アーティスト・バディファイター・響木奏 (へタレた御主人)
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バディファイト、始めよう!



バディファイト始めました!
アニメ見た!
キリくん可愛い!

で、書きたくなった作品です。
ファイト内容が色々と拙いとは思いますが、よろしくお願いします。


 

 

 

 バディファイト。

 

 それは、異世界からやって来たモンスターとバディを組み、ファイトする最も熱いカードゲーム。

 

 君も、バディレアのモンスターを引き当てて、バディファイトを始めよう!

 

 

 

 

「とまぁ、そんなCMがバンバン流れちゃいるけどね〜」

 

 街頭の広告テレビから映されている映像から視線を外し、白メッシュの入った黒髪の少年ーー響木(ひびき) (かなで)は肩に背負ったギターを担ぎ直して歩く。

 

「俺はやってねぇんだよなぁ、バディファイト」

 

 横目に街並みを見る。

 大人や子供に混じってそこかしこにいる()()()()()()()()()者たち。

 彼らは、異世界から実際にこちら側へやって来たバディファイトのモンスターたちだ。

 普通にファイトをバディと楽しんだり、犯罪行為に走ったり、それを取り締まる側に立ったり、やっぱりファイトを楽しんだりしている。

 とはいえそれも、バディファイトをやっていればの話。

 世界中で流行っているバディファイトをやっていない少数派の奏には無関係の話になる。

 

「まぁ、巻き込まれたことがねぇじゃねぇけどね……」

 

 ぶつかって転んだ、くらいならまだしも、勢い余ってギターを壊された。銀行強盗で人質にされた。ファイトじゃないガチ戦闘の余波でギターにヒビが入ったエトセトラエトセトラ……

 トラブル体質というほどではないと、自身では思っている奏だが、そうした色々もあってバディファイトは始めなかった。

 ちなみに、ギターはもちろん弁償させた。

 

「ま、俺はいいかな?」

 

 流行り物に触れたことがない。たまにはそんな奴がいてもいいだろう、と考え、軽い調子でいつもの駅前に行く。

 今日もこれから、リサイタルだ。

 

 

 

「よぉし、止まってくれた皆々様も、先をお急ぎのあんちゃんも、ちぃとばっか耳を傾けてみてくださいな!」

 

 ギュィイン、と鳴らすと、目の前に陣取った人たちが今か今かと目を輝かせる。

 

「さぁ、今日も一曲聴いて、元気出してくれよ!!」

 

 わっ、という歓声と共に路上ライブが始まった。

 

「〜〜〜〜〜♪」

 

 響木奏は、この辺りではちょっとした有名アーティストだ。

 高校生でありながら、その歌声は聴いた人を元気付け、活力を与えてくれる。

 1〜2週間に一度行われる路上ライブ(許可取得済み)では、固定客がいるほどだ。

 自費制作のCDは毎回それなりに売れているし、新曲ならば売れ残りはほとんど無くなる。

 

「〜〜〜♪!!」

 

 サビに入ると、場の雰囲気も盛り上がる。

 身体を目一杯動かして、楽器と声だけではなく全身で音楽を奏でる。

 その動きと曲のテンポ、そして何より奏の全開の笑顔が観客を惹きつけるのだ。

 歌うのが楽しい。

 ギターを弾くのが楽しい。

 音が、楽しい。

 今の奏は、本人が音楽そのもの。

 奏も観客も、楽しくなる音楽。

 それが、『自称・生まれながらのシンガーソングライター』を名乗る奏の歌なのである。

 

「〜〜〜〜〜♪!」

 

 そして一曲目が終わる。

 

「やー、どうもどうも!ありがとうございます!」

 

 奏の挨拶に合わせて、イェー!とサムズアップするノリの良い観客たち。

 

「さぁって、盛り上がってるところでもう一曲ーー?」

 

 次の曲を歌い出す前に、奏と観客の間を段ボールの塔が横切ってきた。

 明らかに視界を塞ぐ量と高さの段ボール。

 その結果は……

 

「おっとと、ととととっ!?」

 

 火を見るよりも明らかだった。

 中身も派手にぶちまけている。

 

「あいたたた〜……」

 

 起き上がる青年に、不快な視線が集中する。

 せっかくの路上ライブに水を差されたら誰だっていい気にはならないだろう。

 

「お、おいあんちゃん、大丈夫かよ?」

「いやぁ、お恥ずかしい……ってあぁ!?しまったぁ!!」

 

 それでも流石にあれだけ派手に転んだら心配になる。

 奏が声をかけると、荷物がばら撒かれてることに今気が付いたのか悲鳴をあげた。

 慌てているのか、わたわたしている青年を見て、奏が苦笑する。

 

「おい皆んな!路上ライブは一旦中断だ!このお兄さんの荷物を片付けるの手伝ってくれ!そしたらお礼に今日は、いつもよりたくさん歌ってやるぜぇ!」

 

 その言葉に、路上ライブの常連であるファンはすぐさま行動に移した。

 人海戦術の有用性を見せるが如く、あっという間に段ボールに収まった。

 

「……店長、だから台車を持ってくるまで待ってって言ったでしょう?」

 

 そこに現れたのは、青年と同じエプロンを付けた奏と同い年くらいの少女だった。

 ショートカットに切り揃えられた藍色の髪と整った顔立ちが美少女と言って憚られないのだが、そのキツめの目線と表情が、印象を少し悪くしていた。

 

「み、水瀬(みなせ)くん!?私は一刻も早く準備を進めようとだね!?」

「それで他の人に迷惑かけてたら意味ないでしょ。時間も余計にかかってるし」

「まぁ、観客の皆んなには悪いが、俺は気にしてねぇからよ」

「…………悪かったわ」

「気にしなさんな。あんちゃんも、気を付けてな?」

「う、うん……ありがとう、少年。良ければこの路上ライブが終わったらこちらのイベントへ来ないか?」

「イベント?」

「そう、バディファイトのイベントだ。初心者向けの講習会イベントだが、パックの配布もあるからね。是非来てくれたまえ」

「何様よ」

「水瀬くん!?少しは格好付けさせておくれよ」

「今さらでしょ」

「水瀬く〜ん」

「あー、バディファイトかぁ……」

 

 誘いがかかったのはありがたいが、触ったことのないバディファイトとなれば少々気が進まない。

 だがまぁ、かと言って断るのも忍びない。

 

「分かった、こっちが終わってもまだやってたら覗かせてもらうわ」

「そうか!待っているよ!」

「……悪いわね」

「いいってことよ」

 

 突然乱入した2人が離れたところで、路上ライブ再開!

 

「待たせた皆んな!引き続き、聴いていってくれ!次の曲、行くぜ!」

 

 アップテンポの曲のイントロを皮切りに、奏の路上ライブは続いていった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜!もう限界、今日はここまでだ!ありがとう!楽しかったぜ!」

 

 ライブの終わりを告げると、大きな拍手が起こる。

 片付ける最中、CDを買う人や開け放しのギターケースにお金を入れていく人もいる。

 片付け終わって撤収しようか、というところで、女の子から声をかけられる。

 

「あの……」

「ん?ああ、よく聴いてくれる人だよね。今日も来てくれたのか、ありがとう」

 

 よく見たら、多くの頻度で来てくれる常連の1人だった。

 いつも後ろの方で最後まで見て、片付け中には帰ってしまう子だ。

 

「えっと、あの、その……これ」

 

 そう言って渡されたのは、バディファイトのパック。

 

「これは?」

「えと、さっきの人が落とした奴で、ライブ中に見つけたので……その……」

 

 そこまで言われれば、彼女の言いたいことは理解出来る。

 先ほど自分が行く、と言ったイベントに行って返してほしい、ということだろう。

 おそらくだが、彼女は別の用事か何かのために行けないので、イベントに向かう奏に頼んだのだ。

 

「えと、その、すみません……」

 

 申し訳ないと思っているのか、声が尻すぼみになっている。

 だが、そんな彼女に奏は笑顔で応える。

 

「サンキューな、またライブやるから見に来てくれな」

「えっ、う、うん……」

 

 いきなり手を握られて真っ赤になる女の子の様子には気付かずにギターケースを担ぐ。

 日も結構傾いてきた。急がないと間に合わないかもしれない。

 じゃな!と言って、駆け出した。

 

 

 

 

「……っと、ここだな」

 

 案内板や通行人に尋ねるなどして、それらしき看板の立った会場を見つけた。

 バディファイト始めよう体験会。

 

「もうちょっとこう、何とかならんかったんか?この名前」

 

 始めようの会か、体験会かに絞っていればまともな名前だったのに、半端に混ぜたせいで、日本語として変になってしまっている。

 

「名前考えたの、あのあんちゃんかなぁ?」

 

