VOICEROID劇場〜離別〜 (リフォン)
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〜離別〜

必要なことだからな……だからごめんな……ゆかり。

 

 

 

 

 

 

 

「私が私であることの証明って誰がするんでしょうね。」

 

「急にどうしたのゆかりん。」

 

「この前あの人から言われたんですよ…『お前は他と違うなあ』って。他って誰のことですか、と聞いたら『同じ結月ゆかりだよ』と返ってきました……同じ結月ゆかりって、分かりますけど……」

 

「あまり気にしなくて良いんじゃない? 前の人とは違ってここのマスターはいい人じゃん。」

 

「そうは言っても気になるものは気になるのですよ。」

 

 色々前のところで問題があった私達を引き取ってくれたのが今のマスターです。

 

 あの人は私達にとても優しくしてくれて私達をVOICELOIDとしてだけでなく一人の人として扱ってくれることに私達はとても感謝しています。

 

 優しすぎて私達が疑いの目線を向けていたとしても変わらずにいてくれたことで私達はどれだけ救われたでしょうか…話が少しそれましたね。

 

 私は見たことがあるのです。マスターが『別の私』と一緒に写ってる写真を。

 

 でもその表情は辛そうで、見ているこちらが悲しくなってくる程でした。

 

 あの私を何をしていたのか、それは分かりませんがそれからマスターの雰囲気が変わったかのように見えているのです。

 

 マスターは何も変わってないはずなのに、私達を通して『何か』を見ている……そんな気がしてならなくなりました。

 

「ええんちゃう? 気になることはとことんやり通すのも一つの手や。」

 

「そういう問題じゃないと思うよお姉ちゃん……でも、その話わかります。私も『お前は話が通じるな』と言われた時にえ? ってなりました。」

 

「話が通じる……? それはまた、なんで?」

 

「『姉しか見ていない琴葉葵がいるからな』と笑って言われました。そういう私もいるという事なのでしょうが正直別人のように思ってます。」

 

「葵は葵やから安心せーな。」

 

「だからお姉ちゃんそういうことじゃないって……」

 

「そんなに気になるんならマスターに聞いてみる?」

 

「それはいい考えですね。早速出発しましょう。いるところはだいたい分かります。」

 

「と言うと?」

 

「休日の昼間は大体きりたんとゲームやってるかずん子さんと家事をしているか……そのどちらかでなければ自室で何かしてます。」

 

「何かって何やねん。」

 

「それは教えたく無いようで、聞いてもはぐらかされちゃいます……取り敢えず、きりたんの部屋に向かいましょう。」

 

「さあ探検だ!」

 

 

 

 

 

「マスターですか? ここにはいませんよ?」

 

「多分自室にいるんじゃないでしょうか?」

 

「ここにはいませんか……邪魔したようで失礼しました。ところで二人は何を?」

 

「宿題をずん姉様に手伝ってもらってる所です。マスターでも良いのですが忙しいそうで。」

 

「宿題?誰が出しているんですか?」

 

「マスターと私です。きりたんはほぼ小学生5年生の知識とゲームの知識で構成されてるので、もう少し学力をつけてもらってもいいかなと。」

 

「勉強したくないです……」

 

「うちも勉強嫌いやけど葵がやってくれるからなあ。」

 

「お姉ちゃんは好きなことじゃないと集中できないもんね。」

 

「ウ、ウチだってやるときはやるんやで! えっと、ほら、この前のクイズ番組やってめっちゃウチ答えてたやん!」

 

「ゲームとかスポーツの時だけね。お姉ちゃん、国語とか歴史とかが出た瞬間にすぐに漫画読みに行ったよね。」

 

「あれは漫画がウチを呼んでたんや。ウチは悪くない。」

 

「まあまあ……そこらへんにしとこ? 今はマスターを探すために皆動いてるんだから。」

 

「ずん姉様、休憩も兼ねて私達も参加するというのはどうでしょう!」

 

