いつから僕は狂人になったのだろうか (デルンタス)
しおりを挟む
1話
その子供は人一倍物静かであった。
よく泣く子供ほど健やかである風潮を持つ村で生まれてしまったことは、不幸。ただそう形容するしかないだろう。
元々閉鎖的な村だった、ということもあり村での子供の家族の扱いは目に見えていた。
初めは両親とも物静かなだけと主張していたが、次第ににその主張を維持することすら出来なくなる。
村人たちが関わることを避け始めたのだ。
初めはあまり関わりのない家が。
もう1年ほどで、友人の家が。
さらに2年ほどで親戚までもが自分たちが無視を始めた。
それでも息子を愛して頑張ろう。
両親ともそう思っていた。
ただ、その意気込みは1週間と続かなかった。
都市からは離れている場所に村が位置しているために買い物にも行けず、村内の商店の利用もできなかった。
それでもその子供自体は幸せだった。
両親からの愛を受けていたからだ。これからも幸せは続くと信じて疑わなかっただろう。
しかしその確信は裏切られ、両親がたどり着いては行けない答えに着いてしまう。
それは子供が泣けば周りとの関係が治るのではないか、ということだった。夫婦でその意識を持ったその日から幸せだった家は一変、地獄と化した。
また自らの息子を悪魔憑きとして教会に連れ出したのだ。
悪魔の存在が信じられている世界で悪魔憑きとされた子供のこれからは想像に難くない。
朝起きてから夕方までは教会による悪魔祓いという名目の虐待が行なわれた。
「悪魔よォォ!その子供の体を返せ!!
大人しくぅ、魔界へと帰れェェェェ!」
字面だけならば実際に悪魔祓いが行われているように見えた、しかしその内容は人の腕ほどの木製の十字架による殴打だった。
曲がりなりにも愛を受け育ってきた子供が助けを乞う先はやはり両親であった、
「おどうさぁぁぁぁぁぁぁん!おがぁざぁぁん!やだぁ!いやだぁぁ!おろして!だすげで!!」
「き、さぁ、まぁぁぁ!!まぁだ子供を演じるかぁ!悪魔めぇ!周りが狂ってしまう前に私が祓ってやる!」
天井から吊られながらも必死に助けを乞う子供を見て目と口も三日月に歪ませ神父はひたすらに殴打し続ける。
また、時間が来たら頭に麻袋を被せ家へと届け明日の朝また来るように告げる。
それが数年の神父の生活の大半となるが、子供はその後も休まることが出来ない。
「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ……」
暖炉の前で裸で四つん這いにされた子供を4人ほどで囲み焼き石で積み石をして楽しんでいた。
両親は神父に悪魔祓いを頼んだだけだと関係の修復に時間がかかると踏んで、自宅でも行動を起こしていた。
それが、他の家族を呼んでの悪魔に対する攻撃と名目した虐待だった、ただ殴って興奮するだけの神父と違い、その虐待は惨いの一言に限った。
焼き石での積み石、熱した鉄棒での落書き、子供の武器の練習の的、酷い時には、焼いた砂利を食べさせられていた。
初めは何度も泣き叫び、自分が悪かったのだろうと許しも願った。
1年もする頃には泣くこともなく、許しも願わずひたすら自分が悪いという考えに至っていた
(僕が悪いんだろう。みんな言ってた。僕は悪魔なんだって、狂ってるんだって。お父さんもお母さんもそう言ってた。僕が悪いんだ僕が……)
両親も初めは躊躇う気持ちがなかったわけではなかったが次第に薄れていき、いつの間にか本当に息子を狂ってるのだと、悪魔が憑いているのだと信じていた。
