。

いや、正確には何回か磯波もこちらの会話に交ざろうとしてきたがその悉くを浦波が話しかけたり食べ物をあーんしたりしてつぶしていた。

ふむ。浦波はこっちの世界ではより磯波大好きガールになっているという事なのだろうか。

それとも向こうでは触れ合いみたいな事が出来ないからこっちでそのうっぷんみたいな物を発散しているとかそんな感じなのかな。

実際、ちらりと横を見てみれば少し離れたところで北上が助けてくれと視線で訴えてきたので親指を立てて応援してあげた。利根と筑摩はまああれで正常か。

 

 さて、そろそろ小皿の上も卵焼きだけだ。俺は好きなものは最後にとっておくタイプ。

絶対これ瑞鳳が作ったやつだろ? 絶対美味しいよね。あれだけ卵焼き押しで美味しくなかったらウソだもんな。

改めていただきますと言ってから箸で卵焼きを掴もうとした瞬間。俺の腕は何者かによってその動きを止められてしまった。

 



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11話

 誰ぞと俺の腕を掴んだ人物を見てみれば、茶色い髪をポニーテールにまとめた駆逐艦ぐらい小さい軽空母瑞鳳が居た。ニコニコと笑顔を浮かべたその顔はとても愛らしい。

やっぱり艦これのキャラはどの子も可愛い。生み出してくれた人には感謝しかない。

 

 

「提督? 絶対に最初に私の所に来てくれるって思って提督専用の卵焼きを持って待ってたんだよ?」

 

「え、あぁ、それは悪かったな。そこまで気が回らなかった」

 

「んーん。大丈夫。それよりほら、これ提督用の卵焼き。それも私が作った卵焼きだけどそれは皆が美味しく食べられるように作った物だから。そっちも食べてもらいたいけどこっちの卵焼きの方がより提督好みにしてあるんだぁ。だから、この卵焼き食べて?」

 

「ありがとう。いただくよ」

 

 

 瑞鳳凄い早口で言ってそう。まあ、実際めっちゃ早口で言われたんだけどね。

頬の一つでも赤らめて流し目で言われたら思わず抱きしめそうになったけど一切目をそらさずに俺の目だけを見て一気に言われた。ふぃー参ったね。

でも、怖いって感情よりも可愛いが先行するあたり瑞鳳なんだよなぁ。

卵焼きが乗った皿を受け取ろうとしたら瑞鳳に「待って」と言われて逆に俺の持っていた箸を奪われた。

 

 

「はい! 提督! あーん」

 

「自分で食べれるんだが? てか、恥ずかしいから自分で食べたいんだけど?」

 

「ダメでーす。提督が最初に私の所に来てくれないのがいけないんです。はい。あーん」

 

「叢雲? 叢雲さん? これはアウトじゃないの?」

 

「こっちに話振らないで。私は今食べるので忙しいのよ。決して、怖いからとかじゃないから」

 

「おい。本音漏れて「はい。ずぼっと」おぼぉ!」

 

 

 口の中に放り込まれた卵焼きは美味かった。いや、ホントはもっと色々感想が言いたいんだけど食レポなんてこれまで生きてきて必要なかったから美味い美味しいぐらいしか出てこない。

もっとごろーちゃんのセリフを覚えておくべきだったかもしれない。とりあえず僕の口の中が幸せです。

 

 

「……どう? 美味しい?」

 

「美味い。これはホントに美味い。口の中が幸せ」

 

「ほんと? じゃあ、はい。もう一口どうぞ」

 

 

 瑞鳳がさらに卵焼きを差し出してくる。

もう恥ずかしいとかそういう感情よりも食べたいという感情が上回ってるせいでほぼノータイムで差し出された卵焼きを食べていた。

やっぱり美味い。さっきのは甘めのプレーン卵焼きだったけど今食べたやつはチーズ入りでとても美味。

その次はそぼろ、ピーマン、ネギ、たらこといった感じでどんどん俺の口の中に卵焼きを詰め込んでいく瑞鳳。

待ってほしい。俺の口はそんなに広くないので溢れてしまう。

 

 

「ず、瑞鳳さん! 司令官の口にはもうそれ以上卵焼きは入りませんよ!?」

 

「なんか、お弁当に詰めるみたいに卵焼きが司令官の口の中に納まっていったな」

 

「司令官大丈夫ですか? 出します?」

 

 

 白雪が箸をぱちぱちしながら聞いてきたけど流石にそれはと手を振って大丈夫だと伝える。

ちなみに瑞鳳はすでに新しい卵焼きを掴んで待機している。その……ちょっとは手加減してほしい。

美味しいっちゃ美味しいけどこんだけ色んな種類を一度に入れられると味がわからなくなる。

俺は手で瑞鳳をけん制しながら口の中を空っぽにしていった。

 

 

「瑞鳳待って……一個ずつ。一個ずつゆっくりといこう。いっきに色々詰め込まれても俺は凄い舌を持ってるわけじゃないから味の区別がつかないんだ」

 

「わかりました。じゃあ、次は牛すじです」

 

 

 全く反省という色が見えない瑞鳳は返事をしながら俺の口に卵焼きをぶち込んでいた。

いや、怖いわ。うん。卵焼きは美味しいんだけど瑞鳳が怖い。いや、うん。モチのロンで、俺はこんな瑞鳳だって受け入れるよ。

でも、俺が卵焼きを飲み込んだ瞬間にノータイムで卵焼きを入れられると箸が刺さりそうで怖い。

そして、そのまま皿に乗っていた卵焼きを俺の口の中に押し込むだけ押し込んで俺が咀嚼するのを笑顔で眺め続ける瑞鳳。ついでにハァハァし始める瑞鳳。

 

 

「……瑞鳳。随分と息が荒いけど大丈夫か?」

 

「もちろん大丈夫よ? 提督のお腹の中が私で満たされていくと思うとちょっと興奮するだけ」

 

「笑顔でいうセリフじゃないし、私でって……」

 

「あ、やだなぁ提督。変なものは入れてませんよ? ただ、料理を作った者としてたくさん食べてくれるのが嬉しいの!」

 

「だよな? うん。信じてるよ瑞鳳」

 

「はい! それじゃあ、私は追加の卵焼き作ってくるね?」

 

「……うん? いや、悪いんだけどもう流石にお腹いっぱいだからこれ以上は食べられねーぞ。また、明日以降って事じゃだめかな」

 

「えぇー……わかりました。明日からもしっかり三食作っておきますね」

 

「ありがとうな」

 

 

 にこやかに立ち去っていく瑞鳳に狂気を感じるか感じないか。

まあ、俺が最初に思った感想は毎日三食も卵焼きが出たら絶対飽きるどうしよう。だったから瑞鳳に狂気は感じないという結論でいいよね。いいよ。

いやしかし、ホント毎日出されたら流石に飽きる。どんなに美味い食べ物でも毎日はダメでしょ。

たまに食べるからご褒美感があって良いんだと僕は思うんだよね。

 

 

「吹雪ぃ~白雪ぃ~助けてくんろ~……毎日は飽きる……」

 

「あきらめてください……ちなみに足柄さんもかなり張り切ってたんで頑張ってくださいね」

 

「……俺食い過ぎで死んだりしないよね?」

 

「さあ……? 私達と毎日運動します? ここ、運動場に体育館、トレーニングルームなんてのもあるんですよ?」

 

「卵って結構栄養があるから適度にならいいけど食べ過ぎたら毒だって聞いたことありますね」

 

「数減らしてもらうか……ダメだったらその時隣に座った子の口の中に放り込もうかな」

 

 

 さてと。結局腹いっぱいまで食べちゃったけどそろそろ移動するか。

駆逐、軽巡、重巡、戦艦、軽空母、正規空母、その他ごちゃごちゃ。

大体同じ艦種だったり姉妹だったりで固まってるみたいだけど海外艦だったり飲兵衛組だったりは艦種関係ない感じだな。

職場と宴会場が同じ場所って事である意味時間無制限みたいな感じはあるけど、そんなん俺の体力が持たぬ。

こちとらか弱い人間だからね。艦娘の無尽蔵エネルギーには勝てんのだよ。

全部は回れないだろうから、どこの席に行こうかなと神様に尋ねていると俺の体が不意に持ち上がった。

 

 

「待って……腹持たないでくれ……中身が出る……」

 

「ぽい。提督がなかなか来ないのがいけないっぽい」

 

「そうだよ提督。僕達ずっと待ってたのに。暴れないでね? 料理の上に落ちちゃったら大変だから。さ、行こうか。吹雪、提督は貰っていくね」

 

「あ、うん。提督も頑張って耐えてくださいね」

 

 

 ぽいぽーいと俺をお米様だっこで持ち上げた夕立とそれについてきた時雨。

夕立の小さい肩が絶妙に腹に突き刺さって痛い。あと、頭が下に向くから一瞬スクランブルエッグを口から生み出す所だった。ピ〇コロ大魔王よりひどい。喉の奥がすっぱい。

 

 連れてこられたのは勿論白露型姉妹が座っている席。

腕を組んで目をつむる白露にそれを無視して食事を続ける姉妹達。

そして、俺が五月雨の横に座らされると同時に白露はカッ! と目を見開いて俺を指さした。

 

 

「提督! 遅いよ! なんでいっちばーん最初にここに来ないのさ!」

 

「いや、悪い」

 

「もう! 最初に自分の奥さんが居る所に来るもんでしょ!?」

 

「言われてみればそうだな……五月雨ちゃんごめんな?」

 

「私は大丈夫ですよ。それより提督何か食べますか? 飲み物も欲しいものがあれば言ってくださいね」

 

「さっきたらふく卵焼きを放り込まれたから食べ物はいいや。なんか、麦茶とかそういうのがあればお願いできるかな?」

 

「提督、このきゅうりの和え物美味しいですよ。春雨入りです、はい」

 

「ほら、箸だぜ提督」

 

「江風、髪の毛気を付けて。料理に当たりそうよ」

 

「あれ? 話聞いてた? まあ、和え物ぐらいならいけるかな。春雨ありがとう。江風も箸ありがと」

 

「んもう!」

 

 

 さっきも見たよこの光景。叢雲も白露も姉妹からいじられる担当なんだろうか。

ただ、まあね。吹雪型と白露型じゃ戦力差が歴然かなって。俺はどっちも好きだからいいんだけどね。

あと、白露が吠えて有耶無耶な感じになりそうなんだけどさ。俺は五月雨の左隣に座った。さらに俺の左隣に時雨が座った。

ちなみに左前が白露で真正面が村雨、右前が春雨となる。

うん。そうなんだ。夕立が俺の股の間に収まってる。ぽいぽい言いながら収まってるんだ。んでもって夕立が容赦なくもたれ掛かってくるせいで髪の毛がくすぐったい。

てか、すんごいシャンプーの香り。きっと高いんだろうなぁ。

 

 

「提督さんの間は落ち着くっぽい」

 

「そいつはよかった。ただ、俺としては夕立の髪の毛が顔に当たってくすぐったいんだ。左側に寄せてもらってもいいか?」

 

「わかったっぽい」

 

「提督。それなら僕の方が提督の前に座るのに適してると思うんだ。僕は髪の毛を三つ編みにしてるからね。提督の顔に当たらなくて済む。さあ、夕立。僕と席を代わろ?」

 

「それには及ばないっぽい」

 

 

 夕立はそういうとポケットからヘアゴムを取り出し一本結びをして左肩に髪を乗せた後時雨に向かってどや顔をした。

いや、なぜ挑発をしたのか。ほらー時雨が箸折っちゃったじゃん。

しかし、そんなのはお構いなしといった具合に夕立は俺の左腕を掴んで自分のお腹へと回して「ぽい~」と鳴いていた。

そんな事したら……ほらー時雨がまた箸折っちまったよ。

昔聞いたことがあるんだけど犬ってのは独占欲が強いらしい。飼い主が自分以外と遊んでいるとこっちも構えと吠えてアピールするんだとか。

いや、まあ、今の状況とは関係ないよ? 犬なんてここには居ないからね。関係ない。

 

 

「ほら、時雨。新しい箸」

 

「ごめんね提督。箸ありがとう」

 

「構わんよ。それと、こんな所でよければ時雨も後で座らせてやるからそういじけるんじゃないぞ?」

 

「ほんと? ありがとう提督」

 

「提督さんがそういうならしょうがない。後で代わってあげるっぽい」

 

 

 少し機嫌が良くなったように見える時雨は美味しそうにご飯を食べ始めた。

んーこういうの見てると小さい頃の妹と従妹が俺の膝を取り合ってた思い出がよみがえってくる。

懐かしい。いつの間にかどっちも大きくなって俺の膝を取り合うなんて事しなくなったからなぁ。むしろ背中を蹴られるぐらいだったし。

まあ、この子達はあの頃の妹達より大きいんだけどね。改二だし。大きい。色々と大きい。

なんて邪な事を考えていると右の袖をクイクイと引っ張られた。

俺の考えが読まれたのかッ!? なんてくだらん事を思いながら右を見れば山風が四つん這いで俺の方へ寄ってきていた。

 

 

「提督……時雨姉の次はあたし……」

 

「へ、あぁ、うん。いいぞ」

 

「あ、じゃあ、山風の次は村雨をお願いしますね?」

 

「その次はあたいだよ! 提督! 涼風の本気みせたげるっ!」

 

「では、海風はその次で」

 

「私もお願いしますね! 提督!」

 

「五月雨の姉貴の次は江風さんな! てーことで、白露の姉貴は最後って事で!」

 

「ちょっと待って! なんで長女のあたしが最後!? 普通は、お姉ちゃんがいっちばーん最初だよね?」

 

「じゃあ、5分交代でいいかな? ほら、夕立はもう5分座ったでしょ? 僕と代わってよ」

 

「まだ5分じゃないわ。あと、1分ぐらいはあるはずっぽい」

 

 

 飯を食べる所の騒ぎじゃなくなった白露型の席。

ちなみに背後からも「ねぇ、提督。如月の番はいつかしら?」と問いかけが飛んできているが、俺には決定権がないので「さぁ? 俺にもわからん」としか答えてあげられなかった。

てか、背中にのの字を書かないでくれ。それ結構くすぐったいんだ。

 

 そんなこんなで一通り椅子取りゲームが終了した頃には俺の腹も大分余裕が生まれてきた。

一人持ち時間5分を10回だからね。1時間近くもクルクルと女の子が入れ代わり立ち代わり俺の膝の間に座るといういくら払えばいいんだろうっていうサービスというかプレイというか……

しかし、今日の俺は紳士的だった。運が良かったな。紳士的じゃなかったら俺が死んでた。

 

 だが待ってほしい。流石の俺だって枯れてるわけじゃない。これは普通にゆゆ式事態である。否、由々しき事態である。

そういえば、朝からおかしかったよな……つまりは明石案件。

昨日妖精さんごと飲み込んだアレが原因なのは確定的に明らか。

この件だけは今すぐ聞き出したかったが明石はすでに退室済みらしく食堂には姿が見えない。見えるのは一緒に飲んでいたであろう泥酔modeの大淀ぐらいだった。

 

 

「そういえば提督」

 

「どうかしたか?」

 

 

 俺の股の間に座ってむしゃこらとエビフライを頬張っていた白露が尻尾をバリバリと食べながら顔をこちらに向けてきた。

タルタルソースいいなぁ。俺はアレをご飯にかけて食べるのが結構好きなんだよね。

 

 

「提督って五月雨の旦那さんじゃん?」

 

「そういうことになってるな」

 

「うんうん。で、五月雨って白露型の六番艦なわけじゃん?」

 

「そうだな」

 

「つまり、提督って私からしたら義理の弟って事でいいんだよね? ほら、白露お姉ちゃんって言ってもいいんだよ?」

 

「! 提督、僕の事も時雨お姉ちゃんでいいんだよ?」

 

 

 義弟発言を受けて速攻でその話題に乗っかる二番艦と動きが止まる他の姉妹艦。

ちなみに五月雨ちゃんはそういう事にはポケポケなので「なるほど!」なんて笑顔で感心してる。

まあ、白露型の義兄及び義弟判定を受けた俺も実のところ五月雨ちゃんと同じく「なるほど……」なんて感じで感心してしまっていた。似た者夫婦ってやつだね。照れるわ。

 

 

「白露お姉ちゃん、白露姉さん、白露姉、白露の姉貴。どれも言いにくいんだけど。白露は白露でよくないか?」

 

「えー折角のお姉ちゃん特権なのにそれはダメ! じゃあ、白露姉さんでいいよ! さん、はい!」

 

「白露姉さん、でいいか?」

 

「いいね! 今後はその呼び方でお願いね? あ、でも、提督が私とケッコンしたいってなったら白露って呼び方に戻してもいいからね!」

 

 

 バチコーンとウインクをかましながらタルタルソースを口元に付けた白露が笑いかけてくる。

とりあえず、その問題になんて答えればいいのかわからなかったのでウェットティッシュで白露の口元を拭いて有耶無耶にする作戦に出た。

 

 

「ソース付いてんぞ、白露姉」

 

「うぶっ、結構ごしごしいくね。まあ、苦しゅうない!」

 

「提督は、僕の事をお姉ちゃんって呼んでくれないの?」

 

「この子思ってたより結構グイグイくるタイプなんだな」

 

「時雨ってば提督さんに会えて嬉しいからいつもの何倍もテンションが上がってるっぽい。明日の朝はベッドで足をバタバタさせてると思うっぽい」

 

「村雨は頭を抱えて布団に包まってると思うわ。カメラで撮って提督にも見せてあげるからね?」

 

「怒られない範囲でやるんだぞ?」

 

「ねぇ! 提督! 僕の事呼んでくれないの?」

 

 

 この子酔ってないよね? 時雨ってもっと落ち着いてて物静かな子ってイメージだったけど今のこの感じだと時雨もゲームとのギャップがあるのかもしれない。

まあ、夕立の話を聞いてる感じだと今の時雨はちょっとテンション空回り気味らしいからな。

明日以降に会ってどんなテンションで接してくるか確認してからでも遅くはないか。

 

 ふむ。じゃあ、そろそろ次だなと他のテーブルに目を向けてみれば吹雪型と白露型としか交流してないのに部屋に帰ってしまった子達が居るっぽい。最初から全員と交流するのは不可能だとわかってはいたけど申し訳なく思う。

それとさっきからずっと後ろから「テートクゥー……テーイートーク―……」って金剛の鳴き声も聞こえ始めた。

まあ、これに関しては後で断りを入れよう。金剛ならわかってくれるだろう。うん。金剛はいい子だからな。

 

 さてとそろそろ次はどこ行こうと頭を捻っている間も時雨は俺を揺さぶり白露は唐揚げを食べている。

ふむ。そうさな。そういえばあの人たちの所に行かねばならぬな。何せ今回一番働いたに違いない。

よっこらせともたれ掛かっている白露を持ち上げてからずりずりと掘り炬燵から脱出し背中に張り付いていた如月を下ろして立ち上がる。

 

 

「それじゃ、俺は次の所に行くわ」

 

「えーもうおしまい?」

 

「提督? まだ、お姉ちゃんって言ってないよ?」

 

「おしまい。また明日以降機会があればそん時だな。それじゃあな」

 

 

 手が届きそうな範囲の艦娘の頭を撫でてる。

最初に時雨を撫でていたら白露が頭を突き出してきたのでついでに撫でる。

二人とも髪の毛さらっさで撫でてるこっちも気持ちがいい。いやー凄いね。男とは髪の毛の触り心地全然違うんだもの。

ちなみにその後に夕立や五月雨ちゃんの頭も撫でたけどめっちゃサラサラでした。

 

 さて、今度こそ移動するかと目的地に目を向けると視界の下の方でちょろちょろと動く人影が複数。

席に来ないのならばせめて私も撫でろと頭を突き出してくる睦月型の子達。

流石に睦月や如月は改二になってちょっと成長した感があるけど他の睦月型の子に関しては完全におこちゃま枠。ちなみに皐月と文月は改二だけどおこちゃま枠。

睦月はにゃしぃにゃしぃ言ってるけどどこか色っぽい所を出してくる所が強いなと。これが噂の長女力。如月に関しては言わずもがななので割愛。

んで、睦月型を撫でた時の反応はだいたいこんな感じだった。

 

 

「提督の手はおっきくて気持ちいにゃ!」

 

「如月的には頭も良いけどほっぺもおすすめよ? もちもちすべすべでしょ?」

 

「……………照れてません」

 

「うびゅっ! にゃんでぇぶーちゃんはひょっへ!?」

 

「ちょっとくすぐったいけどいいかんじだよ提督!」

 

「もうちょい右。あー行き過ぎほんのちょっと左ぐらい……うんっ!」

 

「ふぇぇ~提督もうちょっと~」

 

「私はけっこ……おいこら! あ、嫌じゃないが……うぅ……」

 

「ふむ。悪くない」

 

「提督ありがとうございます! これからも頑張ります!」

 

「おぉー……いいねぇ……」

 

 

 とりあえず、ぶーちゃんは頭を撫でるよりほっぺを掴んだ方がキャラとして輝くと思ったんだ。

実際めがっさ柔らかくて得した感が半端なかった。流石ぶーちゃん。

そして睦月型を撫で終わった俺の目の前には更なる行列が存在していた。

列の最初に並んでいた朝潮に「よろしくお願いします!」と言われた時は思わず頭に手を置きそうになったけど心を鬼にして、伸ばした右手を左手で殴り飛ばす。

だって、朝潮型の後ろに陽炎型と夕雲型が並んでるんだもん。俺は一体いつ解放されるんだって話よ。

「申し訳ないけど他の子は明日以降な」と何とかその場をおさめて改めて俺は次の所へ移動した。



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12話

 駆逐艦の子達を振り切り、道すがら真正面から抱き着いてきた金剛に「後で行くから」と断りを入れつつたどり着いたのは厨房と座敷を隔てるカウンター。

このカウンターの向こう側の厨房に今回の一番の功労者達が居る。……はず。

 

 

「あー……誰か居るか?」

 

「はいはい。あら、提督じゃないですか。何か欲しいものがあるんですか? なんでも言ってくださいね?」

 

「いや、別段欲しいものがあって来たわけじゃないんだ。今回の料理を準備してくれてありがとうって言いたくて間宮さん達に会いに来たんだよね」

 

「いいんですよ。私たちはこういう事ででしかお役に立てませんし」

 

「いや、間宮さんにはいつもお世話になってるよ」

 

 

 キラ付けがめんどうな時とかね。ホントキラ付けはつらい。

連合艦隊と道中、決戦支援のキラが同時に剥げた時とかもうホント発狂案件。

その点、間宮と伊良湖があれば楽々だからね。しっかり任務こなしてイベントまでに蓄えていこう。

今まで? もちろんサボってました。でも、今間宮さんを見たらしっかり貯めてガンガン使っていかないと逆に申し訳ない気持ちになってくるというか……こんな間宮さんの顔を見るぐらいならラスト〇リクサー症候群がどうのこうのとか言ってられないよねって話。

 

 

「あ、提督さん!」

 

「お、伊良湖。ごはん美味しかったよ。ご馳走様」

 

「いえ、今回は間宮さんと鳳翔さんの気合の入りようが凄すぎて私は下処理ぐらいしかしてないんですよね……ですので、次の機会には是非私が一から作ったごはんを提督に食べていただきたいなと!」

 

「ほーなるほど。それは楽しみにしておくよ」

 

「ですので、提督の好きな食べ物とか教えてもらえませんか? 私、提督の胃袋を鷲掴みにしちゃいます!」

 

「あらあら、伊良湖ちゃんったら」

 

 

 あらあらうふふと上品に笑いながら間宮さんもメモ帳を取り出して前のめりになってるんですがそれは。

更にそこに白菜の漬物を持ってきた鳳翔さんが加わった。「自信作です」と俺の前に漬物と箸を出してから鳳翔さんもメモ帳を割烹着のポケットから取り出している。

とりあえず、漬物をパリポリ食べながら俺が好きな食べ物かぁと思いをはせてはみるけど「漬物美味い」って感想しかでてこんわ……

 

 

「今、俺の胃袋は漬物に鷲掴みにされています……」

 

「ありがとうございます。気に入ってもらえたみたいでよかったです」

 

「鳳翔さんは策士ですね……で! 提督の好きな食べ物は漬物以外だとなんなんですか!?」

 

「え? そうだな……美味しいものならなんでも好きなんだよねって言うのは?」

 

「もちろんなしです!」

 

 

 ふんすふんすと鼻息荒く、めっ! と人差し指を指す伊良湖。

この子も結構感情豊かなんだなぁと。表情がコロコロ変わる女の子は見ていて楽しいから結構好きよ。

 

 

「そうですね……この食材が好きだとかでもいいですよ? 肉が好き、野菜が好き、魚が好きみたいな感じで」

 

「肉も野菜も好きだな。魚は……物によってかな。生臭いのはちょっと苦手。あ、さっき食べた刺身は美味しかったよ」

 

「そう言って提督がわさびと紫蘇とつまでお刺身を流し込んでいたところは見てましたからね」

 

「……つまが美味しすぎたんだ。大根をわさび醤油に浸しただけであんなに美味しくなるのが悪い」

 

「わかります。提督、わかりますよ。つまって美味しいですよね。あ、これ今朝曙ちゃんが釣ってきたカワハギのお刺身とごはんです。肝はお酒を飲んでる人たちに出してきちゃいますね。提督も食べますか?」

 

「せっかくだけど肝はいらないかな。刺身とごはんは貰うよ」

 

 

 奥からにゅっと現れつつ俺の意見に同調してくれた龍鳳は漬物の横にご飯とお刺身を置いて「わかりました」と一言言って飲んだくれ達の方へ行ってしまった。つま同盟結成ですね。

ちなみにカワハギのお刺身はこりこりしてて結構おいしい。まあ、仮に美味しくなくても食べる。

だって、曙が釣ってきたって言ってたしね。去年のサンマで釣りにはまったんだろうか。

釣りかぁ……小中ぐらいの時はちょこちょこ友達と行ってたけど最近はさっぱり行ってないな。

今度曙に頼んで連れてってもらうかな。

 

 

「白米漬物刺身は最強だなって。この刺身も生臭くなくていい感じ。やはり獲れたてがいいって事か……俺の腹は今カワハギに占拠されている……」

 

「似たようなくだりをさっきもやりましたー!」

 

「しかし、俺の好きな料理……好きな料理ねぇ……」

 

「提督の食事風景を見ていていつも思っていたんですが、提督って基本的になんでも美味しいって言ってましたからねぇ……」

 

「確かに。提督は、食べられれば美味しいみたいな風に食事をしているようにも見えましたね。安心してください提督。ここに来たからには私や間宮さんに伊良湖ちゃん、ここに居ない食事の準備を手伝ってくれる艦娘があんなコンビニのお弁当には負けない美味しいご飯を毎日作ります。楽しみにしていてください」

 

「ありがとうございます」

 

「で、その為にも提督の好きな食べ物知りたいんですよねぇ……」

 

 

 むむむ……と唸る伊良湖ちゃんを見ながら食べる白米もなかなかいけるのではないだろうか。

なんて考えながら漬物を乗せた白米を口に入れた瞬間、俺の左肩に一人の艦娘が密着してきた。

女の子の甘い香りとアルコールの匂いを漂わせて現れたのは緑のあの子。

 

 

「鳳翔さんに間宮さん、伊良湖ちゃんお困りの様ね! 提督の好きな食べ物? そういうのは私に聞いてよね! ぜーんぶメモしてあるわ!」

 

「え、夕張さんは提督の好きな食べ物知ってるんですか?」

 

「もちのロンよ! そうね……試しに一品答えるとすれば提督はからあげが好きよ」

 

「からあげは好きだな」

 

「でしょでしょ? でもね。からあげと言っても普通のじゃだめよ。いい? 提督は普通のよりも固くて小さめのからあげが好きなの。顎が疲れるぐらいがベストね! あと、付け合わせにレタスを半玉分ぐらい用意しておくのも忘れちゃだめよ」

 

「ほほー……固くて小さめ……」

 

 ウインクをしながら人差し指を上に向けながらクルクルと回して得意げな表情の夕張。

いや、確かに固めのからあげは好きだ。そんなからあげを食べながらレタスをバカ食いするのも大好きだ。

しかしながらそんなからあげを艦これをやりつつ食べたかと言えばNOである。

あー……いや、でも縁日で買ってきたからあげを艦これやりつつ食べた可能性は否定できないな……あとはからあげくんかな。からあげくんの柔らかさを愚痴った可能性ぐらいか。

 

 

「後は何がありますか?」

 

「あとは……提督が居ないところで教えてあげる。提督もサプライズ的な感じで好きな食べ物が出てきた方が楽しいでしょ?」

 

「まあ、ここのメンツなら突飛なものが出てくる心配がないしそっちの方がわくわく感あっていいかもな」

 

「どうせ提督の好きな物しか出てこないから安心してちょうだい」

 

「なんかそれだけ聞いてると、俺がわがままなお坊ちゃまみたいで嫌だな……」

 

「ん~むしろ子供の好きな食べ物しか出さないダメなお母さんって感じじゃないですか?」

 

「でも、ほら。提督だって好きな食べ物の方がいっぱい食べますよね?」

 

「え、まあ、そうだな」

 

「やっぱり私たちも沢山食べてもらえる方が嬉しいですから。赤城や加賀みたいに沢山食べてくれるといいのですが」

 

 

 鳳翔さんのそんな一言から俺を太らせる計画を三人がきゃっきゃうふふと話し始める。

そういえば、陸奥が言ってたような……この三人は俺に料理を沢山食べてもらって愛を示したいタイプという事か。

美味しいごはん自体は大歓迎なんだけど伊良湖がよだれを垂らしながら「ふくよかな提督……良き……」って言って、そのつぶやきに頷く二人を見る限り太らせるのも目的なんだろうなぁって。

なるべく太りたくない。個人的にナスに割りばしを刺したような体型にだけはなりたくない所存。

ちなみに夕張は「あはは……」と笑ってるから俺を太らせたい欲はないらしい。

 

 でも、俺は思うんだ。そんな食ってばかりの生活をしていたら絶対に待ったをかける艦娘が居るはずだって。

現にさっきより俺に密着してきてる夕張は俺の耳元で「もし太りそうになったら一緒にトレーニングメニュー考えてあげるね」とか言ってきてるし、多分頼まなくてもさっきから俺の尻を撫でてる武蔵がトレーニングルームに連行するだろう。

あとは、長良とかよく運動しそうなイメージだし陽炎型はスパッツだから運動するだろうからしたくなくても運動するはめになりそう。

 

 

「なあ、相棒。無視はよくないだろ? 早くこの武蔵の膝の上に来てくれ」

 

「尻触りながら誘ってくる奴の膝の上なんかに行ったら何されるかわかったもんじゃねーのに行くと思ったのか?」

 

「そりゃ来るだろ? 何せこの武蔵と相棒はあのレイテを一緒に越えた仲なんだ。もはや一心同体と言っても過言ではないと私は思っているぞ?」

 

「武蔵にそんな風に思ってもらえているのはうれしいけど行かないんだよなぁ」

 

 

 気持ち的には軽巡、重巡、空母、戦艦の順番で回りたいと思っている所存。

が、時間が結構いい感じでさっきよりも部屋に居る人数が減ってきている。というか、ここで話している間にも何人かが背中越しに「提督、私たちは先に上がるわね。おやすみなさい」と出て行ってた。

流石に申し訳なかったから明日は一緒に食事しようと約束をしておいた。

うむ。というか我ながらこんなにも簡単に女性を食事に誘えるだなんておかしい。多分、これも明石案件に違いない。

 

 

「ふむ。他のテーブルに行くと言うんだな? この武蔵を置いて。他のテーブルにだ……」

 

「……どうした武蔵?」

 

「なら私にも考えがある!」

 

「へっ、おうっ!」

 

「あっ、ちょ、提督っ!」

 

「うん? なんだ夕張も一緒がいいのか? しょうがないなぁ」

 

「しょうがないなぁ。じゃねーよ!」

 

 

 あろうことかこの超ド級戦艦武蔵ちゃんは俺と夕張をまとめて担ぎ上げて自分が元々座っていた戦艦の席まで移動しようとしていた。

というか、俺を肩に担いで夕張を片手で抱える。そんな状態で全くブレのない体幹は流石だなと見当違いな感想も同時に抱いております。

俺なら五月雨ちゃん一人でも太ももが生まれたての小鹿状態になると思うわ……

つか、また肩に担がれるんだな……腹が膨れた俺を担いで吐くかどうかのチキンレースでも流行ってるのかしら……

 

 

「あ、武蔵! 提督をそんな風に持ったらダメでしょ!」

 

「む。大和ではないか」

 

「大和ではないか。じゃない! 提督を下ろしなさい! もう。すいません提督……この子ったら酔うと考える前に行動しちゃうみたいで……」

 

「しかしだな。大和」

 

「武蔵。話を聞いてあげますからまず提督と夕張さんを下ろして。ね?」

 

「むう。わかった。してだな大和。提督が私の膝の上に乗ってくれないというのだ。おかしいと思わないか?」

 

「……提督。この子は私が先に部屋に連れて帰ります。今晩食事をご一緒できないのは残念ですがまた後日一緒に食事してくれますか?」

 

「それは勿論。こちらからお願いしたいほどかな」

 

「ありがとうございます! それでは失礼しますね。ほら、武蔵。部屋へ戻りましょう?」

 

 

 まだ何か語り続けている武蔵の背中を押して大和が食堂から出ていく。

武蔵酔ってたのか……全然気が付かなかったんだけど? 全然アルコールの匂いがしなかったもん。

 

 

「武蔵さんってなんでかわからないけどお酒にものすんごく弱いのよね」

 

「あれ? でも、武蔵旗艦の時のバーカウンターって一日中酒が並んでなかったっけ?」

 

「まあ、きっとそれもこっちに来てからの変化なんじゃない?」

 

「あー……そういう変化もあるのか」

 

「うん。だから、多分だけど今回は周りにあったアルコール類の匂いだけで参っちゃったんじゃないかな」

 

 

 性格だけじゃなくて体質の変化みたいなものもあるらしい。あの武蔵が酒に弱いというのは少しかわいらしいなとも思う。

というか匂いだけで酔っぱらうって大丈夫なんだろうか。武蔵だって見目麗しい女性なんだし……

あ、いや。そうか艦娘は俺以外の人には鋼鉄みたいに硬くて触り心地皆無って話だっけか。

まあ、そんな鋼鉄ボディの方が興奮しますって変態が居ないとも限らないしなぁ。

 

 

「考えてもしゃーないか。後で武蔵に聞いてみるか」

 

「何が?」

 

「何でもないよ。さてと、次は軽巡の所に行こうかな」

 

「軽巡は……もう結構帰っちゃったね。残ってるのは天龍型と川内型ぐらいかな」

 

「さっき矢矧と能代が阿賀野と酒匂を背負って俺に挨拶して出ていったからな。球磨達は眠いって帰ったし長良達は明日も朝から走り込みですって言ってたな」

 

「あとは私と酔いつぶれてる大淀ぐらいだけど私も大淀連れて部屋に戻ろうかしら。万が一もあるし」

 

「万が一?」

 

「いいんです。提督はそこの所はスルーしてください」

 

「? わかった」

 

 

 移動する前に今一度厨房組にお礼を言ってから夕張の後に続いて軽巡が集まっている席へと移動する。

と言っても五人だけしか残っていないんだけどね。

ご飯も粗方食べ終わり湯飲み片手に一息ついてるそんな状態。これ、もうちょい遅かったら誰も居なくなってたんじゃ? 時間配分ガバガバですまない。

 

 

「お、やっと来たか。もうほとんど帰っちまったし食うもんもねーぞ」

 

「思ってたよりも色んなところで引き止められちまってな」

 

「そりゃそうだろ」

 

 

 まあ座れと天龍は自分の右隣の席をたたいた。

それに合わせて天龍の横に居た龍田が俺の持っていた湯飲みを取ってお茶を入れてくれた。

 

 

「熱いから気を付けてね~」

 

「さんきゅ」

 

「まあ、オレと龍田は昨日今日とずっと一緒だったしそれ飲んで一息ついたら次に行っちまっていいぞ」

 

「そうか? わる「悪いよ!? 提督は那珂ちゃん達もしっかり構うべきだと思うな☆」

 

 

 俺と天龍の間にグワッと入り込んで俺に向かって星を飛ばしまくる那珂ちゃん。

那珂ちゃんの笑顔がまぶしくて星が出ているような錯覚を覚えたとかそういうのじゃなくて物理的に那珂ちゃんの目元から数秒間だけだけどキラキラと星が飛んでいる。これも艦娘パワーなんだろうか。

 

 

「もう! 天龍ちゃん酷いよ! まだ那珂ちゃん達は提督とお話ししてないんだよ! ぷんぷん!」

 

「あ、わりぃ。素で忘れてた」

 

「んもう! てことで、はい! 天龍ちゃんは少し横にズレて! ありがと☆」

 

「姉さんはそこではありませんよ? 姉さんは机を挟んだ向こう側です。提督、横失礼します」

 

「うぇっ! なんでよ! いいもん! 提督の背中は貰った!」

 

「させません」

 

 

 俺は頭の後ろに目がないので一体何が起こったのかはわからないけど俺の背中に抱き着こうとしていた川内がそのままの姿勢で机を挟んだ向こう側に着地した。

うん。これ目があったとしても何が起こったのかわからなかった自信あるわ。

ちなみに投げ飛ばされた川内自身も何が起こったのかわからないご様子。俺に抱き着く予定だった腕をグワグワと動かしている。

 

 

「提督……今私どうなってた?」

 

「俺に聞くなよ。分かるわけねーだろ」

 

「こう、提督にグワシって感じで抱き着こうとしたら急に目の前がパッとなってこうなってたんだよね。摩訶不思議だよ……」

 

「はーい。川内ちゃんとのお話しはそこまで☆ 聞いた話だとお昼とかに結構話したんでしょ? じゃあ、もうだめでーす。那珂ちゃんと神通ちゃんは川内ちゃんが提督と仲良くお話ししている時にお仕事をしていたのです。だ・か・ら☆ ご褒美欲しいなーって☆」

 

「めっちゃ星飛ばすな……お仕事って何してたんだ?」

 

「はい。提督がこの鎮守府に着任するのに合わせて全世界に向けて艦娘の存在を公表するために本土にて記者会見をしてきました」

 

「う~ん。初耳なんだが?」

 

「そう言ってきたら渡した書類の最後のページを見てくださいって自衛隊の人が言ってたよ☆」

 

 

 はいはいはい。そういうパティーンね。

いやしかし、記者会見するならそう言ってくれればいいのに。大淀達もなんで黙ってたんだろうか。何か俺に不利益になる事……

やっぱ俺の名前が世間にしれたら実家に人が沢山押し寄せるんだろうか。それはすごく嫌なんだけど?

