理想のケモミミはGBNにあり! (及時雨)
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第1話 ケモミミ男、GBNに立つ!
よろしくお願いします。
ここはGBN共用ロビー。
多くの人がここに集まり、ミッションを受けたり、雑談をしたりするダイバー同士の交流スペースだ。
それはともかく、ここ最近GBNで恐ろしいほどの速さで知名度を上げたフォースがある。
その名は「ビルドダイバーズ」。
ブレイクデカール事件でその名を知らしめ、かの有志連合とのフォースバトルで勝利を納めた新進気鋭の実力派フォースだ。
多くの有名プレイヤーとの繋がりがありながら、それをひけらかすことのない誠実さも相まってか、最近ではフォース入りを希望するものも少なくない。
ただ、フォースメンバーがリアルでも知り合いなだけに、そのハードルの高さから一歩踏み出せないものも多いのが現状だ。
「で、リク君。何でこの人は、僕たちの前で土下座してるんだい?」
「ええっと、何て言いますか……」
フォース最年長であり、高いガンプラ製作技術を持っていながら、緻密な作戦立案や戦闘を行いながらの全体指揮までこなす、ハイスペックダイバー、コーイチ。
そして、沢山の人たちに支えられながらもフォースを率いるリーダーにしてエースダイバー、リク。
そんな二人を困らせている男は頭を地面に擦り付けながら、いい放つ。
「あなた達のフォースメンバー、モモ様に惚れました!俺をビルドダイバーズにいれてください!」
「……え、ええっと……」
コーイチの反応もまたリクのそれと大差はなかった。
その反応に男は自らの言葉が足りなかったと思い、その顔をあげて目に力を込めて言い直すことにした。
「すみません、少し抽象的でした。反省し言い直します」
これを聞いて二人は少しほっとした。
詳しく話を聞けば事情もわかるし、どう対処すべきか自ずとわかるはずだ。
二人は静かに男の言葉を待つ。
「モモ様のケモミミはサイコーです!どの辺りがというと、まず正面から見たときの光の屈折具合が……」
それからしばらく彼のケモミミ談義聞くことになった二人。
だが、最初の一言を聞いて、二人の心は既にきまっていた。
この男に、どうやってお帰り願おうかと……。
男のケモミミ談義には終わりが見えることがなく、二人にはこの惨状を打開する術がない。
この果て無きケモミミ空間に楔を打ち込んだのは、新たに来た二人の人物だった。
「あれ?リっ君、コーイチさんどうしたの?時の涙を見たような顔して」
声をかけたのは、メガネをした少し気の弱そうな少年の名はユッキー。こう見えても大人顔負けのガノタであり、ビルダー技術にも長けているリクの親友ダイバーである。
「それよりも、そこでNT空間顔負けの世界を作り上げているのは誰かしら?」
ユッキーと共に現れたのは、ミステリアスな雰囲気を纏ったくノ一ダイバーあやめ。かつてビルドダイバーズと敵対したが、リクたちに救われたことで悲しい過去を乗り越え、本当の仲間となった女性だ。
「あ、二人ともお帰り。ミッションはどうだった?」
目の前で語り続ける男をよそに、リクはミッションから戻ってきた二人に話しかける。
コーイチもその動きに乗っかりたかったが、絶妙のタイミングで男から『そうですよね?』と話を振られ、律儀に返事をしてしまった。
これでは離れるに離れられず、哀れコーイチは一人ケモミミ空間に取り残されるのである。
「うん、問題なくクリアできたよ。それよりもこの状況は一体……」
「一言で言うならフォースへの参加希望者なんだけど……。俺にもうまく説明できないんだ。なんでも、モモのケモミミが神で、神には信仰を捧げなければならないとかなんとかで……」
「ごめんリっ君。僕NTじゃないから話についていけないよ……」
「NTでもそこまでは解り合えないと思うわよ」
二人はリクの言葉に困惑する。
それでも懸命に状況を説明するリク。
その努力が実を結び、状況は二人に伝わったらしい。
みんなの心はひとつだ。
一刻も速く、お帰り願おう!
男のケモミミ談義はさらにヒートアップし、その様相は演説のそれと化していた。
「私の敬愛するケモミミ愛好家の同志は死んだ!何故か?!」
「ええっと……坊やだからさ?」
「違う!リアルで警察のお世話になったからだ!」
「ダメでしょそれは!」
どれ程の時間、コーイチはこの空間にいたのだろうか。
既にコーイチはここ、ケモミミ空間の住人となり始めている。
自然とツッコミが出ているのがその証拠だ。
速く何とかしなければ!
まだ正気を保っている三人はそれを見て、決意を新たにしたのである。
「そして同志は言った『認めたくないものだな。ケモミミ愛が故の過ちを』と」
いつから始まったのか同志の武勇伝に花を咲かせている男。
全く終わりの見えない話を続ける男に意を決してリクは声をかける。
「なぁ、君の思いはわかったからさ。ひとまずお互い自己紹介しないか?俺はリク。よろしくな」
そう言って、リクは手を差し出す。
本当はこの危険な香りのするダイバーとお近づきになりたい訳ではないが、この行動によって彼の放つケモミミ空間は解かれる。
リクの勇気ある決断に、後ろの二人は心のなかで拍手を行い、前にいる空間に取り込まれかけた一人は、目に涙を貯めてその喜びを噛み締めた。
「自己紹介が遅れました!私はジェイド。ケモミミ伝道師のジェイドです。同じケモミミ愛好家としてこれからもよろしくお願いします!先輩!」
がっちり両手でリクの手をとる自称ケモミミ伝道師ジェイド。
どこから突っ込めばいいのかわからない。
この状況を打開できる女神の到着を、ここにいる全員が待ち望むのであった。
現実とはままならないものだ。
例えそれがゲームの中であっても変わることではない。
すべての人が幸せを享受できる世界などないのだと、今目の前に立ちはだかる問題が教えてくれる。
リクだけが犠牲になればそれですむ。
本人もそうやって考えたし、仲間たちもそれに感謝した。
だが、この自称ケモミミ伝道師には通じなかったようだ。
「リク先輩!私に他の皆さんのことも紹介して下さい!」
その一言が作り上げたのは沈黙の世界。
このまま先に進むくらいなら、いっそ時間よ止まってくれと、彼らは願った。
だが、時間とは無情なものだ。
時など止まるはずもなく、沈黙に耐えかねてフォースメンバーの紹介はつつがなく完了する。
そこからは言わずもがな、ケモミミ空間の再来である。
だが、ビルドダイバーズとて無抵抗にその空間を受け入れた訳ではない。
抗った、それはもう、必死に!
