ドールズフロントライン ~戦場を闊歩する鬼~ (クロギ・ヨシロ)
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着任初日
乗り心地が悪いせいで満足に寝られず無遠慮にあくびを一つ。そんな眠気を払うかのように紙巻煙草を口に銜え電気式ライターにて火をつける。この人員輸送トラック内には誰一人いないのだ、そんなことをしても怒る者はいない。大小かかわらずトラックが跳ねると刀哉の隣にある一メートルを超える長方形のアタッシュケースは重低音を立てて弾む。それ以外の荷物は司令部へ行けば衣食住など全て保証してもらえるため存在しない。
キイィ……という鈍いブレーキ音と共にトラックの挙動が止まる。どうやら司令部へ到着したらしい。平然と短くなった煙草を握って潰し、携帯灰皿に捨てる。
「さぁて、ここか」
そんなつぶやきをこぼしながら、見るからに重そうなアタッシュケースを左手で軽々と持ち上げトラックから降りる。ふと入口方面を見ると大きくはだけた制服のような服装の少女が立っていた。
「おはようございます、指揮官さま、ですよね? 私、カリーナが案内させていただきます」
「そうか? じゃあよろしく頼む。俺は荒鬼刀哉だ。気軽に刀哉でいい。そっちの方が短く済むし指揮官呼びは少し苦手意識があってね」
「そうですか? では、私のことは気軽にカリンとお呼びください」
そんな自己紹介をして司令部内に入る。廊下を共に歩き、司令室まで案内され周囲を見渡す。これからここが仕事場になる場所だ。興味がない、というわけではない。
「グリフィンの司令室は初めてですよね。いかがですか?」
「思ったよりこざっぱりしているな。まあ、あとは使われていない場所を軽く掃除すれば大丈夫か?」
「そこらへんはお任せください。何せ私が刀哉さまの後方幕僚として責任を持って取り掛からせていただきます」
「へえ、ということは意外と頭がいいのか」
「意外って何ですか、いがいってー!」
ぷんすかと怒るがなかなかにかわいらしい。こういうことが気軽にできるのは良いことだ。
「冗談だ、冗談。……にしても、こんな人間が指揮官、か。世も末だね」
「大丈夫ですよ、グリフォンの選抜試験は厳しいことで有名ですから。戦術指揮官になるだけの立派な才能があったんですよ」
「そういうことじゃないんだが……まあ、いいか」
やっはっはっ、と意味深な発言に突っ込まれないように笑い声をあげる。これは刀哉が持ってきたアタッシュケースに関係があるが今は重要ではないので説明は省く。
「じゃ早速、仕事をしていきましょう。戦術マップに切り替えてください」
そう言われ、スクリーンを見る。言われた通りに戦術マップというヤツにスクリーンを切り替える。
「では、刀哉さまよろしいでしょうか? 戦術人形は準備できていますので、いつでも作戦に移行できますよ」
準備された戦術人形のリストが表示される。ここから選択しろ、ということらしい。
「人形を配置して訓練を始めましょう」
その掛け声と共に初めての指揮が始まったのだった。
―――――
訓練は終了し、撤収の段階に入る。酷くあっけないものだったのをよくよく覚えている。そんな感想を抱いている中、ステンmk-2が森の奥地から出てきたのを確認した。
「すいません、グリフィンの方々ですか? 一緒に連れて行ってもらってもいいですか?」
刀哉は警戒しながらも異常がないことを人形たちに確認させ、はぐれたグリフィンの人形を同行させた。どうするのかをカリンに確認する。
「ああ、迷子になっていた人形ですね。かわいそうに……。刀哉さまに拾われて幸いでしたね」
「人形と言っても一応軍事用だろう? どうして迷子なんぞに」
「この頃、鉄血の襲撃が多くなってきまして……」
「ああ、なるほど。それで敗残兵みたいな感じで取り残された人形がいるわけだ。……時々戦場でも見かけたなぁ。鉄血に見つかった人形は酷い有様だったのを良く覚えているよ」
カリンは首をかしげる。刀哉が言ったことに少し理解が追い付いていないらしい。
「あれ、刀哉さまは戦場に行ったことがあるんですか?」
「人形が配備される前から軍需施設周辺を護衛していたんだ。そこじゃあ、ちょっとした争いごとがしょっちゅうでね。それと、グリフィンに応募をする前は実家の周りに鉄血がいてねぇ。……そういう点ではほかの人よりはある程度戦場というヤツを知っている人間ってことになるかな」
「なるほど、それはちょっと前世代的ですね」