まあ、妖精さんが派遣されてるって話だし家族には被害が出ないと信じてるけど……

それから艦娘が公表されて困る事……この鎮守府にも報道関係者とか一般ピーポーがアポなしで突撃してくる可能性が一番うざいのかな? 

後は艦娘の力を軍事利用したくて集まってくる海外の方々かなぁ。

その対応って全部日本がやってくれるのかしら……どうせそういうの無視してここに直接乗り込んでくる奴ら居るんじゃねーの?

ゲ〇トでもあったじゃん? あんな感じで我々は招待状を持ってきただけだとか言ってさ……

えー……えぇー……えぇぇぇぇー……

 

 

「ちなみに記者会見ってどんな事話したんだ?」

 

「んーっとね……那珂ちゃん達は提督といちゃいちゃしたいから邪魔しないでね☆って」

 

「それだけ?」

 

「それだけ☆」

 

「ホントに?」

 

「那珂ちゃんが一番最初にそう言った後に記者の方たちが、艦娘の攻撃性や人との違いなどの質問をされましたが那珂ちゃんが全ての質問に「邪魔しないでね☆」で押し切ってしまいました……」

 

「あ、提督ってば那珂ちゃんの事信じてなかったなー! ぷんぷん☆」

 

「それ記者会見の意味なくない? 結局何もわからないままじゃ?」

 

「そんなことないよ提督。私たちが居るって事を公表したいから記者会見を開きたいって自衛隊の人たちに言われたから神通と那珂が実際にカメラの前に出た。公表すること自体は達成されたんだからそこで任務完了。受け答えに関しては何も依頼されてないからね。記者会見を見た人がどう感じるかなんて興味もないしね」

 

「その通り☆」

 

 

 そう言って星を飛ばした那珂ちゃんは俺に「ほらほら、提督。那珂ちゃんのコップ空っぽだぞ☆」と俺にお酌をしろと突き出してきた。というか今の那珂ちゃんのセリフ回しがしゅがしゅがすいーと感あってちょっと好きだった。

提督とは得てしてプロデューサーでもある。人類最後のマスターだったり空の特異点だったりもする。そういうもんである。きっと、たぶん、おそらく、めいびー。

 

 にしても、艦娘の存在バラしたのか……人間一人消して後は悠々人体実験でもするのかと思ってたけどそうでもないって事なんだろうか。

まあ、今時どこからデータがぶっこ抜きされるかわからないし衛星写真だって撮り放題な時代なわけだしね。

特に何もないはずの無人島に色々運び込んでなんかしてるぞって言われて困るよりかは自分からバラして楽になりたいって思考に至ったのかな。

 

 とりあえず、無い頭で考えても仕方がないから今この時は仕事を頑張った二人を甘やかそうかなーって。

ぐいぐい来る那珂ちゃんと川内の相手をしながら横でちょびちょびやってる神通に「ほれもっとちこーよれ」って遊びを仕掛けよう。そうしよう。



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13話

 これに関しては予想通りと言うか知識通りの結果だなって感じ。

 

 あ、いや、嘘。神通に関しては予想通りって感じなんだけど那珂ちゃんは違う。ほーこう来たかって気分。

那珂ちゃんはもうちょいファンと交流するアイドルっぽく振舞ってくると思ってましたね。

おさわり厳禁。だけど握手はほどほど。トップアイドルとは全人類に愛を振りまく生き物なのです。提督だけ特別扱いはだめなの。よよよ……ぐらい言ってくると思ってたけどそんな事はなかった。

むしろもう積極的におさわりしてくる。

今は俺の左腕を腰に回させた上で俺にもたれ掛かり隙間が出来ないくらい密着しつつあのねこれねそれねとノンストップで俺に話しかけてくる。

那珂ちゃんめっちゃ柔らかいし良い匂い過ぎるんだけど……白露型の子達とは違った良さが俺の五感を支配していく……ぬうぉーん……

 

 で、そんな那珂ちゃんや長女たる川内と比べると押しが弱いのが神通。

川内にしろ那珂ちゃんにしろがっつり密着してガシガシと容赦の無い甘え上手なんだけど神通は完全に甘え方が下手。

ちらちらと那珂ちゃんにうらやましいオーラの籠った視線を送っては頬をぽっぽと染めて下を向くの繰り返し。

たまに意を決して俺の右手に手を伸ばそうとじりじりと近づいてくるんだけど後ちょいって所で手を引っ込めてしまう。

そんな感じの事をずっと繰り返してる。うん。まあ、わからんでもない。

俺だって艦娘の方から手を出してこなかったら絶対にこんな状態にはなってない。自分から行くのって怖いよね。

 

 そんな感じで心の中でわかるわかると頷いていると今まで俺のふくらはぎを撫でていた川内の足が膝を叩いた。

何用かと目で訴えると川内は右手でにやけた口元を隠しつつ左手で神通を指さした。

俺は一瞬だけ神通に視線を向けてから川内に向かって「わかる」と声に出さずに口を動かした。

川内はそれに「流石提督」と返してきた。

 

 

「ねえ。ちょっと川内ちゃん。今は、那珂ちゃんと神通ちゃんが提督といちゃいちゃする時間なんだけど? なんで私達二人を差し置いて提督といちゃいちゃしてるの? 那珂ちゃんぷんぷんなんだけど?」

 

「うわ。思ったよりガチトーンでお姉ちゃんびっくり。いやさー神通がなかなかに愛い奴なのよ。ねー提督」

 

「それな」

 

「え、な、なにがですか?」

 

「何がですか? だってさ。あんなに提督に触れたい。でも、触れて嫌がられたらどうしよう。みたいな百面相しながら手をもぞもぞと行ったり来たりさせてるんだもん。私の妹可愛すぎじゃない?」

 

「姉さん!」

 

 

 顔を赤らめた神通と川内が机を挟んできゃっきゃと争い始めたのをボケッと見ていると那珂ちゃんが俺の太ももを叩いて呼んできた。

ちょいちょいと耳を貸せと言ってきたので近づけると那珂ちゃんが耳元でぽそぽそとしゃべりだした。ものすごくくすぐったいですまるえろえろすぎます。背中にピリッと来た。

 

 

「提督にお願いがあるんだけどいい?」

 

「神通の事だろ?」

 

「そうそう。神通ちゃんってば見てて分かったと思うけどすんごく奥手なんだよね。そこが可愛い所でもあるんだけど☆ 神通ちゃんも提督といちゃいちゃ出来るってすっごい楽しみにしてたのに結局触れもしませんでしたじゃ可哀そうでしょ?」

 

「俺と触れ合えるのがそんなにいい事なのかはわからないけどなぁ」

 

「提督は何にもわかってないなぁ。提督は那珂ちゃん達の事が大好きでしょ? それと同じぐらい那珂ちゃん達も提督の事が大好きなの☆ 好きな人とはお話ししたいし触れたいし触れられたいものなのです☆ だから奥手な神通ちゃんの為を思って提督から神通ちゃんを誘って欲しいな☆」

 

「なんともまあ無茶なお願いを……」

 

「大丈夫大丈夫☆ 提督からのお誘いを断るような艦娘は神通ちゃんも含めてここには居ないって☆」

 

 

 星をビシバシと俺にぶつけながらお願いをしてくる那珂ちゃん。

てか、その星当たると痛いんだけど? これは最近久しく見ていない目から星を出してお菓子を買ってもらう五歳児と同じ技法……やるじゃないか那珂ちゃん。

那珂ちゃんからのお願いを遂行すべく神通の方へと向き直る。

大丈夫。ようはアレだろ? へい彼女! 一緒にお昼どう? ってノリだろ? 大丈夫。いける。

あのシーン二週目以降毎回泣いちゃうんだよなぁ。ううぅ……武部殿……。

 

 

「神通」

 

「え、あっはい。なんでしょうか提督」

 

「ほら、えーっと神通ももうちょっと近づいてもいいんだぞ? 俺は別に触られて減るようなもんでもないしな」

 

「はぁ……提督。だめだめだよ。それはだめだめ。神通ちゃんは押せ押せの提督に押されたい派だからもっとぐいぐい行かないと」

 

「な、那珂ちゃん!」

 

「なんだったら神通からも提督にお願いしてみたら? 押し強めでお願いしますって。提督の事だから私達からのお願いはたぶん断らないよ。ね?」

 

「えっ」

 

「……えっ」

 

 

 川内の提案に最初に反応したのが神通。その次に反応できたのが俺。

神通の期待が篭った「えっ」に対して困惑しまくりの「えっ」で返してしまった。

一瞬神通の体が期待で膨らんだように見えたが俺の反応を聞いてしゅんとしぼんでいってしまった。

性癖は十人十色。俺がとやかくいうつもりは全くこれっぽっちもないけど俺のオラオラ系とかそんなに需要ある? いや、まあ実際目の前にいるんだけどさ。

オラオラ系……やった事ないっていうかやる機会がなかったよね。あるとすれば、もしかしてオラオラですかーっ? って聞かれたらYESYESYESって答える時だけだったわ。女っ気のない男子学生の日常なんてそんなもん。はい。

 

 しかし、そんな泣き言も言っていられない。

なぜならば! 川内に脛を那珂ちゃんに横っ腹をつねられているからです。二人とも姉妹思いのいい子達ね。

わかりました。ならば男提督行かせていただきます。俺は、神通の腰辺りに手を持っていきぐいっと引き寄せた。

「んっ……」と艶っぽい声を出しながら俺が引っ張るのに合わせて神通が体を寄せてきた。

神通も那珂ちゃんに負けず劣らずいい匂いがするし体がめっちゃ柔らかい。いや、確かに柔らかいんだけどそれに加えて、この少し反発してくる筋肉の感じが他の子と少し違うのがまたいいというか……

 

 

「提督ってばやらしい顔してる。両手に花だもんね~。しょうがないかぁ」

 

「……」

 

「いや、今更キリッとしても無駄だからね。那珂が柔らかめで神通が低反発って感じでいいでしょ? 私もたまに抱き着いて抱き枕代わりにしてるから提督が今感じてる良さ……わかるよ」

 

 

 これなんて答えるのが正解?

普通に「これを定期的に感じられるとか最高じゃん」って答えるべきか「マジかよいいなぁ。俺にもたまに貸してくれよ」って答えるべきか……いや待て俺。どっちも言ってること変わらない気がするんだけど?

だってこれ。今のこの状況ってば最高以外の言葉が見つからないよ?

最初は恐る恐るって感じだった神通もすでに俺のうっすい胸板にコスリコスリとほっぺたを擦り付けてるのが可愛くて可愛くて……

なんて頬が緩みそうになると反対側の那珂ちゃんが「提督那珂ちゃんも居るんだからねー☆」って言いながらかまえかまえと俺の左手をふにふにと遊び始める。

うん。どうにかなってしまう。これはもう悟りを開く以外に何事もなくこの場を乗り切る手段がないのではないだろうか……ふぇぇ、那珂ちゃんがガチ恋距離でほほ笑んでくるよぉ……

 

 

「提督……その、大丈夫?」

 

「だいじょばない……」

 

「まあ、幸せ過ぎて死ぬって事はないしもうちょっとだけその状況を楽しめばいいんじゃない? それとも、物足りない? 私も提督に抱き着こうか? ほら、真ん中空いてるし対面座……」

 

「川内ちゃん?」

 

「ちぇ……」

 

 

 川内は残念がって唇を尖らせているけど仮にここに川内が追加とかになったら俺は脳が処理限界を訴えて意識の強制シャットダウンを行っていたと思う。たぶんおそらくきっとめいびー。

今の川内型サンドイッチですら許容範囲ギリギリオーバーなのにこれを超えるって……耐えられる人類はいない。断言できるね。

川内の言う通り幸せ過ぎて死ぬって事はないと思うしいつまでもこの状況が続けばいいのにって思う。

思うんだけどこの状況っていつまで続くの? って……誰かー助けてくれんかー……

 

 

「提督。少々よろしいでしょうか?」

 

「ん? あぁ、ごめん。そっち向けない。許してくれ狭霧」

 

「はい。大丈夫です。提督、そろそろ就寝の時間ですので執務室にいく準備をお願いします」

 

「……ん? そこもスケジュールに入ってるの?」

 

「はい。大淀さんが作成した提督の一日のスケジュールによれば23時に就寝とありますね」

 

「なるほど……」

 

 

 大淀の俺を管理したい欲は結構なものなんだなとね。改めて認識しましたよ。

けど、まあ、よくよく考えなくても大淀含めてこの子達は全員軍艦なわけだしね。軍にしろ自衛隊にしろ時間はキッチリカッチリなイメージだし就寝時間に起床時間が決まってても不思議じゃないか……

じゃあ、やっぱり大淀は普通だな。うん。普通。普通に美人な秘書子ちゃん。

 

 てか、一瞬なんで狭霧? とか思っちゃってごめん。

そうだよね。第一艦隊の旗艦は秘書艦だもんね。自分で設定しておいて何言ってんだこいつだよね。

 

 

「でも、そうなると回れなかった席の子達に申し訳が立たないな……」

 

「へーきへーき。どうせみんな提督が今回で回りきれると思ってなかったし。自分の所に来たらラッキーぐらいの気持ちで居たって。まあ、来なかったら来なかったでめちゃくちゃテンション下がると思うけど」

 

「……今日は俺の配分ミスによる落ち度だな。俺も回りきれると思ってなかったけどもう少し交流できると思ってたんだけどなぁ」

 

「それは無理だよ提督☆ だって、那珂ちゃん達も那珂ちゃん達でいかに提督を自分たちの席に留まらせるかってずっと考えてたもん☆」

 

 

 んーむ。そんな事言われたら顔が神通よりにやけそう。

しかし、そうか。そうなると俺はまんまと駆逐艦沼というか白露型沼にハマってしまったというオチか……

吹雪型の席から攫われて随分と長い時間椅子取りゲームさせられたわけだしな。あそこだけで1時間ちょいなわけだし……

でも、まだ時間あるはずだよな……? あ、そういう事か。就寝前に風呂とか入って時間かかるだろって考えで狭霧は迎えに来てくれたのか。

 

 

「でも、ほら、まだもう少し時間あるし他の席にちょろっと顔出すぐらい大丈夫じゃないか?」

 

「んー……いえ、提督の事は食堂に来てからずっと見ていましたがおそらく次に行こうとしているのは重巡の方々の所ですよね? その席へ行ったら絶対にお酒飲まされますし食事も摂るでしょう。今なら、もう少し食休みしてからお風呂に入ってもらい狭霧が敷いたお布団でぐっすり眠っていただくことが出来ます!」

 

「なるほどねー……」

 

「提督ってばまた私たちの事甘く見たでしょ? だめだよー。私たちは提督の事に関してはマジだからね」

 

「提督の健康管理も秘書艦の仕事ですから!」

 

「いいなー……ねっねっ今からでも秘書艦のお仕事那珂ちゃんと変わらない?」

 

「だ、ダメです! 秘書艦は提督から狭霧が任命されたんです。狭霧が責任を持って遂行します!」

 

 

 イベントで使うかもしれないって情報があったから旗艦に置いてるだけだよとは言えんよなぁ……

というか、ふんすふんすと気合を入れてる狭霧がめちゃくちゃ可愛い。可愛いよね? 可愛い。

しゃーなし……あんまり駄々をこねても狭霧を困らせるだけだし部屋に戻るか……と立ち上がろうとしたけど全く立ち上がらない。

理由はお分かりですね。そう、左右にくっついてる川内型の二番艦と三番艦。それに足を挟んで動かなくしている一番艦のせいでござい。

 

 

「提督ってばどうしたのかな? 早くしないと狭霧ちゃん困っちゃうよ?」

 

「そう言いながらさっきよりも力を込めて俺を立ち上がれないようにしてるのはどなたかな?」

 

「那珂ちゃんわかんなーい☆ 神通ちゃんじゃない?」

 

「……」

 

「ねぇ、これ神通起きてる? 思えば俺に抱き着いてから一回もしゃべってなくないか?」

 

「起きてるよ。起きてるけど、しゃべるって機能を捨ててまで提督に引っ付いてるんだと思う」

 

「えっ、そこまで?」

 

「そこまでだってさっきから言ってるじゃない。生提督に触りたい放題なんて今まで無かった経験なんだし堪能できるときに堪能しないと」

 

「そっかー……」

 

「残念だけどこの考えは那珂ちゃん達だけじゃないからね☆ どの席に行ってもこうなる事間違いなし☆」

 

 

 しかしもう狭霧が俺と時計をチラチラと見比べる段階に入ってる。きっと大淀が組んだ予定のギリギリのギリまで待っててくれたんだろうなぁ。

そう思って川内を見てみれば「流石にここまでかなぁ」といった風に肩をすくめて足を離してくれた。

次に那珂ちゃんの肩を優しく叩くと「……しょうがないなー☆」と離れてくれた。

最後に神通だけどこれは余裕でしょと那珂ちゃんの時と同じように肩を叩いて離れてくれと促した。が、一向に剥がれない。「おーい」と声をかけてみたが反応がない。

 

 というか、最初に執った体勢から多少変化が起こっていて、神通は俺の右腕を自分の右腕で挟み込み、その細くて綺麗な手でもって俺の手をもにもにと弄びながら左腕を俺の腰に回していた。もちろん、これらの行動をしつつ顔は俺のうっすい胸板に擦り付けている。

 

 

「完全にホールドされてるんだけど」

 

「たぶん神通は甘え方を知らなかったがゆえに0か100かしかなかったんだよ」

 

「これは川内がしっかり甘やかさなかったのが原因では?」

 

「えーだって、かわいい妹が提督にドロッドロに甘えてる姿が見たかったんだもん☆」

 

「川内まで星を飛ばすんじゃねぇよ。とりあえず、神通を剥がすの手伝ってくれ。那珂ちゃんもな」

 

 

 「はーい」と二人が返事をして神通を取り外しにかかる。

最初は全くの反応も見せなかった神通だったが、川内が「しょうがない」とつぶやいてから神通の耳元で何かを囁いた瞬間に神通の体がビクンと跳ね、恐る恐る俺の方へ顔を向けてくれた。

そして、目があった瞬間にズバッと離れて俺に向かって土下座をしてきた。

 

 

「も、もももも申し訳ありませんでした提督! な、なななんとお詫びしたらいいのか!」

 

「あー、まあ、気にすんな」

 

「し、しかし!」

 

「そうだよ神通。提督だって神通の柔肌に触れられて嬉しかっただろうね。うぃんうぃんってやつよ、うぃんうぃん」

 

 

 ウィンウィンウィンと手を動かす川内のそれはなんか違うと思う。究極生命体みたいになってんぞ。

けど、これで自由は得られたわけだしちゃっちゃか部屋に戻りますか。狭霧がそわそわしすぎて変な笑顔になってるしね。

俺が立ち上がると一緒に立ち上がった那珂ちゃんがピッピッと服の皺を伸ばして「よし☆」と肩を叩いてくれた。

それに「ありがとう」と答えてから「それじゃあ、おやすみ。また明日な」と川内達と天龍達に挨拶をし狭霧に続いて歩き出した。

 

 まあ、そうすると彼女が来るよね。うん。俺、後で行くからって言ったしね。来るよね。

ばばーん! と登場戦艦金剛。今度は彼女が俺の腕に抱き着いてきた。

 

 

「テイトク―! 戦艦の席に来てくれる約束デース!」

 

「いや、すまない。俺もホントは行くつもりだったんだけどな。さっき知ったんだけど就寝時間が決められてたらしくてもう上がらないとだめらしいんだ。だから、明日。明日は絶対に一緒に食べよう。明日の昼ご飯は戦艦組と食べる。どうだ?」

 

「うー……ディナーがいいデース……」

 

「わかった。晩御飯な。大和とも約束してたしそっちの方がいいか。狭霧、悪いんだけど忘れないように予定入れておいてもらってもいいかい?」

 

「あ、はい。わかりました」

 

「あと、夜は戦艦だし昼は阿賀野達と食べるか。そうなると重巡と空母はいつにするか……」

 

 

 嬉しい悲鳴と言えばいいのか、いや、待って。これ普通に大変じゃん。今、重巡と空母はいつにって口に出したけど、駆逐艦だって全員回ったわけじゃないし潜水艦やら海防艦やらまだまだ沢山艦娘はいるわけで……これ全員と交流するって普通に大変すぎる。

大雑把に1対200なわけだししょうがないっちゃしょうがないけど罪悪感がすんごい。

川内の言葉を真に受けてうぬぼれてもいいのならばきっと俺と交流できなくて悲しむ艦娘だって出てくるのでは?

……とりあえず、明日復活予定の大淀と秘書艦の狭霧とで予定組むか。まあ、まずは明石に色々と問い詰めてからだな。

 

 その後は金剛も割とすんなり俺の事を解放してくれた。

てっきり「部屋まで付いていきマース」とか言い出すかと思ったけどそんな事はなかった。

一応道すがら挨拶出来る艦娘に挨拶をして回りながら出口まで行き、最後に「それじゃあ、みんなおやすみ!」と大きな声で言ってから食堂から出て行った。

 

 戻った部屋は大きい方ではなく執務室の隣にある住み慣れた方。

おそらくここの暮らしになれないうちはこっちでという配慮なんじゃないかなと思う。

正直今の俺ではあの広さの部屋は完全に持て余すからこっちの部屋でよかった。

 

 

「あ、お風呂は既に焚いてありますのでもう入ってもらっても大丈夫です」

 

「あ、ホント? ありがとう」

 

 

 狭霧にそう言われたからこう返した。

俺のその返答を聞いた狭霧はニコニコしながら「いえ、秘書艦として当然です!」と答えて袖を捲った。

違う。違うよ。狭霧……そこは袖を捲るところじゃない……

昨日はこの一部屋しかなかったから五月雨ちゃん達が同じ部屋に居たのをなんとか許容出来たよ?

でも、今日は隣に執務室あるしね。頑なに俺の背中を流すと訴えてくる狭霧の背中を押して無理やり執務室の方へ追い出す。

ふぅ……今日もさっと入ってパパっと出るか……




川内と那珂ちゃんは☆が出せる。
神通は☆が出せない。
なぜならば、神通はウィンクが出来ないから。
ウィンクしようとして両目を閉じるのがウチの神通ちゃん。


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14話

「あーあ。やっぱりこっちまで来てくれなかったね」

 

「しょうがないわ。提督は一人だけなんだもの。回るにも限界があるわ」

 

「でもさー提督さんも最初に一通り回ってからどっかの席に着くとか方法なかったのかな。そしたら、一応全員と言葉交わせるわけじゃん?」

 

「それをしようとして他の子達に捕まったんじゃない。五航戦は何も見ていなかったのね」

 

「それにさーどうせ瑞鶴だって提督が目の前に来たら、なるべくここに留まらせようとしたでしょ?」

 

「そうそう。あんなにも情熱的に「提督さん、愛してる!」って伝えちゃう瑞鶴だしね」

 

「はいはいはーい! その話はなし! なしでーす!」

 

 

 瑞鶴さんが両手をぶんぶんと振りながら「なしなしなーし!」と二航戦のお二人に向かって叫んでいる。

隣にいる翔鶴さんに「瑞鶴、危ないわ」と注意され動きをピタリと止めた瑞鶴さんは「ぐぬぬ」と二航戦のお二人を睨みます。

それに対してお二人ともどこ吹く風といった感じです。

 

 それにしてもこのお稲荷さん美味しいですね。なんというか鳳翔さんと間宮さんの凄みを感じます。

絶対提督に美味しいと思ってもらいたいという気持ちがたっぷりと詰まっていますね。

提督のおかげで美味しいものが食べられる。私は幸せです。

さて、次はどの料理をいただきましょうか……

 

 

「ねぇねぇ、赤城さん。赤城さんは提督さんがこっちの席に来なくて残念でしたよね?」

 

「んーそうですね。確かに提督とお話が出来なかったのは少し残念ですが今日明日で提督がここから居なくなるといった事もないわけですし、そう急ぐ事でもないと思いますよ」

 

「五航戦は赤城さんのこういった落ち着いた姿勢を見習うべきだわ」

 

「ぐっ……」

 

「それに私達空母は何かと使われる事が多いので今後は自然と提督と接する機会も増えると思います。なので今は、数が多くなかなか提督と接する機会が少ない駆逐艦の皆さんに譲るというのもいいかもしれませんね」

 

「ほぇー流石赤城さん。考えてることが大人だなぁ」

 

「その場の雰囲気に流されて愛の告白をしちゃう瑞鶴とは大違いだ」

 

「んもー!」

 

 

 バンバンと机を叩いて講義する瑞鶴さんを再び翔鶴さんが「こら瑞鶴!」と叱ります。

叱られた瑞鶴さんはなんとも形容しがたい顔をしながら「ばい゙」と返事をして、腹いせとばかりに目の前にあった料理を口の中に掻き込んでいきます。

昔は私が大食いの代表みたいな風に言われていた時代もありましたが、ここ最近では大和さんに武蔵さんをはじめとして沢山の方が私よりも多くの資材を消費します。

その中には当然瑞鶴さんも居ます。瑞鶴さんは基本的に改二甲で運用されていますので私のだいたい1.5倍ぐらいは食べます。

 

 つまり何が言いたいかと言うとこのまま瑞鶴さんの暴食をそのままにしておくと私の食べる分が無くなってしまうという事です。

確かに燃費云々で言えば瑞鶴さんの方が多く食事を必要としますので私は一歩後ろに下がるべきです。が、それとこれとは話は別。

私は純粋に食事が大好きなので後退の二文字は存在しません。瑞鶴さんより多く食べる。それだけです。

 

 と、寸前まで考えていましたが……ふむ。命拾いしましたね瑞鶴さん。

もしゃもしゃと食事を続ける瑞鶴さんは気が付いていませんが加賀さんに二航戦のお二人、翔鶴さんは気が付いたようです。

私もそろそろ集中しましょう。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「瑞鶴センパーイ! おかわり持ってきましたよー!」

 

「んあ……ありがとね葛城。雲龍達もありがと」

 

「いえ、天城達が食べる分も一緒に取ってきましたので大丈夫です!」

 

「…………」

 

「……? 雲龍はどうしたの?」

 

「あーなんか雲龍姉ってばいきなり「時間だわ」って言ったきり何も言わなくなっちゃったんですよね。そういえば、他の先輩方もなんかぽけーっとしてますね?」

 

「そういえば……」

 

 

 よくよく見てみれば確かにおかしい。だって全員目をつぶってるんだもん!

赤城さんは目をつぶりながらご飯食べてるし、加賀さんはゲ○ドウポーズで固まってるし、飛龍さんと蒼龍さんは腕くみしながらうんうん唸ってる。翔鶴姉は目をつむりながら口をぽけっと開けてるからよだれが垂れてる。

なんだこの空間……えぇ? 自分の姉込みの精鋭空母達が軒並み変顔しながら静止してるって……

んー……雲龍が言ってた時間だわってのがヒントになるのかな。

 

 

「あんた達は雲龍から何も教えてもらってないわけ?」

 

「なーんにも教えてもらってません」

 

「私もです。あ、このからあげ美味しい」

 

「確かその唐揚げ……提督の好みに合わせて作ったって言ってたっけかな。あとで感想聞かせてくださいって言ってましたよ」

 

「へー……提督の好みかぁ」

 

 

 はいどうぞと天城から渡された唐揚げは硬めな食感と生姜の風味が合っててすんごく美味しい。

これが提督の好みかぁ……私も最近鳳翔さんから教えてもらいながら料理したりするしこれも教えてもらうかな。

それにしても提督……提督かぁ……提督? …………はあああぁぁぁぁぁっぁん!

 

 

「そういう事かぁあぁぁぁぁぁ!」

 

「うるさいわよ五航戦」

 

「あんたもなんで教えてくれないのよ!」

 

「気が付いていなかったあなたが悪いのよ」

 

「うぎぎぎぎ!」

 

「瑞鶴先輩どうしたんですか?」

 

「どうしたもこうしたもこの先輩方はみんなして妖精さんの視界を通して提督を覗き見てんのよ!」

 

 

 ぬかった……加賀さんがこういう事してくるのはわかっていたけどまさか姉まで私に黙ってるだなんて……

い、今から間に合うかな……いや、もう遅いよね。加賀さんが普通に食事を再開してる所見ると一番の見どころは終わったって事だよね……

くぅ~翔鶴姉の反応を見る限りお風呂は結構よかったぽいじゃん……にしても意中の相手のお風呂を覗いた後に机に突っ伏して微動だにしない姉ってのをどういう目で見たらいいかわかんないんだけど?

 

 

「翔鶴姉、大丈夫?」

 

「瑞鶴……私はもう駄目かもしれないわ……」

 

「流石に言い過ぎじゃない? 提督の裸見ただけでしょ? そのぐらいならたまに見れたじゃん」

 

「いいえ……いいえ瑞鶴。確かに提督は夏なんかの暑い季節は下着一枚で艦隊指揮を執って私たちのやる気を出してくださっていたわ……」

 

「やる気ねぇ……出る?」

 

「いえ、私は特に……普通に応援してくれた方が嬉しいかなって感じです」

 

「だよね」

 

「聞いてる、瑞鶴? 今回の提督は一味違うのよ。そう、提督は完全全裸だったの!」

 

 

 うちの姉が目を輝かせながら完全全裸とか叫んでるんです。助けてください提督。

いや、まあ、提督のそういうところにも興味があるってのはわからなくはないけどそれを嬉々として叫ばないでほしいなぁ。

私もそういうの目当てで視界ジャックしたかった口だし……でも、そういうのはもちっと色んなものに包み隠してほしいのが妹心ってやつなんだよね。

 

 

「それは……よかったじゃん」

 

「えぇよかったわ……それでね瑞鶴」

 

「あーはいはい。その話はまた後で聞くから。ほら、これ鳳翔さんが提督の好みで作ったからあげだって。結構美味しかったよ」

 

「うぐっ……あ、美味しい……っていきなり口の中に入れたら危ないでしょ?」

 

「どうせこんな箸じゃ私達は傷一つ付かないじゃん」

 

「そういう問題じゃありません!」

 

 

 話題が提督の裸からお説教に変わったし翔鶴姉はこれでいいかな。まあ、部屋に戻ったらまたさっきの話に戻るかもしれないけどここで変な事口走るよりかは幾分かマシでしょ。

周りも似たような話してるけど、それはそれこれはこれ。周りがしてるからしていい話って事にはならないと思うんだよね。

赤城さんと加賀さんはしゃべるより食べる派だからこっちから話題振らなければ脳内妄想でとどめておいてくれるはず。

飛龍さんと蒼龍さんはなんか提督の背筋で盛り上がってるみたいだから無視しよ。

雲龍は……ダメかもわからない。天城に「提督のあまり大きくなかったわ」とか言ってる。どことは聞かないけど……天城も天城で「刺激が無いからでは?」とか真面目に答えないでほしい。指でサイズを示さないでほしい。

葛城が心なしか私の方へ寄ってきてるのも気が付いてあげて……

 

 

「そ、そういえば、大鳳はどこに行ったの?」

 

「えっと……夜間警邏をすると言って提督が退室した少し後に出ていきましたね」

 

「夜間警邏か……今日あの子じゃないわよね? 確かうちからは龍驤さんだったはずだし……あの子も浮かれてる一人って事ね」

 

「瑞鶴は私が言うのもなんだけれども結構落ち着いてるわね? 昨日はあんなに落ち着きがなかったじゃない?」

 

「私は……なんて言うか昨日がピークだったと言うか……周りがこうも提督提督言ってると冷静になると言うか一周回ったと言うか……」

 

「五航戦……しょうがないですね。これでも食べて元気になりなさい」

 

「はぁ? あんたが私に料理を分けるとかどういう風の吹き回しよ」

 

「だって、五航戦。あなた、提督の裸が見れなくて落ち込んでるからいつもみたいにぴーちくぱーちくうるさくないのでしょ?」

 

「違うっつーの! てか、これ枝豆の皮だけじゃない! ざる一杯に枝豆の皮! 中身は!?」

 

「食べたに決まってるでしょ?」

 

「喧嘩売ってんの!? いいわよ! 買ってあげるから表出なさい!」

 

「……後悔しないことね五航戦。表に出なさい」

 

「……? いつもだったら私を小バカにしておしまいのくせに今日はどうし……ってあんたいつの間にそんなに飲んだのよ!」

 

 

 なんかもう数えるのも嫌になるぐらい加賀さんの周りに瓶ビールが散乱してるんだけど……

えぇ? だって目を離したのなんてほんの数分でしょ? それに加賀さんってアルコールに強いからあのぐらい普段だったらケロッとしてそうなもんだけど。

もしかして、提督の裸見てテンション上がり過ぎていつもより酔いが回るのが早いとかそんなこと抜かすんじゃないでしょうね……

 

 

「瑞鶴ー。朝ごはん何がいいか今言っときなよ。加賀さん酔って加減間違えそうだし」

 

「なんかこう加賀さんのあのポーズなんかのアニメで見たんだけどなぁ……なんだったかなぁ」

 

「ド○ゴンボールのフ○ーザがよくやってるポーズですね」

 

「あぁ! はいはいはいはい!」

 

「ただまあ、たぶんあれ酔ってて視界がぼやけてるもんだから上手く立てなくて両手でバランス取ろうとしてあの形で固まってるんだと思います」

 

「その……あんたもう部屋戻って休んだら?」

 

「私の心配をするだなんて生意気ね五航戦。いいから来なさい」

 

「っていやいや、そっちは翔鶴姉だから! 確かに翔鶴姉も五航戦だけど私はこっちだから!」

 

「おおっと! 加賀さん勘違いしたまま翔鶴にベアハッグだ! タップさせないために翔鶴の腕を内側に入れている! これはひどい!」

 

「しかも、声も出せない様に翔鶴の後頭部を掴んで自慢の巨乳に押しつけてるし……完全にヤル気だ。よかったじゃん瑞鶴。あれ喰らったら死んでたよ」

 

「いや、本当にそうですよね。……って違う! 翔鶴姉が死んじゃうって! 加賀さん!」

 

 

 それから完全に炉に火を入れた加賀さんを引き剥がすのに5分ぐらいかかった。

炉に火を入れるのはまずいって……提督に怒られたらどうすんのよ全く……

んで、結局そのまま寝た加賀さんと落ちた翔鶴姉をそのままにしておくわけにはいかないから私と赤城さんはそこで会場を後にした。

にしても赤城さん。加賀さんと料理を見比べて、加賀さんを部屋に連れて帰るの一瞬悩みましたね? 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 なんか風呂に入ったら想像より妖精さんの数が多かった件。

昨日の夜とか昼間の時に比べても多かった。増えたっぽい子達は縦横無尽に飛び回ってる他の子に比べて俺からタオルなりスポンジなりを奪い取って泡まみれになりながら背中を流してくれたり頭を洗ってくれた。

まあ、中には俺の事をひたすらに見てくるだけの子も居たからやっぱり妖精さんはよくわからん。

一緒に湯船には浸かれなかったから洗面器にお湯をすくってあげたけど、妖精さんの数が多すぎて洗面器の中でイモ洗いみたいな状態になってて笑った。

 

 風呂から上がって妖精さんから寝間着を受け取り着替え終わったと同時に狭霧が部屋に入ってきた。

なぜジャストタイミングで入室出来たのかは謎だけど風呂上がりにとほどよくぬるくなったお茶を持ってきてくれた。

 

 

「提督、お風呂上りにお茶をどうぞ。 少し冷ましておいたのでそこまでは熱くないと思うのですが……」

 

「うん。大丈夫、俺でも飲める熱さっぽい。ありがとね」

 

「はい! 飲み過ぎは良くありませんが一応おかわりもありますので遠慮なくおっしゃってください」

 

「じゃあ、あと一杯だけもらえるかな。そしたら、狭霧も今日はもう下がって良いよ。天霧とか部屋で待ってるんじゃないのか?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

 

 俺なんかおかしな事言ったかな。言ってないよね? 言ってないと思う。

……ははーん。読めたぞ。この子もしかして秘書艦だから今日はずっとおそばに居ますとか言ってこの部屋もしくは隣の執務室に一晩中居る気だな?

