英雄の卵たち (ペーダソス)
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プロローグ

 

 

「フッ、せいっ!はっ!」

 

 拾って削って作った自前の木の棒を槍の様に自在に振り回して動きを確かめ最適化させていく。

 

 前世の記憶を持って生れた弊害と言える誤差を修正していく。前世のオレは190有ったが今世では160。未だ14歳だからまだ伸びるはずだ。

 

「おい、お前。神器を持っていやがるな?」

 

 鍛練中に背が高めの男がやって来た。セイクリッド・ギアか……確かにオレは神器を持っている。神ヘスティアが運営する孤児院育ちのオレが知らない訳がない。神器は8歳で発現しており、既に禁手に至っている。

 

「持っていたら何だ?」

 

「俺は、英雄ヘラクレスの魂を受け継ぐ者だ。強くなる為に色んな奴に戦いを挑んでてよぉ。お前の槍捌きを視てて挑みたくなったんだよ」

 

 ヘラクレスの魂を受け継ぐ者……ね。

 

「成る程。で?お前がヘラクレスの魂を受け継いでいるってどうやって証明すんだ?」

 

「あ?んなの闘えば判ることだろ?」

 

「いや、もっと簡単で判りやすいのがあるぞ」

 

 オレは持っていた木の棒を投げ捨てて拳を構える。

 

「オレと同じ師(・・・)の教えを受けたなら……何をすれば良いかもう判るだろ?英雄ヘラクレスの魂を受け継ぐ者」

 

「同じ師だと……?」

 

「そういやぁ、自己紹介をしていなかったな。オレはお前と同じ様に英雄アキレウスの魂を受け継ぐ者だ。さぁ、構えろ兄弟子(ヘラクレス)!本当に魂を受け継いでいるってんなら師ケイローンから教わったパンクラチオンで真偽を決めようぞ!!」

 

 そう、パンクラチオンだ。師ケイローンから色々教わったがアキレウスとヘラクレスの真偽を問うならコレだろう。魂を受け継いでいるって言うならヘラクレスがその生涯で昇華させた武の記憶があるはずだ。オレも魂が覚えている槍術を確かめていたのだからきっとあるだろう。

 

「ああ、そうだ。そうだ、パンクラチオンだ!確かに俺とお前がヘラクレスの魂とアキレウスの魂を受け継いでいるという証明をするなら(コレ)が良い。神器なんかない時代の魂を持つ俺らが、師ケイローンから文字通りに叩き込まれ魂に刻んだ技こそが相応しい!」

 

「応とも!さぁ、ヘラクレスの魂を受け継ぐ者よ、準備は良いかっ!まさか神器ばかり使って身体が鈍っているなんて言い訳なんかしないよなぁ?」

 

 口角をつり上げながら二、三度拳を振って相手の返答を待つ。

 

「へっ、確かに最近は神器ばかり使っているが心配すんな。師ケイローンから教わった技は魂に刻み込まれている。ではいくぞ、アキレウスの魂を持つ者!」

 

「来い、ヘラクレスの魂を持つ者!ギリシャ神話(オリンピア)の神々に、師ケイローンに今から始まる武闘(パンクラチオン)を捧げようぜ!」

 

 拳を再度構えて同時に相手に向かって駆け出す。

 

「はあああぁぁぁーーー!!」

 

「うおおおぉぉぉーーー!!」 

 

 単純な殴り合いから投げ、絞め、蹴り。パンクラチオンの名の通り『全力』で己の武を相手に叩きつける。純粋な殴り合いなぞ久しぶりだ。小さい子どもの時に同じ孤児院の奴と喧嘩した時以来だ。

 あっちもこっちも純粋な殴り合いは久しぶり。条件はほぼ同じ、だからこそ─────

 

「「勝つのは、オレ()だーー!!」」

 

 時間を忘れて目の前の相手との殴り合いが楽しい。魂が奮える様な感覚に酔う。これが、闘うという事、武勇を競うという事か。

 

 羨ましい、前世のオレ(アキレウス)はこんな闘いをしていたと言うのか。甘美な蜜を飲むが如く、この味をもっと味わいたいと思ってしまう。さっきのヘラクレスが言っていた様に渡り歩くのも良いかもしれない。

 

