ナイトウィザードオリキャラ短編集 (volrent)
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設定
設定集?


設定の量などが人によってマチマチなのは勘弁してください。



本間(ほんま) 和弥(かずや)

 

性別:男

歳:17/高2

クラス:キャスター/異能者

 

・短編は主にコイツを中心に書かれていく予定。

・基本的にゲスい。あだ名はクズ、もしくはクズヤ。

・そんな強くない。弱体魔法特化。

・ウィザードの才能もなければ現実において何か才能があるわけでもない。容姿も平凡。性格のせいでモテる要素は皆無……のはずが身内には人気。

・絶対女子にウケないと思って作った。

・才能は無いはずなのにアンゼロットやベルに一目置かれている……らしい。コイツにだけは関わりたく無いとかなんとか。

・魔法の射程をゼロ距離にする《サイコブレード》のせいで魔法職のキャスターでありながら前衛。能力は低いのでディフェンダーがいないと死ぬ。

 

・作者の持ちキャラ。プレイヤーのゲスい部分が前面に押し出されている……らしい。

 

 

 

漿鳳院(しょうほういん) 鑽霞(きりか)

 

性別:女

歳:17/高2

職業:高校生/陰陽師

 

身長:164cm

体重:53kg

 

誕生日:2月14日

 

クラス:陰陽師/ヒーラー

 

一人称:私

二人称:〇〇(名前)君/さん

 

・クラスの委員長。頼れるお姉さん的な感じ

・有名な漿鳳院家の長女。には代々交友関係があり、度々協力をしている。

・妹が2人(14歳/中2・12歳/小6)おり、よくなつかれている。

・お付のメイドが3人いる。鑽霞が学校に行っている間は漿鳳院家内でお掃除などを行い、任務中は護衛及び、パーティーを組んだりしている。たまに鑽霞とは別に他の任務に行ったりもしているらしい。

 

・ある休暇(温泉旅行)中、温泉魔王クロウ=セイルと遭遇したことがあり、(たまたま、露天風呂で知らずに声をかけたらクロウ=セイルだった。)それ以来仲良くなり、たまに(1ヶ月に1回程度)2人(+メイド)で温泉旅行にいったりしている(メイド以外誰も知らない)。

 

・ちなみに舌はかなり肥えているが、料理の腕は絶望的。

・何が絶望的かというと、見た目はもの凄くおいしそうに見えるが、その効果は某あかりんのお弁当をも凌駕する。ちなみに本人はその腕に気づいているが、料理は好きなので、たまに練習しては、誰かに食べられて、被害が出る。

 

・好きなもの:温泉(お風呂)、妹、ケーキ、クロウ=セイル、メイド、料理

・嫌いなもの:虫(毛や足が多いやつが苦手/芋虫→おk、毛虫→絶叫or気絶、G→おk、ゲジゲジ→悲鳴and気絶)、辛いもの

 

・作成者は作者のリプレイに出てくる『DBS』。設定が多分一番多い。

・「いい加減クズヤとくっつけろよ!」と作成者が言ってきた。

 

・作成者によると「彼女の料理を食べた者は大変美味しい料理を食べたという記憶しか残らない」という裏設定があるとのこと。

 

 

 

伊藤(いとう) (りょう)

 

性別:男

歳:17/高2

クラス:アタッカー/侵魔召喚師

 

・爽やか系イケメン。

・和弥の親友兼悪友である。しかしストッパーでは決して無い。

・学校生活では和弥が涼の引き立て役である。が、戦いにおいては和弥の引き立て役になる。

・良く毒を吐く。女子には人気。

・クラスから戦闘方法が全く想像つかない。

・メインウェポンは『ガンナーズブルーム』

・武器職のアタッカーで和哉より能力が高い癖に後衛。魔法職の和哉を前面に押し出すナチュラル鬼畜。

 

・作成者はサークル外の作者の友人。多分リプレイにも出てこない。

 

 

 

御剣(みつるぎ) (いつき)

 

性別:女

歳:17/高2

クラス:ヒーラー/魔剣使い

 

・ちょっと目元がキツイ美人系女子。普通に美人。

・性格はクソ真面目。だが和哉の影響か少し柔軟になってきたらしい(作成者談

・和哉達と良くつるむ(作成者談

・何故か、ちょっと和哉に気があるらしい(作成者談

・困ると和哉を頼るようになった……らしい。

・作成者が「ヒロインにしてやってくれ!」と頼み込んできた。でもその予定はない。

・コイツもクラスから戦闘方法が想像つかない。

 

・作成者は作者の友人その2。女子ロールが上手い女顔。




とりあえずあげておきます。勿論後から増えます。


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本編
【本間和哉】さんの場合


その内なんとか設定を纏めて設定集を挙げます。


 オレの名前は【本間和弥(ほんまかずや)】。

 輝明学園に通う高校二年生、17歳。

 これでもウィザードの端くれだ。

 と言ってもウィザードとしての才能は無いんだがな。

 そんなオレは今、学校で昼飯をつついていた。

 

「頼むカズヤ!この通りだから!」

 

 突然オレに頼みごとをしたコイツの名前は【伊東涼(いとうりょう)】。

 涼やかで爽やかな笑顔が似合うイケメンで少々毒がある。

 オレの親友だ。

 立場的にはPC3だな。

 オレが。

 

 「は?」

 

 「和哉しか頼るやつがいなくてさ!スクールコロシアムのパートナー」

 

 「は?」

 

 「いや、は?じゃなくて。あるよな?学内のウィザードを争わせるコロシアム」

 

 「そりゃ、知ってるけど」

 

 スクールコロシアムとは輝明学園で開催されている学生ウィザードの腕試しの場だ。

 鍛練に鍛練を重ねると景品が貰えたりする。

 

 「で、そのパートナーをして欲しいんだよ」

 

 「ふ~ん……ま、いいけど。じゃあ条件がある」

 

「ああ、なんでも言ってくれ!」

 

 オレは笑顔を浮かべ、右手の親指で地面を指した。

 

「土下座しろ」

 

「え?」

 

「聞こえなかったのか?ド・ゲ・ザ。土下座しろ」

 

 オレの言った言葉に教室(事情を知ってるやつしかいない)の空気が凍りつく。

 

『お、おい、でたぞ』

 

『さすが、〈卑怯・姑息・鬼畜〉の三拍子揃ったド外道……親友すら足蹴にするとは』

 

『そこに痺れる憧れる!』

 

 オレにウィザードの才能はない。

 それでもオレの名は有名だ。

 そう、人はオレのことをこう呼ぶ。

【ホンマ クズヤ】、と。

 

 

 

 あの後、涼に土下座させて優越感に浸ったり、それを見た教室の女子の悲鳴を聞いてさらなる満足感を得たオレはスクールコロシアムに参加することになった。

 今回のコロシアムはトーナメント形式。

 そしてオレ達は順調に決勝まで勝ち上がった。

 

「ここまで長かった。ホント、色々あったよな……」

 

「……一回戦は相手と仲良く飯を食うフリをして下剤を飲ませ不戦勝。

 二回戦は対戦相手に試合時間と重なるニセのラブレターを送って不戦勝。

 準決勝は試合会場に移動中の相手チームを背後から襲って意識を刈り取り不戦勝。

 ……全部不戦勝だな」

 

「フッ、あまり誉めるな」

 

 相手チームが“偶然”棄権続きになり決勝まで進むことが出来た。

 ホントーに運が良かったぜ(棒)

 

「しかし、さすがに決勝ともなると相手は罠にかからないな」

 

「問題ねぇよ。それも想定済みだ」

 

「さすがクズヤさん。まあ、初めての戦闘だし、頑張ろうかな」

 

「やる気があるようでなにより……対戦相手が来たみたいだぜ」

 

 そして会場の反対側から現れたのは両方とも女子のチーム。

 入ってきて早々ツリ目がちの女子の方がオレに人差し指を向けて言いはなった。

 

「お前が本間和弥か!?」

 

「何?カズヤあの子と知り合い?何か睨んでるけど」

 

「心当たりが多すぎてワカンネ」

 

 一々罠にかけた奴の顔とか覚えてねーよ。

 

「貴様!姑息な手段で勝ち上がって来たらしいな!恥ずかしいとは思わんのか!?」

 

 あーこのタイプか。

 だが、真面目ちゃんはひとつ勘違いをしているようだ。

 狭い視野を広くしてやろう。

 

「姑息、ね」

 

「そうだ!戦いの構えすらしていない者を影から襲うなど許されることではない!」

 

「おいおい……お前、実際にエミュレイターと戦う時に同じことを言えるのか?」

 

「な、何?」

 

「エミュレイターは待ってはくれないぜ。それこそ突然襲ってくる。その時お前は“戦いの準備が出来てないから待ってくれ”なんて言えるのか?」

 

「そ、それは」

 

「言えないよな?オレよりも姑息な手を使ってくる奴等なんだぜ?」

 

「くっ……確かに」

 

「和弥の方が姑息な気がするけどね」

 

「黙れ涼。……それにこのコロシアムは試合外での行動を何も禁止してないぜ。正面から戦うのが苦手な奴も正面から戦わなきゃいけないのか?違うだろ、なあ?」

 

「……その通りかもしれない。私が悪かった、本間和弥。許してくれ」

 

「あ、今ので納得しちゃうんだ……」

 

 涼の呟きが聞こえた気がする。

 コイツ……チョロいぞ。

 

「だが、腐っても決勝だ。最後くらいは正々堂々戦ってやるよ」

 

 涼が隣で『え?』って顔でこっちを見るがスルーだ。

 決勝まで(まともに)勝ち上がって来た奴等だ。

 油断は出来ない。

 オレは気を引き締め構える。

 