「仕方ない。まだ人形が普及し始めて間もない頃だからねぇ。十分な数を揃えられなかったんだ」
お手上げのリアクションをする。とりあえずこの話を終わらせて、人形の助けることで自己理解する。
「これからは積極的に助けてあげてください。戦力拡大や人形の発注で生じる手間を省くだけでなく、『かわいいは正義』というヤツです! そうでしょう?」
それを聞いた刀哉は一瞬呆けたが、言葉を理解した瞬間に声を上げて笑った。
「そうだねぇ。『かわいい』はいいことだからね」
そうですわ~! と元々の口調が出てきていた。調子のいいことだ、襲撃が激化しているとしてもネタ話ができる程余裕があればこの状況はいい方向へと転換していくだろう。
「それと人形の中から副官を選んでくださいな。選んでおけば戦場でも意思疎通がはかどりますから」
「副官? 後々でも大丈夫かな。そこらへんはもう一回訓練を実施して吟味したい」
「わかりました。では話を戻しますと、人間にしろ人形にしろそれぞれ自分の意志を持ち、今を生きています。だからこそ助けてあげてください。その心意気は仕事にもきっと影響していい方向に向かっていくと思いますから」
「了解。そうするよ」
こうして着任後初めての訓練は終了したのだった。
こんな感じの駄文です。次がいつになるのかは未定ですのでそこらへんもよろしくしていただけるとありがたいです。
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一〇〇式
接客業務が大半の職場なので、「ショウガツヤスミ? ナニソレ……。」ってなっていました。
休みたい……。
因みにこの司令部はある程度はホワイトです。カリーナもショップに常駐できる時間があるくらいにはホワイトです。その分、指揮官である刀哉が頑張ってます。
収納庫にて資材を確認しているとき、ふと暗がりの片隅に体育座りをした人形を目撃した。
「確か……一〇〇式といったかねぇ」
部下になる名前を覚えるのは指揮官として当然の対応、という思考があり配備された全員分の名前を覚えておいたのが功を奏したらしい。
制式名称・一〇〇式機関短銃。部隊で唯一日本製の銃器を持つ黒いセーラー服を着た人形。世話好きでお節介。この性格が今回の作戦で迷惑な方に向いてしまい、作戦後年長者のナガンm1895に怒られていた、というより釘を刺されていた、に近い。しかし、生真面目な性格が自分を必要以上に追い詰めてしまったらしい。
同じ極東出身者の刀哉にとっては心苦しい話であり、そうでなくても部隊内の不信感は作戦を実行する際に重大な障壁になるだろう。まだ大きい司令塔であれば別の部隊に移動させることもできただろうし、運営に嘆願書を出して日本出身の銃を持った人形を異動してもらうこともできただろうが……。できないことは仕方がない。ある程度気晴らしになればいいと思い、話しかける。
「お初にお目にかかります……」
と自己紹介をして話をしようかと次の言葉を発する前に。
「あっ……、もしかして解体……ですか?」
今にも泣きだしそうな声と共に刀哉にとって想像もしていなかったセリフを言う。そんな酷く直球な言葉に次に言うはずだった文を忘却してしまった。
「や、やや、やっぱりそっそうなんですねっ」
「違う違う違う! そうじゃない、そうじゃあない」
これはいけない。素晴らしい程に自分を追い詰めている。ここまでのことになっているとは思いもしなかった。話しかけて正解のようだ。そんな百式の隣に座る。すすす……と少し遠ざかる。
「そんなに今回の作戦が気になるかい?」
びくっと反応し小さくなっていた体をそれ以上に小さくするように足を抱きかかえる。気に病むな、とか、忘れてしまえば、だなんていっても一〇〇式の心には届かないだろう。逆にそれ以上、自分を追い詰めていくのだろう。刀哉には理解できた。自分がそういう過去を引きずっている人間……いや『鬼』だからわかる。
「……後悔と反省。この二つがどう違うか、知ってるか?」
「後悔と反省……ですか?」
「後悔ってのは、変えられない過去をずっと見て試案していることだ。でも、その過去と同じような状況っていうのは絶対にない。これは俺の経験から言えることだ……で、だ。反省は同じように過去を見ていたとしてもそれを次にどう活かすかを考えることだ。視点が未来を向いているんだ。今の一〇〇式はどっちだ?」
沈黙が収納庫を包む。ふっと笑い刀哉は口を開く。
「よーし、わかった。今日から俺の副官になれ」
「えっ、副官……ですか?」