 だが、しかしオレはこの武を力を護るべき者たちの為に振るい、必ず帰るべき場所に帰る為に高めるのだと。

 

 ヘスティア義母さんへの恩返しもしていないこの身は、恩を返してからが本番だと…心に言い聞かせる。

 

 

 

 

 三十分、そうオレとヘラクレスは三十分間も全力で殴り合いに興じていた。

 

 そして、闘争の気配を感じてやって来たヘスティア義母さんに見つかり闘いは勝者、敗者を決めずに終わった。

 

 




口調が時々変わるのは、魂が高ぶった影響でハイになったからです。


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1話

 

 

 ヘラクレス───今はアルケイデスになっている───との殴り合いからそれなりの月日が経った。

 

 孤児院にアルケイデスが加わって一緒に武を競いあったり、下の子どもたちの面倒を見たり充実していたが……。

 

 

 ある日、魔剣と龍の神器を持った少年と聖剣の神器を持った少女と癒しの神器を持った少女が孤児院に来たことで自身がやりたい事が見つかった。

 

 悪魔、天使、堕天使の三勢力に虐げられた人を……仲間、家族を護る槍となる事だ。

 

 

 やりたい事が見つかって直ぐに孤児院の同年代の奴らと話し合った結果、ヘスティア義母さんと他神話から数名の神々に後ろ楯になってもらい、聖書の三勢力によって家族を喪った子ども又は神器持ち、無理矢理転生させられて逃げてきた悪魔の保護、後ろ楯になってもらった神から無理のない範囲の依頼を受けたりする組織が出来た。

 

 

 

 組織の名は『英雄の卵(ヒーロー・エッグ)』。アキレウス(オレ)やアルケイデスは確かに英雄の魂を受け継いでいるが、本人ではない。英雄と呼ばれたのは前世であって、現在()のオレたちではないからだ。

 

 『英雄の卵』のリーダーは三国志の英雄曹操の子孫である《曹操》だ。

 曹操とは、仲間探しをしていたときに会ってからの付き合いだ。ぶっちゃけるとテロリストか、て言いたくなるくらいの考えを持っていたが、伝家宝刀『殴り合い(話し合い)』で説得して仲間になった。

 

 組織の一部の者───英雄の魂を受け継ぐ者と英雄の血を受け継ぐ者───は英雄の名前をそのままコードネームとしている。

 

 そして組織と協力関係になった神話から本()たち曰く面白そう(ボランティア)でやって来た暇をもて余していた武闘派たち───斉天大聖、アーレス、テュール、カーリー、スサノヲ───によるスパルタ修業が所属神話の若い衆も巻き込んで盛大に行われた。

 

 

 

 そんな阿鼻叫喚に巻き込まれた縁で仲良くなった者が『英雄の卵』に所属していたりする。後、定期的にスパルタ修業は行われており非戦闘員以外はボロボロにされている。

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 ────『英雄の卵』本部会議室。

 

 

 

 備え付けられた円卓を囲む数は五。

 

 リーダー(代表)兼事務の曹操。

 幹部兼近距離戦闘班部隊長兼運搬班のアキレウス。

 幹部兼中距離戦闘班部隊長兼保父のアルケイデス。

 支援救護班部隊長兼調理班のアーシア・アルジェント。

 冥府から『英雄の卵』所属になった近距離戦闘員兼掃除班庭師のベンニーアだ。

 

 

「今回は少数精鋭って事か…それで今回受けた依頼はあの骸骨(ハーデス)様からだったけか?」

 

「その通りだよ、アルケイデス。堕天使の幹部であるコカビエルに盗まれたケルベロスの回収が仕事だよ、一応ね」

 

 アルケイデスの言葉に答える曹操。

 冥府の神ハーデスからの依頼ではあるが、ハーデスは偏屈と呼ばれている事から何かしらの思惑があると分かっている為か最後に『一応』が付いている。

 

 

「骸骨様の事だから聖書の三勢力、今回の場合ならケルベロスの強奪と殺しで堕天使と悪魔を強請(ゆす)るネタにするんじゃねぇ?その辺どうなん、ベンニーア」

 

《う~ん、たぶんでやんすがアキレウスが思った通りだと思うっすよ?ケルベロスが生きていればそれで良いでやんすが…まあ、ハーデス様ですし…嫌がらせできればそれはそれでって感じでやんしょ?》

