艦船たちの日常 (Garbage)
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鉄血母港の日常・1~クールな次女のホットな想い~

登場人物

○人間
鉄血指揮官:鉄血生まれ鉄血育ちの金髪碧眼の青年。

○艦船

プリンツ・オイゲン:アドミラル・ヒッパー級の2番艦。指揮官とは最も付き合いの長い艦船であり、軍艦だった頃は抱かなかった気持ちを指揮官に対して抱いている。
アドミラル・ヒッパー:アドミラル・ヒッパー級の1番艦。プリンツ・オイゲンの姉。妹にはスタイルについてよくからかわれている。基本的に指揮官には辛辣に接している。



 

 

 

 

 

「Guten Morgen.指揮官。いつものように遅いお目覚めね。あなたもようやくビールの素晴らしさを理解したのかしら」

「Guten Morgen.《プリンツ・オイゲン》。あの泡塗れの炭酸が素晴らしいだって? お前こそ酔いが抜けていないんじゃないのか? 少し風に当たってくることを勧めるよ」

 

 海軍の尉官服を身に纏った青年が、秘書艦用の机で書類をまとめている少女とどこか刺々しい挨拶を交わす。しかし、これがこの母港の朝であった。謎の生命体『セイレーン』が地球の海に現れて早数年。各国はかつて存在していた軍艦の名と魂を持った少女たちを生み出した。

 それが艦船と呼ばわる存在であり、彼女たちは自国の海と国民を守るために日夜戦場となる海域へと赴く。人の形をした艦船たちは本物の人間と同じように飲食を必要とし、喜怒哀楽の感情を有し、そして恋心を抱く。この母港において秘書官の業務を最も長く勤めているこの《プリンツ・オイゲン》という少女もまたその一人であった。

 

「お気遣いどうも。でもどうせならあなたと二人で当たりたいわね。ずっと黴臭い部屋で書類を弄っていたら本当に艤装にカビが生えてしまいそうだから」

「それはご苦労。で、母港に何か変わったことはないか?」

「何もないわね。あなたが私のベッドに夜這いにでも来ない限り変わりそうにないわねこの母港は」

「そうか。ならその平和を享受しようじゃないか」

 

 ははは、と乾いた笑いを浮かべながら自分の机に座る指揮官。このプリンツ・オイゲンは指揮官が新米の頃に教導艦として派遣された艦船であり、今と違って戦力も十分でないこの母港を身一つで支えてきたベテランである。

 彼女は元は戦いのためだけに存在していた兵器であるが、人の姿と人の心を持って生を受けた彼女は、この指揮官に積極的にアプローチをしていた。時に際どい水着を纏い、時にはるか東の国の艦船から譲り受けた着物なる衣服を着てみるものの、未だに上手く行っていないのが現状だ。

 

「平和ばかりでは物足りないわ。そうね……あなたが私にその机の鍵のかかった引き出しにしまい込んでいるケッコン指輪を渡したりとかしてみればこの母港ももう少し活気づくと思うのだけれど?」

「活気? 殺気の間違いだろう。俺は平穏無事が好きなんだ」

「軍人らしからぬ思想ね」

「軍人なんて本来は存在しない方がいいんだよ」

「……そうね」

 

 プリンツ・オイゲンは呟くように同意の言葉を漏らした。有事に備える軍人が存在しなくなったのであれば、戦うためにこの世界に誕生した自分たちの存在はどうなるのか。ということを彼女は聞くことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Guten Tag。ヘタクソバカドジアホマヌケ指揮官」

 

 出会うなりにこれでもかという罵詈雑言を並びたててくるのはアドミラル・ヒッパー級の1番艦でプリンツ・オイゲンの姉である《アドミラル・ヒッパー》。銀髪でグラマラスなオイゲンの姉でありながら、その容姿は金髪にスレンダーとオイゲンとは真逆といったものだった。

 

「Guten Tag。ヒッパー。どうした? またオイゲンにつるぺたを弄られたのか?」

「もう慣れたわよそんなの。それよりあんたにいい加減言いたいことがあるんだけど」

「……何だ?」

 

 太陽が真上に昇る頃、食堂で昼食に舌鼓を打っていた指揮官。そんな指揮官の前に立ったヒッパーは食堂のテーブルを思い切り叩いた。時間の割に静かな食堂には彼女が机を叩いた音だけが響く。

 

「あんた、気付いてるんでしょ? オイゲンがあんたにどんな感情を抱いているかを」

「……そういう話はこういうところでするようなものじゃないと思うが」

「確かにそうかもしれないわね。でも、こういう衆目のところでやるからこそ意味があるのよ」

 

 もしヒッパーが誰もいないところに指揮官を呼びつけて忠告すれば、そのことを知るのは指揮官とヒッパーの二人だけになる。デリケートな話をするのであれば、そうするのが常識的だろう。しかし、それでは二人しか知り得ないこととなる。だが、敢えてこういった衆人環境ですることで、自然と指揮官の外堀は埋められてしまう。後に引くことを許さない、というヒッパーの決意の表れだった。

 

「あの子は、オイゲンはあんたのことを特別な存在だと思ってる。あんたもそれに気付いているんでしょう?」

「……そうだな。そうと言えば嘘になる」

「だったら……!」

「だが、お前たちはいつも戦場に赴く。そして毎回のように戻ってくるが、果たしていつまでもそうはいられるだろうか?」

 

 指揮官として、軍人の端くれとして。見たくないものをたくさん見てきた。セイレーンの攻撃で父を、息子を、愛する人を失った人の涙を。大事なものを失うということは、一言では表せないような傷を残す。そしてその傷は身体の傷とは違って一生消えることはない。

 

「俺は今でこそ指揮官として母港で指揮を取っているが、戦線次第では前線に出るだろう。そしてお前たちを危険な海域に送り込むこともある。無事に帰ってこれない危険性だってあるんだ。俺は残す辛さも味合いたくないし、残される辛さも味合わせたくないんだよ」

「……」

「わかってくれたか、ヒッパー?」

「あんたバカぁ?」

 

 ヒッパーは胸の下で腕を組み、深いため息を付く。その目は怒りというよりも呆れに満ち溢れていた。

 