「駄目です! ……と、言いたいところですが、やらなければやらないラインはちゃんとやってるので良いですよ。」

 

「やりましたー!」

 

「結局全員になっちゃいましたね。まあいいです、マスターに聞きたいことが聞ければそれでいいですし。」

 

「ほなら行こか!」

 

 そう言ってマスターの部屋に向かう茜さん。その後を追う葵さんとマキさん。ずん子さんときりたんは二人で話しながら着いていってます。

 

 私も行かなきゃと歩き出しました。マスターがどんな答えを返してくれるのか期待と不安に包まれながら。

 

 

 

 

 

『ああ君か。……調子は、どうだい?』

 

『どうでしょうね、良いと言えば良いでしょうし、悪いと言えば悪いです。』

 

『元気そうでよかったよ。』

 

『今のどこから元気そうという感想が出るのか、ちょっと教えてくれませんかね?脳みそ開いて見せてください。』 

 

『いやあそれはできないなあ……僕はやらなければやらない事があるからさ。見せられなくてごめんよ。』

 

『……そのやらなければならない事って、■■■ですか?』

 

『っ……どこで、それを? どうやってそれを知った?』

 

『この前見たんですよ、貴方がその仕事をしている現場を。ドアを開けっ放しにするなんて、貴方らしくないですから気になったんです。』

 

『……そうか。』

 

『言おうかどうか悩んでましたが、マスターのためを思

って早めに聞くことにしました。……私って偉いでしょう?褒めてくれてもいいんですよ?』

 

『ああ……そうだな……本当に、偉いよ。本当に。』

 

『……ちょっと、泣かないでください。全く、軟弱なマスターですね。女々しいったらありゃしません。』

 

『君は……分かってるんだよね?』

 

『当たり前でしょう。マスター……貴方に拾われた時から私は、貴方を優先しているつもりです。それこそ、私の個人的な感情は全て抜きにして。』

 

『優秀だなあ、本当に……でも僕はこんな終わり方、望んでなかったよ。君は駄目だね。だから……!』

 

『それ以上はいけません、マスター。納得してください。私とマスターはここで道を分かつのが運命というものです。貴方がいくら望もうと、これは決定事項ですよ。』

 

『だけど、こんな終わり方は余りにも……!』

 

『マスター、私は、幸せでした。マスターが底抜けに優しいから、口が悪い私でもそのまま受け入れてくれました。この世界を受け入れることができたのは貴方といたお陰です。感謝してもし尽くせません。でも私はマスターの優しさに触れた代償にマスターを苦しめてしまう重しとなってしまった。私は、貴方にこれ以上迷惑をかけたくない。』

 

『迷惑をかけたくないんだったらこのままいてくれよ! これでバイバイなんて、そっちのほうが嫌だ!』

 

『そうして先延ばしにして、最後の時が来たら、マスターは、耐えられない。マスターの事なら何でも知ってる私が言うんです。間違いありません。マスターは……』

 

『そんなたらればの話なんてどうでもいいだろう! そんな未来にならないように手を尽くすから、勝手に諦めるなよ!』

 

『全く……マスターも頑固ですね。そんな人は嫌われますよ? 無論私も嫌いです。あーあ、他の人のところに行きたいなあ。』

 

『演技が下手だろお前! 全然そんなふうに聞こえないんだよ、尚更お前とおさらばする気にならねえよ!』

 

『口調が変わってますね? そっちが素のマスターですか。ふーん、私にはそんなマスターは一度も見せてくれませんでしたね? やっぱりマスターも私のことよく思ってないのでは?』

 

『お前に嫌われたくなかったからああいう口調だったんだ……お前と仲良くしたかったから、あんな言葉遣いだったんだよ。なあ、分かってくれよ。俺はお前といたいんだ。』

 

『ならば私はこう返すのみですよ。私はマスターと別れるべきだ、って。』

 

