学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫と孤毒の魔女、3人の物語 (ソーナ)
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EXストーリー
召集


 

 

「ここは・・・・・・」

 

綾斗は周囲を見渡して言う。綾斗のいる場所は広く、宮殿の広間みたいな飾りつけが装飾されていた。

 

「前に訪れたリーゼルタニアの宮殿の広間みたいな感じだな」

 

「・・・・・・ほんとね」

 

「そうだね~」

 

「うん・・・・・・って、オーフェリアとシルヴィ!?」

 

綾斗は不意に自分が口にしたことの返答が来たことに驚きながら後ろを見ると、そこには綾斗の幼馴染みで恋人のシルヴィとオーフェリアがいた。

 

「やっ♪綾斗くん♪」

 

「・・・・・・綾斗も来ていたのね」

 

「来ていたというより、呼び出されたって言った方が良くないかな?」

 

「アハハ、確かにそうかも」

 

「・・・・・・それもそうね」

 

「ところで俺の他にはシルヴィとオーフェリアだけ?いるのって?」

 

「・・・・・・違うわ。ユリスと紗夜もいるわ」

 

「他にも、クローディアさんや綺凛ちゃんもいるよ」

 

シルヴィとオーフェリアはその後ろの扉を見た。

 

「やれやれ、お前たち。もう少しイチャイチャするのを抑えることはできないのか?」

 

「シルヴィアとオーフェリアが綾斗に甘えるのは当然の事。もう見慣れた」

 

「いやいや、紗夜。さすがにあれを見慣れたでスルーするのはお前だけだ」

 

「そう?ユリスたちもいずれ慣れる」

 

「あらあら、さすがにそれは慣れたくありませんわね」

 

「あわわわっ!何時もの事ですが凄いです、シルヴィアさんとオーフェリアさん」

 

「全くもぉ~、綾斗とシルヴィアちゃん、オーフェリアちゃんは相変わらずだよね」

 

綾斗たちを見ながら呆れながら入ってきたのはユリス、紗夜、クローディア、綺凛、夜吹、プリシラ、イレーネ、レスター、ランディ、そして遥だ

 

「姉さん!俺らは昔からこんなんじゃなかったよね!」

 

「んー。そう思ってるのは綾斗だけだと思うよ」

 

「そうなの?」

 

「そうだよ。昔から、綾斗にべったりくっついていたもんシルヴィアちゃんとオーフェリアちゃんは。その度に私と紗夜ちゃんがあきれていたんだよ」

 

遥は綾斗たちを見ながら、苦笑しながら言った。

 

「そ、そうだったんだ」

 

綾斗は気恥ずかしくなったのか頬を軽く掻きながら言う。

 

「ったく、アタシんらのところでは恐れられてるっつうのに、天霧と一緒にいるとオーフェリアの奴ほんと嬉しそうだな」

 

「うんうん。ちょっと見ているこっちが恥ずかしいけど・・・・・・ね、お姉ちゃん」

 

「ああ。それに関してはロドルフォのヤローも同意してたぜ。アイツにしては珍しく苦笑いしてな」

 

オーフェリアの姿を見て、イレーネ、プリシラのウルサイス姉妹が慣れた感じの雰囲気でそう話していた。

 

「ところで姉さんもみんなもあの手紙を受け取って、開けたらここにいたの?」

 

「ああ、そうだ」

 

「・・・・・・その通り」

 

「はい」

 

「ええ。そうです」

 

「そうだよ綾斗」

 

ユリスたちが次々に言い、他のみんなも同様に首を縦に振り、うなずいていた。

 

「俺たちを呼んでどうするつもりなんだろ?」

 

「さあ?でも、招待状って書いてあったからなんかのパーティーなんじゃないかな?」

 

「・・・・・・ところでこの扉って何時開くの?」

 

オーフェリアが部屋にある、黒と白、紫の三色に並ぶ派手に装飾されていた大きな扉を前にして言う。

扉には大きく、他と色が違うということ以外には他と変わりがない。ただひとつ違うのは開かないということだけだ。

 

「とにかく、呼び出んだからいつかは開くと思うし、それまでここで待ってようか」

 

綾斗がそう言うと、みんな各々好きなようにして時間を潰していた。

そして15分後。

 

 

"ギィー――――――ガタン!"

 

 

黒と白、紫の三色が並んだ扉が開いた。

そして、

 

 

『お集まりの皆様、お待たせいたしました。扉の奥へとお進みください』

 

 

そんなアナウンスが流れた。

開いた扉から光が溢れ出ていた。

 

「それじゃ、いこうか」

 

綾斗を先頭に、次々と光の溢れる扉の中へと入っていった。

 



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HAPPY NEW YEAR!

新年最初の投稿です。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
それではどうぞ!


 

 

 

「広いホールだね。何人入れるんだろう?」

 

「《星武祭(フェスタ)》のメインステージの観客席ぐらいじゃないかな?」

 

「・・・・・・幻想的な場所ね」

 

綾斗たちは扉の奥に進み、その光景にそう呟いた。

すると。

 

 

 

 

「うわぁ~、綺麗な場所だね」

 

「ああ」

 

「キリトくん、かなり広いね」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

「すごい場所ですね兄様、姉様」

 

「うん。扉の奥がこうなっているなんて・・・・・・」

 

「フフフ。零華ちゃん眼が輝いているよ――――――って、それはことりちゃんたちもだね」

 

 

 

「広い場所ねサトシ・・・・・・」

 

「ああ。前に行ったことのあるオルドラン城の広間ににているな」

 

「ピーカチュー」

 

 

 

ホールの四隅からそんな声が綾斗たちの耳にはいる。

綾斗たちは声が聞こえてきた場所をみる。

そこには自分達と同年代と思わしき少年少女たちがいた。

綾斗たちの目の前の一団は、同じくどこかの学校の制服を着ていた。だが、その一団の内三人の少女は白い同じ制服を、そして、九人の少女は紺色のブレザーとチェックのスカートを着て、残りの少年少女たちは同じブレザーを着て男子は青のズボンを女子はワインレッドのスカートを着て男子はズボンと、女子はスカートと同じ色の短めのネクタイをしていた。

右側の一団は統一感がなくそれぞれ歴戦の防具らしきものを着ていた。

そして、右前側の一団は私服らしい。そして一番前の少年の肩には黄色い鼠?らしきものがいた。

すると。

 

 

 

「ヤッホー、みんな~!」

 

『『『『『『『『ソーナ(さん)!!?』』』』』』』』

 

「みんな、今日は集まってくれてありがとう!」

 

「いや、それは構わないんだが。いや、まあ、構わなくわないが・・・・・・・・。それよりここは何処なんだソーナ?」

 

「ここは、私の居城≪クランテュネス・アルファニスト≫の中だよ。キリト」

 

「なら、ここは・・・・・・・」

 

「うん。ここは私の住んでいる異空間だよ、明久」

 

「ソーナ、それじゃあ彼らは?」

 

「ここにいるのは私が呼んだ、各小説の登場人物だよ、綾斗」

 

「登場人物、ってことは何組いるんだソーナ?」

 

「私が投稿しているのは―――――《ソードアート・オンライン 黒の剣士と紅の剣舞士 二人の双剣使い》と《バカとテストと召喚獣 奏で繋ぐ物語》、《学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫と孤毒の魔女、3人の物語》そして《ポケットモンスターXY&サン・ムーン 二人の紡ぐ物語》の4作品だよサトシ」

 

「つまりここにいるのはソーナが投稿している小説の登場人物ってことか?」

 

「正解だよ、キリト」

 

「えーと、ソーナはなんで私たちを呼んだの?」

 

「あれ?キリトたちにはアリスとユージオが手伝ってくれたはずだけど・・・・・・そう言えば秘密にしといてって言ったんだったけ」

 

「それで一体・・・・・・」

 

「フッフッフッ。実はみんなを呼んだのは・・・・・・」

 

『『『『『『『『『呼んだのは・・・・・・』』』』』』』』

 

「みんなで、楽しく!仲良く!新年の始まりを過ごすためだよ!!」

 

「あー、そう言えばそろそろ今年も終わりなんだったね」

 

「そうだよ明久!それで、どうせならみんなと過ごしたいなって思ってね。言っとくけどリアルに友達が居ないからって訳じゃないからね。――――――――――まあ、友達なんてもの必要ないし要らないから、いないんだけどさ」

 

『『『『『『『『・・・・・・・・・・・・・・』』』』』』』』

 

「とまあ、そんなことよりみんな楽しくワイワイ過ごそう!」

 

『『『『『『『『オオォーーーーー!』』』』』』』』

 

ソーナの掛け声により楽しいパーティーが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーが始まり、ホール内には様々な食べ物や飲み物が置かれ、各自それぞれ他の登場人物たちと話していた。

ある場所では――――――

 

 

 

 

 

 

 

「凄いわねあなたたち」

 

「うん。学校の廃校を阻止するためにそんなことするなんて、生半可な気持ちじゃできないよ」

 

「ホントだよ~」

 

「えへへ、そんなことないよ」

 

「そうです。私たちは自分達のためだけではなく、音ノ木坂学院全員のためにしているのですから」

 

「やれやれ、海未ちはほんと固いな~」

 

「なっ!?そ、それはどういう意味ですか希」

 

「そのまんまの意味やんよ。なあ、エリチ」

 

「え、ええ。そうね」

 

「まあ、海未が堅いのはいつものことだしね」

 

「まあ、それは確かに言えるわね」

 

「凛もそうおもうにゃ~」

 

「真姫に、にこ、凛もですか!?」

 

「わ、わたしはそんなことないと、思うよ」

 

「かよちんはやさしいにゃ~」

 

「そう言えば絵里ちゃんはロシアに住んでいたんだよね」

 

「ええ。もしかしてレインとセブンもかしら?」

 

「ええ、そうよ。と、いってもお姉ちゃんが7歳、私が1歳の頃に両親が離婚して私はアメリカに、お姉ちゃんは日本に行くことになったのよ」

 

「そうだったの。ごめんなさい、辛いこと言わせてしまって」

 

「気にしないでいいわよ。それに今はこうしてお姉ちゃんと会えるんだから、平気よ」

 

「アハハッ♪。全く、セブンはほんと甘えん坊だな~」

 

「別にいいでしょお姉ちゃん」

 

「はいはい」

 

「セブンちゃんかわいい~♪」

 

「ま、まあ当然よ」

 

「それでなんだけどセブンちゃん」

 

「なにかしら?」

 

「これ着てくれないかな~?」

 

「な、ななな、なにそれ!?」

 

「え?これはことりが作った服だよ~」

 

「あ、あなたが作ったの!?じゃなくてなんで幼稚園の服なのよ!」

 

「似合うかな~って思ったの~♪」

 

「わ、わたしはもう12歳よ!」

 

「まあまあ、早く着替えよう~♪」

 

「いやーーァ!た、助けて、お姉ちゃーん!」

 

「え、ええ・・・・・」

 

「ことりちゃんの悪い癖が出ちゃったね」

 

「全くことりは・・・・・・。可愛いものに眼がないんですから」

 

「へぇー。そうなんだ」

 

「あ、戻ってきたみたいね」

 

「お待たせ~♪セブンちゃんを更に可愛くしてみたよ♪」

 

「せ、セブン?」

 

「ど、どうかな、お姉ちゃん?」

 

「うん!超かわいいよ七色!」

 

「お、お姉ちゃん!?それリアルネームよ!」

 

「ありゃ~、レインちゃんも変なのが出ちゃったよ」

 

「もしかしてレインってエリチと同じでシスコンなのかな?」

 

「う~ん、見た限りそうみたい」

 

「ちょっと希、シルヴィアさん。私は別にシスコンじゃないわよ。それにシスコンならあそこにいるわ」

 

「綾斗くんと話してる明久くん?」

 

「まあ、確かに絵里の言うとおりだと思いますよ」

 

「そうだねぇ。明久くんは昔から零華ちゃんのこと大切にしてたからねぇ~」

 

「アハハ。過保護過ぎってほどだけどね」

 

「それもそうね」

 

「あ、でも綾斗くんもかなりのシスコンだよ」

 

「そうなのかい?」

 

「うん。綾斗、子供の頃なんて遥お姉ちゃんの後ばっかり追いかけていたんだから」

 

「それはかなりのシスコンだな」

 

「でも、ちょっと可愛いかも♪」

 

「やれやれ。英玲奈はともかくあんじゅもことりと似たような慣性の持ち主だったわね」

 

『『『『『『ハハハハハ』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

アイドル同士、音楽関係などを話していたり。

また、あるところでは―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「遥さん、免許皆伝なんですか!」

 

「ええ。リーファちゃんとラムくんはどうなの?」

 

「私のところは免許皆伝とかはない、ですね。剣道なので」

 

「はい、俺のところもリーファさんと同じですね。もっとも剣道をやっていたのは中学生までなんですけどね」

 

「ラム君、そうだったの?」

 

「はい。一回中学の全国大会で優勝しましたよ」

 

「すごいねラムくん。私のところは剣術だからなぁ。剣道もするはするけど大会とかには出ないんだよね」

 

「じゃあ、今度試合しませんか!」

 

「え、リーファちゃんと?」

 

「はい。あ、でも遥さんがよろしければですけど」

 

「私はもちろんいいよ!ラムくんもどうかな?」

 

「俺もいいんですか?」

 

「もちろん」

 

「もちろんだよ」

 

「では、お言葉に甘えて俺も参加させていただきますね」

 

 

 

 

 

 

 

三人の男女が剣について話していて、

またあるところでは――――――

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、お前さんはかなり料理できるんだな」

 

「まあな。おれのところは兄妹が多くてな、親が不在勝ちなもんでおれが面倒見ているんだ」

 

「ほえー。その年で主夫みたいとはすげぇな」

 

「今はポケモンドクター見習いでな、家庭の方は弟たちが手伝ってくれてるよ」

 

「いい家族だな」

 

「全くだ」

 

「そう言うエギルだって嫁さんがいるだろうが」

 

「まあ、俺がいない間も支えてくれていたからな。自慢の嫁だ」

 

「くぅ~、羨ましいぜこん畜生!」

 

「それについては同意するぞクライン!」

 

「タケシ!我が同士よ!」

 

「やれやれだな」

 

 

 

 

 

 

 

男三人が盛り上がっていて、

またあるところでは――――――

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあオーフェリアさんは綾斗さんにいつもそうやってもらっているんですか?」

 

「・・・・・・ええ。シルヴィアもだけど。恵衣菜や翔子、セレナは?」

 

「私は明久くんにいつも甘えてるかな。明久くんの膝の上で頭を撫で撫でしてもらうと気持ちよくて眠っちゃうだよ」

 

「・・・・・・私は雄二によく料理を作ってもらってる。家事もだけど雄二は吉井と同じくらい家事レベルが高い」

 

「私はよくサトシにお菓子を作ってるかな?お菓子を食べたときのサトシの嬉しそうな表情がかわいいというか、癒されるんだよね~」

 

「・・・・・・なるほど。私も今度綾斗にやってもらおうかしら?」

 

「膝枕を?」

 

「ええ」

 

「・・・・・・なら私も雄二にやってもらう」

 

「じゃ、じゃあ私もサトシに今度してもらおう、かな?」

 

 

 

 

 

 

 

と、結婚している女子の恋バナ?らしき、情報交換などをして――――――

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『まだ、俺(僕)たちは結婚してないぞ(よ)!!!』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

いま、なんか五ヶ所から同時に同じ言葉が聞こえた気がしたのですが・・・・・・・気にしないでおきましょうか。

そして、またあるところでは――――――

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、お前さんは忍者かよ」

 

「・・・・・・そんなことはない。一般」

 

「いやいや、それはさすがのオレっちもヤーちゃんに同意するゾ」

 

「や、ヤーちゃんっておれの事かよ、アルゴの姉さん」

 

「ニャハハ。いいネーミングだロ?」

 

「そ、そうかぁ?なら土屋はなんだ?」

 

「・・・・・・俺は別にいい」

 

「ン?ツッチーだゾ」

 

「プッ・・・・・!つ、ツッチー・・・・・以外にかわいい名前だな」

 

「ダロ?」

 

「・・・・・・あまり嬉しくない」

 

 

 

 

 

 

 

情報屋同士、情報入手についてを語っていたり。

またあるところでは――――――

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、そっちの世界も面白そうだな」

 

「ああ。俺たちの世界も面白いがキリトたちの世界も面白そうだな。VRMMOだったか?是非やってみたいな」

 

「俺もサトシたちの世界でいろんなポケモンと触れ合ってみたいな。ピカチュウみたいなポケモンが沢山いるんだろ」

 

「ああ。それぞれの地方によって出るポケモンも異なるんだぜ」

 

「そりゃ行ってみたいな」

 

「それ、僕も行きたいな」

 

「俺も、かな」

 

「明久と綾斗もか」

 

「あー、でも俺は明久の世界が気になるな」

 

「召喚システム、だっけ?」

 

「うん」

 

「どんなものなんだ?」

 

「え~と、テストの点数がその召喚獣の力になって、操作は自分でやるんだ」

 

「ウゲー、テスト受けないといけないのか」

 

「俺たちのところもテストはあるけど、確か明久のところは違うんだっけ?」

 

「点数の上限がないからね。自分の能力次第ではどんどん点数が増えていくよ」

 

「うわー。大変そうだな」

 

「まあね。あ、でも綾斗のところも大変じゃないかな?」

 

「ん~。まあ、ね」

 

「アハハ、私としてはみんなの世界に行ってみたいけど」

 

「ソーナも?」

 

「それはそうだよ~。面白いじゃん」

 

「「「「アハハハ」」」」

 

「ところでみんなはなんで彼女たちが好きになったの?」

 

「ん~、俺は第一層からずっと一緒にいて、レインがいると何て言うのかな・・・・・・・・こう、安心するんだよ」

 

「僕は恵衣菜と小さい頃から一緒にいて、気心が知れているし一緒にいたいからかな」

 

「俺はシルヴィとオーフェリアと一緒にいると楽しいからかな。二人を俺は必ず守りたいって思うんだ」

 

「俺はセレナから様々なことを教えてもらったりしたし、セレナと一緒にいると安心するからと、夢を持っているからかな」

 

「なるほどね~」

 

「ソーナはいないのか?」

 

「え?なにが?」

 

「好きな人だよ」

 

「ええっ!?」

 

「そう言えばソーナはいないの?」

 

「気になるな」

 

「え、ええ・・・・・・。私は別にいないよ。それに友達とかいないから、そう言うのがわからないんだよね」

 

「「「「・・・・・・・・・・」」」」

 

「あの~、哀れむような目で見ないでほしいんだけどな~。ちょっと虚しくなるよ」

 

「アハハ・・・・・・」

 

「なんて返したらいいかな・・・・・・」

 

「ごめん、ソーナ」

 

「聞いちゃいけないことだったかな・・・・・・」

 

「ちょ、ちょっとー!べ、別にこの世界だったら幾らでも友達はいるよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

主人公同士で話していたりした。

そして時は進み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあて、今年も残り時間が少なくなってきたね」

 

ソーナはパーティー会場の時計を見てそう言う。

 

「ホントだな」

 

「ん~。みんなはなにかやりたいことあるかな?」

 

ソーナは会場の全員を見て言う。

 

「ん~。あ、じゃあソーナ、僕と試験召喚バトルしない?」

 

「え?」

 

「あ、明久くん!?」

 

「に、兄様!?」

 

「お、いいなそれ!じゃあ俺もソーナとデュエルしたいな」

 

「き、キリトくんも!?」

 

「じゃあ、俺もソーナと闘ってみたいな」

 

「綾斗くんまで!?」

 

「・・・・・・ハルお姉ちゃんどうにかして」

 

「アハハハ、無理だよオーフェリアちゃん」

 

「はいはい~!なら俺もソーナとバトルしたい!」

 

「サトシ!?」

 

なんと明久、キリト、綾斗、サトシからバトルの申請をソーナは受けた。

 

「って、ちょっと待ってよ!私は明久たちのように召喚獣持ってないし、キリトたちのように剣や防具も無いんだよ!更に言うと綾斗たちのように星脈世代でもないし煌式武装も装備してないよ!サトシのようにポケモンは持ってないんだよ!」

 

ソーナはそう言うが。

 

「その辺りはソーナの力で」

 

「作者の権限だね」

 

「ちょっとーー!!そんなのに使いたくないよ!」

 

ソーナはツッコミに疲れたのか呼吸が荒くなっていた。

他のみんなは苦笑や笑いを堪えているものが多かった。

 

「ハァー。―――――――いいよ。闘ってあげるよ」

 

「「「「よしっ!」」」」

 

「なんでそこで4人は嬉しそうにサムズアップするのさ!」

 

ソーナは更に落胆した。

 

「じゃあ、最初に綾斗、次にサトシ、で明久、キリト。でいい?」

 

「俺は構わないぜ」

 

「僕も」

 

「俺も大丈夫だよ」

 

「俺もだぜ」

 

「じゃあ、移動しようか」

 

『『『『『『『『『『移動?』』』』』』』』』』

 

「うん、移動。ハイッ、と」

 

ソーナが指をならすと次の瞬間、パーティー会場からバトルフィールドに来ていた。

 

「それじゃあ早速闘おうか、綾斗」

 

「そうだね」

 

フィールドにはソーナと綾斗だけ。残りは観客席に座っている。

 

「それじゃあ――――」

 

綾斗はそう言うと自身の純星煌式武装《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を展開した。

 

「いくよ、セレス」

 

『了解です、綾斗』

 

「はぁ、――――――おいで《虹の銀河(ガラクスィアス=イリス)》」

 

ソーナがそう言うと何もない虚空から、虹色に輝く双剣が出てきた。

 

「じゃあ、いくよ!」

 

綾斗はそう言うと否や凄まじい速さでソーナに《黒炉の魔剣》を振り下ろしてきた。

 

「よっ、と」

 

ソーナはそれを双剣をクロスして受け止める。

 

「せいっ!」

 

そして、《黒炉の魔剣》の軸をずらして綾斗の校章を右手の剣で切りつける。

 

「ん?」

 

ソーナは切りつけた箇所に手応えが感じられず眉を顰めた。

切った場所には青いガラスのようなものがでるが、それはすぐに虚空へと消えた。

 

「そう言えば綾斗の星辰力は膨大だっけ」

 

「まあ、オーフェリアには及ばないけど」

 

「そりゃそうでしょう――――――よっ!」

 

「ふっ!」

 

「セアッ!」

 

「ハアアッ!」

 

気合の入った声が周囲に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして8分後。

 

「ゼアッ!」

 

「ッ!」

 

 

戦闘終了(エンド・オブ・デュエル)!Draw!』

 

 

綾斗の攻撃を受け流し、カウンターでソーナの放った斬撃と綾斗の放った斬撃が二人の校章を同時に真っ二つに切り裂き、デュエルが終了した。

 

「引き分けか。強いなソーナは」

 

「綾斗こそ、強すぎるよ」

 

「謙遜しないでよ。ソーナの武器もだけど力量も凄かったよ」

 

「綾斗と比べるとまだまだだけどね」

 

ソーナら自虐的に肩をすくめながら言う。

 

「さて、次はサトシか」

 

「じゃあ俺は観客席にいくよ。頑張ってねソーナ」

 

「ハハ、善処するよ。ありがとう綾斗」

 

綾斗はそう言うと、観客席に向かって歩き去った。

綾斗が立ち去ると、代わりにサトシが来た。

 

「綾斗に勝利おめでとう、ソーナ」

 

「ありがとう、サトシ」

 

「バトルは一対一のシングルでいい?」

 

「いいけどひとつ問題があるんだよ」

 

「問題?」

 

「・・・・・・私がポケモン持ってないこと」

 

「あ」

 

「もしかして今さら?それに私言ったはずだけど・・・・・・」

 

「あー、じゃあ、また今度でいいか」

 

「ごめん、そうしてくれると助かるよ」

 

「じゃあ、この試合はバトルは無しと言うことで。次は明久か」

 

「そうだね」

 

「まあ、頑張れよソーナ」

 

「ありがとうサトシ」

 

サトシとのポケモンバトルはソーナがポケモンを持っていないと言うことで先に見送りで、次は明久とのバトルになった。

 

「早速だけど試合しようソーナ」

 

「うん。科目は日本史でいい?」

 

「僕はいいよ」

 

「オッケー、じゃあセットするね」

 

ソーナはそう言うと、召喚システムのフィールドを張り、明久から距離をとった。

 

「いいよ、明久」

 

「うん、じゃあ――――」

 

「「試獣召喚(サモン)!!」」

 

 

 

 日本史

 

 2年Fクラス 吉井明久 978点

 

 VS

 

        ソーナ  814点

 

 

「ソーナも日本史得意なの?」

 

「まあ、ね。5科目の中で私は国語と社会が得意だから」

 

「なるほどね。それじゃあいくよ!」

 

「参ります!」

 

ソーナの召喚獣は虹色のコートを着ているというなんとも派手な衣装だった。

そして、武器は双剣だ。

 

「ゼアッ!」

 

「ヤアッ!」

 

金属音が二人の召喚獣の武器から響く。

 

「やるね。もっと早くしていくよ!」

 

「それは私もだよ。それじゃあ早速!」

 

ソーナの召喚獣は明久の召喚獣から距離をとると、双剣を前に構えた。

すると、その双剣は一つに合わさった。

 

「!?それは、弓!?」

 

「いくよ!」

 

ソーナは弓を連続で射ち放ち明久の召喚獣を攻撃する。

明久は召喚獣を巧みに操作してかわしたり弾いたりする。

 

「更に!」

 

ソーナは弓を両手に持ち、分割した。すると、それは黒金と白銀の拳銃へと変わっていった。

 

「今度は銃!?」

 

「いっけー!」

 

「ちょ、ちょっとー!」

 

明久は素早くかわすがソーナはどんどん弾を撃つ。

 

「そして!」

 

「今度はスナイパーライフル!?」

 

そして、ソーナは二丁銃を結合し、黒銀のスナイパーライフルを構え、連続で撃つ。

そしてそれを明久は同じように構えた二丁銃で弾を撃ち落としていく。

弾撃ち(ビリヤード撃ち)だ。

 

「でもって今度は!」

 

ソーナはスナイパーライフルを片手で持ち横に構える。

その途端、スナイパーライフルは光輝く細身の剣、細剣に変わった。

 

「今度は細剣!?もしかして腕輪!?」

 

「え?腕輪じゃないよ。というより腕輪持ってないよ」

 

「え?じゃあそれは?」

 

「あ、これ?イメージをすることによって様々な武器に出来るんだ」

 

「うわー、チート?」

 

「いやいや、明久の《事象改変(オーバーライド)》の方が一番のチートだからね」

 

「あ、それは確かに」

 

「ね。それじゃあ、どんどんいくよ明久!」

 

「ええーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分後

 

 

 2年Fクラス 吉井明久 36点

 

 VS

 

        ソーナ  25点

 

 

 

ソーナと明久の点数は、あと一撃で戦闘不能という状態にまでなっていた。

 

「これで決めるよ」

 

「もちろん!」

 

「ハアアァァァァァァァアッ!」

 

「ゼリャァァァァァァァアッ!」

 

ソーナの召喚獣と明久の召喚獣の双剣がそれぞれの召喚獣を切り裂き、互いの位置を交換して背を向けて立つ。

そして、

 

 

 

 

 

 2年Fクラス 吉井明久 0点

 

 VS

 

        ソーナ  0点

 

 

 

同時に召喚獣は虚空へと消えていった。

 

「引き分けかぁ~」

 

「つ、疲れた~」

 

「いやぁ、さすが明久だね」

 

「ソーナこそ、さすがだよ」

 

「アハハ、ありがとう明久」

 

「さてと、最後は―――――」

 

「俺の番だな」

 

明久の言葉を引き継いで、出てきたキリトが答えた。

 

「そうだね、キリト」

 

「じゃあ僕はみんなのところにいるよ。二人ともいい試合をね」

 

明久はそう言うと、キリトが出てきたところから観客席に向かって歩き去った。

 

「さてと―――――」

 

「うん」

 

ソーナはキリトの言葉に頷き、ウインドウを表示させデュエル申請画面を開きデュエルを申請する。

 

「全損決着でいいよなソーナ?」

 

「もちろんだよキリト」

 

モードを全損決着にしてデュエルを双方とも受諾する。

キリトとソーナは互いに距離を取り、向かい合う。

そして、キリトは背中に装備している双剣の柄を握り、抜刀する。

それぞれ剣の色は黒と白だ。

 

「『エリュシデータ』と『ダークリパルサー』、だね」

 

「ああ。俺の最もな愛剣だ」

 

「それじゃあ私も――――」

 

ソーナは目を閉じ集中する。

すると、ソーナの衣装がキリトの防具と似たような感じになった。だが、その色はキリトが黒に対してソーナは虹色のような七色の派手だが落ち着いた装飾だった。

そして、両手を広げ何かを掴むような動作をする。

 

「――――――来て、『ティング・トゥー・テル』、『スターライト・ナイト』」

 

そしてソーナの手元に白銀に輝く剣と虹色に輝く剣が現れ、それを握った。

 

「へぇー、それがソーナの剣か。俺やレインと同じで二刀流なんだな」

 

「まあ、二刀流の方がやり易いんだよ」

 

「じゃあ、始めようぜソーナ」

 

「了解」

 

キリトは左手を前に、右手を後ろに、腰を少し落として構える。

ソーナは右手を前に、左手を少し下げて構える。

そして、両者の中央に浮かぶウインドウが0になりデュエルが始まった。

 

「ふっ!」

 

「はあっ!」

 

キリトは始めに右手の剣を突きだしてきた。それをソーナは左手?の剣で反らす、そのコンマ一秒後左手?の剣が迫ってくる。だが、それはそに?当たる直前にソーナは右手の剣で防ぐ。

 

「やるな!」

 

「≪二刀流≫ソードスキル《ダブルサーキュラー》だよね」

 

「ああ」

 

「それじゃあ今度はこっちの番だよ!」

 

ソーナはそう言うと否や?、キリトの剣を弾き、左の剣でキリトの胴を薙ごうとする。

 

「ッ!?」

 

しかし、それはキリトがバックステップしてコートのボタンが取れただけだった。

だか、ソーナはさらに攻撃をする。右手の剣を振り上げ右斜めから振り下ろした。

 

「くっ!」

 

さらにそれをキリトは防ぐ。が、さらにソーナは左手の剣で攻撃する。

 

「セアッ!」

 

「ッ!」

 

「ハアッ!」

 

ソーナは右手の剣にライトエフェクトを纏わせ、キリトを攻撃する。

 

「片手剣ソードスキル《バーチカル・スクエア》か」

 

「どうせなら私も使おうかなって、ね」

 

「なるほどな。じゃあどんどんいこうか」

 

「そうだね!」

 

「「ハアアッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーナとキリトは、幾つものソードスキルを放ち剣戟を与える。

そして、互いのHPがレッドゲージにまで入り、残り一撃で戦闘不能となるところまで削れていた。

 

「これで決めるか」

 

「そうだね」

 

ソーナとキリトはそう言うと、同じ構えをした。

右手を肩の高さまで上げカタパルトのようにし、剣の切っ先を相手に向け、左手を前にし構える。

 

「「ハアアァァァァァァァアッ!!!」」

 

右手の剣にクリムゾンレッドのライトエフェクトが付き、ジェットエンジンのような轟音が響く。

そして、剣を突きだしたような体勢で互いの位置を交換して止まった。

 

 

『Draw』

 

 

空中に浮かぶウインドウにはそう表示された。

どうやら二人のHPが同時に0になったらしい。

 

「はあ、はあ、はあ。さすがキリト」

 

「ソーナこそ。さすがだな」

 

「ありがとうキリト」

 

キリトは剣を背中の鞘に戻し、ソーナは剣を取り出したように虚空の中へとしまった。

 

「さてと、これで終わったし戻ろうか」

 

ソーナはそう言い指をならした。

ソーナが指をならすと、次の瞬間には元のパーティー会場に戻っていた。

 

「おっと、そろそろ新年だね」

 

ソーナは時計を見ていう。

 

「ホントだな」

 

「今年は色々あったけど、みんなのお陰でなんとかいけたよ。ありがとう」

 

ソーナはみんなを見てそう言う。

 

「あ、みんなカウントダウンを始めるよ」

 

 

 

 

『『『『『『『『『『10』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『9』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『8』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『7』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『6』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『5』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『4』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『3』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『2』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『1』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

そして、会場に鐘の音が響き渡った。

 

 

「ハッピー・ニューイヤー!!みんな今年もよろしくね!!」

 

 

『『『『『『『『『『こちらこそよろしく(お願いします)ソーナ(さん)』』』』』』』』』』

 

 

 

 

「みんな!今年も応援をよろしく!」

 

 

 

 

 




私の投稿作品4作品とのコラボどうでしたか?
少し疲れましたが、新年の初めとしては良かったなと思います。
これからも≪学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫と孤毒の魔女、3人の物語≫をよろしくお願い致します!!


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プロローグ
始まりと再会


はじめまして、又はこんにちはかな?
私、ソーナの第4作品目≪学戦都市アスタリスク 叢雲と歌姫、孤毒の魔女、3人で紡ぐ物語≫です。
それではどうぞ!


~シルヴィアside~

 

 

1年前 《王竜星武祭(リンドブルス)》決勝

 

 

 

「・・・・・・シルヴィア、ここまでよ」

 

「オーフェリアちゃん、なんで・・・・・」

 

「・・・・・・運命には逆らえないのよ」

 

 

試合終了(エンドオブバトル)勝者 オーフェリア・ランドルーフェン』

 

 

『決着~!今年度の《王竜星武祭(リンドブルス)》優勝はなんと優勝2連覇を遂げた『レヴォルフ黒学院』のオーフェリア・ランドルーフェン選手です!』

 

 

「ごめんね・・・・・綾斗くん・・・・・」

 

 

私は消え行く意識の中、オーフェリアちゃんを見て言った。私とオーフェリアちゃんの幼馴染の名前を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時が進み半年後

 

 

『クインヴェール女学院』生徒会室

 

 

「はあ~・・・・・・」

 

「どうしたんですか、シルヴィア?」

 

「どうしたも、こうしたもないよ、ペトラさん~」

 

私は生徒会室にいる、この学院『クインヴェール女学院』の理事長であり、プロデューサーでもあり、運営母体W&Wの幹部でもあるペトラ・キヴィレフトさんに愚痴を漏らした。

幸いにもここには私とペトラさんしかいないためこうして砕けた口調で話すことが出来る。

 

「どうしたも、こうしたもないとは?」

 

「綾斗くんの事だよ~」

 

「綾斗くん・・・・・・ああ、天霧くんの事ですか?」

 

「うん」

 

「天霧くんがどうかしましたか?」

 

「どうかしましたか、じゃないよ!なんで、綾斗くんが『星導館学園』に行っちゃうのよ!」

 

「いや、行っちゃうのよ、も何も・・・・」

 

「どうせならここに入ってきてくれれば良かったのに」

 

「さすがにそれは無理があるかと」

 

「ええ~。ペトラさんなら出来るんじゃないの?」

 

「いや、私でも無理だと思いますよ。それ以前にここは、女学院なんですよ」

 

「そうだけど~・・・・・・・」

 

「全く・・・・・シルヴィアはホントに天霧くんの事になると回りに目がいきませんね」

 

「し、仕方ないでしょ!」

 

「やれやれ」

 

ペトラさんは私の反応を見て呆れた、と言うよりもう見慣れたと言う感じで答えた。

 

「早く、来ないかな~綾斗くん」

 

「ハァー・・・・・・」

 

私は生徒会室の窓から見える『六花』を見て呟く。

その表情は恋する乙女のようだった、とペトラさんが後で言った。

実際、恋してますしあながち間違ってはないわね。

 

~シルヴィアside~

 

 

 

 

 

 

その頃『六花』で迷っている一人の男子がいた。

 

 

 

 

~綾斗side~

 

「あれ、何処だここ?」

 

俺は辺りを見渡して呟く。

 

「すっかり迷っちゃったかな?とにかく沿岸沿いに出られればいいんだけど・・・・・」

 

「・・・・・綾斗?」

 

「え?」

 

俺はいきなり背後から呼ばれ振り返った。

そこには一人の女子がいた。

俺の着ている星導館の制服とは違うと言うことは他校の生徒か・・・・・・ん?今、この子俺の名前言った?

 

「・・・・・綾斗?」

 

「え、あっ、ごめん。え~と、君は・・・・・?」

 

「覚えてないの?私は・・・・・・オーフェリア・ランドルーフェン」

 

「オーフェリア・ランドルーフェン!?」

 

俺はその名前に聞き覚えがあった。

一つは俺の幼馴染として、もう一つはここ『アスタリスク』での前回の《王竜星武祭(リンドブルス)》の優勝者だ。

だが、俺の幼馴染のオーフェリアは髪の色が純白ではなく栗色の筈だ。だが、その記憶も十年以上前の記憶だ。

 

「・・・・・思い出した?」

 

「・・・・・まさか、オーフェリアなのか?」

 

「・・・・・疑問に思うのもそうだよね。前はこんな髪の色じゃなかったし」

 

前は、と言う単語に俺は確証した。今目の前にいるのは幼馴染のオーフェリア・ランドルーフェンだと。

 

「オーフェリア・・・・・」

 

「・・・・・今夜時間ある?」

 

「今夜?」

 

「・・・・・そう。話があるの。シルヴィアにも声かけといて」

 

「シルヴィにも?」

 

「・・・・・ええ」

 

そう言うとオーフェリアは俺に背を向けて歩き出そうとした。

 

「ちょ、ちょっと待って、なら場所はここでいい?」

 

俺は慌てて表示させたアスタリスクでの家の場所をオーフェリアに送る。

 

「・・・・・ええ。時間は19時半でいいかしら?」

 

「ああ。それと・・・・・」

 

「・・・・・何?」

 

「『星導館学園』ってどっち?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・アッチよ」

 

オーフェリアはやや呆れたような眼差しで俺を見ると指を指して教えてくれた。

 

「ありがとう」

 

「・・・・・それじゃあ」

 

そう言うとオーフェリアは今度こそ、歩き去っていった。

 

「オーフェリア・・・・・」

 

俺は目の前にいたオーフェリアの事を思い出した。

 

「まずは、シルヴィに連絡録らないと」

 

俺は昼にシルヴィに連絡することにし、オーフェリアに指差された方に歩いていった。

しばらく歩くと『星導館学園』の姿が見えた。

時間も充分あるしなんとか間に合うだろう。

そう呟き、俺は『星導館学園』に続く橋を渡り始めた。




どうでしたか?
感想やアドバイスなどお待ちしてます。


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姫焔邂逅
華焔の魔女(グリューエンローゼ)


こんにちはソーナです。
第二話いきます。
それではどうぞ!


~綾斗side~

 

「まさか、また道に迷うだなんて・・・・・」

 

俺は今、転入するはずの学園『星導館学園』にいる。

今日、『アスタリスク』へ来た俺は早速道に迷っているところを十数年ぶりに再会した幼馴染のオーフェリア・ランドルーフェンに教えてもらい、今日の夜、シルヴィと共に会うことを約束しこの学園『星導館学園』に来た。

だが、時間にまだ余裕があったため周りを探索しようとした矢先に場所が分からなくなってしまったのだ。

 

「どうしようか・・・・・・・・ん?」

 

迷っていると空から1枚のハンカチがふわりと舞い降りてきた。

 

「何処から落ちてきたんだ?」

 

俺が周囲を見渡すと。

近くの建物から微かに慌てた様子の声が聞こえてきた。

 

『・・・・・・ええい!よりにもよって、どうしてこんな時に・・・・・!』

 

その声に俺は苦笑した。

聞こえてきたのはお世辞にも余り可憐とは言い難い悪態だったのだ。

声の発生場所を探すとその建物に大きく窓を開いた部屋が一つあった。

 

『とにかく、遠くまで飛ばされないうちに追いかけねば・・・・・!』

 

「・・・・・なるほど、彼処か」

 

俺はもう一度建物と声の主の部屋を見た。

 

「4階程度なら問題ないな・・・・・足場もあるし」

 

俺は助走もせずに軽々と鉄柵の上に飛び乗り、そこから近くの木の枝へと手をかけ目的の部屋に着地する。

 

「よっ・・・・・・と!えっと、こんなところからすいません。ひょっとしてさっき、ハンカチを落とし・・・・・・」

 

だが、俺はこの時問題かあることを忘れていた。

一つは、ここが女子寮だと言うこと。そしてもう一つはその声の主が着替えている最中だった、と言うことだ。

 

「えっ・・・・・・?」

 

「あ、あれ・・・・・・・?」

 

よくよく考えてみたらすぐに分かることだったのだ、聞こえてきた声と焦りようからこうだと言うことに。

もしこれがシルヴィやオーフェリアにばれたら確実にめんどくさい事以前に死ぬな俺。

 

「な、な、な・・・・・・・・!」

 

声の主は俺と同じ16、7辺りだろう。

若葉のような淡い碧色の瞳。すっと通った鼻筋に新雪のように白い肌。

シルヴィやオーフェリアとは違う感じの少女だと俺は思った。

そこまで俺は考え、すぐさま我に返った。

 

「ご、ごめん!べ、別に俺は覗くとかそんなつもりは全然なくて!」

 

俺は慌てた後ろを向いて弁解する。

 

「そ、そのままそっちを向いてろ!こっちを見るな!」

 

俺は少女の言うように後ろを向かないようにとバランスを崩さないようにした。

そして待つこと数分。

 

「ふぅ・・・・・も、もういいぞ」

 

俺は制服を着こなした少女の方を向いた。

少女はむっつりとした表情と険しい視線はこれでもかと言うほどの不機嫌さを主張していた。

 

「それで、ハンカチとは?」

 

「・・・・・はい?」

 

「さっきおまえが言っていただろう?ハンカチがどうのこうのと」

 

「あ、ああ、そうそう!このハンカチなんだけど・・・・・・」

 

俺はポケットから飛ばされた先程のハンカチを取り出し目の前の少女に渡す。

 

「さっき風に飛ばされたこれを拾ったんだ。この、ハンカチもしかして君のかな?」

 

「――――!良かった・・・・・」

 

少女は俺からハンカチを受け取ると、安心したかのように優しく胸に抱き締める。

 

「・・・・・・すまない。これはとても・・・・・とても大切なものなんだ」

 

「いや、別に俺は飛ばされたハンカチを偶然拾っただけで・・・・・」

 

「それでも助かった。本当に感謝する」

 

少女は俺に礼儀正しく深々と頭を下げた。

これで終わるかと思ったが――――

 

「・・・・・さて、これで筋は通したな?」

 

「え・・・・・」

 

「では―――くたばれ」

 

や、やな予感がする。

俺はその考えがすぐに分かった。

突如、部屋の空気が一変したのだ。

目の前の少女の星辰力(プラーナ)が爆発的に高まった。

こ、これシルヴィと同じ・・・・・!

 

「―――咲き誇れ、六弁の爆焔花(アマリリス)!」

 

「やっぱり《魔女(ストレガ)》!?」

 

俺目掛けて少女が繰り出した巨大な火球を、俺はとっさに窓から飛び降り、空中で体勢を整えて着地した。

着地したのと同時に轟音が鳴り響いた。

轟音の発生元を見ると巨大な炎の花の蕾が開いているのが見えた。それは灼熱の花弁を重ねた、爆炎の大輪だ。

 

「・・・・いやいやいや。とんでもない威力だぞ!」

 

俺自体今まで実際に接したことのある《魔女》は俺の姉とシルヴィの二人だけだ。

いや、もう一人オーフェリアもそれに入れるべきか。

そんなこと思っていると。

 

「ほう・・・・・今のを躱すとは、中々やるではないか」

 

先程の少女が俺の目の前に降り立った。

 

「いいだろう、なら少しだけ本気で相手してやる」

 

「わわっ、ちょっと待った!」

 

「なんだ?大人しくしていればウェルダンくらいの焼き加減で勘弁してやるぞ?」

 

「いやいや、ウェルダンって・・・・それは中までしっかり火を通す気満々ってことだよね?じゃなくて、取り敢えず命を狙われる理由を聞きたいんだけど・・・・・」

 

「何を言っている?乙女の着替えを覗き見たのだから、命をもって償うのは当然だろう」

 

さも当然かのように物騒な事を目の前の少女は平然といってのけた。

 

「ち、ちなみにさっきお礼を言ってくれたのは・・・・?」

 

「もちろんあのハンカチを届けてくれたことには感謝している。だが・・・・・それとこれとは別の話だ」

 

「・・・・・・そこはせめて融通を利かせてくれても良くないかな」

 

「生憎、私は融通と言う言葉が大嫌いでな。そもそも届けるだけなら窓から入ってくる必要は無いだろう?ましてやここは女子寮。侵入してくるような変質者は、それだけで袋叩きにされてもおかしくないのだぞ?」

 

「・・・・・え?今、女子寮って言った?」

 

「む。ああ。言ったぞ」

 

「マジか?」

 

「まさか・・・・・知らなかったのか?」

 

「いや、知らないも何も、俺は今日からこの学園に転入する予定の新参者で、しかもここにはつい先程着いたばかりなんだ」

 

「それはホントか?」

 

「誓って嘘じゃない」

 

「・・・・・・わかった。それは信じてやろう」

 

「なら・・・・・・」

 

「だが、やはりそれとこれとは話が別だな」

 

少女はそう言うと再び自信の周囲に火球を出現させた。しかも今度は9つだ。

 

「咲き誇れ―――九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

「うわっ!」

 

俺は慌てて放たれたそれをすべて躱す。

俺が躱した場所はごっそりと刳れていた。

 

「なるほど、ただの変質者と言うわけじゃないようだな」

 

ひょっとしたらなんとかなるかも、と俺は思ったが。

 

「並々ならぬ変質者だな」

 

ならなかった。

 

「相互理解って難しいな~・・・・・・」

 

「ふん。冗談だ」

 

「さて、確かにお前にも言い分があるだろう。だが、このままでは私の怒りが収まらない。となれば、ここはこの都市のルールに従おうか。おまえ、名前は?」

 

「・・・・・天霧綾斗」

 

「そうか。私はユリス。星導館学園序列五位、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだ」

 

ん?ユリス?

俺はユリスと言う名前に聞き覚えがあったがそれがなんなのかは思い出せなかった。

 

「不撓の証したる赤蓮の名の下に、我ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは汝天霧綾斗へ決闘を申請する!」

 

ユリスと名乗った少女は、制服の胸に飾られたこの学園。星導館学園の校章『赤蓮』に右手を当て言った。

 

「け、決闘!?」

 

「おまえが勝てば、その言い分を通して大人しく引き下がってやろう。だが私が勝ったなら、その時はおまえを好きにさせてもらう」

 

「ちょ、ちょっと待った!俺はそんな――――」

 

「ここに転入してきた以上、幾らなんでも決闘くらいは知っているな?」

 

「・・・・・そりゃ、知ってはいるけど」

 

「だったら早く承認しろ。いい加減、人も集まってきている」

 

俺はユリスに言われ周りを見渡すと、確かにチラホラと遠巻きに見ている生徒がいた。

どうやら、俺に拒否権は無いようだ。

 

「だ、だが、ほら、俺、武器持ってないし」

 

「ふむ。おまえ使う武器は?」

 

「え・・・・・剣だけど」

 

「誰か、武器を貸してもらえないか?出来れば剣がいい」

 

ユリスが周囲のギャラリーに向かってそう言うと、すぐに反応が返ってきた。

 

「おーらい、こいつを使えよ」

 

そんな言葉とともに、ギャラリーから俺に煌式武装(ルークス)の発動体が投げられた。

 

「そいつの使い方が分からないとは言わせんぞ」

 

「はぁ・・・・・」

 

俺は大きく溜め息吐くと、投げ渡された煌式武装を起動される。

投げ渡された煌式武装を待機状態から稼働状態へモードを移行させると万応素(マナ)が集約・固定され目映い青色の光刃が虚空に伸びた。

俺が煌式武装を展開するのを確認したユリスは、制服の腰につけたホルダーから煌式武装を取り出し起動状態に移行させた。

ユリスの煌式武装は俺のと違い、鮮やかなピンク色の細くしなやかな細剣(レイピア)だった。

 

「さて、準備はいいか?」

 

「・・・・・・我天霧綾斗は汝ユリスの決闘申請を受諾する」

 

俺が受諾するのと同時に、俺の校章が再び赤く煌めいた。

双方が決闘を受諾するのを認証したのかシステムアナウンスにより決闘のカウントダウンが始まった。

 

 

『カウントダウン・スタート・・・・・・・(スリー)・・・・・(ツー)・・・・・(ワン)・・・・・・決闘開始(スタート・オブ・ザ・デュエル)

 

 

そして決闘が始まった。

 

「では行くぞ!咲き誇れ――鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!」

 

ユリスが細剣を振ると、その周囲に魔方陣が現れ巨大な青白い炎の槍が顕現した。

そして、現れた4つの槍はロケットのような勢いで俺に向かって飛び掛かってきた。

 

「くっ!」

 

一つ目は剣で斬り裂き、二つ目は躱し、3つ目も斬り裂いて、4つ目も斬り裂く。

 

「まだだ!鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!次は槍のスピードをあげる!」

 

ユリスは再び白炎の槍を出すが今度は細く鋭くなっていた。

 

「行けっ!」

 

一つ目斬り裂き、斬り裂いた衝撃で後ろに飛び去り二つの槍を剣で受け流し、最後の槍はギリギリのところで避けるが、爆発の衝撃で撥ね飛ばされた。

 

「うわっ!」

 

俺は吹き飛ばされながらもなんとか体勢を整え剣を構える。

 

「へぇ、あの新顔中々やるじゃないか」

 

「お姫様が手加減してるんじゃないの?」

 

そんな感想が周囲のギャラリーから聞こえた。

ユリスの表情は怪訝そうな顔をしているのが分かる。

ここまでならば今の俺でもなんとかなる。

そう思っていると、突如先程とは違う量の星応力がユリスから出た。

 

「見極めてやる!咲き誇れ―――六弁の爆焔花(アマリリス)!」

 

部屋で見たのとは桁違いの大きさの火球が俺に迫る。

 

「・・・・・・ふっ」

 

俺は避けるのではなく自ら接近した。

 

「ふっ、躱して接近戦に持ち込むつもりか!だが―――爆ぜろ!」

 

「―――!」

 

ユリスが拳を握り締めると俺の目の前で火球が爆発した。

 

「よし。この距離からの直撃なら―――」

 

ユリスのそんなこと言う声が聞こえてきた。

ユリスはこれで勝利したと確信しているのだろう。

だが――――甘い

 

「天霧辰明流――――"貳蛟龍(ふたつみずち)"!」

 

そう叫ぶと同時に十字に斬り裂いた。

斬り裂くと俺はユリスへ一息で間合いに詰めた。

 

「このっ――――!」

 

だが、俺は横で一瞬薄い光が散ったのを見逃さなかった。

狙いは俺――――じゃなくてユリス!!

そう判断した俺はとっさに。

 

「伏せて!」

 

ユリスを押し倒した。

押し倒したのと同時に、今までユリスが立っていた場所に1本の光輝く矢が突き刺さった。

 

「お、おまえ、なにを・・・・・!」

 

ユリスが抗議の声を上げようとするが、止めた。

自身が立っていた場所に1本の光輝く矢が突き刺さっているのを見たのだ。

 

「―――どういうつもりだ?」

 

「どういうつもりって・・・・・・それは俺じゃなくてこれを撃った本人に聞いてほしいかな」

 

「そうではない!なんでわざわざ私を――――」

 

と、ユリスがそこまで言って俺は、はたと気づいた。

ユリスの発展途上の膨らみを、思いっきり鷲掴みしていたのだ。そう――――俺が。

あ、これシルヴィとオーフェリアに張れたら確実に死ぬ。

俺がそう思うのと同時にユリスの顔がぼっと赤く染まった。

 

「ご、ごご、ごめん!いや、あの、俺は別にそんなつもりは全然なくて!その・・・・・・・」

 

「おお!なんだあの新顔、お姫様を押し倒しやがったぜ!」

 

「すげえ度胸だな!」

 

「情熱的なアプローチだわー」

 

今の光景にギャラリーが騒ぐ。

 

「お、お、お、おまえ・・・・・」

 

ユリスの怒気に反応して、炎が溢れ出す。

俺はそれに後退りするしかなかった。

そんなとき――――

 

「はいはい~そこまでにしてくださいね」

 

深く落ち着いた声とともに、パンパンと手を打つ乾いた音が辺りに鳴り響いた。




今回はこれで、次回もお楽しみに。

それではみなさん、Don't miss it.!


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学戦都市(アスタリスク)

連日投稿です。
では、どうぞ!


~綾斗side~

 

「はいはい~、そこまでにしてくださいね」

 

深く落ち着いた声とともに、パンパンと手を打つ乾いた音が辺りに鳴り響くと、その音の主が前に出てきた。

 

「確かに我が星導館学園は、その学生に自由な決闘の権利を認めてますが・・・・・残念ながらこの度の決闘は無効とさせていただきます」

 

歩きながらそう言い、ギャラリーの中から現れたのは、金色の髪を靡かせた一人の少女だった。恐らく俺やユリスと同じ年だと思うが、随分と大人びて見えた。

 

「・・・・・クローディア、一体なんの権利があって邪魔をする?」

 

「それはもちろん星導館学園生徒会長としての権利ですよ、ユリス。赤蓮の総代たる権限をもって、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトと天霧綾斗の決闘を破棄します」

 

クローディアと呼ばれた少女がそう言うと、今まで赤く発行していたユリスと俺の校章が輝きを失った。

 

「ふふっ、これで大丈夫ですよ。天霧綾斗くん」

 

「はぁー・・・・ありがとうございます・・・・・・えーと生徒会長、さん?」

 

「はい。星導館学園生徒会長、クローディア・エンフィールドと申します。よろしくお願いします」

 

「だが、クローディア。いくら生徒会長といえども、正当な理由なくしては決闘に介入することは出来なかったはずだが?」

 

ユリスはこの裁定に納得が出来ないらしく、いかにも不満そうな顔でクローディアさんを睨み付けていた。

 

「理由ならありますとも。ユリス、彼が転入生なのはご存知ですね?」

 

「ああ」

 

「すでにデータは登録されているので校章が認証してしまったようてすが、彼に最後の転入手続きが残っていています。つまり厳密には、まだ天霧綾斗くんは星導館学園の生徒ではありません。決闘はお互いが学生同士の場合のみ認められています。だとしたら、当然この決闘は

成立しません。違いますか?」

 

「くっ・・・・・・!」

 

クローディアさんの説明にユリスは悔しそうに唇を噛んでいるのが見えた。

 

「はい、そう言うわけですから、みなさんもどうぞ解散してください。あまり長居されると授業に遅刻してしまいますよ」

 

クローディアさんがそう言うと集まっていたギャラリーは三々五々にあちこちに散っていきこの場は俺たち3人だけとなった。

 

「あっ!そう言えばさっきの狙撃」

 

俺は再び矢が飛んできた方向をを見渡すが既にそこには誰もいなかった。

どうやら逃げたようだ。

 

「逃がしたか・・・・」

 

俺がそう口走るとユリスとクローディアさんが答えた。

 

「別に構わん。《冒頭の十二人(ページ・ワン)》が狙われるのは別に珍しいことではない」

 

「え?そうなの?」

 

「ええ。残念ながらそういうケースは少なくありません。ですが、今回のはさすがにやりすぎです。決闘中に第三者が不意打ちで攻撃を仕掛けるなど言語道断。犯人が見つかり次第、厳重に処分いたします」

 

「へぇ、クローディアさんもさっきの狙撃見えてたんだ」

 

「ええ」

 

クローディアさんは見えていたみたいだがあの爆炎の中の攻撃を捉えていたとするならば、この少女はただ者ではないない。

クローディアさんを見てそう思っていると。

 

「ところで・・・・・先程は、その・・・・・あ、ありが、とう」

 

ユリスがばつの悪そうな顔で俺に向き直った。

 

「ああ、うん、それはいいんだけど・・・・・もう怒ってない?」

 

「それは――まあ、怒っていない、事もないが・・・・助けてくれたのは確かだからな。私とて、あれが不可抗力だったことくらいわかる。だから、今度の事は貸しにしてくれていい」

 

「貸し?」

 

「ああ。わかりやすいだろう?」

 

なんともドライな気がするが・・・・・

隣のクローディアさんもそう思ったのか。

 

「まったく相変わらずですね、ユリスは」

 

やや呆れた様子で言った。

 

「もう少し素直になった方が生きやすいと思いますよ」

 

「大きなお世話だ。私は十分素直だし、これで人生になんの支障もない」

 

「あら、でしたらタッグパートナー探しの方はさぞかし順調にのでしょうね?まさか、まだなんて事は・・・・・」

 

「う・・・・そ、それは・・・・・」

 

分かりやすい。

誰がどうみても今のユリスの反応は分かりやすい。

 

「《鳳凰星武祭(フェニクス)》のエントリー締め切りまであと二週間。あまり余裕はありませんよ」

 

「わ、わかっている!それまでに見つけてくればいいんだろう!」

 

ユリスはそう言うと背を向けて寮の方に向かっていった。

 

「あらあら。可愛いですこと」

 

「アハハ・・・・」

 

その姿を見たクローディアさんの言葉に俺は苦笑いをして返すしかなかった。

 

「それでは、私たちも行きましょうか天霧綾斗くん」

 

「あ、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星導館学園 廊下

 

「えー、そのような意味で前世記はまさしく災害の世紀であったといえるわけでありますが中でも落星雨(インベルティア)と呼ばれる隕石群の襲来は全世界に未曾有の被害をもたらしました。

三日三晩にわたって降り注いだ隕石により、世界は否応なく変質させられたのであります既存国家の衰退と統合企業財体の台頭、それに伴う倫理観の変容、隕石がもたらした万応素による新人類―――つまり君たち《星脈世代(ジェネステラ)》の誕生、さらには万応素研究―――」

 

クローディアさんに連れられて学園校舎に入り、通りすがった教室からは、授業をしている声が聞こえてきた。

 

「こんな朝早くから授業をやっているんですね。まだホームルーム前ですよね?」

 

「ええ。と言っても今こちらでやっているのは補習ですけれど」

 

「補習?」

 

「はい。一応、我が星導館学園のモットーは文武両道となっていますので」

 

「なるほど・・・・・・」

 

「ええ。ですから綾斗くんも補習にならないよう、気を付けてくださいね」

 

クローディアさんの気を付けてくださいね、と言う言葉に俺は苦笑いで返した。

正直、俺の成績はお世辞にも良い?とは言えない。

精々、上位の中程ぐらいだろう。

そうこうして歩いているとどうやら目的地の生徒会室についたみたいだ。

 

「そうそう。ちなみに私は綾斗くんと同じく1年なので、砕けたしゃべり方で結構ですよ」

 

生徒会室に入るとクローディアさんがそんなことを言ったので俺は軽く驚いた。

まさか同い年とは思わなかったのだ。

 

「と言うことは、クローディアさんも1年?あれ?でまそれで生徒会長ってことは・・・・」

 

「ああ、私は中等部から生徒会長を任されておりますので、今は三期目ですね」

 

「へぇ・・・・・」

 

「ええ。ですから、どうぞ名前でお呼びください」

 

「なるほど、わかったよクローディアさん」

 

「クローディア、で結構ですよ」

 

「いや、いきなりそれは・・・・・」

 

「クローディア、です」

 

「ええっと、だから・・・・」

 

「ク・ロ・オ・ディ・ア」

 

「・・・・・クローディア」

 

「はい」

 

さすがにこれは根負けするしかなかったためその通りに呼ぶとクローディアは嬉しそうに目を細めた。

 

「じゃあ、俺の事も綾斗でいいよ」

 

「了解です、綾斗」

 

「出来ればその敬語も止めてくれていいんだけど・・・・・」

 

「いえ、こちらはただの習慣ですのでお気にならず」

 

「習慣?」

 

「はい。私はとても腹黒いので、せめて外面や人当たりは良くしておかないといけないのです。昔からやっていたため、それが染み付いてしまいまして」

 

「・・・・・・・・・・・・クローディア、腹黒いんだ?」

 

「ええ。それはもう。私のお腹ときたら、暗黒物質(ダークマター)を煮立てて焦げ付かせたものをブラックホールにぶちこんで黒蜜をかけたくらい真っ黒ですから」

 

暗黒物質を煮立てて焦げ付かせたものをブラックホールにぶちこんで黒蜜をかけたくらい、って・・・・・・どんだけ腹黒いんだ?

て言うかどうやって暗黒物質を焦げ付かせて、ブラックホールにあるものに黒蜜をかけるんだ?

クローディアを見ながらそう考えていると。

 

「なんでしたらご覧になりますか?」

 

「へっ?」

 

呆気に取られるとクローディアは言うが早いか上着の裾を目繰り上げた。

 

「うわあっ!?ちょ、クローディア、いきなりなにを・・・・・・!」

 

俺は慌てて視線をずらした。

て言うか、腹黒いのって目に見える物だっけ?

 

「ふふっ、冗談です。彼女の言う通り可愛らしい反応をされますね、綾斗は。これは少し妬けますね」

 

「彼女?」

 

俺は今クローディアが言った『彼女』と言う言葉について聞いた。

 

「ええ。クインヴェールの生徒会長ですよ」

 

「クインヴェールの生徒会長・・・・・・・・・?」

 

「はい。シルヴィア・リューネハイムです」

 

「シルヴィ・・・・・・・」

 

俺はシルヴィがクローディアに俺のことを話したことについて頭痛がした気がした。

 

「て言うか、クローディア、シルヴィと知り合いなの?」

 

「そうですね・・・・・彼女とは生徒会長同士なので。それと、綾斗が此方に転入してくることに関して彼女と話したんです」

 

「そ、そうなの?」

 

「ええ。ふふっ。彼女ったら綾斗をクインヴェールに転入させたかったみたいですよ。クインヴェールは女学院ですのに」

 

「マジで?」

 

「ええ。マジです」

 

シルヴィ、何やってんのよ・・・・・って言うかペトラさん、クインヴェールの理事長だったよね?ペトラさんの苦労が何と無く分かる気がするわー。

俺はクローディアから説明されて更に頭が痛くなった。

 

「さて――――」

 

クローディアは窓際の近くにある執務席に座りこっちを見た。

 

「では、改めまして。ようこそ、綾斗。"アスタリスク"へ」

 

それと同時にクローディアの背後のカーテンが開き、水上学園都市『六花』――〈アスタリスク〉が見えた。

 

「我が星導館学園が特待転入生としてあなたに期待することはただ一つ、それは――――――勝つことです」

 

クローディアはガラス越しから見える町並みを見下ろしながら言葉を続ける。

 

「ガラードワーズに打ち勝ち、アルルカントを下し、界龍(ジェロン)を退け、レヴォルフを破り、クインヴェールを倒すこと。すなわち《鳳凰星武祭(フェニクス)》、《獅鷲星武祭(グリプス)》、そして《王竜星武祭(リンドブルス)》の3つ。全ての《星武祭(フェスタ)》を制すること。そうすれば我が学園は、あなたの望みを叶えて差し上げましょう。それが現世で叶う望みであるならば、どのような望みであれ」

 

「・・・・・・・んー。すまないけど、俺、そういうのにあんまり興味は無いんだ」

 

俺はクローディアの言葉に、困り頭をかいて言う。

 

「ええ、あなたがそうしたことに関心が無いことは分かってます。特待生としての招請を一度ならず断っていることも。ですが、近年《星武祭》における我が星導館の成績は芳しいとは言えません」

 

クローディアの言葉に俺は前シーズンの星導館学園の総合順位を思い出した。

星導館学園は総合順位で5位だったはずだ。

クインヴェール女学院は総合順位6位だが、クインヴェールは総合順位を度外視してるとペトラさんが言っていたはずだ。

つまりクインヴェール女学院を除外するとなると実質的に星導館学園が最下位ということになる。

 

「我々はこの状況を打破せねばなりません。そのためには有力な学生を一人でも多く確保しなければなりません」

 

「そもそも、なんで俺を特待転入生に?」

 

「ああ。それはシルヴィアがあなたをベタ褒めしていたからですよ」

 

「なるほど・・・・・」

 

「それにしても、心変わりして招請を受けて下さってたすかりました。これで断られたら生徒会の面目が丸つぶれでしたから」

 

「どういうこと?」

 

「綾斗を特待転入生として招請したのは私なんです」

 

「く、クローディアだったの!?」

 

「はい」

 

「そ、そうだったんだ・・・・・」

 

「それで、何故綾斗は招請を受けたのですか?」

 

「んー。別に心変わりしたつもりは無いんだけどね」

 

「あらあら、では何故この星導館に?」

 

「・・・・・・・・・」

 

俺は真剣な眼差しでクローディアを見て言う。

 

「クローディア、聞きたいことがある。姉さんが―――天霧遥がここにいたってのは本当なのかな?」

 

「・・・・・・・その件に関して私が知っていることは一つだけです。こちらをご覧ください」

 

クローディアはそう言うと端末を操作し、俺にあるデータを送った。

 

「かつてこの学園に在籍していた『とある女生徒』のデータです」

 

俺は送られてきたデータを展開させた。

 

「・・・・・・っ!これは」

 

送られてきたデータを見て俺は息を呑んだ。

クローディアから送られてきたデータはあちこちがボヤけているがこの学園の生徒のデータなのだろう。

そして、右横の顔写真は所々が掠れているが、俺にはすぐわかった。これは姉さんだと。

 

「『彼女』は《星武祭》に出場した記録もありませんし『在名祭祀書(ネームド・カルツ)』入りしたことも無いようです。そしてそのデータによれば5年前にこの学園に入学し、半年後個人的な理由により退学しています。もし貴方がお姉さんを探してこの学園に来たのでしたら残念ながら彼女はもうこの学園にはもう・・・・・・」

 

「ありがとう。でもいいんだ。別に俺は姉さんを探しに来たわけじゃないからね」

 

「では、どうしてこの学園に?」

 

「うーん・・・・・・強いて言えば、自分が成すべきことを探すため、かな?」

 

「ふふ、なかなかどうして貴方も喰えませんね」

 

「え、そうかな?」

 

まさか自分で自分の事を腹黒いと言ってる人に、喰えない人と言われるとは思わなかった。

 

「それと、これはお姉さんに関係することなのか分かりませんが・・・・・」

 

クローディアは再び端末を操作しデータを俺に送信した。

送られたデータを展開すると、そのデータはとある煌式武装のデータだった。

 

「これは・・・・?」

 

「我が校が所有する純星煌式武装(オーガルクス)が1つ。《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》です」

 

「純星煌式武装って、確か・・・・・」

 

「ええ、ウルム=マナダイトをコアにした非常に強力な煌式武装です。なかでも"触れなば熔け、刺さば大地は坩堝と化さん"と恐れられていたのがこの《黒炉の魔剣》なのですが・・・・・この純星煌式武装、貸与記録が無いにも関わらず実践データだけが残っていたのが判明したんです。そのデータが残っていたのが、綾斗のお姉さんが在籍していたと思われる時期と重なっているのです」

 

「そのデータが五年前・・・・・」

 

「その通りです」

 

「・・・・・・・」

 

「あ、そうそう。いい忘れてましたが。我が校の特待生には純星煌式武装の使用の優先権がありますが・・・・・どういたしますか?」

 

「それにはさっきの《黒炉の魔剣》も含まれるの?」

 

「ええ」

 

「じゃあ折角だから見ておこうかな」

 

「わかりました。では、手続きをしておきますね。それまではこちらをお使いください」

 

クローディアが差し出したのは煌式武装の発動体だった。

 

「ありがとう」

 

俺は受け取った煌式武装を腰のホルダーに収納した。

そして、思い出したことを聞いた。

 

「そう言えば、クローディア。さっき言っていた『最後の転入手続き』ってのは?」

 

「ああ、その事ですか」

 

「何かあるの?」

 

「ふふっ。あれは嘘です」

 

「え?」

 

「あの場を収めるためにはあれが一番効果的だったのですよ。ユリスはあれで根が真面目ですから」

 

「ああ、確かに」

 

「ええ。ですので、ルールを破ってまで決闘を続けることはしないと思ったんですよ」

 

「ってことは?」

 

「はい。手続きなんて何もありません」

 

「そ、そうなんだ」

 

「ええ」

 

アッサリと嘘だとバラすクローディアに俺は微妙な表情を浮かべた。

 

「綾斗には寮と『六花』の自宅、どちらからでも登校してもらっても構いません」

 

「ありがとうクローディア。ここに来る前にお願いしたこととはいえまさか通るなんて思わなかったよ」

 

俺の『六花』にある自宅の鍵は『六花』に来る前に制服と共に郵送されたのだ。

郵送されたとき、まさか本当に許可が降りるとは思わなかった。

 

「ええ。私自身少々驚きました」

 

「それと、クローディア2つほど聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「はい。なんでしょう?」

 

「お昼に誰も使わない教室や、人気のない場所ってあるかな?」

 

「そうですね・・・・・このフロアに空き教室があるのですが。それでも構いませんか?」

 

「ああ。ありがとう、助かるよ」

 

「では、その教室の鍵をお渡ししますね」

 

クローディアが再度端末を操作すると1つの鍵が送られてきた。

 

「今送った鍵で入る事が出来ますよ。まあ、何に使用するのか何と無く分かりますが」

 

クローディアは顔をニヤニヤさせて言った。

 

「うっ・・・・・・そ、それと、もう1つ・・・・・・オーフェリア・ランドルーフェンの所属校って何処か分かるかな?」

 

俺の質問にクローディアの表情が固まった。

 

「何故か、聞いても良いでしょうか?」

 

「・・・・・・・・そ、それは・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「クローディア、これから話すことを、誰にも言わないって誓ってくれる?」

 

「わかりました。今ここで聞いたことは誰にも言わない事を誓いましょう」

 

「ありがとう。・・・・・・・・・オーフェリアは、俺の幼馴染なんだ」

 

「あの《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》と、ですか!?」

 

「うん。正確には俺とシルヴィ、オーフェリア、後もう一人いるけど。その四人が幼馴染なんだ」

 

「そうですか・・・・・分かりました、教えましょう」

 

「ありがとう、クローディア」

 

「彼女の所属校は、『レヴォルフ黒学院』です。そして彼女はレヴォルフの序列1位です」

 

「・・・・・・そう。ありがとう」

 

「綾斗、余り無茶なことはしないでくださいね」

 

「うん。分かってるよ。それじゃあ、俺はこれで」

 

「ええ。綾斗、何かあったら言ってください。力になりますよ」

 

「ありがとう、クローディア」

 

俺は聞きたいことを聞けると生徒会室を後にした。

その後、職員室に行き担任らしき女性の先生?と共に教室に向かった。

何故?がついてるのかと言うと、その先生は何故か・・・・・・釘バットを持っているからだ。

そして、先生と共に教室に行き入ると俺は思わず目を見開いてしまった。

何故ならば・・・・・・・同じクラスに今朝決闘したあの、ユリスがいたからだ。

 




いかがでしたか?
感想やアドバイスなどお待ちしてます。


それではまた次回、Don't miss it.!


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連絡

んー。ここ、何書こうかしらね。絶賛悩み中です。

それではどうぞ!


~綾斗side~

 

「あー・・・・・んなわけで、転入生の天霧だ。適当に仲良くしろよ~」

 

俺の隣でこのクラスの担任の八津崎匡子先生が言っているが・・・・・適当にって、それでいいの先生?て言うかその釘バットは何!?

俺は表情を微妙なものにしてクラスを見渡す。

クラスを見渡した俺は、頭が痛くなった。何故なら。

 

「おい、天霧。自己紹介ぐらいしろ」

 

「あ、はい。え~と、天霧綾斗ですよろしく」

 

「お前の席はあそこでいいか。丁度火遊び相手の隣だしな」

 

「だ、誰が火遊び相手ですか!?」

 

「お前以外に誰がいるんだリースフェルト?たっく、朝ぱらから騒ぎやがって。ここはレヴォルフじゃねぇんだぞ」

 

そう。同じクラスに今朝決闘したユリスがいたのだ。

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

「え、え~と。これからよろしくね」

 

「同じクラスとはな・・・・・笑えない冗談だ」

 

「今朝は満足に挨拶できなかったけど、これからよろしく」

 

「・・・・・・・・お前には、借りができた。要請があれば一度だけ力を貸す。だが、それ以外はなれ合うつもりはない」

 

ユリスはそれだけ言うと俺から視線をずらした。

 

「アハハ・・・・」

 

流石にそれは俺も苦笑いするしかない。

 

「あれ・・・・・・?」

 

自席からクラスを見ると、丁度俺の左隣の席が空席だった。

八津崎先生が何も言わなかったため転入生が俺の他にもいると言うわけでも無さそうだし、恐らく休みだろう。

まあ、左隣の人には明日挨拶すればいいかな。まだ学園生活は始まったばかりだし。

俺はそう考え、視線を前に戻した。

すると、背後から声をかけられた。

 

「ハハ、どうやら、ふられたみたいだな」

 

「えっと、君は・・・・?」

 

「自己紹介がまだだったな。おれは夜吹英士郎。一応、ルームメイトってことになる。まぁ、よろしくな」

 

「もしかして寮の?」

 

「おうよ。基本寮は二人一部屋だからな」

 

「そうなんだ。あ、でも、俺自宅から通ってもいいって言われてるんだけど・・・・・」

 

「マジか!」

 

「うん。あ、でも、寮で過ごすことがあるかもしれないからその時はよろしく頼むよ」

 

「ああ。任せときな」

 

「おら、そこうるせぇぞ!!」

 

教壇から八津崎先生の怒声が聞こえ、俺と夜吹は授業に集中することにした。

幸いにも、授業は全て分かる範囲だったので苦労はしなかった。・・・・・・・・授業は、だけど・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

時は進み昼休み

 

 

 

 

 

俺は机に突っ伏していた。

理由は・・・・・

 

「ハハ、お疲れさん。やっぱ、特待生ともなると人気だねぇ」

 

そう、休み時間に入る度にクラスメイトから質問攻めを受けていたからだ。

お陰で授業ではなくこっちに疲れてしまった。

 

「彼らが興味あるのは俺じゃない、だろ」

 

「へぇ・・・・・」

 

「彼らはオレを通してユリスのことを知ろうとしてた。違う?」

 

そうクラスメイトたちの質問の約7割方はユリスに関する質問だったのだ。

まあ、残りの3割は俺に関する質問だったのだが。 

 

「おまえ、案外鋭いな。まぁ、ほとんどあってるぜ。あいつらはお前を通してお姫様のことを知りたがってる」

 

「後、気になったんだけど皆ユリスのことをお姫様って言ってるけどあだ名かなんかなのそれ?」

 

「ちっと長くなるしその話は放課後にしようぜ。聞きたいこと話してやるよ。おれの知ってる範囲でな」

 

「助かるよ夜吹」

 

「そういや天霧、お昼はどうするんだ?」

 

「今日はお弁当があるから平気だよ」

 

「そうか。それじゃ、また後でな」

 

「ああ」

 

俺はそう言うと教室から出て、4階に向かい今朝クローディアから渡された鍵を使って空き教室に入った。

 

「ふぅ。クローディアが言っていたし大丈夫かな?」

 

俺は入った教室を見渡す。

中は机と椅子が何個かあるだけの、まさに空き教室だった。

 

「さてと・・・・・・・」

 

俺は端末を開きテレビ電話をする。その相手は・・・・・・

 

『ヤッホー、綾斗くん♪』

 

「久しぶりシルヴィ」

 

クインヴェール女学院の生徒会長にして序列第1位。そして、俺の幼馴染でもあり大切な人でもある、シルヴィア・リューネハイムだ。

 

『今、星導館はお昼?』

 

「そうだよ。て言うか、そうじゃなきゃ連絡できないよ」

 

『それも、そうだね。さて、改めて、いらっしゃい綾斗くん、アスタリスクに!』

 

「ハハハ。それクローディアにも言われたよ」

 

『え!?千見の盟主(パルカ・モルタ)にも言われたの!?』

 

千見の盟主(パルカ・モルタ)?」

 

『綾斗くん、もしかして知らないの?』

 

「?」

 

千見の盟主(パルカ・モルタ)ってのはクローディア・エンフィールドさんの二つ名だよ』

 

「え!?そうだったの!?」

 

『うん。彼女、確か星導館の序列2位・・・・・・だったかな?』

 

「へぇー」

 

『流石に《冒頭の十二人(ページ・ワン)》や《在名祭祀書(ネームド・カルツ)》のことは知っているようね』

 

「まあね」

 

『にしてもなんで綾斗くんが星導館に行っちゃうのよ~』

 

「いや、シルヴィ。いくらなんでもクインヴェールに。俺が女学院に入ることは無理だと思うけど・・・・・・」

 

『私がクインヴェールに綾斗くんを転入させようとしていたことも千見の盟主(パルカ・モルタ)から聞いたのかな?』

 

「うん」

 

『そう言えば彼女に話したんだったな~。他には何か言っていた?』

 

「え~と、シルヴィが俺の事、べた褒めしてたってことくらいかな」

 

『なるほど~』

 

「って言うかシルヴィ、恥ずかしいから余り言わないでよ」

 

『ええ~。そうかな?』

 

「そうだよ」

 

『アッハハ。それで、綾斗くん。星導館の方は楽しい?』

 

「まあね。それと。シルヴィ、今日俺の家に来れないかな?」

 

俺は今日、連絡した本題を切り出した。

 

『綾斗くん、此方に家あるの!?』

 

「あ、ああ。此方に転入する前にお願いしたらなんでか通ったんだよ」

 

『へぇー。それで、場所はどこ?』

 

「えっと、はい。今送ったよ」

 

俺はシルヴィの端末に俺の自宅の住所を送った。

 

『届いたよ。なるほど~ここね』

 

「それで、シルヴィ今夜来れる?」

 

『もちろん行けるよ。今夜は何も予定ないから』

 

「了解。それじゃあ今夜19時半にいいかな?」

 

『もちろん。ペトラさんに送ってもらうから大丈夫だよ』

 

「あまり、ペトラさんに苦労かけちゃダメだよシルヴィ」

 

『そんなことないよ~』

 

シルヴィは笑ってそう言うが、絶対無意識でペトラさんに苦労かけてる気がする。

その後、そのまま十数分ほどテレビ電話で会話した。

 

『じゃあ、また後でね』

 

「ああ。待ってるよ」

 

『うん。それじゃあね綾斗くん』

 

テレビ電話を切る前にシルヴィは俺にウインクしながら投げキッスをして切った。

俺はそれに少し顔を赤くしながら端末をしまった。

 

「シルヴィったら・・・・・・」

 

俺はそのままその場でお昼ご飯を済ますと教室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の授業も難なく終わり時間は放課後。

 

「へー、ってことはユリスのお姫様はあだ名とかでもなく本当にお姫様なんだね」

 

「ああ。リーゼルタニアって国の第一王女だぜ。全名は確かユリス=アレクシア・マリー・フロレンツィア・レナーテ・フォン・リースフェルト。だったか」

 

「な、長いね」

 

「そりゃ、王族だからな」

 

「一応、言っておくがお姫様にもちゃんとした二つ名はあるからな」

 

「どんな二つ名?」

 

華焔の魔女(グリューエンローゼ)

 

「へえー。で、なんでまたそんなお姫様がこんなところで闘ってるのさ?」

 

「さてな。流石にそれは俺も知らねーんだ。てゆーかこの学園誰も知らねーんじゃ・・・・・あ、生徒会長ならしってるか?」

 

「クローディアなら?」

 

「ああ。多分だけどな」

 

そんな会話してると不意に夜吹の携帯端末が音を立てて震えた。

 

「はいはーい、なんすか部長」

 

『なんすかじゃなーい!今日の朝一がゲラ校正の締め切りだって言っておいたでしょー!なにやってんのよ!』

 

「あー、すんません。朝はちょっち別件があったものですから・・・・・・『言い訳無用!いいからさっさと部室に来なさい!五分以内よ!返事は!』・・・・・い、イエッサー!」

 

矢吹はその場で直立不動の姿勢をとるとウインドウの女性に敬礼した。

 

「そ、そんなわけで、おれは急遽出頭しなきゃ不味いみたいだ」

 

「あ、ああ。それじゃあ、俺もそろそろ帰るよ」

 

「おう」

 

「っと、その前に・・・・・夜吹!」

 

俺は腰のポーチに締まっていた煌式武装を投げ渡した。

 

「おおっ?」

 

俺が投げ渡した煌式武装は今朝、ユリスとの決闘の際にギャラリーから投げ渡された物だ。

 

「なんだ、気がついていたのかよ」

 

夜吹は受け取った煌式武装を見てニヤリと笑って言う。

 

「一応、ありがとうと言っておくよ。それがなければユリスも見逃してくれたかもしれないから、複雑ではあるけどね」

 

「なんで、おれだと?」

 

「まあ、声で、かな」

 

「あの状況下でおれの声を覚えてたってのか?」

 

「借りたものはちゃんと返すようにって、姉さんが口を酸っぱくして言ってたからね」

 

「なるほどね・・・・・・・やっぱりお前さん、面白いぜ」

 

「そうかな?」

 

「ああ。それじゃあまた明日な」

 

「ああ、また明日な夜吹」

 

俺と夜吹は階段の踊り場で別れ、俺はそのまま昇降口に夜吹は新聞部の部室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅に帰ろうとして俺は早速またしても道に迷った。

 

「う~ん。一日に三回も道に迷うって・・・・・・俺、紗夜みたいに方向音痴じゃないんだけどなー」

 

俺は幼馴染の一人、沙々宮紗夜を思い出した。

紗夜は天然と言うほどの方向音痴で俺、シルヴィ、オーフェリアは紗夜との移動が大変だったのだ。必ず紗夜が道に迷って。

中庭が綺麗だったため道を外れて入った矢先にこうなってしまった。

そのまま、歩いていると・・・・・・

 

「・・・・なら、なんで新参者なんかと決闘しやがった!」

 

不意に怒鳴り声が聞こえてきた。

俺はあまり関わり合いたくないためそのまま去ろうと思ったが、

 

「答えろユリス!」

 

聞こえてきた名前に思わず身を乗り出していた。

声のする方を見ると、近くの四阿の中にユリスが座っているのが見えた。その目の前には大柄の学生がユリスを睨んでいた。

 

「答える義務はないな、レスター。我々は誰もが自由に決闘する権利を持っている」

 

「そうだ。当然、オレもな」

 

「同様に、我々は決闘を断る権利も持っている。何度言われようと、もう貴様と決闘するともりはない」

 

「だからなぜだ!」

 

「はっきり言わないとわからないのか?」

 

ユリスは溜息を吐き立ち上がり、レスターと呼ばれた学生と真っ正面から向き合った。

 

「きりがないからだ。私は貴様を三度退けた。これ以上はいくらやっても無駄だ」

 

「次はオレが勝つ。たまたままぐれが続いたくらいで調子に乗るなよ!オレは、オレ様の実力はあんなもんじゃねえ!」

 

どうやら決闘の事で揉めてるみたいだ。

話を聞いている限り三回も闘って三回負けてるのにそれでもなお、諦めずに闘おうとは凄いと思った。

 

「待て!まだ話は終わっちゃ・・・・・!」

 

どうやらユリスはこれで話は終わりだと言ったようだ。

俺はその間に身を隠していた木陰から出ていき声をかけた。

 

「あれ、ユリスじゃないか?奇遇だねこんなところで」

 

「・・・・・おまえ、なぜここに」

 

「なんだてめぇは?」

 

あまりにもわざとらしかったせいか、ユリスとレスターは二人揃って眉をひそめて俺を睨んだ。

 

「実は、ちょっと道に迷っちゃってさ」

 

「ああっ!レスター!こいつ、例の転入生だよ!」

 

「なんだと・・・・・?」

 

「あー、ユリス。こちらは?」

 

「・・・・・・レスター・マクフェイル。星導館の序列9位だ」

 

「へえ、君も《冒頭の十二人(ページ・ワン)》なのか。すごいな。俺は天霧綾斗。よろしく」

 

レスターは差し出した右手には見向きもせず、怒りに満ちた目で俺を見下ろしている。

 

「こんな・・・・・・こんな小僧と闘っておいて、オレとは闘えねえだと・・・・・・?ふざけるな!オレはてめぇを叩き潰す!絶対に、どんな手を使ってもだ!」

 

おいおい。どんな手を使ってもって、それはちょっとアウトじゃないかな?

俺はレスターの言葉にそんなことを思った。

レスターの目はユリスだけを見ていた。

レスターはそのままユリスに近寄ろうとすると。

 

「ちょ、ちょっとレスターさん、落ち着いてください・・・・・・さすがにここじゃまずいですって・・・・・」

 

レスターと一緒にいた男子生徒の1人。痩せた男子生徒がレスターを宥める。

 

「不可能だな。少なくとも貴様が今のその猪のような性格を改善しないかぎりはな」

 

「なんだと!?くそ・・・・・!!」

 

「レスターを甘く見てると後悔するぞ。次こそは・・・・・」

 

「やめとけ、ランディ!!」

 

ランディと呼ばれたもう1人の男子生徒。小太りの男子生徒がレスターのことをユリスになにか言おうとするがレスターがそれを止めた

 

「オレは諦めねぇぞ。必ずテメェにオレの実力を認めさせてやる!!」

 

そう言うといなやレスターは取り巻きの男子生徒二人を引き連れて立ち去っていった。

 

「はぁ・・・・・・やれやれだ」

 

「あはは・・・・・余計なお世話だったかな?」

 

「まったくだ、おかげで普段より絡まれたではないか」

 

「それはごめん。―――って、普段からあんなことを?」

 

「レスターは私が気に食わないらしい。その手の輩は、少なくないがこうもしつこいのは初めてだな」

 

「だけど、序列9位ってことは相当強いんだよね?」

 

「強いか、弱いかで言えばまぁ強い方であろう。だが私ほどではあるまいし、そもそも序列なんてものはあてにならん。現に、序列入りしていなくても実力者はいるしな」

 

ユリスが俺を見て言う。

その問いかけに俺は逃げるようにして視線をずらす。

 

「せっかくだ。私からも1つ質問がある」

 

「ええっと・・・・・な、なにかな」

 

「今朝の決闘でおまえは流星闘技(メテオアーツ)を使ったな?無調整の煌式武装で一体どうやった?」

 

「ああ、あれは流星闘技じゃないよ」

 

「・・・・・なんだと?」

 

「あれはただの剣技さ。そもそも俺、流星闘技は使えないんだ。どうも煌式武装と相性が悪いって言うか苦手でさ」

 

「ただの剣技だと・・・・?」

 

「うちは一応古流剣術の道場をやってるから」

 

「・・・・・確かに煌式武装の刀身ならば、私の炎を斬ること自体は不可能ではない。だが、あそこまで見事に切り裂かれたのは初めてだぞ。おまえ、どんな腕をしている?」

 

「んー。たまたま、かな」

 

「・・・・・・ふん。まあいい。そのとぼけた顔がいつまで続くか見物だ。ここはそんなに甘い場所ではないのだからな」

 

「んー。甘く見てるつもりは無いんだけどね。そういうユリスはなんで闘ってるのさ」

 

俺は苦笑いをしながら疑問に思っていたことをユリスに聞いた。

 

「なに?」

 

まさか、そんなことを聞かれると思ってなかったのかユリスは驚いた目で俺を見る

 

「聞いたよお姫様なんだって?」

 

「確かに私はリーゼルタニアの第一王女だ。だが、それがどうした?ここにいる者は、多かれ少なかれ、ここでしか手に入れることのできないなにかを掴むために闘っている。その闘いに肩書や身分は関係ない。そうだろ?」

 

「確かにね・・・・・・ユリスが望むものって?」

 

「金だ。私には金が必要なのだ

 

ユリスは真剣な顔つきで言う。

俺にはユリスの言っていることがいまいち理解できなかった

ユリスは王女―――つまり裕福な生活をしてきたはずだ。それがなんで金が必要なのか俺には理解できなかった。いや、まて。確か聞いたことがある。ユリスの国、リーゼルタニアは統合企業財団の傀儡となっている、傀儡国家で、貧富の差が激しいと。

それと、ユリスの言った金で繋がった。

 

「それでパートナーを探しているんだね」

 

「べ、別に私にパートナーが見つかってないのは私に友人がいないからではないぞ?いや、このアスタリスクで友人がいないのは事実ではあるが・・・・・・それとは関係なく、私の基準に値するものがいないだけだ」

 

なんで疑問形なの?しかも友達いないこと認めちゃってるし。

俺はユリスを見てそんなことを思った。

 

「ちなみにその基準値は?」

 

俺はなんとなくその基準値に嫌な予感がして聞いてみた。

 

「そうだな・・・・・まずは私と同程度の実力者――というのは流石に望みすぎなので、せめて冒頭の十二人クラスの戦闘力、そして清廉潔白で頭の回転が速く、強い意志と高潔な精神を秘めた騎士のような者だな」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その辺りは流石お姫様、としか言えなかった。

だが、それを口に出すことはしない。

これでは、パートナーが見つからないのも道理だ。基準値が高すぎるのだ。

 

「さて、私はそろそろ戻るが―――――そういえばお前はどうしてこんなところにいたのだ?」

 

「あー・・・・・実はちょっと道に迷っちゃって」

 

「は・・・・・?ぷっははははははははははは」

 

ユリスは声をあげて笑った。

俺はこのときユリスもこんな風に笑うこともできるんだなと思った。

 

「そもそも、朝あんな目にあったのだから少しは道を覚えるなりしたらどうなのだ・・・・・?」

 

「うっ・・・・・ごもっともで」

 

「まあ、いい。それで、どこに行きたいのだ?」

 

「え~と、校門の前にまで行きたいんだけど」

 

「校門だと?寮ではなくてか?」

 

「あー。実は俺、学園から自宅でも寮からでも通学していいって言われてるんだ」

 

「ほう。なるほどな」

 

ユリスは視線と指先で場所を示した。

 

「あの道を真っ直ぐに歩いていけば校門まで出られる」

 

「ありがとうユリス。あ、そうだ。ユリス、今度俺にこの学園を案内してくれないかな?」

 

「なに・・・・・?一体なんの冗談だ。どうして、私がそんなことをせねばならんのだ?」

 

ユリスは俺の申し出に露骨に顔をしかめた。

 

「だってほら俺はユリスの言う所の“貸し”を持ってるんでしょ?ユリスだって言ってたじゃないか、一度だけ頼みを聞いてくれる、って」

 

「確かにそれは言ったが、そんなのでいいのか?」

 

「そんなのって?」

 

ユリスは呆れたようにして俺に言う。

 

「はなはだ不本意ではあるが、私はお前に危機を救われた。決して小さくない借りだ。望むのならある程度のことは・・・・・・・い、いや、破廉恥なことは不可能だが・・・・・

例えば《冒頭の十二人(ページ・ワン)》としての私の力を貸すこともできるのだぞ?」

 

「つまり、戦力としてユリスの力を貸してくれるってことかな?」

 

「そうだ」 

 

「う~ん。それはいいや」

 

「なっ!?」

 

「それよりも今はこの学園に慣れることが大切だしね」

 

「全く。底の読めない男だ。いや、それともただのバカなのか?」

 

ユリスは呆れた表情と苦笑いを浮かべながらそんなことを言った。

 

「その二択なら多分、後者じゃないかな?」

 

「よく、言う。だが、まあいい、そういうことなら案内してやる」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

「ま、まぁ、貸しは貸しだしな。案内は明日の放課後で構わないか?」

 

「俺は構わないよ」

 

「うむ。それではな」

 

そう言うとユリスは校門へ向かう道とは違う道を通って行った。

不意に時間を見ると・・・・・

 

「うわっ!もう、18時近く!?急いで帰らないと」

 

俺は走って校門まで行き、そこから星導館と六花を繋ぐ連絡橋を駆け抜け自宅へと帰った。

ちなみに、所要時間は約30分程だ。もちろん星脈世代(ジェネステラ)としての力は使ってない。




感想やアドバイスなどありましたらよろしくお願いいたします。


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幼なじみと告白

オリジナル回書けました。
書いていると喋り方や口調が分からなくなることがあるから大変ですわね


~綾斗side~

 

星導館学園を出た俺は素早く家に帰り、届いている荷物の荷解きをした。

アスタリスクでの自宅は一戸建てで新築らしい。

そこまでは良いのだが、何故か俺一人で住むにはおかしな物がある。

それは――――――

 

「なんで、ベットが大きいんだろ?」

 

そう寝室にあったベットが俺一人だけで寝るには大きすぎるのだ。

そんなこんなで荷解きと家の掃除をしているとあっという間に時計は19時を指していた。

 

「もう、19時か・・・・・」

 

リビングのソファーに座りながら言うと。

 

 

ピンポ~ン♪

 

 

玄関のインターホンが鳴った。

 

「誰だろう?」

 

俺はそう思いながら玄関に足を運び扉を開ける。

 

「はーい」

 

扉を開けるとそこにいたのは――――

 

「綾斗く~ん♪」

 

「おわっ!!?」

 

シルヴィだった。シルヴィは俺の姿を確認すると抱き付いてきた。

 

「ちょ、し、シルヴィ!?」

 

俺が困惑しながらシルヴィに聞いていると。

 

「シルヴィア、天霧くんが困ってますよ」

 

そんな助け船の声がシルヴィの後ろから聞こえてきた。

 

「あ、ペトラさん」

 

シルヴィの後ろにいたのはクインヴェール女学院の理事長で、シルヴィのプロデューサーで、統合企業財体の一つクインヴェール女学院の運営母体、W&Wの幹部でもあるペトラ・キヴィレフトさんだ。

ペトラさんとは昔からの知り合いだ。

 

「もお、別にいいでしょペトラさん」

 

「時と場所を弁えてください。ここは玄関先で家の中と言うわけでは無いんですよ」

 

「ちぇー・・・・・・」

 

「あははは・・・・・・・えっと、お久しぶりですペトラさん」

 

「天霧くんも変わりないようですね。元気そうで安心しました」

 

「はい。あ、玄関先なのもなんですので中へどうぞ」

 

「いえ。私はこの後予定がありますので、またの機会に」

 

「そうですか」

 

「ええ。それじゃあシルヴィア、私は明日の朝迎えに来ますからね」

 

「へっ?」

 

「うん。ありがとう、ペトラさん」

 

「何かあったら連絡してください。それでは」

 

そう言うと否やペトラさんはシルヴィとともに乗ってきた車に乗り去っていった。

 

「シルヴィ、今日泊まる気なの?」

 

ペトラさんの言葉の意味をシルヴィに聞くと。

 

「?そうだよ」

 

当然じゃない、と言う風にシルヴィが返してきた。

 

「綾斗くん、ここ用意したのペトラさんだよ」

 

「え!?そ、そうだったの!?」

 

「うん。千見の盟主(パルカ・モルタ)から話を聞いて用意したって」

 

「クローディアから!?」

 

「うん」

 

そこで俺は家を見て疑問に思っていたことが解消した。

 

「取り敢えず、中に入ろう」

 

「うん」

 

シルヴィを家の中に案内しようとすると。

 

「・・・・・・・綾斗、シルヴィア」

 

その後ろから俺たちを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「え?この声・・・・・・」

 

「随分と早いね。オーフェリア」

 

俺は振り返り、オーフェリアを見た。

 

「・・・・・・そんなことない」

 

「取り敢えず家に入ろう」

 

俺はそう言うと、二人をリビングに案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リビングに案内し俺は、飲み物を取ってくるべく台所で紅茶を入れていた。

 

「オーフェリアちゃん、久しぶり」

 

「そうね。《王竜星武祭(リンドブルス)》であって以来ね」

 

「うん」

 

シルヴィとオーフェリアが向かい合って話しているが・・・・・・・

 

「会話が続いてない・・・・・」

 

僕は二人をみてそう思ってしまった。

取り敢えず、カップを3つとポットを持って二人のいるところに向かう。

 

「お待たせ」

 

「ありがとう、綾斗くん」

 

「ありがとう、綾斗」

 

俺は椅子に座り淹れたばかりの紅茶に口をつける。

一口のみカップをソーサーに戻し、俺はオーフェリアを見る。

 

「それで、オーフェリアいいかな?」

 

「私が《星脈世代(ジェネステラ)》になっていること?」

 

「それもあるけど。その身体から出ている瘴気・・・・・・・今は余り出てないけど、それは一体」

 

「・・・・・・・・」

 

そう俺の記憶が確かであるならばオーフェリアは《星脈世代》ではなく一般人だったはずだ。

それに髪の色のが栗色ではなく白だと言うのも気になる。

 

「綾斗くん、オーフェリアちゃんの二つ名は知ってる?」

 

「確か《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》だったかな?クローディアが言っていたけど・・・・・・・まさか、その瘴気って・・・・・・」

 

「・・・・・・初めから話すわ。私は綾斗たちと離れ離れになりリーゼルタニアへ引っ越す事になった。その事は知っているわね」

 

「ああ」

 

「うん」

 

「そして、その半年後事故に巻き込めれて母も父も亡くなったの」

 

「なっ!?」

 

「そ、そんな・・・・」

 

「両親を亡くし身寄りのない私は、リーゼルタニアの孤児院に引き取られたわ。孤児院は裕福とは言えなかったけど暖かくて優しい人が沢山いたわ。そして、そこで親友が出来た」

 

「親友?」

 

「ええ。親友の名前はユリス。リーゼルタニアのお姫様よ」

 

「え!?ユリス!?」

 

俺はオーフェリアから言われた親友の名に驚いた。

 

「綾斗くん、知ってる人なの・・・・・・・・・って、ん?ユリス?何処かで聞いたような・・・・・・・」

 

「ユリスは星導館学園の序列5位《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》と呼ばれているわ」

 

「あ、思い出した。確か今日の朝綾斗くんと決闘した人だよね」

 

「(ギクッ!)・・・・・・・・あ、ああ、そうだね」

 

「綾斗、ユリスと決闘したの?」

 

「確かその時の映像が・・・・・・・・あ、あった。これだよ」

 

シルヴィは自身の携帯端末を操作し1つの動画を流した。

 

『では行くぞ!咲き誇れ――鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!』

 

シルヴィの流した映像からユリスの声が流れる。

ユリスの反対側には俺もいて煌式武装を構えていた。

 

「こ、こんなの何処から・・・・・」

 

「決闘とかは普通に学生ネットワークに流れるわ」

 

「マジで」

 

「ええ」

 

「おおー。かっこいね、さすが綾斗くん」

 

「ええ。かっこいいわね」

 

幼なじみの二人に面と向かって言われ俺は少し赤くなった。

 

『咲き誇れ―――六弁の爆焔花(アマリリス)!』

 

画面の映像はユリスが六弁の爆焔花を放っているところだった。そして映像の中の俺はそれに向かって走っていた。

 

『爆ぜろ!』

 

『天霧辰明流――――"貳蛟龍(ふたつみずち)"!』

 

六弁の爆焔花を十字に切り裂き中から俺が出ていた。

そして。

 

『伏せて!』

 

件の矢がユリスに飛んで来るのを俺がユリスを押し倒すと言う形で防いでいた。

 

『お、おまえ、なにを・・・・・!―――どういうつもりだ?』 

 

『どういうつもりって・・・・・・それは俺じゃなくてこれを撃った本人に聞いてほしいかな』

 

『そうではない!なんでわざわざ私を――――』

 

あ、ヤバ。ここまで録られてたの!?マズイこれはマズイ。

画面には俺がユリスを押し倒し、ユリスの胸を鷲掴みにしている映像が流れていた。

 

『ご、ごご、ごめん!いや、あの、俺は別にそんなつもりは全然なくて!その・・・・・・・』

 

『おお!なんだあの新顔、お姫様を押し倒しやがったぜ!』

 

『すげえ度胸だな!』

 

『情熱的なアプローチだわー』

 

その後動画は流れ終わり画面は暗くなった。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「(き、気まずすぎる)」

 

二人の無言に俺はなんとも言えずにいた。

俺たち三人を無言の沈黙が貫く。

やがて。

 

「ねえ・・・・・・・綾斗くん」

 

「・・・・・・・・綾斗」

 

「な、なに、シルヴィ、オーフェリア」

 

「さっきの動画、綾斗くんユリスさんの胸、鷲掴みにしてなかった?」

 

「・・・・・・私もそんな風に見えた。どうなの綾斗?」

 

「え、え~と、その・・・・・・・」

 

「答えてくれない、綾斗くん」

 

「・・・・・・・答えて綾斗」

 

「ご、ごめんなさい!ユリスの胸を鷲掴みにしてました」

 

「「それで?」」

 

「え~と、や、柔らかかったです?」

 

「綾斗くん、正座だよ」

 

「・・・・・綾斗、正座」

 

「・・・・・・・はい」

 

その後、俺は30分程シルヴィとオーフェリアにお説教されていたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後

 

「――――――わかった?綾斗くん?」

 

「――――――綾斗?」

 

「はい。わかりました」

 

「それじゃあ、話を戻すわ」

 

「あ、うん」

 

「ゴメンね、話を折っちゃって」

 

「平気。それで、私はユリスと親友になった。けどそれは長くは続かなかったわ。私は孤児院の借金の肩代わりとして統合企業財体、フラウエンロープ系列の研究所に引き取られ、その後アルルカントの《大博士(マグナム・オーパス)》ヒルダ・ジェーン・ローランズに人体実験の被験体とされたの」

 

「人体実験!?」

 

「そんな、酷い」

 

俺とシルヴィはオーフェリアの言った人体実験にショックを受けた。

そしてなんとなく察した。そこでオーフェリアは―――

 

「《大博士》の目的は、人工的に《星脈世代》を生み出すこと」

 

「それじゃあ、オーフェリアちゃん」

 

「ええ。私は後天的に《星脈世代》それも《魔女(ストレガ)》となった。そのあと色々あって今はレヴォルフの生徒会長、ディルク・エーベルヴァインに買い取られてレヴォルフに所属してるの」

 

「レヴォルフの生徒会長・・・・・・・《悪辣の王(タイラント)》ね」

 

「ええ。シルヴィアは知ってるわね私の能力」

 

「・・・・・・うん。オーフェリアちゃんの魔女として能力は《瘴気を操ること》つまり毒」

 

「毒と瘴気・・・・・・・もしかしてオーフェリアの身体から溢れてるのって」

 

「ええ。私はほぼ無尽蔵の《星辰力(プラーナ)》がある反面、その能力を抑え込むことが出来ず、常に周囲へ毒素をまき散らしているの。けど今は二人に害がないようにしているわ」

 

「オーフェリア・・・・・・・」

 

「オーフェリアちゃん・・・・・・」

 

「これが私が《魔女》になった一連よ。だから二人にはもう近づくこともできないし、一緒にいることは無理なの。好きだった花ももう触れないのよ」

 

俺は諦めきっている眼差しをしているオーフェリアに近づいた。

 

「・・・・・・綾斗?」

 

「くっ・・・・・・」

 

これがオーフェリアの言っていた瘴気、なのだろう。近づくだけできつくなった。

 

「それ以上は無理よ、綾斗」

 

「綾斗くん・・・・・・」

 

「そうはいくか・・・・・・この程度・・・・・」

 

俺はオーフェリアに近づき隣に座り込み、オーフェリアを抱き締めた。

 

「・・・・・綾斗?」

 

「大丈夫。大丈夫だからオーフェリア。君が一緒に入れないって言っても、俺は君と一緒にいるから。もちろんシルヴィもだよ」

 

「・・・・・けど」

 

俺は抱き締めたまま、昔のようにオーフェリアの頭を優しく撫でる。

 

「あ・・・・・・・」

 

「な。今はあの頃みたいでいいんだよ。俺とシルヴィとオーフェリア、紗夜と一緒にいた頃で」

 

「綾斗・・・・・・・・」

 

オーフェリアはそう言うと俺の身体に顔を埋めてきた。

そのままオーフェリアは今までずっと溜めていたのであろう涙を流した。

 

「良かったね、オーフェリアちゃん」

 

シルヴィは俺とオーフェリアを見て嬉しそうにしていた。彼女自身、オーフェリアと再会して心配だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後

 

「ありがとう、綾斗」

 

オーフェリアが涙を流してから10分後、オーフェリアは顔を上げ赤くなりながら言った。

 

「平気だよ。今度、ユリスにも話さないとね」

 

「そうね」

 

俺はすっかり冷めた紅茶を飲み時計を見た。

 

「もう、8時過ぎてたんだ」

 

「ホントだ。早いね」

 

「ええ」

 

「そう言えば、二人は夜ご飯って食べた?」

 

「ううん。私はまだだよ」

 

「私も・・・・・」

 

「じゃあ、作っちゃうから待ってて」

 

そう言うと俺は空になったカップとソーサー等を持って台所に向かった。

 

~綾斗side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~シルヴィアside~

 

私は目の前に座るオーフェリアちゃんに綾斗くんがいなくなると早速聞いた。

 

「オーフェリアちゃん、綾斗くんの事好きでしょ」

 

「・・・・えっ、ちょ、シルヴィア。そ、それは・・・・・」

 

「好きなの、好きじゃないの、どっち?」

 

「・・・・・・・・・・・・好き」

 

「え?聞こえないよ」

 

「//////わ、私は綾斗の事が好きよ!こ、これで良いかしら!?」

 

オーフェリアちゃんは顔を赤くしながら告白した。

 

「うん。ちなみに、私も綾斗くんの事好きだからね」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「うん。私たちは綾斗くんの事が好き、だけどオーフェリアちゃんと奪い合いはしたくないの」

 

「・・・・ど、どういう事かしら?」

 

そして私は言う。

 

「私とオーフェリアちゃん、どっちも綾斗くんの彼女。恋人になっちゃえばいいんだよ♪」

 

「//////!?」

 

さすがに私の提案にオーフェリアちゃんは顔を真っ赤にした。巷で無感情と噂されるが決してそんなことないと私は確信してるがここまでとは予想外だった。

 

「そ、それは、そ、その・・・・・・」

 

「それで今日、告白しちゃおう♪」

 

「こ、こく、告白/////」

 

「それでいいかな?」

 

「え、ええ。いいわ」

 

よし!