 どことなく、抜けてそうな印象の青年を思い出す。

 まぁ、イベント名の感想は置いておくとしても、参加しようとここに来たことに変わりはない。

 もう人を見かけないので、終わっているかもしれないがそれはそれ。

 撤収の手伝いでもすればいいだろう、と会場に入った。

 

「あれ?余ったパックの数が合わないぞ?」

「もう、しっかりしてよ……」

「まぁ、もしかしたら運命の誰かの手にでも渡って……」

「それが店の売り上げに影響するの、分かって言ってんの?」

「はい、すみません……」

 

 そこでは、高校生(こども)に大人が怒られている光景が広がっていた。

 

「全く…………あ」

 

 気まずそうに見ていたら、そんな奏に向こうも気付いたようで気まずい沈黙が流れる。

 

「あー……お邪魔だった?」

「この情けないおっさんの不甲斐なさを指摘してただけよ。変な勘違いされる方が不快だわ」

「水瀬くん!?それはあんまりじゃないかな!?」

「うるさいわよ、ダメ店長」

「がはっ!!」

 

 鋭くて太いものがグサリと店長に刺さったのが見えた気がした。

 ダメ店長、という文字が書いてある気もした。

 

「……で、わざわざ来たのね」

「ま、誘われたからな」

 

 チーン、と昇天してる店長を横目に、会話する。

 

「お人好しね、あなたくらいの歳ならもう知ってるんじゃないの?」

「いや、これが今までバディファイトには一切触れてこなくてね」

「……そうなの?」

 

 肯定すると、かなり驚かれた。

 水瀬、という女性の中では本当に珍しいことだったのだろう。

 

「それと、これのこともあってね」

 

 そう言って、ライブ終わりに渡されたパックを水瀬に渡した。

 

「これ……店長、これって」

「ーー私はダメな店長です。今年でもう店長になって4年になるのに未だにアルバイト1年未満の子にダメ出しされる、ダメな店長です。29にもなって、10歳は下の子に常識的な部分を指摘される、ダメな店長です。嫁さんだって欲しいのに、収入も安定してるのに、出会いがない、ダメな店長です」

「………………あー」

「店長として以前に人としてダメ過ぎるだけ。あと、ないのは出会いよりも魅力の方」

「傷口を抉り取って塩をこれでもかと塗り込むのはやめてください!!」

 

 奏がフォローする前に、水瀬がとどめを刺した。

 マジ泣きしながら起き上がる店長と、それを冷めた目で見下す水瀬に、奏は苦笑しか出来ない。

 

「って、これは足りなくなってたパック!」

「良かった〜、ライブの後で客の人から届けてくれって渡されたんだよ」

「ありがとう、少年!恩に着る!」

「はぁ、あったから良かったようなものの……」

「まぁまぁ!こうして戻ってきたんだし、いいじゃねぇか」

 

 また始まりそうだった説教を慌てて止める。

 と、何故か返したパックをさらに渡し返された。

 

「え?」

「これは君にあげるよ」

「でも、もうイベントも終わってるんじゃ?」

「なぁに、これがきっかけでバディファイトに興味を持ってくれればいいさ」

 

 いいよね?と店長がアルバイトの水瀬に確認する。

 ため息混じりに、好きにすれば?と返答された。

 

「さぁ、開けてごらん」

「じゃあ、遠慮なく……」

 

 中のカードを傷付けないようにビリっと包装紙を破る。

 

「えっと、なんだ?なんかキラキラしたカードが?」

「どれどれ?って、どひゃあ!?」

 

 店長が覗き込んだ途端、カードが勝手に手を離れた。

 そして光が形を成して姿を現したのは……

 

「初めまして、僕はミセリア。【審判の冷王 ミセリア】です」

 

 可愛い顔をした人型のモンスターだった。






音楽やってるからアスモダイだと思った?

残念、ミセリアです!

というわけで、読んでくださりありがとうございます。
リアルでこれから作るデッキとして、ミセリアが主人公のデッキになります。
デッキ内容はまたいずれ。


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オープン・ザ・フラッグ!



まずはバディファイトの説明回。

とはいえまだまだ初心者の域を出ないので、分かりづらい&間違ってたらすみません。


 

 

 

 審判の冷王ミセリア。

 現れたモンスターはそう名乗った。

 

「えっと、僕のバディの方は……」

 

 現れたはいいが、候補者らしき人物が3人もいたので迷ったのだろう。

 見回して首を傾げている。

 

「か……」

「?」

 

 そんなミセリアを受け、奏が手を震わせる。

 無理もない、と水瀬は思った。

 生まれて初めて開けたパックから超ガチレアすら越えるレアカード、バディレアを引き当てたのだからーー

 

「可愛いじゃねぇか!!」

「ふぇえ!?」

 

 どうやら、水瀬の考えとは全然違うことを思っていたらしい。

 笑顔でミセリアの頭を撫でる奏。

 いきなり可愛いと言われ、頭を撫でられ照れてるのか、ミセリアが赤面している。

 確かに少し可愛いと、水瀬も思った。

 

「でも、そのモンスターって男じゃなかった?」

「そうですよ!僕は男なんです!」

「可愛いことに変わりねぇ!」

 

 ミセリアの必死の抵抗も、真正面からぶった切られた。

 男らしいと言えばらしいが、何とも言えない。

 それでも、可愛いと言われて顔を赤くしているミセリアは可愛いと思っても仕方がない。

 

「……まさか、1発目でバディレアとは…………私にはまだいないのに……」

「変な嫉妬してないで、どうするの?店長」

「あ、ああ……少年、おめでとう」

「ありがとな、店長」

「けど、実際どうするの?今開けたパックのカードだけじゃあファイト出来ないけど?」

「そうなのか?」

「知らないんですか?」

「お恥ずかしいながらって奴だな」

「それもだけど……ミセリア、カードになれる?」

「?はい」

 

 ミセリアが頭に疑問符を浮かべながら、カードに戻る。

 

【審判の冷王ミセリア】

 モンスター/サイズ3

 ダンジョンW/レジェンドW

 Dエネミー/魔王/アースガルド

 攻撃力20000/打撃力5/防御力20000

 ■このカードは「ミッションコンプリート “極大魔法 アポカリプス・デイ”」の効果以外で場に出せない。

 ■【対抗】【起動】君のターン中、ゲージ2を払い、君の場の魔法1枚をドロップゾーンに置いてよい。

 そうしたら、このカードをスタンドする。この能力は1ターンに1回だけ使える。

『貫通』『ライフリンク10』

 

 カードに書かれた情報をじっ、と見てから、もう大丈夫と再びミセリアに伝えた。

 

「どうかしたのか」

「あなたとミセリアには悪いけど、このカードはとても初心者には扱えないわ」

「ど、どうしてですか!?」

「まぁ、それを説明するためにもショップへ行きましょうか。ファイトを教えるのも、そっちのが楽だし」

「あ、それなら……」

「なに?都合悪い?」

 

 すでに夕方、西日もかなり眩しくなっている。

 時間がないなら後日、と思った水瀬に、奏は首を振って否定する。

 

「いや、せっかくだから自己紹介しようってな」

「ああ、そう」

「いつまでも少年ってのもな。響木(ひびき)(かなで)だ。ちなみに高校2年生」

「なんだ、同い年だったのね。水瀬(みなせ)(りん)よ」

 

 簡単に自己紹介を終えて握手する。

 

「わ、私のことも忘れないで欲しいかなぁ?」

「さ、引き上げるわよ店長」

「よろしくな、店長さん」

「ま、待ってください!……失礼します、店長さん」

 

 さっさと撤収してしまった動きに、思わず呆然となる店長。

 実に哀れである。

 

 

 

 

 ところ変わってカードショップ・STATION。

 その机の一角に陣取って、凛先生のバディファイト講座が始まった。

 

「まず、バディファイトを始める前に基本的なところから教えるわね」

「頼むわ」

 

 大前提の基本ルールとして、バディファイトは、相手を攻撃し、ライフをゼロにした方が勝ちとなるゲームだ。

 

「バディファイトのカードにはいくつか種類がある」

 

 まず、モンスターカード。このカードを場に出して相手に攻撃することで、ライフを削っていく。

 次に魔法。様々な効果をコストを支払って発動するカード。相手を妨害したり、自分を有利にしたりと千差万別。

 アイテムカード。プレイヤー自身が身に付けることで、モンスターと一緒に戦ったり、効果や影響を与えるカード群だ。

 

「プレイヤーがアイテムを使って戦うのか?」

「そう、それがバディファイトの最も大きな特徴の1つよ」

 

 そして、必殺技カード。特定のタイミングで使用でき、コストは重たいが、フィニッシュとなる強いカード。基本的に決めたら勝てる。

 さらに必殺モンスター。必殺技と同じタイミングで使用して、追撃が可能。通常のモンスターと同じようには場に出せないので注意。こちらもカード性能がかなり高く、フィニッシャーとなるカードだ。