だが、彼から返ってくる言葉は一様に決まっていた。
「大丈夫です!まずは私のことを知ってもらって、それから判断してください!」
この有り様である。
再び現れたケモミミ空間は、心の折れた者たちを容易く飲み込む。
このまま、身も心もケモミミに染まっていく。
そんな錯覚を感じ始めたとき、ついに女神が降臨する。
「どしたのみんな?こんなところで立ち尽くしちゃって」
訝しげな表情に合わせて美しきケモミミが踊る。
彼女こそGBNに降り立った至高のケモミミを持つ少女。
ダイバーモモ、その人である。
『モモカ(ちゃん)!!』
「な、何?なんなのそのテンション」
「?」
「もる~?」
一緒にいたサラとモルちゃんも共に首を傾げるのであった。
混沌の様相を呈するこの場で、真っ先に行動したのは言わずもがなこの男である。
「お初に御目にかかります。私の名はジェイド。しがないケモミミ伝道師でございます。本日はモモ様のもたらす御威光に傅くべく馳せ参じた次第であります。どうか、私の信仰をお納めください」
ジェイドはそう述べながら、右手を胸に片ひざをつき、頭を垂れて畏まる。
先輩と後輩、上司と部下、主君と家臣すらも飛び越えて、神と信徒の関係を望む彼は何処へ向かっているのだろうか。
少なくとも、この場にその答えを持っているものはいない。
そして、信仰を捧げられた少女は静かに返答する。
「え?意味、解んないんだけど……」
当然の反応である。
どこの世界に、突然「崇め奉ります」と言われて「はいどうぞ」と答える者がいるだろうか。
だがこの返事は地雷である。
この場に居た者達にとって悲劇のトリガーに他ならない。
『では私のことを知ってもらいましょう!』
この呪われた言葉が三度あの空間を作り出す。
次に発せられる言葉に戦々恐々している者たちを余所に、意外な人物の口が開く。
「つまり、モモのことが好きってこと?」
サラは彼のいっていることを幾らも理解出来ていなかった。
それでも、その思いには見覚えがあった。
誰かを、何かを大切にする思い。
人を、ガンプラを、世界を、守りたいと願う思い。
その願いから生まれたのがサラであり、サラもまたリクたちと一緒にいたいという願いによって今ここにいる奇跡そのものだ。
だからだろうか。
彼の気持ちがほんの少し、伝わった気がした。
それゆえの発言である。
「好き、ですか。その一言ですべての思いをまとめきることはできないですが……あ、なるほど!あなたの言葉で目が覚めました。そう!この思いは、言葉で語るべきものではないと!何故気がつかなかったのでしょう!ええそうです!私はモモ様のことが大好きなのです!」
サラの発した言葉にジェイドは素直に答える。
サラはその返答に満足そうにうなずいている。
心のなかで戦々恐々していたメンバーにもう、恐怖はない。
みんなの心は、ひとつだ。
『じゃあ最初からそう言えよ!!』
なんやかんやとあったものの、ロビーで延々と話されてはたまったものではない。
仕方なくリクたちは自らのフォースネストへジェイドを招待し、詳しい経緯を説明してもらおうという運びになった。
しかし、フォースネストに入ったとたん、ジェイドは借りてきた猫みたいに大人しくなってしまった。
そして第一声はこうだ。
「一目惚れです」
あとに続く言葉はない。
それだけか!と内心ツッコミを入れながらも代表として年長者であるコーイチは聞く。
「じ、じゃあ、いつ頃からGBNに?僕たちも始めてから半年位だけど……」
フォースに入りたいというほどだ。
それなりの期間GBNをプレイして色々勝手もわかったうえで、きっとモモのことを知ったのだろうとそう予測してのことだ。
「一週間です」
「一週間!」
まだはじめて間もないと言っていい期間。
自分たちだって半年なのだから、ベテランなどと言うつもりはない。
だが、始めて一週間、右も左もわからないなかで唐突にフォースに入りたいと言うのは、聞いたことがない。
ビルドダイバーズの面々はもう一度ジェイドをみてみる。
明るい金髪はオールバックにまとめられ、服装はティターンズの軍服を着ている。
これだけみれば、Zガンダムに登場する某主人公のライバル(笑)だが、それを吹き飛ばす特徴を彼は持っていた。
『ケモミミ……』
『ケモミミだね』
『このケモミミ……動いてる!?』
『この顔にケモミミは……』
『ケモミミ……ね』
『かわいい♪』
『もるる~』
中性的な顔立ちやイケメンであればケモミミも許されるだろう。
だがこの顔ない。
別に不細工とかそういった問題ではなく、おじさんにケモミミは無い。
そういうことだ。
「……正直なところ、俺のような怪しい男の話なんて聞いてくれないものと思ってました」
皆が自分を見ていたことを、自身が不審思われているのではないかと勘違いしたジェイドは唐突に語りだす。
「あれは2週間ほど前のこと。私がまだGBNに登録せず、ゲストアバターでこの世界に足を踏み入れた時のことです」
ジェイドがログインすると、そこは興奮や不安、困惑や歓喜が渦巻いていた。
大規模なガンプラバトルイベントが開かれているのだろうか。
GBNについて何もわからないジェイドにはそのくらいの予測しかできないし、そこまでの興味もなかった。
ただ彼は、自らが夢見るケモミミを探すためにこの世界へと足を踏み入れたのだから。
そして総合受付フロアの特設モニターの中にその姿があった。
「ケモ……ミミ……」
元気に跳ね回る少女。
その動きに合わせて躍動するケモミミ。
彼が望むケモミミが確かにそこに存在した。
かつて師匠が言っていたことを思い出す。
『自分の求めるケモミミに妥協を許すな。理想のケモミミは必ずどこかに存在している』
師匠の言葉通り、ジェイドはついにその理想に出会うことができたのだ。
この前、同志が究極のケモミミを求め、たどり着き、警察のお世話になったという。
だが同志はこれからも諦めず前に進むだろう。
己の生き方を決め、目標を定め、邁進する。
それがケモミミに人生を捧げた者の生き様だ。
だから彼はすぐに行動に移した。
ガンプラの操縦自体は以前GPDをやっていたからある程度勝手ははわかる。
だがガンプラは違う。
一朝一夕で用意できるものではない。
とにかくすぐに作らなければ。
しかし焦ったところで、自分の思いを受け止められるガンプラでなければ、彼女に会う資格はない。
あの時見た彼女は心の底からはガンプラバトルを楽しんでいた。
同じ場所に立ちたいのなら、それに見合った覚悟を持とう。
ガンプラの完成度が力になるというのなら、己の情熱のすべてを費やし組み上げてやる。
彼はその決意を胸に抱いてログアウトする。
これから待ち受ける困難など、眼中にもないと言いたげな表情でだ。
その決意と勢いのまま、その日の内に目当てのガンプラを買い、GPDプレイヤー時代の技術とケモミミへの愛情を詰め込んで彼のガンプラは完成した。
そして幾多の戦いをくぐり抜け、彼は今、待ち望んだ戦場へとその一歩を踏み出したのだった。
「と、まぁこのようなことがあったのです」
語り終わったジェイドは、清々しい表情で辺りを見回す。
その顔が何人かを妙にイラッとさせていることにも気がつかず、ジェイドはモモを見つめて再度問う。
「モモ様。私の信仰を受け取って欲しい気持ちに変わりはありませんし、フォースに入りたいことも事実です。ですがそれがモモ様を困らせるならば、私の本意ではないので諦めましょう。だからせめて、時々でも構わないので、一緒にミッションやバトルをさせていただけないでしょうか?」
「うぅん……」
その迫力に流石のモモも少し尻込みするが、彼の真剣さは十二分に伝わっている。
悩みはするものの、もう答えは決まっているようなものだ。
「えっと、私はいいと思うんだ。悪い人って訳じゃ無さそうだし。ちょっと……いや結構変わってるけど、GBNにはそうゆう人って多いしさ。みんなはどうかな?」
モモはそう言って辺りを見回す。
周りにいるのは共に多くの時間を共有してきた仲間だ。
彼女の求める答えを、いつでも持ち合わせている。
「あぁもちろん!」
「いろんな人と出会えるのもGBNの醍醐味だよね」
「どんなガンプラを作っているのか興味あるし」
「ま、あたしは構わないわよ」
「友達が増えるね、モルちゃん」
「もるもるぅ」
同じGBNを愛するもの同士。
いつでも手を取り合えるのだ。
「ありがとう。みんな!」
モモの明るい笑顔でこの場は綺麗にまとまった。
「ありがとうございます。やはり皆様はケモミミをこよなく愛する同志……」
『それは違う!』
場の空気をぶち壊す男、ジェイド。
手を取り合えても、越えられない壁も確かにある。
それもまたGBNなのである。
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第2話 ケモミミジェイド大勝利!念願のミッションへ!レディゴー!