子供が10歳の冬、転機が訪れた。村長宅が管理する食料庫の火事が起こった。
村の人手が総出で鎮火に勤しんでる間、子供は1人自宅で倒れていたが、村の騒ぎによって目を覚ました。そして周りに誰もいないことがわかると痛む身体に鞭を打ち、ボロボロの服の上に父の服を一枚被せて着ると、家を出て、一人で道に沿って歩き始めた。
それはここ数年間で少年が初めて起こした自発的な行動だった。
当然行く宛もなければ、資金もない。
しかし村にいたらいつか死んでしまうそう考えた少年は1人歩き出した。通り道、看板があったが当然字など読めないので素通りをしたが看板にはこう書かれていた。
「この道北に3里ほど 都市オラリオ。」
と。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
2話
少年が数日かけてオラリオに辿り着いてから5年後。
日が沈み、空には世界を見守っているかのように月が有る中でも、迷宮都市は眠らない。
勿論明日に備えてか早めに就寝するものもいれば今日の戦功の良さから祝杯を上げる者もいる。
まるで水面のように穏やかな空と相反するかのように賑やかさを醸し出しているオラリオ。
そんなオラリオの西のメインストリートに豊饒の女主人という周りと比べても一際大きい酒場があった。
そこは冒険者がよく来店することに対して、少々頼りなさを感じさせるかのように美女が多いと評判なのだが、その見た目に反して問題は殆ど起きることは無い。
それは大御所のファミリアが来店すると言うだけでなく、従業員の一人一人がその他大勢の冒険者が数人で掛かろうとも歯牙にもかけないような実力を持ちかねているのだが、そのことを知るのは少なくとも従業員以上の力量を持つものの中でも相手を推量ることが出来るものぐらいのために、客が物怖じする、ということも無い。
そんな豊饒の女主人のカウンターの端で一人のまだ少年とも言える年ほどの男が料理をまっていた。白髪混じりの黒髪を前は目が隠れるほどに、しかし後ろはうなじに少しかかる程度という奇抜とも言える髪型の少年だった。
少年ほどとも言えるとは言ったが実際180程の身長と細身ながらも締まっている体、落ち着いた雰囲気を出しているために年上と見られても何らおかしくない容姿だった。
「お待たせしました。」
頼んでいた料理が届いたのだろう。
エルフの給仕係がジョッキとどんぶりを持ってきた。
その瞳には好奇心が大半、それに加えて僅かな恐怖心に色づいていた。
ありがとうと会釈を返すとエルフの女性はまるで重い口を開くかのように問いた。
「ロウグさん。貴方はいったい何をーーー」
「おーーっす!お邪魔するで!」
その問いに被せるように豊饒の女主人に十数名の冒険者が団体で入ってきた。
オラリオでも精鋭中の精鋭揃いのファミリア、彼らを率いて入ってきたのはそのファミリアの主神、ロキだった。
元々予約を済ませていたようで、まとまって空いていた席に座り、注文していく。
「リュー!なぁにしてんだい!働きな!」
厨房の奥から女将のミアの叱咤が届く。
その声に我に返ったかのようにエルフの女性リューはこちらに1度頭を軽く下げた後、作業スペースの方へ戻って行った。
「また、機会があった時に聞かせていただきたいです。
貴方は本当に狂っているのか、何を求めているのかを。」
去り際にこんな言葉を残して。
その姿を見送り、手をつけていなかった料理に手をつける。
(確認する必要はないと思うけどな……