 

「最後に、フラッグカード」

「フラッグカード?」

 

 フラッグカード。自分のワールド、すなわち自身が扱うカード群を示すために使う。そのフラッグカードに示されたカード以外は扱うことが出来ない。

 

「フラッグカードとバディモンスターを除いて、50枚以上で組んだカードの束をデッキと呼ぶわ」

「バディモンスター?」

「それはまた後で」

「フラッグカードはデッキには入らないんだな」

「けど、バディファイトで遊ぶためには必ず必要よ」

 

 バディファイトで使うデッキは、自分が扱うフラッグのカードでなくてはならない。

 選ぶ基準は人によるが、バディモンスターに合わせるのが普通だ。

 

「つまり、強いからって好き勝手にはカードを組めないわけか……」

「そうよ」

「ミセリアはどこのフラッグのモンスターなんだ?」

「ぼ、僕はダンジョンワールドとレジェンドワールドです……」

「ワールド?」

「ワールドというのは、僕たちが実際に住んでいる異世界のことで、そこに所属しているモンスターや魔法のフラッグを持つファイターに従って戦います」

「大雑把だけど、戦国時代の合戦みたいって言えば分かる?」

「ああ、旗を背負いながら戦って、どこの軍か周りに教えるようなもんか」

 

 そんなところよ、と奏の意見を肯定する。

 

「でも、ミセリアは2つ?」

「それが、その子が使いづらいって言った点1つ目」

 

 実際に使うフラッグ、すなわちカード群はダンジョン、レジェンドのいずれかになるとは言え、選択できるカードがそれだけ多いことになる。

 選択肢が多ければ、それだけ悩む。

 初心者最大の難関であるデッキ作りにおいて、大きな壁になってしまうのだ。

 

「2つのワールドを使うフラッグは無いわけか……」

「特定のカード群をワールドを超えて使うフラッグはあるけど、ミセリアには関係ないから今は置いておく」

 

 凛の言葉に素直に頷く。

 基本的な情報を教わる中で、例外的なものを教えてもらってもこんがらがるだけだ。

 

「むぅ……ワールド以外で判断する材料はねぇもんか」

「あるわよ」

「お、マジか」

 

 再びミセリアにカードになってもらってその内容を示す。

 

「ここにミセリアの属性がある」

「属性?」

 

 Dエネミー/魔王/アースガルドと書かれた部分を指す。

 この属性が、ワールド内でさらに細かく分類を別ける要素となる。

 カードには、特定の属性のモンスターが場にいることが条件であったり、属性を参照する能力があるものも多い。

 デッキを上手く使うためにも、属性を見ることは大事なことだ。

 

「まぁ、今あれこれ言っても仕方ないから手っ取り早くワールドを決めてくれるとありがたいわね」

「んじゃ、これだ」

 

 そう言って取り出したのは一枚のコイン。

 

「表ならダンジョン、裏ならレジェンドだ」

 

 ピィン!と弾いて手の甲に乗せて抑える。

 出たのは、表だ。

 

「よし、ダンジョンワールド決定」

「そ、それでいいんですか!?」

「いいのいいの、それにまずは、っつー話だしな」

 

 いずれまた変わるかもしれない。もしくは2つとも使うかもしれない。

 だが、最初は触れてみることだ。

 そのためなら気楽なノリでいい。

 

「それじゃあ、ダンジョンワールドで仮組みのデッキを貸してあげよう」

「これ、そのまま買えたりしないっすか?」

「いいけど、シングルが多いから……高いよ?」

 

 貸し出しのデッキを組んでくれた店長に言ってみると、悪どい顔で笑っている。

 

「いくらで?」

「ザッとこんなもんだね」

「うーむ、いい商売してますな〜」

「どれどれ……?」

 

 店長の値段とデッキを見る凛。

 

「ちょっと、仮組みなのに詰め込みすぎ」

「あれ?そうかな?」

「こんなレア度の高いカードたくさん入れてたらそりゃ値段もあがるわよ」

 

 そう言うと、無駄にキラキラしたレアカードをがつがつ抜いていく。

 三分の一も抜いてから、代わりのカードを入れていく。

 

「必要なカードは入れるとしても、有用だからって最初のデッキで完成形を押し付ける必要はない」

「で、でもせっかくだし……」

「デッキを作っていくことも楽しみの1つ。それを奪う気?」

「がはぁっ!?」

 

 正論で返されて再び、何かがグサリと店長に刺さる。

 とりあえず、デッキが出来たのか新たな値段と共に渡される。

 

「でも思ったよりはするな……」

「仕方ないのよ、あなたのバディのカードはレア度高いし、それと一緒に必要になるカードもあるから」

「というか、バディのモンスターをそのままデッキに1枚だけってわけにはいかねぇのか?」

「出来なくはないけど、意味は無くなるわ」

「意味?」

 

 疑問符の浮かぶ奏に次の解説を行う。

 

「さっき言ったバディモンスターのことね」

「ふむふむ……」

 

 バディモンスターとは、そのまま自身の相棒となるモンスターカードのことを指す。

 このモンスターを場に出すことで、最初の1回のみライフを1回復出来る。

 バディギフト、と呼ばれるものだ。

 

「あれ?そういやさっきはバディモンスターはデッキに入れないって……」

「そう、デッキに同じカードは4枚までだけど、バディモンスターだけは、プレイヤーとフラッグと共に並ぶから、最大で5枚必要になるの」

「???」

「まぁ、細かい形式が分からないから想像付かないだろうけどね」

 

 こればかりはやってみないと分からないだろう。

 

「じゃあ、とりあえずファイトしてみましょうか」

「よし、では私が!」

「店長は横でサポート。解説しながら私がファイトする」

「そんなぁ!?」

 

 ショックで打ちひしがれる店長を置いて、店の地下に続く階段を指差す。

 

「店長の案内でそこから降りていって。私はこっちだから」

「あいよ。行こうぜ、ミセリア」

「は、はい!」

「置いてかないでおくれ~」

 

 店長の案内どころか、という感じで進んでいく。

 しばらく歩くと、大きな扉が奏たちを迎えた。

 

「これは……」

「ふっふっふ……なんと、我がショップの地下にはファイトステージがあるのだよ」

 

 ドヤ顔の店長をしり目に、扉を開ける。

 

「おぉ……すっげぇ」

 

 そこには闘技場のような雄々しく荘厳な舞台があった。

 計9つの台が、左右対称に存在している。

 漂う雰囲気が、いやにも闘気を奮い立たせる。

 両端の台に、奏たちと凛が向かい合う。

 

「まずはルミナイズよ」

「ルミナイズ?」

「ルミナイズっていうのは、自分の意気込みと使うデッキ名を宣言することだよ」

 

 簡単に言えば名乗りである。

 と、凛が丸い大きな宝石のようなものが付いたデッキケースを取り出した。

 

「それは?」

「コアデッキケース。まぁ、これは後日ね」

「うーい」

 

 奏には、四角い箱のような装置が渡される。

 どういう原理か、宙に浮いていた。

 対する凛のケースは丸いガラス玉のような形にいつの間にか変形している。

 

「では2人とも、ルミナイズしちゃって!」

「騎士たちの前に跪きなさい。ルミナイズ【仮組み騎士伝説】!」

「なるほどな。えー……コホン。俺の可愛いバディを見ろ!ルミナイズ【ミセリアとの愛の結晶】!!」

「ぶふっ!」

 

 勢いよくルミナイズしたら、横から吹き出された。

 

「ちょ!ちょっと奏さん!!」

「ん?どうかしたか?ミセリア」

「どうかしたかじゃないですよ!何ですか、その恥ずかしいルミナイズは!?」

「えぇ〜、咄嗟に考えたにしては悪くないと思うんだけどなぁ……」

「次にそれやったら、バディ解消ですよ!」

 

 どうやら、ミセリアのお気に召さなかったらしい。

 

「むぅ、それは仕方ない……別パターンのラブルミナイズを考えておくか」

「ラブじゃなくていいんです!」

「イチャつくなら他所でやって」

 

 ミセリアと奏のやり取りを強制的に終わらせた凛。

 イチャついてない、というミセリアの抗議の視線を黙殺して、説明を続ける。

 

「ファイトを始める準備として、デッキから手札6枚、ゲージを2枚置く」

「えっと、どうやるんだ?」

「この機械に手をかざすと反応してくれるからそれで動かすんだ」

「ゲージは様々なコストとなるもので、自分フィールドの左側に裏側で置かれるのよ」

「なるほど」

 

 なんとなく手を動かすと、それに反応してカードが6枚手元に来た。

 同じ要領で左側に投げるように動かすと、2枚がゲージとなって置かれた。

 

「これで準備OKだな」

「ファイトを始める掛け声は、オープン・ザ・フラッグよ」

「うし、OKだ」

「「オープン・ザ・フラッグ!」」

 

 響木奏の、人生初ファイトが始まった!