「ねえ、指揮官。あたしたちの国名……鉄血の意味はわかるかしら?」

「困難に直面した時、鉄(武器)と血(兵士)によってその問題は解決される。過去の偉人の言葉だ」

「教科書通りの解答どうも。30点ね」

「100点の解答は?」

「……いい? あんたみたいなアホで救いのない男にこの私が直々に教えてあげるんだから感謝しなさい。鉄血というのは、“鉄よりも固い結束”と“血よりも濃い絆”を表わすのよ! 鉄の結束と血のような絆を持った私たち鉄血の艦船が、あんなセイレーンなんかに沈められるわけないじゃない!!」

 

 ヒッパーの言葉が本当に100点の解答とは到底思えなかった。納得などできるわけがない、と思いつつも指揮官の身体は自然と執務室に向かって走り出していた。

 

「待ちなさい、指揮官!」

「……何だ」

「あの子は、戦闘においては堅い守りで私たちを守ることができる。でもそれ以外のことに関しては結構脆いところがある」

「なら、俺が守る。それでいいか」

「上出来よ、行きなさい!」

 

 全くもう、と去っていく青年の背中を呆れながら見つめるヒッパー。その目は、間違いなく一人の姉として優しさに満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官? どうしたのそんなに息を切らして。またドイッチュラントが拗ねて部屋にでも引きこもっ―――」

 

 執務室で淹れたてのコーヒーを指揮官の机に置いたオイゲンを、指揮官は思い切り抱きしめた。真正面からいきなり抱きしめられる形になったオイゲンは目を白黒とさせており、クールな彼女は珍しく動揺している様子だった。

 

「し、指揮官? な、なんなの突然」

「俺は今まで自分の正直な気持ちに嘘をついていた。失うことを恐れるあまりにな」

「……大方ヒッパーあたりにも吹き込まれたのかしら。突然にも程があるわよ」

「突然で悪かった。もっとドラマチックなシチュエーションが好みだったか?」

「いいえ。指揮官、あなたと一緒なら母港の見回りだってドラマチックよ」

 

 指揮官はオイゲンを抱きしめながら、少しだけ顔を離した。指揮官が正面に立ち、オイゲンが彼を見上げる形になる。彼女の白く美しい顔は仄かに赤く染まっていたのがわかった。

 

「プリンツ・オイゲン、俺の言葉を聞いてほしい」

「……ええ、どうぞ」

 

 

 

 

 

―――Ich liebe dich.―――

 

 

 

 

 

 指揮官の言葉を聞いたオイゲンはまるで太陽のような微笑みを見せた。そして、こう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――Ich liebe dich von Herzen.―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ギャグメインで行きたかったのにいきなりシリアスめのものを書いてしまうという。
鉄血艦はいいぞ。


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鉄血母港の日常・2~悩める未成空母~

○人間
鉄血指揮官:鉄血生まれ鉄血育ちの金髪碧眼の青年。ヘタレを卒業して、プリンツ・オイゲンとケッコンの誓いを交わした。

○艦船
グラーフ・ツェッペリン:グラーフ・ツェッペリン級1番艦。とある他国の空母をベースに設計されていたが、結果的に建造されることなく終わった。
Z23:通称ニーミ。駆逐艦でありながら、みんなのまとめ役。個性の強い鉄血の艦船たちに多少頭を痛めがち。
Z46:通称フィーゼ。グラーフ・ツェッペリンと同じく未成艦。同じ未成艦ということもあって彼女とよく行動を共にしている。
プリンツ・オイゲン:アドミラル・ヒッパー級の2番艦。指揮官とは最も付き合いの長い艦船であり、ケッコン相手。
ティルピッツ:ビスマルク級の2番艦。母港着任当初は他人と距離を置いていたが、最近は皆と打ち解け始めている。




 

 

 

 

「指揮官。グラーフ・ツェッペリンがいつまで経っても部屋から出てこないのだが、私はどうすればいい?」

 

 ビスマルク級2番艦にして「孤高なる北の女王」との異名を持つ戦艦《ティルピッツ》が執務室にやってきたのは事務仕事を一通り終えた昼前であった。鉄血を支える若き指揮官と秘書艦である重巡洋艦プリンツ・オイゲンはなんとも意外そうに顔を見合わせる。

 

「グラーフが? ドイッチュラントじゃなくて?」

「ああ。時間になっても起きてこないから部屋に行ったのだが……」

「……グラーフは確か他国の空母機動部隊との合同演習に出ていたよな?」

「ええ。Z46やZ23と一緒に重桜との合同演習に参加していたわ。それで昨日無事に帰投したはずよ」

 

 グラーフ・ツェッペリンは重桜のある空母を参考に建造される予定の航空母艦であったが、結果的に完成に至らずに終わった未成艦である。しかし、セイレーンの出現によって彼女もまた他の艦船と同じように人の姿と意志を持って新たに生を受けた艦船の一人だった。ただ、未成艦として終わった過去からか、他の艦とは少し異なった価値観の持ち主でもあった。

 

「……オイゲン。ちょっとグラーフのところに行ってくる。執務室の番は任せていいか?」

「ええ、大丈夫よ。任せて頂戴」

 

そう言って微笑んだ彼女の薬指が陽の光に当たってキラリと輝く。実に頼もしい秘書艦兼ケッコン相手を得たものだ、と指揮官は内心喜びながら、ティルピッツと共に艦船寮へと向かった。ティルピッツに案内されて着いた艦船寮では、グラーフと共に重桜に派遣されていた駆逐艦《Z23(ニーミ)》と《Z46(フィーゼ》が不安そうな顔をして指揮官が来るのを待っていた。

 Z23ことニーミは駆逐艦でありながら優秀で面倒見がよく、他の艦に勉強を教えるなど母港随一の才女として知られている。もう一人のZ46ことフィーゼはクールで、着任当初はあまり他の艦とは積極的に交流をしようとしていなかったが、自らと同じく完成することなく終わった艦であるグラーフの着任以降は彼女と共に他の艦との交流を深めていた。

 

「あっ、指揮官……」

「状況は?」

「全く出てくる気配がない。私やニーミが呼びかけても反応すらない」

「そうか……重桜へ一緒に行ったのはお前たち二人だったな。そこでグラーフに何か変わったことは無かったか?」

「そうですね……特に変わったところは見受けられませんでした。フィーゼは何か気付いた?」

「……そう言えば」

 

 もしや、といった様子で首を傾げるフィーゼ。クールな彼女はこんな時でも無表情だが、腕を組んだ指をピクピクと動かしている辺りはそれなりに焦っていることがわかる。

 

