黄金少女の英雄譚 (Raina-lι)
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第1章 黄金少女は異世界にて画策す
黄金少女の運命の日


初投稿です。
アニメ見てたら急にインスピレーションが湧いてしまったので投稿しました。
なるべくアニメ勢の方にネタバレにならないように書いていきたいですがどうしてもなっちゃう不具合。


明るい日が差す部屋に、机の上で本を枕にして寝る少女がいた。それは、まるで天使が微睡んでるかのように美しく…幻想的な光景であった。

 

「・・・ゴーン・・・ゴーン・・・・・」

 

遠くで鐘の音が聞こえ、少女は体をゆっくり起こした。少女は辺りを見渡し、自分を見下ろし、外のソルス(太陽)を見て…

 

「やっべ、寝過ごした!」

 

美しい容姿にらしからぬ声を発した。

 

アリスside

 

(やばいやばい、遅刻だ!いや遅刻ってかこの世界にはっきりとした時間とかないけどやばい!)

俺は慌てて着替え、洗面所に向かう。

 

誰とも会わずにサクッと洗顔を済ませ、次は台所に向かう。自分のお昼、ではなく2人の幼馴染み兼親友にご飯を持っていくのだ。

 

(まあサンドイッチでいいよな、パンに挟むだけでいいし…)

 

男の料理(今は女だけど)なんだから適当でええやろ、となんか食料庫にあったものを片っ端から挟む。その豪快サンドイッチをバスケットにぶち込んで俺は家から飛び出した。

 

 

俺は爆走した。必ず、かの邪智暴虐の王(2人のお腹)を止めなければならぬ。俺は時間がわからぬ。俺は村の長の子供である。今まで神聖術の勉強しかしてこなかった。しかし邪悪(空腹)に対しては人一倍敏感であった。今日のお昼過ぎ、俺は村を出て丘を越えて家から1里とも離れていない彼らの元に向かった。俺は妹と…

 

(ととっ、見えた…)

 

そんなバカなことを考えながら走っていたら、ルーリッド村の外れに位置する場所、悪魔の樹(ギガスシダー)のある場所が見えてきた。そこでは2人がいつものように寝っ転がっていたが、こっちに気付いたようで手を振り始めた。俺は走る、必死に走り、彼らの元にたどり着き…

 

(ぬおっ)

 

その時俺の体が宙に浮いた。抱えていたバスケットを勢いに任せて吹っ飛ばすと同時に、俺は悪魔の樹(ギガスシダー)の根っこに躓いたことを理解する。そして俺は、空を駆ける刹那の時間、悟りの境地に至った。

 

(これ顔面強打パターンや)

 

「「アリス!!」」

「ぷぎゅ!」

 

 

 

(あれ?痛くない…むしろ暖かくて柔らかいんだけどどこかがっちりしているものに包まれて…何だこれ?)

 

俺はそれを確かめるために手で摘んでみる。

 

「いたっ、頬引っ張るなって、アリス!」

「えっ、あっ、キリト!ごめん!」

 

俺は慌てて上体を起こす。そこにはキリトが頬を染めており、その女顔と相まってなんかいけない感じに…じゃなくて、

 

「えっと、キリト、ありがと…」

「おっ…おう!お姫様に怪我させちゃいけないからな」

「ちょっ、お姫様って…」

「アリスはいつもそそっかしいからね、それに村長の子供だし…」

 

横から話しかけたのはユージオである。彼は俺が投げ飛ばしたバスケットを抱えてくれていた。

 

「あっ、ユージオもバスケットありがとね」

「いや、僕らの大事なお昼だし、うまくキャッチできて何よりだよ」

(大事とか言われると罪悪感が…)

「そっ、それよりアリス、そろそろ降りてくれ…」

「えっと…あっ、ごめん!」

 

(リアルに気付かなかったわ…リアルじゃないけど)

そんなふざけたことを考えて気を紛らわせていた。…頬が染まっている自分のことを考えないようにしながら。

 

 

何だかんだ落ち着き、お昼を食べることにした。

 

「ごめんね、遅れちゃって」

「いや、いつもより早いと思うぞ、なあユージオ」

「そうだね、ソルスはこれから真上になるぐらいだしね」

「あれ?」

「もしかしてアリス、時間間違えたのか?」

 

そうキリトが煽ってくる。その煽りにはカチンときて、

 

「間違えてないし、今日は暑いから貴方達が喉乾いてるだろうとおもっただけですし、おす…ごほん」

「…水なくない?」

「ほえ?」

ほら、とユージオがバスケットの中を見せてくる。中には俺がすっ飛ばしたから更に崩壊したサンドイッチと…あり?

 

「髪の毛もいつもみたいに留めてないし…もしかして寝坊したとか?」

「ぎくっ」

「ああ、だからサンドイッチの中身もごった煮なんだ」

「うう…」

「「まあいつものことだし気にしないよ」」

「うわーん!」

 

2人に頭を撫でられる幼女()。そう、原作のアリスはいかにも2人のお姉さんみたいな感じだったのだが…中の人が違うせいか、なんか妹ポジションに落ち着いてしまったのだ。あっ、CVは同じだよ!綺麗な声だから調子乗って歌いまくったら喉が死んで次の日の神聖術の勉強のときに声が出ないことで父さんにぶん殴られたことがあるぐらい麗しい声だよ!そういや父さんにぶん殴られたことと言えば、1番は男言葉で話したことだね。そのせいで女言葉がデフォになっちゃった。えっ、今朝?事故だよ事故。…誰に話してるんだろう。

 

閑話休題(それはともかく)

 

俺は撫でられていた頭を大きく左右に振り、そのまま立ち上がり、2人に指を突き出す。

 

「とりあえず水!2人共口開けて!」

 

その言葉に口を大きく開ける2人。どこか餌を待つ金魚に見えて笑えたがぐっと我慢し、

 

「システムコール ジェネレート アクウィアス エレメント バースト!」

 

これを唱えた直後、俺の指から水が溢れ出す。これこそが俺の十八番、神聖術である。更に言えば家にあった神聖術の本をもう全て読み終わっており、さらに原作キリトが使っていた概念を知っているため応用もできる、すごい才女なのだ(自画自賛)。…まあ全部英語だから前世の記憶の暴力とも言えるけど。

 

「やっぱり美味しいな、アリスの水」

「そうだね、僕たちが作るのよりよっぽど美味しいよ」

「う、褒めてくれるのは嬉しいけどその呼び方はやめて…」

 

なんか犯罪臭がするんだよね、アリスの水って。

 

2人は水を飲んだ後、俺の作った?サンドイッチを食べ始めた。

 

「うん、いけないことはないことはない」

「どっちなんだい、キリト…」

「うう…」

「そう言うユージオはどうなんだよ」

「…なんとも独創的な味だね」

「うう…(やっぱりまずい…)」

正直落ち込んだ。葉っぱばっかなことは健康的だと思うんだけど、いかんせんマヨネーズが欲しい(この世界にないけど)。11歳の子供の舌は旨味や甘味を要求してやまない。

 

「昨日の夜とかに作り置きしておければいいんだけどな」

「無理だよキリト、そんなことしたら天命が尽きちゃう」

(…ん?)

 

この流れを見たことが…まあ導入は全然違うけどとても見たことがある。そう、この後に続くのは…

 

「氷で冷やしておけばいいんだよ!そのために今度の休み北の山脈に…」

「だめ!」

2人が驚いているがここが俺の正念場(ターニングポイント)である。だって行けば…

 

 

 

アリス・ツーベルク()は死ぬのだから。

 

 

 




アリスちゃん全然転ぶ予定なかったんだけど気づいたら転んでた。な、何言ってるのか(ry



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黄金少女の災難目録

キリ×アリみたいになってますがくっつかないのでセーフ
ユージオは不遇ポジが似合うと思うのはなぜ?(ユージオ好きの方ごめんなさい)


 

アリスside

 

俺はこの日が来るのを恐れていた。当たり前だ、原作が始まったのだから。原作通りならばアリスは禁忌を破り、連れ去られ、最終的に<アリス・ツーベルク>は死ぬ。だが…

 

(また、死にたくない…)

 

そう、俺は1度死ぬ経験をしている。よくある転生トラック、ではなく家に火がついたのだ。その時俺は高校生だった。母子家族であり、2人姉弟。祖母も一緒に同居、というか母方の実家に転がり込んだ、というのが正しい。父は死んでいる。俺が産まれたときに、仕事場から急いで病院に向かっていた最中、暴走車が突っ込んできたのだ。加害者も死亡し、加害者側の100%責任として損害賠償を請求したのだが、結論を言えば、自賠責保険の分までしか受け取れなかった。そのため、母の稼ぎだけでは養育費や生活費のもろもろが足りないと見た母は家を売却し、引っ越したのだ。俺は物心がついたときに、父が亡くなったことを母から聞いた。その時の俺はこう尋ねたという。

 

「なんでお父さんは死んだの?」

 

と。母は後で、その質問の答えをとても困ったと話していた。しかし、その時母はこう答えたという。

 

「偶然よ…暴走車が1番悪いんだけど、そこにたまたまいたお父さんの…そして私たちの運がなかっただけ。貴方が悪いわけじゃないわ」

 

その頃の俺は半分も理解できなかっただろう。しかし母が続けて言った言葉は、今でも鮮明に、母の声で思い出せる。

 

 

「生きなさい、強く生きなさい。生きていれば、いいことが必ずあるから、足掻きなさい。必死に足掻くの。死んだら終わり、何にも出来なくなっちゃうのよ…」

 

 

 

そう、その言葉のおかげで俺はここにいる。

 

 

俺は足掻いた。たとえ皮膚が焼けて爛れても、喉が焼けて息が出来なくとも、涙が乾いて目の前が見えなくなっても、俺は必死に足掻いた。そしてその様子を見ていたものがいる。それこそが俺をここ(アンダーワールド)に転生させたものであり…悪魔である。

 

その悪魔は変わっていた。所謂ラノベにはまっており、神の格好をし、トラックに轢かれた若い人を転生させ、チートを持たせて、調子に乗らせ、だが魔王を倒せるほどのチートではないため殺される、というのが好きな、途方も無いほど趣味の悪い悪魔だった。なぜそのことを知っているのかと言えば、本人(人じゃないが)が偉そうに語ったのである。だが、その悪魔は俺のことを感心していた。死ぬことは火を見るよりも明らか、それでも生きようとするその生への執着心に。だから俺に尋ねたのだ。

 

「俺が好きなトラックじゃないが…転生するか?」

それはまさに悪魔の囁きであり…俺は必死になって頷いた。そして俺は生まれ落ちたのだ、この世界に。悪魔は俺には干渉しないと言っていた。その世界で生きるお前を見たいのだと。しかし…

 

(そもそも割と詰んでね?)

 

アリスになってるってだけで詰んでると思うんだ、俺は。

 

 

「いいじゃねーか、休みなんだし」

「だめ!絶対だめ!だって…ダークテリトリーに行っちゃだめだって禁忌目録にも書いてあるし!」

 

ねっユージオ!と俺はユージオに顔を向けて同意を促す。しかし…

 

「うーん、行っちゃダメとはあるけど、近づいちゃダメとは言ってないよね」

(まさかのユージオの裏切り!あれ?ユージオって(アリス)に惚れてるとかの設定なかったっけ…)

 

と考えたのだが、すぐに理由を思いつく。

 

(絶対(アリス)のキャラが違うからだ…)

 

ここまでやらかしたと思ったことはなかった。 悲報、砲雷援助なし!しかしここで勝たなければ俺は(物理的に)死ぬ!

 

「そうだ!村の掟だと子供たちであの山脈に行っちゃダメってあるじゃない!だからダメよ!」

 

そう、この問いに答えたのはアリスである。つまりこの俺が発言したのだから絶対答えられない!勝ったな風呂入ってく…

 

「それって遊びに行っちゃダメってことだろ。弁当を冷やすってことができるようになれば村のみんなが喜ぶ。だったら大丈夫なんじゃないか」

「それって屁理屈じゃない!」

「いや、ちゃーんと理屈は通ってる」

「ない!」

「ある!」

「ふっ2人とも喧嘩はやめなよ…」

「「ユージオはどう思う!」」

「あっえっと…僕は…意見不表明で…」

 

…一瞬ユージオはいつの間にその単語知ったんだ?と思ったが、直ぐに時折俺が使ってたことを思い出す。

 

「もう知らない!2人で勝手に行ってくればいいわ!」

「ああ勝手にするさ!弱虫アリスちゃんは家で震えてればいいさ」

「ええ、おバカな2人はゴブリンにでも食われてればいいのよ!」

俺は走り出した。キリトがあんなに聞かん坊だったなんて思いもしなかった。俺は最初来た時とは違う理由で顔を赤くし家まで走っていく。…アリスは激怒した。…そういう気分じゃなかった。俺は家にたどり着き、直ぐにベッドに飛び込んだ。

 

 

(ふんだ、キリトのバカ…)




アリスは不貞寝した。


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黄金少女の生存戦略

不貞寝すると言ったな、 あれは嘘だ
アリスちゃんの精神年齢が極端に低いのはデフォ
あと星読術はオリジナルです


アリスside

 

家に戻り、不貞寝しようとしていた俺だが…結局父さんに叩き起こされた。教会の奉仕が嫌で必死になって神聖術を覚えて、やっと午前中の暇を獲得&教会に行くことを防いだ俺だが、家にいてもむしろ仕事は増えるばかり…今日も肉体労働は楽しいなぁ!

 

ついでに言えば、神聖術を完璧にした俺だが、天職は続いており、今は星読術を学んでいる。それ自体は別にいいのだが、星というわけでいつも授業は夜に行われる。夜に勉強はしたくなかったので、美容の敵だ!とか言い訳を考えたこともあったが、流石にヒロイン、無駄に綺麗でピチピチな肌をしてやがる。ついでに言えば前世の知識が全く使えないのもデカイ。偏差値60ちょいの文系の頭が火を噴くぜ!…流石に異世界、まるで星の配置が違う。小さい頃、冬にオリオン座を探したことがあるから確実だ。

 

今日の仕事や授業を全て終わらせ、這々の体でやっとこさベッドに寝転がる。すでにキリトに対する怒りも収まっていた。むしろ喧嘩をし、サンドイッチもどきを最後まで食べることが出来なかったせいで、夕暮れどきの空腹がやばかった。何度作った夕食をつまみ食いしようとしたことか。空腹は素晴らしいスパイスだと心から理解できた日でした、まる

 

(…じゃなくて、これからどうしよ…)

 

1度冷静になって考えてみれば、理想的な流れなんじゃね?と感じる。だって(アリス)がいかないようにできたのは確実である。第1の作戦であった『アリス自宅待機作戦』(俺命名)が成功したのだから。つまりはコロンビアである。勝っ風呂勝っ風呂。

 

(このまま俺がいかないと…どうなるんだ?)