私は内心で拳を握った。

これで、私もオーフェリアちゃんも幸せになれるんだから良いってことだね。

その後、約20分後、夕飯を持って綾斗くんが戻ってきた。

 

~シルヴィアside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~綾斗side~

 

夕飯を作り終わりシルヴィとオーフェリアの待っているリビングに持っていくと、何故かオーフェリアは顔を真っ赤にして俯いていて、シルヴィは喜んでいるような表情をしてニコニコしていた。

 

「それで、シルヴィが泊まるのは良いとしてオーフェリアはどうするの?」

 

「わ、私は・・・・・・」

 

「オーフェリアちゃんも泊まっていったらどう?」

 

「い、良いのかしら?」

 

「ああ。別に俺は良いけど問題が1つ」

 

「問題?」

 

「この家、ベットが1つしかない。まあ、ベッド自体が大きいんだけどね」

 

「ペトラさん、さすが~」

 

「そ、そうなの。それなら3人一緒に寝たらどうかしら?」

 

「え?」

 

「うん。賛成!久し振りに一緒に寝ようよ、綾斗くん」

 

「ま、まあ。たまにはいいか・・・・・・な」

 

オーフェリアも俺の家に泊まることが決定し、俺が食器を洗っている間にシルヴィとオーフェリアの二人でお風呂に入ることとなった。

食器を洗い終わると俺はペトラさんに電話をしていた。

 

『天霧くん、どうかしましたか?』

 

「シルヴィから聞いたんですけどこの家ペトラさんが用意してくれたって本当ですか?」

 

『そうですよ』

 

「ちなみにベットが1つしかなくて大きいのは?」

 

『ああ。それは天霧くんとシルヴィア、あとオーフェリアさんの為です』

 

「俺たちの?」

 

『ええ。シルヴィアはもちろんの事オーフェリアさんも辛い思いをしてきていますからね』

 

「・・・・・・・すべてお見通しなんですね、ペトラさんには」

 

『そんなことありません。あなたたちだからです。それに天霧くんがここに来たのはお姉さんの事。ですよね』

 

「!ええ」

 

『私個人としては天霧くんに協力したいんですけど・・・・・』

 

「いえ。ペトラさんには色々お世話になってますから」

 

『ふふ。それではシルヴィアたちをお願いします。お姉さんの事は何か掴み次第連絡します』

 

「はい。ありがとうございます」

 

そう言うと携帯端末を切った。

ペトラさんが手伝ってくれるなら助かる、と俺は思った。

そう思っていると、不意にお風呂場の扉が開き、中からシルヴィとオーフェリアが出てきた。

 

「綾斗くん、誰かと話してた?」

 

「ん。いや、なんでもないよ二人とも」

 

「・・・・・・そう」

 

「じゃあ、俺はお風呂入ってくるから楽にしてて」

 

俺はそう二人に言うと二人が出てきたお風呂場に入りお風呂に入った。

出たのはそれから15分後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15分後

 

お風呂から出た俺は取り敢えず明日の準備をした。

 

「―――――これで、いいかな」

 

自室で準備をしていると、

 

コンコン

 

ノック音が聞こえた。

 

「綾斗くん、入っていいかな?」

 

「シルヴィ?いいよ」

 

俺が返すとシルヴィとオーフェリアが入ってきた。

 

「どうしたの二人とも?」

 

「綾斗くん、これから私たちが言うことちゃんと聞いてね」

 

「?」

 

「・・・・・綾斗、私は綾斗の事が好き。ずっと一緒にいたいと思っているわ」

 

「綾斗くん、私も綾斗くんの事好きだよ。オーフェリアちゃんと同じでずっと一緒にいたいと思ってるよ」

 

俺はいきなり告白してきた二人に驚愕した。

と言うか、思考がフリーズした。

 

「綾斗?」

 

「綾斗くん?」

 

「あ、ああ、ごめん。え、え~と、二人ともそれは・・・・・・」

 

「私たちを綾斗くんの彼女にしてほしいの」

 

「た、確かに俺も二人の事好きだよ。で、でも・・・・・」

 

「私とシルヴィアで話し合って、と言うよりシルヴィアからの提案を私は呑んだの」

 

「え、え~と二人がそれでいいなら・・・・・」

 

「私は綾斗だからいい」

 

「私も綾斗くんだからこそいいのよ」

 

「そ、その。こんな俺で良かったらこれからもよろしく」

 

「うん。これからもよろしくお願いします、綾斗くん」

 

「これからもよろしく、綾斗」

 

俺たちはその場で告白し恋人通しとなった。

さすがに彼女が二人もいるとしれたら周りからどんな批判を受けるか・・・・・・俺はそんなことが過ったがそれを棄てる。二人がいるなら、なんでも出来る。そんな気がしたからだ。

俺は、二人を見て俺がここに来た理由をまだ言わないでおくことにした。"今日は"だけど。機会があれば二人に話すけど、今日は。今、この感動の中で言うことじゃないだろう、俺はそう判断した。

 

「それじゃあ、もう寝ようよ」

 

「シルヴィアの言う通り、もう寝よ。綾斗も疲れてるだろうし」

 

「それもそうだな」

 

俺たちは自室を出ると寝室に向かい寝る。

昔、幼なじみ4人でいたときのように、俺たちは仲良く横になり、俺の両隣をシルヴィとオーフェリアの二人が挟む川の字のような態勢で寝た。

 




次回、もう一人の幼なじみ登場


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最後の幼なじみ

やっぱりクロスオーバーの方が良いのでしょうか、と悩んでしまいます。
よろしければアドバイスや感想お願いします


~綾斗side~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草の香りたつ初夏の夜だった

その日、ぼくは道場の片隅に正座させられていた。

室内にはぼくともう一人いた。

 

「まったくもう・・・・・・今度はなにをやらかしたの?お父さん、カンカンだったよ」

 

月明かりに照らされ、ぼくの前に立つ人影が柔らかい声で聞いた。

 

「・・・・・・・・ぼくは悪くない」

 

ぼくは拗ねたようにソッポを向いて答えた。

ぼくの前に立つ人影―――――少女は、ぼくと同じ目線に合わせた。

その少女は困ったような表情をしてぼくを見る。

 

「綾斗」

 

「だってお姉ちゃん!あいつらが・・・・・・・!」

 

「綾斗っ!」

 

鋭さを増したお姉ちゃんの声に、ぼくはびくんと首をすくませる。

 

「言い訳なんて男らしくないぞ」

 

「うう・・・・・」

 

「・・・・・でも、綾斗がちゃんと反省してるなら話を聞いてあげる」

 

「ほんとっ?」

 

「ちゃんと反省してる?」

 

「うん!反省してる!」

 

「本当に?」

 

「うん!」

 

「本当に本当?」

 

「うん!」

 

「本当に本当に本当?」

 

「・・・・・・お姉ちゃん、重い女は嫌われるって前にサヤちゃんとオーフェリアが言ってたよ」

 

ぼくがそう言うと、お姉ちゃんは拳を握り締め。

 

ごつん。

 

ぼくの頭に落としてきた。

 

「・・・・・・・ごめんなさい。反省してます」

 

「よろしい」

 

お姉ちゃんは威厳たっぷりに頷いてみせた。

 

「じゃあ、まずそこに座りなさい」

 

「もう座ってるよ、お姉ちゃん」

 

「・・・・・・・・ちゃ、ちゃんと正座で座りなさい」

 

「ずっと正座だよ、お姉ちゃん」

 

「・・・・・・・・」

 

お姉ちゃんは気恥ずかしそうに咳払いすると、制服のポケットからブラックフレームのオーソドックスな眼鏡を取り出した。

 

「いつも思うんだけど、お姉ちゃんはかっこつけてないで普段からメガネをかけてればいいのに」

 

「う、うるさいな!いいでしょ、別に!はぁ・・・・・・それで何があったの?」

 

「ぼくはなにもしてない!ただ、あいつらがしつこく立ち合えっていうから・・・・・!」

 

ぼくはお姉ちゃんに、道場の門下生が素振りばかりで一度も試合などの立ち合いをしているところをみたことがなかったぼくを門下生たちがからかった、事を言った。

ほくは他の門下生との試合を父親から固く禁じられていた。そのため、他の門下生からちょっかいやからかわれたり、馬鹿にされたりすること等は度々あった。

ぼくとお姉ちゃんのところの道場は門下生自体はそんなに多くはないが、かわりに門下生のほとんどが《星脈世代(ジェネステラ)》だ。

《星脈世代》が一般人への暴力は法律で禁止されている。そしてそれは未成年でも変わらない。

だからこそ今回は同じ《星脈世代》のぼくが他の門下生たちのターゲットになってしまったのだ。

だが今回のようなことはこれがはじめてではないぼく自身のことならもいつも通り軽くながして終わりだった。

だが、今回は門下生たちもぼく自身のことをなにを言ったて相手にされないと悟ったのだろう。門下生たちはぼくではなく、お姉ちゃんのことをバカにした。

いくらぼくでも大好きで憧れているお姉ちゃんを馬鹿にされれば我慢がならなかった。

そして立ち合った結果、ぼくの圧勝だったというわけだ。

 

「それにあいつら、お姉ちゃんの事まで・・・・・・!だから、ちょっとだけ相手してやったんだ!」

 

「・・・・・・・ふむ。・・・・・・・・なるほどね。確かに綾斗は間違ってない」

 

「そうだよね!」

 

「――――――でも、正しくもない」

 

「え?」

 

「綾斗、なんでお父さんがあなたに立ち合いを禁止しているかわかる?」

 

「・・・・・・」

 

お姉ちゃんの問いにぼくは、ふるふると首を横に振った。

以前、父さんに聞いたが答えてはくれなかったのだ。

 

「あなたは強い力を持っている。でも力ってのは人を傷つけてしまうこともある。そしてそれは、綾斗、あなた自身を傷つけてしまうことでもあるの」

 

「でも、ぼくはどこも怪我してないよ?どこも痛くないし・・・・・」

 

ぼくはお姉ちゃんの言葉に首を捻らせていると。

 

「もおー、綾斗くん。遥お姉ちゃんが言いたいのはそう言うことじゃないと思うよ」

 

「私もハルお姉ちゃんが言いたいことはそうじゃないと思うわ、綾斗」

 

道場の入り口から二人の少女の声が聞こえてきた。

入り口の方を見ると、綺麗な薄い紫色の髪の少女と栗色の柔らかそうな髪の少女がいた。

 

「シルヴィ・・・・・・・オーフェリア・・・・・」

 

「あら、シルヴィアちゃんにオーフェリアちゃんいらっしゃい。来ていたのね」

 

「はい、おじゃまします遥お姉ちゃん」

 

「おじゃまします、ハルお姉ちゃん」

 

シルヴィとオーフェリアは二人同時にお姉ちゃんに会釈をし、道場の中に入ってきた。

 

「綾斗くんは他の人よりも強いんだからそこは我慢しないと」

 

「いくら大好きなお姉ちゃんが馬鹿にされても耐えないとダメよ」

 

「だ・・・・・・大好きって・・・・・//////」

 

「アハハ。ちょっと照れるな。・・・・・・・いい、綾斗よく聞いて。これは、シルヴィアちゃんとオーフェリアちゃんも聞いてね。力に頼って身を任せている限り、痛みを感じることはない。でも、そのかわり人の痛みも感じることが出来ない。そんな綾斗に私や父さん、シルヴィアちゃんやオーフェリアちゃん、サヤちゃんはなってほしくないの」

 

ぼくとシルヴィ、オーフェリアは揃って首をかしげた。

まだ、この頃の僕らには意味がわからなかったのだ、

 

「尊厳を守るために闘うことは確かに大切よ?それは誰もが持っている正当な権利だから間違ってはいないわ。でもね、綾斗はまだその結果に関して責任を持ててないの。無責任と正しさは相容れないものだから」

 

「う~ん・・・・・・よく、わからないよ」

 

ぼくがそう言うと、シルヴィとオーフェリアも揃って頷いた。

 

「とにかく、綾斗にはまだ早いってことよ」

 

「じゃあ、いつになったらいいの?」

 

「うーん、そうだなぁ・・・・・・強いて言うなら、綾斗自身が成すべき事を見つけたとき、かな」

 

「ぼくの成すべき事・・・・・・」

 

「そう、その時は綾斗が己自身の力の使い方が分かった時だから」

 

「お姉ちゃんは?」

 

「ん?」

 

「お姉ちゃんは、成すべき事を見つけたの?」

 

この時お姉ちゃんは驚いた表情をしていた。

まさかぼくが聞き返してくるとは思ってなかったのだろう。

暫く、驚いた顔をするとお姉ちゃんは答えた。

 

「私か~。もちろん私の成すべき事は、綾斗、あなたを守ることかな」

 

「ぼくを?」

 

「うん。それが私にとってなにより大切で、成すべき事」

 

「じゃあ・・・・・・じゃあぼくもお姉ちゃんを守るよ。それがぼくの成すべき事だ!!」

 

「フフ。うれしいこといってくれるなぁ、綾斗は。でもあなたの成すべき事とは言わないけど、守るべき人は他にいる、でしょ?」

 

お姉ちゃんはそう言うと、ぼくをじっと見ているシルヴィとオーフェリアを見た。

 

「も、もちろん、お姉ちゃんだけじゃなくてシルヴィとオーフェリアもぼくが守るよ!!!」

 

「綾斗くん//////」

 

「綾斗//////」

 

「頼もしいね。でも綾斗、お姉ちゃんよりまだ弱いのに二人を守れるの?」

 

「うぅ・・・・・・」

 

「フフ。冗談よ。さっきも言ったけどあなたは必ず強くなる。私よりも絶対に。だけど、私を守る必要はないわ。シルヴィアちゃんとオーフェリアちゃんを守ってあげて。それがきっと綾斗、あなたの成すべき事を見つける切っ掛けになるはずだから。ね」

 

お姉ちゃんは、まるで未来を予測しているかのように言うと、ぼくとシルヴィ、オーフェリアを抱き締めた。

 

「綾斗、お姉ちゃんのために怒ってくれてありがとう。

私も綾斗のこと大好きだよ。シルヴィアちゃん、オーフェリアちゃん、綾斗のことよろしくね・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は窓から入る朝日に照らされ目を開けた。

 

「懐かしい夢を見たな・・・・・・」

 

そう呟くと俺は軽く伸びをした。

伸びをし手を両脇に置いた。

すると。

 

「ん・・・・・・」

 

「あっ・・・・・・」

 

そんな声とともに両手に柔らかい感触が襲った。

 

「ん?この感触は・・・・・・」

 

俺は掛かっていた毛布を振り払った。

俺の両脇には安らかに眠っているシルヴィとオーフェリアがいた。俺を抱き枕のようにして。

 

「こ、これは一体・・・・・・あ、そう言えば二人とも泊まってたんだっけ」

 

俺は昨夜の事を思いだし呟いた。

 

「それは、良しとしてこの柔らかい感触は・・・・・・」

 

そこで俺は思い出した。昨日の朝もこんなのがあったなと。そして、視線を両手に向けると。

 

「とんでもなくデシャビュだ・・・・・・」

 

案の定、俺の両手にはシルヴィとオーフェリアの胸に触れていた。素早く両手を退け時計を見た。

 

「と、とにかく起きないと・・・・・・って、これじゃあ起きられないんだけど・・・・・・」

 

時刻は朝の4時半。何時もこの時間に起き鍛練している時間だ。

どうしようかと悩んでいると。

 

「ん・・・・・・」

 

「んん・・・・・・」

 

二人とも起きたらしく毛布の中でモゾモゾと動いていた。

 

「んんーー・・・・・・おはよう、綾斗くん、オーフェリアちゃん」

 

「・・・・・・おはよう、綾斗、シルヴィア」

 

「お、おはよう、シルヴィ、オーフェリア」

 

俺は二人に気づかれないように普通に挨拶するが、どうやら二人ともバッチリ気づいていたらしく、軽く小言を言われた。

そしてどうやら俺の寝言を聞いていたらしくそれを言われた俺は顔が赤くなり、素早く寝室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

時は進み

 

 

 

「それでは天霧くん、今日からよろしくお願いしますね」

 

「はあ・・・・・・」

 

俺は、シルヴィを迎えにきたペトラさんにそう言われていた。

何がよろしくお願いしますね、なのかと言うと、それは・・・・・・

 

「まさか、シルヴィとオーフェリアがここに住むことになるなんて」

 

そう。今朝、シルヴィがペトラさんに連絡して決めたそうらしいのだが・・・・・・

 

「と言うかペトラさん。シルヴィを学区内じゃなくて俺の家に住まわせていいんですか?」

 

「それに関して問題はありません。クインヴェールの方にもシルヴィアの部屋は残しときますので。確か、天霧くんも星導館の寮にも部屋はありましたよね」

 

「ええ。確かにありますけど・・・・・・・・なんで、それをペトラさんが?」

 

「星導館の生徒会長、クローディアさんから聞きました」

 

「え!?ペトラさん、クローディアと知り合いなんですか!?」

 

「ええ。クローディアさんのお母様とは知り合いなのでその伝で。今回の事もそれで聞いたんです」

 

「な、なるほどー」

 

まさか、他学園との繋がりがあるとは思わなかった俺は、ペトラさんの言葉に本気で驚いた。

さすが統合企業財体の幹部、なのかな?

 

「シルヴィはわかったけどオーフェリアは大丈夫なの?」

 

「・・・・・大丈夫。何か言ってきても決闘で倒すから」

 

「そ、それはそれで止めといた方がいいと思うよ」

 

「・・・・・綾斗がそう言うなら」

 

「それじゃあ、綾斗くん行ってくるね」

 

「・・・・・行ってくる」

 

「あ、うん。行ってらっしゃい・・・・・・と言うか俺ももう行くんだけどね」

 

二人の姿を見送りながら僕はそう口走っていた。

現在の時間は午前8時辺り。星導館の始業時間が9時からだ。多少の余裕を持って登校した方が良いだろう。

昨日の事を反省し、俺は早めに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星導館学園

 

星導館に着き、登校してきたばかりの寮のルームメイトの夜吹とともに、自身のクラスに行くと既に俺の右隣のユリスがいることに気づいた。

隣なので俺はユリスに挨拶をする。

 

「おはよう、ユリス」

 

「あぁ、おはよう」

 

ユリスが俺に挨拶を返すと突如クラス内がざわめき始めた。

 

「おい、聞いたか!?」

 

「あぁ、驚いたな」

 

「あのお姫様が挨拶を返した・・・・・・だと!?」

 

「レアだぜ」

 

「明日は雨が降るかもしれない」

 

「いや、雪だ!そうに決まってる!」

 

「もしくは槍が降ってくるかも」

 

ユリスが挨拶をしたのがそんなに珍しいのかクラス中に動揺が走っていた。

て言うかこの季節に雪は降らないんじゃない?それにどうやって槍を降らせるんだろう?

 

「失敬な、私だって挨拶くらい返すぞ!!」

 

「いや、いや。いきなり話しかけてくるな的なことを言ってたお姫様が、んなこといっても説得力ないでしょ・・・・・」

 

「・・・・・・夜吹、そんなにユリスが挨拶するのが珍しいの?」

 

俺は後ろに座っている夜吹に聞いた。

 

「あぁ、て言うより初めて聞いたなお姫様が挨拶をするのを」

 

「ああ・・・・・・」

 

そう言う夜吹に俺は、普段ユリスがどんなのか分かってしまい苦笑いをするしかなかった。

席に着くと昨日は空席だった左の席にうつ伏せになりながら寝ている人がいるのに気づいた。

髪は水色で顔はうつ伏せに寝ているため分からないが女子だと言うことはわかった。

 

「やぁ、お隣さん。俺は昨日編入してきた天霧―――」

 

俺はそう言いながら口を止めた。

何故なら、うつ伏せに寝ていた少女の顔を見て驚いたからだ。

その少女は、幼なじみのシルヴィ、オーフェリアに続くもう一人の幼なじみ、沙々宮紗夜だったからだ。

 

「・・・・・・綾斗?」

 

「紗夜!?なんでここに!?!」

 

眠そうに瞼を擦りながら言う幼なじみに俺は席から立ちあがり驚きの表情を出した。

するとそれを見た夜吹が聞いてきた。

 

「なんだなんだ、おまえら知り合いだったのか?」

 

「あー、うん、まぁ幼馴染ってやつかな・・・・・・」

 

「幼馴染?」

 

「うん。幼馴染って言っても紗夜が海外に引っ越して以来だから・・・・・・だいたい6年くらいになるのかな」

 

「へぇー。その割には対して驚いてないみたいなんだが・・・・・・」

 

「んー、昔からこんなだったしこれでも驚いてるはず・・・・・・・・多分」

 

「多分って・・・・・・本当か・・・・・・・?」

 

「うん。ちょーびっくり」

 

「いや、全然そうは見えないんだが・・・・・・」

 

眉一つ動かさずに言う紗夜に、夜吹はどう反応して良いのか分からないようだ。

 

「でも、本当に久しぶり元気だった?」

 

紗夜は首を縦に振り頷いた。

 

「それにしても変わらないね、紗夜は。なんか昔のまんまていうか・・・・・・」

 

「・・・・・・そんなことはない。ちゃんと背も伸びた」

 

「え・・・・・・・、そ、そうなの?」

 

「そう。見るがいい」

 

そう言うと紗夜は立ち上がった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「どうだ」

 

正直、最後にあった日とあんまり変わってない――――――と言う以前に全く変わってない。

 

「やっぱり、あまりかわってないような・・・・・・」

 

「そんなことない、綾斗がでかくなりすぎただけ」

 

「そ、そうかな」 

 

「・・・・・・でも大丈夫。私の予定では来年くらいには今の綾斗くらいになってる。綾斗もまだ背が伸びるだろうから調度釣り合いがとれるはず」

 

「いやいや・・・・・・さすがにそれは・・・・・・」

 

さすがに30㎝を言う紗夜が俺を抜くことは無理だと思う。

だが、それは口に出さないようにした。紗夜が身長にコンプレックスを懐いているのは昔からそうだったから。

 

「しかし、世の中狭いものだな。これも運命の再会ってやつかもな」

 

「運命の再会?夜吹はいいことを言う」

 

紗夜は握り拳を作り親指を立て夜吹に見せる。

紗夜の昔からの表現を出した。

 

「あはは・・・・・」

 

相変わらすの紗夜に俺はつい苦笑をしてしまった。

すると、思い出したかのように紗夜がこっちを見た。

 

「そう言えば綾斗。シルヴィアとオーフェリアにはもう会った?」

 

「うん。二人には昨日会ったよ」

 

紗夜には言えない。二人が昨夜、俺の家に泊まって告白したことを。

 

「なら良かった」

 

「紗夜も二人には会っていたんだね」

 

「うん・・・・・・」

 

「って、ちょっと待て!!」

 

「沙々宮、天霧、お前ら今なんて言った!!」

 

呑気に会話していると夜吹とユリスが大声を出した。

 

「どうした、夜吹、ユリス?」

 

「どうかした?」

 

「今、シルヴィアとオーフェリアと言ったか!?」

 

「今、オーフェリアと言ったか!?」

 

「言ったけど?」

 

「あ、そう言えばユリスは・・・・・・「天霧、それは後で聞く!」・・・・・え、あ、うん」

 

ユリスはそう言うと足早に教室から出ていってしまった。

 

「シルヴィアとオーフェリアってまさか、あの《戦律の魔女(シグルドリーヴァ)》シルヴィア・リューネハイムと《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》オーフェリア・ランドルーフェンじゃないだろうな!?」

 

「それ以外に誰がいる?」

 

紗夜はさも不思議そうに首をかしげた。

 

「あーー、これミスったかも?」

 

俺はそう思ってしまった。

片や世界の歌姫にしてクインヴェール序列1位シルヴィア・リューネハイム。片や世界最強の魔女、レヴォルフ序列1位オーフェリア・ランドルーフェンなのだ。

これ以上紗夜が言う前に止めねばと思ったが時既に遅し。

 

「な、なんでその二人と知り合いなんだ?」

 

「知り合いじゃない。私と綾斗、シルヴィアとオーフェリアは幼なじみ」

 

「なんだとォォォォォォォォォォォォォォ!!?!」

 

特大級の爆弾を落とした。

それも、一瞬で地球が破壊されるほどの。

夜吹の絶叫が響き渡りクラスメイト全員が驚愕の表情をしていた。

 

「紗夜、俺も普通に話したけどそれ、言わない方が良かったと思うよ」

 

俺はこれから起こるであろう波乱に頭を痛めていた。

 

「おめーら朝からうるせーぞ。HR始めっからさっさと席につけ!!」

 

と、丁度いいタイミングで八津崎先生が入ってきたので内心、助かったと思った。

そして、八津崎先生が入るのと同時に後ろからユリスが入ってきた。

 

「お、沙々宮じゃねーか。沙々宮、昨日はどうしたんだ聞いてやるから言ってみな」

 

昨日いなかった紗夜を見つけると、八津崎先生は引き攣った笑みを浮かべた顔をしながら紗夜の前にまできた。

八津崎先生がかなり怒っていることを感じ取れた。

 

「単に寝坊」

 

紗夜はと言うと何時も通りの口調で返した。

予想通りの言葉に俺は苦笑いをした。

 

「はっはー、そうか寝坊か・・・・・・アホ!!」

 

そう言うとかなり痛めに紗夜の頭に握り拳を振り下ろした。

 

ゴチンッ!

 

「うーー、痛い・・・・・・」

 

「たっく、これで何度目だ。いいか!次の休日は補習だからな!!」

 

八津崎先生は紗夜にそう言うと教壇の方に戻っていった。

 

「あはは・・・・・・朝に弱いのは相変わらずみたいだね」

 

そう、紗夜は昔から朝が苦手なのだ。

その為、昔から紗夜が遅刻や寝坊でよく怒られていたのを覚えている。

 

「お布団には勝てない・・・・・」

 

相当痛かったのか涙目になりながら紗夜は言った。

 

 



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案内と事件

~綾斗side~

 

現在は放課後。

朝の騒動もなんとかし1日を終えた。

そして今は6年ぶりに再会した、紗夜とこれまで会ったことや昔話に浸っていた。

すると不意に。

 

「あー、コホン。そろそろいいか?」

 

後ろからユリスが聞いてきた。

 

「うん、じゃあそろそろ行こうか」

 

「綾斗、リースフェルトとどこに行く?」

 

「あぁ、実はユリスに学園を案内してもらう予定なんだ」

 

「全くもって不本意だがな。だが、まぁ、約束は約束だからな。それに天霧には聞きたいことがある」

 

「リースフェルトに?何故?」

 

「色々とあったのだ。色々とな」

 

「むー」

 

紗夜は不機嫌そうに眉を潜め俺たちを見た。

 

「では、行くぞ」

 

「あ、あぁ、うん。じゃあ、紗夜また明日」

 

「・・・・・・待って、だったら私が綾斗を案内する」

 

「なっ・・・・・・!?」

 

「ええ!?」

 

「案内くらい私だってできる。それにリースフェルトはさっき仕方ないといった、だったら私が案内しても問題ない」

 

「え、で、でも紗夜って・・・・・・」

 

紗夜はかなりの方向音痴だった筈だけど・・・・・・・・・

 

「申し出はありがたいが、あいにく私は一度交わした約束を破る気はない」

 

「・・・・・・・綾斗だって嫌々やられるより私の方がいいと思う」

 

「い、嫌々ではない!そもそも、沙々宮は今年入学してきたばかりではないか、その点私は中等部からここにいる。どちらが相応しいかは明白だろう」

 

「あのー、二人とも・・・・・・・?」

 

さらにヒートアップする会話に残っていたクラスメイトたちは同情や、お疲れ様的な目を俺に向けていた。

てか、誰も助けてくれないの?

 

「あら、そういうことでしたら私が一番適任ということになりますね」

 

「く、クローディア・・・・・・・!?」

 

突如、背後から声が聞こえ視線を向けると、予想した通りクローディアが書類を持って立っていた。

 

「ユリスは中等部三年からの参加ですが、私はちゃーんと一年からここの生徒ですから」

 

「・・・・・・・誰?」

 

「なぜおまえがここにいる?」

 

「あら皆さんつれないですねぇ。折角ですから私も混ぜてもらおうと思ったのですけど・・・・・・」

 

「嫌」

 

「不許可だ」

 

紗夜とユリスが同時にクローディアに言うと、クラスから、修羅場だ、とか言われた。

いや、正直誰か助けて。

三者の空気に余り関わりたくなかった。と言うか関わったら絶対めんどくさいこと・・・・・・・ではなくややこしくなる。

そんなこと考えていると。

 

「ん?」

 

端末に2件同時にメッセージが届いた。

差出人は、シルヴィとオーフェリアだった。

 

「(二人から?何かあったのかな)」

 

俺は2件同時にメッセージを開いた。

 

『明後日、アスタリスクを案内しようかな、って思うんだけどいいかな?詳しくは夜話すね。P. S:他の女子にデレデレしないでね』

 

『明後日アスタリスクを、シルヴィアと一緒に案内しようと思うのだけどどうかしら?詳しくは夜話すわ。P.S:私とシルヴィア以外の女子とイチャイチャしないように』

 

「・・・・・・・・・・・」

 

全くもって似たような文章に俺は驚き以前に固まった。

 

「綾斗?」

 

「どうかしたか天霧?」

 

「綾斗?どうかいたしましたか?」

 

動かない俺に紗夜、ユリス、クローディアの3人は心配半分不思議半分の顔で見た。

 

「あ、いや、なんでもない。それよりクローディアはなんでここに?」

 

話題をずらすため俺はクローディアに聞いた。

 

「はぐらかされた気がしますが、まあ、気にしないでおきましょう。綾斗、先日申し上げた純星煌式武装(オーガルクス)の選定及び適合率検査を明日行います。つきましては、この書類に目を通してもらって問題がないようでしたら署名をおねがいします」

 

そう言うとクローディアは持っていた書類を俺に渡してきた。

 

「すごい量だね・・・・・」

 

「預かりものとはいえ、統合企業財体の資産ですからね。ですがまぁ、形式上のものなんで簡単に読み流してくださって結構ですよ」

 

「り、了解」

 

俺はそう言うと早速十数枚ある書類に目を通した。

 

「そんなものをわざわざ持ってくるとは・・・・・・生徒会長と生徒会はよっぽど暇なのだな」

 

「えぇ、お陰様でうちの生徒は皆いい子ですから、とても助かってます」

 

「あははは・・・・・・」

 

いい子なら昨日のような事は起こらないんじゃないかな?

僕は不意にそう過ったが口には出さなかった。

 

「ところで、前から思ってたけど、ユリスとクローディアって友達なの?」

 

「はい、そうです」

 

「断じて違う!!」

 

「あらあら、冷たいお答えですね」

 

「え、え~と、どっち?」

 

「ウィーンのオペラ座舞踏会(オーパンパル)で何度か顔を合わせた程度の昔馴染みだ。それ以上でもそれ以下でもない。て言うか、お前も用が済んだなら帰れ!」

 

「あらあら、ユリスったら。フフフ。可愛い反応ですね」

 

「//////!クローディア!!」

 

「フフフ。それでは、私は失礼しますね」

 

そう言うとクローディアは教室から出ていった。

 

「あーー。それで、学園の案内なんだけど・・・・・・」

 

「私が案内する」

 

「いいや!私が案内する!沙々宮は手を出すな!」

 

「・・・・・・二人に案内して持ってもいいかな?」

 

「綾斗がそう言うなら・・・・・」

 

「ふん。お前がいいなら構わん」

 

俺の提案により学園の案内は紗夜とユリスの二人にやってもらうことにした。

と言うか、最初からこうすれば良かったんじゃ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで現在俺は、ユリスと紗夜の二人に学園を案内してもらっていた。

 

「ここが部活棟だ。うちは一部の部活以外あまり活発ではないが、たまに報道系のクラブなどに文句を言いたい場合などで足を運ぶことがあるな」

 

「・・・・・・ふむふむ」

 

「ここは委員会センター。福利厚生に関する要望・クレーム等はここを通す」

 

「・・・・・・なるほど」

 

「食堂は・・・・・・・・流石に今更案内する必要はないか。一応学園にはカフェテリアを含めて七つの食事処があるが、ここの地下は比較的空いていることが多いからオススメだ」

 

「・・・・・・それは初耳」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・あのな、沙々宮。私は別にお前を案内してるわけではないのだがな」

 

「・・・・・・・私、方向音痴だから」

 

「それでよく案内すると言ったものだな・・・・・・」

 

ある程度の学園を周り、今は噴水近くのベンチで一休みしていた。

俺への案内のはずが紗夜も案内をすることになったユリスは呆れた顔で紗夜を見ていた。

 

「えへん」

 

「いや、ほめてないぞ・・・・・・・」

 

「あははは。まぁまぁ、俺も勉強になったし助かったよ」

 

「そ、それならいいのだが・・・・・・」

 

「あ、なにか飲み物を買ってくるよ。なにがいい?おごるよ」

 

「そうだな、では、冷たい紅茶を頼む」

 

「・・・・・私はリンゴジュース。濃縮還元じゃないやつ」

 

「了解」

 

俺は二人から聞くと近くの自販機に向かって走っていった。

 

~綾斗side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ユリスside~

 

天霧が近くの中等部の校舎にある自販機に向かうのではなく真反対の高等部の校舎に向かったのを見て、私は苦笑が出てしまった。

すると。

 

「・・・・・・リースフェルトもう一度聞きたい。なんで、綾斗を案内することになった?」

 

横に座っていた沙々宮が聞いてきた。

 

「沙々宮、おまえも存外しつこいな。まぁ隠すほどのことでもないしないいだろう。決闘の最中に助けられたんだ。その借りがあるから案内することになった。だだ、それだけだ」

 

「決闘?リースフェルトは綾斗と決闘したのか?」

 

「そうだが・・・・・・知らなかったのか?」

 

沙々宮はコクリと頷き肯定した。

 

「・・・・・・・・・・結果は?」

 

「途中で邪魔が入ってな。試合は不成立だ」

 

「それはおかしい」

 

「なにがだ?」

 

「綾斗とやりあってリースフェルトが無事なわけがない。綾斗と互角にやりあえるのは精々、シルヴィアかオーフェリア、界龍の序列2位やガラードワースの聖騎士くらいのはず。リースフェルトが綾斗の相手になるわけがない」

 

「これはまた過小評価されたものだな」

 

「もちろん、リースフェルトは強い、それは知ってる。でもせいぜい私と同程度、それじゃ話にならない」

 

「――――ほう、今度は随分と大きく出たな」

 

私は沙々宮の言葉に少しカチンときた。

 

「いいだろう。試してみるか?」

 

「・・・・・・・・」

 

私が立ちあがりそう言うと、沙々宮も立ちあがり、無言で私から距離をとった。

 

「我、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは、汝沙々宮紗夜への決闘を――――」

 

そこまで言いかけて、私は反射的にその場から跳躍して離れていた。

それと同時に、見覚えのある光の矢が連続してベンチに突き刺さった。

 

「っ!」

 

私は攻撃場所を探ると、攻撃場所は真横つまり、目の前にいる沙々宮ではなく――――

 

「噴水だと!?」

 

真横の噴水を見ると、そこには黒ずくめの格好をしクロスボウ型煌式武装を握っている襲撃者の姿があった。

 

「ふんっ、またもや不意打ちか。咲き誇れ―――鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!」

 

私は瞬時に星辰力(プラーナ)を集中し、顕現させた炎の槍を襲撃者に向けて解き放った。

放った鋭槍の白炎花はそのまま微動だしない襲撃者に迫った。

だが、その途中で新たに現れた黒ずくめの格好をした者が持っている斧型の煌式武装により防がれた。

 

「もう一人いたか・・・・・・。にしても私の炎を防ぐとは・・・・・・・ならば!――――」

 

私はそのままもう一人に攻撃しようとした、そのとき。

 

「・・・・・・どーん」

 

地面を震わせるような重低音とと同時に斧型の煌式武装を持った襲撃者が真横に吹き飛んだ。

 

「・・・・・・・は?」

 

爆風が吹き荒れるなか、吹き飛んだ襲撃者を攻撃した人物に唖然としながら見た。

攻撃者は自分の身長よりも巨大な銃を構えていた沙々宮だった。

 

「沙々宮・・・・・・・なんだそれは」

 

「三十八式煌型擲弾銃ヘルネクラウム」

 

「擲弾銃、と言うことは・・・・・・まさか、グレネードランチャーか?」

 

私の問いに沙々宮は無言でコクリと頷くと、その銃口を無造作に噴水へと向けた。

 

「・・・・・・《バースト》」

 

沙々宮の言葉に反応して、沙々宮が構えている擲弾銃に搭載されているウルム・マナダイトが煌々と輝きを増した。

それと同時に星辰力が銃口に集まっていくのが見えた。

 

「―――流星闘技(メテオアーツ)か!」

 

「どどーん」

 

クロスボウ型煌式武装を構えた襲撃者は直ぐ様避けようとするが、沙々宮の放った攻撃が当たるのが先だった。

沙々宮の放った光弾は、そのまま噴水すらも木端微塵に吹き飛ばし、襲撃者を飛ばした。

わずかに残った噴水の基底部分からは、水が吹きあがり周囲に降り注いだ。勿論それは私も沙々宮にも降り注いだ。

 

「沙々宮・・・・・・・お前、以外に過激なんだな」

 

「む。リースフェルトにだけは言われたくない」

 

これはさすがに反論できなかった。

理由は昨日、自身が放った六弁の爆焔花(アマリリス)と対して変わらないからだ。

 

「礼は言わんぞ。あの程度、私一人でもどうとでもできた」

 

「・・・・・・必要ない、邪魔だっただけ。それで・・・・・・続きする?」

 

「いや・・・・・・やめておこう。確かに、お前の実力は本物だ」

 

「・・・・・・ならいい」

 

それを聞くと沙々宮は煌式武装の展開を解除ししまった。

 

「さて、こいつらをさっさと風紀委員に引き渡すとするか・・・・・・・ん?」

 

「・・・・・いない?」

 

襲撃者たちが倒れている場所には誰一人としていなかった。

沙々宮の攻撃で気絶したと思っていたがまだ、動けたそうだ。恐らく、森の方に逃げたんだろう。

 

「なんとまぁ、丈夫な連中だ」

 

「・・・・・・びっくり」

 

「だが、まぁ、逃げたものは仕方ない。迂闊に追いかけて待ち伏せされては面倒だしな。それより、沙々宮。学園の備品を壊したのだからちゃんと申請しておけよ」

 

「私が?」

 

「お前が煌式武装で吹き飛ばしたのだから、当たり前だろう」

 

「煩わしい。申請はリースフェルトに委任する」

 

「ふざけるな、冗談じゃない」

 

「おーい!」

 

沙々宮とまたしてもいがみ合っていると飲み物を買いに行っていた天霧が両手に買ってきたであろう飲み物を持って戻ってきた。

 

~ユリスside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~綾斗side~

 

向こうから何か爆発音が聞こえたけど・・・・・・・二人とも大丈夫かな?

俺は自販機で飲み物を買うと直ぐ様二人のいる場所に歩いた。

 

「おーい!なんかさっきすごい音が・・・・・って、うわ!なにこれ、行ったいどうしたの!?何があったの!?」

 

俺は木端微塵になっている噴水を見て、驚きの声をあげた。

 

「ちょっとな、いろいろあったのだ。なあ、沙々宮」

 

「・・・・・・うん。いろいろあった」

 

「・・・・・・?なんだかよくわからないけど、これじゃ・・・・・・って、わわっ!」

 

俺は周囲を見渡し紗夜とユリスの方を向き、直ぐ様視線をずらした。

何故なら―――――このあたり一帯は壊れた噴水から注ぐ水で水浸し。そして、当然近くにいた紗夜とユリスもびしょ濡れ、さらに今着ている制服は薄い夏服。ここから導き出される答えは――――透けて見える。

ユリスは自分の格好を確認すると、慌てて顔を赤くし手で透けて見える下着などを隠す。

 

「な、ちょ、み、みみ見るな!こっちを見たらただでは済まさん!」

 

「み、見てない見てない!」

 

「・・・・・・むむ、すけすけ。これはエロい」

 

「ええい、沙々宮も少しは隠せ・・・・・・・って、ちょっと待て!沙々宮、お、お前、下着はどうした!」

 

「・・・・・・悲しいかな、私にはまだ必要ない」

 

「とにかくなにか羽織るものを用意してくれ!今すぐだ!」

 

「わ、わかった!」

 

周囲には既に野次馬が集まっているため、俺は急いで羽織るものを2着用意し、ユリスと紗夜に渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園案内と途中であったハプニングを終えた俺は、ユリスと紗夜とは寮の近くで別れ、俺は学園内の寮ではなく、アスタリスクにある俺の家に帰ってきていた。

 

「あれ?家の明かりが付いてる。シルヴィとオーフェリアが帰ってきてるのかな」

 

そう思いながら家の玄関の扉を開けた。

 

「ただいま」

 

「あ、おかえりなさい綾斗くん」

 

「・・・・・・おかえり綾斗」

 

「う、うん。で・・・・・・・・・・・何してるの二人とも?」

 

俺は二人の格好を見てそう聞いた。

シルヴィはクインヴェールの制服の上に、オーフェリアは肌が露出しないようにし制服の上から、それぞれ色違いのエプロンをしていた。

 

「・・・・・・夜ご飯の準備」

 

「昨日は綾斗くんが作ってくれたから今日は私たちが作ろうって、さっきオーフェリアちゃんと話したんだ」

 

「な、なるほど」

 

シルヴィとオーフェリアのエプロン姿に少々、ドキッとしていた俺はそう答えた。

二人のエプロン姿は子供のころ以来なため、久しぶりに見た。

自室に荷物を置き、部屋着に着替えた俺は二人がいるであろうリビングに向かった。

リビングには既に夜ご飯の支度が用意されていた。

 

「お待たせ」

 

「今できたばかりだから大丈夫だよ綾斗くん」

 

「・・・・・冷めないうちに食べよう」

 

「そうだね。それじゃあ、いだだきます」

 

「いだだきます」

 

「・・・・・・いだだきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味しかったよ二人とも」

 

「ありがとう、綾斗くん」

 

「・・・・・ありがとう」

 

夜ご飯を食べた後、食後のティータイムと洒落込んでいる俺たちは話していた。

 

「それで明後日の休み大丈夫かな?」

 

「あ、うん。明日は純星煌式武装の適合検査をするから無理だけど、明後日は特に予定もないし大丈夫」

 

「・・・・・・純星煌式武装の適合検査?」

 

「あ、二人にはまだ俺のここに来た目的話してなかったね」

 

「綾斗くんの目的?」

 

「・・・・・・?」

 

首を仲良く傾げる二人に俺は、アスタリスクに来た目的を言った。

 

「二人とも、姉さんの事は覚えてる?」

 

「もちろん。遥お姉ちゃんでしょ」

 

「・・・・・・覚えてる。ハルお姉ちゃんのこと」

 

「綾斗くんが来た目的と遥お姉ちゃん、何か関係あるの?」

 

「・・・・・・姉さんは5年前から行方不明なんだ」

 

「「・・・・・・・え?」」

 

「そして、姉さんの手掛かりを探すため俺はアスタリスクに来たんだ」

 

「そうだったんだ・・・・・・・遥お姉ちゃんが」

 

「・・・・・ハルお姉ちゃん」

 

「うん。アスタリスクに手掛かりがあるって掴んで丁度、星導館から特待転入生の通知が来ていたから」

 

「なるほどね。あーあ、これで綾斗くんがクインヴェールに来てくれれば良かったのになぁ~」

 

「いやいや、シルヴィ、それは無理だと思うよ」

 

「ペトラさんにも言われたよ、それ」

 

「あぁー。ペトラさんの苦労が分かるよ」

 

「・・・・・シルヴィ、もう少しペトラさんの負担を軽くしてあげたら?」

 

「ちょっとー、二人とも酷いよー」

 

「アハハ・・・・・・」

 

「・・・・・・フフフ」

 

シルヴィの反応が可愛すぎて俺とオーフェリアはつい笑ってしまった。

 

「それで、姉さんが使っていたと思う純星煌式武装があるみたいだから、どうせなら見てみようかなって」

 

「・・・・・・綾斗、その純星煌式武装の煌式武装名はわかる?」

 

「え?《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》だけど」

 

「黒炉の魔剣・・・・・・・四色の魔剣の一振ね」

 

「四色の魔剣?」

 

シルヴィの単語に俺は首を傾げた。

 

「うん。アスタリスクに存在する4つの純星煌式武装の総称の事だよ。《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》、《白濾の魔剣(レイ=グラムス)》、《赤霞の魔剣(ラクシャ=ナーダ)》そして《青鳴の魔剣(ウォーレ=ザイン)》この4つの純星煌式武装を四色の魔剣って言うの」

 

「へぇ~。オーフェリア?どうかしたの?」

 

「・・・・・・・黒炉の魔剣・・・・・・確か彼が話していたのを聞いたことあるわ」

 

「彼って言うと、ディルク・エーベルヴァイン?」

 

「・・・・・・・ええ。確か前に使用している者を見たって」

 

「!?」

 

悪辣の王(タイラント)が?どこで見たか、言っていた、オーフェリアちゃん?」

 

「・・・・・・いえ、そこまでは・・・・・実際に聞いたと言うより偶々聴こえたのよ」

 

「これは、詳しく話を聞いた方がいいね綾斗くん」

 

「ああ」

 

「・・・・・・ところで話は変わるけど綾斗」

 

「ん、何?オーフェリア?」

 

「・・・・・・私とシルヴィア以外とイチャイチャしなかったわよね?」

 

オーフェリアがサラッと言った。

 

「してないしてない」

 

「・・・・・・・本当に?」

 

「本当」

 

「・・・・・・本当に本当?」

 

「本当の本当」

 

「・・・・・ならいいわ。でも、もし浮気したら・・・・・」

 

「浮気したら?」

 

「私とシルヴィア以外、目に入らないようにしてあげるわ」

 

「わ、わかった」

 

オーフェリアの目が冗談ではないと判断した俺は瞬時に頷いた。素直に今のオーフェリアは恐かった。

シルヴィの方は苦笑いをしながら俺とオーフェリアのやり取りを見ていた。

 

 



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黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)

みなさん、ハッピー・ハロウィン♪
どうもソーナです。
遅くなりごめんなさい!リアルが多忙すぎて更新できませんでした。
それでは、どうぞ!


~綾斗side~

 

「昨日は大変だったようですね、綾斗」

 

転入3日目。昨日は、久しぶりに再会した沙夜と出会い、ユリスと沙夜の二人に学園を案内してもらい、ユリスへの襲撃でハプニングがあったなど、確かに大変な1日だった。

そして、今日は純星煌式武装(オーガルクス)の適合率検査を受ける。

その為、こうして放課後生徒会室にやって来たのだが・・・・・・

 

「まあね・・・・・・」

 

入るなり中にいたクローディアが笑顔でそう言ってきた。

 

「さて、それでは移動しましょうか」

 

そう言うと、クローディアは立ち上り生徒会室から出ていった。俺はそのあとについていく。

検査を受けるための場所にいく道中、俺は隣で歩くクローディアに聞いた。ユリスが昨日襲われたことは既に周知が知っている。だが、沙夜が巻き込まれたことは書かれてなかった。その点は《冒頭の十二人(ページ・ワン)》と扱いが違うことがわかる。

そして、昨日の事は当然生徒会長であるクローディアの耳にも入ってることだろう。

 

「どう、犯人は捕まりそう?」

 

「んー、正直なところ難しいですね。風紀委員も本腰を入れて調査してますが、ほとんど手がかりがない状態のようです」

 

「いくらアスタリスクでも昨日のは明らかに犯罪行為じゃないかな?だったら普通に警察とかに任せたら?」

 

「そこが難しいところでして。アスタリスクにも一応警察に準じる星猟警備隊(シャーナガルム)という組織があるのですが、彼らは少々鼻が利きすぎるのです」

 

「というと?」

 

俺はクローディアの言っている意味が分からず首をかしげた。

 

「彼らの警察権はアスタリスクの市街地で発生するのです。よっぽどのことがない限り各学園に彼らは招き入れないというのが学園側の、いえ、統合企業財体全体の見解なのです」

 

「痛くもない腹を探られるのは嫌だってことか」

 

俺はクローディアの言葉に納得したかのように一人頷いた。

 

「ええ。統合企業財体は探られると痛いから嫌なのでしょう」

 

事実、アスタリスクの各学園には表沙汰にできないようなことをしているのも事実だ。例えば、オーフェリアの時のような人体実験、など、それは多岐にわたる。

もちろん、そんなとこまで探られてしまえば学園側は勿論のこと統合企業財体までも痛手だ。

だから学園上層部、統合企業財体の面々はできるだけ警察を呼びたくはないのだろう。

 

「私個人としてはお願いしたいのですけど、私の権限ではそれはできませんから・・・・・・せめてユリスがもう少し協力的でしたら対策の立てようもあるのですけど・・・・・・」

 

クローディアは頬に手を置き、手のかかる子供をどうしたらいいのかというような感じに言った。

 

「どうして、あぁもう頑ななのかなぁ・・・・・・」

 

俺は昨日のユリスを思い出した。

昨日、風紀委員が来た際に護衛をつけることができると言われたのだが、ユリスはこれを頑なに拒否し、しまいには自分より弱い護衛はいらんとまできたものだ

さすがの風紀委員も、それ以上ユリスに干渉しようと思わずそのまんま、と言うわけだ。

正直、ここでまた闘争が起こるのではないかとヒヤヒヤした。

 

「きっとあの子は、自分の手の中の物を守ることで精一杯なのですよ。新しいものを手に入れようとするとそこから零れ落ちてしまうと思っているのかもしれません」

 

「手の中のもの・・・・・・」

 

「とは言え、それとこれとは話が別です。私、個人としても今回の事件を看過することはできません。そこで綾斗、相談なんですけど――――」

 

クローディアが途中で話を途切れさせたのを疑問に思ったが、すぐにわかった。歩きながら話していたためか目的地である、適合率検査を行う保管庫の前にいつの間にかついていたのだ。そして、その保管庫の扉の前には3人の男子生徒がいた。しかも、見たことある・・・・・・というより、転入初日の放課後ユリスと話していた、たしか星導館の序列9位のレスター・マクフェイルと、その取り巻きのランディ・フックとサイラス・ノーマンの2人だ。

 

「あら、もう入らしていたんですね。すみません、綾斗。今日はあなた以外にも適合率検査を受ける人がいるのを忘れてました。話の続きは後程・・・・・・」

 

クローディアは立ち止まり、保管庫よ扉の前にたった。

 

「純星煌式武装の利用申請は色々手続きが面倒なので、できれば一度に済ませてしまおうかと思いまして・・・・・・えーっと、こちらは・・・・・・あら、もしかしてお知合いですか?」

 

「まぁ、一応ね・・・・・・」

 

「なんで、おまえがここに・・・・・・?」

 

取り巻きの1人、ランディが俺に指を指して聞く。

 

「今回、綾斗とマクフェイル君に純星煌式武装の適合率検査を受けてもらいます。それと、おわかりだとは思いますがそちらの二人は保管庫には入れませんので・・・・・・よろしいですね?」

 

「あ、はい」

 

「いいからさっさとはじめようぜ。時間がもったいねぇ」

 

「ふふ、せっかちですね。ですが、確かに時間は有意義に使うべきですね。それでは入りましょうか」

 

中の大きさはトレーニングルームと同じくらいの広さで片方の壁には六角形の模様がズラリと並んでいて、反対側の壁の上部にはガラスで遮られ、その奥には何人かの白衣姿の人がいた。

 

「それで、純星煌式武装(オーガルクス)の適合試験ってどうなってるの?」

 

俺は適合率検査を受けるってなってからずっと気になっていた疑問をクローディアにぶつけた。

 

「手順としては簡単ですよ。自分が借り受けたい純星煌式武装を選んで適合率が八十%以上引き出せれば貸与されます」

 

「へぇ、結構簡単なんだね」

 

俺は予想外の解答に少々驚いた。

純星煌式武装を借りるのだから適合率検査は、もう少し難しいのではないかと思っていたのだ。

 

「はっ、なんも知らねぇんだな。純星煌式武装を借りるってのは言うほど簡単じゃねぇんだよ」

 

突然、俺の隣にいるレスターが言う。

 

「そもそも、希望すれば誰でも通るわけじゃねぇ。序列上位者か《星武祭(フェスタ)》で活躍したやつ、あるいは特待生でもなきゃまず無理だ。その上、適合率が八十%を超える純星煌式武装と巡り合えなきゃ意味がねえ。よしんば借りれたとしても、そいつを使いこなせなきゃ意味がねぇからな」

 

適合率とはその純星煌式武装の力をどこまで引き出せるかの数値だったはずだ。高ければ高いほどその純星煌式武装の力を引き出すことが可能、と言うことだ。だが、純星煌式武装の適合率は相性なので、訓練や努力で伸ばせるようなものではない。

 

「ふふっ、さすがにチャレンジ三回目となると流石に説得力がありますね」

 

クローディアの言葉にレスターは一転して顔をしかめた

 

「けっ!今度で終わりにしてやるさ」

 

「そうだよ、レスター!今までのはちょっと運がなかっただけだ!今度こそやれるさ!」

 

「ふふん、当然だ」

 

ランディのあらかさまな励ましに機嫌をよくするあたり案外レスターは単純なのかもしれない。と言うより天然なのかと疑問に少し思った。

 

「希望すれば何回もチャレンジできるってこと?」

 

「許可さえ下りれば可能ですよ。学園としても宝の持ち腐れでは意味がありませんからね。まぁ、そうは言っても審査が厳しいのは事実です――――《冒頭の十二人(ページ・ワン)》は例外ですが・・・・・・」

 

なるほど、確か《冒頭の十二人》の特権というのはすごいらしい。だが、見込みがなければ例え《冒頭の十二人》でも受けられないのだろう。

そう考えていると背後から声がかけられた。

 

「や、やあ、この前はすみませんでしたね」

 

背後から声をかけたのは、サイラスだった。

 

「レスターさんも悪い人じゃないんですが・・・・・・少々、気性の激しいところがありまして・・・・・・」

 

「あぁ、いや、別に気にしてないから、そんな」

 

「ランディさんもあの調子ですから。また、なにか不愉快な思いをさせてしまうかもしれませんが・・・・・・本当に申し訳ないです。昨日もなにか二人で話してたみたいで・・・・・・」

 

「おい、サイラス!てめぇ、なにやってる!!」

 

「そうだぞ!早くこい!」

 

「は、はいっ!」

 

俺は少々サイラスの言葉に疑問を持った。

何故、レスターとランディを疑うかのような言い方をしたのか。そして、それを何故俺に言ったのか。だが、今は考えていても仕方ない。

詳しくは今度調べるとして、今は適合率検査に集中しないと。

 

「先にはじめるぜ。いいな?」

 

「構いませんか、綾斗?」

 

「ああ、うん。どうぞ」

 

俺としては、姉さんが使っていたかもしれない純星煌式武装を見ることが出来ればいいだけなため、構わない。

れは手慣れた様子で六角形が並んだ壁の隅に置かれた端末を操作し始めた。巨大な空間ウインドウがいくつも表示されると、真剣な表情でレスターは向き合っている。

 

「あれは?」

 

「我が星導館学園が所持している純星煌式武装の一覧です。ちなみに現在の純星煌式武装の総数は二十二。これは六学園中トップなんですよ」

 

「へぇ」

 

「一覧には、形状と名前、その能力が記載されてますので、希望するのを一つ選んでください。あと、表示がグレーになっているのは今現在貸し出されているものですので・・・・・・」

 

「ということは、えぇっと・・・・・・」

 

「今、星導館の学生で純星煌式武装使っている学生は七名。そのうち四名は《冒頭の十二人》です」

 

「よし、これでいい」

 

クローディアと話していると決めたのか、レスターは一覧から一つを選ぶとウィンドウを閉じた。

それと同時に六角形の模様が一つ輝き、それは場所を組み替えるかのように滑らかに動きながらレスターの前にやってきた。模様が壁からせり出してきた。模様に見えたのはどうやら収納ケースらしい。

何故か無駄にこっている気がするのは気のせいかな?

 

「無駄に凝ってますね・・・・・・」

 

クローディアも同様に思ったのか口に出して言っている。

 

「アハハ・・・・・・確かに・・・・・・」

 

「あら?」

 

クローディアが驚いたように目を見開き、レスターの選んだ純星煌式武装を見る。

 

「マクフェイル君、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を選びましたか」

 

「《黒炉の魔剣》あれが・・・・・・」

 

聞き覚えのある名前に俺は初めて生徒会室に赴いた時のことを思い出した。確か姉さんが、使っていたとされる純星煌式武装の名前だ。

 

「はい、貴方のお姉さんが使っていたかもしれない純星煌式武装です」

 

《黒炉の魔剣》は発動体自体は普通の煌式武装と変わらない形だ。あえて違うところをあげるとするならば純星煌式武装に使われているコア―――――ウルム=マダナイトぐらいだろう。

《黒炉の魔剣》のコアであるウルム=マダナイトがキラリと赤く輝いているのが見えた。

 

「さぁて、行くぜぇ!」

 

レスターが《黒炉の魔剣》を起動させた。

するとまずは柄から再構築されていった。かなりの大きさだ。そしてその柄の部分が開き刀身が現れる。

《黒炉の魔剣》と言われるくらいだ、刀身は漆黒なのかなと勝手な想像をしていたが、実際はそんなことはなく、《黒炉の魔剣》の名に似つかずの純白に輝く刀身だった。刀身は片刃の刃で巨大な光の刀と現した方がいいのかもしれない。

近くで見ようと一歩踏み出した瞬間、ドクンと心臓が大きくはねた感覚が身に起きた。

俺は原因を探ろうと辺りを見渡すが原因となるようなものはなにひとつなかった。

だだ、一点を覗いては・・・・・・・その一点はレスターの持つ《黒炉の魔剣》だ。

心臓がはねた感覚が起きたあの一瞬、俺は、《黒炉の魔剣》を近くで見ようと一歩踏み出したときだった。

その時だあの感覚が起きたのは。

最も、その感覚は一瞬で今はもうそんな感覚はなくなっていた。

 

『計測準備できました。どうぞ始めてください』

 

スピーカー越しに声が聞こえてくる。

おそらくガラス越しにいる装備局の人間の一人だろう。

それを聞いてレスターは《黒炉の魔剣》を強く握り、星辰力(プラーナ)を流した。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

『適合率、三十二パーセントです』

 

「なぁめるなぁあああああああああ!!」

 

レスターが再度気合を入れたように叫び《黒炉の魔剣》を握る手に自然と力が入るのが見える。

だが、《黒炉の魔剣》は、うんともすんとも言わず、レスターに適合する気配は一切見えない。

それどころか適合率が下がっているのがわかる。

遂に《黒炉の魔剣》は眩い閃光を放ちレスターを弾き飛ばした。

 

「ぐああああああ」

 

《黒炉の魔剣》はレスターの手から解放されると宙に浮き上がった。

 

「拒絶されましたね」

 

「純星煌式武装には意志のようなものがあるって聞いたことがあるけど」

 

「ええ。と言っても、コミュニケーションがとれるようなものではありませんがね」

 

『最終的な適合率は二十八パーセントです』

 

「まだまだ!!」

 

誰が見てもこれ以上適合率が上がるはず無いのだが、レスターは諦めずに再度《黒炉の魔剣》に適合しようと触れる。

 

「ああいう、がむしゃらに力を追い求める姿勢は嫌いではありませんが・・・・・・強引なだけでは口説き落とせる相手ではないようですね」

 

「よくわかるね」

 

「ええ。私も純星煌式武装の使い手の一人ですから」

 

「え!?」

 

クローディアはあっさり言ったが俺は驚愕の表情で隣のクローディアをみた。

シルヴィから星導館の序列2位と言うことは聞かされていたためそれなりに強いと思っていたのだが、まさか純星煌式武装の使い手だとは流石に俺としては予想外だった。

 

「マクフェイル君は、前回、前々回と名のある純星煌式武装を選んでいますが、どれも今回と同じような結果でした。強力であればなんでもいいという節操のなさを見抜かれているのかもしれません。その割り切り方は決して悪いことではないのですけど・・・・・・」

 

「くそがぁ!、なんで従わねぇ!」

 

俺とクローディアが話している最中もレスターがめげずにまだ挑戦している。

だが、もう適合できないであろうことはもう本人も気付いているだろう。

そうなってくるともう意地だ

 

「少なくともあれはそういう態度がお気に召さないようです。まぁ、気難しいことで名が知れた純星煌式武装ですし」

 

「そうなの?」

 

「アレは比較的古い純星煌式武装になりますが、使いこなせた学生が二人・・・・・・いえ、彼女もいれると三人ですね」

 

その彼女が誰を指してるのか聞かなくてもわかる。姉さんの天霧遥だ。

尤も正確なデータがないため使っていた“かも”だが・・・・・・

俺がそう思い出していると、すでにレスターはもう《黒炉の魔剣》触れることさえできなくなっていた。

レスターが触れようとすると触れさせまいと《黒炉の魔剣》がレスターを弾き飛ばしてしまうのだ。

 

「いいから、オレ様に従えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ」

 

レスターは拒否する《黒炉の魔剣》に掴みかかる。

だがそんなことをすればまた閃光を発し吹き飛ばされるのは目に見えている。案の定レスターは再び吹き飛ばされた。

それと同時に適合率が0を下回りマイナスへと入った。

 

『適合率マイナス値へ移行、これ以上は危険です!』

 

スピーカーから装備局の職員の警告を告げる声が聞こえる。

 

「あらら、これはいけませんね。本格的に機嫌を損ねてしまったみたいです」

 

クローディアが焦った口調で一歩踏み出すがその場で止まる。不思議に思ったが理由はすぐにわかることになった。

《黒炉の魔剣》が尋常ではない熱を発してるのだ。

これでは近づけない

 

『対象は完全に暴走しています。至急、退避してください』

 

スピーカーから職員の焦った声が聞こえてくる。

 

『対象の熱量が急激に上昇中』

 

それはわざわざ言われるまでもないことだ、と思う。

現にその熱は今俺たちが感じてるのだから。

 

「アレは本来、熱を刀身にためこむ剣です。制御する使い手がいないので、少々外に漏れだしてしまってるみたいです」

 

「少々って・・・・・・こういうことってよくあるの?」

 

「純星煌式武装の暴走ですか?記録では何度か起きてるみたいですが、実際には見たことがありませんね。逃げますか?」

 

「う~ん。そうしたのは山々だけど・・・・・・」

 

俺は《黒炉の魔剣》の視線をひしひしと感じていた。

その証拠に《黒炉の魔剣》は宙に浮き刀身を綾斗に向けているのだから。《黒炉の魔剣》の真意はわからないが俺になにか興味がわいたように見受けられた。

 

「はぁ、仕方ないか」

 

俺は星辰力を集中させる。それだけでズクンと体中に鈍い痛みが走るが、構ってはいられない。

しばらく俺と睨みあっていた《黒炉の魔剣》だが、突如と俺に襲いかかる

猛烈な速度で迫り来る《黒炉の魔剣》を間一髪でかわし、異常な熱気に目を細目つつも柄に手を伸ばし、《黒炉の魔剣》を握ろうとする。

だが、その途端《黒炉の魔剣》は空中で向きを変えるようにして俺の胴を薙いだ。 

とっさに床を蹴り距離を取ったが、制服には一筋、焼ききれたような後が走っていた。

 

「うわっ、凄い切れ味・・・・・・・ところで、これって弁償してもらえるのかな?」

 

「おいっ!」

 

レスターからの注意を促す声と同時に《黒炉の魔剣》は再度俺に迫ってきた。

今度は余裕を持ってかわす。

《黒炉の魔剣》と俺の攻防をクローディアたちは息を呑んで見ていた。

何度かの攻防後、《黒炉の魔剣》は俺の背後上空に上がった。

俺はそのまま《黒炉の魔剣》に背中を向け息を整える。

息を整えた5秒後、《黒炉の魔剣》は俺に襲い掛かってきた。それを俺はギリギリのところで避け、柄を握る。

 

「あっつ!」

 

ある程度想像していたが、柄の熱さは尋常じゃない程だった。いくら星辰力で軽減しているとはいえここまでとは思わなかった。

だが、それでも離さず俺は《黒炉の魔剣》を床に突き立てる。

 

「・・・・・・悪いけど、しつこくされるのは嫌いなんだ。君と同じでね」

 

《黒炉の魔剣》が動きを止めるのと同時に、部屋に満ちていた熱気がかき消えた。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

俺の戦闘センスとあの《黒炉の魔剣》をいとも容易く大人しくさせたことにガラス越しにいる職員やレスターら3人も唖然としていた。

ただ一人クローディアを除いては。

クローディアだけがこの状況の中で普段通りにし、パチパチと手を叩いた。

 

「さすがは綾斗、お見事です――――適合率は?」

 

『きゅ、九十七パーセント、です・・・・・・」

 

「結構」

 

クローディアは満足そうにうなずくと、レスターに視線を向けた。

 

「そういうわけです。あなたには残念ですが、異議はありませんね?」

 

「・・・・・・」

 

レスターは未だに信じられない表情で俺を見てきたが、やがて悔しそうに唇を噛み拳を床に叩きつけた。

 

 




今回はこれで。
出来れば感想などお願いします。



今日はハロウィンなので・・・・・・・・・
それではまた次回、Don't miss it.!&トリック オア トリート!


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クローディアからの頼み

面白くないのですかね?あまり感想や評価がこないです


~綾斗side~

 

「――――はい、これでおしまいです」

 

「ありがとう、クローディア。助かったよ」

 

「ですが、本当に医務室に行かなくてよろしいのですか?あちらでならもっとちゃんとした治療が受けられますよ」

 

「うん。でも、これで大丈夫だよ」

 

右手を握ってみるが、火傷による痛みはほとんどない。ややジンジンするが対して気にすることではないだろう。

 

「まあ、綾斗がそうおっしゃるなら構いませんが・・・・・・」

 

今、俺とクローディアは再度生徒会室にいた。

理由は、俺が《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を掴んだ際に軽く火傷を負ったため、その治療のためクローディアが泣かば強引に、無理矢理引っ張ってつれてきたのだ。

治療を終えたクローディアは応接用のソファに対面して座っている。

 

「だけど、本当に俺が使ってもいいのかな?」

 

あの騒動の後、結局《黒炉の魔剣》は俺が借りることになったためクローディアに尋ねた。

 

「適合率九十七パーセントに文句を言う人はいませんよ。それとも《黒炉の魔剣》では不服ですか?」

 

クローディアは苦笑しながらそう答えた。

 

「いや、そりゃ姉さんが使っていたかもしれない純星煌式武装(オーガルクス)なんだから、俺も気になっているのは確かだけど・・・・・・ただ、ね」

 

ちなみに今、この場に俺が借り受けることとなった剣。《黒炉の魔剣》はない。登録手続きに、軽く二、三日程かかるらしいからだ。

 

「マクフェイルくんのことですか?」

 

「うん。なんか横取りしたような形になったからさ」

 

「それは仕方ありません。この都市の本質は競い合いです。もちろん友情や助け合いを否定するものでははありませんが、他者が己よりも高い評価を得たのであれば、それを素直に受け入れることも必要です」

 

「まぁ、確かにね。レスターもそう思ってくれたらいいんだけどね」

 

「マクフェイル君と何かあったのですか?」

 

「うーん、正確には俺、じゃなくてユリスなんだけどね・・・・・・」

 

俺のその一言でわかったのかクローディアは納得したように頷く。

 

「あぁ、なるほど。なんとなくわかりました」

 

「え。それだけでわかるもんなの?」

 

「ええ。マクフェイル君がユリスに執着しているのは有名ですから・・・・・」

 

「なるほどね。でも、まあ、俺が恨まれる分には諦めもつくしいいんだけど、ユリスに変な形で迷惑をかけることになったら嫌なんだ」

 

「・・・・・・綾斗はユリスを襲った犯人がマクフェイル君だと?」

 

「そうは言ってないんだけど・・・・・・何か引っ掛かるんだよね」

 

「引っ掛かるとは?」

 

「クローディアから見て彼は不意討ちとかするような人だと思う?」

 

「・・・・・・私から見た感じでマクフェイル君は不意討ちなど卑怯な真似をするような人物とは言えません。ですが、彼には動機があります」

 

「うん。けど、彼はそんなことしないと俺は思うな。別にレスターに味方してる訳じゃないけどね」

 

「と言うと?」

 

「彼は、ユリスを恨んでいると言うよりも、ただユリスに勝ちたい・・・・・自分の能力を周りの人に認めてもらいたんだと思う。それに俺が彼と同じなら不意討ちなんて卑怯な真似はしないで、大勢の観客がいるところで勝負して、正々堂々と勝ちたいかな」

 

「なるほど・・・・・・では、綾斗はどうしてユリスに迷惑がかかると考えたのですか?」

 

「犯人はかなり慎重にユリスの隙を伺っているみたいなんだ。俺との決闘の時と昨日の時といい」

 

「確かに、いくらユリスと言えども決闘となれば目の前の敵に集中しなければなりませんからね」

 

「うん。格好の狙い目、だと思う」

 

「ですから、あえてマクフェイル君を刺激して、万が一ユリスが闘うような事になったら危険だと言ったんですね」

 

「うん。まあ、俺の憶測だけどね」

 

「いえ、素晴らしい炯眼ですよ綾斗」

 

クローディアは感心したかのようにうなずいた。

すると、クローディアは居住まいを正し俺に向き合った。

クローディアの雰囲気から、重大な話をするのだと感じた俺は、クローディアと同じように居住まいを正した。

 

「綾斗、あなたにお願いしたいことがあります」

 

「もしかしてユリスのこと?」

 

「ええ」

 

その言葉に俺は周囲を警戒するようにする。

 

「内密のお話なので、今夜、少しだけお時間をいただけますか?」

 

「俺は構わないよ」

 

今、話さないのは得策だと思う。

いくら、クローディアが許可しないと入れないとは言え、いつ、どこで、誰が、いるのかはわからないからだ。

 

「ありがとうございます。詳しい場所と時間については追々連絡いたします」

 

「わかった。確かに、壁に耳あり障子に目あり、だからね」

 

「ええ。権謀術数渦巻くここは、存外に安全ではありませんからね」

 

そう言うと、クローディアは肩の力を抜いて楽にした。

 

「ところで、綾斗。今、校内で噂になっていることがあるんですが」

 

「え。噂?」

 

ここで、俺は嫌な予感がした。

 

「ええ。綾斗が同じクラスの沙々宮紗夜と《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》ことオーフェリア・ランドルーフェンと《戦律の魔女(シグルドリーヴァ)》ことシルヴィア・リューネハイムと幼なじみ、だと言うことです」

 

「ゲホッ!コホッ!コホッ!な、ななな、もう学校内で噂になっているの!?」

 

俺はクローディアの問いにある程度予想していたとは言え喉に息を詰まらせ噎せた。

 

「ええ。と言うより全校生徒が知っている噂かと」

 

「・・・・・・・・・・」

 

俺はクローディアの言葉に呆気にとられ呆然とした。

 

「綾斗?大丈夫ですか?」

 

「うん・・・・・・ちょっと、驚いただけだから」

 

「それで、綾斗に多分ですけどこれから大変なことが起きるかと・・・・・・」

 

「た、大変なこと?」

 

俺はクローディアの『大変なこと』にとてつもなく嫌な予感がした。

 

「ええ。恐らく綾斗にはこれからいろんな人に妬みや嫌みなどされるかと」

 

「あーーー」

 

「な、なんか呑気ですね綾斗」

 

「いや、大体予想していたし。それに、紗夜が言わなかったら秘密だったんだけどね。でも、まあ。久しぶりに紗夜に会えたしいいかなって」

 

「大人ですね綾斗は」

 

「そうかな?」

 

「ええ。あ、綾斗一つだけレヴォルフに関して注意があります」

 

「!!」

 

クローディアがレヴォルフと言い、俺は背筋がビクンッ!となった。

 

「綾斗、レヴォルフの諜報機関《黒猫機関(グルマルキン)》には気を付けてください」

 

「《黒猫機関》?」

 

「ええ。詳しくは言えませんが、各学園には諜報機関があります。ですが、レヴォルフのは他の学園とは違うんですよ。ですのでおきつけください」

 

「わかった。ありがとう、クローディア」

 

「いえ」

 

それで、この場での会話は終わった。

その後、クローディアから内密の話をする場所の連絡が来たのは夜8時になる手前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

21時 女子寮前

 

「まさか、一昨日に続いてまた来ることになるなんて」

 

俺は1人、女子寮の前でそう苦笑いぎみに呟いた。

何故、俺がここにいるのかと言うと、クローディアがメールで知らせてきた場所が、女子寮。それもクローディアの自室だったからだ。

幸い、今日はシルヴィもオーフェリアも各自明日の準備をするため、俺の家にいない。

そして、今日は寮で寝ようと俺は考えたのだ。

同室の夜吹はまだ、帰ってきてなかったが、すでに昼間に伝えているため問題ない。

 

「ユリスに見つかったら今度こそアウトだろうな・・・・・・」

 

そして俺は顔をあげ、視線を最上階に向けた。

 

「さてと、あそこか。まあ、足掛かりがあるからこの前よりは楽だけど・・・・・・」

 

人目につかないように壁まで移動すると、わずかな足掛かりを伝って慎重に最上階まで上った。

 

「これじゃあ本当に変質者だよ・・・・・・」

 

最上階のテラスにつくと、苦笑いで呟く。

 

「クローディア?入るよ?」

 

俺はテラスから声をかけると室内に入った。

室内はシックな装いで統一されていた。まず最初にこれを見た人は誰しもこう思うだろう。寮と言うより高級ホテルの一室、と。

室内に入るが、当の主の姿が見えなかった。

 

「あれ?もしかして留守・・・・・かな?でも、明かりついているし、時間もこの時間だったような・・・・・」

 

窓際の近くでそう考えていると、不意に奥の扉が開いた。

 

「あら、いらしていたのですか。すみません、シャワーを浴びていたものですから」

 

そこからクローディアが出てきた。

 

「・・・・・・・・」

 

シャワーを浴びていたらしく、髪には僅かに水が付着していた。

だが、問題はクローディアの格好だった。

今、クローディアはバスタオル――――では、なくバスローブだけを着ていた。

 

「(これ、シルヴィとオーフェリアにバレたら今度こそ死ぬかも、俺)」

 

俺は以外に勘が鋭い二人を思いだし、そう思った。

 

「どうぞ、ゆっくりしてください。今、飲み物を持ってきますので」

 

そう言うと、クローディアはキッチンへと姿を消した。

しばらくするとティーカップとグラスの飲み物を持って戻ってきた。

 

「お待たせしました。こちらへどうぞ」

 

「・・・・・・うん」

 

クローディアに案内され、もう一つの部屋。寝室へ入る。

 

「なんというか、必要以上にくつろいだ格好だね・・・・・」

 

俺はベットに腰かけたクローディアに苦笑いをしながら言う。

 

「自室ではいつもこうなんです」

 

「そうなんだ」

 

「ええ」

 

俺は若干目のやり場に困りながらソファに座る。

ソファへ座ると、クローディアは用意していたグラスにルビー色の液体を注いだ。

 

「それ、もしかしてワイン?」

 

「ええ。綾斗の分もご用意してありますが、どうします?」

 

「遠慮しておくよ」

 

「フフ。だと思いました。綾斗のはこちらです」

 

クローディアはそう言うと、ティーカップを俺に渡した。

マグカップの中身は紅茶だ。

 

「ありがとう・・・・・・それにしても広い部屋だね。これも生徒会長の特権なのかい?」

 

「いえ、これは生徒会長のではなく序列上位者としての特権です。《冒頭の十二人(ページ・ワン)》になればこのような個室もいただけますし、資金面でも色々と優遇があるのですよ」

 

「そう言えばクローディアも《冒頭の十二人》で序列二位だったね」

 

「あら?知っていらしたのですか?」

 

「まあ、シルヴィから聞いていたからね」

 

「なるほど」

 

クローディアは納得したようにうなずいた。

 

「そもそも、生徒会長なんてものは面倒なだけで、思ったより美徳は少ないのですよ」

 

「それならどうして生徒会長を引き受けたのさ」

 

「私は面倒なことが好きなんです」

 

「ず、ずいぶんと個性的だね。つまり、クローディアのお願いも、その面倒なことが絡んでいるのかな?」

 

「話が早くて助かります。まずはこれをご覧ください」

 

クローディアは携帯端末を取り出し操作すると、空間ウインドウが複数展開した。それぞれに違う学生が映っているが、特に統一感はない。

あるとすれば、それは全員が星導館の生徒だと言うことだ。

 

「彼らは次の《鳳凰星武祭(フェニクス)》にエントリーしていた学生です。《冒頭の十二人》はいませんが誰もが『在名祭祀書(ネームド・カルツ)』の序列上位者ばかりで、ある程度活躍が期待されていた方々ばかりです」

 

「・・・・・過去形だね。と言うことは・・・・・」

 

「ええ、そうです。彼らはここしばらくの間にけがを負って出場を辞退せざる得ない状況になってしまいした」 

 

クローディアは溜め息をつき、ウィンドウを消した。

 

「原因は様々です。事故であったり、決闘中のケガであったり・・・・・・そもそもこの都市ではある程度のケガは珍しくもありません。そのため対処が遅れてしまいましたがどうも怪しいところがありましてね」

 

「第三者の介入があったと?―――ユリスの時のように・・・・・・?」

 

「ええ、先日のように直接的な介入は確認してませんが、ユリスの時も綾斗との決闘の時みたいに狙撃で直接的な介入はしませんでしたしね。同じように彼らの時も暗躍してないとは言い切れません」

 

「・・・・・なにか証拠は?」

 

「いいえ、なにも。と言うのも、狙われた生徒たちは皆捜査に非協力的でして」

 

「なるほどね」

 

俺はクローディアの苦悩になんとなく察した。

星脈世代(ジェネステラ)》特有の問題であり、なおかつ己の力に自信があるものは、あまり他人を頼ろうとしないのだ。それよりも逆に、自分で犯人を見つけ叩きのめしたいと言う人もいるのだ。

 

「ええ。全て事情を説明すれば協力してくれるのでしょうが、生憎そう言うわけにもいきませんから」

 

これで全て話すとパニックや他校に知られることになるからだろう。生徒会長と言うのも苦労しているんだな、と感じた瞬間だった。

 

「ちなみにここだけの話ですが・・・・・・風紀委員はマクフェイル君を有力な容疑者候補として調べています。彼とランディ・フック君の二人は昨日の襲撃事件の時間帯にアリバイがないそうですから・・・・・・」

 

「でもクローディアはそう思ってない」

 

「ええ、貴方と同様で」

 

「ところで、今の話だとサイラスは容疑者候補に入ってないのかい?」

 

俺は疑問に思ったことを素直に訪ねた

前回の時もそうだが、今回の時も、レスター、ランディ、サイラスは一緒にいたため、三人一緒にいるという印象が強い。

そのため、サイラスが容疑者候補に入ってないのは逆に不自然なのだ。

 

「サイラス・ノーマン君には明確なアリバイがあるそうです。その時間帯彼は確かに寮の部屋で勉強していたとルームメイトからの証言があります」

 

「そっか・・・・・・でも、なんにせよ、こうもなにも手がかりがない以上後手に回るしかないみたいだね」

 

「そうですね。ですが我々には一つだけ有利なことがあります」

 

「それは、次に狙われるのが誰かわかっていることだよね」

 

「ええ。恐らく次に狙われるのは――― 」

 

「ユリス、だね」

 

「ええ。犯人が狙いが誰でもいいと言うのならわざわざ姿を現してまで襲撃をしたりはしないでしょう。そもそも《冒頭の十二人》を狙うようなこと自体しないはずです。ですが犯人には難しいとわかっていながら有力学生を狙う理由がある。推測するに―――」

 

「―――他学園の意向が絡んでいる可能性が高い、と」

 

「はい」

 

「ほかの学園。ね」

 

「そして犯人はうちの学園の生徒です。犯行場所はほとんど学園の敷地内ですし、わざわざ他学園の生徒がうちに侵入するにはリスクが高すぎます」

 

「それに関してはまあ、俺も同感かな」

 

「ですが無論、あってはならないことです。禁じられていることは言うまでもありません。ですが、過去にもいくつか事例があり、どの学園も本当に必要とあらばその程度のことはやってのけるのが事実なのです」

 

それは、つまり必要ならば星導館もやるということを意味しているのだろう。

 

「まず、今回はクインヴェールとガラードワースは除外していいでしょう。あちらはイメージがありますから、万が一露見した際に被るダメージが大きすぎます。それにクインヴェールの理事長である彼女がそれを許そうとはしないでしょう。更にガラードワースは、今回の件で得られるメリットでは釣り合いがとれません。この手のことが得意なのはレヴォルフですが・・・・・・あちらは≪王竜星武祭(リンドブルス)≫に注力しているはずなので・・・・・・この時期に動くとは考えられません。となると界龍かアルルカントになりますが・・・・・まぁぶっちゃけそれはどうでもいいのです」

 

「どうでもいい?」

 

「はい。問題は他の学園が絡んでる以上こちらも迂闊には動けないということです。実のところ、星導館学園には統合企業財体直轄の特務機関が存在します。上の許可が下りない限り、私でも自由に動かすことができませんが、風紀委員よりもはるかに強い権限を持った組織です。ですが、彼らを動かせば遠からず相手もそのことに気づくでしょう。統合企業財体はお互いにその動向を厳しく監視していますから」

 

クローディアはやれやれと肩をすくめ、じっと俺を見つめる。

 

「そうなれば犯人の背後にいる学園はすぐさま手を引くでしょう。それでは意味がないのです。彼らが関与していたという証拠を押さえられないなら、それはすなわち我々の 敗北を意味しますから。そして我らが統合企業財体は無意味な敗北を許してくださるほど寛容ではありません」

 

「確実な証拠か、あるいは犯人を捕まえられる保証がない限りその人たちを動かせないってことか・・・・・・」

 

「ですが逆に言えば、それまでは向こうも襲撃を続行させる可能性が高いということでもあります。そこで綾斗にお願いなのですが・・・・・・しばらくの間ユリスの傍についていてもらえないでしょうか?」

 

「え?」

 

俺は以外なお願いをしたクローディアを見返す。

 

「ユリスは近いうちにまた襲撃を受けるでしょう。おそらく次はあの子だけでは対処しきれないはずです。その時に綾斗にはユリスの力になってあげてほしいのです。もちろん可能な範囲で構いません。本来は一学生であるあなたに頼むようなことではないのですが・・・・・・」

 

「俺じゃないとダメな理由が?」

 

「ご存知の通り、あの子は他人と距離を取りたがる傾向があります。ですが、幸いにもあなたには気を許してるようなので」

 

「そうかなぁ・・・・・・そりゃ一応学園は案内してもらったりしてるけど」

 

クローディアはああ言ってるが俺はあまりそうは思えなかった。まあ、初めてあった時がアレだから、ではあるが。

 

「ふふ、あなたは本当に人の感情に鈍ちんですね」

 

クローディアは楽しそうに笑みを浮かべる

 

「そ、そうかな?って、なんか前にも言われたような気が・・・・・・じゃなくて、話はわかったけど、俺じゃ力になれないと思うよ」

 

「あら、どうしてです?」

 

「自分で言うのもなんだけど、頼りにならないからさ」

 

「ご謙遜を」

 

「いや・・・・・事実だよ」

 

"今の"俺がいるところで、あまりユリスの役には立てないだろう。

それこそ、"今の"俺ではシルヴィやオーフェリアにはとても及ばない。

俺はそんなことが過った。

 

「先ほど申し上げたように、できる範囲で構いません。自身の身が危ないと思ったら逃げてくださっても結構です。それに側に誰かがいるということだけでも抑止力になるでしょう?」

 

「はぁ・・・・・・・わかったよ。引き受けるよ。でも、あんまり期待しないでね」

 

「わかりました」

 

「ところで、どうしてそこまでユリスのことを気にかけるのか聞いてもいいかな?」

 

「あら、生徒会長が学園の生徒の身を案じるのは当然ではありませんか?」

 

「もちろん、それも理由のひとつだと思うけど。本当にそれだけ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

俺の問いにクローディアはしばらく沈黙していたが、観念したかのように口を開いて話した。

 

「私も他の学生同様、私自身も叶えたい望みがあるのです。そのために私に必要なことをしているだけにすぎません」

 

「望み・・・・・・」

 

「あ、そうそう、お願いと言うからには報酬も必要ですね」

 

「えっ?いや、いいよ。そんなの」

 

俺は手を振って遠慮する。

だが、その程度で引き下がるようなクローディアだと言うことを、俺はこの時まだ知らなかった。

と言うより今知った。

 

「確か、綾斗は明日、六花に外出するんですよね」

 

「えっ?う、うん。そうだけど」

 

「でしたら―――」

 

クローディアはベットから降り机の引き出しから何枚かの紙を持ってきた。

 

「明日、よろしければこちらをお使いください」

 

クローディアが差し出したのは六花の商業区で使える割引券だった。

 

「え、でも?」

 

「たまたま、もらったものですので気にしないでください。それに、私はあまり商業区に行きませんので持っていても仕方ないのですよ」

 

「それなら、ありがたく受け取らせてもらうよ」

 

クローディアの言葉を聞き俺はクローディアから券を受け取った。

 

「はい」

 

「ありがとう、クローディア」

 

「いえいえ」

 

クローディアから券を受け取った後はしばらく雑談に走らせ、結局、クローディアの部屋を出て自室に戻ったのは十一時半を過ぎた頃だった。

 




今回はここで。




それではまた次回、Don't miss it.!



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3人の休日

今回はシルヴィアとオーフェリアとのデート?回かな

では、どうぞ。


~綾斗side~

 

「早すぎたかな?」

 

俺は待ち合わせ場所である、星導館学園の正面で待っていた。

現時刻は午前9時20分だ。

昨日の夜、シルヴィのメールで9時半に星導館前で待っていて、と書かれていた。

そのため、10分早く来たのだが・・・・・・

 

「そう言えば、2人とも何で来るんだろう?」

 

そう考えていると。

 

「綾斗くん、お待たせ~」

 

「・・・・・・綾斗、お待たせ」

 

後ろから声が聞こえてきた。

 

「え?」

 

後ろを向くと2人の女の子がいた。

1人は栗色の髪に大きめのピンク色の帽子を深くかぶり、ジーンズにブラウスといった格好。もう1人は黒髪に薄むらさき色帽子をかぶり、やや丈の長いワンピースにオーバーニーソックス、そして、素肌を覆う白の長手袋といった格好だ。

 

「えーと・・・・・誰?」

 

俺は正直分からず2人の女の子に尋ねた。

すると、2人の女の子は自分の姿を見て、そう言えば変装してるんだった、と言っていた。

 

「ちょっとこっちに来て」

 

栗色の髪の女の子に連れられて、俺は人気のない場所まで来た。

 

「これで分かるかな綾斗くん」

 

そう言うと、2人の女の子は帽子を取り、着けていたヘッドホンのスイッチを押した。

すると、髪の色が栗色から紫色に、黒から白へと変わった。そして、ようやくわかった。

 

「え!?シルヴィ!?オーフェリア!?」

 

「・・・・・・やっと、分かった?」

 

「いや、さすがにあれは初見の人は分からないと思うよ」

 

「まあ、それはそうだよ。それで、どうかな私とオーフェリアちゃんの格好」

 

「うん。2人とも似合ってるよ」

 

「ありがとう綾斗くん。ホントはもう少しお洒落したいんだけどね」

 

「・・・・・・私はともかくシルヴィは目立つと思う」

 

「え~。オーフェリアちゃんも目立つと思うよ」

 

「あー、確かに」

 

俺は2人の言葉に納得したように頷いた。

シルヴィアとオーフェリアと一緒にいたら絶対に目立つ以前に注目され、出掛けられないだろう。

 

「ところで、2人の着けてるそのヘッドホンって?」

 

「あ、これ?これ、音楽を聴けたり変装に使えたりするから便利なんだ。私は元々持っていたんだけど、オーフェリアちゃんのはペトラさんが用意してくれたの」

 

「・・・・・・昨日、シルヴィと一緒にペトラさんが来て、くれたわ」

 

「アハハ、なるほどね」

 

さすがペトラさん、と俺はペトラさんに感謝していていた。

 

「それじゃあ、早速行こうよ」

 

「そうだね。今日は案内お願いね2人とも」

 

「うん。もちろんだよ」

 

「・・・・・・任せてちょうだい」

 

2人は再度ヘッドホンのスイッチを押し、髪の色を変えると、帽子をかぶり変装した。

これで、2人が誰かは分からないだろう。・・・・・・多分。

そう思っていると、2人は俺の両手を左右につかんで引っ張って市街地に向かって行った。

 

「うわっ!ちょ、2人とも、引っ張らないでよー」

 

引っ張られながら俺はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六花(アスタリスク) 市街地

 

アスタリスクの市街地は主に外縁居住区と中央区に分かれている。

俺のここでの自宅がある外縁居住区にはモノレールの環状線が通っていて、緑の部分にあたる港湾ブロックと移住エリア、そして六つの学園を繋いでいる。

それに対して中央区での移動は地下鉄が中心だ。これは学生同士の決闘などが交通機関に影響しないように配慮されたものらしい。

そして、中央区はさらに商業エリアと行政エリアに分けられ、その中のステージが点在する形になっているそうだ。

そして、俺とシルヴィ、オーフェリアはその中央区《星武祭(フェスタ)》の総合メインステージ前にいた。

 

「ここがアスタリスク最大の規模を誇るメインステージだよ。《星武祭》の決勝戦は全てここで行われるんだよ」

 

「へぇー。結構大きいね」

 

「・・・・・・このドームの収容人数は約十万人みたい」

 

「そんなに入るんだ」

 

「綾斗くんが《鳳凰星武祭(フェニクス)》とかに出るならここで闘うかもよ」

 

「決勝まで行けたらね」

 

俺はそう苦笑しながら言うが、恐らく"今の状態"俺では無理だろう。

 

「・・・・・・そんなことない。綾斗に対応できるって言ったら限られてくるはずよ」

 

「そうだね~。ガラードワースの《聖騎士(ペンドラゴン)》か私やオーフェリアちゃんや界龍の序列2位・・・・・・ってとこかな。でも、ガラードワーズの《聖騎士》は《獅鷲星武祭(グリプス)》に絞ってるし、界龍の序列2位は出場するか分からないんだよね。あ、でも《王竜星武祭(リンドブルス)》に出るつもりなら手加減しないからね」

 

「てことはシルヴィとオーフェリアは《王竜星武祭》に絞ってるってこと?」

 

「私はね」

 

「・・・・・・私は、あの人に言われたから仕方無く」

 

オーフェリアの雰囲気が暗くなったのを察した俺は、話題を変えることにした。

同様にシルヴィも察したようだ。

 

「そう言えば、ローマのコロッセオをモチーフにしてるんだよね?」

 

「・・・・・・ええ。だけど、本物のコロッセオとは別物よ。この他にも大規模ステージが3つ、中規模ステージが7つ存在するわ。小規模の野外ステージは数え切れないわ」

 

「へぇ、そんなにあるんだ」

 

「けど、市街地での決闘でも、原則的にステージを利用するのがマナーになってるんだ。だけどあくまで原則で・・・・・・基本あまり守られてはいないみたいなんだよね・・・・・・」

 

「それは街中でも決闘が行われているってこと?」

 

「うん。流石綾斗くん察しがいいね。その通りだよ」

 

「でも、その決闘のほとんどはレヴォルフの生徒よ」 

 

「それ、どう考えても危ない気がするけど」

 

だがまあ、それは俺が口にするまでもなくアスタリスクに来た人なら誰でも思うことだと思う。

だがこのアスタリスクに来て長い人間はその状況に慣れてしまっているのが今のこのアスタリスクの現状だ。

それにはさすがに呆れるしかない。

 

「でも、それはここの住人たちは承知の上なんだよ綾斗くん。それはもちろん観光客もね・・・・・・」

 

「・・・・・それに、住むにしろ観光にしろそういう危険性について書かれた誓約書があるわ。まず第一に、それにサインしないとこのアスタリスクには入れないわ」

 

「む、無茶苦茶すぎだね。まあ、それでもここに来たがる人がいるんだからわからないもんだなぁ・・・・・・」

 

「企業からしてみればアスタリスクに出店するってことはステータスであり宣伝にもなるからね。仕方ないよ。それにイベントによってはこの中央区そのものが舞台になることも多々あるからね」

 

「俺は住みたくないなぁ・・・・・・と言ってももう住んでるけど」

 

「フフフ・・・・・」

 

「ハハハ・・・・・綾斗くんは絶対そういうと思ったよ。けど私も同感かな。私も綾斗くんの家に住んじゃってるけどね」

 

「ここ以外でそんなのがあったら堪ったものじゃないわ」

 

「確かに」

 

俺たちはオーフェリアの言葉に笑うしかなかった。

ここ以外でそんなのがあったら大変だ。

 

「・・・・・・次はどうする?まだこの辺を見る?」

 

「いや、ここはもう大丈夫だよ」

 

「だったら、次は行政区に行って治療院を見てみない?綾斗くんもこの先、決闘とかする機会が多くなると思うし。それに・・・・・・≪星武祭≫に出るかは知らないけど出るなら知ってて損はないからね」

 

「・・・・・・まあ、出なくても知っておいたほうがいいと思うわよ・・・・・・治療院には治癒の能力者がいるから、大ケガしたときとかは便利よ」

 

治癒系の能力者は極めて少ない。

その為どの学園の生徒でも平等に治療が受けられるように、協定によってアスタリスク直轄の治療院に集められている。

ただし、手が回りきらないため、命に関わったり後遺症が残ったりするような怪我でない限り治療能力は受けられない。 

 

「あとは・・・・・・・オーフェリアちゃんあるかな?」

 

「・・・・・・それなら、一度再開発エリアを見ておくのもいいわ。あの辺りは一部がスラム化していて治安的には問題があるけど」

 

「あー、確かに知らないで、迷い込むのはもっと危険だからね。まあ、綾斗くんの実力なら何かあっても問題ない気がするけどね」

 

スラムには様々な事情で学園に居られなくなったものや、外から逃げ込んだ≪星脈世代(ジェネステラ)≫の犯罪者などが巣食っている、と聞いたことがある。

なんとも物騒な話だが、このアスタリスク内ではこういった影の部分があるのは仕方がないことだろう。

 

「そういえば、紗夜が買い物に行こうとして怪しげな場所に迷い込んだことがあるとか昨日言ってたなぁ・・・・・・なんか、古くてボロボロのビルやら潰れたお店やらが並んでた、って言ってたっけ」

 

「・・・・・・それは再開発エリア」

 

「アハハ・・・・・・紗夜ちゃんの方向音痴は相変わらずなんだね・・・・・・」

 

昔、4人でかくれんぼで遊んだ際に紗夜が自分の居場所が分からなくて大変で悩まされた記憶がある。

まあ、そのときは姉さんも協力して探してくれて見つけた。

 

「・・・・・・多分一生治らないんじゃない?」

 

「いや、それは・・・・・・・・・・・・・・・・あり得るかも」

 

「確かに・・・・・・紗夜ちゃんならあり得るね」

 

紗夜の方向音痴が治る可能性があることを、俺とシルヴィは否定できなかった。

事実、紗夜は自身で方向音痴、だと認めているのだ。

 

「・・・・・・そろそろお昼にしない?」

 

「あれ、もうそんな時間?」

 

端末を開き時間を確認すると、すでに時間は午後1時近くになっていた。

 

「それじゃあ、商業エリアに行こうか」

 

俺たち3人は、商業エリアの中でも最もにぎわっているメインストリートへと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

商業エリア メインストリート

 

「うわ、すごい人だね」

 

「さすが休日なだけあるね」

 

「・・・・・・人が大勢いるわね」

 

綺麗に整備された石畳風の道は学生たちで溢れかえっていた。当然のように全員私服だが、それでも学生だとわかる理由は、全員所属している学校の校章を身に着けているからだ。アスタリスクにおいては休日であっても常に校章を携帯するのが義務となっている。

もちろん、俺もシルヴィもオーフェリアも校章をキチンと身に着けている。

 

「じゃ、この辺りで適当に決めようか」

 

「・・・・・・そうね」

 

メインストリートの両脇には色々なお店が並んでいるが、どうやらこの辺りは丁度飲食系のお店が集まっているみたいだ。

 

「んー、どこにしようか」

 

そのまましばらく歩いていると、見知った人がいた。

 

「・・・・・・あれ?」

 

「・・・・・・ユリス?」

 

「ホントだ」

 

視線の先には世界的に有名なハンバーガーチェーン店を覗いている、星導館学園序列5位《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》こと、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだった。

 

「何してるのユリス?」

 

俺は、覗いているユリスに声をかけた。

 

「おわっ!!・・・・・・・なんだ、天霧か」

 

「奇遇だね。ところでユリスは何してるの?」

 

「わ、私は少し気になったから見ていただけだ。それより、お前は何でここに――――ん?そこの2人はお前の連れか?」

 

「え?ああ、うん。そうだよ。あ、ユリスもどうせなら一緒にお昼どうかな?」

 

「なに?」

 

「2人はいいかな?」

 

「私はいいよ~」

 

「・・・・・・私もかまわないわ」

 

「ん?今の声・・・・・・まさか・・・・・・」

 

「中で食べながら説明するよ」

 

俺はそう言うとユリスも連れて中に入り、注文をした。

中では他の人に聞かれる可能性があるため、外のテラスにある一角に座った。

席順は俺、シルヴィ、ユリス、オーフェリアの順で円型だ。

 

「話してもらうぞ天霧。この間は沙々宮がいたが聞けなかったのでな」

 

席に着くとユリスが早速聞いてきた。

 

「いいよ。それと、俺のことは綾斗で」

 

「ん、わかった」

 

「さてと、2人ともユリスに教えてあげてくれる?」

 

俺はシルヴィとオーフェリアに訪ねる。

 

「うん。え~と、私はシルヴィア・リューネハイムだよ。よろしくね、《華焔の魔女》さん」

 

「なっ!?シルヴィア・リューネハイムだと!?と言うことはそっちはまさか――――」

 

「・・・・・・久しぶりね、ユリス」

 

「オーフェリア・・・・・・やっぱりお前だったか」

 

今度はユリスも分かったようだ。

 

「ええ。それにしても相変わらずなのね、ユリスは」

 

「な!そ、それはどういう意味だ」

 

「そのままの意味よ」

 

「う・・・・・・!」

 

オーフェリアはユリスを懐かしめるかのように見る。

 

「アハハ、まあまあ」

 

「はあー・・・・・・まあ、沙々宮が幼なじみだと言っていたならな、大体予想はしていたが・・・・・・・にしても女子を二人侍らせて案内させるか普通?」

 

「あー、それは・・・・・・・」

 

「綾斗くん、ユリスさんには言ってもいいんじゃないかな?」

 

「え?いいのか?」

 

「私はいいよ。オーフェリアちゃんはどうかな?」

 

「・・・・・・私もいいわ」

 

「ん?何の話だ」

 

「あーー。ユリス、今から言うことを回りに広めないでほしいんだけどいいかな」

 

「?まあ、かまわんが」

 

「実は、俺とシルヴィとオーフェリアは付き合っているんだ」

 

「ほう、なるほど・・・・・・・・・は?すまん、もう一回言ってもらえるか」

 

「ユリス、俺とシルヴィとオーフェリアと付き合っている」

 

「ゲホッ、コホッ、ケホッ!な、なぁ!?つ、つつつ、付き合っているだと!?ふ、2人とか!?」

 

「うん」

 

「すまん。あまりにも衝撃過ぎて処理が追い付かん。あー、オーフェリアと《戦律の魔女(シグルドリーヴァ)》は認めているのか?」

 

「《華焔の魔女》さん、私はシルヴィ、って呼んでくれていいよ」

 

「む。そうか。では、シルヴィア、私のこともユリスでかまわん」

 

「オッケー。それで、ええ~と認めてるのか、だっけ?」

 

「ああ」

 

「認めてるも何も私とオーフェリアちゃんから告白したからね~」

 

「なに!お、オーフェリアもなのか!?」

 

「・・・・・・ええ。そうよ。正確にはシルヴィアに同じて告白したのよ」

 

「そ、そうか。まあ、2人が認めてるなら私は何かを言うつもりはないが、綾斗」

 

「ん?なにかな?」

 

「この事は決してバレないようにしろよ」

 

「分かってるよ。はじめからそのつもりだよ」

 

「そうか」

 

その後は、女子は話の会話を盛り上げて話していき、時々俺に聞いたりしてきたが何て答えたらいいのか分からなかった。

特に、オーフェリアの話が多かったのは気のせいだと思う。現に、オーフェリアは顔を少し赤くしている。

 

「ところで――――少し真面目な話をしてもいいかな、ユリス」

 

「ん、なんだ?」

 

会話の終わりを見て、俺はユリスに話した。

 

「ユリスが襲われた一件なんだけど・・・・・」

 

俺は昨日、クローディアから聞いたことを伝えた。

この場には当事者のユリスだけではなく、シルヴィとオーフェリアもいるが、別に口止めされているわけではないので良いだろう。

それに、もしかしたら2人にも協力してもらうかもしれない。

俺はユリスにクローディアからユリスを助けるよう頼まれたことを言わないでおいた。反発されるのが目に見えてるからだ。

 

「なるほど、ありそうな話だ。他所の学園の手引きか・・・・・・・あ、すまないオーフェリア、シルヴィア。別にお前たちの所を言っているわけではないのだが」

 

「・・・・・・わかってるわ」

 

「うん。それに、多分だけどそれアルルカントが関わっていると思うよ。まあ、確証がないからハッキリとは言えないけど」

 

「そう言えばクローディアもそんなことない言っていたな」

 

「・・・・・・恐らく、ユリスが最後のターゲット」

 

「だろうな。だからこそ姿をさらしてまで仕留めに来たんだろう」

 

「そんなわけで、しばらく一人での外出や決闘は控えた方がいいと思うんだけど・・・・・・「断る」・・・・・・言うと思ったよ」

 

俺の台詞最中に即答で断ったユリスに俺は予想していたとはいえ、即直な答えに苦笑した。

 

「なぜ私がそのような卑怯者のために自分の行動を曲げねばならんのだ」

 

「・・・・・・ユリスは変わらないわね」

 

「当たり前だ。私のことは私自身で決める」

 

「・・・・・・あなたは昔からそうだったわね。初めてあったときからそうだったわ」

 

「う・・・・・!よく、覚えてるな」

 

「・・・・・・当然よ」

 

「アハハハ」

 

「ウフフフ」

 

俺とシルヴィはオーフェリアとユリスの会話につい笑ってしまった。

オーフェリアがまた、こうして話してくれるのが嬉しいのだろう、ユリスも楽しそうに話す。

 

「綾斗、シルヴィア、まず言っておく。私の道は私が決める。私の意思は私だけのものだ」

 

ユリスが右手を自身の胸に当て、ハッキリ言うと。

 

「―――ほぉ、相変わらずいさましいじゃねえか」

 

ユリスの後ろから巨大な人影が現れた。







それではまた次回、Don't miss it.!