「お前は俺と同じ『匂い』がする」
すると、一〇〇式は自分のにおいを確認しだす。そんなせわしない行動に訂正を入れてから続きを語る。
「ああ、雰囲気っていえばよかったねぇ。どれにしろ少なからず学べるところがあると思うからな、どうだ?」
すると、顔を俯かせてしまう。そして、か細い声でつぶやく。
「本当に私でいいんですか……? もっと、優秀な方がいると思うんです」
「確かに優秀な奴がいいだろうさぁ。……でもそれ以上に、自分の考えを伝えたい相手がいいんだ。自分の意志を伝えもせず、何もせずで死んでいくよりかはまだマシだ。何もしなけりゃそれこそ後悔することになる。『あの時、これをしておけば。伝えておけば』ってねぇ」
「でも、そんなことはわからないです」
「誰だって最初はわからないよ。だからこそ何か行動を起こすんだ。そうすれば『自分と同じ奴』と出会える。そいつと物事を共有して最悪志半ばで死んだとしてもそいつが次につなげてくれる。実に人間らしいだろ? 俺のそれを一〇〇式、お前にやってほしいんだ。……駄目か?」
微笑みかけながら尋ねる。一〇〇式は困惑するようにキョロキョロしているが覚悟を決めたのか体育座りから正座に変えて正面を向く。
「ふ……不束者ですがよろしくお、お願いします」
と深々と頭を下げる。本当に生真面目な子だと、そう思った。
これが刀哉と一〇〇式のファーストコンタクトだった。
やっと二話ですよ。おい、弊社。休みを寄越せ。執筆させろ。疲れ果ててなかなか時間が取れないんだよ。
まあ、どうでもいいとして。(よくない)
因みに、刀哉のしゃべりはバグじゃないです。ある程度、語尾が伸びます。
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副官任命
というわけで、3話。……3話⁉ うっそでしょ。何やってんだ?(仕事です)
「という経緯があってね。副官を任せることになった」
「よろしくお願いします」
司令室にて刀哉と一〇〇式はカリーナと面談することとなった。
「で、何をさせればいい?」
「基本的に刀哉さまの指示を前線で伝達する隊長役をしてもらうことになるので、今は特には何も……」
刀哉は顎に手を当て考え込み、一〇〇式は首を傾げた。
「そういえば事務関係はどうなってるんだ?」
「私の仕事になってますね」
「弾薬や配給の確認とかは……?」
「今回は刀哉さまに確認していただきました。しかし、詳しい場所などを知っていただくためのものですから、本来は私の仕事です」
「「……」」
二人で確認し、二人で黙り込む。
「任せっきりはちょっと……」
「その通りだねぇ。大丈夫か、この運営方法」
そんな二人を制止するようにカリーナは弁解を始める。
「い、いえ、そんな。細々としたものばかりですし、難しいものでも……」
「カリンが倒れた時、緊急で必要になった時。さて、こうなったら誰がやるんだろうねぇ?」
「一つくらいはできます。特に弾薬や配給は私たちが使うんですから」
えっ? えっ? と言って困惑するカリーナに二人は止まることはなかった。
「人に頼ることぐらいちっとは覚えるようにすること。全部抱え込むと無理がたたってぶっ倒れるぞ」
「カリーナさんは人間なんです。少しくらい私たち人形にも仕事を振り分けても大丈夫ですよ」
そんな二人に折れたカリーナは大きめな声で返答した。
「わ、わかりました! でも少しずつですよ?」
「当たり前だ。いろいろと教えてもらうからな」
「はい、副官として頑張ります」
―――――
そうして資料の確認などの事務が8割がた終わった時、通信機器に着信が入り、カリーナが確認する。そして、カリーナがいそいそと刀哉の元へ戻る。
「すみません、次の作戦なんですけど、本部で急に人手が必要らしくて……」
と困惑しながら話す。そこに割り込んでくる女性の声が聞こえた。
「……その先は私が話そう」
「わわ! じゃあ、お願いしますね。ヘリアンさん」
スクリーンに女性が映し出される。ヘリアンと呼ばれた人物だろう。見るからに真面目そうな雰囲気を持ち赤い軍服を淀みなく着こなす。戦争を稼ぎとして確立している企業でここまできっちりとしているとは思いもしなかった。
「初めまして指揮官。グリフィン上級代行官、ヘリアントスだ」
「お初にお目にかかります。荒鬼刀哉と申します」
「堅苦しい挨拶は仕舞いにしよう。それと効率の観点からもヘリアンと呼んでくれれば結構だ」
「じゃあ、こちらも指揮官じゃ長い。刀哉でいい」