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初めてのファイト

3話目にしてようやくファイトに入れました。

初心者に説明するという状況なため、注釈が多いのはすみません。
これ以降は、もう少しすんなり進められると思いますので。









 

 

 

「「オープン・ザ・フラッグ!」」

 

 掛け声と共に、2人の扱うワールドが公開される。

 

「レジェンドワールド。バディは【聖龍騎士 ジャンヌ・ダルク】」

「ダンジョンワールド!バディは【審判の冷王 ミセリア】だ!」

 

 対峙した際の位置取りを見て、バディモンスターの説明での疑問点が解消される。

 

「バディは最大5枚ってこういうことか」

「分かってくれた?」

「おぅ、ってもまだ何となくだけど」

「最初はそれでいいのよ」

 

 2人の今の並びはこうだ。

 

 ㅤㅤジャンヌ・ダルク レジェンドWF(ワールドフラッグ)

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ水瀬凛 LP10

 ㅤㅤライトㅤㅤㅤㅤㅤセンターㅤㅤㅤㅤㅤレフト

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤバトルフィールド

 ㅤㅤレフトㅤㅤㅤㅤㅤセンターㅤㅤㅤㅤㅤライト

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ響木奏 LP10

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤダンジョンWF(ワールドフラッグ) ミセリア

 

「デッキに入らないけど、ファイトで使うってのはこのためか」

「そう。そこに立っているバディとは別に、デッキの中に最大4枚同じバディモンスターが入るって意味よ」

 

 ようやく、説明に得心がいった。

 さすがはバディファイト。相棒の扱いは特別である。

 

「今回はティーチングだから、あなたの手札を確認しながら私の先行」

「了解だ」

「まず私のターン。ターンの最初にデッキから1枚ドローする」

 

 凛がカードを引き、手札7枚になる。

 

「その後、手札の不要なカードを1枚ゲージに置いて引き直しが出来るわ」

「これを、チャージ&ドローと言うんだ」

「ふむふむ……」

 

 ゲージにカードが置かれ、さらにドロー。

 水瀬凛 手札7 ゲージ3

 

「チャージ&ドローが終われば、メインフェイズに入る」

 

 メインフェイズでは、モンスターを場に出す、魔法を使うといった行動をとれる。

 

「モンスターを場に出す行為をコール、と呼ぶわ。【円卓(えんたく)騎士(きし)パーシヴァル】をライトにコール!」

 

 金縁の白い鎧を纏った美青年が凛から見て右側に現れる。

 

【円卓の騎士パーシヴァル】

 モンスター/サイズ2

 レジェンドW

 英雄/騎士

 攻撃力5000/打撃力3/防御力3000

 

「バディファイトの特徴2つ目、先行から1回だけ攻撃出来る。パーシヴァルでファイターにアタック!」

「お覚悟!」

 

 パーシヴァルが目の前に迫ると、細いハルバードのような武器で一閃!

 

「くっ!」

 

 響木奏 LP10→7

 

「こうやって攻撃して、相手のライフを削りきれば勝ちなんだよ」

「なるほどねぇ……」

「アタックフェイズを終えると、必殺技の発動や必殺モンスターのコールが出来るファイナルフェイズに移るのだけど、今日は置いときましょう」

「あいよ。じゃあ俺のターン、ドロー!」

「それじゃあ、カードの左上にサイズ2と書かれてる右端のカードをゲージに置いてチャージ&ドローして」

「ん?でもサイズ2のモンスターはサイズの小さいモンスターより強いからサイズ2を3枚とか出した方が強くないか?」

「バディファイトではね、基本的に自分の場に出せるモンスターはサイズの合計が3までなんだ」

「あ、じゃあサイズ2がたくさんあっても同時に出せないのか」

「そういうことだね」

 

 納得して、そのままサイズ2のモンスターをゲージに置いた。

 

「じゃあ早速コールを……」

「待って、あなたの場合はそこの設置と書かれたカードを場に出すのが先」

「?これか?」

 

 言われて手札から出したカードは【裁きのミッションカード “大魔法 アポカリプス”】だ。

 

【裁きのミッションカード “大魔法 アポカリプス”】

 魔法/サイズ_

 ダンジョンW/レジェンドW

 魔王/アースガルド

 【使用コスト】君のデッキの上から3枚を裏向きでこのカードのソウルに入れる。

  ■『設置』(このカードは場に置いて使う)

  ■場のこのカードは相手のカードの効果で破壊されない。

  ■場のモンスターが破壊された時、このカードのソウル1枚をドロップゾーンに置く。

  ■このカードのソウルがなくなった時、カード1枚を引く。

 

 設置カードとは、モンスターのいるフィールドとは別の場に置くカード群のことだ。

 カードによっては同名カードは場に1枚しか設置できないが、設置のカード自体は、何枚でも置くことができる。

 だが、奏にとっては疑問だ。

 特に強くなさそうなこのカードをモンスターより優先して置く必要性が分からない。

 

「このカードは?」

「ミセリアをコールするために必要なのよ」

「え、そうなの?」

 

 聞き返すと、首肯で返された。

 

「これが、【審判の冷王ミセリア】が初心者に向かない理由2つ目」

 

 審判の冷王ミセリアは、普通のモンスターと違って特殊な手順を踏んで条件をクリアしなくてはコール出来ないモンスターなのである。

 単にゲージコストが重い、程度の問題ではないため推奨出来ないというわけだ。

 

「えっと、この使用コストのソウルってのは?」

「それは、カードに裏向きか表向きかで重ねられるカードのことだよ」

「重ねると意味があるのか?」

「ソウルに入ると発揮する効果があったりするの。そのカードはカウントダウンの要素としてだけどね」

「ふむ……」

 

 使用コストでソウルを入れて設置する。

 

「今度こそ、サイズ2のモンスターをセンターに出してみようか」

「うぃっす。【サンダースパルティス】をセンターにコール」

 

 奏の場に雷を纏った魔獣が現れる。

 

「ちっ。面倒な……」

「水瀬くん!?これティーチングだよ!?」

 

 あんまりな凛の発言に、店長が慌てる。

 

【サンダースパルティス】

 モンスター/サイズ2

 ダンジョンW

 Dエネミー/魔獣

 攻撃力8000/打撃力2/防御力9000

 

「なら今度は、そのサイズ1のモンスターをライトに出そうか」

「はい。【アイアンゴーレム・ナスル】をライトにコール」

 

 今度は赤茶色のゴーレムが現れる。

 

【アイアンゴーレム・ナスル】

 モンスター/サイズ1

 ダンジョンW

 Dエネミー/コンストラクト

 攻撃力4000/打撃力2/防御力2000

 

「ではアタックフェイズに入って、ファイターにアタックだ」

「よし、サンダースパルティスでファイターにアタック!」

「くっ」

 

 水瀬凛 LP10→8

 

「アイアンゴーレム・ナスルもファイターにアタック!」

 

 水瀬凛 LP8→6

 

「これで、ターンエンドだ」

「おす」

 

 凛に手番が移る。

 

「私のターン、ドロー。チャージ&ドロー」

 

 手札と盤面を見て、手を決める。

 

「私は、【円卓の騎士ガレス】をレフトにコール」

 

 凛はさらに手札からカードを掴む。

 

「ゲージ1を払い、【王剣と贋作 ロベーラ&ロベーラ・レプリカ】を装備」

 

 凛の両手に、2振りの剣が握られる。

 

【円卓の騎士ガレス】

 モンスター/サイズ1

 レジェンドW

 英雄/騎士

 攻撃力3000/打撃力2/防御力1000

  『移動』

 

【王剣と贋作 ロベーラ&ロベーラ・レプリカ】

 アイテム/サイズ_

 レジェンドW

 英雄/武器

 攻撃力3000/打撃力2

  ■【装備コスト】ゲージ1を払う。

  ■このカードが他の《英雄》と連携攻撃した時、そのターン中、このカードは『2回攻撃』を得る。

  『装備変更』

 

「アタックフェイズ。ここでさらに、新しいルール」

「おう、次はどんなのだ?」

「バトルと連携攻撃よ」

 

 バトルとは、そのまま戦闘。

 ここで参照されるのが、攻撃力と防御力だ。

 攻撃をする方が攻撃力、攻撃を受ける方が防御力を参照し、攻撃力が防御力以上であれば、攻撃は成功。相手は破壊される。

 とはいえ、装備しているアイテムは戦闘では破壊されない。

 戦闘は基本的に、モンスターを倒すのに発生するものだ。

 

「あれ?でもそっちのモンスターは全員、俺のサンダースパルティスの防御力より低いぞ?」

「そのための連携攻撃よ」

 