 

「それじゃあ私が今回行くのは傷ついたケルベロスを治療するためですか?」

 

「そういう事。今回、俺はあの書類の山を減らさないとヴァルトラウテから催促が来ちまうからよろしく頼むよ。ま、アキレウスとアルケイデスがいればコカビエルなんて瞬殺出来ると思うから心配なんかしないけど気をつけて………ああ、後、アーシアは頑なに携帯を持たんあのゲオルク(霧メガネ)に連絡して、コカビエルが向かった駒王町に跳んでくれ。……何か質問は?」

 

「フリードはどうすんだ?」

 

 

 北欧から来てくれた戦乙女のヴァルトラウテはアドバイザー兼曹操の秘書として組織に在籍しており、生真面目秘書による書類地獄に眼から光が消えかけている曹操に質問をする。

 

 《ジークフリード》の片割れフリードは、『英雄の卵』の中でも特殊な仕事、潜入・諜報の仕事をしている。今は堕天使組織に潜入調査を行い、情報を此方に流している。

 コカビエルが駒王町に行った情報があるのはフリードのお陰だ。

 

 

「ああ、フリードは逃がしてくれ。フリードにはそのまま『禍の団(カオス・ブリゲード)』の潜入調査をしてもらうつもりだ」

 

「うわぁ~……続投かよ。フリードの奴大丈夫か?」

 

 

 アルケイデスに心配されるフリード。………まあ、他人から観たらほぼブラック企業と感じるだろう。まだまだ組織の人数が少ない為に兼任ばかりだし、素人集団と然程変わり無い。

 

 次の潜入先の『禍の団』は聖書の三勢力に対する反対勢力で組織されているとのこと。どんだけ不満が溜まってたんだろうか。

 

 

 

「一応休暇は上げてるから大丈夫のはずだ。念のためにジークにジャンヌ、リナルド、コンラ、ルフェイ、黒歌、風魔、張飛、モードレッドも潜入させるからフリードの肩の荷は軽くなるさ」

 

「ぅおいぃ、待てや曹操ォ!それだと組織の幹部と部隊長がごっそり居なくなってんじゃねぇかッ!!」

 

《そうでやんすよ!それってあっしらに絶対皺寄せが来るパターンでやんすよ!》

 

「そうだぜ、曹操!後、二、三人減らすか人選変えろよ!ただでさえガキ共の世話してんのに仕事増やす気か!」

 

「うぅ…掃除班に洗濯班、買い物班、教育班。教育班以外はフォロー出来ますけど……」

 

 

 それぞれの言いたい事を言ったが、アーシアが言う通り教育班以外はフォロー出来る。そもそもオレたちの大半は学校にまともに行った事がないから教える物がないからフォロー出来ないのである。

 

 

 

 そして会議室にため息の音だけが木霊(こだま)した。

 

 



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2話

小説タイトルを変更しました。


 

 

 

 ブゥー…ブゥー…ブゥー…。

 

 ため息をした後で静かになっていた会議室に携帯のバイブ音が響いた。自分の携帯だと気づき直ぐに確認する。

 

 

「あれ、アキレウス。もしかしてその携帯…プライベート用のを買ったのかい?」

 

「まぁなぁ。仕事とプライベートは分けたくてなぁ……曹操はプライベートの時間をもう少し増やした方が良いんじゃねぇかぁ?……その内過労死するぞぉ」

 

「……ああ、そうするよ。ヴァルトラウテに相談しないとな……あの書類地獄を抜けれるか分からないが……。おっと、俺の携帯にもメールが……」

 

 

 曹操の社畜具合いを確認しながら携帯を操作する。

 

 メールの相手は……どうやら少し前に出会ったメル友からだった。メル友だけど喫茶店でお茶をしたり、相談事や愚痴を言い合ったり、情報交換するぐらいの仲だ。

 

 メールの内容を確認して勢いよく立ち上がってしまった。同じく曹操も立ち上がっていた。

 曹操の顔を見たが少し険しい表情になっていた。どちらかと言うと常に笑みを浮かべたポーカーフェイスなので表情が変わるのは珍しいと言える。

 

 

「曹操さん、アキレウスさん、どうしたんですか!?」

 

《もしかして…コカビエルが動いたんでやんすか?》

 