「そうか。ならば私達も全力で相手をしよう」

 

「ああ。そうしてくれ」

 

「ちょ、ちょっとカズヤ、勝算はあるのか?」

 

「ある。いいか……」

 

 涼に作戦を伝える。

 

「……いや、カズヤらしいというかなんと言うか」

 

 ヒジョーにビミョーな顔をされた。

 

「よろしいですか?」

 

 審判が最後に現れ、両チームに確認をとる。

 勿論、頷いた。

 

「それでは、スクールコロシアム決勝戦。【本間和弥・伊東涼】チーム対【御剣樹・涼風鈴】チーム、試合……開始!!」

 

 開始の合図と同時に動いたのは相手チーム。

 二人揃ってオレ達の方へ向かってくる。

 走る速度も申し分ない。

 さすがに決勝まで来ただけのことはある。

御剣樹(みつるぎいつき)】ってのがさっきの女子だろう。細身の長剣を持っていやがる。

 もうひとりの【涼風鈴(すずかぜりん)】……ってコイツはポンコツで有名な女子生徒じゃねえか。

 よく決勝まで来たな。

 だが……

 

「《バインド》!」

 

「なっ!?」

 

「ちょっ!?はぅ…く……!」

 

 《バインド》は相手の移動を制限する魔法だ。

 オレの手元から魔法の帯がこっちに向かう二人の元へ伸びる。

 残念ながら御剣樹には避けられたが涼風鈴の足を完全に止めた。

 ならばやることはひとつ。

 

「公衆の面前で触手プレイとは……さすが和哉」

 

「うるせぇ!動きが止まったぞ!今のうちに撃てぇ!」

 

「あんまり気乗りしないなぁ~……仕方ない。ごめんね」

 

 涼の手元に巨大な銃型の箒『ガンナーズブルーム』が出現する。

 そのまま装備させたミサイルポッドを展開。

 そしてトリガーを押し込み、ミサイルが全弾発射された。

 狙いは……足を止めた涼風鈴。

 

「えっ、ちょっ、まっ…!?」

 

 十数発に及ぶミサイルの直撃を受けた涼風鈴は黒こげになる。

 そして、目を回してる彼女の顔面へオレは……ドロップキックをブチ込んだ。

 

「もう、なにへぶぅっ!」

 

「うっわ~……」

 

 涼風鈴は目を回して吹っ飛んでいく。

 さすがポンコツの名は伊達じゃないな。

 これで一人退場だ。

 

「涼風!おのれ、女相手になんと卑怯な!正々堂々戦うのではないのか!?」

 

「あん?足止めは戦術の基本だろうが。動けない的に集中攻撃もな。現にお前は避けたんだから避けれない奴が悪い。それにこっちは接近戦は苦手なんだから当たり前だろ?」

 

「むっ……確かにそうだが…女相手にドロップキックなど、しかも顔面だぞ!恥を知れ!」

 

「これが真の男女平等主義だ!」

 

「まあ、姑息ではあるよね」

 

「黙れ涼」

 

 そもそも御剣樹には当てるつもりはなかった。

 どうせ避けられるのは分かりきっているんだ。

 全て予定通りだ。

 

「だが……この距離なら私の攻撃も届く!」

 

 近距離まで近より地面を蹴る。

 そのまま圧倒的な速度で長剣を振り降ろしてきた。

 御剣樹は素晴らしい戦士だろう。

 オレには大した才能がないから羨ましい。

 

「はああああ!!」

 

「《アースシールド》」

 

 魔法で土の壁を生み出し、防御する。

 すぐにヒビが入り破られるが即座に退避するから問題はない。

 やはり防御はすぐ破られるか。

 だったら……攻めるだけだ!

 

「くっ……前が…」

 

 壊れた土の壁から土煙が上がり視界が遮られる。

 それは向こうも同じなことは声でわかった。

 その刹那を狙い、身体があると思われる位置に

 

「《サイコブレード》!」

 

 魔法で形作った剣を突き出した。

 長剣を振りおろした体勢からはすぐには動けまい。

 やったか!?

 

「まだだ!」

 

「何!?」

 

 煙が晴れるとそこには長剣の腹でオレの《サイコブレード》を受け止める御剣樹の姿があった。

 バカな。

 あの一瞬で剣を引き戻したのか!

 

「……この土煙に紛れて何かしてくるだろうことは予測がついていた。残念だったな」

 

「チッ……」

 

「今度こそ……逃がさんぞ!」

 

 言葉と共に長剣による猛攻が始まる。

 様々な角度からくる攻撃にオレは防戦一方だ。

 

「ほう……中々やる。だが、ここまでだ!」

 

「ぐおっ……」

 

 御剣樹の剣がオレの魔法の剣を弾く。

 そして、長剣を水平に構えた。

 

「くらえ、《魔器……解放》!!」

 

 凄まじいまでの魔力が彼女の長剣から解放されていく。

 アレは喰らったらマズい。

 オレは全力で……彼女に向かって抱きついた。

 

「え?」

 

「もらったぜ!ピンチだと思ったか?この瞬間を待っていた!!」

 

 崩れた体勢を無理矢理彼女の方へと向ける。

 ぶつかるように抱きついた瞬間

 

「《ポータル》!」

 

「え?え?」

 

 彼女と一緒にステージ外まで転移した。

 

 

 

「御剣樹、本間和弥、場外!よって【本間和弥・伊東涼】チームの勝利です!」

 

 審判の声が響き渡る。

 オレはそれを感嘆の気持ちで聞いていた。

 腕の間にある温もりと柔らかさを噛みしめ、オレは叫ぶ。

 

「優勝だ!」

 

「い、いいから離せっ!」

 

「おっとすまん。いい匂いがしたもんでつい」

 

 御剣樹は耳を赤くさせ肩を震わせている。

 からかい過ぎたか。

 魅惑的な感触だったのは認めるが。

 ついでに下心満載だったのも認めるが。

 

「いや~ホントに勝っちゃったね」

 

「……私は釈然としないぞ。あんな姑息な勝ち方」

 

「姑息ではない!小賢しいと言うのだ!」

 

「どっちも変わんないでしょ」

 

「最後まで残った方が勝ちなんだからいいんだよアレで。こんなのと正面から戦うなんてアホか」

 

「こ、こんなの!?」

 

「確かに。こんなのと正面から戦う気はしないね」

 

「こ、こんなの……」

 

「しかし、さすが決勝まで進んだだけのことはあるな御剣樹」

 

「な、なに?」

 

「確かに。カズヤがいつ殺られるかヒヤヒヤしてたよ」

 

「なんか語弊がないか?」

 

「そ、そうか?」

 

「おう。危うくやられるところだった。御剣樹。お前は自分を誇っていいと思うぜ?」

 

「……樹だ」

 

「あん?」

 

「……樹でいい」

 

 その言葉にオレは涼と顔を見合せ、苦笑した。

 

 

「そ、そうだ。お前達は優勝の報酬を何にしたんだ?」

 

「オレはでかいトランクだな」

 

「……何に使うんだそんなもの」

 

「色々」

 

 人がひとり入るくらいのトランクもらっただけだ(意味深)

 

「で?涼の目的の景品ってなんだ?」

 

「ああ……これだよ」

 

 そう言って涼が袋から取り出したのは……オレの卒業許可証。

 

「な、な…」

 

「優勝したら下さいって言ったら案外簡単に許可くれたんだよね。……どうして欲しい?」

 

「あんた、ほんまクズや!!」

 

 オレは即座に土下座していたのだった……

 

 

 

 一方その頃。

 

「グスン。どうせわたしのことなんて皆忘れてたんでしょ」

 

「す、すまん涼風。すぐ行くつもりだったんだ」

 

「……別にいいわ。気にしてないし。ドロップキックを顔に喰らったのも……スン…ズズ」

 

 相方のポンコツは膝を抱えて拗ねていたという。




名前付きのキャラクターは一人を除き、プレイヤーキャラクターです。


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【漿鳳院鑽霞】のお弁当

本間和哉は前話のキャラです。


 ――はぁ。

漿鳳院鑽霞(しょうほういんきりか)】は溜息をついた。

 原因はその手の中にある。

 

 現在は学校の昼休み。

 彼女が手にしているのは丸く長方形の形をした箱。

 暖かい橙色に淡い桃色の水玉がチャーミングな弁当箱。

 その中には色とりどりの食材がその身を主張しあい、これでもか、とお互いを引き立て合っている。

 

 

 瑞々しく敷かれた鮮やかな緑色のレタス。

 その上に乗せられた肉汁を滴らせるから揚げは、昨夜から醤油と出汁の漬け汁に漬け込み、隠し味に生姜も使用した手の込んだ一品だ。

 その横の瑞々しいレタスの仕切りに遮られたスペースにはこれまた鮮やかな熟れた赤色をしたミニトマトがアクセントとして添えられ、食材全体の見栄えをよくする一方、新鮮なその身をはち切れんばかりにしている。

 さらにはお弁当の定番、卵焼きが黄金色に輝きながらも、慎ましやかにその場にあるだけで見事な彩りのコントラストを醸し出す。

 

 そして、弁当箱自体の仕切りで区切られた広間のような空間には、主役であると言わんばかりの白い艶やかな米が、俵型の一口サイズに整えられ、申し訳程度にふりかけられたゴマが可愛らしさをアピールする。

 冷めても美味しく食べられるように硬めに炊かれた米は、そのキレイに並んでいる姿と相まって、作った者の几帳面さを表しているようだ。

 