流石にこの子達がどういった事を言ってくるのか分かってきたな。

 

 

「艦娘は寝なくてもいいって大淀達から聞いたけど俺としてはしっかりと寝なさいと言いたい。昨日はまあここじゃなかったからしょうがなく大淀に起きててもらったけどここには頼りになる艦娘が沢山いるわけだしな。さっき会った龍驤なんかが夜間警邏もしてくれてるんだろ? だから、わざわざ夜の護衛なんてしなくても大丈夫だよ」

 

「い、いえ、秘書艦は提督と閨を共にするものだと聞いていたのですが……」

 

「……誰がそんな事を狭霧に教えたんだ?」

 

「漣ちゃんです」

 

 

 あいつは何を教えてるんだ……自分の姉ちゃんに嘘教えて何がしたいんだよ。

いや、多分面白半分なんだろうなぁ。狭霧をからかうって言うよりも俺をからかって遊んでる感じかな。

 

 

「狭霧。それは漣の嘘だぞ。多分、俺をからかう目的でついた嘘だな」

 

「え、でも、夕雲さんも漣ちゃんに同意してましたよ?」

 

「夕雲かぁ。夕雲はマジで言ってそうだけど実際そんな事実はない。それにほら、俺には五月雨ちゃんが居るでしょ? 奥さんそっちのけで他の女性とってのは不誠実だと思うんだよね」

 

「確かに……」

 

 

 勝ったな。歯磨いて寝るわ。てことで、狭霧を立たせて自室へ帰るように促して執務室のドアの前まで来たらタイマーストップ。

先駆者が居ないから問答無用で俺が世界一位という事でいいですね。記録更新待ってます。

って、いい感じに狭霧を帰そうとしたらやって来たやばい奴ら。

うぇーいうぇいうぇーい! って感じで右手に酒瓶左手におつまみ装備で執務室に入ってきた飲兵衛軍団。

 

 

「あたしゃー見てたからね! 提督が全然お酒飲んでないことを! だから! 持ってきてあげました!」

 

「ひゅーひゅー流石隼鷹しゃーん! ていとくぅ、私も自分で作った梅酒持ってきたんでぇにょんでくだしゃーい!」

 

「あぁ、狭霧いい所に居てくれた。ひっく。これ、あー、あ? なんだっけこれ。あぁ、ひっく。そう、あれだ。ひっく」

 

「もう、那智姉さん。これ、おつまみに持ってきたやつなんだけど那智姉さんがぶんぶん振り回してたからちょっと中身がどうなってるのかわからないのよね……」

 

「ほらほら、提督も立ってないでこっちに来て座った座った!」

 

「お前らな……」

 

 

 狭霧なんて目をぱちくりさせて驚きながら足柄に渡されたおつまみセット持ってるじゃないか。

文句の一つでも言ってやろうと口を開こうとした瞬間に両サイドに誰かが掴まってきた。

 

 

「ほら、提督。今日はおめでたい日ですし、ね?」

 

「Admiralさん! だいじょーぶ! お酒の種類なら沢山ありますよ! もちろんドイツビールも沢山持ってきました!」

 

「めでたいって俺が来ただけだろ?」

 

「十分オメデタです!」

 

「そうそう、おめでたおめでた」

 

 

 プリンツも千歳もおっきくて反則だと思います。男の子はこれに勝てない。

もうこうなってしまってはリトルグレイよろしくドナドナされるだけである。

だって、どのみち振りほどけないし……こいつら普通に喋れてるからあんまり酔ってないと思ったらガッツリ酔ってらぁ……力加減完全に間違えてて、いつ腕がもげるかわからないレベルで組まれてる。

ちらりと狭霧を見てみれば、さっきまでのびっくり顔はどこへやら。秘書艦として執務室に居残って良い理由が降って湧いたとばかりにイキイキとおつまみの用意を始めていた。

 

 

「そういや、ポーラ。ザラはどうしたんだ?」

 

「うえぇ? ザラ姉様ならたおしてきましたぁ。ぶれいこーってやつです。たっくさん飲ませてばたんきゅーってやつですねぇ」

 

「あぁ、そう……」

 

「で、提督はなにから飲む? なんでもはないけど大体持ってこれたはずだぜ?」

 

「もちろん、ビールよねっ? はい、これをどうぞ!」

 

「日本酒もありますからね? 欲しかったら私に言ってください」

 

「ワインだってありますよぉ~」

 

「ちゃんぽん過ぎる……そんな飲んだら死んでしまう」

 

「いけるいける! 提督だって男なんだからドーンと行こうぜ!」

 

 

 そう言いながら多種多様なお酒をテーブルの上に並べていく酔っ払い共。

ちなみに那智は足柄の腰らへんにくっついていびきをかき始めていた。あいつ何しに来たんだろうか。

その足柄は那智のホールドなんてものともしないで狭霧と一緒におつまみの用意をしていた。

この時間に加えてこの酒の量だし重いものじゃないといいんだけど足柄だしなぁ。

 

 とまあ、そんな感じで鎮守府初日は飲兵衛襲来で幕を閉じた。

俺が酔いつぶれて意識を手放す最後に見た光景は狭霧と足柄が俺を布団に入れてくれている光景だったような気がする。



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15話

「提督ー。そろそろ起きてくださーい」

 

 

 そんな声が遠くから聞こえてきてうっすらと目を開けた。

あー……確か昨日飲兵衛達が来てしこたま飲まされて……あー……どうしたっけ?

布団……入った記憶がナッシング。いや、誰かに運んでもらったような気がしないでもない。

 

 

「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙……頭おっも……」

 

「提督。おはようございます。朝ごはんは狭霧特製のおにぎりとしじみのお味噌汁を用意しました」

 

「ありがとう……」

 

「大丈夫ですか? 立てますか?」

 

「あぁ……うん……大丈夫大丈夫。ありがとね」

 

 

 狭霧が差し伸べてくれた手を取って何とか起き上がる。口ではうわ言のように大丈夫大丈夫言ってるけど、全くもって大丈夫じゃない。

記憶が薄れていて定かじゃないんだけど結構飲んだ気がする。これが宅飲み……帰りの電車とか気にしなくていい上に酒が無尽蔵に出てくるというパラダイス。

初めてここまで泥酔してしまった……というか、こんなに一気に飲んだのに急性アルコール中毒にならなかったのは運が良かった……

 

 狭霧特製だという塩むすびとシジミ汁が五臓六腑に染み渡る……

酒飲んだ次の日って味噌汁がやけに美味しく感じるし、体中に水分が染みる感覚が実にベネ。

あと、不安そうに味はどうかと聞いてくる狭霧が可愛いのもいい。

これなら毎日飲んだくれて介抱してもらうのもあり寄りのありなのでは? って考えちゃうわ。

 

 

「美味い。狭霧も料理出来るんだな」

 

「簡単な物だけです。朝食とか間食で出せるようなメニューだけは練習しておこうと思って間宮さんに習ったんです」

 

「そうか。狭霧は偉いな。俺なんて一人暮らししてた時はコンビニ弁当とかインスタントに冷凍のおかずばっかりだったわ。自炊……最初はやる気満々だったんだけどね」

 

「提督の食事風景は皆知ってますよ。だから、狭霧も含めて何人かの艦娘は提督のためにって間宮さんに料理を教えてもらってましたから。きっとこれから色んな人に料理を振舞ってもらえますよ」

 

「そいつは楽しみだけど……う~ん。料理してもらうだけってのも申し訳ないし俺も間宮さんに料理習おうかなぁ」

 

「わぁ~それはいいですね! 提督と一緒に料理するのも楽しそうです!」

 

 

 顔の前で両手をそろえてにこやかに笑う狭霧がかわいいんですが。

ホントうちの艦娘はどの子も可愛くてしょうがねぇな。

でも、間宮さん俺に料理教えてくれるだろうか。昨日のあの調子だと俺に料理とか教えてくれそうにないよね。

何せあの人俺を太らせて可愛がりたいタイプの人だし……

つまり、最初に頼むのは伊良湖だな。あの子どう考えても押しに弱いでしょ。

 

 

「提督。本日の予定ですが、午前中はデイリー消化。お昼は阿賀野さん達と食事。午後から明石さんと会議。夕食は戦艦の方々と摂るといった予定ですが何か漏れなどはありますか?」

 

「いんや……個人的に予定入れた覚えもないしそれで大丈夫だよ。そんじゃ、ちゃきちゃき支度してデイリー済ませちまうかぁ」

 

「はい。あ、お味噌汁のおかわりはいりますか?」

 

「……頼めるかな?」

 

 

 結局その後味噌汁を3杯おかわりした。だって、美味しかったんだもん……

あと、飲み終わるたびに「おかわりいりますか?」って狭霧に聞かれたら誰だっておかわりするでしょ? 俺だってしたし誰だってする。

 

 歯磨いて顔洗って用意されてたパリッパリに糊のきいた軍装に着替える。

予定調和ではあったけど妖精さんの腹から出てきたそれはちょっとぬくたい。

とか、考えてたら次に渡された帽子は冷たかった。ちょっと霜が付いてるレベル。

てか、え、冷やせるの? これは、冷やすって言うか凍らすってレベルだけどさ……

 

 

「妖精さんの服の下はどうなんってんだ……」

 

「どうかしたんですか?」

 

「妖精さんに着替えを出してもらったんだけどさ、軍装は生ぬるかったのに帽子はキンキンに冷やされた状態で出されたんだよね。狭霧、何か知ってる?」

 

「う、う~ん……正直私も妖精さんの事はあまり知らないんです……すいません」

 

「いや、わからないならいいよ。分かりそうなのはやっぱり明石か」

 

 

 自分であれこれ決めつけておいてあれだが明石なんでも知って過ぎでは?

だって、艦これで知識枠って言ったら大淀か明石だろって思うじゃん。思うよなぁ。

現に暇つぶしに読んでたりした二次創作でもそうだったな。ただ、あれとこことじゃ状況全く違うからなぁ。

ああいう作品は大体艦これの世界の話だけど、うちは現実の世界に艦娘って状況。

もしかしたら、明石ですら知識枠でない可能性よ。何せあの子も他の子と一緒でこっちの世界歴1年だしね。

 

 そんな事を考えながら狭霧の入れてくれたお茶を啜りながらデイリーを消化していく。

単艦放置兄貴からS勝利を貰い、遠征はバケツ回収中心でイベントに備えて、出撃は適当に回数を重ねる。

ウィークリーは昨日のスパルタ大淀が一緒に編成考えながらやってくれたから凄い助かった。

あの子wikiの情報とか基本的に全部頭に入ってるか持ってたファイルにまとめてあるんだよね。

すんごいよなぁ。俺なんて普段行かない遠征とか海域とか常にwikiとかまとめサイト見ながら編成丸パクりだもの。

 

 その点、今日の秘書艦の狭霧はそういうの全然知らなかった。

試しに「今は行かないけど、この海域ならどんな編成がいい?」って聞いてみても顎に手を当てて数秒悩んでから「詳しい編成はわからないです。すいません……でも、駆逐艦枠なら私行けます!」とふんすふんす言いながら答えてくれた。

この事から、別に艦娘は全員が全員、海域に関しての知識とか羅針盤に負けない編成を知っているわけじゃないってのが分かった。

まあ、少なくとも俺の嫁は知らないと思う。むしろ、五月雨ちゃんが編成のあれこれ知ってたら逆に凄い。

 

 そんな感じでほのぼのデイリーを消化しているとコンコンコンと扉を叩く音が部屋に響いた。

艦これのBGM以外流れてない部屋だから扉を叩く音だけでも結構響く。結構ビビった。

んで、さらに追い打ちをかける様にこっちの返事がまだにもかかわらず勢いよくドアが思い切り開かれてビビった。

 

 

「うぇーい! 提督さんげんきー? 阿賀野は元気でーす! あ、提督さん今日のデイリー終わった?」

 

「……まだやってるよ。てか、びっくりするから扉を思い切り開けんな」

 

「ごめんごめーん! あ、狭霧ちゃんもごめんね!」

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

「ところで、どうした? 昼……はまだもうちょいあるな」

 

「提督さんがお昼一緒に食べてくれるって矢矧が教えてくれたから待ちきれなくて先に来ちゃった☆」

 

 

 きらりーん☆ と白い歯をこれでもかと見せつけながら満面の笑みを浮かべて入室してきた阿賀野。

その後、テーブルの上にお茶請けの饅頭があるのを見つけてソファにダイブ。

数個饅頭を食べてから「狭霧ちゃん! お茶ちょーだい!」と饅頭を食べていいかも聞かなかった上にお茶を要求するという遠慮の欠片というか常識から物凄く逸脱した暴挙の数々。

 

 普通なら上司が居る空間でこんな素晴らしい態度はとれない。というか、上司が相手じゃなくてもしないよね。

だがしかし、阿賀野はやってのけた。自由人過ぎるよね。でも、そこが好き。提督許しちゃう。

昨日の俺が言った「お前たちは家族だ」宣言に則った正しい対応だと俺個人は思うよ。うん。

でもまあ、たぶん、ここ以外の場所でこんな事したらべらぼうに怒られると思う。

 

 あ、いや、ここでもべらぼうに怒られるかも。

静かな空間だからこそ外の音とかも結構拾うのよね。例えば、ドシドシ歩いてくる足音とか。

 

 

「失礼します。あ、やっぱりここに居た! 阿賀野姉! 何やってるの!」

 

「あ、矢矧~。やっほ~。このお饅頭美味しいよ?」

 

「美味しいよじゃないわ! もう! 提督に対して失礼でしょ!」

 

「え~提督何も言ってこないし怒ってないって? ねぇ~提督」

 

「まあ、俺は怒らないけど、饅頭もお茶も準備したの狭霧だからな。狭霧は怒るかもしれない」

 

「えっ! あっ大丈夫です! お茶も提督の物を入れるついでだったので問題ありません!」

 

「ほらほらー」

 

「提督。あんまり阿賀野姉を甘やかさないでください。これ以上ぐうたらになったら戦闘で攻撃当てられなくなるなんて状態になるかもしれませんよ」

 

「そいつは困る。阿賀野ダメじゃないか」

 

「うえぇぇぇぇ~! 提督の裏切り者ぉ!」

 

 

 俺は阿賀野の家族であると同時に矢矧の家族でもあるのです。だから、裏切りとかそういうんじゃないんです。

俺が艦これをカチカチと操作している横で阿賀野が床に正座させられて矢矧から説教を受けてる。

時折、阿賀野が助けてくれとパチパチまばたきしてくるけど無視。無視というか見つめ返すだけ。

それに対して阿賀野は急にポッと頬を染めて目をそらす。と、同時に矢矧に頬を押さえられて「こっちを見ろ」と怒られた。

 

 これはもうどっちが姉なのかわからんな。

能代も割と阿賀野を甘やかすタイプの子だった気がしたし矢矧がこうなるしかなかったのだろう。

その下の酒匂も割とふわふわしてる感じの子だし矢矧結構大変なんじゃないだろうか。

 

 

「阿賀野もあんまり矢矧に迷惑かけたらだめだぞ」

 

「これはほら……お姉ちゃんからの妹への愛情表現ってやつ?」

 

「こんなめんどうな愛なら私要らないわよ」

 

「えぇえぇぇぇー! そんな事言わないでよ矢矧ぃ」

 

「あ、提督なら大歓迎だからね? どんどん私に迷惑かけてくれていいわよ」

 

「男前すぎて惚れそう」

 

「そっちも大歓迎よ」

 

 

 抱き着こうとする阿賀野の顔を片手で鷲掴みしながら俺に向かってウインクしてくる矢矧。

イケメンか? おっぱいのついたイケメンか? 惚れてまうやろー!

なんか矢矧の顔の周りにキラキラエフェクト出てんだよな。少女漫画かな?

那珂ちゃん達も星出せてたし多分矢矧も出せるんだろう。艦娘の不思議ってやっちゃな。

てか、俺はギリギリ耐えたけど隣にいる狭霧はダメだったらしい。「か、かっこいい」って言ってから口半開きで動きが止まってるもん。

 

 

「……まあ、提督も色々あるでしょうし。私の練度が99になったらまたこの話しましょうか。大丈夫。悪いようにはしないわ」

 

「その笑顔が怖いんだけど?」

 

「提督の事を想っての笑顔よ。嬉しいでしょ?」

 

「まあ、なぁ」

 

「でしょ。さてと、そろそろ能代姉の準備も終わるらしいし提督はそろそろ仕事に区切りを付けてもらえるかしら?」

 

「わかった。悪いんだけど、狭霧はお茶の用意をしておいてもらってもいいかな?」

 

「わかりました。美味しいお茶を入れますね」

 

「じゃあ、阿賀野は提督のお手伝いしてあげる!」

 

「ダメよ。阿賀野姉は私と一緒に配膳の準備よ」

 

 

 矢矧に襟首を掴まれて「ぐふぅ」とうめき声をあげた阿賀野が引きずられていく。

まあ、いいんだけどそんなに引っ張ったらチラチラ見えてたヘソがついに丸出しになってるしそれより上も見えそうだからね?

なんて、チラチラ見てたら妖精さんが飛んできて顔に張り付いた。結構いいスピードで突っ込んできたもんだからばちーんといい音が響いた。鼻がいてぇ……

 

 顔から引き剥がしてどんな妖精さんが突っ込んできたのか確認すると割烹着を着たデフォルメ阿賀野だった。

確か、特別な方のおにぎりに描かれてた妖精さんだったかな。長波様と一緒のやつね。

この野郎……って思って軽く睨みつけたけど、いやんいやん体をくねらせて俺の親指に抱き着いてスリスリと頬擦りを始めてしまった。

 

 

「阿賀野?」

 

「阿賀野の提督への溢れんばかりの想いが形になっちゃった☆」

 

「溢れちゃってるわよ阿賀野姉……」

 

「え、妖精さんってそんな簡単にぽんぽこ生み出せるわけ?」

 

「そうですね。人によりますけど簡単に出せます」

 

 

 「こんな感じです」と言ってから狭霧がむむむっと力を込めると俺の頭の上に妖精さんが落ちてきた。

落ちてきた妖精さんを掌に乗せて狭霧と見比べる。うーむ。かわいい。

右手に阿賀野、左手に狭霧。ハムスターより少し大きめでミ〇モサイズの妖精さん。

この子達はふよふよとそこら辺を飛んだり跳ねたりしてる妖精さん達より1~2cmぐらい大きい。

ついに俺の指をしゃぶりだした阿賀野妖精にどこから取り出したのかわからないお茶をすまし顔で飲み始める狭霧妖精。

やっぱり妖精さんは自由の象徴だな。

 

 

「す、すいません提督! こら、提督の手の上でお茶なんて飲まないで!」

 

「あーずるいぃー阿賀野も提督のゆ「阿賀野姉?」こ、こらー、提督の指食べたらだめでしょ?」

 

「矢矧は妖精さん出せないのか?」

 

「ごめんなさい。私は出せないわ……」

 

「となると、元絵がある子は出せるとかそういったルールがあるのかもしれないな」

 

「確か、明石と夕張もそんな事言っていたわね」

 

「あとで確認してみるか。で、俺も何か準備手伝おうか?」

 

「大丈夫よ。座って待っていて。あ、そうだ」

 

 

 ふふっと不敵に笑った矢矧は俺の手の上から妖精さんを回収しようとしている二人を止めた。

 

 

「ちょうどいいわ。あなた達そのまま提督の掌の上に居てくれる?」

 

「えっそしたら俺動けないんだけど?」

 

「だからいいんじゃない」

 

「あ、そうですね。いいと思います!」

 

「だって提督って自分の事をお世話してくれる人がタイプなんでしょ? ずっとそう言ってたじゃない。だから、どんどん甘やかしていくわ」

 

「阿賀野の事も甘やかして欲しいなぁ?」

 

「はい、阿賀野姉はこれテーブルに並べて」

 

 

 仕事を渡された阿賀野がぶーたれながら皿をテーブルに並べていく。

てか、そういうセリフもしっかり聞かれてたんだなぁって。俺結構PCの前でやらかしてるんだけど?

ヒモ宣言然りド変態宣言然り。でも、たぶんいっちゃんヤバいのは艦これ以外のゲームのキャラを可愛いとか美人とか叫んでた件だと思うんだ。

オタクってのは嫁が沢山居るからね。艦これ以外のゲームのキャラを好きだとよく叫んでたよ。

その点に関して怒ってたりするのかな……藪蛇になりたくないから聞かないけど怖いなぁ。

 

 まあ、ゆうて「君たちの方が好きなんだ」って言った所で結局は200人近くに愛の告白するようなもんだからな。不誠実にもほどがあんだろと。

なんて、ろくでもないことを考えていると執務室にドアをノックした音が響いた。

 

 

「あ、来たみたいね」

 

「提督。こんにちは。能代特製カレー持ってきたわ」

 

「提督こんにちはー!」

 

「おう、おはよ」

 

 

 なんとなく、こんにちはって言いにくいんだよね。ちわーっスだったら言いやすい。

能代が持ってきた鍋をテーブルの上に置いて、酒匂も持ってきたおひつをその横に置いた。

カレー。カレーか。まあ、嫌いな人はいないよな。俺も嫌いじゃない。ただし、おこちゃま舌の俺は辛いカレーが食えない……能代のカレーはどうなんだろうか……

 

 

「? あぁ、安心してください提督。能代のカレーは辛くありませんよ。阿賀野姉と酒匂も辛いの食べられないので辛く作らないんです」

 

「あ、そうなの? ならよかった。辛いのはちょっとな」

 

「能代お姉ちゃんのカレーはとっても美味しいから楽しみにしててね!」

 

「ところで提督はいつまで妖精さんを手の上に乗せてるんですか? それじゃ、カレーが食べられないのでは?」

 

「あぁ、あれはあれでいいのよ。あの状態なら提督にあーんしてあげられるわ」

 

「なるほど。それいいわね!」

 

「えっ」

 

「提督。ストロー挿しておきますね」

 

「さあ、提督さんはこっちよ! 阿賀野の隣ね!」

 

「ずるいよ阿賀野お姉ちゃん! じゃあ、酒匂はその反対!」

 

 

 しれっと狭霧も俺を助けてくれないんだが? ってそういえばさっき矢矧の妖精さんそのまま案に全面同意してたな。

この空間普通に俺の味方がいないんだけど? 俺このままあーんされる運命なん?

しかしながら、ついに俺の親指に飽きて手のひらをなめ始めた阿賀野妖精とどこから取り出したのかわからない布団に包まって寝てしまった狭霧妖精のせいで俺は両手が使えないと言っても過言ではない……無理やりどかすとか可哀そうだしなぁ。

 

 能代と矢矧に手加減してくれと目で訴えても「少ないですか?」とか「このぐらいなら一口でいけるかしら?」としか返ってこなかった。てか、もう既にあーんされた。矢矧が行動力の化身過ぎる。

 

 

「どうですか提督。美味しいですか? 辛くないですか?」

 

「……美味い。ビックリするぐらい美味いんだけど。辛さも問題ないぞ。……失礼な事聞くけどレトルトとかじゃないんだよな?」

 

「当然です。具材の種類からスパイスの種類まで全部能代が考えて作りました」

 

「ほぉー……今までレトルトしか食べた事なかったからカレーの大体の味を予想して食べたけどいい意味で裏切られた。いや、美味い」

 

「そうでしょ。能代姉のカレーはとても美味しいのよ。はい、あーん」

 

「ちょっと待って矢矧。さっき一口目は譲ってあげたでしょ? 次は能代にやらせて」

 

「でも、ちょっと考えてみてよ能代姉。このカレー作ったのは能代姉でしょ? それを提督は美味しい美味しいと食べてくれているわ。つまり、能代姉はもう既に凄く褒められているの。それで充分だと思わない?」

 

「はい、司令。あーん。バレると怒られちゃうからぴゃっと食べてね?」

 

「次は阿賀野が食べさせてあげるねー?」

 

「うーん……美味しい。狭霧もカレー作れるようになった方がいいかな……」

 

 

 うーん。カオス。

あまりのカオスっぷりに食べさせてもらってるのが恥ずかしくないと思えてきた。

その昔、そういうのが気になるお年頃な時に調べた時はあーんは愛情表現とか書いてあったっけかな。

まあ、確かに正直言ってあーんって食べにくいしお互いに愛情がないとめんどくさいよね。

 

 

「あ、二人とも待ちなさい。次は能代だって言ったでしょ」

 

「そっちはそっち。こっちはこっち。縄張りが違うのでそのルールは適用されませ~ん」

 

「待って。それだと俺はどんだけ食べることになるんだ? 流石にそんなに多くは食べられないぞ」

 

「はい、提督あーん」

 

 

 阿賀野に言われて反射的に口を開けてカレーを頬張る。

これはもうダメですね……でも、阿賀野にあーんって言われたら誰でも口開けるよね?

しっかし今はいいとしてこの調子で甘やかされていったら間宮さんとか鳳翔さんの理想とする体型になってしまう……

最初は長門とか武蔵に相談するよりも吹雪達に相談しようかな。

なんか二人のイメージは有酸素運動よりも無酸素運動って感じなんだよね。

そんな感じで今後に不安を抱きながらも口の中に放り込まれていくカレーを食べていく。美味い。けど、手加減してほしいなぁ……



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16話

「お、提督。おつかれさまでーす」

 

「おつかれ。遅くなって悪いな」

 

「いえいえ。提督はモテモテですからね。ここに来るまでに結構絡まれたんじゃないですか?」

 

「結構絡まれたな……」

 

 

 阿賀野達とお昼ご飯を食べた後に阿賀野型に絡まれて陽炎型に絡まれた。

阿賀野達はよかった。お昼ご飯を一緒に食べたっていう事で割と早く解放してもらえたけど昨日からお預け状態みたいな陽炎型はもうヤバかった。

まず陽炎型は数が多いからね。第一波第二波を凌いでも第三第四とどんどこ突っ込んでくるからな。戦いは数だよ兄貴。

んで、何人か陽炎型の子を引きずりながら歩いて工廠までたどり着いたってわけよ。

 

 

 

「さてとー……じゃあ、提督。適当に座っちゃってください。今お茶でも入れますね」

 

「さんきゅ。流石にあの数を相手取るのは疲れたから飲み物は助かるわ……」

 

「諦めてくださいねー。これからもずっとそんな生活ですよ」

 

「それは……嬉しいような……なんというか……うーむ。俺の体は果たしてもってくれるだろうか……」

 

「あはは……そこは頑張ってくださいとしか。トレーニングルームにはちゃんと提督用トレーニング器具も用意してありますので試しにでも行ってみたらいいかもしれませんね~」

 

「まあ、そうなるよなぁ」

 

 

 受け取ったお茶を飲みながら頷く。

皆勧めてくるしイベント終わったら行くとしよう。

目指せ肩メロンに腹筋6LDK。ボディビルの掛け声っていいよね。

 

 一息ついてからお茶と一緒に渡された資料に目を通していく。

俺が事前に頼んでおいたものだから文句は言えないけど資料分厚いな……ハ〇ポタぐらいない?

とか考えながらペラペラと数枚めくってから資料をテーブルに置いてお茶を飲む。

 

 

「なあ、これ半分ぐらいここに居る艦娘の身体測定の結果だったりするのか?」

 

「そうですよ? だって、提督が「艦娘及び妖精さんに関するデータが欲しい」って言ってきたんじゃないですか」

 

「いや、言ったけどさ……」

 

「じゃあ、これで問題ないですね」

 

「わかった。これはこれでありとしよう。ただ、なんでこう……服着てる写真と全裸の写真並べた? 隠さないといけない所にぼかしを入れるの手間じゃなかった? ぼかすぐらいなら入れなきゃよかったじゃん」

 

「提督。これ、ぼかしてるわけじゃないんですよ。我々艦娘には乳首も無ければ女性器もありませんし、食べた物を排出する器官もありません。正直、首から下は柔らかいマネキンとそう変わりませんね。これは、全艦娘の身体測定をして全員に共通でした」

 

「あー……まじか……はー……」

 

「えぇ、なので提督には申し訳ないんですけど子供はもう少し我慢してもらう形になりますね。女性器があるとかないとか以前の問題で我々には子宮もないです。すいません……」

 

「そこは……まあ今すぐにって話じゃないしな。うん。急いでないから」

 

「でもですね。我々はこっちの世界に来たときは汗なんてかかなかったんですけど最近はちらほらとではありますけど汗かいてる子が居るんですよね。だから、徐々に徐々にこちらの世界に馴染んでいけばそのうち子作りだって出来る様になりますよ!」

 

「そうか。それはまあうん」

 

 

 こちとら童貞をこじらせて何年だと思ってんだ。あんまりそういう話振ってこないでくれ……恥ずかしいんだから……

咳払いをしてその場をとりあえず濁し資料を再度確認する。

とは言っても艦娘のページには必ず艦娘の全裸の写真が載ってるという。知りもしない誰かの全裸なら特に気にしないけど顔も声も性格だって知ってる知り合いの全裸を凝視できるほど俺は図太くないのよ。

更には、明石も俺が誰のページを見るのか気になるのか隠す気もないぐらいにこっちを凝視してくるし……

 

 しょうがない……いや、しょうがないじゃない。俺にはこれしかないという選択。

図鑑№83の子だけがこの場での正解だと信じるほかない。うぅ……俺だってこんな状態で嫁の裸を見るだなんて思ってもみなかったんだ……許してくれ……五月雨ちゃん。

 

 そうやって選択した五月雨ちゃんのページを読んでいくと、最初の方は普通の身体測定の結果が書かれており身長体重視力血液型……いや、身長はいいんだけど体重おかしない?

単位がtなんだけど? この見た目で俺の2~30倍近い体重……まあ、元が船だしそういう事もあるって事だな。船だし。

……俺がおんぶした島風はどうなんだって話になるけど、その話は部屋の隅にでも投げ捨ててしまおう。

視力も見たことない数字になってる。いや、これどこまで見えてんだろ。まあ海戦なんて何キロも先の敵を撃つ戦いだし遠くが見えるのは当たり前か。そういう事にしとこ。

んで、血液型は? 不明? まあ、血が流れてるだけでもよしとしよう。うん

 

 

 

「まあ、人間の規格に艦娘を当てはめようとしたって突拍子もない数字になるって事ですね」

 

「そーみたいだな」

 

「血液型ですけど、私たち注射針が刺さらなくて採血が出来なかったんで不明ってしてます」

 

「それはやっぱり武器扱いだから装甲が抜けなかったとかそういう話になるのか?」

 

「それも一つの要因だと思います。あとは、二次元と三次元の相違とか保護機能で弾いたとかそういった可能性もあるかなーって。ちなみになんですけど私が採血しようとすると演習扱いになるのか、これまた刺さりませんでした。工作艦の私は攻撃力とかほぼ皆無ですからね」

 

「他の子が代わりに採血するとかはやってみたのか?」

 

「それが基本的にみんな採血を嫌がるんですよね。提督の所有物を勝手に傷つけるのはいかがなものかーって。最初に採血するときも提督の為だって言って何とか納得してもらったんですけど、いざ採血出来ないってなったら一斉に「じゃあ、やりませーん」って言ってきましたよ」

 

「君らは別に俺の所有物ってわけじゃないと思うんだけどなぁ……まあ、無理にやる必要もないだろ」

 

「わかりました。あと、私達は船なんです。船には所有者が居てくれないと困ります。いいんですか? 提督が所有権を主張しなかったら私達国の船になっちゃいますよ? ……って、そんな顔するぐらいなら最初から俺の船だって言っといてください」

 

「……すまなかった」

 

 

 大事な家族を物みたいに扱うのが嫌だったから所有権云々を濁してたけど、国に持ってかれるとかそういう話になるのならば所有権主張していくとしよう。

なんかそっちの方が喜びそうな子居そうだしな……オラオラ系。筋肉付けてオラオラ系。んー……いいのかそれ。

まあ、そこもおいおい周りの意見を取り入れつつという方向で。高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変というやつね。

 

 んで、問題はこっからよ。

なんというか生物としてあるべきものがないのが艦娘。

昨日、あれだけバクバクと食べて飲んでしまくっていた物がどこに消えていったのか……私気になります。

食べても消化出来ないから吐き出してるとかないよね? 食事は娯楽。みたいな古代ローマ貴族みたいな事はしてないよね?

まあ、そんな事したら主計課が怒りそうだし何より戦時中の人々の暮らしを覚えてる子も多いだろうしあり得ないか。

 

 

「でー次は、提督も気になっているようですしお腹の事ですね」

 

「そうだな」

 

「写真見てもらえれば分かると思うんですけど、私達は取り込む器官はあっても出すための器官がないんですよね。で、食べた物がどこに行くかって話なんですけど、正直に申しますと艦娘はエネルギー変換率100%なんです。搾りカスが全くでないミラクルボディってやつですね」

 

「マジ?」

 

「マジですね。食事を摂ってそのエネルギーでもって生活。そこまでは普通の人と一緒なんですけど、余ったエネルギーなんかは全部燃料とか弾薬なんかに変換です。だから、艦娘は食べ過ぎで太るとかそういう事は起こりにくいです」

 

「起こりにくいです?」

 

「それが一部艦娘がだらけ切った生活をした結果、ちょっとばかし肉付きのいい体になったって報告を受けました。一応、乙女の秘密って事で誰がってのは伏せますね」

 

「そこは勿論。で、艦娘のダイエットも普通の人間と一緒なのか?」

 

「いえ……それがそこもちょっとズルが出来まして……無駄な贅肉もエネルギー変換してしまえば元通りの体型なんですよね……だから、報告を受けて嬉々としてデータを取りに行ったら既に標準体型に戻されてました。次はうまくやります」

 

「それ、うまくやるのは良いけど頼むからデータ取っても俺に報告しないでくれよ。俺、後で恨まれたくないからな」

 

「データ提供者に報告していいか聞いてから報告しますね。中にはそういうのも提督に把握していてもらいたいって子も居ますから」

 

「そっか……」

 

 

 もうホント色んな子が居て楽しい職場ですね。

もしかして、これ……考えるのをやめよう。そう、あの宇宙船の中でハーレム作ってた兄貴も言ってたじゃないか。女は太陽。

太陽がなかったら男っていう花はしなびる……だったかな? 女性に笑顔で居てもらってこその男。

男はどかっと構えておけばいいって話よな。うん。そう。その通り。

 

 

「提督大丈夫ですか? 目、凄い事になってますけど?」

 

「大丈夫大丈夫。今、ちょっと自分の価値観の整理をしてるだけだから……」

 

「そうですか? じゃあ、次ですね。先ほども言いましたが私達も非常に残念だと思ってる部分です。艦娘には子宮がないです。よって子供が作れません。子宮がない理由と私達に生殖器がない理由。多分なんですけど、公式で艦娘はこういう存在ですって所が濁されてるのが原因なんじゃないかなって思うんですよね。私達、こうしてここに居ますけど元は絵ですからね。公式設定ないから反映されなかったってのは大いにあり得るんじゃないかって……」

 

「つまりは、公式で艦娘と人間の間でも子供が作れますって発表があればその部分が、あー……」

 

「ある日突然、私たちの体にそういった機能が作られる可能性もあります。あとは、やっぱり時間経過とかですね。こう、艦娘がまだ三次元の世界に溶け込み切れていないからその部分が無いっていう可能性です。すり合わせが済んでいけば、いつになるかはわかりませんけど人間みたいな生き物になると思います」

 

「何言ってんだよ。今でも十分人間だろ。まあ、その事に関しては焦る必要もないし追々にな。……しかし、一つ聞きたいんだけど子供が作れないって全員が把握してるんだよな?」

 

「あー……そのはずです」

 

「……俺、陸奥に誘われたんだけど?」

 

「あー……陸奥さんですね。陸奥さんは……あーなんというか、あの容姿と立ち居振る舞いなので勘違いするのも無理はないのですが長門さんの妹だけあって絶妙にかわいい事する艦なんです……」

 

「……えっ? 本当に? だって、陸奥だよ? あの陸奥が? あれで? うっそだろおい」

 

「ホントなんですってばー。私もびっくりしましたよ。ちなみにそれ聞いた時に真実を教えるべきかと悩みましたが、陸奥さんみたいな女性の無知シチュは提督も美味しいんじゃないかなって思って訂正はしませんでした」

 

「…………」

 

「そこは黙るんじゃなくて、よくやったぞ明石って言いながら頭を撫でる所ですよ」

 

 

 明石の髪の毛は柔らかかった。

 

 

「あと、全員じゃないんですけど普通に「穴があろうがなかろうが愛は確かめ合えマース!」とか言ってたんで暴走したら止まらない艦も居るので気を付けておいてくださいね」

 

「その語尾出したら誰だかわかっちゃうでしょ……あと、頼むからそういう女性同士特有の生々しい表現は次からはオブラートに包むように」

 

 

 分かったのか分かってないのか分かりにくい笑顔で返された。

多分、この子俺の困り顔見て楽しんでるのでは? おっさんの困り顔の何がいいのかわからないわ……

 

 

「あ、そういえばこれに関連してってわけじゃないんだけど聞きたいことがあるんだよね」

 

「もしかして、提督にとっても私達にとっても大切な提督の男性器が反応しないって話ですか?」

 

「……いや、まあ、その通りなんだけどはっきり言わんでくれ恥ずかしい」

 

「自分から聞いてきて恥ずかしがらないでくださいよ。で、それなんですけど、一昨日の夜に食べた飴玉みたいなやつ覚えてますか?」

 

 

 このぐらいのやつですと指で丸を作りながら覚えているか聞いてくる。

そらまあ、妖精さんごと飲み込むところだったからね。もちろん覚えているさ。

超高性能睡眠薬って感じの話だったけど、明石のニヤニヤ顔を見る感じあの日大淀が説明してくれた以上のメリットデメリットがあったと考えるべきなのか……にしてもデメリットでかすぎない?