「ああ、フリードからコカビエルが魔王の妹とその眷属たちと駒王学園で戦いをおっ始めるらしい。アーシアは直ぐにゲオルクに連絡を、アキレウスのメールも同じか?」

 

「おう、ほぼ同じ内容だ。メール相手はオレの事をフリーのはぐれ狩りだと思ってるからな。コカビエルを倒すのを手伝ってほしいっていう連絡だ」

 

 

 メール相手には、オレは駒王町の近くに住んでるって言ったから即戦力として来て欲しいのだろう。オレに連絡を送るってことは援軍が来るのが遅い、若しくは来れない可能性があるからか……。

 

 

「おい、アキレウス。そいつに組織(俺ら)の事言ってねぇのか?……て言うかどんな感じで出会ったんだよ」

 

「まぁ、初めて会った時はまだ組織は枠組みしか出来てなかったし…あの娘を暴漢から助けたっていうありふれた理由だよぉ。……それよりも中庭に移動して霧メガネを待とうぜぇ」

 

《結構露骨に話しを切ったでやんすね~》

 

「あのコって事は女の子か…アキレウスにも春が来たのかぁ」

 

 

 

 

 …………うっさいっての。

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

「仕事だ。出てこい、ゲイル」

 

 

 中庭に着いて直ぐに自身の神器を呼び出す。

 

 オレに宿ったのは独立具現型神器で名称は『蒼嵐の蛟(サファイア・スネイク)』。能力はいたってシンプルで水と風を操れる事。後、二十メートルぐらいの長さまで大きくなれる。鱗が蒼玉(サファイア)の様に煌めいているのが特徴的だ。

 

 (みずち)と呼ばれる蛇の化け物で龍の様な見た目だが、蛇だ。そう、龍ではなく蛇である為に龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の効果の対象外なので初見殺しを狙える。脚が無くて腕だけは生えているから普通に見たら高確率で誤解するだろう。

 

 

 関係無い話だが、アポプスと八岐大蛇とヴリトラ、グレンデルは何で龍に分類されているのだろうか……。伝承の通りなら蛇のはずだ。アポプスとヴリトラは百歩譲って龍で良いけど、八岐大蛇……名前に大蛇ってなってんのに何でだ?それにグレンデルって巨人の類いだと思ってたんだがなぁ……。伝承と実際の乖離が大きい事に驚いたのが懐かしい。

 

 

 

 

「ほら、みんなゲイルの背中に乗れよ。転移して直ぐに戦闘になるだろうからなぁ。しっかりと掴まっておけよ」

 

「おう」

「はい!」

《はいっす》

 

 ゲイルの背中に乗り別空間に容れているメイン武器である槍の中で最も攻撃性能が高い槍を取り出しメンバーが後ろに乗ったかを確認する。

 木製の弓と矢筒、片手斧を持つアルケイデス、シスター服の上にガントレットを装備したアーシア、死神(グリム・リーパー)の正装と鎌を持つベンニーアがゲイルの背中に乗り背中に生えている毛を掴んでゲオルクが来るのを待つ。

 

 

 ────が、一分も経たずに紫の霧が現れ眼鏡の下に見える隈と無精髭を生やした男がやって来た。

 

 幹部兼後方魔法支援部隊長兼研究班兼運搬班のゲオルクだ。『英雄の卵』内で最も多く兼任している者の一人であり、上位神滅具(ロンギヌス)の一つ『絶霧(ディメンション・ロスト)』の所有者だったりする。

 

 運搬班である理由は、所有している『絶霧』には転移能力が備わっているからという分かりやすい理由だ。

 

 今回の様な任務が無ければ一日の大半を研究室で過ごしており、身だしなみを気にしないほど魔導具などの研究に没頭している。兼任の意味がほぼ無いと言っても過言ではない。

 

 

「全く、任務があるならとっとと連絡を寄越せ。研究に費やす時間が減るだろ」

 

「だったら携帯持てよ。魔法使える奴じゃねぇと連絡取れない取らないって舐めてんのかぁ?いや、舐めてやがるな。よし、取りあえず…この槍をお前の研究室に投げてやろうかぁ?」

 

 

 そう言って槍の力を少しだけ解放すると、先端から紫電が発生する。

 それを見たゲオルクは顔をしかめて渋々携帯を持つことを了承する。

 