 

だが、俺が考えるべきは次である。転生したときに、過去を振り返るのはやめ、未来を見続けると心に決めたのだ。…断じて男だったときのことを思い出して、今の状態を省み、恥ずかしくなるのをやめようとしたわけじゃないぞ、本当だぞ!

 

(まず、アリス()が行かないってなっても2人は行くはず、絶対キリトノリノリなんだもん。ついでに隠しヒロインとか言われてるユージオも絶対行くだろうな…でも2人は禁忌目録を破らないんじゃないか?)

 

特にユージオは禁忌目録にけっこー縛られてたイメージがある。キリトはたとえ破って連れ去られたところで死にゃしないから問題なし。つまり、みんな死なないので万々歳、まあもちろんキリトはもう少しでお別れかもしれないが、またここ(アンダーワールド)に来たときに歓迎してやろう…あれ?

 

(そういえば何でキリトはここに来たんだっけ?)

 

俺は必死に原作知識を思い出す。そもそも俺の原作知識は18巻までしかない。友人が貸してくれたのを読んだだけだ。しかもそのときにはずっと「キリト(さんかっけー)」とかいう頭の悪い状態で読んだため、実際の知識はほとんどないとも言っていい。そもそももう10年以上ここにいるわけだし、神聖術を覚えるので脳内容量いっぱいだし。よく転生者がメモしているけど理由が分かった。こりゃ覚えてないわ。

 

(そうだ、バイトだ。剣ない事件が起こる前になんかいっぱい話してた気がする。確か菊…何とかさんがキリトに頼んでたんだよな…)

 

アンダーワールドは菊何とかさんと愉快な仲間たちが作ったものである。なぜこの世界を作ったかと言えば…

 

(そう、モノホンAIを作るためだ。そうだよ、だから最初に突っ込んだんじゃないか、モノホンAIになるアリスの中身が人間()じゃ、そもそも原作が崩壊してるだろって!)

 

ばっちり思い出した。この世界、ってか人間界は常時全裸おばさん(アド何とかさん)に支配されていて、実験は…どんぐらい?大体300年ぐらいだったっけ…何の成果も得られませんでした状態だよな。だからこそ不確定因子であるキリトさんを放り込んだんだよ。それでアリスはキリト君のせい(おかげ?)で禁忌を破ったんだ。

 

 

しかしここまで考えた俺は、気づいてしまった。

 

 

(あれ?これキリトが禁忌目録をアンダーワールド民に破らせないとまずいんじゃね?)

 

と。

 

(だってあくまで一般人のキリトさんがこの大規模実験に入ってきてるんやろ?それだけでも実験に対して焦っているのは明白じゃん。もしキリトが何の成果を得なかったら、最悪リセットボタンぽちーじゃね?)

 

まあ確かアド何とかさんにぞっこん(死語)な人がいたはずだから消されることはないと思うが…凍結はするんじゃないか?

 

(そしたら…死んだわけじゃないけど、死んだも同然じゃ…)

 

それに気づいた瞬間、俺の体は震えだす。その体を両手で抱えて、さらに考える。

 

(まだだ、まだセーフだ。そう、誰かに禁忌を破らせればいいんだ)

 

誰か、といっても俺やキリトが影響を与えられる人は限られる。そして最も禁忌を破らせやすくなる時がある人。そう、この考えが浮かんだ瞬間(とき)から心の中で分かっていたかもしれない。誰が、犠牲になるべきか、誰を犠牲にするのか。俺は、その考えが浮かぶ自分自身に失望した。しかし、止まらない。そうだ、俺は…

 

 

 

「ユージオ…ごめんね…」

 

 

 




最終負荷実験を忘れるアリスちゃん


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木樵少年の思考回路

アリスちゃんはチート持ちではありません 念のため


ユージオside

 

次の日、僕たち2人はいつも通り例の木を切って(叩いて?)いた。ただ一つだけいつもと違うのは…相棒(キリト)の機嫌である。

 

「全く、そんなに、否定、する、ことは、ないんじゃ、ないだろ!」

「…キリト、斧振ってるときに話してると舌噛むよ」

「怒、りを、この、木に、ぶつ、けて、いる、のさ!」

「…キリト、今何回?」

「分からん!」

 

僕の相棒は少し(だいぶ?)頑固なところがある。それが分かってるからこそ、僕やアリスは、キリトの意見に酷評こそすれども(アリスは評価することも少ない)、まるっきり否定する事なんてなかった。そもそもその意見も、禁忌や掟のスレスレではあっても、破ることはしないものなので、そう強く否定することもない。だからこそ、僕はアリスの今回の行動を疑問に思っていた。

 

(そこまで反対するってことは、絶対なんかあるよね…確かゴブリンって…)

「疲れた!交代してくれ、ユージオ」

「はぁ、全くキリトは…」

 

キリトは肩で息をしていた。大体昨日の午後からイライラを木にぶつけていたのだし、そろそろへばってくると思っていたら…

 

しかしキリトは斧を渡してくるときに、僕に話しかけた。

 

「でもな、ユージオ。別に禁忌も守ってるんだし、大丈夫なんじゃないのか?しかも今まで一緒に遊んできたのに…」

「うーん、でも今まではっきりと反対してこなかったっていうか、後ろからついてくるだけだったアリスがあそこまで言うのは変だよね」

「おっ、うーん、確かに…」

 

虚をつかれたかように、キリトはびくっと動き、そのまま腕組みをして考え始めた。こうなったキリトは何か思いつくまで動かない。僕はキリトと会話することを諦め、キリトから受け取った斧を握り直し、仕事に向かった。

 

いつものように腕に痺れるような痛みを感じつつ、僕もアリスのことについて考えていた。

 

(やっぱりゴブリンが怖かったのかな?…でもそんな未確定なことを怖がってるんじゃない気がしたんだよね…ほんとに行ったら確実に何かが起こるみたいな…そう、例えば…)

「あーもう!なーんにも思いつかない!ユージオ、変わってくれ!」

「えっ、ああうん、どうぞ…」

 

いきなり大声を出したキリトに驚きつつ、斧を渡した。…キリトの思考放棄は珍しい。

 

やっぱイライラ解消には1番だよな、と言いつつ、そのままキリトは力任せに斧を叩きつける。しかし狙い通りにはいかず、刃の入っていない幹に当たり、逆に弾かれ、後ろに倒れそうになった。

 

「キリト!」

 

僕が手を伸ばして、倒れるのを止めようとしたのだが…いきなり、一陣の風が吹いた。そしてその瞬間、キリトの体が空中で止まったのだ。こんな現象を起こせる人を僕は、僕たちは1人しか知らない。僕たちは振り返り、

 

「大丈夫!?キリト!」

 

駆け寄ってくる金の少女を見た。

 

 

 

「2人とも、ごめんなさい!」

 

と、大きく頭を下げるアリス。その姿に多少驚きつつ、僕はキリトの様子を伺う。キリトも困惑しているようだったが、

 

「こっちこそ、強く当たっちゃってごめんな」

「そうだね、僕たちも悪かったよ」

 

だから顔上げて、と言うとアリスはパッと顔を上げ、

 

「ありがとう!」

 

と、満面の笑みで答えた。

 

 

みんなでアリスの持ってきたお昼を食べる。

「お、今日はパイか、甘くてしっとりしてるのがいいんだよな」

「ふふっ、今日は仲直りも兼ねて焼いてきたんだよ」

「…もしかして許して貰えなかったらパイで釣るつもりだったのか?」

「…ソソ、ソンナコトナイヨ」

「ん、水が冷たい。どうやったのアリス」

「ふふん、熱素を水から離しただけよ?」

「…アリスがいれば氷いらなくないか?」

「確かに…いや必要よ。だっていつもやるのはめんど…えっと、そうそう、神聖術は大事な時しか使っちゃダメってあるし!」

「…そんなこと全く無視して使ってない?」

「…えへっ」

 

全く誤魔化しきれてないアリスに白目を向けつつ、僕たちは手を早める。パイはどうしても作る過程が長いため、足も早いのだ。急いで食べ終わった後、キリトはアリスに尋ねる。

 

「結局、アリスも行くってことでいいんだよな!」

「え、ええ。よろしくね」

 

よっしゃ、とガッツポーズ(アリスがそう言っていた)をとるキリトを横目に見つつ、僕はアリスに気になっていたことを尋ねた。

 

「なんであんなに否定したんだい?いつもは二つ返事じゃなかった?」

「おっ、そうだぞアリス。それに、例えゴブリンが出てもアリスなら瞬殺できるんじゃないか?」

 

2人に迫られて困っていたアリスだったが、キリトの言葉には否定しつつ、ぽつりと答えた。

 

 

「えっと、その…氷のおかげで貴方達が家からお弁当を持っていくようになったら、私いらなくなっちゃうかなって…」

 

 

 

頬を染め、下を向くその姿は青年一歩手前にある少年達の庇護欲を掻き立てるには充分過ぎるものであった。2人の少年はアリスの頭を撫で、アリスの必要性を必要以上に語ったという。

 

アリスの心情を知らないが故に。




一人称視点×日常回=伏線乱立


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黄金少女の洞窟探検

洞窟探検の部分は原作と変わらないため殆ど端折ってます


仲直りをしたその週の休息日、その早朝、まだソルスが顔を出して間もない時間の台所に、エプロンドレスに身を包む少女がいた。その少女は眠たげな表情で、口だけを動かしている。それでも台所の食器や調理器具が、誰の手も触れずに、まるで意思を持つかのように動いていた。そんな事ができるのはいくら広いアンダーワールドの中でも1人しかいない。それは、かの世界の管理者さえも…そしてその管理者を倒そうとする世界の擬人化である存在も、その領域までは至っていない、正しく神業であると言えよう。そう、その神の如き力を息をするかのように行う少女は…

 

(アリスのアは、愛人のア、アリスのリはNTRのリ、アリスのスはストーカーのス、3つ合わせてア・リ・ス☆)

 

やっぱりその可憐な姿に似合わない思考をしていた。

 

アリスside

 

(よし、後は水を入れて…熱素を離す神聖術を唱えて…神聖術半端ないって!あいつ半端ないって。冷蔵庫とかなくてもずっと冷やしてられるとか、そんなんできひんやん、普通)

 

いつも通りふざけた事を考えながら、お弁当を用意する(アリス)。最初の頃は毎日ご飯持っていくとか通い妻じゃね、とか思っていたけど、キリトもユージオもそんな気が一切無いようで安心している。ただ、もしキリトが色目使ってきたら抜刀妻様に報告するつもりだったので、逆につまらなく感じていたりもするのだが…

 

(大体朝早すぎなんだよ、なんだよ鐘が鳴り始めたら出発するって。そりゃあんたらの仕事は木を朝から晩まで叩くだけやから、朝起きるのにも慣れてるだろうさ。だけどうちの仕事は夜にもあって、いつも起きるのは午前の真ん中らへんなんや。その事を考慮してくれんとあかんと思うんやけどな)

 

そんなエセ関西弁(元東京民)を炸裂しつつ、お弁当を完成させる。ていうかその時間に設定したのは何を隠そうこの俺である。時間を変更したら例の戦いを見れなくなっちゃうかもしれないが故の、苦渋の決断であった。

 

(よし、準備完了!)

 

「いってきま〜…寝てるんだよね、こっそりと…」

 

俺は静かに出発した。時間は…結構ギリギリである。ぶっちゃけ何時に動き出したかなんて細かい描写を忘れてしまったので、余裕を持っていこうとか心の中で思っていた気がするけど気のせいだったぜ☆。

 

ちょっと足早に移動し、約束した村はずれの木のところに向かう。そこには既に2人が待っているのが見えたため、その瞬間ダッシュした。

 

「おまたせ、2人とも!」

「おはようアリス、そんな待ってないぜ」

「おはよう、じゃあ行こうか」

 

2人は俺の荷物を持ってくれる。こういうのは女の特権(偏見)だと思うので、ありがたく2人の気遣いを享受することにしている。俺は北の山脈を指差し、軽快に宣言した。

 

「それじゃ、しゅっぱーつ!」

 

 

特に言うこともなく、例の洞窟に到着した。実際、洞窟に近づく道は()()()ことがあるため、さくさく進んでいけたのもある。俺は洞窟を覗き、光源を作り、ついでにユージオの背中に引っ付いた。

 

「ユージオ…怖いから、前にいて…」

 

これが俺の必殺戦術(タクティクス)、その名も『ぶりっ子大作戦』(俺命名)である。説明しよう!この作戦はこのヒロインたる容姿を活かして自分の望んだ状況を生み出すのだ…

 

「そう言って僕を最初に行かせる気なんだろ…」

 

(あっれれぇ?)

 

この俺のたくてぃくすが敗れるだと…なっ、なぜだ!

 

「まあ、お姫様の頼みだし、仕方ないんじゃないか?」

 

ニヤニヤしているキリトからの援護射撃!ちょっとその笑い嫌だけどナイス!てかニヤニヤすらカッコいいなんてイケメンはずるいなぁ!