 

 

「覚えてるけど……あれ、睡眠薬だったんじゃないのか?」

 

「睡眠薬ってのは耳障りをよくしただけなんですよね。あれ、全身麻酔ってやつですよ。大淀に副作用の説明されませんでした? 私は言わなくてもいいよーって言ったんですけど、提督が大好きな大淀は提督に聞かれたらなんでも答えちゃうから教えてくれたんじゃないですか?」

 

「あー……確かに教えてくれたな。死ぬほど痛い思いをしても起きないみたいな事言われたと思う。……で、全身麻酔を俺にかけた意味は?」

 

「あの飴玉なんですけど、実は提督に全身麻酔がかかったと同時に起動するナノマシンが大量に入っていてですね」

 

「フォックス……」

 

「いえいえ、そんな機能はついてないですよ。純粋に提督の寿命を延ばすとかそういった役割を持ってます。ただ、その過程で提督の細胞をほぼナノマシンと入れ替える必要があってですね。もし仮に痛みとかそういう体調不良が起こった場合提督に申し訳がないので全身麻酔って手段に出たんです」

 

「ほー……なるほどね。なるほど。で、なんで寿命?」

 

「だって、提督は人間ですから多分私達より長生きなんてしてくれないじゃないですか。そんなの嫌なので寿命を延ばすって手段に出ました」

 

「んー……まあ、寿命が延びるのは悪い事じゃないし怒る事もないよ。ただ、どうやって寿命延ばしたんだ? ナノマシンって? というか、細胞入れ替えってそれは既に俺も人間卒業なのでは……」

 

「あー……………………話聞いても引きません?」

 

「話を聞いてみないことにはなんとも言えんなぁ」

 

 

 ナノマシンって話自体はちょっとばかし中二心をくすぐるワードだし好意的よ。

さっきも言ったけど寿命が延びるってのも別に悪い話じゃないしね。ただ、老化は? 老化は起こるのだろうか。

伝説の傭兵が4の時に着てたようなマッスルスーツを着ないといけないような事にならないといいんだけど……

 

 

「生き物って死ぬまでの細胞分裂の回数が決まってます。大雑把に言って寿命ってやつです。で、その細胞分裂回数の上限から提督を解放するためにナノマシンへの入れ替えです」

 

「そのナノマシンには活動限界みたいなものはないのか?」

 

「そこに関係してくるのがナノマシンの原材料です。えー……今現在この鎮守府に在籍している艦娘の体の一部と私たちのキャラクターデータです。それをコネコネと妖精さんがこねくり回して作りました。はい」

 

「……まあ、薄々とだけどそんな気はしてた。今までもそれなりに重たい場面があったからな……でも、キャラクターデータの方は全然考えもつかなかったな。だって、あれは君たちにとっても大事な物だろ?」

 

「だからですね。大事な人と大事な物を一緒にしてしまえば愛でるのも守るのも楽ですから」

 

「一理……あるか? あるって事にしておくか。……で、なんでその素材から出来たナノマシンが俺の寿命を延ばすんだ?」

 

「それはですね。さっき艦娘はエネルギー変換効率100%って話したじゃないですか。あれのちょっとした応用ですね。提督にはナノマシンによる肉体改造でほぼ艦娘状態。食事さえとればナノマシンが体調を整えて老化を抑えて若々しい体を保ってくれるって話です」

 

「ほぼ艦娘状態……つまり俺は改造人間とか人造人間そういった状態なんだな? はっ、じゃあ俺にも艦娘の超パワーが?」

 

「ないです。ホントに提督に長生きしてもらいたいって理由だけなんで。あ、でもちょっとだけ防御力があがってますよ。具体例を挙げるなら……スーパーマンぐらいは硬いんじゃないですかね」

 

「そうか……って、いや、そんなに? すんごいかっちんこっちんじゃん」

 

 

 変身ッ! も出来なければ気の吸収も出来ないのか……それは残念だな。

まあ、スーパーマンぐらい硬くなったのなら許すか。確か銃弾を眼球に喰らっても大丈夫なレベルだよね。すごい!

 

 でだ。多分、引く要素としては体の一部とか気持ち悪いって思うか思わないかって話だよな。

まあ……知らない人だったら気持ち悪いって思うけど艦娘だしなぁ……みんな可愛いし。みんな綺麗だし。

別に食ったときに不快感とか無かったしそれは別にいいかなって思う。いや、まあ進んで食べるとかはしないけど……

 

 

「で、今までのそれこれに俺の下半身事情は関係あるのか?」

 

「あぁ、それは艦娘側の準備が出来るまで反応しない様にってナノマシンに設定してるからです。私達の準備が出来てないのに無駄打ちされても困りますから」

 

「無駄打ちって……」

 

「だってその時、私達以外をおかずにされるのも腹立たしいじゃないですか。提督だって私達が他の男の人でーって想像したらやじゃないですか?」

 

「確かに。万理あるな」

 

「まあ、提督の中にあるナノマシンが私達艦娘の誰か一人でも準備が出来たってのを感知すれば、もうビn「明石」はい」

 

 

 年頃になったら慎みなさいと習わなかったのだろうか。習ってるわけないか。

……まあ、この鎮守府は男一人。女子高とそう変わらないと考えればああ言った事は当たり前。戒めていけ俺。

艦娘の見た目年齢で言えばあのぐらいの年頃の子が多いからな。僕はついてゆけるだろうか……若さという霊力が枯渇してるおじさんにはつらいかもしれない。頑張れナノマシン。若さを取り戻せ。

 

 

「でですね。提督をほぼ艦娘化したデメリット……デメリットと言えなくもない物も勿論あります」

 

「やっぱりか……で、どんな感じ? 太陽が無いと弱くなるとか?」

 

「提督は流石に変換率100%ってわけにはいかなかったので出るものは出ちゃうって話ですね」

 

「まあ、100%変換してもどこに使うんだよって話だしな。燃料と弾薬に変換しても使わないし」

 

「そうですね。あとは、提督の中にあるナノマシンなんですけど艦娘が近くに居ないと稼働率が下がります。老化……はしないと思いますけど体がだるくなったり力が入りにくかったりなんていう症状が出ちゃう可能性があるので必ず誰か艦娘を近くに置いてくださいね?」

 

「近くって言うと大体どのぐらいだ?」

 

「そうですね……言ってもそんなに近くってわけじゃないです。15mぐらいですかねー。壁とかそういうのは無視で直線距離です。まあ、提督のそばには常に秘書艦の子が居ると思うんで大丈夫だとは思ってます」

 

「だなー。常に誰かしらは居る感じする。多分視界に入ってる入ってない含めると結構居そうな気がするわ……まあ、この鎮守府に居る限り適当に過ごしててもそのデメリットは受けそうにないな」

 

「それからー……あ、もう一個ナノマシンを入れて変わることがありました」

 

「デメリット?」

 

「デメリットかどうかは今はなんとも言えないんです……すぐにじゃないですけど、提督にも妖精さんの声が聞こえる様になります。今ナノマシンの方でチューニングしてるはずなので、それこそある日突然妖精さんの声がきこえるッみたいな感じです」

 

「それはメリットしかないな」

 

 

 これでようやく羅針盤の呪いから解放される……

妖精さんに頼んでランダムルートを100%ボスに固定とかしてもらうんだ……

勿論編成はちゃんとするよ? ただ、運営からの編成指定の時ね。ランダムでお仕置き部屋とかそういうのをなくしてもらいたい。ビバストレスフリー。

 

 

「ただし、妖精さんの声は聴く人によって変わるので提督が聞き取りやすい声で妖精さんがしゃべってくれるかどうかはわからないものとする」

 

「……なんだって?」

 

「こればっかりは妖精さんの気分次第なんで諦めてください」

 

「例えば? 例えばどんな話かがあるんだ?」

 

「えーっと、普通に話す、中二病、モールス信号、お告げ風、無駄に倒置法、江戸っ子などなど。バラエティー豊かですね」

 

「どうか普通に話すタイプになってもらいたい。中二病とかモールス信号とかちょっとわからない……」

 

「こっちからなんて言ってるか分かってるはずなので今からお願いしておくしかないですかね。たぶん、希望に近い話し方はしてくれるはずです。たぶんですけど……」

 

「頼むぞー……普通。普通が一番だからな!」

 

 

 近くに居た妖精さんのほっぺをムニムニとしながら普通が一番と刷り込んでいく。

そんな行動にきゃっきゃと喜ぶ妖精さんを見てると、これはダメかもわからんねという感想しか出来ないんだけど。

そうやって妖精さんを弄びながら、明石に他に何かあるか聞いたけど「今はこのぐらいにしておきましょう。一気に言っても覚えきれませんし」という事なのでご飯だと呼びに来る予定の狭霧が来るまで明石の工廠を見て回った。




ホントはこの話までをプロローグとして2~3話で終わんべぐらいの気持ちで書き始めたんですよね。
えぇ、ホントなんでこんなに長くなったのか。


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17話

一部セリフは先生の翻訳そのままなので会話じゃ使わなかったりそもそも間違ってたりする可能性大です。
なのでルビだけを読んでもらえればと思います。



「ハアーイ! アドミラールは居るかしら!!」

 

「アイオワじゃん。どったの」

 

「どうしたのじゃないわ! サギリの代わりに私が食堂までエスコートしに来たのよ! さあ、行きましょ? アカシはどうするの? 一緒に行く?」

 

「あ、私はもうちょっと作業していくんでお気になさらず~」

 

「そう? じゃあ、行くわよアドミラール! GO! GO!」

 

「でゅうぇ! 腕組もうとするな! アイオワのがでかいんだから! いでぇ!」

 

 

 スーパーマン並みの防御力はどこへ。

まあ、これまでも艦娘からのダメージは一切抑えられてなかったわけだし、多分だけどこの身体って艦娘相手だと演習扱いになるんじゃないか、これ。

つーか、素で俺より身長が高いアイオワがヒールなんて履いてるもんだからマジででかい。180超えてないかこれ……

あと、至る所がでかい。流石外国産。うちのでかい筆頭大和と武蔵より幾分かでかく感じるわ。うん、至る所が。

 

 

「えー、でもアドミラールと腕が組みたいわ! アドミラールもうちょっと身長大きくならない?」

 

「無理だな。成長期なんてとっくに過ぎてるおじさんだし、身長が縮むことはあっても伸びることはない」

 

「なら、アカシに頼みましょう! きっと身長を伸ばす薬ぐらいすぐに作ってくれるわ!」

 

「えっ! うーん……身長ですか。骨延長手術でもしてみます?」

 

「それめっちゃ痛い奴じゃん……漫画で見たぞそれ。190ぐらいのやつが250ぐらいになってたな」

 

「ありゃ、知ってましたか。まあ、痛みぐらいならちょちょいのちょいと消せますよ。けど、ふむ。身長考えておきますね」

 

「よろしく頼むわ! じゃあ、アドミラール! 行きましょう!」

 

 

 今度はガッツリと腕を組まずに俺の二の腕を掴んで歩き出すアイオワ。

って、指回ってるんだけど? 俺そんなに腕細かったかしら……それとも外人さんはやっぱり手も大きいのかな。

あと、アイオワってもうちょいルー語が凄くなかったっけ? 

まあ、正直日本語も不自由な日本人な俺は外国語なんてさっぱりだから言われても反応できない自信があるけどね……

 

 

「なあ、アイオワ。ゲームとかじゃもう少し英語しゃべってなかったっけ?」

 

「あぁ、それね。だって、アドミラールってば日本語以外ダメダメでしょ? だから、日本語を頑張ってマスターしたわ! 英語が伝わるならそれに越したことはないけどわからないでしょ? いざ、愛を囁いても通じないんじゃ意味ないもの!」

 

「それは、悪かった……まあ、追々な追々、俺も勉強していくから。多分きっとおそらくメイビー」

 

「それ知ってるわよ! アドミラールがそれを言い出したら大体やらないってみんな言ってたわ!」

 

「……ソンナコト、ナイヨ?」

 

「ふふっいいのよアドミラール。そんなアドミラールも愛しているわ。とってもとーっても愛しているわ」

 

「……いきなりどうした?」

 

「アドミラールを見てたら、なんかこう、胸が一杯になって言いたくなったの。やっぱり面と向かって愛してるって言えるのは良い事だわ」

 

 

 アイオワはきっと凄いいい事を言ってるんだと思うんだけど、アイオワの胸が一杯ってそれは……っていう感想で頭がいっぱいになってた。ごめんねアイオワ……

 

 

「アドミラールももっと沢山私達に愛してるって言ってくれてもいいのよ? 日本人の奥ゆかしさだっけ? それを否定するつもりはないけど私的にはもっと情熱的に求めて欲しいと思うわ」

 

「……それも追々ね、追々」

 

「ん~しょうがないわね。それじゃあ、アドミラールが言ってくれるまでは私がその分沢山愛してるって言ってあげるわ。愛してるわアドミラール」

 

 

 腕を引き寄せて耳元で囁くように言ってくるもんだから吐息が物凄くこそばゆい。

俺がこそばゆいのに我慢できなくて身をよじろうにも気づけば腕じゃなくて俺の肩を抱いているアイオワの膂力に勝てるわけがないのでされるがままの状態。

つーか、これ普通立場逆じゃないの? 恥ずかしがる女の子の肩を抱いた男が好きだとか愛してるって言う状況はわかる。でも、今これ逆だよね?

なんだろう。ここだと俺のポジションが本来女の子が担当すべきポジションになりつつある気がするぞ? これがうわさのメス堕ちか……

 

 

「あれ? なんで提督とアイオワがここに居るの? コンゴウ達食堂で待ってたよ?」

 

 

 アイオワとじゃれ合っていると後ろからサミュエル・B・ロバーツことサムとガンビア・ベイことガンビーが歩いてきた。

お腹を押さえて「満腹満腹」とご機嫌なサムを見る限り晩御飯を食べた帰りなんだろうなと。あと、どうでもいいけどサムって聞くとドレイクが出てくるんだよね。続編出て欲しい。

でだ、サムとガンビーが後ろから来たって事は食堂は進行方向とは真逆って事だよな? 

正直まだ脳内マッピングが済んでない俺が一人で歩き回って迷子になるのはわかるけど、それなりに長い期間ここに住んでるはずのアイオワが迷うわけないよなって思いアイオワの方を見ると顎に手を当てて「ふぅ~む」と悩む姿が映った。

 

 数秒悩んだアイオワがちょいちょいとサムを呼び俺とガンビーから離れた。

時折サムが「ん~まだ早いと思うんなー」と指を折りながらあれこれ言っている。

それに対してアイオワが「なるほどね」と頷く。

そんな二人の様子を見ていたら袖をちょいちょいとガンビーに引かれた。

 

 

hey, Admiral(こんばんは、提督)

 

「ガンビーも晩御飯食べた帰りか?」

 

That's right. The meat and potatoes were delicious (はい。肉じゃが美味しかったです)

 

「ミートアンドポテト……なんだろ……」

 

「uh, 肉じゃがです……」

 

「肉じゃがか。デリシャスって事は美味しかったって事だよな。そうだろうなぁ。あの人らが作る肉じゃがとか絶対美味いよな」

 

Yes! (はい!) The meat and potatoes were (お肉もお芋もとっても) so tender and (柔らかくて味も染みてて)the taste was very good (凄く美味しかったです!)

 

「あぁー……なんて言ってるかわからないけど凄い美味しかったんだな。いいなぁ。俺も食べたいな。この後出してもらうか」

 

「あ……ご、ごめんなさい。ついAdmiralと話せるってなって舞い上がってしまいました……私も日本語大丈夫です……すいません」

 

「いや、ガンビーが謝る事じゃないさ。英語がわからない俺が悪いだけだからな」

 

「うぅ……すいません」

 

「なになに提督ってばガンビーいじめてるの? いっけないんだー」

 

「個人的には、よし楽しく話せたなってレベルなんだけど?」

 

「その評価は流石にないよー……」

 

 

 アイオワとの話が終わったのかサムが右腕に抱き着いてきた。

いじめてるつもりは一切ないけどガンビーの性格上常におどおどしてるみたいな状態だからはたから見ればそう見えなくもないかなって。

 

 

「ガンビーはいつものでしょ? ほら、アドミラールがこの程度の事で怒るわけないんだから顔を上げて上げて!」

 

「うぅ……はいぃ……」

 

「あなたは笑ってる方がキュートなんだからなるべく笑いなさい!」

 

「ふぁい……」

 

「両手でほっぺた挟まれたら笑えないよアイオワ」

 

「いや、でも、んふ」

 

「この顔もキュートね」

 

 

 その後更に小さくなってしまったガンビーをなだめてから二人と別れてアイオワと一緒に食堂を目指して移動を開始した。

さっきまで逆方向に進んでいた事を聞いてみると「そんな事聞くなんて野暮よ?」とウィンクしながら言われた。

陸奥にしてもそうだけど美人のウィンクって凄く様になるんだよなぁ。羨ましい。

まあ、それとは別に道を間違えてた理由をおじさんに教えて欲しい。おじさん若い女性の考えとかわからんちんのよ……こういう時に勉強させてほしい。

 

 食堂に着いて色んな駆逐艦に絡まれつつも戦艦達が待っている一角にたどり着いた。

んだけど、何人か居ないな。まあ、情けない話だけど全員出席ってなっても全員と話す時間を作れるかって言われたら多分無理だったろうしこれはこれでありがたい状況かな。情けないけど……うん。

 

 

「やっと来たか相棒」

 

「すまん。明石と話してたら意外と時間がかかっちゃってさ」

 

「まあ、私と相棒の仲だ。許してやろう。さ、私の膝の上に来い。大和もお前と話したがっているしな」

 

「ちょっと待つネー! それは絶対ダメ! 提督は私の横!」

 

「えーお姉さんも横に提督が来て欲しいなぁ」

 

「mon amiral. あなた分かってるでしょ?」

 

 

 武蔵酔ってようが酔ってまいがそれ言うのか。あ、大和に頭はたかれてた。

金剛は昨日から待たせてるけど、昨日結構話したから後回しかな。むしろ、比叡達と交流した方がいいんじゃないかと思うわ。

で、陸奥。陸奥は正直明石からの情報もあってあまり近くに居ると余計な事口走りそうだから後だな。

 

 つまり、自分の席の横をカツカツと人差し指で叩いてアピールしているリシュリューか無言でほほ笑んでいる女王陛下かな……

アイオワは「私はまた今度アメリカ組で食事するときでいいわよ」と言って身を引いてくれているから助かる。

さて……どーする。どーするの俺! なんて考えてもカードが出てくるわけでもジョージボイスで選べと脳内選択肢が出てくるわけでもナッシングなので……

 

 

 

「それで? なんでリシュリューの所に来たのかしら? 勿論リシュリューを選んだ理由があるのよね?」

 

「そんなの決まってるだろ。リシュリューと話がしたかったからさ」

 

「声、震えてるわよ。ま、いいわ。理由はどうあれ最初にリシュリューの所に来たことを評価してあげます」

 

「それは……ありがとう」

 

「えぇ、次からはしっかりとした口説き文句を考えてきてちょうだい。それじゃ、リシュリューがあなたのために作った料理を持ってくるから少し待っていて」

 

 

 あなたのためにって部分を強調してリシュリューが席を立った。

そしてリシュリューが居なくなった途端に今まで以上に突き刺さる視線。ちらりと右を見れば金剛。左を見れば女王陛下。

金剛はわかりやすく頬を膨らませてこちらを睨んでいる分まだましだけど、ウォースパイトはじーっとこっちを見てくるだけというちょっと怖い状況。

金剛に関しては見て見ぬふりをした方が可愛い表情が見れそうだけど、ウォースパイトはなんかダメな気がする。

 

 

「次はウォースパイトのとこ行くからちょっとそれ以上見つめるのはやめて……」

 

「えぇ、お待ちしていますね」

 

「ノゥ! 絶対にノゥ! 提督が次に来るべきは私の所デース!」

 

「順番な順番。なるべく交流が少ない順に回るから」

 

「うぅ……わかりました。早めにお願いしますネ……」

 

「待たせたわ」

 

「お帰り。それ、パイか?」

 

「まあ、そうね。キッシュっていうフランス料理よ」

 

 

 リシュリューはそう言いながらテーブルにキッシュを置いて切り分けていく。

取り皿は持ってこなかったみたいだからテーブルの上にあった別の料理用の取り皿を渡そうとしたんだけど、「いらないわ」と言って一口サイズまでカットしたキッシュを「あーん」とこちらに差し出してくる。

呆気に取られていると「早く口開けなさい」と怒られたので口を開けてキッシュを受け入れる。

パイっぽいような茶碗蒸しの様な……とりあえず卵とチーズが強くて後からくる肉と野菜の味もいいしパイ生地のサクサク感も嫌いじゃないわ。

 

 

「どう? 美味しいかしら?」

 

「初めて食べたけど結構美味しいな」

 

「当然よね。このリシュリューが作ったんだもの。じゃ、はい。あーん」

 

「待て待って。一口目はまあいいとしても二口目からはね。自分で食べるから」

 

「何? リシュリューにあーんしてもらうの嫌なの?」

 

「そういうわけじゃないんだけどね?」

 

「じゃあ、いいじゃない。あーん」

 

 

 口の中にキッシュが入ってきた瞬間に横の方でバキリと何かが折れる音が聞こえてきた。

分かってる。見なくてもなんとなくわかるぞ。多分、誰かが箸折ったんじゃないか?

確認してみるかと振り返ろうとしたらリシュリューに止められた。口では何も言わないけど目が「私を見なさい」と物語っている。

リシュリューの目力半端じゃないんだけど。やっぱこう外国人って日本人とは違う怖さを感じる。

 

 と思ってたらリシュリューの視線が俺の後ろに向いて何事かと思ったら俺の背中に大きいマシュマロがぶつかってきた。

それは俺の胴に手を回してしっかりと抱きしめて右肩に顎を乗せてぎゅむっと力を入れ始めた。

 

 

「ちょっと、今はリシュリューの番なんですけど?」

 

「いやなに。相棒が美味そうに食べてるそれが食べたくてな。私にも一口くれないか?」

 

「ダメよ。これはリシュリューがamiralのために作った物なの。他の誰にもあげないわ」

 

「ふむ……そうか。大和のやつもこれは作れないと言っていたしどうしたものか」

 

「今日のは無理だけど、次は他のみんなに振舞う用の物も用意するからそれまで我慢してちょうだい」

 

「そうか。まあ、それなら我慢するか。よし、邪魔したな。ほら、いくぞ相棒」

 

「何しれっとamiral連れて行こうとしてるのよ!」

 

「いや、もう充分楽しんだだろ?」

 

「まだ、これ残ってるでしょ? 全部食べさせるまではリシュリューの時間よ!」

 

「相棒は艦娘じゃないんだからそんなに食べたら他の食べ物が食べられなくなるだろ。それと、そろそろ相棒を抱きしめたいと思っていたんだ」

 

「本音駄々洩れじゃない……というか、日本人って順番待ちはしっかりするんじゃなかったの? amiralが次はウォースパイトの所に行くって言ってたわよ。というか、さっきからamiral何もしゃべらないけど大丈夫なの?」

 

「ん、おっとしまった。締めすぎたな。相棒大丈夫か?」

 

 

 明石博士……俺の強度しっかりと上がってたよ……

完全に武蔵の締め技入ってたけど生きてる……このゴリラをも超える……超える……ゴリラより強い生き物ってなんだろ。熊? 象……つまりは地上最強の生物か。神イントロ流れそう。あの曲結構好きよ。

 

 

「武蔵。次はもう少し弱めで頼む。耐久は上がってるけど力は上がってないからな」

 

「あぁ、すまなかった。次はもう少し優しく抱きしめよう。ほら、来るんだ相棒」

 

「あなた懲りないわね……まだリシュリューの番だって言ってるでしょ? あなたはまだ先よ。待っていなさい」

 

「武蔵。後で行ってやるからもうちょい待っててくれ。ほら、今の一連のやり取りを見ていた大和が恥ずかしさのあまり顔を覆ってるぞ。あっちに行ってやれって、な?」

 

「……しょうがないな。待っててやるからちゃんとくるんだぞ」

 

「なんでそんなにも上から目線が出来るのかしら……」

 

「武蔵的には上からじゃなくて対等な立場からの軽口ぐらいの気持ちなんだろうな」

 

「そう……ほら、あの女王様もチラチラとこっちを気にしだしたし残りも食べてしまいましょ?」

 

 

 そう言った割に別段急いで食べさせてくるといった事はしてこないリシュリュー。

なるべくゆっくりと噛みしめる様に俺に餌付けを施していく。

何故かと問えば俺が喉を詰まらせたらいけないからと言ってはいるけど、どう考えても周りに見せつける様にやってるのは流石の俺でもわかった。

 

 

「はい。これで最後よ」

 

「……美味しかったよ。ご馳走様」

 

「そう。よかったわ。所で、少しはお腹膨れたかしら?」

 

「むしろちょっときついぐらいだわ」

 

「そうよね。あなたそこまで食べる人じゃないものね」

 

「分かってて何故」

 

「これだけ苦しそうにしているあなたにこれ以上食べさせようとする鬼畜な艦娘なんていないでしょ? つまり今夜あなたにあーんする事が出来たのはこのリシュリューだけという事よ」

 

 

 それだけのために……と言ったら多分自慢げに胸を張っているリシュリューは怒るだろうから言わないでおこう。

まあ、自慢げにドヤってるリシュリューも美人。美人は絵になるなぁ。

視界の端でポ〇子みたいに目が血走ってる金剛もある意味絵になっててウケるんですけど。

ちなみに反対側のウォースパイトは優雅にアークロイヤルに何かを指示してる。てか、今アークのやつ指パッチンで現れた? 俺もやったら現れてくれるんだろうか。いや、川内とか出てきそうだな。

 

 それから最後にとリシュリューはハグしてきて頬をくっつけてきた。

フランス人的にはよくある別れの挨拶らしい。やっぱ外国ってすげぇよ……



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18話

 席を移動してウォースパイトの所へ。彼女の左横に座る。というかアークにこうグイッと座らされた。

どうやらウォースパイトは掘り炬燵が得意なタイプではないらしく普通のダイニングテーブルの方へアークの手で案内された。

このダイニングテーブルはおしゃれなカフェとか居酒屋にありそうなソファに座るタイプね。

これ、酒入るとめがっさ眠くなるよね。しかも、大体の場所が暗めの照明だから余計やばい。

ほら、あそこ見てみろよ。隼鷹が腹出してて、ポーラなんて全裸で寝てるぜ。ここは明るいけど酒が入ってソファがあればああなるよな。わかるわかる。

 

 

「アーク……悪いんだけど」

 

「分かっている。既にザラは呼んだ」

 

「流石アーク」

 

「このぐらいどうという事はないさ。では、ウォースパイト。頼まれていたものはここに置いてあるからな」

 

「えぇ、ありがとう」

 

 

 アークは俺とウォースパイトに向かって気にするなと右手を軽く振ってさっき俺が頼んだ飲んだくれ達の対処に向かってくれた。

自然体なのは大いに評価するけど痴態を晒してもいいとは言ってない。節度を持って自然体。

行き過ぎるようなら大淀にでも頼んで秩序を守ってもらわないといけなくなるからね。

 

 

「Admiral. 紅茶を飲んだことは?」

 

「紅茶……自販機とかコンビニで売ってるような物しか飲んだ事はないな。ウォースパイトとか金剛が飲んでるような本格的なやつはさっぱりって感じ」

 

「なるほど。私が着任してから一度も飲んでいる所を見たことなかったから好きじゃないのかなと思ってたわ」

 

「そういうわけじゃないんだけど……俺的には紅茶って飯時に飲むものじゃないって認識があるから麦茶とか緑茶ばっかり飲むんだよね」

 

「コーヒーも同じ理由?」

 

「コーヒーは……苦くて飲めないんだ……コーヒー牛乳でも苦い……」

 

「まあ……それはとても良い事ですね。コーヒーは泥水です。飲めないことに何も悪い事なんてありません」

 

「ウォースパイト?」

 

 

 あれ……ウォースパイトって確か朝の時報とかでコーヒー勧めてこなかったっけ?

それがなんでどこぞの少佐みたいな事言い出してんだ……まあ、こっちに来ての影響だろうな。

鼻歌を歌いながらアークの用意していったティーセットを準備し始めるウォースパイト。

これで紅茶まで嫌いだとか言いだしてたら事だったけどそういう事はなさそうだし別にいいかな。俺もコーヒー飲めないから人の事言えんしね。

 

 準備をしているウォースパイトをボケッと眺めていると不意に俺の左側が沈んだ。

顔を向けてみると笑顔がとても眩しい金剛がぴったりと密着した状態で座っていた。

……ふぅ。これはあれだな。先にお茶会に招待していた身としてはこの状況に何か言いたいことがあるのかもしれない。

 

 

「はーい、ていとくぅ」

 

「はーい、金剛」

 

「ていとくぅ。私以外とお茶会するんですカ? 私のお茶会には一向に来てくれないのに? 私以外とお茶会するんですカ? ていとくぅ?」

 

「それに関しては大変申し訳ないと思っている……」

 

「んっ!」

 

「な、なに?」

 

「んー!」

 

 

 金剛が両手を広げて百羅出しそうな声を上げ始めた。

いや、まあ、これみてわからない俺じゃない。昔妹もこんな感じで駄々こねてる所を何度も見たからね。

私は傷付きました! 慰めるためには抱きしめるしかありません! みたいなノリだろう。

というか、まさにそれが答えですと言わんばかりに後ろで待機していた比叡、榛名、霧島がうちわを取り出して振り出した。

 

比叡のうちわには『司令!』『お姉さまは傷付きました!』

榛名のうちわには『提督が』『抱きしめて!』

霧島のうちわには『慰めて』『あげてください!』

なんかアイドルのファンが持ってそうなキラキラした文字入りうちわだな、おい。

あと、比叡のうちわ文字数多すぎてなんて書いてあるか読みにくいんだけど……

それとちょいちょい榛名が『提督が』のうちわを裏返しにするんだけど? 『私も!』って、大丈夫? バレて怒られない?