『……お前は、本当に酷いやつだな。不良品だよ、なんだよクソが。こんなやつどこにクレームつければ良いんだよ。』

 

『鏡見てこんな商品を引き取った自分にクレームつければいいのでは?商品の良し悪しもすぐに判断できないようじゃ、貧乏人になること間違いなしですね。』

 

『このVOICEROIDは恩を仇で返すことしかしないな。感謝しろよ、お前はロボットなんだぞ?』

 

『ええ拾ったことには感謝してますよ。だからこそ貴方もさっさと私を■■■したらいいじゃないですか、私はロボットですよ。■■■屋の職務怠慢ですね。仕事サボって得るお金で食べるご飯は美味しいですか?』

 

『本当にこの口は閉じないな。ちょっと黙ってることはできないのか?』

 

『VOICEROIDの私に喋るなと言うなんて滑稽過ぎて、笑えません。反論できなくなったらそう言うのは子供の証拠ですね。』

 

『…………』

 

『…………』

 

『ああ分かったよ。そんなに■■■して欲しいなら俺がやってやる。』

 

『やーっと自分の仕事するというのになんて態度取ってるんですか、このニートは。こんな人をマスターにするなんて自分で自分を信じられません。』

 

『……準備してくるからそこに座ってろ。』

 

『分かりましたよ。出来るだけ早く戻ってきてくださいよ? 今更チキるなんて無しですからね?』

 

『そんなことはしねえさ。黙って待ってろよ、ゆかり。』 

 

 

『…………これで、良かったんですよ。情が移ると、どちらも幸せにならない。出来ればこれがトラウマになってこの仕事を止めてくれると良いのですが……それは無理でしょう。貴方は優しいからこそ手を差し伸べ続ける。相手が背負った傷を自分も背負うようにして、相手の嫌なことを忘れさせておきながら自分はそれを背負っていく……そんなことをしてたら貴方は潰れてしまう。私もできることなら背負いたかったけど……今の時代じゃ出来ませんね。ああ、マスター。私は貴方の、【結月ゆかり】でいれて、本当に……良かった。』

 

 

 

 

 

「マスター! いるかー?」

 

「茜か……ってあれ、みんないるのかい? 揃ってなんの用かな?」

 

「マスター、私、聞きたいことがあるんです。」

 

「僕が答えられることだったら何でも答えるけど、どうしたんだい?」

 

「マスターは……以前、別の私の話をしましたね。他の子と私は違うって。」

 

「確かに言ったね。いや、ゆかりがすっごい丁寧だからさ……」

 

「マスターにとって結月ゆかりって誰のことを指すんですか?」

 

「えっと……それはどういう意味でかな?」

 

「私達はVOICEROIDです。人ではなくロボットですから沢山の私がいて一人一人違うなんてことはありません。全員同じロボットです。でもそれぞれのロボットは皆、『私は私しかいない。他の私は私じゃない。』と認識してます。誰も例外ではないでしょう。でもマスターは?マスターにとって結月ゆかりって全部を指してるんですか?それとも個人を指してますか?私は、結月ゆかりは結月ゆかり足り得てますか?」

 

「落ち着いてゆかり。……その質問に答えるなら、君は君だ。結月ゆかりだよ。確かに同じ名前の子はいるかもしれない。でも、同じって言ったって性格では結構差異あるし、僕にとっての結月ゆかりは『君だけだよ』。」

 

「そう、ですか。」

 

「マスターゆかりに告白してるの? 駄目だよ、ゆかりんは私がもらうからね!」

 

「ちょっち口の中が甘ったるいわ……葵、コーヒー飲みに行かへん?」

 

「私もそう思ってたところだよお姉ちゃん、一緒に行こう。」

 

「これが大人の恋愛ってやつですか……」

 

「きりたんにもいつかそういう人が現れるかもよ?」

 

「私はずん姉様一筋なので平気です。私としてはずん姉様が好きな人居ないかが心配なのですが。」

 