 

「はぁ…全く、しょうがないなぁ、キリトは1番後ろから来てね」

「おう、任された!」

 

…結局この作戦は成功したのか?と、疑問に思いつつ、進んでいく俺なのであった。

 

ユージオside

 

「なあ、2人とも寒くないか?」

 

と、後ろのキリトが話しかけてきた。

 

「えっ、別にそんなことはない気がするんだけど…」

 

僕がそう返して首だけキリトの方を向くと、腕をさすって震えている様子が見える。なんでだろうと首を傾げていると…

 

「あっ、それ私がユージオにくっついてるせいだ…」

 

と言ってアリスが離れた。その瞬間、僕も強烈な寒気を感じた。

 

「えっ、こんな寒いの、待ってアリス、何したの…?」

「えっと、入り口のとこで寒いなって思ったから外で熱素集めてた…」

 

てへっと笑うアリスにキリトはやはり白目を向ける。

 

「なーんで自分だけ温まろうとしたんですかねぇ…」

「キリトのこと忘れてた…いひゃいいひゃいほっへひっはるのひゃめて!」

 

頬を引っ張るキリトに同情しつつ、僕は2人をなだめる。

 

「ほら、もうやめなよ。アリスはキリトにもあったかくして…」

 

その言葉を受け、2人は離れてすぐにアリスが複雑な術式を唱える。そうしたらすぐに、

 

「おっ、全然違うぞ、全くアリスは…」

 

えへへと言いながらアリスはまた僕の背中にくっついた。そのおかげで僕もすぐに暖かくなる。それじゃ、いこっ!っとアリスに耳元で囁かれた僕は、先の見えない恐怖とは違うドキドキを感じた。

 

アリスside

 

ちょっとした俺のやらかしがあった後は原作の通りだった(と思う)。竜の骨や青い剣やらを見つけて、ついでに氷をゲットし、帰りに迷って、ダークテリトリー一歩手前まで来れた。

 

「ここは…ダークテリトリー…」

「ねぇ、引き返そうよ、みんな。まずいんじゃない?」

(引き返すと別の意味でまずいんですけど…)

 

とか悪いことを考えていると、空に急に白い竜とそれに乗る騎士、所謂整合騎士と黒い竜に乗る騎士、つまり暗黒騎士が現れ、戦い始めた。

 

(やったぜ、時間とか違っても現れてくれる歴史の調整力ってすげー!)

 

そんなことを考えている俺の前と横の2人は、その戦いを食い入るように見つめていた。やっぱり男の子なんだろうな、とか考えつつ、俺は詠唱を開始し、タイミングを計っていた。そう、ユージオをダークテリトリーに入れるタイミングを。

 

暗黒騎士は地に落ち、俺たちのすぐ側に墜落した。そして騎士さんが俺たちに手を伸ばした瞬間、俺は術式を展開した。

 

「ディスチャージ」

 

その瞬間、前方のダークテリトリー側にある空間の空気を取り除かれる。そして、それにより、俺たちに強風が発生した。そう、これこそが俺の考えた最強の作戦、『吸引力の変わらないただ一つの神聖術』(俺命名)である。

 

「うわ!」

「のわ!」

2人は強風に煽られ、バランスを崩す。そうだ、そのまま入ってしまえ…

 

 

 

 

 

俺はこの作戦を考えた自分を殴りたい。なぜなら…

 

 

 

 

2人はその場で転ぶだけで、(アリス)だけがダークテリトリーに入ってしまったのだから。




ガバガバ作戦アリスちゃん


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黄金少女の夜間逃走

←ここまでシリアル これからシリアス→
ここキリアリ↓


人界暦372年7月、3回目の休息日、その日の夜に家の窓から空を見上げる少女がいた。部屋の中には光源はなく、外の星の光だけが少女の体を照らし出す。明かりが少ない状況でも、その金髪はまるで自ら輝く夜空の星のように美しい出で立ちであった。その顔はどこか物憂げであり、落ち込んでいるようである。それもそのはず、その少女は…

 

(やらかした…俺のバカ、バカバカバカ!)

 

本気で落ち込んでいるのだから。

 

アリスside

 

(なーんでユージオ君飛ばないのさ、てか誰がこんなアホみたいな作戦考えたねん…俺だ俺だ俺だー!…はぁ…)

 

いつも通りアホなことを考えている俺だが、今回は真剣に考えていかなきゃならない。例の吸い込み大作戦が失敗に終わり、俺は元老に目をつけられたのだから。

 

(このまま明日が来たら…俺は整合騎士さんにハイエースされてドナドナやろ、そしたらなんかピエロみたいなやつに身体(脳)を弄ばれて俺の純潔が奪われると…絶対いやだ!)

 

俺の純潔とかちょっと臭いけどそんなことは言ってられない。ほんとに俺の人生、俺が俺として生きる人生に終わりを告げてしまう。

 

(まだだ…まだ終わらんよ。そうだ、やってきた整合騎士を倒すとかは?…いや、ないな。いくらSC権限が()()()()()()としても、やつらには神器やら心意とかあるし、ついでにリリリコもある。まじめに戦ったら確実に負けるだろうな…)

 

俺の今の実力では返り討ちにあう。そのことを冷静に分析した俺は、次の案を考える。

 

(なら逃げ出すとかは…?でも、どこに逃げるよ?だってどこに行ってもアド何とかさんの部下達に見つかるんじゃね?だってあの時変な白い顔のおっさんが顔出してたし…)

 

俺はダークテリトリーにすっ飛んで行ったときに現れたやつが、なんかブツブツと英語(神聖術)を唱えてたのを思い出す。やつらは人間じゃない(それを言ったら俺とキリト以外人間じゃないけど)ため、誤魔化し方を知っていたけど、あの状況では不可能であった。

 

だが、俺は思い出す。この詰みかけの状況を打破する、ある事実を。

 

(あれ、そういえばあいつ、俺の方を見てたけど、俺の近くじゃなくてキリト達の方にいたよな。そして、人間はダークテリトリーには入ることができない…つまり監視するのは人間界だけ?)

抜け穴、というよりは発想の逆転である。そう、逃げる場所をわざわざ人間界に考えていたけど、それは間違いであった。つまり、俺は…

 

(ダークテリトリーに行こう、そこで村とか支配して平穏()な日々を送るんや!)

 

とても物騒な作戦を立てたのである。

 

しかし、そのことを考えた瞬間…

 

俺の右目が疼いた。

 

 

俺は真夜中、キリトの部屋の扉を開ける。そもそも泥棒なんてアンダーワールド、というか人間界に存在しないため、鍵なんてついていない。こっそりとキリトの寝ているベッドに向かった。

 

(ふふふ、気持ちよさそうに寝てる…だけど起きてもらわないとね♪)

 

俺は神聖術を展開した。その神聖術は、風素を使う技である。ぶっちゃけ風素とか言ってるけど、これは空気を操る技であり、なんでも応用が利くすごい素因なのである。もちろん、普通の人は手から風を出すだけになるだろう。しかし、俺の秘儀、空間掌握と、人間の秘儀、義務教育にかかれば…

 

「キリト!!起きて!!」

 

キリトだけに音を伝えることも訳ないのである。

 

キリトside

 

「ぅおきてぇぇぇぇ!!!!」

 

と、耳元で大声で叫ばれた俺は飛び起きた。そのままベッドから転げ落ち、強かに床に頭をぶつける。

 

「あっ!ごめんキリト!大丈夫!?」

「ちょっとアリス、黙って…」

 

何か知らないけど、神聖術を使っていることは確実だ。普通の声でも大きく聞こえて頭がガンガンしている。アリスもそれに気がついたようで、すぐに神聖術を切った。…切るときも響いてうるさかったが。

 

「で、どうしたアリス、こんな夜中に…」

 

と、俺が呟くがすぐにその真意に気づく。なぜなら、アリスがしっかりとした外出用の服、つまりはズボンや長袖シャツを着ていたためだ。だから、つまり…

 

「一緒に逃げ出してほしいの、お願い、キリト」

 

俺はアリスに、そう、頼まれた。

 

 

「えっと、どこに向かうんだ?そもそもなんで俺だけ…」

 

俺はアリスに手を繋がれ、夜道を歩いていた。どこに向かう道かも俺には分からない。しかしアリスは、しっかりとした足取りで、ガンガン進んでいた。

 

「えっと、ダークテリトリーに…痛っ…あっちの方!」

 

そうアリスが指した方角は、今日の昼に向かった方、つまり例の洞窟があるところである。

 

「大丈夫なのか、あっちに行って…」

「一緒に来てくれるって言ったのはキリトじゃない、もう…」

「まあ、そうなんだけどさ…うん」

 

俺たちがアリスに禁忌目録を破らせたのは確実である。いきなりの強風に煽られたときに、あの中で一番軽いアリスを守らなかったのは、俺たちの責任だ。だからこそ今はアリスについて行ってるのだが…

 

「でも、ユージオも呼んだ方がいいんじゃないか?嫌がるとは思うけど、責任とか感じてるだろうし、戦力としては…」

 

そう俺は提案した。正直2人でダークテリトリーに行くとかは、怖いし、辛いものもある。だからこそ、俺の相棒を呼ぶことを提案したのだが…アリスは足を止め、俺の手を両手で握り、上目遣いで俺の顔を見た。

 

「私はキリトがいいの。キリトは私と一緒じゃ、いや…?」

 

その瞬間、俺の頭は真っ白になった。かつてここまで俺の幼馴染を可愛いと思ったことはなかった。頬が上気し、どこか不安そうに揺り動かす瞳、俺のことを伺うように見上げ、首をかしげるその仕草、そして俺の手を胸の真ん中で抱きしめる姿は、まさに天使のようであった。だからこそ、俺は言ってしまった。

 

「そ、そんなことないさ。一緒に行こう、アリス」

「うん!」

 

 

俺はアリスに連れられ、例の洞窟を抜け、午後に来たダークテリトリーの前までついた。全然迷わないアリスに理由を尋ねたら、星読術の基礎、位置把握だよ、と言っていた。…やはりアリスは才女である。そんなアリスを村から逃げ出させることになったのは、俺たち、いや、俺のせいである。俺は落ち込んで謝ったが…

 

「ううん、キリトと一緒にずっと居られるようになるんだし、私は嬉しいよ」

 

そう返してくれた。この娘はいつまで俺の心を離さないのだろうか…

 

「ここからがダークテリトリーね…」

「ああ、いよいよだな…」

 

そして、一歩を踏み出そうとするアリス。しかしアリスは急に右目を抑え始めた。

 

「うう、やっぱ痛い…」

「どうした、目を痛めたのか!?」

 

慌てる俺にアリスは左手で制す。

 

「この程度、痛いのは分かってる…後は私の心意気だけ…」

 

アリスはブツブツと独り言を呟く。そして…

 

「ああっ!」

 

と叫び、アリスの右目が()()()

血をダラダラ流すアリスに、俺は寄り添う事しか出来なかった。しかしアリスは…

 

 

「お願い、キリト…連れて行って…」

 

 

俺は、アリスを背負い、ダークテリトリーへと歩き始めた。

 

 

アリスを守る、その信念も背負って。

 




小悪魔系幼女アリスちゃん
…11歳を幼女と呼ぶのはどうなんだろうかと最近悩み始めた


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閑話
永遠少女の殺害予告


見た目は美少女、中身はBBA その名は、管理者クィネラ!
またの名をアド何とかさん


人界暦372年7月22日、セントラル・カセドラル、その最上階にて、とある少女が目覚めた。それは少女と言っていいのかどうか、かの精神が男のアリスよりも疑問に思われるほどに、歳を重ねている。しかし、その容姿は、端正かつ優雅、まさに神のように美しいものであった。その名はアドミニストレータ、世界の管理者である。本当の名前は、別にあるのだが…

 

彼女が起きるのは、とても珍しい。ライトキューブの記憶容量が限界に至っているが故に、なるべく新しい情報を捉えず、そして寝ているときに、情報を整理するため、彼女は悠久の眠りについているのだ。公理教会最高司祭としての仕事は、殆どは元老長のチュデルキンに任せてある。その彼女、世界の管理者が目覚めたということは…

 

世界の時が動き始めたことでもある。

 

彼女の脳は、世界、つまりはカーディナルシステムのメインシステムと接続している。そのカーディナルが、ある一つの魂、フラクトライトの、世界からの脱出を捉えた。そのこと自体は不思議なことではない。もともと外の世界の人間からそのことについて説明を受けていた。もちろん彼女本人に、ではなく、カーディナルシステムそのものに、ではあるが。しかし、彼女が疑問に思ったのは、その期間が短くなっていることである。よって、彼女は解釈した。

 

(実験は成功した。つまり…異端者を排除しなければ…)

 

彼女は目覚めた直後、英語(神聖術)を唱える。そして、彼女はあるディスプレイ—ステイシアの窓ではない—を呼び出した。そこに向かって何やら話し始めた。

 

「ねえ、チュデルキン。ここ最近、違反者が出た?1()()? そう…逃げた?どこに?ダークテリトリー…へぇ、考えるじゃない。 いや、なんでもないのよ、あなたは違反者を追えばいいの。あなたの、そして私の自慢の騎士がいるでしょう。そいつらに追わせるの。ええ、その子は世界を崩壊させる危険があるから…ええ、頑張ってね。え?夜?…そうね、考えてあげてもいいわよ…じゃあ、よろしくね」

 

そうして、彼女は画面を消した。彼女は、もう一度寝転がり、考え始めた。

 

(今まで、確かに禁忌目録を破った者もいる。しかし、そのいずれも、逃げることまでは考えなかった…さらに言えば、ダークテリトリーに行くなど…そこまで強烈な自我を持つ個体が現れるなんてね…)

 

実験は正しく成功、外の人間は大喜びだろう。しかし…彼女にとっては、死活問題であった。そのものの活動を止める、もしくはシンセサイズの秘儀を行わなければ、この世界は、かの少女以外は捨てられる。彼女は、世界の管理者として、動かなくてはならない。

 

 

 

(アリス・ツーベルク…あなたを、抹消する)

 

 




ラスボスにまでモテモテアリスちゃん




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第2章 黄金少女は暗黒界にて花開く
黄金少女の自宅確保


真面目な話に紛れ込むネタ(面白いとは言っていない)


アリスside

 

…俺は、目覚めた瞬間、夢であることを確信する。まあ、なんていうか…()()があるからだ。明るい日差しに目を焼かれ、俺は手で顔を覆う。そのとき俺に、ある()()が話しかけてきた。

 

「おはよう、○○○君。どこまで読んだかな?…もうUW(アンダーワールド)まで読んだ?」

 

俺は黙って首を振る。…俺の夢なのに、思い通りに声が出ない。

 

「そっか…でも、読んではくれているよね?」

 

それには頷く俺。その少女は、まるで大輪の花が咲いたように、明るい笑顔を俺に見せる。

 

「そっか、まあ自分のペースで読んでね。いつでも貸してあげるんだから!」

 

その子は、俺にそう言ってくれていた。俺はその言葉に同意するように、枕元にある本を開く。

 

しかし、俺は、()()()その本を読むことができない。

 

その夢は、そこで覚めてしまうのだから。

 

 

俺は、目を開ける。しかし、視界を取るのは左目だけだ。

 

(知らない天井だ…じゃなくて、ここどこ?)