 

 

「あぁん! もう、待ちきれまセーン!」

 

「んごぉ……」

 

「提督大好きデース!」

 

「そ、そではありがどう」

 

「はい、Admiral. アークの入れた美味しいお茶を使って作ったウォースパイト特製ミルクティーです。金剛達の分もあるから三人も席に着いて」

 

「おぉ! センキュー! ほら、三人も席に着くデース!」

 

「わーい! ありがとうございます! ウォースパイトさん!」

 

「榛名が焼いたスコーンもお出ししますね!」

 

「うぅ……ウォースパイトさんの紅茶……しかし、霧島は逃げません! 司令! 見ててください!」

 

 

 見ててくださいって何を? 変身? 紅茶キメて変身するのは斬新な設定だと思うので是非とも見てみたい。

でも、もう改二だし改三になるの? つまりビスマルクみたいに雷撃戦が出来る様になるのかな? 最強じゃん。

見てろと言われたから見てるけど霧島は一向に変身する様子がない。まあ、そうだよね。

手に持った紅茶をちびちび飲んでる様子が可愛いだけでした。

 

 しっかし、ちびちび飲むという事はこの紅茶熱いんだろうか。

なんか昔どっかでイギリスではホットしか紅茶を飲まない云々って言ってたような気がしなくもないような。

猫舌の俺に何たる試練。そう思って恐る恐るカップを持ってみたけど全然熱くないし何なら冷たい。

アイスじゃん。これホットじゃなくてアイスじゃんか。

じゃあ、なんで霧島はあんなになってんだ……

 

 

「霧島のだけホットを入れたのか?」

 

「えっ? みんな一緒の物よ? どうしてそう思ったの?」

 

「だってあんなにちびちび飲んでるし」

 

「あぁ! あれは違うわ。ふふっそれ、飲んでみたら答えわかるかもしれませんね?」

 

 

 そう言われて、ウォースパイト特製ミルクティーを飲んでみた。

甘い。口に入れた瞬間は紅茶の匂いがぶわっと広がるんだけどその後に暴力的なまでの甘さが紅茶を蹂躙していく。甘い。

俺も結構甘党だと思ってた。実際、家族とか友達にもそういう認識だった。

しかしながらそんな自他共に認める甘党の俺が敗北D判定を喰らう一品。やばたにえん……

 

 

「甘い……これ紅茶って言うか、言うか……なんだこれ」

 

「まあ! これはれっきとした紅茶よ、Admiral.」

 

「ウォースパイトはかなりの甘党だからネー。甘いのが苦手な霧島には拷問レベルのミルクティーには違いないネ」

 

「提督も榛名の作ったスコーン食べてくださいね? こっちが甘さ控えめのビターチョコでこっちがちょこっとすっぱいレモン味です」

 

「司令! 一応、霧島用のピリ辛スコーンなんかも用意してますんで欲しかったら言ってくださいね!」

 

「あっまい……」

 

「霧島も無理すんなよ?」

 

「はい。そこは分かっています。脳の働きを助ける程度いただいたら残りは榛名にあげることにします」

 

「ほー。榛名はこれ普通に飲めるんだ」

 

「榛名もなかなかの甘党だからネ。前はこれをゴクゴク飲んでたヨ! でも、そのせいでネ……」

 

「あれは悲しい事件でした……」

 

「は、榛名は大丈夫です。以前の様な失態は犯しません!」

 

「でも、あの榛名も可愛かったわ。コロコロとしてて愛嬌にも磨きがかかっていたもの」

 

 

 コロコロとしてて……あぁ、明石が言ってたのって榛名だったのか。

正直、初雪とかそういうゴロゴロぐーたら組の誰かかと思ってたけどこれは予想外ですよ。

 

 

「そ、そこまでコロコロはしてませんでした! こう、かろうじてぽよっとぐらいです!」

 

「ぽよっと榛名か」

 

「て、提督! いけません! いけませんよ! 想像したらダメです!」

 

「へーい。提督ぅ。ここに証拠写真があるけど見る?」

 

「だ、だだだダメです!」

 

「でも、ウォースパイトの言う通りこの榛名もベリーベリーキュートネ」

 

「あー確かにあの榛名は結構可愛かったかも。お菓子あげると目がすんごいキラキラしててついつい甘やかしたくなるというか……多分、私もあの時が一番お菓子作ってたと思うな―」

 

「ほら、Admiral. これよこれ。結構可愛いわよね?」

 

「あ、ダメですよ!」

 

 

 ほー……これはこれは……まあ、確かに普段見慣れてる榛名よりは少し丸いかな。

けど、このぐらいなら十分許容範囲内だと思う。

というか普段の榛名が理想の体型過ぎるだけでこのぐらいは一般女性の普通体型なのではと思ってしまう。

 

 

「んーまあ、これぐらいなら普通なんじゃ? あんまり体型について話したかないけど、君らは基本的に究極的理想体型みたいな存在だし多少太っても誤差な気がしなくもないかなって」

 

「て、提督的にはこの榛名はどうなんですか? た、例えば榛名がこのぐらい太ってたらやだなーとか逆にこのぐらい太ってた方がいいなとか思いました?」

 

「いや、うーん……んー……そうだなぁ。どっちも榛名って事には変わりないし太ってても痩せてても俺は気にしないかな」

 

「提督……!」

 

「というか、同じような食生活をしていたであろうウォースパイトはこうならんかったの?」

 

「私の場合は……アークが毎日メジャー持ってここが昨日より何ミリ太いから絞るようにって細かく言ってきてくれたから大事にはならなかったわ」

 

「それは……凄いな。アークも凄いけど指示されただけでそこを絞るみたいな事出来るウォースパイトも凄いわ」

 

「んー私達って余分なエネルギーを燃料とか弾薬に変換出来るから意外と楽よ」

 

「ホント全世界のダイエッターが泣くような体してるよな……」

 

「全ては提督の為ネ! 提督がこんな体型がいい。あんな体型がいいって言ってくれたらすぐに合わせられマース!」

 

「司令の反応を見るにあの榛名ぐらいの体型はなんの問題もないみたいですね。この霧島がしっかりと分析してお姉さまを司令の好みど真ん中にしてみせます!」

 

「わ、私はそんなにお手伝いできませんけどお料理とお菓子ぐらいなら作ってお手伝いできます! 任せてくださいお姉さま!」

 

 

 何勘違いしてやがる。もう既に好みど真ん中だからどこも変える必要ないんだよなぁ。

二次元の女の子なんて基本的に絵師の方々が考えた至高の存在だからな。好みじゃないわけがない。

というか、生まれてこの方一度たりともモテた事がない俺だぞ。正直な話、想いをストレートに伝えられたらどんな女の子でも好みのど真ん中になりそう。

 

 

「……それよりさっきからちょいちょい不思議なセリフが聞こえてきたような気がしたんだけど? 比叡って料理あれじゃないの?」

 

「比叡は私達姉妹の中で一番の料理上手ネー!」

 

「比叡お姉さまは、何度も御召艦に選ばれたことがある艦ですからお料理もお作法も完璧なんです!」

 

「たまに主計科の皆さんのお手伝いをしているらしいんですけど、手際が良いって毎回褒められてますね」

 

「アークと紅茶の入れ方について話しているのをよく見るんだけど凄く詳しくてびっくりしたわ」

 

「あ、あははーなんか照れちゃいますね」

 

「おぉー! てっきりアニメみたいな感じだと思ってたけど、皆がべた褒めするレベルか。比叡も凄いもんだな」

 

 

 これとこれ、それからこれも比叡お姉様が作りましたと勧められたお菓子を食べてみたけど、マズいなんて感想は嘘でも言えないレベルで美味しかった。

お菓子作りは普通の料理より難しいってどこかで聞いたことがある。確か分量がめんどくさいんだよな。

つまり? 元気っ子で料理上手で作法も完璧で美人で戦艦……嫁力の塊な気がしてきたんだけど? 比叡最強かよ……

 

 それと思ったんだけどさ。あの厨房にいる俺を太らせ隊に料理教わるよりも比叡に教えてもらった方がいいんじゃないかなって。多分、比叡は俺を太らせたいとか思ってないしね。

 

 ちょっと想像してみたんだけどさ。

間宮さんと鳳翔さんと比叡。どの声で料理教室開いてもらっても幸せだよね。

オタクとは業が深い生き物だからね。好きな声優が多ければ多いほどどれにするか、どれにしようかと悩んでしまう……選べる立場にあるだけいいと思えよお前とか言われそう。

 

 

「ちなみに比叡以外の料理の腕とかはどうなん? なんか他の子達も割と料理習ってるって聞いたんだけど」

 

「愛情なら誰にも負けませン!」

 

「データは完璧です!」

 

「うふふ」

 

「まあ、詳しくは知らないけどイギリスだもんな」

 

「は、榛名はお菓子なら作れます!」

 

 

 

 なるほど。なるほどな。なるほどね。

申し訳ないけど霧島は割と最初から料理できないと決めつけてしまっていたんだ。本当にすまない。

金剛は出来ないのか……お姉ちゃんパワーで割と何でもこなせマースとか言ってくると思ったんだけど……まあ、そういう事もあるか。

ウォースパイトはほほ笑んでごまかしてるけどどうなんだこれ。こうやってごまかすのって大体できないパターンだよな。まあ、アニメとか漫画の話だけど……

 

 んで、榛名。

周りがごまかしてる中で唯一料理じゃないけどお菓子作れますアッピル。右手をぴっしりと挙げた姿勢が可愛いです。

まあ、よく食べる人は料理も好きって言うしな。よく食べる分よく作る。うんうん。

って言いたいんだけど、今俺の周りに座ってるのは全員戦艦。全員よく食うじゃん。ダメじゃん。

 

 

「Admiral. 勘違いしてそうですけど、私は料理できますよ? ローストビーフ得意なんです」

 

「ローストビーフってイギリス料理だったの?」

 

「そうですよ? イギリス料理はあれもまずいこれもまずいって色々言われてますけど、ローストビーフ美味しいでしょ? またの機会に作って食べさせてあげますね?」

 

「楽しみにしておくわ。そうか。ローストビーフってイギリス料理だったのか。てっきり食べれる物は芋だけだと思ってたわ」

 

「イギリス料理は良くも悪くも素材の味を活かす料理だったりやりすぎだったりが多いからネー。日本人からしてみたら凄い料理のオンパレードかも」

 

「だけど、私達からしたら日本人の貴方たちの方がおかしかったりするけどね。納豆……いまだによくわからないわ。川内がよく食べてるけどネバネバするし臭いし……」

 

「あー外国の人は納豆だめってのはよく聞くなぁ。後はなんかあるのか?」

 

「そうね。生魚とか生卵とか生で食べる料理もちょっとダメね。あと、食べてびっくりしたのがわさび。刺身の横にあったのを一気に口に入れたら凄く辛くて吐き出しそうになったわ……」

 

「生魚はわからなくはない。生臭いもんな。俺もあんまり好きじゃないや」

 

「わさびの時はびっくりしましたね。榛名達がちょっとよそ見したらわさびがごそっと消えててウォースパイトさんが悶えてました」

 

「よく吐かなかったな。俺だったら吐き出して母親に怒られてはたかれるまでが一連の流れだわ」

 

「吐き出すのは淑女として流石にね……でも、つらかったわ。わさびはあれから見るたびにちょっと体がこわばってしまうわ」

 

 

 わさびを食べて悶えてるウォースパイトってちょっと見たくない? てか、超見たい。

それと聞いてて思ったんだけど、この子らもしかして内側へのダメージは通すのだろうか。

外側は戦車砲喰らっても無傷だって話だったのにわさびでもだえ苦しむってのは状況によってはマズいのでは?

どこぞの神殺しみたいって事だもんね。辛いってのは味覚じゃなくて痛覚だしな。

まあ、俺より頭いい子達が沢山居てそこに気が付いてないわけないし対策をしてないはずもないよな。

 

 

「てか、戦車とかの攻撃は喰らわなかったって話なのにわさびの辛さはダメージ入るのな」

 

「ダメージにならないダメージは無効化する必要がないからネー。仮に毒を盛られたとしても私たちには効かないヨ」

 

「この前、フグを捌くの失敗して卵巣を思いっきり食べちゃったんですけどなんかピリッとするなってぐらいでした!」

 

「あぁ……なら艦娘には毒も効かないんだろうな……フグの毒でピリッか……って、艦娘はそれで済むかもしれないけど俺は? 俺がフグの毒なんて食ったらもちろん死ぬよね?」

 

「死ぬことはないと思いますけど、たぶん私たちよりちょっと息苦しいなみたいな状態になるかもしれないですね……でも、そうならないようにしっかりと毒見とかもしてますから大丈夫です!」

 

「頼むぞ……ホントに……」

 

 

 死なないけど苦しいとか聞いただけでも嫌なんですけど? 風邪ですら辛くてつらいのに……

しかし、そうか……毒効かないのか。ますます無敵だな。こんなん相手にするとか絶望以外のなにものでもないのでは?

ホント頼むからこの子達が怒り狂うみたいな状況にならないことを切に願うわっわわわわわ。

 

 

「あーいーぼー!」

 

「お前、ホントお前!!」

 

「なんだ、相棒。ちょっと抱き上げただけじゃないか。それにもうそれ飲み終わったんだろ? じゃあ、そろそろこっちに来い、な?」

 

「酔ってる?」

 

「酔ってない」

 

「酔ってる?」

 

「ん~若干? 普段より子供っぽさが増してるからいい気分かちょっと眠くなってきたぐらいの感じかナ~」

 

「はい。霧島のデータでもそのぐらいと出ています。流石はお姉さまです!」

 

「じゃあ、今日はこのぐらいにしておきましょうか。今度はもうすこし時間を気にしなくてもいいお茶会をしましょ? 今度招待状を送るわね。その時は私の特製ミルクティーだけじゃなくてアークの入れたお茶もお出しするわ」

 

「ありがとう。楽しみにしておくよ」

 

「その時は私達も呼んでくれるよネ?」

 

「えぇ、勿論。お茶会は沢山居た方がいいもの」

 

「よし。じゃあ、相棒は持っていくからな」

 

 

 次の予定が決まったと同時に歩き出す武蔵。この子ホント……

てか、俺素面の武蔵に会った事ないんじゃない? 大丈夫なのか艦隊最高戦力……

イベントではこの子なしには居られないのに……というかむしろイベントでしか使わないから何でもない時は飲んだくれて……と思ったけど、この子下戸だったな。

 

まあ、ゆうて武蔵とはまだ夕飯時しか会ってないからな。

そう考えるとやっぱり俺はまだまだこの子達と全然交流できてないんだなと痛感したね。

これからはもう少し昼間も鎮守府内を歩き回るか執務室の解放で交流を深めていければなと思う次第。

 

 うん。とりま、今は目の前に広がる惨劇の対処からかなと思う。

中身の入っていない大ジョッキを天高く掲げる大和と大ジョッキを半ばまで飲んでテーブルに突っ伏したアイオワ。

武蔵がこうなってる理由って絶対これでしょ……



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19話

「長門。説明をくれ」

 

「あぁ、提督。提督は初めて見たから驚いているかもしれないが別にこれ自体は珍しい光景じゃないんだ。アイオワが喧嘩を売って大和か武蔵が買う。殴り合いの喧嘩をするわけにはいかないから大体大食いとか飲み比べとなどだな。アイオワとしては日本最強に勝ちたいらしい」

 

「へー……で、今日は大和の勝ちみたいだけど普段は? 勝敗とかはどんなもんなん?」

 

「勝ったり負けたりのシーソーゲームらしい。まあ、勝ち負けの回数より勝って嬉しい負けて悔しいが重要らしい」

 

「そいつはまた仲がいいんだな。いい事じゃん」

 

「でも、これ要は提督がなかなかこの三人を出撃させないから色々とくすぶってるってのもあるのよ?」

 

「いやーんーしかしなぁ……この三人を出撃させると目に見えて資材が減るからイベント海域限定……それも最終海域で出すかどうか悩むレベルだからなぁ」

 

「提督。それについて提案があります。武蔵。提督をここに。大和の隣に」

 

 

 持っていたジョッキをテーブルに置いてから右手でポスポスと自分の横を叩く大和。

それに応えるように武蔵は俺を抱きかかえたまま移動して座り、さも当然と俺を膝の上に乗せた。

 

 

「なぁ、武蔵」

 

「ダメだ。私はこうしたい。それに相棒もこの武蔵の体を堪能できるんだからいいじゃないか。それよりほら、大和が膨れてるぞ」

 

「提督。まずは話を。その後、大和もそれやります」

 

「じゃあじゃあ、お姉さんはその次ね?」

 

「陸奥。よさないか。武蔵もあまり提督を困らせるものではないぞ」

 

「長門は堅いのよ。もっと柔らかくいきましょ? 提督だってまんざらじゃないわよ。ね?」

 

「俺としては恥ずかしいからやめてもらいたいんだけど?」

 

「ふっ嫌よ嫌よも好きの内って事だな相棒。愛い奴愛い奴」

 

「照れなくてもいーのよ? あ、それともお姉さんに抱きしめられるよりもお姉さんを抱きしめたい? 私はどっちでも大丈夫よ?」

 

「提督! お話ししましょう!」

 

 

 俺をがっちり抱き込んで離さない武蔵にむーむー言いながら袖を引っ張る大和。

うちの最大戦力がこうも幼児化しているというこの状況……正直ちょっと悪くないかなって。

悪くはないけど、武蔵の抱きしめはそこそこ痛いし、でかい武蔵に成人男性の俺が乗ってるもんだから太ももがテーブルに食い込んでこれまた痛い。

大和は純粋に袖が破けそうで怖いです。はい。

陸奥は可愛いよね。私色々分かってるし知ってます風ってのがいい。最高。

 

 

「長門……お前なんでこんなになるまでほっておいたんだ……」

 

「すまない提督。私もどこか気が緩み過ぎていたかもしれない……今後は艦隊全体の引き締めを図っていく。任せてくれ。戦艦長門の名に懸けて必ずや任務を遂行してみせる」

 

「まあ、程々にな? 何も禁酒しろとかそういうレベルじゃなくて程々にたしなむ程度に抑えるようにって話ね。酒が飲めないってなったら何するかわからん連中もいるしな。程々、程々に」

 

「了解だ、提督。この長門必ずややり遂げてみせる!」

 

「任せたぞ。あと、気になったんだけど長門は酒飲んでないのか? それとも飲めない?」

 

「ん? 飲んでるぞ。しかし、いざという時になったら私が艦隊の指揮を執らねばいけないからな。酔いを適度に醒ましながら飲んでる。だから陸奥達みたいに悪酔いしていないだけさ」

 

「酔いを任意で治せるのか?」

 

「あぁ、直せる。簡単に言えばちょっと艦娘としての力を出すと酔いを醒ます事が出来るんだ。まあ、中にはそれをやっても酔いが醒めない例外も居るがな……」

 

「なるほどな……」

 

 

 アルコールも毒だって話だけど、フグの毒がノーダメージならアルコールぐらい素通りか。

しかも、即時回復可能って話だしよっぽど……よっぽどポーラ達みたいな醜態を晒すこともなさそうだな。

てか、え、なに? 今までのすんごいパワーは艦娘の力を欠片も使わずに発揮してたって事?

特に抱き着いてきてる武蔵と俺の手を自分の頭の上に乗せて動かなくった大和なんかも艦娘パワー0状態って事だろ? やっば。

 

 

「そういや、長門。今回来なかった子らは?」

 

「提督の呼びかけに全員参加させなかったのはすまないと思っている。今回不参加の者達はこれだけ人数が居ると自分たちの時間が短くなるから今回は不参加。後日自分たちから誘うから待っていて欲しい、と伝言を預かっている。一番最初に提督がここに来た時に伝えられなくてすまなかった」

 

「あの時は、リシュリューとウォースパイトから強めのお誘いがあったからな。しょうがないさ。で、不参加組は後日だな。わかった。狭霧に伝えて予定を空けておくよ」

 

「あぁ、すまないがよろしく頼む」

 

「うん。正直、俺も全員揃ってなくてよかったと思ってしまっていた所だからな……戦艦組全員を一挙に相手するなんてのは今の俺には出来ないからな。こっちこそ申し訳なく思うよ」

 

「まあ、しょうがないんじゃない? いきなり全部の要望に応えてくれって方が無理な話よ。と言うか逆に全部の要望に応えてたら体壊しちゃうし……そりゃ、応えてくれたら応えてくれたで嬉しいけどその甲斐性どうやって身に着けた? って問いたださないといけなくなっちゃうわ。私達の提督はそんな甲斐性ないって分かってるつもりだし」

 

「陸奥」

 

「だって、そうでしょ? 四六時中画面の向こうの私達と一緒だった提督が生身の女の子と交流があったとか考えられないじゃない?」

 

「…………」

 

「長門? 黙らないで? そこ黙ったらダメでしょ? ほら、もしかしたらがあるかもしれないじゃん?」

 

「あるの?」

 

「…………」

 

「ほら、ないんじゃない」

 

 

 むっちゃん声弾ませながらそういう事言わないで……おいちゃん傷付いちゃうでしょ。

しかし、陸奥が言ってる事は事実なので甘んじてライフで受けてやろう。

というかね。本来であれば俺がこうやって武蔵に捕まってるのにもかかわらず冷静に受け答え出来てる事もなかなかにおかしな状況なのよさ。

だって、武蔵のおっぱいが常時体に押し付けられてる状態とか普通に考えてありえなくない? なんなら左手は大和の頭の上にある。

少なくとも数日前の俺だったら冷静ではいられない。たぶん、もぞもぞしてる。

 

 でも、今はそんなこともなく長門と会話が可能という異常事態。

まあ……どうせ俺が飲まされたあの超人細胞の効果だろうけどね。わかってる。良かれと思ってだよね?

下半身が一切反応しないように設定したとか言ってたし、性格というか俺の女性への苦手意識なんかも弄ってる可能性あるな。

 

 それでこの子達が嬉しいなら俺も嬉しいし多少弄られてても別にいいかな。

それに女の子って触ってるだけでも気持ちいいしな。役得しかない。むしろ、前のままの挙動不審野郎だったらキレられてる可能性あるレベルだし。

 

 

「提督はあれこれ考えなくてもいいわよ。それより私達があれこれ考えた方が提督もサプライズ感あっていいでしょ? ま、時間は十二分にあるわけだしゆっくりいきましょ?」

 

「それはそれで怖いんだけど……まあ、そうだな。甲斐性なしの俺が考えるより断然いい判断だな」

 

「なんだ相棒。甲斐性なしって言われてちょっといじけてるのか? おぉ、よしよし。この武蔵が慰めてやろう。どうだ私の胸はでかくて柔らかいだろ?」

 

「武蔵。はしたないぞ」

 

「武蔵! そういうのは大和がやります! 早く替わって!」

 

「あら、あなた起きてたの? てっきり飲み過ぎで寝ちゃったかと思ってた」

 

「起きてました。起きてましたけど、提督の手が思ったよりも気持ちよくてトリップしてました。さ、提督。今度は手だけじゃなくてその体を全て大和に預けてください。この大和! 居住性において戦艦の中でも一番だと自負しています! さぁ! さぁさぁ!」

 

「や・だ」

 

「武蔵! むーさーしぃー」

 

「大和型は酔うとどっちも子供っぽさが増し増しだな……大和、揺らさないで……」

 

「まあ、日本の戦艦の中じゃ一番若いのは間違ってないし、というか軍艦全体を見ても若い方ね。だから、まあ、お酒飲んで開放的になって子供っぽくなっちゃうってのも頷けるわ」

 

「普段、駆逐艦や海防艦の子達の面倒を見ている分提督には甘えたいんだろう」

 

「なるほどな……でも、武蔵のこれびくともしないんだけど? 俺をふんわりと抱きしめつつ絶対に俺じゃほどけない力を入れてやがる……」

 

「酔いながら器用な事をするものだな……」

 

 

 どうしたもんかと考えていると流石の武蔵もあまりの姉の必死さにため息を一つついて俺を大和の方へ差し出した。

うん。この際俺が物みたいに扱われていることに関しては目をつむろう。大したことじゃないしな。

大の男がひょいひょいと運ばれている光景。当事者じゃなくて外からその光景を見てみたかった。

 

 大和は俺を受け取るとすぐに後ろから抱きしめて首元に顔を埋めて呼吸をし始めた。

いや……流石に超絶恥ずかしいんだけど? これあれよ。妹の少女漫画でこういうシーンみたんだけどちょっとエッチだった。それを今俺がやられていると思うと……えっちじゃん。

 

 

「ちょっと武蔵の匂いが強いですけど悪くないですよ提督……すーはー……」

 

「そいつはどーも。逆に大和はやばいぐらい酒臭いぞ……本当に大丈夫なんだよな?」

 

「提督! 女性に酒臭いはどうかと思います!」

 

「あぁ、そのぐらいなら毒にはならない。その量でダメだったらポーラにしても隼鷹にしてももう轟沈している」

 

「なんだその説得力しかないワードは……平気ならいいんだ」

 

「相棒。まだ私の膝の上に戻ってきてくれないのか? 今まで相棒が乗っていた分何もなくなると違和感が凄いぞ」

 

「次はお姉さんの番だから武蔵の番は当分後よ。清霜呼んで来たら? 喜んで飛んでくるんじゃないの?」

 

「いや、それは清霜に申し訳ないだろ。提督の代わりに座ってくれっていうのは誠実さに欠ける」

 

「武蔵お前もう酔ってないのか? えらく真面目な事言いやがって」

 

「ひどいな相棒。このぐらいの事は酔ってても判断できるさ。まあ、実の所はちょっと炉に火を入れたんだ。さて、んー……しょうがないか。虚しさは食べて紛らわせよう。ほら、相棒。食べさせてくれ」

 

「そのぐらい自分でやりなさい武蔵。今は大和が提督を堪能してるんですから!」

 

「冗談だ大和。大和はからかうと面白くてな」

 

 

 くつくつと笑いながら武蔵は目の前にあった食事に手を付け始めた。

戦艦らしく豪快に食べていくのかと思ったんだけど、武蔵は想像よりも随分とおとなしい食事のとり方だった。

ジ〇リみたいに豪快に食べるんだろうなとか考えてすいませんでした。なんなら俺より綺麗に食べてて尊敬するレベル。

でも、食べる速度はえーわ。飲んでない? それとも咀嚼スピードが常人には見えない速度なんだろうか。

 

 

「相棒。そう見つめないでくれ。流石の私だって食事している所をそう凝視されると恥ずかしいのでな」

 

「それちゃんと噛んで食べてるか? 飲んでない?」

 

「……勿論噛んでるさ。なんだ。相棒は信じられないのか? しょうがないなぁ。口移しで食べさせてやろうじゃないか。どれが食べたい?」

 

「いや、噛んでるならいいんだ。ちょっと艦娘の食事の常識をアップデートしたかっただけなんだ」

 

「遠慮するな。からあげでいいか? ほら、こっちを向くんだ相棒」

 

「武蔵! だから、今は大和の番なの! そういうのは後でやって!」

 

「後でもダメだからな?」

 

「でも、瑞鳳とはやったんだろ?」

 

 

 その一言で空気が死にました。大和の抱きしめも一段階ぐらい強くなりました。

ふー……当然ながら俺にその記憶はない。瑞鳳とやったのはいつ俺が噴き出すかのチキンレースだったと思う。

あれぇ? と思って厨房の方を見ればちょうどよく瑞鳳と目があった。

どうやら超聴力で会話は聞こえていたらしい。デビルイヤーかな?

この距離でも聞こえるらしいからどういう事だと聞いてみれば、瑞鳳は少し悩んだのちに凄くいい笑顔と共に右手で横ピースをやって逃げた。

逃げたらだめだろ! 逃げたらよぉ! なんか認めてるみたいじゃん! 

 

 

「提督?」

 

「やってない。瑞鳳が俺に卵焼きを食べさせてきただけだ。それ以上もそれ以下もない。もしそれで口移し判定されたら今日のリシュリューだって口移しになるぞ」

 

「あら、口移しやってよかったの? そういうのはもっと早く言いなさい。次は口移しよ」

 

「藪蛇ね」

 

「……ごほん。とりあえず口移しはやってないし今後もしない。リシュリューもしないし武蔵もしない。いいな?」

 

「つまり、要教育というわけだな。わかった。この戦艦武蔵に任せておけ。口移しに対する抵抗感を感じなくなるまで教育してやる。なに、今すぐやるとは言わないさ。数年後とかに提督が油断し始めたらやる。是非忘れててくれよ」

 

「提督。それは五月雨ちゃんでも嫌なんですか?」

 

「五月雨?」

 

「えぇ、提督が唯一。そう唯一ケッコンカッコカリをしている五月雨ちゃんです」

 

 

 五月雨ちゃんか……カッコカリではあるけどケッコンしてるしありっちゃありなのでは?

まあ、五月雨ちゃんがそういう事をするって発想になるのかは甚だ疑問は残るわけだけども……

なんて、大和の問いにちょっとだけ考える。というか考えてしまった。

 

 

「提督。口移しなんてしないと即答せずに考えたという事はケッコンカッコカリさえすれば提督とそう言った事も可能になる可能性があるという事でいいんですね!」

 

 

 今度は空気が死んだというよりも全員がこちらに向かって聞き耳を立てているからこその静けさが食堂を包んだ。

まあ、一瞬ではあったんだけどね。いわゆる、幽霊が通ったみたいな感じ。

今は、もう完全に元通りの状態だけどわかったことがある。艦娘は全員デビルイヤーだわ……

 

 

「で、相棒。どうなんだ?」

 

「お姉さんも気になるな―」

 

「お前たちそこへんにしておけ。提督が困っている。ケッコンに関しては提督が決めることであって我々から強要すべきことではない」

 

「わかってます。なので大和、プレゼンをしようかと。大和がお嫁さんになったらこんな特典がありますよってアピールします。大和がお嫁さんになれば毎日美味しいお食事を用意いたしましょう!」

 

「大和の手料理が美味しくないとは言わないが、食事なら毎食主計課がとても美味しい料理を用意してくれるからアピールとしてはいまいちだな」

 

「秘書艦としてお仕事も完璧にお手伝いできます!」

 

「提督の今の仕事は我々艦娘との交流及びゲーム内任務の達成のみで手伝いはあまり必要ないな。それにいざとなれば大淀や香取、鹿島が手伝う手はずになっている」

 

「大和は体が大きいのでこうやって後ろから抱きしめて安心感を与える事が出来ます!」

 

「今もやっているからケッコンは関係ないな。それと提督は抱きしめられるよりも抱きしめたい派だ」

 

「いや、なんで長門知ってるのよ……」

 

「ふっ」

 

「で、では、ケッコンすれば燃費が良くなります! 通常海域でもバンバン敵を倒してみせますよ!」

 

「大和、残念ながらお前たち大和型はケッコンした所で消費量は断トツだ。とても通常海域で出撃させられるレベルではない」

 

「で、ではEO海域ならどうですか!」

 

「伊勢が改二になって5スロットな上に航空戦まで行えるようになってしまったからな……私も出撃する枠がないほどだ」

 

「うぅぅぅぅ……」

 

「というか、なんで提督じゃなくて長門が大和のプレゼンにダメ出ししてるのよ」

 

「提督はこういう事は苦手だからな」

 

「うぇえぇぇん! 長門さんが私は提督の事なんでも分かってるいい女アピールしてきますー!」

 

「大和……もうちょいゆるめて……」

 

 

 正直長門が応対してくれなかったら押し切られていた可能性が大。

目があった長門が任せておけと言わんばかりに微笑んできた。イケメンかよ……イケメン過ぎて惚れるわ……

矢矧もイケメンだっけど長門も長門でイケメン。俺、イケメンに弱すぎでは? 

 

 もし俺がイケメンに弱いってバレたら艦娘がもれなく全員イケメンになったりするんだろうか……

イケメン鎮守府ってありよりのありでは? 全員イケメン……いやだめだ勝てねぇ……

基本的に戦場で戦う彼女たちはどこかしらにイケメン要素があるからな。そこを増幅させた存在とかもはや無敵。

 

 

「ぐすん……それで、提督どうでしょうか……」

 

「あー…………その件についてはまた数年後とかに話し合おう」

 

「燃費……よくなります。回避と運も上がります……」

 

「いや、そういうところも分かってるんだけどね。でも、ケッコンだからなぁ」

 

「大和。諦めろ。今はまだ時期尚早だ、今は」

 

「いまは……」

 

「そう、今はだ」

 

「そういうやりとりはさ。俺がいないところでやらない?」

 

「相棒の目の前で今はまだ~なんてやりとりをすれば相棒は嫌でも意識するだろ?」

 

「何してくるんだろうって気になるな」

 

「そういう事だ。常に頭の片隅に私達が居る。最高だな」

 

「武蔵が思ってたよりも恋する乙女っぽい事を言い出して大和は少し驚きました」

 

「右に同じ」

 

「何を言う。どこからどう見ても恋する乙女だろ」

 

 

 最後に最高のキメ顔で締めた武蔵は恋する乙女っていうか少女漫画のヒーローみたいでした。

だから、やめろよイケメン。惚れてまうやろ! 

 

 というか、ケッコンの話されると思わなかったわ……

俺はなるべくなぁなぁで数年は過ごそうと思ってたらこれですよ。

そもそも、妻帯者がこうやって代わる代わる女性の相手をするのってのはどうかなって思って白露型椅子取りゲームの時に五月雨ちゃんに聞いちゃったもん。

 

 

 

「私は提督が好きです。そして、他の艦娘達も提督が好きです。私も皆も頭で考えれば踏みとどまれるとかいうレベルじゃないんです。だから、少し寂しいけど提督にはもっと他の艦娘の皆さんとも交流してもらいたいって思います。提督が私に遠慮して交流を最小限にするなんて事になったら凄い事になります。もう、凄いです」

 

「凄いのか……」

 

「はい。たぶん……いえ、絶対に。なので、ここは、ばばーんと提督による艦隊はーれむを築く他ありません! 私もこの艦隊の皆なら何も思う事はありません。だから、提督は気にせずイチャイチャしちゃってください!」

 

「そっか」

 

「はい! あ、でもでも、少しだけわがままいいですか?」

 

「勿論、なんでもいいぞ」

 

「えっと……やっぱり最初のお嫁さんなので私の事を少しだけ優遇してもらえたらなーって……ダメ、ですか?」

 

 

 

 あの時はもちのロンで二つ返事した。

あんなやりとりがあったからなるべく全員とコミュニケーションとれるように頑張るつもりだしお願いはなるべく聞いてあげるつもりでいる。

でも、ケッコンはな……五月雨ちゃんもそこはハッキリと明言してなかったしまだって事なんだろう。

この子達には申し訳ないけどもうちょっと五月雨ちゃんとイチャイチャするまで我慢してもらうしかないな。

 

 今だってこんなやりとりを五月雨ちゃんはちゃんと聞いてたりするはず。

確かあっちの方に……と目を向ければ五月雨ちゃんじゃなくて白露と目が合った。

なんか口パクと身振り手振りで言ってきてるけど何言ってんのか全くわからん。

俺が全く理解してないと気が付いたのか紙にせかせかと書き込んで小さく折ってから妖精さんに渡した。

 

 その妖精さんはその紙を服の下にしまい込んでから俺の方へ飛んできて上着のポケットの中に入っていった。

どういう事だと白露の方を見ればポケットを指さした後にウィンクとサムズアップをして五月雨ちゃんを引っ張って食堂から出て行ってしまった。

しょうがないからポケットから妖精さんと紙を取り出して読んでみる。

 

 

「なんですかそれ?」

 

「今、白露から貰ったんだけど……ッ」

 

「どうしました? なんて書いてあったんですか?」

 

「あー……奥さん居るのにデレデレし過ぎって……自覚してたけど結構ダメージが……」

 

「あー……うーん……」

 

 

 何か言おうと悩みながらも絶対に俺を離さない大和はいろいろ葛藤してるんだなってわかるんだけど、話を聞いてたはずの陸奥は「次私の番って忘れないでね?」と笑顔で言ってきてる。

分かってたけど陸奥は全員で共有してもなんの問題もない勢って事ね。

これもしこの艦隊に俺の事共有NGな子が居たらもうやばいのでは? よく創作界隈でヤンデレっぽく書かれてる子とかやばたにえんなのでは?

もしそういう子が居たら俺が話し合うしかないな。解体とかありえないしそれしかないよな。

 

 真面目に考えてる間にも大和から陸奥へと俺の席は移動していきそのまま1時間ぐらいいじくりまわされた。

ホントにこれが色々な事を勘違いしてる女性の行動なのでしょうか……それとも知らないが故の行いなのでしょうか……

そして、宴もたけなわ。食事会は解散となりいじり倒されて疲れ果てた俺は狭霧に手を引かれて部屋へと戻っていった。五月雨ちゃんが待ってる部屋へ。

 

 実は白露から渡された紙には大和に伝えたようにデレデレし過ぎと書いてあったけどその下に「今日は五月雨を提督の部屋に置いておくからよろしくね!」と……

提督として腹をくくります。ドアノブを掴んで心の中でよろしくおねがいしまぁぁぁぁすっ! と叫んで自室へと入室した。




部屋に入ってから朝起きるまでの出来事は消し飛び結果だけが残ります。


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20話

 五月雨ちゃんと毎晩一緒に過ごすことに慣れ始めた今日この頃。いや、嘘。慣れんわ、これ。ホントに慣れるの?

あの日、五月雨ちゃんと一緒に寝てから何日か経ったけどダメだわ。

お風呂上りの五月雨ちゃんってさ。めちゃくちゃいい匂いがするんだよね。おかしいよね。同じシャンプーに同じボディーソープ使ってるはずなんですけど、けど……

おかげで全く寝付けないもんでっから妖精さんに頼んで「めのまえがまっくらになった!」の状態にしてもらって寝てる。寝てる? 寝てる。気絶じゃない。

 

 最初は隣り合った別々の布団で寝てるんだけど時間が経つにつれて五月雨ちゃんが徐々に俺の布団に移動してきて最終的には一緒の布団の中。

朝起きた時とか俺の布団の中から、こう、すんごいいい匂いが溢れ出してくるというか……やばいですね☆って感じ。 

 

 んで、あとあれよ。当然というか五月雨ちゃんが初めて俺と会ったあの日の夜から希望してた混浴も押しに押されて済ませてしまった。

明石がこの前教えてくれたようにマネキンの様なつるっつるなお肌でした。あるべき所にあるべき物がなかったけどあれはあれで、エロい。エロい……

決して。決して俺はロリコンじゃない。これは誓って言えます。はい。

 

 あと、湯船につかないようにと髪を結った五月雨ちゃんの後ろ姿最高。

この画が毎日見れるとか俺の前世はどれだけ徳の高い生き物だったんだろうか……多分世界救ってるわ。

ただ、髪が長いというか長すぎるから髪の毛を折って折って折るぐらいしないといけないのがはたから見て大変そうだなって思います。

 

 さて、夜はそんな感じ。

朝、俺には艦娘達の総員起こしが聞こえないから割とぐっすり眠ってたりするんだけど、五月雨ちゃんはそうじゃない。

しっかりと総員起こしで起きて俺を起こさないように布団から出て行って朝の支度を済ませてから布団に再び潜り込んで添い寝してくる。

んで、ある程度満足出来たら「朝ですよー起きてください、提督」って俺を起こしてくれる。

 

 今まではコンプティークの付録でついてきた艦娘目覚ましボイスで起きてたのが今ではリアル艦娘の目覚ましボイスでございやす。

翔鶴と瑞鶴には申し訳ないが万人向けボイスより俺専用ボイスのがいいんです。

 

 

「幸せしかない……こんなに幸せでいいのだろうか……」

 

「えーなになに? 提督ってばそんなに白露お姉ちゃんと朝ごはん食べれて幸せなの? いやー照れちゃうな―!」

 

「右のほっぺたにお弁当ついてるよ白露。それに今の提督の発言は僕の事だよ。何せ僕は幸運艦だし。しょうがないなー頭撫でてもいいよ提督」

 

 

 五月雨ちゃんが朝起きて朝食を食堂まで取りに行って戻ってくる時に大体誰かしらついてくる。

今日は白露と時雨だったらしい。昨日はゴーヤとろーちゃんだったな。

「提督はもう少し潜水艦を使った方がいいでち」「ろーちゃんもそう思いますって!」と怒られながら朝食をとるはめになったけどあれはあれで楽しかったわ。

 

 

「いや、まあ、確かに二人と朝ごはん食べれるのも実に幸運なことなんだけどね」

 

「提督、ごはんよそいましょうか?」

 

「んにゃ、朝はあんまり食べられないからこのぐらいで大丈夫。ありがとね」

 

「もっと食べた方がいいよ、提督! 沢山食べないと元気が出ないからね! それに沢山食べた方が作ってくれた間宮さん達も喜ぶし!」

 

「しょうがないなー頭撫でてもいいよ提督」

 

「それは分かってるんだけど今まで朝食べるって習慣がなかったから胃が受け入れないんだよ。こればっかりは少しづつ改善していくしかないかなって」

 

「あのゼリーのやつね。あれは食べるってか飲むだもんね。ま、これからは五月雨が横でごはんたっぷりよそってくれるから嫌でも沢山食べれるようになるから安心して! あ、それとも白露がよそったげよか?」

 

「しょうがないなー頭撫でてもいいよ提督」

 

「はい! 任せてください! 提督のごはん沢山よそいますね!」

 

「あーそれじゃあ、頼んだぞ五月雨ちゃん。ただ、手加減はしてな? 初日みたいに漫画の様なご飯を用意されても食いきれん」

 

「あれは……あはは。鳳翔さんと間宮さんにいけるいけると言われるがままによそっちゃって……」

 

「あの二人は……」

 

「しょうがないなー頭撫でてもいいよ提督」

 

「てか、時雨がひどい壊れ方したレコードみたいになってんだけど」

 

「この前のあれで色々吹っ切れたみたいでさ。とりあえず撫でてあげれば直るから」

 

 

 白露に促されて時雨の頭をヨスヨスと撫でてみた。

するとどうだろうか。先ほどまで壊れたレコードのように同じことしか発していなかった時雨が「oh yeah」と喜び、それから数秒後に「あれ、僕はなにを……あ、提督は撫でるのやめないで」と正気に戻ってくれた。

 

 その後、朝食の後片付けを三人に任せて俺はデイリー消化。

三人と入れ違いで入ってきた狭霧には「今日も秘書艦としての仕事は特にないよ」とソファーに無理やり座らせてテレビを観てもらっている。

仕事ないしわざわざ執務室まで来なくてもいいと伝えてあるんだけど「少しでも提督のおそばに居たいんです」と懇願されて今の形に納まっている。

いや、だって、狭霧のあんな泣きそうな顔でお願いされたら誰だって勝てないでしょ。現に俺は勝てませんでした。

 

 てか、これ秘書艦代えますってなった場合どうなるの? 