定期更新は難しいかも知れませんが、出来る限り頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします!
「そーゆーこ・と・な・ら、ちょうどいいミッションがあるわよ♪」
そう言ってミッションを薦めている男性の名はマギー。
GBNでも屈指の上位ランカーでありながら、面倒見のいい性格と押しの強さでみんなから慕われるオネェダイバーだ。
あの衝撃的出会いから数週間が経ち、ビルドダイバーズともすっかり馴染んだケモミミ伝道師ジェイド。
あれから多くのミッションを共に切り抜け、十分に信頼関係を結べているはず。
その思いから、ジェイドは真剣な顔でみんなに提案したのだ。
「モモ様と二人でミッションをクリアして見たいのです」
出会った当初であればにべもなく断られたであろう。
このような提案ができるのは、ひとえにこの数週間に培ってきた信頼関係があるからこそだ。
毎日毎日、おはようからおやすみまでフォースネストに通いつめたかいがあった。
そんな努力の賜物だろう。
だから例え、目の前にいるモモの顔が少し引き吊ってるように見えることも、何かの間違いだとジェイドは信じている。
そしてジェイドが言い出したら聞かない頑固者であることも、この数週間でいやというほどわかってしまったビルドダイバーズなのである。
最早諦めの境地に立つ面々ではあるが、この提案に何か問題があるわけではない。
このジェイド、どういうわけか場の空気は読めないが、操縦技術は確かなものだし、状況判断も的確だ。
このままミッションエリアから出てくることなく、GBNのNPCにでもなって欲しいほどである。
こんな現実逃避では、目の前の問題は解決しない。
どうしたものかと頭を捻っていたがふと気づく。
自分たちビルドダイバーズには頼れる大人たちがいるじゃないかと。
相談すればきっと何か解決の糸口を見つけられるだろう。
それでマギーに相談したところ返ってきたのが、冒頭の言葉だ。
「最近出来た二人一組で参加するタイプのミッションよ。どちらかが撃墜された時点でミッション失敗だから気を付けて行動してね」
まさに今、己が望んだようなミッション。
これをクリア出来ずして何がケモミミ伝道師か。
ジェイドは提示された素晴らしきミッション心踊らせる。
その様子にビルドダイバーズ、特にモモは不安を募らせていたが、そんな彼女らにマギーは囁く。
「大丈夫よ。そんなに長いミッションじゃないし、最悪棄権もできるから。何よりこのミッション、実はまだテスト段階なの。ポイント変動は無いから気楽に、ね」
マギーにそういわれて頷かないわけにもいかない。
「……わかった。わたし、やってみる!このミッション、必ず乗り越えて見せるよ!」
モモの覚悟はビルドダイバーズ全員に伝わった。
何としてもこの試練を乗り越えて今度こそジェイドに言うんだ。
『そろそろフォースネストに入り浸るのやめて欲しい』と。
そんな思惑があるとは知らず、モモと一緒にミッションを受けられる喜びに、ジェイドは顔をほころばせ、それでも表現できない感情を奇妙な体の動きで体現している。
正直キモいと、その一言が言い出せない。
ビルドダイバーズは心優しいフォースなのだ。
そうこうしているうちに、ハンガーへとたどり着いた面々。
ここでは自身のガンプラを作品中の原寸大で鑑賞することができ、さらにメンテナンスもできるのだ。
そして、いつものごとく注目されるのはジェイドの機体だ。
「……やっぱりすごいとしか言いようがないよな」
「何度見ても、このガンプラ完成度は高いよね。ダイバーはあれだけど……」
「こんなにかわいいのに……乗っているのが……わたしどうすれば……」
リク、ユッキー、モモの反応はいつもと変わらない。これをどう受け止めたら悩み続けている。
それに対してコーイチとアヤメはというと……。
「この胴体下部の装甲板はどうやって……」
「それは一枚一枚を……にしていて……」
「え!そんなことができるの!」
「ケモミミ愛の前に不可能はありません」
「それ、ケモミミ関係ないと思うけど。それよりこのモノアイ部分の塗装についてだけど……」
やはり大人というべきか、これはこれ、それはそれと完全に割りきっている。
ガンプラを見ていれば、ジェイドの顔を見なくて済むといった打算がないわけでもないのだが。
「このガンプラかわいい~」
結局なにも変わらないのはサラだけなのであった。
準備が整い、出撃シークエンスへと移行する。
自らの愛機に搭乗し、カタパルトから飛び出す瞬間は、ロボット好きにはたまらないシチュエーションだろう。
ジェイドは特にロボット好きではないのは、知っての通りだ。
だが、己の使命を果たす戦場へ飛び出すこの瞬間は
彼が夢にまで見た光景といえる。
「すーはー」
操縦桿を握りながら、意識を集中させていく。
「我が魂はケモミミと共にあり」
厳かに発せられた言霊は体を巡り、機体へと浸透していく。
こうしてはじめて、ただのガンプラは己の体と昇華されていくのだ。
それを結ぶのは、今ある己の存在顕示。
「ジェイド・メッサー、ケモミミ・ドック、馳せ参じます!」
ずんぐりした体に、つぶらなモノアイ。
特に目を引くのは、ピクピク、ピョコピョコ、頭部で躍動するケモミミだ。
これは猫の耳を模したケモミミであるが、そんじょそこらのケモミミとは訳が違う。
その動きの滑らかさと来たら、本物の猫すら見紛うほどの完成度を有している。
それは黄色と濃紺を基調とした、バウンド・ドックの改修機。
名をケモミミ・ドック。
猫の耳を付けておいて何故ドックなのかと問うものは誰も居ないし、言わせない。
そして、その最大の特徴であるケモミミを最大限に動かし今、カタパルトデッキから大空へと飛び出していったのである。
「……いつも思うんだけど……」
「なんでしょうか?」
「出撃前の精神統一いる?」
モモの意見はもっともだ。
はっきり言って時間の無駄といえる。
「私も不必要かと思ってはいるのですが、何故かあれを行わないと操縦系のサイコミュが反応しないのです」
「え?どういうこと?」
「端的に言えば、あれがないと動きが悪いのです」
せっかくのミッションなのに、十全な機体で戦えないのはかなり悔しい。
だから、多少面倒でも行う必要があるのだ。
「さらに言えば機体自体の出力も、通常の1.2倍ほど上がるように思えます」
ガンプラの強さは完成度の高さで決まる。
GBNの常識であるが、精神統一した程度で楽々強化できたら苦労はないだろう。
「う~ん……ま、わからないんじゃ考えても仕方がないかな!じゃ、早速行きますか!」
モモの言葉に合わせて、愛機であるモモカプルがポーズをとる。
その愛らしさ全開の機体は正しくモモが乗るにふさわしい。
この機体にケモミミが付いたらどれ程の破壊力を有するのだろうか。
ジェイドはそのイメージに戦慄する。
これが現実のものとなったとき、果たして自分は正気を保っていられるのだろうか?
