最強の魔法使い(自称)が暴れるそうです。RE: (マスターチュロス)
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第一章:私は『異形魔理沙』
プロローグ(0話)





※これは妄想の産物です。趣味です。なので察してください




 

 

 何も見えない、聴こえない、匂いもしないし感覚もない。ここは何処なんだろう……その言葉ばかり、私の頭の中で延々と回り続けている。

 

 体も動かせない、いや、動かした感じがしない。どんなに動かそうとしても、闇の中に力が霧散していくようで全く動く気配が無い。

 

 ずっとこのままなんじゃないか……なんて恐ろしいことを考えていると、闇の中から小さな淡い光がポツンと現れた。

 

 やがてその光は一筋の光へと変化し、徐々に暗闇を侵食していく。あまりの明るさで上手く目が開かないが、何となく感覚でわかる。

 

 最後に一際強い光が目を刺激し、光の中から大人びた美しい髪の女性が現れた。

 

 俺はこんな人知らない……というか誰? 親戚にこんな人いただろうか? 疑問しか浮かんでこない俺にお姉さんが話したそうにこちらを見ている。

 

 

「あなたは死んでしまいました」

 

 

 お姉さんが少し悲しげに言った。

 

 

「は?」

 

 

 え? 死んだ? まだ14歳の私が成人にもなれずに死んだ? そんな馬鹿なことあるわけないだろう。

 

「いや、ほんとです。あなたは死にました。死因はまぁ……その、アレですけど、まぁ簡単に言うなら発狂死ですかね。幸せそうに死にましたね」

 

 発狂? 幸せ? なんか思い出せそうでおもいだせない。嬉しかったようなそうでないような? あかん、思い出せない。

 

「あの全然思い出せないんで詳しく教えてくれません? 知ってるんでしょお姉さん」

 

「その前に1つ、自己紹介させてください」

 

 そういうとお姉さんはストレッチした後、深呼吸をすることで落ち着きを取り戻し、上位存在としての威厳を醸し出す。

 

「私の名は神『アポーション』。死者の魂の循環を担うものです」

 

「嘘はよくないと思う」

 

「いきなり疑うの!? あの、ここがどこかわかります?」

 

 言われてみると、ここは自分の部屋じゃない。というか、自分の部屋はこんな開放的じゃないし、ましてや黄金の空とか現実じゃない。身に覚えがないなんてレベルのものではない。

 

「ここどこだよ!?」

 

「えぇぇぇえ今!? 気づくの遅い! 最近の若者は危機感が足りてないよ!」

 

「だってついさっきまで部屋にいたんだもん! こんなとこ知らんもん!」

 

 唐突の状況変化に追いつけず戸惑う男、結依楓真(けつい ふうま)。これからどうすればいいのか頭の中で整理していく。

 

「とりあえず、あなたは誰なんですか? というかどこ!?」

 

「さっき説明したはずなんですが……もう一度言います。私は神『アポーション』。天界で死者の魂の循環を担っています」

 

「天界に神様ねぇ。どこの小説投稿サイトだろうね」

 

 異世界転生してチート無双、この流れ、素晴らしい。

 

「そしてあなたは循環777回記念で異世界に行くことができる権利を手に入れました! おめでとう! ぱふぱふ!」

 

 そんなに循環してたんだ……なんて感心してしまったがそうじゃない。異世界に行けるだと!? それはつまり、

 

「もちろん、能力はお渡ししましょう」

 

「よっしゃああああああああああ!!!!」

 

 念願の夢が叶い、テンションのあまり狂喜乱舞してしまう。そのせいで女神が若干引いてしまったが、仕方がない。男なら誰しも喜んで当たり前である。

 

「あなたが行ってもらう世界は『僕のヒーローアカデミア』です。頑張って充実した人生を過ごしてください」

 

「神様、マジでありがとう」

 

 そういって俺は感謝を込めて、女神の周囲をグルグルと周りながらオリジナルダンスを披露した。

 

「あ、あの、気持ちは伝わったので早くこちらに……」

 

 あら、意外と反応が悪かったようだ。神様が苦笑いしながらやめるよう注意してきた。

 

「それでは転送の儀を」

 

 そういうと俺の周りには何重に積み重なった魔法陣が不規則に光を点滅させ、今にも出荷される勢いであった。

 

「あの女神様? 私の死因ってなんでしょうか?」

 

 まだ聞けていなかったことを思い出した結依楓真は、女神に最後のお願いをする。流石に自分の死因も分からないまま別の世界に行くわけにはいかず、ここを逃せば女神には二度と会えない。同じ過ちを繰り返さないよう聞いておくべきだろう。

 

「あなたはジョジョの奇妙な冒険第5部の第1話を見て3分後に出血多量でお亡くなりになりました」

 

 その時、結依楓真の脳裏にあの日の記憶が蘇る。確かあの日はいつも以上に疲れていて、友達に介抱されながら一緒にジョ〇ョの奇妙な冒険のアニメを見ていたら、嬉し過ぎたのか鼻血を出してそのまま寝込んでしまったのだ。我ながらはた迷惑過ぎる。

 過ちを繰り返す方が難しいほど意味不明な死因だし、何故そのような結果になったのかさっぱり思い出せない。なんだか気にしない方が良さそうな気がしてきた。

 結依楓真は大人しく転送魔法陣の中で、死因とは別に前世のことを思い出そうとした。が、これも思い出せない。家族の顔も、友達の顔も、記憶も経験も何もかも思い出せない。だがゲームやアニメ等の知識だけは何故か普通に思い出せる。異世界転生ってこんなんだっただろうか。

 まぁ、とりあえず自分の過去に関しては全部気にしないことにした。どの道新しい人生が始まる以上、過去の記憶なんて余計なもの。考えるだけ無駄かもしれない。

 とりあえず目でも瞑って、転生の時を待つとしよう。

 

「最後にあなたの能力についてですが…………あっ」

 

 不穏な声を漏らす女神に、結依楓真はドキドキが止まらない。別に声がエッチだからとかそういうわけでなく、転生失敗しそうな匂いがしたから心配になっただけだ決して、エッチだからではない。

 

「あ"ッ……ゔェッ!! が!」

 

「女神!?!?」

 

 明らかに女神の様子がおかしいと思った結依楓真は女神の方を見たが、何故か視界が真っ暗で何も見えない。それどころか女神に出会う前の、体の感覚が一切ないあの状態に逆戻りしており、身動きが取れない。何かとてもヤバそうな雰囲気だ。

 

「女神ィ──────ッ!!!」

 

 

 一応、言ってみたものの返事は帰ってこなかった。

 

 

 不安だ。女神は無事なんだろうか? まぁ女神だから多分大丈夫だと思うが、明らかに首締められたような声上げてたから本当に不安でしょうがない。

 心配しているうちに体の感覚が戻ってきたが、いつの間にか俺の体が高所から落下していることに気づいた。本当に意味がわからないし、視界はまだ真っ暗なので何が何だか分からない。ただこれもよく分からないが、何故か俺の口の中でミン〇ィアを食べた時のような清涼感が広がっていた。どういう配慮なんだろうか。

 

「んひゃッ!?」

 

 一瞬、生暖かい液体のようなものが背中を伝って全身を包み込み、最後は口の中に流れ込んでくる。咄嗟の出来事だったので変な声が出てしまって恥ずかしいが、次の瞬間には液体が肺の中に入ってきてそれどころじゃなかった。正直痛いし吐きたいし気持ち悪い。辛い。吐きたい。吐かせて欲しい。さっきからわけのわからないことの連続で頭が痛いし、気持ち悪いから早く楽になりたい。あぁああぁあ俺の思ってた異世界転生と違う!! 

 

 過酷な闇の世界でもがき続けていくうちに、また淡い光のようなものが見え始めた。俺はその光がこの闇の世界から脱出するための出口だと理解し、必死にその光に向かって泳ぎ続ける。息すら吸うことができず、ただ必死にもがいて、あがいて、光に向かって走り続ける。

 

 

「お前は運命に踊らされている」

 

 

 光が広がる。世界が見える。肺に入った羊水を吐き出し、声を叫ぶ。それが苦しみから最も早く開放される手段であることを、私は理解していた。

 

 

 だから精一杯に叫ぶ、力いっぱいに叫ぶ。叫んで叫んで叫びまくって、生まれたことの意味を知る。

 

 

「オギャァ! オギャァ! オギャァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

【神界】

 

 

 神々が暮らす地、神界。白と黄金で彩られた世界には神々がいるとされ、あらゆる世界の監視を行っている。美男美女の超越者たちは人智を超えた力を用いて裕福に暮らし、争いのない世界でのんびりと下界を眺めていた。

 

 が、そんな平和な神の世界はつい先程、崩壊した。

 

 崩壊させたのは、たった一人の幼き少女。その瞳と顔は黒く染まり、ボロい白黒の服と帽子を身にまとった怪しい少女は見た目以上に凶悪な異能を用いて次々と神を虐殺し、容赦なくその首をへし折っていった。

 神々はその究極の力で彼女を追い出そうとしたが全く叶わず、彼女の行動により神界に住む全ての神々が首無しの死体に生まれ変わった。その光景はまさしく地獄のような光景で、あの美しかった大地すら流れ出した血液によって穢されていく。

 少女は死体の山の上でクスクスと笑う。何が面白いのかなんて、本人以外わからない。ただ、全てがいなくなり、彼女だけが残ったこの世界には、昔とはまた異なる美しさが存在していた。

 

 

 少女の名前は……、異形魔理沙。

 

 

 最強の魔法使いである。

 

 






キャラ説明

結依楓真:2次元大好きな14歳。テンションあがりすぎたたため死亡。僕のヒーローアカデミアの世界で新たな人生を歩む。

神『アポーション』:天界に住む神様。姉がいる。

異形魔理沙:最強の魔法使い。



*異形魔理沙の能力について

相手の体の一部(皮膚や髪の毛、体液でもOK)を摂取することで相手の能力を手に入れることができる。ちなみにパクられた相手は能力を失うことはない。また、ストックできる能力の数はほぼ無限であり、またあらゆる戦闘形態に体を変えることができる(ここでは何でも化けられるということにします)。



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イカれた個性(1話)



悔いはない




 

 

 

 オムツが蒸れる今日この頃、私、結依楓真もとい『結依魔理沙(けつい まりさ)』は赤ん坊用ベットでゴロゴロしていた。どうやら上手く転生できたようである。

 

「だぁ」

 

 今のところこれしか喋れない。当然だ、まだ生まれたてホヤホヤの赤ちゃんでなおかつ、言葉など教えられていないのだ。 知ってるけど。

 

 そういえば個性は何だろうか。あの時ごちゃごちゃしていて何も覚えていないが、おそらく私にも何かしらの力が備わっているはず。

 そういうことで試しに手を前に突き出してみたが、ここで結依魔理沙はあることに気づいた。

 

 

 ───── どうやるの? ─────

 

 

 プ〇フェッショナル仕事の流儀のテロップが脳裏に浮かび、結依魔理沙は頭を抱えてしまう。この世界において"個性"というのは身体機能の一部であり、走ったり、ジャンプしたりするのと同じように使えるはずなのだがイマイチよくわからない。こういう時は大抵イメージが大事だろうから、今度は動かすイメージを持ちながら哺乳瓶に向かって念を送り続けた。が、何も起こらない。

 

 おそらく自分はまだ個性に目覚めていない。が、この世界では4歳になるまでには必ず個性が発現するようになるのでまだ大丈夫だ。早ければ明日にでも目覚めるはず。

 

 それはともかく、私、結依魔理沙は今重大な問題に直面していた。それはオムツの交換、赤ちゃんである私は勝手にう〇こを漏らし、汚ない尻を母にみせなければならないのだが、これが死ぬほど恥ずかしい。無駄に意識があるせいで妙に屈辱的だ。これが後半年から数年ほど続くと思うと、なかなかキツイものがある。

 

 

 

 はやく大人になりたい。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 あれから4年……特に何もなかった。しいて言うならば父親が転職したので、母がその祝いとして家族旅行を提案したのだが、私は赤ちゃんなので旅行当日の日は保護施設に預けられてしまった。

 最近は旅行関係なく保護施設に預けられることが多く、よく精密検査やら健康チェックを受けることが多くなった。理由は分からない。

 

 そんなこんなで私はこの4年間全く知らない人間に身の回りの世話をされてきたのだが、私が3歳になったあたりから周りの視線がおかしいことに気づいた。

 なんというか、()()()()()()()のだ。施設の人間もそうだし、私と同じくらいの年齢の子には顔を見ただけで泣かれてしまう。さらには自分より3歳ほど上の子たちに「気味が悪い」と言われ、容赦なく殴られたこともあった。色々と少し傷ついたが、いつか絶対しばくと心に誓い、拳を下ろした。

 

 何はともあれ、お待ちかねの個性把握タイムだ。結局4年もかかってしまったが、その分楽しみで仕方ない。施設にいたときはずっと自分の個性について考えていたし、延々と個性に目覚めた時のシチュエーションを妄想することで正気を保っていた。それが生きる時だ。

 

「はァッ!」

 

 個性が使えるようになったとき、結依魔理沙は感覚で理解した。あの時感じた感覚を再現できるよう、全身に力を込め、何かが起こって欲しいと強く念じた。しかし、特に体が変化したわけでもなく、足が速くなったとかそういう感覚もない。これは騙されたか、それとも地味すぎて気づかないのか。それすらも分からず周りを見渡すと、何故か職員たちが微動だにせず静止していた。それだけでなく、空気の流れや水の動きまで停止し、世界から色と音がかき消されてしまう。

 

 

 ──── 時間停止 ────

 

 

 止まった時の世界は光すら微動だにしない。人間のもつ五感は時の中では機能せず、何も見えない、聞こえない、匂いすらない。ただ、自分だけは、この世界で、現実世界と変わらず動けるのがわかる。

 

 力を抜くと世界はいつも通り動き出した。つまり私の個性は『時間停止(タイムストップ)』かも知れない。

 どう足掻いても強い力を手にした結依魔理沙の頬が少し緩んでしまう。これなら施設内で私を虐めた馬時加々良(♀)にちょっとした仕返しが出来るかもしれない。そう喜んだ矢先にさらなる事件が発生した。

 

 ゴゴゴゴゴゴ スッ

 

 私の背後から奇妙な黄色い人影が現れ、こちらをじっと見つめている。私も振り返ってその体を見てみると、身長は成人男性並の大きさでガッチリとした肉体をしており、所々にハート型のなにかが手や頭にあり、顔はプロレスラーのマスクに似ている。

 試しに結依魔理沙はこの黄色い何かに触ってみたが、精神エネルギー体なので触っても体温は感じられず、若干ひんやりしてきる。

 

 これはアレだ。すっごく見覚えがある。

 

「『ザ・ワールド(スタンド)』だああああああああああ!!!!」

 

 ザ・ワールド、それはジョジョの奇妙な冒険第3部のラスボスであるDIOの幽波紋(スタンド)であり、時を止める能力と圧倒的なパワーによって主人公である承太郎たちを苦しめた最強のスタンドである。

 そのスタンドが出てきたということはつまり、私の個性は『ザ・ワールド』、もしくはDIOそのものになったということになる。

 

 

 ───────そういえば、生まれてから一度も自分の姿を見ていなかったような⋯⋯

 

 

「ッ! 鏡ッ!!」

 

 私は急いで、家の中にある鏡という鏡を探し回ったが、この家あろうことか鏡が見つからない。いったい両親は今までどうやって身嗜みを整えてきたのか問いただしたいところだが、居ないんじゃ仕方がない。自力で探し出すしかないだろう。

 洗面台や玄関、トイレの中も探してみたが見つからず、今度は母の部屋の中で探しまくった。タンスの中や本棚の上を漁っても見つからなかったが、母のバッグの中に手鏡が一つだけ入っており、魔理沙はすぐにその手鏡を開いた。

 

 そこに映っていたのは高身長のガタイのいい吸血鬼かと思いきや、背の小さな金髪の女の子だった。

 

 しかしその子の顔と瞳は人間とは思えないほどに真っ黒で、口を開くと想像以上に大きく、親と比較しても微塵も似てる要素のない正真正銘の怪物が、そこに映っていた。

 

 

 

 

 こんなやつ、見れば1発でわかる。

 

 

 

 

 私は東方異形郷の『異形魔理沙』になった。

 

 

 

 

 異形魔理沙、通称『マリッサ☆』は東方Projectの二次創作作品『東方異形郷 』のキャラクターだ。容姿は東方Projectに登場する『霧雨魔理沙』に似ているが、服や髪の毛がボサボサで、何より顔が黒い。第4の壁を突破したメタ発言が多く、嗜虐心旺盛の危険人物だが、褒めるとこは褒めるし、約束は破らない。日本語が下手くそでたまに何を言っているか分からないが、会話はできる。

 

 そんな彼女が有している能力、それは『食べた相手の体の一部を死ぬまでパクる』能力である。彼女はその力を用いてあらゆる平行世界を襲撃し、片っ端から能力をパクることで数え切れないほどの力を蓄積し、その力を用いてさらに別の平行世界を襲う⋯⋯を繰り返した結果、あらゆる世界のあらゆる力を持った化け物になってしまった。

 

 つまりさっき出た『ザ・ワールド』は、異形魔理沙の力の一部として発現しただけに過ぎない。

 

 これがいったいどういう意味を持つのか、それはつまりこの世界のパワーバランスの崩壊を意味していた。

 個性が絶対であるこの世界で、ブッチギリで最強の個性が出現したとなると、それを良しとしない連中や悪用しようとする輩が増えるのは明白。次の日には攫われて、一日中体を解剖されてもおかしくない。それほどまでに結依魔理沙という存在は、あまりにもバグっていた。

 

 

「よっしゃぁぁぁぁぁぁー!!!!!」

 

 

 しかし当の本人は、その事実を全く分かっていなかった! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








幻想郷:東方Projectの舞台。忘れられた妖怪や神様などが住む世界。「幻と実体の境界」と「博麗大結界」によって守られている。

空条承太郎:ジョジョの奇妙な冒険第3部主人公。第2部主人公 ジョセフの孫。スタンドはスタープラチナ。DIOが復活した影響でスタンドに目覚める。スタンド発現の悪影響で重体になった母 ホリィを救うために承太郎たちはDIOを倒す旅に出た。



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繋ぐ鎖、囲む監獄(1.5話)




パパの話





 

 

 

「さっそく試すぞおおおおおおおおお!!!!」

 

 魔理沙は勢いよく玄関の扉を開け、外の世界に飛び出した。初めての個性、しかも大量の異能力に目覚めた以上興奮してしまうのは仕方がない。ずっと憧れ続けていた力が好き放題に使えるのだから、試したくなるのも当然。これは外に行って試すしかない。

 魔理沙は過去最高の笑顔で玄関の扉を開け、外の空気を大きく吸い込んだ。外は快晴、雲ひとつ存在しない青空、試すのにはちょうどいい天気だ。

 体を少し動かして慣らした魔理沙は軽く目の前の段差を飛び越えて、最初の1歩を踏み出した。ここから、結依魔理沙の本当の人生が始まるのだ。

 

ばん

 

 無機質な発砲音と同時に視界が真っ白になり、魔理沙は思わず目を塞ぐ。これが太陽光ではないことは明らかで、おそらく閃光弾か何かを撃たれたのだろう。

 身の危険を感じた魔理沙は一旦家に引き返そうとしたが、再び発砲音が聞こえた瞬間、結依魔理沙の全身に強力な麻酔弾が10発撃ち込まれた。

 

(あ?)

 

 魔理沙の目の前が突如として暗転し、そのまま地面に倒れ込んでしまう。撃ち込まれた麻酔弾の中には神経伝達物質の流入を一時的に阻害する物質の他、筋肉を常に弛緩させる薬物も入っていたため、魔理沙の体はピクリとも動かない。

 完全に先手を打たれたことを理解した瞬間、魔理沙の脳内に走馬灯のようなものが走り始めた。だがしかし、齢4歳にしてまだ思い出深い出来事がなかったので、食って寝て過ごすだけの映像が延々と繰り返されてしまう。虚無感が凄い。

 

 意識が段々と遠のき始めたとき、大量の足音が耳に入ってきた。数はおそらく10人以上、薄ぼんやりとしてよく見えないが黒のスーツで統一された集団が銃器を持ってこちらに近づいていた。

 彼らはいったい誰なのか、少しでも顔を覗いてやりたいが、首の筋肉すらまともに動かないので振り向くことが出来ない。

 

(や…………)

 

 それでも諦めずに正体を探ろうとした魔理沙だったが、強烈な眠気に襲われた結果、ポックリと事切れてしまった。

 

『こちらJP-1058、目標鎮圧。これより施設に連行する』

 

『了解。娘の麻酔は足りているか?』

 

『問題ない。10発も打ち込めばオールマイトだろうとグッスリ眠れる』

 

『了解。やり過ぎないように』

 

 一人のリーダー格らしき人が連絡を取り終えると、サングラスを外して他のメンバーに指示を出し始めた。

 

「さて、これからこの娘を施設に連行する。いつも通りA班は別車両に乗って護衛、B班は周辺の交通状況等の情報収集と報告、C班は不測の事態に備えて施設周辺で待機。以上」

 

「了解」

 

 各員テキパキと動き、結依魔理沙の体を担架に乗せ、黒塗りのワゴン車に運び始める。

 

「…………魔理沙」

 

 黒服の集団の中に、1人の男が魔理沙の後ろ姿を見守っていた。その様子を見たリーダーは男に近づくと、肩を叩きながら耳元で囁いた。

 

「遅かれ早かれ、いずれこうなることは分かっていただろう、 長官」

 

「いや、|()()()()()()()()() () ()()()()》殿」

 

 変えられない運命と、自身の不甲斐なさに憤りを感じ、結依勇魔は拳を強く握る。

 

 いずれこうなることは分かっていた。アレが届いた日から……

 

 

 

 ■

 

 

 

 結依勇魔はかつてヒーロー公安委員会の職員として、個性を悪用する反社会組織の潜入調査やその壊滅を目的とした活動を行っていた。まだ個性に関する法律が整備されていなかった黎明期において、並々ならぬ活躍を見せた勇魔は新たに日本国内における個性保持者の情報収集と管理を行う公安調査庁の局長に就任し、優秀なエージェントとして活動を続けた。

 

 妻とは公安調査庁の局長として働いていたときに出会い、共に活動していく内に打ち解けあった二人はほどなくして結婚。子どもも授かったことにより、継続的な活動が不可能になった母は公安調査庁を離れ、専業主婦として働くようになる。

 

 

 そして200■年4月27日、二人の間に赤ちゃんが生まれた。

 

 しかしそれが二人にとって、いや世界にとって、いや人類史において最も重大な事件になってしまうとは、誰も想像出来なかった。

 

 まず真っ先に問題となったのが、赤ちゃんの容姿が両親ともに全く似ていなかったことである。父も母も典型的な日本人の顔をしているのに対し、その赤子は生まれた時から金髪で、顔面が黒く塗りつぶされたかのような異様な風貌をしていた。

 あまりに別人すぎる見た目に勇魔は不倫を疑ったが、妻は否定。産婦人科の先生に聞いてみたものの原因は分からず、先生はDNA検査をするよう提案した。

 家族崩壊の危機を防ぐべく、生まれた子のDNAについて検査した結果、さらに予想外の結果が判明してしまう。

 

 なんと、生まれた子のDNAに両親由来のものは一切なく、全く別の人間由来のDNAで構成されていることが判明した。

 少なくとも母親由来のDNAは確実にあるはずなのだが、何故かそれすらも存在せず、二人は目を疑った。

 この子は一体何なのか。本当に自分の子どもなのか。疑心暗鬼になった勇魔はあらゆる情報機関を利用して日本中の個人データを片っ端から閲覧し、自身の子どものDNAと一致する人物を探したものの、一切手がかりが掴めない。一応、検査用の装置の故障を考慮して再び検査に行ったが、結果は変わらなかった。

 八方塞がりでどうしようもなかった二人は、最終的にDNA検査のことを忘れることにした。今の日本の技術力では到底娘の正体を明かせないことが分かった以上、諦める他なかった。

 

 妻から生まれた子なのだから、自分たちの子どもでいいじゃないかと、勇魔は次第にそう考えるようになった。

 

 ちなみに赤ちゃんの名前に関しては、勇魔の"魔"と妻である理々奈の"理"、そして語感が良くなる"沙"を合わして、"魔理沙"となった。

 

 こうして魔理沙が1歳を迎えたとある日、勇魔は世界中の個性に関する情報を収集・管理する機関から直接調査依頼を受けた。今の時代、インターネットにさえ繋げばどこからでも依頼が出来るというのに直接手渡しで依頼書を渡されるとは、余程重要な案件らしい。

 さっそく勇魔は封筒を開封すると、中には白い紙と赤い紙が入っていた。先に白い紙を取り出し、勇魔はじっくりと内容に目を通す。

 どうやら内容は『結依魔理沙の個性』に関する調査依頼のようだ。個性が判明次第、早急に書類を提出するよう英語で明文化されている。期限も200■年7月10日までとしっかり記載されていることから、相当娘を警戒しているようだ。

 

 とりあえず調査依頼の件はいったん放置し、勇魔はもう1枚の方の紙を封筒から取り出す。鮮やかな赤紙にピンク色の枠ぶちがチラッと見えたことにかなり不安を感じたが、勇魔は恐る恐る覗いた。

 

「な……ッ!?」

 

 戦争の招集ほどでもないが、とんでもない内容が目に入ってしまった。いくら普通ではないからといってここまで警戒するものか? まだ個性も目覚めてもいないというのに、こんな…………ッ 

 

 ……だが、この計画の実行にはいくつか条件が示されている。手紙の通りであればその条件を達成しない限り、彼らは行動を起こさないらしい。

 条件というのはすなわち、"危険度"が規定値以上かそうでないかということである。危険度は基本本人の個性を加味して評価するものだが、それ以外にも性格や知性、練度等も含まれる。

 だが魔理沙はまだ4歳であるため、知性や練度で評価されることはほぼ無い。したがって個性さえまともであれば、自分も魔理沙も日本で平穏に暮らしていくことができる。

 

 個性に関して言えば、結依家は基本『空間転移』や『座標移動』といった個性が発現しやすい家系であり、妻の方は『毒針』に関する個性(ハチやサソリ、クラゲといった毒針を持つ動物など)が発現しやすい家系である。どちらの個性も暗殺向きというか、特に母さんはかなり物騒だが、どちらかが発現したとしてもおそらく許されるレベルだろう。何故なら前例があるから。

 しかしもし魔理沙が個性においても"普通"でなければ、魔理沙はワープでも毒針でもない、"未知の個性"に目覚める可能性が高い。そしてその未知の個性がもし、人間社会を脅かすほどに強力な個性だったら……

 

 その時は、腹を括るしかない。

 

「…………今まで、神なんてあやふやなものに祈ったことは一度として無かったが、祈らせてくれ」

 

「どうか、魔理沙が幸せな人生を送れますように」

 

 勇魔はそっと手を合わせ、娘の未来を案じた。しかし案じるだけでは何も救えない。目の前の問題に対して対策を打ち立て、万全の体制を整える必要がある。

 

 愛する家族を守るために。

 

 

 

 ■

 

 

 

 こうして結依勇魔は来たるべき個性発現の日に備えて着々と準備を済ませた。万が一ダメだったとしても、魔理沙を不幸にしないための対策は既に取ってある。

 

 あとは、魔理沙の検査結果を待つのみ。

 

「検査終わりました」

 

「ッ!!」

 

 遂にこの日が来た。この検査結果次第で結依家の運命は大きく変化する。勇魔は固唾を呑んで検査結果の報告を待った。

 

「個性総数100オーバー、不明領域1億箇所以上、異常です」

 

 その言葉を聞いた瞬間、勇魔の脳みそが初めてフリーズしてしまった。100オーバー、とは何なのか。そもそも個性というのは遺伝子同様、母親と父親それぞれの遺伝子を受け継ぐのが常識であり基本的には1人につき1つの個性が発現する。個性の発現パターンとしては受け継いだ遺伝子のうち片方のみが発現するパターンの他、両方の遺伝子が発現するパターンと発現しないパターンの3つに分かれる。言い換えれば、片親の個性をそっくりそのまま受け継ぐ人、両親の個性の特徴を合わせもった新たな個性が発現する人、そして遺伝子を受け継いでいるものの発現しない無個性の人の3種類に分かれるということである。

 極々稀に、突然変異や隔世遺伝によって両親のもつ個性とは全く異なる個性が発現する場合や、性質の異なる個性同士が相性関係なく発現することで、2つの個性が混ざり合うことなく共存する場合があるが、これらのケースは本当に稀で確率的には2000万人に1人のレベルではないかと言われている。

 自然要因において個性は1人につき1〜2個が限度だが、ある特殊な個性に関しては他者の個性の強奪と譲渡を行うことが出来るらしく、それを用いることで自身の個性の総数を大量に増やすことが出来るらしい。が、これはあくまで例外である。さらに言えば、その個性においても生まれたときに持っていた個性はその個性1つだけであり、そこは他の人と比較しても同じである。

 

 だがしかし、生まれたときから個性が100個以上あるこの子はいったい何なのか。公安調査庁局長としてあらゆる情報に目を通してきたが、個性が100個以上発現した人間は当然だが人類史上初。2個個性が発現するだけでも相当珍しいというのに、100個はもはや珍しいとか奇跡だとかそういう次元ではない。機会の故障を疑うレベルだ。

 さらに最新機器でも解析不能な領域が1億箇所も検出されたのが意味不明だった。既に解析済みであるヒトゲノムのどこに1億箇所以上の不明領域(ブラックゾーン)が存在するのか。真相は闇の中。

 

「さらに身長121cmに対して体重が142kg、足の構造と筋肉量から察するに推定時速は個性未使用で時速40kmは出せるものかと。知性・精神年齢に関しては彼女の異能次第ではありますが、10代後半であると推測します」

 

 一瞬、知性と精神年齢が普通に感じたが、その考えは甘すぎた。他の情報が狂い過ぎて、普通に凄いことでも対して驚かなくなっている。しかしこれに関しては思い当たる節がいくつもあったので、驚くよりも先に納得してしまうのは仕方無い。

 魔理沙は昔から物覚えが良いというか、最初から分かっていたかのような行動を何度も見せた。教えていないのに一人でトイレを使いこなし、乳幼児のくせにおっぱいを頑なに飲もうとせず、1歳の頃から離乳食を食べ始め、全く教えていないのにリモコンを器用に操作して少年ジャ〇プ作品アニメの録画予約をし、2歳の頃には流暢に喋れるようになった。

 ギフテッドのように見えるが、普段の仕草からそうでは無いと思われる。どちらかというと、魔理沙は生まれながらの天才というより、生まれた時から既に知識を備えていた……といった方が正しい気がしてならない。

 

 何はともあれ、想像を遥かに超えてヤバいことに変わりはない。こんな危険な力、日本政府はおろか、世界中のあらゆる権力者が総力を投じて魔理沙を封じ込めようとするだろう。殺される可能性だって大いにある。この機に乗じて各国のスパイや暗殺者が大義名分を掲げて日本に上陸し、治安悪化をきっかけに魔理沙含め全ての日本国民の平穏な日々が脅かされる可能性だって考えられる。

 

 そんなこと、絶対に許されてはならない。愛する娘のため、守るべき国民たちのため、結依勇魔は立ち上がらなければならない。

 勇魔が強く拳を握る最中、研究者たちは青ざめた表情でモニターに映し出された検査結果を見つめ、ボソッと呟いた。

 

「……殺そう」

 

「……は?」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえた瞬間、勇魔が鋭い目付きで睨みつける。だがそれに臆することなく、一人の研究者が勢いよく立ち上がって勇魔の目の前で叫び始めた。

 

「殺すべきだ!! 絶対に殺すべきだ!!! こんな化け物この世に解き放っちゃいけない!!!!」

 

 唾を撒き散らしながら狂ったように訴える彼に、キレた勇魔が片手で首を絞めあげながら持ち上げた。

 

「人の娘に何言ってんだ!!!!」

 

「絶対殺すべきだ。こんなの人類には扱いきれない!! コイツを野に放てばいつか世界は崩壊する!!!!」

 

 一人の研究者がモニターのすぐ近くに駆け寄り、装置に手を伸ばす。

 嫌な予感がした勇魔はすかさず背後から研究者を抑え込み、装置から引き剥がした。

 

「離せ!!! 寝ている今なら殺せるかもしれないんだ!!!!」

 

「離れろ!!!!」

 

 勇魔は強引に背後へ投げ飛ばし、倒れた研究者に銃を向けた。

 

「動くな。他のヤツも動いた瞬間に撃ち殺す」

 

 勇魔の行動により一気に場が凍りつき、誰も身動きが取れなくなった。だが、投げ飛ばされた研究者だけ静かに口を開いた。

 

「……はァ、……アンタ、上の機関からこの子のデータを送るよう頼まれているだろう? こんなデータ、誰が見ても結論は同じ。()()()()()()()()()()方が都合がいい」

 

「アンタのしていることは問題の先送り……どころの話じゃない。もしこの子が少しでも悪いことに力を使えば、それだけで世界のバランスが崩壊する。その時、アンタは責任を取れるのか?」

 

「ただでさえ先通しの見えない未来を、さらに暗く、破滅の可能性を孕んだまま放置して、アンタは何も思わないのか?」

 

 真剣な言葉が胸に響き、勇魔は魔理沙の処遇を考え始める。

 手に負えないほどヤバいことは分かっている。あの子がこれから世間に与える影響は、我々の想像を遥かに超えた事象を引き起こすかもしれない。

 他にもテロ組織が娘を狙いに来る可能性や、魔理沙自身がヴィランになる可能性も考えられる以上、彼らや上層部を説得するのはほぼ不可能といってもいい。

 

 だが父親として、娘が殺されることを見過ごせるわけが無い。

 

「…………ッ!!」

 

 父親としての思いと、日本の秩序を守るものとしての思いが互いに責めぎあい、葛藤として発露する。

 

 ならば、魔理沙自身が彼らから信頼を得られるよう行動で示してもらう他ない。自分が世界に敵対することなく、永遠に人類の味方であることを証明出来れば、彼女は隔離や暗殺の対象から外れるはず。

 

 それが、魔理沙の幸せに繋がるかどうかは分からないが、あの子の未来のためには仕方がないのかもしれない。

 勇魔は息を飲み込み、俯きながら小声で呟いた。

 

「……魔理沙には、アメリカに行ってもらう……」

 

 勇魔の言葉に全研究者が驚きをみせる。

 

「元々、判明した個性によってはアメリカの施設で隔離するよう連絡が来ていた。その施設は、魔理沙のような強力な個性を抱えた者を隔離する施設で、軍が常に常駐している」

 

「そこで魔理沙には、個性の制御方法と自己防衛のための戦闘技術、そして一般教育や情操教育を学んでもらう」

 

「ヴィランにならないためにも、攫われて利用されないためにもしっかり鍛えるつもりだ」

 

 自分に言い聞かせるように、親としての責任を自覚すしながら、勇魔は強く宣言した。

 

「そしていつか、魔理沙が立派な大人になったとき、"ヒーロー"として多くの人々を救ってくれるかもしれない」

 

「仮に彼女がヒーローにならなかったとしても、優しさと思いやりに溢れたあの子ならきっと自分の力を正しく活用してくれる!!」

 

 勇魔は拳銃を下げ、地面に捨てた。そして勇魔は静かに頭を下げる。

 

「なので皆さん、どうかもう少し魔理沙を見守っていただけないでしょうか? 気持ちは分かりますが、私がずっと彼女を責任もって見守り続けるので、どうかその矛を収めてほしい」

 

「絶対にあの子を、立派な人間に育て上げることを約束します」

 

 深深と頭を下げる勇魔に研究者たちは困惑するものの、研究者たちは勇魔のそばに近づき、手を差し伸べた。

 

「皆さん……!」

 

「……どうか、彼女を人間として最後まで育ててください」

 

「ま、それで世界が良くなるなら……何でもいいんじゃあないですかね」

 

「まぁ、出来ることなら子どもを殺す真似なんてしたくないし、丁度いい塩梅じゃないか?」

 

 研究者達は魔理沙の処遇に理解を示し、勇魔と手を結んだ。

 

「……アンタ、本当にあの子を育てる気か?」

 

 しかし、投げ飛ばされた研究者と数人の研究者が反対の意を唱えた。

 

「彼女の力は、ヒーローを含めたあらゆる軍事兵器を用いても止められないほど強力な力だ。アンタほどの人間だろうと手に負えるはずがない」

 

「分かっているはずなのに…………!!」

 

 研究者は自身の抱える不安や勇魔に対する怒り、理解されないことの苦しさを全て噛み殺し、勇魔を横目で睨みながら拳を握る。

 

「……覚悟は出来ている。もしあの子に何かあったら、俺の持てる力全てを使ってでも何とかする。だから頼む、俺を信じてくれ」

 

 鬼気迫る目付きをした勇魔を見た研究者は息を飲み、彼の底知れない思いの強さを感じ取った。

 

「…………分かった。アンタがそこまで言うなら任せるが、後悔するなよ」

 

「…………娘の誕生を後悔するわけ無いだろう」

 

 警戒されすぎて変なことまで心配されてしまったが、これでほとんどの研究者達が魔理沙の処遇に関して納得してくれたようだ。

 家族に内緒で話を進めてしまった上に、海外へ引っ越すことになってしまったが仕方ない。これも秩序と平和と、家族の幸せのためだ。

 

「念の為にもう少し検査をしてからお家に返そうと思いますが、よろしいでしょうか?」

 

「あぁ、構わない」

 

 勇魔が許可を出すと、研究者と魔理沙を乗せた自動走行型担架が別の検査室へと姿を消した。

 

「魔理沙……」

 

 勇魔は娘の将来を憂いながら、彼女の姿を静かに見送る。

 勇魔は再び願う、『家族が幸せでいられるように』と。だが前回もそうだったように、願っているだけでは意味が無い。やれるだけのことはやるつもりだ。

 

 

 

 

 

 こうして、無事検査を終えた魔理沙は夕方頃に家に返された。なお本人は何にも覚えておらず、いつの間にか日が暮れていたことについて両親に聞いてみたが、はぐらかされてしまった。

 

 

 

 

 

 








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甘くてクリーミー(2話)



お気に入り10件、ありがとうございます。


【あらすじ】

前世は発狂して死んでしまった2次元オタクの結依魔理沙。しかし神の力によってヒロアカ世界に転生し、0から人生をやり直すことに。
そんな結依魔理沙も遂に4歳を迎えた。この世界では多くの人間が4歳までに"個性"という名の超能力に目覚める。感覚的に個性を使えると察した結依魔理沙は家のリビングで試しに個性を使ってみた結果、想像以上に危険な個性が発現してしまう。

その個性は、異形魔理沙と呼ばれる最強の魔法使いと同じ力。すなわち『食べた相手の能力を死ぬまでパクる能力』である。
それだけならまだマシだが、結依魔理沙は何故か異形魔理沙が作中で見せたザ・ワールドすらも行使出来てしまった。

つまり私は異形魔理沙の"全て"を引き継いでしまった。





 

 

 こっちはサクサクの食感に柔らかいクリームの舌触り、そしてほのかに香るフルーティーな匂いがする。

 

 こちらのものは硬すぎて噛みちぎれないが、噛めば噛むほど味が出て美味しい。まるで豚ホルモンのようだ。

 

 これは、⋯⋯⋯洗剤だな。二度と食べたくない

 

「うん、髪の毛がうめぇ!!!!!」

 

 現在、結依魔理沙は幼稚園内で人の髪の毛をムシャムシャと食べながら、壁に向かって親指を立てていた。先程の発言も含め、五代〇介もビックリするほどの奇行にドン引きするかもしれないがこれにはワケがある。

 そのワケというのはすなわち、個性獲得の為だ。体の一部さえ食べてしまえば何でも簡単に個性を獲得できるため、私は同年代の4歳児の髪の毛を片っ端から貪り食らっている。ただ堂々とやると周りから変な目で見られるので、やる時は必ず時間を停止させているが。

 

 そんな事しなくても異形魔理沙が溜め込んだ色んな能力で十分⋯⋯と言われれば確かにその通りで、正直半分くらいは趣味でやっている。が、もう半分はちゃんとした別の理由が存在する。

 

 個性に目覚めて以来、日を経つにつれて私の身体機能は指数関数的に増加し、遠くの音や匂いも感知できるようになってきた。幽霊のような存在も見え始め、最初は恐怖のあまり家の壁を吹き飛ばしたこともあったが、3ヶ月経過した頃には慣れていた。

 そんなある日、私はあることに気づいた。()()()()()()()()。いったいいつから監視しているのか分からなかったが、何はともあれ自宅警備員として家の治安を守る必要がある。そう思って勢いよく玄関のドアを開き、犯人の姿を探そうとしたのだが、死角から誰かが私の腕を抑えながら何かを突き刺し、さらに全身真っ黒の防護服を着た女性がいきなり腹パンしてきたことで私はあえなく撃沈。目が覚めたら自分のベットにいた。

 

 意味がわからなかった。あの人達がいったい何なのかも分からないし、仮にもし犯罪者だったとしても誘拐せずに放置したのがおかしい。

 そのことを両親に告発したが、「寝ぼけてたんでしょう?」で何事も無かったかのように流され、警察に被害届を出すこともなかった。いくら私が4歳だからってこれはねぇよぉ! って、あの日は一日中布団に包まれながら叫んだ。

 何でこんなことになっているのか、その原因について考えてみた結果、だんだん私の身の回りにおける不自然な点に私は気づいた。まずやたらと強いウチの家のセキュリティに職業不定の父親、そして旅行の際には必ず預けられる施設に、ちょくちょく耳にするネイティブな英会話。そして家の周りを常に監視している複数の人間、⋯⋯⋯どう考えても私を守っているとしか思えなかった。しかもただ守るだけじゃない、私の自発的な行動を妨げることなく私の身の回りを警護しているのだ。

 

 何でそんなことをするのか、結依魔理沙は何となく察していた。こんなに守るのは別に私が4歳のか弱い少女だからというわけでは無い。私の"個性"が国家転覆を引き起こせるほどに危険だから、厳重に管理しているのだけだ。

 もし私がヴィランに攫われたり、別の国に拉致監禁されて兵器として利用されたら、世界のパワーバランスが一気に傾き、最悪の場合戦争を引き起こすかもしれない。

 本来なら私は、国家直属の機関にでも預けられて全身拘束されても文句は言えない身分なのだが、どういうわけか私は今も自由行動が認められている。その理由について考えるのは無粋なのかもしれないが、これは多分両親のおかげだ。どういう取引があったのかは知らないが、両親は私に居場所と、一人の子どもとして普通に生きる道を陰ながら守ってくれた。

 そう思うと胸がキュッとつまって、嬉しさと申し訳なさが同時にやってくる。両親は基本的に忙しくて私に構う暇が全くなかったので、てっきり愛想尽かされたかと思っていたが、そうじゃなかった。なんならむしろ私は愛されていた。

 その日から私は両親に、何か恩返しをしたいと思うようになった。少しでも感謝を伝える方法は無いか考えたが、せいぜい父の日と母の日にプレゼントを渡すくらいしか思いつかなかった。まあ、両親は喜んでくれたからそれで良かったけど。

 

 話が少しそれてしまったので本題に戻すが、自分の立場を知った今、とにかく私は強くなる必要がある。警備が厳重とはいえ、私の力を狙ってヴィランたちや他国の犯罪組織がいつ襲ってくるか分からない以上、最低でも自分の身を守れる程度には個性を使いこなす必要がある。

 したがって私は今、自分の個性についてより深く理解するための自主的な特訓と、新たな個性獲得による自身の強化を同時並行で行っている。同級生には申し訳ないが私の身の安全のためだ。髪の毛は頂いていくぞ。

 

「今日獲得した個性は全部で8個か。もう少し欲しいな」

 

 結依魔理沙が手に入れた個性は鉄塊、衝撃波、指が伸びる、ゴム、マーメイド、炸裂、睡眠念波、爆破の7つだが、どれも元から持っていた能力と被っているため、いい成果とは言えない。しかし、同級生の個性について詳しく知れると思えば悪くないだろう。あ、でも炸裂は嬉しい。

 

 個人的にレアだと思ったのは爆破。この個性の持ち主は隣のクラスの爆豪勝己という少年で、彼については前世の知識として知っていた。

 彼は僕のヒーローアカデミアにおいて主人公、緑谷出久のライバル的ポジションであり、この頃はよく主人公のことを除け者にしたがる節があった。機会があれば仲良くなりたいが、今はまだ止めておこう。

 

「せんせぇ、鉄丸くんがはっきょつしてたおれてるー」

 

 なんか聞こえた。

 

「いたい! いたい! いたぃいぃいい!! 頭がもげるぅぅううううう!!!」

 

 そこには頭を抱えて苦しそうに転げ回っている鉄丸くんがいた。

 

「大丈夫鉄丸くん!? 直ぐに救急車を呼んで!!」

 

 先生の指示によって救急車に運ばれた鉄丸くん。その様子を教室の窓から覗いていた私は、何とも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 仕方がなかった、彼の髪の毛は鉄のように硬かったので無理矢理引っ張ったら、まさか頭皮ごと髪の毛がめくれると思わなかった。一応覚えたての魔法で頭皮と髪の毛をザオリクしたおかげで出血せずに済んだが、彼はおそらく40代をこえたあたりから禿げるかもしれない。

 その時は、素直に謝ろう。と、出てもいない涙を拭いながら、結依魔理沙は幼稚園の活動に戻る。次はお絵描きの時間、ヘブンズ・ドアーの練習に丁度いいかもしれない。

 

 なお鉄丸くんは翌日、何事もなかったかのごとく元気にやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 カラスが鳴く夕刻の時、魔理沙は帰りのバスの中で夕飯について考えていた。

 

「冷蔵庫⋯⋯確か昨日の栗ご飯の余りと、一昨日のチャーハンの余りと、一昨日の昼の余りのカレーが残っていたよな。全部消化するか」

 

 昔から結依家は多忙な生活を送っており、父はおそらく政府関係者(なお本人はサラリーマンを自称)、母は教師をやっている。なので基本、家にいるのは魔理沙一人のみ。

 魔理沙は3歳の頃に自炊ができるようになったおかげで家にいる機会が少し増えたが、それまではだいたい施設に預けられていた。

 施設内は設備が充実していて食にも困らなかったが、いかんせん自分の顔のせいで職員や他の子に気味悪がられていた。イジメもあるにはあったが、私の場合は睨むだけで子供とは思えないほどの邪悪な顔が出来たので、近寄る人間はほとんどいなかった。まぁでも一部、睨みが効かないヤツにはちょくちょくボコられたこともあったが。

 過去について思いふけりながら、魔理沙は窓の外を見つめる。転生してからはや4年、

 

 思い耽るうちに到着し、家の前でバスが止まる。魔理沙がゆっくりバスの外に出ると、心地よい太陽の光が私の背中をそっと押してきた。

 

 耳を澄ますと、鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。まるで帰ってきたことを喜んでいるかのように。

 

「ただいま」

 

 魔理沙は花壇に植えた花に挨拶をする。夕日に照らされた花々は見事に咲き誇っていた。

 いつもと変わらない平凡な毎日、と思っていたが、今日は少し違った。

 

 

 

 

 

「誰か助けてぇぇええええええ!!!」

 

 

 

 

 

 遠くから、女性の悲鳴が聞こえた。距離は1000m以上4000m以下、血の匂いはしない。が、複数の人間が女の人を追いかけており、発砲音も頻繁に鳴り響いている。

 悲鳴を聞いてしまった以上、力あるものの責任として助けに行こうとした。だが急に頭が冴え始めたことにより、その足はピタリと止まってしまう。

 

(⋯⋯⋯私が出向かなくても、この街にはたくさんのヒーローがいる。私みたいな素人よりも遥かに人助けが得意な人達が、この世にはたくさんいる)

 

(それに私が変に介入して余計な怪我でもさせたら、責任を取るのは自分、いや両親が取る事になる)

 

(それどころか防護服を来た連中が私を危険因子と判断して、私を牢獄にぶち込むかもしれない。そうなったら誰が一番悲しむか、私は分かっているはずだ)

 

 結依魔理沙は強く手を握りしめた後、静かに玄関のドアを開ける。相変わらずウチの両親は仕事中で、家の中は静まり返っていた。

 せめて両親がいたら警察に連絡して⋯⋯、ん? いや待て。私が警察に連絡すれば良くね!? 私が警察に連絡すればいいじゃん!!! 私が警察に(((r

 私は急いで通学用バッグをソファーに向かってぶん投げ、棚の上に置いてある受話器を取ろうとした。しかし身長が足りず全く手が届かない。

 仕方なく結依魔理沙はサイコキネシスで受話器を取り寄せようとしたが、間の悪いことにちょうど電話機に着信が入る。誰だか分からないが今はそれどころじゃない!! 

 

『もしもし!!』

 

『結依魔理沙様』

 

『はい?!』

 

『魔理沙様がこれまで、ご自身のために研鑽を積み重ねてきたのは承知しています。ですので、どうかその力を貸していただけないでしょうか?』

 

『誰!?』

 

 初めて聞いた声だったのと、シンプルに焦ってしまったおかげで取り繕えず、どストレートに聞いてしまった。しかし相手は気にすることなく話を続ける。

 

『私は貴方様の身を守るボディガードです。ですがお父様の御意向により、魔理沙様には実戦経験を積んでもらいます』

 

『初耳なんだけど!!?』

 

『先程悲鳴が聞こえたと思いますが、これは貴方様専用の訓練です。本物ではございません』

 

『⋯⋯⋯そう、なの?』

 

『はい、ですので遠慮なく助けに行ってください。場所は多古場海浜公園ですので、なるべく早く来てくださいね。お待ちしております』

 

『それと個性の使用許可は出ていますので、お好きなように』

 

 ガチャッ、ツーッ、ツーッ

 

 通話は途切れてしまい、結依魔理沙は静かに受話器を元に戻す。

 ⋯⋯⋯なんなんだいったい。お父様の御意向とか言っていたが、何はともあれ多古場海浜公園に向かった方が良さそうだ。

 

 結依魔理沙は園児服を脱がずに玄関を飛び出し、多古場海浜公園に向かって走り出す。

 とはいえ、この足で3kmも走るなんてあまりにも酷すぎるので、仕方なく魔理沙は足に高速魔法(ピオリム)をかけ、モナドの力を解放する。すると魔理沙の体が一気に加速し、時速約60kmにまで到達した。

 瞬間移動さえ使えれば一瞬だったが、練習していないのでやめておく。使ったらたぶん壁にめり込む。

 

「着いた!」

 

 僅か数分で多古場海浜公園にたどり着いた結依魔理沙。その道中で白い装束を着た人と黒い防護服を来た人が道路の上でぶっ倒れているのを見かけたが、電話の内容的にこれはたぶん演技だ。訓練のくせに気合いの入りようが凄い。

 魔理沙は海浜公園内に素早く潜入した後、公園に打ち捨てられたゴミの裏に隠れながら犯人と女の人の様子を見守る。

 

「何故逃げるのです? 大人しく従っていれば神の恩寵を授かれたであろうに」

 

 白い装束を来た男性が杖の先端を女の人に向けて、ジワリジワリと近付く。おそらく悪質な宗教家と、そこから逃げてきた女性⋯⋯⋯という設定でやっているのだろうか。

 

「これ以上⋯⋯あなた達についていけない!」

 

 女性は涙を浮かべながら必死に後退するが、腰が抜けているのでその速さはカタツムリ並。逃げ切れるわけがなかった。

 

「⋯⋯⋯掟破りの背信者。貴様はあの方の偉大なる力を恐れ、敬わず、恩寵から逃げた。貴様は神の尊き心を穢したのだ」

 

 男が杖のスイッチを押すと、杖は簡易レーザー銃に変化した。アニメみたいな演出に結依魔理沙は心の中で感動したが、今はそれどころじゃない。

 

 これは訓練だ。私が変な組織に攫われないための訓練。それは分かっているのだが、訓練とはいえ何の前触れもなくいきなり模擬実戦をやらされると心の準備が追いつかない。そのせいで心臓の鼓動もだんだん早くなるし、息も少し上がってきた。どうやら自分はかなり緊張するタイプのようだ。

 しかし緊張しているにもかかわらず、結依魔理沙の脳みそは冷静に救出計画を立てていた。何で? もっと頭がグチャグチャになってもおかしくないのに、何故私は計画を立てられるんだ。

 二人の様子を見守りつつ、頭の中で最終的な動きの流れについてシュミレーションを行なう。と、その時、白装束の男が動き始めた。

 

「愚か者に死を」

 

 男はレーザー銃のトリガーに手をかけようとした瞬間、ここしかないと感じた結依魔理沙は物陰から素早く飛び出し、相手の手首に目掛けて弱い光弾をぶつけた。

 

「痛っ!」

 

 杖を落としたことを確認した結依魔理沙は踏み込むタイミングで足をバネ化し、高く跳躍。男は撃たれた方向を確認するが、そこにはもう誰もいない。

 

「誰だッ!!!」

 

 男は杖を拾い直して周囲を警戒するが、コンテナの裏にもゴミ山の頂上にも人影はなかった。

 だが足元を見てみると、男のすぐ近くに謎の丸い影が映っていた。その影はだんだんと大きくなり、人の形へ変化していく。

 

 

「ここだあああああああああああああああ!!!!」

 

 

 結依魔理沙は空中で何度も体を反転させながら、男の脳天にめがけてかかと落としを繰り出した。

 その威力は幼児の攻撃といえど凄まじく、男は勢いよく顔面を地面にぶつけて倒れてしまった。

 

 

 

 

 






※なう(2023/04/17)、大幅な話の変更と追加を行いました。


【個性説明】

個性『鉄塊』
→鉄を丸めて塊にできる。刀も曲げられる。

個性『衝撃波』
→手から高速で空気を打ち出し、相手にぶつける。

個性『指が伸びる』
→文字通り指が伸びる。寄〇獣。

個性『ゴム』
→全身ゴム人間になれる。海は泳げる。

個性『マーメイド』
→マーメイドっぽいことなら基本何でもできる。歌はもちろん、歌で相手を眠らせることが出来る。

個性『炸裂』
→触れたものを炸裂されることができる。

睡眠念波
→眠らせる波動を出す。ラリホーと被る

爆破
→爆豪勝己の個性。汗腺からニトログリセリンのようなものをだして爆発させる。



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まだ始まったばっかなのになぜ決死の戦いをせねばならぬのだ(3話)



【あらすじ】

 『食べた相手の能力をパクる能力』、それが自分の個性であること知った結依魔理沙は、同級生の髪の毛を食すことで新たな個性を獲得していく。
 そんなある日の夕方、多古場海浜公園にて謎の宗教組織が女性を襲う事件が発生。悲鳴を聞いた以上助けにいこうとしたが、プロのヒーローがごまんといる世の中において素人の自分が助けに行く意味と、自身の立場を考慮した結果、魔理沙はなくなく助けに行くのをあきらめてしまう。
 しかし魔理沙のボディガードらしき人から「訓練だ」と告げられた魔理沙は、よく分からないまま海浜公園へと向かう。そこで白装束の男が女の人を襲う場面に出くわした魔理沙は、物陰からタイミングよく飛び出した後すかさず男が持っていた凶器を光弾で撃ち落とし、上空からかかと落としをお見舞いするのだった。




朽ちた神剣さん☆9評価ありがとうございます。

ぼるちるさん☆4評価ありがとうございます。




 

 

 男の脳天にかかと落としが炸裂し、顔面を勢いよく地面にぶつける。男の折れた鼻からは大量の血が流れ、男の周りに血溜まりが形成される。

 あまりにもスマートな決着に魔理沙は少々興奮してしまう。練習の成果を身に染みて実感できた。

 

「··········女の、子? それも·········幼稚園児?」

 

 先程まで腰を抜かしていた女性が私の方をジロジロと見た後、ゆっくり私の方に近づいて頬に触れる。お姉さんの手はとても温かく、やわらかい手をしていた。

 

「どうしてこんな危ないことしたの?」

 

 お姉さんは私の目を真っ直ぐ見つめながら、心配そうな声で問いかける。しかしそう言われても、訓練だからとしか言いようがない。

 お姉さんのリアルな演技に押され、魔理沙は無言で目を逸らしてしまう。·········これ、本当に演技か? それとも私を困らせるためにわざと言っているのか、全く分からない。

 私は顔を逸らしながら、お姉さんの傷ついた体をベホイミで癒していく。擦り傷も、銃撃による傷もみるみる消え、透き通るほどに美しい肌へと変わっていく。

 

 そんな最中、血まみれの男は震えながら手を伸ばし、杖格納型簡易レーザー銃を手にする。男はまだ意識を失っておらず、気合いと根性でこの世にしがみついていた。

 

「··········このっ、ガキィッ!!!」

 

 男は容赦なくトリガーを引き、結依魔理沙の右のもも足をレーザーでぶち抜いた。

 

「ぐッ!?」

 

「どっ、どうしたの!?」

 

 痛みを抑えるためにしゃがみこみ、傷口を手で抑えようとする結依魔理沙。その様子を見てお姉さんはアタフタと焦ったが、足の出血とさっきの男が目に入った瞬間、お姉さんは咄嗟に魔理沙を自分の背後に回した。

 

「子どもになんてことするの!!!」

 

「··········あれが、子ども? クックック·········、その子は子どもなんかじゃあありません。我々に仇なす異形の子········化け物ですよ」

 

 男はべっとりと顔面に鼻血をつけたまま、杖を持ってゆっくりと立ち上がる。男の形相は鬼のように凄まじく、さきほどまでの雰囲気からガラリと変化していた。

 

 それはまさに、人間が本気で誰かを殺そうとするときの目と表情であった。

 

「退きなさい。貴女よりも先にそこのガキを殺します」

 

「··········私が、みすみす子どもを見捨てるような人間に見える?」

 

「では、貴女もろとも殺します」

 

 男が再び銃のトリガーを引こうとした瞬間、お姉さんは私を突き飛ばそうとして手を出したが、私はそれをスルリと避けた後、逆にお姉さんを突き飛ばした。

 

「⋯ッ!? ダメッ!!!」

 

 男はニヤリと笑いながらトリガーを引き、射出されたレーザーが容赦なく結依魔理沙の体を撃ち抜く。さらに男は彼女を確実に殺すべく、何度も何度もトリガーを引き続け、体が蜂の巣になるまでレーザーを射出し続けた。

 

「嫌ぁぁあぁあああああああああああ!!!!!」

 

 あまりにも惨い仕打ちに目も当てられず、お姉さんは体を丸くしてうずくまってしまう。

 私のせいであの子は巻き込まれ、そして死なせてしまった。その耐え難き現実が、彼女の心を深く抉った。

 

「クックック、大人に逆らうからこんなことになるんですよ」

 

 男は至極満足そうに笑い、彼女の無惨な死体に目を向ける。が、そこにあったのは結依魔理沙の死体ではなく、緑色の謎の人形だった。

 

「何ッ!?」

 

 撃ち殺したと思いきや、撃ったレーザーは全てその人形が身代わりとなって受けていた。その事実に気づいた男は再び周りを見渡したが、魔理沙の姿は見つからない。

 

「上かッ!?」

 

 さきほどの奇襲を考慮して空を見上げたが、そこにも魔理沙の姿はない。彼女はいったい何処に消えたというのか、男は必死に考え、そして閃いた。

 

「··········下だな?」ニチャア

 

「違うよ?」

 

 男が下を向いた瞬間、背後から人の気配を感じた男は咄嗟に振り向こうとした。だが先にバイキルトで強化した結依魔理沙の蹴りが男の金的弱点にあたり、さらに魔理沙は個性"炸裂"を発動させることで男の金○を炸裂させた。

 

 絶叫、としか言いようのない悲鳴が海浜公園中に響き渡り、男は痛みのあまり杖を落としてしまう。魔理沙はその隙に杖を奪い、個性"鉄塊"を発動させる。

 個性"鉄塊"は鉄を丸い塊に変える能力。鉄は合金の材料として利用されることもあるから、おそらくこの杖も曲げられるはずだ。

 魔理沙が杖に力を込めると、杖はアルミホイル並に柔らかくなり、グチャグチャに丸められて鉄の塊に変化してしまった。これでもう男は攻撃手段を失ったことであろう。

 

「がぁッ!! ··········あぁッ! ···············ぁあッ!」

 

 男は何かを訴えようとしていたが、痛みのせいで全く言葉になっていない。よく分からないがこれ以上動かれても困るので、魔理沙は男の手足を縛ろうとした。が、その時、結依魔理沙の視界がグラりと揺らいだ。

 

「は?」

 

 こんな時に立ち眩みするとは思わず、魔理沙はバランスを崩し、膝を地面に着く。そして咄嗟に右手で鼻を押え、何かが溢れるのを止めようとしたが、止めきれなかった。

 魔理沙は自身の右手を見ると、そこには鼻血がべっとりとついていた。

 

 何でだ。何をされた。この男の個性か何かだろうか。いやしかし、さっきから頭が沸騰しそうな程に熱く、常時トンカチでガンガンぶん殴られているような痛みを感じる。何と言うか、風邪をひいたかのような感じだ。

 

 そんなことよりも、今のうちに男の手足を縛っておかなきゃまた暴れられる。そう思った魔理沙は魔法でロープを取り寄せ、お姉さんにも一本ロープを渡した。

 

「···············手伝って·······」

 

「ッ! ··········分かった!」

 

 魔理沙の意図について察したお姉さんはさっそくロープを持ち、悶絶中の男に近づく。ただ残念ながら我々は一般市民、人の縛り方なんて知らない。どういう結び方をすればいいのか見当もつかない。

 

「えーと·····えーっと! 人の··········結び方··········!」

 

 お姉さんは必死にネットの検索エンジンで人の結び方について調べる。ただこれ以上時間をかけるわけにはいかないと感じた魔理沙は、足だけでも縛っておこうと男に近づいた。

 

「馬鹿め」

 

 男は両手を地面を強く叩きつけると、2本の刀が地面から勢いよく射出され、魔理沙の両肩を貫いた。

 ただでさえ頭痛が尋常じゃないのに、さらなる痛みが魔理沙を襲う。

 

「化け物の子よ、油断したな? クックック··········私の個性"武器創造"は手を地面に触れることで発動し、強く叩けば叩くほど素早く生成される。が、その代わりに質は落ちてしまうがね」

 

 男は股間を抑えながらゆっくりと立ち上がり、再び地面に手をつける。すると地面から2m級の巨大な大剣が出現し、男はそれを気合いと根性で担いだ。

 

「はァッ! ··········はぁッ···············私の、体はもう··········ボロボロだが、せめて··········はぁッ··········キミだけでも、道連れに··········させてもらう··········」

 

「全ては···············尊きサナエ様のために」

 

 男は最後の力を振り絞り、剣を構えて一気に突進する。火事場の馬鹿力としか言いようがないパワーに我ながら驚くが、尊き神が私に力を貸してくれているのだと理解した。

 男は大きく息を吸い込み、全てを神に捧げる勢いで剣を振り下ろした

 

「死ねえええええええええええ化け物おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 自分の身長よりも遥かに大きい鉄の塊が脳天目掛けて振り下ろされ、絶体絶命のピンチに陥る魔理沙。

 もうかなり限界だが仕方がない。アレをやるしかない。

 

「ザ・ワァァァァアアアアアアルドッッッ!!!!」

 

 

 

 

 魔理沙以外の全ての時間が停止し、あらゆる物理的なエネルギーが息を止める。

 男は大剣を振り下ろす途中で停止し、一切身動きが取れない。いや、時間が止まっている以上、動けないことすら認識できていない。それすなわち、"死"を意味する。

 

 ··········いや、流石にそれはマズイので寝てもらおう。

 

 魔理沙は拳を強く握り、黄色いスタンドと共に男の真正面に立つ。そして大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと吐いた。

 

「昔から夢だったんだ、もしスタンドが使えたら何をしようかなって··········」

 

「これだね」

 

 筋骨隆々の黄色いスタンドが拳を構えると、結依魔理沙は再び大きく息を吸い込み、一気に吐き出した。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッッ!!!!!」

 

 目に見えないほどの速さで繰り出される拳の連続。その一撃の重さは人の生体組織を粉砕するには十分で、数発食らうだけで人は再起不能になるだろう。

 しかし、時が止まった世界においてはそうとは限らない。あらゆる物理的な力が停止している以上、どんなに強く殴ろうが相手は吹っ飛ばないし、死ぬことは無い。

 

 だが撃ち込まれた破壊のエネルギーは男の中に確実に蓄積しており、今か今かと解放のときを望んでいる。このとき、もし時間が再始動したら、この人はどうなってしまうのか。それを今からお見せしよう。

 

「時は動き出す」

 

 

 

 

 時間が息を吹き返し、全てのエネルギーが再始動した瞬間、剣を振り下ろしていたはずの男が盛大な破裂音とともに後方へ吹き飛んでいった。

 

「はグわぁぁぁああああああああああああッ!!!!!」

 

 何をされたのか理解出来ぬまま、男は海浜公園に積み上げられたゴミ山の方まで吹っ飛び、そして頭から突き刺さってしまう。金的弱点を蹴り上げられてもギリギリ耐えるほどの根性の持ち主だったが、流石にザ・ワールド(近距離パワー型スタンド)のラッシュには耐えきれなかったようだ。

 

「あっ」

 

 ブツッと、何かが途切れたような音が聞こえた瞬間、私の意識が一気に遠のいていく。

 まだあの男の足も結んでないし、お姉さんを遠くに逃がしてもいないのに倒れるわけには··········と思ったが、よくよく考えればこれは訓練。あくまで練習である。

 

 あまりにリアル過ぎて途中から忘れていた··········

 

(··········もう、無理)

 

 ギリギリまで意識を保とうとしたが耐えきれず、魔理沙も同様に気絶してしまう。

 

「··········ッ大丈夫!? ねぇ! 聞こえる!? 起きて!!」

 

 既にスマホを投げ捨てていたお姉さんは倒れた魔理沙に近づき、意識があるか試してみたがピクリとも動かない。

 

「鼻血が··········! このままじゃ窒息しちゃう!」

 

 お姉さんは魔理沙の頭を地面から少し持ち上げ、気道を塞がないよう頭を自身の膝に乗せる。しかしこのまま寝かせたままにするわけにもいかないため、お姉さんは体勢を維持したまま投げ捨てたスマホを拾い直し、病院に連絡を取ろうとした。

 が、その手は黒い防護服を着た人達によって止められた。

 

「ッ! 助けてください! この子が大変なんです!!」

 

 お姉さんは魔理沙を抱えながら必死に訴えたが、防護服を来た人達は全くに意に介すことなく、仲間内で何か話し合っている。

 

「Get a car ready. We'll retrieve this girl」

 

「What about this woman?」

 

「··········Take them with you. I'll give you a proper explanation later」

 

 黒い人達は話終えると、さっそくお姉さんと魔理沙の身柄を拘束し、車の方へ連れていく。

 

「ちょっと! 離してください!!」

 

 乱暴に引っ張る手をひっぱたき、この場から逃れようとしたが、プロの手刀が首に直撃。お姉さんはあえなく撃沈してしまう。

 

「Also, get that guy in custody. I'll hand him over to the Jp police」

 

 リーダーらしき人の指示により、魔理沙に吹き飛ばされた男も回収された。

 

 そして黒服の集団は3人を車の中に詰め、海浜公園からたち去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 






2023/4/18、話の内容がガッツリ変更されました。


いろいろ紹介

『みがわり』
→自分の体力を削って緑色の謎の人形を呼び出す技。このとき、魔理沙は変化技を受け付けなくなる。

『■■■■』
→とある宗教組織で崇められている神の名前。頭痛のせいで聞こえなかった。


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リザルト(4話)



【あらすじ】

結依魔理沙、助けた人ごと攫われる。



☆8評価ありがとうございます。



 

 

【某国立大学附属病院】

 

 

 ───────知らない天井だ。

 

 なんて適当なことほざいてみたが、本当に知らない天井だった。もしここがウチの天井ならこんなに綺麗なわけ無い。もう少し汚いはずだ。

 それに、点滴や見舞いの花が置かれている時点で大方ここが病院であることが分かった。服もいつの間にか患者用のものに着替えていたし、寝ている間に色々世話になったのだろうか。

 

 それはともかく、いったい誰が私をここまで連れてきたのだろうか。状況的におそらく助けた女性が私を運んでくれたのかもしれないが、彼女も組織から脱出するのに相当体力を削っていたはず。だからたぶん彼女じゃない。

 そう考えると、やはり運んだのは私のボディガードだろう。そもそも訓練だって言って、私に行くように仕向けたのは彼らなんだから当然といえる。

 ただあの訓練、全く練習してる感じがしなかった。特に敵の根性というか、執念が尋常じゃなかった。

 

 ··········脳天かかと落としして金〇蹴られたくせにまだ立ち上がったの、本当に頭おかしいと思う。

 

 

 

「失礼するよ」

 

 ガラガラとドアが音を立てながら開くと、一人の男性が病室に入ってきた。

 

「君が結依魔理沙ちゃんかな?」

 

 男はベットの傍にあった丸椅子に腰掛けながら、気兼ねなく話しかけてきた。だが私の方は全く見覚えがない。昨日の話しかけてきたボディガードの人……にしては声が違うので、もう本当に誰なんだろうか。

 

「私、こういうものなのですが……」

 

 男は胸から手帳のようなものを取り出すと、私の目にはっきり見えるよう提示した。

 手帳が重力に沿って開くと、そこには『塚内直正』という名前と、その横に『警部』と書かれていた。さらによく見てみると警察署特有のマークらしきものもあることから、この人が警察官だということが分かった。

 

 警察官が何故ここにいるのか、その理由を考えた瞬間、昨日の出来事が断片的に蘇った。

 練習、と言い渡されたものの妙にしぶとく、異様に根性のあった敵、そして練習という言葉に連られて個性を使ってしまった私、そして警察。点と点が繋がり始めた瞬間、魔理沙の脳裏に一つの仮説が誕生した。

 

【結依魔理沙、オレオレ詐欺ならぬ個性使え使え詐欺の被害者説】

 

 私の不信感を利用し、ボディガードと偽って個性を公で使わせ、そのタイミングを狙って警察を呼び逮捕させる。なんて計画的な犯行だろうか。きっと私に恨みをもった人間がやったに違いない。

 

(…………恨みもったヤツ、いなくね?)

 

「初めまして。僕は塚内直正、警察官……いや、警察のお仕事をやっている人だ」

 

 彼の言葉により、魔理沙は妄想の世界から現実に引き戻される。意識が途中から戻ったせいで何を言っていたのか聞き取れなかったが、聞き覚えのある名前が聞こえたような気がする。

 とりあえず、もう少し話を聞いてみるとしよう。

 

「いきなりで悪いが、君はあの公園で何をしたか覚えているかい?」

 

 聞こうと思ったら聞かれてしまった。しかもこの質問、答えによってはその場でしょっぴかれるかもしれない地雷質問。正直に答えれば十中八九死ぬ。

 

「…………覚えてない」

 

 昨日のことがまるで昨日のことのように思い出せるが、魔理沙は知らないフリをした。

 

「フム、どうやら記憶がないようだね。何か体に異常は無いかい?」

 

 塚内は魔理沙を不安にさせないよう、優しい表情と声色で話かける。

 さっきまでバリバリに警戒していた魔理沙だったが、彼の言葉の温かさに少し心が緩みそうになった。

 

「…………うン」

 

 笑みを引き攣らせながら、何とか受け答えする魔理沙。警戒を怠るつもりは無いが、彼の良い人オーラが眩しすぎて全部喋りたくなる。でも喋ったら絶対に捕まって社会的に死ぬ。どんなに優れた戦闘能力があろうと、社会的信用を取り戻す能力が無い以上世渡りは慎重にやらなければならない。

 

 でも喋りたい。

 

「それならよかった。ところで……」

 

 突然、塚内は持っていたバッグからガサガサと数枚の写真画像を取り出し、私の目の前に並べた。

 

「これは、何かな?」

 

 そこには、私が個性を用いて犯人の頭を踵落とししているシーンや金○を蹴り上げるシーンが写し出されていた。

 

(証拠ォォォォォォォォォォォ!!!)

 

「近くの住民が撮影したらしくてね。この画像、どう見ても君が個性を用いて人を攻撃しているようにしか見えないんだけど、どういうことか説明してくれる?」

 

 笑顔のまま一切表情を変えない塚内に、魔理沙の頭はバグり始めた。ここまで全部茶番だったこともさながら、人生のチェックメイトが目の前にあることに焦りを感じ、魔理沙はなりふり構ってられなくなった。

 

「…………う〜〜〜ん、う〜〜〜〜〜」

 

 魔理沙は唸るフリをしながらそっと証拠の方に手を伸ばす。そう、証拠なんて触ってしまえば能力でいくらでも書き換えできる。まだ慣れてはいないが、この画像を陳腐なラクガキに変えることくらいなら造作もない。

 

 そんなことをすればすぐに疑われるだろうが、問題ない。一瞬でも紙に意識が向いた瞬間、もしものために練習しておいた忘却魔法(オブリビエイト)が塚内の額に炸裂し、彼が今日何しにここに来たのかの全てを忘れさせれば万事解決。後は適当に流して退院すれば詐欺の件も全部チャラ、社会的にも死なない。全てが丸く収まる!

 

 魔理沙は証拠を適当なラクガキに変換させ、塚内の意識をこっそり誘導する。

 

「ッ! 証拠が……ッ!!」

 

 塚内の意識がラクガキに向いた瞬間、結依魔理沙は即座にベットから起き上がり、塚内の額目掛けて手を伸ばした。

 

 確実に忘却魔法をブチ当てようと躍起になっていた魔理沙だが、塚内のでこに到達する直前でピタリと手が止まる。止めたのは魔理沙自身の意志ではない。第三者の介入によって止められたのだ。

 

「パパァ!?!?」

 

「魔理沙、彼は私の友人だ。変なことするんじゃありません」

 

 魔理沙の父、結依勇魔はもう片方の腕で私の頭にチョップを食らわせた後、塚内に向かって一礼をする。

 

「ウチの子が迷惑をおかけしました」

 

「いえいえ、気にしないでください。そもそもコレ、()()()()ですし」

 

「はい?」

 

 聞き捨てならん言葉が聞こえた瞬間、クラッカーを持った塚内と勇魔が一斉に鳴らし始めた。

 

「「テッテレー♪ 」」

 

 勇魔と塚内は『ドッキリ大成功』の紙を抱えながら、パーティ用の伊達メガネをかけて呑気に笛を吹き始めた。

 

「いやしょぼい!!!! しかも大して面白くない割に心臓に悪い!!!!」

 

 わざわざドッキリのためだけに協力してくれる警察官とは一体なんなんだろうか。暇人なのか、それとも想像以上にこの二人が仲良いのか。

 というか何故パパは警察と仲が良いのか。中学高校時代の同級生か何かだろうか。そうでなければいったいどういう繋がりなのか、気になるところではある。

 

「……ねぇ、二人はどういう関係なの?」

 

 セリフがやましいが魔理沙は直接二人に聞くことにした。

 

「…………実は昔、公安委員会で働いていてな。職業柄よく警察とは仲良くしているんだ」

 

「君の父さん、本当に凄い人なんだよ。個性黎明期において数多の海外テロ組織や反社会組織をことごとく解体してきたんだから!」

 

「へぇ」

 

「…………反応が、薄い……だと?」

 

 あまりに素っ気ない態度に目を丸くする塚内。影のヒーローとでも言うべき父の偉業に、彼女は一切興味が無いようだ。

 

 まだ4歳だというのに目に全く生気が宿っていないことから、あの話は本当だったのだと塚内は確信した。

 

「で、何で父さんがここにいるの?」

 

 魔理沙は病院のベットで胡座をかきながら、父の本当の目的について聞き出そうとした。

 いかんせん見た目が厳ついせいで4歳とは思えないほどの威圧感を感じるが、勇魔はゆっくりと口を開いた。

 

「いいか魔理沙、落ち着いて聞いてほしい」

 

「昨日、家にボディガードを名乗る人が電話をかけてきただろう? アレはボディガードではなく、私の部下だ」

 

「部下からも聞いた通り、魔理沙に助けるよう指示したのは私だ。その理由については少し省くが、魔理沙の力と戦闘のセンス、そして人としてモラルがあるかどうかを試すためにこういった命令を出した」

 

「魔理沙、お前は今まで気づいていなかったかもしれないが、この世界は魔理沙の誕生を機に変わりはじめている。世界中のあらゆる人間がお前の力を求め、利用しようとする人間が急増しているんだ」

 

「現に200■年4月27日以降、海外からの密入国者が1万人以上、サイバーテロの件数が50万件にも増加している。国内における犯罪組織にも変な動きが見られる以上、魔理沙狙いの連中が少なからずいることは間違いない」

 

「したがって魔理沙には、海外に行ってもらう」

 

 勇魔の言葉に反応し、頭の中で繰り返し反芻する魔理沙。海外、海の外、つまり日本の外。つまり海外。つまり日本じゃない。つまり…………

 

「え?」

 

 全く理解できなかった。

 

「そこで魔理沙は多くの軍人達から、自分の身を守るための技術を学ぶんだ。そうすれば、魔理沙は自ずと強くなるはずだ」

 

「心配せずとも父さんと母さんも一緒に行くから、安心しな。時々父さんも稽古をつけに行くからな」

 

「分かったか?」

 

 頭に手をのせられながらそう言われたものの、頭がフリーズしていたので全く反応できなかった。

 内容を理解出来なかったわけではないが、自分の個性のことでここまで話が広がっていたとは思わず、そのせいで海外暮しになるとは驚きだ。いや、ある意味当然か。なんならむしろ優しいまであるか? 

 

 この世界の倫理観は分からないが、もし世界を壊す力を何の制約もない子どもが持っていたら、人はその子を殺すのだろうか。

 

 もし目の前に核兵器のスイッチを持った子どもがいて、自分の懐に銃が入っていたとしたら、自分はその子を撃ち殺すのだろうか。

 

 

 

 

 話し合いで解決するならそれでいいが、そうじゃなければ撃ち殺すのだろうな。私ならそうする。

 

 

 

 

「…………分かった」

 

 魔理沙は俯きながらも了承し、海外に行く決意を固めた。これも運命、こうなることは生まれた時から既に決まっていたのだろう。仕方ないで済ますしかない。

 だが、ただでさえここは異世界の日本だというのに、前世ですら行ったことのない海外に行くのはかなりハードルが高い。

 心の準備も足りていないし、何より未開の土地すぎて何が何だか分からん。飯さえ美味しければやっていけそうな気がするんだが……

 

「魔理沙…………」

 

 悩む娘の姿を見た勇魔はそっと右手を背中に伸ばし、左手を足の下に伸ばすと、魔理沙の体をひょいと抱えあげて、そのまま病室の外に出ようとした

 

「待て待て待て待て待て」

 

 魔理沙の腕からブチブチと点滴が引きちぎれ、注射痕から血がブシャブシャ溢れ出したが、勇魔は一切足を止めない。

 魔理沙は必死に背中をバシバシ叩いて止まるよう催促するが全然効かず、そのまま病院の裏出口の方へ向かっていく。

 

「止まれェええええええええええええ!!!!!」

 

「ぐおおおおおおおおおおおお!?!?!?」

 

 魔理沙は握力80kgの力で父の頬を引っ張り上げ、無理やり制止させた。

 

「どこ行くの!?」

 

「海外」

 

「今から?!?」

 

「明日までにアメリカに着かないと、お前も父さんも特務機関に殺されるからな。時間が無いんだ」

 

「じゃあ走れェええええええええええええ!!!!!」

 

 父と魔理沙が裏出口の扉を開けると、目の前に黒いスーツを着た人達と黒塗りの高級車がいた。

 

「こちらへ。空港までお送り致します」

 

「頼む」

 

 二人は急いで車に乗り込むと、部下の人が急いで発進した。

 

「母さんは!?」

 

「先に行ってる」

 

 母の所在を聞いて魔理沙は胸を撫で下ろした。だがその直後、あることに気がついた。

 

「…………もしかして、知らなかったの私だけ?」

 

「そうだよ」

 

 知りたくなかった事実を目の当たりにし、魔理沙のテンションがみるみる下がっていく。

 隠しているつもりだったのに、これ全部バレてないか? 何気に今までスルーしていたが、一度も個性を見せていないはずなのに父親に自分の個性のことバレてるし、母親は海外行く理由を既に知っているし、結局何も知らなかったの私だけじゃないか。

 魔理沙は少し溜息を着いた後、不貞腐れて横になり、そのまま二度寝を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇魔は疲れ果てた魔理沙の髪を撫でたあと、肩に手を乗せながら呟いた。

 

 

「…………ごめんな」

 

 

 世界のためとはいえ、魔理沙に負担をかけてしまうことを申しわけなく思う。出来ることなら普通の女の子らしい人生を送らせてあげたかったが、力が足りず結局は監視付きの監獄暮らし。

 

 これで本当に良かったのだろうか。

 

 そんな思いが、ぐるぐると頭の中を回り続けている。今まで家族らしいサービスをしてこなかった癖に、自分の都合で海外移住を強いてしまうことになるとは我ながら情けない。

 だが妻も子も、海外に行くことを受け入れてくれた。まだ何もしてあげられていないというのに、本当に助けられてばかりだ。

 

 今度、どこか美味しいところにでも連れて行ってあげよう。そう思った勇魔はさっそくノートPCで検索し、美味しそうなお店を片っ端からチェックリストに入れ始める。やると決めた以上、動くのは当然だ。

 

 勇魔は空港に着くまでずっと検索し続けた。そして午前10時54分、勇魔と魔理沙はロサンゼルス空港行きの便に乗り込み、日本を離れたのであった。

 

 

 














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第一章EX:カメリア刑務所編
スパルタ教育(4.125話)




【あらすじ】

200■年4月27日、日本にとある女の子が誕生した。

彼女の名前は『結依魔理沙』、個性は『食べた相手の個性をパクる』個性であり、その他にも様々な異能を携えていた。

彼女の力は世界の均衡を容易に破壊する。

彼女の力を恐れた国際機関は結依魔理沙をアメリカのとある施設に移送し、そこで監視及び隔離することを決定したのだった。

※この章は後から追加された外伝です。本筋にはちょっとだけ関与します。また、外伝飛ばして5話に突入すると外伝ラストのネタバレがあります。ご注意ください。






 

 

 結依魔理沙が移送された場所は、アメリカ合衆国ニューヨーク市に位置する島『ロフト島』。四方全てが川に囲まれたその島には世界最大級の刑務所『カメリア』が存在する。

 

 先進国の中でもトップクラスの犯罪件数を誇るアメリカでは犯罪者を収容する施設が何百と存在するが、その中でもここカメリアは『最も過酷な刑務所』として有名であり、現在においても多くのヴィランから恐れられている。

 

 カメリアは個性黎明期以前から存在する施設だったが、人類が個性に目覚めて以降、カメリアは犯罪者の収容施設として常に機能している。黎明期には最大2万人ものヴィランを収監していたこともあったが、個性への対策が追いつかず、脱走や刑務官への反逆行為が横行し、一時期無法地帯と化したこともあった。

 

 しかしヒーローの台頭や個性犯罪への対処法が充実してきた他、法整備が追いついたことも相まって、カメリア含む多くの刑務所で脱走者は徐々に減少していった。特にカメリアでは強力な個性をもった人間が刑務官として数多く務めるようになったので、刑務官に逆らう人間はほぼいなくなり、この時期からカメリアはアメリカ最大の刑務所の一角として名を馳せるようになる。

 

 しかしヒーローが台頭し始めて間もない頃、数十人の警官が束になっても全く歯が立たないほどの力をもった人間が各国に出現し、世界の均衡は徐々に崩れだした。

 

 喋るだけで人を殺す個性、自然環境に甚大な影響を及ぼす個性、国際条約によって禁止された危険物質を生み出す個性、世界の法則を自由に書き換える個性、あらゆる物質を崩壊させる個性……

 

 そして、相手の個性をパクる個性。

 

 そういった個性を野放しにできないと判断した国際社会はあるプロジェクトを立案、実行し、その一環としてアメリカではカメリアを含む3つの刑務所に新たな研究施設を設けた。

 

 それらの研究施設の名はプロジェクト名にちなんで『WSAP(World Secure Ability Project)施設』、または『WSAP(ワザップ)関連施設』と名付けられた。

 

 ワザップは表向きでは個性応用学(異能応用学)の研究施設として、個性の仕組み解明や個性を応用した商品開発を行っているということになっている。

 しかしその実態は世界の均衡を崩しかねない人たちを超法規的手段を用いて収容し管理する施設である。

 

 

【この世界は強力な異能力者たちを人間社会から無理矢理引き剥がし、隔離することで秩序を保っている】

 

【果たしてそれは人間社会において健全と言えるのだろうか】

 

 

 ───────── By デストロ

 

 

 

 

 ■

 

 

 そういった経緯により、結依魔理沙も同様にカメリア刑務所の地下研究施設に連れていかれた。そこで一通り施設内におけるルールや今後のスケジュール等について説明を受けた後、マイルームへ案内された。

 

 部屋の中はベットから机に至るまで全て真っ白だった。それ以外にも部屋の扉の近くには連絡用モニターが設置されており、部屋の外に出たい時はそれを使って職員に連絡しなければならない。なお勝手に出た場合、この施設に入る際に付けられた特殊なリストバンドが反応し、全職員に緊急連絡が入ってしまう。カメリア刑務所最強の刑務官が鎮圧しに来るらしい。

 

 ちなみに両親は刑務所内に入れないので、住む場所が決まるまで近場のホテルで過ごすこととなった。

 仮にも父親で割とお高い役職についている男が何の準備も無しに海外渡航するとはなかなかキモが座ってるなと最初は思ったが、よくよく顔を見ると目の下にめちゃくちゃ濃いクマが出来ていたので、まともに考える時間は無かったのだろう。

 

 あとカメリアに着く前、空港で母さんと再会したが、何故か母さんは上機嫌だった。話を聞いてみると、どうやら久しぶりの海外でテンションが爆上がりらしい。

 これから娘が刑務所内の施設にぶち込まれるというのに何故そんなに呑気なのかと突っ込んだら、「魔理ちゃんは最強だから大丈夫よ!」と返された。まぁそうだけど、何かそうじゃない。

 

 とりあえずフカフカのベッドにダイブする魔理沙。ここに辿りつくまで本当に長い時間拘束されたから精神的にめちゃくちゃ疲れた。なので寝る。

 魔理沙はものの数十秒で寝始め、明日に備えて力を溜めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Get up hurrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrry!!!!!!!!!!!!!!』

 

「ッんああああッ!?!?」

 

 雀の鳴き声よりも喧しい声が部屋中に響き渡り、焦って布団を蹴り飛ばす。また何か襲撃でも起きたのかと周囲の状況を確認した魔理沙だったが、特に何も起きていない。

 

『新入り!! 今何時だと思っている!? もう朝の7時!! さっさと着替えて運動場に集合しろ!!!!』

 

「…………what? (は?)?」

 

 寝起きで全く理解出来なかったが、精神安定スキルと思考加速スキルのダブルアップにより魔理沙はこの状況の全てを理解した。

 この研究施設には一応教育プログラムなるものが存在し、基本的に午前中は戦闘訓練、午後は勉強といった感じだ。自由時間は午後5時から午後8時30までで、午後9時までに自室にいなければ特別収容プロトコルが下される。

 

 そういう説明を昨日聞かされてはいたが、まさか今日から実施するとは。心を読んでいれば察せたが、昨日の私は省エネモードだったので仕方ない。

 魔理沙は指パッチンで施設特製の学生服に着替えると、連絡用モニターの方に駆け寄った。

 

Please open the door(ドアを開けてくれ)

 

『とっくに開いている。分かったらさっさとこんかい!!!!』

 

「理不尽」

 

 先に言えと、言いたくなる気持ちを抑えて魔理沙は扉を開けた。

 …………あのジジイの理不尽さも、感情のコントロールに必要な訓練だと思えば辛くない。どんな目にあおうと、前を見据えて真っ直ぐ歩けば私はさらに強くなれるはずだ。

 

 扉を出た後、AI搭載型のサポートロボの指示に従って突き進むと、運動場にたどり着いた。

 

「入学早々遅刻とはいい度胸だな新人!!!!! 罰として腕立て伏せ10分! 腹筋10分! ランニング10マイル(16km)! これを3セット終わらせるまで訓練への参加は禁止!!!! さぁ始め!!!!!」

 

 開始早々かなりハードな課題を課せられてしまった魔理沙。一般的な成人男性ですら音を上げるメニューだ。

 

「……I'm four years old(4歳にやらせるメニューじゃなくね?)

 

「年齢なんぞ知らんッッ!!!!!!!!!!」

 

 なけなしの抵抗も虚しく、仕方なく腕立て伏せを始める。…………地味に回数じゃなくて時間指定なのが腹立つが、こういった隙間時間の間は物理と化学の勉強に集中出来るので丁度いい。

 魔理沙は親から貰った物理基礎の教科書と化学の教科書を無詠唱で召喚し、第3の腕を生やすことで教科書を捲りながら腕立て伏せを続ける。

 

 勉強、筋トレ、能力コントロール、これら全てを同時に行うことで並列思考能力も上げながら全身全てを鍛え上げるという超完璧プラン。前世の自分では絶対にできなかっただろうが、今の私なら完璧に遂行できる。

 とはいえ勉強に関しては教科書10分読んだところで得られるものは限られている。なので思考加速スキルを用いて体感時間を100倍に増やし、1000分の知識をたったの10分で脳に詰め込み、無理矢理暗記スキルで固定させた。

 

「……ッフがっ!!」

 

 情報のキャパオーバーで鼻血が出たが関係ない。この力を完全にコントロールするには相応の知識と技術、そして経験がいる。だが普通の特訓では100年かけても魂に毛が生える程度にしか身につかない。

 だからこそ、限りある時間をあらゆる手段を用いて無限に引き伸ばし、ありとあらゆる力を理解する。そのためならば、鼻血を垂らそうが理不尽押し付けられようが気合いで全部乗り越えてみせる。

 

「……はァッ……次は腹筋……!」

 

 腕立て伏せを終えた魔理沙は腹筋に移行し、基礎物理学の勉強の続きをしながら第4の腕を用いて属性魔法の練習を行う。

 だが物理の教科書は長いし、属性魔法はあらゆる作品に登場するため覚える量が尋常じゃない。そのため、時間停止能力で時間を止めながら少しづつ覚えていく。

 

(垂直抗力N=mg cosθ、静止摩擦力F=mg sinθ……動摩擦力F'=μ'N……これが成り立つ理由は……)

 

(属……せ、……法…………ド…………クエ…………メ…………から…………や……)

 

 並列思考がカオス過ぎて熱が出始めたが、構わず続ける。ただリソースを物理基礎と腹筋に割いているせいで属性魔法の特訓が中々上手くいかない。なので今度は属性魔法の方に集中し始める。

 

(メラ……全身を巡る力を感じ、魔力回路を形成して指先に誘導し、周囲の酸素を巻き込むイメージを保ちながら着火……!)

 

 指に火を灯すことに成功した魔理沙は、この動作を意識せずに出せるよう何度も繰り返し行う。勉強はまだしも、こういう戦闘に関わる技は暗記スキルに頼らず身につけたいところ。何より暗記スキルは自分の目で見た映像は覚えられても、その時に感じた感覚やイメージまでは保存できない。あと情報を手軽に圧縮する個性みたいなのを持ってないから、人力で圧縮する必要がある。なので部屋に帰ったら覚えた物理基礎の知識を復習するつもりだ。

 

 そもそもなぜ勉強する必要があるのか、その理由について簡潔に答えると、物理化学の知識が無いと効果を発揮しない能力がいくつか存在するからである。

 特にベクトル操作、物質創造は仕組みを理解していないとイメージが難しい。ベクトル操作は1度だけ飛行機内で試したことがあるが、その時は間違って自分の血流を反転させてしまい地獄を見た。なので暫くは使いたくない。

 

 大方物理に関する知識を蓄えてから再チャレンジするつもりだ。

 

(y=A sin2π/T・t…………、文字…………多…………)

 

(128……129…………130…………131……132……)

 

(親指に魔力の正のエネルギーを集中させ、中指の方には負のエネルギーを集中させ、それを勢いよく擦りながら雷のイメージを具現化し……)

 

 並列思考にも少し慣れてきたおかげで、勉強も腹筋も魔法もスムーズにやれるようになった。だが暫くするとどこかで集中力が切れるので気は引きしめておく。

 

 

 

 

 

 こうして50時間以上にもおよぶ時間停止により、ようやく物理基礎とド〇クエの属性魔法を習得した魔理沙は次にランニングコースへと向かう。

 運動場に用意されたコースの外周は1周につき約2km。つまり8周すれば16kmだが、1周が長すぎてとても人間には走りきれない。元々競馬用のコースだったらしい。

 

 だが丁度いい。程よく長いおかげで足回りの筋肉を鍛えながら、魔法の練習が出来る。少なくとも腹筋しながらの時よりも並列思考がかなり楽なはずだ。

 

「あああああああああああああああ!!!!!!」

 

 蓄積した疲労を、叫ぶことによって吹き飛ばし、全力で走る魔理沙。しかしいくら異形魔理沙に生まれ変わったとはいえ、4歳の体で50時間以上ぶっ続けで動き続けるとどうなるか。

 

 だいたいこうなる。

 

「ああああああああ"ッ……ッあ"あ"ッ──!!!」

 

 疲労でバランスを崩した魔理沙は頭から勢いよく地面に激突し、地面と顔面を削りながら転がっていった。

 かなりの速度で飛ばしていたので、顔面へのダメージがかなり酷い。今すぐにでも魔法か何かで直したいが、治癒魔法に関してはまだ練習していないので上手く直せるかどうか分からない。

 

 ……いや、これを機に治癒魔法の練習をするのもアリかもしれない。失敗すると多分顔面の骨格が変形するかもしれないが、その時はまた壊して再構築すればいい。

 

「新人は黙ってやれェ────ッ!!!!」

 

(うるせェ!!!!)

 

 再び練習のために時間を停止し、何となく感覚で治癒魔法を顔面にかけてみる。すると傷は塞がりはしたものの、肌の質感が何となくスライムに近い上にめちゃくちゃ痒いい。

 

(……失敗か。これも勉強が必要なタイプだな……)

 

 魔理沙は追加で生物学の本や医学に関する本を大量に召喚し、静止した時の中で延々と本を読み続けた。

 

(…………あ、ランニング忘れてた)

 

 魔理沙は勢いよく立ち上がり、サイコキネシスで全ての本を空中に浮かせながら走り始めた。全ての本のページをサイコキネシスで捲るのはかなり負担がかかるが、腕を生やす必要がなくなったのでとても走りやすい。でも頭が痛い。

 

(基底層の細胞分裂の超活性化、基底層の細胞分裂の超活性化…………!)

 

(ついでに足の疲労回復、足の疲労回復……!)

 

(次カーブ次カーブ次カーブ次カーブ今カーブ今カーブ今カーブ今カーブ今カーブ…………そう!!!)

 

 何度も何度も試行錯誤し、身体を限界以上に鍛え上げ、自身の潜在的な力をひとつずつ目覚めさせていく。

 本当に時間がかかるが、時間なんていくらでも引き延ばせるのでこの調子で頑張っていきたい。

 とはいえ今の私の能力の総数は優に5000万個以上あるため、1日100個ペースで覚えていっても完全習得まで最低1300年以上はかかる。流石に1300年間時を止め続けると頭がおかしくなるので習得速度を上げたい。

 

 一日につき5000個、これなら約26年で完全習得できる。

 

 だったら変に並列作業するより、休憩時間のときに1年ずつ時を止めて個性を習得した方が早い気がしてきた。うん、絶対にそっちの方が早い。

 

 魔理沙は全ての本を自分の部屋に送還すると、即座に時を再始動し、僅か10秒で外周を8周分走りきった。

 

「Finish!」

 

「…………右腕を出せ」

 

 監督の言われるがままに右腕を差し出すと、監督は謎の白い機械で付けていたリストバンドに光を当てた。

 

「…………確かにランニング10マイル走り切ったようだが、腹筋が足りない。もう10分追加で腹筋しろ」

 

 一瞬、「は?」と言いかけたが、よくよく考えたら腹筋をしてる最中はずっと時を止めていたのを思い出した。つまりカウントされてない。

 

「何だその不満な顔は、やる気ないのか!?!」

 

「……Fa…………OK, I'll do it now」

 

 面倒事を起こすわけにはいかないので、仕方なく10分間腹筋を行う。

 50時間に比べればたかが10分、すぐに終わるはず。そう思って腹筋を続けたものの、飽きてきたせいか1分がやたら長く感じる。

 

(…………そういえば他の人は今何してるんだ?)

 

 もう完全に集中力が切れた魔理沙は腹筋をしつつも周りを見渡した。どうやら他の人は軍服を着た人達とナイフを使った戦闘訓練をしている様子。

 

 自分以外の受刑者たちをマジマジと見つめていると、明らかにヤバそうな人間を一人見つけた。その者はよく分からない鋼鉄製のマスクで口元を封じられており、全身真っ白な金属性スーツで身を固めた女の子っぽい子。かなりの美人さんだが、目のヤツれ具合からとてつもない闇を感じるし、彼女が人を殴る時、やたら恍惚とした表情を見せるから、多分相当性格がねじ曲がっている。面白そうだがこういう子とは関わってはいけない。

 次に目に付いたのは、中国人風のおじいちゃん。唯一戦闘訓練に参加しておらず、ただ座って見てるだけなのでやたらと目立つが、それよりもあのおじいちゃんの足元で蠢いている()()()()が何なのか死ぬ程気になる。アレも個性の1種なのだろうか。

 最後に目に付いたのは、ナイフ捌きがかなり上手な男の子。年齢的に小学5、6年生ほどだろうか。個性は一切分からないが、小学生にしてはかなり体幹がしっかりしていて激しい動きにもついてこられている。

 

 ここの収容者された人のほとんどが軍隊または公的機関に所属するため、戦闘技術の取得は必須項目。練習の様子からも本気具合がビシビシと伝わってくる。

 私も今すぐ練習に混ざりたいが、腹筋完了まであと5分かかる。ここは大人しく我慢だ。

 

 

 

 

 そしてなんやかんや5分が経過し再び監督官にリストバンドを見せに行くと、早急に今日の授業に参加するよう指示が下った。

 

 

 

 

 

 

 

 To be continued....

 

 

 

 

 

 

 



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異端中の異端(4.250話)



【あらすじ】

結依魔理沙、戦闘訓練に遅刻した罰として腕立て伏せ、腹筋、ランニングをやらされた。


 

 

 

「では新入りはあそこの4人チームに混ざれ!! 異論は認めんッ!!!」

 

「えぇ……?」

 

 なかば強制的にチームにぶち込まれた魔理沙は仕方なく指示に従って移動する。

 移動した先には先程注目していたナイフ使いの少年と金髪のロリ少女が()()()()の組手を行っており、それをやたら背のでかい男と物静かな女の人が見守っていた。

 

「……Nice to meet you(よろしく)

 

 とりあえず挨拶だけはしておこうと、抑え気味の声量で挨拶をした結果、ナイフ使いの少年が動きを止め、こちらに近づいてきた。

 

「……君が新入りか。初めまして、僕の名前はジャック。そしてこの子はジオ」

 

「…………じお……だよ」

 

 陽気な青年と私と同じくらいの背丈のロリが握手を求め、私は何となくその手を握り返す。

 何なんだこの違和感、刑務所の中とは思えないほどにほんわかとした雰囲気が漂ってやがる。もっと殺伐とした世界をイメージしていたのだが。

 

「そしてあそこに突っ立っているのは元CIAのおっさん、無口だけど気にしないでね」

 

「そしてあっちのお姉さんはホータイさん。中国生まれで皆から『タイの姉御』と呼ばれてるけど、本人の前で言うと怒るから『姉御』って呼んであげてね」

 

 魔理沙はうんうんと頷きながら、頭の中で生物学の教科書を読み込んでいた。これ以上人の名前を覚える気は無い。

 

「さっそく君も訓練に混ざってもらうけど、その前に」

 

「君にはこの研究施設におけるルールと、()()を受けてもらう」

 

「…………ルールと、洗礼?」

 

 何やら不穏な言葉が耳に入ってきた。洗礼、それはつまり成功しなければ正式に仲間として受けいられないとか、洗礼で失敗した者は今後一生カースト上位者からいびられ続けるとか、そういうアレなんだろうか。

 ルールに関しては既に昨日聞いたから、今更聞く必要があるのか疑問である。何故そんなことをするのか。

 

「……?」

 

「あぁ、このルールってのは僕たち囚人間のルールさ。例えばそう……『目上の人に逆らわない』とかね」

 

「目上……」

 

 魔理沙は納得したと同時に、若干眉間にシワが寄ってしまう。周りの人間ほぼ全員年上である以上、『誰にも逆らうな』と言われているようなものである。解せぬ。

 

「他にも『目上の人の命令は絶対』とか、『争いごとは拳で決める』とか、『とあるエリアは立ち入り禁止』とか……」

 

「ま、この辺のルールは過ごしてるウチに覚えるから気にしなくていい。問題は()()だ」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()は、この洗礼を乗り越えられるかで決まる……といっても過言じゃない」

 

 明るい雰囲気から一転して、非情さを感じさせる声と目付きに変化したジャック。彼の雰囲気から洗礼の過酷さが垣間見えるが、さきほどのほんわかな雰囲気からはなかなか想像がつかないので正直困惑している。

 

「何故って顔をしてるね。君も見ていれば分かることだが、この施設は生温い異能保護施設何かじゃない。れっきとした刑務所の一施設で、収容人物の大半は犯罪者。上下関係もハッキリしていて、力の無い人間から真っ先に淘汰されていく…………ここはそういう世界だ」

 

「あ、でもそんなに警戒しなくていい。()()()()()()()()()()はずさ」

 

 ジャックは元の明るい雰囲気に戻り、笑顔で私を元気づけた。何なんだコイツは。

 いまいちジャックの特徴を掴みきれず翻弄される魔理沙。何というか、こいつからは詐欺師に似たようなものを感じる。信用した途端に後ろから刺してきそうな、そんな危ない雰囲気が漏れていて警戒せざるをえない。慎重に対応する必要がある。

 

「それじゃあ、()()を始めよう」

 

 まだ心の準備が出来ていないというのに、ジャックの掛け声によって洗礼が緊急スタート。とりあえず構えてみたものの、先に攻撃していいものかやや迷う。

 互いの視線が交差した瞬間、ジャックの手元が一瞬ブレたように見えた。何かは分からないが飛び道具を投げられたことを察した魔理沙は横に大きく避けたが、視界に飛び道具らしきものは映らない。彼はいったい何をしたというのか。

 

「……ッ!?」

 

 ジワジワと焼けるような痛みが脇腹から拡がっていくのを感じた魔理沙は咄嗟に脇腹を確認すると、光の反射具合でやっと確認出来るほどの極小の針が3本突き刺さっており、そこから傷穴が急速に拡がり始めていた。

 自分の意思に反して肉が裂けていくのを危惧した魔理沙は回復魔法を反射的にかけたが、全く治る気配がない。

 

「じお……のも……みて」

 

 ジオが魔理沙に指をさすと、黄金に輝く先端の尖った物体が地面から勢いよく飛び出し、膨大な質量と圧倒的な速度で結依魔理沙に思いきり激突した。

 

「ごあッ!!?」

 

 流動する物体は勢いのまま結依魔理沙の腹を貫通し、何度も壁に激突させた後地面に叩きつけた。

 いきなり致命傷を負わされた魔理沙だったが、特殊体質のおかげで貫通した部位が即座に自動回復していく。

 だが、ジャックに負わされた傷だけは何故か直らない。回復魔法も効かず、最悪()()するかもしれないと危険視した魔理沙は、咄嗟に自身の傷穴の周りの肉を強靭な握力で抉りとり、そこら辺に投げ捨てる。

 傷穴が無くなったおかげか自動再生能力が適応され、魔理沙は再び回復した。

 

 ジャックが言う()()の意味は理解したが、何なんだこの強さは。見たことない個性かつそこそこに強い!! 

 

「その個性……もしかして()()()()?」

 

「…………ホルダー?」

 

「いや、気にしなくていい」

 

 意味深なことを言い残しつつ、ジャックはナイフを回し続ける。

 

「それよりもう治ったの? 僕の個性はそこらの治癒個性ごときじゃ治せないほど強力のはずなんだけど」

 

「ま、どうせ死ぬから関係ないか」

 

 死ぬ、……彼らが自分を殺す気なのは理解したが、それを洗礼と言うにはあまりにも暴力的過ぎる。力無きものは死に……って本当に死ぬヤツなのかと突っ込みたかったが、考える隙もなくもう一人のデカイ男が魔理沙の顔面に蹴りを加えた。

 

「……元CIAの、おっさん……!!」

 

「…………」

 

 左腕で蹴りを防いだものの、やはり巨大な体格と体重から繰り出される蹴りの威力は尋常ではなく、4歳の体ではとても受け止めきれない…………わけではないが、少し腕が痺れた。

 

「……ん?」

 

 次の瞬間、力が抜けたかのように膝が崩れ、両肘が地面にめり込んでしまった。

 何が何だか分からないが自身の体重が異様に重く、身動きが一切取れない。瞼をあげることさえ不可能なレベルの負荷が全身を押し潰しているかのようだ。これがおっさんの個性……! 

 

 そういえばブ〇ーチの登場人物にこんな能力の人いたなぁと、呑気に思っていたら再びおっさんの蹴りがすぐ目の前まで接近していた。

 それを咄嗟に避けようとした魔理沙だが、体が重すぎて避けられなかった挙句、それを見越したジャックが追撃として再び針を飛ばし、さらに畳み掛けるようにジオが大量の黄金をぶつける事で、結依魔理沙は体重が倍以上に増えたまま黄金の下敷きになってしまった。

 

「死んだな。とはいえかなり生き残ってたし、これなら施設でも上手くやっていけるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ」

 

 黄金の中心で噴煙が舞い上がったかと思いきや、魔理沙が顔ひとつ変えることなく中から這い出てきた。

 

「ッ何!?」

 

「……何で洗礼ごときで殺されなきゃいけないのか1ミリも理解できないが、これだけは言っておく」

 

「私はお前らより3億倍強い」

 

 気だるそうな表情から一変し、無表情のまま目を見開いた魔理沙。まるで全ての感情を失った殺戮マシンのごとき冷徹な視線を飛ばす彼女に、ジャック達は戦慄した。

 

「でも私ねぇ、まだ4歳で全然力を使いこなしてねぇんだ。だから代わりに実験台になってくれ」

 

 魔理沙は手のひらに『白い焔を纏った蝶』を顕現させ、それを手で圧縮することで一気に膨張させる。

 

原始の蝶(ミリオンクローバー)

 

 魔理沙が右腕を薙ぎ払うことで白い焔とそれを纏う蝶が周囲に拡散し、視界に入る全ての物体を燃やし尽くしていく。

 白炎の威力の凄まじさに、この場にいる全ての人間が魔理沙に注目し始めた。

 

「……はぁッ……はぁッ…………はぁッ……!」

 

「じおたち……おじさんにかし、ひとつ」

 

「…………」

 

 白炎に包まれた3人は燃え尽きてしまったかと思いきや、彼らの周囲だけ何故か炎が進行せず、地面に這いつくばるかのように鳴りを潜めている。

 おっさんが振り上げた足を下ろすと、目の色を変えて私の方に急接近し始めた。

 

「……やっぱここの人間はヤバいヤツしかいねぇなァ!!!」

 

 だんだんテンションが上がってきた魔理沙は自分が4歳であることを忘れ、おじさんと真正面から相対する。

 おじさんの足払いを華麗にジャンプして避け、その隙に手のひらで生成した光の剣を容赦なくおじさんの胸に突き刺そうとしたが、おじさんは片手で弾きさらに胸ポケットから拳銃を取り出した。

 

「…………」バンッ!! 

 

 放たれた弾丸が真っ直ぐ結依魔理沙の瞳に向かっていったが、残り0.5メートルといったところで急遽弾丸が弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいく。

 

「残念、効きません」

 

 魔理沙はニヤつきながらおじさんの両手首を強靭な握力で掴み、右膝を勢いよく腹部にブチ込んだ。

 

「……ッ!!」

 

「まだだよなァ!!?」

 

 魔理沙はさらに自身が受けた反動を利用し、至近距離でドロップキックを食らわそうとする。だがしかしおじさんは怯むことなく魔理沙の両足を掴み、壁に向けて勢いよくぶん投げた。

 

「ごはッ!!」

 

 衝撃で脳が揺れたものの、状態補正スキルが脳震盪を軽減したおかげでほぼ無傷で済んだ。だが間髪入れずにジャックの針が襲いかかってきたため、魔理沙は前転で咄嗟に回避した。

 回避した瞬間、地面から再びドロドロとした黄金の液体が魔理沙の肉体を一瞬で包み込む。金属のベールに閉じ込められ、身動きが取れなくなった魔理沙は必死に藻掻くがビクともしない。

 

「……じお、びっくり。ここまでいきのこったひと、いない」

 

「…………」

 

「それだけじゃなく、まさか個性2つどころか3つ持ちのホルダーだったとはね。騙されたな」

 

 新入りの奮闘ぶりに感心する3人と、いつの間にか増えていた観客達によって練習場が賑わい始める。娯楽に飢えた囚人達にとって争いは刑務所唯一の娯楽であり、それを合法的に行える訓練の時間はとても貴重である。

 そんな場所でド派手な個性を持った新人が現れれば盛り上がるのも当然なわけで……そしてこれほど騒ぎが大きければ監督官も黙っているはずがなく……

 

「お前らあああアアあアアアアあああああ!!!! 訓練をサボるなぁああああああアアアアあアアああああああ!!!!!!!! さっさと持ち場に帰れえええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 

 監督官が絶叫しながらあるボタンを押すと、ほぼ全ての囚人が突如硬直し、木偶の坊のごとくこてりと地面に倒れてしまう。

 原因は囚人に装着されたリストバンド。信号を受け取ると超極細サイズの針を装着者に突き刺し、末梢神経に特殊な電波を流すことで全身の筋肉を硬直させてしまう。

 リストバンドさえ付けてしまえばどんな人間だろうと無力化出来るため、この施設のみならず地上の方の刑務所においても使用されており、看守や監督官がこのスイッチを握っている限り囚人に自由は無い。

 つまるところ監督官の指示に従う他なく、動けなくなった囚人達はAI搭載型搬送ロボに引き摺られ、次々と持ち場へ強制送還されてしまう。

 

 ドゴォッ!!! 

 

 ジャック達ですら身動きが取れない中、巨大な何かが破裂したかのような音が施設全体に響き渡る。

 何事かと全員が振り向くと、そこには金属のベールをブチ破って脱出した結依魔理沙がいた。

 

「何で動けるんだ!?」

 

「? 別に怪我してないから動けて当然だが?」

 

 ジオの檻を再びぶち壊した魔理沙だったが、周りを見渡すと異様な雰囲気が漂っていた。

 なぜだか分からないが全員が地に伏せながらこちらをガン見している。何で? しかも喋る気配すらないから相当真剣であることが伺える。なおさら何で? 

 

「あ〜〜じお、わかったけどいわない」

 

「僕も分かったが、仮にもし金属ドームが無かったとしても彼女は動くぞ……」

 

「…………」

 

 ジャック達も眉間に皺を寄せながら凝視し、彼女の状態について考察し始める。が、当の本人はよく分かっていなかった。

 

「そこの新人も大人しく持ち場に戻れ!!」

 

「あ、ハイ」

 

 搬送ロボが迎えに行く前に魔理沙は持ち場に戻り、訓練用ナイフを持って静かに練習し始めた。

 おかしい、と感じた監督官は魔理沙一人のみ対象に再びスイッチを押したが、止まることはない。

 

「?????」

 

 何故止まらないのか理解出来ぬまま、この日の訓練は終了した。なお、洗礼が終わった後の5人は誰一人として喋ることなく、黙々とサポートAIの指示に従ってナイフ操作の訓練を続けた。

 

 

 

 ■

 

 

【昼休み】

 

 

 昼休み、それは昼食の時間。基本的に囚人達は午後12時10分から午後13時40分までは休憩時間となっており、多くの人は施設中央に存在する『大食堂』で食事をとる。

 もちろん食事がすぐに済めば残りは自由時間なので、総合センターの許可が下れば訓練場でサッカーやバスケをしたり、個性の使用許可が下れば個性も使うことができる(なお、個性の使用を許可されたことはほぼ無い)。

 刑務所の一施設にしてはやけに緩いというか、もはや学校に近い雰囲気である。犯罪者まみれの施設にしてはとても気味が悪い。

 

(右を見れば仲の良さそうな男女4人グループがカフェラテ飲みながら談笑してる……)

 

(左を見れば総合センターで許可を取ったであろう6人組の男共がバスケットボールを抱えて訓練場に向かってる……)

 

(なんだこれは。犯罪者なのに、まるで学生時代の青春を見ているかのような眩しさ……! 死ぬ……!!)

 

 彼らを見ているだけで前世の嫌な記憶が蘇りそうになり、魔理沙は吐き気を催した。別に彼らに何かされたわけではないが、何というか体が彼らを拒んでいる。私は生粋の陰キャかもしれない。

 

 そう思いながら結依魔理沙は食堂とは反対の方向へ歩いていき、年中雲ひとつない人工公園の方に向かう。地下施設に雲なんて概念ちゃんちゃらおかしいように聞こえるが、この人工公園の景色は全てホログラムによって構築されている。だから地下でも年中快晴である。

 魔理沙は木陰の近くで仰向けに寝そべり、空を見上げる。見える雲も木も青空も全てホログラムだが、最新鋭のよく分からん装置を大量に投入しているため、草木の匂いや波風も感じられるし、日光も普通に浴びられる。

 何故そこまで設備投資するのかについては案内役の人いわく、囚人を利用した実験の一つらしい。人間の人格形成、性格の変化、価値観の流動など、環境が人にどのような影響を与えるのか研究しているとのこと。

 

(……そろそろ時間を止めて練習するか。予定では26年の歳月が必要だから、早めにやっておくに越したことはない)

 

 1日につき5000個、そして1年間時間を止めるので5000×365日で1825000個の能力を今から習得する。……想像することさえ面倒臭いが、補助スキルのおかげである程度の負担は軽減されるはず。

 

「お邪魔するよ」

 

 綺麗な青空を一部覆い隠して現れたのは先程のナイフ使い、ジャックだった。

 

「…………」

 

「あれ、もしかして嫌われたかな? アレはあくまで新入りの実力を測るための恒例行事であって、不本意ながら付き合わされただけなんだよ。許してくれないか?」

 

 切って貼っつけたかのような笑顔に不信感しか感じない魔理沙だったが、見た限り帰れっつっても多分帰んなさそうなのでとりあえず上体だけ起こした。

 

「……その割にはめちゃくちゃノリノリだったけどな」

 

「君も途中からニヤけていただろう?」

 

「…………」

 

 魔理沙は目を逸らした。

 

「それより君、ちゃんと昼食は食べたかい? ここの料理は絶品とまではいかないが、美味しいぞ」

 

「ちょうどここにジオのために買った弁当が1つ余っててね、代わりに食べてくれないか?」

 

「……ジオは食わないのか?」

 

「ジオは自由奔放天真爛漫だからね。弁当買ってきたのに先に食べてたんだよ」

 

 ジャックは笑顔で弁当を差し出し、魔理沙に食べるよう促す。……この体は自動的にエネルギーを生産しているので、よほど体力を消耗していないかぎり食べたり寝る必要は無い。が、好意を無駄にするのも後味悪いので受け取っておく。

 

「……ありがとう」

 

 とりあえず感謝の言葉を述べたら、ジオにも負けないレベルの笑顔を振りまいてきた。何だこの雰囲気の落差は。私を殺しに来た人間とはとても思えない。

 

 二人はその後、木に寄り添いながら黙々と弁当を食べ始めた。

 

「君、どこから来たの?」

 

「……日本」

 

「へぇ〜〜日本! 珍しいねぇ、サムライとニンジャがいるんだろ?」

 

「生まれてから一度も見てないが、いるんじゃない? 知らんけど」

 

 もしかしたらサムライ系ヒーローやニンジャ系ヒーローがいるかもしれない。

 

「ちなみに僕はイギリス生まれでね、ここに捕まる前はニンジャみたいなことしてたんだ」

 

「ニンジャ……暗殺家業か?」

 

「そ、人を殺す仕事。ま、両親共に犯罪者で母は僕が生まれてすぐ死んだから、こんな汚い仕事する羽目になったのも必然って感じがするけどね」

 

「ここに捕まったのも、仕事が原因か?」

 

「う〜〜〜んちょっと違うけど、まぁ概ねそうとも言えるかな?」

 

「何だそれ」

 

「これも大人の事情っヤツさ」

 

 絶妙にはぐらかされて若干モヤモヤするが、気にするほどでもないので追求はしない。まぁ誰にだって聞かれたくない話の一つや2つもあるってもんだ。

 

「それより君こそ何で捕まったの? 外にも出なさそうな雰囲気してるのに?」

 

「おい、一言多いぞ」

 

 

 

「…………まぁよく分かってないが、概ね個性のせいだ。存在するだけで社会掻き乱すから大人しくしろ的な」

 

「なるほど、ジオと同じだね」

 

「ジオと?」

 

 ジオはさっき訓練場で争った同い年くらいの幼女。

 

「戦って分かったと思うけど、ジオの個性は『黄金』。自由自在に黄金を作り出してはあらゆる形に変形することが出来るんだ」

 

「彼女が生み出す黄金は紛い物ではなく正真正銘の『金』、無から莫大な資産を作り出す力に目が眩んだ両親はジオを使って億万長者になろうとしたんだけど……」

 

「ありえないほどの大量の金が市場に流れたせいで金の価値が急激に暴落してね。案の定、彼女と彼女の両親は国の公的機関に見つかってそのまま刑務所に入れられたんだ」

 

「…………待って、あのニュースそれ!? でもテレビだと市場に流れたのは精巧に作られた紛い物の金だったから相場は元に戻ったって……」

 

「うん、フェイクだね。ま、そう言わないと富裕層ブチ切れちゃうからしょうがないよね」

 

「……個性って、ヤベぇな」

 

 世界の常識を一瞬で崩壊させる個性…………そんな力が一般人にポンポン配られる世界とか、この世界危険過ぎる。今秩序を保てているのが本当に奇跡何じゃないかと疑ってしまいたくなるくらいには、この話は衝撃的だった。

 私も『世界征服する!』とか言ったらシバかれたんだろうか。言わなくてもシバかれたが。

 

「実はこの階層には他にもそういう事情を抱えた人が多くいてね。だいたい国際条約に単独で引っかかる個性だったり、政治経済に甚大な影響を及ぼす個性は即こういう施設にブチ込まれる」

 

 ジャックは一瞬顎に手を当てた後、少し考えてから魔理沙の方を見つめた。

 

「……そういえば、君の個性ってちょっと変じゃない? 傷を治す個性と炎を出す個性、そして分厚い金属性の壁をブチ破るほどのパワー、……有り過ぎないか?」

 

 急に私の個性について触れられたことに一瞬驚いたが、即座に平常心を装った。

 正直、私の個性に関しては出来る限り隠し通したい。いや複数個性持ちなのは既にバレているからそれはいいんだが、私の能力の中でも特段ヤバいヤツだけはバレるわけにはいかん。

 特に蘇生、即死、時間操作、概念の書き換え、法則無視、暗黒物質(ダークマター)、未知物質等の力を扱うときは細心の注意を払わなければならない。私が慣れていないのもそうだし、バレたら私の危険度がGTA5の100倍くらいに上昇して国際指名手配されかねん。

 とりあえず補助スキルで精神を安定させ、全力の澄まし顔で乗り切ることとする。

 

「……私はただの魔法使い。魔法なら何でも使えるってだけ」

 

「へぇ〜〜ホントに?」

 

 疑われている。……そりゃそうだ、アレ全部魔法で片付けるにはなかなか違和感がある。もし私の能力を見たものの中にアニメの知識を有するヤツがいたら、即座にバレていただろう。

 だがしかし相手は何も知らないムチムチの無知。ゴリ押せばいける。

 

「じゃあ傷を治したのは?」

 

「治癒魔法」

 

「超パワーは?」

 

「身体強化魔法」

 

「…………炎は「属性魔法」……」

 

 あまりにも早い解答にジャックはやや押され気味であり、正常な判断能力を失い始めている。

 

「一応、筋は通ってるの……か?」

 

 ジャックは魔理沙のゴリ押しに押され、とりあえず納得した。思う壷である。

 秘密を守りきったところで昼休み終了10分前のチャイムが鳴り響き、周りが慌ただしく移動し始めた。どうやらタイムリミットのようだ。

 

「じゃ、そろそろ時間だから帰るとするよ」

 

 そう言うとジャックは振り返って教室に向かっていったが、忘れ物をしたのか私の元に戻ってきた。

 

「最後に君の名前を聞かせてくれ。あの時言うの忘れてたよ」

 

 ジャックは私の方を見つめながらそう言った。そういえば自己紹介してなかったな。

 

「……結依魔理沙」

 

「それじゃ魔理沙、また明日」

 

 ジャックはそう言って少し手を振ったあと、再び教室の方に走り始めた。

 ホント、犯罪者にしては随分と親しみやすいというか、とても爽やかな人間だった。絶対に信頼したらダメなタイプだ。

 

 そんな警戒心とはまた別に、魔理沙は自分の能力について少し考えた。

 もし自分が能力を利用して世界を支配しようとしたら、世界はどうなってしまうのか。十中八九支配できてしまうのだろうが、力で支配したところでその後世界をどう動かすかなど1ミリも考えていない以上、支配したところで何も意味は無いだろう。支配するまでの過程は楽しいかもしれないが、終わった後には何も残らない。やんない方がいい。

 

「逆に私以外の人間が世界を支配しようとしてたら、それは全力で阻止してやるとしよう」

 

 フンス、と少しだけやる気が満ちた魔理沙は、起き上がって服についた土や草を取り払う。この人工公園、地面だけはホログラムではなく本物の土と人工芝が使われているから、座ると汚れてしまうのだ。何で全部ホログラムにしなかったんだ。

 

「それじゃ、私も午後の活動に勤しむか……」

 

 魔理沙も大人しく教室へ向かっていった。

 

 

(…………今日の分の特訓は夜に回すか……)

 

 

 

 To be continued....

 

 

 



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教育プログラム(4.375話)



【あらすじ】

洗礼という名のデスマッチを仕掛けられた魔理沙は属性魔法で3人を撃退。無事、初めての戦闘訓練で生き残ることができた。
そして訪れた昼休憩の時間、魔理沙は食事を取らずに人工公園で寝ていると、先程洗礼と称して仕掛けてきたうちの一人、ジャックが目の前に現れた。
ジャックに弁当を手渡された魔理沙はお互いのことについて少し語り合った後、二人はそれぞれの教室に向かっていった。




 

 

【特別支援教室:E0014】

 

【本日の授業日程:数的処理(13:40〜14:40)】

 

 

「……と、聞いてたんだけど……」

 

 魔理沙は辺りを見渡したが、人がほとんどいない。最大で40人ほど入れるはずなのに、この施設割と未成年多いのに、埋まるはずのスペースが微塵も埋まらず、もの寂しい雰囲気が漂っている。

 

 しかも黒板には『自習!! 質問はAI搭載型教育ロボに聞け!!!』としか書かれておらず、生徒どころか教師までいない始末。教育カリキュラムとはいったい何だったのか……

 

 しかしこの施設は条件を満たした人間を各国の軍隊や警察組織等に配属させるシステムがある。そしてその条件の一つとして、一定の学力を修めることが含まれている。自習続けただけで条件を満たすなら楽だが、いくらここが異端の地であってもそんなガバガバ条件で軍人になれるはずがない。定期試験的な何かがあってもおかしくないはずだ。

 軍人になるつもりはないがこれも自身の能力向上のため、まずは周りの人に聞いてみよう。

 

「やぁ!」

 

「…………」

 

 とりあえず1番近かった人に話しかけたが、読書に集中しているのか全く反応がない。

 

「実はここの授業受けるの始めてなんだが、いつもこんな感じか?」

 

「…………」

 

「先生も見当たらないし、不安なんだよねぇ」

 

「…………」

 

 

 

 

 

「……聞いてる?」

 

「…………」

 

 全く反応がない。

 

「…………分かった、率直に聞く。ここの教育プログラムはどうなってる? 自習しかやらないのか?」

 

「…………話しかけないでもらえるか? 虫唾が走る」

 

「コイツ……!」

 

 人間らしく下手に出たというのに、やたら当たりが強いのは何故だろう。こんなに頑張って笑顔で接しているのに、何故? 

 

(…………舐められてる?)

 

 この見た目、この身長、顔はホラーだがどう見ても幼稚園児。そんな威厳もへったくれもない私が、優しさの欠片もない連中に何を言おうと相手にされるはずがない。その事実に気づいた魔理沙は少し悩み、そして1つの結論に達した。

 

(力か……?)

 

 威厳は無くとも力はあるので、魔理沙は仕方なく精神を集中させ能力発動に力を入れる。インモラルだが、何も知らないまま人生設計狂わされるのは誠に遺憾なので無理やりにでも聞かせてもらおう。

 ただ、何の能力を使って情報を引き出すべきか迷うところではある。能力は無数にあるんだから適当にやればいい、と思うが実はそう上手くはいかない。何故なら本当に能力が多すぎて自分でも何の能力があるのか把握しきれていないのと、能力名と効果をハッキリと思い出さなと能力を行使出来ないからだ。

 なんでそういう仕組みなのかは知らないが、無数の能力から欲しい能力をピックアップするには"知識"や"記憶"が重要となる。しかし、いきなり使えそうな能力をピックアップしろと言われてもパッと出てこないので、とりあえず()()()()()()()()()()()()()

 

「ん」ブゥゥゥン

 

 ■

 

 ▶……

 ▶……

 ▶……

 

【Hallucinations】

【Thought】

【Brainwashing】

【Domination】

【Mind-Reading】

 

【……】

 

 ▶Brainwashing(洗脳)

 ▶……

 ▶……

 ▶【■■■■】

 

【効果】

 →人間の精神に作用する能力。その本質は"生体物質及び水分の精密な操作"。ホルモンバランスの調節、末梢神経・中枢神経系の感度調節、認知機能に関与する体内成分をミクロレベルで操作することにより、擬似的な【幻覚】および【洗脳】状態を作り出す。また、成分操作によって発生した生体電流を用いて人間の大脳皮質、海馬、扁桃体等に干渉することで、対象相手の記憶の消去・改ざんを行うことが出来る。

 

 ▶decompression complete

 

 

 ■

 

「あった、『心理掌握(メンタルアウト)』」

 

 どこからともなく取り出したリモコンを彼に向け、スイッチを押した瞬間、彼の自意識は虚ろの向こう側へと隔離される。

 そして彼の瞳からはハイライトが失われ……ることは無く、逆に星のような輝きを瞳に宿す。彼の心は完全に魔理沙の手に落ちた。

 

「君の名前は?」

 

「エンゲル」

 

「君の住所は?」

 

「イタリア、プッリャ州フォッジャ、モンテ・サンタンジェロ」

 

「君の年齢は?」

 

「11歳」

 

「君の個性は?」

 

天使(エンジェル)

 

 ここまで順調。もう少し個人情報を引き出してもいいが、そろそろ本題に移ろう。

 

「OK、それじゃあここの教育プログラムについて知ってること全部話そうか」

 

 お互い面と面で向き合い、互いに十字に輝く瞳を宿し、見つめ合い、シンクロする。

 

 すると彼は躊躇うことなく流暢に話し始めた。

 

「昔は専門の先生が授業を取り行っていたらしいが、治安の悪化、教育への無関心、予算の削減等、様々な要因が重なった結果、この施設の教育プログラムは形骸化したらしい」

 

「なので自習が基本。だが夏と冬には学力試験がある。この試験を突破することで軍人になるための最低限の資格を得ることが出来るらしい。興味ないが」

 

 ……大体理解した。が、一つ疑問がある。

 

 ここの囚人は最終的に各国の軍隊に軍人として配属される。まぁおそらく"傭兵"的な扱いになるとはいえ、軍人になる以上条件は満たさなければならない。だというのに、この施設は重要であるはずの教育プログラムを崩壊させたまま放置している。

 

(……なんで?)

 

 どう考えても教育プログラムは常に維持されるべきであり、その上このまま放置し続ければ誰も学習の機会を得られず、施設卒業など夢のまた夢である。そうなれば当然囚人の数はみるみる増え、いずれ施設の収容可能人数をオーバーするのは目に見えている。もちろん人が増えれば治安も悪化し、集団脱獄を計画するものも現れるだろう。

 ハッキリ言って愚策にもほどがある。最悪だ。

 

「……もう私が先生やるか……?」

 

 というのは半分冗談だとしても、これ以上先生に職務放棄されては困る。軍人になるつもりはないが、軍人になれる資格取れたんだぜマウントがいつか輝くかもしれないので、過去問だけでも欲しい。

 

「…………」

 

「……ん? ……あ」

 

 魔理沙がアレコレ悩んでいると、洗脳中の彼が全身の筋肉をブルブルと小刻みに震わせながら泡を吹いていた。

 マズイ、ラーニングしたとはいえ使用は初。能力が複雑すぎていまいち加減が分からない! 

 このままでは彼の末梢神経系がグチャグチャになりかねないので、とりあえず洗脳を解除した。

 

「……ッ!? 意識が……!?」

 

 失われた意識が蘇り、驚いたエンゼルは周囲を見渡した。

 そこには、先程からずっと話しかけてくる怪しい少女の姿があった。

 

「……!! お前今俺に何をs」

 

オブリビエイト(記憶を失くす呪文)(物理)!!!」

 

 真実に気づきかけた彼に向けて、魔理沙は究極の記憶消去呪文によって再び彼を眠らせた。

 

 この呪文は一切魔力を消費せず相手を気絶させることが出来るのが魅力であり、現在私はこの呪文を常日頃撃てるよう練習している。いつかきっと役に立つだろう。

 

「一応他の授業も参加しておこう。自習なら私もサボる」

 

 魔理沙は仕方なく教室から出た。

 

 

 ■

 

 

【特別支援教室:E0008】

 

【本日の授業日程:世界史(14:50〜15:50)】

 

 

『自習。各自黒板前のプリントを解くように。提出は不要』

 

 

「…………」

 

 

 ■

 

 

【特別支援教室:E0009】

 

【本日の授業日程:公民(16:00〜17:00)】

 

 

『本日の授業はここまで』

 

 

「始まってもねぇ!!」

 

 

 ■

 

 

 結局、午後の授業は全て自習だった。どんだけ面倒臭いんだ……面倒臭いクセになぜ施設紹介ではちゃんと教育してますよアピールしたんだ……適当か? 

 

「このままじゃ全員脳筋まみれに……」

 

 ポーン

 

「……?」

 

 施設内に設置されたスピーカーから妙な音が鳴り、魔理沙は首を傾げた。

 

【4層保険管理センターから連絡。管理番号0198は至急管理センターまでお越しください】

 

「私の番号だ」

 

 個性研究センターからのお呼び出しに魔理沙は少々驚いた。そういえば1ヶ月に2回はそこで健康診断やってるって話は聞いたが、今日がその日なのだろうか。

 丁度いい、このイカレた教育プログラムについて問いただす絶好のチャンスだ。教育への無関心だ何だと言っていたが、そんなものは気合と根性で乗り越えるべきだ。

 というか私みたいなNOT犯罪者が他のイカレた連中と一緒くたにされるなんておかしくないか? 一応一般人だよ? 個性なかったら最初のアレで死んでるよ? そこも直談判すべきか。

 

 やることが増えた魔理沙はさっそく研究センターにカチコミをかけるべく、身だしなみを整えてから向かうことに。

 しかし歩き始めた途端に運悪く人とぶつかってしまい、魔理沙は地面に倒れ込んでしまった。

 

「ぐぇ」

 

「……何だアお前? ガキは大人しく隅っこでママのティッツでもシャブってろ。邪魔だ」

 

「……兄貴よく見てください。コイツ、例のガキです」

 

「本当か?」

 

「顔的におそらく」

 

 数人のガラの悪い成人男性がコソコソと話し合い、意を決したのかリーダー格らしき人が魔理沙の方に振り返った。

 

「おいガキ、ちょっとこっちにこい」

 

「…………あ?」

 

 しかしそこに魔理沙はいなかった。

 

 

 

 ■

 

 

 

【4層個性研究センター】

 

 

「それでは、番号でお呼びしますのでそれまでお待ちください」

 

「はい」

 

「なお、当館内で迷惑行為および無断で個性を使用した場合、相応の罰を受けるのでご注意ください」

 

「はい」

 

 刺青の入ったおじさん複数人から何とか逃れた魔理沙は、研究センター内で受付を済ましていた。

 

(危なかった……)

 

 あのままおじさん共に拉致られたら絶対面倒な目にあってた。だから咄嗟にラーニングした「無意識を操る程度の能力」で誰にも悟られることなく脱出したわけだが、まだ慣れてないせいか心がとても虚しい。体が能力に振り回されている気がしてならない。

 だが、いつか必ずものにしてみせる。そしたら、少しは人の役に立つかもしれない。

 

(……?)

 

 違和感を感じた魔理沙はその原因について探ろうとしたが、全く答えが見つからなかったので取り敢えず心に蓋をする。考えてもキリがないからだ。

 

「受付番号003番さん、004号室にお越しください」

 

 番号を呼ばれた魔理沙はイスから立ち上がり、指定された部屋まで移動する。

 入って気づいたが、個性研究センターは外から見ると普通だが中の雰囲気は若干暗いし何故か汚い。扉もスプレーか何かで悪戯されているし、控えめに言って廃墟の病院。治安の悪さしか感じられない。

 004号室の扉を開け中に入ると、そこにはしょぼくれた白衣の老人が丸椅子に腰かけていた。

 

「管理番号0198、マリサ・ケツイ、だね?」

 

「はい」

 

 魔理沙は応対しながら、用意された丸椅子に腰かけた。

 

「出身は日本……じゃな? 珍しい。初めての健康診断か?」

 

「はい」

 

「ほぉ、上手いの英語。従順な子は大好きじゃ」

 

 どことなく癪に障る喋り方のせいで、魔理沙の眉間にしわが寄る。

 

「さて、まずは身長と体重、血圧測定、その他もろもろチェックせねばならんが、この作業を一発で終わらせる方法がある」

 

 そう言うと、老人は引き出しから電子パッドのようなものを取り出した。

 

「ほれ、腕を出せ。輪っかがついてる方」

 

 老人は魔理沙の右腕に着けたリストバンドを指差し、前に突き出すよう促す。

 

「……コレに全部記録されてるの?」

 

「このバンドが生体チップの代わりを務めておる。便利じゃろ?」

 

 老人は魔理沙のリストバンドからデータを受け取り、中身をサッと確認した後、確認項目欄にチェックを入れてからパッドを机の上に置いた。

 

「はい、身長体重スキャン完了。その他バイタルも異常無し。正常じゃ」

 

 ほんの数分で健康診断が終わってしまった。あのリストバンド一つで何時でも記録が取れるとはなかなか凄い。しかも健康診断では定番の尿検査をやらなくていいのも凄い。前世の世界よりも技術の発展具合が凄い……!! 

 

「ほんで、ここからは君の"能力"を計測するんじゃが、受け取った過去のデータを見ても君の個性が何なのかサッパリ分からん。こんなの長い人生で見てもそうそうないケースじゃよ」

 

「つまり君は、この施設の中でもとびきり特別な存在、ということじゃな」

 

 老人の舐めまわすような視線に若干気持ち悪さを感じた魔理沙は、真顔で左手に炎を灯す。

 何だろう、コイツに対して心を許してはいけない気がする。何でかは分からないが、この老人から何か得体の知れないものを感じてならない。暇があったらちょっと調べるのもアリかも。

 

 警戒レベルをワンランク上げた魔理沙は老人の方を睨みながら、様子を伺う。

 

「ホッホッホ! …………ワシなんか悪いことした? それならすまんの」

 

「……いや、ちょっと疑っただけだ。すまん」

 

「良い良い」

 

 老人は朗らかに応対すると、電子パッドを持って丸椅子から立ち上がった。

 

「さて、それじゃあ今から計測するからこっち来てくれ」

 

 おじいちゃんの誘導に従い、魔理沙は診査室のさらに奥の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 to be continued……

 

 

 

 

 

 

 



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個性・魔法・異能力(4.500話)



【あらすじ】

 勉強しに行ったのに教育プログラムが崩壊していた。原因はさまざまあるようだが、このままではカメリアの治安がさらに悪化してロクなことにならない。

 そんな最中、魔理沙は個性研究センターから呼び出しをくらった。この施設では月に二回健康診断を行うそうなので、そういうことだろう。
 この施設のことについて聞くのに丁度いい機会だったので、魔理沙は健康診断を受けるべく4層個性研究センターに出向いた。



 

 

 おじいちゃんの誘導により、魔理沙は個性を計測するための部屋に案内された。

 部屋の外壁はまさにブラックボックスと言わんばかりに黒かったが、中に入ると鮮やかな青色と縦横のホワイトラインが交差していて、試験用バーチャル空間のような雰囲気が漂っている。

 部屋の大きさとしてはかなり広く、体感縦横50m、高さは80mくらいだろうか。天井がまあまあ遠い。

 

「どうじゃ、苦しくないか?」

 

「全然OK」

 

「ならばよし」

 

 老人は試験空間内の設定をチェックした後、電子パッドを操作して魔理沙の右腕に着けているリストバンドに信号を送った。

 

「今君の腕輪に停止信号を送ったから、異能を使っても痺れはせんよ」

 

 おじちゃんの粋な計らいに感謝しかけた魔理沙だが、途中であることに気づいた。

 

(……痺れたことあったっけ?)

 

 魔理沙はリストバンドを付けてからも普通に能力を行使している。例えば訓練の時に使用した属性魔法や、情報を引き出すために使用した洗脳能力、そして屈強な男たちから逃げるために使用した無意識を操る程度の能力、どの場面においても痺れたことは1度足りとも存在しない。

 

(あぁ…………"個性"と"魔法"は違うのか)

 

 この世界における異能とは"個性"のことを指し、魔法や他の能力とは全く別系統の力。能力発動の仕組み自体が根本的に異なるのである。

 なので魔理沙が魔法や他の異能力を使っても、リストバンドは"個性"しか検知しないので引っかかることは無い。

 

「じゃ、さっそく異能を使ってもらいたいが、その前に一つ確認事項がある」

 

「マリサ・ケツイ、君の異能は『魔法』で合っているかい?」

 

「……あぁ」

 

「君の魔法はあらゆる自然現象を手の上で再現できる、で合っているかの?」

 

「合ってるが違う。自然現象の他にも、時間や空間、概念、常識、心、その他全てに干渉することが出来る」

 

「これは嘘ではないのか」

 

「……それは、"魔法"の範疇を超えてないか?」

 

「出来ないことが出来るから、"魔法"でしょ?」

 

「……そうか」

 

 老人は少し考え、再び魔理沙に質問する。

 

「マリサ……君が扱う魔法の中に、身体能力を向上させる魔法はあるか?」

 

「あるよ」

 

「具体的にどういう機能が向上するか教えてもらえるか?」

 

「筋肉増強、皮膚の硬質化、跳躍力上昇、翼の獲得、鱗の獲得、全身の形態を一から構築し直す魔法、再生能力、細胞の劣化防止、毒に対する耐性、火傷に対する耐性、傷に対する耐性、その他もろもろ」

 

「……多くない?」

 

「私もそう思う」

 

 初めて意見が一致したかもしれない。

 

「……分かった。ではマリサには、『耐久試験』と『能力試験』の両方をやってもらおうかの。まずは『耐久試験』からじゃ」

 

 おじちゃんがとあるボタンを押すと、魔理沙の体重がガクンと重くなった。

 

「重……ッ!!」

 

「今その部屋の中の重力は通常の約1.5倍になっておる。ここからドンドン荷重するから、魔法を使ってどれほど軽減できるか試してみぃ。キツかったら叫ぶんじゃぞ」

 

「じゃ、ポチ」

 

 じいちゃんが起動したことで部屋の中の重力が徐々に強くなり、4歳の筋肉ではとても支えきれないほどの重さがのしかかる。

 

 

 

 

「グラビトンッ!!」

 

 全身が淡い紫色に輝き、未知のエネルギーが体中を駆け巡る。重力は地球が持つ引力と地球の自転によって発生する遠心力を足したものだが、重力を操作する際は引力や遠心力には干渉せず、『グラヴィトニウム』を操作する。

 グラヴィトニウムは重力に干渉する素粒子的存在であり、これを操作することで重力の影響を大幅に軽減することができる。今この部屋はあの爺ちゃんのおかげで部屋全体に200Gほどの負荷が全身に掛かっているが、負荷の上昇に合わせて調整しているので、潰れることは一切ない。

 

「……エネルギー上昇に反比例して負荷が軽減されている。バイタルを見ても体重にほぼ変化はなく、血液循環も問題ない……」

 

「よし、もう楽にしていいぞ」

 

 重力装置のスイッチが切られた瞬間、重力操作で軽くしていた分だけ自身の内蔵が無理やり下から持ち上げられ、地面から足が離れ始める。

 魔理沙は慌てて能力を解除したことで事なきを得たが、ちょっと危なかった。やはり初めて使う能力は慎重に行くべきか。

 魔理沙は左右の腕を交互にクロスしながら、少し凝り固まった筋肉を軽く解す。

 

「……なるほど。では次に刺突攻撃への耐性および回避能力の向上を計る。全方位から金属製の槍が時速160kmで飛んでくるから、魔法を使って弾くか回避するじゃ」

 

「…………待って時速160k」

 

「スタート」

 

 落ち着く間もなく試験空間内の内壁に無数の射出口が展開され、本物の金属製の槍がランダムに射出される。

 弾くか避けるか、その選択に迷っている暇もなく、魔理沙は反射的に背後から飛んできた槍を避けた。

 

 

 

「変身」

 

 魔理沙の肉体がかつてないほどに膨張し、全身の皮膚が分厚い鱗で覆われ、黒く染まった無数の棘が全身にびっしりと生えそろう。そして2本の捻じれた太い角と漆黒の翼が展開し、魔理沙は正真正銘の怪物へと変化した。

 

「凄い……! 凄いぞマリサくん! 君の魔法は最高にイカレている!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 全長約20mの巨体からは想像できないスピードで、飛んできた2本の槍を前足でガッチリと鷲掴みし、そのままへし折ってしまった。だが槍はまだまだ射出され、今度は全方向から4本の槍が同時に射出される。

 魔理沙は先程と同様に2本の槍は捕まえられたものの、残り2本の槍は顔面と翼に直撃してしまった。だが、圧倒的防御力を誇る古龍の皮膚の前では傷1つ付けられず、逆に金属部分が砕けて宙を舞う。

 

 初めての変身と究極の暴力に酔いしれる魔理沙。このまま暴力に身を委ねてもいい気がしてきたが、何度も槍が時速160kmでケツや背中など前足が届かない位置に衝撃が来るので、痛くは無いが鬱陶しいことこの上ない。

 

「……いや待て」

 

 老人が大興奮している最中、少し考えた魔理沙は変身を解除し、元の姿へと戻ってしまった。

 

「スマブラ版マホカンタ」

 

 魔理沙が呪文を唱えると、今度は魔理沙の全身に紫色に光る魔法陣が展開された。その後、魔理沙は槍のことなど一切気にせずに地面に寝っ転がり、惰眠を貪り始めた。

 命を放棄したのかと、そう思われかねないが全く問題ない。スマブラ版マホカンタは原作と違い、"飛び道具"なら何でも反射できるので当然槍も反射されてしまう。

 案の定飛んできた槍は全て反射され、試験空間の内壁に全て突き刺さった。

 

「変形以外にも物理法則に反した力まで……! これは凄い、連中がビビッてここに収容したのも頷ける」

 

「よし、次で最後の耐久テスト。今から君に特殊な電波を送って精神に揺さぶりをかける。しばらくの間、耐えてもらうよ」

 

 そういって老人はスイッチを押し、特殊な電波を空間全体に照射した。

 

「……別に何とも…………あ」

 

 じわじわと何か、不快な感情が心の奥底から湧き上がるのを感じる。次第に胸がチクチクと痛み始め、呼吸が浅くなり、頭の中が窮屈になっていくような、心地いいようで気持ち悪い感覚が全身に襲いかかった。

 

(死にたい)

 

 急にそのワードだけが頭の中に浮かび上がり、流石にマズイと感じた魔理沙は一旦時を止めた。

 

 

 

「……危ない。あやうく自殺するところだった」

 

 時を止めたことで電波も停止し、魔理沙は次第に落ち着き始めた。

 

「今更だけど、これどう考えても人体実験だよな。しかもかなりアウト寄りの」

 

 すんなり乗り越えてきたせいで気付かなかったが、槍も重力も精神汚染も全部ライン越えだ。倫理観が欠如している。

 

「……この世界の刑務所、ヤべェな」

 

 とんでもない世界に足を踏み入れたことを自覚しつつ、取り敢えず精神汚染耐性に関する能力を頭の中から頑張って引っ張り出す。

 

「これだな」

 

 

心理掌握(メンタルアウト)

 

 本日2度目の心理掌握。なお今回は自分を対象にしているため、前にやった時とはまた別の感覚で楽しい。

 やっていることは前と特に変わらなくてムカつくが、人の数億倍能力がつまっているのでめちゃくちゃ慎重に操作する必要があって虚しい。ヤバいさっきから手振れが激しくて感情がくぁwせdrftgyふじこlp

 

 笑ったり泣いたりとコロコロ表情が変化する魔理沙を見つつも、老人は真剣な表情でデータをチェックする。

 

「大脳皮質への干渉、通常では有り得ない脳波の変化……あの様子だとまだ不慣れなようだが、自分の精神状態を操作できるとは…………」

 

「この子なら」

 

「……よし耐久試験は終了! しばらく休憩じゃ」

 

「ほれ、飲み物差し入れちゃる」

 

 爺さんは水入りのペットボトルを差し出し用口にセットしてボタンを押すと、試験空間内の内壁に再び射出口が展開され、ペットボトルが発射された。

 

「あひん」

 

 なお、魔理沙は先程の心理掌握で精神が乱れたため、射出されたペットボトルに反応出来ずそのまま頭に直撃した。

 

「……ありが、ンクス」

 

「マリサ、今の魔法は精神を操作する魔法じゃな? かなり不慣れに見えるが、大丈夫か?」

 

「……あぁ、うん。大丈夫。ホント、強過ぎる能……魔法は制御が難しくて、試行回数を繰り返さないと制御出来ない」

 

 魔理沙は朧気ながらゆっくりとペットボトルの蓋を外し、水を飲み始めた。

 

「……そういえば、じいちゃんは何て名前なの? 昔からここで働いているの?」

 

 

 

「アレ、言ってなかった? じゃ、改めて自己紹介するかの」

 

「ワシの名前は殻木勝真(がらき かつま)。皆からはドクター殻木と呼ばれとる」

 

「殻木……?」

 

 妙に引っかかる名前だが、よく思い出せな。

 

「不思議に思ったじゃろ? 実はワシも日本出身なんじゃよ」

 

「……ああ日本語!! そういうことね」

 

 今まで英語で会話していたのに急に和名が出てきて違和感を感じたが、日本人なら納得出来る。

 

「じゃあ、何でドクターはここで仕事してるの? こんな狭くて薄暗くて治安の悪いとこ何かよりも、もっといいとこあったんじゃない?」

 

「……そうじゃのぅ。……簡潔に言うと、"ここでしか出来ない研究"をするため、かのぅ」

 

「ここでしか出来ない?」

 

「そう。マリサもそうじゃが、ここの人間は他の人よりも強力な個性を持っておるじゃろ? 観察するだけでも十分なデータが得られる。それにこの施設に所属してる人間は個性研究に対して協力的じゃし、現世と違って面倒な書類作業をやんなくても実験出来るから、色々と便利なんじゃよ」

 

「へぇ〜」

 

「個性研究者になったら分かると思うが、普通の研究室で研究するなら、まず協力してもらう人を用意する必要があるじゃろ? 当然この場合ワシが雇い主ってことになるから人件費が発生するじゃろ? 個性研究だから当然個性の使用許諾を上の機関から取る必要があるじゃろ? この実験における副作用とか、あらゆる事故の可能性についてまとめた資料を研究協力者に渡して、その上で実験に参加して貰えるよう承認してもらう必要もあるじゃろ? 」

 

「その上、実験終わった後も報告書類やら何やらかんやら色々提出しなきゃいけないから、もう面倒臭いことこの上ない。じゃが、この研究施設は半分治外法権というか、色々事情があって法律ゆるゆるだからそういう面倒なことはやらなくて良いの。もう超楽なんじゃよ」

 

「……そうなんだ」

 

 何だか研究者の闇と施設の闇が同時に見えたような気がしたが、魔理沙は気にしないことにした。

 

「さて、そろそろ休憩も頃合じゃろ。次のテストに取りかかるが、準備は良いか?」

 

「いいよ。結構落ち着いてきたし行ける」

 

「よし、その意気じゃ。じゃ、行くぞ」

 

 

 

 ■

 

 

 

 魔理沙はドクター殻木の元で様々なテストを行った。純粋なパンチ力の計測から、個性による精密射撃実験、属性魔法の比較、瞬間移動の練習(失敗した)、時間停止の計測(計測出来なかった)、常識改変能力のメカニズムの調査(解決には至らず)、変身のメカニズム調査(未解明だが一部データは取れた)といった様々なテストをこなして行った結果、時刻は次の日の朝6時を示していた。

 

「これ絶対管理人にシバかれるヤツだ!!!」

 

「大丈夫、昨日のうちに連絡しておいたからお咎め無しじゃよ」

 

「というかお咎めがあっても、マリサなら返り討ちじゃろ?」

 

「…………面倒事を起こしたくない」

 

「えぇ……?」

 

「変に返り討ちにして争いを生むくらいなら、何も口出しせず静かに過ごした方がずっといい。その方が傷つけずに済む」

 

「……随分と臆病じゃのぅ」

 

「黙れ」

 

 見透かしたかのような発言にキレる魔理沙。確かに臆病かもしれないが、むしろ臆病にならなきゃ世界が壊れる。

 あと仮に私がヴィランに襲われたとして、正当防衛で仕方なく個性を使ったとしよう。その時私はメラミ撃って迎撃したつもりが、うっかり手元が狂ってメラガイアー撃ってしまったらどうする? 当然人は死ぬ。そして私はもれなく殺人少女として、良くて少年院悪ければ死刑だ。

 そして死刑になったとしても異形魔理沙の体だからそう簡単には死なないし、全部返り討ちにしたら多分人口が5%くらい減る。そうなったらもう私は後戻り出来ない。時間は戻せても心は一生戻らないから、いや心は戻らなくても記憶は消せるが、罪は消えな……くもないスキルはあるが、違うそういうことじゃない。

 

 人らしくある為に、私は私を制限する。ただそれだけの話だ。

 

「そういえばマリサの個性『魔法』は、まだ未完成なんじゃったか?」

 

 魔理沙が思考を巡らせる中、ドクターが聞いてきた。

 

「……まぁそうだけど」

 

「じゃったら、練習したいときは何時でもここに立ち寄るといい。ワシの研究も捗る」

 

「え、いいの? 超助かる!!」

 

 魔理沙はドクター殻木の手を掴み、上下にブンブンと振り回した。

 

「ホホ、いつでも待っとるぞ」

 

 ドクターは満面の笑みで魔理沙の手を握り返す。何というか、私とドクターの間に同盟関係が結ばれたんじゃないかと思うくらいに、かなり長い時間握手を交わした。

 

「ちなみに朝の6時半までに部屋に戻すと言っといたから、早く戻った方がええぞ」

 

「それを早く言え」

 

 魔理沙は軽くドクターに向けて手を振った後、駆け足で出口の方に向かっていった。

 

「よろしく頼むよ、マリサ」

 

 

 

 

 to be continued.