だって俺は悪魔で、狂ってるんだから。
あの人も俺といたら不幸になってしまうよ。)
そう。この少年は5年前このオラリオにやってきた。虚ろな自己と濁った目を持って。
この少年はオラリオでこう、称されていた。
『ネメシスの懐刀』『狂人』
そして神々からつけられた『ロスト』
この事について、ロウグ自体はうまく表したと感心してしまっていた。
しかし主神であるネメシスはただ一人の眷属の2つ名に対し怒りを抱いた。
「あの子は自ら望んで失った訳では無い。
古臭い風潮と愚かな思考回路をした者共の被害者だ。
神々は娯楽を求め下界に来た。我も同じだ。しかし我の愛しい眷属を面白おかしくと蔑んだのなら覚えておくことだ。必ず、必ず後悔させてやる。」
そうネメシスは神会(デナトゥス)で宣言した。
そのせいで幾つかの神からは嫌われており、悪い噂も少なくはない。
ロウグは主神を愛せていない。いつか必ずこの身を元の持ち主に返す。そうしたら本当の俺があなたを愛すだろう。
そう自らの主神に宣った。しかしネメシスは顔を悲痛に歪めていた為にまた自分は失敗したのだと考えてしまっていた。
(例え悪魔と呼ばれようとも。狂人と蔑まれようとも。ネメシス様に害が及ぶようならば俺はーーー何も厭わない。全てを壊そう)
歪んだ心を固くただ固く完成させてしまった。
ロウグの現レベルは6。
オラリオ最強とは言えないし他にもLv6はいる。
それでも実行をしてしまえる程の実力を有していた。
ロウグ
Lv6
力c685 耐久S907
器用A802 敏捷B788
魔力C614
対異常 G
耐熱 H
精神G
槍F
スキル
『消失』
魔法で起こされた現象を左目で吸収する。
吸収できる魔力の規模には限度あり。
『発現』
自身が吸収した魔力による現象を右目を介して発現する。その際に大きさ、速度、密度を変化させられる。
しかし威力は吸収した時の状態から変更できない。
『狂い咲き』
槍に自らの血を纏わせて発動。
血を纏わせる際自らの体に直接槍を突き刺す必要がある。
威力向上、射程超向上。使用してから5分痛覚倍増。
『独り歩き』
自らを恐怖する人に応じて早熟する。
自らの本質を理解した人物に応じ晩成する。
既にLv7には片足踏み込んでいる。
そんな自分でも全ての冒険者に勝つことは不可能だがいくつかのファミリアに再起不能な程に損害は与えられる筈だ。
と、そう考えているとふと前に女将のミアが立っていた。
「全く!なんて顔をしてるんだい!辛気臭いね!これでも食べな!紛いなりにもあんたは常連だからね!これからも金落としてもらわないと!」
そう言って荒々しく果実を投げてくる。
ネメシス様がこの果実を好んでいたはずだ、帰って渡そうと思っていると、ふと店内が騒がしくなった。
否、騒がしいのは1部分で他は平常通り、何事かと視線を向けると、ロキファミリアの狼男が酔っているのか上機嫌で喚いていた。
「アイズゥ!あの話ぃしてくれよ!!
5階そうに居た貧弱なトマト野郎のこと!!」
上機嫌な狼男の様子に主神のロキも何事かと聞く。
「5階?なんでそないな所に?」
「集団で襲いかかってきたミノタウロスがみっともなく逃げ出したんだよ!しかも奇跡かっつぅぐらいに上に行きやがってよ!
そんときヒョロヒョロしたやつがミノタウロスと出くわしたみたいでな?顔を引き攣らせて震えてたんだよ!」
そういいギャハハと笑う狼男。
「間一髪でアイズが助けたはいいが血まみれになって混乱したのか知んねぇけど叫びながらどっかいっちまってよぉ!