 赤、緑、黄が揃ったお弁当はとても食欲がそそる。

 彼女が手にする弁当はとても美味しそうである。

 しかし、鑽霞は弁当箱を見つめたまま、手をつけようとはしなかった。

 そんな彼女に声をかけた者がいた。

 

「よう、鑽霞イインチョ。何してんだ?」

 

 鑽霞は顔を上げた。

 そこにはクラスメイトである……【本間和弥(ほんまかずや)】の怪訝そうな顔があった。

 

「あ……和弥君……何か御用かしら?」

 

「今、昼飯時なのにうまそうな弁当見つめて何してんのか、と…ってはっは~ん」

 

 和弥は怪訝そうな表情をすぐに打ち消し、何かに気付いたかの様に手を叩いた。

 そのままニヤリとして弁当を指差す。

 

「その弁当……イインチョが作ったんだろ?」

 

 確認の形式をとってはいたが、その声には確信が満ち溢れていた。

 

「ええ……そうよ」

 

 鑽霞は今更隠すことでもないとばかりに肯定する。

 そしてまた、物憂げな溜息を漏らす。

 彼女の姿は美少女と言っても過言ではない(と、和弥は思っている)

 物憂げな美少女というその姿に教室の誰もが声をかけようとして出来なかった。

 故に、知り合いといえば知り合いの和弥が声をかけたのだ。

 

「やっぱりな。食べないのか?」

 

「もう……分かってるんでしょ?」

 

「勿論だとも」

 

 鑽霞の言葉にニヤニヤとした笑顔を浮かべながら答える和弥。

 今の彼女にとってその笑顔は鬱陶しくてたまらなかったが、思わず会話を続けてしまうのは誰か、話す相手が欲しかったからだろうか。

 

「分かってるなら聞かないでよね」

 

「ま、そういうなよ。食わねぇならその弁当、貰うぞ」

 

 鑽霞が返事をする前に和弥がその手から弁当箱を奪う。

 僅かに戸惑っている内に手の中から重みが消える。

 和弥の言葉と行動に、少々の期待を抱いてしまうのも仕方の無いことだろう。

 ――た、食べてくれるのかしら

 少しだけ和弥に対する好感度が上昇した瞬間だった。

 

「お~い…田中でいいや。この弁当食うか?イインチョが作った手作りだぜ」

 

「いいのか!?キャッホイ!!」

 

 彼女の淡い幻想は今粉々に打ち砕かれた。

 ――ああ、そういえばこういう奴だった。

 頭の中に『諦観』の二文字が広がっていく。

 ついでにちょっとだけ上がった好感度も先に倍する速度で減少させていく。

 

「絶対に全部食えよ?残したりとか失礼なことすんなよ?」

 

「分かってますとも!会長、これでも男の端くれですぜ?」

 

「ああ、分かってるとも。キミには期待している。……重ねて言うが絶対に残すなよ?」

 

「勿論、全部たべますとも!いたただきま~す!!」

 

「え、あ、ちょっと……」

 

 鑽霞が止める間もなく、田中は弁当に飛びつく

 だが、食材を口にした瞬間、田中の笑顔が凍りつく。

 そして、次々と顔の色が変わっていく。

 赤、青、黄、緑……。

 そして最後に真っ白になり、田中は教室の床へとその身を横たえた。

 まるでマンガのような展開は、彼が【精神】ジャッジを失敗した証であろう。

 くしくも弁当と同じ色をその顔に浮かび上がらせた田中のそれが、最後の瞬間だった。

 

 そう、彼女、【漿鳳院鑽霞】は料理が壊滅的に下手なのだ。

 女のたしなみとして料理の練習などはしてきた。

 そのおかげなのか、料理の見た目だけは素晴らしい。

 見た目だけは。

 

 鑽霞の作る料理の唯一にして最大の欠点。

 彼女の料理は……絶望的なまでに不味いのだ。

 しかも、自らの舌は肥えてるだけに自分の料理がどれだけクソマズいのかも理解している。

 なぜ、ミニトマトからコーンポタージュの味がするのか意味が分からない。

 料理を作るたびに死にたくなる。

 

「田中……ご愁傷様だ。お前の冥福を祈ってるぜ……で、人に食してもらった気分はどうだ?」

 

「……最低よ、アンタ」

 

「大丈夫だって。お前の手作り料理も食えたんだ。田中もきっとあの世から感謝の念を届けてくれるさ」

 

「まだ死んでないでしょ」

 

 クラスメイトに運ばれていく田中を見送りながら言った和弥の疑問に底冷えするかのような憎悪をこめて言い放った。

 ついでに、和弥相手に立つかもしれなかったフラグもバッキバキに折り砕いておいた。

 

 ――田中君……大丈夫よね。大丈夫だよね?

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、運ばれていく田中君をみながら“心底”そうおもった。

 

「クククッ、そう怒んなよ。ほら、オレの作った弁当やるから」

 

「……」

 

 鑽霞は和弥のムカつく面を睨み付けながら彼の弁当を受け取る。

 そして、決意した。

 ――いつか絶対に見返してやる。

 その日食べたお弁当は、腹が立つ程美味かった。



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クズヤとアンゼロット

「向こうだ!向こうを探せ!」

 

「こっちには……うわ!?なん、ぎゃあああ!?」

 

「おい、大丈夫、グボォッ!」

 

やあ( *・ω・)ノ

オレの名前は【本間和弥】。輝明学園に通う高校二年生だ。

そんなオレは今、アンゼロット宮殿で多数のロンギヌスに追いかけられていた。

そう事の起こりはアンゼロットに拉致られたあの時のこと……

 

 

 

***ちょっと前***

 

 

 

オレの目の前には銀髪の美少女が佇んでいた。

 

『“はい”か“イエス”でお答えください』

 

『寝言は寝て言えBBA』

 

こうして逃亡したオレはロンギヌスの全戦力を敵に回したのだった……。

 

 

 

******

 

 

 

「いたぞ!逃げられると…」

 

「《スロウ》!」

 

「うわっ」

 

「あばよっ!」

 

《スロウ》を掛けて動きの遅くなった隊員の意識を刈り取り、また別の潜伏先へと姿を隠す。

こんなことをもう何度も続けていた。

 

「キリがねぇな。ならいっそ……」

 

隠れていても仕方がない。

それなら、と一計を案じることにした。

 

 

 

******

 

 

 

「ガッデム!和哉さんはまだ捕まらないのですか!」

 

「申し訳ありません。現在、全力をもって捜索しております!」

 

アンゼロットは現在ロンギヌスの幹部に周囲を護衛されていた。

こうして話している間にも次々とロンギヌス隊員の負傷報告が舞い込んでくる。

ロンギヌスはかつてない程の窮地に陥っていた。

そして、緊張が高まる最中……

 

「オラアアァア!!」

 

「ぐはぁ!?」

 

唐突にアンゼロットの側にいたロンギヌスが味方の急所をド突く。

オレである。

オレはロンギヌスのひとりに変装して頭を潰してやろうと忍び込んだのだ。

 

「突然何を!?ハッ、まさか!」

 

「ども!本間和弥です!」

 

というわけでアンゼロットの懐に潜り込んだオレは直接トップを狙うことにした。

 

「くっウィザードひとり如きに何をしているのですか!」

 

「ですが、近づこうとしても動きを止められ、魔法は打ち消され……一体何者ですかアイツは!?」

 

……さすがにロンギヌスの幹部の壁は厚いな。

あのBBAに全然近づけねぇわ。

 

「アンゼロット様!」

 

やっべ援軍ktkr。

そして援軍に囲まれる袋のネズミ、オレ。

 

「クズヤさん。形勢逆転の様ですね。大人しく投降してください。そして私をBBA呼ばわりしたことを後悔させて差し上げます!」

 

「ちっ多勢に無勢か……確かにこれは無理だな。大人しく投降しよう」

 

「物分かりが良くて何よりです。では直々に私が捕まえましょう!」

 

そう言って妙に丈夫そうな手錠を持って近付いてくるアンゼロット。

そしていざ、奴が満面の笑みでオレに手錠を掛ける瞬間に

 

「《テレポート》」

 

スカッ。

オレは入り口近くに転移した。

 

「……」

 

「……」

 

「……ねえ、今どんな気持ち?」

 

「~~!!あの愚か者を捕まえなさい!なんとしてもです!」

 

オレの名前は【本間和弥】。

ロンギヌスを敵に回した男である。



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コマンダー和哉

オレの名前は【本間 和弥(ほんま かずや)】。輝明学園に通う高校二年生だ。

現在オレは……いや、オレ達は世界を滅亡させようとする魔王との最終決戦に挑んでいた。

 

『フフフ……ここまで良くやったウィザード共よ。だが、残念だったな。もうすぐ我が術式が完成する……』

 

「くそっ……」

 

この場にいる仲間達の身体はボロボロだ。

さらに言えば、憎き魔王は攻撃が届く距離にいない。

具体的に言えばマイナーアクションを使った戦闘移動だけでは攻撃が届かない距離にいる。

 

『このセットアッププロセスが終わり、最初の行動で我が身体に攻撃を与えなければお前達の負けだ!』

 

「ちくしょう!メタなセリフを吐きやがって!!」

 

「セットアッププロセスに……移動が出来れば……」

 

「そんなセットアッププロセスで移動できる手段なんて……」

 

「あるぞ?」

 

『「「「なにぃっ!?」」」』

 

仲間+魔王の叫びがこだまする。

オレは両の手のひらを期待に震える奴らに向け、ひとまず落ち着かせる。

 

 

「まあ、待て。これを使うには少々代償があるんだ」

 