 

 

 



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監獄の魔女(4.625話)



【あらすじ】

ドクター殼木が用意した試験空間を使い、実際に個性を使ったテストを行った魔理沙。耐久テストと能力テストにおいて自身の力を存分に発揮した結果、ドクター殼木から信用を勝ち取ることに成功し、いつでも試験空間を利用出来るようになった。

収監初日にしては随分と濃厚な一日だった。




 

 

 

 その後、結依魔理沙は着々と力を溜め続けた。午前は戦闘訓練で体の動かし方を学び、午後は自主勉強を停止した時間分含めて5時間勉強し、終わったらドクター殻木の研究室でひたすら能力を磨き続けた。

 

 一日5000個の能力習得が目標だったが、今の体力的にどう頑張っても1800個習得するのが限界だったため、一日2000個習得を目標に能力を会得してきた。その結果、魔理沙は累計停止時間10年で700万個の能力を開放し、さらに属性魔法と時間操作能力の練度が異常なまでに向上した。

 

 度重なる戦闘訓練と実験の繰り返しによって魔理沙の感覚は研ぎ澄まされ、自身の魔力の流れと外界の自然エネルギーの流れを能力を使わずに読めるようになり、魔法をより素早く精密に発動できるようになった。さらに相手の動きを能力を使わずにある程度先読みできるようになったため、能力非使用でも負けなくなってきた。

 

 あまりの成長ぶりに、ドクターは絶句して暫く口を聞いてくれなかった。そこまでショックを受けるとは思わなかったが、次の日にはいつも通りの声と顔で「マリサ……初めて見た時から随分と面構えが変わったのぉ」と、しみじみとした表情で私の肩を軽く叩いた。

 

「ドクターのおかげだよ」

 

「そんなことない。魔理沙が常に研鑽を絶えず積み重ねた結果じゃ。ワシはそれにあやかっただけじゃよ」

 

「いや、ドクターのサポートがなかったら瞬間移動の魔法なんていつまでたっても習得できなかったし、ベクトル反射も物質透過も精神操作もほとんどドクターのアドバイスとか、送ってもらった資料のおかげで使いこなせるようになったし、本当に感謝してる」

 

 魔理沙はここ最近、本当にドクターのお世話になった。毎回瞬間移動をするたびに壁にめり込む魔理沙に対し、ドクターは試験空間内での"座標"を視覚的に明らかにする機能を使って瞬間移動のイメージを固定化してくれたり、ベクトルの方向性を見えるようにしてくれたり、あれやこれやとサポートしてもらった。

 

「今日も練習するか?」

 

「いや、今日は用事があるから」

 

 じゃ、と魔理沙は手を振って管理センターから離れた。今日は両親と会う約束をしているので練習はしない。

 魔理沙は研究センターの外に出た後、外出の手続きを行うべく4層総合管理センターへ向かう。

 

「面構え……ねぇ」

 

 ドクターに言われて、魔理沙はここ半月の出来事を思い返す。

 

 初めてここに来たあの日から、たったの半月で色んな出来事を経験した。

 まず初めて研究センターに訪れた次の日、前日無視した成人男性グループのうち3人が戦闘訓練中に茶々を入れてきたので私が即薙ぎ倒した。するとさらに仲間が5人現れて私に容赦なく個性を使ってきたが、爆裂魔法で地形諸共消し飛ばした。するとさらに20人の仲間が私を囲い始め、もはや抗争と言っても過言では無い規模に発展しかけた瞬間、グループのボスが止めに入ったことで一旦集結。明後日の午後に訓練場でボスとその仲間と対峙することになった。

 

結果として、私が初手薙ぎ払いマスタースパークで仲間諸共消し飛ばし、ボスの横腹に粘菌を纏った急流のごとく荒ぶる連続打撃《水流連打》をぶち込むことでボスを打ち倒した。その後ボスからこの4層における3つの勢力と私の現状の立場について熱く語り尽くし、最後は私の未来を案じてバタリと倒れた。

 

 その日から1ヶ月間、ずっと他の受刑者と争い続けた。私に3勢力のことを教えてくれた暴力(バイオレンス)グループのボスやその仲間が何度も殺しに来たのもそうだが、私の存在を目障りだと思っている支配(ドミネート)グループの連中による妨害工作、暗殺等の嫌がらせ、そして噂に乗せられてやってきた混沌(カオス)グループの一部のイカれた連中がイカれた強さで私に襲いかかったり、さらに勘違いで私を封じこめに来た警備員の人達や、全ての受刑者をフィジカルで押さえ込んで来る頭のおかしい4層の番人との死闘を経て、魔理沙は強くなった。強くならざるをえなかった。でなければ本当に死んでいた。

 

 最初は面倒事を起こすのが嫌で争いを避けていたが、何もしなくても勝手に事件が起こる上に、どんなに足掻いても強制的に巻き込まれるので、最終的に魔理沙は逃げるのを止めた。この施設のほとんどの人間はみな隙あらば訓練場に人を呼び付け、難癖をつけては争い合うのがここの"常識"。何よりここの連中は鉛玉を脳天にぶち込まれても死なない連中ばかりなので、争いのレベルは当然戦争級。一歩間違えれば人間としての尊厳が失われるレベルの攻撃を平気でぶつけ合うのがここの人間である。

 

 こうした人達に囲まれた結依魔理沙も当然彼らに毒され、魔理沙は施設の連中に対してのみ冷酷な殺戮マシーンへと変貌してしまった。訓練場に呼び付けてきた戦闘狂たちを拳一つで叩き潰し、治安維持の名目で潰しに来た暴力グループと支配グループの連中を無数の能力で完封しながら全員訓練場の壁に埋め込み、さらに暴動を止めに来た警備員や番人達をパイルドライバーで全員訓練場の床に頭から突き刺した。

 

 結果、魔理沙はたったの1ヶ月で混沌グループの最強格として君臨し、周囲から『極悪殺戮マシーン』、『例の人』、『名前を言ってはいけない人』、『鬼神』、『深淵の悪魔』、『破壊神』、『鬼畜の権化』……

 

『地獄の帝王』『監獄の魔女』『無限復活クソゾンビ』『死神』『終末』『終わり』『絶望』『この世の暗黒面』『人間災害』『カス』『外道』『人でなし』など、様々な異名を付けられるようになった。もう彼女に歯向かおうとする人間はほとんどおらず、今でも殴り合うのは暴力、支配グループのトップ層と混沌グループの上位勢のみ。それほどまでに魔理沙の立ち位置は劇的に変化した。

 

 そして今日、魔理沙は緊急の用事ということで暴力グループと支配グループのボスから呼び出しをくらっており、魔理沙は仕方なく集合場所のミーティングルームへと向かっている。

 

「今日は両親と会う日なのに……アイツらァ……!」

 

 握り拳をつくりながら憎い相手二人を思い浮かべる魔理沙。それほどまでに両親に会いたかった……というわけではなく、昨日『お前に関係する重大な事件が起きたから参加しろ』と、普段邪魔しかしてこないボス連中から急に連絡が来たことで、予定が大きく狂ったことに腹を立てていた。

 魔理沙は指定された部屋の扉の前に瞬間移動し、勢いよく扉を開く。するとそこには、呼び出した張本人2名とその取り巻き達がズラリと並んで座っていた。

 

「お前にしては随分遅かったな、死神」

 

「わざわざ貴女の都合に合わせて時間を変更しているのだから、もっと手早く行動しなさい」

 

「…………」

 

 魔理沙は無言で左腕をギルガメッシュと呼ばれる弓に変形し、コズミックエナジーを凝縮させて形成した矢を二人に向けた。

 

「待て待て、何をそんなに怒ってる? 俺たちはただお前を呼んだだけで殺し合いをしに来たわけじゃない」

 

「それにここでの能力の使用は禁止、厳罰対象です。これ以上狼藉を重ねると然るべき対応を取りますが」

 

 脅しが全く効かなかったので、魔理沙は仕方なく弓を下ろし元の姿へと戻った。

 

「…………分かった、今日はやらない。が、こっちも用事があるから手短に頼む」

 

「お、用事って何? 殺し合い? 俺も混ざっていい?」

 

「違ぇし仮にそうだとしてもお前だけは絶対に許さないし真っ先に潰す」

 

「はァ……」

 

 議論が全く進みそうにない雰囲気に支配グループのボス、『ロル』は頭を抱えた。

 普段は『支配』の個性のおかげで統率を取ることが出来るが、今回の相手は部下ではなくライバルグループのボス『レヴォ』と、未だ正体不明の暴力装置『マリサ』。レヴォは私の個性の弱点を把握しているし、マリサには何故か個性が通用しないので支配できない。

 なので一切統率が取れない。全く不便極まりないのである。

 

「早く本題に入りましょう」

 

「そうだぞマリサ。お前があーだこーだ言うから時間長引くんだろうが。お前がチームの輪を乱してることを自覚しろ」

 

「よし、訓練場行こうか。もう一度お前を壁の中に埋め込んでやる」

 

「お? やれるもんならやってみろや青二才が。見た目女児だからって手加減されると思うなよこのクソ〇ッチ」

 

「本題に入りましょう」

 

 殺し合いをしかねない二人を諌め、会議を進行させるロル。本当に『支配』の個性さえ使えれば今すぐにでもこの二人を抑えられるというのに、何故私はわざわざ"言葉"で二人の暴走を止めなければいけないのか、考えれば考えるほどウンザリしてしまう。

 とにかくこの二人が殺し始める前に、ロルは部下に"例のもの"を用意させた。

 

「センス」

 

「はい」

 

 センス、という名の部下がロルの指示の元、5枚の写真を机に並べる。

 睨み合っていたレヴォとマリサも写真の方に意識が向き、まじまじと5枚の写真を見比べる。

 見る限り、これらの写真はどれも悲惨なものばかりで、場所や被害者もバラバラのようだ。

 

「破壊神、この写真に見覚えはありますか?」

 

「魔理沙な。…………これは誰かの遺体か?」

 

 惨い写真の正体、それは人間の死体であった。しかもただの死体ではなく、何者かの攻撃を受けたかのような痕跡が見られた。

 ただ不自然な点として、5つの死体の損傷具合がどれもバラバラで、統一性が無いことが分かる。一方の死体からは上半身をスッパリ切られて斬殺されたことが分かるが、もう一方の写真だとまるで血を全部抜かれたかのように干からびて死んだかのように見えるし、さらに別の写真だと胴体に風穴を開けられて死んでいたりと、どれも死に方がバラバラなのである。

 おかしい⋯⋯ということは何となく分かるが、それが答えにどう結びつくのかは全く見当がつかない。だがそれでも魔理沙は必死に頭をひねるが、何も思いつかない。

 そんな最中、ロルが口を開いた。

 

「これらは支配グループのメンバー、すなわち私の部下の()()です」

 

「⋯⋯⋯は?」

 

 ロルの口から告げられた言葉に驚きを隠せない魔理沙。死体の共通点が全部支配の連中だとは全く思わなかった。

 4層最強勢力である支配グループに手を出すとはあまりにも無知無謀で命知らずのアホか、頭のイカれたチートサイコパス野郎のどちらかで間違いないだろう。ただこの施設内の人間のほとんどは後者なので全く候補は絞れない。

 

「彼らは先週の午後16時28分以降連絡がつかなくなり、昨日遺体として発見されました。リングの識別コードから私の仲間であることは確定です」

 

「どちらも全く異なる手法で殺されていて不自然なのですが、貴女が犯人なら話は別です。死になさい」

 

 あまりにも早い結論に魔理沙の脳が一瞬停止したが、魔理沙は即座に弁明した。

 

「待て、確かに私なら出来なくも無いが、私は基本的にドクターの研究センターに篭ってるから関係ないぞ」

 

「お前なら休憩中に時止めて暗殺くらい容易いだろ」

 

「いや動機がねェだろ」

 

「黙ってください」

 

 ロルは魔理沙の弁明を制し、この場にいる全員に睨みを効かせる。支配の個性が使えない以上話の主導権を取られるわけにはいかず、ロルは内心必死で暴力装置2名を押さえ込んでいた。

 その他にも、どうにかマリサを弱体化させたいがために、マリサを弁明の余地なく全勢力から袋叩きにされる構図を意図的に作り出すためにも、こうしてマリサを抑え込んでいる。

 しかし4層の勢力を全てかき集めたとしても彼女をボコボコに出来るのかどうかは怪しいところではある。

 だが少しでも4層最強の座に近づくべく、ロルはマリサをここぞとばかりに追い詰めようとする。

 

「仮に貴女じゃないとしたら、他に誰がこのような事をしたと思いますか? 調査の結果、彼ら5人は"短期間でほぼ同時刻"に、"全く異なる殺害方法"で殺されています。それを可能にするのはやはり『鬼畜の権化』が持つ複数個性の力以外にありません」

 

「魔理沙な。後別にこれ"一人の犯人がやったこと"ってわけじゃないだろ。少数グループによる計画的犯行じゃないのか」

 

 マリサの反論に少し表情を曇らせるロル。圧をかけて押し切れば事実であろうとなかろうとすんなり認めるのではないかと思っていたが、案外そう上手くは行かなさそうだ。

 

「その可能性も"一応"考慮し、現在調査中です」

 

「あ、俺ら暴力グループも部下が何人か不審死を遂げたって報告受けてるからよろしく」

 

「それはどうでもいい〇ね」

 

「おいマリサ。俺にだけ冷たくないか?」

 

 レヴォに対しては全く心を開かない魔理沙。それもそのはずこの男が一番魔理沙のことを直接的に妨害してきた人間なので、嫌われるのも当然であった。

 

「……ハァ、ちなみにこれらの不審死に関する情報は既に4層の治安維持組織に届いています。アチラの方でも調査しているそうですが、犯人は未だ特定出来ていません」

 

「……被害者が全員4層の人間なら犯人も4層の人間だろ? 収容リスト洗いざらい調べあげれば済む話だろ」

 

「いえ、4層だけでなく全階層で被害者が続出しているので4層だけに絞ることはできません」

 

「……そこまでの規模で暴れられるなら、なおさら犯人が誰か絞れそうだが……」

 

 と、魔理沙が言った瞬間、ボス連中二人が真顔で魔理沙の方に指を指した。

 

「いやだから違うって!!」

 

「「お前(貴女)以外ありえない」」

 

「お前ら揃いも揃って仲良いな!! どんだけ私を目の敵にしたいんだ!?」

 

 二人が露骨に自分を潰しにきているのは誰の目から見ても明らかで、魔理沙もロルと同様に頭を抱えた。

 

「……仕方ありません。犯人が口を割らない以上実力行使に移る他ありませんが、今日は忙しいのでここまでにしておきます」

 

「犯人じゃねぇし」

 

「俺は暇だからこれ終わったらお前に実力行使するけど良いよな?」

 

「お前は黙れ」

 

「では皆さん、緊急会議はこれにて終了です。撤収」

 

 ロルが二回手を叩くと、部下全員が手早く机と椅子を片付け始め、荷物を持って即座にその場から撤収した。

 

「ご機嫌よう」

 

 そしてロルもその場から退出した。

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

 会議室に取り残された二人とレヴォの部下達。魔理沙がこれからどうすべきか迷っている中、レヴォが口を開いた。

 

「マリサ……」

 

「……何」

 

「殺し合わん?」

 

 この男は相変わらずであった。

 

「……」

 

 そして魔理沙の方も、彼の根気に負けて仕方なく戦うことにした。なおレヴォとの戦いは今週で5回目である。

 

 魔理沙とレヴォは二人仲良く管理センターに向かい、許可を取ってから訓練場へ向かった。

 

 

 

 ■

 

 

 

「ぐあああああああああああああ!!!!!!」

 

 レヴォの体が"く"の字に曲がりながら壁に激突し、あえなく撃沈した。

 

「じゃあな、レヴォ」

 

 レヴォとの殺し合いに決着を付けた魔理沙は今度こそ両親に会いに行くべく、再び4層総合管理センターの方へと向かっていく。

 

「……マリサァ、……お前、前より強くねェか?」

 

「毎日心身能力共に鍛え上げてるんだから当然」

 

「…………クソがァ……」

 

 レヴォはまたしても魔理沙に敗北し、未練を残して気絶した。

 暴力グループのボス『レヴォ』、彼のもつ個性『フルパワー』はあらゆる身体能力を極限まで上昇させ、強烈な物理攻撃を放つことが出来るが、結依魔理沙が相手だと全く効果が無くなってしまう。

 

 特に相手の攻撃を倍にして跳ね返す『フルカウンター』と常時相手の物理攻撃を反射する『アタカンタ』が彼にとってネックであり、フルカウンターは嘘行動(フェイク)で誘発させることが出来ても、アタックカンタだけはどうしようもない。

 

ただアタカンタはパンチやキック、斬撃は跳ね返すが、まれに自身の攻撃が反射されずに貫通することが最近判明したので、レヴォは今回フェイクを混ぜてから個性『フルパワー』を発揮し、殴り掛かると見せかけて膝蹴りをブチかました。しかしアタカンタは貫通せず自身の膝蹴りと同等のダメージが反射され、レヴォは後方に大きく仰け反ってしまった。

 

 隙を晒したレヴォを魔理沙が見逃すはずなく、瞬間移動で距離を詰めてから光速ハイキックで天井まで蹴り上げ、さらに瞬間移動と急降下攻撃を連続で交互に行う『アクロバット』を叩き込んでから、火炎系最強呪文である『カイザーフェニックス(メラゾーマ)』を浴びせたことでレヴォの体が"く"の字に吹き飛び、今に至る。

 

 もう一度言うがレヴォは別に弱くない。ただ相手が絶望的に悪過ぎただけだ。

 

「手続きしに行こ」

 

 早めに決着が着いたことを良いことに、魔理沙は4層総合管理センターに出向いた。

 

 

 

 ■

 

 

 

【4層総合管理センター】

 

 

「管理番号0198さん、手続きが完了いたしましたのでカウンターまで来てください」

 

 レヴォとの決闘を終えてすぐ管理センターに出向いた魔理沙は、さっそく外出手続きの申請を行っていた。

 

「はい、0198さん。許可が下りましたので外出することが可能になりました。また、殼木ドクターの推薦と日頃の生活態度及び性格の適性、能力の安定化等が評価され、カメリア刑務所外での活動も許可します」

 

「⋯⋯マジ?」

 

 刑務所の外に出ることはいかなる理由があっても許されなかったはずが、何故か許された。

 こんなことはここに入ってから初めてのことだが、これ以上無いほど申し出に断る理由もなく、魔理沙は甘んじて権利を受け入れた。

 

「ただし、明日の21時までには戻って帰還の手続きを完了し、部屋に戻ってください。また、ニューヨーク市外に出ること、他国へ逃亡することは原則禁止です。違反した場合、脱走者として処理される場合がございますのでご了承ください」

 

「また、刑務所外での能力使用も当然禁止です。使用した場合リングが反応し、貴方の全身に特殊な電流が流れます。さらに貴女様の場合、能力の不正使用を考慮して監視者を1名つけさせてもらいます。リングの反応に限らず、監視者の判断で貴女の処遇が決まることをお忘れなく」

 

「以上で説明を終わります。何か質問はございますか?」

 

「無い」

 

「分かりました。ではあちらの部屋でリングの調整を行い、係員の指示に従って行動してください」

 

 説明を受け終わった魔理沙は指示に従って行動する。

 

「……毎度毎度長いんだよなアレ」

 

 外出は今回で3回目なのだが、出る度に毎回聞かされる。出来ることなら聞かずにさっさと外に出たいが、収容者は説明を聞かずに外を出ると外出許可が取り消されるし、説明する側も毎回説明することを義務付けられているので仕方がない。何度も何度も言い聞かせることで規範意識を高めるのが目的だとか何とか。

 

 

 しかし今回は刑務所の外に出られるので別にヨシ! 

 

 

 魔理沙は専用の係員に頼んでリングの調整を行い、その後別の係員2名の案内の下、目隠しされたまま4層から1層までエレベーターで移動する。

 

 このエレベーターは地下研究施設で唯一のエレベーターであり、第1階層から第8階層まで行き来することが可能。基本的に収容者を収容するときや個性研究者が学会で発表する時などに利用される。当然だがここのエレベーターの警備は厳重で、番人と警備員が常駐している他、ハッキングや個性によるシステムへの干渉や施設内で異常が検知されると即座にシステムが秘匿状態に移行し、全てのアクセス権限をブロックしてから自動的に電源をオフにするプログラム"クマムシ"が搭載されているため、脱走はほぼ不可能。

 

 さらに第1階層から地上への移動にはワープ装置を利用する必要があり、こちらにもクマムシプログラムが搭載されている。そのため少しでも不審な動きをすれば即座に閉じ込められ、個性を使えばリングの効果で全身が硬直し、無数の番人と警備員に囲まれてそのままジ・エンドである。とはいえワープや瞬間移動、透過などといった個性に関してはリング以外に対処法は少なく、現在は個性による物質透過を防ぐ技術を搭載した新たな素材の開発を行っている。

 

 第1階層についた魔理沙は何も見えないままワープ装置の下まで案内され、係員がワープ装置を起動した。

 ……目隠しされても"波動"で自分の位置や他の人の配置、物体の位置まで把握出来るので正直意味はない。が、公言したとしても対策されるだけなので何も言わない。

 

 ワープ装置を介して地上に出た魔理沙は再び係員の案内を受けてカメリア刑務所内を移動し、30分歩いてようやく門の前に到着した。普通に歩けば地下刑務所の入口から門までの距離は大したことないのだが、暗記系の個性等で道を覚えられるのを防ぐためにわざと遠回りしているようだ。本当にこの刑務所は徹底的に対策している。

 

 目隠しを外すと、巨大な門がそびえ立っていた。空には天然の太陽が燦々と光を照らし、青々とした景色が広がっている。

 

 門番が管理棟に連絡し、巨大な門がゆっくりと開く。門の先に広がっていたのはこれまた青くてデカい湖。普段は刑務所の外には出れない魔理沙にとって湖を見るのはこれが初めて……いや2回目だったが、やはりこの湖は綺麗だ。

 

「魔理沙」

 

 誰かが近くで私の名を呼んでいる。それが誰かは容易に想像がつくが。

 魔理沙は声が聞こえた方向に振り返り、ピースサインをした。

 

「ただいま」

 

「「おかえり!!」」

 

 両親が私の下に駆け寄り、ギュッと抱きしめる。3回目なのに喜んでる様子が全く変わらない。

 

「大丈夫? 怪我とかしてない?」

 

「全然大丈夫。むしろ強すぎて困る」

 

「それはよかった」

 

 強すぎて困るというのは100%冗談だし、むしろ強くないとこの施設ではまともに生きていけないのが事実だが、親が安心するならそれで良し。

 

「てっきり警備の人が出てくると思ったが、外に出られるようになったのか?」

 

「うん、普段の行いが良かったおかげ。あと世話になってる人からの推薦」

 

「今度お礼の品を送っておくわね」

 

「…………差し入れって、許されるのか?」

 

 ただでさえ規律の厳しい施設だというのに、外部から品物を送るとか出来るのだろうか。する気のない脱走とか疑われたりしないだろうか。

 

 魔理沙が悩む最中、父が何かを思いついたようだ。

 

「よし、今日は娘の出所祝いということでニューヨークの街を探検しよう!! 魔理沙、どこ行きたい?」

 

 突然の申し出に魔理沙が顔を上げ、とりあえずパッと思いついたものを口に出す。

 

「う〜ん、自由の女神像!!」

 

「よし行こう!!」

 

 父の面白そうな提案にガッツリ乗っかかることにした魔理沙は、両親と共にニューヨーク中を観光することにした。

 

 

 

 ■

 

 

 魔理沙と両親はその後、ニューヨーク市内に存在する有名な観光スポットを片っ端から観光し始めた。まずは自由の女神像の前で記念写真を撮り、次にタイムズスクエアでショッピングをし、その後セントラルパークでゆったりとした後、アメリカ自然史博物館で大きな恐竜の模型を見たりと、思う存分満喫した。

 観光した場所のほとんどがニューヨーク市のマンハッタン区内にあるものばかりになってしまったが、時間と距離の都合上仕方が無かった。だがマンハッタン区だけでもこんなに面白い所がたくさんあるのだから、アメリカは本当に凄い。

 

「外、めっちゃ楽しい……!」

 

 刑務所内の施設に収監されて以降、一度も刑務所の外に出たことが無かった魔理沙はあらためて外の世界の素晴らしさを実感した。個性が使えなくてもこんなに楽しいなんて、今まで思いもしなかった。

 

「連れてきたかいがあったな」

 

 魔理沙の楽しそうな顔を見て、父は頬を緩めた。

 

「あ」

 

 適当に街中を歩いていると、とある店が目に付いた。

 

「ヒーローグッズ専門店……!」

 

 何ともワクワクが止まらない名前に魔理沙は嬉々として店の中へと入っていく。

 そこにはアメリカで活躍中のヒーローのフィギュアや、キーホールダー、アクセサリー、ハンドタオル、人形に至るまで様々な物が売っており、見ているだけでも中々面白い。

 

「……! オールマイトのもある……!」

 

 アメリカのヒーロー達と並んでオールマイトのグッズも多く販売されており、シルバーエイジやゴールデンエイジのオールマイトフィギュアの他に、ヤングエイジと呼ばれるアメリカ留学時代のオールマイトのフィギュアまで売られていた。

 

 どうやらアメリカ人にとってはヤングエイジ時代のオールマイトが一番馴染み深いらしい。

 

「魔理沙はオールマイトが好きなのか?」

 

 追いついた父が魔理沙の肩に手を乗せながら問いかける。

 

「……いや? 別に?」

 

「…………本当にウチの子は変わってるねぇ……」

 

 思ってた反応と全く異なり、若干対応に困る魔理沙パパ。女の子といえどこれくらいの歳の子は皆オールマイトが大好きだと思っていたが、彼女はどうやら違うようだ。

 

 ただヒーローに興味が無いわけでは無さそうだ。少し変わってると言えど、やっぱり娘もちゃんとした人の子であると実感する。

 

「魔理沙、ヒーローに興味はあるか?」

 

「ヒーロー?」

 

 突然の質問に魔理沙は驚き、少し考え始めた。

 

「…………まぁ、ある」

 

「……! そうか! 興味あるのか!」

 

 娘が初めて、ヒーローに興味があると、ハッキリと言葉にして伝えてくれたことに父は驚きと嬉しさで溢れかえった。

 

 父はヒーローと違って表舞台に立って動く人間では無かったが、かつては重要危険人物や暴力団等を取り締まる活動をしていたこともあり、治安維持に貢献出来る素晴らしさをそれなりに実感していた。

それに今はヒーロー達と関わる機会も増え、間近で彼らの活躍を見聞きすることが多くなったことから、娘がヒーローになるとしたら全力で応援しよう……くらいの気持ちも持ち合わせてはいた。

 

 しかし本当に娘がヒーローに興味をもっていたとは思わなかった。あんなに秘密主義で自己主張もせずに黙々と何かをやっている魔理沙が、今日初めて自分の気持ちを打ち明かしたのだ。これは嬉しい誤算ではなかろうか。

 

 もし娘がヒーローになったら、オールマイト級の活躍を見せてくれるのは間違いないだろう。なんてったってウチの子の個性は現代科学でも解明できないほどに強い個性を複数持ち、4歳の頃から成人男性を圧倒できるほどの逞しさを持っている。力だけで言えば娘は世界中のヒーローを含めてもナンバーワンに匹敵するほどの力を持っているだろう。

見た目的に民衆受けはしづらいかもしれないが、活躍次第ではその見た目も1つの特徴として受けいられるかもしれない。そうすれば魔理沙は強さだけでなく民衆からの支持も厚い最高のヒーローへと変貌するだろう。いや、いずれ必ずそうなるに違いない。

 

 ただ、時折心配に思うことがある。強い個性を手にした子どもは基本的に他者に対して強気な態度を取る傾向が見られるが、娘はその傾向と真逆の道を歩んでいる。個性を使うことに躊躇が無い所は他の子と変わらないが、あの子は基本一人の時にしか個性を使わないし、日本の幼稚園に通っていた時もほとんど問題を起こさず、友達も作らずに一人でのんびりと過ごしている。

 

 子どもというのはもっと自由奔放で、人との距離感など気にせずに多くの子と関わろうとするものだと思っていたが、彼女は何故か生まれた時から他人との関わりをなるべく避けようとしている節が見られる。個性がおかしいのは突然変異のせいでギリ説明がつかなくもないが、この異様なまでに熟した精神性はいったいどこからきているのか。このまま熟したままの精神状態で人生やっていけるのか、父として少々不安である。

 

 この精神形成は個性の影響でそうなったものなのか、それともあの子自身の元からの性格によるものなのか、判断は難しい。だがどちらにしろあの子にはもっと多くの人と関わって過ごすべきだと父は思っている。人との繋がりが彼女の足りない部分を埋めてくれるはずだと、父はそう思っているからだ。

 

「魔理沙、もしヒーローになりたかったらパパに言うんだ。全力で応援してあげるから」

 

「へい」

 

 魔理沙は父の手にグータッチした。

 

「……魔理沙の手、こんなに硬かったか?」

 

 まるで巨大な岩石に触れたかのような重くて硬い感触にパパは驚いた。

 

 かつて公安委員会として働いていた身だったので分かる。自分の娘がこの短期間で驚く程に成長し、想像を絶する強さを手にしていることが感触から感じられる。それだけでなく、魔理沙はまだ発展途上だと言うことも父は何となく察した。末恐ろしい娘である。

 

 とはいえ、何であろうと娘の成長は親として喜ばしいものだ。成長を記念して何かプレゼントでも渡したいところだが、魔理沙の趣味嗜好が分からないので何を渡すのが一番良いかパッと思いつかない。

 

「⋯⋯⋯これは?」

 

 魔理沙父の目に付いたのはヒーロー達の名言をまとめたキーホルダー。色々と勇気づけられる言葉が数多くあるが、中でもオールマイトが"I'm here!! "と叫んでいるキーホルダーと、オールマイトが"Plus ultra!! "と叫んでいるキーホルダー、それとアメリカのヒーローが"loving freeeeeeee!!! "と叫んでいるキーホルダーが個人的にしっくり来たので、父は内緒でキーホルダーを3つ購入。後で魔理沙に渡そうと思う。

 用事が済んだので父と母と魔理沙は別の店に向かうこととなった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 こうして私と両親は街中(マンハッタン区)を観光した後、少しお高めのレストランで料理を食べた。

 観光の最中やレストランで注文する時にもちょくちょく見られたが、私の顔を見た人は軒並み怯えたり、目線を逸らすといったことが多々見られた。

 

 まぁ、周囲の人から見れば私も"異形系"の個性の人に見えているのだろう(本当は違うが)。

異形魔理沙は他の異形に比べたらまだちゃんとした人らしい見た目をしているが、他の異形妖怪だったら完全に化け物として扱われていたかもしれない。

 

 まだ人寄りでマシだというのに、それでも怯えられてしまうのは、この世界に根付いた異形系個性に対する偏見と差別も影響していると考えられる。まぁ見た目が同じ人間に見えない、というだけで敵扱いするのはこの世の中においてそんなに珍しいことでは無い。現に私の前世でも肌の違いだけで争いが生まれていたのだから、それよりもさらに見た目が段違いに違う異形の個性となると話はさらに拗れてくる。

 

 だが今のところこのレストランは店員が少し怯えただけで私を出禁にする気はなく、ちゃんとお客さんとして対応してくれているようだ。異形系個性は出入り禁止の飲食店など、この世では対して珍しくないというのに随分と優しい。ここの店はかなり寛容的のようだ。

 だが店側がどんなに心の広い人間であろうと、()()が優しくなかったらイザコザはすぐに発生する。

 

「異形が何呑気に高い飯食ってんのよ」

 

 ふくよかな体型の婦人、らしき人がわざわざ私らの前まで出向いていちゃもんを付けてきた。

 

「アンタらにこの店は似合わない。不愉快極まりないからさっさと出て行って!!」

 

 優越感に浸りながら堂々と退去命令を出すも、魔理沙と両親は婦人をガン無視しながら食事を続ける。

 ここまで大胆に行動する人は初めてだが、変に反応すると裁判沙汰になる可能性も無くはないのでとりあえず無視。

 流石の相手も取り合ってくれなければ大人しく引き下がるだろうと、私はそう思った。

 

「聞いてるの!!?」

 

 婦人が机を何度も強く叩く。どうやらまだ引き下がるつもりは無いらしい。

 その後婦人は私の胸ぐらを掴んで持ち上げ、額と額を合わせて至近距離で脅し始めた。

 

「アンタに言ってるのよ化け物。さっさとこの店から出t」

 

 鬼気迫る表情に流石の魔理沙も困惑したが、そんな最中父親の

 魔理沙が目線を横にズラすと、そこには婦人のこめかみに拳銃を向けた父親の姿があった。

 

「ウチの娘に手を出すな」

 

 普段の父とは到底思えないほど怒気に溢れた言葉に、その場にいる全員が戦慄した。

 

「⋯⋯⋯ヒッ!?」

 

 流石に拳銃を向けられて平気でいられるはずもなく、婦人は魔理沙の胸ぐらを手放してその場にへたりこんだ。

 

「大丈夫か、魔理沙?」

 

「··········まぁ」

 

「そうか」

 

 父は娘の安全を確認した後、店員の所に行って食べた分の料金とチップ分をまとめて支払った。

 

「迷惑を掛けて済まない。注文した料理分の代金は全て払ったのと、チップを多めに支払ったから店員皆で分け合ってくれ。本当に済まない」

 

「魔理沙、母さん、行くぞ」

 

「⋯⋯⋯はい」

 

 父の後を追い、魔理沙たちは店から退出した。こういうことはよくある。日本にいた時、初めて家族で外食しに行った時も似たようなことがあったし、検査施設内でも恐れられたし、日本国内を観光してる時にヴィランと間違われてヒーローを呼ばれたことも少しだがあるにはある。

 しかしよくもまぁ嫌われたものだ。ただそこで同じ空気を吸って同じものを食べているだけだと言うのに、私がいったい何をしたというのか。

 

(⋯⋯⋯あぁ、そうなのか)

 

 嫌われる理由を探すべく先程の女の人の心を読んだが、どうやら彼女の息子さんは異形系個性のヴィランに傷を負わされて入院中らしい。息子は重症では無いものの、それが原因で母親の中での異形系個性に対するイメージは最悪のものになっている。

 

 偏見を直せ、というのも酷かもしれない。

 

 

(難儀だなぁ)

 

 

「魔理沙」

 

「⋯⋯⋯何?」

 

 父の呼びかけに魔理沙は反応した。

 

「ニューヨークの夜景でも見るか?」

 

 悩みを吹っ飛ばすほどに魅力的な提案をされた魔理沙は嬉々として「見る!!」と叫び、両親の後をついて行くことにした。

 

 

 

 to be continued.....

 

 

 

 



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殺意の足跡(4.750話)



【あらすじ】

半年の年月を経て成長した魔理沙は外出許可証を得た後に両親と再会。ニューヨーク市内を観光する。

夕方、レストランにて婦人らしき人とトラブルになりかけたが何とかその場を切り抜け脱出。三人はニューヨークで最も美しい夜景を見に行くことにした。





 

 

【ニューヨーク市内】

 

【ニュー・エンパイア・ステート・ビル99階】

 

アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン区にそびえ立つ、ニューヨーク市で最も高い高層ビル。全長約769m、階数はなんと193階まで存在し、180階のメイン展望台から見えるニューヨークシティの夜景はアメリカ合衆国内でもトップクラスの夜景スポットとして名を馳せている。

 

レストランを出た後、魔理沙たちは最後にこのニューエンパイアステートビルに訪れ、夜景を満喫していた。

 

「綺麗!」

 

「ここはニューヨークで一番映える場所だからね、来てよかった」

 

「す⋯⋯っごい!」

 

ガラスの向こうに広がるニューヨークシティの街並みと、地上に浮かぶ星々のような煌めきに魔理沙は感動し、ジッと窓に張り付いて景色を堪能していた。

 

その後魔理沙たちは記念写真を取り、しばらく夜景を見つめていると、父が私に話しかけた。

 

「魔理沙」

 

「何?」

 

「さっきはごめんな」

 

父が申し訳なさそうな表情で私の方を見る。私自身としてはそんなに気にしていなかったが、父は違ったようだ。

 

「父さんが謝ることじゃないよ。それに、今更見た目でどうこう言われても特に感じないし」

 

「⋯⋯お前は本当に昔から成熟してるなぁ」

 

「そう?」

 

魔理沙は道中で購入した瓶コーラを1瓶飲み干し、自身の内面を見つめる。だがあんまり変わった気はしない。生まれてからずっとこんな感じのスタンスだが、さらにルーツを探ろうとすると前世を思い出す必要がある。まぁもうほとんど覚えていないから結局分からないことに変わりは無いけれど。

 

魔理沙は空瓶を空中に放り投げ、落ちてきた瞬間に能力で空間ごと削り取った。その後、魔理沙は両親の方に振り向き、手すりに体重を寄せる。

「そういえば聞き損ねていたが、魔理沙はどうしてあの施設に残ることにしたんだ? 話を聞く限り相当治安の悪い環境なんだろう?」

 

父の質問を受けて少々複雑な表情を浮かべる魔理沙。初めて父と面会した時にも言われてたが、私がカメリア刑務所の地下研究施設に収容されることになったのは、父の知り合いによる推薦と父が所属している組織のさらに上の組織の上層部の人間が決定したことで、父が直接関与したわけではない。なので刑務所の実態について知らされておらず、あくまで仕事として私を収監することになった。しかし施設の実態がある程度分かった頃に、父は既に退監手続きの書類を作っていた。その後父は私にサインするよう求めたが、上層部の人間と施設の人間による抗議の他、私自身も反対したことでこの話はおじゃんになってしまった。

 

私が賛成すれば一応あの施設から出ることは出来たのだろうが、そもそもあの施設に入る気になったのは能力をコントロールするためで、治安悪い方があらゆる状況を生み出しやすいので居残ることにした。週に10回以上の暗殺を経験してきたから、暗殺に対する対応策だけは死ぬほど身についている。

 

ただずっとあの施設に居座り続けるのはゴメンだ。人工太陽がある場所は限られているため、それ以外の部屋で日光を浴びることはできないし、四六時中争いが絶えないし、戦闘訓練以外のキャリアサポート的なものは一切無い。異常者もよりどりみどりで、自分を唯一神に使える選ばれし信徒だと本気で思っている人間や、他人の温もりに触れるためならどんな手段も使うヤツ、暴力でしか感情を伝えられないヤツ、ヒトも動物もみな平等だと言って躊躇無く殺しにくるヤツなど、数えるとキリがない。

 

唯一の利点はそんなヤツらを罪悪感無くブン殴れることくらいで、能力を完全にコントロール出来るようになればすぐにでもこの施設から逃げる気ではあった。

 

それほどあの施設の破滅っぷりはとんでもなかった。

 

そのことを両親に伝えたら、両親は少し笑った後、私の足に触れながら話しかけた。

 

「自分で決めたことなら、しっかり最後までやりなさい」

 

「あい」

 

「正直父さんは今すぐにでもお前を回収したいが、お前が満足するまで待つことにするよ」

 

「母さんも待ってるからね」

 

「任せて」

 

魔理沙は両足をプラプラと揺らしながら、右腕にグッと力を込める。

大丈夫だと、体で意思表示をしたが、母はその姿がおかしかったのかクスッと微笑んだ。

 

 

……

 

 

しばらくニューヨークの綺麗な夜景を眺めていると、ふと魔理沙はあることに気づいた。

 

自分は今とても幸せだが、自分が今置かれている状況的に、ここまで幸せを享受出来るなんてかなりのレアケースなのではないかと。

 

異形の見た目をした私がこんなにのんびりと過ごせるのは、家族が優しいからに他ならない。だがこの世界の異形個性に対する差別は尋常ではなく、たとえ血で繋がっていようと虐待を受けたり、ネグレクトされることも多々ある。

 

だというのに私は親から一切虐待を受けること無く、ネグレクトされることもなく、こうして家族と旅行出来ている。これはレアケースだ。当たり前のように見えて当たり前じゃない。だからこそ気になる。

 

なぜ両親は私を恐れないのか。私が生まれたとき、この真っ黒な顔を見てどう思ったか。純粋に気になった。

 

「ねぇ、父さん母さん」

 

「「何?」」

 

「私が生まれて、どう思った?」

 

「こんなに見た目も個性も違くて、無駄に強くて、何か後悔とかしなかった?」

 

「魔理沙⋯⋯」

 

両親は互いに顔を合わせた後、魔理沙と同じ目線までしゃがみ、そして魔理沙の2つの肩にそれぞれ手を添えた。

 

「最初は色々とビックリしたけど、後悔なんてしてないわ。母親だもの」

 

「どんなに見た目が違っても、魔理沙は私の娘で、私は貴女の母親、そこに変わりはないでしょう?」

 

母がそう言うと、父も頷きながら口を開いた。

 

「たとえどんなに個性が違っても、どんなに強くても、私たちはお前の味方だ。お前のためなら、世界を敵にしても構わない」

 

想像以上の言葉を貰い、面食らった魔理沙。両親の言葉をリピートする度にだんだんと恥ずかしくなり、自分の幼稚な行動を恥じた。

 

「⋯⋯⋯何だかかまって欲しくて言ったみたいで恥ずかしいな。どうしよう、記憶消そうかな」

 

魔理沙は自身に忘却魔法をかけようとしたが、母にとめられた。まぁ、フリではあったが。

 

「いいじゃないそれくらい。4歳なんだし恥ずかしいも何もないでしょう?」

 

「4歳だけど、時間止めまくって実年齢もう20歳超えたし、精神年齢は4歳どころじゃないし⋯⋯」

 

「じゃあお酒飲む?」

 

「飲めるけど誤解されるから飲まない」

 

真顔で断る魔理沙を見て、母はまた微笑んだ。

 

「ふふっ、魔理沙と話すと4歳っていうより、16歳の子と話してるみたいね」

 

「褒められている……のか?」

 

「落ち着きがあって良い、ってことじゃないか?」

 

「実年齢より低いのに?」

 

父の適当なフォローに3人は笑い、そして再び夜景を見つめた後、再び父が立ち上がった。

 

「よし、今日は十分楽しんだし、明日に備えてホテルに行こう!」

 

「魔理沙、本当に大丈夫? 脱獄犯とかにならないよね?」

 

「ならないならない。もしなりそうになったらこのリングが教えてくれるし大丈夫」

 

「そっか。じゃ、戻ろう」

 

3人は展望台の窓ガラスから離れ、静かにエレベーターに乗った。エレベーターはビルの内部に設置されているため本物の外の景色は見れないが、最新の映像技術によりまるで先程見ていた夜景と全くそっくりで美しい夜景の映像が流れ、さらに夜景の中にはアメリカで有名なヒーローたちや漫画アニメの人気キャラクターたちが自由に空を飛び回るなど、映像ならではの要素が織り込まれており、最後まで楽しかった。

 

こうして、魔理沙たちのニューヨーク旅行1日目が終了した。

 

 

 

 

 

外出許可が出て2日目、魔理沙たちは昨日行けなかったニューヨーク市のブロンクス区で観光していた。

 

メジャーリーグで有名なスタジアムを見たり、動物園に寄ったり、ホワイトハウスを脇目に美術館や博物館を観光したり、ボストンの街並みを見ながら散歩したりしていた。

 

時計の針が午後3時をまわった頃、魔理沙は5段アイスを片手にニューヨークの街並みを見ながらアイスにかぶりついていた。

 

ピピピピ⋯⋯

 

「? 壊れた⋯⋯?」

 

突然リングから不可解な音が鳴り響き、魔理沙はリングの方に目を向けた。何もした覚えは無いが、とりあえず不具合を直そうと魔理沙は軽くリングを叩いてみる。すると、魔理沙の予想に反して謎の警告メッセージがリングから投影された。

 

【魔理沙様、重大な違反が検知されたため至急カメリア地下研究施設までお戻りください。5分後にプロヒーローが到着します】

 

「は?」

 

全く身に覚えのない事を指摘され、目を丸くする魔理沙。この2日間一切能力使っていないというのに。

まだ見に行っていない観光スポットがまだたくさんある以上、素直にこの警告を受け入れるわけにはいかない。とりあえず監視者と連絡取ってこのリングの誤作動を止めてもらわなければ。

 

「キャアアアアアア!!!」

 

「今度は何!?」

 

エラーメッセージの次は悲鳴が耳に届き、魔理沙は声がした方向に振り向いた。すると、先程までいなかったはずの謎の化け物がいつの間にか街中に出現し、周囲の人間を片っ端から襲っていた。

 

「アレは⋯⋯⋯私?」

 

私に若干似てはいるものの、顔以外の全てが透けており、皮膚らしき部分は粘性を帯びていて常に流動している。髪は先端に近づくに連れて赤または青色に染まり、まるで露出した血管のよう。随分と悪趣味な造形である。

そんな見るからに化け物といって差し支えない存在は逃げ惑う人々に対して次々とレーザー光線を放ち、容赦なく殺していく。レーザーによって開けられた傷跡は本人の意思関係なく急速に開き始め、30秒後には巨大な風穴を形成し人々を死に至らしめている。

 

あまりに異質な化け物の個性に魔理沙は内心首を傾げるが、今はそれどころでは無い。被害を食い止めるのが最優先だ。

 

「止めろッ!!」

 

「「魔理沙ッ!?」」

 

魔理沙が大きく地面を蹴り上げ、一瞬で化け物に近づくと、強烈な空中回し蹴りで化け物を蹴り飛ばした。

見た目からして物理技が効かなそうに見えたが、意外と手応えは感じる。だがアレで再起不能になるとは到底思えない。

魔理沙の予想通り、化け物は粉塵の中から顔を出し、無機質な笑顔を見せると、背中から白い翼を生やし、リングのようなものを頭に浮かべた。天使にでもなったのだろうか。

 

「ワ"タ"シ"」

 

化け物がガビガビな声をあげた後、翼で大きく羽ばたき、魔理沙に向かって突撃し始めた。

 

(⋯⋯使うか?)

 

向かってくる化け物に対処するべく、魔理沙は能力を使うかどうか考える。あのメッセージが本当なら私は違反者で、ここで能力を使おうが使わないがどの道刑務所に連行される。なら使っても良い気がするが⋯⋯

決断を下す前に化け物が右腕を鋭利な爪に変形させ、魔理沙の肉を断ち切るように爪を振りかざす。

だが魔理沙は反射的に回避し、化け物の腕を片手で掴んで軽く振り回した後、人のいないところに目掛けてブン投げた。

 

(使わなくてもいけそう)

 

案外楽に倒せそうと思いきや、化け物は粉塵の中から5本のレーザーを飛ばして魔理沙の脇腹と肩の関節を貫通させ破壊した。

肩に力が入らなくなり、両腕がダラリと垂れる。SBSP版マホカンタを発動していればダメージを負わずに済んだが、まだ光速で動くものに対して反射的に能力を発動することが出来ないのと、常時魔法or能力を発動させ続けることにまだ慣れてないせいで上手く対応が出来なかった。

ずっと観光巡りのための言い訳を考えていたが、どうやらそんな暇は無さそうだ。とりあえず魔理沙は傷ついた箇所を自前の再生能力で治そうとしたが、傷は全く治らなかった。

 

(⋯⋯これは)

 

見覚えのある現象にデジャブを感じた魔理沙。しかし魔理沙が立ち止まっている間に復活した化け物は両腕を巨人並に肥大化させ、再び魔理沙に突撃していく。

両肩は壊れて使い物にならず、傷は多過ぎる上に厄介な力が働いて治せない。

 

「仕方ない」

 

治すのは諦めたが、だからといって何も出来ずにやられるわけにはいかない。

化け物はこの機会をチャンスだと思っているのか、何の警戒もせずに私に近づいている。これは私にとってもチャンスだ。肉体を再構築しながら相手を消し飛ばすアレが使えるのだから。

 

魔理沙はギリギリまでタイミングを見計らい、化け物の拳が顔面に迫るまで待った。そしてその時が訪れた瞬間、魔理沙の全身から焔が噴き出し、強烈な光を発しながら大爆発を引き起こす。

自身の肉体を使った盛大な爆発を披露した魔理沙はそのまま死亡したかと思われたが、不死の心臓によって集められた光の粒子が肉体を再構築し、最終的に無傷の魔理沙がそこに立っていた。

 

一方、化け物は爆発によって為す術なく吹き飛び、建物にぶつかって地面に落下。しかしそれでもなお化け物は立ち上がり、魔理沙のいる方向を睨みながら全力で走り出す。

だが既に魔法で形成された鎖が化け物の四肢を拘束しており、身動きを完全に封じていた。どんなにもがこうと鎖を引きちぎることは叶わず、逃げることさえ許されない。

 

そんな中、結依魔理沙はゆっくりと化け物に近づいた。分かりやすく、瞳に映るように、時間をかけて化け物に近づき、"死"という概念が輪郭を帯びて現実に現れる。

化け物は必死にレーザー光線や炎を出して牽制するが、その手の攻撃は魔理沙には一切通用しない。全ての攻撃を素手で弾き返し、化け物の目の前までたどり着いた魔理沙は、残酷で非常な瞳のまま静かに呟いた。

 

「さよなら」

 

「⋯⋯マ"」

 

魔理沙が指を鳴らすと、化け物の真上に無数の魔法陣が展開され、爆音と共にすべてを覆い尽くすほどの雷撃が化け物に命中する。

焦げたアスファルトの匂いが漂い、確実に化け物を再起不能に追い込んだはずだったが、そこに化け物の姿は無かった。

 

「逃げたな」

 

手応えのなさから状況を察した魔理沙は、化け物を追うのを止めた。目で追える程度の速さであれば潰しに行ってもよかったが、アレは高速移動ではなく座標移動や瞬間移動、ワープの類いである。ワープ先が分からない以上深追いは時間の無駄だ。

ま、深追いせずともあの化け物が()()()で見た個性と似た個性を使っていた以上、刑務所と化け物の関係性は濃厚だ。刑務所の連中の中にここまで多くの個性を持ったヤツはいなかったはずだが、何かあるのは間違いない。戻るのが良さそうだ。

もしかしたらヴィラン連合のスパイか何かがあの刑務所に紛れ込んでいるのかもしれない。

 

「大丈夫か魔理沙!!」

 

父と母が私の名を呼びながら走ってきた。どうやら両親は無事なようだ。

 

「無事だよ。こんな街中で暴れるなんてホント迷わ」

 

「おっと?」

 

ヤレヤレと言う前に両親が魔理沙に抱きつき、魔理沙が無事である事を肌で感じ取る。

 

「よかった⋯⋯無事で!」

 

「大袈裟だなぁ、死なないのに」

 

魔理沙も両親を抱きしめ、不安や恐怖を和らげようと優しく背中をさする。個性を使った殺し合いなど刑務所では日常茶飯事だが、(地上)は違う。個性による過剰なまでの暴力は抗う術のない人々を傷つけ、人々を不安にさせてしまう。だから公での個性の使用は取り締まられるのだが、私はあまり人のこと言えないのでノーコメント。

とはいえ親にこんな不快な思いをさせるとは、あの化け物、ハッキリ言って許せん。見つけ次第チョップを食らわせてやる。

 

化け物に意識が向く中、父は冷静に状況を判断し、妻と子に指示を下した。

 

「魔理沙。今はまず警察に通報して、ここで待機していなさい。母さんは近くの住人から応急キットを借りてきてくれ。俺は人命救助にまわる」

 

「いや父さん、私もうそろそろ捕まる」

 

魔理沙の意味深な発言に、父は首を傾げた。

 

「……どういうことだ?」

 

「迎えがもう来た」

 

魔理沙が空を見上げると、遙か空の彼方でキラリと何かが光り輝く。その星のような輝きを持つ何かは徐々に高度を落とし、輝きをさらに増幅させる。

衝突を危惧した魔理沙は咄嗟に両親を30m離れた位置にワープさせた。その直後、強い衝撃が魔理沙の両腕にのしかかった。

撃ち込まれた太い拳は魔理沙の肉体を通じて地面を陥没させ、周囲一帯を衝撃波で消し飛ばす。落下エネルギーだけでは説明しきれないほどの威力だが、それも当然。

 

アメリカNo.1ヒーローが迎えに来たのだから。

 

「私の拳を受け止めるとは、なかなかやるじゃないか」

 

アメリカNo.1で最強のヒーローは一旦距離を取ると、周囲の状況を見渡した。

負傷者多数、死傷者も10人以上出ており、激しい戦闘が行われた形跡が複数。そして刑務所から脱走の通告と、私のパンチを食らっても無傷な脱走者。

 

謎は解けた。

 

「まさかキミみたいなちっちゃい子がこんなことするなんてとても思えないが、これも私の仕事。大人しくしてもらおうか」

 

「スター&ストライプ……!」

 

臨戦態勢に入ったスター&ストライプだったが、魔理沙父の呼びかけにより一旦振り返った。

 

「一般人は下がっていてくだ……! What? 貴方、どこかでお会いしたような……?」

 

「スター&ストライプ、私は日本の公安局の者です。彼女は私の娘でして、観光中に襲ってきたヴィランを撃退してくれたんです」

 

「……一応、今貴方が所属している公的機関とIDを言いなさい」

 

スターは冷静に身分証明書の提示を要求した。アメリカではよくヴィランが身分を偽って人を騙すケースがあるため、ヒーローに限らず一般人においても偽装工作に対する意識が非常に高い。なので当然スターも身分証明書の提示を要求したが、父は動揺することなく財布から身分証明書を提示した。

 

「……どうやら本当のようだな」

 

チェックが終了し、 スターの疑いを晴らすことができてホッとした結依勇魔。これでまた家族と旅行しに行けると安心したが、結果は真反対であった。

 

「だが、結依魔理沙は連行させてもらう」

 

「……ッ!? 何故!?」

 

意外な対応に驚いた勇魔。疑いが晴れたはずなのになぜ娘を連れていくのか、父には理解できなかった。

 

「どんな形であれ彼女は個性を使用し、誓約書の内容に反した。規則に従い、彼女をカメリア刑務所に収監する」

 

「……魔理沙はあくまで特別保護収監者だ、犯罪者じゃない。必要以上の拘束や虐待行為は契約違反だということを分かっているのか?」

 

「すまないが、私はあくまで脱走犯を捕まえろと命令されただけのヒーロー。この件について異議申し立てをしたいのなら刑務所の最高責任者を呼び出すか、その上の上層部に聞くといい」

 

「では、サラバだ」

 

魔理沙を抱えたスター&ストライプは一瞬で上空まで飛び上がり、一蹴りで地平線の彼方まで飛んで行った。

 

「魔理沙ッ!!」

 

父は何も出来ないまま娘を連れ去られ、ただ呆然と立ち尽くした。

 

何か良からぬ事が起きている気がする、そう感じた父こと結依勇魔は母の方に振り向き、肩を掴んだ。

 

「母さん、カメリア刑務所に行こう! 管理責任者に直談判する!!」

 

「分かったわ!」

 

一切NOと言わない妻に感謝しながら、結依勇魔は妻を抱きかかえ、短距離ワープを繰り返しながらカメリア刑務所へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

【カメリア刑務所地下研究施設B4F 昇降口前】

 

 

魔理沙はスター&ストライプに担がれ、そのままカメリア刑務所の地下4階に放り込まれた。

 

「いきなり逆戻りしたな」

 

何の色味のない見慣れた光景に魔理沙はため息を吐き、仕方なく自分の部屋に戻ろうとした。

 

正直リングの誤作動に関して問いただしたいところだが、疲れたので問いただすのは明日にすることにした。

それに帰ってきたら、それはそれで変なヤツらが私に「殺しあおーぜぇー」とか言って絡んでくるので、なるべく早めに部屋に戻りたい。

 

「··········あれ?」

 

魔理沙は人が多く集まるセントラルゾーンの外側の壁を沿いながらこっそりと移動していたが、ゾーンの中央に目を向けても人は見当たらなかった。

 

「誰もいない··········? それとも全員部屋に引きこもった?」

 

セントラルゾーンがここまでガランとしているのは初めてで、普段以上に何か変なことが起きない限りこういった状況は起こらないはず。

 

「お帰り魔理沙くん、旅行は楽しかったかい?」

 

背後から突然声が聞こえたので、魔理沙はすぐに振り返る。するとそこには、いつもお世話になっているドクター殻木がいた。

 

「ドクター、··········急に出てきてめっちゃビックリしたんだけど」

 

「ホッホッホ、驚かせてすまんの」

 

ドクターは自身の顎を擦りながらそう言った。

 

「ところでドクター、今日人少なくない? 何か心当たりある?」

 

「··········そうじゃのう、ワシあんまり施設の外でないから分からんのぉ」

 

「だよね、ドクターが外出てるのを見たの今日が初めてだし」

 

 

「ところで魔理沙、今日ここに戻ってくる前、誰かに襲われたそうじゃな?」

 

「··········あぁ、何か私に似た見た目のヤツに襲われた。それがどうかしたのか?」

 

「強かったか?」

 

「あ?」

 

魔理沙はドクターに再び聞き返したが、ドクターは一切表情が変わらないまま魔理沙を見つめていた

 

「強かったか?」

 

「··········いや、別に。見覚えのある個性を使われて驚きはしたけど、軽く捻ったよ」

 

「そうか」

 

ドクターの様子から不穏な空気を感じ取った魔理沙は即座に読心能力でドクターの表層心理を読み取った。しかし、得られた情報はドクターが絶対知らないであろうイタリア料理のレシピや日本で開催されている同人誌販売会イベントの内容などといった脈絡のない情報ばかり。

 

明らかに対策されている。黒だ。

 

「ドクター、お前··········」

 

魔理沙はドクターに近づき、ドラゴン殺しを携えドクターの首に目掛けて刃を向けようとしたが、ドラゴン殺しの取っ手に触れたところで背後から無数の剣先を向けられ、魔理沙は動きを止めた。

 

「魔理沙、お主には地下8階に来てもらう。そこで全てを話そう」

 

「··········剣先向けられたくらいで私が怯むわけないだろ。まだドクターの試験室のアレの方がマシだ」

 

「そうだと思ってお主のために人質を取っておいた」

 

「マリサ··········」

 

刑務官二人に捕らえられた状態で現れたのは、全身に大量の杭を刺され、個性を封じる枷を両手両足に着けられたジオの姿だった。

 

「··········ジオ!」

 

 

 

 

時を止め、その瞬間にジオの隣にいる刑務官を拳で殴り飛ばそうとしたが、魔理沙の拳は空を切った。

 

「魔理沙、そいつらはただの立体映像。本物じゃない」

 

「ジオはどこだ」

 

「少なくともこの刑務所にはおらんよ。アメリカ国内のどこかのホテルに隔離されとるんじゃないか? 知らんけど」

 

「ま、どうでもいいと思っているのなら今すぐにでも彼女を殺し、この場でお前さんとデスマッチおっぱじめてもええが」

 

「··········。」

 

「よろしい。では案内しよう」

 

ドクター殻木の案内の元、刑務所数名と私が4層保健管理センター内へと入っていく。

ドクターがいつもの研究室に入り、研究室の中でもさらに奥の方に行くと、今まで目にしていたものの一切気にしていなかった謎の扉の前にたどり着いた。

 

ドクターは扉の前で指紋チェック、虹彩チェック、そして8ケタのパスワードを入力すると、ロックが解除され重厚な扉が開いた。

扉の向こうには下に向かって階段が続いており、さらに向こうにはエレベーターらしきものが存在した。

 

「さ、行くぞ」

 

ドクターの背後を追い、魔理沙たちは階段を降りてエレベーターに乗った。このエレベーターはドクター専用のエレベーターで、地下1階から地下8階まで自由に行き来できるようだ。てっきりドクターも昇降機で昇り降りしているものだと思っていたが、こんなショートカットがあるとは。

 

「着いたぞ」

 

地下8階に到達しエレベーターの扉が開くと、そこには鼠色に燻んだ細い道が赤いネオンカラーでライトアップされていた。見るからに怪しい雰囲気が漂っており、壁には液体で満たされたカプセルがズラリと並んでいる。カプセルの中には人間の胎児のようなものや人間の背骨のようなもの、臓器、心臓、脳みそ、その他諸々が液体に浸され浮かんでいた。

 

「··········あからさまに違法なことやってそうな場所に来たな」

 

「あからさまも何も、違法行為のオンパレードじゃよ」

 

「··········具体的には?」

 

「クローン人間の生成、クローン人間による個性の人体実験、間引きした犯罪者を使った戦闘試験、犯罪組織から受け取った資金の不正受領、あと他に何かあったかのぉ?」

 

「もういいです」

 

十分耳に届いたので、魔理沙はこれ以上何も聞かないことにした。

 

魔理沙たちは不気味な通路を抜け、地下8階のセントラルゾーンにたどり着いた。ここからさらにドクターと魔理沙たちは移動し、様々な実験室の扉を横目に見ながら歩いているうちにいつの間にか目的の施設にたどり着いた。

 

「··········何だここ」

 

天井がやけに高く、地下とは思えないほど広大なエリアに魔理沙は驚いた。

 

「ここは地下第8階層の中で最も広い試験施設。ここでワシたちは個性因子を導入したクローン人間同士を戦わせ、個性について研究しておる。」

 

「あ、普段はこんなに暗くはないぞ? ワシら年だから滅多に移動することなくて、使わない部屋や通路は節電のために最小限に抑えとるんよ」

 

ドクター殻木はそう言うと、壁に設置された電源装置のレバーを持ち上げ、試験施設内の照明用ライトが辺りを照らした。

 

先程までの暗い雰囲気とはうってかわり、真っ白で無機質な空間が視界を覆い尽くす。よくよく見ると地面には数字と複数のカラーで構成された点線が描かれており、試験施設内における座標を表示しているようだ。

また魔理沙は視線を上に向けると、巨大な2つのスクリーンが存在し、その片方に私の姿と私のパラメーターらしきものが表示されていた。

 

まるでドクターの研究室にある試験室をより大きく、より豪華にした造りに見えた。

 

「さて、何から聞きたい? 思いつかないならワシが適当に話すけど」

 

ドクターはそう言って私の様子を伺った。

 

「··········旅行中、私のこと襲ったヤツを知ってるよな? アイツは何なんだ」

 

魔理沙はあの時のことを思い返し、ドクターに聞いた。

 

「あぁ、アレじゃな。上のスクリーン見てもらえば分かるが、アレはワシが作った人工生命体、クローン人間K427号。見た目がお前さんに似てるのは、お前さんの血を使ったからじゃな」

 

魔理沙はもうひとつの方のスクリーンを見ると、あのとき襲撃してきた化け物の姿と、その上に「クローン人間K427号(担当者:殻木達磨)」と小さく表示されていた。

 

「ワシはここで個性に関する研究を続けてきた。クローン人間の作成は100年前に確立された技術じゃが、倫理的問題を抱えているが故に今まで扱うことが許されなかった。」

 

「じゃが、個性の研究においてこれほどまでに相性のいい技術は他におらず、ワシは人目を忍んでこの技術を学び、ある組織からの資金提供を受けてこの研究施設を作った」

 

「··········その組織って」

 

()()()()()()と最近名乗ることにしたそうじゃが、要するに反社じゃな。そいつらが()()()()を通じてワシに『資金援助するから研究データを共有させてくれ』って言ってきたんじゃよ。ワシ、お金を集める才能が無かったから快く承諾してそいつらから資金援助を受けてな? 規模拡大に成功したんじゃよ」

 

ドクターとヴィラン連合の繋がりが明確になり、結依魔理沙の警戒レベルがグンと上昇した。

 

「刑務所は国が管理してるんじゃ無かったのか? お前みたいな小悪党がどんなに金を積もうと、そう簡単に悪の研究施設を作らせてくれるとは思えないんだが」

 

「ヴィラン連合のトップはたくさんの人脈を持つ人間でな、ここカメリア刑務所の連中や国会議員やらとも繋がっておるんじゃ。施設増設だか何だか忘れたが、一切問題は無かったぞ」

 

ヴィラン連合のトップ、その正体について魔理沙は()()()()()()()()()。このヒロアカ世界において最も巨悪で、邪悪な存在。その名は『オールフォーワン』、オールマイトが持つ『ワンフォーオール』と対をなし、個性の譲渡と剥奪を可能にする個性の持ち主。まさに"裏社会の王"と呼ぶべき存在。

 

「·········じゃあ、何でカメリア刑務所の刑務官がお前のボディガードみたいなことしてんだよ。刑務官全員がヴィラン連合の手下ってわけじゃないだろ」

 

「今この場にいる刑務官は全員ヴィラン連合の手下じゃが、お前さんの言う通りここの刑務官全てがヴィラン連合の手下というわけではない。まぁ、これにはまた別の理由があってじゃな·····」

 

ドクターはモジモジと両手の人差し指をくっつけたり離したりした後、話を続けた。

 

「実は最近、ワシの研究がヴィラン連合とは無関係の人間にバレての··········刑務所の管理責任者に物凄い問い詰められて干されかけたんじゃが··········()()()()()()()()()()()()()()()()がある提案をしてきての、ワシと管理責任者はその案に乗っかることにしたんじゃよ」

 

「··········提案した人とその案ってのは?」

 

「提案したのは確か日本の研究者だったかの? 名前は覚えとらんが。そいつとその関係者が、『K427号を使ってあの化け物を殺せ』と言ってきたんじゃ」

 

「分かっておると思うが化け物というのはお前さん(魔理沙)のことじゃな。ヤツらはアメリカの最高機密(トップシークレット)に記載された重要事項に従ってお前さんを消そうとしたんじゃが、それ関係でこの地下研究施設は重要な問題を抱えておる」

 

魔理沙は息を飲んだ。

 

「お前さんも薄々分かってると思うが、この施設の教育プログラムが整備されてない理由は単に収容者に対して嫌がらせがしたいからではない。手に負えない異能の持ち主をシャバに出すことなく秘匿死刑にするのがこの刑務所の……いや、アメリカの方針だからじゃ。現に危険性の低い地下第2層の連中はちゃんと教育を受けて就職しとるからのぅ」

 

「そんな刑務所じゃが、最近の個性のインフレの激しさについていけず、死刑にしたくても出来ないというジレンマが何年も続いたんじゃ」

 

「特に『支配』と『フルパワー』の異能。ヤツらが収監されてからは収容者の間引きが難しくなってな。徒党を組んで派閥を作り始めた頃には一切手出しが出来なくなった。『支配』の個性の前では並の刑務官など手駒以外の何者でもなく、唯一『支配』の影響を受けない刑務所の番人は彼の持つ『フルパワー』に抑え込まれてしまう。他にも『感覚遮断』や『硫酸ミスト』、『水銀操作』に『不可治癒』、『黄金創造』、『天使(エンジェル)』、『召喚(サモン)』、『病魔』、『悪食』など、ここ最近の収容者は粒ぞろいで誰一人殺せず、収容者は200人に及んでしまった」

 

「そんな時、クローン人間K427号の誕生と、お前さんが現れた」

 

「まずクローン人間K427号は、今まで誕生したクローン人間の中で唯一()()()()()()()()()個体で、異能を6つまで複数所持出来るようになった個体じゃ。そしてお前さんは"あらゆる魔法を扱う異能"、··········というのが嘘なのは最初の実験で分かっておったが、まさかお前さんが彼と似た個性··········『異能を複数所持する』異能だということには驚かされた。ワシビックリ」

 

「さっそくワシはお前さんの血液から異能因子を抽出し、実験としてクローン人間K409号に注入したが、何も起こらなかった。他のクローン人間にも追加で注入したが、そちらも何も起きなかった」

 

「あれほど多種多様な異能を見せて何も無いわけがないと思ったワシは採取した血液から異能に関係しないであろう細胞を取り除き、調整した液体を再びクローン人間にぶっかけた。」

 

「するとクローン人間K424号がおかしくなってな、人間の姿からかなりかけ離れた()()()()()()に変わり果てたんじゃ。これは何かある! と思ったワシはこの液体について調べたんじゃが、今研究室にある最新装備じゃその液体の秘密について解明できなくて、とにかく繰り返しクローン人間に液体をぶっかけてデータを取ったんじゃ」

 

「すると()()()()()()()()()。どうやらその謎物質は異能因子に対してかなり影響を及ぼすことが判明してな。影響といっても色々あるが、ワシが見た現象としては『異能のインフレ化』、『異能の部分特化』、『異能の弱体化』、『異能の秘匿化』などが見られたんじゃ。この謎物質の効果を知った次の日、ワシはクローン人間K427号にその液体をぶっかけた。」

 

「正直、賭けだった。"彼の異能"に適応したクローンなど貴重以外の何物でもないが、それを失う覚悟でお前さんから抽出した液体をかけた。すると、見た目がお前さんに似た感じになった他、6個までしか適応出来なかったはずの異能が50個以上まで適応出来るようになったんじゃ。」

 

「その時に丁度研究がバレて、前の話に戻るんじゃが日本の研究者とその関係者があることを提案した。」

 

「覚醒したクローン人間K427号に研究室で保存したあらゆる異能を注ぎ込み、"現人神"となったクローン人間K427号を使って収容者全員をブチ殺すプランがね。」

 

「··········。」

 

魔理沙は静かに口を閉じ、その後ゆっくり息を吸い込み、吐いた。

 

ハッキリ言って死ぬほどどうでもいい。

「他に聞きたい話はあるか?」

 

「··········今生き残ってる収容者は?」

 

ドクターの話を聞いているうちに地下4層のセントラルゾーンがスカスカだった理由はほぼ察していたが、念のため聞くことにした。

 

「··········そうじゃのぅ、名前覚えるの苦手だから個性名で言うけど、『フルパワー』、『悪食』、『精霊(スピリット)』、『焼夷弾(クラスター)』、それ以外のサンプルは皆死んだかの」

 

「··········」

 

「そう怒るな。お前さんもそいつらに苦しめられてきたクチじゃろ? ワシに当たる理由なんて無いじゃろて」

 

ドクターが私をなだめようとしたが、私は一切表情を変えることなく口を開く。

 

「確かに苦しめられたが、別に殺すほどじゃない。アイツらは確かに犯罪者だが、一部のヤツらは意図せず個性が暴走しただけで、実質被害者みたいなものだし」

 

「ほゥ、魔理沙。いっちょ前にあの人間たちに同情しているのか? 個性に似つかず随分と人間らしいな」

 

「お前らと比べたらな」

 

魔理沙は持っていたドラゴン殺しを右手で持ち、ドクターの方に向けた。

こうなるまでドクターには散々お世話になったが、これ以上ドクターの暴挙を見逃すわけにはいかない。

 

何時でも戦闘に入れる状態に移行した魔理沙。その様子を見てドクターは魔理沙に背を向け、試験管理室の方に向かっていく。

 

「さて、長々と話してもうた。そろそろ最後の実験を始めるとしよう」

 

ドクターが扉の中に入っていくと、自動的にドアが閉じられ、2つのスクリーンと同じ高さの所に存在する試験管理室の中へと入った。そこから安全に観察し、データを取るつもりなんだろう。

 

試験施設内に私一人だけが取り残され、辺りを見回していると、天井から一人の人間らしき物体が落下し、私の目の前に降り立つ。

その風貌はかつて見た全身スケスケの粘性を纏った怪物ではなく、真っ白な服を纏い、顔の黒い部分が消えて本物の霧雨魔理沙のような風貌へと変化していた。

 

魔理沙はこの時、一瞬だけ殺意や憎悪といった感情が消え失せ、"美しい"と、反射的に感じた。

 

「さぁ殺れ、人工生命体クローン人間K427号。殺らなきゃワシもお前も警察に突き出されてジ・エンドじゃ」

 

「··········!」

 

クローン人間K427号は白い翼を展開し、3色の天使の輪が重なって頭上に浮かび上がり、結依魔理沙を本気で潰すべく異能の力を解放した!!

 

 

 

 

 

 

 

To be continued....

 

 

 

 



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巨悪は蔓延る(4.875話)



【あらすじ】

2日目の旅行が中断され、カメリア刑務所へと再び戻ってきた魔理沙。しかしいつも騒がしいはずの地下研究施設第4階層のセントラルゾーンには魔理沙を除いて人がいなかった。

その時ドクターが魔理沙を迎えにやってきたが、様子がおかしかった。話すうちにドクターがこの異変を引き起こした元凶であることが分かり、魔理沙はドクターを捉えようとしたが、人質を取られていた。
そして魔理沙はドクターの案内のもと、地下研究施設第8階層の戦闘試験施設へと向かい、そこで待ち構えていたドクターお手製の最強クローン人間、K427号と戦うことになった。




 

 

 

「さぁ殺れ、人工生命体クローン人間K427号。殺らなきゃワシもお前も警察に突き出されてジ・エンドじゃ」

 

「··········!」

 

 クローン人間K427号は白い翼を展開し、3色の天使の輪が重なって頭上に浮かび上がり、結依魔理沙を本気で潰すべく異能の力を解放した。

 

「来るか……!」

 

 K427号は巨大な翼で空に飛びあがり、指先からレーザーを2発発射しながら魔理沙の方に向かって突撃を開始。

 

「その手の攻撃は全部見切ってんだよ!!」

 

 前回襲撃した際のやり方と大して変わっておらず、魔理沙は軽く首を振ってレーザーを回避し、向かってくるクローン人間に合わせてドラゴン殺し(金属製の大剣)を振り下ろした。

 しかしK427号は大剣を目の前にして怯むことなく突っ込み、左手で大剣を弾き飛ばした。

 

「なッ……!」

 

 身の丈以上の大きさと自身の体重の4倍ほどの重さを誇るドラゴン殺しが弾かれたのも驚きだが、何よりK427号に触れた部分が一瞬で酸化し、新品同然の超巨大大剣がボロボロに崩れたのが衝撃的だった。

 分かりやすく動揺した魔理沙に対し、続けてK427号の魔の手が魔理沙の首元に迫る。迫る右手をよく見ると、汗のような無色透明の液体で濡れており、これがドラゴン殺しを腐食させた原因であると察した魔理沙はとっさにK427号の右手首を掴んで抑える。異常な熱気を放出しているその右手を自分の体に触れさせるわけにはいかない。

 もしその手についた液体が体内に侵入すれば、当然体の内側から腐食し始める。超再生能力によって体の修復は出来ても体内の有害物質を排出することは出来ないため、有害物質が無害なものに変化するまでの間は腐食の効果と再生能力が拮抗する。それ即ち、一時的な再生能力の低下を招くということであり、脆くなったところをレーザー光線で撃ち抜かれればさらに負担がかかってしまう。

 

 一度の攻撃を許すことは戦闘において致命的な悪循環を生む原因になりかねないことを悟った魔理沙は、左手に八卦炉を構えた状態でK427号の顔面に押し付け、エネルギーを充填する。

 

「マスタースパーク」

 

 手加減無しの最大火力で顔面を消し飛ばそうとした魔理沙。これで少しでも怯んでくれさえすればこの膠着状態から抜け出す事ができる。

 だが爆発の煙の中から現れたのは無傷のK427号であった。彼女は一切怯むことなく、まるでお返しと言わんばかりに左手の平にエネルギーを集中をさせ、同じ痛みを味合わせようと画策する。

 膠着状態から脱出すべく、魔理沙はK427号の側面に瞬間移動し、強烈な蹴りを放った。放たれた右足は放物線を描いてK427号の顔面に迫ったが、冷静なK247号は即座に右手でガードし、左手に溜めていたエネルギーを放出。放たれたレーザー光線は結依魔理沙の反応速度を超えて貫通し、遥か後方の壁に吹き飛ばした。

 

 短期間で異様に力を増したK427号。ブロンクス区で戦ったときよりも遥かに強く、反射神経も尋常ではない。

 

「骨が折れるなァ!!」

 

 今まで戦ってきたヤツの中でもかなり強いことを確信した魔理沙は、半端ヤケクソ気味に力強く両サイドの空間をブン殴り、衝撃を与えた。すると空間に大きな亀裂が入り、与えた衝撃は"振動"となって周囲に伝播していく。

 悪魔的な力の影響は水面に落ちた水滴のごとく周囲に広がり、そして"地震"となって建物全体に影響を及ぼす。結依魔理沙が引き起こした地震の規模はとてつもなく、地下8階から地上までの全ての生物が揺れを感じ、特に結依魔理沙がいる地下8階は震度6に匹敵する揺れが発生していた。

 追撃にきていたK427号もあまりの揺れに足を止め、両手両足共に地面につけてしまう。地に囚われた生き物は地震に抗う術はなく、ただただ頭を下げるのみ。

 そして唯一地震の影響を一切受けていない魔理沙はこの隙に身動きの取れないK427号に近づきながら時間を止めた。

 

 

 

「食べた相手の能力をパクる程度の能力」、その力は個性だけにとどまらず、あらゆる世界の法則・ルールを無視して異能力を獲得する能力。ストックできる能力は無限であり、シンプルに食べれば食べるほど強くなる他、能力のストック数が増えれば増えるほど攻撃の手数や組み合わせのバリエーションが増大する。

 

 地面に這いつくばって動けないK427号に近づき、首根っこを掴んで持ち上げる。時間停止は相手の動きを封じることに関してはかなりのオーバースペックだが、敵を倒すとなると結局はフィジカル頼り、または武器頼りになってしまう。

 だからDIO様にはザ・ワールドという近距離パワー型スタンドと、射程と能力の時間制限をカバーするためのナイフを常に所持している。したがってザ・ワールドの真骨頂は時間停止ではなく、圧倒的なスタンドパワーこそザ・ワールドの真価であることが最近分かった。DIO様も不死身不老不死スタンドパワーを強さの理由にしていたが、そこに"時間停止"が含まれていない。つまりそういうことである。

 

 そして異形魔理沙の「食べた相手の能力をパクる程度の能力」において、時間停止は親和性があるなんてレベルではない。時間停止=勝利、と言っても過言では無いほど相性が良すぎる。

 

 まずこの世には、"普段当たらないけど当たれば勝つ技"や、"直接相手に触れなければ発動しないが発動すればほぼ勝つ能力"というものが存在するが、時間停止はそれら全てを"必中"にしてしまう。必ず当たって必ず敵が死ぬ必殺技を、相手は対策の余地すら残さずくらい、意識が戻った頃には死んでいる。

 

 魔理沙の背中から白い翼が片翼だけ生え、重ねて能力を展開したまま一言告げた。

 

「必中ハサミギロチン」

 

 言霊の力による確率の逆転現象。言及をトリガーとした運命遡行。あまりに危険すぎて普段は使わないが、厄介な敵を一撃で葬りたいときだけ解禁する禁断の逆転能力。

 

『口に出すと事態を逆転させる程度の能力』

 

 運命が逆転した状態で魔理沙が指を鳴らすと、K427号の真下から白く巨大な甲殻類のハサミのようなものが現れた。だが静止した時の中では結依魔理沙以外の存在は動くことを許されず、挟む寸前で動きが停止する。

 

「さよなら」

 

 

 

 時間が元に戻った瞬間、巨大なハサミが容赦なくK427号の体を挟み込んだ。

 

【一・撃・必・殺・!】

 

「アアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!」

 

 大量の血液を放出しながら絶叫し、のたうち回って地面に倒れ込む。自分と全く似た姿の人物がこんなに痛たましく散っていくと、我ながら寒気がよだつ。

 

 その後K427号はピクピクと身体を震わせ、そして静かに静止した。

 

「ふぅ」

 

 魔理沙は禁止級の逆転能力を解き、元の姿へと戻った。これでドクターが起こした事件はほぼ解決。後はドクターとその関係者をとっ捕まえ、両親か警察に突き出してしまえば後はどうにかなるだろう。もちろん私の個性に関する情報はまるごと消してから。

 

 因果逆転能力は流石に魔法の範疇を超えてるので、口外されるわけにはいかない。

 

「バ……、バカなッ!? ワシの最高傑作がぁッ!?」

 

「次はお前だ、ドクター」

 

「待て、こっちに来るな! 来たら人質を殺す!!」

 

「エレベーターに乗った時からもう人質の位置は特定している。手ぇ出した瞬間私が真っ先にそいつらブン殴って容赦なく吊るしあげるぞ」

 

 ジリジリとドクターを追い詰める魔理沙。だがその背後で真っ二つに切断されたはずのK427号が蠢き、再生能力によって切断面同士が結合し始めていた。

 

「まだ生きてんの!?」

 

 振り向いた魔理沙が今日一驚いた表情でK427号を見た。「がんじょう」持ちだろうと常時「かたやぶり」状態の私のハミチンを防ぐことなど、霊体にでもならない限り不可能だというのに。

 

「いいぞクローン人間K427号! 結依魔理沙を殺せ!!」

 

 希望が見えたおかげか、それとも結依魔理沙に追い詰められてヤケになっているのか、ドクターは興奮気味にK427号を応援し始めた。

 

 K427号は血を吹き出しながら切断されたというのに何故か生きている。とはいえ本来のハミチンはあくまでヒットポイントをゼロにするだけで、確かに殺すことはない。

 だが今回は心を鬼にし、確実に殺せるよう威力調整をした。なのに生きている。調整失敗したか、あるいは挟む寸前で回避され、掠っただけで済んだのか。

 

「あ」

 

 その時、魔理沙は気づいた。時間を止めた際、『口に出すと事態を逆転させる程度の能力』を解除する前に、「さよなら」と言ってしまったことを。

 

 これにより「 さよなら」が起きる状況、それを作り出す運命に逆転現象が発生し、さよならが起きない状況へ逆行した。つまり0.0001%の生存確率が99.9999%の確率に転じてしまったのだ。まさに"口は災いの元"である。

 

 運命逆転能力の使用はこれが初めてだったが、さっそく失敗した。初めてだからしょうがないと言えるかもしれないが、これは保有する能力の中でも極めて危険な概念系能力のひとつ。もう少し慎重にやるべきだった。

 

「いや、逆に殺さず生かせたことを喜ぶべきか? でもアイツの持ってる個性の中に私の個性が入ってたら困るし、将来人に害を与えそうだし……」

 

 魔理沙が悩んでいる間、K427号は再生を完了し魔理沙に目掛けて両手の平を向ける。すると肩と腰からも手が2本ずつ生え、合計6本の手の平に炎、雷、氷、熱光線、暗黒物質、波動エネルギーの塊のようなものを形成し始めた。

 想像の範疇を超えた時は動揺したが、ある程度力量を把握できるようになった今では一切動揺を見せない魔理沙。出来ることなら最初の時点で相手の力量を把握し、適切な対処方法を考えられたらベストだったが、こういうのはもう場数を踏んで慣れていくしかなさそうだ。

 

 K427号は6種類のエネルギー砲を充填し、並の人間なら即死するレベルの攻撃を結依魔理沙に向けて同時に放った。だが結依魔理沙はサッとエネルギー光線の方に振り向き、両手を肩に対して平行になるように曲げ、指の先端を胸の中心に当てた。すると、放たれたエネルギーの全てが魔理沙の胸の中心に吸い込まれ、両手と胸にエネルギーがそのまま充填された。

 

「さよなら」

 

 魔理沙は充填されたエネルギーを数万倍に増幅し、波状に分散した熱光線をK427号に向けて両手から放った。反応速度を大きく上回った圧倒的な速度を前に回避しきれず、K427号は熱光線の直撃を受けてしまう。その一撃はK427号の全身の血液を一瞬で沸騰させ、直後大爆発を引き起こした。

 

 これが光の巨人すらも倒した最強のカウンター攻撃。その名も『ゼットンファイナルビーム』。食らったものはたとえ宇宙人であろうと為す術なく爆散する。

 

 正直ギリギリまでクローン人間を生かすべきか殺すべきか悩んだが、やはり殺しておくのが無難だと判断した。心がまともな人間がいてその人が管理してくれるならそれでよかったが、今この場にいる人間は私含め全員ロクデナシなので誰も彼女を正しく導けない。なので責任もって私が殺した。後悔はない。

 

 塵も残さず木っ端微塵に破壊され、ドクターは口をあんぐりと開けたまま床にへたり込む。意識は残っているものの、あまりの衝撃で言葉を失ってしまったようだ。

 

「正直、エネルギー光線より硫酸バラ撒かれた方が面倒だった」

 

 魔理沙はそう一言だけ残すと、ドクターのいる部屋に瞬間移動し、取り巻きの刑務官をゼロコンマゼロ秒で処理した後、ドクターの首根っこを掴もうとした。

 刑務所の連中に思い入れがあった訳では無いが、ここまで派手にやらかしてくれた以上タダで返すわけにはいかない。ヴィラン連合の関係者であるならなおさら。もし連中がドクターのことを恨んでいたのなら、私が代わりに死神役を務めてもいいと、この時までは思っていた。

 

 だが、首を掴む直前で魔理沙はドクターの世話になったあの日々を思い出した。研究室を訪れる度にお茶を出してくれたことや、何度も個性の使い方や体の動かし方をレクチャーしてくれたこと、帰る際には「またのぅ」と言いながら手を振られ、私を()()()()として見てくれたこと。そういった日常の積み重ねが、私とドクターの間にはあって、たとえそれがまやかしであったとしても、捨てるには惜しい幻想だった。

 

 魔理沙は一旦ドクターから離れ、指を鳴らした。すると、遠くのどこかのホテルにて、人質の近くにいた刑務官の頭上に雷魔法(サンダーボルト)の魔法陣が形成され、刑務官に直撃した。

 

 ようやく後腐れなくドクターと1体1で話せる機会を設けることが出来た。なので魔理沙は改めて、ドクターに質問することにした。

 

「ねぇ、ドクター」

 

「…………」

 

 ドクターの焦点はいまだあらぬ方向を定めている。

 

「何で個性の研究を初めたの?」

 

「…………」

 

 ドクターは口を開いたまま何も喋らない。

 

「何で、こんなことに手を染めたの?」

 

「どうして?」

 

 魔理沙は知りたかった。嫌われ者の私を利用してまで叶えたかった、ドクターの真意を。私は聞かなければならないと感じた。

 ドクターは開いた口を塞ぎ、ゆっくりと視線を上から下に向けると、ボソリと呟いた。

 

「…………可能性を、………見たかった」

 

 ドクターの目に、僅かだが生気が戻った。

 

「人間の、可能性を。人と個性が、共存できる未来を…………見たかった」

 

「………………ただ、それだけじゃ」

 

 ドクターはそう言うと、全てを諦めたのか床に伏せ大の字で寝た。

 

「………そう」

 

 魔理沙は読心能力でドクターの本心を覗きながら、ドクターの想いを受け止めた。ドクターの言っていることは嘘偽りなく、本心そのもので、本気で人間の可能性を探っていたようだ。

 

『個性終末論』が世界中に広まった際、多くの人々が将来を不安視する中、ドクターだけは希望を見据えていた。混ざり合い、進化する性質を持つ個性は人類をさらなる高次元的存在へ押し上げ、人が神と同等のステージへと至る究極の要素であると感じたドクターは、人間がどこまで高みに至れるか模索するべく、より一層研究に打ち込んだ。

 しかし、『個性終末論』は"起こりえない現実"、"根拠の無い妄想"であると言われ、それが広まった結果、ドクターが思い描いた形とは別の形で人類は希望を得ることになった。それ即ち、ドクターの希望は一般社会のミームによって潰されたのだ。

 上昇思考の強いドクターは世間に自身の野望を邪魔されたことを酷く憎み、ロマンも何も無い害悪ミームで自ら可能性を捨てた愚かな人類に、絶望した。

 それが、ドクターをマッドサイエンティストに変えてしまった理由の全て。

 

「なぁドクター、よく見てくれ。あんなクローン人間なんか作らなくても、私の存在そのものが人間の未来そのものだと思わないか?」

 

 魔理沙はドクターの横で体育座りをしながら、話を続けた。

 

「こんな、一人の人間じゃ到底背負いきれないほどの能力を持った私でも、それなりに社会の中で生きている。それは、ドクターが望んだ理想の世界としては一番近い姿じゃないか?」

 

「…………理想」

 

 ドクターは顔を上げた。するとそこには顔が真っ黒で、先程まで戦闘していたとは思えないほどピンピンに元気な、笑顔の少女がいた。

 魔理沙が人類の到達しうる頂点、これこそドクターが望んだ人類の姿、神へと至りし者の姿。そう言われると、何だか本当に魔理沙が理想の存在に見えてくる。

 

「違うな」

 

「?」

 

 ドクターは静かに笑うと、私に向けてハッキリと言った。

 

「魔理沙は、ワシの理想じゃない。お前はワシの想像すらも遥かに超えた、人間の理すら超越した正真正銘の化け物じゃよ。ワシらはお前さんのようにはなれん」

 

「………あ、そう」

 

「あと何がそれなりに生きてるじゃ。ワシと関わってる時点でお前さんはもう表社会の外れ者。ドベの中のドベじゃよ」

 

「うわ酷い」

 

 少しはドクターの励ましになるかと思って言ってみたが、全然効果無かった上に毒まで飛んできた。やはりドクターは天然モノの私より人工生命体のアイツの方がお好きなよう。ブチ壊したけど。

 

 結局、ドクターは変わらなかった。ぶっ飛ばせば少しは改心するんじゃないかと淡い期待をしていたが、人はそう簡単に変わるものではないらしい。

 

 現実は、漫画やアニメのようにはいかないのか。

 

「じゃあ、記憶は消させてもらうよドクター。消す範囲は私の能力に関すること全て。それと身柄も一応確保するから、抵抗したら許さないよ?」

 

「はよやれぃ」

 

 私は床に突っ伏したまま動かないドクターの頭にそっと触れ、正確に記憶を消すべく読心能力を発動しながら忘却魔法(オブリビエイト)を唱えようとした。

 

 だが、忘却魔法を唱える寸前で()()()()()()()()()が結依魔理沙の左肩と胸全体に突き刺さり、押し出されるような形で壁に叩きつけられた。

 

「な……ッ!」

 

「記憶を消すなんて、随分と非人道的行為じゃないか。魔理沙ちゃん」

 

 黒い枝のようなものはドア越しから貫通しており、相手の姿は未だ見えないまま。だがその声の低さと、他の人間とは明らかに違うオーラのようなものを感じ、魔理沙はドアの向こう側にいる人物から目を離さないでいた。

 

「入るよ」

 

 ドアを押し倒され、その者は姿を現した。身長はかなり高く、低く見積っても190cm以上。いや今までこれほどデカイ人間に出会ったことが無かったから想像つかないだけで、もしかしたら200cm以上あるかもしれない。服は黒いスーツで一見ただの会社員のようにしか見えない。だが首周りの筋肉と上半身はかなり鍛えられており、そこらへんの一般男性とは違った、"屈強な成人男性"というイメージを強く意識させる。しかし顔は典型的な中年の日本人男性で、心做しかパパのような温かい雰囲気を感じさせる。

 

 だが全体として見るとあまりに異質で、優しそうな顔すら仮初のように見える。胡散臭さと邪悪さを足して2で割らずに倍にしたかのような、明らかに危険そうな人間が今、魔理沙の目の前に立っていた。

 

「お前は……誰だ。何で私の名前を知ってる……?」

 

「僕かい? 僕は()()()()()()()()。そこで倒れてるドクターのお友達さ」

 

 オールフォーワンはニッコリと笑った。より一層、邪悪さが増した。

 

「キミのことについてはドクターから聞いたんだ。僕と同じで、たくさん能力を持っているそうだね? 初めて聞いた時は驚いたよ」

 

「非血縁者だが同系統の能力、同じ日本人、そして僕は男でキミは女の子、何か運命的なものを感じないかい?」

 

「気持ち悪い」

 

「冗談じゃないか魔理沙ちゃん。僕が本気でキミのことをそういう目で見るわけが無いだろう? 年上の方が好きだし」

 

 オールフォーワンは軽口を叩くと、地面に倒れているドクターの襟の部分を掴み持ち上げた。

 

「……ドクターをどうする気だ!」

 

「彼はキミのことを知る上で貴重な存在だからね、もちろん回収させてもらうよ」

 

 オールフォーワンはドクターを別の場所へ転送すべくと個性を展開したが、魔理沙はオールフォーワンの注意が逸れた瞬間に乗じて液状化し、拘束から抜け出してオールフォーワンの腹部に回し蹴りを放った。

 

「衝撃反転」

 

 しかしオールフォーワンは回し蹴りを片手で受け止め、それと同時に能力を発動した。壁に陥没させるほどの威力で放った回し蹴りは能力の影響によって反転し、自分の元に返ってくる。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

 自身の蹴りの衝撃をモロにくらった魔理沙は吹き飛ばされ、再び戦闘試験施設のど真ん中に落下した。

 

「随分と強く蹴ったねぇ魔理沙ちゃん。キミは見た目以上に筋肉が多いのかな?」

 

 オールフォーワンはドクターのいた部屋から飛び降りた……わけでもなく、まるで階段を降りるかのごとく空中を闊歩していた。これもまたオールフォーワンのもつ能力の一つ。オールフォーワンは魔理沙と同様、あらゆる異能を持ち合わせた人間の一人だった。

 

「……ドクターはどこだ」

 

「ドクターならもう別の場所に転送させたよ。残念だったね」

 

 オールフォーワンは結依魔理沙と同じ土俵に立ち、立ち上がった結依魔理沙の目線に合わせてオールフォーワンはしゃがみ込んだ。

 

「これで僕の仕事はもう終わったが、最後にキミと遊ぶのも悪くないかと思ってる。どうだい?」

 

「……タダで帰れると思うなよ、オールフォーワン」

 

「んー、あくまで"遊び"だから、僕としてはあまり本気を出さないでほしいかな。近々オールマイトとの決戦が控えているから、万全な状態で迎えたいんだ」

 

「お前の事情など知らん」

 

 魔理沙は一歩足を踏み出すと、オールフォーワンの足元に氷結魔法(マヒャデドス)の魔法陣が形成され、地面に流し込まれた魔力を起爆剤に一瞬でオールフォーワンの肉体を凍結させた。

 その後魔理沙は指先から爆裂魔法(イオナズン)を放ち、氷諸共爆発で消し飛ばした。

 

 しかし煙の中から破壊光線が飛来し、魔理沙はギリギリで回避したものの、続け様に牙の鋭い小型の魚を弾丸の如く放ち、魔理沙はいったん距離を取りながら全ての魚を叩き落とした。

 

「キミ、結構動けるんだね。とても4歳には見えないなぁ」

 

「よく言われる」

 

 煙の中から姿を現したオールフォーワンは個性『エアウォーク』を利用した変則的な動きで魔理沙の属性魔法を全て回避し、『筋骨発条化』『膂力増強』『肥大化』『鋲』『槍骨』を組み合わせ凶器と化した巨大な腕で結依魔理沙をブン殴った。

 

「フルカウンター」

 

「衝撃反転」

 

 オールフォーワンの攻撃を倍にして返した魔理沙だったが、『衝撃反転』により倍にした攻撃が自分へと返ってくる。今まで自分以外にカウンター攻撃を仕掛けてくる人間は存在しなかったため、慣れない魔理沙はそのまま直撃をくらって試験施設の壁に激突。想像以上の威力に魔理沙の顔が壁に陥没したが、魔理沙は実質無傷であった。

 

「あの氷といい爆発といい、キミはかなり良い個性をストックしているようだね。僕と似た反射の個性もさることながら、キミ自身の戦闘能力も高い。敵にするのが非常に惜しい」

 

「……そいつはどうも!」

 

 壁から抜け出した魔理沙は地面を蹴り飛ばし、オールフォーワンが反応するよりも先に目の前まで距離を詰めた。そのまま右拳のストレートを顔面に当てようとしたが、オールフォーワンが体を引いて右手で顔面を防ぐ瞬間に魔理沙はオールフォーワンの背後に短距離ワープし、プランクブレーンから取り出したエレジェント・ジェリイでオールフォーワンの背中を切り刻んだ。

 

 エレジェント・ジェリィによって流し込まれた微量の神経毒はオールフォーワンの神経系に作用し、動きを鈍らせる。その隙に魔理沙は再び短距離ワープでオールフォーワンの正面からラリホーを唱え、オールフォーワンの眠気を誘い、さらに魔理沙は複数回拳と蹴りで翻弄した後、オールフォーワンの頭上にワープし、最大出力のマスタースパークを放つ。だがしかしオールフォーワンの個性が自動的に自身の周りに球状のバリアを展開し、マスタースパークを防ぎ切った。

 

 魔理沙はオールフォーワンから少し離れた位置にワープし、様子を伺う。黙っているだけでオールフォーワンは眠りこけ、神経毒によってまともに体を動かせなくなるはずだが、オールフォーワンは何食わぬ顔で立ち尽くし、結依魔理沙を見据えていた。

 

「麻痺に睡眠とは、まるで狩人(ハンター)のようだ。 解毒の能力と交感神経を活性化させる能力が無ければあのままやられていたよ」

 

「それにキミのワープする能力、とても素晴らしい。戦闘に応用出来る程度には条件が緩く、強いて言うならば短距離でしか発動出来なさそうな所が弱点と言えるが、それを加味したとしてもその能力は有用だ。是非その能力を僕に渡してくれないかな?」

 

「やだ」

 

「なら、力ずくで奪わせてもらおう」

 

 オールフォーワンは指先から5本の黒い爪を伸ばし、結依魔理沙の肉体に目掛けて解き放つ。魔理沙はてっきり枝だと思っていたが、爪から伸びていたことにやっと気づいた。

 迫り来る黒爪に対し結依魔理沙は回避せず、2本の黒爪だけを抑えて残り全ては結依魔理沙の胸部に突き刺さった。

 

「? 抵抗しないのかい?」

 

「そりゃもちろん。ただ、私もその爪を伸ばす個性が羨ましいから、()()()()()()()()()()()ってね」

 

 黒爪を通して結依魔理沙から何かが吸われる最中、結依魔理沙も黒爪をへし折り、口に放り込んだ。

 

オールフォーワン(個性を奪う能力)

 

【食べた相手の能力をパクる程度の能力】

 

 互いに互いの能力を奪い、パクる。オールフォーワンは魔理沙のワープ能力を、結依魔理沙はオールフォーワンの黒爪の能力を。

 しかしオールフォーワンは魔理沙のワープ能力を獲得出来ず、逆に魔理沙はオールフォーワンの黒爪の能力をパクった。

 

「奪えない……!?」

 

「そりゃ当然……!」

 

 魔理沙は右手からオールフォーワンと同様に5本の黒爪を伸ばし、向こうの壁まで押し込みめり込ませた。その力は異様なまでに強く、オールマイトに匹敵するほどの力を持つオールフォーワンですらまともに身動きが出来ない。

 魔理沙はオールフォーワンの個性を使いながら、オールフォーワンに個性を奪えなかった理由を告げた。

 

「だって、()()じゃないし」

 

「個性……じゃない…………?」

 

 オールフォーワンは魔理沙の言っている意味を理解できなかった。別に"異能"の言い換えが"個性"であることは当然わかっているが、()()()()()()というのがどういうことなのか分からなかった。言葉通りの意味に解釈するなら、魔理沙のワープ能力は異能因子とは全く関係ない別の代物ということになるが、そんなファンタジーな現象が現実にあるわけがない。

 なら結依魔理沙の個性が、ワンフォーオールと同様に()()()()()()()()ならどうか。個性の中にある何かしらの意思が抵抗し、オールフォーワンの力を退けたという可能性。だがオールフォーワンの能力は絶対、たとえ意思があろうとなかろうと強制的に奪うことが出来る。

 ならばドクター殻木が出した、『個性終末論』の到達点の話か? 混ざりに混ざりあった強大な力に体が適応しようとすることで、個性は個性でなくなる、という理論。彼女がもし僕らよりも先を行った存在だとしたら、奪えなくなった理由も理解出来る。

 

 しかし彼女はその話を知っているのだろうか。彼女の言葉に嘘は無かったが、あの話し方は知っている上での態度ではなく、知らないが故のもの。彼女は感覚的に到達点に至り、それを自覚しているのだろうか。

 

 いずれにしても、厄介なことに変わりは無いが。

 

「どうやらキミから個性を奪うのには手順が必要そうだ」

 

 オールフォーワンは魔理沙の黒爪を力技でへし折り、全身から黙々と白いモヤを噴出した。

 

「霧?」

 

 戦闘試験施設が僅か数秒で霧が充満し、自分の足元すらボヤけるほどの濃い霧が視界を覆う。これで肉眼は使いものにならなくなったが、魔理沙は相手の生体エネルギー、"波動"を感知することができるため両目を潰されたとしても相手の位置を把握することが出来る。

 しかし、波動で周囲の反応を探ってみたものの、オールフォーワンの姿は見当たらなかった。部屋の隅にも、ドクターがいた部屋にもいない。試験施設は私以外に誰一人としておらず、完全にボッチとなってしまった。

 

 奇襲を疑い、しばらく精神を集中させたが何も起きず、魔理沙は変わらず一人のままだった。

 

「逃げた?」

 

 本気で見失ってしまった魔理沙はさらに索敵範囲を広げ、地下8階層全域にわたってオールフォーワンを探したが、見つからなかった。

 ならば地下7階層、6階層、5階層と順々に調べたものの、手がかりひとつ見つからなない。しかし第4階層を調べた後、第3、第2階層をすっ飛ばして第1階層を探ると、意識を失った数十人の刑務官の倒れた体とオールフォーワンを目撃した。

 わざわざ第1階層に移動した理由は分からないが、とりあえず魔理沙はオールフォーワンを追うべく第1階層に瞬間移動しようとした。

 だが、波動の力でオールフォーワンの動きを捉えた時、魔理沙の視界に映ったのは、オールフォーワンによって首を絞められ、身動きの取れない父の姿だった。

 

「父さん!!?」

 

 何が何だかよく分からないまま、魔理沙は第1階層に瞬間移動し、オールフォーワンの凶行を止めようとした。

 

「やめてッッ!!!!」

 

 思考を纏める余裕がない魔理沙は、ただひたすらに父に向けて手を伸ばし、悪魔の手を払い除けるよう動いた。ここで冷静になることが出来れば違ったかもしれないが、初めて家族の身に危険が迫ったことで魔理沙の視野は狭くなっていた。

 

 だがその僅かなミスが、魔理沙を精神をさらに揺さぶるきっかけになるとは、思わなかった。

 

 ボキッ

 

 目の前で、首の骨が折られた。あまりにも容易く。魔理沙の手が届くよりも先に。誰の首の骨が折られた? それは誰よりも魔理沙が理解していた。魔理沙は分かっていた。

 

「…………あぁ! 魔理沙ちゃん。ここが分かるとは流石だね。でも大丈夫、お父さんはもう死んだから」

 

 オールフォーワンの腕から離れた父は首の骨を折られ、血を吐き続けながら浅い呼吸を繰り返していた。

 

「…………ぅあ"!!」

 

 魔理沙は脇目も振らずに父の元へ行き、上体を起こして喉に溜まった血液を胃の方に流させる。オールフォーワンの狙いが一瞬で理解できたが、そんなことよりも父の命の方がよっぽど大事で、今すぐにでも回復魔法をたくさんかける必要があった。

 

「させないよ?」

 

 オールフォーワンは『肥大化』『筋骨発条化』『膂力増強×3』『伸縮』『鋲』『鋲突』『槍骨』……以下略の個性で結依魔理沙を壁に押さえつけ、無慈悲に父から引き剥がした。流した涙は宙を舞い、誰にも拭かれることなく地面にポツリと落ちる。涙はまだ流れる。今すぐにでも回復魔法をかけないと父が死んでしまう。だというのに手が届かない。

 

「魔理沙ちゃん、今とても動揺しているね? 実の父親が死にそうになって、今すぐにでも助けたい気持ちでいっぱいなんだろう? でも残念だね、キミには救えない」

 

「キミにはそこで、人生初めての"敗北"を味わってもらう。僕よりも強いキミが全く手出し出来ないまま、目の前で愛する父親を失う姿を、僕に見せてくれ」

 

 負ける、敗北、父が死ぬ、回復させる、届かない、殺す、父を救う、回復させる、動けない、父を救う、回復させる、父を…………

 

 オールフォーワンに心を煽られ、冷静さを失った魔理沙はただ父親を回復させることのみに集中し、他全てのあらゆる思考を振り払った。

 躊躇わなくなった魔理沙はまず『現断(リアリティスラッシュ)』で自身を押さえつけていたオールフォーワンの腕を空間ごと切り裂き、拘束を解除した直後、右腕に小さな玉のようなものを形成した。

 オールフォーワンは最初その玉を警戒していなかったが、魔理沙がその玉を握り潰そうとした瞬間、オールフォーワンは本能で危険を察知し魔理沙の右腕を手刀で切り飛ばした。

 今、魔理沙が何をしようとしていたのか、オールフォーワンは理解した。先程まで冷静に対処していた彼女とは異なり、彼女はただただ本能(個性)のままに敵を殺そうとしていることを。

 

「短気だね、魔理沙ちゃん」

 

 オールフォーワンは逃げる算段を考えるが、それ以上に結依魔理沙の魔力が尋常ならないほどに昂っており、無視できないレベルのエネルギーが彼女を中心に集まっていく。

 

「…………撤退だね」

 

 オールフォーワンは魔理沙の父を掴んだ際、魔理沙同様"ワープ"の能力を持っていることが分かった。なのでその力を奪って彼女の攻撃が届かないところまで逃げ切ることが出来れば、命だけは最低限助かる。

 

 結依魔理沙はまだ精神的に青臭いものの、冷静になった時の状況判断能力はそれなりにある。僕並に個性の扱いに長けている以上、変に引き込もって策を考えられるよりかは、怒りのままに追ってきてくれた方が都合が良いのかもしれない。

 なので個性を奪いつつ、彼女の父も回収しながら逃げることが出来れば、彼女は必ず僕を追う。世界中に隠れ家を持ち、各国にツテがある僕と違って彼女はただのただの脱獄犯。僕が世界を飛び回っても問題無いが、彼女は問題しか起こさない。各国のヒーローや警察の包囲網に絡まって身動きが取れなくなるのは明白だろう。

 上手く行けば彼女を暴走させつつ、国際社会の管理下に縛れるかもしれない。だがここの逃げ切りが失敗すれば、オールマイトとの決戦を迎える前に僕が死ぬ。結依魔理沙がオールマイト以上に危険である以上、やはり彼女の父を回収するのは止むなしといったところか。

 

 個性を奪うことを念頭に置いていたが、意識を失っている今なら『個性強制発動』で逃げてから奪った方が手っ取り早い。時間としては3秒ほどだが、それまでに結依魔理沙が攻撃してくるか否か。

 

「個性強制発動」

 

 オールフォーワンは魔理沙父の体に触れ、秘めた力を解放させた。これは賭けだ。リスクとリターンを考えれば圧倒的にリスクの方が高いが、彼女を弱体化させる数少ない手段と思われる以上、やらないわけにはいかない。

 

 オールフォーワンと魔理沙父の姿が消え始めようとした時、膨大に膨れ上がっていたはずのエネルギーの気配が一瞬、跡形もなく消えた。

 ゼロコンマイチ秒、その僅かな時が、ゆっくりと流れる。世界がまるでスローモーションのように変化し、オールフォーワンの感覚は今まで以上に研ぎ澄まされていた。

 

 そして彼女は、一瞬で目の前に現れた。膨大なエネルギーを未だなお膨らませながら、確実に敵を見据えて拳を繰り出す彼女の姿が瞳に映った。

 

 ワープ完了まで残り0.76秒、だが感覚的には10分以上引き伸ばされている気がして、オールフォーワンは初めて息を飲んだ。触れれば確実に"死"を覚悟する一撃が、もう鼻の先まで迫っている。

 こんな感覚は今まで一度もなかった。自分こそが絶対的な王で、"死"とは無縁の生活を送っていたが、人生で初めて"死"を意識した。

 

 初めて、純粋な能力で負けた気がした。だから何だという話だが、何となく無性に腹が立った。

 

 

 

 

 

 エネルギーが破裂した。

 

 

 

 

 

 結依魔理沙の一撃が周囲の物体を破壊しつくし、地面を捲り上げ地上すらも破壊し尽くした。波状に伝播していった破壊のエネルギーはカメリア刑務所の地上施設を崩壊させ、壁の大部分を消し飛ばし、刑務所を囲む湖にも影響を及ぼて津波を発生させた。さらに周辺の建物やビルも倒壊し、大量の窓ガラスが割れた。

 

「…………」

 

 カスった。オールフォーワンに直撃をくらわせることは出来なかった。だから死んではいない。

 

 魔理沙は拳に付着した埃を払い、散乱した瓦礫を蹴り飛ばして座れるスペースを作ると、ペタンとそこに座り込んだ。

 

「…………やっちゃった」

 

 怒りのままに、本気でブン殴ってしまった。他にもたくさん人間がいるというのに、後先考えずにやってしまった。

 地下第1階層とはいえ、天井ブチ抜けて地上の光が降りそそぐほどの威力、多分地上の方もとんでもない事になっている。もうじき第3、第5階層に常駐している警備員や番人たちがここに来るだろうし、地上のヒーローや警察たちもここに来る。

 それも大変だが、手負いのオールフォーワンを逃したあげく瀕死の父を持ってかれたのが一番キツい。あそこでもっと冷静に、落ち着いて行動出来れば、こんなことにはならなかったはず。

 

「追わなければ」

 

 まだ攫われてから時間は経っていない。今からオールフォーワンの位置を特定して瞬間移動すれば間に合う。そう思った魔理沙だが、足を踏み出す寸前で一歩、後ろに下がった。

 魔理沙には後ろめたい気持ちがあった。ここまで刑務所と地上に被害を出しておいて、何もせずにほっぽり出すことなど、魔理沙の正義感が許さなかった。

 しかし私は父は取り戻さなければならない。でも罪と罰がそれを許さない。ただでさえごちゃごちゃな頭が、さらにごちゃごちゃになって整理できない。やるべき事が定まらず、魔理沙はただ瓦礫に囲まれた空間で大人しく座ることしか出来なかった。

 

 その時、ボンッ!! と派手な音を立てながら瓦礫が宙を舞った。敵か何かが下から来ていると察した魔理沙は音のした方を見つめていると、見知った顔が出てきた。

 

「よォ、化け物。随分と派手にやったなァ」

 

「……レヴォ」

 

 現れたのは戦闘狂にして組のリーダー、レヴォだった。

 

「お前のおかげで仲間殺しのクソ野郎は死んだし、さっきの衝撃で施設のメインシステムがダウンした。おかげでこの腕輪も外せたし、俺も脱獄成功ってわけ」

 

 レヴォは魔理沙にグッドサインを送ったが、魔理沙は相変わらず落ち込んでいた。

 

「? 何かあったか?」

 

 珍しくレヴォが心配した。魔理沙はその心配に応える形で、ボソリと呟いた。

 

「…………やらかしたんだよ。今までやってきた事が全部無駄になるようなことを。私はもう、ダメだ」

 

「オイオイ、そんなに落ち込むかァ? これから生き残った連中集めて脱走パーティとか出来るってのに? ま、そんなに生き残ってねェけど」

 

「それともアレか? ここの連中に迷惑かけたと思って反省でもしてんのか? オマエ本当にクソ真面目だな」

 

「クソ真面目……?」

 

「あぁクソ真面目だな。真面目すぎてオマエの個性が泣いてる。もっと暴れさせてくれェ〜〜ッてな」

 

 魔理沙は一瞬理解した。コイツは人の心を全く理解できない人間なのだと。

 自分が今抱えているものをぶち撒けたところで、この男は一切理解しないし無意味であることは分かっているが、魔理沙は話を続けた。

 

「別に連中はどうでもいい。だが、どういう形であれ我を失って力をブッパして何もかもブチ壊したのは事実。それ相応の処罰は受けるべきだ」

 

「けど、それ以上に私は父さんを、オールフォーワンに取られた。個性もドクター経由でバレたし、このまま逃がすと色んな意味でとんでもないことになるのは目に見えてる」

 

「だから私は追わなくちゃ行けない、……けど、何も言わずにここから出たら私は脱獄犯。ルールに従って、私は完全なヴィランとして全世界と敵対することになる。そうしたらもう、家族との生活は送れない。日本にも戻れない。どのみち、私は社会的に死ぬ」

 

「…………あの時、落ち着いていれば……」

 

「…………」

 

 普段の気丈な雰囲気とは思えないほど萎れた魔理沙に、レヴォは若干笑いを堪えるのに必死だった。

 だがそれはそれとしてレヴォにはある違和感があった。レヴォがもつ魔理沙のイメージはまさに"万能の化身"、"何でもできる悪魔"といった感じだったが、この状況を覆す何かを持ち合わせていないのか疑問であった。

 

「魔理沙、オマエ、この状況を変える能力とか無いのか?」

 

「……は?」

 

「例えば……ん〜〜そうだな、ここの瓦礫を全部修復する能力とか、逃げたオールなんちゃらをここに連れ戻す能力とか」

 

「あとは〜〜、……! ()()()()()()()()()とかな!」

 

「………そんな能力があったらとっくに……」

 

「…………」

 

 魔理沙は深く考え込むと、ポンと手を叩いた。

 

「あったわ」

 

「あんのかよ!!」

 

 レヴォはあくまで「こんな能力があったらいいなぁ」、くらいの感覚で適当に言っただけだったが、どうやら本当にあったらしい。流石化け物、何でもありとはよく言ったものである。

 

「ただ、ノーデメリットで時間を戻す能力は結構少ないんだよなぁ」

 

 魔理沙は砂時計のついた盾や、黄金の矢、砂の入ったハート型の不思議なガラス瓶や、時計の絵が書かれたカードなど、色々出してみた。しかしこの中で無条件で時を戻せるのは盾とカードだけで、さらに戻る時間を細かく調節出来るのはこの中だとカードのみ。なおかつ自分以外の人間の記憶も完全に逆行させるとなると、本当に限られてしまう。

 

「アレしか方法は……ない!」

 

 魔理沙はそう呟くと、体の形状を人型から四足歩行の謎の生物に変形させた。

 

「……何、その姿……」

 

「ディ〇ルガ」

 

 答えを聞いたはずなのに全く分からなかったレヴォ。しかしそんなヤツのことは置いといて魔理沙は話を続けた。

 

「この場合、やるなら私だけが過去に戻るというより、世界そのものの時間を巻き戻すやり方じゃないとバタフライエフェクトで未来が壊れる。とはいっても世界の戻し方なんてどうすればいいんだか…………」

 

 ここまで大々的な時間遡行は初めてなので、魔理沙といえど全く分からない。試しに胸のダイヤモンド部分に力を込めたが、発光するだけで何も起こらない。息を止めてどうなるか試してみたが、時間が止まっただけで巻き戻ることは無い。

 

「あ、行けそう」

 

 様々な方法を試して見た結果、戻りたい時間帯とその時の景色を想像しながら目ん玉に力を入れると、周囲の景色がぐにゃりと捻れてうっすらと青白い何かが見えることが分かった。アレがおそらく"時の流れ"で、それを逆行させることが出来れば戻せるはずである。

 

「行くわ」

 

 そういうと魔理沙は周囲の時間を一瞬捻じ曲げ、時の流れを反転させる。すると、周囲の景色が青白い背景に染まり、世界は10分ほど巻き戻った。

 

 

 

 

 

 結依魔理沙がオールフォーワンと戦っている頃、魔理沙の父こと結依勇魔はカメリア刑務所の内部に独断で潜入していた。

 最初は妻と一緒に交渉をしたが、刑務所内部には立ち入らせてもらえなかった。なら知事とかけ合ってカメリア刑務所の実態について調査をお願いすると伝えたら、別に構わないとだけ言った。なので勇魔はその場でニューヨーク州知事に、自身が日本の公的機関に務める者だと伝えた上で実態に関する調査願いを出したが、諸事情だか何だかで言葉を濁された。

 

 この時点でかなり怪しかったが、刑務所の事情を知るべく友人のツテを借りてアメリカの国会議員の一人と連絡をとったが、やはり肝心な部分は濁されてしまった。分かったことといえば、カメリア刑務所は州が運営している刑務所だということと、セキュリティクリアランス制度によりカメリア刑務所の地下研究施設に関する情報は機密情報(トップシークレット)となっていることだ。個性研究は軍事的な意味においても重要であることから、そう易々と教えるわけにはいかないのだそう。ましてや他国の公的機関の者となるとなおさらといったところか。

 

 しかし娘が困っている以上、父として助けないわけには行かない。もともと魔理沙は他の収監者と違い、あくまで特別保護管理者。個性研究に協力はするものの、収監者が行う就職活動や作業などはやる必要がなく、戦闘行為も個性研究以外の目的では基本させない・やらないが契約を交わした時のルールだったはず。

 だと言うのに腕輪を使った監視、トラブル発生時の対処方法、そういった点での不信感を拭えなかった勇魔は、覚悟を決めてカメリア刑務所に侵入。どさくさに紛れて娘を回収しようと試みた。なお妻は門の外で待機していた。

 公安委員会でヒーローと共に前線で戦っていた時の感覚を思い出しながら、持ち前のワープの個性で見事地下研究施設の入口に辿り着いた。後は刑務官を一人捕まえて地下第1階層まで移動し、その後大量の刑務官を持ち前の体術で全員薙ぎ倒し、何とか制圧完了した。

 だがその直後、思いもよらぬ人物が父の目の前に現れた。

 

「初めましてお父さん。名前は確か、結依勇魔だったかな? わざわざ娘を取り返しに潜入するとは、父親の鏡じゃないか」

 

「誰だ……?!」

 

「僕はオールフォーワン。僕もキミと同様にキミの娘の様子を見に来たんだが、思っていた以上に厄介でね。彼女を殺すためにもキミには犠牲になってもr」

 

「〇ね」

 

 口上を述べ終わるよりも先に、突然真横から飛んできた結依魔理沙のライダーキックが頬骨に炸裂し、そのまま壁まで吹っ飛ばした。

 

「カハッ……! ……はァ……はァ、まさか僕の計画がもうバレているとはね。子どもだと思って舐めてい」

 

大嘘憑き(オールフィクション)

 

 魔理沙は一切の躊躇無く巨大な螺をねじ込もうとしたが、ギリギリのところで回避されてしまった。

 

「『電磁波』+『押し出す』+『重加』」

 

 オールフォーワンは電磁波に質量を与えた状態で空気諸共押し出し、巨大なレーザー光線を魔理沙に目掛けて放った。が、光線は全て魔理沙の胸と両手に吸収され、数万倍に増幅されてから跳ね返された。

 ゼットンファイナルビームはオールフォーワンの左腕を消し飛ばし、膨大な熱量で傷口を焼き尽くした。体力お化けのオールフォーワンといえどここれはかなりの重症で、超再生の個性がまだ手に入っていない以上オールフォーワンはもう撤退せざるをえなかった。

 

「今日はこの辺でよさないか、魔理沙ちゃん。このままではオールマイトとの決戦に支障が出る」

 

「知らん」

 

 オールフォーワンの言葉など全く聞く耳を持たず、魔理沙は指先から無限に最上級魔法を打ち続けた。戦う意思をほぼ持たず、逃げることに専念したオールフォーワンに対し、魔理沙は無言で最上級魔法を打ち続けた。

 

 魔理沙は鬼畜になった。一度でも家族に危害を加えた者に対しては、たとえ時間が巻き戻って未遂になったとしても、地の果てまで追いかけまわし、地獄に落ちても叩き潰す。結依魔理沙はこの時初めて、本物の異形魔理沙とはまた違ったイカレ化け物に変貌したのだった。

 

 流石に個性で防ぐのにも限界が来たのか、オールフォーワンは『反射』の個性で魔理沙の最上級魔法を天井にぶつけ、空いた穴から地上へ脱出した。

 当然魔理沙もオールフォーワンを倒すべく追いかけようとしたが、誰かが魔理沙の腕を引っ張って止めている。

振り向くとそこには、真剣な表情で魔理沙を見つめるボロボロの父の姿があった

 

「追いかけるつもりか?」

 

「地獄の果てまで」

 

「魔理沙、少し落ち着くんだ。今あの男を追ったところでお前が不利になるだけだ」

 

「それに契約上お前は許可無ければ刑務所を出られない。勝手に出れば脱獄犯として正式にヴィランだと認定される。それでもいいのか?」

 

 なお父としては問答無用で連れ帰るつもりだったが、重要なのは父の決断では無い。娘自身がこの状況をどう見ているか、どう感じているか、そしてどうしたいのかがハッキリしていること。それが大事なのである。

 

「…………父さん、仮にこの刑務所の中にいたとしても待遇は良くならないし、どっかの国の警察組織や公安委員会に入れるわけじゃないんだ」

 

「……そうだな」

 

「ドクターや他の人間がいなくなったとしても、どのみち私は脱走未遂か何かで処分対象。出ようが出まいが対して変わらない」

 

「だから私はオールフォーワンを追いつつ、私の自由を縛りつける()()()()と決着をつける」

 

「私は異形で、世界を覆す能力の持ち主だけど、それでも他の人間たちと同じように笑い合いたいし、同じものを見ていたい」

 

「…………そうか」

 

 父は魔理沙の気持ちを受け止め、優しく抱きしめた。

 この子は、自分の立場を分かった上で自由を勝ち取る選択をした。自身の力が他人に、社会にどう影響するか分かった上で、あの娘は自分の意思を主張している。

 

 それがどれほど大切で重要なことか、魔理沙はきっと知らないだろう。だがその小さな決断の積み重ねが、才能や異能とは違った強力な力になるということを、彼女は大人になった時に知るはずだ。

 ……いや、魔理沙は他の子より成熟しているから、もっと早くに気づくかもしれない……。

 

「よし分かった。魔理沙、私に考えがある」

 

「何?」

 

「魔理沙の個性、父さんもよく分かっていないが、要は何でもありなんだろう?」

 

「うん」

 

「今から父さん、お前に"絶対不可能な注文"をする。それを実行するんだ」

 

「絶対に不可能な注文……?」

 

「そうだ。()()()()()()絶対に不可能なミッション。でも魔理沙なら、できる」

 

「とりあえず、耳を貸すんだ」

 

 父は魔理沙に作戦内容を伝えた。その内容はあまりにも適当で、あまりにも大雑把で、あまりにも問題点だらけだった。

 

「任せて」

 

 魔理沙は父のミッションを聞き届け、グッドサインを送った。正直言って過去最高に無茶苦茶しているが、頑張れば行けそうな気がした。

 

「もしこれをやってのけたら、お前は世界一の英雄(ヒーロー)になれる」

 

「称号が……重いよ」

 

 そんな仰々しいものを貰っても逆に困るが、しかし褒められるのは悪くない。

 

「さ、魔理沙、ここを脱出するぞ」

 

 父に手を引かれ、エレベーター付近まで移動してから地上に向けてワープした。

 しかし、先にオールフォーワンが脱出していたせいで多くの警備員が地下研究施設の入口付近に集まっていた。

 

「君、今地下から出てきたな!? 所属はどこだ!!」

 

「魔理沙」

 

 父の意図を汲んだ魔理沙は周囲に向けて魔法を唱えた。

 

最上級睡眠魔法(ラリホーマ)

 

 魔理沙の唱えた魔法によって、周囲にいた警備員は全て夢の世界へと旅立った。

 

「魔理沙、ここからは別行動だ。分かっているとは思うが、敵の深追いだけはするな」

 

「分かった」

 

 魔理沙は頷くと、足の筋肉に力を込め、ニューヨーク上空へと飛び上がる。そして自身の劣化コピー体を大量に作成し、世界各国へと旅立たせた。劣化コピー体は完全コピー体と異なり、あくまで純粋な身体能力のみをコピーしたものである。そのため能力や個性を使用することは出来ないが、身体能力はそこらへんのプロヒーロー(個性込み)と比較しても大差ないほどの力を持っている。

 

 これは結依魔理沙の、盛大なデモンストレーション。その力をいかんなく発揮し、世界に結依魔理沙の強さと有用性を知らしめる。家族ぐるみの壮大なプロジェクト。その名も『Witch's Revolution(魔女革命)』、世界は今から、ちょっとだけ変化する。

 

 

 

 

 to be continued....

 

 

 



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魔女革命(4.999話)



【あらすじ】

刑務所のほとんどの囚人を殺したクローン人間K427号を撃破し、ドクターを追い詰めた魔理沙。しかし、ドクターの友人を名乗る人物が突如現れ、ドクターを別の場所に転移させてしまった。

魔理沙はドクターの友人、オールフォーワンと戦ったものの、最後の最後で逃げられてしまった。刑務所の秘密を知ってしまった他、自身の個性の秘密もバレた魔理沙はオールフォーワンとドクターの口封じしに行かざるを得なくなった。だが無断外出は契約違反、出た瞬間警察組織と周囲のヒーロー事務所に連絡が行き、魔理沙は完全なヴィランとして扱われる。留まったとしても、おそらく囚人皆殺しという濡れ衣を着せられて処刑される。
どうしようもない状況に悩んでいると、父がある作戦を思いついた。その内容はあまりにも荒唐無稽で、適当で大雑把で無茶苦茶だったが、魔理沙はこれに賛同。刑務所を脱出し、さっそく実行するのであった。

作戦名は【魔女革命(Witch's Revolution)




 

 

 

 

 

 世界はさまざまな問題を抱えている。身近な例としては各国における犯罪発生率の上昇で、個性登場以降、犯罪発生率は年々上昇の一途を辿っており、先進国であろうと20%を超えるケースが多発していた(日本は独特な国民性とオールマイトの登場で犯罪発生率がかなり抑制されており、5%となっている)。黎明期ではとある国が独裁政権で国民を支配していたところ、個性に目覚めた複数の人たちが反抗組織を形成し、一夜で独裁政権を崩壊させたという話も存在している。『国家間戦争における個性使用に関する条約』において個性の使用が原則禁止(ただし治療行為は可)されているように、個性というのは化学兵器に匹敵するほど強力なものである。なお戦争に関しては各国の治安低下の影響で戦争をする余裕がなく、個性登場以降での国家間戦争は1、2回ほどしか存在しない。そこだけ見ればはある意味平和と言えるかもしれないが、新たな兵器開発は現在においても続いているので油断出来ない。

 何はともあれ、強力な個性を一般人一人一人が持っている以上、世界平和実現の道は個性登場前よりも遠くなったと言える。

 

 環境問題も重要な問題といえる。西暦2000年よりも前から存在するこの問題は現在においても続いており、特に個性による異常気象の発生、個性による自然破壊、個性による設備等の破壊によって発生した熱や二酸化炭素等の温室効果ガスの発生等が注目されている。

 エネルギー革命以降、化石燃料の使用量が大幅に減少したことから二酸化炭素排出量は減少し、車やAI搭載型ロボットのクリーン化、エコ化の影響も相まってかなり改善されてきている。また南極再生プロジェクトや砂漠の緑化プロジェクトの進捗により、世界は少しずつ綺麗になってきているが、やはり治安低下による破壊行為の増加の影響で、壊されて使い物にならなくなった物の代わりにまた新しい物を生産し、また壊されを繰り返して大量のゴミを生産したりするケースも多く見られる。

 

 食料問題は犯罪発生率の上昇と同レベルに深刻で、一時期世界人口が100億人を突破した際は十数億人の人が餓死してしまった。現在は人工肉や人工野菜といった人工食料の開発や昆虫食開発などの開拓が進んだことである程度マシになってきている他、個性登場による世界人口の減少の影響で餓死者は以前より減少している。

 しかし割合的にはまだまだ多いので、対策が必要である。

 

 人種差別問題は個性の登場で無くなったかのように思われていたが、その後人種差別は"個性差別"へと変貌し、大きな問題となっている。特に"異形"個性と呼ばれる、人と異なる姿になる個性に目覚めたものは周囲から虐待やイジメを受けやすく、人間関係のトラブルやDV、ネグレクトの原因となっていった。またそういった迫害を受けた者たちが団結しデモを起こすことはもちろん、復讐を誓って人々に危害を加える者や、国家への反逆を企む者、また開き直って犯罪を起こす者など、犯罪発生率の上昇にも大きく関与している。

 また"無個性"という、異能力をもたない者たちがイジメを受けるといった事案が先進国を中心に(最近では発展途上国においても)増加しており、能力至上主義をより加速させている。知力、財力、運動能力の他に"個性"という新たなステータスが加わったことで、新たな格差が生まれ、自殺の原因になるなどかなり深刻である。

 現在は個性に関する法律の整備や異能個性や無個性等に対する世間のイメージ改善、メンタルケア等のサービスの増加などといった対策が行われているものの、差別問題は未だ各国で根強く残っている。

 

 他にもさまざまな問題が残っているが、もしこれらを一挙に解決する人間が現れた場合、人々はどう思うだろうか? 純粋に感謝する人もいれば、その人を神だと祭り上げる人も現れるだろう。そんなこと出来るはずがないと疑ってかかる人もいるだろうし、それほど強力な力を持つ人間は危険だから捕まえるか殺すべきだと言う人もいるだろう。

 

 しかしそんな人間がいれば、誰であろうと必ず認めることになる。

 

『そいつがこの世で最も革命的で最強のヒーロー』、だということを。

 

 

 

 

 

 

【オーストラリア ニューサウスウェールズ州】

 

 

【ボンダイビーチ】

 

 

 ここは昔からサーフィンスポットで有名なビーチで、年中多くの観光客が集まっており、人気を博している。

 今日も多くの観光客が訪れ、サーフィンや日光浴をしながらバカンスを満喫していた。

 

「パパぁ、アレ何〜?」

 

「ん〜?」

 

 オーストラリア旅行に来ていたとある家族の父と子が、海でプカプカと浮かんでいると、遠くから謎の影が迫ってきていることに気づいた。

 背鰭のついた影が一度潜水し姿を隠すと、水上に向かって飛び上がって全身を晒した。その飛び具合はまるでイルカのようだったが、残念ながらその影はイルカではなく、異様に元気なサメであった。

 

「サメだ!!」

 

 その一声で海で遊んでいた観光客全員がサメの方を見つめ、理解した瞬間一斉に砂浜の方へと逃げていく。だがサメは異様な速さで人間のいる方に向かい、ジャンプを繰り返しながら距離を詰めてくる。

 父も子を抱えながら全力で砂浜へと向かうものの、サメは完全にその二人を捉え、セーフティネットを超えてサメは大ジャンプし、空中から二人の首を噛みちぎらんと襲いかかる。

 

 死を覚悟した父は子どもだけでも生き残れるよう遠くに投げ飛ばし、後は子どもが無事砂浜にたどり着けるよう神に祈りを捧げた。

 だがいつまでたっても首は折れず、サメの餌になることもないまま時が過ぎた。おかしいと思った父は恐る恐る後ろを振り返ってみると、そこにサメはいなかった。

 いたのはサメではなく、不思議な格好した16歳ほどの金髪ロングの少女。その少女は投げ飛ばした息子を抱えながら宙に浮いており、彼女の足にはサメの血らしきものが付着している。どうやらサメを蹴り飛ばしたようだ。

 だいぶツッコミどころがあったが、父はまずその少女に息子を助けてくれたことを感謝した。

 少女は振り返り、無言で父に息子を渡す。少女の顔は狐の仮面で隠れていてよく見えなかった。そして少女は父と子に旗のようなものを渡すと、颯爽とその場から離れた。

 

 旗には、『Witch's here(魔女が来た)!』と書かれていた。

 

「魔女……?」

 

 父は首を傾げながらも、飛び去った魔女の後ろ姿を見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

【イタリア】

 

 

【シチリア島のとある旧市街地】

 

 

 シチリア島の旧市街地は、個性登場以前まではのどかな地方都市だったが、個性登場以降の治安低下により、新たな街が旧市街地とは別に形成された。一定以上の財力を持つ一般層や富裕層はみな新しく作られた街へと引っ越したものの、貧困層は旧市街地へ取り残され、さらに旧市街地と新市街地の間にバリケードが設けられたことでふたつの街は遮断されてしまった。

 貧困はさらなる貧困と治安低下を呼び、無法地帯と化した。窃盗、薬物売買、売春、強盗が蔓延り、誰一人として介入出来なくなったこの街に、外から来た犯罪組織が身を潜めるようになったことでさらに手が出せなくなった。

 犯罪発生率は当然のごとく100%。そんな悪辣な環境において、二人の兄妹が街の外に出ようとしていたところ、不良集団に絡まれてしまった。

 

「妹を返せッ!!!」

 

「残ねぇん、返しませぇん! 妹ちゃんはこれから俺たちと遊ぶ約束があるから、さぁ?」

 

「ヒヒヒヒ! 最近アレが溜まって溜まってショーがなくてよぉ! もう我慢の限界だよォ!!」

 

「手頃な女はみんな大人に連れてかれるからなァ!! ちょーど良く現れてくれたぜぇ!」

 

「止めろッ!!!」

 

 兄は自分よりも大きな男たちに抑えられ、地面に組み伏せられていた。どんなに抵抗したくとも子どもの力ではどうしようも出来ず、己の無力さを自覚した。

 

「そうだァ! コイツの目の前でヤるのはどうだぁ!?」

 

「「賛成ェ〜〜!!」」

 

「止めてくれ!! 妹には手を出さないでくれ!!!」

 

 兄の必死な懇願も、性欲に脳を支配された男達には一切届かない。ここで何も出来ず、全てを奪われるのかと絶望した兄だったが、ここで奇跡が起きた。

 

「…………誰だテメェ」

 

 兄の背後から、誰かが歩いてきていた。足音から察するに身長160cm前後の女。だが異様な強者のオーラを感じる。

 

「女……? いや男……? どっちだ?」

 

「…………いや女だ!! 匂いで分かる! 仮面で顔を隠しているが女だァ!!」

 

「わざわざ俺たちと遊ぶために来てくれたのかァ? 大歓迎だぜェ?」

 

 男達は息を荒くしながら、オールマイトのお面を着けた女を見つめる。

 女は組み伏せられた兄の方に目を向けた後、不良集団に向けて無数の氷の弾丸をぶつける。弾丸に触れた不良たちは一瞬で凍結し、見事な氷像へと生まれ変わった。

 

「テメェ!! 何しやがる!!!」

 

「よくも俺たちに楯突いたなァ……? 殺してやるからそこで大人しくしろ!!」

 

 不良集団は妹を突き飛ばし、お面の少女を囲み始める。完全に逃げ場を失った少女だったが、呼吸は一切乱れておらず、冷静に状況を見据えていた。

 囲んでいた一人の男が少女に殴りかかったが、少女は回避しつつ拳を顔面に当て、男を完全にのしてしまう。続けて2、3人の男たちが襲いかかってきたが、裏拳、回し蹴り、肘鉄で全てダウンさせ、残りの男たちもまとめて魔法で吹き飛ばした。

 

「なんだ……コイツ……!」

 

「女の癖に……強過ぎだろ……」

 

 不良集団がうめき声をあげながら地面を転げ回っている中、女は少年の方に目を向けた。

 

「そこのキミ」

 

 少女が兄の方を見ながら言う。

 

「キミはこの街をどうしてほしい?」

 

「え?」

 

 兄は、どう答えればいいのか困惑した。どうしてほしいかなんて、少年は今まで考えたことがなかった。この街は親も周りも何もかもゴミで、今すぐにでも抜け出したい地獄のような場所であって、人ひとりの力でどうこうできるような場所ではないと本気で思っていた。

 しかし聞かれた以上答えるしかない。この女がこの街をどうする気なのかは分からないが、少年は昔からずっと思っていたことを口に出した。

 

「……妹が、のびのびと過ごせるような、街になってほしい……?」

 

 素直に答えてみたものの、途中から自分でもよく分からなくなった。言ったところで何の意味もないのに、何故自分は意味もなく願いを口に出しているのか。仮面の女の凄さに頭をやられてしまったのだろうか。

 

「分かった」

 

 仮面の女は少年の願いを聞き届けると、両手を地面についた。そして女を中心に街全てを飲み込む巨大な魔法陣が形成され、大量の魔力が流し込まれる。

 すると、錆びれてボロボロだった街の建物や道路が息を吹き返すように再構築され、新市街地と変わらない姿へと変化していった。

 

「えっ? えっ? えっ? え?」

 

 少年は目を疑った。現実とは思えない現象に腰を抜かし、立ち上がろうにも立ち上がれない。

 

「インフラは整備したから、あとは治安と食料と経済復旧かな? 長居出来ないから早めに終わらせるか」

 

 仮面の女はその後、潜伏していた犯罪組織全てに訪問し、()()()()()、元犯罪組織の人達にこの街の住民として暮らしてもらい、店を経営してもらうことを約束した。必要な技術や知識に関してはネットなどで得た情報を直接脳に植え付けることで即記憶してもらい、仕入れルートも仮面の女が確保。さらに元々この街を取り仕切っていた人間たちともお話をし、新しい市役所の公務員として働いてもらうこととなり、街の運営を任せることにした。そして女は隣の新市街地の市長と直接連絡を取り、お話した後、旧市街の支援を要請。市長はこれを容認し、旧市街地の復興を援助することとなった。

 

 この間、たったの3日。そして1〜2週間後には店も開店するらしく、近々小中学校が建てられることも決定した。さらに街の中央には無限に水を生成する水晶が設置され、水道が復旧するまでの期間限定だが、綺麗な水がタダで飲めるということで街の住民は喜びの声をあげた。

 また食料に関しても少女が1年分の食料を市役所の倉庫に大量補給したことで、街の食料問題も一時的にだが解決した。さらにさらに街の復興を記念して祭りが開催され、少女が住民たちに大量のお酒を振舞ったことで大盛り上がりし、街の人達は互いに肩を組み合いながら大声で合唱した。

 

「え?」

 

 少年は理解できなかった。地獄だと思っていた場所が、たった数日で天国に変わってしまったのだから。

 

 ハッキリ言って意味不明だった。なんで、険悪だった大人たちが互いに肩を組んでいるのか。なんで妹を襲った連中が反省して謝ってきたあげく、平和にサッカーを楽しんでいるのか(しかも誘われた)。なんでたったの数日でここまで変わってしまったのか。

 

 少年の常識は完膚なきまでに破壊され、その元凶たる仮面の女を見て得体の知れない恐怖を感じた。

 もしあの時、少年がお面の少女に『この地獄みたいな街をぶっ壊してくれ』と頼んでいたら、どうなっていただろうか。本気でぶっ壊したのだろうか。それとも想像を遥かに超えるようなエグい方法で、街ごとリセットしたのだろうか。

 

「少年?」

 

「ヒッ!!?」

 

 お面の少女に話しかけられ、兄は酷く驚いた。死んだかと思うくらいに心臓が飛び上がり、バクバクと音を鳴らす。

 

「そんなに驚く?」

 

 仮面の女は首を傾げながら言った。

 

「ま、そんなことより、キミもあっちに混ざんないの? 妹はさっきまで私が見守ってたから無事だけど、そろそろ兄貴が恋しいだろうし」

 

 女はそう言うと、少年の顔を見据えながら地面に座った。

 

「あぁもしかして、街がめっちゃ変わったことにビックリしてる? ……いやぁゴメンね? 本当は悪いヤツぶっ飛ばしてハイ終わりにしようと思ったんだけど、この街悪いヤツしかいないからどうしようもなくてさ……」

 

「仕方ないから街ごと改造するしかないと思って全部ひっくり返したんだけど……戻した方がよかった?」

 

 戻す……と聞いて全力で首を横に振る少年。その様子に少女はクスッと笑うと、また話を続けた。

 

「そういえばキミって親とかいる? いなかったら代わりに私が市役所に相談するし、何なら一から親作って記憶改竄してあげられるけど、どうする?」

 

 何やら不穏なワードが聞こえたが、一応片親はいるので問題ないと伝えると、女は納得した。

 

「じゃ、最後にキミと妹にも渡しておこう」

 

 少女は少年に旗のようなものを2つ分渡した。

 

「魔女が……来た……?」

 

 少年は旗に書かれたメッセージを読んだ。

 

「そう、これは魔女からのプレゼント。もし魔女を知らない人に出会ったら、私のことについて広めてほしい。あぁ、暇な時でいいから」

 

 女はそう言うと立ち上がり、少年に背を向けてどこかに向かっていく。

 

「どこ行くの?」

 

 少年は女に聞いた。

 

「…………次の街に向かうよ。あんまり長居するとみんなに迷惑かけるし、困っている人は他にもたくさんいるからね」

 

 迷惑と、自ら口にした彼女は少し悲しげな表情をしていた。

 

「……気を、つけてね」

 

 少年は声をかけた。少女の旅の無事を願って。

 

「……分かった」

 

 お面の少女はそう言うと、指を鳴らして箒を取り出し、それに跨って空を駆けた。その姿はまるでおとぎ話に出てくる魔女そのもので、とても美しい。

 

 彼女が分かったと言った以上、本当に大丈夫なんだろう。それだけは自信もって言えた。

 

「…………ありがとう、魔女さん」

 

 少年は月を見ながら、そっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

【アフリカ スコーンダゴン国】

 

 

【国境付近】

 

 

 スコーンダゴン国はアフリカ大陸の中央付近に位置する国で、内戦が絶えない国として有名である。

 個性が世界中で発現する前から内戦が続いており、ヨーロッパ諸国のバックアップを受けた北部と中国のバックアップを受けた南部による代理戦争が行われていたが、個性の発現により事態は悪化。特に南部の人間の一部が異形個性に目覚めたのを利用し、北部上層部の人間が宗教団体を焚き付けたことが内戦激化のきっかけとなってしまった。

 ある宗教団体の宗主は異形個性に目覚めた人間を"悪魔"や"邪神の使い魔"、"異端者"、"異教徒"と罵り、浄化と称して次々と異形個性持ちの人間を虐殺していった。また異形個性でなくても"隠れ異教徒"であると決めつけ、子どもだろうと女性であろうと関係なく殺害していった。

 その結果、拗れに拗れた北部と南部の関係は停戦協定を結んだ後でさえも争いを繰り広げ、特に北部と南部の境目では常に互いを睨み合っている。きっかけさえあれば殺し合うという、非常に危険な状態がここ十数年間続いており、国連や国際ヒーロー連盟が内戦防止に働きかけてはいるものの、未だ止む気配はない。

 

 そして今日も、北部と南部は互いに不審な動きがないかチェックし合っていた。

 

「……北部のクソ共、いつまでも大人しくしやがって。さっさと本性を現しやがれ」

 

 南部で北部の人間たちを監視していたある男は、壁の中の小さな穴の近くで自動小銃を構えながら様子を伺っていた。

 

「…………ん?」

 

 男は銃を構えたまま空を見上げると、見知らぬ人間が箒に乗って空を飛んでいた。北部の連中が寄越した人間、……にしては随分と格好が奇抜で、しかも飛んでいる場所がちょうど北部と南部の境目という、挑発行為だと受け取っても差し支えないほどの暴挙。これはつまり、北部の人間からの宣戦布告ということだろうか。

 

「上等だ、撃ち落としてやる」

 

 男は照準を空飛ぶ人間に合わせた。そして他の監視者たちも空飛ぶ人間に気づき、同様に照準を合わせる。完全に捉えた、そう思い監視者たちは一斉に銃弾を放ったが、空を飛んでいた人間はそれに気づくと謎の力で銃弾を空中で制止させた。

 

「は?」

 

 鉛玉が通用しない、その事実に男は驚かされる。今までは銃弾を避けたり、わざと銃弾をくらいながら敵陣に突っ込んできた人間はいたが、眼前まで迫った弾丸を制止して無力化させた人間は初めて見た。兵器を無力化出来る人間なんて北部にいただろうか。

 

 男が首を傾げていると、空を飛んでいた人間はゆっくりと地上に降り立ち、箒をパッと消してしまった。

 どういうつもりかは知らないが、これ以上うろちょろされるわけにも行かないため、男は仲間の監視者たちを連れて壁の裏から飛び出し、降りてきたヤツに銃口を向けた。

 

「女……? しかも、北部の連中も銃を向けてる……?」

 

 色々と理解出来ず苦しむ。連中の差し金では無いとしたら、この人間はいったいどこの人間なのか。中国からの援軍……にしては1人しかいないし、連絡も来ていないが、見た目はアジア人。ということはやはり味方……ということなのだろうか。

 

「……撃ったのはお前か?」

 

 推定アジア人が自分に向けて指を指し、アジア人にしては流暢な言葉遣いで問い詰めてきた。

 

「……てっきり北部のゴミ共が開発した殺戮兵器だと思ってよ、つい撃っちまったよ」

 

「あ"ぁ? コイツは南部の猿共が召喚した異形の悪魔か何かじゃねぇのか?」

 

「だれが猿だァ?」

 

「あぁ、お前らは猿じゃなかったわ訂正するよ。猿にすらなれない猿以下の化け物共が」

 

「魂すら腐り果てた脳無しの妄執信者共がご大層な面して見下してんじゃねぇよカス」

 

「「あ"?」」

 

 思わぬ飛び火が可燃物の大量投下によって勢い良く燃え盛り、今にも北部VS南部の大戦争が起きようとしている中、そのちょうど境目にいた推定アジア人がおずおずと口を開いた。

 

「……あの、撃ったことに関してはぶっちゃけどうでもいいとして、撃った理由だけ知りたいんだけど教えてくれない?」

 

「引っ込んでろ部外者」

 

「黙ってろよクズ」

 

「えぇ…?」

 

 腰を低くして聞いてみたものの、罵倒しか返ってこなかった。

 

「……分かった、そんなに言いたくないなら勝手に心を読むから」

 

 そう言うと、アジア人の体から赤いコードが生え始め、第3の目を形成しつつコードと脳を接続する。

 そして閉じた第3の瞳が開眼した瞬間、相手が今考えていること、感じていること、それら全ての情報が頭の中に入っていく。さらに深く見つめれば記憶の断片を覗き見ることができ、そこからさらに欲しい情報だけを頭にインプットする。

 これによりこの国の状況について大まかに知ったアジア人こと結依魔理沙(分身)は、国境の上で両腕を組みながら頷いた。

 

「昔から続く北部と南部の戦争、北部の宗教団体による異形個性の弾圧、虐殺が激化の原因、何度も破れられた停戦協定、……後は私怨だな」

 

「撃ったのは北部の人間の襲撃だと勘違いしたから、で合ってる?」

 

「黙れ。さっさと金置いて中国に帰れ」

 

「イエローモンキーは大人しく檻の中でバナナでも食ってな」

 

「……怒るよ?」

 

 あまりに目に余る態度に魔理沙は拳を握りしめた。だが暴力を振るったところで何も変わらない。むしろ彼らの闘争心や腹黒魂を刺激してしまい、悪化する危険性がある。というかもう悪化している。私がうっかり国境線上を飛んだ時から。

 

「じゃあ分かった、私は今から神様代理です。もしこの場でもう一度北部と南部が停戦協定を結んでくれたら何でも望みを叶えてあげます。北部と南部それぞれ2回までで」

 

「「は?」」

 

 戯言のようにしか聞こえないセリフに、魔理沙以外の全員が首を傾げた。

 

「……お前が、神様代理?」

 

「そう」

 

「バカじゃねぇの?」

 

「バカじゃありません、神です」

 

「本当に何でも叶えるんなら、試しに何かやってみせろよ」

 

「じゃあデモンストレーションで死人を蘇らせます。誰でもいいので死体を持ってきてください」

 

「……分かった」

 

 南部の男の一人がその場を離れ、最近死んだとされる男の遺体を荷車に乗せて戻ってくると、魔理沙の目の前でゆっくりと下ろした。

 

「コイツは俺の親友だ。昔、北部との戦争中に銃弾が頭に命中して、ずっと寝たきりの生活をしてたんだけど、つい昨日死んだんだ」

 

 運ばれた遺体を前にして魔理沙はしゃがみこみ、じっと顔を見つめた後、右手の平に破壊の目を形成した。魔理沙はその目を握り潰すと、頭の中に残されていた銃弾が跡形もなく破壊され、その後回復魔法(ベホイミ)で傷ついた部分を修復。最後に復活の呪文(ザオリク)を唱えると、死んだはずの男は元気に蘇った。

 

「嘘……だろ……?」

 

 親友が蘇ったことで男は親友とハグしながら喜びを分かちあっていたが、それ以外の人間はただただ今起きた事実を受け止めきれず、呆然と立ち尽くしていた。

 

「本当に……神様?」

 

「違うけど、似たようなもん」

 

「もし停戦協定組んだら、戦争中に死んでしまった家族も生き返るの……か?」

 

「もちろん」

 

「俺を大金持ちにすることは!?」

 

「お金はつくれるけど重罪だからダメ」

 

「俺の個性を、別の個性に変えることも出来るのか!?」

 

「それは………出来なくもないけど、今は出来ない」

 

「俺を強くすることは!?」

 

「どう強くなりたいのか知らないけど、個性をさらにもう一個追加したり、骨格変えたり筋肉モリモリにすることは出来る」

 

「伝染病を治すことは出来るか!?」

 

「出来る。何なら伝染病の根絶も可能」

 

「おそといきたい!」

 

「……国内ならどこにでも連れてってあげるよ」

 

 その後も魔理沙は質問に答え続け、出来ることと出来ないことを説明した。

 

「ちなみに願いを叶えるって言っても、北部と南部からそれぞれ代表者を一人決めてもらって、その人の願いを叶えるという形式だから。全員は叶えられません」

 

「それともし結んでもらった停戦協定をまた破棄した瞬間、契約違反で代表者および関係者席全員にペナルティが課せられるから注意するように」

 

「ペナルティ……!」

 

 不穏なワードに戦慄する人たち。人間を生き返らせる力を持った存在が課すペナルティ、その内容について想像するだけで背筋が凍る。

 だが実際のところ魔理沙はペナルティを課すつもりは無い。あくまで脅しであり、契約が破棄された場合は叶えた願いがリセットされるだけ。それ以上の罰は発生しない。

 

 私はあくまで第三者、これ以上深入りしないし干渉もしない。あとはここに住む人たちが決めるべきだ。

 

「願いは決まった?」

 

「……代表者を決める時間含め、あと3日ほど時間をください……」

 

「分かった」

 

 申し入れを受け入れた魔理沙は3日間、国境線上で待ち続けた。その間、北部と南部の子どもたちが遊びに来たため、魔理沙は魔法を使った手品などを披露し、子どもたちと交流を深めていった。

 

 そして3日後、北部と南部の代表者が集い、魔理沙の元に訪れた。

 

「要望をどうぞ」

 

「……我々北部の願いとしましては、直近10年以内の戦死者の蘇生がひとつ……」

 

 北部の代表者は一呼吸置くと、再び口を開いた。

 

「そしてもうひとつは……、()()()()()()()()()させていただきたい」

 

 代表者は笑みを浮かべる中、南部の人たちは全員驚きの声をあげた。

 

「それはズルくないか?!?」

 

「もし貴方様が北部にお越しくだされば、貴方様を教会内の特別賓客として迎え入れる予定です。不自由の無い暮らしを保証します」

 

「いらない」

 

「いら……、え?」

 

「いらない」

 

 終始真顔の魔理沙に、北部の代表者は首を傾げた。

 

「他に要望が無いなら先に南部の人から聞きます。どうぞ」

 

「ちょ…ま」

 

「え〜〜、私たち南部の願いは、戦争で亡くなってしまった非戦争参加者の蘇生と、"異形に対する差別意識"をこの世から無くすことです」

 

「…………」

 

 魔理沙は目を瞑り、苦悶の表情を浮かべながら考えた。

 

「……流石に無理ですか?」

 

「…………出来る、けど無理だ」

 

「どうしてですか……? 我々は毎日、見た目が少し違うだけで外部の者から石を投げられ、悪魔だと罵られ! 最悪殺されることもありました!」

 

外野から「そーだ!そーだ!」と、ヤジが飛んだ。

 

「しかし、怖さ故の罵倒は我々も理解出来ます。生まれて初めて個性に目覚めた時、私も自分自身に恐怖したのですから。……だからこそ、恐怖を生み出す原因である"ココロ"さえ変わってくれれば、我々は救われるはずなんです!!」

 

 南の代表者の心の叫びが、魔理沙の感情を強く刺激した。彼らの悲痛な叫び、痛み、同じ異形の姿をもつ者として非常に理解出来る。我々異形の個性を持つ者は生まれた時から人に嫌われ、避けられることは当然で、常日頃虐げられてきた。だからそんな嫌気のさす人生に不平不満を言いたくなる気持ちは死ぬほど理解出来る。

 ただ、彼らと魔理沙の間には決定的かつ致命的な差が存在する。それは"強さ"、魔理沙は生まれた時から圧倒的な力が備わっていた。だからどれほど虐げられようが嫌われようが魔理沙には関係なく、最低限力で全てを覆すことが出来てしまう。

 しかし、彼らは違う。彼らは単独でいじめっ子集団を打破できるほどの力は無い。世間が彼らを異物のように扱い、時に暴力を振るわれたとしても、対抗する手段があまりにも乏しい。

 

 ならば、願いを叶えてあげればいい。なんて安っぽい正義感で禁忌級(概念系)能力を使うほど私は子どもではない。私の手元にはちょうど世界中の人間から差別意識を丸ごと消す夢のスイッチが存在するが、これを押せば私以外の全ての人間の心が改変されてしまう。それすなわち、人格への干渉。人を人たらしめる根本的な部分を弄ることと同義である。

 

 それをやってしまえば、この世から純粋な人間は誰一人としていなくなる。今を生きる全ての人々はみな魔理沙の手が加わったもので、人形と大して変わらない。そうなってしまったが最後、魔理沙は史上最悪のヴィランとしてこの世に君臨してしまうだろう。

 

 魔理沙は感覚的にだがそれを自覚していた。なので一歩踏みとどまることが出来たが、踏みとどまったところで問題自体は解決しない。彼らの抱える差別問題は何十年も解決されてこなかった難問中の難問だが、何もしなければこの難問は多くの人を傷つけることになる。

 

「……分かった。その願いを叶えよう」

 

「本当ですか!?」

 

「だが私はあくまで()()()()を作るだけ。今すぐには実現出来ないし、多くの人間の協力が必要だ」

 

 魔理沙は諭すように、真剣な表情で彼らの顔を見ながら言った。

 

「え? 当たり前じゃないですか?」

 

「え?」

 

 思ってた反応と全く違う反応が返ってきて、魔理沙は困惑した。

 

「いやぁ〜流石の神様といえど、一発で全人類の心から差別意識を消すなんて芸当出来るとは思ってないですよ〜! ただ一緒に異形個性への差別反対を訴えてくれるだけでも嬉しい限りで…………あれ、神様?」

 

 魔理沙は人生で挙動不審になった。

 

「もしかして、…………一発で出来るんですか?」

 

「…………スゥーッ」

 

 魔理沙は一旦大きく息を吸ってから、ゆっくりと肺の中の空気を押し出した。

 

「秘密」

 

 魔理沙は人生で最高に何とも言えない表情をしていた。それを見た北部と南部の人たちも皆、何とも言えない表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【日本 大阪府】

 

 

 

「キミちょっとしつこ過ぎるんじゃないかぁ!?」

 

「…………」

 

 現在、大阪府大阪市上空にて、オールフォーワンと仮面を被った結依魔理沙が空中で攻防戦を繰り広げていた。

 なお、この結依魔理沙は能力を分け与えた半コピー体であり、概念系能力を除いた全ての能力を持ち合わせている。そのため、オールフォーワン相手でもある程度立ち回れていた。

 

 個性を複合することで放つことの出来るレーザー光線や、リヴァイアサンを模した龍のオーラが襲いかかるも、それら全てを避け切り、魔理沙は一気に距離を詰めた。

 オールフォーワンは再び衝撃反転で魔理沙の物理攻撃を反射すべく構えた。だが衝撃反転は手の接触をトリガーに発動する個性であり、全身に纏っているわけでは無い。刑務所内での戦いで学んだ魔理沙は左右の拳でフェイントを織り交ぜながら着実に胴体を攻撃し、さらにハイキックからの瞬間移動でオールフォーワンの片足を掴み、回転しながらオールフォーワンを向こうの山まで投げ飛ばした。

 

「地獄の底で後悔しろ」

 

 魔理沙は天に向けて右腕を掲げると、曇り空を書き分け太陽の光が魔理沙ただ一人に差し込む。そして太陽が隠れ光が途絶えた時、魔理沙の右腕には神々しく光り輝く謎の篭手が装着されていた。

 その篭手はまるで翼を広げた鳥のような形状をしており、魔理沙が左手で翳すと、篭手の先から光粒子で構成された特殊な短剣が形成された。魔理沙は光り輝く短剣をオールフォーワンに向け、力を込めると、"ギャラクシーカノン"という光波熱線が放たれ、山諸共大爆発を引き起こした。なお、完全に山を破壊しない程度には調節したため、せいぜいオールフォーワンが大規模の土砂崩れに巻き込まれる程度の被害しか発生しなかった。とはいえ光波熱線の直撃を受けて無事なはずもなく、オールフォーワンは焼け焦げた皮膚を擦りながら何とか土砂崩れから脱出し、一般道路に身を投げ出した。

 

「何故だ、何故彼女は強い……!?」

 

 全身ボロボロになりながらも、オールフォーワンは出来るかぎり魔理沙から離れようと立ち上がり、左足を引きずりながら山の反対側へと回り込もうとした。

 初めて姿を見た時、確かに能力は強かった。しかし、それを使いこなす才はそれほどでもないと高を括っていた。しかし彼女は僅かな手がかりで潜伏先を見抜き、今こうしてエネルギー光線を正確にぶち当ててジリジリと追い詰めている。

 さらに聞いた話によると、彼女は今世界中に分身体を送り出して活動しているそうだ。目的は分からないが、あまりにも厄介過ぎる。彼女を殺すプランの1つとして集団襲撃を考えていたが、このプランは完全に潰えた。

 

 とにかく今は生き残ることだけを考え、ワープの個性で安全に逃げるためにできるだけ彼女と距離を離す。ここで彼女と争ったところで不利になるのはこちらで、個性も何故か奪えない以上、戦うメリットは何一つない。

 こんなことなら黒霧から個性を奪えば良かったと、オールフォーワンは人生で初めて後悔した。今オールフォーワンが所持しているワープ系能力はかなり使い勝手が悪く、移動可能範囲が5km以内で完全発動までも時間がそこそこかかってしまう。なので見つかる前にワープ能力を起動しなければならない。

 

「見つけた」

 

 魔理沙は2km離れた位置からオールフォーワンの姿を捉え、100円玉を人差し指と親指の間に挟んだ。魔理沙が親指に力を込め始めると、摩擦が生じ100円玉を中心に放電が発生。さらに100玉に合わせて2本の電極棒を挟み込むイメージをし続けることで電磁力を両サイドに発生させる。右腕が砲身代わりである以上、磁場は可能な限り強くしたいため、磁力を発生させるスタンド(メタリカ)で右腕を強化。さらにメタリカには磁場を制御してもらい、速度表皮効果を軽減させる。

 超電磁砲(レールガン)は膨大な電力によって放出された熱エネルギーと、射出後の摩擦熱が100円玉を融解・蒸発させるため、実際の射程距離は兵器と比べてかなり短い。そのため射線上にスキマを設置し、空間同士を繋げておくことで100円玉が溶け切る前にオールフォーワンにブチ当てる。

 

「喰らえ、人力超電磁砲(じんりきレールガン)……!!」

 

 人差し指が限界に達した時、魔理沙は発生した推進力に身を任せて親指を弾いた。弾いた瞬間の反動は齢4歳の魔理沙の肉をズタズタに引き裂き、骨にヒビが入るほど強く、再生能力で修復可能したもののかなり痛かった。

 

 勢いよく射出された100円玉はマッハ4.7で周囲の大気をプラズマ化しながらスキマに突入、そして逃げる寸前のオールフォーワンの目の前にスキマの出口が形成され、100円玉は一瞬でオールフォーワンの左胸を貫いた。

 

 確実に命中した、そう思いオールフォーワンの様子を確認しようとしたが、どこにも見当たらない。肉片すら残さず消し飛ばしたわけではないので、どこかに隠れていると思い込んだ魔理沙だったが、先程までオールフォーワンがいた場所の近くに血痕を発見した。その血痕はポタポタと途中まで続いていたが、5、6歩進んだあたりから跡が完全に消えており、どこにも続いていなかった。

 

 この状況から察するに、オールフォーワンはレールガンの一撃をくらいながらも無理矢理ワープゲートで脱出した、と考えられる。左胸ではなく足や腰を狙っていれば動きを封じられたかもしれないが、あの時は当てることに集中していたのでそれ以外のことは何も考えていなかった。完全に魔理沙の落ち度であった。

 

「チッ……」

 

 またもや逃げられてしまった魔理沙は捜索を諦め、父考案の作戦実行に切り替える。この作戦は自身の正体を隠しつつ、可能な限り多くの人々を救わなければならないため、人手はいくらあっても足りない。

 

「……落ち着け、また反応があったらとっ捕まえに行けばいいだけ……今は作戦に集中だ」

 

 魔理沙は自身にそう言い聞かせると、上空を飛び困っている人間がいないか探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 結依魔理沙が行動を開始したその日から、世界各国で魔女に関する目撃情報が増えた。その魔女の見た目は国や地域で必ずといっていいほど一致せず、低身長から高身長、痩せ型から肥満型まであらゆる姿が目撃され、どの魔女も別々のお面を被っていた。しかし、戦闘の苛烈さはどの国においても共通で、プロヒーローが束でかかってきても敵わないと思わせるほど強烈であった。

 

 "Witch's here(魔女が来た)! "、この言葉と共に颯爽と人々を救う姿は多くの人々の間で反響を呼び、SNSを通じて世界全体へと拡散していく。彼女の正体について考察する人も数多く現れ、『集団幻覚説』、『オールマイトの後継者説』、『世界を裏から支配している秘密組織が人工個性持ちのクローン人間を大量に解き放ち、表世界を支配しに来た説』、『ただのCG説』、『一人の悪ノリから始まった集団ミーム説』など、世界中で注目を集めた。ニュース番組にも取り上げられ、直接取材を試みようとした者たちも現れたが、魔女は全く姿を現さなかった。

 警察は魔女たちを『世界規模で活動する自警集団(ヴィジランテ)』とし、『彼女らの行動は非合法であり、取り締まりを受けるべきだ』と述べた。また今後も彼女らの行動は監視し、引き続き調査を行うことにした。

 これにより、集団幻覚説、CG説、集団ミーム説は完全に否定され、ネットはさらに盛り上がりを見せていた。

 

 神出鬼没の魔女、そのあまりの話題性の大きさから、"アメリカ最大の刑務所にて数名の囚人が脱走"というビッグニュースは人々の目に留まらず、鳴りを潜めてしまったことに誰も気づいていない。それは魔理沙にとって非常に都合がよく、まさに"計画通り"であった。

 

 結依魔理沙がヴィランになることなく刑務所を脱出し、自由を勝ち取るには、相手に"存在そのもの"を認めさせなければならない。認めさせる相手はなるべく"権力"を持った組織がいい。各国の政府や国際警察、連合、その辺りを丸め込むことが出来ればおそらく自由は保証されるだろう。だが私のような危険因子の塊のようなものは保守派の人間からすれば邪魔以外の何物でもない上に、信用も人脈も無い以上、丸め込むのは相当難しい。

 

 政府とはまた別の権力として"国民"を味方につけるという手段がある。国民、すなわち世論が味方につけば政府と言えどそう簡単に手出しできなくなる。ただし、民意というものは時代の流れや小さな出来事1つで大きく変わる。そのため、ヒーロー活動を続けていたとしても自由や安全が保証されるとは限らない。その不安定さに加え、私が活躍し過ぎるとヒーローとしての機能や国の防衛機能を私に依存するようになり、私の影響力が不必要に大きくなってしまう可能性もある。俗に言う、『全部アイツで良くね?』現象を引き起こすと、当然私は公僕となり、全ての行動に責任が付きまとうようになる。それは私の抱える理想の"自由"とは大きく外れてしまう。

 

 私の理想は膨大な力を持ちつつも公的機関に縛られることなく、庶民的な生活を送ること。世間を味方につけ、完全なヒーローになってしまうと変に神格化されてしまう危険性がある。なので出来る限り世間にはバレず、政府や上層部には認知してもらいつつも黙認してもらえるような、そういう状況を作りたい。そのために私は世界中であらゆる問題を解決しているのだが、この状況づくりを根底から破壊しかねない事案が一つある。

 

 それはアメリカNo.1ヒーロー、スター&ストライプ。彼女は既に私の素顔を見ており、私がカメリア刑務所の脱走者であることも完全にバレている。彼女が本当のことをSNS上に発信したり、マスメディアに情報を流したり、国会議員や大統領に告げ口をした瞬間、私の世間に対するイメージは"Witch like hero"から"刑務所から脱走したヴィラン"へと転じてしまう。この最悪のパターンだけは何としてでも避けたい。

 なので、その辺の口封じは両親に任せた。父はスター&ストライプと面識があるので話し合いの場くらいは設けられるし、上手く行けばスター&ストライプと関わりのある人間全員を丸め込むことが出来るかもしれない。連絡が来てないので今どういう状況なのか全く分からないが、今のところ私の正体がSNS上で拡散されていない以上、多分大丈夫なのだろう。

 

 後はホワイトハウスにカチコミをかけ、秘密裏に条約を結ぶ。その内容については後で考えるが、最低条件として在籍は日本のまま、過干渉禁止、親族への干渉も禁止としたい。

 

 上手くいくかは分からないが、私の今後の人生がかかっている以上、失敗は許されない。

 

 

 理想は必ず手に入れる。

 

 

 

 

 to be continued....