こういう気軽さについて、流石は戦争を稼ぎにしている企業だと思う。堅苦しい人物かと思えばちっと違うらしい。
「知っての通り近頃鉄血は何の予告もなくグリフィンが請け負うs09地区をたびたび襲撃している。グリフィンの評判にもかかわるので上層部もかなり気にかけているようだ」
いや、今まで予告があったのか? 戦争って別に予告なんていらないだろう。開戦なら通告義務はあるだろうが開戦後は奇襲夜襲なんでもござれ、というのが普通じゃねぇか? と思ってしまった。
まぁあいいや、と改めて説明に耳を傾ける。
「そこで本部は鉄血を迎え撃つと同時に襲撃の原因調査を私に託された。上層部の命令により貴官には私の仕事全般を補佐してもらう」
「え……ちょっと待ってください、ヘリアンさん」
とカリーナが割り込む。
「刀哉さまは入社したばかりで訓練に一度参加しただけですよ? 経験が浅いというか……」
「はぁ……無理は承知だが時間も人手も足らないのだ。だが心配は無用だ、刀哉。貴官の成績を見る限り、この任務に就くのは充分だろう。しかも、従軍経験もあり戦場を知っているのであればなおさらだ」
ヘリアントスは刀哉の目を見る。左目は白髪で覆われて目視はできないが右目は鋭い眼光を蓄えている。
「やってもらうぞ? 刀哉」
この人物なら充分だ。ヘリアントスは刀哉を再びそう評価したのだった。
ヘリアンさんがでるとこです。
おっそ。もうちょいガンバリマス。
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鬼人同体
物語としては少しずつ固まってはいるので、頑張って逝きます。
作戦は酷く順調に進んでいた。しかし、人形たちは無理に動き少しずつ損傷が大きくなっているのも刀哉は理解していた。
「スクリーンの向こう側では戦争をしているってのにお気楽なものだねぇ」
「え? ああ、そうですね。従軍経験のある方は大抵そうおっしゃるそうですよ」
「まぁ、そうだろうねぇ。にしても、本当に俺みたいなのが指揮官でいいのかねぇ」
「またそんなことを・・・・・・」
と呆れたようにカリーナは返答するが、刀哉の雰囲気からはこの台詞を本気で言っているようだった。
「俺はさ、どちらかと言うと前線指揮の方が得意な人間なんだよねぇ」
「前線指揮・・・・・・」
とカリーナは首を傾げる。
「後方指揮が得意な奴は『この部隊をどう動かそう』っていう部隊の特徴や限界を知ってて動かす。でも、俺みたいな前線指揮が得意な奴は『俺ならこんな感じで動くから部隊もそう動かそう』みたいにする。でもそれって現場の兵士にとっては、自分の部隊にある限界以上のことをさせられるわけだから凄い重労働になるんだよ」
「なるほど。刀哉さまのそのお言葉はそういうことが分かっているからこそ、言っていたことなんですね」
「そういうこと」
ふう、と息を吐く。ここに座って指揮を執っていると刀哉はいつも思っていた。なぜ自分みたいな『鬼』が戦場に赴いていないのか、と。
――――――
部隊の殲滅と司令部の破壊報告が入る。
「実に順調だったな刀哉、よくやってくれた……。いや、むしろ我々の期待以上だったというべきか」
「いいや。実力以上の動きを部下たちがしてくれたおかげ。俺の無茶によくついてきてくれた」
「謙遜だな。思う以上に貴官は秀でているぞ」
そうかねぇ。と思ってしまうのは刀哉自身が兵士としての動きしか知らないせいだろう。
「改めて、歓迎しよう刀哉。よくグリフィンに来てくれた。今後何が起こるかわからんがよろしく頼む」
賞賛を以て歓迎されるが刀哉には興味のないことだった。グリフィンに、戦争の最前線に来たのは、戦場に赴くためであって安全圏で指揮をするためではない。それがずっと頭の中に渦巻いていた。
そこで考えを巡らし、ヘリアントスを呼んで一つ頼みごとをしてみた。
「暇な時でいいから社長に「荒鬼剣也を知っているか」って聞いてみてもらえないかねぇ」
「確約はできんが、聞いてみよう。・・・・・・っと噂をしたら、だな」
そう言ってスクリーンの向こう側で通話をし始めた。そうしてちらりとこちらを見た後、その話題を言い始めた。すると、いきなり慌ただしくなりこちらに向かってきた。
「すまない刀哉、これからクルーガーさんと面談してもらう。いいな?」
「ああ、いいよぉ」
というより刀哉にとっては最初からそれがねらいだ。
スクリーンに初老程度の男性が写される。この人物がグリフィン&クルーガーにおける取締役・ゼレゾヴィッチ・クルーガー、その人だ。
「貴様か、あの質問をした指揮官は」