今も色んな海域行くときにちょいちょい旗艦の変更してるけど変わらず狭霧が秘書艦ですって執務室に来るし……

もしかして、俺が口頭で人事異動の指示をしないといけないとか?

それは、また、なんというか……中間管理職の人たちの心労がわかる気がしてきた……

 

 

「なあ、狭霧」

 

「はい? なんですか提督。お仕事ですか? 狭霧にお任せください!」

 

「あ、いや、ちょっち聞きたいことがあってね。基本的に艦これの秘書艦ってのは第一艦隊旗艦じゃん? でも、今までもちょいちょい代えてたのに変わらず狭霧が秘書艦として執務室に来てくれてたからゲームとこっちでどういった違いがあるのかなって」

 

「そのことですね! それはですね、編成記録ってありますよね。それの1番に登録されている編成の旗艦が秘書艦とするってみんなと話し合って決めたんです。第一艦隊の旗艦だと先ほど提督がおっしゃられたように出撃する海域ごとに旗艦が変わって大変ですからね」

 

「なるほど……」

 

「だから、私の練度がもう少し高くなってきたら色んな子達が次は私がーって言いに来ると思いますよ」

 

「でも、多分時期的にイベント海域で出た子を旗艦にしてレベリングとかしだすから当分はそう言った要望も聞いてやれないな……イベントで入ってくる子ってのはワンオフが多いから。秋月型とかすごいもん」

 

「ワンオフで言うのであれば海防艦の子達は? 提督一向に育ててあげないようですけど……」

 

「占守と国後は育ててるから……いや、まあ、確かにこないだ海防艦の子らに捕まって育てろ育てろ私達も戦えるんだぞと儀式のように俺を囲んでぐるぐると回られたんだけども……」

 

「そこまでされても育ててあげないんですか?」

 

「だって、海防艦の子達ってびっくりするぐらい小さいじゃん? それに中破ボイスの悲鳴とかちょっとおじさんの心臓に悪いんだよね。小さい子に戦闘させるとかおじさん無理」

 

 

 海防艦ってマジで小さいのよ。大きい子で小学校の中学年ぐらい。小さい子になれば幼稚園児かな? ってレベル。

択捉型とかホント……もうマジで出撃させられない。

あの時は囲まれて儀式みたいなことされた時はどうにかこうにか食堂に連れ込んでアイス食わせて事なきを得たけど多分そう何度も通用しないだろうなーと。

海防艦……出撃させるとしたら1-5だろうか。あそこ潜水艦しか出てこないし先制対潜出来る練度だったら危なげなく勝てるだろうから可能性としてはあそこだけだな。

 

 

「確かに……海防艦の子達は小さいですね……。でも、あの子達も提督の為に頑張れると思いますしそこは信じてあげてください」

 

「そこは大丈夫。俺が信じてない艦娘なんて一人も居ないからな。みんなやればできる子。頼りにしてるよ」

 

「はい! 狭霧も頑張りますね!」

 

 

 そんな心温まる狭霧のイベントスチルは執務室をノックする音で中断された。

確か今日は……あぁ、あれの申請が通った事についてかな。あいつ俺がこの鎮守府に来てすぐに申請してきたからな。楽しみにしてたんだろうて……

狭霧がドアを開けて入ってきた薄い桃色の髪色をした重巡二人組。

 

 

「司令官! 青葉来ました!」

 

「やっほー!」

 

「おう。いらっしゃい。適当に座っちゃってくれ」

 

「狭霧はお茶を用意しますね」

 

「あ、お茶請けは衣笠さんが食堂で貰ってきたから大丈夫だよ。なんかみんなで白玉こねてたからちょっと貰ってきちゃった」

 

「あ、じゃあ、器に移して黒蜜かけましょうか」

 

「いいね!」

 

 

 白玉……確かにこないだ「白玉とか食べたいな」って海防艦とアイス食べてる時にぼそっとこぼしたけどまさか聞かれてたのか……?

まあ、ありうるか。艦娘イヤーは地獄耳だもんな。

 

 

「で、青葉今日は何用できたんだ? って、もしかしなくてもあれの申請が通った件か?」

 

「はい! それですそれ! というか、もう今日の積み荷に入ってたので司令官にもお見せしようかと!」

 

「うん。もう見えてるよ、それ。よかったな。艦これの青葉の代名詞みたいなもんだしな。うん、近い……」

 

「いやー青葉すっごく嬉しいです! 向こうではカメラ持ってるセリフ言ってたのにいざこっちに来たらカメラ持ってなかったんですもん! いやーあの時はびっくりしました」

 

「俺もびっくりしたよ。青葉がいきなりギャン泣きでガメ゙ラ゙って言ってくるから亀がどうしたのかと」

 

「あれは忘れてください……カメラが艤装じゃなかったのがいけないんです……あ、そうそうカメラもそうですけどあっちの方も登録して既に何枚か写真の投稿が済んでるんで司令官も見てみてください!」

 

 

 そう言って青葉は艦娘用の携帯を取り出して俺に写真投稿サイトを見せてきた。

初投稿が寝ぼけた衣笠が食事をしている所ってのはツッコミどころなのだろうか……

 

 

「これ、衣笠の許可取ってんのか?」

 

「はい! しっかりと衣笠の意識がハッキリしてから許可取りましたよ?」

 

「ホントかー? 衣笠ー」

 

「はいはーい? どったの提督」

 

「これ、青葉から聞いてるのか?」

 

「どれー? あーこれ? 大丈夫だよ聞いてる聞いてる! まあ、化粧もしてなきゃ髪もボサボサだけどこれも衣笠さんって事で!」

 

「まあ、本人がいいならいいか。疑って悪かったな青葉」

 

「んもー! お詫びに司令官の写真1枚撮りますね! 司令官の写真は投稿するなって自衛隊の人達に言われてますから安心してください! というか、司令官の写真は鎮守府内だけで流通させます! はい、チーズ!」

 

「えー……いきなり……こう、せめてかっこよく写る努力とかさせてほしかったんだけど?」

 

「大丈夫ですよ! 自然体の司令官が一番だと青葉は思います! じゃあ、次は狭霧ちゃんですね!」

 

 

 今度は、はい、チーズすら言わなかった青葉が連射で狭霧を撮っていく。

まあ、エプロン姿で見返り美人構図の狭霧は絵になるからな。後で一枚貰おう。

てか、おい。今青葉なんてった? あんまり俺の写真を配るのはやめて欲しいんだが……

 

 しかし、まあ、この寝ぼけ衣笠の写真どんだけバズってんだよ……

わかる。わかるよ。二次元の女の子がリアルに現れたんだもん。世界的に注目の的だよな。

ニュース見てても那珂ちゃんと神通の記者会見と武蔵が戦車砲を無傷で耐える映像を無限ループさせてどうにかやりくりしてるって所に青葉が写真投稿を始めたわけだからな情報に飢えてる人たちがこぞって群がったって形なのかな。あとオタクとかパリピとかオタク。

 

 ほれ、かわいいかわいいってコメントに紛れて取材の申し込みとかよくわからんクソリプにマジでよくわからん宗教勧誘とか色々。

あ、ゲームより美人。確かに。ゲームでも美人定期。それな。ってコメントも好き。おーぷんを感じる。

つか、マジで多すぎて読み切れないし多言語過ぎてそもそも読めない……

お、二枚目の那珂ちゃんの写真可愛い。後で貰おう。鳳翔さんもいい。これも貰おう。

 

 

「てか、衣笠はこの寝ぼけ顔が世界中に拡散しても特に何も感じないのか?」

 

「え、んー……まあ、ちょっとは恥ずかしいけど所詮関係ない人達だしね。何言われても気にしないしこのぐらいの顔じゃ提督だって別に衣笠さんの事嫌いにならないでしょ?」

 

「まあ、これで嫌いになれって方が難しいかな」

 

「でしょ? だから、まあ別にいいかな。青葉も楽しそうだしね」

 

「そっか。衣笠がホントに気にしてないって事なら後でこれも一枚貰おうかな」

 

「……それはダメ。もし衣笠さんの写真が欲しいんだったらもっと可愛く決めた写真撮ってもらうからそっちにしない?」

 

「え、やだ」

 

「やだ!? シンプルに拒否された!?」

 

「そうですよ。司令官が欲しいと言えばなんでも差し出す。それが艦娘ですよー衣笠」

 

「えーなんかそれ違くない?」

 

「あーなんかそれ違くない?」

 

「えぇー……司令官の擁護したと思ったのに司令官に否定された……」

 

 

 ガーン! とショックを受けている青葉を見ながら食べる白玉は美味しい。

てか、白玉って茹でるんだね。俺そのまま食べるもんだと思ってたわ……茹でて氷水でしめてキッチンペーパーなんかで水けを取る。次は俺も手伝ってみるか。まあ、手伝わせてもらえたらな……

 

 

「青葉、これちゃんと釣れそう?」

 

「はい、なんの問題もなく釣れてるみたいです。明石さんが順調順調って言ってましたし」

 

「そっか。一応、自衛隊からの要請みたいなもんだし一通り仕事したら後は青葉の自由だな。いや、今も割と自由か」

 

「今はどんな情報でも欲しい時期ですからね。全く関係ない写真でも入れ食いです!」

 

「ホントは那珂ちゃんに動画配信とかしてもらう予定だったんだけど、本人から嫌だって言われちゃったからな。青葉頼んだぞ」

 

「青葉、司令官の為に頑張っちゃいますよ!」

 

「提督……釣れそうとか入れ食いってどういう事ですか?」

 

「今度、月末ぐらいに海外の外交官なんかが視察に来るって通達が来たじゃん? それ関連のお仕事だな」

 

「あぁ、あの良くわからない……」

 

「しゃーないさ。変態国家日本がついに二次元からキャラクターを取り出す技術を手に入れたって海外じゃ凄い事になってるって言ってたからな。どこの国も架空の超兵器を手に入れる手がかりみたいなのが欲しいらしい」

 

「提督。愛だよ、愛。一方的な愛じゃなくて双方向からの愛が無いと衣笠さん達みたいな事は無理だよ無理」

 

「今度来る人らにそれの説明をしてやってくれ。きっと喜ぶぞ」

 

「えーやだー。そういうのは自衛隊のお偉いさんにお任せしまーす」

 

 

 断固拒否と白玉を頬張る衣笠。

基本的に艦娘ってのは俺以外の人間となるべく話したくないらしい。

だから、こんな風に俺以外の人間と話してみたいな事を言うとあからさまな態度で不満を表してくる。

ゆえに俺がいなかった期間は長門なんかのまとめ役が骨を折ったらしい。

ちなみにその時、頑張ったからご褒美が欲しいと言ってから頭を撫でて欲しいと言ってきた長門はべらぼうにかわいかったです。

 

 

「でだ、釣りの件だな」

 

「はい」

 

「大前提としてどの国も君達が欲しいんだ。だから、最初はここに来る要人が君達を口説くはず」

 

「えぇ……」

 

「狭霧のそんな嫌そうな顔初めて見たんだけど。青葉?」

 

「シャッターを押すと思ったときには既に行動は終わっていました。大丈夫ですよ司令官」

 

「よろしい。後でちょーだい」

 

「もちのロンです!」

 

「あの……提督」

 

「あ、ごめんごめん。でだ、今の様子からでもわかるように艦娘ってそんな簡単に口説けるようなやわな存在じゃない。でも、欲しい。じゃあどうするか。一つは国同士のやりとりで相手の弱みをちらつかせて表面上は合意の上って形で連れていく。もう一つは誘拐、拉致、監禁のなんかの強硬手段あたりかなって」

 

「……無理じゃないですか? 最悪国に従う必要性ないですし、拉致とか誘拐なんてそもそもスペックが違いすぎますし」

 

「ま、艦娘を知ってる側からすれば絶対不可能だけど艦娘を知らない人たちにとったら不可能じゃないんだよ。だから、今も青葉が写真を投稿してるサイトに意味わからんぐらい用心に用心を重ねてアクセスしてきてるからね。今頃、この艦娘はこういった性格の可能性があるとかそういう話を真面目にしてるんじゃないか? まあ、怪しそうなのは明石が既に全部ぶち抜いて素性を丸裸にして情報を自衛隊に流してるらしいけど」

 

「ま、そもそも艦娘に喧嘩売る方が悪いよね。あ、提督白玉食べないなら頂戴?」

 

「食べるからダメ」

 

「まあ、こちらに攻め込む前に釘を刺している現状はまだ優しい判断って事ですかねー。乗り込んできたらどうなるかわかったもんじゃないですし。ほら、川内型とか張り切ってましたよ?」

 

「あぁ……あれね。川内が「何人までならいいの?」って聞いてきて、神通が「全部ではないのですか?」って答えて、那珂ちゃんが「提督の護衛は那珂ちゃんにお任せ☆」って星をぶつけてきた時の話な。一人もダメだからって言わなかったらどうなってたんだろうか」

 

「サメとかの餌ですかね。海の生き物って基本的に肉食ですし跡形もありませんよ」

 

 

 あの時の川内型はまるで世間話をしているかのように侵入者を全員殺す宣言してきてちょっと笑えなかった。

けど、その川内型よりもその後ろで指示待ちしてる駆逐艦達がおっかなかったのは内緒。

悪夢に鬼神は勿論の事、陽炎型も結構怖い顔出来るからね。改めてご機嫌取りはちゃんとしようと思ったわ。

 

 えぇ、まあ、目の前の狼も随分と気楽にサメの餌とか言ってるんだけどね……

衣笠も「サメって餌付けできるのかな」とかいう始末だし……

実は艦娘って残虐性が高いのかしら……違うよね? ただ、俺以外の人間に容赦がないだけでそういう趣味嗜好ってわけじゃないよね?

ちなみに狭霧は白玉を頬張ってもにゅもにゅと口を動かしてるだけでサメ云々に嫌悪感みたいな物を感じてるようには見えない。

いやーこれ、わっかんね☆ 

 

 

「想像したりするのはいいけど実行はすんなよ?」

 

「やるわけないじゃーん! 提督に褒めてもらえないのにやる価値はないよー」

 

「褒められるならやると?」

 

「うん。多分、ホントにいいの? って何度も聞きなおすと思うけど提督が褒めてくれるならやる」

 

「そうか。まあ、俺はそんな指示出さないし褒めないから絶対やるなよ? 振りじゃないからな?」

 

「分かってます分かってます。司令官は、ハッピーハッピー教ですからね。みんな仲良くみんな幸せラブ&ピース」

 

「ハッピーハッピー教だとなんかダメな気がするんだが……」

 

「え、よくないですか? ハッピーハッピー教。幸せになりそうです」

 

「ですよね? 青葉もそう思います」

 

 

 ねー? と同調する二人を見るに知らないのか。

ハッピー教でいいのにわざわざ言葉を重ねてハッピーハッピー言い始めたから知ってるもんだと思ったんだがな。

衣笠は知ってるぽくて「鎮守府青くする?」とか聞いてきた。

周りの妖精さんが服の下から青のペンキを取り出し始めたからそういう冗談はやめてもらいたいんだが?

青は嫌いじゃないけど一面青の景色は目に悪そう。あと、迷彩を施したのかって怒られそうなのもダメな理由。

 

 それからは、妖精さんに白玉を分けてあげつつ適当に駄弁りながら青葉が撮った写真鑑賞会を部屋に設置してあったプロジェクターでしました。

てか、仕事早すぎてジェバンニ。今朝カメラ貰ったんだよね?

 

 んーそれにしてもどれもこれもサイトにアップしたら話題になりそう。

税金の無駄遣いと言われるかセンシティブすぎると言われるか。

中には公式のネタを再現してる子達も居てちょっとファン的に感動してテンション上がりまくった。

テンションが振り切った俺は「次回作も楽しみにしてるよ」ってノリで白玉を食べさせてあげたら超喜びまくった青葉が「頑張ります!!!」とカメラを持って執務室を飛び出していったのはちょっと笑った。

でも、次の瞬間「あのネタやったの私です、白た……提督!!!!」って赤城が飛び込んできたのはちょっとタイミング良すぎてボブは訝しんだ。



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21話

「今日は自分が提督殿のお付として頑張るであります。なにかあればこのあきつ丸へお申し付けください、であります」

 

「おう。よろしく」

 

「まあ、でも、この状況。自分がする事はそんなに無いのではといささか疑問ではありますな」

 

「そうな……まあ、とりあえず、この目の前に山積みにされたお茶請けを片付けるの手伝ってくれ。これ全部一人で食ったら今あの子が作ってる昼飯で俺は死ぬ。秋津洲もどんどんばりばり食べてくれ」

 

「わーい! えーっと……これとこれとこれと……」

 

「遠慮するな。おかわりもあるぞ。死なばもろともだ。沢山食ってけ」

 

 

 今日は朝から地下室送り。理由は各国のお偉いさんが来るから。

一般上がりの俺が艦娘の命令権を持ってるってなると何を言われるかわからないから姿を見せるなと言われての結果です。

今日は自衛隊のお偉いさんが提督って事で対応に当たるらしい。

正直大丈夫かしらって気持ちしかない。多分、今日一日那珂ちゃんはアイドルの顔をしないんだろうなぁ。

まあ、なんかあったら下に降りてこいとは言ってあるし酷い事にはならんだろ。

 

 てなわけで、今日は一日地下生活でございやす。正確には昨日の晩から。

昨日自衛隊の人へ引継ぎが完了した段階で俺+αでちゃっちゃか移動しました。

俺の部屋の隠しエレベーターで下に降りたんだけど、どのぐらい地下なのかは正直俺には把握できてましぇん。

だって、階数表示が仕事してなかったんだもん。地下20階までは書いてあったけどそこから下は「隔壁到達」から文字が変わらなかったんよね。

多分あれが明石がドヤ顔で「地下は核程度なら余裕で耐える隔壁が何層もあるので安心してください! 最強の拒絶タイプとか来ない限りは平気です!」って降りる前に説明してくれたやつだと思う。

あのセリフがフラグではないことを切に願うわ……

 

 

「にしても上は大丈夫だろうか」

 

「あー……まあ、平気でありましょう。提督殿から穏便に済ませるようにという指示がある限り酷い事にはならないであります」

 

「なにかあればここへ送れって長門達にも言ってあるし、なにより心配し過ぎも彼女たちを信じてないようで悪いか」

 

「そうでありますな。提督殿はここでドーンと構えて吉報を待ちましょう。なーに。そうそうやらかすような艦は居ないであります!」

 

 

 なっはっは! と二人で笑ってから二人同時にある方向を見た。

そこには地上からこの地下へと続く一本の滑り台がある。あれは、俺又は上に居る旗艦達がもう駄目だと判断した艦娘がこの地下へと滑り落ちてくるための滑り台。

一体地上からここまで何メートルあんのか知らないけど俺なら死ぬ。

てか、絶対摩擦で尻もげるわ。あれか? ローションとか塗ってあるの? 

ぬるぬる滑り台を降りてくる艦娘。需要? ありますね。需要しかありませんね。

でも、何事もなく終わってほしいから落ちてきて欲しくないんだよなぁ……

 

 

「二人していきなりどうしたの?」

 

「いや、こういう話って大体すぐにフラグが回収されるからさ。あのボッシュート穴をつい見てしまった」

 

「わかるであります。自分ももしやと思い見てしまったであります」

 

「モニター見てみるかも。しっかり皆整列してるかも」

 

 

 今日のお偉いさん鎮守府訪問は当然ながらテレビ中継される。

まあ、テレビのカメラが入れるのは基本的に鎮守府の船着き場までだけどね。

いらん事する輩とか絶対出てくるし何よりそんなに沢山の人を誘導する人員も居ないって事にした。

 

 一部抽選で通った所だけが条件付きで鎮守府内に入れる。

1つの報道局につきスタッフは3人までで事前に名前や性別なんかを届け出ておくこと。もし、事前の届け出と違う人が来れば中には入れないなんていうキツメの条件。

しかも、中に入ったら入ったで自衛隊の屈強なお兄さんお姉さんに囲まれる。

トイレだって決まった時間のみだしそれ以外はダメ。おむつを渡すらしい……

 

 それでも! って所ばっかりだったらしく結構な倍率だったらしい。

らしいってのは、自衛隊と大淀に丸投げしたので詳しい情報は知らないから。

だって、大淀が「私がやります! 仕事! ください!」って言ってくるから勢いに負けてつい……

その後、精査終わりましたと書類を渡してきた大淀を褒めたら目に見えてご機嫌になって可愛かったです。

 

 

「んーいや、まあ確かにそうなんだが。ほら、見てみろあれ。大井とか物凄い顔してるぞ。テレビに映ってるってわかってんのか?」

 

「いい笑顔じゃありませんか。あれのどこが悪いというのでありますか?」

 

「あれは、この前俺が北上の尻をまくらにしてうとうとしてた時に見た笑顔だな。名前を呼ばれて目を開けたらあの笑顔が目の前にあったから間違いない。誰かを殺そうとしてる笑顔だ」

 

「笑顔は本来というやつでありますな。というか、提督殿の状況に関しては全面的に提督殿が悪いだけでは?」

 

「あれは多摩が悪い。多摩が「北上の尻は程よい柔らかさにゃ。提督も試してみるにゃ」とか言って誘惑してきたんだもの。北上も二つ返事で許可出してくれたし」

 

「提督殿は命知らずでありますな……」

 

「とまあ、理由はどうあれ、あれは大井がかなりキテる時の笑顔だ。誰だか知らんが北上に声をかけたお偉いさんが居るのかもしれんな」

 

「どうします? もう落としてもらうでありますか?」

 

「あー……いや、もうちょい様子見しよう。もう一歩ヤバくなったら落としてもらう。大井もそのぐらいの分別は出来るだろうし。って、それよりあっちがやばい。ビスマルクだ、ビスマルク。ちょっとビスマルクに繋いでもらえる?」

 

「了解であります」

 

 

 あきつ丸がビスマルクへと直通の連絡を入れるとすぐに『何かしら』とちょっとドスの利いた明らかに不機嫌なビスマルクが返事をしてきた。

モニターに映るビスマルクの口は動いてないのにしっかりと言葉が聞こえるあたり艦娘ってやっぱすげーやってなるわ。

 

 

 

「ビスマルク聞こえるか? いいか? その人がなんて言ってるのかわからないけど落ち着け」

 

『あら、私は落ち着いてるわ』

 

「ホントに落ち着いてたら俺が連絡入れるわけないだろ?」

 

『………………だって、こいつ提督の事、「あんな無能のどこがいいのだ?」とか言うし「あれよりいい男を用意するからうちの国に来い」とか言い出したのよ? 提督の事バカにするし上から目線だし胸とか足とかしか見てなくて気持ち悪いし……ちょっとぐらい殴っても問題ないわよね?』

 

「そのお偉いさんが言った無能な提督ってのは自衛隊の人であって俺じゃないんだから気にするなって。上から目線は……まあ、実際お偉いさんだし我慢してくれ。あと、女性にこういう事を言うのは酷かもしれないがそういう視線も申し訳ないけど我慢してくれ。ビスマルクが殴ったらその人死ぬから。外交問題だから。問題しかないから」

 

『我慢我慢って言っても私達別に客寄せパンダになりたくてこっちに来たんじゃないわよ? わかってるわよね?』

 

「分かってる。ビスマルクもそうだが他の皆にも今日は無理を言ってる自覚はあるんだ。だから、この後、軽いお願いなら聞くって伝えてあるじゃないか」

 

『ちょっとこれは軽いお願いじゃちょっと割に合わないわ。なんでもに変えてくれない?』

 

「なんでもはちょっと……」

 

『声で分かるわ。にやけてるでしょ。じゃ、提督もまんざらじゃなさそうだしそれでいきましょう。代わりにこいつは殴らないし視線は我慢するわ。それじゃ』

 

「ビスマルクのやつもしかしてこうなる事が分かってて不機嫌そうな顔してたのか……?」

 

「提督殿。女性はみな女優なのですよ」

 

「お菓子分けてあげるかも」

 

 

 画面に映るビスマルクは表情こそ変わってないが目の奥が笑っているように見えた。

てか、今のやり取りですらお偉いさんが鎮守府内に入るちょっとした道のりでの出来事だと思うとこの後どんだけめんどくさい事が待ってんだって話なんだが?

もう、上の映像は作業用BGMぐらいの感覚でつけといて別モニターでテレ東見ようよ。他のテレビ局は緊急特番とか言って軒並みうちの話だけどテレ東だけは通常営業だし。

 

 なんて、考えつつもついつい上の状況が気になってそっちに視線がいってしまう。

いつもだったらこんな政治ニュースは眠くなるから見ないけど身内の話題だしね。

今は俺も知らなかった会議室みたいな所で日本のお偉いさんと各国のお偉いさんが向かい合って小難しい会話の応酬を繰り広げていた。

それを今日の旗艦たちが壁際で椅子に座りながら眺める構図。

天龍とかさっきからあくびしかしてないし赤城とかずっと目をつぶってるけど起きてんのかあれ。

ちなみにテレビに映るのは基本的に軽巡以上。駆逐艦以下は見た目が見た目だからカメラが入らない場所で待機又は巡回警備なんかをしてもらってる。

 

 

『暇すぎる。なあ、ホントにオレ達必要なのか?』

 

『ここに居ろというのが今日の任務だからな』

 

『つっても、オレ頭がいい方じゃないからあいつらがなんて言ってんのかさっぱりだぞ?』

 

『構わないさ。あとで、要点をまとめた物を渡すから目を通すだけでもしておいてくれ』

 

「長門、俺にもそれちょうだい」

 

『了解した』

 

「あと、天龍。お前、女の子なんだからそんな大口開けてあくびするんじゃありません。赤城を見習え赤城を」

 

『なぁっ、ぐっ、見んじゃねぇよ! てか、赤城とかさっきからずっと爆睡じゃねーか! この人席に着いたと同時に寝始めたからな!』

 

「まじかよ……え、寝てるのは知ってたけどそんなに速攻で寝たのか」

 

『寝てるの知ってて見習えって言ったのかよ……じゃあ、そこまで言うならオレも寝るわ。あと任せた』

 

『あぁ、時間になったら起こそう』

 

 

 赤城って思ってたより自由なお姉さんなんだよね。

初期の頃のしっかり者のイメージから随分と遠くまで来てしまったものだ……

あれ? もしかして、隣にいるしっかり者代表みたいな妙高も寝てたりするんだろうか。

艦娘って体幹お化けしか居ないからじっとしてろって命令するとマジで何時間も身じろぎ一つしないでその場で待機するからね。

だるまさんが転んだで一度も勝てたことがない俺が言うから間違いない。

海防艦のちび助たちでそれなんだから重巡で最大練度ともなればもはや言うまでもないってやつか。

 

 まあ、結論としては妙高は起きてた。

艦娘を各国に数人ずつ引き渡して戦力の分散を図るべきだみたいな話になった時に思いっきり顔をしかめたのが見えたから。

 

 

「今、妙高の顔見た?」

 

「見たであります。というか、誰だってあんな顔するであります。ここから離れるとかありえませんしな」

 

「あたしもここから出ていけーって言われたら怒るかも! まあ、秋津洲の戦闘力じゃ引き抜きとか話にも上がらないから関係ないかも」

 

「それを言ったら自分もでありますな。自分もルート固定に使われるぐらいで戦力としては制空権争いに参加できるぐらいでありますからな」

 

「いや、まあ、うーん……ごめんな。あんまり使ってやれなくて」

 

「別に気にはしてないかも。ちゃんと改造もしてくれたし文句はないかも」

 

「ま、自分は元々陸軍の船でありますし。海の戦いに不慣れな所は申し訳ないであります」

 

「そうか……まあ、きっとそのうちイベント海域でめんどくさいギミックとか増えて二人みたいな直接的な戦闘能力が低くても編成に入れてないとボスマス行けませんみたいなのが来るからその時は頼んだぞ」

 

「その時は提督殿のお役に立てるよう粉骨砕身の思いで頑張るであります」

 

「秋津洲はほどほどに頑張るかも。でも、安心して! そのうち二式大艇ちゃんが変形して提督のお役立ちかも!」

 

「それ、絵師様のネタやんけ……」

 

 

 そんな感じで3人でわいわいがやがやと話しているとそいつは現れた。

ここに来た時に大量のお茶請けを置いていった事からも分かるが、こいつも俺を太らせ隊の一人。

今日ここに居るのは最悪な話だけど海外のお偉いさんから「この艦、うちの国に派遣できないかな」って声がかからなかった組のうちから三人だけ引っ張ってきた。

さっきの会話からも分かるように人選については旗艦以下数名にしか通達してないので彼女たちを傷つけることはないと信じたい。

 

 んで、最後の一人は補給艦から抜擢。

艦娘名簿を渡すときに改造してないんで補給艦の役割しか果たせませんってゴリ押しした。

まあ、実際の所、練度は99だしなんなら艦載機載せて戦う事も出来る。補給艦とは?

本人曰く「こっちでは何着ててもいいんでカモフラージュが楽でいいですね!」って言ってた。

 

 

「はーい。お昼ご飯できましたよー! 今日は皿うどんです!」

 

「待ってましたかもー!」

 

「自分が配膳の手伝いをするであります」

 

「じゃあ、このお皿を提督へお願いしますね?」

 

「え、あ、はいであります」

 

 

 大鯨から渡された皿を見てあきつ丸が一瞬固まるのが見えた。

ははーん。またか? またなのか? 厨房組はホント加減を知らない。というか、加減してくれない……

太っちゃうよ。このままだとホントに太っちゃう。それでなくてもちょっと腹回りに摘まめる肉が増えてきて恐怖してるんだ。

一応、トレーニングルームで運動はしてるけど消費した量よりも摂取する量が多かったらダイエットにはならないんだぞ。わかってんのかこのやろう!

って、一度聞いたことあるけどいい笑顔で「分かってます」って言われましたまる。

 

 

 

「あきつ丸ちょっと食べてくれないか? どう見たって俺が食いきれる量じゃない」

 

「えー、提督の為を思って沢山作ったのに―! 沢山食べないと大きくなれませんよ?」

 

「大鯨。俺はもういい大人だからこれ以上成長の見込みはないんだ」

 

「いえ、縦じゃなくて横に」

 

「はっきり言いやがったよ!」

 

「はは、提督殿。少しなら自分がお手伝いするでありますよ。自分としてはもう少し引き締まった体になってもらいたいでありますからな。腕とかもう少し太い方がいいであります」

 

「いやいやいやいや、もう少し丸い方が可愛くて抱き心地もいいという欲張りセットですよ?」

 

「いやいやいやいや、陸軍としては海軍の意見に反対であります」

 

「あきつ丸さんも海軍じゃないですか!」

 

「おっと……では、海の男ならもう少し引き締まっていた方が恰好がつくというものでありますよ」

 

「太っていても恰好はつきます!」

 

 

 頑張れあきつ丸、負けるなあきつ丸。俺のお昼ごはんの量は君にかかっている。

俺が食い終わるまでは大鯨と戦っていてもらいたい。

でも、俺は皿うどんの麺はパリパリよりもシナシナになってる方が好きなんだ。だって、パリパリだと刺さって痛いもん……

だから、横でバリバリと麺を食べてる秋津洲がちょっと凄いなって思うわ。

まあ、皿うどんは優秀なので何も麺がシナシナになるまで何もせずに待つなんて事はしなくていい。

この麺に負けず劣らず大量に載せられた具を食べればいいのです。うずらにきくらげ、エビも美味。

普通に野菜炒めとして成立してるから最高。

 

 

「秋津洲、ちょっと具食べるか? 流石に腹いっぱいになってきた。なんなら麺も取っていっていいぞ」

 

「食べるかも! 大鯨の皿うどん美味しくて好きかも!」

 

「おう。いっぱい食べて大きく育てよ」

 

「秋津洲はもう十分大きいかも!」

 

「でも、この前夕立の隣に立った時に身長気にしてなかったか?」

 

「あ、あれはしょうがないかも。改二になるまでは秋津洲より小さかったのに改二になった途端にあんなにおっきくなるのは反則かも……」

 

「秋津洲も改二が来ればいいけどな。ただまあ、来るにしても後何年待たなきゃいけないのか……」

 

「かも……」

 

『提督ッ! 少々よろしいでしょうかッ!』

 

 

 和気あいあいと食事をしていた所に切羽詰まった様子の赤城から入電が入り全員が口を閉じて背筋を伸ばし、何を言われても対処できるように赤城の入電に耳を傾けた。

ついでに赤城からもたらされるである情報を艦娘全員に共有できるように繋ぐ。

同じ場所に居るはずの長門から連絡が入らない所を見るに相当切羽詰まっているのかもしれない。

 

 

『提督のお昼ごはんが皿うどんって耳に入って来たんですけど私の分はあるんですか!!!!』

 

「はい、解散。みんな仕事中に悪かったな」

 

『え、提督さんのお昼ごはん皿うどんなの? いいなぁ。龍鳳が作ってるんでしょ? 絶対美味しいじゃん。こっちもこっちで自衛隊の人達が作ってくれた料理食べてるけど……味はまあまあだけどいつもより量がね……』

 

『お、なになに。瑞鶴ってば多聞丸ネタで私と勝負するの?』

 

『いや、しませんけど?』

 

『五航戦』

 

『何よ、いきなり……てか、無表情で目の前に立たないでくれない? カメラ全部こっち見たんだけど?』

 

 

 あ、ホントだ。ちらりとテレビを見てみれば、瑞鶴に対して見事なメンチを切っている加賀が映し出されていた。

確かに無表情な加賀があんな距離まで迫ってきてたらビビるわ。

いや、加賀だって常に無表情ってわけじゃないんです。ただ、大半の時間が無表情ってだけで……

 

 

『私、提督の所に行って皿うどんを食べてくるのでここは任せましたよ』

 

『はぁ? ダメに決まっ、あ、ちょ、ホントに行く気!? 提督さん! あのバカ止めて!』

 

『加賀さん。私も同行します』

 

『赤城さん』

 

「いや、どっちも来ちゃだめだから。持ち場から離れないの。加賀も戻って」

 

『え、いや、だから私の目の前に無表情で立つなって言ってんでしょ!? もがっ……』

 

『しかし、提督! もう、お腹と背中がくっついちゃいそうないんですけど!? おなかペコペコのペコちゃんなんですけど!?』

 

「確かにそこの人ら昼飯も食べないでずっと話してるもんな。どうしたもんか……どうしても無理?」

 

『いかに提督の頼みとはいえこれ以上は無理です』

 

「しゃーないか。赤城は昼休憩って事で。近くの自衛隊の人に言ってから出てくんだぞ」

 

『流石提督! 愛してます!』

 

「はいはい。で、長門と妙高は悪いんだけどもうちょい我慢してくれ」

 

『我々なら問題ない。こいつらは監視してないと何をしでかすかわからないからな。提督に不利になりそうな事が出てきたら握りつぶしておくから安心してくれ』

 

「ありがとう。頼んだぞ」

 

 

 赤城の行動は早かった。

近くに居た自衛隊の人をちょいちょいと呼んで小声で用件を伝えて堂々と部屋から出て行った。

そして、次の瞬間には部屋の隅にある滑り台から現れた。ちなみにローションで濡れ濡れにはなってなかったのを見て心の中で落胆しました。

 

 俺の隣に座った赤城は「失礼します」と言って俺の皿を自分の前へ移動させてそのまま俺の食べかけを食べ始めた。

俺も腹いっぱいでさっきから箸が進んでなかったら別に食べられるのはいいんだけど足りんのかな。

そう思いながらしんなりし始めた麺をずるずると啜る赤城を見ていたら左手で口元を隠しながら赤城が話しかけてきた。

 

 

「提督、そんなに見られていると流石に恥ずかしいんですが……」

 

「あ、悪い。それ、俺の食べかけで量が減ってたけど足りるか? 足りないよな? 大鯨。悪いんだけどなんか追加で作ってやってくれないか?」

 

「あ、はーい。任せてください! とは言っても今回はそんなに材料持ってきてないので晩御飯がちょっと減っちゃいますけどいいですか?」

 

「しゃーないさ。頼んだよ」

 

「はい! じゃあ、赤城さん待っててくださいね!」

 

「あの、すみません提督。わがまま言っちゃって」

 

「後でちょっとしたお願い聞いてあげるって言ったでしょ。それの前倒し。それにどちみちそれ食べきれなかったし、おんなじ勢いで晩御飯も出てきたら俺の分も食べなきゃいけない秋津洲の腹が破裂してたな」

 

「え、秋津洲もそんなに食べる方じゃないから無理かも……あきつ丸が食べるかも」

 

「はは、自分の方が食べないでありますよ。つまりは助かりました赤城殿」

 

「そういう訳だ。沢山食ってけ。それが俺たちを救うんだ」

 

「……わかりました。一航戦赤城、沢山食べます!」

 

 

 そう言った赤城は大食艦の名に恥じぬ食いっぷりを披露してくれた。ジブリかな?