 

 

 

 

 

 

 






次回で1.5章は終了!



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自由と秩序(4.XXX話)



【あらすじ】

"仮面の魔女"もとい結依魔理沙の暗躍により、世界各地の紛争問題、食料問題、治安問題等が解決され、"仮面の魔女"を支持する勢力がアメリカを中心に爆増した。これもすべて魔理沙が自分のためにしたことであり、世界は彼女の影響によって少しづつ変化していった。

自由に能力を使えて、誰かの言いなりにもならない理想の人生を求めた魔理沙はアメリカでの因縁を断ち切るべくホワイトハウスに向かっていった。





 

 

【アメリカ ホワイトハウス邸前】

 

 

 

「なぁ、ボブ」

 

「どうしたクリス」

 

「最近、変なニュースばっか流れないか?」

 

「魔女のことか?」

 

「あぁ、アイツが出てきてからニュースが全部胡散臭く見えて仕方がないんだ」

 

「魔女がアフリカの紛争を止めたとか、死んだサンゴ礁を蘇らせたとか、南極の氷を復活させたとか?」

 

「そうそう。あとは伝染病を根絶させたとか、街を一から作り出したとか、人間を蘇らせたとか」

 

「流石にデマだよな?」

 

「どうせネットしかやってない連中がコラ画像作りまくって適当なこと言ってんだろ?」

 

「全く、フェイクニュースはSNSだけにしろってのに」

 

「テレビがフェイクニュース取り扱ったら終わりだよなぁ」

 

「実は俺たちが今まで見てたのはニュース番組じゃなくてコメディ番組なんじゃね?」

 

「絶対それだ。クリス、お前は天才だ」

 

「あったりまえだろう?」

 

 上機嫌なクリスと陽気なボブ。二人は現在ホワイトハウス内で行われている会議を邪魔されないよう、周辺の警護をしている。とはいえ、こんないかにも警備体制のしっかりした場所にわざわざ凸りに行くヴィランなど誰もおらず、正直暇だった。

 

 だが、今回は違った。遠くから誰かがこっちに向かって歩いてきており、迷う素振りもない。全体的に黒と白を基調とした服を着ており、頭には魔女が被るようなトンガリ帽子を被っている。

 

「そこの人、止まりなさい。関係者以外は立ち入り禁止だ」

 

アントニオ

 

 顔面真っ黒の、どう見てもアジア人にしか見えない人間は何の脈絡もなく自己紹介をし、そのままボブとクリスの間を素通りした。

 しかし二人は彼女を止めはせず、まるで旧知の友人のように対応した。

 

「……アントニー! お前久しぶりだなぁ! 連絡が無かったから心配してたんだぜ?」

 

「俺たち昨日飲みに誘おうとしたのに全然既読つかないからさぁ、嫌われたのかと思ったよ」

 

「すまんすまん」

 

 顔面真っ黒の少女は体良く謝ると、二人は笑顔になった。

 

「いいってことよ! 俺たち親友だからな、酒でも奢ってくれたら許してやるよ」

 

「おいおいクリス、アントラーは国会議員で忙しいんだから無茶言っちゃ可哀想だろう?」

 

「あ、そうだったか? すまんなアルフレッド、暇が出来たら一緒に飲もうな」

 

「そうだね」

 

 ■■■■■は笑顔で二人に手を振ると、二人も元気よく手を振り返した。

 

「「またなー、アリス(アルトリア)」」

 

「…………ん?」

 

 二人は■■■■■を見送ったものの、ふと我に返る。

 

「今通ったの……誰だっけ?」

 

「アレだよ……幼なじみで同級生の……アレだよ」

 

「違う違う、大学時代の飲み仲間のアイツだよ……えぇーっと、誰だ……?」

 

 ボブとクリスは延々と頭を悩ませたが、名も知らぬ友人の名前を思い出すことは無かった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

【ホワイトハウス官邸内】

 

 結依魔理沙は人と出会う度に、生体信号を操作する能力と正体不明にさせる能力で別人だと思い込ませ、時間差で忘却魔法を起動させるという、割と高度な離れ技で官邸内に易々と侵入した。

 

 会議の場所が分からなかったが、道行く人の心を読むことで場所を把握し、ついに魔理沙は己の自由をかけた決戦の地へとたどり着いた。

 

 ドゴォ!! 

 

「!? 何だ……!?」

 

 蹴り破られたドアがバタンと倒れ、舞い散る埃の中から白黒の魔法使いが姿を現した。

 

「魔女です」

 

「「魔女……!?」」

 

 その場にいた人の多くが困惑する中、軍人と思わしき人が冷静に指示を下した。

 

「すぐに拘束しろ」

 

 彼の指示に従った警備員たちが魔理沙を拘束すべく銃を構えたが、銃は一瞬のうちにして手元から消えた。

 

「流石にソレは危ないから、貰うね」

 

 そう言うと、魔理沙は警備員全員から奪った銃をすべてプランクブレーンに放り込んだ。

 

「何をしている! 今すぐ捕らえろ!!」

 

 再び軍人らしき人が指示を下したものの、警備員たちは一歩も動かない。虚ろな表情を浮かべながら常に地面を見続け、ただ何もすることなく突っ立っている。

 

「お話しましょう」

 

「……き、貴様と話すことなど何も無い!!」

 

「話してくれないとお仲間を官邸内で踊らせますよ?」

 

 魔理沙がパチンと指を鳴らすと、すべての警備員が陽気な音楽に合わせてオドループを踊り始めた。

 

「やめろやめろ! 官邸内で何やらさせてんだ!?」

 

「趣味です」

 

「知らねぇよ!!」

 

「というのは半分冗談で、これはあくまでデモンストレーション。その気になれば強制的に国のトップ全員を日本の■■総理にすげ替えたり、ヴィーガンをブッダに変えたり国の資産総額を気分で変更したり株価を強制的に上げ下げ出来るということを分かっていただきたい」

 

(嫌過ぎる……)

 

 魔理沙が指を鳴らすと、それまで席を立って魔女を糾弾していた人全員が即座に座り、全員の前に一杯のコーヒーが出現した。

 

「で、お前は何しに来たんだ……」

 

「とても良い質問です。ちょうど今からそれについて話すつもりでした」

 

「はよ言え」

 

 急かされた魔理沙は少し咳を漏らしつつも、終始笑顔で話を続けた。

 

「私がここに来た理由はただ一つ。日本、アメリカ、中国、韓国、ロシア、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの9ヶ国と私で秘密裏に条約を結びたい。詳しい内容に関しては今から配る資料に記載されているので拝謁よろしくお願いします」

 

「意味がわからん……!」

 

 何処の馬の骨かも分からないコスプレ女一人と、9ヶ国の先進国が何故国際条約を結ばなければいけないのか、というかマジでコイツは誰なのか、この場にいるすべての国会議員が首を傾げた。

 

「これは最近の悩みなんですが、"何でも出来る"ようになると善悪の線引きがあやふやになるんですよ。まぁ、変なヤツらと絡みすぎたってのもあるんですが、何と言うか、だんだんヒトをぶっ飛ばすのが日常的になったというか……個性ブッパするのが日常になったというか……」

 

 ズズッと、魔理沙はコーヒーを1杯飲んだ。

 

「自由なのは気楽で良いけど、これ以上いくとたぶん人類悪になりかねません。なので"縛り"を設けたいなと」

 

「……君の個性は……何?」

 

「"食べた相手の能力をパクる"個性……だけど、食べてない能力までストックしてるから自分でも何があって何がないのか分かりません」

 

「分かってる範囲で、例えば?」

 

「時間操作、分身、蘇生魔法、概念消滅、転移、瞬間移動、空間切断、結界術、精霊魔法、即死魔法、支配、破壊、反射、召喚魔法、物質創造、運命操作、ミーム汚染、現実改変、治癒魔法、天候操作、天地創造、重力操作、気力操作、索敵魔法、属性魔法、確率操作、身体強化、変身、精神操作、地形操作、エネルギー操作」

 

「いや嘘にも程があるだろ……」

 

 何を言っているのか分からないが、ギリ分かる範囲で理解しようとしても己の常識が全力でそれを否定しようとする。

 時間操作? 蘇生? 分身? 瞬間移動? お前は大魔王にでもなったつもりか? そう馬鹿にしてやりたい気持ちの方が大きい。

 ならさっさと彼女の発言を切り捨て、ホワイトハウスへの不法侵入および業務妨害の罪で豚箱に入れるべきだが、誰も彼女を捕まえようとはしなかった。

 

 何故なら死ぬほど心当たりがあったから。

 

「最近、魔女に関するニュースが増えましたね。魔女の支援のおかげで新たに独立国家が誕生したり、長年に渡り続いた戦争が魔女の手によって終結したり……」

 

「⋯⋯最悪だ」

 

 全部繋がった、繋がってしまった。この女が"魔女"と自称した時から薄々感じてはいたが、最近世界中で引っ掻き回している"自称魔法使い"がいることはハッキリしていたし、それと同時にカメリア刑務所から"人類史上最も潜在能力の高い超危険人物が脱走した"との報告も受けていた。

 

 コイツだ。今目の前にいるコイツが世界中を()()で引っ掻き回している魔女本人。分身の個性で世界各地に散らばり、それぞれの国々で難題を解決し、大衆を味方につけてからホワイトハウスに潜入しにきた頭のイカれた人間。

 しかもそれだけでなく、彼女は半年前に自らカメリア刑務所に出頭し、先週なんの脈絡もなくいきなり脱獄してきた。いったい彼女は何がしたいのか、わけわからんのに力だけはこの世の誰よりも強いから誰も制御出来ない。

 

 今、この場で彼女が世界征服を始めたとしても為す術ないのが我々人類の現状だが、人類の支配権をもった彼女がわざわざ"縛り"を設けると言ってこの場に座っている。何なんだコイツは、マジで何が目的なんだ。何でウチに来たんだ。いくら世界でトップクラスの影響力を誇るからって、ここ説得しとけば他も上手く行くみたいなノリでこられても困るんだが。

 

 議員の間で緊迫した状況が続く中、魔理沙は気にせず話を続けた。

 

「これもそれも全て演出です。権利も威厳も何も無い私が出来る唯一の手段が、これしか無くて⋯⋯」

 

「いやもっと他にあっただろ……!」

 

 権利なんぞ、圧倒的暴力の前では塵に等しいだろうに。

 

「これで私の話の信憑性が増したと思うのでもう一度提案します」

 

「ちょっと待ってくれよ⋯⋯」

 

 全員頭が追いついていないが、魔理沙は構わず話を続けた。

 

()()()()()()()()()()()()。私は世界と対等で、あなた方人類の味方で、友好な関係であるという証明がほしいんです」

 

 人類の味方、そのワードにホッと一安心する者もいれば、懐疑的な者もいた。

 それもそのはず、自分よりも遥かに強い相手が『味方』だの『友好な関係を築こう』だのほざいたところで、『信用』が無い以上信じるもクソもない。裏切られた時の損失が敗戦以上の化け物とそう簡単に友好関係を結べるはずがない。

 魔理沙を信じられない大臣および議員たちはその本心が悟られないようポーカーフェイスを演じながら、彼女の()()を探るべく少しふっかけた。

 

「お前の話が本当なら、何故その能力で我々を支配しようとしないのだ。お前の指示ひとつでこの場にいる全員の言うことを聞かせられるだろう?」

 

 大臣の一人が魔理沙に問いかけると、魔理沙はヤレヤレと言わんばかりに両手を上げ、呆れた表情で答えた。

 

「……それやったらただの()()()()になるじゃん」

 

 先程までビジネススマイル全開だった彼女から笑顔が失われ、冷酷な表情に早変わりした。

 その冷たさは他人を拒絶した時のものではなく、彼女の背に積み重なった"孤独"の2文字が染み出したもので、人間社会から弾き出されてしまった彼女の怨念のようなものが滲んでいた。

 

 支配して、全人類の頂点に立って、いったい何になるのか。張り合う相手もいなければ話し相手もいない。そんなつまらない人生を歩んだところで満足するわけがなく、希望も楽しみも無い世界を無限の寿命で過ごすなんぞ地獄でしかない。

 

「私も、私の周りにいる人間も、()()()()だと思えるから生きていられる。だから私に支配する理由も価値も何も無いよ」

 

 魔理沙は魔法で生み出したコーヒーをもう1杯飲み干した。

 

「というわけで、私と条約結んでください」

 

「いや待て、まだ質問は終わってない」

 

 悲壮感溢れる雰囲気から一転して元の素っ気ない状態に戻る魔理沙。正直どの辺が本当でどの辺が嘘なのか、議員たちはサッパリ分からなかったが、少なくとも人らしい考え方を持っていることは分かった。

 もう少し探りを入れよう。この娘はいったい何なのか、我々は今何に直面しているのか。ここでハッキリさせなければならない。

 

「……ふぅ、とりあえず落ち着くために今の状況を整理しよう。まず、君の名前は……」

 

「結依魔理沙」

 

「OK、結依魔理沙。君の出身は日本で、年齢は不明。現在、世界各国に出現している魔女というのは君のことで、多くの国際問題を勝手に解決したと」

 

「ノーベル平和賞貰ってもいいと思う」

 

「OK、色々言いたいことはあるが一先ず置いておこう。とりあえず君がそういう行動に出たのは我々と対等に話し合いするためで、あわよくば社会的地位を保証してもらいたいと」

 

「YES」

 

 結依魔理沙は悪びれることなく頷いた。

 

「……そう言うのは君の祖国に頼むべきことであって、我々に頼むことじゃない気がするのだが」

 

 至極真っ当な意見に納得しかける魔理沙。しかし、事態がここまで面倒になった原因について思い出すと、魔理沙は表情を顰めた。

 

「いや、そもそも私を刑務所にブチ込むことに決めたのは国際連合とヒーロー連盟だ。なら、連合や連盟に対して多大な影響力をもつ国を説得するのは当然のことだと思う」

 

「……君は自分の意思で刑務所に収監されたのだろう? ならば大人しくしているべきじゃないのか?」

 

「残念ながらその刑務所はヴィラン連合と繋がっていて、なおかつ私が収監される際に交わした契約内容を無視して私の殺害を企てたヤツがこの中にいるって聞いたから、出向かざるをえなかった」

 

「「は?」」

 

 サラッと爆弾発言を残しつつ、魔理沙は再び魔法でコーヒーを生み出した。しかし本物のコーヒーと違ってカフェインは入っておらず、見た目と味だけ再現した偽コーヒーなのでお腹に溜まることはない。

 魔理沙が優雅にコーヒーを飲む最中、議員たちはヴィラン連合とカメリア刑務所が繋がっていたことについて話し合っていた。しかし、魔理沙殺害計画に関する話は一人もしなかった。

 

「この中に私の殺害計画を企てた人間はいますか?」

 

 魔理沙が満面の笑みを浮かべた。話題にしなかったことを根に持っているのか、話し合えと言わんばかりに圧をかける。

 そこで一人の陸軍司令官が恐る恐る手を挙げた。

 

「……恐れながら、我々は君の処遇についてほとんど関与していない。我々はただ報告を受けただけで、具体的な内容については国際ヒーロー連盟と日本政府が知っているはずだ。刑務所に関しては確かに我々の管轄だが、あくまで収監の許可を出しただけで君の殺害計画を立てた事実はどこにも……」

 

「う〜ん、ダウト」

 

 魔理沙は躊躇いなく嘘と断言した。

 

「言い忘れていたが私は人の心が読めます。感情の揺らぎも見えるので罪悪感とかも感じ取れるのですが、お前、騙すことに何の躊躇いも無いな?」

 

 陸軍司令官に圧をかける魔理沙。心を読んだ結果、殺害計画を企てたのはここにいる議員全員であり、博士の言う通りアメリカ政府は強力な個性所持者を秘密裏に処刑するプロセスが既に確立しているようだ。

 なので彼らにとって、このような事態を引き起こした魔理沙の存在は非常に厄介極まりない。私の発言がブラフであることに賭けてもう少し黙秘で通そうとする動きが見られるが、悲しきかな私は10点満点中11点の化け物。私がここに来た時点で駆け引きなど意味無いのだ。

 

「……言いがかりも甚だしい」

 

 案の定、言いがかりをつけてきた。

 

「証拠が欲しいなら上げます。私の脳に保存された映像をスクリーンに流すので」

 

 魔理沙は"イキュラス エルラン"と唱えると、魔理沙の記憶映像がテーブルの中央に投影された。しかし部屋が明るすぎて見えにくいため、魔理沙はついでに指パッチンで部屋の電気を消した。

 

『……』

 

『……』

 

 カメリア刑務所で起きた博士との対決、ヴィラン連合の長たるAFOとの会合、そして刑務所からの脱出に至るまでの記憶を映像化し、議員全員に確認をとった。

 

「随分とクオリティの高いフェイク動画だな」

 

「まだ疑うの?」

 

「君の個性が常軌を逸し過ぎて、本当に真実かどうか分からないんだよ」

 

 議員の意見に魔理沙はやや納得した。が、ここで引いてしまっては思う壺。常軌を逸しているのは重々承知だが、意見を通すためにもゴリ押しする必要がある。ただいかにしてゴリ押しするか。

 

 ここで魔理沙は閃いた。人間には"バレたくない秘密"というものが山ほどある。それは社会的地位が高ければ高いほど増えるし、バレた時のリスクがとても痛い。

 特に金、暴力、性行為に関する秘密はバラされると立ち所に社会的地位を失う。これを人質に能力を証明すれば変な追求もされることなく円滑に物事が進むかもしれない。少々幼稚な作戦だがインパクトは重要。交渉において格上のヤツらを相手するには、この作戦も致し方ない。

 

 魔理沙は少し残念そうな表情を取り繕って話し始めた。

 

「……分かりました。では証明のために今からランダムで3人選び、その人が昨日の夜9時から朝2時までに何をしていたかを映像化します」

 

「「……ッ!?」」

 

 魔理沙の唐突な発言に議員全員の背筋が凍りついた。

 

「たとえどんな内容であったとしても問答無用で映像化します。脱税してようが暴力行為してようがエッチなことしてようが何でも暴露します。証明のために」

 

 そう言うと魔理沙はおもむろに杖を取り出し、ゆっくりと立ち上がろうとする。

 

「結依魔理沙くんッ!!!」

 

 複数の議員が同時に名前を呼び、驚いて黙ってしまった魔理沙。名前を呼んだ議員は全員勢い余って立ち上がっていたが、冷静さを取り戻したのかゆっくりと席に座った。

 

「いったん、落ち着こうか」

 

「…………」

 

 魔理沙も一旦席につき、杖を胸ポケットにしまった。嫌がられることは分かっていたがあそこまで必死になるとは思わなかった。

 しかし作戦通り"秘密"を人質に取ることで私を都合よく言いくるめようとする動きに牽制をかけることが出来た。未来予測の結果、私が適当に言いくるめられて国際指名手配犯になる世界線から切り替わり、条約を制定し各国と友好な関係をもつ未来へと変化した。やはりゴリ押し作戦は間違いではなかったと、魔理沙は内心ガッツポーズを決めた。

 

 なお現在会議室では沈黙が続き、色々と気まずい雰囲気が漂う中、一人の議員が声を上げた。

 

「……とりあえず、条約の内容について聞かせてもらおうか」

 

 圧かけたおかげか、条約についてやっと触れてくれた。もう少し早く触れて欲しかったが、これで予測した通りの未来へ続くことだろう。

 魔理沙は心底嬉しそうな表情で答えた。

 

「そうだね。まず条約名は、"結依魔理沙の処遇に関する国際条約"で良いかな」

 

「まず私がどういう存在なのか最初に明記しておいて、その後私と条約を結ぶ意義について明記するだろう? その後はね、結依魔理沙に関する各国の禁止事項を記載する」

 

「禁止事項とは?」

 

「今考えている内容としては、1.国家権力を用いて私や私の親族に危害を加えたり、許可なく隔離したり研究することを禁ずる。2.これまでの結依魔理沙の経歴を抹消し、詮索することを禁ずる。3.結依魔理沙への敵対行為を禁ずる。4.結依魔理沙とは常に友好な関係を維持する。これを無視したものは結依魔理沙本人による超法規的措置による制裁が行われる、かな」

 

 魔理沙はとりあえず考えていたことを全部吐き出した。内容を簡潔に表すと、「私と親族に手を出したら潰すぞ」である。これ以外の条約は特に何も思い浮かばず、とりあえず面倒事さえ減ってくれればこちらとしては十分ありがたい。ただ念の為、普通の一般人を装う上であの経歴(刑務所収監&脱獄)は邪魔なので消して欲しいのと、仲良くしたいので最後に一文付け加えておいた。

 

「超法規的措置を行わずとも、自衛目的の個性使用はほとんどの国で許可されているため問題ありません。経歴に関しては我々で管理可能なので、抹消せずとも漏洩することは無いです」

 

 一人の議員がアドバイスおよび補足説明を付け加えてくれた。

 

「じゃあそれでいいよ」

 

(良いんだ……)

 

 あっさりと許した魔理沙に議員たちは困惑した。

 

「あと、日本のヒーロー公安委員会に入りたいから説得してほしい。あとで引越しの準備するから」

 

 唐突に変なことを言い出した魔理沙。なお、本人もついさっき思いついたことを今ここで吐き出しただけなのだが、理由は割と真っ当である。

 

「……何故日本の公安に?」

 

「国際条約結んでなお私に歯向かってくるヤツらを正当な手段で叩き潰すために」

 

「…………」

 

 議員たちは全員口が開きっぱなしだったが、魔理沙本人は割と真面目に答えた。言葉が悪いとか少ないのは後にして、魔理沙はその理由について議員たちに詳しく説明した。

 

 まずこの"結依魔理沙の処遇に関する国際条約"だが、別に条約を結ぶかどうかは強制でないということ。私が脅したアメリカと故郷の日本には絶対結ばせるつもりでいるが、それ以外の国に対してはお互いにメリットが無いと基本成立しないと思われる。

 また、シンプルにアメリカと対立している国がアメリカが参加している条約に入るのかも怪しいし、私の存在を完全に排除したい側の人間は参加するはずもない。そういう条約未締結国の人たちがもし私への危害を企て、刺客を送り込んできた際、私が出来るアクションはせいぜい自己防衛か、条約締結国に牽制してもらうようお願いするだけである。それは非常に面倒臭い。

 なので国および国際ヒーロー連盟の傘下に入ることでこれらの組織を盾or隠れ蓑にし、ヴィラン逮捕を名目にこちら側から叩き潰すことが出来る。ただ私としては必要以上に目立ちたくは無いので、オールマイトみたいな"いるだけでヴィランの活動を抑制する"存在にはなれないが、少なくとも存在を認知している組織や機関に対してはある程度牽制出来るはず。

 

 第一、こんなに能力をもてあましてるのに法律のせいで後手に動くくらいなら法律よりも強い力でアレするしかない。と、ついさっき思いついたので話してみたが、意外と議員たちも納得してくれた。

 

「それより私からの要望はそれくらいだけど、()()()()()()()は何かあるか? 余程理不尽な内容じゃなければ受け入れるけど」

 

(……!)

 

 魔女側からの提案に目が開く議員たち。魔理沙としても、こちらばかり禁止事項の制定やらお願い事をするのはフェアじゃないので、当然自分に対しても何かしら制限を受ける気ではいた。

 何より自分の魔法および能力は安全なものから危険なものまで幅広く存在するため、意識してないとついうっかり発動しかねない。ここ最近の人間関係に関しても劣悪(犯罪者的な意味で)だったことから、条約の名のもとに自制しなければ本当に化け物になってしまう。

 なので制限を受けることは魔理沙側からしても一応メリットがある。だが、一番喜ぶべき議員の人たちは何故か少し困った表情をしていた。その理由について聞いてみると、一人の議員が申し訳なさそうに発言した。

 

「あらためて申し訳ないが、我々は君の個性について把握しきれていない。君が魔女として活動中に行った分身の魔法とか、人を甦らせる魔法がある程度しか分かっていないんだ。だから君からのアクションに頼らざるを得ない」

 

 議員はそう言った。これに関しては仕方がない。何故なら私から研究データを取って解析しても"個性"以外の能力はすべて解析不能だから。この世界にはない概念である以上、私が説明しない限り判明することは無い。

 

「じゃあ個人的にヤバい魔法と能力上げてくから、それ聞いて決めてね。まずは……」

 

 魔理沙は自身の保有している能力と魔法について、議員たちに懇切丁寧に説明した。そのあまりにも意味不明な能力と魔法の数々に人々は苦悩し、いかにして結依魔理沙を人間社会に収めるか何度も検討した。時に議員側の意見と魔理沙側の意見で対立することもあったが、何とか折り合いを見つけて内容を定めていった。

 

 

 ■

 

 

 こうして、魔理沙とアメリカの国会議員たちによって国際条約制定のための準備が行われ、約400時間に及ぶ会議が無事終了した。本来なら期間を開けて何度も会議を行う必要があるが、回りくどいと感じた魔理沙が全員の記憶を保持したまま時間をループさせるという荒業を使い、たった1週間で準備が完了した。

 各国政府への連絡も済ませ、条約の制定と締結の期日も決定し、魔理沙は世界初の"個人にのみ適用される国際条約の当事者"となった。

 なお、この国際条約の内容は世間に公表されず、一部の国と地域にのみ公表された。こうなった理由として、魔理沙が目立つのを嫌がったからというのもあるが、国のトップからしても魔理沙の存在は社会に混乱をもたらすため、今は存在を隠すことにした。

 なお公表した国と地域はいずれも"仮面の魔女"をヒーローとして認める運動が大きかったため、それらを一時的に抑制する目的で公表した。その結果、よりいっそう結依魔理沙について知りたがる人々が多く現れたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、次の日には興味関心をほぼ失っていた。理由はお察しの通りである。

 

 そのため、魔理沙が"仮面の魔女"として活動していたことについてはほとんどの国で隠蔽され、最終的に"仮面の魔女"は世界で一番有名な都市伝説の一つとして語り継がれるようになった。

 

 また、この条約の締結に賛同したのはアメリカ、日本、ヨーロッパ諸国、東南アジア諸国、オーストラリア、南米諸国、エジプトを含む一部のアフリカ諸国で、中国、ロシア等の国々は却下した。今後これらの国による何かしらの干渉は避けられないとし、アメリカと日本はより警戒を強めた。

 

 なお、両親の方はスター&ストライプの説得に成功し、ちゃっかり連絡先を交換していた。また、娘のために『仮面の魔女をヒーローとして認める署名運動』を行い、大量の電子署名を集めた父だったが、魔理沙が上手くやりのけてしまったので少し不貞腐れた。あまりにも可哀想だったので、魔理沙はしばらく父の肩を揉み続けた。

 

 最後に、カメリア刑務所は完全に営業を停止し、囚人たちはみな別の刑務所に収監された。研究施設も完全に破壊し、面影すら残らないほど解体され、現在は瓦礫の山と化している。

 また、魔理沙脱獄に乗じて脱走した者はすべて捕らえられ、執行猶予すらつくことなく全員死刑となった。

 

 この結果に魔理沙は少し思うところがあったが、無理やり忘れることにした。元々彼らは犯罪者であり、手にあまる個性をもっていた以上、国としてどうしようもない部分があったのだろう。

 

 

 条約の試行は再来年の4月から。

 

 

 

 






"仮面の魔女"および結依魔理沙の処遇に関する国際条約

【結依魔理沙の禁止事項】

・国家規模以上の破壊活動禁止(たとえそれが自衛行為だったとしても)
・国家および人類への反逆行為禁止
・不許可で国境を飛び越えたり、転移するの禁止
・各国首脳の洗脳、および国際情勢を混乱に陥れる行為禁止
・皇室および世界遺産等の立ち入り、接触禁止
・マインドコントロールによる常識改変、または国家規模以上の現実改変禁止
・貨幣の偽造、および商品の違法コピー禁止
・自然環境に害を及ぼす物質(水銀、フロンガス等)の放出および放射線の放出禁止
・戦争への加担禁止(日本が戦争を起こしても関与してはならない)。また、戦争を助長する行為(武器・情報の提供等)も禁止
・行政機関、研究機関、報道機関等における機密データの閲覧、またはそれらのダウンロード、データ削除、第三者への流出禁止
・軍への所属禁止
・裁判所への立ち入り禁止
・条約締結国以外への結依魔理沙にまつわる研究データの流出禁止。また、条約未締結国の研究機関への関与禁止。
・過去への干渉禁止

・結依魔理沙は書類上、"ヒーロー公安委員会日本支部"に所属するものとし、全ての責任は管理責任者であるヒーロー公安委員長が負うものとする。



カメリア刑務所編、完。




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第二章:陣取り合戦
おこちゃま戦争(5話)






【あらすじ】

ヴィラン連合と繋がっていたカメリア刑務所を脱獄し、世界中を引っ搔き回した結依魔理沙。彼女の理想の人生の歩む上で、自分が"世界を滅ぼしかねない存在"だということと、"刑務所の脱獄囚"という経歴が非常に邪魔だったため、先進国を中心に"結依魔理沙の処遇に関する国際条約"を制定。そしてなんやかんやヒーロー公安委員会に所属することになった(本人の希望)。

 そして刑務所脱走から1年が経過した。






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☆9評価 ☆3評価 ☆2評価 ありがとうございます。




 

 

 刑務所脱走から1年、体感では20年以上経過したが本当に大変だった。情報規制のおかげでマスメディアに私たちの情報が流れることは無かったが、脱走事件については大々的に放送されてしまった。社会への不安を煽るキッカケになってしまうかと思いきや、アメリカのヒーローたちが脱走した犯罪者を捕まえたというニュースが次々と流れたことで逆に大盛り上がりし、ヒーロー業界へ注目度は大幅に上昇した。

 なお、実際に脱走者を捕まえたのは私で、捕まった脱走者は全員もれなく終身刑(と見せかけたの死刑)となり、色々と思うところはあった。捕まえた脱走者の中には知り合いもいたが、お互いに殴りあったことで決着をつけた。思い残すことは、無い。

 

 これで全てが丸く収まったかと思いきやそうでも無く、今でも反社会組織や条約未締結国からの刺客に襲われることがある。あの条約はあくまで国家における結依魔理沙への対応を改めるものであり、そういった人にとっては全く関係の無い話なので襲われるのも仕方ない。

 とはいえ住所もバレてるので近いうちに引越ししたいが、移住費やら何やらお金が足りないので後1〜2年はここに滞在しなければならない。しかし何もしなければ襲われるだけなので、魔理沙は常時気を張ることで敵の位置を常に把握するようにした。半径1kmが効果範囲内なので、見つけ次第早急に始末する。警察並に人間シバいてる気がする。

 

 

 さて、そんないざこざは置いといて最近新しい趣味を見つけた。あ、髪の毛ソムリエは今でも続けている。個性は多いに越したことはないし、 新たな戦闘技法の開拓に髪の毛ソムリエはかかせない。隙あらば髪の毛は捕食するつもりだ。

 

 ……話が少しそれたが、趣味というのはそう、()()()()だ。始めた理由は特になく、ただ人々の役に立ちたくて始めただけ……というのはただの建前で、本当は自分に対する周囲の印象を良くするのと、ついでにパトロールして私狙いの人をシバくためである。

 

 私は俗に言う異形個性持ちであるため、初対面の人に会うとだいたい怯えられたり、見下されることが多々ある。この地域はまだマシな方だが、場所によってはかなり酷い扱いを受けることもあるらしいので、この行動は異形個性の地位向上に繋がるかもしれない。

 

 今は自分のためだが、いつか人のためになる……ということで私は今ゴミを拾っているのである。

 

「ん」

 

 魔理沙は黒紫に染まった右腕で周囲一帯を薙ぎ払うと、黒いモヤに包まれたゴミたちは一瞬にして別世界へと隔離された。

 ユニークスキル『暴食者(グラトニー)』、使いこなせばゴミだけを選別して隔離することが出来る。とても便利だ。

 

「魔理沙ちゃんは今日もえらいね〜〜」

 

「助かるよぉ〜〜」

 

「キラッ☆ミ」

 

 異形魔理沙が絶対にやらないような笑顔と片目ピースを、おじいちゃんおばあちゃんにサービスする結依魔理沙。

 日本はまさに大高齢化社会、どこもかしこもおじいちゃんおばあちゃんだらけ。すなわち、おじいちゃんおばあちゃんの心を制した者こそが日本を征するのだ。クックックックッ……

 

 なんてくだらないことを考えながらゴミ拾いを続けていると、遠くに奇妙な子どもを見つけた。子どもにしてはファッションがやけに派手だったのでつい目で追ってしまったが、よくよく見ると誰かに似ている。

 

「あれは…………?」

 

 なんか金髪に少し紫がかったような頭髪に、青い瞳、そして貴族のような雰囲気がでてる彼は…………? 

 

「まさか、メルスィーの人!?」

 

「メルスィー? 誰かが僕の輝きに見惚れたかい?」

 

 何故ここにいるのか、何故この街で平然と歩いているのか、まさかこのタイミングで主要人物の一人に出会うとは思わなかった。転生してからかなりの時間が経過しているため名前が出てこないが、確か青山……くん、だ。

 

 全然思い出せないのでタグを確認した。彼の名前は青山優雅(あおやま ゆうが)、後の雄英高校の生徒になるはずだった。

 だがしかし、私という異端者(イレギュラー)が混ざったことで彼は雄英高校に入ることが出来ない運命にある。しばらく彼に会うことは出来ないだろう。

 

 私はせめてものの謝罪として、青山くんの個性『ネビルレーザー』を受け取ることにした。せめて個性だけでも活躍させてあげたいが、使う機会は来るのだろうか。

 

「どこにいるのだい、マドモアゼル? 僕が君をロマンスに連れてってあげるよ☆」

 

 ブワッ!! 

 

「ウワッ☆」

 

 魔理沙の超高速移動によって発生した突風が青山の優雅な髪の毛を吹き飛ばし、舞い上がった髪の毛から1本だけ引き抜くと、魔理沙はそのまま遠くへ走り去っていく。

 さようなら、青山くん。いつかまたどこかで会おう。

 

「……またねッ☆」

 

 こうして、青山と一期一会の出会いを果たした魔理沙は、両親から頼まれたおつかいを果たすべく最寄りのスーパーへと向かっていった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 一旦家に帰ってお昼を済ませた後、私は散歩に出かけた。

 

 散歩の途中、私はさっそく手に入れたネビルレーザーの使い道について考えていたが、やはり奇襲用として使うのが1番な気がする。常識的にへそを警戒する人間などいるわけがないから、意外と敵に刺さるかもしれない。

 

 魔理沙は何気なく近くの公園を横切ると、見るからに修羅場な光景が見えた。

 

 一人の子どもに対して3人がかりで相手する子どもたち。そしてその間に割り込んで両手を広げる一人の子ども。遠目からだとじゃれ合いにしか見えないが、怯えた声と微かな涙の匂いから考えて修羅場としか思えない。

 しかし大量出血だとか全身打撲とかそういうレベルの怪我があるわけではなく、あくまで一般レベルの喧嘩に留まってる以上、無闇に手を出すのは良くないと察した。

 

「ひどいよかっちゃん……。ないてるだろ……? こっ、これいじょーは……、ぼくがゆるしゃないぞ!」

 

 しかし、よくよく見るとどこか見覚えのある特徴をしている。緑色と金髪、ソバカスとツリ目、どこかで見たような気がした。

 関わってはいけないと思いつつも、草陰から4人のやり取りを覗く魔理沙。何か重要な場面を見ているような、運命的な何かを感じたためもう少し様子を見ることにした。

 

「無個性のくせに……、ヒーロー気取りかァ()()

 

 "デク"という単語にさらに引っかかる魔理沙。絶対聞いたことある名前だったので必死に能力で情報ソースを探す。

 "地球の本棚"にアクセスした魔理沙はキーワードを元に検索を行う。すると、1冊の本が魔理沙の脳内に現れた。その表紙には『緑谷出久』と書かれており、最初の数ページだけ読んで彼の素性の概要を把握した。その結果、今自分と彼が直面しているものについて理解した。

 

 

 ──── ここ原作第1話!? ─────

 

 

 またしても奇跡的な場面に遭遇した魔理沙。因縁の始まり、緑谷出久と爆豪勝己の関係が描写された最初の場面。その瞬間に魔理沙は立ち会ったのだ。

 嬉しさのあまり物音を立てそうになったが、精神安定スキルの強制執行により魔理沙は冷静さを取り戻した。

 

(でもここで私が介入したら確実に原作ブチ壊れる……ッ!!)

 

 僅かな理性が私にブレーキをかける。だがよくよく考えて欲しい。この世界、私がいる時点で既に原作は崩壊しているのである。つまり今更なのである。

 

(……じゃあ、ヨシッ!!)

 

 理性の天秤が崩れた瞬間、魔理沙は勢いよく駆け出し、彼らの間に割って入った。

 

「誰だお前」

 

「かっちゃん! あいつ髪の毛食べる変なやつだよ! てっちゃんがいってた!」

 

 隣の男の子がいきなり私の素性の一部を暴露し、まだ何も言っていないのに魔理沙は3人からドン引きされてしまった。事実だし何も言えないし冷や汗も止まらない。

 

「きみは……だれなの……?」

 

 酷くか細い声が私の背後から聞こえる。こっそり背中に小さい目玉を生成して様子を見たが、緑谷くん自身には特に怪我は無さそうだ。

 ただ緑谷くんが庇っている子はところどころ擦り傷が出来ているので、守ってあげるべきだ。

 

 魔理沙は振り返らず、緑谷の問に応える。

 

 

「……私は、君たちを助けるヒーローさ」

 

 

 魔理沙は責任を持ってヒーローを名乗り、彼らを守ることにした。

 見捨てようとした自分がヒーローを名乗るのは烏滸がましいような気がしたが、前に出た以上逃げることは許されない。

 

「ヒーロー? ハッ! オンナのくせになにいってんだ。邪魔すンなら容赦しねぇぞ」

 

 自分の力に余程自身があるのか、爆豪は全く臆することなく、手の平で小爆発を連続で起こしながら威嚇してくる。

 

「おめぇこそ生意気言ってっとおめぇのランゲルハンス島ピンポイントでブチ抜くかんなぁ?」

 

 互いに脅し、睨み合い、火花を散らす二人。

 

 魔理沙は爆豪についてある程度知っているが、爆豪にとって魔理沙は未知の異物。正体不明の存在だが、そこらへんの()()とは何かが違うと、爆豪は密かに感じ取っていた。

 しかし爆豪以外の二人はノリノリで魔理沙をブッ潰すつもりでいた。

 

「こいつなまいきだ!! ぜったいヴぃらんだよヴぃらん! おれたちでヴぃらんをやっつけようぜ!」

 

「さんせー!!」

 

 遂には私をヴィラン扱いし始め、二人は正義という名の暴力に身を任せる。

 

「んじゃしねぇえええええええ!!!」

 

 向かってきた3人が奇声を発しながら突っ込んできた。爆豪と指伸びるやつは個性を頂いてるから、あの翼の子は後で髪の毛をいただこう。

 

 というわけでまず、向かってきた爆豪くんの拳をかわし、他の2人をデコピンで吹っ飛ばした。デコピンついでに『一日中アイスクリーム頭痛を負う呪い』を二人にかけ、彼らを無力化する。

 

「あたまがア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「寝たら治るよ」

 

 呪いの解除方法を教えている最中に爆豪が再び右手で殴りかかってきたが、それも難なく横に避けた。

 

「なにかわしてんだクソが!!」

 

 当たらないせいか逆ギレする爆豪。今まで色んな組織に狙われてきた人間が今更子どもの拳ごときに当たるわけもなく、爆豪の攻撃は全てカラぶってしまう。

 

 しかし爆豪は諦めない。何度も何度も魔理沙に立ち向かい、尊厳のかかった拳を何度も振り回す。これ以上避けるのもアレなので決着をつけさせてもらおう。

 

「そよかぜステップ」

 

 一歩踏み出す度に風が舞い、さらにもう一歩踏み出すことでそよ風が吹き、そして私と爆豪がすれ違った瞬間、爆豪の真下から強烈なつむじ風が発生し、爆豪の体を遙か空の彼方まで吹っ飛ばした。

 だがこれで終わりじゃない。せっかくだしここで使ってみるとしよう。

 

「ネビルレーザーァァァァァ!!!」

 

 狙いを定めて放ったネビルレーザーは天高く舞い上がった爆豪の体に直撃し、さらに空高く舞い上がった。

 

「「かっ、かっちゃああああん!!」」

 

 爆豪の取り巻きが頭痛に苦しみながら悲痛な叫びをあげる。

 

「どう、君たちも飛ぶ? 朝○龍もビックリするくらいの飛びっぷりを」

 

「うわぁああああ嫌だあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 怯えた二人は全力で退却し、一目散に逃げていった。

 

 とりあえず完全決着したので、私は『距離を操る程度の能力』で空中に舞い上がった爆豪を少し離れた地上に下ろした。言い負かすことは出来なかったが、ほぼ撃退したといってもいいでしょう。

 

「あ、あの……ありがとう!」

 

 緑谷は緊張しながらも、満面の笑顔で感謝した。

 

「どういたしまして。じゃ」

 

「まっ、まって!」

 

 ササッと帰ろうとした瞬間、急に呼び止められてしまい足を滑らせかけた。首が180度回るところだった。

 

「これ……」

 

 緑谷は自身の髪の毛を一本引きちぎり、おずおずと差し出してきた。なぜ彼に私の趣味が共有されているのだろうか。教えた記憶微塵もないのだが。

 

 まぁ、お礼なんだろうな。お礼、なんだけど、別に髪の毛が特別好きってわけじゃないんだよな。流石に人間の腕を食うのは気が引けたから髪の毛にしただけなんだよね。うん、まぁ、一応貰うけど。

 

「あ、ありがとう……?」

 

 複雑な気持ちのままとりあえず受け取り、そのまま立ち去る魔理沙。味は……たぶん無いな。無いけど、一応貰ったものだし食べておくか。貰い物だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も味がしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






いろいろ紹介

暴食者:魔物の主『リムル・テンペスト』のユニークスキル。食べたものを隔離し解析することができる。転生したらスライムだった件。

青山優雅:タグでよく除外される子。キザで性格がもうネタ枠…だと思っていた時期が私にもありました。

ネビルレーザー:青山優雅の個性。へそからビームが出る。出しすぎるとお腹を痛めるらしいが魔理沙は痛めない。

そよかぜステップ:イナズマイレブンの松風天馬がつかうドリブル技。

『距離を操る程度の能力』:東方Project、『小野塚小町』の能力。その名の通り距離を操る。




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しつこい男の子は嫌われちゃうぞ☆(6話)





☆10評価 ☆9評価ありがとうございます。




 

 

 前回、爆豪をおもっくそ吹っ飛ばしてすっきりした私こと結依魔理沙は幼稚園で爆豪から逃げていた。

 

「どこ行ったんだあのボサボサ真っ黒野郎。絶対俺がアイツをメタメタにしてやる」

 

 必死に魔理沙を探す爆豪。しかし魔理沙は個性『ステルス』によって全身が透明になっているため、たとえ爆豪の後ろを呑気について行ったとしても気づかない。

 

 個性『ステルス』は服もまとめて透明化する他、声を出しても音が出ないため非常に便利。しかし重力センサーやサーモグラフィーで認識可能である他、光を屈折させてレーザー光線を放つことは出来ないため万能では無い。しかし、かくれんぼにおいてこれほど凶悪な個性は中々ないだろう。

 

 このまま次の時間までやり過ごそうと思った魔理沙だったが、その時、後ろから視線を感じた。

 

 ステルス状態で視線を感じることなどありえないはずなのだが、もしかしたら何でも見通す個性をもつ子がいるのかもしれない。それならステルスついでに髪の毛も頂きこうと、魔理沙は勢いよく振り返った。

 

 すると、そこには()()()()()()をじーっと見つめる緑谷がいた。

 

 これはバレてるのか、それともバレていないのか。人間には第六感が存在すると噂されているが、緑谷くんにもそういった個性以外の何かが備わっているとでも言うのか。もしかしたら、対異形魔理沙用に諸外国から送り出された人工知能搭載型戦闘用アンドロイドの可能性も微レ存か。

 魔理沙は緑谷に対して警戒レベルを上げる最中、緑谷の存在に気づいた爆豪がズカズカと緑谷に迫った。

 

「おい、デク。あのボサボサ真っ黒見なかったか。もし見つけたら絶対言えよな。言わなかったら……、わかってんだろうな?」

 

「うん……、みっ、見つけたら言うよ。かっちゃん……」

 

 全くバレていなかった。緑谷くんも爆豪も気づいていない。このままゆっくりと教室の方に迎えば丁度よくチャイムが鳴ると思うので、魔理沙はそそくさと教室の方に移動した。

 

 移動の最中、私は昨日のことを思い出した。誰かと出くわす度に「髪の毛を食う変態女」的な目線を浴びせられるこの現状を。緑谷くんを除いてほぼ全員がそのような目線を向けてくるので、流石にそろそろ辞めるべきだろうか。

 前世ですらそんなに友達多くなかった気がするのに、第2の人生は友達すら出来ないとは悲しすぎないだろうか。これが各国と個人で条約を締結したスーパー幼稚園児の実態だと思うと泣けてくる。

 しかし、戦術の開拓のためなのだ。私だって食べて発動するタイプの能力じゃなかったらこんなことはしていない。そういう星の下に生まれてしまったが故に、仕方なくギリ迷惑がかからない程度に髪の毛を拝借しているのだ。断じて変態では無い。

 

 

 

 

 

「今日は平和だねぇ」

 

 

 

 

 

 

 ___________________

 

 

 

 

 幼稚園の帰りはいつも多古場海浜公園を寄るようにしてる。この体はもともとストックしている能力が多すぎるため、何を持っているか毎日ちゃんと把握しなければならない。より、スムーズに使えるように毎日手入れを欠かさずやらなければ、いざと言う時にテンパって暴発してしまう。

 

 魔理沙はゴミだらけの海浜公園の中で、精神統一を行った。今からイメージトレーニングを行うため、一旦頭の中をまっさらにする。そして、相対する敵と自分を強く意識して、どういう立ち回りで動くか考える。

 

 まず、死柄木弔を想定してやるとしよう。死柄木弔はこの先の未来で登場するヴィラン連合の一人で、オールフォーワンの後継者的存在になる者。いずれ戦うので今回は死柄木を相手とする。

 

 死柄木弔の個性は『崩壊』。五本の指で触れたものを分子レベルで崩壊させる能力。しかし直接相手に触れる必要があるため、有効射程距離はせいぜい2〜3m。身体能力はおそらく常人の域を超えないので、高速移動やワープ能力による撹乱、幻覚魔法、蜃気楼、地形操作すべて有効だと思われる。いや、地形操作は崩壊で妨害されかねない。なので一番の安全択は認識外からの遠距離攻撃。超電磁砲で両足を怪我させるなり、足の"破壊の目"を握りつぶなりいくらでも対策はある。

 

「見つけたぞ! ボサボサ真っ黒野郎!!」

 

 山積みになったゴミ山の上から私を見下ろしている少年が一人。そいつはクソを下水で煮込んだ性格の持ち主とまで言われた悪ガキ、爆豪勝己。

 

「俺はオールマイトのようなどんなやつにも負けないナンバーワンヒーローになるんだ。お前なんかに負けっぱなしじゃ一番強いヒーローになれねぇんだ!」

 

 威勢の良い声が公園に響き渡る。夕日をバックにヒーロー宣言をした少年と向き合うのは、4歳の頃に刑務所を脱獄した元極悪犯罪者、結依魔理沙。

 

「またぶっ飛ばされに来たのか。そういうセリフを吐くのは私に勝ってからにしなさい。このボンバーマン」

 

「上等だ! 後悔なんてすんなよこのクソアマ!」

 

 どこからそんなセリフを教えて貰ったのか、爆豪の悪口のレパートリーが微塵も減らない。どういう子に育てばあそこまでトンがるのか気になって夜しか眠れないのだが。

 2人は睨み合い、互いに動きを警戒する。魔理沙側としては爆豪の動きなど警戒するまでもないが、戦闘センスが高いのは間違いないため、一応構えておく。

 

 かたや緑谷出久をいじめていた少年、かたやどんな相手に対しても容赦なく大量の能力を使い、隙あらば髪の毛を食う少女。どちらが悪でどちらが正義かと言われると、どちらも悪である。

 

 

 悪VS悪の戦いは幕を開こうとしていた。

 

 

 最初に仕掛けたのは爆豪。お得意の爆破を使い、真っ直ぐこちらに向かっている。この時点で既に爆速ターボの原型らしきものが垣間見え、魔理沙はホッコリした。

 

 とりあえず私は木刀を一本生成し、爆豪の初撃を受け止めた。だが爆豪は体を捻りつつ木刀を掴み、爆速ターボを応用して木刀ごと私を振り回した。想像以上の動きに面食らった魔理沙だが、特に問題なく地面に着地した。

 爆豪は奪い取った木刀を遠くに投げ捨てた後、着地の瞬間に合わせて強烈な蹴りを放つ。タイミングは素晴らしい、しかしまだ常識の範囲内。魔理沙は表情1つ変えずに片手で蹴りを受け止め、引き寄せてから発勁で弾き飛ばした。

 

 しかしなお立ち上がってくる爆豪。明らかに原作より戦闘能力が高い気がしてならない。幼稚園児でここまで動けるヤツは私を除いてほとんどいないだろう。流石作中トップクラスの運動神経の持ち主、幼少期からセンス全開である。

 

「くらぇえええええええ!!!!!」

 

 爆豪が距離を詰めてくる。余程、私との近距離戦にこだわっているようだ。爆豪の戦闘スタイルはシンプルに爆発を利用した圧倒的機動力と爆発による高火力攻撃を兼ね備えた近接アタッカー型。まだ遠距離攻撃を身につけてないので、爆豪側としては爆豪より機動力の高い私に距離取られるのは相当嫌なのだろう。前に決闘を申し込まれた時はひたすら遠距離でネチネチ攻撃したのでそれが響いている可能性もある。

 寸前まで迫ってきた爆豪に対し、魔理沙はいかにして爆豪を捌くか考えていた。時止めによる早期決着でも別にいいが、ここはもう少し魔法使いらしい動きをしてみよう。

 

 魔理沙は爆発をくらう前に魔法でテレポートし、ゴミ山の頂上に移動した。全体を見渡せるので初期位置としては悪くない。

 

 魔理沙は両手首を走る血管を鼻息(バギマ)で切断し、溢れ出した血が指を伝って地面に落ちる。かと思いきや、流れ落ちた血は地面に落ちることなく空中に留まり、まるで生き物のように血液が流動性を維持したまま一定の形を保っていた。

 

 これが血液を操作する能力。使いすぎると貧血になって倒れるという弱点があるが、私は無限に湧き出る魔力を血液に変換しているため弱点を克服している。

 

 魔理沙は自身の血液を空中にばら撒くと、空中で静止した一粒一粒の血液がそれぞれ1本の矢に変形し、合計2000本ほどの血液の矢が空中で生成された。

 そして魔理沙の合図と同時に矢が放たれ、立ち尽くす爆豪に血の雨が降り注ぐ。

 

「何……だぁ……ッ?」

 

 何が起こったのかいまいち把握しきれていない爆豪。周囲には血の雨によって破壊された小さなクレーターの数々と、衝撃で弾けてしまった魔理沙の血飛沫。しかし、どの血飛沫も似たような弾け方をしており、どれも同心円状に拡がっているように見えた。

 

 いや違う。どの血飛沫も円を描くように弾け飛び、円の中には幾何学的な模様が描かれている。これはどう見ても自然発生したものではない。明らかに意図して作られた模様だった。

 その異質さに違和感を感じた次の瞬間、爆豪のすぐ右隣の血飛沫が淡く輝き、結依魔理沙がそこに突然現れた。

 

「なっ……!?」

 

 理解よりも先に結依魔理沙のタックルで爆豪はバランスを崩し、地面を転げ回った。地面に付着していた魔理沙の血液が服を汚し、鉄の匂いが鼻に染みた。

 とはいえ魔理沙の方から近づいてくれたのはチャンス。一気に畳み掛けようと再び立ち上がる爆豪だったが、今度は目の前の不自然な血飛沫が輝き始める。するとその瞬間、激しい光が爆豪の目を焼き、咄嗟に目を瞑った。

 

「目があッ!!」

 

 わけも分からず、後方に逃げようとする爆豪。しかし再び不自然な血飛沫が輝いたことで巨大な土の壁が出現し、目の見えない爆豪は土の壁に激突した。

 

「いったい何なんだ!!!」

 

「教えてあげよう、爆豪くん」

 

 個性『ステルス』を解除した魔理沙が爆豪の目の前に現れると、水瓶座の力を引き出した特殊な水を爆豪の目にぶっかけ、視力を回復させた。

 

「テメェよくもやってくグェ」

 

 爆豪が反撃するよりも先にまた血飛沫が4つ輝き出し、それぞれの円の中心から魔法の鎖が現れた。そしてすぐさま爆豪を拘束し、一切の身動きを封じた。

 

「そろそろ気づいたと思うけど、さっき私が血の矢の雨を降らせた後、血液が不自然に飛び散ったでしょ?」

 

「あの飛び散った血液、全部私が操作して意図的に作った()()()なんだ」

 

「血には私の魔力が含まれているから、短時間かつ陣さえ組めていれば設置型魔法陣として機能するんだ」

 

「ただやってみて分かったのは、高威力の魔法陣は陣を組むコストと血に含まれている魔力量の関係で作れないってところかな。だから同レベルや格上に対してはあまり効かないと思う」

 

「……テメェ……!」

 

 余裕の態度で解説する魔理沙に限界をむかえた爆豪は自力で鎖を解こうとするも、とても子どもの力では壊せないくらいに固かった。

 

「残念ながらその鎖はインドゾウ10匹分の馬力で暴れても千切れないよ」

 

「じゃ、今日も私の勝ちということで」

 

 魔理沙が右手にそこそこ魔力を込め、身動きが取れない爆豪に渾身の一撃をくらわせようとする。流石の爆豪の動きを封じられてはどうしようもなく、ただ痛みが来るのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうやめてよ!!! かっちゃんが死んじゃう!!!」

 

 

 爆豪と魔理沙の間に入ってきたのは、半泣きでボロボロな緑谷だった。

 

「何しにきやがったデク! これは俺の戦いだ!」

 

「なんで! なんで戦わなきゃいけないんだ! なんでかっちゃんと黒い人が戦う必要があるんだ!!」

 

 そこには今までビクビクしていたはずの緑谷の姿はおらず、ただ純粋に幼なじみを心配する緑谷がいた。

 珍しく緑谷が本気で怒っているのを見て、魔理沙はふと我に返る。流石にこれやり過ぎたかもしれんと、反省した魔理沙はすぐに魔法を解除した。

 

「あぁ、ちょっと熱くなりすぎたかもね。悪かった。ごめんな爆豪。緑谷くん」

 

「何ほざいてんだボサボサ野郎! 俺はまだお前に負けてねぇ!! なんなら、今からてめぇを……!」

 

 爆豪が戦闘状態に戻ろうとすると、緑谷は爆豪の頬を思いっきり引っぱたいて無理矢理止めた。ここまで大胆な行動をするとは思わず、初めて爆豪をビンタする緑谷を見て魔理沙は驚いた。やはり異端者(イレギュラー)の存在は良くも悪くも他者に影響を与える、ということなのだろうか。

 

「かっちゃんももう止めて! こんなこと意味ないよ!!」

 

 緑谷は爆豪に強く訴えかけたが、爆豪は緑谷の気持ちを汲むことなく反射的に言い返す。

 

「無個性のくせに俺の邪魔すんな!! 俺より弱いくせに!!」

 

 完全に魔理沙そっちのけで口論が始まり、置いてけぼりをくらう魔理沙。彼らの心を覗いたが、完全に私の姿が彼らの視界から消え去っており、お互いのことしか見えていない。もう止められなさそうだ。

 

「弱いからなんだって言うんだ! 個性があるからって何だ!!」

 

「無個性がどんなに頑張ったってヒーローにはなれねぇんだよ!! 弱いやつが何したって無駄なんだって何でわかんねぇんだ!! いい加減なこと言ってるとぶっ飛ばすぞ!」

 

「弱いやつがヒーローになれないなんて誰が決めた! 僕だって、カッコイイヒーローになりたいんだ!!」

 

「うッせぇ!! 黙れデク!!!」

 

 爆豪が緑谷に殴りかかる。私との戦闘のせいか爆破の個性は見るからに弱々しい。

 

 緑谷も負けじと爆豪につかみかかる。お互いに顔や手や胴や足を殴りあって、エスカレートしていった二人は気を失う寸前まで殴りあった。止めるべきだったかもしれないが、止められなかった。

 

 最終的に二人とも仰向けになって地面に倒れ込んだ。荒い呼吸を整えながら、大の字で寝そべった。時刻はすでに17時半を過ぎており、夕日が沈みかけていた。

 

「……ゼフゅッ……はぁ、…………クソ……ッ」

 

「ゼフゅッ……ぜフュっ…………か」

 

「かっちゃん……!」

 

 緑谷は爆豪の名を呼ぶ。互いに殴りあった後だと言うのに、妙にスッキリしたこの感覚は何なのか。いつもなら震えて聞けないようなことも、スっと言えそうなこの感じは。

 

「かっちゃん、……なんでそんなに強くなりたいの?」

 

 緑谷は問いかけた。どうしてそこまで強さにこだわるのか。その理由について、触れてみたかった。

 

「……オールマイトを超えるヒーローになりたいだけだ」

 

 疲労ゆえか、珍しく爆豪が素直に答えた。彼の揺るぎない勝利への執念が垣間見え、それはまさしく緑谷出久の憧れの象徴であり、緑谷が爆豪のことを尊敬する理由そのものだった。

 

 緑谷は続けて質問した。

 

「じゃあ……もしかっちゃんがオールマイトを超えるヒーローになったら、その先はどうするの?」

 

 緑谷に言われ、爆豪は思った。そんなこと一度も考えたことがないと。自分はただてっぺんをとってやるという信念のみを宿し、その頂点たるオールマイトが自分の信念の象徴で、ただオールマイトのようになりたいと思っていただけだった。

 その先のことなど、考えたこともなかった。

 

「知らねェ。もっと強くなるだけだ」

 

 オールマイトを超えるヒーローになったら、他のヒーローじゃ絶対に届かないくらい圧倒的な強さをもって、伝説のヒーローになる、と爆豪は野望マシマシで答えた。

 

「はは、やっぱりかっちゃんはかっちゃんだね」

 

 爆豪らしさが垣間見えた緑谷は笑っていた。

 

「てめぇはどうなんだ? 本当にてめぇがヒーローになれると思ってんのか?」

 

 これもまた珍しく爆豪が緑谷に聞いた。普段なら会話すらろくに出来ないほど罵ってくるが、今日の爆豪は違った。

 無個性でなお彼がヒーローになりたがる理由、その原点について、爆豪は知りたかった。

 

「どんなに辛いことがあっても、僕はヒーローになる夢を諦められないんだ。笑顔で人を救い出すヒーローになりたいんだ」

 

 キラキラと真っ直ぐな瞳で夢を語る緑谷の姿が、一瞬眩しく見えた。自分には持ってない何かを、無個性の緑谷が持っていることに対し、苛立ちを感じた。

 だがどんなに突き飛ばしても諦めず、テコでも動かない緑谷の意志を感じた爆豪は、諦め気味な表情を見せた後、緑谷と向き合う。

 

「勝手にしろ」

 

「かっちゃん……!」

 

 普段なら否定の言葉から入るはずの爆豪が、珍しくそうしなかった。これは緑谷にとって、ほぼ爆豪が緑谷の夢を肯定してくれたようなものだった。

 

「まァ、無理だろうけど」

 

「ひっ、酷いよかっちゃん!」

 

 結局上げて落とされた緑谷。だが緑谷と爆豪は、これを機に互いのことをある程度知ることが出来た。本来の時間軸的にはできるはずのなかった絆が結ばれた瞬間であった。それが今後の未来にどんな影響を受けるかは、誰にも知ることはできない。

 

 

 

 

 

「え?」

 

 そして、全く状況を把握出来ないまま、結依魔理沙は二人の拗れた友情を見届けた。

 

 

 












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I.K.異形郷とこいドキは戦わざるを得ないのか?(7話)



※オリキャラ出現注意報


東方手書きホラー漫画代表といえば、東方異形郷とこいしのドキドキ大冒険。


たくさんの評価ありがとうございます。




 

 

 

 私、結依魔理沙には最近悩みがある。1つ目はゴミ拾いする度に青山優雅と出会うこと。意図して会っているつもりはないのに、いついかなる時間帯に外出ても必ず彼と会ってしまう。暇なんだろうか。

 

 2つ目はだんだん元の原作からズレていることだ。爆豪が強化されてたり、緑谷くんが臆病を克服したり。私が狂わしてしまったのだろうか。多分、雄英に入ったらもっと変わるのかもしれない。

 

 そして3つ目、謎の宗教団体が活発になっていることだ。名前はフェザー正教団というらしいんだが、原作ですら聞いたことのない集団で若者を対象に声がけしているらしい。というか私も声かけられた。5歳児を宗教団体に誘うのは流石に頭がおかしいと思った私は、防御結界を張った状態で防犯ブザーを鳴らし続けた。勧誘役の人が慌てて私を取り抑えようとするが、結界があるため一切触れられず、相手側が折れるまで延々と真顔で防御ブザーを鳴らし続けた。タイムは5分14秒だった。

 

 

 また悩みとは別のことで、最近緑谷くんと爆豪の関係がなんだが結構いい感じになってきた。爆豪は緑谷くんを見下すことは無くなったし、緑谷くんは爆豪に怯えることなく、前よりさらにお節介さが増えてしまった。3人で遊ぶ機会も増えたし、ある意味いいことだと思っている。美しい終わり方だった。

 

「はやくマリカーやるぞボサボサ!」

 

「私の名前は結依魔理沙だ。魔・理・沙!」

 

「まっ、魔理沙……さんもかっちゃんも喧嘩しないで……、ね?」

 

 そして、今は私の家に爆豪と緑谷くんが遊びに来ている。

 

「勝己く〜ん、出久く〜ん、おやつ置いとくわよ〜」

 

「あっ、ありがとうございます……!」

 

「…………もらっといてあげます」

 

「母さ──ん! もっとファ○タ持ってきて〜〜!」

 

「あんたは飲みすぎ」

 

 1リットル入りのファン○グレープが3本空になり、追加のファンタを要求する魔理沙。しかし、断られてしまった。ちなみに緑谷くんと爆豪はお茶しか飲んでいないため、空になった○ァンタグレープはすべて魔理沙が飲み干したものである。

 

 ちなみにやるのはマリオカートWiiである。爆豪の使用キャラはクッパ、緑谷くんはマリオ、そして私はファンキーコングである。なお、魔理沙は強キャラがファンキーコングだということしか分かっていない素人なため、プレイングはそこまで上手くない。

 

 私以外はカートで私はバイク。コースは毎回選ぶの12回勝負で、爆豪→緑谷→魔理沙の順でコースを選択していく。CPUは「つよい」で、もちろん150ccだ。

 

 爆豪の乗るマシンはファイアホットロッド。スピード、ドリフト、ミニターボの性能が高いが加速が遅い。緑谷くんはスタンダード・カートだった。ここでも普通だ。私はスーパーハウザー、なぜなら強いから。

 

「爆豪、どれにする?」

 

「レインボーロード」

 

「いきなりか」

 

 最初のステージはWiiのレインボーロード。なんだろう、いきなりラスボスが出てきた感じがする。あそこ爽快でBGMも神だけどよく事故る。

 

 3人のプレイヤーがスタート位置につき、スタートダッシュを間違えないようタイミングを計る。ふと、魔理沙が隣を見ると、爆豪の狂気的な笑顔と緑谷の真剣な顔が見えた。もう体感十数年ゲームやってないが、流石に5歳児には負けたくない。ゲームセンスが錆び付いてなければ勝てるはず。

 

 ジュゲムのカウントダウンが始まり、三者全員が画面に釘付けになる。スタートダッシュは絶対に外さない。

 

 そして数字が0に差し掛かった瞬間、全キャラクターが一斉に走り出した。

 出だしは3位だ。まぁまぁといったところ。そして最初にご対面するのはとてつもなく長い下り坂。事故らず、慌てずに加速床を2つ使って追い抜く。その後ジャンプアクションもしっかり決めて次のカーブへ、また次のカーブへと順調にいく。そして見えてきた、レインボーロードの特徴の一つ、波打つ道。上手くジャンプアクションを決めながら加速しようとした私だが、背後から投げられた赤甲羅で撃墜されてしまった。

 

「おいバカ爆豪。何甲羅投げてんだ」

 

「当たるやつが悪い」

 

「言ったな? お前言ったな? 覚悟しとけよ?」

 

 これはただのレースゲームではない。意地と意地のかけた戦いなのだ。容赦はしない。

 

 次にあらわれたのは8の字ゾーン。難なく通り過ぎようとするも、後ろからボムやら3連緑甲羅が飛び交い、阿鼻叫喚の地獄絵図が。なお魔理沙は調子乗ってダッシュキノコ無しで8の字ゾーンの真ん中に突撃したため、あえなく落下。現在11位である。

 

 大丈夫、まだ1周目だ。次の大ジャンプゾーンを超えた先にハテナボックスがあるから、そこで強アイテムを手に入れて前に進もう。

 アイテムボックスを回収し、魔理沙はキングダッシュキノコを手に入れた。正直いらない。なぜならレインボーロードはカーブ多いくせにガードレールが少ないため落下事故が激しいから。しかし使わないと別のアイテムに切り替わらないので仕方なく死ぬ覚悟で消費。CPUがそこまで強くないおかげで7位まで繰り上がった。だが肝心の爆豪は2位で緑谷くんは……なんと1位。現在 2位の爆豪に差をつけて独走中である。

 

「おいバカデク、お前速すぎだ」

 

「フフ、かっちゃん。僕はマリオカートでは最速のホワイトラビットと呼ばれた男だよ。僕はまだまだ加速する!」

 

 いったい何時からそんな呼び名がついたのか。そんなツッコミを入れたくなるがそんな余裕もなく、何とか逆転したいところ。

 

 と、その時、魔理沙は思いついた。こと私の能力は現実世界のみならず、ゲームの世界にも適用出来る。正確には確率操作で直接Wii本体に干渉し、私がアイテムボックスを獲得した時点で乱数を操作するという方法。つまりチートである。

 

 しかし勝つためなら鬼でも外道でも何にでもなる覚悟でいた魔理沙は容赦なくアイテムボックス獲得時に外部チート(確率操作)で乱数調整。現在順位6位でキラーを獲得した魔理沙は即座に使用し、一気に3位まで上り詰めた。

 

 そして2週目の、道が左右に分岐するゾーンあたりで爆豪を発見。即時排除にかかる。

 

「てめッボサボサ! どんなチート使いやがった!」

 

「はっはっは。秘密ッ!!!」

 

 そして再びアイテムボックスを手に入れた魔理沙。しかし出てきたのはキラーではなく、スーパースターだった。別に確率操作をミスったわけではなく、シンプルに爆豪を処すために選択した。

 

 魔理沙は即座にスーパースターを使い、爆豪にタックルを食らわしスピンさせつつコースアウトさせた。そして1回逆走し、ハテナボックスを回収。スーパースターを確率操作で引き出し、また爆豪にタックルをかます。

 

「やめろ! そのタックルやめろボサボサ!」

 

「覚悟しとけって言いましたぁ〜〜! 私言いましたぁ〜〜!」

 

 魔理沙の容赦ない違法タックルに爆豪のボルテージはフルMAX。そして煽りによる追撃で限界を迎える中、緑谷が1着でゴールした。

 

「あれ? 二人とも何してるの?」

 

「クソデクてめぇ! おいてくんじゃねぇ!」

 

「やば! もう私と爆豪しかいねぇ!」

 

 いつの間にかCPUにすら置いてかれる始末。まだ第2ラウンドの最中だというのに。

 

 二人は宇宙空間を駆け抜けていき、死に物狂いで爆走した。敗者の女神が微笑むのはいったいどちらか。ファイナルラウンド終盤は苛烈な戦いとなっていた。スーパースターとキングダッシュキノコの接戦は終わり、アイテムなしの状態でゴールは目前。手に力を込めすぎて少し凹んだコントローラーを握りしめ、手に汗握る戦いに終止符を打つのはどちらか。

 

「「うおおおおおおおおおお!!!!!」」

 

「「ぜってぇぇぇまけねぇえええええ!!」」

 

 緊迫するこの一瞬、魔理沙はスピードを少し落として爆豪(クッパ)の背後にまわる。

 

 それを見た爆豪は勝利の笑みを浮かべた。だが、魔理沙は爆豪の後ろをピッタリ張り付きながら最終直線に突入した。

 

 魔理沙が操作するキャラクターが風を纏い始めた。魔理沙が最後の最後にかけたのはスリップストリームによる加速。アイテムを使わずに相手を抜くにはコレしかないと判断した魔理沙は風を纏って抜き去ろうとした。

 

 しかしゴールはもう直前。両者ともに1歩も引けを取らず、最後の最後まで結果は分からない。

 

 

 

 

 

 

「よっしゃあああああああ!!!!!」

 

 勝者は魔理沙。ギリギリ爆豪を追い越したのである。

 

「くそがああああああああぁぁぁ!!!!」

 

 爆豪が悲鳴をあげた。こんな爆豪の姿はなかなかお目にかかれず、彼のくやしがる表情を脳に刻みながら勝利の美酒(魔法で生成したファ○タ)を飲み干した。

 

「次はぜってー勝つ!!!!」

 

 

 

 

 

 その後もずっとマリカーをし続け、終わった頃には午後5時半だった。

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 爆豪と緑谷が帰宅し、リビングに散らかったゴミを片付け終えた魔理沙は自分の部屋に戻ろうとしたが、母親からおつかいを頼まれてしまった。どうやらスーパーで販売セールをやってることを忘れていたらしく、あと15分でセールが終わってしまうらしい。

 家からスーパーまで車で10分かかることや、店内の混雑具合を考慮すると、とても15分じゃ間に合いそうにない。そこで母は伝家の宝刀兼最強魔法使いである魔理沙におつかいを頼み、早急に買ってきて欲しいとのこと。

 報酬もはずんでくれるそうなので、魔理沙は喜んでおつかいを引き受けた。

 

 瞬間移動でスーパーに着いた魔理沙は人混みを避けるべく液状化し、目的のセール品にたどり着く。そして即座に時間停止ですべての生物の動きを停止させた後、必要な物資すべてをエコバッグに詰め込んでレジに並んだ。しかし並んでいる最中、財布を持ってないことに気づいた魔理沙は指パッチンで自分の財布から1万円を徴収し、無事買い物を済ませた魔理沙は先にエコバッグを我が家に転送し、手ぶらで帰宅することにした。帰りにどこか公園に寄って鍛錬したいところ。

 

 魔理沙はスキップしながら街の中を散策した。気になる店があったら寄り道し、面白そうなものを見つけたら時間を止めて飽くまで遊んだ。引っ越してすぐの頃はよく奇異の目を向けられたり、酷い時は喧嘩をふっかけられたりもしたが、ちょくちょく色んな人の手伝いをしたり、ゴミ拾いしたり、ヴィランの脅威から守ったりしたおかげで、前ほど怖がられることはなくなった。しかし大の大人を拳一発で気絶させたところを大勢に見られたせいか、"悪い人じゃないけど近寄っちゃダメな人"みたいなポジションになってしまった。悲しい。

 

(……どうあがいても私は……)

 

 魔理沙は少し下唇を噛んだ後、ナイーブになってしまった自分に喝を入れるべく両手で頬を叩いた。

 

(いや、こんなことで落ち込むわけにはいかない。心も常に最強じゃなきゃ、真に最強の魔法使いにはなれん)

 

 曇りかけた瞳を拭い、最強の魔法使いたる自覚を取り戻した魔理沙は、己の身を鍛えるべくいつもの海浜公園へと向かうことにした。が、瞬間移動する直前で()()()()()()()()()()()を見つけたため、魔理沙は目を凝らしてよく観察した。

 

 年齢的には私と同じくらいに見える。髪は白髪で目はゴールド、そして白い軍服らしき服を着ている。 まるでハンターハンターのキルアのよう。だが、こんなヤツは私の記憶の中の原作には存在しない。それとも私の知らない原作キャラなのか、よく分からないが少なくともモブキャラには見えなかった。

 

 ずっと私が見ていると、相手も気づいたのかこちらを振り返った。完全に目があってしまったが、気まずいので私は振り返り、ダッシュでこの場から離れた。

 不審者のような挙動をしてしまったが、見た目は5歳児なので多分誰も気にしない。仮に警察に通報されても私の顔を見れば誰だか分かるので、捕まることは無いでしょう。

 

 と、高を括った魔理沙だったが、振り返りダッシュして曲がり角を曲がった先に、さっきの白髪の子が目の前に立っていた。

 

(先回りされた? ……ということはコイツ、敵か?)

 

 今まで大人の追跡者ばかりを相手していたため、初めてのケースに対応が遅れてしまった。しかし、敵だと言うなら話は早い。いつも通りシバくだけだ。

 

「目標発見。対象:結依魔理沙。ワールドデータベースに記録アリ。対象の個性レベル:アクセス不可。検索出来ません」

 

「これよりミッションを開始します」

 

 機械じみた声が耳に響く。とても人間の出せるような音ではない。

 

「私は自己進化型人工知能NOUMU、コード000。現在保有中の個性は機密事項のため答えることができません」

 

 説明しろと一言も言っていないが、自己紹介をする人工知能コード000。しかしNOUMUで思い当たることと言えば、後に登場するであろう脳みそ剥き出し化け物こと"脳無"。ヴィラン連合の化け物と同じ名を冠するということは、コイツもヴィラン連合なのだろうか。

 

「これより戦闘モードに移行。直ちに任務を遂行します」

 

 そう言いだした途端、背中からクジャクの羽を模したかのようなブラスターキャノンが現れた。今まで戦ってきた相手と明らかにレベルが違うことを察した魔理沙だが、ブラスターキャノンの形が妙に引っかかる。何と言うか、()()()があるのだ。前世の頃に見たような気がして、それが何の作品だったかを思い出すべく、魔理沙は必死に頭を回した。

 

(……! 思い出した!)

 

 魔理沙は消えかけの前世の記憶を思い出し、既視感の正体について答えを出す。アレはそう、釣竿を借りる話から世界大戦まで発展した東方手書きホラー漫画では有名な作品……

 

 ─── こいしのドキドキ大冒険 ───

 

 そう、通称『こいドキ』と呼ばれる作品に登場する、敵側の最終決戦兵器『ヴィジョーカー』。今相手が私に向けているブラスターは、その決戦兵器ヴィジョーカーの持つ武器の一つ。

 ヴィジョーカーには対○○用といった形で複数体存在するが、どの個体も異常に強い。変に油断すると手痛い反撃をくらうだろう。

 

 と、頭の中で分析していたら、コード000は容赦なくブラスターキャノンからエネルギー弾を発射した。流石に街に被害を出すと公安の委員長から遠回しに怒られるため、魔理沙は結界を二重に展開し、自分とコード000を結界内に隔離した。結界内は現実世界と異なり、扁平な空間が半円球上に広がっている。

 

 一部の光弾は結界に吸収され、残った光弾が魔理沙を襲う。だが、魔理沙はスペルゲン反射鏡を手の甲に顕現させ、光にまつわるすべてのエネルギーを反射させた。

 当たらないのは当然だが正直アレに近づいていいのか分からない。分析する能力か魔法を使いたいところだが、名前が思い出せないので使おうにも使えない。なんて面倒な。

 

 よく分からないので試しに『キラークイーン』を発動し、爆豪との戦いの時にやったように鼻息(バギマ)で両手首を傷つけ、溢れ出た血液を弓の形に変形させ、血の弓矢にキラークイーン第1の能力を付与する。あの時同様、爆発で弾け飛んだ血液も操作して魔法陣を作り、さらなる追撃を可能にする。

 

「ふっ!」

 

 魔理沙は血の弓矢を放った瞬間、射手座(サジタリウス・ゾディアーツ)の力を引き出すことで放たれた弓矢が無数に増殖し、視界全てを覆い尽くすほどの血の弓矢がコード000に襲いかかる。

 咄嗟にガードしたコード000に対し、魔理沙は惜しみなく『ザ・ワールド』による時間停止を発動し、スキル『七つの獣冠』による防御無視効果がすべての攻撃に付与され、時が再び動き出す。

 

 カチッ

 

 無慈悲なスイッチの音に合わせて、すべての血の弓矢が大爆発を引き起こした。ガード貫通効果をもった大爆発をモロに受けたコード000は結界の端まで消し飛び、地面に倒れた。これだけでも十分な威力で、今までの連中と同じなら二度と立ち上がれないほどの損傷を受けたはず。

 だが、コード000は爆発を受けてなお立ち上がり、再び構えた。

 

「損傷率18%。想定以上のエネルギー量を検知。計測結果に基づき至急修正を行います」

 

「……アレ、耐えるの?」

 

 思った以上に強いことが判明し、後頭部を掻く魔理沙。損傷率18%とは中々の耐久性能であり、相当ハイスペックのようだ。多分予算も尋常じゃないくらい掛かってる。

 

「戦闘形態、変更」

 

 コード000は高速でブラスターキャノンをしまうと、新たなに別のヴィジョーカーを召喚した。腕のみ。ヴィジョーカーの全長は600m以上なので、デカすぎて無理なのだろう。あの腕と武器は対鬼型戦闘用ヴィジョーカーであり、宝塔の形をしたビーム砲と投げたら戻ってくるトライデントを装備している。

 当然宝塔もトライデントもビックサイズであるため、宝塔のビームは霧雨魔理沙のマスタースパーク以上に高威力であり、トライデントの全長も500mくらいなのであんなものが全力投球されたら結界が壊れかねない。

 

 コード000の合図に合わせてビーム砲が高速でチャージされ、すぐさま放たれる。しかし忘れてはならない。私が血液の矢を爆散させて飛び散った血は魔法陣として地面に付着しているのだ。その数、なんと4274個。

 

「だがビームなんぞ魔法使うまでもない」

 

 目前まで迫る極太レーザーに対し、魔理沙は怯みもせずに一本の短剣を構えた。そしてビーム直撃のタイミングに合わせて短剣を振るい、11トン級の破壊光線を倍にして弾き返す。

 

 全反撃(フルカウンター)、自分に向けられた魔力を倍の威力にして跳ね返す魔力。破壊光線は本来魔力ではないが、魔理沙が全反撃を模倣して自己流にアレンジしたため、近接攻撃以外はすべて跳ね返せるようになった。

 

 フルカウンターによって返された破壊光線が周囲を巻き込みながらコード000を襲う。しかしコード000は内部に搭載されたジェット噴射機構で回避し、巨大なトライデントを魔理沙の想像以上の速さで振り回した。

 

 500m級の武器を振り回してる時点で相当の化け物だが、私も化け物なので真横から来たトライデントを肘で相殺し、トライデントに触れた。

 

拘束する支配者(バインドドミネーター)

 

【直視の魔眼】

 

荒廃した腐花(ラフラフレシア)

 

【破壊の右腕】

 

「砕けろ、トライデント」

 

 4つの能力が作用した結果、トライデントは原型を留めることなく塵と化し、さらにトライデントを持っていたヴィジョーカーにまで影響が及んだ。

 すべての攻撃が無力化され、ヴィジョーカーを一機失ったコード000は再び結依魔理沙の分析を行う。

 

「……解析不能」

 

「でしょうねー!」

 

 ジリジリと追い詰められるコード000に対し、魔理沙は余裕の態度だった。

 

 

 

【続】

 






【能力紹介】

●サジタリウス・ゾディアーツ

→仮面ライダーフォーゼのラスボス。射手座のゾディアーツであり、ホロスコープスの大ボス。高い身体能力と弓を使った超強力な遠距離攻撃を得意とする。

●スペルゲン反射鏡

→ウルトラシリーズに登場するバルタン星人がもつ特殊な鏡。光線系の技を跳ね返す。

●七つの獣冠

→FGOのサーヴァント、『ドラコー(ソドムズビースト)』のスキル。効果内容は、①自身の強化解除耐性の向上、②聖杯所持時に竜特攻状態の付与、③ローマ特攻状態の付与、④スター獲得状態の付与、⑤弱体無効状態の付与、⑥防御無視状態の付与、⑦HP回復量の向上、⑧NP獲得状態の付与、である。

●キラークイーン

→ジョジョの奇妙な冒険第4部に登場する、『吉良吉影』のスタンド。能力は3つ存在し、1つ目は触れたものを何でも爆弾に変える『第1の爆弾』、2つ目は相手を自動的に追尾して爆発するシアハートアタック(第2の爆弾)、3つ目は条件を満たした相手が自分のことを調べようとすると爆発し、時間を1時間巻き戻させるバイツァダスト(第3の爆弾)がある。

拘束する支配者(バインドドミネーター)

→ビッグオーダーの主人公『星宮エイジ』の能力。自分が移動した軌跡を領土とし、領土内のものにアンカーとワイヤーを打ち込むことで対象を支配する能力。対象となるものは領域内のものであれば空気でも人でも重力でも何でも支配することが出来、命令内容も割と自由。しかし、能力が適用されるのは物理現象のみで精神には作用せず、対象を支配する際は命令内容を口にする必要があり、命令内容が対象に聞こえている必要があるなど、制限がそこそこある。

●直死の魔眼

→TYPE-MOONの同人ゲーム作品「月姫」および同人小説「空の境界」に登場する能力。あらゆる物体および生物の"死"という概念を視覚情報として捉えることが出来、相手の"死の線"を捉えて切断すると防御を無視して切断することが出来る。また、切られた箇所は再生能力をもってしても再生しない。
なお、"いつか終わり(死)が来るもの"であれば物体および生物だけに限らず、概念の死すら捉えることが出来る。

荒廃した腐花(ラフラフレシア)

→めだかボックスに登場する『江迎怒江』のもつ過負荷(マイナス)。触れた物質を何でも腐敗・劣化させる能力。なお、この能力は物理法則に超越するため分解熱等は発生せず、やや概念寄りの能力であるため能力の適用範囲が非常に広い。

●破壊の右腕

→鋼の錬金術師に登場する『傷の男(スカー)』の右腕の名前または錬金術の名称。ありとあらゆる物質を破壊することが出来るが、破壊対象の物質について理解してなければ分解することが出来ない。なので、今回魔理沙が勢いで使ったものの、トライデントの構造や構成物質について把握してなかったため、実は発動しなかった。






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ヴィジョーカーvs結依魔理沙(8話)



【あらすじ】

おつかいを頼まれ、サクッと能力で済ませた後の帰り道に、魔理沙は奇妙な人間に出会った。その者は白髪で黄金の瞳をもち、白い軍服を来た幼い子だった。

しかしその子の正体は自己進化型人工知能『NOUMU』コード000。つまり高性能アンドロイドである。『NOUMU』という言葉から察するにヴィラン連合の仲間であることはお察しで、魔理沙の広範囲爆裂攻撃に耐えたことからも、明らかに対策してきていることが分かる。

目的は"結依魔理沙の捕獲"。果たして魔理沙は彼女の猛攻に耐えられるのか。





 

 

 

「想定の数値を遥かに上回っています。対策レベルの大幅な修正、および最大警戒レベルでの対処が推奨されます」

 

 ヴィジョーカーを一機失ったコード000は再び装備を換装し、一本のスナイパーライフルと扇子のようなものを取り出した。

 

「ヴィジョーカーじゃない?」

 

 先程まで余裕の態度を取っていた魔理沙だが、また見覚えがあるようでない武器が登場し首を傾げた。

 

(随分とサイバーテック風味のデザインだな。アレもヴィジョーカーと同じ兵器なのか……?)

 

 ただのスナイパーライフルと扇子でないことは分かっているが、記憶が欠落しているため思い出せない。

 

「ミッション追加。目標対象を無力化する、または損傷率70%を超えるまで、戦闘を続行します」

 

 そう言うとコード000はスナイパーライフルを構え、結依魔理沙に照準を合わせた。正直普通のスナイパーライフルなら素手で弾丸を止められるし、ここまで距離が近いなら接近して殴ることも、逃げに徹することも出来る。

 

(ここは"一方通行(アクセラレータ)"で様子見だな)

 

 ベクトル反射能力を起動し、半無敵化した結依魔理沙。鍛える前は脳への負荷が大きすぎて微塵も使えなかったが、20年以上の時間停止によって能力が体に馴染み、ある程度扱えるように成長した。

 ベクトル反射は文字通り"ベクトル(力の方向)"を反射させることで、威力関係なく跳ね返す。魔法だろうが物理攻撃だろうが関係なく、"ベクトル"という概念を共有してるものに対しては何であろうと反射出来るのだ。

 

目標(ターゲット)固定(ロック)

 

射撃(ファイア)」パァン!! 

 

 わざわざ宣言してから撃つとは律儀だが、弾丸を射出している以上ベクトルが絡む。なのでどんな絡繰があろうと一方通行(アクセラレータ)を貫通することは出来ない。

 

「あ?」

 

 しかし、結果は魔理沙の予測通りにはならなかった。

 

「当たった?」

 

 パァン!! パァン!! パァン!! パァン!! 

 

 銃弾が一方通行(アクセラレータ)を無視して魔理沙の体を貫き、体に5つの風穴が空いた。

 自身の傷を認識した瞬間、激痛が脳に向かって走りかけたため、魔理沙は咄嗟に痛覚をシャットダウンした。

 しかし骨、筋肉、臓器を丸ごと削り取られため、立てなくなった魔理沙は大量の血液を流して地面に倒れた。

 

(……反射が効かない?)

 

 溢れ出た血液を操作し、何とかして体内に留めようとする魔理沙。そして再生能力をフルに発動し、細胞を増殖させることで元の姿に戻った。

 

 パァン!! 

 

 また、撃たれることを未来予測で察した魔理沙は弾丸が発射される前に瞬間移動で回避したが、当たってないはずなのに何故かまた風穴を開けられている。弾丸の軌道も見えなかった。スナイパーライフルの弾などせいぜい秒速600〜1000mで、動体視力も運動神経も化け物級に優れた私なら見てから避けることも出来るはず。

 

 なのに撃たれた。反射も貫通した。反射に関しては能力を無効化する弾だとしたら分かるが、弾速が変わるわけではないのでどちらにしろ避けられる。

 

(避ける前に、()()()()……?)

 

 避ける前……いや、一方通行(アクセラレータ)を発動する前に弾丸を撃てば確かに私に当たる。しかし、私が一方通行(アクセラレータ)を発動した時、アイツは銃を構えていない。つまりあの瞬間は撃っていない。

 

 だとすると、アイツは"何"を撃ったのか。

 

(ははーん? なるほどね?)

 

 仕組みを理解した魔理沙は連続で瞬間移動しながら右腕に魔力を溜め、その最中に未来予測を行った。コード000が銃を構えていない、ほんの少し先の未来を。

 

 するとそこには、瞬間移動を繰り返しているにも関わらず右手を撃ち抜かれた魔理沙の姿があった。しかし、コード000は銃を構えておらず、弾丸の軌道も見えない。"弾丸に当たった"という結果だけが残っている。

 

(あのスナイパーライフル、()()()()()()()弾丸を撃ってくるタイプだ!!)

 

 厄介すぎる能力が判明し、頭を抱える魔理沙。そういえばこいドキの月の兵器にそういう物があったのうっかり忘れていた。つまり扇子の方も月の兵器確定で、アレはおそらく綿月豊姫が持っていた、『物質を素粒子レベルに分解する』扇子なのだろう。

 

 スナイパーライフルの方は確か近い過去に向けて放つ弾であり、遠い過去に向けて撃つことは出来なかったはずだ。なら対策はいくらでも思いつく。1番楽なのは因果律操作だが、ここはもっと派手にいってみよう。

 

「メイド・イン・ヘブン!」

 

 魔理沙の背後に1つ目の白いケンタウロスのような見た目をしたスタンドが現れると、時計の針の回転がドンドン加速していき、結界内の時間が先へ先へと進む。

 

 メイド・イン・ヘブンは生き物を除くすべての時間を飛躍的に加速させる能力をもつ。すなわち、怪我をして血を流しても時が加速しているためすぐに乾き、ボールを投げれば目に見えない速度で飛んでいき、漫画を描こうとしてもインクが秒で乾くため描けない。

 

 つまりメイド・イン・ヘブンをくらった相手は"世界から置いていかれる"。が、メイド・イン・ヘブンをもつ私だけは世界の加速に適応することが出来る。

 

 あのスナイパーライフルは近過去に向けて撃つが、メイド・イン・ヘブンが発動した時点で一方通行(アクセラレータ)が発動する前の時間軸は既に"遠い過去"となり、もう狙うことは出来ない。後はメイド・イン・ヘブンを維持したまま一方通行(アクセラレータ)を発動させれば、あのスナイパーライフルは産廃と化す。

 

「……! 局所的な時間の加速を検知。目標(ターゲット)、消失」

 

「私に手を出したこと、あの世で悔い改めろ」

 

 コード000はスナイパーライフルから"ヴィジョーカー"に換装したが、時間加速に適応した魔理沙は爆発する1000本のナイフを生成し、一斉に射出しつつ背後に回り込む。

 しかし、コード000はナイフに見向きもせず、背後に回り込んだ私に合わせてヴィジョーカーを展開し、100mクラスの金色の拳を魔理沙に目掛けて放つ。

 

(アレ……適応してる?)

 

 本来なら反応出来るはずが無いのだが、何故かコード000は私の動きを読んで攻撃を撃ってきた。機械の予測機能か何かだろうか。よく分からないが適応してるというならばさらにこちらが速く動けばいいというもの。

 

光化静翔(テーマソング)

 

 魔理沙の全身が輝き出し、世界の加速に加えてさらに自分自身が光速に達し、物理法則を完全に無視した異次元の動きでヴィジョーカーの拳を粉々に粉砕した。

 

 あまりに速すぎる動きに、コード000は未だ破壊されたことに気づいていない。その隙に魔理沙はコード000が認識出来ない速度で拳を10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000001回叩き込み、跡形もなく叩き潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コード000は、消滅した。

 

「やっべ、やり過ぎた……」

 

 アンドロイドと言えど"消滅"はマズイ気がしたので、魔理沙は大嘘憑き(オールフィクション)で因果律にに干渉し、"殴ったこと"を"無かったことにした"。

 

「……!?」

 

 現世に戻ってきたコード000は自身の状態を再認知し、そして意味不明な現象を起こした魔理沙に目を向ける。

 

 コード000は、理解できなかった。どんなに修正して最適な行動を行っても、かの存在はそれ以上の理不尽で押し潰してくる。そして存在するしない権利すら、かの存在が握っている。

 

「…………」

 

 その時、アンドロイドは初めて、"絶望"を味わった。初めての感情だった。人の形をした機械はここで初めて人になった。しかしそれは喜ばしいことではなかった。

 

「で、まだやる?」

 

 魔理沙の問いかけに対し、コード000は一度状況を振り返った。

 

 現在の損傷率は0%。いつの間にか受けたダメージが回復しきっている。これなら戦闘を続行することは可能だが、人工知能を搭載したコード000の記憶領域に、コード000が結依魔理沙に消されたという事実が残っている。この情報がバグでないとするならば、今の機能で結依魔理沙を捕まえることはおろか、逆に破壊される危険性がある。いや、既に破壊されたのだ。これ以上の戦闘続行は危険と判断する。

 

「……ミッション失敗。撤退します」

 

「それはよかった」

 

 

 

 魔理沙は能力を全解除した後、時間停止でコード000の服の下に発信機を付けた。

 

「……不信な電波を感知。発信機であると予測」

 

「チッ、バレた」

 

 コード000は付けられた発信機を壊すと、即座に空中へ飛び上がり、その場から離脱した。

 

「まぁ、流石にあそこまでコテンパンにしたから、しばらく来ないでしょ……」

 

 魔理沙はホッと胸を撫で下ろすと、大人しくお家に帰ることにした。メイド・イン・ヘブンの影響は結界内だけに留めたため、元の現実世界だとせいぜい10分程度しか経過していない。とはいえ時刻は18時をとっくに過ぎているため、親が心配するだろう。海浜公園に寄る予定だったが、十分戦ったので今日は無し。帰って飯食って寝よう。

 

「あ……れ?」

 

 突然、視界がぐにゃりと歪み、バランス感覚を失った魔理沙は車道のど真ん中で倒れ込んだ。それに気づいた車の運転手が急ブレーキをかけ、どけるよう注意を促すも、魔理沙は反応すらままならなかった。

 

(こっちもこっちで……やり過ぎた!!)

 

 結界の維持、局所的な時間加速、ベクトル反射、光速移動、因果律操作、その他様々な能力を行使し過ぎた結果、結依魔理沙の体は限界を迎えてしまった。

 自分がまだ5歳児であることを考慮せず、余裕ぶって能力乱発したらこの様とは、我ながら情けない。周囲への被害は一切出てないことは我ながら素晴らしいが、もう少しコスパ良く敵を倒すべきかもしれない。

 

(あっ、ヤベ。血も出てきた……)

 

 轢かれていないというのに全身の穴という穴から血が溢れ出し、集まってきた人たちの悲鳴が響く。もしかしたら、思った以上に代償デカイかもしれない。頭痛も激しいし、血も出るし、口の中気持ち悪いし、本当にヤバい。今他の反社会組織とか条約未締結国からの刺客が来たとしても何も出来ない。人も集まってきたからドンドンリスクも増えるし、感知能力も今死んでるからどこから襲われるか分からないし、ヤバいし終わるしマズイしヤバいし終わるしマズイヤバいヤバいマズイヤバいマズイマズイヤバいマズイヤバいヤバいヤバい落ちる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○月✕日、午後6時18分。結依魔理沙、気絶。

 

 

 






【色々紹介】

●自己進化型人工知能『NOUMU』

→新型の脳無。旧型より計算能力が非常に高くて強い。コードナンバーでわけられている。とある研究施設で得た貴重なデータを元に作られた(コード000を除く)。

一方通行(アクセラレータ)

→とあるシリーズに登場するキャラクターもとい能力の名称。触れたベクトルの向きを変換する能力。

●メイド・イン・ヘブン

→ジョジョの奇妙な冒険第6部に登場するラスボス、『エンリコ・プッチ』のスタンド。生物以外のすべての時間を加速させる能力をもつ。なお、魔理沙は結界内限定で発動していたが、もし外でメイド・イン・ヘブンすると時間の加速によってすべての生物が世界の終焉を見届け、新たな世界を迎えることになる(世界が一巡する)。

光化静翔(テーマソング)

→めだかボックスのキャラクター、『日之影空洞』の能力。光の速度で動くことができ、これによる身体的負荷は一切負わない。

大嘘憑き(オールフィクション)

→めだかボックスのキャラクター、球磨川禊の能力。因果律に干渉しあらゆる事象・現象・概念を無に帰す能力。一度無に帰したものを元に戻すことは基本的に出来ない(虚数大嘘憑き(ノンフィクション)を使えばいける)。



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結依魔理沙は悪魔か? 英雄か?(⑨話)



【あらすじ】

自己進化型人工知能『NOUMU』との戦闘に見事勝利した魔理沙だったが、能力を使い過ぎてしまい道のど真ん中で倒れてしまう。

そして全身から血を流した魔理沙は、周囲の人間に囲まれながらゆっくりと気絶した。





 

 

【某国立大学附属病院】

 

 

 ─────────知ってる天井だ。

 

 

 魔理沙が目覚めた瞬間、既視感のある天井が視界に広がった。それもそのはず、この病院に入院したのが二回目なので既視感があるのは当然である。

 前回、魔理沙はNOUMUと戦闘を繰り広げ、その圧倒的理不尽能力のオンパレードで上からねじ伏せた。しかし、強力過ぎる能力を連発し過ぎたせいで体調を崩し、全身から血を流して失神してしまったため、今に至る。

 

 もしNOUMUが諦めずに戦闘を続行していたら、私が先に限界を迎えていたかもしれない。今後こういう事故を起こさぬようもう少し戦い方を変えるか、強い力を複数使っても耐えられるよう鍛え直す必要がありそうだ。

 

「魔理沙……?」

 

 掠れ声に耳を傾け、魔理沙は振り返った。するとそこには、頬を涙で濡らした母の姿があった。

 

「ん……、あっ、魔理沙! 起きてたのね!!!」

 

「……母さん」

 

「ほんとに……、ほんとに心配したんだから!!!! あなたが死んでしまったら…………私…………ッ!!!」

 

 魔理沙はこの時、後悔した。数え切れないほどの力を持っておきながら、自分の力を過信してヴィランと戦い、自分の限界も把握せずに倒れて心配させるなど、最強以前の話である。

 母が涙を流すまでは、てっきり説教されて終わりだと魔理沙は勝手に思い込んでいた。しかしそれは大間違いだった。

 

「ごめん、母さん。……ごめん」

 

 深く、反省する魔理沙。心を読まずとも、母の気持ちは痛いほど伝わる。おつかいに行かせた娘が血まみれで倒れていたら、当然ショックを受ける。そして母は私が強いということを予め知っているので、二重でショックを受ける。

 こんな好ましくない形で母の愛を感じたくなかった。出来ればオールフォーワンあたりをシバいてから感じたかった。私は過ちを犯した。

 

 病室の中は母の泣き声で埋め尽くされ、溢れ出た悲しみが母の涙腺を刺激する。止まる様子が微塵もなく、魔理沙はただただ聞くことしか出来なかった。

 

 

 

 涙はしばらく続いた。

 

 

 

 母が泣き止んだ頃、私は自分の心と向き合った。

 

 なぜ私は母を蔑ろにしたのだろうか。個性を試したいという好奇心もその一つなんだろう、だがそれは真実ではない。本命は私が結依魔理沙でありながら、どこかで結依楓真を引きずっているからだ。

 私は心のどこかで、この世界のことをどうでもいいと思っている。転生者である私にとって、父も母も言ってしまえば他人のようなものであり、この世界で体験した出来事はすべて前世の人生の延長戦。テストで言うところの、得点には一切関与しないただの感想記入問題のような、やってもやらなくてもいい人生を私は歩んでいるつもりでいた。

 

【魔理沙は両親も、世界も、そして自分さえも蔑ろにして生きていた】

 

 しかしこれは第二の人生。私が優しい両親の元に生まれ、愛されて育ったことに変わりは無い。それをやれ前世のどうなの人生の延長戦だので両親の気持ちを蔑ろにしていいものか、いいわけが無い。

 

 じゃあどうすればいいのか。答えは簡単だ。己の人生に『責任』を持つこと。己の行動一つ一つが誰かの気持ちを一喜一憂させるということを、私は自覚しなければならなかった。

 

(……自由過ぎるのも、ダメか)

 

 我が身を振り返った魔理沙は己の過ちを理解し、深呼吸して息を整える。そして同じ過ちを繰り返さぬよう、深く心に刻みつけた。

 

「魔理沙……」

 

 泣き崩れていた母がボソリと呟いた。

 

「……何?」

 

 魔理沙は恐る恐る、聞き返す。

 

「あなた、……また誰かを救ったの?」

 

「……いや、今回はただの自己防衛だよ」

 

「……そう」

 

 

 

「……魔理沙」

 

「こんなことを言うのは酷かもしれないけど、1番大事なのは"貴方自身"よ。ちゃんと分かってる?」

 

「…………うん」

 

「絶対分かってない」

 

 魔理沙は母親からチョップを受け、反射的に目を瞑った。分かっている、分かっているけど時と場合によっては分からなくなることもあるかもしれないし、ないかもしれない……

 

 魔理沙が渋そうな表情でいると、母の瞳に揺るぎない覚悟のようなものが定まった。

 

「……決めました。母さん、あなたが自分を大切にする心をもつまで説教します。あなたが本当に理解したかどうかは私の裁量で決めます」

 

「え?」

 

 突然の説教に頭が真っ白になる魔理沙。しかし母は問答無用で自分自身がいかに大切かを、2〜3陣間語り続けた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 その後、母に延々と同じ内容の言葉を浴びせ続けられた魔理沙は身も心も真っ白になり、死にかけていた。まるで簡易無量空処でもくらったかのように、身も心もドロドロに溶けていた。

 

 もはや人の形を為していなかった魔理沙に対し、追撃とでも言わんばかりに警察の事情聴取がスタートした。警察の内の一人は塚内警部で、彼は結依魔理沙の現状を見て頭を抱えた。そして呆れながらも母に続いて、二度目の説教を始めた。終始笑顔で母と同じ内容を喋りつつ、ついでにヒーロー公安委員会直属のヒーローであることについて自覚しているか1時間説教された。もはや魔理沙の肉体および細胞は結合能力を失い、限界を迎えて液体と化した。

 

 魔理沙が血まみれで倒れたことに関して、ニュースにはならなかった。それも当然で、魔理沙が病院内からテリブルスーヴニールを広範囲に展開し、目撃者全員を炙り出してから記憶を抹消したため、家族と警察と逃したNOUMUを除いて覚えている人間は誰一人としていなくなったからだ。

 

 後、病院に緑谷くんと爆豪がお見舞いに来てくれた。なんで怪我したのかについては答えられなかったが、緑谷くんは私の目の前で元気になってくれるよう祈ってくれた。彼の優しい心が如実に表れている一方、爆豪はフルーツだけ置いて即座に帰っていった。本人曰く、「ババアに頼まれたから仕方なく持ってきてやったんだ感謝しろよクソが」だそうだ。シバく。

 

 最後に母から、こんなこと言われた。

 

「魔理沙は何かなりたいものとかある?」

 

 母から問われた魔理沙は、再び頭を悩ました。

 

 なりたいもの。それは自分に欠けていたパズルのピース。人は誰しも目標を持っているからこそ成長できる。夢があるからこそ、近づきたいと思える。

 しかし魔理沙はほぼ完全に等しい存在。まだ能力の扱いに慣れていないだけで、いずれは神に等しい存在になれるし、神にならずとも並大抵の壁は能力で解決出来るため何にでもなろうと思えばなれる。

 

 しかし、魔理沙の答えは決まっていた。

 

「母さん、私はヒーローになるよ」

 

 苦し紛れに、しかし母には悟られない笑顔でそう答えた。別に嫌々ヒーローになろうとしているわけではない。シンプルに見た目と性格が、私が思い描く真のヒーローに向いてないと自覚しているからだ。

 私は異形魔理沙だ。私の外見を見た人の大多数は私の個性を"異形系の個性"と判断するだろう。まぁ、まだ人型を保っている以上異形系個性の中でもマシな方だがそれでも差別は受ける。

 そして私は性格が割と自己中心的だ。今やってるゴミ拾いも前にやった魔女革命も、基本的には自分のためにやったことだ。他人のためにもなるからやっているだけで、根本の部分が違うのだ。なので英雄になりたいわけでもないし、聖人君子になりたいわけでもない。あくまで私が居心地のいい世界で過ごしたいだけである。

 

 そんなの、真のヒーローではない。が、人を救う能力だけは死ぬほどある。自分でも数え切れないほどに、どんな状況からでも助け出せるほどに豊富な能力の数々が、私の胸の中に収まっている。

 

 それを使わずにいるなど、勿体ないことこの上ない。だから、私は魔法と能力を使って私の中の世界を変える。今はただの最強の魔法使いだが、ヒーローとして活動していくうちにいつの間にか思い描く姿になっているかもしれない。

 

(私は最強の魔法使い、結依魔理沙。真のヒーローには程遠いが、誰よりも人を救う力がある)

 

 魔理沙がじっと自分の握りこぶしを見つめていると、母はクスッと笑いながら言った。

 

「頑張ってね、魔理沙。母さん、応援してるわ」

 

 あっさりと娘の背中を後押ししてくれたことに、魔理沙は一瞬口を開いた。

 内心ヒーローになることを重く考えていた魔理沙だったが、母親に軽く押されたことで、魔理沙はまた少し考えを改めた。

 

 

 

 

 

 物語が幕を開ける。

 

 

 






第三章『雄英高校受験編』に突入する前に第2章EXに突入すると思います。第一章EXほど本編に関わることはおそらく無いです。内容は『能力者ならではの悩み』と『引越し』、『中学生時代』をテーマにした話になる予定です(予定ですので変わる可能性もある)。

よろしくお願いします。



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第二章EX:小・中学生時代
EX① 個性過敏症候群







 

 

 

 ある土曜日の朝、珍しく早起き出来た魔理沙はベッドを抜け出し、一階の洗面所の方へ向かった。土日休みは基本的に午前10時頃に起きるため、初めて7時に起きると眠くて仕方がない。

 

(眠気を覚ます魔法……あったっけ?)

 

 いつも敵を眠らせる魔法ばかり使っているので、目覚めさせる魔法がなかなか思い出せない。普段使わない魔法はよく頭の隅に追いやられてしまうため、思い出すだけでも大変である。

 

(ま、いっか)

 

 魔理沙は気にせず洗面台の鏡の前に立ち、自分用の歯ブラシを取り出した。そして共用の歯磨き粉を歯ブラシにつけ、下顎の奥歯から順番に磨いていく。一応、両親が私のことを思って子ども用の歯磨き粉を置いてくれてはいるが、一度も使ったことない。

 

 口に水を含ませ、喉の奥まで濯いでから吐き出す。これで歯磨きは完了、次は顔を洗おうとした時、鏡に映った自分に違和感を感じた。

 

「背ぇ伸びたかな?」

 

 心做しか自分が成長しているように見えた魔理沙。一応身長と体重は順調順調に増加しており、ちゃんと人間の子どもらしくスクスクと育っている。

 これが他の人間同様、生理現象によるものなのか、それとも私が無意識のうちに自身の体を現実改変し、イメージ通りの()()()()()()()()()()を演じているだけなのか、定かでは無い。

 

「……ただ、おっぺぇは変わらんのな」

 

 魔理沙は鏡に映った自分の貧相な体を見て、それなりに虚しさを感じた。これは単に私が大器晩成型なのか、それとも無意識的に私が貧乳好きで、そのイメージを現実改変で反映してしまった結果なのか、定かでは無い。

 

「揉んだらデカくなるのか?」

 

 魔理沙は胸にまつわる有名な噂を思い出し、自分の胸に手をかけようとする。信憑性は無いかもしれないが、仮にも私は神にも匹敵する超越者。胸を揉んだ瞬間、特殊なバフが発生して爆乳になってもおかしくない。バフ(パフパフ)だけに。

 

 試しに触ってみた瞬間、突然脳から電気信号的な何かが流れ出し、右手の運動神経に意図せず命令が下される。

 私は右手の親指と人差し指で優しく左の乳首を摘んでいただけだが、何故か私の脳みそは勝手に指令を下し、必要以上の力が勝手に発揮された。

 

「こっ、これはッ!!」

 

【かいしん の いちげき !】

 

ブチィ!! 

 

 意図せず発生した会心の一撃により、結依魔理沙の左乳首がもぎ取られた。

 

「うわあ"あ"あ"あ"ああ"あ"あああ"あ"ああ"ああ"ああ"ああ"あ"あ"あああああ"あああ"あ"ああ"あ"あああ"ああ"ああッ!!!!!」

 

 左乳首から漏れ出す大量の血液と、魔理沙の絶叫が響き渡り、地獄の土曜日が始まった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 魔理沙の絶叫を聞いた母親が心配して駆け下りてきた。流石に寝ぼけて胸触ったら会心の一撃発生して乳首もぎ取れたなど、口が裂けても言えなかった。しかし体の調子が変なのは確かなので、両親と相談した結果、公安や警察がお世話になってる病院に行くことにした。

 

 なお、血で汚れた洗面所は大嘘憑き(オールフィクション)で、"胸に触れたこと"を"無かったこと"にしたのため、私が乳首をもいだ事実はこの世から消え去った。

 

「……先生、魔理沙は大丈夫なんでしょうか」

 

「そのこと何ですがね、結依魔理沙さんは特殊なお体ですので100%そうとは言いきれないのですが、非常に似ている症例がございまして……」

 

「結論から申し上げますと、魔理沙さんは『個性過敏症候群』の可能性が高いです」

 

「『個性過敏症候群』……?」

 

 聞いたことのない病名に、魔理沙たちは首を傾げた。

 

「はい。稀に起こる過剰反応で、本人の意思に関わらず個性が暴発したり、必要以上に力を引き出してしまうという病気です」

 

「原因は……?」

 

「ハッキリとした原因は分かっていませんが、発症者の共通点として()()()()()使()()が上げられます。かなり自分の個性を使い込まないと起きませんが……」

 

「魔理沙、心当たりある?」

 

「…………」

 

 母親に聞かれたものの、魔理沙は黙るしかなかった。なぜなら死ぬほど心当たりがあるから。

 

 普段の鍛錬もさることながら、『NOUMU』との激戦で大量の能力を惜しげも無く使いたおした魔理沙。その結果気絶してしまい、やれ両親やら警察やらにお咎めをくらったのはいい思い出である。

 

 しかしあの時は全身出血だけで済んだかと思っていたが、想像以上にとんでも無い負債を抱えてしまった。能力の暴発など、場合によっては私のみならず世界に被害が出かねないので早急に治したいところである。

 

 一応病気を治すことに特化した魔法は多々あるが、『個性過敏症』はおそらくこの世界限定の病気なので、治せるかどうかは分からない。

 

「現在、個性過敏症の治療法は確立されていません。しかし、自然治癒で元に戻るケースも確認されていますので、しばらくは個性の使用を控えることをオススメします」

 

「魔理沙、治るまで絶対に個性使っちゃダメよ?」

 

「へい」

 

 魔理沙は適当に返事を返し、母と共に診察室から退場した。しかし個性を、能力を使わない場面など私にはほとんど無い。いや、家事する時や鍛錬する時に使う魔法を削ることは出来るが、問題は襲撃者だ。

 

 魔法や能力の扱いは本家本元の異形魔理沙に近づきつつあるが、身体能力に関しては年齢か寿命に比例しているせいかあまり発達していない。正直、今能力無しでオールマイトと力比べしたとしてもおそらく勝てないと思われる。そんな状態でやれ脳無やらNOUMUやらヴィランやらに襲われたらたまったものではない。

 

 いや待て。一番マズイのは襲撃者じゃなく、私か? 今日の朝、意図せず『会心の一撃』が出たのはまだまだ序の口で、これからとんでもない能力が私の意思に反して勝手に発動するとしたら、大災害どころか地球滅亡の危機だ。どんなに使わないよう気をつけても勝手に発動して勝手に滅んだらとんでもない。確実にこの世界がめちゃくちゃになる。

 

「……母さん」

 

「何?」

 

「早く家に帰ろう。ヒトが死ぬ」

 

「人が……死ぬ?」

 

 未だ魔理沙の個性についてよく分かっていない魔理沙母は、よく分からないまま娘を車に乗せて発進した。

 

 車に乗っている間、魔理沙はずっと考えた。どうやって自分の能力を封じ込めるか。とはいえ魔理沙は攻撃方面のみならず耐性面においてもブッチギリで最強なため、たとえ自ら封印の魔法をかけたとしても通じない可能性がある。

 

 車から降りて帰宅後、魔理沙は考え事しながら2階に上がり、自分のベットに腰掛けた。

 

【かいしん の いちげき !】

 

 魔理沙のケツと接触したベットはおおよそ女の子が座って起きた出来事とは思えないほどに折れ曲がり、発生した衝撃波によって壁、机、天井、小道具、布団の一部が破壊されてしまった。

 

「最悪だ!!」

 

 想定外の出来事に魔理沙はつい、いつもの癖で"時間を巻き戻す魔法"をかけてしまう。しかし今の魔理沙に能力を制御出来るはずがなく、適切な能力選択、能力の適用範囲、効果量、そのすべてを間違ってしまった。

 

 結果、魔理沙は『部屋ごと』『タイムワープ』し、『現在から約150年前の時間軸』にタイムスリップしてしまった。

 

「なんでだよ!!!!」

 

 制御できなさすぎてブチギレる魔理沙。しかし冷静に考えてこれでもまだ()()な方である。

 

 現在、魔理沙はさっきまでいた世界と同じ世界で、日本の福岡県に移動した(スキル『大賢者』による情報)。しかし、間違い方によってはこの世界とよく似た平行世界(パラレルワールド)に行っていたかもしれないし、能力によって生み出された仮想空間に移動していたかもしれないし、宇宙のはじまりまで遡っていたかもしれないし、日本では無いどこかにワープしていたかもしれない。

 

 たまたま、同じ世界の時間軸上で、時間的距離もそこまで遠くなく、かつ日本に留まれたことがどれほどの奇跡か。落ち着いてからようやく理解した。

 

「……どうやって帰ろうかな」

 

 帰る方法について模索する魔理沙。いつもなら時間跳躍(タイムジャンプ)するだけで解決するが、さっき失敗したように今の私は能力の制御がほぼ効かない。となると方法は主に2つ。

 

「リスクを承知でタイムワープするか……」

 

「……150年間ここで生き長らえるか」

 

 最悪の二択。正直どちらも嫌だが、前者は必ずしも元の世界の時間軸に戻れるわけではないのに対し、後者は時間がかかるものの、確実に元の時間軸に戻れてなおかつ時間経過で個性過敏症も完治するかもしれない。ただこのまま何もせずにボーッとしても、誰かに絡まれたり能力が暴発する危険性がある。

 

「なるべく人目につかない場所に移動して、そこで自分を()()()()()()()()

 

 自分と、この世界の未来のために封印することにした魔理沙はさっそく立ち上がり、どこか都合のいい場所がないか考える。

 

 最初に思いついたのは心霊スポット……だが、あそこは好奇心旺盛な人が近づいてくるので止めておこう。

 

 やはり物理的に近づけない場所が望ましい。そう思っていると、再びスキル『大賢者』が発動し、人目につかないオススメの場所を紹介してくれた。

 

 それは富士山頂、桜島山頂、沖ノ島、硫黄島、知床半島、出雲大社本殿の6箇所。どこも物理的に近づけないというか、霊的に近づけない場所で色々と都合が良さそうに見える。

 

 とりあえず魔理沙はここから一番近い沖ノ島に向かうことにした。道中、人に出会わないよう慎重に移動していたが、『大賢者』が最適なルートを導き出したおかげで今のところ順調に足を進めている。

 

 ちなみに何故大賢者は暴走しないのか聞いてみたが、どうやら私の中の能力を制御する能力が全力でバグを抑制してくれているらしく、そのおかげで大賢者は正常に機能しているらしい。

 しかしそれでも限界ギリギリらしいので、魔理沙はなるべく早足で歩いた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 大賢者の案内の元、ついに宗像市の沿岸部に辿り着いた魔理沙。しかし問題はここからである。

 

 まず今向かっている沖ノ島だが、"島"なので当然本土から離れた場所に位置している。その距離なんと約60km。小笠原諸島ほど離れてるわけではないがそこそこ遠い場所にある。

 

 そして沖ノ島は"禁足地"であり、一般人の立ち入りは禁止。世界遺産にも登録されていて、だからこそ身を隠すのに相応しいわけだが、沖ノ島は禁足地である以上ただの島ではない。

 

 沖ノ島は"神宿る島"と呼ばれ、島そのものが神の御神体。島には宗像大社の神職1人が10日おきに交代で常駐し、大量の監視カメラが設置されている。能力の制御が難しい今の状態ですべての監視カメラを掻い潜り、神職にバレないようこっそり封印するのは相当厳しい。

 

 さらに沖ノ島には"禁則事項"が存在し、その内容は……

 

 ① 沖ノ島で見たり聞いたりしたものは一切口外してはならない

 

 ② 島内にあるものは一木一草一石たりとも持ち出してはならない

 

 ③ 上陸前はいかなるものも服を脱ぎ、海に浸かり心身を清める"(みそぎ)"を行わなければならない。

 

 ……の3つがある。つまり私は上陸前に全裸になって禊を行った後、約60km離れた沖ノ島まで自力で泳いでいかなければならない。相当しんどいぞコレ。

 

 とりあえず魔理沙は人目につかない物置小屋の陰に移動し、服を脱ぎ始めた。

 

「……胸小さくて良かった」

 

 まだブラジャーを付けられる段階まで成長していなかったことに、魔理沙は珍しく感謝した。

 一応、前世男なので女性専用装備に関する知識が乏しく、いつものように『前世の記憶を頼りにする』といった方法が使えないため、こういう非常時には対処出来ない。いつかちゃんと勉強するべきか。

 

 脱いだ服を丁寧に畳み、全裸で海に向かう魔理沙。当然温度調節の魔法も使えないし、耐性も全部機能していない。そのため魔理沙は一般人同様、海の冷たさに自力で耐えなければならない。

 

 何とか禊を行い、身体を震わせながら陸に上がる。そして体が乾くまで待ってから服を着直した。

 

 さて、ここから沖ノ島まで行かなければならないが、どうやって海を渡ろうか。さっきは泳ぐと言ったが、流石に全裸で島に上陸するのは嫌なので、"服が濡れなくなる魔法"をかけなければならない。

 一方、泳ぐ以外の方法として、"海上を歩けるようにする魔法"で渡る方法がある。

 

「大賢者、泳いで渡るのと走って渡るのどっちが良い?」

 

【魔法発動時の負荷が大きいのは"海上歩行の魔法"ですが、短時間であれば問題ありません。形態学上、人類は"泳ぐ"よりも"走る"方が速いため後者をオススメします】

 

「……ちなみに"海上歩行の魔法"で海を渡るのと、"身体強化魔法"で無理矢理海の上を走るの、どっちが良い?」

 

【身体強化魔法です】

 

「OK」

 

 魔理沙は大賢者のサポートを受けながら魔人経巻を展開し、無詠唱で身体強化魔法を発動させた。そして、人智を超えた速度で海に突撃し、大ジャンプで打ち寄せる波を飛び越える。

 

 右足が海面に着地した瞬間、右足が沈む前に左足を前に出し、左足が沈む前に右足を前に出す。これを超高速で繰り返すことで海上を爆速で走り抜けた。一度でも足を止めた瞬間沈んでしまうため、魔理沙は到着まで全力で足を動かした。

 

 そしてついに沖ノ島に辿り着いた魔理沙は、身体強化魔法を解除せずにそのまま島内の散策を行った。大賢者の情報通り、島内には至る所に監視カメラが存在し、それら全てを脅威的な身体能力で回避しながら進むが、思った以上になかなか進まない。

 

我が島を荒らす不届き者は誰だ

 

「誰!?」

 

 関係者に見つかってしまったと思いこんだ魔理沙は咄嗟に茂みに隠れた。が、周囲に人はいなかった。

 

私は宗像三女神の一柱、多紀理毘売命なるもの。外来より来し人ならざるものよ、何故このような場所に

 

「……え、マジ神!?」

 

 逆探知不可の言葉を感じ、本能的に神だと理解した魔理沙。神と会ったのは前世含めこれで2回目であり、この世界で会ったのは初めてである。

 

 神宿る島で神との会合を果たしてしまった魔理沙。貴重な機会に興奮する最中、多紀理毘売命(タキリヒメノミコト)は魔理沙の中の得体の知れない何かを感じ取っていた。

 

……おかしい。ここまで因果が重複することなどありえない。それに存在そのものが不安定過ぎる。お前は……

 

「……あ、そうだ。ねぇタキリヒメ、私ここで自分を封印したいんだけど、この辺で人目につかない場所教えてくれない?」

 

封印……? 

 

 奇妙なことを言い出した魔理沙に興味を持った多紀理毘売命は、魔理沙から事情を聞いた後、少し悩んでから答えた。

 

仕方ない。父と母が見守ってきたこの地をお前に壊させるわけにはいかぬ。協力しよう

 

だがしかし、我々は今忙しい。裏切り者の神に対する処遇で、後に呻く混沌の現世を平定できぬ。いづれ悪しき者がこの地に立ち入ることもあるだろう

 

そこでだ。お前には封印を手伝うついでに"魔除け"として機能してもらう。何、簡単なことだ。封印後にお前の神体を神の力で8つに分解し、各地方にバラ撒くだけのこと

 

「……あの、150年後に復活する予定なんですが……」

 

分かっている。お前が元の時間軸に到達したらちゃんと元の体に戻してやる。安心しろ

 

 少々怖い部分はあったものの、多紀理毘売命と手を組むことにした魔理沙。封印を施すのに丁度いい場所を探すべく、神の案内の元、魔理沙は沖ノ島内の森の中へと進んでいく。

 

 どこもかしこも監視カメラでいっぱいだが、今の魔理沙は多紀理毘売命の加護により普通の人には見えなくなっているらしく、魔理沙と神は気にせず目的地へと向かう。

 

着いたぞ

 

 険しい道を乗り越えて辿り着いた場所。そこは人の足では絶対に辿り着けない領域。断崖絶壁に囲まれた道の真下に存在する洞窟内に、神と魔女が舞い降りた。

 

ここは神職ですら近づかない神の領域。誰も近づくことはない

 

「……あの、タキリヒメさん。今更ながらアレだけど……」

 

何だ? 