『な、なんだ!?何があるんだ!?』

 

「なんでお前が一番期待に打ち震えているのか分からんが、この力はオレだけじゃなくお前たちにもそれ相応の代償を払ってもらうことになる」

 

「フッ…水臭いじゃねぇか!今更何を恐れることがあるってんだ?」

 

「まかせろカズヤ……世界を救うためなんだろ?迷ってる暇なんかない……!」

 

「このあつらえたような絶体絶命のピンチに降って沸いた希望だ。どんな代償だろうと払ってみせるさ!」

 

「お前ら……」

 

オレは順に仲間達の顔を見回す。

オレと目が合うたびに頷きを返す仲間達。

ホント…いい奴らだ。

 

「いくぞ」

 

「「「ああ」」」

 

『くっ何が起こると……』

 

戦慄する魔王へ

 

「<コマンド>!!」

 

戦いの構えを取る仲間達の頼もしい背中を見ながら、オレはその魔法の名を唱えた。

 

「一度だけ、移動ができる魔法だ」

 

「おおっ!」

 

「力が…溢れる…」

 

「カズヤ、もったいぶるなよ。この力の代償は何なんだ?」

 

「それは……」

 

『「「「それは?」」」』

 

「オレの……」

 

『「「「ゴクリ…」」」』

 

オレはひとつ深呼吸をし、言ってやった。

 

「オレの命令には絶対服従!つまりオレの下僕になるということだ!!」

 

『「「「え?」」」』

 

「は~い、今からキャンセルは効きませ~ん!もう魔法の恩恵受けちゃったでしょ?オレの命令を聞くしかないんだよ!!」

 

「なっ、カズヤてめぇ!!」

 

「なんという鬼畜……なんというド畜生……」

 

「魔王より性質が悪いな!?」

 

『それでも血の通った人間か貴様!?』

 

「はっはっは!残念ながらもうこの場はオレの思い通りだ。お前達はオレの手のひらで踊っていただけなのだよ!!」

 

『「「「あんたホンマ、クズやっ!!」」」』

 

「サイッコーの誉め言葉だ!!」

 

こうして無事魔王は討伐され、オレは配下の下僕を三人手に入れた。

……まあ、野郎三人なんていらないんですぐにポイッとしたが。

 




魔法<コマンド>
範囲内のキャラクターをセットアッププロセスに一度だけ移動させることが出来る。
ただし、選択されたキャラクターが自分の指揮下に入っていないと効果を発揮しない。


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見て見ぬフリ……?

そうアレは、オレが学校の帰りにコンビニに寄った帰り道のことだった。

 

珍しいマッチョでスキンヘッドの男と。

なんかソイツに絡まれてる女子を見つけた。

 

「ちょっと、それ以上近寄らないで!」

 

見たことがある女子だ。

確か…クラスメイトの【漿鳳院 鑽霞(しょうほういん きりか)】だったか……良く覚えてない(確信犯)

良く覚えてないってことはそこまで深い関係でもないだろう(確信犯)

 

というわけでオレは通り過ぎることにした。

 

「あ、ちょっと和弥君!?」

 

会釈をしておいた。

缶コーヒーがうまい。

 

そんなオレを見てスキンヘッドはニヤッと笑う。

 

「あんな死んだ魚みたいな目した奴ほっとけよ。どうせキモオタのインポ…」

 

オレは全力で飲みかけの缶コーヒーを投げ付けた。

スキンヘッドの頭の天辺からコーヒーが流れる。

 

「良かったな?ハゲに髪が生えたぜ」

 

その言葉にぶちギレたらしいコーヒーヘッドはオレに向かって拳を繰り出してきた。

そしてオレに拳が直撃する。

コーヒーヘッドチンピラーの顔は驚愕に染まっていた。

 

「誰がキモオタのヒキコモリのブサメンのインポ野郎だ!!」

 

「そこまで言ってな…ぐほぉっ!?」

 

オレは拳で殴られたのにこれっぽっちも動いていない。

痛みもない。

 

ウィザードは《月衣》を纏っている。

《月衣》はあらゆる物理攻撃を無効化する結界だ。

勿論、カツラの代わりにコーヒーをかぶっているイカれた野郎のヘナチョコパンチも、だ。

 

オレはイカれたチンピラを《月衣》で底上げされた身体能力にモノを言わせて殴った。

鳩尾にクリーンヒット!

転がったゴミクズの顎を蹴り上げ、よりゴミに相応しい姿にしていく。

 

「か、和弥君?それくらいにしといた方が」

 

「今はこれくらいにしといてやるよ!」

 

「あと、別にブサメンじゃないと思うわ。大丈夫よ」

 

「やめろ。それ以上言うな。泣けてくる」

 

最後に動かなくなったチンピラの頭を踏みつけた。

人間がウィザードに手を出そうとするからだヴァカめ!

 

「ふうっ…無事かイインチョ?」

 

「……さっき見捨てようとしたよね?」

 

周囲の体感温度が二度下がった気がした。

オレの頭はこの状況から抜け出すために高速回転を始める。

まずは無難な答えからだ。

 

「いや、ちょっとイインチョだと気付かなくってな」

 

「へぇ、そう。知り合いしか助けないの?女の子が絡まれてたのに助けないんだ?」

 

さっそくミスった。

 

「いや、そう!アレだ!チンピラの友達の田中に見えたんだよ!きっと仲良く話でもしてるんだろうな、と」

 

「……私が女に見えないっていいたいわけ?」

 

あ、ヤベ。

詰んだわ。

もう鳥肌が

 

「ねぇ、ちょっとお茶しに行かない?和弥君」

 

「え、いやオレ家族と用事が」

 

「大丈夫よ。私も謝りに言ってあげるから」

 

「いやでも」

 

ガシッ

バ、バカな…逃げることに関しては天才的なオレが反応も出来ないだと……

 

そして彼女はまるで天使のような微笑みを浮かべて言った。

 

「いいから来なさい」

 

「アイ、マム!!」

 

それから数日間、世界がまるで……別物に見えたんだ。



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裏切り者

「本当に……裏切ったのか」

 

「……」

 

「答えろ……答えてくれ……本間和弥!」

 

「……ああ。オレは」

 

――お前らを裏切った。

 

 

 

 

ことの起こりは少し前。

新たな魔王が出現し、またも世界滅亡の危機が訪れた。

ウィザードは必死で抵抗していた。

だが、交戦の最中、オレを含んだ何人かのウィザードが敵に捕まってしまったのだ。

 

「くっ……世界の危機なんていつものことだから油断してたぜ……」

 

「ああ、いつも通りの世界の危機だと甘く見てた」

 

「世界の危機も魔王も、いつも過ぎて舐めてたんだろうな……」

 

「お、お前達!私をなんだと思ってるのよ!?」

 

「「「経験点」」」

 

「こ、コイツら……」

 

このままでは殺されてしまうだろう。

というわけで、オレは一計を案じることにした。

 

「魔王……本当にオレ達がただ捕まっただけだと思ってるのか?」

 

「な、なん…だと…?」

 

「別の目的があるに決まっているだろう?でなければ他の奴らと一緒に撤退している」

 

「なら……なにが目的だと言うの!?」

 

「決まっている……」

 

これでもかと勿体ぶる。

魔王が雰囲気に飲まれ、ゴクリ、と喉を鳴らす音がする。

そして…ゆっくりと口を開いた。

 

 

「オレ達は魔王様の元で戦うために参りました。是非ともお仲間に加えてください!」

 

 

こうしてオレは保身のためにウィザードを裏切ったのだった。

 

 

 

 

 

裏切ったオレは様々な計略を魔王様に授けた。

まず、最初の作戦は…

 

「オレ達を磔にして下さい」

 

「「「え?」」」

 

「ちょ、ちょっと待って。そういう性癖はもっと隠れた所で楽しむべきだと思うの。少しオープン過ぎるんじゃ」

 

「話は最後まで聞いて下さい。オレ達を人質としてアイツらに見せつけるんですよ」

 

「あ、成る程…それで?」

 

「そのまま無茶な要求でもすればいいんです。『攻撃したらコイツらを殺すぞ』とか」

 

「いいわ。いいわよその作戦!中々やるわね」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

こうして人質のフリ作戦が決行に移された。

オレ達は順に磔にされていくが勿論痛くない。

ついでにまるで拷問されたかの様に格好を偽装する。

 

「ウィザード共!お前達の仲間を捕まえたわ!!これ以上痛め付けられたく無かったら攻撃するんじゃないわよ?」

 

ウィザード達は人質に動揺する。

まず最初の作戦は上々の様だ。

 

ウィザードの中には樹と涼の姿もある。

樹は人質(フリ)を取られたことに動揺していた様だが、涼と他にも数人は疑わしそうにオレを見ている。

その視線に冷や汗が流れたがつとめて人質のフリをする。

 

「……ねぇ、ちょっと大丈夫かしら?なんかすっごい疑わしそうにこっち見てる奴いるんですけど」

 

「魔王様、魔王様。人質に話しかけては余計にバレてしまいますよ」

 

「ハッ!そ、そうね。気を付けるわ…」

 

…大丈夫なんだろうか。この魔王。

 

「コホン。さて、手が出せるかしら?全員攻撃開始!」

 

魔王様の合図と共に配下のエミュレイターの攻撃が始まる。

人質を取られたウィザードは防戦一方だ。

 

「くっ…卑怯者め!まるで和弥の如き姑息さだっ!!」

 

樹の叫びにさらに何人かがオレを疑わしそうに見始める。

……冷や汗が止まらない。

 

「あら、以外と抵抗するわね。そうね…一人ずつお前達の前で痛め付けてやるわ」

 

その言葉と共にオレの近くにいた魔王が痛め付けるための道具をとる。

勿論、これも痛くない。

ただ、バレるといけないので少し血をつけたりなど、見た目だけはリアルに…

……あの、リアル過ぎやしませんかね

 

「まずは…コイツよ!」

 

「グハァッ!?」

 

痛ぇ!マジで痛ぇ!