「重桜の空母、彼女たちと演習をした後、少しグラーフがおかしいように見えた」

「重桜の空母……あっ」

 

 重桜の空母と聞いて指揮官は思わず天を仰いだ。今回合同演習を組むにあたって、何故グラーフたちを重桜に派遣したのか、ということには二つの理由がある。

 一つは本来のグラーフ・ツェッペリンという艦は重桜のとある航空母艦を元に設計されたということ。自分の元となった空母と共に研鑽を積むことで、より彼女の成長に繋がることを期待したからだ。そしてもう一つの理由が、指揮官の交友関係にある。かねてより鉄血と重桜は交流があり、その縁で重桜の艦隊を預かる指揮官とは面識があったのだ。そして重桜の指揮官とは時折、手紙のやり取りをしていたのだが、彼の送ってくる手紙にはこんなことが書いてあったのを思い出した。

 

 

 

―――重桜の艦船たちは愛が深い―――と。

 

 

 

「ありがとう。ニーミ、フィーゼ。だいたいの原因はわかった」

「本当ですか!?」

「ああ。後は俺に任せてくれないか」

「……いいのか?」

「俺は艦隊の指揮官だ。艦船のためにも俺が動かなきゃどうしようもないだろう?」

「感謝する」

「ありがとうございます!」

 

 グラーフのことだから、一対一でなければ上手くいかないだろう。指揮官は二人をその場から遠ざけると、一呼吸おいてグラーフの部屋をノックした。反応はないが、何となく中に誰かがいるのはわかる。指揮官はドアの外からグラーフの名を呼んでみた。すると、ドアの鍵がガチャリ、と外れるのがわかった。

 

「入るぞ」

 

 グラーフの部屋に入った指揮官が見たのはベッドの上で体育座りをしながら折り曲げた膝に顔をうずめるグラーフの姿だった。寝間着のままなのか、その魅力的なスタイルがより一層際立つ。艦種によって異なるのかもしれないが、戦艦や航空母艦といった元が大型の艦船たちはどういうわけか皆スタイルがよく、グラマラスな女性が多いのは何故だろうか。そんなことを思いつつも、指揮官はグラーフの隣に座った。

 

「……卿に聞きたいことがある」

「なんだ?」

「卿は、私が嫌いか?」

「藪から棒になんだ」

「……重桜の空母が言っていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、西方の友人たち。私は重桜の機動部隊を預かる一航戦《赤城》と申しますわ」

「同じく一航戦《加賀》だ。我が艦隊の指揮官より貴艦らの歓待をするように命じられた。ここより少し行ったところに我ら重桜の母港がある。遠いところをすまないが、もう少しだけご足労願わないだろうか」

 

 重桜に赴いたグラーフたちを出迎えたのは頭から狐の耳を、臀部からは九本の尻尾の生やした美しい二人の女性であった。この女性たちこそ重桜に名高き一航戦の赤城と加賀である。重桜の人々は古来より神を信仰しており、その信仰の影響か皆獣の特徴をその身に宿しているのが特徴だ。一般的な人間とは姿形こそ異なるが、力の大小に差異こそあれど、皆が神の霊力を持つと言われている。

 

「鉄血艦隊所属、グラーフ・ツェッペリン。そしてこの二人は駆逐艦のZ23とZ46だ。卿らの手厚い出迎えを感謝する」

 

 最初はグラーフも淡々と遠征部隊の旗艦としての役割を十分に果たすことができていた。しかし、重桜の母港に到着し、赤城と加賀の案内で重桜指揮官の執務室に赴いた時である。グラーフは目を疑った。執務室にいる重桜の指揮官に赤城・加賀とは別のまた二人の美しい女性が侍っていたからだ。

 

「指揮官様? この仕事は私が全て行いますので、指揮官様はどうぞゆっくりしてくださいね?」

「指揮官! そんな奴に仕事させる必要なんてないよ? ここは全部私がやるからね?」

 

 頭に鳥の頭部をあしらった髪飾りを付けた黒髪の女性と、髪の毛がまるでミミズクの耳羽のように逆立った紫色の髪をした女性が指揮官を挟んで睨み合いを利かしている。重桜の指揮官はそんな二人の仲裁に入ろうとするが、二人はまるで聞く耳を持たない。

 

「……なんだあれは」

「また始まったか。姉様、ご客人の前です。決して我を忘れぬよう」

 

 加賀がそう言った瞬間である。大和撫子の如く微笑みを浮かべていた赤城の顔が憤怒に染まったのは。

 

「客を迎えに席を外してみれば……お前たちは鼠のように湧くのね!《大鳳》!!《隼鷹》!!」

 

 一歩遅かったか、と加賀は小さくため息をついた。そこには先ほどまでの物腰柔らかな美女はいない。そこにいたのはまさに鬼や妖怪の類といってもおかしくはなかった。あまりの変わりようにグラーフたちは言葉を失う。

 

「あらどうしました赤城先輩? そんなに怒って。また目じりに小皺が増えますよ?」

「黙りなさい! あなたのその猫撫で声いい加減耳障りなのよ!」

「全くね。大鳳は指揮官に対する畏敬というものを感じないわ。その点オサナナジミの私と指揮官は深い絆で繋がっているのよ? この母港の他の誰よりも、ね?」

「最近着任したばかりの人が何を言ってるんですか~? 真面目にその性格を改めないと《飛鷹》さんが胃潰瘍になってしまいますよ?」

「隼鷹、《綾波》がこんなことを言っていたわ。「幼馴染は負けポジション」とね」

「綾波……後で空爆してやる……とにかく、赤城も大鳳も出ていって! 私と指揮官の空間を邪魔しないで!!」

「出ていくのはお前たちだ! 加賀、指揮官様にまとわりつく羽虫共を退治するのでお客人たちのことはお前に任せますわ!」

「羽虫呼ばわりは酷いですねぇ……人を羽虫呼ばわりする先輩は私の彗星と流星で撃ち落とす!!」

「指揮官。私、あなたのために勝つから! オサナナジミとしてあいつらぶっ飛ばすから!」

 

 目の色を変えて三人は執務室を出て行った。呆気にとられるグラーフたちに加賀は自嘲するかのように「これがうちの日常だ」と告げる。ちなみにこのあと三人は指揮官の命を受けた《三笠》から雷を落とされ《鳳翔》からは優しくお灸を据えられるのだが……それはまた別の話である。