 

「ワンチャン神の力で私の病気とか直せたり、する? それができたら割と丸く収まるんだけど」

 

お前のそれは病ではなく、■■の■■■■■だ。お前は封印ついでに我が身を振り返り、力の在り方について考え直すがいい

 

「……はい」

 

 神に論破され、新たに見出した希望も失った魔理沙は仕方なく封印の義を行うことにした。ただ普通に封印しようすると反射的に能力が発動するかもしれないので、『大賢者』と『神』のサポートの元、『かたやぶり』を発動しながら封印にまつわる魔法と能力を片っ端から発動させた。

 

【封印完了まで残り5%。もう少しの辛抱です】

 

……注連縄使わないのか

 

「……!」

 

 能力の暴走を抑え込み、ついに魔理沙の封印が完了した。魔理沙の肉体と魂は無数の槍と神器によって固定され、意識すらも結晶内に閉じ込められてしまった。

 

素晴らしい、まるで禍津日神のようだ。これなら"魔除け"、いや"人除け"に使えるだろう

 

 封印の出来に感心しながら、多紀理毘売命は結依魔理沙の封印結晶を神の力で8つに分解し、常世を経由して日本各地の神に纏わる領域に配置された。

 

 

 

 

 

 

外来より来し人ならざるものよ

 

因果を紡ぎし穢きものよ

 

いつかまた世に見えし時、再びこの地にて会合を果たそう

 

楽しみにしているぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

〜 150年後 〜

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ふぁ)

 

 

 

 

 

 

 

(あぁ…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………もう、そろそろ……経ったか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(うん、ちょうど私が5歳の頃の時間軸に到達している)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(後は、タキリヒメが元に戻してくれるのを待つだけ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アレ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(タキリヒメさん?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(約束は!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もしかして忘れた!? 神のくせに?!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちょっとねぇ! アンタがバラバラにした体元に戻してくんないと困るんですけど!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ん、アレ? ()()()()()()()()()()?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(バラバラにするの忘れた?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 何とか自力で封印を解いた魔理沙は、沖ノ島の神域で目を覚ました。しかし、神域どころか沖ノ島内に多紀理毘売命はおらず、声も聞こえない。

 

「どこ行ったんだあの神……」

 

「ん?」

 

 魔理沙が神域を出ようとした時、1枚の手紙が足元に落ちていた。魔理沙はそれを拾い上げると、ほのかに温かいエネルギーが体内に流れ込んできた。

 

(神力っぽいエネルギーに、材質不明の手紙……)

 

 おそらくタキリヒメからの手紙であると感じた魔理沙は、手紙の中身を読み上げた。

 

 

【『There is no escaping that green-haired woman. The fellow researcher who saved me also died mysteriously, as if in a chain of events. And am I also being targeted all the time? She will keep coming out until I fall. It is just like a strange trail. I know a little something. The green-haired woman resembles an urban legend called "Sanae-san. And the hallucinations we have experienced are all related to the school. Unrealistic but no longer "Sanae-san" is real, isn't it? It is just like a bizarre trace. But the hallucinations we see do not feel as if they are hallucinations; they are strangely realistic. What does this mean? Ah, and it seems my turn has come already. I will never forgive that wizard woman. She played us to the last. Therefore, look, look. Such a wonderful future is out there. It is just like a strange trail. It is just like a strange trail. It is just like a strange trace. It's just like a strange trail. It's just like a strange trail. It's just like a strange trace. It's just like a strange trace. It's just like a strange trace. It's just like a strange mark. It's just like a strange mark. It's just like a strange mark.』】

 

 

「読めねェ!!」

 

 

 もはや何語かも分からず、魔理沙は解読を諦めた。何故タキリヒメは日本語で書いてくれなかったのか、それともこの文字が神の使う文字なのかは分からない。が、貴重な文書であることに変わりないので、魔理沙は能力で手紙を異次元に格納した。

 

「……帰ろう」

 

 やることが無くなった魔理沙は瞬間移動で帰ることにした。が、個性過敏症候群が治まったか分からないので、念の為そこら辺の石ころを家に瞬間移動させてから、千里眼で確認してみた。すると問題なく移動していたので、魔理沙は安心して瞬間移動で帰宅した。

 

「ただい…………あ」

 

 家に帰ってきた瞬間、酷く笑顔な母の顔が目の前に現れた。

 

「おかえり、魔理沙。どこ行ってたの?」

 

 言葉の一文字一文字に圧を感じ、魔理沙はすべてを察した。

 

「フッ」

 

「この世界の、"過去"かな」

 

 魔理沙は現実から目を背けた。

 

「嘘つくんじゃない」

 

 母のチョップが脳天に炸裂し、魔理沙は頭を抱えた。

 

「…………マジなのに!!」

 

 

 

 

 

 

 



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EX② 引越しの日

 

 

 

「Nooooooooooo!!!!」

 

 とある日の夕方、結依魔理沙は3km離れた場所から狙撃してきた相手を特定し、瞬間移動で相手の背後に回り込んだ後、持っていたスナイパーライフルを"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"で破壊した。

 

「祖国にでも帰るんだな」

 

 命乞いをする相手に対し、魔理沙は問答無用で"キノコのほうし"を振りかけて眠らせようとした瞬間、2人の男が窓を割って侵入し、もう2人がドアを蹴り飛ばして銃を構えた。

 

「見えてる」

 

 侵入してきた4人の男が容赦なく対ヴィラン用ライフルで射撃するも、魔理沙は顕現した"金山彦命"の力ですべての弾丸を砂に変え、どこからか取り出した刀を地面に突き刺した。

 

 すると、床から無数の刃が男たちを取り囲むように出現し、男たちは身動きが取れなくなった。

 

「これは別のところから引っ張ってきた神様の力だから触れてもバチは当たらないと思うが、やめといた方がいい」

 

 魔理沙の忠告に対し、男たちは互いの様子を伺いつつ、一人の男がスイッチを押そうとした。が、スイッチにはいつの間にかネジが突き刺さっていた。

 

「増援を呼んでも無駄だよ。お前らの行動は一挙手一投足に留まらず、過去現在未来すべてにおいて私の掌の上だということを自覚した方がいい」

 

「……HAHA」

 

「This switch sends a signal even if it is destroyed. Soon our supreme millitary weapon will burn you down with your city」

 

「You fucking bitch!!」

 

 4人の男が憎たらしい笑みを浮かべるものの、魔理沙はため息しか出てこなかった。

 

「……そのスイッチは壊れたんじゃなくて、この世から消えたの。消えたというか、()()()()()()()()()

 

「…………」

 

「だから増援はこない。核兵器も落ちてこない。仮に落ちたとしても落下する前にワープさせるなり消すなり方法はいくらでもある」

 

 魔理沙が突き刺した刀を少し傾けると、男たちを囲んでいた無数の刃がさらに成長し、刃の切っ先が喉元寸前にまで迫る。

 

「お前の国が総力を上げて私を殺そうとしても殺せない。お前がどんな手段を使おうがオールフォーワンを使役しようが無駄。だからさっさと祖国に帰れ」

 

「|Now if you just tell me where you' re going, I'll give you a free return ticket《今なら行き先さえ教えてくれれば帰りのチケット代はタダにしてやる》」

 

 命と帰りのチケット代を天秤に乗せ、刃を向けながら交渉する魔理沙。

 

「……You won't kill us?」

 

Sure(もちろん). But not the third time(だが3度目は無い)

 

 殺さないことを魔理沙は誓ったものの、刀は引き抜かなかった。

 

「……OK, We'll withdraw. Pull out that sword」

 

「……分かった」

 

 撤退の意思が見られたので、剣を引き抜くことにした魔理沙。すると取り囲んでいた無数の刃がスルスルと床に吸い込まれ、跡形もなく消えた。

 

「……Come here. Tell you where to go」

 

 行き先を聞くために仕方なく近づいた魔理沙だったが、残り数メートルといったところで男4人全員が魔理沙の身体に対ヴィラン用拡散型小型レーザー装置を押し当て、ゼロ距離で起動した。

 

「Haha! You're a dumb kid!!!!!!」

 

 眩い光が魔理沙の体内で破裂し、肉体を突き破って光が放出した。損傷を受けたことで体内エネルギーを乱された魔理沙は大爆発を引き起こし、ビルの部屋一室が丸ごと吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何だこの茶番」

 

 わざと大爆発引き起こしたことで男達は全員吹き飛ばされ、4人のうち1人が窓の外まで弾き出されてしまった。が、落下中にスキマで回収したため問題は無い。

 ここまですべて予定調和だった魔理沙は、呆れながら残り3人の男の身柄を回収していった。

 

「だがこれで今月326人目の襲撃者を討伐できた。国際条約結んだのとしばらくアメリカで身を隠していたおかげで襲撃者の数もかなり減っているし、これなら問題なく行ける……」

 

「お引越しが……!!」

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 某年某月某日、結依魔理沙は8歳を迎えた。リアルタイムより時間停止中に過ごした時間の方が大きい魔理沙にとって、たかが1年経過したところで何も思うところはなかったが、両親は祝ってくれた。

 

 プレゼントに魔法の杖を貰ったので、雰囲気を出すためにちゃんと魔女らしい服に着替えてから杖を持った。すると両親から、"似合い過ぎてそれがデフォルトに見える"と言われた。それはそう。

 

 魔女服を普段着として着たことは今まで無かったが、仮にも私は異形魔理沙。威厳を出すためにもそろそろ正装した方がいいかもしれない。

 

「……いや、そんなことはどうでもいい。私が今考えるべきことはそう、お引っ越しだ!!」

 

 やる気に満ち溢れる魔理沙。何故唐突に引越しの話を始めたのか、その話は若干長くなる。なので簡潔に言うと、家の住所が悪い襲撃者たちにバレたので引越し計画を立てていたが、予算の都合上引っ越せなかった。しかし両親が毎日あくせく働き、私も片っ端からヴィランを叩きのめしたおかげで何とかお金が溜まり、予算問題が解決したため遂に引越し計画が動き出した、というわけである。

 

 しかしこの引越し計画、色々と問題がある。そのうちの一つが"引越し先もバレるかもしれない問題"で、この計画を相手方に事前に知られていたり、引越しの際に後をつけられたらすべてが台無しになる。が、この問題は気にしなくていい。なぜなら私がここ数年間、関東全域をパトロールして片っ端から襲撃者を潰したおかげで2000人以上の密入国者もとい襲撃者を逮捕したから。加えて政府も監視強化するらしいので新参者が引越し先を探り当てるのは相当難しいはず。

 

 問題は2つ目、緑谷くんと爆豪にはしばらく会えないということ。寂しいのもそうだが、一番気がかりなのは原作路線から二人が既に外れかかっているということ。目を離した隙に緑谷くんが闇堕ちしたり、爆豪が変なことして大怪我とか負ったら高校受験どころではない。

 

 何とかして監視下に置きたいが、千里眼は両眼使うので近場が見えなくなってしまう。となるとやはり動物の目を利用して監視するか、使い魔を介して監視するか、カメラ付きドローンに魔力を与えて監視するか……

 

 方法はいくらでもある……が、どれがコスパ良いのか全く分からない。動物や使い魔を使わずとも、ちょくちょく瞬間移動で見に行くことも出来るし、先に未来を見ておくことも出来るのだがどれがローコストなのか……

 

「……いや、これだ!」

 

 魔理沙は千里眼越しに未来予測で緑谷と爆豪の中学三年生までの軌跡を確認しようとしたが……

 

「おいボサボサ頭、お前何してんだ」

 

「あ、爆豪」

 

 公園のブランコを漕ぎながら千里眼で未来予測している途中で爆豪とその仲間たちが割り込み、未来予測はキャンセルされた。

 

「暇だからお前の未来覗いてた」

 

「何寝惚けたこと言ってんだクソが」

 

「う〜ん、レスポンスが早い」

 

 魔理沙の言うことすべてがデタラメだと思ってる節がある爆豪さん。あまりのレスポンスの早さに流石の魔理沙も驚いた。

 

「俺たちはこれから虫取りに行くからお前も来い。乱獲するぞ」

 

「えーかっちゃん、アイツ誘うのぉ〜?」

 

「気持ち悪いから止めよぅ?」

 

 取り巻きの人間にディスられた魔理沙。正直大人にディスられるよりキツかったが、こんなもの日常茶飯事なので魔理沙は気にせずブランコを漕ぎ始めた。

 

「チッ」

 

 乗り気ではないと感じた爆豪は舌打ちをし、仲間を引き連れて近場の林に向かおうとした。しかしその時、魔理沙がまだ引越しの件について爆豪に話していないことを思い出したため、置いていかれる前に呼び止めた。

 

「なんだよ」

 

「言い損ねたんだけど、そろそろ引っ越すからよろしく」

 

「……は?」

 

 一瞬、爆豪の脳内が真っ白になった後、「……あっそ」と一言だけ残して去っていった。どうやらそこまで私に思い入れは無いらしい。悲しい。

 

「……緑谷くんと爆豪が変わるより先に、私の方が変わりそうだな……」

 

 順調に悲しき獣ルートを歩んでいることに気づいた魔理沙は、酷く頭を悩ませた。

 

 誰にも愛されず、誰にも頼られず、しかし力だけは無駄にあって、誰よりも愛を、ぬくもりを欲している悲しき獣。いずれは他者とのコミュニケーションすら廃れ、価値観もズレ、行き着く先は孤独と絶望に溢れた闇堕ちの世界。力の有る無し関係なく用意された悪人製造プロセスが私を獣に貶めようとしていることに、薄々勘づいてしまった。

 

「引っ越したらなおさらだよなぁ」

 

 ただでさえ友達の少ない自分が、向こうでもやっていけるのか少し不安になる。自分と家族の身の安全を守るためとはいえ、強制的に人間関係がリセットされるということは、一度形成したコミュニティから離れることを意味する。陽気で明るいわけでもない自分が一度コミュニティ外まで弾き出されて、新しいコミュニティに再び所属出来るのかというと、正直怪しい。また周囲の人間に恐れられ、迫害されるか、ヴォルデモートと化すかの二択になるだろうが、どちらにしろ"悲しき獣ルート"は避けられないだろう。

 

「……私の()()()()って」

 

 嫌な言葉が頭に過ぎったが、何とかして嫌な言葉から目を背け、別のことを考える。

 

 とりあえず、緑谷くんと爆豪にはあらためて引っ越す日を教えておこう。それから今日は収納していた襲撃者たちを警察に引き渡して書類作成とかしよう。そしたらあっという間に時間が過ぎてく。

 

 嫌なことなんて考えてる暇は無いんだ。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 引越し日の前日、魔理沙たちは引越しの荷物をまとめていた。必要ないものや引越し先で新しく買い直すものはすべて売り払ったので、あとはマリサが作り出した拡張空間もといスキマに家財と荷物をブチ込むことで引越し準備は完了。食料も拡張空間に置いておけば腐ることなく永久に保存出来るため、引越し前に残り物を消費するとか冷凍食品全部食うとかそういうことはしなくていい。さらに拡張空間内は外気温に左右されないため、布団代わりとしても機能してしまう。これには流石の両親も感服し、「一家に一台結依魔理沙」と言わしめた。

 

 また、引越し準備の途中で緑谷くんと爆豪が来た。引越し日の連絡に関しては二人の脳内に直接語りかけただけで、それ以降二人とは全く接触していなかった上に、防犯対策で認識阻害効果のある結界で家を囲んでいたにも関わらず、二人はやってきてくれた。相当私のこと意識していないと辿り着けないはずだが、爆豪の決心した顔つきを見てすべてを察した。彼は私がいなくなる前に決着をつけようとしていたのだ。

 

「表に出ろ、ボサボサ頭」

 

「……見て分かると思うけど、私今忙し」

 

「荷物詰めるだけだから大丈夫よ。だから行ってらっしゃい」

 

「えぇ……?」

 

 両親のフォローによって表に連れ出された魔理沙は、かつて爆豪と盛大に殴りあった場所に辿り着いた。

 

「お前、よくも抜け抜けと勝ち逃げしようとしたな?」

 

「勝ち逃げ……というより、一度も負けたことが無いだけなんだが」

 

「嫌味か? クソが」

 

「事実です」

 

 視線が重なり、バチバチと火花を散らす二人。そしてその横で緑谷出久は口を手で覆い隠しながら見守っていた。

 

「……御託はいらねぇ。俺と戦え、結依魔理沙」

 

 やる気満々の爆豪に対し、魔理沙はため息しか出てこなかった。

 

「……ほんと、昔から変わらん」

 

「かっちゃん、やっぱり普通に見送ろうよ。……魔理沙さん呆れてるよ」

 

「うるせぇ!!」

 

 外野からの正論を跳ね除け、掌の汗腺からニトログリセリン様物質を爆発させる。こうなるともう後には引けないので、仕方なく魔理沙はスキマから道路交通標識を取り出した。

 

「これで良いか?」

 

「ヘッ、それで良いんだ」

 

 戦う気になった魔理沙を嬉しく思い、さっそく爆豪は爆発を利用して加速し始めた。

 

 今まで何度も結依魔理沙に挑み、何度も敗北した。結依魔理沙が現れるまで、誰よりも強い個性を手にしていたと自覚していたが、今になっては魔理沙の二番煎じと考えてしまっている。

 

 誰よりも強くあろうとすればするほど、頭の片隅から彼女の姿がぬるりと現れる。それが非常に煩わしかった爆豪は、この最後の戦いをもって結依魔理沙をぶっ倒し、自分が真に強い人間であると証明しようとした。

 

 だが、爆豪の攻撃は1発も当たらない。攻撃タイミングや接近のタイミングをズラしてもスルリと身を翻し、道路交通標識で勢いよく爆豪を弾き飛ばす。

 

「がぁッ!!?」

 

「残念ながら、私も成長している」

 

 魔理沙は道路交通標識を一瞬で粉々の鉄くずに変えると、その鉄くずと爆豪に磁力を与えて爆豪に大量の鉄くずを弾丸のごとくぶつけ、磁力で合体させる。

 道路標識1個分の質量に耐えきれなくなった爆豪は膝をつき、やがて地面に伏せた。

 

「とてもスマートでしょう?」

 

「重てぇ……!!」

 

 必死に抵抗する爆豪だが、まだ8歳の彼に道路交通標識を背負うのは早過ぎた。

 身動きの取れない彼に対し、魔理沙は静かに近づき、右手を銃の形に模して指先から眩い光を放った。

 

「爆豪の負け」

 

「まだ負けてねぇ!!!」

 

「なら追加で重くなってもらおうか」

 

 爆豪は誰かに触られたような感覚を受けると、自分の体重が途端に重くなり始め、地面が少し陥没するほどめり込んだ。

 

「ぐああああああああッッ!!!!」

 

爆豪の体が地面に半分ほど埋まったあたりで魔理沙は能力を解除し、襟の部分を掴んで爆豪を引っ張り上げた。

しかし爆豪は未だ反抗の意思を燃やしていたため、魔理沙は反撃される前に爆豪を軽く投げ飛ばした。

 

「ぐぁッ!」

 

「爆豪、ここで私と決着をつけるのはまだ早い。もう少し私たちが成長したら、また戦おうな」

 

「……はァっ……はぁッ…! ッそれって、……いつだぁッ……!」

 

「……高校生。"雄英高校"に入学する予定だから、その時だね」

 

「……雄……英……!!」

 

 日本最高峰のヒーロー専門高校。オールマイトやエンデヴァーといったトップクラスのヒーローたちが排出された名門校であり、毎年テレビで放映される"雄英体育祭"は全国屈指のイベントで爆豪も毎年見ている。

 

 そんな誰もが憧れ、目指そうとする場所で、高みの先で魔理沙が待っているのならば、爆豪は何の迷いもなく周りを蹴散らし、前に進むだけ。

 

「待ってろボサボサ頭。俺は絶対に強くなって、お前をぶっ倒してやる」

 

「頑張れ」

 

 目標が一つ増えた爆豪は新たに闘志を心に宿した。その片隅で緑谷も目指したい場所が定まり、心の内を吐露した。

 

「ぼ、僕も雄英入りたい!」

 

「おめェは無理だデク」

 

「酷い!」

 

 早過ぎるレスポンスにショックを受ける緑谷。

 

「鍛えればいけるって」

 

「行けねぇよ!!」

 

 そこにそれとなくフォローを入れた魔理沙だが、爆豪に否定されてしまった。先の展開を知っている魔理沙からしてみれば緑谷くんがOFA継承して雄英に入ることは分かりきっているが、もし路線から外れた場合、OFAが継承されなくなるかもしれない。それだけが心配だ。

 

 最悪、私の力を継承させて次代の魔女に仕立て上げることも視野に入れなければ……

 

 と、考えながら、魔理沙は爆豪にかけた能力と魔法を解除した。自由の身になった瞬間、腹パンしてきた爆豪を咎めたり、公園内で鬼ごっこをしている内に、いつの間にか日が暮れていた。

 

 魔理沙たちは公園を背に帰宅した。しばらく会えないということで、魔理沙たちは今まで遊んできたことについて振り返った。爆豪は終始「クソが」しか言わなかったが、何だかんだ会話に混ざりアレやコレやと話し込んだ。話すうちに家にたどり着き、魔理沙は二人に別れを告げる。出発は午前9時ほどだが、平日なので二人は来れない。なのでここで別れを済ませようとした。緑谷くんは私に手紙を渡し、少し涙を流しながら握手をした。爆豪はずっと悪態しかつかなかったが、珍しく握手はしてくれた。これで思い残すことは無いだろう。

 

 魔理沙は二人の後ろ姿が見えなくなるまで手を振り続けた。しばらくは会えない、そう感じた瞬間、珍しく感情の波が押し寄せてきたことで、魔理沙はうっすらと涙を流した。彼らと一緒にいることで、何だかんだ自分も救われていたのだと、私はこの時気づいた。

 

 今日寝たら、明日になって、この家から離れることになる。思い出を地に残して、友人に別れを告げて、この街から離れる。これは人生の区切りだ。生まれた時から続いてきた日々の連続が一度止まり、また新しい日々がやってくる。

 

「じゃあね、爆豪、緑谷くん」

 

 侘しい気持ちに浸りながら、魔理沙は静かにドアを閉めた。

 

 

 

 



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EX③:中学生時代(前編)

 

 

 

 結依魔理沙が引っ越してから5年経過し、結依魔理沙は13歳を迎えた。アレ以来襲撃者の数が激減し、せいぜい1ヶ月に2、3回自分狙いのヴィランが出てくるだけにおさまった。引越しは成功したと言ってもいいだろう。

 

 そしてついに結依魔理沙は中学校に進学し、周りも一歩ずつ大人に近づいた。しかし成長期ゆえか個性の使いすぎゆえか、魔理沙は進学直前で再び『個性過敏症候群』に罹患し、頻繁に魔法が暴発するようになってしまった。

 

 前回は神の力を借り、体を8つに分けて150年間大人しくしていたおかげでやっと低レベルに治まったが、残念ながら現代に神はいないので借りることも出来ず、"無かったこと"にしようにも今の状態では制御出来ないので非常に危ない。

 

 しかし、発症前にあの時の過ちを思い出した魔理沙は、あらかじめ封印用の道具を取り揃えていた。これのおかげでセルフ封印に関してはほぼ問題なく進行し、さらに封印中でも自由に動くことが出来るよう改良も施した。だが、これには一つ問題があった。

 

 それはシンプルに見た目。今の私は全身に強力な呪符や御札を大量に貼り付け、魔眼系能力を封じるために黒いハチマキで両目を隠し、両手首には魔法発動時の暴走を抑える拘束具を、手首から先には十字架を模した赤い針が腕一本につき三本突き刺さり、背中側からも禍々しい槍がX(エックス)の形に交わるよう突き刺さっていたため、登校初日から『純粋に頭のおかしいイカれたファッションのヤバいヤツ』という不名誉極まりないレッテルを貼られてしまった。なので当然グループにも入れてもらえず、見事魔理沙はボッチ中学生の道への第一歩を切り出した。

 

 魔理沙は誤解を解くために何度も何度もクラスメイトに説明したが、喋れば喋るほど『妄想癖を拗らせた中二病』にしか見えないため、なおさら相手にされず、結局魔理沙はボッチ中学生街道を歩むことになってしまった。もうダメかもしれない。

 

(……過敏症の時の過ちを思い出した時に封印道具出すんじゃなくてシンプルに病気自体を"無かったこと"にすればこんなことには……!!)

 

 完全に取るべき手段を間違え、失敗のツケを味わう魔理沙。たった1回間違えただけでこれほど酷い目に会うとは、思ってもみなかった。

 

 しかし、まだ希望は失われていない。なぜなら、『個性過敏症候群』による能力暴走の仕組みが大賢者(自立発動型能力)の協力の元、判明したからだ。

 それを説明するにはまず私の能力発動プロセスについて話さなければならない。が、ややこしいのでフンワリと下記に示す。

 

 能力発動に関与する部位は主に5つ存在する。まず全ての行動の起点となる脳みそと、各能力のジャンルごとに制御する複数のクライアントOS系能力、そして別ジャンルごとの能力の同時発動や能力の切り替えに関与するサーバーOS系能力と、全能力を情報を管理しているデータベース系能力、そして情報を元に能力を起動するor魔法陣を形成するアプリケーション系能力、この5つが互いに関与し合うことで能力が正常に機能する。

 

 しかし私が幼少期に能力の過重発動や自身のスペック以上の能力を引き出し過ぎたせいで、私の中のクライアントOS系能力とデータベース系能力が何度もイカれてしまったらしい。特に刑務所にいた時が一番酷かったそうで、何十年も時間を停止させながら大量のアプリケーション系能力を多用したことで自己修復機能が機能しなくなってしまったらしい。その結果がコレである。

 

 従って『個性過敏症候群』の症状である、能力が突発的に発動する現象は、クライアントOS系能力が勝手に指令を出してしまうことで起きる現象であり、無駄に威力が高まるのはクライアントOS系能力が同じ指令を複数回送信してしまうことが原因である。

 

 例として"メラ"を唱えようとした時、脳から『メラを唱える』という指令が下される。そうすると、ドラクエ魔法に携わるクライアントOS系能力がメラに関する情報をデータベース系能力に向けて()()()リクエストする。リクエストを複数回受けとったデータベース系能力はドラクエ系列の魔法から"メラ"に関する情報(必要魔力量、属性、出力等)を複数回選択し、クライアントOS系能力に情報を渡す。なお、データベース系能力もイカレてるので、本来"メラ"のデータを送るはずが誤って"メラゾーマ"のデータを送ってしまう場合がある。そうすると、クライアントOS系能力がデータベース系能力から"メラ"のデータを6回、"メラゾーマ"のデータを2回受け取ったと仮定すると、そのデータに基づいてクライアントOS系能力はドラクエの"メラ系統"の能力を起動するアプリケーション能力に指令を送り、アプリケーション能力はサーバーOS系能力を介して最終的に発動するか、効果範囲や流し込む魔力量はどうするかを脳にリクエストする。複数回のメラと複数回のメラゾーマの発動権限は同時に委ねられるが、とりあえず効果範囲と使う魔力量を想像しながら"メラ"と唱えるとメラが発動待機状態になり、アプリケーション能力によって魔法陣が構築され"メラ"を、"同時に"、"複数回"唱えることになる(メラゾーマはキャンセルされる)。するとメラが重複したことでメラゾーマ並の威力になり、想定以上のパワーが発揮されるということだ。なお、他にもデータベースが誤った情報(例として、データ名はメラだけど必要魔力量と出力がメラゾーマと同じ等)を送信することで変わる場合もある。

 

 しかし厳密にそうであるかと言われるとまだよく理解していないので分からないが、概ねこんな感じである。なお、私の中でスキル『大賢者』はアプリケーション系能力兼クライアントOS系能力兼サーバーOS系能力であるため、原作同様めちゃくちゃ頼りになる。

 

 150年前にタイムスリップしたあの時、大賢者はクライアントOS系能力として機能し、道中をサポートしてくれた。あの時はイカレていない大賢者をメイン機能にし、無事だったクライアントOS系能力を大賢者のバックアップに回しつつ、イカれた能力たちを別の能力で抑え込んだことで、無事に沖ノ島にたどり着けたのだ。

 

 話が少し逸れたが、『個性過敏症候群』の原因は一部のクライアントOS系能力がイカれたのとデータベース系能力がイカれたことである。なので、治す方法としてはまず自己修復能力を正常な状態まで回復させるのと、『大賢者』のような脳の指令が無くとも自律的に機能する能力を大量に複製し、予備のクライアントOS系能力として保持することが重要である。

 

 成長に比例してスペックも向上しているため、複製と完全回復にかかる時間は1年半ほど。150年かかっても治りきらなかったあの頃に比べたらかなりマシである。

 

 が、それまではこの羞恥に耐えなければならない。

 

「誰か助けてくれ……」

 

 魔理沙は項垂れた状態のまま、学校の階段の壁に寄りかかろうとした。が、槍がデカいせいで全く壁に寄りかかれない。

 

「せめて……、せめて槍じゃなくて螺とかボルトに……」

 

 魔理沙は槍のテクスチャをボルトに変更し、一通りの少ない階段のとこで一息ついた。最初からこうしておけば良かったと後悔するが、悔やんだところで仕方がない。

 

「…………」

 

 何故だ。何故私はこんなにも苦労しているのか。ただ生きているだけで誰かに襲われ、生きているだけで嫌われ、生きているだけで傷がつく。

 

 これが、力との等価交換なのか? いや、等価交換だとしたら生ぬるいにも程がある。この程度で私の力と釣り合うはずがない。じゃあ、何だこの現状は。ただただシンプルに私が惨めなだけじゃないか。シンプルに私の人間力が足りなくて、周りに馴染めていないだけじゃないか。

 

「悲しき獣……」

 

 また嫌な言葉が頭によぎり、魔理沙は首を左右に振って頭からその言葉を払拭する。

 すると一瞬、壁に貼り付けられた一枚の絵が視界に入り込んだ。気になってじっくり見てみると、部活動サークルに関する勧誘ポスターであることが分かった。

 

「オカルト……研究会……」

 

 魔理沙の目に付いたものは、ドス黒い背景に真っ赤な手形がべっとりとついたホラーチックな勧誘ポスターだった。そしてポスターの端に小さく『オカルト研究会、新入生募集!』と書かれており、入って欲しいんだか欲しくないんだか分からない構図になっていた。

 

「……ワンチャン作れる……!」

 

 色々と心が荒みきっていた魔理沙だったが、このポスターの構図から同族の匂いを感じ取り、希望を見出した。

 

 

 

 

 

 

「みぃつけた」

 

 放課後の時間、魔理沙はオカルト研究サークルの部屋に来ていた。その場所とは校舎1階の物置部屋であり、元々水泳部が筋トレするために使っていた部屋だったらしい。

 昼でもあまり日が差し込まない場所だったので気分が盛り上がらず、不満に感じた水泳部の人たちが抗議した結果、他の運動部とも共用することを条件に筋トレ用の部屋が増設されたため、この部屋は使われなくなった。

 

 オカルト研究会はそこに目を付け、先生の許可の元、この部屋を部室として利用し始めた。

 

「……人の声がしないな」

 

 魔理沙は扉の前で聞き耳を立てていたが、話し声はおろか椅子が揺れる音、手を動かす音、息を吸う音、全部聞こえてこなかった。一応、活動時間帯に来たはずだが、人が一人もいないのだろうか。

 

「入るか」

 

 魔理沙は扉を開いたが、予想通り誰もいなかった。あるのはギチギチに詰め込まれた机と椅子、積み重ねられたダンボール箱、体育用用具、そして大量に並べられたロッカー。かつてここが筋トレ用に使われていたとは思えない程に物が乱雑としており、とても部活動するような場所とは思えない。

 

 が、魔理沙は並べられたロッカーの方に目を向け、入口から最も遠く、最も行きづらいロッカーの扉に注目した。

 

(見つけた、()()()()!)

 

 魔理沙はロッカーに目星を付け、液状化能力で障害物をすり抜けながらロッカーの目の前にたどり着いた。

 

(部屋に入る前から怪しかったが、まさか空間系個性持ちの人間がこの学校にいるとは……!)

 

 魔理沙は興奮冷めやらぬ様子で扉に手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。

 

 この世界で過ごして色んな個性の使い手と出会ってきたが、空間に関する個性の持ち主とは一度も出会ったことがなかった。これは貴重だ、すぐにでも会ってその個性をパクり、研究して自分のモノにしたい! 

 

 目をキラキラと輝かせながら入ると、そこにはロッカーの中とは思えないほどに広がった空間が存在し、さらに机と椅子とポテトチップスが中央に置かれていた。

 

「なっ……!」

 

「ひっ、あっ! ひみむ(秘密)のへやが……っ!」

 

「え? 誰?」

 

 拡張空間内で活動していた5人全員がこちらに振り向き困惑する中、魔理沙は何の躊躇いもなく前に進み、机に両手を乗せた。

 

「私も、入っていい?」

 

 ニッと笑う魔理沙。だがその笑顔から放たれる威圧感は凄まじく、眠そうにしていた部員ですら背筋を伸ばして魔理沙に注目した。

 

「……どうやってここが分かった?」

 

「端的に言うと、感」

 

「……ここに来た理由は?」

 

「部活動してるって聞いたから、混ざりに来た」

 

 端的に答える魔理沙。傍から見ると感情の死んだ殺人鬼のように見えるが、実はただ緊張しているだけである。あの時(ホワイトハウスで条約を結んだ時)と同じくらい、魔理沙は緊張していた。

 

「そうか、……ところで名前は何だ」

 

「結依魔理沙」

 

「ケヒヒ……魔理沙。生憎だが、今は部員を募集していない」

 

「が、おまえが俺らと同じ()()()()()()()だというなら歓迎してやらんこともない」

 

「……黒ぉ……?」

 

 魔理沙は首を傾げた。

 

「フッ、おまえが選ばれし者かどうかは、これから行われる"3つの試練"を受けることで明らかになる。さっそくだがまずは第一の試練、受けてもらうぞ」

 

 オカルト研究会のリーダー格らしき人が立ち上がり、とりあえず身構えておく魔理沙。しかし、リーダーは魔理沙の服装と容姿をジロジロと観察した後、納得した表情でふたたび椅子に座った。

 

「合格だ」

 

「早くね!?」

 

「おまえはどう見ても()()()()()()()()。歓迎する」

 

 話がトントン拍子に進み過ぎてついていけない魔理沙は仕方なく読心能力でリーダーの心を覗いたが、覗いた瞬間理解してしまった。

 

 厨二病認定されていることに。

 

「ケヒヒ……その顔、その容姿、まさに"黒"だ。両肩に螺がくい込んでいるのもなお良し……」

 

「……これはただ暴走しないよう制御しているだけで……」

 

 魔理沙が素直に言い訳すると、リーダーは目を丸くし、そして興奮気味に叫んだ。

 

「…… 良い、良いぞ! 素晴らしいぞ! おまえから黒の素質を感じるッ!!」

 

「いや、無いよ」

 

「いや、あるね。今すぐにでもおまえを深淵(アビス)に引き入れたいほどに、おまえは上質な"黒"をもっている……!」

 

「だが試練は始まってしまった……。試練は、流される血で終わらなければならない」

 

 魔理沙はだんだん警戒を緩め、訝しみながら話を聞いた。

 

「さぁ第2の試練だ。この試練はおまえの"黒"を見せてもらう。さぁ、己の"黒"を解放しろ」

 

 全く理解できなかったので再び心を読んだ魔理沙。彼曰く、どうやら私の個性を見たいらしい。彼のことだから当然個性は"黒"に近ければ近いほど評価が高いのだろう。

 

 魔理沙は懐から黒のアクリル絵の具を取り出した。

 

「絵の具?」

 

 1人の部員が首を傾げる最中、魔理沙は片手で絵の具のキャップを弾き飛ばした。

 

色々色(カラーオブビューティー)

 

 魔理沙が一言言うと、部員全員が服も含めてすべて真っ黒に染まり、完全に闇に溶け込んでしまった。

 

「なっ、えっ、あっ!」

 

「何だコレ……墨?!」

 

「真っ黒で何も見えない!」

 

 全員が困惑する中、リーダーはただひたすらに魔理沙を褒めたたえた。

 

「素晴らしい、第2の試練も合格だ」

 

「えっ、会長どこ!?」

 

「黒すぎて見えない!!」

 

 元々全身が黒かった会長は魔理沙の能力によって全身余すことなく真っ黒になってしまった上に、部屋の暗さも相まって完全なステルス状態を得てしまった。

 

 しかしそれに気づいていない会長はひたすら拍手を送り続け、会長の姿が見えていない部員たちは全員どこからともなく聞こえる拍手に怯えていた。

 

「はい、終わり」

 

 魔理沙が指を鳴らすと、5人は元の色に戻った。ついでに部屋も若干明るくした。

 

「ケヒヒ……凄いなおまえ。その得体の知れなさ、まさに"黒"」

 

「そこは"闇"じゃないんだ……」

 

 闇と黒の違いがよく分からない。

 

「では最後の試練だ。最後はおまえの中の"真の黒"を見出す。そのために、我ら深淵の使徒最強の"黒"、虎馬傷精(とらうま しょうせい)の洗礼を受けてもらおう」

 

 話がさらにトントン拍子で進み、わけのわからないことになる魔理沙。また心を読んで解釈しようとしたものの、1人の部員がそれを止めた。

 

「さぁ、見せてみろ、お前の中の"真の黒"を! 解放せよ、過去に刻みし"深淵の黒(黒歴史)"を!!」

 

 虎馬傷精の両手から波動のようなものが放たれ、結依魔理沙の首がガクッと下がった。

 

 虎馬傷精、個性『トラウマ』。手のひらから波動を放ち、波動に触れたものから"トラウマ"を引きずり出し、自白させることが出来る。

 

 オカルト研究会の者は皆、何かしらの"黒"を抱えて生きている。それは身体上の特徴でもなければ、個性そのものでもない。もっと根本的な、精神形成に関わる重大な出来事に、"黒"が潜んでいる。

 

 "黒"は、その人の人となりを表す。黒を知ることで人を知り、人を知ることで黒を知る。それがオカルト研究会のモットーであり、団結力の源。だからこそ、オカルト研究会の真の仲間として認められたければ、内に秘める"黒"をさらけ出さなければならない。

 

 "黒"とはすなわち、()()()である。

 

「私は……」

 

「……意中の男の子の鉛筆を盗んで、自分のモノと取り替えました……」

 

「!?」「!?」「!?」「!?」

 

「あと、……能力バトル系漫画を自由帳に書いてたら、先生に見られて授業中に公開処刑された……」

 

「!?」「!?」「!?」「!?」

 

「……あと、代表委員をなすり付けられてスピーチ発表したけど、声が震え過ぎてまともに喋れなかった……」

 

「「もういい! もういい! 聞いてる方も苦しい!」」

 

 そこそこキツイ話を3連続で聞かされ、ギブアップするオカルト研究会。話のひとつひとつが自分の黒歴史にも刺さってくるため、聞いているだけで息苦しかった。

 

 が、魔理沙は一切恥じらいの表情を見せない。それは単に魔理沙のメンタルが強いから……というわけではなく、シンプルに全部嘘だからである。盗んでないし、漫画を書かずともリアルで再現出来る以上必要ないし、そもそも私に役員を擦り付けられるほどの度胸をもつ人間は周りにはいない。全部嘘である。

 

 嘘である以上、恥じらう理由もないのだ。

 

(……フッ、ワンチャン"個性"なら耐性貫通するかと思ったが杞憂だった……)

 

 結依魔理沙は内心、ホッと肩をなでおろした。が、それは杞憂ではない。

 

 確かに魔理沙はあらゆる状態異常に耐性を持ち、無力化することができるため、トラウマを呼び起こすことはできない。だが、魔理沙は一応()()である。封印によって暴走まではしないものの、能力が不安定であることに変わりはない。

 

 なので、状態異常にかかる確率が0%から、1%に変わったとしても、何らおかしくない。

 

「……ッ?!」

 

 突然、魔理沙の脳内に記憶の断片が流れ込んだ。能力のおかげで効かないと油断した矢先にコレである。早く頭を壊してでもリセットしなければならないがもう遅く、結依魔理沙の奥底に潜んでいた"トラウマ"が呼び起こされた。

 

【「最■に、お■と戦■て良■った……結■魔■沙」】

 

【「キミにはそこで、人生初めての"敗北"を味わってもらう。僕よりも強いキミが全く手出し出来ないまま、目の前で愛する父親を失う姿を、僕に見せてくれ」】

 

【「■■そ■■、結■■真。本■に■■■■」】

 

【「■■■■■■■■■■■■■」】

 

(ッ!!?!!?!!?!?!!)

 

 フラッシュバックの連続に翻弄され、咳き込み、膝をつく魔理沙。知ってる記憶から知らない記憶まで再生され、理解が全く追いつかない。

 

「大丈夫か魔理沙!!」

 

「アレだけの"黒"を放出したんだ……もう立つのも限界なんだ!」

 

「まっ、みっ! まみさ……さぁん!!」

 

「魔理沙」

 

 ふと魔理沙が顔を上げると、そこには手を差し伸べる会長の姿があった。

 

「合格だ。……ようこそ、‪✝︎黒の境界 ✝︎へ」

 

「これでおまえも我々と同じ"深淵(アビス)の使徒"だ、共に深淵を歩もう」

 

「会長……!」

 

「ケヒヒ……! そういえば自己紹介がまだだった。俺は‪✝︎黒の境界‪✝︎の会長、"黒色支配(くろいろ しはい)"だ」

 

虎馬傷精(とらうま しょうせい)。さっきは……すまなかった」

 

「俺は暗黒堕天(あんこく だてん)! よろしく!」

 

「僕は均藤平太(きんとう へいた)。よろしくね、魔理沙さん」

 

「わっ……えっ、た……わてしは充密(じゅうみつ)コモリでしゅっ! おっ……! よっ……、よろしくお願いしましゅっ!!」

 

 

「結依魔理沙。……最強の魔法使いだ」

 

 

 

 

 To be continued.....

 

 

 





【‪✝︎黒の境界‪✝︎の構成メンバー】

黒色支配(くろいろ しはい)

→原作キャラ。結依魔理沙と同じ中学校の1年生で、オカルト研究会(‪✝︎黒の境界‪✝︎)の現会長。個性は『(ブラック)』、黒っぽいものなら何でも潜み、溶け込むことが出来る。癖のある笑い方をする。

‪✝︎黒の境界‪✝︎は黒色支配が小学5年生の頃に結成し、中学校に進学してからは"オカルト研究会"として正式に組織化した。

また、個性故か幼少期から"黒っぽいもの"を好み、小学1年生の頃にダークヒーローの素晴らしさに気づいた彼はそのまま厨二病へと目覚めた。‪一時期、二刀流を極めようと考えていた時期があったが、途中で断念した。


虎馬傷精(とらうま しょうせい)

→オリキャラ。‪初期の頃から黒色と充密と共に活動しており、進学後も黒色と共にオカルト研究会を立ち上げた。個性は『トラウマ』、波動に触れた者の心からトラウマを呼び起こし、自白させることが出来る。

幼少期に個性が暴走し、それがきっかけで両親が離婚した。その後しばらくは母と過ごしたものの、DVを受けたことで母親とも離別。現在は母方の祖母と共に生活している。

そういった経緯から小学四年生の頃まで極力人との関わりを避けていたが、黒色支配との出会いにより人と関わりを持つようになった。そして厨二病にも目覚めた。


充密(じゅうみつ)コモリ

→オリキャラ。かなり挙動不審かつ、やや人間不信。自分から話しかけるのは苦手だし、話しかけられるのも苦手なので常に呂律が回らない。その上非常に押しに弱く、頼まれると断れない性格を持つ。個性は『空間拡張』、ある条件を満たした空間内で発動させることで空間を8畳ほどの広さに拡張することが出来る。条件は3つ存在し、①光が差し込まない空間であること、②元の空間サイズが畳1枚分以下であること(高さは問わない)、③他に拡張した空間が無いこと(拡張出来る空間はひとつまで)、の3つ満たすことで発動することが出来る。

重度の引きこもりであり、小学生時代はいつもロッカーの中に引きこもっていたが、たまたまロッカーを開けてしまった黒色支配と虎馬傷精に出会ったことをキッカケに‪✝︎黒の境界‪✝︎が結成。コモリの個性で拡張した空間を秘密基地として利用し、現在に至るまで黒色支配や虎馬傷精と共に活動している。


暗黒堕天(あんこく だてん)

→オリキャラ。陰キャラとは思えないほど快活で、オカルト研究会の中でもかなり元気な方である。実はサッカー部と兼部している。個性は『堕天(フォールン)』、相手の邪な感情、意思などを引き出すことが出来る。

物心がついたころから笑顔であり、どんな発言に対しても快活に笑う少年。誰とでも積極的に関わり、一見良い奴に見えるが、実際は他人に関して全く興味がなく、面白いか面白くないかが彼の人生の指針である。

オカルト研究会に関して、堕天は中学生からの新入生である。オカルト研究会に入ろうとした理由は不明だが、合格になった理由は『名前がもうソレ』『サイコキラー味を感じる』『黒』という理由で入会を許可された。ちなみに彼にとっての"トラウマ"は『友達に独り言を聞かれた時』である。

均藤平太(きんとう へいた)

→オリキャラ。厨二病ではないが、‪✝︎黒の境界‪✝︎のメンバー。メンバーの中でもかなりマトモな方であり、作戦行動時は参謀として機能する。個性は『均等』であり、自分のやることなすことすべてを均等にすることが出来る。なので割り箸は均等に割れる他、平均計算は暗算かつ最速で答えを出すことができ、テストの結果も全国模試なら全国平均、クラス内ならクラス平均の結果を得ることが出来る。

個性の影響故か、『平均』『均等』『平等』を重視する傾向があり、それ故に人間関係が上手くいかず、一時期不登校になることがあった。しかし、小学6年生の頃に黒色支配と出会い、世の無情さと平等な世界を作ることの難しさを知ったものの、"平等でありたい"と願う事の美しさに気づき、それを気づかせてくれた黒色支配について行くことにした。

結依魔理沙(けつい まりさ)

→オリキャラ。最近加入した‪✝︎黒の境界‪✝︎の新規メンバー。金髪ボサボサの髪の毛に加え、白黒で傷だらけの私服、肩に突き刺さった複数の螺、全身の肌を覆い尽くすほどの呪符の数々、紅い十字架の針、そして黒いハチマキを装備した見るからにヤバい見た目の女の子。言葉の節々からも厨二病を彷彿とさせる言葉が数々あり、完全にこちら側だと会長に判断された結果、仲間として迎え入れられた。

個性は『色々色(カラーオブビューティー)』、開けた絵の具の色に応じて様々な事象を引き起こすことが出来る。しかし、これ以外にもコモリの拡張空間を"感"で見破ったり、明らかに螺や十字架が体に突き刺さっているにもかかわらず血が出ていないなど、『色々色(カラーオブビューティー)』だけでは説明できない不自然な要素がいくつか見受けられた。が、重度の厨二病患者だと判断したメンバーたちは気にせず彼女を仲間に引き入れた。



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EX④:中学生時代 (後編)



【あらすじ】

結依魔理沙13歳、‪✝︎黒の境界‪✝︎という名のオカルト研究会に所属し、仲間入りを果たした。

【黒の境界のメンバー】

黒色支配(くろいろしはい)(会長):厨二病全開の会長
虎馬傷精(とらまるしょうせい)(副会長):会長の右腕
充密(じゅうみつ)コモリ:あがり症で呂律の回らない女の子
暗黒堕天(あんこくだてん):楽しくて楽なことが大好きな男の子
均等平太(きんとうへいた):冷静かつ空気の読める参謀
結依魔理沙(けついまりさ)(会員):包帯を巻き、ハチマキを付け、肩にネジを2本ぶっ刺し、両腕に赤い十字架を3本ずつ突き刺した、ちょっとでは済まされないヤバめな女の子。





 

 

 

【速報です。本日午前4時27分、住■大■神社にて火災が発生しました。この火災により■■県●●市在住の××さんが重度の火傷を負い、他数名の住職者が軽傷を負いました。原因は未だ不明で、現在も調査が行われています……】

 

【速報です。本日午前7時31分、愛■神社で保管されていた御神体が何者かによって破壊されました。第一発見者である愛■神社の神主曰く、"ある日突然、何の前触れもなく御神体が砕けた"とのことで、現在も調査が行われています……】

 

【速報です。本日午前8時3分、○○県××市在住の■■■■(7)さんの遺体が発見されました。発見時、遺体は何者かの手によってバラバラにされた状態で発見されました。犯人は未だ特定に至らず、現在も調査中で……】

 

 

 

 ■

 

 

 

【結依魔理沙が中学校に入学してから半年後……】

 

 

「ふぅ……」

 

 授業終わりの放課後、魔理沙はオカルト研究会に顔を出すため、部室に向かっていた。

 

 ついさっき、昼休み中に襲ってきた犯罪組織の下っ端達をニ撃必殺で叩きのめし、警察に引き渡した直後であるため、魔理沙は少し返り血を浴びていた。

 

 しかし、指パッチンひとつで返り血が蒸発し、ありとあらゆる汚れが綺麗さっぱり消滅した。

 

(先週発売された新作ホラーゲーム、皆買ったかな?)

 

 魔理沙は皆とゲームすることだけを考え、1階の玄関から部室までの廊下を歩いていた。

 

 オカルト研究会に入会して以降、放課後は毎日部室に寄るようになった魔理沙。初めは"黒の境界"がどういった組織で、どのような活動を行っているかみっちり頭に叩き込まれた。

 

 会長曰く、「"黒の境界"は、いずれ来る終末の刻(ラグナロク)に顕現せし"天地開闢の王"を未来永劫に封じるべく、深淵に選ばれし者(深淵の使徒)として学園の自由と平和を守り抜くことを"黒"に誓った組織である」と。

 

 さらに会長曰く、「"黒の境界"の役割は天地開闢の王の降臨阻止だけに留まらず、光と闇の均衡を保ち、世界のバランスが崩れないようにすることも重要だ」と言っていた。

 

 さらに会長曰く、「深淵(アビス)の使徒は光と闇の矛盾した二つの概念を抱えし者が深淵(アビス)を覗くことで選ばれr「長い長い長い!!」」

 

 意味不明な言葉の羅列に耐えきれなくなった魔理沙はとっさに会長の解説を遮った。

 

「……そこら辺は大体理解したから、"オカルト研究会"としてはどういう活動してるのか教えてくれ」

 

「ケヒヒ……、基本的には"怪奇現象"や"都市伝説"、科学では到底説明できないものについて調査したり、議論している」

 

「例えばそうだな……、少し前に世界各地で出没した謎の"魔女たち"の話とかな」

 

「…………」

 

「ま、最近は魔女も怪奇現象も鳴りを潜めてたから、特にこれといった活動はしていないな。今はもっぱらあの部屋でゲームざんまいだ」

 

「……何のゲームやってんのさ」

 

「スマ○ラ」

 

「よし、私もやる。誰が一番ス○ブラ最強か決着つけようぜ、負けたヤツは激辛ペ○ング一気食いな」

 

「ケヒヒ……乗った!」

 

 ……といった調子で、ここ半年間はゲームかペヤ○グの二択しかなく、それらしい活動はあまりしていなかった。

 

 しかし、今日は違った。

 

「おはござ」

 

 魔理沙が適当に挨拶しながら部室の扉を開けると、4人が珍しく机を囲んで真剣に何かを話し合っていた。

 

「ケヒヒ……! よく来たな魔理沙、お前もこっちに来るといい」

 

 ヤケにテンションの高い会長が嬉々として魔理沙に話しかけた。

 

「久しぶりの、"怪奇現象"だ!」

 

 怪奇現象、そのワードを聞いた瞬間、魔理沙の関心度合いが急上昇した。

 

「今どき遺体をバラバラにするなんて時代遅れだよね〜証拠バラまいてるようなもんじゃん!」

 

「でっ、出、ど、でもっ! まだ、はっ、は! はんにゅんつかもってない!」

 

「普通に殺人事件では?」

 

「……つまり?」

 

 話の糸口が掴めなかった魔理沙。しかし、黒色が今朝のニュースについて軽く説明してくれた。

 

「つまり各神社で色んな怪奇現象が一斉に起きたり、バラバラの遺体が見つかるという事件が短時間で複数件報告されたと……」

 

「ケヒヒ……このままでは光と闇の均衡が崩れ、世界が闇に飲まれてしまう。早急に原因を解明せねば」

 

「……闇に飲まれた方が会長的には都合良くないの? 全世界が真っ黒になるんだろう?」

 

「……分かってないな魔理沙、光あるところに闇があり、闇があるところに光がある。同様に白と黒も対を為すことでバランスが保たれるものであり、それを自らの都合に合わせて捻じ曲げるなど言語道断だ」

 

「そう、……か? そうかも……?」ソ"ーカ"モ"ナ"ァ"! 

 

 いまいち理解しきれなかったが、取り敢えず納得することにした。

 

「で、調査しに行くの? 会長」

 

「ケヒヒ……当然! さっそく今から出かけに行くぞ!! ……と言いたいところだが、事件直後だし警察やヒーローに迷惑をかけるわけにはいかない。今週土曜の明朝6時に決行しよう」

 

「さっ、賛成です!」

 

「俺はパス、そんな朝早く起きれんから」

 

「僕は行きます」

 

「俺も」

 

 続々と調査メンバーが決まっていく中、魔理沙は神妙な表情で今回の怪事件について考えていた。が、何も知らないので考察要素が何も無かった。

 

「魔理沙は?」

 

 会長に声をかけられた。当然答えはYESだ。

 

「もちろん行く。何ならその怪奇現象を解決してもいい」

 

 魔理沙は自信ありげに答えた。

 

「ケヒヒ……! やる気があるのはいい事だ」

 

「みっ、みんなで! かっ、かか解決!!」

 

「面白くなってきた……!」

 

 久しぶりの活動にワクワクしてきた調査メンバーたち。最近○ヤングばかり食べていたので周囲からは"陰キャペヤン○部"と揶揄されたり、"金食い虫"と生徒会から嫌味混じりに言われてきたが、今日は違う。オカルト研究会として真っ当に活動していることをアピール出来る最高のチャンスである。

 

「では黒の境界初の活動といこうか……!」

 

 全員、気合いを入れてロッカーの扉を開け、ノリと勢いに身を任せて外に飛び出した。

 

 しかし決行は今週の土曜日である。

 

「「……」」

 

 全員、静かに元の場所に戻ると、ペ○ングを食べながらスマ○ラをやり始めた。

 

 

 

 ■

 

 

 

【決行日当日】

 

【住■大■神社跡地】

 

 

 ついに土曜日を迎え、予定通り朝6時に現地集合した。なお魔理沙は朝5時50分に目を覚まし、時間停止で文字通り時間稼ぎをしつつ準備を整え、瞬間移動で到着した。

 堕天は眠くてパスし、会長と傷精とコモリは電車に乗って到着。最後に平太がバスで到着し、全員揃った。

 

「ケヒヒ……! ついに来たぞ事件現場ァ!!」

 

「でもふっ、封鎖されてます!」

 

「ですよね」

 

 当然のごとく事件現場は黄色いテープで封鎖され、一般人が立ち入れないようにしている。

 

 しかし物理的障害はそれしかなく、注意書きはあれどあまり拘束力はなく、周りに人はいない。

 

「最悪バレても言いくるめ(心理掌握)られるから、行くか」

 

 魔理沙が初めに黄色いテープを乗り越え、事件現場へと向かっていく。

 

 それに対し調査メンバーのみんなも魔理沙の後ろについて行き、奥の方へと進んで行った。

 

「魔理沙ってそんなにコミュ力高いの?」

 

「いや、高くない。けど言い負かすことは出来る」

 

「へぇ〜」

 

 魔理沙はアメリカでの出来事を思い出しながら、前に進んだ。

 

「やっぱり人はいないな」

 

「流石に朝6時から事故現場の見張りをするほど暇じゃ無いのでしょう。住職さんはおそらく、別のところに住んでいるかと」

 

 常に周囲を警戒しながら歩いているが、全く人がいないため順調に進んでいる。事故現場といえど朝まで警備する必要が無いのか、それともあらかた調べ終えた後でもぬけの殻なのか……どちらにしろオカルト研としては中で霊的現象にでも遭いさえすれば満足なので、物的証拠があろうとなかろうとあまり関係ない。

 

 そこそこ歩いた後に、魔理沙は遠目に何かを見つけると、全員茂みに隠れるよう指示を出した。

 

 すると、ちょうど向かいから見張り用の自立稼働型ロボットが向かって来ており、間一髪見つからずに済んだ。

 

「そういうことか」

 

「あっ、おぶっ! あぶなかった……です!」

 

 事故現場に近づいてきたせいか、ちょくちょく見張り用のロボットや監視カメラが見え始め、割とザル警備でないことに気づいた調査メンバーたち。出ようにも出られず、どうにかして事故現場にたどり着こうと考えようとするものの、良い案が思い浮かばない。

 

「これじゃあ跡地に近づけんな……」

 

「魔理沙の黒に染める個性(カラーオブビューティー)で会長を跡地に送り出すのは?」

 

「流石に草真っ黒にしたらバレるよ」

 

「模様とか、黒色で道を描くのは?」

 

「無理。今の私じゃあ能……個性の範囲を絞れない」

 

「……そうか」

 

 色々色(カラーオブビューティー)に期待が寄せられたものの、今の技量では調整不可能。やはりこれ以上近づくことは厳しいか。

 

「けど方法はある」

 

「「え?」」

 

 全員の目線が魔理沙に集中する。調査メンバー全員の個性を使ったとしても、バレずに突破することは出来ないこの状況で、魔理沙は告げる。

 

「全員目を瞑ってほしい」

 

 魔理沙の言葉に半信半疑になりつつも、他に打つ手がないのでメンバーたちは全員目を瞑った。

 

 何か秘策でもあるのか、それとも雰囲気出そうとしてそれっぽいセリフを言っているだけなのか。いったい何を考えているのか分からないまま、体感10秒経過したその時、魔理沙が全員の肩をトントンと叩いた。

 

「はい、到着」

 

「「……は!?」」

 

 調査メンバーはいつの間にか、焼け落ちた神社の目の前にいた。

 

「マジで着いてる!!」

 

「どうやった?!?」

 

「魔理沙、お前ドラ○ンボールの住人か?! 絶対そうだろ!!」

 

「秘密」

 

 状況的に魔理沙が個性で全員を瞬間移動させたようにしか見えない状況だが、それでは入会時に見せた"色々色(カラーオブビューティー)"が説明できない。

 

 頭がバクり始めるメンバーたち。しかし、それどころでは無いことに傷精(副会長)は気づいた。

 

「なぁ会長、魔理沙。着いたは良いけど、思っきしロボットに見られてないか?」

 

 傷精が指さした先には、数台のロボットがこちらの様子をジッと伺っていた。

 明らかにバレているが、警報も無く、動き出す様子もない。メンバーたちが不思議に思う中、再び魔理沙が口を開いた。

 

「あぁ、それも大丈夫」

 

「そのロボット、バグってこっちの姿見えてないから」

 

「……マジ?」

 

 傷精がロボットの前で数回手を振ったが、全く反応がなかった。

 

「ホントだ……」

 

「けど1時間で元に戻るだろうから早めに済ませようか」

 

「お、おう……」

 

 一応、他のロボットや監視カメラも確認しに行った傷精と他メンバーだが、おおよそすべてのロボットと監視カメラが何かしらの手によって機能を停止していたことが判明した。

 

 どのロボットとカメラも火花が散っており、まるで強い電撃を食らったかのように見えた。

 

(なぁ、おかしくね?)

 

(全然分かりませんが魔理沙さんは明らかに変です)

 

(ちっ、チートゲーマーなんだぁッ!)

 

(黒くする個性とは……)

 

 魔理沙の個性がますます怪しくなる中、魔理沙と会長の二人が焼け跡に近づいていたため、傷精たちも近くに駆け寄った。

 

「ここが現場だな」

 

「ケヒヒ……原因不明の出火で燃えたらしいが、現場に炎を使う個性はいなかったらしい」

 

「さらに言うと重度の火傷を負ったここの住職さんは皮膚ではなく内臓が焼けていたらしい……が、目撃者は全員目に見える形で燃えていたと」

 

「怪奇現象じゃん……」

 

 会長の説明を聞き、ゾッとする魔理沙。サイコメトリーで焼け跡から過去の記憶を読み取ってみたものの、突発的に神社と人が燃えた映像しか映らない。

 

「で、ここからどうするの?」

 

「ケヒヒ! 当然この事件の正体、ひいては真犯人を特定するための証拠を集める」

 

「どうやって?」

 

「…………」

 

 会長は一旦押し黙った後、笑を浮かべた。

 

「……仮に、この事件の犯人が人間では無い何かと仮定するなら、直接この場に呼び出して対話するしかない」

 

「会長……! まさか……ッ!」

 

 傷精たちの目がキラリと変わった。

 

「ケヒヒ……この日のために用意して良かった……!」

 

 自信満々に荷物を下ろし、バッグに手を入れ、そして会長は何かを取り出そうとした。まさか、アレを使うのだろうか。幽霊を呼び出す道具的なアレを……

 

 この個性と科学に溢れた時代で、非科学的な存在と対話する装置など中々お目にかかれない。そもそもオカルト自体、個性誕生以来急激に人気が落ちたジャンルであり、ホラーを好む人間はいるもののオカルトを好む人間はほぼいない。

 

 そんな廃れかけの業界において、オカルト雑誌等の情報源、専用の道具などといったものは非常に入手困難かつ貴重なものであり、おいそれと持ち出すことは出来ない代物。それを会長は、この日のためにわざわざ用意してくれたというのか。

 

 全員の期待が会長のバッグに集中し、今か今かと登場を待ち望む。

 

「まっ、まさか悪魔召喚の儀しk」

 

「"コックリさん"……だッ!!」

 

 会長が取り出したのは、通販で購入可能の"DX(デラックス)コックリさん 〜羽ばたけ天使たち〜"、であった。

 

「「は?」」

 

「もしかしてコックリさんを知らないのか?」

 

「いや知ってる」

 

 突っ込むべき要素はそこではないと、会長を覗く全員が訂正した。

 

「なら分かるだろう? コックリさんに聞けばだいたい答えてくれる、我々のプライベートな情報から事件の真相に至るまで」

 

「……それ、ここで無くても聞けるんじゃ……」

 

「ケヒヒ……分かってないな。コックリさんは下級悪魔であらゆる場所にいる。学校内でやれば学校内に住むコックリさんが、事件現場でやれば事件現場の近くに住んでるコックリさんが来るに決まってる」

 

「……マジか」

 

 それっぽい理由に納得した‪✝︎黒の教会‪✝︎一同は会長に駆け寄り、全員手を合わせた。

 

「作戦名は?」

 

「ケヒヒ……! "summons on cokkri in the Darkness(サモンズオンコックリ インザダークネス)"、でどうだろうか」

 

「……もう、それでいいや!」

 

「では略してSUCID(スーサイド)作戦、開始ッ!!」

 

 妙にそれっぽい作戦名を企て、さっそく準備に取り掛かる黒の境界メンバーたち。必要なものはDX(デラックス)コックリさん付属のボードと10円玉、そして専用の天使(エンジェリック)カードに関してはイマイチ使い方が分からなかったため、廃棄された。

 

 時刻は明朝6時10分、涼しい風と程よい日差しの中、黒の境界メンバーは地面にボードを敷き、コックリさんを始めた。体勢的にも絵面的にも死ぬほどキツイ状況だが、事件の真相を知る為ならば、恥を忍んででも受け入れる。それが深淵の使徒である。

 

 しかし、コックリさんをやる直前に魔理沙は感じ取った。人間でもロボットでもない異質な存在が、割とすぐ側にいることに。

 

 魔理沙はトイレ行くから先やってて、と一言だけ残し、異質な気配を感じる森の方へと足を踏み入れた。そっちにトイレは無い……と言いかけたメンバーたちだったが、仮にも魔理沙は女の子、女の子のトイレ事情に詳しくない男達は注意しようにも出来ないジレンマに囚われ、止められなかった。

 

 

 ■

 

 

 森を歩いた先に、部分的に木々が失われた領域にたどり着いた。木がないので当然そこには光が差し込むはずだが、全く明るくなかった。異様に暗い。

 

「そこにいるんだろ、()()

 

 その言葉に反応した妖怪なるものが、魔理沙の方を向いた。

 

見えているのか……? 

 

「割とくっきり見える」

 

 魔理沙は素直に答えた。一度この世界の神に出会っている以上そこまで驚きは無いが、妖怪を目にするのは初めてである。だからといって珍しいわけではなく、単に私があまり妖怪や幽霊を意識的に見ようとしていないことや、霊的スポットにあまり訪れないため、見る機会を失っていたのだろう。

 

 魔理沙は目の前の妖怪をジッと見つめていると、妖怪の方も見つめ返した。その後眉にシワが寄り、目の前の存在の異常性に気づき始めた。

 

待て……その気配、お前人間……か? 同族(妖怪)では無いが、人間とは思えないほどの神性に近いナニかを帯びている……

 

「知らんけど多分神に一度肉体バラされたからだと思う」

 

 魔理沙はあの時の出来事を思い出した。バラバラにされてから150年以上眠り続けたが、その間私の肉体に信仰やら畏怖の念が集まっていたのかもしれない。ただし私はあくまで異形なので、畏怖、それもバラバラ状態の私を認識できる妖怪などの存在からしかおそらく信仰は得られない。

 

 いやもっと遡れば、"魔女革命"を起こした時に"仮面の魔女"に対する信仰が巡り巡って私に来ているのだろうか。しかし"仮面の魔女"ムーヴも私の能力で自ら抑制したため、信仰が集まるわけがない。つまり分からない。

 

 魔理沙が自分の状態について考えていると、妖怪がハッと何かに気づいた。

 

……もしかしてつい最近まで我々に嫌というほど臭わせてきたあの悪質極まりない波動の正体はお前か? 

 

「身に覚えが無いけど多分そう」

 

 魔除け代わりに使われていたらしいので、彼らにとっては相当激臭だったのかもしれない。

 

やはりか。お前のせいで我々は神への逆襲が出来ずイライラが募るばかりであったが、その神は死んだ。許す

 

「死んだ!? ……神が?!?」

 

10年以上前に各地の神社から神性が失われたのだ。人間はそれに気づかなかったが、我々妖怪には理解出来た。この地から神が消滅し、我々妖怪の時代が来たのだと……

 

だが我々妖怪を最後に阻んだのは、全国五箇所に配置された謎の遺体。その遺体は神性とはかけ離れた謎の力で我々妖怪の侵攻を退け、吐き気を催す邪臭で日本そのものを包み込んだ! おかげで我々はここ数十年、路地裏の隅っこで悶えるだけの羽虫に劣る生活を余儀なくされた!! 

 

 衝撃の事実に目を丸くする魔理沙。妖怪たちに対しては何の情もわかないが、それよりも神が死んだという事実が自分の中で納得出来るものだったことに、驚きを隠せない。

 

(神にバラされた後に復活した時、神はいなかった。その後、自分を依代に神々を降霊させる能力を使っても、この世界の神は呼び出せなかった)

 

(もし、本当に死んだのなら、全部納得出来る。けど神が死ぬ、って何? アレ死ぬのか? だとしたら私をこの世界に送り出してくれたあの神もいなくなったのか?)

 

 次々と疑問が湧き上がり、混乱する中、目の前の妖怪は話を続けた。

 

しかし、その異臭も終わった。これからは我々妖怪の時代だ。人間共を絶望させ、誰が真に支配者であるか知らしめてやる

 

 やけに自信満々に語る妖怪に、魔理沙は問いかけた。

 

「……神社燃やしたり、遺体をバラバラにしたのはお前か?」

 

遺体は知らんが、あの寂れた神社を燃やしたのは俺だ。お前も燃やしてやろうか? 

 

「……へぇ」

 

 魔理沙は無詠唱で最上級光属性呪文(ギガデイン)を放つと、妖怪の真上から落雷よりも激しい電撃が降り注ぎ、全身余すことなく焼き焦がした。

 

ぎゃあああああああああ!!!! 

 

何しやがる!!! 

 

 無詠唱かつ半端適当に放ったとはいえ、耐えられたことに驚く魔理沙。しかし表情には一切出ない。

 

「私の知ってる妖怪は七色の翼を携えた金髪幼女とか、2頭身サイズの1つ目親父とか、赤耳腹巻地縛霊のネコとか、その辺だ。お前みたいな"The悪"と仲良くするつもりはない」

 

何言ってんだ……お前……

 

「つまり、ニフラム(死ね)

 

にぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!! 

 

 低レベルのモンスターを軒並み排除する呪文でしばき倒す魔理沙。

 

はァッ……! ハァ……ッ! ハハハはははハはハハハハハ!!!! 

 

 しかし、妖怪は耐えた。

 

バカめ!! 俺を消したところで妖怪の進撃は止まらない!!! お前一人が立ち向かったところで無駄! 無意味! 無謀だ!! ハハハはハははハははははハはハハハハハ!!!! 

 

「ホーリー」

 

ぐぼぱァァァァァァァッッ!!!! 

 

 再び無詠唱で魔法を放つが、まだ耐える。

 

いい加減にしろ!!! 殺すなら殺せ!!!! 

 

「真綿で首を絞める程度のアルテマ(無属性最強魔法)

 

おま……ァァぁああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!! 

 

 じわじわとFF最強魔法が妖怪の首に染み込み、この世のものとは思えない地獄の叫びが響いた。

 

くっ……クズだ! これほどまでにクズな人間は初めてだ!! 我々に対する畏怖とか敬意とかがまるで足りてない!!! 

 

「意外と耐えるな」

 

こっ、コイツ!! マジで目が終わってる!! どこぞのゲームのマッドサイエンティストよりも終わってる!!!

 

「もう直接斬った方が早いな」

 

まっ、待て! もう悪さしない!! 他の連中にもそう伝えておくから消すのだけは勘弁してくれ!! 頼む!!! 

 

「エクス……」

 

 英雄王の剣を天に掲げ、全エネルギーのうち0.000001%を剣に集中させる。すると、どこからともなく風が魔理沙と剣を取り巻き始め、力場は歪み、地が揺れ、聖なる光が剣に宿り始めた。

 

 魔理沙は最初から決めていた。ヴィラン連合とか訳の分からん化け物に対しては絶対に容赦しないと。

 

 一瞬の判断の迷いが、自分の仲間や家族を危機に晒してしまうことを、魔理沙はこの身をもって知っているから。

 

「カリバァァァァァァァァァァッッ!!!!!!」

 

 カッ! と閃光が周囲を支配し、一瞬の衝撃が直線上に存在するすべての物体を爆風と共に根こそぎ破壊し尽くした。

 

 もう煩わしい命乞いも聞こえない。文字通り妖怪は消し炭となった。

 

 

 ■

 

 

「ただいま〜」

 

 元凶の一人を倒し、現場に戻ってきた魔理沙。元凶について会長や皆に話したいところだが、良い伝え方が思い浮かばない。

 

 だが会長たちはそれどころでは無かった。

 

「マズイぞ魔理沙!! 助けてくれ!!!」

 

 全身真っ黒な会長が顔面蒼白の状態で救援を要請していた。

 

「何?」

 

「コックリさんにな、"虎馬傷精に今後彼女が出来ますか? "って聞こうとしたら突然地面が揺れて十円玉から手を離してしまった!! このままではコックリさんの怒りを買ってしまう!!!」

 

「……あ〜」

 

 魔理沙は察した。エクスカリバーの衝撃がここまで響いてしまい、コックリさんで一番やってはいけない禁忌を犯してしまったことを。

 

 自分が犯人、とは言えないが可哀想なので、コックリさんを倒すべく再び剣を抜こうとした。が、コックリさんと思わしき霊を見た瞬間、そのあまりのか弱さに斬るのを躊躇ってしまう。

 

(……脅威、ではないか)

 

 魔理沙にしか見えないが、彼らが呼び出したコックリさんは野山に生息するネズミの霊であり、10円玉を離したことに怒っているのか、ネズミが会長の真後ろで必死に威嚇していた。

 多分、この霊は人畜無害だ。おそらく。

 

「自分で何とかしてください」

 

 魔理沙は会長に背を向け、スタスタとその場から立ち去った。

 

「え? ちょ、待って! 待ってくれ魔理沙! 何か後ろからめっちゃ嫌な気配する!! めっちゃ嫌な気配するって!!!」

 

チュャァァァァ!! 

 

「おッ、おかっ! オカルトォ〜〜〜〜!!!!」

 

「"ハ○エネ〜〜⤴"みたいなノリで言うじゃん。80点」

 

「喋ってる場合じゃないって!! ヤバいって!!!」

 

 見えない恐怖が魔理沙を除くメンバー全員に伝播し、後ろを振り向けないまま、メンバー同士肩を組んで恐怖を凌ぐ。

 

チュッチュァァァァァァ!!! 

 

「「ああああああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」」

 

 魔理沙を除く全員が恐怖に駆られ、全速力で山を下った。途中で傷精に「早く瞬間移動してくれ!!」と背中越しに言われ、魔理沙は一瞬悩みかけたが、瞬間移動で即座に全員を駅前まで移動させた。

 

「はァ……ッ! ハぁっ……! アレ! 絶対、ヤバいヤツ!!」

 

「ケヒヒ……ッ! 元凶、……呼んじゃった……かもなァ!」

 

「おっ……おはっ、おはっ! お祓いしなきゃ!!!」

 

「いやそっち燃えた方の神社!! ダメ!!!」

 

「……きゅうぅ〜」

 

 全員が満身創痍の中、魔理沙は静かに全員の背中を擦り、疲労回復の魔法をかけつつ労いの言葉をかけた。

 

「お疲れ様」

 

「「は?」」

 

「!?」

 

 突然メンバーたちの目線が集中し、そしてメンバー全員がゾンビのごとく立ち上がった。

 

「ケヒヒ……! 魔理沙ァ、お前には言いたいことが山ほどあるぞぉ」

 

「俺もだァ」

 

「僕もですゥ」

 

「わっ、わてしも! ……です!」

 

 深淵の使徒たちに詰め寄られる魔理沙。読心能力で彼らの言いたいことが何か嫌でも分かってしまう。

 

「とりあえず今日の朝食は魔理沙の奢りだな」

 

「oh……」

 

 登ったり走ったりした影響で小腹を空かせた黒の境界一同。奢りの件は魔理沙も了承し、一同は近場のカフェに立ち寄ってサンドイッチを食べた後、全員電車で帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 第二章EX「中学生時代(後編)」

 

 完。

 

 

 

 

 

 







次回、第三章「雄英高校受験編」。やっと本編合流。









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第三章:雄英高校受験編
ヘドロ事件 前編(10話)





金髪脳筋おじさん登場です。





 

 

 私の名前は結依魔理沙、15歳。好きな食べ物は個性をふんだんに詰め込んだ髪の毛。好きな能力は時間停止、大嘘憑き(オールフィクション)、大賢者。好きな魔法はメラガイアー、イオグランデ、ダークサンダガ、現断(リアリティスラッシュ)だ。

 

 魔女革命、NOUMU襲撃事件からもう10年、なにもなかったわけではない。個性の過剰使用による障害、"個性過敏症候群"に二度も罹患し、過去にタイムスリップして神にバラバラにされたり全身に包帯を巻くなどの奇行にも走った。引越し先の学校でオカルト研究会に入会し、怪奇事件を通して妖怪に出会ったりもした。アレ以来一度も妖怪と会ってないが。

 

 あと遂に二度目の個性過敏症候群が完治し、再発防止のために"個性過敏症候群"を"大嘘憑き(オールフィクション)"で"無かったことにした"。これでやっと包帯&十字架ネジ止め生活から解放され、クラスメイトから奇異の目を向けられずに済むかと思いきや、元から顔面真っ黒かつ今まで抑制されていた邪悪なオーラが喜びと共に全開放されてしまったため、余計に話しかけづらい状況になってしまった。その後邪悪なオーラは引っ込めたが人間関係は全く改善されず、友達はオカルト研究会のメンバーと緑谷くんと爆豪のみ。まぁ、いるだけマシである。

 なおメンバーたちからは、『ケヒヒ……! 真なる闇が解放されたか……ッ!!』『スマートな割に異質感ハンパない』とそこそこ好評であった。

 

 緑谷くんや爆豪とはお引越し以降、一度も会っていない。が、定期的に千里眼と未来予測で常に二人の未来をチェックしているため、二人の成長具合とその軌跡は把握出来ている。私狙いの襲撃者が二人を狙うような事案も起きなかったため、概ね原作通りの流れに沿って時間が経過していた。強いて言うなら、爆豪が私に対してあまりに対抗心を燃やしているため原作以上に鍛えていることと、緑谷くんも私や爆豪が目指している最高峰のヒーロー養成高校である"雄英高校"合格に向けて、個性の研究や毎日のジョギング、筋トレを行っていることだ。相当気合いが入っている。

 

 雄英高校で思い出したが、私もそろそろ高校受験の準備をしなくてはならない。一応能力理解のために幼少期から勉強はちょくちょくやっているものの、英語や社会、国語あたりは微塵もやってないのでどうなるか分からん。

 まぁ、その気になれば半永久的に時を止めて勉強出来るが、同じ受験生や緑谷くんに3割ほど申しわけないので、本当に時間が足りない時以外は周りと同じ条件で勉強することにした。が、気分次第で変わりそうではある。

 

 なお現在、私は自室から緑谷くんの今日の行く末を千里眼×未来予測×大賢者補正でリアルタイム観察している。だが今日は平日なので私も学校に通わなければならないため、思考加速を通常の1000倍に加速し、未来予測の映像にも倍速かけて対応することにした。これなら登校前に緑谷くんの1週間分の時間を把握することが出来る。

 

 なぜそこまでして緑谷くんの生活を覗き見しようとしているのか。それはシンプルに今日がアニメ第一話冒頭の、緑谷くんが学校に登校してヴィランに遭遇する日だからである。この日は緑谷くんがNo.1ヒーローと運命的な出会いを果たす大事な日、この日にトラブルが起きると今後の緑谷くんの未来に支障をきたす。特に私関係でトラブルで緑谷くんに怪我させるわけにはいかない。

 

(ケツイだけに、自分のケツはいつでも拭けるようにな)

 

 クソ寒親父ギャグをベットの上でかましながら、魔理沙は緑谷出久の未来を見始めた。

 

 

 

 ■

 

 

【4月某日、午後2時頃】

 

 

 4月、春真っ盛りの中、緑谷出久は浮かない顔のまま下校していた。学校での出来事がずっと心に引っかかっており、ため息が止まらなかった。

 

 

 

 中学3年生を迎えたことで、担任の先生から進路希望の紙を渡された。自分含め、クラスメイトはみんなヒーロー科を志望し和気あいあいとしていたが、かっちゃんは違った。

 

「俺はなァ、お前らみたいなただのヒーロー科で満足するモブ共とは違う」

 

「俺は国内最高峰のヒーロー養成高校、"雄英高校"に入学する……ッ!!」

 

 クラスメイトの前で高らかと宣言したかっちゃん。その態度の悪さにクラスメイトから批判を受けるものの、校内トップクラスの成績と最強クラスの個性によって形作られた自信で圧倒し、先生やクラスメイトを黙らせてしまう。

 

 緑谷は極力目立たないようにしていたが、先生の一言で状況が一転した。

 

「そういや、緑谷も雄英志望だったな」

 

 この一言でクラスメイト全員が緑谷の方に集中し、そしてクラスメイト全員に笑われてしまった。"無個性"であることを理由に、お前には無理だと決めつけられ、皆から嘲笑された。

 

 必死に反論しようとした矢先にかっちゃんが僕の机を爆破し、僕を見下ろしながら一歩踏み出した。

 

「クソナード、テメェには無理だ」

 

「や……やってみなきゃ分かんないだろ!」

 

「少しは頭ン中冷やして考えろクソが。個性もねェ、筋肉もねェ、コミュ力もねェ、何にもねェテメェがヒーローになれるワケがねェ」

 

「それともアレか? 記念受験のつもりか? あァ!?」

 

 爆豪の圧に屈しそうになるものの、緑谷は負けじと反抗した。

 

「こっ……これからもっと鍛えて、もっと強くなれば……!」

 

「ケッ! クソが!!」

 

 爆豪は両手をポケットに突っ込みながら自分の席に戻り、周りのクラスメイトは緑谷を見ながらヒソヒソと話していた。

 

 惨めだった。しかしこれが現実、変えようのない真実。

 

 無個性で、誰よりも力が無く、人気も特に無い自分は、自分に出来る範囲で鍛えて、勉強して、この真実に抗わなければいけない。だがこの真実の壁は、自分が今まで培ってきた人生をすべてぶつけても壊せないほどに強いことを僕は知っている。

 

 それでも夢は叶えられると信じて、今日この日までずっと頑張ってきた。現実は厳しいが、それでもヒーローになりたい。個性の無い僕でも、雄英高校に入ってたくさん経験を積めば、オールマイトみたいにカッコいいヒーローになれるかもしれない。

 

(かっちゃんも魔理沙さんも、雄英高校を目指してる。僕だって、負けてられないんだ!)

 

 緑谷はグッと拳を固めつつ、上を向きながら帰り道のトンネルをくぐっていく。現実の厳しさに負けぬよう、オールマイトのように高らかと笑いながらトンネルを抜けようとしたその時、事件が発生した。

 

 ジュルジュル、と液状の何かが流れる音が聞こえた緑谷は後ろを振り向いた。するとそこにはヘドロを纏った何かがマンホールから溢れ、徐々に人型へと変貌していく姿が見えた。

 

「ヴィラン!?」

 

 身の危険を感じた緑谷は咄嗟に振り返って走り出したが、ヴィランは素早く緑谷を捕獲し、口に己の体をねじ込ませて失神させようとした。

 

「んグ!? おグぐぐングゴんググぐ!!!!」

 

「大丈夫ゥ、体を乗っ取るだけさァ! 落ち着いて?」

 

 緑谷はヘドロ系のヴィランに上半身を拘束され、息が出来ないまま体を持ち上げられてしまった。

 

「苦しいのは約45秒ォ。さらに楽になるさァ」

 

 緑谷は必死にもがき、肉体っぽい部分を掴もうとするが、上手く掴めなかった。

 

「掴めるわけ無いだろう? 流動的なんだから」

 

 ヴィランはケタケタ笑う。

 

「助かるよォ、君は俺の"ヒーロー"だァ!」

 

 ヴィランによる個性の暴力に抑え込まれ、徐々に意識が遠のいていく緑谷。このままヴィランに絞めつけられ、殺されることを予感した緑谷は心の底から必死に助けを求めた。

 

(そろそろだ、オールマイト。早く来て……!)

 

 未来予測で緑谷の動向をチェックしていた魔理沙は、苦しんでいる緑谷くんの姿を見て耐えながら、オールマイトが登場することを祈っていた。

 

 ここで来てくれないとオールマイトと接点が出来ない上に、このまま緑谷くんが失神させられてこの場から逃げられればだいぶ運命がねじ曲がってしまう。最悪来なかったら私が"時間跳躍(タイムジャンプ)"でそっちに行ってヴィランを消し飛ばし、オールマイトに化けて原作通りのオールマイトムーヴをかました後、本物のオールマイトを洗脳して無理やり接点作るしか……! 

 

 と、思っていたらいつの間にかヘドロのヴィランが何者かの攻撃を受け、緑谷くんの手から離れていた。考え事をして気づかなかったが、どうやらオールマイトが来てくれたようだ。

 

(ん?)

 

 しかし緑谷くんを助けたのは金髪ムキムキのおじさんではなく、シルクハットにベージュのロングコートを来て銃を構えている謎のおじさんと黒スーツを着た3人のおじさんであった。

 

(誰!?)

 

 本当に知らない人が来て焦る中、おじさん達は小声で何かを話し始めた。

 

「緑谷出久……で、合ってるか?」

 

「はい。おそらく彼があの化け物の関係者かと」

 

「今すぐ拘束して運び出せ。失神してる今がチャンスだ」

 

 明らかに私狙いの襲撃者が都合よく緑谷くんに接近し、誘拐しようとしている。最悪だ、予期していた事が当たってしまった。このままでは緑谷くんがオールマイトと出会うことなく誘拐され、ヘドロヴィランも逃してしまう。

 

「させない」

 

 魔理沙は時間跳躍で8時間後まで飛び、失神している緑谷くんのすぐ目の前にワープした。

 

「……ッ!? お前はッ!」

 

「マズイ!! 今コイツと出くわす訳には……ッ!!」

 

「何がマズイって?」

 

 魔理沙は指先から極小光弾(八尺瓊勾玉)を放ち、ロングコートのおじさんの四肢および関節を撃ち抜いた直後、瞬間移動で黒スーツのおじさん3人の背後に回り込み、個性『フルパワー』で3人全員をトンネルの壁にめり込ませた。

 

「はァ……これだから不祥事は嫌いだ」

 

 魔理沙は頭を掻きむしりつつ、襲ってしたおじさん達全員をスキマ経由で警察署に移送させた後、バラバラになったヘドロヴィランの様子を確認した。

 

「なるほど、電撃で無力化したのか」

 

「オ……かっ、……がガッ!」

 

 おそらくあのおじさんが撃ち込んだ電撃弾をモロに食らったヴィランは全身が痺れてしまい、人型の維持はおろか逃走も出来ずにいた。

 

「ペットボトルにでも詰めとくか」

 

 魔理沙はサイコキネシスですべてのヘドロパーツをペットボトルに詰め込み、キッチリ蓋をしておいた。

 

「これで良し」

 

「HAHAHAHAHAHAッ!!」

 

 ズンッ、と地面が揺れ、背後から強い人間の気配を感じとった魔理沙は振り返った。そこには全身ムキムキ金髪ヘアーで快活に笑う最強のヒーローが、両手を腰に当てた立っていた。

 

「もう大丈夫! 何故って……?」

 

「私が来ッ…………アレぇ?」

 

 No.1ヒーロー、"オールマイト"が満を持して登場したが、突如現れた謎の金髪黒顔少女の出現により事件は解決されていた。

 

「オールマイト」

 

 ヴィラン入りのペットボトルを携え、トンネルから出た魔理沙。今までずっと薄暗い空間にいたため、突然の日差しに目を焼かれそうになるが能力で適応し、私はオールマイトの前に立った。

 

「初めまして。私の名前は"結依魔理沙"、ヒーロー公安委員会所属のヒーローです」

 

 なるべく圧をかけないように調整するものの、今までの経験から強い人間に対して少し身構えてしまい、なかなか笑顔で会話できない。大丈夫だろうか。

 

「……君が、結依魔理沙か」

 

 私を知っているのか、オールマイトはマジマジと私を見つめた。国内で自分の情報がどれほど広まっているのか分からなかったが、オールマイトは知らされていたのか。

 なら私がどれほど危険でヤバくて手に負えない存在か理解しているだろう。場合によっては私を恐れて戦闘になるかもしれないから、一旦緑谷くんを別の場所に移動させて……

 

「HAHAHA! 噂以上に可愛い子だ! それにこの年で正式にヒーロー活動しているなんて驚きだよ! 凄いじゃないか!!」

 

「……はい?」

 

 予想外の反応にポカンと口を開ける魔理沙。今まで一度も言われたことの無い言葉のオンパレードに脳がフリーズしてしまう。

 

「あれ、魔理沙くん? 大丈夫?」

 

「…………私が、可愛い? 凄い??」

 

 周りの評価とオールマイトの評価のギャップに狂わされ、自分の中の常識がバグり始めた。が、精神安定スキルで強制的に冷静さを取り戻し、元の状態に復帰する。

 

「オールマイト、これ渡しとく」

 

 魔理沙は持っていたヴィラン入りペットボトルをオールマイトに差し出した。

 

「追ってたんでしょ?」

 

「HAHAHA! よく知ってるね! ご協力感謝するよ!」

 

 オールマイトは差し出されたペットボトルを受け取り、ポケットにしまい込んだ。

 

「ん? 魔理沙くん、あそこで倒れている少年は……?」

 

 オールマイトはトンネルで仰向けに倒れている緑谷くんを見つけると、ダッシュで緑谷くんの元に駆け寄った。

 

「Hey! 大丈夫か少年! しっかりするんだ!!」

 

 オールマイトが緑谷の左の頬をペチペチと叩き、目覚めさせようと試みる。

 

「うっ……! だ、誰……?」

 

「あ……良かったァ!!」

 

 安心するもつかの間、突然のオールマイト登場に緑谷は驚き、立てないまま後ずさりしてしまった。

 

「おおっ、オールマイトォ!?!? 本物だァァァァァァァァァァァ!!!」

 

「私もいるよ」

 

「まままま魔理沙さんまで!?!?!?」

 

 憧れの存在と幼少期以来会えていない久しい友人のダブルピックアップに脳の処理が追いつかず、頭の中が纏まらない緑谷。

 

「いやぁ悪かった! ヴィラン退治の途中で逃してしまって! 君を巻き込んでしまったようだ!」

 

「すぐさま駆けつけようとしたんだが、そこの魔理沙くんがヴィランをやっつけてくれてね! この通りヴィランを逮捕することが出来たんだ! ハーッハッハッハ!!」

 

「ほ、本当なんですか?」

 

「まぁ、本当だよ緑谷くん。()()()()通りかかったら緑谷くんが襲われていたから、ちょいとね」

 

 やや誤魔化しつつ伝えた魔理沙。すると緑谷くんは立ち上がり、頭を下げた。

 

「あっ、ありがとうございます……! また、助けて貰っちゃって……!」

 

「いいのいいの。大事な友達だもの」

 

 魔理沙と緑谷がやり取りする中、オールマイトが首を傾げた。

 

「あれ、二人は知り合いなのかい?」

 

 オールマイトが二人に聞くと、緑谷が答えた

 

「幼なじみなんです! 小学生の頃に魔理沙さんが引越しちゃって……それっきり会えていなかったんですけど……」

 

「これはすなわち、"運命の再開"……ッてことかい!? いやぁ青春してるねぇ!! おじさんトキめいちゃう!!」

 

 オールマイトがキュンキュンするあまりに自分で口を抑える中、魔理沙は「何言ってんだこいつ」とでも言いたげな表情でオールマイトを見つめ、緑谷は"運命"という言葉に顔を赤らめ、恥ずかしがっていた。

 

「……ゴホン! では私はそろそろこの辺で!」

 

「あっ! サイン!! のっ、ノートに……ッ!」

 

 オールマイトが立ち去るのを感じた緑谷は咄嗟に落としたノートを拾い上げ、空いているページにサインしてもらおうと開いたが、そこにはオールマイト直筆のサインが描かれていた。

 

「してあるぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

 欲しくても手に入らなかった激レアサインと、オールマイトのファンサービスを怠らない姿勢に感激した緑谷は過去最大級の涙を流し、感謝を述べた。

 

「あっ、あああありがとうございますぅぅぅ!!! 家宝に!!!! いえっ!! 家の宝にィィィィィ!!!」

 

「良かったね緑谷くん」

 

「魔理沙くんもいるかい?」

 

 オールマイトがマジックペンのキャップを取り外した。

 

「いや、いいです」

 

「遠慮しなくて良……、マジか。私と会ってそんな表情をされたのは、ヒーローになって初めてだ……」

 

 心底どうでも良さそうな表情をされてショックを受けるオールマイト。だが()()は刻一刻と迫ってきている。

 

「ではそろそろいかねば。液晶越しでまた会おう!」

 

「えっ、そんな……! もう……!!」

 

「プロは常に、敵か時間かの問題さ!」

 

 オールマイトは脚に力を溜めるべく、屈伸運動で筋肉をほぐし始めた。このままではオールマイトが飛び去ってしまう、そう考えた瞬間、緑谷の胸の奥がキュッと痛んだ。

 

(待って……!)

 

(まだ……聞きたいことが……!)

 

「緑谷くん」

 

 魔理沙は緑谷の肩を叩き、こしょこしょと内緒話をした。それを聞いた緑谷は覚悟を決め、オールマイトが飛び立つタイミングを伺った。

 

 

「それでは、今後とも……」

 

 

「応援ッ!! よろしくぅうううううううううううううううああッ!!!!」

 

 

 オールマイトが大ジャンプする瞬間、緑谷はダッシュで後ろからしがみつき、オールマイトと共に大空へと飛びさっていった。

 

「おぉ、飛んだなぁ」

 

 オールマイトの強靭的な跳躍力に拍手を送る魔理沙。このまま二人を見届けて帰っても良かったが、また私狙いの人間が襲ってきてもおかしくないため、とりあえずついていくことにした。

 

『距離を操る程度の能力』

 

 魔理沙は指パッチンひとつで瞬間移動し、オールマイトの傍にワープした。

 

 なお、オールマイトと緑谷は現在、空中で揉み合っていた。

 

「やぁ、元気?」

 

「魔理沙くん!? 君までついてきたのか!?」

 

「!? まっ、魔理沙さん!? それどうやって移動してるの!?」

 

 オールマイトと緑谷が空中でくっついている中、魔理沙は横向きに寝っ転がりながら、()()()()()()()()()()()で移動していた。

 

「これ? いやぁ動くのめんどくさいからオールマイトと私の"距離"を固定したの。だから私とオールマイトは運動具合に関わらず常に一定の距離を保ち続ける」

 

「えっ、そんなこと出来るの!?!?」

 

 魔理沙の能力に驚くオールマイト。しかし()()がもうすぐそこまで迫っている。早く少年を下ろさなければアレが……バレてしまう。

 

「ッゥ"ッ!! ごフッ……!」

 

 オールマイトは口から少量の血を流しつつ、近くのビルの屋上に降り立った。

 

「ァッ……ァ"ァ"ァァッ」

 

 か細い羽虫の鳴き声のような悲鳴を上げ、緑谷は屋上でへたり込んだ。しがみつくだけで精一杯だった。

 

「頑張ったね、緑谷くん」

 

 魔理沙が倒れた緑谷の頭を撫でている中、オールマイトはそそくさと立ち去ろうとした。

 

「あっ、あのオールマイト、まって!」

 

「すまない、もう時間がないんだ」

 

「話を……ッ!!」

 

 一瞬、出久の伸ばす腕が垂れた。自分の置かれた心境をどうしても変えたいという気持ちが先走り、ついここまでついてきてしまった緑谷。だが、ここまで来た以上引くわけにはいかない。

 

 俯いていた緑谷は再び顔を上げ、オールマイトを見つめた。どうしても聞きたい、オールマイトにしか聞けない。そんな思いが溢れだしてくる。

 

 何がなんでもこのチャンスを掴みたい。これを逃したら次は無いだろうと、そう感じ取った緑谷は決心し、一歩、踏み出した。

 

「個性が無くてもヒーローになれますか!?」

 

「個性が無くても……、あなたみたいになれますか!?」

 

 聞きたくて聞きたくて仕方がなかった言葉、オールマイトにしか、答えられない質問。周りの人はみな否定したが、オールマイトならどう答えるだろうか、No.1ヒーローなら……どんな答えを出すのか。

 

 誰もが認めるNo.1ヒーローが、もし、個性が無くても、ヒーローになれると言ってくれるのならば……それは……! 

 

 

 微かな希望に胸が膨らむ中、オールマイトは何も言わずに立ち尽くしていた。

 その直後、オールマイトの体が爆発し、中からガリガリで幽霊のような風貌をしたおじさんが現れた。

 

「おおおぅおうおああああああああああああああああああああぁぁぁッ!?!?」

 

「来たか」

 

 変わり果てたオールマイトに阿鼻叫喚の悲鳴をあげる緑谷。それに対し魔理沙は、まるで分かっていたかのようにありのまま受け止めた。

 

「おっ、オールマイトがぁぁぁぁああああ萎んでるぅうううううううううううううあ!!!」

 

「あれだよ、キングスライムが分裂してただのスライムになったみたいなもんでしょ? オールマイト」

 

「君は驚かないんだね……魔理沙くん」

 

 あまりに態度が変わらない魔理沙に驚きを通り越してしまいそうなオールマイト。

 

「おおっ、オールマイトは恐れ知らずの笑顔でっ……たっ、……たくさんの人を……ッ!」

 

「恐れ知らずの笑顔……ね」

 

 オールマイトは座り込み、柵に寄りかかりながら事の経緯を語った。

 

 オールマイトは5年前の戦いで大怪我を負い、全盛期ほどの力は出せなくなっていた。一日の活動限界時間も約5時間に制限され、力を抜くとガリガリの姿、"トゥルーフォーム"に変化すること。"平和の象徴"としてこれらの情報は一切公表していないこと。

 

 そして最後に、オールマイトは緑谷の質問に答えた。

 

 それは緑谷にとって残酷な答えであった。

 

「……プロはいつだって命懸けさ。力が無くても成り立つとは、……とてもじゃないが、口にできないね」

 

 期待とは真逆の言葉に、緑谷はショックを受けた。

 

「夢をみるのは悪いことじゃない。だが、相応の現実を見なければな、少年」

 

 そう言い残すと、オールマイトは先に階段を降りてしまった。緑谷にはもう追いかけるほどの余力はなく、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

「緑谷くん……」

 

 横でずっと話を聞いていた魔理沙は、ショックで動けない緑谷に声をかけた。

 

「……魔理沙さん」

 

「魔理沙さんは、…………無個性でも、ヒーローになれると思いますか……」

 

 絶望しきった声で、緑谷は魔理沙に問いかけた。

 

「その答え、私から聞いていいの?」

 

 魔理沙は答えた。

 

「私は緑谷くんが困ってるなら、手を差し伸べてあげられる。いくらでも優しい言葉をかけてあげるし、逆に厳しい事も言ってあげられる」

 

「けど私なんかの言葉で、緑谷くんは本当に満足するの? 本当に言ってほしい言葉は、納得出来る人に言われるべきじゃない?」

 

「…………」

 

「…………でもッ……!」

 

 そう言いかけた瞬間、突如街の中央で爆発音が聞こえた。

 

「……ッ魔理沙さん! 街中で爆発が!」

 

「先に行きな、緑谷くん。私は後からついてくから」

 

「……でも魔理沙さんの方が、個性……たくさんあって、人を……」

 

「行け」

 

「はっ、ハイッ!!!」

 

 魔理沙に圧をかけられた緑谷はダッシュで階段をかけおり、爆発音が聞こえた方角に向かって走り出した。

 

「頑張れ、緑谷くん」

 

 魔理沙は屋上で寝っ転がりながら、緑谷を見送った。

 

 

 

 

 



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ヘドロ事件 後編(11話)


【あらすじ】

NOUMU襲撃事件から10年が経過し、中学3年生を迎えた魔理沙と緑谷たち。だが帰り道の途中、緑谷はヘドロのヴィランに捕まってしまったが何やかんや魔理沙に救出され、そして憧れのNo.1ヒーロー"オールマイト"と出会った。

"個性が無くてもヒーローになれるのか"、そんな緑谷の質問に対しオールマイトは厳しい答えを返した。思い悩む緑谷。そんな中で突如街の中央で爆発が発生した。結依魔理沙にハッパをかけられた緑谷は急いで階段を降りていった。





 

 

 

【爆発発生から数分後】

 

 

(……マズイ!!)

 

 力を使い果たし、ガリガリ(トゥルーフォーム)となってしまったオールマイトは、爆発が起きた場所に向かって精一杯走っていた。

 

(私が落としてしまったがばかりに……!!)

 

 オールマイトは自責の念を感じていた。それもそのはずあの爆発はペットボトルに詰めて隔離していたあのヴィランが引き起こしたもの。爆発の直前に、自身のポケットからペットボトルが消えていることと、先程上空を飛んでいた場所の真下で爆発が起きていたことから、あのヴィランが脱走し爆発を引き起こしたと考えてほぼ間違いないだろう。

 

 油断故の失敗。プロヒーローとして何と不甲斐ないことか。これでは先程の少年にヒーローとして示しがつかない。

 

(オールマイトは……恐れ知らずで……笑顔で助けてくれる……最高の……!)

 

「……ッ!!」

 

 

「やぁ、オールマイト」

 

「ッ!?!?」

 

 真横から突然人の気配を感じ身構えるオールマイト。しかしそこに居たのは先程少年と共にいた結依魔理沙であった。

 

「魔理沙くん!? いつの間に!?」

 

「話がしたいんだ、オールマイト」

 

 魔理沙の真剣な表情に押され、オールマイトは足を止めた。

 

「話とは?」

 

「さっきの少年、緑谷くんと話してどう思った?」

 

 魔理沙は体を傾けながらオールマイトに聞いた。しかし、逃したヴィランが暴れている今、答える時間は無い。

 

「……今は急いでいるんだ。その話は後で聞くから、君は大人しく避難するんだ」

 

「急いでいるなら大丈夫。私が瞬間移動でいつでも現場に連れて行けるし、何なら今すぐにでもヴィランを捕らえてあげる」

 

「……! それは本当か……?」

 

「でもその前に質問に答えてもらう。ねぇ、緑谷くんを見てどう思った?」

 

「……」

 

 魔理沙の一貫した姿勢に折れたオールマイトは素直に答えた。

 

「……ヒーローになりたいと願う子は多い。個性はともかく、こういった社会の中心で育てられた彼らの心情として間違っていない」

 

「つまり緑谷くんの気持ちは否定しないけどヒーローになるのは止めとけ、でOK?」

 

「概ねそうだ」

 

「でしょうね、私もそう思う。力無いし」

 

「けどさ、そもそも"ヒーロー"って何? 個性を持ってたらヒーロー? 正義の心を持っていたらヒーロー? 人気があれば、人の役に立てばヒーローになれる?」

 

 魔理沙はオールマイトに一歩、近づいた。

 

「……公的にヒーローの定義は既に法律で定められている。正式な手順を踏み、組織の認可を受け、治安維持のために力を行使する者、それが"ヒーロー"だ」

 

 オールマイトの答えに魔理沙はため息をついた。

 

「大人だねオールマイト。ハッキリ断言しないところが。けどその理論でいくと緑谷くんでも認可さえ取れればヒーローになれるし、治安維持のために力を行使しない、できない人間はヒーローじゃない、よね?」

 

「それは極論だ魔理沙くん」

 

「そうだね。今のは私が意地悪したくて言っただけだから真に受けなくていいけど、ただ一言だけ言わせて欲しい」

 

「どうして緑谷くんの背中を押してあげないの?」

 

 魔理沙は真っ直ぐオールマイトを見つめた。

 

「"ヒーローの仕事は命懸け"、それは分かってる。けど別に一人で戦うわけじゃ無い。複数人で対処したり、最低限体を鍛えて耐久力を上げとけば死亡リスクはある程度抑えられる。今は機械やAIの技術も発展しているし、機械を装備して肉体を強化するなんてことも出来なくはない」

 

「戦闘経験や救助活動だって、ヒーロー養成学校でいくらでも学べる。仮免取れればインターンにも参加出来るし、本免取った後ならサイドキックで経験も積める」

 

「……まぁスペックだけ見たら警察官と大差ないから、警察官になるのも悪くは無いけど……ヒーローの方が警察よりも早く動けて直接人を助ける場面も多いだろうから、ヒーローになった方が緑谷くんの意向に沿うんじゃないかな」

 

「それにもし緑谷くんがヒーローになって、救出作業中にヴィランに襲われて死にかけそうになったとしても、私やオールマイト、他のヒーローが助けてあげればそれで済む話だ。今のご時世、ヒーローなんてごまんといるし」

 

「まぁ何が言いたいかというとね。個性に拘らなくてもヒーローになれるってこと。まぁ個性持ちの人と比べて尋常じゃない苦労と果てしない努力を積み重ね、他のヒーローと比較されて罵られても耐えられるメンタルと相手がどんなに強靭で死のリスクが付きまとっても動ける勇気を合わせ持つ必要があるだろうけど、頑張る権利は誰にでもある」

 

「だからね、オールマイト。緑谷くんを応援してあげてほしい。緑谷くん、めっちゃオールマイト好きだから」

 

「……」

 

「じゃ、この話は終わり。約束通り現場に連れてってあげる」

 

 魔理沙は"海と山を繋ぐ程度の能力"で現場直通のワームホールを真下に形成した。

 

「いきなりかい?!?!?」

 

「当然!!」

 

 魔理沙とオールマイトはワームホールに吸い込まれた。

 

 

 

 ■

 

 

 

【田等院商店街】

 

 

 

「到着」

 

「本当に着いた……!」

 

 体感3秒で現場に着いたことに実感をもてず、オールマイトは立ち尽くしていた。

 

「何だアレ!?」

 

 現場を見に来た多くの人たちが、警察の保護を受けつつも爆発の中心にいる存在に向けて指を指した。

 

「ヴィラン!? それに子ども!?」

 

「もしかして人質か!?」

 

 集まった人たちがガヤガヤと騒ぐ中、魔理沙とオールマイトも民衆の影に潜みながら現場を確認した。

 

(……やはり……ッ……!)

 

 オールマイトの予想通り、ヘドロのヴィランはペットボトルから脱出し、商店街を破壊しつつ子どもを人質にしていた。

 

「あ、爆豪だ」

 

「……! あの子を知っているのか!? 魔理沙くん!」

 

「私と緑谷くんの幼なじみ。まぁ、会う度に喧嘩してるけど……」

 

 魔理沙が渋い顔をする中、現場にはヒーロー"デステゴロ"、"Mt.レディ"、"シンリンカムイ"、"バックドラフト"が駆けつけた。しかし、デステゴロの攻撃はヘドロヴィランに通用せず、Mt.レディが巨大化して現場に来たものの商店街のスペースが狭すぎて入れず、シンリンカムイは身体が樹木であるため火災に弱く、バックドラフトは消火活動で手一杯であった。

 

 その上、爆豪が爆破の個性で必死に抵抗しているため不用意に近づけない。

 今のメンツでは爆豪を救出することは不可能、有力な個性を持ったヒーローが現れるまで待つしかない。

 

 だが、ヒーロー飽和社会においてヒーローが駆けつけない、なんて事は無い。少し待てばたくさんのヒーローが爆豪救出のために駆けつけてくれるだろう。そう、誰もが楽観的に考えていた。

 

 爆豪の、苦悶の表情を横目に。

 

「……活動時間に気を取られてしまったがばっかりに……!」

 

 オールマイトは自身の胸を抑えながら、己を恥じた。その上、力を使い果たしてしまったが故に今すぐ助けに行けない己をさらに恥じた。

 

「魔理沙くん、頼む!! 私の代わりに彼を……助けてくれないか?」

 

「断る」

 

「ことわっ……え?」

 

 予想外の答えにたじろぐオールマイト。しかし、魔理沙は続けて答えた。

 

「だって来るもん、"最高のヒーロー"」

 

 ニヤけた魔理沙の目線の先には、いつの間にか民衆の最前列に立っている一人の少年に向けられていた。

 

「……ッ!!」

 

「少年ッ?!?!」

 

 オールマイトも緑谷の存在に気づいた。

 

「さぁ、頑張れ緑谷くん。ターニングポイント(運命の分岐路)だ」

 

 魔理沙が見守る中、緑谷は爆豪救出のために一歩踏み出したものの、葛藤のあまり次の一歩が踏み出せない。

 

(助けなきゃ……! でも、無個性の僕じゃ太刀打ちできない。……オールマイトも動けないし、現場のヒーローも対処出来ない今、有利な個性をもつヒーローが来るまで待つのが……)

 

『先に行ってな緑谷くん、後でついて行くから』

 

(そうだ……! もう少しすれば魔理沙さんがきっと来てくれる!! 待っていればきっと……!)

 

 魔理沙到着に希望を見出した緑谷だったが、一瞬のノイズが頭に過ぎる。

 

(それは……()()……?)

 

 ノイズは緑谷の中で次第に膨れ上がり、不安と焦燥に駆られ、両足がビクビクと震え上がる。これは恐れか、それとも葛藤か、メリットデメリット倫理規範損得勘定個性無個性すべてがごちゃ混ぜになる中、人質の顔が緑谷の目に映った。

 

 一瞬、誰だか分からなかった。分からなかったが、囚われていた子は自分の方を見つめ、訴えかけていた。

 

 "助けて"、と。

 

 

「ッ!!!!!」

 

 

 緑谷は咄嗟に走り出した。自分でも何故走り出したのかは分からない。だけど、頭の中で渦巻いていた葛藤はいつの間にか消えていた。

 

「少年ッ!!?」

 

「「……ッ!?」」

 

 オールマイトも、現場にいたヒーローもみな驚いた。誰も動けない状況で、若い少年がたった一人でヴィランに立ち向かおうとしたから。

 

 無謀過ぎる行動にデステゴロが止めに入ろうとしたが、緑谷は止まらない。火災と爆発の危険地帯を突き抜け、目前まで迫っていた。

 

(……あのガキ……!!)

 

(デク……ッ!)

 

 ヴィランも爆豪も、緑谷が向かってきていることに気づいた。だが所詮は一般人、それも無個性で非力なただの人間。返り討ちにされるのがオチである。

 

(かっちゃん……ッ!!!)

 

 しかし彼は緑谷出久、重度のヒーローオタクであり、ヒーローに関することなら何でも知っている。この状況における最善策は分からないが、緑谷は咄嗟にヒーロー"シンリンカムイ"の技を思い出した。

 

「しぇいっッ!!!」

 

 緑谷は背負っていたリュックサックを手に持ち、走りながら勢いよくヴィランの目にぶつけた。

 

「ぐあっ!!」

 

 リュックサックの中身が目に直撃し、怯んだ結果、爆豪に対する拘束が緩んだ。

 

「ぷはッ……ッ!」

 

 口元の拘束が外れ、何とか呼吸を確保する爆豪。その間に緑谷はヴィランに近づき、必死に爆豪の拘束を外そうとする。

 

「かっちゃん!!!」

 

「デク! なんでテメェが……ッ!!」

 

「あっ、足が勝手に! 自分も分からないけど……!!」

 

 理由はたくさんあった。だけど、それ以上に葛藤もあった。

 

 だがそれすらも乗り越えて、自分が走り出したのは……

 

「君が、助けを求める顔してた……!!」

 

 泣きながら言葉にする緑谷に、爆豪の心は言い表せない感情で満たされ、溢れ出した。

 

「……無個性のくせに無茶してンじゃァ……!!!」

 

 だが、ヴィランの攻撃は既に緑谷のすぐそばまで迫っていた。

 

 ドンッッ!!!! 

 

 迫り来るヴィランの攻撃に恐怖し、身動きが取れなくなった緑谷。しかし、ヴィランの攻撃は寸前で止まっており、自分には傷一つついていない。

 

「「私たちがきた!!!!」」

 

 緑谷の目の前にいたのは、No.1ヒーローと金髪の魔女。緑谷と爆豪のピンチに駆けつけ、恐れ知らずの笑顔でヴィランの攻撃を受け止めた。

 

「オールマイトと……あの小娘ェエェエエェエエエエエエエエエ!!!!!!」

 

「また会ったねヘドロの人。けどもう帰っていいよ」

 

「死ねぇえぇええぇえええええええええ!!!!!」

 

 怒り冷めやらぬ様子に呆れる魔理沙。そんな中、爆豪も魔理沙の存在に気づいた。

 

「ボサボサァッ!!!!」

 

「爆豪、久しぶり。元気?」

 

「元気なわけあるかクソがァアアアアアアァァァアアアアアアアアアア!!!!」

 

「いや元気だろそれ……」

 

 半端ヤケクソ気味に叫ぶ爆豪。てっきりもう少し萎れているのかと思いきや、体力ゲージを見る限り18%ほどしか削れていない。おそらく私と再開した時に備えて、あの(5歳の)頃からずっと鍛え続けていた結果、中学生とは思えないほどの体力を手にしてしまったのだろう。

 

 緑谷くんが走り出すまで若干ソワソワしながら見ていたが、この削れ具合ならあと20分追加で息を止めて拘束されたとしてもおそらく爆豪は耐えていた。化け物かな? 

 

「来るぞ、魔理沙くんッ!!」

 

「もう?」

 

 ヴィランが怒りのままに再び拳をぶつけてきたが、全反撃(フルカウンター)が炸裂し、もげたヴィランの右腕が宙を舞う。

 

「オールマイト、タイミング合わせるからデトロイト・スマッシュ打ってくれ。私もやる」

 

「分かったァッ!!!!!」

 

 活動限界を超え、血を吐き捨てつつも力を溜めるオールマイト。

 

「緑谷くん、爆豪、ちょっと待ってな。今助ける」

 

 魔理沙は爆豪と瓦礫をシャンブルズで入れ替え、変身能力で右腕を常軌を逸するサイズに肥大化させた。

 

「ダブルデトロイト・スマッシュ!!」

 

 二人の拳から放たれた爆風が全てを消し飛ばす。ヴィランも、人々の不安も、黒煙で曇った空も。そして拳の衝撃によって生み出された莫大な熱量が上昇気流を生み出し、雨をふらせた。

 

 現場のヒーローが太刀打ちできなかったヴィランを、拳一発で吹き飛ばしたオールマイトの凄さに感激した人たちは、ただひたすらに拍手をおくる。だがさっき、オールマイトの他にもう一人誰かいたような気がしたが、いつの間にか姿を消していた。

 

(逃げるの、早……)

 

 一瞬で姿を消した魔理沙に、緑谷と爆豪は呆気に取られていた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 その後、バラバラになったヴィランはヒーローと警察の活躍により全て回収され、無事捕らえることに成功した。その後、警察とヒーローによる人質の保護が行われ、爆豪はその際にヒーローに讃えられた。それに対し緑谷くんはヒーローに怒られ、さらに警察からも注意喚起と長時間の事情聴取を受け、頭の整理がつかなかった。

 

 私は目立ちたくないので逃げた。が、ちゃんと緑谷くんが引き継げるよう見届ける義務があるので、しばらくしてから緑谷くんの近くに瞬間移動した。

 

 塀の後ろからこっそり様子を覗くと、そこには緑谷くんとガリガリのオールマイトがいた。

 

「……君がいなければ、君の身の上を聞いていなければ、口先だけの偽筋となるところだった。ありがとう」

 

「そっ、そんな! そもそも僕が悪いんです! 仕事の邪魔をして、無個性のくせに……生意気なこと言って……」

 

 自分のせいで迷惑をかけてしまったと、緑谷は暗い表情を浮かべながら頭を下げた。だがオールマイトが緑谷を咎めるはずもなく、優しく諭すように話しかける。

 

「……君はあの時、一度立ち止まった。恐怖に怯え、力も足りず、救いたくとも救えない。そんな葛藤に苛まれながらも、君はあの時走り出した……」

 

「あの場の誰でもない、小心者で無個性の君が動いたから、私も動かされた……」

 

 オールマイトの言葉のひとつひとつに、緑谷の心が反応する。

 

「トップヒーローは学生時に逸話を残している。彼らの多くが話をこう結ぶ……」

 

「"考えるよりも先に、体が動いていた"と……」

 

「君も、そうだったんだろう?」

 

 オールマイトの、憧れのヒーローからの言葉に、今までずっと抱えこみ、抑え続けていた気持ちが解放され、溢れ出した。

 

 あの時、言って欲しかった言葉。それは……

 

 

「君は、ヒーローになれる」

 

 

 ずっとずっと願っていた言葉。それを誰でもない、憧れのヒーローが自分にかけてくれた。

 

 緑谷出久はこの時初めて、"救われた"のだと感じた。

 

 

 

 

 

 

「そこにいるのだろう? 魔理沙くん」

 

 塀の裏で、 "音を消す程度の能力"を用いて全力で拍手をしていた魔理沙だったが、秒でバレた。

 

「なーんだ、気づいてたの」

 

 能力を解除し、素っ気ない声で私は壁の後ろから出た。突然の登場に緑谷は再び驚きの声を上げたが、いつも通りなので魔理沙は無視した。

 

「魔理沙くん、君は最後まで緑谷少年を信じていたね。私に、"応援してほしい"と言うくらいに」

 

 あの時の会話を思い出しながら、オールマイトは笑みを浮かべた。

 

「緑谷くんは私を()()()()出来るくらいにはキモが備わってるからね。最初から分かってたよ」

 

(……半分結果論だけど)

 

 先の展開をほぼ知っていたのもあるが、やはり緑谷くんは異常だ。オールマイトもおかしいが、普通私を前にして尊敬だとか可愛いだとか、そういう感情は湧いてこない。基本的には「ヤベェ」か「怖い」の二択で、ことある事に嫌悪されるのがオチなんだが……

 

「仲が良いんだね、二人とも」

 

「まぁね」

 

 相変わらず二人は優しい。まぁ、優しい人間は意外と多いことに最近気づいたが、基本的に私はこの世に歓迎されない。

 

 だが、それでも私はヒーローとして活動するし、友人は必ず守る。そう両親に誓ったし、自分にも誓ったから。

 

 

 魔理沙は夕日に照らされながら、胸に拳を当てた。

 

 

 

 

 

 

 







【能力紹介】

『山と海を繋ぐ程度の能力』
→東方Projectのキャラクター、"綿月豊姫"が使う能力。ワープ能力であり、地球と月を好きに往復できるほど適用範囲が広い。また、転送できる質量にもあまり制限がないため、非常に有用である。

『全反撃《フルカウンター》』
→七つの大罪のキャラクター、"メリオダス"が主に使う技。相手の魔力攻撃を倍以上の威力にして弾き返す。なので物理攻撃に対しては基本発動しないが、魔理沙は他の能力と併用して使用することで物理攻撃に対しても対応出来るようにしている。








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禿げるくらい鍛えろ(12話)



【あらすじ】

ヘドロ事件にて緑谷は、無個性でありながらも勇気を振り絞り、機転を利かせたファインプレーで爆豪救出に貢献した。
オールマイトは緑谷の勇気ある行動を褒めたたえ、"ヒーローになれる"と、断言した。

その間、魔理沙は無言で拍手していた。





UAが1万を突破! ありがとうございます!



 

 

【多古場海浜公園】

 

 

 緑谷とオールマイト、そして魔理沙は多古場海浜公園に来ていた。

 

「ふぬぬぬぬぬぬぬ!!! んンんンンんん!!!!」

 

「もっと気合いを入れるんだ緑谷少年!! これくらいできなきゃ雄英高校ヒーロー科は合格できないぞ!」

 

 ヘドロ事件の後、緑谷くんはオールマイトから最強の個性、"ワンフォーオール"を引き継がないかと提案された。

 

 ワンフォーオールは他の個性と異なり、人から人へ聖火のごとく受け継がれていく個性である。当然オールマイトも前継承者から引き継ぎ、"平和の象徴"と呼ばれるほどに強くなった。

 歴代継承者の身体能力が凝縮された力の結晶とも言えるワンフォーオール、それを受け継ぐためには相応の力が求められる。だがしかし、緑谷くんはただのヒーローオタク。ワンフォーオールの力に耐え切れるほど体が出来上がっていない。

 

 そこでオールマイトは、慈善活動兼特訓として、多古場海浜公園に捨てられた大量の廃棄物をすべて処理し、筋肉と景観を取り戻すことを提案した。

 さらにオールマイトは緑谷くんのために、残り10ヶ月で雄英高校に合格するためのプランを組んだ。スタートラインに差があることを自覚していた緑谷くんは、誰よりも努力することを誓い、ここ3ヶ月間ずっと特訓していたのだが……

 

「全然進展しませんね」

 

「まだ順調だと思うのは私だけかな? HAHAHA……」

 

 そう、全然進まないのである。おかしい。私の見込みでは、3ヶ月もやれば軽トラくらい軽く引っ張れるはずだった。何せ爆豪があんなに耐えていたのだから、緑谷くんもおそらくめちゃくちゃ強くなると、そう思っていたが未だに冷蔵庫を背負って70秒間走れるくらいしか進展していない。

 

「いや、むしろ凄いんじゃないか?」

 

 オールマイトはナチュラルに心を読んできた。それは私の特権だよ!! 

 

 いや確かに緑谷くんは成長しているよ!! けど違う! もっとこう……かめはめ波撃てるぐらいには強くしたい! どうせなら魔改造したい! 私と組み手出来るくらいには強くしたい!!

 

「というわけで緑谷くん。次は私の方法で特訓しないか?」

 

「まっ、魔理沙さん!? な、何を言って……?」

 

「これから行う私のプランの名前を教えてやろう。その名は『緑谷出久のドキドキ大冒険』だ」

 

「結依さん、なんだかすごく寒気がするんだけど」

 

 何か嫌な予感を感じた緑谷くんは身震いをした。

 

「大丈夫死にはしないからさ。……死なないけど、()()()()()

 

「へ?」

 

 ここから、緑谷出久の地獄の特訓が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

──────回避の特訓───────

 

 

 

「よーし緑谷くん。まずは口を開けろ」

 

「えっ? あっ、はぃ……」

 

 緑谷は魔理沙の指示に従って口を開くと、何か薬のようなものと血のような温かい液体が同時に流し込まれた。

 

飲め

 

「……はい」

 

 "支配"の能力で強制的に飲まされた緑谷。いったい何を飲まされたのか、それは分からないが不思議と生命力的な何かが漲った気がした。

 

「あの、今飲んだものはいったい……」

 

「蓬莱の薬とフェニックスの血」

 

「ッ!?!? うぇっゲフォっ! げフっ! ゲふォッ!!」

 

「はえ?!?!?」

 

 魔理沙に一服盛られた緑谷は必死に吐き出そうとしたが、完全に体内に取り込まれてしまったためもう吐き出せない。

 

「蓬ら……フェニックスって! あの不死身の?!?」

 

「これで私に一歩近づいたね、緑谷くん」

 

「何呑気なこと言ってるんですか!? ! 不死身になったんですよ?!?!?」

 

「大丈夫大丈夫、後で"無かったことに(大嘘憑き)"するから。でもこの特訓で培った筋肉は無かったことにならないから安心してくれ」

 

「不死身にならなくても筋肉は鍛えられますよ!?」

 

「フフ……分かってないなぁ、緑谷くん。へたっぴさ……! 筋力の向上のさせ方がへた……! 緑谷くんが本当に欲しいのは……"最高のヒーロー(こっち)"……恐れ知らずの笑顔であまねく人々を救ってさ……オールマイトみたいになりたい……! だろ……?」

 

「ッ!!」

 

「緑谷くん……特訓ってヤツはさ……小出しはダメなんだ……! やる時はきっちりやった方がいい! それでこそ次の特訓の励みになるってもんさ……! 違うかい……?」

 

「……そんな、気がします!!」

 

(ほだ)されるな緑谷少年!!」

 

「ちなみにオールマイトも私の能力でフェニックスの血と臓物を胃の中にワープさせたから不死身だよ」

 

「What a f○ck!!!!!!」

 

 さりげなく巻き添えにされたオールマイト。あまりの外道さに叫んでしまう。

 

「今からやることはとてもシンプル。緑谷くんとオールマイトは私の飛び道具を全力で避け続けること。足もげようが首刎ねようが死ぬ気で避けるんだ。人間は死に瀕することで強くなるって、ド○ゴンボールとAll y○u need is killで学んだから……緑谷くん! オールマイト! 頑張るんだ!!」

 

「私は関係なくないか!?!?」

 

「No.1ヒーローはいついかなる時も訓練を怠らないし、これから酷い目にあうであろう少年を見捨てることはしないって、私は信じてる」

 

「信じ方が最悪だ……!」

 

「大丈夫、オールマイトはフェニックスの再生能力で全盛期の力を発揮できるようになっているし、"無かったこと"にしても再生した事実はそのままだからこれからも全盛期だよ」

 

「……マジかよ」

 

 オールマイトは咄嗟に腹部に負った傷跡を確認していたが、いつの間にか消えていた。それにマッスルフォームを維持するのに使っていた労力も感じない。本当に戻ってしまったようだ。

 

「で……、やるかい?」

 

「…………、やり……ます!!」

 

「OK! いい返事! 早速やろっか! ……って言いたいところだけど、流石に狭すぎるから場所変えるね」

 

 魔理沙が指パッチンすると、一瞬で何も無い開けた場所に変化した。

 

「「どこ!?!?」」

 

「チベット高原」

 

 魔理沙が選んだ場所は世界最大級の高原、チベット高原。日本の国土面積よりも遥かに大きいこの場所で特訓が開始された。

 

「はい! もうスタートォ! 二人とも全力で避けてね」

 

「「はい?」」

 

 既に弾幕の準備を済ませた魔理沙は一斉にスペルカードと呪文と魔法と魔術と異能と必殺技と呪術と技を解き放った。

 

「グングニル、夢想封印、ノンディレクショナルレーザー、トライペガサス、ゴットキャノン、エクスプロージョン、見えざる手、デーモンハンド、炎凰殲滅(バライブートフォルグバストール)雷槍顕現(ルガザストリオルラン)、臥竜鳳雛、インノートム・ユニバース、トライディザスター、ギガバースト……」

 

「能力同時並列起動! オリジナルスペルカード発動! 奥義『阿鼻叫喚リサイタル』!!」

 

「逃げるぞ緑谷少年!!」

 

「え? 何が起こって? え? うわぁあああああああああああああああ!!?!!?」

 

 槍が、レーザーが、爆裂が、手が、炎が、氷が。あらゆる飛び道具や魔法がこれでもかと言わんばかりに緑谷くんとオールマイトを襲う。右を向いても左を向いても、上を向いても下を向いても、あらゆる方向から即死級の攻撃が降り注ぎ、一度でも触れれば存在諸共消し炭になりかねない。

 

「嫌だ! 嫌だ! 死にたくないぃいいい!!!」

 

「私もこんなところで死ぬつもりはなああい!!」

 

「大丈夫! 死なないから!!! 痛いけど

 

「死ぬぅううぅうううぅうううぅうううう!!!!」

 

「死なないって!! めっちゃ痛いけど

 

 オールマイトの体は全盛期の若さだ。その気になればこんな弾幕、軽く叩き落とせるだろう。だけど見た目の派手さに少しビビってるのかな? 

 

「緑谷少年、私の後ろに下がっていなさい」

 

「お、オールマイトぉぉ……」

 

 あらやだイケメン……、というよりプロヒーローの本能からか緑谷くんを庇うようにオールマイトが前へ出た。だが、それでは緑谷くんの練習にならない。除けてもらおう。

 

「アルフーラ!!!!」

 

DETROIT SMASH(デトロイト・スマッシュ)!!!!!!!!!」

 

 風の魔法『フーラ』の最上位であるアルフーラと大量の弾幕がオールマイトのデトロイト・スマッシュと衝突し、大爆発を引き起こした。その衝撃で無数の魔法が周囲に飛び散り、大地を切り裂いていく。

 

「フッ笑」

 

 私はすぐさまオールマイトの背後にまわり、腰の部分を両手でガッチリとホールドした。

 

「いつの間にッ! 魔理沙k」

 

atomic♡

 

 テー ↓ テー → テー ⤴ テー ↑ テー → テー ↑ テー ↓

 

 結依魔理沙の中心から放たれた核爆発級のエネルギーがオールマイトを包み込み、周囲の地面諸共粉々に打ち砕く。

 

「オ"オ"オ"オ"ル"マ"イ"ト"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!!!!」

 

 涙すら蒸発するほどの眩い閃光の中から白黒の魔法使いが現れ、さも何事も無かったかのように君臨した。

 

「さぁ、特訓の再開だぁ……緑谷くんが強くならない限り、俺は緑谷くんの筋肉を破壊し尽くすだけだァ」

 

「ヒッ……!!」

 

 魔理沙は再び魔法・魔術・異能・個性・能力・スペルカード・呪術・術式・波紋を展開し、ジリジリとにじり寄る。

 

「強くなれェェエエエエエエエエエエエエ!!!」

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 その後も、地獄の特訓は続いた。竜王の攻撃を避ける特訓、禁断の星の封印から逃げる特訓、未来から来た鬼のシュートを受け止める特訓など。回避以外ももちろんやった。岩をひたすら殴り続けて拳の耐久を上げつつ、キック力増強シューズでひたすら蹴りの練習。かなり良い線まで仕上がった。そして現在、文字通り地獄で特訓している。

 

「ほら、はやくしねーと鬼に喰われるぞ」

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

 ブルーベリー色の化け物がすぐ後ろまで迫っていた。化け物は無言の表情で私達を舌なめずりしながら睨んでいるのが見える。緑谷くんはもうありとあらゆる穴から液体を噴射し、死にものぐるいで逃げていた。そして緑谷くんは気づいていないが、足を見るとワンフォーオールが自然と発動しているのだ。しかも壊さずに永遠と走っている。これは推測だが、生物の生存本能が無意識的に個性の制御を完璧にしたのだろう。やはり私は正しかった。緑谷くんを最強に導いたのは、私の特訓だった!! 

 

「オ"オ"オ"ル"マ"イ"ト"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!!」

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 さて、現世に戻ってきたが、緑谷くんは見事ノックダウン。完全に意識を失ってしまったため、仕方なく魔理沙はスキマを介して緑谷くんを自宅のベットに送り届けた。

 

 ついでにオールマイトが組んだ特別プランに、私のメニューも追加した。土日は直接私が練習を手伝えるが、私も勉強を疎かにできない。なので某ハゲ頭のヒーローが三年間やり続けたという特訓メニューを平日に追加した。

 

 そのメニューとはすなわち、腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、そしてランニング10キロ。これを毎日やる。もちろん1日3食きちんと食べ、精神を鍛えるために夏も冬もエアコンを使わない。

 

 このメニューを三年間やり続けた某ヒーローは惑星すら破壊しかねないパンチと何をされても動じない体、そしてとてつもない動体視力を手に入れることができた。そのうえ海浜公園のゴミ掃除を行い、土日は私が直接行う特別な訓練で全ステータスを超強化する。

 これが私の、緑谷くん特別改造プラン『緑谷出久のドキドキ大冒険』。絶対強くなる。逆にこれで強くならなかったらこれ以上にハードかつ超地獄級の特訓をしなければならない。多分しないけど。

 

 

 雄英高校受験まであと七ヶ月。私も気合いを入れて頑張るとしよう。

 

 

 







【いろいろ紹介(死ぬほど長い)】


●蓬莱の薬
→飲むと不死身になる薬。かつてかぐや姫が地上を離れる際に置いていった代物。

●グングニル
→東方Projectのキャラクター、"レミリア・スカーレット"のスペルカード。紅く輝く悪魔の槍を豪速球で投げ飛ばす。使い手は悪魔だが名前の由来は北欧神話の神の武器。

●夢想封印
→東方Projectのキャラクター、"博麗霊夢"のスペルカード。神も妖怪も人間もみな等しく滅する光の玉を出す。 なお、使用時は無敵となる。

●ノンディレクショナルレーザー
→東方Projectのキャラクター、"霧雨魔理沙"のスペルカード。五色のレーザービームを放つ。しかしこのスペルカードはパチュリーのスペカをパクったものである。

●トライペガサス
→イナズマイレブンの必殺技の一つ。一ノ瀬、土門、円堂の3人が中心で交わり、ペガサスを解き放つ。

●ゴットキャノン
→イナズマイレブンの必殺技の一つ。円堂守のひ孫の円堂カノンが使う。

●エクスプロージョン
→爆裂魔法。世の中には同名の爆裂魔法がいくつも存在するが、この爆裂魔法は紅魔族の方。詠唱は省略。

●見えざる手
→魔女教大罪司教『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティのもつ権能。常人には見えない数十本の手を使って攻撃する。

●デーモンハンド
→バトルゾーンにいる相手クリーチャーを一体選び、破壊する。

炎凰殲滅(バライブートフォルグバストール)
→異世界おじさんの魔法。鳳凰を模した炎の塊を相手にぶつける。なおバライブートが炎を指し、バストールが殲滅を指す。

雷槍顕現(ルガザストリオルラン)
→異世界おじさんの魔法。雷の槍を創造する。

●臥竜鳳雛
→グランブルーファンタジーのキャラクター、"ハイラ"のアビリティ。至宝の煌星を消費して相手全体に1.5倍の水属性ダメージを10回放つ。さらに感電レベルを1上昇させ、至宝の煌星の消費数に応じて攻撃行動の回数が増加する。

●インノートム・ユニバース
→グランブルーファンタジーのキャラクター、"ユニ" の奥義。倍率4.5倍、ダメージ上限168.5万の光属性ダメージを与え、"リヴァタライズ"(アビリティ)を発動する。

●トライディザスター(FF7仕様)
→ファイナルファンタジーシリーズに登場する技。炎・雷・冷気の3属性による同時攻撃を放つ。

●ギガバースト
→ドラゴンクエスト11に登場する連携技。主人公+二人がゾーン状態に入ることで発動するが、結依魔理沙は関係ない。

●アルフーマ
→Re:ゼロから始める異世界生活に登場する、風の上位魔法。



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雄英高校受験の日 前編(13話)


【あらすじ】

緑谷出久を史上最強のワンフォーオール継承者にする計画、その名も『緑谷出久のドキドキ大冒険』。"死"と隣り合わせの世界に身を置かれ、緑谷出久は心身共に鍛えられた。




 

 

【12月16日 午前6時11分】

 

【多古場海浜公園】

 

 

 

「──────────ッはァッ!!!!」

 

 ドガッ! バギッ! ボゴォッ! 

 

「変わったねぇ、緑谷くん」

 

 朝練の様子を見に多古場海浜公園までワープしてきた魔理沙だが、そこには廃材を(ヴィラン)に見立てて次々と破壊する緑谷くんの姿があった。

 

「あんなにヒョロかったのに……烈○王並に立派になっちゃって……」

 

 寒さと感動で鼻水が出そうになった魔理沙は鼻からメラミを放出し、鼻水を蒸発させた。

 

「頭もあんなに真っ白に……!」

 

「それは師匠のせいです!!」

 

「それはすまなかった」

 

 聞かれていたのか、緑谷は特訓を続けながらも大声で返事をした。なお、髪の毛が白いのは完全に蓬莱の薬の副作用で、おそらく大嘘憑きで不死性を取り消したとしても変わらない。色々色(カラーオブビューティー)で髪を染め直す必要がある。

 

 言い忘れていたが緑谷くんはつい先程、多古場海浜公園のゴミを全て片付けた。今は入試二ヶ月前、予定よりも遥かに早く、さらにワンフォーオールの器として十分なほどに仕上がった。特訓を初めてから半年が経過した時点である程度完成されていたため、今の緑谷くんなら銃弾を人差し指で弾き、すべての攻撃を紙一重で避けながらデトロイト・スマッシュを叩き込めること間違いなし。パワーコントロールもオールマイトと私のツーマンセルで鍛え上げたから、暴発する危険性もほぼ無い。

 

 まさに完璧、理想の仕上がり具合だった。

 

「とにかく、ワンフォーオールの器として完全に仕上がったな緑谷くん。おめでとう……!」

 

「ありがとうございます! 師匠!」

 

「師匠……うん、違うね。うん、幼なじみだよね。そうだよね」

 

 魔理沙は水平線の向こう側を見つめながら自分に言い聞かせたが、緑谷くんには伝わらない。感謝されていることは体の揺さぶられ具合で分かるが、何かがおかしい。

 

「緑谷少年、ちょっとこっちに来てくれ」

 

 思い悩む魔理沙を放置し、緑谷は振り返った。

 

「オールマイト!!」

 

「緑谷少年!! よくぞ……! よくぞあの地獄の特訓を乗り越えた!! それだけでなくゴミ掃除まで!!!」

 

「オールマイトォ!!!!」

 

「緑谷少年!!!」

 

 ひしっ、と抱き合う二人。余程辛かったのか、いつにも増して抱き合う力が強い。

 

「君はこの海浜公園のゴミ掃除だけでなく、友人との特訓に毎週つきあい、この10ヶ月間……よくぞやりきった!!」

 

「オールマイト……、うぅ……!」

 

 憧れのヒーローから激励を受け、緑谷は涙を流した。

 

「ずるいな僕は……、オールマイトから……こんなにも褒められて……! 恵まれすぎて……ッ!」

 

「HAHAHA! もっと自信を持つんだ緑谷少年! これは紛れもなく君の力だ!!」

 

「おじさんの言う通りだぜ緑谷くん。我ながら誇らしいよ」

 

「師匠……!」

 

 やめろ、その呼び方は心にグサグサささる。

 

「さて緑谷少年。これは受け売りなんだが、運良く手に入れた者と認められて譲渡された者とでは力の本質が全然違う。さあ受け取れ少年! これは君が手に入れた力だ!」

 

 オールマイトが髪の毛を一本引き抜き、緑谷くんの目の前に差し出した。その瞬間、魔理沙の全神経が1本の髪の毛に集中し、無意識にタイミングを謀る。

 

「食え」

 

「遠慮なく」

 

 パクッとオールマイトの指ごと食らいついた私は髪の毛を摂取した。

 

「「あああああああぁぁぁああああ!?!?」」

 

 動揺する二人を差し置き、結依魔理沙の全身に力が漲る。半分クセで食べてしまったが、これで私はこの世界で最強クラスの個性を一つ手に入れてしまったということ。つまり最強である。

 

「まままま魔理沙さん!? なな何にやってんですか!?」

 

「食った」

 

「知ってるよ!」

 

 当然の事実を述べる魔理沙。そんな中、オールマイトは震えながら魔理沙の肩に手を乗せた。

 

「ま、魔理沙くん? まさかワンフォーオールを……」

 

 受け継いだのか、そんな不安が過ぎる中、魔理沙はジェスチャーで否定しつつ述べる。

 

「私の個性は食べた相手の能力をパクる個性、いわばコピーに近い個性だ。正式な譲渡じゃなく、ただ私がオールマイトのDNAを元に海賊版の個性を作っただけ」

 

「つまり正式にワンフォーオールを受け継いだわけじゃないから、問題ないよ」

 

「ええええええぇぇ……」

 

 わけの分からない個性に振り回される二人。そして何気に魔理沙は初めて、二人に個性を明かした。特訓始めた時点でほぼバレていたので抵抗は無かった。

 

 その後、緑谷出久はオールマイトから正式に個性"ワンフォーオール"を譲渡された。効果が現れるまで少し時間を要するが、試験本番まであと2ヶ月の猶予があるため、その間にワンフォーオールの試運転をすることをオールマイトから勧められた。

 

 オールマイト曰く、ワンフォーオール使用の際はケツの穴をグッと引き締め、心の中で技名を強く叫ぶと良いらしい。魔理沙もワンフォーオールを使えるため、使い手同士で組手をするのも有りだ。力加減、使用時の感覚、体の動かし方など、基礎的な部分を組み手を通じて学ぶことが出来るため、きっとタメになるだろう。

 

 

 こうして2ヶ月間、魔理沙と緑谷は雄英高校合格のためにひたすら組み手を行い、ワンフォーオールを我がものにした。だが緑谷はあくまでワンフォーオールを怪我せずに扱えるようになっただけであり、100%の力を引き出せてはいない。怪我せずに出せる範囲の最大出力はおよそ40%である。

 魔理沙に関しても他能力との併用で擬似的に怪我せずに100%を引き出せるが、まだ真価を引き出せてはいない。あくまで身体能力の強化に留まっている。

 

 受験の日はもう近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 受験当日、緑谷出久は朝練を済ませてから朝食を食べ、忘れ物をチェックし、準備を整えた。

 

 やれることはすべてやった。勉強も戦闘訓練も、死ぬほどやった。後は本番で緊張せず、実力を発揮するだけ。

 

 通りすがりのお爺さんから足の筋肉を褒められつつ、緑谷はついに雄英高校の試験会場前にたどり着いた。

 

「ここが……雄英高校……!!」

 

 憧れのヒーローだけでなく、多くのトップヒーローが在籍し、卒業した名門校。その中でもヒーロー科はトップクラスで、定員40名、倍率300倍、ヒーロー偏差値はなんと脅威の79と、最難関といっていいほど厳しい。

 

 だがしかし、雄英合格はグレイトフルヒーローになるための必須条件。戦わずして門は開かないのだ。

 

(あんだけ頑張ったんだ……! 絶対合格するんだ……!!)

 

「邪魔だ、デク」

 

 気合いを入れる最中、爆豪が背後から現れ、緑谷の肩を掴み右に押し出そうとした。

 

(……は?)

 

 しかし、緑谷の体幹があまりにもガッチリし過ぎていたため、軽く押した程度ではビクともせず、本人も押されていることに気づいていない。

 

「おいデク、テメェ……」

 

「? 何? かっちゃん」

 

「……調子乗るんじゃねぇぞ、クソが!!」

 

 突拍子のない罵倒に緑谷は困惑したが、いつもの事なので気にせず前を向くことにした。

 

(かっちゃん、本当に変わったな……)

 

 緑谷はしみじみと、爆豪の後ろ姿を見て思い馳せる。5歳の頃はあんなに乱暴で、僕に対しても当たりが強かった。だけど、師匠と出会ってからは基本師匠にしか暴力を振るわなくなったし、周りを見下すこともなくなって……

 

(……アレ、それってただ標的(ターゲット)が変わっただけなんじゃ……)

 

 嫌な予感がしたその瞬間、背後から突如爆発のような音が発生した。

 

「ヴィラン!?」

 

「違うよ緑谷くん」

 

「師匠!?」

 

 振り向くとそこには、両手を広げた結依魔理沙がいた。

 

「師匠、今後ろで爆発が……!」

 

「ねぇ、緑谷くん。全く関係ないんだけどさ、雄英のロボットを勝手に機能停止させても怒られないと思う?」

 

「何してんですか師匠!!!」

 

「いやホントに何もしてないんだ。何もしてないのに急に門は閉まるわ、門飛び越えたら警報鳴りかけるわ、その対応で遠隔操作して警報機停止せざるをえないわ、ロボットに追いかけられるわで朝からロクな目にあってないんだよ」

 

「師匠、それ完全にヴィランと間違えられています!! すぐに連絡して止めてもらわないと……!」

 

「いや面倒だからロボットは全部停止させたよ」

 

「事後じゃないですか!!!」

 

 もうやることやってしまった魔理沙に呆れる緑谷。これ、最悪の場合試験中止とかになるのだろうか。普通は早く連絡すべきだが、この連絡をきっかけに試験中止になったらどう責任を取るのか。合格うんぬんよりも不安になってきた。

 

「さっき私の分身体を雄英の人たちに遣わせたから、中止にはならないと思う。幸い警報はほぼ鳴ってないし、目撃者も全員記憶処理済みだし」

 

 サラッと心を読み、サラッととんでもないこと言い残した。師匠、昔から変な人だとは思っていたが、変とかそれ以前にヤバい気がしてきた。個性のことも考えると、止められる人いないんじゃ……

 

「さ、気にせず登校しよう。待ちに待った受験日だしさ」

 

「あ、ハイ……!」

 

 そして二人は説明会場へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「受験生のリスナー、今日は俺のライブに来てくれてありがと──!!!」

 

「 Everybody say 『Hey』!!」

 

(ヘェェエエエエエエエイ!!) シーン

 

 実技試験の監督を務める雄英高校の先生ことボイスヒーロー"プレゼントマイク"が、受験生全員にレスポンスを求めた。しかし彼らは真面目であり、日本最難関の試験を間近にレスポンスを返せるほどの余裕は無い。

 

()()を除いて。

 

「ん? 誰か俺の脳に直接……、脳まで震えるお便りサンキューなぁあああああ!!!!!」

 

(イエエエエエエエエエエエエイ!!!)

 

 魔理沙からの脳内メッセージでハイになったプレゼントマイクは、説明のためにスクリーンに映像を流した。

 

「これから実技試験の内容についてどんどん説明していくぜッ!!」

 

「Are you ready!?」

 

(おっけえええええええええええ!!!!)シーン

 

「これまた痺れるお便りサンキューな!!」

 

 誰一人として全く声を出していないのにお便りサンキューとか言ってるプレゼントマイクを見て、周りの人は苦い顔をしていた。そりゃそう。

 

 そして、プレゼントマイクによる実技試験の説明が始まった。内容としてはシンプルで、試験用に用意された大量のヴィランロボットを倒し、ポイントを稼ぐ試験らしい。ロボットは4種類配置され、0ポイントから3ポイントまで存在する。0ポイントのヴィランロボットは他のロボットよりも大型かつ強力で、戦うメリットは何一つとして無いため、これを避けつつ他のロボットを倒すことが合格に繋がる。また、同じ中学校内での協力を避けるため、受験番号が連番であっても会場は異なる。

 

 私は引っ越したので緑谷くんや爆豪とは別の学校に通っているが、会場は別々だった。むしろ都合がいい。

 

「最後にリスナーの諸君に、我が高校の教訓を教えよう……」

 

 おお……! 

 

「かのナポレオン・ボナパルトは言った。『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者』だと」

 

「さらに向こうへ……Plus ultra(プルスウルトラ)!!」

 

「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

 校訓を旨に会場は大盛り上がりをみせた。私も緑谷くんも勢いにのって立ち上がり、プレゼントマイクに手を振ったりしたが、爆豪は依然として変わらなかった。

 

 

 

 こうして、受験生たちはスタッフの案内の下、各自演習会場へと向かっていった。

 

 

 







ps. ブルアカアニメ放送おめでとう! エデン条約編第4章に関しては劇場版で丸々一本やってくれると助かる!



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雄英高校受験の日 後編(14話)



【あらすじ】

ワンフォーオールの器としてついに仕上がった緑谷出久は、オールマイトから個性を譲渡され、ワンフォーオールを手に入れた。
そしてとうとう受験日を迎えた緑谷と魔理沙は、トラブルもありつつ、何やかんや説明を受け、演習場へと向かった。

※現在、13話まで更新中。14話以降はリメイク前のストーリーなため、リメイク後と展開が異なる場合があります。ご注意ください。






 

 

 

─────そして時は動きだす──────

 

 

「テメーらがコンティニューできないのさ!」

 

私はすぐさま、手元にある破壊の目をロボットのやつのみ握り潰した。直後、試験会場全域にいる全てのロボットが爆発を起こして砕け散った。あぁ、ちょっとスカッとする。例えるならプラスチックの定規をパキッと折る感覚や.....、いや違うな、打ち上げ花火を点火したときの感覚だな.....うんしっくりくる。

 

向こうにいる受験生全員ぽけーっとしてるな。「事故?」とか「ヴィランか?」なんて寝ぼけてるやついるけどいいや、私は私のやりたいことをやるだけだ。私の今のポイントはざっと141くらい。まだまだ稼ぐぜ。

 

ここの試験会場の中心から半径300メートルは神之怒の射程範囲内だから........、あれ? これじゃ暇ではないか。あっ、いやでも神之怒に貫かれたロボットの残骸が他の受験者に被害を与えてしまうかもしんないから、それを防ぐとしよう。救出(レスキュー)ポイントも稼げるから一石二鳥か。

 

とりあえず箒を取り出し、空中を翔ける。空を飛ぶのってほんと心地いいよね、たまに神之怒が目の前に現れるからビックリするけど。

 

「うわ! こっちに倒れてくんなぁぁああ!!」

 

さっそく見つけたぞ第一の犠牲者。安心するがいい、全力で助けてやるぜ! 盛大なマッチポンプだけどな!

 

取り出した物はなんと杖。ただし、ただの杖ではなく、長さ38センチメートル、杖の芯はセストラルの尻尾の毛でできており、杖そのものの素材、いわば木の種類はニワトコと呼ばれるものでできた杖。察しがいい人は気づいただろうか? これはハリーポッターシリーズに出てくる死の秘宝『ニワトコの杖』である。ハリーがバキバキに折って谷に捨てたものを魔法で修復し、無理やり所有者を私に変更させたのだ。ちなみに初使用である。

 

ウィンガーディアム・レビオーサ(浮遊せよ)!」

 

神之怒で関節を貫かれて今にも倒れそうだったロボットが、魔法によって空中に浮かせられている。潰されそうになった男の子は驚いて「ふぇ?」という間抜けな声をあげていた。あ、こいつズボン濡れてやがる。ナニモミテマセンヨー。

 

レダクト(粉々)

 

浮遊していたロボットは粉々に砕け散り、残ったのはサラサラの砂だけとなった。ほら、この砂で君の黄金水を拭き取るんだ。おっと、見ていないんだった。

 

「あっ、あっ、あっ.....」

 

どうやらまだ動揺してるらしいな。精神安定の魔法でもかけてあげたいけど、妨害行為と判断されるのも癪だしなぁ。とりあえず、放置しとくか。

 

「困った時はお互い様だぜ☆」

 

よし、綺麗にしまったから次のとこにいこう。

 

こうして着々と私は人を助けていったのだった。というのはただの肩書きでいろんな技を試してボコボコにしたかっただけだ。すでに神之怒に貫かれてるからボロボロなんだけどね。

 

セクタムセンプラ(切り裂け)!」

 

「黄金の回転!鉄球の無限回転エネルギー!!」

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ! 踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万物等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ! これが人類最大の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃魔法、エクスプロージョン!」

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ!!

 

破道の九十 『黒棺』!!!!」

 

「解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢!

 

アルクス・レイ!!!」

 

次々とロボを粉微塵どころか灰も残さずに消し飛ばしてきた結依魔理沙。モニターで覗き見している先生方もさぞ驚いているだろう。結依魔理沙のスペックは尋常ではなく、もし魔理沙がヴィラン側についていたら、二度と平和などこなかっただろう。属性魔法に干渉系能力、概念すらねじ曲げるこの女に天敵はいなかった。

 

ズドォォォオォオオン! キャーキャーワー ギャアアァァ コワイヨー

 

とうとう現れたようだな0ポイントヴィラン! 神之怒が何本か貫通してるけどデカすぎて効果がなさそうだ。ならば..........、

 

箒で真っ先に突っ込み、距離を詰める。相手は動きがトロくてパンチが全く届かない。箒を乗り捨てて、0ポイントヴィランの顔面まで一気に詰めた。ここからやることなんてたったひとつだけ。

 

「ワンフォーオール50%+α! デトロイトスマッシュ!!」

 

ワンフォーオールとその他の火力増強スキルを盛りに盛って放った渾身の一撃。その威力はオールマイトに負けず劣らずの威力であった。

 

0ポイントの大型ヴィランロボットは顔面の消滅によって体勢を崩し、そのまま地面にひれ伏せた。ここの試験会場全ての受験生がたった一人の女の子に注目する。あの巨大なヴィランをパンチひとつで吹き飛ばし、悠然と空の高みに存在している女の子。逆光のせいか顔が暗くて見えないが、あれは正しく力の権化であった。そして、あまりの格の違い、いや、次元の違いに受験生達は身動きをとれずにいた。

 

「あの女の子はいったいなんなんだ.....。」

 

この言葉を最後に、実技試験は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

あれから何日かたった。今思い返すと、やりすぎたかなと反省はしてる。だって現れる仮想ヴィランを私が全てなぎ倒したせいで私以外誰もポイントを得られなかったのだ。つまり、独占。ポイント稼ぎに独占禁止法がないことを祈る。

 

「魔理沙、受験どうだったの?」

 

「余裕のよっちゃんだぜ母さん。この魔理沙さんに不可能なんて文字はないんだよ」

 

「また人様に迷惑をかけてないでしょうね? わかってんでしょうね魔理沙?」

 

あ、うん。ある意味迷惑なことしたかもしれん。

 

「ハッハッハ、もちろんさ〜」

 

とっさに嘘をついた私はそそくさと自室に篭もり、とある手紙を開こうとした。それはもちろん雄英からの合格通知だ。確か立体映像になっていたはず.....。うん、記憶がだんだん無くなっていくからわからん! だって前世だし!

 

手紙を開けると、中から丸っこい機械が入っていた。そっととりだして机に置くと、立体映像........ではなく普通の映像が空中に映し出された。

 

「HAHAHA、久しぶりだね結依少女!」

 

わぉ、お久しぶりですねオールマイト。

 

「私がなぜここにいるかというと.....、それは雄英高校の教師になることになったからだ! HAHAHA!」

 

ごめん、知ってた。

 

「あんまり驚いてなさそうだね。ま、そーんーなーこーとーよーりー! まずは筆記試験!」

 

あぁ、あれか。うん、何も聞きたくない。

 

「合格だ結依少女! ただ、国語が足を引っ張ってしまったようだね。君は理系タイプということかな!」

 

ふぇい。

 

「次に実技試験についてだが、実は隠し要素があってね。救出ポイントと呼ばれ、誰かを助けることで手に入れることができるポイントさ! しかも審査制! 君の合計ポイントは敵ポイント398P、救出ポイント29ポイント、合計427ポイント。ぶっちぎりで君がナンバーワンだ! おめでとう! しかも雄英高校の過去最高得点すら大幅に差を広げてニューレコード! 君の今後の将来が楽しみだよホント!」

 

確か爆豪で100なんぼだからな、頑張ったぜ私。

 

「来いよ結依少女、ここが君の、ヒーローアカデミアだ!」

 

そう、ここからが本番ということだ。やっと雄英高校入学まで時が過ぎた。長かった、長かったよォ.....。これから起きるハチャメチャなイベントも全て乗り越え、私がこの雄英高校の頂点に君臨するのだ! ハッハッハッハッハッハー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女の高笑いが部屋中に響き渡り、母の怒り混じりの声が聞こえた。

 

「静かにしなさい!! 韓国ドラマが聞こえないじゃない!」

 

「ごっ、ごめんなさ〜〜い!!!!」

 

おのれ、韓国。

 

 

 






やっと雄英高校だ!

いろいろ紹介

黄金の回転:ツェペリ一族の鉄球の技術と馬の力によって放たれる黄金回転。無限に回り続け、重力すら支配し、次元を超えるという恐ろしさ。作品はジョジョの奇妙な冒険第7部。

破道の九十 黒棺:死神の使える魔法みたいなもの『鬼道』のうちの攻撃系である破道のひとつ。完全詠唱をすれば時空すら歪むほどの重力が発生する。作品はBLEACH

アルクス・レイ:発動直後に自動追尾するめちゃ早い光線みたいな魔法。作品はダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか

うふふふ。



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第四章:雄英高校入学編
オーバースペック(15話)




ちょっと長くなってしまった。








 

 

 

清々しい朝の目覚めだ。いつもなら8時20分くらいに目覚める私だが今日は7時ぴったしに起きることができた。やんわりとした暖かい空気が私の体を包んでいるはずなのだが、熱変動耐性を獲得しているため何も感じない。能力をオフにしとけばよかった。あらゆる能力をパクリまくった私は食事や睡眠などは本来必要は無い。しかし前世の癖というかなんというか、自分にとっては無駄だとしても、やらなきゃ本当に人間としての感覚を失うかもしれない。私は前世の感覚をなによりも尊重したいと思うのさ。思いやりとか、愛情とかね。

 

これでシリアスっぽい展開にできただろうか。いや、これはただの情景描写か。もういいや、前回の出来事を簡単におさらいしようか。雄英高校受験に向けて行った緑谷くん魔改造計画『緑谷くんのドキドキ大冒険』がついに完結し、準備万端の状態でいざ受験! 緑谷くんがどうなったかは私は知らないが、私の方は実技試験で暴れまくった結果、敵ポイントと救出ポイントの合計がなんと427。雄英高校過去最高記録を大幅に更新したのであった。言うまでもなく、ぶっちぎり合格。めでたしめでたし。

 

記憶も戻ったし、朝飯を食べようではないか。

 

「かぁぁあさあぁぁん。腹減ったぁ!」

 

「随分と早起きじゃない? 今日は嵐がくるわね。」

 

「ほんとにきたら吹き飛ばせるから安心してね母さん!」

 

「冗談もほどほどにしないと4の字固めするわよ........なんてね。ほら、朝ごはん出来たわよ」

 

おぉ、今日はフレンチトーストじゃあないか。甘いもの好きの私にとっては至福の料理だ。まいう。

 

「ほんとすぐ食べ終わるよね。太るわよ?」

 

「そしたら個性『ボンキュッボン』みたいなのを手に入れてくるわ。」

 

「なにそれ、母さんすごくほしい」

 

安心するんだ、母さんは一般的に見て普通だよ。フッ。

 

こんなたわいのない家族の温もりは私の心を癒してくれる。いいよね、こういう感じ。嫌いじゃないわ! はぁ、準備も終わってるから行くとしますか。

 

「支度もおわってるからいってくるね」

 

「まだ7時5分じゃない。瞬間移動できるんだからそんなに急ぐ必要は..........、もういないし。」

 

春の新風がカーテンを揺らす........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

なぜ早く家を出たか教えてあげよう。それはドッキリを仕掛けるためだ。お題は『同じ朝を繰り返しているッ! それが運命というものなのだ』だ。内容はまず、BITE THE DUST (負けて死ね)という能力を使う予定だったんだが、条件がけっこう厳しいので別の作戦でいくぞぉ。まず、緑谷くん.....、おっと被験者の名前を言ってしまったじゃあないか。被験者Mさんが学校の目の前まで登校してきたら、私以外の時間を被験者が外に出る時間まで巻き戻す。被験者の記憶は固定しておけば無くならずに済むから後は繰り返し.....。1回やってみたかったんだよねこれ。反応が楽しみだぜ。

 

「見つけた」

 

へ? 誰が? 何を?

 

直後、黄金の巨大な掌が私の真横を掠めていった。これは、こいつは、まさかまさかの.....、

 

「何しにきやがったコード000。10年間何してたんかしらんけど、もう負けねーからな」

 

10年前くらいに私を襲ってきた自己進化型人工知能『NOUME』コード000。原作の脳無とは全く似てなく、容姿は白髪でゴールドアイで軍服っぽいのきている男の子.....、ん? いや、女の子.....? オカマか? なんでこんな艦コレみたいな姿なんだろうか。もし、あの時の事件がなかったら妹にしたいレベルの可愛さだ。自己進化型ってそういう意味なのか.....?

 

「マスターが僕を改良して、より柔軟な思考を持てるようにしたんだ。体は察しろ」

 

心読まれたあげく流暢に喋りやがった。前はもっと機械っぽい感じだったくせに。というかこいつ作ったやつはいい趣味してる。絶対男の娘好きだ、同士だ、仲間だ、私は確信したぞ。

 

「はいはい、わかったよ。で? 何しに来たのさ。まさかまた暴れるつもりか? 私はお前のせいで執行猶予かけられているんだから、暴れるつもりなら空中でやるからな。」

 

コード000は表情一つ変えずに言葉を返した。

 

「僕は君を拘束しろとマスターに言われた。だから拘束する。あと、君の都合に合わせるほどの器を持ちあわせてはいない。」

 

「へぇ、ついに誘拐に手を出すんだね君のマスター。こんないたいけな少女を拉致るなんてどこのエロゲーかな? えっちぃのは嫌いです。」

 

「マスターを侮辱するな、そして死ね。コード000戦闘モードに移行。」

 

シネッテイワレタヨ...、エエ?

 

またあの時のように戦うことになった私はコード000を警戒した。というかボクっ娘銀髪軍服主従関係持ちの能力観音様とかどんな属性だよ。何一つシンクロしてないよ! なんてツッコミを入れている暇などなくあいつは一直線に近づいてきた。

 

完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)、重力操作、能力向上、筋肉増強、ワンフォーオール50%、衝撃波吸収強化、亜光速化!」

 

淡々と能力を発動し、迎え撃つ。朝起きたばかりだから元気が出ないが、やらなければならない。こいつの個性は『ヴィジョーカー』、超質量のロボット兵器をだす能力だと考えると、本人そのものが強くなる個性ではない。近距離で1発ノックダウンが好ましいかな。

 

距離が縮まり、攻撃の届く範囲に入った瞬間、私は亜光速でコード000に拳を叩き込んだ。はずだったのだが、()()()()()()()()。おかしい、他の人は私と違って個性は1つしかもてないはず。避けた? 亜光速を越える速度の攻撃を避けるには光速で避けなければならぬ。しかし、ほんとにそうなら街は余波で吹き飛んでいるだろう。というか人工知能が光速で動くことがおかしい。

 

「先入観で物事を決めると寿命縮めますよ」

 

私の背後には消えたはずのコード000が金色の拳を構えて待っていた。え? なんで? ちょっとま、

 

ドゴンッと鈍い音を立てて私は空の彼方へ吹き飛ばされた。摩擦無効によって空気抵抗なく吹っ飛ぶから速すぎる。あかん、間違えたかもしれない。つか消えるなんておかしい、なにか秘密があるはず! あいつ、さっき先入観に囚われるな的なこと言っていたな。ということは、まさか個性2つ持ちか!? あっ、

 

景色を見渡すとあら不思議、おそらが真っ黒になっていますわ。眼科には青い球体がゆっくりと回っていて、それで、その、うん、帰りたい。これ以上ここにいると某究極生物のように体の内部から凍りついて宇宙空間を永遠と彷徨うことになる。まぁ、ならないけどね。

 

まだ授業は始まらないはず、あいつを取っ払う方法を考えなければ。下手に能力使ったらマスターやらに情報が漏れるかもしれない。というかあいつロボットみたいなものだから殺してもいいのだろうか。しかし、前世の私が二次嫁を殺すなと訴えかけている、うーむどうしたものか。

 

「生存確認、始末します。」

 

「原点回帰!?」

 

いつの間にか背後にまわっていたコード000がかかと落としを仕掛けていた、だがそれを上手くキャッチ。ふふ、二度目はないぜ。相手の足を捻りつつ背後にまわり、相手の腹のあたりを腕ごとがっちりホールド。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

 

お前は本当にロボットなのか? それともただのコスプレイヤーか? だんだん怪しくなってきたんだけど。だが、そんなことは無視! この体勢と高さなら決められる! いける! やれる! くたばれぇぇぇええ!

 

「ジャーマンスープレックスゥゥウウウウウ!!」

 

説明しよう! ジャーマンスープレックスとは!? 相手の背後から両腕を回して腰をクラッチし、そのまま相手の後方へと反り投げ、ブリッジした状態でフォールを奪う投げ技(wiki調べ)! 日本では原爆固めと呼ばれ(wiki調べ)、アントニオ猪木も使ってた技らしい(wiki調べ)。ようするにめっちゃ強いということだ。

 

これを大気圏外から地面に向かっておもいッきり叩きのめせば、確実にやれる! 自分も大怪我するが、超速再生とベホマがあれば復活可能! この勝負はもらったああああ!

 

まて、重要なことを忘れていた。こんなことしたら街にクレーターができるのは目に見えることではないか。じゃあどうしよう。もう止められないんだけど。あっ、いや、衝撃波吸収強化が発動しているんだった。ならばよし。

 

そんなこんなしているときにはすでに大気圏を突破、地面衝突まで後5秒もかからん! よし、このままいけ! ん? あれ? アイツがいない。なぜ? このままじゃ一人で地面とキスを...