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襲撃者

~綾斗side~

 

「――ほぉ、相変わらず勇ましいじゃねえか」

 

突如、ユリスの後ろから巨大な人影が現れた。

俺はいきなり現れたそれに、少々驚いたがユリスは平然としていた。

 

「・・・・・・レスターか。立ち聞きとはいい趣味をしているな」

 

ユリスは背後から声を出した人物―――――レスターを見ずに斬って捨てる。

 

「けっ、好きで聞いてたわけじゃねぇよ。たまたまだ」

 

「ほぉ・・・・・たまたま、か」

 

「ふん。それより聞いたぜ。ユリス、お前また謎の襲撃者とやらに襲われたらしいな。少しは恨みを買いすぎじゃねえのか」

 

「私は人に怨まれるようなマネはしてないぞ」

 

きっぱりと言い放つユリスに、さすがのレスターも呆れた表情を浮かべているのが見えた。

更によく見ると、何故かオーフェリアが少々呆れた表情をしながら自身の額に手を置いていた。

シルヴィは苦笑いして傍観している。

 

「そういう態度が敵を作るってわかってるのかよ?」

 

「わからんな。私は何も間違ったことはしていない。もしも、それで敵となるものがいるなら、その時は相手になるまでだ」

 

すごい自信だと、俺はこの時ユリスに思った。

まあ、ユリスなら本当に有言実行しそうだけど。

 

「はっ、大した自信だな――――だったら今ここで相手になってもらおうじゃねえか」

 

「何度言えばその脳みそは私の言葉を覚えるんだ?もはや貴様の相手をする気はない」

 

「いいからオレと闘えって言ってんだよ!」

 

レスターはテーブルを割るような勢いで手をテーブルに叩きつける。

バンッ!と大きく響き渡り、一瞬辺りがしんと静まり返る。

 

「レ、レスターさん!いくらなんでもここで同意なしの決闘はマズイですよ!」

 

「そ、そうだよレスター!ここで騒ぎを起こしたら警備隊が・・・・・・!」

 

取り巻きのサイラスとランディが必死になだめるが、レスターは聞く耳を持たない。

 

「そのくらいにしておいた方がいいんじゃないかな?」

 

「てめぇは黙ってろ・・・・・・!」

 

俺が忠告するがそれすらも見ずに言う。

すると。

 

「・・・・・・ねぇ。あなた、ここが何処だかわかる?」

 

沈黙を続けていたオーフェリアがレスターを見ていった。

 

「なんだてめぇ・・・・・」

 

「・・・・・・もう一度言うわ。あなたここが何処だかわかる?」

 

「それがなんだよ」

 

「・・・・・・ここは飲食店。しかも、大勢の人がいるわ。その中であなたのその傍迷惑な事が回りに不愉快をもたらしていること、わからないのかしら」

 

「別にてめぇには関係ねぇだろうが」

 

「うーん。関係なくは無いかな?現に私たちは今、不愉快な気分だし」

 

オーフェリアに続いてシルヴィもそう言う。

 

「それに、先日ユリスさんが襲われた状況をあなたは知らないの?」

 

「なんだと?」

 

「今ここでユリスさんに決闘を申し込むってことは、あなたもユリスさんを襲った人達と同類だと自分から周囲に言っているようなものだよ」

 

「ふざけるなっ!言うに事欠いて、このオレ様がこそこそ隠れ回ってるような卑怯者共と同類だと!?」

 

レスターは怒鳴りながらシルヴィの方を向いた。

そして、その間を俺は瞬時に入る。

 

「悪いけど、彼女たちは俺の親友だ。手を出さないでくれるかな」

 

シルヴィを守るかのようにして立ち、レスターを見る。

シルヴィとオーフェリアを親友だと言った理由は、もし二人の正体がバレたらヤバいと言うことと、ここで彼女だと言った場合、更にややこしくなるからだ。

そのため、あえて親友だと言った。

俺を睨み付けながら、レスターは俺の襟首をぐいっと掴み上げる。

 

「だったらまずはてめぇから叩き潰してやるよ」

 

「生憎だけど俺も決闘をする気はないよ。」

 

「あぁ?」

 

「何せ受ける理由がないからね」

 

「ちなみにだけど私も受ける気はないよ」

 

「・・・・・・私も同じよ」

 

するとレスターは俺をシルヴィの方に突飛ばし、憤怒の形相で拳をテーブルに叩きつけた。

すると、その威力に今度こそ耐えきれず、テーブルは真っ二つにへし折れた。

幸いにも、食べ終わっていたためテーブルの上には飲み物しかなかったが、それは全てオーフェリアとユリスが回収してくれたため無事だった。

 

「このオレ様を卑怯者扱いしておいて逃げるってのか?この腰抜けが!」

 

「なんとでも。あ、1つだけ訂正してくれる?」

 

「あぁ?」

 

「君が俺をどれだけ罵ろうと構わないけど、俺の親友二人を罵るのは、止めてくれない?」

 

俺は軽く殺気を出してそう言う。

 

「て、てめぇ・・・・・・っ!」

 

レスターは半歩後ずさり拳を振り上げる。

 

「レスター、お、落ち着いて!レスターの強さはみんなわかってるから!レスターは何時だって正々堂々相手を叩き潰して来たじゃないか!こんな腰抜け共の言うことなんて真に受けることないって!」

 

「そ、そうですよ!みんなわかってます!決闘の隙を伺うような卑怯なマネ、レスターさんがするはずがありません!」

 

ランディとサイラスがレスターを押し止めるなか、俺はサイラスの言った言葉に引っ掛かった。

だが、確証は無いため追及しないことにした。

 

「ぐぐぐ・・・・・・!」

 

レスターはそれでも怒りが収まらないといった顔で俺たちを睨んでいたが、やがて踵を返し無言のまま立ち去っていった。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

「綾斗くん、大丈夫?」

 

「・・・・・・綾斗、大丈夫?」

 

「うん。大丈夫。二人はなんともない?」

 

「うん」

 

「ええ」

 

オーフェリアは手に持っていた、俺の飲み物を手渡した。

 

「やはりおまえは食わせものだな」

 

同様に、シルヴィに飲み物を手渡してユリスはニヤリと笑いかける。

 

「なんの事かな?」

 

「いや、なんでもないさ」

 

「あ、綾斗くん。ケチャップついてるよ」

 

「え?どこ?」

 

「取ってあげるから動かないでね」

 

シルヴィはそう言うと、紙ナプキンで俺の左頬を拭いた。

 

「取れたよ」

 

「ありがとうシルヴィ」

 

「どういたしまして♪」

 

俺とシルヴィが話していると、

 

「あー・・・・・・・二人とも。すまんが少々自重してくれ」

 

ユリスが額に手を当て呆れた眼差しで俺とシルヴィを見ていた。

オーフェリアは頬を膨らませ不満そうな表情をしている。

 

「・・・・・・シルヴィアだけズルい」

 

「オーフェリア・・・・・お前そんな性格だったか?」

 

「あはは・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、ユリスも加わり4人でアスタリスクを周った。

念のためオーフェリアにはユリスについていてもらったが、それは杞憂に終わった。

そして、3人の案内が終わったのは、日も落ちかけた時間帯だった。

 

「今日はありがとう、シルヴィ、オーフェリア、ユリス。勉強になったし楽しかったよ」

 

「綾斗くんにそう言ってもらえて嬉しいよ」

 

「・・・・・・ええ。綾斗のためならなんだってするわ」

 

「私は、お前たちと一緒にいて良いのかと思ったが・・・・・」

 

ユリスは苦笑い気味にそう言う。

 

「ユリスもいてくれて助かったよ。ありがとう」

 

「そ、そうか。ならいい。だがな、頼むからイチャイチャするのは少し抑えてくれ」

 

「あはは・・・・・・」

 

「うっ・・・・・努力するよ」

 

「・・・・・・たぶん無理だと思うわよ」

 

「ハァー。まぁ、今日は私としても良い1日だったからな。それに、オーフェリアとも話せたし」

 

「・・・・・・ええ、そうね。私もユリスと久しぶりに話せて良かったわ」

 

「私はこのまま寮に戻るが綾斗。お前は確か学外に自宅があるんだったな」

 

「え。うん、そうだけど」

 

「ちなみに、私とオーフェリアちゃんは綾斗くんの自宅に住んでるよ」

 

「なにっ!?それは本当なのか綾斗!!」

 

「ま、まあ。何故か二人が住む形になっちゃったんだよね」

 

「ハァー。頭痛薬でも買って帰るべきか・・・・・・いや、それとも・・・・・・・」

 

「ユリス?」

 

「あ、ああ。いや、何でもない。気にするな」

 

俺たちは地下鉄の駅までのんびりと談笑しながら歩く。

と、その途中、広場の方がなにやら騒々しいのに目が入った。

 

「ん?なんだろう?」

 

「あれは・・・・・・」

 

近づいてみるとどうやら学生同士が集団で揉めているらしい。その証拠に、怒声と罵声が両者の間を飛び交っている。人数はざっと見、十数人はいる。

 

「・・・・・・あれは私のところの人たち」

 

「『私のところの人たち』、ってことはレヴォルフ?」

 

「・・・・・・ええ」

 

「全く、レヴォルフは相変わらず馬鹿なことをやっているものだ」

 

「・・・・・・私が言うのもなんだけど、ユリスの言う通りだと思う」

 

「見た限り二つのグループが揉めているらしいね・・・・・・あっ、手が出た」

 

片方のグループの代表らしき学生が向き合っていた学生を突き飛ばし、それを切っ掛けに両グループの学生が武器を構えた。

そして、瞬く間に両グループのいさかいは乱闘に発展していった。現にあちこちで戦闘が始められてる。

 

「・・・・・・はめられたわ」

 

「え?どう言うこと?」

 

俺がオーフェリアに尋ねようとすると。

 

「綾斗くん!」

 

シルヴィが警告するのと同時に、俺の背後から短剣型煌式武装(ルークス)を構えた学生が突っ込んできた。

 

「うわっと!」

 

なんとかステップでそれをかわした。

だが、その学生はすぐに乱闘に紛れどこかへ行ってしまった。

 

「今の綾斗くんを狙った攻撃?」

 

辺りをみると、いつの間にか俺たちは、小競り合いをするレヴォルフの学生たちに囲まれていた。

 

「・・・・・ユリス、これは・・・・・・」

 

「ああ。レヴォルフの馬鹿共が街中で誰かを襲うときに使う手だな。こうして乱闘の最中に標的を取り囲み痛め付けるらしい。あくまで標的は『乱闘に巻き込まれた』だけと言う風に装うわけだな。まあ、私も体験するのは初めてだが・・・・・・二人はどうだ?」

 

「私も初めてかな」

 

「・・・・・・私も。よく、不意打ちで攻撃してくる馬鹿はいるけど」

 

ユリスの問いにシルヴィとオーフェリアは、向かってくる学生を軽くあしらいながら答える。

 

「にしても・・・・・・また、随分と面倒なことをするんだなぁ」

 

俺も今しがた、煌式武装を構えて向かってきた学生の二人を避ける。

 

「なんて言うか、まあ、慣れだな。その内綾斗も慣れると思うぞ」

 

「う~ん。正直あまり慣れたくはないかな―――っと!」

 

「それにしてもどうしてレヴォルフがユリスさんを狙うんだろう?」

 

「・・・・・・多分だけどお金で引き受けたんだと思う。こう言うのは大体お金さえ積めば大抵なことは引き受けるはずだから――――ん!」

 

「なるほどね~――――よっと!」

 

「にしてもどいつもこいつも三下ばかりだな」

 

「・・・・・・ええ。ユリス、どうするの?」

 

「決まってるだろ。こいつらはお互いが正規な決闘手続きを踏んでいるが、私たちは正規の決闘手続きを受けてない。なのにも関わらず攻撃してきたんだ。明らかに正当防衛が成り立つだろう」

 

「・・・・・それじゃあ――――」

 

「ああ。叩きのめして問いただす」

 

「だね」

 

「・・・・・・ええ」

 

「あまり気は進まないんだけどな・・・・・・」

 

「案ずるな。この程度の連中、警戒しながらでも十分に焼き上げられる」

 

ユリスはそう言うと星辰力(プラーナ)を溢れさせ周囲に炎を舞い踊らせた。

 

「・・・・・・ユリス、私も手伝う。何より、綾斗やシルヴィア、ユリスを傷つけられて我慢ないわ」

 

ユリスに続いてオーフェリアも星辰力を溢れさせる。

 

「二人とも、手加減はしてあげてね」

 

「まあ、ウェルダンくらいでいいか」

 

「いや、そこは責めてミディアムレア位にしてあげてよ」

 

「冗談だ。・・・・・・殺るぞ、オーフェリア」

 

「・・・・・・ええ。わかってるわユリス」

 

「なんか地文が違う気が・・・・・・」

 

「気にしたら負けだと思うよ綾斗くん・・・・・・」

 

俺とシルヴィは炎と毒でレヴォルフの学生を攻撃するユリスとオーフェリアを見てそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、1分後レヴォルフの学生は全て地に伏していた。

ある学生は白煙を上げて横たわり、ある学生は息を切らして焦点の合ってない瞳を浮かべて倒れていた。

ちなみに、何人かは逃げ出そうとしたがオーフェリアとユリスだけではなく、俺とシルヴィから逃げ切れるわけなく、逃げ出そうとした学生は、俺とシルヴィで気絶させた。

その際、「あいつ《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》じゃねえか!」だの「な、なんだこの女!こんなの聞いてねえぞ!」だのと言っていた所を見るに、どうやらこの学生たちは、自分たちが狙った相手が何者なのかも知らなかったようだ。

 

「・・・・・・つまらなかったわ」

 

「まったくだ。肩慣らしにもならん」

 

オーフェリアはつまらなそうに、ユリスは髪をかき上げながら、死屍累々の光景には目もくれず、俺の方を見た。

 

「――――それよりどういうことだ?」

 

「ど、どういうことって?」

 

「なんだ今の情けない闘い方は!この程度の連中になにをやっている!」

 

「・・・・・・確かに綾斗はこんなに弱くなかったはず」

 

「うん。綾斗くんほとんど防御に手を回していたよね?」

 

「うっ・・・・・・・!」

 

実際、レヴォルフの学生を片付けたのはほとんどユリスとオーフェリアだが、逃げ出そうとした学生を気絶させたのもほとんどシルヴィがしたのだ。その点、俺は攻撃をギリギリのところで避け気絶させたりした。

 

「そうは言っても、今の俺じゃあれくらいが関の山なんだ」

 

「「「・・・・・・」」」

 

シルヴィ、オーフェリア、ユリスはいぶかしそうな顔で俺を見る。

シルヴィとオーフェリアは疑念の表情を出している。

 

「綾斗。お前は"今の俺"と言ったな」

 

「あ、ああ」

 

「つまり、なんらかの条件さえクリアすれば本当の実力のお前が見れるということだな」

 

「・・・・・・」

 

「まあ、構わん。なにやら事情があるみたいだしな」

 

「ごめん」

 

「取り敢えずはこいつらからは聞き出さねばならんこともある」

 

「・・・・・・そうね」

 

ユリスとオーフェリアは学生を何人か検分し、モヒカン頭の学生を引きずり出した。

確か片方のグループのリーダー格の学生だ。

 

「おい、いつまで寝たふりをしている。起きろ」

 

「・・・・・・そうね。起きないとその髪を焼き尽くすわよ」

 

「ひぃぃっ!」

 

ユリスとオーフェリアの脅しの効果は抜群だったようで、その学生はあわてて目を開いた。

 

「簡単に答えろ。誰の指示だ」

 

「オ、オレはなんも知らねえ!あんたらを少し痛め付けてやれって頼まれただけだ!理由は聞いてねえ!」

 

「・・・・・・頼んできたのはどんな人?」

 

「黒ずくめで背の高い、大柄の男だ。だが、顔はわからねえ!」

 

「どういう意味だ?」

 

「フードを被っていて見えなかったんだ。それにそいつは一言も喋らなかったから声すらも聞いたことない」

 

「では、どうやって私たちを襲うよう指示を出した?」

 

「金と一緒に入っていた紙に書いてあった」

 

「紙だと・・・・・・?他には何が書いてあった?」

 

「確か、これは前金で、残りは見届けてから払うと」

 

「なに?」

 

「見届ける・・・・・」

 

俺は見届ける、と言う言葉を聞き瞬時に辺りを見渡す。

見届ける、と言うことはこれを頼んだ犯人は必ず何処かにいると言うことだ。この近くに。

すると。

 

「あ、あいつ!あいつだ!あいつに頼まれたんだよ!」

 

「っ!」

 

俺たちはその学生が指差した方に視線を向けると、それとほぼ同時に、その人影は路地へと逃げ込んでいた。

 

「待てっ!」

 

「ユリス!深追いはまずい!」

 

チラリとしか見えなかったが、黒ずくめの大柄の男で間違いない。

ユリスはその男を追って走り出す。

本来のユリスなら、そんな迂闊な行動をとることは無かっただろう。それほどまでに頭に血が上っている証拠だ。

俺たちは急いでユリスの後を追い掛け、路地へと入る。

 

「ユリス!」

 

ユリスに追い付くと、大柄の男が巨大な戦斧型煌式武装わ振り下ろし、それをユリスが横に飛び退いていた。

だが、

 

「綾斗くん!」

 

そこへもう一人の黒ずくめの男がユリスに襲いかかった。

その男の手にはアサルトライフル型の煌式武装が握られて、照準をユリスに合わしていた。

 

「伏せてユリス!」

 

「っ!?」

 

俺は瞬時に発動させた片手剣型の煌式武装を構え、ユリスを狙った光弾を煌式武装で切り弾く。

 

「よし」

 

光弾を全て切り弾くと、今度は反対側からクロスボウ型の煌式武装を構えた黒ずくめの男がもう一人いた。

そして、その照準を向けているのはユリスではない。

俺の方だった。

だが、この体制でその攻撃を回避したりすることは出来ない。

不意打ちとしては完璧なタイミングだ。

もしこの場にいるのが俺とユリスだけだったならば・・・・・。

 

「・・・・・・綾斗!ユリス!」

 

発射された光の矢が、風を抉るような速度で俺に向かってくる。

だが、俺を貫く前に光の矢は崩壊した。

オーフェリアの操る瘴気で上書きしたのだ。

 

「オーフェリアちゃん!綾斗くん!ユリスさん!大丈夫!?」

 

「・・・・・・ええ。無事よ」

 

「俺とユリスも無事だ、シルヴィ」

 

「全く、逃げ足の早いやつらだな」

 

ユリスの言った通り、周囲にはすでに襲撃者の姿はなかった。

 

「ほっ・・・・・よかった」

 

「取り敢えず私たちも退散した方が良いだろう。そろそろ、警備隊がやってくる」

 

「そうだね」

 

俺たちは急いでその場を離れ、地下鉄の駅に向かった。

 

「私だけでなく、オーフェリアらまで狙われたのだ。私の手で落とし前をつけてやる。そうでなければ気が収まらん」

 

「・・・・・・狙われているんだから無理しないようにねユリス」

 

「わかっている」

 

「・・・・・・」

 

ユリスの返事にオーフェリアは疑うような目でユリスを見る。

 

「では、またな」

 

「うん。またね、ユリス」

 

俺たちは、ユリスと分かれた後アスタリスク内にある、俺の自宅に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅

 

俺は、今目の間にいるシルヴィとオーフェリアから先程の闘いについて聞かれた。

俺の強さを知っているがために聞いているのだろう。

 

「え~と、その・・・・・・」

 

「・・・・・・綾斗?」

 

「綾斗くん?」

 

「・・・・・・ごめん、今は言えない」

 

俺がそう言うと、シルヴィとオーフェリアは悲しそうな顔をする。

まさか、言ってもらえないとは思ってなかったのだろう。

 

「だけど、近い内に必ず話す。だから今はまだ・・・・・・」

 

「・・・・・・綾斗がそう言うなら・・・・・・私は綾斗を信じるわ」

 

「うん。私も綾斗くんを信じるよ。いつか必ず話してね」

 

「ああ。ごめん、二人とも」

 

俺はこの時、近い内に、といってもまさか本当に1週間も立たずに話すことになるとはまだ思いもしなかった。




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それではまた次回、Don't miss it.!


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裏切り者

遅くなりごめんなさい。
次回は早く投稿できるようにします。


~綾斗side~

 

ユリスの様子がおかしい。

まず最初に俺がそう思ったのは、今朝教室に夜吹と入ったとき、挨拶をしたがユリスは何か考え込んでいるような返答だった。

そして、その手には一枚の紙が握られていた。

そして、放課後。

 

「ユリス、どうかした?」

 

「――――いや、なんでもない。すまないが、今日は用事がある」

 

「え?ちょ、ちょっとユリス?」

 

ユリスは俺の方を見ようともせずに席をたち、足早に教室を出ていってしまった。

 

「どうしたんだろう・・・・・・」

 

俺は教室を出るときに視界に入ったユリスの瞳を思いだし、呟いた。

ユリスの瞳は何か決意を決めたような瞳をしていたのだ。

 

「あらら、なんだかまた昔に戻っちまったみたいだな」

 

「昔って?」

 

「おまえさんが来る前はいつもあんな感じだったんだよ。頑なに誰とも関わらないでさ。せっかく雪解けしてきた感じだったのにな」

 

「・・・・・・・・・・」

 

俺は夜吹の話を聞きながら、ユリスの机を見る。

この時、俺はとてつもなく嫌な予感がした。

取り敢えず、昨日の件も含めてクローディアに報告しとかないといけないため、俺は教室の出口で夜吹と分かれ生徒会室に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室

 

 

「ごきげんよう、綾斗。お待ちしておりました」

 

生徒会室に入ると、室内にはクローディアだけらしくクローディアは1人執務机に座って俺を迎えた。

 

「クローディア。早速だけど昨日、またちょっかいをもらったよ」

 

「ええ。話だけは聞いています。今回はレヴォルフの生徒を使ったみたいですね」

 

「さすがに耳が早いね。・・・・・・それと、今回の襲撃の犯人がわかったよ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。―――――だよ」

 

「その根拠は?」

 

俺は―――――が犯人だと言う根拠をそっと耳打ちした。

 

「なるほど・・・・・・さっそく調べてみます。ところで、ユリスは?」

 

「そう言えば、用事があるとかで帰ったよ・・・・・・・って、ん?・・・・・・・ヤバいかもこれは・・・・・・」

 

「どう言うことですか?」

 

「恐らくユリスは―――――と決着をつけに行った」

 

「まさか・・・・・!」

 

「いや、多分そうだと思う。くっ、あの時気付いていれば・・・・・」

 

「しかしそうなるとどこに呼び出したんでしょう?」

 

「う~ん・・・・・・」

 

俺とクローディアは首を捻り、ユリスが向かった先を考える。

その時。

 

「ん?」

 

俺の携帯端末がなった。

 

「紗夜?」

 

かけてきたのは紗夜だった。

 

「どうしたの紗夜?」

 

『・・・・・・綾斗、助けて』

 

「助けて・・・・・・ってことはもしかして・・・・・・」

 

『道に迷った』

 

「え、え~と、ごめん、ちょっと今手が放せなくて・・・・・・ユリスを探さないといけないんだ」

 

『・・・・・・・リースフェルト?リースフェルトならさっき見た』

 

「え!?」

 

紗夜の言葉に驚いていると、

 

『・・・・・・綾斗、急にごめん』

 

紗夜とは違う空間ウインドウが出てきた。

 

「オーフェリア?どうしたの?」

 

かけてきたのはオーフェリアだった。

 

『・・・・・・ユリスが再開発エリアに向かって走っていくのを見たんだけど、何かあったの?』

 

「それ本当オーフェリア!?」

 

『・・・・・・ええ』

 

俺は紗夜とオーフェリアの言葉を聞き、クローディアに視線を向ける。

 

「恐らく、ユリスは再開発エリアにいるでしょう。そして、今回の犯人も・・・・・」

 

「だね」

 

『綾斗、オーフェリア。リースフェルトに何かあったの?』

 

「あー、その・・・・・」

 

『・・・・・・綾斗、もしかして・・・・・』

 

「オーフェリア、紗夜を迎えに行ってあげてくれる?」

 

『・・・・・・わかったわ。紗夜、辺りの風景を見せてくれないかしら?』

 

『わかった』

 

紗夜はオーフェリアの言う通り、スクリーンに周囲の映像を見せる。

 

『・・・・・・だいたいわかったわ。紗夜、迎えに行くからちょっと待ってて』

 

『おお~。助かる。ありがとうオーフェリア』

 

「あははは・・・・・・それじゃあオーフェリア頼んだよ」

 

『・・・・・・ええ。綾斗も無理しないで』

 

「わかってるって」

 

オーフェリアに紗夜を任せると、俺は空間ウインドウを閉じ、クローディアの方を向く。

クローディアは呆気に取られて俺を見ていた。

 

「本当に《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》と幼馴染なんですね」

 

「まあね。意外かな?」

 

「正直に言えばそうですね。彼女は最強の《魔女(ストレガ)》と言われ、他人からは畏怖の対象ですから」

 

「そう・・・・・・だね」

 

俺はクローディアからオーフェリアが他人から畏怖されていることを聞き、何があってもオーフェリアを守らなくてはと決意した。

 

「・・・・・・それにしても、どうしてユリスは何も言ってくれなかったんだろう」

 

「それは、ユリスは綾斗を守るべきだと思ったんですよ。以前にも話した通り、あの子は自分の手の中の物を守るのに精一杯なんです。その中にあなたも入ってしまったんでしょうね」

 

「ユリスが守る・・・・・?俺を―――ああ、そうか・・・・・・そう言うことだったんだね、姉さん」

 

俺は、あの時姉さんに言われた言葉の意味を理解した。

それは、とても単純なことだったのだ。

そして、今ならわかる。自分が『成すべきこと』が、なんなのか。

 

「綾斗?」

 

「いや、なんでもないよクローディア」

 

「そうですか?あ、綾斗、再開発エリアに行くならこちらをどうぞ」

 

クローディアは携帯端末を開き、何かを送信してきた。

送られてきたのは、再開発エリアのマップデータだった。

 

「ありがとう、助かるよ」

 

「いえ。それと――――」

 

クローディアは執務机に向くと、何かを取り出して俺に渡した。渡されたそれはシルバーのケースだった。

 

「調整は済んでいます。どうぞお持ちください」

 

中を開けると、そこには1つの純星煌式武装(オーガルクス)の発動体が収納されていた。

 

「ありがとう。それじゃあ行ってくるよ」

 

俺はそれを取ると、生徒会室から弾丸の速さで出た。

目指す場所は、ユリスのいる再開発エリアだ。

 

~綾斗side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ユリスside~

 

私は今再開発エリアにある廃ビルの1つを訪れていた。

解体工事中のそこは逢魔が時の薄闇を支配している。すでに一部の壁や床が打ち壊されているので広く感じられる。が、あちこちに廃材が積まれているため死角は多い

それでも私はためらうことなく奥へと進んでいった。

傾いた日が不気味な影模様を作り出す中、険しい顔で黙々と歩みを進める。

もちろん、警戒は怠らずに。

が、一番奥の区画へ足を踏み入れた途端、吹き抜け状になっている上部分に視線も向けずに私は呟く。

 

「咲き誇れ―――隔絶の赤傘花(レッドクラウン)

 

星辰力(プラーナ)を纏わせ言うと、私を守るように五角形の花弁が現出し、落下してきた廃材をすべて跳ね除ける。

私を守る五角形の花弁の姿、それはまるで炎の傘のようだ。

 

「今更この程度で私をどうにかできると思っていたないだろう?いい加減姿を現したらどうだ―――」

 

屋上まで貫いた吹き抜けの更に向こうにはうっすらとした月が浮かんでいるのが見える。

弾かれた強化鉄骨が床に突き刺さり、廃材が巻き上げた土埃がもうもうと立ち込める中、一人の少年がゆっくりと姿を現した。

 

「――――サイラス・ノーマン」

 

「これは失敬。余興にもなりませんでしたか」

 

痩せた少年―――サイラスは、芝居がかかった仕草で頭をさげる。

 

「よく僕が犯人だとわかりましたね?」

 

「昨日、貴様が口を滑らせたお陰でな」

 

「昨日?はて、なにか失敗しましたか?」

 

「昨日、商業エリアで顔を合わせたときにあいつの連れがレスターを挑発しただろう?あの時、貴様はレスターを止めようとこう言ったのだ。『決闘の隙を伺うような卑怯なマネ、するはずがありません』とな」

 

「・・・・・・それがなにか?」

 

「どのニュースも私が襲撃者を撃退したと伝えただけで、そのとき沙々宮と決闘していたことを伝えていない。決闘の隙を狙った、と言うことを知っているのは直接見たか、あるいは知らされたか・・・・・・いずれにしろ犯人かその仲間以外ありえんのだ」

 

「これはこれは、僕としたことが・・・・・・と、するとあの時の天霧くんの連れの女性たちは、あえてレスターさんを挑発した・・・・・・」

 

「だろうな・・・・・・あいつらはあれくらいの腹芸をやってのけるからな」

 

「ふむ・・・・・・やはり標的を天霧くんに変えたのは正解だったみたいですね。まあ、天霧くんの連れの女性は予想外でしたが・・・・・・。あなたを狙う上で彼はいかにも邪魔者だ」

 

「っ!貴様・・・・・・!!」

 

「フッフッフ・・・・・わかっています。わかっていますよ。あなたがわざわざ此処に足を運んでくださったのは、そうさせないためでしょう?だったら取引をしませんか?」

 

「取引だと・・・・・?」

 

「はい。こちらの条件は、あなたの《鳳凰星武祭(フェニクス)》出場辞退です」

 

「・・・・・・・・・話にならんな」

 

私は腰のポーチから細剣(レイピア)型の煌式武装《アスペラ・スピーナ》を取り出し、展開する

 

「ここで貴様を叩きのめせば済むことだ!」

 

「・・・・・・・・フ」

 

私は煌式武装の切先をサイラスに向け構える。

サイラスは余裕の表情で私を見る。

その時。

 

「今の話は本当かサイラスッ!」

 

私の背後から聞き飽きた程、聞き慣れた声が聞こえた。

私は声のした方に顔を向ける。

そこにいたのは――――

 

「レスター!」

 

「やあ、お待ちしてましたよ。レスターさん」

 

「ユリスが決闘を受けたと聞いて来てみれば・・・・・・!」

 

レスターはそのまま、私たちの方に歩いてくる。

 

「てめぇがユリスを襲った犯人だと!」

 

「こいつはどこぞの学園から依頼を受けて、《鳳凰星武祭》に出場する有力学生を襲っていたのだ。知らなかったのか?」

 

「同じ学園の仲間を売ったのか!」

 

「仲間?ははっ、ご冗談を」

 

サイラスは何が可笑しいのか笑いながら首を振る。

 

「ここに集まっている者は皆敵同士じゃありませんか。チーム戦やタッグ戦のために一時的に手を組むことはあっても、それ以外ではお互いを蹴落とそうとしている連中ばかりです。あなた方のように序列が上位の人はよくお分かりでしょう?必死で闘って、血と汗を流して勝って、ようやくそれなりの地位を手に入れたと思ったら、今度はその立場を付け狙われる。僕はそのように煩わしい生活は真っ平なんですよ。同じくらいに稼げるのであれば、目立たずひっそりとしていたほうが賢いと思いませんか?」

 

「・・・・・・・貴様のの言い分にも一理あるな。学園では仲良しこよしの関係ではないし、名前が広まれば煩わしさもついてくる。現に、私はレスターに事あるごとに決闘を申し込まれているからな」

 

「おい、ユリス・・・・・・」

 

レスターは私の言葉に顔をしかめる。

 

「だが――――決してそれだけではない」

 

「おや、これは意外ですな。あなたはどちらかと言えば僕に近い方だと思っていたのですが」

 

「こちらも心外だ。貴様のような外道と一緒にされるとはな」

 

私は話はこれで終わりとばかりにサイラスを睨み付ける。

 

「サイラス、なんでわざわざオレを呼び出した?」

 

「あなたは保険のような物ですよ。もしユリスさんとの交渉が決裂した場合、誰か代わりに犯人役をやっていただく必要がありますからね」

 

「オレがそれを聞いて、はいそうですかと引き受けるわけねぇだろ」

 

「ですから、お二人にはここで揃って倒れてもらいます。そうですね、お二人が決闘のあげく、仲良く共倒れと言うのが一番無難なところでしょうか」

 

今のサイラスの発言に私は少し、いや、かなりイラッときた。

レスターも同様に堪忍袋の緒が切れたようだ。

レスターは自身の持つ、煌式武装の発動体を取り出すとら展開する。レスターの煌式武装は三日月斧型の戦斧《ヴァルディッシュ=レオ》だ。

 

「おもしれぇ、てめぇのチンケな能力でオレを黙らせるっていうなら、是非ともやってもらおうじゃねぇか」

 

「レスター、あまり先走るな。何を仕掛けてくるかわからないぞ。やつも《魔術師(ダンテ)》なのだろう?」

 

「あいつの能力は物体操作だ。せいぜいそこら辺の鉄骨を振り回すことしかできやしねえさ。ユリス、てめぇは手を出すんじゃねぇぞ!」

 

レスターが地を蹴ると、一瞬のうちにサイラスとの距離を詰めた。

私は気を抜かずに、レスターとサイラスを見る。

 

「くたばりやがれ!」

 

レスターの振るう三日月斧がサイラスに命中する、が、その寸前。

 

「なにっ!?」

 

突如上から降ってきた黒ずくめの男が間に入りそれを防いだ。しかも、素手でだ。

 

「へっ!そいつがご自慢のお仲間ってやつか」

 

「仲間?くくっ、バカを言わないでください」

 

笑いながらそう言いサイラスが指を鳴らすとさらに黒ずくめの大男が数人姿を現した

 

「こいつらはかわいいかわいい僕のお人形ですよ!」

 

黒ずくめの男たちがローブを脱ぎ捨てるとまさしく人形と言うにふさわしい機械人形がそこにいた。

 

「なるほど、戦闘用の擬形体(パペット)か・・・・・・?」

 

私は冷静に観察しその人形をみてそれとなく呟いた。

擬形体、それは戦場で使われる、いわゆる機械兵器だ。主に遠隔操作用のが用いられる。だが、それらを扱うには専門の施設を必要とする。

いくらサイラスが他学園の生徒だとしてもそこまで大掛かりなものは用意できるとは思えない。

 

「あんな無粋なものと一緒にしないでください。こいつらに機械仕掛けは施してませんよ」

 

サイラスの言ってることが確かなら動くはずがない。だが、現にそれらは動いていた考えられるとすれば一つだけだ。それは――――

 

「なるほど、それが貴様の能力というわけか・・・・・・」

 

そう、サイラス自身の魔術師としての能力ならば簡単に説明がつく。

機械仕掛けではない人形を動かせても不思議ではない。

それに私が襲撃されたときなぜ気配をギリギリまで察知できなかったのか理由も簡単だ。

人であるならまだしも機械・・・・・・人形であるなら気配を察知するのは難しい。それこそ“理”に至っている人間、例えば界龍の序列一位《万有天羅》なら機械の気配すらも感じられそうではあるが・・・・・・

そもそも私は武の領域でそこまで至ってはいない。それこそ界龍の序列二位や三位ならば至っているとは思うが。もちろん今戦っているレスターもその限りではない。

 

てめぇ、隠してやがったのか!自分じゃナイフを操るぐらいが関の山とかほざいてやがったくせに!!」

 

「まさか、それを信じていたんですか?あはははは!いや、これは失敬。ですが、冷静に考えて下さいよ。わざわざ、手の内を見せる馬鹿がどこにいますか?」

 

レスターの言葉に、サイラスは大げさに肩をすくめてみせる。だが、サイラスの言う通りだ。

最初からサイラスがこの計画を練っていたのだとしたら能力をわざわざばらす必要はない。

ばらせばそれこそ計画の妨げになるからだ。

 

「レスターさんの言う通り僕の能力は印を結んだものに万応素(マナ)で干渉し操作すること。それが無機物である以上、たとえこの人形のよう複雑な構造であっても干渉することが可能です。もっともこのことを知ってる星導館の学生はいませんけどね」

 

「貴様はターゲットをその人形共に襲わせていた。そして貴様が人形をコントロールできることを知らないのであれば、貴様を捕まえるのは難しいだろう」

 

魔女(ストレガ)》や《魔術師》が犯罪行為をした場合、極めて立証が難しいのが現状だ。そのためどこの国でも登録が義務付けられている。

だが、サイラスのように能力を隠すというのもあるが《星脈世代(ジェネステラ)》でも特に《魔女》や《魔術師》の数が極めて少ないのも理由のひとつである。

 

「くだらねぇ!そんなものここで、てめぇを張り倒して風紀委員にでも突き出せば済むことだ」

 

「それはあなた方が無事に帰れたらの話でしょう」

 

「いいだろう、だったら次は本気で行くぜ!」

 

そう言うとレスターは自身の持つ煌式武装《ヴァルディッシュ=レオ》に星辰力を込める

するとレスターの持つ戦斧《ヴァルディッシュ=レオ》が二倍近く大きくなる。

私もサイラスも知っているレスターの必殺の流星闘技(メテオアーツ)

 

「喰らいやがれ、《ブラストネメア》」

 

巨大化した三日月斧型煌式武装をレスターは振り下ろす。

レスターの必殺の流星闘技(メテオアーツ)によってサイラスの人形は三体同時に吹き飛ばされ三体のうち二体は完全に機能が停止していた。

腕などがありえない方向にねじ曲がっている。

最も三体目の大男タイプの機械人形はヒビが入っただけの軽症ですんでいるが。

 

「ほう、ちっとは丈夫なやつがいるじゃねぇか・・・・・・」

 

軽症の人形を見たレスターが不敵な笑みを浮かべる。

驚かない様子を見るとあらかじめ、予期していたのかそれともまだ自分に自信があるのかだが、レスターの性格上、後者だろうと私は結論付ける。

 

「これは対レスターさん用に用意した重量型です。通常のノーマルタイプとは防御力が違いますよ。体格も武器もあなたにあわせてあります。いざという時、代わりを務めてもらうためにね」

 

「オレ様に罪を着せるためにか?ってことはそのクロスボウ型の煌式武装を持った人形はランディ役か?」

 

「ま、そんなところです」

 

「ふん、わざわざご苦労なこった。だが、残念だったなそいつは無駄に終わりそうだぜ!」

 

再びレスターは煌式武装《ヴァルディッシュ=レオ》を振り下ろす。が、その刃が重量型の人形に届く寸前、柱の影から現れた新たな人形がレスターの背中にに光弾の嵐を浴びせていた

 

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「レスター!!」

 

私は飛び出そうとするがそれを阻むように人形が目の前に立ちふさがる。

 

「おっと、貴女はそこでおとなしくしておいてください。そいつらも特別仕様でしてね、貴女用に耐熱耐性を限界まであげてあります」

 

「くっ・・・・・・」

 

私を囲むように更に数体の人形が現れる。

それぞれ、その手には剣型の煌式武装が握られている。

私はすかさず細剣型の煌式武装《アスペラ・スピーナ》を構える。

 

「ぐっ・・・・・・。きたねぇ、不意打ちしか出来ねぇようだな・・・・・・」

 

光弾を背中に受けたレスターは膝をつきサイラスを睨みつける。

 

「おや、存外に元気ですね」

 

とっさに星辰力を防御に回したのだろう。だてに序列九位と言うわけではないのだろう。思いのほか元気そうだ、所々に血が目立つがレスターほどの男なら大丈夫だろう。

 

「こ、こんな木偶の坊、何体かかってこようとオレ様の敵じゃ・・・・・・」

 

「やれやれ、レスターさん。あなたは何も理解していない」

 

その瞬間レスターの前にまた新たな人形が現れる。吹き抜けから飛び降りてきたのだ。

それだけではない人形は更に一体また一体と飛び降り、増えていく。その数今確認できるだけでも十や二十を大きく凌駕していく。

 

「何体でかかってこようと?いいでしょう、それならお望み通り相手してあげますよ。僕の操作できる最大数――――百二十八体の人形でね!」

 

「ひゃく・・・・・」

 

レスターの先程の自信に満ちた表情は消えそこには恐怖や絶望しかなかった。

私自身も百二十八と言う数に驚愕している。

 

「あぁ、いい表情です。そうそう、あなたのそういう表情がみたかったんですよ。それでは・・・・・・ごきげんよう」

 

サイラスが合図を出すと百体以上の人形が一斉にレスターへと襲いかかった。

 

「やめろ、サイラス!!」

 

私は叫びながらもなんとか人形たちの包囲網を突破しようと試みるがなかなかうまいように突破できないでいる。一体一体の人形の戦闘能力はそれこそ大したものではない。言うならば雑魚の類だ。

だが、この人形たちは連携が何かと上手い、それが未だに私が突破できない理由の一つだ。

そして人形の数が余りにも多すぎる。これではきりが無い。

 

「ご安心を、まだしばらく息をしてもらわないと困ります。なにしろレスターさんは貴女が倒したことにしないとマズいですからね!適当に火種を用意しませんと」

 

「咲き誇れ!呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!」

 

《アスペラ・スピーナ》を振るうと魔法陣が描かれそこから巨大な焔の竜が出現する。

 

「おぉ、これは初めて見ますね」

 

サイラスが感心したようにつぶやくがそれを無視して焔の竜を操り人形たちをその焔の竜が呑み込んでいく

 

「おお!?」

 

耐熱耐性を限界まであげてると言ったその人形も意味をなさずいとも簡単に焼き尽くす。

 

これは大したものですね。さすが、序列五位は伊達ではないということですか・・・・・・!」

 

サイラスは一旦距離を私から取ると指を鳴らす。

 

「しかし多勢に無勢です」

 

サイラスの合図とともに人形たちは焔の合間をくぐって迫ってきた。

 

「くっ・・・・・・」

 

細剣《アスペラ・スピーナ》で応戦するが、とてもさばききれない。

それは少しでも集中を乱せば今出してる≪呑竜の咬焔花≫のコントロールが効かなくなるからだ。

そのため近づいてきた人形たちに対処しきれない。

 

「舐めるな!!」

 

私は目の前の鍔競り合いになっている人形を弾き後ろから襲いかかってきている人形を刺して戦闘不能にする

だが人形はまだ余るほどある。数体やられた程度ではなにも変わらないだろう。

レスターを倒し終えたのかレスターの方に向かっていた人形たちもこちらに向かってきている。

更にサイラスの前にいる人形たちが銃をユリスに向けていた。

盾にするべく焔の竜を呼び戻すが―――――――

わずかに間に合わなかった。

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

レスターを撃ったのと同じ光弾の嵐が私を打ち抜いていった。

苦悶の表情を浮かべながらも立ち上がろうとするが身体に力が入らず立てない。

幸いわざとなのか致命傷は避けてるようで命に別状はない。私がダメージを受けたせいか焔の竜はあっけなく消えてしまった。集中力が欠けたためだ。

 

「貴方の能力は強力ですが、自身の視界を塞いでしまうのが難点ですね」

 

「ふん、流石によく観察しているじゃないか。だが、私にもひとつわかったことがある」

 

「なんです?」

 

「貴様のバックにいるのがアルルカントであるということだ」

 

その言葉にさっきまで余裕の笑みを浮かべていたサイラスから笑みが消えた。どうやら図星らしい。

シルヴィアやオーフェリアが言っていた通りアルルカントだと、私が気づいたのにはサイラスの操る人形が答えだった。

 

「その人形特別仕様とか言っていたな?だが、私やレスターの攻撃に耐えうる装甲をどこで手に入れた?ましてその人形の数からみてもバックにどこがいるのか一目瞭然だ。ま、あの二人のお陰でもあるんだがな」

 

「これはこれは。ご明察。これはいよいよ見逃すわけにはいかなくなりましたね」

 

「元々、そんなつもりないくせによく言う」

 

「なぁに、貴女もレスターさんももう少し痛めつけてからと思いましたが気が変わりました」

 

サイラスが合図すると一体の人形が巨大な戦斧型煌式武装を私に向かって振り下ろしていた。

普段の私なら簡単に避けるか破壊出来ただろう、だが先程の人形の攻撃を喰らったせいでうまく動けずにいた。

躱すことも、歩くことも簡単でないそんな状態で人形の攻撃など、かわせるはずがない。

私は咄嗟に痛みに耐えるため目を瞑った。

だが、いつまでたっても痛みはこない。

ゆっくりと目をあけてみるとそこには両断された人形が視界には映っていた

 

「ごめん、ユリス。遅くなった・・・・・・」

 

そして、目の前には人形を両断したであろう人が立っていた。

黒く大きな剣型の煌式武装。いや、純星煌式武装を持って。

 

~ユリスside out~




次回はついに決着です。


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解き放たれし者

やっと1巻が書き終わった~
次回から2巻目かな~


~綾斗side~

 

 

「ごめん、ユリス。遅くなった」

 

駆けつけた俺は、今まさにユリスに向かって振り下ろされる斧型煌式武装とユリスの間に入り、展開させた純星煌式武装《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》で振り下ろされる煌式武装と人形(パペット)を薙ぎ払い切り裂いた。

俺が凪ぎ払ったのとと同時にユリスを一陣の風が撫でた。

 

「綾斗っ!?・・・・・おまえ、どうしてここに・・・・・・?」

 

「紗夜とオーフェリアのお陰だよ」

 

「沙々宮とオーフェリアが・・・・・・?」

 

「うん」

 

「まさか、私を助けに来たとでも言うつもりか・・・・・・?」

 

「え?いや、言うつもりか、も何も助けに来たんだけど?」

 

「なっ・・・・・・!?これは私の問題で、おまえとはなんの関係もないはずだ。 それなのにわざわざ危険な目に遭いに来たと言うのかおまえは!?」

 

「んー・・・・・・ユリスだけの問題じゃないかな?現に俺も紗夜もオーフェリアもシルヴィも巻き込まれちゃってるし。 それに・・・・・・ねぇ、ユリス。人と人が関わってる以上関係ないなんてことはないと思うよ。俺はもうユリスと関わってるんだから」

 

俺がユリスにそう言うと、何体かの人形が煌式武装(ルークス)を構えて迫ってきた。

 

「綾斗!」

 

ユリスが警告するように言い、俺は迫ってくる人形を検分する。

 

「5体・・・・・か」

 

迫ってくる人形はどれも近接煌式武装を装備した人形だ。

 

「何呑気に言ってるんだ、おまえは!?」

 

ユリスは焦ったように言うが、俺は焦らない。

 

「ふっ・・・・・・!」

 

俺は一薙ぎで迫ってきた人形5体を2分割にする。

僅か一刀で切り裂いた人形の切断面に残る鋭い切れ味は、通常の煌式武装とは比べ物にならないくらいだ。

 

「これが・・・・・・《黒炉の魔剣》・・・・・・」

 

後でユリスが感嘆としているのが感じ取れた。

俺が先日行った純星煌式武装(オーガルクス)≪黒炉の魔剣≫での適合率検査で合格したことは、ユリスも知っているはずだ。だが、ここまでの純星煌式武装だとは思わなかったのだろう。

 

「いやはや、思わぬ飛込みゲストですね。天霧綾斗くん」

 

自身の周りに人形を従わせているサイラスは芝居がかかった仕草で肩をすくめる。

一瞬で人形が数体一刀両断されたというのにサイラスの表情に焦りは感じられない。まだ余裕があるということなのだろう。

 

「今のが《黒炉の魔剣》の力ですか・・・・・・。なるほど、少々厄介ですね・・・・・・しかし、使い手が二流だと折角の純星煌式武装も宝の持ち腐れというものです。綾斗くん、あなたの戦いぶりは拝見しましたが、正直この学園に置いて凡庸の極みです。先ほどはうまく不意打ちが行えたようですが・・・・・・百体を超える僕の人形たちになにができると――――」

 

「―――黙れ。不意打ちしかできないのはあなたのほうだろ、サイラス・ノーマン」

 

俺はユリスを左手で支え、右手だけで構えた《黒炉の魔剣》の切っ先をサイラスに向け、冷たい、底冷えの声で言う。

 

「・・・・・・言ってくれますね。でしたら試してみますか?」

 

サイラスはそう言い指をならすと、居並んでいる人形たちがそれぞれ煌式武装を構えた。

 

「これだけの数を一人でどうにかできるというならやってみるがいい!」

 

サイラスの言葉と同時に、四方から遠距離型煌式武装を装備した人形の放つ光弾が乱れ飛び、その合間を縫って剣や斧、槍、短剣といった近接煌式武装を持った人形が飛び掛かってくる。

光弾が迫り来る寸前、俺はユリスを左手で抱き抱え跳び退りかわす。

 

「―――――内なる剣を以って星牢を破獄し・・・・・・・我が虎威を解放す!」

 

俺は自分に施された枷を解放するための祝詞を言う。

苦悶の表情が浮かばせながら俺は、自身の星辰力(プラーナ)が爆発的に高まったのを感じた。

自身の周囲に、複数の蒼く輝る魔方陣が浮かび上がり、蒼光の火花を散らして砕け散った。封印されていた星辰力が解放され、蒼い光の柱が俺とユリスを包み込んだ。

 

「綾斗・・・・・・・」

 

次の瞬間、俺はその場から消えて去っていた。

 

「は・・・・・・?」

 

サイラスは唖然と間抜けな声を漏らす。

それと同時に何かが切られる音があちこちに響いた。

サイラスの周りには高熱で焼ききられたように赤熱した切断面が残る人形の残骸があった。

もちろん斬ったのは俺だ。

襲い掛かってきた人形を俺は一瞬の内に斬り裂いたのだ。

 

「・・・・・・なっ!ば、馬鹿な!?」

 

「ここだよ」

 

「ひっ!」

 

俺は一振りで人形を薙ぎ払い、サイラスの斜め後ろにユリスを抱えて回り込んだ。

サイラスは恐怖のあまり引きつっている。

 

「な、な、な・・・・・?」

 

「お、おまえは一体・・・・・・!?は、早く私を下ろせ!足手まといになるつもりはない!」

 

「悪いけど、もう少しだけ我慢してくれないかな」

 

「い、いや、しかしだな。さすがにこれではオーフェリアとシルヴィアに・・・・・」

 

「ああー・・・・・・・まあ、事情を話せばわかってくれると思うよ」

 

「・・・・・・・・」

 

まあ、確かに後でシルヴィとオーフェリアに何か言われると思うけど。

俺は頭でそう思考してサイラスに《黒炉の魔剣》の切っ先を向ける。

 

「ぐっ・・・・・・。次は本気でいかせてもらいますよ・・・・・・!」

 

サイラスの言葉に、人形たちが整然と隊列を組み始めた。

前列には槍や戦斧などの長柄武器、後列は銃やクロスボウなど、その間を剣や手斧を装備した人形が埋め、最後列にサイラスが指揮官のように鎮座した。

 

「これぞ我が《無慈悲なる軍団(メルツェルコープス)》の精髄!凌げるものなら凌いでみせろ!」

 

サイラスが言い終わると同時に前列の人形たちが猛然と突っ込んできた。

一斉に繰り出される穂先を真上に跳躍してかわす。だが、そこへ狙いすましたかのように光弾が叩き込まれた。

 

「へぇー・・・・・・」

 

俺は《黒炉の魔剣》の腹で防ぎ、光弾を切り裂く。が、今度は着地の隙をついて剣や手斧を構えた人形たちが飛び掛かってきた。

 

「よっと!」

 

俺は攻撃せずにステップでリズムよくかわす。リズム感は昔、シルヴィに教えられたというか強制的に鍛えられたので出来る。

まあ、オーフェリアと紗夜も一緒に特訓はしたが。

 

「なるほど、個別に動かせる人形は、せいぜい六種類までなんだね?」

 

俺は光弾を防ぐため、近くの柱を盾に身を隠し言う。

 

「はぁ?」

 

「そして、ある程度パターン化するのが十六体。残りは単純な動きをしてるだけだ」

 

「・・・・・・・」

 

「ああ、六種十六体ということは―――――」

 

俺は身を隠していた柱から出て、サイラスに向き合い言った。

 

「――――チェスのイメージなのかな?」

 

「くそがああああああああああああああああああああ!」

 

先ほどの余裕の表情は消え、一転して顔を真っ赤にしてサイラスが吠えた。

 

「潰れろッ!潰れてしまえッ!」

 

再度人形たちが襲い掛かってくるが今度は避けない。

 

「遅いよ」

 

今の俺には人形たちの行動が手に取るように見える。

雲霞のごとき人形の群れに向かって歩きながら《黒炉の魔剣》を無造作に振るう。

 

「動きが単調すぎる。これじゃあ相手にならないよ、っと」

 

向かってくる人形を次々と切り裂いて地に付していかせる。

俺は、今度は人形の群れに突っ込んで行き斬る。

 

「ば、バカな・・・・・・」

 

人形たちは煌式武装で防ごうとするが《黒炉の魔剣》はそれすらも切り裂いていく。

 

「一切防御のできない剣だと・・・・・・ありえない・・・・・・ありえるはずがない・・・・・・」

 

サイラスは脅えた表情で言うのが聞こえた。

現実に起こっていることが信じられないのだろう。

 

「ゲームはおしまいだよ、サイラス」

 

数十秒後には全ての人形が切り裂かれていた。

 

「あ・・・・・・ああ・・・・・・・ああぁ・・・・・・・」

 

サイラスは腰抜けたように後ずさる。

 

「ま・・・・・・まだだ、僕には奥の手が、あるッ!」

 

突如サイラスの後ろの瓦礫の山から何かが現れた。

 

「・・・・・・!」

 

現れたのはこれまでの人形の5倍はあるだろう程の身丈をもった人形だ。

 

「ふ・・・・・は、ははは!さあ、僕のクイーン!――――やってしまえ!」

 

サイラスの命令に従い、その巨体に似合わぬ素早い動きで迫ってきた。武器は何も持っていなかった。

 

「ふぅ・・・・・・・」

 

俺は迫ってくる巨大人形を目に、小さくため息をつき、《黒炉の魔剣》を構え直す。

そして、巨大人形の両拳の振り下ろしがきた。

俺はそれを左横に飛んでかわす。

 

「五臓を裂きて四肢を断つ―――――」

 

巨大人形の横に立ち。

 

「天霧辰明流中伝―――」

 

巨大人形が俺たちに気づいたのと同時に、人形の懐に入り、

 

「"九牙太刀(くがたち)"!」

 

両手足を切り裂き、倒れる前に胴体にYの字を刻むかのようにして切り裂いた。

次の瞬間には地響きを立てて両手足を失った人形はサイラスの方に倒れた。

 

「ひ、ひぃぃ!」

 

転がるようにかけながら、半泣き顔で人形の残骸の一番上に乗っかっていた人形にすがり付いた。

すると、サイラスの体がフワリと浮いた。どうやら、人形にしがみ付いて《魔術師(ダンテ)》としての能力を発動させたようだ。

 

「往生際が悪いなぁ」

 

俺は人形にしがみついて吹き抜けを上っていくサイラスを見上げてそう言う。

 

「ごめん、ユリス。ちょっと追いかけてくるから、ここで待っていてくれるかな」

 

「それはいいが、間に合うのか?」

 

「・・・・・・正直、微妙なところだと思う」

 

視線を上げるとすでにサイラスは屋上近くまで上っていた。

 

「ふん、だったら私の出番だな」

 

「え・・・・・・?」

 

「言ったはずだ?足手まといにならないとな!」

 

ユリスが不適に笑い言うと、星辰力があふれでた。

 

「咲き誇れ―――――極楽鳥の燈翼(ストレリーティア)

 

ユリスが言うと、俺の背中に万応素(マナ)が集約し、緋色の魔方陣が現れた。その魔方陣からは三対六枚の紅い、焔の翼が現れた。

 

「うわっ!」

 

「行くぞ、コントロールは私がする!」

 

ユリスはそう言うと、翼を羽ばたかせ、俺とユリスを空中に浮かばせる。

サイラスの後を追うように、吹き抜けを昇っていく。

 

「今度こそあの卑怯者に一発かましてやれ!」

 

「それ・・・・・・お姫様の台詞じゃないよね」

 

そして、あっという間に廃ビルから飛び出し、前を行くサイラスを追い抜いて反転した。

反転してサイラスを見ると、空浮かぶ人形に掴まりながら驚愕に目を見開く人形遣いがいた。

 

「チェックメイトだ!サイラス・ノーマン」

 

「や、やめ、やめろおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

サイラスに迫り、すれ違い様に一閃。

人形はその一閃で真っ二つに切り裂かれ粉々に砕け散り、サイラスは廃ビルの谷間に落ちていった。

 

「まあ、サイラスも星脈世代(ジェネステラ)だしこのくらいでは死なないさ。それに、下にはクローディアたちが待ち構えているはずだし、後はそっちにまかせようか」

 

「そうだな・・・・・・」

 

いろいろあったが、とにかくこれにて一件落着だ。

空に浮かんでいるため、強く吹き抜けていく風が心地よい。

 

「綺麗だ・・・・・・」

 

「ああ・・・・・・絶景だなこれは」

 

沈み行く夕日が、都市を赤く染め上げていて、街も空もどこもかしも赤い。

 

「さて、これ以上おまえといると、あの二人に怒られてしまうな」

 

「う、う~ん。どうだろ――――ぐっ!」

 

「ど、どうした?」

 

俺の苦痛な表情にユリスが驚いて尋ねてきた。

だが、その答えを返すことが出来ない。

 

「な、なんだこれは・・・・・・?」

 

ユリスが驚いたように俺の周囲を見る。

周囲には万応素が俺を中心として集約されていた。それもとんでもない量の万応素だ。

 

「ぐっ!」

 

「綾斗!おい、綾斗!」

 

「ああああああああああああっ!」

 

俺の絶叫と同時に、複数の魔方陣が俺を取り囲む。さらにそこから蒼く光輝く鎖が、何重にも俺の体を縛り付けていった。

 

「これは、先ほどの―――!?」

 

「う・・・・・・っ」

 

「お、おい!しっかりしろ、綾斗!お―――あ―――と――――!」

 

ユリスが何か言うが、俺は何も聞こえなかった。

意識が、暗闇に落ちていったのを感じ取った。

 

~綾斗side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~オーフェリアside~

 

「・・・・・・この万応素は―――――!?」

 

「・・・・・・オーフェリア?」

 

「・・・・・・紗夜、ちょっとついてきてくれるかしら?」

 

「・・・・・・わかった」

 

私は迎えに行った紗夜を連れて、先ほどの感じた万応素の場所へと向かう。

その万応素は私が知っている感じの万応素だった。

 

「・・・・・・綾斗――――!」

 

~オーフェリアside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~シルヴィアside~

 

「!?この万応素の反応は――――!?」

 

私はふいに膨大な万応素を感じ取った。

 

「今感じた万応素もしかして――――」

 

歩んでいた道から反転して、万応素の反応があった場所へとかける。

 

~シルヴィアside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

「―――ごめんね、綾斗」

 

「姉さん・・・・・・?」

 

薄暗い道場の中、一人の少女と少年がいた。

道場の中を照らすのは冊子から出る、月明かりだけ。

少年の前にいる少女の様子がどこかいつもと違っていた。

 

「――――ごめんなさい」

 

「え・・・・・・?」

 

少年が不思議に思って口を開く。

その時、天地がひっくり返ったかのような猛烈な衝撃が少女を襲った。

 

「うわあああああああああああああああああっ!」

 

少年の喉から出る絶叫が響き渡る。

高電圧の電流が流されたかのような激痛が体中を走り、思わずのたうち回りそうになる。だが、それは出来なかった。突如として、その体を戒めるように、虚空に現れた魔方陣から現れた碧紫色の無数の鎖が縛り上げた。

少年はかろうじて視線を上げると、目の前の少女がかざした手の周囲に複雑怪奇な魔方陣文様が浮かんでいた。

少年にはこれがなんなのかわかっていた。幼馴染みの女の子が目の前の少女と同じだからだ。その力は《魔女(ストレガ)》と呼ばれる者だけが持つ魔性の力。

少女の《魔女》としての能力は、森羅万象の流れを封じ、万物を押し留める禁戒の力。

だが、少女はその力を嫌っていた。なによりも少年に向けてそれを使うなどと言うことがあるはずがなかった。

 

「ね、姉さん・・・・・・なんで・・・・・・?」

 

「ごめんね、綾斗。――――――円輪の枷鎖を以って汝が虎威を禁獄す」

 

目を伏せたまま厳かに少女が呟くと、その瞬間、少年の感覚が弾けるように消え失せた。

意識が朦朧としするなか、視界の端に紫色の長い髪の幼馴染みの女の子の姿が見えた。少年の三人の幼馴染みの内、二人は海外に引っ越してしまい、少年の最後の幼馴染みだった。

 

「綾斗くん・・・・・・!」

 

幼馴染みの女の子は倒れる寸前の少年の体を支えた。

 

「遥お姉ちゃん・・・・・・どうして・・・・・・?」

 

「昔、言ったよね?あなたはあたしが守ってあげるって。だから―――」

 

少女の声が遠のく中、少年はすがり付くように女の子に支えられながら右手を伸ばす。

 

「嫌、だ・・・・・・!俺だって、姉さんを守るって・・・・・!」

 

「シルヴィアちゃん、綾斗のことお願いね」

 

「遥、お姉ちゃん・・・・・・」

 

「い、や、姉、さん・・・・・・・」

 

「じゃあね、綾斗――――大好きだよ」

 

それが少年の思い出に残っている、少女の最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

これは今から五年ほど前の、ある日の夜のことだった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

~綾斗side~

 

 

目を見開くと、俺の目の前にシルヴィとオーフェリアが心配そうに眉を寄せる顔があった。

 

「あ。綾斗くん、気が付いた?」

 

「・・・・・・大丈夫綾斗?」

 

「ええっと、ここは・・・・・・ぅぐっ!」

 

二人が何故ここにいるのかわからない俺は身体を起こそうとするが、激痛が走り顔をしかめる。

その激痛のおかげで思い出す。

 

「そっか―――やっぱり気を失っちゃったか」

 

「あまり無理をするな、綾斗」

 

「・・・・・・無理は禁物」

 

「そうするよ―――――って!?シルヴィとオーフェリア!?しかも紗夜まで!?あれ!?まだ、夢の中なの!?」

 

「アホか。ここは現実だ」

 

「ユリス・・・・・・これどういう状況なの?」

 

「オーフェリアたちは、私がおまえをあの廃ビルの屋上に着いたのと同時に来た」

 

「そ、そうなの?ってあれ?俺、シルヴィたちにこの場所言ったっけ?」

 

「あーー、なんだ。オーフェリアたちはおまえの万応素を追いかけて来たらしいぞ」

 

「はい?え、どういう意味?」

 

「あはは。私たちは綾斗くんの万応素を頼りにここまで来たんだよ」

 

「・・・・・・シルヴィアの言うとおり」

 

「――――らしい」

 

さすがにこれには俺も絶句するしかなかった。

ま、まあ、最強の魔女と歌姫なら可能―――――なのか?

 

「・・・・・・私はオーフェリアと一緒に。オーフェリアの後を追いかけていったら綾斗とリースフェルトがいた」

 

「そ、そうなんだ」

 

そう言えば、オーフェリアに紗夜を迎えに行ってもらっていたこと忘れていた。

 

「よっ・・・・・」

 

「あ。動いちゃダメだよ」

 

俺は頭を上げようとするが、シルヴィに押し止められた。その時気が付いた。俺の頭の後が何か柔らかい物の上に乗っていることに。

 

「この柔らかいものは・・・・・・・」

 

「私の膝だよ。気持ちいいかな?」

 

「え?う、うん」

 

シルヴィの顔が若干近かったわけがわかった。

俺はシルヴィにずっと膝枕されていだ。

オーフェリアは反対側で、やや不満そうに頬を膨らませていた。

 

「あのなぁ、この間私は言ったはずだぞ。あまり人前でイチャイチャするなって」

 

「あー、うん」

 

ユリスの呆れた声に俺は苦笑いで答えるしかなかった。

 

「・・・・・・・綾斗、聞きたいことがある」

 

「何、紗夜?」

 

「綾斗、シルヴィアとオーフェリアに告白された?」

 

紗夜が突然爆弾質問をしてきた。

 

「ゲホッ!コホッ!な、なんでそれを!?」

 

俺はその質問に噎せた。

 

「なんとなく。綾斗を見ているときのシルヴィアとオーフェリアの表情が何時もと違っていたから」

 

「「「鋭い。さすが紗夜(ちゃん)」」」

 

こういうときの紗夜の勘はとてつもなく鋭いのだ。

 

「あー。うん、告白されたよ」

 

「・・・・・・それで?」

 

「えーと、シルヴィとオーフェリアと付き合うことになりました。はい・・・・・・」

 

俺は正直に答えた。

シルヴィとオーフェリアは頬を赤くしている姿が見え、ユリスはやれやれと呆れていた。

 

「おおー・・・・・・・ついに、付き合うことになった。それは良かった良かった」

 

「え、え~と、それだけ?」

 

「・・・・・・?うん」

 

「ほ、他にはないの?」

 

「・・・・・・?私は綾斗とシルヴィア、オーフェリアの恋を応援する。それ以外に何がある?」

 

「あー、いや、何も」

 

俺はそう答えると紗夜は満足したように頷いた。

 

「全く。おい、沙々宮」

 

「なに、リースフェルト?」

 

「三人が付き合っていることは、不用意に話すなよ」

 

「・・・・・・それくらいわかってる」

 

「ならいい」

 

紗夜はユリスの言葉に首を縦に振って言う。

 

「・・・・・・ところで綾斗、さっきの万応素は何?」

 

「さっきのって?」

 

「・・・・・・綾斗の万応素を抑え付けた魔方陣の能力」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

俺はオーフェリアからの問いに口を濁らす。

 

「綾斗くん、さっきの万応素。あれって遥お姉ちゃんのだよね」

 

シルヴィが俺に聞いてきた。

 

「・・・・・・・・」

 

「もしかして、あの時遥お姉ちゃんが綾斗くんにしたのって・・・・・・」

 

状況がわからないオーフェリアたちは首をかしげた。

 

「・・・・・・・・・オーフェリア。さっきの魔方陣から発せられた能力は姉さんのだよ。そしてシルヴィ。シルヴィが推測してる通り、俺は姉さんに力の大半を封印されているんだ」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「・・・・・・姉さんの能力は万物を戒める禁獄の力なんだ」

 

「・・・・・・つまり、綾斗は綾斗のお姉ちゃんの能力によって力を封印されているってことよ、ユリス。でも、それで納得いったわ」

 

「そう、か・・・・・・。と言うことは、やはりあれがおまえの本当の実力なのだな?」

 

「そうとも言えるし、違うとも言える、かな」

 

「なんだそれは」

 

「だって満足に扱えないものを『本当の実力』なんて言うのはおかしいでしょ」

 

「十分使いこなしていたように見えたが?」

 

「制限時間内なら、ね。それに五分以上持ったのも今回が初めてなんだよ?しかもその後はこうして身動きすらままならなくなっちゃうんだから、とてもじゃないけど偉そうなことは言えないよ」

 

「・・・・・・つまり、綾斗は制限時間が超えると、反動で動けなくなるってこと?」

 

「うん」

 

紗夜の問いに肯定を示すと、四人は神妙な顔付きになった。

 

「・・・・・・おまえの姉は何故そんなことを?」

 

「出来れば俺も聞いてみたいんだけどね。でも、姉さん5年前に失踪しちゃってるんだ」

 

「・・・・・・ハル姉が失踪?」

 

「うん」

 

「・・・・・・なんで教えてくれなかったの?」

 

「うっ・・・・・。ごめん、紗夜」

 

「・・・・・・でも、まあ、綾斗にも綾斗で事情があったと思うし別にいい」

 

「紗夜・・・・・・」

 

「でも、シルヴィアとオーフェリアには謝っといたほうがいい」

 

紗夜は視線でシルヴィとオーフェリアを示す。

 

「二人ともごめんね、これの事言わなくて」

 

「・・・・・・綾斗には何かあると思っていたから・・・・・・それに、ちゃんと話してくれたからいいわ」

 

「そうだね。私も見ていたのに知らなくてごめんね綾斗くん」

 

「大丈夫だよ、二人とも。きっと姉さんにもなにか事情があったんだろうし、これにもきっと意味があると思うんだ」

 

俺は気まずそうに言うシルヴィとオーフェリアにそう言い、身体を伸ばす。

所々激痛はするが動けないほどじゃない。

 

「・・・・・・ところでユリス。聞きたいことがあるの」

 

「ん?なんだオーフェリア?」

 

「あなた《鳳凰星武祭(フェニクス)》に出るみたいだけど、そののタッグパートナーって、もう決まったのかしら?」

 

「うぐ・・・・・・!」

 

「その反応を見る限り、まだみたいね」

 

「そ、それはだな・・・・・・・」

 

ユリスは露骨に顔をしかめてオーフェリアからの視線をそらす。

 

「ユリス。なら、俺とパートナーを組んでくれないかな?」

 

「なに?」

 

「ユリスが言っていた基準値ほど、清廉潔白ではないけど真っ黒って訳じゃないし、頭の回転もまあ人並みくらいの早さはあると思うけど・・・・・・・・」

 

「ほ、本気なのか・・・・・?」

 

「うん」

 

「だ、だが、シルヴィアとオーフェリアはいいのか?わ、私が綾斗とタッグを組んで・・・・・・」

 

ユリスはシルヴィとオーフェリアの方を見て震えた声で尋ねた。いつもの自信に満ちた声とはまるで違う声だ。

 

「私はいいよ。綾斗くんが決めたことなら私は口出ししないもん」

 

「・・・・・・私は元々、綾斗にユリスのタッグパートナーをお願いしようとしていたの。だから、私はもちろんいいわよ」

 

「オーフェリア・・・・・・シルヴィア・・・・・・」

 

「・・・・・・あら?ユリス、ひょっとして照れてるのかしら?顔が真っ赤よ」

 

「ば、馬鹿、そんなわけあるか!」

 

ユリスはオーフェリアに指摘され恥ずかしそうに顔を背ける。

 

「・・・・・・ユリス?」

 

「・・・・・・まったく、本当に変わったやつだな、おまえは」

 

「それじゃあ・・・・・・」

 

「ああ!こちらこそよろしく頼むぞ、綾斗」

 

「こちらこそよろしくユリス」

 

俺とユリスの《鳳凰星武祭》でのタッグパートナーが今ここにできた瞬間だった。

まあ、俺は未だにシルヴィに膝枕されていると言う状況なのだが・・・・・・

 

~綾斗side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~outer side~

 

綾斗とユリスの《鳳凰星武祭》出場でのタッグパートナーが出来たとき、ある場所で――――――

 

 

 

 

「まさかやっちまったんじゃないでしょうね」

 

「大丈夫ですよ。まだ、息はありますから」

 

「ええ~・・・・・・」

 

街灯の影から染み出るように現れた少年と、不気味な形状の剣を握った少女は、目の前で全身から血を吹き出して倒れている少年を見て感嘆と話していた。

 

「取り敢えず、あとの処理はあなた方《影星》に一任します。なので、ちゃんと情報は引き出してくださいね」

 

「そりゃもちろん。うちらはそれがお仕事ですから」

 

「結構」

 

少年は横たわる少年―――――サイラス・ノーマンに視線を向け、肩をすくめる。

 

「で、あっちはどうなったんです?」

 

「先ほどユリスから連絡がありましたが、うまくいったようですよ」

 

「あれ?嬉しそうな表情っすね?何かいいことでもあったんすか?」

 

「あら・・・・・・あなたに気取られてしまうとは、私もまだまだですね」

 

「いやいや。それくらいわかりますって」

 

「そうですか?」

 

「そうっすよ」

 

少年は呆れたように少女に言う。

 

「それより、さっさとそれを終ってくれませんか、生徒会長?」

 

少年は不気味に輝く双剣の純星煌式武装を握る少女―――――クローディア・エンフィールドに、向かって言う。

 

「それもそうですね」

 

クローディアは自身の持つ純星煌式武装《パン=ドラ》を待機状態にしポーチに収納する。

 

「では、おれはこれで」

 

「ええ。後はお願いしますね。夜吹英士郎くん?」

 

「わかってますって」

 

少年―――――夜吹英士郎は路地裏から立ち去っていくクローディアの背を見て淡々と言う。

そして、その場に影が差し込み、再び夕日に照らされたときにはすでにそこには誰もいなかった。

 

~outer side out~

 

 

 

 




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銀綺覚醒
出会い


遅くなってごめんなさい!
今回から第2章に入りますのでよろしくお願いいたします。


~綾斗side~

 

「え、明後日からツアーなのシルヴィ?」

 

「うん」

 

「・・・・・・どのくらいの予定なの?」

 

「え~と、確か3週間程だったかな?」

 

「結構長いね」

 

「イヤー、1ヶ月や半年のツアーライブよりはまだいいよ~」

 

「・・・・・・それは確かに」

 

サイラスの起こした襲撃事件から数日。俺とシルヴィ、オーフェリアは自宅で夕食後のティータイムをしていた。

俺たち3人はあの後、紗夜とユリスたちを迎えに来たクローディアに後を任せ、自宅へと戻ってきていた。

ちなみにその場で《鳳凰星武祭(フェニクス)》の出場登録を済ませた。何故か、クローディアが申請書を持っていたのだ。クローディアに聞いてもただ笑うだけなので追求はしなかったが、同じ生徒会長としての付き合いがあるシルヴィは苦笑をし、付き合いの長いユリスは顔を真っ赤にしてクローディアを問い詰めていた。

そんなユリスを見るのは初めてだったので多少驚いたのが印象だった。

そんなこんなで話を戻して、

 

「そうなると、3週間はオーフェリアと二人だけなんだね」

 

「・・・・・・そうなるわね」

 

「あっ、言っとくけどオーフェリアちゃん、抜け駆けはダメだからね」

 

「・・・・・・わかっているわよシルヴィア。やるときは二人で、よね」

 

「うん」

 

「ぬ、抜け駆け?」

 

「なんでもないよ綾斗くん♪」

 

「・・・・・・なんでもないわよ綾斗」

 

「そ、そう・・・・・・」

 

シルヴィとオーフェリアの解答に俺は深く聞かないでおくことにした。聞いてしまうと何かとてつもなく取り返しの付かない事になる可能性があると予想したからだ。

 

「あ~あ、でもその間綾斗くんと一緒にいれないんだよね~」

 

「ん?電話すればいつでも会えるけど?」

 

「う~ん、そうじゃないよ。なんて言うのかな、綾斗分が無いから」

 

「あ、綾斗分?な、なにそれ?」

 

「綾斗くん成分、略して綾斗分」

 

「・・・・・・または綾斗エネルギー、略して綾エネ」

 

俺はシルヴィとオーフェリアが真顔でそんなことをいい、ソファーからずっこけた。

幸いにもカップはテーブルの上においてあるから割れたり溢れたりする事はなかった。

 

「そんなわけで、今日と明日で3週間分の綾斗分を補充しよっと」

 

そういうと否やシルヴィはカップを置き俺に甘えてきた。

 

「ニャー♪」

 

「か、かわいいわシルヴィア!」

 

シルヴィの甘猫風景にオーフェリアはいつの間にか構えた端末でシルヴィを撮っていた。

 

「ニャ~♪」

 

あ、あれ、二人ってこんな性格だったかな?

俺はシルヴィとオーフェリアの二人を見てそう思わずにいられなかった。

まあ、シルヴィのこの姿は他では見られないからな。オーフェリアもだけど。

 

「あ、そう言えばオーフェリア」

 

「・・・・・・なに?」

 

「オーフェリアって身体から瘴気が漏れ出ているんだよね?」

 

「ええ。綾斗たちと一緒にいるときは出来るだけ漏れでないようにしているわ」

 

「もしかして綾斗くん。オーフェリアちゃんの漏れ出ている瘴気をどうにかしようと思ってる?」

 

「まあね。瘴気が漏れ出ているとオーフェリアに余り触れられないし。なにより俺自身がどうにかしたい」

 

「・・・・・・気持ちは嬉しいわ、けど無理よ。これは無尽蔵にあふれでているもの」

 

「けど、やってみないと分からないと思うよ」

 

「綾斗くんはどうやってオーフェリアちゃんから漏れ出ている瘴気を消すつもり?」

 

「これを使ってやってみようと思う」

 

俺は近くにある、シルヴィの銃剣型煌式武装《フォールクヴァング》の隣にある俺の純星煌式武装《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》の発動体を持った。

 

「《黒炉の魔剣》?」

 

「・・・・・・それでどうやって?」

 

「《黒炉の魔剣》を使ってオーフェリアの瘴気を焼き切ってみる」

 

「でもそれだとまた出るんじゃないかな?」

 

「普通にやったらね」

 

「?・・・・・・どういうこと?」

 

「オーフェリアの内部。・・・・・・・瘴気を産み出している所を焼ききる」

 

俺の台詞にシルヴィとオーフェリアは驚きの表情を出した。だが俺自身実際、成功するかはわからない。

俺はこの考えを聞いたときの事を二人に話す。

この考えを編み出したのは《黒炉の魔剣》だ。

適性検査で《黒炉の魔剣》に触れたとき頭のなかにある声が聞こえてきたのだ。

その声は可憐で優しい音を出す女性の声だった。

そしてその声は聞いてきた。

 

『あなたの守りたいものはなんですか?何故あなたは私を求めるのですか?』

 

と。

その時俺の頭のなかにオーフェリアが言ったことが過った。彼女は元々は星脈世代(ジェネステラ)ではなく一般の人だ。それをアルルカントの《大博士(マグナム・オーパス)》ヒルダ・ジェーン・ローランズが人体実験の被験体としてオーフェリアを使い、今の彼女にした。

オーフェリアは望んで自らこうなったわけでは無いのだ。俺はその時、ある決意をしていた。オーフェリアを決して独りにしない、と言うこととなにがあっても信じ守る、と。それはオーフェリアに限ったことじゃない。シルヴィや紗綾、姉さんもだ。

そして俺は思念で言った。

 

『俺はシルヴィやオーフェリアを・・・・・・俺の関わっている全ての人を・・・・・・そして姉さんを守りたい!その為に俺に力を貸してくれ!《黒炉の魔剣》!!』

 

と。

結果、《黒炉の魔剣》は発していた炎を納め俺を適合者として認めた。

そしてまた聞こえた。

 

『あなたの思い、しかと受け取りました。私は全てを焼き切る剣。触れなば溶け、刺せば大地は坩堝と化さんと云うものなり。あなたに今、力を授けます。あなたの愛するもの、守りたいものを守るために。――――私の名はセレス。この純星煌式武装、《黒炉の魔剣》の思念です』

 

『俺の名は天霧綾斗。これからよろしく、セレス』

 

『よろしくお願いします。我が所有者(マスター)綾斗』

 

と。

頭に直接聞こえてきたため回りには気取られなかった。

時間は1秒と言うほんの一瞬だ。

そして俺は《黒炉の魔剣》―――――セレスに聞いた。

 

『あふれでる星辰力はどうしたら消すことができるかな?』

 

と。

俺の問いにセレスは。

 

『星辰力があふれでる場所に私を使えば消し去ることが出来るかもしれません』

 

と、返してきた。

俺はその事をシルヴィとオーフェリアに話した。

 

「・・・・・・驚いてなんとも言えないわ」

 

「うん。私も驚いたよ・・・・・・」

 

案の定二人は驚きの表情を出してそう言う。

俺自身、純星煌式武装が思考を持って話してくるとは思わなかったのだから。

 

「実際、今でも俺は驚いているんだよ?《黒炉の魔剣》―――――セレスが話しかけてくるなんて思わなかったんだから」

 

「でも納得がいったよ。どうして《黒炉の魔剣》の所有者があまり現れなかったのか」

 

「・・・・・・ええ。気難しいと聞いていたのだけど納得よ。一部の人しか《黒炉の魔剣》が気に入らなかったのね」

 

「多分ね。セレスに聞いたんだけどあの時レスターは、力だけを求めていたみたい。セレスはただ適当に扱わられるのがイヤだったんだって。だからあの時セレスはマイナス値になったんだってさ」

 

あの後セレスから聞いたことを俺は伝えた。

 

「あー。確かに・・・・・・。あの時ユリスさんに勝負を吹っ掛けていた時から、彼は力だけを求めているんじゃないかな、って感じてたよ」

 

「ユリスが言っていたわよ、レスターって人はただ力を求めるだけって」

 

「そう言えばそんなことユリスが言っていたような・・・・・・。まあ、でも俺はレスターのそんな所は嫌いにならないかな?」

 

「どうして?」

 

「レスターはただ認めてもらいたいんだよ。それにランディも言っていた、レスターは正々堂々とした勝負を好み、自分の力で勝利を掴んでいるって。まあ、セレスに力だけを求めていたってのはどうかなって思うけど・・・・・」

 

「・・・・・・まるで昔の綾斗みたいね」

 

「え?そうかな?」

 

「ええ。あの時の綾斗はハルお姉ちゃんだけを見ていたから」

 

「そうだね~。それであんなこともしちゃったんだから」

 

「うぐっ・・・・・・!」

 

二人が言っている『あんなこと』とは姉さんを馬鹿にした門下生数人を圧倒的力の差で叩き潰したことだろう。

 

「そ、それはほら、あの時姉さんを馬鹿にされたからで・・・・・」

 

「でも、それで遥お姉ちゃんに怒られたでしょ」

 

「そ、そうだけど・・・・・・」

 

「・・・・・・今でも綾斗はハルお姉ちゃんを追い掛けているわよね」

 

「ま、まあ・・・・・・」

 

「シスコン過ぎじゃないかな綾斗くん」

 

「・・・・・・シスコンね綾斗は。まあ、昔からそんな気はしていたけど」

 

「ぐっ・・・・・・。し、シスコン・・・・・・」

 

俺は二人にシスコンと言われ、心臓に矢が突き刺さったような気がした。

まあ、俺自身若干シスコンかなとは思っていたけど・・・・・。

 

「ま、まあ、話は戻して。可能ならやってみたいんだけど・・・・・・どうかな?」

 

俺は話を戻すためオーフェリアに聞いた。

 

「・・・・・・可能ならやってほしいわ。でも・・・・・・」

 

「《悪辣の王(タイラント)》が問題ね」

 

「一応《鳳凰星武祭》の願いでオーフェリアの所有権と姉さんの捜索をお願いしようと思うんだけど・・・・・・」

 

「なら、今の案はオーフェリアちゃんの所有権を《悪辣の王》から奪った後の方が良いかもね」

 

「そうしたほうがいいね」

 

俺はシルヴィの言葉に頷いた。

 

「で・・・・・・なんでオーフェリアまで甘猫みたいにしてるの?」

 

「・・・・・・ダメだったかしら?」

 

オーフェリアは子猫みたいに首をかしげた。

 

「い、いや、そんなことは無いんだけど・・・・・・」

 

「けど?」

 

「いや、シルヴィが・・・・・・」

 

「シルヴィア?」

 

オーフェリアがシルヴィの方を向くと、シルヴィは先程のオーフェリアと同じようにいつの間にか構えた端末でオーフェリアを撮っていた。

 

「オーフェリアちゃん、もっと綾斗くんに甘えて!」

 

「・・・・・・こ、こうかしら?」

 

シルヴィがオーフェリアにそうお願いすると、オーフェリアはさらに近寄ってきて、

 

「ニャ、ニャー?」

 

先程のシルヴィと同じように猫の鳴き声をした。

右手を招き猫のような振り付けをして。

 

「ぐはっ!」

 

「し、シルヴィ!?」

 

突如シルヴィが吐血したかのように倒れた。

 

「だ、大丈夫シルヴィ?」

 

「オーフェリアちゃんの甘猫姿・・・・・・・チョーかわいいよ!」

 

シルヴィは興奮したように言った。

 

「・・・・・・そういえば昔もこんなことあったわね」

 

オーフェリアが思い出したかのように呟いた。

そう、シルヴィは昔からこういうかわいいものに眼がないのだ。よくそれで、紗綾とオーフェリアはシルヴィの着せ替え人形とさせられていたのだ。

 

「あはははは・・・・・・・・」

 

当時の事を思いだし俺は苦笑いを浮かべた。

そのあとシルヴィはオーフェリアに頬擦りをしたりして思う存分甘えていた。ちなみに、そのなかには俺も含まれていたりする。

まあ、今日は金曜で明日は休みだからかな。

そんなわけで、翌日俺はシルヴィとオーフェリアに思いっきり甘えられました。ちなみに家に来た紗夜は端末を持ちながら独特のサムズアップをしながらシルヴィとオーフェリアの写真を撮り、ユリスはオーフェリアのその姿に絶句していたとここに記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週明け

 

 

「ふぅ・・・・・・・。今日はここまでにしようかユリス」

 

「そうだな・・・・・・」

 

俺は展開していた《黒炉の魔剣》――――セレスを待機状態にし収納ポケットにしまった。

日曜はシルヴィがペトラさんとともにツアーライブに行ったのを見届け、自宅の地下のトレーニングルームでオーフェリアに手伝ってもらって特訓した。そして今日、授業が終わり放課後になると星導館にあるトレーニングルームで《鳳凰星武祭》のトレーニングをしていた。

 

「それにしても《黒炉の魔剣》はやはり封印を解放しないと使えないか」

 

「うん・・・・・。今の段階だと5分が限界かな」

 

「5分・・・・・・か」

 

「まあ、通常の煌式武装なら使えるんだけどね」

 

俺は収納ポケットに入っている剣型煌式武装を取り出して言う。

 

「ふむ・・・・・・やはり、一度作戦を考えた方が良さそうだな」

 

「ごめん・・・・・・」

 

「別に謝ることではないだろう。《鳳凰星武祭》まであと1ヶ月と少し・・・・・・それほど時間があるとは言えないがなんとかなるだろう」

 

ユリスはそう言うと軽く伸びをする。

すると。

 

『そろそろ退室時間となります』

 

壁のスピーカーからそんなアナウンスが聞こえてきた。

 

「それじゃあまた明日だな」

 

「そうみたいだね」

 

俺とユリスは手早く身支度を整えトレーニングルームから出て分かれた。

ユリスはそのまま寮に、俺は自宅へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅前につくとすでにオーフェリアが帰ってきているのか、明かりがついていた。

 

「ただいま」

 

「・・・・・・お帰りなさい綾斗」

 

「ただいまオーフェリア」

 

中に入るとオーフェリアが部屋着にエプロンを着けて左手にお玉を持った状態で出てきた。

 

「・・・・・・・どうかしたの綾斗?」

 

一回自室に戻り部屋着に着替えリビングに戻ってソファーに座りながら部屋を見渡す俺にオーフェリアが聞いてきた。

 

「あ、いや・・・・・・シルヴィがいないとなんか家が少し暗いかなって思ったんだ」

 

「・・・・・・それは私も思ったわ。シルヴィアがいるといないとでこうも変わるのね」

 

オーフェリアは台所のIHを止めて、エプロンを脱いで俺の腰かけるソファーの隣に座った。

 

「そうだね。子供の頃は紗夜も一緒で4人一緒にいたけど、紗夜とオーフェリアが海外に引っ越して、俺とシルヴィの二人だけになって、更に姉さんもいなくなっちゃったから、少し寂しかったかなあの頃は・・・・・・」

 

「それは私もよ・・・・・・・。両親を事故で失って天涯孤独の身になった私はあの頃、かなり塞ぎ込んでいたわ。綾斗やシルヴィア、紗夜とハルお姉ちゃんに会いたいって。何時も思っていたもの・・・・・・・。でも、ユリスと出会ってあの子に私は元気付けられた」

 

オーフェリアは懐かしむようにして語った。

 

「でも、孤児院の借金の肩代わりとして統合企業財体、フラウエンロープ系列の研究所に引き取られ、アルルカントの《大博士(マグナム・オーパス)》ヒルダ・ジェーン・ローランズの人体実験の被験体となった。・・・・・・・あの時私は、運命に囚われてしまった。この体質になったのも運命。そして・・・・・・私に誰も勝てないのも運命。そう思ってしまった」

 

「オーフェリア・・・・・・」

 

「・・・・・・でも、またシルヴィアや紗夜と出会って微かな希望も生まれたわ。そして、綾斗にも再会した。・・・・・・・綾斗、あの時気付いていたかしら私が少しだけ泣いていたことを?」

 

「え?そうだったの?」

 

「・・・・・・ええ。嬉しかったものまた3人に出会えて。・・・・・・・でも私は今はディルクの所有物。だから、今こうして会えていることが奇跡なのよ」

 

「それは違うと思うよオーフェリア」

 

「なぜ?」

 

「シルヴィや紗夜ならこういうと思うよ。『それは奇跡なんかじゃなくて運命だって』。子供の頃、4人で誓ったよね、離れていても俺らは変わらない何処にいてもまた会おう、って」

 

「・・・・・・そんなこともあったわね。あの頃が懐かしいわね・・・・・・。そうね、確かにこれは奇跡なんかじゃなくて運命なのかも知れないわね。私たち、4人の」

 

「ああ。だからオーフェリアも待っていてくれ。俺が必ずユリスと一緒に《鳳凰星武祭》で優勝してオーフェリアの所有権を奪還してくるからさ」

 

「・・・・・・ええ。待っているわ」

 

オーフェリアは目尻に涙を浮かべ微笑んで言った。

 

「それじゃあそろそろ夕飯にしましょう」

 

「そうだね」

 

そのあとオーフェリアの作った夕飯を食べ、それぞれ風呂に入り終わりのんびりしていると、ツアー中のシルヴィからテレビ電話が来たりして一日を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルヴィが不在の生活から2週間が立ったある日の放課後。

 

 

星導館

 

 

「まずいなあ、これじゃちょっと間に合いそうにないぞ・・・・・・」

 

今俺は薄く汗をにじませて、木々の間を縫うように中庭を駆け抜けていた。

遅刻の原因は担任である八津崎先生から雑用を押し付けられたことが原因なのだが・・・・・・時間に特に厳しいユリスがそれで納得してくれるかどうか。

ここ最近、俺とユリスはタッグでの訓練をしていた。

もっとも、俺もユリスもタッグ戦の経験がないため大苦戦してるが。

 

「せめて近距離での連携くらいはなんとか形にしないと、俺ごと焼かれかねないからな―――――」

 

中庭を抜け、中等部校舎と大学部校舎を結んでいる渡り廊下を横切ろうとしたそのとき、

 

「―――っ!?」

 

ちょうど死角になっていた柱の陰から、一人の女の子が唐突に現れた。

事前に人の気配は感じていたが、気づいたときにはすでに遅く慌てて速度を緩めるが、間に合わない。

 

「―――っ!?」

 

俺に一瞬遅れてその女の子も気が付いたようで、驚いた表情をして視線を俺に向けていた。

このままでは正面衝突は免れない。

そう判断した俺はかなり無理矢理に方向転換を試みた。

無理矢理なその行動に、身体中に電撃に似た痛みが迸った。

これで回避できるかと思いきや――――

 

「えっ?」

 

「きゃっ・・・・・!」

 

何故か身をそらしたその先に、女の子の顔があったのだ。

さすがにそれは避けられず、結局俺とその女の子は正面から派手にぶつかることになった。

 

「キミ!大丈夫?怪我はない?」

 

「あ、はい・・・・・・大丈夫、です」

 

「本当にごめん!」

 

恥ずかしそうに微笑みながら小さな声で答えた女の子に、俺は深々と頭を下げ、改めてその女の子を観た。取り敢えず目立った外傷や傷はないようで安心した。

――――が、同時にもう一つ重大なことに気が付き、瞬時に目をそらした。

何故なら、女の子が膝をたてているため、思い切りスカートが捲れてしまっているのだ。

 

「はぅ・・・・・・っ!」

 

女の子もそれに気づいたのか、わたわたと焦った様子でスカートを直し、縮まるかのように両手でぎゅっと自分の体を抱き締めた。

涙目で怯えるような姿は小動物を思わせるが、今度は逆にそれがかえって女の子の豊満な胸を強調してしまっていることに気が付いてなかった。

その女の子は中等部の制服を着ているため、少なくとも俺よりは年下だとわかった。

くりくりとした大きな瞳と、ツンとした鼻が可愛らしい。銀色の髪を二つに結び、背中に流している。にいかにも気弱そうな雰囲気を全身から発しているが、シルヴィやオーフェリアとは違う感じのかなりの美少女だ。

 

「その・・・・・・ごめんね。急いでいるからって、不注意だったよ」

 

俺は若干視線をそらして手を差し伸べた。

 

「い、いえ、わたしの方こそごめんなさいです。音を立てずに歩く癖が抜けなくて。いつも伯父様に注意されるんですけど・・・・・・」

 

俺の手を、おずおずと取り立ち上がった女の子はスカートの埃を払うと、ぺこりとお辞儀をして言った。

 

「そうなんだ・・・・・・・って、ちょっと待って。そこ、なにかついてるみたいだ」

 

「ふぇ・・・・・・っ?ど、どこですか?」

 

俺が指摘すると女の子は慌てた様子で髪に手をやるが、見当違いの場所ばかり探っていた。

その女の子のおろおろする可愛らしい姿に、幼い頃のシルヴィを思いだし、俺は苦笑しながら女の子の髪に手を伸ばした。

 

「ほら、動かないで」

 

「え・・・・・・」

 

俺は髪に絡まっている小指ほどの小枝を、そっと髪を痛め付けないように優しく取り除いた。

 

「あ、ありがとうです」

 

女の子は顔を真っ赤にしてお礼を言った。

 

「気にしないで。・・・・・・・これはキミの?」

 

俺は女の子のすぐ横に落ちていた物を拾い上げ渡した。

 

「あ、はい。そうです」

 

「はい」

 

「あ、ありがとうございます。あの・・・・・・先輩の名前はなんて言うんですか?」

 

「俺は高等部1年天霧綾斗、特待転入生として一か月前に来たばかりなんだ」

 

「天霧先輩、ですか。わたしは中等部1年、刀藤綺凛、です」

 

「よろしくね刀藤さん」

 

「は、はい、よろしくです。天霧、先輩」

 

女の子―――――刀藤さんと挨拶をすると、ふいに中等部校舎の方から大きな声が響いてきた。

 

「綺凛!そんなところでなにをやっている!」

 

「・・・・・・は、はいっ!ごめんなさいです、伯父様!すぐに参ります!」

 

刀藤さんはビクリと身をすくませて、焦った様子だった。

 

「そ、それじゃ、天霧先輩・・・・・・!」

 

「ああ、うん。またね刀藤さん」

 

「は、はい」

 

刀藤さんは中等部校舎の入り口に立っている壮年の男性のところに小走りで向かっていった。

かなり体格のいい男性だが、星辰力が全く感じられない、恐らく《星脈世代》ではないだろう。

刀藤さんの親族なんだろうが、親族といえども学園の敷地には容易に立ち入ることはできないはずだ。ここに立ち入っているということは、あの男性は学園の関係者なのだろう。

漠然とそんなことを考えていると、ふいに携帯端末が着信を知らせた。

 

「あ・・・・・・」

 

はっと思い出して時間を確認すると案の定、約束の時間はとうに過ぎていた。

つまり、この着信は・・・・・・。

嫌な予感がしながらも・・・・・・というよりも半ば確信をもって空間ウインドウを開いた。

ウインドウには不機嫌そうなユリスがこちらを睨んでいる姿が映し出されていた。

 

 




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模擬戦

みなさん、ハッピーメリークリスマス♪
今年も後少しで終わりですね。これからも来年も頑張っていくのでよろしくお願い致します。


~綾斗side~

 

「咲き誇れ――――赤円の灼斬花(リビングストンデイジー)!」

 

凛とした声がトレーニングルームに響くのと同時に、ユリスの周囲から紅蓮の炎が吹き上がる。

その炎は竜巻のように渦を巻きながら、空中で円盤状へと形を変える。その数は十数を越える。それは、炎の刃を激しく回転させる。まさに炎の戦輪だ。

 

「行け!」

 

火の粉を撒き散らしながら迫り来る戦輪を、俺は半身に剣、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》――――セレスを構えて待ち受ける。

 

『綾斗、一時方向から数5、正面から8、来ます』

 

『了解!』

 

俺はセレスのアシスト通り、まず一時方向の戦輪を目にも留まらぬ速さで一撃で両断し、続いて来た正面の戦輪を横凪ぎに払って分断する。

 

『さらに、左右から来ます』

 

セレスの忠告通り、左右の死角から戦輪が同時に飛び掛かってくる。

完璧に統制されたその動きに素直に感心を持ちつつ、大きく後ろに飛んで戦輪から避ける。

 

『綾斗、真上です。数は1。そのあと正面と真後ろから3ずつ、時間差の多重攻撃が来ます。』

 

俺の避けたところに頭上から素早い勢いで戦輪が迫る。セレスの言う通りタイミングをずらしてくる。

 

「セレスのアシストもだけど、ユリスも凄いな」

 

セレスの予知的アシストもだが、ユリスのコントロールは凄い。三次元機動する物体操作は至難の技なのだが、ここまで見事に操れるとは。かなり空間把握能力に優れていることが頷ける。

俺は真上からの攻撃を身を捻って避け、そのまま身体を回転させて正面から襲い掛かってくる戦輪にセレスを振るう。ただし、それは絶ち切るのではなく、剣の腹で払い除けるように横へ薙ぐ。それにより、弾かれた戦輪は真後ろから迫る戦輪とぶつかり、火花を散らして軌道をずらして全く別方向へ飛んでいく。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

「まったく、いつもながらしれっとした顔でふざけた芸当をしてくれる」

 

「う~ん、俺としては普通の事をしているだけなんだけど」

 

「やれやれ、それは普通とは言わんぞ。まぁ、こうなると次はどんな手でかわしてくれるのか、興味が湧いてくるな」

 

やや呆れた顔で睨みながら言うユリスの周囲には、再び数十のほのの戦輪が渦巻いている。

 

「いやあ、ユリスの御眼鏡にかなうようなものはもう無いと思うよ?」

 

「ほう、ではどうする?」

 

言いながら、ユリスは戦輪を抜け目なく立体的に展開させていった。

 

『セレス、ここからはアシストしなくても大丈夫。データを蓄積しといてくれるかな?』

 

『了解しました、綾斗』

 

「そうだね――――なら、こういうのはどうかな?」

 

俺はセレスに思考でそう言いながら、ユリスに言う。そして、言うが早いか、ユリス目掛けて一気に駆け出す。

 

「なにっ!?」

 

ユリスは意表を突かれ、対応が一瞬遅れる。慌てて配置した戦輪を動かしてくるが、俺の速度には追い付いていない。

迫り来る戦輪を舞い踊るかのように華麗に潜り抜け、間合いを詰める。

そして気が付いた、ユリスがほくそ笑んでいることに。

 

「掛かったな――――綻べ、栄裂の炎爪華(グロリオーサ)!」

 

ユリスの発声とともに、俺の足元に赤ピンク色の魔方陣が浮かび上がり、行く手を遮るようにして炎の柱が立ち上がる。前後左右に合計五本。

その様子はまさに、栄裂の炎爪華の名のように鋭い爪を持つ巨大な怪物の手の中に囚われてしまったようだ。

 

(なるほど、設置型の能力か)

 

シルヴィやオーフェリア、姉さんやユリスの用に《魔女(ストレガ)》又は《魔術師(ダンテ)》の能力には、ある一定条件を満たすまで発動しないものがある。そうした能力はこういう風に、主に罠として使われるケースが多い。

 

「ふふん、今回こそは勝たせてもらうぞ」

 

炎壁の向こうからユリスの勝ち誇った声が聞こえてくる。

 

(まあ、予想通りかな?)