 

「他国の艦船たちも驚いている。だが、戦場においては話は別だ。特に姉様は誰よりも重桜のことを考えて戦線に立っている。それは心胆に刻んでおいてほしい」

「あ、あの加賀さんはああいうことはしないんですか?」

「皆が皆ああではない。あの三人と……あと重巡一隻が指揮官のことになると目の色が変わるが他の皆はいたって普通だ。最も私は……」

「私は?」

「戦場で襲いくるセイレーンを屠ることこそ指揮官に認められる術だと思っているのだがな。ヒヒヒ……」

 

 自分ではこう言うが、加賀も加賀でやはりおかしなところがあり、彼女たちと同じようでそれには気づいていないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官。私は赤城たちのように指揮官に愛想を振りまいてもいなければ、加賀のように戦場で多くのセイレーンを沈めているわけでもない。私は彼女たちのように指揮官に愛されるようなことをしていないのだ。指揮官、卿は失望しているのであろう? 不甲斐ない私に……」

 

 グラーフの秘めていた想いを黙って聞いていた指揮官は、彼女が話し終わると同時にぷっと吹き出した。それを見たグラーフの顔には明確な不快感というものが現れる。

 

「指揮官。その反応はいくら指揮官と言えども見過ごせんぞ……」

「すまんすまん。だが、悪意があったわけじゃない。お前の悩みはそんなことだったのかと思ってな」

「そんなことだと? これでも私は酷く悩んで……!!」

「俺がそんなことでお前を嫌いになると思ったのか? お前はよくやっている。確かに重桜の空母たちは皆素晴らしい艦船かもしれないが、俺にとって一番の空母はお前以外いない。他がどうあろうと関係ない。お前は……俺にとっては絶対に欠かせない存在の一人なんだ。だから、下を向くな。グラーフはグラーフらしくやればいいんだよ」

「指揮官……」

 

 グラーフの潤んだ瞳に真剣な指揮官の顔が映る。この時、グラーフ・ツェッペリンは確かに噛み締めていた。艦船として第二の生を享けた幸せというものを。愛される幸せを知った彼女は、もう二度と全てを憎むことはないはずだ。

 

(……そういや鉄血に空母ってまだグラーフしかいなかったような気がするけど。そこは触れないでおこう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「グラーフ・ツェッペリンが引きこもった? 全く、誇り高き鉄血の艦船の風上にもおけないわね!」
(3日に1回引きこもるドイッチュラントにだけは言われたくないと思うけど……)
「あのー?」
「はい?」
「鉄血の母港はここで合っているでしょうか?」
「合っているけど……」
「実はこちらの指揮官さんにご挨拶に参りました。本日付けでこちらの艦隊に加わりますので……」
「あら、新入り? だったら私が鉄血艦のなんたるかを教えてあげるわ! 私はドイッチュラント級1番艦のドイッチュラントよ! でこっちは私の妹のアドミラル・グラーフ・シュぺーよ!」
「あなたがたがあの高名なポケット戦艦、ドイッチュラント級装甲艦でしたか……私は―――《ローン》と申します」






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重桜母港の日常・1~素直になれない巫狐様~

登場人物

○艦船
長門:長門型戦艦の1番艦。重桜の巫狐(みこ)として祭事を執り行っていた。かつて四代目連合艦隊旗艦であったため、尊大に振る舞うが……

陸奥:長門型戦艦の2番艦。長門の妹として自身も祭事に関わってきたが、長門とは違って見た目相応の言動が目立つ。好奇心旺盛で何事にも「なんで?」と疑問を持つ。
三笠:敷島型戦艦の4番艦。重桜最古参の艦船であり、皆からは「大先輩」と呼ばれて慕われている。
如月:睦月型駆逐艦の2番艦。愛らしい桃色の髪をしているが、性格は大人しく内気。


 

 

 

 

 

 

―――余は重桜艦隊の旗艦であり、余の存在が全ての重桜の艦船の模範となる。故に余は、俗世に塗れてはならない。旗艦としてあるべき姿を保たなければならないのだ。

 

 

「ねえねえ長門姉?」

「なんだ、陸奥よ。余は重桜の旗艦として戦術教室で余の力に磨きをかけねばならぬのだが?」

 

《長門》と呼ばれた少女と同じ狐耳を持ち、キューティクルが艶々としたおかっぱ頭の少女が不思議そうに首を傾げる。長門と同じく『BIGSEVEN』に数えられた妹の《陸奥》は目をキラキラと輝かせながら口を開いた。

 

「どうして長門姉は本当は他のみんなと仲良くしたいのに、そうやって肩に力を入れてるの?」

「……ふぇっ!?」

「長門姉は饅頭幼稚園で遊んでいる睦月型の子たちをいつも羨ましそうに観てるよね? どうして自分も混ざらないの? なんで? ねえなんで?」

「よ、余はそんな目で駆逐艦を見ていないぞ!」

 

 遠い西の果ての島国には駆逐艦を不埒な目で見る航空母艦がいるという。よもや自分の妹にそれと同類扱いされていると思われるのは長門は心外極まりなかった。もちろん陸奥にそんな気は毛頭ない。陸奥は時折自分でも気づかないまま痛いところを突いて来るところがあった。

 

「第一余は戦艦であるぞ! 戦艦が駆逐艦と仲良く遊んでいては示しがつかぬではないか!」

「えー? そんなことないよー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わーっ! 雪風ちゃんすごーい! 私にも教えてー!」

「全く、しょうがないのだ山城は! この雪風様が上手い水切りの仕方を教えてやるのだ!」

「ちょっと雪風! 山城姉様はこの時雨様と一緒に遊ぶのよ! あんたはすっこんでなさい!」

 

 陸奥に引っ張られる形でやってきた海岸で長門は駆逐艦《雪風》が戦艦である《山城》に上手な水切りのやり方を教えようとしているのを目撃した。幸運艦として知られる彼女は『呉の雪風』の異名を持つなど重桜の中でも一ニを争う強運の持ち主であり、運が絡むことなら何をやっても卒なくこなすことで知られている。

 一方で山城とは同じ艦隊に所属していたことから仲の良い駆逐艦《時雨》は雪風から山城を引き離そうとする。『佐世保の時雨』と呼ばれていた彼女もまた雪風ほどではないが、幸運の持ち主であり、その経緯からか雪風のことを必要以上にライバル視していた。

 

