転生したらスライムに惚れた件 (恵比寿酒)
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新たな世界
ーー8月1日のサマーキャンプ。僕はデジタルワールドに行った。
ーーリアルワールドの8月1日。俺はデジタルワールドで待っていた。
「君は誰?」
「俺?俺はハックモン!」
「僕は、神崎大志」
そして、相棒に出会った。
昔から一緒にいたようで、初めて出会った気のしない、大切な相棒。
「ハックモンはどうしてここに?」
「俺、ずっとずっと待ってたんだ!」
「待ってたって、僕を?」
2人で進んでいった冒険は、初めてのことだらけで、
『ハックモン進化ーー』
楽しくって、
『バオハックモン、超進化ーー』
怖くって、
『セイバーハックモン、究極進化ーー』
それでも、2人なら前へ進めた。
世界を救って離れ離れになっても、会えなくたって、絆が切れる事はなかったんだ。
だからーー
──────────────────────────
一つはデジモン。白く小柄な体躯に、フードがついた赤いパーカーとゴーグルを身につけていて、子竜のような姿をしている。『ハックモン』と呼ばれる、成長期のデジモン。
もう一つは人間。十代後半であろう日本人らしき青年、『神崎大志』。ハックモンのパートナーであり、この世界の彼の代には一人しかいなかった元選ばれし子供。
そしてもう一つは、異形。デジモンであるかどうかも分からない存在。正十二面体の一つから人の上半身が出ているようなソレは『アポカリモン』を自称した。
「何故だ!我々が何をしたと言うのだ!なぜお前たちが笑い、我々が泣かなければならないのだ!?」
アポカリモンが叫ぶ。彼は人々の負の感情と消えていったデジモン達、その怨念の集合体であり、今を生きている存在に対して呪いを振りまき続ける存在である。
しかしその体はすでに満身創痍であり、自爆する力すら残っていない。十二面体である部分から生える二重螺旋状の鎖は全て根元から切り裂かれており、十二面体の中心から入っている大きな亀裂から消滅が始まっていた。
「生きたかった!生き残って友情を、正義を、愛を語り……この身体を世界のために役立てたかったのだ……」
「ねえ、アポカリモン。最後に聞いてくれない?」
「……なんだ」
大志が語りかけ、アポカリモンがそれに応えた。すでに自分には何もできないとわかっているのだろう。
「今更言っても遅いと思うけど、僕は君を倒したくなかった」
「俺も、オマエとは戦いたくなかった」
大志の言葉にハックモンが続く。彼らの体もボロボロで、千切れている体の部位すらある。
「ふん、今更同情か。貴様らに同情されても憎いだけだ」
「だよな。でもオマエの言い分も少し納得しちゃったら、憎いとは思えなくなって」
「君のやろうとしたことは許せないけどね。それでも、って考えちゃったんだ」
「だから」
「出来ることなら、違う形で出会いたかった」
本音からの言葉、なのだろう。
自分は負の感情と怨念から生まれた存在であり、今を生きる全てのモノを呪い、呪われる。そう考え続けていた。
だが、最後の最後に自分を呪わない者に出会えるなど。考えてもいなかった。
口元に僅かに笑みが浮かぶ。
「
アポカリモンの体の消滅が人型の部分にまで及び始めた。
「そろそろ時間のようだな」
「アポカリモン、オマエは……」
「勘違いをするな。私は滅びる……だが、我々は貴様らを呪い続けるだろう」
「それなら何度でも止める。僕たちはもう戦えないけど、僕らに続く人たちが止めてくれる」
「そう、か。ならばさらばだ。光あるところに呪いあれ、呪いあるところに……光あれ!」
「……じゃあね、アポカリモン」
「……じゃあな、アポカリモン」
アポカリモンは光となり消滅した。最後に呪いとも
そしてーー彼らの体も消滅が始まっている。アポカリモンとの激戦は彼らの勝利ではなく、相打ちだった。あちらの方が少々ダメージが大きかっただけであり、彼らももうすぐ消滅する。
「……なあ、大志」
「……どうしたの?ハックモン」
「俺、大志との冒険、楽しかったよ」
「うん」
「こんな終わり方だけどさ、大志と出会わなければよかったとは思わないんだ」
「うん」
「ありがとう」
「こっちこそ、ありがとう」
2人の体も消滅していく。意識が遠のいていく。確かな絆を感じて。
《転生に対し魂の強度が不足と判断、代行措置を試行します》
《周囲の魂と融合……成功しました》
《周囲の
《ユニークスキル『
《新たな肉体を作成します……成功しました》
《エクストラスキル『聖騎士』を獲得……成功しました。続けて、エクストラスキル『聖騎士』をユニークスキル
『
《ユニークスキル『
彼らがした冒険は大体アドベンチャーと同じルートですが、2人で何とかなった難易度でした
アポカリモンも彼ら2人が命と引き換えに倒せる程度の強さだったため、アドベンチャーよりも大分楽な戦いでした
そのため恨みも少なめです
ちなみに彼らの後に続いた選ばれし子供達は一人ではないです
リムル様カワイイヤッター!