 連携攻撃とは、複数のモンスターやファイターが同時攻撃する行動だ。攻撃力と打撃力が合算され、防御力の高いモンスターも倒せるようになるのだ。

 攻撃対象は同じにしなくてはならないし、攻撃している以上は攻撃を終えたらそのモンスターやファイターは攻撃出来ない。攻撃回数を減らす代わりに大きな力でぶつかるのが、連携攻撃なのである。

 ちなみに、先行の1回のみの攻撃では連携攻撃は出来ない。

 

「って、ことはサンダースパルティスは三体の連携攻撃で破壊されちまうから……俺に7ダメージってことか!?」

「そうはならないわよ」

「え、そうなの?」

「センターにモンスターがいれば、通常はファイターまで攻撃は届かないんだ」

 

 つまり、ゲームエンドにはならないということだ。

 そして、ここにこそバディファイトというゲームの基本的な戦略思考が詰まっている。

 すなわち、いかにセンターを開けて攻撃をファイターに届かせるか。

 そのための戦略と攻撃、読み合いと駆け引きこそ、バディファイト最大の醍醐味だと言えよう。

 

「なるほどな……」

「全員で連携攻撃!そしてローベラ&ローベラ・レプリカは英雄属性のカードと連携攻撃した時、『2回攻撃』を得る!」

「何っ!?」

「はぁ!」

 

 猛攻を耐えるサンダースパルティスも、流石に3体の攻撃には力及ばず破壊された。

 

「そして、アポカリプスの効果でソウル1枚をドロップ」

 

 アポカリプスからカードがドロップへ送られる。

 

「さらに、サンダースパルティスはライフリンク2」

 

 響木奏 LP7→5

 

「な、なんだ?なんで俺のライフが!?」

 

 何故か減った減ったライフに困惑する奏。

 

「ライフリンク、という能力があるわ」

「ライフリンク?」

「場から離れた時、ライフリンクに書かれた数値分ダメージを受けるというものよ」

「その代わりとして、ライフリンクが高いモンスターほど強いステータスや能力を持ってるんだよ」

「へぇ」

「ここで、ミセリアのカードをよく見なさい」

 

 ミセリアに再びカードになってもらって、その情報を再確認する。

 

「どれどれ…………ライフリンク10だと!?」

「それが、ミセリアが初心者に向かない最後の理由。破壊された途端にファイターも死ぬのよ」

「ピーキーな分、代償も大きいってことだね」

「す、すみません奏さん……僕、こんな……わぷっ」

 

 流石に、初心者の奏と自分が共に戦うというのは敗北のリスクが高すぎると思ったのだろう。

 だが、申し訳なさそうに謝るミセリアの頭を、奏が乱暴に撫でる。

 

「気にすんなよ、ミセリア」

「ですが……」

「俺は嬉しかったぜ?お前がバディになってくれてよ」

「!」

「だから、お前とのバディは続けてく。解消なんて許さないからな?」

「は、はい!」

 

 その微笑ましい光景に、思わず頬が緩む凛。

 が、それも一瞬。

 気を取り直して奏を攻撃する。

 

「ローベラで2回攻撃!」

「ぐっ!」

 

 そのまま、凛の斬撃をくらってしまう。

 響木奏 LP5→3

 

「ザ・ムーブエンド!」

「俺のターン!ドロー!」

「ここから私はあなたの手札を見ない」

「え!?」

 

 凛の発言に驚くミセリアだが、奏の方は笑みが溢れる。

 

「おう!ならこいつだ!チャージ&ドロー!」

「み、水瀬くん?」

「奏さん?」

 

 奏の勢いが増した。その理由がミセリアには分からないのか、不安そうに声をかける。

 だが、そんなことはお構いなしとばかりに操作を進める。

 

「センターに【ドーベルマン コボルト】、レフトに【ブロンズゴーレム・ジャイシュ】をコール!」

 

【ブロンズゴーレム・ジャイシュ】

 モンスター/サイズ0

 ダンジョンW

 Dエネミー/コンストラクト

 攻撃力2000/打撃力2/防御力1000

 

【ドーベルマン コボルト】

 モンスター/サイズ2

 ダンジョンW

 Dエネミー

 攻撃力5000/打撃力3/防御力3000

 

「へぇ、分かってきたじゃない」

「教え方が良いからな」

「み、水瀬くん。彼はまだ……」

「そうですよ!もっと丁寧に」

「細かいところは随時教えていくけれど、大まかな流れは説明した。なら後は好きにやってみるべきよ」

「習うより慣れろってことだろ?上等だ!」

「それで大丈夫なんですか!?」

 

 深く考えていなさそうな2人の発言を心配するミセリアに、奏は笑顔で返す。

 

「大丈夫だって!」

「ですが……」

「俺はバディを信じてる」

「!」

「致命的に間違えそうになったら、店長さんも止めてくれるだろ?」

「まぁねぇ」

「なら、大丈夫」

 

 凛と向き直って、真っ直ぐに見据える。

 

「勝つぞ、このファイト」

「〜〜〜!はい!!」

 

 その姿が、ミセリアには格好良く見えて。

 一歩前に。

 奏と、バディと並び立った。

 

「アタックフェイズ!」

「その瞬間、ガレスをセンターに移動!」

「移動!?」

「『移動』という能力を持ったモンスターは、各アタックフェイズ開始時に、フィールドの空いているところに移動出来る」

「なるほどな。よし、だったらジャイシュでガレスをアタック!」

 

 機械の拳が騎士に刺さり、破壊された。

 そして、アポカリプスから再びソウルが吐かれる。

 これでセンターにモンスターはいない。

 

「ナスルでファイターにアタック!」

「くっ」

 

 水瀬凛 LP6→4

 

「ドーベルマン コボルトで追撃!」

「キャスト!【聖杯(ホーリーグレイル)】!」

「なに!?」

 

 ドーベルマン コボルトの攻撃が聖杯に阻まれて不発に終わる。

 

「『対抗』と書かれた能力は、条件が合えば好きに使える。今使った【聖杯】は相手ターンの攻撃かつ、私のセンターが空いていれば使えるカード」

「なるほどな」

「『対抗』と書かれていない場合は基本的にメインフェイズしか使えない」

「あいよ。そのキャストってのは?」

「魔法や必殺技、対抗の能力を使う時の掛け声とか合図みたいなものよ」

「了解。ターン終了」

 

【聖杯】

 魔法/サイズ_

 レジェンドW

 英雄/防御

  ■相手のターンの攻撃中、君のセンターにモンスターがいないなら使える。

  ■【対抗】その攻撃を無効化する。

 

「私のターン、ドロー!チャージ&ドロー!」

「来るぞ、ミセリア」

「はい」

 

 これから始まる猛攻に身構える。

 

「私はレフトに【円卓の騎士 ガウェイン】をコール!」

 

 凛のレフトゾーンに体格のいい騎士を呼んだ。

 

【円卓の騎士 ガウェイン】

 モンスター/サイズ1

 レジェンドW

 英雄/騎士

 攻撃力4000/打撃力2/防御力1000

 ■このカードが他の《英雄》と連携攻撃した時、そのターン中、このカードは『貫通』を得る。

 

「アタックフェイズ!ローベラとガウェインでコボルトを連携攻撃!」

 

 犬の戦士が、 ガウェインとローベラに叩っ斬られる。

 そこで最後のソウルが、アポカリプスからドロップへ落ちた。

 

「バディファイトにはこういう能力もある。英雄属性と連携したガウェインは『貫通』を得る!」

「貫通だって!?」

 

 ガウェインの斬撃が、そのまま奏を襲う。

 

 響木奏 LP3→1

 

「ぐっ、だがアポカリプスの効果がここで発動するんだよな?」

「えぇ、1枚ドローよ」

 

 言われるがまま、カードをドローする。

 

「ローベラで2回攻撃!」

「少年、その右端のカードを使うんだ!」

「あいさ〜、けど少年はやめてくださいな」

 

 店長に言葉を返して、言われたカードを発動する!

 

「キャスト!【シャルサーナ加護】!」

 

 円形の壁が、ローベラの攻撃を阻む。

 

【シャルサーナの加護】

 魔法/サイズ_

 ダンジョンW

 防御

 ■【使用コスト】ゲージ1を払う。

 ■相手ターンの攻撃中に使える。

 ■【対抗】その攻撃を無効化し、君のライフを+1する。

 

 響木奏 LP1→2

 

「これはどうする?パーシヴァルでアタック!」

「今度は左端だ!」

「うぃっす。キャスト!【カシアードの静寂】!