「こうなったらこの時雨様の方がいっぱい水切りできることを証明してやるわ!」

「かかってくるがいいのだ! 今日こそ時雨よりこの雪風様の方が優れていることを証明してやるのだ!」

「雪風ちゃんも時雨ちゃんも頑張れー!」

 

 仮にもあの名高き艦隊で旗艦を務めた者とは思えない山城の振る舞いに長門は天を仰いた。

 

「ほらね、戦艦の山城も駆逐艦の子と楽しそうに遊んでるよ!」

「……あれは山城の精神年齢が駆逐艦と同程度なだけではないのか?」

「でも山城は戦艦だよ? 私たちと同じだよ? だったら何も恥ずかしくないよね? なんで? なんで?」

「なんでもいい! 山城が特別なだけだ! 他の戦艦や……空母にこのような者はいないだろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの!江風さん!」

「ん……あなたは二航戦の飛龍か。どうしたんだ? 空母のあなたが駆逐艦の私に“さん”などつけて」

「江風さんはどうしてそんなに凛々しいんですか!」

「えっ」

「ぼくは女子力を高めたいのですが、中々上手く行かず……なのでこうして女子力の高い人に助言を聞いて回っているんです!」

「……女子力の高さを何でもって判断するかは知らないが、私にできることなど……」

「あっ、待ってくださいよー!! 先生ー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつでもいいぜ、日向」

「ならば行かせてもらおうか。伊勢!」

「お二方、明るいうちから酒を飲んで何をしているのですか。演習の時間はとっくに過ぎていますよ?」

「「げえっ、神通!!」」

「改造されて航空戦艦となったあなた方は重桜の要なのです。姉妹で組手をするよりもっと戦術を学んで頂く必要があります。さあ行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……思ったのだが、我が国の戦艦や空母はこんなのばかりなのか?」

「ずっと前からそうだよー! だから長門姉も肩の力を抜かないと!」

「だからこそ肩の力を抜いてはいけぬではないか! やはりこの余がしっかりしないと……」

「む? 長門に陸奥ではないか」

 

 言い争う幼い姉妹を見つけたのは重桜において最古参の艦船である戦艦《三笠》。全ての重桜の艦船の祖であり、最古参である彼女は他の重桜の艦船はもちろん艦隊を指揮する指揮官からも慕われていた。

 

「これは三笠様……」

「あっ、三笠先輩! こんにちは!」

「うむ、よき挨拶だな陸奥よ。ところで先程から何か騒いでいるようだが、何かあったのか?」

「あのね三笠先輩! 長門姉が饅頭幼稚園で遊びたいのに遊びたくないって言うんだよ!」

「おい陸奥! 三笠様にあることないことを吹き込むでない!」

「ふむ、どうして長門はそのようなことを申すのだ?」

「余は……重桜艦隊の旗艦です。余がしっかりしていなければ、またあの時のようなことを繰り返してしまう……」

 

 長門はかつて重桜の巫狐として重桜の中心に栄える巨大な桜の下で祭事を執り行ってきた。しかし、セイレーンの力を利用して重桜の権勢をより強めようとする急進派の傀儡となり、望まぬ戦争を繰り返しては国を疲弊させてしまったことがある。あの時は自分が何ごとも言われるがままだったことが原因であり、こうして一人の艦船として艦隊に所属した今はあの時のようなことを二度と起こさせまい。その気持ちが彼女の心に深い傷を負わせていたのだ。

 

「それに、戦艦とは力の象徴。力の象徴たる余が駆逐艦となれ合うなど……」

「そうか……長門、陸奥。今から行くところがあるのだが、付いてこないか?」

「行くところ?」

「ああ、我が日々戦艦として頑張れるところだ」

 

 そういった三笠が案内したのは意外な所だった。向かっていく方向に違和感を覚えた長門は後悔したが、時既に遅し。

 

「あっ、三笠だいせんぱいだ! こんにちはー!」

「ああ、こんにちは。今日は何をして遊ぼうか」

「三笠だいせんぱい! きょうはあたらしいイタズラをおもいついたよ!」

「ほどほどにな、水無月。ああ三日月、お主が食べたがっていたたい焼きを買ってきたぞ」

 

 やってきたのは重桜の母港において駆逐艦の艦船に多く利用される寮舎。いわゆる『饅頭幼稚園』だ。他の寮舎とは違い、遊具が多めに設営されており、小さな睦月型の駆逐艦たちがよく遊んでいる。

 

「三笠様、何故ここに……」

「我はここで睦月型の子たちの面倒を見ているのだ。彼女たちは艦船としては小柄で力も決して強くはない。だからここで我が彼女たちと遊びつつ、彼女たちに戦場で如何に戦うかを教えているのだ」

「そんなことを……何故三笠様が?」

「我はお主と比べて旧型。単純な艦船としての力では長門、お主には遠く及ばないだろう。だが、力こそ劣れど我はかつて連合艦隊の旗艦を務めた艦船だ。重桜の皆が日々を幸せに過ごせているか……それをよく知っておく必要があるのだ」

 

 睦月型の一番艦である《睦月》を抱っこし、たい焼きを頬張る同じ睦月型の《三日月》を膝に座らせながら三笠は優しくも凛とした顔を長門に向ける。

 

「長門、お主は艦隊の旗艦として相応しくなければならない。そう思っているのだな?」

「はい……」

「艦隊の旗艦として必要なのは強さだけではない。時には優しさも必要なのだ。敵を打ち払うだけではなく、皆に慈愛の心を持って接するな」

「優しさ……」

 

 そんな時、長門は服の袖が微かに引っ張られるのに気が付いた。横には桃色の髪をした幼い少女が何処か不安そうな顔をして長門を見つめていた。睦月型駆逐艦の《如月》だ。

 

「如月。どうしたのだ?」

「……いっしょに、あそびませんか?」

 

 さっきまで傍にしたはずの陸奥は駆逐艦の《卯月》と一緒に滑り台から何度も降りていた。三笠や陸奥が早速馴染んでいるのに対し、ずっと入口で立ったままの長門が如月は気になって仕方が無かったのだ。

 

「……余も、いいのか?」

「うん……長門さまといっしょにあそびたい」

「そうか……」

 

 この時、三笠の言いたいことの意味を長門は心から理解できたような気がした。こんな日常を守るのも、艦隊の旗艦として求められることの一つなのだと。

 

「わかった。余も一緒に遊ぶぞ!」

「わぁい!」

 

 無垢なる子供たちの笑顔。長門は改めて自分が戦う理由を見つけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閣下! 非番を貰いたい! えっ、理由? それはもちろん重桜に名高き饅頭幼稚園をへ……な、何故ダメなのだ!! 艦船と言えども労働基準法が適用されるべきだと思うのだが!?