本当男の癖に情けねえったらありゃしねえ。ああいうやつが冒険者の品位が下げるんだよ。ホント目障りだよなぁ?」
そう騒ぐ男をエルフの女性が睨む。
「いい加減に口を閉じろ。どのような理由があったとしても17階層のモンスターが5階まで行った。それは紛うことない我々の失態だ。謝罪こそしても、乏しめることは許されん!」
「へーへー。
エルフ様は品行方正ですばらしいことで。
でもそんな役立たずを擁護してメリットはあんのか?雑魚は結局雑魚だろ。地面這いつくばってればいいんだよ。」
「そうだアイズはどう思うよ。お前だってあんな雑魚が同じ冒険者だなんて嫌だよなぁ。
……あぁ?つまんねぇ回答だなぁ。
じゃああいつがお前と番になりたいって言ったらどうすんだよ。はっ無理だよなぁ。雑魚はお前の隣に立てない。何よりも力を求めてるお前がそんな雑魚と隣に立つわけないもんなぁ!」
そういい狼男はまた笑い出す。
「黙れベート!!何度も言わせるな!」
エルフと狼男ベートが言い争い、周りの面々もそろそろ止めるかと発言しようとした時、1人の少年が悔しそうな顔をして店から走り出してしまった。
その様子を見て周りはこの店で食い逃げなんて度胸あるなぁなどといった少し路線が外れたような気がしないでもない感想だった。
ただの食い逃げだったならばなんの関心も抱かなかっただろうが、少年が悔しそうだったと気にかかり、彼の分も支払うことにするロウグ。
そんな彼の胸中は
(あれ?これって俺が注意するべきなのかな?ファミリアの奴もなんかなぁなぁで終わりそう。俺の方がレベル高いし……はぁぁ、災難だ。)
彼は不幸を経験しておきながらある程度の正義感を持っていた。決して得はできないだろう性格をしていた。
そのまま彼が席を立つと。
「…………はぁ。店を壊されたらたまったもんじゃない。やるなら外でか、反撃もさせずに圧倒しな。」
そうミアは告げてくる。
内心求められるハードルが上がったと憂鬱になりながらも彼らの席へ向かう。
自分たちの席に男が向かってきていると、ファミリアの冒険者たちは男に対し奇っ怪な目を向ける。
そのままロウグはベートの座っている席の後ろに辿り着く。
「……あぁ?誰だお前。失せろ」
不機嫌を隠そうともしないような物言いにロウグ自身も少しイラついていた。
それでも彼自身は優しい物言いをしようとしたが5歳まで教養を受けずにいた人生。
口下手な彼は、
「キャンキャン煩いな。犬が。吠えるんなら自分の犬小屋で鳴いてくれないか。」
挑発成分100%な言葉を発してしまう。
どうも。拙い文章ですが読んでいただきありがとうございます
1話で距離を3里と書きました。悪魔祓い等もあって文化がごちゃごちゃと思われると思います。
ただダンまちの神に西洋の神もいれば、日本の神もいたのでそういった設定をつけてみました。
読みにくいと思いますが何卒よろしくお願いします
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
3話
先程のロウグの発言が琴線に触れたのか、
突然現れた男にイラつきを隠せないのかは分からない。
ただ先程までの声とは180度変わり、重く冷たい声を出している。
「テメェ……今なんて言ったもっぺん言ってみろ…」
もう1回とは言っているものの、ここで間違いを訴えたりしても許すつもりはないと表情が語っていた。
「聞こえなかったのか。吠えるな、と言ったんだ犬。人間様の迷惑を考えろ。」
先程とは同じ内容の発言に加え、言外にお前は動物なのだと言う意味すら取れた。
「ちょっと流石にそれはー」
それを見かねたのか同席していたアマゾネスの1人が反論をしようとする。
「おめぇぇ!それは俺が誰だか知って言ってるんだよなぁ!?なぁ!そもそも雑魚の都合なんか考えるわけねぇだろ!雑魚は這いつくばってればいいんだよ!!」
しかしそれさえもこの男の大声によってかき消された。
そのままロウグへと突撃するベート。
酒が入っていようとLv5。
並の冒険者ならば残像を追うことすら叶わない。
ただ不幸だったことはレベル1つの重みが大きいこの世界でレベル差があること。
ロウグは考えなしに挑発した訳ではなくどうしたらいいかある程度考えていたこと。
あまり事を荒らげない為にロウグが行った事は、