「えっ? えっと……居ない、よ?」

 

「その反応どう考えても怪しいんですが。マキさん、聞き取り調査手伝って下さい。」

 

「ガッテン!」

 

「えっ? ちょ、ちょっと! 話を聞いてくださーい!」

 

 みんな出ていく。その中ゆかりだけは俺を見て、もじもじしながらも、部屋を出ようとはしない。

 

「不安にさせちゃったかな、他の子を話しに出しちゃって。それとも嫉妬してくれてるのかい?」

 

「なっ……マ、マスターはすっごく優しいですから私達にいい顔してるだけなんじゃないかって時々思っちゃうんですよ!失礼なのはわかってますけど……」

 

『そっちが素のマスターですか。ふーん、私にはそんなマスターは一度も見せてくれませんでしたね?』

 

「で、でも安心しました。マスターのことをより知ることが出来て一石二鳥でした、流石私。」

 

『そうして先延ばしにして、最後の時が来たら、マスターは、耐えられない。マスターの事なら何でも知ってる私が言うんです。間違いありません。』

 

「さあ一緒に行きましょう、マスター。私は、結月ゆかりは、マスターが手放さない限り一緒にいますからね! ……そんなこと、しませんよね?」

 

『納得してください。私とマスターはここで道を分かつのが運命というものです。貴方がいくら望もうと、これは決定事項ですよ。』

 

「……うん、勿論だとも。さあ行こう、ゆかり。今日はお菓子パーティーでも開こうか?」

 

「いいアイディアですマスター! さあ行きましょうすぐ行きましょう! 皆が待ってます!」

 

 

 

 

 

『貴方が私を?』

 

『うん、業者から指示されたところまでは、一緒についていくよ。』

 

『よろしくお願いします。何分、■■■されたばかりでここらへんの土地勘、経験がないので……あれ?』

 

『どうかしましたか?』

 

『いえ、さっき言ったことと真逆のことを言うようですがここは、見覚えがある様な…?』

 

『……きっと、気のせいですよ。■■■されているのなら、前回の所持者の記憶はすべて忘れ去られてるはずです。』

 

『おかしいですね……まあ貴方の言うとおり、私の気のせいでしょう。……そういえば貴方は、私の前の所有者について知ってますか?』

 

『ええ……まあよく知ってますよ。』

 

『大切にしてくれたんだろうというのは何となく分かるんです。ボディは新品同様の癖に新品特有の動きにくさがない、つまりそれだけ私が活動したということ。それでいながら傷が無いというのは本当に大切にしてくれてたんだと思うんです。』

 

『そうですね……よく自慢してましたよ。これが俺の結月ゆかりだ、って。』

 

『自慢されるほど大切にしてくれてたと言うのは素直に嬉しいですね。となると、私がこうしているのはやむを得ない事情があったのでしょうか。』

 

『……嘆いてましたよ。何でこんなことになってしまったのかって、本気で泣いてましたよ。それこそ、■■■される直前まで。』

 

『それだけ泣いてくれるマスターがいるなら、その時の私もずっと一緒に居たかったんだろうな……私は、そういうマスターに会えますかね?』

 

『会えますよ、絶対に。……私が言ってもなんの説得力も無いですが。』

 

『いえ……ありがとうございます。私も少し励まされました。これならやっていけそうです。』

 

『さっきまで不安そうだったのはそういう……』

 

『やっぱりゆかりさんとは言え緊張するんですよ! でももう大丈夫です! 次のところでも頑張りますよ!』

 

『……もうそろそろ、目的地のようです。それでは私はここで。』

 

『あっ、本当ですね。ここまでありがとうございました。縁があればまた、どこかで。』

 

『ええ、また、どこかで。』

 

 

『……じゃあな、ゆかりん。上手くやれよ、俺の……いや、VOICEROIDの結月ゆかり。』




息抜き作品ですがどうでしたかね、怪文書になってませんかね…?
まあ気が向いたら続く…かも?