え、ニセモノじゃないの!?

なんでホンモノなんだよ!!

 

「演技の筈なのにマジで痛そうだ…」

 

周りの配下が感心してるがそんな演技とかじゃないから。

これマジだから

あまりの仕打ちに涙が止まらない。

 

「和弥!おのれ魔王!」

 

樹がオレの様子に声を上げるが、そんなこと気にしてらんない。

ものっすごい痛い!

しばらくすると魔王様がオレを痛め付けるのを止めた。

どうもウィザードが撤退したらしい。

 

「最初の作戦は成功ね…。悪いわね。演技だと見破られるんじゃないかと思ったのよ」

 

「イ、イエ、キニシテマセンヨ……」

 

オレの作戦と犠牲によってウィザードの部隊に大打撃を与えることが出来たらしい。

オレに疑惑の視線を向けていた奴らをも騙し通せたから撤退したんだろう。

次の作戦へと移らなければ。

が、全身の痛みと疲労でそんなこと考えてる余裕は正直ないのだった。

 

オレがある程度回復したところで次々と作戦を発動していく。

落とし穴を初めとした数々の落とし穴に嵌めたり、嵌めたり、魔王様すら若干引く程の落とし穴にウィザード達を叩き込んだ。

 

「落とし穴しかやってないんだけど……」

 

「同じ罠に何度も引っ掛かる奴らが間抜けということですよ、魔王様」

 

「それもそうね!」

 

そして…少数となったウィザード達との最終決戦が始まったのだ。

 

 

 

 

 

「ここでひとつ、こちらから攻めましょう」

 

オレは魔王様にそう提案を行った。

 

「あら?受け身の作戦を取っていたあなたがそんなことを言うなんて」

 

「ウィザードは現在少数です。少数ならばこちらの拠点に姿を隠しながら攻撃することも可能でしょう。ですから、そんな段ボールの人みたいなことをされる前に大部隊で一気に叩くのです」

 

「成る程。お前を配下につけて正解だったわ!人間にしておくのが惜しいくらいよ!」

 

「恐縮です」

 

そうしてエミュレイターの大部隊が傷付いたウィザードの元へ進軍を開始した。

そこでオレは魔王様へと進言した。

 

「どうせですから魔王様の姿を最後に拝ませてやりましょう」

 

この言葉に気をよくした魔王様は決戦直前にウィザード達の前へとその姿を見せたのだ。

 

「フフフ、ウィザード共。最早我々の勝利は揺るがないわ。だから最後に拝ませてやろう。私の姿を」

 

「くっ……」

 

ウィザード側の大半は悔しそうな顔を見せる。

 

「そしてお前達に紹介しよう。これまで数々の作戦によって我等の勝利を揺るがぬものとした軍師を!」

 

その宣言と共にスッと前へと出る。

 

「何……?和弥…?」

 

「……」

 

「本当に……裏切ったのか」

 

「……」

 

「答えろ……答えてくれ……本間和弥!」

 

「……ああ。オレは…お前らを裏切った」

 

「な、和弥…嘘なんだろう?また敵の懐から不意討ちするつもりなんだろう?」

 

お前の中のオレはどういうイメージなんだ。だいたいあってる。

 

「……残念だが樹。オレはこの……最強の魔王『アール=ヴァリドゥール』様の軍師となった」

 

樹の顔が驚愕に染まる。

…そういや魔王様の名前はじめて呼んだな。

 

「むふー最強か。むふー」

 

……そっとしとこう。

 

「最強なんていると思っているのか!」

 

「いるだろう。ウィザードとエミュレイター、相反する力を手にするアール様が最強じゃないと思っているのか?相反する力だぞ?闇と光を同時に操るくらいスゴイんだぞ?」

 

「た、確かにそれは…最強かもしれない」

 

「相反する力…むふふー」

 

コイツら……いや、何も言うまい。

 

「むふふ…そう言うこと。私達の勝ちは揺るがないわ。我が軍師よ…私の武器を」

 

「ハッ」

 

「か、和弥……」

 

オレはアール様に近付いていく。

そして、その手に武器…の代わりに手錠をかけた。

 

「え?」

 

何がなんだか分からないという顔をするアール様。

 

「今だ!」

 

オレの叫びと共に爆発が置き、後方にいたエミュレイターの大部隊の大半が巻き込まれる。

 

「え、ちょ?」

 

「もういいよ~!かくれんぼはしまいだぜ!」

 

地面からウィザードがエミュレイター部隊の真っ只中に出現し次々と討ち取っていく。

 

「オラァ!」

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

「死に腐れ!」

 

味方にはチンピラしかいねえのか。

その中から涼が樹を連れてこちらに来る。

 

「ハハハ、上手くいったな涼!」

 

「ホント、相変わらず姑息だよな」

 

「ぬかせ!」

 

「ど、どういうことだ!」

 

アール様がオレに問い質す。

樹と何人かのウィザードは今だ状況が飲み込めてないらしい。

 

「オレの落とし穴作戦あったろ?あの時落とし穴に仲間のウィザードを隠したんだよ。で、合図に応じて奇襲をかけたわけ」

 

「どうやってウィザードと連絡を…」

 

「磔の時にね。“安直魔法”《かくかくしかじか》ってので作戦を伝えたのさ」

 

《かくかくしかじか》とは相手と自分の精神を繋げ直接相手の脳内に情報をブチ込む、という何とも安直な魔法である。

ちなみに世界の守護者が作った魔法である。

それでいいのか、守護者さん。

 

「フン。でもこの程度じゃ私のことは止められないわ!」

 

アール様が魔法を放つ。

だが、オレはそれをアッサリ弾いた。

 

「へ?」

 

「いや~その手錠ね?“世界の守護者”特製で着けた奴の力を封じるんだよ。ま、ウィザード用だから弱体化が精々だろうが」

 

「な、何?」

 

「オレを近くに置くほど信用してくれる様に頑張ったんだぜ?タイミングが難しいからよ。下手にやるとあんたの配下にフルボッコだ」

 

そんなことをしてると突然樹に胸ぐらを捕まれた。

 

「か、和弥!つまり、お前は裏切ったフリをしてたのか!?」

 

「ああ。どうやって一網打尽にしてやろうかなと」

 

「なら、もっといい方法とか、素早く終わる方法とかあったろうが!せめて私にも教えてくれたっていいじゃないか!」

 

「おいおい……お前に教えたとして隠し通せたのか?すぐにボロが出て終わっちまうだろ」

 

「お前は私をなんだと思ってるんだ!」

 

「その事についてはお互い話し合うことがありそうだが……いいか?オレはな」

 

――上げて下げるのが大好きなんだ。

 

オレの言葉に樹はガックリと膝をついたのだった。



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サンタクロース襲撃

アンゼロットは言った。

 

「フィンランドにあるサンタクロース協会に襲撃をかけます」

 

「突然どうした。ついに気でも狂ったか」

 

「そこぉ!声に出ていますよ!」

 

「おっと失礼」

 

オレが白々しく口元に手をやると、左右から冷ややかな視線を感じる。

その内のひとりであるキリカは、オレのその様子に溜め息をつくとアンゼロットへ問い掛ける。

 

「質問いいでしょうか」

 

「ええ、どうぞ。なんでしょう、鑽霞さん」

 

「襲撃をかける、とはどういう……?」

 

「グッドクエスチョン!よい質問です」

 

アンゼロットは待ってましたとばかりに立ち上がると

 

「クリスマスにはサンタクロースがプレゼントを届けてくれますよね。皆さんも覚えがあるはずです」

 

「そうだな。私のところにもサンタさんが毎年プレゼントを届けてくれるぞ」

 

と樹がしたり顔で頷く。

なんて純真な奴なんだ。

 

「な、何だその生暖かい視線は!?」

 

「いや別に。ところでサンタなんてホントに存在するのか?」

 

「え……?いないのか!?」

 

「フッ」

 

鼻で笑いやがった。

 

「ウィザードたる者、常識に囚われていてはいけませんね。サンタクロースは実在します!」

 

「ほらやっぱり居るんだ!毎年プレゼントくれるからな!」

 

「わ、分かったから樹さん、落ち着いて……」

 

「そう、サンタとはプレゼントをくれる存在です」

 

何を当然のことを……ってまさかコイツ

 

「毎年、ちゃんと靴下も用意してるのに一度もプレゼントを貰ったことが無いんです!ヒドイと思いません!?」

 

「まさかとは思うが……プレゼントが欲しいだけとか」

 

「イェース!くれないなら奪うまで!行きますよ!!」

 

「ちょ、ま……!?」

 

足下の床が開く。

奈落の底まで暗闇が続く。

そこを真っ逆さまにオレ達は落ちていったのだ。

 

「うおおおお!?」

 

「いやあぁあ!」

 

「きゃあああ!!」

 

 

 

――――

―――

――

ふと気付くと目の前には教会のような、立派な建物があった。

その門の前にはアンゼロットとロンギヌス達が整然と並んでいた。

展開が速すぎる。

 

「いるのでしょう、サンタクロース!!大人しくプレゼントを渡しなさい!」

 

「いやな、アンゼロット。それで出てきたら苦労は」

 

――ホーホッホッホ!!