 

ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ !!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なーんてことにはならず、時間停止でかるく回避&着地。しかし、あいつがなぜ急に消えたのかがなんとなーくわかってきたぞ。少なくとも地球、いや地面と関わりがなきゃ使えない能力なんだろう。そうじゃなきゃジャーマンスープレックスなんて物理攻撃が当たるなんてことはない。地面にあって、空中に無いもの.....。ピンとこないな。

 

「あなたの考えていることは全て想定済みです。」

 

え? いみわからゴグハァ!!??

 

いつの間にか殴られていた。何処から殴られたかよくわからない。こんどは姿が見えなかった、隠れて攻撃? 空間の隙間からか? 影の中? 異次元? 時間差攻撃? 私のアニメ漫画ゲームの能力の知識をフルに活用させるが情報が足りなさ過ぎてわからん。一番濃いのは影の中、空中で使えないという点に関しては一致する。つか早くしなきゃ個性把握テストの分が書けなくなる! まてまてまて落ちつくんだ私。冷静になれ、COOLになれ。

 

また見えないところから殴られた私。暴力反対。思考加速1万倍で作戦をひとつ考えたぞ。それは!

 

「捕まえてみやがれ!」

 

作戦名『肉を切らせて骨を断つ』だ。アイツの目的は私の身柄拘束。ならば、いずれは私を拘束するために姿を現すはずだ。よって何もしない、これが私のスペシャル攻撃だ。

 

「そんなあからさまな罠にはのりません」

 

ですよねゲボハァレグハ!!!

 

モロに極太光線をくらった私は吹き飛ばされはしなかったが、周りに被害が入ってしまった。私の姿は他の人には見えてないから、普通の人から見ればただの一人芝居だろう。だからまぁ大丈夫なのだが、問題はそこじゃない。街に被害が出るイコール住民が通報するイコール警察が来る。そんなのお断りだ、社会的に死にたくないから早く謎を解こう。謎、謎? 前回と違う点を探すのはどうだろう。顔、口調、新しい能力、消える、ん.....? 顔、口調、新しい能力? これってまさか。

 

索敵魔法最強化(マキシマイズサーチエネミーマジック)『魔力感知』」

 

相手の気配を感じとれる魔力感知を最大限引き出し、相手の位置を知る能力。別世界に移動さえしていなければ、空間の隙間だろうが影の中だろうがばっちし見えるのだ。あと索敵魔法最強化(マキシマイズサーチエネミーマジック)は私が少し改造したオリジナル魔法。私の予想があっているならば、答えが見えてくるはず。

 

魔理沙が見たものは、さっきの極太光線が発射された位置からやや右の位置で、別空間を移動していると思われる()()()()()()。そして、約200メートル先の大きなマンションの上にもうひとつ、人影が見えた。

 

そう、二人いたのだ。さっきまで戦ってたのはコード000じゃない別の誰かで、本物はビルの上で高みの見物といったところか。多分、空中で能力を使わなかったり、ちょくちょく原点回帰していたのは私の思考を誘導させるためのフェイク。てっきりまたタイマンで戦うと思い込んでいたのが間違っていたんだ。アイツら、ガチだ。

 

だかしかし! 種がわかれば怖くない! 別空間から片方を引きずり落とし、もう片方にぶん投げてやる。いや、それじゃ安直すぎるから二人とも別世界に放り投げてやる。これなら二度と帰って来れまい。 私は決めたことを実行するタイプだからな!! 覚悟しとけごらぁ!

 

「お前らの種はもうみきった。こっからは私のターンだ!」

 

ドロー! モンスターカード! とはやらんが、まずは引きずり出すこと! 相手はどうやら悟ったのか私を警戒しつつ隙を狙おうとしている。ふっふっふ、あらゆる能力をもった私に駆け引きなど通用しない!

 

「『距離を操る程度の能力』」

 

これによって相手と自分の距離を無くし、捕まえる。

 

「なっ!?」

 

ktkr(きたこれ)、いやぁ散々手間かけさせやがってコノヤロウ。これ以上、原作を壊すんじゃあない!

 

「ご機嫌麗しゅうコード000もどきぃ。随分とせこいまねをしやがったな?」

 

「私の名はコード004だ。覚えとけボサボサババア」

 

うっ、傷ついたぞ。可愛い見た目して毒吐きやがったちくしょう! 私だって.....、私だって元男だけど今は乙女なんだよ! 子安ヴォイスで脅してやる。

 

「ほぉ、いい度胸だなお前。私はまだ16歳だスカポンタン。ムカつくお前には冥土の土産として二つの選択肢をやる。正直に素直に誠実に答えろよ艦コレ太郎。まずはひとつめッ...!? 仏の顔が迫ってるから早めに言うぞ。一つめは自分を差し出すかわりにお前の仲間を見逃すぅ、二つ目は仲間を差し出すかわりにおまえを見逃すぅ、選べ。」

 

ちょくちょく出てくる黄金の拳を避けつつ、返事を待った。

 

「三つ目の、あなたを拘束してズタズタにするを加えなさい」

 

死刑だ。もうこれ確定イベントに変わったかんな。私は獲物を嬲るような声で言葉を返す。

 

「却下だ。というか今日は忙しいから二人とも始末させてもらうぞ。お前は踏み外した」

 

右手にエネルギーを集中し、相手の身体を切断するがごとく手を振り下ろした。強大なオーラが、一人の少女に降り注ぐ。

 

「ごめん悪かった、なんでもしm」

 

「超亜空切断」

 

空間の切れ目が、まるで底なし沼のようなドス黒い穴に変化し、コード004は吸い込まれるように落ちていった。「最後まで喋らせろぉおおおお!!」なーんて断末魔が聞こえたけど後は野となれ山となれ。残る宿敵を倒して万事解決だ。容赦はしない。

 

だが振り返ってみると、マンションの上にはだれもいなかった。どうやら逃げられたようだ。やれやれとため息を吐きつつ、私はちまちまと街の損傷した部分を直していった。清々しい日は、ろくなことがないよ。デジャブだよ。

 

時間を確認すると、まだ7時12分であった。よかった、セーフ。まだ学校に十分間に合うぞ! 証拠も隠滅しといたし、これでやっと終わりじゃあああ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、結依魔理沙に襲いかかる事件はまだまだ続くのであった。





あれ、まだ登校してねぇ.....。なんてこった/(^o^)\ぱんなこった\(^o^)/

いろいろ紹介

個性『ボンキュッボン』:峰不二子になれちゃう個性。

BITE THE DUST :スタンド使いの吉良吉影のもつ能力。発動条件が厳しいけど、ハメれば確実に勝てる能力。

完全不可知化:姿、音、気配までも消せる魔法。本当は相手を攻撃すると魔法が解けるのだが、改良したということで.....(ご都合主義)。

衝撃波吸収強化:自分から発生した衝撃波(余波)を吸収し、それを利用し瞬発力や攻撃速度を強化する能力。オリジナル個性である。

亜光速化:一回だけ光速の99.99%で動くことができる。体力を消費するため、連発はしない。またオリジナル。

ベホマ:全回復するドラクエの魔法。そのぶん魔力は消費する。

コード004:コード000といっしょに任務を受けた自己進化型人工知能(オリキャラ)。能力は複数持っていてるが、4個か5個が限界で主人公には遠く及ばない。ちなみにコード000も004も半分はロボットで半分は人間である。なぜに.....。







そういえばコード004さん、隠れられるならなぜ最初、姿を現したのだろうか。不意打ちしたほうがよかったのでは? そこんとこどうなんですか。

コード004「万が一のため戦闘データだけでも収集するためです。」

ほぉんとに?

コード004「ほんとです」





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個性把握テストとかいう、学校内で腕相撲のチャンピオンを決める的なアレ 前編(16話)



前回の『魔力感知』(転スラ)ですが、その上の『万能感知』があることを忘れてました。すみませぬ<(_ _)>

やっとか☆ら☆め☆る




 

 

危機は去った.....、そう認識してもいいだろう。あの美少女人工知能はいったい何がしたいのだろうか。これ以上私と関わるとネタキャラに転生するぞ、実際なりかけてる気がするけどな!

 

そんなことはどうでもいい、問題はこの先に待ち構えている未来である。私は幾度となく人の運命を変え続け、好き放題やって、自由を謳歌してきた。いや、仕方が無いのかもしれない。一般市民がインフレスペックを手に入れたら、金、暴力、セッ.....、まぁ本能的衝動に駆られるというものだ。逆に世界征服とか実行しない私の方が異常と言えるだろう。その気になれば前世の世界にだって帰れるし、うん、神様は私になんつーことしてんだろうか。

 

話がすごくズレたが、言いたいことというのは頭のおかしい自分の影響によってクラスがおかしいことになっている可能性があるということ。現に緑谷くんは異常に強くなり、青山は雄英に合格できず、もしかしたら私が試験で暴れたことでB組の生徒のメンツが変わっているかもしれない。最悪の場合、誰かに恨みを買われて復讐なんてこともありえるかもしれぬ。ちょっと(ちょっとどころでは済まないが)違った僕のヒーローアカデミアに期待する気持ち半分、怖いと思う気持ち半分といったところか。なんにせよ覚悟しなければならない、このドアを開けたら雄英高校ヒーロー科1年A組とご対面だ。よし、開けるぞ。あ、でもやっぱり怖い。気配をおもいッきり殺して入るとしよう。小三のときに『暗殺教室』という異世界で学んだ殺し屋のステップでいこう。さ、慎重に....、扉開けーーてぇー♪

 

スーーッ、コトン

 

アナ雪風に歌いながらドアを開けたが、その先にはアニメで見慣れた光景が広がっていた。机が規則正しく並び、窓から風と日光が入り込んでいて室温がちょうどいい。黒板には誰がどこの席に座るか丁寧に書かれており、私はどうやら切島くんの後ろなのかな? それに今来ている人は緑谷くん、爆豪、かくかくメガネ、まん丸女子、轟くんと愉快な仲間たち。うん、ほぼ全員いるけどこれといって劇的な変化はないね。強いて言うとするならば、かくかくメガネくんのメガネはかくかくではなく、丸であったというささやかな違いのみ。よかった、本当によかった.......(感動)。

 

「なぁなぁ、1年にとんでもない化け物がいるらしいぜ」

 

「雄英の記録を大幅に塗り替えたんだってな」

 

「子供の頃から修羅場くぐってるとか聞いたぞ」

 

「仮想ヴィランをワンパンだってよ」

 

「やっべー、とんでもねぇな! こっわwww」

 

ところどころ聞こえる噂話。身体機能が高いせいで上とか横とかいろんな方向から聞こえてしまう。A組だと、そのことについて話しているやつは芦戸さんと切島くんくらい.....かな? 緑谷くんとあとの2人は多分、緑谷くんのパンチについて話しているんだろう。それを除けばほとんどが静かに座っている。初めて見る人ばかりだから、積極的に他者と話す人はいなさそうだ。もちろん、私もそのひとりだ。伊達に小学も中学も化け物と恐れられてみんなから避けられただけはあるぜ。私のコミュ力はマイナス53万です。

 

「あんたが入試1位のやつか?」

 

お? 私が後ろに座ったから切島くんが気づいたっぽい。ふっふっふ、わかっちゃうかな? この私が入試で暴れまくった化け物だということを。ふっふっふ、なんだか強者感がでて心がぴょんぴょんするんじゃぁ! とりあえず、返事を返すとしよう。

 

「そうだけど何か?」

 

私は少しドヤ顔をしつつ、軽く言ってみた。顔が黒いせいでドヤ顔が上手く伝わってないかもしれないけど。

 

「おぉ! やっぱりそうなのか! 実は今学校中で噂されていてな、『今年の入試1位のやつがとんでもない化け物』っていうのが広まっていたのを聞いて気になったところなんだ。まさかあんたがその人だったとは....」

 

まるで珍しい動物でも見るかのようにじーっと見つめている切島くん。やっ、やめて! こっちみないでぇ! これでもか弱き乙女なのよぉ!

 

「そういえばまだ名前をいってなかったな。俺は切島鋭児郎、よろしくな!」

 

流れが早くて少し戸惑っちゃうな。流石みんなの輪を結ぶ役の切島鋭児郎、設定通りのコミュ力である。私には眩しすぎるぜ!

 

「私の名はきりさ.....、ンッフン! 結依魔理沙だ。以後よろしくな」

 

おっと、素で間違えるところだった。

 

「おう! よろしく!」

 

おっ、そうだ。このさい切島くんの個性を頂くとしよう。確か『硬化』だったはず.....ま、何かしらに使えるだろう。切島くんにバレないよう痛みを感じないくらい素早く髪の毛を掻っ攫う。後ろを向いたら負けなんだぜ。しばらくぶりの髪の毛を味わいたいと思い、ゆっくり噛みしめようとしたが案の定硬かった。噛めない、無理、焼肉でよくかたい肉の筋を噛み噛みするときの気分だ。飲み込もう。

 

ゴクリっと飲んだ頃にはすでに相澤先生が教室に入っていた。相変わらずの小汚さで少し安心をしつつ、私のボロボロ髪の毛といい勝負かなと勝手に脳内勝負をしていた。

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね。」

 

寝袋から脱皮した相澤先生は睡眠時間が足りてないと言わせんばかりの声で先生らしいことをいった。

 

「担任の相澤だ、よろしくね」

 

えぇー!? という驚きの声がところどころにあがる。大丈夫だよみんな、この人カッコイイところはカッコイイから。後半からイケメンヴォイスだから。

 

「早速だがこれ着てグラウンドにでろ」

 

また暴れるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

「「「個性把握テストぉ!?!?」」」

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事、出る時間はないよ」

 

みんながみんな目を丸くして己の常識を疑っている。そりゃそうだ、普通は入学式とかガイダンスとかやって、その後軽く先生を紹介して、アンケート的なもの書いたらはい下校みたいなのが高校の初日のはず。だが雄英は普通ではない。なぜなら、

 

「雄英は『自由な校風』が売り文句、それは生徒だけではなく先生側もまた然り。お前達も中学の頃にやっただろう? 個性禁止の体力テスト。今からやる8種目の競技をお前達にはやってもらう。結依、お前は実技入試1位だったな」

 

「あっ、はい」

 

ざわざわと周りがざわつきはじめる。カイジかな?

 

「中学のソフトボール投げは何メートルだ?」

 

「測定不能です」

 

(((え? 測定不能って?)))

 

「.....、正確に言え」

 

「そうですね、正確に言うと5141メートルですね」

 

「「「なわけねーだろ!!!!!!」」」

 

え? え? クラス全員から突っ込まれたんだけど。やめて、そんな目で見ないで! その反応、中学の担任の先生もそんな感じだったから! その後「個性使っただろ?」と何度も自白強要されたから! トラウマだから!

 

「.....1回個性使って投げてみろ。円の中から出なければ何してもいい。」

 

ん? 今何でもしていいって言った? 言っとくけど私は本気出すとえらいことになるぞ。地球が耐えられずにドーンや、ドーン。まぁ、そうしないよういろいろするけどな。

 

「では本気でやります」

 

白い円の中に入るとボールを渡された。私が素の本気で投げると、余波で地面が陥没するので衝撃波吸収強化は必須、摩擦無効もいるな。あとはそうだな、まだ1度も使ってないアレがあったな。アレを使おう。

 

「427万の形態のうちのひとつを見せてやる。」

 

すると突然、魔理沙の体は異常に膨れあがり、醜く体を変化させ、同じ人間とは思わせない姿に変貌を遂げた。全長が3メートルほどになり、皮膚は黒くトゲトゲしく頑丈で、鉱石の塊のような体であった。わかる人にはわかるやつ、これは東方異形郷の美鈴編3で出てきた異形魔理沙の変身形態のうちのひとつである。フリーザ様もビックリな多種多様の形態数に強力な力、勝てるやつといったらあれだな、消えちゃえの言葉で宇宙消せる人とか、安心院さんとかそういうやつらくらいである。当然だが、みんなは拍子抜けな顔で私の姿を見ている。こんなんだから私はまともな友達が少ないのだ。別に寂しくなんかないけどね、ほんとに、マジで、寂しくなんかない.....んや。

 

「衝撃波吸収強化発動」

 

個性を発動させ、投げる体勢に移行。なるべく上向きに、放物線を描く様に投げるとよく飛ぶらしい。さぁ、月まで届け、ソフトボール!

 

「おぉぉぉぉあおりゃああああああああぁぁぁ!!」

 

目で視認できない速度でボールが飛んでゆく。衝撃波吸収強化によって投げるときの衝撃波は吸収されているが、投げた後のボールが発生させた風や音は自分が発生させた衝撃波に含まれないのでバリバリくらってしまう。音はもう高周波の域だから他の人は聞こえないと思うけど風はやばいな。だって峰田が後方に吹っ飛んでるんだもん。女子も男子も風に耐えることで精一杯だし、これだと誰も見てないかもな。 そろそろ摩擦無効を使おう。

 

「摩擦無効」

 

と指パッチンしながら言った時には無事に成層圏を突破、少ししたら月も届きそうなくらいにまで速度が上がっている。というかもう越えた。これ以上はタイムラグが発生するので止めておこう。一瞬の出来事でだれもわかるわけがないしね。

 

「ホントナンナンダアイツハ.....、あー、まずは自分の限界を知ること。それがお前らの素質を知る合理的手段。」

 

相澤先生が差し出したスマホの画面には∞の文字が表示されていた。

 

「すっげえええええ!!! なにあれやばっ!?」

 

「あれが実技入試1位の実力.....!」

 

「単純な強化系だが、とんでもないパワーだな」

 

「オールマイトより強くね?」

 

「なんだか楽しそう! 私もやりたーい!」

 

相澤先生は生徒の声にピクっと反応し、生徒を睨みつけて言った。

 

「楽しそう.....か、お前たちはそんな腹づもりで3年間過ごすつもりか? よし、8種目トータルの成績最下位の者は除籍処分としよう。」

 

うわ、この人めっちゃ嫌な顔してやがる。流石何百人の雄英合格者を序盤で除籍処分しまくった除籍処分のエリート。ラスボスもビックリするくらいの合理主義だぜ。

 

「そんな.....入学初日で除籍処分なんて......。いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!」

 

うららか おちゃこ の はんげき !

 

しかし あいざわ には こうか が なかった !▽

 

「自然災害、大事故、そして好き勝手暴れるヴィランたち、いつ起こるかわからない厄災、日本は理不尽にまみれている。そんな理不尽を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったのならばお生憎、雄英はこの3年間、君たちに苦難を与え続ける。さらに向こうへ、Plus ultraさ。全力で乗り越えてこい、ここが君らの、雄英高校ヒーロー科だ」

 

どうやらみなさんに緊張感が纏わりついてきましたねぇ。ここが最高峰なんだ! という意識がほとんどの生徒の心に刻み込まれている。もちろん私だって油断はしないし、手加減もしない。やると決めたことは絶対やるのが私のポリシーだ。二言はない。

 

 

 

────第1種目 50メートル走─────

 

 

ごく普通の50メートルの距離。おかしいとこといったら、記録を計測するやつがロボットだということか。もう、ロボットとかみたくない。

 

「イチニツイテ..........」

 

ロボットが喋ったぞ.....、片言だけど。そろそろターミネーター的なことが起こっても不思議じゃねぇぞ。今度会ったらそそのかしてみようかな。

 

「ヨーイ.....」

 

さて、そろそろ走るとしましょう。目標は0.0001秒、頑張ってノーモーションで能力を発動させよう。

 

「ドンッ」 ブゥゥゥン カチッ

 

時止めはやはり強い。時間系能力持ちと張り合うには同じ時間系でなければならない、て言われるのは納得しちゃうね。使う人の技術も加わってくるが、時間系能力を持ってない人は私の敵ではない。いやぁ便利だなぁ。

 

私は測定機の前に立ち、時を流れを元に戻す。すると、世界は何事もなかったかのごとく進んでゆく。

 

「ピッ 0.0066ビョウ」

 

うーん、素の思考速度だとやはり限界があるな。思考速度を何倍にも引き伸ばすことは可能だけど、その能力を使うまでに時間がかかるんだよね。だから今みたいに素の思考速度でなるべくいろいろ考えようとしているんだが、難しい。

 

「おい、魔理沙。心の声漏れてる!」

 

同じクラスメイトの切島くんがサラッと教えてくれた。あれ? 全部漏れた? ついに私も緑谷くんブツブツ症候群に........ッ!!

 

さぁどんどんいくぞぉーーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

─────第2種目 握力測定──────

 

 

 

これはあれだな、脳筋個性を使うべきだな。誰でもわかると思うけどね。

 

私は個性『ワンフォーオール』、『怪力乱心を持つ程度の能力』を発動させる。これくらいやっとけば大抵のものはバリバリと..........、あっ、やべ.....。

 

そこにはぐしゃぐしゃに丸められた元握力測定器があった。トン単位で測れる握力測定器も結依魔理沙の前では無意味である。だってこんなん、消しゴムちぎるくらい簡単だったから.....、仕方ないでしょーが!!!

 

逆ギレした私は元握力測定器を相澤先生に無言で渡した後、次の測定場所に移動しようとしていた。が、後ろからなんか面白そうな話が聞こえそうなので、首を180度回転させて耳を傾けた。

 

「540キロってあんたゴリラ!? はっ、タコかぁ。」

 

「タコって.....、エロいよねぇ.........」

 

握力測定で540キロを出した障子目蔵とそれに驚く瀬呂範太、そして原作と変わらない峰田実が会話していた。なんだろう。よくわからん破壊衝動がマイハートを襲っている。誰かが私の心に呼びかけている、「峰田をぶっ飛ばせ」.....と。

 

私はゆっくりと峰田に近づく。獲物を逃さぬよう慎重に、確実に。もうこの衝動は抑えられない、峰田よ覚悟しろ。

 

「あっ、怪力ゴリr」

 

峰田が何かを言いかけた途端、峰田の背後に瞬間移動し、グレープ頭を鷲掴みし、空へ軽くぶん投げた。

 

「そぉい!!」

 

「「えええええええええええええ!?!?」」

 

峰田がいったい何をしたというのか。いや、こいつはこの小説で使ってはいけない単語のひとつ、「エロい」を使ったのだ。こいつがエロいエロい言うと私のスマホで『え』を打つと予測変換で勝手に出てくるからやめてほしい。それを私は未然にふせ........げなかったが、次は絶対防いでやる。

 

割れた窓ガラスを修復し、峰田を座標移動と物体ワープを応用した回収法(昔、爆豪を吹っ飛ばしたときに使った)で見事回収。頭から出血してたが気にしない、「こぇえよ、オイラこえぇよ」って延々と言い続けているのが聞こえた気がするがそれも気にしない。周りが唖然としているのも全く気にしないかんな!

 

続く!

 

 

 

 

 





なんでもいうこと聞いてくれないけどかわりに暴走する魔理沙ちゃん という歌があったら歌う。

いろいろ紹介

暗殺教室:ある日、月の7割を消し飛ばした超生物『殺せんせー』が椚ヶ丘中学校の3年E組の担任教師になるという要望を政府に出した。政府はその要望を受け入れ、3年E組の生徒達に『殺せんせーの暗殺』を依頼する、というアニメ・漫画。大好き。

アナ雪:ディズニー映画『アナと雪の女王』の略。ハハッ、モウニゲラレナイゾッ!!

念の為、ヒロアカキャラもここで紹介しよう。

緑谷出久:結依魔理沙の幼なじみのひとり。元は無個性だが、ナンバーワンヒーロー『オールマイト』から個性を受け継いだ。やる時はやる男。なお、魔理沙に魔改造を施されたもよう。

爆豪勝己:結依魔理沙の幼なじみのひとり。魔理沙に吹き飛ばされて、緑谷と個性なしで乱闘したことによって原作より大人しい。でも自尊心は残っているので、大抵の人は見下す傾向にある。個性は『爆破』、手からニトロのような汗をだし、それを起爆させることができる。また、現在は緑谷がなぜ雄英に入学できたのかについて疑問を感じている。

切島鋭児郎:結依魔理沙の初友達。いずれはクラスの輪をつくるポジションになる男。コミュ力が高いが、昔は幼なじみの芦戸三奈に劣等感を感じていたもよう。個性は『硬化』、めちゃ硬いらしい。

芦戸三奈:切島鋭児郎の幼なじみ。エイリアン風の見た目で肌はピンクである。個性は『酸』、元気ハツラツでお胸の発育がよろしい。可愛い。

障子目蔵:個性は『複製椀』、肩から生えた2対の触手の先端に、自分の体の器官を複製できる能力をもつ。非常に仲間思いな性格らしい。

瀬呂範太:個性は『テープ』、両肘からセロハンテープみたいなのを出す。セロハンテープなだけに用途は広い。顔は某自転車漫画のあの人に似てる気がする。関係ないが、瀬呂範太って呼び方.....語呂が良くて言いやすい件について。

峰田実:変態1号。エロを求めるキャラはどうやらどの漫画にもだいたいいるっぽい。ジャンプ漫画には大抵いる説。個性は『もぎもぎ』、頭から謎の紫色の丸い物体をもぎもぎできる。ちなみにその謎の物体は峰田以外が触るとくっつくらしい。調子良ければ一日中くっつく。

相澤先生:ヒーロー名『イレイザーヘッド』、普通の名前は『相澤消太』。個性は『抹消』、見た相手の個性を抹消することができる。合理主義者で、時間を無駄にするのが嫌いらしい。魔理沙のことは、「扱いづらい生徒」と思っている。


テスト終わったぜ(二重の意味で)。






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個性把握テストとかいう、学校内で腕相撲のチャンピオンを決める的なアレ 後編(17話)




カラオケに行きたい今日この頃。歌うのはもちろん、東方ボーカルだぜ。魂音泉がさいきょーの壁さ!

ではスタートです。






 

 

 

 

────第3種目 立ち幅跳び────

 

 

立ち幅跳びでは飛んだ後は何しても許されるが、飛ぶ動作をしなければ得点にならないらしい。つまり、ジャンプせずに瞬間移動するのはダメということだ。じゃあ、ジャンプしてから瞬間移動すればオーケーということなんだが、流石に同じことをやるのはなんだか面白みがない。よし、決めた。

 

私は座禅の状態で目をつむり、手をへそのあたりにもっていった。そしてその状態をキープしつつぴょんぴょんと跳ねる。するとどうでしょう、なんと体が浮いたではありませんか。この力はどうやら人間が体得した技らしく、体得した人の名前は確か......えーっと、あさ、あさ、麻原彰......、これ以上は言ってはいけない気がする。

 

ふい〜っと座禅のまま浮いていたら、相澤先生が私の肩を掴んで止めた。

 

「結依、その状態でどこまで飛んでいける?」

 

「どこまでもです」

 

「..........、わかった。もう降りろ」

 

なんだか相澤先生が呆れているようだ。というか、飛び方がキモすぎたのも原因のひとつかもしれないな。でもいいや。

 

記録は測定不能、とりあえずノルマ達成である。

 

 

 

 

────第4種目 ボール投げ────

 

 

私はすでに∞を出したのでこれ以上やってもどうしようもないからやらぬ。今は私の教え子である緑谷くんの記録を見てみよう。ちなみに緑谷くんは50メートル走は私の弾幕を避ける訓練が生きた結果5.42秒だった。握力は障子くんほどまではいかないが150キロくらいいってたはず。3種目の立ち幅跳びは自然にワンフォーオールを5%ほど使うことに成功し、20メートルちょい跳んでいた。なかなかいい感じである。でも、そろそろワンフォーオールの使い方をもっと詳しく教えてあげよう。土日とかに呼び出すか。

 

「師匠と特訓したおかげでオールマイトの個性を引き出すことができたけど、このままじゃかっちゃんや師匠に追いつくことなんてできない! もっと個性を引き出さないと.......!」

 

どうやら悩んでいる様子。だがここであえて教えることはしない。失敗するにしても成功するにしても、自分で考えるということが最も重要なのだから。努力家の緑谷くんならきっと答えを出せると、私は信じているさ。

 

しかし、師匠呼びには全然慣れない魔理沙であった。

 

「スマアアアアアアアアッシュ!!!!」

 

緑谷くんは考えた。もし、片手に全パワーを込めて投げたのならば、驚異的な記録が出ることは目に見えている。しかし、それは自分が他の人たちに助けてもらえるという甘えからきた判断となんら変わらない。しかし、今の僕は足なら自然にワンフォーオールを調節できるけど、腕はまだ調節出来ない。つまり、このボール投げで腕が壊れるのは確定ということ。ならば、なるべく反動を最小限に抑えつつ、最大限の利益を得よう! それが今の僕にできる唯一の方法だ!

 

緑谷くんは指にだけ全力を込めて、空に向かってボールを打ち出した。

 

ボールは天に向かって加速していき、遥か遠くまで吹き飛んでいった。

 

「810.3メートル」

 

オオオオオオオオオ!!! とA組全体で歓声があがり、緑谷くんも個性の反動の痛みに堪えつつもなんとか踏ん張っていた。てっきり原作どおり思いっきりぶん投げるかと思いきやそうでもなかった。まさか一発でそれを思いつくなんて。

 

「おい、デク」

 

爆豪が険しい顔つきで緑谷くんを睨みつける。爆豪は緑谷くんの秘密を知らないため、なぜデクが雄英に合格できたのか疑問に思っていた。別に合格したことに腹を立てているわけではない、しかし個性のない人間にはほぼほぼ不可能に近いあの受験をどうやって攻略したのかがずっと気になっていた。がしかし、このテストで理解した。デクは個性を持っていた、それがわかればもう何も考えなくていい。問いただすだけだ。

 

「か.....かっちゃん.....」

 

緑谷くんはこうなるだろうと考えてはいた。しかし、どう言い訳すればいいのかわからずにいた。本当のことを言うわけにはいかないし、嘘をつけばバレた後が危険すぎる。ゆっくり慎重に考えたくても時間がない。どうすれば.....。

 

「お前、俺に個性を隠してたnん!?」

 

「はい、落ちつこーね爆豪きゅん。事情は後で私が教えてあげるから今は脳みそを冷やそうか」

 

「はなせこのボサボサ野郎!! つかさらっと関節技キメにいくnaあだだだだだだだだ!!!!」

 

爆豪にコブラツイストをキメた結依魔理沙。相手を落ちつかせるには関節技が最適って近所のおばあさんが言っていた。恨むなよ爆豪!

 

「遊ぶなお前ら。合理性に欠ける」

 

相澤先生の捕縛武器が生徒二人を捕らえ、そのまま2人まとめて動けないように縛った。

 

「はなせクソがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「先生、これ解いていいですか。 隣の爆裂頭がうるさいのでほどいていいですか。ねぇ、ほどいていいのこれ」

 

とりあえず軽く個性『炸裂』を使って布を切ろうとしたが何故か個性が発動しなかった。めんどくさいはこっちのセリフだぜ相澤先生。お前の個性のほうがめんどくさすぎるわ! あとで髪の毛を5、6本食ってやる。

 

「まさか相澤先生の正体って.....、抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』? 個性を消す個性の.....!!」

 

イレイザーヘッド? 誰それ? という声がチラホラあがっているが緑谷くんの正解である。相澤先生の正体は抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』、本名は相澤消太。「仕事に差し支える」という理由でメディアに出るのを嫌っているから認知度が低いけど、ヒーロー業界では有名なほうらしい。個性は『抹消』、見た相手の個性を一時的に使えなくする個性。私がめんどくさいといったのはこの個性で、使われると大半の能力が使えなくなるだよこの野郎(ただし、魔理沙の場合は多次元結界を張ることで遮断できる)。

 

「じゃ、続きやるぞ」

 

 

 

こうして、その後も順調に種目をこなしたのであった。

 

「これから8種目全てのトータルを表示する。1人ずつ順番に言っていくほど時間はないから、一括開示でいく。」

 

ゴクリ.....、と全員が唾を飲み込む。いや、八百万百......、通称ももちゃんと轟くんと爆豪と最凶災厄の私以外がドキドキしていたな。自信家はちょっとやそっとじゃブレないことがわかったぜ。

 

そして開示された記録の結果、私はもちろんのことナンバーワンを獲得。最下位は峰田実らしく、察するに緑谷くんはその後も頑張ったっぽい。基礎ができてるという証拠だ、やはり私の青春的特訓は間違っていなかったぜ。流行らないかな。そして有名になってちやほやされたい。

 

「ちなみに除籍は嘘な」

 

相澤先生がサラッと告げた。はぁ!? という声が広がっていたがももちゃんが「あんなの嘘に決まってますわ」と冷静な顔で言いはなち、見事に場が治まった。流石、今期副委員長(予定)、だが相澤先生の除籍の話はガチだぞ。あの先生はやるときはやる男だからな。

 

「結依、放課後に職員室こい」

 

みんなが本校舎に帰ろうとしているときに、相澤先生が私に言った。聞くとしたら多分、個性の件で間違いないだろう。

 

「わかりました」

 

軽く返事を返し、私も校舎に帰ろうとする。だがそれを許さない人がもう1人いた。

 

「おいボサボサ。なんでデクが個性をもってんのか話せ」

 

ほんと言葉遣いが変わらんなこの爆破野郎め。でもあとで教えるって言っちゃったもんなぁ。仕方あるまい。

 

「はぁ、仕方ない、約束通り教えるとしましょう。なぁ、ヘドロ事件のことを覚えてるか?」

 

「........チッ、あんときかよ」

 

なんだか嫌そうな顔をしてそっぽを向く爆豪少年。どうやらあまり思い出したくないやつらしい。いや、どっちかというとあの時の自分の立場が解せなかったのかな。ほんと丸くなったね。

「あの時にオールマイトがいただろ? そのオールマイトが緑谷くんの行動力に感動しちゃってな、いろんな理由があって緑谷くんはオールマイトから個性を受け継いだんだよ」

 

「個性を......? オールマイトから......?」

 

爆豪はその事実に衝撃を受けていた。しかし、これならあのデクがとんでもないパワーを出せることについて納得できるし、腕が壊れるのもその力の制御が全くできていないと考えれば疑問も晴れる。しかし、爆豪にとってそんなことはどうでもよかった。一番の問題はそこじゃない。

 

「なんで.....、なんで俺じゃなくてデクが.....!」

 

「お前に知らせなかったのは悪いとは思った。けどお前がチンたらしている時にあいつは常にお人好しな性格をずっと持ち続けた挙句、私の地獄の特訓を血反吐ぶちまけるくらい一生懸命こなしていたんだ。オールマイトの個性を偶然受け継いだわけじゃあねぇ、あいつの努力と気合いと運が全て繋がった結果だ。いいか? お前は今年に入った時点で緑谷に追い越されたんだよ」

 

ちょっとキツく言い過ぎたかもしれない。けど、ハッキリ言っておかないとこいつはダメなタイプだと私が判断した以上、言わざるを得ない。だから言う。

 

「そんなはずはねぇ.....、あんな石ころに....ッ!」

 

やはり、本音は変わってなかったか。いや、昔の出来事だったから風化したんんだろう。幼稚園のころ、爆豪と緑谷くんが個性無しの殴り合いをして以来、爆豪が緑谷くんのことを少し認めたような感じの雰囲気は出ていた。けど、多分、爆豪の心には「俺は個性を使えるからデクなんかに負けるわけがない」という心情が残っていたからこそあんな雰囲気を出せたのだろう。しかし、今の緑谷くんは憧れであるオールマイトの弟子のような立場にたっていて、その上個性も受け継いだ。いつも自分の後ろを追っていたはずの幼なじみは、いつの間にか自分のすぐそばまで迫っていた。そんなことを許せるほど、爆豪のプライドは安くはない。しかし、認めなければならない点もあるのも事実。認められない現実と幼なじみのある意味裏切りに近い行為に心を狂わされた爆豪は、まるで空気の抜けた風船のように、萎んでいた。

 

「で? どうする? このままの状態だと緑谷くんに少しずつ差をつけられるのは目に見えているぞ。それでもいいのか、傲慢の爆豪くん?」

 

「傲慢がなんだよ......、少しは考えさせろ」

 

「はぁ、普通の爆豪ならな、『デクもオールマイトも全部ぶっ飛ばして、ナンバーワンヒーローになる!!』って言うのが常識なんだよ。余程ショックだったのかな爆豪さんよぉ」

 

「何がいいたいんだクソうるせぇボサボサ野郎」

 

「いや、ごめん、そこまで拗ねるとは思わなかった。けどな、お前はオールマイトになるのが夢なのか? 緑谷はそんな感じだったけど、お前は緑谷と同じなのか? そこんとこはっきりしねぇと前に進めねぇぞ」

 

「..........違う」

 

「じゃあお前が目指すヒーロー像はなんだ? 言ってみろ」

 

「俺は....、俺は、あのオールマイトすら超えた最強のヒーローになるんだ」

 

「だよな。じゃあその前座である緑谷くんなんかで心折れる必要は無いよな?」

 

爆豪の目の色が変わったように見えた。あれは、何かを決意したやつの目だ。

 

「あぁ、そうか。最初っから分かりきってたことじゃねぇか。デクがどんな個性を持っていたとしても、俺には勝てねぇんだ。なぜなら....デクが上に這い上がろうとして必死にもがいても、俺がさらにその上に君臨するだけだからだ。ただそれだけだ」

 

「もう大丈夫か?」

 

「てめぇに心配されほど俺はやわじゃねぇ。あとなぁ」

 

爆豪の両手から小爆発が!! こっ、これは!

 

「俺を煽るんじゃねええええええええ!!!!!」

 

「わー、にっげろー」

 

迫り来る爆破系ハンター爆豪勝己と逃走者の結依魔理沙の戦いが次の授業が始まるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───── 放課後 ─────

 

さて、相澤先生の呼び出しがあったな。そろそろ向かうとしよう。

 

「ねぇねぇ! 魔理ちゃんの個性って一体なんなのー!」

 

お、コミュ力お化けの芦戸三奈が話しかけてくれたぜ。嬉しいけどあまり長く話すとアレだな。手短に.....

 

「だから! あんな凄いパワーなんだから強化系に決まってるって!」

 

「いや、50メートル走で一瞬でゴールしていたから、ワープ系の個性に違いない。」

 

「でも立ち幅跳びの時は宙に浮いていたよな」

 

「オイラを投げ飛ばすゴリラなんだから絶対強化系だ!」

 

「師匠はなんでもできるよ!」

 

「.....、そんなわけで今、魔理ちゃんの個性について話してたんだよー。みんな熱くなっちゃってねぇ」

 

あ、あ、へぇー、私の個性議論してたのね。後ろで何話してんのかと思ったらそんなことだったのか。で、答えを知ろうとして直接聞いたということか。へぇー。

 

「わかったよ。私の個性について軽く教えるとしよう」

 

そう告げたとたん、クラスのほとんどが一斉に振り向いて

 

「「「「「ホント!?」」」」」

 

とかいいやがった。何だこの連携プレーは。もはや芸だよ。

 

「あ、うん。相澤先生に呼び出しくらってるから手短に話すから。えー、私の個性は『食べた相手の能力を死ぬまでパクる』個性でね。超パワーやワープ、空中浮遊ができるのはそういうことなのさ。」

 

シーンと静まりかえる教室。そして次に開いた言葉は......

 

「チートだな」

 

「いろいろおかしい」

 

「せこくね?」

 

「もしかして透明化とか全ての物が透けて見える個性とかあるのか!? あったらオイラにくれええええええ!!」

 

「魔理ちゃん凄い」

 

「流石師匠!」

 

であった。はい、一人変態がいたけどだいたい予想通りの反応だった。けど、もう少し驚いてもいいと思うのに。

 

「もう少し驚いてもいいんじゃない?」

 

「いや、驚くとかそういうレベルじゃない」

 

冷静にツッコミを入れた切島くん。俺も薄々感じてはいるんだぜ。これ、原作の異形魔理沙より厄介になっている気がすると.....。

 

「あー、まぁそういうことなんで、これから3年間よろしくな!」

 

よし、終わりよければ全てよし。綺麗にまとめられたからよし。さあ、相澤先生との面談の時間だ!

 

教室から出ようする途中で何人からか髪の毛を抜き取り、それを食べつつドアをでた。色から判断するに、芦戸っちとももちゃんと砂藤力道だな。え? 黒髪は判断できねぇだろって? 私の視力は53万です。

 

私の話で盛り上がった教室を置き去りにして、私は職員室に向かった。

 

 

 

 

 




けっこー絡みました。さぁ、次の緑谷くんVS爆豪の戦いが楽しみだなぁ!

いろいろ紹介

麻原彰晃:オウム真理教の尊師。これ以上は言わないぜ! なんかハーメルンで言ってはいけない気がするぜ!

個性『炸裂』:幼稚園のころに手に入れた。(第3話くらいの時)

相澤先生の捕縛武器:なんであんな伸びるんでしょうね。個性『抹消』で髪の毛が逆立つのは百歩譲ってアリだとしても、武器が伸びるってどういうことなんだ...、投げているのか? の割にはくねくねしている気がするのだが。

ハンターと逃走者:見つかったァ..... デーン!テンテテンテテン!



To Be Continued.....


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いろいろと長くなりすぎて話が進まない件(18話)

すみません、タイトルの通り長くなりすぎて話が進みませんでした! 申し訳ございませんでした!

止まるんじゃねぇぞ


 

前回、個性把握テストで散々暴れたあと、相澤先生の呼び出しをくらって職員室にいる。十中八九個性の話だろう。普通は1人につき1つまたは2つの個性を持っているのがこの僕のヒーローアカデミアの世界。だがしかし、私はどうだろうか。『魔法・スキル』と『個性』の両方もちだし、属性能力、概念干渉能力、バフ系能力、デバフ系能力、427万の変身能力、耐性、結界、etc.....。ほぼ全ての能力を兼ね備えた存在であることは間違いないだろう。正直、生まれたころからずっと檻の中にいたっておかしくはないのだ。あーもう自慢はいいや、一つ言えることがあるとするならば、相澤先生は今日から胃腸薬を毎日買う必要があるということだな。

 

「失礼しまーす」

 

雄英の職員室広いなぁ。そんじょそこらの小・中学校の比じゃないわ。大学レベルの広さだぜここ。というか日本ってこんなに予算とか土地面積とかあったっけ? ヒロアカ七不思議のひとつなんじゃないかなこれ。

 

「こっちだ結依、はやくこい」

 

相変わらず寝袋に入ったまま仕事する相澤先生。なんだかキューピーマヨネーズを思い出してしまったよ。というか机は意外と綺麗なんだね。てっきりごちゃごちゃしてるかと思ったよ。

 

「結依、お前の個性は『人の個性を手に入れて行使する』個性だな? 具体的にどうやって個性を手に入れるか、今どんな個性を持っているかを簡単に説明してくれ」

 

うわぉ、これが単刀直入ってやつですね。流石合理主義の人は行動力があるぜ。

 

「あの、なぜ私の個性をそこまで知りたいのですか?」

 

見当はついているけど一応聞いてみる。

 

「雄英高校は一人一人が自分の個性をより引き出すために試験や訓練をお前達に用意するからだ。先生は生徒の個性や性格を知らなくては、それに合わせた訓練メニューを組むことができない。そういうわけだ」

 

まぁここで言わないと、のちの雄英体育祭の時の手続きがめんどくさくなるからね。こちらとしてもラッキーということだ。

 

「なるほど、了解しました。えっとですね、私は相手の体の一部を摂取さえすればOKな感じですね。だから、基本的には人の髪の毛を食べて、個性を獲得します。はい。」

 

でも生まれた時から既にチート能力が存在していたから、私の個性の名前をつけるなら『アニメ・漫画・ゲーム・小説(ラノベ)に存在するほとんどの能力を行使できる』個性といっても過言じゃないんだよな。まぁ、ちゃんと能力の名前とその効果を覚えてないと行使できないというのが弱点かな。あとチート能力は5つまでなら同時に発動可能でそれ以上重ねると脳にダメージがいくくらいか。

 

お、相澤先生がメモメモしてるぜ。なんだか有名人になった気分だ。ほんの少しだけだが。

 

「それでですね、えーっと今ある個性はですね。」

 

これ言う? 多すぎるし、中には説明されても理解できない能力も普通にあるんだぜ? 自分ですらナニイッテイルカワカリマセーン状態なのにそれを人に説明しろと言われてもどうしようもない。

 

「どうした結依? なんで黙ってる」

 

「あ、あの多すぎるんで、明日、私の個性をまとめた本を渡すんで、それでいいでしょうか?」

 

「わかった。なるべく早く頼む」

 

なんとか言い逃れできたが、これは徹夜確定コースだぞ。思考加速10万倍でやれば実際にかかる時間は3分程度で済むけど、精神的には半年かかるくらいの時間の長さ。地獄や、我は地獄の扉を開いてしまった。

 

「はーい、わかりましたー」

 

絶望を覆い隠して笑顔で対応した私は、帰り道でため息を思いっきりついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

───── 次の日 ─────

 

 

「あー、あー、あー、あー」

 

「どうしたのよ、そんな廃人みたいな声を出して」

 

あーもう、二度とやらん。二度と自分の個性の本なんてつくらん。もう何日過ぎていたか覚えてないんだけど。時止めて睡眠とろうかな、それやったら次の日全身筋肉痛になるから止めるか。

 

「かーさんにはりかいできないつらさがまよなかにおきたんだーよ」

 

「夜更かしでもしたの? 早く寝ないとお肌が荒れるわよ」

 

「夜更かしなんてレベルじゃねーよ!!!」

 

ありゃもう超ブラック企業だ、教師よりブラックだよ。思考加速10万倍で半年以上かかるってどんだけ能力あるんだよ私の馬鹿野郎。あー、眠い。眠すぎる。とにかく自分の耐性スキルをオンにしてこの怠惰なループから脱出しよう。

 

「わかったからはやく朝ごはん食べちゃいなさい」

 

「あーい」

 

さて、朝ごはん食い終わったらどうしようか。こっそりヴィランを2,3人ボコボコにしてから登校するとしよう。今の私なら証拠なんて世界中からひとつ残らず消せるから多分、いけるはずだ。ストレス発散のために使わせろや、ヴィラン共。

 

その後、10人ほどの指名手配されているヴィランが街の広場のど真ん中に意識不明の重体で倒れているという謎の事件が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

「じゃ、この英文の間違っているところを答えて」

 

「ZZZZzzzzzzzzzzzz........」

 

雄英高校ヒーロー科の午前は普通に授業を行う。今日の1時間目はプレゼントマイクによる英語の授業だ。だが、結依魔理沙は朝のヴィラン退治(ストレス発散)による精神的疲れが自分の耐性を突き抜け、眠気に絶賛襲われていた。

 

「Hey! 魔理沙ガール! 寝ている暇なんかないぜ! こうしている間に俺のエキセントリックなライブが終わっちまうぞぉ!!」

 

なんて意味不明な供述を述べた後、なんと白チョークを魔理沙にぶん投げた! 古典的ではあるが、目覚めは良さそうだ。

 

しかし、白チョークは魔理沙のATフィールドによって見事はね返された。が、目は覚めたようだ。

 

((なんかバリア出た))

 

「誰だよ、私の素晴らしい時間を邪魔しt」

 

「魔理沙くん! 雄英の先生方による素晴らしい授業を無視するだけでなく、堂々と惰眠を貪るのは、先生方に不敬だとはおもわないのか!」

 

「やめてくれ飯田くん。目覚めてすぐの頭はすごくズキズキするんだよ、もっと豆腐並みに柔らかい言葉で喋ってくれ」

仕方ない、ユニークスキル『大賢者』とその他演算系スキルよ、全自動モードに切り替えてくれ。私はちょっと意識を手放す。昼飯時に起こしてくれ。

 

〔了解しました〕

 

あぁ、意識が薄れて..........

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

ふぅ、スッキリしたぜ。やっと休憩がとれたって感じだな。あ、ちなみに授業内容は自動的に脳に記録されてるからみんなに置いてかれることはないぜ。

 

今はちょうどランチタイムといったところか。雄英の食堂はとんでもない行列ができるほどのおいしい料理が格安で提供されるからな、人が多くて鬱陶しいぜ。だから基本的に私は自作の弁当を持ってきている。今回はモンハン世界から持ってきた食材で弁当を作ってみたんだが、うん、見た目がアレなんだよなぁ。唯一、成功したと言えるものがあるとしたら、ガーグァの卵からつくった玉子焼きなんだよなぁ。他のやつも味はいけるっちゃいけるんだけど、特にフルフルのガーリックソテーとか見た目が白い肉塊でキモイんだよね。肉は柔らかくて味もよくしみ込むからいいんだけど、見た目がなぁ....。

 

「隣、いいか?」

 

「うぇっ!? あっ、あぁいいけど。」

 

やべ、驚いてうっかり変な声が出てしまった。隣に来たのは雄英高校推薦合格者4人の内の1人、轟焦凍(とどろきしょうと)。No.2ヒーローの『エンデヴァー』の息子で、なんか有名人だった気がする。何しに来たのだろうか。

 

「....自己紹介がまだだったな。俺は轟焦凍、エンデヴァーの息子っていったら、わかるか?」

 

「ごめん、知らない」

 

「........、そうか。」

 

すまん、知ってるけどあえて言わなかった。言ったらなんかめんどくさくなりそうだし......。というか、この人はなんで自分の嫌いな人の名前を自己紹介に使うのかな? おっと、これはネタバレかな。

 

「で? そのエンデヴァーの息子さんが私になんの用かな?」

 

ちょっと嫌味たらしく言ってみた。

 

「あぁ、そうだった。お前にひとつ言いたいことがあってな。」

 

「へぇー」

 

何かしたかな? まさか初手から宣戦布告かな?

 

「轟冬美、俺の姉さんを助けてくれてありがとう。俺からも言っておこうと思ってた。」

 

轟.....、冬美? えーっと、えーっと、あっ! 私が幼稚園の時に、変なヤクザに絡まれてた人か!

 

「あー! はいはいあの時の件ね! いえいえどうしまして! いやほんと懐かしいなぁ、確か初めてヴィランと戦ったのもあの日だったなぁ。ヴィラン倒した後に自分がぶっ倒れて、それを君のお姉さんが病院につれてって看病してくれたんだよ。こっちも世話になったから、お互い様だな! ありがとう!」

 

「ちょっと待て、お前、ヴィランと戦ったのか? 姉さんはそんなこと俺に言ってなかったぞ」

 

あ、やべ。つい口がすべってしまった。あんまり口外しちゃいけないことなのに、ついつい興奮して暴露してもうた。あかん。

 

「じっ、実はですねぇ、かくかくしかじか」

 

「かく.....? 何言ってんだお前」

 

え? 文面でこれが出たら大抵の過去話を吹っ飛ばすことができる最強の秘奥義じゃねーの? え? 違うの?

 

「え、あ、まぁその、はい、戦った。うん。」

 

かくかくしかじかが不発したことで少しペースを崩されたが、持ち直して過去話をする。執行猶予は言わないほうがいいだろう、絶対引かれる。

 

「お前、それ完全に犯罪だよな」

 

ぎくっ

 

「警察が訪問してきてもおかしくねぇぞ」

 

ぎくぎくっ

 

「というかもう来たんじゃないのか?」

 

ぎくぎくぎくぅ!!!

 

「見逃してください轟焦凍様。お願いっす、私に慈悲をください。なんならあなたのお望みをひとつ叶えてもいいっす」

 

「別にバラしたりはしないけど、バレたら味方できないからな?」

 

「多分、バレない!」

 

大量のスキルが自身の源なのか、ドヤ顔で言い放った結依魔理沙。しかし、完全にフラグである。

 

「そろそろ授業が始まるから戻るぞ」

 

「そだね」

 

次は確かヒーロー基礎学だったな。暴れがいがありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

「わーたーしーがぁーーー!!!」

 

「普通にドアから来たぁ!!!!」

 

来たよ筋肉の使者『オールマイト』。チッ、ほんとに教師になっていやがったぜ。でも、なんだか久しぶりだなー、合格発表以来見てなかったな。あ、でも個性把握テストの時は隠れて緑谷くんをストーキングしてたのは知ってる。

 

「さっそくだが、今日やる訓練はコレ! 戦闘訓練!」

 

お、おおおー!

 

「さらにそれにともなって! 入学前に送ってもらった個性届と、本人の要望にそって誂えたコスチューム!」

 

おおおおおおおおおお!!!!

 

「さぁコスチュームに着替えて、グラウンドに集合だ!」

 

 

 

そうだ、ひとつ言い忘れていたことがあった。私は私のコスチュームの要望は出さなかった。なぜって? コスチュームの制作会社が私のえげつない量の個性に耐えうるスーツなんて作れるわけなかろう。逆に作れたらな、この世で1番強いやつが決定してしまう.....!

 

というわけで、私のコスチュームについて説明しよう! 素材はなるべく全属性に対する耐性を持ちつつ、かつ裂傷や劣化などしないほどの耐久性と持続性を持っていて、さらに体がどんな姿に変形してもそれに合わせる調整機能が必須と考えた。.....これって、自分を素材にするしか方法がないと思ったけど、それだとロマンが感じられない。だから、能力を付加しました。はい。全属性耐性、サイズ調整系アイテム、アイテム・装備破壊不可、情報処理能力強化、能力循環率アップ、常時多次元結界etc、これで完璧なのだ。ちなみに服はぼろぼろの魔法使いのローブととんがり帽子、どうみても異形魔理沙と言える姿になった。

 

さて着替えたことだし、そろそろグラウンドに行こう。

 

 

 

 

 

 

いやはや、みんな個性的な服なこった。ま、私も人のこと言えないけどな! そして、ももちゃんよ.....、エロ過ぎないかそれ? 男子みんなドギマギしそうなんだが.....。ほら峰田なんか鼻血たれてやがる。

 

「あなたは確か.....、魔理沙...ちゃんでいいのよね?」

 

おっ、この人は

 

「私は蛙吹梅雨(あすいつゆ)よ。よろしくね」

 

「よろしくね、蛙吹さん」

 

あれ? 「梅雨ちゃんと呼んで♡」がないゾ。あれ?

 

「あの、私、思ったことは何でもいっちゃうのだけど、あなたのコスチューム、すごく魔女っぽいわ」

 

あ、うん。知らない人なら絶対気になる質問が来た。

 

「あー、そのね、なんかね、可愛いから!//」

 

ダメだ、何も浮かばなかった。でも、この返しは間違ってはいないはず。可愛いは正義、つまり人それぞれの正義があるってことだ。みんな違ってみんないいのだ。のだぁーーー!!!

 

「魔理沙ちゃんは少し変わっているのね」

 

ぐァぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁぁあ!!!!!!!!

 

ま、それはさておき、今回の戦闘訓練を軽く説明しよう。まず2人組のチームをクジで決める。そして、ヒーローチームとヴィランチームに別れてチームバトルをする。ヒーローチームの勝利条件は核にタッチするか、ヴィランチームを全員捕まえるか。逆にヴィランチームは時間までに核を保守すればOKというルール。この訓練で重要なことはまず、「核を保有していること」「屋内であること」「相手の個性を把握しきれてないこと」とかそんな感じだと私は思う。だから、引火するような能力は使えないし、範囲攻撃も控えめにしなければならないし、迂闊に飛び出すこともあまりできない、ということだ。しかし、この問題を全てクリアする方法がある。それは「核が全ての干渉を受けない状態」であれば炎を使っても、範囲攻撃バンバンやってもオールオーケーだということだ。まぁ、私は何でもできるから何でもいいや。

 

「今からチームをクジで決めるぞ!」

 

えーっと、私はどうやら芦戸っちと一緒のDチームだな。これあれか、あの自称キラキラの立ち位置を私が奪った形なのね。キラキラ.....どきどき....、ランダムスター、うっ、頭がッ!

 

「これからヒーローチーム対ヴィランチームの戦闘訓練を行う! まず最初は.....こいつらだ!」

 

えーっと、CチームとDチームだから、私たちとえーっと、轟くんと障子くんだとッ!?

 

実技試験ナンバーワンVS推薦入学者ナンバーワンの戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




戦えなかっよおやっさん。そして、先に主人公と轟焦凍の戦いを先にしました。すみません。

いろいろ紹介

個性と魔法・スキルの違い:魔法・スキルは自身の魔力を使用するが、個性は身体機能なので体力を使う。魔法は適正にもよるが幅広い属性を使える、しかし魔力が尽きるとなにもできない。個性は体力があるかぎり行使することが可能で、異形型なら無限に使える。また、これらを総称して能力と呼ぶ。

ATフィールド:超強力なバリアみたいなもの。エヴァや使徒はみんな使える。

ガーグァ:モンスターハンターの世界にでてくる、鳥みたいなモンスター。後ろからケツを蹴ると卵を落とす。

フルフル:モンハンの世界にでてくる、白くて太くておっきいモンスター。ウ=ス異本にでてくる。

轟焦凍:雄英高校推薦入学者のひとりでクールでイケメンなやつ。個性は「半冷半熱」、マヒャデドスとメラガイアーが使える。以上。

蛙吹梅雨:カエールは(あうあ)♪ ケローケロ(あっあ)♪ あーめにもまーけずー♪ で有名な人に近い人。思ったことは何でもいっちゃう正直者で常識人でしっかりしている優等生。個性は『 カエル』、カエルっぽいことならだいたいできる。以上。

八百万百:お嬢様学校から来たお嬢様、超金持ち。個性は『創造』、自分の脂質を使って色んなものを作れる。ただし、全ての原子構造について深く知らなければ扱えない代物。チートや!



ゆっくり進むとしよう




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結依魔理沙VS轟焦凍 (19話)

死ぬがよい


☆0から☆10までの評価が全て埋まりました。ありがとうございます。 やったね! すごいね!

アニメのノーゲーム・ノーライフを全部見ました。面白かったです。リソスフェア!!






 

 

話がやっと進むぞ。というか、まだここなのか。雄英体育祭が始まった時には40話くらいいってそうだな。

 

さて、恒例の前回のあらすじといこう。ついに始まった戦闘訓練に少しワクワクしていた結依魔理沙。芦戸三奈とチームを組み、いざ戦闘訓練! しかし、相手チームはなんと轟焦凍&障子目蔵チーム! 実技試験ナンバーワンVS推薦入学者ナンバーワンの戦いが今、幕を開けようとしていた。

 

どうやら私たちがヴィランチームらしい。この戦闘訓練のルールについては前回語ったから、そちらをよろしく。とにかく、核(ハリボテだが)をずっと守ってれば私たちの勝ちだということだけわかってれば問題はない。というか、結依魔理沙に敗北の二文字は無いけどな。

 

「で、魔理沙は何か考えがあるのー?」

 

ふっふっふ、芦戸っち。そんなことを聞くなんて愚問だぜ? 相手には悪いが容赦はしない。

 

「そりゃあもちろんあるよー。まぁ見てて」

 

核の前に立ち、スっと手を添える。

 

「ATフィールド、展開ッ!」

 

そう叫ぶと、核の周りには虹色のバリアが囲うようにあらわれた。ATフィールドは並大抵の攻撃などビクともしない。内部で核がうっかり爆発したとしても、バリアは破られないだろう。それくらい強力なのだ。

 

「それって英語の時の!」

 

「そ、ATフィールド。これさえ張っとけば安心だよ芦戸っち。私以外の人が触れたら後方に思いっきり吹っ飛ぶからな!」

 

「うわぁ~」

 

まずは第一段階はクリアといったところか。あ、そろそろヒーローチームが突撃してくる時間かな? 早めに第二段階に移行するとしよう。

 

「芦戸っち、目を瞑っててくんない?」

 

「え? なんで?」

 

「いいからいいから」

 

「はーい、わかったよー」

 

さてさて、第二段階の説明をしよう。原作では確か、轟くんは初手から建物を凍らして動けなくするという作戦を使っていた。しかし、私の個性把握テストの結果や昼ごはんのときに話した内容を知っている以上、初見殺しは通用しないと考えるはず。仮にやってきたとしても、今からやる『空間操作』で少し歪めとけば外から凍らせられることはない。よって轟くんがとる作戦は多分二つ、ひとつは窓からの奇襲作戦。もうひとつは二人で正面突破。バラけたら私に瞬間移動されて各個撃破されるのは多分わかっているはず。

 

ま、何されたとしても問題は無い。なぜなら核の部屋にはたどり着けないよう空間をいじくりまくった後に、核のある場所をラスボスの部屋に改装して相手に圧をかけてやるのだ。これくらい準備すればもう相手に勝ち目はあるまい。いざというときは私が瞬間移動して、首元をトンッだ。余裕余裕。

 

くっくっく、これが魔王の笑みというものだな。

 

やることが決まった、まずは部屋の改装をしよう。私は『空間操作』と個性『創造』を使い、背景を変えよう。あと紫色の照明とかほしいから灯りは『夢想封印』の玉のひとつをくっつけておこうか。で、魔王の椅子も個性『創造』でつくって、背景の絵柄はもっとこうワンパンマンのボロスと会った場所みたいな、力の根源のような雰囲気のやつにしたらカッコイイ気がする。もちろん、ラスボスにBGMは必要不可欠だ。流すBGMは「デビルメイクライ4」の「The Time Has Come」だ。これ好き。

 

さぁ準備は整った! いつでもこいやぁ!

 

「あっ、そうだ忘れてた。目を開けていいよ、芦戸っち」

 

やべ、準備に夢中になりすぎてうっかり忘れていた。

 

「ちょっと暇だっ......てえええええ!?」

 

なんということでしょう、何も無いただの部屋が一瞬にして魔王城に早変わり。核の前には大きくて悪趣味な椅子が置かれ、壁の橋には紫色の光をだす何かが竜の石像の口にくわえられ、入口からは赤カーペットが椅子の中央に導くようにひかれている。まさにラスボスの部屋と呼べる空間に変わっていた。

 

「何これ!? 全然意味わかんない!! なんでこんな一瞬で部屋がこんなにおかしくなるの!? というかこれって訓練なの!? ほんとに訓練なの!?」

 

「訓練です。」

 

「嘘つくなァぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁあ!!」

 

〔結衣チーム、轟チーム、訓練開始です。〕

 

機械音声が私たちに開戦の合図を送る。こちらの準備は整った、なんか魔王っぽいことやりたいなぁ。何しようかなぁ。

 

結衣魔理沙の決意は満たされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───── 観戦チーム ─────

 

 

「この勝負、どっちが勝つと思う?」

 

金髪で少しチャラそうな少年、「上鳴電気」が口を開いた。

 

「結衣だろ」

 

「戦い方しだいでは轟ちゃんにも勝機はあるはずよ。」

 

「いや、結依はワープができる。一瞬でカタがつくだろう」

「でもでも轟くんだって凄いよ?」

 

「師匠に勝てる人なんていない」ガクガク

 

「「緑谷!?」」

 

観戦チームではどちらが勝つか議論を繰り広げていた。実技入試で圧倒的な結果をみせた結衣とナンバー2のヒーロー「エンデヴァー」の息子、轟焦凍の真剣勝負。この戦いを見逃すことはできまいと、ここにいる全員が感じていた。

 

「師匠は昔から凄いんだ、凄すぎて本当に怖い。もしも師匠がヒーローじゃなくてヴィランになっていたらと考えると......、怖くて夜も眠れないんだ.........。」

 

全員が唾を飲み込む。緑谷も個性把握テストではそれなりにいい成績を残していた強者であると大体の人は感じていた。しかし、その緑谷は幼なじみの結依魔理沙に圧倒的な差を感じている。それほどまでに強い彼女がヴィランになっていたらとか、考えたくもない。

 

「そうなったら、オールマイトが何とかしてくれるっしょ」

 

しょうゆ顔の瀬呂範太が口に出した。オールマイトは国民の心の支えであり、平和の象徴である。とりあえず、どんなヴィランが出てもオールマイトならなんとかできるだろうという気持ちがみんなの心の中にあったおかげか、緑谷以外はさほど恐怖を感じなかった。

 

((師匠のあてみ1発でオールマイトが気絶したことあるなんて死んでも言えない))

 

「ところで、結衣ちゃんは何をしているのかしら?」

 

モニター越しで疑問に思った蛙吹梅雨。監視カメラには結依魔理沙が部屋の改装を行っている姿が見えた。

 

「暗黒城、紫の波光、王の玉座、間違いない、これは暗黒魔戒帝王(キングオブロードダークネス)漆黒鮮血崩壊魔城(ダークネスブラッディーグラプスキャッスル)に違いない......」

 

「ごめん、何言っているかわかんない」

 

常闇踏陰の意味深なセリフにツッコミを入れる切島鋭児郎。まだお互いを知り合ってないというのに仲がよろしいことで。

 

「うわ// 一瞬で部屋が変わっちゃった!」

 

「いったいどんな個性なんだ!?」

 

驚く葉隠透と砂藤力道。部屋の改装とか訓練中でそういうことしていいのか? という疑問に満ちた1年A組の雰囲気の中で監督であるオールマイトが口を開いた。

 

「んんんぅん、時間をあまりかけずに自分にとって戦いやすい? 空間をつくったと考えると注意がしづらい......。本当にとんでもない少女だよ....」

 

呆れ気味のオールマイトの意見を聞いたみんなは納得しつつも、やはり訓練的にダメなんじゃないかと感じていた。

 

「ま、そろそろ始めるとしようか! 第1回ヒーローチームVSヴィランチーム、訓練開始!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──── ヒーローチーム ────

 

 

ブーーーーーーー!!!

 

訓練開始の合図のブザーが鳴り響き、轟達は緊張感を持ちつつ建物に潜入した。

 

「障子、お前は作戦通りに敵の場所を感知しろ」

 

「わかった。しかし本当にこれでいいのか轟? 走ったら余計に相手に気づかれるのではないか?」

 

「個性把握テストで見たんだが、アイツは50メートル走でワープをしていた。タイムラグがほとんどない、慎重に動いたらすぐ後ろを取られる。」

 

「しかし、相手はこちらの行動を感知できているとは思えないが」

 

「アイツから話を聞いたんだが、どうやら探知系の個性もあるらしい。」

 

「一番危険なのはアイツとの距離が遠すぎることだ。早く核の場所にたどり着かなければ負けるのは確実だ。」

 

〔あ、あー、聞こえる? ヒーローチーム〕

 

「放送だと?」

 

〔あー、聞こえてるようだね。〕

 

〔私だよ私、最強の魔法使いの結依魔理沙さんだよー。監督側の機械をちょーっと干渉してそっちに話してるから聞いてね〕

 

「そんなこともできるのか」

 

若干呆れ気味に言葉を返す障子目蔵。

 

〔わかってると思うがこの練習はお前らにとって不利だ、というか負け戦と言っても過言じゃない。だからさ、私がお前らを核の場所にワープさせるからそこで大人しくしてくれない? その方がこちらとしても時間を無駄にしなくて済むんだよね。あ、一応言っておくけど、もしこの要求を無視した直後、速攻でお前らはゲームオーバー。おけ?〕

 

「どうする轟?」

 

「あっちから招いてくれるのは好都合だが、ワープ先をどこにするかは結局アイツしだいだ。アイツの言っていることが本当だという確証がない。」

 

「それなら、要求を無視するか?」

 

「あぁ」

 

ヒーローチームは魔理沙の要求を無視して廊下を再び走り出した。

 

〔ま、無視しても無駄なんだけどね〕

 

魔理沙は超能力「テレポート」を使用して轟たちを強制的にワープさせた。

 

「なっ!」

 

「チッ...」

 

 

 

「やぁ、轟くん。おはよう」

 

瞳を開けるとそこは魔王城であった。薄紫の光がうっすらと照らす部屋の中、堂々と椅子の上に立って見下ろす結衣魔理沙の姿は、同じ高校一年生とは思わせないほどのオーラを体に纏い、ボロボロの服は強者の風格を漂わせ、漆黒の顔は感情を覆い隠していた。圧倒的強者の頭がおかしいやつ、それが轟焦凍の魔理沙に対する第一印象だった。

 

「どういうつもりだ」

 

「どうもこうもさっき放送で言ったじゃないか。轟焦凍のファンの皆様には申し訳ないけど、この勝負は完全にお前らの負けゲーなんだよ。だから一瞬でケリをつけるのは面白くないと思ったから場を整えて最終決戦風にして楽しもうと思っただけさ。わかる? エンデヴァーの息子さん?」

 

「どうだか。始まってもいない勝負にそこまで堂々と言えるのか俺には理解できない。」

 

そう言ってやると、アイツはため息を吐きながら言い返した。

 

「距離さえ詰めれば勝ち目はあるとか考えてるけど、甘いよ。そんなんで勝てるとは思わないでね」

 

「......、お前」

 

「そう、轟くんが何考えているかも私にはお見通しなんだよ。ま、これ以上喋っても時間の無駄だし尺の無駄遣いだからそろそろいくぞ」

 

「.....、障子、俺がアイツをなるべく抑えるからお前は隙を見て核に触れろ」

 

「承知した」

 

「芦戸っちは核の見張りをしていてね。障子くんが来たら相手をしてくれ」

 

「わ、わかった」

 

「「覚悟は決まった」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──── ヴィランチーム ────

 

 

 

私はCDプレイヤーのスイッチを入れてBGMを流した。椅子から大きくジャンプをして飛び降り、轟に飛びかかろうとする。

 

「降臨せよ、魔劍『グラム=オルタ』」

 

異次元から取り出した武器は魔劍グラム=オルタ。魔剣グラムの代替として生み出された贋作なのだが、本物を超える偽物である。これを持つと自分の体力を継続的に回復し、さらに自分の攻撃力が大幅にアップするという優れもの。ほんとは可愛い女の子に変身するけど、今は眠っているのでござんす。

 

そんな危険な武器を容赦なく轟に突きつけようと思い切り振るが、氷で上手くガードされ、氷柱で追撃を撃たれて吹き飛ばされてしまった。やれやれだわ。

 

「まだだ、王の財宝(ゲートオブバビロン)

 

次は某俺がルールさんの能力を使ってみた。無数の武器をやたらめったら出せるこの能力はストレス発散に素晴らしく効果的だ。ちなみに出している武器は全てマスターソードです。ちょっとでも触れてみろ、腕が無くなるぞ。

 

「氷の壁を貫通しているだと....ッ!?」

 

「マヒャデドスごときで私の攻撃が封じられるとでも?」

 

マスターソードの雨が次々と轟の氷の壁を貫通し、轟の肌を掠めていく。万物を等しく切り落とすマスターソードの雨とか地獄ですねはい。ん? なんでご本人に当てないのかって? オールマイトが監視している中でそんなことできるわけないじゃないか。ここはB級スプラッタ映画じゃあないぜ。というかそろそろ......

 

〔結依少女! 今すぐその攻撃を中止しなさい! 必要以上の攻撃は訓練とは言わん!〕

 

ですよね。

 

「わかりましたよっ!」

 

マスターソードの射出を止め、能力を解除した瞬間に間合いを詰めようと私は走った。が、相手もその隙を狙っていたのか、特大の氷のつららを解除と同時に投げつけてきやがった。先生、なんでマスターソードはダメで特大の氷のつららは許されるのでしょうか。

 

「ま、こんなの」

 

チート能力を高速で使用するためにいったん思考加速を使い、準備を整えてから詠唱する。

 

大嘘憑き(オールフィクション)

 

顔面スレスレまで迫っていた特大のつららは、まるで元から存在していなかったかのごとく消え去った。これが、大嘘憑き。因果律に干渉して現実を虚構へ変えるチート能力のひとつ。

 

「氷なんてなかったぁ!」

 

「一瞬で...!」

 

「さて轟くん、お前には私のとっておきのCQC(近接格闘)の技術を教えてやる」

 

轟の腕を抑えつつ、額と額をくっつけたまま脅すように言いつける。これが可愛い女の子がやってたらキマシタワーが建設されてたかもしれないが、生憎私は顔面真っ黒なんでねぇ......、怖そう(小並感)

 

「と、その前に」

 

轟の腹部を蹴り飛ばし、能力を解放。スパイダーマンの蜘蛛の糸とドンキホーテ・ドフラミンゴのイトイトの実の能力を掛け合わせたやべー糸を後ろにむかって射出した。

 

「行かせないぜ障子くん」

 

「う、動けない。しかもちぎることもできない!」

 

ふっふっふ、ウルトラマンすら身動きはとれないだろう糸で縛られたんだ貴様は。そこで大人しくしてるがよい。

 

「すまんなとどろっ!?」

 

しまった、いきなり全身凍らされてしまった。これでは身動きが.........

 

「わりぃな、茶番はこれでおしまいだゲホゴホ」

 

轟くんが私の横を通り過ぎて核の場所に向かう。なに勘違いしているんだ? まだ身動きが......、しか言っていないぞ。

 

バキィィイイイイ!!

 

派手な音と共に脱出した結衣魔理沙。そのまま大ジャンプして空中で一回転をキメる。ここから繰り出す技はあれしかねェ!

 

「邪神ちゃんドロップキィィィイイック!!!」

 

体をねじってより回転力を上げた私のドリルドロップキックは相手を等しく1発K.O.できる素晴らしい技。かのメデューサとミノスの友達の邪神ちゃんがよく使っている技を自分用にアレンジしたのだ。どこが違うのかというと......、技名のイントネーションである。

 

「それは避けられる」

 

轟が横にスライド移動して回避しようとする。しかし、そんなの私は余裕で見切っている。私は轟に避けられるギリギリのラインで空間のスキマの中に入り、轟の背後から速度を一切落とさずに突っ込む。

 

「甘い!」

 

「ぐぁっ!!」

 

見事、背中にドロップキックがぶっ刺さって轟くんは戦闘不能。残った障子くんはそのまま身動きがとれない状況が続いたため、放置した。すると、

 

〔.........、ヴィランチーム、うぃん〕

 

えぇぇー、オールマイト、テンション低っ。

 

 

 

 

 




時間がにゃい

いろいろ紹介

テレポート:ワープ系っていろいろあるよね。作品的には斉木楠雄のΨ難を意識した感じ。

魔劍グラム=オルタ:作品はブレイブソード×ブレイズソウル。SS魔剣のひとつ。欲しい。

王の財宝:Fateでお馴染みの英雄王ギルガメッシュさんのアレ。本来、射出されるのは宝具だが、魔理沙は中に複製しまくったマスターソードをポンポン入れたため出てきた。

マスターソード:ゼルダの伝説、リンクさんの常用武器。いつもお世話になっております。退魔の剣とも呼ばれ、扱えるものは勇者のみ。悪しきものは触れることさえできないとされる。なぜ結依魔理沙は使えるのだろうか。

大嘘憑き:裸エプロン先輩の過負荷(マイナスの能力)。ちなみに異形魔理沙には「大現実憑き」とよばれる能力があり、大嘘憑きとは真逆の虚構を現実にする能力である。

スパイダーマン:スパイダーマッ!

イトイトの実:作品はワンピース。糸でいろいろできる。人間も操れる。

邪神ちゃんドロップキック:技でもあり、漫画アニメのタイトルでもあるなんかヤベー奴。ATM!ATM!


遅くてごめんなさい。









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芸術は○○だ!(20話)

ついに20話突入!

UA20万突破! ありがとうございます!

誤字の指摘をしてくれた方々ありがとうございます。


あー、スッキリしたしデータもとれた。万々歳だな。腑に落ちない点と言えば観戦側のところに顔を出した途端に「何やってんだこのおバカ!!」と一斉に言われたことだ。おバカって、おバカっていったなコノヤロー!! バカって言った方がバカなんだぞバーカバーカ! って返したら、オールマイトに背中ポンポンされた。やめて、なんか自分が惨めに感じるじゃないか。

 

ふぅ、さて、それよりもだ。大事な試合がひとつ残っているのだから無駄話はやめにしよう。見聞色の覇気を持った緑谷くんと油断しない爆豪、果たしてどちらが強いんだか。緑谷くんはワンフォーオールを使わないで、CQCに持ち込むだろう。腕ぶっ壊すほどの諸刃の剣をわざわざ使う必要は無いからな。爆豪はどうだろうか、個性「爆破」を上手く緑谷にヒットさせられるかが重要になってくるな。緑谷くんは攻撃と反射速度にステータスを振っているから、紙薄な防御に爆破を4、5発ぶち込めばノックアウトだ。これはいい勝負になりそう。

 

〔第2回戦開始!〕

 

ブーーーーーーー!!!

 

お、どうやら合図のブザーが鳴ったようだな。緑谷くんたちがヒーローチーム、爆豪がヴィランチームという組み合わせは原作とはあまり変わらないようだ。ただなぁ、どちらも私の影響をばちこりと受けているからどうなるかわからん! 個人的には緑谷くんが勝ちそうなんだが、どうなることやら。

 

お、爆豪の野郎は真面目に飯田くんと作戦立てて行動してるぞ。何かの間違いなんじゃ......とか思ってしまったが答えはあっさりと出た。

 

「俺はこの訓練で勝つ上にデクとのタイマンに勝つ。だからお前の個性で全力で核を守れ、あとゴミとかガレキとかも片付けろ。あの丸顔に利用されるわけにはいかねぇ。窓ガラスも完全に封鎖しとけば奇襲もされねぇから絶対にやれ。あとは俺がやる、わかったか?」

 

「作戦としては申し分ないが君も手伝ってくれないか? 対策の準備には時間がかかるんだ。お互いに協力してこそチーム、そうだろう?」

 

「チッ」

 

ほぇー、珍しい。というか麗日ちゃんの個性覚えてたんだ、爆豪のくせに。これは緑谷くんも用心すべきだぜ? 爆豪はいつもと全然違うスタンスで緑谷を徹底的にぶっ潰すつもりだ、怒りでとち狂ったやつとは全く性質が違う。尚さら勝敗がわからなくなってきたな。

 

一方緑谷くんはというと、お決まりのブツブツタイムに入っちゃって相棒の麗日ちゃんが苦笑いしちゃってるぞ。何やってんだ我が弟子ぃ......。考えることは重要だけど決断は早めに決めないと手遅れになるぞ。現に爆豪は珍しく他人と協力してるから尚さらブツブツタイムはあかん!

 

「結依さん、どっちが勝つと思う?」

 

上鳴が私に質問してきた。あれ、お前って人にさん付けするやつだったっけ?

 

「わからん!」

 

「なんだ、いっしょか」

 

チッ、なんか上鳴に言われると無性に腹が立つ。

 

「メダパニ」 トゥレトゥレン

 

おやおや? 上鳴電気の様子が......

 

「うぇ〜〜〜い、フライアウェ〜〜イ」

 

やったね! かみなり は アホ に 進化した!

 

混乱魔法「メダパニ」。相手を一定時間アホに変える魔法だ。どうやら上鳴電気は混乱魔法でも脳がショートしたかのような反応をするっぽい。へぇ〜(ゲス顔)

 

「あっ、あんた何それwwwぶっはははははははははwwwwww!!」

 

「ヴヴヴヴゑゑゑゑい!!」

 

ツボだったのか奥にいた耳郎響香は上鳴の行動を見て1人で爆笑していた。あ、いや周りの人も笑いを堪えてるのが薄目でわかる。轟くんもチラッと上鳴の姿を見た後、人の少ないところに移動して笑いを堪えているし、笑ってないの私だけだ。よし、おらもわーらおっと。ワッハッハ!

 

「おい! 爆豪と緑谷が鉢合わせしたぞ!!」

 

ハッ! ヤバい! 本来の目的をすっかり忘れてた!

 

 

「見つけたぞ、デク」

 

画面越しでもわかる闘気。やる気満々のギラギラした目が緑谷くんを逃さぬようガン見している。ちょっと目線をそらせば狩られるという雰囲気が緑谷くんにプレッシャーを与えていた。

 

「かっちゃん......」

 

「俺はお前を実力的に格下だとは思わねぇことにした。もう、昔の考えとは全く違う。だから、もう負けねぇ、絶対だ」

 

「......僕も、師匠の特訓の成果を発揮しなきゃ、師匠に顔向けできない。君に勝って、僕は自分が成長していることをちゃんと伝えたいんだ。僕だって負けてられない」

 

「そうか、じゃあ」

 

爆豪の右手から威嚇するかのようや小規模の爆発が起こった。戦いの火蓋は既に切られていた。

 

「くたばれデクゥウウウウウウウ!!!!」

 

「いくぞ! かっちゃん!!!」

 

おおおおおおお!! なんだか熱い展開になってきたぞコレ! どっちが勝ってもいいから凄いバトルを見せてくれ!

 

爆豪が右手の大振りで緑谷に迫る。だがしかし、見聞色の覇気を特訓で体得した緑谷にとってその攻撃は見切られていた。最小限の動きで回避し、反撃に転じる緑谷だが、そこで気づいた。爆豪がニヤッと笑ったのだ。

 

「死ね」

 

爆豪は空中で体をひねり、死角から左手を突き出して爆発を起こした。ほぼ直撃と言える光景に爆豪は笑みを浮かべる。しかし冷静さは欠かずに次の行動を早期決定する。これで死角からの攻撃は警戒されるようになっただろう。次は慎重的かつ確実に仕留める、そう考えていた爆豪だったが......

 

「まだ当てられてないぞ、かっちゃん」

 

どこからか緑谷の声がした。確実に当てたはずだが......

 

「絶対に勝つ!」

 

今度は緑谷から間合いを詰めてきた。なぜ当たらなかったのかとか考えている余裕は爆豪になく、とっさに視界に入る全てのものを爆発させた。少し手が痛むのを我慢する爆豪。しかしそう待っている暇もなく、なんと緑谷は爆発をモロに受けながらそのまま突っ込んできた。捨て身の行動に流石の爆豪も対処が遅れ、緑谷のパンチが腹に一撃打ち込まれて吹き飛ぶ。個性無しで岩をも砕くそのパンチは爆豪にとっては重度の怪我だろう。だが爆豪はあきらめる素振りは一切せず、むしろ気合に満ちた瞳をしていた。

 

「オオオオオオオクソデクゥウウウウ!!!!」

 

雄叫びを上げて獰猛とした表情で眼前の敵を見定める。それは正しく人ではなく「化け物」のような姿に観戦チームは驚きを隠せずにいた。相対する緑谷も、幼なじみの本気の凄みを自肌で感じとり、緊張が走った。

 

またもや爆豪が緑谷との距離を詰め、今度はラッシュ対決になった。爆豪の爆破ラッシュを凌ぐ緑谷だが、だんだんと対応しきれなくなっている。というか、爆豪の攻撃回数が異常に多い!! 目測だと1秒間に200発ほど爆破をくらわしている。え、お前、いつ人間を辞めたんだ?

 

緑谷と爆豪の接近戦はまだ続いていたが、爆豪が緑谷の胸に1発いれた後に小ジャンプして回し蹴りをぶち込んだ。

 

「オオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

ん? あれ? 爆豪の様子がおかしいぞ。いや、気のせいなのか? なんかとんでもないやべーやつに変化している気がするが気のせいだよな。そうだよな。

 

しかし、そんな甘い考えは即刻切り捨てられた。爆豪が目を真っ黒にして、体中の血管が浮き彫りになっている。ちょっとまてよ!? 血管が浮き彫りとかどういう状況!? なんか私よりの姿になってない? ついに同族が現れるのかこれ、やべぇよ。幼なじみがとんでもない方向に進化してるぞ

 

「オールマイト、あれはヤバい、早く止めて」

 

「あぁ、あれは確かにマズいッ!!」

 

オールマイトが咄嗟にマイクをオンにした。

 

〔爆豪少年!! どうしたんだ!!〕

 

「うぅぅぅうぐぁあああああああ!!!!!」

 

〔爆豪少年!? 爆豪少年!?〕

 

「かっちゃん!?」

 

「グァアァ、デクゥゥウウ、テメーハゼッテーブッコロス!!!!」

 

爆豪の皮膚は完全に真っ黒になっていた。ほんと、新型のnoumuといい、爆豪の暴走といい、原作ではありえないし意味わからない出来事が散々出てくるな!!

 

原子崩壊〜新生〜(アトミックノヴァ)!!」

 

なんかチラッと聞こえt

 

ズガドゴオオオオオン!!!!!

 

 

 

 

あ、あ、オワタ。これは〜、なんて言えばいいんだろうか。なんだ、これ? 世紀末かな? 今起きたことをわかりやすく言うとな、

 

訓練施設が消し炭になった。

 

瓦礫の上に立っている爆豪の目は完全に逝っている。緑谷くんは爆発の衝撃波で完全にノックアウト。ハリボテの核なんかどこにも見当たらない。じゃあヒーローチームの勝ちだね、なんて呑気に考えてる暇なんかないし、観戦側なんかビビって誰も喋ってないよ。なんだこれ?

 

「あの、オールマイト。私がその、えっと。」

 

「......。」

 

「ん?」

 

オールマイトの背中をチョンとつつくと、そのまま前方に倒れた。

 

ちがっったあああああああああぁぁぁ!! ビビって喋れないんじゃなくて、音がデカすぎてみんな失神してるぅうううううう!!! 私は化け物だから何ともなかったけど、ほかの人間にとって200デシベルとか耐えられるわけがないか。でも、この観戦室まで届くって......

 

 

 

 

雄英高校1年A組事件簿其ノ壱

 

『雄英高校訓練大爆発事件』 ここに記す。

 

 

 

To Be Continued.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

いや、いくら爆発オチがついたからってこの悲惨な状況をほっとくなんてできるわけがない。他のみんなはベホマかけとけば復活すると思うけど、問題は爆豪。ベホマかけた後また暴れだすようならば、即刻に首をトンしよう。というか、アレはなんなんだったのだろうか。戦闘中にパワーアップとか何処のサイヤ人だよ。はっ、まさか最近流行りの思春期症候群か!? ということは爆豪は青春ブタ野郎なのかな?

 

ま、とりあえず、瞬間移動で爆豪の場所まで移動する。ずーっと突っ立ってるけどこいつも失神してるのかな? とりあえずベホマかけてみよ。

 

「ベホマ」

 

さて、反応はどうだろうか。

 

「グァアァぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

やっぱりダメでした。

 

「特性てんのめぐみ発動、そしてでんじは、エアスラッシュ!」

 

特性てんのめぐみは相手をひるませやすくする能力。そこに、痺れさせるでんじはとひるませやすくする技のエアスラッシュをかけ合わすことでできるコンボ、人はこれを『白い悪魔』と呼ぶ。

 

エアスラッシュが首にジャストしたおかげか、爆豪は元の姿に戻った。そのまま動かなくなったけど、まぁなんとか治るでしょきっと。

 

 

 

 

その後、私の事後処理によって全員復活した。爆発の衝撃もあってみんな記憶があやふやらしく、みんながみんな違う意見を出している(ちなみに訓練場は直しておいた)。そう真実を知るものは私しかいないのだ。

 

「結依、お前は放課後職員室だ」

 

うわぁ、いやだぁ。

 

「最近母の病が悪化してきまして、もうヤバいんです。だから帰ります。」

 

「昨日お前の母親から電話があってな、娘は学校ちゃんと通えてますか? って連絡来てたぞ」

 

母さん、この野郎

 

「さぁ事情聴取といこうか。ちょうど警察の方々もお前さんに聞きたいことがあるらしいからな、大人しく答えることだな」

 

警察? なぜ? とか思ってたら相澤先生の後ろから謎の男性が現れた。

 

「やぁ、随分大きくなったね。元気にしてた?」

 

そう、相澤先生の隣には塚内警部がいたのだ。

 

「あはは、あの日以来ですね塚内......さん。」

 

これは、あかん。捕まる。個性無断使用と建造物破壊のダブルの罪を執行猶予でなんとか生きながらえた私だが、ここで裁かれることになるなんて...!

 

「実は君に伝えたいことがひとつあるんだ。聞いてくれるよね?」

 

あ、笑顔が尊い。とか思うほどの清々しい笑顔だが、それが余計に不安を生みだす。やべ、この小説終わった。さらばだ、ハーメルンよ......

 

「実は......」

 

焦らすな、どうせ主人公逮捕のアンハッピーエンドなのは見え見えだからはよ言えや。

 

「一定期間が過ぎたので、執行猶予が無くなりました!」

 

パチパチパチ〜っと手を叩く塚内警部。え? やったああああああああぁぁぁ!! よっしゃあああぁぁぁ !!

 

あぁっ! 女神様! ついに私は社会的地位を失わずにs

 

「ところでひとつ質問なんだけど」

 

......、

 

「4月の♯日の朝、君は何をしていたのかな?」

 

あぁ、なんだ、普通の事情聴取か。その日は確か個性把握テストがあった日だよな......。あれ? なんか私すごくこの状況的にやばいことしたような気がする。せっかく執行猶予が消えたのにそれをぶち壊すような事件を起こしたような......。

 

「確かその日は朝ごはん食べた後、瞬間移動で学校に登校したと思います。」

 

「それを証明してくれる方々は?」

 

「多分、親ならわかるはずです。」

 

「なるほど、ご協力ありがとう」

 

そういうと、塚内くんはどっかいってしまった。

 

念のために、家に帰ったらマインドコントロールで世界からその歴史を消し去っておこう。

 

「では私はこれで」

 

「まて結依」

 

「なんすか!!」

 

「戦闘訓練の時、何があった」

 

「......、原因はよくわかりませんが、爆豪の個性が何故か暴走したんです。でも、どっかで見たことあるんですよねぇ......、あんな感じの暴走? というより覚醒したみたいな感じ」

 

「アレが原因か...? いや、アレはもう出回ることは無いはず......。それに高校生がアレを手に入れる手段なんて......」

 

「?」

 

「結依、もう帰っていいぞ。あと、前に頼んでおいたしおりを渡してくれ」

 

「あはい。わかりました。」

 

そしてマイ空間に手を突っ込んでしおりを取り出し、相澤先生に手渡した。

 

「分厚いな」

 

苦そうな表情でしおりをめくる先生。

 

「それくらい多いんです。雄英体育祭までに読み切ってください。」

 

さて、帰ったらマインドコントロールして、その後ドラえもんに似た感じのホラえもんを見て寝るとするか。

 

 

 

 

 




ある生命体が身体的または精神的に追い詰められたとき、とてつもない力を発揮することがあります。人はそれを「覚醒」と呼ぶ。





はい、まともな戦いになりませんでした。すみません。だがここでは何でもありなのだ。フッフッハ



いろいろ紹介

メダパニ:ドラクエの魔法。上鳴に効果抜群! ちなみに勇者ヨシヒコにかけると謎のダンスを踊ってくれる。

思春期症候群:思春期特有のアレで、体中に傷ができたり、自分の存在が消えかけたり、時間がループしたり、自分が2人存在したりするなど、変な現象を起こす症候群。え? 理屈を教えろって? .....、量子力学だってさ。

白い悪魔:正体はトゲピーの最終進化のトゲキッス。相手に使われるとイライラするポケモンのひとつ。ただし、自分が使うとすごく楽しい。



次回、番外編をやろうと思います。多分。

題名は『異世界旅行記』です。




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番外編1 〜 ワンピース編 〜
番外編1(前編):異世界旅行記〜海に咲く一輪の花〜




番外編です。見ても見なくてもおっけーです。ただし、のちのお話に関係するかもしれないのでご注意を。


 

 

 

今日はとある日の日曜日だ。早速の展開なんだが実は異世界旅行をしてみたいと思う。正直ね、この世界じゃ私とまともに相手できる奴がいないんだよね。だからこのあまりに余った力をちょくちょく解放して禁断症状を抑えるのが今日の目的だ。最初に旅行する世界はねぇ、とりあえず、ワンピースでも行ってみるとしましょう。ルフィと宴とかしてみたいなぁ、いやほんと楽しみですわぁ。

 

さっそく、異世界に繋がる扉を開く。今日は父も母もお出かけ中だ。勝手に息子が別の世界に行っても許されるよね? え? 異世界は危険? 大丈夫だぁ、問題ない(イケボ)。私にかかればちょちょいのちょいで解決よ。

 

よし、行くか。レッツラゴー!!

 

 

 

とうっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

よし、ついた......、ぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

しまった! 出る場所間違えた! はるか上空でゲートを開いてしまった! まっさかさまぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!

 

親方! 空から女の子が! なーんてセリフが聞こえそうだが、生憎こちらは飛行石を持っていない。あんなフワフワ浮いてられるわけ......、られるわけ、られるわ。そうだった、私、浮けるわ。

 

そうだった、そうだった。全然よゆーだわ(震え声)

 

少し落ち着いたところで周囲を確認してみる。まだ高度8000メートルだから下の様子なんかわかるわけないか。いや、千里眼使えば見えなくもないけど、それだとお楽しみを先に味わってしまってなんだかアレな気分になるからしない。デザートは最後までとっておく派なんだよ、私は。

 

ゆーっくり地上へと降りてゆく私。雲をつきぬけながら進んでいく、あ、ちょ、顔濡れたし、うわひでぇ。

 

そろそろ人影が見えてきた頃、はてさて地上では何が起こって......

 

「お前の父親は、海賊王『ゴールド・ロジャー』だ!!」

 

へ?

 

「だからこそ今日ここでお前の首を取ることには大きな意味がある、たとえ、白ひげとの全面戦争になろうともだ!!」

 

これはまさか、まさかの。

 

はい、とんでもない時間軸に来ました。どうやらここはワンピース史上最も最大級の戦争『頂上戦争』ですねわかります。なにがルフィと宴がしたいだバカヤロー。宴どころか血祭りがあげられるぞ。

 

いや、まて、この戦争なら私がおもっくそ暴れてもいいよね。にゅー海賊的なやつになれば海軍と全力で戦えるかもしれないし、何よりエースくんを救ってルフィに恩を売り、そのまま宴をすれば一石五、六鳥じゃないか! フフフ、我ながらいい案が浮かんでしまったよ。

 

そうと決まればさっそく準備運動だ。能力発動具合を確かめつつ、この戦争の流れを上空から見る。えー、腕よし、足よし、爆破よし。干渉系も問題なさそうだし、魔力循環も最高潮。よし、いつでもいけるぞぉ!

 

さてさて、どのタイミングで乱入しようか。今、白ひげの船『モビーディック号』が海中から現れて海面が凍ったところだ。そうだな、ルフィが出てきたあたりで.......いや、もう我慢できまへん。

 

「すみません、白ひげさん」

 

瞬間移動でモビーディック号に乗り込んだ。今回はこのおじさんの仲間だからそのことを伝えなきゃな。

 

「いつの間にいやがったこの小娘。今から始まるのは海軍との全面戦争、小娘はさっさと帰れ!!」

 

なんかザワザワしだした海軍と海賊がやかましかったが、私は気にしない、うぇい。

 

「私もおまえらと一緒にエースを助ける。迷惑はかけねぇからいいよな?」

 

「話を聞け糞ガキ、無駄死にしたくなきゃ帰れ。グララァ!!」

 

「やだ、私、暴れたい、以上。」

 

「もう勝手にしろ」

 

なんかめんどくさい雰囲気が滲み出てるがもうどうでもいいや。暴れたくて暴れたくて仕方がない。うおおおおおおおおおおお!!!!

 

勢いで船から降りるわたひ。うっへっへ血祭りじゃああああああああぁぁぁ!!

 

「おい、あの小娘を止めろ」

 

誰かがそんなこと言ってたけど知らん。なんか戦闘員とか中将とかよってきてるけどだからどうした。

 

「俺は結依魔理沙だあああああああ!!!!」

 

よってきた海兵を片っ端からぶん殴る。あぁ、ヤバい、目覚めそうだぁ、サイコパスの道にぃいいいい!!!

 

「くらってくたばれ! 核熱『ニュークリアフュージョン』!!」

 

東方キャラの霊烏路空が使うスペカを容赦なくぶっぱなす。この娘の能力は「核融合」、私がヒロアカの世界で使ってはならない能力のひとつ!

 

灼熱の炎がよってきた海兵を全滅させ、 私を中心に湖が形成される。ふはは、景気づけのパーチィーはいかがかな?

 

「どうだ? たかが小娘にやられる気分は?」

 

超上から目線でこの場にいる全員に威圧する。なるほど、これが頂上戦争か。

 

「グララ、あの小娘、けっこうやるじゃねぇか。うちらも黙っていれば白ひげの名が廃る。野郎共!! エースを救出するぞぉぉおお!!」

 

オオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

とうとう白ひげの軍も動き出したか。まぁ、頑張れ。

 

「どこの海賊だか知らんが、海賊がここにいる以上容赦はしねぇ!!」

 

ふふ、モブごときが!

 

心臓掌握(グラプス・ハート)

 

グシャァ! っと心臓潰す感覚が手に残る。うぅ、ちょっと気持ち悪。まだ私はサイコパスじゃなくて戦闘狂止まりか。

 

「少佐ぁぁあああああああああ!!」

 

この人少佐だったんだ、へぇー(ゲス顔)

 

「最愛の人との別れのシーンで申し訳ないが、お前も死ね。」

 

そう吐き捨てて、そいつの顔面に手を添える。

 

「ザラキーマ」

 

確率操作してないから心配したが上手く成功した。やはり即死魔法は強い、耐性がないと1発で持ってかれるからな。生き返りたければ教会で金でも払ってくることだな。

 

「おおおおお少佐の仇ぃいいいい!!」

 

「なんだよ、こいつそんなに人望あったのか。羨ましいな、死ね」

 

よってたかって人が増えるからもう範囲攻撃バンバン使ってやる。覚悟しろ。

 

爆裂魔法(エクスプロージョン)氷河時代(アイスエイジ)、流星火山、八尺瓊勾玉、覇王色の覇気、魔王覇気、流星ブレード、黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)、テクノバスター、サテライトキャノン!!!!」

 

爆破、氷、火山弾、光、プレッシャー、光の刃、即死魔法、光線、宇宙からの波動砲、阿鼻叫喚の地獄絵図が完成された瞬間であった。次々と海兵が光に飲まれ、凍りつき、燃え、貫かれ、そしてつもりに積もった死体の山は巨大な黒い仔羊へと変化する。

 

「仔羊ども、海軍を襲え。他は襲うな」

 

「メ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"!!!」

 

おぞましい怪物(仔羊)は私の言葉に呼応し、海軍共を踏みつぶす。まだまだ始まったばかり、ここからは永遠に私のターンだ。

 

「エースクン、タスケルゥヴ!!」

 

白ひげ軍の巨人『オーズJr』が前線に出た。仔羊もオーズJrと共に前線を進軍している。何これ、大怪獣戦争じゃん。

 

「そこの小娘、随分とやってくれたわね。ヒナ、あなたを殺す」

 

「随分可愛い海兵がいたもんだなぁ。しかし、私は真の男女平等主義者、男も女も関係なくドロップキックをくらわせられる元男だ」

 

さぁ、この素晴らしい世界に混沌を

 

「血壊」

 

獣人族(ワービースト)の初瀬いづなが持つ能力。これを使うと物理限界を超えた力を発揮することができるんだが、使用中は猫耳が生えるというなんともいえない能力だ。

 

見えない速度で背後に周り、背中を一蹴りして先に進む。やっぱ私には猫耳は合わねぇ。

 

「速すぎて全然見えない。ヒナ、失格」

 

お嬢さんが私の後方で倒れる。そろそろルフィこないかなぁー。

 

お、オーズJrがエースの目の前でぶっ倒れた。散々砲撃をくらってたから仕方ないか。ということはそろそろかルフィが来るかも。

 

「ヒナ少将の仇ぃいいいい!!」

 

「またかよ......」

 

海軍ってこんなに仲良かったのね。

 

「エアロスミス!!」

 

私の背後から現れた飛行機のプラモみたいなやつ、そいつの名はスタンド『エアロスミス』!呼吸探知機能搭載の戦闘機スタンドだ!

 

「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラーレヴィーあ!!」

 

「ぐはぁああああ!!!」

 

はぁ、はぁ、キリがない。けどちょっと楽しい。無双系ゲームは基本的やらない派だったが、今度機会があったらやってみようかな。まぁ、リアル無双ができるからゲームでやる必要はないけど。

 

なんて思ってたら緑色の斬撃が私目がけて飛んできた。

 

ズゴオオオオオオオオオ!!!!!

 

間一髪で回避する。危ねぇ、もう少しで真っ二つにされるとこだったぜ。

 

「あ、あいつは......、鷹の目!!」

 

「鷹の目が動き出した!!」

 

鷹の目と呼ばれる男は私の方へゆっくりと近づいてきた。彼は王下七武海の一人で世界一の剣豪と呼ばれた男、この世界の強者である。

 

「お前、剣は扱えるのか?」

 

「まぁ、少しだけなら」

 

「そうか......」

 

鷹の目は少し考えた後、私をジロジロ見るやいなや突然斬りかかった!

 

「お前の力、試させてもらおう」

 

「来い! 天上天下天地無双刀!!」

 

モンハンの武器のひとつ、天上天下天地無双刀。G級のミラボレアス3種の剛翼複数と古龍の大秘宝3つで作れる超厨二病武器。カッコイイ上に強いから文句ない1品。

 

うまく初撃は受け止められた。しかし、ここからが問題だ。世界一の剣豪と、前世も今も高校生の私が剣の技術で勝てるか? と言われたら断言出来る、勝てない。今は思考加速しまくっているからなんとか耐えているが、油断したらバッサリ両断されてしまう。

 

「せりゃあ!!」

 

とにかくやたらめったら切りつけてみる。まぁ、ほとんど打ち返されるんだが、こちらも生まれ持った神の冒涜とも呼べるチートスペックで対処する。両者一歩も譲らず、とても白熱していた。

 

「やるな若造、名前を聞こう。」

 

「......結依魔理沙だ」

 

「覚えておこう。」

 

ガキン! ゴキン!

 

たった数コンマのうちに何回斬り合いをしただろうか。重い金属音が何度も何度も弾けるこの戦場の周りには誰一人いない。危険すぎて誰も近づけないのだ。

 

「鷹の目と互角に渡り合っているあの小娘は何者なんだ?」

 

「あんな実力があるならとっくに有名になってるよ!!」

 

「こぇ〜」

 

鷹の目と魔理沙の戦いは5分ほど続いたが、終わりが近づいてきた。

 

魔理沙は迫り来る斬撃の雨が体ギリギリを掠めていくのを感覚で感じとりながらも、常に相手を見据えていた。だが、

 

「あっ、」

 

「その腕、貰い受けたぞ」

 

たった少しのミスで腕を切り飛ばされる私。痛覚無効をつけ忘れたので痛い......、ん? アレ? 痛くnいだだだだだだだだぎゃああああああ!!!!!

 

「ふぅ、くっ......ふぅ!」

 

「左手一本じゃ俺には勝てない。惜しかったな、若きルーキーよ。 」

 

あかん、痛覚無効を半分だけオンしてたせいで油断した。安心した後の痛みほどエグいものはない、これ自論な。

 

そして、この世界一の剣豪さんはひとつ勘違いしてるぜ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふぅっ、クックックックwww」

 

「何がおかしい」

 

鷹の目は私にそう問いかけた。

 

「いや、ここまで戦えるとは思わなくてね。そろそろギアを上げようかなと。」

 

「ギア......だと?」

 

「そう、これはただのほんの序の口のお遊びに過ぎない。つまり今出している実力はまだレベル1なんだよ。だから今からレベル2に移行する。」

 

「威勢がいいようだな若きルーキーよ、だがお前は腕を切り飛ばされて左腕一本、ここからどう逆転するんだ?」

 

「逆転も何も、私と戦った時点で既にお前の負けだ。」

 

「ほぅ......」

 

「『超速再生』」

 

腕の断面から新たな腕が生え、右腕が復活した。

 

「どういうことだ」

 

「教えなーい☆ そしてくたばって☆」

 

取り出した物はディケイドドライバーならぬ、結依魔理沙ドライバー。色が黄色と黒になっただけで形は変わっていない。

 

「変身」

 

カメンライド マリサ!

 

鷹の目の前に現れたのはレモンイエローと漆黒の仮面ライダー「マリサ」。月に代わってお仕置きよ☆

 

「一応言うけど、ピンチになったら最終フォームになるとか無いから。私は最初っから最後までクライマックスだぜ!」

 

そこで取り出したのは最終フォームに変化するのに必要なアイテム「ケータッチ」(改造版)。9人のなろうまたはラノベ主人公の力を結集するなんかすごいやつだ!

 

キリト、カズマ、スバル、リムル、シド、モチヅキトウヤ、アインズ、サトゥー、シバタツヤ

 

ファイナルなろうライド、ママママリサ!!

 

今、世界が震撼するほどの恐怖が波紋のごとく拡散していく。変身系は確かにロマンかもしれない、だがやっていいことと悪いことがある、そう思わせるような姿であった。私の体には9人のなろうまたはラノベ主人公の顔が描かれたカードが体中に貼っつけられている。

 

「姿が変わったからといってもどうということはない。」

 

「そう言ってられるのも今のうちだぜ?」

 

鷹の目は変貌した姿に驚くことなく、斬りかかろうとするが、

 

奪取(スティール)

 

わぉ、鷹の目の剣がなぜか私の手の中に〜

 

「貴様!!」

 

「どっこいせい!!!」

 

そしてそれを遥か地平線の向こうにスパーキング!

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

とうとうキャラ崩壊を起こして倒れてしまった。

 

「そこまで大事なものだったか。なんかすまん。」

 

私が彼にとった姿は、敬礼のポーズであった。世界一の剣豪の成れの果てを見届けるために、私は最大限のポーズをとったのであった。

 

 

 

 

To Be Continued............

 




鷹の目「もう働きたくないでござる」




へ(゜∀゜へ)フッフッフッ、やりたいことは何でもやるのがこの妄想小説よ!

いろいろ紹介(多すぎるのでいろいろ割愛)

白ひげ:ワンピースの作中で四皇と呼ばれる者のひとり。つまり強い。

心臓掌握:心臓握ってパーン!

氷河時代:海軍大将青キジの技。ビックリしただろうなぁ。

流星火山:海軍大将赤犬の技。何パクっとるじゃけい......

八尺瓊勾玉:海軍大将黄猿の技。怖いねぇ〜

黒き豊穣への貢ぎ:たくさんの命と引き換えにレベル90以上の黒い仔羊(グロテスクな化け物)を召喚するやべーやつ。作品はオーバーロード。

サテライトキャノン:衛生に搭載された大型単一砲台砲。本来はいろんな細かい条件をクリアしなきゃ撃てないけど、そんなの知らん。

血壊:いづなたん(;//́Д/̀/)ハァハァ

ヒナ:ワンピースの海軍少将。口癖は「ヒナ、○○」






原作壊しすぎたあげく、僕のヒーローアカデミアと全く関係ない方向にいってごめんなさい。後悔はしてません。



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番外編1(後編):異世界旅行記〜海に咲く一輪の花〜

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

ヒロアカ4期が待てなくて単行本買っちゃいました。切島くんがかっこよすぎて竹。



「ふぅ。」

 

海軍と海賊に囲まれながらも一服する結依魔理沙。前回の流れを簡潔に言うとな、そろそろ個性使い余したから暴れたい→せや! 別の世界に暴れたろ!→やば、大規模な戦争に巻き込まれたで!→歴史変えたろ→お? 世界最強の剣士?→剣投げポーイ(*・_・)ノ⌒* (>_<) といったとこだ。完全にヴィランと思考が同じですね。やばいです。人として、人の論理的に私はただの快楽殺人鬼なのかもしれないと自覚はしているんだが、()()()()()()()()()

 

なんてこと考えていたら空から個性溢れるメンツが来た。どうやら本命のご登場である。ワンピース主人公の「モンキー・D・ルフィ」、革命軍幹部「エンポリオ・イワンコフ」、元七武海でルフィに負けた「サー・クロコダイル」、声のでかい人「バギー」、語尾がなになにガネ〜の人「Mr.3」、そしてこの世界で最大の刑務所であるインペルダウンの脱獄囚の皆様などなど個が強いメンツがいっぱい。なんだろう、アニメのワンシーンに入り込むことが出来てなんだか感動の涙が溢れそうだ。あのルフィさんが立って座って生きている......、よし、もう死ねるぞ私は。死ねないけど。

 

一人漫才もここで終わり、本題に入ろう。まずはルフィさんとお友達になろう。そして私もエースくんを助けるという意志を伝えてうぇいうぇいするんだ。

 

そう思ってルフィくんのとこに行こうとしたんだが......

 

「死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううう!!!!」

 

「おいデク! ぼさっとしてねぇで個性使え!!」

 

ええええええええ!? なんで!? なんで!? 自分の目を疑う光景が情報として脳に流れ込んでくる。なぜ緑谷くんと爆豪が空から落っこちてきてんだよ!! なんでだ!......、あっ、ゲート閉じ忘れた。

 

とりあえず救出優先! 緑谷くんの母から昔こっそり奪った個性「物をちょっと引き寄せる個性」を少々改造し、あらゆるものを引き寄せる個性に変え、実行!!

 

空に手をかざすと、落下していた緑谷くんと爆豪は私に引き寄せられて無事に着地に誘導できた。はぁ、危機一髪。

 

「あ、あ、ありがとう師匠...」

 

「てめぇここで何やってんだ。つかここどこだ。」

 

「あー、ちょっと待て。今の状況はちょっとややこしい」

 

そう言って、脳の整理に少し時間を割く。来てしまった以上教えない訳にはいかない。かくかくしかじか話をつけよう。

 

かくかくしかじか......

 

「また異世界なんですね。異世界...」ガクガク

 

「異世界? じゃあ全員ぶっ飛ばしても文句はねぇなぁ!」

 

「まて、落ち着け、ゆっくり深呼吸して、温かいスープを飲んで、温かい家庭に包まれて、少し寝てから考え直せ。お前らにはここは危なすぎる。ゲート開いてやるからはやくおうちに帰れ。」

 

「でも今日は師匠に稽古をつけてもらおうと...」

 

「これ終わったらタイムワープして出かける前の時間に戻るからはよ戻れ!」

 

「それが本当だったら僕達ここにきてないよ師匠」

 

「......。」

 

「図星だなボサボサ。」

 

「この最凶たる魔理沙さんに図星などッ!」

 

「大人しく認めろ。そして俺の実験台になれ。」

 

「言い方悪いけどつまり稽古つけろって解釈でいいの?」

 

「勝手にしろ」

 

「ほんと素直じゃないなお前」

 

よし、このあたりで帰るとしよう。エースくんを助ける言っといてこんなざまじゃ白ひげに顔を合わせらんないけど、やはり自分が生まれた世界の方を優先しなきゃな。

 

「じゃ、帰って多古場海浜公園に移動するか」

 

「儂がそれを許すとでも?」

 

とてつもない熱気の篭もったパンチが天から舞い降りてきた。危な、反応遅れてたら緑谷くんも爆豪もテラファイアしてたわ。ワープ系はやはり重宝されますなぁ。

 

「海軍大将の赤イヌさんが私になんの用でしょうか」

 

「まーったく酷いねェ......」

 

光の速度で移動してきた長身のおじさんはなんのためらいもなく私の顔面を蹴りにかかった。

 

危ね、当たったらどうすんだこの野郎、顔が木っ端微塵になるだろうが。再生するけど。

 

「黄ザルさんまでねぇ......、もう帰るから見逃してくれませんか?」

 

「散々邪魔した本人が無傷でこの場を立ち去るなんて許されるわけがないねェ」

 

「貴様は立派な犯罪者じゃけぇ。儂が貴様の犯した罪を焼き尽くしてやる」

 

あかん、ガチだ。このおじさんガチでJKを殺しに来てるよ。確かに散々邪魔したけどさぁ.....、したけど......、した.........、完全に私が悪い!! はっきりわかんだね!

 

「すまん、先帰っててくれ」

 

「待って! ししょu」

 

緑谷くんの言葉を無視して彼らを元の世界に戻した。とにかく、早めにエースくんを救出してとっとと帰る。今日の目標はこれで決定!

 

「さて、海軍大将様に質問だ。簡単だから難しく考えるなよ? いくぞ、『スマブラ』やったことある?」

 

「はァ? スマブラァ? 何を言っとるじゃけえ」

 

「最近の流行りだ。そろそろ発売してるだろうなと思って前世の世界に1回戻って買ってきたんだけど」

 

「......」

 

「インクリングすんごく可愛いくてな、今練習してんだけど下投げからの空中コンボがなかなかできないんだよね。」

 

「けどボムとローラーが有能すぎて私は感激したよ。ころころ〜ってするだけで相手を埋められるし、ボムは復帰阻止とか攻撃のフェイクに使えるからもううぇーいって感じで...」

 

「すごくどーでもいいねェ」

 

黄ザルがおとぼけフェイスを保ったまま指から光のレーザーをぶっぱなした。

 

が、それが当たることは無かった。

 

「さて、そろそろ時間も稼げたんでチート能力使います」

 

今週のビックリドッキリチート発進!!

 

「マジ殴り!!」

 

「ぐあああああああああああああああああああぁぁぁッ!!!!」

 

そう、これはただの何気ないパンチ。ただ本気(マジ)のパンチで殴っただけだ。しかし、このパンチの実績は凄まじい。地球で生まれた化け物もサイボーグゴリラもエロい蚊も深海王も皆等しくワンパンチで仕留めている。宇宙最強の海賊も余裕で撃破、なんと効率のいいパンチでしょうか。あの海軍大将さんも海軍本部の外壁に叩きつけられてノックダウンしてるし、うん、一件落着。

 

「この小娘ェ、絶対に許さないよぉ」

 

「知らん。パンチ」

 

「ンンンゔゔ!!!」

 

赤イヌの横あたりにズゥンとめり込んで気絶する黄ザル。これで海軍大将は2人かたづいた。あとはそうだな、エースくんだけだ。

 

「ワープ!」

 

 

 

「ふぅ、さてエーs」

 

「くらぁあ!!」

 

「へぶしっ!?」

 

ワープ先は確かにエースくんの場所だったのに、目の前のごついジジィが顔面ストレートパンチをくらわしてきた。この人確か海軍の英雄かつ主人公ルフィの父親の『モンキー・D・ガープ』だよな? ならばぁ!!

 

「いでよ、キングギドラ!!」

 

「キシァァアアアアアアアア!!!!」

 

ゴジラシリーズでお馴染みのキングギドラ様だ。こいつを倒したければなぁ、ゴジラとモスラと...

 

「ヒトヒトの実モデル『大仏』」

 

そうそうそれ、ヒトヒトの実モデル大仏......、ん? え? あぁ.....お前(海軍元帥センゴク)かぁ......。

 

大仏VS黄金龍という海賊の蔓延る世界だとは思えない修羅場が完成してしまった。というか相性悪くね? こっちは生身のドラゴンであっちは全身金属の大仏やぞ。誰でもわかるヤバいやつやん。あ、まてよ、あいつ金属なんだよな? なら個性『鉄塊』で丸められるかも......、

 

「個性『てっかi』」

 

「無視すんなガキぃい!!!」

 

「デジャブッ!?!?」

 

あかん、横腹モロに入った。骨にヒビが入ったかも、でも自己再生があるから特に問題ねぇ!

 

とか思ってたらあのクソジジイ(海軍の英雄)が砲弾ぽいぽい投げてきやがった。だが、その程度なら余裕で捌ききれる。私の動体視力と独学と高ステータスで編み出した火力が火を吹くぜ。

 

「無駄無駄無駄無駄ァ!!」

 

ひとつ残らず全て叩き落とし、ドヤ顔を見せつける結依魔理沙。あのジジィも苦い顔で「チィ...」って嘆いているぞ。ふふふ、まだまだァ!!

 

「キシャアアアアア!!!」

 

大死闘を繰り広げていたキングギドラだが、相手が金属かつ流動的な動きができる分なかなか攻め手になれず、最終的に吹き飛ばされてしまった。

 

「よっこいしょぉ!」

 

が、吹っ飛んできた巨体をなんなく受け止める私。これはイケメンですわ、キングギドラと結依魔理沙のラブラブファンタジーが1本書けそうですわ。ご飯3杯はいけるぜ!

 

「どっこいせい!!」

 

が、受け止めたキングギドラをそのまま海軍の英雄さんに投げつけた。これは下道ですわ、キングギドラと結依魔理沙のヘビメタロックンロールが1曲引き語れそうですわ。メシマズだなこりゃ。

 

「わしは今お前さんを相手にしている暇はない!!!!」

 

ほぉ......、この超絶美少女(願望)の私を置いてけぼりにしようとするなんていい度胸してんna

 

言いかけた直後、キングギドラの腹に大きな風穴が! キングギドラァアアアアアアアア!!!

 

「|キャオォン、キィャイグヤォアン。グァギャギーギャオオオオオン!!《気にするな、少し眠ればすぐに治る。さっさとエースとやらを助けてこいこの破天荒バカ》」

 

「ギドラ......、ぶん投げてごめん」

 

キィィグァン(それは許さん)

 

「あっ、すいません。ほんと申し訳ないです。」

 

「クラァ!!!」

 

ギドラに謝罪をしている途中でガープがまた拳を突き出してきた。が、私が同じ手を二度、三度くらうはずもなく、ラリアットでカウンターをきめた。

 

「んしゃコラどうだコノヤロー!」

 

うっかりはしたない言葉が漏れてしまったが気にしない。これでエースくんを助けられる。それに越したことはない。

 

「今行くぞぉ! エースくん!!」

 

咆哮とも呼べるような大きな声で叫びながら真っ直ぐエースくんの場所に向かう。海楼石の手錠がかけられているが私は悪魔の実のデメリットをもっていないからノープロブレム。手刀で叩き割ろう。

 

「海賊のすきにはさせん!!」

 

だが簡単に物事が進まないのが現実。ギリギリ届きそうなところでセンゴクが大仏の腕で私を地面に叩きつけ、そのまま体重をかけて押さえつけた。重っ、動けなっ、怖っ。

 

「そのまま潰れて死んでゆけ」

 

死刑宣告を吐かれた私だが、そこんとこは何も問題ない。身体は死なないし、精神攻撃はもともとサイコパスな異形魔理沙にはあまり効かない。何より、

 

「私を押さえつけている暇があったら、さっさとエースくんを守りに行ったほうがいいんじゃないかな? そろそろお孫さんがくるとこだぜ?」

 

「......!? しまった!!」

 

うふふふ、そのセリフを言った時点でフラグは成立したぁ。そのセリフを敵側が言ったらなぁ、大抵の場合は物事がこちら側の味方をしてなんだかんだ終結するということだ。つまりはなぁ、この身勝手な作者の身勝手でくだらない番外編がついに終わるということだぁ。あと、だんだんヤケクソになって私のセリフが適当になっていってのマジでやめろ畜生。

 

「今行くぞエース!!」

 

「麦わらぁあああああああ!!!!」

 

そう、今の今までは全て時間稼ぎ。やはりエースくんを助けるのは弟のルフィくんじゃなきゃ締まらないよねぇ。海軍大将二人と海軍の英雄はノックダウン、センゴクは私を押さえつけなければいけないから動くことは出来ない。この状況ならルフィくんは安心して救出できるし、エースくんも死ぬ可能性が十分に減る。ただし、赤イヌがタフじゃなかったらの話だがな!

 

よって私らの勝ち、Q.E.D.証明完了

 

が、直後にエースくんとルフィ諸共砲弾で爆撃されてしまった。だが、問題はない。この場面が来たということはだな、次のセリフは......

 

「「お前は、昔からそうさ.....! ルフィ、俺の言うこともろくに聞かねぇで、無茶ばっかりしやがって!!!」」

 

「......だ。」

 

「エェェエエエエエスゥウウウウ!!!!!」

 

\( 'ω')/ウオオオオオオアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッッッ!!!!!

 

 

爆風と炎に包まれた炎獄の中から歓声に包まれた2人の兄弟が復活した。いや〜、良かった良かった。後はうまーく後始末をつけて、ハッピーエンドに持ち込もう。さっきから画面越しで「伏線張りたかったけど、なんかうまく張れなくて今ちょっと後悔している」とかいう聞きたくもない心の声が聴こえるからもう私は帰る! あばよ!

 

「俺の剣を返せぇぇえええええええ!!!!」

 

ミホークの野郎、まだ諦めてなかったんか。もう地平線の向こうまで吹っ飛ばしたんだからねーよ!

「クワァ!!!(スマブラのガノンドロフ風)」

 

「ゲボはァ!!」

 

私の魔人キック(股間諸共攻撃)が炸裂し、ついにミホークもノックダウン。すまん、本当にすまんかった。花くらい後で植えに来てやろう。さらばだ!

 

海賊たちに希望が満ちる中、私はエースくんのところに瞬間移動した。やっとだ、やっと話せる。

 

「解放されてよかったな、エースくん」

 

急に現れただけもあってエースはとても驚いていたが、すぐに落ち着いたようだ。

 

「あぁ、お前さんにも感謝しなきゃな。今度、酒を奢るよ。お前さんに聞きたいことが山ほどあるからな。」

 

「私はまだ未成年だから酒は遠慮しとくよ(毒耐性あるけど)。私はただ暴れたいのとみんなで宴会したかっただけだから、ほんとそれだけ。」

 

「怖いお嬢さんだぜ」

 

「そりゃ魔女だからな」

 

アッハッハッと高笑いしながら海軍から逃げるエース、ルフィ、私。いやー、良かった良かった。というか早めに終わったから白ひげのおじさんが刺されるイベントも無いし、ルフィも体力残ってるし、万々歳。やってやったぜ。

 

「エースを助けてありがとう! 黒い顔!」

 

ルフィも私に気づいたのかお礼を言ってくれた。

 

「黒っ....、まぁいいや。どういたしまして」

 

「なぁなぁ、お前どこからやってきたんだ?! 手からビームでるよな? なんかでっかいドラゴンも手からでたよな? な? ちょっと見せてくんn」

 

「あーあーあー! 今日ちゃんと生きて帰れたら私を宴会に誘ってくれ。時間教えてくれたら絶対に行くから」

 

「宴会!? 絶対やるぞぉぉおお!! エースも参加するよな?」

 

「ルフィ、その話は後だ。早く船に乗るぞ」

 

走ってたら遂に到着モビーディック号。原作では燃やされてしまったけど、今回は私がいるから燃えてない。やったね。

 

「ゼハハァ、散々邪魔してくれたなぁ、計画が台無しじゃねぇか」

 

おわぉ、そうか、そうだった。忘れてた、私が戦争の進行速度を早めちゃったから出てきました。そう、頂上戦争の第三勢力、黒ひげ!

 

ここでかぁ、こいつ倒さないとモビーディック号に乗り込めねぇ。だが戦力差は圧倒的、だって白ひげ死んでないもん。というか私がいる時点で戦力とか意味が無い。

 

黒ひげの様子はどうも御立腹。ここまで計画が狂ったことはないんだろう。こりゃ激おこプンプン丸だな、ぶっ飛ばすか。

 

「ジーハッハッハ! お前は絶対に生きて返さねぇ」

 

「ごめん、もう尺がないんだよ黒ひげ海賊団。そろそろ本編に戻んねぇと進まねぇんだよ。だからちょっと卑怯なことをするけど許せ」

 

ありがとう、黒ひげ海賊団。さようなら、黒ひげ海賊団。君たちのことは3日ほど忘れない。

 

「あぁ? 何言ってんだお前」

 

そんなおとぼけフェイスをしないでくれ黒ひげ海賊団。もう6千文字越えちゃってんだから大人しく死ね!

 

「アバダ・ケダブラ∩^o^)⊃━☆゚.*・。」

 

「( ˘ω˘ ) スヤァ…」

 

よし、死んだ。もういいんだ。これでいいんだ。あまりにも酷い終わり方だがこれでいいんだ。やはり世界の歴史を書き換えることはよろしくないということを私は身をもって学んだ。つまりはこの旅行も無駄ではなかったということだ。お母さん、お父さん、私はもう間違えたりはしないよ......。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 TheEND 〜

 

 

 

 

監督 マスターチュロス

 

キャラクター 結依魔理沙

 

モンキー・D・ルフィ

 

モンキー・D・ガープ

 

ポートガス・D・エース

 

白ひげ(エドワード・ニューゲート)

 

爆豪勝己

 

緑谷出久

 

センゴク

 

その他の愉快な仲間たち

 

脚本 マスターチュロス

 

声優 マスターチュロス

 

 

 

 

 

A N D Y O U ! !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

〜 ヒロアカ世界 〜

 

「んふふ〜♪♪」

 

「随分と機嫌が良さそうだね、クリエイター」

 

「いや〜、だってこんなに可愛い娘が作れるんだから嬉しくなっちゃうのも当然だよね!」

 

「なぁ、君の娘さんを少し借りてもいいかい?」

 

「いいけど、なんでなんだい?」

 

「弔がもうすぐ雄英襲撃の作戦を決行するから、念のために置いておきたいと思ってね」

 

「えぇー? 別にいいけど、オールマイト用の脳無がいるから別に大丈夫なんじゃないの?」

 

「そっちじゃなくてね、強いて言うなら、君が会いたがっている人が弔の邪魔をしそうだからねぇ」

 

「え!? いんの!? 雄英に!? なんだよ言ってくれればいくらでも協力したのにー」

 

「すまなかった、驚かせようと思ってね」

 

「しょうがないなぁー、じゃあコード003と005を好きに使っていいよ。今は亜空間に閉じ込められた004を救出するための個性の持ち主を探しているんだからさ」

 

「ありがとう、クリエイター。いや、山田総二郎くん。」

 

「やめろ、凡人臭がする本名で呼ぶな。クリエイターにしろ」

 

「はいはい、わかったよクリエイター」

 

 

ここはヴィラン連合。悪が集う場所。悪意は常に、光に牙を剥こうと刃を磨いている。悪は常に、蠢いている。

 

 

 

 

悪意は原作(オリジナル)より深く、漆黒に染まっている。

 

 

 

 

 

 




最近になってなぜか赤イヌの「敗北者じゃけぇ」がまた流行りだした。流行なんて所詮、先の時代の敗北者じゃけぇ。

トリケセヨ、イマノコトバァ!



すみません、ほんとごめんなさい。勝手に番外編作って適当に終わらせてしまいました。勢いでやってしまいました。すみませんでしたァ!!!

次回からはUSJ襲撃編になります。 宜しくお願いします。


いろいろ紹介

赤イヌ:海軍大将。性格は厳しめで仲間であっても海軍の正義に背くものは即排除する人。

黄ザル:海軍大将。性格はマイペースだけど仕事はする人。この人のモノマネは楽しい。

キングギドラ:3つ首の黄金竜。出てきたのは二代目のほうで、テレパシーを使えば会話もできなくはない。

今週のビックリドッキリ○○発進!:元はヤッターマンだったはず。なんとなく使いたかった。

マジ殴り:ワンパンマンの主人公、サイタマが使う技のひとつ。普段は本気を出さないが、強いやつが相手だとこっちを使う。けどまだ2回しか使っていない。

モンキー・D・ガープ:海軍の英雄(何回出てきたんだろう)。昔、海賊王ゴールド・ロジャーと何度も殺し合いをしてきた古人勢。強い

センゴク:海軍元帥。おかきが大好き。

ガノンドロフ:スマブラspで剣を使うようになったガノンさん。たのちぃ

黒ひげ:本名マーシャル・D・ティーチ。白ひげ海賊団の2番隊の元隊員。4番隊隊長のサッチを殺害し、自分を追ってきた2番隊隊長のエースを返り討ちにして海軍に引渡した頂上戦争の原因をつくった男。本来ならこの人はこの頂上戦争でめっちゃ強くなるはずだったのだが、結依魔理沙に計画を邪魔され、挙句の果てにアバダケタブラを使われて死亡。

アバダケタブラ:ハリーポッターに出てくる即死魔法。禁忌の魔法で使っちゃダメなんだが、しらん。





ルフィとエースは無事モビーディック号に乗ることが出来ました。白ひげも無事でした。魔理沙は誰かに何かいいたげな顔をしつつ、エースとルフィに別れを告げて帰りました。そして海軍に賞金10億ルビーをかけられましたが、誰も見つけることは出来ませんでした。

~ END ~



魔理沙「クソッタレええええええええええ!!!」




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第五章:USJ襲撃事件編
いいゾ頑張れ飯田きゅん(21話)


悪夢(番外編)は終わった。今からUSJ襲撃編や。

カーモンベイビーアメリカーン♪


 

前回、確か執行猶予がなくなっただよな。けど、ちょくちょく自分が暴れていることが警察の、えーっと誰だっけ、掘り、掘り、あ、思い出したわ塚内警部だ、その人にバレかけたからマインドコントロールで私が暴れた形跡を世界から抹消して寝たんだ。で、今日の朝に至ると。

 

さて、学校にいくとするか。

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

「すみませーん! 教師のオールマイトの様子について何かご意見をください!」

 

 

「あー?」

 

なんだこいつら。マスコミか? あぁ、オールマイトが雄英高校に就任したことが世間に広まったからこんなことになってるのか。人気者はやっぱ凄いなぁ〜。......邪魔だな。

 

「えーっとですねぇ、えぇ、うん、はい、えーっと」

 

軽く返事をしてさっさと登校したいところだが......ダメだ、何も浮かばない。なんて言うべきかよく分からない! ヤバい、早く意見言えと言わんばかりの目線と同調圧力が私のリトルハートをチクチクいじめていきやがる。言葉が噛み合わなくてもいいから、適当なことをさっさと言ってすぐ門をくぐろう。最悪の場合、ヴィランをつくってそこら辺に野放しにしてそいつをスクープしてもらうのも手だ。最終手段だけど。

 

「トテモカッコヨクテタヨリガイガアルナァートオモイマスー(棒)」

 

頑張った、頑張ったよ私。もう限界だ。逃げよう。

 

「他にご意見はありませんか!」

 

「だぁー!! もう! やかましいわお前ら!! 次なんか喋ったら地平線の向こうまでぶち飛ばすぞ!」

 

いかん、つい本音が漏れた。

 

啖呵を切ってしまった私は、ちょっとイライラしつつも雄英バリアをくぐり抜けて登校した。これ以上あの有象無象と関わるとうっかり消し飛ばしかねない。最近の私は思考回路が危ないからな、自分を止められるのは自分だけだからな。

 

「ちょっと待ちなさi」 ガシャーン

 

 

雄英バリア、ナイス仕事。

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ〜。訓練の結果はこちらで確認済みなんだが、爆豪、あの後は特に異常とかなかったか?」

 

「今はねぇ」

 

「ならいい。今のところ問題なさそうだがここしばらくは大人しくしとけよ。最近は個性の突発的暴走がところどころ発生してるらしいからな。全くどうしたもんだか......」

 

そう、あの大爆発が起こったあと、爆豪は病院に運ばれたんだが異常は特になし。何年か前に流行った個性をブーストさせる薬物の検出も無し(当たり前だが)。最近よく起こる原因不明の個性の突発的暴走らしい。これは原作にはなかったはず。私が原因なのかな? ごめんね爆豪きゅん。

 

「さて、今日のホームルームの本題だ。今日はお前らに......」

 

ざわざわ ざわざわ ざわざわ......

 

なんかみんなやたら身構えてるな。「前みたいな小テストは勘弁してくれ」っていう心の声が聴こえる。ふふふ、安心しなんし、次のセリフをちゃんと聞くが良い。

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

((なんか学校っぽいのきたー!!))

 

「先生! 委員長! 俺、やります!!」

 

「私もやるやるー♪♪」

 

「うちもやるっす」

 

「オイラもー!!」

 

わぁー、みんなそんなに学級委員長やりたいのかぁ。確か前世の記憶だと誰もやりたがらないし、少しでも素振りを見せたら即持ち上げられて無理やりやらされるというデスコンボがあったんだが、今回は心配しなくてよさそうだな。

 

「静粛に!! 学級委員長というのは、他をまとめあげ、他から信頼を得て、自分から率先して行動しなければ成立しない役目。つまり、ただ自分がやりたいというだけじゃ務まらないということだ。よって、この学級委員長を決めるためにはまず民主主義に則り、投票で決めるのが良いと判断する!!」 ウデノビーン

 

「腕そびえ立ってんじゃねーか!!」

 

飯田が真っ当な口上を述べたが、彼の本心は言葉でなく体で示された。本心だだ漏れじゃねーか。

 

「まだ数ヶ月も経ってないのに信頼もくそもないわ飯田ちゃん」

 

「そんなのみんな自分に入れるに決まってるだろ」

 

飯田くんの正論に梅雨ちゃんと切島くんが反撃。もし私が飯田くんだったらここですごいしょげてると思う。

 

「だからこそ複数票をとったものが学級委員長を務めるべきだ!」

 

メンタル強いぞ、飯田くん。

 

「よろしいでしょうか、先生!!」

 

「時間内に終われば結構。」

 

この言葉を最後に、相澤先生は寝袋で眠りについてしまった。なんだこの学校。

 

まぁなんか投票になることは確定したらしいな。私も適当に票を入れて寝るとしよう。あぁ、パトラッシュ......、私はもう疲れてしまったよ......。

 

なんてくだらないことを思ってたらあっという間に投票開示の時間。黒板に名前と正の字に書かれていく投票数。まぁ私はとりあえず轟くんに入れといた。理由はない。

 

「僕3票!?」

 

「はー、チッ」

 

「どうしたんだ爆豪? 1票しか入んなかったから不機嫌なのか?」

 

「うるせーなこの醤油!! 殺すぞ!!」

 

あら、緑谷きゅんにヘイトが向くと思ったけどそうでもなかったっぽい。ちょっと丸くなってるなぁー爆豪きゅん。

 

「ぜっ、0票......。こんな.....、こんなことが......」

 

「他の人に入れたんですか....」

 

「飯田もやりたがってたのに.....、何考えてんだアイツ」

 

八百万さんと砂糖くんの辛辣なコメが聞こえるが、飯田くんはとことん真面目なんだということを理解してあげてくんなまし。おおかた、自分に入れた票を含めて投票数1位になることは、信頼されてるとは言えないとかなんとかなんかそんなこと思っちゃったんでしょう。それと緑谷くんが入試でしたことも関係してこうなったんだろう。変なとこでも真面目だなぁ。でもそこがいい。

 

「じゃあ緑谷が委員長、八百万が副委員長ということで決定。いいな?」

 

「「はい!!」」

 

やったね緑谷きゅん、委員長だよ!

 

 

 

____________________

 

 

 

ルールルッ♪ ルルル♪ ルールルッ♪ ルルル♪ ルー↓ ルー→ ルー↓ ルー↑ ルルッ↑ ルー↓ ♪

 

やぁみなさんお待ちかね! お昼の時間に開催する「結依の部屋」だよ! 今日のゲストはこちら!

 

個性「黒影(ダークシャドウ)」の使い手、常闇踏陰(とこやみふみかげ)くんです!!

 

「俺に何の用だ...」

 

「いやーひとつ気になることがあってねぇー。お話したいなと思って、呼び出したんだけど♪」

 

「随分と機嫌がいいな」

 

「ほんとに聞きたかったことがあってさ、やっと聞けるのが嬉しくて辛抱たまらん」

 

「早く言え」

 

「常闇くんの個性ってさ、どうみてもスタンドだよね?」

 

「は?」

 

「ダークシャドウっていうのはスタンド名であって個性自体の名前は『スタンド使い』だよね?」

 

「お前が何を言っているのかよく分からない」

 

「もしかして、無自覚でスタンドを使っているのか?」

 

「いやだから、そのスタンドっていうのは何なんだ」

 

「知らないのならば教えてやろう。スタンドっていうのはねぇ、人の精神が具現化したビジョンなんだよ。つまりは精神エネルギーの塊よ。スタンドはスタンドで攻撃しないと当たらなくて、本体とスタンドとの距離や性能によってスタンドのパワーが変わるんだ。つまり、お前のダークシャドウはスタンドということだ。おけ?」

 

「要約すると、お前は俺と同類ということでいいか?」

 

「誰が厨二病だコラ」

仕方ない、こっちもスタンドを見せればダークシャドウがスタンドということが確定する。すごく厳ついスタンドをバッと出して常闇くんがギョッとすればそれでオーケー。お前はスタンド使いじゃああああああああぁぁぁ!!

 

「いでよ、ザ・グレイトフル・デッド!!」

 

ふふふ、怖かろう? 下半身がなく、胴体から触手が数本垂れていて、目玉だらけのこのスタンドを見たならばぁ、ビビるに決まっている! 誰だってそうする、私もそーする。

 

しかし、常闇くんはキョトン顔だ。なんだ貴様、あれか、驚きすぎて声も出ませんってやつか。ふはははは! やはり貴様はスタンド使いなのだ!!!

 

「ふふふ、見えているだろう? 私の側に立つスタンドの姿がハッキリと......」

 

「見えないんだが...」

 

「.......。」

 

..................。

 

静寂が訪れた「結依の部屋」。なんとも言えない雰囲気が彼らを包み、誰も口出せない状況であったが突如! 思わぬ出来事が発生した!!!

 

『セキュリティが突破されました。生徒の皆さんは直ちに避難してください』

 

(セキュリティが突破されたとはどういうことなんですか!?)

 

(雄英高校に誰かが侵入したんだ! こんなことは3年間起こったことがない! 早く逃げよう!)

 

遠くからいろんな声が聞こえる。千里眼でさっとみたところ、侵入してきたのはあの朝の時にやかましくしてたマスゴミの皆さんだ。なんで雄英バリアを突破できたのかしらんが(知ってるけど)、とにかく止めなければ大混乱間違いなし。早く止めよう。

 

と、思ったがちょっと待て。ここで止めたら、緑谷くんが「やっぱりししょ......、結依さんが委員長をやるべきだと思うんだ!」とかなんとか言っちゃって、持ち上げられて、勝手に物事を進められる可能性がある。というか、そんな未来が一瞬見えた。そんなことはあってはならん!! 一刻も早く飯田くんを委員長に仕立て上げなければならん! これは使命だ、やらねばならぬ。絶対だああああああああぁぁぁ!!

 

「おい結依、俺達も早く.......、」

 

「いない.........。」

 

独りフードコートに取り残された常闇踏陰。闇に生きるものは常に孤独だ......、と自己暗示をかける常闇くんであった。

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「あちょ、せま、邪魔、邪魔ああああああああぁぁぁ!!!」

 

案の定、校舎内は大パニック。最終セキュリティが突破される時と言えば、ヴィランが襲撃したくらいでなければ突破されないので、パニくるのは当然っちゃ当然。1年も2年も3年もそろいもそろって叫んでいるよ。あ、誰か私のお尻触った! いい度胸だなぁ、無事おうちに帰れるといいなぁ... キュワイーン

 

危ねぇ、うっかりイレイザーキャノンを撃っちゃうとこだった。痴漢潰すために星ごと消すのはよろしくない。もっと冷静にならねグギゲハッ!!

 

せま、せまい!! 押しつぶされる!! もうこうなったらやってやる。私、カチンと来たわ、カチンと来ちゃったぞコラァ!!

 

「サイコキネシス!!」

 

なんということでしょう、人でごった返しになっていた廊下のど真ん中に道ができたではありませんか。私のせいで窓ガラスとイチャイチャしてしまったのは申し訳ないと思っているが、パニクったお前らが悪い。

 

「ちょっと君! 個性を使っちゃダメだろう! 君のせいで生徒が苦しんでいるの見えないのか!」

 

なんだか顔も知らんモブが説教してきたな。

 

「......はぁ、一応言っておくけどセキュリティ突破してきたのはマスコミであってヴィランとかそうゆーのじゃねぇから。窓ガラスとくっついているやつはすぐ確認できるだろう? もっと周囲を確認しないからこういうことになるんだ。これでヒーローになるとかアホ抜かしてんじゃねぇ! だから全員いったん落ち着いて寝ろ!! 寝たい奴は私の前までこい!!」

 

ふぅー、うっかりディスってしまったがこれで落ち着いただろうか。それとも怒りに任せてぶん殴ってくるかな。もしそうだったら素直に謝ろう。

 

(マスコミ? マスコミなのか?)

 

(ほんとだ! 相澤先生が報道陣の対応してる!)

 

(なんだ〜よかったぁ〜!)

 

(なんでマスコミが雄英バリアを突破できたんだろ。協力者が......)

 

よかった、落ち着いたみたいだ。1人だけ核心をつつこうとしてるけど無視。さ、帰って授業の準備だ。

 

(あのエスパーの個性の人が動いてなかったら、ケガ人が出てたかもな)

 

(口は悪いけど、誰よりも先に行動できるなんて凄い!)

 

(お前がNo.1だ)

 

......しまった! やっちまった! 飯田くんがやるべき事を私がやっちまった!! せっかくの作戦が自分のミスでパーとかあかん!! ちょっと待てお前ら、落ち着いて話をしよう! この流れはだめだ、ダメなんだぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!

 

 

 

 

____________________

 

 

 

「やっぱりししょ.......、けっ、結依さんが委員長をやるべきだと思うんだ!!」

 

「師匠は普段、人当たりが厳しいけど、でも誰よりも人を助けたいと思っている人なんだ! この前は変な人たちに目をつけられた時、師匠が僕達を真っ先に逃がしてくれたんだ! そうだよね、かっちゃん!」

 

「俺に振るな」

 

「僕も結依くんがみんなを引っ張っていくべきだと思う」

 

「飯田くん!」

 

「あの時僕は、何も出来なかった。いち早く気づき、すぐ行動に移すことができた結依くんは立派な学級委員長さ」

 

未来は変えられなかった。というかお前も気づいてただろ飯田きゅん。なんで私より早く行動してくれなかったんだ......。いや、仕方なかったかもしんないけど。

 

こうなれば奥の手を使うしかあるまい。何としてでも飯田くんが委員長になってもらわなければ私の生意気でお気楽なキャラが崩壊してしまうッッ!!ここで食い止めねば!

 

「緑谷くん、飯田くん、君たちの想いは伝わったよ。だが、私は委員長になるつもりはないんだ。あまり積極的に行動するキャラじゃないし、今回のはたまたまそういう流れになったってだけでいつもそうじゃないからさ。だから、私は学級委員長をいいd」

 

「責任から逃れるなー、もっとやる気を見せろー(棒)」

 

峰田がなんか言ってきたことがなんか癪に触ってついうっかり......

 

「じゃあ飯田くんが学級委員長にならないと私はこの地球を消し飛ばします」

 

もうこの時の私はどうかしていたのだろう。とにかく学級委員長という役目から逃げたくて仕方がなかった。自分でもとんでもないこと言っているのは分かっている。ただ逃げたかっただけなのだ。

 

私の手のひらに虚無崩壊のエネルギーが密集し、淡い光を放っている。今集まっているエネルギーだけでも日本を海に沈めるほどの力があるなんてみんなが知ったら、どんな顔をするのだろうか。多分、物凄い説得をするだろうなぁ。

 

「結依が暴走した!」

 

「誰か止めてあげて!」

 

「卑怯じゃないか結依くん!?」

 

「そんなにやりたくなかったんだ師匠...」タッカン

 

「おい結依、個性を止めろ。チッ、俺の個性では結依の個性を消せないようだな。めんどくせぇ」

 

「飯田が学級委員長になるってよー(棒)」

 

戦犯峰田の棒読みセリフが結依に届いたのか、フッと淡い光が消え、結依は安心感からそのまま倒れ込んでしまった。

 

「ありがとう、飯田くん......」

 

彼女は安らぎの笑みを浮かべたまま、保健室に運ばれた。

 

 

 

 

 

雄英高校1年A組事件簿

 

『校内パニック騒動&結依暴走事件』

 

ここに記す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued!

 






日常じゃあー、平和じゃー。心がぴょんぴょんするんじゃあー。

いろいろ紹介

結依の部屋:みんなおなじみ徹子の部屋のオマージュ。最初のルールルッ♪ はこれの曲なんですねぇ。ニコ動で「華扇の部屋」っていう東方と徹子の部屋を混ぜたやつがあるんですけど、面白いのでオススメです。

ザ・グレイトフル・デッド:ジョジョの奇妙な冒険第5部に出てくるスタンド。相手を歳関係なく老化させるスタンド能力を持つ。5部アニメ化してるからのちのち出てくるはずだ!

イレイザーキャノン:はい、ブロリーです。シャモ星人の星を木っ端微塵に消し飛ばしたアレです。血祭りにあげてやる。

サイコキネシス:超能力のひとつ。手を使わずにものを動かすことができる能力。便利ィ

虚無崩壊:スライム魔王ことリムル=テンペストの能力のひとつ。貯まれば世界を作り直すことも可能。言わずもがなチート。




何だって? タイトル詐欺? 飯田くん今回はただのネタキャラ? いいかい? いいゾ頑張れ飯田きゅんっていうのは飯田くんに対する応援であって飯田くんが何かするというわけではないのだよ。おけ?


はい、言い訳でした。


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肝心な時に弱くなるやつ(22話)

宿題が......、多い......。



一瞬、質問コーナーとかやってみたいなぁとか思っちゃったけどよくよく考えたらいろいろ紹介でいろいろやってるから特に無くね? と感じた今日この頃。




 

 

 

ほんとひどいや。目が覚めたら相澤先生が、「明日までに反省文5枚提出。出来なかったら明日のレスキュー訓練は参加させないからな」とか言ったんだ! 今はもう夜の八時、また時間を止めて反省文を書き終えるしかねぇ!! そのためのチート能力だ!きっと神様も「チート能力は無駄に使いなさい」とおっしゃるに決まってる!

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

「あー、あー、あー、」

 

「また夜更かし? そんなんだから髪がボサボサなのよ」

 

「これは生まれつきだ。何度もいろんな種類のトリートメント試して見たけど朝起きたらボサボサなの。しゃーないの」

 

「お肌も真っ黒なんだからしっかりしなさい」

 

「冗談キツイぜ、母さん」

 

朝から母親に弄られながらもご飯を食べる私。眠い、眠いぞぉ、まさか私の文章構成能力がここまで低いとは思ってもみなかった。まだ前世のほうがマシなくらい酷かった。反省文の最初の導入の部分で半日もかかるとは思わなかった。

 

「いってきまーす」

 

「人様に迷惑をかけちゃダメよー」

 

「はいはい、わかりましたよーだ」

 

母さん、その点に関してはもう手遅れだ。

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

相澤先生に頭を下げて反省文を提出し、いざ授業! 今日はレスキュー訓練をするということでみんなは大いに盛り上がっているようだな。みんなヒーローコスチューム着てるし、そういう私もあの白黒の魔女服を着てる。ちなみに私は訓練とか正直どうでもいい。家帰って寝たい。おのれ反省文。

 

んで、現在はレスキュー訓練専用の施設に行くためにバスでぶらり移動中。日本政府はどんだけヒーローに金かけるんだよ。もっと経済充実させろ。

 

「私、思ったことは何でも話しちゃうの。緑谷ちゃん」

 

「はいぃい!! あっ、蛙吹さんッッ」

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

「つっ、つぅうぅう......」

 

女の子慣れしなさすぎじゃね? 私がいるのに?

 

「あなたの個性、オールマイトに似てるわ」

 

「そっ、そそっ、そうかなぁ//」

 

なーにデレデレしてんだこのスカポンタン。そんなことしてっからほらぁ......

 

「......、チッ」

 

爆豪がいじけちゃうだろう?

 

「単純な強化系はシンプルでいいよなぁ! 派手で出来ることも多い! 俺の個性は『硬化』だからいかんせん地味なんだよなぁ。」

 

「僕はすごくカッコイイと思うよ! プロにもきっと通用するよ!」

 

緑谷くんは元々無個性だからな、そういうことに関してすごく説得力がある。オールマイトから個性貰っちゃったけど。

 

「プロな。でもヒーローって結構人気商売みたいな部分もあるぜ?」

 

「じゃ、私は破壊系キュンキュンアイドルにでもなろうかなー」

 

…( ˙ㅂ˙ )…シーン

 

え? え? なんでみんな黙んの!? やめてよ!

今くっそ恥ずかしい!!

 

「師匠......。」

 

やめろおおおおおおおおお!!!!

 

「でも実戦的で派手な個性と言えば轟と爆豪と魔理沙だよな!」

 

ナイスだ切島くん。見事な話題転換、陽キャは有能だな。

 

「爆豪ちゃんはいつもキレてばっかだから人気でなさそ」

 

「んだとコラだすわ!!」

 

「ほら」

 

「まだ付き合いも浅いのにクソを下水で煮込んだ性格で認識されてるなんてすげぇよなw」

 

「てめぇのボキャブラリーはなんだこの殺すぞ!!」

 

「低俗な会話ですわ」

 

「でも私はこういうの好きだよ!」

 

「おいお前ら、もうすぐ着くからいい加減にしろ」

 

「「はーい」」

 

そうこうしているうちに施設へたどり着いた。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

わー、でっかい。うん、でけぇ。

 

私たち1年A組は相澤先生ともう一人の引率の先生で災害救助のプロヒーロー「13号」先生といっしょに施設の中に入った。そう、ここは13号先生が作り上げた、火災、土砂災害、水害、暴風なんでもござれの災害体験ルーム。またの名を「ウソの災害や事故ルーム」、略して「U S J」!! 全く関係ないけど、なんで13号先生はヒーロー名に不吉な文字を入れたんだろうか。あ、あれか、宇宙ロケットのアポロ13号からとってんのか。宇宙服だし。いやまて、アポロ計画で有名なやつって11号のほうだよな? じゃあ結局なんなんだろうか。実はジェイソンのファンとか?

 

そんなしょうもないことを考えていたら、何やら13号先生からのお小言が1つ2つ3つ4つ...多くね?

 

「皆さんは知っていると思いますが、僕の個性は『ブラックホール』。どんなものでも引き寄せて塵にすることができます。」

 

思った、この先生の個性強いぞ。ブラックホールだよブラックホール。なんでアポロのくせにブラックホールなんだよわけわっかんねーよ。

 

髪の毛生えてなさそうだから個性はパクれなさそうだな。残念。

 

「その個性で多くの人を災害から救助するんですよね!!」

 

「やっぱカッコイイよ13号先生!!」

 

緑谷くんとお茶子ちゃんがキラキラの目線を13号先生に向けている。キラキラが止まらないよ☆(幻聴)

 

「しかし、人を容易に傷つけることのできる個性です。」

 

......そりゃブラックホールだしな。傷つけるどころか灰も残さずに消し去るな。

 

「今の政府はヒーローという存在によって個性の使用を厳しく制限して一見成り立っているように見えますが、それはとても不安定なものなんです。」

 

みんなが一斉に個性を好き勝手使いだしたらそりゃ世紀末になるな。日本人は基本、周りに合わせようとする人が多いおかげなのか、犯罪発生率は他国に比べてとても低い傾向にある。が、かといって油断もできない。特に平和に浸りすぎると刺激がなくなって、刺激がほしくてヴィランになるやつも存在する。いつ常識が壊れてもおかしくないってところが今の世の中の最も怖いところだよホント。

 

「君達は相澤先生による個性把握テストで自分達がもつ個性の力を知った。」

 

「そしてオールマイトの対人戦闘訓練で人に向けて個性を使う危うさを知った。」

 

「そして僕からは、個性は人を傷つけるためにあるのではなく、人を救うためにあるのだと学んでいってほしいな」

 

「ご清聴ありがとうございました」

 

おおおおおおおおおおお......!!