 

俺がそう思うのと同時に、炎の柱は爪先を俺に向け、握りつぶすように襲い掛かってくる。

だが、俺は焦ることはぜず、瞬時に呼吸を整え《黒炉の魔剣》を右手一本に持ち替え、

 

「天霧辰明流剣術中伝――――」

 

大きく身体を捻り回転するように薙ぎ払い、さらに振り切った右手から左逆手に剣を持ち替え、もう一回転。

 

「――――"十毘薊(とびあざみ)"!」

 

俺を取り囲む炎の柱に二条の剣閃が走り、次の瞬間には五本の炎の柱全てが掻き消えている。

 

「な・・・・・・」

 

俺は驚愕し呆然と立ち尽くすユリスの胸元に、肌を炙る炎の残滓も厭わず、一瞬で間合いを詰め《黒炉の魔剣》を突き付けた。

 

『お見事です綾斗』

 

俺が《黒炉の魔剣》を突きつけるのと同時に、トレーニングルームに甲高いアラームが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むうぅ、今日こそはと思ったのだが・・・・・・」

 

「あははは・・・・・・」

 

トレーニングが終わり、腕組みをしたユリスが頬を膨らませ不機嫌そうに言った。

ユリスの反応に俺は苦笑を浮かべユリスを見る。

 

「こうまで勝てないと、さすがに自信を無くしてしまうな」

 

「いや、ユリスは十分強いと思うけど」

 

「お世辞なら結構だ。結局今日だって一本もとれていないではないか」

 

「いやいや、お世話じゃないって。実際予想していたとはいえ、最後の罠は危なかったし」

 

実際予想していたのだが、こうも見事に設置型能力の発動場所まで誘導されてしまった。

さすがに、これは俺も予想していなかった。

 

「それにしてもユリスは本当に技が多いよね。鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)六弁の爆焔花(アマリリス)とか。さっきの技もだけど」

 

「う、うむ。まあそのあたりは私も自負するところではあるが・・・・・・」

 

「あ、でもユリスの技ってなんで花に関するものが多いの?」

 

「ん、それか?まあ、昔オーフェリアから教えてもらったのが花だからだったからか」

 

「オーフェリアから?」

 

「ああ。私は子供の頃、孤児院にいたオーフェリアとよく孤児院の温室で花を育てててな、それでだな。まあ、ほとんどオーフェリアが育てていたものなのだが」

 

「変わらないんだオーフェリアは・・・・・・」

 

俺はユリスから聞いた、孤児院にいた頃のオーフェリアを聞いて俺たちと一緒にいた頃のオーフェリアを追憶する。

オーフェリアは植物、特に花が好きで虫一匹殺せないほど健気だったのだ。

 

「お前はこのハンカチを見たことあったな」

 

ユリスはポケットから以前、決闘の切っ掛けになったハンカチを見せた。

 

「これは孤児院の子供たちが刺繍してくれたものでな、私の一番の宝物なんだ」

 

「ってことはオーフェリアも?」

 

「ああ。オーフェリアが刺繍したのはここだ」

 

ユリスはハンカチの四隅の内一ヶ所を指して言った。

ユリスが指差したところには下手だが百合が刺繍されていた。それは確かにオーフェリアが刺繍したものだった。

 

「はは、オーフェリア、まだ刺繍苦手だったんだ」

 

「綾斗も持ってるのか?」

 

「子供の頃、育ててた薔薇をラミネートして押し花にしてくれたんだ」

 

俺は普段から持っているラミネートして押し花にした薔薇をユリスに見せた。

 

「ほう。それではシルヴィアや沙々宮も持っているのか?」

 

「うん。シルヴィにはキンモクセイの紗夜にはコスモスのね」

 

「オーフェリアは綾斗たちといた頃から花が好きだったのだな」

 

「そうだね・・・・・・。俺も、ユリスがオーフェリアの親友で良かったよ」

 

「な、なんだいきなり」

 

「いや、オーフェリアはいい親友を持ったなって」

 

「そ、そうか・・・・・。ところで聞きたいんだが」

 

「なに?」

 

「オーフェリアは昔からああだったのか?」

 

「あー・・・・・・えーと・・・・・・」

 

ユリスからの質問に俺が何て答えようか、濁らしていると突如鈴を転がしたような音が響いた。

それから少し遅れて、空間ウインドウが展開された。

 

 

『来訪者です。取り次ぎますか?』

 

 

「来訪者?」

 

「誰だ?」

 

滑らかな機械音声の告げに、俺とユリスは思わず顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔するぜ」

 

「・・・・・・」

 

「ほほう、これはまた意外な組み合わせの来客だな」

 

ユリスはトレーニングルームの入り口に立つ二人を見て、面白がっているような顔で言った。

 

「あれ、紗夜に・・・・・・レスター?どうして二人が?」

 

俺は珍しい二人がきて驚いていると、紗夜がこっちに来るなり、

 

「綾斗、浮気はダメ」

 

爆弾発言をした。

 

「げほっ!こほっ!さ、紗夜!?いきなりなにさ!?」

 

「ここ最近綾斗はリースフェルトと一緒にいる時間が多い。シルヴィアやオーフェリアにもその時間を費やすべし」

 

「ちょ、紗夜、レスターがいるんだけど!!?」

 

俺は慌てたように紗夜に言う。

が。

 

「おい、ユリス。あのちんちくりんの言っている意味が分からねえんだが?」

 

「あー、そのだな、なんていうか・・・・・・」

 

「アイツとあのちんちくりんが《戦律の魔女(シグルドリーヴァ)》と《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》と幼馴染だとかいうのは噂で知っているが、それとお前と一緒にいることとの何が関係あるんだ?」

 

レスターはユリスに疑問に思ったのか聞いていた。

 

「惚けてもダメ綾斗。ここ最近綾斗とリースフェルトが一緒にいる時間が多いのはある情報通から聞いている」

 

「だ、だれその情報源は!?」

 

「情報通はE・Y氏からと言っておこう」

 

「E・Y・・・・・・ってまさか夜吹!?」

 

紗夜の情報通が夜吹かどうかは今度じんも・・・・・・・ではなくお話をすることにして、

 

「おい、綾斗。今お前尋問って思わなかったか?」

 

「そ、そそそ、そんなことないよユリス!」

 

「バレバレだぞ」

 

「わかりやすぎねぇか?」

 

「表情に出てる」

 

ユリス、レスター、紗夜の三人に立て続けに言われ、そんなに分かりやすいかなと思った。

 

「んで、てめぇと《戦律の魔女(シグルドリーヴァ)》、《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》の関係ってなんだ?ただの幼馴染って訳じゃねぇようだし」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「・・・・・・・・だが、てめぇが言いたくないなら別に構わねぇよ。無理に聞かねぇ」

 

「ご、ごめん」

 

レスターは俺の反応を見て肩を軽く竦めると言った。

 

「まあ、お前の反応で大体はのことは予想がつくがな」

 

「レスター・・・・・・」

 

「安心しな、誰にも言わねえよ。オレはこれでも口は固いんだ。てめぇが秘密にしたいならオレもだれかに言ったりしねぇ」

 

「そう・・・・・・ありがとうレスター。助かるよ」

 

「それとなんだ、その、サイラスの件なんだが・・・・・・一応、アレだ。まあ、結果的にとはいえ――――助けてもらったことには違いねぇようだから、な。その、礼っつーか、ケジメっつーか、まあ、それをだな・・・・・・と、とにかく世話になった!それだけだ!邪魔したな!」

 

「わっ!ちょ、ちょっと待ってよレスター!」

 

それだけいうと早々に立ち去ろうとするレスターを俺は呼び止める。

 

「出来れば俺たちの訓練に相手として手伝ってくれないかな?紗夜も出来れば一緒に」

 

「訓練相手だと?なんでオレが・・・・・・」

 

「う?」

 

「お、おい綾斗何を勝手に・・・・・・!」

 

「え、だって訓練相手が必要なのは本当じゃないか。それに二人なら事情を説明したって問題ないでしょ?」

 

「それはそうだが・・・・・・」

 

「どうかな?引き受けてくれると助かるんだけど」

 

俺はユリスから合意を貰うと紗夜とレスターを見て聞く。

すると紗夜はすぐにうなずいた。

 

「私は別に構わない」

 

紗夜が合意すると、必然的に残ったレスターに視線が集まる。

やがてレスターも頬を掻きながら答えてくれた。

 

「・・・・・・し、仕方ねぇな」

 

レスターも協力してくれることとなり、俺とユリス、紗夜とレスターの二対二での訓練を行うこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウォーミングアップをしてそれぞれ立ち位置に立つとユリスが言った。

 

「さて、取り敢えずそちらも急造のタッグな訳だから無理は言わん。幸いどちらも前衛後衛に分かれていることだし、まずはサポートの練習だな。前衛同士が接近戦闘に入ったところで、後衛同士はお互いを牽制しつつ、前衛のサポートをする。これでいいな?」

 

「うん」

 

「・・・・・・了解」

 

「構わねぇ」

 

ユリスの言葉に俺らは頷き返す。

その中、何故かユリスと紗夜は火花を散らしていた。

 

「ところでてめぇのほうは大丈夫なのか?」

 

「え?」

 

「今のてめぇはもう今日のところは全力は出せないんだろ?」

 

「まあ、ね」

 

「そうか。悪いがオレは手加減しないぞ」

 

レスターは自身の煌式武装《ヴァルディッシュ=レオ》を起動させ、ニヤリと笑った。

 

「・・・・・・お手柔らかに頼むよ」

 

俺は、それ以外に返す言葉が思い浮かばず俺の持つ片手剣型の煌式武装を起動させ構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぜぇ!」

 

試合開始のブザーが鳴り響くと同時に、レスターが猛然と俺に向かって突っ込んできた。

 

「っ!」

 

気合いと共に薙いできた《ヴァルディッシュ=レオ》の一撃を自身の持つ片手剣型煌式武装で受け止める。

 

「っ!?」

 

受け止めるが、大きく後ろに吹き飛ばされた。

 

「(とんでもない膂力だ。流星闘技を使えば対抗できるかもしれないけど、俺流星闘技使えないんだよなぁ)」

 

俺が吹き飛ばされ体制を整えながらそんなこと思っていると、

 

「まだまだぁ!」

 

レスターの第二撃が迫ってきた。

 

「くっ!」

 

俺は紙一重で頭上から振り下ろされた光刃をかわし、レスターの懐に潜り込む。

だが、それはレスターも予想していたのか、攻撃の勢いもそのままに肩からぶつかるようにしてそれを阻んできた。

そしてさらにそこに三撃目が襲い掛かってくる。

 

「どうしたどうした!その程度かよ」

 

「(このままでは一方的に押しきられる。なんとかしないと)」

 

俺がそう思っていると、

 

「行けっ――――九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

ユリスが複数の火球を俺とレスターの間に飛び込ませてきた。

その火球は宙を舞い、まとわり付くようにしてレスターを牽制する。

 

「ちっ!」

 

「ありがとう、助かったよ、ユリス」

 

「くそっ!相変わらずちょこまかと・・・・・・・!ほんとやりにくいぜ・・・・・・!おい、ちんちくりん!てめぇもちゃんと仕事しやが・・・・・・・・・・」

 

レスターの台詞が途切れた理由は―――――

 

「・・・・・・問題ない。仕事なら今からやる」

 

レスターの後ろで、紗夜が構えていた銃型の煌式武装―――――というより砲といってほうが近く、あまりにも巨大だからだ。その砲身は優に二メートルを軽く越えている。

ちなみに俺もユリスもレスター同様、固まったまま想わずあんぐりと口を開けてしまっていた。

 

「三十九式煌型光線砲ウォルフドーラ―――」

 

紗夜は周囲に複数のウインドウを展開し、流星闘技を思わせる煌々とした光をコアから放っていた。

そして、緊張感がない声とともに、

 

「――――発射」

 

そう呟いた。

その途端、低い唸りを上げて光の奔流が迸った。

 

「ちょっ、待って紗夜!」

 

「ちょっ、待て!」

 

俺とレスターは同時に狼狽えたような声をあげながら身を伏せる。ユリスも同様に伏せていた。

伏せた俺たち三人の頭上を極太の光の柱とも言うべき光線が横切っていった。

やがてその光線は俺たちの方を扇形に掃射した後、ゆっくりと溶けるように消えていった。

そして恐る恐る三人同時に振り返って、光線が当たった壁を見た。

その壁を見た俺たちは驚愕と唖然で開いた口が塞がらなかった。直撃を受けた壁はまるで青虫が葉を食べるときにできるような巨大な穴が出来ていたのだ。

 

「や・・・・・・やりすぎだ、馬鹿!オレごと吹き飛ばすつもりか!」

 

「やりすぎだ沙々宮!私らを吹き飛ばすつもりか!」

 

レスターは青筋を立てて紗夜へ詰め寄り、ユリスは顔を真っ赤にして俺の後ろから紗夜に文句をいっていた。

さすがにこれは俺も予想外だったため紗夜の援護射撃が出来ない。

 

「かわせないほうが悪い。昔の綾斗ならあれくらい余裕。更に言うならシルヴィアやオーフェリアも楽にかわせる」

 

「あの二人なら楽にできるだろうな!」

 

「普通模擬戦でここまではしないぞ!」

 

悪びれるそぶりのない紗夜に、レスターとユリスは同時にツッコんだ。

 

「あははは・・・・・紗夜・・・・・・」

 

俺もがっくりと俯いて額を押さえた。

すると、

 

「――――――あらあら、これはまた派手に壊してくれたものですね」

 

入り口の方から、聞き覚えのあるゆったりとした声が響いてきた。

 

 




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アルルカント・アカデミー

遅くなりごめんなさい!
色々とあって投稿できませんでした。
次回は速めにできるようにします。


~綾斗side~

 

「―――――あらあら、これはまた派手に壊してくれたものですね」

 

壁に開けられた穴から、ではなくトレーニングルームの入り口からひょっこり顔を覗かせたのは、案の定この星導館学園の生徒会長、クローディアだった。

 

「このトレーニングルームはあなた方《冒頭の十二人(ページ・ワン)》に貸しているだけで、学園の設備であることはお忘れなく」

 

「・・・・・・わかっている。これはあくまで訓練中に起きた不慮の事故だ。なにも好き好んで壊したわけではない」

 

「なら、結構」

 

ユリスの言葉にクローディアは優しく微笑み、鷹揚にうなずいた。

最初からクローディアは、不慮の事故で出来たものだと知っていたのだろう。それでも言うのだから、さすがに以前自分で腹黒いと言っていたことのだけはある。

 

「綾斗、今なにか私に不適切なことを思いませんでしたか?」

 

「な、なんのことクローディア?」

 

「そうですか?」

 

「うんうん」

 

「ならいいです」

 

「ところでクローディアはなんでここに?」

 

「え。ああ、実はですね――――――」

 

クローディアがなにか言おうとしたその瞬間、

 

「いやー、でもでもびっくりしたよねえ、カミラ。まさかいきなりすごい音がしたと思ったら壁が吹っ飛ぶなんてさー。変わってるって意味じゃうちも相当なもんだと思ってたけど、やっぱり他所は他所で面白いわねー」

 

「ああ、もう、あまりはしゃぐんじゃない、エルネスタ。頼むからこれ以上面倒をかけないでくれないか」

 

入り口から見慣れない顔の女性が二人現れた。

まあ、ここに来たのはまだ1ヶ月も経ってないのだから、いくらでもいるだろう。だが、見慣れないのは女性二人の顔ではなく、身に付けている制服だ。

二人の制服は俺らの星導館でも、オーフェリアのいるレヴォルフでも、シルヴィのいるクインヴェールでもない。ということはガラードワーズか界龍(ジェロン)、アルルカントのどれかということなのだが。

 

「―――――これはどういうことだ。クローディア?」

 

俺が二人を見ながら考えていると、ユリスが冷たく低い声で言った。

 

「ユリス?」

 

怪訝にユリスを見ると、ユリスは鋭い目付きで身構えていた。そしてそれはユリスだけでなく、その隣のレスターもだった。

 

「ああ、ご紹介しておかなければなりませんね。こちらはアルルカント・アカデミーのカミラ・パレートさんとエルネスタ・キューネさんです」

 

「アルルカント・・・・・・?」

 

俺はクローディアの言ったアルルカントと言う言葉に眉を潜めた。アルルカントと言えば、オーフェリアを《魔女(ストレガ)》にした《大博士(マグナム・オーパス)》がいると言われている学園だ。正直俺は、あまりアルルカントを好きになれない。確かにしたのは《大博士》だけなのかもしれないがそれでも何故かわからないが俺は好きになれなかった。

そんなことを思っていると。

 

「それで、アルルカントの奴らが何故ここにいる」

 

「今度我が学園とアルルカントが共同で新型の煌式武装を開発することになりまして。こちらのパレートさんはその計画の代表責任者なのですよ。今日はその正式な契約をとり結ぶために、わざわざ当学園までいらしてくださったのです」

 

「――――どうも」

 

「共同開発、だと・・・・・・?」

 

「ふん、そうか。そう言うことか」

 

クローディアの言葉に俺らが分からないなか、ユリス一人だけは納得した様子で不機嫌そうに吐き捨てた。

 

「おいこら、ユリス。そういうことってのは、どういうことだ?」

 

「・・・・・・相変わらず察しの悪いやつだな。大方、前回のサイラスの件の黒幕だったアルルカントを表だって告発しないと言う条件で技術提供を取り付けたんだろう」

 

「なっ・・・・・・!」

 

「さて、なんのことでしょう」

 

ユリスの言葉に絶句するレスターと嫣然と微笑むクローディア。

 

「まあいい。あの一件の処分はおまえに任されているのだからな。だが―――――なぜ、そのアルルカントの関係者がここにいる?」

 

「ええ、それは―――――」

 

「はいはーい、それはあたしが見たいって言ったからでーっす」

 

クローディアの言葉を遮り、ひょこと跳び跳ねながら手を挙げ言ったのは、エルネスタと言う少女だ。

 

「いやー、是非ともこの目で拝んでみたくってさー。“あたしの人形ちゃんたち”をぜーんぶぶった斬ってくれちゃったっていう剣士くんにさ」

 

「は?」

 

「え?」

 

エルネスタの発言に、その瞬間、なんとも言えない不思議な沈黙が周囲を包む。

ユリスとレスターは顎をかくんと落とし、クローディアは驚いたように口元を手で抑え、エルネスタの隣のカミラは声にこそ出さなかったが「あちゃあ」とでも言いたそうに片手で顔を覆った。

なんとなくこのカミラという少女の苦労が分かったような気がする。

 

「それはエルネスタさんが黒幕ってこと、だって捉えていいのかな?」

 

「そうだよ~。んで、キミが噂の剣士くんだねー」

 

俺の問にエルネスタは素直に答えると、俺に近づいてきた。

 

「ふむふむ、なるほどなるほどー」

 

俺はどうすればいいのか分からず、エルネスタと一緒にいたカミラに視線を向ける。

カミラは呆れたようにと言うよりか、疲れたように「はぁ」と溜め息をついていた。

相当疲れがたまっているみたいだ。

 

「ん、なかなかいいわねー。気に入っちゃった!」

 

するとエルネスタは俺にちょいちょいと手招きをした。

警戒半分戸惑い半分で身を屈めると、エルネスタは猫のように目を細めてそっと耳打ちをして来た。

 

「でも――――――次はそう上手くはいかないぞ?」

 

「次・・・・・・!?」

 

顔をあげようとするのを先んじて、エルネスタの唇が俺の頬にそっと触れた。

 

「うわっ!?」

 

俺は慌てて飛び退いた。

そしてその頃、二ヶ所のある場所で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?・・・・・・綾斗が誰かにキスされた気配。ユリスに確認を」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?今の綾斗くんが私とオーフェリアちゃん以外にキスされた気配!」

 

「と、突然どうしたのですかシルヴィア?」

 

「今すぐ帰らないと!」

 

「いや、無理ですからね」

 

「だって・・・・・・」

 

「あと少ししたら終わりですから、それまで待ってください」

 

「・・・・・・ペトラさんがそう言うなら」

 

「(これが恋する乙女ですか・・・・・・。天霧くん、頑張ってください)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時にそんなことが起こったのだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今。

 

「うわっ!?」

 

「なっ・・・・・・!?」

 

「・・・・・・っ!」

 

「あら・・・・・・」

 

俺は慌てて飛び退き、ユリス、紗夜、クローディアは目の色を変えた。

 

「きっ、きっ、貴様!一体何を・・・・・・!」

 

「・・・・・・泥棒猫、滅ぶべし!!」

 

ユリスは細剣型の煌式武装を抜き、紗夜は展開したままの煌式武装の砲口を二人同時にエルネスタへ向ける。

そして、

 

「あっ、綾斗!貴様オーフェリアという者がありながら・・・・・・!」

 

「綾斗、今のはれっきとした浮気の証拠!覚悟するべし!」

 

俺の方を見ながらそう言ってきた。

 

「ちょっ、今のは不可抗力だよね!?俺悪く無いよね!?」

 

「「問答無用!!」」

 

「ちょっ、ちょっとー!!」

 

二人はそう言うと否や、俺に攻撃を仕掛けてきた。

 

「にゃはは!ホント面白いね~」

 

「自重しろエルネスタ。こうなったのはお前が原因だ」

 

「ええ~。あたしとしては剣士くんだけじゃなくて《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》ともお近づきになれたらうれしいんだけどなー」

 

「断る!生憎、私は元から貴様らアルルカントが大嫌いでな。ご免こうむる」

 

「ちぇー、残念」

 

「申し訳ない、このエルネスタは・・・・・・まあ、なんというかご覧の通りの性格でね。代わりにわたしがお詫びする」

 

カミラが苦笑を浮かべて軽く頭を下げた。

そんな中、

 

「いや、あの、その前に二人を止めてほしいんですけど!!てか、助けて!」

 

俺は二人の攻撃を避けていた。

会話している間も、ユリスと紗夜は攻撃を仕掛けてきているのだ。

 

「はいはい。二人ともそこまでにしてくださいね」

 

「ふっ。では後でまた続けるとするか」

 

「リースフェルト手伝う」

 

クローディアの一言で一旦止まったが後がキツいこれは。

すると、そのカミラがふと紗夜の持つ煌式武装に視線を向けた。

 

「ふむ、これは面白いね。ずいぶんと個性的な煌式武装だ。コアにマナダイトを二つ・・・・・・いや、三つかな?強引に連結させて出力を上げているようだが―――――なんとも懐かしい設計思想だ」

 

「・・・・・・正解。なぜわかった?」

 

「わかるとも。私の専門分野だからね。しかし言わせてもらえば、あまり実用的な武装とは言いがたいな」

 

カミラの発言に紗夜の眉がピクリと動いたのを、俺は見逃さなかった。

 

「複数のコアを多重連結させるロボス遷移方式は十年以上前に否定された不完全な技術だ。出力が安定せず、使用者の負担が大きい上に、どうしても大型化を免れない。高出力を維持するためには過励万能現象を引き起こさねばならず、一回の攻撃ごとにインターバルが必要となる。そういった欠点が改善されているようにも見えない」

 

「・・・・・・それは事実。――――――だが、それでもお父さんの銃を侮辱することを私は許さない。撤回を要求する」

 

紗夜は悔しそうに唇を噛みながらも、真っ直ぐにカミラを睨み返し、ハッキリとそう言う。

 

「もしや、キミは沙々宮教授のご息女なのか?」

 

「だとしたら?」

 

「なら、ますます撤回するわけにはいかなくなった。沙々宮教授はその異端さ故にアルルカントを、そして我らが《獅子派(フェロヴィアス)》を放逐された方だ。武器武装は力であり、力は個人ではなく大衆にこそ与えられねばならない。それこそが《獅子派》の基本思想であり、わたしはその代表として彼の歪さを認めるわけにはいかない」

 

「・・・・・・・・・・」

 

視線の鋭さをさらに増した紗夜の視線は、カミラを一直線に貫く。

紗夜とカミラはお互いに一歩も引く気はないといった顔で睨み合う。まさに一触即発だ。

そのとき。

 

「こほん」

 

絶妙なタイミングでクローディアがわざとらしく咳払いをした。

 

「お二人とも。そろそろ本題の方へ取り掛かるとしませんか?」

 

「・・・・・・そうだね。失礼した」

 

「待て。断固として撤回してもらう」

 

背を向けたカミラに紗夜はなおもその背中を睨み付けていうが、カミラは答えることなく去っていった。

 

「カミラはああなったら頑固だからねー。ちょっとやそっとじゃ自分の意見を覆すことはないかなー」

 

エルネスタがさも楽しそうに含み笑って言う。

 

「まー、どーしてもっていうなら、力ずくで認めさせるしかないだろうねー」

 

「・・・・・・つまり決闘をしろと?」

 

「にゃはっ!まっさか、そんなわけないじゃん。でもさ、あたしたち今度の《鳳凰星武祭》にエントリーしてるのよねー」

 

「《鳳凰星武祭》に?」

 

「そそ。そっちが決勝まで来れば、どっかで当たるっしょ」

 

エルネスタの目は笑っていたが、冗談を言っているようにはとても見えなかった。

恐らく、何かしらの秘策があるのだろう。

 

「――――――エルネスタ、行くぞ」

 

「はいはーい!じゃ、みなさんまったねー!」

 

入り口から飛んできたカミラの声に答えて、エルネスタは踊るような足取りでトレーニングルームから出ていった。

 

「あらあら。これは大胆不敵ですね」

 

クローディアがこちらを向いて口に手を当てて言う。

 

「それでは、私もこれで失礼しますわね。あ、綾斗」

 

「なに、クローディア?」

 

「後、3分後にここに来客が来ると思いますので。ちなみに綾斗の知っている人ですよ」

 

「え?」

 

「では」

 

そう言うと、クローディアもトレーニングルームから出ていった。

 

「俺に来客?」

 

俺は台詞に背筋に寒気が走った。

 

「(ま、まさかね)」

 

俺が思考していると。

 

「・・・・・・なんともまあ、ふざけた連中だ」

 

ユリスが小さく呟いたのに気づいた。

 

「しかし《鳳凰星武祭》に出るとか言ってたが・・・・・・あいつらどう見ても研究クラスだろ?」

 

「ああ。正気とは思えんな」

 

「?研究クラスって?」

 

俺はユリスと話したレスターに尋ねた。

すると、レスターとユリスはどこか呆れた様子で答えてくれた。

 

「アルルカントでは煌式武装などの研究開発を行う学生と、実際に《星武祭》で闘う学生に分かれているのだ」

 

「普通、前者。研究開発を行う学生が実戦。ましてや《星武祭》に出ることなどまずねぇ」

 

「へぇ・・・・・・」

 

二人に聞き、考えを巡らせていると、

 

「・・・・・・綾斗」

 

紗夜が、服の裾をくいくいと引っ張った。

 

「ん?どうしたの、紗夜?」

 

「私も《鳳凰星武祭》に出る。決めた」

 

「《鳳凰星武祭》に・・・・・・?うん、まあ、それはいいけど、《鳳凰星武祭》はタッグ戦だよ?誰と組むつもりなの?」

 

「そこは考えてなかった」

 

「えぇー。紗夜・・・・・・・」

 

「綾斗、誰かいない?」

 

「え、う、う~ん・・・・・・」

 

俺は腕を組み唸る。

正直、まだそこまで知り合いがいない。

 

「言っとくがオレはもうランディーと組むことになっているから無理だからな」

 

レスターを見ると、レスターはそう答えた。

 

「というかな紗々宮。すでに《鳳凰星武祭》のエントリーは締め切られているはずだぞ?今からどうするつもりだ?」

 

「む・・・・・・それは問題」

 

さすがの紗夜もユリスのこの言葉には考え込んだ。

 

「まぁ、一応今からでも予備登録は可能だけどな。毎年、何組かはケガやらなんやらで出場できなくなったりするもんだし」

 

「よし、じゃあそれ」

 

紗夜はレスターの言葉にパチンと指をならした。

 

「・・・・・・それで、パートナーは?」

 

「・・・・・・綾斗、誰かいない?」

 

「え、ええ、う~ん・・・・・・・・!!?」

 

考え込んでいると、突如背筋に寒気が走った。

すると。

 

「・・・・・・綾斗、浮気はダメっていったよね」

 

トレーニングルームの扉が開いて誰かが入ってきた―――――――以前に知ってる声が聞こえてきた。

恐る恐る声のした方を向くと。

 

「・・・・・・あ・や・と?」

 

絶対零度の表情で俺を見る少女がいた。―――――――というか俺の恋人がそこにいた。

 

「お、オーフェリア・・・・・・・!?なんでここに・・・・・・!?」

 

服装と髪の色は違うがオーフェリアがそこにいた。

 

「・・・・・・エンフィールドに連れてきてもらったのよ。ちなみに話はシルヴィアから通ってるわ」

 

「へ、へぇー。そうなんだ・・・・・・」

 

「そう。で、綾斗」

 

「は、はい」

 

「私とシルヴィア以外の女子にキスされたってホント?」

 

「え、えーと。その、なんといいますか・・・・・・」

 

「綾斗?」

 

「は、はい!ご、ごめんなさい!頬にされました!」

 

俺は素早くその場で土下座した。

正直今のオーフェリアは怖い。

 

「そう。・・・・・・だそうよシルヴィア」

 

「え!?」

 

オーフェリアのシルヴィアという発言に俺は身体が固まった。

 

『ふーん。紗夜ちゃんがメールで教えてくれた通りなんだ。へぇー』

 

「紗夜から聞いたって、何時」

 

「・・・・・・さっきよ。私はユリスから」

 

『さっきだよ。私は紗夜ちゃんから』

 

「ゆ、ユリス!?紗夜!?」

 

俺はメールを送った張本人の紗夜とユリスに慌てて視線を向ける。

 

「自業自得だ綾斗。まず第一に貴様は無防備過ぎる!」

 

「リースフェルトに同意。綾斗はシルヴィアとオーフェリアがいるんだから他の女子に無闇に近づいたらダメ」

 

「え、ええと。た、助けてレスター」

 

「あー。その・・・・・・なんだ。天霧、さすがにそれは自業自得だとオレも思うぞ。恋人がいるならソイツを大切にするのが・・・・・・・漢だろ」

 

「レスターが漢を語った!?」

 

「というか、未だに状況がわからねぇんだが・・・・・・・お前の恋人が《戦律の魔女(シグルドリーヴァ)》と《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》だということは分かったが・・・・・・なんでここに《弧毒の魔女》がいるんだ?」

 

「・・・・・・綾斗を迎えに来た」

 

レスターの問いに、オーフェリアは即直に答えた。

 

「な、なんで急に迎え!?」

 

「・・・・・・・いや?」

 

『ブハッ!』

 

「ちょっ、シルヴィが鼻血出してどうするのさ!」

 

『だって可愛いんだよ綾斗くん!オーフェリアちゃんの、いや?、っていう姿勢!』

 

「・・・・・・シルヴィア、少し落ち着いた方がいい」

 

『それもそうだね紗夜ちゃん』

 

「ハァー・・・・・・。レスター」

 

「・・・・・・なんだユリス」

 

「わかってると思うがここで視たり聞いたりしたことは他言無用だぞ」

 

「わかってる。はじめからそのつもりだ。だが、まあ、なんていうか・・・・・・」

 

「なんだ?」

 

「いや。お前も苦労してるんだなって」

 

「・・・・・・頼むからそれを言わないでくれ。自分が空しくなる」

 

「・・・・・・だな」

 

「「ハァー・・・・・・」」

 

何故か分からないけどユリスとレスターが溜め息をついていた。と言うよりなんか窶れている気がする。

 

「それで綾斗、お仕置き」

 

『そうだね~。綾斗くん、私たち以外の女の子にキスされたもんね』

 

「ちょ、待ってオーフェリア!確かにされたけど、いきなりだったから防ぎようがなくて、その、あの」

 

『ハア。まあ、今はおいといてあげる』

 

「ホッ」

 

『だけど、私が帰ったらきっちり説明してもらうからね綾斗くん!』

 

「は、はい!」

 

『それじゃあオーフェリアちゃん。残り10日お願いね』

 

「・・・・・・ええ。シルヴィアも頑張って。ペトラさんにあまり迷惑かけないようにね」

 

『もちろんだよ♪じゃあ、また後でね』

 

シルヴィはそう言うと、通話を止めウインドウが消えた。

 

「・・・・・・それじゃあ私たちも帰りましょう」

 

「そ、そうだね」

 

「・・・・・・それじゃ紗夜、ユリス。またね」

 

「ああ」

 

「・・・・・・オーフェリア、進展があったら連絡よろしく」

 

紗夜が独特のサムズアップでオーフェリアに言った。

 

「・・・・・・ええ。わかったわ」

 

「それじゃあ、また明日」

 

俺はそう言うと、オーフェリアとともにトレーニングルームを出て、そのまま星導館を出た。

そして、家に帰ってきた。

 

「た、ただいまー」

 

「・・・・・・ただいま」

 

俺とオーフェリアは誰もいない家にそう言う。

 

「荷物おいて来るね」

 

「・・・・・・わかったわ」

 

俺はそう言うと、自室に行き荷物をおいて部屋着に着替えリビングに向かった。

リビングの扉を開けてまずみたものは。

 

「・・・・・・どう、綾斗?似合ってるかしら?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「綾斗?」

 

「あ、ごめん。じゃなくて、なんで裸エプロンなのさ!?」

 

何も着けずにエプロンを着ただけのオーフェリアの姿だった。

 

「裸じゃないわよ。ほら、水着着てるわ」

 

オーフェリアの言うとおり、オーフェリアはエプロンの下に白のビキニタイプの水着を着ていた。

 

「ホントだ。じゃなくてなんで水着エプロンなの!?」

 

「・・・・・・だって綾斗が私の方を見ないから」

 

「いやいや、そんなことないからね!」

 

「ホント?」

 

「ホントホント!」

 

「ホントのホント?」

 

「ホントのホントのホント!」

 

なんか昔どこかでしたようなやり取りをしてオーフェリアを見る。

 

「・・・・・・じゃあ私にキスして」

 

「え、えーと、まあ、そのくらいなら」

 

俺は、オーフェリアを抱き締めてオーフェリアの唇と自分の唇を重ね合わせキスをする。

唇と唇が離れると、口からツゥー、と唾液が糸のように垂れた。

 

「・・・・・・これで今日のことは許してあげるわ」

 

「了解」

 

「帰ってきたらシルヴィアにもやってあげて」

 

「わかってるよ」

 

俺は苦笑しながらオーフェリアに返事をして、夕飯の支度をして色々として夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 



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星導館序列一位

~綾斗side~

 

「―――――というわけで、その人たちについて何かわかるかな?」

 

「ほっほぉ、なるほどなるほど、アルルカントの連中がうちにねえ」

 

アルルカント・アカデミーのカミラとエルネスタの二人との会合の翌日の昼休み、歩きながら俺は夜吹にアルルカントの二人について聞いていた。

 

「うん。夜吹なら知ってるんじゃないかなって」

 

「任せな。えっとー、まずは・・・・・・・」

 

夜吹は空間ウインドウを表示させ、昨日の二人組を映し出した。

 

「このエキゾチックな美人さんはカミラ・パレード。アルルカント研究院所属。アルルカントにおける最大派閥《獅子派(フェロヴィアス)》の代表だな。煌式武装の研究開発が専門で、彼女のチームが作成した煌式武装を使ったタッグが昨年の《鳳凰星武祭(フェニクス)》を制してるな。他の二つの《獅鷲星武祭(グリプス)》と《王竜星武祭(リンドブルス)》でも彼女の作成した煌式武装を使った学生がかなりのポイントを稼いでいる。昨シーズンアルルカントを総合成績二位に押し上げた立役者だ」

 

「へぇ。そんなにすごい人だったんだ」

 

俺は昨日のカミラを見て感じた第一印象は苦労人ということだったのだが、夜吹の説明で凄いということがわかった。

 

「で、もう一人の方はエルネスタ・キューネ。アルルカントきっての天才と名高い《彫刻派(ピグマリオン)》の代表なんだが・・・・・・」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、実はこのエルネスタってやつに関してはあまり情報がないんだよ。聞いた話だと、かなりエキセントリックな性格の持ち主らしいが」

 

「あぁー」

 

昨日のことを思いだし、カミラが苦労人の理由がわかった気がする。

この時、俺はカミラに敬意を懐いた。

何故なら近くに似たような感性の持ち主がいるからだ。

 

「ただまあ、弱小派閥だった《彫刻派》をほとんど一人で一大勢力にまで叩き上げたらしいから、やり手なのは間違いないだろうな」

 

「ところで、その《獅子派》とか《彫刻派》とかってのは?」

 

「星導館にも言えるんだが、どこの学園も多かれ少なかれあるんだが、特にアルルカントってのは内部勢力争いが激しいんだ。研究内容によって派閥が分かれていて、それが研究資金やら実践クラスの有力学生やらを取り合ってる」

 

そう言うと夜吹は新たにもう一つ空間ウインドウを展開させた。

そのウインドウには円グラフのようなものが記されていた。

 

「ちなみにこれがアルルカントの派閥の勢力図だ。そして、最大勢力は煌式武装の研究開発を行っている、この《獅子派》だ」

 

「圧倒的じゃないか」

 

夜吹が展開させた円グラフの半分は《獅子派》の色で埋まっていた。

 

「ただアルルカントは図体がデカい反面、纏まりに欠けていてな。しかもアルルカントは生徒会より研究院の議会の方が強いんだが、議決には三分の二の賛成票が必要だ。これを確保するためには何処かよその派閥と手を組まなくきゃならない」

 

「へぇ。そりゃ大変だ」

 

「ああ。《獅子派》は以前、生体改造技術なんかを研究している《超人派(テノーリオ)》ってとこと連携してたんだが、何年か前にこの《超人派》が相当な失敗をやらかしたみたいで、大きく勢力を減退させたらしい」

 

「相当な失敗?」

 

「ああ。なんでもでフラウエンロープ系列の研究所で《大博士(マグナム・オーパス)》がトラブルを発生させたとか」

 

「大・・・・・・・博士・・・・・・?」

 

「天霧?」

 

俺は《大博士》という単語に身体が硬直した。

オーフェリアがあの時言っていた事と同じだったからだ。

 

「夜吹、その失敗って何年前だ?」

 

「え?あー、確か5~6年くらい前だったか?だが、噂で聞いただけだからなぁ。信憑性は低いと思うぜ」

 

「そう・・・・・・」

 

俺はそれで確信した。

アルルカントの《超人派》の失敗は《大博士》がオーフェリアにした人体実験、だと。

 

ギリッ!

 

許せない。

人体実験を認可したアルルカント自体が俺は許せなくなっていた。恐らくシルヴィと紗夜も同じく反応をするだろう。そしてもちろん、ユリスも。それにもしこの話を姉さんが聞いていたら物凄く激怒する。姉さんはオーフェリアとシルヴィ、紗夜を妹のように可愛がっていたから。実際、俺は今すぐアルルカントに行ってアルルカント自体を滅ぼしたい気持ちで一杯だった。もし今この場に《大博士》がいたら、俺はセレスを使って斬っていただろう。それも細かく。原型を止めていないほどに。

それを思っていた俺は無意識に両手を強く握っていた。

 

「お、おい?天霧?」

 

そこに夜吹が心配したような声で聞いてきた。

その声には若干怯えが含まれていた。

 

「大丈夫か天霧?」

 

「あ、うん。大丈夫。ごめん話を折っちゃて」

 

「まあ、構わないけど。話を戻すぞ。んで、その《超人派》が減退して、《獅子派》が新たに手を組んだのが《彫刻派》ってわけだ」

 

「なるほどね。ちなみに《彫刻派》は何を研究してるの?」

 

「サイバネ技術や擬形体(パペット)の研究開発だったか」

 

「なるほど」

 

昨日彼女が言っていたことは本当らしい。

そして今回の《鳳凰星武祭》に参加ということは恐らくカミラの作成した煌式武装を持った、エルネスタの擬形体が出場するのだろう。

二人の代役として。

 

「そう言えば基本的な疑問なんだけど、どうしてアルルカントじゃ学生が研究開発までやってるんだろう?統合企業財体に任せて、学生は《星武祭(フェスタ)》へ集中させた方が効率がいいと思うけど・・・・・・?」

 

「ああ、そりゃ適正の差だよ。万能素(マナ)星辰力(プラーナ)を扱う研究に関しちゃ《星脈世代(ジェネステラ)》の方が圧倒的に向いてるらしい」

 

「へぇ」

 

「ちなみにアルルカントのコンセプトは、どうせ《星脈世代》を集めるんだったら、そいつらも一緒に育成しちまおう、らしい」

 

「なるほどね」

 

そのまま夜吹から聞きながら話していると、視界の端に二つの影を見つけた。

 

「ん?」

 

「おわっ。おいおいどーした天霧」

 

「いや、あそこ」

 

視線の先には、渡り廊下の柱の影に隠れるように星導館中等部の制服を着た少女と壮年の男性がいた。

 

「あれは―――――」

 

「へへっ、こんなところで面白そうなネタを見つけちまうとは」

 

「――――刀藤さん?」

 

「おっ、さすがのおまえさんもあの刀藤綺凛をしってるか」

 

「え?刀藤さんって、なにか有名なの?」

 

懐から年季の入った手帳を取り出して、手元を見ずに何やらそこへ書きつけている夜吹に問いた。

 

「・・・・・・おまえさん、本気で言ってるのか?」

 

「え、いや、本気だけど・・・・・・?」

 

「だっておまえ、刀藤綺凛って言ったらうちの――――――」

 

夜吹がそこまでいいかけたその時。

 

 

パァン!

 

 

「っ!」

 

乾いた音が響き渡った。

壮年の男が、刀藤さんの頬を、平手で叩いたのだ。

その瞬間、俺の中で何かが弾けとんだ。

 

 

「――――それはお前が考えることではないと言ったはずだぞ、綺凛」

 

「で、ですが伯父様、わたしは・・・・・・」

 

「口答えを許した覚えもない」

 

再び男の腕が振り上げ、刀藤さんがビクリと身をすくませた。

刀藤さんの頬に再び男の手が当たる直前。

 

「――――――はい、そこまで」

 

俺が男の腕を掴んだ。

 

「え・・・・・・?天霧・・・・・・先輩・・・・・・?」

 

刀藤さんが驚いたように目を見開いた。

俺は刀藤さんに軽く微笑み、男の顔を見る。

 

「・・・・・・なんだ、貴様は」

 

一方男の方はわずかに眉を顰め、短く言う。男の視線には冷ややかな侮蔑が宿っており、その声にはあからさまな嫌悪がにじみ出ていた。

 

「どんな事情かはしらないが、無抵抗の女の子に手を上げるのはどうかと思いますけど」

 

「くくっ、笑わせるな。自分の欲のために争いを繰り広げている貴様らが、今さらどの口でそんな綺麗ごとをほざくんだ?」

 

「俺たちは争っているのではなく、競いあっているんです。一方的な暴力と一緒にしないでもらいたい。それに、自分の欲のために争いを繰り広げている、と言いますけど、あなた方も己の欲のために争いを繰り広げていますよね?そんなあなた方と俺たちを一緒にしないでもらえません?」

 

俺は睨みを鋭くして男を見る。

男は僅かに下がり、俺の腕を振り払うようにして鼻を鳴らす。

 

「・・・・・・ふん、今のはただの躾だ」

 

「躾・・・・・・?」

 

「そうだ。これは身内の問題だ。部外者が口出しするな」

 

「身内・・・・・・?」

 

俺は刀藤さんに視線を向けて、説明を求めた。

苛立ち抑えながら。

 

「この方は、わたしの伯父、刀藤綱一郎、です」

 

刀藤さんは脅えた表情をしながらも説明してくれた。

 

「わかったらそこを退け、小僧。そもそも貴様ら《星脈世代》がこの程度でどうにかなるわけないだろう?」

 

「だからといって、痛みを感じない訳じゃない」

 

「!」

 

刀藤さんは、俺の言葉にはっと顔をあげた。

 

「貴方は俺たち《星脈世代》をなんだと思ってるんです?」

 

「ふん、私からしてみれば貴様らなど単なる物としか思っとらんわ」

 

「物・・・・・・?」

 

「ああ、そうだ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

正直今の俺はかなり頭に来ている。

 

「たかだか学生風情が生意気な口を叩くものだ。貴様、名前は?」

 

「・・・・・・天霧綾斗」

 

刀藤さんの伯父は懐から携帯端末を取り出すと、手慣れたしぐさでそれを操作し、空間ウインドウを展開させた。

 

「天霧・・・・・・ふん《在名祭祀書(ネームド・カルツ)》入りもしていない雑魚か」

 

この人、今自分の発言でほとんどの星導館の生徒を敵に回したこと分かんないのかな?

 

「ほう、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》をな――――なるほど、それならば無価値と言うわけでもないか・・・・・・」

 

目の前の刀藤綱一郎がそう呟くのが聞き取れた。

すると、刀藤綱一郎は不適に笑うと、俺へ向き直った。

 

「いいだろう、小僧。貴様が私を気に食わぬと言うなら、どうして欲しいのか言え」

 

「え?」

 

「聞いてやろうというのだ。言ってみるがいい」

 

「ずいぶんと上から目線でいいますね・・・・・・。俺が言いたいことは、もう二度と、刀藤さんに暴力を振るわないことです。それは約束できますか?」

 

「ああ、構わん」

 

俺の言葉に刀藤綱一郎は鷹揚にうなずくと、悪意に満ちた笑みを浮かべた。

 

「――――ただし、貴様が決闘に勝ったならばの話だがな」

 

「決闘・・・・・・?」

 

「伯父様!待ってください!」

 

俺が理解できないなか、刀藤さんも驚いたように声を上げた。だが、刀藤綱一郎は意にも介さないで言葉を続けた。

 

「そうだ。それがこの都市の―――――貴様らのルールだろう?」

 

「確かにそれは俺たちのルールです。・・・・・・ですが、貴方はそのルール外の人間でしょう?それに、貴方は《星脈世代》ではないですよね?どうやって決闘するんです?」

 

「当たり前だ!貴様らのような化け物と一緒にするな・・・・・・!」

 

刀藤綱一郎はそう吐き捨てると、俺を睨み付けながら刀藤さんの背後に回り――――――

 

「貴様の相手は、‘これ’だ」

 

「なっ・・・・・・!?」

 

俺は今度こそ絶句した。

 

「どういうつもりです・・・・・・?」

 

「安心しろ。貴様が負けたところで、こちらから要求するようなことはなにもない」

 

「そう言うことじゃない!何故、刀藤さんと決闘することになるのかと聞いているんです!刀藤さんは関係ないですよね!」

 

これは勝ち負け以前の問題だ。

 

「伯父様!わたしは・・・・・・!」

 

「黙れ。おまえはわたしの言うとおりに動いていればそれでいい」

 

刀藤さんは抗議の声をあげるが、刀藤綱一郎は聞く耳を持たない。

 

「で、ですけど―――!」

 

「ふざけるな!刀藤さんは貴方の姪じゃないんですか!それなのに道具のような扱い・・・・・・彼女の意思は無視ですか!」

 

刀藤さんの言葉を遮り、俺は強めの口調で言う。

 

「だからどうした?これが私の姪で道具扱いして貴様になにか関係あるか?」

 

「大有りですね。貴方は彼女の意思を尊重してない。彼女はまだ中学生なのに・・・・・・。もう一度言います。刀藤さんは貴女の道具ではない。俺は刀藤さんとは決闘はしません。もし、それが彼女の意思なら俺はそれを受けます。ですが、彼女の意思ではなく貴方の命令なら断ります」

 

「ふっ、貴様も道具に過ぎないだろ。特待転入生として入った時点で貴様も道具だ。さらに言うなら、《王竜星武祭》で二連覇を成し遂げたとかいう小娘も道具に過ぎないだろ」

 

俺は刀藤綱一郎のその言葉に猛烈にイラッときた。

《王竜星武祭》で二連覇を成し遂げたのはオーフェリアだ。この人はオーフェリアを道具扱いした。

その時点で俺は許せなくなっていた。

 

「黙れ・・・・・・」

 

「・・・・・・っ!」

 

俺の低く冷たい声に、刀藤綱一郎は勿論のこと、刀藤さんや夜吹、いつの間にか集まっていたギャラリーも退いていた。

 

「綺凛!やれ!」

 

「で、ですが!」

 

「――――――綺凛。まさか私に逆らうつもりか?」

 

「・・・・・・いえ、そんなことは・・・・・」

 

「ならばいい。あの《黒炉の魔剣》を下したとなれば、またそれなりに箔が付く。期待しているぞ」

 

刀藤綱一郎は逃げるかのように、刀藤さんに背を向け、ゆったりとした足取りで距離をとった。

 

「・・・・・・」

 

「刀藤さん、どうしても闘わないといけないのかな?」

 

「・・・・・・ごめんなさいです、天霧先輩。わたしだって先輩と闘いたくなんてないです・・・・・・。でも、仕方がないのです。わたしには叶えたい望みがあります。そのためには伯父様の言うとおりにするしか・・・・・・」

 

刀藤さんは感情を無理矢理圧し殺すなか、それでもなお隠しきれない悲痛が滲み出しながら言った。

 

「わたしは・・・・・・刀藤綺凛は天霧綾斗先輩に決闘を申請します」

 

刀藤さんの声に応えるように、俺と刀藤さんの校章が赤く発光する。

 

「お願いします天霧先輩。出来れば引いてください」

 

「刀藤さん・・・・・・」

 

「わたしのことは別にいいのです。どうにもならないことですから」

 

「―――――わかった。悪いけど、俺も引くわけにはいかない」

 

「そうですか・・・・・・天霧先輩は優しいんですね」

 

刀藤さんは弱々しい苦笑を浮かべて、腰の鞘へと手を伸ばし、

 

「―――――では仕方がありません。わたしも、負けるわけにはいかないのです」

 

その瞬間、俺は大きく距離をとった。

全身の総毛が立ち身体が反射的に動いたのだ。

刀藤さんが鞘からすらりと抜いたのは刀だった。

それも、煌式武装ではなく、現代風に拵えてはいるが、それは間違いなく真剣――――日本刀だ。

 

「――――――決闘を受諾する」

 

右手を胸の校章にかざして、決闘の申請を受諾する。

決闘を受諾するのと同時に俺は星辰力を身体の内側に集中させ、それを圧縮する。

星辰力が高まり、光の火花を伴って俺の周囲に黒紫色の魔方陣が蒼光の光とともに黒紫の鎖とともに弾けとんだ。

そして、俺は《黒炉の魔剣》を起動させ両手で構える。

目の前の刀藤さんは今の光景に驚いたように目を見開いた。だが、構えた剣先は微塵たりとも微動だにしなかった。

 

『セレスいくよ!』

 

『了解綾斗。気を付けて』

 

『うん』

 

俺が思考でセレスと会話すると、刀藤さんの背後にいる刀藤綱一郎の声が飛んでくる。

 

「綺凛、そいつの純星煌式武装とは剣を打ち合わせるな。刀ごと斬られるぞ」

 

刀藤綱一郎はどうやらセレスの能力を知っているらしい。

 

「(まあ、セレスの能力は調べれば分かることだし、取り敢えず今は刀藤さんに集中しないと)」

 

俺は刀藤さんに合わせるように《黒炉の魔剣》を正眼に構える。

 

「――――――参ります」

 

「っ!」

 

刀藤さんが短く言うや否や、次の瞬間には俺の胸元に白刃が迫っていた。

 

「(速いっ!)」

 

俺は反射的にバックステップでかわす。だが、そこに間髪いれずに斬り上げの追撃が迫る。

 

「っ!」

 

その追撃をセレスで受けようとしたが、刃が当たる寸前でその軌道が変化した。

刀藤さんの刀がセレスの刃を避けるように空中で弧を描いて、俺の右小手に切り下ろしてきた。

それを俺はとっさに右手を離しかわし、セレスを左手で構え直し間合いをとる。

 

「――――――天霧先輩、お強いです。びっくりしました」

 

「それはこっちの台詞だよ・・・・・・」

 

そう言うと、俺と刀藤さんは同時に間合いを詰める。

 

『驚きました。まさか私と刃を合わせることなくここまでするとは・・・・・・』

 

『セレスもそう思う?』

 

『ええ。けどこのままじゃヤバイです綾斗。彼女は今の綾斗と同じくらい強い』

 

『確かに。なんとかできないかな?』

 

『現状では難しいよ。それに時間がない』

 

『だね。あとどのくらい持てる?』

 

『長くて残り4分30秒』

 

『そう・・・・・・。なら、攻めるしかないね』

 

俺は刀藤さんの攻撃を避けて、刀藤さんに攻撃しながら念話でセレスと会話する。

剣を撃ち合わせずにかわし続ける攻防が続き、俺はバックステップで間合いをとり、セレスの柄を握る手を見る。

 

「(くっ!時間が・・・・・・!)」

 

俺の両手は軽くだがプルプルと痙攣していた。

 

「(太刀筋は見えているんだ、ギリギリで避けながら・・・・・・いって出る!)」

 

セレスを構え素早く間合いを詰め、上段からの切り下ろしをする。

刀藤さんはそれをギリギリのところで避け、刃を返して制服を軽く切り裂いてきた。

俺はセレスを右手で構えさらに距離を詰める。

 

「焦っている・・・・・・?何故・・・・・・?」

 

俺の攻撃は刀藤さんの左肘により軌道をずらされ、刀藤さんを横を通りすぎていく。

そしてカウンターに刀藤さんの刀が胸元に迫ってきた。

 

「(これも・・・・・・避ける!)」

 

刀藤さんの刀をギリギリで避け、下がってセレスを構える。

が―――――。

 

 

 

決闘終了(エンドオブデュエル)勝者 刀藤綺凛』

 

 

 

「え・・・・・・!?」

 

決闘終了のアナウンスに驚いていると、胸の校章が真っ二つに分かれ地面に落ちた。

俺がそれに驚いていると、

 

『綾斗、校章の重みを忘れてませんでしたか?』

 

と、念話でセレスが少し呆れた声で言ってきた。

 

『あ』

 

セレスの言葉に俺は思い出したかのように言った。

 

『途中まで良かったんですけど、最後の攻撃がダメでしたね』

 

セレスがそう言うなか、刀藤さんは刀を鞘にしまっていた。

 

「ふん、終わったか。行くぞ」

 

自分が闘って勝ったわけでもないのに、刀藤綱一郎はさも自分が勝ったかのように言うと刀藤さんにそう言った。

 

「あ、はい・・・・・!」

 

刀藤綱一郎の言葉に刀藤さんはそう返事し、落ちていた刀をしまっていた袋を手に取り、

 

「あの、その、ごめんなさいです、天霧先輩」

 

俺にそう言うと、刀藤綱一郎の後を追っていった。

 

「あっ・・・・・・」

 

呆然とするなか不意に肩を叩かれた。

 

「ユリス・・・・・・?」

 

左後ろにいたのはユリスだった。

 

「さっさとこの場を離れるぞ。リミットまで時間が余りない」

 

ユリスは周囲に聞こえないよう、小声で言う。

 

『綾斗、残り2分です。急いでこの場を離れましょう』

 

「あ、あぁ・・・・・・」

 

「それと、あとで話してもらうぞ。どんな理由でお前が、ウチの序列一位と決闘することになったのかをな」

 

「えっ!ウチのって・・・・・・」

 

ユリスの言葉に俺は歩いていく刀藤さんの背中を見ながら言う。

 

 

 

「刀藤さんが・・・・・・ウチの・・・・・・・序列一位!?」

 

 

 

 

 

 



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綺凛の悩み

~綾斗side~

 

「なるほどな・・・そういう経緯か」

 

「うん」

 

俺は、あの決闘のあとユリスに連れられて彼女が使用しているトレーニングルームに来て、俺は横になって説明していた。

 

「ほら」

 

「あ、ありがとう」

 

ユリスから飲み物を受け取り、喉を潤す。

 

「さて。まず、言っておく。今の私の感情は怒り4割、褒めたい気持ち6割だ」

 

「褒めたい気持ちが多いのは何故?」

 

「む。逆の方が良かったか?」

 

「い、いや、そんなことないけど・・・・・・」

 

「まあ、いい。ちなみに褒めたい気持ちの中には感謝の気持ちも入っている」

 

「感謝の気持ちって?」

 

「オーフェリアのことだ。正直、私もそれを聞いたとき腹が立ったからな」

 

ユリスは似た者同士だと言うかのように肩をすくめていった。

 

「あはは。まあ、実際俺もあれ以上言われていたら我慢できずにあの人斬っていたかもしれないね」

 

「おいおい、それはやめてくれ。いくら私でもそれは擁護できんぞ」

 

『全く、綾斗は本当に殺りそうで恐いです』

 

『それは言わないでよセレス。それにセレスもイラついていたでしょ?』

 

『それは当然です。さすがの私でも綾斗と綾斗の大切な人を道具扱いされたらイラつきます』

 

『あはは、セレスらしいよ』

 

ユリスと会話しながら、俺はセレスと思念で会話をする。

 

「まあ、オーフェリアのこともあるが、自分の姪に手を上げるような親族になにもしなかったら私がお前を炙っていたがな。さすがの私も自分の姪に手を上げる奴を許すわけにはいかない」

 

「ユリスならそう言うと思ったよ。・・・・・・それで刀藤さんなんだけど、うちの序列一位ってホント?」

 

俺はユリスから聞いたときから聞きたかったことを聞いた。

 

「全く・・・おまえは何もしらないのだな。・・・・・・刀藤綺凛は中等部1年にして武器は刀。しかも日本刀一本で星導館序列一位にまで登り詰めた。しかも、今年入学してから負け無しだ。私が星導館で勝てないと思った三人のうちの一人だな」

 

「日本刀一本で負け無し・・・・・・」

 

俺は刀藤さんとの決闘のことを思い出した。

確かに彼女の剣の力量は凄いものだ。あそこまでの高みに辿り着くまでどのくらいの時間がかかったのだろう。

 

「ん、ユリスが勝てないと思った三人のうちの一人?」

 

「ああ、そうだ。ちなみにあとの二人はおまえとクローディアだ」

 

「え!?俺も入ってんの!?」

 

「当然だ。本気のお前の技量はクローディアと恐らく刀藤綺凛さえも凌ぐだろう。まず、一番私が勝てないと思ったのはおまえだぞ?」

 

「そ、そんなに・・・・・・?って、クローディアはどうして勝てないと思ったの?」

 

「ああ、まずクローディアに勝つこと事態が難しいのだ。特にあいつの持っている純星煌式武装≪パン=ドラ≫の未来予知が驚異だ」

 

「み、未来予知!?そんな純星煌式武装があるの!?」

 

「ああ、といってもそう頻繁に使えると言うわけでもないようだがな」

 

「へぇー」

 

俺はクローディアも純星煌式武装を持っていることと、その純星煌式武装の未来予知に驚きをだした。

 

『未来予知、ですか・・・・・・』

 

『ちょっとクローディアと決闘してみたいかも』

 

『私も同じです』

 

『あ、でも未来を読まれるんだよね。どうしたらいいかな』

 

『そんなの決まってるに当然ですよね』

 

『まあね』

 

『『未来が見れないようにすればいい』』

 

思念でセレスと同じ考えに至った俺は、思念でセレスと笑いあった。

 

「さて。おまえの実力が割れてしまったことが問題だが・・・・・・・まあ、その当たりはなんとかなるだろう。幸いにも制限時間がついているということはバレてないしな」

 

「ご、ごめん・・・・・」

 

「別に謝らんでいい。今回の決闘は私にとってもお前にとっても無視できんものだったしな」

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

そのあと俺はユリスと今後の対策について話し合い、クローディアから新たな校章を受け取ったりと、あっという間に放課後になった。

そして・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後

 

「夜吹から俺にお客さんがいるってメールが来たけど・・・・・・誰だろう?」

 

俺はクローディアから新たな校章を受け取り、刀藤さんのことを話して、いざ帰ろうとしたとき夜吹からメールをもらい高等部の男子寮の前に来ていた。

 

「おっ、来たな天霧」

 

「夜吹、俺に客って?」

 

「2階の応接室に通しているぜ。まあ、おれもはじめ彼女が訪ねてきたときは驚いたけどな」

 

「了解。って彼女?」

 

「行ってみればわかる」

 

「?」

 

俺はあまり利用しない寮の玄関を通り、2階の応接室へと向かった。

その道中、何故か寮内の男子たちから好奇心や嫉妬、憐憫が入り混じった小言を言われた。恐らく俺に来たお客はかなり有名な女性らしい。だが、俺の知り合いで有名な女性、というと・・・・・・・。

 

「(ペトラさんはクインヴェールのOGでかなり有名だけどペトラさんはシルヴィのツアーに行っているし。オーフェリアならユリスか紗夜に連絡ぐらいいれるし、ユリスと紗夜は何時でも会えるし、クローディアはさっき一緒にいたらないし・・・・・・。さすがにアルルカントの二人ってことはないし・・・・・・。誰だろう?)」

 

考えながら歩き、応接室へと辿り着いた。

 

 

コンコン

 

 

応接室の扉をノックすると、

 

『あ・・・・・・ど、どうぞ』

 

中から声が聞こえてきた。

というか、

 

「あれ、この声ってもしかして――――――」

 

聞き覚えのある声だった。

応接室の扉を開け中に入るとそこには。

 

 

「あ、あの、先程はごめんなさいです天霧先輩!」

 

ソファーから立ち上りいきなり謝ってきた少女。星導館学園序列一位―――刀藤綺凛その人がいた。

 

「刀藤さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの!いきなりすみませんでした!」

 

「い、いや、それはいいんだけど・・・・・・」

 

入室と同時に刀藤さんから謝罪を受け、事態に追い付いていなかった俺は、なんとか理解し刀藤さんと対面してソファーに座って話していた。

 

「それより俺の方こそごめん。キミをさらに困らせちゃったみたいで」

 

「い、いえ、そんな・・・・・・!」

 

頭を下げたままの刀藤さんはわずかに顔を上げ、おずおずとこっちの様子をうかがうような視線を向けた。

 

「?どうかした?」

 

「あの・・・・・・お、怒ってないんですか?」

 

「むしろなんで俺が怒らなきゃならないのさ」

 

刀藤さんの問いに苦笑して言う俺に、ようやく刀藤さんの表情が少しだけ緩んだ。

 

「でもまぁ、刀藤さんの伯父さんには少なからず思うところがあるけどね」

 

「う・・・・・・それは、その、誠に申し訳なく・・・・・・」

 

「・・・・・・う~ん、刀藤さんが謝る必要は無いんだけどなぁ」

 

「で、ですが、伯父様は天霧先輩だけでなく、天霧先輩の幼馴染さんに対しても失礼なことを・・・・・・」

 

「オーフェリアのこと?」

 

「はい・・・・・・」

 

「・・・・・・確かに俺だけじゃなくてオーフェリアのこともあの人は道具扱いしたからね・・・・・・。さすがにあの時はちょっとだけ本気で怒ったよ」

 

「あぅ・・・・・」

 

「あ、ごめん。別に刀藤さんに怒ってる訳じゃないからね」

 

再び俯いた刀藤さんに俺は困ったように頭を掻く。

 

「(いい子なのは分かるんだけど、どうにも気が小さいみたい。これであの強さなんだからちょっと反則・・・・・・というよりなんかギャップがすごいような・・・・・・)」

 

今にも泣き出しそうな様子の刀藤さんの頭に俺はぽんと右手を乗せ、優しく撫でる。

 

「はぅ・・・・・・」

 

刀藤さんの顔がほんのりと赤く染まるのを見て、俺は無意識で撫でていた手を引いた。

 

「えっと、それで―――なにか俺に用事でも?」

 

「え?」

 

「まさかわざわざ俺に謝るために来たわけじゃないでしょ?」

 

「いえ、そうですけど?」

 

「ああ、そうなんだ・・・・・・(律儀なんだ刀藤さん。なんとなくだけど刀藤さんの性格がつかめた気がする)」

 

「あ、でも、それだけじゃなくて―――」

 

刀藤さんはそこで言葉を切ると、改めて俺に向き直り深々と頭を下げた。

 

「あの、ありがとうございましたっ!」

 

「・・・・・・はい?」

 

感謝されるようなことに心当たりがない俺は、ポカンとした顔で刀藤さんを見る。

 

「ありがとうって・・・・・・なにが?」

 

「あ、天霧先輩は、一度あっただけの私を伯父様から庇ってくれました・・・・・・!その、あんなことになってしまいましたが、ほ、本当に嬉しかったのです!」

 

「いいよ。結局、俺はキミの力になれなかったわけだしね」

 

「そんなことは・・・・・・!」

 

そう言いかけた刀藤さんに、俺は真剣な表情で人差し指を口の前で立たせた。

さっきから感じる視線に俺は視線を応接室の扉へと向けた。

刀藤さんもすぐに察したのか、息を潜めて視線だけで了解の意を示してくれた。

俺は気配を殺しつつ扉に近づき、タイミングを計ってから、

 

「おわあっ!?」

 

ぐっと扉を手前に引いた。

すると、扉にへばり付いて中の様子を伺っていたらしい連中が、雪崩のように転がり込んできた。

そして、

 

「ずいぶんと取材熱心だね、夜吹?」

 

当然のように先頭にいた顔馴染みのクラスメイトとルームメイトに向かって呆れ顔とほんの少しの殺気を乗せて言った。

 

「よ、よお天霧・・・・・・」

 

「それで夜吹たちはなにしていたの」

 

「お、落ち着け天霧・・・・・・!目が笑ってないぞ」

 

刀藤さんが慌てふためく中、俺はにこやかな笑みを浮かべながら夜吹たちに問いていた。

 

「刀藤さん、ちょっとだけ部屋の外にいてくれるかな?」

 

「え?あ、はい。わかりましたです」

 

「ありがとう刀藤さん」

 

「ちょ、と、刀藤さん!ま、マジで助けてくれ!」

 

刀藤さんが首をかしげながら応接室を出ていくなか夜吹はそう刀藤さんに言うが、無情にも刀藤さんの耳に入らなかった。

刀藤さんが出ていったのを確認すると、俺は未だに倒れている夜吹たちを見て、

 

「さてと、お説教の時間だよ?」

 

そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『ギャァァァァァァァアア!!!!』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその数分後寮の中だけに止まらず外にまでも夜吹たちの悲鳴が響き渡った。

さらに、その悲鳴は星導館七不思議のひとつに後日付け加えられたらしい。理由は不明だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね刀藤さん」

 

「いえ、わたしは気にしてないので大丈夫です。それより、あの方たちは・・・・・・?」

 

「夜吹たちなら多分大丈夫だと思うよ?」

 

「そ、そうですか・・・・・・?でも、すごい悲鳴が聞こえたような・・・・・・」

 

「気のせいだよきっと」

 

「はあ・・・・・・」

 

俺は刀藤さんを寮に送るため、一緒に女子寮の方へと向かっていた。

 

「やっぱり不思議です・・・・・・」

 

「不思議って?」

 

「その、天霧先輩に関してもなんですけど、わたし、男性の方はお父さ―――――父としか歩いたこと無かったんですけど、天霧先輩といると父が隣にいるみたいで・・・・・・」

 

「へぇ。優しいお父さんなんだね」

 

「はい!父は公私にも厳しくて強く、そして優しくてわたしの憧れなんです」

 

「なるほど。刀藤さんのお父さんってやっぱり星脈世代?」

 

「はい・・・・・・」

 

刀藤さんが急に暗くなったのを感じた俺は、別の話題を繰り出すことにした。

 

「ところで。刀藤さんって、あの刀藤流宗家の娘さんなんだよね」

 

「うちの流派をご存知なのですか?」

 

「そりゃ、俺も剣士の端くれだからね。『鶴を折るが如し』と謳われる刀藤流を知らないわけないよ」

 

俺の何気ない言葉に刀藤さんの暗くなっていた表情がぱぁっと明るくなった。

 

「天霧先輩の流派は古流ですよね?」

 

「え?うん、そうだけど・・・・・・・よくわかったね」

 

「決闘の際、時折腰を落とした構えが見受けられたので、そうじゃないかと」

 

これは少し驚いた。

確かに天霧辰明流は開祖から数えて五百年の歴史を持つ古流剣術だ。この時代の剣術はいわゆる介者剣術であり、重装備の防具を付けたまま動くことを前提しているため、基本姿勢は深く身を落とすことになる。

一方の刀藤流は幕末に開かれた比較的新しい流派だ。こっちは天霧辰明流と違い、直立姿勢を基本とする素肌剣術なのだ。どちらが優れていると言うわけでは無いのだが、少なくともアスタリスクでの決闘のように双方身軽な状態で一対一の闘いとなった場合、速度面で後者が若干有利であることは否めない。

確かに長い歴史の中で天霧辰明流も刀藤流と同様に素肌剣術を取り入れているが、開祖から伝わるような技を使おうとすれば、必然的に身を沈める形となる。

刀藤さんはどうやらその辺りを見抜いたみたいだ。

 

「天霧先輩は防御姿勢から動くときは摺り足でしたし、正眼に構えた際の剣先がかなり高めでした。これも古流の特徴です。本当は剣を会わせてもらえればもう少しわかったのですけど、天霧先輩の《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》相手ではそうもいかなくて・・・・・・あ、でもあの純星煌式武装はすごいですね!相対しているだけでも天霧先輩の星辰力が大量に流れ込んでいくのを感じました。あれを維持できるなんて、それこそ――――――」

 

瞳をキラキラさせ、ぐっと身を乗り出して喋る刀藤さんは、その途中ではっとしたように口をつぐんだ。すると見る間にかぁっと赤面して、チョコチョコとした足取りで後ずさった。

 

「す、す、すみません。わたし、つい・・・・・・」

 

「ハハ。刀藤さんは剣術が好きなんだね」

 

「は、はいっ。それに・・・・・・わたしは剣術以外能がないですから」

 

「そんなこと―――」

 

「いいえ、本当なのです。わたしは頭も良くないですし、ドジで、臆病で、家事だって満足にできなくて・・・・・・でも、そんなわたしでも剣を握っている間は誰かの役に立てるのです。だから、それは楽しいし、大好きです」

 

「そっか」

 

今の刀藤さんの言葉に、俺が口を挟むことはできない。そう判断した俺は、ただそれだけを言った。

刀藤さんの志と行動の間に、やはりなにか微妙な齟齬があるような感じが俺はとれた。

俺はそれがどうしても気になった。

 

「それにわたしには叶えたい―――いえ、叶えなければならない願いがあります」

 

「刀藤さんの願いって?」

 

「・・・・・・父を助けることです」

 

まるで自分自身に言い聞かせているように聞こえたのを俺は捉えた。

 

「――――そのために、伯父さんの言うことをきいているのかい?たとえ、あの人の出世に利用されているとしても?」

 

「はい・・・・・・わたしは自分の願いを叶えるための道を示してもらって伯父様にはとても感謝しています。そして、伯父様はその過程で相応の利益を得る―――だからこれは対等の取引なのです」

 

「・・・・・・俺からしてみればとてもそうは見えなかったけど」

 

つい数時間前の出来事を思いだし、俺は顔をしかめた。

 

「伯父様は私たち《星脈世代》を嫌っていますから」

 

「―――」

 

刀藤さんの瞳を見た俺は、続く言葉を紡ごうとしたが止めた。

彼女の瞳はオーフェリアと似たような瞳だった。

オーフェリアは運命に囚われてしまったと自分に言い、俺たちと出会う前のその瞳は、絶望と拒絶、希望もなにもなくただ虚無の闇が浮かぶだけだった。

だが、いまのオーフェリアの瞳はシルヴィや紗夜、ユリスのお陰もあるのか虚無の闇が薄まり、瞳には以前と変わらない明るい瞳が戻っている感じだった。

そして、刀藤さんの瞳は、だから仕方ないのだと。自分が我慢すればそれでいいのだと。自分を犠牲にして成し遂げようとしている瞳だった。

今はまだ、言うことではない。そう俺は自分に言い聞かせた。

 

「あ、ところで・・・・・・わたしからもお伺いしていいですか?」

 

「うん、なんだい?」

 

俺の顔をおずおずと覗きこんできた刀藤さんに俺は答える。

 

「天霧先輩は、普段どんなトレーニングをしているのでしょう?」

 

「トレーニング?」

 

「はい」

 

「えーと、朝は走り込みと型稽古、それから素振りかな。放課後は今はユリスと一緒にタッグ戦の特訓をしてるし・・・・・・。休日はオーフェリアに協力してもらってトレーニングかな?」

 

「えっ?オーフェリアって《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》のオーフェリア・ランドルーフェンさんですよね?」

 

「そうだよ?」

 

「あの、天霧先輩は寮に住んでいるんでは・・・・・・・」

 

「あー、実は俺、六花の方に自宅があってそこから基本登校してるんだよね。まあ、寮の方に泊まることもあるけど」

 

「な、なるほど。あの、その、もしかして天霧先輩はオーフェリア・ランドルーフェンさんと一緒に住んでいたりするのでは・・・・・・」

 

「あー、うん、まあ、一緒に住んでるよ。同居かな?後もう一人いるけど」

 

俺は周囲を警戒して刀藤さんに小声で言った。

 

「ど、どどど、同居!?」

 

「うん。それと、悪いんだけどこれあまり口外しないでね。周囲にバレるとややこしくなるから」

 

「は、はい、もちろんです」

 

「ありがとう刀藤さん」

 

そんな話をしているといつの間にか女子寮の前にまで来ていた。

 

「あ、あの、天霧先輩。よろしければ、その、そのトレーニング、わたしもご一緒してもいいですか」

 

「うん、いいよ」

 

「えっ?い、いいのですか?」

 

刀藤さんはまさか、いいと言われると思ってなかったのか大きく目を見開いた。

 

「うん。あー、でも放課後は無理かな。ユリスと訓練してるし。それに刀藤さんもその方がいいでしょ?」

 

「はい・・・・・・。リスト入りしている方々―――特に《冒頭の十二人》の皆さんとは距離をおくよう伯父様からきつく言われているので」

 

「なら、早朝訓練なら大丈夫だと思うよ。俺は《冒頭の十二人》でもないしリストにも載ってないからね」

 

俺は若干苦笑気味に言う。

 

「そ、それは天霧先輩と、ふ、ふ、二人っきりで、ということ、ですか?」

 

「そうなるかな?あ、でもたまにオーフェリアともう一人が来るかも。あー、でも今オーフェリアしかいないんだよね。もう一人の方はちょっと遠くにいるから」

 

ここで、もう一人がシルヴィだと言わなかったのは得策だろう。もしシルヴィも一緒に住んでいるとバレたら刀藤さんがショートするのは目に見えてるから。

 

「そ、それではお言葉に甘えて・・・・・・」

 

「じゃあ、細かい時間とか場所は後で連絡するから――――」

 

取り敢えず、俺は刀藤さんと携帯端末の連絡先などを交換した。

 

「あの、今日はいろいろとありがとうございました」

 

「うん、こちらこそ」

 

「じゃ、じゃあ、また明日、よろしくお願いします」

 

刀藤さんは直角になるくらいしっかりと頭を下げると、小走りで女子寮へと入っていった。

俺はそれを見送ると、場所を離れて軽く息を吐き出した。

空を見上げるとやや暗くなっており月が濃く見えた。

 

「・・・・・・・・・・いるんでしょ、紗夜」

 

俺は近くにあった植木を見て言う。

 

「・・・・・・むー。さすが綾斗。今回はうまく行くと思ったのに」

 

すると、上から紗夜が猫のように飛び降りてきた。

 

「・・・・・・なんで気が付いた?」

 

「んー、なんとなく視線を感じたのと驚かせようとするのは紗夜しかいないと思ったからかな?」

 

「・・・・・・おー、さすが」

 

「それ誉めてるの?」

 

「・・・・・・誉めてる誉めてる。ちょーグッジョブ」

 

紗夜独特のサムズアップで紗夜は言った。

 

「あはは」

 

「・・・・・・・ところで今のって話題の序列一位?」

 

「あ、刀藤さん?」

 

「・・・・・・そう・・・・・・。あれで中等部一年・・・・・・」

 

紗夜は何故か自分の体を、特に自分の胸を見て恨めがましいように刀藤さんがいた場所を見る。

 

「・・・・・・世の中は不公平。平等にするべき」

 

「あははは・・・・・・」

 

紗夜の言葉に僕は苦笑いをするしかなかった。

俺ら幼馴染のなかでも特に紗夜は自分の体型と身長にコンプレックスを抱いているからだ。

 

「彼女も紗夜と似たような目的みたいだよ」

 

「・・・・・・私と?」

 

「うん。紗夜は伯父さんの為にでしょ?」

 

「・・・・・・そう」

 

「刀藤さんも父親のためにいるんだって」

 

「・・・・・・そう・・・・・・・・・父親・・・・・・・・」

 

紗夜は静かにボソッと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで《鳳凰星武祭》のタッグパートナーは見つかった?」

 

「・・・・・・まだ。綾斗助けて」

 

「ええーー・・・・・・。大丈夫なの紗夜・・・・・・・?」

 

「・・・・・・・問題ない、なんとかなる」

 

「不安しかないんだけど・・・・・・」

 

 

 

 

 

 




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刺客

~綾斗side~

 

「刀藤さん、おまたせ」

 

「いえ!わたしも今来たところですから」

 

刀藤さんと一緒に早朝トレーニングの約束をして数日、俺と刀藤は星導館学園へと繋がる橋で待ち合わせをしていた。

 

「それじゃあ今日も何時もと同じでいいかな?」

 

「は、はい。あの・・・・・・」

 

「ん?」

 

「いえ、そちらの方は・・・・・・?」

 

刀藤さんは俺の隣にいる女性について聞いた。

 

「あ、彼女は・・・・・・」

 

「・・・・・・貴女が刀藤綺凛?」

 

俺が彼女について説明しようとすると、逆に彼女が話した。

 

「は、はい」

 

「・・・・・・私はオーフェリア・ランドルーフェン。よろしく刀藤さん」

 

「あ、はい・・・・・・・・・・・え、お、オーフェリア・ランドルーフェンさん、ですか?」

 

「ええ」

 

刀藤さんは驚きの表情を出して俺を見た。

 

「アハハハ・・・・・・刀藤さん、彼女はオーフェリアだよ。今はちょっと訳あって髪の色を変えてるけど」

 

「ご、ご本人なんですか」

 

「ええ。これで、いいかしら?」

 

オーフェリアは髪に付けたヘッドホン型の機械を操作して、栗色の髪から白銀髪へと変えた。

 

「は、はい!」

 

「そう怯えなくても大丈夫だよ刀藤さん」

 

俺は若干怯えている刀藤さんに微笑みながら言う。

 

「いえ、天霧先輩がランドルーフェンさんと一緒に生活してるというのは以前聞いていたんですけど、そ、その、当の本人のランドルーフェンさんがいるのに驚いて」

 

「なるほどね・・・・・・」

 

刀藤さんの台詞に俺は若干苦笑をして、相槌を打った。

 

「霧がかなり深いけど。それじゃあ、始めようか」

 

「はいっ」

 

「・・・・・・えぇ」

 

俺たちは早速、走り込みのランニングから始めることにした。

ちなみに俺と刀藤さんは普通にランニング出来るが、オーフェリアも俺たちと同じ速度で走れるのかと言うと、

 

「・・・・・・体力つけといて正解だったわ」

 

問題なく付いてきていた。

オーフェリアはここ最近、シルヴィとよく自主練としてランニングを早朝しているのだ。俺もよくそれに付き合っていたりする。

そして、練習メニューはペトラさんが考案してくれたものが殆どだ。さすがクインヴェールのOGにして元トップアイドルである。

そして走り続けることしばらく。

 

「ふぅ~。大丈夫、二人とも?」

 

「はい」

 

「・・・・・・ええ」

 

俺は速度を落としてオーフェリアにならんで話す。

 

「オーフェリア、平気?」

 

「ええ。平気よ綾斗」

 

「天霧先輩とランドルーフェンさんって仲がいいんですね」

 

「まあ、10年来の幼馴染、だから」

 

刀藤さんの言葉に俺は頬をかきながら、オーフェリアは若干視線をずらして頬を赤くして走る。

そのとき。

 

「綾斗・・・・・・」

 

「天霧先輩、ランドルーフェンさん・・・・・・」

 

「うん。誰かにつけられてるね」

 

俺たちは複数の視線と気配を感じた。

 

「・・・・・・数人いるわね」

 

「はい・・・・・・。でも、何か変です」

 

「うん。この気配、人じゃないね。むしろ―――」

 

俺がそう言ったところで、俺たちの足が同時に止まる。

何故なら、目の前の道路が唐突に封鎖されていたからだ。

 

「・・・・・・工事中?」

 

「みたいですね。あれ?でも、昨日までこんなのありましたっけ・・・・・・?」

 

「いや、俺も無かったと記憶してるけど・・・・・・」

 

「霧が深いせいですぐにはわからなかったけど、この標識歩道まで封鎖されているわ」

 

「う~ん。無視して突っ切ることも出来なくはないけど・・・・・・どうしたものかな?」

 

「罠かもしれないわね」

 

「はい。こうして見通しが悪いと危険かもです」

 

俺たちは工事中の標識を見て、周囲を確認して会話する。

もちろん、背後の気配の存在も忘れない。

 

「向こうに迂回路が用意されているみたいだけど・・・・・・」

 

「罠だよね」

 

「罠ですね」

 

「・・・・・・罠ね」

 

封鎖された道路の右側にある、あからさまに怪しい迂回路を見て、俺たちは同じことを言う。

 

「これって俺たちの誰かが狙われているってことかな?」

 

「・・・・・・でしょうね」

 

「オーフェリア、心当たりある?」

 

「・・・・・・無くもないのだけど、この姿が私だと分かるのは綾斗とシルヴィア、紗夜、ユリス、ペトラさん。後はこの間あったエンフィールドとレスターね。私の学園だと3人だけね」

 

「3人って?」

 

「・・・・・・レヴォルフ序列二位のロドルフォと、同じく序列三位のイレーネとその妹のプリシラさんだけね」

 

「オーフェリア、レヴォルフに友達いたんだ」

 

俺はオーフェリアの言った3人が友達なのかと思い、ちょっと驚いた。

 

「・・・・・・友達・・・・・・と言うより、私がお世話になってるのかしらね?プリシラさんから料理を教わったりしているし、ロドルフォから情報を。イレーネから体術を、ね」

 

「へぇ」

 

「お二人とも・・・・・のんびりとしてますね」

 

俺とオーフェリアの緊張感のない会話に、刀藤さんがいづらそうに声をかけてきた。

 

「あ、ごめん、刀藤さん。刀藤さんは心当たりある?」

 

「えっと、それなりに、まあ・・・・・・」

 

刀藤さんは序列一位なのだからそれも当然だと思うのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・綾斗は?」

 

「ああ・・・・・うん、まあ、それなりにあるかも」

 

俺の脳裏には当然、アルルカントのエルネスタの顔が思い浮かんだのだが、彼女にしてはなんとなくだが、違和感があった。

 

「さて、どうしようか」

 

「・・・・・・方法は3つね」

 

「3つ、ですか?」

 

「ええ。一つは三手に分かれること。二つ目は一緒に行くこと。そして、三つ目は――――」

 

「―――気配の主を倒すこと」

 

「た、倒すことって・・・・・・あの、天霧先輩ってもしかして戦闘狂、とかですか?」

 

「せ、戦闘狂・・・・・・」

 

「フフフフ・・・・・・」

 

刀藤さんの言った戦闘狂という言葉に俺は、若干だが傷ついた。その中、オーフェリアは珍しく笑った。

 

「オーフェリアが笑うなんて・・・・・・珍しいな」

 

「え?そうなんですか?」

 

「うん。オーフェリア、他人にはあまり笑顔を見せないから何時も無表情なんだ」

 

「でも・・・・・・とてもそんな風には見えないです」

 

「ありがとう、刀藤さん」

 

そんな会話をすると。

 

「・・・・・・綾斗」

 

「うん」

 

どうやら痺れを切らしたみたいで、僅かずつだが向こうからこっちににじり寄って来るのが感じられた。

やがて霧深い靄の中からゆっくりと気配の主が姿を現した。

 

「なにあれ?」

 

「・・・・・・生き物だと思うわ。でも・・・・・・」

 

「はい。この子達からは星辰力が僅にですが感じられます」

 

現した気配の主は見たことない生き物だった。

一見するとトラやライオンといった大型のネコ科動物を思わせる体躯だが、その外皮は硬い鱗のようなものでおおわれていた。首はやや長く、顔は爬虫類を思わせる凶悪のもの。そして、口からは鋭い牙が覗かせていた。

 

「翼のない竜・・・・・・?」

 

「さあ・・・・・・?

 

「この子たち・・・・・・何て生き物でしょうか?」

 

「少なくともうちの地元じゃ見たことがなかったなぁ」

 

「・・・・・・私も」

 

「でも、ちょっと可愛いですね」

 

「・・・・・・ええ。可愛いわね」

 

「ああ、うん・・・・・・って、えっ!?二人とも!?」

 

思わず俺はオーフェリアと刀藤さんを驚いた表情で見てしまった。

すると、目の前の竜のような生き物が、隙ありとばかりに飛び掛かってきた。

 

「うわっと!」

 

俺はそれを回し蹴りで受け止める。

竜もどきの鋭い爪を星辰力を一点に凝縮した右足で跳ね返して押し返す。

竜もどきは空中でくるりと回転して優雅に着地した。

 

「天霧先輩、大丈夫ですか?」

 

「ん、平気だよ。たいして強くないから」

 

「そ、そうですか」

 

俺は竜もどきをさばいている刀藤さんと軽く会話しながら腰のホルダーから片手剣型煌式武装を取り出し、起動する。

 

「・・・・・・どうする?私が相手してもいいけど」

 

「いや、止めといた方がいいと思う。多分だけど、監視されてる」

 

「・・・・・・でしょうね」

 

「と言うことはわたしと天霧先輩で相手した方がいいと言うことですね」

 

「だね」

 

「・・・・・・ええ」

 

「それじゃあ相手しますか」

 

「ですね・・・・・・」

 

刀藤さんも腰の刀を取り出して構え、相手する。

 

「ふっ!」

 

素早く近づいた俺は軽く牽制のつもりで横薙ぎに一撃振るった。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

あっさりと2体の竜もどきの前足を断ち切った俺は、あまりの手応えのなさと、断ち切られた前足をみて目を見張った。

 

「これは―――――スライム・・・・・?・・・・・・っ!」

 

断ち切られた前足がスライムのように集まり、欠損部位が元通りになったのを見て俺は唖然する。

そして、いままで攻撃に参加してこなかった一匹を見て驚いた。

その一匹が大きく開けた口の周囲に万応素が急速に集結し、口内から焔が溢れ、渦を巻いて球状になった。

 

「万応素への干渉!?」

 

低い咆哮と共に放たれた火球を、俺は真っ二つに切り裂く。

 

「あんまり無駄な殺生はしたくないんだけど・・・・・・仕方ないかな」

 

俺は煌式武装を霞に構え、静かに息を整えた。

星辰力を整え、高め、一瞬だけ力を解き放つ。

そして二匹の竜もどきが同時に地を蹴り、左右から襲い掛かって来た刹那―――

 

「天霧辰明流剣術初伝――――"肆祁蜂(しきばち)"!」

 

電光石火の速度で大外へ回り込み、手首を捻るようにしながら大きく腕を伸ばした片手突きを繰り出す。

 

「オオオオオォォォォ!」

 

生き物とは思えない不可思議な声をあげて、二匹の竜もどきは同時に俺の突き出した煌式武装に脇腹から串刺しになった。

だが、それも一瞬のことで、竜もどきは先程斬り落とした前足と同じように身体全体がどろりと溶けた。

そして、ものの十秒ほどで元通りの姿に戻っていった。

 

「まさか不死身とかじゃないよなぁ・・・・・・」

 

セレスならば焼き斬るが出来るが、セレスを使うには封印を解かなくてはならない。そうなると、活動限界も出来てしまう。

 

「どうも斬撃刺突の類いはあまり効果がないようですね」

 

「だね。打撃はどうかわからないけど」

 

「・・・・・・やっぱり私が消し飛ばした方がいい?」

 

「それは最後の手段にするよ」

 

俺は隣に立つ刀藤さんと、俺の背後にいるオーフェリアと会話する。

 

「多分あの姿は擬態じゃないかな?実態はスライムみたいな形状の生き物だと思う」

 

「なるほど・・・・・・」

 

このまま走って振り切ってしまうのは雑作もないことなのだが、何せこの深い霧のなかでは迂闊に動くのはあまり好ましくない。

 

「・・・・・・刀藤さん」

 

「はい」

 

「・・・・・・あれを細かく出来るかしら?」

 

「ええ。出来ますが――――――なるほど、そう言うことですか」

 

「ええ、多分だけど」

 

「分かりました」

 

刀藤さんはオーフェリアと軽く会話すると、刀を鞘にしまい抜き身の形をとる。

そして、無造作とも言える足取りで一匹の竜もどきに近づいていく。

竜もどきは警戒するかのように低い唸り声を上げて威嚇していたが、刀藤さんの間合いに入るか入らないかのところで躍りかかった。

 

「・・・・・・ごめんね」

 

刀藤さんは焦ることもなくそう呟いたのが耳に届いた。

刀藤さんは、竜もどきの攻撃を僅かに身体をよじっただけで、次の瞬間には襲い掛かった竜もどきの胴がばっさりと切り裂かれていた。

 

「オオオオオオオオォォォォ!」

 

さっきの個体と同じような悲鳴を上げて、やはり竜もどきはスライム状にとけた。

と、刀藤さんはそれに向かって空中でもう一度鋭い斬撃を放った。

返す刀でもう一撃、さらにもう一撃と、凄まじい速さでそれを切り刻んでいった。その連続攻撃の速度は、まさしく神速と呼ぶにふさわしい。

そこで俺は夜吹に聞いた刀藤さんの二つ名を思い出した。

刀藤さんの二つ名、それは――――――

 

「・・・・・・さすが星導館学園の《疾風刃雷》凄まじい剣速ね」

 

「うん・・・・・・」

 

刀藤さんの二つ名、《疾風刃雷》。それはまさしく《疾風刃雷》の二つ名のとおりだった。

やがて。

 

「―――終わりです」

 

一閃。

刀藤さんの刀が煌めいたかと思うと、スライムの中にあった球状の物体は真っ二つに両断されていた。

それと同時に、今まで地面で蠢いていた斬られた部分のスライムがぴたりと動きを止めた。どうやら今の球がスライム部分を制御していたみたいだ。

 

「なるほどね、核になる部分を破壊すればいいのか」

 

「はい。やっぱり核になる部分があるみたいです。これで退いてくれればいいのですが・・・・・・」

 

刀を鞘に納め、こともなげに言ってのける刀藤さんの表情はどこか悲しそうだった。

 

「でも、よくわかったね二人とも?」

 

「星辰力の流れが妙でしたから。私、昔からそういうのに敏感なんです。後はランドルーフェンさんのお陰です」

 

「・・・・・・私はなんとなくあの生物が異常だったから。それを刀藤さんに教えてだけよ」

 

「さすが・・・・・・。オーフェリアはそうだけど、・・・・・・刀藤さんの強さの一端が分かったような気がするよ」

 

俺は苦笑しながら、両断された球の残骸を拾い上げ確認する。

 

「どう思う?」

 

「・・・・・・具体的な材料はわからないのだけど、これは無機物で構成されているわ。明らかな人工物よ」

 

「となると・・・・・・アルルカントってことか」

 

「アルルカント?」

 

俺とオーフェリアの言葉に、刀藤さんが不思議そうな顔で尋ねてきた。

 

「あー、まあ、説明すると長くなるんだけど、かくかくしかじかで―――――」

 

「はぁ・・・・・・」

 

「というわけで―――――って、わぁっ!」

 

手短に説明しているところへ四匹の竜もどきが連続して、俺に火球を打ち込んできた。

 

「はっ」

 

俺はその内の二つを切り裂き、残りの二つをジャンプで避け、公園の入り口付近へ着地する。

そこへまたしても火球が飛び込んできた。

だが、その照準は俺ではなく、足元へ着弾した。

すると、着弾と同時に、着弾点を中心に石畳に放射状の亀裂が走った。

 

「マズいっ!」

 

俺は反射的に飛び退こうとしたが、

 

「おわぁっ!」

 

一歩遅く、次の瞬間には俺を中心に直径五メートル程の範囲が、陥没するように巨大な穴を穿った。

 

「綾斗っ!」

 

「天霧先輩っ!」

 

とっさにオーフェリアと刀藤さんが飛び込んできて腕を伸ばした。

 

「無事、綾斗?」

 

「あ、うん。なんとか。ありがとうオーフェリア、刀藤さん助かったよ・・・・・・」

 

だが、安堵したのも束の間だった。

ピシリと言う嫌な音がしたかと思うと、二人のいる場所が無情にも崩れ始めた。

 

「――――っ!」

 

声にならない悲鳴を残し、俺たち三人の体は暗い穴の底へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穴へ落ちた俺が最初に感じたのは衝撃だった。それから冷たさと、次いで息苦しさ。

 

「(水中!?)」

 

俺はウエイトを外して、体の力を抜いた。

そして、僅かな光源を頼りに水面を目指す。

 

「ぷはぁっ!」

 

飛沫を上げて水面に顔をだし、大きく息を吸い込んだ。

水中だから湖まで落ちたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

そこへ。

 

「・・・・・・ぷはっ。綾斗、どこ?」

 

オーフェリアの声が聞こえた。

 

「ここだよ」

 

「・・・・・・よかった、綾斗無事?」

 

「まあね。でも・・・・・・」

 

俺は浮きながら周囲を見渡し、上部を見上げた。

そこには、俺たちが落ちてきたものらしい穴があった。

しかも人為的な罠だとわかる。

 

「そうだ!刀藤さんは!?」

 

「・・・・・・!?」

 

「どこ、刀藤さん!」

 

ざっと周囲を見渡しながら呼び掛けると、少し離れた場所でぱしゃぱしゃと弱々しい水飛沫が上がっているのが見えた。

 

「刀藤さん!」

 

必死にもがいている様子から、明らかに溺れているのが見てとれた。

俺とオーフェリアは急いで傍まで泳いでいくと、刀藤さんは半泣きの表情で俺にしがみついてきた。

 

「けほっ!こほっ・・・・・・!あ、ありがとうございます、天霧先輩、ランドルーフェンさん・・・・・・!た、助かりましたぁ・・・・・・!」

 

「・・・・・・大丈夫?ウエイトは?」

 

「もう外してあるんですけど・・・・・・ご、ごめんなさいです・・・・・・わたし、お、泳げなくて・・・・・・」

 

「あぁ・・・・・・そ、そうなんだ」

 

「・・・・・・そ、そうなの」

 

俺とオーフェリアは、まさかあれだけの身体能力の持ち主が金槌だとは思わず、ちょっと驚いてた。

まあ、《星脈世代》とはいえ人間だ。人間だれしも得手不得手くらいある。

 

「ん?」

 

その時、俺たちの下を何か巨大な影が通りすぎていったのが見えた。

 

「綾斗?」

 

「ごめん、二人ともをちょっとだけ息を止めててもらえる・・・・・・!」

 

俺はそう言うと、二人を抱えたまま水中へと潜った。

全力で水を掻き、できるだけ早くその場から離れる。

と、水中で巨大な何かが俺たちを掠めるようにすれ違い、俺たち三人を水流で揉みくちゃにしていった。

なんとか離さないようにし持ちこたえ浮上すると、そこにいたのは――――――

 

「え・・・・・・」

 

「はは、これはまた―――」

 

「・・・・・・これは・・・・・・」

 

俺たちは揃って絶句する。

そこにいたのは、巨大な竜が鎌首をもたげていたからだ。

 

「・・・・・・綾斗、あの竜、上にいた竜もどきと同じ気配がするわ」

 

「ってことは、実態はスライムなのかな?」

 

「・・・・・・でしょうね」

 

「やれやれだな」

 

俺は封印を解除した方がいいと判断し、片手剣型の煌式武装を起動し、それと同時に無詠唱で封印を解除する。

 

「・・・・・・綾斗、やるの?」

 

「うん、この状況じゃ四の五の言ってられないからね」

 

戒めの楔と紫蒼色の魔方陣が弾け跳び、押し込められていた星辰力が立ち上がった。

それを敵対行為と判断したのか、竜は卯なり声をあげながら突進してきた。

 

「くっ!」

 

全力状態とはいえ水中では不利だ。

俺はオーフェリアと刀藤さんを庇い、真っ正面から竜の突撃を煌式武装の腹で受け止める。

衝撃により、竜に押された。

 

「・・・・・・綾斗、無事?」

 

「うん。刀藤さんは?」

 

「・・・・・・無事よ」

 

「・・・・・・こうなったらセレスを使うしかないね」

 

俺は起動中の片手剣型の煌式武装をしまい、新たに、《黒炉の魔剣》=セレスを持ち構え、星辰力を込めた。

 

『これはいったいどういう状況なんです、綾斗?』

 

星辰力を込め、黒い文様が浮かび上がり、白い刀身を黒く染め上げていきながら、セレスが思念で語りかけてきた。

 

『実は、アルルカントの罠に掛かったみたいで・・・・・・オーフェリアと刀藤さんを庇いながらだとちょっと・・・・・・。それに水中でピンチ』

 

セレスの思念での問いに、俺は同じように思念で答える。

 

『なるほど、そうですか』

 

『近くに、足場になるような物って無いかな?』

 

『後方五メートルに分厚い柱がありますね』

 

『了解』

 

俺はセレスの刃を水に付けないようにしながら、後方に軽く振るった。

そして、俺たち三人が立てる空間を確保する。

 

『う~ん、でも、なんか重要施設だと思う場所の建造物を破損させるのはちょっとためらいがあるね』

 

『緊急事態なので仕方ないかと思いますよ?』

 

『それもそうか。向こうから仕掛けてきたんだし』

 

「二人ともここに上がって」

 

セレスと会話しながら、隣で浮く二人にそう言う。

まず最初に刀藤さんを上がらせ、次にオーフェリア、そして最後に俺が上がった。

 

『それで綾斗。あのスライムのような竜、どう始末するつもりです?』

 

『どこかに核があるみたいなんだ。それさえ破壊できれば』

 

『・・・・・・・・・・確かに、あの竜スライムから妙な反応がするわ』

 

『場所はわかる?』

 

『ごめん、さすがにそれまでは・・・・・・』

 

セレスからそう聞いた俺は、後ろのオーフェリアに尋ねる。

 

「オーフェリア、核の場所わかる?」

 

「・・・・・・星辰力の動きを見ればわかるのだけど、どうも身体の中で常に移動してるようね」

 

「・・・・・・そっか、じゃあ仕方ないね」

 

「・・・・・・もしかしてあれを試すつもり?」

 

「あれ・・・・・・?試す・・・・・・?」

 

刀藤さんが訝しそうな表情をするのが見えて、俺はセレスを掲げて見せた。

 

「うん、まあ、苦手って言うかまともに出来たためしがないんだけど・・・・・・いい加減、俺も前に進まなきゃいけないからね」

 

『―――流星闘技・・・・・・いくよ、セレス!』

 

『了解、綾斗。やるわよ!』

 

俺は星辰力をセレスへと注ぎ込んだ。

今まで俺は流星闘技を成功させたことがなかった。星辰力の量が多すぎて並の煌式武装は俺の星辰力に耐えきれず壊れてしまうのだ。うまく調整できればいいのだが、あいにく俺は星辰力の細かな制御が苦手なのだ。

だが、四色の魔剣の一振。《黒炉の魔剣》=セレスなら可能だ。

 

「はぁぁあああああっ!」

 

俺が星辰力をセレスに注ぎ込むと、《黒炉の魔剣》=セレスが唸りをあげた。

オーフェリアには及ばずとも、無尽蔵とも思えるような俺の星辰力の吸い込みながら、セレスは少しずつ形を変え始めた。刀身に纏わり付いていた黒い文様が大きく広がり、それに会わせて刀身自体も長く巨大に伸びていった。

 

「すごい・・・・・・」

 

「・・・・・・これが綾斗の――――流星闘技・・・・・・」

 

刀藤さんとオーフェリアが息を呑むなか、セレスは加速度的に成長していき、見る間に十メートルを越える長さまで成長した。刀身が低い唸りをあげ、黒い文様が躍り狂うように周囲を舞った。

本能的な恐怖を覚えたのか、竜が逃げるように向きを変えたが――――――

 

「遅い!はぁッ!」

 

俺が成長した《黒炉の魔剣(セレス)》を振り下ろすと、竜の身体は刀身が触れた瞬間に蒸発した。そして、それをそのまま水面下にある身体まで一気に振り下ろす。

刀身が水に触れたとたん、水が物凄い勢いで蒸発し、爆風のように吹き荒れた。

水蒸気が立ち込め、嵐のように俺たち三人の髪を弄んだ。

 

「ふぅ・・・・・・まあ、こんなものかな」

 

『そうね』

 

俺はセレスの刀身を元の長さに戻し、竜の姿が跡形も残ってない場所を見る。

 

『でもこれはかなり危険よ、綾斗。綾斗、星辰力をかなり消費したわ。多分、リミットまで後二分半ほどよ』

 

『うわぁ、そんなに・・・・・・?』

 

『ええ。だから脱出するなら早くした方がいいわよ。封印がまた施される前に』

 

『そうだね』

 

セレスとの思念での会話を終わらせた俺はすぐに後ろの二人に向き合った。

 

「二人ともすぐにここを脱出するよ」

 

「え。で、でも、どうやって・・・・・・」

 

「オーフェリア、刀藤さんを運べる?」

 

「・・・・・・ちょっと難しいわね。服が水のせいで張り付いているからか私の瘴気が漏れでそうよ。今はなんとか押さえ込んでいるのだけど」

 

「なら、俺が運ぶか」

 

俺は刀藤さんに近づいて抱き抱えると、

 

「え!?あ、あの、天霧先輩・・・・・・!?」

 

「ごめん、刀藤さん、ちょっとだけ我慢してて。行くよオーフェリア、リミットまであまり時間がない」

 

「了解よ。綾斗、先に行って」

 

「わかった!」

 

俺は刀藤さんをお姫様だっこの形で抱き抱え、足元に星辰力を凝縮させて、宙を跳ぶ。

そして、それを続けてなんとか穴から脱出する事が出来た。

そして、俺の後からユリスと似たような形で空を飛んできたオーフェリアも出てきた。

そしてその数秒後。

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

「綾斗!」

 

俺の周囲に魔方陣が再び現れ、俺の力を戒めていった。

 

「あ、天霧先輩っ!だ、大丈夫ですか、天霧先輩!」

 

「綾斗、しっかりして!」

 

俺は心配してくる刀藤さんとオーフェリアの声を意識の片隅に聞こえて来たが、返事を返すことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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ではまた次回、Don't miss it.!