 

出てきたよ。

 

シャンシャンシャンという鈴の音と共に建物の大門が開いていく。

その中から現れたのは、ねじ曲がった角を持ち、爛々と瞳を輝かせる禍々しき獣……そうトナカイである。

そのトナカイが全部で9頭。

先頭のトナカイの鼻が真っ赤なのが目に鮮やかだ。

 

「出てきましたね。大人しくプレゼントを渡しなさい!そうすれば危害は加えません!総員構え!!」

 

「殺る気マンマンじゃねぇか!!」

 

オレの叫び空しく、ロンギヌス隊員達が攻撃の準備を整える。

マズイ、オレの出番が無い。

 

が、その時。

先頭のトナカイの赤鼻が輝いた。

 

「「「うわーもうだめだー!」」」

 

そこから放たれたのは極太の光線。

それはロンギヌスの大半を薙ぎ払った。

 

「何…アレ……」

 

「まさかここで使ってくるとは!!アレこそ先頭を走るトナカイ、ルドルフの持つ必殺技!」

 

――ルドルフ・フラッシュです!!

 

「何を言ってるんだお前は!?」

 

「目を逸らしたい現実でしょう。しかしこれが事実なのです!」

 

「そ、そんな……赤鼻のトナカイさんのピカピカの鼻がまさかレーザーのことだったなんて……」

 

樹ががっくりと膝を着く。

よほどショックだったらしい。

 

「気を落としている暇はありませんよ。来ます!」

 

アンゼロットの言葉と同時、9頭の内2頭のトナカイの角に上空から雷が落ちる。

そしてトナカイが角を突き出すと……

帯電した雷がこちらへと放たれた。

 

「うおぉ!?あぶねぇ、かすった!」

 

「気を付けなさい!アレこそ、雷の名を冠するブリッツェンとドンダーの合体攻撃……」

 

――トナカイ・サンダー・ブレークです!

 

「その威力はグレートで光子力な鉄の魔神の必殺技に匹敵します!!」

 

「もうダメだろ、それは!?」

 

もうトナカイじゃない。

あれはホントにバケモノだ。

 

「怯えている暇なんてありませんよ! さあ、守護者に逆らう愚かなサンタからプレゼントを奪ってくるのです!!」

 

「無茶言うなよ!?……えーい、こうなりゃヤケだ!行くぞ二人とも!」

 

「え、私も行くの!?」

 

「オフコース!あのバケモノの只中にオレひとりで行ってたまるか!こうなりゃお前らも道連れだ!」

 

「お、男らしく無いぞ和哉!」

 

「こんな時に四の五のいってんじゃねえ!オレ達は一蓮托生だろ?オレに命を預けてくれ」

 

「カッコよく言っても和哉くんが最低なことにかわりはないからね!?」

 

「今更おせぇよ!《テレポート》!!」

 

「和哉お前…このクズッ!」

 

「誉め言葉だ!」

 

こうして二人を巻き込んでサンタクロースのソリの上にオレは転移した。

そして即座に魔法の刃を構築する。

 

「おおっとそこまでだ。大人しくプレゼントを寄越しな」

 

「言ってることが悪役よ、和哉くん……」

 

「何故、わたしは、こんな奴に……」

 

「これが弱味って奴よきっと……」

 

「動くなよ?オレの手が滑っちまうかも知れねぇからなぁ?」

 

後ろで二人が何か言ってるがスルー。

オレは魔法の刃を突き出……

 

「メリィ~……クリスマーース!!」

 

プレゼントが突き出された。

目の前にはにこやかな白髭のおじいさんがひとり。

ここには刃物を突きつける若者がひとり。

 

「「ジトー」」

 

後ろから凄まじい視線を感じる。

……すごく居心地が悪い。

オレは魔法の刃を消すと

 

「あ~オホン。まぁ、なんだ貰ってやらんでも無い」

 

「なんでそんな偉そうなのよ……」

 

オレがプレゼントを受け取ると、サンタクロースのおじいさんはキリカと樹にもプレゼントを渡す。

 

「アハハ……高校生にもなってサンタクロースからプレゼントっていうのもね」

 

「サンタさんからプレゼントを……本物のサンタさんから貰ったぞ!」

 

キリカはどこか照れくさそうに、樹はテンション振り切った子供のようにそれぞれ喜んでいたその時

 

「な、何故ですか!?何故、そこのクズにプレゼントを渡すのに私には無いんですか!?」

 

いつの間にかソリの上にまで来ていたアンゼロットが拳を握りしめ、髪を振り乱し訴えていた。

 

「おいおい……アンゼロット様は知らないらしいな。プレゼントってのは良い子しか貰えないんだぜ?」

 

「和哉くんが言うことじゃ無いわね」

 

「全くだ」

 

至極最もである。

アンゼロットが血の涙を流していたその時、彼女の傍に歩み寄ったサンタクロースが彼女にそっと何かを差し出す。

 

「メリーークリスマーース!」

 

「わ、私にですか?本当に?」

 

そう、それはプレゼント。

アンゼロットが望んでやまなかったものだ。

 

「ああ、ありがとうございますサンタさん……メリークリスマス!」

 

この時、アンゼロットは女神すら屈するのでは無いかと思うほど慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた…………。

 

 

こうして、サンタクロース襲撃事件は幕を下ろした。

だがオレは忘れない。

誰がどうみてもアレは強盗だったということを。

それだけは間違いない。

 

 

******

 

 

「ちなみにお前ら何貰ったんだ?」

 

「か、和哉っ!ダメだ、それを聞くな!」

 

「……」

 

「イ、イインチョ?」

 

「いや、マトモな料理が出来るようになるプレゼントが欲しかったらしいんだが……」

 

「ほう……どれどれ」

 

プレゼントの箱を覗くと、そこには

 

《全自動料理機》

 

と書いた機械が置いてあった。

 

「イインチョ……何か…ごめん」

 

彼女はさめざめと泣いていた。



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おせち料理

そうそれはお正月も過ぎたある日のこと。

 

「ふんふふんふ~ん♪」

 

鑽霞(きりか)は上機嫌に歩いていた。

普段はキリッとした態度を崩さない鑽霞だが、今回ばかりはスキップでもしそうなほど。

しないのはスカートの制服だからであろう。

しかし、それでも普段の彼女を知る人間からは想像もつかないほどの機嫌の良さだ。

 

廊下をすれ違う生徒達―性別は問わない―が思わず振り向いてしまうのもむべなるかな、だ。

 

「む?どうしたのだ鑽霞。そのように上機嫌で」

 

そんな彼女に声をかける女子生徒がひとり。

彼女の名は(いつき)

最近、ツリ目でキツく見られがちなことが悩みな鑽霞の友人のひとりである。

 

「あ、樹さん?ちょうど良かった。これ、一緒に食べない?ちょっと時期はずれだけど」

 

鑽霞がそう言って掲げたのは重箱。

それでも四段はある、とみに高そうな代物だ。

正月は過ぎたとは言え、中に入っているモノは決まっている。

 

「おせちか!良いな!では屋上はどうだ?今日は良く晴れているから気持ちがいいだろう!」

 

「私もそう思っていたところよ。ところで、和弥君を見なかったかしら?」

 

「和弥?いや、見ていないが……」

 

「そう……あの人も誘いたかったんだけど」

 

「オレが何だって?」

 

「む?いやな、和弥が何処にいるのかって……うわぁ!?」

 

「和弥君!?ど、どこから沸いて出てきたの!?」

 

「なんだぁ?人をゴキブリか何かみたいに」

 

そこに居たのはいたって平凡な容姿をした男子学生、和弥。

ただし、この輝明学園で彼の名を知らない者は居ない。

主に、その死んだ魚のような目に相応しい性格のせいで。

 

「いえ、あの、屋上行っておせちでもどうかな~って」

 

「おせち?」

 

そう言われて和弥は初めて鑽霞の持つ重箱に気づいた。

 

「ああ、なるほど。でも正月はもう過ぎたろうが」

 

「もう、別にいいじゃない。お正月は休みで二人にも会えなかったから今日くらいはね」

 

「オレ、涼と飯食う約束してんだけど……」

 

「それならさっき話しをしてきたわ。誘ったけど、いらないって断られちゃった」

 

「あん?そうなん……?ま、いいや。じゃ、行くか」

 

そう言って三人は歩き出す。

しかし、それにしたって

 

「ふんふ~ん♪」

 

「……随分ご機嫌だなイインチョ」

 

「そうかしら?いつもどおりよ」

 

「いやいやいやいや、普段鼻歌なんて歌わねぇよな」

 

「まぁ、確かに鑽霞にそんなイメージは無いな。だが、鑽霞にも鼻歌を歌いたくなる時くらいあるだろう」

 

「ま、そうなんだけどさ……」

 

和弥は前を歩く鑽霞を見る。

 

「ふふんふ~ん♪」

 

「……嫌な予感しかしないぜ」

 

 

 

***屋上***

 

 

 

屋上に来た三人は鑽霞が用意していたビニールシートを敷き、その上に集まった。

鑽霞は、三人の中心に重箱を置くとおもむろにその蓋を開けた。

 

「おお~!!」

 

そこには、樹が思わず歓声をあげるほどに美しく盛りつけされたおせち料理が入っていた。

鑽霞は重箱の段を取り並べると、二人に小皿と箸を渡す。

 

「これは美しいな!さっそく食べてもいいか鑽霞?」

 

「ええ、勿論よ」

 

すると樹は嬉々として料理を自分の皿に取っていった。

しかし、和弥は料理を取ろうとはせず、鑽霞に聞いた。

何故かこの美しい料理に悪寒と冷や汗が止まらないのだ。

 