「うっ!」
「おいおい!威勢がいいのは口だけかぁ!?アァ!?」
1度攻撃を受けること。
元々はあちらが駆け出しの冒険者の大半を軽んじた発言をしたため、注意をしに行くと、襲いかかってきた、という構図が出来上がる。
ロウグ自身が挑発したとも言われるだろうが、そのことはどうにでもなると考えた行動だった。
しかしこの行動はLv差があって初めて成功する。ただベートに対するロウグの相性は最悪と言ってもよかった。
肉弾戦主体な為に攻撃の射程距離を伸ばそうとも意味がなく、魔力に頼らないために消失と発現は意味が無い。
この世界はLv差が重いと言ったがここまで相性の優劣が決まっていたのならばベートが勝つことも不可能ではなかったのかもしれない。
攻撃を当て、怯んだ隙をひたすら狙うだけなのだから。しかし惜しむらくはロウグがまるで痛覚が働いていないかのように痛みに関する耐性が高かった為に顔を殴られる際、目をつぶったりすることも無く、虹彩にはベートが映り続けていた。
例え拳ではなく貫手だったとしても怯えることは無かっただろう。
そして殴ったはずなのに微塵も怯えや怯みを見せないロウグにベートの体が一瞬膠着する。
肉弾戦において一瞬の膠着や気持ちの引けは負けを意味する。
殴り掛かり伸びた腕の手首を右手で抑え、左手で外側から肘を押す。関節を抑えられると人は力が出せない。そのままベートは前のめりに倒され、その上にロウグが乗るという構図ができ上がる。
「……雑魚は地面を這いつくばってればいいか。まるで自分が強いと言ってるみたいだ。」
「糞がぁっ!離せぇっ!!」
「そろそろ黙ってくれ、ベート。」
床に押し付けられて尚抵抗しようとするベートの意識をを金髪の小人族を刈りとる。
ロウグの後ろにはロキ、アイズと呼ばれていた女性、先程までベートと言い争っていたエルフの女性が立っていた。
またそこにベートの意識を刈り取った小人族が混じる。
「まずは自己紹介を。ロキファミリアの団長を務めている、フィン・ディムナだ。今回はうちの団員が迷惑をかけてしまい。申し訳ない。」
「同じくロキファミリア副団長を任せられている。リヴェリア・リヨス・アールヴ。
今回のこと深く詫びさせて欲しい。」
「……アイズ・ヴァレンシュタイン。
ベートが……ごめんなさい。」
「そ、し、て、ウチがファミリアの主神のロキや!おたくネメシスの所の子やろ?会うのは初めてやけど君、ええなぁ!」
主要人物だろうか、4人が自分の身分を明かし、3人が今回の事の謝罪をする。
ただ主神ロキの一言で周りが一斉にざわめきだす。
ロウグはLv6であり、ネメシスファミリア唯一の眷属、そして狂人等と名前の知名度はかなり高い。が、一転してその容姿は知られていない。先程話しかけてきたリューでさえも。雇い主であるミアから聞き、知ったにすぎない。
初めは、呆れや同情。その次に驚愕と疑問と移り変わりしていた冒険者達の瞳に恐怖の色が着き始めた。
ロウグもまたその事に気が付き、本人でも自覚はしていないが、一瞬、表情に泣きだしそうな悲しみの相が現れた。髪の毛で目元が見えなくともハッキリと現れていた。
それに気づくことが出来たのはロウグと向かい合っていた神含む4名だけだった。
「……俺への謝罪は必要ない。あの少年に直接頼む。
それよりも、リヴェリア、さん。ひとつ聞きたいことがある。」
「同じLv6同士。私に敬称はいらないさ。
それでロウグ殿、聞きたいこととは?」
「そうか。ならば俺にも必要ない。
あなたはさぞ魔法に詳しいと思う。このオラリオで、悪魔祓いを生業にしている人物はいないか?」
「悪魔祓い?破呪ならばいるが悪魔祓いとなると……すまない。そのような人物に覚えはない。」
申し訳なさそうに告げるリヴェリアの後ろでロキがまるで哀れに思うようにロウグへ視線を向けていた。
「そうか。突然すまなかった。」
そう言って会釈をした後、ロウグは店を後にする。
残されたロキファミリアの面々が沈黙に包まれている中リヴェリアはロキに問いた。
「ロキ、ホームに戻ったら聞きたいことがある。」
一体彼は何故狂ってると表されるのか、オラリオ屈指の実力を持つあの『ロスト』が何故あんなにも悲しげ表情を出したのか。
またその疑問は団長であるフィンにアイズも持っていた。