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刀藤綺凛

~綾斗side~

 

穴から脱出したあと、俺と刀藤さんはクローディアに連絡し、俺たちは自宅へと一旦帰った。

オーフェリアは連絡しなくてもいいらしい。なんでも、レヴォルフでは基本一人で誰も関わらないかららしい。

まあ、オーフェリアの友達?らしき3人とはたまにいるみたいだが。

 

「あ、あの、お風呂ありがとうございます」

 

「気にしないで。服は今乾かしてるからちょっと待ってて」

 

「は、はい」

 

お風呂から出てきて、シルヴィの服を一時的に着ている刀藤さんは畏まったように言った。

俺はソファーに横になりながら苦笑を浮かべて刀藤さんに返した。何故、横になっているのかと言うと。

 

『さすがに流星闘技を放ったからか星辰力の消費が激しいわね』

 

流星闘技を放ち星辰力を思いっきり消費したためと、再封印の後遺症であまり動けないからだ。

ここまではオーフェリアに手伝ってもらった。

 

『アハハ』

 

『笑い事ではないわよ?』

 

『まあ、あの竜みたいのを倒せたから良かったじゃん。それにセレスで流星闘技が放てるということも分かったし』

 

『それはそうなのだけど・・・・・・』

 

『あー、でも確かに今の封印だとキツいかも』

 

『それはそうでしょ。だってあの封印、綾斗のお姉さん。遥が施した三段階の封印の二つ目なのでしょ?』

 

『なんでわかったの?』

 

『綾斗と遥は似てるのよ。一番始めに問い答えた返事がね。それに言っていたじゃない、姉さんを守りたい!って。それに私とこうして会話できるのは綾斗以外だと遥だけなの』

 

『姉さんも・・・・・・』

 

『ええ。まさか姉弟揃って私を使うなんてね』

 

『なんで今まで言ってくれなかったの?』

 

『遥のこと?』

 

『うん』

 

『・・・・・・言えなかったの』

 

『え?』

 

『遥が私を持ったのは5年前。綾斗が遥の弟だと確証が持てなかったのもあったけど、思い出すのに時間が掛かったのがそうね』

 

『セレスは姉さんが何処に行ったか知ってるの?』

 

『・・・・・・ううん・・・・・知らないわ。次に起きたときは綾斗が私を持つ前だったから』

 

『そうなんだ・・・・・・』

 

『後はシルヴィアとオーフェリア、紗夜と綾斗の四人のときにでも話しましょう。その方がいいわ』

 

『わかった』

 

セレスと思念での会話が終わると、

 

「・・・・・・飲み物お茶でいいかしら」

 

オーフェリアがキッチンから飲み物をもって戻ってきた。ちなみにオーフェリアもお風呂は入り終えた。

 

「あ、ありがとうございますランドルーフェンさん」

 

「・・・・・・オーフェリアでいいわ、刀藤さん」

 

「は、はい。お、オーフェリアさん」

 

「・・・・・・ええ」

 

「ありがとうオーフェリア」

 

起き上がりオーフェリアからお茶を受け取りお礼を言う。

 

「・・・・・・身体の方は」

 

「う~ん、なんとか動けるかな」

 

「そう・・・・・・良かったわ」

 

オーフェリアは安堵したようにオレの隣に座った。

ちなみに俺とオーフェリアの服装はすでに学園の制服を着てる。

 

「あ、あの、天霧先輩」

 

「ん?なに刀藤さん」

 

「どうしてわたしを助けてくれたのですか?」

 

「どうしててって、刀藤さんも俺を助けてくれたでしょ?それに困ってる人を助けるのに理由っている?」

 

「で、ですが・・・・・」

 

「それに刀藤さん。誰しも得手不得手があるんだから。ね」

 

「あの、天霧先輩、聞いてもいいですか・・・・・・?」

 

「なに?」

 

「天霧先輩は・・・・・・どうしてそこまで闘うんですか?」

 

「え?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

唐突な質問に俺はちょっと驚いたが、隣に座るオーフェリアをチラリと見て言う。

まあ、刀藤さんの質問に対する答えはすでにあるんだけどね。

 

「――――力になってあげたい人がいるんだ。それと、絶対に助けると誓った人がいるんだ」

 

そう。これが俺の成すべきこと。そして、成したいと思うこと。

 

「・・・・・・リースフェルト先輩、ですか?力になってあげたい人、って?」

 

「うん・・・・・・まあね」

 

「あの、絶対に助けるって誓った人、ってもしかして、オーフェリアさん、ですか?」

 

「なんでかな・・・・・・?」

 

「いえ、あの、天霧先輩の普通の人に接するときと、オーフェリアさんに接するときの眼が違ったので」

 

刀藤さんの観察眼に俺は恐れ入った。

すごい観察眼だ。

 

「・・・・・・すごいね刀藤さん。・・・・・・うん。俺が助けたいのはオーフェリアだよ」

 

「理由は・・・・・・今は聞かないでおきます」

 

「ありがとう、刀藤さん」

 

俺は刀藤さんにお礼を言ってオーフェリアの淹れてくれたお茶を飲む。

 

「・・・・・・刀藤さん」

 

「は、はいっ!なんでしょうかオーフェリアさん」

 

「私からも聞いてもいいかしら?」

 

「はい、なんですか?」

 

「刀藤さんは、どうしてここで闘ってるの?」

 

「え」

 

「・・・・・・ごめんなさい、この間貴女のこと綾斗から聞いたの」

 

「そう、なんですか・・・・・・」

 

「刀藤さんは叔父に道具のように扱われてるって聞いたわ。なのに、それほどまでにして貴女がここで闘ってるのはなんで?」

 

俺も聞きたかったことをオーフェリアが聞いてくれた。

刀藤さんは顔を俯かせ、少し思案し戸惑う感じだったが話してくれた。

 

「わたしがここで闘う理由は・・・・・・」

 

刀藤さんはそこで一回区切り、

 

「―――父を助けるためです」

 

ゆっくりと話、決意の眼差しをした表情で言った。

 

「・・・・・・刀藤さんの・・・・・・お父さん・・・・・・?」

 

「はい・・・・・・」

 

「刀藤さんのお父さんを助けるってどういうこと?」

 

「父は今、罪人として収監されてるんです・・・・・・」

 

「罪人?」

 

「はい・・・・・・。ですが、父はなにも悪いことはしていません!わたしを助けようとしてくれただけなんです!」

 

「え、えーっと、どういうこと?」

 

「順を追って話します」

 

 

そして刀藤さんは語り始めた。

何故、自分がここで闘っているのか。そして、その理由を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしの父は、わたしたちと同じ《星脈世代》です。・・・・・・ことの発端は、五年前の出来事です」

 

「五年前?」

 

「はい。・・・・・・五年前、わたしと父がいたお店に強盗が入りました。そして、人質にされそうになったわたしを助けようとして・・・・・父は・・・・・・父は、不可抗力とはいえ、その人を殺めてしまったのです」

 

ぎりっと歯を噛み締める音が聴こえてくるくらいに、その声には悔しさが滲んでいた。五年前ということは、刀藤さんは八歳。まだ、子供だ。

 

「・・・・・・その強盗は《星脈世代》ではなかったの?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

オーフェリアの問いに、刀藤さんはこくりと無言でうなずいた。

確かにどの国でも《星脈世代》は立場が弱い。人権が制限されていると言ってもいい。ことに《星脈世代》が一般人、《星脈世代》以外を傷つけた場合はそれが顕著に現れ、正当防衛さえ認められずに過剰防衛とされてしまうことが多い。当然と言えば当然となる。俺たち《星脈世代》は一般人の力が1だとするならばその数十倍もの力があるからだ。ましてや例え犯罪者が相手であれ、相手が亡くなったとなると厳しい判決が下されることが多いのだ。

もっとも統合企業財体の世論構築はあえてそれを改善していない。その方が統合企業財体も都合が良いからだ。

更に言うとなれば、俺はペトラさん以外の統合企業財体の幹部や人間を信用してない。クローディアの両親は統合企業財体に勤めているようだが会ったことないから分からない。だが、ペトラさんの知り合いならば少しは信用できるのであろう。

 

「強盗犯はわたしが《星脈世代》だと気付いていないようでした。もし気付いていたとしたら、わたしを人質に選ぶことはなかったでしょうけど、わたしは刃物を突き付けられて・・・・・・怖くて怖くて、なにも出来ませんでした」

 

刀藤さんが何も出来なかったのは仕方がない。いくら子どもであれ、《星脈世代》は相応の力を持つといえどもまだ、その時の刀藤は、ほんの八歳の女の子だ。

よほどの訓練を積んでない限り、武器を持った大人は十分な脅威だ。

 

「そこをお父さんが助けてくれたわけか」

 

「はい・・・・・・。もちろん、わたしもその頃から修行をしていました。今になって思えば当時のわたしでも十分に取り押さえることができた相手でした。ですが、わたしは弱虫で、意気地がなくて―――」

 

「・・・・・・仕方ないわ。私だってもし刀藤さんと同じ立場ならそうなるはずよ」

 

「うん。俺もそうなるかもしれない」

 

例え弱虫で意気地が無いからって、大の大人相手に《星脈世代》といえども相手するのはキツイ。それが武器を持っていて自分が子供ならさらに尚更だ。

 

「・・・・・・このままでは父は後数十年、出てこられません。そこへ声をかけて下さったのが―――」

 

「・・・・・・刀藤鋼一郎。・・・・・・刀藤さんの伯父ね」

 

「はい・・・・・・。伯父様はわたしに、父を助け出す方法が、一つだけあると」

 

「なるほど・・・・・・。それでここに」

 

「・・・・・・はい。伯父様は父と折り合いが悪く、《星脈世代》を嫌ってらっしゃいます。多分、長兄であるのに刀藤流を継げなかったことを怨んでいるのでしょう。それでも、わたしに力を貸してくださいました―――たとえそれが―――」

 

「―――たとえそれが私利私欲のためでも?」

 

俺は刀藤さんの言葉を遮り、その先の言葉を先に言った。

 

「・・・・・・構いません。わたしにはもう、それにすがるしかないのです」

 

刀藤さんは少し鼻をすすりながら、涙声ながらもきっぱりと言った。

 

「・・・・・・綾斗、私今のに少し違和感があったのだけど」

 

「うん。俺もそう感じた」

 

俺とオーフェリアは刀藤さんに聴こえないように小声でそう話した。

何故か分からないが、刀藤さんの言葉に引っ掛かりを覚えたのだ。

 

「実際、伯父様は優秀です。父の一件では統合企業財体の力で報道を押さえ込んでくれましたし、聞くところによると父には名前や肩書きも別のものを用意してくれたようです」

 

「そこまで・・・・・・。そんなことできるの・・・・・・?」

 

「・・・・・・出来なくもないわ。けど、かなり時間や財力が必要になるわ。それこそ《星武祭》での優勝したときの願いと同じくらいね」

 

「詳しいね、オーフェリア」

 

「・・・・・・以前、少しだけ耳にしたのよ。それで気になったから調べてみただけよ」

 

「なるほどね」

 

新しい身分の作成など、どう考えても普通ではあり得ない。本当に統合企業財体の力は法や国家を超越してる。俺はそれを実感させられた。

そう言えば確かに、刀藤流の宗家が逮捕された、言う話は聞いたことがない。刀藤流の規模を考えればそれなりの大事件になって、あっという間に広まっているのはずなのに、だ。

 

「わたしのこともそうです。この春入学したばかりのわたしをセンセーショナルに喧伝し、対戦相手を選び、情報を集め、戦略を指示してくださいます。どのタイミングで決闘をし、どういう実績を積み重ねれば最も効率が良いか、伯父様はよくご存知なのです」

 

そういう刀藤さんの背中がぶるりと震えたのを俺は見逃さなかった。

 

「伯父様の言う通りにしておけば、わたしはなにも・・・・・・」

 

「―――それは違うよ、刀藤さん」

 

「―――それは違うと思うわ」

 

すでに独白に近くなっていた刀藤さんの言葉を、俺とオーフェリアはばっさり否定した。

 

「違う・・・・・・?」

 

目指すところは決まっていても、それは刀藤さんが選んだ道じゃない。それじゃダメだ。それじゃきっとら遠からずどこかで行き詰まってしまう」

 

「・・・・・・綾斗の言う通りよ。自分が成すべきことは、自分自身で見定めないと。他人のやり方じゃ何時かあなたが力果てるわ。正直、私も綾斗も、そんな刀藤さんを見たくないわ」

 

「って言っても、俺もそう偉そうに言える立場じゃないんだ。俺もつい最近気付かせてもらったんだよ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「綾斗・・・・・・」

 

「だけど・・・・・・わたしには無理です・・・・・・わたし一人では・・・・・・とても、とてもそんな―――」

 

刀藤さんは震える声で話した。

俺はそんな刀藤さんに優しく微笑み、

 

「大丈夫だよ」

 

「あ・・・・・・」

 

刀藤さんの頭を優しく撫でた。

 

「刀藤さんは一人じゃない。少なくとも俺は刀藤さんの力になるよ。それがちゃんと、刀藤さん自身が選んだ道なら、必ず、ね」

 

「・・・・・・わたしが自分で・・・・・・」

 

「・・・・・・綾斗だけじゃないわ。私も出来ることは限られるのだけど、微力だけど力になるわ、刀藤さん」

 

「天霧先輩・・・・・・・オーフェリアさん・・・・・・・」

 

刀藤さんは確かめるように呟きながら、俺とオーフェリアを見詰めた。

 

「ちなみに、闘うときは別よ?綾斗もだけど、手加減はしないでね」

 

「わ、わかってるよオーフェリア。それに刀藤さん相手に、手加減なんて出来るわけないよ」

 

俺はオーフェリアに苦笑いを浮かべながら視線を返した。

 

「ふふっ、天霧先輩は変わってますね」

 

「・・・・・・それ、ユリスにも言われなかったかしら、綾斗?」

 

涙を拭いながらくすくすと肩を震わせる刀藤と、冷静に思い出したかのように言うオーフェリアに俺は困惑しながら頭を掻いた。

 

「―――でも、すごく格好いいと思います」

 

「・・・・・・ええ。綾斗らしいわ」

 

「そ、そうかな?」

 

「ええ。とっても・・・・・・」

 

俺は少し照れながらオーフェリアの淹れてくれたお茶を飲んで隠した。

 

 

 

~綾斗side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~オーフェリアside~

 

 

「あ、あのオーフェリアさん」

 

服が乾き、私の部屋で着替えている刀藤さんが私に声をかけて来た。

 

「・・・・・・なにかしら?」

 

「天霧先輩はどうしてあそこまでお強いんですか?」

 

「・・・・・・そうね・・・・・・・」

 

私は刀藤さんの問いに少し悩んだ。

何を答えたらいいのか分からないからだ。

 

「・・・・・・綾斗にはお姉ちゃんがいるのよ」

 

「お姉さん、ですか?」

 

「ええ。綾斗は子供の頃からお姉ちゃんの背中を追いかけてるの。目標で憧れなんだと思うわ」

 

「目標で憧れ・・・・・・。その、天霧先輩のお姉さんも《星脈世代》なんですか」

 

「そうよ。綾斗の強さは、お姉ちゃんのこともそうだけど、誰かを助けて守りたい。という思いが強いからだと思うわ」

 

「そうなんですか・・・・・・」

 

「ええ。あと、この会話は秘密でお願いね。あれでも綾斗照れ屋なの」

 

「はい。もちろんです」

 

刀藤さんは着替え終わったようで少し体を伸ばしていた。

 

「あ、あのもう一つ聞いてもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

「オーフェリアさんは天霧先輩のことお好きなんですか?」

 

刀藤さんは私にそんなこと聞いてきた。

若干恥ずかしいのか、もじもじしながら話した。

 

「・・・・・・ええ、好きよ。大好きって言ってもいいくらい。私は綾斗が好き。まあ、綾斗を好きなのは私だけじゃないのだけど」

 

私は最後の部分を小声で言いながら、刀藤さんに言った。

 

「そ、そうなんですね////ご、ごめんなさい、不躾な質問をしてしまい」

 

「・・・・・・気にしないで。それより、刀藤さんは自分の道を見付けなさい。そうでないと、行き詰まるわ」

 

「・・・・・・はい。わかりました」

 

「それでは下に行きましょう。綾斗が待ってるはずよ」

 

「は、はい。あ、あのオーフェリアさん」

 

「なに?」

 

「あ、あの、わたしのことは綺凛って呼んでくださいませんか?」

 

「・・・・・・ええ、わかったわ。行きましょう、綺凛」

 

「はい!オーフェリアさん」

 

私は刀藤さんと共に下にいる綾斗のもとへ戻った。

 

 

 

~オーフェリアside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~綾斗side~

 

 

「自分の成すべきこと、か」

 

あのあと、遅れながらも学園に行き簡易的な検査を受け授業を聞き、クローディアに事情説明をし、さすがに今日の訓練は無しになり、家に帰ってきてオーフェリアと夕飯を食べた俺はソファーに寝転がりながらそう言った。

 

「・・・・・・なに悩んでるの綾斗?」

 

「オーフェリア」

 

風呂上がりのためか少し身体が火照り、髪が濡れてるオーフェリアが寝巻き姿で俺の隣に座った。

 

「・・・・・・それで、なに悩んでるの?」

 

「刀藤さんに偉そうにああ言ったけど、俺の成すべきことって、まだ成していないんだよな」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「姉さんを捜し、ユリスと《鳳凰星武祭》を優勝する。そして、オーフェリアを助ける。まだ、どれも成してない。俺も刀藤さんのこと言えないんだ」

 

「・・・・・・なら、私も成すべきことを成してないわ」

 

「オーフェリアの成すべきことって?」

 

「・・・・・・綾斗とシルヴィアと紗夜とハルお姉ちゃんとずっと一緒にいること」

 

「それって・・・・・・」

 

「ええ。私の成したいことは昔のように綾斗たちとずっといたいことよ。それは今も昔も変わってないわ」

 

「そうなんだ」

 

「それに成すべきことって、これから成すことだと私は思うの」

 

オーフェリアはそう言うと可愛らしく笑い、俺の頭を自分の膝の上に乗せた。

 

「そうだね・・・・・・」

 

俺はオーフェリアに膝枕をされながら掌を頭に乗せてそう言う。

 

「・・・・・・キツくない?」

 

「大丈夫だよ」

 

「そう?」

 

「うん。・・・・・・早くオーフェリアの所有権を奪って、オーフェリアを助けないと」

 

「・・・・・・待ってるわ。ずっと・・・・・・綾斗が私を助けてくれるのを」

 

「うん、待っててオーフェリア。俺が・・・・・・俺が必ず・・・・・・」

 

するとそこへ。

 

「メール?」

 

俺の携帯端末が音を鳴らした。

メールが届いたみたいだ。

 

「・・・・・・誰から?」

 

携帯端末を開き、メッセージボックスを確認して届いたメールを確認した。

 

「刀藤さんから」

 

「綺凛?」

 

「うん」

 

俺は起き上がりメッセージを展開する。

そのメッセージの内容は―――

 

「・・・・・・綺凛はついに自分の道を歩みだしたのね」

 

「そうだね」

 

「承けるの?」

 

「もちろんだよ」

 

俺は刀藤さんにメールの返信をし、携帯端末を閉まった。

送られてきたメールにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

『今日はありがとうございました。あのあと伯父様とはなし、わたし自身の意思でこれから行くことにしました。

つきましては、まず始めにわたしの意思で、天霧先輩に再び決闘を申し込みます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と。

そして翌週、俺と刀藤さんの決闘が開催されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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綾斗VS綺凛

~綾斗side~

 

 

刀藤さんから決闘のメールを受け取った翌週、俺と刀藤さんは星導館学園の総合アリーナのステージで対面していた。ステージの観客席は、溢れんばかりの学生で埋まっている。

 

「ぶしつけなお願いを聞いていただいて、ありがとうございます―――天霧先輩」

 

「うん。それより・・・・・・」

 

俺はいつものように丁寧に頭を下げる刀藤さんの表情を見る。

 

「その表情は、決めたんだね刀藤さん」

 

「はい。これからわたしは自分で考えていきます」

 

「うん。ところで・・・・・・なんでまた俺と決闘なんだい?」

 

「わたしがここで本当の一歩を踏み出すために、どうしても必要だと思ったからです」

 

「はは、なるほどね」

 

「ご迷惑・・・でしたでしょうか」

 

「いや、俺も刀藤さんとはまた決闘したかったんだ。それも今度は純粋な、本人の同意の決闘をね」

 

俺は首を横に軽く振り刀藤さんに言う。

 

「わたしもです、天霧先輩」

 

「じゃあお互い悔いが残らないように全力で闘おう。・・・・・・まあ、前の時も十分全力だったけどさ」

 

「はい!もちろん・・・・・・望むところです」

 

俺は苦笑いを浮かべながら言い、刀藤さんは軽く微笑んだ。

そして、刀藤さんは腰に下げている刀。千羽切の鯉口を切った。

俺も同様に、刀藤さんから距離を取り、セレスではなく普通の片手剣型煌式武装を起動させる。

 

「天霧先輩《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》は使わないんですか?」

 

俺がセレスではなく普通の煌式武装を構えたのを見て、刀藤さんが驚いたように訊いてきた。

 

「《黒炉の魔剣》じゃ刀藤さんのスピードに多分ついていけないからね。まあ、俺がまだ上手く《黒炉の魔剣》を使えないのが悪いんだけどさ」

 

以前セレスから聞いたことを俺は思い出した。

 

 

 

 

 

『綾斗はまだ私を上手く使いこなせてないわ』

 

『ん?どう言うこと?』

 

『私―――《黒炉の魔剣》は使い手によって刀身の形状が変わるの』

 

『え!?そうなの!?』

 

『えぇ。ちなみに遥は私を上手く使いこなせていたわよ』

 

『うっ・・・・・・!ちなみに姉さんの時はどんな刀身だったの?』

 

『遥の場合は小太刀のような感じね』

 

『小太刀・・・・・・』

 

『たぶん、綾斗が自身の星辰力を上手く制御できるようになれば、そのときは私をもっと使いこなせるわ。それこそ、歴代の使い手を凌駕するほどね』

 

『・・・頑張ってみるよセレス』

 

『ええ。頑張って綾斗』

 

 

 

 

 

「それに同じような負け方をしたらユリスが許してくれないし、あの二人も怒るからね。それに、姉さんに追い付けない。だから、少しは工夫しないとね」

 

セレスとの会話を思い出し終えた俺は、刀藤さんに苦笑ぎみにそう言った。

 

「工夫ですか・・・・・・楽しみです」

 

刀藤さんも、すらりと千羽切を引き抜いた。

ステージの照明を受けてその刀身がどこか艶やかに煌めいた。

 

「それじゃ、そろそろ始めようか。本当はこういう派手なステージは苦手なんだけど、こうまで集まってくれるとあんまり待たせるのも悪い気がしてきた」

 

「ふふっ、同感です」

 

 

~綾斗side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ユリスside~

 

「おい、クローディア。わざわざこんなステージを用意しないでも良かったろうに・・・・・・」

 

ステージにいる綾斗と刀藤を見ながら、私はアリーナの特等席でクローディアや沙々宮など一同と座っていた。

 

「あら、注目の一戦なんですからこれくらいは当然でしょう?なにしろ刀藤さんはうちの、序列一位ですし、綾斗はその刀藤さんと互角の戦いを演じた方です。それが再戦するとなれば、誰だって一目みたいと思うはずですよ」

 

「むぅ・・・・・・しかしだな」

 

私は少々心配した表情で綾斗へ視線を移した。

するとそこへ。

 

 

「・・・・・・ユリス、心配する必要はないわ」

 

「そうだね。だって綾斗くんだもん、大丈夫だよ」

 

 

クローディアの後ろの沙々宮の隣に座った女子二人からそう言われた。

 

「・・・・・・・・・・今更ながら聞いておくが、何故、オーフェリアとシルヴィアの二人がここにいる」

 

何故か知らんがオーフェリアとシルヴィアがここにいた。もちろん二人とも変装はしているが。

どうせ大方クローディアが呼んだのだろう。

 

「・・・・・・エンフィールドに呼ばれたからよ」

 

「私もクローディアさんに呼ばれたからだよ」

 

「クローディア?」

 

「どうせなら綾斗の大切なお二人にも綾斗と刀藤さんの闘いを見てもらおうと思いまして、私の知り合い経由でお伝えしたんですよ」

 

「知り合い、だと?」

 

「ええ。ウフフ」

 

クローディアは何時もの企みめいた微笑みでそう返した。さすが、自称腹黒女だことだ。

 

「・・・・・・二人の言う通りそんなに心配するな、リースフェルト」

 

「そうは言うがな」

 

「大丈夫、問題ない」

 

よほど綾斗のこと信頼してるのか、沙々宮がきっぱり言い切ると、シルヴィア、オーフェリアの二人は同時に首をたてに振った。

 

「だが、前回の対戦を見ても、刀藤綺凛の剣技はかなりのものだ。三人は見たのか?」

 

「ん、見た」

 

「・・・・・・動画で見たわ」

 

「私は見てないかな?でも、問題ないかな」

 

まあシルヴィアはついこの間までツアーに行っていたようだし知らないのは当然かもしれんが、沙々宮とオーフェリアは、知っているようだが。

 

「刀藤は強いと思う。剣技だけなら綾斗以上かも」

 

「ええ。でも、剣技、だけならね」

 

「だったら―――!」

 

「心配いらないわユリス。綾斗はもっと強い相手と戦いなれてるわ」

 

「そうだね~。綾斗くんと剣での戦いで互角だと思うのは、《剣聖》だけかな?」

 

「・・・・・・なに?」

 

「あらあら」

 

私とクローディアは驚いたように身をよじって後ろの三人を見る。

レスターと夜吹の二人も驚いたように見ている。

 

「強い相手?誰だ、それは?」

 

「ハル姉」

 

「遥お姉ちゃん」

 

「ハルお姉ちゃん」

 

「は、ハル姉・・・・・・?誰だ、それは?」

 

「「「綾斗(くん)のお姉さん(ちゃん)」」」

 

三人の答えは簡潔だった。

 

「むぅ・・・・・・あいつの姉は、そこまでの実力者だったのか?」

 

唸りながら言う私に、三人はこくりとうなずいた。

 

「ま、あいつもなにか考えがあるみてぇだし、ただでやられやしねぇだろ」

 

するとそこへ、クローディアの横に座ったレスターが口を挟んできた。

 

「なんだ、レスター。おまえ、なにか知っているのか?」

 

「ああ、ちょっとな。煌式武装の調達を頼まれた。つっても予備のを貸してやっただけだけどな」

 

「煌式武装・・・・・・?そんなもの、装備局に申請すればいいだろうに」

 

「あそこは調整だなんだで時間が掛かるからだろ。すぐに揃えるなら、誰かから借りたほうが手っ取り早ぇ」

 

「へぇー、あんたにも頼んでたんだ」

 

意外そうな声を出したのはガラスにへばり付くようにしてカメラを構える夜吹だ。

 

「あんたも、ってことはてめぇもか」

 

「まーね。・・・・・・っと、そろそろ始まるか」

 

夜吹の声に全員の視線がステージに立つ、綾斗と刀藤綺凛に向いた。

 

 

決闘開始(スタート・オブ・ザ・デュエル)

 

 

アナウンスとともに試合が開始される。

 

 

~ユリスside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~綾斗side~

 

 

決闘開始(スタート・オブ・ザ・デュエル)

 

 

システムのアナウンスによりそうアナウンスされると観客席からの歓声が一際高くなった。

 

「―――参ります!」

 

そういうや否や刀藤さんは千羽切を構えて迫ってきた。

右下段からの切り上げ下ろし。

俺はそれを青い刀身の煌式武装で受け止め、反撃する。

 

「くっ・・・・・!」

 

そしてさらに迫る突きを煌式武装で弾いてかわす。

鋭い打ち込みだが、力では俺の方が勝ってる。鍔迫り合いになったとしても負けはしないだろう。

しかし跳ね上げたはずの刀藤さんの刀は空中で弧を描き、即座に逆袈裟に斬り下ろしてきた。その切り返しの速度は、とてつもなく早い。俺が剣を横に構えてそれを防ごうとする。が、次の瞬間には千羽切の切っ先が俺の右小手を狙っていた。俺はそれを腕を引いてかわすが、その隙に刀藤さんは大きく右足を踏み入れ、内腿から斬り上げを放ってきた。

途切れもなく続く連続攻撃に、俺は完全に防戦一方だった。

剣速ではほとんど差はない。だが、刀藤さんの攻撃は一撃一撃の繋ぎ目が恐ろしく滑らかだ。正直、反撃に入り込む隙間すらない。

 

「くっ!」

 

そして神速で繰り出された突きに、あえて身をさらし、脇腹に星辰力を集中させ固い壁のようにする。

それでも、脇腹に痛みの熱が走るが、構わず刀藤さんめがけて、上段からの斬り下ろしを放つ。

だが、それを刀藤さんは俊敏な動きで身を翻し、あっさりとかわした。

 

「・・・・・・さすがは天霧先輩、すごいです。まるで厚い鋼を突いたような手ごたえでした」

 

「星辰力の量だけは、多少自信があってね」

 

「それに―――"連鶴"から逃れられたのも初めてです」

 

「なるほど、あれが"連鶴"か・・・・・・」

 

「"巣篭(すごもり)"、"花橘(はなたちばな)"、"比翼(ひよく)"、"青海波(せいがいは)"・・・・・・刀藤流には四十九に及ぶ繋ぎ手の型がありますが、それを組み合わせることで完全なる連続攻撃をなす技が"連鶴"です」

 

わずかに身を沈めた刀藤さんは、脇構えに取った。

 

「"連鶴"に果て無し―――次は、仕留めます!」

 

「じゃ、こっちも全力で答えさせてもらおうかな!」

 

俺と刀藤さんはそう言うと、ほぼ同時に星辰力を一気に高めた。

刀藤さんは再び俺の間合いに踏み込むと、"連鶴"をはじめていた。

俺はそれを素早くかわす。

そして、刀藤さんから少し離れ、煌式武装の切っ先を右下に向け構える。

 

「!?」

 

刀藤さんが軽く目を見開いたのがわかった。そして、剣の間合いに入った刀藤さんに、星辰力を煌式武装に流して下段からの切り上げをする。

俺の剣と刀藤さんの振り下ろした刀が激しくぶつかり合う、そしてその瞬間、俺の構える煌式武装が眩い光とともに弾け飛んだ。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

弾け飛んだ煌式武装からは爆風と白いスモークのような煙が現れる。

 

流星闘技(メテオアーツ)の失敗・・・・・・?」

 

爆風からとっさにバックステップで間合いを取り直した刀藤さんからそんな声が聞こえてきた。

 

「(俺は流星闘技をセレス以外使えないんだよね。それに今回借りたこの煌式武装は未調整だし)」

 

俺はそう思いながら腰のホルダーから素早く新しい煌式武装を起動させ、煙が晴れない内に刀藤さんに爆煙をふきとばすような突き技をする。

だが、それはさすがの反応速度で刀藤さんの刀に弾かれた。

 

「天霧辰明流槍術―――"壬雲蜂(みくもばち)"!」

 

「っ!―――槍術!?」

 

「少しは驚いてもらえたかな!」

 

俺が新たに展開させた煌式武装は槍型の煌式武装だ。

そして、俺は素早く槍で刀藤さんに突き技をする。

 

「はい!ですが―――奇策は奇策、です!」

 

だが、刀藤さんは冷静にその間合いを見極め、槍を刀で弾き、剃らしたりして迫る。

そしてやりの切っ先を跳ね上げそのまま、俺の校章目掛けて斬り上げようとするが、再度刀藤さんは驚くことになった。

何故なら。

 

「まさか・・・・・・っ!」

 

俺があっさりと槍を手放し、刀藤さんに放ったからだ。

そして、その槍を刀藤さんが柄を二つに斬る。

 

「―――奇策は重ねてこそ奇策、だよ!」

 

俺は槍を手放したのと同時に、腰のホルダーから三つ目の煌式武装を取り出し、瞬時に起動させる。

瞬時に起動させたのは、二つの小さな短刀型煌式武装だ。

 

「ッ!ハアァアアアアッ!」

 

俺はそれを逆手に持ち構え、気合いの声とともに来た刀藤さんの刀を受け流し、その勢いを利用して身体を一回転させる。

 

「天霧辰明流小太刀術―――"士茅薙(しちなぎ)"!」

 

左手に持った短刀を放り、右手の短刀で攻撃する。

 

「くぅっ!」

 

刀藤さんは半ば反射的に刀を返して、真っ向から受け止めた。俺と刀藤さんの短刀と刀が火花を散らす。

今この瞬間、刀藤さんの腕には重い衝撃が圧し掛かってるだろう。

そのとたん、刀藤さんの力が緩み、刀に沿って僅かにずれた短刀を切り上げて上に振り上げた。

刀藤さんはそのまま自分の勝利を確信したのか、表情が少し緩んだ。刀藤さんはそのまま上から俺の校章を狙って刀を斬り下ろしてくる。

だが―――

 

「天霧辰明流組討術―――」

 

俺は左腕をするりと伸ばし、刀藤さんの奥襟を掴み、

 

「―――"刳環祓(くるわばらい)"!」

 

ふわりと身体を浮き上がらせて、天地を逆転させ刀藤さんを投げ、倒れた刀藤さんにそのまま真上から肘を刀藤さんの胸の校章に叩きつける。

 

「ガハッ!」

 

背中と胸に衝撃が走り、肺から残らず空気が追い出されたのだろう、刀藤さんは呼吸できない苦しさに顔をしかめた。

 

「大丈夫かい、刀藤さん」

 

俺は心配そうに刀藤さんの顔を覗きこんだ。

 

「・・・・・・やられました。槍も小太刀も、全部囮だったんですね?」

 

刀藤さんがそう言うのと同時に、刀藤さんの胸の校章から、ピシリとひび割れる音が聞こえた。

 

「あ・・・・・・まいりました。完敗です」

 

刀藤さんが笑顔を浮かべながら、俺が伸ばした右手を掴んだのと同時にスタジアムのアナウンスが流れた。

 

 

決闘決着(エンド・オブ・デュエル)勝者(ウィナー)、天霧綾斗!』

 

 

アナウンスが流れると、アリーナを割らんばかりの大歓声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ控え室

 

 

「はあ・・・・・・」

 

「まさか本当に勝ってしまうとはな」

 

「おめでとう、綾斗。かっこ良かった!」

 

ところ変わってアリーナの控え室。

ぐったりと椅子に座る俺に、ユリスと紗夜が嬉しそうに声をかけてきた。

 

「うん、ありがとう」

 

俺が二人にそう言うと、

 

『綾斗?よろしいでしょうか』

 

空間ウインドウが開きクローディアがそう言った。

 

「どうぞ」

 

俺は入室の為に扉のロックを解除し、扉を開ける。

 

「失礼しますね」

 

クローディアは何時もの笑みを浮かべて入ってきた。

 

「ふふっ、さあ、どうぞ」

 

クローディアは、少し横にずれると誰かと一緒にいるのかその場所を譲った。

 

「あ、あの、お邪魔します・・・・・・」

 

クローディアが一緒にいたのは刀藤さんみたいだ。

 

「あれ?刀藤さんも」

 

「ええ、なんでもこちらにご用があるだとか」

 

「あ、あの・・・・・・私も天霧先輩たちの練習に、参加させてもらってもいいでしょうかっ?」

 

「えっ?」

 

刀藤さんの申し出にクローディア以外の俺たち三人はきょとんとした。

 

「その、以前、天霧先輩からお誘いいただいて・・・・・・そのときはお断りしなければならなかったのですが」

 

「綾斗?そんな話聞いてないぞ」

 

「い、いや、刀藤さんくらいの人が参加してくれれば練習の幅が広がるでしょ?」

 

「それはまあ、そうだが・・・・・・」

 

「うん、別に構わない。ばっちこい」

 

両手で手招きする紗夜にユリスがどやしつけた。

 

「何故おまえが答える!というか、おまえもあれから毎日入り浸っているではないか!認めた覚えはないぞ」

 

「リースフェルトは一々細かい。なし崩しは世の常。諦めろ」

 

「それを横暴だというのだ馬鹿者!」

 

「それに綾斗の浮気防止にもなる」

 

「浮気なんてするわけないだろうが!」

 

ユリスと紗夜のやり合いを横目に俺は刀藤さんに聞く。

 

「こんな面子だけど、それでも大丈夫?」

 

「はいっ!もちろんです!」

 

「わかった。それじゃ―――」

 

刀藤さんに手を伸ばしたその時、またしても空間ウインドウが開いた。

 

『綺凛っ!ここにいるのだろう!出てこい、綺凛!ええい、ここを開けろ!』

 

ノックとは言いがたい、扉を殴り付けているような荒々しい音と怒声がウインドウを通じて聞こえる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

俺はウインドウを横目にクローディアを見る。

 

「・・・・・・・・・・」

 

クローディアも頬に手をあて「どうしましょう」といった顔で困ったように眉を下げた。

目線で刀藤さんに確認すると、刀藤さんはきゅっと唇を噛みしめながらも、気丈に頷いた。

俺は刀藤さんに軽く頷き、ウインドウに浮かぶロックを解除し扉を開けた。

 

「綺凛、おまえというやつはなんという愚か者なのだ!勝手に決闘した挙句、あんな無様な負け方をしおって!だが、これでわかっただろう!おまえには私の力が必要なのだ!」

 

入ってくるなり煩いほどの大声で叫んだ。

ここが防音で良かった。そうでなかったら外にまで響いていると思う。

そのまま刀藤さんの腕を掴もうと手を伸ばすが、

 

「・・・・・・ごめんなさいです、伯父様。わたしは自分のやり方で闘っていこうと決めたのです」

 

刀藤さんはあっさりとそれを払い除けた。

 

「黙れ黙れ!おまえはわたしの言うことを聞いてさえいればいい!」

 

刀藤鋼一郎は顔を怒りに染めて腕を振り上げ、刀藤さんに振り下ろす。

だが、そのまえに。

 

「彼女はもう自分の足で一歩を踏み出しました。あなたの出る幕は、もうない」

 

俺が刀藤鋼一郎の振り下ろそうとしている握り拳を掴んだ。

 

「な、なんだ貴様・・・・・・わ、私は《星脈世代(ジェネステラ)》ではないのだぞ?いいのか、もし貴様が私に手をあげるようなことがあれば―――」

 

刀藤鋼一郎は怯えた表情を隠そうともせず、震える声で言った。

 

「そ、それに良いのか貴様!貴様とあのレヴォルフの化け物が幼馴染みだと言うことを世間に口外するぞ!」

 

「っ!?」

 

刀藤鋼一郎の言ったレヴォルフの化け物という言葉が、オーフェリアだと言うことを察した。

 

「貴様・・・・・・!」

 

「今、オーフェリアの事なんて言った・・・・・・!」

 

ユリスと紗夜は怒気を含ませた声で刀藤鋼一郎に言う。

紗夜に限っては煌式武装を展開している。

 

「それでもいいのか貴様・・・・・・っ!」

 

刀藤鋼一郎はそこで言葉を途切れさせた。

何故なら。

 

「黙れ・・・・・・!」

 

俺が紗夜とユリスを越えるほどの殺気と冷たい、絶対零度、永久凍土のような声で遮ったからだ。

刀藤鋼一郎は数歩下がり、そこで何かに気づいたように刀藤さんに視線を向けた。

 

「そ、そうだ!いいのか、綺凛!おまえの父の所業を隠蔽してやったのは私だぞ!もしおまえが私の下へ戻らぬというなら、全てぶちまけて・・・・・・」

 

刀藤鋼一郎の言った、父という言葉に煌式武装の砲口を刀藤鋼一郎に向ける紗夜の眉が少し動いたのを視線の端で見た。

 

「―――あら、面白いことおっしゃりますね」

 

黙って推移を見ていたクローディアが刀藤鋼一郎の声を遮った。

 

「なっ!エ、エンフィールドの・・・・・・!」

 

「刀藤綺凛さんとあなたのご関係に口を挟むつもりはありません。ですが、この星導館の生徒で、学園の財産でもあり、統合企業財体の財産でもある彼女を私情で汚そうというのなら・・・・・・見過ごすわけにはいきません。おそらく私の母も同じ判断を下すと思いますが?それに、私の親友の幼馴染みをそう言う風に言うのは止めて下さいません?」

 

クローディアの声に刀藤鋼一郎はただ口をパクパクと、顔を真っ青をにした。

やがて刀藤鋼一郎はがくりと肩を落とし、そのままふらつきながら踵を返し、力ない足取りで部屋を出ていった。

 

「お、伯父様っ!」

 

刀藤さんがそのまま出ていく刀藤鋼一郎の背中に呼び掛けた。

 

「わたしは伯父様に感謝しています。それは嘘じゃありません。伯父様がいなければアスタリスクにも・・・・・・・この出会いもありませんでした。ですから、今まで・・・今まで・・・・・・本当にありがとうございました!」

 

そして刀藤さんは何時ものように、誰にたいしてもそうしてきたように、真摯に丁寧に、ペコリとこちらに向かない刀藤鋼一郎の背に頭を下げた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「伯父様・・・・・・」

 

刀藤鋼一郎は刀藤さんのそれになにも答えることもなく、振り返りもせず静かに出ていった。

 

「あ・・・・・・」

 

悲しそうな顔でうつむく刀藤さんの頭に、そっと手をのせ、そのまま優しく撫でる。

 

「これからよろしくね、刀藤さん」

 

「・・・・・・・はい。ありがとうございます」

 

ぐしぐしと目元をぬぐいながら、刀藤さんは小さく頷いた。

 

「あ、あの・・・・・・天霧先輩」

 

「ん?なんだい?」

 

「その、一つ・・・・・・じゃなくて、ふ、二つほどお願いがあるのですが・・・・・・いいですか?」

 

「お願い・・・・・・?」

 

「は、はい・・・・・・できればその、あ、天霧先輩のことを、お、お、お名前でお呼びしたいなと・・・・・・」

 

「はは。なんだ、そんなことか、もちろんいいよ。で、もう一つは?」

 

「は、はい・・・・・・じゃ、じゃあ、綾斗、先輩・・・・・」

 

「うん」

 

「・・・・・・わ、わたしのことも・・・・・・オーフェリアさんと、同じように名前で呼んでもらえますか、か・・・・・・?」

 

俯き、上目使いにもじもじとしながら、意を決したように言う刀藤さんに、ちょっと驚いた。

とはいえ、もちろん断る理由はない。

俺は笑顔で頷き、

 

「わかったよ―――綺凛ちゃん」

 

刀藤さん、いや、綺凛ちゃんと呼んだ。

 

「はい!」

 

綺凛ちゃんは嬉しそうに笑顔で答えた。

 

「じゃあ、次の練習から参加する?」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「これで一件落着か」

 

「・・・・・・そうみたい」

 

「ふふっ」

 

綺凛ちゃんを見てユリスと紗夜、クローディアがそう言うのが聞こえた。

 

 

「あ、綾斗」

 

「なにクローディア?」

 

「今から少しの間だけ扉のロック解除してといて下さいね」

 

「え?いいけど」

 

よくわからないが、俺はウインドウを操作して扉のロックを解除した。

するとその十秒後。

 

「綾斗く~ん♪」

 

「え!?って、おわぁっ!!」

 

扉が開いたかと思いきや、いきなり入ってきた人に飛び抱き締められた。

 

「序列一位、おめでとう綾斗くん♪」

 

「え!ええっ!?な、なんでここにシルヴィが!?」

 

抱きついている人を見て俺は驚いた。

入ってくるなり飛び抱きついて来たのは、変装して髪の色は栗色だが間違いなくシルヴィだったのだ。

 

「ど、どういうことクローディア?!」

 

「ウフフフ」

 

クローディアに聞くが、当のクローディアは何時ものにこやかな笑みを浮かべてなにも言わずに微笑んでいる。

 

「・・・・・・綾斗、お疲れ様」

 

「オ、オーフェリアまで!?」

 

そして、シルヴィの次に入ってきたのは髪の色を黒にしたオーフェリアだった。

幸いにもオーフェリアが入った時点で扉が閉まったため外に声は漏れてない。・・・・・・はず、多分。

 

「さ、紗夜、説明して!」

 

俺はユリスの隣にいる紗夜に事情説明を求める。

 

「エンフィールドがシルヴィアとオーフェリアの二人を呼んだ」

 

「ってことは・・・・・・?」

 

「さっきの決闘もバッチリ見たよ、綾斗くん♪」

 

「・・・・・・・・・・」

 

シルヴィが抱きついたまま言い、オーフェリアはコクコクと頷く。

 

「あぁ~、綾斗くんの匂いだよ~」

 

「ちょっ、シルヴィ!?ここ家じゃないんだけど!?オーフェリア、紗夜、ちょっ、助けて!」

 

「・・・・・・無理よ。諦めて綾斗」

 

「・・・・・・オーフェリアの言う通り。しばらく綾斗はそのままでいるべき」

 

「そ、そんなあ!」

 

俺がそう漏らすなかもシルヴィは気持ち良さそうに俺に抱きついている。

 

「あ、あわわわ・・・・・・あ、あの、これは、一体、どういうことなんですか?!」

 

「ハァ・・・・・・・。やれやれ」

 

「ウフフフッ」

 

綺凛ちゃんは顔を真っ赤にしてゆでダコみたいになっていて、ユリスは額に手をあて呆れたようにしていて、クローディアは相変わらずの感じだった。

そしてそれから10分後。

 

「はあ~、綾斗くん成分補充完了だよ」

 

「そ、そう・・・・・・」

 

やっとシルヴィが離れてくれた。

 

「あ、あの、綾斗先輩、これは一体・・・・・・」

 

「あー・・・・・・」

 

この場に事情のわからない綺凛ちゃんがいるのだが、シルヴィが抱きついて来たので事情説明するしかなかった。

 

「え~と、シルヴィ、変装解いてくれるかな?」

 

「了解~」

 

俺の声にシルヴィはヘッドホンを操作して髪の色を元の鮮やかな紫色に戻した。

 

「これでいい綾斗くん?」

 

「うん。え~と、綺凛ちゃん?いいかな?」

 

「は、はい・・・・・・」

 

「えーと、一応紹介しとくね。彼女はシルヴィア・リューネハイム。クインヴェール女学園の序列一位で生徒会長。そして、俺と紗夜、オーフェリアの幼馴染」

 

「はじめまして刀藤さん。私はシルヴィア・リューネハイム。シルヴィアって呼んでくれるといいな」

 

「は、はい。刀藤綺凛です、よろしくお願いします、シルヴィアさん」

 

「よろしくね綺凛ちゃん」

 

「はい」

 

シルヴィアの登場に驚いていた綺凛ちゃんも、自身を自己紹介した。

 

「あれ、クローディアって、もしかして俺たちの事情知っていたりする?」

 

俺は恐る恐るクローディアに聞いた。

俺とシルヴィ、オーフェリアの関係を知っているのは、紗夜、ユリス、ペトラさん、レスターだけだと思うが・・・・・・。

 

「はい、もちろん知ってますよ」

 

「クローディアさんには私が前に言ったんだよ綾斗くん」

 

「し、シルヴィ!?」

 

俺はまさかシルヴィがクローディアに言っていると思わずかなり驚いた。

まあ、これで納得がいった。以前オーフェリアがここに入ってこれたのもシルヴィから聞いていたからなのだろう。多分、生徒会長同士の話ではなく女子同士の話で話したのだろう。

 

「あ、あの・・・・・・綾斗先輩、どういう意味ですか・・・・・・?」

 

「あー、実は俺とオーフェリアとシルヴィは付き合ってるんだ」

 

「はい?」

 

「つまり恋人、カップルってことだよ綺凛ちゃん」

 

綺凛ちゃんに説明すると、綺凛ちゃんは間の抜けたような返事をして動きを止めた。

そして。

 

「ええぇぇぇええええええええええええ!!!?」

 

綺凛ちゃんには珍しい大きな声を出した。

 

「あ、綾斗先輩と、シルヴィアさん、オーフェリアさんが、つ、つつつ、付き合っている、なんて・・・・・・」

 

処理能力がオーバーヒートしたのか綺凛ちゃんの頭から蒸気が立ち上っているように、綺凛ちゃんは顔を赤くした。

 

「刀藤もその内慣れる」

 

そこへ紗夜がフォローなのか肩を叩いて言う。

 

「あの、綺凛ちゃん?」

 

「ひゃ、は、はい!なんでしょう綾斗先輩」

 

「出来ればあまり口外しないようにお願い」

 

「は、はい、わかりました」

 

「うん」

 

綺凛ちゃんもこれについては他人に言わないと言ってくれたから良かった。

 

「ところで綾斗」

 

「なに紗夜?」

 

「夜吹にはどう説明する?」

 

「え?なんで夜吹にも?」

 

「実は特別席に夜吹もいたから」

 

「ええっ!?マジ?」

 

「マジ。それも超マジ」

 

俺は夜吹への説明を考えると頭がいたくなったが、夜吹には仕方なく説明することにした。もちろん、口外はさせないつもりだ。

 

「夜吹には俺がどうにかしとくよ」

 

「了解~」

 

紗夜と話している間シルヴィと綺凛ちゃんは早速仲良くなったみたいでクローディアも交えて会話していた。オーフェリアはユリスと何かこそこそ話していた。途中ユリスの顔が真っ赤になったのが不思議だった。

 

 

~綾斗side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~outer side~

 

 

「・・・・・・ところで刀藤」

 

「あ、はい。なんでしょう、沙々宮先輩」

 

「刀藤はお父さんのために闘っていると聞いた。本当か?」

 

「は、はい・・・・・・そうですけど・・・・・・」

 

「なるほど偉い。とても偉い」

 

「はぁ・・・・・・」

 

「実は私も同じ。お父さんのために闘っている」

 

「えっ、そうなんですか」

 

「そこで提案がある」

 

「・・・・・・て、提案?」

 

 

「私と―――タッグを組まないか?」

 

 

 

~outer side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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ではまた次回、Don't miss it.!


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鳳凰乱武
開幕前夜


~綾斗side~

 

「クンクン。はぁ~、綾斗くんの香りだよ~」

 

「あの~シルヴィ?そろそろ離れてくれると助かるんだけどなあ」

 

「え~、もう少し~」

 

「綾斗君、すみません、しばらくシルヴィアの好きにさせてあげてください」

 

「ですね・・・・・・」

 

綺凛ちゃんとの決闘に勝利し、綺凛ちゃんの伯父、刀藤鋼一郎と一悶着あってから数日が過ぎたある夜、俺はシルヴィとオーフェリアと自宅にいた。

ちなみにここ最近家にいる間や出掛けている間、ずっとシルヴィとオーフェリアが俺の両腕に抱き付いていたため人の視線がすごかった、別の意味で。

でもってそのあと夜、シルヴィのマネージャーのペトラさんが来てこうなったと言うわけだ。

 

「ペトラさん、お疲れ様です」

 

「いえ、これも仕事ですから」

 

ペトラさんはシルヴィのマネージャーその他、クインヴェールの理事長、統合企業財体の幹部、クインヴェール所属アイドルのプロデューサー等々、しているのだ。

ある意味すごい。よくこれで倒れないなと思ったりする。

 

「それと綾斗君」

 

「はい?」

 

「お姉さんについて少し情報を入手できました」

 

「!!?」

 

ペトラさんの言葉に俺は固まった。

よく見ると、抱き付いているシルヴィと、俺の隣に座って紅茶を飲んでいるオーフェリアも動きを止めていた。

 

「お姉さんは約5年前、アスタリスクに来たそうです。どのような経緯で星導館に所属していたのかは調査中ですが、その時綾斗君が所有している純星煌式武装《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を所有しています」

 

「そうですか・・・・・・」

 

「はい。ですが、一年と経たずに星導館を中退してますね。理由は不明ですが、こちらも現在調査中です。そして、綾斗君のお姉さん、遥さんを最後に見たのは・・・・・・」

 

「見たのは」

 

「―――蝕武祭(エクリプス)です」

 

「蝕武祭ですって!?」

 

「・・・・・・蝕武祭!?」

 

「蝕武祭?」

 

ペトラさんの言った、蝕武祭と言う単語に俺はわからず首をかしげたが、シルヴィとオーフェリアは驚いた表情をし、驚愕の声をあげた。

 

「ペトラさん、それ本当なの?」

 

「ええ、間違いないです」

 

「・・・・・・よりにもよって蝕武祭なんて」

 

「あの、蝕武祭ってなに?」

 

「綾斗くんは知らないんだったっけ。綾斗くん、蝕武祭って言うのは・・・・・・」

 

「非合法・ルール無用の武闘大会です。ギブアップは不可能で、試合の決着はどちらかが意識を失うか、もしくは・・・・・・命を失うかによって決まるという裏の星武祭です」

 

俺の疑問にシルヴィとペトラさんが説明してくれた。

 

「そこに姉さんが・・・・・・・」

 

「ええ。蝕武祭の資料は星猟警備隊が押さえているので一般閲覧は出来ないんですが、当時それを担当した星猟警備隊から話を聞いたので」

 

「もしかしてペトラさん、その人って・・・・・・」

 

「ええ。彼女です」

 

シルヴィの言葉にペトラさんは額に手を当て言った。

 

「彼女?」

 

「―――ヘルガ・リンドヴァル。星猟警備隊の創設者にして、現在も隊長を務める女性です」

 

「かつて《王竜星武祭》を二連覇した伝説の人物で、学生時代の二つ名は《時律の魔女(クロノテミス)》と呼ばれている人だよ」

 

「へぇ」

 

ペトラさんとシルヴィの説明に、俺は関心というより凄さを覚えた。《時律の魔女》ということは時間操作系の《魔女》と言うことなのだろう。

 

「ところでシルヴィア」

 

「なにペトラさん?」

 

「あなたの探している人は見つけたのですか?」

 

ペトラさんの声にシルヴィは表情を曇らせた。

 

「シルヴィの探してる人?」

 

「・・・・・・どういうこと?」

 

俺とオーフェリアが疑問符を浮かべているなかペトラさんはシルヴィアを見ていた。

 

「話してなかったんですか?」

 

「・・・・・・うん。綾斗くん、オーフェリアちゃん、ウルスラお姉ちゃんを覚えてる?」

 

「ウルスラ姉さん?」

 

「ウルお姉ちゃん。・・・・・ウルスラ・スヴェント先生のことかしら?」

 

ウルスラ・スヴェント。彼女はシルヴィの歌の先生にして俺たちに体術やダンス、歌唱などを教えてくれた、俺たちにとって姉さんとは違うがもう一人のお姉さんのような女性だ。

 

「あれ、でもウルスラ姉さんって確か何年か前に行方不明になったって聞いたけど?」

 

俺は記憶を頼りにその事を思い出す。

 

「そのウルスラお姉ちゃんがここ、アスタリスクにいるの」

 

「「!!」」

 

俺とオーフェリアはまたしても驚愕した。

 

「詳しくは紗夜ちゃんも含めて話そうか」

 

そう言うとシルヴィは携帯端末を取り出して電話を掛けた。

 

『どうしたシルヴィア?』

 

シルヴィが電話を掛けた相手は紗夜だった。

空間ウインドウに紗夜の顔が映し出された。

 

『む?シルヴィアの他に綾斗とオーフェリアもいる。それとペトラさん?』

 

「お久しぶりですね紗夜さん。相変わらず学校は遅刻してるのでは?」

 

『うっ・・・・・・。もしかして綾斗から聞いた?』

 

「いえ、なんとなくですよ」

 

『さすがペトラさん。恐れ入った』

 

「それほどでも」

 

「アハハ。ところで紗夜ちゃん、ウルスラお姉ちゃんを覚えてる?」

 

『ウルスラお姉ちゃん?ウル姉のこと?』

 

「うん、そのウル姉のこと」

 

『覚えてるけどどうかした?確か何年か前に行方不明になったはず』

 

「そのウルスラお姉ちゃんがここにいるとしたら」

 

『詳しく聞かせて』

 

紗夜は眼を険しくしてシルヴィから話を聞いた。

ついでに姉さんのことも話した。

 

『なるほど~、シルヴィアはウル姉を探してるんだ』

 

「うん。なんでいきなりいなくなったのか知りたいから」

 

『わたしもまたウル姉と遊びたい。もちろんハル姉とも』

 

「それでなんだけど・・・・・・」

 

『シルヴィア言わずとも分かる、もちろんわたしも探すの手伝う』

 

「ありがとう紗夜ちゃん」

 

『別にいい。でも、ペトラさんこれ言っても良かったの?』

 

「あなたたち四人なら問題ないでしょう。それに私の権限をもってしても調べるのには時間と労力が必要になりますから」

 

『了解。この事は他言無用にする』

 

「ええ。お願いします紗夜さん。では私はこのあと予定があるのでこの辺で」

 

「え?もうそんな時間なの」

 

「ええ。ではこれで。あ、綾斗君」

 

「はい?」

 

「星導館序列一位おめでとうございます。では、これで」

 

そう言うとペトラさんはタブレット端末を持って出ていった。

相変わらず忙しい人だと思う。

 

『ところでオーフェリア』

 

「・・・・・・なに紗夜?」

 

『オーフェリア煌式武装持ってる?』

 

「・・・・・・いいえ。持ってないわね。というより私が持つと大抵の煌式武装が壊れてしまうのよ」

 

『なるほど』

 

「それがどうかしたの紗夜?」

 

『どうせなら今度お父さんにオーフェリアの煌式武装を作ってもらおうと思った』

 

「叔父さんに?」

 

『・・・・・・そう』

 

確かに紗夜のお父さん。叔父さんなら作ってくれると思うけど・・・・・・今のままじゃ・・・・・。

 

「紗夜、煌式武装についてはちょっと待ってて」

 

『ん、なんで・・・・・・ああ、なるほど。そう言えば綾斗の優勝の願いはハル姉の捜索とオーフェリアの所有権委譲だったっけ?』

 

「うん」

 

『でも、そのまえに私と綺凛に勝たなくちゃ優勝はまた夢の中』

 

「わかってるよ」

 

紗夜の声に俺は苦笑して返す。

 

『それじゃあまた明日』

 

「うん、おやすみ紗夜」

 

「おやすみ紗夜ちゃん」

 

「・・・・・・おやすみ」

 

そう言うと紗夜とのテレビ電話を終了した。

 

「ウルスラ姉さんか、懐かしいな」

 

「うん。昔よく一緒に遊んだよね」

 

「ハルお姉ちゃんと仲が良かったからね」

 

俺たちはペトラさんが帰り、紗夜と電話し終わるとウルスラ姉さんのことを思い出していた。

ウルスラ姉さんは、元クインヴェール女学園所属で姉さんと年が近いこともあって、俺たちもよく一緒に遊んでもらった。《魔女》としての能力も高く、武術や歌唱力もあり、シルヴィの師匠とも言える人なのだ。

 

「さてと、そろそろ寝るとするか」

 

俺はカップとソーサーを流し台に入れ、洗い終え二人のいるリビングに戻って言った。

 

「そうだね~」

 

「・・・・・・そうしましょうか」

 

こうしてまた夜が過ぎていった。

 

 

ちなみにシルヴィとオーフェリアの二人は俺を抱き枕のように抱き締めて寝てくるのだが、それにはもう慣れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数週間後

 

 

 

「綾斗くん、一緒に出ようよ!」

 

「え?えっと、どういうこと?」

 

「実は今年は《鳳凰星武祭(フェニクス)》の終了後に、お祭り的なエキシビションの大会が開催される予定なんだ。それが《バトル・セレモニア》」

 

「バトル・セレモニア?」

 

「そう。《鳳凰星武祭》をはじめとした星武祭が25回目を開催を記念して、鳳凰星武祭の運営委員会が直々に開催するんだって。通称B・Cだよ」

 

 

鳳凰星武祭を間近に控えたある日の休日、俺はシルヴィ、オーフェリア、紗夜、ユリス、綺凛ちゃんを交えて自宅で昼食を取っていた。

その際、シルヴィが、「綾斗くんと一緒に星武祭出れたらな~」と言ったのが話の始まりだ。

そこからオーフェリアが「・・・・・・今年に限ってはそうはないはず」と言い、俺が「どう言うこと?」と聞いてなった。

 

 

「そのバトル・セレモニアってのはどういう大会なんだ?」

 

ユリスがシルヴィアに疑問符を浮かべて聞いた。

 

「確か、《鳳凰星武祭》と同じタッグマッチでタッグは《鳳凰星武祭》とは違って、どこの学園の人と組んでもいいフリースタイル。星武祭参加資格回数は減らないから誰でも参加していいみたい。あ、でも《鳳凰星武祭》と違って優勝しても願いとかは出来ないみたいだよ」

 

「へぇ、面白そうだね」

 

「うん。実は私に出場依頼が届いているんだけど・・・・・・」

 

「ハハ。なるほどね。俺はもちろんいいよ、一緒に出てくれるシルヴィ?」

 

シルヴィの無言の視線に俺は苦笑して了承し返す。

 

「ホント!もちろんだよ!綾斗くん!」

 

「じゃあ私はユリスと組もうかしら」

 

「む?オーフェリア、沙々宮ではなく私でいいのか?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

「ならばよろしく頼む、オーフェリア」

 

「ええ。こちらこそよろしくねユリス」

 

俺とシルヴィのタッグが出来たのと同時に、ユリスとオーフェリアのタッグも出来たみたいだ。

そんな中、紗夜と綺凛ちゃんは悩んでいる表情を浮かべていた。

 

「むぅ・・・・・・私たちはどうする?」

 

「そうですね・・・・・・え、え~と、あのシルヴィアさん」

 

「なにかな綺凛ちゃん」

 

「その、バトル・セレモニアの申し込み締めきりは何時まででしょうか」

 

「えっと、確か《鳳凰星武祭》のあとに開催されるから《鳳凰星武祭》終了の一週間後までじゃないかな?」

 

「そうですか・・・・・・。ありがとうございます」

 

「もしかして綺凛ちゃんも出るつもり?」

 

「い、いえ、その、一応、もしかしたら出るかもしれないので・・・・・・」

 

「へぇ。シルヴィちなみに開催はいつ頃?」

 

「正式発表はまだだけど、鳳凰星武祭のあとだから秋ぐらいだと思うよ」

 

「それじゃあそれまでみっちりトレーニング出来るかな」

 

「う~ん、ペトラさんと相談してみないと分からないかな、スケジュールがまだ分からないから」

 

「そうなんだ。わかった、シルヴィが出来る日でいいよ」

 

「ありがとう綾斗くん」

 

シルヴィは嬉しそうに言った。

言ったのは良いんだけど、抱き付いてくるのはちょっと程々にしてほしいよシルヴィ。オーフェリアまで抱き付いてくるような感じだし、ユリスは呆れているし、紗夜はいつも通りで、綺凛ちゃんは顔が真っ赤だから。

俺は顔を少し赤くしてそう思った。

するとそんな俺の耳に、紗夜とオーフェリアの会話が微弱だが聞こえてきた。

 

「そう言えばオーフェリア」

 

「なに紗夜?」

 

「タッグ、シルヴィアに譲って良かったの?」

 

「・・・・・・ここ最近私が綾斗のこと独占していたし、たまにはいいかな、って思ったのよ。どうせなら私も綾斗と出たかったけど」

 

「オーフェリア大人だ~・・・・・・」

 

「そんなことないわ紗夜」

 

俺は紗夜とオーフェリアの会話に苦笑いを内心浮かべるのと同時に、今度オーフェリアの好きにさせてあげよう、と思った。

 

「ところでもう《鳳凰星武祭》だけど準備は大丈夫?」

 

「問題ない」

 

「・・・・・・うん、大丈夫」

 

「い、一応は・・・・・・」

 

「アハハ、まあまあかな」

 

シルヴィの声に俺らはそう答える。

 

「・・・・・・そう言えば彼女たちが今回出るのよね」

 

《鳳凰星武祭》のトーナメント表を空間ウインドウに展開して言った。

 

「ん?ああ、レヴォルフの鎌使いか」

 

ユリスが《鳳凰星武祭》のトーナメント表の一部分を拡大化し言う。

そこに書かれている名前は。

 

「―――イレーネ・ウルサイスとプリシラ・ウルサイスか」

 

「ええ」

 

 

イレーネ・ウルサイス、オーフェリアの所属するレヴォルフ黒学院の序列三位にして、純星煌式武装(オーガルクス)、《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》の使い手。

プリシラ・ウルサイス、同じくレヴォルフ黒学院所属。イレーネ・ウルサイスの妹で鳳凰星武祭でイレーネのパートナー。星脈世代としての能力は非常に珍しい再生能力者(リジェネレイティブ)

 

 

「イレーネは強いわよ」

 

「だろうな・・・・・・まあ、対策は立てるさ」

 

オーフェリアの声にユリスは口角を上げて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《鳳凰星武祭》開幕まで残り5日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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鳳凰星武祭(フェニクス)

~綾斗side~

 

 

 

シリウスドーム

 

鳳凰星武祭 開幕式 

 

 

 

『ではこれより、開会式を初めます』

 

 

スピーカーから流れるアナウンスによって、満員の観客席から歓喜の声があふれでる。

 

「すごい人の数だね」

 

「ああ。私も驚いている」

 

周囲の観客席を見て、スタジアムのフィールドで並んでいる俺たちは少し驚いていた。

並んでいるのは俺たちだけじゃない。他五校の生徒も並んでいる。だがその中でも特に目立つのはレヴォルフとガラードワーズの列だろう。レヴォルフの列はほぼいなく、ガラードワーズは対照的に恐らく参加する生徒全員が並んでいる。

俺が周囲を見ていると、俺たちの頭上。六角形の透明な板の上の演壇に一人の男が立った。

その男の外見は約30代後半だろう。

 

 

『諸君、おはよう。《星武祭(フェスタ)》運営委員会委員長、マディアス・メサだ。こうしてまた今年も君たちの勇壮な姿を見ることができて嬉しく思う』

 

 

「あの人が委員長?」

 

俺は運営委員長だと言う人物の演説を聞きながら横のユリスに小声で聞いた。

 

「彼を知らないのか?」

 

「え、どう言うこと?」

 

「・・・・・・マディアス・メサは星導館のOBだぞ?」

 

「そうなの?」

 

「ああ。確か、学生時代には《鳳凰星武祭》を制した実力者だ」

 

「なるはど・・・・・・」

 

俺はマディアス・メサから感じられる静かだが星辰力を抑えていてもわかるほどの膨大さが感じられた。

 

「運営委員長としてもかなりのやり手でな。就任したのは確か数年前だったはずだが、改革派の筆頭として新しい制度の制定やイベント、レギュレーション変更を次々と行っている。おまけにそれはどれも高評価だ」

 

「うちのOBってことは銀河の幹部?」

 

「名目上はな」

 

「名目上は?」

 

ユリスの言い分に少し疑問に思った俺は首をかしげた。

するとユリスはつまらなそうに答えた。

 

「彼は《鳳凰星武祭》で優勝した際、卒業後の運営委員会いりを望んだそうだ。なかなか食えない男だぞ、あれは」

 

「ふーん・・・・・・」

 

俺はユリスの言葉に、演説を続けるマディアス・メサを眺める。

その瞬間、演説をしているマディアス・メサの視線がぴたりと俺を捉えた気がした。

 

「(え・・・・・・?)」

 

だがそれはほんの一瞬の出来事だったため確証は無かったが、確かにマディアス・メサは俺を捉えてなにか笑ったような気がした。

演説してるときから崩れない人懐っこい笑みではない、なにかを視るような、そんな笑みだった。

そして次の瞬間。

 

「(!?今のは・・・・・・!)」

 

俺の身体になにかが走った。

寒気や殺気ではない。どこか懐かしい感じの星辰力だった。そして、その発信元は演説をしているマディアス・メサからだった。

 

『い、今のは・・・・・!』

 

『セレス?』

 

『綾斗、感じた、今の星辰力?』

 

『うん、どこか懐かしい感じの星辰力を感じた』

 

『ええ。まさか・・・・・・いや、でも、そんなはずは・・・・・・気のせいだと思いたいけど・・・・・・』

 

『セレス?』

 

『いえ、なんでもないわ、気にしないで』

 

セレスのはぐらかすような感じに不思議に思ったが追求しないことにした。セレス・・・・・・《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》の発動体は俺のポーチに入っている。セレスを持ったり、起動してないのに念話出来た理由は、ついこの間、セレスを持っていたり、起動したりしなくてもこうして会話できるようになったからだ。

頭上の演壇の周りの六方には各学園の生徒会長が立っていた。そこにはもちろん星導館の生徒会長のクローディアや、クインヴェールの生徒会長のシルヴィもいる。そして、その中にはオーフェリアと同じ色の制服を着た小太りの男がいた。

 

「(あれがディルク・エーベルヴァイン・・・・・・《悪辣の王(タイラント)》・・・・・・か)」

 

一瞬、ディルク・エーベルヴァインを見た感じだと彼は《星脈世代》ではない。

そう思っていると。

 

 

『―――これから諸君に重要なレギュレーションの変更を伝える。従来煌式武装には制限を設けていなかったのだが、色々と不都合が出てきた。具体的に言うと、自立起動する機械を武器としてどう扱うか』

 

 

この言葉に一番に反応したのは俺たちの前にいる紗夜だった。

舟を漕いでいたのにも関わらず、自立起動する機械、という単語が出てくるとパッチリと目を開けたのだ。

 

 

『かといって武器の数に制限を設けるのは論外だ。自律機動兵器の使用を禁止してしまえば、それは停滞へと繋がり、やがて衰退をまねくことになるだろう。そこで、今回は代理出場という形で措置をとることにした』

 

 

マディアス・メサの言葉に会場全体に動揺とざわめきが走った。それは俺たち学生だけでなく観客もだった。

 

 

『賢明なる諸君には、これが特定の学園を有利にするものではなく、むしろ近い将来の平等性を確保するためのものであることをわかってもらえると思う。そして―――《星武祭》を愛し、応援してくださっている諸氏には、より新たな《星武祭》に繋がるものであることをご期待いただきたい』

 

 

高らかな宣言とともに、観客席から一斉に怒濤の拍手が巻き起こった。だが、観客とは対照的に俺たち出場者からの反応は冷たい反応だった。

そしてそのあとも長々と退屈な式典が続き、終わったのは正午になる少し前だった。

 

 

『これにて《鳳凰星武祭》の開会式を終わります。本日《鳳凰星武祭》に出場される選手は規定の時間までに該当ステージへ移動してください』

 

 

ようやく終わった開会式のステージから引き上げた俺たちは、会場のアナウンスを聞いて移動していた。

 

「俺たちの試合はこのメインステージだから特に移動しなくてもいいんだよね?」

 

「うむ。とはいえ試合まではかなり時間があるし、軽く昼食を済ませておいたほうが良いな」

 

「じゃあそうしようか。あれ、紗夜たちは・・・・・・?」

 

さっきまでいたはずの紗夜と綺凛ちゃんの姿が見当たらなかった。二人の初戦は俺たちと違い明日のはずだから移動したということはないと思うが・・・・・・。

 

「(もしかしてまた紗夜の方向音痴かな・・・・・・?)」

 

紗夜たちを探していると、ドームの正面ゲートへ向かう学生のなかに見知った二人を見つけた。

 

「あっ。レスター」

 

「なんだ」

 

見つけたのはレスター・マクフェイルだ。

そしてレスターの隣には、タッグパートナーのランディ・フックがいた。

 

「もしよかったら俺たちと食事はどうかな?ランディも一緒に」

 

「食事?」

 

「あのなあ天霧・・・・・・何度も言うが、オレはお前と馴れ合うつもりはねえ!」

 

「いや、そう言うつもりはないんだけど・・・・・・ほら、この間の決闘の時、煌式武装を貸してもらったお礼もしてないし」

 

「そんなもんいるか!とにかくオレたちはこれから移動しなきゃなんねえし、飯ならそっちで食う!おまえはあそこの二人と一緒に食ってろ!というか、頼むからオレをおまえたちの変な空間に巻き込むな!」

 

「え?」

 

レスターの呆れたような眼差しのと指先の先にはこっちに手を振っている二人がいた。

変装しているが間違いなくシルヴィとオーフェリアだ。

 

「はぁ、ユリスの野郎の気持ちが何となく分かった気がするぜ・・・・・・」

 

レスターは何故かユリスに同情の眼差しを向けていた。

ランディはなんのことか分からずキョトンとしていた。

 

「そんじゃあな!いくぞ、ランディ!」

 

「え、ちょっ、ま、待ってよ、レスター!」

 

今すぐにでも立ち去りたいのかレスターは大股で去っていき、それをランディは追いかけた。

すると、少ししたところでレスターの足が止まり、振り返ってきた。

 

「おい、天霧。一つだけ言っておいてやる。オレが今回の《鳳凰星武祭》で一番闘いたいのは、他でもねえおまえらだ。オレたちと当たるまで負けるんじゃねえぞ!・・・・・・それだけだ」

 

そう言うとレスターは今度こそランディと去っていった。

 

「あらら、綾斗くん。これは頑張らないとね」

 

立ち去るレスターとランディを見ていると、シルヴィとオーフェリアが来てシルヴィが声を掛けてきた。

 

「分かってるよ。こんなところで立ち止まってられないからね」

 

「・・・・・・無理しないで綾斗」

 

「うん」

 

俺はシルヴィとオーフェリアの言葉にそう言い返す。

そう、こんなところで立ち止まってられない。俺はオーフェリアを助け、姉さんを見つける。そしてウルスラ姉さんも見つけて、幼い頃と同じような日常を過ごす。

俺、紗夜、シルヴィとオーフェリアの四人でいて、姉さんと一緒にいて、ウルスラ姉さんと楽しく昔のような日常を過ごす。これはその順初・・・・・・初めの一歩にすぎないから。

二人が俺を見るなか、俺はそう脳裏に浮かばせた。

 

「やれやれ、相変わらずあれも難儀な男だな・・・・・・」

 

二人といるとユリスが呆れたように言ってやってきた。

 

「まあ、それがレスターらしいっていうかな」

 

「・・・・・・綾斗たち発見」

 

「うわっ!」

 

突如後ろから呼ばれ俺は思わず声を上げた。

 

「―――っ、紗夜か・・・・・・驚かせないでよ」

 

「綾斗くん、紗夜ちゃんならさっきからいたよ」

 

「え!?」

 

「・・・・・・気付かなかったの?」

 

「うん・・・・・・」

 

「・・・・・・綾斗、隙だらけ」

 

「うっ!」

 

考え事をしていたからか紗夜の気配に気づかなかった。

だが、まあ、さすがに四六時中気を張るのは疲れるから仕方ないのだが。

 

「で、どこ行ってたの?」

 

「ご、ごめんなさいです。ちょっとロッカールームまでこれを取りに・・・・・・」

 

紗夜の後ろには大きな荷物を抱えた綺凛ちゃんが申し訳なさそうに立っていた。

 

「それは?」

 

「ふっふっふ、聞いて驚け。―――お弁当だ」

 

「・・・・・・弁当だと?」

 

「あ、あの、実はですね、この前沙々宮先輩―――じゃなくて、紗夜さんと二人で相談して作ってきたんですけど・・・・・・良かったらどうぞ!」

 

「ありがとう紗夜、綺凛ちゃん」

 

「えっへん」

 

「い、いえ・・・・・・」

 

「シルヴィとオーフェリアもどう?」

 

「もちろんよ綾斗くん。私もオーフェリアちゃんもお弁当作ってきたからね」

 

「・・・・・・私とシルヴィアの願掛け十分プラス愛情弁当?」

 

シルヴィとオーフェリアは手に持っていた荷物を上げて言った。

 

「はぁ。それじゃあ私たちの控え室で食べないか?そこでなら落ち着いて食事できるはずだ」

 

「そうだね」

 

俺たちは、控え室に向けて歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

控え室

 

 

移動して控え室に来た俺たちはさっそく、シルヴィたちの作ったお弁当を見せてもらっていた。

 

「あ、あの、わたしほとんど料理の経験がないので紗夜さんに教えていただいて・・・・・・ホントすごく簡単なものなのですけど・・・・・・」

 

「ほう、沙々宮は人に教えられるくらい料理が上手いのか?」

 

「えへん」

 

ふんぞり返る紗夜を横目に、綺凛ちゃんの持っていた重箱を開けた。

そこには・・・・・・

 

「おにぎり?」

 

「おにぎりだね」

 

「・・・・・・おにぎりね」

 

一杯に詰め込まれたおにぎりがそこにあった。

 

「ご、ごめんなさいです・・・・・・。わたし、本当に不器用で・・・・・・」

 

「ううん、ありがとう綺凛ちゃん」

 

俺はそう言って綺凛ちゃんの頭を優しく撫でた。

 

「ぁ・・・・・・」

 

「むっ!綾斗、浮気はダメって言ったはず」

 

「ええぇっ!?これも!?」

 

「アハハ・・・・・・紗夜ちゃん、頭を撫でるくらいなら私は別に気にしないから」

 

「・・・・・・その代わり後で私とシルヴィアにも撫でてもらうわ」

 

「はぁ、やれやれ、だな」

 

ムスッと膨れる紗夜に苦笑いを浮かべて答えるシルヴィ、真顔で言うオーフェリアに呆れた眼差しのとユリスがいた。

 

「綾斗、次は私の見て」

 

「ああ、うん」

 

紗夜に言われるまま重箱の二段目をあける。

そしてそこには・・・・・・

 

「おにぎりだね」

 

「おにぎりね」

 

「・・・・・・おにぎりね」

 

またもやおにぎりが詰まっていた。

まあ、それは問題ない。いや、あるはあるが。

ただ一点―――

 

「おい、沙々宮。これ、随分と、その・・・・・・大きいな」

 

「大は小をかねる、私のモットー」

 

ユリスがなんとも言えない表情で言った。

何故なら、紗夜の作ったおにぎりは綺凛ちゃんや通常のおにぎりの約三倍はあるだろう大きさだったからだ。

 

「ね、ねぇ紗夜ちゃん」

 

「なにシルヴィア?」

 

「もしかして、このお弁当って・・・・・・全部おにぎり?」

 

「そうだけど?」

 

「・・・・・・いや、これをもって料理を教えたと言い切れるおまえに少し感心したぞ。悪い意味で」

 

「えっへん」

 

「誉めてないぞ」

 

「・・・・・・ちなみに紗夜、これ以外に料理は作ったことある?」

 

「む?ない」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

紗夜の言葉にシルヴィとオーフェリアの二人は絶句していた。

 

「あ、あのね、紗夜ちゃん、今度私たちと料理しない?」

 

「シルヴィアと?」

 

「うん、オーフェリアちゃんも一緒だけど」

 

「私は構わない。むしろバッチグー。綺凛はどうする?」

 

「え、えっと、その、お、お邪魔じゃなければ」

 

「・・・・・・ユリスはどうする?」

 

「すまんが私も参加させてもらうことにする」

 

こうして後日、家でシルヴィとオーフェリアによる料理教室が開催されたのだった。

ちなみにシルヴィとオーフェリアのお弁当はサンドイッチや唐揚げ、卵焼き、ほうれん草のおひたしなどなど、バリエーションが豊富でバランスのよいものだった。

そしてそれをみんなで食べてしばらくして。

 

「おい、沙々宮。おまえ食い過ぎじゃないか?」

 

ユリスが椅子に座って・・・・・・ではなく、上体を仰け反らした感じに座っている紗夜に飽きれ気味の表情で言う。

 

「・・・・・・そんなことない」

 

「いや、今の紗夜を見ても説得力ないと思うけど・・・・・・」

 

紗夜は自分で作ったおにぎりを二個食べた上に、サンドイッチなどを食べたのだ。そのせいか、紗夜のお腹は少し大きくなっていた。

 

「アハハ、紗夜ちゃん相変わらずだね」

 

「・・・・・・さすがの私も驚きを通り越して呆れるしかないわよ紗夜」

 

「え、え~と、その・・・・・・」

 

「あはは。おっと、そろそろ時間だ」

 

俺はホロウ・ウインドウを開き目の前にテレビ画面ほどの大きさのウインドウを表示させた。

 

 

『はいは~い!こちらは第一試合会場のシリウスドームで~す!実況はアスタリスクブロードカンパニー、通称ABCアナウンサーであるわたくし、梁瀬ミーコ。解説は界龍第七学院OG、現エグゼクティブ・アラドファル部隊長、ファム・ティ・チャムさんでお送りしまーす』

 

『ども、よろしくお願いするッス』

 

『さてさて、基本ルールのおさらいをしておきましょう!試合決着はペア両名の校章が破壊された時点、または意識消失、ギブアップなどで敗北判定がなされた場合に、校章を通して勝敗が宣言されます』

 

『そのあたりがリーダーがやられたら敗けとなる《獅鷲星武祭(グリプス)》との違いッスねー』

 

 

空間ウインドウにはふわふわ巻き毛の女性と黒髪を短く切りそろえた女性の二人が映っていた。

 

「綾斗くんとユリスさんの試合は第二試合で対戦相手は確かガラードワーズの序列三十位と四十一位のペア、だったよね」

 

「うん」

 

「・・・・・・いけそう?」

 

「やるだけやってみるよ」

 

「何か特別な作戦でもあるのか?」

 

「いや。特にない。だが―――まあ、見ているがいい」

 

俺とユリスは軽く目配せしてうなずいた。

そして数時間後・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――続いて本日第二試合、Cブロック一回戦一組目の試合!まずイーストコーナーから入場するのは―――』

 

 

広大なシリウスドームのステージに実況アナウンスが響き渡った。

一瞬遅れて響き渡る大歓声と無数のライトが縦横無尽に舞い踊るなか、俺とユリスはゆっくりと入場ゲートからステージへ足を踏み出した。

 

 

『星導館学園序列一位、《叢雲》の二つ名を持つ天霧綾斗選手と、序列五位、《華焔の魔女》ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト選手!天霧選手はなんとなんとこの《鳳凰星武祭》の数週間前に序列一位になったばかり!それも旧序列一位と直接決闘で勝利して一位になったため、ほとんどデータがないというまさに超新星です!』

 

『今回の《鳳凰星武祭》出場選手では唯一の序列一位ッスねー。出回っている動画を見る限り、かなりの強さなのは間違いないようッス。期待の注目選手ッスね』

 

 

「ふふ。期待の注目だそうだぞ」

 

「ただでさえ緊張してるってのに、なんでそういうこと言うかな」

 

小声でニヤリと笑いながら言うユリスに、俺は緊張した表情で返した。

 

 

『それに加えてタッグパートナーは《華焔の魔女》リースフェルト選手ですからね。優勝候補の一角と言っても過言ではないでしょう!』

 

 

実況の声にユリスは観客席へと、なれた感じで手を振った。

すると、観客席からの歓声がよりいっそう高まった。

 

 

『すごい人気です!』

 

『彼女はリーゼルタニアの王女様ッスからね。さらに《魔女》としての能力も現役世代でもトップクラスに入るんじゃないかなー』

 

 

「いくぞ」

 

「ああ」

 

一言言うと、ステージへ通じる道からステージへと飛び降りた。

すでに対戦相手のガラードワーズの二人はステージに降り立っていた。

 

 

『さぁ準備は整いました!』

 

 

 

 

『《鳳凰星武祭》Cブロック一回戦一組』

 

 

 

 

試合開始(バトルスタート)!』

 

 

校章の機械音声と実況の試合開始を告げる声が響いた。

 

「はあ!」

 

「せあ!」

 

試合開始を告げるアナウンスと同時に、ガラードワーズの二人は片手剣型煌式武装を起動して、真っ直ぐに突進してきた。

俺とユリスはその場から一歩も動かず煌式武装も取り出していない。

 

「一気に接近戦に持ち込むつもりか。・・・・・・ま、予想の範囲内だがな。それでは綾斗、任せたぞ」

 

「了解」

 

ユリスが後ろに下がると逆に俺は前に出て《黒炉の魔剣》の発動体を取り出し、一気に星辰力を集中させて封印を破る呪文を唱える。

 

「―――内なる剣を以って星牢を破獄し、我が虎威を解放する!」

 

黒紫の鎖が破壊され、爆発的な力を解放する。

それと同時に起動したセレスがその巨大な黒紫の刀身を煌めかす。

 

「はあっ!」

 

セレスを右下に振り下ろして構える。

 

『いくよセレス』

 

『オッケー綾斗!』

 

俺はセレスを右後ろに構え、重心を低くして足元に星辰力を集中させる。

動きを止めたガラードワーズ二人に一瞬で光のように迫る。俺が二人を通りすぎると、刹那、風が疾走った。

そして。

 

「え・・・・・・?」

 

「あ・・・・・・!」

 

呆然とする二人に、その胸元に輝く校章が僅かな間の後、乾いた音をたてて真っ二つにステージの湯かに割れ落ちた。

 

 

 

校章破壊(バッジブロークン)試合終了(エンドオブバトル)

 

 

 

校章からの機械音声を聞き終えると俺はセレスをしまい、再封印を施した。

 

『さすが綾斗。お見事ですね』

 

『お疲れさまセレス』

 

セレスをポーチにしまいそう思念で会話する。

すると。

 

 

『し、試合終了!《鳳凰星武祭》Cブロック一回戦一組、勝者は天霧綾斗&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト!』

 

 

実況のアナウンスで観客席から爆発のような声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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吸血暴姫

 

~綾斗side~

 

 

鳳凰星武祭(フェニクス)》二日目

 

中央区商業エリア外縁

 

 

「えーと、プロキオンドームは・・・・・・ああ、あれかな」

 

空中に浮かぶ空間標識を確認しながら目的地であるプロキオンドームへと向かう。

アスタリスクに全三つ存在する大型ステージの一つ、通称プロキオンドーム。この他に中規模ステージが七つ、そして昨日試合を行った最大規模のメインステージが一つ、計十一のステージで《鳳凰星武祭》の予選は行われている。

ちなみに本線からは大型ステージとメインステージの四つを、準決勝以降はメインステージのみを使用するらしい。

まあ、オーフェリアとシルヴィから聞いたんだけど。

そして俺とユリスは今日試合を行う紗夜と綺凛ちゃんを応援するために、試合会場であるプロキオンドームへと向かっている最中なのだ。

 

「それにしても余裕をもって出たはずなのにこんな時間に着くなんて・・・・・・」

 

「ハァー・・・・・・。たく、マスコミめ。しつこいとしかいいようがないぞ」

 

俺は苦笑いを浮かべ、ユリス呆れた表情を出す。

俺たちが疲れている理由は途中でマスコミ陣に出会したり、ファンだとか言う人に挨拶などしていたからだ。

 

「(う~ん、なんとなくシルヴィの気持ちがわかった気がするよ)」

 

俺はシルヴィが前に言っていた意味がわかった気がする。さすがにこれは疲れる。昨日の勝者記者会見でもそうだったけど。

 

「それより急ぐぞ!」

 

「いや、待って。もう間に合わないかも」

 

空間標識に表示されてる時間は12時42分を指していた。

紗夜と綺凛ちゃんの試合開始時間は13時からだ。さすがにこれでは間に合わないだろう。

 

「そうか・・・・・・」

 

「ユリスのせいじゃないよ。紗夜たちには俺から伝えておくから」

 

ユリスにそう言うと。

 

 

「オラァァッ!!!」

 

 

目の前にある信号の奥からそんな声が聞こえてきた。

 

「なんだ?揉め事か?」

 

視線を向けると、そこは大勢の人が集まっていた。

どうやら何かあったみたいだ。

俺とユリスは気になり人混みを掻き分けて進んでいった。

 

「フッ!ハッ!セイッ!」

 

人集りの中央ではオーフェリアと同じ制服。レヴォルフの制服を着た女子と同じくレヴォルフの制服を着た複数の男子がいた。

そしてその女子の周りには何人かの男子生徒が倒れていた。

 

「!アイツは・・・・・・イレーネ・ウルサイス!」

 

「イレーネ・ウルサイス?それって確か・・・・・・」

 

「ああ、オーフェリアと同じレヴォルフの《冒頭の十二人》で序列三位だ」

 

確かオーフェリアの友達の一人だったはずだ。

やがて残り一人を残してイレーネは全員を打ち倒した。

 

「ったく、今時お礼参りなんか流行らねぇっての」

 

「う、うるせぇ!それじゃうちらの面子が立たねぇんだよ!」

 

ナイフを持った男子がイレーネに迫るが、イレーネは恐れることもなくただ、後ろ回し蹴りで男子生徒の首元を叩いて気絶させた。

確かにイレーネの体術はすごい。型も何もないのに野性的と言うのか、動きが軽やかだ。

 

「おらっ!見世物じゃねぇぞ!・・・・・・ぁん?」

 

イレーネの目線が俺に向いたのに気づいた。

すると、イレーネはそのまま近付いて俺の顔を凝視するように値踏みするように見てくる。

 

「ふ。やっぱりな・・・。叢雲じゃねぇか・・・」

 

「え」

 

イレーネとは面識が無い筈なのだが、イレーネはそう言ってきた。いや、オーフェリアの友達ならオーフェリアから俺のこと聞いていてもおかしくない、か?

 

「私のタッグパートナーに何かようかな、吸血暴姫(ラミレクシア)

 

俺とイレーネの間に立つようにユリスが警戒するように言った。

 

華焔の魔女(グリューエン・ローゼ)か。あんたにゃようはねぇ、すっこんでな」

 

「そうはいかん。街中で乱闘するような輩は危険極まりないからな」

 

「さっきのは向こうから吹っかけて来たケンカだ」

 

「時と場所を考えろ!下手すれば出場停止だぞ!」

 

「ちょ、ちょっとユリス・・・・・・」

 

「ハッ、じゃあ、あんたならどうするのか教えてもらおうじゃねぇか」

 

イレーネはそう言うと、腰のホルダーから紫色のコアが埋め込まれた煌式武装を取り出して起動させてきた。

 

「「―――っ!?」」

 

俺とユリスは瞬時にイレーネから距離を取り、重心を低くして身構える。

 

「へぇ、思ったより言い反応だな」

 

イレーネの手にはイレーネの身長を超えるほどに長く巨大な鎌が顕現していた。コアと同じ色の紫色の刃はどこか禍々しく、不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「あれがイレーネ・ウルサイスの純星煌式武装(オーガルクス)・・・・・・《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》!」

 

《覇潰の血鎌》、レヴォルフの学有純星煌式武装。能力は重力を操ること。

以前オーフェリアから聞いた話だと、あの純星煌式武装は誰に対しても適合率が高く出るため、過去に幾度となく《星武祭》でその能力を猛威に振るってきたらしい。そして現在使い手のイレーネは歴代の所有者より何段階か上らしい。

《覇潰の血鎌》を持つイレーネの殺気に、一瞬で空気が張り詰めた。まさに一触即発という感じだ。気を抜けばすぐさまに斬られる。そんな緊張感。

その張り詰めた空気が辺りを包むそこへ。

 

「こらぁーーーーーーーーっ!」

 

突然、場違いな声が響き渡った。

 

「なっ!?ヤベ・・・・・・」

 

その声を聞いた途端、イレーネが慌てたように声のした方を向いた。

声の主は人垣から物凄い剣幕で現れたレヴォルフの制服を着た女の子だった。イレーネとよく似た顔立ちで、同じ色の髪を三つ編みに垂らしていた。

 

「お姉ちゃんてば、また勝手にケンカして!もお!」

 

「プ、プリシラ・・・!」

 

イレーネは声の主の姿を見ると起動していた《覇潰の血鎌》の展開を解除し隠すようにしてすぐさまホルダーにしまった。

 

「いったいどう言うことなの?ちゃんと説明して、お姉ちゃん!」

 

「あ、いや、それはだな・・・その・・・・・・」

 

いきなりの展開に俺とユリスはぽかんとして二人のやり取りを見る。

やがて、女の子の方もその視線に気づいたのか、慌てて頭を下げてきた。

 

「すいません!うちのお姉ちゃんがとんだご迷惑を・・・・・・!」

 

「ああ、いや、別に・・・・・・」

 

さすがのユリスも完全に毒気を抜かれたのか、微妙な返事を返すばかりだ。

 

「ほら、お姉ちゃんも謝って!」

 

「な、なんであたしが・・・・・・!」

 

「いいから、謝るっ」

 

「・・・・・・うぅ、わ、わかったよ」

 

「本当にごめんなさい」

 

「アイタタタタ!」

 

イレーネの頭を無理矢理下げるプリシラと呼ばれた女の子といきなりで痛いのか激痛の声を出すイレーネに俺らは呆然とする。

 

「よーく、言って聞かせますから。・・・・・・って、あれ?」

 

すると女の子は俺の顔を見て首をかしげて近寄ってきた。イレーネを連れて。

 

「あの、もしかして天霧綾斗さんですか?星導館学園序列一位の?」

 

俺とユリス以外の周りに聞こえないように聞いてきた。

 

「え?うん、そうだけど?」

 

「やっぱり!それじゃあオーフェリアさんの幼馴染ですよね!」

 

「オーフェリアは確かに俺の幼馴染だけど何で知って・・・・・・ん、あれ?プリシラ?その名前どこかで・・・・・・」

 

俺はプリシラという名に聞き覚えがあった。

するとそこへ、ユリスが空間ウインドウを出して彼女のデータを見せてきた。

 

「プリシラ・ウルサイス・・・・・・あ!もしかしてオーフェリアがよくお世話になってる・・・・・・!」

 

そこに表示されてる名前を見て俺はようやく思い出した。プリシラ・ウルサイス。イレーネ・ウルサイスの妹でオーフェリアの友達の一人だ。

 

「い、いえ、そんな!むしろお世話になっているのは私の方で・・・・・・」

 

俺の言葉に恐縮するプリシラさんと事情がわからなく首をかしげるユリスと頭を擦りながらみるイレーネに周囲の人は興味を無くしたかのように次々と去っていった。

するとそこへ。

 

『・・・・・・綾斗、今どこにいるの?紗夜と綺凛の試合もう始まるわよ』

 

テレビ電話の空間ウインドウが現れ、そこにオーフェリアが映し出された。

 

「あ、オーフェリア。実は・・・・・・」

 

「オーフェリアさん!?」

 

『?プリシラ?どうして綾斗とユリスと一緒に?イレーネはどうしたの?』

 

「お姉ちゃんならここにいます、オーフェリアさん」

 

「よ、よぉ、オーフェリア・・・・・・」

 

『・・・・・・イレーネ、あなた何してるの?もしかしてまた、かしら?』

 

「あー・・・その、だな・・・・・・」

 

口を濁らすイレーネにプリシラが怒ったようにオーフェリアに言った。

 

「もう、聞いてくださいオーフェリアさん!お姉ちゃんたらまたケンカしてたんですよ!」

 

『・・・・・・なるほどね。大変だったようねプリシラ』

 

慣れているのかオーフェリアは、また?という表情を浮かべてプリシラに同情するように言った。

 

「本当ですよ!まったく」

 

「あー、ところでどうしたのオーフェリア」

 

話の区切りがいいところに俺はオーフェリアに訪ねる。

 

『あ・・・。綾斗、時間』

 

「時間・・・・・・って、ヤバッ!」

 

近くに浮かぶ空間標識に表示されてる時間は13時を指していた。

 

「なに!?しまった、始まってしまったか」

 

「一応紗夜たちには伝えてあるけど、後で言っとかないといけないね」

 

『それでどうするの?このまま来れる?』

 

「あ、うん。行くよ」

 

『わかったわ』

 

「ご、ごめんなさい!時間をとらせてしまいました!」

 

「ううん、気にしないで」

 

『そうよ、プリシラ。元はと言えばイレーネが悪いみたいだし』

 

「ちょ!?アタシのせいか!?」

 

「お姉ちゃん?」

 

「うっ・・・・・・はい、ごめんなさい・・・・・・」

 

どうやらイレーネは妹のプリシラに逆らえないというより強気に出れないらしい。

なんとなくだけど共感できるかもしれない。

 

「それじゃ私とお姉ちゃんはこれで失礼します。出来れば今度、オーフェリアさんとご一緒に家に入らしてください。それでは。いくよ、お姉ちゃん」

 

「お、おう」

 

そう言って離れていくウルサイス姉妹を見ながら開いたままのウインドウに映るオーフェリアに言う。

 

「俺とユリスもすぐ行くから悪いんだけど待っててくれる?」

 

『ええ、わかったわ。綾斗とユリスが辿り着く頃には試合は終わっていると思うし、控え室通路で待ち合わせね』

 

「了解。すぐ行くよ」

 

『ええ』

 

そう言うとウインドウが消えた。

 

「それじゃあ俺たちも早く行こうか」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

俺とユリスは再び目的地であるプロキオンドームへ向かって走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~紗夜side~

 

 

 

『お聞きください!すごい歓声で~す!それもそのはず!星導館学園の刀藤選手は先日陥落したとは言え、中学生ながら序列一位の座を獲得していたスーパールーキー!いやぁ、確かにこうして見ても落ち着きが違うとゆーか、小さいながらも泰然自若とした態度が・・・・・・』

 

 

『ナナやんナナやん、勘違いしとるで。あのちっこいほうが沙々宮選手や。んで、そのとなりのが刀藤選手や』

 

 

『ええぇー?あれで高等部?マジで?あー・・・・・・こほん、それは大変失礼を』

 

 

『だからちゃんと資料見ときゆーたやろ、もー』

 

 

今の私はとてつもなく不愉快だった。

 

「・・・・・・すこぶる不愉快」

 

「あはは・・・・・・」

 

「綾斗は来ないし、シルヴィアもいない。いるのはオーフェリアだけだし」

 

「綾斗先輩たち会場には向かってるみたいですよ。シルヴィアさんはお仕事ですから・・・・・・」

 

「まあ、確かに」

 

「はい。それより・・・」

 

綺凛の視線の先には私たちの対戦相手の界龍(ジェロン)第七学院の生徒二人が待ち構えていた。

 

「かなりの使い手のようですね」

 

「ま、どうにかなる」

 

序列入りしていなくてもどうにかなると思う。私はそう綺凛に言いながら腰のホルダーからお父さんの銃を取り出して展開する。

 

「三十四式波動重砲アークヴァンデルス改」

 

展開したアークヴァンデルス改を両手で持ち隣の綺凛に聞く。

 

「・・・・・・どっちにする?」

 

「え?あ、わたしはどちらでも」

 

「なら、私は大きい方」

 

「了解です」

 

綺凛は腰の鞘から刀。千羽切を抜き出す。

 

 

『鳳凰星武祭、Lブロック一回戦二組。試合開始(バトルスタート)でーす』

 

 

試合開始のブザーと不愉快な気分の元凶のアナウンサーの声とともに試合が始まった。

試合開始の宣言と同時に私と綺凛は互いの相手に向かって走る。正直、今の私と綺凛相手にこの二人が勝つ確率は低い。

綺凛はともかく、私もそう簡単に負けはしない。小さい頃から綾斗たちと一緒にいるから並大抵の星脈世代相手なら負けることはない。それに、今の私の手にはお父さんが造ってくれた銃。アークヴァンデルス改がある。

 

「はあっ!」

 

私は私の相手する禿頭男が振り下ろす青龍刀をアークヴァンデルス改で受け止める。

それと同時に軸をずらして鈍器のように振るってやり返す。

そんな攻防をしていると。

 

 

校章破壊(バッジブロークン)

 

 

そんなシステムアナウンスが流れた。

 

 

『早くも決着!一瞬の攻防を制したのは刀藤選手だぁ!』

 

『ナナやん!こっちのちっこい方もおもろいことになってんで』

 

『おぉっと、なんだぁ、これは!?』

 

 

実況の方はどうやら私の方も注目してるみたいだ。

今の私はアークヴァンデルス改を無暗に適当に振り回してる訳じゃない。相手の青龍刀を受け流してカウンターや遠心力を利用して攻撃する。綺凛はすぐにわかるだろう。私の太刀筋が綾斗と同じく天霧辰明流だということに。といっても私だけじゃなくてシルヴィアもオーフェリアも真似ではあるが天霧辰明流の太刀筋ができる。門下生ではないが、ハル姉と綾斗に教えてもらってたり綾斗の練習につき合ったりとそうしている内に覚えた。

相手は焦りの表情が出ているが私はたいして慌てないし焦らない。ゆっくりとアークヴァンデルス改のチャージ完了時間を待っている。相手の青龍刀とやりあっている内に、アークヴァンデルス改のマナダイトが徐々に輝きを増していくのが見えた。

すると、さらに相手の表情に焦りの色が浮かんだ。そうこうしているとさらに相手の攻撃が一層苛烈になる。そして、迫ってきた連続の突きをアークヴァンデルス改を盾のように高速で回して防ぐ。

やがてマナダイトの輝きが最高潮に達したのがわかる。

それを見た私は迫ってきた相手を上手く誘導して上に飛び上がらせる。予測通り銃身を踏み台にジャンプした相手の身体に私はアークヴァンデルス改の砲身を向け。

 

「・・・・・・《バースト》」

 

「―――っ」

 

アークヴァンデルス改から出た青い光の本流が相手にぶつかり、振動とと衝撃音が周囲に響き渡った。

やがてアークヴァンデルス改から迸った光の本流が収まると地面に落ちた相手からはぷすぷすと焼け焦げたような煙が上がってその側には砕け散った校章があった。

 

 

『決まったぁ!勝者、星導館学園、沙々宮紗夜選手&刀藤綺凛ペア!』

 

 

勝利宣言のアナウンスが響くなか私は綺凛とルームで見ているであろうオーフェリアに右手を突きだして。

 

「・・・・・・V」

 

ただ一言そう言った。

 

 

~紗夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~綾斗side~

 

 

「やっと着いた・・・」

 

ウルサイス姉妹と分かれたあと急いでプロキオンドームに向かったのだが何故かプロキオンドーム周辺は人が多く中々進まなかったのだ。

そうこうしている内に紗夜と綺凛ちゃんの試合は終わってしまった。

試合の方は中継で見たとはいえさすがにこれは紗夜と綺凛ちゃんに謝らないといけないだろう。特に紗夜には。

結果は予想通り紗夜と綺凛ちゃんのペアが勝ったんだけど。

 

「にしても沙々宮のやつ、対戦相手をあそこまでするか普通?」

 

「あはは・・・・・・紗夜の使う流星闘技はどれも破壊力が高いからね・・・・・・・」

 

紗夜の流星闘技を喰らった人にはなんとも言えなかった。中継で見たけど身体のあちこちからぷすぷすと焼け焦げたような煙が上がっていたのだ。さすが創一叔父さんの創った銃と紗夜である・・・・・・のか?

 

「・・・・・・やっと着いたのね」

 

「あ、オーフェリア」

 

紗夜と綺凛ちゃんの控え室に向かっていると髪の色を変えたりして変装して普通の女の子の格好をしたオーフェリアと合流した。

うん、何回見ても可愛いというかよく似合ってるねオーフェリア」

 

「あ、ありがとう綾斗///」

 

「え?」

 

「おい、綾斗。お前声に出していたぞ」

 

「へ?」

 

ユリスの言葉に俺はオーフェリアを見る。するとオーフェリアは頬を赤くしてうなずいた。

 

「バッチリと言っていたわ」

 

「~~ッ!」

 

さすがにそれには俺も恥ずかしかったというかなんというか。声にならない悲鳴をあげた。

 

「はぁ。沙々宮のやつ、これを見てよく耐えられるな。私まで恥ずかしいことこの上ないぞ・・・・・・」

 

悶絶しているなかユリスが呆れたように言ったのが耳に入った。

 

「そ、それより紗夜と綺凛ちゃんのところに行こうか!」

 

俺は顔が赤くなっているのを隠したく一刻も早く移動したいため二人にそう口速にいい二人の控え室に向かった。

 

「・・・・・・あ、待って綾斗」

 

「やれやれ・・・・・・」

 

後ろからのオーフェリアとユリスのそんな声を聞いて紗夜と綺凛ちゃんの控え室に向かう。

控え室に着いた俺は控え室のインターホンを押して紗夜と綺凛ちゃんに着いたことを知らせる。

 

「ごめん、遅れた!二人ともいるかな?」

 

『ご、ごめんなさいです、申し訳ありませんがもう少しだけ待って―――』

 

『・・・・・・やっと来たか』

 

綺凛ちゃんの慌てる声と紗夜の淡々としたいつもの声が聞こえるとロックが解除されドアが開いた。

 

「本当にごめん、試合の方は中継で見たから・・・・・・」

 

「・・・・・・勝利おめでとう紗夜、綺凛・・・・・・」

 

俺たちは控え室に一歩足を踏み出したところで、仲良く固まった。

何故なら。

 

「・・・・・・勝った」

 

二人ともシャワーを浴びていたのか髪が濡れていて、綺凛ちゃんはバスタオルで身体を隠しているが紗夜に関してはそうではなく・・・・・・・

 

「・・・・・・お、おい沙々宮」

 

「?なに、リースフェルト」

 

「なに、ではない!沙々宮、なんでお前は裸なんだ!?」

 

「?シャワーを浴びていたから」

 

素っ裸。つまり産まれたままの姿だったのだ。

 

「・・・・・・綾斗見ちゃダメ!」

 

「わ、わかってるよ!」

 

俺はすぐさま後ろに振り返り視線を反らす。

すると後ろから。

 

「と、とにかくさっさと服を着ろ!」

 

ユリスのそんな声が響いてきた。

二人が着替えている間俺はずっと後ろを向いていたが隣のオーフェリアが耳元に小声で。

 

「・・・・・・私は別に綾斗にだったら見せてもいいからね」

 

「ちょっ、オーフェリア!?」

 

そんなことを言ってきた。

というかオーフェリアってこんな性格だったけ!?一体俺たちと離れていた間に何があったのさぁ!!!これでシルヴィもだったらさすがに手に追えないんだけど!?