「起きだかい?」

「ぬえっ!」

 

俺は汚らしい悲鳴をあげた。俺はすぐに声が聞こえた方向を見て、ついでに神聖術の詠唱式も頭に浮かばせる。そこには…

 

ちょっと汚いポンチョに身を包んだ、オークがいた。

 

 

「おばあちゃん、このスープとっても美味しいよ!」

「そう言っでもらえるの、嬉しいだよ」

 

俺は、おばあちゃん…ルミダという名前らしい…に、ベッドの上でご飯をご馳走になっていた。ここは一軒家。玄関を開けたらすぐキッチンとダイニング、おまけに寝室、というかベッドが2つ並んである1(0?)DKだ。おばあちゃん曰く、俺が村の目の前で倒れていたところを回収したとのこと。ついでに右目に包帯、というより当て布をしてくれたらしい。俺の記憶は、キリトにおぶって貰い、連れてくようお願いしたところで途絶えている。

 

「おばあちゃん、私のほかに倒れている人とかいなかった?」

「んー、いなかだように思うんだんど…どうしだんだい?」

 

なんでもないと頭を横に振りつつ、俺は考える。

 

(そうか…キリトはもういなくなっちゃったのか…)

 

もともと分かってはいたが、どこか喪失感も感じる。そもそもキリトがこの世界からいなくなっちゃうのは重々承知、だからこそキリトだけを連れて行ったのだけど…

 

(やっぱり俺だけキリトの記憶が残ってる…さっすが転生、俺最強)

 

そう、アンダーワールド民は、キリトの実験が終わった後、キリトに関する記憶を消去、というよりブロックされる。だからこそユージオは、(アリス)だけがダークテリトリーに行ったと思うわけだ。アフターサービスもバッチリな俺、保険会社開けるんじゃね?…まあ、俺の記憶がブロックされるかは、賭けだったけど。ぶっちゃけキリトを連れて行ったのも、囮として使えるかな〜とか超ゲスい理由だったりする。(アリスちゃん)マジ悪女。

 

「ごちそうさまでした!おばあちゃん、ありがとう!」

「ふふ、ええんだよ。みんなでだすけあわねぇど」

 

その言葉に俺は疑問を感じた。

 

「あれ?ダークテリトリーって確かいつも喧嘩して奪い合うって…」

「それはだいぶ昔の話だね。私だぢの村は、みんなで力を合わせるっでしだんだよ」

 

それに続いて、おばあちゃんは俺にたくさん話してくれた。

 

「初めの頃は奪い合って生きでいだんだよ。だけんど、戦いをしでも、意味がないっでことに気づいだんだ。1人殺せば、その分作れる量も減る。ここはどぢも貧しいし、ソルスも少ない。そんななが生きていくのには、やっぱりだすけあうのがいぢばんなんだよ」

 

オークであるがゆえに、ちょっと聞き取りずらかったが、しっかりとおばあちゃんが言いたいことを理解できた。その中で、俺ははっきりと感じた。

 

(ああ、この人たちも生きているんだな…この世界に。自身がオークだとしても、ダークテリトリーだとしても、諦めることもなく…)

 

俺のイメージしてたオークとはだいぶ違っていた。どうしてもR-18なイメージがあったのだが、ここの、この世界のオークという種族は、きちんと、正しく生きていこうと考えていることがわかり、俺は村虐殺作戦を考えたことが恥ずかしくなった。

 

「おばあちゃん、ごめんね…」

「ん、どうしだんだい」

「あのね、オークってだけで、私偏見持ってたの、だから…」

 

おばあちゃんは俺の頭を撫でてくれた、

 

「いいんだよ、私だぢのオークは、他の種族にはうどまれる存在なんだから…」

「えっと、私はおばあちゃんのこと、好きだよ…」

「ふふふ、嬉しいこど言っでくれるじゃないか。いい子だね、アリスちゃんは…」

 

俺はおばあちゃんに抱きついた。おばあちゃんに包まれた俺は、とっても大きくて、すごい温かく、気持ちいい感覚に襲われていた。俺はだんだんと眠くなってきた。しかし…

 

「母さん、今帰っだだよ。今日は大きな獲物が…おや?」

 

いきなりとても大きい人、いやオークが鹿っぽい何かを肩に背負い、家に入ってきた。俺はびっくりして、おばあちゃんの背中に隠れたのだが、おばあちゃんは俺の頭をその大きな手でポンポンと叩き、心配しなくでいいよ、と言ってくれた。

 

「これはランダパル、私の息子だよ。そんで、この子はアリスちゃんっでいう名前だよ」

「これっで…まあよろしぐな、アリス」

 

彼はにっこりと笑い、俺に右手の伸ばし、握手をしようとしてくれている。俺は、おっかなびっくり、その手を握った。

 

「はっはじめまして、ランダパル…さん?えっと、よろしくお願いします!」

「ははは、元気のいいごだな、…白イウムとは、初めで見だだ」

 

ボソッと呟くその言葉に、俺は恐怖を感じた。どこか食べられるような感じがして。食べても美味しく、美味しく…美味しいのかな?

 

「これ!ランダパル、アリスちゃんを怖がらせるこどを言うんでない!」

「おっど、すまんなアリス、心配しなくでもどっでくっだりはしないだよ」

 

俺の頭を撫でるランダパルさん。…俺の頭、すごい人気である。そんなに俺の頭って撫でやすいのだろうか。確かにお風呂に入らなくてもCMのファサーができるヤベェキューティクルだけど。

 

「えっと、大丈夫です。むしろ怖がってごめんなさい…」

「アリスが謝るひづようはないだよ。まあ、オークは人間に比べたら醜くて恐ろしい見だ目だろう…」

「そんなことない!」

 

俺はランダパルさんの言葉を遮りながら言う。ランダパルさんは驚いていたけど、俺は、俺の気持ちをはっきりと伝える。

 

「たしかにランダパルさんに最初はびっくりしちゃいましたけど、醜いなんて思ったことないです!確かにおっきなお顔とか背丈とかは怖かったんですけど、今はむしろカッコいいです!そのすごい筋肉で動物とかバッサバッサなぎ倒していけるなんて、人間にはできないですし、ランダパルさんが今背負ってる動物も人間だったら2、3人は必要なのに、1人で持ててるじゃないですか。ほんとにすごいと思います。それにすっごい優しいです!私のような見ず知らずの、しかも多種族の者を助けてくれるなんて、非情な人間には決してできません!それにそれに…わわっ」

 

おばあちゃんが俺の体を持ち上げ、膝の上に乗せてくれた。途中で遮られた俺はつい振り返って、頬を膨らまし、おばあちゃんを睨んでしまう。

 

「アリスちゃんは優しいだね、こんなにうぢのバカ息子を褒めでくれるんだから」

 

ほら、見でごらんと言われ、俺はランダパルさんを見た。そうしたら…

 

「わわっ、ランダパルさん、泣かないで!」

「いや、アリスは優しいんだな。どっでも嬉しいだよ。今まで他の種族にバカにされづづけだんだから…」

 

俺はランダパルさんの頭を…全然届かないから膝を叩いてあげる。俺がポケットから出したハンカチを彼に渡した。彼は目を拭い、俺にしっかりとした表情で、話しかける。

 

「アリス、ありがどな。元気が出だだ。…アリスはあっちに帰りだいんだか?」

 

俺は首を横に振る。

 

「だっだら…ずっどここにいでもいいだよ」

 

俺は驚き、おばあちゃんの顔を見る。おばあちゃんはにっこりと笑い、頷いた。だから、俺は…

 

「よろしくお願いします!ランダパルさん!」




こんなに優しいオークの家に入れるなんてすごい幸運ダナー

ワールドエンド・オールターに行ってログアウトすれば良いとかはナイショ


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黄金少女の意識改革


最初はタイトルを偶像活動にしてたけどあまりに伸びたためたどり着かない事件


それは、昔、というにはちょっと微妙な、80年ほど前のお話です。オークの集落では、人界を侵略する計画が立てられていました。オークという種族は、ほかの種族から虐げられており、ダークテリトリーのトップが一堂に会する十侯会議でも、立場が弱いものでした。そのため、侵略の第一陣という最も危険なことをオークにやらせようとしたのです。また、平地ゴブリンに次いで人界に近い集落が、オークなのであることも、白羽の矢が立ってしまった要因として挙げられています。ともかく、それにより村単位の人数が選ばれ、侵略軍…いいえ、死を決められた軍、まさに決死軍が作られてしまったのです。この軍に入ると、死ぬ事が分かっているため、オークの中でも上の地位に立つ者は、自分の代わりに、奴隷のオークを行かせることにしました。…トップのオークも、死ぬことは分かっていたため、このように、奴隷を代わりに行かせる制度を採用したとも言われています。その生贄となる奴隷は男だけではなく、女性や子供も入れていい、ということになっていました。そのため、とあるオークの奴隷の少女、ルミダもその軍として、死にに行くことが決まってしまいました。

 

その戦いは、戦いとも呼べない、完全なる蹂躙でした。人界とダークテリトリーを分ける厳しい山脈のところに、圧倒的な力を持つ、整合騎士が待ち構えていたのです。オークの軍は、人界に入る前に過半数を殺され、オークたちは命からがら逃げる事しか出来ませんでした。そして、逃げたオークの集団、かつての侵略軍として進み始めた時よりも大幅に減ってしまった生き残りの者たちが、この村を作ったのです。オークは、人界の土を踏むことはありませんでした。…ただ1人、ルミダを除いて。

 

ルミダは、整合騎士から逃げるときに、たまたま山脈の洞窟に入り込みました。その洞窟を抜けると、今まで感じたことのない、心地よい暖かな風や澄んだ空気、包んでくれるようなソルスの光を全身に受け取りました。そこは、まさしく彼女にとって、そして暗黒界(ダークテリトリー)に住むどの種族にとっての桃源郷だったのです。しかし、すぐにその考えは改められてしまいました。森の中を進み、川の魚を見ていた彼女の近くに、白い顔をした人間が現れたと思った矢先、整合騎士がルミダを追ってきたのです。彼女は必死になって逃げました。森を駆け、山を越え、転んだり、整合騎士の矢による狙撃を背に受け、傷だらけになりながら、もともと人界に入ってきた洞窟に戻ってこれました。しかし、その洞窟には、先程は気づかなかった先客がいました。その先客とは、とても小さい、今のアリスよりも小さく、細い体を有し、眼鏡をかけた少女でした。その少女は、その洞窟で、なにかを探しているようでした。ルミダは、その少女に気づいたとき、逃げ出そうとしました。しかし、洞窟の床にあった氷では、ルミダの体重を支えることが出来ず、それを割ることで音を出してしまい、その少女に気づかれてしまいました(ルミダの名誉のために説明するが、彼女はオークの中では小柄ではあった。あくまでオークの中では、であるが)。しかし、その少女は、オークを見ても、特に怖がると言った行動をとりませんでした。むしろオークと知った時には、ほっとしていたとも見えます。とにかく、その少女はルミダの整合騎士から受けた傷や、今までの転んだ怪我を一瞬で治してくれました。お礼を言い、名前を聞いたところ、助けるのは当たり前じゃ、と言い、結局ルミダは最後まで、名前を知ることはありませんでした。

(とあるオークの村の歴史、語り手 ルミダ 要約&補足あり)

 

アリスside

 

(だから俺を助けてくれたのか…てか絶対そののじゃロリって十中八九カーディナルさんだよね…)

 

まさに奇跡を感じざるを得ない。これが主人公、いや、ヒロイン補正の力か…と、俺は感動すら感じていた。まさしく、世界が、俺に味方している!俺はとてつもない幸福感を感じていた。

 

しかし、肝心なことが聞けていない。俺が聞きたいのは、そう…

 

「おばあちゃん、結局なんで私避けられてるの?」

 

 

 

(はぁ…どうしようかねぇ…)

 

俺は家で掃除をしていた。と言っても俺は椅子から全然動いていない。風素を操ることで、擬似掃除機を編み出しているためだ。ダークテリトリーは素因が少ないといえど、流石に空気はがっつりあるため、全く支障はない。俺は、おばあちゃんに言われた言葉を考えていた。

 

(その戦いで、人間は怖いものだって思われてるって言ってたな…そんなに怖いかな、俺)

 

俺は持ってきていた髪留めを変換して、鏡にする。…いつでも鏡にできるなんて、ほんとに持ってきてよかったと思ってる。キリトとユージオからのプレゼントだ。自分じゃ全然覚えてないが、俺が鏡の作り方を2人に話したみたいで、欲しがっているのではないか、と思ったらしい。安物だよ、と謙遜していたけど2人の手持ちじゃ辛かっただろうとは簡単に想像できる。…ぶっちゃけ俺は自分でこういう女子力アップグッズとか、いらない買わない作らないの、ないない三拍子だったので無縁だと思ってたから、2人が渡してくれたことに多少の驚きと、ませてんなー、という感想、そして自分を誤魔化しきれない嬉しさの感情が溢れ出したことを、今でも覚えている。別に嬉しくないわけじゃないんだからね!(即堕ち)

 

(楽しかったな…寂しい。会えないなんて…じゃなくて!)