少なくとも落ち着いていられる自信はない。
いや、今はミッションに集中せねば。
ジェイドは頭を振り、夢想の空間を払いのける。
せっかくモモ様と一緒にミッションを行っているのだ。
集中せねばもったいない。
「では、行きますよ!」
そう言ってケモミミ・ドックは空へと舞い上がる。
「あ~この移動にも慣れたな~」
遠い空を見ながらモモは呟く。
ジェイドはミッションの度にモモの運搬役を買ってでるのだ。
モモカプルに飛行能力はない。
したがって、移動は歩行か、他者に運搬してもらうしかない。
だから今モモカプルはだらりと力を抜き、なされるがまま運ばれている。
ケモミミ・ドックの両腕から生えたクローアームがモモカプルの両脇に差し入れられ、まるで抱っこでもされているような状態だ。
「……モモ様。今私は言い様のない達成感で胸がいっぱいです!」
「まだミッション始まってもいないんだけどね……」
始まる前から大満足状態のジェイドを見て、行く先の不安を感じずにはいられないモモなのであった。
出撃準備用のフィールドから出た途端、アナウンスと共にディスプレイに文字が浮かぶ。
『Dual Mission Start』
デュアルミッション……二人組用のミッションにふさわしいネーミングといえる。
ジェイドとモモは納得しながら先へと進む。
景色は変わり、鬱蒼と繁った森林地帯を眼下に望み、空中での遮蔽物が一切ないシンプルなフィールドとなった。
見た目そのままの森林ステージだ。
そしてステージ1と書かれたディスプレイを見て気を引き締める。
ここからは戦闘エリア。
戦いはすでに始まっている。
周囲を警戒しながら進んでいた二人だが、前方から接近する二つの機影が迫ってくる。
「ガズアルとガズエルですね」
ジェイドは近付いてくる機体を即座に看破し、次の行動を考える。
ガズアルとガズエルは左右反転したような赤と青の機体である。
武装は持ち手が違うが、種類は同じであるし、おそらく性能も変わらないだろう。
まだ第一ステージであることを考えれば、消耗は可能な限り避けたいところ。
「モモ様、このまま森林内へと降りて、あの機体の真下ほどにて待機していてください。そして隙有らば攻撃を……」
モモはジェイドの言葉にうなずくと、高度を落としたケモミミドックからモモカプルか勢いよく飛び出す。
「では!」
背部ブースターを全開に吹かし、ケモミミ・ドックは加速する。
敵機もまたその姿を見定めて迎撃体制をとる。
手に持ったビームライフルから放たれた火線が、急速に距離を詰めるケモミミ・ドックを襲う。
MAにも分類されるバウンド・ドックの体は大きい。
当然ケモミミ・ドックも大柄で、回避は至難の技といえるだろう。
だがそれは常識の枠に囚われたものの考えだろう。
「想定内です」
迫る火線に驚異は感じない。
所詮直線に過ぎない軌道など、避けてくれとでも言いたげな攻撃だ。
だから、そのまま実行に移す。
「!」
敵機から驚きの気配が伝わってくる。
さもありなん。
迫り来る巨体は速度を落とすことも、大きく逸れることもしない。
ただ必要最低限の機動で集中砲火を避けてくるのだ。
この事実にガズアル、ガズエルは動揺する。
その動揺は判断力を鈍らせ、行動の選択肢を狭める。
当たれ、当たれと苛立ちを募らせながら、愚かな選択をし続ける。
己の愚かさに気が付いたとき、ケモミミ・ドックは目の前まで肉薄していたのだ。
ここから取れる行動は少なく、前から迫るものの対処など横に避ける程度しかできない。
ジェイドはその隙を突く。
「KM3クローアーム!」
左右に避けた二機に対し、突入したケモミミ・ドックはそのアームを突きつける。
次の瞬間、クロー部分がアンカーのように飛び出し、ライフルを持った片腕を捉える。
振り払おうにも力で勝てる道理はなく、捕まれた腕は無惨にもひしゃげる結果となってしまった。
気持ちを切り替えたガズアル、ガズエルは一転攻勢。
もう片腕に持つ大型ランスを突きだし、ケモミミ・ドックへ襲いかかる。
左右からの同時攻撃。
避けられるはずがない。
そう確信した思い切りのいい攻撃だ。
だが、忘れていないだろうか。
この戦いが2対2であることを。
ドォン!
突然響く爆発音に、ガズアルは驚く。
その目に写るのはスラスターをやられ、地上へと落ちていくガズエルの姿。
そして、両の手をこちらに向け佇むモモカプルの姿だ。
相棒の被弾と自分たちの失策に動きを止めたガズアル。
しまった!