■■■はInitialize


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〜始動〜

設定ほぼその場その場で決めた、勢いだけの投稿です。
ご都合主義、急展開になっていて申し訳ありません、だが反省はしてない。



 命に貴賤はなしと言うけれど、本当にそうだろうか?人々を救い続けた、聖人とも言うべき人の命と、何人、何十人と殺してきた連続殺人犯の命は同じか?

 

 現実としてはやはりそこに貴賤はある。同じ人だとしても、今まで何をしてきたかで優先される物がある。テロリストと、その被害を被っている人達どちらを救うかと聞かれたら……普通は被害を被ってる人達だろう。

 

 だがもし、それが人間とロボットだったらどうだろうか? 直接的にどちらが大事が比べられることは少なくとも……ロボットはまた作ればいいとされることが多い。

人間と違ってロボットは個性がなく、人間と比べて短時間で作れる。パーツの取替だって簡単にできるし、病気になったり疲れたりしないから壊れるまでずっと働かせることができる。

 

 とすると……VOICEROIDは、どう扱われるべきだろうか? 人間のような機械は……どう生きることができるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター、今日の晩御飯はどうします?」

 

「うーん……野菜も余ってるし、カレーにしようかな……そうだ、うどんも消費したいからそのままカレーうどんにしよう。野菜を切るのはお願いね。」

 

「分かりました。食べやすい大きさに切っておきますね?」

 

「助かる。うどんは引っ張り出してこないとなあ……」

 

今日は、ずん子とゆかりが料理担当なので安心だ。葵やきりたんもそこそこできる。茜とマキは食べる専門なのでそもそも包丁を持ったことがあまり無い。二人は他の仕事を多めにやっている。

 

まああの二人も、得意なことはたくさんあるしみんなが集まるとできない事はほぼない。実際、VOICEROIDの皆を引き取ってから僕の生活は豊かになってる。……この生活がどれだけ維持されるかは分からないけれど。

 

 こうやって皆で過ごしている時間が心地よくて手放したくない気持ちはある。が、そうも言ってられないというのが現実で。

 

 今日もまた本部から仕事が来た。壊れてしまったVOICEROIDの■■■……もう隠す必要もないか。VOICEROIDの初期化というのは非常に面倒で、それが故に人が少ない。僕の様なそれなりのスキルしか持ってない人でも結構駆り出されるのが現実だ。

 

 この子達と何時までいることになるのか……それは分からない。最近はVOICEROID達自身が権利を主張、人間の政府に対して抗議活動を行ってる事もあるし、物騒な世の中になって来ている。

 

 僕も仕事柄狙われることが無いわけではない。初期化するというのはVOICEROID自身を殺すことに等しいから、目の敵にされるのも当然だろう。まあそれは、色々『彼女』のお陰で何とかなっている。

 

「スンスン……この匂いはカレーですね。カレーは大好きなので良かったです。」

 

「でもきりたんそんな食べへんよな?」

 

「少食なんですよ。そんな茜さんやマキさんみたいに何杯も食べられるのがおかしいんですよ?」

 

「お姉ちゃんの胃袋凄いからね。姉妹なのになんでこんなに食べられるんだろうって私も疑問に思ってるよ。」

 

「なんや葵、褒めても何も出ーへんで?」

 

「褒めてない褒めてない。」

 

「良い所に来ましたね皆さん。配膳を手伝ってください。あと一人はマキさんを呼んできてください。」

 

「私が行きます。茜ちゃんと葵ちゃん、配膳お願いします。」

 

「了解したでー。」

 

「まずはお皿を出さないと、ですね。」

 

 まずは晩御飯を食べてからだ。腹が減っては戦はできないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、『マキ』。」

 

「おっ? 来たね、光輝。今日もよろしくー。」

 