 

パチパチパチと拍手の音がクラス全体を包む。この人、立派にヒーローやってるなぁとちょっと感心した私であった。

 

「それじゃあさっそく......」

 

と相澤先生が言いかけた途端、照明が消えた。今は昼だから真っ暗になる心配はないんだけどこれは怪しい。というか私の前世の記憶が危険をお知らせしてるぜ! 何来るんだっけ? 先代ワンフォーオールの継承者の息子さんだっけ? おっとネタバレ

 

「みんなひとかたまりになって待機!」

 

「13号、生徒を頼む」

 

何も無い空間から紫色のワープゲートのようなものが現れ、そこから無数の小汚い人間たちがゾロゾロと溢れんばかりにでてきた。とくに中央にいるやつなんか身体中に手ぶくろくっつけてる変態だぜ?

何考えてんだろーなーーおめーらぁー!(煽り)

 

正直、蟻がいくら増えたところで一瞬で終わるだけだけなんだが、なんか既視感のある人物が2人ほどでてきた。1人は金髪ロリっ子で目つきが冷たいワンピースの女の子。もう1人は黒髪のスタイルのいいお姉さんだが、全身に重火器がエグいほど身につけてやがる。なんだこいつ、戦争にでも行くつもりなのか? 重くないかその装備。

 

「なんだ、アレ」

 

「もしかして、入試の時みたいな既に始まってるパターンか?」

 

異様な雰囲気に耐えきれず、切島くんや緑谷くんが一歩踏み出そうとしたが、相澤先生が「動くな!!」と叫んで静止させる。そしてあの小汚い軍団の正体の名を相澤先生は言った。

 

「あれは......、ヴィランだ...」

 

全員がドキリとした。何も前触れもなく登場したあの集団の正体がヴィラン......、ヒーローの敵、命の危険、あらゆる思考が脳の中で混線し、惑う。

 

そんな中相澤先生は冷静な判断の元、ゴーグルを装着して臨戦態勢に入る。やはりベテランは隙がない。よっし私も戦闘準備しようかn

 

「おい結依、お前はこうなることを知っていたな?」

 

ゲッ、やべ

 

「確かお前は未来を見ることができる個性があったはずだ」

 

「先生、私のしおり読むの早すぎません? もう1000ページ読んだんですか」

 

「つべこべ言わず言え」

 

「はい、知ってました。でも予定では一応誰も死ななかったんでいいかなとおもi」

 

「お前は後で説教と反省文10枚だ」

 

「先生、個性使用許可をください。皆殺しにしてきます。」

 

「ちょっと黙れ」

 

クソッ、ヴィランめ、てめぇらのせいでまた反省文書くことになったじゃねーか。反省文の辛さを知らねーのか貴様らは。文系なのか? (゜Д゜)アァン?

 

「13号、センサーの反応は」

 

「どうやらヴィランの中に電波を妨害する個性がいるかもしれません。雄英に連絡が繋がりません」

 

「チッ、そいつは多分すぐに隠されたみたいだな。こっらの退路が絶たれた」

 

もういいかな? ぶっ飛ばしにいってもいいかな?

 

「おいお前ら! お前らは13号といっしょに行動! 最悪の場合、個性使って自分の身を守れ!」

 

「相澤先生はどうするんですか?」

 

「俺は中央でヴィラン共をくい止める」

 

あらやだイケメンだわ。ここにイケメンがいるわ!!

 

「相澤先生ぇー!!!!」

 

だが、相澤先生だけにいいカッコはさせん!

 

「相澤先生待ってください、ここは私に任せてください」

 

「結依、お前も13号先生といっしょに......」

 

「私の個性を知っといて頼らないなんてほんとイケメンですね。でも誇りと生徒を天秤に乗せるのはダメです」

 

「お前、何する気だ」

 

「見ててください、結依魔理沙の勇姿を!」

 

そうして取り出したのは見えない剣。そうアレだ。ふぇっ、ふぇっ、Fat○eだ。某セイバーさんのアレをするんだ。画面の向こうのみんな、準備はいいか? 大きな声でせーのでいくぞ! せーのっ!

 

 

「エクスッッ!! カリba」

 

〔カルマ値が許容ラインを超えました。〕

 

はい?

 

〔深層領域に重大な問題が発生したため、自動的に対処を行います〕

 

その声を聞いた途端、ものすごい数の弱体化魔法が私の体の隅々まで流れ出した。何これ止めらんないんですけど!!! ちょっ、まっ、マジでなんだよコレ!! ヤバいヤバいヤバい! ほんとにヤバい! こんなに弱体化魔法をくらったら......

 

なんということでしょう、あんなにボサボサだった髪の毛がまるでトリートメントのCMに出てる人くらいサラッサラに。そのうえやや身長が低くなりました。しかも顔の色も若干薄くなって表情がうっすらわかるくらいの濃さになりました。ビフォーアフター

 

あかん、体が重たい。おい、大賢者、私の体の状況を教えてくれ。

 

「カルマチ、ノウリョクツカウトフエル、キョヨウリョウ、コエルトジャクタイカ」

 

おいいいいいいいいい!?!? なんで片言なんだよ!? 大賢者さーん、しっかりしてー!!

 

「チートノウリョク、シヨウフノウ、ヘンシンノウリョク、シヨウフノウ、ゾクセイマホウ、イチブシヨウフノウ、モンスター・キャラショウカンマホウ、シヨウフノウ、ブキショウカンマホウ、シヨウカノウ、ソノタ、イチブシヨウフノウ」

 

片言ながらありがとう大賢者さん。しかし、内容が絶望的だ。チート無双はおろか、まともに戦えるか不安だ。雑魚敵はまだしも、あの筋肉ムキムキゴリラの相手は本気出さないと勝てないし、その上すごい既視感のある女の子たちも相手するとなると負けフラグにしか感じない。ヤバい、なんで肝心な時にこんなことになってんだろ。アホか。

 

「師匠! どうしたんですか!?」

 

「相澤先生、私の個性の弱点が今わかりました。どうやら個性を使いすぎると大幅に弱体化するらしいです。すみません」

 

「ほんとお前は非合理的だな。早く13号といっしょに避難しろ」

 

「先生、残念ながらそれも出来そうにないです」

 

「何故だ!!!」

 

「それは............」

 

相澤先生キレてるけどほんとヤバいのはこっち。実はさっきからやたら私だけに殺意を向けてくるやつがいるんだよね。そう、金髪ロリのワンピース野郎。アイツが......

 

「お姉ちゃんを返せぇぇえええええ!!!!!」

 

最悪のタイミングで突撃してきた金髪ロリ。なんとか腕をクロスして顔面をガードするが、腕のところにドロップキックをくらって後方にぶっ飛んだ。こいつ、ロリのくせにパワーがおかしい!!!

 

「結依ッ!!」

 

相澤先生が個性を使いつつ、捕縛布で私を救出しようとしたが、

 

「あんたは邪魔」

 

ロリは布をぎゅっと掴み、相澤先生ごと中央の方向にぶん投げた。つまりあの怪力は個性じゃなくて素の方ということなのか? だとしたらかなりヤバい。まだ原作の方がいくらかマシなくらいだ。

 

「さて、私はいったい誰でしょーか?」

 

ロリが私の顔を覗きながら言いやがった。知るかアホ

 

「正解はねぇ〜♪ 自己進化型人工知能『NOUME』コード003でしたー♪ お姉ちゃん、コード004の仇をとりにきたよ。覚悟してね」

 

こんな時に人工知能......、私はつくづく運のない女だ。これ乗り切れるか......? 身体能力は変わっていないからワンチャンいける気がするが...。

 

今は相澤先生は中央のヴィランを抑えてる、13号先生は生徒の保護、こいつを抑えられるのは結局のところ私しかいない。絶対にやりきる。私がやらなきゃ誰がやる。

 

そう言って自分を奮い立たせて、覚悟を決めた。すまんみんな、残りは任せた。

 

「13号先生、こいつは私が狙いです。私のことは置いてって構わないんではやく逃げてください」

 

「何馬鹿なこといってるんですか! 早くこっちに逃げなさい! 私は生徒たちを...」

 

「いえ違うんです、こいつらとはちょっと因縁があるんです。後で話すんで今は逃げてください!」

 

「ごちゃごちゃしゃべんなー!!」

 

あのロリ大事なお話の途中でまたきやがった。おもいっきり腹のど真ん中狙ってたから上手くガードできたけど、油断できねぇ

 

「そんなにアイツを取り返してほしかったら二度と私を襲うな」

 

「ますたーの命令に反するからだめ」

 

「あっ、そう。じゃあ力づくで頑張れ」

 

幼女と魔女が拳を交えた時、姿からは想像も出来ないような激しい闘いが、今、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲーム、スタートだ......」

 

 






なう(2019/04/20 21:37:46) カルマ値が上がっていたとはいえ、これはちょっと魔理ちゃんがアレなんで少々冷静に......



ラスボスは、弱点があるからこそロマンがある。



いろいろ紹介

コード003:怪力金髪幼女(アンドロイド)。見た目はすごく幼くて身長は峰田くらい。けどっよぃ。

エクスカリバー:エクスッッ!! カリバー!!

カルマ値:カルマ値は攻撃系の能力や体術、とにかく相手に対して暴力的な行動をすれば増加する。わかりやすく言えばアンダーテールのEXPみたいなもので許容量を超えると自動的にカルマ値を一定量減らす。副作用で超弱体化する。またカルマ値が増えるにつれて、短気になったり、人を殺しても何も感じなくなったり、とにかく戦闘狂に近づいていく。

深層領域:人間の奥深くに眠る領域。感情や才能、個性因子などの実体化しないものが埋もれる場所。






アニメで約束のネバーランド見ましたが面白いです。オススメです。


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弱体化したけど、まだ余裕(23話)



〜 襲撃前 〜

「これからオールマイトをぶっ殺しに行くっていうのに、なんでこんなガキのお守りをしなきゃいけねぇんだ。」

「ガキガキうっさい! 私の方があんたの10倍は強いわ!」

「こんのガキィ......」

「まぁまぁまぁ死柄木弔。そろそろ雄英高校の生徒達が到着している頃ですから、冷静になりましょう」

「すみません死柄木さん。ウチの子は少しばかり気が強くて......」

「あっ! おねーちゃん! あのボサボサ野郎は私がやっつけちゃうから! おねーちゃんは手を出しちゃダメ!」

「はいはい、わかったわ」

「先生は何考えてるんだか......」







番外編の内容が急に出てきたので、USA終わった後にまたやりたいと思います。落ち着いたやつをやるつもりでしたが、過激なやつを閃いてしまったのでその方向で。

最終決戦のシーンを書きたくてここまでやってきましたが長い!! あと何話書けばそこにたどり着けるんだドチキショー!! 魔理沙さん頑張ってヴィランを全滅させてくれぇえ





 

 

 

前回のあらすじだぁペッシィィ。プロシュートアニキ!!

 

はい、真面目にやるぞ。前回はレスキュー訓練をするために災害救助のプロヒーロー「13号」がつくった災害体験ルーム、通称「U S J(嘘の災害や事故ルーム)」に行ったんだが、ヴィランにおもいっきりバレてたらしい。待ち伏せされたあげく退路も絶たれて大ピンチ。だが、チートを持ち合わせた私がいるぞ! と言いたいところだがいろいろあって超弱体化してしまった。チート使えません、無双を期待してたかもしれないが諦めてくれ。あと、21話を見てほのぼの日常系と思ったそこの君。ここはタイトル通りただやりたい放題暴れるだけのアレだからそこんとこよろしくな。何よりヒロアカ自体、戦ってばっかだからな。な?(脅迫)

 

長い長いあらすじはもう終わり。今から始まるのは幼女とのデスゲーム。もちろん私は抵抗するで? 拳で。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!」

 

空中戦で倒そうと思った私は落下しながらもラッシュを続ける。私は別に個性とか能力を使わなくてもオールマイト並に頑張れると自負している。ごめん、言いすぎたオールマイトの2分の1くらい頑張れる気がする。だからタイマンだったら普通に勝てるんじゃないかなぁー。

 

「せいっ!」

 

「グホォ!!」

 

そんなことなかった。このロリ人工知能、ラッシュを空中で避けつつ反撃するとかよくできたな。痛てぇ

 

「えーっと? なんだっけ、むだむだぁ?」

 

チッ、前世の私なら鼻から忠誠心が漏れていた。だが私はたかがロリに負ける訳にはいかねぇ!!

 

可愛いラッシュ攻撃を避けつつ、武器をこっそり取り出した。その名はガスターブラスター、謎の頭蓋骨から極太ビームが出るスグレモノ。かつて、数多くのプレイヤーがこれに苦しめられ、何度も何度も決意を抱くハメになった悪魔の兵器。実際私も苦しめられたこの兵器ならやってくれるはず!!

 

「スマァァッシュ、バスタァァァァァァ!!!」

 

某ネオ海軍の人の必殺技名を叫びながら光線をぶち飛ばしてみた。後、感覚で気づいたんだがどうやら能力を2つ以上同時に使えないようだ。今の大賢者さんは弱体化してクラシックになってるからこういうとこ見逃しちゃってんだよな。まぁ、ようは武器を取り出す時も能力使う時も1個ずつってことだ。めんどい。

 

流石に避けきれなかったのかもろ水難ゾーンまで吹っ飛んだゾあの可愛いロリっ子。とりあえずガスブラしまっとくか。

 

「あーもう! 服が濡れた!!」

 

あぁ、なんだろう。ナデナデよしよししたい。もしくはされたい。膝枕も可。

 

「ぜったい許さない!!」

 

キレた顔も可愛い。

 

とか煩悩に溺れていたら瞬間移動で間合いを詰められた! だがな.......、

 

「うふふ、お前の速さは見切ったぞ」

 

「はぁぁあなぁあああせぇええええ!!」

 

幼女の馬鹿みたいな火力のこもった拳を片手で抑えつつ、もっと煽ったらどんな顔になるかなと期待してる私。さっきまで戦力差に絶望してたけど、意外といけるかもしれない。

 

「お姉ちゃーん、やっぱり手伝ってー!」

 

こいつ、増援呼びやがった。しかも厄介なやつを! だがこっちだって武器はめっちゃあるしー、なんの問題もないしー。

 

だがやっぱり一人じゃ負担がデカい。せめて一人こちらも増援がほしい。そうだな.....、攻守両方強い轟くんに手伝ってもらおうかな。1年A組の中でも結構個性が強いし、範囲攻撃だから下にいる雑魚

も一掃しやすい。よし、決めた

 

「轟k」

「させませんよ」

 

ヴィランをゾロゾロと出した紫色のワープゲートの個性のやつが、1年A組のとこまで先回りしやがった。まずい、ここでみんなバラされたら轟くんを探すのがめんどくさくなる。すぐに守りにいかなきゃ!

 

「させませんよをさせませんよぉおおおお!!」

 

意味不明な日本語を発しながら1年A組のとこに戻る。が、しかしあの2人を無視したことによって隙が生まれ、背後を向けてしまった。

 

「お姉ちゃん!」

 

「わかってますわ!」

 

黒髪お姉ちゃんが背中から取り出したのはスナイパーライフル。その名は「バレットM82」、軍用に作られたセミオートタイプの狙撃銃で簡単に扱えるかつ、コンクリートを貫通するほどの火力を持ち合わせた正直、現代のチート武器。それを軽々しく構え、空中を移動する魔理沙に目掛けてたった1発、たった1発を脳天にロックオンし、

 

ドンッッ!!!

 

「メギャッッッ!!!!!」

 

見事命中させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてな......、ぜってー仕掛けてくると思ったからフライパン取り出してましたバンザーイ! まさかあんな銃をJKの脳天に躊躇いもせずに撃つなんて思ってもみなかったがな!! こえーよマジで!! はぁ、ほんとフライパン先輩は役に立つぜ。流石、PUBGのLv4装甲の名は伊達じゃねーな。チョー変形しちゃってお料理が出来なくなったけど。

 

しかし困った、このままあの紫色のやつを倒しに行ってもコイツらがついてくるんじゃ余計被害が出る。あんまり武器を何個も取り出すと回収するとき凄くめんどくさくなるが仕方あるまい。自分の個性を把握しきれてなかった自分への罰ということで、頑張ろう。

 

じゃあ1個ずつ取り出していこう。えー、リボルケインはいるー。ヘイズキャスターもいるー。斬魄刀もいるー。流石にこれ以上は装備できないや。よし。

 

「やっぱやめた、先にお前らをぶち飛ばしてから助けに行くわ」

 

「2人に勝てると思うなよこのボサボサー!」

 

「体中を真っ赤に染めてあげますわぁ」

 

 

 

 

《魔理沙サイド一旦終了》

 

____________________

 

 

《緑谷サイド開始》

 

〜 5分前 〜

 

あんなに小さな子がヴィランで、しかも相澤先生と師匠を軽々しく吹き飛ばす光景を見てしまったせいか、今、自分は恐怖している。だけど怖がっている余裕なんてないのも事実。 相澤先生と師匠がくい止めている間に早くプロヒーローを呼ばなきゃ!

 

僕達は13号先生といっしょに出口の方向へ走って逃げた。しかし待て、相澤先生と師匠だけであの膨大なヴィランをくい止めきれるのだろうか。師匠がいつもの状態だったら多分、全て終わらせてたかもしれないけど、今の師匠は多分何かしらの原因で個性が制限されている(と推測する)から怪しい。だから僕達はまず、プロヒーローに助けを呼ぶ人と、相澤先生や師匠のサポートをする人とかで分けたほうが安全かつ効率的に事を済ませるんじゃないかなと思い、13号先生に提案しようと駆け寄った。

 

「させませんよ」

 

しかし、ここでヴィランが僕達の前方に先回りしてきた。どうやら逃がすつもりはないらしい。

 

「はじめまして、雄英高校の皆さん。我々はヴィラン連合、本日このたび雄英高校の施設にお邪魔させていただきました。我々の目的は平和の象徴、オールマイトに息絶えてもらいたくここにやってきたのですが......」

 

オールマイトを......殺す?

 

「予定ではここにオールマイトがいるはず.....、何か変更があったのでしょうか。まぁ、それとこれとは別として、私の役目はこれ」

 

突如攻撃の体勢になろうとしたヴィラン、だがそれに気づいた爆豪と切島が即座に個性による攻撃を行った。

 

「まず俺たちにやられるということは考えなかったのか!!」

 

強い打撃と爆破を普通の人がくらったらその時点でノックアウトになるはずなのだが、そのヴィランはまるで実体のない幽霊のように無傷で復活した。

 

「危ない、危ない......。まだ子供とはいえ彼らは優秀な金の卵......」

 

「皆さん離れてください!!!」

 

13号が止めに入ろうとしたときにはもう遅かった。

 

「私の役目は.....、あなた達生徒を散らして、嬲り殺す!!!」

 

ヴィランの個性が発動し、生徒のほとんどが紫色の霧のようなものに包まれた。早く逃げなきゃ、ここにいたらマズい!

 

緑谷は必死に動こうとしたが、自分がどこを走っているのかもわからず、そのまま何かに飲み込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと自分は水の中にいた。きっとあのヴィランの個性はワープの個性で僕達を別々の場所にワープさせたんだろう。じゃあ他にも僕といっしょに飛ばされた人が......

 

水の中を泳いで仲間を探すも見つからなかった。

 

「みんなどガボボボボボ!!」

 

失敗した。大声を出して反応を探そうと思ったけど、ここが水の中だってことを忘れてた。

 

だがそのおかげか遠くから泳いでくる音が聞こえてくる! きっと伝わったんだこの想いが! 僕達1年A組の絆の力が全員の心を引き合わせ

 

「シャアアアア!!!」

 

(ヴィランだぁあああああああ!!!)

 

(おめーに恨みはねーが、サイナラァ!)

 

引き寄せたのは仲間ではなくヴィラン。水中に特化した個性で緑谷を追い詰め、喉元を噛み切ろうと迫る。しかしこのヴィランに誤算があるとするならばたったひとつ。この男、緑谷出久は人ならざる化け物を師匠とし、拷問にも近い特訓を1回乗り越えているという事実を知らなかったことである。

 

(師匠が教えてくれた対水中戦闘の特訓がここで活きる!)

 

じっと相手を見据え、ギリギリまで攻撃を我慢する。水中では地上より動きづらいし、何より体感が狂う。だがそれは相手も同じであって要はどれくらい地上にいるときと同じように動けるかが重要になる、だから頑張れって師匠がしどろもどろに言ってた。あんまり見えないけど近くに遠距離攻撃を仕掛けてくるような敵は見当たらないし、近接戦闘なら僕の独壇場、たとえ水中でも不利にはならない!

 

ユージャリースマッシュ(普通のパンチ)!!」

 

相手が自分の喉元まで迫った瞬間に軽く避け、首根っこを掴んで固定したあと、すぐさま腹にパンチを1発おみまいした。岩をも砕くパンチにヴィランを耐えきれず、そのまま撃沈。海だけに。\ツクテーン/

 

しかしこちらも息をずっと我慢していたため限界が近い。意識が少しずつ薄れそうになるが必死に泳ぐ緑谷。けど水面まで距離が長く、あのヴィランみたいに自分も撃沈してしまう.....ヤバイ!

 

そんなピンチの時にひとり、助っ人が現れた。

 

「緑谷ちゃん!」

 

そう、蛙吹梅雨が来たのである。

 

蛙吹は自分の個性『カエル』を駆使して緑谷を救出し、水面に浮いていた模造船のようなものに乗り込むことに成功。そして蛙吹は緑谷以外にもひとり、救出した助っ人がいた。

 

「あぁ、あの時、あぁ、蛙吹って意外と、おっぱ」

 

シタペシーン!!

 

そう、変態王子こと峰田実である。

 

ワープの個性のヴィランによってこの水の場所に飛ばされたのはどうやらこの3人だけのようだ。しかし、ひとつ疑問がある。僕はともかく、なんで蛙吹さんがここに飛ばされたか。そしてなんで水中にいるヴィラン達は僕達を今襲ってこないのか。きっと何かが関係しているはず、そこにこの状況を突破するヒントが......。あと、なんで気絶したヴィランがあんなに浮いているんだろ? 倒したのは一体のはずなんだけどなぁ.....。

 

「みんな、僕の話を聞いてくれないか?」

 

とにかくみんなで話し合いをしよう。

 

僕は疑問に思ったことを全て話し、これからどうするかについて話そうとした。

 

「そんなんオールマイトが全部やっつけてくれるさ! なんたってオールマイトだもんな!」

 

峰田がアクションをとりながら意気揚々と言った。

 

「でもオールマイトは今いないんだ。オールマイトが駆けつけてくれる前に僕達がヴィランにやられる可能性のほうが高いし、ヴィランはオールマイトを倒すための作戦を何かしら持っているのは確実なんだ。だから今回はオールマイトを頼ることはできないよ峰田くん」

 

「そうよ峰田ちゃん、だから今私たちはこれからの行動について考えているのよ」

 

「うっ、うっせバカヤロー! そんなに言わなくたっていいだろー! オールマイトが助けにこれなくてぇ! オールマイトを殺せるやつらがオイラたちの周りにうじゃうじゃうじゃうじゃア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

「峰田くん大丈夫!? しっかりして!!」

 

「現実から逃げちゃダメよ峰田ちゃん」

 

「こんなの無理に決まってるだろーがぁあ!! 相手はオールマイトを殺せる連中なんだろ勝てるわけがねーじゃん!! 大人しく待ってたほうが得策だってオイラの本能が血涙しながら訴えかけてるんだから大人しくしよーぜうわぁあああああ!!!」

 

半べそで泣きわめく峰田を宥めようと緑谷が駆け寄ったのだが、峰田の情けない声がトリガーとなってしまい、つけあがったヴィランが船を壊そうと攻撃し始めた。

 

「へへ、いくら雄英の生徒でもまだ幼いガキだもんなぁ!」

 

「水中にもちこんで囲めば俺らの勝ちよ!」

 

ついには船を真っ二つにされ、絶体絶命のピンチにおちいった緑谷たち3人。しかし、緑谷はこの状況を打開する策を思いついていた。

 

「蛙吹さん......」

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

「つっ、梅雨ちゃん。峰田くんといっしょにここで待ってくれないか?」

 

「緑谷お前、何する気なんだよ......」

 

「僕があのヴィランたちを全員やっつけるよ」

 

「緑谷ちゃん、それは無謀よ。たったひとりで解決できるような問題じゃないわ。私も協力するからひとりで突っ走るようなことはしちゃいけないわ」

 

「蛙吹さんありがとう、けど問題ないよ。ちょうど今はヴィランたちが水面から顔を出しているから、全員攻撃できる。水中にずっといられたら流石に考え直していたけど、これならいけるよ。」

 

「バカ言ってんじゃねぇよ緑谷! お前ひとりであんなにたくさんのヴィランを相手にできるわけがねぇ!! そんなこと言ってないで大人しくしよう! な?」

 

「僕はオールマイトや師匠のような人を助ける存在になりたいんだ。だからこんなところで挫けている暇なんてないんだ。そうじゃなきゃ師匠に怒られちゃいそうだしね」

 

「緑谷ちゃん......」

 

「だからって緑谷!」

 

緑谷は船から大きくジャンプしてヴィランのとこに向かった。たったひとりで敵に立ち向かうその姿はまるで英雄のようで....、なんで同じ年齢で同じ学校のクラスメイトのはずなのにこんなに違うのか、峰田実は疑問でいっぱいだった。

 

「お、ガキがひとり飛んだぞ」

 

「ひとりで突っ込むなんて自殺願望かな?」

 

「気をつけろお前ら、なんの個性かわからないんだから水中に落ちるまで動くんじゃねぇ!」

 

「よかった、動かなくて」

 

緑谷は安堵しながら落下し、そのままひとりのヴィランの顔面に個性のこもった蹴りをくらわす。

 

「ヘブシッッ!!」

 

脳天に衝撃がはしったヴィランは即座に撃沈し、ぷかぷかと水面に浮いていたが、その時には既に緑谷は10人ほどさっきのヴィランと同じ目に遭わせていた。

 

「なんだアイツ速すぎだゲホボボボ!!」

 

「水中にかくれゲゲホボボロボ!!」

 

「この川っ、深いっ!! ボボボボボボォ!!」

 

「棒太郎ー!! くそっ、俺まで殺られてたまるかボゲロバァ!!」

 

 

 

「......すごいわ、緑谷ちゃん」

 

船の上から緑谷の様子を見ていた蛙吹と峰田は、一方的な緑谷のワンサイドゲームに驚きを隠せずにいた。

 

「なんなんだよアイツ、なんなんだよ!!」

 

「いったい魔理沙ちゃんは緑谷ちゃんに何をしたのかしら」

 

「てっきりオイラはエロいこと教えられてるのかとo」

 

シタペシーン

 

「下品よ峰田ちゃん」

 

「あぁぁああぁ頭がァアアアア!!」

 

こうして水難ゾーンはたったひとりの生徒によって解決したのであった。

 

(緑谷、お前カッコよすぎだろ......。オイラもあんなふうになれるかな......)

 

 

 

 









ここからは後書きだよってけーねが言ってた。



~ おまけ ~

ルールルッ♪ ルルル♪ ルールルッ♪ ルルル♪
ルー→ルー↓ルー→ルー↑ルルッ↑ルー→♪

第二回、『結依の部屋』、今日起こししていただいたのはこの方ッッ!!

発育の暴力でお馴染みの八百万百さんですッッ!

「紹介が酷すぎますわ!!!」

「まぁまぁ、落ち着いてくんさいヤオヨロッパイさん」

「もっと酷くなっていますわ」

「さて、まずヤオモモちゃんにひとつ聞きたいことがあってねー」

「......、なんでございましょうか」

「個性使ったらおっぱいって小さくなる?」

「ブッッッ!!!」

「やだなぁ〜、はしたないなぁヤオモモちゃん。それでもお嬢様なの?」

「はしたないのは貴方のほうですわ!! 貴方、それでも女子ですか!!」

「今頃の女子は男子より下ネタが酷いって噂で聞いた。それを完☆全☆再☆現したまでさ」

「知りませんわそんなこと」

「まぁまぁいいから、で? どうなの?」

「......、これ、言う必要ないですよね?」

「言わないとこのコーナー永遠に終わらないけどいい?」

「......。」

「ほらほら早くぅ」

「...........、お腹の脂肪が足りなくなると、ちょっと小さくなります......」ガンメンマッカァ

「......、へぇー」

「あんなに責め立てといてなんですかその態度は!!!」

「次回もよろしく!!」


〜おしり〜




千本桜を斬魄刀に変えました。無知がバレるぅ!


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選ばれたのは、斬魄刀でした(24話)



「最近、感想とかこないかなぁとモヤモヤして夜も眠れないナリ」

「そうだ! 大声を出して閲覧数を稼ぐナリ!」

「ダメです」

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



ダダダダ天使という曲にハマった今日この頃



 

 

「やーらーれーろー!」

 

「いーやーだーねー! この狂気ロリ!」

 

今のこの状況を可愛らしく言うなら、幼女とのチャンバラごっこ。酷く言うなら、進化しすぎたAIと人類の命をかけた殺し合い。後者は完全ターミネーターみたいになってるが気にしない。前回のあらすじについては前回を見てくれ(本末転倒)。

 

必死に今幼女が殴る蹴るしてくるのをリボルケインでガードしつつ、反撃に応じる戦法を何回かやってるんだがもう1人の可愛いおねーちゃんが追尾型のロケットランチャーで邪魔したりするせいで全く反撃できません! つかなんだよ追尾型のロケットランチャーって!! おかしいだろ! 誰がつくったんだよそんなチート武器! あれか、大佐か! 大佐なのか!

 

くだらないことを戦闘中に考えられる自分もあまり人のことをいえたものでは無いのだが、このままだと他の仲間たちが先に全滅するかもしれない。緑谷くんなんかまだワンフォーオールを使いこなせてないから心配で心配で辛抱たまらん。もしかしたらヴィラン側にも他に異常に強いやつがいる可能性だって否定出来ない! どうしよ、どうしよう!

 

「おねーちゃん、あいつなんか焦ってるよ」

 

「きっとお仲間さんが心配なのね。後でじっくりお世話しましょうか」

 

「それは勝手にやってて。私はコード004おねーちゃんの仇をとれたらそれでいいの」

 

「そのセリフはちゃんと私を倒してから言うべきだな」

 

「なによ、勝手に割り込まないでよ」

 

「目の前でぶっ飛ばす宣言されてる身にもなれ」

 

「断る」

 

「あぁ、そうかいッ!」

 

とりあえず、リボルケインをぶん投げてみた。

 

「フンっ、そんなの当たるわけ.....」

 

そ の と き 、不 思 議 な こ と が お こ っ た ! !

 

空気を切り裂きながら近づいてきたリボルケインはコード003の頬を掠めたあと、コード005目掛けて一直線に向かっていったのである!!!

 

「なんだ、普通じゃないか」

 

なーにが不思議なことが起こっただ。おもっくそ物理の法則に従ってるじゃねーか。

 

と思ったらそうでもなかった。なんとリボルケインが人型のナニカにトラスフォームしたのだ!

 

「マスターの邪魔はさせません!!」

 

えええええええええええええええええええ!?

 

もう無茶苦茶すぎる。なんだこの世界狂ってやがる。自分の剣が可愛い女の子になるってどこのスマホゲームだよ。ブレイブソード×ブレイズソウルさん、リボルケインちゃんの実装はまだでしょうか?

 

ヴッフン、まぁ何はともあれ人不足はこれで解消したのだろうか。まぁその、一応謝っておくか。ごめんなさい、仮面ライダーBLACKRXさん。ごめんなさい、仮面ライダーファンの皆さん。反省はしてません。反省をしないということが反省であるということで(謎理論)。

 

「リボルケインちゃん、そいつのことは任せた」

 

「了解です! マスター!」

 

健気な子や。

 

「何あんた、そんな能力持ってたのか」

 

くくく、あの生意気幼女もビビってやがるぜ。俺もビビったがな!

 

「あぁそうさ。どうだ、これで平等だろう?」

 

「ま、どうなろうと私が勝つけどね!」

 

「だから勝ってから言え!」

 

残る剣は2本、というか斬魄刀は強すぎるから後で使おう。なら残るはヘイズキャスターだな。これはモンハンに出てくる古龍「オオナズチ」の素材から作れる操虫棍っていう武器だ。言わば虫を操りつつ、棍棒で殴る武器的なあれ。余計わからなくなったかもしれないがもっと簡単に言うとバフを戦闘中に自分にかけられる武器だ。もういいや。

 

この武器には毒が仕込まれてるんだけど、AIって毒効くかな? ロボットって人間と造りが違うから効かないと思うけど、すんごく人に近い質感だしもしかしたら効くかも。

 

ヘイズキャスターを軽々しくブンブン振り回して近づく私。しかし全然ビビんない、やはり毒は無意味なのか......?

 

「お前はバカなのか?」

 

振り回してたヘイズキャスターが片手で止められ、挙句の果てには奪われて膝で折られた。ヘイズキャスターァぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁぁあ!!!

 

「そんな攻撃遅すぎて当たらないよ。あんたがやってるのは道端で裸のままリンボーダンスをやってるのと同じ、そんなやつ軽く捻るわ」

 

なんだその例えは。掠ってるようで掠ってないぞそれ。つかめっちゃイライラしてきたぞ。最初は可愛い小娘だと思っていたがお灸を据えなければいけないなぁ。やるぞ私は、たとえロリでも。

 

「ヘイズキャスターの恨み、はらさでおくべきか」

 

「やれるもんならやってみなさい!」

 

「じゃあやる。卍解 千本桜景厳」

 

私は斬魄刀から手を離し、地面に落とす。するとどうでしょう、足元から千本の刀身が立ち昇り、その後舞散って無数の刃ができたじゃありませんか。その数、およそ数億枚。わかりやすく例えるならそうだな......、窓パリーンで飛び散る破片が数億倍になって全身のいたるところに刺さるのを想像するが良い。怖かろう?

 

「ちょ、あんた、やりすぎじゃ.....」

 

「千本桜ぁ♪ 夜にまぎれぇ♪ 君の声もー♪ 届かないよ♡」

 

「歌うなぁああああああ!!!」

 

ここは宴♪ 鋼のおりぃってな。全身に鋼鉄の刃をくらって大人しく退散するがいい。

 

桜吹雪のごとく荒れ狂う鋼鉄の刃はひとりの幼女を八つ裂きにすべく一斉に襲いかかる。

 

しかし、刃がコード003に刺さることはなかった。

 

なぜだ? 数億枚の刃が襲いかかってるていうのに1発も当たらないのだが。 こいつシューティングゲームの主人公か?

 

「避けられるけど反撃できないぃい!」

 

うーん? つまりえーと? どゆこと? そう言えば前回、アイツがラッシュ攻撃をしてたときにガスブラを使った時は攻撃が通ったけど、俺がラッシュした時は当たらないもしくは防がれてたな。まさかそういう個性なのか? 「相手の攻撃に反応して避ける」個性とか? で、自分から攻撃しているときは個性が使えないとか? それだったら全部納得できるわ。つか絶対それだ。やった、大賢者さんなしで正解を導いたぞ! やったぜ!

 

あれ? ということは、今、攻撃できなくね? 遠くから攻撃しても避けられるんだからダメじゃん。千本桜景厳だから近づいたらこっちも巻き込まれるし、もしかしてこれ詰んだ?

 

いーやもっと考えるべきだ! まだ手がかりはあるはず! 多分他にも弱点があるはず! 例えばそうだな、自動追尾弾とか......でもそれじゃ今頃千本桜景厳で八つ裂きになってる。じゃあそうだな、攻撃に反応するってことは、目で見て反応するのか感覚で反応するかで違いが出るはず。でも透明化の個性は制限がかけられて使えねぇ。見えない攻撃.....、死角から攻撃するしかねぇか。

 

そこで取りだしたのはコチラ、ミニアイスラッガー。ウルトラ警備隊のひとりのウルトラセブンの頭に刺さってる不思議な形をした刃のミニバージョンだ。切れ味はもちろん保証する。デュワッ!

 

なるべく背後に回り込んでロリの視界から自分を外す。そして体を捻って勢いをつくり、おもいっきりぽーい!!!

 

え? 千本桜景厳に当たって弾かれるって? 安心しなんし、ちゃんとアイツのところに届くよう全ての刃の動きを把握してから投げたんでね、掠ったりはするかもしれんが止められることはなかろうて。

 

「あぶなー!」

 

嘘やろ、アイスラッガー避けられたんだけど。

 

「ふっ、ふふ......、ふっはちょ! 邪魔よこの刃! カッコよく喋れないじゃない!!」

 

あっちも余裕無さそうだ。

 

うーん、また武器がなくなった。もうこれ泥試合かもしれない。アイツが延々と避けることに徹したらこのUSJ襲撃編が終わらないじゃないか。

 

そうだ、閃いた。この数の弾幕で足りないならもっと足せばいいんだ。

 

数億枚の鋼鉄の刃で足りないならもう数億枚足せばいい。なんと簡単なことでしょうか。誰でもわかるゴリ押し理論、勝利の道まで導いてくれっ!

 

私はもう一本、斬魄刀を取り出した。

 

「卍解 千本桜景厳」

 

で、地面に落とす。

 

また一本、斬魄刀を取り出す。

 

「卍解 千本桜景厳」

 

で、地面に落とす。

 

これを10回くらい繰り返した結果、正直えげつないことになった。刃が多すぎてロリの姿が見えません!! ロリの周りに無数の刃が囲むようにいるんだよね。この絵面、どっかで見たことあるなーと思ったらあれだ、よく水族館とかにあるでっかい水槽に大量のイワシが集まって、グルグルと周りを回って大きな球体みたいになるやつ。アレに似てる。けどグルグルしてるのはイワシじゃなくて鋼鉄の刃。たったひとりのロリに対してここまでするやつはもはや外道と言えるだろう。全国のロリコンの皆さん、誠に申し訳ございませんでした。反省はしません。楽しいです。

 

「ふっ、ふ、ふ、は。あ、た、ら、な、いっわ!」

 

どうやら当たってない模様。だがもう終わりだ。説明してなかったが私の投げたアイスラッガーはブーメランなんでね。鋼鉄の刃で何も見えなくなった今のお前じゃ避けられん。さぁ、戻ってこいアイスラッガー。

 

急カーブを成功したアイスラッガーは一直線に私の手元へ戻ってくる。そしてその直線上にはロリが1匹。アイスラッガーに躊躇いなどなく、林檎を捌く包丁のごとく、無数の刃の中に消えてゆく。

 

「いっだぁ!!」

 

アイスラッガーは見事ロリにアタックをかまし、無数の刃が集まった球体を真っ二つにして戻ってきた。そして被弾して隙ができたロリを千本桜景厳は見逃すことはなく、いっせいに中心部へと集合する。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

勝った、第3部 [完]!!

 

 

 

 

「コード003ちゃん!! あなた邪魔よ!」

 

「きゃあっ!!」

 

コード003の敗北を見てしまったコード005はすぐさま救出にいこうとした。しかし、

 

「サンキューリボルケインちゃん。後は任せろ」

 

「マスター.....。」

 

私が来た。

 

「よくも、コード003ちゃんを!!」

 

「カッカすんなよ、禿げるぞ」

 

「うっさいわ! 死ね!!」

 

自分のお姉様キャラを崩壊させつつ、持っていた自動追尾型ロケットランチャーを発射したのだが

 

「二度手間は効かないんだよなぁ」

 

「な......!?」

 

片手で追尾弾を凍らせられ、あっけなく砕かれた。

 

なんか久しぶりに異形魔理沙らしいことしたなぁとしみじみ思う私であった。

 

「くっ.....、こんな、こんなはずじゃ.....。」

 

「じゃ、サイナラ」

 

「000お姉ちゃん、001お姉ちゃん、0...」

 

これ長くなるやつだ。絶対そうだ。後悔タイムだコレ。

 

なんかすごく悲しそうな声だな。まーでも、私の事すごい邪魔してきたし助かるわけないよねー。

 

嘘、正直今になって罪悪感がきた。戦闘中は麻痺してたからいつも通りのことができたけど、カルマ値? が下がってるせいか今はこれ以上攻撃する勇気が出ない!

 

「あー、えーっとそのーですねぇ、これ以上私の邪魔をしないと約束してくれるのなら見逃してあげてもいいよ?」

 

「本当、ですか?」

 

あー、つい言っちゃった。もうこれでいいか。

 

「ほんとほんと、だからちゃんと約束しろよな? こっちだって色々と私生活があるんだからさ」

 

「......、わかりました。このコード005、貴方様に対して邪魔をしないことを約束します。」

 

「よろしい、じゃあそこのロリを回収してとっとと帰れ。刺さってた刃はもう回収したから」

 

「.........、承知しました」

 

そう言って、人工知能の2人は瞬間移動してどこかに消え去った。

 

「ほんとはた迷惑な連中だぜ」

 

帰ったらラーメンでも食いに行こうかなぁー。

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

これでこの話が終わってたらこっちも楽できたんだがまだなんだよなー。というか本命はこっちじゃなくてヴィラン連合なんだよなぁ。とりあえず、相澤先生のところに行ってみるか。

 

「相澤先生ーだいじょ......、うわぁ」

 

ボコボコにされて山積みになったヴィランとか、なんか遠くで相澤先生を見てるイケメン顔の緑谷くんとか、それを憧れるように見る変態王子とか、男どもに人気の蛙吹梅雨ちゃんの3人が並んで待機してるとか、色々見えちゃった。

 

しかも相澤先生の肘のところボロボロにされてるじゃん!! もう少し早く来てたら誰も怪我しないハッピーエンドだったのに! てことは近くにあの身体中に手をくっつけてるアイツがいるってことだよな。というかこっちの脳無もいること忘れてた!

 

あ、そうだ。知らない人の為に紹介はしとこう。あの身体中に手袋をくっつけてるヴィランの名前は死柄木弔(しがらきとむら)ね。個性は確か『崩壊』で五本指で触れたものをボロボロにするという個性。で、その隣にいる脳みそむき出しの筋肉ゴリラが脳無。対オールマイト用に作られた人造人間的なアレだ。個性は確か『ショック吸収』となんか火力スキルを持ってた気がする。

 

なんて呑気な説明してたらあの筋肉ゴリラが相澤先生を握り潰そうとしてるだとッ!? あかん!

 

地面を思い切り蹴って2人に近づき、相澤先生を庇うように前へ出る。筋肉ゴリラの片腕は私の片腕で抑えられ、なんとか窮地を救うことに成功した。

 

「相澤先生をこれ以上怪我させるわけにはいかねぇなぁ!」

 

「結依ッ!? お前......」

 

「ちゃんとアッチは片付けてきました。私が駆けつけたんで安心してください!」

 

とか言いつつも今すごく腕ピクピクしてる。

 

「おい脳無、はやくそいつを片付けろ」

 

「キュアァアァアァアァア!!!!」

 

死柄木の声に呼応し、私に向かって大きく振りかぶった。そこからとてつもない威力のパンチを繰り出すんだろうがな、振りかぶった時点で隙だらけなんだよ!!

 

「二重の極み」

 

私は脳無の腹に2発、高速で拳を叩き込んだ。しかし、軽く吹っ飛んだだけであまり効果はなさげ。だがこれで少し間合いができたから良し!

 

「お前が結依魔理沙か?」

 

「そうだけど何かな死柄木弔? 私に文句でも?」

 

「近頃ヴィラン連合の間で幹部が続々とやられている噂を聞いたんだよ......、くだらないと思っていたけど、さっきの戦闘見て確信した。お前は絶対殺さなきゃ邪魔になる。ここで殺す」

 

「やれるもんならやってみろヴィラン連合。私は人類史上最強の女の子だぞ? 立場をわきまえろ」

 

「勝手に言ってろ糞ガキ。ほら、脳無、アイツを絶対殺せ。必ずだ」

 

「キュアァアァアァアァアァアァア!!!」

 

「あー逃げたぁ! しっがらっきとっむらがにーげーたー♪」

 

「イレイザーヘッドを潰したら次はお前だ。それまでに体の原型を留めていられたらだけどな♪」

 

異形VS異形の戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 






もうそろ終盤戦。果たしてどちらが勝つんでしょうか。


いろいろ紹介

斬魄刀:ブリーチの死神たちが持ってる剣。カックイイ!!

追尾型ロケットランチャー:スマブラのスネークのロケットランチャーが酷い。崖復帰できねぇじゃねえか!!

大佐:らりるれろ! らりるれろ!

リボルケイン:四国の平和は俺が守る!! 俺の名はブラァァアアックッッ!! アアアルエエエエェェエ!!! リボルケインってどう見てもスターウォーズのアレだよね。

ブレイブソード×ブレイズソウル:公式病気。可愛い女の子いっぱい。最近単発でSSキャラ当てました。

オオナズチ:モンハンに出てくる古龍。BGMカッコイイ。装備が優秀だったはず。あと自分の特殊な血液によって体を透明化できる。毒怖い

千本桜:ボカロは最近少しずつ聞くようになった。(今更)

ウルトラセブン:セブンの最終話は泣けるから全員見ろ(命令形) カラオケでたまに歌う。セブン♪セブン♪セブン♪


ふぅ......











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USJ襲撃事件、終結(25話)

この世界の時間軸だとまだ4月5月くらいっていうね。アレ。

UA3万突破!! ありがとうございます!!


利用規約を見て思ったこと......。

(>д<*)コワイ 運営に消されないようギリギリの範囲でやりたいと思います。


※脳無との戦闘シーンを大幅に変更しました。個人的にも腑に落ちなかったので、これでいいかなぁと思っています。




 

 

前回は頑張ったよ。誰か褒めて、讃えて、崇めてくれ。はい、いつもニコニコ私の隣に這いよる混沌こと自己進化型人工知能「noumu」の2体を撃退することに成功。その上その2人は私に二度と攻撃しないと誓ってくれたからやや安心だ。あと何体いるか全くわかんねぇけどな!! して、今は相澤先生をボコボコにしかけた筋肉ゴリラこと対オールマイト用脳無と戦闘中。後ろに死柄木弔もいるけど何とかなるだろう! ちなみにまだ個性は弱体化したままだ! いつ治るんだろうなぁ.......。

 

さて、この筋肉ゴリラはその名の通りパワーはオールマイト用に超強化されてる上に「ショック吸収」という相手の攻撃のダメージを軽減する個性を持ってるから防御も堅い。ならどうするか? そんなことは決まっているさ、その防御を上回るくらいのパワーで殴る!! 脳筋理論は可能か不可能かを無視したものが多いが、私ならどんな理論も無理くり可能にできる......はずッ!! つまり私×脳筋=MUTEKIなのだ。そうであってほしい。

 

私は指を鳴らしつつ、脳無に近づく。無敵とはいえ、今の私は素だ。正直に言うと無敵でも何でもなく、どう足掻いてもこっちが圧倒的不利だ。だが思い出してほしい、私らには個性を消せるヒーローが近くにいるということを......

 

「相澤先生、あの筋肉ダルマの個性を消しながら死柄木弔の相手はできますか?」

 

「問題ない......。だが、背後にいるヴィラン2人が厄介だ。結依、お前の強さは承知の上だが無理は絶対するな。危ないと思ったらすぐに逃げろ」

 

「そうですか......、じゃあ緑谷」

 

「はっ、はい!! 師匠!!」

 

近くに隠れていた緑谷が元気よく返事をする。

 

「あの手袋ヴィラン、やれるな?」

 

「了解です!!」

 

「了解です、じゃねーだろ!!! 何やってんだ緑谷!!」

 

今にも飛び出しそうな緑谷を全力で止めようとする峰田実。エロボケ担当の峰田がここまで必死になってツッコミを入れるのは珍しい。

 

「いやだって、師匠の命令だし.....」

 

「ダメよ緑谷ちゃん。あなたが行っても、相澤先生の邪魔になるだけだわ」

 

「でも、師匠のめいr」

 

「おい緑谷しっかりしろ!! お前そんなキャラじゃねーだろ!! 蛙吹だってそう言ってんだから大人しくしろよ!」

 

「師しょu」

 

「......ダメだわ峰田ちゃん。目が完全に逝ってるわ」

 

どれだけ止めようとしても静止しない緑谷に諦めを感じた二人は、緑谷を見守るような位置に移動した。緑谷が強いことは先の戦いで理解したが、かといってここまでやらせていいわけがない。もし緑谷がピンチになったら、二人でサポートしよう、そう決意する二人であった。

 

「緑谷、お前の個性のヒントを今教えてやる。今から言う言葉をしっかり聞けよ? いいか? 『()()()()()()()()()()()()()()()()』。わかったか?」

 

「わっ、分かりました師匠!!」

 

「というわけで相澤先生、緑谷くんといっしょに頑張ってください」

 

「ちょ、ま」

 

緑谷は少しアドバイスすれば勝手に強くなれるヤツだからな。これで相澤先生の負担は減らせるだろう。

 

「さてと、待たせたなぁ脳無」

 

「キュキュイ?」

 

うーん、字面は可愛いけど見た目と声がなぁ...。流石にギャップ萌えしねーわ。

 

私は拳を握りしめる。ラッシュ攻撃は子どもの頃からスタンド「ザ・ワールド」と共に練習してきた得意中の得意技。どっかの深海王が言ってた...、「連打っていうのはね、確実に仕留めるられるように、一発一発殺意を込めて打つのよ」ってな。

 

「行くぞおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

「キュワァアァアア!!!!」

 

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!

 

一瞬で距離を詰めた私は即座にラッシュを決め込む。脳無も私の意思を読みとったのか、迎撃するようにラッシュを返す。序盤は五分五分といったところか。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!」

 

だんだん腕が疲れてきた。声も出してるから体力の消費が激しい。だったら声出すなって? 声を出さない無駄無駄ラッシュとか、耳のついてない食パンといっしょじゃねーか!!

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄......」

 

あかん、押されてきた。比率で言うなら3対7、私が3だ。あっちは体力の概念が無さそうだ.....。だってめっちゃにこやかな顔で殴ってくるもん。女の子に乱暴すんじゃねぇ( ゚д゚)クワッ!!

 

「無駄無駄無駄......」

 

やはり無謀だったか.....。相澤先生のほうが何とかなってくれりゃあこちらも挽回できなくはない。頑張れ! 自称弟子の緑谷くん! 私の運命はお前に託したぞ!!

 

ちょくちょくチラ見をしていたら、緑谷くんの頑張ってる姿が見えた。あ、なんかもうフルカウル使えてる! いやはや流石だな我が弟子、ヒントあげただけでもう答えにたどり着いちゃったよ。体育祭、強敵になりそうだなぁ。

 

緑谷が死柄木を抑え込むのに30秒はかかると見た。ならば耐えるしかあるまい、この魔理沙様の素の全力を持って!!

 

ラッシュは押され気味だが、まだやれることはある。正直反則かもしれないが、私はやるぞ。

 

アサシンスライドキック(卑怯者の不意打ち)!!」

 

高速で横蹴りを相手に喰らわすただのキック。だが、予測不可能な攻撃に対して生物は弱い。場合によってはそのまま倒すことも可能だ。脳無だって生き物、不意打ちが効かないわけではあるまい。

 

モロ脇腹に蹴りを入れられた脳無は膝をついて倒れこんだ。そして見上げるような視線で、「なんでそんなことするの(╥﹏╥)」とでも言わんばかりの表情で見つめてきた。すまん、死にたくないんだ。

 

「師匠!! なんとか押さえ込みました!!」

 

「離せクソガキいいい!!!」

 

ベストタイミング、ナイスだ緑谷くん。やれば出来る子や。後は私がトドメを刺すだけ!!

 

「相澤先生!!」

 

「言われなくとも......ッ!!」

 

相澤先生の個性によって個性を消された脳無。この隙を狙って、私は渾身の一撃を放つ。

 

「くたばりやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

空間全体に轟音が響き渡り、爆風が突き抜ける。これが意味することはたったひとつ、脳無に風穴が空いて倒れたということだ。

 

「脳無ッッ!! クソっ、オールマイトも来てねぇのに死にやがって!!」

 

残念だったな死柄木弔、相手が悪すぎたようだなぁ。痛覚無効をオンにしてるから分かりづらいけど、多分明日は全身筋肉痛だろう。凄いピリピリする。

 

「そのまま離すなよー」

 

「了解です師匠☆」

 

「離せつってんだろうが!!! いい加減にしろ!!」

 

緑谷くんは4の字固めで死柄木をガッチリ拘束し、動けないよう関節をキメていた。死柄木はただ地面を叩くことしかできず、まるでプールで溺れた子どものように見える。

 

「その手を離しなさい」

 

音もなく現れたのはワープの個性のヴィラン、黒霧であった。黒霧は現れると同時に緑谷を引き剥がし、ぶん投げる。ちょうど私のところに来たのでふんわり優しく受け止めてやるか。

 

「あっ、ありがとうございます師匠」

 

「頑張ったな、緑谷。お前はもう休んどけ」

 

さてと、黒霧の登場で距離がまた離れちまった。これじゃあ攻撃が当たらん。何より私の体はもう限界に近い、ここは大人しくするしかないなぁ。

 

「黒霧、状況を報告しろ」

 

「それなんですが死柄木弔。厄介なことに.....」

 

「...何だよ」

 

首をボリボリと掻きむしりながら死柄木は耳を傾ける。

「雄英の生徒に救援を呼ばれてしまいました。5分、10分間前後にプロヒーローが来ると思われます。誠に申し訳ございません」

 

その言葉を聞いた途端、全身が怒りで震え、今すぐにでもコイツを潰そうと考えた死柄木であったが、寸前で止めた。

 

「黒霧てめぇ、何やってんだよ。てめぇがワープゲートじゃなかったらこの場でぶち殺してたぞ...」

 

「.....。」

 

「はぁ、チンピラ共はほぼ全滅した、子供たちは強かった、脳無も死んだ、金髪がチートだった、プロヒーローの救援を呼ばれた......、負けどころかボロ負けだなおい......。」

 

「あぁ、ムカつくなぁ。イライラして全然落ち着かねぇ。おい、金髪」

 

「なんだよ」

 

「次会った時覚えてろよ。てめぇの顔面をボロくずにして塵に変えてやる。その上踏みつけてぐちゃぐちゃにして二度と動けなくしてやるからな!!」

 

うわぁ、すっごい悪役らしい捨て台詞吐いて逃げようとしてやがる。だがお前らは逃げられねぇぞ? 忘れてるかもしれないが相澤先生はまだ全然戦えるからな?

 

と、思ったら意外ッ! それは謎のスイッチ!!

 

なんか死柄木弔が謎のスイッチを持ってやがる。押したら某吉良吉影みたいに一時間だけ時が逆行したりするのかな? それともただのおとうさんスイッチ? しかしこの場面でスイッチってことは何かしら起こるんだろう? 嫌な予感しかしねぇ!!

 

「おーい死柄木くーん、その謎のスイッチは何だい?」

 

「あぁ.....鬱陶しいなぁ......、そんなにやかましくされたらうっかり押しちゃいそうだなぁ...!」

 

えぇ? なんで? えぇ?(困惑)

 

「これはな......、ここに仕掛けた爆弾の起爆スイッチだ。こんな古典的なものに頼るとか.....、はぁ、いいや。お前ら、特に金髪とイレイザーヘッド、少しでも個性を使う素振りを見せたら即爆破させる。いいな?」

 

マジかよ、これはキツイぞ。ここにいるのが私だけなら何事もなく終わったけど、ここには相澤先生や蛙吹さんといった身体強化系や防御性能を持たない人がいるから迂闊に突っ込めない。かといってそのままワープゲート使って逃げていくのを見逃したとしても、ワープゲート先で起爆スイッチを押されたら元も子もない。ここは慎重かつ迅速に、アイツから起爆スイッチを奪うしかないのだが......、策が思いつきません。オワタ\(^o^)/

 

まぁでも安全性を考慮するならアイツらがワープゲートをくぐった瞬間、みんなで出入口に向かって全力で走って脱出するしかねぇ。はぁ......、結局爆発オチかぁ.........。

 

この案が自分の中で最もまともなやつなので、テレパシーでこの案を伝える。

 

(あ、あ、あー、聞こえる? あのヴィランたちがワープゲートをくぐった瞬間に全員で出入口まで走って逃げるぞ! 他の残っているクラスメイトに関しては私が回収するから、みんなは先に行ってくれ!)

 

すると相澤先生がこっそりハンドサインを私に見えるようにやった。

 

えーと? バツ、俺も、指矢印、1人、バツ。

 

つまり翻訳すると、「その案は却下だ。それなら俺も一緒に行く。1人はダメだ。」でいいのかな?

 

(了解)

 

さて、今、死柄木たちがワープゲートを通過しようとしてるな。 ここで逃がすのは悔しいがクラスメイトの命の方が優先に決まってる。

 

「じゃあな......ヒーロー共。次会う時はお前らに明日はこねぇ........」

 

そしてヴィランはこの場から逃げた。

 

よーし、私達も逃げるぞー。仕掛けられてるとしたら多分、今私たちがいる中央が怪しいから全力で離れるぞー!

 

「おい結依、さっきのわかってんだろうな?」

 

「勿論ですとも! 空中で見たところ他の仲間たちは山岳ゾーンと暴風ゾーンと出入口付近ですね。このまま相澤先生と平行に走ると遅いんでちょっと飛びますよ!!」

 

私は相澤先生を抱えて本気でジャンプした。え? 何抱っこか教えろ? いっとくがお姫様抱っことかしねぇよ?

 

しかしジャンプした直後、中央で爆発が起こった。 でもみんなちゃんと逃げきれてるからバッチリ! と思いきや、いろんなとこで爆発が!! あ、ヤバい。この施設を支える支柱がやられた。システムも死んで何もかも機能してねぇ!! これが何を示しているかと言うとね

 

「相澤先生、この施設、崩れます。」

 

「そんなこと見ればわかる。一刻も早く生徒の安全の確保し、脱出するぞ。いいな!!」

 

「あっ、ハイ」

 

よし、山岳ゾーンに着いたから相澤先生を下ろして、さっさと暴風ゾーン行こう。このままじゃガチで明日が来なくなる。

 

「先生、ここには八百万と耳郎響香、上鳴電気がいるんで救出頼みます! 私は暴風ゾーンに行くので!!」

 

「あぁ、結依。ありがとな」

 

相澤先生が人を褒めた..........だとッ!?

 

いろいろ悶々とするが早く暴風ゾーンに行こう! 帰って美味いラーメンを食うんだ!!

 

 

 

 

~ 暴風ゾーン ~

 

 

 

「なんだこの揺れは......、地震か?」

 

「......」コクコク

 

暴風ゾーンに飛ばされていたのはスタンド使いこと常闇踏陰、そして無口であまり喋らない口田甲司くんの2人であった。

 

「おーい! お前らー!!」

 

「その声は.......結依か?」

 

「......」ビクッ

 

よし、暴風ゾーンに着いたし生存も確認。後は状況説明だ。

 

「お前ら、さっき揺れを感じたよな?」

 

「あぁ......、これはヴィランの仕業なのか?」

 

「ご名答。ヴィランが脱出するために爆弾を起爆させやがったんだよ......」

 

「爆弾だと.....?」

 

「そのせいでこの建物が今崩れようとしてるから脱出しようってこと! 相澤先生も他のみんなも出入口に向かってるから一緒に行くぞ!!」

 

「状況は掴めた、その話に乗るぞ」

 

「......」コクコク

 

「じゃあお前ら、両脇にこい。」

 

「は?」

 

「お前ら抱えて飛ぶから早くしろ」

 

「女子の両脇にか......?」

 

「問答無用」

 

時間ないので自分から常闇と口田くんを抱えてジャンプする。おっ、重い。流石にもう限界だ。連チャンで戦ったあげく救出もするんだから辛くて仕方がない。オールマイト、これよりもっと凄い状況で千人も助けてんだから凄いよな。オールマイトの凄さを初めて痛感したわ。

 

 

 

さて、出入口付近に着いたし。これでひt

 

「私が......来た」

 

やっとか......、遅せぇよ全く。

 

「結依少女、この状況を説明してくれないか」

 

随分険しい顔だな。ヴィランに対する怒りというより自分に対する不甲斐なさの方に苛立ってんな。ほんと反省しろ。

 

「実はですね、カクカクシカジカ」

 

「.......、ホントに申し訳ない。すまない...」

 

「それは後ででいいです。あの、まだ相澤先生たちがこっちに来てないので回収しにいってください」

 

「あぁ、勿論だ.....。だが結依少女、君はどうするんだ?」

 

「私は全員いるか確認したらみんなで脱出します。先生、マジ頼みます。仲間を助けてください。」

 

「絶対に助けると誓う。結依少女も頼んだぞ」

 

そしてオールマイトは山岳ゾーンへ向かっていった。しかし崩落がもうそろ起こりそうだ。ちゃっと数えて即退散しよう。えーっと、緑谷、蛙吹、変態王子、爆豪、切島、轟、葉隠、お茶子、砂藤力道、障子、瀬呂範太、死にかけの13号先生、飯田くんはプロヒーローに助けを呼んだらしいからここにいない、芦戸っち、で常闇、口田、これから連れられてくる八百万、上鳴、耳郎響香を加えて、18人。私を含めて19人。あれ? 一人足りないぞ? えっと、水難ゾーンに緑谷たち、土砂ゾーンが轟たち、建物が爆豪たちで暴風ゾーンが常闇たち、山岳ゾーンが八百万たちでその他の面子は出入口付近.....。

 

あ、火災ゾーン忘れてた。あと、そこにいるの尾白猿尾じゃねぇか!!!

 

嘘だろ、今救いに行ったら多分私と尾白くんは生き埋めだぞ。いや救うのは確定なんだけどさ、救えるか? いや可能不可能を考えてる暇はねぇ!! やるしかねぇ!!

 

「緑谷くん!! 師匠命令だ、みんな連れて先に外で待ってろ!!」

 

「でも師匠は!?」

 

「さっさと行けクソッタレ!! もう時間ねぇ!」

 

天井からどんどん瓦礫が降ってくる。こうしてる間に尾白がやられてたら全能の私としてのプライドが許さん。死んでも全員助ける、弱体化なんてクソ喰らえだ。

 

「ししょぉおおおおおおおお!!!!」

 

私はまた、大きく空へ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 火災ゾーン ~

 

 

「ハァ....ハァ...、息が苦しい。」

 

尾白はヴィランに奇襲と撤退を繰り返すことで時間を稼いでいた。だがここは火災ゾーン、酸素は少なく、熱が思考能力を脅かし、運動が疲れを呼ぶ。尾白の体力はもう底をつき、建物の裏側でひっそりと休んでいた。

 

「はぁー、見つけたぞ」

 

しまった! ヴィランか! っと戦闘体勢に戻る尾白。しかしやってきたのは見慣れた顔だった。

 

「違う違う、構えるな。ほら私、魔理沙だよ。」

 

やってきたのは1年A組の異端児、結依魔理沙。正直なんの接点もないけど、仲間が来てくれただけでも嬉しい。

 

「他のみんなはどこに行ったの?」

 

「今からそのみんなのとこに行くから安心しろ、つか周り見ろ」

 

火災ゾーンの真上から容赦なく降ってくる瓦礫。いったい何が起こったというのだろうか。

 

「いろいろ聞きたいことがあるのはわかるが、今はそれどころじゃねぇ。この施設、もうすぐ崩落するから早く逃げるぞ!!」

 

そう言うと彼女は僕を抱えて、とんでもない速さで移動した。瓦礫も丁寧に避けて。

 

けど後ろはもっとすごく、どうやら建物が奥から一斉に崩れているらしく、眼前に見えるのは瓦礫の滝。早く逃げなければ巻き添えになるだろう。

 

後ろをチラッとみた彼女は顔を青く染めて、「インディージョーンズは却下だぁああああああ!!」と叫びながら走っていた。インディージョーンズって?

 

そして見えた出入口、ゴールはもうすぐだった。

 

 

「あっ」

 

 

不幸にもゴール直前で足を挫いてしまった。

 

 

「結依さん!!」

 

 

「行けぇええええ!!!」

 

 

魔理沙は最後の力を振り絞って尾白を投げ飛ばし、最後に真っ黒な笑顔でグッチョブサインを送った。

 

 

「結依さん!!」

 

 

手を伸ばそうにも、距離がありすぎて全く届かない。

 

 

「あばよクラスメイト、楽しかったぜ」

 

 

 

遺言とでも言うようなセリフを吐いた魔理沙は、静かに消えていく。

 

 

 

「結依さぁぁあああああああん!!!!!」

 

 

 

彼女は崩落に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

はぁ、せっかく転生して神にも勝るチートを手に入れたというのにしくじってしまった。でも、頑張ったからいいか。ラーメンも、あの世で食うとしようか。はぁ......、クソッタレ...........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ? 死なないぞ。もしかして弱体化終わった? それならここから脱出できるぞ。

 

と思ったら全然違った。オールマイトが私を崩落から守っていたのだ。

 

「君にここまで無理をさせといて......、私たちが何もしないままなんて.........、あっていいはずがない!!!」

 

マジか、あの一瞬で瓦礫の中に入って私を守るってどんな力だよ。あー、クソっ、体が動かねぇ。オールマイト、後は任せた。

 

「オクラホマ・スマッシュ!!!!」

 

オールマイトが周りの瓦礫を一瞬にして粉微塵に変えてしまった。もっと早く来てくれれば良いものを......。これだから......、ナンバーワンヒーローは............、はぁ..................。

 

あぁ......、陽の光が暖かい。眠い。

 

「結依少女.....? 結依少女ぉぉおおおお!!」

 

負傷者複数名、死傷者0人。施設崩落のピンチを救ったのはたった一人の少女であった。マスコミにもスクープされ、雄英高校では知らぬものなどいないほど有名になり、のちに結依魔理沙は雄英の四天王の一角として名を馳せることになる。

 

 

USJ襲撃事件、完

 

 

 

 

 




これでUSJ襲撃事件編は幕を閉じます。

次はまた番外編をやって、その後体育祭だ!!! 世の中の一般ピーポーに結依魔理沙を見せつける時が来たァああああああああぁぁぁ!!

いろいろ紹介

吉良吉影:年齢38歳独身。仕事はそつなくこなす人。けど女の手フェチで殺人鬼。

おとうさんスイッチ:おとうさんスイッチの作り方。空き箱にボタンを5つ貼り、そこに平仮名をかく。曲げたストローをアンテナ風につけたら完成! 歌うと規約違反になるらしいので説明口調でお送りしました。

オクラホマ・スマッシュ:オールマイトの技のひとつ。体をぐるぐる回して周りの敵を吹き飛ばす全体攻撃。強い



ありがとうございました。





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番外編2 〜 ダンまち編 〜
番外編2-1 ~ ダンジョンに風穴をあけるのは間違っているだろうか ~


ダンまちです。見ても見なくてもOKです。前回と違って今回はちゃんと考えました。はい。

少し長くなります。

ちなみにこの話は26話の後の話ということなので、ご了承ください。26話見てなくても(まだ出来てないけど)大丈夫です。

あと時間軸はダンまちのコミックス版の8巻から10巻の間です。(ロキファミリアが18回層で休憩していて、そこに主人公ベルくんが転がり込むところです。)

さらにこの話には独自設定、独自解釈があるのでそこのところもよろしくお願いします。




 

 

 

USJ襲撃事件兼崩落事件から少したったある日の土曜日、今日やることを言う前にまず報告することがある。まず弱体化の件だが治った。あの事件の後日談は26話で話してると思うからそこんとこよろしくな。

 

まぁつまりは細かいことは気にしないでおくれってことだ。で、今日の目的というのは、弱体化から治ったばかりでなまった私の個性を鍛え直すために、ダンまちのダンジョンに潜るというアレだ。前回のワンピースの時は酷かったが、失敗は成功のもと。反省点を活かして今回こそ清々しくやるぞ!

 

とりあえず異世界の扉を開く。何だか今回は失敗しない気がする。別に根拠はない、女の勘だ。.........、元男の勘だ。

 

とうっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ、やってきたけどここ暗いな。あ、ゲート閉じなきゃな。開けっぱなしはダメって私の過去がそう告げているぜ。

 

見渡すとなんかそこら辺にコケとかあるし、透視したらキモイモンスターが見えるし、もしかして世界を間違えたかな? いや、そんなわけあるまい(反語)。確かこのダンジョンって三角錐みたいな構造で、下に行けば行くほど階層が広くなるはず。で、ここをちろーっと見たけどすごい広い。北海道丸々一個ありそうなんだが。てことはここチョー深い! つまりモンスターもえげつないくらい強い上に数も多い!! よし、上に行こう。

 

しかし、北海道並に広いこの階層からたった一つの階段的なものを探すのは面倒臭いに決まってる。仮に見つけたとしても、次の階段的なものにそのまま繋がってるわけじゃない。じゃあどうするか。上に穴をあけてそこから登ればいいじゃないか! 私には無駄に能力があるんだからそれでほほいのほいよ。よしやろう。即刻破壊するのだ。

 

「ワンフォーオール50%+‪αデトロイトスマッシュ!!!」

 

+‪αでエグい強化をしたデトロイトスマッシュを真上にぶつけてみると、ギャルギャルギャルギャルと不思議な音をたてながら衝撃波が遥か上まで昇っていった。その後、余波で削られて降ってきた瓦礫を流水岩砕拳という拳法で全て叩き割って自分の身を守る。結果、最後に残ったのは真上まで続く大きな風穴。よし、ここから出られるぞ!!

 

(いだだだだだおぐァあああああああ!!!!)

 

なんか悲鳴が聞こえた。

 

(はぁ、はぁ、てめぇ、外来種がぁああああ!!)

 

まぁ、誰か爆風に巻き込まれたんでしょう。ご愁傷さま。さて、上に行くか。

 

(おい、金髪黒顔の外来種。てめぇだよ。)

 

え? まさかバレたの? ここに冒険者はいないはずなんだがなぁ.......。

 

(俺の事冒険者と勘違いしてんのかオイ? 俺はダンジョンだ)

 

どうやらこの声はダンジョンの声らしい。

 

「嘘つくな」

 

(嘘じゃねえよ!? ほら、な? わかるだろ?)

 

「わかんねぇよ。わかるわけないしわかりたくもねーよ!!」

 

想像してみてほしい。RPGのゲームをやっている途中で急にダンジョンが「俺はダ☆ン☆ジ☆ョ☆ン☆だ☆」と言ってる場面を。恐怖でしかない。

 

(あっそう、じゃあ俺がダンジョンだっていう証拠教えてやるよ。お前の隣に5秒後、俺の眷属が生まれるから。これマジ。)

 

ほぇ? 5秒後? マジで? 念の為警戒しとこ。というか隣ってどっち!? 右!? 左!?

 

首を左右交互に傾けて警戒していると、なんと右からモンスターが現れた! え、こいつマジでダンジョンなの!? ダンジョンって意思あったの!?

 

(だから言ったろーがこのハゲ!!)

 

「まだハゲてねーわ!!」

 

ダンジョンにディスられるという滅多にない経験をしつつ、「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」で現れたモンスターを駆除する。

 

(で、何か言うことないのか?)

 

「なんだよ......、もう疑ってないからいいだろ」

 

(あるわボケ。俺の体に風穴あけたこと)

 

「あぁ......、それかぁ.........」

 

私は少しだんまりと考えて、何か策を考えてみた。私が今できること、これしかない。

 

「すいませんでしたぁああああああああ!!!」

 

手をついて土下座。日本の伝家の宝刀。サラリーマンの秘奥義。これをすれば何をしたって許されて何を頼んでも頷いてもらえる最終奥義だとどっかの神様が言ってた。

 

だが人でも神でも生き物でもなんでもないダンジョンには全く効果がなかった。

 

(ブハハハハ!! クソだせぇウハハハハ!!!)

 

「このダンジョン壊すぞ」

 

(すいやせん、マジ勘弁してください)

 

なんだ、そこまで悪いやつじゃあなかった。

 

 

 

あれから少しだけ休憩をして落ち着きを取り戻した私。自分のことダンジョンだ、とか言ってるけどホントは中の人がいるんじゃないの?

 

(なんだよ、まだ疑ってんのか)

 

「そんなこと言ってませんんんん! 空耳ですぅうううう!!」

 

(ダンジョンに言い訳できるとでも思ってんのか?)

 

そもそもダンジョンが言い訳を聞いてくれる時点でツッコミどころ満載だけどね。

 

(ま、俺に風穴を空けたお前の処罰は......)

 

あの、パシリとかなら喜んでしてあげるけどこれだけはやめてほしい。オークとかゴブリンとかに這い寄られて、モンスターリョナみたいな展開になるやつだけはガチでやめてくれ。もしそうなったらマジあいつ呼ぶぞ。なんだっけ、ゴブリンスレイy

 

(今ここにいる全ての冒険者をボコボコにしてほしい)

 

「え?」

 

いや確かにダンジョンらしいかもしれないが、風穴空けた張本人は私だぜ? いいのそれで?

 

(だって俺の眷属達じゃお前に勝てねぇもん。ハンデをつけたとしても)

 

あー、うん。そうだね(小並感)。あとさらっと人の心を読むな。

 

(だからあの憎き神の眷属どもをケチョンケチョンにしてくれたらいいなぁって)

 

「お前のことだから念のために聞くが殺さなきゃダメか?」

 

(うーん、出来れば殺してほしいんだけどな。こっちは風穴空けられたとはいっても頼む側だし)

 

よかった、これで殺さなきゃテメーはモンスターリョナの刑だ! とか言われてたら、この世界を滅ぼしてでも脱出するつもりだった。

 

「じゃあ気に食わなないやつだけ殺すわ」

 

(若干不穏な空気が漂うがよろしく頼む)

 

今回は助ける側じゃなくて虐殺する側か。ある意味この姿の本当の在り方かもしれないな。まぁ、結局自分の目標は達成するからこれでもいいか。

 

「境符『四重結界』!」

 

幻想郷の賢者、八雲紫お墨付きの結界。これで今ダンジョン内にいる冒険者は簡単に脱出することはできん。獲物を退路を遮断して確実に仕留めるのは狩りの鉄則だぜ。

 

(じゃ、任せたぞ “仮の魔王(コードディザスター)")

 

仮にも私は人間なんだがなぁ...。魔神じゃダメ?

 

(次言ったらモンスターリョナの刑に処すぞ)

 

あー、俄然とやる気がでたわぁ。私の野性味溢れる血が冒険者をぶっ潰せと疼き騒いでしかたがないぜ! あぁ、酒! 飲まずにはいられない(未成年)!

 

こうして仮魔王認定された結依魔理沙は、自分が無理くり空けた風穴の中を移動し、冒険者を血眼で探すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

冒険者の集まる街、オラリオ。しかし平和なオラリオに突如として大地震が発生した。脆い建物から順に崩れていき、生活必需品や食料、本といったものが地面にぶちまけられ、多くの被害が出た。発生源はダンジョンの奥深くと推定され、ギルドの中には、これはダンジョンが引き起こした神為的な事故、「神災」だと訴える者がいたが、真相は不明である。

 

 

 

 

オラリオの西のメインストリート沿いに立地する大きな酒場、『豊饒の女主人』。そこで働く人間の女性店員(女性しかいないけど)、シル・フローヴァは心配していた。地震で家具が倒れたとか、壊れたものを買い直すとか、そういうことではなく、ダンジョンに潜っていった一人の冒険者ベル・クラネルと彼の捜索隊として協力することになった同じ酒場の店員仲間であるリュー・リオンの安否についてである。

 

「ベルさん、リュー、絶対無事に帰ってきてね。ちゃんと帰ってきたら、たくさん料理を出して財布の中身をカラッポにしてあげるんだから....」

 

心の底からの想いを声に出し、自分が今できることをこなそうと奮闘するシル。だが、その願いを軽くひねり潰せる厄災そのものがこのオラリオに現れたことなど、今はまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

「ダンジョンに入れない?」

 

「本当さ!! あの地震が起きた後、仲間が心配でダンジョンに潜ろうとしたんだけど、入れなかったんだ!! このままじゃ僕の仲間達が......」

 

「わかりました。私たちだけではこの問題に対処することはできませんので、すぐに上と連絡を繋ぐのでお待ちください」

 

ここはギルド、ダンジョンの管理機関である。地震の影響でたくさんの冒険者が雪崩のごとく入り込み、対処に追われていた。そこで入ってきた新たな情報、ダンジョンに入れない。このことを同僚から聞いたギルドの受付嬢のエイナ・チュールは自分がアドバイザーとして担当する冒険者ベル・クラネルの心配をしていた。

 

「大丈夫かな......、ここ3日間くらい会ってないし、ダンジョンで何かあったんじゃ......」

 

その上大地震の発生とダンジョンから脱出出来なくなっているって.........ダメでしょ!?!? ベル君大ピンチじゃない!!! あわわわわどうしよう!?

 

実はもう捜索隊が結成されてダンジョンに潜り、さらにはもう生存確認されていることを彼女はしらない。

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

~ 結依魔理沙サイド ~

 

長い。このダンジョン縦方向にどんだけの距離があんだよ。しかも階層の一つ一つの天井の高さが高かったり低かったりバラバラだし、今自分がどこにいるのかわからん。

 

(今50階層。)

 

へぇー、でもここもあれか。さっき通ったとこと同じ安全階層(セーフティーポイント)ってやつか? すげー心地いい。

 

(そ、俺の眷属が湧かないとこ。俺もよくわからん)

 

なるほど、だから人の生活の痕跡があるのか。納得。つかダンジョンさんもわかんないとかどういうこったい。というかまだ冒険者に会えてねぇ!!

 

(ここは神の眷属らにとっては深いところだから簡単にはたどり着けないのさ。)

 

あっそう。まぁもう少し上に行くか。そしたら強いヤツとかいたらいいなぁー。魔法使えるやつとか、剣技が凄いやつとか、やたらパワーだけが取り柄のやつとか、全然素直になれなくて罵倒や暴言しか言えない狼少年とかいないかなぁー♪

 

ま、知った上で言ってるんだけどね。

 

(お前ってホント悪趣味だよな。ほんとにニンゲンなのか? お前)

 

ただの一般人にこんなクソチートを与えるからこんなんになっちまっただけだ。まだ人殺し......、別世界の敵とはいえ既にやっちまったか.....。暴れていな、いやいつも暴れてるか、タイトル通り。世界を滅ぼしてな......、いや、やりかけた。やってないけどやりかけた...教室で。ダメだ、もう自分で自分を擁護できませんすみませんでした。けど、だからどうした(開き直り)。勝てば正義だ(ヤケクソ)。

 

自分の行いを反省しつつ、上層へ向かう結依魔理沙。さぁ、戦いはもうすぐだ。冒険者どもに真の強者の力を見せつけるのだ。

 

そしてあわよくば宴会を開いてウェイウェイしたい。ボコボコにしにいくやつが目標と一緒に宴会やるとかバカなのか? とか思われてそうだけど、幻想郷だって似たようなもんだし別にいいしょ。あの人たち異変の原因と一緒に酒飲んでるし。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

~ 一方こちら18階層 ~

 

「というわけでヴァレン何某君は野営地にでも帰りたまえッ! というか僕の許可なく抜け駆けするんじゃなーい!」

 

「ごめん.....なさい....?」

 

「ちょ、神様っ。おちついて.....」

 

「あぁっ、なんだい!? ベル君、君も君だぞ! この浮気者ー!!」

 

憧れのアイズさんと迷宮の楽園(アンダーリゾート)の綺麗な景色を見ていたら神様(ヘスティア様)が僕を迎えに来てくれたようだ。ちょっと怒っている? ように見えるのは気のせいでいいのかな。

 

ドゴォォオオオオオオン!!!

 

「じっ、地震!?」

 

「ここ、ダンジョンのはず......、おかしい。」

 

「べべべベル君!? 大丈夫、僕が守ってあげるから!!」

 

そう言ってベル君の腕にしがみつく神ヘスティア。

 

衝撃波は遠くで吹き上がり、クリスタルを砕き、地面を巻き上げ、そして消えていった。つまり、この地震はあの衝撃波が原因だと言うことは明白である。しかし、何故? 下から吹き上がったということは中層、いや深層から真上に向かって誰かが攻撃したということになる。モンスター? 何故真上に? 冒険者達の居場所がわかったから? じゃあなんでもっと前からそうしなかったのか。疑問は尽きず、頭がクラクラしてしまったアイズ・ヴァレンタイン。

 

「あの衝撃波の場所にいきましょう!」

 

ベルは何の迷いもなく声をあげた。

 

「えぇ.....、仲間が心配」

 

「僕も行くよ!!」

 

あの場所にいけばわかることがあるかもしれない。そう考えるアイズたんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

商店街から少し離れた森の中にその衝撃波の跡が残っていた。その惨劇は凄まじく、直径50メートルほどの大穴が出来ており、上の階層まで続いている。木々も猛風でなぎ倒され、地面も抉れ、もはや災害と呼べるほどの有様であった。

 

この穴に集ったのはロキファミリア、ヘスティアファミリア、商店街にいる武器商人たち、そしてベル君捜索隊として来ていたメンバーなど、この18階層にいるほとんどの人がここに集結していた。

 

「あっ、アイズー! おかえりー!」

 

「...ただいま。」

 

大切断(アマゾン)〉の異名を持つロキファミリアのレベルVの冒険者、ティオナ・ヒリュテがアイズに元気よく声をかける。

 

「ん? その後ろにいるのはもしかして......、〈英雄願望(アルゴノゥト)〉くん!」

 

「てぃっ、ティオナさん!?」

 

何かあったのかベルはティオナを見たとたん顔を赤らめながら少しずつ後退りをしていた。

 

「ベル君、またなのかい? また女を振りまわしているのかい? サポーター君やヴァレン何某で僕はもう手一杯なのにさらに追加する気なのかい?」

 

ヘスティアは爪を齧りながらティオナに向けて敵意の目線を向けた。それに気がついたのかティオナは「じゃあまたねアルゴノゥト君~♪」と朗らかに立ち去っていった。

 

 

一旦落ち着いたところで現在の状況の確認をする冒険者たち。みんながみんな意見を出そうとすると効率が悪い上にただただやかましくなるだけなので、代表してロキファミリア団長のフィン・ディムナがこの場を取り仕切ることになった。

 

「みんな聞いてほしい。さっきみんなが感じた地震は見ての通りこの穴の底から発生していた。そして天井まで続くほどの衝撃波、これはただの地震なんかじゃない。()()()()()()()()()()()()()。」

 

フィンの言葉に一同が驚愕する。確かに普通の地震だったらこんな綺麗にくり貫いたような大穴はできない。しかし信じられるだろうか? 底が見えないほどの奥深くからここまで穴を空けるようなものがいるということに。

 

フィンは自分の親指を軽く舐めて確かめる。

 

「いつも以上に指が疼いている。いや、生涯の中で最もといっていいほどの危険な空気だ。これは単なる僕の憶測だが、この大穴を空けたものは多分、この穴の中を移動して上層に向かっていると思う。」

 

「フィン、仮にそうだとしたらどのような対策を?」

 

ロキファミリアの副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴが口を挟んだ。

 

「そんなもんぶっ飛ばせばいいだけだろうが!」

 

ロキファミリアのウェアウルフ、ベート・ローガが生意気な声で叫んだ。

 

「ベート、うるさい。」

 

「誰がうるさいだあぁん!?」

 

「お前だよお前」

 

「上等だコラ後で泣いても知らねーからな」

 

「とにかく! 原因や正体がわからない以上、不用意な行動は避けて大人しく過ごすんだ。いいね?」

 

\\ はぁーい //

 

団員の痴話喧嘩を抑えつつ、皆を統制することに成功したフィン。しかし()()()()、もう少し早く決定するか場所を変えるとかをしていたらまた変わってたかもしれなかったが、災厄は既に到着していた。

 

「お、冒険者みっけ。」

 

その後、歴史に残る全面戦争が始まってしまうことなど、誰も知るはずがなかった。

 

 

 

 

 

 





ダメだ、説明口調が苦手すぎる......ッ!

もう少しダンまちの住人達に喋らせたかったけど、私の集中力と想像力と文章構成力が圧倒的に足りねえ......ッ!!

許しておくれなんでもしますから(なんでもするとは言ってない)




今回は紹介なしで。( ˘ω˘ ) スヤァ…


この後作者が行方不明になることなど、この時誰も知らなかった。



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番外編2-2 ~ 魔王降臨 ~




【閲覧注意】ロキファミリアファン、優しい心をお持ちの方、今回はちょっとアレです。ブラックな回です。あなた達の嫁さんや彼ピッピがアレになるので無理な方は御遠慮くださち。

ん? ワンピの時は無かった?

取り消せよ......、今の言葉ァ!!



リアルフレンドに「五等分の花嫁見ろ」と言われました。「約束のネバーランド」のみならず、どんだけ私の守備範囲を広げようとするつもりなんでしょうか。


もっと戦闘系のアニmバシュ(・ẅ・)/Σ))゜3゜)ゴフッ

もっとマリッサに能力使わせたい

今回は8000文字近く行ってます。長いです。




 

 

 

 

「お、冒険者みっけ。」

 

やっと冒険者を見つけることができたけど多くね? 下の階層に誰もいなかったのはここに集合してたからなのかな? なんか風穴の周りに大勢の人がグルーっと囲むようにいやがる。さて、

 

仮とはいえ私は魔王、魔王は魔王なりにカッコイイセリフを言わなければならない。世界を半分...、竜王さんは安直かな。マグロナルドのてんちょ......、これも違うな、雄英はバイト禁止だし。流石に「私は神だァァア!!」も言いたくないしなぁ。んー、じゃあもうこの姿の通りにやろう。せっかく異形魔理沙に憑依転生したんだから、演じなきゃ勿体ないよね。たしか異形魔理沙のセリフは終止形に無理やり助詞をつける感じのセリフで、相手を舐めプするような声でかつたくさん喋らなきゃならない。難しいな、できるかなコレ。

 

「お前が、この大穴を作った元凶か?」

 

まずい、セリフを振られてしまった。ここで喋らなきゃただのコミュ障怪力娘だ。何としてでも異形魔理沙口調で話すんだ!

 

「ん"ッ"、ゲフンゲフン。そうだが何か悪ァいかぁ糞ジャップ共。」

 

そうだそうだ、思い出した。あの人すげーネジとんだ感じのテンションだったな。

 

「ご機嫌麗しゅうございます棒犬射様ぁ。俺の菜を教えてやろう、霧雨魔理沙だ。二度と間違えるなクソが」

 

「コイツがあれの犯人か? 嘘つくんじゃねぇよ女ァ!!」

 

「黙れ小僧、をまえに何が出来るの。」

 

「リヴェリア、ガレス、僕と一緒に戦闘に参加してくれ。アイズ、ベート、ティオネ、ティオナもだ。レフィーヤは後方支援! 残りのロキファミリアは住人をつれて一旦退け!!」

 

フィンは団員にすぐに命令を出し、行動を開始する。あの霧雨魔理沙とやらの力は計り知れない。なぜだか分からないが全員が本気で戦わなければ勝てないと直感で感じた。

 

「ほぉ、仕事が早いんだなお前。頭がチィとキレてるな」

 

「褒めてくれて光栄だよ。ところで君は何の為に大穴をあけてまでこちらに来たのかな?」

 

「フフフ、知りたい? どうしよっかなー♥」

 

「ぶっ飛ばせばいいだけだろーが!!」

 

短期決戦で決めようとしたベートは大きくジャンプして魔理沙との距離を詰める。

 

「ベート!! 戻れ!!」

 

「しぃぃいねぇえええええええ!!!!!」

 

空中で軽く体を捻って蹴りの威力を高め、魔理沙目掛けて振り下ろす。だが魔理沙は余裕の笑顔でベートの蹴りを片手で防いだ。

 

「俺がなんでここに着てるかというとな、ダンジョンがお前らを嬲り殺せと言ったそれにのっただけ。後は趣味だ」

 

「な.....!? テメェ!!」

 

「あとね、テメェの声と性格が俺の幼なじみに似すぎなんよ。じゃ消えろ」

 

演技の中に若干本音を混ぜながら、ウェアウルフを下に投げ飛ばす。流石に風穴の中に放り込むのは可哀想だからちょっとズレた方向に投げた。

 

「ベートさん!!」

 

「レフィーヤ、あなたは敵が見えない位置で魔法詠唱をしなさい。前衛陣が敵を押さえ込み、私とあなたの魔法でトドメをさします。いいですね?」

 

「りっ、リヴェリアさん.....、でもッ!」

 

「早くしなさい!!!」

 

「ははいっ!!」

 

レフィーヤは後衛陣に移動し、リヴェリアは敵を引きつけるために前衛陣に移動。それに気づいた仲間たちはレフィーヤが見えないように前衛で構える。

 

「個性『爆破』発動! 相手は死ねッ!」

 

10年ほど前に爆豪からパクッた個性、それと爆豪のヒーローコスチュームに付属してる手榴弾モデルの篭手を異空間から取り出し、装着!! 流石に汗をダラダラ流す個性は無いから魔力で代用。目には目を、歯には歯を、ベートには爆豪だ!

 

榴弾砲・着弾(ハウザーインパクト)!!」

 

ビルを半壊させるほどのエネルギー、果たして防げるのだろうか。ま、実力主義のベートさんならいけるよなぁ?(煽り)

 

猛烈な光を放ちながら大爆発を起こしたが、上からじゃ煙が邪魔をしてよく見えない。生きてるかな......?

 

と思ったらどうやらガレスが己の身体を盾にしてベートを守ったようだ。その上ガレスはまだ動けるみたいだ。やはりレベルVIは格が違うか。

 

「安心は慢心なんつってnあ?」

 

頑張って異形魔理沙っぽいこと言おうとしたけど、横から細剣がズドン。顔が貫通してしまった。あぁ油断してた、痛覚無効はやはり素晴らしい。

 

「反応がない.....?」

 

突き刺して貫通させたのは最近レベルVIになったアイズ・ヴァレンタイン。しかし横顔が貫通しても何の反応もない私を疑問に思ってるな。フフフ怖かろう? 私がお前の立場だったら生きるのを諦めてる。

 

「効かないぬぇ。うんうん効かないめぇ!」

 

顔に細剣が突き刺さったまま首をアイズの方向に回転させる。傍から見ればグロい。

 

吹き荒れろ(テンペスト)!」

 

いったん離脱するつもりらしいがそうはさせねぇ

 

「いてつくはどう!!」

 

テンペストは身体や武器に風を纏って強化するバフ魔法。だが、いてつくはどう は相手の全てのバフを無効化できる魔法のためテンペストは消滅。相手の手段は確実に潰す!

 

「.....風が消えた.....!?」

 

「呪文 『地獄門デスゲーt』」

 

「アイズに触れるなぁああああああ!!!」

 

追撃しようとしたが案の定邪魔された。次に来たのは褐色小娘2人か。可愛い。

 

貧乳のほうはデカい剣(真ん中に持ち手があって、上下にデカい刃が付いている) を振りまわし、巨乳はククリナイフを構えてやがる。こちらも武器ほしいんで篭手を外して大剣にチェンジ、名は「バスターソード」、FF VII の主人公クラウドの武器。興味無いね。

 

「てりゃぁああああああ!!!」

 

貧乳さんが大剣を振り下ろしてきたのを間一髪で防御! しかしそれを狙ったのか巨乳さんがククリナイフで腹を裂こうと手首を回す。見ればわかるヤバいやつやん。

 

とりあえずバスターソードごと蹴りあげて貧乳さんを一時的に無視。そして近づいてくる巨乳さんはククリナイフもろともラリアットでゴリ押し!! 腕が斬れちまったがまぁこの程度なら超速再生でなんとでもなるな。

 

そして上空に跳ね上げられたバスターソードを回収して、貧乳に近づく。跳躍力はあるっぽいが空中移動はできないようだなぁ!!

 

「凶斬り」

 

凶の字を書くように斬りつける。軽々しく大剣を振り回せなきゃできないパワー技だが、当たれば相当なダメージとなる。実際にあの貧乳の子はどっかに吹っ飛んだし、うん、ふぅ。この技を決めるとエクスタシーを感じてしまうのは私だけだろうか。ファイナルファンタジーだけにね! (๑• ̀ω•́๑)✧ドヤァ

「ティオネ!? ......、あんた、ウチの妹に何してんだぁああああああああああ!!!」

 

姉のティオナが激情し、バーサーカーの力を解放した。まぁ、力比べなら問題は無いが、気迫に負けそう。

 

しかし、この時私は2人ほど忘れていた。

 

「全員戻れ! 魔法の巻き添えになりたいか!」

 

そう、リヴェリアとレフィーヤである。

 

忘れてたよ魔法使い!!!

 

ふふ、けど私は無尽蔵の魔法、スキルを使いに使ったプロやぞ。こういうときはドラクエのギラグレイドと仮面ライダーWのトリガーフルバーストで相殺すれば何も問題ないし、変えたとしても心が見え見えだからいくらでも対策は立てられる。うん、チートって戦闘が楽になるから面白みにかけるな。クソッタレ

 

【......。焼き尽くせ、スルトの剣。

―― 我が名はアールヴ】

 

【......。雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】

 

おっとこれは二人とも火属性の広範囲魔法。しかももう詠唱しきってるから時間もないな。じゃあこれで

 

【燃えつきろ、外法の業】

 

「レア・ラーヴァt」

 

「ウィル・オ・ウィスプ」

 

直後、リヴェリアは魔力暴発を起こして周りが大惨事になった。そう、ウィル・オ・ウィスプは対魔法用魔法(アンチ・マジック)。タイミングを合わせて放つことで相手の魔法を暴発できる。しかも発動しようとした魔法の威力によって爆発の威力も上がるという鬼畜っぷり。

 

しかし防げたのはリヴェリアだけで、レフィーヤの魔法は止められなかった。

 

「ヒュゼレイド・ファラーリカ!!」

 

無数の火の流星が視界全体を覆うように降りそそぐ。さしずめ流星群とでもいったところか。

 

素早く新しい武器を取り出す。出番だぜトリガーマグナムとトリガーメモリ。それと追尾性能を足すためにルナメモリも取り出さねば。仮面ライダーWは永遠の神作だぜ。

 

トリガー!! マキシマムドライヴ!!

 

「トリガーフルバーストォ!!」

 

無数の流星を撃ち落とすのは光の弾幕。しかもちゃんとあの火に追尾するようにしたからこれで相殺、ん? あれ? 数が足りてなくね? あっちのほうが弾幕濃いぞこれ!! あっ、当たる。死んじゃう。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

燃やされるかと思いきや意外なことが発生。なんとあのベートくんが私を弾幕から足で防いでくれました! やべぇ、かっけぇ! 実は中身、ツンデレ爆豪くん説あるんじゃねぇのこれ!! 優しさで死ねる。

 

「さっきの仕返しだ化け物」

 

Why(なぜ)?」

 

ベートの足に付けている防具は「フロスヴィルスト」と呼ばれる特殊武器。魔法効果を吸収し特性攻撃に変換するという能力を持つヤベーやつ。つまりどういうことかというと、ヒュゼレイド・ファラーリカとトリガーフルバーストの魔法効果を吸収して火力を底上げされたという事だ。そしてこの距離、まだ避けれるッ! バックステップして後ろ向きに飛べばギリギリ回避は可能だ!!

 

「くたばりやがれッ!!!」

 

炎と光が混じりあったような光景が目を襲うが、ふふ、やはりバックステップしてよかった。傷一つついてないぞフフハハハ!! ふぅ、そろそろ勝ちに...、

 

「リル・ラファーガ!!」

 

「おおおおおおおおお!!!」

 

「クワァアアアア!!」

 

炎と光の壁を越えて、アイズ、フィン、ガレスの3人が自分の全力を込めた攻撃を仕掛けた。これはちょっと、避けられんッ!! 無理!! 時止める時間もねぇ!!

 

「グギャアアアアアアアアアアア!!!!」

 

黒き魔女は3人の勇気ある冒険者によって葬られた。魔女の身体は爆散し、18階層の地に舞散った。オラリオのダンジョンで起きた事件はここで幕を終えることに.......

 

 

 

 

 

 

 

「終わらねぇんだよなこれが」

 

終わらなかった。

 

かの黒き魔女は爆散させられた上半身を脅威の速度で再生し、数秒後には元通りになっていた。

 

「そんな......、ありえない......ッ!」

 

「いやー、つおいつおい冒険者。しかるしぃ! この魔理沙様を倒すには......、あと何千、何億、何兆、いやMUGENに近いダメージを与えなくないとなぁ! それこそ神じゃなきゃ無理だね★」

 

「化け物めが.....!!」

 

「久しばりに俺にここまでやったんだ。ドゥンドゥンやろうぜ?」

 

そろそろ攻めるか。とりあえずテレパシーで全員の頭の中にBGMを流す。マリッサ様のテーマ曲「【東方キチガイアレンジ】魔女の舞踏会 ~ Magus night ~ 」だ。これで恐怖心を煽りつつ、ガチ本気でやる。瞬殺はしないよう配慮はするがもう止められないぜ? え? 何? BGMいらなくね? 貴様の脳内にキューピーマヨネーズ流すぞ。

 

「魔王覇気、全ステータス強化、全オーラ系スキル解放、龍風圧、主人公補正強化、魔力増強、全能力タイムラグ無効化......」

 

主人公補正、タイムラグ無効、全オーラ系スキル解放の3つのチートスキルを中心に、次々とバフをかけていく結依魔理沙もとい異形魔理沙。

 

きっ、キツイ!! チート能力を3つも同時に発動させることなんて幼稚園以来だ! あまりにも久しぶりすぎて体への負担が大きい!! 脳が! 脳がやけるぅぅぅぅぅ!!

 

だが、ハァ......、あと一つだけならチートを使えるぞ......。タイムラグも発生しないから時止めもすぐできる......。ふぐっ、ハァ......。これ、自分で自分の首を締めているようにしか見えねぇ!

 

けど効果はバツグンのようだ。魔王覇気と全オーラスキル解放と龍風圧で誰も動けてないし、話すこともできてない。ちなみに全オーラっていうのはね、アレだよ、スーパーサイヤ人になると出るやつとか、ポケモンのルカリオの波動とか、ナルトのやつとか全部混ざった状態よ。そのせいか色が1秒に1回のペースで変わるんだよね。れいんぼぉー(イケボ)。

 

「何なのよアレ......。さっきから不気味な音楽も聞こえるし、身体も動かないし!!」

 

「お姉ちゃん.....、助けて...、身体が動かないよ......、身体が言う事聞かない......」

 

褐色小娘2人は完全に負けだな。ドンマイ。

 

動けない人を攻撃はしない。やっても意味ないからだ。他に動けそうなやつはいるのかな? いなさそうなら全員の首をトンして気絶させとくか。あ、でも無駄に強化したから最悪首がPONするかもしれん。力加減頑張ろ。

 

「まぁぁあけるかぁああああああ!!!」

 

やるな孤高のウェアウルフ、ベート・ローガよ。だがお前らは俺に出会った時点で運の尽きだ。

 

「そう来なくっちゃ面黒くない!」

 

「うおおおおおおおおおああああああああああああああああああああ!!!」

 

馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込むなど笑止千万。その身に永遠の傷を背負うがいい。

 

大現実付き(オール・リアリティー)

 

魔理沙の周りにはいつの間にか螺子が複数個出現し、突っ込んできたベートに向かってファンネルのごとく飛んでゆく。

 

しかし極限状態に陥ったおかげか感覚が洗練され、ベートは向かってくる螺子を全て叩き落とした。なかなかやるな。

 

「ほい」

 

腕を鉱石化、肥大化、筋繊維増強でゴツゴツにし、これで迎え撃とうとした。だがこれもベートには当たらなかった。当たるギリギリのところで横によけ、すり抜けるように近づき、魔理沙の懐に踏み込んだベート。魔理沙相手にここまでできた時点でもう褒め称えられるくらいだが、それだけでは飽き足らず、拳でアッパーを即座にかました。

 

「ちょいと欲張りすぎじあありゃせんか?」

 

アッパーは確かに顎に決まったのだが火力足らずであった。ここまでやって全くダメージを与えられなかったことにベートはチッ、と舌打ちをする。リヴェリアほどではないにしろ火力は十分深層に通用するレフィーヤの魔法に、アイズのテンペストで強化した刺突技リル・ラファーガ、フィン、ガレスの全力の一撃も効かず、挙げ句の果ては強靭な身体と正体不明の魔法にスキル、魔剣に魔銃。今までモンスターに苦戦する時はあるにはあったが、そういう相手は大抵巨大かつ高火力といったシンプルな感じだった。だからこういう対人戦闘で負けることなどベートにとってはありえないと思っていた。

 

「そなに魔理沙様のビューティフォーを観たいか? なぁ見た以下? ミタイノカ?」

 

「黙れゴミがああああああああぁぁぁ!!」

 

ベートが拳を突き出すより早く「虚無の一撃(イマジナリ・ブロー)」をかました。手加減してるとはいえ虚無崩壊のエネルギーが混じってるから人を失神させるくらいは余裕だな。

 

ベート、戦闘不能。

 

「さて、ここでブラックマジシャンガールによる『死神クイズ』。正解できなかったらそこでお前らは全滅。ぞ。でも正解してらお前らを見逃ひてやろう」

 

「死神クイズ......」

 

「おいフィン。どうする?」

 

「ここまでやって後に下がるとは思えない、しかし乗っても奴が約束を守るとは限らない。できれば倒れた仲間を背負ってダンジョンから脱出するのが一番好ましいんだけど、奴がいる以上それもできない。賭けに出るか......」

 

魔理沙が約束を守るか守らないか.......

 

「じゃ、問題。テデンッ!! 今からお前らに即死魔法をかける。誰がかかるか予想してね? 答えは自分の身を持って死っておくんだぬぁ」

 

約束うんぬんの話ではなかった。正解するしないは奴にとっては関係なく、ただ安心させてから地に落とすつもりだったのか......、

 

「みんな、僕が死ぬ気で止めるから早く立って逃げるんだ」

 

「フィン......、ダメ」

 

「そうじゃフィン!! 諦めるのは早い!!」

 

「フィンさん! 自分を犠牲にするのはやめてください!!」

 

「そうだよフィン! 一緒に帰ろう!」

 

「団長は絶ッ対に死なせない!!」

 

「上層へ帰るには時間がかかる。今から撤退しても全滅するのは明白だ。でも奴が空けた大穴から脱出できれば、ファミリア全体の生存率はグンと高くなるんだ。僕はロキファミリア団長として君たちを守る義務がある。だから早く行け。団長命令だ」

 

「何やってるんだよ......団長ッ!! てな。そんなクサイセリフを吐くのは俺を倒してからやれ」

 

フィンは覚悟を決めて魔理沙に挑んだ。

 

「全滅だけは絶ッ対にさせない!!!!」

 

「大人しく問題を答えれば良いものを.....。ま、仕方ねぇか」

 

私はフィンに数枚のトランプを投げた。特別製のトランプなので人の肉を切ることに関しては問題はない。それに軽くて扱いやすいので命中率も問題なく、フィンの体には数枚トランプが刺さった。

 

【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て】

 

凶猛の魔槍(ヘル・フィネガス)!!」

 

フィンは自身の戦闘意欲を上昇させる魔法を唱える。これによって全能力値が大幅に向上するのだが、同時に判断力が欠けてしまう弱点がある。しかし、フィンはロキファミリア全体の生存率を上げる方法がこれしかないと判断したのだった。

 

 

「アイズ、レフィーヤ、ティオネ、ティオナ、お前らは先に上層に行って脱出しろ。ワシはもう上に行くための体力はない、先に行ってギルドとロキのやつにこのことを報告するんじゃ。」

 

「ガレス......。」

 

「ガレスさん!? そんな、ガレスさんまで置いていくなんてできません!!」

 

「「あたしも残るよ」」

 

「ティオネさん!? ティオナさんまで!?」

 

「私も......残るよ」

 

「じゃ、じゃあ私も......」

 

「いーや、アイズはテンペスト使って上層に行け。これはファミリア存続の危機がかかっちょる、アイズ、お前はワシらの希望、お前が行かなければならん! そしてレフィーヤ、お主はアイズと一緒に行ってやってくれ。アイズだけじゃ少し心配でな、お前がアイズを支えてやるんじゃ。ティオネとティオナも、アイズと一緒に行ったっていいんじゃぞ? それでいいのか?」

 

「うちらは別にいいよー。そうでしょ? おねーちゃん」

 

「えぇ。私はただ団長を傷つけ、妹に手を出したあのアバズレ女をこの手で八つ裂きにしたいだけよ。」

 

「ほらね? こう言い出すとおねーちゃん止まんないからー。だから私も残る。アイズ、レフィーヤ、頼んだよ!」

 

「みなさん.........。」

 

「わかった。レフィーヤと上層に行く。けど、約束......して? 絶対死なないって......」

 

「あぁ、もちろん。帰ったらみんなでご飯を食おう」

 

「ちょ!? それフラグ!!」

 

「ティオネ、フラグはへし折れば問題ないのよ」

 

「おねーちゃん!! それもフラグ!!」

 

ほんの少しだけ、笑いが起こった。ファミリアが消滅する可能性のあるこの状況で。しかし、これこそがロキファミリアなんだろうな.....、と思う4人でもあった。

 

「さて、ワシらはフィンの手助けに行ってやろう。二人とも準備はいいか?」

 

「全然おっけーだよ!! ウラガもピンピンしてるよ!」

 

「こっちも問題ないわ。早くあのサブカルクソ女に制裁を下したくて堪らない」

 

「じゃあ.......、行ってくる」

 

「皆さん、絶対に死なないでください!!」

 

「「行くぞロキファミリア!!」」

 

 

戦場はまもなく終わる

 

 

 

 

 

To Be Continued......

 

 







「死神クイズ」の答えは次回でしゅ。答えはまぁ簡単です。

【】←これの中にあるやつは魔法詠唱です。

あと魔理沙のセリフがめちゃくちゃなのは異形魔理沙になりきっているからです。わざと誤字ってます。

いろいろ紹介

竜王:初代ドラクエの魔王。ちなみに竜王の言葉通りに世界の半分をもらおうとすると復活の呪文を教えて貰える。入力するとレベル1にされて装備品を取られる。ひでぇや。

マグロナルドの店長:こちらも魔王。エンテ・イスラと呼ばれる大地を制していた魔王。だが勇者に敗れたため現代へ逃亡。魔力もほとんどなくなり、現代で生きるために働くことになってしまった。作品名、「はたらく魔王さま」。カツドゥーン!

私は神だァアアアア!!:デスザクライシス!! デンジャラスゾンビィ!!

地獄門デスゲート:デュエルマスターズの闇呪文。デーモンハンドに並ぶ作者のお気に入り。タップされてないクリーチャーを一体破壊し、墓地から破壊したクリーチャーのコストより低いクリーチャーをバトルゾーンに出す。

レア・ラーヴァテイン:えげつない超広範囲の炎系魔法。わかりやすく言うと、アレだよ。「風の谷のナウシカ」の巨神兵の一撃と同じくらい炎が凄い。焼き払え!!

主人公補正強化:みんな大好き安心院さんも持ってるやべーやつ。より主人公らしくなる。物語の展開がいい感じに終わる。

龍風圧:モンスターハンターの古龍、クシャルダオラが怒ると出る風。近づくと物凄い風で体勢を保てなくなる。

ブラックマジシャンガール:遊戯王だけど実は私、あまり知らないのだよ。デュエマ勢だったからな。でも遊戯王音MODは好きよ。ブルーアイズアルティメットジョウノウチクン!!

死神クイズ:HUNTER × HUNTERのヒソカさんが出した問題。ちなみに問題内容は丸パクリしておりません、オリジナルです。ヒソカさんは即死魔法なんて使えないし、もし使えたらなんの躊躇いもなく使いそうで怖い。けどカッコイイ。変態だけど。




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番外編2-3 ~ Adventurer ~




ショートコント、顔文字エイサイハラマスコイ














(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっおっ(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっおっ(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっおっ(⌒,_ゝ⌒)おっおっおっ(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっおっ(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっおっ(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっおっ(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっおっ(∪^ω^)わんわんお!\(^ω^)/おっおっおっ





すまんかった。


今回も長くなってしまった。











 

 

 

 

 

「髄分と楽しそーにしてふじゃあない?」

 

「こんなピンチの時におかしいかもね、ウチのファミリアは」

 

槍と剣が交差し、弾き、何度も衝突を繰り返す。

 

「ところでなんだけど......」

 

「何さ」

 

「君、()()()()()()()()()()()()。何で?」

 

あっ......、あっ......、ふぅ。バレた、バレてしまった。ヤバい、恥ずかしい、親に漆黒聖典という名のノートをベッドの下から発見されたくらいの恥ずかしさだ。

 

「.....、はぁ、なんだバレてんのか。ま、俺はただ戦いたくて戦いたくてしかたがない人だし、本音を言うとお前ら主要人物を殺すとな、私のことを気に入らないと思った連中に世界を消されるからさ」

 

なんとか平常心を保ちつつ、ちぐはぐな回答をする。またの名を開き直り。

 

今回だけ特別に結依魔理沙を簡単に倒す方法を教えてあげよう。方法は簡単、まずハーメルンの画面の一番下に「情報提供」というところがあるだろう? そこでこの小説のIDを入力してどこが違反しているか報告すればOK。これが集まれば集まるほど魔理沙は即刻で倒れます。ね? 簡単でしょ? 絶対やるなよ。フリじゃねぇぞ。

 

「君は......厨二病...なのか?」

 

「はい黙れそのセリフは既にスタンド使いのやつがいいましたー。ということでそろそろ死神クイズの解答時間だ。大人しく正座して聞け」

 

指パッチンの準備を始める結依魔理沙。

 

「させんぞぉおおおおお!!!」

 

ガレスが重量ある斧を魔理沙に振りかざすが全く当たらない。

 

「団長に触れるなぁああああああ!!!」

 

「大人しくやられろっつーの!!」

 

続いてティオネティオナ姉妹がガレスの隙を埋めるように連続攻撃を繰り出したがこれも当たらず。

 

「なんで当たんないの!!」

 

「私と張り合いたければ物理法則を超越することだな!!」

 

この一瞬の時間を見逃さずに私は時を止めた。前回かけた「全能力タイムラグ無効化」が発動しているため隙は一切ない。さて、

 

全員のお腹に軽くパンチを10発ほど入れる。これで少しくらい動けないだろう。最初からこうすれば素早く片がつくかもしれないが、戦闘はやはり長くじっくりやってからこそ至高なのよ。フフフ、

 

そして時は動きだす。

 

時の流れが再開すると同時に止まっていた物理エネルギーが動きだし、4人全員後方へ吹き飛んだ。

 

「問題内容、俺が今からお前らに即死魔法をかける。誰がかかるか予想してねってやつだったな。正解は...」

 

パチンッと、音が響いた。

 

直後、ロキファミリア4人はまるで命が抜けたかのように倒れ、ピクリとも動かなくなった。誰一人反応できず、逃げられず、4人は死んでしまったのだ。

 

「正解は仲良死。なんてねッ♡」

 

死神クイズに解答者はいらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ま、誰も死んでないけどね。即死魔法はいっさい使っておりません。使ったのはラリホーマ、相手全員を眠らせるドラクエの魔法だ。さてと、後でオラリオに出たらポイしてくるか。それまで「王の財宝(ゲートオブバビロン)」にでも入れといてやろう。ちょっとマスターソードが残ってて危ないけど上手く端に寄せておくか。

 

6人の身柄を確保し、周囲に誰もいないことを確認した私は、逃げた冒険者たちを捕まえるために上層へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

~ 1階層 ~

 

ロキファミリアの足止めによって無事に逃げきることができた避難組。17階層で待ち構えていた迷宮の孤王(モンスターレックス)は商人たちの武器をふんだんに使い、数の暴力で撃破。16階層から13階層に多く待ち構えていたヘルハウンドやミノタウロスなどのモンスターはベルと鍛冶師のヴェルフ・クロッゾの活躍や、途中から合流したアイズとレフィーヤの活躍により突破。残りの敵のほとんどは弱小モンスターばかりなので、数にものを言わせて難なく突破していき、現在は1階層。脱出までほんの少しという時に事故が発生した。

 

「ダンジョンから出られねぇ」

 

超大問題である。

目の前にある螺旋階段を登っていけばオラリオに出られるはずなのに、なぜか登ろうとすると見えない何かにはじき出されるのだ。

 

「なぁヘスティア、これ何だと思う?」

 

神ヘルメスはまるで最初からわかっているかのように質問をした。

 

「君もわかっているんだろう? はぁ、どうやら結果を張られたみたいだね」

 

「いったいどーすりゃこの結界とやらを壊せんだよ!!」

 

小汚いモブ男さんが叫ぶ。

 

「私が壊す」

 

アイズが細剣を構えた。

 

「おぉ!! これなら脱出できそうだ!」

 

「いやー、助かったァ!!」

 

まだ壊してもいないのに喜びの声を上げるモブラーズ。ここに爆豪がいたら100%爆発オチである。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

剣に風のバフ魔法をかけて攻撃力を上げる。そして一点に集中して剣を突き出す。

 

「リル・ラファーガ!!」

 

目では追うことの出来ない速さで剣を突き出すが、結界に触れた瞬間剣が弾かれ、反動によってアイズは後ろに倒れ込んでしまった。

 

「全然効かない......!?」

 

「そりゃ紫様の四重結界だからな」

 

聞き覚えのある声。18階層に出現した化け物の声だ。だが、どこから声が発生しているのかがわからない。近くにいるはずなのに......。

 

アイズは周囲を見渡すが、いるのはロキファミリア、ヘルメスファミリア、ヘスティアファミリアと18階層の商人たち。面々に変化はない。

 

「お前の背中だ背中。」

 

「え?」

 

アイズは体を捻って自分の背中を確認しようとする。するとどうでしょう、背中から謎の扉が現れてて、その中から黒い魔女が出てきていたではありませんか。

 

「「出たぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!!」」

 

ふふふ、もう顔とオーラを憶えたから、「あらゆるものの背中に扉を作る程度の能力」で一瞬でついたぜ。正直この能力もほぼチートだからな。どこでも瞬間移動できる上に生命力や精神力を操ることもできるんだから。つまりバフもデバフもできる最強の攻守よ。これだから幻想郷の賢者は恐ろしい。

 

アイズの背中に作った扉は丁寧に閉めて、地面に着地した。よし、倒すか。

 

「いつのまに......。 ねぇ、フィン、ガレス、ティオネ、ティオナに何したの......」

 

「さぁ? 私がここにいるということであらかた察しはついているんじゃあないか?」

 

「......」

 

アイズは最悪の事態を察してしまい、黙り込む。こんな訳のわからない化け物にみんな殺されたと思うと......、体の震えが止まらない。

 

「許さない......」

 

アイズの身体から黒色の靄が溢れ出し、目が真っ赤に染まる。これはアイズの能力、「復讐姫(アベンジャー)」の効果が増加した証拠である。アベンジャーとは、相手の種族がモンスターの場合、ステータスにバフがかかるスキル。モンスターの場合、モンスター、私、モンスターだったらしい。

 

ま、それは置いとこう。問題はアイズがガチモードに入ったってことだ。それにレフィーヤとエルフのリュー・リオンも来てるし、まぁ、うん。問題ないか。

 

「召喚 マスターエッジズ」

 

呼び出したのはスマブラfor/Wii U のボス「マスターコア」。マスターコアは複数の姿を持っており、今はエッジズ、つまり複数の剣が浮いている状態を想像してほしい。そう、それだ。ちなみに大きさは目測4メートルくらい。デカい。

 

エッジズを呼び出したのは不意打ちを防ぐため。特にリューさんは昔、暗殺者みたいな立場にいた人だからな。不意打ちが来たらコイツがなんとかしてくれるさ!

 

エッジズは敵を威嚇するように金属音を鳴らす。おかしいな、エッジズは確かに剣だけど素材は金属じゃないんだよな。なんだアレ、あの思念体の塊みたいな黒いモヤは。そんなわけわからん素材からどうすりゃ金属音が鳴るんだか。

 

はぁ、しかしリハビリか。やはり異世界のキャラとの手合わせは素晴らしいなぁ。ただ、何かしら因縁つけられるから同じ世界に何度も行けないという点は何とかしたい。もっと友好的に闘いを申し込まなければ.......。なんか矛盾するなぁ...。

 

「嘘......、そんな......」

 

どうやらレフィーヤは上手く受け止めきれていないようだ。誰だって仲間を殺されたら、しばらくはその場から動けないのは必然的であろう。でもな、そろそろ雄英体育祭が近いんだよ。だから大人しく私の経験値となれ。

 

「剣姫、私も参戦します。足を引っ張るようなマネはしませんので私のことはお気になさらず」

 

「好きにして」

 

わぁ、増えた。これで私VSアイズ、リュー、レフィーヤ(心折れ)、ベルくんもいるけど果たしてくるのかな?

 

「僕だって......」

 

「僕だって......できる! 女の子を守れないなんて男じゃない!!!」

 

やはり来るか。じゃ決めた、最後に倒す冒険者はベル・クラネルだ。やはり最後に残った主人公とラスボスが戦うシチュエーションは誰もがそそるだろう? あぁ、少ない夢が叶いそうだ。自分がラスボスになって主人公と全力勝負をするという展開を!! 私はここで叶える!! 異議なし!!

 

最後の目標も決めたし、最終ラウンドといこう。まずは先に有象無象を蹴散らすか。

 

「待ってください、私も参加します。相手はロキファミリアの精鋭を単独で潰した化け物、ここで倒さなければ地上(オラリオ)も危険です」

 

ヘルメスファミリア団長、「アスフィ・アル・アンドロメダ」が参戦の意思を表示した。わー、これで5人だぁ。でもまだ大丈夫だ、5人ならうまくやれるはず。

 

「俺たちだって戦うぞ!!」

 

「いつまでも逃げ続けるなんてしゃらくせぇ!」

 

「こっちには魔剣だってあるんだぞ!!」

 

「こいよ黒魔女、武器なんか捨てて」

 

「てめぇなんか怖くねぇ!!」

 

「野郎オブクラッシャー!!!!!!」

 

あぁ、モブラーズまで参戦か。てことは5人どころか50人以上の相手をしなきゃいけないということだ。うわぁ、めんどくさい。範囲攻撃でまとめて叩き潰すか。

 

本日のビックリドッキリ武器、発進!!!

 

私は馴れた手つきで槍を取り出す。そやつの名は「霊槍シャスティフォル」。七つの大罪、「怠惰」の罪に冠する男、キングさんの神器だ。怠惰ですねぇ。

 

実はシャスティフォルもエッジズのように複数の形態変化がある。今のこの槍の状態は第一形態、つまり初期状態だな。ここから第十形態まで変化できるという万能武器。今回は範囲攻撃を仕掛けるので第五形態の「増殖(インクリース)」を使う。効果は使ってからのお楽しみだ。

 

「まぁ、別に何人来てもこちらは構わんけどさ、ひとつだけ問うぞ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 」

 

全員が唾を飲み込む。目の前の魔女の雰囲気が急に変化したのだ。ついさっきまではおちゃらけた感じの変な女だったはずなのだが、見るもの全てを屈服させる魔王の雰囲気に激変し、呆気を取られる。威勢よく立ち向かおうとした商人達は自分のした行いに物凄い勢いで反省していたが、声に出せないので静かに黒い魔女の様子を伺っていた。

 

「まぁ、覚悟があると判断してやろう。私は御託を並べるのは得意ではないんでね、冒険者は潔く死に晒すがいい」

 

魔女のオーラに当てられたダンジョンは揺れ、蠢き、叫鳴する。ダンジョンに限らず、彼ら冒険者も震えていた。これから相手にするのはロキファミリアの第一級冒険者を単独で倒した化け物。モンスターレックスなんて比較にならない敵。死ぬ気で戦わなければ生き残れない。

 

(どうよ? 演出ちょーうまくね!?)

 

事の発端であるダンジョンはこの状況の空気も読めずにいた。いや、読む気配が一切なかった。

 

 

とりあえず黙れ、そう思う結依魔理沙であった。

 

 

 

 

 

 

 

少し様子見してみたが誰も動く気配がない。フフフ、私のオーラがちょっぴり強すぎたのかな? それとも私から溢れんばかりのカリスマァが敵の反抗心を根絶やしにしてるのかな?

 

(解。全員が戦闘の合図を見失っています)

 

おわっふ、久しぶりの大賢者さんでビビってしまった。だがちょっと待て、この状況ってそういう状況なの!? なんかコミュ障同士の会話みてぇじゃねぇか!! やめろよ.....、なんか思い出す必要のない記憶まで甦るだろーが。

 

(....、マスターが行動を開始すれば問題はありません。)

 

え、そんなんでいいの? つまりこの停滞空間は私のせいなの? てっきりアイズあたりが暴走して私に斬りにかかると思ってたのに全然大人しくしてるし。まだ冷静な判断は失っていなかったか.....。

 

気の抜けたようにため息をついた私は、シャスティフォルを構える。いつでも戦闘はOKだ。

 

フィンのせいで演技バレたけど、もうフィンはおねんねだからまた演技していいよね?

 

「霊槍シャスティフォル第五形態『増殖(インクリース)』」

 

持っていた槍が無数のクナイに変化し、モブラーズ諸共全員に一斉射撃する。これに似たやつといったらUSJ事件のときに使った『千本桜景厳』だな。でもそっちつかったら流石に死にそうなので止めとく。

 

「ぎゃああああ!!!」

 

「死にたくないいいいいやはあ!!」

 

「止まるんじゃねぇぞ... 」

 

「バカナァアアアアこんなことがぁああ!!」

 

「圧倒的回避」

 

次々とモブラーズは離脱していく。冒険者でも、なんでもない商人ごときが私に勝つことなんて3億年早いわ。あれ? 無名の誰かが凄い勢いで避けているんだが。え?

 

まぁそれは置いとくとしよう。問題は主力になる5人なんだがな、アイズさんは相変わらず効いてねぇや。その他4人.....、あれ、3人か? ベルくんは仲間と協力して弾いてるし、レフィーヤはちゃっかり防御魔法唱えてるし、リューさんは並行詠唱してるし......、一人足りない?

 

足りない一人の正体はアスフィ。彼女のスキルで作成した魔道具「漆黒兜(ハデス・ヘッド)」は装着者に『透明化』を付与する。乱戦に紛れて不意打ちをつくのが彼女の考えであった。

 

しかし、既に見えない敵との戦闘を経験していた結依魔理沙には効果はなかった。

 

「其のお手手はもう攻略済みよ、あん時から私は常時気配感知度を最大限に引き出しているぅう。無念残念だったなぁ!!!」

 

右に回り込んでいたアスフィを回し蹴りで吹き飛ばす。透明化でハッキリしないが多分血を吐きだして壁に叩きつけられてた。痛そう(小並感)

 

アスフィの犠牲によって生まれた隙を見逃さなかったアイズは、そっぽを向いている魔理沙目掛けて距離を詰め、細剣を前に構える。18階層で顔に刺した時は全く効果がなかったので、今度は全身を刻むことを意識する。

 

目測3メートルまで迫り、細剣を突き刺す。

 

しかし、当たらない。

 

アイズの正面には数メートル単位の大きさの浮いた剣、マスターエッジズがいた。アイズの攻撃はエッジズによって綺麗に防がれたのである。ま、こういう時のためのエッジズだしね。

 

「エッジズ、殺れ」

 

魔理沙に命令を下されたエッジズは巧みな連携プレーでアイズを翻弄する。アイズのスキル、アベンジャーが最大限に発動しているおかげで何とか応戦できているが、幸先は真っ暗である。

 

「......ッ!!」

 

細剣ひとつで数本の大剣を捌くにはそうとうの力と体力と集中力が必要不可欠。だがアイズは速さで自分の能力不足をカバーし、上手く対処していた。

 

おっとちょうど私の両手がガラ空きだなぁ。

 

「霊槍シャスティフォル第四形態『光華(サンフラワー)』」

 

第五形態で散っていたシャスティフォル達は魔理沙の真正面に集合する。第四形態は向日葵型の超高火力レーザーだと思ってくれれば問題ない。ただあまりにもデカいのでダンジョンの天井突き抜けるかなぁ〜なんて思ってたら案の定貫通した。ここは1階層なのでその上は地上、オラリオである。あぁ、サンフラワーが作った穴から光が差し込んでくるわぁー。

 

「御退場願おうか、アイズ・ヴァレンタイン」

 

サンフラワーに強烈なエネルギーが集中する。発射口が地上に出てしまってるので手出しは不可能。止める手段があるとするならば、サンフラワーを根っこからぶった斬るしか方法はない。しかしそうするには近くで構えているエッジズと魔理沙の両方を足止めしなければならない。それこそ不可能である。

 

「ヒュゼレイド・ファラーリカ!!」

 

「ルミノス・ウィンド!!」

 

しかし、まだ希望はあった。レフィーヤとリューの詠唱が完了したのだ。魔法攻撃ならわざわざ近づかなくても遠くからの攻撃が可能。さらに詠唱も入っているため火力も申し分ない。

 

炎の流星群と緑風を纏った大光玉が魔理沙たちに牙を剥く。だが甘っちょろい。この程度の攻撃では魔理沙を少々焦がす程度で一切致命傷にはならないからだ。最も、致命傷を受けたとしても即回復するのがこの化け物の恐ろしい点であるのだが。

 

吹き荒れろ(テンペスト)!!】

 

風のバフ魔法で自身の武器と身を強化するアイズ。アイズが最後に強力な一撃を入れられるとしたらここしかない。魔法攻撃を対処することで生まれる隙を突くしか......。

 

「魔法か......」

 

魔理沙は特に焦った様子は見せなかった。

 

全反撃(フルカウンター)

 

魔理沙は右腕を薙ぎ払い、素手で魔法を受け止めた。本来なら避けるのが適切だが、異常な身体能力を持っている魔理沙だからこその行動である。そして何よりフルカウンターの能力はその名の通り、どんな相手の攻撃も倍以上の威力で跳ね返す能力。何も対策がない冒険者にとってフルカウンターは脅威でしかない。

 

アイズは紙一重でフルカウンターを回避。かすりでもすれば肉を削られる攻撃に少々ヒヤッとするが

表情には出ない。

 

「あああああ死にたくないいいい!!!!!!」

 

「ぎゃああああああああああああ!!!!」

 

アイズが避けた先には商人やロキファミリアの下っ端たちがいたのだが気には止めない。全員を守ることなど不可能の極みである。

 

アイズは過去最大の加速で魔理沙を追い詰める。誰よりも速く、速く、速くダンジョンを駆け抜け、相棒の細剣と共に一匹の化け物を狩りに行く。

 

「遅ぅぅぅぅあい!!」

 

アイズの速さは既に18階層で見切っていたため、タイミングよく右腕で捻り潰そうとする。

 

「サポートします」

 

リュー・リオンは魔理沙が右腕を突き出すと同時に投げナイフを2本投げる。腕や足、顔に突き刺しても効果がないことはレフィーヤから既に情報として得ていた。リューは投げナイフにダメージを期待しているわけではない、目くらましとして2本投げたのだ。

 

魔理沙の眼前に迫る2本のナイフ。魔理沙は反射的に仰け反ってしまった。異形魔理沙として考えるのならばこれは重大なミスだが、結依魔理沙としてなら仕方がないだろう。前世はただの一般人、目潰しに対して恐怖を抱くのはごく自然なこと。

 

アイズは既に魔理沙の目の前まで接近していた。

魔理沙はアイズの細剣の斬撃が当たる範囲まで詰められてしまった。魔理沙が体勢を元に戻す速さと、アイズが剣を振るう速さの、どちらが速いかなど明白である。

 

「ま、あえて誘ったんだけどな」

 

フルカウンターをキメた直後にエッジズを境界の中に隠していた魔理沙は、ニタリと笑みを浮かべながらアイズの背後にエッジズを出現させる。フフフ、死んだと思った? 残念、生きてましたァ

 

エッジズが背後から斬りかかろうとするが、アイズは一切後ろを見なかった。別に見えなかったわけではない、ただ仲間を信頼して突っ走っただけである。

 

「アルクス........、レイッッ!!!!」

 

その期待に応えるがごとく、レフィーヤは魔法を解き放つ。放たれた光の矢は一直線に向かい、マスターエッジズにヒット。

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

ダメージが蓄積していたため、そのままエッジズは消滅した。

 

正面が再びガラ空きになった魔理沙にはもう守る手段はない。

 

 

アイズは細剣に力を込めた。

 

 

 




終 わ ら な い

本当は今回で終わらせるつもりだったけど無理でした。多分、次こそダンまち編は終わりですね。多分。

25話の脳無との戦闘シーンを大幅に変更しました。死にそうです。脳が震える。

活動報告にてバレンタインデーの話を作るか作らないかについて意見募集中です。特にない場合、消滅します。


今回、話が淡々と進んでしまい申し訳ない。やはり難しいなぁ。








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番外編2-4 ~ 英雄の証 ~





ダンまち編最終話です。


今回の異世界編は異形郷要素を強めに作ってます。なので人気キャラクターや嫁キャラが酷い目に遭うことは必然的です。要注意です。むしろ今までが平和すぎただけです。ご容赦ください。

ま、また平和になるんだけどね


評価がだんだん下がってくぅぅよぉおお↓
まぁ、私は半分以上あればモチベが下がらない男なので多分打ち切りにはなりましぇん。

ダメなところとかあったら指摘してください。結構、勢いで書くことが多いので......

最後に、今回は一万四千文字とクソ長いのでご了承ください(もっと詰め込みたかった)。3つ分詰まってます。だから遅れました。













 

 

 

 

握りしめられた細剣、滴る血、動かない真っ黒の少女。アイズ・ヴァレンタインは遂に、邪悪な化け物に反撃することができた。しかし、ただ突き刺しただけではこの化け物はすぐ修復してしまう。確実に仕留めるにはやはり魔石を破壊するのが最も手っ取り早く、好ましい。なぜなら魔石は全モンスター共通の弱点であるからだ。しかし、どんなに斬りつけても魔石が壊れる気配はない。

 

この化け物は本当にモンスターなのだろうか? あの風穴を作ったのは紛れもないこの化け物の仕業だ。底が見えないほどの深さから上層まで穴を空けたことや、体が変形することなどを踏まえると、常識的に考えて、未到達階層で発生した強力なモンスターが何らかの理由で冒険者を索敵し、襲ってきたというのが妥当だろう。前のロキファミリア遠征では言葉を話したり、魔法詠唱ができるモンスターが出現したことがあった。未到達階層にもそのような知能を持ったモンスターがいてもおかしくはない。

 

だが先程も述べたようにどのモンスターにも魔石というエネルギーの結晶体が体の内部に存在している。冒険者はそれを資金源とし、身の危険を感じた場合は資金より命を優先し、魔石を砕くことも時にはある。つまり何がいいたいかというと、魔石を持っていないモンスターなどありえないということである。エネルギーが無いと動くことはおろか、存在を確立させることすら不可能なのである。

 

わかることは、この化け物はダンジョンのモンスターではないということ。かといって人間だ、と考えたとしてもそれはそれで疑問点が多い。ファミリアのメンバーでもないはずなのに、魔法を行使可能だということ。その上、ほとんどが無詠唱。さらには上半身を吹き飛ばされても復活する回復力。そんな馬鹿げた人間がいていいはずがない。異常すぎる。

 

アイズは焦る。このままではまた復活してしまう。なんとしてでもここで終止符を打たなければならない。そんな気持ちが込み上がる。

 

「なんでぁ、これで終わりかァ」

 

顔が青く染まる。化け物が再び猛威を振るおうとしているのが肌で伝わる。もう一度体勢を持ち直して、またチャンスが来るのを......

 

「何度も何度も同じことを繰り返しているお前らにチャンスなんてなかろ?」

 

反応が遅れたアイズは為す術なく頭を鷲掴みされる。地面に足がつかない高さまで持ち上げられ、痛みが脳を襲う。

 

「あッ......ガァ......ッ!!」

 

「まぁよくわく頑張ったよソード・オラトリア主人公。褒めたる。ご褒美に地面とディープキスさせてやろから感謝感激雨あられな」

 

魔理沙はアイズの頭を何度も地面に叩きつける。なんとか意識を飛ばされないように必死に耐えるが、脳へのダメージはどんどん蓄積されてゆく。顔が血だらけになりつつも、必死に足掻いて、耐えて、負けまいと藻掻く。

 

「アイズさんに触れるなぁあぁああぁあ!!!」

 

非力な主人公、ベル・クラネルは走る。相手があのアイズ・ヴァレンタインですら手も足も出ない敵だとしても、たとえ自分の命が危険に晒されようとも、それらを省みず突っ走る。今まで全く役に立てなかった悔しさと、好きな女の子があまりにも酷い仕打ちを受けているのを見過ごせない、男の自分が動かなければならないという意地が相乗効果をもたらし、ベルを突き動かしている。

 

「お前は最後だベル・クラネル。英雄になりたいんだろう? 英雄っつーのはなぁ、いっつも孤独なんだぜ?」

 

アイズへの攻撃を一旦止めると、向かってくるベルに対して手をかざす。魔理沙は手のひらで軽く気を練り、衝撃波を飛ばした。

 

(ッ!! ヤバい、ヤバイヤバイヤバイ!!!)

 

ベルは別に強くはない。アイズのような戦闘センスや反射神経は持ち合わせていない、リューのような素早い身のこなしもできない、ベルにとってはこの単純な攻撃でさえ、脅威なのだ。

 

走るのを止めようとするが、慣性の法則により急に止まることが出来ない。つまりは直撃、場合によっては死である。

 

「うわッ!!!」

 

「......危ないところでした。あなたが死んでしまってたら、私はシルに顔向けできません。」

 

「あ、ありがとうございます。リューさん」

 

「お前が来るは詠んでいたよリュー・リオン」

 

リューが警戒するより先に、攻撃モーションに入った結依魔理沙。もうアレのチャージが完了したからな、最大火力で消し飛ばされてもらおう。

 

「穿て、『光華(サンフラワー)』」

 

前回からずっとチャージし続けていたサンフラワー。その威力はポケモンの「ソーラービーム」なんて目じゃないほどの火力。そしてダンジョンの上からの狙撃、避けられるはずがない。

 

いや、リューならギリギリ避けられるだろう。私が無言で攻撃していれば、反応が遅れてそのまま倒れていたに違いない。しかし、来るとわかっていれば話は違う。今から放つサンフラワーは言ってしまえば単発攻撃のレーザービームである。避けるのは難しくない。

 

しかし、リューは避けることができない。後ろに友人の大切な人がいるからだ。自分の命より、自分を救ってくれた人のために命を尽くすのがリュー・リオン。あの時から気持ちはブレていない。

 

「さよなら、ベル・クラネル。シルのこと、任せます」

 

「リューさんッ!!」

 

 

黄金の光がリューを導く......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

ロキファミリア、ヘルメスファミリア、ヘスティアファミリア、その他商人たちの中で生き残ったのは、ベル・クラネル、神ヘスティア、神ヘルメス、謎の男の4人だけであった。

 

モブラーズは一瞬で壊滅、ロキファミリアで唯一残ったレフィーヤも魔力が尽きてしまい、ヘルメスファミリアの団員達も瞬殺され、アスフィもトドメの一撃をくらって完全にダウンしてしまった。ベルを守ろうと必死に抗ったサポーターのリリルカ・アーデや鍛冶師のヴェルフ・クロッゾも応戦したが、敗北。もちろんベルは仲間を守ろうと必死に魔女に攻撃を仕掛けたが、軽くあしらわれてしまい、意図的に最後まで残らされてしまった。

 

「なんで......、なんでこんなこと......」

 

ベル・クラネルは現実を受け入れられなかった。

 

「「残念だねぇ。仲間を救うことも出来ずにただ独り残されるなんてねぇ。」」

 

「どうしてこんなことに............」

 

ベル・クラネルはこの惨劇を理解できなかった。

 

「「お前の力が足りなかった......、なんてことは言わんよ。運が無かったなお前ら」」

 

「僕は誰も救えなかった......、誰も......」

 

ベル・クラネルは己の弱さを悔やんだ。

 

「「あぁ、そうだな。お前は誰も救えない。誰もお前のことを見ていない。お前は無力だ」」

 

「僕のことも.........殺すんですか......」

 

ベル・クラネルは己の結末を悟った。

 

「「......そらな。お前はここで終わりだ。と、言いたいところだがお前にチャンスをやろう。」」

 

ベルは魔女のセリフに耳を疑う。あんなに多くの人を殺めておきながら、この状況でチャンスを与えるということに。なぜ? 弱いから? それともただの遊び感覚なのか? ベル・クラネルだから?

 

「「お前に選択肢を二つやる。どちらか選べ」」

 

ベルは唾を飲み込んだ。

 

「「ひとぉおぉつ、ベル・クラネル、お前だけが助かって他の奴らは死ぬ。神もだ」」

 

「「ふたぁあぁあつ、ベル・クラネル、お前だけが死んで他の奴らは助かる。」」

 

「「時間は3分、嘘なしで正直に答えるがいい。」」

 

人間味が薄れたような声で魔女は問いかける。前世が一般人だとか、実は元の世界では人の為に戦ってるとか、今の魔理沙を見たものは信じられないだろう。それくらい雰囲気が違う、今の魔理沙は動揺や罪悪感は一切ないのだ。

 

しかし、ベルは迷いを見せなかった。

 

「僕の命ひとつで神様を救えるなら、そうする。けど、ひとつだけ、たったひとつだけ、チャンスをください」

 

数多くの冒険者、リリやヴェルフ、そして片思いを寄せていたアイズさん。多くのものを奪われ、今にでも殴りにいきたい、仇をとりたいと感じていたベルだが、神様までいなくなったらと想像し、ベルは自分が今まだ持っている大切な人を守ることを最優先に考えた。

 

ベルは変化していた。本来こんな場面に直面したら、諦めるか、命乞いをするか、何の策も無しに突っ込むのどれかを行っていただろう。しかしベルは冷静に状況を判断し、感情を押し殺し、今あるものを守ろうとしている。これが何を示していたのか、

それを知るものはこの時はいなかった。

 

「「チャンスゥ......?」」

 

「決闘......、僕と決闘してください...」

 

「血糖? 隋分と無謀な策を選んだナ。今までの私を見ていなっかっか?」

 

「見ていました。なのでルールを作らせてください」

 

ベルは一度深呼吸をして、気を落ち着かせた。

 

「ルールは簡単です。僕があなたの身体のどこかに一撃でも攻撃を入れたら僕の勝ちです。そしてあなたは何度、攻撃を入れても勝ちにはなりません。

けど、僕の心が折れて、決闘を放棄したらあなたの勝ちです。どうでしょうか......。」

 

おずおずと反応待ちしているベルを見た魔女は、あまりにも滑稽な姿に笑いを堪える。

 

「「wwwハハッ! wwwお前イカレてんのwwwフハハヒャッヒャwwwwwwヒー、お腹痛い」」

 

「「いいだろう! そのルールでいいよ」」

 

ベルは驚いた。人の話を一切聞かずに何かするんじゃないかと予想していたが、嬉しい意味で外れたようだ。しかし、まだ信じることが出来ない。確証がないからだ。

 

「あなたは、ルールを破ったりします.....か?」

 

黒魔女は唸りながら、今までを思い出す。

 

「「嘘をついたことはあるが、約束を破ったことはねぇなぁ」」

 

怪しい、けどやるしかない。それしか神様を救う方法がない。大丈夫、諦めなければ絶対勝てる、頑張るんだ......、みんなの為に......、

 

心の中で自分を励まし、敵を見据える。チャンスはものにできた、後は成功させるのみ。

 

「「そこの模部野郎は混ざらんのか? 別に何人来ても構わんぞ」」

 

「......、俺は遠くで見物させてもらう。邪魔はせん」

 

「「このDTboyが負けたらテメーらも死ぬからな? いいんかな?」」

 

「構わん」

 

「「あっ、そう」」

 

魔女はこれ以上時間をかけるのも面倒だと感じ、ベルの近くまで移動した。

 

「「じゃ、殺るぞ?」」

 

「......ッ!! 絶対に勝つ!!!」

 

魔女と少年の命を懸けた精神決闘(スピリチュアルデュエル)が始まった。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「ファイヤボルトォオ!!」

 

ベルは魔法で牽制しようと試みた。一撃でも入れたらそれで終わり、だが接近戦も遠距離も効かない相手にどう立ち回っていけばいいのか、ベルは困惑する。

 

魔法は攻撃というより目くらましとして使い、その隙に神の刃(ヘスティアナイフ)を当てるのが今の最善な方法と判断したベルは、魔理沙の様子を伺いながら攻めるタイミングを探していた。

 

なお、今の作戦は全て筒抜けである。

 

「「甘いなぁベル・クラネル。傷つきたくないとか、汚れたくないとか、前に進みたくないとか、そんな甘ったるい考えでいるやつなんかじゃは相手にではない」」

 

「「自分が最後まで残ったから殺されないとでも思うか? 違うな、俺は意図的に残してただけだ。わかるか? 軽い気持ちで決闘とかほざいてんじゃあないぜ? 決意を抱け」」

 

魔理沙は高速で空気に数百発拳を叩き込む。常人が空気にパンチすれば、空振りするのが現実。だが魔理沙がやれば全く別だ。マッハで押し出された空気は弾丸並みの威力に昇華し、ベルに襲いかかる。

 

ヘスティアナイフが盾になったおかげか一撃を防ぐことができたが、反動で後方に転んでしまった。その上、ベルの手の関節はあらぬ方向へねじ曲げられ、強烈な痛みが全身を走った。だがむしろベルは助かった。後方に転んでなければ、全身穴だらけになっていただろう。

 

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!」

 

もしもあの時〜、なんて余裕はなかった。全ては結果、これが唯一生き残るための方法だとしても、手首が使い物にならなくなったことに変わりはない。手首が使えなければ、敵にナイフを突き立てることも出来ない。攻撃手段が減ってしまった。

 

ベルは残った左腕で落ちたナイフを拾う。右利きのベルだが、ナイフの二刀流を可能としていたベルには特に問題は無い。利き手ほど使える訳では無いが、まだ攻撃手段は残っている。

 

「うわぁあぁああああああ!!!!」

 

痛みは思考を遮る。憎しみは目を奪う。動きは複雑から単純へ、読みやすいものへと変わる。

 

ただ何も考えずに突っ込むやつなど、赤子の手をひねるより楽な仕事である。

 

魔王は向かってくる兎を見切り、2、3発拳を叩き込む。相手が子ウサギだろうと魔王は容赦はしない。決闘に情けなど存在しない。

 

サンフラワーがぶち空けた穴から光が差し込む、だが結界のせいなのか、それとも酷い決闘のせいなのか、ダンジョン内が暖かくなることはない。

 

「「なぁ? 諦めろよ? 万一つ勝ち目などありゃしない? 無謀な戦いに身を焦がす必要があるんど? いい加減飽きてきたんよ。無駄だ」」

 

「......嫌だ、絶対負けない......ッ!」

 

一歩一歩、踏みしめるように近づいていく魔理沙。

 

「「めんどくさい勝利条件だ。人ほど決意に満ち溢れたものはいない。どっかの誰かさんみたいにずーっと『僕は悪くない』と言い続ければ、どんなに論破されようとも負けはしない。それといっしょ。だからめんどくさい」」

 

一歩、近づく。

 

「「お前はもう終わりだ、死ね」」

 

尻もちのついた兎に流星の拳が襲う。

 

「......ッ!! 負ける訳にはいかないんだああああああ!!」

 

赤い瞳の白兎は立ち上がる。ギリギリの距離で拳を避け、左手に持ち替えていたヘスティアナイフを突き出す。

 

魔理沙はニヤッと不気味な笑みを浮かべ、片方の腕でナイフを受け止めた。

 

このままナイフをへし折られ、波動をぶつけられてノックダウン......、なんて展開にはならなかった。ベルは掴まれたナイフを軸にして身体をひねらせ、反転し、魔女の背中にのしかかる。そして魔女の背中を蹴りつつナイフを引き、首を裂こうとするが手で防がれてしまった。

 

「「まだ殺るなぁお前。元気があってよろしいッ!!!」」

 

「絶対みんなを助けるッ!!! 絶対勝つ!!」

 

魔女とベルの接近戦が始まる。しかし魔女の今まで鍛え上げてきた動体視力は並々ではない。素の力でさえ、ほぼゼロ距離から弾丸を撃たれても避けられるのだから。

 

ナイフは剣や刀に比べてリーチが短く、攻撃範囲が非常に小さい欠点がある。しかし誰でも扱かいやすく、軽いので素早く、リーチが短いので力が入れやすい。ベルが魔女に渾身の一撃を当てるとするならば、密着するくらいの距離で戦わなければならない。右腕は使えない、ナイフも相手から見ることのできない死角から当てなければない、何より相手の攻撃をスレスレで避けなければならない。

 

ほぼクソゲーと言われても仕方がないほど理不尽な状況だが、ベルは死に物狂いで食らいついていた。守るべきものがいるから、神様がいるから、好きな人がいるから.........

 

この世界、ドラゴンボールじゃないかと疑うくらい激しい近接戦闘。ベルの攻撃は魔女に一切届いてはいない、だが魔女の攻撃もベルに当たらず、空振りの応酬であった。

 

「「吹っ飛べ」」

 

魔女は力強く地面を踏み、地形を変化させてベルを吹き飛ばした。ダンジョンの天井にぶつかり、重力によって地面に落とされるベル。しかしこの状況はマズイ、距離が離れたことによって魔女の魔法射程範囲に入ってしまったのだ。

 

「「ジ・エンドってね☆」」

 

ファイナルアタックライドォ!! ディディディディエンド!!!!

 

異空間からディエンドドライバーを取り出した魔女はすかさずベルに狙いを定めた。ドライバーって名前がついているが、見た目と性能で言うなら片手銃と言った方が正しい。ドライバーなので変身も可能だが、しない。

 

青緑色の光のカードがディエンドドライバーの銃口から渦巻くようにベルをロックオン、追尾性バッチリなため逃げ場はない。

 

魔女は引き金を引いた。すると銃口から放たれたエネルギーが渦の中を埋め尽くすように射出され、地面をえぐりつつ、ベルの身体を包み込んでいく。

 

ドゴォォォォォォン!!!

 

これが特撮ヒーローならば、怪人退治完了でハッピーエンドだったが、使用者が怪人じゃ意味が無い。ただのバットエンドだ。

 

ダンジョンの壁に叩きつけられたベルは、もう動くことすら難しかった。

 

「ゲホッ....エホッ、エホッ.........」

 

「「まだ息あんのか、しぶといな。流石主人公とでも言うべきかな?」」

 

「......」

 

魔女は兎の頭を鷲掴みする。

 

「「なぁ? なんで無謀で無意味な戦いに突っ込むのか? 大人しく諦めればいいものを、なぜ抗う? なぜ現実を受け入れない? お前に何が出来る?」」

 

壁に叩きつけながら魔女は問いた。

 

「.......、か....」

 

「「かぁ?」」

 

「神様が......見てるから......」

 

「神様の前で......、無様なことはしたく...ないッ......」

 

「「へぇ、カッコイイねベルくぅん。力もないくせにカッコつけるなんてねぇ。俺だったらお前みたいなことはしないなぁ」」

 

魔女がもう一度壁に叩きつけた。

 

「ガハッッ!!! .....、ハァ......ハァ...、それに.......、リューさんにも頼まれたんだ....、アイズさんも頑張ってたんだ......、みんなみんな必死に頑張って抗ったことを僕が無駄にするわけにはいかないんだ!!!!」

 

「「世の中結果だ。頑張る頑張らないは過程に過ぎない。過程がどうあろうと結果が最悪ならなんの意味もないんだよ。無駄なんだよ。終わりなんだよ。」」

 

「.....ハァ......ハァ...、だったら今だって、『過程』じゃないか.......」

 

「「はぁい? なんつったお前?」」

 

「「負け確定イベントに過程もクソもねぇんだよ。だってそういう『運命』なのだから」」

 

ベルは唾を飲み込んだ

 

「僕はまだ......諦めていない。まだ負けを認めていない......、まだ終わっていない!!」

 

「お前の言う『結果』はまだ! 訪れていない!」

 

「「あぁそうかい、じゃあ過程なんて作らずに結果に辿り着くとするかぁ!! 『キング・クリムゾン』ッッ!!! 時が吹き飛べ!!!」」

 

魔女はスタンド『キング・クリムゾン』を顕現させた。キング・クリムゾン、それはビデオレコーダーのスキップ機能のごとく、時間を吹っ飛ばして過程を消滅させるスタンドである。結果だけが生き残り、全ては完結する。

 

消えた時間の中で行動できるのはキング・クリムゾンを従える黒魔女だけで、他は誰も消えたことを認知することができない。

 

キング・クリムゾンの強靭な拳をベルに下し、ダンジョンの壁ごと貫通させた。そして時は完遂する。

 

「ベルくんんんんんん!!!!!!!」

 

「ダメだヘスティア!! 俺たちが行っても無意味だ!! 相手は『神殺し』だぞ!!?」

 

「はぁぁぁなぁぁぁせぇええええ!!! 離しておくれヘルメス!!! ベルくんんんんんんんん!!」

 

五月蝿い神々の声が響き渡る。体に風穴を空けられながら放物線を描くように吹き飛び、血を吐き、瓦礫の下敷きとなったベルの姿に耐えられなかったヘスティアは、ヘルメスの制止を振り切ろうと必死に藻掻く。

 

「「死んだってことは心が折れたってことでいいんかなぁ????? 」」

 

魔女の煽りにすら反応できなくなったベル。

 

「「返答なし。さてと、約束は確かな、全員遺影になるってことだったなぁ」」

 

残った3人に寒気が襲う。

 

「「いや、万が一のためにトドメはキッッッッッッッッチリつけておこうか」」

 

「やめろぉおおおおおおおお!!!!!!!」

 

「「やめろで止めるやつはお利口さんだけだ」」

 

魔女の指先に死のエネルギーが集まる。紫色の泡白い光が一点に集中し、濃縮され、純度が増す。

 

「「デスビィィィィィィィム!!!!!」」

 

指から一直線に射出された死光線は躊躇なくベルを貫いた。

 

「「粉砕・玉砕・大喝采!!! 命ってもんはぁ、燃やしてこそ命だよなぁ? なぁ?」」

 

静まり返るダンジョン。もう誰もこの女を止めるものなどいない。全てを葬り去るこの魔女は、後始末を完了させようと残りの3人に近づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタッ

 

後ろで音がした。まだ生きているのか? あそこまで致命傷を負いながら? 無理だ、不可能だ、そんなことあるわけがない。ただの人間がここまで耐えることなんてありえない。

 

ガタガタッ ピカッ

 

青い光が生まれた。なぜ? 光? どうして? 光の発生源は瓦礫の下。中心には恐らく下敷きになったベル・クラネルがいる。これは回復魔法なのか? しかし謎の男は特に魔法の類の使用はしてない、神様二人なんか、ダンジョン内ではただの魔法すら使えない人間とほぼ同じ。ならば原因はひとつ、ベル・クラネルが生きているということ。

 

「「やはり破壊の芽は先に潰さなきゃな」」

 

ベル・クラネルがいると思われる場所に手をかざす。すると手のひらの中心に『破壊の目』が現れた。フランドールの能力が発動しているということはつまり、壊れていないということ。生きているということだ。

 

これをそのまま握り潰せばそれで終わり。ただそれだけのワンアクション。

 

「「キュッとしてドゴーン」」

 

手に覆い隠され、破壊の目は今にも握りつぶされようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、魔女の右腕が宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

血が容赦なく吹き出る。血で赤く染まる自分の服をボーッと眺めると、ハッと気がついて後ろを見る。

 

するとそこには眩しい白い光に包まれ、七色の瞳を携えた“英雄" がいた。体格は一切変わらず、しかしオーラはレベル6にも劣らないほどの覇気を纏い、身体の周りにはプラズマが発生している。背中には青色になった『神聖文字(ヒエログリフ)』が浮かび上がり、まるで自らステータスを晒しているように見えた。

 

神聖文字には、自分の持つ能力や魔法、ステータスが記されている。これが晒されるということは、現実でいう個人情報の漏洩と同じである。知られてしまえばいくらでも対策できるからだ。

 

しかし、この時のベルは異常であった。ステータスを見られても問題ないと言わんばかりの表情で魔女と相対する。

 

「「おいおい嘘だろ」」

 

 

 

ベル・クラネル レベル ???