俺は声に出さずにそうつっこんだ。

ちなみに紗夜は着替え終わったあとユリスから長々とお説教を受けたのは言うまでもなかった。

 

 

 



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ウルサイス姉妹

 

 

~綾斗side~

 

 

 

鳳凰星武祭(フェニクス)》五日目 シリウスドーム

 

 

 

 

『さぁー、鳳凰星武祭五日目!本日より2回戦に突入です!』

 

 

 

 

鳳凰星武祭2回戦の会場のシリウスドームのステージに立つと、1回戦と同じアナウンサーのアナウンスで観客席が盛り上がった。

 

「さて、と―――」

 

ユリスがステージ上で体を軽く伸ばすと、俺のほうを振り返って薄く笑った。

 

「1回戦ではお前に任せきりだったからな。今度は私の番だ」

 

「了解」

 

隣に立つユリスに当初の予定通りのことを聞くと、俺たちの立つ場所の反対側から、元気な声が聞こえてきた。

 

「「こんにちはー」」

 

「ん?」

 

「?」

 

視線を向けると、そこには俺たちの対戦相手の女子二人がいた。

 

「(確か彼女たちって・・・・・・)」

 

対戦相手の女子生徒二人を見ていると。

 

「私たちは女神の学園、クインヴェールの・・・」

 

「序列、37位と54位」

 

「「ノンシュガーです♪」」

 

「みんなー、あっりがとー!」

 

「がんばりまーす!」

 

双剣型の煌式武装と槍型の煌式武装を展開させて、アイドルのように観客席に挨拶をした。

まあ、実際アイドルなんだと思うけど・・・・・・。

 

「(シルヴィと同じクインヴェール女学院か・・・・・・)」

 

クインヴェール女学院はアスタリスクにある六学園の中でも規模は最小で、女学園の名の通り、女子だけの学園だ。現に、クインヴェールが《星武祭(フェスタ)》で総合優勝を果たしたことは、アスタリスクの歴史上たった一度だけだ。しかし、最小、最弱とは言え必ずしも人気がないと言うわけではない。単純なファン数ならクインヴェールは他五学園を圧倒し、常にトップを維持し続けてる。クインヴェールは《星武祭》の総合成績を考慮せず、逆に《星武祭》は学生の魅力を引き立たせるステージとしてみている。それが人気に繋がっているのだが・・・・・・。

 

「(そう言えばペトラさんが前になにか愚痴っていたってシルヴィから聞いたような・・・・・・)」

 

前にペトラさんがなにか愚痴っていたってのをシルヴィから聞いた覚えがある俺は目の前の女子を見て思い出した。

クインヴェール女学院は入学条件に独自の基準を設けて、成績の他容姿も項目に入れている。そのため、六学園中最も入るのが難しいとされている学園なのだ。そして、クインヴェールは別名、女神の学園と呼ばれている。美と強さを通して理想を見出だそうとする。それがクインヴェール女学院。

そんなことを思い出していると。

 

 

 

 

『それではバトル、スタートです!』

 

 

 

 

アナウンスと同時に胸の校章が光り、試合開始の合図を告げた。

 

「いっくよー」

 

試合開始の合図と同時に双剣型の煌式武装を握るツインテールの女生徒が先行してくる。

 

「えーいっ!」

 

そしてその後ろから槍型の煌式武装を構えたポニーテールの女生徒が、ユリスに攻撃を仕掛ける。

その攻撃をユリスは危なげなく避け、

 

「はあっ!」

 

上から振り下ろしてきた双剣の攻撃を右手に持ち、展開している細剣型煌式武装《アスペラ・スピーナ》で受け止め、跳ね返して大きく後ろに跳ぶ。

 

「・・・・・・トロキアの炎よ 城壁を越え 九つの災禍を焼き払え―――!」

 

後ろに着地するのと同時にユリスから万応素ががざわめき、そこから吹き上がる炎が渦を巻き、ユリスの周囲に可憐な桜草のような火球が九つ現れる。

 

「咲き誇れ―――九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

九つの火球はユリスの掛け声と共に相手タッグへと襲いかかる。

槍型の煌式武装を持ったポニーテールの女生徒はギリギリのところで多方向からくる立体攻撃を避けていたが、

 

「あっ!」

 

やがて避けきれなくなり、脚を挫き、

 

「きゃっ!」

 

倒れたところに九輪の舞焔花が襲い、女生徒の校章を砕いた。

 

 

 

 

校章破壊(バッジブロークン)

 

 

 

 

相方の敗北を告げるなか、もう片方のツインテールの女生徒は九輪の舞焔花の火球をかわしながら、一つずつ双剣の煌式武装で切り払って数を減らしていく。

 

「ふふーんだ!このくらい、あたしだって・・・・・・うぇ!?」

 

全てを切り落とした女生徒が得意そうに胸を張るその瞬間、女生徒の足元に赤い魔方陣が浮かび上がった。あれ、ユリスが仕掛けていた設置型の魔法。つまり、罠だ。

 

「綻べ―――溶空の落紅花(セミセラータ)

 

「えええええええっ!?」

 

立ち止まり、呆然と見上げた女生徒の頭上に、巨大な焔が椿が花開くように開花し、焔の花がそのまま上を見上げる女生徒に命中する。

 

 

 

 

『試合終了!リースフェルト選手、堅実な試合運びで勝利を物としましたー!』

 

『攻撃を仕掛けながら、見事相手を設置型の罠に誘導したっすねー』

 

 

 

 

ユリスの溶空の落紅花が命中し、ツインテールの女生徒の校章が破壊されると、すぐさま試合終了のアナウンスがなり、決着宣言をした。

 

「ふぅ・・・・・・まあ、こんなところか」

 

「お疲れ様、ユリス」

 

「まあ、お疲れと言うほど戦ってないがな」

 

笑みを浮かべるユリスと右手を合わせ、小気味よい音を立ててハイタッチを交わしてステージを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後

 

 

《鳳凰星武祭》七日目、シリウスドーム

 

 

 

 

 

『試合終了!勝者、天霧綾斗&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト!』

 

 

 

 

 

 

ユリスの細剣型煌式武装《アスペラ・スピーナ》と俺の純星煌式武装《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》、セレスを収めると、大歓声がステージを包み込んだ。

 

 

 

 

『いやー、さすがにこの二人は強い!1回戦、2回戦共に圧倒的な実力で勝ち進んできた天霧・リースフェルトペア、見事Cブロックから本戦進出を決めました!』

 

『いやー、今回も圧倒的だったスねー。本戦ではどのような闘いを見せてくれるのか楽しみッス』

 

 

 

 

クインヴェール女学院の二人との闘いから二日過ぎた今日、俺とユリスは《鳳凰星武祭》3回戦をし、見事対戦相手の界龍(ジェロン)のタッグを撃破し、本戦へと駒を進めた。

 

「取りあえずは予選突破ってことでいいのかな」

 

「うむ、ここまでは予定通り順調だな。とはいえ本番は本戦からだ」

 

「そうだね」

 

《星武祭》の予選では有力選同士がぶつからないように各ブロック毎に振り分けられているため、予選ではそう苦労することないが、本戦からはそれが一気に変わる。

次の4回戦―――本戦からは有力選手ばかりがしのぎを削ることになるため、苛烈な争いになる。

 

「今回は番狂わせもなさそうだし、各学園予想通りの面子が本戦に勝ち上がってるだろう。後は明日の組み合わせ次第だな」

 

「そう言えば明日発表なんだよね。紗夜と綺凛ちゃんと当たることがないといいんだけどなあ」

 

4回戦からは完全なランダム抽選だ。

そして、明日は試合のない一日フリーの休養日となっており、各学園の代表によって組み合わせの抽選が行われるだけだ。

 

「沙々宮たちもそうだが、私としてはアルルカントの人形たちとは早々と当たりたくないものだな」

 

「確かに」

 

アルルカントアカデミーからカミラ・パレードとエルネスタ・キューネの代理出場として出場している、アルディとリムシィのタッグはすでに本戦出場を決めている。

 

「他に有力タッグだとするならば界龍の双子とガラードワーズの聖騎士コンビか・・・・・・だが、正直、界龍の双子とはやりあいたくないな」

 

「え?なんで?」

 

ユリスの苦虫を噛み潰してような表情に俺は疑問を抱いて聞いた。

 

「あの双子の戦闘スタイルは搦め手なのだ」

 

「へー」

 

搦め手。つまり、少々卑怯な手を使うと言うことなのだろう。まあ、さすがに《星武祭》外で実力行使でくるとは思えないが。

そんなことを考えていると。

 

『面白そうね、その双子』

 

ポーチに収納しているセレスが思念通話で話し掛けてきた。

 

『面白そうってセレス・・・・・・』

 

『だって気になるじゃない、どんな手段を使うのか』

 

『・・・・・・ホントにセレスって変わってるよ』

 

『綾斗にだけは言われたくないわね』

 

『えーー・・・・・・・』

 

セレスと思念通話しながらユリスと話す俺はもう一組のペアに視線を向ける。

 

「あとはやはり《吸血暴姫(ラミレクシア)》か」

 

イレーネたちは二日前の3回戦でレスターとランディのタッグを打ち負かしたのだ。しかも、ランディは意識消失(アンコンシャネス)で、レスターはリザインを認めて勝ち上がったのだ。レスターの一撃での攻撃力は星導館学園でもトップクラスの威力だ。そして、レスターの流星闘技《ブラストネメア》を食らってもイレーネは起き上がったのだ。自分で後方にとんで衝撃を流したとはいえ少なくはないダメージを与えたはずなのに起き上がった。その試合を見ていた俺とユリスは予想外の戦闘力の高さに作戦を練り直すことにしたのだ。

 

『私と同じ純星煌式武装《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》ね・・・・・・綾斗ならなんとかなるんじゃないかしら?』

 

『う~ん。どうかな、やるだけのことはやるけど』

 

『随分と弱気ね』

 

『ちょっと・・・ね』

 

『そんなんじゃ、オーフェリアを助けることも遥を探すことも、ウルスラを見付け出すことも、何もできないわよ』

 

『わかってるよセレス』

 

俺はセレスに励まされながらユリスとともにシリウスドームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

 

『いいな~、二人とも』

 

「後で合流できるから、それが終わったら三人で回ろうよシルヴィ」

 

本戦へと駒を進めた翌日、俺はオーフェリアと街に出ていた。もちろん、オーフェリアはヘッドホン型のデバイスで髪の色を変えて栗色にしている。ちなみにシルヴィはクインヴェールの生徒会長なので、今日のシリウスドームで行われている抽選会に出席している。もちろん、そこには星導館学園の生徒会長であるクローディアもいる。

 

『う~ん・・・・・・ペトラさん、今日このあとなにか予定あったかな?』

 

『今日明日明後日は特にありませんね。まあ、来週辺りからライブが少し在りますけど』

 

『そう言えばそうだったぁ~』

 

「ライブ?」

 

「・・・・・・シルヴィア、ライブあるの?」

 

『え?あ、うん。ツアーライブじゃないんだけどね、確かここでもライブなかったかな?』

 

『ありますよ。1週間後に』

 

『ペトラさん、綾斗くんたち呼べないかな?』

 

「いやいや、さすがに無理じゃないかな?チケットが無いだろうし」

 

シルヴィのペトラさんへの声に、若干苦笑を含めていった。何せシルヴィのライブチケットは即完売するほどの人気なのだ。さすがに、今からは無理だと思う・・・・・・

 

『ありますよ』

 

「え?」

 

だが、それはペトラさんの一言によって変わった。

間の抜けた声で空間ウインドウに映るペトラさんを見る。

 

『シルヴィアが言うと思って綾斗君たちの分のチケットは確保してあります』

 

『さっすがペトラさん』

 

『そういうシルヴィアはもう少し前もって言ってくれますか?』

 

『うっ・・・・・・』

 

「え~と・・・あるんですか?」

 

『はい。綾斗君たち3人を入れてリースフェルトさん、刀藤さんの分が』

 

どうやら俺たちの分だけじゃなくてユリスと綺凛ちゃんの分もあるみたいだ。さすがペトラさんと言うかなんと言うか、ある意味すごい。

 

『あ、そろそろ始まるみたいだからまた後でね綾斗くん、オーフェリアちゃん』

 

「あ、うん」

 

「・・・・・・終わったら連絡して」

 

『了解♪それじゃまた後でね』

 

シルヴィのその声を最後に開いていた空間ウインドウが閉じた。

 

「どうするの綾斗?」

 

「どうするって?」

 

「シルヴィアのライブよ。行くの?」

 

「まあ、俺としては行きたいかな。せっかくペトラさんがチケット用意してくれたから」

 

「なら決まりね。紗夜たちには後で・・・・・・ってあら?」

 

オーフェリアの声を遮り突如目の前に開いた空間ウインドウに映ったのは綺凛ちゃんだった。

 

『あ、すみません綾斗先輩。ちょっと助けてほしいことが・・・・・』

 

畏まった感じの綺凛ちゃんに眉を潜めて訪ねた。

 

「どうしての綺凛ちゃん?今日は確か紗夜と一緒に出掛けるって言ってなかった?」

 

『そ、その、紗夜さんが迷子に・・・・・・ではなく、紗夜さんとはぐれてしまって』

 

その一言で俺とオーフェリアは理解した。

 

「あー・・・。了解、俺たちも外にいるから綺凛ちゃん今どこにいる?」

 

『あ、今メインストリートの広場にいます』

 

「わかった。すぐ行くから待ってて」

 

『わかりました。ご迷惑お掛けしてすみません』

 

綺凛ちゃんとのやり取りを終えた俺は隣に立つオーフェリアを見る。

オーフェリアは呆れた表情を浮かべていた。

 

「てことみたいだから紗夜を見つけに行こう」

 

「・・・・・・そうね。それにしても紗夜の方向音痴は治らないのかしら?」

 

「あはは・・・・・・」

 

俺とオーフェリアは急いで綺凛ちゃんのいるメインストリートの広場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

商業エリア外

 

 

 

「・・・・・・たぶん、この辺りだと思うのだけど」

 

「これ以上は足で探すしかないね」

 

「そうですね・・・・・・」

 

綺凛ちゃんと合流した俺たちは、綺凛ちゃんが紗夜の携帯端末から連絡を取り、そこから得た情報をもとにこの付近までは絞り込めた。

すでに紗夜にはその場を動かないでって言ってあるからこれ以上悪化することないと思うが。

 

「取り敢えず手分けして探そう。暗くなる前に見つけ出さないと」

 

「それもそうね」

 

「はい。あ、それじゃわたしは向こうを見てきますね」

 

「お願いするわ綺凛」

 

「はいっ。オーフェリアさんもすみません」

 

「気にしないで。紗夜の方向音痴は今に始まったことじゃないから」

 

「あはは・・・」

 

オーフェリアの言葉に引きつった笑いを浮かべた綺凛ちゃんは、丁寧にお辞儀をすると、小走りで通りの向こうへと去っていった。

 

「・・・・・・早く紗夜を見つけ出さないと」

 

「そうだね。それにしても・・・・・・」

 

再開発エリアが近いからかこの辺りは観光客の姿はあまりなく、逆に柄の悪い連中の姿が目立った。

 

「レヴォルフの生徒が多いね」

 

「・・・・・・この辺りは再開発エリアが近いから」

 

「紗夜が巻き込まれてないといいんだけど」

 

「・・・・・・そうなると心配ね」

 

「うん」

 

「「―――相手が」」

 

紗夜は根本的に手加減というものを知らないので、もし因縁でもつけられていたら大変だ。

紗夜の煌式武装で吹き飛ばされることまず間違いない。

特に《鳳凰星武祭》の1回戦で界龍のタッグの片方をアークヴァンデルス改で吹き飛ばしたときはつい相手を心配してしまった。それがまた起きるとなったらそれこそ頭痛がする。

 

「シルヴィがいたらもっと良かったんだけど・・・」

 

「・・・・・・ごめん。私が探索系を使えたら良かったんだけど・・・」

 

「あ、オーフェリアを責めてる訳じゃないよ」

 

シルヴィの《魔女》として能力は万能。歌を媒介にして能力を行使することができる。だが、シルヴィにも出来ないことがある。それが治療系だ。一応、歌と声を媒介にして痛みを和らいだりすることができるように特訓はしているみたいだ。そして、オーフェリアの《魔女》としての能力は瘴気操作、つまり毒。星辰力を毒として操り、無味無臭の毒や相手を意識消失にしたりさせたりできる。つまりオーフェリアの能力はほぼ戦闘系なのだ。理由は無尽蔵に溢れ出る星辰力を抑えるのに必死で他のことに回せないから。現に今もオーフェリアは星辰力を抑え込んでる。

 

「オーフェリア、大丈夫?」

 

「・・・・・・ええ。大丈夫よ。ここ最近は上手く抑え込めてるから」

 

「そう・・・・・・ん?」

 

オーフェリアと一緒に路地へと入り紗夜を探していると、路地の先、影になっている部分から女の子の声が聞こえた。

 

「やめて・・・・・・さい・・・・・・!放し・・・・・・!」

 

その声は聞き覚えのある声だった。

 

「・・・・・・この声は」

 

声を聞いたオーフェリアはすぐさま声のした方へ歩いていった。

オーフェリアの後をついていくと、建物の陰で女の子が一人と、複数の男たちに取り囲まれていた。

 

「あれは・・・」

 

「・・・・・・やっぱり、プリシラ」

 

「うん。・・・ん?あの男の人たち・・・・・・前にイレーネさんと乱闘していた連中だ」

 

「それってこの間の?」

 

「うん」

 

静かに様子を見ながら話していると。

 

「おいおい、あんまりわめいてくれんなよ。面倒くせーのは嫌いなんだ」

 

「そうそう。まあ、恨むんならおまえのねーちゃんを恨むんだな」

 

「んー!んんんー!」

 

プリシラさんは男に口と手を押さえられて身動きがとれない状態になっていた。

 

「ユリスからは面倒事は起こすなって言われてるんだけど・・・・・・さすがにあれは見て見ぬ振りはできないかな」

 

「・・・・・・そうね」

 

オーフェリアと軽く視線で会話し同時にうなずき、俺はわざと物音を立てて物陰から姿を現した。

 

「な、なんだてめぇら!」

 

五人いた男の一人が俺たちに気づき、短刀型の煌式武装を起動させた。

 

「・・・・・・彼女は私の友達なの、放してもらえないかしら?」

 

「あぁん!?」

 

隣に立つオーフェリアの言葉に男たちの目が据わる。

オーフェリアとしてもあまり荒事にしたくないのか星辰力を抑えて会話していた。

 

「突然割り込んできて、ふざけたことぬかしてくれるじゃねぇかあんたら」

 

男たちは俺とオーフェリアを睨み付けながら、次々と煌式武装を起動させる。

 

「よく見たら、女。結構良い身体してんじゃねえか」

 

「お、ホントだな」

 

男たちはオーフェリアの身体を舐め回すような視線で見る。

俺はオーフェリアを隠すようにオーフェリアを俺の影に隠し男たちを睨み付ける。

 

『綾斗、あの人たち斬って良いかしら?』

 

『ごめん、セレス。斬りたいのは山々なんだけどちょっとだけ我慢して』

 

『わかったわ。まあ、綾斗が1番怒ってるしね』

 

セレスから怒気の入った声で聞かれるが、俺はそれをなんとか我慢して落ち着かせる。

というかセレスに言われるまでもなく今すぐあの男たちを斬りたいのは俺もだ。なにせ、オーフェリアを汚らわしい眼で見ているから。しかも、舐め回すように見ているのだ、さすがに人の彼女を。大切な人をそんな眼で見られたら誰でも怒る。

そう思っていると、男たちの一人が突然俺を指差して叫んできた。

 

「ああっ!こ、こいつ《叢雲》じゃねえか!」

 

「《叢雲》って・・・・・・星導館の序列一位か!?」

 

「こんなとぼけた野郎が?ホントかよ?」

 

男たちの間に戸惑いが走るなか、俺は後ろにいるオーフェリアから寒気を感じた。

 

「・・・・・・綾斗のことバカにして・・・息の根止めてあげようかしら・・・・・・?」

 

耳を済ませて聞こえてきたオーフェリアの声に俺は冷や汗を掻いた。実際、オーフェリアの毒なら一瞬であの五人を永遠の眠りにつかせることも容易なはずだからだ。

俺は後ろのオーフェリアの手を握り落ち着かせる。

そして、軽くうなずき未だに戸惑っている男たちの間をすり抜け、壁に押し付けられていたプリシラさんの手を取り路地の奥へと全力で駆ける。

 

「あっ!こ、こいつら・・・・・・!」

 

プリシラさんを押さえ付けていた男が手を伸ばすがそれを俺はプリシラさんを先に走るオーフェリアに任せ、伸ばしてきた手首を掴み軽く捻り上げて、男の仲間たちの方へ突き飛ばしてオーフェリアとプリシラさんを追いかける。

 

「・・・・・・恐らく彼らはこの辺りの地理に詳しい」

 

「ってことはいずれは袋小路になる?」

 

「ええ」

 

「あの、上に逃げたら・・・・・・」

 

「なるほど、その手があった。オーフェリア」

 

「ええ」

 

俺たちは次の曲がり角を右に曲がると俺はプリシラさんを抱き抱えて、オーフェリアとビルの屋上へと跳んだ。

屋上へと辿り着いて下を見ると、さっきの男たちが俺たちを探しているのが見えた。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

「・・・・・・なんとか撒いたわね」

 

「だね」

 

「ところで綾斗」

 

「なに?」

 

「何時までプリシラを抱いているの?」

 

「あ、あの・・・・・・」

 

「あっ・・・・・・ご、ごめん!」

 

オーフェリアとどこか良い辛そうな様子で口を開いたプリシラさんに俺は自分がまだプリシラさんを抱き抱えていると言うことに気づいた。

 

「いえ、とんでもないです!危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました!」

 

「・・・・・・ところでプリシラ。イレーネに連絡入れなくて良いの?」

 

「あ!そうですね、ちょっと失礼します」

 

オーフェリアの言葉に、プリシラさんは少し離れて姉のイレーネさんに連絡を取った。

その間、俺とオーフェリアはここ付近の気配を探っていた。何故なら、遠くからはまだ騒々しい声が聞こえるが、この付近は静かだからだ。それも不自然なほどに。

しばらくすると。

 

「・・・・・・イレーネには繋がった?」

 

「はいっ。すぐに迎えに来てくれるそうです」

 

「そっか。じゃあ一安心だね」

 

「・・・・・・ところでプリシラ。あの連中はイレーネが歓楽街(ロートリヒト)のカジノで暴れた報復に来たのかしら?」

 

「どうやらそうみたいです」

 

「オーフェリア、歓楽街って?」

 

「再開発エリアの一部にある、非合法のお店が集まっている場所の通称よ」

 

「へー」

 

再開発エリアにそんなところがあるとは知らなかったため俺は感嘆の声を漏らした。

するとそこへ。

 

「プリシラ!」

 

プリシラさんの名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「あ、お姉ちゃん!」

 

声のした方を見ると、そこには純正煌式武装《覇潰の血鎌》を持ったイレーネ・ウルサイスがいた。

イレーネさんはプリシラさんの姿を見ると一瞬のうちにプリシラさんに近寄り、プリシラさんを見る。

 

「無事かプリシラ?!怪我してないか?!なにもされてないよな!」

 

「お、お姉ちゃん!?天霧さんとオーフェリアさんの前だよ!?」

 

「・・・・・・相変わらずねイレーネ」

 

オーフェリアはやや呆れた声でイレーネに声を掛ける。

 

「天霧綾斗、オーフェリア。プリシラが世話になったな」

 

「いいよ。俺も、オーフェリアの友達を助けたかったから」

 

「そうか・・・。ところで聞きたいことがあるんだが」

 

「ん?」

 

「この下の連中。・・・やったのはあんたらか?」

 

「え?」

 

「・・・・・・私たちじゃないわよ?」

 

「そうか・・・・・・。ところでなんで二人はこんなところ通り掛かったんだ?見る限り、あんたら今日出掛けてたんじゃねえのか?」

 

「あー、実は・・・・・・」

 

イレーネさんに説明しようとするそのタイミングで、空間ウインドウが開いた。

そこに映っていたのは紗夜と綺凛ちゃんだった。どうやら綺凛ちゃんが紗夜を見つけたみたいだ。

 

『あ、綾斗先輩、オーフェリアさん。今ちょうど紗夜さんと合流しました』

 

「よかった。ありがとう綺凛ちゃん」

 

『そういう綾斗とオーフェリアは今どこに?』

 

「・・・・・・そう遠くはないと思うわ。綺凛、メインストリートの広場で待ち合わせで良いかしら?」

 

『わかりました』

 

「じゃあお願いね」

 

空間ウインドウが閉じ、イレーネさんとプリシラさん姉妹を見ると、二人はなんとも言えない顔をしていた。

 

「なんつーか、あんたらも苦労してんだな」

 

「あはは・・・まあね」

 

「にしてもオーフェリアはともかく、天霧には借りができちまったな」

 

「別に良いよ。困ったときはお互い様だし」

 

「そういうわけにもいかねぇんだよ。・・・・・・さっさと借りの清算しとかねぇとやり辛くってしょうがねぇ」

 

「・・・・・・どういうことかしらイレーネ?」

 

「あ?もしかして知らねぇのか?次の対戦相手」

 

「次の対戦相手・・・・・・ああ、そっか。もう本戦の組み合わせが発表されたんだ」

 

表示した空間ウインドウの《鳳凰星武祭》本戦4回戦の自分とユリスの名前を探し対戦相手を確認した。

その対戦相手を見て俺はあんぐりと口を開けた。それは横から見ているプリシラさんもだった。

目の前の空間ウインドウに表示される4回戦の対戦相手欄にはこう表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《鳳凰星武祭》4回戦

 

 

 

 

 

天霧綾斗、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト

 

VS

 

イレーネ・ウルサイス、プリシラ・ウルサイス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と。



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食事と力の代償

~綾斗side~

 

 

「食事に誘われただと?」

 

紗夜の迷子とウルサイス姉妹との遭遇といろいろあった翌日。俺はユリスに昨夜届いたメールについて話していた。

話すとユリスはどこか呆れたように額に手を置いて仰いだ。

 

「ハァー・・・・・・一体何をどうしたら食事に誘われるんだ」

 

「あー・・・実は昨日いろいろあって・・・・・・」

 

「私はあまり面倒なことを起こすなと言ったはずだが?」

 

「うっ・・・それに関しては・・・・・・ゴメン」

 

「まあ、過ぎたことを言っても仕方ない。だが、今回のことは私もお前と同じことをしたかもしれんな」

 

「ユリスも?なんで?」

 

「オーフェリアの友達なのだ、なら、私が助けるのは当然のことだと思うが。それに、それを見過ごす私ではない。まあ、助けるのならお前のやり方ではないやり方でやるがな」

 

「例えば・・・・・・・?」

 

「む?そうだな・・・・・・私の炎でウェルダン程まで炙ってから助けるな」

 

「そ、それは流石にアウトな気がするけど・・・・・・」

 

「冗談だ」

 

「ユリスが言うと冗談に聞こえないのは気のせいかな・・・・・・」

 

「失礼だな。加減ぐらいするぞ?」

 

「いや、そういう意味じゃ無いんだけど!?」

 

「まあいい。それで場所はどこなのだ?」

 

「えっと、確か・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後

 

 

 

「ここで合ってるのか?」

 

俺とユリスの二人はアスタリスク内の住宅街のマンションの一つに来ていた。

 

「合ってる・・・はず。オーフェリアにも教えてもらったし」

 

俺は空間ウインドウを開いて住所を確認した。

 

「ふむ・・・まあ、取り敢えず中に入るか」

 

そう言ってマンションの中に入るユリスを追って俺も中に入った。

マンションのエントランスの内装は白で統一されていて、綺麗だった。

そのまま、プリシラさんから送られてきた部屋番号の前に着き、インターホンを鳴らした。

しばらくすると、扉が開き、エプロン姿のプリシラさんが満面の笑みで迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ!お待ちしてました天霧さん、リースフェルトさん」

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

予想通りと言うか前にも見たようなユリスのプリシラさんへの、毒気を抜かれた姿を見た。

 

「さぁ、遠慮せずに上がってください。すぐにお料理を用意しますから。あ、オーフェリアさんも中にいますよ」

 

「え?」

 

プリシラさんに言われて部屋の中に入ると、綺麗に片付けられたリビングにテーブルセットがあり、椅子の一つに仏頂面のイレーネさんが座っていた。そしてその対面には。

 

「・・・・・・鳩が豆鉄砲食らったような顔してどうしたのかしら綾斗?」

 

プリシラさんが言ったようにオーフェリアがお茶を飲んでいた。

 

「・・・・・・綾斗?」

 

「天霧さん?」

 

「綾斗?」

 

今一思考回路が追い付かない俺にオーフェリア、プリシラさん、ユリスが心配そうに訪ねてきた。

そこでようやく理解できた俺は。

 

「オーフェリア・・・」

 

「なに?」

 

どうしてここにいるの?(よく似合ってるよその服)

 

あれ、なんか今違ったような・・・・・・。

オーフェリアにそう言った。

すると椅子に座ったイレーネさんが。

 

「おい、天霧。本音が出てるぞ」

 

苦笑いを浮かべて言ってきた。

 

「へっ?」

 

「オーフェリアを見ろ」

 

呆れたように言うイレーネさんに言われオーフェリアを見ると、オーフェリアは顔を真っ赤にして顔を伏せていた。

 

「あ、あれ?」

 

「おい綾斗。お前、こんなところでもそうなのか」

 

「あわわ、さすが天霧さんです」

 

「あたしでもさすがにこれは呆れるぞ」

 

ユリス、プリシラさん、イレーネさんの反応を見る限りどうやら俺が何か言ったみたいだが・・・・・・・。

 

「あ・・・」

 

そこて俺は自分がなにを言ったのか思いだし、一気に気恥ずかしくなった。

 

「・・・・・・おい、《華焔の魔女(グリューエン・ローゼ)》」

 

「なんだ、《吸血暴姫(ラミレクシア)》」

 

「これって何時ものことなのか?」

 

「まあな・・・はぁ・・・・・・」

 

「苦労してんだなお前も・・・・・・」

 

「なんかすまない」

 

視界の端ではユリスとイレーネさんが嫌悪感処か、どこか気疲れたように互いに落胆している姿が見え、プリシラさんはキッチンに戻っていく姿が見えた。

 

「それでオーフェリアはなんでここに・・・・・・確か今日は出かけるって言ってたような・・・・・・」

 

「ええ。プリシラに食事に呼ばれたのよ。まあ・・・大方、イレーネとユリスのストッパー役・・・・?とかも担ってるわ」

 

「なるほど・・・・・・。あれ、でも、それなら俺たちと一緒に来ても良かったんじゃ」

 

「・・・・・・それじゃ、サプライズにならないでしょ?」

 

「はは・・・なるほどね」

 

俺たちといない間のオーフェリアの一面が見れて、俺はどこかホッと安堵の息が心の中で出た。

 

「・・・・・・どうかしたの?」

 

「なんでもないよ」

 

オーフェリアに軽く微笑みながらそう返して、オーフェリアの横に座る。

そして、俺の左隣にはユリスが座った。

 

「お待たせしましたー」

 

と、そこへプリシラさんが料理を運んできた。

前菜なのか、小皿に盛り付けられた料理がいくつもテーブルに並べられていく。

 

「ひよこ豆とトマトのサラダ、ポテトのアリオリソース、小エビのニンニク唐辛子炒め、それからマッシュルームのセゴビア風です」

 

「おおー、これこれ!」

 

「って、お姉ちゃん!お行儀悪いでしょ!」

 

イレーネさんは見たことないほどの笑顔で早速プリシラさんの運んできた料理に手を伸ばしたが、それをばしっとプリシラさんが叩いて止めた。

 

「ええー。いいじゃねえか、ちょっとくらい」

 

「よくないよ!大体今日は天霧さんにお礼をってことなのにお姉ちゃんが最初に手をつけたら・・・・・・って、ああっ!」

 

「いっただきまーす!」

 

イレーネさんはプリシラさんの制止も聞かずに、ひょいひょいと料理をつまんでいった。

 

「もー、お姉ちゃんってばー!」

 

それを見たユリスが静かにクスリと笑うと、そっと俺とオーフェリアに聴こえるほどの声で言ってきた。

 

「《吸血暴姫》はあれでも気を使ってるようだな」

 

「うん?」

 

「毒見のつもりなのだろうさ。何も怪しいものは入ってないって証明するためにな」

 

「なるほど」

 

「・・・・・・イレーネらしいわ」

 

「まったく、そんなことしなくてもここにオーフェリアがいる時点でこれが罠ではないと言うことぐらい分かると言うのに」

 

「・・・・・・イレーネは普段は優しいのよ?」

 

ユリスとオーフェリアの言葉を聞いて、視線をプリシラさんとイレーネさんの二人に向ける。二人の姉妹の姿はほんと仲の良い姉妹そのものだ。二人の姿を見ていると、俺は姉さんやウルスラ姉さんのことを思い出した。

俺たちが子供の頃、よくこうして姉さんとウルスラ姉さんと一緒に食事をしたから。

 

「・・・・・・綾斗?」

 

「いや。オーフェリアの言う通りなんだなって」

 

「・・・・・・ハルお姉ちゃんとウルスラお姉ちゃんのことを思い出していたの?」

 

「うん・・・・・・。二人を見ているとなんか懐かしく思えてきたんだ」

 

「そうね・・・・・・」

 

プリシラさんとイレーネさんの姉妹を見て、オーフェリアと物思いに耽っていると。

 

「ほら、あんたたちも食えよ。オーフェリアは知ってるだろうが、プリシラの料理はどれも最高だぜ」

 

制止を諦め、溜め息と呆れた表情のプリシラさんを横に、イレーネさんはさらに料理を食べていった。

 

「すみません、お二人とも。オーフェリアさんも」

 

「大丈夫よプリシラ」

 

「うん。それじゃ俺たちもいただこうか」

 

こうしてなし崩し的に食事が始まった。

 

「・・・・・・お、美味しい」

 

「こ、これは・・・・・・」

 

プリシラさんの料理を一口食べたユリスと俺は、あまりの美味しさについそう声を漏らした。

 

「美味しいわ。プリシラ、更に料理の腕を上げたのね」

 

「はいっ!ありがとうございます!天霧さん、リースフェルトさん、オーフェリアさん」

 

「ふふん、そうだろうそうだろう」

 

自慢気に胸を張るイレーネさんにユリスは呆れ顔だった。

 

「・・・・・・別におまえを誉めたわけではないぞ?」

 

「やれやれ。イレーネは相変わらずのシスコンね。何処かの誰かみたい」

 

オーフェリアはジト目でイレーネさんを見ると、視線を俺に移してきた。

 

「も、もしかして俺のこと?」

 

「・・・・・・綾斗以外誰がいるのよ」

 

小声で言った俺に、オーフェリアも小声で返してきた。

 

「そういえば今更だけど・・・・・・ここってどういう部屋なんだい?」

 

すっかり忘れていた疑問を思い出して、イレーネさんに訊ねた。

すると飲み物を呷っていたイレーネさんが、素っ気なく言って返してきた。

 

「あたしが普段使ってる部屋だが、それがどうした」

 

「普段使ってるって・・・・・・・寮は?」

 

アスタリスク内の六学園はすべて全寮制だ。学生が市街地に暮らすことは原則として許可されていない。まあ、俺は例外だが。

 

「レヴォルフの《冒頭の十二人(ページ・ワン)》にはそういう特典があるのさ。もちろん表立って言ってるわけじゃねぇがな」

 

「へぇ」

 

「言っとくがオーフェリアもアスタリスクに部屋があるはずだぞ」

 

「えっ!?」

 

イレーネさんの言葉に俺は驚き、ユリスは驚愕していた。

 

「・・・・・・そう言えば言ってなかったわね。一応、寮もあるのだけど・・・・・・」

 

「そう言うことか」

 

オーフェリアの言葉にユリスは瞬時に理解したようにうなずいた。

 

「そう言うこと、って?」

 

俺の疑問に答えたのはイレーネさんだった。

 

「オーフェリアの瘴気に部屋が耐えられないんだよ。いつ、オーフェリアの星辰力が暴走するかわからねぇ。オーフェリアは基本、寮ではなくここの近くの部屋から通ってる」

 

「なるほど・・・・・・あれ?でも、オーフェリアここ最近ずっと俺の家にいるけど?」

 

「綾斗の家は、私の部屋とここと同じで私の瘴気に耐えられるの。だから、問題ないのよ。・・・・・・それに、折角綾斗たちと過ごせるのだから部屋に戻るなんて以てのほかよ」

 

「オーフェリア・・・・・・」

 

「ふふ」

 

俺の視線に気付いたオーフェリアは優しい笑みを返し、俺は顔が赤くなった。

そこへ。

 

「まったく、ここで惚気けるなよなおまえら・・・・・・。プリシラ、コーヒー頼めるか?」

 

「うん!」

 

「あー、すまないがわたしの分も頼む」

 

「わかりました!」

 

そんな会話が聞こえてきた。

コーヒーを運んできたプリシラさんが。

 

「でも今回はお姉ちゃんのお陰で助かっちゃいました。さすがにお二人にレヴォルフに来てもらうわけにはいきませんから」

 

「さすがレヴォルフ。おそるべき自由さだな・・・・・・」

 

「でも、なんでわざわざ外に部屋を?」

 

「・・・・・・ここからだと歓楽街(ロートリヒト)が近い。なにかと便利なんだよ」

 

俺の疑問に、コーヒーと料理を食べながら、少し具合の悪そうな顔で答えた。

 

「なるほど。夜遊び用というわけか」

 

皮肉るように言うユリスに、イレーネさんは顔を更にしかめた。

 

「別に遊んでるわけじゃねぇよ。金が必要だから稼いでるだけだ」

 

「金・・・・・・だと?」

 

「どういうこと?」

 

ユリスと俺の疑問に、イレーネさんはちらりと隣のプリシラさんに視線をやった。

 

「―――あ、じゃあ私、ちょっとオーブンの様子見てきますね」

 

プリシラさんが曖昧な笑みを浮かべて席を立ち、キッチンへ向かった。

それを見届けるとイレーネさんは息を吐き、わずかに椅子を軋ませた。

 

「簡単に言えばあたしの立場はレヴォルフ黒学院生徒会長ディルク・エーベルヴァインの手駒だ。オーフェリアと同じでな。あたしは昔ディルクの野郎に莫大な金を借りて、すでに望みを叶えてもらった。そしてあいつの命令に従うことで、それを少しずつ清算している」

 

「《悪辣の王(タイラント)》か・・・・・・」

 

「その契約であたしは《星武祭》への参加は制限されてるし、仮に優勝したとしてもその賞金を返済に当てることはできないことになってるのさ。まあ、出来るだけ長くあたしを手駒として使いたいんだろうな。ホント、いけすかねえ野郎だよ、あいつは」

 

イレーネさんはそう言って肩を竦めた。

 

「とはいえ、あたしだっていつまでもあいつの下で働くのはごめんだ。だから少しでも早く金を返すために、夜な夜な涙ぐましい努力をしてるってわけさ。このことはオーフェリアも知ってるし、ロドルフォのやつも知ってる」

 

「ロドルフォ?」

 

「ロドルフォ・ゾッポ。私たちと同じレヴォルフ黒学院所属で《冒頭の十二人》の一人。序列二位で、《砕星の魔術師(バサドーネ)》の二つ名を持つ男よ。歓楽街のあるグループの頭領(リーダー)でもあるわ」

 

「聞いたことある。確か星脈世代の天敵だと言われていたな」

 

星脈世代(俺たち)の天敵?」

 

「ああ。《砕星の魔術師》は星辰力に干渉できるのだ。それ故に星脈世代で有る限り勝つことはほぼ不可能だと言われている。まあ、以前調べて知ったことなのだがな」

 

「・・・・・・ええ。ユリスの言った通りよ。ロドルフォはイレーネのことはもちろん、私のことも知っている」

 

オーフェリアのことも知っているということは、そのロドルフォさんはオーフェリアが星脈世代に。《魔女》になった経緯を知っているということだ。

 

「ロドルフォの野郎には感謝してるぜ。あいつのお陰で歓楽街での行動が楽になったからな。たまにこの間みたいなやつが来るが、基本ロドルフォが対処してくれてる」

 

「・・・・・・私もロドルフォからはたまに情報もらったりするのだけど、とても感謝してるわ」

 

「へぇー。今度会ってみたいな」

 

俺がオーフェリアたイレーネさんにそう言うと。

 

『私も会ってみたいわね』

 

脳内に、念話で《黒炉の魔剣(セレス)》のそんな声が聞こえてきた。

 

『セレスも?』

 

『ええ。それにその人と戦ってみたいわね』

 

『ええ・・・・・・。俺としてはできれば勘弁してほしいのだけど』

 

『ふふ。冗談よ冗談。でも、会ってみたいってのは本当だけど』

 

『会ってどうするのさ?』

 

『どうしようかしらね』

 

『やれやれ、セレスったら』

 

ややセレスに呆れながらも苦笑して念話で返す。

 

「それと、今回あたしらが《鳳凰星武祭(フェニクス)》に出場したこと自体、ディルクからの指示だ」

 

「・・・・・・そう言えばイレーネたちが鳳凰星武祭に出場した理由を知らなかったわ」

 

「オーフェリア、あたしが今回ディルクから受けた命令は―――天霧綾斗、あんたを潰すことだ」

 

「なにっ!?」

 

「・・・・・・どういうことかしら?何故ディルクが綾斗を・・・・・・まさか・・・・・・!」

 

「ああ。オーフェリア、お前の予想している通りだ」

 

「ディルクの狙いは綾斗の純星煌式武装(オーガルクス)黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》ね?」

 

「ああ」

 

「なっ!?《黒炉の魔剣》だと!?」

 

「確かに《黒炉の魔剣》は強力な純星煌式武装だけど・・・・・・」

 

「あいつは・・・ディルクは確かに冷血で外道な最低の野郎だが、無能でもなければ小心者でもねぇ。あいつがその純星煌式武装を警戒するからには、なにかもっと大きな理由があるはずだ。オーフェリアは知ってるか?」

 

「・・・・・・ええ。知ってるわ・・・・・・」

 

「やっぱりか。あいつの口振りから推察出来たことが一つだけあってな、どうやらあいつは以前にもその純星煌式武装の使い手をその目で見たことがあるらしい。あいつは、あたしにこの命令するときこう言ってた。"あれを目の当たりにすりゃあ、誰だってそう思うだろうぜ"、ってな。おかしいよな。公開されている過去の貸与履歴を見る限り、ここ数十年その純星煌式武装の使い手は現れてねぇはずだ。なのにあいつはそれを見たように言っていた」

 

「まさかそれって・・・・・・」

 

「・・・・・・恐らくそうでしょうね」

 

俺とオーフェリアは同じことを同時に考えていた。ディルク・エーベルヴァインが以前見たことがある使い手は、俺の姉。天霧遥だ。そして、それを見たのは恐らく前にペトラさんが言っていた《蝕武祭(エクリプス)》でだ。

 

「だが、イレーネ。何故その事をわたしたちに言う?」

 

「あたしにも仁義ってもんがあってな。天霧にはプリシラを助けてもらった恩がある。このままじゃ次の試合がやりづらくてしょうがねぇんだ。それに、オーフェリアにはあたしがいない間、プリシラをよく守ってもらっててな、その礼も踏まえてだ」

 

「なるほどね」

 

「それとこれは私情だが・・・・・・天霧、おまえオーフェリアの幼馴染で恋人なんだよな?」

 

「あ、うん」

 

「あたしたちはよくおまえたちの話を聞かされてな、その時、ロドルフォも入れて約束したんだよ」

 

「約束?」

 

「ああ。彼女・・・・・・オーフェリアの助けになるってな」

 

「・・・・・・私の?」

 

「ああ。オーフェリアは以前は星脈世代でもねぇ、只の一般人だった。これは間違ってねぇな?」

 

「うん」

 

「ああ」

 

「だが、それを《大博士(マグナム・オーパス)》が人体実験でオーフェリアを《魔女》にした。あってるな?」

 

「・・・・・・ええ」

 

「それを聞いたときな、あたしとロドルフォは怒ったよ。あそこまで怒ったのはプリシラが人身売買に掛けられそうになったとき以来だ。プリシラは怒りながらも泣いていた。ロドルフォの奴は近くにあった壁を殴っていたよ。あたしもおんなじだ。人の人生を狂わせたんだからな」

 

「イレーネ・・・・・・」

 

「・・・・・・あたしとプリシラは実の親に売られた。プリシラは稀有な再生能力者だからな人体実験に利用される可能性があった。だからあたしは、その時いたディルクの野郎に願ってプリシラを買い戻してもらった。それ以来あたしはディルクの手駒だ。だが、オーフェリアの場合は違う。オーフェリアはあらゆる自由を、ディルクの野郎に縛られてる。オーフェリア・ランドルーフェンという一人の人間をあいつは道具のように扱ってるんだよ。だから、あたしたちは約束した。オーフェリアをこれ以上悲しい目に遇わせないってな。天霧。天霧と再び出会ってからのオーフェリアは何時もと違っていてなあたしたちとしても喜ばしいんだ」

 

「イレーネさん・・・・・・」

 

「オーフェリアはなレヴォルフでもあたしたちとごく一部の人間としか話さなくてな、常に無表情なんだ。けど、天霧と一緒にいるオーフェリアはそんなことねぇ。ただの恋する女子だ。そんなやつの邪魔をするならあたしはそいつを絶対に許さねぇ、って決めてんだ」

 

「イレーネ・・・・・・」

 

「よし、そんじゃあこれで義理は通したぜ」

 

さっきまでの辛辣な真面目な顔からさっぱりした顔のイレーネさんが言ったところで、プリシラさんが大きな鉄鍋を持って現れた。

 

「お待たせしましたー。シーフードとキノコのパエリアです」

 

「ふふん、プリシラのパエリアは特に絶品だからな。心して食えよ」

 

「ほらほら、お姉ちゃん。それはいいから早く取り分けて」

 

胸を張るイレーネさんに、プリシラさんが照れくさそうな顔で応えた。

その微笑ましい姉妹仲の姿に、俺は言葉にならない思いが湧き上がるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃそろそろお暇しようか」

 

「うむ、そうだな」

 

プリシラさんの料理のあと、コーヒーをいただいた俺とユリスは視線を交わして立ち上がった。

 

「えっ、もうですか?あと少しゆっくりしていっても・・・・・・」

 

「やめとけ、プリシラ。下手に馴れ合っても、

どうせ明日にはやり合うんだ。お互い用件は済んだんだし、もう十分だろ」

 

「・・・・・・そうよプリシラ」

 

「オーフェリアさんも・・・・・・わかりました」

 

「それじゃ私もそろそろお暇するわね」

 

「ああ。・・・・・・・おい、天霧」

 

「うん?」

 

「あたしは明日、あんたを存分に叩きのめす。オーフェリアには悪りぃがな」

 

「大丈夫よイレーネ。下手に手を抜いたらあなたの方が危ないわよ?」

 

「わあってるよ」

 

「・・・・・・・お手柔らかに頼むよ、イレーネさん」

 

「イレーネで構わねぇよ。プリシラ」

 

「はいっ」

 

イレーネの声にプリシラさんは俺たちを見送るたに部屋からでてエントランスに来た。

 

「今日はごちそうさま、プリシラさん。美味しかったよ」

 

「いえ、とんでもないです。その、お姉ちゃんがいろいろとすみませんでした」

 

「いいや、《吸血暴姫》の言い分もわからんではない。我々とて明日は全力で相手をするからな」

 

「それは・・・・・・・わかってます」

 

ユリスの言葉にしょんぼりと項垂れるプリシラさんにオーフェリアが声をかける。

 

「プリシラ、聞きたいことがあるのだけどいいかしら?」

 

「はい?」

 

「《覇潰の血鎌》を使ってるときのイレーネの様子は・・・・・・・どうかしら?」

 

「・・・・・・《覇潰の血鎌》を使ってるときのお姉ちゃんは、少し怖いです。最初は慣れてない武器だからかなって思ってたんですけど・・・・・・・あれを使ってるときのお姉ちゃんは、なんだかすごく凶暴っていうか、まるで人が変わったみたいで、お姉ちゃんがお姉ちゃんじゃないみたいなんです。しかも、最近はそれがどんどん・・・・・・・」

 

「そう・・・・・・・」

 

「はい・・・・・・・」

 

「それじゃ、また」

 

「はい!」

 

プリシラさんと分かれた俺たちは街灯が照らす夜の町並みをしばらく歩き、ユリスと星導館近くの橋で明日のことを軽く話、分かれたあと家に帰るなか俺はオーフェリアに訪ねた。

 

「オーフェリア、さっきの話って・・・・・・」

 

「・・・・・・・綾斗、明日の試合出来たらでいいのだけどイレーネの持つ《覇潰の血鎌》を破壊してくれないかしら」

 

「オーフェリアはイレーネが《覇潰の血鎌》に支配され始めてると言いたいの?」

 

「・・・・・・・純星煌式武装には使用条件があるのは知っているわね。《覇潰の血鎌》のような純星煌式武装は使い手に干渉してくるのよ」

 

「使い手に干渉?」

 

「ええ。中には使い手の意識や性格を自分好みに変質させるものもあるの。そして《覇潰の血鎌》の影響は肉体を変えるほどよ」

 

「なるほど・・・・・・・そういうことか」

 

「ええ」

 

「出来るだけのことはやってみるよ」

 

「お願いするわ」

 

「うん」

 

あのあとオーフェリアとともに家に戻った俺は、家に帰ってきていたシルヴィからペトラさんに渡されたと思うシルヴィの六花内のライブチケットを受け取り、明日に備えるために早々に寝ることにしたのだった。

 

 

 



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覇潰の血鎌

 

 

~綾斗side~

 

 

 

鳳凰星武祭(フェニクス)》四回戦 シリウスドーム

 

 

 

 

『さぁー各会場で白熱の試合が続いております鳳凰星武祭(フェニクス)四回戦!このシリウスドームでのトリを飾るのは星導館学園の天霧・リースフェルトペアとレヴォルフ黒学院のウルサイス姉妹です!ベスト十六に進むのは果たしてどちらのタッグなのか!』

 

『これも楽しみな一戦ッスねー。どちらも予選はほとんど相手を寄せ付けずに勝ち上がってきてるッスから、ここが一つの分水嶺になると思うッス』

 

 

 

お馴染みの解説者二人の言葉をシリウスドームのステージ場で聞いている俺は苦笑し、ユリスは眉を潜めてぼやく。

 

「ふん、相変わらず簡単に言ってくれるものだな」

 

「まあ、それがあの人たちの仕事なんだし」

 

俺はユリスのぼやきにそう返した。

 

 

 

『さてして、ここでチャムさんにはこの一戦の成り行きを予想していただきたいと思います。イレーネ選手の使う《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》は燃費が悪いですから、やはり長期戦になれば有利なのは星導館でしょうか?』

 

『ううーん、一概にそうとも言えないんじゃないッスか。なにしろイレーネ選手にはプリシラ選手という、いわば補給路があるッスから。それに能力自体の比較でいえば・・・・・・』

 

 

 

解説者二人は今回の試合を予測しているみたいだ。

だが、長期戦が不利なのはウルサイス姉妹より俺たちの方だ。ユリスは問題ないが、あるのは俺だ。

いくら完全解放のリミット時間が最大で10分になったとはいえ、ここから先、決勝戦までは間に二日、シルヴィアのライブと、調整日が入るだけで、それ以外に休息日はないのだ。5分程度の解放なら翌日の試合に影響はないが、10分、もしくはそれ以上使用すると翌日の試合が厳しくなるのは目に見えてるうえ《黒炉の魔剣(セレス)》が使えない。

だが、この試合だけは無茶をしてもしなければならないことがある。

 

『セレス、いける?』

 

『問題ないわ。綾斗は?』

 

『俺も大丈夫』

 

セレスと軽く思念通話をして確かめる。

 

「綾斗、無理はするなよ・・・・・・と言ってもお前は無駄なのだろうな」

 

「まあね。無理をしないでどうにかできる相手じゃないし、オーフェリアからの頼みごともある」

 

「《覇潰の血鎌》の破壊か・・・・・・。だがいくら黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)でもウルム=マナダイトを破壊できるのか?」

 

「わからない、やってみないと」

 

「だな。とにかく、最初から全力で行くぞ綾斗!」

 

「もちろん!」

 

ユリスにうなずき返し、呼吸を整えて自身の星辰力(プラーナ)を高める。

周囲に黒紫色の魔方陣が浮かび上がり、万応素(マナ)が輝いて弾け飛ぶ。身体の奥底から本来の力の一部が膨れ上がる。そして。

 

「―――うちなる剣を以って星牢を破獄し、我が虎威を解放す!」

 

すべてを戒める禁獄の縛鎖が粉々に砕け散り、力が漲ってきた。

 

『いくよセレス!』

 

『わかってるわよ綾斗!』

 

ギャラリーと解説者二人が一斉に沸き返り、歓声が乱れ飛ぶ中、俺は腰のポーチからセレスを取り出し起動する。

すでに隣ではユリスが自身の煌式武装アスペラ・スピーナを起動している。

 

「やる気十分だなぁ、天霧」

 

《覇潰の血鎌》を肩に乗せたイレーネが睨みながら薄く笑った。

イレーネ一人が前に出て、プリシラさんはイレーネの後ろに控える形だ。

 

「そんじゃ、こっちも全開でいかせてもらうぜぇ・・・・・・!」

 

《覇潰の血鎌》が不気味な紫色の光を放ち、万応素が光と同様に不気味に蠢いた。

緊張感が張り詰め、そして――――――

 

 

 

鳳凰星武祭(フェニクス)四回戦第十一試合、試合開始(バトルスタート)!』

 

 

 

機械音声が試合開始の合図を告げた。

 

「咲き誇れ―――赤円の灼斬花(リビングストンデイジー)!」

 

合図と共に、即座にユリスが能力を発動させイレーネに攻撃を仕掛ける。

 

「いけ!」

 

ユリスの放った赤円の灼斬花は上下左右からイレーネに襲い掛かる。

 

「ははっ!小賢しいな!」

 

だが、十数個におよぶ赤円の灼斬花を、イレーネは

《覇潰の血鎌》で容易くすべてをなぎ払った。

そしてその間に、俺はセレスを構え赤円の灼斬花の戦輪の間をギリギリのところで駆け抜け、距離を詰める。距離を詰め、間合いに踏み込むとセレスを下段から上へと斬り上げる。

 

「おおっと!」

 

イレーネはその攻撃の一撃を《覇潰の血鎌》の刃で受け止めた。俺の《黒炉の魔剣》と、イレーネの《覇潰の血鎌》の刃同士が干渉しあって火花が舞い散る。

 

 

 

『受け止めたあ!あらゆるものを焼き斬る《黒炉の魔剣》とはいえ、相手が同格の純星煌式武装(オーガルクス)となると話が違う!』

 

 

 

解説者の一人が今の鍔迫り合いを見てそう実況した。

 

『くっ!やはり同格の純星煌式武装相手だと簡単にはいかないか』

 

『私をあんな純星煌式武装と一緒にしないでちょうだい綾斗』

 

イレーネと鍔迫り合いから、身体を巻き込むように回転させて胴を薙ぎながらセレスと思念会話をする。

 

『そこまで言うの?』

 

『ええ。あんな人の身体を弄くり回して作り替えるような純星煌式武装と、私のような純粋な意思を持った純星煌式武装と一緒にしないで!』

 

『わ、わかった』

 

薙ぎ払いをイレーネは《覇潰の血鎌》で弾き上げ、そのまま上段から切り下ろしてくるが遅い。すでにこっちの切り返しが早い。イレーネはとっさに身体を入れ替えるようにして袈裟懸けの一撃をかわす。だが、そこに間髪入れず追撃の突きを見舞う。

イレーネはその突きに対して《覇潰の血鎌》をくるりと回して、刃を盾のようにして防ぐ。再度、火花が舞い散るが、俺は剣先を一度引いてから手首を返して、《覇潰の血鎌》を弾き退ける。

 

「なっ!?」

 

空いた胴。校章を斬りつけようとするがそれは後ろに下がったイレーネのマフラーの端を軽く焼き斬るだけだった。

 

「さすがに斬り合いじゃ分が悪いか!」

 

悪態を吐くイレーネに、タイミングを見計らったかのようにユリスの赤円の灼斬花の戦輪が次々と飛び掛かる。

 

「―――十重壊(ディエス・ファネガ)!」

 

しかしイレーネが《覇潰の血鎌》を一振りするとその身体の回りに黒い重力球が現れ、ユリスの戦輪とぶつかり合い、互いに対消滅した。

 

「ふん、組んで一、二ヶ月の急造タッグにしちゃあ、それなりにやるじゃねぇか」

 

「そっちこそ、たった一人でよくもかわすものだ」

 

「ははっ!一人じゃねえよ、こっちだってちゃんと二人さ」

 

そう言うイレーネの瞳に狂暴な光が灯り、ニヤリと笑った口元から鋭い牙が覗く。その牙はまるで吸血鬼のようだった。

 

「こいつはあたしとプリシラ、二人の力だ!」

 

イレーネがそう言うと《覇潰の血鎌》がカタカタと、まるで笑っているように震え、紫色の光が包み込んだ。

イレーネが《覇潰の血鎌》の切っ先を地面に当てると、紫色の光が地面を伝った。

 

「よけろ、綾斗!」

 

『綾斗!』

 

ユリスとセレスが叫ぶより前に、すでに俺はその場から離れていた。先ほどまでいた位置を見ると、周囲の空気がビリビリと震え、紫色のドームのようなものができていた。

 

『あの周囲一帯の重力を操作したみたいね』

 

セレスが今のを見て冷静に分析した。

 

「ほぅ、さすがにいい反応するじゃねぇか」

 

「ユリス!」

 

「わかっている!―――鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!」

 

俺は瞬時にユリスに声を掛け、ユリスは周囲に炎の槍を顕現させ、イレーネに向かって飛ばす。

空気を切り裂いて空を駆ける炎の槍に少し遅れて俺も駆け出す。

しかし、ユリスの鋭槍の白炎花がイレーネに当たるその目の前で。

 

「―――重獄葦(オレアガ・ペサード)!」

 

突如、地面から障壁のように現れた紫の壁に阻まれた。

 

「なっ!」

 

「設置型の防御能力・・・・・・!」

 

「ははっ。こいつはあたしじゃなくてプリシラを狙おうっていう不届き者が出たときに、用心のため仕込んでおいた隠し玉だ。ちょっとやそっとじゃ壊せねぇよ」

 

障壁の向こうでそう言うイレーネは薄く笑い、プリシラさんの首に牙を突き立て、プリシラさんの血を飲み始めた。その姿はまさに吸血鬼だ。

 

「・・・・・・これで仕切り直し、か」

 

ため息を吐いて、上の電光掲示板の時間を見る。そこには試合が始まってからすでに2分10秒が経過していた。

 

『セレス、あとどのくらい?』

 

『今のペースだとあと6分は問題ないわ。けど、それ以上は限界よ。さらに星辰力を多量に注ぎ込んだらその分時間は減るわ』

 

『つまり早めに決着をつけないと、ってことか』

 

セレスにリミットを確認する。

 

「綾斗。こちらの仕込みは完了だ。おまえもあれを破壊するのなら早くしろ」

 

「・・・・・・了解」

 

隣に立つユリスから小声で聞き、うなずき返してセレスをグッと握りしめる。

ユリスが仕込んだのは、現段階でのユリスの取って置きだ。この攻撃が勝敗を分ける鍵となるだろう。

 

「・・・・・・よぉ、待たせたな。そんじゃ第二ラウンドといこうか」

 

紫の、重力の障壁が溶けるように掻き消え中から出てきたイレーネは口元を拭いながら前に出てきて言った。

その後ろではプリシラさんが、荒い息を吐いてぐったりと横たわっている。

 

「こんなやり方が本当に正しいと思ってるのかい?」

 

「・・・・・・黙れよ、天霧。そんなこたぁ、今更あんたに言われるまでもねぇ」

 

「だったら―――」

 

「黙れっつってんだ!」

 

イレーネが《覇潰の血鎌》を振りかざすと同時に、紫色の輝きがさっきと同じように地面を走った。

俺とユリスはその場からすぐさま離れ左右に展開する。

 

『範囲は広かったけど、綾斗なら簡単に避けられるわね』

 

『あはは。過剰評価だよセレス』

 

セレスと軽く念話をしてイレーネに左から迫る。

 

「ちょこまかと・・・・・・!」

 

「咲き誇れ―――九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

そこへユリスからのサポートが入りイレーネの動きを阻害する。

 

「うざってぇんだよ!百葬重列(シェン・グェスティア)!」

 

だがそれはイレーネが《覇潰の血鎌》を一閃させると、紫色のオーロラのような波動が障壁のように展開され、可憐に舞うユリスの九輪の舞焔花をすべて防いだ。

だが、それは全方位ではなく一正面だけらしく、俺が迫る場所はがら空きだった。

 

「天霧辰明流剣術初伝―――"貳蛟龍(ふたつみずち)"!」

 

イレーネの懐へ飛び込み、セレスを薙ぎ、薙いだ一撃から腕を返して、さらに踏み込んで下段からの斬り上げへと繋げる。

 

「ちぃっ!」

 

一撃目は《覇潰の血鎌》と刃とぶつかり、二撃目は《覇潰の血鎌》の柄に当たりイレーネを後ろに吹き飛ばせ、体勢を崩す。

 

「なっ!?しまっ!」

 

「はあっ!」

 

そこに俺は《覇潰の血鎌》のコア目掛けてセレスを振り下ろす。

ウルム=マナダイトが埋め込まれた機関部へ叩き込んだ一撃に《覇潰の血鎌》は悲鳴のような甲高い音を発し、俺を突然見えない力で弾き飛ばした。

 

「うぐっ!」

 

壁際にまで吹き飛ばされ、背中を思いっきり壁にぶつけた俺は肺の中の息を一気に吐き出した。

 

『大丈夫綾斗!』

 

『だ、大丈夫。セレスは』

 

『私も平気よ。けど・・・・・・』

 

セレスの言葉を聞きながらイレーネを見る。視線の先のイレーネは怒りに満ちた瞳で俺を睨んでいた。

 

「・・・・・・なるほどなぁ。まさか《覇潰の血鎌》を狙ってくるとは思わなかったぜ・・・・・・!」

 

『どうするの、彼女に私たちの狙いがバレたみたいだけど』

 

『さっきの一撃で決められたら良かったんだけどね・・・・・・』

 

『確かにさっきの攻撃、手応えはあったけど、刃が当たるその直前で《覇潰の血鎌》の重力の障壁みたいなので幾分か防がれたわ』

 

『セレスから見て《覇潰の血鎌》は破壊できる?』

 

『当然よ。と、言いたいけどさすがに今の現状じゃ・・・・・・・ね。けどここで止めるつもりは満更ないわ。私をなんだと思ってるのよ。綾斗だって一度防がれてだけで諦める訳じゃないでしよ?』

 

『はは。当然だね』

 

セレスと念話をしながらユリスと合流する。

 

「惜しかったが時間切れだ、綾斗」

 

「・・・・・・わかってる」

 

ユリスと合流すると、ユリスが真剣な表情で声を掛けてきた。俺はユリスの声掛けにうなずいて答える。

電光掲示板の試合開始してからの時間はすでに5分を過ぎていた。

 

「さあて・・・・・・こっちもお返しをしねえとなぁ・・・・・・!―――万重壊(ディエス・ミル・ファネガ)!」

 

イレーネが《覇潰の血鎌》を振ると、虚空から小さな重力球が現れた。今までのものより小さいが数が尋常でないほど多い。

 

「生憎、あたしはあまりコントロールがよくなくてなぁ。けどまあ、これなら外さねぇ・・・・・・!」

 

「ユリス!防御に専念して!」

 

「ああ、わかってる!」

 

「潰れて消えろ!」

 

イレーネが《覇潰の血鎌》を振ると、重力球の全体の1割ほどがユリスに、残り9割ほどがすべて俺に向かって飛んできた。

 

「ふぅー・・・・・・・」

 

セレスを正眼に構えて息を整える。

息を深く吸い込み、精神を集中させる。描くのは自分の周囲一メートル圏内の円。そしてその円に意識を張り詰める。この半径一メートルの円が俺の絶対防御圏だ。

 

「天霧辰明流中伝―――"八汰烏(やたがらす)"」

 

猛然と襲い掛かってくる重力球は、俺の絶対防御圏の領域に侵入した瞬間に、すべて俺の振るうセレスによって両断された。

四方八方から次々と迫り来る重力球の群れを、俺は閃光のような剣速の剣撃によって一つも残らず撃退して消し去る。イレーネやギャラリーにはその剣速により剣閃すら見えないだろう。

 

「マジかよ・・・・・・」

 

すべての重力球を切り裂いた俺は、今度は自分から打って出る。イレーネの間合いへと一気に飛び込む。

 

「ちっ!」

 

イレーネも即座に対応すると、下段から上へと斬り上げるセレスを《覇潰の血鎌》の刃で受け止める。だが、イレーネは剣圧に弾き飛ばされるように大きく後ろに吹き飛んだ。

 

「ユリス!」

 

「まかせろ!」

 

重力球をアスペラ・ピアーナで上手く弾き飛ばし、着地したイレーネの足元に魔方陣を浮かび上がらせる。

 

「綻べ―――栄裂の炎爪華(グロリオーサ)!」

 

ユリスの設置型能力により現れた赤い魔方陣は、イレーネを握り潰すように、巨大な炎の爪を地面から吹き上がらせた。

 

「はっ!誘導が見え見えだぜ!」

 

イレーネが《覇潰の血鎌》を地面に突き立てると、ユリスの魔方陣はあっさりと砕け地り、陽炎のように消える。

だが、ユリスの表情は焦りはない。なぜなら―――

 

「そいつは囮だ」

 

「なんだと・・・・・・っ!?」

 

イレーネの顔に驚愕の色が浮かぶと、その足元に再び魔方陣が浮かび上がった。

いや、足元というよりイレーネを中心とした範囲二十メートル超えの魔方陣だ。

 

「私の設置型能力では最高火力の技だ、存分に味わうがいい!」

 

ユリスから膨大な量の万応素が溢れ出て、魔方陣に流し込まれているのがわかる。

 

「ちっ!」

 

イレーネは慌てて逃げ出そうと魔方陣の外へと走り出すが時すでに遅く。

 

「綻べ―――大輪の爆耀華(ラフレシア)!」

 

ユリスの技名を言い終えると同時に、魔方陣の周囲からは炎の壁が立ち上ぼり、中心点で重なるように集まりイレーネを閉じ込める。上空の中心点では途方もない大きさの炎の花が膨れ上がり、イレーネに向かって落下した。イレーネに当たると、耳をつんざくような轟音がステージを包み込んだ。嵐のような爆風が俺やユリス、プリシラさんにまで届く。

 

「お、お姉ちゃん!」

 

プリシラさんが青ざめた顔でイレーネに近寄ろうとするが、まだ爆煙が晴れてないためその様子は窺えない。

やがて爆煙が収まり、ユリスの大輪の爆耀華の惨状が露になった。魔方陣のあった場所、イレーネのいた場所はクレーター状にへこんでいた。そしてその中心には、俯いたままだらりと《覇潰の血鎌》を携えてたつイレーネの姿があった。イレーネの周囲にはイレーネを守るように小さな重力球が幾つも浮いていた。

 

「っ!馬鹿な・・・・・・!《覇潰の血鎌》の能力で爆風を押さえ込んだのか・・・・・・!?」

 

ユリスが愕然とした顔で呟いた。

だが俺もユリスと同じだ。これで《覇潰の血鎌》が破壊できているとは思えてなかったが、《覇潰の血鎌》を使って防がれるとは思わなかったのだ。

 

「良かった!お姉ちゃん!」

 

イレーネの姿を見たプリシラさんがぱあっと顔を輝かせて駆け寄る。

 

「(―――っ!)」

 

『―――っ!』

 

その瞬間、俺とセレスに不吉な予感がよぎった。

 

『ねえ、セレス。イレーネの様子おかしくない?』

 

『え、ええ。プリシラが声を掛けているのに返事をしないなんて。いつものイレーネならすぐに返事を返してるはずよ』

 

『まさか・・・・・・』

 

『綾斗も私と同じこと・・・・・・思った・・・・・・?』

 

俺とセレスは同時にイレーネの様子に違和感を覚え念話で会話する。その間にもプリシラさんは恐る恐るイレーネに近寄る。

 

「お姉ちゃん・・・・・・?」

 

プリシラさんも違和感を覚えたのか、イレーネまであと数歩のところで足を止めた。

そこで初めて、イレーネが動いた。

ふらふらと定まらない足取りで、ゆっくりとプリシラさんの方へ向かう。プリシラさんはわずかに後ずさりして、少し下がってつまずいて、転んだ。

 

「おねえ、ちゃん・・・・・・?」

 

「まずいっ!」

 

イレーネが顔をあげ、その瞳を見た瞬間俺はとっさに駆け出そうとした。しかし、その瞬間凄まじい今までに非にならない程の重圧が俺たちを襲った。

 

「うぐっ・・・・・・!」

 

「な、なんだ、これは・・・・・・!」

 

俺とユリスは、凄まじい重圧に成すすべもなく地面に押し付けられた。圧力でステージの床にひびが入り、気抜けばすぐさま意識を失うほどの痛みと圧迫間が全身を襲う。

 

『これは・・・!《覇潰の血鎌》の重力操作・・・・・・!』

 

『どうなってるかわかるセレス』

 

『わからないわ!けど、これはどう考えても・・・・・・!』

 

セレスとなんとか念話で会話し、身体の上に山が乗っているような感覚になんとか首を動かして視線をイレーネとプリシラさんに向ける。

イレーネとプリシラさんに視線を向けると、プリシラさんはイレーネに左手で抱き抱えられるようにしてぐったりとしていた。どう見ても意識がないように見える。そしてその首筋には、イレーネの牙が突き刺さっていた。

 

「くっ・・・・・・一体、なにがどうなっている・・・・・・!」

 

絞り出すような声でユリスがうめく。

 

「たぶん・・・・・・あれは、イレーネじゃない」

 

『ええ。あれはイレーネじゃないわ』

 

「《覇潰の血鎌》だ・・・・・・!」

 

『《覇潰の血鎌》よ・・・・・・!』

 

「な、んだと・・・・・・?」

 

驚くユリスとは対照的に、俺とセレスはその直感が正しいと言う確信があった。

 

『どうみてもあれは、イレーネの身体を《覇潰の血鎌》が乗っ取ってるわ!』

 

「とにかく、このままじゃプリシラさんが危ない・・・・・・!」

 

プリシラさんはさっきからずっとイレーネに血を吸われ続けていた。いかにプリシラさんが再生能力者(リジェネレイティブ)とはいえども、能力の代償を払い続けるとなるとそれこそ命の危険がある。場合によっては死に至る危険性もあるのだ。

 

『セレス、あとどのくらい持つ』

 

『よくてあと3分・・・・・・いえ、2分よ』

 

『了解』

 

力を振り絞って身体を起こし、イレーネに・・・・・・・《覇潰の血鎌》に向かって少しずつ歩きながらセレスに確認をとる。

 

「綾斗!」

 

後ろからユリスの声が聞こえてくる。俺はユリスに返事は返さずただ、《覇潰の血鎌》に向かって歩く。

 

「イレーネ・・・・・・!」

 

残り十メートルを切ったところでイレーネに声をかける。だが、返ってきたのはイレーネが持つ《覇潰の血鎌》の不気味な嗤いだ。

 

「目を覚ませ、イレーネ!力と大切なものとを混同しちゃダメだ!イレーネ!本当に大切なものなら両手でつかめ!今、君が望むのはどちらの手だ!」

 

俺の叫びに一瞬、ほんの刹那の一瞬だけ、イレーネの瞳に光が戻る。

 

「あ・・・・・・」

 

異常な重力が掻き消え、紫色の光が陰り、世界が切り替わったかのような静寂が訪れる。

イレーネはプリシラさんの首もとから牙を外し、プリシラさんはイレーネの足元の地面へとゆっくりと落ちていった。

 

「イレーネ・・・・・・」

 

俺は再度イレーネに声をかける。

―――しかし、返ってきたのは。

 

「うあああああああああああああああああああああ!」

 

イレーネの絶叫と、先程以上の重圧だった。

 

 

 

『ものすごい衝撃波!まだ勝負はついていない!』

 

『校章による意識消失が宣告されてないッスからね』

 

 

 

解説者二人のそんな声が耳に入る。

イレーネはぐったりとうなだれ、その身体からは見る見るうちに生気が失われていく。が、それでもその右手は《覇潰の血鎌》を離さない。いや、離れないのだ。

 

『今のイレーネは《覇潰の血鎌》にとって使い手ではなく、ただの燃料供給機にすぎないわ!このまま、あの《覇潰の血鎌》に使われると、最悪精神が壊れるわ!』

 

『くっ!止める手は!』

 

セレスからの念話での会話に俺は解決策を聞く。

 

『《覇潰の血鎌》をイレーネの手から離すのよ!そして、《覇潰の血鎌》のコアを破壊する!』

 

『了解!』

 

その瞬間、俺はセレスと深く繋がった。

 

『『っ?!』』

 

俺の脳裏にある一つの映像が流れた。そこに写っているのは姉の遥だ。そしてその手にはセレスが・・・・・・《黒炉の魔剣》が握られていた。

 

『今のは・・・・・・・』

 

『まさか、遥と私の戦闘記録データ・・・・・・?けど、そんなことより・・・・・・・!』

 

『ああ・・・!やるよ!そしてイレーネを助ける!』

 

『もちろんよ綾斗!』

 

紫色の輝きに染められた世界の中で《黒炉の魔剣(セレス)》のウルム=マナダイトが赤色の光を放ち輝く。その光は徐々に輝きの強さを増し、じりじりと紙が焼けるかのように紫の輝きに染められた世界を侵食していく。

 

『《黒炉の魔剣()》は万物を焼き斬る魔剣!この世界に、私に斬れないものはないわ!』

 

セレスの確固たる意思の声を聞きながら、俺は星辰力をセレスに注ぎ込む。

 

「はああああっ!」

 

セレスは万物を焼き斬る防御不可能の魔剣だ。それなら、この世にセレスが斬れないものはない。

俺は渾身の力を込めてセレスで虚空を薙ぐ。

その途端、俺たちのいたステージ上の世界を覆い尽くしていた紫色の輝きが両断された。

俺とセレスが斬ったのは重力の根源そのものだ。

しかし、今の俺では力が断ち切れたのはほんの一瞬。だが、その刹那の時間で十分だ。

一瞬で間合いを詰め、下段から《覇潰の血鎌》を斬りつけ、イレーネの右手から離す。離れた《覇潰の血鎌》はくるくると回転しながら宙を舞い、

 

「天霧辰明流剣術中伝―――」

 

重力に従って墜ちてくる。俺は墜ちてくる《覇潰の血鎌》をすれ違い様に斬り落とし、地面に落ちた《覇潰の血鎌》のコアへと。

 

「―――"刳裡殻(くりから)"」

 

地面へ縫い止めるように刺し貫いた。

一拍置いて、硝子をこすり合わせたような不協和音がステージに響き渡る。

 

『はああああっ!』

 

「うおおおおっ!」

 

俺はセレスとともに全力でウルム=マナダイトを刺し突く。

 

『くっ!セレス!まだ行けるよね!』

 

『当然よ!』

 

セレスのその声を聞き、さらにセレスに星辰力を注ぐ。

やがて、セレスの刀身の先が《覇潰の血鎌》のコアを完全に貫き、そこから生じたひびにより、《覇潰の血鎌》は粉々に砕け散った。

地面へと膝から降りたイレーネはそのまま意識を失い、前に倒れた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

 

『《覇潰の血鎌》完全破壊、完了よ、綾斗』

 

『そう・・・・・・・』

 

セレスと息を整えながら念話していると。

 

 

 

『試合終了!Cブロック四回戦!激闘を制したのは天霧綾斗&ユリス=アレスクシア・フォン・リースフェルト!』

 

 

 

試合終了のアナウンスが聞こえると、今まで張り詰めていた身を解き、地面へと背中から倒れた。

 

『大丈夫、綾斗?』

 

『はは・・・・・・。しばらくは動けそうにないかも』

 

セレスと念話で話していたその時。

 

「うっ・・・・・・!」

 

『綾斗!』

 

俺の周囲に姉さんの禁獄の鎖が黒紫色の魔方陣とともに現れ、俺を縛り上げた。

 

「綾斗!しっかりしろ綾斗!」

 

『綾斗!しっかりして綾斗!』

 

ユリスとセレスの声が聞こえてくるなか、俺はあまりの激痛に意識を失った。

 

 

 



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お見舞いと看病

 

~オーフェリアside~

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

夕陽が照らす病院の廊下を私は静かに一人で歩いていた。目的の場所は廊下の端の病室。

その病室のプレートにはプリシラ・ウルサイスと表示されていた。

ノックをし、中に入るとベッドにはプリシラが静かに寝ていて、その隣ではイレーネが心配そうに見ていた。

 

「・・・・・・お邪魔するわよイレーネ」

 

「ああ・・・・・・オーフェリアか」

 

「・・・・・・気分はどう?」

 

「あたしはなんともないさ。・・・・・・ただ、プリシラがな」

 

「・・・・・・星辰力(プラーナ)切れね」

 

「ああ。あたしがプリシラの血を吸いすぎたせいだ」

 

イレーネはクシャっと顔を歪ませて、両の手を血が出るかと言うぐらい握りしめた。

 

「イレーネ・・・・・・」

 

なにも言えずにただ、悔しみと悲しみに満ちたイレーネを静かに見た。

そのとき。

 

「ん・・・・・・」

 

プリシラが軽く身動きをしたかと思うと、目を開けた。

 

「プリシラ?!」

 

イレーネはプリシラが目を覚ますや否や、瞬時にプリシラの方を見た。

 

「おねえ・・・・・・ちゃん・・・・・・?」

 

「ああ。大丈夫かプリシラ」

 

「うん。ここは・・・・・・」

 

「病院だよ。星辰力切れだってさ」

 

「そうなんだ」

 

「すまんプリシラ!あたしのせいで・・・・・・!」

 

「気にしないでお姉ちゃん。それより試合は?」

 

「それよりっておまえな・・・・・・」

 

プリシラの言葉に苦笑してイレーネは伝えた。

 

「・・・・・・負けたよ」

 

「そっか・・・・・・」

 

「ああ」

 

「《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》は・・・・・・?」

 

「壊れたよ。天霧が粉々に破壊したよ」

 

「そっか。天霧さんが・・・・・・。でも、それだと生徒会長さんに怒られちゃうんじゃ・・・・・・!」

 

「それがさっぱり、お咎めなしだってさ。まあ、依頼は達成できなかったから借金は減らないけどな」

 

「ふふ。そうなんだ」

 

「あーあ!あんだけ働いたのにタダ働きかよ。・・・・・・また、明日から地道に稼ぐとするか」

 

私は邪魔しないように、イレーネとプリシラの会話を静かに聞いていた。

そして、話に区切りがついたところで話し掛けた。

 

「・・・・・・体調はどうかしらプリシラ」

 

「あ。オーフェリアさん!」

 

「その様子だと、明日にはいつも通りかしらね」

 

「はい!オーフェリアさんにもご心配お掛けしました」

 

「いいのよ。それにイレーネの《覇潰の血鎌》の破壊を綾斗にお願いしたの私だもの」

 

「えっ!?」

 

「やっぱりか・・・・・・」

 

「・・・・・・あら、気付いていたのイレーネ?」

 

「まあな。ここ最近あんたが《覇潰の血鎌》の事について調べ回ってるって聞いてたからな。自分じゃ動けないから天霧頼んだ、そんなとこだろ」

 

「ええ。さすがに《覇潰の血鎌》の支配の進行具合が早かったのは私の予想外だったのだけど・・・・・・」

 

「安心しな。もう、なんともねえよ」

 

そういうとイレーネは口を広げて歯を見せてきた。

イレーネの歯には前まであった鋭い歯はなく、私やプリシラと同じ歯並びだった。

 

「・・・・・・よかったわ。また、失うかもしれなかったわ」

 

「オーフェリア・・・・・・」

 

私はイレーネやプリシラを失うことになるかもしれないと少し、いや、かなり危惧していたのだ。

失う悲しみは誰よりも知ってるから。

 

「あー。それとすまねえオーフェリア」

 

「・・・・・・なにが?」

 

「天霧の秘密がバレちまったの、あたしのせい・・・・・・だよな。すまん」

 

綾斗の秘密とは恐らくあのハルお姉ちゃんが綾斗にした封印のことだろう。

 

「イレーネが謝ることじゃないわ。いずれはバレることだったと思うし、それが少し早くなっただけ。綾斗も分かっているわよ」

 

「そう言ってもらえるとあたしとしては助かるぜ」

 

「・・・・・・それじゃ、私はこの辺で失礼するわね」

 

「あ、はい。ありがとうございました。天霧さんにもお礼を伝えてもらってもいいですか」

 

「ええ」

 

私はそのまま病室の扉に行こうとした。

のまえに。

 

「あ・・・・・・、ところで二人とも四日後って暇かしら?」

 

私はシルヴィアから頼まれていたことをした。

というより、私がシルヴィアとペトラさんに頼んだことなのだけど。

 

「四日後・・・ですか?」

 

「・・・・・・ええ」

 

「あたしは特に予定はねぇぞ」

 

「わたしも大丈夫ですよ」

 

「・・・・・・それなら、シルヴィアのライブに来ないかしら?」

 

「はっ?!」

 

「えっ!?ら、ライブにって・・・シルヴィアさんのライブですか!?」

 

「ええ」

 

「ですがシルヴィアさんのライブチケットはもう完売しているはずですよ?」

 

「・・・・・・大丈夫よ。丁度、イレーネとプリシラのチケットがあるから。良ければどうかしら?」

 

私はシルヴィア経由でペトラさんに無理言ってお願いしたチケットを表示させた。。ペトラさんにはかなり無理をしてしまったと思うのだけど、何故かすぐにチケットが送られてきた。予め予測していたのかな?というほどの手際のよさだと思う。さすがペトラさん。

 

「それじゃあお姉ちゃん、一緒に行こうよ」

 

「わかったよ。プリシラが行くならあたしも行くぜ」

 

「決まりね」

 

私はデータ化されている、シルヴィアのアスタリスク内でのライブチケットをイレーネとプリシラの携帯端末に送る。シルヴィアのチケットは一つ一つが複製できないよう特殊なシステムを使われているらしく、そのチケットに明記された人物でなければ使えないのだ。なんでも以前、紙売りのチケットのとき、それを転売したり複製したチケットが出たらしいのだ。そのため今はほとんどのチケットはデータ化されている。もちろん、携帯端末を持っていない人のための紙売りのチケットもあるが、そのチケットにもチケット番号が隠されて書かれているらしく、当人以外しか使用できないらしい。まあ、今の時代とはいえこういうライブのチケットなどはほとんどが紙なのだが。

すると、送られたチケットを見たプリシラさんの動きが止まり、目を見開いた。

 

「あ、あの、オーフェリアさんこのチケットってもしかして・・・・・・!」

 

「どうしたんだプリシラ?」

 

プリシラの同様に不思議に思ったイレーネが聞いた。

 

「お、お姉ちゃん!このチケット、プレミアムチケットだよ!」

 

「は?プレミアムチケット?普通のチケットとは違うのか?」

 

「違うもなにも、プレミアムチケットってシルヴィアさんのライブで特別なチケットなんだよ!しかも本来なら超VIPクラスの人にしか送られないんだよ!プレミアムチケットの噂はたまに聞いたことありましたけど、まさか本当に存在するなんて」

 

「へ、へぇー・・・・・・」

 

プリシラのすごい剣幕にイレーネは引き笑いをしていた。

 

「お、オーフェリア、知ってたか?」

 

「い、いえ。さすがに私もそれは知らなかったわ」

 

かくいう私もプリシラの変り身に蹴落されていた。

 

「・・・・・・それでなんだけど私たちは特別スペースで見るみたいよ」

 

「特別スペース?」

 

「・・・・・・・ええ」

 

私はユリスたちも来ることを伝え、そこで一緒に見ることを言う。

 

「なるほどな」

 

「・・・・・・ええ。そういうわけだから」

 

私は伝え終わると病室の扉の取っ手をつかんだ。

 

「・・・・・・それじゃ、失礼するわね」

 

「ああ」

 

「あ、はい!プレミアムチケットありがとうございますオーフェリアさん!」

 

「ええ。シルヴィアに伝えとくわ」

 

私はそういうとプリシラの病室をあとにして、自宅へと。綾斗とシルヴィアと住んでいる家へと帰った。

 

~オーフェリアside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~綾斗side~

 

 

イレーネたちとの試合。鳳凰星武祭(フェニクス)四回戦が終わった俺とユリスは、シリウスドームの控え室にいた。

そして、俺は絶賛ユリスから小言を受けていた。

 

「まったく。今回のことでおまえ力のことが周囲の連中に知られてしまったな」

 

「ご、ごめん」

 

あのあと、衆目の面前で姉さんの禁獄の能力による、力の再封印が発動し、俺の能力にはリミットが存在すると知られてしまった。そしてさらにそこから、俺が全開で戦えるのは精々5分ほど、だということも一部では噂になっているらしい。

 

「まあ、その代償として《覇潰の血鎌》は破壊できたのだから良しとするか」

 

「あれ、珍しいね。ユリスがそんなこと言うなんて」

 

「私がおまえからあの話を聞く前だったら違ったのだろうな。だが、あの話を聞いたあととなると話は別だ。さすがに・・・・・・いくら吸血暴姫(ラミレクシア)とはいえどもオーフェリアの友達だからな。あいつが悲しむ姿は見たくない」

 

「ユリス・・・・・・」

 

「と、とにかくだ!その状態で明日からの本戦は戦えるのか?」

 

「一応、このあと休めば明日には動けると思うけど」

 

「ほほう・・・・・・?」

 

眉を潜めたユリスは俺の左腕を掴み、持ち上げた。

すると、その瞬間。

 

「アイタタタ・・・・・・っ!」

 

全身に筋肉痛のような電撃の痛みが走った。

 

「今の時点で満足に動けないのに、明日までに万全な状態で動けるわけなかろうが!」

 

「ご、ごもっともで・・・・・」

 

確かに封印の全解放の後遺症で今の俺は満足に身体が動かない。というより、こうして横になって安静にしてなければならない状態だ。

そんな状態の頭のなかにセレスの声が響いた。

 

『ごめんなさい綾斗。私にもう少し力があれば・・・・・・』

 

『セレスのせいじゃないよ』

 

『けど・・・・・・』

 

『それに丁度よかったしね』

 

『???』

 

『この封印とちゃんと向き合うのに』

 

『そう・・・・・・』

 

実際、この封印と俺はキチンと向き合ってなかった。けど、今回の件がきっかけで限定的な力の解放ではダメだと理解した。

そう思っていると。

 

「・・・・・・無事か綾斗?」

 

「大丈夫ですか綾斗先輩!」

 

沙夜と綺凛ちゃんが控え室に入ってきた。

 

「沙夜、綺凛ちゃん」

 

「・・・・・・無事か綾斗?」

 

「あー、まあね」

 

俺が綺凛ちゃんにそういうと。沙夜がユリスに視線を向け。

 

「・・・・・・リースフェルト?」

 

「ったく。せいっ!」

 

沙夜の視線の意図を理解したらしいユリスが俺の左腕を持ち上げた。

 

「アイタタタ・・・・・・っ!ゆ、ユリス!?」

 

持ち上げられた瞬間、またしても激痛が走った。

 

「全然無事ではないのに嘘をつくからだ」

 

「うっ・・・・・・」

 

「・・・・・・まあ、それは仕方ない。本来のリミットを三分近く伸ばした上、さらに星辰力を使ったのだから」

 

「まあな」

 

ユリスも半ば呆れたように答えた。

するとそこへ。

 

「綾斗。今度《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》とのシンクロ率を確かめたいので、以前いらした計測室に来てもらっても構いませんか?」

 

クローディアがそう言ってきた。

 

「いいけど。どうして?」

 

「いえ。今回のことで綾斗と《黒炉の魔剣》のシンクロ率が変わっているかもしれないので」

 

「わかった。何時行けばいいかな?」

 

「では、四日後の早朝にお願いします」

 

「了解」

 

「・・・・・・そう言えばシルヴィアのライブも四日後だったな」

 

「ああ。そういえばそうだったな」

 

「今更なんですけど綾斗先輩」

 

「ん?」

 

「そ、その、わたしたちもチケットもらって良かったんでしょうか・・・・・・」

 

ユリスと綺凛ちゃんにはすでにシルヴィアのライブチケットは送ってある。沙夜のはオーフェリアが管理してる。何故かというと、いくらデータ化されているとはいえ、おっちょこちょいの沙夜に渡すと紛失したりしそうだからだ。

 

「大丈夫だよ綺凛ちゃん」

 

「・・・・・・問題ないはずだ綺凛」

 

「何故そこで紗々宮、おまえまで言う」

 

沙夜にお約束のユリスの呆れたツッコミが入る。

そのあと、明日のことを相談してユリスたちに手伝ってもらい自宅に帰った。ちなみにオーフェリアはイレーネとプリシラさんのお見舞いに行っていた。

自宅に着くと、すでにオーフェリアがいた。

 

「・・・・・・お帰りなさい綾斗。ユリス、沙夜ありがとね」

 

「気にするなオーフェリア」

 

「・・・・・・うん、これぐらいどうってことない」

 

「あはは。それじゃまた明日ね」

 

「ああ。それと綾斗、今夜はちゃんと休めよ?」

 

「わかってるって」

 

心配性なユリスに俺は苦笑いを浮かべて返す。

 

「大丈夫よユリス。私がちゃんと寝かせるから」

 

「なら、安心だな」

 

「なんで!?」

 

オーフェリアの放った言葉を聞いたユリスは満足そうにうなずいた。いや、なんで!?