 

俺は鏡で自分の顔を見る。ぼおっとしてたときの顔は、いかにもアホそうな、ヒロインがしちゃいけないような顔をしていた。ちなみに右目の布は眼帯状に作り変えた。治すことも考えたんだけど、人体の目に匹敵する素因を有するものを持っていなかったため、その案はお蔵入りした。俺はもとのアリスがキリッとした顔(キリトだけに)をしていたのを思い出し、俺も真似してキリッキリッとする。そうしたらアホみたいな思考が一切見えない、しっかりしゃっきりした顔を作ることに成功した。

 

(うん。こんな感じだった…ってこれでもなくて!ちゃんと考えねば…そうだ、2人と仲良くなったときは…えっと…)

 

やゔぁい、思い出せない。なんとなく友達になったような気がするし、めっちゃ喧嘩してたような気もする。あの頃はまだ若かったぜ…あまり思い出したくもないので、俺は回想を打ち切る。

 

(万策尽きたんじゃね、これ…どうしよ、助けて〜カディえも〜…)

 

…それだ。そう、助ける。ここはダークテリトリー、不毛な地だからこそ、困ってることを沢山あるはず。そして俺は今までこっそり神聖術で生活を便利にしてきた…つまり、

 

(まさか手を抜くために考えた術式がここで成り立つとは…塞翁が馬、人生何が起こるか分からないじゃん。アゼルバイジャン)

 

 

俺は鏡をまた髪留めに戻して、髪を留め…ようとして、俺にはその技術がないことを思い出し、仕方なくポケットにしまう。いつもマイシスターセルカにつけてもらっていたのが、ここに来て響いている。…マジで俺の女子力低いな!

 

「よし、そうと決まれば…出陣じゃー!」

 

頭の中で某暴れん坊な将軍様のBGMを流しながら、俺は外に出て行った。

 

 

…雑巾掛けを忘れていることに気がつくのは、家に帰ってきてからであった。

 

 

(チラチラ見られてる…貴様!見ているな!…はぁ)

 

冴えた考えだと思って外に出たはいいものの、まるで変わっていない。そもそも困ってる人なんていないし。平和だし。警戒されてるから変なことできないし。一度子供に神聖術で芸を見せようと思ったら、唱えてるときに逃げられる、といったことがあったため、迂闊に声も発せられない。これも地味に辛い。…俺の脳内BGMが某ご隠居様のテーマに変わった。人生楽ありゃ楽しいなっと…

 

結局ぶらぶらとお散歩になっていた。空は日が出てるのになんとなく暗いとかゆうわけわからん気候であり、なんとなくみんなの顔も暗い。誰そ彼だっけ、と思いつつ俺はいつもの場所にたどり着いてしまった。

 

「おや、アリスちゃん。今日はおうぢにいるっで言っでなかっだだね」

「ううん、掃除終わったから出てきちゃった。私も手伝うよ」

「そうかい、そんならばお願いするだ」

 

俺はおばあちゃんの出店(?)に入っていく。なぜ(?)がついているかと言うと、厳密には売ってはいないからだ。この村にはお金がなく、所謂配給制(ちょっと違うけど)を採用している。この前ランさん(ランダパルさんがそう言っていいって言ってくれた)が狩ってきた肉をみんなの家庭ごとに分けているのだ。昔はそれぞれの家を回っていたらしいが、大変だということで今の体制になったらしい。ただ、みんなが来るのを待つのはいささか暇なので、その間の時間を使い、狩った動物の毛皮で色々作っているのである。裁縫は任せろーバリバリー(裁縫バッグを開ける音)

 

「みんな取りに来た?」

「まだ全然だよ。はだけもだいへんな時期だもんな、しかだないだよ。天命には余裕があるだ。ゆっくりでいいだよ」

「うん…」

 

この肉は、天命を保護するために加工をしている。簡単に言えば干し肉にしているのだ。ただぶっちゃけあんまり美味しくない。…そんなところにこだわるんだったらアイテムストレージくださいよ菊何とかさん…

 

「痛っ、おっとと、やっちゃった…」

「大丈夫かね、アリスちゃん」

「ううん、問題ないよ。すぐ治るし、私裁縫得意だから!」

 

考え事をしていたら、針を人差し指に刺してしまった。真面目に裁縫は得意な方なんだけど、やっぱり片目は辛い。全然距離感が掴めないのだ。独眼竜とかあったらしいけど、俺には無理だ。はっ、もしかしてこれは片目を吹き飛ばすことで、剣を使い辛くするという孔明(アドさん)の罠なのでは…

 

(って、外に出たのはおばあちゃんを手伝うためじゃなくて、おばあちゃんじゃない、別の人(人じゃないけど)を助けようとしてるんだった…そうだ)

 

「おばあちゃん、困ってることってない?」

「困っでるこどねぇ。わだしは足腰もまだまだ元気だし、どくにはないだ。…どうかしだかい?」

「いや、えっとね。みんなと仲良くなりたいから、人助けができればいいかなって思って…だけど何にも思いつかないの…」

 

おばあちゃんは手を止め、俺の顔をじっと見つめてきた。その澄んだ瞳が俺を指す。大きく、彫りが深いため威圧感を与えるような顔、しかしお鼻のブタさん部分がどこか笑いを誘ってしまい、むしろ可愛く見えてくる。俺は恥ずかしくなり、ちょっとだけ目を逸らした。断じて笑いそうになった訳じゃないです、ハイ。

 

「…アリスちゃん。それは違うだよ」

「えっ…」

「仲良くなるだめに人助けをするんじゃないだ。だすけるっでこどにもくできを持っちゃいけない。報酬をもどめだら、それは交渉や取引と変わんないだよ。手助けは優しさだけじゃないどいけないだ。…アリスちゃんは私を手伝うどき、どう思っでだだい?」

「えっと、特にはなにも考えてな…いや、暇だったし、その…」

「無理に理由を考えなくでいいだ。理由がないのが正解だよ。アリスちゃんは優しいから大丈夫だど思っでだだ」

 

 

 

テキ屋のような様相のある建物、その中で、年老いたオークに、この暗然たる暗黒界においても決して色褪せない黄金の髪を有する少女は、その髪を手櫛で梳かれていた。オークはその大きな顔いっぱいに笑顔を浮かべており、少女は俯き何かを考えているようだ。これは、異種族が手を取り合う、まさしくこれまでのアンダーワールドを考えると、奇跡とも呼べる瞬間であった。しかし、その幻想的な時間は泡沫の間である。黄金少女は顔を上げ、オークを見上げる。

 

「ありがとう、おばあちゃん。目が覚めたよ」

 

その少女の左目には、決意が満ちていた。




アリスのLVは19です(大嘘)



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黄金少女の原点回帰

束の間のほのぼの回

本編最後の日常回


人間界から、そしてダークテリトリー全体から見ても北西に位置するオークの村から大きく西に外れたところに、一つの集団が歩いていた。弓矢や斧で武装し、動物から剥いだ毛皮を使った服で身を包むその光景は、どこか物々しいものを感じさせる。それもそのはず、彼らは村の食料を得るための狩りをするために村の外にいるのだ。今はまだ8月に入ったばかりであり、夏真っ盛りである。しかしダークテリトリーは、空は暗く、気温もあまり上がらない。そのため、木はほとんど育たず、低身長の草しか生えない大地なのである。これが暗黒界たる所以であり、人間界との大きな違いでもある。この厳しい環境を生き抜くためにも、食材の確保は重要なのだ。村では、この狩猟部隊に選ばれるための選考がある。つまり、この者たちはエリートと捉えてよい。その人数は、アリスを保護したランダパル含め3人。…少なく感じるだろうが、あまり人数を割き過ぎると、農作業に支障が出るため、このぐらいがちょうどいいのである。

 

しかしこの日、その部隊にある客が紛れ込んでいた。周りのオークが皆武装している中、手には小さいバッグを持ち、体を守るにはいささか頼りなさそうに見える黒の半袖シャツ、長ズボンを着こなす隻眼少女、アリスである。

 

(狩る動物ってどんな大きさなんだろ。ランさんが持ってきたやつだって俺よりデカかったし、踏まれたら即死じゃないか?神聖術が効けばいいけど…)

 

いつもはネットスラングで脳内を染められてるアリスであるが、今回は割と真面目であった。今までランダパルの家と店を往復する生活をしていた彼女には、村の外に出ることに不安を感じてしまったのである。そんな彼女に、ランダパルが話しかけた。

 

「アリス、やっぱり怖いだか?」

「う、うん。ちょっとね。…襲ってくるの?」

「いや、基本は逃げるだよ」

「…基本?」

「だまに挑んでくるやつもいるだ」

「Oh…」

「まあ、大丈夫だ。おで達が守るだよ」

「あ、ありがと…」

 

2人の会話を周りのオーク達は聞いていた。それぞれでアリスへの考えは色々あった。例えばこの中でも一番のベテランである寡黙な狩人、ウォンドは、金髪が目立つから動物が逃げてしまうのではないかと考え、一番若く、試験にちょうど半年ほど前に合格したオーク、ニルヴは、何も試験等を受けずにここにいるアリスに複雑な感情を持っていた。しかし、彼らにはある共通した想いもあった。それは、

 

(かわいい…)

 

魂はもともと人間であっただけあって、彼らの思考や価値観は、我々人類とそう大差ないものであった。

しかし、アリスはそのことにはつゆとも気がついてはいなかったのである。

 

「そういえば、アリスの動物を見づけるだめの秘策っでなんだ?」

「あっ、ごめん。忘れてた…」

 

そう言い、アリスはズボンのポケットから銀に輝く髪留めを取り出す。鋼素と晶素でできているため、光を反射するのだ。もちろんダークテリトリーでの輝きは薄いものではあるが…

彼女は神聖術を唱え始めた。オーク達には何を言い出したのか分からず、身構えてしまう。アリスはそれを悲しげに横目で見つつ、術式を完成させた。

 

「なんだ、それ…」

「望遠鏡だけど…知ってる?」

 

アリスはそう尋ねたが、ランダパルは首を横に振る。周りのオークの顔を見回したが、目が合ったときに全員が首を横に振った。アリスはそれを見て、ドヤ顔を決めて解説を始めた。

 

「望遠鏡っていうのはね、遠くのものが大きく見えるようになるんだよ」

 

ちょっと見てみる?とアリスは言い、ランダパルに望遠鏡を渡す。丁寧に使ってね、と前置きをしながら、使い方を説明した。

 

「こっちの穴から覗くの。そうしたら…」

 

そこでアリスは気がついた。

 

(見るものがない…)

 

そう、ダークテリトリーでは、目標となるものがないのだ。辺り一帯低い草、これではいくら遠くのものが見えるとしても分かりづらい。

 

(うーん…おっ、いいこと考えた)

 

アリスはまた神聖術を唱える。それから手持ちのバッグから木のスプーンを取り出し、投げた。

 

「ちょ、アリス、何してんだ…あれ?」

「大丈夫。のーぷろぶれむだよ」

 

伝わらない英語を話しながら、アリスは神聖術を使い、スプーンを空中で静止させた。かつてキリトにも使った術である。これを応用すると空も飛べ、実際にやったこともある。それがキリト達と出会うきっかけでもあったのだが…

 

「とりあえず望遠鏡を覗いてスプーンを見てみて。自分の目で見るのと大きさが違うでしょ」

「おう、どれど…ほんどだ。おっきく見えるど。でも…これ上どしだが逆じゃないだか?」

「うん、それは突っ込まないで…」

 

ランダパルは驚き、2人にも貸して回る。みんながその道具の効果に驚き、アリスに感心した。

 

「そうだ、これでソルスも…」

「だめ!」

アリスはウォンドに飛び付く。

 

「目が焼けちゃう!見ちゃだめだよ!」

「お、おう。そうだっだのか。すまんな」

 

いや、私が言わなかったのが悪いんだよ、とアリスは返す。そのあとすぐに、スプーンが地面に墜落していることに気づき、走って取りにいく。これまでの一連の動き、一生懸命働く姿を見ていた彼らは、いつのまにか肩の力が抜けていた。

 

(白イウム、いや、人間もおで達ど変わらないだ。しかもこんな幼い子供になんで警戒する必要があるだ。それに…

 

 

 

差別してだのは、おで達の方かもしれないだ)

 

 

「うーん。全然いないよ…」

 

悲しげにランダパルの肩の上で呟くアリスをニルヴは慰める。

 

「まあこの時期でも見づからないどきはあんだ。心配するこどはないだ」

「ありがとう、ニルブさ、いや違う、ニルウ、ニル…」

 

ニルヴが言えずに悪戦苦闘するアリスを見てられず、ニルヴは助け舟を出す。

 

「その、言いづらいならニルでいいだよ。家族どかにもそう呼ばれでるだ」

「えっ、じゃあ…ニルさん?」

「そ、それでいいだよ」

 

ニルヴは思わず顔を逸らした。小首を傾げ、こちらを不安そうに伺うその表情は、まだ若いニルヴの母性本能ならぬ父性本能を大いにくすぐったのである。彼らが一度も見たことがない蒼天をイメージさせる、美しいスカイブルーの瞳に見つめられることは、若々しいオークにとって毒であった。

 

「ニルさん?」

「な、なんでもないだよ。…そうだ。そろそろ昼の時間だよ。アリスはお腹減っでないだか?」

「私は別に…いや、お腹すいた!ウォンドさん、休憩しませんか?」

 

 

アリスは昼食を広げる。お得意のサンドイッチ、だがかつてのごった煮サンドイッチと違い、今朝本気で作ったものである。それと別に小さい鍋にスープを入れて持ってきている。皆に集めてもらった草に火をつけ、アリスはその鍋を温め直していた。

 

(にひひ、サンドイッチは絶対驚くだろうな…)

 

アリスはほくそ笑みながら鍋をかき混ぜる。しかし傍から見るオークらには、ただ楽しそうに料理をしているようにしか見えない。彼らは渡された木の器とスプーンも持って待っていた。その時間で、彼らはアリスに聞こえないようにひっそりと話す。

 

「あんなかわいい子、どこで手に入れだんだよ」

「いや、祖母が拾ってきだだよ」

「…お前さん、辛くないだか」

「…問題ないだよ」

「えっど、その質問はおかしいんじゃないか。どう言う意味でそれを…」

「それは…」

 

ウォンドはランダパルを見る。ランダパルは頷き、ウォンドはまた話し始めた。

 

「こいつは妻に先立だれだんだ」

「えっ…」

「だから大丈夫かど聞いだんだよ」

 

驚愕するニルヴ。それを横目に、ランダパルは語る。

 

「アリスはな、娘みだいなもんだ。あいつどの子供みだいに感じるんだ…」

「…そうか」

「皆さーん、出来たから並んでくださーい」

 