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連合母港の日常・1~孤高なる勇者の涙~

○人間
ユニオン指揮官:数多の戦場を渡り歩いてきたベテランの軍人。KAN-SENたちからは父親のように慕われている。

○KAN-SEN
エンタープライズ:ヨークタウン級2番艦。ユニオン最強の名を欲しいままにする航空母艦であり、打ち立てた武勲は去ることながら、その真面目な実直な性格は他のKAN-SENからも憧れの対象になっている。

ヨークタウン:ヨークタウン級1番艦。エンタープライズの姉であり、何処か儚い雰囲気をまとった美女。
ホーネット:ヨークタウン級3番艦。ヨークタウンとエンタープライズの妹で、姉二人とは違って明るく快活な性格。




 

 

―――エンタープライズ……どうか、私の代わりに皆を導いて。

 

 全てが終わったはずだった。しかし、追い詰められた鼠は猫を噛む。死に際に放った敵の一撃が一隻の空母に直撃した。彼女は今わの際に私に国の象徴である白頭鷲を横に立つエンタープライズと呼ばれたもう一隻の空母に託す。そして彼女はエンタープライズの腕の中で事切れた。

 

 

―――あはは……あたし、ここまでなんだね。先に行って待ってるね、エンタープライズ。

 

 今わの際だというのは太陽のような笑顔は隠さない。ユニオンのKAN-SENにおいて伝統あるスズメバチの名を与えられた彼女は最期の時まで笑っていた。眠りについた妹の姿を見た空母の眼からは大粒の涙が零れ落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海軍の夜は長い。いつ何時何が起きるかわからないからだ。これまで数多の戦を潜り抜けてきた指揮官も例外ではない。戦場に向かうKAN-SENたちを見送る側の指揮官は、KAN-SENのようにセイレーンと戦うことはできない。彼らにできるのは戦闘に使うための装備を用意したり、彼女たちに作戦を伝授すること。そして、彼女たちが帰還する母港を守り、彼女たちの非戦時の生活を保障することくらいだった。

 

「ん……?」

 

 歴戦のベテラン指揮官の執務室。草木も眠る丑三つ時、といった時間だっただろうか。指揮官はドアがノックされたような気がした。少なくともこんな時間に執務室にやって来るというのはあまり感心することではない。人間と同じ姿をし、人間のような生活を送るかつての軍艦たちの体調を考慮することも上に立つ者の務めであるからだ。

 大方フレッチャー級の駆逐艦が夜ふかしがてらに悪戯でもしに来たのだろうか、それともユニオンにおいて夜更かしの常習犯である軽空母・ロングアイランドあたりだろうか。そう思った指揮官はふとドアを開けてみる。そこにいたのは意外な人物だった。

 

「……どうした、エンタープライズ」

 

 エンタープライズ。ヨークタウン級の2番艦にして、先の大戦においては幾度となく敵の攻撃を受けながらも沈むことなく、戦場に舞い戻り続けたことから我が国屈指の武勲冠といえる。KAN-SENとして再誕してからも、その武勲に霞むことなく、ユニオンの機動部隊の中核を為す正規空母だ。

 

「指揮官……指揮官ッ」

 

 彼女の髪のように真っ白なナイトウェアを身に纏ったエンタープライズの眼には涙が光っていた。そしてもたれかかるかのように指揮官へと身を預けた。何があったのだろうか、と思った指揮官はこのままでいるわけにもいかず、彼女を執務室へのソファへと座らせる。そしてホットココアを差し出した。

 

「大丈夫か、エンタープライズ。何かあったのか?」

「すまない、実は……夢を見てしまったんだ」

「夢?」

「ああ。また、ヨークタウン姉さんとホーネットの最期を見届ける夢を……」

 

 彼女の姉妹艦であるヨークタウンとホーネットも彼女同様にKAN-SENとして生を享けている。しかし、その二人はかつての大戦では彼女とは違って生き残ることができなかった。エンタープライズはヨークタウン級で唯一の生還艦なのだ。

 

「KAN-SENとして生まれ変わった私たちはセイレーンとの戦いで苦境に立たされることはあっても、沈むことはなかった。今度は三人でずっと一緒にいられる。指揮官がいてくれて、艦隊のみんながいてくれる。今度はずっと一緒だ、って思いたいのに……もしもがあったらどうしよう。そんな気持ちが私の中から離れないんだ。私は、このユニオンの象徴たる空母なのに、情けない……」

 

 指揮官は何も言わず、エンタープライズの言葉を聞いていた。彼女が話し終わると同時に、指揮官は彼女の白く美しい髪を優しく撫でた。

 

「し、指揮官!?」

「よく話してくれた。今まで辛かったな」

「……し、失望しないのか? こんな弱い私を」

「誰だって弱音くらい吐きたくなることもある。私だってそうだ。それに、恐怖心を持つことは悪いことではない。恐怖心があるからこそ、慎重に物事を見定めることができる。勇猛果敢はいいことばかりではない。勇猛になりすぎたが故に墓穴を掘ることもあるのだからな。お前は我がユニオンの旗艦として必要なものを持っている。改めてお前のようなKAN-SENと共に戦えることを誇りに思う」

 

 指揮官の言葉を聞いたエンタープライズの白い顔が真っ赤に染まる。普段はそのクールさと強さから羨望の対象となる彼女であるが、ここまで真正面に臆面もなく褒められたことはなかったのだろう。

 

「あ、あなたは平然とそのようなことを言うのだな」

「私が何か変なことを言っただろうか?」

「……朴念仁め。ふふっ、でも……話してよかった。指揮官、今日からというわけではないが……また、こうして話を聞いてくれても構わないだろうか?」

「KAN-SENの精神状態もチェックするのが指揮官だ。辛いことがあったらなんでも言ってくれ」

 

 上に立つ者として下にあるものをよく見ることも大切だ。かつてはそういう当たり前のことであってもこなせない者をたくさん見てきたエンタープライズであったが、この指揮官にはそれがない。故に彼女たちKAN-SENはこの無骨な指揮官に敬意を払って接するのだ。