刀哉はなにも答えない。ただ向こうは何かを察したらしく言葉を続けた。
「名を見てまさかと思っていたが・・・・・・ケンは元気か?」
「ええ、昔みたく飄々と生きてますよぉ」
懐かしき戦友の生存に安堵していた。そうして瞬時に取締役としての表情へと変わった。
「こんな質問してまで私を呼び出したかったのにはそれ相応の事案があるんだろうな」
「ああ、その通り。……これから言うことはどれだけ馬鹿げたことでどれだけこの会社の理念から真逆のことを発言するかわかっているが、言わせてもらう」
「ああ、言ってみろ」
「俺を戦場に出させろ。俺の目的があって鉄血相手の最前線までやってきたんだ。こんなところで足踏みなんぞしていられない」
一瞬の沈黙が入る。目を瞑り考える素振りをしてからクルーガーは言葉を発する。
「……いいだろう。その代わり条件が二つある。一つ、貴様が前線指揮を執るのだ。必ず勝利すること。二つ、敗戦した場合、人形を見捨ててでも生き残ること。これらを厳守してもらう」
その言葉に刀哉は口角を上げて言の葉を流す。
「認識した。では、その通りに」
そうして退室していったのだった。カリーナは後を追い、ヘリアントスは声を上げる。
「なぜ許可を?」
「簡単だ。貴様はあいつの目をどう思う」
「目、ですか? 鋭い眼光を蓄えたいい瞳だと」
「それが駄目なのだ。いいかヘリアン、鋭い眼光というのは一瞬閃く。だからこそ意味がある。あいつの目は勇者や英雄ではなく『化物』の瞳になっているのだよ」
「化物? 刀哉が、ですか?」
「あいつの従軍経験がどこか知っているか?」
「いえ、軍需施設としか」
「その施設が『鉄血工造』の工場だったのだ。しかも、あいつの母は最初期の鉄血工造を支えた研究者、
「……! 鉄血側の天才ですか」
「そうだ。あの一件で実家を継いだ兄以外の家族を喪っている。……化物といったが詳しく言えば『復讐鬼』なのだ、あいつは。……これは仮定の話になるが、もしここで許可を出さなくても後々我慢ならなくなって飛び出していっただろう」
二人は黙りこむ。部屋の中には鉛のごとき陰鬱な雰囲気が沈み込んできたのだった。
と、まぁ社長相手に凄い事言ってます。
とりあえず、次回は早めにできればと思ってます。
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武装用意
夏コミには行った方も多いと思いますが、ボランティアの方も大変そうでしたね。
「どうして戦場に? 目的って何ですか?」
と刀哉の後を追うように部屋から出てきたカリーナが廊下にて悲鳴のごとく声を上げる。
「司令部に来る前からの目的が一つと、一〇〇式とかの人形たちを見て再確認できた感じかねぇ」
「それはどんな?」
「家族のために復讐すること。それと、これはカリンも言っていたことだが……」
歩みを止め、カリーナの方を振り返る。
「人形はかわいい、だろう?」
「ええ、言いましたね」
「それだよ。そんな存在の人形を出陣させて戦いに来た俺は椅子にふんぞり返っていいのかってね」
「それは……」
「確かに彼女たちはすでに軍事運用されているから仕方がないのかもしれない。けれど、この戦争の発端は人間だ。あの日、武装集団が工場を攻撃しなければ鉄血は暴走しなかったし、俺みたいな復讐鬼が誕生することもなかった」
そのセリフにカリーナは黙り伏せる。こればかりは正論で鉄血がなぜ暴走したのかを知っているのならばこの沈黙するという行動しかとれないだろう。
「それに彼女らはもう『兵器』じゃなく、『兵士』なんだ。俺は共に戦いたいんだよ」
笑って見せる。それで安心させるように、ただ死に征くのではないと言い聞かせるかのように。
「さてねぇ、みんなにも言っておかないと」
と、宿舎に足を運ぶのだった。
―――――
「というわけで一緒に戦場へ赴くことになった」
「許可はとってあるんですか?」
「あぁ、そこらへんは抜かりなく」
一〇〇式たちは心配してくれるらしい。いや、「人間だからとか」とか「上官だから」とかそういう類の心配だろうと思うが。
「それで、この柱は何?」
宿舎内にあった柱にはコンデンサと記されてあった。そこにカリーナの説明が入る。
「これはですね、宿舎の拡張とか司令部のエネルギー補充に必要なバッテリーを精製するコンデンサですね」
「おぉ、こんな装置が……」
「ちなみに、これで犬や猫も飼育することができますよ」
「なにその謎設備」
バッテリー、バッテリーねぇ。と少し考えて、いけるかな? などとつぶやく。