そして店のカウンターの奥、兼ねてよりロウグを気にかけていた1人のエルフも持ち、ロウグへ気軽に話しかけることが出来るミアに聞いた。
しかし帰ってきた返答は
「あいつは狂った男じゃないんだよ。その実力に嫉妬したしょうもない奴等、気にかけていた神が深い愛を向ける対象と知って薄汚い嫉妬を向ける男神。そんな野郎どもが言ってるだけさ。」
表面上の説明であった。
ミア自身が重大な事を知っていると予測はできても普段隠し事をしないが故にどれだけ大きい事なのかと物怖じしてしまう。
狂った男出ないのならば何故なのか。
何故あんなにも悲しげな表情を出したのか。
考え出したならばキリのない疑問がふつふつと沸く。
ただ狂っていないとわかったのならば彼ともっと話してみたい。彼の事を理解したい。そういった気持ちが生まれ始めていた。
「今度からもっと話しかけてみましょうか。シルには悪いですが恋路の応援は少し後とさせてもらいましょう。」
そう1人ごちりながら、嘗て正義の元に活動していた一人のエルフはこれからの行動方針を大きく変えた。
今回も拙いながらも読んでいただきありがとうございます。
ミフィン、リヴェリア、リューは特に好きなキャラだったんですけど、原作だと少し出番が少なくて悲しいです。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
4話
西のメインストリート
豊饒の女主人からは歩きで10分ほど。
所狭しと並ぶ家屋の1つ。民家とさえ見られそうな建物。そこはオラリオ屈指の実力を有する冒険者が所属するファミリアのホームだった。
「戻りました。」
声を掛けながら入ってきたのは白髪混じりの黒髪を目元で揺らす男だった。
外出用のコートを掛け、奥へと進む。
一日の終わりにここ数日以上の出来事が起きた。
今回のことであそこのファミリアと敵対したかな、怒られちゃうかな、と。
板張りの廊下を歩く。靴を脱いだと言っても床との間には布が1枚ある。
それなのにひんやりと伝わってくるのは、今日の出来事故に体が火照っていたのか、もうすぐ冬が来ることの前触れなのかは分からない。
しかしロウグ自身はその冷たさが心地よく感じれた。
ふと。奥から足音が向かってくる。
廊下を曲がればその足音の元がいると思えるほどに近づくと、向こうから声がかけられる。
「おかえり。我の愛しいロウグ。
特に怪我などは無いか?
更新は--今日は何か面白い出来事でも起こったか?」
現れたのは包み込むように明るい橙色の髪を伸ばした女性だった。
初めは慈愛が篭もった瞳を向けていたが、ロウグを見つめると、僅かな変化、長年付き添ってきた相手でも見分けるのが困難な程の小さな変化、しかしそれをしっかりと女性の、主神であるネメシスは感じ取った。
別段隠すことでもないと、豊饒の女主人での出来事を報告する。それと、ロキファミリアと対立してしまったかもしれない。すみませんと謝った。
それに対してネメシスは赦したわけでも、憤慨したわけでも、こんな事をするような男に育てた訳ではないと悲しんだわけでもなかった。
ネメシスが感じた感情は喜びだった。
脳裏に浮かぶ初めて会った当時の様子。
馬車に紛れ込んでひっそりとオラリオに入ったはいいが行く宛もなく途方に暮れていた。
きっと子供ながらに期待していたのだろう。
ここに来たら何かが変わると。
そして本能も誰かが助けてくれると感じていたのかもしれない。
そして実際に2人は出会った。
ネメシスからしたらそれは天命。
ロウグからしたら奇跡。
互いが運命のようなものを感じたのだからファミリアが結成されること、それは必然であったと言えるだろう。
ただ、ロウグはダンジョンに潜り、力を蓄え、金銭を稼ぐこと以外自主的に何かを行うことは少なかった。
せいぜいが悪魔祓いができる者を探すことくらいだった。
しかし報告を聞くにはロウグが自主的に他ファミリアの迷惑行為を止めに行ったと言うではないか。
実際ロウグが正義感を持つことは知っていた。それでも行動に移すとは思っていなかったのだ。
欲を言うならば眷属の成長の起点になり得なかったことだがそんな事は些細なことだった。
例えそれが誰かと敵対をする道だとしても。
「構わない。構わないさ!