 

(だが……指揮官はまだ、私の本当の気持ちには気づいてくれないようだな)

 

 指揮官に炒れてもらったホットココアを口にしながらエンタープライズはにっこりと微笑む。仄かな甘さと暖かさにその気持ちを隠すように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「シ、シ、シャングリラ!! 大変よ! エンタープライズ先輩が指揮官の部屋に夜中に入っていくのを見たわ! もしかして指揮官とエンタープライズ先輩は……」
「落ち着いてください姉さん。というかなんで姉さんがそれを知ってるんですか」


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王室母港の日常・1~無口な女中は愛を告げる~


※キャラストーリーのネタバレを含みます。



 

 

 

 

 

 

「害ち……ご主人様、ロイヤル本当より手紙が届いております」

 

 指揮官、と呼ばれた若い男性に右目を前髪で隠した小柄なメイドが手紙を渡す。彼女の名はロイヤルの前線基地で秘書艦を務めるロイヤルメイド隊の一隻・シェフィールド。どちらかというと指揮官を「主」と認識して忠実かつ恭しく接してくる他のメイドに比べてこのKAN-SENだけはいつもクールであり、不愛想だった。

 

「ありがとう、シェフィールド。あとそろそろ害虫呼ばわりはやめてほしいんだが」

「私はご主人様を害虫などとは全く思っておりません。憶測による決めつけは紳士の行いではありませんよ」

「そうか、まあいいや。さてどんなお手紙かな……」

 

 指揮官机の引き出しの中に入っているペーパーナイフを手に取ると、手紙の封を切る。これまで送られてくる手紙といえば、だいたいはセイレーンやレッドアクシズとの戦いぶりを評価するものや尻を叩いて来るものなのだが。

 

「……良かったな、シェフィールド」

「いきなりなんですか」

「仲間が増えるぞ。ロイヤルメイド隊からまた一隻この基地に着任することになった。ダイドーというKAN-SENだそうだが、面識はあるか?」

「ダイドー……ああ、彼女ですか……」

 

 その名を聞いたシェフィールドは小さくため息をついて俯く。彼女がこのようなリアクションを取る時はだいたいどのようなKAN-SENなのかが想像できてしまう。

 

「ダイドーはシリアスの姉にあたるKAN-SENです」

「シリアス……ああ、なんとなく察した」

 

 シリアスはダイドー級の五番艦にあたるKAN-SENであり、メイド隊においては随一の戦闘能力を持っている。取り分け航空母艦との相性が良好であり、イラストリアスやユニコーン、セントーといった航空母艦が出撃する時は決まって彼女も随伴させている。

 しかし、戦闘能力が飛びぬけている反面メイドとしての素質はあまりよろしくなく、料理も上手くなく(一生懸命ではあるが)、掃除をしていて花瓶を縦に真っ二つに割ってしまったりと残念な報告が多いのだ。そんな彼女の姉となると、なんとなく会ってもないのにキャラクターが掴めてしまう。

 

「ダイドーの名誉のために補足しておきますが、彼女は妹とは異なりメイドとしての職務はしっかりとこなすことができます」

「そうか、じゃあ問題ないか」

「ですが……彼女はとても働き者です。過分なほどに」

 

 シェフィールドによると、ダイドーはメイドとしての能力はあるのだが、シリアスの姉だけあって忠誠心および奉仕精神が強すぎるきらいがあるのだという。そのため自らに課せられた職務が全て終わり、暇になってしまうとたまらず他のメイドの仕事を肩代わりしたがるというのだ。

 メイドというものはそれぞれ特定の分野に特化した能力を持っており、シェフィールドの場合は掃除、サフォークの場合は菓子作りと誰もが「自分が一番」と思える才能を持っている。それを門外漢の人物がやってしまえばどうなるか。少なくとも専門的な人物がやるほどの成果は期待できないだろう。

 

「彼女は役目を与えないと自分は不要なのではないか、と思ってしまうと推測されます。なので彼女が着任した場合はなるべく目を配らせておいてください。彼女の人となりを知るために秘書艦に据えるのもいいでしょう」

 

 この間着任した同じメイド隊のグラスゴーはシェフィールドをこう評していた。彼女は口は悪いけれどとてもいい子である、と。言葉尻に刺々しさはあるが常に仲間を、同じメイド隊のメンバーを見ているからこそこういう的確なアドバイスを送れるのだ。

 

「わかった、そうさせてもらう。ありがとう、シェフィールド」

「礼には及びません……それでは」

 

 そう言ってシェフィールドは部屋を出ようとする。クールで不愛想な彼女であるが、実は結構わかりやすいところもある。

 

「待った、シェフィールド」

「……なんですか、私にはまだ掃除が残っているのですが」

 

 指揮官はシェフィールドを呼び止めると、カーテンで窓を覆う。日中であるにも関わらず、指揮官室が薄闇に包まれる。指揮官とシェフィールドは互いに向き合った形となった。

 

「改めて言っておくけど、仲間が増えるのはいいことだし、それによってセイレーンやレッドアクシズ陣営との戦闘を有利に進めることができるだろう。だけど、新しいKAN-SENが来てくれたからといって、俺からシェフィールドへの信頼の厚さは変わらない」

「……」

「シェフィールドの左手薬指……それが俺の決意だ」

「よくもまあ白昼堂々からそんな恥ずかしい言葉を言えますね。その振る舞いは紳士的とは言い切れません。ですが……」

 

 そう言ってシェフィールドは指揮官に歩み寄ると、そっと彼の身体に己が身を預けた。自分は現メイド長のベルファストや先輩にあたるニューカッスルのように指揮官に対して優しく、素直に振る舞うことはできない。しかし、ベルファストもニューカッスルもまたシェフィールドになることもできない。シェフィールドにはシェフィールドだからこそできることがある。それを認識させてくれたのが他ならぬ指揮官だったのだ。

 

 

 

「……ご主人様、私はあなたを愛しています。KAN-SENとしてだけではなく、一つの命を与えられた者として。別れの時まで傍にいたい。その気持ちは私も変わりません」

 

 

 

 それだけを告げると、シェフィールドはそそくさと部屋を出て行ってしまった。この時の彼女がどのような顔をしていたかを知る者はシェフィールド自身であった。

 

 

 

 

 

―――ご主人様、好きです。大好きです。愛しております―――

 

 

 

 

 

 クールで不愛想なメイドは、仮面の下に熱い想いを秘めながら、今日も励み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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全KAN-SEN出撃ッッッ

元ネタは「グラップラー刃牙」の「最大トーナメント」における「全選手入場」シーンです。KAN-SENのチョイスが独特なことは内緒で(殴


 

 

 

 

 

―――三笠大先輩ッ……!!