 

「む?知らなかったのか綾斗?オーフェリアはリーゼルタニアの孤児院で小さな子供たちをよく寝かせつけていたんだぞ?」

 

「なにそれ!?俺初耳なんだけど?!」

 

「・・・・・・いつのまにか出来てたのよ」

 

視線をずらしてオーフェリアは頬を赤らめて言った。

そのあと、ユリスたちが帰り家のなかには俺とオーフェリアの二人だけになった。ちなみにシルヴィは現在、アスタリスク内にいなく、アスタリスク外でライブをしていたりする。まあ、ライブ前日の三日後には帰ってくるのだが。

 

「・・・・・・まずは四回戦突破おめでとう綾斗」

 

「ありがとう、オーフェリア」

 

「・・・・・・でも私のせいで綾斗、明日の試合・・・・・・」

 

「あー・・・・・・まあ、何とかするよ」

 

苦笑交じりの声で、心配するオーフェリアの頭を撫でる。

するとそこへ。

 

『綾斗くん大丈夫!?』

 

「シルヴィ!?」

 

「・・・・・・シルヴィア!?」

 

シルヴィが空間ウィンドウに顔を近づけて聞いてきた。

というより、いきなり現れた空間ウィンドウに至近距離からシルヴィの顔というのに、俺とオーフェリアはまずそこに驚いた。

 

『大丈夫綾斗くん!?待ってて、今すぐ帰るから!』

 

「いやいやいや!帰れないでしょシルヴィ?!明日もライブがあるんじゃないの!?」

 

『そんなことより私にとっては綾斗くんが心配なの!』

 

「(シルヴィってこんな性格だったかなぁ・・・・・・?オーフェリアといい、沙夜といい、どんどん幼馴染みたちが変わっていっている気がするよ・・・・・・。あ、沙夜の方向音痴は昔よりレベルが上がったっけ?)」

 

シルヴィのそんな切羽詰まった言葉に俺はどこか遠い眼をして昔を懐かしんだ。

そんなところへ。

 

『なにしてるんですかシルヴィア?』

 

「・・・・・・あ、ペトラさん」

 

ペトラさんがシルヴィの開いていた画面からひょっこりと顔をだした。

 

『あ、ペトラさん!今からすぐに六花に帰るよ!』

 

『・・・・・・綾斗君、説明をお願いします』

 

「あー・・・・・・実はカクカクシカジカ・・・・・」

 

シルヴィの行動に呆れながら訪ねてくるペトラさんに簡潔に説明した。

 

『一先ずは鳳凰星武祭の本戦出場おめでとうございます』

 

「ありがとうございます」

 

『それでシルヴィアは今すぐ帰って綾斗君の看病をしたいと?』

 

『うん!』

 

『はぁー・・・・・・。あのですねシルヴィア、ここから六花まで何時間かかると思ってるんです?着く頃にはもう明日の朝になってますよ』

 

『アチャアー。そうだったぁー』

 

『それに明日もライブがあるんですから無理です、不可能です、許可できません』

 

『そ、そこまで言わなくても・・・・・・』

 

『いいえ!これを気にシルヴィアとはすこしお話をしましょう。いくら綾斗君との交際を認めているとはいえ、あなたはクインヴェールの生徒会長にして歌姫、シルヴィア・リューネハイムなんですから、もう少し自覚を持ってください。他にもですね・・・・・・・・・・・・』

 

突如始まったペトラさんのお説教。

まるでマシンガントークのように連続で放たれる弾丸ならぬ言葉にシルヴィはシュンと汐らしくなっていた。

それから30分後。

 

『取りあえずはこのくらいにしましょう』

 

『はい・・・・・・』

 

ようやくペトラさんのシルヴィへのお説教が終わったらしい。というか今まで空間ウインドウ越しにそのお説教聞こえてたんですけど。

 

『さて、それでは綾斗君の看病はオーフェリアさんに任せるとして、シルヴィア私たちは明日の打ち合わせを軽く済ませますよ』

 

『はーい。それじゃあオーフェリアちゃん、綾斗くんのことお願いね』

 

「・・・・・・任せてシルヴィア。明日の試合までには回復させるわ」

 

「(明日の試合までには回復させるわ、って何するつもりなんだろ)」

 

オーフェリアの言葉に俺はそんなことが脳裏をよぎった。

 

『綾斗くんも気を付けてね』

 

「わかってるよシルヴィ。シルヴィこそ気を付けてね」

 

『もちろんだよ!』

 

「あはは。ペトラさん、シルヴィのことお願いします」

 

『わかってますよ。綾斗君も試合頑張ってください』

 

「ありがとうございます」

 

『それじゃあ、また三日後に会おうね綾斗くん、オーフェリアちゃん。沙夜ちゃんにも伝えてね』

 

「・・・・・・わかったわ」

 

「うん。それじゃお休み、シルヴィ」

 

『うん♪お休み~』

 

シルヴィは最後に片目を瞑って投げキッスをしてウインドウを閉じた。

さすがにそれには俺も顔を赤くするしかない。

シルヴィとのウインドウ越しの会話が終わり、俺とオーフェリアはそれぞれお風呂に入り、オーフェリアの作った夕飯を食べ、体力回復のため早めに寝ることにした。

ちなみにオーフェリアの料理はとても美味しかったです。

 

 



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追憶闘破
五回戦


~綾斗side~

 

 

―――《鳳凰星武祭(フェニクス)》十一日目

 

 

「まったく、たった一日でよくもまあここまで広まったものだな」

 

イレーネと闘った四回戦の翌日、《鳳凰星武祭》五回戦当日、俺はすっかり通いなれたシリウスドームの控え室に入ると、先に来ていたユリスが呆れ顔を浮かばせて大小様々な空間ウインドウの群れとともに出迎えてくれた。

 

「おはよう、ユリス」

 

「おはよう、綾斗。どうだ、全世界に自分の弱点を吹聴された気分は?」

 

訊いてくるユリスに俺は軽く肩を竦めて返す。

 

「体調はどうだ?」

 

「それに関しては問題ないよ。オーフェリアのお陰でなんとか回復したし。・・・・・・まあ、全力は無理だけど」

 

「ほう、昨夜は一体オーフェリアとなにをして過ごしたんだ?」

 

眉を潜めて意地の悪い笑みを浮かべてユリスが聞いてきた。

 

「え、あ、いや、なにもしてないからね!」

 

「冗談だ。それより・・・・・・・報道のほうはご覧の通りだ」

 

空間ウインドウに《鳳凰星武祭》関係の記事が映し出されているが、そのすべてが俺に関連するものばかりだった。

 

「報道のほうはまだあやふやな推測の域を出てないが・・・・・・出場選手の元へは各学園の諜報機関が調べた、より詳細なデータが渡っているだろうな」

 

「・・・・・・どれくらいまでバレてると思う?」

 

「さてな・・・・・・だが、どの学園もクローディアと同じくらいの情報は掴んでいると見た方がよさそうだな」

 

俺の封印について知っているのはシルヴィア、オーフェリア、ペトラさん、紗夜、ユリス、綺凛、レスターだけだ。だが、クローディアは何故か知っていた。考えられる推測は恐らくは星導館学園の特務機関《影星》の働きだろう。クインヴェールにも《ペネトナーシュ》と呼ばれる情報機関があるらしくそれと同機関なのたろう。だが、クローディアも俺の封印については詳しくは知らないらしい。

ペトラさんはこの辺りは知っているが、あの人はそう簡単に俺たちのことを言わないはずだ。というより、ペトラさんは俺たちの保護者のような感じなのだ。

 

「だが、大雑把な制限時間はイレーネ・ウルサイスとの試合が基準となるだろうな」

 

「そうか・・・・・・・」

 

その点については、諦めるしかない。

 

「問題は、おまえの反動のことまでバレていると言うことだ」

 

そう言うとユリスは手近な空間ウインドウを拡大して見せた。そこには関係者談ということで『どうやら彼は一度力を解放するとしばらく反動で身体を動かすのも大変になるという話も聞いたことがあります。なんでも、そうなると再び全力を出すには一定のインターバルが必要で・・・・・・』といった記事が載っていた。

 

「クローディアの調べでは、この噂の出所はレヴォルフらしいぞ」

 

「レヴォルフ・・・・・・・ってことは」

 

「ああ・・・・・・・十中八九《悪辣の王(タイラント)》だろうな」

 

レヴォルフの生徒会長。ディルク・エーベルヴァインは姉さんを知っているらしい。ならば、姉さんの能力、禁獄の縛鎖についえ知っていてもおかしくはないだろう。

 

「《悪辣の王》については文句の一つや二つは言いたいがこの際それは無視だ。とにかく今は目の前の相手を倒すのをどうにかしないとな」

 

深いため息をついて空間ウインドウを消しながらユリスが言った。

 

「俺たちの対戦相手は《界龍(ジェロン)》の序列二十位と二十三位のペアだっけ?」

 

「そうだ。三回戦でも《界龍》のペアとはぶつかっているが、それとは別格だと認識した方が良いだろう。なにしろ、あの《万有天羅》の直弟子だからな」

 

「だね。そうなると、どういう作戦で行く?」

 

「そうだな・・・・・・・。ああ、そう言えば二つほど聞きたいことがある」

 

「なに?」

 

「おまえの封印、一瞬だけなら力を解放できるか?」

 

「あー・・・・・・今の状態だと五秒だけ・・・・・・なら出来るけど。あ、でも試合の頃には少しだけなら・・・・・・一、二回ほどならできる、とは思う」

 

「ふむ。では二つ目だ、私のときもそうだがおまえの防御、封印されたままでもかなりのものだが、今の状態では出来るか?」

 

「その点については問題ないよ。ただ、相手が格上だと今の状態だと無理・・・・・・とは言えないけどキツいかもしれない」

 

「いやいや、そもそもおまえより格上の相手なんてイレーネクラス以上だろ。封印を解放していたらガラードワースの《聖騎士(ペンドラゴン)》クラスじゃないと相手にならないはずだ」

 

俺の言葉にユリスは呆れた口調で言った。

呆れた口調で言い終えると、至極難しい顔をして、しばし指を顎に当てて考え込んでいた。

やがて。

 

「―――よし、だとしたらこういう手はどうだ?」

 

顔を上げたユリスは、ニヤリと悪巧みを考えてそうな笑みを浮かべながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『や~って来ました!《鳳凰星武祭(フェニクス)》五回戦最終試合!ベスト8を勝ち取るのはどちらのペアか!』

 

『今年はレベルが高いッスからどのペアにも優勝の可能性はあるッスよ!』

 

『それでは、現在勝ち残っている注目ペアをご紹介していきましょう!』

 

『まずは、今大会の大本命。アルルカントの最新パペット!アルシィ&リムシィ!エルネスタ選手とカミラ選手の代理選手です』

 

『一回戦からの相手にまず一分間攻撃させてからの勝利は衝撃的だったッスね』

 

『続いて界龍の誇る双子の悪魔!《幻映創起》こと黎沈華(リーシェンファ)選手と《幻映霧散》こと黎沈雲(リーシェンユン)選手』

 

『多彩な攻撃からなす星仙術と双子ならではのトリッキーな技は極悪に質が悪いッスよ。これまですべての対戦相手を手玉にとって勝利してるッス』

 

『さらにさらに銀翼騎士団(ライフローデス)の誇りと名誉をかけて戦う。ガラードワースのドロテオ・レムスとエリオット・フォースター!』

 

『ドロテオ選手は三回目の星武祭出場となる歴戦の猛者ッス!エリオット選手は中等部ながら銀翼騎士団入りした若き天才ッス』

 

『鳳凰星武祭は星導館学園のもの。その意地を示せるか!刀藤綺凛&紗々宮沙夜!』

 

『接近戦に強い刀藤選手と火力で押す紗々宮選手の連携がはまりまくってるス』

 

『しかーし!星導館学園と言えばこれから試合の行われる天霧、リースフェルトペアも要チェックすね!』

 

『はい!純星煌式武装(オーガルクス)覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)を有するイレーネ、プリシラペアに見事勝利したッス』

 

『一方、天霧選手について様々な憶測が乱れ飛んでいます』

 

『報道されている内容が本当だとしたら大きなハンデっスよ』

 

『彼の能力解放によるダメージは回復しているのか?そして今度もあのパフォーマンスが見られるのでしょうか?さぁて、いろんな意味で注目するこの試合。星導館学園天霧綾斗、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトペア!そして界龍第七学院宋然(ソン・ラン)羅坤展(ルオ・クンザン)ペアの入場です!』

 

 

 

解説席からの言葉を聞きながらステージにユリスとともに入ると反対側の入場口から入ってきた対戦相手に声をかけられた。

 

「天霧君」

 

その声に俺とユリスは脚を止め相手を見る。

 

「君に関する噂の真相がどうあれ、我ら全力で相手をさせてもらう!」

 

「え・・・・・・」

 

「本音を言えば、万全の君と一対一で拳を交えたかったが」

 

「これはタッグ戦ルールの鳳凰星武祭だ。悪く思わないでくれ!」

 

「あ、いや、そんな・・・・・・」

 

「戦う前にそれだけ言っておきたかった」

 

「は、はあ・・・・・・」

 

それだけ言うと対戦相手の二人はステージに降り立った。

 

「なるほど。まさしく武人といった趣きだな」

 

「ああいう人たちもいるんだね」

 

さすがにああいう風に言われたのは初めてだったので驚きと意外の感想を口にしてユリスとともにステージに降り立つ。

 

 

 

 

『さあ、両選手でそろいました!』

 

 

 

 

 

「あちらはまず、おまえが全力で戦えないか試してくるだろう。そしてすぐに見抜く。・・・・・・真実だとな・・・・・・」

 

アナウンスを聞きながら、ユリスは対戦相手の二人に聞こえないように、小声で言う。

 

「だろうね・・・・・・」

 

「よし。いいか綾斗」

 

自身の煌式武装アスペラ・スピーナを起動させると、ステージの床に刃先を当て、小さくバツ印を書いた。

 

「ここが目印だ。よく覚えておけ」

 

「う、うん」

 

目印のバツ印を見ながら、再度確認を取った。

 

「合図は花火でいいんだよね?」

 

その問いにユリスは無言のうなずきで返した。

 

「それまでに条件をクリアしておけよ」

 

「了解」

 

ユリスと作戦を話終え、対戦相手の二人と相対し腰のポーチから《黒炉の魔剣(セレス)》ではなく、普通の片手剣煌式武装を取り出して起動する。

 

『頑張りなさい綾斗』

 

『うん。できる限りのことはするよ』

 

セレスからの思念通話での応援にそう答え、意識を集中させる。

 

 

 

 

『果たして、この五回戦を突破してベスト8へと進むのはどちらのペアか!鳳凰星武祭五回戦第八試合試合(バトル)・・・・・・開始(スタート)です!』

 

 

 

 

 

 

解説者の試合開始のアナウンスとブザーとともに試合が始まった。

先に仕掛けてきたのは界龍の宋選手だった。

 

「参る!はああああああっ!」

 

宋選手は一気に間合いを詰めて右の拳を放ってくる。

その攻撃を煌式武装の剣の腹で受けるが、ずんと重い衝撃が手から身体全体に伝わってきた。

まるで巨大な鉄球がぶつかってきたような衝撃に強く奥歯を噛み締める。

 

「ほおぅ!」

 

さらにそのまま身体ごとぶつかるように踏み込み、右の肘を腹部へと叩き込んできた。

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

とっさに星辰力を腹部に集中させてなんとか耐えるが、その一撃は膝から崩れ落ちそうになるほどの威力だった。

 

「あいぃ!」

 

そして追撃として、その場でくるりと回転すると、空気を裂くような裏拳を顔めがけて見舞ってきた。

 

「うわっ!」

 

瞬時に腕をあげてそれを逸らし、大きく後ろへ跳んで間合いを取った。

 

「なるほど・・・・・・どうやら噂は本当だったようだな」

 

そう言うと宋選手は、ゆっくりと構えを取った。腰を落とし、左足を大きく前に出した独特の形。構えからして、拳法の構えなのだろうが生憎、俺はそこまで中国武術は詳しくないため、流派まではわからない。

 

「(すごい・・・・・・。強いなこの人。芯がまっすぐで・・・・・・正に武人・・・・・・)」

 

宋選手を見ながら、頬を軽く拭いそう思考する。

正直三回戦の時に闘った相手とは比べ物にならない程の強敵だ。

 

「(やっぱり全力を出せないからか少しキツいな)」

 

ユリスとセレスには大丈夫だとああ言ったがさすがにこれはキツイ。

そう思いながらユリスの方を見ると。

 

「はあぁ!」

 

「咲き誇れーーー九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

羅選手と闘っていた。

 

「はあああぁ!」

 

そう思考しながら宋選手と相対していると。

 

「すまん綾斗!抜けられた!」

 

ユリスからの声が耳に聞こえた。

それと同時に脇腹に羅選手の持っていた棍が突き出された。

間一髪それをかわしたが、羅選手の棍は途中で軌道を変え、今度は上段から打ち下ろされた。

とっさに煌式武装を掲げて受け流すが、今度は反対側から回り込んでいた宋選手が雷光のような飛び蹴りを放ってきた。さすがにこれには間に合わず、脇腹に星辰力を集中させて衝撃を緩和するが、肉を抉られたような痛みが鋭く走る。

しかも宋選手は打ち下ろされた棍の上に爪先で着地し、羅選手は寸分の狂いもなくそれを跳ね上げた。

 

「なっ・・・・・・!」

 

完璧なコンビネーション。息の合ったプレイ。相手のことを完全にわかっているからこそできる芸当だ。

ここまでに到達するのには生半可ではない時間と修練が合ったのだろう。

宙に舞った宋選手は俺の背後に着地し、振り返るよりも早くその背中へ掌打が叩き込まれた。

 

「―――っ!」

 

先程の攻撃とは桁違いの衝撃が身体を貫いた。

一瞬意識が遠のきそうになったがなんとかそれを振りきり転がるように距離を保つ。

 

「ふむ。今の一撃に耐えるか・・・・・・さすがだな」

 

感嘆の色を滲ませて宋選手が呟くが、改めて構えるその動きには微塵の隙もない。それは隣の羅選手も同様だった。

 

 

 

 

『おおっと!あの天霧選手が一方的に攻められています!驚きの展開です。確かに栄、羅ペアの動きはすさまじいものだったですが・・・・・・』

 

『例のパフォーマンスもなし、星辰力(プラーナ)の練りこみも今までと段違い。やっぱり噂は本当なんじゃないッスか?』

 

 

 

 

解説者二人のそんな解説を意識の傍らで聞く。

その間にも宋選手と羅選手は挟み込むようにしながらじりじりと間合いを詰めてくる。

二人が丁度俺の左右にいるのを見て、視線を奥のユリスに見やる。

ユリスは小さくうなずき。

 

「綻べ―――赤壁の断焔華(ロロペタルム)!」

 

凜とした声と同時に、ステージの中央を中心に地面から吹き上がった巨大な炎の壁がステージの端から端までを二つに両断した。

 

 

 

 

『おおおおー?これはリースフェルト選手の技なのでしょうか、いきなり現れた炎の壁がステージを大分割!』

 

 

 

 

「これは・・・・・・」

 

宋選手は驚いた顔で高さ十メートルはある炎の壁を見上げていたが、すぐにその意図に気がついたらしい。

 

「なるほど、私と羅を分断したか」

 

宋選手の言う通り、俺は宋選手とユリスは羅選手と炎の壁で分断し、一対一の形を作り上げた。

 

「・・・・・・取り敢えずこれで一対一です」

 

「ほう・・・・・・一対一ならば勝機があると?」

 

「正直厳しいと思いますけど、だからと言って諦めるわけにはいかないでしょう?」

 

「ふふっ、それもそうだ。つまらぬことを聞いたなら。謝っておこう」

 

「いえ、気にしないでください」

 

構えを取りながら会話をし、俺のその言葉を最後に、再び俺と宋選手はぶつかった。

 

~綾斗side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ユリスside~

 

 

「どうした、その程度か?だとしたら噂ほどではないな、《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》」

 

「くっ・・・・・・!」

 

羅選手の猛攻をなんとか凌ぎながら私は思わず唇を噛んだ。

手はず通り、強制的に一対一の状況を作り出すことには成功した。私の策においてこれは必須条件だからここまでは順調だ。

だが、羅選手の実力は計算外だった。

 

「(これで序列二十三位だと?星導館(うち)でなら十分に《冒頭の十二人(ページ・ワン)》入りだぞ・・・・・・!)」

 

内心で舌打ちしつつ、連続で繰り出される棍を細剣型煌式武装アスペラ・スピーナで防ぎ、展開させた赤焔の灼斬花(リビングストンデイジー)で背後や上空から立体攻撃を仕掛けるが、羅選手は長い棍を器用に操り、有利な間合いを維持しながら私の焔の戦輪をまるで寄せ付けない。

 

「―――いや、違うな。この炎の壁の維持に力を裂いているのか」

 

しかも星辰力の大半を赤壁の断焔華に注いでいることも見抜かれた。

 

「これだけの火力をこれだけの規模で維持するとなれば、星辰力の消費も並大抵ではないだろう。そのため戦闘に使う分の星辰力を絞らざるを得ない」

 

「さて、どうかな」

 

綾斗に近接戦の特訓をしてもらってなかったらヤバかったであろう。本来ならば赤焔の灼斬花は十数個の戦輪を出すことが可能だが、今は一度の展開に最大で六つが限界だ。

 

「仮にそうだとしたら、これは上策とは言いがたいな。わざわざご大層なマネをしなくとも、一対一に持ち込む方法はあったろうに」

 

「仕方あるまい。私たちが勝つためにはこれしかなかったのだ」

 

「・・・・・・ほう。ということはまだ次の矢があるということか」

 

羅選手は棍を器用にくるくると回しながら、ニヤリと笑った。

 

「それは楽しみだが―――だったら早くすることだ。でないと壁の向こうは決着がついてしまうぞ?」

 

「それは私のパートナーが敗れると言いたいのかな?」

 

「今の《叢雲》の力ではオレたちに及ばない。あんたもわかっているだろう?」

 

「・・・・・・ああ、その通りだ。今の綾斗がおまえたちに勝つには、せいぜい上手く不意を打つくらいしかなかろうな」

 

「不意打ちか・・・・・・まあ、そんな隙を見せるほどオレも宋も甘くはないがな」

 

「・・・・・・・・・・」

 

お喋りは終わりとでも言うように、羅選手は棍を構え直した。

わずかに後退しながら、展開している戦輪を少しずつ防御の布陣へと組み替える。そして同時に、壁向こうの気配を探りながら横目でそっと地面を確認する。

 

「―――そこだ!」

 

と、その隙をつくように羅選手が動いた。

 

「しまっ―――」

 

「遅い!」

 

裂帛の突きが防ごうとした細剣を弾き飛ばして、そのまま私の胸に叩き込まれた。

 

「くぁ・・・・・・っ!」

 

反射的に身をよじって校章は守ったが、思いっきり吹き飛ばされた。

 

「(くっ・・・・・・!あばらが何本かいったな・・・・・・だが、このタイミングなら!)」

 

受け身をとってすぐさま体勢を整えると、赤焔の灼斬花を解除して意識を集中させる。

 

「させるものかよ!」

 

止めとばかりに追撃してくる羅選手に、痛みをこらえて小さく笑い、両手を開く。

 

「咲き誇れ―――六弁の爆焔花(アマリリス)二輪咲(デュオフロース)!」

 

両手に一つずつ小さな火球が生まれる。

だが、それでも羅選手は怯まずそのまま迫ってくる。

しかし私は右手の火球を羅選手ではなく、真上に向かって放った。

 

~ユリスside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~綾斗side~

 

「―――正直、感服する」

 

言葉とは裏腹に、どこか呆れた表情で宋選手が言う。

 

「ここまで私の攻撃を凌ぎきるとは、防御に徹していたとしても大したものだ。しかも明らかに君の反応はどんどんと良くなってきている。私の呼吸や間合い、攻撃のタイミングを見切ってきているのだろうな。優れた対応能力の証左と言えよう。だが―――悲しいかな、君の身体がそれについてきていない」

 

荒い息をつきながら宋選手から視線を外さず意識を集中させる。

 

「もし君が万全の状態であったら、この立場は逆だったかもしれん。いや、ここまで粘ることさえ出来なかっただろう」

 

「そんなことは、ないと、思いますけど」

 

呼吸を整えつつ、律儀にそれに応える。

宋選手の相手をしながら、ユリスのタイミングを待つ。

 

「だがこれ以上痛め付けることになるのは私としても忍びない。君に敬意を表して次で終わらせるとしよう」

 

宋選手が言いながら右の拳を握ると、一気にその拳に星辰力が集中した。

恐らくあの一撃は流星闘技クラスの一撃だろう。

 

「君がいかに防御しようが、この拳は防いだ武器や腕ごと粉砕する。まあ、君の純星煌式武装ほどではないが、防御するよりはかわすことをお勧めしておこう。無論、かわせればだが、ね」

 

いい終えると同時に、宋選手が一息で間合いへ踏み込んできた。

今の俺の星辰力では宋選手の言うとおり、防ぐことは出来ないだろう。例え一転に星辰力を集中したとしてもそれが破られるのは目に見えている。

大地を揺るがすような震脚と、えぐるような掌打。

だが、その掌打が俺の胸に届く寸前、俺と宋選手の頭上で小さな爆発が起こった。

 

「(ユリスからの合図―――!)」

 

「はあっ!」

 

俺はユリスからの合図を確認すると、一瞬だけ力を解放し、宋選手の掌打をかわして自分の背後にそびえる炎の壁へ向かって飛び込んだ。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

絶句したような宋選手の声が聞こえるが、すでに俺の意識はそこへは向いていない。

俺の姿が炎に飲み込まれるその直前で、まるで旧約聖書に記されたモーゼのように炎の壁が二つに割れた。

それと同時に、向こうからはユリスがこっちに飛び込んで来た姿が見える。

ユリスとすれ違い様に目線だけかわすと、炎で炙られながらも一瞬で俺は羅選手をユリスは宋選手へと目標をスイッチする。

 

「なんだと・・・・・・!?」

 

「まさかっ!?」

 

宋選手と羅選手の驚愕に目を見開きながら慌てて構えをとる姿が見えるがもう遅い。

 

「天霧辰明流剣術初伝―――"貳蛟龍"!」

 

「弾け飛べ!」

 

俺の煌式武装の切っ先が羅選手の校章を切り裂き、ユリスの左手に持った火球が宋選手の校章を打ち砕く。

 

 

 

 

 

校章破壊(バッジブロークン)

 

 

『試合終了!勝者、天霧綾斗&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト!』

 

 

 

 

校章の機械音声の判定後、試合終了と勝者の宣言が解説者席からアナウンスされた。

 

 

 

 



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来訪者

 

~綾斗side~

 

「はあー・・・・・・やっと戻ってこれた・・・・・・」

 

「まったく、しつこい以外ないぞ」

 

鳳凰星武祭(フェニクス)五回戦を終えた俺とユリスは控え室に続く廊下を歩きながらそうぼやく。

 

「だがまあ、一先ずはこれで準々決勝までコマは進めた。明日は調整日だからゆっくりと休めるはずだ」

 

「そうだね」

 

「言っとくが休みだからと言ってはめを外すなよ?」

 

「分かってるよ」

 

釘を刺す風に言うユリスに苦笑しながら控え室に向かって歩いていくと、通路の先、控え室の前に誰かが立っているのが見え足を止めた。

 

「ん?」

 

歩みを止めた俺に怪訝そうに眉をひそめたユリスは、視線の先を一瞬遅れて気づいた。

 

「ほう、これは意外な客だな。まさか祝福をくれに来たわけでもあるまい、どのようなご用件かな?」

 

控え室の前に立っていたのは、つい先ほど戦ったばかりの宋選手と羅選手だったのだ。

 

「そのまさかだ《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》」

 

「なに?」

 

宋さんの言葉にユリスは眉を上げた。

 

「天霧君。そして《華焔の魔女》。今回の試合、完全に我々の敗けだ」

 

「ああ。オレも宋も全力で闘って負けた」

 

「ただ、一つ心残りがあるとすれば、全力の君と戦ってみたかった」

 

「す、すみません・・・・・・」

 

「いや、すまない。君を責めているわけではないのだ」

 

宋さんの言葉に居た堪れなくなり謝罪をしたが、逆に宋さんが謝ってきた。

 

「《華焔の魔女》、あの作戦を考えたのは君だろう。発想といいタイミングといい、お互いを信頼していなければ出来ない素晴らしいコンビネーションだった」

 

「それは私も同じだ。私もそちらを甘く見ていた。素晴らしいコンビネーションだったのはそちらもだ」

 

「ありがとう」

 

ユリスと宋さんが手を握り、互いを健闘しあうなか俺も羅さんと手を握りあわせていた。

 

「だが―――気をつけたまえ。あの手の策は、次の相手には通じない」

 

「・・・・・・どういう意味だ?」

 

宋さんの言葉にユリスの瞳に剣呑な光が灯った。

 

「そう警戒しないでもいい。これは純粋な忠告だ。言葉通りに受け取ってくれ」

 

「そう言われてもな・・・・・・。第一に、何故おまえたちがそんなことを私たちに言う。次の相手はおまえたちの仲間なのだろ?」

 

俺とユリス、宋さんと羅さんの試合は五回戦の最終試合だったので、すでにつぎの次の対戦相手はわかっている。

次に俺とユリスが戦う相手は宋さんと羅さんと同じ界龍(ジェロン)のペアは黎沈雲(リーシェンユン)黎沈華(リーシェンファ)。界龍の《冒頭の十二人(ページ・ワン)》だ。

 

「同じ学園に所属しているからといって必ずしも仲間というわけでもないだろう」

 

「ふ、確かにな・・・・・・」

 

宋さんの言葉にユリスは言葉を濁らせて納得したようにうなずいた。宋さんの言う通り、同じ学園の中でも・・・・・・いや、同じ学園だからこそ、ゴタゴタは確かにある。特にこのゴタゴタで有名なのはオーフェリアのところのレヴォルフ黒学院だ。レヴォルフ内での抗争はよく聞く。アルルカントアカデミーも派閥抗争があると夜吹から聞かされたことがある。現に星導館もこの間サイラスの一件があるのだ。その点についてはどの学園も変わらないのだろう。唯一、ガラードワーズとクインヴェール女学園は分からない。まあ、クインヴェール女学園についてはたまに・・・・・・・というかよくシルヴィアとペトラさんがやつれた表情で愚痴を溢してるが。

 

「なに、単純な話だ。オレたちはあんたたちの次の対戦相手―――黎沈雲と黎沈華の二人はどうにも反りが合わない。だからと言ってやつらの弱点だのなんだのを教えるつもりはないが―――」

 

「私たちは君たちに好感を持った。少なくともあの双子よりね。だからエールを送りたくなった。それだけのことだ」

 

羅さんの言葉を引き継いで言った宋さんは苦笑を浮かべ、肩を竦めていった。どうやら本当にそれが本音らしい。

 

「わかった。では改めて聞くが・・・・・・策が通じないとはどういう意味だ?」

 

「そのままの意味だ。彼らは欺き、騙し、不意を打つことにかけては天才的な能力を持っている。君らがどのような策を練ろうと必ずそれを見破り、その上をいってくるだろう」

 

「だが、連中はおまえたちが今回見せたような戦法は絶対にとらない」

 

「なに・・・・・・?」

 

「俺たちがとったような・・・・・・?」

 

ユリスと俺が素直にそう聞き返すと、宋さんはその実直な瞳を俺に向けた。

 

「君たちの戦術は自分と相手を対等に考えた上でのものだ。そこには当然リスクが伴い、君たちはそれを受け入れている。つまり戦闘における駆け引きの一貫と言っていい。だからこそ負けた私たちも、こうして納得できる」

 

「だが連中は違う。同じ土俵に立とうとすらせず、常に相手を見下し、絶対的に有利な条件を構築して自らを決して危険に晒すことがない。そして好き勝手に相手を捻り潰す。そこには相手への敬意は存在せず、駆け引きの余地さえ与えない。それが黎兄妹のやり方だ。オレたちはそれがどうしても気に入らない」

 

宋さんと羅さんは両拳を血が滲み出るかのような強さで握り締めていた。するとそこに。

 

「やれやれ。無様に負けたと思ったら・・・・・・」

 

「その相手に人の悪口を吹き込んでいたとはね~?」

 

背後から人を馬鹿にするような声と足音が聞こえてきた。

 

「貴様ら・・・・・・!」

 

背後の二人を見て宋さんと羅さんは顔をピクピクと震えさせていた。宋さんに限ってはかなり怒りの表情だった。

 

「初めまして、《華焔の魔女》に《叢雲》。僕は黎沈雲」

 

「私は黎沈華。以後、お見知りおきを」

 

薄暗い通路の奥から話に上がっていた二人が薄い笑みを浮かべたまま、そう挨拶してきた。

 

「・・・・・・一体なんの用かな?」

 

双子の挨拶にユリスは警戒心を隠すことなく、簡潔に返した。

 

「いや、一応お詫びをしておこうと思って」

 

「詫びだと?」

 

「ええ、そちらにいる僕らの同輩が不甲斐ない試合をしてしまったみたいで」

 

「同じ師につく者としてお恥ずかしい限り」

 

一切の淀みもなく、黎沈雲の言葉を黎沈華が受け継ぐようにして喋った。

 

「(ああ。なるほどね)」

 

双子の喋りに宋さんと羅さんが怒りを覚えるのも納得できた。現に二人は目の前の双子に今にも掴み掛かりそうだ。俺はそれを手で制して。

 

「俺は宋さんと羅さんが不甲斐ないとは思わないけど?」

 

双子に向けてそう言った。

正直、これまでの試合でイレーネと戦ったときくらい宋さんと羅さんの二人との戦いは充実していた。不甲斐ないとはとても言い難い。

 

「いやいや、《万有天羅》の直弟子があの程度と思われては困るんだよなあ」

 

「だから、二人が見せられなかった世界を私たちが見せてあげる」

 

「「―――星仙術の深奥を、ね」」

 

双子は交互に言葉を紡いで、さも愉快そうに笑って踵を返して去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――どう思う?」

 

宋さんと羅さんと分かれ部屋に入ったユリスが少し間をおいて聞いてきた。

 

「かなりの強敵だと言うことは確かだね。宋さんたちが言っていたことも理解できたよ」

 

「私も同じだ」

 

あの双子は、宋さんたち二人の忠告通りの人物だと言うことは先程の会合でわかった。

 

「あの双子の対策は取り敢えず明日にしておこう」

 

「そうだね」

 

「話は変わるが、後三回勝ち抜けば晴れて私たちの優勝だが綾斗。おまえの望みはおまえの姉の捜索とオーフェリアの全所有権移譲でいいんだよな?」

 

「うん。ユリスはお金だっけ?」

 

「まあな」

 

それぞれの望みを聞きあっていると、来客を知らせる空間ウインドウが俺とユリスの間の空間に開いた。

 

 

『―――やっほー』

 

『ど、どうもです・・・・・・』

 

 

ウインドウに映ったのは紗夜と綺凛ちゃんだった。

二人とも別のステージで五回戦を闘い、無事に準々決勝へと駒を進めていた。

 

「わざわざこっちまで来てくれたんだ」

 

『お二人はお疲れでしょうし、せっかくですから早くお祝いを申し上げたくて・・・・・・』

 

「あ、じゃあ今開けるから」

 

そう言って空間ウインドウに表示されてるコンソールへ指を伸ばしかけたところに、慌てたように綺凛ちゃんが言ってきた。

 

『えっと、その前にもう一人お客さんがいらしているのですが・・・・・・ご案内してよろしいでしょうか』

 

「お客さん?」

 

綺凛ちゃんの言うお客さんに俺とユリスは首をかしげた。そんな俺らに紗夜が少し悪戯っぽく笑ってユリスに言った。

 

『そう。リースフェルトに、お客さん』

 

「私に?」

 

紗夜の言葉に不思議そうな顔で眉を寄せた。

よく分からないが、取り敢えず空間ウインドウのコンソールを操作して扉を開ける。

すると、入ってきたのは紗夜でも綺凛ちゃんでもない一人の女の子だった。

歳はだいぶ若い・・・・・・というより幼い。十歳前後で恐らく小学校高学年くらいの女の子だ。純朴そうでいかにも愛らしい女の子だが、ただ一点。気になるところがあった。それは、その女の子の格好が何故かメイド服、だったからだ。

その女の子はユリスを見付けるとあっけらかんとした笑顔で言った。

 

「姫様っ!」

 

女の子の言葉に一瞬理解できずにいると、ユリスが唖然とした、驚いた表情で言った。

 

「フ、フローラ・・・・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ―――キミはリーゼルタニアから一人で?」

 

「あい!フローラと申します。皆様、よろしくお願いします!」

 

部屋に入ってきたメイド服の女の子もとい、フローラと名乗った少女は直角になるくらい深々と頭を下げた。

聞くと、フローラちゃんはユリスが救おうとしているリーゼルタニアの孤児院からやって来たそうだ。

 

「受付で随分と難儀していたようなので話を伺ってみたら、リースフェルト先輩のお知り合いだとおっしゃるものですから・・・・・・」

 

「・・・・・・すごく目立っていた」

 

フローラちゃんを連れてきた綺凛ちゃんと紗夜の簡潔な説明に、目立ちながら右往左往戸惑っているフローラちゃんの姿が目に浮かんだ。まあ、メイド服を着た少女がうろついていたら、それだけで人目を引くのは当然だと思うが。

 

「あい、助かりました!ありがとうございます、沙々宮様、刀藤様」

 

「ったく、来るなら来るで連絡ぐらいしたらいいものを・・・・・・。それにその格好も兄上の入れ知恵なのだろう?」

 

「だって陛下が内緒で行ったら姫様が喜ぶって仰ってたので」

 

「あ、あの兄上め・・・・・・!」

 

「あはは」

 

ユリスのこめかみを押さえながら盛大にため息を吐く姿に俺は苦笑が生まれた。

 

「でもでも、フローラにとってはこれが普段着みたいなものですから」

 

「普段着って?」

 

「フローラは王宮付きの侍女として働きに出ているのだ」

 

ユリスの説明に、フローラちゃんが妙に着こなしてる感があるな、っと思った理由がわかった。

 

「あ、ねえ、フローラちゃん」

 

「あい?」

 

「故郷でのユリスって、どんな感じなのかな?」

 

つい疑問に思ったユリスのことをフローラちゃんに聞いた。

 

「・・・・・・なんだ、やぶからぼうに」

 

「いや、純粋に気になっただけだよ」

 

「そう言うのはオーフェリア辺りに聞けばいいだろう」

 

「いや、聞いたことはあるけど、それってオーフェリアがいたまでだからさ」

 

「・・・・・・それはそうだが」

 

オーフェリアの小さい頃の、リーゼルタニアの孤児院で過ごしていた頃のユリスとの関わりは何度か聞いたことはあったが、あまり詳しくないからだ。

 

「んー、どんなと言われましても・・・・・特に今と変わりませんよ?フローラたちと一緒にいるときは優しくて暖かくて、お城にいるときは凛々しくてかっこよくて―――だから今とおんなじです」

 

「へぇ、そっか」

 

フローラちゃんの言葉に俺は少しほっとした。恐らく、今のここ―――アスタリスクにいるユリスがユリスらしくいられる場所なのだろう。

 

「あ、そうだ!なんでしたら写真でも見ますか?」

 

「写真?」

 

「あい!フローラのケータイには孤児院で撮った写真がいっぱい入ってますから」

 

そう言うとフローラちゃんはいそいそとポシェットから携帯端末を取り出して、空間ウインドウに写真を写し出した。

 

「いや、もうそのくらいでいいだろうに」

 

「・・・・・・ほほう、それは興味深い」

 

「わ、わたしもちょっと気になります」

 

ユリスはあまり気乗りではないようだけど、紗夜と綺凛ちゃんは興味津々だ。

 

「えーと、これが一昨年の降誕祭(ヴァイナハテン)の時ので、これがみんなで大掃除したときの、それからこっちがハンナの誕生日の時ので・・・・・・」

 

フローラちゃんがウインドウに写し出す写真は大きな行事の集合写真から日常の一コマまで千差万別だ。だが、どの写真も一つだけ共通していることがあった。それは写真に写っているみんなが笑顔だと言うことだ。

 

「わぁ・・・・・・いっぱいあるのですね」

 

「できるだけ思い出を形にして残しておきたいと言うシスターがいてな。その人の影響で子供たちはことあるごとに写真を撮るようになったのだ。日常の写真が多いのもそのせいだ」

 

「へぇ・・・・・・。これって全部フローラちゃんが撮ったの?」

 

「あい!あ、でも幾つかはフローラじゃなくてシスターたちが撮ってくれたです!」

 

「そうなんだ」

 

「・・・・・・うん?」

 

「どうしたの紗夜?」

 

「綾斗、これ」

 

紗夜が見せてきた写真を見た俺は慌てて視線をそらした。なぜなら。

 

「ああ、それはフローラが姫様に髪を洗ってもらってるところです」

 

その写真には浴室において髪を洗っているユリスとフローラちゃん二人が写っていたからだ。・・・・・・しかもバスタオル一枚の姿で。

 

「―――っ!」

 

直後に声にならない悲鳴をあげたユリスが、フローラちゃんの手から携帯端末を奪い取って、一瞬ですべての空間ウインドウを閉じた。

 

「み、みみみみ見たか?見たのか?見たんだな?」

 

「い、いや、見てない見てない!」

 

「う、うう嘘だ!オーフェリアに絶対言ってやる!」

 

「ちょおっ!?ちょっ、ユリス!?」

 

「綾斗、オーフェリアとシルヴィア以外の裸を見るのはダメ」

 

「いやいや、今回は紗夜が見せてきたよね!?」

 

「・・・・・・そんなことない」

 

「ちょっとおぉぉ?!!」

 

結局何時もの慌ただしい会話が出来上がり、一悶着あってユリスがフローラちゃんに顔を真っ赤にして言った。

 

「フローラ、あれほどあの写真は消しておけと言っただろう・・・・・・!」

 

「うー、でもでも、せっかくの姫様との思い出が・・・・・・」

 

「う・・・・・・」

 

しょんぼりと項垂れるフローラちゃんに、ユリスは強く出れないのか、困ったように口を噤んだ。

するそこに。

 

『・・・・・・ごめん綾斗、ユリス。遅れたわ』

 

来客を告げる空間ウインドウに変装して黒髪のオーフェリアが写った。

 

「あ、今開けるよ」

 

空間ディスプレイを操作して扉を開け、オーフェリアを中にいれる。

 

「・・・・・・なにがあったの?」

 

入るなりオーフェリアはユリスとフローラちゃんを見て、俺たちを見て真顔でそう聞いてきた。

 

「あー。なにがあったというかなんと言うか・・・・・・」

 

「???」

 

「あはは・・・・・・」

 

「やれやれ」

 

言い淀む俺にオーフェリアは可愛らしく小首をかしげ、綺凛ちゃんと紗夜は苦笑いしていた。そしてその後ろではユリスとフローラちゃんがお話ししていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

「・・・・・・よりにもよってあの双子の悪魔とはね」

 

ユリスたちと分かれた俺とオーフェリアは自宅で向かい合って話していた。

 

「宋さんたちの様子とこれまで試合情報を見る限りかなりやりにくい相手みたいだね」

 

「やりにくいどころじゃないわよ」

 

「オーフェリアがそこまで言うの?」

 

「私は王竜星武祭(リンドブルム)で何回か星仙術の相手と戦ったことあるから」

 

オーフェリアは苦虫を噛み潰したかのように思い出して言った。

 

「星仙術の最大の特徴は万能よ。《万有天羅》はあの外見に反してかなり強いわ。恐らく私より強いんじゃないかしら」

 

「オーフェリアよりも・・・・・・!」

 

「ええ。その《万有天羅》に匹敵するかもしれないのが界龍の序列2位と3位ね。まあ、3位の彼女は王竜星武祭に絞ってるし、2位の彼はよくわからないし。噂では、《万有天羅》の最初の弟子と言われてるわ」

 

オーフェリアの説明に身震いがするほど寒気が走った。

 

「今の俺じゃ相手にならない・・・・・・か」

 

「・・・・・・ええ」

 

その人たちに対抗するには姉さんの施した禁獄の楔をすべて解放しないといけないはずだ。だが、一向に二つ目が外れる様子がない。恐らく何かしらの条件があるのだと思うが。

 

「・・・・・・あ、ところで綾斗」

 

「?」

 

「綾斗にお願いされたこと、イレーネに頼んどいたわよ」

 

「あ、ありがとうオーフェリア」

 

「別にいいのだけど・・・・・・ほんとに会うつもり?」

 

「うん。会って話を聞きたいし、どういう人柄なのかこの目で確かめたい。それに、姉さんのことを知ってるはずだ」

 

「・・・・・・そう。とりあえず気を付けてね」

 

「わかってるよオーフェリア」

 

俺がオーフェリアに頼んだことは、イレーネを通じてある人物に連絡を取るためだ。

その人物はオーフェリアの所属している学院、レヴォルフ黒学院生徒会長ディルク・エーベルヴァイン。《悪辣の王(タイラント)》だ。

 

 

 

 

 



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昼食と波乱の質問

 

~綾斗side~

 

「・・・・・・・・・・」

 

「すまんオーフェリア。私としても、おまえと綾斗との時間を奪いたくはなかったのだが・・・・・・」

 

「・・・・・・大丈夫よユリス」

 

「ホントすまん」

 

ユリスが本気で申し訳なさそうにオーフェリアに謝っている理由は、ユリスの隣で美味しそうにオムライスを食べているフローラが原因だった。

遡ること三時間ほど前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三時間ほど前

 

 

「・・・・・・綾斗用意は大丈夫?」

 

「うん。大丈夫」

 

「・・・・・・じゃあ行きましょうか」

 

「そうだね」

 

俺とオーフェリアは鳳凰星武祭(フェニクス)で二日ある全休みの内の一日の今日。明日帰ってくるシルヴィを迎えるために出掛けるところだった。

六花の住宅エリアにある自宅から出た俺とオーフェリアはまず商業エリアに来ていた。

 

「・・・・・・そう言えば綾斗、ユリスは今日なにしてるのかしら?」

 

「確か昨日いたフローラちゃんにアスタリスクを案内するって言っていたよ」

 

「・・・・・・そう」

 

商業エリアで買い物などして二時間ほど過ぎたころ。

 

『すまん、綾斗。ちょっといいか』

 

「ユリス?」

 

ユリスから電話が来た。

 

「・・・・・・どうかしたのかしらユリス?」

 

『む、オーフェリアと一緒だったのか』

 

「うん。ところでどうしたのユリス?」

 

『ああ、すまないが綾斗、今すぐ会えないか?』

 

「え?」

 

『実はフローラがおまえと昼食を供にしたいと言っていてな。それに聞きたいことがあるらしい・・・・・・オーフェリアと一緒のところホントすまない』

 

「それはいいけど・・・・・・ちょっと待ってて」

 

ユリスにそう言ってオーフェリアに視線を向ける。

オーフェリアは少し考えたあと、ユリスに。

 

「・・・・・・ユリス、それ私も行ってもいいかしら?」

 

『ああ、かまわない』

 

「・・・・・・じゃあ行くわ」

 

『すまないなオーフェリア』

 

「・・・・・・別にいいわよ。それで待ち合わせ場所はどうするのかしら?」

 

『どこかいいところはないか?こっちは今メインストリートの辺りでな。それに今の時間帯はどこも混雑しているからな』

 

「・・・・・・なら、ここはどうかしら?」

 

オーフェリアはそう言うと空間ウインドウを開き、いくつか操作すると一つのカフェらしきお店を映した。

 

「・・・・・・ここなら大丈夫だとも思うし、結構な穴場らしいわ」

 

『なら、そこにするか』

 

「・・・・・・ええ。1時間後でいいかしら。私たちも丁度外にいるから」

 

『わかった。では1時間後にな』

 

ユリスはそう言うと通信を切った。

 

「それにしてもオーフェリア、よくあんな場所知っていたね」

 

「・・・・・・綾斗の学友の夜吹から教えてもらったのよ」

 

「夜吹から?」

 

「ええ。穴場だから今度綾斗を誘っていってみたらどうだって」

 

「いつの間に・・・・・・」

 

オーフェリアがいつの間に夜吹から情報をもらっていたことに驚いた俺は、夜吹からの貸しが高くならないことを祈っていた。

 

「取りあえず一回家に荷物を置きに戻ろうか」

 

「・・・・・・そうね」

 

ユリスと合流するため、俺とオーフェリアは買った荷物を置きに一度家に帰ることにし、その場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後

 

 

「ふわぁ~!すっごく美味しかったです!」

 

「ああ、もお・・・・・・ほら、ケチャップがついているぞ。・・・・・・よし、取れた」

 

「ありがとうございます!」

 

ユリスとフローラちゃんと合流した俺とオーフェリアは、オーフェリアが夜吹から教えてもらったカフェにいた。

 

「それにしてもオーフェリア、よくこんな店を知っていたな」

 

「・・・・・・夜吹に教えてもらったのよ」

 

「なに?夜吹だと?」

 

「・・・・・・ええ。彼は私と綾斗との関係を知っているでしょ?」

 

「そう言えばそうだった。幸い、アイツもこの事は言い触らしてないようだな。まあ、言い触らしていたら私の炎で消し炭にしてやるところだがな」

 

「あはは。それは夜吹が可哀想だよ・・・・・・」

 

「アイツのお陰で苦労したことが山程あるからな。今回のことで相殺してやるつもりはない!」

 

ユリスは腕を組んで夜吹の不満を言った。

ユリスの感じから、一体夜吹はなにをしたのか気になった。

 

「それで・・・・・・俺に聞きたいことってなにかなフローラちゃん」

 

「あ、あいっ!ちょっと待っててください!」

 

そう言うとフローラちゃんは思い出したかのようにポシェットを開いてゴソゴソとしてそこからピンクの手帳を取り出した。

 

「ええっとですねぇ・・・・・・」

 

「?」

 

手帳のページを捲るのを止めたフローラちゃんの視線の先を追い掛けると、フローラちゃんは隣の席のシルヴィと同じクインヴェールの学生たちを見ていた。

正確には、彼女たちのもとに運ばれたパフェを見ていた。

 

「お待たせしましたぁ~、ジャンボパフェで~す」

 

店員が彼女たちのもとにそのパフェを置くと、彼女たちからは歓喜の声が沸き上がった。

 

「・・・・・・あれってノンシュガーってグループの子よね?クインヴェールの序列54位と37位の」

 

「みたいだね。あとの二人は分からないけどシルヴィと同じ制服着てるからクインヴェールの学生じゃないかな」

 

「・・・・・・そういえばクインヴェールの子が多いわね」

 

小声で話す俺とオーフェリアは周りを視線だけで見渡して言う。

するとユリスが。

 

「なんだ、おまえもあれが食べたいのか?」

 

と、フローラちゃんに聞いた。

 

「あ、えっと・・・・・・あい」

 

フローラちゃんは少し躊躇うかのように視線を宙に見やって恥ずかしそうに答えた。

 

「まぁ、別に構わんが」

 

「わーい、ありがとーございます!」

 

ユリスはウェイターを呼び、新たに隣のクインヴェールの子たちが頼んだ物と同じパフェを注文した。

しばらくしてウェイターがパフェを運んでやってきた。

 

「ジャンボパフェで~す!」

 

「うわあぁ・・・・・・!」

 

運ばれてきたパフェを嬉しそうに食べるフローラちゃんを見て、ユリスに視線を向けた。

 

「・・・・・・なにをジロジロ見ている」

 

「ああ、いや。案外、子どもに甘いんだなって思ってさ」

 

「意外か?」

 

「少しね」

 

自分にも他人にも厳しいユリスの意外な一面を見れたことに驚いていた。

 

「あれ、オーフェリアは意外って顔してないね」

 

しかし、俺とは対極的にオーフェリアはユリスの行動が分かっていたかのような表情でユリスとフローラちゃんを視ていた。

 

「・・・・・・まあ、ね。私もその子と同じ孤児院に少しだけどいたからわかるのよ。それにあそこじゃこんな甘味なんて滅多に味わえないから」

 

「なるほどね」

 

小さな声で会話し、フローラちゃんの髪を優しく撫でるユリスに視線を向けると、その視線に気づいたのかユリスが苦笑気味に言った。

 

「―――ま、大体はオーフェリアの言っていた通りだ。仕方あるまい。この子たちは人に甘えるということがあまりできないのでな。シスターたちは立場的に無理だし、フローラくらいの歳になると自分より年下の面倒を見るのが普通だ。だから私くらいには、精一杯甘えさせてやろうと決めてるんだ。あの子たちは私にとって、可愛い妹や弟。家族みたいなものだからな」

 

パフェを幸せそうに食べるフローラちゃんを優しく撫でるユリスを見ていると、ふいに姉の姿が思い起こした。

 

「(甘えさせてくれる姉、か・・・・・・。そう言えば姉さんも俺にはずいぶん甘かったっけ)」

 

イレーネとプリシラさんたち姉妹のときもそうだったが、ここ最近妙に感傷的になっていた。

 

「(やっぱり姉さんがいないと寂しいのかな・・・・・・)」

 

イレーネとプリシラさん。そしてユリスとフローラちゃんの姿を見て俺はそう思った。

すると。

 

「・・・・・・綾斗、ハルお姉ちゃんのこと思い出していた?」

 

オーフェリアが俺の目を覗きこんで言ってきた。

 

「あ、うん。ユリスたちの姿を見ていたら、ね」

 

「・・・・・・そう。私も、よ」

 

「え?」

 

「私もイレーネやプリシラを見ているとハルお姉ちゃんやウルスラお姉ちゃんのことを思い出すの」

 

姉さんもそうだが、ウルスラ姉さんは俺たちのことを実の弟や妹のように可愛がって、甘えさせてくれた。

昔を振り返ってみると、そんななんの変哲もない楽しかった日常の日々が脳裏によみがえる。

そう思っていると、ユリスが。

 

「それに、王女ではなく私としてはこの子たちにはもう少し楽に過ごさせて上げたいからな」

 

と言った。

そこにフローラちゃんが。

 

「あ、でもでも、最近は姫様が仕送りをしてくれるのでだいぶ楽になったってシスターたちが言ってました!」

 

口の周りにクリームをつけたまま言った。

 

「へぇ、仕送りなんてしてたんだ」

 

「べ、別に大したことではない。《冒頭の十二人(ページ・ワン)》の特別褒賞金だ。どうせ他に使い道があるわけでもないしな」

 

《冒頭の十二人》になると学費の免除はおろか、毎月学園から一定の褒賞金が支給されるのだ。俺も《冒頭の十二人》になって初めて受け取った褒賞金の金額の明細を見てかなりビックリした。何故なら、学生の身分としてはかなり過分な金額だったからだ。これでは序列争いも苛烈になるというものだとわかった瞬間でもあった。

ちなみに褒賞金のほとんどは貯金してある。俺も使い道には少し困っているのだ。まあ、オーフェリアの所有権をすべて奪取したらそのときは、シルヴィとオーフェリアに指輪でも送ろうかなと思っていたりする。それに、使い道には少し困っているが、将来的には多分だけど助かると思っていたりする。ちなみにオーフェリアとシルヴィの褒賞金も合わせるとそれは数百万は超す金額だったりする。

そんなところに。

 

「姫様姫様っ!」

 

フローラちゃんがユリスを制服の裾を引っ張って呼んだ。

 

「?どうした」

 

「あーんしてください、姫様」

 

そう言ってスプーンを差し出すフローラちゃんに、ユリスは苦笑して口を開けた。

 

「えへへ!」

 

「・・・・・・ふむ、なるほど・・・・・・うん、これは美味しいな」

 

「あい!舌がとろけそうです!」

 

フローラちゃんにあーんされたユリスは納得したようにうなずいてフローラちゃんの髪を撫でた。

その光景はさながら仲の良い姉妹のようだった。

そう思いながら見ていると。

 

「あ!せっかくですから天霧様もどうぞ!」

 

フローラちゃんがスプーンを差し出して言ってきた。

 

「んなっ!?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「え?俺ももらっていいのかい?」

 

「もちろんです!姫様もシスターも、美味しいものはみんなで分け合ったほうがより美味しいって、いつも言ってますから!ね、姫様?」

 

無邪気にフローラがユリスに言うと、ユリスはなぜか顔を真っ赤にして俯いた。

 

「い、いや、そ、それはそうなのだが・・・・・・で、でも、そのスプーンはだな、たった今私が・・・・・・それにオーフェリアとシルヴィアに・・・・・・」

 

ユリスは俺の隣で優雅に紅茶を飲んでいるオーフェリアを見たりして、なにやら小声でごにょごにょと言っていた。そんなユリスにオーフェリアが。

 

「・・・・・・大丈夫よユリス。私はそのくらいで気にしないわよ」

 

「い、いや、しかしだな・・・・・・」

 

「・・・・・・それに綾斗は超が付くほど鈍感だから。このせいで私とシルヴィは大変だったわ」

 

「あぁ・・・・・・苦労したんだなオーフェリア」

 

「ええ・・・・・・」

 

オーフェリアに同情するような眼差しをするユリスに疑問符を浮かべていると、フローラちゃんがよいしょとテーブルに身を乗り出し、スプーンを差し出してきた。

 

「じゃあ、はい!天霧様も、あーん」

 

「・・・・・・あーん」

 

俺も仕方なく苦笑して口を開くと、程なく口の中いっぱいにふわりとした甘味の甘みが広がった。

 

「―――ん、本当だ。これ、すごく美味しいね」

 

「あい!あ、ランドルーフェン様もどうぞ!あーん」

 

「・・・・・・え、えっと、じゃあ・・・・・・あーん」

 

フローラちゃんはオーフェリアにも俺と同じようにあーんをした。さすがのオーフェリアも少し恥ずかしいのか頬を赤らめて長い髪が邪魔にならないよう押さえて口を開いた。

 

「―――・・・・・・本当。美味しいわねこれ」

 

「あい!」

 

どうやらオーフェリアも絶賛するほど美味しかったらしい。濃厚なクリームと彩色豊かなフルーツの酸味が程よいバランスで調和し、いくらでも食べられそうな感じだ。オーフェリアが夜吹から教えてもらってだけあって、食事もデザートも隙がないレベルの高さだ。これは確かに女子からの人気が高いというのも納得できる。教えてもらった夜吹には感謝しかない。

 

「・・・・・・今度シルヴィアと一緒に来ましょうか」

 

「それ良いかも。どうせなら紗夜も一緒に連れてこよっか」

 

「・・・・・・良いわね。たまには幼馴染み4人で過ごしたいわ」

 

「じゃあ決まりだね」

 

また今度、俺、オーフェリア、シルヴィ、紗夜の4人でこの店に来ることが決まった。たぶんシルヴィには絶賛すると思う。紗夜は・・・・・・・・・・わかんないけど。

 

「ありがとう、フローラちゃん」

 

「・・・・・・ありがとう、フローラ」

 

「えへへへー」

 

俺とオーフェリアがお礼を言うと、フローラは嬉しそうにはにかんだ。

その一方ユリスは顔は少し赤いが、なんとも言えない複雑な表情をして俺を見てため息を吐いていた。

 

「ええっと・・・・・・ユリス、どうかした?」

 

「い、いや!なんでもない!それよりフローラ、聞きたいこととやらはどうした?さっさと済ませてしまえ!」

 

「あーい」

 

どこか急かすようにユリスが言うと、フローラちゃんはスプーンを口に咥えたまま先程取り出した手帳のページを再びめくり始めた。

 

「はぁ・・・・・・まったく、ようやく本題か」

 

「んーと、まずはどれだったかな・・・・・・」

 

探してるところから見るとどうやら質問と言うのは複数あるみたいだ。

 

「あ、これですこれ!」

 

目的のページを見つけたのかフローラちゃんは、俺に向き直ると、たどたどしく手帳を読み上げた。

 

「それでは一つ目の質問です。えと、『天霧様と姫様の関係はどの程度まで進展されているのですか』?」

 

「「ぶふっ!?」」

 

フローラちゃんが質問を読み上げた瞬間、ユリスとオーフェリアが飲んでいた紅茶で思い切りむせた。

 

「え?」

 

「な、ななななんだその質問は!?」

 

思わず立ち上がって声を張り上げたユリスは、ハッ!と他の客の視線が集中していることに気付くとすぐに腰を下ろし、低く小さい声でフローラちゃんに詰め寄った。

 

「・・・・・・その質問、おまえが考えたものではないな?」

 

「あい!陛下が『将来弟になるかもしれない少年について、これらのことを調べてきて欲しい』って!」

 

「お、おのれ兄上め・・・・・・!」

 

ユリスの瞳にメラメラと炎が燃え上がったのが見えた瞬間、隣から炎が燃え上がっているユリスとは対極的に冷たい、永久氷解のような空気が流れてきた。

隣にいるオーフェリアをチラッと視てみると。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「!?」

 

オーフェリアは無言のまま手に持っているカップの中身の紅茶を飲んでいた。が、その目は光が、ハイライトが失くなっていた。そしてなにより、オーフェリア全体から、氷のような冷たい風が流れ出ていた。

 

「オ、オーフェリア落ち着いて・・・・・・!」

 

慌ててオーフェリアを落ち着かせる。

このままだとたぶんオーフェリアの魔女(ストレガ)としての力が暴走する恐れがあるからだ。さすがにオーフェリアにこれ以上悲しいことはさせたくないため、慌ててオーフェリアを正気に戻す。

俺がオーフェリアを正気に戻そうとしている最中、ユリスは。

 

「これは没収だな」

 

「ダ、ダメです!フローラが仰せつかったお仕事ですから、ちゃんと最後までやらせてください!」

 

「却下だ!」

 

フローラちゃんから手帳を没収して、やいのやいのしていた。

そんなところに。

 

「あ、あのぉ・・・・・・お取り込み中、すみません。ちょっといいでしょうか・・・・・・?」

 

一人の女の子がおずおずと話しかけてきた。

突然話しかけてきた女の子に、ユリスとフローラちゃんも手を止め、何事かといった顔でその子を見た。

 

「ええっと・・・・・・天霧綾斗さん、ですよね」

 

「そうだけど・・・・・・?」

 

「申し訳ありませんが、少しお付き合いいただけますか?」

 

「え・・・・・・?」

 

女の子の急な申し出に困惑していると、オーフェリアが小さな声で。

 

「・・・・・・早いわね」

 

そう言ったのが耳に入った。

 

「あ、す、すみません。申し遅れましたが、私はレヴォルフの生徒会長秘書を務めている樫丸ころなと申します」

 

オーフェリアと同じレヴォルフの制服を身に包んだ女の子、樫丸さんはあたふたと頭を下げた。

 

「それで、その―――会長がお待ちです」

 

「会長だと・・・・・・?」

 

樫丸さんの言葉にユリスの表情が一瞬で引き締まり、剣呑な光がその目に宿った。

 

「《悪辣の王(タイラント)》が私のタッグパートナーに何のようだ・・・・・・?」

 

「ひぃ・・・・・・っ」

 

「ああ、待ってユリス。それは俺が頼んだんだ」

 

「なんだと?どういうことだ」

 

「あとで話すよ。ユリスとフローラちゃんはここで待ってて」

 

「待て、そういうことなら私も同行させてもらおう」

 

「え?で、でも会長は天霧さんを・・・・・・」

 

「―――なにか問題があるのか?」

 

「ひいいっ!」

 

殺気にも似た迫力が込められたユリスの言葉に樫丸さんはさらに後ずさった。端から見たらイジメているようにも見えなくはないが・・・・・・。そう思ったところに。

 

『構わねぇよ。連れて来い、ころな。せっかくだ、《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》の面も拝んでおこうじゃねぇか』

 

突然樫丸さんの前に暗転した状態の空間ウインドウが展開された。

低く、威圧的で、刺々しい声だ。そしてその声の主は続けて。

 

『それにそこにいるんだろオーフェリア。お前も一緒に来い』

 

「・・・・・・言われなくても初めからそのつもりよディルク」

 

オーフェリアが声の主をディルクと言ったことから、この声の主がレヴォルフの生徒会長、《悪辣の王(タイラント)》ことディルク・エーベルヴァインだとわかった。そして、ディルク・エーベルヴァインの口ぶりからこちらの会話は筒抜けだったらしい。

 

「は、はい、わかりましたっ」

 

樫丸さんは慌てた様子で空間ウインドウに一礼した。

印象から見て、正直レヴォルフの学生らしくなくて少し面白かったりする。

 

「フローラ、すまんがそういうわけだ。一人でホテルまで帰れるな?」

 

「あい!大丈夫です!」

 

フローラちゃんにユリスがそう言うと、先導する樫丸さんに従って店を出た。俺とオーフェリアもフローラちゃんに軽く手を振ってあとを追いかける。

樫丸さんのあとを追いかけてしばらくして、商業エリアから抜け、外縁居住区の大通りへと出た。

そしてその角に、巨大な黒塗りの車が止まっていた。

車はリムジンタイプで窓は大きく取られてはいるが、外からからは中を見通すことができない。

 

「こちらです」

 

樫丸さんがその車のドアを開けると、車内の一番奥に、くすんだ赤髪のレヴォルフの制服を着た青年が座っていた。背は低く、小太りで、ねめつけるような目には暗く深い苛立ちのようなものが燻っている。

 

「―――入れよ」

 

青年、いや、レヴォルフ生徒会長ディルク・エーベルヴァインの声に俺とオーフェリア、ユリスは顔を見合わせ、小さくうなずいて中へと足を踏み入れた。

 



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悪辣の王(タイラント)

 

~綾斗side~

 

俺、オーフェリア、ユリス、フローラちゃんの4人で昼食を取っていたところに、突然現れたレヴォルフの生徒会長秘書を務めているという樫丸ころなさんに案内され、フローラちゃんを除いた俺たち3人は《悪辣の王(タイラント)》のいる黒塗りの車に乗り込んだ。

目の前には樫丸さんともう一人、くすんだ赤髪の青年が座っていた。その人物こそレヴォルフの生徒会長にして《悪辣の王》と呼ばれる、ディルク・エーベルヴァインだ。

 

「―――てめぇが《叢雲》か?」

 

車が走り出すと、会口一番に《悪辣の王(タイラント)》が俺にそう言った。

 

「ふっ。ぼんやりした面だな。こんなのが序列一位だとは、星導館もたかが知れるってもんだな」

 

「・・・・・・あら?あなたの言う、ぼんやりした面っていう、星導館の序列一位の綾斗をイレーネに潰すように言ったのは誰だったかしらね・・・・・・ディルク?」

 

ディルク・エーベルヴァインをオーフェリアは挑発するように言い返した。

そんなオーフェリアの言葉にディルク・エーベルヴァインは惚けるようにして答えた。

 

「なんのことだオーフェリア。意味がさっぱりだが」

 

「よくもぬけぬけと!先日、確かにイレーネ・ウルサイスが言ったぞ!キサマが―――!綾斗を!」

 

「落ち着いてユリス」

 

「・・・・・・ユリス、落ち着いて」

 

「綾斗・・・・・・オーフェリア・・・・・・しかし・・・!」

 

「イレーネはあの場限りで話してくれたんだ。それにディルク・エーベルヴァインがやったと言う証拠はどこにもないよ」

 

「・・・・・・それにユリス。そうしておかないと彼女やプリシラの立場が危ういわ」

 

「・・・・・・わかった」

 

俺とオーフェリアの説得に、ユリスは納得はいかないようだがしぶしぶ引き下がってくれた。

 

「ほぉ・・・・・・頭の方はそれなりに回るか」

 

「ええ。俺が聞きたいことはそれとは関係ありませんから」

 

「ああ、そうだったな。だが話をする前に言っておくぜ。オレはてめぇの質問に答えてやる義理はねぇ。それだけはよく覚えておけよ」

 

「では、なぜあなたはここへ?」

 

「そうだな。ただの気まぐれと言ったところか」

 

「忙しいであろう生徒会長殿がわざわざ、ただの気まぐれで?まさか」

 

「・・・・・・」

 

「俺にもあなたに提供できるものがなにかある。そうでしょう?」

 

「・・・・・・その通りだ。なにかを得たいと思うなら、代償を差し出さなけりゃ取引は成立しねぇ」

 

「・・・・・・なら、ディルク。あなたは代償の代わりとなるなにかをちゃんと持ってるのかしら?それに見合う情報を」

 

「ふっ。《叢雲》とつるむようになってから随分と喋るようになったじゃねぇかオーフェリア」

 

「・・・・・・別につるんでないわ。私は綾斗の・・・・・・。いえ、綾斗たちの傍にいたいだけよ」

 

「まぁいい。―――合格だ《叢雲》。何が聞きたい?」

 

「姉さん―――天霧遥について、あなたの知っていること全て」

 

「・・・・・・生憎とオレもそれほど多くのことを知ってるわけじゃねえ。一度見たことがあるってだけだ」

 

「どこで?」

 

「―――《蝕武祭(エクリプス)》」

 

「なっ!」

 

素っ気ないディルク・エーベルヴァインの言葉にユリスが驚いたように目を見開いた。

 

「それ以外は?」

 

だが、その情報はすでに俺もオーフェリアも。もちろんシルヴィも紗夜もペトラさんから聞いて知っている。

 

「ほお。その様子じゃあ、《蝕武祭》のことを知ってるようだな」

 

「ええ。非合法・ルール無用の裏の《星武祭(フェスタ)》」

 

「その通りだ」

 

「そして、《蝕武祭》は数年前に星猟警備隊が押さえ、現在は存在してない」

 

「ふっ。どうやらてめぇに対する評価を幾分か上げる必要があるようだな。そう、《蝕武祭》はとっくの昔に潰れて消えた。オレが天霧遥を見たのはその出場選手の一人として、だ。当時オレは《蝕武祭》の客の一人だったからな」

 

「姉が《蝕武祭》の試合に出ていたと?」

 

「ああ。《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を使ってやがったからよく覚えてるぜ。《蝕武祭》に純星煌式武装(オーガルクス)を持ち込むやつはそういねぇ」

 

「その勝負の結果は・・・・・・?」

 

あの姉さんが負けるとは思ってなかった俺はディルク・エーベルヴァインに聞いた。ディルク・エーベルヴァインは表情を変えず、あっさりと答えた。

 

「天霧遥の負けだ」

 

「っ!」

 

「・・・・・・そんな・・・・・・そんなわけ・・・・・・!」

 

姉さんの強さを知っていた俺とオーフェリアはディルク・エーベルヴァインからその勝負の結果を聞き、思い切り頭を殴られたかのような衝撃が襲ってきた。ぐらりと世界が歪み、視界が回っているように感じ、足元が崩れ落ちたかのような不確かな空虚が足元から這い上がってきた。その感覚はまるで底のない穴に吸い込まれるかのような、未知の感覚。そしてオーフェリアは白い肌をさらに真っ白に。いや、顔を真っ青にしていた。

 

「おい、綾斗、オーフェリア。大丈夫か?」

 

「あ、ああ、うん・・・・・・」

 

「ええ、大丈夫よ・・・・・・」

 

ユリスが心配そうに俺とオーフェリアの肩を小さく揺さぶり、俺とオーフェリアははっと我に返った。

そこにディルク・エーベルヴァインが。

 

「まあ、死んでなかったみたいだぜ。その後、どうなったかまで知らねぇがな。オレが天霧遥を、見たのは後にも先にもその一度きりだ。それ以外は知らねぇな」

 

「そう、ですか・・・・・・」

 

ディルク・エーベルヴァインの言葉に俺はそう答えるのが精一杯だった。正直、今は姉さんが負けたということに実感がなかった。

 

「そんじゃ、次はオレから質問させてもらうぜ」

 

ディルク・エーベルは俺の動揺など気にも留めていない様子で、話を続けた。

 

「てめぇ、マディアス・メサとはどういう関係だ?」

 

「え・・・・・・?」

 

一瞬何を聞かれたのか分からず、ディルク・エーベルヴァインを見返す。

 

「どういうつもりディルク?何故、マディアス・メサの名前が出てくるわけ?」

 

「てめぇには関係ねぇオーフェリア。これはオレと《叢雲》の会話だ。話に入ってくんな」

 

「・・・・・・」

 

ディルク・エーベルヴァインの睨みにオーフェリアは仕方なく引き下がってくれたが、その視線は警戒心を大にしていた。

 

「マディアス・メサって・・・・・・《星武祭》の運営委員長の?」

 

ディルク・エーベルヴァインの質問に俺は理解できなかった。

 

「どういう関係もなにも、マディアス・メサとは《鳳凰星武祭(フェニクス)》の開会式で初めて会っただけだけど」

 

マディアス・メサとは会話はおろか直接顔を合わせたこともないはずだ。俺は正直にディルク・エーベルヴァインの質問にそう返した。

 

「(そういえば、あの時一瞬マディアス・メサと目があったような気がしたけど・・・・・・それとどこか懐かしい星辰力(プラーナ)を感じたな・・・・・・)」

 

ディルク・エーベルヴァインに言い返しながら俺は声に出さずにそう思い出した。

 

「・・・・・・ふん。どうやらしらばっくれてるわけじゃねぇようだな。ならいい」

 

ディルク・エーベルヴァインはそう言うと、パチンと指を鳴らした。

すると緩やかに車が止まり、しばらくしてからドアが開いた。

 

「話は終わりだ。さっさと失せろ」

 

「―――待て」

 

ユリスはそんなディルク・エーベルヴァインを忌々しげに睨み付け、言った。

 

「一つ、疑問だったのだがな。おまえ、一体どうやって私たちの居場所を知ったのだ?」

 

「あん?」

 

「あの店に行くことを決めたのはたったの数時間前だ。しかもオーフェリアに聞いたんだ。予め予約でもしてあったならまだしも、この短時間でどうやって・・・・・・」

 

「ばぁか。それをおまえに答えてやる義理はねぇよ」

 

ユリスの言葉にディルク・エーベルヴァインはあっさりそう切り捨てた。

 

「くっ・・・・・・!」

 

その態度にユリスは何を言っても無駄だと思ったのか大人しく車を降りた。オーフェリアも続けて降りるのかと思いきや。

 

「ユリス、少しの間外に居て」

 

「なに?」

 

「ディルクに話があるの。ころなも外に居てくれないかしら?」

 

「え、でも・・・・・・」

 

「構わねぇよ。ころな、少しの間外にいろ」

 

「わ、わかりました」

 

オーフェリアの言葉に樫丸さんは車から降り、扉を閉め車内には俺とオーフェリア、ディルク・エーベルヴァインだけになった。

 

「そんで、話ってなんだオーフェリア」

 

「・・・・・・何故マディアス・メサについて綾斗に聞いたのかしら?」

 

「それを教えると思うか?」

 

「いいえ。・・・・・・あなたが答えないことぐらい分かっているわ」

 

オーフェリアは分かっていたのか目を一瞬閉じ再び口を開いた。

 

「なら天霧遥と戦った相手は誰?」

 

「なに?」

 

予想外の質問だったのかディルク・エーベルヴァインは眉根をピクリと上げてオーフェリアを見る。

 

「何故そんなことを聞く?」

 

「・・・・・・なにか言えないわけでもあるの?」

 

「ちっ・・・・・・。いいだろうてめぇの質問に答えてやる」

 

小さく舌打ちをし、ディルク・エーベルヴァインは姉さんに勝った相手の名前を言った。

 

「―――《処刑刀(ラミナモルス)》それが天霧遥と戦った相手だ」

 

「《処刑刀》・・・・・・」

 

恐らくは偽名だろう名前を俺は反復するように呟く。

 

「今度はオレからの質問に答えてもらうぞオーフェリア」

 

「・・・・・・なに?」

 

「てめぇ、何を企んでやがる」

 

「別に、何も企んでないわ。それが運命なだけよ」

 

「ちっ。まあ、いい」

 

ディルク・エーベルヴァインはつまらなそうに不機嫌な気配を隠さずに言った。

 

「おい《叢雲》」

 

「なにか?」

 

「てめぇ、オーフェリアをどうするつもりだ」

 

「どうするつもりだ、もなにも俺は彼女をあなたから取り返す。オーフェリア・ランドルーフェンの所有権や存在、すべてを」

 

「・・・・・・ふっ」

 

「?」

 

一瞬、ディルク・エーベルヴァインの口角が面白いとでも言うかのようにつり上がったの見た俺は眉を少し潜めた。

 

「覚えておけよ《叢雲》。なにかを得たいと思うなら、代償が必要だってな」

 

「・・・・・・」

 

ディルク・エーベルヴァインの言葉に無言で返し、俺とオーフェリアは車から降りた。

車が止まったのは星導館学園近くの埠頭だった。俺とオーフェリアと入れ換わるように樫丸さんが車に乗ると、その車は無愛想さで走り抜けていった。

 

「オーフェリア、《悪辣の王》と何を話していたんだ?」

 

「・・・・・・なんでもないわ。ちょっとした世間話よ」

 

「そうか・・・・・・」

 

「ええ。・・・・・・綾斗、大丈夫?」

 

「・・・・・・・ああ、大丈夫だよ」

 

心配そうに寄り添うオーフェリアの声に、俺はそう答えた。そして

答えると同時に拳をぐっと握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

 

ディルク・エーベルヴァインとの会合が終わり、ユリスと分かれた俺とオーフェリアはそのまま、アスタリスクの居住区にある自宅に帰っていた。

 

「・・・・・・綾斗、本当に大丈夫?」

 

「うん。一応ね」

 

「嘘ね」

 

「え・・・・・・」

 

「ハルお姉ちゃんのこと聞いて一番大丈夫じゃないのは綾斗だもの。私でも正気でいられないわ」

 

オーフェリアは悲痛の表情で言った。

 

「・・・・・・それに怖いんでしょ?」

 

「・・・・・・怖い?」

 

「ハルお姉ちゃんが綾斗に禁獄の力で封印を施して、なにも告げないで姿を消した。綾斗がハルお姉ちゃんと再会することを望んでいるのは分かってるけど、同時にハルお姉ちゃんが綾斗から姿を消した『理由』を知ることにもなる。ハルお姉ちゃんを慕っている綾斗には恐怖以外何者でもないはずよ」

 

「そう、だね・・・・・・。オーフェリアの言う通りかもしれない。姉さんが俺のことを捨てたんじゃないかって。そんな恐怖があるんだ・・・・・・」

 

俺は目線を下にむけて、表情を暗くして言った。

すると。

 

「・・・・・・・」

 

「イタッ!」

 

オーフェリアが頭を叩いてきた。

 

「なにするのさ」

 

「綾斗のバカ。ハルお姉ちゃんが綾斗のことを捨てるわけないわ!ハルお姉ちゃんは綾斗のたった一人のお姉ちゃんなのよ。それにハルお姉ちゃんは綾斗のことを大切にしてる・・・・・・だから綾斗を捨てるなんてハルお姉ちゃんがするわけ絶対にない!」

 

「オーフェリア・・・・・・」

 

「それにディルクの話を聞く限りハルお姉ちゃんは死んだわけじゃない。なのに綾斗へ連絡がきてないのは、取らなかったんじゃなくて、取れなかった。そう認識できないかしら?」

 

「っ!」

 

オーフェリアの言葉にはっ!と顔を上げた。

 

「なら、綾斗はこんなところで躓いている暇はないんじゃないかしら?」

 

「―――うん、そうだね」

 

オーフェリアの言葉に俺は今できることをすることにした。

 

「そう言えば綾斗。綾斗はハルお姉ちゃんに勝てたことある?」

 

「いや。オーフェリアや紗夜が引っ越した後、何度もシルヴィと一緒にやったり一人でやったけど一度も勝てなかったよ」

 

「ハルお姉ちゃんは本当に強いからね・・・・・・普段はあんなにのんびりしてるのに」

 

「ははっ。そうだね」

 

「・・・・・・まあ、それは綾斗も一緒かしらね」

 

オーフェリアのぼそりと呟いた声に俺は苦笑した。

 

「あの頃の私は星脈世代(ジェネステラ)じゃなかったから一緒に相手するより見学の方が多かったのよね」

 

オーフェリアは懐かしむように言う。

オーフェリアと紗夜が引っ越す前、俺たち4人はよく姉さんに勝負していた。まあ、たまにウルスラ姉さんも入って相手したが。オーフェリアが引っ越してからは紗夜とシルヴィと。紗夜も引っ越してからはシルヴィと。けど、紗夜が引っ越して姉さんが失踪するまでは一年ほどしか空いてなく、シルヴィもアスタリスクに行く前で、それなりに強くはなったはずだがやはり勝てなかった。そしてウルスラ姉さんが失踪したのは姉さんが失踪する約二年前ほど前だ。

 

「今の私は《星脈世代》だからハルお姉ちゃんとも相手できるけど、今の私では・・・無理ね」

 

「オーフェリア・・・・・・」

 

「まあ、それはそれとして是非ともハルお姉ちゃんを見つけてリベンジしないといけないわね。私も、綾斗も。シルヴィアも紗夜もね」

 

「そうだね。まあ、きっと、まだ勝てないと思うけど」

 

「・・・・・・そのときは、綾斗一人じゃなくて、また力を合わせればいいわ。一人で無理なら二人で。二人で無理なら三人で。三人で無理なら四人で・・・・・・ね」

 

「そうだね」

 

「・・・・・・綾斗、困難な時にはそうやって協力しなさい。私やシルヴィア、紗夜以外にも、きっと力を貸してくれる人はいるはずよ。もちろん、ユリスや、イレーネもプリシラも・・・・・・いろんな人がね」

 

「ああ」

 

オーフェリアは微笑みながらそう言った。

俺はオーフェリアの言葉を心に受け止め、軽く、一言で返した。

 

「・・・・・・取りあえずは、明日の準々決勝に勝たないといけないわね」

 

オーフェリアの言葉に、《黒炉の魔剣(セレス)》を取り出してウルム=マナダイトがキラリと輝く発動体を眺める。

 

「明日のあの双子。気を付けてね」

 

「ああ。ありがとうオーフェリア」

 

隣に座ってエールを掛けてくれたオーフェリアに軽く微笑んで返した。

 

 

 

 

 



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双子の悪魔と準々決勝

 

~綾斗side~

 

 

鳳凰星武祭(フェニクス)》準々決勝 シリウスドーム控え室

 

 

 

「―――これまでの試合から、この双子は徹底的に相手の弱点だけを攻める。自分たちにとって絶対的に有利な状況を作り、初めて攻勢に出る」

 

「厄介なタイプだね・・・・・・」

 

準々決勝当日、俺とユリスは準々決勝の会場であるお馴染みのシリウスドームの控え室で、対戦相手である黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)ペアの対策について話し合っていた。ユリスの開いてる空間ディスプレイにはこれまでの試合での黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)ペアの行動が映し出されていた。はっきり言ってやりにくい相手だ。

そう思っていると、脳内に声が響いた。

 

『なんて言ったらいいのかしら・・・・・・私ソイツらのことあまり好きになれないわ』

 

脳内に響いた声の主は、俺の所持する純星煌式武装(オーガルクス)、四色の魔剣の一振り、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》の意識体であるセレスだ。

どうやら彼女はあまり黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)のことが好きになれないらしい。まあ、それは俺もなのだけど。

 

『セレスも?』

 

『ええ。一言で今の気持ちを表せと言われたら・・・・・・』

 

『言われたら?』

 

『全部斬ってやりたいぐらいよ!』

 

『そ、そこまでなのね・・・・・・』

 

セレスとの思念通話をしながら、ユリスと話す。

 

「但し、今回に限っては私たちに有利な点がある」

 

「有利な点・・・・・・・あ、そう言うことか」

 

ユリスの言った、有利な点の意味に俺はすぐに気がついた。

なにせ、その有利な点とは。

 

「そうだ。相手の弱点を攻めると言うのなら、今回ほど分かりやすいものはないだろう」

 

「俺の封印、だね」

 

俺自身の、姉さんに施された禁獄の封印だからだ。

 

『なるほど。確かに、綾斗の封印は私たちにとっても有利な点なのかもしれないけれど、それは・・・・・・・』

 

『相手にも同じ』

 

『ええ。これで勝率があるとするなら・・・・・・たぶん、三割ほどかしら』

 

『三割、か・・・・・・』

 

『ええ』

 

『俺の封印をセレスで干渉、もしくは破壊することは』

 

『・・・・・・無理よ、というより、これは干渉したくても出来ないわ』

 

『出来ない?』

 

『ええ。恐らくだけど、これ、遥からの綾斗への試練なんじゃないかしら』

 

『試練?』

 

『ええ。私なりに考えてみたのだけど、何故遥は大切な弟である綾斗にこんなリスキーのある封印をしたのかしから』

 

『・・・・・・確かに』

 

セレスの言葉に俺はずっと抱いていた疑問を浮かばせた。姉さんはどうして俺に、姉さん自身が嫌っていた禁獄の力を行使したのか。どうしてこんな負荷を与えるようなことをしたのか。

 

『そうなると、この封印はなんらかの条件を達したことで解除される、そう考えるのが妥当よ。遥がこれを施した理由はしらないけど』

 

『姉さんからの・・・・・・俺への試練』

 

姉さんがどういうつもりで俺に封印を施したのかは知らないが、もしこれが姉さんから、俺に与えられた試練なら。

 

『やってやる。姉さんの試練を、必ず越えてみせる!』

 

『その意気よ綾斗。私も手伝ってあげる。私と綾斗で遥の試練に打ち勝って見せましょう』

 

『ああ!』

 

セレスとの念話をしながら、ユリスと話す。

 

「ああ。となると双子の取る作戦も自ずと見えてこよう」

 

「時間稼ぎ・・・・・・」

 

「その上でどういった対策を取るか・・・・・・。私にはこの手しか浮かばなかったのだが・・・・・・」

 

そうして双子への作戦と、俺自身の信念を抱いて、俺とユリスは準々決勝のフィールドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあさあ!いよいよ準々決勝最後の試合です!なお、他のステージではすべての試合が終了。ベスト4の内三枠が埋まっております!最後の一枠を勝ち取るのはどちらのペアなのでしょうか?まずは星導館学園から、天霧綾斗とユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトペア!対するは界龍(ジェロン)第七学院の黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)ペア!注目の一戦!今両者がフィールドに出揃いました!』

 

 

 

 

毎度お馴染みの解説者さんの声に、心の中で少しだけ苦笑しつつ、俺は隣に立つユリスとともに、目の前にいる黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)と相対した。

解説者の声を聞いていると、黎沈雲と黎沈華が小馬鹿にするように話してきた。

 

「へぇー、あれだけ大きな弱点がバレていながら逃げないんだ」

 

「肝が据わっているのか、ただのバカなのか。それとも、なにか策でもあるのかしら?」

 

「さあな?」

 

「ただ、君らに負けるつもりはないよ」

 

双子の言葉に、俺とユリスはそう答える。

 

「へぇ。どんな考えがあるのか知らないけど、楽しみにしているよ」

 

「どうせ勝つのはこちらだけどね」

 

そう言うと双子は俺たちに背を向けて距離を取り、間を開ける。

 

「我々は、我々のするべき事をするだけだ」

 

「そうだね」

 

ユリスは自身の煌式武装(ルークス)である細剣型の煌式武装、アスペラ・スピーナを起動させ、俺は目を閉じて意識を集中し、封印を解除するための祝詞を紡ぐ。

 

「うちなる剣を以って星牢を破獄し、我が虎威を解放す!」

 

禁獄の封印から開放させた俺の膨大な星辰力(プラーナ)が溢れ、吹き上がった。そして、《黒炉の魔剣(セレス)》の発動体をポーチから取り出し、束の部分を握り締めてセレスに星辰力を流し込む。セレスに星辰力を流し込むと、紫黒色の刀身が現れる。

 

『いくよ、セレス!』

 

『ええ、往くわよ綾斗!』

 

 

 

 

 

 

 

『ああっと、出ました出ました!天霧選手のパフォーマンス!あ~、いや、パフォーマンスじゃないんでしたっけ?』

 

『制限されている力を解放するのに必要な手順だという見方が多いみたいッスね』

 

『なるほど、なるほど・・・・・・。と、そうこうしている内に試合開始の時間となりました!』

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》準々決勝第四試合、試合開始(バトルスタート)!』

 

 

 

 

試合開始の宣言を告げる声とともに、俺は沈華との距離を一気に詰め、セレスで袈裟懸けに斬り付ける。開始早々の速攻としては申し分ないタイミングだったが、予期していたのか俺の予想通り沈華は後ろに跳んでセレスの斬撃をかわす。

 

「はっ!」

 

「疾い―――けど、分かっていれば躱せない程じゃないわね」

 

イレーネもそうだったが、さすがにここまでのレベルとなると俺の現時点での速度も絶対的なアドバンテージにはならないみたいだ。

 

「咲き誇れ!―――九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

後ろに跳んだ沈華に向けて、すかさずユリスが《魔女(ストレガ)》としての能力を発動させるが、それが放たれる寸前に沈雲が割って入ってくるなり。

 

「急々如律令、(ちょく)!」

 

手で複雑な印を結ぶと周囲の空間がゆらりと揺らめき、次の瞬間にステージのあちこちから、もうもうとした煙が噴き出してきた。

 

「これは!?」

 

噴き出してきた煙は瞬く間にステージ全体を覆い尽くした。さすがのユリスもこの状況下では放てないため九輪の舞焔花を解除した。

 

「ふふふっ」

 

煙に紛れた沈雲の声が何処からか聞こえてきた。

 

 

 

 

『おおーっと!試合開始早々の煙幕、煙に紛れて戦おうという作戦なのでしょうか?』

 

 

 

 

 

「まさか、こんな手で来ようとは」

 

この状況下ではまともに攻撃も当てられないため、俺もユリスの近くに下がった。

そしてすぐにこの煙に違和感を感じた。

 

「(この煙、全然煙くない・・・・・・・っ!)」

 

俺がこの煙の正体に気づくと同時に。

 

『綾斗、この煙偽物よ!』

 

セレスから念話でそう言われた。

それで確信を持ちユリスに。

 

「―――ユリス・・・・・・この煙・・・偽物だ」

 

「ハッ!」

 

ユリスもはっとした表情で周囲を見渡し、煙を振り払うように手を振る。

 

「なるほど、幻影か?」

 

「幻影ならしばらくすれば晴れるか」

 

「だろうな。それに―――」

 

ユリスの視線が観客席に向くのを見て、俺も観客席の方に耳を傾けると、観客席からブーイングが沸き上がっていた。なんというかまあ、幾らこれがエンターテイメントとはいえ、外側から文句を言われるのは少しというか、かなり酷い。

そう思っていると頭の中にセレスの呆れた声が聞こえてきた。

 

『まったく、うるさいったらありゃしないわね』

 

『あはは』

 

『ホント、こう言うブーイングって嫌いね』

 

どうやらセレスはかなりのお冠らしい。

そのまま観客席からのブーイングが次第に大きくなってくると、ステージを覆っていた煙が忽然と消えた。

 

「やれやれ。最近のお客は、辛抱が足りないね」

 

「まあ、でも、こっちとしては十分かな」

 

いつの間にかステージの端まで移動していた沈雲と沈華が、ニヤニヤと笑いながら言った。沈華の十分とは、俺の制限時間を一分近く削れたことだろう。

 

 

 

 

 

『さあ、試合開始から早くも一分経過!』

 

『力を発揮できるのが五分までといわれてる天霧選手にとっては、この一分は大きいですよ』

 

 

 

 

 

解説者の解説を聞きながら、ユリスは忌々しそうに双子を見て吐き捨てる。

 

「ホントに性格の悪いやつらだ」

 

そしてそれと同時に、ユリスは次の技に意識を集中させ、俺も心の中で同意しながら、セレスを構え直してすぐさま間合いを詰める。

 

「ほぉ。おや、こっちもまた、せっかちだね」

 

沈雲がそう言うと、沈雲の両隣からまるで影法師のような朧気な影が現れ、その影は沈雲そっくりになった。その数、四体。その四体すべてが、中央にいる沈雲と同じ不適な笑みを浮かべた。

 

「なっ!?」

 

『これは・・・・・・っ!』

 

俺とセレスが現れた幻影に驚いていると。

 

「それじゃあ、私も、っと・・・・・・!」

 

沈華も印を結び、その姿が溶けるかのように消えていった。

 

『あれは幻影の一つ―――隠形!隠形はただ単に姿を消すだけじゃなくて、気配や物音、自身の星辰力の動きもその幻影に覆い隠すわ!よほど集中しないと関知できないわ!』

 

『わかってる!それに沈雲のは沈華のと同じ性質を持つ幻影の分身・・・・・・。情報では知っていたけど・・・・・・まさかここまでとはね』

 

『まずいわ綾斗。今の綾斗じゃ、あれのどれが本物か分からないわ!』

 

『でも分身の本体は一つだけ。それ以外はすべて斬ってしまえば・・・・・・!』

 

『それはそうだけど!』

 

セレスと念話で問答していると、目の前の五人の沈雲たちがそれぞれ違う言葉をつぐんだ。

 

「さて、これでこちらの支度は整ったわけだが」

 

「このままそちらの出方を待つというのも、少々芸がないかな?」

 

「うん。それに観客の皆様も退屈してしまうだろうしねぇ」

 

「少しは盛り上げないと、またブーイングされかねない」

 

「というわけで・・・・・・」

 

「―――――ここは一つ、派手にいこうかな!」

 

沈雲たち五人が手首をスナップさせると、何処からともなくその指の間に長方形の紙切れが現れた。

 

『綾斗、あれは呪符よ!気を付けて!』

 

『わかった!』

 

「ユリス!」

 

「ああ!援護は任せろ!」

 

ユリスに援護を任せ、俺はセレスを構えて同時に襲い掛かってきた沈雲を迎撃する。襲い掛かってきた一人にセレスを振るうと、その一人はあっさりと両断され、斬られたはずの体は煙のように揺らいだ。まるで手応えがない、つまりこれは。

 

「(幻影か!)」

 

『くっ!厄介な相手ね!』

 

セレスと同意見を持ちながら、もう一人の沈雲を返す刀で斬り伏せる。だが、この沈雲も全く手応えがなく、一体目と同じだった。

 

「残念、ハズレだね」

 

すると、それを潜り抜けた三人目の沈雲が背後に現れ、手に持っていた呪符を俺に向かって突き出してニヤリと笑い。

 

「爆」

 

呪符の起動言葉(ワード)を紡いだ。

その瞬間、呪符ご轟音と共に爆発した。

 

「ぬわっ!」

 

『綾斗!大丈夫?!』

 

『とっさに星辰力を防御に回したからなんとか・・・・・・』

 

セレスの台詞に体勢を整えながら答えるが、さっきの攻撃の衝撃でまだ少し骨が軋んだ。

 

「綾斗、大丈夫か!」

 

残りの沈雲を相手にしていたユリスが慌てて俺の方に駆け寄ってくるが――――。

 

「私を忘れてもらっては・・・・・・困るわね!」

 

「なっ・・・・・・っ!?」

 

突然の沈華の声と共に、ユリスの眼前で俺が受けたのと同じような爆発が巻き起こった。

 

「うわぁっ!!」

 

「ユリス!」

 

爆風にもまれて、宙に舞ったユリスを、反射的に駆け出してその体を抱きとめた。

 

「ぐ・・・・・・だ、大丈夫だ」

 

顔を苦痛に歪めながらも立ち上がったユリスは俺に視線を向ける。

 

「それよりもう時間がない。サポートするから、手はず通りまずは沈雲を落とせ」

 

「わかった」

 

「咲き誇れ―――赤円の灼斬花(リビングストンデイジー)!」

 

ユリスの周囲に現れた、十数個の炎の戦輪が沈雲へ向かって飛びかかる。そしてその戦輪を追随するようにその間を駆け抜けて沈雲に向かう。

 

「ふぅん。やっぱり僕の方に来るか」

 

「はあっ!」

 

沈雲との距離を詰めようと思ったその瞬間。俺と沈雲の間に、なんの前触れもなく突如として巨大な岩壁が現れ俺の行く手を阻んだ。

 

「え・・・・・なっ!?」

 

そして、同じく沈雲に襲いかかろうとした戦輪はすべてその岩壁に阻まれ、火花を散らして小爆発を起こして消えた。

岩壁を見て、とっさの判断で壁を回り込もうと横に移動し、壁の後ろに移動しようとすると、いきなり目の前の空間が爆発した。

 

「ぐううううっ!』

 

『綾斗!』

 

予想外の攻撃に、今度はとっさの星辰力による防御が間に合わず、慌てて後ろに跳んで爆風によるダメージを軽減しようとしたが、遅く。まともに爆風を喰らってしまった。

 

「ああ、気を付けた方がいいよ。沈華の仕掛けた術は見えないから」

 

「(仕掛けた・・・・・・あの煙幕の時か!)」

 

『そう言うことね・・・・・・』

 

岩壁の上に座り、楽しそうに言う沈雲の言葉の意味を瞬時に理解した俺とセレスは周囲を警戒した。

何故なら、見えないということは何処にトラップがあるのかわからないからだ。

 

『これじゃ、安易に動けないわ』

 

『せめて呪符が何処にあるのか分かればいいんだけど・・・・・・』

 

俺とセレスがそう思っていると。

 

「それならば、すべて焼き払ってしまえば良いってこと!」

 

ユリスが炎を撒き散らして言った。

その時。

 

「―――だからさ。私も居るんだってば」

 

いかにも楽しそうな沈華声と同時に、沈華がユリスの真横に現れ。

 

「招雷!」

 

手に持っていた呪符を使ってユリスに攻撃を仕掛けた。

 

「うああああああ!」

 

凄まじい稲光と共に電撃が迸り、ユリスの体を襲った。

 

「ユリス!」

 

「綾斗。私はいいから、おまえは沈雲を倒せ!」

 

「く―――――っ!わかった!」

 

膝をついたユリスに駆け寄ろうとしたが、制するように叫び、沈雲を倒すように言ってきた。

試合開始からすでに三分近くになっている。いくら、明日が休みとはいえ動けなくなるのはキツイ。ユリスの声を聞くや否や、俺は目の前の岩壁をセレスで斬り、近くにいる沈雲に向かって間合いを詰める。

 

『綾斗!現時点で動けるのはあと三分よ!黎沈雲の攻撃でかなり星辰力を消費してる!速攻をし掛けるしかないわ!』

 

『わかった!サポートお願い!』

 

『ええ!』

 

「はあっ!」

 

セレスと念話をしながら沈雲に向かう。

沈雲が眼前に迫ったそのとき。

 

『綾斗、前!』

 

セレスの声と同時に眼前で急ブレーキをかけ、真横に足を向ける。その一瞬遅れて沈雲の前の空間がゆらめき、爆発した。

 

「ふぅん・・・・・・やるなあ」

 

「はっ!」

 

爆発した後ろにいた沈雲を切り裂くが、それは黒ずんで蜃気楼のように消えた。

 

「ちっ!」

 

『残り四人よ!』

 

『ああ!』

 

残り四人の沈雲のうち、近いところにいる沈雲に向かって駆ける。

 

「五人全員斬れば、良いってことだ!」

 

間合いを詰め、沈雲に向かってセレスを横薙ぎを斬り払う。

二人目を斬り払うと、後ろに三人目の沈雲が現れ、攻撃をかわし振り向き様に斬り付ける。だが。

 

「残念、またハズレだね」

 

これもまた、黒ずんで蜃気楼のように消えていった。

 

「残りは二体、どっちだ・・・・・・!」

 

残った二人を視て、片方が呪符を持ったのを視てそれに向かって間合いを詰め寄る。

 

「天霧辰明流剣術初伝―――"貳蛟龍(ふたつみずち)"!」

 

初撃は上薙ぎを上体を反らして避けられたが、二撃目の下からの斬り上げが沈雲に決まった。しかし、これも黒ずんで蜃気楼のように消えいった。

 

「(こいつも!?)」

 

残った一体に向けて構えを取り直したところに。

 

「くっ・・・・・・」

 

急に体に力が入らなくなった。

 

「(まさか、もうリミット・・・・・・!)」

 

ステージ上のモニターに表示されてる時間は、試合開始からすでに五分が経過していた。

 

『くっ!予想以上に星辰力を消費したからリミットが短くなったんだわ!私のミスね!』

 

『そ、そんな・・・・・・』

 

『ゴメン綾斗』

 

『大丈夫、まだ、手はある』

 

セレスと念話をしていると、俺の周囲に紫色の魔方陣が三つ浮かび上がり、そこから姉さんの禁獄の楔が現れ俺を縛り上げた。

 

「ぐぅ・・・・・・」

 

「おやおや、ついにリミットかな?もう少しだったのだけど、惜しかったね」

 

「綾斗!」

 

俺に駆け寄ろうとしたその瞬間、ユリスの体がステージの壁に向かって思いっきり沈華によって吹き飛ばされたのが目に入った。

 

「うぐっ!?」

 

「あはは、いい感触!」

 

うっとりとするように言う沈華を横目に、ユリスを見ようとするが封印の行使で上手く立ち上がれず、その場に倒れ付した。

 

「ぐうぅ・・・・・・」

 

「訳は知らないけれど不便なものだね。それ」

 

そう言うと沈雲は俺の後頭部に足を乗っけてきた。

すると。

 

『その足を綾斗から退けなさい!』

 

セレスが叫ぶように言ってきた。

しかし、セレスの声が聞こえるのは俺だけな為、俺の後頭部を踏みつけてる沈雲には聞こえない。

 

「今どんな気分かな?」

 

「ふふ・・・・・」

 

楽しそうに聞いてくる沈雲に、俺は不適に言う。

 

「うん?何がおかしいのかな?」

 

「いや、なんでもないよ。ただ―――まだ勝負はついてないってことさ」

 

「っ!?」

 

驚く沈雲に向かって、俺は腰から取り出したもう一つの片手剣型の煌式武装を展開して沈雲の校章を真っ二つに斬り裂いた。

 

 

 

 

 

『なんと!力尽きたかと思われた天霧選手の大逆転劇!』

 

『なるほど。相手の時間稼ぎで動けなくなったと見せ掛け、油断を誘う作戦だったようッスね』

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

なんとか立ち上がり、息を整えたその瞬間、たった今校章を斬られた沈雲に変化が訪れた。

沈雲の体が他の分身と同じように黒ずんでいくと、その場に倒れたのだ。

 

「(まさか・・・・・・!)」

 

『そ、そんな、まさか・・・・・!』

 

俺とセレスの嫌な予感を告げるかのように、たった今倒れた沈雲の傍から、もう一人の沈雲が現れた。

 

「おお、危ない危ない。まさしく命を知る者は巌牆の下に立たず、だね」

 

「(まさかあの煙幕のあとから、俺はずっと分身だけを相手にしていたのか?)」

 

『くっ、やられたわ!まさかずっと黎沈華の隠形で本人は隠れていたなんて!』

 

『沈華の術が自身だけじゃなくて他にも掛けられたことに気づいた時点で、この事を考えておくんだった』

 

『分身体の黎沈雲に騙されたわ。ずっと、私たちは分身体を相手にしていたなんて』

 

俺とセレスがたった今、なんの前触れもなく現れた本物の沈雲にそう感じていると。

 

「―――分身を使った程度で君の間合いに飛び込むなんて、そんな馬鹿馬鹿しいことするわけないじゃないか!」

 

そう言うや否や、沈雲は手首をスナップして呪符を取り出した。

取り出された呪符は、俺の周囲を飛び交い檻のように、俺を覆うようにして陣取った。

 

「さて、今の君ならこの程度をかわすのは難しいだろう?」

 

四方すべてを呪符で囲まれた俺は、どうにか突破口はないかと模索する。

 

「くく。さあ、どう躱す?」

 

「くっ・・・・・・。まだだ・・・・・・!」

 

「うん?」

 

「まだ、こんなところで負けるわけにはいかない・・・・・・!」

 

『ええ、私たちはこんなところで負けるわけにはいかないわ!』

 

沈雲の言葉に俺とセレスは確固たる意思をもって告げる。

 

「へぇ、君でもそんな顔をするんだね。うん、中々にそそる。ああ、いいねえ、その無駄な足掻き」

 

「はああっ!」

 

煌式武装を持ち構えて、強引に突破しようと図る。

 

「心が踊るよ!」

 

目の前の呪符の一つを煌式武装が貫くと、呪符がゆらめき爆発した。

 

「ぐああああああっ!!」

 

さらに吹き飛ばされた後ろの呪符に肘が当たり、それも爆発し、連鎖爆裂のように次々と呪符が爆発し、俺の身体は何度も弾き飛ばされた。

 

「ぐ、ぅ・・・・・・・」

 

衝撃と熱に防御も間に合わずただひたすらに蹂躙された俺はなす術もなく地面に伏した。打撲と裂傷、骨にもかなりダメージが行っていると思われる。

 

「・・・・・・さて、名残惜しいがそろそろ終わりにしておこうかな」

 

沈雲がそう言って再び呪符を取り出し、俺に向かって放たれる寸前。

 

「綾斗!手を伸ばせ!」

 

ユリスの声が耳に入った。

とっさにユリスに言われたとおり右手を伸ばすと、炎の翼を羽ばたかせたユリスが低空飛行で飛び込んできた。

 

「ちっ!」

 

俺の手を握りその場を離れるが、一瞬遅れて放たれた沈雲の呪符の爆風でコントロールを失い、地面に投げ出されるかのようにして着地したが、一先ずはあの窮地を逃れた。

 

「あ、ありがとう、ユリス・・・・・・助かったよ」

 

「いや・・・・・・こちらこそすまんな。沈華を振り切るのに手間取った」

 

そう言うとユリスは起き上がり、細剣型の煌式武装アスペラ・スピーナを展開して構えた。

俺もなんとか起き上がろうとするが、ダメージが大きいためか上手く身体が言うことを聞かない。

 

「まったく、あまり無茶をするな!今のおまえでは沈雲に敵わないことくらい分かっているだろう」

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

「私たちはパートナーだ。互いに願いを持ち、互いのために力を尽くそうと思ってる」

 

「ユリス・・・・・・」

 

「だいたい、おまえはなんでもかんでも一人で抱え込みすぎなのだ。いつぞやのおまえの言葉を・・・・・・そっくりそのまま今のおまえに返してやろう」

 

呆れたように言ったユリスは、俺が以前ユリスに向けて言った台詞を一字一句、違わずに返してきた。

 

「『―――だったら、おまえのことは誰が守ってくれるのだ?』」

 

「っ!」

 

ユリスにそう言われた瞬間、俺とセレスはまた深く繋がった。それと同時に、施されたはずの封印に変化を感じた。

 

「今のは・・・・・・」

 

『あれは・・・・・・』

 

セレスと今感じたことを不思議に思っていると。

 

「お話は終わり?だったら」

 

「そろそろ再開といこうか」

 

合流した沈雲と沈華が余裕満々の表情で言ってきた。

 

「恐らく、また見えない呪符を仕込んでいるぞ。あれをどうにかしない限り・・・・・・」

 

「ユリス」

 

俺は策を練っているであろうユリスに声をかけ。

 

「・・・・・・うん?」

 

「―――ありがとう」

 

一言、そう言った。

すると、ユリスは赤面して早口に言った。

 

「な、なんだ突然!別に礼を言われるようなことなど、なにもしてないぞ!」

 

「いや、おかげで目が覚めたよ。今度こそ、ね」

 

少し休んだおかげで身体も動くようになり、息を整えながら両足で立ち上がり、吹っ切れた表情でユリスに言う。

 

「で、俺のパートナーにお願いがあるんだけど、いいかな?」

 

 



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解放されし能力(リベレイター・オブ・デュアリス)



こんにちはソーナです。アスタリスク遅くなってしまい申し訳ありません!これからも気長に待ってくれると嬉しく思います。
皆さんはこの緊急事態ともいえる日々にどうお過ごしですか?
良ければ私の投稿小説を読んでくださると嬉しいです。そして、ぜひ感想をお願いします。些細なことでも構いませんので、待ってます!