「……なあ、まさかとは思うがこの料理ってイインチョが作ったんじゃないよな?」

 

和弥はきっと違って欲しいと願い、薄々感づいてはいたものの確認せずには要られなかった。

和弥のその質問に鑽霞は可愛らしく首を傾げて言った。

 

 

 

 

「私が作ったけど……どうして?」

 

 

「樹いいいいぃぃぃいいい!?その料理を食うなぁ!!!!」

 

 

 

和弥は全力で樹が料理を口にするのを止めようとした。

美しく才色兼備で知られる鑽霞の唯一の欠点。

そう彼女が作る料理は壊滅的に不味かった。

意識が飛んでしまうほどに。

 

だが、和弥の努力むなしく、樹は料理を口にしてしまった。

しかし……

 

「ん!うまいぞ!」

 

「そう?ありがとう」

 

樹は普通に料理を食べていた。

感想まで言う余裕がある。

一体どういうことなのか和弥には分からなかった。

 

「和弥も食べるといいぞ!」

 

「あ、ああ……」

 

和弥は樹が平気な顔をしているところで覚悟を決め、料理を口に運んだ。

その瞬間、まるで頬が蕩け落ちるような衝撃が和弥を襲った。

 

 

口に入れた瞬間ホロリと身が解け、染み込んだタレが絶妙なマッチを見せ、口内に広がっていく焼き魚。

 

程よい大きさに一粒ずつ揃えたのだろうか、全てが同じ大きさの黒豆はムラ無く煮られており、くどくなく逆に薄すぎもしない甘さが心地よい。

 

また、共に入れられた酢の物や昆布巻きなどの煮しめもまた手の込んだつくりになっていることが伺える程の美味である。

 

 

「なんだこれは……うめぇ、うめぇよ……!!」

 

「だろう!?素晴らしいほどのおいしさだな鑽霞!」

 

「全くだぜ!あ、そこの数の子も取ってくれるか!?」

 

「え、ええ。……はい、どうぞ」

 

「私にはそこの伊達巻を頼む!!」

 

「えっと……はい」

 

和弥と樹の二人は世界がひっくり返るほどの美味な料理を貪り食い続ける。

鑽霞はあっけに取られていた。

 

「くそぉ!一体何が起きてるんだ……ハッ!まさか!?」

 

一通り食べ終わった和弥はふとあることを思い出していた。

それは去年のクリスマスのことである。

 

「イインチョがこんなにウマいモノ作れるわけがない!あれだろ?……《全自動料理機》」

 

そう、鑽霞がサンタさんから貰っていたクリスマスプレゼント。

その名も《全自動料理機》。

クリスマスの最後に鑽霞の心を折っていった良い子へのプレゼントである。

 

「それしか考えられん……」

 

「し、失礼ね。ちゃんと私が自分でつくりました!」

 

「いやいやいやいや。そう言いたくなる気持ちも分かるけどさ。大丈夫オレは分かってるから」

 

「本当に失礼な人ね!……私が自分で作ったのよ。信じてもらえないかもしれないけど」

 

「……マジなのか?」

 

「…マジよ。一応」

 

「マジかよ……」

 

和弥は思った。

彼女の料理の腕はどうやら本当に改善されたらしい。

つまり、容姿端麗、成績優秀、才色兼備と三拍子そろった最高の優良物件。

これはもう逃す手は無いんじゃないか、と。

 

「イインチョ!!」

 

「はい?って、え?え!?」

 

和弥は鑽霞の両手を握り締めていた。

突然の展開に鑽霞はついていけていない。

樹はおせちから目と口を離さない。

 

「オレに毎日――――」

 

 

 

 

 

 

 

***保健室***

 

 

 

ベッドの上で和弥はガバッと身を起こした。

 

「ハァ……ハァ……あ?どこだここ?保健室?」

 

周りを見渡せば、薬品やソファ、身体測定の道具などが置いてある。

隣のベッドのカーテンは閉まっていた。

 

「ハァ……夢か」

 

和弥は先ほどの夢の内容を思い出していた。

 

「だよなぁ。イインチョとか……マジねぇから」

 

夢の中とはいえ、あの自分は本当にどうかしていた。

脳が腐りかけていたとしか思えない。

 

「ところで何でオレここに居るんだ?」

 

ベッドから降り、誰も居ない―隣のベッドのカーテンは閉まっているものの―保健室から出ようとした。

ドアの取っ手に手をかけようとしたところで唐突にドアが開いた。

 

「うおっ…と…!?」

 

「あ、和弥君?起きたのね、良かった!」

 

果たしてそこに居たのは鑽霞であった。

どうも事情を知っているようなので和弥は聞いてみることにする。

 

「なあ、何があったんだ?」

 

「えっと……覚えてない?」

 

「残念ながらな」

 

そう和弥が言うと鑽霞はしばし逡巡して

 

「その……食べたのよ」

 

「何を」

 

「だから…おせち料理」

 

「おせち……?」

 

先ほどの夢とのデジャヴ。

偶然だろうか?

 

「その……私が作ってきたおせち料理を屋上で食べようって……」

 

なるほど。

もしや先ほどの夢は……。

 

「い、樹はどうしたんだ?」

 

「そこで寝てるわ……」

 

鑽霞の表情は暗い。

罪悪感で押しつぶされそうな顔をしている。

 

「つまりなんだ。オレと樹はお前の作ってきたおせち料理を口にした瞬間、倒れたと」

 

「ええ、まあ、そういうこと。今回はすごく上手に出来たと思ったんだけど……」

 

「お前…《全自動料理機》はどうした?」

 

「ああ、アレ?私が操作したら何か、壊れちゃった」

 

和弥は天を仰いだ。

どうやら彼女の料理は、機械ですらどうしようも出来ないところまで来たようだ。

更に言えばついには記憶を操作するところまで進化した、と。

自分は一口目でもうすでに気を失ったらしい。

つまり、さっきのは夢だったということだ。

 

「は、はは、はははははは……」

 

「あ、あの和弥君?」

 

「ははは……いや、なんでもねぇよ……」

 

和弥は乾いた笑いを漏らし続けていた。

最早、彼女の料理は一種の芸術と化している。

和弥は鑽霞の料理が秘めるポテンシャルに戦慄するしかなかったのだった。

 

だからこそ彼は気づかなかった。

彼女の手の中に握られていた、《夢使い》の印がついたお守りに。

 

 

 

 

***???***

 

 

湯気の立ち込める温泉の中、少女があるいていた。

向かう先には青い髪をしたスタイルの良い女性がひとり。

 

「あら~どうしたのかしら?」

 

「……あなたにお願いがあって来たの」

 

「ふぅ~ん……?それで?」

 

少女は息を吸い、言った。

 

「私に……私の人並みな料理の才能を引き出して!」

 

青い髪の女性はその美貌の顔に三日月のような口で笑いを浮かべ

 

「なるほど……いいわよ。あなたの願いを叶えてあげる」

 

青い髪の女性は笑いをより一層深くして

 

 

 

 

 

 

「この“温泉女王”……『クロウ=セイル』が、ね」

 

 

 

 

 

 

 




一体少女の運命や如何に!

シリアスな展開になってしまうのか!

短編集なのに続きモノっぽくなったけど!

多分続かないけど!


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お雛様

ギリギリに投稿するという捻くれっぷり。


「プッハハハハハ!なんだその格好!?は、腹痛ぇ……!!」

 

「くっ……後で覚えてなさいよ……」

 

現在、オレは漿鳳院(しょうほういん)家で行われている雛祭りに呼ばれていた。

身内だけと言っていたが、どうも他にも友人などを招待などしているらしい。

おかげでかなり大きな催しとなっている。

流石名家だな。

で、何故オレが爆笑しているかと言うと

 

「お、おい和弥……それくらいにしておけ…」

 

「いや、だってお前この歳になってお雛様の格好するとか笑う以外にどうしろっつうんだ」

 

樹の言葉にそう返して、笑いながら目の前のお雛様……の格好をした本日の主役である漿鳳院(しょうほういん)鑽霞(きりか)の姿がある。

どうも毎年この家は身内の娘にお雛様の格好をさせる行事があるらしい。

 

「凄く似合ってると思うのだが」

 

「プッそうだな……滅茶苦茶似合ってるぜ、クク、ク……」

 

「……普通、見とれる場面では無いのか?」

 

「樹さん……この男にそんな甲斐性求めたって無駄よ」

 

「あ、はい」

 

失礼な。

オレにだって甲斐性くらいある。

今回は発揮されて無いだけで。

 

「は~笑った笑った。んじゃ、オレは飯でも貰ってくるかな。じゃあなイインチョ……プッ」

 

「……!!!」

 

「落ち着けキリカ!その格好で暴れた所であの男には勝てん!」

 

樹がイインチョを羽交い締めにしてる間にオレはこの場を抜け出した。

現在位置は屋敷の中。

本会場はこの屋敷の大庭でやることになっている。

食い物も何もかもがそこにある筈だ。

そして、大庭に出た所で。

凄い怖い顔をしたおっさんに行く手を遮られた。

 

「あ、あの何か用でも……?」

 

「……君が鑽霞に呼ばれたとか言うクラスメイトかね?」

 

「は、はぁ……そうですが」

 

「鑽霞とはどのような関係かな?」

 

「さっきクラスメイトって言ってたじゃ無いですか。その通りですよ」

 

「いや、そんな筈はない!あの娘はただのクラスメイトだろうと男を家に呼んだことは無かった!さぁ、本当のことを言い……」

 