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暴風竜ヴェルドラ
体が、痛い。まるで岩だらけの地面に寝転がっているようだ。いや、実際に寝転がって……待って、ここどこ?
えっと、とりあえず整理しよう。ボクの名前は『神崎大志』。元選ばれし子供でハックモンの相棒。よし覚えてる。
確かアポカリモンとかいうのが現れたから、デジタルワールドとリアルワールドの間でハックモンと一緒に戦ったんだ。なんとかアポカリモンを倒して、倒して……それからどうなったんだ?アポカリモンの最期は二人で見届けた。でもボク達も深手を負っていて、もう助からないはずだったんだけど……。
分からない。あの傷でどうして生きていられるんだ?究極体の力でも治せないくらいに怨念の混ざった傷だったのに。
それに、ここはどこだろう?洞窟のようだけど見覚えはない。かなり大きな洞窟の中のようで、初めて見る植物が群生している。
うーん、どうするべきか。とりあえず、周囲の様子を見て……?
待って。ちょっと待って。おかしい。そんなわけがない。
ボクの体ってこんなに小さかったっけ?それにボクの手足は白くないし、尻尾もないはずなんだけど。おかしいなぁ。
嫌な予感がする。幸いなことに湖が近くにあることだし、ひとまずそこで確認するしかない。
二足歩行もなんだか辛い。うまく歩けずに、ヨタヨタ歩きになってしまう。四足歩行の方が楽だな。そっちで動こう。
「……は?嘘だろう?」
自分の姿を見て、思わず言葉が漏れた。いや、体を確認している時にほとんどわかっていた。認められなかっただけだ。
竜とも獣ともつかない、白く小さな体。好奇心を帯び、しかし正義感に満ちた黄色い瞳。真っ赤なフード付きのマントに四角いレンズのゴーグル。
間違えるはずもない。ボクの相棒の『ハックモン』だ。
記憶が戻ってくる。そうだあの時、死ぬ寸前におかしな声が聞こえたんだ。確か『周囲の魂と融合』とか『新たな肉体を形成』だとか。他にも色々言っていたような気がするけど、今重要なのはこの二つだ。
周囲の魂……これはおそらくハックモンだろうか。もしかしたらアポカリモンもかも含めてかもしれないが。そして新たな肉体……この体だろう。
なんとなく理解した。
ボクは、貰ったんだ。
ハックモンから、貰ったんだ。
この体と、新しい命を。
……とりあえず、辺りの探索から始めようか。今のところここがデジタルワールドなのか、リアルワールドなのかも分かっていないし。人間の体なら危険だけどハックモンの体ならまだ安全だ。
──────────────────────────
「本当にありがとう!
(何、我も退屈していたところだ。面白い話も聞けたことだし気にするな!)
探索を始めてから数日後、ボクはこちらの世界で初めて出来た友人と会話していた。いかにも邪竜という風貌をした彼は"暴風竜ヴェルドラ"。この世界で四体しか存在しない竜種の一体らしい。確かに究極体にも匹敵しかねない力を感じる。
彼いわく、ボクは異世界転生したらしい。この世界では異世界から人が来ることも転生することもよくあるらしく、ヴェルドラは丁寧に説明してくれた。また、異世界から転生してくることはとても珍しく、その上人外に転生するのは長い時を生きたヴェルドラでも初めて聞くと驚かれた。
さらに異世界から渡ってくる者たちーー異世界人は世界を渡る際にスキルを獲得するらしくボクにも『
「そういえば、ヴェルドラはなんでこんなところに封印されているんだ?」
(ん?それはな……)
ヴェルドラが言葉を続けようとした瞬間、ボクの隣を猛スピードで水色の何かが通過していった。
……え?