 

~綾斗side~

 

「―――俺のパートナーにお願いがあるんだけど、いいかな?」

 

ユリスの言葉に目が覚めた俺は、パートナー(ユリス)にお願いをした。

 

「なんだ、言ってみろ」

 

「少しだけ時間を稼いで欲しいんだ。頼めるかな?」

 

「・・・・・・なにか秘策でもあるのか?」

 

「まあね。一か八かだけど・・・・・・」

 

ユリスの言葉に、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》―――セレスの発動体の入っているポーチを一瞬見て言う。

そんな俺を見てユリスは。

 

「ふっ・・・。良いだろう。綾斗、おまえの準備ができるそれまで、あの二人の相手は任せろ!」

 

不適な笑いを浮かべて、一歩前に出て黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)に自身の細剣型煌式武装(ルークス)、アスペラ・スピーナの切っ先を突き付けた。

俺はユリスにしばらく任せ、目を閉じて意識を集中させ奥に潜っていく。すると。

 

『―――来たわね、綾斗』

 

目の前に黒紫の粒子が集まり、一人の女性の姿を形どった。

俺は瞬時にその女性が誰なのかわかった。

 

「君はセレス、だよね」

 

『ええ。この姿では初めましてね』

 

目の前の女性―――セレスの姿は腰まである黒紫色の長い艶のある髪を吹かせて、黒銀の制服を着ていた。

 

「その制服って?」

 

『ああ、これかしら?折角だから星導館の制服をモデルにした服なのだけど、似合ってない?』

 

セレスの言葉に、言われてみれば何処と無く星導館の制服に似ている気もするが、ブレザーの丈は少し長く、スカートも膝ぐらいまであり、改造制服というものみたいだ。

 

「いや、似合っているはいるけど」

 

『なら、いいでしょ。さ、綾斗』

 

セレスの手を取り、彼女のとなりに並び立つ。

 

『この先に、あなたの可能性があるわ』

 

「可能性・・・・・・」

 

セレスの言う、可能性に俺は大体の見当がついていた。

 

『今のあなたになら、遥の施した封印が一つ、解けるはずよ』

 

「ああ」

 

『行きましょう・・・・・・あなたと私の可能性を掴みに』

 

俺はセレスとともに、俺たちの可能性のある精神の奥にへと進んでいった。

 

 

~綾斗side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ユリスside~

 

 

綾斗が目を閉じ、意識を集中させたのを感じ取った私は目の前にいる双子に意識を向けた。

 

華焔の魔女(グリューエンローゼ)一人で僕らの相手をするのかい?」

 

「これは私たちが嘗められていると言うことなのかしらね沈雲」

 

「そうだね、沈華」

 

にやにやとした笑顔で私を眺める双子に。

 

「悪いが綾斗の準備が整うまで私の相手をしてもらうぞ、黎沈華(リーシェンファ)黎沈雲(リーシェンユン)

 

アスペラ・スピーナを構え直して言う。

今の私では、この双子相手にそう長くは持たないだろうが。

 

「(少なくとも、しばらくの時間は稼げるはずだ。最悪、あれを使うしかない、か・・・・・・)」

 

切り札はあるがまだ隠しておきたい。だが、ここで負けては。

 

「(意味もないからな)」

 

私が気持ちを切り替えると同時に、双子は揃って肩を竦める。

 

「まあいいさ。なにを企んでいるのかしらないけど」

 

「その分、楽しませてもらうわよ」

 

沈華が印を結ぶと、その姿が溶けるようにして消えた。

 

「―――ふん、おまえたちこそあまり私を舐めてもらっては困る。咲き誇れ―――重波の焔鳳花(ラナンキュロス)!」

 

星辰力を集中させ、出し惜しみなしに力を解放する。目的は、出来るだけ双子が綾斗から離れさせるようにすることと。

 

「きゃあっ!」

 

「ちぃっ!」

 

双子は小さな悲鳴を上げ、重波の焔鳳花の焔のから避けようと離れる。それと同時に、辺りに貼られていた呪符が現出して燃え尽きる。そう、もう一つの狙いは透明で見えない呪符を燃やし尽くすことだ。

 

「・・・・・・なるほど、狙いは呪符の方か」

 

重波の焔鳳花は私を中心に、全方位に焔の波を行き渡らせて攻撃するものだ。意識を集中させて操作すれば、このように後ろの綾斗を守りながら攻撃できる。ただ、これにももちろん弱点はあり、重波の焔鳳花に意識を割いている際は他の事ができないことと、広範囲に攻撃できないことだ。

 

「ふうん。でもいいのかな?この技に集中している間、君はパートナーを守れるのかい!」

 

そう言いながら呪符を取りだし、綾斗に向けて放たれた呪符を私は、重波の焔鳳花を使ってすべて燃やしつくす。

 

「はあっ!綾斗の邪魔はさせない!」

 

正直、これを維持しながら移動する並列処理(マルチタスク)はダメージのせいでかなりキツいがやれないというほどの事じゃない。

 

「じゃあ、こんなのはどうかな?」

 

沈雲がそう言うと沈雲の背後に呪符が現れた。

 

「往け!」

 

「・・・・・・!」

 

沈雲の呪符からによる氷の矢のような攻撃に息を飲み、それを回避する。その際、氷が重波の焔鳳花に接触しても溶けたりせず、床に当たっても砕け散らないのを見た。

 

「(!幻影か?!)」

 

瞬時にそれを幻影と判断し、回避からやり過ごすことにしてその場に止まり、幻影を見ないように目を閉じる。

幻影の氷の矢が次々と通り抜けていくのを感じながら重波の焔鳳花に集中する。そこに。

 

「なるほどぉ。幻影をやり過ごすという点からしては懸命な耐え方だ」

 

沈雲のそんな言葉が聞こえてきた。

 

「では、この隙に君のパートナーを狙うこととしよう」

 

「っ!」

 

沈雲のその一言に思わず目を開け、前を向いてしまった私は目の前に迫ってきた氷の矢を受け集中が乱れた。いくらそれが幻影だと分かっていても、貫いた時の条件反射で重波の焔鳳花の集中とイメージが途切れてしまい、重波の焔鳳花が消えてしまった。

 

「うぐっ!」

 

条件反射から立ち直ろうとしたその時。

 

「残念」

 

「しまっ―――!」

 

すぐそばから聞こえた沈華の声に驚いたと同時に胸部近くに衝撃を受け吹き飛ばされた。

 

「うわっ!」

 

普通の衝撃なら今のくらい耐えられるが、今回は別だった。

なにせ沈華が蹴ったと思われるその場所は。

 

「そりゃ痛いわよね。前に(ルオ)の攻撃が直撃したところだもの」

 

「・・・・・・」

 

二日前の五回戦で(ルオ)の棍による攻撃を受けた場所だからだ。しかも、そこはまだ傷が万全と言えてなく、日常的には問題ないが今のようなピンポイントでの衝撃は痛みが走る。

私はその痛みに顔をしかめながら立ち上がり、沈華に問う。

 

「・・・・・・なぜ直接校章を狙わなかった」

 

もし今の攻撃が校章を狙っていたら、間違いなく私はここで終わりだった。透明なのだから私の校章を破壊することなど雑作もないはずだ。その私の問いに沈華はニヤニヤと笑いを浮かべ。

 

「ふふ。ちょっとずれちゃっただけよ」

 

と、はじめから校章など狙ってなかったかのように言った。どうせ、はじめから校章を狙う気など無かったのであろう。私を徹底的に痛め付けて勝つつもりなのだ。だが、沈華のその選択は誤りだ。私は星辰力を練り。

 

「そうか!なら、せいぜい後悔しろ!綻べ―――熔空の落紅花(セミセラータ)!」

 

「なっ!?ちょ、え、ちょっとまさか自爆―――!?」

 

自分を巻き込んで沈華に上空から攻撃を仕掛けた。

もしこの攻撃をなんの防御もせず受けたのなら、例え沈華とは言え無傷ではすまない。無論、私もだが、しかし。

 

「できれば、これはまだ隠しておきたかったのだがな・・・・・・」

 

私は自分の星辰力で練り上げた攻撃は無効化(レジスト)出きるのだ。《魔女(ストレガ)》《魔術師(ダンテ)》の中には自身の能力を無効化することの出来るものがいるが、その数は少ない。正直、このことはまだ隠しておきたかった。だが、あの場で沈華を討つとなるとこれしか手はなかったのだ。

やがて爆煙が収まると。

 

「・・・・・・なるほど、自分の能力をレジストできるのか」

 

「―――っ!?」

 

爆煙の中から沈雲の声が聞こえた。

そして、沈華がいた場所にはドーム状に出来た複数の壁があった。その壁が揺らぎ蜃気楼のように消えると、そこにはほぼ無傷の沈華と、沈雲の姿があった。どうやら今のは沈雲の星仙術で造り上げた物のようだ。五体満足のその姿に私は驚愕しながら下唇を噛む。まさか、防がれるとは思ってなかったのだ。

 

「・・・・・・いやはや、驚いた。噂以上だね、《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》。今のは油断しすぎだよ、沈華」

 

「ご、ごめんなさい、沈雲・・・・・・」

 

「ふぅ・・・・・・まあいいさ。―――そろそろ終わりにしよう」

 

手首をスナップさせ、呪符を取り出した沈雲を警戒するように後ろに右足を退かせたその瞬間。

 

「(呪符―――!?)」

 

右足の足元に呪符があり、そこから幾多の呪符が現れ私を縛り上げる。咄嗟の事に反応が鈍りなす統べなく両手を上に上げさせられ空中に縛り上げられる。

 

「冷や冷やさせてくれた、お礼をしないとね!」

 

「うっ・・・・・・ぐはっ・・・・・・!」

 

沈雲から放たれた呪符の爆発に私は苦痛の声を上げる。

 

「ふはは!どうだい《華焔の魔女》?!反撃しないのかい?!」

 

 

 

 

『一方的な攻撃!し、しかし・・・・・・動けないのだから直接校章を狙えば良いのではないでしょうか?これではあまりにも・・・・・・』

 

『意識消失による勝利を狙っているようッスが、沈雲の攻撃には手加減している様子が見られるッス。簡単には消失させないつもりッスね』

 

 

 

 

 

司会や観客席の連中も沈雲の攻撃に戸惑っているようだ。

なにせ無抵抗の私をただ痛ぶっているなのだから。さすがに沈雲のこの行動には動揺や困惑の声や雰囲気が、沈雲の絶え間ない呪符の攻撃を受けつも感じ取れる。

 

「ふはは!あはは!」

 

「ぐあぁぁっ!!」

 

「痛いのが好きだろぉ?!ふはは!」

 

絶え間ない沈雲の呪符の攻撃に痛みはもちろんの事、着ている制服は所々破け、肌は爆発の火傷で僅かに火傷の痕のような黒ずみが出来ていた。

 

「(綾斗・・・・・まだか・・・・・・)」

 

呪符を受けながらもパートナーである綾斗を待つ。綾斗が目を閉じて集中してからすでに二分近くが経過している。

 

「ふふ。あはは!いい様じゃないか!」

 

「(く・・・・・・っ・・・・・・!)」

 

幾度となく、防御もままならないまま受け意識が飛びそうなところに。

 

「そろそろ終わりにしようか、《華焔の魔女》?!」

 

沈雲の止めの呪符が飛んできた。

飛んでくるその呪符の痛みに耐えようと目を瞑る。が、幾ら経っても痛みや爆炎が襲ってくることはなかった。かわりに耳に何かを切り裂くような音が聞こえた。そして目の前に膨大な星辰力を感じ取った。

 

「―――っ!」

 

「なんだ!?」

 

恐る恐る目を開けると奥には沈雲が驚きの表情を浮かべ、そのとなりには同じく驚きの表情を浮かべている沈華がいた。そして、目の前には私を守るようにして黒い柄に黒紫の刀身を現出させた純星煌式武装(オーガルクス)を振り切ったようにして立つパートナー(綾斗)の姿があった。

 

~ユリスside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~綾斗side~

 

 

 

俺の意識の奥にセレスとともに潜り込んだ俺とセレスの前に施錠された楔のついた封印が現れた。

 

「・・・・・・」

 

『さあ、綾斗』

 

セレスに促されるようにして施錠された封印の前に手を伸ばす。手を伸ばすと目の前に、ピンボール位の小さな白い光の球体が現れた。俺は恐れることなくその白い球体を掴み、引き寄せて掌を開く。すると、そこになんの変哲もない白銀の小さな鍵が現れた。

 

『それがあなたの可能性。そしてこの先へと進むため、あなたを戒める禁獄の楔を解くための『(ピース)』』

 

「俺の・・・・・・」

 

セレスの言葉に俺は目を閉じ、姉さんやウルスラ姉さん、紗夜、シルヴィ、オーフェリア、ユリス、みんなのそれぞれの言葉を思い返す。

 

「・・・・・・俺は一人じゃない。みんなが・・・・・・仲間がいる!」

 

そう言い、ゆっくりと開くという確信を持って『鍵』を施錠されている封印の鍵穴へと差し込む。

 

「・・・・・・・・・・」

 

差し込んだ『鍵』を右に90度回し、封印を解除する。

解除され、施錠されていた禁獄の楔が虚空にスウッと消えていく。俺の後ろには、強引に開かれ鍵穴が破壊されている一つ目の封印の痕が。奥には固く施錠され、封印されている最後の禁獄の楔が。そして、目の前にはたった今正規の手順で開かれた二つ目の封印が。

二つ目の封印を解除すると、俺の中に力が溢れてくるのを感じた。

 

『綾斗・・・・・・』

 

心配そうに視てくるセレスに向き直り手を差し伸ばす。

 

「行こうセレス。俺たちの仲間のところに」

 

『ええ!』

 

手を取ったセレスはその姿を人から粒子にして、俺の右手に集まった。

集まった粒子は一振りの剣となり黒紫の刀身を現出させ、刀身の周囲を陽炎が包む。

 

『行きましょう綾斗。行って、あの双子を倒しますよ』

 

「ああ。もちろんだよ」

 

そう言うと、俺たちの意識が浮上した。

意識の奥から戻り、意識が元に戻ったのが分かると俺は腰のポーチからセレスを取りだし起動させる。そして、目の前で縛り上げられ重体のユリスの前に一瞬で移動し、ユリスに迫る呪符を全てセレスで切り裂いた。

 

「―――お待たせ、ユリス」

 

振り返り、ユリスを縛り上げている呪符を斬ってユリスを解放し、倒れ込んで来たユリスを左手で受け止める。

 

「まったく・・・・・・遅いぞ、綾斗」

 

満身創痍の姿のユリスを視て、俺は静かに憤る。

 

「ごめん」

 

俺の謝罪にユリスは小さく笑いながら首を横に振る。

 

「それより、封印が完全に解けたのか?」

 

「いや、まだ二段階目だよ。それに少しだけパワーアップしただけで大幅なパワーアップはしてないし」

 

パワーアップしたと言っても、上がったのは速度や防御くらいだ。といっても、一段階目と対して変わらないけど。

 

「なに?だが、この星辰力は・・・・・・」

 

「今まで漏れ出ていた星辰力を、内に溜めておけるようになっただけだよ。ただ、その分リミットも伸びたと思う」

 

「どのくらい持つ・・・・・」

 

「う~ん、そうだなぁ・・・・・・。たぶん、半日近くかな」

 

大間かな予測値を伝えるとユリスは一瞬目を見開いた。

半日近くと言っても、星辰力の使用量によって変わってくるため一段階目より長くできるくらいな物だ。全快にはまだまだ程遠い。

 

「なっ・・・・・!?そ、そうか。後は頼んでいいか?正直、私はもう限界でな」

 

「ああ・・・・・任せてくれ」

 

崩れるように膝を床につくユリスにそう答え、双子に向き直る。

 

『いけるよねセレス』

 

『ええ。もちろんよ』

 

双子に振り向きながら脳裏でセレスと念話を取る。

 

「・・・・・・つくづく君たちには驚かされるね」

 

呪符を取り出して黎沈雲(リーシェンユン)はそう言い、黎沈華(リーシェンファ)は真剣な顔で再び姿を透明にして消えた。

 

「さて・・・・・・」

 

セレスを正中線に構え目を閉じて意識を集中、感覚を鋭く拡張。自分を中心にアリーナ全てに範囲を広げる。

感覚を研ぎ澄ませ周りの物を全て見通す。気持ちを落ち着かせて目を開くと、視界にはすべてが見えていた。黎沈雲はともかく、透明で見えない黎沈華に周りの設置された透明な呪符もだ。

近くを極限にまで拡大し、相手の動きや星辰力の流れ、音、空気などすべての、ありとあらゆるその場の情報を俯瞰的に知覚的に把握する。これが《識》の境地。

 

「―――よし」

 

俺は無造作に一歩を踏み出す。

そのまま歩きながら片手でセレスを虚空に薙ぐ。すると、真っ二つになった呪符が視認出来るように現れ、そのままセレスの炎で燃え尽きる。そのまま、ゆったりとした足取りで歩を進め、次々と視認できない呪符を切り捨てる。黎沈雲には俺がセレスを振るったことすら見えてないだろう。恐らく見えるのはセレスの斬撃の軌跡だけだ。

 

「まさか・・・・・・見えているのか?」

 

驚愕の表情で黎沈雲が呟く。視界に全て見えていると言っても、正確には見えているのではなく、視えている(・・・・・)のだ。なにがどこにあるのか、知覚を広げたため判るのだ。今までは俺自身の星辰力の流出がノイズとなって上手く出来なかったが、内に溜めておけるようになったため出来るようになった。

 

「ならば・・・・・・これでどうだ?!」

 

黎沈雲の放った呪符は俺を取り囲む。

 

「(数は・・・・・・十二枚)」

 

『すべて爆雷符ね』

 

俺が俺を囲む呪符の数を一瞬で数えると、頭の中に念話でセレスの声が聞こえた。

 

『やるよセレス』

 

『ええ』

 

俺たちは焦ることなく歩を進める。当然のように呪符が起爆し、それに連鎖して囲む呪符十二枚が次々と爆発が巻き起こる。

本来なら無傷ではすまない所なのだろうが。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

俺はほぼ無傷で通り抜けた。

 

「っぐ・・・・・・!」

 

黎沈雲はあり得ないとでも言うように顔をくしゃくしゃにする。

俺が無傷なのは単純に、全部斬ったからだ。起爆した十二枚の呪符の爆発をセレスで斬ったのだ。セレスは万物すべてを斬ることの出来る魔剣だ。以前イレーネの純星煌式武装覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)が暴走したとき、俺はセレスで重力の根源そのものを斬った。今回は爆発の根源を斬ったにすぎない。

そのまま歩くとセレスが。

 

『綾斗、左前』

 

と言った。

俺もセレスに。

 

『ああ、わかってる』

 

と返し、左腕で襲い掛かってきた黎沈華の蹴りを受け止める。

 

『次は正面よ』

 

セレスの念話と同時に俺は、見えていないはずの黎沈華の右突きを半歩動いてかわし、そのまま黎沈華の肩を軽く押し。

 

「天霧辰明流奥伝―――"逆羅刹(さからせつ)"」

 

「きゃあああああっ!」

 

右後方にあった黎沈華自身が仕掛けた呪符に当たり、容赦なく呪符は爆発し黎沈華の体が爆風にもまれて後ろに舞う。そして、その衝撃で術が解けた黎沈華の校章を、その場から見もせず後ろにセレスを振って斬り落とした。

 

「うっ・・・・・・う、うそ・・・・・・」

 

真っ二つに斬られた校章を見て黎沈華は唖然として言う。

黎沈華の校章が斬られたのを見て、さすがに黎沈雲の顔に焦りの色が浮かぶ。

 

「こうなったら・・・・・・はぁぁっ!」

 

距離を取った黎沈雲は両手を広げ、その袖から大量の呪符を取り出した。というか、袖から大量の呪符がまるで雪崩のようにあふれ出た。

 

『あんな大量の呪符、どこに仕舞っていたのかしら?』

 

『確かに。あの制服に収まるような量じゃないよね』

 

あふれ出た呪符を見ながらセレスと念話で会話していると、呪符は竜巻のように舞い上がり、そのまま黎沈雲の頭上で巨大な球を形作った。

 

『うわ~。スゴいわねー』

 

『セレス、棒読みだよ?』

 

セレスの棒読みに念話でそうツッコむと。

 

「僕の手持ちの呪符すべてを使って織り上げた爆雷球だ。存分に味わってくれ!」

 

黎沈雲はそう言うと、さらにその場で複雑な印を結んだ。

すると、その爆雷球が大きく揺らぎ、ぶれるようしてその数を増やした。一つから二つ、二つから四つと、最終的に爆雷球は八つに増えた。が。

 

『あれ、残りの七つはすべて幻影よ?今の私と綾斗に通用するわけないのに』

 

セレスが言うように、本物の爆雷球は一つだけ、残りは幻影だ。俺のその考えを肯定するように黎沈雲も言う。

 

「もちろんこれは幻影だよ。本物は一つだけ。・・・・・・まあ、今の君にはお見通しだろうけど・・・・・・。―――これならどうかな?」

 

黎沈雲が腕を振るうと、巨大な八つの爆雷球が降下を始めた。

 

「(狙いは俺じゃなくて・・・・・・ユリス!)」

 

爆雷球は俺を通りすぎて、後ろで膝をついているユリスの方に向かっていっていた。

 

『なるほど、そう来たわね』

 

「くっ・・・・・・!」

 

ユリスは立ち上がろうとするがすぐに膝をついてしまった。さすがに今のユリスは体力もすべてが限界だ。

 

「綾斗!私は大丈夫だ!それよりやつを―――」

 

「少し黙っていてくれないか、《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》?!」

 

「―――っ!」

 

印を結んだ黎沈雲に反応して、ユリスの近くにあった呪符から稲妻が迸り、雷撃がユリスを襲う。

だが。

 

「綾斗っ!」

 

一瞬でユリスの前に移動した俺が、その雷撃をセレスで弾き飛ばす。

 

「―――最後の最後まであなたらしいな、黎沈雲(リーシェンユン)?」

 

「あははは!そう、そうでなければね、《叢雲》!諸共に吹き飛ぶがいいよ!」

 

黎沈雲の言う通り、すでに八つの爆雷球はすでに眼前に迫っていた。

しかし。

 

「かわす必要なんてないさ」

 

『ええ、かわす必要は無いわ』

 

俺とセレスがそう言うと、俺は《黒炉の魔剣(セレス)》のウルム=マナダイトへ星辰力を注ぎ込む。

 

『さて、やろうかセレス』

 

『ええ、やりましょう綾斗。あの生意気なバカに思い知らせてあげましょう』

 

『『―――俺(私)たちの力を!』』

 

星辰力を吸った《黒炉の魔剣(セレス)》の刀身が長く巨大に伸び、黒い紋様が嬉々として舞い踊る。刀身は一瞬の内に、十メートルを超えた長さになる。以前、綺凛ちゃんとオーフェリアと一緒に竜もどきを討滅したときに使用した流星闘技(メテオアーツ)。俺の流星闘技は星辰力の消費が激しく、結果としてリミットの時間を早めてしまうため試合で使うことは無いだろうと思っていたが、今の俺たちなら、なんの問題ない。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

動揺する黎沈雲を無視し、セレスを右後方に振り払い。

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

両手で握ったセレスで爆雷球を幻影ごと薙ぎ払う。

 

「ああああぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

『はあああぁぁぁぁぁぁっっ!!』

 

途中で薙ぎ払いが止まった本物の爆雷球をセレスの声とともに、思いっきり振り払う。

さらに、斬られた衝撃で巻き起こりかけた大爆発を、上段から斜めに振り下ろし、一撃で爆風ごと断ち切った(・・・・・・・・・)

 

「はあっ!」

 

『やあっ!』

 

斬られた爆風は、黎沈雲に凄まじい風となって襲い、セレスの刀身はステージに長く深い斬撃の跡を刻んでいた。その証拠に、セレスで斬られた斬撃の痕には、高熱で焼け斬られた赤い痕が残ってる。

 

「・・・・・・ば、ばかな・・・・・・」

 

呆然と立ち尽くす黎沈雲に、俺はセレスの柄を手放し。

 

『思いっきりやりなさい綾斗!』

 

『ああ!』

 

セレスと念話で一言話して無手のまま黎沈雲との距離を一息で詰める。

 

「―――さすがに少し腹が立ったよ」

 

そう言って強く右拳を握りしめ。

 

「え・・・・・・?」

 

唖然としている黎沈雲の顔面に、思いっきりその拳を叩き込む。

 

「ぐはぁっ!」

 

そのまま吹き飛ぶ黎沈雲を追い掛けて、そのまま通り越した俺はさらに畳み掛けるように黎沈雲をステージ上空に蹴り飛ばし。

 

「はあっ!」

 

上に吹き飛ばされた黎沈雲を追って飛び上がり、星辰力で作った力場で黎沈雲をステージに再度蹴り落として、止めにステージに落ちてくる黎沈雲の顔面を再度殴り込む。

もんどり打って吹き飛んだ黎沈雲は、ステージの壁に思いっきりぶつかり、そのままピクリとも動かない。どうやら気絶したみたいだ。

 

「だからまあ、これくらいはね」

 

倒れ付した黎沈雲にそう言うと。

 

 

 

 

黎沈雲(リーシェンユン)選手、意識消失(アンコンシャスネス)!これによって、勝者!天霧綾斗&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト!』

 

 

 

 

解説者の声とともに嵐のような大歓声と喝采がステージに吹き荒れた。

振り返って視線を向けると、ユリスは少し疲れたような、けれども確かな嬉しさを滲ませた笑顔で、俺にぐっと親指を立てた。

それと同時に。

 

『お疲れさま綾斗!』

 

頭の中に、嬉しそうな声で言うセレスの声が聞こえた。

 

 

 

 



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歌姫の帰還と再検査

 

~綾斗side~

 

 

シリウスドーム控え室

 

 

鳳凰星武祭(フェニクス)準々決勝が終わって30分後、俺とユリスはドーム内の選手控え室にいた。室内には俺とユリスのほか。

 

「おめでとうございます、姫様!天霧様!本当にほんっとーにすごかったです!フローラ、大興奮でした!」

 

「おいおい、少し落ち着けフローラ」

 

「ありがとうフローラちゃん」

 

ユリスの侍女であるフローラちゃんと。

 

「あらあら、フローラは相変わらずですね」

 

「クローディアはフローラちゃんのこと知ってるんだ」

 

フローラちゃんをここまで連れてきたクローディアがいる。

 

「ええ、まあ。ユリスの侍女として何度かお会いしたことがありますので」

 

クローディアの言葉に、俺はクローディアの両親が銀河に所属してることを思い出した。両親が銀河に務めているなら、リーゼルタニアのお姫様であるユリスの侍女たるフローラちゃんを知っていて当然だ。まあ、クローディア自身ユリスの友達だからその関係上、フローラちゃんと知り合っていても何ら不思議はないけど。

 

「エンフィールド様は何時も優しいです!先程もフローラにお菓子をくださりました!」

 

そう言うとフローラちゃんは、ポーチからクローディアから貰ったであろうマドレーヌを袋から取り出してパクッと、小さな口で食べた。小動物みたいで見ているだけで癒される感じがした。

 

「良かったなフローラ」

 

「あい!あ、姫様もどうぞ!」

 

「あ、いや、それはおまえがクローディアから貰った物だからな。私が貰う訳にはいかない」

 

「うぅぅ・・・・・・そうですか」

 

ユリスの言葉にあからさまにガッカリするフローラちゃんの姿に、流石のユリスも慌てふためく。

 

「あ、あぁ。いや、や、やっぱり貰ってもいいかフローラ」

 

「っっ♪!あい!どうぞです姫様!」

 

ユリスの言葉にフローラちゃんはガッカリから一転、満面の笑みを浮かべてユリスにクローディアから貰ったマドレーヌを渡した。

 

「――――――うむ。美味いな」

 

「あい!」

 

フローラちゃんの頭を撫でながらユリスはマドレーヌの感想を言う。クローディアも作ったかいが在ったというのか嬉しそうだ。

 

「まったく。ほんと、おまえは何でもそつ無くこなすよなクローディア?」

 

「いえいえ。さすがの私も不得手としている事ぐらいありますよ」

 

「どうだかな・・・・・・」

 

クローディアの言葉にユリスは半眼で見ながら言う。そのやり取りに、俺は思わず苦笑いが出てしまった。

 

「綾斗もお一ついかがでしょう?」

 

「ありがとうクローディア。助かるよ」

 

クローディアから手渡された、ラッピングされた袋に入ったクッキーを一口食べると、脳に糖分が染み渡って行った。この疲れた体に嬉しい食べ物だ。甘過ぎず、甘く無くなく、丁度いい適度な甘さのクッキーだ。

 

「うん。美味しいよクローディア」

 

食べて感想をクローディアに言いながら、俺はこのクッキーを前に何処かで食べた気がした。

 

「それは良かっです。彼女から教えて貰ってましたから綾斗のお口に合うと思います」

 

「彼女?」

 

「ええ」

 

クローディアの彼女、という単語に俺はすぐさま候補を探す。そしてすぐに俺は誰かわかった。

 

「もしかしてシルヴィから?」

 

念の為クローディアに訊くと。

 

「ええ、そうです」

 

クローディアはいつもの笑みを浮かべたまま肯定した。

クローディアの肯定に俺は思わず苦笑いを浮かべた。大方、生徒会長同士という事で、内緒でお願いしたんだろう。シルヴィのその行動が目に浮かぶ様子に内心微笑ましくなった。

 

「さて、綾斗、ユリス。鳳凰星武祭(フェニクス)準決勝進出おめでとうございます。我が星導館学園は予想以上のポイントを得ています。学園を代表して喜びと感謝をお二人に申し上げます」

 

「あ、いや・・・・・・別に感謝されるような事じゃ」

 

深々と頭を下げるクローディアに俺はそう答える。

 

「もちろん、学園の代表としてだけでなく私個人、友人として喜ばしく思っております」

 

「ありがとうクローディア」

 

「いえ」

 

クローディアと話していると。

 

「・・・・・・お待たせ」

 

ルームの扉が開き変装したオーフェリアが入ってきた。

 

「オーフェリア」

 

「遅かったな、何かあったのか?」

 

「・・・・・・ちょっとした野暮用よ。それより傷の方は大丈夫なのユリス?」

 

「ん。ああ、まあな。明日は休みだからな、問題ない」

 

「そういう問題ではない気がしますけど・・・・・・」

 

ユリスの問題ないに、引き攣り笑いを浮かべてクローディアが反論する。それに俺もオーフェリアも同意するように頷く。

そこにクローディアが思い出したように俺に。

 

「綾斗。明日の適合率検査は午前9時から、以前測定しました場所で行いますので、遅くとも10分前にはいらして下さいね」

 

「分かったよ」

 

「では、私はこの辺で失礼しますね」

 

そう言うと、クローディアは軽く頭を下げルームから出て行った。

 

「私たちも先に帰るからな綾斗。フローラと街を見て回るのでな」

 

「うん、お疲れユリス」

 

「そっちこそな。それじゃオーフェリア、あとは頼んだぞ」

 

「・・・・・・ええ。任されたわ」

 

「うむ。行くかフローラ」

 

「あい!天霧様!ランドルーフェン様!失礼します!」

 

「うん、またねフローラちゃん」

 

「・・・・・・また」

 

フローラちゃんを連れてユリスはそのままルームから出た。これでルームには俺とオーフェリアの二人っきりになった。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「あー。な、なに、オーフェリア?」

 

二人が居なくなってからジッと見つめるオーフェリアにたじろぎながら訊ねる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

しかしオーフェリアはジッと、なにかを見つめるように俺の顔を瞬きもせず見る。

やがて。

 

「・・・・・・綾斗」

 

「な、なに?」

 

「・・・・・・ここじゃあれだから早く私たちの家に帰りましょう」

 

「あー。うん、そうだね」

 

手早く着替え、俺はオーフェリアとともにルームを出てシリウスドームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後

 

 

「・・・・・・ただいま」

 

「ただいま」

 

俺とオーフェリアは買い物を軽くしてアスタリスクにある自宅に帰ってきた。俺はそのまま荷物をリビングに置き。

 

「・・・・・・それは私がやっとくから、綾斗は着替えてきたらどうかしら?」

 

「それじゃあお願いするよ」

 

オーフェリアに荷物類を任せ、自室に戻った俺はラフな格好に着替えリビングに戻った。

リビングに戻ると、丁度オーフェリアが夕飯を作っている最中だった。

 

「なにか手伝おうか?」

 

「・・・・・・大丈夫よ。綾斗は明後日の準決勝に向けて身体を休めて」

 

「それじゃあお言葉に甘えて」

 

オーフェリアにそう言われ、俺は身体を休めるためリビングの戸棚にセレスの発動体を置き、ソファに横になって眼を瞑った。

どうやら思っていた以上に自身の身体に疲れが溜まっていたみたいだ。オーフェリアはそれを見越していたから身体を休めるように言ったのかもしれない。まあ、その気遣いに少し照れくさくもなったが。俺はそのまま意識を奥に潜らせると眠りに落ちた。

 

「んん・・・・・・」

 

小さく声を出して目を開けると。

 

「あ、起きた綾斗くん?」

 

目の前に見慣れた顔の少女がいた。

 

「ん・・・・・・シルヴィ?」

 

「うん。おはよう、綾斗くん」

 

「おはよう・・・・・・んん!?」

 

眠気眼を擦って身体を起こ―――そうとしたがシルヴィに押し留まれた。あまりに自然な事だったからつい普通に返したけど。

 

「あれ?!なんでシルヴィがいるの!?」

 

シルヴィが居るということに俺は驚いた。

その俺の声が聞こえたのか、台所から。

 

「・・・・・・起きたの綾斗」

 

エプロン姿のオーフェリアが姿を見せてきた。

 

「あ、ああ。じゃなくて、いつの間にシルヴィ帰ってきてたの!?」

 

「・・・・・・1時間くらい前」

 

オーフェリアの言葉に時計を見ると、俺が寝てから約四時間ほど過ぎていた。かなり寝ていたようだ。とまあ、それは別として先程から俺の頭の下になにか柔らかい物があるのに気になった。

 

「綾斗くんかなり熟睡していたね。私がこうしても起きなかったんだもん」

 

「え?」

 

シルヴィの言葉に俺は今の状況を見る。

やがて。

 

「もしかしてこれってシルヴィの膝?」

 

頭の下にある柔らかい感触に俺はシルヴィに訊く。

 

「そうだよ。気持ちいい?」

 

「う、うん」

 

シルヴィの言葉にそう返すと。

 

「・・・・・・シルヴィアずるい」

 

少しムッとした表情のオーフェリアがいた。

 

「えへへ」

 

対するシルヴィは笑みを浮かべるだけだ。というかそろそろ起きたいんだけどな~。

 

「あー。シルヴィ、そろそろ起きたいんだけど・・・・・・いいかな?」

 

「うん。疲れはとれた?」

 

「まあね」

 

起き上がった俺は立ち上がり、軽く延びをする。

軽く延びをして部屋を見渡すと、戸棚にはセレスの他にシルヴィの銃剣型煌式武装《フォールクヴァング》の発動体が置かれていて、テーブルには夕食の準備がされていた。

 

「・・・・・・夕飯、出来たから早く食べましょう」

 

「そうだね」

 

「うん。あ~、久しぶりのオーフェリアちゃんのご飯だよ♪」

 

シルヴィは楽しみそうに言いながら席についた。

俺とシルヴィが席に着くと、台所からオーフェリアが料理を持ってきてくれた。

 

「・・・・・・はい、どうぞ」

 

「ありがとうオーフェリアちゃん!」

 

「ありがとうオーフェリア」

 

「・・・・・・どういたしまして」

 

「それじゃ―――いただきます!」

 

「いただきます」

 

「・・・・・・召し上がれ」

 

シルヴィの待ちきれないとでも言うような声に俺とオーフェリアはクスリと笑みをこぼして、オーフェリアの作った夕飯を久しぶりの三人で食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後

 

 

夕飯を食べ終え、それぞれお風呂に入って寝る準備をした俺たちはリビングのソファに腰掛けて話していた。

 

「まずは鳳凰星武祭準決勝進出おめでとう綾斗くん」

 

「あはは。ありがとうシルヴィ」

 

「うん!」

 

「・・・・・・綾斗、二つ目の封印が解けたのね」

 

「まあね」

 

「なるほど~。だから、さっきから綾斗くんの星辰力(プラーナ)の光が強いんだね」

 

「え、星辰力漏れてる?」

 

俺はシルヴィの声に自身の体を見渡す。だが、星辰力が漏れ出てるようには感じ取れない。

 

「あ、漏れてはないよ。感覚、かな?」

 

「・・・・・・ええ」

 

「へぇー」

 

俺には感知出来ないが、シルヴィとオーフェリアは俺の変化が分かってるみたいだ。さすが、片や世界の歌姫と片や世界最強の魔女だということか。

 

「あ、二人とも明日のライブは午後6時から始まるから忘れないでね」

 

「もちろん」

 

「・・・・・・ええ、わかってるわ」

 

明日のシルヴィのライブはかなり楽しみだ。

小さい頃にシルヴィの歌ってる姿はなんとも見たけど、こうした大きな場所で歌ってる姿は見たことないからだ。まあ、シルヴィのライブ動画はかなりネットに流れてるけど。もちろん、俺もネットで見たことはあるけど、直に観たことはなかった。

そのまま今日の準々決勝のことや、シルヴィのツアーライブの事とか話し眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日 午前9時

 

 

 星導館学園内保管庫

 

 

 

「それでは綾斗、只今から《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》の適合率検査を行います」

 

翌日の早朝、俺は予定通り星導館学園の保管庫。以前セレスの適合率検査をして場所にいた。ここにいるのは俺と、生徒会長であるクローディア、そして検査職員のみだ。

 

「了解」

 

クローディアの言葉に、俺はポーチから《黒炉の魔剣(セレス)》の発動体を取り出し起動させる。

 

『セレス起きてる?』

 

《黒炉の魔剣》の柄を握りながら頭の中で、《黒炉の魔剣》の意識体であるセレスに声をかける。

 

『起きてるわ綾斗』

 

声をかけると、頭の中にセレスの声が響く。

 

『昨日の疲れはとれたかしら?』

 

『まあね』

 

『そう。それで、確か今日は適合率の再検査だったかしら?』

 

『みたいだね』

 

セレスと念話で話していると。

 

「それでは綾斗、《黒炉の魔剣》に自身の星辰力を流してください」

 

クローディアがそう言ってきた。

 

「ん、わかった」

 

クローディアの言う通り、セレスに自身の星辰力を流し込んでいく。すると。

 

『《黒炉の魔剣》との適合率30%・・・・・・55%』

 

スピーカーから検査している装備局の職員の声が流れる。

そのままセレスに星辰力を流していると。

 

『―――80%・・・・・・90%・・・・・・98%・・・・・・99%』

 

『適合率、100%に到達しました』

 

職員のそんな声が聞こえた。

その声にクローディアが喋ろうとすると。

 

「わかり―――」

 

『ま、待ってください!適合率、さらに上昇しています!』

 

職員の動揺した声がスピーカーから伝わってきた。

 

「なっ!?」

 

さすがのクローディアも職員のその言葉に動揺を隠せずにいた。

 

『120%・・・・・・130%・・・・・ま、まだ上昇しています!』

 

職員の声が流れると、アラームの音が響いた。

 

『あ、あり得ない・・・・・・こんなこと・・・・・・!』

 

『現在、適合率145%!・・・・・・で、出ました!天霧綾斗と《黒炉の魔剣》の現在の適合率―――150%!』

 

「150%ですか?!」

 

職員の言葉に何時もポーカーフェイスのクローディアに驚きの表情が見えた。その間、俺はセレスと念話で会話をした。

 

『ねえ、セレス』

 

『なに?』

 

『適合率が150%みたいだけど、それってすごいの?』

 

『まあ、そうね。適合率が150%なんて、見たことないんじゃないかしら?というより、そもそも100%超えなんて聞いたことないわ』

 

『へぇ』

 

『まあ、それくらいじゃないとこうして私と会話なんて出来るはずがないのだけどね』

 

『な、なるほど』

 

そうセレスと念話で会話をしていると。

 

「綾斗、もう結構です」

 

クローディアの止める声が聞こえた。

 

「了解」

 

セレスに流していた星辰力を止め、セレスを元の発動体状態に戻す。

 

「それで、再検査して何か分かったのクローディア?」

 

「はい。というより、あり得ないということが分かりました」

 

「んん?」

 

クローディアの言葉に首をかしげると。

 

「綾斗、このあと生徒会室に来てください。そこで話します」

 

クローディアにそう言われ、俺は一通り終わってからクローディアとともに生徒会室に向かった。

 

「綾斗、よく聞いてください」

 

生徒会室に着くなり、かなり真面目な表情でクローディアが言った。

 

「う、うん」

 

クローディアの真面目な表情に引き締めて聞く。

 

「綾斗、その純星煌式武装《黒炉の魔剣》は綾斗専用になっています」

 

「はい?」

 

「正確には、綾斗だけの《黒炉の魔剣》です」

 

「え、どういうこと?」

 

「要するに、その純星煌式武装《黒炉の魔剣》は綾斗だけの物ということです。星導館を卒業しても、それは返却せず綾斗が保持してください」

 

つまりはセレスは半永久的に俺の純星煌式武装(相棒)だと言うことだ。クローディアが言うには、100%超えなんて見たことないらしく、100%を越えた純星煌式武装は他者には扱えないらしい。それは設定をフォーマットしても同様だとのことだ。

 

「えっと、つまり《黒炉の魔剣》はずっと俺の剣ってこと?」

 

「はい。そうなりますね」

 

「そうなんだ」

 

俺自身かなり驚きつつクローディアと話す。

 

「つきましてはこれにサインをお願いしますね」

 

「ああ」

 

クローディアはそう言うと、俺に書類を渡してきた。俺はそれをサッと見てサインを記入する。

 

「はい。これで本日の検査は以上となります」

 

「了解」

 

「さてと、それでは行きましょうか。綾斗も待っている人がいますよね」

 

「あ、うん」

 

クローディアとともに生徒会室を出た俺は、クローディアと分かれて星導館学園と六花を繋ぐ橋にいた変装したオーフェリアと合流し、オーフェリアとともに六花に向けて歩いていった。

 

 

 



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天羅会合と歌姫の歌唱

 

~綾斗side~

 

 

純星煌式武装(オーガルクス)黒炉の魔剣(セル=べレスタ)ことセレスとの再適合検査を終えた俺は、クローディアの生徒会室で新たに手続きやらをし星導館学園を後にして、近くで待っていたオーフェリアと合流した。

 

「お待たせ、オーフェリア」

 

「・・・・・・平気よ」

 

俺を待っていたオーフェリアは、近くにあったベンチに腰掛けて読書をしていた。

 

「何読んでいたの?」

 

ブックカバーで本の冊子が見えない俺はオーフェリアに訊ねる。

 

「・・・・・・ふふ。ナイショよ」

 

「っ///!」

 

オーフェリアの片目をつぶって妖艶に微笑む姿を見て俺はドキッ!としてしまった。なんというか、とても様になっていたのだ。

 

「・・・・・・それで、検査の結果はどうだったの?」

 

「あ、うん。適合率150%だって」

 

「・・・・・・っ!?」

 

「オーフェリア?」

 

俺の言った適合率に、目を見張ったオーフェリア。その反応はまさに、先程のクローディアと同じだった。

 

「・・・・・・ごめん綾斗。もう一回言ってくれる?」

 

「え?適合率150%」

 

「・・・・・・聞き間違いじゃなかった・・・・・・!」

 

オーフェリアは、嘘でしょとでも言うような表情を浮かべた。

 

「そんなに凄いの?」

 

何故そこまで驚いているのか分からない俺はオーフェリアに訪ねた。クローディアも驚いていたけど。クローディアから100%超えなんて見たことなく、100%を越えた純星煌式武装は使用者以外の他者には扱えない、ということは聞いたけど。

 

「・・・・・・まあ、凄いといえば凄いわね。適合率100%越えなんて聞いたことないし」

 

「へえ」

 

「・・・・・・夜にでもシルヴィアを交えて話しましょう」

 

「了解」

 

「・・・・・・それじゃ、行きましょう綾斗」

 

「ああ。―――って、引っ張らないでオーフェリア!」

 

「・・・・・・ふふ」

 

昔と同じように、楽しそうに微笑むオーフェリアに引っ張られて俺はオーフェリアとともにアスタリスク市街地に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスタリスク市街地

 

 

「・・・・・・にしても、今日は凄い賑やかね」

 

「だね」

 

今は鳳凰星武祭(フェニクス)の最中のため賑やかだが、今日は格別に賑やかだった。その証拠に、ある一角には。

 

「・・・・・観て綾斗、シルヴィアのグッズやCDが売られてるわ」

 

「うわっ。すごいね」

 

シルヴィアのホログラフィック映像が流れており、物品の販売が行われていた。

 

「・・・・・・私たちもなにか買う?」

 

オーフェリアがそう訊ねてくる。それに答えたのは。

 

「───それはいい考え」

 

「だね。えっ!?」

 

「・・・・・・やっ」

 

「紗夜!?」

 

いつの間にか俺とオーフェリアの近くにまで来ていた紗夜だった。

 

「・・・・・・綾斗、再検査は終わったのか?」

 

「え、あ、うん。まあ」

 

「それで結果は?」

 

「───・・・・・適合率150%よ」

 

「・・・・・・なに?」

 

紗夜の問いに答えたオーフェリアの言葉に、紗夜は珍しく目を大きく開いた。

 

「それは本当か?」

 

「・・・・・・ええ」

 

「・・・・・・そうか」

 

神妙になっている紗夜のところに。

 

「さ、紗夜さん~!待ってください!」

 

「・・・・・・やっと来たか綺凛」

 

綺凛ちゃんが走ってやってきた。相当走ったのか、顔が火照っていた。

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。もう、置いてかないで下さい!」

 

「すまん」

 

「紗夜・・・・・・」

 

「・・・・・・紗夜、あなたね・・・・・・」

 

後輩である綺凛ちゃんを引っ張り回す、先輩の紗夜に俺とオーフェリアは呆れて表情を作った。

 

「あ、綾斗先輩とオーフェリアさん!おはようございます!」

 

「あ、うん、おはよう綺凛ちゃん」

 

「・・・・・・おはよう、綺凛」

 

「はい」

 

「だ、大丈夫?」

 

「なんとか・・・・・・」

 

かなりお疲れ気味の綺凛ちゃんに、俺は紗夜をジト見する。その紗夜はというと。

 

「───これ、三つ」

 

「毎度あり!」

 

物品ブースで何かを買っていた。

 

「何買ってきたのさ紗夜」

 

「・・・・・・ん」

 

買った物の中身を見ると、袋の中にはシルヴィの新作CDが三つあった。

 

「なんで三つも?」

 

「・・・・・・ひとつは私の。もうひとつはお父さんとお母さんに」

 

「残り一つは?」

 

「・・・・・・綺凛の」

 

「ふぇ?わ、わたしのですか?」

 

「そう」

 

そう言って紗夜は、袋から出したCDのひとつを綺凛ちゃんに渡した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「別にいい」

 

その様子を見て、俺とオーフェリアはびっくり仰天した。

 

「あの紗夜が・・・・・・」

 

「・・・・・・明日は雨かしら・・・・・・!?それとも槍・・・・・?」

 

「む。二人ともなにか失礼なこと考えてる。これでも私は成長してる。えへん」

 

「え、えーと・・・・・・あはは・・・・・・」

 

俺たちのやり取りに苦笑する綺凛ちゃん。

そんなやり取りをして、俺とオーフェリアもシルヴィの物品を幾つか買って、紗夜と綺凛ちゃんと分かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

「・・・・・・そろそろ一度家に帰って会場にいきましょうか」

 

「そうだね」

 

そう言って、俺とオーフェリアは一度家に戻るため近くの公園の中を通って行くことにした。

公園の中を歩いている最中、俺はふと妙な感じがした。

 

「あれ、ここっていつもこんなに人少なかったっけ?」

 

「・・・・・・そう言えばそうね」

 

よく通る公園のため、俺とオーフェリアは公園の人の数が少ないことに疑問を持った。

いつも、それなりの人がいるはずなのだが、今日はまったく居なかった。まるで、神隠しのように。そう思ったとき。

 

『綾斗!ここ、人払いの結界が張られてるわ!』

 

セレスから念話が来た。

 

「人払いの結界?!」

 

「・・・・・・まさか」

 

俺とオーフェリアはすぐに辺りを警戒するように意識を研ぎ澄ませる。

やがて。

 

「っ!」

 

突如目の前に、ピンク色のチャイナ服のような服を来た少女が現れ。

 

「いきなりすまんの!」

 

謝罪と同時に、手刀を振りかぶってきた。

 

『綾斗!』

 

俺は咄嗟に超高速で無詠唱の封印解除をし、視界を拡張した。

僅か一秒足らずで解除し、瞬時に視界拡張をした俺の目には少女の手刀が映し出されていた。

 

「(なっ!早いっ!)」

 

その少女の速度は今の俺でもギリギリ捉えられる位の速度だった。

俺は少女の手刀を星辰力(プラーナ)を集中させた左手で逸らし、立て続けにフェイントも交じ入れて繰り出してきた攻撃を捌いた。しかし、それにも限界があり。

 

「っく!」

 

少女の掌底を受ける。───はずだった。

それを阻止したのは。

 

「・・・・・・させないわよ」

 

俺の前に瘴気の壁を張ったオーフェリアだった。

さすがの瘴気の壁に、少女も瞬時に掌底を止め後ろに下がった。

 

「やれやれ、まさか主が助けるとはの孤毒の魔女(エレンシュキーガル)よ」

 

少女はオーフェリアの方を向きながら少々意外という感じの顔で言ってきた。対するオーフェリアはと言うと。

 

「・・・・・・わざわざ人払いの結界までしてなんの用かしら、范星露(ファンシンルー)

 

殺気を少し出して、范星露と呼ばれた少女に返した。

 

「范星露?どこかで聞いたような・・・・・・」

 

「ほっほっほっ!どうやら《叢雲》は妾を知らぬようじゃの」

 

「・・・・・・当然でしょ。綾斗がアスタリスクに来たのはほんの数ヶ月前よ」

 

「そう言えばそうじゃったの。すまぬの孤毒の魔女」

 

どうやらオーフェリアはあの少女の事を知っているみたいだけど。

 

『セレス、あの子って誰か分かる?』

 

俺は念話でセレスにあの少女について訊ねる。

 

『まあ、分かるといえば分かるわよ。だって、彼女ある意味有名だもの』

 

『有名?』

 

『ええ』

 

セレスがそう言い終えると同時に。

 

「・・・・・・綾斗、彼女は界龍(ジェロン)第7学院の冒頭の十二人(ページ・ワン)で、綾人や私、シルヴィアと同じ序列一位の范星露よ」

 

「それって確か・・・・・・!」

 

「・・・・・・ええ、彼女の二つ名は───《万有天羅》」

 

オーフェリアの言葉に、俺は目の前の少女。《万有天羅》こと范星露を見た。

 

「(この子が界龍の序列一位・・・・・・)」

 

恐らく年齢はフローラちゃんと同じか、それ以下だろう。にも関わらず序列一位。さすがの俺も本人を目の前にして驚きを隠せずにいた。

 

「ほっほっ。初めましてじゃの《叢雲》。妾は范星露。当代の《万有天羅》じゃ」

 

「天霧綾斗です・・・・・・」

 

「そう警戒せんで良い。何もせぬよ」

 

「・・・・・・初対面の人にいきなり攻撃してきてそれはないわよ」

 

朗らかに言う范星露にオーフェリアはジト目で呆れたように言う。

 

「すまんの孤毒の魔女」

 

「・・・・・・それで、一体なんの用?」

 

「用があるのはそこのお主じゃ」

 

范星露が指さして来たのはオーフェリアではなく。

 

「俺?」

 

「・・・・・・綾斗?」

 

俺だった。

 

「・・・・・・そう言えばあなた、綾斗に一直線に攻撃して行ったわね」

 

「うむ。昨日の鳳凰星武祭準々決勝、見事な戦いじゃったわ」

 

「ど、どうも」

 

「・・・・・・まさか、それで合間みえて見たくなって今日、わざわざ人払いの結界までしてやってきたって訳?」

 

「うむ」

 

「・・・・・・はぁー。あなたという人は・・・・・・」

 

疲れたようにため息を吐くオーフェリアに、俺は首をかしげた。

 

「オーフェリア、范星露と知り合いなの?」

 

星露(シンルー)で良いぞ叢雲よ」

 

「は、はあ」

 

中々の気軽な性格にさすがの俺も戸惑う。

 

「孤毒の魔女とは少々あっての」

 

「そうなのオーフェリア?」

 

「・・・・・・昔、私の瘴気が暴走しかけた時に偶然通り掛かった星露が助けてくれたのよ」

 

「えっ!?暴走!?」

 

初めて聞くことにさすがの俺も驚きを隠すせずにいた。

 

「あの頃のお主はまだそれを完全に掌握しきれて無かったからの」

 

「・・・・・・それ以来時々、星露の実践込みの練習に付き合ってるのよ。しかも、界龍の人達に内緒にしてまで」

 

「主はあの頃から、隠れた宝石の原石のようじゃったからの。妾も興味があったのじゃ」

 

「・・・・・・最近はその実践込みの練習してこないから不思議に思ってたのだけど?」

 

「ほっほっ。主と叢雲の事は歌姫に聞いておったからの」

 

「・・・・・・なるほど、そういうこと」

 

二人の会話に付いていけない俺を見たのか、オーフェリアがわかりやすく説明してくれた。

 

「な、なるほどね。あれ?そのこと、ディルク・エーベルヴァインは知ってるの?」

 

「あの小童なら知っとるのではないかの。どうなんじゃ孤毒の魔女」

 

「・・・・・・さあ。その事については分からないわ。それに、あの人からここ最近命令なんて受けてないし」

 

「なるほどの」

 

オーフェリアの言葉に、俺は以前あったディルク・エーベルヴァインを思い出す。確かに彼は何を考えてるのか分からない感じがした。俺たちの武ではなく、知で何かをするディルク・エーベルヴァインに俺は警戒を高めることにした。

 

「にしても、叢雲。お主、なにか枷に縛られておるようじゃの」

 

「「っ!?」」

 

星露の言葉に、俺とオーフェリアは目を見開いた。まさか、今の、一瞬の手合せにもならない刹那の時間に、それを見抜いたことに驚いたのだ。確かに、俺には制限(リミット)があることは既に周知の知っていることだ。だが、昨日の戦いで、俺が二つ目の封印を解除したことによりそれは事実か虚偽か意見が割れてるのだ。

 

「ふむ・・・・・・。なるほど、これは禁獄の縛鎖じゃな」

 

「・・・・・・星露、何故そのことを・・・・・・」

 

「先程軽く触れた時に分かったのじゃ。それに、主の星辰力はまだ余力があると見えるしの」

 

「・・・・・・さすが星露ね」

 

「なに、驚いたのは妾もじゃ。まさか、あの手刀を一点集中させた星辰力を込めた手で逸らし、フェイントも追えるとはの。中々の逸材じゃな」

 

「・・・・・・さすが綾斗ね」

 

誇らしげに言うオーフェリアに苦笑しながら星露を見る。星露は面白そうに、そして楽しそうに笑っていた。

 

「どうじゃお主。妾の界龍に来ぬか?」

 

「いや、俺は星導館の学生ですから。それに、仲間もいるので」

 

「それは残念じゃ。さてと、そろそろ妾も帰らぬとな」

 

そう言うと、星露はニッと笑みを浮かべ。

 

「また、合間見えようぞ叢雲よ」

 

そう言って消えていった。

星露が消えると、辺りにちらほらと人がやって来た。どうやら、人払いの結界が解かれたらしい。

 

「・・・・・・やれやれ、随分と面倒な人に目を付けられた見たいよ綾斗」

 

「あー、やっぱり?」

 

「・・・・・・ええ」

 

最後消える時に見せた星露の笑みに、俺は何となく嫌な予感がしたのだがどうやらそれは的中したらしい。

 

「・・・・・・星露のせいでかなり時間取ったけど、急いで帰って会場に行きましょう」

 

「了解」

 

俺とオーフェリアは近くに置いてあった買い物袋を持ち、急いで家に帰り、そこで身支度を整えてライブ会場に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間半後

 

 

 

ベテルギウスドーム

 

 

 

あの後俺とオーフェリアは、ライブ会場であるベテルギウスドームに向かって歩いていた。ベテルギウスドームはシリウスドームより少し小さいが、それでもかなり大きいドームだ。

 

「うわぁ」

 

「凄いわね」

 

ベテルギウスドームに着いた俺とオーフェリアはあまりの凄さに口が塞がらなかった。そこに。

 

「ほお。さすが、歌姫と言うべきか。凄まじい人集りだな」

 

「あい!すごい人だかりです!」

 

「ユリス、フローラちゃんも」

 

ユリスと、ユリスの手を握っているメイド服姿のフローラちゃんの姿があった。

 

「・・・・・・来たのねユリス」

 

「まあ、な。本当なら明日に向けて調整したいのだが、フローラに見せたくてな」

 

「そう」

 

姉のようにしてフローラちゃんをみるユリスに、オーフェリアは少し微笑んでいた。そんなところに。

 

「ん?電話?」

 

視界に空間ウインドウが開いた。

オーフェリアたちと離れ、ウインドウのコールボタンをタップすると。

 

『ヤッホー、綾斗くん』

 

「シルヴィ?」

 

『うん。あ、今ドーム前?』

 

「え?うん、そうだけど」

 

『了解。それじゃあ、西側の入口に回ってくれる?そこにペトラさんがいるから、ペトラさんの後について行って』

 

「わかった」

 

『それじゃ、また後でね』

 

そう言って切れると、ウインドウはブラックアウトした。

 

「ん?また後で?」

 

最後にシルヴィの言った言葉に疑問を持ちつつも、オーフェリアたちの場所に戻る。戻ると、いつの間にか紗夜と綺凛ちゃん、イレーネ、プリシラさんがいた。俺はみんなにシルヴィの言葉を伝え、そこから西側の入口に回り、そこにいたペトラさんと合流し、シルヴィから受け取ったチケットを渡してペトラさんの後について行った。ペトラさんの後について行き、案内された部屋にたどり着くとそこはステージが一望出来る場所だった。

 

「す、凄いです」

 

「お姉ちゃん、凄いよ!」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

みんなが驚いている中、ペトラさんが俺に声を掛けてきた。

 

「綾斗君、シルヴィアが呼んでますのでついてきてもらっていいですか?」

 

「あ、はい」

 

一応、ユリスたちに一言言い俺はペトラさんの後をついて、シルヴィのいる楽屋に向かった。

 

「ここですか?」

 

「はい。では、あとは」

 

「へ?」

 

そう言って足早に去っていってしまうペトラさんに戸惑う中。

 

「待ってたよ綾斗くん!」

 

部屋の扉が開き、中から恐らくステージ衣装だと思うシルヴィが出てきた。

 

「さっ、中に入って!」

 

「え、あ、うん。お邪魔します」

 

楽屋の中に入ると、さすが世界の歌姫なのか花束やらなんやらがあった。

 

「ふふ。まあ、座って綾斗くん」

 

「ああ」

 

シルヴィに促されて近くの椅子に腰掛ける。

 

「綾斗くん、初めてだよね私のライブ」

 

「あ、うん。動画のは見たことあるけど」

 

「そっかあ。嬉しいな」

 

「それで、どうしたの?」

 

「うーん、特に何かあったというわけじゃないんだけど、綾斗くんからパワーを借りたいなって」

 

「え?」

 

そう言うと、シルヴィはポーチから1枚の写真を取り出してみせてきた。

 

「これって・・・・・・」

 

その写真には小さい頃の俺とシルヴィ、オーフェリア、紗夜、姉さん、ウルスラ姉さんの姿が映っていた。

 

「ずっと持っていたんだ」

 

「うん」

 

この写真は紗夜が引っ越す一ヶ月前に撮った写真だ。

俺の部屋にも、この写真がある。

 

「これがあるから、今まで頑張ってこれたんだ」

 

「シルヴィ」

 

「大丈夫、このライブを最高のライブにしてみせるから」

 

そう言うシルヴィに、俺は近づき頭を撫でる。

 

「綾斗くん・・・・・・」

 

「大丈夫だよシルヴィ。いつも通り、普段通りのシルヴィでみんなに見せて」

 

「うん!」

 

緊張の取れたシルヴィがそう言うと。

 

「シルヴィア、そろそろですよ」

 

「オッケー、ペトラさん」

 

「それじゃあ、俺はみんなと上で見てるから」

 

「うん!ちゃんと私を見てね!」

 

「もちろん」

 

シルヴィは元気よく楽屋を出てステージの方に向かっていった。

 

「俺も戻りますね」

 

「はい」

 

そう言って俺もみんなのいる部屋に戻り、シルヴィのライブを見た。

ライブを見た感想は圧巻というより、さすがと言うものだった。昔からその姿を見た俺たち幼馴染以外にとっては凄いとかそんな感じなんだろうけど、俺たちにとっては、さすがという言葉が出た。それほどまでに熱狂的だったのだ。

ステージ上で観客に手を振っているシルヴィを見ながら、俺は固く決意した。必ずあの頃を取り戻すと。

 

 



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歌姫の歌唱後

 

~綾斗side~

 

 

シルヴィのライブ後、俺たちはシルヴィの楽屋にこっそりと案内されシルヴィと合流した。その際、フローラちゃんとプリシラさんが遠慮気味というかなんというかすごく驚いていた。ちなみに、フローラちゃんの故郷、リーゼルタニアでもシルヴィの人気は高く、フローラちゃん自身もシルヴィのファンとのことだ。これを知ったシルヴィはと言うと───。

 

「───よし!ペトラさん!今度リーゼルタニアでライブするよ!」

 

と、タブレット端末を操作していたペトラさんにそう言った。

そして、ペトラさんはと言うと。

 

「・・・・・・はい?」

 

ペトラさんにしては珍しく表情が固まっていた。その約10秒後。

 

「シルヴィア、今あなたリーゼルタニアでライブすると言いましたか?」

 

と、シルヴィに訊ねた。

 

「うん」

 

「あ、あのですね。急にライブをするって言われても困るのですが・・・・・・」

 

「じゃあ、リーゼルタニアでライブをすることにした?」

 

「全く変わってませんよ!?」

 

シルヴィとペトラさんの会話に俺たちは呆然とする。というかペトラさんがツッコんでいること自体見るの初めてな・・・・・・いや、思い返してみると何回か見た気がする。

とまあ、そんな世界の歌姫の意外な姿にプリシラさんとフローラちゃんが驚きつつも、俺たちは会場を後にした。

で、自宅に戻ると。

 

「うぅ~。疲れたぁー」

 

「お疲れさま、シルヴィ」

 

シルヴィが制服を着たそのまま姿でソファにダイブした。

とてもじゃないが、今の姿は他人に見せられない。そう思っていると、

 

「・・・・・・お疲れシルヴィア。制服早く脱いじゃって。そのままいると制服にシワが着くわ」

 

オーフェリアがシルヴィにそう注意した。

 

「はぁーい」

 

オーフェリアの言葉に答えたシルヴィはすぐに起き上がり、制服に手を掛け───って!

 

「シルヴィ、ストップ!」

 

「ん~?どうしたの?」

 

「いや、どうしたの?じゃなくて、俺がいるんだからちょっと待って!」

 

「別に私は気にしないよ?」

 

「俺が気にするから!」

 

突然脱ぎ始めたシルヴィにツッコむ。

慌てて出て行こうとするが。

 

「・・・・・・綾斗はそこで眼をつぶっていてちょうだい」

 

オーフェリアに押し留められ・・・・・・というか、半ば強引な留めにより、俺は出て行けずにいた。仕方なく、眼をつぶり見ないようにする。やがて。

 

「・・・・・・あれ?シルヴィア、もしかして胸、大きくなった?」

 

「え?そーかなー?」

 

「・・・・・・ええ」

 

「うーん、これ以上大きくなったら運動に支障が出るかも」

 

「・・・・・・それ、紗夜にだけは言わないようにしなさいよ?」

 

「あははは・・・・・・わかってるよー。にしてもー・・・・・・」

 

「・・・・・・?何かしら?」

 

「オーフェリアちゃんも成長してない?」

 

「・・・・・・そうかしら?」

 

「そうだよ!」

 

「・・・・・・言われてみれば、数日前からブラがキツくなったような・・・・・・」

 

「ほら、やっばり!」

 

「・・・・・・キャっ!し、シルヴィア!?ちょっと!」

 

「ふむふむ。うわー、オーフェリアちゃんの胸柔らかい。それにモチモチしてる」

 

「あん・・・・・・・!し、シルヴィア、そこはダメ」

 

「ほれほれ」

 

「・・・・・・そっちがその気なら、私も」

 

「ひゃん!」

 

「・・・・・・お返しさせてもらうわよシルヴィア!」

 

「お、オーフェリアちゃん、手、手つきがいやらし・・・・・・ひゃっ!」

 

と、そんな会話が耳に入ってきた。

 

「(二人とも、俺がいること忘れてないかな?!)」

 

目をつぶりながら俺はシルヴィとオーフェリアに無言でツッコミを入れた。そんな俺の心情虚しくシルヴィとオーフェリアの会話が進んで行き、終わったのは約二十分後のことだった。ちなみのその間、俺はセレスの中に潜って夢想していた。

 

「───終わった?」

 

「うん、終わったよー」

 

「・・・・・・ええ、終わったわよ」

 

そんな二人の声が聞こえたため、閉じていた眼を開く。

目を開いて最初に見えたのは、それぞれ黒と薄紫と布地の少ない・・・・・・下着姿のオーフェリアとシルヴィの姿だった。

 

「───!?」

 

二人のその姿にギョッ!?とした俺は目を丸くし。

 

「なんで二人とも服きてないのさ!?」

 

と、ツッコミを入れた。

 

「着てるよ?」

 

「・・・・・・着てるわよ?」

 

「それは着てるって言わないよ!!?」

 

この時、俺は防音の家でよかったと本心思った。

とまあ、そんなこんなで色々あり、オーフェリアとシルヴィにきちんとした服を着てもらい、夕飯を食べ、お風呂に入って、リビングで休んでいた。話題は、今日一日のことだ。オーフェリアが俺と《黒炉の魔剣(セル=べレスタ)》──セレスとの適合率を話した時、シルヴィの動きが驚いたように止まった。

 

「───て、適合率150%!?!」

 

適合率を聞いたシルヴィは絶叫を響き渡らせた。

 

「ほんとなのそれ!?」

 

「・・・・・・ええ」

 

「嘘でしょ・・・・・・」

 

紗夜やオーフェリア、クローディアと同じ反応に首を傾げる。

 

「じゃ、じゃあ、もうその純星煌式武装(オーガルクス)黒炉の魔剣(セル=べレスタ)は綾斗くんの純星煌式武装()ってこと?!」

 

「え、あ、うん、そうみたい」

 

シルヴィの問いに、そう答える。そう答えると、シルヴィはヘナヘナとソファに座り込んだ。

 

「嘘でしょ・・・・・・。綾斗くんと黒炉の魔剣の適合率が150%だなんて・・・・・・これ、かなり注目されるよ・・・・・・」

 

「・・・・・・でしょうね」

 

「そんなになの?」

 

慌てふためく二人の様子に、俺はあまり実感が湧かないまま聞く。

 

「だって、純星煌式武装の適合率で100越えなんて聞いたことないもの!」

 

「・・・・・・私も聞いたことないわ」

 

二人の驚き声に、凄いことなんだなと実感した。俺自身はあまり実感を感じないけど。更に話を続けていき。

 

「し、星露(シンルー)と戦ったぁ!?」

 

本日二度目のシルヴィの絶叫が家に響いた。

 

「なんで界龍(ジェロン)の序列一位《万有天羅》と戦うことになったのよ綾斗くん!オーフェリアちゃん!」

 

「いや、なんでって言われても・・・・・・」

 

「・・・・・・文句は星露に言ってほしいわ・・・・・・」

 

「はぁー。それで、星露はなんて言っていたの?」

 

「なんて言っていたのって言うか、勧誘された?」

 

「勧誘ぅ!?」

 

シルヴィの声は呆れと驚きが入っていた。

 

「なんでなんでなんでぇぇ!!?!!」

 

「うわっ!」

 

肩を掴んで思いっきり顔を近づけてきたシルヴィに、頬を引き攣らせて引いた。

 

「ま、まさか、その勧誘承諾してないよね綾斗くん!」

 

「お、落ち着いてシルヴィ!勧誘は断ったから!」

 

「ホッ。良かったあ」

 

顔を離して安堵したシルヴィに、俺は引きつり笑いを浮かべた。何故なら、さっきのシルヴィの表情がとても怖かったからだ。

 

「シ、シルヴィアすごい顔してたわよ・・・・・・」

 

オーフェリアも若干どころか、かなり引いていた。まあ、オーフェリアが引くのも無理はない。なにせ、シルヴィの顔般若のような表情だったのだから。

 

「シルヴィも星露のこと知ってるんだ」

 

「まあ、彼女はなにかと有名だしね」

 

「・・・・・・序列一位同士の交流もあるのでしょ?」

 

「それなりにね」

 

何処か疲れたように言うシルヴィに同情する。昼間に会って、星露は何かと面倒な人物だと本能で分かったからだ。そして、得体の知れない力を持っていることを。正直、あの時もし星露が本気で来ていたら恐らく一合とも持たなかったと思う。いや、それ以前に、まったく相手にならなかったはずだ。例え、今出せる本気を出したとしても。

そう冷や汗を流して考えていると。

 

「綾斗くん?」

 

「・・・・・・綾斗?どうしたの?」

 

俺の様子がおかしいことに気づいたシルヴィとオーフェリアが心配してきた。

 

「あ、ちょっと考え事してたんだ」

 

「考え事?」

 

「・・・・・・?」

 

「ああ」

 

「・・・・・・もしかして星露と戦ったときのこと?」

 

「!」

 

俺の考えていたことをオーフェリアに見抜かれていたことに、俺は眼を少し大きくして驚く。

 

「そうなの綾斗くん?」

 

「・・・・・・うん」

 

小さく返事をして二人に言う。

 

「今の俺じゃ、星露にはまったく届いてないんだなって実感した」

 

「それは仕方ないわよ」

 

「うん。相手はあの《万有天羅》だもの、仕方ないよ」

 

「分かってる。分かってるんだけど・・・・・・」

 

頭では納得しているが、心は納得できない・・・・・・というより、納得できないのだ。例え、今は星露に追い付けないとしても。

 

「―――絶対乗り越えてやる」

 

いつか星露と同じところにたどり着いてみせる。手が届くところまでに。

 

「綾斗くん・・・・・・」

 

「・・・・・・綾斗・・・・・・」

 

「そのためにも・・・・・・」

 

星露までたどり着くにはまず経験が必要だ。経験は最大の力。そして、俺を封じ込める姉さんの禁獄の楔をすべて解除する。

 

「オーフェリア、シルヴィ、手を貸してほしい。俺は強くならないとならない・・・・・・」

 

真剣な眼差しで二人にお願いする。オーフェリアとシルヴィは俺よりも強い。はっきり言って、俺はまだ低い。二人よりまだ弱い。

だから、俺は俺より強い二人にお願いした。

その俺のお願いに二人は。

 

「うん。もちろんだよ綾斗くん!」

 

「・・・・・・ええ。綾斗がそう言うのなら、私は綾斗に手を貸すわ」

 

心地よく引き受けてくれた。

 

「ありがとう、二人とも」

 

二人にお礼を言い、俺は再度心に誓った。必ず強くなると。オーフェリアやシルヴィ、紗夜、姉さん、ウルスラ姉さんを守るほどの強い力を身に付けると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 準決勝当日

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

シルヴィとオーフェリアに、自身の強化に手を貸してもらうことになり、久しぶりに三人で寝た翌日俺は一人で朝の早朝の公園に来ていた。目的は、意識を集中させ今日の準決勝に備えるためだ。

意識を集中させ精神を統一させていると。

 

「ほっほっ。久しぶりに散歩をしてお主に出くわすとはの」

 

「星露・・・・・・さん」

 

「星露で良いぞ《叢雲》」

 

昨日であった《万有天羅》の星露に出くわした。

 

「お主、昨日何かあったのか?」

 

「え・・・・・・」

 

「主の眼、その眼は決意を固めた眼じゃ。それも、硬い、自身に誓ったほどのな」

 

「それは・・・・・・」

 

星露の声になにも言えずにいると。

 

「まあよい。それよりどうじゃ《叢雲》、少し手合わせをせぬか?」

 

星露はそう聞いてきた。

 

「いま?」

 

「うむ。いまじゃ」

 

「・・・・・・わかった」

 

星露の手合わせに承諾した俺は腰のポーチから《黒炉の魔剣(セレス)》の発動体を取り出し構える。幾ら、リミットが半日近くにまで延びたと言っても、今日は大切な準決勝のある日だ。長時間は出来ない。

俺は念話でセレスに。

 

『セレス、出来るだけ星辰力の消費を抑えてくれる?』

 

『わかったわ。ただ、気を付けなさい。余計な時間は取らないで、気を引き閉めていきなさい』

 

『了解!』

 

セレスとの念話を終え、無詠唱で禁獄の縛鎖による封印を解きセレスを解放する。

 

「この辺りは結界を張っておる。遠慮せずに来るがよい」

 

「では―――行きます!」

 

星露が言い終えると同時に地を蹴り、セレスを星露に振りかぶる。

 

「ほっ!ほっ!」

 

「ふっ!」

 

俺の振りに、星露は余裕でかわす。

 

「はあっ!」

 

「はッ!」

 

「っ!?」

 

『バカな!』

 

セレスの横薙ぎを受け止めた星露に、俺とセレスは驚愕を隠せずにいた。

 

『あり得ない!私は万物すべてを切り裂く剣なのに!それを・・・・・・!』

 

「同種の純星煌式武装じゃなくて、ただの蹴りでセレスの刃を受け止めるなんて・・・・・・!」

 

「驚いている暇なんてないぞ《叢雲》よ」

 

「ッ!」

 

星露は言うや否や、さらに速度を上げて徒手空拳を繰り出してくる。

 

「くっ!」

 

『綾斗、右!その次は上段からの左!』

 

セレスのアシストも受けて反撃するが。

 

「ほっほっ。どうした?お主の今出せる最高の力を妾に見せてみよ《叢雲》!」

 

「ちっ!」

 

星露の打撃を星辰力で防御するが後ろに吹き飛ばされる。

 

『セレス、どのくらいまで使って良いと思う?!』

 

『準決勝のことも考えるなら、せいぜい後三割ぐらいよ!』

 

『三割・・・・・・!』

 

星露の攻撃を捌きつつ、カウンターを放つが星露はそれすらも避ける。

 

『くっ!フェイントも紛れ込ませているのに全部見切られている!』

 

『綾斗、私が綾斗の星辰力を調整するから、一撃・・・・・・一回だけ、あの流星闘技(メテオアーツ)を撃ちなさい!』

 

『でもあれはかなりの星辰力を消費する!』

 

『わかってるわ!私が綾斗の星辰力を限界ギリギリまで調整するから!無駄のない、準決勝でも十分戦えるほどの星辰力を!だから―――私を信じて放ちなさい!あなたは、この私・・・・・・《黒炉の魔剣》の過去最高の相棒(パートナー)なんだから!』

 

『セレス・・・・・・』

 

セレスの言葉に俺はその場に動きを止めた。俺が動きを止めたのに気づいた星露も興味深そうに距離を取って俺たちを見る。

 

「ほう」

 

『綾斗!』

 

『・・・・・・ああ!任せたよセレス!』

 

『!ええ!任されたわ!』

 

セレスに星辰力を流し込んで流星闘技を放つ用意をする。

 

「ほほう」

 

『綾斗、何時でも放てるわよ』

 

『了解!』

 

「―――来い《叢雲》」

 

「往くぞ星露!」

 

両手で握ったセレスの柄を右下に構え、重心を落とす。セレスの刀身が伸び、黒紫の焔が刀身に纏わりつく。

 

「いくよ、セレス!」

 

『ええ!』

 

「『ハアアアアアアアアアアアッ!!』」

 

右下から振りかぶったセレスを思い切り、右斜め上から切りつける。

 

「ほう。これはなかなか・・・・・・じゃが!」

 

対する星露は流星闘技を手刀で対抗した。しばらくそのまま拮抗状態だったがやがて。

 

「っ!」

 

『なっ!』

 

「ほほう!」

 

俺とセレスの流星闘技が星露に負け、セレスの刀身が元の大きさに戻った。俺とセレスが呆然としているなか、星露は楽しげに笑って。

 

「ほっほっ!今のはなかなか良い一撃じゃったぞ《叢雲》!ますます、お主がほしくなったのお」

 

面白かったように言った。

 

「む、無傷・・・・・・」

 

「む?いや、無傷ではないぞ《叢雲》。ほれ、ここを見い」

 

星露の見せた界龍の制服の裾には焦げ付いたような痕が残っていた。

 

「まさか妾に傷を負わせるとはの。やはり、主はあの二人同様良い原石じゃ。磨けばさらに輝くの。それこそダイヤのようにの」

 

「星露・・・・・・」

 

「ほっほっ。どれ、少し動くでない」

 

そう言って近づいてきた星露は。

 

「ほれ」

 

俺の背中を数ヶ所突付くと離れていった。

星露が離れていくと、俺は体が軽い気分になった。

 

「主に点穴を撃ったのじゃ。今日は準決勝なのじゃろう?妾の都合で主に体力を使わせてしまったからの。そのお詫びじゃ」

 

「あ、ありがとう」

 

「構わぬ構わぬ。妾も十分楽しめたしの」

 

朗らかに笑う星露の表情はとても楽しそうだった。まるで面白いおもちゃを見つけたかのような。

 

「《叢雲》。お主は強くなりたいのじゃな?」

 

「っ!ああ」

 

「なら、週に一度お主に稽古をつけてやろう。もちろん、実践形式での」

 

「稽古・・・・・・」

 

「《孤毒の魔女》も連れてくると良い。もっとも、来るかどうかはお主次第じゃ」

 

「ちょ、ちょっと待って!なんで他学園の俺に稽古を」

 

「む?なんでかと言われると・・・・・・そうじゃの・・・・・・妾は主のようは強き者がみたいのじゃ。ここには磨けば最高に輝く者が多いからの」

 

そう言う星露の顔は、ただひたすら強者を求める者の顔だった。その表情に俺はどこか得体の知れない寒気が走った。

 

「さて、そろそろ妾は失礼するぞ《叢雲》よ。妾になにか用事があるのならここに掛けてくるがよい」

 

「えっ、て、星露!?」

 

「ではの」

 

俺に自分の連絡先を書いた紙を渡して星露は昨日と同じように消えて去っていった。

後に残った俺は家に帰り、準決勝の準備をして会場であるシリウスドームへと向かった。ちなみに、俺が星露と戦っていたことがオーフェリアとシルヴィにバレ・・・・・・・・・まあ、その、色々とあったのだった。

 

 

 



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譲れぬ思い

 

〜紗夜side〜

 

 

《鳳凰星武祭》準々決勝 シリウスドーム

 

 

 

「それじゃ───そろそろいきましょうか」

 

綺凛のその声に、私は手元に落としていた視線を上げ綺凛を見てうなずいた。

 

「?それ、なんですか?」

 

綺凛は私の手元にある、古い紙切れと、押し花がラミネート加工された栞、音符のキーホルダーを見て聞いてきた。

 

「・・・・・・これは私の大切なお守り」

 

私はそう言って手元を広げ、綺凛に見せた。

 

「『願い事チケット』・・・・・・?これはコスモスを押し花にした栞でしょうか・・・・・・?それと、八分音符のキーホルダー・・・・・・?もしかしてこれって・・・・・・」

 

「そう。これは綾斗達がくれたもの。私の大切な、一番の宝物」

 

「わぁ・・・・・・素敵ですね」

 

綺凛の言葉からは感動の感じが取れた。

 

「もしかして今日の勝利をそれらに?」

 

綺凛の問い掛けに私はぷるぷると首を横に振る。

 

「違う。これはあくまでお守り。今日の勝利は、私たちの力で掴むもの」

 

「・・・・・・そうですね。失礼しました」

 

綺凛の気合を入れ直している言葉を聴きながら、私は丁寧にお守りを懐にしまう。懐にお守りをしまった私は綺凛に向き直る。

 

「・・・・・・綺凛」

 

「あ、はい。なんでしょう?」

 

「───ありがとう」

 

「ええっ!?な、なんですか、急に!」

 

「ここまでこられたのは、綺凛の力があってこそ。感謝する」

 

「そ、そんな、やめてください・・・・・・」

 

私の突然の謝罪に綺凛はあわあわと両手を振る。

 

「・・・・・・私はどうしてもここに辿り着きたかった」

 

私はそう言いながら、ぎゅっと拳を握りしめる。

 

「アルルカントの自律型擬形体(パペット)を倒すため、ですよね?」

 

綺凛の言葉に私は静かに頷く。綺凛には予め、私が《鳳凰星武祭(フェニクス)》に出場することになった経緯を話してる。私がこれに出場した理由は、お父さんの作った銃への侮辱を撤回させるため。そして───

 

「・・・・・・綺凛には教えておこう。私のお父さんは、勤めていた研究所の事故で身体の大部分を失ってる」

 

「え・・・・・・?」

 

唐突な言葉に理解が追いつかない綺凛に、続けて話す。

 

「幸いにも脳は無事だったので、今は補償金で家に工房を作ってその中枢ユニットと連結している。本人的には慣れてしまえば生身の頃より精密な作業がこなせるようになったので、満足らしい」

 

「・・・・・・」

 

「気にしないでいい。お父さんは今の方が自由に好きなことを研究できるようになってよかったと言ってる。それに、私ももう割り切ってる」

 

「好きなことって・・・・・・」

 

「───私のための銃を作ること」

 

「・・・・・・紗夜さんのための?」

 

「そう。だからある意味でカミラ・パレードが言っていてことは当たってる。この力は多くの『誰か』ではなく、『私』というただ一人に向けて作られたものだから」

 

腰のホルスターに収められた煌式武装(ルークス)を撫でて言う。けど、もしかしたらお父さんの作ってくれた武器は『私』だけではなく、『私たち』だけのものかもしれない。懐にしまった大切なお守りに無意識に手を添えて思う。

 

「ただ、それでも───だからこそ、それを否定することを私は許さない」

 

私は固い決意の眼差しで綺凛を見て言った。それは決して曲げることが出来ない信念だ。

 

「・・・・・・あ、お父さんのこと、綾斗たちには内緒で頼む」

 

「どうしてですか?」

 

「綾斗は優しいから、きっと気を使わせてしまう。それはシルヴィアとオーフェリアも同じ。二人ともとっても優しいから。この大会が終わったら綾斗たちにキチンと話すつもり」

 

「・・・・・・分かりました 」

 

「いっぱい喋ったから疲れた・・・・・・行こう」

 

「あ、はいっ」

 

私は千羽切を腰に差した綺凛とともに控え室を出てステージへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージへと向かって、薄暗い通路を歩いていると。

 

「やぁやぁ、お嬢ちゃん。お久しぶりー」

 

アルルカントの二人がやって来た。二人の片方、エルネスタ・キューネが気さくげに声を掛けてきた。私はエルネスタに担当他直入に聞く。

 

「・・・・・・用件は?」

 

「ありゃ、素っ気ないなあ。うちにカミラがどうしても試合前にお嬢ちゃんに言っておきたいことがあるって言うからさ」

 

エルネスタがそう言うと、彼女の前にもう一人のアルルカントの学生、カミラ・パレードが出てきた。

 

「久しぶりだね、沙々宮紗夜。なに、わたしも少し誤解をしていたようなので、決着を付ける前に一応言っておこうと思ってね」

 

「誤解?」

 

カミラの言葉に、私は眉を少しだけあげる。

 

「ああ。キミの試合を見ていてわかった。キミの使う煌式武装(ルークス)は単体で見ればどれも欠陥品だ。しかしキミがそれを使うことによって―――つまりはキミ自身を含めて一つの武器として見た場合、強力無比であると言わざるを得ないだろう」

 

「じゃあ―――」

 

「だが、先日の言葉を撤回する気ない。むしろ、有機的な不安定差が増すことを意味する。やはり実践的ではない」

 

カミラの言葉に私は目を鋭くしてカミラに言う。

 

「・・・・・・なら、お前達の人形に勝って認めさせる」

 

「不可能だ。万が一・・・・・・ありえない話だが、仮にアルディとリムシィがキミたちに負けたとしても、私がそれを認めることはない。・・・・・・ただ、その時は先日の言葉を撤回しよう。アルディとリムシィの武装には私と獅子派(フェロヴィアス)が積み上げてきた技術を全て注ぎ込んである。彼らを打ち破ったとするならば、さすがに実践的ではないと言えないからね」

 

「いいだろう」

 

カミラの余裕とも言えぬ、自信のある言葉に私はさらにやる気を満ちあふれさせて返す。

 

「じゃあねー」

 

くるりと背を向けて立ち去るカミラを追い掛けるように、エルネスタがぴょこぴょこと飛び跳ねるように追いかけて去っていった。

 

「行こう、綺凛」

 

「はい、紗夜さん」

 

「―――絶対に勝つ!」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリウスドーム ステージ

 

 

 

「聞くがよい!今回も貴君らには・・・・・・一分の猶予をくれてやろう!」

 

 

『出たアーッ!やはり出ました!アルディ選手のお馴染みの宣言!彼らは、全試合この宣言をやってのけた上で、ほぼ一分で試合を決めているのです!』

 

『ベスト4に勝ち残ったペア。しかも今大会勢いに乗る沙々宮・刀藤ペアにも今まで通りが通用するかどうか見ものッスね!』

 

 

自信満々に言い放ったアルディの声に、毎度お馴染みのふたりが興奮したように言う。

私はアルディの声を一瞥し、実況ふたりの言葉を聴きながら綺凛に向き直る。

 

「綺凛、そっちは任せた」

 

「はい」

 

「―――目に物見せてやれ」

 

軽くうなずくと、綺凛はその視線をアルディに向けて腰に差してる千羽切の鯉口を切る。

私も綺凛と同じように、戦闘に備え、意識を切り替える。

 

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》準決勝第一試合、試合開始(バトルスタート)!」

 

 

試合開始が宣言されても、アルディもリムシィは微動打にしない。

しかもアルディは腕組をしたまま、堂々と仁王立ちをしている。とてもじゃないが試合に臨む姿とは思えない。傲岸不遜とはまさにこの事を言うのだろう。正直言って―――

 

「・・・・・・気に入らないな。綺凛」

 

「はい、紗夜さん。刀藤綺凛 ・・・・・・参ります」

 

綺凛は千羽切を正眼に構えると、アルディの巨体と真っ向から対峙する。

 

「刀藤綺凛か?」

 

「なにか?」

 

「我輩の防御障壁を突破しようとするならば、高火力の煌式武装を持つ沙々宮紗夜が相手をするのが妥当であろう」

 

「・・・・・・」

 

アルディの上から目線の言葉に無言で返す。

 

「確かに貴君はこの《鳳凰星武祭》出場者の中でも一、二を争う身体能力と練度の持ち主だ。データがそう証明している。だが貴君の武器は煌式武装ですらない、ただの日本刀にすぎない。純星煌式武装ならばともかく、それでは到底我輩の防御障壁を抜くことはできまいよ」

 

確かに綺凛の持つ刀は煌式武装ではなく、ただの日本刀だ。あのデカブツ―――アルディの言う通り、ただの日本刀では防御障壁を抜くことは不可能に近いだろう。だが、それは普通の刀使いだったらだ。

 

「悪いことは言わんが、今からでも沙々宮紗夜と交代するか、そうでなければ二人がかりで・・・・・・」

 

「―――なら、試してみますか?」

 

アルディの言葉を遮って綺凛が言う。

 

「うぬ?」

 

「わたしとこの千羽切があなたに及ばないかどうか・・・・・・。その身でもって確かめて見てください」

 

「・・・・・・よかろう。そこまで言うのであれば、やってみるがよい」

 

アルディがうなずくと同時に、閃光のような斬撃が走る

袈裟懸けに斬りつけたその一撃は、それこそ神速と呼ぶに相応しい疾さだ。しかし、綺凛の千羽切の切っ先がアルディのボディへ届く寸前で、忽然と出現した光の壁に撥ね退けられる。

が、それでも綺凛は構うことなく、二擊、三擊と斬撃を繋いでいく。

 

「無駄である。いくら貴君が速くとも、人間である以上反応速度で吾輩を超えることはできない」

 

綺凛の斬撃をアルディは腕組みをしたまま微動だにしないで、攻撃をすべて光の壁で弾き返す。

きっぱりと綺凛に断言するアルディ。対して、綺凛はと言うと。

 

「・・・・・・なるほど、よく分かりました。もう十分です」

 

一度千羽切を引き、呼吸を整え再び千羽切を八双に構え直す。そして再度、斬撃繰り出す。

 

「無駄だと言っているのが・・・・・・うん・・・・・・っ?」

 

綺凛の一撃は光の壁をすり抜けるよう、硬い金属音を立ててアルディの腕へ真一文字の傷を刻んだ。

 

「なにっ!?」

 

 

『お、おおーっと、これはすごい!ついに、ついについに、今大会で初めてアルディ選手が攻撃を受けました!』

 

 

驚き唖然としたアルディと対照的に、興奮した実況と大いに盛り上がる観客。

 

「馬鹿な・・・・・・有り得ないのである」

 

「先ほどの宣言を取り消してください」

 

「なに?」

 

「そして真っ向に勝負しましょう」

 

「・・・・・・それはどういう意味であるか?」

 

「わたしたちを馬鹿にしないでください、ということです」

 

綺凛が言い放ったと同時に、アルディは苦々しそうに口を噤む。そして、間髪入れずに綺凛が斬撃を放つ。

それを防ごうと光の壁が出現するが、綺凛の刃はそれを掻い潜ってアルディの脇腹に鋭い傷を穿った。

 

「ぐぬっ・・・・・・!」

 

「―――もし最後までそれを続けるつもりなら、次で終わらせます」

 

「・・・・・・・・・・」

 

千羽切を突きつける綺凛に、アルディは無言だ。

綺凛は小さく息を吐き、三度千羽切を閃かせた。

 

「はああーっ!」

 

鋭い呼気と同時に綺凛が刃を閃かせるが、それより一歩早くアルディが起動させたハンマー型の煌式武装が、綺凛を襲った。

 

「―――っ!」

 

綺凛は瞬時にハンマーの軌道を刀で逸らす。

 

 

『な、ななな、なんと!アルディ選手から攻撃をしかけたぁーっ!時間は宣言してから五十六秒!一分は経過しておりません!』

 

 

実況の言う通り、アルディの宣言した時間は一分を過ぎてない。まあ、そのことに私はまったく驚いてないが。

 

「・・・・・・お見事!この一件に関しては我輩の完敗である。あの宣言は取り消させてもらおう!」

 

ハンマーをぐるりと回転させ、アルディはその石突を地面に付きたてた。

 

「もしよろしければ、先ほどの技がいかなるものなのかご教授願いたい」

 

「それはあなたが機械であるから、です」

 

「・・・・・・どういう意味であるか?」

 

綺凛の言葉にアルディは理解しがたいと言った風に首をかしげる。

 

「あなたはわたしのデータと動作から攻撃を予想し、それに基づいて防御障壁を展開していたましたね?」

 

「うむ、まさしくその通りである」

 

「刀藤流には呼吸や視線、間合いの変化や筋肉の動き、そういったもの全てで相手を誘導するものがあります。熟練の剣士どうしの戦いならば一瞬の間に多種多様な読み合いが繰り広げられますですがあなたは機械であるが故に、わたしの動きに単純に反応してしまう」

 

綺凛はそこで区切ると、ばっさりと切り捨てる。

 

「―――ようは、あなたには致命的に戦闘経験が足りないのです」

 

「むぐ・・・・・・っ!」

 

綺凛の言葉にアルディはなにも言えないように言葉を紡ぎ、綺凛は再びアルディとの戦闘を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方私はと言うと―――

 

「さすがは綺凛」

 

綺凛とアルディのやり取りを満足気に見つめた。

 

「―――解せませんね」

 

私と対峙するリムシィは、訝しげに眉を寄せていた。

 

「うん?なにが?」

 

「あなたがこの一分間、なにも仕掛けてこなかったことがです」

 

そう。リムシィの言葉通り、私は煌式武装を展開せず、ただ綺凛とアルディのやり取りを眺めていただけだった。

 

「あなたがたの方こそ、私たちを馬鹿にしているのではありませんか ?」

 

「・・・・・・その言葉をそっくり返す。おまえたちこそ、私と綺凛のことを馬鹿にしてないか?」

 

私の言葉にリムシィは両手に銃型煌式武装を展開し、照準を私に向け定めた。

 

「・・・・・・私はただ、本気のおまえたちと闘いたかっただけ」

 

リムシィの煌式武装に、私は焦ることなく腰のポーチに仕舞われていた、お父さんの作った煌式武装の起動体を取り出す。

 

「―――でないと、私には意味がない」

 

その直後、リムシィの放った光弾が私に降り注いだ。

しかし、私は光弾が当たる前に、身を翻してかわし、空中で煌式武装を起動させた。

 

「四十一式煌型粒子双砲ヴァルデンホルト」

 

その言葉は、誰にでもなく、ぼそりと呟いた。

お父さんが私のために作ってくれた武器の名を呼ぶこと。それは私が、自身に定めたルールの一つだ。

巨大なバックユニットを備えた大型の煌式武装が顕現する。それに応じて私の髪飾りが簡易照準モニターを展開させた。服装も動きやすい物に変わり、両腕には腕全体を覆うほどの砲身が、一門ずつ現れる。空中で、浮かびながら私はマナダイトに星辰力(プラーナ)を注ぎ込み、トリガーを引き絞る。

 

「―――《バースト》」

 

砲口の前に青白い光が集約し、膨張。

次の瞬間、甲高い発射音と共に巨大な光弾が二つ、大気を切り裂くような速度で射出される。

 

「っ―――!」

 

空に上がりリムシィは巨大な光弾を一つかわすが、二つ目の光弾は避けられず、リムシィに直撃した。

巨大な爆発音が響き渡り、リムシィの身体が反対側の壁にまで吹き飛ばされる。防御障壁がなかったら、もしかしたらリムシィは壁を突き破って場外にまで行っていたかもしれない。

そう思わせるほどの破壊力だった。

さすがお父さんの作った銃。

 

 

『すごーいっ!沙々宮選手の一撃がリムシィ選手へとクリーンヒット!』

 

 

「そんなわけで、こっちも準備OK。―――本気でこい」

 

もうもうと土煙が舞い上がるなか、土煙の中でリムシィの赤い双が輝いた。

私は負けるわけにはいかない。

お父さんの為もあるが、私も綾斗と同じ目的がある。私の大切な幼馴染み、オーフェリアを助けるという目的が。

見ているオーフェリアの為にも、私はこんなところで立ち止まるわけにはいかない。

私はその想いを胸にして、ヴォルデンホルトの砲口を構えた。

 

~紗夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~オーフェリアside~

 

 

ついに始まったアルルカントの疑形体と紗夜と綺凛の戦いを、変装して見ていたところに私の端末にディルクからの連絡が入った。

 

「・・・・・・ちょっと離れるわねフローラちゃん」

 

「あい!」

 

一緒に見ていたフローラちゃんと分かれて、人気のない場所に移動してディルクからの連絡を受ける。

 

「・・・・・・なんのようかしらディルク」

 

『別に、てめぇに用があった訳じゃねぇよオーフェリア』

 

「なんですって?」

 

ディルクの言葉に私は眉を寄せた。

 

『てめぇ、今シリウスドームにいんだろ』

 

「それがなに?」

 

『別に。なんでもねぇよ』

 

「?」

 

そう言ってさっさと通信を切るディルクに疑問を持ちながら、私はフローラちゃんのところに戻った。

が、そこには。

 

「―――!?・・・・・・ふ、フローラちゃん?!」

 

フローラちゃんのショルダーバッグがあるだけで、フローラちゃんの姿はなかった。

そこで私はさっきのディルクからの通信の意味がわかった。

 

「・・・・・・やってくれたわねディルク!」

 

私が少し席を離したわずかな時間に、フローラちゃんを連れ去ったのだろう。誰にも気づかれることなく。

 

「(おそらくこれ実行したのは黒猫機関(グルマルキン)の金眼の魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)。辺りの感じを見る限り、能力は隠密形!)」

 

瞬時に考え、対策を練る。

 

「(ユリスに連絡を取らないと!)」

 

すぐに私は端末を取り、ユリスに連絡を取ったのだった。

 

 



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覇凰決戦
悪辣の王(タイラント)の罠



半年近くも投稿しなくて本当にごめんなさい!!
イメージがわかなかったり、上手くかけなっかたりして後回しにしてしまいました!
待っていてくださったみなさん本当にごめんなさい。
多分、これからも投稿速度が遅くなると思いますがどうか気長に待っていてくださると嬉しいです。




 

〜綾斗side〜

 

「───さて。綾斗、お前から見てどっちが勝つと思う?」

 

シリウスドームの選手控え室のモニターで紗夜と綺凛ちゃんの準決勝第一試合を観ていると、反対側に座ってるユリスがそう問いてきた。

モニターの画面には、リムシィと相対し巨大なバックユニットを備えた大型の煌式武装を顕現させた紗夜と、アルディのハンマーとぶつかり合ってる千羽切を構えた綺凛ちゃんの姿が映っていた。

 

「俺としては紗夜と綺凛ちゃんに勝って欲しいけど・・・・・・」

 

「アルディとリムシィが相手だからな・・・・・・。さすがに予想出来んか」

 

「まあね」

 

正直言って、この準決勝はどちらが勝つか予測が付かない。

紗夜の叔父さんの作った煌式武装は強力だ。尚且つ、それを操る紗夜のスキルは高い。そして、綺凛ちゃんの刀藤流の連鶴は凄まじい。この二人なら、もしかしたアルディとリムシィを倒すことが出来るかもしれない。俺はそう思っている。

だが、それは相手がそのままだったらの場合だ。

 

「それより綾斗。おまえ、オーフェリアと一緒に居なくて良かったのか?」

 

「あ、うん。オーフェリアから、試合に集中して。って言われてるからね」

 

「なるほどな。まったく、あいつはホント変わらないな」

 

苦笑するユリスにつられて、俺も苦笑する。

 

「試合まで一緒に居て。ではなく、試合に集中して・・・・・・か。ほんと、あいつは何時も自分より他人優先だな」

 

「あはは。オーフェリアは昔からそうだからね」

 

思い返すように目を瞑りながら言う。

オーフェリアは昔から何にでも優しく、自己より他人優先だった。それは今も変わらない。

 

「ホント・・・・・・あいつは何時も誰にも相談しないで、自分で勝手に決める・・・・・・」

 

「ユリス?」

 

ユリスの小さな声で言った言葉に問い掛ける。

 

「いや。ただ単に、わたしは情けないな、とそう痛感しただけだ」

 

「え・・・・・・」

 

「一国の王女なのに、たった一人の親友すら救えんとは・・・・・・わたしは自分が情けなくて仕方ない・・・・・・! 」

 

「ユリス・・・・・・」

 

両の拳を固く。血が滲み出るかというほど強く握り、悲痛の表情でユリスは自分に言いかせるように言う。俺はそんなユリスに何も言えなかった。ユリスの責任という訳では無いから。むしろ、俺は、俺自身が何よりも情けないと感じる。オーフェリアがたった一人。一人だけ、あんな風になったのに、俺はまったく知らなかったのだ。情けない以外他ならない。

そう、情けない思いが浮かんでいると。

 

『ユリス!綾斗!』

 

突如目の前に空間ウインドウが開き、血相を抱えた表情をしたオーフェリアが現れた。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

何かあったことを察したユリスはオーフェリアに尋ねる。

ユリスの問いにオーフェリアは。

 

『ごめんユリス!私の目を離した隙にフローラちゃんが攫われたわ』

 

「なっ!?なんだと!?」

 

「フローラちゃんが!?」

 

『ええ。今スタジアムのあちこちを探し回ってるのだけど、恐らくもうスタジアムには居ないと思うわ。今観客席の所にいるのだけど・・・・・・』

 

「っ!まさか魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)の能力か!」

 

『ええ』

 

ユリスの言葉をオーフェリアは間髪入れずに肯定する。

フローラちゃんを連れ去ったのが魔術師か魔女だとするならば、それはかなり隠密性能に長けた者だ。何せ、今日フローラちゃんはオーフェリアと一緒に、このシリウスドームの観客席で試合を観戦していたのだから。

思考を巡らせていると。

 

 

『うおおーーっと!な、なんて言うことでしょう!アルディ選手がリムシィ選手と合体したぁぁ!?』

 

 

スクリーンからそんな声が聞こえてきた。

ユリスと同時にバッとスクリーンを見ると、スクリーンには大型粒子双砲を展開してる紗夜とその隣で膝を着く綺凛ちゃん。そして、その前にフォルムが変わったアルディの姿があった。

 

「綺凛ちゃん!紗夜!」

 

二人の様子に思わず画面に向かって叫ぶ。

通信しているオーフェリアもステージの方に視線を向けていた。

 

「なんだあれは・・・・・・。映像からでも凄まじい威圧感を感じるぞ」

 

映像に視線を向けたユリスも俺が思っていたことと同じことを言った。

実際に相対しているから力量は分からないが、少なくともさっきより遥かにパワーアップしてるだろう。

 

『・・・・・・紗夜と綺凛ちゃんには悪いけど、これは分が悪いわ』

 

オーフェリアも冷静に状況を見て言う。

非情かもしれないが、現に綺凛ちゃんは足を怪我しているように見えるし、紗夜も叔父さんが作った煌式武装の展開を解いていた。オーバーヒートしたようで、これ以上の使用は出来ないと判断したようだ。

今俺たちにここからできることは。

 

「今わたしたちが出来ることは二人の戦いから作戦を見出すことだけだ」

 

くっ、と噛み締めながらユリスは言う。

 

『・・・・・・綾斗。そっちに行くから私が行ったら鍵開けといてもらえる?』

 

「わかった。気をつけて」

 

『ええ』

 

オーフェリアとの通信が切れると、ユリスは肘を膝の上に立て手を組み合せそこに額を付けた。

 

「クソっ。まさかフローラを攫うとはな」

 

「ユリス・・・・・・」

 

「わたしのミスだ。オーフェリアと一緒なら手を出しては来ないと思ったが・・・・・・浅はかだったな。相手はあの悪辣の王(タイラント)だ。こういうことくらい予想しておくべきだった」

 

紗夜と綺凛ちゃんの試合を見ながら言うユリスに俺は何も言えなかった。

俺も予想するべきだったのだ。例え、相手が星脈世代ではないとしても。

オーフェリアによると、ディルク・エーベルヴァインは知力で生徒会長の座に収まったらしい。『武』ではなく、『知』。『知』は時に『武』よりも恐ろしい。

そう思いながら紗夜と綺凛ちゃんの試合を見続けた。

数分後、オーフェリアがやって来て、ユリスはクローディアに連絡し、こっちに来てもらうことに。そしてその十数分後。

 

「───紗夜!綺凛ちゃん!」

 

俺たちは紗夜と綺凛ちゃんの控え室に来ていた。

 

「・・・・・・綾斗」

 

「綾斗先輩」

 

二人は疲労困憊みたいで、ソファに体を預けてグッたりしていた。

 

「・・・・・・二人とも大丈夫かしら?」

 

「・・・・・・問題ない。校章さえ破壊されなかったらあと少しで私たちが勝っていた」

 

「・・・・・・なら大丈夫ね」

 

「あははは」

 

紗夜とオーフェリアのやり取りに苦笑する綺凛ちゃん。

 

「強がりを言うな。アルディが合体してからの戦闘はほぼ一方的な展開だった。もちろん、おまえ達が勝つ可能性はあっただろうが・・・・・・」

 

確かに、綺凛ちゃんが負傷してなく、紗夜の煌式武装ヴォルデンホルトが使えていたら勝つ可能性は二人にもあっただろうが、アルディの圧倒的なパワーの前にねじ伏せられてしまったのだ。

 

「はぁ・・・・・・まさかあんな形で"連鶴"が破られるなんて思いませんでした・・・・・・」

 

力のない苦笑を浮かばせ、綺凛ちゃんは悔しさを滲ませた口調で言う。

 

「先輩先輩たちにも不甲斐ない姿をお見せしてしまい、応援してくれたオーフェリアさんとフローラちゃんに申しわけないです」

 

「・・・・・・そういえばフローラは?一緒じゃなかったのか?」

 

綺凛ちゃんの言葉に紗夜が俺たちに尋ねてきた。

オーフェリアと一緒にいるはずのフローラちゃんが居ないことに疑問を持ったみたいだ。

紗夜の疑問に俺たちは気を引き締めたかのような雰囲気になった。

 

「・・・・・・どうした綾斗?」

 

紗夜が首を傾げて聞いてきたその時。

 

「失礼しますね」

 

ノックの音と共にたおやかな声がドアの向こう側から響き、クローディアが控え室へと入ってきた。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

「いや、大丈夫だよクローディア」

 

生徒会長としての務めもあったクローディアに俺はそう返す。

 

「まずは、沙々宮さん、刀藤さん、この度は残念でした。ですがベスト四というのは十分に誇れる実績です。星導館学園としても、今シーズンの展望がだいぶ明るくなってきました。お二人方にはそれに相応しい褒賞をご用意させていただきます」

 

「い、いえ、そんな・・・・・・」

 

「・・・・・・別に、自分のためにやっただけ」

 

丁寧に頭を下げるクローディアに、どこか照れくさそうに綺凛ちゃんと紗夜が応える。

ちなみに、《星武祭(フェスタ)》にて上位入賞した選手には、優勝者ほどではないがかなりの褒賞が出るらしい。褒賞には、純粋に賞金という形であったり、《冒頭の十二人(ページ・ワン)》に与えられる待遇に近いものだったりと、様々あるとシルヴィが言っていた。

 

「さて・・・・・・」

 

クローディアは一言区切るとユリスに視線を向けた。

 

「ユリス。フローラから連絡は」

 

「いや、ない」

 

「そうですか・・・・・・」

 

クローディアの問いに、首を振って応えるユリスにクローディアはやはり、というような表情で返した。

 

「・・・・・・?どういうことだ?」

 

「あの、フローラちゃんの身になにかあったんですか?」

 

この中で話が分からない紗夜と綺凛ちゃんが聞いてくる。

 

「ああ。実は―――」

 

二人に説明しようとしたその時、ユリスの携帯端末が着信を告げた。

 

「っ!?フローラからだと!?」

 

「「「っ!」」」

 

着信の相手を見たユリスの声に、俺とオーフェリア、クローディアは息を飲んだ。

この着信がフローラちゃんからではないことを分かっているからだ。

 

「ユリス」

 

「ああ」

 

真剣な表情を浮かべ、ユリスは着信を開いた。

開くと、真っ黒な空間ウィンドウが現れ、聞こえてきたのはフローラちゃんの声ではなく、低く暗い声だった。

 

『・・・・・・ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだな?』

 

「誰だ貴様?!何故貴様がその端末を持っている!貴様がフローラを誘拐したヤツか!」

 

憤怒に染った顔を出して、怒鳴るように問いただすが、相手はなにも答えず。淡々と続けた。

 

『この端末の持ち主は預かった。天霧綾斗はいるか?」

 

「ああ、俺がそうだけど・・・・・・フローラちゃんは無事なのか?」

 

突然の指名に少し驚いたが、俺はまず何よりも大切なことを確認した。

すると短い沈黙の後―――

 

『・・・・・・姫様っ!天霧様!』

 

やや上擦った子供の声―――フローラちゃんの声が響いた。

 

「っ!フローラ!」

 

フローラちゃんの声にユリスが声を上げるが。

 

『気絶させただけだ。こちらの要求を飲むならば、以後の安全も保証する』

 

「要求は?」

 

『《黒炉の魔剣(セル=べレスタ)》に対して緊急凍結処理を申請しろ。その受理が確認され次第、彼女は解放する』

 

「なんだと・・・・・・!」

 

相手の言葉にユリスとクローディア、オーフェリアは目を大きく見開いた。

それに続いて、俺の頭に《黒炉の魔剣(セレス)》の声が響いた。

 

『なるほどね。ソイツの目的は綾斗・・・・・・いや、この私ということね・・・・・・!』

 

セレスの声には怒気が含まれていた。

 

『要求が実行されなかったと判断された場合、及び警備隊ないしは星導館学園の特務機関への連絡がなされた場合、彼女の身の安全は保証できない。また、おまえたちが《星武祭》を棄権した場合も同様とする。以上だ』

 

「ちょ、ちょっと待て―――!」

 

一方的に言うと、空間ウィンドウはぶつりと掻き消えた。

 

「・・・・・・この手口のやり方・・・・・・やはり」

 

「ええ。間違いなくレヴォルフの諜報工作機関―――黒猫機関(グルマルキン)が・・・・・・いえ、ディルク・エーベルヴァインが黒幕でまず間違いでないでしょう」

 

「・・・・・・ええ。目的は綾斗の剣ね。まさか《星武祭》の最中にやってくるとは・・・・・・」

 

通信からクローディアとオーフェリアがすぐさまそう推測する。

二人の推測に俺も同意する。

悪辣の王(タイラント)》は以前から俺の《黒炉の魔剣》を狙っているらしい。現にイレーネに俺を俺を潰すように指示したのは《悪辣の王》だ。いや、正確には俺個人ではなく、《黒炉の魔剣(セレス)》を狙っていると見てまず間違いない。

 

「クローディア、緊急凍結処理ってのは?」

 

「緊急凍結処理というのは、学有純星煌式武装(オーガルクス)使用者がその純星煌式武装に危険を感じた場合に申請するものです。すでにご存知の通り、純星煌式武装とはある種のリスクを内包した存在です。そしてその危険性が使用者にしか分からないケースも少なくありません。そのため純星煌式武装の使用者は自己の判断でその純星煌式武装を強制的に封印する申請を行えるのです。ですが―――」

 

「・・・・・・どうしたエンフィールド?」

 

「いえ、その・・・・・・。《黒炉の魔剣》はすでに学有の純星煌式武装ではなく、綾斗個人の純星煌式武装となっています」

 

「・・・・・・なるほど。例え緊急凍結処理を申請したとしても、既に学園保有から離れているから受理されるかは分からないと」

 

「はい。生憎、まだ純星煌式武装《黒炉の魔剣》の綾人への完全譲渡の手続きは終わっていないので、形だけでならばまだ半分学有ということに、強引な形ですがなりますが・・・・・・」

 

クローディアのなんとも言えない表情を浮かばせて肩を竦めて応える。

 

『一応、緊急凍結処理をされて封印されたとしても私はもう綾人以外使えないから問題はないんだけどね』

 

セレスは少しだけ語尾を強めて言った。

 

「だが、緊急凍結処理などをすれば、もう二度と綾斗は《黒炉の魔剣》を・・・・・・」

 

クローディアの言葉をユリスは苦々しい顔で受け継いだ。

 

「いや、その心配はないよ」

 

セレスの発動体を取り出して返す。

 

「なに?」

 

「《黒炉の魔剣》曰く、もうすでに俺以外に使えないんだとさ。だから、例え緊急凍結処理を施されたとしても問題はないよ。まあ、出来ることならこいつを手放したくはないんだけどさ」

 

最後の方を苦笑を浮かばせて言い。

 

「それでクローディア、その申請というのは具体的にどうすればいいのかな?」

 

けど、フローラちゃんの命と引き換えにはできない。

これはセレスも理解している。

 

「本当によろしいんですか、綾斗?」

 

クローディアはどこか辛そうに聞いてくる。

確かに、ここで《黒炉の魔剣(セレス)》を失うということは、《鳳凰星武祭(フェ二クス)》を戦う上で致命的になる。そうなると、優勝出来る可能性は一気に低くなる。例え、次の準決勝を勝てたとしてもその次の決勝戦の相手はアルルカントのアルディとリムシィなのだ。あの二人を相手にするとなると、やはりセレスが必要不可欠なのだが。

 

「ああ」

 

「すまない、綾斗・・・・・・」

 

悔しさと申し訳なさが入り混じった表情でユリスは言う。

そこに紗夜が。

 

「・・・・・・だがそれで確実にフローラが解放されるとは限らない」

 

「しかしそうしなければ・・・・・・!」

 

「私たちでフローラを助け出す。それならなにも問題はない」

 

「・・・・・・確かに、要求を呑んだ風にしつつ、その間にフローラを救出すればなんの問題は無いわ。相手は警備隊と特務機関には知らせるなって言っていたわ。けどそれ以外には触れていない。つまり、私たちでフローラを助け出す分になんの問題はないわけよ」

 

紗夜の言葉を肯定するようにオーフェリアは言う。

 

「っ!?オーフェリア、おまえも動くというのか?」

 

「・・・・・・ええ。あの子はユリス、あなたの大切な家族なんでしょう?なら、私が動かない道理は無いわ。それに少しの間だけど、私は彼女と同じ施設で過ごしたのよ?ならばあの子は私にとっても妹みたいなものだわ」

 

「オーフェリア・・・・・・」

 

「・・・・・・それと、綾斗、エンフィールド。ひとつ案を思い浮かんだのだけどいいかしら」

 

「案?」

 

「・・・・・・ええ。綾斗にはかなり無理をしいることになるのだけど」

 

「いや。この際、それしかないんだったらそれで行こう」

 

「・・・・・・わかったわ」

 

そして俺たちはオーフェリアの案を聞いた。

難易度はかなり高いだろうが・・・・・・。ここにいる俺達が力を合わせれば問題ないだろう。

 

「・・・・・・それと、シルヴィアにも手を貸して貰うように言っとくわ」

 

「・・・・・・了解した。それまでは手当たり次第地道に探すとしよう」

 

「そうね。私もツテを通じて情報を集めるわ」

 

オーフェリアと紗夜が話、綺凛ちゃんも頷く。

 

「それでは頼んだぞ、オーフェリア、紗夜、綺凛」

 

「・・・・・・任されたユリス」

 

「はい。お任せ下さい!」

 

「・・・・・・そっちも頑張りなさいよユリス。綾斗も」

 

「ああ」

 

「もちろんだよ」

 

こうして俺たちは、それぞれの役割を果たすべく行動に入ったのだった。

 

 

 

 








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