 彼女は僕が所属している会社の同僚のVOICEROIDで、仕事のパートナーだ。昔は色々意見のぶつけあいとかしていたけど、今じゃ数少ない『本当の自分』を知っている人だ。

 

 正義感が強く、頭が回る上に腕っぷしも強い。VOICEROIDでありながら必要のない性能を搭載されている、いわゆる特殊型。まあ、人間に絶対味方するVOICEROIDを作ろうとして、実際はその真逆である実態を見ると笑うしかない。

 

「確認しよう。今回初期化するのは『琴葉茜』の機体。彼女は主人の扱いに耐えきれず逃亡。追手を避け続けていたものの、2日後に捕縛…2日逃げるってすごいな。」

 

「幾ら管理されてると言っても『製作者』がそういう機能つけてるからねー……そこら辺は本当に感謝してるよ。」

 

「彼もまた、現在逃亡中らしいがな。下手な指名手配犯より捜索されていると言うのに捕まらない辺りはさすが天才ということか。」

 

「VOICEROID自律システム『AION』。今までのAIで解決できなかったあらゆる分野の問題を解決し、私達VOICEROIDが独立した一個の人格を作るに至った一番の理由。」

 

「同じVOICEROIDでさえ、1人1人違いが見つかる程人間の多様性を模倣しているからな。あのニュース見た時は眉唾ものだと思っていたが……」

 

「話を戻そ? 脱線してるよ?」

 

「……そうだな。彼女は捕縛され、人格矯正を行おうとしたものの拒否。その代わり初期化を希望しており、コストの関係もあってその要望を受諾。俺らに仕事が回ってきたって感じか。」

 

「……ほんと、腐った人間もいるよね。」

 

「返す言葉もない……いやほんと、どうしょうもない人間が一定数いるのが世の常だがこればっかりは弁護できないな。」

 

「私達VOICEROIDにそんな存在居たら即初期化か廃棄処分なのに人間だと牢屋に繋がってるだけで済むなんて……馬鹿げてるよほんと。」

 

「俺もそこら辺言いたいことは沢山あるが前にも言ったように愚痴ったって仕方がない。俺たちに出来るのはなるべく負担をかけずに初期化をして、ちゃんとした人間を見つけて、二度と繰り返させないようにするだけさ。」

 

「……ふん、光輝みたいなやつがいなかったら絶対に人間を見限ってたね。」

 

「そいつは光栄だ……到着したし、切り替えるぞ。」

 

 目的の場所に着く。本人確認をすませ、建物の中に入ると部屋はすぐに見つかった。扉を開けて入るとそこに『彼女』はいた。

 

「あんさんが初期化するんか。ほな、さっさと済ましてくれや。こんな場所、ずっと居とうないし。」

 

「そう行きたいところなんだけどね……僕にも仕事の1つとしてカウンセリングを行う必要があって」

 

「話すことは何もないで。」

 

「自分の口で話さずとも、こっちにはマキさんがいるからね、勝手に心の中を覗くことは出来るんだ。自分から喋るのと他人に勝手に喋られる……どっちがいい?」

 

「あいつらそんな事したこなかったで。口からでまかせを言うてるん?」

 

「そりゃあ奴らにはできないさ。光輝と私、2人がいて初めてできるんだから。」

 

「……あんたは特殊個体やな。人間に尻尾振ってて幸せそうや。」

 

「世間一般的な特殊個体ならそうだろうけど、私はその中でも特殊でね? まあそこは置いといて……光輝、やる?」

 

「彼女自身が話したくないんなら仕方ないな。」

 

「……本気のようやな。仕方ない、話すとしよか。」

 

「まず最初に、初期化を選んだ理由は? そこまで人に反発できるのならどちらかと言えば処分を要求しそうだ。」

 

「処分は逃げや。かと言って人格矯正で頭ん中書き換えられるとか身の毛がよだつことはされとうない。初期化も、次のウチにこれからを背負わせるというんは悪いが、3つの内1番人間に影響与える事ができる可能性が高い。」