 

「はぁ、分かった。携帯を持つからその槍の解放は止めろ。アキレウス(お前)の持つ槍の中でも数少ない本物(・・)だろそれは……。被害想定をもっと考えろ明らかに俺の研究室以外も吹っ飛ぶ」

 

 

 一応言質を取ったので槍の解放を取り止め紫電を消す。

 

「では、今からお前たちを駒王学園の上空……グラウンドの上辺りに転移させるから後は自分らで対処してくれ」

 

 

 ゲオルクの言葉に耳を傾けながらゲイルの身体に触れ力を込めて、転移して直ぐに攻撃されてもダメージが少ない様にしておいた。

 

 

 紫の霧に包まれ、包まれた霧が消えて眼に映ったのは、倒れ伏しているケルベロスを背に聖剣らしきを持っているフリードが金髪の悪魔と戦っている所だった。

 

 



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3話

 

 『絶霧』の転移で駒王学園に到着して直ぐに行動を開始する。グラウンドには悪魔数人と教会の戦士とフリードが金髪の剣士と対峙しているのを見てメンバーに指示を出す。

 

 

「アーシアとベンニーアは降りてケルベロスの治療とその護衛、アルケイデスは弓矢で敵への攻撃と牽制、オレはケルベロスを移動させる!異論はっ!」

 

「ねぇよっ!」

「ありませんっ!」

《無いでやんす!》

 

 

 アキレウスが指示(命令)を出しているが本来は曹操が指示をする事になっている。その曹操は書類地獄で滅多に現場には出向けない。その為、スパルタ修業の時ぐらいにしか今の所は生かされていない。……事務仕事の指示は充分生かされている。

 

 現場に来れない曹操に変わって現場に向かう部隊長は部隊を動かす為に自然とその指示能力が上がる事になっている。一部当てはまらない者も若干名いたりするが……。

 

 

 アキレウスはそのままゲイルに乗ったままグラウンドを横断していく。光の槍が上空から放たれていたが、アルケイデスの持つ弓の力で増えた矢がアルケイデスの神器の能力の爆発を付与され、矢が爆破し槍を砕いていく。

 

 

「ゲイル、ケルベロスを尻尾で持つか口に咥えて運べ。まだ、辛うじて生きてるからなぁ。……ってかさっきから光の槍ウゼェ……な、とっ!」

 

 

 矢の爆発を逃れた光の槍を持っていた槍で砕く。武神のスパルタ修業に付いていっているアキレウスらにとってはこれぐらいは軽いジャブ程度にしか感じない。武神が槍を投げる速さは修業時は亜音速がデフォルトである為か、アキレウスはしっかりと視認して対処できる。

 アキレウスはゲイルから降り、アルケイデスの方に向かって声をあげる。

 

 

「おい、コラァ、アルケイデス(偽筋野郎)!なに撃ち漏らしてんだよ。その弓使ってて外すって下手くそかっ!『剛爆(ごうばく)』の二つ名が泣くぞぉ!」

 

「うるせぇんだよ、アキレウス(鈍足野郎)!あんな()っせぇ槍程度でガタガタ言うんじゃねぇ!んなこと言う暇があんならとっととケルベロス運べ!テメーこそその槍と『穿蛟(せんこう)』の二つ名返上しろやっ!」

 

 

 売り言葉に買い言葉。組織結成前からの仲による気安さからか分からないが、アキレウスとアルケイデスが争うのは然程珍しい事ではない。二つ名は小さい子どもたちが日本文化を齧った結果、厨二病っぽくなった子が言っていたのを使っているだけだ。決して自分たちから言ったわけではない。

 

 

 

「盗っ人烏よりも先にオメェーからぶっ倒すぞ!」

 

「面白れぇ、だったら盗っ人烏よりも先にテメーを月までぶっ飛ばしてやる!」

 

 

《いや、何で戦場のど真ん中であんたらが喧嘩するでやんすか!?》

 

 

 組織に入って日が浅いベンニーアからの当たり前なツッコミがグラウンドに響いた。因みにアーシアは苦笑いを浮かべながらゲイルが持ってきたケルベロスの治療をしている。

 

 

 

「………貴様ら、今何て言った」

 

 

 上空で偉そうにふんぞり返っていた堕天使のコカビエルがこめかみに青筋を浮かばせて苛立ちながら問いを投げる。

 