「ちょっと荷物とってくるか」
「荷物ですか」
「そうだねぇ、俺が唯一持ってきたアレ」
「あぁ……」
とカリーナだけと会話が成立し、一〇〇式たちは何を言っているのかわからないようだった。そんな中、刀哉は宿舎をあとにして自室からアタッシュケースを持ってきた。ドックタグ代わりのカギを首から外しアタッシュケースを開ける。
そこには一本の柄の長い居合刀とダイヤル方式の機構が付いた装甲板。そして、複数本の小さい筒が入っていた。
「これで戦うんですか?」
と一〇〇式は問う。当たり前だ。軍用で作られた鉄血の人形ならともかく、ただの人間が剣で戦おうなど無謀にも程がある。たが、刀哉はニコリと微笑みながら答える。
「そうだよぉ。実に日本人らしいだろう? 俺は銃だと10メートルくらいでやっとまともに当たるような腕前でね。どこの戦場も刀と共に闊歩したものだ。これまで生きてこれたのは運がよかった、のかねぇ」
「なんで剣なんです? 消音器をつけた銃ならある程度隠れて攻撃できると思うのですが……」
とカリーナは疑問を呈する。
「俺の父が刀匠でありながら剣術家でね。戦争が始まる前に死んじまったけど、十二になるまでは剣を教えてくれてたんだよ。それのせいか、剣の方が落ち着いてね」
なるほど、と周囲はうなずく。納得されてもいいのだろうか? とか思ってしまったが構わないこととする。そんな中、一〇〇式は口を開く。
「ちなみに、この筒はなんです?」
「ん? ああ、戦闘の時に使うバッテリーだよ。これから、これの充電するために出入りすると思うからよろしく」
充電しながら内容物を組み立てる。装甲板に太刀の鞘をはめ込む。柄と装甲板の持ち手を持つとちょうど抜刀術の持ち方に近い保持の仕方になる。
そうして、胸ポケットからタバコを1本取り出し指で弾く。すると、人形の優秀な動体視力を以てしても『不可視』と言っても過言ではない居合いにて宙のタバコに三太刀入れていた。
それに周囲は酷く驚く中、刀哉は余裕そうな顔で呟く。
「うん、いつも通りだねぇ」
武装関連の感覚を確かめた後、バッテリーを取り出す。
そんな刀哉の様子を眺めながら一〇〇式は考えていた。指揮官が私たちと共に戦場へ並び立てるのかを。答えは否定。超絶的な技量を持っていたとしても到底そんなことはできない。
でも、それでも、指揮官に言われたように後悔しないために努力しないといけない。指揮官の副官としてちゃんとやっていけるように。そして、守れるように。
刀を用いるのは元々決まっていた事です。
主人公に銃を持たせても良かったのですが、ドルフロキャラと被ると色々と面倒そうだったのでやめました。
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人鬼同心
指揮官・荒鬼刀哉の初陣になります。
「次の任務を伝える。……本当に戦場へ
「そりゃ、知人とはいえ会社の最高責任者にあんな大口をたたいておいて出撃しませんでしたなんてやったらただの馬鹿ですよぉ」
と整備しておいた装甲付きの刀装を左手だけで持ち上げながら答える。ヘリアントスからは武装の方にも一言二言ありそうな雰囲気を醸し出していたが、クルーガーから何かしら言われたのだろう、口を閉ざし静観するのみだった。
「まあいい。今回の任務は負傷した人形の回収部隊が帰還するのだが、通過点に鉄血の拠点が今も存在するとのことだ。これの殲滅を行ってもらう。失敗は許されない。貴官の武運を祈っている」
通信が途絶え静寂が刀哉を包み込む。そんな中刀哉はひとり呟く。
「さぁ、戦争の時間だねぇ」
その顔はだれが見てもわかるほどの歪んだ笑みを浮かべていた。
――――――
輸送ヘリ内部。一〇〇式率いる第一部隊と新しく着任したグリズリー率いる第二部隊で分かれ計二機での出撃となった。ちなみに刀哉は第一部隊のヘリに搭乗している。
刀哉は無線にてグリズリーに呼びかける。
「第二、グリズリー」
「はい?」
「第二部隊は比較的身軽にしておいた。東側のルートをたどれ。できるだけスニーキング、見敵はできるだけ音を出さずに必殺すること」
「了解」
その返事はどことなく不満そうな声音だった。
「なんだよぉ、不満かい? 第一部隊が交戦して鉄血の主力がこっちに集中してきたら強襲してくれ。その時間帯だったらはしゃいでくれて構わないから。というより、はしゃいでくれ」
「重ねて了解よ、指揮官」
グリズリーは任務を全力で取り組むような性格だが、何かしらスリルのある戦闘を好む。こんな風にある程度の戦場を用意しておかなければ。