―――三笠様っ!!

 

 

「史上最強のKAN-SENが見たいかッ!!」

 

 

「オー!!!!」

 

 

「我もだ 我もだ、皆の者!! KAN-SEN出撃!!!」

 

 

 

 

 

―――全KAN-SEN出撃です!!!!

 

 

 

 

一航戦は生きていた!! 後進に負けずと更なる研鑽を積み、元祖ヤンデレが甦った!!!

正規空母 赤城だァ――――!!!

 

 

 

指揮官とKAN-SENのおねショタカップリングは私が完成させた!!

重巡洋艦 愛宕だァ――――!!!

 

 

 

よくわかんないけどバトルスターを取りまくってやる!!

おバカ三銃士代表 サンディエゴだァッ!!!

 

 

 

指揮官との付き合いなら私のカンレキがものを言う!!

オサナナジミ 軽空母 隼鷹!!!

 

 

 

真のママみを知らしめたい!! 巡洋戦艦 ダンケルクだァ!!!

 

 

 

世界の全てを憎んでいるが寮舎なら全階私のものだ!!

鉄血空母 グラーフ・ツェッペリンだ!!!

 

 

 

指揮官との軟着陸なら完璧だ!! 装甲空母 イラストリアス!!!!

 

 

 

全KAN-SENのベスト・ディフェンスはぼくの中にある!!

褐色僕っ娘の女神様が来たッ サウスダコタ!!!

 

 

 

タイマンなら絶対に敗けないのだ!!

呉の雪風の真価を見せてやるのだ 駆逐艦 雪風様なのだ!!!

 

 

 

なんでもあり(指揮官拉致)ならこいつが怖い!!

タイトル画面読み上げのインパクト最強 デューク・オブ・ヨークだ!!!

 

 

 

ロイヤルメイド隊から驚異の新人が上陸だ!! ダイドー級ネームシップ ダイドー!!!

 

 

 

ルールの無い海戦がしたいからKAN-SENになったのだ!!

真のヤンデレを見せてやる!! 鉄血のローン!!!

 

 

 

メイドの土産に夜伽とはよく言ったもの!! ロイヤルメイド隊の奥義が今 実戦でバクハツする!! 第二回人気投票一位 シリアスだ―――!!!

 

 

 

世界ヘヴィ級チャンプこそが最強空母の代名詞だ!!

まさかこのKAN-SENがきてくれるとはッッ 絵師殺しの新鋭フォーミダブル!!!

 

 

 

闘いたいからここまできたッ 指揮官への愛情の度合いは一切不明!! 

重桜の戦闘狂 加賀だ!!!

 

 

 

インディちゃんはKAN-SENさいかわではない全てにおいてさいかわなのだ!!

御存知ポネキ ポートランド!!!

 

 

 

優雅の本場は今やロイヤルにある!! 私に夏の一日に例えさせる奴はいないのか!! 優雅卿フッドだ!!!

 

 

 

デカァァァァァいッ説明不要!! 胸部装甲の暴力!!

装甲空母 大鳳だ!!!

 

 

 

スキルは実戦で使えてナンボのモン!!! 名乗りだけで相手が消し飛ぶ超実戦スキル!!

本家重桜から長門の登場だ!!!

 

 

 

指揮官は私のもの 邪魔するKAN-SENは思いきり撃ち思いきり沈めるだけ!!

私のものになりなさいっての! 鈴谷!!

 

 

 

自分を試しにアズールレーンへきたッ!!!

2019年全L2D着せ替えセクシー部門チャンプ ザラ!!!

 

 

 

雷撃に更なる磨きをかけ“鬼神”綾波が帰ってきたァ!!!

 

 

 

航空機エンチャントを身につけた今の自分に死角はないッッ!! 五航戦瑞鶴!!!

 

 

 

東煌四千年の秘技が今ベールを脱ぐ!! 二隻で登場、寧海&平海だ!!!

 

 

 

女王陛下のためなら私はいつでも全盛期だ!!

ロイヤルたぬき ウォースパイト 本名で登場だ!!!

 

 

 

アイテム屋の仕事はどーしたッ 商人の炎 未だ消えずッ!!

エロスキン実装も思いのまま!! 明石だ!!!

 

 

 

特に理由はないッ 駆逐艦が愛おしいのは当たりまえ!!

女王陛下にはないしょだ!! 黙ってれば完璧美人

アーク・ロイヤルがきてくれた―――!!!

 

 

 

SDキャラで磨いた実戦顔芸!!

ユニオンの雑コラ・クイーン エセックスだ!!!

 

 

 

セクシーだったらこの人を外せない!! 超A級脇ホクロ プリンツ・オイゲンだ!!!

 

 

 

超弩級ママの超一流の抱擁だ!! 生で拝んでオドロキやがれッ

鉄血のエロ弁財天!! フリードリヒ・デア・グローゼ!!!

 

 

 

アズールレーンの人気はこのKAN-SENが完成させた!!

ロイヤルメイド隊のエース!! ベルファストだ!!!

 

 

 

 

 

白き英雄が帰ってきたッ

 

どこへ行っていたンだッ グレイ・ゴーストッッ

 

私達は君を待っていたッッッ

 

エンタープライズの登場だ――――――――ッ

 

 

 

 

 

(夢……これをいったいどうやって信じろっていうんだ)

 

 

 

 

―――以上三十三隻のKAN-SENによって、指揮官の正妻の座争奪戦を行いますッ

 

 

 

 

加えて負傷者発生に備え超豪華なリザーバーを四隻御用意致しました!

姉貴兄貴 クリーブランド!!

主人公 ジャベリン!!

鉄血の統領 ビスマルク!!

 

 

……ッッ  どーやらもう一隻は到着が遅れている様ですが、到着次第ッ皆様にご紹介致しますッッ

 

 

 

 

 

「……ということで正妻の座をかけて皆さんが戦うわけですが、今どんなご気分ですか指揮官?」

「なあ青葉……俺、生きて帰れるのかな?」

「大丈夫じゃないですか? その分骨の髄まで搾り取られそうですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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