そう思って上を見上げた時にはすでに遅い。
ケモミミ・ドックはすでに攻撃体制を整え、高らかに雄叫びをあげる。
「必殺!KM3キィィック!」
重力を味方につけたその巨体の偉容はすさまじかった。
クローアームを足に見立て迫ってくるその姿は流星を思わせる。
腹を括ったガズアルは大型ランスを構える。
勝てるかどうかはわからない。
だが諦めるといった選択肢あるはずもない。
ここまで来たら真っ向勝負。
どちらが上かはっきりさせる最高のシチュエーションだとでも言いたげにケモミミ・ドックを迎え撃つ。
衝突したクローアームと大型ランスは盛大に火花を散らして競り合う。
このまま時が止まってしまったかに思える一瞬は長く続くことはなかった。
ここが空中であり、両機の位置関係が勝敗を分けた。
その圧倒的質量と重力にガズアルのスラスターは及ばず、体勢を崩したところへ強烈な蹴りを受けてしまう。
必殺を謳う蹴りに偽りはなく、地上への衝突とケモミミ・ドックの質量は容赦なくガズアルを粉砕する。
それと同時に表示される『ステージクリア』文字。
どうやらモモのほうも無事らしい。
ジェイドは元気一杯に手を振るモモカプルと合流すべく、ケモミミ・ドックで移動するのであった。
「いや~楽勝だったね!」
最初のステージを快勝し、ご機嫌のモモ。
そんなモモの姿を見て、感動の涙が止まらないジェイド。
たいした損耗もないまま、二人は次のステージへ進んでいく。
「それにしてもこのミッションって、バトルミッションだったんだね」
「そうですね。マギーさんはなにも言われていなかったので通常のミッションかと思っておりました」
先程の戦いから、相手がダイバーであることがわかった。
NPCであれば決められた動きしか行わず、状況の不利から動揺をすると動きなどあるはずがないのだ。
「つまり、このミッションに参加するとその場で自動的にマッチングが行われ、それが連続で行われるシステムが実装されているということ、ですか。なるほど、確かに新しい試みですね」
今までは、登録されたダイバーがマッチングされ対戦相手が決まることはあっても事前に告知され、期日に対戦するミッションはあった。
しかし、ミッションをスタートした時点でマッチングが開始され、ミッション内の勝敗に応じて再度マッチングが行われるのがこのデュアルミッションなのだろう。
まあ、だからといって彼らの行動は変わらない。
モモは全力でミッションを楽しむし、ジェイドは全力でケモミミを愛でるだけだ。
二人ともやるべきことははっきりしている。
だからなんの不安などなく先へと進んでいくのであった。
「予定通り、ミッションへの参加を確認。これより最終準備に取りかかる」
撃墜されたガズアルから発せられる、怪しい者の声。
このデュアルミッションになにやら不穏な影が、静かに忍び寄って来ている。
果たしてジェイドたちは無事このミッションをクリアできるのだろうか。
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第3話 ケモミミよ、私を導いてくれ!
第一ステージをクリアしたジェイドたちは、第二ステージへと足を踏み入れた。
そこに広がるのは漆黒の闇であり、無数の隕石群が辺りに漂う。
ステージ名は宇宙ステージ(デブリ宙域)。
遮蔽物が多いこのフィールドでは、ガンプラの性能のみならず、正確な空間把握能力と高い操縦技術が求められる場所である。
「うわ、なにこの岩!スッゴい邪魔!」
「確かにこれでは高速で移動することも、攻撃を命中させることも難しいかも知れませんね」
モモが明らかにげんなりするなか、ジェイドの態度は至って普通だ。
現状を再認識し、ただ事実を語っているに過ぎない。
そんなジェイドにモモは訝しげに話しかける。
「大丈夫なの?ケモミミ・ドックは大きいし動きづらいと思うけど」
「おお!私を心配してくださるのですか!このジェイド、その言葉だけで力が湧いてきます」
モニター越しに深々と頭を下げるジェイド。
「あ~!そーゆーことじゃなくてぇ!」
「分かっておりますよ。たとえどのような場所で、どのようなガンプラに乗っていたとしても、やりようはいくらでもあります。私のやるべきことに変わりはありません」
「はぁ~……」
きっぱりいい放つ目の前の男を見て、モモはガックリ項垂れながら安心のような、諦めのような心情でため息を突く。
「そりゃそうだよね。わたしも自分のやんなきゃいけないことくらいわかってるから。一生懸命頑張ろう!」
「その通りです。私も全身全霊をかけて……」
ジェイドが言いかけたとき、ディスプレイに『ステージ2』の文字が浮かぶ。
「よーし!気合い入れていくよ!」
ついに始まった戦いの合図に二人はいっそう気を引き締める。
ただジェイドは一人『あなたのケモミミを愛でて見せます!』と言いたかったのを邪魔され、少しだけしょんぼりするのであった。
気合い十分に前に進むものの視界にあるのは岩ばかり。
敵の機体も確認出来ぬまま暗礁宙域も中程ぐらいまで来てしまった。
「敵全然見えないんだけど、どこにいるんだろう?」
「これだけの遮蔽物がありますからね。これほど移動しているにも関わらず見つからないのは、恐らく何処かで待ち伏せているのでしょう」
息を潜め、獲物が来るのをじっと待つ。
消極的な戦いかただが、このフィールドではかなり有効だ。
奇襲で大事なのは先手を取ること。
いかに相手を早く捕捉できるかが重要となってくる。
当然、移動していれば発見されやすいし、じっと隠れていれば見つかりにくい。
その点で考えれば動きまわるジェイドたちが不利だ。
だが、ジェイドたちに隠れ潜むのは性に合わない。
ガンプラバトルに重要なのは、自分のスタイルを貫くこと。
この二人のスタイルはと言えば、ジェイドにとってのケモミミ、モモにとっての可愛らしさである。
「も~!隠れてないで出てこ~い!」
じたばた暴れるモモカプル。
非常に愛らしいが、あまりよろしくない行動だ。
「まぁまぁモモ様、もう少しじっくり探し……!」
その時、ジェイドのケモミミがビクリと動き、異常を知らせる。
「モモ様!下がって下さい!」
言葉と同時にケモミミ・ドックはその姿を変えていく。
左右のクローアームは胴体下部へ、頭部はせり上がり、胴体へ収納されていた部分が露出する。
頭部は左腕のシールドとなり、収納されていた細身の胴体と巨大な鉤爪になっている右腕が現れる。
そして新たな頭部が出てきたことで、そのシルエットは
これがケモミミ・ドックのもうひとつの姿、MS形態だ。
シールドとなった元頭部を前面に構えながら、モモカプルを庇うように立ちふさがる。
「え!前から高エネルギー反応!」
「KM3フィールド全開!」
迫り来るエネルギーの奔流を前にして、万全の状態で立ち向かうジェイド。
そして到来した衝撃は、二人のの想像を絶するほどの威力を持っていた。
「きゃ~!」
「くっ!」
シールドのケモミミから発生しているKM3フィールドは、ケモミミ・ドックの機体前方をすっぽりと覆い巨大ビームをなんとか防いでいる。
当然その後ろに隠れているモモカプルにも被害はない。
だが、モモは突然の出来事に気が動転し、ジェイドもまた、予想以上の威力に舌を巻く。
しばらくするとビームはその威力を徐々に弱めていき最後には何事もなかったように消えた。
どうやら敵機からの攻撃が止まってくれたようだ。
しかし、安心してもいられない。
即座にジェイドはKM3フィールドを解除し、シールドのケモミミを攻撃された方向へと向け、エネルギーを収束させていく。
「モモ様!急ぎこの場を離れます!私の攻撃後、MA形態になったケモミミ・ドックへ掴まってください!」
「わ、わかった!」
ジェイドにいつものマイペースさがない。
その余裕のなさが、モモにも伝わり素直に返事をする。
モモの了解の言葉を聞いた瞬間、ケモミミが唸りをあげる。
「拡散KM3粒子砲、発射!」
瞬間、ケモミミ・ドックは数条の光の線を迸らせた。
その結果、周囲にあったデブリが粉々に砕けちり辺りにその残骸を撒き散らす。
かなりの視界不良と粉塵による電波障害によって、目の前すらよく見えないし、レーダーもきかない。
だが、さすがにケモミミ・ドックの巨体を見失うことはなく、モモカプルは急ぎ大きな機体にしがみつく。