「さてと、やろうか『
刀哉は柄を再度強く握りつぶやく。ヘリは戦場の上空。最前線まで赴いた。刀哉は戦場に入るとき決まって前髪をかき上げて左目を出す。その瞳は仄かに白く灯るのだった。
――――――
戦場を駆ける。敵がいるであろう場所まで到着し身を隠す。一〇〇式は刀哉に指示を仰ぐ。
「主力の所在を確認しました。どうしますか?」
「どうするもこうするも、交戦するしかないだろう」
すると第一全員が飛び出そうとするので「待て」と制止させる。
「全員銃を構えて待機。俺が五秒カウントする。何があっても引き金はひかないこと」
第一は銃口を上げ狙い定める。その状態で待ち望む。
「じゃ、一で発砲。いいね? 一〇〇式、隊長として号令よろしく」
と言い、一〇〇式はうなずく反応を見せた。
刀哉はカウント開始と共になんと鉄血の前に姿を現したのだった。第一は様々な反応を見せるが指示通り待機している。普通であれば撃ってしまう者もいるがそこらへんは飲み込みがいいらしく、ちゃんとしていることが分かる。
鉄血は刀哉に反応し銃口を上げ始めた。今にも銃火が閃く……その数瞬前に、消え入るような言葉をつぶやいた後、刀哉は敵味方かかわらず全員の視界から消えた。―――否、地を滑るかの如き抜刀術で敵陣中央にいたプラウラーを真っ二つにし、鉄血の背後へ回っていたのだ。
そうして、鉄血は背後を見てもう一度銃口を上げる。しかし、無線の中では一のカウントが通達されていた。
「射撃開始!」
一〇〇式の声と共に軽快な発砲音と鉄血の破壊音が重なり合っていく。
「第一、そのまま前線を上げろ! 第二、いまどこだ」
「司令部へ200程度」
「発砲許可。司令部を攻略しろ」
「了解」
オーバー。その返信を耳に残し、刀哉は再び動き始める。
初手はリッパー。の首を落として走り去る。プラウラー……は苦手だが―――というより人の形をしていない相手が苦手だが―――そんなセリフも言っていられない。だが、距離が酷く近くそこまで加速もできない。そうしてとった行動は四本足の片側のみを斬り払い、そのまま駆け抜けていく。プラウラーは混乱し立て直しに時間がかかる。そこに第一が駆け込み逐次排除していく。
刀哉は斬り倒すだけでなく、腕や脚だけを斬り払ったり攻撃を斬り落としたりするか装甲板で防ぎきるかをして走り去ることもする。刀哉の行動に混乱していたり、処理が追い付いていなかったりする残った鉄血の人形たちを後から走ってくる第一がきっちりと倒しきる。
そう。先行する刀哉はいわゆる『囮役』を買って出ているのだ。おかげで第一は必要最低限の攻撃で最大限の戦果を挙げ、最小限の被害で最速ともいえる進軍速度で司令部への道を駆けていくのだ。
「見えたぞ、司令部だ。すでに第二が突入済みだが何が起こるかもわからねぇ。警戒すること」
「了解」
なんて指示をだすともうすでに第一が刀哉の前線まで走りこんでいた。そんな様子から『優秀だな、俺の部下には勿体ねぇ』という自虐と『充分だ、俺と一緒に駆ける兵士にはもってこいだねぇ』という満足感が刀哉にはあった。
外側の鉄血人形を倒し終え、司令部内の鉄血を排除しにかかる。室内の場合はライフルやアサルトライフルなどの長物を持つ人形には苦手な場所となるが、同等の長い居合刀を持つ刀哉にとっては野外と変わらない戦場だった。理由としては、刃を円のように振るうのではなく、突きや錐状に振るうからだ。
それだけでなく、刀装が効果を発揮する。
まず、出入り口の扉を鞘で突き破りながら突撃する。それに反応してリッパーは構え始めるが、それに構わず突撃の速度を維持したまま鞘の先端で相手を突き動かし鞘の持ち手にあるレバーを握る。すると、瞬間『バチィン』という電撃音と共にリッパーはショートし、再起不能となる。これが刀装、正式名称『|装甲付属対人形電撃突兵拵《ソウコウフゾクタイニンギョウトッペイゴシラエ》』である。
そのままリッパーを払いのけ、出力用のダイヤルを回しバッテリーを排莢させ瞬時に回収し、腰に差しているバッテリーを装填する。そして、ダイヤルで電撃の強さをスタンさせる程度に調節する。人形一体に対してバッテリー1つ使うのは非常に効率が悪い。それでも、使用したのは突入時ほど危険な時間帯はないため出し惜しみなんてできないためである。
その突入で反応したスカウトがやってきたのを視認する。第一は別ルートからの突入を敢行しているため近くにいたとしてもすぐには増援には来れないだろう。スカウトには瞬時に近づいて逆手の抜刀にて斬り落とし、離れていく前に刃と刀装で破壊する。