 

【カシアードの静寂】

 魔法/サイズ_

 ダンジョンW

 防御

 ■君のセンターにモンスターがいないなら使える。

 ■【対抗】そのターン中、次に君に与えられるダメージを3減らす。

 

 パーシヴァルの攻撃を受けるも、ダメージはない。

 

「ターン終了!」

「俺のターン!ドロー!チャージ&ドロー!」

「!来た!」

「店長、これって……」

 

 確認する奏に力強く頷く店長。

 場にはソウルのないアポカリプス。

 既にミッションは達成している。

 そして、さらなるキーカードはたった今この手に。

 

「待たせたな、ミセリア」

「こんなの、全然待ったうちに入りませんよ」

「行くぞ」

「はい!」

 

 ミセリアと拳を合わせて、1枚のカードを取り出す。

 

「キャスト!【ミッションコンプリート“極大魔法 アポカリプス・デイ”】!!」

「今こそ、審判の時。裁きを実行します」

 

【ミッションコンプリート“極大魔法 アポカリプス・デイ”】

 魔法/サイズ_

 ダンジョンW/レジェンドW

 魔王/アースガルド

 ■君の場にソウルのない「裁きのミッションカード “大魔法 アポカリプス”」があるなら使える。

 ■君の手札かデッキから「審判の冷王 ミセリア」1枚までを君のセンターにコールする。

 デッキを見たら、デッキをシャッフルする。

 

「その効果で、デッキから【審判の冷王 ミセリア】をセンターにバディコール!!」

「ナスルはサイズオーバーでドロップに置かれるよ」

 

 ライトのナスルが破壊され、ミセリアが奏を守るように立った。

 そして、バディギフトでライフが回復する。

 

 響木奏 LP2→3

 

【審判の冷王ミセリア】

 モンスター/サイズ3

 ダンジョンW/レジェンドW

 Dエネミー/魔王/アースガルド

 攻撃力20000/打撃力5/防御力20000

 ■このカードは「ミッションコンプリート “極大魔法 アポカリプス・デイ”」の効果以外で場に出せない。

 ■【対抗】【起動】君のターン中、ゲージ2を払い、君の場の魔法1枚をドロップゾーンに置いてよい。

 そうしたら、このカードをスタンドする。この能力は1ターンに1回だけ使える。

『貫通』『ライフリンク10』

 

「さぁ、アタックフェイズだ!ミセリア、ファイターにアタック!」

「いきます!ナイアス・プレッシャー!」

「させない!【聖杯(ホーリーグレイル)】!!」

 

 ミセリアの圧倒的水量の攻撃を、再び聖杯に防がれる。

 

「まだです!」

「ったりまえだ!キャスト!フィールドのアポカリプスをドロップに置いてゲージ2を支払うことで、ミセリアをスタンド!」

「ナイアス・プレッシャー・アゲイン!!」

 

 迫る攻撃に、打つ手がないのか腕をクロスさせる凛。

 だが、そんなことでは攻撃を止めることが出来るはずもなく。

 

「っあああああああ!!」

 

 水瀬凛 LP4→0

 

『GAME END ! WINNER 響木奏!』

 

 システム音声が奏の勝利を告げる。

 こうして、奏の初ファイトが終わった。

 

 

 

 

 

「バディギフトとかミセリアの能力のこと詳しく教えてなかったのに、どうして発動出来たの?」

 

 ファイトが終わって、疑問を奏でにぶつけてみる。

 最後に説明が必要になると思っていたのに、言うことなくファイトが進んだからだ。

 

「ああ、階段で降りてる途中で店長さんに聞いといたんだ」

「なるほどね」

 

 奏の理解力なら、事前に受けた説明と実際のファイトを見れば行動に移せるだろうことは想像に難くない。

 

「まぁ、今日はお互い仮組み同士だったからな。これからも色々教えてもらいたいし、デッキが完成したらまたファイトしようぜ」

「今度は、負けないから」

「おう!」

 

 笑顔で握手する2人。と、凛がその手をミセリアにも差し出す。

 

「え?」

「あなたにも、次は負けない」

「えっと……」

「してやれよ、握手」

「は、はい。こちらこそ」

 

 ミセリアとも握手を終えて、奏たちが帰路につく。

 またな!と言って、ショップを出て行った。

 

「水瀬くん、途中からティーチングだって忘れてたね?」

「ふん……」

 

 図星だったようで、目を逸らして黙り込んだ。

 

 



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転校生は剣客小町!?

またまたファイトなしの日常回、というかファイトに入るまでの前編です。
次回はちゃんとファイトしますよ〜。
…………まぁ、区切ったのはあまりにも長くて1話完結が無理だと判断したからですがね。









 

 

 

「いらっしゃい、だ。ミセリア」

「はい、お邪魔します」

「いや、違うか……」

「奏さん?」

「おかえりなさい、ミセリア」

「はい!ただいまです!」

「おかえりなさい、奏…………と、そちらは?」

 

 響木家に帰った二人を奏の母――響木(ひびき) 初音(はつね)が出迎えに来た。

 だが、見知らぬ客人の登場に首を傾げている。

 

「あ、はい。僕はミセリアと言います」

「まぁこれはご丁寧に~」

「こちらこそご丁寧に……」

「いえいえ、とんでもない」

「まぁまぁ、まずは上がってくれや」

 

 このままではいつまでも続けていそうだったので、二人を促す奏。

 真面目すぎるとこういう時、話が進まないことがあるという一例である。

 

「で、奏。ミセリアちゃんはどうしたの?」

「ちゃ、ちゃん……」

「俺のバディ」

「へぇ、奏のバディ……ってバディ!?」

 

 ありのままを伝えると、大層驚かれた。

 

「今まで音楽しかしてこなかったのに……」

「まぁ、ちょっとした転機があってな」

「でも、バディファイトに関わろうともしなかったのに……」

「それも覆す出会いがあったんだよ。な、ミセリア?」

「はい。改めてよろしくお願いします」

「こちらこそ、だ」

「まぁまぁ!それじゃあ今日はお祝いね!」

「よっしゃ!」

「い、いいんですか!?」

「当然よ!何せ初めてのバディだもの!」

 

 戸惑うミセリアに、何を言ってるのかと言わんばかりに胸を張る初音。

 そこまで自信満々に言い切られると、それが正しいのだと思ってしまうから不思議である。

 

「ちょっと、お母さんもお兄もうるさいよ!」

 

 玄関で騒いでいたら、階段から少女が不機嫌な様子で降りて来た。

 少女の右肩付近には、金の鎧と白い羽根の白龍が、小さいぬいぐるみの様な姿で浮いている。その手にはフルートが握られていた。

 

「ああ、悪かったな鈴音(すずね)

「全く……って、お兄、その子……」

「ああ、俺のバディのミセリアだ。ミセリア、こいつらは妹の鈴音とそのバディのソフルだ」

「正確には【旋律(せんりつ)御使(みつかい) ソードフルート・ドラゴン】ですがねぇ」

「よろしくお願いします」

「か……か…………」

 

 何故かミセリアを見て、カタカタと震え出す鈴音。

 

「す、鈴音さん?」

「またですかぁ……」

「はぁ」

「あらあら〜」

 

 何が何やら分からないミセリアを除いて、その()()の理由を知っている面々は、やれやれと言わんばかりに肩を竦めている。

 そして、その後の展開を予想して心の中でミセリアに合掌。

 カタカタと震えながらのそり、のそりと近付く鈴音の不気味さに、若干恐怖したミセリアが一歩後ずさりした。

 ガシィ!!

 その瞬間を見計らったように肩を鈴音に掴まれる。

 

「ひっ」

「完っ璧じゃない!!」

「え?」

 

 満面の笑みを浮かべる鈴音と、諦観ムードの空気のギャップに戸惑うミセリア。

 何故か、完璧と褒められたことに嬉しさよりも悪寒が先立つこの状況に、目線で説明を求める。

 

「始まりましたねぇ」

「ああ、いつもの病気だ。間違いねぇ」

「か、奏さん?」

「すまんミセリア。多少疲れるだろうが、我慢して付き合ってやってほしい」

「えっと?」

「さぁさぁミセリアちゃん!いやミセちゃん!!」

「ミセちゃん!?」

「あたしの部屋でお着替えしましょうねー」

「か、奏さん!」

 

 なんだかとてもよろしくない話になって来た気がしたミセリアが、奏にSOS信号を飛ばす。

 それを受けた奏は、これ以上何の説明もなしでは、ミセリアにトラウマが刻まれかねないと思い、事情を伝えることにした。

 

「なに、鈴音が作った服を着るだけだ」

「服、ですか?」

「まぁ、アレやコレやと大量に着させられることも多いですがねぇ」

 

 ソフルも経験があるのか、何処と無く哀愁を感じさせる表情で遠くを見やっていた。

 その間も、ミセリアを自分の部屋に引きずり込もうと鈴音は肩から手を離さない。

 

「ぐへへ、こりゃええもんですわ〜。じゅるり」

「奏さん!?本当に大丈夫なんですよね!?」

 