アリスに呼ばれて、彼らは話を中断した。

大の大人のオークが並んで少女によそってもらうのを待つ光景はシュールなものであった。全員によそった後、サンドイッチを配って回り、円になって腰を下ろす。

 

「それじゃあご一緒に、いただきまーす」

「…いだだきますってなんだ?」

「…えっと、にほ、おほん。村では命を頂く、みたいな感じを伝える?というより忘れないために言ってる感じなんだ」

 

へぇー、と感心したように頷くニルヴ。ウォンドも食べずに話を聞いていた。

 

「ほら、ウォンドさんも。いただきます」

「「「いだだきます」」」

 

彼らは食事を始めるが、すぐにその手が止まる。

 

「なんだ、この美味いもんわ…」

「ふふん、それはね、ハンバーグ!」

 

頭に疑問符を浮かべるオーク達の前で、再度ドヤ顔を放つ。

 

「まあ色々妥協もあるけど…ビーフとかじゃないし。だけどどう?これが新しいお肉の調理法だ!」

 

片手を前に突き出し、ポーズを決めるアリス。その格好は到底精神年齢11+17歳の人間には見えないものであった。

 

 

食事を終えてから数時間後、彼らは帰路についていた。その背中は哀愁が漂い、ダークテリトリーの暗さと相成って、彼らの上で暗雲が立ち込めているようである。それは、暗黒界における唯一の光と称されるアリスも例外ではない。

 

「結局見つからなかったね…」

 

悔しそうに呟くアリスをランダパルは慰める。

 

「そういうこどもあるだ。運がなかっだだけだよ」

「でも肩車してもらって、それに荷物も持ってもらったのに成果なしじゃ、私がただのお荷物じゃん…」

 

若干頰を膨らませて自虐するアリス。しかし、それにニルヴは反論した。

 

「そんなこどないだよ!今まで冷だい昼飯しかだべでなかっだから、すごい嬉しかっだだ」

「…美味かっだ」

 

アリスは顔を上げる。そこには、みんなの笑顔があった。

 

「アリス、これで分かっだろう。みんな感謝しでるだよ。もちろんおでもだ」

「…うん!」

 

アリスも笑顔になる。

その笑顔は褒められたためだけでも、認めてもらったからだけでもない。

 

彼女は、彼女自身がこの地下世界(アンダーワールド)に生まれたときからの願いであり、心に誓った信念を、ルミダに諭され思い出したのだ。それは、()()()()()()()()()こと。彼女、いや、()がソードアート・オンラインを読んだおかげで根付いたもの。それは、人は生まれたこと自体に意味はなく、生きる中で、自分で意味を生み出すものであるという人生への解釈である。彼女が彼だったころ、その志は持ってはいたものの、実践できていなかった。大人になったら意味が見つかるだろうと先延ばしにしてきたのである。彼は後悔した。ゆえにこの世界に来たときに、後悔しない人生にしたいと思ったのである。それを、彼は今まで忘れていた。死なないことだけに執着する彼、いや彼女は、彼女自身にとって、生きているとは言えなかったのである。

彼女は猛省した。そして、もう一度考え直したのだ。彼がアリスになった意味を。アリスとしてできることを。

 

 

それは、かつて友として共にいた少女の遺言によるものであった。




今回の話は真面目だなー
なんでだろ(すっとぼけ)


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黄金少女の恋愛感情

アリスちゃんは童貞の女の子

表現力が皆無な人間が無理やりひねり出した結果、投稿がとっても遅れちゃいました…申し訳ないです

でもやっぱり気に入ってはいないので後で変えるかも…変える時にはメインストーリーに影響がないようにします


人界歴372年8月15日

 

アリスside

 

(今日は終戦記念日か…もちろんこっち(アンダーワールド)じゃそんなのないんだけど…)

 

俺は、そんなことを考えながら洗濯物を干しに外へ出る。その荷物はとても軽い。俺が昨日着ていた分しかないからだ。そもそもオークは、というよりこの村ではあまり洗濯をしない。この村の服のメイン素材は毛皮ということで、そもそも洗濯が大変という事情があり、洗濯文化を破棄したらしい。もちろん、完全に消えたわけでもなく、ごく稀に洗濯は行われている。そんな中、ジャパニーズ精神が染み付いてるからなのか、俺は洗濯しないと気が済まない。別に()()()から家事が嫌いなわけじゃないし、むしろ神聖術の応用でどんどん便利になっていくのが楽しくて、好きな方へとシフトチェンジしていったのだ。

服の替えの予備として、俺の持ってきたやつとキリトの分で計二着、下着は俺の分の三枚である。…キリトのを履くのはなんか恥ずかしい。昔は女物の下着を履くのなんて、と思っていたのに、慣れって怖い。ちなみに上はフルフラットなので着けていないが、そろそろ年齢的に来そうだからちょっと不安。だってアリスってまあまあ成長してたし、第二次性徴期に入ったらどうなるか俺にも分からない。TSした人って大体精神的BLしてるし(偏見)、その心もなんとなく分からんくは…

 

(…ダメダメ。俺は俺、あの2人はあくまで親友、幼馴染。幼馴染は負けフラグ。Q.E.D.)

 

ただ、かたや妻子持ちでありながら、老若男女問わずフラグを立てまくる一級フラグ建築士。その守備範囲は、下は2歳(ストレア)、上は200歳以上(カーディナル)と圧巻の領域である。そしてもう一方は、一級とはいかないまでも後輩を気付かぬうちに落とす天然ジゴロ。それに対するは女になって約10年、無意識のうちに女言葉で固定化されている転生者()…あかんやつやこれ。油断してるとコロッとイかされかねん。何度か小説でこんなシチュで落とされるの見たことあるし、うちの一級士なんて穴に落ちて、ついでに恋にも落とす手練れである。キリト君…恐ろしい子!(白目)

 

「おはよう、アリスちゃん。今日もいいでんきだね」

「ひょえっ!?あっ、ミシナラさん。おはようございます…」

 

将来の人生設計について考えてたら、隣の家の奥様、ミシナラさんが話しかけてきた。とっさに出る声がいつも汚いのは俺の短所である。

 

「アリスちゃんが教えでくれだハンバーグ?っで言うの、子供にすごい人気だっだだよ。ありがどうね」

「いやいや、ミシナラさんの調理が上手なだけですよ。お肉も美味しく食べられて喜んでいると思います。もちろん私も嬉しいです!」

「ふふ、アリスちゃんは偉いねぇ。うちのどなりに来でくれだのに感謝しなきゃねぇ」

「そ、そうですか?えへへ、ありがとうございます…」

 

なにかあったら私に頼るんだよ、と言いつつお家に戻っていくミシナラさん。感謝を述べ、手を振りつつ俺は心に決めた。

 

(とりあえずサラシ作っとこ…)

 

将来のことはとりあえず棚上げが俺のジャスティスである。特にそういう性に関することはスルーである。正直なところ女の子と百合百合したい気持ちもないし、だからといって男とそういうことをしようとする気もない。恋というのは頭じゃなくて心で考えるもの、なるようにしかならない。そう、()()()も俺にとっては最期まで親友だった。多分()()()も俺のことは友人止まりだと思う。それでいい。恋愛と親愛の愛は似て非なるもの。俺も、そしておそらく彼女も、その関係でいいと思ったのだから。

 

「アリスちゃん、終わっだかい?」

「あっ、おばあちゃん。ごめん、ちょっと待ってて!」

 

そんなことを考えていたせいで、まったく手が動いていなかった。急いで洗濯物を干し、すぐに家に戻る。これからおばあちゃんと一緒にお出かけなのだ。鏡となるいつもの髪留めは望遠鏡にして、狩りに行っているランさんに貸しているため、手持ちがない。ゆえに、かつて俺がモテ男2人と共に編み出した技を使う。まずは神聖術で水を拡散、次いで再構築、具体的には、その水を空間に貼り付け、水のカーテンを作るのだ。最後に、光素を操ってそのカーテンの前と後ろに明暗をつけることで、簡単な姿見を生み出す仕組みである。…神聖術が便利すぎてやばい。まあその分洗濯機がないからさっきも手洗いしたし、冷蔵庫もないから保存もきかない。そしてそれらの代わりとして使える神聖術はごく一部の人に限られている。本当に不便、これもアド何とかさんってやつのせいなんだ!絶対許さねぇぞアド何とかぁぁぁぁァァァ!!

 

「おばあちゃん、準備OK!」

「おーけー?」

「あっ、ごめん。大丈夫って意味なの。村で使ってたんだ」

 

ちょっとボロを出しながら俺は鏡を片付け、おばあちゃんと一緒に外に出る。今日もいい天気、とは言い辛い、暗い空だった。

 

 

このお散歩には二つの目的がある。一つ目は、宅配のお兄さ…ロリっ子である。

 

「こんにちは。どうぞ、今週のお肉です!」

「あらあら、ありがどね。アリスちゃん」

 

俺はこの前ひき肉という新しい肉の調理法の文化を生み出した。だがしかし、ただでさえ足が早い肉をさらにひき肉にしてしまっているので、ごりごり天命が削れていく。だから俺がそのひき肉の天命を保護しながら、それぞれのお家に配って回るのである。昨日の夜一生懸命包丁で叩きつけたお肉、自分で言うのも何だが丹精込められてできている。みんなにも好評であり、これは俺の大切な仕事となった。

2つ目はそれとは別の、そして俺の本命となる目的は…

 

「アリスちゃんはかわいいし、娘に欲しくなっちゃうだよ。…うちに来ない?」

「えへへ、売却済ですっ」

 

そう、顔を見せることによる印象アップである。おばあちゃんが俺に説教、というより忠告?をしてくれた後に、一緒に考えてくれたのだ。何だかんだ言っても、おばあちゃんも心配してくれていたらしい。そしておばあちゃんが思いついたのがこれ。簡単に言えば、俺はオークから見てもかわいいらしい(当社比)ので、俺が顔を出すだけで好感度が上がるシステムなのである。…難易度イージーの乙女ゲーの主人公かな?でもこれは、今のところ女の人にしかうまくいっていない。子供にはやっぱり逃げられるし、男の人には目をそらされる。乙女ゲーかと思ったらギャルゲーだった!?…なんかラノベのタイトルでありそう。『俺の転生先が乙女ゲーだと思ってたら、スピンオフのギャルゲーでした。』みたいな。でも俺TS転生だし、そもそも攻略対象がオークな時点でニッチすぎる市場だよね。

 

「あっ、マリナちゃんだよね。こんにちは」

「…っ!」

 

ほら逃げられた。子供にはまったく効果なしである。…ちょっと寂しい。

 

「こら!マリナ!ちゃんと挨拶せんどいかんだよ!…ごめんね、アリスちゃん」

「えっと、謝らなくていいですよ。警戒するのは当然ですし、むしろ怖がる方がいいですよ。色々な人間もいますし…」

 

その時、俺はちらりと後ろにいるおばあちゃんを見た。あの時のことを思い出さないか心配したのだが…杞憂だった。めっちゃニコニコしている。この目を俺は知っている。これは、孫の成長を見守る目だ。そう、かつての、祖母と同じ目。

 

守れなかった目。

 

 

俺は足を早める。主婦の長話に付き合うと時間がいくらあっても足りない。…その会話が割と好きになってしまっているのが問題なのだが。

俺は振り返っておばあちゃんを急かす。

 

「おばあちゃん、こっちだよ。早く行こ?」

「はいはい、急がんでもいいだよ。時間はゆっくり…おや?」

 

おばあちゃんが俺の頭から先を見る。おばあちゃんの視力は俺よりいい。というより俺の視力が左目分しかない上に本の読み過ぎでちょっと悪い。俺は目を細めて前を見ると、オークが走ってくるのが見えた。

 

(あれは…ランさん?なんでここに…)

 

ランさんは今朝狩りに行ったはずだ。まだ帰ってくる時間でもないし、ちゃんとお弁当は渡したはず…あっ、もしかして望遠鏡壊しちゃったとか?素材さえあればすぐ直せるから気にしないで…

 

「アリス、母さん。すぐに逃げるだよ!」

 

 

その瞬間(とき)、空が紅く燃えた。

 

俺が動けていたら、俺が神聖術を使えていたら、守れたかもしれない。俺にとって第三の故郷である、オークの村の、その崩壊の運命(さだめ)から。

 

 

村の家々に、火の手が上がる。それを見た俺の脳裏に、トラウマ(死期)が浮かぶ。俺は堪らずしゃがみ込んだ。

 

あたり一面の炎。あの日、あの時、俺を俺じゃなくした(あか)。かつて、みんなを殺し、俺から奪った焔。

 

(やめろ…やめてくれ…見たくない…)

俺は自分の体を抱きしめ、目を閉じる。

しかし、俺のまぶたの裏にはあの光景が、家族が死ぬ光景が焼き付いていた。

 

絶叫が聞こえる。女の、高い声だ。それにより、思い出させられる。姉の、母の悲鳴を。苦痛の叫びを。

 

俺は必死に耳を塞ぐ。しかし、頭の中では、その声が反響し続けていた。

 

身体が、皮膚が、喉が、焼かれる。

 

熱い。

 

痛い。

 

苦しい。

 

息が、できない。

 

 

……

 

 

………

 

 

……………

 

 

 

生きたい。

 

 

 

死にたくない。

 

 

 

おれは、まだ、何も成せていない。

 

 

 

おれは、おれは——

 

 

 

(もう、後悔したくない…)




メンタル最強系ヒロインアリスちゃん

以下裏設定
アリスちゃんの脳内がうるさい理由に、自分を見失わない、さらに言うと男だった事を忘れない、といった想いが無意識下に存在する、という設定があります。本文中では出さない(というよりアリス自身で独白できない)ので、後書きで説明いたしました。
なぜこのタイミングかと言うと、最初のプロットの時点で、アリスちゃんの性別感を説明するときにネタバレしようと決めていたからだったり。


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番外編 黄金少女の聖夜物語 (前編)

♪ク〜リスマスは今年も仕事です〜♪(泣)

せっかくのクリスマスなのでアリスの過去、ほのぼのストーリーを書きました。
ただ全体で約1万文字になったので前後に分けます。
後編は12/25、0:00に投稿いたします。


人界歴368年12月23日

 

ルーリッド村にある、一番大きな教会の一室から、声が聞こえてくる。まだ空は薄暗く、皆が寝静まっている、もしくはぎりぎり起き出している時間帯である。冬も本番、厳しい寒さが肌を刺す季節の早朝ともなれば、人にとって過ごすのが辛いのは当たり前である。さらに言えば、7歳の子供にとってみれば…

 

「…すやぁ………」

「こら!アリス、起きなさい!」

 

眠くなるのも当然である。

 

 

アリスside

 

「…なんでいつもこんなに早いんですか、しすたーあざりあ…」

「…?あなたが早くしろっておっしゃったのでしょう?」

「それでも限度って言うのがあると思うのですが…」

「私も暇じゃないんですからね。さあ、無駄話してないで先に進みましょう」

「ふぇい…」

 

俺は手元の本のページをめくる。カタカナびっしり。俺の瀕死なやる気さんが無事死亡した瞬間である。

 

(カタカナ読みづらすぎて笑えん…大日本帝国憲法かな?)