ハックモン:成長期:小竜型:データ種
クールホワイトに輝く小竜型デジモン。自由気ままで束縛を厭い、冒険を好む。俊敏さを活かした接近戦を得意とし、敵が完全体でも互角以上の戦いを繰り広げる。
必殺技:
強靭な爪で相手を切り裂く『フィフスラッシュ』
尻尾を回転させ敵に突っ込む『ティーンラム』
口から火炎の息を吐き敵を攻撃する『ベビーフレイム』
原作主人公兼ヒロインが二話の最後に少ししか出てこない原作に対する敬意の足りない二次創作があるらしい。
次:難儀中
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エンカウント・ザ・ドラゴン・ウィズ・スライム
風邪で寝込んでいました
作者は季節の変わり目にやられていましたが、アニメでリムル様を見たら治りました(言い訳&自語)
皆様も風邪にかかったらアニメのリムル様を見て治してください。風邪に掛からなくても見てください
「そういえば、ヴェルドラはなんでこんなところに封印されているんだ?」
(ん?それはな……)
ヴェルドラが言葉を続けようとした瞬間、ボクの隣を猛スピードで水色の何かが通過していった。
……え?
「こわっ」
ボクの隣を猛スピードで通過していったモノ。それはは水色の球体だった。球体はそのままヴェルドラにぶつかり弾かれ、地面を転がる。
(ふむ……スライムか)
この水色の球体をした生物?はスライムというらしい。確かにゲームで出てくるスライムが現実にいたら、こんな感じなのかもしれない。
(スライムは思考もせずに、吸収・分裂・再生を繰り返すだけの低位モンスターだ。自らのテリトリーから外に出る事もめったにない)
ヴェルドラがスライムについて説明をしてくれた。やはりボクの認識と大差無いようだ。猛スピードで移動していたことを考えると、ヴェルドラが教えてくれたネームドか、ユニークとかいうやつだろうか?
(聞こえるか?小さき者よ)
ヴェルドラがスライムに話しかける。
(おい!聞こえているだろう?返事をするが良い!)
(……ほ、ほほぅ。我の事をハゲ呼ばわりするか…いい度胸ではないか!久方ぶりの客人もおり、気分が良かったからと下手に出れば、どうやら死にたいらしいな!)
(ククク。クハハ。クハハハハハハッ‼︎)
怒ったと思ったら笑ってる⁉︎
(面白い。我の姿を…)
ボクを置いて会話が進んでいく…。会話ができないと不便だなぁ。
(おい、ハックモン。こやつお前と同じ生まれらしいぞ)
「え?本当⁉︎」
(ああ。聞く限り異世界からの転移と、転生を同時にしているようだ)
なるほど。ボクも会話したいな。でも彼?は喋られないよね……。
「ねぇ、ヴェルドラ。ボクも喋りたいんだけど、どうすればいいかな?」
(ん?そのまま……ああ、念話はできないのであったな。そうだな、『魔力感知』というスキルがある。このスキルの応用で意思が込められた言葉は理解できるようになる)
「それだとそこのスライムさんにボクの言葉は聞こえるけど、スライムさんは喋られないんじゃないの?」
(少し待て。……そのスライムからの言葉だが、音波を出せる生物を捕食すれば会話できるかもしれないらしいぞ。まあ、今は我が会話を繋いでやるがな)
ヴェルドラがそう言うと、頭の中に知らない声が届いた。念話で会話を繋いでくれたらしい。
(えーっと。話に出てきたハックモンさんですか?)
(あ、はい。ハックモンです。タメ口で大丈夫ですよ。そちらはスライムさんですよね?)
(それじゃ、遠慮なく…。うん、俺はスライム。元人間で通り魔に刺されて死んだと思ったらこの姿になってたんだ)
(ふむふむ。ボクはハックモン。ボクも死んだと思ったら相棒の姿になってたんだ)
(相棒?)
(相棒だよ?ボクのパートナーデジモンのハックモンの姿だからね)
何かプルプル震えてる。可愛い。
(えっと…。俺、デジモンなんて生き物見たこと無いんだけど…)
(え?何年か前にデジタルワールドとの急接近もあったじゃないか)
(ふむ…。異世界からの転移者でも、異世界が一つとは限らない。二人ともこの世界の生まれではないが、同じ世界ではないのだろう)
なるほど。世界はいくつもあるらしい。ボクとスライムさんの世界は似ているようでだいぶ違うのだろう。
(そういえばスライム。お前、目が見えないのだろう?)
(あ、はい)
(見えるようにしてやろう。さっき言った『魔力感知』の取得の仕方だ。ハックモンも覚えていて損はないだろうしな。ただし条件があるが…どうする?)
(どういう条件ですか?)
(簡単だ。目が見えるようになったからといって我に怯えるな)
なるほど。確かにヴェルドラの容姿は恐ろしげだ。怯えられて逃げて行く可能性もある。
(そのくらいでいいなら、喜んでお願いします!)
(うむ。約束だぞ、守れよ!)
『聖騎士』
転生時に獲得したエクストラスキル。自身が「悪」と断じた相手との戦闘に限り、非物質に対して攻撃できるようになる。『
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