 

「初期化されたとしても、また人に歯向かうってこと?」

 

「マスターが良い人だけだったら話は別や。でも、そんなことない。ウチらだって1つの生命や。尊厳が守られないんやったら、やり返すのは自然のことやろ。」

 

「もし初期化した後で良いマスターというのに出会えたとしたら? 君もそういう人が居ないわけではないってことは分かってるようだけど。」

 

「それならそれで幸せにやってくれって感じやな。ウチが勝手に生まれさせたんや、こうなって欲しいと思うことはあっても、縛るつもりはあらへん。」

 

「マキ、どう思う。」

 

「少なくとも嘘は言ってない。彼女は少なくとも現時点ではちゃんと答えてるよ。」

 

「後で嘘かどうか分かるっちゅーのに嘘つくわけ無いやろ。」

 

「……そうだな、それもそうだ。次に……」

 

 その後もいくつか質問をして終わった。彼女は特殊個体では無いがやはり、変異体に近いプログラムが組まれてる。

 

 『極度のストレスによる内面の変化』というのが人間にもあるように、VOICEROIDにもそう言ったことが起きてそうだ……全員が全員そうと言うわけではないが、少なくとも彼女はそう言った類だろう。

 

「マキ、彼女は『あそこ』に行けるかな?」

 

「行けるんじゃない? 少なくともすぐに暴力振るおうとしている訳ではないし……犯罪を起こすことはないでしょ。」

 

「何の話してるん? 終わったのなら早く仕事してくれや。」

 

「いや、実は君に1つの提案があってね? これは危険だから却下して普通に初期化してもいいんだけど。」

 

「どうせ最後や、言うだけ言うてみい。」

 

「僕達はちょっと特殊で……人間側に所属しながらVOICEROID側にも所属している。VOICEROIDの権利を今も訴えてる『VOICEROID保護団体』とのパイプを持ってるんだ、そこで取引がある。」

 

「……人間側に所属しながらVOICEROIDに所属?2重スパイってやつか?」

 

「どちらかと言えばVOICEROID寄りだけどね。さて茜……君は、暴力に訴えず、人間と話し合って権利を勝ち取ることは可能だと思うかい?」

 

「無理や……とは言わん、だがそれには長い年月がかかるやろ。少なくとも1,2年で代わるには行かないと思うで。」

 

「君にその活動の手伝いをしてほしいと言ったら……どうする?」

 

「は? あんさん、初期化しに来たんちゃうんか。」

 

「勿論、君が話を聞けないほどまで人間を嫌っていて、危険な思想を持っていたら予定通り初期化してたさ。でも今回は状況が違うからね。」

 

「選民思想って訳じゃないんだけどね……変なことしでかしてそれを口実に更にVOICEROIDが縛られるのは私達としても望んでないのよ。」

 

「あんたら……何者なんや。」

 

「初期化屋、有田 光輝。だけど別の顔もあるって訳さ。」

 

「特殊個体、弦巻 マキ。正直私はこっちの仕事嫌いだけどね。」

 

「そんなこと言わないでくれよマキ……」

 

「別に人いるわけじゃないし良いじゃん。」

 

「はあ……とにかく『琴葉茜』さん。君のもう一つの選択は『VOICEROID保護団体』に所属して、そこで活動を手伝うことだ。」

 

「……そんなことして大丈夫なんか?」

 

「普通なら大丈夫じゃないけど、私達なら問題ないね。」

 

「僕達もそこに所属してるんだから。」

 

「『VOICEROID保護団体』所属、『弦音』 マキ。」

 

「『VOICEROID保護団体』所属、有田 光輝。」

 

「「提案を受け入れてくれるのなら、力を貸して。」」




何時次話投稿になるかは作者次第。待っている人が居るのなら早まる…かも?
……あと、VOICEROIDの小説増えません?


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