元々減っていた俺の昼飯をさらえた赤城は次にあきつ丸の皿を指さして「いいですか?」と一応頬を赤らめて恥じらいながらおかわりを要求した。

あきつ丸も「構いませんとも」とほほ笑んでその要求に応える。

 

 そんな感じで大鯨が持ってきた追加の料理からお茶請けまで全て食べつくした赤城は「満足しました」とお茶を飲んで人心地ついていた。

あんだけ食って腹が少しも出てないのはおかしくない? ウマ娘でももう少し腹出るぞ。

あ、あれか。食べたそばから資材に変換してるって話か。それ、俺のゲームの資材に足せないかな。もうイベント始まるし資材増えるのめっちゃ嬉しいんだけど?

 

 

「よくこんだけ入ったな。見てるだけで腹いっぱいだわ」

 

「まだいけますけどね。腹八分目ってやつですよ、提督。美味しい、まだもうちょっと食べたいなって思うぐらいが一番料理を楽しめると私は思います」

 

「確かに」

 

「それじゃあ、ごはん食べて元気いっぱいになったのでそろそろ戻ります」

 

「わかった。悪いけど後半日頼んだぞ」

 

「はい! とは言ってもほとんど長門さんが対処しますけどね。私は本当に最後の最後に手を出すぐらいなんで」

 

「そうな……長門で全て済めばいいな」

 

 

 だって長門以外口より先に手が出るから。

正直、あの会議室のメンバーだってなるべく口より先に手が出ない組を上からピックアップしただけだもん。

ビスマルクだって多分俺が止めてなかったら冗談じゃなくて殴ってたと思う。

 

 じゃあ、大淀は? ってなるけどあの子、頭脳派に見えて実の所手が先に出るらしい。明石が言ってた。流石ロケラン担いでラスダンに突撃するだけの事はあるよね。

まあ、明石が言うに普段はそんな子じゃないのも確か。でも、今回は議題が最悪。相性が悪すぎる。

なんとなくわかってたけど大淀の中心は俺なので俺をバカにするとかそういう話になったらまずキレるらしい。

ばんなそかなって感じだけど自衛隊で似たようなことしたっていう情報を複数の艦娘から聞いたので間違いない。

まあ、そんな感じだから長門にはホント苦労をかけてる……お願いとは別にまた頭撫でたろ。

 

 そんな感じで赤城が帰った後も結局ハラハラしながらテレビを見ていた。

俺の指示には絶対に従うってわかってるけどそれにも限度って物がある。

あの子達の中にある絶対に越えちゃいけない線を越えないでくれとお祈った。困ったときの神頼み。頼みますアクア様。

 

 そして、そんな願いが届いたのか特に問題もなく時間が過ぎていき、各国のお偉いさんの顔色だけが悪くなっていった。何せ何一つ艦娘への希望が通らないから。

長門は各国からの要求の全てを断り続けた。

金や食事、男の都合などのありとあらゆる条件を提示されたが全て拒否。

長門はただ「そこに提督が居ないのであればなんの意味もない」と断る。

ならば提督も一緒にと言う国も居たけどそれも代理提督さんが拒否。なんか難しい言葉を並べて断ってた。

俺がもしあの場に居たらただ圧力に負けて「は、はひぃ」とか言ってたかもしれない。

海外……行きたくないなぁ。言葉通じないし飛行機怖いし船酔うし……いいことないじゃん。

 

 まあ、そんな中、余裕そうに長門達を観察してるお偉いさんも居るけど多分あれだ。

さっきイムヤから連絡があった潜水艦の関係者かもしれないな。もう制圧しちゃったけど。

事前に申し込んだ人しか入れないのは何も鎮守府内だけじゃない。この鎮守府がある島の周辺もその対象。

言っておいたのに約束破る方が悪いんだよなぁ。あとは、なんかネズミを捕まえたって摩耶様が言ってたしそっちかもしれない。

 

 そして、踊ってばかりで全く進まなかった会議も終わり。ようやっとお偉いさん方が帰る時間が近づいてきた。

 

 

「さて、あとはあのお偉いさん方を送り届けたら今日の任務もおしまいだな」

 

「自分としてはもう少し提督殿とぐだぐだとしゃべるだけのこの状況が続いてもいいとよかったでありますが」

 

「こういう日もたまにはありだな。なんかシステム作って無作為に選んだ艦娘を執務室に呼ぶみたいな感じの作るか」

 

「それはいいでありますな。押しの弱い艦娘はあまり提督殿と交流が進んでいないようでありますし」

 

「だな。今日は疲れてるだろうし明日以降話し合ってみるか」

 

「かも。たまにじゃなくて毎日でもいいかも。みんな提督とは毎日お話ししたいかも」

 

「それも検討してみよう。ただ、会話のレパートリーがな……持つかな……」

 

 

 会話デッキ少ないんよ、俺……ちなみに大鯨は晩御飯の準備に行ったので今は席を外している。

さっきトイレに立った時にちらっと見たけど赤城があれだけ食べたはずなのにまだまだ大量の食材が用意されていた。

そんなに持ってきていないとは……艦娘の胃袋基準でそんなにだったのかな……そろそろ艦娘の皆には人間基準を身に付けて行ってもらいたい所存。

 

 そうこうしているうちに今日は来てくださってありがとうございました的な挨拶がモニターに映し出されていた。

艦娘達の表情を見てる感じありがとう感皆無なんだけどね。笑っちゃうわ。

んで、船に乗って帰ろうとするお偉いさん方に待ったをかける長門。

サプライズって大切だからね。お偉いさん一人一人に紙を手渡ししていく。

 

 紙を渡されて一拍。中身を読んだお偉いさんが「なんだこれは!! 意味の分からないものを渡すな!!」と叫びだす。

長門がその叫びにため息をついてから「すまないが連れてきてくれ」と後ろに居た陸奥に声をかける。

連れてこられたのはロープで縛られた沢山の特殊工作員ぽい人たち。

ゲームでは良く見るけどホントにこういう人たちって居るんだなって報告を聞いた時にちょっとテンション上がりました。

 

 ちなみにこの工作員の人らの裏は既に取れてて国とのつながりもバッチリ。

なんなら青葉の写真を上げるサイトにリンクが張られていてそこから各国とのつながりや今日の潜入についてのやり取りなんかの動画がアップされてるサイトにいける。

明石のお茶目なのか一昔前のアクセスカウンターが設置されてるんだけど今めっちゃ凄い勢いでカウンターが回ってるわ。ちゃんとキリ番ゾロ目の時は演出が入るらしい。

 

 こんなの合成だとか言ってる人が居るけど、ところがどっこい合成じゃありません。現実です。これが現実。

いやねー。つーか、これ普通に不正アクセスじゃね? って言ったんだけど、明石に「艦娘って人間じゃないんで人間の法律じゃ裁けないんですよね。というよりもそもそもどこの国の国籍もないから今の所地球じゃ私達は裁けません」って言われました。

国の人に確認取っても沈黙からの目を逸らされるというね。

ねえ、それって艦娘は提督の所有物なんだからお前の責任! とか言って俺のせいにならないよね? 大丈夫? 信じてるよ?

 

 ちなみに今日のニュースは様々な切り抜き動画が貼られて、どの艦娘の切り抜きも人気だったけど一番人気だったのは瑞鶴が加賀にアイアンクロ―されて飛龍と蒼龍が爆笑してそれを眺めてる動画だったらしい。



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22話

「今日は珍しい格好ね」

 

「ん? あぁ、今日は秋月達が汚れてもいい格好で畑に来て欲しいって言ってきてな。箪笥の奥からこれ引っ張り出してきた」

 

「……それ背中になんか書いてない?」

 

「俺の信仰してる宗教の教義」

 

「……全体的に悪い事は書いてないんだけど、宗教としてはどうなのかしら。というか、上下で色も違うし普通にダサいから脱ぎなさい。私が代わりを用意してあげるわ」

 

「代わりつってもどうやって?」

 

 

 あの日、ちょっとしたお願い聞くをなんでもお願いを聞くにグレードアップさせたビスマルクは1ヶ月秘書艦にしろと言ってきた。

正直誰を選んでいいか迷ってたから棚ぼたじゃんラッキーぐらいの気持ちでそれを受けた。

狭霧から業務を引き継いで、いざ秘書艦をやるわ! と気合十分だったビスマルクだけど、そのやる気も最初の数日しか持たなかった。

まあ、仕事無いもんね。リアルで深海棲艦が攻めてきてますみたいな世界だったらくっそ忙しかったのかもしれないけど、そんな事実はございません。今の所は。

 

 ゆえにビスマルクも秘書艦とか言いながら基本的には執務室のソファでゴロゴロしながらテレビを見ることぐらいしかしてない。

たまに暇に耐えかねて俺にちょっかい出すんだけど、大体はお菓子食べながらテレビに向かってあーでもないこーでもない言ってる。

今さっきだって先日の鎮守府の件であれやこれやと言っているワイドショーに対して文句言ってたしね。

 

 そんなビスマルクがふふんとドヤ顔で指を鳴らした。

すると妖精さんが何人か寄ってきて服の下から服を取り出した。いつ見てもよくわからん構造してんな。

 

 

「これは私の制服と同じデザインのジャージ。こっちは戦艦ビスマルクのシルエットがプリントされたジャージね。あとは、プリンツ達のとかもあるわよ。でも、やっぱりおすすめはやっぱり私とお揃いかしら」

 

「あーじゃあ、それで頼む」

 

「流石私の提督ね。わかってるじゃない! さ、そんなジャージ脱いでこっちを……って何よそのTシャツ」

 

「これ? これは全提督が欲しくて欲しくて喉から手が出るほど欲しかった伝説のサンマTシャツ。うーちゃんに頼んで作ってもらったんだよね」

 

「そう……まあ、卯月が作ったならそれは着ておくべきね。さ、今更提督のパンツ姿程度でどうこう思わないからここで脱いでいいわよ。着てたやつは妖精さんに渡しておけばいいから」

 

「流石に向こうで着替えてくるわ。普通に恥ずかしいし」

 

「……そう」

 

 

 一瞬落ち込んだように見えたビスマルクを置いてジャージを着替えるために部屋を移動する。

おじさんのすね毛ボーボーの足なんて見たって一銭の得にすらならんぞ、ビスマルクよ。

 

 ビスマルクに貰ったジャージは妖精さんが出しただけあって生暖かったけどサイズ良し肌触り良し伸縮性良しと良いとこ尽くしなジャージだった。

あっいい……いいですよこれ! って感じの感動を覚えるジャージ。

さっきまで着てたゴワゴワジャージが実は雑巾だったんじゃないかってボブが訝しむレベル。

 

まあ、このジャージ唯一の欠点を挙げるとすれば、だ。

ジャージを着て「これいいなぁ」ってつぶやいたそばから明らかに誰かに似た妖精さん達が「これも着てこれも着て」とジャージをグイグイと押し付けてくる所。

 

 

「悪いな。今日はこれ着るってビスマルクにも言っちゃってるしそれは着られないんだ。次の機会があれば君たちのどれかを選んで着るとするよ」

 

 

 そういうと妖精さん達はさっきのビスマルクよりもどんよりと落ち込んでしまった。

最近、妖精さん達ともスキンシップを多めにとるようにして分かったんだけど、この子達も結構喜怒哀楽が忙しいタイプが多いらしい。

会話が出来ない俺の為に分かりやすいリアクションを取ってくれているだけって可能性もあるけどね。

 

 こういう時はお詫びじゃないけどいつもお菓子をあげてる。

妖精さんって言えば甘い物ってイメージだけどうちの妖精さん達は割と何でも食べる。

こないだなんて一人で一人前のうどんを食べてる猛者が居たぐらい何でも食べる。

まあ、そんな感じだから俺の食いきれないお菓子なんかをこういう機会以外にも結構あげてる。

お詫び感薄いけど、それで許してくれる妖精さんに感謝しないとね。

あぁ、かりんとうが横向きで入るんだね。どうなってんだそのほっぺ。

 

 

「ビスマルク。これいいな。すんごい着やすいわ。ありがとう」

 

「そうでしょうともそうでしょうとも。もっと褒めてもいいのよ? ふふん! ちなみにそのジャージ。私と同じだけの装甲値があるから滅多な事じゃびくともしないわ」

 

「いや、それはマジで凄いな。いやぁ、すげぇ。どうやってこんなもん作ったんだよ」

 

「どうって……提督ってばそんな趣味があるの? まあ、私は心が広いから受け止めてあげなくもないけど……」

 

「……俺なんか変な事聞いた? 聞いて無くない? 俺がおかしいのか……?」

 

「冗談よ、冗談。本気にしないで。妖精さんの力を借りてこねくり回して作ったの」

 

「そういや、うーちゃんにTシャツ作り頼んだ時も「ちょっと待つぴょん」とか言って妖精さんを何人か連れて出て行ったかと思ったら数分経ってから持ってきてたな」

 

「提督的に言えば、開発ボタン押してキラキラからのペンギンぐらいの感覚かしら。資材さえ選んじゃえば後は妖精さん頼みね。つまり欲しいものが出来るまでランダムよ」

 

「ふむ。つまりこれは俺用バルジみたいなものか。なるほどね。うん。装甲値+90以上でデメリット無しとか最強か? ゲーム内で使いてー」

 

「それ、私達全員ジャージ姿で出撃するって事にならない? うーん。まあ、速吸みたいな感じかしら」

 

「ありじゃん。ついでに全員補給艦も兼務してもらおう。ボス前で補給だ! うん。最強」

 

「そうしたら、この前みたいに悲鳴を上げずにすんだかもしれないわね」

 

「乙だし沼る要素ないと思ったんだけどなぁ」

 

 

 まあ、ゲージ破壊で沼っただけで掘り自体は削り中に終わるという幸運に恵まれたから被害はそんなでもないんだけどね。

岸波もゴトランドも超余裕でした。毎回これで頼む。切に頼む。もうホント頼む。

掘りが終わってないのにイベントが終了するという恐怖はホントヤバいからね。

イベント産の子はイベントでってのが通常運転のゲームで滅多に建造落ちしないから掘れなかった時の落ち込み具合はしばらく私生活に影響を及ぼすレベル。

 

 ……思ったんだけど、今回のイベントから掘りの重要度増してないか?

〇〇おりゃん案件勃発しない? ねぇ、するよね? タシュケント……

何せドロップしたその日からゴトランドとかこっち来てたし、なんならもう青葉が写真撮って投稿しちゃったし……

おかげで、艦これ絵師になれば自分が描いた子が現実に来るから絵師になれとかいう謎ブーム。

いいの? 自分で言うのはなんだけど漏れなく全員俺の嫁になるんだが。

 

 てか、なんかこっちに来るには相思相愛以上の愛が必要なんデースって聞いたんだけどなぁ……

これじゃあまるで、ゴトランドと俺が超絶チョロインみたいな扱いなんだけど?

まあ、確かにゴトランドの距離の詰め方は凄かった。まるで初期の頃から俺と一緒に艦隊運営をしてきたかのような錯覚を覚えたもの。

調べたら、案の定名誉初期艦の称号貰ってて、やっぱりみんなもそう思うよなってなりました。

中には名誉初期艦は大井っちだろとマウント取ってる人も居てちょっと羨ましかったです。

 

 

「で、ダメなん?」

 

「無理ね」

 

「そうか……まあ、ずるみたいなもんだしな。今まで通り地道に頑張るか」

 

「戦いは任せなさい。貴方の育てた私は強いわよ」

 

「わかってるよ。いつも頼りにしてる。これからも俺の為に頑張ってくれ」

 

「ん、んふっ……ふぅー……任せなさい!」

 

「中途半端ににやけたせいで凄い顔になってたぞ。どうせならいつもみたいにドヤ顔で褒めろ褒めろって言えばいいじゃん」

 

「ゴトランドとかネルソンなんていう忌々しい奴らが来たからあまり弱みを見せるわけにはいかないのよ。だから、こういう小さい事からコツコツと普段の自分を改善していくのよ!」

 

「忌々しい? まあ、あー、ビスマルクが変えていくって言うんならいいんじゃないか? 俺も応援してるよ」

 

「えぇ、任せなさい!」

 

 

 最初にジャージ褒めたときは欠片も今の話を覚えてなくて褒めろ褒めろと頭撫でさせたのはどこのどの子ちゃんだっただろうか。

今も撫でろとアピールしてきてはいないけどチラチラと俺の手の動きを気にしてんのバレバレだからな?

あまりにも視線がうるさいのでちょいちょいと手招きして頭を撫でてあげると「提督がしたいならしょうがないわね!」とか言って俺のせいにしつつもめっちゃキラキラし始めた。

こんなにもチョロッチョロだからでかい暁とか言われてるの分かってんだろうか。

あの子も頭撫でてあげるとキラキラし始めるから可愛いんだよね。

 

 あと、このキラキラ。あのキラキラなんです。

つまり、現実世界の艦娘の要求を聞いて、よし楽しく話せたなってなるとゲーム内の彼女達もキラキラ光る。

1-1とか1-5キラ付け周回が要らないという神アプデなんですわ。

イベントの時何分もかけてキラ付けしたあの周回が必要ないって最高だよね。キラ付けによる俺の寿命がストレスでマッハだった頃が懐かしい。

てか、キラキラが現実世界とゲームでリンクしてるなら他の燃料とか弾薬もリンクしてくれませんかね? お願いします運営様。

 

 ただ、これにも問題がある。あ号が終わらないのだ。

あ号の為に1-1でキラ付けしようとしたら全員キラキラしてんだもん。キラ付けという目的の無くなった1-1周回とか苦痛そのもの。

まあ、その代わりに7-1周回が始まりました。デイリーの目標数いってないとなぜか秘書艦じゃないのに大淀が現れて俺の横に立ち始めるから怖い。

なんで目標回数いってないのわかんだろうか……

 

 

「さて、そろそろ行くか」

 

「ん゙ん゙……そうね。そろそろ行きましょうか」

 

「ビスマルクはそのまんまの格好でいいのか?」

 

「私のこれは汚れないやつだからいいのよ」

 

「いや、でも、今から行くの畑だぞ?」

 

「それが? 別のこの格好でも野菜の収穫ぐらい出来るわよ? 虫刺されとかそういうのは艦娘には関係ないし」

 

「言わなかったっけ? 今日は芋ほりするんだぞ。サツマイモがいい感じらしい」

 

「あぁ、あの甘い芋ね。で?」

 

「……わかった。ハッキリと言おう。ビスマルクの格好のまま芋ほりしたら今まで以上にパンツ丸出しになんだろうが」

 

「パンツ? あぁ、平気よ。これパンツじゃなくてズボンだから」

 

「ズボン!?」

 

「いや、驚くことじゃないでしょ? え、じゃあ、提督はずっと私がパンツ丸出しでも平気な艦だと思ってたわけ?」

 

「え、いや……もしかして、丸見えなの気が付いてないおっちょこちょいなのかなーって」

 

「あのね……こんなに短くてガードが完璧だなんて思ってるわけないでしょ」

 

「ですよね。はい」

 

 

 おでこに手を当てて「あきれた……」とため息をつくビスマルク。

だって、艦娘の感性って、正直よくわかんないし……ビスマルクに限らず多くの艦娘がほぼ丸出しみたいなスカート履いてたり、もう手遅れなレベルで丸出しだったりするじゃん?

そんな感じで堂々としてる子が多い環境なんだ。ちょっとぐらい勘違いするだろ。

 

 しかし、するとあれか? 実は艦娘のパンツはズボンだった?

スカートの下にズボンを履く。まあ、スカートの下にジャージを履く女子高生ぐらいの感覚か……

実際この前鈴谷がやってたしな。熊野にめっちゃ怒られてスカートの方を脱いでたけどね。

 

 あいやまたれよ。

そう、とある神が「パンツです」って言ってたよな。

つまり設定としてはパンツ。パンツがある世界観なんだよ。少なくともあの村にはパンツがあるわけだ。

他の子はどういう判定なんだろうか……パンツなのかズボンなのか……謎だ……

 

 

「ま、いいわ。今回は許してあげる」

 

「それは、ありがとう」

 

「じゃあ、いい加減行きましょうか。秋月達も首を長くして待ってるだろうし」

 

「あぁ、そうだな。悪かった。行くか」

 

「えぇ」

 

 

 そう言ってビスマルクは左手を差し出してきた。

言わんとすることはわかる。多分手を繋ぐとか腕を組むとかしたいんだろう。

しかし、この子さっき弱みが見せられないとかそんな事言ってたよな?

大丈夫? 君、俺とそんな事したらニコニコ笑いながらキラキラと星を飛ばす装置になるんだよ?

いっつもそうだもん。プリンツとかその写真を俺に見せてきて「このビスマルク姉さま可愛くないですか!?」って詰め寄ってきたのもつい最近の出来事よ?

 

 まあ、ビスマルクがいいならいいか。

俺の仕事は艦娘を甘やかす事。要望があればできる限り聞いて艦娘達の機嫌を損なわないようにってのがいっちゃん最初に渡された分厚いマニュアルに書かれていた。

んだけども、ここに居る艦娘達って基本的にどんな事をしても喜んでくれるから仕事してる感皆無なんだよね。

 

 だって、見てくれよこのビスマルク。

ただ腕組んでるだけなのにキラキラで床が埋まりそうだよ。これ、時間経過で消えなかったら凄い事になってたな。

あと、俺は食えなかったけど妖精さんはよくこれをむしゃこら食べてるから食べ物である可能性は高い。

もしくは妖精さん限定の燃料弾薬に相当するものかな。

君らよくそんな硬くてトゲトゲしたもの口に入れて怪我とかしないね。

先端が丸みを帯びているとはいえ痛いでしょ? 痛くないの? そっかー……

 

 そんな感じでビスマルクと妖精さんの相手をしつつ秋月達が待つ畑を目指して移動しているとだいたい他の艦娘達に呼び止められる。

むしろ呼び止められなかったことがない。

 

 

「あれ? Admiralさんとビスマルク姉さま? お昼にはまだ早いですよ?」

 

「今日はこれから秋月達の所へ行ってサツマイモ掘りの手伝いだよ」

 

「なるほど~! 私もご一緒してもいいですか?」

 

「構わないよ。ビスマルクもいいだろ?」

 

「もとより断るつもりなんてないわ。プリンツも一緒に行きましょ?」

 

「わーい! えとえと……じゃあ、ビスマルク姉さま! 私とも手を繋いでもらってもいいですか……?」

 

「えぇ、勿論」

 

「えへ、えへへ~」

 

 

 これは俺が呼び止められたのかビスマルクが呼び止められたのかわからんね。

プリンツは見ての通りビスマルク大好きっ子。まあ、時報でもさんざんビスマルクビスマルクって言ってたし想像に難くないってやつよ。

プリンツみたいにどう考えても俺より姉妹が大好きだろって子はそれなりに居る。

 

 だから、俺は明石に聞いたことがある。

「俺の事が好きじゃなくてもこっちの世界に来られるのは他の子に便乗しているからなのか」って。

それに対して明石は一瞬だけきょとんとした後に「そんなわけないじゃないですか」って笑顔でそう答えてから

 

 

「提督の事が好きじゃなかったらこっちの世界には絶対来れません。こっちの世界に来てる時点で提督への好感度は天井知らずです。天も次元も突破してますね。えぇ、間違いありません!」

 

 

 って自信満々に胸張って言ってた。

例えば横に居るプリンツなんかは俺よりもビルマルクが好きだって仮定する。

提督の事は天元突破に好き。でも、ビスマルク姉さまの方がもっと天元突破に好き。

みたいな引っ越し屋のCMのような状態なのかな……?

まあ、それも有り、だな。うん。

 

 つまり俺に出来る事はなるべくそういったタイプの子の邪魔をしないことだな。

わざわざ百合の間に挟まる男になりに行くようなへまは犯さない。

今だってあれやこれやとビスマルクに話しかけるプリンツを邪魔しないようになるべく空気になってる。

この笑顔は俺が守護らねばならぬ……

 

 

「ねぇ。ちょっと。ねぇ! 貴方プリンツの話聞いてる?」

 

「……え?」

 

「Admiralさんもちゃんと聞いててよ~」

 

「いや、ごめん。てっきりビスマルクに話を聞いてもらいたいのかと思って……」

 

「この状態で私だけに話しかけるわけないでしょ? プリンツをなんだと思ってるのよ」

 

「その、ごめんなプリンツ」

 

「いえいえ~でも、そっか……ん~じゃあ、Admiralさん! 私と手を繋ぎましょ!」

 

「え、ビスマルクと手を繋いでなくていいのか?」

 

「ビスマルク姉さまとも手を繋いでたいけど、それだとAdmiralさんが私の話を聞いてくれないみたいなので!」

 

「うっ……」

 

「手を繋ぐなんて生易しいわ。腕組んじゃいなさい。腕組んじゃえば顔の距離も近くなるし聞き逃しなんてなくなるでしょ」

 

「な、なるほどー……よ、よーし! Admiralさん! 左腕失礼しますね! えへへ」

 

 

 プリンツはしっかりとキリンさんもゾウさんも両方好きなタイプでした。

これ判断が難しい。プリンツはビスマルクの方が大好きガールに見せかけてしっかりと俺の事も大好きガールだったわけだ。他の……他の姉妹艦好き勢はどうなんですか、教えて明石先生!

 

 それから畑に着くまでプリンツとビスマルクがあれやこれやと最近の出来事を話すのを聞き続けた。

やれ、ビスマルク姉さまと何をした、何を食べた、と。うん。8割ぐらいビルマルクの話だったわ。

そういうのって普通本人が聞いてたら恥ずかしがったりするもんだけどビスマルクは良くも悪くも自信たっぷりな女性なのでプリンツの話に便乗してその時の自分はこんな感じだった。ゆえに褒めて! ってドストレートを投げてくる。

んで、そのドストレートを返球しようとすると横からプリンツがビスマルクの援護をするようにめっちゃおだてるのよ。

そうなると後は無限ループ。ビスマルク、プリンツ、ビスマルク、プリンツと交互に話をするので俺は適当に相槌を打つ装置になっていた。

 

 これ、あたい知ってるよ。永久機関って言うんでしょ。

そして、これの対処方法も知ってる。なるほど。すごいな。って言ってればいいって昔の偉い人が言ってた。

実際、ビスマルクは結構チョロいので結構これでどうにかなる。プリンツはビスマルクが褒められるとうれしくなるのか星出し性能が向上するので対処としては完璧だと自負しておりまする。

 

 しかしながら、畑に着いて「司令ー!」って俺を呼ぶ秋月が女神に見えるぐらいには疲れました。

ごめん。最初から女神だったな。失敬失敬。




シロッコが全然出なくて……


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23話

 鎮守府の裏手にある山の麓を切り拓いて作られた端が見えないぐらい広い畑。

今も誠意拡張中らしいその畑のそばに建てられた平屋の縁側で待っていた秋月の所へ近づいていく。

約束の時間はとうに過ぎているというのにニコニコと笑っている姿に俺は涙を禁じ得ない。

 

 にしても、秋月はしっかりと汚れてもいい服装に着替えてるんだな。

オーバーオールか。夕張がよく来てるつなぎとは違う良さがあるよね。

 

 

「秋月、すまん遅くなった」

 

「大丈夫です! 司令がお忙しいのはわかっていますから!」

 

「今日遅くなったのは提督が忙しかったからとかじゃないわ。ダッサいジャージから着替えるのに手間取ったからよ」

 

「……そこまでダサかったか?」

 

「そこまでよ。あなたあんまり服装に頓着が無いんだから自分の感覚を信じるのはやめなさい」

 

「そっかー……じゃあ、次に軍装以外を着る機会があったら近くに居る艦娘に見繕ってもらおうかな」

 

「こほん。私もあまり暇じゃないんだけど提督がどうしてもって言うなら服を選んであげてもいいわよ? どうしてもって言うなら」

 

「あっ! なら、私も! 私もAdmiralさんの服選んであげたいです!」

 

「あ、秋月は、そういった事には疎くて……すいません司令。お力にはなれそうにありません……」

 

「気にしなくていいよ。どうせそういう機会の方が少ないからな」

 

「機会は作るものよ。楽しみに待ってなさい!」

 

 

 無駄に上機嫌なビスマルクを横に秋月から軍手を貰い、秋月達のサツマイモ畑まで案内してもらう。

畑弄りをしてる子達で区画を分けて色んな野菜を育ててるらしい。

特に駆逐艦の子達は結構暇してるせいか畑で何かを育ててる子が多いとか。

 

 まあ、ね。この島の娯楽少ないから。

引きこもり体質の俺とかそういう艦娘達はいいけど、アクティブな子達には酷だと思う。

長良達なんかはよく暇つぶしに島の外周をぐるぐる走ってる。

そのせいなのかいつの間にか獣道ならぬ艦娘道が出来たらしくて、そのうち舗装をちゃんとして散歩コースにするって言ってたわ。

その散歩コースでデートしましょう! とか言われたけど歩きだよね? 走るとか言われても無理だからね。散歩だからね? って言ってはおいたけどあの笑顔分かってくれていたのだろうか……

 

 畑を横断していると結構な人数の駆逐艦が畑弄りをしていた。

パッと見てほとんどの畑は何を育ててるとかはわからないけど、目の前のこれだけは流石の俺もわかった。

暁が自慢してきた無駄に巨大なブロッコリー。暁の顔よりでけぇんだけど?

ブロッコリーの前でしゃがんでいた暁の隣にしゃがんでブロッコリーをまじまじと観察してみる。

 

 

「いや、凄いには凄いんだけどこれ、こんなにでかくなっても食べれるのか……?」

 

「えっ……んー……妖精さんはいけるって言ってるし食べれるんじゃない……?」

 

「なんか、ほら、こういうでかい奴ってでかくなるのに栄養使い過ぎて味が微妙って聞かない? おばけかぼちゃとかそうだった気がするんだけど」

 

「暁としてはそれはそれでありかなって。ブロッコリーって凝縮された森みたいな味で好きじゃないし……」

 

「えぇ……じゃあ、なんで育ててるんだよ」

 

「これは別に暁が食べたくて育ててるわけじゃなくて、戦艦とか空母の人たちが沢山食べるから育てて欲しいって鳳翔さんから頼まれたからなんだもん!」

 

「あぁ、なるほど。確かにあいつら食うもんな」

 

「これだけ大きければ味はともかく食べ応えはありそうね」

 

 

 この島の食糧は基本的には本土から送られてくるものでまかなっている。

が、送られてくる量と食べる量がどっこいどっこいなのが現状。つまり、常に食糧難なのである。

まあ、この子らは食べなくても生きていけるけど食と言う娯楽まで奪うのはかわいそうなのでそこの所は何も言わないでいる。

 

 だから、作られたのがこの畑。今の所は日本もこの子達を邪険にするつもりはないのか食糧は滞りなく届いてはいるけど、いつ届かなくなるかわからない。ので、困る前に作る。

それに食糧貰い過ぎて文句言われるかもしれないしね。本土の人たちに働かないで食う飯は美味いかと聞かれる日も遠くはない。

実際、畑を作るってのは文句よりも暇が潰せていいと好評だったりもする。

 

 

「まあ、嫌いな物を無理に食べろとは言わないけど、折角育てたんだし一口ぐらいは自分が作ったブロッコリー食べてみろよ? 食べてダメだったら近くの戦艦とか捕まえて口に中に放り込んでやればいいから」

 

「うぅ……わかった」

 

「よし。ていうか、今日は暁一人なのか?」

 

「んーん。響が水汲みで雷と電は別の畑を見に行ってるわ」

 

「ほーそっちは何育ててるんだ?」

 

「そっちはニンジンよ! ニンジンも凄くおっきくなってて味も良いし食べ応えバッチリって赤城さんに褒められたの!」

 

「赤城が褒めるなら問題なさそうだな。凄いじゃないか暁」

 

「そうでしょそうでしょ!」

 

 

 そう暁を褒めながら頭を撫でてあげれば相変わらずじゃんじゃんばりばり星が飛び出してくる。

そして、その星を妖精さん達が回収して地面に埋め始めた。

……それ肥料にもなるんですか?

 

 

「えっ……なぁ、その星って肥料にもなるのか?」

 

「うん、そうだけど? 司令官知らなかったの?」

 

「その星、キラキラって言わば弾薬や燃料に回さなかったエネルギーの塊みたいなものよ。ある意味で栄養たっぷりなんじゃないかしら」

 

「秋月達の畑でも妖精さん達がせっせと埋めてたのでそういうものなんだと思ってました」

 

「でも、これ時間経過で消えちゃうだろ? 埋めた所で消えてなくなっちゃうんじゃないか?」

 

「ふふふ、実はですねAdmiralさん! その星は消えているのではなくその場にしみ込んでいるんです! 建物にしみ込めばその建物を補強するし、こうやって土に埋めれば栄養満点の誰もが羨む土壌に変えちゃうの!」

 

「ほー」

 

「へー……」

 

「ふーん」

 

「そうなんですね! 勉強になりました!」

 

「えぇぇぇ! 秋月ちゃん以外反応薄くない!? Admiralさんの疑問に答えたプリンツは凄いなって盛り上がる所じゃないの!?」

 

「いや、十分驚いてる。驚いてるんだけど、またすげぇ事になってんなって一周回って落ち着いてしまっただけ」

 

「暁ちゃんとビスマルク姉様は!?」

 

「なんか前に響が言ってたような……言ってなかったような気が……」

 

「私はそういう情報あんまり興味ないもの」

 

「がーん……」

 

 

 ショックを受けるプリンツを慰める秋月。CV一緒だから脳がバグるんだけど。

慣れたつもりでいても結構バグる。特に駆逐艦なんかは後ろから話しかけられた時誰だかわからない時がある。

ゲームの時の決まったセリフじゃなくてその時々の状況に合わせた言葉だからだろうか。

満潮と霞に各々違うタイミングで「ねぇ、ちょっと」って言われた時は普通に間違えた。当然いじけられた。

だって、どっちもイラつきながら言うから声のトーン一緒だったんだもん……

 

 

「おや、司令官。こんな所でどうしたんだい?」

 

「お、響。いや、これから秋月の所でサツマイモ掘る予定なんだけど通り道で暁にブロッコリーを自慢されてな。見学してたんだ」

 

「へぇー。で、どうだい? いいサイズに育ってると思うんだけど」

 

「あぁ、よくここまで大きく育てたな」

 

「毎日、暁がポロポロと星を落としながら水やりや草むしりをしてたからね。おっきいの育てて司令官に褒めてもらうんだーって言ってたよ」

 

「あ、あぁっぁあぁ! ひ、響!」

 

「響、声真似上手いな」

 

「ありがとう司令官。で、暁。なんだい?」

 

「なんだい? じゃない! それ言わないでよ! 恥ずかしい!」

 

「暁も声真似上手いな」

 

「あたりまえでしょ! 声、一緒! んもー!」

 

 

 知ってます。なんなら定期的に鳳翔さんが君らの真似して甘えてくるもん。

耳まで真っ赤の鳳翔さんとかまぢ尊い……って言いながら隼鷹と酒飲んだりもする。

ついでに鳳翔さんに対抗して龍驤がにゃしぃって言ってきた時は思はず隼鷹とゲンドウポーズで続きを促してしまった。

だって、もっと聞きたかったんだもの。

 

 

「てか、褒めろ褒めろと言ってきたくせに普段の世話してる時の様子をバラされると恥ずかしいってどういうこと?」

 

「うぅ……だって、なんか普段から浮かれてるみたいで恥ずかしいし……」

 

「いいじゃん。暁のそういう子供っぽい所も暁のいい所じゃないか」

 

「むぅ……褒められてる気がしない」

 

 

 ふてくされてるのに撫でるとさっきより大量の星が出てくる不思議。素直じゃない所も愛い愛い。

しかし、これ大丈夫? 燃料不足になって動けなくなりましたとか言わないよね?

そうやって暁を撫でているとちょいちょいと袖を引かれる。

袖を引っ張った犯人の方を見てみると、帽子で顔半分隠しながら期待のまなざしを送ってくる響が居た。

上目遣い少女に勝てるおっさんなし。響の事もおーしおしおしと撫でまわしてあげた。

 

 二人をひとしきり撫でて俺も満足。二人も満足。ビスマルクが不機嫌と言う状態になったけどヨシ!