 

漢字がない分ダブルパンチである。絶対7歳に読ませるもんじゃないだろこれ。7歳って言えば…1年生か。あれ?これ某眼鏡の探偵と一緒じゃね?しかも子供になってるとことか完全に一致してる。でも毎週毎週周りで人が死ぬとかはないから、俺の方が普通だな()

 

「ではアリス、これに答えたら休憩です。風素の起句は?」

「えありある〜」

 

特大のため息をつかれ、休憩に入った。

 

 

休憩といってもスマホもないし、テレビもないからやることもない。だからいつも、俺から世間話を始めるのである。

 

「シスターアザリア、クリスマスって何しますか?」

「…?すいません。なんと言いました?」

「クリスマスです。ク・リ・ス・マ・ス」

「…くりすます、ってなんですか?」

「えっ?」

「…えっ?」

 

 

「風素というものは、空気です。この部屋のここ、空中には何もないように見えますが、実は空気というものがあり…」

(クリスマスないのか…うちが夢も希望もないお家かと思ってたけど、まさか全国的にそうとは…予想guyデス)

「この空気は暖炉で考えると分かりやすいでしょう。火を点けたばかりのとき、火のところは温かいですが、部屋は寒いでしょう。しかし、時間が経ったら部屋全体が暖かくなっています。それは部屋全体の空気が温まっているためであり…」

(ラースさんなんで実装しなかったんやろ。お正月はあるのになぁ…たしかクリスマスってキリスト様の誕生日だったよね…)

「…と、これが空気の説明となります。質問はありますか?」

「キリスト様って知ってます?」

 

本の表紙でぶん殴られた。

 

 

「うう、さっむい。なんで空気を知るために井戸で水汲みよ。ただの罰やんけ…」

 

水を汲みながら、俺はそんなことをボヤいていた。頭が痛い(物理的に)。まあゆうて仕方ないことでもある。シスアザさんの話を全く聞いてないから自業自得だ。でも空気の概念とか知ってるし、こっちで勉強を始めてから学校ってやっぱ必要だなって感じるようになった。義務教育TUEEEE!!

 

(マジ寒い…桶もデカ過ぎ、というか俺がチビ過ぎなんだよなぁ…夜更かしし過ぎてるせいか?)

 

原作アリスのサイズが分からん(そもそも幼少期の話が出ない)からどんなもんだか知る由もないが、確実にこまいと思う。女の子の方が身長的には成長が早いと思うのに、2人の方が背が高いのである。ずるい、身長くれ。妖怪身長くれくれ幼女になってやる。

 

「あれ、アリス?おはよう」

「ふぇ?」

 

噂をすればなんとやら、顔を上げた俺の目の前に、桶を3つも持つユージオがいた。

 

 

「アリスがここにいるなんて珍しいね。しかもこの時間に…」

「えへへ…」

 

笑って誤魔化す。ユージオと井戸で喋っているこの状況、これがほんとの井戸端会議…そういえば、

 

「キリトは?ユージオが1人でやってるの?」

「あっ、えっと、交代制なんだ。今日は僕、昨日はキリトがやったんだよ」

「えっ、2人でやった方が効率良くない?」

「いや、キリトが毎日起きたくない!って言ってさ…」

「そっか…」

 

俺は彼の肩を優しく叩く。流石にキリットさんの現地妻は格が違った。キリットさんもどうかと思うけどね。1人寂しくお仕事するよりみんなで楽しく働く方が俺は好き。

 

「そういえばアリスの格好、その…すごい個性的だね…」

「えっ、そう?」

———

こにゃにゃちはー!

寒い日が続いてるけどみんな元気にしとったか?風邪は引いてないやろか?今週も大好評「ケロちゃんにおまかせ!」の時間がやってきたで!ほな、やっていこか〜。

今日紹介するのはアリスの冬用の服(バトルコスチューム)。一番上は黒いダウンジャケット、モコモコしてて温かそうやろ。その下はセーター、シャツの順となってるで。ボトムスはロングスカート、タイツを履いているんや。下着の毛糸のパンツはおしゃれを妥協したそれなんやで。

はたまた行くで、ケロちゃんチェーック!

まずは手袋。ごっつい革手袋は作業をするアリスにとって必須級なんや。それと首のマフラーは狐の尻尾のモフモフを使ってるんやで。ほんでもって一番目を引くのはモコモコフードや。このフードを被るとなんと!クマの耳が付くんや。わいの耳みたいでキュートやろ。これ全部アリスが作ったんやで。ええなーわいの分も作ってくれんかな。

どうや?2ヶ月前から始まったアリスワールド。アリスの物語はこれからやで。わいもしっかり見ていかんとな、ほなな〜

———

「まあ、このフード、セルカのために作ったのにね…」

「そ、そうなんだ…」

 

可愛いと思って付けたものだが、まさか自分が着ることになるとは…

触っていい?と聞かれたので了承し、頭を傾けてユージオに耳を近づける。そのとき、俺の目線が水面に吸い寄せられる。そこには、金髪碧眼の、クマさんフードを被った少女がこちらを覗き込んでいた。…昨日ウキウキで針を操った自分を殴りたい。ついでに「めんどいしユージオたちとは会わんやろ」って考えてとらなかった今朝の俺もボコす。俺が唸ると、水面の少女も困った顔をする。クマったクマった。

百面相をしている俺の上からユージオが話しかけてきた。

 

「まあ、個性的ではあるけど、おかしいわけじゃないよ。むしろアリスに似合ってて、かわいいな」

「っ!」

 

なんやこのイケメン。そうゆうくさいセリフを吐くのは相棒(キリト)の役目だろ。不意打ちすぎて焦ったわ。ユージオの顔をちらりと見ると、爽やかな、純粋な笑顔をしていた。

俺はいたたまれなくなり、顔を伏せる。水面に映った少女の顔は…桶を揺らして見えないようにする。

 

「そういえばなんで水に顔が映るんだろう?そもそも鏡もなんで映るんだろ?」

「えっ…えっと、そう、光!光が反射するの、鏡はガラスに銀…晶素の板の上に鋼素を覆って反射させるの!水もそんな感じで光の反射で見えてるんだよ!」

 

俺は頭をフル回転させて知識を披露する。別のことを考えて、気持ちを払拭する、俺の常套戦術である。

…それにしても小学生の自由研究で作った望遠鏡の知識がここで役立つとは…数奇なものだなぁ。鏡の自作をしようとして調べて泣いた記憶がある。

 

「すごいな、アリスは物知りだね。誰に教えてもらったの?」

「えっ?…分かんない!誰かが言ってた!」

「アリス…」

 

俺は今までの7年間、前世の知識をひけらかすときの常套句である、誰かが言ってた、もしくは本で読んだを乱用してきた。流石にユージオも慣れてくれたのか、呆れながら話を変えてくれる。

 

「アリスの家は、鏡ってあるの?」

「いや、ないよ。高いから…鋼素と晶素になるものがあれば自作できると思うけど、そっちも普通に売ってないしね…」

 

水があればOKよ、とウインクを飛ば…そうとして両目を瞑る俺。ちなみにOKは俺が言いすぎたせいで余裕で伝わる。あとナイスとかNGとかも俺がみんなに伝授した言葉である。大体ラースの人はなんで英語禁止にしたんかね。太平洋戦争の日本じゃあるまいし、そもそも時代設定が大体中世ヨーロッパぐらいの生活水準なのになぁ…パンはまだしもスープが伝わるのが解せぬ。

やっと水を汲み終わり、桶を両手で抱え…ようとしても持ち上がらない。それもそのはず、俺のOC権限は驚異の7。箸しか持てない幼女なのである。…実はこの場面ではOC権限は関係なく、ただ単に俺の力がないだけである。…悲しみ。

 

(こういう時には神聖術…水を素因分解して…)

「大丈夫?持とうか?」

「ふぇ?」

 

 

 

その日のお昼、俺は弁当を持って冬空の下を闊歩していた。ちなみにお弁当はアザちゃんが渡してくれたもの、俺が作ったのはほんの一部である。

いつもの丘を越えると、例の木の幹が見えてくる。ギガちゃんは村からどこでも見える、すごい木なのだ。そのまま進むと、木を切る、というより木を叩く音とともに、—俺はこの音が好きだ—木の足元にいる彼らが見えてくる。そう、俺の友人達と…おじいちゃんである。

 

キリトとユージオが手を振ってくる。俺も手を振り返しつつ、木を黙々と叩いているガリッタさんに挨拶する。

 

「こんにちは、ガリッタさん!」

「おお、もうそんな時間か、休憩にしよう」

 

そう言いつつ斧を振りかぶり、叩きつける。それは俺が今日聞いた中で一番いい音だった。

 

「うん、今日も美味い!」

「そうだね。…相変わらずキリトは美味しそうに食べるね」

「当然だろ、飯を食うのが俺にとって一番の幸せだからな!」

「あはは、…僕たちと遊ぶのよりも?」

「…いや、どっちも一番だ」

「ふふ、そんな真剣な表情で答えなくても…」

 

…夫婦(夫夫?)の会話に入っていけない。手持ち無沙汰なので俺からガリッタさんに話しかけた。

 

「クリスマスって知ってます?」

「いや、知らないが…なんだね、それは」

「えっと、ご馳走を食べたり、いい子がサンタさんからプレゼントをもらう行事です」

「サンタ?はて…」

 

顎に手を当て考えるお爺さん。無駄にダンディだが、俺の目線はある一点に集中した。

 

「ガリッタさん、その手って…」

「この手か?冬だからな、斧を持って振るだけでもこうなるんだよ」

 

ほれ、と出してくれた手を、手に取ってまじまじと見る。その手は酷いあかぎれと斧による豆、ゴツゴツと節くれだった指、そして、

 

「わっ、冷たい!」

 

とっても冷たい手だった。

 

「さっきまで斧を握っていたからな、冷たいだろ。すまんな」

「いやいや!むしろ冷たいってことは、一生懸命働いたってことです!」

 

ちょっと手をお借りしますね、と言い、俺は腕を上げているガリッタさんの手を、両手で包み込む。

 

「あったかいですか?」

「ああ、ありがとう。でも大丈夫。アリスが凍えるだろう」

 

もう慣れたよ、と言いながら手を引っ込められる。

 

「その、手袋とかしないんですか?」

「いや、滑るし、素手で切ってきたから今更変えることもできんよ」

「そう、ですか…」

 

感覚のことを言われてしまえば、こちらとしては何も言えなくなる。

しかし、そこで俺に電流が走る。

 

「握るところが素手ならいいんですよね」

「まあ、そうなるが…どうした?」

 

まあまあ、と言いつつ、彼の手をもう一度触り、サイズを調べる。せっかくのクリスマスだ、俺がプレゼントをしてやろうじゃないか。…なにより可哀想だ。たまたま天職が木こりになったばっかりに、こうも労働環境が違うのは納得いかない。そりゃ現実(リアル)でも労働格差はあるが、その人の努力も顧みずに職が決まるのは間違っていると思う。全くアドミ二…何とかさんはサイテーだな!

 

「あれ、この箱は?」

「あっ、それは…」

 

キリトが弁当の下の箱に気づいた。全く、がめついったらありゃしない。俺は箱を引っ張り出し、開ける。

 

「…これは?」

「クッキー!あの後焼いたんだ。ユージオにお礼ね」

 

ユージオにウインク(まばたき)をする。クリスマスといえばジンジャークッキーという偏見により、作成されたものである。持ってもらったし、多少はいい思いをね?

 

「はい、どうぞ。…キリトはだめだよ」

 

横から手を伸ばそうとするキリトの手をピシャリと叩く。悲しそうなその表情は、まさしく子犬が目の前でおやつを取られたときの表情と酷似していた。…罪悪感が半端ないが、ここは心を鬼にする。

 

「だって私を手伝ってくれたのはユージオだし、1人で水汲むの大変そうだったよ」

「待て待て!俺も昨日やったから!やってる労力一緒だから!」

「一緒にやればもっと楽に、早く終わるでしょうが!」

「いやいや、ユージオも賛成したし、なっユージオ?」

 

ユージオに助け舟を出したようだが甘い!ロリポップキャンディみたいに甘いぞ!(ロリだけに)

 

「ユージオは一緒にやった方がいいって言ったよね、ね?」

 

2人でユージオの顔を見る。そのユージオの解答は…

 

「えっと、2人でやった方がいいかな…」

 

戦術的勝利!すぐさまドヤ顔でキリトを見る。キリトは地面に崩れ落ちていた。NDK?NDK?…は嫌な奴か。

 

「というわけでキリトはなし!そこで反省…」

 

肩をトントンっと叩かれる。振り返ると、ユージオがそこにいた。

 

「どうしたの?」

「これ全部もらっていいんだよね」

「うん!ユージオのために焼いたんだからね」

「じゃあ、別にどう扱おうが構わないよね」

「うん!…うん?」

 

ユージオが歩いて行き、倒れているキリトの口にクッキーをねじ込む…ってちょっと待て。おかしいだろ。(お菓子だ(ry))…もしや!