「あらあらアナタ?こんな所で若い子に突っかかって無いで、ほら挨拶も終わってないんですよ?」

 

そうこうしてるうちにイインチョにそっくりなお姉さん登場。

こりゃ、アレか。

ご両親かこの二人。

いや、でも男友達呼んだくらいでこの過剰反応は凄まじいな。

流石名家か。

これからは少しイインチョとは距離を置いた方がいいかもしれないな。

厄介ごとに巻き込まれるのはゴメンだ。

 

「いや、私は彼に話がだな……」

 

「では、自分はこれで」

 

「ぬ、待ちたま……ぐえっ」

 

「はいはい、行った行った。では、ゆっくりしていってくださいね~」

 

オレが移動するまでもなく引っ張られていった。

女系家族なんだろう。

男の立場は低いのだ。

そもそも雛祭りだから周りも女性ばかり。

やべ、急に心細くなってきた。

 

「カズヤ、何か良いもの見つけたか?」

 

「樹いいい!よく来てくれた!」

 

「わぁ!?何!?何だ!?」

 

いや~知り合いが来てくれて助か……

よく考えたらコイツも女じゃねぇか。

状況変わんねぇ。

 

「……オレ、帰ろうかな」

 

「何故!?」

 

「いや、なんか女の人ばっかだし。場違いかな~って」

 

「今更過ぎるだろう」

 

「お前には分からないんだよ。女の中に孤立した童貞の気持ちが……」

 

「いやその……」

 

「後は何か凄まじい厄介ごとの臭いがしてきたんだ。主にあそこにいるイインチョの両親から」

 

「……確かにコッチをガン見してるな」

 

この会話がフラグじゃないことを祈る。

それはそれとして

 

「まぁ、飯食ってからでもいいか。元々それが目的だしな」

 

食事は立食形式になっている。

いわゆるバイキングってやつか。

和風な家だから一人一人にお膳が配られると思っていたら違うらしい。

こっちの方が楽だからいいが。

案外それが理由だったりしてな。

 

「そんな事だろうとは思っていた……ふむ、これなんか美味しそうじゃないか?」

 

「全部美味そうだ。じゃ、いっただっきまーす!」

 

そうやって飯を食っていると

 

「お、キリカが来たぞ」

 

「どれどれ……プッ、やっぱり笑えるな」

 

「いい加減にしろ全く……」

 

「人を笑ってこそのオレのアイデンティティよ……ん?」

 

何やら騒がしいな。

話し合いをしているみたいだが……

どうも必死に親父さんが反対しているらしい。

が、それをイインチョとお袋さんが笑顔で押しきっている。

 

「何やってんだありゃ」

 

「カズヤは知らないか。あれはお内裏様を決めているんだ」

 

「お内裏様ぁ?」

 

「毎年、招待で来ている者の中から選ばれるらしい。名家同士の思惑もあるだろうしな」

 

「ああ、お見合いとか?大変だな」

 

イインチョの歳がもっと小さかったら微笑ましいかもしれんが、この歳だと確かにそういう黒い話になるか。

あれ、どうも話し合いは終わったらしい。

親父さんが凄まじい眼光でコッチを睨んで……

 

「……キリカがこっち見て微笑んでいるようだな」

 

ヤバイ。

アレはヤバイ笑顔だ。

オレはクルリと後ろを向くと。

全速力で逃げ出した。

 

「逃がさないわよ、和弥くん!」

 

しかし使用人のような方々に回り込まれた!

魔法も使えないこの状況では……

 

「捕まえたわ…さ、着替えましょう。私を笑ったこと、後悔させてあげるから!」

 

「嫌じゃあああ!!」

 

オレの雄叫びがこだました。



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お茶を出せ

「ククククク…いや、笑ったぞ。あれほど似合わないお内裏様も無いだろう」

 

「でしょう?仕返しには妙案だと思ったのよね、フフ」

 

「うるせぇ……」

 

あの悪夢の雛祭りからその後。

折角だからと漿鳳院(しょうほういん)の家でお茶をしていくことになったオレ達は、現在鑽霞(きりか)の部屋へと向かっていた。

お雛様へとクラスチェンジしていた部屋とは別なそうな。

かなりでかい家であることは間違いない。

 

「でも良いのか?」

 

「良いって……何がかしら樹さん?」

 

「あの場面でお内裏様にするってことはこの男と添い遂げるって言ってるようなモノだと思うのだが……」

 

は?

 

「え、何?イインチョ、オレのこと……!?」

 

なるほど。

まぁ、オレだからな。

仕方ない。

 

「そ、そ、そ、そんなわけ無いでしょう!あ、あれは和弥くんが私のこと笑ったからそれで……」

 

「照れんなって……というか動揺しすぎだ。いくらなんでも初心すぎるだろう」

 

「う、うるさいわね」

 

「散々告白とかされて来ておいて純情派ですか?純情な少年達の心を折ってきたくせに!?」

 

「う、う、う、うるさい!」

 

「まあ、告白くらいわたしでもされるからな。大したことでは……」

 

お前も告白されたんですか(いつき)さん!?

え、てことは

 

「何?お前ら学校でもトップクラスな美少女なわけ?そんなのと同じ空間にいるのオレ?」

 

「な、なんだ突然!いや、美少女とかそんなのでは……その、嬉しくないわけではなくてだな」

 

美少女と同じ空気を吸ってるとか。

ちょっとこれ、青少年的に……

 

「いや、無いな。お前らは無い」

 

「「………」」

 

あれ、何か一気に空気冷めたな。

何かマズいこと言ったっけ?

言ったな。

 

「相手が和弥くんとは言え、そう言われると何だか凄く悔しいわ……!」

 

「甚だ不愉快だ……!」

 

「そうか。それはよかった」

 

この男……!、と二人がオレを睨む。

ふむ。

 

「んで?客人呼んどいてこの家はお茶も出ないんですかあ?ねぇ?」

 

「落ち着けキリカ!!この男に突っかかった所で暖簾に腕押しだ!!」

 

「おお、怖い怖い」

 

ニヤニヤしながら鑽霞が樹に羽交い締めにされるのを眺める。

徐々に服が乱れていきヒラリとスカート中が覗いた。

 

「眼福、眼福」

 

ハッとして赤い顔をした鑽霞が服を整えオレを睨む。

縞とは分かってるな。

チェックでも良いが。

これでしばらく困らんだろう。

何にって?

言わせんなよ、恥ずかしい。

 

「……とでも考えているんだろう。最低だな、カズヤ」

 

「勝手に人の思考を読むんじゃねぇよ」

 

樹が侮蔑の表情でオレを見下す。

まさしくゴミ以下の害虫を見る目だ。

だからオレは言ってやった。

 

「黒」

 

「……!?い、いつ見たんだ貴様!」

 

「さっき。にしても黒とは。白だと思ってたぜ」

 

「~!!その頭から今すぐ忘れろ!いや、忘れさせてやる!!」

 

「《バインド》」

 

「くっ!?このぉ!はなせぇ!」

 

「嫌だね。まだ死にたくないんで。ところでいいのか?暴れれば暴れる程見えるぞ?」

 

「こ、このクズ!」

 

「誉め言葉だ」

 

オレがもがく樹にドヤ顔をかましているとイインチョが呆れた顔を向けてきた。

 

「ここまで来るといっそ清々しいわね……いいわ。()()お茶を淹れてくるから、ちょっと待ってて」

 

瞬間、樹の《バインド》を解き、さっきまで喧嘩(いやがらせ)をしていたとは思えないほど巧みなコンビネーションで、鑽霞の腕を両側から掴んだ。

 

「な、何?」

 

「待て待て。やっぱりお茶はいい。座ろう」

 

「え?なぁに?今更遠慮?気にしないでよ。確かにお茶を出してなかった私も悪いし……」

 

「いいから座れキリカ。お茶より先に折角遊びに来たのだから何かしよう。な、カズヤ!?」

 

「そうだな!樹の言う通りだな!」

 

オレ達の態度を訝しんでいた鑽霞だったが唐突に不満げな表情になると

 

「……もしかして私が淹れるから心配してるわけ?」

 

その言葉に気まずげに目を逸らすオレと樹。

 

「大丈夫よ。お茶を淹れるだけなのよ?」

 

そう言われると、確かに。

 

「……大丈夫なのか?」

 

「うん。待ってて」

 

そう言って鑽霞が部屋を出ていく。

よし

 

「脱出しよう」

 

「即決か!?お茶を淹れるくらいどうってことは無いかもしれんぞ!少しくらい待っても」

 

「いいか、イツキ。確かにもしかしたら普通のお茶が出てくるかもしれない。でも、そんな希望にすがるくらいならオレはここから……」

 

「お待たせ~」

 

「遅かったぁ!!?」

 

頭を抱えた。

樹なんざ置いてさっさと脱出すれば良かった!

 

「何?どうかした?」

 

「い、いや」

 

目の前にコトリとカップが置かれる。

見た目は普通のお茶だ。

だが、この見た目が信用ならないことをオレは知っている。

樹と思わず目をあわせ

 

「ええい、オレも男だ!」

 

お茶を一気に飲んだ。

 

「カ、カ、カ、カズヤ!?」

 

「………あれ?意外とフツーな、グポッ」

 

人間が出してはいけない音が口から発せられ、目の前の視界が七色に染まる。

やっぱり……飲むべきでは無かった……。

 

「カズヤ!」

 

何か温かいモノにオレの頭が支えられる。

樹……意外とあるんだな。

ぐっじょぶ!

そしてオレの意識は暗転していった。

 

 

 

「……キリカ」

 

「……言わないで分かってるから」

 

 

 



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