 

「ああ?ああ……おいアキレウス(鈍足野郎)面倒だからお前が何とかしろよ。今のメンバーのリーダーはテメーだろ」

 

「……チッ、わぁーったよ。おい、そこの盗っ人烏。何で盗っ人烏かって言ったら…冥府からケルベロス、教会から聖剣を盗んだからに決まってんだろ?依頼人もお前らの事は烏って言ってるしな」

 

「何だと……そうか、貴様らの依頼人はハーデスか!あの骸骨風情が……」

 

 

 一人でぶつぶつ言っているコカビエルを一瞥した後、アキレウスはアルケイデスとの会話を続ける。

 

 

「どうすんだ?別段、アレを倒せとか言われてないしよぉ……おっと」

 

「そうなんだよなぁ……ケルベロスの回収しか言われてないし……ほいっと」

 

 

 アルケイデスは当たる前に神器『巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)』の爆破で光の槍を破壊し、アキレウスは手に持つ魔槍で破壊する。

 

 そして、攻撃相手に向かって────

 

 

「人が喋ってんのに攻撃か……てかアキレウスもう良いよな?」

 

「おうよ。今のはオレもイラッてきたからよぉ……ゲイル」

 

 

 ケルベロスを運び終えたゲイルが所有者の意図を汲んで近づく。

 

 

「ふん、神器を持った人間風情が調子に乗るとは愚かだな。このまま俺が貴様らを殺して───」

 

 

「「禁手化(バランス・ブレイク)!!」」

 

 

 コカビエルが言葉を言い切る前に二人は禁手(バランス・ブレイカー)を発動させる。

 

 

禁手(バランス・ブレイカー)深淵に哭き回帰する蛟龍人(アビス・レヴォリューション・ドラグーン)』!」

 

禁手(バランス・ブレイカー)超人による星砕く一撃(デトネイション・マイティ・メテオ)』!」

 

 

 

 アキレウスの禁手は、アキレウスの身体と独立具現型神器の蛟が一体化した姿だが、蒼玉に輝くその鱗は黒が混じり不気味な色合いになっている。これは神器の深奥でゲイルと魂を合わせた結果であり、辛うじて人の形をしているが表面上は全て蛟に置き換わっており、既に本来の身体の四分の一は蛟の身体に変異している。

 本来の禁手は黒くなかったが深奥で魂を合わせた事で後天的に亜種化し、新たに〈回帰〉の能力を行使出来る様になった。

 この状態だと空中を足で駆ける事が可能になり、北欧の神から預かった魔槍『ブリューナク』の投擲したら雷になる特性を生かして、大気中の水分と風を操り確実に敵を貫く一撃に変貌した。

 

 

 

 アルケイデスはその禁手に至る前に考えた。武神に修業を見てもらっているが、奴等でさえ防御しなければ命を落とすかもしれない一撃がどうすれば出来るかを色々調べ見つけた〈圧縮〉という文字。そこからヒントを得たアルケイデスは至った 。

 爆発の力を高密度に圧縮させた一撃を矢の形にする事で、北欧の神から預かった弓『イチイバル』の放った矢は十倍になる特性によって龍王、魔王クラスでも掠っただけで重症になるかもしれないモノとなった。

 弓が無くても禁手化する前の状態のように身体から放つ事も可能。

 

 

「ほう……既に禁手に至っていたか。悪魔の赤龍帝や聖魔剣、デュランダル使いよりも楽しめそうだ。さあ、来い人間ども俺を楽しませろ!」

 

 

「楽しませろ?(わり)ぃが今からやんのは……一方的で理不尽な蹂躙だ」

 

 

 アキレウスとアルケイデスはそれぞれの得物(武器)を構え、力を解き放った。

 

 

「ブリューナク!」

「イチイバル!」

 

 

 勝負は一瞬で、一方的に、理不尽に決まった。

 

 解き放たれた雷の魔槍は堕天使の左肘から下とその後ろにあった黒翼を焼滅させ、投擲者の手元に回帰し収まった。

 

 魔弓から解き放たれた爆発を圧縮させた矢は堕天使の右肩から下とその後ろにあった黒翼を消滅させ、張られていた結界を破壊し夜の闇に消えていった。

 

 



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