それを確認したジェイドはブースターを目一杯吹かし、この場から離脱する。
敵の一体は超長距離からの射撃にて獲物を狙うスナイパータイプだ。
ひとところに留まるなど愚の骨頂。
ただ解せないのは、視認できない場所からどうやってこちらの場所をつかんだか。
「……先程攻撃した時、デブリとは違う何かの手応えを感じたような……」
ジェイドは一人呟きながら違和感の元は何か考える。
その"何か"がヒントになるかもしれない。
ほんとはあの場を調べたいが、そうもいかない。
だからジェイドは思索を続けるのだ。
その行き着く先は結局ケモミミに行き着くのだが。
それはそれとして、今は一刻も早くここを離れなければと、慌ただしく移動するジェイドたちであった。
「仕留めたか?」
青いガンプラから落ち着いた声がする。
それはガンプラ自体が巨大なビームキャノンとなり、デブリのひとつに固定された異様な機体だ。
「いや、どうやら防ぎきったようだぜ。ふざけたナリしたわりに案外やるな」
相方の質問に嬉しそうに答える男のガンプラは赤い。
こちらも負けず劣らずの異様さで、左右の肩から腕がとにかくデカイ。
「……索敵は慎重に行えよ。その機体、メリクリウスパワードの完成度は高いが、ダイバーが大雑把なお前じゃな。あぁ心配だ」
「わ~ってるって。バトルに手抜きも油断もしねーよ。それにおまえさんのヴァイエイトシャープが、次こそ仕留めるって信じてっからよ」
ニカっと笑う赤いガンプラ、メリクリウスパワードのダイバー。
それを見てやれやれといった感じで肩を竦める青いガンプラ、ヴァイエイトシャープのダイバー。
彼らがジェイドたちの対戦相手であり、先程の長距離砲撃を仕掛けたのも当然彼らだ。
初撃で落とすつもりがアテが外れてしまったわけだ。
それからしばらくは、注意深くジェイドたちを探したが姿を表す気配がない。
周囲の警戒はしつつも、会話に花を咲かせている。
「さて、奴さんはどうでるかね。俺としちゃあ、潔く突っ込んで来てくれっと嬉しいが」
「ないな。砲撃を受けてからの行動に無駄がない。勝つつもりなら、慎重にことを進めるはずだ」
「ちぇ、つまらんね。俺ぁもっと激しいドンパチがしたいんだが」
「ふん、相変わらず暑苦しいやつだ。だいたい、あの砲撃を見て突っ込んでくるのはただのバカだぞ、来るはずがない」
「お、それいっちゃう?んじゃあこう返そうか。"バカは来る!"」
キリッと決める男に、苦笑いが返される。
遊んでないでしっかりやれと、言おうとしたとき状況が動いた。
レーダーに感あり。
しかもいつの間にか目視できる付近まで反応が迫っていた。
「あぁ!どういうこった!俺のばらまいといたセンサーにゃあ、さっきまで何も反応なかったぞ!」
「落ち着け。事実敵はそこまで来ているんだ。ならば見つけて撃ち落とす、それだけだ」
「だがよ、ここまで近づかれてんのに見えねぇってのはおかしくねぇか?」
レーダーを見る限り正面から来ているのはわかる。
だが、それだけだ。
見渡す限りのデブリが辺りを漂っているに過ぎない。
もし、ハイパージャマーやミラージュコロイドといった身を隠すシステムを搭載しているなら、レーダーに捕捉されることもなく、近づくことができただろう。
それが余計に二人を混乱させていた。
だが、ヴァイエイトシャープのダイバーはふと違和感に気付く。
「?あのデブリ……おかしくないか?」
「あ?そういや、何かだんだんデカくなってるような……」
「!」
直後、先程の長距離砲撃を敢行したヴァイエイトシャープが熱を帯始める。
怪しいデブリに狙いを定め、その大経口ビームキャノンが火を吹いた。
だんだん大きく……いや、近づいてきていたデブリはビームキャノンの直撃を受け粉々にに砕け散る。
そして出てくる二つの影。
「わたしたち、こそこそ隠れるのは性に合わないから!」
「正々堂々、正面から参りました」
『岩と一緒に!』
岩から飛び出し通信越しにハモる二人の声。
それを聞いたもう二人は開いた口が塞がらない。
呆けたのは一瞬、すぐさま大きな笑い声が辺りに響き渡る。
「アッハッハッ!マジで来るのかよ!噂をすればなんとやらってか、なぁ相棒!」
「うるさい黙れ。無駄にでかい声でバカ笑いするな、アホ」
「ヘイヘイ、まぁそれはそれとして……」
先程とはうって変わり、トーンを落とした声でジェイドたちに問いかける。
「一つ解せねぇのは、俺のプラネイトサーチャーをどうやってすり抜けてきたかってことだ」
プラネイトサーチャーは、メリクリウスパワードに装備された広域探査兵装だ。
かなりの広範囲を索敵できるので、長距離砲撃戦法の彼らは重宝している。
ただ、だいぶ広範囲をカバーしていて、穴がないわけではない。
しかし、全く引っ掛かることなく自分達のところまでたどり着くのはどうにも不思議でならない。
そう思っての問いかけだった。
自分の情報を軽々しくさらすはずがないので、まともな答えなど期待はしていなかった。
だが、ジェイドは答える。
「ケモミミです」
「は?」
「ケモミミの導きに従ったまでです」
その答えに場が沈黙に支配される。
いつも彼の言動を聞いているモモですら、呆れているのだ。
初めて言葉を交わす者に、彼の癖の強さを理解しろというのは酷と言うものだろう。
「まぁ、補足いたしますと、砲撃予測地点と、砲撃された場所とその後に見つけた探査機の位置から、最も効率的な設置場所を割出し避けて来たということです」
「じゃあそう言ってよ!」
モモが思わず突っ込む。
「アッハッハッ、アイツ、マジヤベーわ!楽しいな、相棒!」
「……向こうも向こうで苦労しているんだな」
さっきまでの緊張感は何処へやら、ついに会い見えた4機のガンプラが今激突する。
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第4話 私のケモミミは万能です。
なかなか面白いサブタイトルが思い付きません。
次話からどうしよう……。
「無駄話は終わりだ」
ヴァイエイトシャープのビームキャノンが、再びジェイドたちを襲う。
「モモ様!手はず通りに!」
「りょーかい!」
ここに来るまでケモミミ・ドックはその両手で岩を押していた。
なので今回モモカプルは、その背に乗って移動してきたのだ。
ジェイドにとっては苦渋の決断だったが、勝利のために涙を呑んだのは言うまでもない。
迫る火線にモモカプルは上へ跳び、ケモミミ・ドックは前へ出る。
当然ビームを受けに行く訳ではない。
当たるか当たらないか、その際どい範囲を見切って前に進む。
ジェイドの狙いは砲撃手たるヴァイエイトシャープ。
「そうはさせねーぜ!」
ケモミミ・ドックの前に、赤い機体、メリクリウスパワードが立ち塞がる。
その機体バランスをかなぐり捨てた二つの巨腕を前に伸ばし掴みかかる。
「お相手しましょう」
ケモミミ・ドックもまたクローアームを前へ向け、加速の勢いそのままに突き出された巨腕にぶつけていった。
機体の体格差は一目瞭然。
常識的に考えれば、純粋な力比べでMAたるケモミミ・ドックにMSのメリクリウスパワードが勝てる道理はなく、加速の勢いまで乗ったら結果など火を見るより明らかだろう。
ジェイドも当然そうやって考えた。
「!」
だがなんと、メリクリウスパワードはケモミミ・ドックの勢いを完全に殺し、受け止めていた。
「アンタ今、
ニヤリと笑う男には、これこそが当然の結果であると言いたげな余裕がある。
メリクリウスパワードのマニュピレーターがクローアームをがっちり掴んで離さない。
どれだけケモミミ・ドックがブースターを吹かせ、腕に力をいれてもびくともしない。
その理由をジェイドは考えるが、相手は時間を与えてはくれない。
「おらぁ!おととい来やがれ!」
そのままケモミミ・ドックを振り回し、大きなデブリに向かって投げつけた。
「くっ!」
切り揉み回転しながら、宇宙を舞うケモミミ・ドック。
このまま行けばデブリに衝突し大ダメージを受けてしまう。
「まだまだ!」
あわや衝突という瞬間、機体をMS形態にするジェイド。
衝撃を足のバネで受け流し、メリクリウスパワードを見据える。
「そうこなくっちゃなぁ!」
追撃を仕掛けようと、メリクリウスパワードが迫る。
その動きを見て、ジェイドは驚愕し、内心で呟く。
(推進機が……ない?)