 

力 …… ??? 9999

 

耐久 …… ??? 9999

 

器用 …… ??? 9999

 

敏捷 …… ??? 9999

 

魔力 …… SS 1082

 

 

《魔法》

 

【ファイヤボルト】

 

・ 速攻魔法。

 

《スキル》

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 

・ 早熟する。

 

・ 懸想(おもい)が続く限り効果持続。

 

・ 懸想(おもい)の丈により効果向上。

 

英雄願望(アルゴノゥト)

 

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 

・ スキルの影響を及ぼす箇所が白い光の粒に包まれ、その箇所から発する能動的行動の効果が飛躍的に上昇する。

 

闘牛本能(オックス・スレイヤー)

 

・ 猛牛系の戦闘時における、全能力の超高補正。

 

異形覚醒(ヴァリアント・ウェイクアップ)

 

・ 特定の条件を満たすことにより発動。

 

・ 異形系の戦闘時における、全能力のЧЮФ補正。

 

・ 覚悟の丈により効果向上。

 

・ 主人公補正率 98%

 

・ 常時ステイタス更新。

 

 

 

 

 

魔理沙は正気に戻った。いや、もっと言えば弱体化したのだ。ついさっきまでの狂気に染まった時が魔理沙の最も強い状態であったが、最も悪いタイミングで解除されてしまった。主人公補正が相手の味方をしている証拠である。

 

ヤバい、さっきまでの出来事があやふやになっているが、この状況が凄くやばいことだけはわかる!! 一発当てられたら終わり、能力値がチートじみているし、こっちも本気出さなきゃアカン!!

 

「超速再生......、はぁ、破壊の目を潰す前に腕を切るとかお前なんなんだよ」

 

「質問に答えるつもりは無い! 僕はただ、君を倒すだけだ」

 

あの現象、薄々感じてはいてんだがこれはどう考えても覚醒状態。異形チルノの魔力を得て覚醒したチルノや、異形幽香に殺されかけたルーミアも覚醒して急激に強くなった。爆豪も緑谷に追い詰められて、覚醒した。

 

そしてこのベル・クラネルも、仲間を倒され、戦闘に関してはひとりとなったことで追い詰められ、神様の危険を察知したことが火種となって覚醒した。俗に言う『覚醒ベル』だ。原因はもう少し調べる必要があるが、多分原因は私であろう。きっと。

 

腕切られた時点でこの戦いは私の負けなんだが、本人はなんも気づいてないのでこのまま続行する。

 

「ここまで粘った貴様に427万の形態のひとつをお見せしてやるぜッ!!!」

 

ベルはさしずめ速さ重視の攻速タイプ、ならばこちらは防御重視の超範囲攻撃型が好ましい。どんなに速くても攻撃が通らなきゃ意味は無いからだ。

 

ミチミチィ......という生理的嫌悪感が激しく掻き立てられる音を出しながら身体を再構築し、まるでゴーレムと呼ばれてもおかしくないほどの体に変形した。関節部分が動きづらいが、これは隙間の数を最小限に抑えた結果のため仕方がない。動きづらいとはいえ、バベルの塔みたいな右腕をちょっと動かすだけで周囲は大惨事だ。

 

バベルの一撃(ただ振り回しただけ)

 

太くてデカい右腕をベルに向かって振り下ろす。当たれば誰でもゲームオーバー、質量的にこれを壊すのは無理。もちろん避けるよなぁ? 避けた瞬間、右腕を横に振り回してやる。完璧。

 

ベルは振り下ろされたバベルをギリギリ当たらないところで避ける。読んでいた魔理沙は容赦なく、回転斬りのごとく振り回す。

 

だが魔理沙は誤算であった。今のベルはステイタスの値が異常であること。そして、ベルの持つヘスティアナイフの攻撃力は()()()()()()()()()()()()ということに。

 

ベルは何の問題もなさそうにバベルの塔を輪切りにしていく。そして神速とも呼べるような速度で魔理沙との距離を縮め、高速で突きを繰り出し、魔理沙の中央に風穴を作った。

 

「嘘だろッッ!?!?」

 

白い光が弧を描くように流れ、舞って、魔理沙を切り刻む。スピード、パワーも時間が経つ度に増してゆく。常時ステータス更新とヘスティアナイフの相性は非常に厄介だ。

 

「変身解除、からの『メテオリックバースト』」

 

ゴーレムの体をボロボロにされたので、別の形態に変化した結依魔理沙。メテオリックバーストとはワンパンマンの敵が使った切り札、俗に言う身体能力の超大幅強化である。全身が真っ白になり、身体の周りから淡紫色のようなオーラを纏い、生物の限界以上の力が引き出される。

 

「こっから本気だ。強めにいくぞ」

 

狭いダンジョンの1階層で2つの白い光が目にも止まらぬ速さで交差し合う。壁も天井も余波でボロボロになり、砕け散る。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!」

 

空中を神速で飛び回りながらラッシュ攻撃をするが、全てヘスティアナイフで防がれる。が、何度もベルの動き方を見たので、隙をついてベルの腕を掴むことに成功する。クイッと腕を引いた直後に、腹へメガトン級の蹴りをぶち込んだ。

 

ベルは天井と結界を貫通して地上へ吹き飛ばされた。それを追うような形で魔理沙も地上へ進出。地上に出たとはいえ、ここはダンジョンの真上に位置する摩天楼の地下一階。お日様はまだ見えない。

 

ベルは摩天楼の中の階層をどんどんぶち破りながら上昇していく。食堂、鍛冶屋、換金所、最上階のフレイヤプライベートルームもぶち抜いて、空へ吹き飛んでいった。

 

「まだいけるよなぁベル・クラネル!! 」

 

ベルが空けた穴を通って来た魔理沙は、道中で溜めておいた虚無崩壊のエネルギーを弾丸状に変えて撃ち出した。ベルは直感で悟ったのか、当たらないよう最低限の動きで避ける。

 

しかし、まだ魔理沙には虚無崩壊のエネルギーが残っていた。

 

「魔砲 『ファイナル虚無崩壊スパーク』」

 

スペカ宣言っぽいがスペカではない。虚無崩壊エネルギーがふんだんに詰まったマスタースパークである。触れれば素粒子すら残さず消滅させる圧倒的なレーザービーム。後先など一切考えてない。

 

当っっった? ビームの先が空中で止まってるから多分当たっているはずなのだが、普通に考えたら貫通するはず。素粒子ごと消し飛ばすのになぜ貫通しないんだ?

 

なんて思ってたらいつの間にか八卦炉が真っ二つに割れ、私の体に一本のナイフが刺さっていた。あの野郎、ビームの中心にヘスティアナイフを投げて割りやがった。神様が作ったナイフは虚無崩壊を耐えるのか......、チッ。

 

ナイフを回収しに来たのかベルは一直線にこちらへ来た。この突き刺さったナイフを引っこ抜きたいところだが、このナイフはヘスティアファミリア以外の人は扱えないから引っこ抜けん。ならば、

 

「魔砲 『ダブルファイナル虚無崩壊マスタースパーク』」

 

誰がもう撃てないと言った? 八卦炉は異空間からいくらでも出せるんじゃーい。ヘスティアナイフは私のお胸に刺さってっから、もう貴様は防御手段がない。しかも2つ、勝ったな。

 

「私の子と私の部屋に何しているのかしら、『神殺し』」

 

「あーらこのタイミングで来るのね、フレイヤ」

 

ベル君がこんなことになってる&プライベートルームが壊された=ぶっ潰す なんだろうなぁ。遂に神々も参戦か。あと『神殺し』って何よ、殺してねーよ殺すわけねーよ。

 

どさくさに紛れてベル君を抱きつつ、虚無崩壊を打ち消したフレイヤ。そして顔だけ赤いベル君。くたばれ(くたばれ)

 

摩天楼の頂点は神様VS魔女という新たな神話対戦が始まろうとしていた。オラリオの住人や冒険者もそれに気づき、不思議そうに空を見上げる。

 

「さて、後3000文字いくとこの話が強制的に終わっちまうからな、決着といこうか」

 

「あなたの都合に合わせる必要がどこにあるのかしら? 空中で一発芸をした後、千回土下座したら許してやっても良いわよ?」

 

「ベル君に胸を押しつけながら喋る変態女神に下げる頭など持ってないんでね。この一撃に全てをかけるとしようか。貧乳はステータスだ。希少価値だッ!!」

 

私は掌を真上に掲げ、人工太陽を創り出した。もちろんただの人工太陽じゃあない。表面温度1兆度、中心温度は5兆度というゼットンがホクホク顔になるほどの超高熱球体。今は結界で覆っているが、もし解除すれば、多分太陽系(オールトの雲も含む)全ての惑星が融解するだろう。わからんけど。

 

結界で守られているとはいえ、熱は超微量に漏れている。今のオラリオの気温は推定50度。夏の暑さなど屁でもない。というか風呂の温度より高い。

 

「降参すんなら今のうちだぜ?」

 

流石にもう諦めるだろ? 太陽だぞ?

 

「......、僕は、諦めない。今ある全ての人たちを守るために、」

 

「魔女さん......、僕はそれでも、諦めません」

 

「はぁ、そうか。お前はもう立派な主人公だよ。こんなに命が危険だっつーのにさ、眩しすぎて見えやしないぜ全く。」

 

 

「せいぜい自分の行いを後悔することだな、あの世でな」

 

解き放たれた人工太陽。結界を解くのは、ベルが太陽に負けて飲み込まれた時にしてやろう。ベル君の命と世界の命は今、同価値になったってことだ。

 

さてと、ヘスティアナイフのないベルくんはどうやって太陽を止めるんだか。

 

だが意外ッ! それは素手ッ!!

 

あいつ太陽を素手で抑えてやがるぞ。何も策が出なかったということか。アホだろあいつ。

 

しかし、ガムシャラにも耐えてやがる。なんなんだよアイツは? いくら覚醒したとはいえ太陽を素手で抑え込むとかチートにも程があるだろうが!! 一兆度の火球を放つゼットンさんに謝れ。

 

「グゥウゥウウゥウウゥウウ!!! もう...ダメッ......、僕だけじゃ抑えきれないッ!!」

 

だろうな。逆に抑え切られたらこっちが困る...んだがちょっと待て。僕だけじゃ......って何!? 二人いればできんのかお前!? いやいやいやいやなわけあるか!!

 

魔理沙はもう一つ忘れていた。ベルの主人公補正率は今98%だと言うことを。

 

 

「ベルくんんんん!! 頑張れぇぇぇぇ!!!」

 

「ベル君、僕は君に期待しているよ!!」

 

「.....、強き男になれ」

 

「ベルさんん!? なんであんなところで!? 絶対負けないでください!!!」

 

「ん、アレはドチビのとこの眷属に.....、フレイヤ!? 何やっとんねん!! 私も混ぜろや!!」

 

「ベルくん!」

 

「ベルさん!」

 

「ベル!!」

 

 

おいおいこの展開はまさかな。あるわけねーよなまさか。皆の心がひとつに結集すればどんな敵にも負けない理論か? 世の中にはなぁ、限度ってもんがa......

 

 

 

「「「いっけぇえええええええええ!!!」」」

 

 

 

「うぉぉぉぉおおおおおああああああ!!!!」

 

 

 

ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人工太陽が消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁあぁあああああああぁああああああああああああああああああぁぁぁ!?!?!?

 

いや、え? 嘘だろおい。私のガチ攻撃を消滅させた? 多分それ神さまでも難しいぞオイ。だって太陽より太陽してた人工太陽だぞ? なんで?

 

ベル君は全てを出し尽くしたのか、真下へ真っ逆さまに落ちた。が、見事、下にいたヘスティア様にお姫様抱っこキャッチされ、無事生還。恐るべし、主人公補正。

 

私はもうヤケクソになりながら地上へ降りた。そして待ち構えていたヘスティアに完全回復薬ポーションを投げつけた。

 

「やるよ。それでベル君を回復させたれ」

 

「全ッ然信用できないね。どうせ毒でも入ってるんだろう!!」

 

「入ってねーよ。そんなんで倒しても気持ちよくねーわ」

 

はぁ、とため息をついたヘスティアはベルに完全回復薬ポーションを与えた。

 

「ちなみに神様はわかってると思うが、ダンジョンで倒れてるヤツらは全員生きてるから。そいつら用のポーションもここに置いといてやる」

 

異空間からポーションをごっそり取り出し、置いた。疲れた。

 

「後言うことは?」

 

「んったくわかってるっつの。ほら、ロキファミリアの奴らも置いてくから」

 

ゲートオブバビロンからロキファミリアの精鋭6人を取り出した。

 

「もっと他にあるだろう!!」

 

「えー? 他にぃ?」

 

 

魔理沙は少し考えたあと、ハッと理解し、行動に移った。

 

 

 

 

 

「最強の魔法使いの私が暴れまくって、御宅の眷属さん達に怪我させて申し訳ございませんでした。」

 

魔理沙は粛々と述べたあと、ダンジョンと摩天楼を修復するために戻って行った。

 

「はぁ、やっちまった」

 

 

 

魔女の災難はまだまだ続く......(きっと)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 スタッフロール 〜

 

 

監督 ……マスターチュロス

 

脚本 ……マスターチュロス

 

キャラクター原案 …マスターチュロスでありたい

 

声優 ……マスターチュロス

 

伴奏 ……結依魔理沙

 

 

 

 

AND YOU !!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

〜 僕のヒーローアカデミア世界(結依魔理沙が生まれた世界) 〜

 

 

 

 

「弔は失敗してしまいました。異形魔理沙の回収も失敗してしまい、申し訳ございません魔王様」

 

「別に構わないわ、期待なんて微塵もしてないもの。部下が成長したのなら、それでいいわ」

 

「誠に有り難き言葉」

 

「さぁ、早く仕事に取り掛かりなさい。七月までに全ての準備を完了させなければ、あなたの首は無いわ」

 

「ハハッ!! 魔王様の為に、全力でお仕え致します」

 

「せいぜい頑張ることね、人間(畜生)共」

 

 

見渡す限り全てが真っ赤な部屋を退出したAFO。計画実行のためにワープを使って自分の部屋に帰っていった。

 

 

「待ち遠しいわね、マリッサ」

 

 

 

 

 

 

悪は常に蠢いている

 

 

 

 

 

 






言いたいことも言えないこんな世の中じゃ

POISONッ!!


多分誤字とか読みづらいところもあるかもしれないので、はい、ごめんなさい。長いからね。

これで番外編は終わり。体育祭へGO






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第六章:異形×異形×体育祭×ヒーロー殺し=?
激情態になった魔理沙に全米が驚愕!? 衝撃の理由に涙が止まらない......! (26話)




ヤツが......、ヤツが帰ってきた!!


現在、東方異形郷の外伝「異形の廃園」に出てくるヤツら(幻想狂のメンバー)を出すか出さないか思考中。関わると敵味方関係がもっとややこしくなるんだよなぁ......。話数も増えそう






 

 

 

 

やぁ、私だ。結依魔理沙だ。USJ襲撃事件兼爆発事故で建物が倒壊し、なんだかんだ死傷者を出さずに終わらせた結依魔理沙だ。あの後、私以外の人は警察の事情聴取を受け、到着したヒーローは瓦礫に埋まったヴィラン達の救出、捜索、まぁいろいろやってたらしい。

 

で、今日は多分事件の後処理かなんかで学校は臨時休校になられました。やったね。スマブラができるよ!

 

 

さて、私は今どこにいるでしょーか。

 

 

正解はな、病院だよ。せっかくのお休み日がキレイさっぱりお亡くなりになられました。さらにこの病院、4歳の時の事件や5歳か6歳の時に起こしたコード000の事件の時に入院した病院と一緒なんだよ。デジャブだし医師の人にも言われたわ、「君、どうしてこんなに入院するんだい? おじさんもビックリだよ」ってな、そんなん私が知りたいわ!!

 

おっと、つい昂ってしまった。血圧が上がって禿げちまう。ちなみになぜその後のことがわかったかと言うと、先生方が見舞いに来た時に教えて貰ったから。オールマイトが部屋の隅っこで凄いしょげてたり、相澤先生が母親並みの強面で怒りを露わにしてたり、校長先生にもなんか怒られたな。「最近の生徒は問題児でいっぱいなのサ」的なことも言ってた。サーセン。

 

天下の雄英高校がこんなのでいいのだろうか、ま、原因は全て私だが。

 

A組のみんなも見舞いに来てくれた。切島君達が「男の中の男だったぜ!!」って言いながら男泣きするシーンや、さりげなーく心配をかけてくれる常闇くんや轟くんなど色々見れた。

 

女子陣全員が私に抱きついて泣いた時は、つられて私も泣いてしまった。なんでなんだろうな、なんか泣いちゃうんだよな。

 

緑谷君と爆豪はセットでお見舞いに来た。この時に限っては喧嘩はしてない、二人とも心配してくれた。爆豪はツンツンしてたけど。

 

「また入院だね、師匠」

 

「さっさと治せ黒顔。張り合うやつがいなくなんだろうが」

 

 

 

なんだか、懐かしく感じてしまったな。

 

 

 

ま、そんな感傷に浸っていた私を現実に引き戻したのが母さんなんだけどね。ハハッ。もうね、死にたくなるくらい説教された。「もう暴れないって言ったでしょーが!!」ってね。全世界から見て相当強い位置にいる私が心の中で死にたいと思うほどの説教、母は強し。

 

まぁ、説教は母さんからの愛だからね。大人しく受け止めるしかあるまい。

 

 

カッカッカッカ......

 

誰かが廊下を歩いている。だんだん音が近づいてくることから、多分また見舞いの人がくるんだろう。でも来るとしたらあとは誰だ? 父さんかな?

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「お久しぶりデス。結依魔理沙様」

 

 

 

意外な人物が来た。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「何しに来たんだ、()()()()()()...!」

 

終わった。こんなのピンチなんてレベルじゃない。例えるなら、勇者が冒険の書を記録している途中に魔王が乱入してくる並にヤバい。いや、普通に考えたらここまで絶好なチャンスはないんだろうなぁ......、みんなありがとう。結依魔理沙のことは忘れても、ハーメルンさんのことは忘れないであげてください。

 

「絶望値150over。何ヲ畏れているのでしょうカ」

 

「お前以外いねーよ、トラウマ太郎」

 

「太郎、そレは一般常識で言うとこロの長男に値する言語。貴方ハ言葉の使用方法を間違エています。至急撤回を」

 

「うっさいわ、細かいわ貴様。そういうのいいからさ、お前がここに来た理由を言え。もう私は諦めてるから一応言うけど、今の私は十分に戦えないから。どうぞ煮るなり焼くなり好きにしてください」

 

「私は貴方様にマスターの伝言を伝えに来マした。」

 

「へぇ〜。」

 

コホン、と可愛げのある咳をつくと、

 

「VOICE CHANGE MODE使用。マスターの声調を認識、自動調整完了。コレカラ伝言ヲ発信シマス。」

 

コード000はその謎のマスターとやらの伝言を伝え始めた。

 

「やぁ異形魔理沙くん......、いや、結依魔理沙ちゃんでいいのかな? なぜ、ゼロちゃんが君のところに来たかというとね、僕が君と話がしたくてゼロちゃんにお使いを頼んだからなのさ。これまでのことも謝罪したいから一度ウチに来てほしいな。住所と電話番号の書かれた名刺を渡すから受け取ってね。なるべく早めに来るんだよ?」

 

謎のマスター? の声を完全再現しながら、伝言は終了した。

 

「最初から異形魔理沙呼びだわ、話したいことがあるだわ、もうお前のマスターって何なんだよ。」

 

少なくともヴィラン連合との関わりがあることだけは明白だ。絶対聞き出さなくてはならない。

 

「はぁ、で、いつ行けばいいのさ」

 

「いつでもよろしいですが、できれば8月までに来てほしいと仰りました」

 

「そうか、じゃあもう帰れあやつり人形。これ以上お前を見ると胃がキリキリするんじゃい」

 

「その前に名刺をお受け取りください」

 

差し出された名刺には住所と電話番号がしっかり記入されていた。手書きで。そして裏面には「雄英体育祭応援してるよ☆ p(´∇`)q ファイトォ~♪」と書かれてあった。

 

今すぐ引きちぎり、全国のデュエリストの力を結集した滅びのバーストストリームをぶち込みたいところだが、これ以上不祥事を起こすわけにはいかない。日を改めて殺しにいこう。そうしよう。

 

「任務完了。御機嫌よう」

 

その言葉を最後に、コード000は消えていった。

 

 

(ほんと何なんだよ......)

 

 

疑問が拭えないまま、一日が過ぎていった。

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

土日を挟んで月曜日が到来、個性は順調、天気は快晴、新しい朝兼希望の朝はいつもやってくる。新しい週の始まりが嫌だと感じる人々に、ジョジョ第6部の主要キャラ、エルメェスさんの名言を捧げよう。「人はみんな『あしたは月曜日』ってのは嫌なものなんだ。でも...必ず『楽しい土曜日がやってくる』って思って生きている」だそうだ。いいよね。

 

我が結依家の一日の始まりは食事から始まると言っても過言ではない。ご飯、味噌汁、野菜に果物、焼鮭を丁寧に、食す。私は特に味噌汁が大好きでね、味噌汁を飲むと体の奥から温められて気持ちがいい。味噌と豆腐とワカメが互いを高め合うかのようなチームワークで私の欲を満たしてくれる。あぁ、神はなんてものを作り出したというのだろうか。こんなに心がぴょんぴょn

 

「ちゃっちゃとご飯食べて学校に行きなさい。遅刻するわよー」

 

「母さん、いつもワープ使ってるから遅刻なんてしないよー」

 

「登校初日でギリギリだった癖に〜♪」

 

「あれはなぁ、通りすがりのロボットと戦闘になったから遅れたわけでな......」

 

「はぁーい早くいってらっしゃーい」

 

「話を切りやがった......」

 

何はともあれ学校に行くとするか。もう支度は終わっているし、いつでもワープは可能だ。

 

「母さん、私のせいでマスコミがそこら辺にうようよいるから気をつけてね」

 

「はいはい。もし喧嘩売ってきたら絞めとくわ」

 

「あの、お母様? やめてね絶対? ガチで」

 

不安が残るが、まぁ出かけるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

〜 朝のHRにて 〜

 

 

「突然だが...、雄英体育祭が迫っている!」

 

うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

待ちに待った雄英高校の体育祭。個性が発現した現代ではオリンピックが廃れてしまい、代わりに雄英体育祭がお茶の間を賑やかすビックイベントになったらしく、私もこの世界に転生してからは欠かさず見ていた。小学生の時なんかは緑谷君と爆豪と私の3人で並んで見てたなぁ。

 

切島くんたちも「クソ学校っぽいの来たァァ!」とかなんとか言ってテンションがフルスロットルのようだ。元気でよろしい。

 

「待って待って! ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

 

ごもっともな意見である。普通に考えたら今回の雄英体育祭は中止にすべきだろう。注目度が尋常ではない祭りだからな、「この体育祭で大暴れすれば、有名人になれるぞ!!」なんて愚かな考えで動くやつなんか必然的に増えるからな。

 

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が磐石だと示す......って考えらしい。警備は例年の5倍に強化するそうだ。何より雄英(ウチ)の体育祭は......()()()()()()()。ヴィランごときで中止していい催しじゃねぇ。」

 

そう、この体育祭はただの体育祭じゃあない。全国のトップヒーロー達がスカウト目的で観戦するのだ。そっから資格修得後はプロ事務所へサイドキック入りを果たし、さらに独立してヒーローに......っていうのがセオリーだかなんだか。上鳴がいってた。

 

「年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対外せないイベントだ!」

 

ふふふ、待っていたぞこの時を。全国のヒーロー共に私の圧倒的ハイスペックを見せつけてやろうじゃあないか!!!

 

「あと結依、昼休み職員室にこい」

 

 

うわぁ〜。

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

〜 昼休み 〜

 

 

「ねぇねぇ魔理沙ちゃん!! 雄英体育祭が始まるよ!! 私、目立てるように全力で頑張っちゃうよ!!」

 

「お、おう.....随分とテンション高ぇなおい。まぁ頑張ったらヒーローの目にも留まるでしょ。一緒に頑張ろうぜ」

 

「おー!」

 

インビシブルガールこと葉隠透はいつも通りのポジティブテンションで魔理沙に話しかける。なんだろう、あの事件以来私に話しかける人が増えてる気がする。病院にいた時もそんなんだったし。

 

「魔理沙ちゃん、私もあなたに負けないよう頑張るわ。よろしくケロ」

 

「おー、よろしくケロ」

 

なんだろう、蛙吹さんを見てると土着神の頂点に立つ神様を思い出しちまう。あぁ、あの歌歌いたくなってきた。ケロケロケロケロケロケロケロケロ!!

 

誰だ、今ケロロ軍曹思い出したやつは。先生怒らないから手を挙げて土下座しないさい。

 

「皆!! 私!! 頑張る!」

 

「「おぉ〜〜〜?」」ドウシタ?キャラガフワフワシテンゾ!!

 

麗日の中の麗らか全然麗らかしていないくらいの表情でお茶子は大胆に宣言。まぁ、宣言というより気合い入れって感じだな。頑張れ。

 

 

お腹すいたから弁当食うか。

 

 

食事は不必要な体だが、習慣として身についてしまった以上食べなきゃ欲が満たされん。しかも今日は母さんが作ってくれた肉そぼろ弁当、全くもって嫌いじゃない。むしろ好きだ。愛してる。超大好き。

 

バッグの中を探してみたが見当たらない。あっれれー? おっかしーぞぉー? 今日はちゃんと持ってきたはずじゃ......、あっ、

 

 

“今日寝坊しちゃったから、肉そぼろ弁当は明日ね〜。ごめんね〜"

 

 

突如として脳に再生される母さんの言葉。しまったそうだった肉そぼろ弁当は明日だった! やべぇ、今日財布も持ってきてないから学食も食えねぇ。昼飯抜きまっしぐらコースじゃねーか。そんなことになったらな、5時限目あたりで私の個性が暴走するぞ、きっと。

 

いや、だからどうした。この私、結依魔理沙はいかなる困難も乗り越えてきた元男。こんな些細なこと、私ならばきっと軽く解決してみせる。やれる。

 

「どうしたの魔理沙ー。あっ、もしかしてお弁当忘れちゃったの? 私のたこさんウィンナー1個あげよーか?」

 

芦戸っちからの救いの手が差し伸べられた、だがそれに甘える私ではない。自分が起こした問題は自分の手で握りつぶすのが私のセオリーかつポリシーなのだ。それが結依魔理沙だッ! 依然、変わりなくッ!!

 

「ありがとう芦戸っち。けど遠慮しとくわ」

 

「けどお腹空くよー?」

 

「大丈夫、今から()()()()()()()()()()。3分で戻るわ」

 

「「今から!? 3分!?」」

 

クラスの驚き顔を無視して私は異世界の扉を開いた。トリコの世界に行きたいけど、繋げ方がわかんないからいつも通りモンハンの世界に行くか。

 

「いってきまーす」

 

 

〜 3分後 〜

 

 

「ただいまー」

 

「「ほんとに3分で帰ってきた!!」」

 

アンジャナフとレイギエナを超新星爆発(スーパーノヴァ)で討伐し、レウスとレイアは滅びの呪文バルスで地面に落とした後、終の秘剣火産霊神(カグツチ)で見事丸焼きと化した。最後のゼノ・ジーヴァ戦はなかなかタフではあったが、時間停止を使ったので難なく倒した。が、しかし私は重要な問題を見逃していた。

 

教室に入らない。

 

当たり前のことだ。モンスターハンターの世界に出てくるモンスターの大きさは教室一個分以上。それを数匹、教室に詰め込むなど無茶苦茶すぎる。これには少し頭を悩ませた私はあるひとつの答えにたどり着いた。

 

「その場で(弁当を)作ってしまえばいいと....」

 

 

シーンと静まりかえる教室。あまりにもスケールがおかしすぎて常識そのものがゲシュタルト崩壊を起こし、唖然とするクラス一同。

 

 

「何やってんだあのアホ」

 

教室を立ち去ろうとしていた爆豪がサラッと口にした。

 

「おぉおぅっとぉう? 聞き捨てならんなぁ爆豪くぅうん! この崇高で賢明なヴァターシのアイデアを侮辱するとはいい度胸だな表出ろ!!」

 

「あぁん!? アホにアホッつって何が悪い!! その腐れきった頭を周囲に晒すのも大概にしろ!!!」

 

「あぁ、今のカチンと来ちゃったわ爆豪くん。どうやら校舎ごと消し飛ばされてぇみたいだなぁ!!」

 

「上等だコラ。てめぇこそ爆発で木っ端微塵に消し飛ばされてぇみてぇだな!!!」

 

私は右人差し指から黄金長方形によって生み出される無限の回転を撃てるよう準備する。これに当たればどの世界にいようと回転の渦に飲み込まれ、そのまま次元の狭間で消滅するという結構ホラーな展開に入るが、この小説はR15だから許される。許されてしまうのだッ!!

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

「爆豪くん! 結依くん! 校内での個性の無断使用及び直接攻撃を止めるんだ!!! クラス全体に被害が生じるぞ!!」

 

「何を言ってるんだ飯田くん!! これは聖戦だ! 私の食材に対して文句を言ってきたこのボンバーマンには然るべき制裁を与えねばならん!!!」

 

「魔理沙ちゃん、スルースキルは社会で生き抜くための必須スキルよ」

 

蛙吹が私の裾を掴みながら最もな意見を述べるが、全くもって聞こえない。確かに蛙吹の言う通りだが、聞こえない。

 

「爆豪も落ち着こーぜ? あんまムキになってっと禿げるぞ?」

 

「禿げねーわ! このとんがりコーン!!」

 

「おめぇもとんがりコーンじゃねーか!!!」

 

切島くんが爆豪を落ち着かせようと行動するが、無駄だったようだ。

 

「隙ありだ爆豪。もし死んだらお前を超優等生の性格に設定してから復活させたる」

 

「けっ、結依さん!? それホンマに言っとるん!? 嘘だよね!?」

 

あまりにおかしな展開に麗日は動揺する。弁当馬鹿にされたくらいで幼馴染みを殺そうとする生徒が存在するのだろうか。

 

「黄金の無限回転エネルギィイイイイ(*゚∀゚)ウヒャヒャヒャフィーバァアァアアア!!!!」

 

しかしこの魔女は生死の概念を持ち合わせていない。命の有無など状態異常でしか感じていないのだ。故に彼女は理解していない、この行為が紛れもない殺人未遂であることに。

 

パリーンッ!!

 

が、しかし、その行動が達成されることはなかった。

 

窓ガラスが突如として割れ、外から何者かが侵入したのだ! 黒い服を着ていたため、一瞬ヴィランが侵入したのかとA組は勘違いしたが、その男が魔女に接近した時には姿がハッキリと見えた。

 

「相澤パンチッ!!」

 

「ゲボハァアァアアアアアア!!!!!」

 

「「相澤先生!!」」

 

そう担任の相澤先生である。彼は侵入と同時に彼女の背後へ周り、教師専用の鉄拳制裁で見事魔女を撃退したのであった。

 

「まだだ! セメントス先生!」

 

「えぇ、分かりましたよッ!!」

 

教室の壁に吹き飛ばされた魔女をすかさずセメントで両手両足を拘束し、顔以外全てをセメントで固定する。

 

「うっ......ごけねぇ。せっかくの黄金長方形が......」

 

虚しい魔女の叫びを聞くものは誰もいない。

 

「どうして相澤先生は教室に駆けつけられたのかしら?」

 

突発的に始まった喧嘩。それに気づく人は千里眼みたいな個性持ちでなければ不可能に近い。もちろん相澤先生の個性は千里眼でもなんでもないし、セメントス先生もそうだ。ではなぜか......

 

「コイツがいつまで経っても職員室に来ないんで教室に向かったんだが......まさかこんなことになるとは思ってもみなかったなぁ結依」

 

「アイツが私の極上弁当を侮辱しt」

 

「弁当に執念を燃やして先生との約束を放棄するのは生徒として、ヒーローとして合理的か? ああん?」

 

「先生、先生はそんなヤクザキャラじゃなi」

 

「結依」

 

「はい。」

 

「現代文、古文、漢文、数ⅠA、これらのワークを10ページずつやってこい。さらに英単語1800をノートに綺麗にまとめてこい。明日までに出来なかったら即、退学処分とする」

 

「えっ?」

 

「返事は?」

 

「............カクッ」

 

「魔理沙があまりのショックで気絶した!?」

 

それは白黒の魔法使いというより、あしたのジョーの最終回のように真っ白に燃え尽きた魔法使いが、全身セメントで拘束されたまま地に伏せていた。

 

 

誰もが心の中で思った。「何なんだこれ」と...

 

※魔理沙の弁当はスタッフ(1年A組)が美味しく頂きました。

 

 

____________________

 

 

 

 

 

〜 放課後 〜

 

 

 

「師匠、もう放課後です。起きてください」

 

「もう.....いい。世界なんて、全部滅べばいい。もう、時間停止の徹夜は、こりごり」

 

「元気だして結依さん! 次は絶対いいことあるよ! きっと」

 

「麗日さんの、麗らかスマイルが、眩しすぎて、ツラい。私、地獄兄弟、ひなたの道は、歩けない」

 

「地獄!? 兄弟!? えっ?」

 

なんで私がこんな目に遭わねばならんのか。あの後職員室に連行され、説教くらって、大会運営について説明され、私が個性で大会運営を手伝う代わりに明日までに提出する宿題は英単語だけでいいってことになった。絶対わかっててやりやがったよあの鬼畜先生共。どうせ生徒に対して素直に手伝ってほしいって言えないから、罰として手伝ってもらおうと思ったんでしょ。クソッタレ。

 

「師匠、一緒に帰りましょう? 歩いたら気分もきっと晴れますって」

 

「いや、独りで帰る。もう、帰って、寝る」

 

とぼとぼと教室を出ようとしたのだが、またまたアクシデントが発生した。

 

 

めっさ教室の前に人だかりが出来てた。

 

「あのさ、敵情視察は構わないけどさ、せめて帰るための道くらい用意してくんない? 今の私はすごーくストレスマッハなんでね、これ以上抱えるとおまえら諸共自爆するゾ」

 

今の私のMP(メンタルポイント)は限りなくゼロに近い。正直こんな有象無象の相手をしてたらキリがないし、面倒臭い。さて、どうしたもんだか。

 

「A組ってのはこんなに偉そうなやつばっかなのか? ヒーロー科ってただのチンピラの集まりなのかなぁ」

 

後ろから紫色の髪の毛の男が先頭に出てきた。

 

「......」

 

落ち着け、落ち着くんだ結依魔理沙。これはただの挑発、やっすい挑発だ。そういう系は爆豪で間に合ってるからな、これ以上問題は起こすわけにはいかん。

 

「反応がないってことは図星なのかな?」

 

「うふふふ、そんなことありませんわ。流石は普通科の心操人使くん、随分と煽ってくるじゃあないか」

 

心操はややドキッとすると、すぐに平然とした顔へ戻った。まぁ、そりゃ驚くよな。だってお前の個性、自分の質問に答えたら発動する個性『洗脳』だからな。私は状態異常は一切合切効かないんでね、ラスボスだし。

 

「なんで俺の名前を知ってるんだ?」

 

「そういう個性だから」

 

唖然する心操人使。嘲笑する結依魔理沙。

 

「お前.........、効いてないのか?」

 

「ノーコメントで。教えてやってもいいけど」

 

「はぁ、全然効いてないな。流石は1年A組の暴君、実技入試427点は伊達じゃないか...。ホントはおまえら1年A組に宣戦布告をしに来たんだが、なんだか萎えた。帰るわ」

 

まるで自分は恵まれてないとでも言うかのような声調で喋った後、玄関に向かっていった。

 

原作を知ってる以上何かしてやりたいとつくづく思うが、ただ個性をあげちゃダメだよなぁ。緑谷くんに任せるとするか。体育祭で。

 

「で、他に文句のあるやつは? A組に文句あるとしたらだいたい私のせいだから、小言の一つや二つ聞いてもいいけど」

 

とりあえず聞いておこう。私は結構このクラスで暴れすぎているのは自覚してるからな。たまには貢献せねば。

 

「実技入試が427点ってガチですかー?」

 

「ガチです」

 

「訓練場のビルが全壊したってマジですかー?」

 

「マジです」

 

「あの事件で調子乗ってますかー?」

 

「生まれた時から調子に乗ってます。すみませんでした」

 

これもそれも全て神様ってやつのせいなんだよ。

 

「彼氏いますかー?」

 

「いねぇ。諸事情により彼氏とか作りたくありません」

 

彼氏とか作ったら、体面上はノンケでも精神上ではホモになるからな。逆も然り、精神上ノンケでも体面上はレズになっちまう。どっちもやだ。

 

「僕のこと覚えてる☆?」

 

「覚えてねーy......ってまさかテメェ!! おま、おまま、お前ッ!?」

 

こんな聞き覚えしかないこの声、忘れもしないぞ、最強の魔法使い(自称)が暴れるそうですの第5話の時に、ヤツは、ヤツは現れた!! タグで出ないっつってんのに!! もう会うこともないだろうって心の中で叫んだのに!! 懲りずにきやがったよ! 何でもありかよ!

 

セレビアンなオーラ、エセフランス人のような口調、お腹についたベルト、口癖は...『メルシィ』!

 

「あの時の視線の正体は君だったんだね、マドモアゼル☆」

 

「青山優雅ァァァアアアアアアア!!!!」

 

ヤツが帰ってきた

 

 

 

 

 

 

 







勢いで八千文字も言ってしまった。やべーい。


終始意味不明だった人はスマン。申し訳ない。


いろいろ紹介

イモト:珍獣ハンター兼登山家。最近、イッテQ観れてない。

校長先生:元はただのネズミだったが個性『ハイスペック』が顕現したことによって人並みの...、いや人間以上の頭脳を持った知的生命体へ変化した。かといってなんで体まで成長してるんだろ。知能が上がると身長が伸びる......?

わかるよ?:わかるよ?妖精さんすこ。

土着神の頂点に立つ神様:ミシャクジ様を制御できる守矢神社の二柱、洩矢諏訪子。帽子の中に......、誰もいませんよ?

ケロロ軍曹:ペコポン(地球)を侵略しに来たケロン星人。小隊の隊長。蛙吹さんと仲良くなりそう。

あっれれー? おっかしーぞぉー?:小五郎のおっちゃん達が無能を晒している時に使うバーローの必殺技。事件解明への進行度がアップする。

アンジャナフ:別名、「蛮顎竜」。古代樹の森の中ではまぁまぁ強い方(リオレウスに負ける)。ティラノサウルスに少し似ている。

レイギエナ:礼儀ええなぁ。

レウスレイア:リオレウスとリオレイアの略語。この二人は夫婦で、モンハンワールドでは助け合いをする。しかしレイアさんは1回不倫した。ライゼクスとかいうイカレポンt......

その後、彼を見たものはいない。


ゼノ・ジーヴァ:モンハンワールドのラスボス。ラスボスだが、まだ幼体らしい。双剣で狩りたい(ワールド買えてない勢)。

終の秘剣火産霊神:志々雄真実の技のひとつ。CCOざまぁwwww

とんがりコーン:五本指全てにとんがりコーンをセットすると、なんか、カッコイイよね。両手両足つけると、もっと、カッコイイよね。

相澤パンチ:下手すればPTAに訴えられるが、魔理沙なので良し。

地獄兄弟:キックホッパーとパンチホッパーのこと。カッコイイ。すこすこのすこ。

ときあめ姉貴(兄貴):お上手ですね...で有名の聖人。XXハンターに執拗的な攻撃を受けても仕返しせず、さらに雪だるま状態になったXXハンターを助けるという大天使。ちなみに異形郷の作者の寿司勇者トロさんはときあめ兄貴のイラストをpixivに投稿してる。可愛い。









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第一種目『???』(27話)



ニコ動にある「遊戯VS遊戯(実写版)」が面白すぎて周回してます。

番外編後は、この話の途中あたりで直結します。体育祭までの間の二週間の時ですね。うぇい。




 

 

 

「結依さんの......お知り合い?」

 

麗日さんのごく普通な質問。幼馴染みの緑谷と爆豪でさえ知らない魔理沙の人脈に二人はやや驚く。

 

「僕達は今日、初めて顔をあわせたよ☆」

 

「そうだな、顔をあわせたのはこれが初めてだ。マジで会いたくなかった。さっさと帰れ」

 

「NO☆ ヤダ☆」

 

「そうか☆ じゃあ一生のお願いここで使うから私のお願い聞いて☆ そこをどいてくんない☆ 相澤先生に怒られる☆」

 

「一生のお願いって....一度頼まれたらつけあがって二三回頼むのが人間......だよねッ☆」

 

「急にブラックになったぞコイツ....。」

 

私はいつも頼む側なので頼まれる側の気持ちはしりましぇん。ごめんね

 

「はぁ、これ以上駄べる暇はねぇ! ドナルドゥマジック!!」

 

魔理沙は指パッチンを1回鳴らすと、一瞬で姿が消えてしまった。

 

周囲を確認する雄英生徒。しかし魔理沙の姿はどこにも見当たらなかった。魔理沙はお得意の座標移動によってダイナミック帰宅を完了させていた。帰って寝よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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雄英高校体育祭まで二週間、特に何もなかったわけでもなく、むしろ今まで以上に忙しかった。腕慣らしに異世界にいったんだが、なんやかんやラスボスになっちゃって、ノリで主人公と戦ったらまさか覚醒するとは......。その後、爆豪に協力してもらって(無理やり)覚醒について詳しく研究した。

 

簡潔にまとめよう。原因は......やはり私! 私の体から溢れ出る『異形因子』(私が命名したッ!)が人の体内にある『個性因子』に付着することで覚醒するための資格を得る。資格を得るだけなので、何らかのきっかけがなければ覚醒はしない。大賢者さん曰く「覚悟を強く持つ」のが覚醒へのトリガーとなるらしい......。難しいね。

 

ついでに研究という意味も含めて爆豪の強化訓練を行った。覚醒を任意で発動できないか? という疑問からスタートしたこの実験。爆豪も賛成してくれて、月火水は私との戦闘訓練をやっていた。進展は見られんけど、アイツはどうやら私がいない時も練習してたらしいので、爆豪しだいだな。

 

あと相澤先生達との大会の打ち合わせ。といっても私の役割は昨日聞いた話じゃあ、完全回復ポーションの調達と、大会の際に機材が壊れたら直すという役割だった。特に難しい問題ではない。あと、よくわからないが私専用のステージがあるらしい...。戦闘訓練と襲撃事件のデータを見ての判断らしく、まぁ当然の配慮だよな。

 

 

あともう二つ言うことがある。ひとつは轟くんの件だ。轟くんは個性婚の被害者でな、ナンバーワンヒーローのオールマイトに勝ちたいと思ったエンデヴァーがオールマイトを越えるためだけに、氷結個性持ちの家系の人と結婚し、轟くんを産んだ。オールマイトに勝つためっていう理由で轟くんをしばき、止めようとした妻には暴力を振るい、轟くんの心に大きな穴をあけたのよ。

 

知っちゃった以上、私は見過ごせない性格なんでね。とりあえず入院中の轟のお母さんに毎日お話にいったんだが.....、何も無いとこをずーっと見ていて全然相手にされへんかった。これは無理か....ってなって途中で諦めたけど、何かしら変わってくれたらいいなぁ。

 

 

二つめ、これは極秘ミッションだ。私はこの雄英体育祭中にヒーロー殺しのステインを仕留めることにした。職場体験の時で良くね? なんて思う人もいるだろう。けどねぇ、この人ね、体育祭の昼頃にね、飯田くんのお兄さんを再起不能にするんだよね。何よりコイツが暴れるとヴィラン連合が強化されるんだよ。トガちゃんに会いたかったけど、謎のマスターがヴィラン連合に関わっている以上戦力を増強させたくない。つーわけでステインを潰す。

 

お前、体育祭出るだろ? ステインと戦う暇なんかねーじゃんという方々はご安心を。私は自分とほぼ同一存在の分身を作れるので、そいつに向かわせる。そうすればステイン撃破と体育祭優勝の同時進行が可能となる。やったぜ。

 

 

さてとそれじゃあ、「Plus ultra!!」

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

〜 1年A組控え室 〜

 

 

「皆! 準備は出来ているか!? もうじき入場だ!!」

 

体育祭当日がついに来てしまった。外は観客、マスコミ、ヒーローが溢れかえり、熱が中まで伝わってくる。ところ構わず暴れる私が言えたことではないが、生徒同士が殴り合うことをスポーツとはいえ世間が認めているっつーのが狂気的だよね。前世なら即BANや。多分。

 

「結依.....」

 

後ろから声をかけられた。声的に多分轟くん。

 

「なんだい轟焦凍くん?」

 

「戦闘訓練では負けたが.....次は絶対勝つ」

 

「......、私も負けるつもりは一切ねぇ。優勝は私が頂く」

 

ゴゴゴゴゴ.....なんて擬音語が浮かび上がるほど睨みあった両者は、くるっと背中を向き合わせて離れていく。イケメンの睨みは精神的に辛いぜ。

 

それにしてもコスチュームは禁止ねぇ。魔女服着たかったけどダメか。サポート科は自分で作ったサポートアイテムなら着用可能らしいが、ヒーロー科が作ったサポートアイテムも着用可能かなぁ? あ、確か原作の八百万は武器作ってたから.....いいか。

 

「これは....、因縁の対決......だね!!」

 

「おぉ、クラス最強候補の二人が張り合ってっぞ!?」

 

「結依のぶっちぎりじゃね?」

 

さぁ、入場の幕が開けるッ!!!

 

____________________

 

 

 

「レディィスエェエエエンドジェントルメェェエエン!!!! いよいよ開催だァ雄英体育祭!! 青春真っ盛りなヒーローの金玉(金の卵)たちの意地と意地がぶつかり合うこの大会!! 1年ステージ実況は俺、ヴォイスヒーロー『プレゼントマイク』がお送りするぜッ!! リスナー共! Are you ready!?!?」

 

「「イエエエエエエエエエエエイ!!!!」」

 

「OK!! 元気なお便りをありがとう!!! おっと? あと一人紹介していない人物がいたぜ! 実況と解説はセットで頼まくちゃなぁ!!! 解説役はこちらぁ!!!」

 

「......マイク、なぜ俺を呼んd」

 

「解説の『イレイザーヘッド』だ! よろしく!」

 

「「イエエエエエエエエエエエイイエイ」」

 

 

熱が凄い。そして相澤先生、無理やりプレゼントマイクに解説役やらされるなんて可哀想に。というか金玉はちょっとNGじゃね? 放送事故やん。

 

「雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!? ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!」

 

 

「ヒーロー科!! 1年!! A組だろぉおおぉおお!!?」

 

ぐわわ、耳が痛い。その上、読心系能力をオンにしていたから脳もいてぇ!! やかましいことこの上ないから、スイッチ切っとくか。

 

「師匠、人がいっぱいでヤバいです。震えが止まりません!!」

 

「落ち着け緑谷くん。手に「人」の字を10回くらい書けば落ち着く。きっと」

 

「人人人人人人人......」

 

早いなおい。ま、確かに、こんだけ人もいれば誰でも緊張するだろうなぁ。私は精神抑制の魔法を今、継続的にかけてるから緊張はしない。魔法って便利ィ......。

 

続いてB、C、E組と順に呼ばれていき、サポート科、経営科が呼ばれていく。完全にモブ扱いだなこりゃ。まーたA組に凸るやつが増えるよ。

 

 

「選手宣誓!!」

 

今年は18禁ヒーロー『ミッドナイト』が主審。なんでこの人が主審になったんだろうか。ほんと私、女でよかった。男だったら興奮して死ぬ。ヒーローコスがエロいッッ!!!!

 

「18禁なのに高校にいてもいいものか....」

 

「いい!!」

 

「即答かよ......」

 

常闇の疑問を即答で答えた峰田。流石は性欲の権化、欲に忠実である。一周まわってぶん殴りたい。

 

「静かにしなさい!! 選手代表!!!」

 

「結依魔理沙!!!」

 

ミッドナイト先生に呼ばれた私は列を離れ、ゆっくりと台に近づく。ところどころ、「暴れんなよ」とか、「心配だわ」とか、「マドモアゼル☆」とか聞こえるけど安心しろ。今回は至極まともに過ごすつもりだ。タイトルとタグに反してしまうが、大目に見てもらおう。

 

 

ゆっくりと台を一歩づつ登り、マイクを手に取る。

 

 

「先生、我々選手一同は、日頃の成果を発揮し、正々、堂々、戦うことを誓います。平成○○年、5月☆日、選手代表、結依魔理沙」

 

 

 

パチパチパチパチパチパチパチパチパチ.....

 

 

 

 

 

 

「あぁ、それともう一つ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ・た・し・が!! 優勝を頂くからな。お前ら全員まとめて正々堂々叩き潰してやるからかかってこい。 以上!! 解散!!」

 

 

「「ふざけんなぁあぁあぁあぁああぁあ!!」」

 

Boooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!!!!!

 

「何が解散じゃボケェエエエエエエ!!!」

 

「途中まで普通だったのに裏切り者ー!!」

 

「調子のんじゃねぇぇぇえええ!!!!」

 

「俺と戦えぇえええええええええ!!!!」

 

 

今日のノルマ達成。ははは罵声雑言で溢れかえって愉快愉快テラ愉快。これでヘイト値は私に集中したな。競技が楽しみだぜ。

 

 

にこやかな笑顔で私は列に戻り、ミッドナイト先生の指示を待つ。戻る最中に全方向から強烈な目線が刺してきたが、その程度でビビるほど私の肝はゆるゆるではない。

 

「急だけど第一種目を発表するわよ!」

 

「ほんと急やね」

 

まるで何も無かったかのように進める1年ステージ主審。ツッコミ不在の恐怖。

 

「今年最初の種目は.........これよッ!!」

 

 

モニターらしきものには『障害物競走』と表示されていた。ま、知ってたけどね。ふふふこんなの余裕のよっちゃんですわ!! 瞬間移動ゲーだからね!

 

そして始まるルール説明。特に変更点らしきものはない。個性による妨害ありの危険な危険な障害物競走。でも確か、相澤先生が私専用のステージがあるとかなんとか言ってた気が......

 

「そして今回は特別仕様! 1年A組結依魔理沙には諸事情により特別なハンデが与えられるわ!」

 

ほほう、なるほど特別ステージが私にとってのハンデということか。じゃあ難しいってことでいいのかな?

 

「彼女にはまず雄英が特別に設置したステージをクリアし、その後他の生徒と同じコースを走ってもらうわ。そしてゴール付近に設置された最後の試練、『○○の試練』をクリアし、ゴールテープを切ればそこで終了よ!!」

 

雄英、考えたな。走ってもらうってことは瞬間移動もしくは時間干渉は禁止ってことだし、光速でゴールまで走ったとしても最後の試練をクリアしなきゃゴール不可能と。面白いな。

 

若干聞き覚えのある単語が聞こえたが無視しようか。

 

「これでルール説明は終了よ! みんな位置につきなさい!!」

 

ミッドナイト先生の指示通り、全員が移動を開始した。私もその特別ステージとやらに向かおうと探したんだが、アレか? あの長方形の黒い豆腐ボックスみてーなアレ。位置的にいえば障害物競走のスタート地点より後ろにあるな。なんだこれ。

 

今さら疑問を持っても仕方ない。後ろから現れたスタッフさんがボックス内に入るよう指示してきたので大人しく従う。なーんか見たことある気がする。どこだっけ。

 

重厚な扉を開き、中に入った。地面は砂だらけで、左には謎の台座とモニター。足元には謎の足枷。そして右奥には何処かの守り神みたいな巨顔の石像が設置されていた。

 

おい、私はいつバラエティ番組に進出した。いつ、前世の世界に戻ってきた。これ、どーみても「T○RE!」じゃねーか!!! なんで石像の間が雄英体育祭に設置してんだよ!!!

 

アンダァアァアァアァホイヤァアアアアア!!!

 

突如、モニターに人影が映った。

 

「ファーラファラファラファラアッハッハ!! ようこそ! 雄英体育祭特別ステージへ結依魔理沙くん! 予算不足と君のスペックに見合った壁を用意できなかったからこうなったのサ!」

 

モニターに映し出されたのは、ファラオのコスプレをした校長先生。何してんだテメェ!! このサイコパスハツカネズミ!!

 

「あまり時間はかけられないから、手短に話すのサ! まず、両足に足枷を着けます。足枷を着けた5秒後には石像前まで引っ張られてスタート! 石像に追いつかれる前に3つの壁を攻略すると脱出出来るのサ! ちなみに、君のスタートと同時に他の生徒達は走り出すから要注意なのサ! では期待して観ているよ、結依魔理沙くん!」

 

「足枷壊すの無しですか?」

 

「施設への直接攻撃は禁止なのサ! もちろん、足枷も石像も台座もぜーんぶなのサ!!」

 

「それ意外は......?」

 

「だいたいOKなのさ!」

 

「あと、難易度は鬼畜に設定しておいたのサ! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

モニター越しで紅茶をダバダバ零しながら愉悦に浸っている校長先生に殺意を抱きながらも、この体育祭が思ったより面白そうでワクワクが止まらない私。

 

「仕方ねぇ、ここまで来たらトコトンやってやる」

 

《結依魔理沙さん。足枷を装着してください》

 

アナウンスの指示に従い、足枷を装着する。足枷を見るとモルジアナ先輩を思い出してちょっと恐怖が.....ってぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁあぁぁぁあああ!!!!!!!

 

石像の近くまで引きづられ、口の中に砂が入った。うへぇ気持ち悪い。

 

ぶもぉぉぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉ!!!!

 

石像の雄叫びに呼応し、3つの壁が通路をふさいだ。この壁を乗り越えなければ私は失格! 乗り越えたとしても障害物競走と最後の試練が残ってる!! 時間はなるべくかけたくない!!

 

 

《それでは第一種目『障害物競走』スタートまで、残り3秒前》

 

 

 

《2》

 

 

 

《1》

 

 

 

 

《スタート》

 

 

ブザーが鳴り響く。

 

 

 

 




やりたかったこと一つ目、TORE! 知ってたら多分最後の試練が何かもわかるだろうなぁ。懐かし


いろいろ紹介

異形因子:結依魔理沙から溢れ出る謎の因子。適正のある個性因子(能力の根源)に付着し、特定条件を達成させることで能力を極限まで引き出す。能力によっては、抽象化されることもある。

※例 ゴムの能力 → ありとあらゆるものを伸ばす能力

個性婚:一般的に子どもの個性は、母または父の個性のどちらかを受け継ぐか、両方の個性が合わさった個性を持つことになる。それを利用し、自身の個性をより強化して継がせる為だけに配偶者を選び、結婚を強いること。愛のない結婚に未来はない。

ステイン:『ヒーロー殺し』の異名を持つヴィラン。自分の正義を正当化することで殺人を許容するという傍から見れば狂人。異形魔理沙も人の事全く言えないけど。

TORE:フルネームは『宝探しアドベンチャー 謎解きバトルTORE!』。2011年7月6日からスタートし、2013年2月25日に最終回を迎えた。家族で一緒に問題を解いてたのが懐かしい。


YouTubeにあなたのおすすめで出てきたのがキッカケでこうなりました。






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低予算でハイレベル(28話)



みんなで問題を解こうぜ!


※3話の冬美と謎の人の会話シーンを変更。すみません。


 

 

 

ついに始まった雄英体育祭第一種目『障害物競走』。しかし、諸事情により私だけ特別にハンデが設けられた。それは『石像の間』と呼ばれる場所を攻略した後に障害物競走のコースを走り、ゴール付近に待ち構えている『最後の試練』を攻略してやっとゴールするという明らかに無理難題なハンデ。特に問題ないだろうと判断した私は最初のスタート地点、『石像の間』へ向かった。だがそこの内部の様子からバラエティ番組のパロディということが判明。さらにコスプレした校長先生がモニターに映されるという暴挙。話せばキリがないのでここであらすじは切っておこう。

 

そしてたった今現在、ブザーが鳴り響いた。それはつまり私にとっては『石像の間』の攻略開始を意味しているのと同時に、他の生徒は『障害物競走』を開始しているということ。最初から最後まで圧倒的不利な状況だが、困難を乗り越えてこその結依魔理沙である。私に攻略不可能な事案など存在しないのだ!!

 

ちなみに前回の通り『石像の間』内の物は破壊してはいけないので、指示通りに第一の壁までハイハイ歩きをする。

 

 

ぶもぉぉぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉ!!!!!!

 

 

不気味な石像が雄叫びをあげた。目が緑色に光ってやがる......、こわ。とりあえず本当にスタートっぽいからさっさと済まして一位になろう。

 

 

ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス!!

 

 

待て待て待て待て待て待て待て待て!! なんだそのスピードは!? おま、お前ってテレビじゃ秒速五センチメートルくらいだろーが!! 久々の出演だからって本気出すんじゃねぇ!!

 

秒速一メートルくらいの速さで近づいてくる不気味な石像。この第一の壁から石像の初期位置までの長さは推定五メートル前後。この距離なら単純に考えて5秒で到達する!! 5秒で問題が解けるか! まだ問題すら見てねぇよ!!

 

なんて文句を浴びせたいが、私は結依魔理沙である。これしきの理不尽、どうてことは無い。前回言ったようにこういう競技系はたいてい時間停止無双ゲーである。時間停止を使っていけないのは障害物競走のコースを走ってる時なので問題ナシ。よって発動!

 

時間停止(タイムストップ)

 

何度使い慣れたことか。初めて『ザ・ワールド』を出現させて以来、何度、時を止められる時間を延ばしたことか。今なら一週間くらい時を止められるかもしれない......憶測だけど。

 

モニターを見ると既に問題は表示されていた。第一の壁の問題は『逆さ言葉クイズ』。よかった、意味わからん数学の公式とかマニアックな知識とか出されたらどうしようかと思った。出たら真っ先に大賢者様に丸投げするけどね☆

 

(.....。)

 

問題の回答方法も『T○RE!』と同じらしく、平仮名が記入された石版を台座に並べて答えるっぽい。そして肝心の問題内容は、「片方から読むと医療品、逆から読むと危ないことになる3文字の言葉を並べよ」ってあるな。医療品ってことはつまり.....何? ワクチンとか? あまり医療関係は詳しくないんだよなぁー。

 

ちなみに石版はこんなふうに並んでいる。

 

 

 

あ や り く め び と う す な

 

 

 

ここから3文字.....、なんかいい言葉ないかな。逆から読むと危ないことって言ってたから多分形容詞な気がする。危険を英語でデストロイ!! いや、デストロイは破壊だっけ? じゃあデンジャラス? 3文字ですらねぇ。バル......、スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わーかった正解は『くすり』だ! 薬 → リスク ならちゃんと条件を満たしてるし文字もちゃんとあるからノープロブレム。意外といけるな!

 

石版から『く、す、り』の文字を抜き出し、順番通り並べた。並べるのは問題ないんだがな、答えを入力するには横のボタンを押さなきゃダメで、押したことを認知させるためには時間停止を解除せねばならん。怖い。あの秒速五メートルの石像が迫ってくるのが。押して解除されるまで何秒かかるかわからんし、もしダメだったらバリア張って足止めするしかねぇ。よし、覚悟決めた。解除するぞ。

 

 

──── 時間停止解除 ────

 

 

私は息付く間もなくボタンを押した。すると焦らすかのようなBGMが流れ、解答までの時間を引き延ばす。バカヤロー早くしやがれ。

 

この意味不明なBGMのせいで石像に追いつかれると判断した私。もう、バリア張るか。アイツはえーもん。つか石像がだんだんモアイ像に見えてきた。無性に壊したくなる。

 

「バリバリの実、バーリアッ!」

 

透明な壁によって石像の侵攻を食い止める。このバリバリの実の能力ってどこまで耐えられんだろ。ルフィのキングコングガンは防げ......なさそうだなぁ。でもこのヒョロい石像程度なら抑え込めそうだし問題はナッシングゼロ。今日の天気はグレイトフル天晴れ。私の心はチョココロネ。

 

くだらない迷言を吐いてたらいつの間にか第一の壁は消えていた。どうやら正解っぽいな、もっかい時を止めるか。

 

 

「パンポロピロピロ〜♪」

 

 

もう「時が止まれッ!!」とか「タイムストップッ!!」とか言うのも面倒くさくなってきた。某天界の女神様だってこの言葉で海を割った(正確にはポセイドンがパルテナの言葉に合わせて割った)し、むしろこっちの方が愛嬌があっていいんじゃないかな。これなら次のヒロアカ人気投票間違いなしやな。勝った! ヒロアカ人気投票、[完]ッ!!

 

さて、またくだらない一人茶番をやっちまった。決して尺稼ぎではない。ただ今日はそういう気分なだけだ。はい、次のは第二の壁。問題はよ。

 

 

《雄英高校教師陣問題。この問題に3問正解すると次の扉が開かれます。心して聞きなさい。》

 

一瞬、時間停止を解除し、また止める。

 

 

《第1問、雄英高校1年の英語教師はプレゼントマイクですが、プレゼントマイクの本名を述べよ》

 

 

え、あの人本名あったっけ? マイクはマイクじゃねーの? てっきり『マイク・タイソン』とかそんな名前かと思ってたわ。うーん、これは難しいぞ。私じゃ思い出せそうにないな......。大賢者さーん!

 

〔山田ひさしです〕

 

バッキャロー答え言ってんじゃねぇーよ!! 答え言えなんて一言も言ってねーだろーが(ただし、ヒントを言えとも言ってない)!! しかも山田ひさしとかどんだけ平凡系なんだよ! 見た目と本名のギャップが凄ェ! おまえ、山田族だったのか......。

 

じゃあイレイザーヘッドは鈴木かなって思ったが相澤という名字を忘れていた。とりあえず、や、ま、だ、ひ、さ、し、の順に並べた。このヒロアカ世界って結構マイナーでキラキラした名前が多いから、てっきり佐藤とか伊藤とか鈴木とか山田とかいう普通の名字は既に絶滅したかと思ってた。いるんだな、この世界に。割と身近に。

 

──── パンポロピロピロ解除 ────

 

解除と同時にボタンを押し、モニターに赤丸が出たのを確認する。あと2問。長ぇ!

 

──── パンポロピロピロ起動 ────

 

もうこれ流れ作業だな。第一、全部大賢者さんに任せたら余裕で脱出できるし。

 

だがそれは私のプライドが許さん。自分で考えなきゃ、いざという時に判断が遅れる。大賢者さんだってミスる時はあるし、そういう場面で自分がカバーしなければ強者に勝てない。この問題の作成者はそういう部分を見越して作ったのだろう。やりおるな。

 

《第2問、ミッドナイト先生は18禁ヒーローと呼ばれていますが、どこが18禁でしょうか》

 

前言撤回、誰だこんなクソ問題作ったやつは。ここは少年ジャンプだぞ? 公の場でこんな問題晒すんじゃねぇ!! 東方異形郷の要素さえ引き抜けばこの漫画もといアニメもとい二次創作小説は健全なんだぞコノヤロー!! あっ、峰田も引き抜かねば。

 

しかもこれ、石版でもなんでもない。目の前に現れていたのは一本のマイク。つまり喋れと、この雄英体育祭のど真ん中で、ミッドナイトの恥部を、いたけな真っ黒少女に、喋らせる魂胆か。いい度胸してんな雄英。

 

しかしミッドナイトは言うほど18禁ってわけではない。個性『眠り香』を最大限に活用するには露出部分を多めにして素肌をさらさなければならないく、その為に仕方なく露出魔になってしまい、ヒーローコスチュームの改善法案が出るっていうね。まさに元祖露出魔系ヒーロー、ヤオモモがコスチュームを見習う理由が今わかったぜ(わかってない)。

 

 

──── パンポロピロピロ解除 ────

 

 

「まず個性が『眠り香』という睡眠レ【放送規制】に適した個性であるのと、本人がサディスティックな思考を持ち合わせ、世の中の豚どもに愛という名のムチを振り下ろして夜の繁華街を支配しているからです」

 

《とりあえず、正解》

 

モニターにドン引きされたが知らん。事実を述べたまでだ。コミックス版のヒロアカのミッドナイト先生とか極薄タイツの色が肌色だもん。しゃーないやん。

 

あと、『とりあえず』って何よ。え、あの人マジで夜の繁華街を支配してんの?

 

小さなことは気にしない。次で最後の問題、これをクリアすれば第二の壁を突破できる。次来るとしたら相澤先生だろーなぁ。相澤先生とはなんだかんだ仲良いからどんな問題も3秒で答えたるわ。

 

《第3問、雄英高校教師の相澤先生は合理主義をモットーに生きていますが、相澤先生が今日食べた朝ごはんは何でしょうか》

 

合理主義関係ねぇ!! なんで出したその説明! 意味ねーじゃん!! 絶対ネタ切れだろ雄英教師陣!

 

いや待て、食事と合理主義は案外関係ないとは言えないかもしれん。というか、相澤先生っていつも廊下に寝っ転がりながら銀色の栄養満点ゼリーを啜ってるからな。名前なんだっけ? リアルゴールドかオロナミンCのどっちかのはず。いや、デカビタか? やっべぇ思い出せねぇ。大賢者さーん!

 

〔......、最初の文字は『ウ』、最後の文字は『ー』です。固有名詞ですが、途中から英語の前置詞があります〕

 

流石だ大賢者、見直したぜ。そういうのでいいんだよ、こーゆー知識問われるやつはね。ウから始まって伸ばす音で終わるもの......さらには間に前置詞。これは思い出せそう。ウィングinゼリーとかそんなんだった気がする。ウィング、ウリボー、ウルボーグ......何だかどれも違う気が。

 

しかもまたマイクだし。まぁ前置詞あるし仕方ないか。

 

〔ウイダーinゼリー〕(ボソッ)

 

あー!! たった今思い出した!! ウイダーinゼリーだ! そうそうそうそれだ! いやー、やっぱ私の記憶力はここぞという時に発揮されるんだなー。やっぱ私すげー。

 

〔.....。〕

 

ごめんて。謝るからそんな憐れまないでくれ。この体育祭頑張るからせめて応援してくれ。いや、ホントに悪かったって、ありがとうね大賢者。

 

〔御意〕

 

私にはもったいないサポート役のおかげでこの問題は解決しそうだ。よしよしコレで残るは第三の壁のみ!!

 

──── パンポロピロピロ解除 ────

 

「答えはウイダーinゼリーだ!!」

 

 

《違います》

 

 

「違うんかい!!」

 

ピキッ! パキパキッ!

 

まっ、不味い! 私のバリアが破られかけてる! まだ障害物競走が開始してから10秒くらいしか経ってねぇのにもうヒビが入るんか。せっかちだなオイ。人生、先を急ぐと早死にするぜ?

 

『おぉっと!? 魔理沙選手、さっきまでの勢いはどおしたぁ!!』

 

『今日は体育祭だから朝食は3色バランス良く食べた。いつものゼリーで済ますのは合理的ではない』

 

チロっと聞こえてくる実況と解説の声。しかし私はそんな煽りに反応しなかった、いや、反応できなかった。ひとつの事実で頭がいっぱいになったからだ。

 

嘘だぁあぁあぁあぁあああ!!! 相澤先生のくせにそんなこと言うわけがない!! 相澤先生ってのはなぁ、自分が生きていくのに十分な栄養価さえとれれば味も見た目も気にしない人なんだよ!! そんな人がイベント事に関してだけは真面目な食事を摂るなんて十中八九ありえねぇんだよ! いつも職員室に呼び出されている私だからわかる、相澤先生の机の中には中身のないウイダーinゼリーのゴミがクシャクシャになって閉まっていることを!!

 

ふぅ、つい熱く語ってしまった。どんなに嘆こうと答えが覆ることはない。その答えは既に決定されており、それ以外の回答は認められないからだ。ならば、この衝撃な事実を飲み込みつつ冷静に、慎重に、かつ迅速に答えねばならん。

 

相澤先生が雄英体育祭の朝に食べそうな物。知らん。これが仮に相澤先生じゃなくて緑谷くんだったとしてもわからん。人は草ばっか食べる牛や羊とは段違いであり、人の食に対するこだわりは強い。炒める、焼く、煮る、うんたらかんたらetc。とにかくやり方しだいで無限の料理が生まれる。そんなかから相澤先生の朝ごはんを見つけるなど無理。砂漠の中で1粒の涙を探し当てるくらい無謀だ。

 

だが、この私を誰だと思っている。安心院さんの次の次の次くらいに強いと自負している結依魔理沙さんだぞ。砂漠の中で1粒の涙を探すのが困難なら、落ちる瞬間を目撃すればいいのだ。

 

つまり何が言いたいのかというと、もう一人分身を作って、そいつに過去に行ってもらい、そいつから相澤先生の朝食を教えてもらえばいい。簡単だろ? もうこれ以上こんな問題に尺を使うわけにはいかん。

 

どうやら必殺奥義を見せる時が来たようだな。この長ったらしい仕事をまるで一瞬で終わらせたかのように感じさせる奥義を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 5秒後 〜

 

 

【相澤先生はスクランブルエッグ食べてたよ】

 

「了解だ分身2号。今すぐ未来の私の体に戻ってくるがいい」

 

【了解】

 

 

な? これで終わり。簡単だろ? この表現なら問題はナッシング。

 

私は再びマイクの前に立った。

 

「スクランブルエッグ」

 

《正解です》

 

 

そして消えた第二の壁。残るは最後の第三の壁。そろそろ石像の間を攻略できそうだ! 実質まだ30秒も切ってないが、早くてなんぼだ。

 

バリアを張り直し、第三の壁に向かう。やっと障害物競走に参加出来る。長く苦しい戦いだった......。

 

 

《個性・能力クイズ、1問正解すれば石像の間、脱出成功です》

 

やったぜ。これは超得意分野。私が幼少期から手がけてきた能力知識の数々。火を吹くぜ。

 

《サテライトキャノンを防ぐ方法を述べよ。ただし電波ジャックまたは機械系操作は禁止、サテライトキャノン発射装置の物理的破壊または魔法攻撃による破壊も禁止。また防御魔法も禁止で、周りに被害を出さない方法を述べよ》

 

ふふふ、何やってもダメじゃん! なんて思っただろうが甘い甘い。まだ抜け道はいくらでもある。この程度ならまだ第一の壁のほうが100倍ムズいぜ!

 

《さらに法則変化、法則無視、法則破壊も禁止です。時間逆行も禁止です》

 

えぇ? マジか。ちょっとキツイけどここまでならいいか。ふふふ、正解は......

 

「答えは、『大嘘付き』の因果律干渉でサテライトキャノンを無かったことにする」

 

《正解です。では鍵をどうぞ》

 

カチャリ......と音を立てて出てきたのは足枷を解除する鍵。これで私もやっと本戦出れる!

 

足枷を外し、外に出れた結依魔理沙。ファラオ像ひとつくらい貰えないかな.....なんて期待しちゃうけどそんな暇ないよね。もう障害物競走のスタート地点には氷漬けにされて置いてかれた人しかいねーし、そろそろ追いつくとしますか。

 

腕をクロスし、ラジオ体操のごとくストレッチをした魔理沙は、割と本気な雰囲気を出してある物を掴んだ。

 

 

それはついさっきまで私を閉じ込めていた『石像の間』。私はそれを掴み、空中にぶん投げたあと即席でリフォームした。何したって? 『石像の間』でベイブレードを作っただけだ。

 

 

「おーっと魔理沙選手! 何やら特別ステージで素敵なホビーを作ったぞmade in marisa!!」

 

「妨害アリとは言ったがやりすぎんなよ」

 

 

二人の先生の声が聞こえてきたが知らん。この世は弱肉強食、自分の身は自分で守らなければこの個性で蔓延した社会で生きてはいけない。このベイブレードは警告だ、私という脅威にどれだけ自身を守れるかというなッ!!

 

ちなみにちゃんとバーストします。

 

 

「いけっ!! 『超絶ストーンオーシャン』!!」

 

「ゴォォォオオオオシュゥゥゥウウウト!!!」

 

 

空中シュートによって地上へダイブした石の塊。かの名は『超絶ストーンオーシャン』。アタック型のベイに変えたので通常ステージがみるみる廃墟に変わっていく。氷漬けにされた同学年はストーンオーシャンに弾き出されてどっかへ吹っ飛んだし、やべぇ楽しい。

 

「いやぁああああああああぁぁぁ!!!!」

 

「死にたくないッ! 死にたくないよママァ!!」

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「......カクッ」

 

 

......やっぱやめよう。被害が少々大きすぎた。流石に全長10メートルのベイブレードは危険すぎたな。私、反省。

 

少々冷静になった私はストーンオーシャンの破壊の目を握りつぶし、爆散させる。さよなら、ストーンオーシャン、お前とはまだ日も浅い付き合いだったが、良い奴だったよ......。

 

これがホントのベイブレード『バースト』か。

 

 

障害物競走は続く............。

 

 

 

 

 

 

 





ちくしょう、終わんなかった。今回で最後の試練まで行くかと思ったんに! いかんかった!


いろいろ紹介


バリバリの実:ルフィ先輩マジパネェっす! で有名の海賊『バルトロメオ』が持つ悪魔の実。防御特化だが拳のみにつければバリアで殴ることも可能。防御は最大の攻撃。

私の心はチョココロネ:わたーしのーここーろはー♪ チョッ! コッ! コローネー♪

パルテナ:新・光神話パルテナの鏡というゲームに出てくる女神様。神ゲー。いつも、無茶苦茶な仕事をピットに押し付ける。

マイク・タイソン:アメリカの元プロボクサー。パンチ力が凄い。

リアルゴールドなど:私は好き。みんなはどう?

ベイブレードバースト:タカラトミーさんのアレ。私はメタルファイト時代出身。





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障害物? それは私だ(29話)


覚悟とは!! 暗闇の荒野に!! 進むべき道を切り開くことだッ!





 

 

会場は壮絶な雰囲気に包まれた。いや、途中までは盛り上がってはいたのだが、ある場面を見てしまってからは空気が変わった。

 

ヘドロ事件の被害者、爆豪勝己の凄さは知っている。生で見た人ならその根性と個性が尋常ではないのは明白だった。でもそれはヴィランの攻撃に耐えきったということだけ。いやそれだけでも凄いんだが、それだけである。

 

目の前のあの黒顔の生徒は何なのか。確かにUSJ襲撃事件で活躍した生徒としてテレビに映っていたのは知っている。でも、それを間近に見ていた一般人は誰一人としていない。なので見解としては、この一年ステージで争うのは爆豪と魔理沙、そしてエンデヴァーの息子の轟焦凍の三つ巴になり、最終的には爆豪と轟が決勝で争うとネットで騒がれていた。

 

しかし、この状況はなんだ。魔理沙に特別なハンデが課せられ、しかも内容がいくら何でも無茶苦茶過ぎた。そのおかげで雄英に対して『不公平だ!』と声を荒らげるものが多数出てきたし、実際誰もがそう思うだろう。けど彼女は、まるで気にもとめてない様子で特別ステージに入り、開始から一分も経たずにステージを攻略。その上、攻略したステージを謎のコマに改造し、スタジアムをめちゃくちゃに破壊した後、最後はそのコマを爆散させるという、多大な影響を与えた。

 

あまりにも規格外すぎる。この世にあってはならない力.....まさにそう呼べるほどの暴虐なる個性。こんな危険極まりない人物を、なぜ雄英は受け入れたのか、正気か? と疑いたくなるほど次元の違いを見せつけられた。

 

他のスカウトしに来たヒーローも口が開きっぱなしで体がいっさい動いていない。正直、今障害物競走で先頭を走っているエンデヴァーの息子とヘドロ事件のやつの個性なんて見ても何も感じない。氷も爆破も、今のヒーロー社会の中では上位にくい込むほどの強力な個性なのはわかるが、あの黒顔の少女は、そんな個性なんか屁でもないほどに強過ぎる。

 

多分、雄英がこの子を受け入れたのは、監視の意味もあってのことなんだろう。仮にも雄英志望ということは、ヒーローを目指しているということなのだから。

 

一人の男は体育祭の行く末を見守りつつ、ポテトをひとつ、手に取って食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

スタート地点が荒野に成り果ててしまったが、まぁいいでしょう。ちょっと地面がでこぼこだけど、別に私の身体能力にかかれば特に関係ない。

 

さてと、『万能感知』と『波動』を使って、今先頭がどの辺か見てみようか。この能力を使えば相手がたとえ空間の狭間に隠れていても、隣の世界に移動したとしても即バレするのだ。この私から逃げられるとでも思うなよ?

 

 

いた、今は落下注意のフォールゾーンか。全然余裕で追いつくわ。全くもって問題なし、唸れ私のふくらはぎ、プルスウルトラマン!!

 

私はスタンド『ホワイト・アルバム』を身にまとい、地面を凍らせながらスケートリンクの要領で加速していく。この能力は人に使うのはあまりにも危険すぎるので、移動手段にのみ使う。だって、この状態で人に触れれば氷の像が出来ちまうんだもん。血液すら凍るから、多分ルフィみたいにお湯をじっくりかけても、むしろそのお湯も凍るから助からないだろう。つまり、人には使いません。

 

 

シャーっと滑っていったらもうロボットの姿が見えた。これが体育祭第二の試練、超巨大ロボット! せっかくだから派手に壊しておくか。

 

「えいっ」ポチッ

 

右手に持っていた赤いボタンをプッシュする。もう使ったのは二回目だから一言で済ますか。

 

「乙女の膝に泣いて詫びろ。─── サテライトキャノン ───」

 

高出力の極太レーザーが私の真後ろで放たれる。こういう敵を振り向きざまに倒すのってカッコイイよね。こういうの私、大好きよ。なんかインディージョーンズぽくて。インディージョーンズ見たことないけど。

 

ロボットを灰にした後に見えるのはフォールゾーン。しかし、私の『ホワイト・アルバム』にとってこのゾーンは何の障害もない。空気中に含まれる水蒸気を一気に冷却して足場を作れば、空中移動も出来なくない。いやー、涼しい!!

 

ロープも崖も関係なく乗り越えていく魔理沙。現在の速度は時速60キロ。自動車並みの速さである。やべぇ、なんだこの味気ない内容は! もっとなんか凄い戦闘シーンとかねぇの!! やべぇよ地味なシーンだけで終わっちまうのは個人的に嫌だよ!?

 

ちょっと焦ってきた。なんかいい見せ場が...っとおっと? ちょうど向こうに爆豪、轟くん、緑谷くんがいるなぁ。へへへ、遊びがいがありそうだぜ。緑谷と爆豪はどれほど鍛えたのか気になるしなぁ、白熱した闘いが出来そうだなぁ!!

 

この時、魔理沙は閃いた。『ホワイト・アルバム』を身につけたまま分身して横一列に並び、同じ速度で走ったら面白いのではないかと。

   

時速60キロで迫り来るホワイト・アルバム軍団。彼らが通り過ぎればあらゆるものが極低温で凍りつく。なんだかガタキリバコンボみたいで楽しいに違いない。やろう、やってみよう。

 

「分ッ身!! さらに分身!! 分身分身分身!」

 

2の5乗で合計32人に増えた『ホワイト・アルバム』軍団もとい結依魔理沙軍団。もう障害物競走の最後のゾーン、『地雷ゾーン』にたどり着いたんだが、地面を凍らせながら滑っているため爆発しない。極度の低温はあらゆる物質の動きを止めるからな。爆発オチなんてさせねーぜ。

 

時速60キロで走れば余裕で追いついた。さぁ遊ぼうか爆豪、轟、緑谷くぅん。障害物競走はまだまだ終わらねぇぜ?

 

 

「おぉおっと!! 猛スピードで追い上げた魔理沙の先にはナナナなんと!! 先頭で暴れてた爆豪、轟、緑谷達だぁぁああああああああああ!!!」

 

「結依、後でちゃんと氷を溶かせよ」

 

 

「来やがったな真っ黒野郎!!」

 

「師匠!? 流石ですね......」

 

「来たか、結依」

 

 

「待たせたな! そしてsee you next time!!」

 

分身たちと一緒に空へ飛び立ち、その後分身達を回収する。これが人類を超越した結依魔理沙さんの能力のひとつッ!! 食らってくたばれクソジャップ共!!

 

「ブラックホール!! そしてトランザム起動!」

 

ブラックホールで走っている生徒全てを空中に巻き上げ、その間に装備しておいたオーライザーの「ライザーシステム」を作動させる。そして異空間から呼び出した人間が持てるサイズのビームサーベル、「ライザーソード」を手に取り、天に掲げた。

 

掲げられたライザーソードは、数千キロメートルにも及ぶ長さに変化し、今にも地球を真っ二つにしかねないほどのパワーが集中する。正直今の状態は完全に無防備となっているんだが、ブラックホールで相手を引き付けているので問題はない。後問題があるとしたら、観客に被害が及ぶことか。固有結界でも張っとこ。

 

「おいボサボサ真っ黒!! やりすぎだテメェ!」

 

「死んじゃうししょぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「......体が浮いてる。」

 

「安心しろや緑谷くんに爆豪。死なない程度に殺してやる」

 

 

「うわ!! とんでもねぇな結依魔理沙! イレイザー! 今何が起きているんだァ!?!?」

 

「超高出力のエネルギー粒子を剣の形に集束。トランザムシステムを使って障害物競走を崩壊させる気らしいな。結依、今すぐ止めろ。もっと他の方法があるだろうが!!」

 

 

えぇー、これ凄い気持ちがいいのにー。こう、今までずーっと溜めてきたものを一気に解放する感覚がたまらなくキモティーのに。別にナニを解放するかとは言ってないけどさ。これ凄い気持ちいいんだぜ?

 

ついでに処刑用BGMも流してやろうかと思ったのに、まぁいいや。これ以上見せつけたら観客の見る目が変わっちまう。仕方ない。

 

「じゃあセカンドインパクt」

 

「それもダメだ」

 

「アルマゲドn」

 

「却下」

 

「スペシウム光se」

 

「次まともなやつが来なかったら退学だ」

 

「......素手」

 

「.........まぁよし。」

 

素手の攻撃の許可が出たのでそれにする。チッ、トランザムシステムは流石にやりすぎか。でもスペシウム光線くらいなら許してもよかったんじゃないかな?

 

渋々私はライザーソードを究極能力『アザトース』で回収、隔離した。固有結界も意味がなくなったのでそれも解除。そしてブラックホールを消し去り、巻き上がっていたモブラーズを回収した。

 

「黒い人ありがt」

 

「と見せかけてドーン!!!」

 

救う? 何を期待しているんだこのモブラーズは? ここは妨害アリの障害物競走。敵に助けを乞うなど軍人の恥どころか犬のフン以下である。わかめ。

 

トランザムシステム起動前に私は『ホワイト・アルバム』を解除している。それがつまり何を示しているか......勘のいい奴なら即わかるだろう。氷が消え失せ、地雷の恐怖が再び戻ったということだ。

 

私に叩きつけられ、真っ逆さまに落ちた生徒。その行く末など未来視を使わなくたって予測できる。

 

 

ズドォォォォオオオオオオオオオン!!!

 

「いやぁああああああああぁぁぁ!!!!」

 

 

爆発オチだ。逃れられない運命に乾杯。

 

 

「やめてぇえええええええ!!!」

 

「落ちるぅううぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「ちょっとやりすぎひん!?!? キャァア!!」

 

「結依やめっ......ああああああぁぁぁ!!!」

 

「マドモアァァァアアアア!!!!!」

 

 

次々と復活した地雷へたたき落とす結依魔理沙。空中移動出来ない奴は大抵私の餌食だ。ま、八割は出来ないけどね。

 

 

「おいイレイザー、俺もうこの体育祭見てらんねぇぜ。お前んとこの生徒こぇえよ、あのクレイジーガール」

 

「安心しろマイク。アイツがさっきアルマゲドンをやらなかっただけでもマシだ。」

 

「うへぇ、皮肉」

 

 

罵倒の声が司会室から聞こえるがいいでしょう。私の心は寛大ですからね。なんの問題もありません。

 

「俺がナンバーワンだ!!」

 

「あっ、ズルいかっちゃん!!」

 

「......俺が勝つ」

 

 

おおーっと爆豪達が私を無視してゴールに行こうとしてやがる。この私という女を置いてけぼりにするなんていい度胸だな、逃がすかッ!!!

 

「粘鋼糸、スパイダーマン、人形を操る程度の能力、イトイトの実、スタンド『ストーンフリー』、フェムトファイバーの組紐...」

 

糸系能力を次々と述べていく結依魔理沙。

 

「教えてやろう、アニメや漫画でなぜ糸使いが最強なのかということを。」

 

私の五本指から出る七色の糸。ちょっとやそっとじゃビクともしないし、断ち切ることは不可能な糸。糸系能力者がなぜ強いか.....それは火を見るより明らかである。拘束、罠、切断、貫通、操作、移動、防御といったあらゆる場面で対応可能な能力が弱いわけがない。だから強い。

 

私はジャンプひとつで爆豪たちより先回りをし、七色の糸を巧みに操る。流石に全員拘束したら雄英に怒られそうなのでトラップを張ることにしよう。

 

「エレキトラップ!!」

 

ま、エレキでもなんでもないけど。そういう技名だから仕方がない。ただその技名さえ言えば、罠らしい罠ができるからそうしてるだけだ。流石、イナズマイレブン。

 

突破困難なトラップの完成だ。これで数十分は時間を稼げるだろう。その間に『最後の試練』とやらをクリアしてちゃっちゃと逃げるとしますか。

 

「まっっっくろボサボサァアアアアア!!!!」

 

うわ、爆発さん太郎がお怒りだ。にーげよっ

 

 

私は『最後の試練』のある場所まで一直線に走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

《緑谷side》 〜 5分前 〜

 

 

「師匠が拉致られた......流石雄英ッ!!」

 

「早くいくぞデク。置いてくぞ」

 

「わ、わかったよかっちゃん」

 

心情描写が無いせいでなんでこの二人が仲良いのかよく分かってない皆様、ごめんなさい。訓練の時はあんな険悪のような感じだったけど、それはかっちゃんがオールマイトの継承者が僕だったのが気に入らなかっただけで、いつもこんなんじゃないよ!

 

カメラ目線で心の声をぶつけてしまった緑谷出久。特に、誰かに向けて言ったわけでは無い。ただの独りブツブツだ。

 

しかし、開幕で師匠がスタート地点にいなかったのはラッキーかもしれない。仮に師匠がみんなと同じようにスタート地点からスタートしたら、開幕速攻異世界送りなんてことをしでかしてもおかしくない。いや、きっと師匠ならもっとえげつないことをするだろう。例えば、このスタジアムごと爆発させるとか......

 

いやいやいや、流石に師匠とはいえそんなことしないか。師匠だもん。......、不安だ。

 

物事を悪い方向に考えてしまうのは僕の悪い癖だ。オールマイトにも指摘されたというのになかなか直せないなぁ。とにかく今は障害物競走に集中しなきゃ。

 

《それでは障害物競走、スタートです》

 

アナウンスがかかると同時に一斉に走り出す僕達。しかし道幅が狭いため、満員電車に巻き込まれるかの如く、生徒の波が押し寄せあう。これが第一の関門、まずはこの身動きが取りづらい状況をどう打破するか......そこが鍵になる。

 

「邪魔だ」

 

師匠の次に実力のある1年A組のエース、轟焦凍が氷の個性で周りにいる生徒らを固定しつつ、第一の関門を突破する。それに呼応して他の生徒達も次々と突破していった。

 

轟くんの氷が届く前に僕はジャンプして脱出した。氷に捕われると時間ロスに繋がってしまう。師匠も、「範囲系拘束攻撃は一度かかるとペースを乱されて落ち着きが無くなるから気をつけろ。ま、私みたいなずば抜けた能力者ならいくらでも体s」って言ってた。師匠の助言にまたも助けられてしまった、流石師匠だ。

 

今の僕はワンフォーオールを10%までなら体を壊さずに使える。出来れば体育祭中は体を壊さずに優勝を狙っていきたいけど、師匠やかっちゃん、轟くんみたいな強い人と渡り合うには、自傷覚悟の100%デトロイト・スマッシュを使わなければ勝てないかも......。

 

そう考えている間に僕はあの人ごみから脱出し、ある程度の距離を離すことができた。しかし先頭には轟くんが地形を凍らせながらドンドン進んでいる。何とかして轟くんに追いつかなければならないが、いきなり個性を使って全力で走り抜ければ後半で体力を失ってしまう。個性アリとはいえ、これは『障害物競走』であり、ゴールまでの距離もそこそこ長い。体力温存の調整は必須だ。

 

「ウラァ!!!!」

背後から爆発物を投げられたことに投げられたことに気づいた緑谷はサッと身をかわした。体力はなるべく温存したいと考えていたのに、それをさせてくれるほど甘い現実ではないか......。

 

「デクゥ!! ここでてめぇをぶっ潰す!!!」

 

「いきなりかっちゃん!!」

 

襲来したのはかっちゃん。余程余裕があるのか、それとも僕を倒したいという執念なのか、どっちみちここで僕とかっちゃんは戦うことになってしまった。

 

「死ねぇええぇぇえええええ!!!!」

 

かっちゃんの下から手を振り上げるモーションが見えたとたん、真正面で大爆発が起こった。以前に比べて火力も規模も段違い。まさか、かっちゃんも師匠の特訓を......!?

 

爆発をモロに受けたわけではないが、ずっと走っていたため止まることができず、緑谷は爆心地に突っ込んでしまう。そのため身が少々焼けてしまい、その上視界も遮られて何も見えなくなった。

 

その隙に爆豪は緑谷に接近。緑谷の頭を掴み、壁に叩きつけようと爆豪は右手の大振りを繰り出す。が、師匠との訓練によって見聞色の覇気を身につけた緑谷には、たとえ視界を遮られたとしても攻撃を避けるのは容易であった。

 

「何ッ!?」

 

「いきなりレース失格になってたまるか!!! ワンフォーオール・フルカウル10%デトロイト・スマッシュ!!」

 

反撃に出る緑谷。爆豪の攻撃は緑谷に届かず、そして次の行動にすぐ移ることの出来ない今の爆豪はカウンターを打つには絶好のチャンス。ここでしっかり決めて、後はトンズラすればある程度距離を離せる。そうしよう。

 

だが、何故か緑谷の拳は空を切っただけで、爆豪に触れることはなかった。

 

「いつもいつもあの黒髪ボサボサ野郎の拳を見ているとよぉ、他の奴らの攻撃がまるでスローモーションのように遅く見える。お前があの時の訓練でやたら回避に成功していたのはこういうことだったんだって、体が先に理解した。もうテメェは俺に一発も当てることはできねぇ!!!」

 

爆豪勝己は結依魔理沙の実験によって火力と規模が大きくなっただけでなく、見聞色の覇気も身につけていた。一年間死ぬ気で特訓して身につけた緑谷と違い、爆豪はたったの二週間で習得したということだ。これが凡人と天才の差である。

 

「粉砕しやがれ!!」

 

空中で姿勢を整えた後左腕のみ爆発を起こし、ガオガエンのDDラリアットのごとく体を回転させ、勢いをつけて右腕で薙ぎ払う。

 

「うわッ!?」

 

驚嘆の声をあげつつも、ギリギリマトリックス避けで攻撃を回避した緑谷。見聞色の覇気持ち同士の戦いはいかに相手を追い詰めるかが重要である。相手がどんな行動をとっても避けられない状況にどう持ち込んでいくのかが勝利への鍵となる。

 

 

その後もお互いは接戦を繰り返したが、当たることは一切なかった。どうしたらこの状況を変えられるか思考する二人だが、新たに出現した第二の関門によって二人の戦いは一旦幕を引くことになる。

 

 

「第二の関門はこれ!! お前ら金玉が実技入試で散々世話になったゼロポイントヴィラン、『ロボ・インフェルノ』だああああああああぁぁぁ!!!」

 

「逃げようが壊そうがそれは個人しだい。合理的に考えて何が最善か自分で判断しろ」

 

 

目の前に現れた『ロボ・インフェルノ』。緑谷は一度、実技入試でこのロボットを討伐しているのだが、今回は見える範囲で六体はいる。タダでさえガンダム並みのデカさだというのに六体も現れたらタダじゃ済まない。雄英の予算はいったいどこから生まれているのだろうか。

 

「実技入試の......ロボ!!」

 

「なんだデク? ビビってんのか、あ?」

 

てっきり驚いている今を狙って爆破しにくると思ったけどそこまでかっちゃんは鬼畜ではなかった。

 

「ビビってはないけど.....、どうやって突破すればいいのか......」

 

思い悩む緑谷を横目で見た爆豪はニヤリとした表情を浮かべ、ロボに向かっていった。

 

「ちょっとかっちゃん!?」

 

「見せてやるよデク、たった二週間でついた俺とテメェの差をな。ビビってるだけのヘタレクソナードは黙って正座でもしてやがれ」

 

自信満々の爆豪。師匠から他にも教わったのかな? だとすると、今からかっちゃんが見せてくれるのは切り札? バレても問題ない切り札なのか? それはいったい......

 

すると爆豪の腕が真っ黒に染まるのを確認した。あれは、かっちゃんが暴走した時のヤツだ。まさか、あの凶悪な力をコントロール出来たのか!? 師匠は『覚醒状態』って言ってたけど、それを任意で発動することが出来るようになったのか!?

 

核熱新生爆発(ニュークリアフュージョン)

 

六体のロボは一瞬にして姿が見えなくなった。いや、かっちゃんの爆破によって六体全てが木っ端微塵に粉砕されたのだ。まさに星が爆発したかのようなその威力に僕は気圧され、地面にへたり込む。

 

「これが、俺だ」

 

瓦礫と化したロボをどけ、静かに告げた爆豪。どうやら、浮かれていたのは僕のほうだったようだ。この大会は師匠だけじゃない、他のみんなも死ぬ気で努力している。なおさら絶対に負けられない。

 

ヘタレな腰を無理やり持ち上げ、再び走り出す緑谷。かっちゃんに距離を置かれたけど、でも、また追いついてやる!!

 

 

緑谷は足をフル回転させ、第二の関門を抜けていった。

 

 

 

 

その後、第四の関門の地雷ゾーンにて師匠と遭遇し、えげつない力でねじ伏せられ、「師匠、あかん」と心の中で呟く緑谷であった。

 

 

 

 

「イレイザー、お前のクラスなんなの」

 

「俺に聞くな。結依に聞け」

 

 

 

 

 

 

 





体育祭編はいつもの倍くらい話が増えそうです。詰め込みが足りぬ!!

次の話で分身側の話がきます。まってろ! インゲニウム!

いろいろ紹介

万能感知:周囲を把握する能力。

波動:生命(自然も含む)が持つ生命エネルギーを感じ取る力。なのでルカリオは多分、スタンドが見える。

ウルトラマン:1964年(ウルトラQは怖くて見れない(´;ω;`))から現在まで続いている特撮番組。ウルトラセブンの最後は感動する。

サテライトキャノン:今回で二回目。衛星からドーン!!

インディージョーンズ:冒険映画。インディはインディアナを略した通称らしい。

ガタキリバコンボ:仮面ライダーオーズが持つ形態のひとつ。予算破壊コンボ。数の暴力。

ライザーシステム:俗に言う制御システム。ライザーソードを安定させるために使った。

アザトース:なろう史上最も最強な能力ランキングに確実に上位にランクインする能力。宇宙を作り出すほどの破壊のエネルギーとそれを制御できる超演算能力とか意味不。

粘鋼糸:粘性持ちかつ鋼の硬さを誇る糸。万能。

人形を操る程度の能力:アリス・マーガトロイドの能力。人形を糸で手足のように操ることができる。

イトイトの実:ワンピースの七武海であるドンキホーテ・ドフラミンゴが食べた悪魔の実。糸系能力者はやはり強い。


ストーンフリー:ジョジョの奇妙な冒険第六部主人公のスタンド。

フェムトファイバーの組紐:フェムト、わかりやすく言うと須臾(しゅゆ)。須臾とは生き物が認識できない僅かな時のことよ。時間とは認識できない時が無数に積み重なってできています。時間の最小単位である須臾が認識できないから時間は連続に見えるけど、本当は短い時が組み合わさってできているの。組紐も1本の紐のようだけど、本当は細い紐が組み合わさっているもの。認識できない細さの繊維で組まれた組紐は限りなく連続した物質に見えるでしょう。そのとき、紐から余計な物がなくなり最強の強度を誇る。さらには余計な穢れもつかなくなるのです。この紐をさらに組み合わせて太い縄にすることで決して腐らない縄ができる。その縄ははるか昔から不浄な者の出入りを禁じるために使われてきたのよ。正確に言うと月の民には逆らう者の動きを封じるのに使ってきたのよ。うんたらかんたらうんたらかんたら......

エレキトラップ:電流の罠をしかけるキャッチ技。今回は電流を流した糸の罠を張りました。



能力が多い!!





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正義と試練(30話)




スイッチで現在、デルタルーンをプレイ中。ラルセイ可愛い。





 

 

 

〜 同時刻 保須市にて 〜

 

 

よぉ、結依魔理沙の分身だ。とはいっても100%オリジナルと同じ体と能力と記憶を引き継いでいるから遜色はない。仮にオリジナルが死んだとしても、代わりに私がオリジナルになるから問題ない。まぁそれは置いといて。

 

オリジナルは今ちょうど体育祭。正直私もそっち行きたかったが、オリジナルの私に怒られそうなのでやめといた。大人しく仕事するか。

 

仕事というのはそう、ステイン退治である。私がやろうとしていることはお節介な行動かつヴィジランテ的犯罪行為。少年院待ったナシの違法行為である。けどな、そんな悠長なこといってっから被害が出るんだ。なるべくルールは守りたいが、救える力を持っているくせに何もしないのはマイポリシー違反だ。もう少し、今のヒーローが信頼出来るほどの力と心を持っていたんなら動く必要ないんだけどな。まひろさん、バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。

 

「しかしいねぇーなー」

 

現在、不可視化を使用して姿を隠し、空から探しているんだが見つからん。アニメや漫画の描写だと路地裏ってとこぐらいしか描かれてなかったからな。「万能感知」使うか。

 

空中で一旦静止し、能力に集中する。感覚が研ぎ澄まされ、保須市全体の空間を把握出来るほどに敏感になると、怪しいオーラを発している人物を発見。場所も路地裏。ステイン確定かな。

 

現場へ急行すべく瞬間移動で駆けつける。私が駆けつけたら多分インゲニウムに止められるけど、まぁ、なんとかなるでしょう。眠らせたら勝ち。

 

レディゴー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「体が......動かない......ッ!!」

 

「ヒーロー気取りの紛い物が。今ここで粛清してやる」

 

ステインが刃を突き立てようと行動する。躊躇いのない冷たい一撃が喉に突き刺さらんとする時、目の前に突然と少女が現れた。たった数秒で彼女はインゲニウムを守ることに成功した。

 

「.....はぁ。お前、いつ現れた? それにそのジャージ....雄英高校の生徒か。体育祭サボってまで何しに来たんだか知らないが、子どもが立ち入っていい領域ではない」

 

少女は突き刺そうとするステインの刃を指2本で挟んで止めながら、返事を返した。

 

「あいにく私は異常なんでね。サボってもとある理由で多分、退学にはなんないんだよ。いや、むしろ政府に拉致られるかもしれないが......。まぁ、なぜ来たかというとな、てめぇが我らが委員長であるの飯田くんの兄を狙ったから潰しにきただけだ」

 

突き刺そうとする力が強くなる。

 

「子どもがイキがるんじゃあない。今なら見逃してやる、死にたくなければさっさと逃げるんだな」

 

「ヒーローが敵前逃亡なんてするわけねぇだろ。ま、私は世間一般的なヒーローと呼べるほどの善行は積んではないが、目の前の敵を逃がすなんてのはマイポリシー違反。狙った敵は確実に潰す」

 

「.....どうやらお前は贋作のようだな。理由を作って暴れたいだけの狂ったヒーローなんかに、俺を殺すことはできない」

 

ステインは殺意をぶつけながら話を続ける。

 

「この世に必要なのはお前みたいな贋作共ではなく『真のヒーロー』。金や名誉のためだけに働くやつらなどヒーローの名を語る資格は無い。お前もだ、雄英生徒」

 

ステインが熱弁をかましている間、私は耳の穴をほじくり、正直どうでもいいという顔で耳くそを捨てた。

 

「あーもう、贋作だのなんだのやかましいわこの思想犯。真のヒーローを取り戻すためだったら殺人を犯してもいいなんて考えは人間じゃあない。つまりテメェは私と同じ、『狂人』だ。狂人は黙って社会の隅っこで大人しくしてろ」

 

そう言った直後に一瞬でステインの腹に蹴りを食らわせ、ある程度吹っ飛ばして距離を置いた。

 

「ガハッ!! 貴様.....!!」

 

「まずさ、そんなに真のヒーローを取り戻したいならテメーが成れよ。なんで他人に価値観を押し付ける? 成れないからと諦めたからこんな悪役ぶってんじゃねーのか? お前はワンパンマンの『ガロウ』さんよりタチ悪いぞ。既にお前は社会人として超えてはならない一線を越えた犯罪者、真っ当な正義を貫きたいなら社会人らしく生きろ。」

 

「ま、とはいえこれは私にも言えるんだけどね。ヒーロー免許証もないのに凶悪ヴィランを警察署の前に捨ててるんだから。けどな、一線を越えても許されることがあるんだよ。大事なことだからメモとってな画面の前で、いいな?」

 

 

 

「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」

 

 

 

 

「...」

 

ステインさん黙ったな。これ効いてるな。

 

「ということで犯罪がバレたテメーは立派な犯罪者。さようならステインくん、この手柄はインゲニウムくんに渡してやろう」

 

さて、言論で精神攻撃をした後は物理で殴るとしよう。私は御託を並べるのは得意ではないんでね。ダメなら殴れ、パワーが全てだ。

 

そのまま動かないでいてくれたらノックアウト出来たんだが、流石にそこまで親切ではないステイン。壁から壁へ器用に乗り移って避けられた。さてさて。

 

今回の目標。ステインを殺さず、捕獲して警察署の前にぶん投げる。そしてその状況を見たインゲニウムの記憶を少々弄り、後はオリジナルの指示まで見つからないようにする。これでオーケー。

 

「さっきから何言ってるかさっぱりわかんないけど.....とにかく.......あの男から逃げろ!! 殺されるぞ!!」

 

「あー、ちょっと眠っててねインゲニウムさん。『ラリホー』」

 

すまんな、ヒーロー。寝てろ。

 

「言うことが滅茶苦茶だな雄英生徒。だがお前の言うことの序盤は正しい。真のヒーローに成れなかった俺は、生きる価値無し。だからこそ、俺というヴィランは、あらゆる贋作を駆逐した後、真のヒーローに倒されてこそ野望は達成する。真のヒーローだけがヒーローとして生き残る社会が! 完遂するのだ!」

 

「あぁ、ダメだこれ。やはり狂人だよテメー。同族嫌悪とはこういうこと言うんだなぁ。さっさとくたばれ」

 

私は両手を合わせ、地面に手をつけた。すると地面がうねるように変化し、コンクリートの柱や刃が形成され、次々とステインに襲いかかる。

 

「瞬間移動とコンクリートの操作......、お前の個性は......はぁ、ハイブリットか?」

 

狭い路地裏の中を巧みな動きでかわしながら問いかけるステイン。

 

「正直、ハイブリットどころの次元じゃねぇけどな!!」

 

ステインの個性は既に認知している。相手の血を舐めると、その相手の動きを一定時間封じる個性、『凝血』。しかし私というラスボスには状態異常は効かん。よって問題なし!!

 

厄介なのはステインが身につけた独学による戦闘技術。子供の頃からヴィランと戦っていた私とはいえ、能力に頼りきりだったからガチの戦闘技術はあまり身につけてはいない。能力の使い方はまぁまぁ上手いと思うけどね。頑張ったし。

 

頼りきりとはいえ能力自体が強いからそっちも問題ないか。

 

「隙ありだ」

 

刀が自分の右腕のすぐ側まで迫ってきている。だがな、

 

「遅い」

 

久しぶりに個性『鉄塊』を使用し、ステインの速度を上回るスピードで刀を掴んだ。みんなは覚えているだろうか、この個性を後書きで紹介したとき、「ステイン涙目」と書いたことを。この個性は鉄に五本指で触れるとその鉄をボール状に丸められる能力。刀はもちろん鉄だよなぁ?

 

「なッ!? 俺の刀が......ッ!!」

 

ステインの刀はグチャグチャに丸められ、もはや刀という原型を留めていない姿に変わり果てた。これでやつのメインウェポンは消え失せた。後はナイフとかの飛び道具を隠し持ってるから、それを消し去りたいなぁ。

 

「個性が3つ......?」

 

3つどころか10万以上はある。

 

「知ったところでなんの意味は無い。大人しく負けろ、ヒーロー殺しさん」

 

「チッ、厄介極まりない.....」

 

ステイン兄貴が困惑気味ですねぇ。もう少し畳み掛けるか。

 

「個性『ゴム』!! ゴムゴムのバズーカ!!」

 

両腕をゴムに変えた私は距離を置くステインを追撃する形で攻撃する。やってみたかったよゴムゴムのバズーカ。

 

しかしステイン、懐から投げナイフを取り出し、私の腕を引き裂こうと構える。けどなぁ、そんな小さな武器で何ができる? こちとらやろうと思えばなんでもできるご都合主義の塊やぞ!!

 

「腕を分離、からの腕を中心にして魔法陣の形成、拘束系魔法「バインド」発動。捕獲と同時に私の発動のタイムラグを無効化!! 」

 

淡々と述べていったことが全て実行され、何も出来ずされるがままのステイン。この勝負、もらった!!

 

「さらに固有結界発動!! さらにギラグレイド! マヒャデドス、重力渦(グラビティメイルシュトローム)! さばきのつぶて!!」

 

固有結界で街への被害をゼロにした後、範囲攻撃×4で確実に潰す。これで生き残ったら素直に凄いわ。無理だと思うけど。

 

迫り来る四重範囲攻撃を前に、ステインは為す術なく飲み込まれ、光の中に消え去っていった。所詮はこの程度、でも死んでしまったらちょっとアレだから、蘇生しとくか。

 

 

やったか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

〜 同時刻 雄英高校体育祭にて 〜

 

 

「やはりお前だったか最後の試練」

 

エレキトラップによって全ての生徒を足止めし、現在最後の試練とやらに会うことが出来た。まぁTORE! と言ったらこれだよなぁ。

 

「『鉄球の試練』!!」

 

知らない人に教えてやろう、『鉄球の試練』とは! ボックス内にある2本の棒の上で鉄球を転がし、青い筒に落とすと鍵が出てくる。その鍵を鍵穴に指すことでこの試練はクリアという単純なゲームなんだが、片方の棒が微妙に湾曲してるから鉄球を落としやすいんだよね。難し。

 

とりあえずやってみる。棒に触れた途端、鉄球が1個出てきた。このゲームのコツは絶妙な開きで鉄球を制御すること。なんて、言えば簡単だけどできない。なんだこのクソゲー、はよくたばれぇぇぇええええええええええええええ!!!!!

 

 

 

〜 3分後 〜

 

 

「はぁ......はぁ、やっとできた」

 

自分自身の力で乗り切ったぞ鉄球の試練。能力を使えば即行で終わってたかもしれないが、自力でやったほうがなんかカッコイイじゃん!! いやー、良かった良かった。

 

鍵を手に入れた私はゴール直前に設置された鍵穴に鍵を差し込む。すると、近くで待機していたスタッフさんが両手で大きな丸を作り、ゴールOKのサインを貰った。ふぅ......長かったな、障害物競走。こんなんに2話も使うと思わなかったよ。

 

右腕を掲げながらゆっくり歩いてゴール。なんだろう、清々しさが自分の体を駆け巡っているね。スポーツをやっている人の中には、この気持ちを味わいたくて続けている人もいるかもしれない。前世でひとつくらいスポーツやってもよかったな。

 

「私が一位だぁあああああああああああ!!!」

 

 

「1年A組結依魔理沙!! 圧倒的スペックで障害物競走一位を獲得ぅううううううううう!!!」

 

「最後の試練は個性を使わずに乗りきったな。おめでとう」

 

 

あぁ、いつも辛口な相澤先生が私を普通に褒めてるのがちょっと感動的。あ、やばい、涙がちょっと溢れきた。

 

 

「泣いている暇があったらさっさと個性を解除しろ。お前はゴールしたんだからこれ以上の妨害は禁止だ。」

 

 

やっぱいつも通りだったよあの不健康ティーチャー。最後まで締まらねえなオイ。

 

「へいへいわかりましたよ。全能力解除&無効化」

 

これで私が作ったトラップが消え失せたわけだ。後は頑張れクラスメイト諸君。私はそうだな、紅茶セットでも用意して待っててやろう。

 

 

 

 

しばらく紅茶を啜っていたら、みんな帰ってきた。そして区切りをつけたミッドナイト先生が順位を発表。なんか最後あたりの話のテンポが早いな。きっと言葉選びが辛くなってきたんだろう。頑張れ語彙力。伝われこの思い。

 

一位はぶっちぎりで私。やったぜ。二位は轟くんが勝ち取った。そして三位は爆豪と緑谷くんで同着。その後の面子は原作通りでB組の塩崎茨さん、骨抜くん、飯田くん、常闇くん......ってな感じだな。

 

「予選通過は上位40名!!! 残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい! まだ見せ場は用意されているわ!!」

 

まて、私がナンバーワンとして君臨し、その後の後ろの面子が原作通りならば、原作ではギリギリ予選通過できたやつはこの世界では落ちるってことだよな? そして原作でギリギリ通過できたのはあの野郎、「青山優雅」だ。ということは? アイツは予選落ちってことだよな? いやっほい!

 

「そんなことないよマドモアゼル☆」

 

「なっ、何ッ!? どういうことだテメェ!!」

 

「僕の順位は38位☆ 予選はちゃんと通過したよ☆」

 

「なんだとクソがァぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁぁあ!!!!!!!」

 

私は不覚にも会場のど真ん中で発狂してしまった。観客や先生方から「うわぁ...」とでも言いたげな目線で見られているが、気にしない! むしろ青山が予選通過できたことに驚きが隠せなくてそっちのほうを気にしたい!! あの野郎、タグ補正かあぁん? それともギャグ補正で生かされてんのかテメェ!! いいだろう、そっちがその気なら私にだって考えがある。お前が二度と登場するという『真実』に到達できないよう、スタンド『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』のレクイエムの刑に処してやr

 

 

「そして次からいよいよ本選よ!! ここからは取材陣も白熱してくるよ! キバリなさい!!!」

 

魔理沙のレクイエム衝動はミッドナイトの司会進行によって遮られた。おのれポルナレフ。

 

「さーて第二種目よ!! 私はもう知っているけど〜〜〜〜....何かしら!!? 言ってるそばから」

 

モニターがまたスロットのように回転し、生徒達の注目が集まる。ま、私は知ってるから問題ない。ただ、誰と組めるかなんだよなぁ。

 

「コレよッ!!」

 

モニターにでっかく表示されたゴシック体の文字。それは『騎馬戦』、あのむさ苦しい男共が熾烈な戦いを繰り広げる体育祭定番の競技。燃えてきた。

 

二人から四人のチームを組み、騎馬をつくる。基本的には普通の騎馬戦と同じルールだがちょこちょこ違う部分もある。ひとつ、前の障害物競走の結果にしたがって各自にポイントが振られること。ふたつ、そのポイントは上位にいくほど高くつくこと。三つ、一位は1000万ポイントが振られること。四つ、個性はもちろん使用可能。五つ、結依魔理沙は増強系個性以外使用禁止!!

 

なんで増強系はアリなのかということについてはまぁ大体予想できる。私の素の身体能力が一般的な増強系個性と変わりないことが原因なんだろう。個性を隠すのは諦めたけど、せめて素の身体能力だけでも隠蔽しようというのが雄英の判断か。ドンマイ。

 

さてさて盛り上がってきたよ体育祭!! 私はまだまだこんなもんじゃ足りねぇぞ!!

 

 

 

 

 

 

第二回戦が幕を開ける。

 




カッチョイイ戦闘シーンを上手く伝えたい今日この頃。戦闘狂タグがある以上、そこだけでも上手くなりたいなぁ

久しぶりにスキー行ってみたら、スキーの感覚を忘れてしまい、ほぼ初心者と同じになったというのに間違って上級者コースに行って死にかけました。

いろいろ紹介

個性『凝血』:ステインの個性。相手の血を舐めることでその相手の動きを封じる。血液型によって効果持続時間が変わる。

個性『ゴム』:さしずめゴムゴムの実。

バインド:イメージは仮面ライダーウィザード。魔法陣から複数の鎖が出現して相手を捕える。

固有結界:プライベート空間。使用者と使用者が許可したものだけが入れる結界。そんな感じ。

ギラグレイド:ギラの最終形態。全体に炎を撒き散らす。

重力渦:久しぶりのオバロ魔法。ブラックホールみたいなもん。

さばきのつぶて:アルセウスのみが覚える技。裁きの時が来た......ダイオオオオオオオオオ!!!


そーげんのはなー♪ なんたらフンフンフーンふん♪






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騎馬戦・オブ・ナイツ(31話)



この小説ももう後半戦真近。あと半分書き終えるにはいくらかかるんだろうか。長いだろうなぁ。



ジェビルクソ強い。しかしサンズはもっとエグい。けどジェビル可愛い。もちろんサンズも可愛い。




 

 

 

騎馬戦、それは男と男の意地と努力をかけた血で血を洗うサバイバルデスマッチ。まぁ私は女だが元男、意地の一つや二つはある。むしろ激しい戦いをしたくて禁断症状が出そうだ。抑えよう。

 

なんだか分身のほうはステインと接触したっぽいし、こっちも第二回戦張り切って頑張ろう。増強系縛りだがノープロブレム。増強系だけでも私は全盛期のオールマイト並の馬力は出せる、きっと。いや、やっぱりわかんないけど。

 

自分の発言にデジャブを感じつつも、私はとりあえずいつものアレを口ずさもうとした。

 

 

前回のあらすじ。鉄球の試練を乗り越えた結依魔理沙はついに一位を獲得! 紅茶を啜りながら待機していたら始まっちゃった第二回戦!! 内容はどうやら騎馬戦らしく、障害物競走の時と同じ個性アリ。ただ、ちょっとだけ待ってほしい。前回の騎馬戦のルール説明で言い損ねた部分が少々ある。

 

ひとつ、個性はアリだが、無理やり騎馬を崩しにかかる行為は禁止。あくまで『騎馬戦』だからな。

 

ふたつ、ハチマキは取られても失格にはならない。ゼロポイントでもフィールド上に居ることができるんだな。

 

みっつ、騎馬はどんな組み方でもOK。三人の騎馬の上に騎手という普通の組み方も、一人の騎馬の上に一人の騎手とその他何名か乗ってもいいし、自由自在。

 

 

というわけでさっそく誰かと組もう。障害物競走の結果によって一人一人にポイントが書かれたハチマキを渡されるんだが、一位をとった私はなんと1000万ポイント。死守すればまたもブッチギリで一位を取れるんだが、その分相手から確実に狙われるデメリットがある。デメリットがあまりにもデカいから、私と組もうとする人なんて極小数しかいn

 

 

「師匠!! 組みましょう!!」

 

「だと思ったよ緑谷くん。けど増強系が二人ってアンバランスな気がするんだが.....」

 

ちょっと火力盛りすぎな気がするなぁ。先にヒーラー的立ち位置の人を手に入れて、余ったら緑谷くん誘おうかなと思ってたんだが......

 

「大丈夫ですよ師匠。僕と師匠のデトロイト・スマッシュなら大抵の人は為す術なく吹き飛びますよ!!」

 

自信満々に目を輝かせる緑谷出久。違う、そうじゃない。

 

「いや、そうじゃない。攻撃力じゃなくてどんな状況にも耐えうる適応力が欠けt」

 

「個性!! 筋肉!! フルパワー!! パワーがあればなんでも出来る!! 一、二、三、だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

緑谷は何かが吹っ切れたのか、それともアントニオ猪木の亡霊に取り憑かれたのか、細マッチョな体をアピールしながら大声で叫び始めた。

 

「おいぃいぃいい!? どうしちゃった緑谷くん!? なんでそんな脳筋なの!? 私のせいでこんなにキャラ崩壊が進んでしまったのか!?!?」

 

割とガチで心配した。

 

「すすす、すみません。かっちゃんがあまりにも強かったからつい興奮しちゃって......。無理矢理にでも師匠と組んで、また最初から学ぼうと.....」

 

フッと元に戻る緑谷出久。良かった、元に戻ってくれて。あのままだったら緑谷くんはきっと他の人たちから冷ややかな目線を送られてたぜ。

 

「......そうならそうと言えばいいものを。別に嫌とは言ってないんだから......」

 

弟子(自称)の勢いに押し負けそうになった結依魔理沙。しかしこれでチームは二人、もう攻防に関しては盛りすぎだから、後はサポート役をやってくれそうな人.....

 

「デクく〜ん! 結依さ〜ん! ウチと組もー!!」

 

「麗日さん!!」

 

「あ、お茶子ちゃんだ。いいのか? 私、1000万ポイントだから凄く狙われるぞ?」

 

やった、原作の流れに戻りつつあるぞこの世界。お茶子ちゃんはサポートにもってこいの機動力持ちだからな。個性『ゼログラビティ』は個人的にありがたい。だがしかし、ここは敢えて謙虚に振る舞うことで相手を刺激し、メンバー加入の意志を増長させる。これが我が結依家一子相伝奥義、『ジャパニーズスタンス』だ。

 

「いいのいいの。クラスでめっちゃ強い二人がいるし、何より......お友達とやったほうが楽しいじゃん!!」

 

麗日の純粋な気持ちに心打たれる脳筋二人。何がジャパニーズスタンスだ、友情のほうが百億倍尊いわ。

 

「......師匠、僕、人生で初めて女の子の笑顔を頂きました。もう死んでも悔いはありません」

 

「え.........?」

 

緑谷がわなわなと震えながら言った。人生で初めて......? ねぇ私は!? 私、ノーカウントか!?

 

「ちょ、それ、遠回しに私を侮辱してるよな!? なめんなよ私だって笑顔できるんだから!! 女の子だし!!」

 

ほら......と言いながら無理矢理笑顔を作る魔理沙。しかし、どんなに口角を上げようとしても顔が真っ黒なので、緑谷の瞳に笑顔が映ることはなかった。

 

「とにかく! あと一人探さんと.....」

 

麗日はキョロキョロと辺りを見回す。そろそろ人数を揃えないと作戦会議ができないし、何より他の人達は既に作戦会議を行っている。あともう一人、あともう一人サポート役がいてくれればバランスの良いチームができる。

 

「いーたいーたいたー!!! 私と組みましょう! 一位の人!!」

 

突如としてダッシュで駆け寄ってきた少女。顔的にヒーロー科の者ではなく、ヘンテコな眼鏡と謎のバックパックを背負ったその姿は、まるでポンコツ発明家のようであった。

 

「君、だれ?」

 

首を傾げる麗日お茶子。全くの赤の他人の登場で困惑するお茶子と緑谷だが、その赤の他人さんは初対面にも関わらず流暢に自己紹介しだした。

 

「私はサポート科の発目 明(はつめ めい)! あなた方のことは全くもって知りませんが、その立場を利用させてください!」

 

あぁ、やっぱり来るか営業マン。いや、営業ウーマン。

 

「.....まぁ知ってるけどあえて聞こう。なんで私の立場を利用したいんだ? デメリットしかないし、何より初対面だから仲良いわけでもないのに」

 

念の為私はエンジニアさんに疑問をぶつける。すると彼女はフフンとドヤ顔をしながら質問を返した。

 

「理由ですか...。それはですねぇ! 一位の人と組めば必然的に私への注目度もうなぎのぼりじゃないですか!! するとですね、私のドッ可愛いベイビー達がですね、大企業の目に止まるんですよ!! それってつまり大企業の目に私のベイビーが入るってことなんですよ!!」

 

ペラペラと瞬きもせずに喋りきった発目明。あまりの早口に聞き取れなかった魔理沙は、途中から大賢者に録音してもらい、暇になったためイメトレをしていた。ベイビーが大企業の目に入るって.....、なんか......、エロいな。

 

「ちょちょちょちょっと待って? ベイビーが、大企業? 何言ってるかさっぱりわからへん」

 

聞き取ろうとする意思はあるものの、早口過ぎて聞き取れなかったお茶子。聞き取れたのは赤子の意であるベイビーと大企業という謎単語。誰だって困惑するだろう。

 

「もちろん! あなた方にもメリットはありますよ!! サポート科は自分で作った発明品は持ち込みOKでしてね、あなた方の個性にあったベイビー達がきっとあると思うんですよ!!」

 

「ウチの話......」

 

お茶子の疑問をかき消し、話を続ける発目明。止まることを知らない営業ウーマンは、既に自分の世界に入って何も聞こえてない魔理沙に向かって交渉をする。

 

「ウチのベイビーは可愛いですよ!! 特にこのバックパックはとあるヒーローを参考に独自解釈を加え......」

 

発目が何か言いかけた時、緑谷のヒーローセンサーがビンビンに何かを感じとった。

 

「それひょっとしてバスターヒーロー『エアジェット』!? 僕も好きだよ! 事務所が近所で昔ね....」

 

あまり時間に余裕がないはずだが、緑谷は久しぶりにヒーロー談議ができることに喜びを感じてしまい、どんどん話が進む。

 

そしてそれを遠くから見つめるお茶子と、イメトレが完了したためお茶子と一緒に緑谷を遠くから見つめる結依魔理沙。なんだこの疎外感は。中学三年の時ぶりだぞ。

 

「......お茶子ちゃん、作戦会議しようか。あいつら抜きで」

 

「せやな」

 

心のどこかで合致した私達は、黙々と作戦を立てる。別に寂しくなんかないし、お茶子可愛いし。作戦会議大事だし。

 

 

あ、そういえば......

 

「サポート科のアイテムを勝手に改造するのはルール上アリかな......?」

 

 

我ながらセコいこと思いついた私は、楽しそうに話している二人を横目で見つつ、こっそりベイビー共を改造するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の青年が呟く。

 

「ここにいるほとんどがA組ばかり注目している。そしてA組のやつらも鉄哲の言う通り調子づいちゃって......、ほんと困るよね」

 

「特にあのA組の暴君女。僕の個性の苦労を全て無視したかのような個性......正直言ってうらや解せない」

 

「こうなったらとことんA組のやつらに思い知らせてやろう。ヒーロー科B組が予選で何故、中下位に甘んじたか...。B組の戦略を思い知れ」

 

とある謎のB組男子のセリフを聞く者は、この時誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 15分後 〜

 

 

「おいイレイザー、起きろ! もう12組の騎馬が準備万端で正座待機してるぞ!!」

 

「......んん。......なかなか面白ぇ組が揃ったな」

 

解説役の復活を確認後、マイクは騎馬戦のスタートを告げるために、腹に力を込めて精一杯喉を掻き鳴らした。

 

 

「さぁ始まるぞこの時が!!! 障害物競走で生き残った42名が血と汗と涙を己に滲ませ、徒党を組んで争うチームデスマァァァァッチ!! 燃やせ精神! 仲間を信じて突き進め! 勝ち取るは栄光か否か!! さらに向こうへ....プルスウルトラァ!!」

 

「あなた達準備はいいかしら!?!? それでは二回戦、開始ッッ!!!」

 

 

〜 結依チーム 〜

 

 

「緑谷くん、お茶子ちゃん、頭のおかしい発明バカ、絶対勝つぞ!!!」

 

「「おー!!!」」

 

「えっ、あの、バカって私ですか!? ちょっと 訂正してください!! 私はバカじゃありません! ドッ可愛いベイビーが大好きで大好きなごく普通の一般生徒です!!」

 

「うるせぇ!! 自分の今までの行動を振り返って大人しく反省してろ!!!」

 

 

 

〜 爆豪チーム 〜

 

 

「結依には協力してもらった恩はあるが.....、そんなの関係ねぇ。アイツは俺が狩る」

 

「でもよ爆豪、わざわざ最難関の壁から1000万ポイント奪うより、他の人から地道に奪っていったほうが決勝戦まで残れるぞ?」

 

「そうだよ爆豪! 無理しないほうが得策だよー!」

 

「だってよ爆豪。ま、俺はどっちでもいーけどな」

 

「うるせぇ!!!! 完膚なきまでの一位を取らなきゃ意味ねぇんだよ!!!! 俺はボサボサもデクも半分野郎も全員ぶっ潰して一位を手に入れる、絶対だ!!」

 

「爆豪......、男らしいぜッ!!」

 

 

 

〜 轟チーム 〜

 

 

「俺がお前らを選んだ理由は.....、このメンバーが比較的最もバランスのとれたチームだと判断したからだ。上鳴は左翼で発電し、敵を近づけさせるな。八百万は右翼、絶縁体やら防御・移動の補助。飯田は先頭で貴動力源もといフィジカルを生かした防御.....」

 

「なら、轟くんは氷と熱で攻撃・牽制ということか」

 

 

「......いや」

 

 

「戦闘において(ひだり)は絶対に使わねぇ。たとえ相手が......結依でもな.......」

 

 

 

それぞれの思惑がぶつかり合う第二回戦。勝つのは暴君、結依か? それとも異形に近づいた爆豪か? はたまた半冷半熱イケメンの轟か? 試合の行方は如何に......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて31話が終わりそうだけどよぉ!! まだまだ続くぜリスナーボーイ&ガール!!! 血で血を洗うサバイバルはもう始まってんだぜ!!!!」

 

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

 

 

ちっ、このあたりでお開きにして次の話は来週に持ち越そうと思ったがダメだったか。騎馬戦・オブ・無イツ......という巧妙な洒落を噛まして、一人でクスッと笑いたかったんだけどなぁ。

 

始まってしまったものは仕方ない。構えるとしよう。ま、この騎馬戦は実質、私が持っている1000万ポイントの奪い合い。他チームからチマチマとポイントを稼ぐより、この1000万ポイントのハチマキをひとつ手に入れるほうが楽に決勝戦への切符を手に入れられる。けど、この世界には私という異常な強さを持った存在がいるんで、相手にとって1000万ポイントの獲得は他チームからチマチマ奪うより至難となるだろう。

 

したがって大抵のチームは私らを狙わず、別のチームを率先して狙うのが安定するな。それでも私らを狙ってくるヤツといったら、力を計り間違えたヤツらか、爆豪みたいな因縁のあるヤツらくらい。もしくは私らを倒す算段のあるヤツらか......、怖いねぇ。

 

とにかく私らのやるべきことはそーゆー奴らを対処してなるべく逃げ切ること。万が一を考えて、1000万ポイントを奪われても問題ないくらいのポイントも稼いでおく。そうすれば多分、決勝戦進出はいけるでしょ。きっと。

 

「おっと......、あれは」

 

誰かがこっちに向かってくる。爆豪か? いや、アイツの髪の毛はボンバーマンだから爆豪じゃねぇ。しかもなんか体がピカピカしてんな。金属光沢?

 

「おうおうおう!! 暴君だがなんだか知らねぇけどよォ、障害物競走の時の意味不明な電撃トラップが使えないのならよォ!! 何も怖くはねーぜ!! 1000万ポイントよこせぇ!!!!!」

 

違った、アイツはB組の鉄哲徹鐵だ。二週間前にA組に凸してきた人達の中にもいたよなアイツ。しつこい男の子は嫌われちゃうぞって何回言えばいいんだ。

 

しかも鉄哲の野郎、私がほとんどの個性を封じられているからワンチャン勝てるとか思ってやがるな。絶対。わかめ、私が今まで何の為にいろんな敵と戦ってきたと思う? まぁ、大半の理由は戦闘狂だからなんだが、そうじゃない。大賢者に頼らなくても自分で解決できるようにするために今まで訓練してきたんだぜ? それを知らんかったのがテメーの敗因だ。

 

「師匠、来ますよ!!」

 

「結依さん!」

 

「わーかってるって、こういう頭が単純明快石頭な奴はこうする方がいいんだよ!!」

 

私は両手を前に突きだし、人差し指を親指に引っ掛けて力を溜める。そう、みんなご存知のデコピンをやろうとしているのだ。上手く騎手の両目に狙いを定めて......

 

「ダブルデコピン風圧目潰し!!」

 

解放されたエネルギーが指を通して風に伝わり、弾丸並の速さで鉄哲の両目に襲いかかる。角度良好、確定演出、逃れられないカルマァァァ!!!

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああ目がア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"アア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!」

 

「鉄哲どうした!? 大丈夫か!?!?」

 

「もちろん鉄哲だけじゃないぜ? そぉい!!」

 

私はまた力を溜めてデコピンを放った。今度は鉄哲を心配した騎馬の人の両目にバチコリ風圧を贈る。プレゼントだ、受け取れ。

 

「鉄t...ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙目がァあぁあぁあぁあぁああああぁあぁぁああ!!!!」

 

「よし!! 今の隙だ緑谷くん、お茶子ちゃん、発目バカ! ハチマキを奪うぞ!!!」

 

「バカじゃないです!! そこだけでいいんで訂正してくださいー!!!」

 

鉄哲チームに駆け寄り、すれ違いざまにハチマキを奪い取る。やったぜ、まずは一つ目だ。

 

「よし、逃げよう。発明バカ! バックパックを展開しろ!!」

 

「は・つ・め・め・い!!! ここ! 大事!!」

 

文句を言いつつもバックパック展開ボタンをプッシュする発目明。これがツンデレというやつか...、女の子になったせいか何も感じないな。ちくしょうめぇ。

 

「ケケケッ、逃がさねぇ」

 

まだ諦めきれないB組の鉄哲チームの一人、骨抜柔造が個性を発動した。

 

「うおっ!? 沈むッ!!」

 

彼の個性は『柔化』。生物以外ならばなんでも柔らかくできる能力。その能力のせいで足場が餅のようにデロデロになってしまい、不安定な状態だ。だがバックパックはいつでも起動可能にしているので、脱出は容易だ。

 

「全員! 顔を避けろ!!」

 

展開されたバックパックが起動し、四人の身体が宙に浮く。お茶子ちゃんの個性『ゼログラビティ』のおかげでお茶子ちゃん以外の全ての重量がゼロになり、簡単に浮くことが出来た。正直、お茶子ちゃんの位置が左右非対称だから凄い偏重心で浮いてるけど、ま、ちょっと移動するだけだから大丈夫か。ご都合主義でなんとかなる。

 

「クッソ、サポート科か!! あぁ、目が痛てぇ! しかもハチマキ取られた!!」

 

「追いたいけどもう逃げられちまった。やっぱり先に暴君を狙うのは愚策だったんだよ......」

 

はぁ、とため息を吐きつつ、空を見上げる。

 

「......仕方ねぇ、一旦引くぞ!!」

 

ハチマキを取られた上、逃げられてしまった鉄哲チーム。無理に深追いをすると無駄に時間を消費してしまうのは目に見えていたので、一旦態勢を立て直すことを優先する。

 

 

こうして結依チームは鉄哲チームを上手くあしらい、ハチマキを奪って逃げ切ることができたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、流石魔理沙ね。少し心配してたけど、元気そうで良かったわぁ」

 

 

 

 

「決勝戦でまた会いましょう? 私があなたを迎えに行くわ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不穏が漂う。







特に何も言うことありません。強いていえば、急にお気に入り登録者が増えたことくらいです。でもまた減りそう。


ジェビルさん強かったけど五回目で倒してしまった。サンズの時は40、50くらいコンティニューしたけど、何でだろ。BGMのおかげかな。


ホントはメンバー紹介とトータルポイント数についてここに書きたかったけど、編集完了前に変なとこ触ったために、私の地道な苦労が吹き飛びました。何回同じことやらかしたんだろ、辛い。

というわけで、私の心が復活しだい後書きを追加するので待ってください。




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大乱闘ヒロアカブラザーズSP(32話)



ブロスタを最近始めました。奥が深い。ムズい。


適当に書店に寄ったら、ポプテピピックの新刊を発見。ビックリして笑いが漏れてしまったゾ。



チーム紹介&初期ポイント数掲示(なるべく簡潔に)


結依チーム:騎手の結依魔理沙、前衛騎馬の緑谷出久と後衛騎馬の麗日お茶子と発目明の四人。初期ポイント数は1000万と345ポイント。

鉄哲チーム:騎手の鉄哲徹鐵、前衛騎馬の骨抜柔造と後衛騎馬の塩崎茨と泡瀬洋雪の四人。初期ポイント数は705ポイント。けど魔理沙たちに取られた。

拳藤チーム:騎手の拳藤一佳、でも後の三人が誰なのかポイントいくらなのかわかりましぇん。拳藤一佳ちゃん可愛い。

爆豪チーム:騎手の爆豪勝己、前衛騎馬の切島鋭児郎と後衛騎馬の瀬呂範太と芦戸三奈の四人。初期ポイント数は665ポイント。

轟チーム:騎手の轟焦凍、前衛騎馬の飯田天哉と後衛騎馬の八百万百と上鳴電気の四人。初期ポイント数は615ポイント。

峰田チーム:騎手の峰田実、騎馬の障子目蔵と蛙吹梅雨の三人。初期ポイント数は420ポイント。

葉隠チーム:騎手の葉隠透、前衛騎馬の耳郎響香と後衛騎馬の砂藤力道と口田甲司の四人。初期ポイント数は390ポイント。

物間チーム:騎手の物間寧人、前衛騎馬の円場硬成と後衛騎馬のよくわからんモブラーズで四人。多分、顔が黒いB組の人と原作の障害物競走22位の人。よって初期ポイント数は多分305ポイント。

心操チーム:騎手の心操人使、前衛騎馬の常闇踏陰、後衛騎馬の庄田二連撃と尾白猿尾の四人。初期ポイント数は450ポイント。せっかく高ポイント数順に並べてたのにやっちまったよ。


他にもいるけどモブラーズで固まってるので無し。









 

 

 

鉄哲チームを出し抜くことに成功した結依チーム。1000万ポイントを取られても上位に食い込める程度のポイントを鉄哲たちから奪い取ったので、ひとまず安心。着地も上手くできたから文句なしだね。

 

「総員、周囲を警戒して逃げることを優先するぞ。私と緑谷はデコピン空気砲で敵の接近を妨害、お茶子ちゃんと発目は私たちの動きに支障が出ないようサポートを頼む。」

 

「「「了解!!」」」

 

連携のとれたチームワーク。四人の心が優勝というゴールに向かうために一致団結するこの瞬間、私は今までに体験したことない気持ちが溢れてくる。今までずっと独りであらゆる敵と戦ってきたが、その時に感じる孤独感が一切無い。なんだろう、上手く表現出来ないが......、“温かさ"みたいなのを感じる。

 

心が落ち着いたところで周囲確認といこうか。今、私たちを狙おうとしている奴らは......、ええと.......アレ? 誰もいねぇぞ!? みんな別のヤツらと交戦してこっちに寄ってくる気配が全然ない! えぇえぇぇぇぇぇ......なんでぇ? それじゃ意味ないじゃんか。 ホント何が大乱闘だよ!! サブタイトルを『超お暇ヌベスコブラザーズエスピー』に改名しろ!!

 

結依の心が荒ぶっていたところ、発目は何かに気づいたのか、魔理沙に報告する。

 

「一位の人! 前方から頭が爆発した人達が来ます!!」

 

「あぁ、爆豪か。少し来るのが早かったが、暇だし付き合ってやるか。」

 

首をコキコキッと鳴らし、向かってくる敵を見据えて警戒する結依魔理沙。爆豪ね、アイツ容赦ないからな。いきなり顔面爆破なんてことしてきても違和感が無い。警戒は重要だ。

 

「総員!! 各自戦闘態勢に移行!! 緑谷くん、私と二人で爆豪を対処するぞ!!!」

 

「了解です師匠!!」

 

静まりかえるバトルフィールド。これから始まる激戦に興奮しているのか、手首が痙攣を起こし、心臓の心拍数が上昇する。万が一に備えて発目のサポートアイテム(改造済み)を装着し、完全武装で撃退を試みる。大丈夫勝てる、問題はない。

 

 

 

少しも待たずに爆豪たちはこちらへ全力疾走でやってきた。特に原作との変化は見受けられないが、厄介なのは私が教えてしまった『覚醒モード』。アレをどれくらいまで昇華させたのかをこの目で見極めなければならない。場合によっちゃコイツがこの騎馬戦の中で最難関の壁として君臨する可能性もある。やっぱ教えなきゃよかった。アレ、危ねーもん。

 

「ボサボサァァアアアア!!!!」

 

「なんだよボンバーマン」

 

 

これは俺を鍛えてくれたお礼だ!! 受け取って死ねぇぇええええええええええ!!!!

 

 

「「「「死ね!?」」」」

 

結依チーム全員の声がハモると同時に、爆豪は右腕のみ覚醒させる。真っ黒に変色した右腕を前に突きだし、掌の中心にエネルギーを集中させると、黒い太陽のようなエネルギー球が結依チームの視界を覆った。

 

「ふざけんじゃねぇ!!! それ完全に崩し行為だろーが!!! 殺す気かテメェ!!」

 

「テメェこの程度で死なねぇ癖に弱音吐いてんじゃねぇよボサボサァ!!!」

 

「ちげーよボンバーマン!! 私が良くても他のみんなが危ねーから止めろっつってんだろ!!!」

 

「そんなの俺が知るか!!!」

 

あっ、ダメだこれ。仮に爆豪が私の言葉を受け止めたとしても戻せないくらいにエネルギーが膨れ上がってる。その上今回はアイツ止める気無いからな。もうダメだ、この大会死傷者が出るぞ。私とか緑谷くんとかお茶子ちゃんとか発明バカとか。

 

「結依さん逃げよ!! あんなのまともに食らったらヤバいよ!!」

 

「私はどうなってもいいですがベイビーだけは逃がしてくださいッ!!!!」

 

「ししょおおおおおおあおおお!!!!!」

 

「うっせ! やかましいから落ち着け全員!! いいか、今から私が言うことをよーく聞け。爆豪があの球体を撃ってきたら、私が発目のサポートアイテム(シールド)をぶん投げて防御すr」

 

「却下です!! ベイビー投げるくらいなら私を投げてください!!!」

 

「アホかテメェ!! お前投げたら後衛騎馬がお茶子だけになってバランス崩して失格になるだろーが!! それにアイテムは使わなきゃ宝の持ち腐れだし、ひとつくらい犠牲にしたって別にいいじゃねーか!!」

 

「嫌だ嫌だ嫌だァァアァアァア!!! ベイビーを見捨てないでぇえええええええええ」

 

「はい、もうアイテム犠牲決定! けどアイテムはあの爆撃のベクトルをズラして直撃を避けるためだから完全には防げないことを頭に入れとけ。んで、アイテム投げたら私と緑谷で迎撃!! お茶子ちゃんとバカには申し訳ねぇが踏ん張って耐えろ、以上!!」

 

「ベイビィイイイイイイイイイ!!!!」

 

伝えたいことは全て伝えた。後は成功するかどうかだ。無理だったら......、そうだね、ステインの様子でも見に行くとしよう。

 

「準備はいいかボサボサァ!!!」

 

「あ、ちゃんと待っててくれてたのね。お約束はきちんと守る派なのね」

 

割と紳士だった爆豪勝己。お前やっぱり悪者のほうが似合ってるぜ。ヒーローの変身とか必殺技を待ってくれるとことか、言動とか......。

 

「死ね、『核兵器砲(ニュークリアカノン)』」

 

強大なエネルギー球体から一本の巨大レーザーに早変わり。これが挨拶がわりとか洒落どころの話ではない。街なんて軽く吹き飛ぶぞこんなの。空間系能力さえ使えればいとも容易く解決できたというのに、増強系しか使っちゃいけないとか、いい加減にsayよホンマ!! プルスウルトラって何?(ゲシュタルト崩壊)

 

即行でサポートアイテムをぶん投げた私は発明バカの嘆きを無視しつつ、緑谷くんとタイミングを合わせてスマッシュ攻撃を繰り出そうとする。

 

「いくぞ緑谷くん!! せーn「デトロイト・スマッシュ!!」タイミングズレたよくっそ!! ワンフォーオール50%デトロイト・スマッシュ!!!!」

 

ぶん投げられたサポートアイテムは私の改造によって空中で巨大化し、そこそこ立派な盾となった。そしてそこに緑谷くんのデトロイト・スマッシュと私のデトロイト・スマッシュが盾にぶつかり、ニュークリアカノンを押し返そうとする。だが反動がヤバすぎる上、今の私たちは機動力を重視してお茶子ちゃん以外無重力状態。つまり作用反作用の法則やら何やらのおかげで絶賛後方へ吹っ飛び中。というか空中まで吹き飛ばされた。何だこれ、体育祭怖い。

 

このままでは場外アウトで失格間違いなし。バックパックはあの爆撃のせいで機能しない。お茶子ちゃんも個性関係なく酔いそうなのでさっさと打開策考えろ私!!!

 

「うっ.......ウゲェエェエエエエエ!!」

 

「あかん!! やっぱ吐いた!!」

 

「師匠!! これどこまで吹っ飛ぶんですか!!!」

 

「安心しろ緑谷くん。こういう落下中の時とか吹っ飛んでる時に喋るとな、喋った時間の割にそこまで吹っ飛ばないというアニメ・漫画の法則が....」

 

「だからなんですか!? 早く戻んなきゃ僕たち場外失格ですよ!?!? それどころか命の危険じゃないですか!!!」

 

錯乱した緑谷は矢継ぎ早に言葉を並べていく。まぁごもっともだな。正論オブ正論。

 

「よく考えるんだ緑谷くん。俺達は爆豪の爆風でここまで吹き飛んだ......そうだね?」

 

「そそそそうですけど!!」

 

「爆風が起こったってことは今、騎馬戦ステージは煙に包まれているはずだ。ということはだよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ」

 

「えっと......つまり......?」

 

「今、瞬間移動を使って戻ってきてもバレないってことだよ緑谷くん」

 

「あー」

 

あーって何だよあーって。いいじゃん画期的なアイデアじゃないか。それに私はこの章の序盤あたりで言ったぞ、「ルールはなるべく守る」と。つまりはバレなければ破ってもいいということだ。理解したかボーイ!

 

「というわけでリターン!!!」

 

指パッチンひとつで四人の身体が一瞬で消えた。再び爆豪チームに挑むため、初っ端からエグい火力で攻撃してきたあの爆発さん太郎に復讐するため、彼女らは舞い戻るのだ!!

 

 

「もう.........お家帰りたい」

 

 

誰かの心が折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

「うっわ煙で見えねーぜsmoking!! いったい魔理沙達はどーなったんだ!?!? というかイレイザー、お前のクラス何? どうやったらあんなんになんのよ!!」

 

「俺に聞くな、結依本人に聞け。もう始末書はこりごりなんだよ」

 

「始末書はシヴィー!! 苦労してんなイレイザー!!」

 

やいのやいのと盛り上がる実況者と解説者。しかし、観客側はというとまたも衝撃が走った。雄英の化け物はあの結依魔理沙とかいう人だけだと安心しきっていたのに、ヘドロ事件で有名なあの爆豪勝己が突如として隠していていた力を見せつけ、あの魔理沙に傷をつけるどころか消し飛ばすなんて誰が想像出来たか。否、不可能である。

 

この学校はおかしい。確かに雄英高校は日本ナンバーワンのトップヒーローの輩出高。あの国民的ナンバーワンヒーロー「オールマイト」や、ナンバーツーヒーローの「エンデヴァー」を筆頭に多くのスーパーヒーローを輩出した名門中の名門、それは誰もが周知の事実。

 

しかし、あの二人は桁違いだ。片や生徒から暴君と呼ばれ、底の見えない謎の個性で障害物競走を圧倒した女子、片や中三から実績を残し、太陽のごとき個性で辺り一面を焦土に変えた男子。あの二人が協力したらオールマイトでも負けるんじゃないかと思わせるほどの強さに、全員が呆気を取られていた。

 

しかも噂ではあの結依魔理沙は、雄英の実技入試で触れずに敵を倒したとか、光よりも速く動くとか、怒ると流星群を降らすとか、下手したら地球を滅ぼすとか、普通に考えたらデマと決めつけていい情報が入ってくるのだが、直に見て納得してしまった。さらに現在、結依魔理沙の情報を拡散しようとすると1分以内に運営に消去・BANされるそうなので、怪しさ満点。「日本が核を持たない理由」というタグで吉田沙保里と肩を並べている結依魔理沙の写真なども投稿されていた。

 

 

最初から最後まで何が起こるか分からないこの体育祭に、観客は恐怖を感じつつも、ついつい観てしまうのであった。

 

 

 

それはまるで......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

「熱い!! 爆豪熱い!!」

 

「流石にこれはやりすぎじゃあ......」

 

「これ、失格で済まないぞ......」

 

焦土の上で話し合う爆豪チーム。あまりの熱気に芦戸は足踏みをして地面との接触時間を減らそうとする。

 

「テメェらはアイツのタフさを知らねぇ。この程度の爆発じゃ死なねーし傷もつかねぇ」

 

「でも結依は確か、増強系個性以外の使用は禁止されてるって......」

 

「うるせぇ!! 生きてるに決まってんだろうが!!!」

 

「えぇ......?」

 

結依チームが何とか防ぎきった? のと、セメントス先生が観客への被害をゼロにしたおかげで騎馬戦は未だ続行中。ただし、次また同じようなことをしたら即退場と審判に宣告されたので、爆豪はギリギリと奥歯を噛み締めた。

 

とにかくこの煙が晴れない限り、自分たちは行動に移せないので一旦待機する。

 

「爆豪、その技いつ覚えたんだ?」

 

少なくともUSJ事件の時はその技を身につけていなかったことを切島は知っている。何故なら彼と爆豪はワープゲートの個性を持ったヴィランがA組全員をバラバラに飛ばした時、同じ場所にワープさせられた戦友だからだ。一緒にヴィランを撃退していた時は普通にいつもの爆破の個性を使ったいたのだが....、いったい何処でその技を身につけたのか。

 

「二週間前に結依の野郎から実験に協力する代わりに特訓に付き合ってもらうっつー条件で協力させた。そんでこーなった」

 

「爆豪、お前まさかサイボーグ......」

 

「んなわけねぇだろがクソが!!!」

 

「だよねー☆」

 

軽く事情説明したらサイボーグ呼ばわりされる爆豪。実験というワードが聞こえると大抵の男子は次に改造というワードへ連想し、改造というワードから最終的にサイボーグというワードに繋がる。男はロマンが大好き。

 

と、そうこうしているうちに煙が晴れ、視界が一気に拡がる。果たして結依チームは生き残っているのか、それともホントに消し飛んだか、爆豪は目を凝らす。

 

 

「ふぅ......危ねぇな。マジで死ぬかと思ったぞ。あとほんのちょっとベクトルがズレてなかったら、死んでたな。死なないけど」

 

服がボロボロになりつつも、余裕の表情で現れた魔理沙の姿に、爆豪はここ一番の悪意ある笑みを浮かべる。掌で数回爆発を起こし、個性の動作確認を感覚で行い、じっと相手の動きを観察する。

 

「感想でも言ってみたらどうだボサボサ野郎」

 

どこか得意げに話す爆豪に呆れを感じつつ、やる気のない声で返事を返す。

 

「そうだな、マジでテメェを実験台にしたことを酷く後悔してるぞ。二度と使うな」

 

やめとけばよかった。私並に戦闘狂なアイツをパワーアップさせるのは判断ミスだったな。緑谷くんを強くしすぎちゃったから、爆豪も強くしとくべきだよなーとか安直に考えていた昔の自分をぶん殴りたい。今度は爆豪が異常に強くなったじゃねーか。帰りたい。

 

「今日こそ完膚なきまでにぶっ潰してやるよボサボサ。昔からテメェを叩き潰したいとずっと思ってたんだ、最後まで付き合えや」

 

「はん、上等だよコラ。生きとし生けるもの全ての頂点に君臨するこのスーパー魔理沙様の引き立て役になるがいい」

 

二人の騎手が同時に騎馬を乗り捨て、空中戦に持ち込んだ。私は空気を高速で蹴り、空気抵抗を利用して空中を駆ける技法『月歩』で爆豪との距離を詰め、爆豪は個性『爆破』を応用し、爆発の反作用で空を翔る。置いてかれた両チームの騎馬は、何も出来ないためただ空を見上げて戦いの行方を見守る。

 

空中での精密動作性ならば私が圧倒的有利である。無重力状態はあまり力を入れずとも細かな動きが出来るからな。地上戦以上のアクロバティックを見せられるだろう。

 

ただ、無重力状態のせいで自分は吹っ飛びやすくなっている。爆豪の覚醒モード攻撃を一撃でも貰えば確実に場外へポーンだ。そして自分の攻撃も非常に弱くなっている。質量のないパンチとか普通だったらノーダメなんだが、ご都合主義である程度はダメージが入るのは有難い。がしかし、弱すぎる。何発ぶち込めばノックダウンするかなぁ......。

 

「うおらぁあ!!!」

 

「死ねぇぇぇえええええ!!!!」

 

爆撃を顔面スレスレで避け、一発頬に拳をぶち込む。だがあまりに弱すぎて特に困った様子は見られない。

 

「貧弱なパンチごときで倒せるとか舐めてんのかあぁん!!!」

 

「チッ、やっぱ一発じゃ無理か....」

 

反撃してくる爆豪の右腕。魔理沙は一旦バックして距離を置く。うわ、あーゆー攻撃全部避けなきゃいけないとか辛いなぁ。

 

 

爆豪は空中の精密動作性では魔理沙に劣るが、それをカバー出来るほどの広い攻撃範囲に大火力。そして本人の戦闘センスが噛み合って、爆豪勝己という存在を圧倒的強者へと仕立てあげている。強スギィ!!