 発言がもう色々とアウト色濃厚になって来たので、涙目で奏に助けてと訴える。

 というか、息を荒くして引きずられるのは恐怖でしかない。

 流石にマズいと思ってか、力付くでミセリアを抱き寄せて鈴音を引き離した。

 

「ほら、いい加減にしろ鈴音。ミセリアは俺のバディだ」

「えー、ケチンボ〜」

「ケチじゃない」

 

 鈴音の頭をペチン、と叩いてからようやくミセリアを家にあげた。

 

「ああ、でもミセリアの服の件は頼むことになるから用意はしといてくれな?」

「ちぇ〜、分かってるよ」

 

 ぶすぅ、とむくれたまま自身の部屋に戻る鈴音。

 おそらく言われた通りに服の用意をしに行ったのだろう。

 

「2人とも、お風呂は沸いてるから入ってきなさい」

「一緒に入るか?」

「ひ、1人で入れます!!」

 

 冗談混じりに言うと、ピシャリと言い切られた。

 奏もそう言うと思っていたので、風呂場に案内してギターを自分の部屋に置きに戻った。

 

「ふぅ……」

 

 自室にギターを置いて、一息つく。

 疲れた様子だが、それも仕方ないだろう。

 なにせ、奏にとっては激動の1日だったと言っていい。

 

「まさか、俺にバディが出来るとはな……」

 

 意外だというレベルではない。

 正に驚天動地。

 小学1年生の頃に受けたトラウマの(ギターを壊された)せいで、モンスターに苦手意識が芽生えてから、バディファイト自体があまり好きではなくなった奏が、ファイトを始めるようになった。

 それは最早、奏の中では事件なのだ。

 

「ミセリアじゃなかったら、どうなっていたことやら……」

 

 それこそミセリアの属性にある魔王そのままのような、禍々しく恐ろしい姿のモンスターであったならば。

 果たして、受け入れてバディを組んだだろうか。

 

「それに、いい出逢いもあったことだし」

 

 店長さんと、水瀬凛。

 あの2人には、きっとこれからもお世話になる。

 デッキを早く完成させたいし、カードの情報も知りたいし、ファイトもしたい。

 

「ま、それもこれも音楽のお陰だな」

 

 今日、あの場所で路上ライブをしていなかったら。

 店長さんが、あそこで転ばなかったら。

 回収し忘れてたパックを、ファンの子が渡してくれなかったら。

 返したパックをその場で渡されなかったら。

 奏はバディを始めていなかったかもしれない。

 だから奏は感謝する。

 出逢いに、親切に、音楽に。

 

「お兄、ミセリアちゃんのパジャマ持ってきたよ」

「おう」

 

 ノックの後、鈴音の声が聞こえたのでドアを開ける。

 手渡されたのは、ピンクの生地の可愛いらしい()()()()のパジャマだった。

 

「鈴音。一応言っとくと、ミセリアは男だぞ?」

「えぇ〜?うっそだぁ、あんな可愛いいのに、男の子なわけが……」

「いやマジで」

「…………ほんと?」

 

 再確認に首肯で返すと、かなりショックを受けた様子で崩れ落ちた。

 

「そんな……せっかく可愛いスカートとか履かせようと思ったのに……色々とアイディアが閃いたのに……」

「まぁ、頼んでOKしたなら女装させてもいいけどよ」

「マジ!?」

「ちゃんと許可とれよ。それとサイズ的にも今日はその寝間着でいいだろ」

「やった!お兄愛してるー!」

「はいはい」

 

 落ち込んだ反動か、ルンルン気分で脱衣所に向かった鈴音。

 いずれ実現するであろう未来の光景に、奏は苦笑する。

 とりあえずは、着替えを用意して風呂に入る準備だ。

 

 

 

 

 

『いただきます』

 

 手を合わせてから始まる、響木家の夕食。

 

「いやぁ、あんまり豪華に出来なくてごめんね。ミセリアちゃん」

「いえ、そんな……」

「いつもより3品は多いだろ。作りすぎじゃね?」

「いくらなんでも多いよ、お母さん……」

「なに、初音殿の料理は美味しいですからねぇ。残す心配はないでしょぅ」

「ミセリア、食べてみ?」

「で、では……」

 

 目の前のおかずをフォークで刺し、口に運ぶ。

 もきゅもきゅ……コクン

 パァアアア!!

 

「お、美味しいですっ!」

「良かったわ〜」

「たくさんあるから、遠慮するなよ?」

「はい!」

 

 目を輝かせて料理を食べるミセリアを微笑ましく眺めつつ、奏たちも食べ始めた。

 

「それにしても可愛いわね〜」

「だよねー、お兄には勿体ないよ」

「おいおい、鈴音。お前にはソフルがいるだろ」

「そうですよぉ、鈴音。あまり酷いこと言われると傷付いてしまいますぅ」

「そうだそうだ。俺のバディを着せ替え人形にしようとしやがって」

「いや、奏さん最初は許可してましたよね?」

 

 ミセリアのツッコミはスルーして話は続く。

 

「でもお兄だってソフルとセッションしてるじゃん」

「アレはソフルがいつの間にか入ってくるんだよ」

「奏殿のバラードは最高に気を高めてくれますからねぇ」

「俺としてはソフルはノリノリの曲もいけると思うんだけどな」

「残念ながら、それは音楽性の相違というものですねぇ」

「うーむ、残念」

「セッション?バラード?」

 

 聞き慣れない単語に首を傾げるミセリアに、自身の話をほとんどしていなかったことを、奏は思い出した。

 

「ああ、ミセリアにはまだ言ってなかったな。俺、シンガーソングライター、つまり作曲して歌ってるんだ」

「あ、ちなみにあたしは、服飾デザイナー兼コーディネーター。まぁ、あたしもお兄もアマチュアどころか素人だけどね」

「いいんだよ。好きでやってんだから」

「そだねー」

 

 うんうん、と頷きあう兄妹2人。

 

「にしても、あのお兄がバディファイトを始めたとはねぇ」

「感慨深いわ〜」

「ええ、私も自分のことのように嬉しいですねぇ」

「そ、そんなに触れて来なかったんですか?」

「まぁなぁ」

「ミセちゃん。お兄ってね、バディモンスターのこと嫌いだったんだよ」

「ええ!?」

 

 ミセリアにとって衝撃の真実が明らかにされた。

 初対面であんなに好印象だといってくれて、ファイトもあんなに楽しそうだった奏が、元々バディモンスターが嫌いだったとは。

 ミセリアは欠片も想像していなかった。

 

「私がここに来た時もかなり警戒されてましたねぇ」

「今でもそうなった原因のモンスターは大嫌いだけどな」

「よく始めましたね、奏さん」

「店長さんたちへの義理立てがスタートだけど、それでもミセリアのことが気に入ったから始めたんだ」

「そ、そうですか」

 

 奏の言葉に対して、そっぽを向いて素っ気なく言うミセリアだが、頬が赤くなっていることまでは誤魔化せていない。

 なんだか、犬が尻尾をぶんぶん振っている姿を幻視した。

 

「〜〜〜!可愛い!やっぱお兄のバディにするには勿体ない!」

「あらあら、娘が増えたみたいで嬉しいわ〜」

「ぼ、僕は男ですよ!」

「くぅ、今のは可愛すぎた…!男とか女とか、もう関係ねぇ可愛さだわ!」

「奏さんまで!?」

「ふぅむ……人間とは、あの様な姿に悶えるのですねぇ」

「ソフルさんも!何を冷静に分析してるんですか!?」

 

 ミセリアが言うも、その雰囲気やら盛り上がりが収まることはない。

 そんなこんなで、ミセリアが響木家に来た初日は騒がしくも明るく過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 するする、という布の擦れる音と人の動く気配でミセリアは目が覚めた。

 

「ふぁ……あぅ?奏しゃん?」

「あ、悪い。起こしちまったか?」

「いえ、大じょぶぁ〜、ぇすよ?」

 

 だが、まだ寝ぼけているのか呂律が回っていない。

 視界もぼやけているのか、奏のいる方向に正確には顔を向けていなかった。

 

「……どうしゃたんぇす?」

「あー、まぁこれから学校に行くんだ」

「かっこう?」

「夕方くらいには帰ってくるから、母さんの家事でも手伝っといてくれ」

「ゆうかた?ゆうがた……ゆ、夕方ですか!?」

 

 言葉の意味を反芻して理解したミセリアが急に起き上がってきた。

 その勢いに、奏は一歩後ずさる。

 

「お、おう。目ぇ覚めたか」

「あ、はい。おはようございます……ではなくて夕方まで、帰ってこないんですか!?」

「俺も高校生だからな。学校には通わなきゃいけないんだ」

「じ、じゃあ僕も……」

「いいけど、規則であんまりその姿ではいられないぞ?」

「そうなんですか?」

「休憩は挟むけど、1日中授業ってのがあってな。その間は授業の邪魔をしないようにカードになってもらうのが規則なんだ」

 