宇宙空間である以上、地を蹴って進むことなどできない。
なのに推進力を生み出すものなどまるでなく、何もないところを滑るように向かって来たのである。
あり得ない。
GNドライブですらその粒子を散らしながら進むというのに、どんな法則でもって進んでいるというのだろうか。
だがどんな手品にもタネはある。
恐らくはこのタネが明らかになれば、あの機体の対処法も見えてくるはず。
そのためにも今は情報が必要だ。
ジェイドは即座に判断し行動に移す。
「では……お付き合い願いましょう!」
ジェイドもまた、相手に合わせるように機体を加速させる。
当然二機の間合いは即座に詰まる。
それもお互いが懐に入り合うゼロ距離。
そして始まるのは、"お付き合い"ならぬ"ど突き合い"であった。
「望むところだぁ!」
繰り出された両者の左腕がぶつかり、火花を散らす。
その衝撃がまるでゴングであるかのように、激しい戦いの火蓋が切って落とされたのである。
ジェイド達がガンダム不在のガンダムファイトに興じている一方で、モモはデブリの中を静かに進んでいた。
「ふっふっふっ、まさかわたしがデブリに紛れているなんて思いもしないよね~」
あれだけ派手に登場したのに、姿が見えない。
相手にとって、それは大いに警戒しなければいけない事柄だ。
それに機体が大きくよく目立つケモミミ・ドックが、正面から青い機体を狙うことで、赤い機体が相手をせざるを得ない。
高い索敵能力を有し、小回りの利く赤い機体を釘付けにすることで、モモカプルの発見はさらに難しくなる。
そうなれば、自然と青い機体の狙いはケモミミ・ドックへ向く訳だが、赤い機体と接近戦を行っているところにあの砲撃は撃ちづらい。
火力と射程に特化させたが故の弱点、それを突いた形だ。
そうして時間を稼いでいる間に、モモカプルが青い機体に近づき砲撃不可能な方向から奇襲攻撃を仕掛ける。
それがジェイドの立てた今回の作戦だ。
「……わたしって、何だかこういう役回りが多いような……」
フォース戦において、モモはよく水中からの奇襲行動を行う。
水陸両用の機体なのだから、その長所を活かしているにすぎない。
そう言われればそれまでだが、あからさま過ぎていつも対策されてしまう。
その失敗の経験が、モモの元気な表情に影を指してしまう。
そんなモモがモニターに映る
「……そうだね。せっかくジェイドさんが立てた作戦だもん。わたしがやるべきことをしなくちゃね。ありがとう、
そう言ってモモはモニターに微笑みかける。
その顔を見て
今回、ジェイドはモモにある兵装を貸していた。
無線式多目的サイコミュ兵装『KM3ビット』
普段はケモミミ・ドックの下部装甲板の役割を果たしているが、必要に応じて分離し、様々な状況に対応すべく作られた兵装だ。
その総数20機、全てがモモに付き従っている。
だが、驚くべきはその性能ではない。
なんと、一つ一つがデフォルメされたネコの顔のようなシルエットをしており、目を表しているかと思われる縦線二本がその表面に描かれているのだ。
それだけに止まらず、目は丸やバツをはじめとした多様な記号へ形を変えて感情を表し、それ以上に豊かな表情を細やかに動くケモミミが表現している。
ぶっちゃけ、何!このかわいい生き物!と叫びたくなるほどの完璧な代物だ。
唯一の欠点は、これを作ったのがケモミミのオッサンであることなのだが……。
そんな愛くるしいビット達が今何をしているかというと、モモカプルの周りに展開し、特殊なエネルギーフィールドを張っている。
『KM3ビット、ハイディング・フォーメーション』
ハイパージャマーやミラージュコロイドを参考に作られたこのフィールドは、ジャミング効果と、光学映像の偽装効果を有している。
つまり端から見ると、モモカプルは辺りに漂うデブリそのものとなっているわけだ。
エネルギーの関係で長時間運用は出来ないが、モモカプルが青い機体に近づくまでには十分に持つ。
「よ~し!一緒に頑張ろう、ビットちゃんたち!」
モモのその言葉に、ビット達は気合いの入った表情で片耳を折り曲げた。
きっと、ビシッと敬礼をしているつもりなのだろう。
その可愛さから元気と力を貰って、モモはゆっくり、こそこそと元気いっぱいに進んでいくのであった。
「う~ん、やっぱりおっきいなぁ」
モモが遂に目的の地点に到着し、目印としていた青い機体をまじまじと見て発した言葉である。
その形はやはり異様で、MSというよりはもはや大型MAだ。
ケモミミ・ドックよりさらに一回り大きいその機体が、デブリに固定されて佇んでいる。
動きがないところを見るに、まだ気づかれてはいないようだ。
「よし、今だ!」
モモはビットのフィールドを解いて前へ出る。
「これでもくらえ~!」
モモカプルの両手の指に内蔵されたビーム砲が火を吹き、青い機体、ヴァイエイトシャープへ迫る。
放たれたビームの弾幕は、吸い込まれるようにヴァイエイトシャープへ着弾していく。
「てりゃ~!まだまだ!」
モモはさらに続けてビーム砲を乱射する。
攻撃を受けたヴァイエイトシャープやデブリが爆発し土煙があがるほどにだ。
機体がデブリに固定されているのだから避けようがない。
まさに格好の的というわけだ。
だがモモは、順調すぎる流れに違和感を覚える。
攻撃が成功することはわかっていた。
そのつもりで奇襲をかけたのだから。
でも何故反撃や抵抗が来ないのか?