 

「口に合わなかった…?」

 

嫌がらせに違いない!と思った俺だったが、

 

「いや、美味しいよ。でも、キリトも昨日頑張っていたし、今日は僕がたまたまアリスと会っただけ。キリトも今日みたいな場合だったら助けただろうし、僕だけがもらうのも忍びないよ。それに…」

 

そこで切ったユージオは、キリトを見る。キリトはゆっくりと起き上がり、

 

「うまい…」

「ほら、こんなに美味しいものはみんなにも食べてもらいたいと思ったんだ…ダメかな?」

 

…ぐうの音も出ない。ユージオは大人だ。俺のやっていた行為が、いかに幼いかをまざまざと見せつけられてしまったかのようだ。俺の後ろでガリッタさんが立ち上がる。

 

「アリス、こういうのはみんなで分け合うんだよ。もらえなかった人はもちろん、もらった人も気まずくなるだろう?もっと人の気持ちを考えられるようにならなきゃな…」

 

ガリッタさんにも諭された。恥ずかしい。顔から火が出てるのがはっきりわかる。

 

「うっ…」

「う?」

「うあぁぁぁぁああ!!」

 

叫びながら逃げ出した。頭の中でいろんなことがぐるぐる回る。恥ずかしいやら、情けないやら、クッキーを褒められて嬉しいやらでいっぱいだった。

 

 

少女は家に飛び込み、毛布にくるまる。そのまま寝ようとしたものの、叩き起こされるのは火を見るよりも明らかであった。

 

 




ケロちゃんはもう出ません(無慈悲)

天職決定後いきなり仕事っていうのはなんか不自然だと思ったので、天職確定が10歳、7歳で仮天職の決定をして、前任の人から仕事を学ぶ、と考えました。他の才能があることが認められたら天職変更ってことにすれば、矛盾はないよね?


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番外編 黄金少女の聖夜物語 (後編)


※この話は後編です。前編をお読みでない方は前の話ボタンを押して前編をご覧ください。

キリトはユージオと同棲中、つまり愛の巣(withユージオの家族)


 

アリスside

 

(かーさんがーよなべーをしてーラララーラランランラララー…なんだっけ?)

 

確か今の俺のように、手袋を編んでいた気がする。そうじゃなきゃ頭の中に浮かんでこないもん。

ガリッタさんに贈るものは、バスケ部の人に見せてもらった指ぬきグローブ、手の甲だけのやつだ。…ぶっちゃけあんなんで温まるのか不明なので、ちょっと細工するつもりだけど…

実は、俺はこういう作業が好きである。無心でやれるし、だんだんと出来上がっていくのがはっきりわかるのが楽しい。いわゆる整地厨である。…社畜の素質があるともいう。たーのしー!

 

————————

 

「よし、できた!」

 

編み上げた手袋を朝日に掲げる。そう、朝ソルスだ。今日も一日、頑張リス!…これもう訳分かんないな。あっ、

 

(そろそろ行かなきゃ…)

 

俺は着替え、作った手袋を適当な布で包む。…紙は貴重なのだ。俺がたまによだれをこぼすあの神聖術の本たちも、実は貴重な資料なのである。…よだれはバレないように素因分解している。それをすれば乾かしたときのカピカピがなくなるのだ。かつて教科書をよだれまみれにした俺には、その悲惨さがよくわかるのである。

 

「フード…」

 

俺の動きがクマさんフードを手に取ったところで止まる。…どうしよ。なくてもいいけど外はとっても寒そうだ。それに俺の金髪はとっても目立つ。夜でも輝くとか光素入ってんじゃね?とか思うぐらいであり、ひっそりと移動するときにはフードがあると便利。それに…

 

(似合ってるって…いやいや、嬉しくなんてないし!男にナンパされても気持ち悪いだけ…うん…)

 

結局俺はフードを被り、プレゼントを持ってアーちゃんの教会に出発する。火照った頬に、冬の風が気持ちよかった。

 

「あはよう、ございます…あざりあしぇんしぇ…」

「ええ、おはよ…どうしました?」

「ちょっと、と、と、ふぁ〜ぁ、寝ずに作業を…」

 

ここに来る道中に、頬の照りと一緒に深夜テンションも切れたみたいで、急激に眠気が襲ってくる。そもそも俺はまだ7歳、適正睡眠時間は確か9時間…オールしているやつなんて俺しかいないと思う。ほら、アッちゃんも呆れてる。

 

「…はぁ、なんで朝まで起きてたんですか?」

「クリスマスなので…プレゼント、を…作ってたん…」

 

まずい、落ちる。そう思った瞬間、俺の意識は途絶えた。

 

 

…温かい。それは物理的じゃなくて、こう、なんていうのだろう、心が、暖かくなる。そんな感じだ。人の温かみというのは、久しぶりだ。かつての母を思い出す。父がいない中、仕事を頑張ってくれていた、母。その母の代わりをしてくれた、姉。困ったら、すぐに助けてくれた、祖母。みんな、温かい、幸せな……

 

「おや、起きましたかね?」

「え…あざりあさん…?」

 

アザリア先生の顔が、とても近くで見える。彼女は、慈しむように微笑んでいた。

 

「全く、そんなになるまで起きてちゃダメですよ」

「はい、ごめんなさい。アザリア先生…」

 

アザリア先生が、俺の頭を撫でてくれる。布団に包まれているのとは別に、とても心地よかった。

 

「この子は、まだ7歳なのよね…しっかりしすぎて忘れてたけど、外で遊んでいてもいい年なのに…」

「…アザリア先生、その…」

「なんですか?」

「もう少し、こうしててもらえますか…?」

「ふふ。ええ、構いませんよ。おやすみなさい、アリス…」

 

俺は、久しぶりに、安心して眠ることができた。それは、とても、幸せな、懐かしい時間だった。

 

—————

NO side

 

「アザリア先生、忘れて下さい!」

「はいはい、忘れますよ。アリスの寝顔がとっても可愛かったなんて、すぐに忘れますよ〜」

「わーー!わーー!忘れて下さい!お願いしますから〜!!」

 

アリスは両手をブンブン大きく振る。顔が茹で蛸のように真っ赤に染まり、湯気が出るようである。シスターアザリアは、笑っていた。彼女の態度は、確実に軟化していた。

 

「はっ!今何時ですか!?」

「大丈夫、彼らのお昼は別の人に行かせましたから」

「あっ、そうなんですか!ありがとうございます」

「ふふ、あの2人のことが好きなんですよね?」

「なな、そそそんな、恋愛感情があるとかじゃなくて…」

「わかってますよ。友人として、でしょう?…今はね」

「はい!…最後なんとおっしゃいました?」

「仲良くするんですよ。友達はお互いに助け合える、つまり、無償の奉仕ができる仲、なのですからね」

「えっと…シスターがそんなこと言っていいんですか?」

「ふふっ、今の私は、先生ですよ」

「えっ…あっ、はい!アザリア先生!」

 

彼女らは、話を続ける。お互いを、よく知るために。主に、アリスの話が多かった。村長、村の長の娘として生まれ、幼少期から本を読み漁る天才少女、そして次期村長の天職に選ばれた、まさしくエリート少女、それがアリスである。その偏見で塗り固められたアザリアにとって、アリスとの出会いの場は、とても緊張したことを覚えている。しかし、アリスと過ごす内に、だんだんとアリスの人となりに気付いていった。そして今日、アザリアは完全に理解する。

 

(アリスは、ちゃんと年相応の感性、心を持っている子。むしろ年不相応に明るく、素直な、いい子、それがアリス)

 

しかし、アザリアはある考えに至る、いや、至ってしまう。

 

(あそこまで明るい理由、それは…彼女自身の性格もあるでしょうけど、やっぱり環境、よね…

 

なんて———

 

 

残酷なのかしら)

 

 

「そうだ、先生。そろそろ行かなきゃ…」

「何かあるのですか?」

「プレゼ…贈り物をお届けしないといけないので…」

「そうですか。…いってらっしゃい。仲直りできるといいですね」

「えっ、どうしてそれを…」

「話から丸わかりでしたよ。頑張って隠そうとしていたの、とても面白かったです」

「…うぅ〜、勝手に心を読まないでください!」

 

はいはい、と言いつつ、アザリアはアリスの服を整えてあげる。きちんと耳を立ててあげるのを忘れずに行い、

 

「これで大丈夫。どこからどう見ても、立派な淑女ですよ」

「うっ…はい!いってきます!」

 

アリスは教会を飛び出す。駆け出していくアリスの背中に、アザリアは伝え忘れていたことを思い出し、声をかける。

 

「アリス〜、明日は休みにしましょう。クリスマス、ですしね〜!」

 

アリスは即座に振り返る。そして、満面の笑みで、手を振りながら、叫ぶ。

 

「分かりました!ありがとうございます、アザリア先生!…メリークリスマス!」

 

 

アリスは空を飛んでいた。比喩ではない。空からギガスシダーの根元を観察する。アリスは、木の下に向かう道中で、やっぱり恥ずかしくなったのである。小さい子供みたいにイジワルして、諭されたら逃げ出すなんて、アリスにとってみれば人生の汚点であった。ゆえにどうしても顔を合わせづらくなって、確認することにしたのである。

そこにはキリトやユージオはおらず、ガリッタだけが働いていた。

 

(よっしゃチャンス。サクッと渡しちゃおう)

 

地上に降り立ち急いで木の下へ向かう。空を飛べるというのは3人の秘密となっている。流石にバレたらシンセサイズだろう、というアリスの考えによるものであるが…割と自由に使っているのが現状である。

 

「ガリッタさ〜ん!」

「おお、アリスか。風邪は大丈夫か?」

「風邪?」

 

首をかしげるアリスに、ガリッタは至って真面目に答える。

 

「アリスの代わりに来てくれた人が、アリスは寝ているって言っててな。2人がお見舞いに行ったのだが…見なかったか?」

「ぎくっ」

 

アリスはすぐさま理由を察した。バレるとまずいので、アリスは慌ててごまかす。

 

「いや、お昼ぐらいには起きて動き始めたんですよ。たまたま、入れ違いになっちゃったんですかねぇ」

 

嘘は言っていない。アリスは()()()()空を飛び、(立体的に)入れ違いになってしまっただけである。

 

「風邪じゃないです。大丈夫ですよ、私は強いですから!」

 

力こぶを作るアリス。しかし、彼女のOC権限はどうあがいても7である。

 

「そうだ、…おほん。昨日は逃げ出しちゃってごめんなさい。それで…これ!」

 

アリスは頭を下げつつ布に包まれたものを渡す。ガリッタは少々困惑しながら、

 

「顔をあげなさい、アリス。謝るのは彼らに向けてじゃないか?」

「うっ、うん…でも、これは謝罪の品じゃなくって普通にあげるものです。受け取ってくれると、嬉しいな?なんて…」

「…ああ、ありがたくもらっておくよ」

 

ガリッタは受け取り、開けていいかをアリスに尋ねる。アリスがすぐに大きく頷くのを見て、彼は布を開いた。

 

「これは…?」

「手の甲の手袋です。こんな感じに…」

 

ガリッタの手を取り、アリスが手袋を着けていく。そのとき、アリスは微調整も行う。製作時にはぴったりサイズとはいかないため、着ける時に調整できるようにしていたのだ。

 

「はい、完成。どうですか?ちゃんと斧は持てます?」

 

ガリッタは斧を取り上げる。そのまま素振りをし、木に向かう。そして、斧を木に叩きつけた。

 

「うむ、問題ないぞ。充分、ないより温かい」

「えへへ、でもこれで終わりじゃないんです。手を出してください」

 

言われるがままにガリッタは手を出す。そこにアリスが神聖術を唱える。

 

「システムコール・ジェネレート・サーマルandエアリアル・エレメント」

 

神聖術。限られた者しか知らない術式である。and術式はアリスが作った句で、意味はそのまま同時に起動することができる。説明するだけなら簡単だが、一度に複数の神聖術を操ることはとても難しい。並列思考を行い、なおかつ思考の割当をちょうど半分ずつにしないと、神聖術式システムが作動しないためだ。だが、もし仮にそれができたとしても、普通の人は手袋に素因を集めるだけとなってしまう。しかし…

 

「おや、これは…なんだ?温かい…」

 

そう、手袋の周り、手の部分の空間が確実に暖かくなっているのである。アリスのイメージによって空気を操り空間を閉じ、そこに熱素も閉じ込めることで温度を保存するということをやってのけているのである。これがアリス、転生少女の持つ力、原作知識と地球における一般常識、そして妄想の力なのである。

 

「えっと、その機能は私が寝ると止まっちゃうんです。だから…」

「ああ、わかってるよ。アリスも忙しいだろう。昼からでも充分だよ。今までよりは格段にいい」

 

本当にごめんなさい、とアリスは謝る。その様子を見るガリッタには、一つの確信と、ある思いが生まれる。

 

(やはりこの子は、素直で優しい子だ。昨日もあくまで正義感でやったことであって、悪気があったわけじゃない。この子が村長になるなら、あるいは…)

 

「あの…実はお願いがあります」

「うむ、なんでもいってみなさい」

「その…

 

 

クリスマス、それはイエス・キリストの降誕祭の日。大切な人と、一緒に過ごす日。そして、いい子にしていた子供たちには、サンタクロースからプレゼントが送られる日。

その夜、ルーリッド村で暗躍する金色(こんじき)サンタ。トナカイなしに空を駆け、幸せを届けるサンタクロースである。しかし、本物のサンタではないがゆえに、いい子の、そして限られた子供にしか送られない、聖夜の贈り物。それは…

 

 

「キリト、起きて!起きてってば!」

「ん〜なんだよユージオ。もう起きる時間か…?」

「ほら、こっち!これ、昨日なかったよね」

「ん、なんだ、これ…あっ」

 

 

アリスは外に出る。昨日の夜、雪が降ったことを知っているアリスは、外に見に来たのである。それなりに積もっていることを確認し、ニコニコと楽しそうだ。そのまま、雪を丸めて雪だるまを作ろうとして…

 

「「アリス〜〜〜!!」」

 

遠くから彼女は呼ばれる。彼女にとっては振り向かなくても、声で、気配で、感覚でわかる。アリスは、充分にその気配が近づくのを待ち、振り返る。

 

「メリークリスマス!!キリト!ユージオ!」

 

2人の手には、アリスの贈った手袋が、青春の光と共に、煌々と輝いていた。



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