突入から少し落ち着き、歩いてみることにした。廊下と殺風景な部屋ばかりが続きそこまで何かがあるというわけではないようで、重要なサーバールームがあるというわけでも何かの製造をしているというわけでもないらしい。本当に護送の陸路を確保するために占領した、という感じだ。
ふいに覗こうとした廊下より銃剣が飛んできた。鞘で受け流し、そのまま胸あたりであろう場所に先端の電撃装置を当てる。ただレバーを握ることはなかった。相手が一〇〇式だったためである。その後ろには第一部隊がそろっていた。
「ああ、一〇〇式か」
「あっ、指揮官! 申し訳ございません」
「大丈夫だよぉ」
なんて言って再度歩き出す。その後ろから一〇〇式達がついてくる。
「敵の数は?」
「大半がグリズリーさんの第二部隊が撃破していました。確認中ですがほぼいないかと」
「認識した。……にしても、さっきの銃剣戦闘は良かったぞ」
「えっ、あ、ありがとうございます……でも今のだけでわかるんですか?」
「わかるよ。一応武術を習っていたって話しただろ? 他部門でも少しは理解できる」
「そうねんですね」
「そう。で、だ。一〇〇式にも長所や短所がある。長所はちゃんと活かして、短所は周りに頼ってカバーしてもらえばいい。そうやって失敗も次につなげられるようにすること」
「次に……」
「だから、こういう普通の戦闘はお前たちに存分に頼る。そして、対抗できない相手が出てきたときは俺がここぞとばかりに頼っていいからな? なんてな」
刀哉は笑って見せる。こんなやり取りをしながら作戦は終了を迎えたのだった。
――――――
「作戦終了しました。任務の引継ぎをよろしくお願いします」
「ご苦労様です。確かに引き継ぎました。帰還の命が下りていますのでお気を付けて」
だなんて典型的なやり取りをして撤退のヘリに乗り込む。
「一〇〇式。帰還したら仕事は残っていたっけ?」
「はい。消費資材の確認とその他こまごまとしたものが」
「ああ……。一〇〇式、休憩した後でいいから頼むわ。俺はちょっとやることがある」
「了解しました」
司令部に戻った一〇〇式は言われた通り、消費資材の確認に入った。自分自身も若干の消耗があるが刀哉から直々の命令であるため、休憩しろ、だなんて言われたがここはお節介な一〇〇式である。最優先でやってのける。
そうして、最終確認の許可を得るため刀哉の自室へと足を運んだ。扉は若干開いていて隙間から中が見えた。そこには異様な光景が一〇〇式の瞳に映った。
普段、手袋や長袖や長ズボンで隠れている刀哉の四肢は言うところの『人形内部の四肢』になっていたのだ。左腕を取り外し右手で整備している状況だ。
戻ろうとしたとき扉に当たってしまい気付かれた。刀哉は驚いたようだったが何事もなかったかのように言葉を発する。
「どうしたんだ、一〇〇式。早いじゃないか」
「あ、いえ、指揮官からのご指示だったので最初にやっていたんです」
刀哉はそれに納得しうなずく。「休憩した後でよかったんだけどなぁ」とかつぶやきつつ。
「指揮官、それって……」
「やっぱり気になるかい」
整備をしながら刀哉は経緯を話し出す。
「俺はさ、もともと鉄血の製造工場で護衛任務に就いていたんだ」
「鉄血の工場? ということは……」
「御想像通り。この手足はその時失った。……家族、母と妹も一緒にね」
「家族? なぜそんなところにいたんですか?」
チキッという音と共に動作を止める。一〇〇式ははっとして謝ろうとしたがその前に刀哉が口を開いた。
「俺の母は鉄血の人形を作り上げるために招かれた研究者だったんだ。その近郊に居住区があったからそこに住んでいてね。だからこそ、襲われた」
息をのむ。酷い惨劇をもたらした戦争だとデータから知識はあったが、生き証人が存在するとは思いもしなかった。
「だから、母が残した技術を使ってもう一度戦うことを選んだ。それこそ、鉄血に復讐するために。そうして、俺は戦場に
刀哉はうつむいたまま自らを嘲笑する。
「馬鹿みたいだよなぁ。こんな姿になってまで復讐しようだなんて」
また整備し始める。そんな刀哉の姿を見て、言葉を聞いて、一〇〇式は馬鹿にはできなかった。指揮官が素晴らしい程に『人間らしく』思え、酷く惹かれてしまったのだった。
ヘリアンさんすごいげんなりしてる……!
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