そう考えた時、ジェイドから事前に聞いた注意点をモモは思い出した。
「ヤバッ!」
即座にモモカプルがその場から飛び退く。
次の瞬間、モモカプルの攻撃によってできた土煙を切り裂くように、一条の光が突然現れたのだ。
直前に回避行動をとったお陰で事なきを得たが、もう少し遅れていたら落とされていたかもしれない。
ジェイドには作戦の前にこう言われていたのだ。
『攻撃しても何ら反応がない場合は罠の可能性が高いです。なので敵の機体が常に見えるように、注意して攻撃をしてください』
先程まで失念していたが、なんとか間一髪間に合った。
「……今ので仕留めたと思ったが、やはり見かけによらず、やるようだな」
「見かけによらずは余計でしょ。それにそっちも見た目は人のこと言えないじゃん」
そうして姿を表した機体もまた異様。
恐らくはこのように接近されることを想定し、あの巨大なガンプラの中で一体化されていた機体なのだろう。
センサー類のある頭部、コックピットのある胸部、武装であるビームキャノンと、ビームキャノンを運用するためのビームジェネレーターがある背部。
これがヴァイエイトシャープの全てである。
しかもビームキャノンとビームジェネレーターが大きすぎるため、それらに頭と体がへばり付いたような見た目になってしまっている。
「これは一切の無駄を排し、計算され尽くした理想の姿だ。俺のヴァイエイトシャープには勝利に必要なものだけあればいい」
「わたしのモモカプルだって、かわいいをたっくさん詰め込んだ最高の機体なんだから!かわいいは正義だってこと教えてあげるよ!」
「……いいだろう。全ては結果が示してくれる。俺とお前のガンプラ、どちらが正しいのかを!」
言うやいなやビームジェネレーターを展開し、射撃体制にはいるヴァイエイトシャープ。
そうはさせないと距離を詰めるモモカプル。
十分近づき射程内に入ったモモカプルが先程と同様にビーム砲を放つが、その全てを避けられてしまった。
「え!どうやって動いてるの!」
なんと、メリクリウスパワードに続き、ヴァイエイトシャープまでもが謎の移動方法で攻撃をかわしてきたのだ。
モモはその事実を知らない。
ジェイドと違って、どんな理屈で動いているか考える余裕すらないが、自分ができることはわかっている。
「当たらないなら、当たる所まで行って撃つ!」
そう言ってモモカプルを前に出す。
デブリの間を時には縫い、時には蹴って前へ進む。
射線を遮ることで、相手の狙いを定まらせず、細かく変則的に動くことで、移動予測を狂わせる作戦だ。
「無駄なことを!」
多少変則的に動いたところで、ヴァイエイトシャープの攻撃をかわしきることなどできはしない。
ヴァイエイトシャープを操る彼は、自分にはそれができる確信があった。
「そこだ!」
放たれたビーム砲は不規則な動きに翻弄されることなく、正確にモモカプルを捉えていた。
「っ!ビットちゃん、お願い!」
その声に素早く反応し、ビット達はフォーメーションを組んでいく。
「何!」
その驚きはビットを目にして出た言葉ではない。
ここに来るまでレーダーや映像情報に写らなかったことを考えれば、隠し玉の1つや2つ有ってもおかしくない。
この言葉は自分の見た光景が信じられないがため発せられた言葉だ。
「俺の攻撃を……曲げた……?」
あらゆる無駄を排し、威力をあげることに注力した攻撃が、この距離から防がれるなどあってはならない。
だが事実、ヴァイエイトシャープから放たれたビームは、円形に展開されたビット達に阻まれた。
しかも、真正面から受け止めるのではなく、少し角度をつけることで、受け流すようにビームを曲げたのである。
『KM3ビット、リフレクター・フォーメーション』
このフォーメーションは、リフレクタービットやゲシュマイディッヒ・パンツァーのシステムを参考に、ビームを屈折、偏向させるフィールドを生み出す。
そしてこのフォーメーションができるのはそれだけではない。
「当ったれ~!」
十分な距離まで近づいたモモの掛け声に合わせ、ビット達は散らばっていく。
「くっ!」
モモカプルから放たれたビームをヴァイエイトシャープが避ける。
だが、次の瞬間、後ろから、横から、上から、下から、全方位からビームが襲いかかる。
このオールレンジ攻撃は、先程のリフレクター・フォーメーションを応用した攻撃だ。
ビット一つ一つが微弱なフィールドを作り出し、モモカプルの攻撃を跳ね返している。
微弱なフィールドであるがゆえに、強力な攻撃は反射できない。
だが、モモカプルは攻撃力より可愛らしさを突き詰めた機体だ。
威力を度外視した分、弱いフィールドでも十全にビームを反射し続けられるのだ。
故にその指から繰り出されるビーム攻撃は、ビットからビットへ、まるで敵を捕らえる籠のように、ヴァイエイトシャープの周囲を駆け巡る。
これではヴァイエイトシャープも砲撃体勢をとることができない。
「……すまなかった。どうやら俺は君を見くびっていたようだ。これ程の射角計算と空間把握を戦闘をしながら行うとは……」
「え?わたし何もしてないけど?」
「はぁ!?」
その反応は当然のことで、モモの言葉を信じるなら、これ程の動きをビット自身が判断し、モモの攻撃に合わせていることになる。
何を隠そう全てはジェイドのコンセプト通り。
全ては理想のケモミミのために。
ビット自体の攻撃力を排し、索敵、隠蔽、防御、それら全てを網羅したサポート兵装なのだ。
当然、操作するモモに負担などかけはしない。
ビット達は、ケモミミから発せられるKM3粒子を受け取り、その意図を理解する人工知能すら搭載されている。
いったいどうやって、と問われればジェイドはすかさず答えるだろう。
『ケモミミは不可能を可能にするのです』
それが全て、それが真理とでも言いたげにジェイドはのたまうのだ。
その言葉を理解できる者はごくわずかしか存在しない。
「……少し取り乱したが、まだ決着はついていない。結果が……全てを教えてくれる!」
たとえ意味不明な兵装を使っていても、勝利できなければ意味はない。
ヴァイエイトシャープは今までと攻撃スタイルを変え、砲撃の威力を絞り、隙を少なくした。
回避と攻撃を一連の流れで行う作戦だ。
その動きに無駄などなく、高い操縦技術を持っていることがうかがえる。
「だったらこっちも全力でいくよ!」
モモはさらに手数を増やす。
たとえ避けられても、攻撃されても、ビット達がサポートしてくれる。
だから自分はビット達を信じて、攻撃に専念するのだ。
お互いの信じるものに全てをかけて、激しい射撃戦は続く。
どちらが先に有効打を与えるのか、どちらが先にエネルギーを切らすのか。
方や泥臭い殴り合い、方や高度な射撃戦。
混迷を深める第二ステージは最終局面へと突入する。
第二ステージ終われませんでしたorz
次話!第二ステージ決着です!
……たぶん。
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