他ならぬ自分自身で決め、行動したことであろう。ならばお前はひたすらに進めばいい!自身が信じる道をだ!」
心が躍る。
そう形容できる素振りを見せるネメシス。
ロウグはネメシスがなぜ喜んだかは分からない。しかしネメシスが喜んでいるのは嬉しい。そのふたつの感情が合い混ざって苦笑いを浮かべたのだった。
北のメインストリート
ギルド関係者も住まう高級住宅街が位置するこのメインストリートから1つ離れた街道の端、そこにロキファミリアのホーム黄昏の館が位置している。
黄昏の館の主に幹部や団長が使用する。会議用の部屋。
その場に主神ロキ、団長であるフィン、副団長のリヴェリアがいた。その表情は硬く、これから話し合われることの度合いを表していた。
その議題は先程一悶着があったロウグの過去だった。
その場にいた者達からも参加したい旨が届いたが、内容が内容のため、この三人のみでとなった。
「そんじゃあ、始めよか。
さっきのあの子、ロウグの事やな。
言うてもウチ、そこまで知ってるわけじゃないで?歳も知らんし。」
そう言い、口から生み出されるロウグの過去。
先程自分で言ったようにロキ自身全てを知っている訳では無い。
それでも、聡明なこの場の2人は頭の中で思い浮かべる情景を積み上げていく。
ロキが説明したことは、物静かだった為に悪魔憑を疑われ、神父から虐待に会ったこと、そのために自信を悪魔だと信じていること。その2点だった。
目を見開き、驚愕するも、冷静に考える。
先にある結末に着いたのはリヴェリアだった。
「……先程の悪魔祓いを生業をしている者を尋ねたのは、まさか未だに信じているから?
そう思考を張り巡らさせながらもこの事を知る者に制限をかけたことに安堵する。
ファミリアにはこの事を聞き黙っていられない物もいれば、怒った際に関することを荒々しく口にするものもいるかもしれない。
そう考えていたリヴェリアだがフィンの言葉で体が凍ったように感じた。
「ロキ、それだけじゃあないんじゃないのかい?それだけならばまだ親が護ってやれたかもしれない。子供1人で逃げ出す。もう頼れる人がいないと思わせられるような出来事が。」
それは言外に親からも何かを受けていたことを指していた。
「さすがフィンやな正解や。それだけじゃ無いことは確か。しかしそこまでの情報はウチはもっとらん。持ってるのはヘルメスにフレイヤ、アポロンにウラノスくらいかもなぁ。いや、ガネーシャも知ってそうや。」
確かに2人は考えなしに動くほど感情的でも愚かでもない。
しかし、何も行動をしないということは選択肢には存在しなかった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
5話
雲1つない空に喜ぶかのように太陽が世界に光を浴びせる。
肌寒くなってきた季節にありがたく感じるそれは高まっている人々の気持ちを一層に盛り上げた。
本日は怪物祭。
大規模ファミリアであるガネーシャファミリアが主催する祭りである。
交通量も多いと言えど普段は詰まることなどないメインストリートが上から見て地面すら覗けない程に人が集まる。
それはオラリオ中の人々が各方角のメインストリートにしか居ないのではと考えさせられるほどだ。
今日はダンジョンに潜らずに自由行動になるファミリアも決して少なくはない。
またこの怪物祭は勿論数人での行動しているのが殆どだが、例え1人だったとしても楽しむことができるよう工夫が凝らされているのだろう。実際に1人で祭りを回っegfiugugufoホラと見受けられる。
しかし白髪混じりの男ロウグは道の端で壁に寄りかかりながら所在なさげにしていた。
主神は知り合いの神と用事が
あると出掛けていき、残されてしまったためだ。
初めは祭りに参加する気などはなかったが、主神ネメシスがロウグに祭りに参加するよう指示したのだ。