 奏の説明に、しゅん、となるミセリアだが、それも数秒。

 気を取り直して顔を上げる。

 

「それはそれで寂しいですけど……でも、ずっと離れ離れになるよりかは!」

「そ、そうか?じゃあデッキは……バラバラじゃあ無理か。んじゃミセリア、俺の制服の胸ポケットに入ってくれ」

「分かりました」

 

 言われて素直にカードになって収まる。

 寂しがり屋なのかな?と、ミセリアの意外な一面を見た気がした奏であった。

 

「行ってきます」

「いってらっしゃ〜い。ミセリアちゃんは?」

「一緒に学校行きたいってさ。カードになってもらってる」

「あらまぁ〜、じゃあミセリアちゃんも、いってらっしゃい」

「行ってきます」

 

 カードの状態で、声だけで返事をするミセリア。

 

「奏さん、学校ってどんなところですか?」

「んー?面倒だけど、楽しくて、やってられないこともあるけど、辞めたくはならない、って感じかな?」

「???」

「ま、詳しくは着いてからな〜っと、ヤベ」

 

 奏が歩いていた道の後ろからバスが通ったのを見て走り出した。

 

「どうしたんですか!?」

「あれに乗りたいんだ!……けど、無理かなぁ?」

「なら、僕に任せてください!」

「ミセリア?って、うわわ!?」

 

 自信満々なミセリアの声がしたと思ったら奏の身体が宙に浮いた。

 バランスが取れなくて困っていると、ものっそい速さ、としか言いようのない速度でバスに向かって飛び始めた。

 目標のバスすら超える速度で。

 

「ま!?ままままま、待てミセリア!もう追い抜いたから!ここでいいから!?」

「はい!」

「っ!ぐぇええ〜」

 

 奇跡的に、ちょうどバス停の近くで急停止出来た。

 なんとか何にもぶつからずに済んだが、ひやっとしたでは済まされない所業だった。

 これは叱らねばなるまい、とカードを取り出そうとするが。

 

「えへへ、どうでしたか?奏さん」

「あー、うん。次からはもうちょっとゆっくり安全にやってくれ……」

 

 どう聞いても、褒めて褒めて!と笑顔で待っているようにしか聞こえないミセリアに、強く言うことは出来なかった。

 後でソフルにでも教育を頼もう、と決意する奏だった。

 

「乗れなかったら乗れなかったでと思ってたが、 ともかく結果オーライだな」

 

 前向きに考えてバスに乗った。

 

 

 

 電車に揺られること十数分。

 

「これなら、僕と飛んだ方が速くありませんか?」

「あー……っと、また今度、広いとこでな?っとと、すみません」

 

 ミセリアと話していたら、新たに乗ってきた人と当たってしまった。

 電車が少し混んできたようだ。

 座るのも無理そうなので、周りを見て隅の方へ移動するか考えていたら、見つけた。

 奏のものとは違う制服を着た女子を痴漢している男がいるのを。

 見つけた以上は助けるしかない。

 すっ、と動いたところで、別に動いた者がいた。

 

「何しとんのや、この外道!」

「ああ?」

 

 今度は同じ制服の大阪弁だか京都弁だかの女子が、痴漢を糾弾した。

 まるで正義の味方のようだが、やり方はあまり良くない。

 指摘された男は、明らかに苛立った様子で凄んだ。

 

「何がなんだって?」

「乙女の柔肌は、許可なく触れてええもんやない!」

「はあ?何も嫌がってなかったぜ?」

「こんの、ド腐れ外道がぁ」

 

 ハラハラしながら見ていると、その後ろで別の男が動き出すのが見えた。

 咄嗟に身体が動く。

 

「げへへ、まだ1人ーー」

「危ねぇ!!」

「ぐへぁ!?」

 

 体当たりで体制を崩し、転んだところを上に乗って抑え込む。

 

「こんの、離しやがれ〜!」

「離すか、クソ野郎。……ミセリア!」

「はい!」

「バディモンスターだと!?」

「俺の鞄から……いや、こいつを抑えられるか?」

「任せてください!」

 

 言うが早いか、ミセリアが力を使う。恐らく奏を飛ばしたのと同じ力で拘束したようだ。

 

「がぁあ、あ……あ。なんだ、これ?」

「よし、ナイスだ!今のうちに……」

 

 2人目が動けないのを確認して、鞄の中からギターの予備の弦を取り出して、2人目の手足に巻いて確実に拘束を終えた。

 

「これで良し。ミセリア、もういいぞ」

「はい」

「がはっ、くそ!」

「まだ俺がいること、忘れんな!」

 

 1人目の男が、仲間を助けようと奏に襲いかかってくる、が。

 バギィッ!!

 

「ぎゃっ!?」

「ウチがいるんを、忘れんで欲しいわ」

 

 手に持った竹刀を1人目のこめかみに向けて、思いっ切りなぎ払った。

 よっぽど痛いのか、蹲って動けないでいる1人目を再びミセリアと協力して拘束した。

 

 次は〜番台交番前〜。次は〜番台交番前〜。

 

 タイミングよく、交番前のバス停に着くようだ。

 

「うし、ここで降りるか。ミセリア手伝ってくれ。……すいませーん、降りまーす!」

 

 奏が告げると、誰かが降車ボタンを押してくれたらしい。

 ピンポン、と音が鳴り、間も無くバスが停車する。

 

「よし、降りるぞミセリア。それから助かったよ、アンタ。お礼はそのうちするわ。そっちの君も、もう大丈夫だ」

「待ってぇな」

「ままま、待ってください!」

 

 とりあえず、場を収めようと被害者と正義の味方ムーブした女子に一声かけると、揃って待ったが掛かった。

 

「なにか?」

「ウチも降りるわ」

「私も降ります!」

「いや、俺たちだけで大丈夫だって」

 

 交番で引き渡したら遅刻するかもしれないのと、加害者の男たちには近付きたくないだろう、という配慮のつもりだったが、拒否された。

 

「そうはいかへんよ。ウチも関わった1人やし、こっちの子ぉは被害者や。警察に説明するんも早いと思うけどな?」

「そうですよ!」

「つってもなぁ……」

「じゃ、じゃあ、その、条件が!」

「条件?」

「えと……その…………さ、サインください!」

「へ?」

 

 言われて出してきたのは、マジックペンと以前に路上ライブで販売した奏のCDだった。

 キュキュッ、とサインを書いて被害者の女子に渡す。

 大そうな喜び様だ。

 

「きゃー!やった!サインゲット!」

「こんなんで良きゃ、別にいいけど……」

「へぇ、あんさんアーティストやったん?」

「時折、路上でライブしてるだけだ。アマチュアですらねぇ」

「それにしては、やと思うけど?」

「ま、こんな素人の歌で喜んでもらえるならありがたい話だよ」

 

 ともあれ、最初に用件を済ませなければ。

 

「えっと、すみません」

「はいはい……と、これは?」

「バス痴漢と暴漢の現行犯です」

「わ、私が被害者です!」

「僕たちが取り押さえて、ここに連れて来ました」

「はん、証拠なんてねぇだろ?」

「そうだそうだ!」

 

 往生際の悪い2人に、どうしたものかと奏が思っていると。

 

「証拠ならあんで?雪代!」

「はいはーい、お待たせ」

「な、こいつもバディモンスターだと!?」

 

 驚いてる周囲の意に介さず、手に持ったケータイの録画映像を見せる。

 そこには、男が痴漢し、暴行を加えようとし、それらを暴かれて取り押さえられるシーンの一部始終がきっちり写っていた。

 

「うん、確かに。一応、その映像をこちらのパソコンに移させてもらいます」

「はいな〜」

 

 そう言ってケータイを渡し、ドヤ顔で男たちを見る。

 悔しそうな顔で歯をくいしばっているが、自業自得この上ない。

 

「はい、終わりました。ご協力、感謝します」

「おおきに〜」

 

 ともあれ、これで一件落着である。時間は、まだ余裕がありそうだ。

 

「んじゃ、次のバスでも待ちますか。えっと……悪い、アンタのこと学校で見た覚えがなくて……」

「まぁ、しゃーない。ウチ、今日転校してきたさかい」

「マジか。俺は響木奏だ、一応シンガーソングライターやってる。んで、こっちはバディのミセリア」

「ウチは草薙(くさなぎ)菊華(きっか)、京都から越してきたんや。こっちはバディの【()(にん)くノ(いち) 雪代(ゆきしろ)や。共々よろしゅうな」

「こちらこそ」

「はい、お願いします」

 

 バディファイトを始めた奏に、また新たな出逢いが1つ。



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