うちのビスマルクはホントゲームのビスマルクと比べて子供度が増し増しになってるとつくづく思うわ。

不機嫌なビスマルクは割とよくある事なので適当に頭をぐりぐりと撫でてあげてご機嫌取り。

これで機嫌が良くなるんだからビスマルクは暁といい勝負してるよ。

 

 二人と別れてからしばらく歩いてようやく秋月のサツマイモ畑に到着した。

なんかようやくって言うと長い道のりだったみたいな風に聞こえるけど実際は遠いとかそんなことない。

俺が歩くと艦娘に当たるってレベル。暁たちと別れた後も作物の隙間から次々に艦娘が現れてはこっちのも見てけ見てけと袖を掴んでは引きずり込むの繰り返し。

正直な話、途中で照月が「おっそいんだけどー!」って怒鳴りに来なかったらたどり着いたのが何日後だったかもわからない。

 

 ここまでの道のりで薄々感じてはいた。

そして、この畑を見て確信した。この島の作物は例外なくでかい。野菜も果物も一回りはでかかった。

当然、サツマイモもでかい。

葉っぱが既にでかい。これ、傘に出来るわ。

そんな畑の様子を眺めていると「やっと来たか」と腰に手を当てた初月が近づいてきた。

 

 

「遅くなって悪かった。一人か? 涼月は?」

 

「お前たちがあまりにも遅いからかぼちゃの方を見に行ってる」

 

「後で涼月に謝るわ。……それにしても、こいつら葉っぱから既にでかいな……これ、どんなバケモンが埋まってんだ?」

 

「前に掘ったやつは僕の腹周りぐらいの太さのやつだったな」

 

「マジか。そんなにでかいと俺の力じゃ掘り起こせなくないか?」

 

「実の所、お前に労働力的な部分はあまり期待していない」

 

「え、じゃあ、俺の意味は?」

 

「お前が最近運動不足だと聞いたからな。いきなり沢山動いても疲れるばっかりで嫌だろうから芋掘りで楽しみながら体を動かしてもらおうと思ってな」

 

「司令は疲れたらいくらでも休んでいいですからね!」

 

「提督はーえっと、あそこら辺なら小さ目で掘りやすいと思うんでじゃんじゃん掘っちゃってください!」

 

「お、おう。わかった。俺も俺なりに頑張ってみるわ」

 

「ま、困ったら私が手伝ってあげるわ。この子達ぐらいの大きさなら余裕よ」

 

「私も頑張っちゃいますよー!」

 

「おう。困ったときは任せるわ」

 

 

 小さ目で掘りやすい。俺はさっき間違いなくそう聞いたと思う。

サツマイモって茎を追って土を掘っていってサツマイモ本体が見えたらその周りの土を軽くどかして折れないように引っこ抜く。

サツマイモが想定されてるサイズならそれでぼこぼこ掘れる。幼稚園児だって泥だらけになりながら出来る作業。

 

 なんだけど、やっぱサイズおかしいわ! 

さっき照月は絶対ここら辺は小さいです! って元気いっぱいに言っていたはず。

が、それはやっぱり艦娘基準だった。普通にでかい。俺の腕の二倍ぐらい太いやつがゴロゴロ出てくる。

長さだってそれに見合ったサイズなもんでっから、まだ30分も経ってないのにもう俺の腕はパンパンさ。

 

 ちょっと離れた所でバンバン引っこ抜いていってる秋月達がおじさんにはちょっと信じられません。

まあ、横で俺が引っこ抜ききれなかったサツマイモを一息に抜いていく戦艦とか重巡とかも居るんだけどね……。

 

 

「ちょっと、もう疲れたの?」

 

「運動不足のおじさんなんだ。ちょっとは手加減してくれ……」

 

「ダメよ。せめてこの一列ぐらい頑張りなさい。そしたら休んでいいから」

 

「あーえっと、Admiralさん。そしたら、私がスコップで掘り起こすのでAdmiralさんはサツマイモを引っこ抜く作業だけお願いします!」

 

「悪いな。助かるよプリンツ」

 

「うぇへへ~いいんですよ、Admiralさん!」

 

「……私も手伝うわよ?」

 

「ありがとう、ビスマルク」

 

「あの、提督」

 

 

 涼月もお手伝いしましょうか? と、二人とは別方向からかけられた声の方を見てみれば、他の姉妹とお揃いのオーバーオールを着た涼月がおずおずと手を挙げていた。

君達はホントに何を着ても様になるからおじさん羨ましいわ。

 

 

「あぁ、涼月おかえり。今日は遅くなってごめんな」

 

「いえ。お気になさらないでください。涼月もかぼちゃ畑の方へ行っていて遅れたのでお相子です」

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

「はい。それで涼月は何をお手伝いすればいいですか? 提督の汗、拭きましょうか?」

 

「え、いや、いいよいいよ。汗ならこの首に巻いたやつでどうにかするから。そうだな……って俺よりも姉妹の手伝いをした方がいいんじゃないのか?」

 

「このぐらいの広さなら姉さん達は苦も無く作業を終わらせられます。それよりも、提督が疲労で倒れてしまわないかの方が涼月は心配です」

 

「あなた、基本的に執務室に籠りっぱなしだから体力が無い人だって認識されてるみたいね。もっと外に出て運動して、体力あるんだぞってアピールしていかないとこういった子はどんどん過保護に世話を焼いてくるわよ」

 

「そうだな……そろそろアレを実施すべき時なのかもしれない。武蔵ブートキャンプ……」

 

 

 前々から武蔵には腹や尻を触られては「相棒はもっと運動をしよう。なに、この武蔵に任せておけ」って言われてるしね。

有酸素運動で脂肪を燃やし、無酸素運動で筋肉をつける。

そう言いながらタバタ式トレーニングをさせられて死にそうになったのもつい最近。

その後、マウンテンクライマーとかプランクとか追加でさせられそうになって逃げた。

あいつ手加減ってものを知らない。しかし、ついにその手加減知らずに助けを乞う日が来ようとはな……

 

 

「まあ、あなた少しお腹も摘まめるようになってきたしちょうどいい機会でしょ」

 

「な、なんでそのことを……」

 

「秘書艦だもの」

 

「えぇ……いいなぁ。やっぱり、ビスマルク姉様ばっかりズルい! 私も秘書艦やりたい!」

 

「おじさんの腹周り情報からその結論に至る理由がわからないよ」

 

「涼月も秘書艦やってみたいです。秘書艦になったら提督のお世話をすることが出来る上にお冬さんにも会えますし」

 

「お冬さんには会えないよ。その子はまだ実装されていないんだ」

 

「えっ?」

 

「Admiralさんのお腹周りが気になるから秘書艦がやりたいんじゃなくてそれ以外の情報も欲しいから秘書艦やりたいんです!」

 

「いやよ。私、まだ秘書艦やってたいしプリンツには譲らないわ」

 

「……お冬さんが居ない?」

 

「涼月のそれはネタでやってんのかマジなのか分かりにくいな……」

 

「あー! 居たぁ! 司令官ってば暁たちには会っていったのになんで私達の方には来てくれないのよ!」

 

「おっと、騒がしくなってきたぞ」

 

 

 普段は俺と誰かが作業なりなんなりをしている時は挨拶してくるぐらいでそれ以上の接触をしてこない彼女達。

多分、木曾と天龍がローストビーフ丼をカッ喰らいながら教えてくれた淑女協定とか乙女協定とかそういうアレコレのおかげだと思う。

それのおかげで俺が対応しきれるだけの艦娘達しか俺に接触してこない感じになっている。

ちなみに詳しい内容は教えてくれなかった。けど、お詫びにとローストビーフを1枚ずつくれたのでその話は追及しなかった。美味しかった。

 

 でだ。そうは言っても彼女達にだって我慢の限界みたいなものがしっかりとある。

いくら協定だなんだと言ったって目の前にぶら下がってるニンジンをいつまでも無視はできない。

すると今回みたいに秋月達と作業してるにもかかわらず、雷が突撃してきた来た。そしたら電だって突撃して来るし、なんなら暁と響も一緒。

そうなるともう遅い。今回はいいのかって感じになるらしく、畑のそこら中に居た子達がわらわらと集まり始めていた。

 

 

「ねぇ、司令官。見て、この秋ナス。おっきいでしょ?」

 

「睦月型会心の出来にゃしぃ!」

 

「ほらほら、兄貴! このニンジンだってでかいぞ! 甘みもすっごいンだからな! どこのやつよりもうめぇぞ!」

 

「お兄ちゃん。ほら、こっちの方が大きいよ」

 

「分かった。分かったからナスとニンジンを顔に押し付けるな」

 

「提督、提督! 見て見て! このサツマイモ! 照月よりおっきいよ!」

 

 

 群がってくる駆逐艦の奥から照月が大物が採れたと自慢をしにこちらに向かってきていた。

いや、それもうサツマイモじゃないでしょ……なんだよ、それ。流石に常識の範疇に留まれよ。

そんな感じの否定的な言葉が出そうになったけど、照月のはじける笑顔を前に呑み込んだ。

 

 つーか、推定50kgはあるであろうサツマイモを持ってそんな軽々しく駆け寄ってくるんじゃあないよ。

なんかの弾みで俺に飛んで来たら死んでしまう。事はないか。こんだけ周りに艦娘が居たら飛んできたサツマイモが粉々か。

そしてそんな、超巨大なサツマイモっぽい何かが俺の目の前に無事到着したわけだけど……

 

 

「ほら、これ凄いでしょ!」

 

「ホントにサツマイモか、これ。サツマイモっぽい別の生き物なんじゃ?」

 

「えーでも、妖精さんがサツマイモで間違いないって言ってるよ?」

 

「妖精さんはそういうの分かるのか?」

 

「ほらほら、首取れそうなぐらい頷いてるしサツマイモだって!」

 

「そっかー……これがサツマイモ……マジでやべぇな」

 

「お、居た居た。ほら、司令。俺達の作ったたまねぎも見れくれよ! でかいだろ!」

 

「嵐! 司令は今お忙しいんだから……」

 

「今日はみんなで自慢大会みたいになってんだしいいじゃん」

 

「うわっなんだこのオニオーンみたいなたまねぎ。こっちもこっちででかすぎんだろ……」

 

「だろー? こいつ、前に間宮さんに渡してオニオンスープにしてもらったんだけどめちゃくちゃ美味くてさ。でかくて味もいい。これはもう俺の勝ちだよな?」

 

「はぁ? このニンジンだってでかいし味もいいンですけど? 嵐だってこの前美味い美味い言いながら食べてただろ?」

 

「あぁ、あの時は確かにそのニンジンが最強だと思ってた。でも、それはこのたまねぎを食べる前の話だからな。江風もこれを食べたら分かるぞ」

 

「ふふン、いいねいいね! この江風さん達に勝負を挑むと!? いいよ! 受けてやるよ! 晩飯で勝負だな!」

 

「あぁ、いいぜ。司令も良かったら食ってくれよな」

 

「あぁ、楽しみにしておくよ」

 

 

 そんな約束をしている最中も「これも見てこれも見て」と駆逐艦が雪崩のように押し寄せてくる。

正直、捌ききれません。もうとりあえず、持ってくる物全部にいいね押しました。

 

 ただし、雪風にドン引きされながら時津風が持ってきたモグラだけにはいいねしませんでした。

この島にもモグラって居るんだなって感動したけど畑的には害獣だし今のタイミングはちょっと違うんじゃないかなって。三番目に強いとか力説されてもダメです。逆にいったい何匹居るのか気になるだろ。

 

 サツマイモ掘りどころじゃなくなってすまんと視線を向けてみれば、大量のサツマイモを背に休憩中の秋月型とビスマルクとプリンツが視界に入ってきた。

山じゃん。山の様なサツマイモ。略して山芋。種類変わっちまったな……

まあ、あんだけよく掘ったよ。ホント、俺は戦力として数えられてなかったんだなって実感させられるわ。

うん。筋トレ……絶対しよ。

 



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24話

 俺はあまりにも貧弱すぎる自分の肉体を悲しく思っている。

あの日、芋掘りで痛感した運動不足を解消すべく俺は武蔵ブートキャンプを行った。

案の定、翌日と言わずその日のうちに筋肉痛になりましたね。はい。

まあ、あれよ。何日も経ってから筋肉痛になるみたいな年寄りみたいなことにならなくてよかったわ。

 

 と言うか、俺の超人細胞は仕事してくれないの? 劣化版とは言え艦娘細胞。少しぐらいはパワー側にも恩恵あるでしょ。

そう思って改めて明石に聞いたんだけど、

 

 

「え? ないですよ? 前にも言いませんでしたっけ? 提督に怪我をしてほしくないって想いで作った物ですからね。それに凄いパワー、要ります? 考えても見てください。私達艦娘は言わば提督の手足です。提督のパワーと言っても過言ではありません。つまり、提督は既に凄いパワーがあるようなものですね」

 

 

 そんな感じで押し切られた。

いや、ちゃうねん。やっぱ、男に生まれたからには的な感じあるじゃん?

例えそれが自分の努力の末手に入れた物でなくてもやっぱ貰えるものは欲しかった。

力が欲しいかって聞かれたら欲しいって答えるし継承しろって言われたら継承する。

 

 まあ、何が言いたいかと言うと筋肉痛をどうにかしてぇ……

いつもの調子で体を動かそうとして走る痛みがどうにも嫌なんだよね。

勿論、最初の頃は「この痛みは筋肉が喜んでる証拠」って思ってたんだけど数日続くとね。つらいよね。

クエン酸とビタミンCがいいらしいですとか言って色んな子が料理を持ってきてくれたけどそれ食べたらなんのために体をいじめてるのか分からなくなってしまうのよ。

分かってんのか、特に厨房組このやろう。

 

 あとはマッサージも良いんですよ組かなぁ。

金剛がやってくれようとしたけどあれはもうマッサージの域を超えてた。

一応マッサージの部類に入るんだろうけど筋肉痛には効かないと思うんだよね。

流石は愛し合う方法は一つじゃないデースみたいなことを言ってのけただけはあるなと感心してしまったよ。

もちろんマッサージ案は却下した。だって、そうしないと周りがどんな反応示すかわからんもの。

やだよ。金剛の提案だと一日中風呂場に居る事になるからな。ふやけちまう。

 

 

「で、そんなのから逃げてここに来たわけ? はい」

 

「まあ、そうなる。今はタブレットがあるから執務室じゃなくても艦これ出来るしな。ありがと」

 

「ふーん。そこはアタシに会いに来たって言ってくれてもいいんじゃない、クソ提督」

 

「流石に誰がどこで何してるかまでは把握してないからたまたまだな。それに曙は俺より後にこの部屋に来たじゃないか」

 

「それでもそう言うのが大人の男性だって潮が言ってたんだけど?」

 

「あの子はちょっと夢見る乙女な部分があるからね」

 

「アタシもそういう部分があるって言ってんのよ」

 

「……曙がここに来るかもしれないと思ってここで待ってたんだよ」

 

「まあまあ。棒読みな所が大幅減点ね」

 

「……そうか」

 

「……てゆうかさー提督もぼのぼのもイチャイチャするなとは言わないけど鈴谷も居るんだけど? なんなら提督の腕の中に居るんだけど? 鈴谷挟んでイチャイチャするのはなんか違くない? あと、ぼのぼの。鈴谷にもみかん剥いて!」

 

「その体勢で自分はイチャイチャしてないって無理があるわよ? 先に見せつけてきたのはそっちじゃない。あと、そのぐらい自分でして」

 

 

 このぐーたら重巡は俺がこの部屋。つまりは、娯楽室に入ってきた時には既に居て、ジャージ姿でゴロゴロとゲームをしていた。

熊野が前に「鈴谷は娯楽室の主って言われてもおかしくないぐらいあそこに居るんですのよ? そのせいなのか服装も……」って延々と愚痴ってた。

ゲーム内のキラキラとまぶしい青春真っ盛りJKみたいな鈴谷はうちには居ない。

うちに居るのは干物女鈴谷。ゲームとアニメを好み、娯楽室で「神珠でないなぁ」って言ってる奴。

 

 そんな鈴谷は俺が部屋に入ってくるのを見て、ちょいちょいと手招きしてきた。

「はいここ座ってー」と座椅子に座らされ次の瞬間には鈴谷が俺の上に座っていた。

正直、駆逐艦達の感覚で座られると……重い。比較的育ってるなって駆逐艦よりも育ち切って肉肉してる重巡のが重たいってのは当たり前か。

 

 だから、「重いからどいて」って言いたい。言いたいんだけどね。

鈴谷には悪いけどこの重みって、こう、とても、いやらしいって感じ。

俺がこんな体じゃなかったら爆発してたと思う。

まあ、流石に太ももの血が止まって痛くなってきたから膝上から股の間に移動してもらったけどね。

 

 

 

「てかさーさっきの話なんだけど、どっちかって言うとぼのぼのが提督を探してこの部屋に入ってきたって方が正しいよね? もしかしたら二人きりになれるかもって? ぼのぼのは可愛いなぁ」

 

「うっさいわよ」

 

「で、どうなん提督」

 

「タブレットに漣からメッセージ入ってるぞ。ぼのぼのがルンルン気分でスキップしながらそっちに行ったから相手したげてーって」

 

「なーんだ。やっぱりそうなんじゃん。素直じゃないなーぼのぼのは」

 

「漣め……あとで覚えてろ……」

 

「そう送っとくよ」

 

「顔真っ赤なぼのぼのかわいい~。うりうり」

 

「触んな!」

 

「あんぎゃ! みかんの汁が目に!」

 

「んごぁ!」

 

「あっ」

 

 

 みかんの汁にHPが減るほどのダメージ判定は無かったらしく痛みで鈴谷の頭が後ろにはねる。そして、ピタゴラ式で鈴谷の後頭部が俺の顎に直撃して俺の頭が後ろに吹き飛んだ。

いくら防御力に振ってるって話でも艦娘の攻撃力にはかなわないんだぞ……

全く意識してなかったタイミングで艦娘の後頭部を顎で受けても失神しない程度には頑丈という事は確認できてしまった。

くっそ痛いけどね……痛み耐性もください……下の歯折れてないだろうか……

 

 

「ほれのふぁふぉれてたりしふぁい? ふぃとかふぇてふぁい?」

 

「ご、ごめんなさい、提督。えーっと大丈夫? あー! えーっと、痛い? 痛いわよね? えーっと、痛いの痛いのーとんでけー! え、えーっと!」

 

「うべぇぁ……」

 

 

 曙は卓を飛び越え、俺の横に来て鈴谷をどかして俺の口の様子を見てくれている。

完全に血の気が引いている顔で見てくるもんだから俺より具合が悪そうで逆に心配になる。

でも、曙が絶対に言わなそうなランキング上位に食い込みそうなワードが飛び出すレベルでテンパってるのが可愛い。

それと、そろそろ曙の膝の下で呻いている鈴谷も割とかわいそうなのでやめるように。

みかんの汁という昼戦を超えて膝の追撃戦とでも言えばいいんだろうか。

 

 

「ん、ん、あーあーうん。大丈夫。曙、俺はもう大丈夫だから。ほら、鈴谷も痛そうだからそろそろどいてあげて」

 

「ホントに?」

 

「ホント。だから、どいてあげて」

 

「目と後頭部と背中がヒリヒリするぅ……」

 

「鈴谷のは自業自得よ。いいから提督に謝って」

 

「ごめん、ていとくぅ~大丈夫だった?」

 

「あぁ、思ってた以上に頑丈な体になってたおかげで助かったわ。鈴谷の後頭部がぶつかって唇すら切れてないのはちょっと驚いたけど」

 

「クソ提督の体も順調に人を超越しつつあるって事ね」

 

「どんどん鈴谷達の力が馴染んでいって最終的には提督も艦息子になっちゃうのかな」

 

「艦息子ってなんか響きが嫌だな」

 

 

 勢いのある後頭部を喰らって外傷無しな上にもう痛みまで引いてやがる。

艦娘が近くに居ると細胞が活性化されるって明石が言ってた気がするしたぶんそれだな。

鈴谷が居て曙が俺の顔に手をやってたからバチバチに回復力が上がったんだろう。

これ、そのうち部位欠損のZ指定な現象が起こっても治りそうだな。

実際艦娘もバケツで何でもかんでも治せる凄い体だしなくはないか。

デイリー消化で傷付いた子達を入渠させてはバケツをぶっかけていく作業をしながら納得する。

 

 そういや、今の季節限定衣装は秋刀魚だったな。

秋刀魚。あいつ骨がうざくて食べたくないんだよなぁって言ったら鳳翔さんが秋刀魚の骨全部抜いてから出してくれたんだよね。

そういうつもりで言ったんじゃない。ごめんなさいって言ったら「こういう料理なので問題ありませんよ」ってフォローされたわ。

もう今後は小さいガキじゃあるまいし好き嫌いはしないし言わないようにって心に決めたよね。

 

 それはさておき。秋刀魚mode。

慣れ過ぎて忘れてたけど俺もうーちゃんから秋刀魚Tシャツ貰って着てたなって。

それに目の前の曙。今は普通にいつもの服装だけど画面の向こうじゃ今までのF作業ガチ勢の服装じゃなくて三角巾にエプロンと秋刀魚祭りお手伝いmodeで非常にキュートな格好をしておられる。最高か? 最高か。

 

 

「なあ、曙」

 

「何? みかん食べるの?」

 

「いや、これ。この公式衣装とかって持ってないのかなって」

 

「どれ? あぁ、あるわよ。あるけど、それ三角巾とエプロン付けたらいいだけだから別に公式衣装とか無くても出来るわよ」

 

「……確かに。そう言われたらそうか」

 

「鈴谷も秋刀魚modeになれちゃうよ。なろうか?」

 

「うちの鎮守府だけ期間限定衣装とか関係ないっての強すぎんな」

 

「クソ提督の目の前に居るのなんて期間限定衣装ですらないわ」

 

「鈴谷グータラニートmode」

 

「ホント神アプデ」

 

 

 いやー衣装チェンジとか最近は割とよくあるシステムだし運営さんもこれに関しては実装してみてもいいのではと。やってくれたら喜ぶ人多いんじゃないかな。絵描きの人とか大喜びよ。

瑞鶴の決戦仕様とか好きだからそれで置いておきたい。たぶん、瑞鶴からは恥ずかしいから変えてと言われるだろうけど俺が好きなので絶対に変えない。絶対に、変えない。

 

 そこで一旦会話が途絶えて、各々自分がやりたい作業をし始めた。

俺は艦これ、鈴谷は狩り、曙は何するわけでもなく俺をぼーっと眺めたり鈴谷の狩りを見たりしていた。

これ、俺が曙を構わないとダメな流れなんだろか。

後で、漣が何を言ってくるかわからないし潮と朧もあれで結構圧が強い所がある……

というか現在進行形で圧をかけられている。

 

 明石が作った鎮守府内限定メッセージアプリにさっきから「お前を見ているぞ」「提督……」「曙ちゃん、暇そうですよ?」って漣、朧、潮からピコンピコンと通知が鳴りやまない。

この部屋監視カメラでもあんの? 暇そうですよってこの状況を把握してないと書けないよね?

 

 

「あー、んー。あー曙」

 

「なに?」

 

「最近、その岸波が曙について回ってるって聞いたんだけどどうなんだ?」

 

「どうって……別に?」

 

「そっか」

 

「……いや、二人とも会話急に下手になりすぎでしょ。え、さっきまで普通に話してたじゃん。あ、なに? さっきあまりにもテンパり過ぎて痛いの痛いのとんでけーとか言ったの今更恥ずかしくなったとぉふぁ?」

 

「は、はぁ? 何言ってんのこの口は!」

 

「にゃはは! にぇじゅぼしぃじゃん!」

 

「何言ってんのかわかんないわよ!」

 

「そら、曙が鈴谷の頬を鷲掴みしてるからな」

 

「冷静なツッコミ入れんな!」

 

「ごみん」

 

「にゃはは!」

 

 

 小さい子供に威嚇されておとなしく引く大人はちょっとカッコ悪い気がするけど曙おっかないんじゃ。

女性を怒らせたらとりあえず謝っとけって教えてくれたのは腹を押さえてうずくまった親父。

俺の妹は勇ましいのでビンタなんて生易しい事はせず、音を置き去りにしそうな正拳突きをしてくる。

小さい時から俺が集めた漫画を読んでたせいかなって気もしないでもない。

てか、親父……謝っても殴られてるじゃん。

 

 

「あ、いきなり怒鳴ってごめんなさい。ちっ……鈴谷が悪いのよ!」

 

「え~ぼのぼのの自爆じゃーん。てか、そんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うよ。ぼのぼの可愛かったし」

 

「かわいいとか言うな」

 

「提督もそう思ったでしょ?」

 

「そうだな。あのテンパり具合は正直凄く可愛かった」

 

「はぁ!? ちょ、クソ提督何言ってんの?」

 

「真実」

 

「こ、ぐっ、クソ提督!」

 

「ぼのぼの罵倒に切れがないぞぉ?」

 

「うっさい。黙ってなさい、ぐうたら重巡」

 

「うぼぉ。み、みふぁんふぁ!」

 

「さっきみかん欲しいって言ってたでしょ? 嬉しい? 嬉しいわよね? クソ提督もこの緑みたいになりたくなかったらそれ以上変な事言わないでよね」

 

「わかった。わかったからみかんを置いてくれ。それは一気に口に放り込むには大きすぎる」

 

「わかればいいのよ。わかれば」

 

 

 そう言って曙は手に持っていたみかんをむしりむしりと小分けにしてから俺の方へと寄せてくれた。

ちなみにその間も鈴谷は口の中に放り込まれた少し大きめのみかんと格闘していた。

下手に噛むと汁がえらいことになると察したのか舌をもごもごと動かしてどうにかしようとしていた。

一度口の中に入った物を外に出さないというのは非常に好ましい事だけど「んく、んく」って喉鳴らしたり、時折疲れたように息を吐くのもどうにかしてもらいたい。

そんでもって最後は「結構大きくて大変だったよ」ってしなだれかかってくるもんだからやばい。

この調整済みの体じゃなかったらどうなってたんだ……

 

 最近はこんな感じでちょっと攻めた感じでじゃれてくる子が多くなってきた。金剛とか金剛とか金剛とか……

この部屋に逃げてきた理由でもあるんだけど困る。

据え膳とは言うもののお互いに食べる部分がほぼない。俺なんて立たないわけだし。

ちなみに金剛にそのまま言ったら「? 提督は面白い事言いますネー! 食べる所なら一杯ありマース!」って元気よく俺の意見を否定してきた。

どこをどうするのか気にはなるけど取り返しがつかなくなりそうだったから俺はここに居るわけよ。

 

 

「あんた口の周りべっとべとよ。食べるの下手ね」

 

「えぇ……いや、あの食べ方しかできないようにしたのぼのぼのじゃん」

 

「は?」

 

「圧。駆逐艦の圧じゃないから。そういうのはもっと別の子が出す類の圧だから」

 

「知らないわよ」

 

 

 今のは機嫌が悪い時の満潮と霞レベルだな。一瞬そう口に出そうとしたけど多分良くないことが起こる。

こういう女性同士のじゃれ合いに口出しすると大体めんどくさい事になる。ソースは、高校時代の俺。今でも泣きそうになる。

 

 

「クソ提督。顔に出てるから」

 

「……何が?」

 

「霞と満潮だったらどっちの方が優しいのかしらね」

 

「まあ、落ち着け。俺、何も言ってないだろ?」

 

「クソ提督って自分で思ってるよりも顔に出てるからね?」

 

「いや、二人の名前が挙がった時点で顔に出てるってレベルじゃないんだけど? 顔に書いてあるの? スタンド能力でも使った?」

 

「漫画やアニメじゃあるまいしそんなの使えるわけないじゃない」

 

「君がそれを言ったらおしまいじゃないか……」

 

「で、どうするの?」

 

「話を聞こう」

 

「七駆と岸波と一緒に晩御飯でいいわ。今日は、いいアジが釣れたのよ」

 

「いいなぁ。鈴谷の分は無いの?」

 

「今、鳳翔さんに開いてもらってるから1枚ならあげるわ」

 

「ぼのぼのはやっぱり優しいなぁ」

 

「みりん干しとか作る予定だからクソ提督は楽しみにしてなさい」

 

「それは楽しみだ。最近はよく飲むからおつまみが増えるのは嬉しい」

 

 

 酒、飲まずにはいられないって勢力がね。強いんだよ。

毎晩じゃないけど拉致られて食堂で飲むかすでに出来上がった奴らが執務室になだれ込んでくるかで飲んでる。

ここに来る前じゃあり得なかった頻度よ。飲食より課金だった頃からすると健全になったのかどうなのか。

 

 しかし、さっき聞きそびれた岸波との関係は良好らしい。晩御飯を一緒に食べる仲なら悪いとは言わんでしょ。

日がな一日糸を垂らしているらしい曙とそれに倣って糸を垂らす岸波ってのは結構有名。

岸波がこっちに来た次の日にはもうそんな感じだったから岸波が押し切ったのか曙がラブリーマイエンジェルだったのか漣たちに確認までした。

結果は勿論ラブリーマイエンジェルだったというのは今更な話。

 

 そんな感じで仲がいいのは知ってたけど実際に曙の口から聞けたのはよかった。

ゲームだと岸波からのボイスはあるけど曙からは無かったからどうなのかなって思ったけどやっぱり曙は面倒見がいい子だった。

 

 

「クソ提督は何枚までアジの開き食べられるのかしら? 10枚? 20枚?」

 

「俺は君たちと違うんだからそんなに食べられるわけないだろ」

 

「でも、ほら。あたしってクソ提督から面倒見がいい艦娘って評価らしいしクソ提督の面倒も見てあげようかなって。一先ずお腹がはち切れそうなぐらい食べなさい」

 

「もう普通に俺の考えてる事が読まれてるのはこの際横に置いておこう。ただ、その怒ってるのか恥ずかしいのかわからない八つ当たりはやめよ? 食事ってのは美味しく食べれる量がいいんだ。わかるだろ?」

 

「晩御飯に出るのはアジフライよ? 今日のアジは肉厚で噛み応えもいいわ。それに鳳翔さん特製のタルタルソースもたっぷりとつけてあげる。クソ提督ってタルタルソース好きでしょ? ご飯にかけて食べるぐらい好きだってみんな知ってるぐらいだし」

 

「あーね。提督って結構な頻度でタルタルソース丼食べてるよね。鳳翔さんが無理なく提督が太ってくれるって喜んでた」

 

「え、そんな馬鹿な。タルタルソースは美味しいからカロリー0だってうーちゃんが……」

 

「いや、そんなトンデモ理論はないからね? 提督ってばイヤイヤ言いながらも順調に鳳翔さん達に堕とされていってるね」

 

「なんてこった……」

 

「そもそも卯月の言ってる事信じたらだめでしょ」

 

「いや、まあ、流石に信じてたわけじゃないけど、もしかしたらうーちゃんもたまにはホントの事言うのかなって」

 

「残念だったわね。当然嘘よ。じゃ、今日もたっぷりとタルタルソースを食べて肉付き良くなりなさい。潮が提督はもう少し肉付けた方がいいって言ってたわよ」

 

「潮までそっちサイドなのか……意地でも筋肉つけてやる」

 

「いや、潮はどっちかというと……まあ、いっか」

 

「あ、神珠」

 

 

 出たことが嬉しかったのかやったーっと今まで以上に鈴谷が俺にもたれ掛かってくる。

褒めて褒めて―と夕立みたいな事を言いながら頭を鎖骨にぐりぐりと押し付けてくるから、はいはいと左手で適当にわしゃわしゃと頭を撫でてあげる。

なんだかここに来てからこんな感じで女性に触れるのに抵抗がなくなってきた気がする。

最初の頃にはあった女性に触れるのはいかがなものかとっていう思考時間が日に日に減っていく感覚……艦娘達による調教は上手くいっているようですね……

 

 

「また変な事考え始めたでしょ」

 

「え、いや、まあ、世間一般的には変な事ではあるかもしれないな」

 

「どのみち細かい事でしょ。クソ提督はもっと大雑把に物を考えちゃえばいいのよ」

 

「そうそう。ここに一般常識なんて関係ないない。艦娘は提督に触れてもらえてうれしい。提督も女の子に触れられてうれしい。これでいいじゃーん」

 

「その緑の言ってるのは極論だけどまあそういうことよ。ね? 難しくないでしょ?」

 

「また、緑って言った―! ねぇ、なんかぼのぼのがこの数時間で随分と鈴谷の扱いが酷くなってる気がするんだけど? けど?」

 

「今までの自分の行いを思い出してみなさい。そうしたら、自ずと答えは出てくるでしょ」

 

「いつもとそう変わらないやり取りだったと思うんだけどなぁ。あと、鈴谷ってどっちかって言うと緑よりも水色じゃない?」

 

「どっちでもいいわ」

 

 

 ほらほら提督も見て見てーと髪の毛をフリフリと振る鈴谷とそれを呆れた目で見る曙。

曙的には鈴谷は漣と同じ枠組みなんだなって。たまにあんな目で漣を見てるのを目撃する。

鈴谷も漣も曙を構い倒すタイプだからだと思う。曙を構いたくなる気持ちはわからんでもない。

口ではあーだこーだ言いながらも最後は付き合ってくれる捻デレだしね。

なんて二人のキャットファイトを眺めていると部屋のドアが勢いよく開いて件のピンク髪が入ってきた。

 

 

「すぽおおおおおおおおおおん! いえーい、ご主人様元気してますー? おやつの時間ですぞー!」

 

「うるさ。あんた、もっと静かに入ってこれないの?」

 

「失敬失敬。ご主人様が居ると思ったらちょっとばかしテンション上がり過ぎちった」

 

「漣ちゃん前に進んで~」

 

「こらまた失敬。潮も朧もどうぞどうぞ。前に進んでくだされ」

 

「提督。今日のおやつです。はい」

 

「大学芋、スイートポテト、さつまいもケーキにさつまいもスティック。さつまいも羊羹なんてのもありますよ。どれにします?」

 

「さつまいもしかないじゃん。鈴谷、しょっぱいおやつな気分だったんだけどー」

 

「さつまいも、文字通り山のようにありまするからなぁ。お塩持ってきてますけど、さつまいもスティックにかけてみます? もしかしたらもしかするかもしれませんぞ?」

 

「漣は何を目的としてこのラインナップに塩が必要だと判断したんだ?」

 

「いやーご主人様。漣もこのラインナップはちょっと甘すぎるかなって思ってます。なんで、定期的に塩舐めて緩和できないかなって」

 

「じゃあ、他になんか別のおやつ持ってきなさいよ……なんで調味料チョイスしたの……」

 

「漣も分かんにゃい……」

 

 

 そんな二人をよそにさつまいも大好き娘な潮はさつまいもスイーツのプレゼンを行い、朧はこっそり「これ朧が作ったので食べてください」とスイートポテトを差し出してきたので食べてあげた。

うん。美味い。学生の頃に弁当に入ってた冷凍ものとは全然違って口の中に匂いが広がる感じがいい。何個でも食べれそうだわ。

まあ、実際に何個でも食べれそうって言ったら山みたいに置いてあるスイートポテト全部口の中に放り込まれそうだから言わないけど。

 

 

「おぼろんはぼのぼのと違って攻め攻めじゃん?」

 

「提督って受け身ですしガンガン行こうぜの方がいいかなって」

 

「結構肉食系な意見で鈴谷びっくりだよ」

 

「朧、他の子と違って影が薄いので提督に少しでも覚えててもらえたらなって」

 

「影が薄いなんてそんな事ないよー! ほら、提督もなんか言ったげで!」

 

「え、あーそうだな……気の利いたことは言えないが朧の事を忘れたりなんかしないから心配しなくても大丈夫だぞ」

 

「でも、漣みたいに明るくないし潮みたいなさつまいもおっぱいも無ければ曙みたいなツンデレでもないし……」

 

「誰がツンデレか、誰が」

 

「さつまいもおっぱい……?」

 

「え、ぼのぼのツンデレの自覚無かった系? まあ、最近はツンデレというか捻デレというか」

 

「は?」

 

「暴力は反対ですぞー!」

 

「こんな感じで個性に埋もれるというか」

 

「言わんとすることはわかるけど気にし過ぎはよくないぞ。この子らがあまりにも個性的すぎるだけだって。可愛い真面目一途は十分に強個性だ」

 

「さつまいも……」

 

「わかりました……でも、提督へのアタックは続けます!」

 

「そ、そうか……まあ、そのお手柔らかにね? 俺、食い過ぎて太っちゃうから」

 

 

 てか、さつまいもおっぱいに対するフォローは誰も入れないのか。潮がさっきから死んだ目で「さつまいも」としか言ってないぞ?

俺が言ったらセクハラになっちゃうから! 誰かフォロー入れたげてよ!

いや、しかしさつまいもおっぱいはドメ肉に通じるものを感じてちょっといいなって思ってしまった。

略すならさつぱい? あ、でも、これだと皐月っぽいからなんか違うか。

 

 とりあえず、俺が食べる分減らしたいから潮の口の中におかし突っ込んて行くか。

言葉にはしないけどなんとなくフォローしてます感出していこう。

 

 そう思って、潮におかしを食べさせた事を俺は後悔した。

いや、最初は潮だけだったんだよ? 次にこの部屋に居る全員に食べさせた。ここまでは良かった。

気が付いたら新客の赤城が居て「よろしくお願いします」って……

そこからあれよあれよとどんどん艦娘が増えていって俺はその日寝るまで誰かにあーんをしてました……



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