あわよくば彼の精神が自立してくれることを望んで。
そんな事も露知らず、ロウグは退屈だと言わんばかりの表情を浮かべ、空を眺めていた。
ネメシスの願いとは裏腹に彼自身、この体で楽しむことはいけないことと認識していてしまってるのだ。
また本来ならばダンジョンに潜っている時間帯のために他の事への時間の割り振りが出来ないのもあった。
彼は力を求めている。しかし戦闘狂ではない。
彼は自身の体を「これ以上」傷つけたくないのだ。この世界で自信を傷つけ得る要因を排除する。そのために力を求め傷つく原因となる戦いをしている。
それはどちらかを求めれば確実にもう一方もついてくる切ろうとも切れない性質だった。
太陽がいつの間にか真上に位置している。
丁度お昼頃だから。と彼は昼食を取ろうと腰をあげる。どこで摂るか、そう考えて1番に考えるのが豊饒の女主人だった。
折角の祭り、露店でもいいかと思ったが得てしてこういった催しの際に出る露店は大概が高い。
ならば少し歩いてちゃんとした場所で食べよう。そう考えながら足を動かす。
目前に豊饒の女主人が現れ、今日は何を食べようか考える直前、自身の前を駆けていく銀髪の少年を見かける。
「わかりました!届けてきます!」
そう言い走り出す少年を何時ぞやのエルフがその背を見送っていた。
ロウグもまたその少年には見覚えがあった。
まだ若く、発展途上だと言うのにも関わらず、乏され将来への道が閉じてしまうのではと思ってしまっていたのだが、その考えは杞憂であったらしい。
そう、ロウグが結論付け、今度はこの人混みの中なぜ急ぐのかと疑問が浮かぶ。が、それも自らには関係ないことと思考から切り捨たところで、エルフの店員……リューがこちらに気づく。
「こんにちは。中で食事を摂られますか?」
ロウグに気づき薄く目を見開いたのも束の間、慣れた対応で質問をする。
ロウグがその返答として1度頷くと店の中へと案内をする。
中に入るとやはり祭り故かその状況は繁盛とはお世辞にも言えない。
皆露店で食べ歩きでもしているのだろう。
そう考えながら自らがよく座る端の席に座る。
注文を伝え、リューがミアにそれを伝えた後、こちらに近づいてくる。
「貴方と入れ違いになってしまった少年ですが、あれ以来直接お礼と、払わせてしまった代金を返そうと毎日店に通っています。
ですのでもし、都合よく合われた場合、受け取ってあげて欲しい。」
面と向かって伝えられたら断れない。
それにそのぐらいならば断る必要も無い。
その考えを持って伝えるように深く頷くロウグ。
また、リューは意を決した様に重い口を開く。
「ロウグさん、質問があります。
貴方の2つ名である『消失』や、人々から呼ばれている『狂人』のことです。
私は……貴方がそのような名を渡される人ではないと思います。
昨日の一件で貴方が何か重いものを背負っている事は分かりました。
しかし、言ってみればそれだけです。」
事実、リューはベートとの争い等からロウグが“何か”重いものを持っている事は理解出来た。
しかしそれが何かは、知らない。
ロウグが持つ身体の表面に浮いている闇を。
ロウグが抱える精神を蝕む闇を。
故にリューは求める。
既に踏み込んでしまったこの身体、後戻りはしない。
嘗て、正義を掲げたこの自分成してしまったことが許されるとは思わない。しかしそれは苦しんでるであろう人に手を差し出さないことと同義にはならないのだから。
故にリューは悩む。
故にリューは手を差し伸べる。
故にリューはその身を抱きしめるだろう。何故なら彼は、まだ15の少年なのだから。
また間が空いてしまい申し訳ないです。
4話を投稿してからアクセス数の伸びが大きくなった気がします。
未だ拙い部分だらけですが応援お願いします
目次 感想へのリンク しおりを挟む