 

さらに、爆豪チームと結依チームにはひとつ大きな違いがある。

 

それは空中戦に挑んだ騎手を回収してくれる騎馬の存在がいるかいないかという点。爆豪チームには瀬呂範太がいるため、爆豪が空中で無茶しても回収は可能である。

 

しかし、結依チームにはその存在がいない。原作では常闇踏陰がそれにあたるのだが、常闇はこの世界では別のチームの騎馬として参戦している。よって魔理沙は、自力で騎馬のいる場所まで動かなければならない。

 

それは相手に隙を与えることに等しい。

 

一見、そこまで重要そうな問題じゃなさそうに見える。だが本人達にとっては勝敗の原因となりうるくらいの重要な情報。この点をどうにかしないと、この空中戦で結依チームが勝つ確率はグッと下がるだろう。

 

(どっちが有利かっていえば爆豪のほうなんだよなぁ......。久しぶりの不利な状況、頑張るしかねぇか)

 

「オラオラどうしたァ!!! 逃げてんじゃねぇぞボサボサァ!!!!」

 

爆豪もそのことに気づいたのか、ドンドン攻撃が激しくなっていく。不味い、防戦一方だし騎馬との距離が離れすぎてる。月歩で駆け上がれば問題ないけど、爆豪が嫌というほど引っ付いてくるから逃げきれん!!

 

だが騎馬との距離が離れているというのはアイツも一緒だ。ここでスマブラでいうメテオ攻撃を一撃でもぶつければ、瀬呂が回収出来ない速度で落下して失格!! そうすれば私たち結依チームを阻む強敵は轟チームだけになり、なんやかんやで一位を獲得できるはずだ!!!

 

成せばなる、成さねば成らぬ、何事も、成らぬは人の、為さぬなり

 

「くたばれやァァああああああああぁぁぁ!!」

 

見えた、爆豪の癖が。原作でよく緑谷を倒すためによく使う右手の大振りが。ここで決めなければ私に明日の二文字はない!! まだ騎馬戦全然終わらないのになんか最終決戦っぽくなっているのは事故だ!! うおおおおおおあおおおおお!!!!!

 

「チェストォオオオオオオオオオオ!!!!」

 

私は爆豪の右手の大振りにタイミングを合わせて、蹴りを放った。ただし、この蹴りは爆豪をカウンターで吹っ飛ばすために繰り出したわけではない。これは私のメテオ攻撃に繋げるための土台だ!!

 

爆豪の右手を踏み台にして私は空中で回転しながら空を舞った。ちょっと遅かったら今ごろ右足を爆破されていたが、安定の身体能力で上手く回避。爆豪の右手首が凄い曲がり方していたが、まぁ、ドンマイ。保健室で慰めてやんよ!!

 

格闘ゲームは大抵、攻撃した後は隙ができる。その隙を上手く利用しヒットアンドアウェイをどれくらい完成させたかで勝利が決まる.......と私は思っている。そう、つまりこの勝負は私の勝ちだぁあぁあぁあああ!!!! 割と少ない戦闘で悪かったな爆豪!! 今、楽にしてやるッ!!

 

「天ッ空!!!!」

 

某神剣ラグネル使いのアイクの必殺技を叫びながらかかと落としを繰り出す私。死んだな。

 

 

「遅せぇ」

 

「は?」

 

 

パシッ......と私のかかと落としを受け止めた爆豪。え? あれ、おっかしーな。え?

 

「少々危なかったけどよ、ま、惜しかったな」

 

「えぇ〜?」

 

魔理沙のカウンター天空は物の見事に受け止められ、勝敗の天秤の傾きが一気に逆転。先程まで勝ち確だった魔理沙だが、勝利の女神に見放されたのか、それとも今までの行いが悪かったせいなのか、ここで一気に落ちてしまった。いろんな意味で。

 

「落ちろやぁあぁああぁあああああ!!!!」

 

「クソがァあぁああああああああぁぁぁ!!!」

 

爆豪は魔理沙の右足を掴み、真下へ振り落とす。対応不可能な速度で落下していく魔理沙には成すすべがなく、ただ失格になるのを待つだけとなる。嘘だ......、この私が幼なじみごときに負けるなんて。負けたことなんて1回くらいしか無いのに、こんなヘンテコリン爆発さん太郎に二回目をあげるなんて嫌だ。心底嫌だ。私はアイツに負けるわけにはいかん!!!!

 

魔理沙の激しい思いが伝わったのか、魔理沙に救いが訪れる。

 

「ししょおおおおおおおおあおおお!!!」

 

結依チームの騎馬が魔理沙を助けようと空へ大ジャンプしたのだ。

 

「キャッチ!! すみません師匠!!」

 

「うわぉ、お姫様抱っこぉ」

 

流石は無重力状態。三人が騎馬を組んだ状態で空を飛ぶなど不可能なはずだが、一人を除いて体重がゼロになったのと、緑谷の驚異的な身体能力のおかげで、結依チームの窮地を救うことに成功した。

 

「これ出来んなら最初からバックパックなんていらなかったんじゃ......」

 

そのセリフに突っ込む人は誰一人としていない。突っ込んではいけないのだ。

 

 

何とか体勢を立て直すことに成功した結依チーム。正直肝がヒヤヒヤしたが、なんとかなったぞ。一方、爆豪チームのほうも瀬呂が爆豪を回収したそうで再び二チームが向かい合う形へと戻る。

 

第二回戦が始まる......、なんて警戒していたが、なんとビックリ爆豪チームが別のチームを狙い始めた。おおよそB組のアイツにハチマキを取られたのかな? ふっ、間接的だが爆豪チームに勝ったぞ。間接的だけど!!

 

爆豪チームの情けない姿を見て嘲笑っていた私。しかしこの騎馬戦で争いあっているのは爆豪チームだけではない。他にも大勢のチームが決勝戦に勝ち上がろうと必死にもがいているのだ。

 

そして、ポイントがゼロになって焦りに焦った人々の魔の手が結依チームに襲いかかる。

 

ヒュンッ!!

 

 

突如として死角からの攻撃が魔理沙の後頭部に当たらんとする。けどもう慣れた、こういういきなり来る攻撃は。この第二の人生でどれほどの死地をくぐり抜けたのか覚えてはいないが(自分から首を突っ込んでいくスタイルのせいでもある)、これくらいの速度なら素の反射神経でなんとかなる。余裕で掴める。

 

パシッと左手で謎の攻撃を掴もうとするが、なんだか変な感触が手に伝わる。なんだこれ、ヌメヌメするぞ。ヌメヌメでザラザラだ。今すぐにでもこの手を離したいが、せめて敵の顔だけでも見ておくか。

 

「私の後頭部に恨みのあるやつは......、って蛙吹さん!?」

 

ひゅひゅひゃんひょひょんへ(梅雨ちゃんと呼んで)

 

「オイラもいるぞぉぉおおおお!!!!」

 

襲いかかってきたのは峰田チーム。騎手の峰田にハチマキが巻かれてないということは、アイツら誰かに奪われたな。そんで失うものは無いから一千万を頂こうという魂胆だな。見え見えだっつーの。

 

とりあえず、梅雨ちゃんが可哀想なので手を離す。が、ただ手を離すほどお人好しではないので、風圧デコピンは食らって頂こう。

 

 

というか私も梅雨ちゃん呼びが許されたのね。今週で一番の感動だよ。 +.゚.( °∀°)゚+.゚

 

 

「風圧デコピン!!」

 

 

だが、それとコレは話が別。感動したから手加減するなんてことは絶対しないのが私だ。大人しくたちされぇ!!

 

「障子!! 目をつぶって防御モード!!」

 

もはやトランスフォーマーと化したのか、障子は峰田の指示通りに防御モードへ移行。障子チームの騎馬の組み方は特殊で、騎馬の障子が、他の二人を背中の上に乗せ、さらに個性『複製腕』で複製しまくった腕をドーム状に組み合わせて二人を包んでいるという、反則級の組み方。防御モードは二人を包んでいるアレの隙間がなくなった状態のことを指す。これ完全に戦車のトランスフォーマー。ルール上問題ないのが余計腹立つ。

 

私の繰り出す風圧は確かにえげつないが、戦車の隙間をこじ開けるほどの威力はない。見事に防がれてしまい、正直悔しい気持ち。

 

「デコピンデコピンデコピンデコピン!!」

 

「ふはは聞かねーぜ魔理沙ァ!! 障子の防御モードは完全無欠の最強モード!! 何人たりとも崩すことの出来ない最強の壁なのだァァァ!!!」

 

「うるさいわよ峰田ちゃん。耳に響くわ」

 

チッ、峰田め。安全な場所だからって調子乗りやがって。しかしどうしたものか、何発ぶち込んでもビクともしない。さてさてどうしたもんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九千文字越えたからここで区切るッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






長いぞ体育祭編。まぁ、単行本でも量的に三巻くらい続いていたから長くなるのは当然だよね。


今回はゴリゴリ身体能力で戦っているので紹介はありません。



次回は分身のほうのその後の様子をやります。





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ロード・オブ・ステイン(33話)




舞うは嵐、奏でるは災禍の調べ




私が戦闘系大好きになったのはうごメモの棒バトのせい。カッコイイし曲選ヤバいし泣ける。

そして今回はガチ戦闘だからオールシリアスです。ギャグなんてありません。シリアルアレルギーの方はご注意ください。







 

 

 

〜 保須市路地裏 〜

 

雄英体育祭が激戦を迎えている頃、保須市の路地裏では分身魔理沙とステインとの戦闘が勃発。しかし魔理沙の圧倒的火力の前では為す術がなく、ステインは倒された......はずだが。

 

 

 

「ハァ......ハァ......、お前、いったいいくつの個性を持っているんだ......? そんなに個性を抱えて.....、よくここまでまともに生きてこられたな.....」

 

私の目の前に立っていたものは、人ならざるなにかであった。

 

「そりゃどうも。まともに生きたと胸張って言える自信はないが......、それよりお前こそなんなんだよ。手足縛って集中砲火したのになんでピンピンしてんだよ」

 

 

 

 

 

私は今、猛烈に衝撃を受けている。普通の(個性持ちだけども)人間が私のあらゆる魔法や技をまともに受けて動けるという事実に直面して、体が固まって逆にこっちが動けなくなっている。こいつは緑谷くんや爆豪と違って今日会ったばかりだから、原作崩壊は起きていないはずだ。ま、今現在進行形で崩壊してはいるが、まだそこまで時間は経過していない。おかしい......。何かがおかしい。

 

「その質問に答えることはできねェ。俺自身でさえよく理解していない力だからな......、だが、だがひとつだけ理解出来る。今の俺をつき動かしているのは、己の正義を貫こうとする精神、『決意』が体を動かしているのだとな。理屈をいくら並べたって無駄だ」

 

ステインは自分のグチャグチャに変形した愛刀をそっと地面に置き、ゆっくりと言葉を返した。

 

決意、決意だけでここまで頑張れるものか? 体中に氷の破片が突き刺さってて、ところどころ火傷を負って、左腕一本失って、重力で.....攻撃したのに何故か無かったことになってるし。

 

さっきの出来事をなしとして考えるならば、今のステインは私にとって絶好のチャンスだろう。どっからどうみてもステインは瀕死、立っているのがやっとの状態だ。

 

だが、さっきから私の超感覚センサーが嫌な予感という名の電波をビンビンに受信している。番外編でベル君が異常に強くなった時みたいな、あんな感じの気配が身にヒシヒシと伝わる。絶対に不味い、早めに潰さなければこちらがやられる。

 

「さて、第二ラウンドといこうか、雄英生徒」

 

ステインが戦闘態勢へ再び移行する。なぜだ、なんで立ち向かうのか。その決意で奇跡的に生き残れた、私の圧倒的強さを知った、普通に考えたら次の行動は逃げて体勢を立て直すのが賢明なはずだ。一度助かった命を自ら捨てに行くのか? それとも私が殺さないと見切ったのか? 全くわからない。

 

「......」

 

とりあえず、私は何の変哲もない武器を取り出し、構えた。ステインは身体がボロボロどころか、メインウェポンである愛刀も失っている。私がステインならとっくのとうに絶望の淵に立っている。戦う気すら出ないはずなんだ。

 

「これは、俺とお前のどちらの『正義』が、最後まで貫けるかという勝負だ。加減はしない.......」

 

「あぁ......、わかった」

 

ステインの凄まじい覇気に気圧されそうになるが、私も覇気をぶつけることで上手く相殺する。

 

ダメだ、これは流石に本気を出さなきゃ勝てん。手加減とかなるべく死なせないようにするとか、そんなことする余裕はない。殺す気で戦わなければ、私は物理的にも、精神的にも負けてしまう。絶対に勝つ。

 

「ハァ......、いい勇気だ。じゃあ......こっちから行くぞ....」

 

ステインはクラウチングスタートの姿勢から一気に走りだす。目で追えない、いや、壁から壁へ走って視界から外れようとしているのか。

 

「思考加速一万倍、未来攻撃予測を並列起動」

 

だが、それが私に通用することはない。常人の一万倍の速さで脳みそを回転させれる私に、見切れない攻撃などない。そして未来攻撃予測、この能力は漢字の通り未来で起こる攻撃の軌跡を読み取ることが出来る能力。あみだくじのように交差する運命の中で最も通る可能性のある運命を先に知ることができるのだ。

 

さっきまでは目で追えなかったステインだが、この二つの能力を同時に使用しただけで、まるでプログラムのシュミレーションでも見ているかのように、現在から未来までの全ての動きがハッキリとわかる。

 

真正面から私に近づくと見せかけて、背後に瞬間移動し、手刀で首を刎ねようとする。それがステインの一連の動きならば、私は背後に回ってきた瞬間を狙って潰すとしよう。

 

 

今の私に隙など存在しない。なぜならガチの本気だから。

 

 

予測通り背後に回ってきたステイン。やはり、本気の私に勝てるやつなんてこの世にいるわけがない。いったい何を恐れているんだ私は。ちょっと予想外な出来事で狼狽えるのは、私が異形魔理沙だからか? なら安心しろ私、私は最強の魔法使いだ。

 

ステインが攻撃する前に私は回し蹴りを行う。案の定ステインの顔面に直撃し、路地裏の壁に叩きつけられ、勢い余って壁を貫通した。だが私のバトルフェイズはまだ終了していない。完全にステインを仕留める。

 

「超位魔法発動、『失墜する天空(フォールンダウン)』」

 

念の為に先に固有結界の範囲を拡大し、超位魔法を発動させる。別に未来が見えるんならもっといい方法あるだろ......だと思う人がいるかもしれないが、未来攻撃予測は相手を視認してなければ未来が見えないという弱点がある。だから自分に受ける被害が最小限にかつ確実に潰す方法をここで取る。

 

ただし、超位魔法は発動までに時間がかかる。なので異次元からアインズ様お気に入りの、なんか砂時計みたいな課金アイテムで発動までの時間を全カット。これでも死なないのなら、また考えるしかない。

 

「淡々と進めてしまったが......、ま、許せステイン。お前は強過ぎた」

 

課金アイテムで超位魔法を即効発動。謎の砂時計を砕き、時間を短縮する。

 

パキッという音が耳に届くと同時に、超位魔法がそれに呼応するように、ステインの真上に何重にも重なった魔法陣が形成される。そこら一帯のビル群ごと吹き飛ぶハメになるが、固有結界でどうとでもなるので良し。

 

「美しく残酷にこの大地から往ね」

 

 

ズガドォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

「......ふぅ、さて、確認しに行くか。」

 

圧倒的な威力を示し、予想以上の大破壊を起こした超位魔法。そしてなんか見てると酔いそうな特殊タグのおかげで、ステインは再起不能になった......はずだ。

 

瓦礫と化したビル群の上を歩き、慎重に爆心地へ近づいていく。仮に、もし仮にでも生きていたとして、どこかに身を潜めて私の隙を狙っていた場合のために、いつでも対処できるよう警戒しなければならない。

 

 

「......いねぇーなー」

 

 

塵も残さず消し飛んだか。いや、それだったら初手のアレで既に終わりだ。それとも私の能力を無効化するなんかの効果が切れたか、いやそれはそれで大問題だ。対私用の何かが完成されてたなんて、ステインより厄介すぎる。

 

なんか、考えるのも面倒くさくなってきた。ここら一帯の地盤をひっくり返せば、隠れてるステインもひょっこり出てくんじゃないかな。いや、出てこないわけがない(反語)。

 

「サイコキネシス!!」

 

脳への負担がヤバい超能力を発動。ワンパンマンのタツマキをイメージしながら、効果範囲を決めて一気に掘り返す。

 

激しい音を立てながら、一定範囲に存在していたあらゆる物体がコンクリートもろとも根こそぎ空中へ打ち上げられた。さてさて、どこにいるんだか。パッと見で見つからないってことは、アイツは打ち上がった瓦礫の後ろに身を潜めてる......つまりピンピンに生きてるってことだよな。ハァ......、厄介すぎるなぁ。

 

やはりここは「万能感知」で探したほうが早いと判断した私は、さっそく能力を解放する。

 

 

......がその行動を読み取ったのか、魔理沙の目線の斜め上方向から二本の投げナイフが飛んでくる。

 

「危ね」

 

不意打ちに反応できた私は咄嗟にナイフを素手で弾き、事なきを得る。やはり、やはり生きていたかステイン。超位魔法に耐えるお前はもう人間じゃねぇ、私と同類の域だ。絶対この私がお前を......、

 

 

お前を......、私が............えっと.....。

 

 

次に言うべき言葉が出てこない。頭で湧いてくるワードは『潰す』、『倒す』、『場合によっちゃ殺す』で埋めつくしている。それでいい、それでいいハズなんだが、心のどこかで違和感を感じている自分がいる。

 

 

ダメだ、今は戦闘中だから余計なことは考えてはならん。ましてや自分の命に関わるほどの強さを持った相手だ。気を取られているうちにバッサリなんて、そんなこと私が認めん。

 

 

 

“大いなる力には大いなる責任が伴う"

 

 

“これは、俺とお前のどちらの『正義』を貫けるかの勝負だ"

 

 

“母さん、私はヒーローになるよ"

 

 

 

突如として脳裏に浮かんだ三つの言葉。一つ目はとある父親が、息子に対して放った有名な言葉。二つ目はステインが放った言葉。三つ目は、私が母に放った言葉。

 

 

 

ヒーローとは......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュン

 

 

「は?」

 

私は左肩に違和感を覚えたため、目線を少しズラす。

 

 

一本のナイフが綺麗に突き刺さっていた。

 

 

「チッ、ついさっき余計なことは考えないって言ったばっかなのに.....」

 

痛覚無効のおかげで叫ばずに済んだ魔理沙は、ゆっくりとナイフを引き抜き、超速再生で肩の傷を癒そうとする。

 

 

「.......傷が治らない?」

 

 

超速再生は確かに発動している。だが、一向に治る気配がない。それに血が吹き出ないもおかしい。これはどういうことか。

 

「雄英生徒ォ......」

 

「ッ!?」

 

いつの間にか背後に回られていた。万能感知を使ってはいないとはいえ気配すら感じないとは...

 

私が振り向こうと体を回すと、ステインの拳が私の腹に直撃し、遠くへ吹き飛ばされる。今日食べた朝ごはんを全て吐き出され、気持ち悪い感覚に襲われつつもステインを見やる。

 

 

ステインの姿は変化していた。全身から金色のオーラが溢れ出し、一本の黄金の刀を持ち、武神のような覇気を放ちながらその場所に存在している。これが、ステインの覚醒状態なのだろうか。しかし、覚醒状態で強化されるのは個性のはずだ。爆豪と実験した時、爆豪の『爆破』の個性の威力は増大していたが、本人の身体能力が上がったわけではなかった。だから覚醒状態は制御が難しいのだ。覚醒状態の火力に、自分の体がついていくことができないから。

 

だが、ステインは違う。アイツは俺に一度も個性を使用していない。個性が強化されたような様子もない。しかし、身体能力が異常に強化され、しまいには超速再生を封じる能力を手に入れやがった。これはどういうことだ?

 

〔解。個体名『爆豪勝己』の覚醒部位は『個性』ですが、個体名『ステイン』の場合、覚醒部位は『精神』である可能性が高いです〕

 

いきなり現れた大賢者さん。流石だが、精神が覚醒? つまり......

 

〔己の正義に固執し、強い感情が長時間の間彼の精神を変質させ、さらに個体名『結依魔理沙』から常時発生する『異形因子』とステインの精神が適合し、人の枠を超越した能力を得た......と考えたほうが宜しいかと〕

 

えぇ、それヤバくない? コード000が本気で襲撃したとき並にヤバいぞこれは。面倒事増やしやがって......

 

見渡す景色は瓦礫一色。ついさっきまでは立派なビル群が立っていたはずだが、超位魔法によって半径何百メートル以内は全て瓦礫。まさに戦場と言わんばかりの光景に魔理沙は息を飲んだ。

 

 

「雄英生徒、お前のおかげで俺はここまでこれた。礼を言う」

 

「いやぁ、ヴィランに言われてもちっとも嬉しくないなぁ」

 

「もう俺は昔とは違う。この力を使って腐った社会を塗り替える。自己犠牲を厭わない、利益や名声を求めない、ただ人類のために命を限りを尽くす、最高のヒーローを誕生させるために......」

 

「話そらすな」

 

自分の理想が叶った世界を空想しているのか、その場で空を見上げているステイン。しばらく見上げていたが、現実に戻ってきたのか視線を私に向ける。

 

「どうせこの戦いでどちらかが敗北するんだ...。最後にお前の名を聞かせろ。死ぬまで覚えといてやる」

 

「..........結依魔理沙だ。お前のその貧弱な脳みそに刻み込め、私の名を。」

 

「ハァ......魔理沙。なるほど、お前があの襲撃事件の......。そこらへんの贋作ヒーローとは力も精神も違うってわけか......。殺すに惜しいな」

 

「情けはいらん」

 

「ハハハ、やはりお前はただの高校生じゃあねぇな。乗り越えた修羅場の数々が桁違いって、顔に書かれているからなァ。さて、」

 

「そろそろ始めるとしようか。雄英生徒」

 

ステインが武器を構える。どうやらそろそろおっ始めるつもりだな。こっちも武器取り出すか。

 

取り出した武器は七つの大罪、傲慢の罪『エスカノール』が使う武器『神斧リッタ』。片手斧で重量が非常に重い。だが近接攻撃力ならピカイチの性能を誇り、エネルギーを溜めて一気に放出することも可能。ま、一番はカックいいデザインだ。

 

 

 

 

天気は瓦礫。空中に浮いている瓦礫と瓦礫の隙間から太陽の光が差し込み、点々と地上を照らす。周囲は殺伐とした雰囲気に飲まれ、平和で美しい春とは思えないほどのシリアスに魔理沙は嫌気がさした。

 

 

 

無言で見つめ合う二人。最初に動きだしたのはステインのほうであった。手に持っているのは黄金の刀。これもあのナイフと同じように何かしらの仕掛けがあるに違いない。極力触れないほうがよさそうだ。

 

〔解析完了。強化個体『ロード・オブ・ステイン』は自身の武器に能力『魂撃(ソウルアサルト)』を付与しています。相手の魂に直接攻撃し、自身の思いの丈によって攻撃力が変動する能力だと思われます〕

 

なるほど魂撃......だから血が出ないわけか。直接魂にダメージを与えるということは、死んだ時に発動する自動復活系能力が発動しない可能性があるな。あれは魂が存在するからこそ成し得る能力であって、核である魂が存在しなければ意味が無い。しかも今のステインは己の正義に酷く固執している。ステインの攻撃が私に直撃すれば、ワンチャン一撃で死ぬかもしれん。

 

死ぬ......、今まで縁がなかったものが急に寄ってくると鳥肌が立つ。正直、このまま死んだ方が楽なのかもしれない。けど、私は結依魔理沙だ。ついさっきまで余裕こいてたヤツが急に怖気付くなんて許されるわけない。そんなのチンピラと一緒だ。

 

 

〔オートバトルモードに移行しますか?〕

 

 

親切だなァ大賢者。だがこれは私一人でやる。こういうヤツは正々堂々殴りあってこそアレなんだ。つまりアレです。

 

 

いろいろ考えてしまったが、もうすぐそこまでステインの刀が迫っている。魂撃を対処するにはやはりコイツがいいな。

 

「ザ・ワールド・オーバーヘブンッ!!!!」

 

白色のザ・ワールドが私の前に現れ、ステインの刀を拳で受け止め、その勢いのままステインを押し返した。

 

ザ・ワールド・オーバーヘブン、それは天国に到達したDIOの影響を受けてチート化したスタンド『ザ・ワールド』。チート能力一つ目だ。このスタンドの能力は『真実を上書きする』という能力なんだが、これじゃわかりづらいだろう。わかりやすく言うと、『己が望んだ結果を相手に無理矢理押し付ける』能力だな。本来、発動するはずだった能力を無かったことにしたり、相手の記憶や感情を思うがままに変更するなどといったことができる。『大嘘付き』並に便利な能力だなぁ。

 

これで魂撃を無効化しようとしたんだが、ステインの思いの丈が非常に大きすぎて弱体化止まりになってしまった。なんて野郎だ。

 

まぁでも弱体化したからいいか。これなら直撃さえしなければなんとか耐えられる。

 

「その人型のナニカもお前の個性か?」

 

「へぇ、スタンド見えるのか。ま、確かに私の個性だな」

 

軽く言葉を交わしたら、再びぶつかり合う二人。先に腕を潰したいところだが、上手く流されてしまって事が進まない。ステインの激しい斬撃をザ・ワールド・OHの拳で相殺し、互いに立ち位置が入れ替わりつつも互角の勝負を繰り広げる。

 

緊迫する戦闘。ステインの攻撃を直撃したら死ぬという鬼畜な勝負の中では少しのミスも許されやしない。たった少しの隙からデスコンボに繋がることなど格ゲーなら日常茶飯事である。

 

しかし戦闘しているのはザ・ワールドであって私ではない。いや、ザ・ワールドを使役しているから私が戦っていることに変わりはないが、要は本体がフリーってことだ。ザ・ワールドを盾にして気配を消し、ステインの背後からラッシュを狙うってこともできる。風穴空くくらい本気で殴らなければな。

 

安直だが、ステインが私のザ・ワールド・OHを対処するので精一杯。ステインがどう動こうと私にかかる影響はさほど出ないはずだ。

 

瞬間移動でステインの背後を奪う。よし、ステインは隙だらけだ。今なら......

 

「甘いな雄英生徒....、わざと誘い出したんだよ」

 

剣速が光の速さ並に速くなったステインが一瞬でザ・ワールドを圧倒し、刀が右肩に突き刺さる。スタンドには、スタンドが受けたダメージは本体に転移するという性質があるため、本体の右肩にもダメージが入る。こいつ、わざと剣速を遅くして判断ミスを......

 

ステインの攻撃はまだ終わらない。唐突のダメージに驚き、一瞬怯んでしまった魔理沙をステインは追撃する。魔理沙は神斧リッタでこれを対処しようとするが、二撃ほど掠ってしまった。

 

無慈悲な太陽(クルーエル・サン)炸裂する傲慢(プライドフレア)

 

湖を軽く蒸発させられるほどの熱量が地形を再び作り替える。瓦礫はボコボコと泡を吹き出しながら溶け、空気は灼炎に焼かれ、黒煙が空を覆い尽くす。

 

だが両者ともに生存。魔理沙は熱変動耐性によって、ステインは極限突破した精神エネルギーによって。再び距離が出来た二人は、また引き合うようにぶつかり合う。

 

「魔砲『ファイナルマスタースパーク』」

 

魔理沙は異空間から八卦炉を取り出し、十八番のマスパを繰り出す。極太の破壊光線が地面を抉りとりながらステインに襲いかかり、ステインを追い詰めようとするが、超人的な反射神経で避けられる。

 

「光は常に直進だ。だから避けやすい」

 

「知ってるよ。けどマスパの根源は八卦炉だぜ? 八卦炉は手を加えれば動かせるんだよ」

 

左へ避けたステインに合わせて八卦炉を薙ぎ払う。ただの破壊光線が、超巨大なレーザーソードへ変貌し、ステインを追撃していく。

 

避けるとしたら当然空中だ。土の中なんて潜る時間はなく、かといって地上に居続ければマスタースパークの餌食だからな。

 

だが空中は遠距離攻撃できる人にとっては格好の的。空中動作は何かしらの能力で補助しないと小回りが利きづらい。もしかしたらステインの超常的なエネルギーで何とかされるかもしれないが、とりあえず左手で超亜空切断を撃てるよう準備をしとく。

 

 

「まだ死ねるかァァアアアアアアア!!!!」

 

 

ステインは空中に移動せず、マスタースパークに斬撃を放ち、一瞬だけ出来た隙間を利用して回避に成功した。なんだこの器用な避け方は。素の脳みそで判断できるほど簡単な技じゃねぇぞこれは。

 

「魔理沙ァアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

「ステインンンンンンンンン!!!!!!」

 

ステインの黄金の刀と黄金の神器『神斧リッタ』が激突する。防御は難しくないが、武器的に片手斧と刀は相性悪かったかもしれん。片手斧は刀より火力が出るんだが、リーチが刀に比べて短いから普通の叩き割りや薙ぎ払いが相手に直撃しない。投げようかなコレ。

 

「サテライトキャノン!!」

 

とにかく、私にとって最も有利な状況はステインと距離が離れているときだ。その状況を作り出すために、真上からビームとか撃ってステインを引き剥がさねば!!

 

だが私のサテライトキャノンは、ステインにはギリギリ当たらない。いや、ギリギリの距離で避けている。逃げたり避けたりする時に消費するエネルギーを最小限に抑え込むことで、私と対等に戦っているのか。ここまで来ると敵として敬意を払いたくなるぞ。

 

「テレポート!!」

 

卑怯かもしれないが止むを得ない。ひたすらテレポートで逃げながら、遠距離からズバズバビームを撃つ『テレポートチキン作戦』に移行だ。あばよステイン、ここまでやってのけたのは高校生になってからお前が初だよ。

 

テレポートが成功した魔理沙は早速、『連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)』という雷属性の魔法を行使しようとするが、ここにテレポートすることを読んでいたのか、鋭い斬撃が私の右腕を切り落とした。

 

血飛沫を散らさず空へ舞った私の右腕。お互いに片腕を失った状態となる。そろそろ自分の命も危うくなってきたし、ステインがさっきから神回避に神攻撃の連続で心が折れそうだ。

 

さっき、ステインが神攻撃を成功させたのはテレポートの予測が原因だ。相手の動きを熟知していればできる能力かもしれないが、まだそこまで時間は経ってないはずなのに予測撃ちを成功させるなんてできるだろうか。強過ぎる。

 

「グッ.....、魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)』!!!」

 

私の残された左腕から三重かつ強化された二つの雷龍、すなわち合計六つの強化雷龍が出現した。大きさもなかなかのもので、一体で10〜15メートルくらいありそうだ。それが六体、しかも自動追尾能力も完備。そろそろこっちの攻撃を成功させなければ結構辛い。頑張れ雷龍!! お前には私がついているぞ!

 

 

ステインは向かってくる六体の雷龍を次々と斬り伏せていく。独学で身につけた殺人術と攻撃的な意志を感じ取る超感覚、新たに身につけた個性を駆使し、雷龍の首を刎ね、真っ二つにしていった。雷竜さん、死去。

 

残った龍を援護すべく弾幕を張る魔理沙だが、全く効果を見せてくれない。ここまでやってダメなんて初めてだ。相手の身体はもうズタボロだというのに、なんでこうも上手くいかないのか。

 

私は舌をかみ締めて心を冷静にする。キュッとしてドカーンで武器破壊したいところだが、多分、残り一本の腕が犠牲になる。それだけは絶対にダメ。左腕を死守しつつ、ステインを追い詰める策を考えなければ、私に勝利はない!!

 

「フィン・ファンネル、マスタースパーク、殺意の百合、眷属召喚、ブラピの狙杖、りゅうせいぐん、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)、はかいこuゲボハッ!!!」

 

能力を長時間かつ多重に使いすぎて血反吐を吐き出したが、これでしばらく考える時間が作れそうだ。が......、正直あまり体力がもたない。頭がクラクラして作戦を立てられるか怪しいが、頑張って.........頑張るしかない。

 

 

 

 

次々と背景が移りゆく保須市路地裏(固有結界内)。勝利を手にするのは魔理沙かステインか。

 

 

 

To Be Continued......







チート対チートって、いいよね。


いろいろ紹介

課金アイテム:ソシャゲで世話になってるアレ。今回は魔法発動までの時間差を失くすアイテムでした。ちなみに作者は無課金勢。

美しく残酷にこの大地から往ね:東方Projectのキャラ「八雲紫」の有名なセリフ。どこかの天人様が博麗神社にちょっかいかけたからゆかりんが怒った。

タツマキ:ワンパンマンのキャラ。S級ヒーロー第二位という作中でも強キャラの位置にいる超能力者。ツンデレ......というよりデレがないので永遠のツンツンです。合法ロリ。

ロード・オブ・ステイン:爆豪とは違い、精神が覚醒したステイン。能力は凝血、魂撃、武器創造、超感覚、そして決意。凝血は31話で説明している気がします。魂撃は作中で大賢者さんが教えてくれます。武器創造は漢字の通り武器をその場で創れるが、ステインはまだ素人なので刀しか創れません。超感覚はあらゆる攻撃的な意志を読み取る能力。そして決意は『諦めない限り絶対に死ぬことはなく、あらゆる即死系能力と干渉系能力は完全に無効化される』という能力。つまり勝つにはステインに何度も致命傷を与えて、精神力を削り、諦めさせることです。うわぁ。

オートバトルモード:大賢者さんに全てを任せて己はゆっくりするモード。大賢者頼り。

ザ・ワールド・OH:ジョジョのゲームの『アイズオブヘブン』限定のスタンド。こいつがジョジョ原作にいたら間違いなく最強スタンドの座に居座っている。『真実の上書き』は、うん、簡単に言うと設定弄る作者さんみたいな力だよ。やべぇよ。逆にそんな能力を持っといてなんでストーリーで負けるんだよ。

無慈悲な太陽:七つの大罪、傲慢の罪エスカノールが使う魔法的なアレ。膨大な熱を持った球状の魔力弾を相手にぶつけるのだが、熱がやばい。近づくだけで鎧が溶けるくらいあかん。

炸裂する傲慢:無慈悲な太陽を爆発させる。つまり凝縮された熱が一気に四方八方に霧散していくということだ。湖が跡形もなく蒸発させるほど威力がヤヴァイ。

連鎖する龍雷:オバロの第七位階魔法。カッコイイ。

フィン・ファンネル:νガンダムだけに搭載されてると思ったらそういうわけでもなかったアレ。U字型の自動遠距離レーザー砲。

殺意の百合:東方Projectのキャラ「純子」のスペルカードのひとつ。初見で避けるのは不可能と言わしめる鬼畜弾幕。

眷属召喚:下僕を呼び出せる。時間稼ぎ要員。

ブラピの狙杖:新・光神話パルテナの鏡に登場する神器。遠くから撃てば撃つほど威力が上がる「狙杖」に属しており、ブラピの狙杖はため攻撃と近接攻撃の火力の差が激しい。今回は魔法で自動操作している。

りゅうせいぐん:マンダの流星群は強い。 メガマンダすてみタックルも可。



もう少し導入の部分を自然な形にしたかったけど、私の語彙力が力尽きた。申し訳ない。



春休みはワンパンマン二期と異世界かるてっと来るから備えねば。


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結依魔理沙の奥の手(34話)



これ終わったら騎馬戦の続きをやり、さらにその次は決勝戦をやり......、体育祭編長ぇ!! いつもの倍の話数あるよ!!





お気に入り登録と評価値は反比例。何か御不満な点がございましたら、コメントでお教えくださると恐縮です。なるべく頑張ります。


あと、今回はみなさんにちょっとしたドッキリがあるので是非、期待しないで目を瞑って早く宿題終わらせて寝てください。


なう(2019/03/26 02:10:48)、後書きに大抵いつも書いている『いろいろ紹介』に説明を付け足しました。







 

 

 

覚醒したステインの猛反撃に劣勢を強いられる結依魔理沙。並外れた精神エネルギーが彼を極限まで能力を引き出し、魔理沙の弾幕を次々と回避していく。この状況を打破すべく、魔理沙は自分の脳みそをフル回転させて策を練るのだが......

 

「相手の心を折る方法がわからない」

 

先の戦いでステインはどうあがいても死なないことがわかった。というか、前回の後書きにそう書いてあったのだからそうなんだろう。最終手段のザラキーマ、ステインの歴史を喰らう、虚無崩壊、その他即死系または干渉系の能力が効かないとわかった以上、考え直さなければならない。今わかる唯一の勝利条件はステインの心を折ること。つまりはステインに目標達成を諦めさせることだ。それを踏まえて作戦を練るつもりなんだが、いまいちピンとこない。どうやって心を折るの? マインドクラッシュ(精神破壊)は精神干渉系だから干渉系の部類に入るし、ステインに「諦めてください」って素直に言っても言うこと聞くはずがないし......

 

いや、無理に心を折る必要はないのかもしれない。ステインの正義さえ無くなればそれでいいのだから、心を折る以外にも方法はあるはずだ。そう、目標が達成された後とか......。それはつまり、『ステインが認める真のヒーローがステインを追い詰める』っつー事。これが一番両者ともにハッピーエンドな終わり方に違いない。いや、むしろこれしか道はない。

 

なら私はどうするべきか。簡単なことだ、ステインの言う『真のヒーロー』になればいいのだ。ステインの言う真のヒーローとは、金や名誉に目を眩ませず、ボランティア精神と自己犠牲の精神で人類のために全力を尽くす最高で最強なヒーロー。心も体も両方完璧なスーパー超人になればステインも認めるに違いない。

 

「......無理じゃね?」

 

なんだその人間の鏡は。どこを探してもそんなやつ何処にもいない。やたら精霊と加護に好かれる完璧超人な騎士さんなら大丈夫かもしれんが、生憎その人はこの世界にいないし、ステインが大好きなオールマイトは体育祭で観戦中だ。よって現状ステインを止められそうなのはこの世界にいない。

 

 

やはり、力でステインを屈服させるしかない。無理矢理にでも負けを認めさせねば。

 

 

 

「もう終わりか魔理沙ァ......。この辺りの魔法兵器は全て刀の錆にしてやったぞ......」

 

 

何もかも斬り尽くしたステインは魔理沙のいる方向に振り返り、物足りないとでも言いそうな表情で言葉を発する。

 

ステインの背後には私が血反吐を吐き散らしながら、必死に設置した道具たちが全て、綺麗に真っ二つにされていた。ブラピの狙杖も、お気に入りの八卦炉も、全て。この野郎。

 

 

「はいはいわかったよ。最終ラウンドといこうかステイン......」

 

「はァ......ここで決めるとしよう。これから先に起こる世の未来を......、運命の分岐点を、今ここで......。」

 

 

なんでこんな激しい戦いを繰り広げなければならないのかと、心底思う。せっかくチートオブチートを手に入れたというのに、なんで意味わからん人工知能にストーカーされ、友達が弟子になって、別の腐れ縁のあるヤツが人間離れして......。高校生になってから私の第二の人生は随分と濃厚になった。そんじょそこらじゃ経験できない、野蛮で血の滲む経験を得て、神様は私にどうしろというのか。懺悔しろとでも言うのか。一応言っておくか、ごめんなさい。

 

特に意味の無い懺悔を終えて、ステインと目を合わせる。アッチは殺る気に満ちているのか、生き生きとした目を向けている。クソッタレ、利き手を失ったけど、その分の成果は出させてもらうぞ。

 

 

「生姜無い、1年A組結依魔理沙の奥の手、『即席改造』をお見せするとしよう」

 

「はァ......、何を言っているんだお前」

 

「まぁ見てろステイン」

 

 

異形魔理沙にはちょこちょこ能力が改造されている。例えば、「大嘘付き(オールフィクション)」を改造すると「大現実付き(オールリアリティー)」になる的なアレだ。本来、能力の改造はゆっくり時間をかけてやるものなんだが、これを即席で行うことで一時的に自身を超強化できるって感じだな。

 

しかしリスクは高い。まず、明日は高熱確定だし、場合によっちゃ春なのにインフルエンザにかかる。オリジナルの体に戻ってもその効果は持続するし、多分、ヤバい。凄く辛い目にあう。

 

それに加えて、自身が一時的に強化されるのは少しの間だけだ。もって30分が限界といったところか、まぁそれくらい短いのだ。

 

 

「ステイン、私......いや俺は、小四の頃からずーっと思ってたんだ。そういう描写は一切この小説にはなかったけどさ......、こんなに能力を持ってんならよ、こんなことも出来るんじゃねーかなぁって......」

 

「......?」

 

「例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なぁ、今私がやろうとしていることを理解できるかステイン?」

 

「お前......、まさかそれで俺の能ry」

 

「ぶぁっぶー、残念違いマース。正解はァ.....」

 

魔理沙はセリフを途中で止めて、能力を小声でボソボソと唱えていった。幻惑系魔法、創造系能力、五感強化魔法または能力、変身魔法、銃火器補正魔法または能力を上手く組み合わせて、改造していく。感覚的にはプラモデルを作ってる気分だ、完成した姿を脳裏に浮かべ、ひたすらに黙々と作り上げる。

 

そしてついに出来た新たな能力。とあるキャラの姿と能力をほぼ再現した究極の私がたった今、即席で完成したのだ。

 

 

「なんだその姿は......」

 

 

ステインが目にしたのは、人間の数倍のデカさを誇る人型の兎。目は常に真っ赤に染まり、左腕には重厚で凶器的な機関銃が搭載された、いかにも異常と呼べるその姿にステインは戦慄する。ついさっきの魔法使いのような姿から一変して、いくつもの戦争をくぐり抜けた兵士のごときオーラがビシビシと伝わる。どういう理屈なのかサッパリわからず、困惑するステインの前に、かの者は口を開いた。

 

 

 

 

 

「HAHAHA、MY NAME IS“IGYOU REISEN"!!!」

 

「IT’S TIME OF SUTEIN HUNTING!!」

 

 

 

 

― BGM『狂人の瞳』(狂気の瞳) ―

 

 

そう、私が変身したのは異形鈴仙。異形魔理沙と同じく東方異形郷のキャラだ。ホントに前々から別の異形キャラにもなれないかなと思ってたんだよ。まさか、ここで使うとは思ってなかったけど。

 

異形鈴仙の能力は『完全催眠』。相手の五感を支配する能力である。もう、私の能力を集結させて『完全催眠』をほぼ完全再現できたから嬉しみがやばい。やればできる子魔理沙ちゃんです。

 

え? これも干渉系じゃね? と思った人よ、そこんとこは上手く改造したから安心しなんし。

 

ちなみに声は個性『マーメイド』で完全再現。姿は変身系魔法と私の記憶を元にほぼ再現した。そう、このヒロアカの世界に新たな異形が誕生したのだ!!

 

 

「姿、形が変わったところでェ、何になる。己の真なる部分は、常に不変だァ......。」

 

「HAHAHA、SHUT UP(黙れカス)!!」

 

I SHOULD BE KILLD WITHOUT ME.(私に為す術なく殺されるがいい)

 

 

私は左手の機関銃を容赦なくぶっぱなす。どんな壁も貫通する弾丸が無数に放出され、触れれば一瞬で肉塊に変わり果てるほどのパワーを辺り一面に撒き散らし、また背景を塗り替えていく。

 

この弾丸ひとつひとつには実は能力を付与しており、スタンド『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の能力、『真実にたどり着けなくする能力』が付与されている。この能力は『相手の攻撃的な意志をゼロに戻す』力が含まれており、これでステインの決意の力をゴリゴリ削れればいいかなぁと思ってるんだが......

 

ステインは向かってくる弾丸を何事なく全て刀で防ぎ斬り、余裕の表情を見せる。ちくしょう、当たらなければどうということはないとか言った奴の顔をぶん殴りにいきたい(八つ当たり)。ホントその通りだよ、当たんなきゃ意味ねぇ。

 

とにかく撃ち尽くしてしまったので、リロードして弾丸を補充する。弾丸は個性『創造』で作成しているので無限に出せるぞ。ん、原作の異形鈴仙はどこから弾丸を用意してるか? ......知らネ。

 

しかし、リロード中は必ず隙が出てしまい、それを逃すほどステインは甘くない。すぐさま距離を詰め、結依魔理沙、もとい異形鈴仙の体に刀を突き刺す。

 

「自ら隙を作るとは......笑止」

 

DO YOU BELIEVE SO(それはどうかな)?」

 

異形鈴仙(魔理沙)はそう捨て台詞を吐き、そのまま地べたに倒れ込んだ。何か仕掛けてくると警戒したステインだが、特に何も起こることはなかった。

 

あまりの怪しさにステインはもう一度、異形鈴仙の体に刀を突き刺す。身代わりでも何でもない、肉を突き刺した時の感触が手に伝わり、確実にこの化け物を殺しているのだと体全体で感じ取る。死んだ.....? こんなにあっさりと......?

 

刺した時の反応を伺うが、それも無かった。呼吸音も聞こえない、気配もない。奴は完全に死んだと、そう判断してもいいという情報がいくつも脳に流れ込み、ステインは不思議に思いつつも、この場から去ろうと足を動かす。

 

DIE(死ね)!!」

 

ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!

 

急に現れた気配。反応する間もなくステインは異形鈴仙の機関銃の餌食となった。何故殺したはずの敵が生きているのか.....と疑問に溢れかえったステインは死体のある場所に目線を逸らすが......、

 

そこに異形鈴仙の死体は存在していなかった。

 

(どういうことだ......? 俺が反応できない速度で移動したのか......? いや、それならば刺されるなんて現象が起こるはずがない。だったらどうやって....)

 

 

 

 

 

これが、異形鈴仙の『完全催眠』。相手に私が死んだと錯覚させて、本来の自分の姿は相手に認識されない能力。なんかブリーチにそういうこと出来るやつがいたような気がするが、気の所為だ。

 

わざと攻撃をくらうことで相手を油断させ、攻撃を仕掛ける。単純だが決まればそうとう効くだろーなぁ、身体的にも精神的にも。フフフ、ザマーミロ。

 

DON'T BREAK YET (まだ壊れるなよ)!!」

 

武器をレーザー銃に換装し、ステインに狙いを定め、何発も何発も撃ち込む。このレーザー銃は連続射撃と溜め撃ちの二種類に使い分けることが出来る。連続射撃は威力が弱いが、当たると少しの間相手の動きを止めることができ、一気に連続ヒットを当てれる。逆に溜め射撃(極太レーザー)は命中率は低いが、当たれば一☆撃☆必☆殺!! 圧倒的パゥワーであらゆるものを粉砕、玉砕、大喝采!! 強い。

 

まずは連続射撃でステインに向けて撃ちまくるが、流石神回避を連発した男、面白いくらいに当たらない。なんなんだよマジで、ここの世界の連中はチート三昧か。チートは私一人で十分なんじゃい!!

 

「小癪なァ......」

 

「それは私のセリf...、YEAH...,THAT MY LINE(それ私のセリフ)

 

もう脳みそがガンガン痛いが、物量で押し切るしかない。逃げ場のないくらいの弾幕で埋めつくし、一気に畳み掛ける。せっかく決意の力を削ぐことに成功したんだ、チャンスは今しかない。

 

「弾幕制限解除、幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)!! ゲゴホッッ!!!」

 

すまん、別の能力発動に関しては英語じゃダメなんだよね。まぁそれは置いといて、このスペカは鈴仙・優曇華院・イナバのラストワードスペル。赤と青の光弾が自由を封じ、視覚することの出来ない弾丸が敵を狩る。しかも今回は弾幕制限を解除しているので、いつもの数十倍の量の弾幕がステインに押し寄せる。

 

続けて私は王の財宝(ゲートオブバビロン)と八雲紫の境界を操る程度の能力で、宝具と複製したマスターソードをステインに向けて撃って撃って撃ちまくる。もう、目が霞む、脳が焼けそうで、凄く痛いけど、まだやれる。私がこういう逸脱した力を持ったヴィラン達を抑えなければ、私の大切な人たちが、家族が、1年A組が、傷つくハメになる。

 

 

そんなことは絶対させない。この結依魔理沙の名に誓って全力で倒す。そう、みんなを守るために......

 

 

 

“やっと主人公らしくなりましたね...."

 

 

 

どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。優しくて、綺麗で、懐かしみのある声。新たな私を作ってくれた、あの人の声。

 

 

*魔理沙 は 決意 で 満たされた

 

 

「負けるかァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

 

ここからの戦いは壮絶であった。空間全体を埋め尽くすほどの弾幕が飛び交う中、二人は何度も何度も激突し、ハイキックが交差し、刀で魂を散らし、銃弾で精神を削り、弾幕が両者の体に突き刺さる。一分が経過するごとに互いの武器は朽ちていき、体は傷つき、表情は狂気に染まる。信念が二人を突き動かし、魂と魂がぶつかり合い、力の余波が空中へ霧散する。

 

 

結依魔理沙の奥義が切れる30分の間、両者は死闘の戦いを繰り広げ、そして、決着した。

 

 

「......ゲホッグホッゴホッ......。ウゲェエェエ、ハァ......ハァ......ハァ......、もう、奥義の効果は尽きた......。そろそろ諦めてくれや...ステイン......」

 

「ハァ......ハァ......ハァ、断る......。ハァ、俺はまだ、ここで死ぬわけにはいかん......」

 

「あっ......そう......。ハァ、じゃあ......いいわ。ハァ......ハァ...どっちみちお前はもうボロボロだし......、最後の一撃といこか......」

 

「最後の.......一撃だと? そんな.....ハァ、体力も残って......いない癖に.....ハァ...、ハッタリは止めろ......」

 

「ハァ......、ここまで、テメェを削るのに随分と無茶をした......、ハァ、私がここまで瀕死になるとは思っていなかったが......、概ね計画通りだ」

 

 

元の姿に戻り、行きも絶え絶えになった結依魔理沙だが、ここまでの流れは計画通りだと、余裕のない表情で言い残す。

 

 

「ハァ.....計画通りだ......? ハァ...、一体何を根拠に......ッ!? まさかッッ!?!?」

 

「やっと能天気なテメェでも気がついたようだな.....ハァ、よく見ろ、地獄でもこんなに面白いショーは見られんぞ」

 

 

魔理沙はフラフラになりながら、どこかの伝説のサイヤ人の親父ぃを思い出させるようなセリフを吐きつつ、空に指をさした。

 

 

空には、今だサイコキネシスで打ち上げられた地盤が舞っていた。

 

 

「お前......一緒に死ぬ気か......。なぜそこまで......」

 

「どうやら勘違いしているようだが、残念だったなステイン。今ここにいる私は結依魔理沙の分身......本物は体育祭で頑張ってっから、別にここで死んでも何の問題はねぇんだよバァァカ」

 

 

とはいえ、記憶も能力も存在値も何もかも一緒だから、正直死ぬことに抵抗はある。が、ここまでなんとか追い詰めた以上、最後の一手まで手を抜くつもりはない。

 

「私という冥土の土産を担いで、地獄の業火に焼かれながら反省してるんだな」

 

魔理沙は空に顔を向けながら、ステインに向けて言葉を放つ。

 

「......ハハハハハハハ!! これこそが自己犠牲!! これこそが真のヒーロー!! 俺というたった一人のヴィランのために、命を賭す最高のヒーロー!! 素晴らしい、素晴らしいぞ!! ......だがな」

 

ステインは突如として口を開いたかと思うと、今度はスっと大人しくなったかのように、小声を出した。

 

「オールマイトは言った.....、『真のヒーローは最後まで笑顔でいたヤツ』だと......」

 

ステインは魔理沙の表情を悟り、言葉を選ぶ。

 

「はッ、はハッハッは、その言い方だと私が今笑顔じゃないとでも言いたげだなァステインん。確かにそう見えちゃうかもしれんが実際はこの真っ黒な顔が隠してるだけで実際は別にそのあーじゃなくて実際は実際は実際は実際は実際は」

 

 

「泣いてなンか......いねェ.......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ......、いい所までいったが、お前はどうやら真のヒーローではなかったようだな....。ハァ、言っておくが、俺は真のヒーローにしか、俺を殺す権利を与えねぇ。さっさと......この場から消えろ意気地無しが」

 

「......勝手に決めンじゃねぇよ。ここまでやって逃がすわけにもいかねーンだ、殺るときゃ殺るんだよ」

 

 

ステインに煽られ、トドメを刺す意思を決意した魔理沙。ついに引き金を引く時が来た。

 

 

「サイコキネシス、解除」

 

 

魔理沙は能力を解除した。浮遊していた瓦礫達が一斉に落下を始め、地に這う全ての生物を埋め尽くすかのように、彼らは風と共に迫り来る。

 

 

最後のファンファーレなのか、とてつもなく巨大な音が私を祝福する。

 

 

ステインはどうやら驚きに満ち溢れているようだな。ハッハッハ、ザマーミロ。真のヒーローでもなんでもない私と共倒れして、そのままくたばれ。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

空から瓦礫やら石やら土の塊がドンドン降り注ぎ、破壊され、でこぼこになった地形を埋めていき、更地へと変化していく。ま、私が死んだら固有結界が溶けるから、結局証拠も何もなくなって、ボロボロのステインだけが路地裏に残るんだけどな。

 

 

ハァ......、後は任せたぞオリジナル。ステインの魂撃を受け続けた私の命はそう永くないし、死ねば記憶は引き継がれないが......、お前が現場に行けば、私とステインの残留思念を読み取って、そこからこの記憶を復元できるはずだ。ハァ......任せたぞ私。大切な人を守るために......

 

 

 

 

さようなら、私のヒーローアカデミア。

 

 

 

 

 

 

 

さようなら、緑谷くん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

「............痛たたたた」

 

酷い寝覚めだ。身体中が痛くてかなわん。動こうにも身体が固すぎて動きづらい。なんでこうなったんだか......

 

「ここは......、固有結界内? ......ッ!?」

 

記憶が急に鮮明になった魔理沙は、その反動による頭痛で頭を抑え込む。そうだ、ステイン!! アイツと一緒に私は死んだはずじゃ......

 

左に違和感を感じた私はすぐさま振り向くと、そこには壁が存在していた。壁......、いや、自分のサイコキネシスで崩落させた瓦礫や土砂の塊だ。なぜ、私は脱出できたんだ。もうそんな体力はなかったというのに。

 

しかし、目線を下げるとすぐその答えが理解できた。

 

ステインが土砂の塊に押しつぶされ、何故か右手だけが外に出ていたその身体を見て、わかってしまった。

 

 

(こいつ、私のことをとっさに助けたのか!? まだ体力を残していたのも驚きだが、なんで!!?)

 

 

 

(なんでその体力を私に使った!! ふざけんな、そんなことされる義理など微塵も無いはずだ!! 私とお前は、ただ信念をぶつけあっただけだ。自分のやりたいことを、最後まで突き通すために衝突しただけ。だから仲良しでも何でもない、情をかける理由なんてないはずなのに!!!)

 

 

「固有結界解除!! ふざけんなステイン!! この私に勝ち逃げが許されると思うか!? いい加減にしろ、じゃねぇと一発ぶん殴るぞ!!!」

 

固有結界が解除されると景色が元の街並みに戻り、さっきの戦いがまるで夢であるかのように、荒野は淡く、消えていった。

 

しかし、今の魔理沙にはそのことは関係なく、潰れたステインを無理矢理地面に立たせて、魔理沙らしくなく怒鳴り散らす。もう死んでしまったステインに言葉が届くわけないとわかっていながらも、このやり場のない怒りを抑えることができずに、ただただ怒声だけが路地裏に響き渡り、本人へと回帰する。

 

 

「.........ザオリク(弱)」

 

 

弱めのザオリクを唱え、ステインを満身創痍の状態で復活させた。これでしばらくステインは昏睡状態、暴れることはないだろう。

 

勝ったけど負けた。そんな複雑な気持ちを抱え込みながら、人にバレないようこっそりと路地裏を出た魔理沙。ステインはとりあえず異次元空間に置いておき、処分をどうするかは後々考える。正直、警察に預けるのが懸命だが、ステインはもう爆豪と同じように人の域を踏み外している。うっかり刑務所で完全復活してまた暴れられるのも面倒だ。それに今日はもう疲れたし、出来ることならしばらくオリジナルの元に戻りたくない。ゆっくり、自分の部屋で、グッスリと寝たい。

 

 

 

ステインが一度死んだおかげか、私の失っていた右手や体全体の傷が回復した。けど、心は全然癒えないので、早めに寝る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保須市から家に向かってゆっくりと歩く魔理沙。しかし、彼女は最後にやるべき事をひとつ忘れていることに気づかず、そのまま床につくのであった。

 

 

 







もっと戦闘シーンを増やしたかったぜよ。


これでステイン戦終了です。


いろいろ紹介

歴史を喰らう:東方キャラの上白沢慧音の能力。慧音先生は通常時は歴史を喰らう能力だが、満月の夜なるとワーハクタク化し、歴史を創る能力へと変化する......ってけーねが言ってた。

マインドクラッシュ:対象の精神を破壊する。まんまだよね。

異形鈴仙:大昔からあらゆる世界で幻想をぶち壊してきた軍人。異形組の中では古株で異形魔理沙とは同期。キチガイアレンジの『狂人の瞳』がカッコイイ。Escape from me

後、機関銃は基本右腕に装着していますが、あの時の魔理沙は右腕を失っていたため、今回は左腕に装着されています。

個性『マーメイド』:結依魔理沙が幼少期に手に入れた個性。いろんな声帯で話すことができ、相手を眠らせる歌や、発狂して自殺したくなる歌とか、いろいろ歌えるようになった。まぁでも基本的にボイスチェンジャーとしてしか使わないと魔理沙は考えている。

真実に到達させない能力:終わりのないのが終わり。ジョジョキャラ屈指のチートスタンド『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の能力。実際にはスタンドではなく、スタンドより上位のレクイエムであるのだが、面倒臭いのでカット。このレクイエムの前では、攻撃的な意思や能力の発動を無効化=その行動によって発生する『真実』(結果)を起こさせなくするという能力。なので、レクイエムの前で未来予知も時飛ばしも個性使用も何もかもが出来ない......ってことでいいのかな。ここまでチートだとは思わなかった。今回の弾丸にレクイエムの能力を付与するシーンでは、その一部分である『攻撃的な意思をゼロにする』という部分だけを付与したと、解釈してください。すまん、強すぎたこれは。

幻朧月睨:厨二病患者発狂間違いなしのルビをふったウドゲイーンさんに座薬を。


ウド・ゲインってエド・ゲインみたいだよね。









分身よ、安らかなれ。


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騎馬戦決着!! (35話)




最近、たくさん感想を頂けて凄い嬉しいです。皆さんと能力についての話や、アニメの話、この小説の設定の話などいろいろ出来て楽しいです!!

まぁ、だから波に乗れとは言いません。なんか暇だなとか、なんかこんなこと言ってみたいなとか思ったら、気軽に質問してください。お待ちしております。




今年はなんなんだよマジで、アニメの神様でも降臨したのか? 小林さんちのメイドラゴンの二期が来るぞ。さいかわ、マジヤバくね(洗脳済み)。なんかアニメーターが力尽きる姿が目に浮かぶぞ。もう少しゆっくりでええんやでアニメよ。



その勢いのまま、はたらく魔王さまの二期も来い。






 

 

 

ステインとの戦いが終わる5分ほど前....

 

 

 

〜 雄英高校体育祭 第二回戦 騎馬戦 〜

 

 

 

「オラオラオラオラオラァァ!!!」

 

「ぺいっ、ぺいっ、ぺいっ、ぺいっ、ぺいっ」

 

 

爆豪チームの猛攻を耐え切り、なんとか撃退した結依チームだが、その隙を狙ってやってきた峰田チーム。障子目蔵という名の戦車の防壁内から、好き勝手もぎもぎを投げる峰田実に苦戦していた魔理沙

。だが、よく見たらもぎもぎが飛んでくる速度はさほど速くないので、全てデコピン風圧で撃墜していく。

 

「オイラのもぎもぎを全部撃ち落としやがった!!」

 

「フフフ、当たらなければどうということはない」

 

どうやら万策尽きたかな変態王子の峰田実くん。この埋められない距離の差を、圧倒的な私の防御テクニックをどうにかするのは不可能オブ不可能なのだよ。諦めてしっぽ巻いて逃げるがいい。

 

「くっそー!! 蛙吹!!」

 

「ケロッ!」

 

蛙吹梅雨の舌による追撃も、魔理沙に当たることは一切ない。この程度の速さでは魔理沙の動体視力を掻い潜ることは不可能なのだ。

 

「梅雨ちゃんも諦めたらどう? 他にもチームはいっぱいいるぜ?」

 

「ケロケロ。えぇ、堅実にポイントを稼ぐのなら、他のチームを積極的に狙った方が賢明だわ。けどね、私は......結依ちゃんに勝ちたいの。二週間前のあの時にも、言ったわよね?」

 

「......あぁ、確かに言ってたな。まぁ、否定はしないけど、相手は私だということをしっかり頭に入れとけよ」

 

再び構える両チーム。一人だけ頭皮から血をダラダラと垂れ流しているが、それを抜いたら正に決闘と呼べるような雰囲気が漂っている。フフフ、地面に撃ち落としたもぎもぎがトラップのように配置されているが、なんの問題もない。わかっていれば何も怖くないのだ。

 

「緑谷くん、お茶子ちゃん、発目、足元に気をつけろ。アイツらは私達を上手く誘導して引っ掛けるつもりだぞ」

 

「わかってますよ師匠。警戒は怠りません!!」

 

「このまま後方に逃げてもええんちゃう?」

 

「一位の人、私のベイビーを踏み台にした以上、絶対に1000万ポイントを取られちゃダメですからね。マジで」

 

さて、どうやったらあのチームを行動不能に出来るか考えなければな。デコピン目潰しは効かないし、隙が無さすぎるから近づけないし、というかアイツらポイント持ってないから、わざわざ戦う必要性もなi......アレ?

 

あれ、ちょっと待って。なんか峰田チームといかにも戦う雰囲気だけど、戦う必要ないよね? だってアイツらポイント無いじゃん。意味無いじゃん。というか、まーた私の脳内に『戦闘描写が思いつかない』っていう謎の声が響いてくるし、もうこれ退却してよくね?

 

 

「結依チーム、今から指示出すからよーく聞け」

 

 

 

 

 

 

 

 

「撤ッ退せよ!!」

 

 

「「「ラジャー!!」」」

 

 

「あっ、アイツら逃げるつもりだ!! 追いかけろ障子!! フルアタックモードだ!!」

 

「承知」

 

複製腕のドームが展開し、フルアタックモードに移行した障子目蔵。なんか体格が凄いことになってるけど、その割には地面に配置されたもぎもぎを華麗に避けきっている。というか、速い!! 騎馬が一人だから当然のごとく速い!! 二人三脚と一人ダッシュ、どっちが速いかと言われたら当然一人ダッシュに決まっている。言いたいことが上手く言えないが、要は速い!!

 

「地面にデコピン風圧!!」

 

何十発もデコピンを地面に撃ちまくり、でこぼこにして動きを封じようとする魔理沙。しかし障子はバランスを崩すことなく、フィジカルを活かした動きで突破していく。なんてこった、こいつ、ついてくるぞ......。怖

 

「いけ障子!! オイラ達の希望はお前にかかってんだ!! ついでにその爪で誰でもいいから服を切り裂け!! 特に結依以外の女子!!」

 

「峰田ァテメェ。私に女子力が無いというのか。別に自分で言うのは構わないがテメェに言われるのだけは堪忍ならん!! 今ここで肉塊にしてくれる.......」

 

「師匠落ち着いて!! 戦っても意味ないから!! 峰田くんの罠に引っかからないで!!」

 

「結依さん......、ウチは、わかっているよ...」

 

「.....!?!? え、あ、うん.....? 何でそんな哀れみの表情で私を見つめるのお茶子ちゃん......」

 

結果的に冷静になれた私は、なんとか峰田チームを引き剥がす方法を考える。やはりまた緑谷くんとのダブルデトロイト・スマッシュが無難か。まだ発目のアイテムは残しておくとしよう。

 

「緑谷くん、アレやるぞ。次こそちゃんとタイミング合わせて、せーのでいくからな」

 

「ハイ師匠!!」

 

「10%でいくぞ、せーのッ」

 

 

「「ダブルデトロイト・スマッシュ!!!!」」

 

 

10%に抑え込んだ二つのワンフォーオールの風圧に、流石の峰田チームも必死に堪えることしか出来ない。よし、チャンス!! 今すぐ逃げて生き残り、ぶっちぎり一位でハッピーエンドだ!!

 

結依チームは峰田チームが怯んでいる隙に逃走。二度目の1000万ポイント襲撃を見事に防ぐことが出来たのだ。残り時間はもう半分を切ったし、全然いけるぞコレ。問題ナッシングゼロ!!

 

 

「わざわざ獲物の方から来てくれるとはな。結依、1000万ポイントは俺達が頂く」

 

 

一難去ってまた一難。ある意味誘導されたのか、逃げ切った先で轟チームと出会ってしまった。しかも原作通り後半戦で。もう嫌。そろそろ安住の地を私によこせ。

 

 

「はんっ、戦闘訓練の時みたいにボコボコにされたくなければ、サッサと私の目の前から消え失せるんだな、フレイザードさん」

 

「なら尚更、逃げるわけにはいかねぇ。ここで戦闘訓練のリベンジを晴らして.....、1000万ポイントも奪って、優勝する......」

 

 

しまった、煽ったせいで余計に火がついちまった。何やってんだ私、マジで何やってんの。

 

「みんな、どうすべきだと思う?」

 

「少なくとも、轟くんの氷と上鳴くんの放電には注意しないと......」

 

「飯田くんのエンジンもヤバない?」

 

「もうベイビーさえ有れば私は幸せです。」

 

うむむ、確かに原作の電撃氷結コンボを防ぐ術が無い。私は電撃耐性があるし、氷結も体温を上げれば溶かせるけど、騎馬である私以外のみんなはそんなこと出来ないからなぁ。ま、飯田くんのレシプロバーストは素の動体視力で見切れるけど。

 

「....」パキパキパキパキッ!!

 

轟の野郎、無言で凍らせてきたぞ。なんか掛け声とかないのかい?

 

「全員、右側に旋回!! 炎は撃ってこないもんな、轟くん?」

 

「チッ.......結依......ッ!!」

 

何だろう、隙あらば煽ってしまう。仮にも東方二次創作キャラの姿だから、なんかそういう性格も反映されたのかな。おのれ私。

 

まぁとにかく、常に距離を保ちながら右側に周りこんだら氷は当たらないんだよね。このままキープし続ければタイムアップで終わりなんだが......

 

 

そろそろ電撃で動きを止める気かな?

 

 

「八百万、電導を準備。上鳴は......」

 

「いいよわかってる!! しっかり防げよ...」

 

 

案の定、電撃で動きを止める気の轟チーム。まぁ一回きりの作戦だが、仕方あるまい。これしか思いつかない。常闇くんがいればマジで余裕だったんだが......、緑谷くぅぅぅん。

 

「無差別放de...」

 

「隙あらば風圧デコピンッ!!」

 

「風がああああああああ目にぃいいいあいいいいいいい!!!!!」

 

「上鳴さんッ!?」

 

放電を撃たれる前に風圧デコピンで目を潰す。回復にも時間はかかるし、これで少し時間を稼ぐ。

 

けど、これはただ電撃を先送りにしただけ。以前ピンチなのは変わりないし、というかどっちかって言うと不味い。上鳴が今動けないうちに、何か避雷針みたいなのを探さねば......。

 

「発目、なんか鉄の棒みたいなベイビー持ってない?」

 

「それならここにちょうど良いベイビーがありますよ!! 『ノビールスティックン』です! この赤いボタンを押せば30センチメートルの長さから一気に3メートル以上の長さに.........あっ」

 

「スティックン借りるネ」( ^ω^)

 

「絶対ダメです。返してください、このベイビー殺し」

 

「人聞きの悪いこと言うな!! 殺してねぇし! 尊い犠牲になっちゃうだけだし!!!」

 

よし、発目に罵倒されたが、ご都合主義で鉄棒を手に入れたぞ。これならデコピン使わなくても牽制できるし、いろいろと応用が利くから便利。フフフ、これが主人公補正だ。

 

「スティックン起動!! ポチッとな」

 

スティックンが味方にぶつからないよう配慮しつつ、赤いボタンを某ドクロベエさんの部下のごとくポチる。すると、思ったより速いスピードでロングサイズに到達し、魔理沙は伸びたスティックンを構える。

 

「なるほど、これくらい伸びるのか。で、どうやって元の長さに戻すの? 発目さん」

 

「赤いボタンとは逆の位置に青いボタンがついていますよね。それを押し込むと戻りますよ.....チッ」

 

「嫌々ながらも説明してくれる発目の性格が好きだよ。半分くらい」

 

アイテムの使い方も知ったし、そろそろ轟くん達とドンパチしましょうかね。多分、ここから先はピンチな展開がひとつも無くて味気ないかもしれないが、勝てばよかろうなのだ。

 

「ほーら、早く電撃でも撃ってきんしゃーい」

 

せっかくスティックンを持っているのだから、少しでも出番を増やしてあげようと煽りを入れる魔理沙。もし電撃が来たら、スティックンを地面に突き立てて、その先端で私が逆立ちし、電撃をくらってスティックンに電気をチャージしてからの、私の身体能力を活かしてスティックンを縦に振り下ろしてカウンター!! どうよこのカッコイイ戦術を。昨日録画していたヒーロー系アニメで見たやつパクッただけだが。

 

「おう、言われなくてもこっちからやってやんぜ!! 130万ボルト無差別......」

 

「待ってください上鳴さんッ!! あの人を小馬鹿にしたかのような表情を見てください、絶対罠です!!」

 

「やべ、うっかり表情出てたか? 割と黒顔でも気づくのね........表情」

 

ニヤニヤが止まらない私の表情を汲み取り、罠を察知した八百万百。しかし、電撃が使えないとわかったところでこの状況を打破することは出来ない。たかが鉄の棒一本が有るか無いかだけで、ここまで戦況が大きく変化するのだ。ありがとう、ご都合主義。ありがとう、主人公補正。

 

そうして、魔理沙チームと轟チームは残り時間1分を切るまで、常に拮抗とした状態を保ち続けていた。

 

 

 

『いよいよ騎馬戦も残り1分!!! 轟チームと結依チームは今だ決め手にかけるのか、お互いに距離を保ち続けているぞ!! おいどーした! もっと暴れ回れ!!』

 

『マイク、五月蝿い』

 

 

 

順調も順調、計画通りだ。この長ったらしい騎馬戦もあと1分で幕を終える。というかはよ終われ。さっきからとんでもなく凶悪なエネルギーの余波が保須市からビンビンに伝わってきて、超不安なんだが。しっかりやってんのかな......私。

 

ため息をつきそうになったが、グッと堪えて相手の様子を伺う。飯田くんが深刻そうな表情で轟くんと話しているな......。アレかな? アレが来るのかな?

 

「......奪れよ轟くん!」

 

 

「トルクオーバー! レシプロバースト!!」

 

 

脹ら脛から生えたエンジンが唸りを上げ、轟チームを一気に加速させる。音を置き去りに、今まで保ち続けていた距離を縮め、結依チームのポイントを掠め取りに来た。

 

 

 

「甘いな飯田くん!!」

 

 

 

既に飯田くんのレシプロについて知っていた私は、音速に近い速度で突っ込んできた轟チームを見切り、逆にポイントを右手でかっさらう。が、首につけていた鉄哲チームのポイントを奪われてしまった。

ドルルルルル......と全力を出し切ったような音が響いた頃には、轟チームと結依チームの立ち位置は入れ替わっていた。一旦、魔理沙は奪ったポイントを確認しようと右手を開く。

 

「70ポイントか......やられたな」

 

鉄哲チームから奪ったのは確か705ポイントくらいだったから、差し引きして635ポイントも損しちまった。ま、1000万ポイントが残ってれば何も問題はないんだけどね。

 

「すまねぇ飯田......、1000万ポイントを逃しちまった......」

 

「いや、轟くんは悪くない。皆に秘密にしていたはずの俺の裏技が、結依くんにバレていた......すまない.....」

 

「謝らなくていい。それよりも......目の前にいる結依チームをどうするかだ」

 

飯田の全力により、結依チームから初めてポイントを奪うことに成功した轟チーム。会場は大いに盛り上がり、歓声が吹き荒れる。だがしかし、奪ったのは1000万ポイントではなく、705ポイント。どうするのか轟チーム!!

 

「もう時間が無い!! 死ぬ気であの二チームに突っ込むよ!!!」

 

「はっはっは!! 結依ちゃん!! 最後の最後でそのポイントを頂くのが私達の作戦!! いったっだくよーー!!!」

 

「俺たちから奪ったポイント返してもらうぞ!!!」

 

 

「「「ウオオオオオオオオオオオオ!!!」」」

 

 

残り15秒くらいでほとんどのチームが一斉に私らを狙いにドンドン集まってくる。おいおいおいおい、多すぎだろッ!? しかも全員目がヤバい!! 獣を狩るハンターの目をしてやがるッッ!!! デコピンとデトロイト・スマッシュで何とかするしかない!!

 

「緑谷くん!! 迎撃だ迎撃!!!」

 

「了解しました!! 行きますよ!!!」

 

 

「「ダブルデトロイト・スマッシュ!!!」」

 

 

「あとオマケのデコピンッ!!!」

 

会場に再び二つのデトロイト・スマッシュとデコピンが炸裂。これで相手が動けないうちにこの場から脱出せねば!! 今しかチャンスはない!!!

 

 

「緑谷くん、お茶子ちゃん、発目!! 今のうちに逃げるぞ!!!」

 

「結依さん! いつの間にか足を凍らせられて動けへん!!」

 

「ひんやりして気持ちいいですね」

 

「これは轟くんの氷!? ヤバい! 轟くんはまだ諦めていない!!!」

 

「結依イイイイイイイイイ!!!!」

 

 

轟チームは最後まで諦めず、注意が逸れた隙を狙って動きを封じることに成功する。あとは、飯田が前に進むだけ。飯田が前に進み、轟が手を伸ばし、掴み取る、たったそれだけ。

 

「頑張れ飯田!! 前に進め!!」

 

「飯田さん!! あと少しですわ!!!」

 

「みんな......ウォォオオオオオオオ!!!」

 

少しずつまた、結依チームに近づく轟チーム。残りわずか5秒。逆転なるか。

 

「ちょっとヤバい香りがしてくるけど!! あと5秒!! ここで凌ぎきる!!!」

 

 

 

「帰ってきたぞボサボサァ!!! 1000万ポイントよこせぇえええええええええ!!!!」

 

 

 

もはやカオス。A組実力者三人がこの終盤にて揃ってしまった。目の前には轟チーム、空中には爆豪勝己、後方にはついさっき足止めしていた多くの敵チーム、これが八方塞がりってヤツか。地面に逃げたい。

 

全方向敵に囲まれてしまった結依チーム、ここから逃げる術は何も無い。ただ、時間が過ぎるのを待つのみ。

 

 

残り3秒......、2秒......、1秒.........。

 

 

 

 

0秒

 

 

 

 

 

 

 

 

『タイムアァァアアアアアアップ!!! 』

 

 

 

プレゼントマイクの騎馬戦終了のお知らせの一声で、荒々しい戦いが幕を下ろした。力がフッと抜けていき、皆の口からため息がどっと溢れる。それは、緊張から解放された時の安心感によるものであったり、決勝戦へ行けないという実感からくるものであったり、様々であった。結依チームも、なんとか最後の修羅場を乗り切って、無事に1000万ポイントを死守することに成功した。

 

 

 

「...........久々に苦労したぜ...」

 

 

魔理沙は堪えていたため息をゆっくりと吐き出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

騎馬戦が終わり、ステージ修繕のために一旦会場から出た雄英生徒......なんだが、どうやら轟くんが私に用があるらしく、生徒控え室近くの出入口に呼び出され、今、轟くんと向かい合って立っている。「緑谷くんは呼ばないのか?」ってつい言っちゃったけど、「なぜ緑谷を呼ぶ必要があるんだ?」ってしれっと返された。うわぉ、やっちまったかもしれん。

 

ちなみに騎馬戦の結果は、一位結依チーム、二位轟チーム、三位爆豪チーム、四位心操チームとなった。やったぜ。

 

「で? 何で私を呼び出したんだい?」

 

原作ではオールマイトとの関係について話していたな。だから尚更、緑谷くんも呼ぶだろうと踏んでたんだが......私が目立ちすぎたか......。私がオールマイトの後継者とか、弟子とか、隠し子とか思われんの嫌だなぁ。別にオールマイトが嫌いとは言ってないけど。

 

「二つ......気になる点があったから、それを確認するために呼んだ」

 

「二つ......?」

 

轟くんの表情は一切変わらない。目が鋭く、憎悪の炎を左眼に宿し、冷徹な右眼でこちらの様子を窺っている。嫌な予感......

 

「まず一つだ。お前はこの大会で、強化系以外の個性は禁止......ってミッドナイト先生に言われてたよな?」

 

「え、あ、うん。そうだが......」

 

「お前が騎馬戦で攻撃する時に叫んでいた『スマッシュ』っていう掛け声と......、オールマイトのような圧倒的な力......、そして......お前の個性......」

 

「......つまり、何が言いたい」

 

魔理沙は表は終始冷静だが、内心ではドキドキしていた。多分、原作で緑谷くんに言われたことを私に言うつもりなんだろうけど、なんかこう、秘密がバレようとする時って、どんなことでもドキドキするよね!!

 

 

 

 

 

 

 

「お前、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

「......。」

 

「何も言わねぇってことは、そういうことでいいんだな」

 

 

バッチリ大正解で何も言えません。あっれれー、おっかしーぞー? たまに見せてくれるポンコツ轟くんはいったいどこに行ったんだい? 普通に正解なんだが。

 

「......まぁ奪ったっていうより、パクったorコピーしたってのが正解に近いかな。で、だからどうした? 」

 

「別に。さっきも言ったが確認したかっただけだ。確かにナンバーワンヒーローの個性を手に入れれば、あんなデタラメな力も出せるのも理解出来る」

 

「だが一番重要なのはそこじゃねぇ。二つ目のほうだ」

 

えぇ? 他に何があるってんだい? もう私にどうしろって言うんだ。彼女になれとでも言うのか、個性婚か貴様!!

 

「二つ目、お前は俺と親父...エンデヴァーとの関係、家族をどこまで知っている......」

 

「え?」

 

いや、知ってるけど、知ってるけどなんで私が知ってると思ったの!? 根拠出せ根拠。正しいコンギョを言え(北朝鮮ミサイル並感)。

 

「騎馬戦でお前らと戦った時、お前は俺の左側のことについて......、まるで知っているかのような口で煽ってきたよな」

 

「あー、いや、そのゴメンって。悪かったと思ってる......し、反省してるから今回はここらでお開きにしようぜ? みんなも私らのこと待ってるかもしれないし......」

 

「普通なら『なんで左側を使わないのか』って聞くはずなんだが、お前の場合は、『左側は使えないんだよな』って言っていた。何で使えないのか、知っているからそう言ったんだよな」

 

なんだこの轟焦凍は。めっちゃグイグイくるじゃねーか。どんだけ私のウッカリミスを引っ張り上げてくんだよ。ヤベーよ言い訳できねぇよ。証拠だらけだよ。

 

「......まぁ、その、はい。知ってます。はい。私の個性で知っちゃいました。はい」

 

少し嘘を混ぜて自白した私。前世でこの世界を漫画で知っていたからとか、信じるやつなんているわけがない。私だって前世でそんな奴いたら思いっきり無視している。だから許せ。

 

「何で知ろうとした」

 

「いやその、轟くんの心の声の半分が父親への憎しみでいっぱいだったから......つい気になっただけだ。あと残り半分はザルそばでいっぱいだったな」

 

「......人の心を読めるのか」

 

「まぁ、魔理沙さんですから?」

 

少々ドヤ顔しつつ、読心能力で知ったという嘘を上手く刷り込むことに成功した。これで前世とかの話を言う必要が無くなったな。

 

「どこまで知っている」

 

「オールマイトにむしゃくしゃしたお父さんがお母さんと個性婚して、轟くんを産んで、オールマイトを越えるために育て上げようとして、最終的には轟くんに煮え湯を浴びせた傷心のお母さんを病院に入れた......、まぁ、全部知ってるよ」

 

「全部知っているのか......なら話は早い。俺がお前を呼び出したのは、クソ親父を見返すためだ。あのクソ親父の個性なんざなくたって、いや......使わず“一番になる"ことで、奴を完全否定する。」

 

「だからお母さんの氷結の個性だけで、この先勝ち上がっていくと......」

 

「あぁ、だから俺は右だけでお前を越え『うるせぇ』ガフッ!?」

 

とりあえず、右手で轟の頬を叩いた。

 

「図に乗るなナンバー2の息子。戦闘訓練の時で手も足も出なかったお前が私に勝つだと? 舐めてんじゃあねぇぞ.........。入学したばっかの時からずっと憎悪を抱えてたテメーじゃ、私どころか、緑谷くんにも勝てねぇよ」

 

「何だと.........!」

 

「今のお前の脳みそに足りてない部分を私が特別に教えてやろう。やだ私、ちょー親切」

 

「......」

 

 

「はぁ、じゃあ聞け。」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

轟くんの身体が固まって動かない。何か過去の記憶でも回想しているのか、瞬きすらせずに呆然と突っ立っている。

 

「ま、他の足りない部分は自称弟子の緑谷くんがきっと教えてくれるさ。じゃ、私は飯食ってくるんで、後で来いよー」

 

「.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだ......アイツは......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今までは大抵どんな感じの話を書くかすぐ思いつくんですけど、今回は悩んだ。オリジナル騎馬戦って難しい......。

なので少々、戦闘が雑になったかもしれません。頑張って精進します。


いろいろ紹介

フレイザード:ドラゴンクエスト〜 ダイの大冒険 〜 という漫画の登場人物。左半分は炎、右半分は氷で出来た岩石生命体。つまり、轟くんと同じということだね! やったね轟ちゃん、家族が増えるよ。



ちなみに魔理沙がお説教する時の言葉遣いは母譲りだったり......そうじゃなかったり......


次回はもしかしたら、ヤバいかもしれない...



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世界に一つだけの花(36話)




祝、UA5万達成。やったねバンザイ!! 異形郷万歳!! 結依魔理沙よ、永遠に!!

はい、言いたかっただけです。ただの気分です。うぇい。しかしまだ私は止まらんぞプルスウルトラ!!


運対って何なんでしょうか。なぜかよく分からないのですが、皆さんから頂いた感想の内容が消えているんですよね。運営さんが消したんでしょうか、作品に関係ないコメントを書くと消えるらしいのですが、もうよくわかんないですね。おのれ運営。

しかも消されてるコメは異形郷についての質問ですから、尚更関係ないわけないので、もう、この野郎って感じですね。この野郎。

え? 運営に報告しろ? ここに書くくらいなら直接やれ? いやぁ、その、勇気が......決意が足りませぬ......すまぬ。あまりにも酷くなったら、決意固めます。


はい、スタートォ




 

 

 

 

あの轟くんとの話の後、私は昼食を済ませ、昼休憩を現在進行形で過ごしている。あぁ、この体育祭もそろそろ終わりを迎えるそうだ。いやぁ、よかったよかった。爆豪覚醒の件とか、轟くんの件とかいろいろあったけど、このまま行けば上手く私が三冠を取って閉会式に行きそうだなぁ。あと少しだ、頑張れ私。

 

「耳郎、八百万....」

 

「どうしましたか? 上鳴さん、峰田さん」

 

おっ、上鳴と峰田の二人が八百万達と何か話しているぞ。ま、奴らの狙いは、A組女子にチアコスをさせて愉悦に浸ろうとしている......というのは知っているんだが、どっちの味方になろうかな。

 

「いや、クラス委員なら知っているはずなんだけど、午後は全員あのチアの服を着て応援合戦しなきゃいけないんだって」

 

「え〜〜!?」

 

「そんなイベントがあるなんて聞いていないのですが......」

 

「信じねぇのは勝手だけどよ、相澤先生から言伝を頼まれたんだ。忘れてるかもしれないからって」

 

割とありそうな話と、相澤先生という単語を上手く使い、説得力をより強化した峰田の虚言に心を揺さぶられる1年A組女子陣。そして、辻褄を合わせるべく、峰田の発言に合わせて何度も頷く上鳴。八百万は今だ怪しんでいるが、大方成功したといっていいほど効果はてきめんである。

 

私も混ざるか。

 

「やっほー皆。何の話?」

 

((ゲッ!? 結依だ!))

 

「先程、上鳴さんと峰田さんが仰っていたのですが、午後からはチアの服を着て、全員で応援合戦をすると聞きまして......」

 

「あぁ、はいはいなるほどね。」

 

私はジッと峰田達を睨む。峰田達は冷や汗を少し垂らしていたが、平然な態度だけは保とうと必死に堪えている。さてさて......、

 

「私もこの体育祭の手伝いをしてるから耳にするんだけど、峰田の言ってることは本当だぞ。まぁ、私は既にチアのコスチューム持ってるからいいけど......ヤオモモ達は大丈夫なの?」

 

「そうなんですか......私としたことが......こんな重大なことを忘れてしまっていたなんて....」

 

「まぁまぁ、落ち着いて。他のみんなの分のコスチュームはヤオモモの創造と私の個性で作れば全然間に合うからさ。元気だそ」

 

ふふふ、峰田の味方になるのは不服だが、A組女子のチアコスがこの目で生で見られるなら、甘んじて受けよう。だって見たいじゃん!! 可愛いじゃん!! あと前世男だったからチアコス着たことないから着てみたいじゃん! 一石二鳥やん!!

 

驚きの表情で固まっている峰田達。私がお前らの味方をすると思わなかったんだろうな。ふふふ、今日だけだからな。特別だからな!!

 

 

こうして、A組女子はチアコスを着ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

修繕が終わり、再び会場に集合する雄英生徒。これからの流れについてってのと、最終種目についてをプレゼントマイクが連絡するために集合した感じだな。お弁当、もう少し食べたかった。

 

とか思っている間に、プレゼントマイクがマイクを手に取った。

 

 

『最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ! 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ......、ん? アリャ?』

 

『なーにやってんだ......?』

 

二人の先生の視線が一箇所に集中する。それはもちろん、1年A組の女子陣である。

『どうしたA組!!? どんなサービスだ!?!?』

 

相澤先生達の目線の先には、チアコスをしたA組の皆が(一人除く)死んだ目をしながら一列に並んでいる姿があった。

 

ふふは、フハハハハ!! 見たまえ諸君! これが、A組のチアコスじゃあああああああ!!!!! うひょー、やったぜ! 生で見れたぜ! してやったぜ! マスメディアにもバッチリ映ってるぜ! なんかみんな...、スタイル良すぎじゃね? 私なんか......うん。はい。

 

ちなみに私もちゃんとチアコス着ました。なんか、へそとか脇とかスースーするな。霊夢に着せてやりたいなぁ......、この世界にいないけど。

 

「峰田さん、上鳴さん!! 騙しましたね!?」

 

「やったな上鳴! チアコスだぜチアコス!!」

 

「まさか結依が乗るとは予想外だったが、まぁやったぜ! ひょー!!」

 

騙されたことに気づき、憤怒に満ちた八百万と、自分らの作戦が成功し、満面の笑みでグッチョブサインをお互いに交わしている峰田と上鳴、そして表情には出さないものの、内心ヒャッハーしていた結依魔理沙がそこにいた。

 

「結依さんあなたもです!! これはどういうことなんでしょうか!!!」

 

「えー、あたいしらないよ? 峰田の言っていることは本当だよって言っただけで、何が本当かなんて一言もいってないよー」

 

「屁理屈が過ぎます! 今すぐ元に戻してください!!」

 

「まぁまぁまぁ落ち着いて百ちゃん。結依ちゃんも悪気があったわけじゃあ......」

 

「いーや透ちゃん、結依ちゃんは表情隠しているけど、内心では愉悦に浸っているわ」

 

「何故バレたし」

 

梅雨ちゃん、お前、さとり妖怪だったのか....? 実はサードアイをどこかに隠してるんじゃないのか? なんでバレたんだ......

 

 

『さぁさぁ皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目......』

 

『進出4チームからなるトーナメント形式!! 一対一のガチバトルだ!!』

 

 

A組を一旦無視し、最終種目の説明に入るプレゼントマイク。ここからの流れについては尺の短縮のため、私がお話するぜ。

 

まずトーナメントの組み合わせをクジで決めることになった。組が決まったら、そこからレクリエーションがスタートするって感じだな。あぁ、弁当食わしてくれないのか......腐りそう。ちなみにレクに関して進出者16人は参加してもしなくてもOKらしい。流石にレクでも暴れたら印象最悪になるかもしれないから止めとくか。ほどほどが一番だ。

 

さっそくクジを引いていくのかと思いきや、いきなり尾白くんとB組の庄田二連撃が辞退宣言を申し出た。まぁ原作通り、何もしてないからその場に立つ資格がない、という理由から辞退を決意した。ミッドナイト審判によるジャッジでも二人の辞退が認められ、代わりの他の誰か二人が入ることになった。まぁここも原作通りで、入ったのはB組の鉄哲徹鐵と塩崎茨。どっちも入試や障害物競走で好成績を残したヤツらだな。ま、私の敵ではないが(隙あらば煽り)。

 

これで16人揃ったので、クジを引き、トーナメント表が自動集計によって即作られ、デカい画面に表示される。

 

 

結果、トーナメント表はこうなった。

 

 

一回戦

 

第一試合 A組 結依魔理沙 VS B組 塩崎茨

 

第二試合 A組 常闇踏陰 VS A組 八百万百

 

第三試合 A組 緑谷出久 VS C組 心操人使

 

第四試合 A組 轟焦凍 VS A組 瀬呂範太

 

第五試合 B組 鉄哲徹鐵 VS A組 切島鋭児郎

 

第六試合 A組 爆豪勝己 VS A組 麗日お茶子

 

第七試合 A組 上鳴電気 VS A組 芦戸三奈

 

第八試合 A組 飯田天哉 VS サポート科 発目明

 

 

わーお、原作通りな所とそうでないところがチラホラと見受けられるな。相変わらずお茶子ちゃんは爆豪と戦う運命にあるんだなぁ。しかし、私の周りが特殊だな。初戦で塩崎さんと戦うのか.....、性格が聖女だし、面識も全然ないからなぁ。なんか、思いっきりぶん殴れない気がする....。くっそー、初戦が爆豪だったら容赦なく拳を振り回せたのに。

 

まぁ、誰が相手だろうと全力で勝ちに行くのが私のスタンス。聖女だろうがなんだろうが、この私にとっては取るに足らぬ存在よ(DIO様風)!!

 

『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといて、イッツ束の間! 楽しく遊ぶぞレクリエーション!』

 

 

 

その後はレクリエーションが開催され、私はずっとお茶子ちゃんの隣で、暗黒盆踊りやメダパニダンス、「後ろで踊ることで生命力を引き出す程度の能力」などといった能力で地味な嫌がらせをしていた。ちなみに標的は男のみである。あ、ヤバい、癖になりそう。瀬呂くんがずっと壁に向かって歩いていたり、砂糖くんは糖分が急速に無くなって微塵も動かなくなったり、峰田のリトル峰田がハッスルしてたり、もうカオスだった。世界よ、これが日本で最も難関なヒーロー高校の姿だ。とくと見よ。

 

 

やんややんやドンチャン騒ぎで盛り上がり、楽しく幕を閉じたレクリエーション。束の間の休息はここで終了し、最終種目が迫ってくる。

 

そして、魔理沙の平和も、この日をもって終了してしまうなんて、この時の私は全く知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

『ヘイガイズアァユゥレディ!? 色々やってきましたが!! 結局これだぜガチンコ勝負!!』

 

『頼れるのは己のみ! ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ! わかるよな!! 心・技・体に知恵知識!! 総動員して駆け上がれ!!』

 

 

私は今、最終種目のステージへ続く通路の真ん中で立っている。何故かって? 頭を整理してどんな風に相手を倒すか考えるためだ。当たり前のことだが、命に関わるようなレベルの攻撃は禁止だ。生徒が生徒を殺すシーンなんて誰も見たくないしな。だから、能力は慎重に選ばなければならない。

 

瞬殺してもいいけど、それだと面白くないだろう? 我々はエンターテイナー、遊び感覚も持ち合わせつつ戦うのだ。弾幕ごっこのようにね。

 

「結依少女.....」

 

「ん? 誰?」

 

後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「私だよ結依少女。オールマイトさ!」

 

「あ、お久しぶりです。病院以来ですね。」

 

「結構、反応が薄いんだねHAHAHA。ちょっとショック」

 

やってきたのはオールマイト、この小説だと何故か出番が少ない。ナンバーワンヒーローなのに。ワンフォーオール継承者八人目なのに。なんでだろ。

 

「私が君に言えることはあまりないんだが、一つだけ! 私から一言、言わせてくれないかな?」

 

「あっ、はい。どうぞ」

 

オールマイトは魔理沙の素っ気ない返事に困り顔をしつつも、すぐに元の笑顔に戻って、私の肩に手を軽くポンと置きながら、そっと優しく声をかけた。

 

「戦闘訓練やUSJで起きた事件で君を見て思った、君は誰かが困っているのを見かけたら、真っ先に助けようとし、ヴィランが暴れているのを見かけたら、その数多の個性を駆使して、真っ先に止めることが出来る素晴らしいヒーローだ。それに、君は仲間を本当に大切に思っている.....、私が君と初めてあった時も、緑谷少年を守ろうと動いていたね。爆豪少年が戦闘訓練で暴走した時も、尾白少年が瓦礫に飲み込まれそうになった時も、体を張って守ってくれていたのを、私は知っている。」

 

 

「しかしだよ結依少女、君のその心は確かにヒーローだが、もっと周りを頼ってもいいと思うぜ? 君は誰よりも多く個性を持っているから、誰よりもできることが多い、周りの人に頼らなくても、一人で全て解決出来るほどの力を持っているのは知っている。だがそのまま行けば、君はいつの間にか負荷を溜め続けて、誰にも頼れないまま壊れてしまう。そんなこと、誰も望んでいない。」

 

 

「君にとって他の人は、守るべき存在かもしれないが、君が本当に困った時はいつでも助けてくれる大切な味方さ。まぁ、要は君は一人じゃないってことだな! HAHAHAHAHA!!」

 

オールマイトは少し呼吸を整えると、再び話し始めた。

 

「トーナメント戦が始まる前に言うことじゃなかったけど、言いたいことはそれだけさ! 後、一回戦頑張れよ! 応援しているからな!」

 

オールマイトはそう言い切ると、そのまま回れ右して立ち去っていった。

 

「......全然一言じゃねーじゃねぇか。しかも内容もこれからの最終種目と全然カンケーねぇし。

全く......」

 

「ナンバーワンヒーローの言うことは格が違ぇや。ハァ......」

 

オールマイトの言われたことが頭に響き、ずっとリピートが繰り返され、何度も何度も同じ言葉が頭の中を回り続ける。

 

 

「一人じゃない............、ね。」

 

 

私はなんとなく右手を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

オールマイトの声援を受け、気合を入れて登場する私こと結依魔理沙。コンクリートの階段を登り、悠々と登場すると、観客の声が一気に盛り上がる。

 

相手も同じように登場し、ついに相見えることになった両者。ここが最終戦なんだと、はっきり実感出来る。障害物競走や騎馬戦と比べ物にならないくらいの緊張が肌にピリピリと伝わってくる。

 

二人が揃ったことを確認したプレゼントマイクは、一回戦第一試合のコールをかけた。

 

 

『一回戦!! 立てば災害、座れば覇王、歩く姿は破壊神!! ヒーロー科、結依魔理沙!!』

 

『バーサス!! B組からの刺客!! キレイなアレにはトゲがある!? 塩崎茨!』

 

 

『スタート!!!』

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!(歓声)

 

 

やっと始まった第一試合。私は手をパキパキと音を鳴らして準備し、強者の余裕を見せつけようと、癖になりつつある自然な煽りを、塩崎さんにかます。

 

 

「初めまして、塩崎さん。早速で悪いんだけど、場外まで吹っ飛んでくれるかな?」

 

「......クスッ」

 

え、笑った? 塩崎さんが? あの人そういうキャラだっけ? てっきりヤオモモみたいな真面目オブ真面目な人かと思ってたから、キレるかと思ってたんだけど。

 

 

「やっと会えたわ結依魔理沙。いえ、()()()()()

 

 

!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 

こいつ、今私のことを異形魔理沙って言ったぞ!? どういうことだ!? お前は塩崎茨、この「僕のヒーローアカデミア」という作品のキャラのうちの一人! 特に私との接点もないお前が、東方異形郷のことなんて絶対知ってるわけがない!! なんでだ!?

 

待て、頑張れ私、冷静になれ、もちつけ。ありえないと思っていたが、可能性は無きにしも非ず。考えるとするならば.........。

 

「お前は......、私と同じ転生者か?」

 

一番考える可能性としたらここだ。神様は私以外の人もこの世界に飛ばしていたというのか。平行世界なんて無尽蔵に存在するのに、わざわざ私と同じ世界に転生させるなんて随分と豪華なこった。しかもこのタイミングでご対面とは、マジ驚きだよ。

 

 

 

 

 

しかし、予想は大きく裏切られる。

 

 

 

 

 

「いいえ違うわ。私の正体はね......」

 

 

塩崎茨? の言葉を注意深く聞こうと耳を澄ませていたが、何故かここに来て腹痛がしてきた。おかしい、今日は体調不良ではない。ここに来てお腹が痛むなんて......オールマイトの言葉のせいかな?

 

 

 

腹には、薔薇のように鋭いトゲを持ったツルが、私の腹部を貫通していた。

 

 

 

「......は? なんだコレ、血か? は? なんで? お前、なんで......?」

 

 

血だらけになった私の腹部から、再び塩崎茨へと視線を戻した。のだが、そこにいたのは塩崎茨ではなかった。いや、人間ですらない。下半身がまずおかしい。人面植物のような何かが奇妙な笑い声を上げ、この化け物の足として機能している。背中からは複数のトゲのムチや、見てるだけで吐き気のする向日葵、人を噛み殺しそうなハエトリグサなど、複数存在している。目線を左にずらせば、強力な溶解液を蓄えたウツボカズラ、目線を右にずらせば、ドラゴンの見た目をした謎の植物。そして、本体らしき部分は、塩崎茨の姿の一欠片も残っていない。ロングヘアからショートヘアに、服ははだけて、嫌味ったらしい顔をしてずっと嬉しそうにこちらを見ている.........

 

「嘘だ......絶対嘘だ。夢、夢に決まってr」

 

「夢じゃないわ、現実よ魔理沙さん。いや、コイツは魔理沙さんの姿をしているだけだから、敬語はいらなかったわね。魔王様いわく、『ただの器(うつわ)』らしいわね。フフフ、虐めがいがありそう♡」

 

 

 

 

いるはずがない者がそこにいた。いてはならないものがそこにいた。人工知能、異世界で大暴れ、爆豪の覚醒、今までどれほど原作が崩壊したことか、数え切れないだろう。しかし、これほどまでの絶望はない。心のどこかで否定していた最悪の事態が、今目の前で発生している。

 

いや、前兆はあったのかもしれない。『異形因子』なんてものが出てきた時、疑っていれば良かったのだ。これは、アイツらがこの世界に潜んでいるという、前触れなんじゃないかと......。

 

 

「異形.........幽香............」

 

 

「そんなに怯えなくても大丈夫よ♡♡ 優しく、ゆっくり、じっくりいたぶって、陵辱してあげるわ♡ みんなが見ている前で......ね♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惡の華が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 








ハナガサイタヨ。ハ、ナ、ガ、ハナガサイタヨ。




イロイロショウカイダヨ


暗黒盆踊り:相手の気(エネルギー)を奪い、我がものとする奥義。これで砂糖くんの糖分(エネルギー)を吸い取った。

メダパニダンス:相手を混乱させる踊り。これのせいで瀬呂範太は延々と壁に向かって歩き続けていた。

後ろで踊ることで生命力を引き出す程度の能力:東方Projectのキャラ、丁礼田舞の能力。能力名がものすごく長い。この能力は名前の通り対象の生命力を引き出すというバフ系能力。これで峰田のリトル峰田ははち切れんほど膨れ上がり、マスコミのカメラに一瞬映るという......


異形幽香:東方異形郷のキャラ。結依魔理沙以外で初の異形キャラ参戦。こいつがいるということは他にも............。

既存の東方キャラである風見幽香と比べると、体に複数種のグロッキーな植物が取り付いている。下半身についた人面植物のようなものは『笑い草』と呼ばれ、虚しい笑い声をいつも上げている。そして、トゲや目玉のついたツルや、目玉が中心に三つほどある向日葵、人食いハエトリグサ、なんでも溶かす溶解液を持ったウツボカズラ、ドラゴンの見た目をした植物、そしてマスタースパークの射出口である巨大な向日葵など、様々な植物(兵器)を持っている。また、強力な神経毒を持ち、一呼吸しただけで普通の人は一分も持たずに死ぬ。





サヨナラ。



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ネクロファンタジア(37話)




絶望の未来への、最初のステップ。


書き直しが辛い。5000文字越えたあたりで急により良いアイデアが出て、消して書いて消して書いて......、はい、大袈裟に言いました。そこまで書き直してません。

予定と書き直しが重なって遅れました。すみません。一応、不定期更新なので大目に見てください。



ダークソウルとテトリスが鬼畜すぎる件。おのれガーゴイル、体力半分減ったらもう一体追加するのやめたまえ。そしてテトリス99、まだ初心者の私が4人のプレイヤーに狙われるとはどういうことか。

まぁ、楽しいからいいんだけどね。








 

 

 

魔理沙の腹部を貫通していたツルが引き抜かれ、血の滴がコンクリートに零れ落ちる。観客は唖然、先生方は動くことの出来ないほどの恐怖に縛られ、ただ突っ立っている。この体育祭という場は、異形幽香によって書き換えられ、この世界の運命は、今ここでバットエンドルートへと進もうとしている。

 

 

「......時間停止(タイムストップ)、マインドコントロール」

 

 

時間を止め、非常識を常識に変えることができる能力で『体育祭最終種目一回戦第一試合での結依魔理沙VS塩崎茨の戦いは、魔理沙の風圧パンチによって、魔理沙が勝利を収めた』というのを、全人類の脳みそに刷り込ませた。結構辛い。

 

そう全人類に思い込ませたのはいいが、問題は異形幽香だ。動画で見てただけでも怖いというのに、それが現実に存在するなんて考えたら......あぁもう、震えが止まらん。さっきから腕が一人痙攣して上手く動かない。怖い、戦いたくない......

 

しかし、今ここでアイツを倒せるのは私だけだ。私以外じゃ無惨に引き裂かれて死んでしまう。頑張れ、頑張れ私。他にもいるか気配を探ったが、どうやらこの体育祭で侵入してきたのは異形幽香一人だけだ。大丈夫、私には無数の能力が味方している。大丈夫......怯えるな。私は、最強の魔法使いだ。

 

「固有結界『極』。......さて、異形幽香...、そこから一歩でも動いてみろ.....、お前の破壊の目を潰して爆散させるぞ」

 

私は既にフランドールの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を発動し、右手には異形幽香の破壊の目がある。さらに固有結界を発動し、万が一にも被害を出さないよう配慮した。コイツは絶対に逃がすわけにはいかない。

 

「フフフ、そんなことしていいのかしら器さん?

私はこの塩崎茨と同化しているから、あなたが私をイカせば、この子もイカされるのよ? 賢明な貴方なら理解出来るわよね♡」

 

「チッ、ただ塩崎茨に化けているだけなら楽だったというのに......、同化か......厄介すぎる」

 

「この子と私は体の相性が良くて、すぐに合体できたわ......。はぁ......合体した時......この子ったら凄く喘ぐものだから......お姉さん興奮してしまって......今思い出しても火照っちゃうわ♡」

 

異形幽香は体をクネクネと動かしながら、頬赤らめ、目を隠して興奮していた。

 

念のために言っておくが、コイツの言っている『喘ぐ』はあっちの方じゃなくて、悲鳴のほうだからな。あとアイツ『イク』って単語使ってたけど、あっちの方じゃなくて、ガチの『逝く』ほうだからな。死ぬ方だからな。

 

とにかく異形幽香はガチリョナ勢なんだよ。私が一番苦手なタイプだよ全く。顔は可愛いけど。

 

「で、お前はなんでここにいるんだよ。幻想郷のみならず、この世界も滅ぼしに来たのか?」

 

「来た以上は滅ぼすけど、それだけじゃあないわ。その事については貴方に言えないけど、私が来た理由はその計画のための一部、()()()()()()()()()()()

 

「私を......連れて帰る?」

 

意味がわからない。なんで私? 異形魔理沙の姿だからか? もしかして、私から前世の記憶を消し去り、本当の異形魔理沙に近づけるためか? そしてその異形魔理沙と共に、この世界を滅ぼすつもりなのか? 情報が圧倒的に少ない......、というか急すぎて全然頭がついてこない!! もう脳みそ痛い!!

 

とにかく、考察は事件解決後に考えよう。まずは、塩崎さんと異形幽香を分離して、危険因子を排除せねば。

 

「お前らの計画が何だか知らないけど、絶対ぶっ潰して、正常な僕のヒーローアカデミアを、取り戻してやる!!」

 

「ウフフ、強気でいられるのもいつまでかしら♡」

 

「ははは...ははははは......」

 

「笑い草、その虚しい笑い方を止めなさいと何度言えばわかるのよ」 グシャッ

 

「はは!!」

 

「敵の目の前でひとりツッコミとはいい度胸だな。427万の形態の一つ、『黒龍』」

 

結依魔理沙の身体が巨大化し、一体の黒い龍へと変貌する。しかし、その龍は生物的な特徴を持たず、生命エネルギーが龍の形へと具現化した姿であった。

 

したがって実態はなく、物理攻撃は一切効くことはない。つまり異形幽香の攻撃で唯一魔理沙に当てることのできる攻撃はマスタースパークのみ。だが異形幽香はマスタースパークを三回しか使えないのを魔理沙は知っている。だからマスパさえ使い尽くしてくれればこちらが圧倒的に有利になるのだ。

 

「魔理沙さんを相手に、一人だけで立ち向かうわけないじゃない」

 

「は?」

 

「出て来なさい、オレンジ、くるみ、エリー、妖精達」

 

異形幽香の声を合図に、突如として空間が裂け、裂けた隙間からゾロゾロと異形達が流れ込んできた。完全に別の世界からこちらの世界に来たという感じだな。これじゃあ索敵能力も意味が無い。

 

異形オレンジ、異形くるみ、異形エリー、異形チルノ、異形リリー、異形リリーブラック、異形大妖精、その他異形妖精達が、体育祭の会場に勢揃いしている。なんだよコレ、ここまでするか? 随分と豪華なキャスト陣だな。異形幽香以外は全員殺してもこちらの世界に被害はないし、殺すか。久しぶりに。

 

もう恐怖の感情は一周回って殺意へと変わってきいる。というかもう何も考えたくない。私にも人並みの幸せをよこせ、マジで。

 

ちなみに今は黒龍の姿から元の姿に戻っている。デカいから的になっちまうし、どっちかって言うといつもの姿のほうが戦いやすいからな。

 

 

さて、妖精狩りの時間といこうか......。

 

 

「値=最強」

 

「ハルッッデスッヨ!!!!」

 

「ハルッッデスッネ!!!!」

 

「幽香様の命令通り捕まえさせていただきますわ、魔理沙様」

 

「.........」ゴゴゴゴゴゴ

 

「ゲヒャッ! ゲヒャッ!」

 

「ぐぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ」

 

「うんうん、わかるよ?」

 

「ン!? ンンンンンンン!?!?」

 

 

 

 

「私は最強最悪の魔法使い、結依魔理沙さんだぜ? 負けるなんてことは宇宙が大爆発しても叶うはずがない。しかも今日は特別大サービス、激おこプンプン丸モードで相手してやる。覚悟して死ね」

 

私は背後から十メートル級の特大サイズ大剣を4本、異空間から出現させ、さらにその4本の剣の柄を強靭な糸で縛り、指で操作できるようにする。両手に2本ずつだ。こっから何をするかなんて、容易に予想できるだろう? みんな大好き無双ゲームの始まりだ。

 

「切り刻め」

 

人形を操る程度の能力で操作性を向上させた私は、4本の大剣を8本の指で巧みに操り、次々と異形妖精たちを切り刻む。これがホントの脳漿炸裂ガール、なんちってな。

 

ちなみにこれらの大剣はただの大剣ではない。天候改変能力、魂撃、空間切断、不壊、その他の能力を盛りに盛った特別製。そんなもの振り回したらさも阿鼻叫喚の地獄絵図が出来るだろうな。今、目の前で起きてるけど。

 

「「ハルゥウウウゥゥアアアアアアア!!!」」

 

津波、雷、火災、暴風、あらゆる災害とその他のエグい能力の嵐から抜け出してきた二体の巨竜、異形リリーと異形リリーブラックがこっち目掛けて突っ込んでくる。流石、妖精と言ったところか。どうみてもドラゴンだけどさ。

 

「エクリプスメテオ」

 

竜には龍の一撃を。FFの怪物、ベヒーモスのエクリプスメテオを近づいてきた二竜に容赦なく喰らわせる。巨大な隕石が私の目の前で落下し、二竜は跡形もなく消し飛んだ。爆風と衝撃波が凄い。

 

「魔理沙=666666」

 

絶対零度の化身、異形チルノが私を捕捉したようだ。あの触れたら確実にアウトな冷凍ビーム、アレだけは確実に避けよう。

 

「転身の装衣」

 

黄金のマントのようなものを身につけ、真っ直ぐ異形チルノに向かう結依魔理沙。マント羽織っただけで何になると思ったそこの貴方、実はこれ、モンハン界のチートアイテムでござる。なんでチートかと言うとな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。喰らえば一撃で即死のパンチも、意味わからん範囲攻撃も、遠距離からのレーザー光線も、全て自動で避けきる。強い、強過ぎる......んだが、どうやらスリップダメージは喰らうみたいで、毒とか止めろよ。あと大嘘付きもダメだし、まぁそういう干渉系能力もダメだな。うん。後、時間制限もあるんで多用は出来ません。なので1回避けたらもう異空間にしまいます。よし。

 

軽く説明してたら絶対冷凍ビームが目の前まで迫ってきていた。が、転身の装依の効果によって問題なく避け、カウンターとして4つの大剣を異形チルノ単体に振り下ろす。4つの剣先が異形チルノに触れた瞬間、大規模な爆発が発生し、対象は跡形もなく消え失せる。

 

しかし他の異形たちはその様子を見ても身震いひとつもしない。仲間が無惨に引き裂かれ、血を吹き出し、苦悶の表情で肉塊にされていくというのに、誰も恐怖を抱いていないのだ。

 

「......どうせ復活するから別に大丈夫とか、思ってんだろ?」

 

「当たり前じゃない。妖精達の不死の能力と無慈悲な攻撃の数々、貴方に勝ち目なんて無いじゃない?」

 

「そう思ってんなら今すぐにでも考えを改めたほうがいいと思うぜ。とんでもないやつに手を出してしまったとな......」

 

「ただの器が......魔理沙さんの姿でイキがりやがって......、中身引きずり下ろしてグチャグチャにしてあげるわ」

 

「やれるもんならやってみろ、現に私に近づくことすら出来ないテメェが、私に手を出せるとでも? 」

 

「近づく必要が無いだけよ」

 

異形幽香は既に棘のムチ(ツル)を数十本地面に忍び込ませており、いつでも魔理沙を捕らえることが可能であった。後は魔理沙の足首を棘のムチで絡めて動きを封じ、全員で一斉に全力をぶつけて身体を破壊し、超再生で修復している間に拘束して持ち帰る。かなり難しいが、出来ないわけではない。魔王様の元にさえ置いていけば、器が自由に暴れることは出来ない......と魔王様が仰っていた。魔理沙さんを取り戻す為にも、ここで失敗するわけにはいかない。

 

異形幽香は覚悟を決め、魔理沙目掛けて、全て棘のツルを伸ばした。棘のツルは予定通り魔理沙の足首に絡まり、動きを封じる。

 

「うわ、動けねぇ。しかも棘がくい込んでグロい」

 

「フフフ、さぁ盛大に潮を吹いてイキなさい♡」

 

異形幽香は魔理沙にトドメを刺すべく、巨大な向日葵の姿をしたエネルギー砲を魔理沙に向けた。と、同時に復活した異形リリーと異形リリーブラックも強酸を口内でチャージし、いつでも撃てるよう構える。だが、他の遠距離攻撃できる仲間が何故か復活しない。異形チルノや異形くるみ、異形オレンジやその他異形妖精の姿が見当たらない。もう復活してもおかしくないほど時間は経過しているはずなのだが......。

 

「早く復活してくれないのかしら。私を焦らしているの?」

 

「いいや、死んだんだよ。もう二度と復活はしない。」

 

魔理沙が呟くように口を開いた。死ぬはずがない。現に異形リリー達は復活している、少し復活が遅いこの状況で私を動揺させるための罠に決まっている。ハッタリだ。

 

「は? 脳みそ腐っているのかしら? 前世が只の一般人の癖に調子に乗ってんじゃないわよこのクソカス論理破綻者が」

 

「いいやハッタリじゃないさド変態サディスト。私の大剣には『魂撃』っていう魂そのものを攻撃できる能力が付与されてんだよ。魂は肉体と違って脆いし、モロにダメージが直撃すればすぐ消滅するから楽だよな。ま、一番はお前らみたいな不死の体を持っているヤツらを容赦なく殺せる点だけど」

 

「魂撃......、魂そのものを攻撃......!? ふざけんな!! そんな力存在するわけn」

 

「お前がどう受け取ろうとどうでもいいが、この大剣で殺したヤツらは絶対復活できないことだけは言っておく。まぁ、魂の情報をバックアップしてたなら別だが」

 

衝撃を受ける異形幽香。魔理沙さんにそんな能力は存在していなかったはずなのに、何故かコイツには存在している。何故? 考えたいところだが生憎敵は油断も隙もない。それに距離さえ離せば攻撃は当たらない上、作戦も上手く進めやすいので、とにかく距離を置けば大丈夫。動揺している暇はないと、異形幽香はそう心に言い聞かせた。

 

「...........。まぁいいわ。人数が少なくなって効率が落ちただけで、作戦に支障はないもの。ちょっと驚いちゃったけど、どうってことないわ。さっさとイカせちゃいましょ。」

 

なんとか落ち着きを取り戻した異形幽香は、エネルギーが充填された向日葵砲を魔理沙に浴びせるべく狙いをつける。なんだ、ビビって逃げてくれたら面倒だったんだが、相手から楽な方法への道を整備してくれるなんてな。

 

「マスタースパーク♡」

 

エネルギーを吸収しきった向日葵は、風見幽香の元祖マスタースパークを優に超える極太破壊光線を放出した。黒い稲妻が周囲を走り、真っ白な光が視界全体を占領する。圧倒的な破壊のエネルギーが、回避不能な魔理沙に直撃し......

 

全反撃(フルカウンター)!!!」

 

ませんでした。魔理沙はこの攻撃が来るのを待ってましたと言わんばかりの表情でニヤリとし、右腕を払ってマスタースパークを倍にして返した。フルカウンターは自分に向けられた魔力を含んだ攻撃を倍以上の威力で跳ね返す技。あ、これ、バンドリでフルコンボ叩き出した時くらい気持ちいい。いや、違うな、水切りで七回連続で石が跳ねた時くらい気持ちいい。いや、パワプロくんでホームラン出した時くらい気持ちいいぞ。

 

倍になって跳ね返ったマスタースパークは異形幽香に直撃し、案の定瀕死まで追い込んだ。笑い草もウツボカズラもドラゴンみたいな草も向日葵も全て消滅し、本体だけが綺麗に残されていた。これが、手加減か(まぐれ)。

 

あんなに息巻いていたのに、こんな呆気なく終わるのもなんか味気ないが、まぁいいんだよ。場面の美味しさを求めるために世界を危険な目に晒すのは嫌だし。さっさと分離させて、後始末つけるか。

 

私はさっそく異形幽香の本体に触れようと近づくが、背後から奇襲をかけようとしている異形大妖精の気配を感じたので、振り向かず、片手で破壊の目を握りつぶした。破壊の目を握りつぶされた異形大妖精は私の背後で爆散、肉片が飛び散る。ホントしつこいな。

 

「「ハルッッデスッヨ!!!(ハルッッデスッネ!!!)」」

 

異形幽香の隣で強酸を口内に溜めていた二竜は、近づいてきた結依魔理沙に向かって酸ブレスを浴びせる。だが、魔理沙には一切効いておらず、魔理沙はまだ指に括りつけていた操り糸を操作し、二竜の首を切断する。もうコレ邪魔だし決着ついたから消そう。指もそろそろ疲れてきた。

 

 

 

残りの異形妖精達を全て、魂の欠片すら残さず駆逐した後、倒れている異形幽香の本体に駆け寄り、手を胸のあたりに重ね、能力を発動させる。

 

「ユニークスキル『変質者』起動。異形幽香と塩崎茨の肉体分離開始.........、終了。.....ふぅ、後は完全回復薬をかけて......後遺症とか残んなきゃいいけど......」

 

血塗れのステージの中央で、何とか二人を分離することに成功した結依魔理沙。本体のみ綺麗に残したとはいえ、分離後の塩崎さんの足は消失していた。申し訳ない......私が不甲斐ないばっかりに。完全回復薬で足は再生したから、普段通りには動けるはず......いや、絶対そうさせる。

 

完全に治ったと思われる塩崎さんの体をステージ外に運び、優しく置いてあげた。さて、みんなには『パンチ一撃で塩崎茨を場外まで吹っ飛ばした』って設定で洗脳したから、それっぽい状況を作らなければな。

 

飛び散った肉片や血溜まりを暴食者(グラトニー)で吸収、処理、ついでに能力を獲得する。そして異常に崩壊した会場設備の修復を行い、塩崎さんの近くの壁にヒビを入れた後、最後はステージの端あたりで正拳突きのポーズをとれば、万事解決。後は時止めを解除すれば、体育祭は再び動き出す。

 

 

そういえば、時止めたのになんでアイツらは動けたんだろうか。そんな能力持ってなかったはずだが。

 

 

 

考え込んでいると大事なことを思い出した。そうだ異形幽香、アイツを放置しっぱなしだったな。流石にこのまま警察署にぶん投げたとしても、警察が異形を制御できるとは思えないし、そもそも犯行を知っているのは私だけだし、仮に刑務所にぶち込まれたとしても他の異形キャラが助けに来たら意味が無い。....、異空間か、次元の狭間にでも放置しておくか。やったねコード004、家族が増えるよ。

 

ということで、異形幽香を回収すべく私はゆっくりと近づく。ここで目覚めたとしても、即刻マスパで再び眠りにつかせるため、八卦炉を片手に持ったまま少しずつ近づく。

 

 

フィィィィン

 

 

異形幽香をあと一歩で回収できそうなところで、急に背景が転換し、白と黒のみで形成された影絵のような空間が世界を支配した。

 

「は?」

 

何だここ。ついさっきまで雄英高校の敷地内だったというのに、いきなり 「Bad Apple!!」でも流れそうな、ニコ動でも再生数が異常に高いアレのような世界が、視界一面に広がってるんだが。まさか、

 

「エリーの結界か!!!」

 

「そうですわ魔理沙様。これ以上の損害を出すわけにはいきませんので、そこで大人しくしていてください」

 

空中に出現した異形エリー、異形妖精の駆逐と塩崎さんの救出ですっかり頭から抜けていたぞ。だがしかし、ここでお前が現れたということはおそらく異形幽香の回収が目的だろう。ちょうどいいや、ここで異形エリーも完全に潰せば、不安は少しだが消えるに決まっている。

 

「却下。幽香は回収するし、お前もここで死んでもらうぞ」

 

「私の結界に一瞬でも囚われた時点でもう私を捕まえることはできません。さようなら魔理沙様、また会えることを楽しみにしています」

 

異形エリーはそう言い残すと、霧のように姿を消した。マズイ、異形幽香が回収されてしまう。今すぐこの結界をぶち壊すしかねぇ!!

 

 

「虚無崩k」

 

ザシュッ

 

 

破壊のエネルギーを結界全体にぶつけようとした魔理沙だが、背後にいた小野塚小町の影に、背中を鎌で削り取られた。動くのお前ら!?

 

死神の小野塚小町に続き、次々と他の東方キャラの影が動き出す。ええええええ!!? 何だそれは!? あ、ちょ、こっちくんな!!

 

影の容赦ない攻撃をギリギリで回避し、空中へ逃げて結界の端まで移動する。早くしないと、影が追ってきて邪魔してくるから、さっさと脱出するぞ!!

 

「俺のドリルは、天を突くドリルだぁぁああああああああああぁぁぁあ!!!」

 

どこかで聞き覚えのあるセリフを吐きながら、渾身の昇竜拳を結界にぶち込んだ結依魔理沙。すると、ピキピキと音を立てて結界が崩れ、背景は元の体育祭に戻っていった。やった、上手くいったぞ。後は異形幽香を......!!

 

魔理沙は異形幽香がいたところに視線を向けたが、そこに異形幽香は存在していなかった。ああああああああぁぁぁ!!!! 遅かったぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

心の中で大発狂し、ステージの上でゴロゴロし、足踏みや台パン(この場合、床パン)など、狂ったように暴れてしまったが、少しずつ冷静さを取り戻し、ポジティブシンキングすることでやっと平常心を取り戻した。

 

「まぁ、塩崎さんを救えたからそれでいいか。本物の異形の存在に関しては正直怖いし、もう二度と関わりたくないが、とりあえず、今は体育祭だけ考えよ」

 

気持ちを無理矢理入れ替えた結依魔理沙は、再び正拳突きのポーズをとり......

 

 

 

時止めを解除した。

 

 

 

 

 







※マスチュロの激しい言い訳と謝罪があなたの時間を喰いつぶすため、無視を推奨します。


ホントは異形たちだからもっと絶望感出してあげようと苦戦シーンを書いたんだけど、こんなんになったよ。


1.異形幽香つえーみたいな感じなの作ったろ

2.アレ? これ異形幽香がどうあがいても即負けだよな?

3.じゃあ異形妖精を大量に追加したろ

4.アレ? 異形幽香は同化があるから殺せないけど、完全化け物の異形妖精に関しては手加減する必要なくね? つまり本気の魔理ちゃんに勝てるヤツ、異形妖精にいなくね?

5.よし、無双するか


てな感じです。苦戦シーンや異形幽香のお色気を待ってた人はゴメンなさい。異形幽香って、異形魔理沙より後に生まれた的な発言してたから、あまり舐めプ出来ないんだよね。力量的にも。

あと、異形エリーのセリフも、もしかしたら全然違うかもしれません。お気に召さなかったら、申し訳ない。エリーの固有結界の効果については、完全にオリジナルです。まだ出てない幽香編3で異形エリー戦見れるらしいのですが、待てませんでした。そこのところも、ゴメンなさい。


いろいろ紹介

マインドコントロール:人間の脳を洗脳する力。マインド(心)をコントロール(操る)ってそのままだよね。規模は地球全体にかけることができ、人の常識さえ書き換えることのできるチート能力。作品は『斉木楠雄のΨ難』。

固有結界『極』:魔理沙が作り出せる最強の結界。どんな破壊エネルギーがこようとも、分散され、散らすことの出来るスーパー結界。だが長時間の使用は使用者にとてつもない負担をかける。

同化:相手の体と自分の体を同一合体すること。憑依とほぼ一緒だけど、憑依は体と体ではなく、体と精神の合体と思ってくれた方が多分わかりやすい。ウホッ!いい男…

黒龍:名前はオリジナルで勝手につけましたが、ちゃんとある形態のひとつ。東方異形郷の作者、寿司勇者トロさんのピクシブに投稿されている東方異形郷の番外編......みたいな立ち位置の『異形の廃園』にて、異形魔理沙が幻葬狂霊夢に攻撃を仕掛ける時に変身した黒い龍のアレです。アレなんです。

不壊:武器や防具が寿命やダメージによって壊れない。ただし劣化はする。

風見幽香:東方キャラ、元六ボスの風見幽香さん。元祖マスタースパーク使いであり、霧雨魔理沙はこれをパクッたんかな? 花が大好きだけど、花の妖怪ではなく、花が大好きな妖怪。大事なひまわり畑を荒らされると、鬼神と化す。

バンドリ:最近人気になってきたね。おめ。

水切り:昔やってたけどもう覚えてない。

パワプロくん:いとこがやってたけど私はやったことない。けどパワプロ高校校歌は歌える。

変質者:転スラ、リムルのスキルのひとつ。元はシズエ・イザワが持っていたスキルであるが、色々あってリムルのものになった。能力の内容は統合と分離。統合で大量のスキルをひとつに綺麗にまとめたり、分離はうん、本文のアレみたいなことができる。医療分野で活躍できること間違いなし!

コード004:結依魔理沙の超亜空切断によって、次元の狭間に放置された人工知能。しかし、次元の狭間は時の干渉がないため、返り討ちにあったあの時からずっとあのままである。なお、家族は増えなかった模様。

Bad Apple!!:流れてく♪ 時の♪ 中ででも♪ 気だるさが♪ ほらグルグル回って♪



異形キャラの説明について知りたい方は、コメント欄にて対応します。まぁ、一番はグーグル先生に聞くか、東方異形郷を視聴するのが良いでしょう。


ここまで見て下さった方、ありがとうございます。



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金髪イカレ魔女と金髪全裸高校生(38話)




今回、戦闘シーンはありません。つまりストーリーがあんまり進んでません!! ごめんなさい!!

今回はシリアスがあるのでシリアルアレルギーの方は枕に顔面突っ込んでデザイアドライブしてください。





 

 

 

 

『しゅぅうぅううりょぉおおぉおおお!!!! なんと一撃!! 一撃で場外アウト!! 破壊神の名は伊達じゃないぜBreak Down!!』

 

『......一撃で決めた割には、随分と複雑な表情をしているな』

 

『そうか? ンンまぁともかく! ヒーロー科結依魔理沙、一回戦突破!!! 』

 

 

\\\わああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!///

 

 

歓声に包まれる会場。熱狂や絶叫が飛び交う嵐の中、たった一人だけ曇り顔の表情を浮かべていたヤツがいた。

 

 

結依魔理沙である。

 

 

魔理沙は無言で塩崎茨の下まで歩いていき、気を失っているその体を優しくお姫様抱っこで持ち上げ、そのまま会場を去ろうとした。

 

「待ちなさい結依魔理沙。彼女のことは心配しなくても大丈夫よ。看護ロボットが医務室まで運んでくれるから、あなたは先に戻ってなさい」

 

魔理沙の表情を汲み取ったのか、ミッドナイト先生が魔理沙に声をかけた。怪我していないかどうか心配しているのだろうと、そう汲み取ったミッドナイトは言葉を選び、優しく伝えた。

 

「ミッドナイト先生、すみません。どうしても心配なんです。ちゃんと時間は守るんで、塩崎さんを医務室に連れてっていいですか?」

 

いつも自由っぷりな結依魔理沙はそこにおらず、何か思い詰めている表情のまま、ミッドナイト先生から許可をとろうとする魔理沙。その様子に驚いたミッドナイトは、生徒の意思を尊重してあげようという気持ちが勝り、返事をする。

 

「何か思うことがあるのでしょうけど、深くは聞かないわ。早く行きなさい」

 

「ありがとうございます」

 

 

魔理沙はそう言うと、ゆっくりと会場から去っていった。

 

 

 

 

 

「きっと青春ね!!」

 

 

 

 

濃厚な青春であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

(さて、これからどうすべきか。)

 

 

塩崎さんを医務室のベットに置いていき、リカバリーガールにお辞儀をして医務室から出た後、私はずっと廊下の真ん中でグルグルと歩き回っていた。一人で考え事するとこうなっちまうから、不審者呼ばわりは止めてな。

 

(異形か......)

 

突如として体育祭に現れた異形軍団。私を連れてくだかどーだか言っていたが、最終的にはこの世界を滅ぼすのがヤツらの目的だ。あの様子だとこの世界にはまだ潜んでいる異形がいる可能性が高いが、位置が特定できない以上、今はどうしようもない。とりあえず、今は考えないようにしよう。

 

(......ダメだ頭から離れん)

 

頭の片隅に放置したいのに、目を閉じたら、瞼の裏側にアイツらの姿が映し出される。平然と人を殺せる人類の敵対者......、まぁ、私もアイツらと同じくらい残虐性があるから人の事言えねぇか。あー、私がもっとオールマイトみたいにヒーローらしい見た目と信念を持っていればなぁ、もっと現状は変わってたかもしれないなぁ。はぁ。

 

負のオーラ全開でため息をつく魔理沙。みんなを影ながら守るのは別に悪くは無いんだが......、なんというか、誰にも話すことのできない事情が多すぎてツラい。人工知能の件も、異形軍団の件も、緑谷くんたちにそのことを言ったら、情報の拡散を防ぐために皆殺しに来るかもしれない。だから迂闊に喋ることは出来ないし、誰かがそいつらと遭遇したら真っ先に私が潰さなければならない。話せたら楽になれるんだろうなぁ。

 

「そんな悲しい顔じゃ乙女の顔が台無しじゃないか」

 

「誰が乙女じゃ.........って、え?」

 

一瞬、人の顔が見えた気がする。でも見えたのは顔だけだ。あれ? 人間って一頭身だったけ? それとも私が前の出来事のせいで混乱してるのかな? もっかい確認してみるか。

 

私は真実を見極めるべく、振り返って確認してみた。

 

 

だがそこにいたのは、全裸の金髪男子高校生であった。

 

 

「くたばれ露出狂がああああああああぁ!!!」

 

「露出狂じゃないよハハハ!! 僕はミリオ、雄英高校ヒーロー科三年のミリオだよ!! ビックリしたかい?」

 

謎のヒーロー科三年(露出狂)の言葉など、魔理沙の耳に届くことなく、容赦ない衝撃波がミリオに襲いかかる。

 

だが衝撃波はミリオの体を透過していき、ミリオの背後に存在していたあらゆるものが跡形もなく後方へ吹き飛び、壁は急激に劣化する。

 

「わー、当たったら痛そう」

 

「......あぁ、なんだ。雄英高校ビッグ3のミリオ先輩か......。初対面だけど」

 

「俺のことを知ってくれているなんて嬉しい限りだよね! そういう君は雄英高校四天王のニューホース、結依魔理沙ちゃんだよね、もちろん知っているさ!」

 

「......とりあえず、服着てください。」

 

魔理沙の目の前に現れた彼の名は、通形ミリオ。雄英高校ヒーロー科三年、雄英高校ビッグ3(現在は四天王)の一人で、かなりの実力者。個性は『透過』、一度発動すれば彼の体はあらゆるものを透過させ、何者にも阻まれなくなる。

 

そんな彼が何故私のところに来たのか、なんの用で私を壁の中で待ち伏せていたのか、聞き出さねばならない。この、私という女の子の目の前で、恥じらいもなくパンツとズボンを履くこの男に。

 

「で、何の用ですか。ここ一年ステージですよ?」

 

この体育祭は学年ごとに会場を分けている。会場同士が凄く離れているわけではないが、会場から会場への移動は個人的にクソめんどくさい。それにこの学校、別に部活とかもないから先輩後輩の交流は至って少ないのだ。だからそういった応援目的で別の会場に遊びに行く必要なんてないしな。先輩や後輩の個性を見たいなら、家で録画してるのを見とけば別に何も問題ない。普通に考えたら、この全裸変態がここにいる理由などないのだ。

 

「知りたい? それはね......君のことについて知りたくなって会いに来たんだ。君は学年の壁を越えて有名人だし、もっと親密にお話したかっただけさ! それに会場同士離れているとはいえ、そこまで苦労しないしね!」

 

「あぁ、そうですか......はい、お疲れ様です」

 

私に会いたくてやってきたと笑顔で言い張る通形ミリオ。お前もか通形ミリオ。お前もなのか......(呆れ)。聞いてくる内容としたら......、USJで起きた事件について聞きたい......とかか? もしくは、四天王......つってたよな、四天王同士仲良くしようぜ的な? それとも私の個性について吐けとか?

 

いろいろ思考してみたが、もう面倒臭いから本人に言ってもらおう。その方が楽だ。

 

 

「まぁ二回戦まで時間があるので、付き合いますよ」

 

「ありがとう魔理ちゃ『魔理ちゃん言うな』...魔理沙ちゃん、あまり時間は取らせないから....是非聞いてほしい」

 

ミリオはいつもの明るい声とは異なった、冷静で落ち着いた声で話始めようとする。少々異様な雰囲気になったが、これくらいならさほど気にする必要は無い。私はミリオの言葉に耳を傾けようとする。

 

「サー・ナイトアイって知っているかい? 昔、オールマイトのサイドキックを務めていて、今は俺の校外活動(インターン)先の事務所の所長をやってるんだけど......」

 

お、お? サーナイトアイ? 随分な変化球をぶん投げたもんだな。私とサーナイトアイとの接点なんて何処にもねぇぞ。何を話そうとしているんだ?

 

「サーの個性は『予知』、条件を満たすと対象の人物の行動を先読みできる! その個性でナンバーワンヒーロー、オールマイトをずっと支えていたんだけどね......。時々サーがボヤくのさ....『魔女と災厄が世界を破滅させる......、オールマイトも、他のヒーローも市民も全員、為す術なく殺される』ってね。言っていることが全然理解できないけど、君のことをイレイザーヘッドから聞いていたから、何か知っているか聞いてみようと思ったんだよね。魔理沙ちゃん!」

 

無理矢理な笑顔で悲しさを塗りつぶしている通形ミリオ。予知能力......、そうか、恐らくサーナイトアイはオールマイトの、原作より酷い未来を視てしまったってことか。しかも、常に冷静さを保っているサーナイトアイさんが日常でボソボソと呟くレベルの危険度......、魔女と災厄......、それって......

 

 

嫌な想像をしてしまった。そんなこと絶対起きるわけがない。仮に起きたとしても、この私が死ぬ気で止めにいってやる。絶対。

 

 

「おーい魔理ちゃん、話聞いているよね!?」

「あっ、うん、はい。まぁ詳しくは知らないけど、言えることなら一つだけあるな」

 

 

「サーさんが言ってるその災厄ってヤツは、案外早めに訪れそうってことだ......」

 

 

異形軍団がこの世界に潜んでいる以上、平和など永遠に舞い降りることは無い。何としてでも、私がアイツらの侵攻を防がなければならない。私の使命だ。

 

 

「......とりあえず、俺の質問はここまで! 話聞いてもらったお礼に、何か俺に聞きたいこととかある!? なんでも答えるよ!」

 

ん? 今、なんでも答えるっつった?

 

「何でもいいんですか?」

 

「何でもいいよ!!」

 

そうか。それなら、私がついさっきまで延々と悩んでいたアレについて、先輩と意見を交えようじゃないか。中身は少し脚色するが、この溜まりに溜まったストレスを、ミリオ先輩に呪詛のごとく吐きつけてやろうじゃないか。悪く思わないでくれ、ミリオ!!

 

「......ミリオ先輩、最近、悩みがあるんです」

 

「ドンと来いだよね!!」

 

「実は......」

 

 

私はミリオ先輩に、今までの経歴と今抱えている悩みを、少々脚色して話した。異常で危険なヤツらからみんなを守る責任の重圧、そしてそれのことについて誰にも喋ることが出来ず、ストレスが発散できないこの現状。果たして自分はどうすればいいのか、このまま責任を背負い続けていくのか、それとも打ち明けるか........。

 

 

 

〜 BGM 小学校のチャイム(始まり) 〜

 

※本人は脚色したつもりでいますが、ミリオには完全にバレています。

 

〜 BGM 小学校のチャイム(終わり) 〜

 

 

 

「いろいろと疲れているんだね!」

 

「そーなんですよ! 異形やら人工知能に付きまとわれるし、しかも全員オールマイト以上の化け物ばかりで、他のヒーローとかに通報したくても通報できないんすよ!! もう私が何とかしなきゃ街がやべーことになりそうだからこうやって皆にバレないようにカタをつけてるんですけど! もうウンザリなんですよ!! 誰か私を優しく介抱してくれぇえええええええ!!!!」

 

遠くから見るあの二人は、どう見ても居酒屋で愚痴を漏らすサラリーマンと、居酒屋の店長のようにしか見えない。これが雄英高校四天王の会話だなんて、誰が想像できるだろうか。

 

魔理沙は溜まりまくったストレスを濁流のごとくミリオに浴びせ続ける。いつもはこういう場面でうっかり話すようなヘマはしないのだが、余程負担がかかっていたのか、言ってはならない情報をペラペラと話し続ける。

 

「そんなに敵は強いのかい?」

 

「当たり前じゃないですか!! あんなヤツらが集団で襲ってきたらひとたまりもありませんよ! 雑魚だったら何体来ようと問題ないんですが、チート能力持ちが来たり、覚醒とかされたらキツイんですよ!! 何なんだよアイツら!! 大人しく私に負けやがれクソがァァァ!!!!」

 

「......ひとつ、言わせてもらうけど、なんで君はその敵と戦う必要があるんだい?」

 

「......は?」

 

「最初は自己防衛だったかも知れないけど、今の君はヒーローらしくないんだよね。俺は感がいいわけじゃないし、君の事情について理解出来ていないからこう言ってるだけかもしれないけど、少々機敏になっているんじゃない?」

 

「......」

 

「ハハハ!! 少し言い過ぎちゃったね! 要は気負い過ぎだってことさ!! 俺達はまだ高校生、自己犠牲の精神はヒーローにとって大事かもしれないけど、みんなを助けるだけじゃなく、自分も助けなくちゃね! 君だけ辛い思いをしてたら、みんな悲しむぜ?」

 

ミリオの思いやりのある言葉に、私は少しだけ救われた気がした。なんだろう、とても暖かい。今までの冷たくてどこか寂しい気持ちが、嘘のように消えている。すごく......暖かい。

 

「そう......ですかね」

 

「そうに決まってるさ! なんてったって仲間なんだからね!!」

 

仲間.........ただ守るだけの存在じゃなくて、共に支えあっていく存在......。そうか、私は勘違いしていたのか。......そうか。

 

「ミリオ先輩......」

 

「なんだい?」

 

「私の悩みを聞いて下さり、ありがとうございます」

 

「ハハハ! 気にしなくていいさ! お節介はヒーローの基本ってね!」

 

あぁ、なるほど。こういう人をヒーローというのか。私にもこんな人のようになれるのだろうか......。......まぁ、しばらくは戦い続きになるだろうけど、平和になったら私も思いやりのある人間になれるよう努力しますか。

 

 

その後、ミリオは自分の出番がそろそろ来るということで、魔理沙と別れの挨拶をした後ダッシュで三年ステージへと走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

この人に会えてよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

心のスッキリした私は観客席に戻る途中で、お茶子と合流。どうやら爆豪に負けて一回戦敗退らしく、悲しげな表情をしていた。しばらく背中をさすってあげた後、親に連絡するからということで控室から退出。真っ直ぐ観客席へと進むのであった。

 

私が観客席に戻ってきた頃には一回戦はほとんど

終わっていた。A組から話を聞いたところ、第2試合の常闇VS八百万は常闇の先手必勝で常闇の勝利。第3試合の緑谷VS心操は最初、口論になった後普通に緑谷が勝ったっぽい。第4試合の轟VS瀬呂は轟の氷ブッパで轟の勝利。第5試合の鉄哲VS切島は、相打ちになったため腕相撲で勝負することになったらしく、結果は切島の勝利。第6試合の爆豪VSお茶子は、まぁ、なんか酷かったらしいな。知ってるけど。第7試合の上鳴VS芦戸は、放電ブッパで上鳴の勝利。

 

で、最後の試合、飯田VS発目の勝負は、発目の作品紹介でしばらく時間を使い、最後は発目の自主退場で決着。なんか生放送なのにCMを見るという謎のシチュエーションを見てしまった。

 

 

結果、二回戦はこうなった。

 

 

二回戦

 

第1試合 結依魔理沙 VS 常闇踏陰

 

第2試合 緑谷出久 VS 轟焦凍

 

第3試合 切島鋭児郎 VS 爆豪勝己

 

第4試合 上鳴電気 VS 飯田天哉

 

 

A組が残ったな!! うん、知ってた!! ただ上鳴が塩崎さんと当たらなかったおかげで幸先がよさそうだ。飯田くんにも勝ちそうな気がする。後は緑谷くんと轟くんだな。原作の緑谷くんはまだワンフォーオールを使いこなせていなかったが、この世界だと既にフルカウルを習得している。それに許容範囲も8〜10%と、火力もそこそこ上がった。足だけなら、20%も出せなくはない。だからどんな勝負になるか楽しみだなー。

 

「なぁなぁ結依、最初のアレってどうやったの?」

 

上鳴が急に質問してきた。最初のアレって、塩崎さんを一撃で吹き飛ばしたヤツか?

 

「そりゃあ、普通に瞬間移動してグーパンよグーパン」

 

「魔理沙ちゃん、それを普通と思っちゃダメよ」

 

まぁ、実際はとんでもないアクシデントが発生してたけどな。

 

「やっぱつえーなぁ結依、常闇も気をつけろよ」

 

「......承知」

 

常闇は私の顔を見やると、フイッとそっぽを向いて会場の様子を見ていた。なんだ? 私、嫌われたか? 前に「お前の個性、スタンドだろ」っつって弄りまくったのをまだ根にもってるとか?

 

 

あっ、いいこと思いついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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『障害物競走、騎馬戦、両方とも一位を獲得した雄英史上最強の実力者、結依魔理沙!! このラスボスに対して、どんな攻め方をするのか!! オーディエンス、しかと見やがれ!!!』

 

『結依魔理沙VS常闇踏陰!! スタート!!』

 

 

\\わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!//

 

 

ついに始まった第二回戦第1試合。相手は中距離パワー型スタンド『黒影(ダークシャドウ)』を巧みに操るスタンド使い、常闇踏陰!! あの時のお昼ご飯以来だな、久しぶり。容赦なくぶっ潰してやるぜ!!

 

「いでよ、ザ・ワールド!!」

 

この小説でたびたびお世話になるスタンド第一位、ザ・ワールド。本来の使い手であるDIOと私は、金髪の部分とか金髪の部分とか金髪など、共通点が多いってのもあってよく使う。あと一番最初に発現したのもザ・ワールドだしな。縁がある。

 

ちなみに相澤先生の言伝により、スタンドを使う時は一般の人にも見えるよう配慮しろと仰せつかっているので、ザ・ワールドは現在可視化状態。黄金時計がついに世へ進出。

 

『なんだアレは!!? 結依の背後から金色の男性らしき人型の何かが出てきたぞ!!!』

 

『あれはスタンドと呼ばれる、精神エネルギーを具現化したものだ。常闇の個性に合わせて真っ向から殴り合うつもりらしいな......』

 

 

ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・

 

 

フフフ、さあスタンドバトルをしようじゃないか。

 

「それが、ザ・ワールドか」

 

「あれ、常闇くん知ってんの?」

 

「前にお前が言った時から気になって、ネットで調べたり、ブックオフで大人買いをした。だいたい内容は知っている......」

 

常闇はそう魔理沙に言った後、急に不思議なポーズを取り出した。知らない人から見ればただの変人かもしれない、ファッション誌とか見てる人ならワンチャン知っているかもしれない。そう、そのポーズは......

 

「そっ、それはジョジョ立ち!! 常闇、貴様見ているなッ!!!」

 

「答える必要は無い。やれ、ダークシャドウ!!」

 

「オラオラァ!!」

 

なんということか、常闇は学習していた!! 嬉しいけど情報のアドバンテージを奪われてしまった、でも嬉しみのほうが大きい!!

 

「迎えうて、ザ・ワールド!!」

 

私も対抗すべく、ザ・ワールドに指示を出す。これは壮絶なスタンドバトルになりそうだな。まぁちょくちょく別の能力でもちょっかい出すけど、熱い展開だから基本はザ・ワールドのみで戦うとするか! いくぞ第二回戦!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒と黄金が入り交じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






最近、悩む!! 前は即行でストーリー構成を思いついていたのに、今じゃ結構悩む!! ミリオのところも悩んだ!! うぇい!!


いろいろ紹介

ブックオフ:ブックオフなのに本ねーじゃんwwwフィクションは本だけにしとけよwwwwwww

これがやりたかっただけ。






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常闇VS魔理沙(サンキュー話)



39話だからサンキュー話。はい。



 

 

 

 

ついに始まった常闇踏陰VS結依魔理沙。常闇の個性がスタンドっぽいというくだらない理由でザ・ワールドを顕現した魔理沙だが、なんと常闇はジョジョ立ちをして対抗。どうやらこの体育祭は一筋縄では乗り越えられないらしい。だが、結依魔理沙に不可能の三文字はない!! 行くぞ、プルスウルトラァ!!

 

「テメェの時間は私のモノ、無名のスタンド使いに勝ち目など無い......。ザ・ワールド、時が止まれ」

 

彼女の言葉が時の理に干渉する時、世界は再び闇に閉ざされる。この止まった時の世界で動けるのは彼女ただ一人、彼女のための彼女だけの世界。

 

「安心しろ、安心しろよ常闇踏陰。私は人殺しをするつもりは無いからな......半殺しくらいで許してやろう」

 

既に彼女は常闇の目の前にそびえ立ち、余裕ぶった表情で右手に力を込めている。時を止めるのは5秒までだ。やるからにはトコトンやるからな、設定も忠実に再現してくれようぞ。

 

「無駄ァ!!」

 

魔理沙の一撃が常闇の身体を弧を描くように吹き飛ばし、動けない常闇の背後からザ・ワールドの追撃が炸裂する。常闇の前方には魔理沙、後方にはザ・ワールド。完全に挟み撃ちの陣へと昇華し、二人は一気に距離を詰める。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーッ!!!!」

 

魔理沙とザ・ワールドによるダブル無駄無駄ラッシュ。1秒間に何百発という速度で拳を次々に叩き込み、関節や急所を潰していく。光の速度より速く動く彼らの動きは誰にも認識されず、音が聞こえることもなく、ラッシュ音が空気を刺激する。

 

時止め解除まで残り2秒、2秒もあれば問題ない。私は常闇の顎にアッパーブローをぶち込み、真上へ吹き飛ばす。

 

「さぁ、これを回避することはできるかな?」

 

私の両手の中には既に大量の銀のナイフがセットされ、美しく煌めいている。常闇踏陰、貴様はチェスや将棋で言うチェックメイトにハマったのだ。逃れることはできん!!

 

次々と空中に放たれる銀のナイフ、常闇にギリギリ当たらない距離で物体は停止し、隙間なく常闇の周りをナイフで囲む。

 

「ダメ押しにもう一本.....」

 

これでもかと言うほど配置したナイフだが、念には念を入れ、常闇の額にすぐ刺さる位置にナイフを一本配置した。 嘘、流石にそこまでしたら死にそうなので、常闇から少々遠い位置に配置して時間差攻撃を狙う。さぁ、私のサウザンドナイフをとくと味わうがいい。

 

 

「そして時は動き出す」 カチッ

 

 

魔理沙の言葉が再び時の理に干渉、世界はまた歩み始める。

 

その瞬間、サウザンドナイフが牙を剥き、全てを引き裂く閃光がたった一人の少年に襲い掛かる。

 

 

「....ッ!?!? ダークシャドォォオオオ!!」

 

「フセギキレネェ!! ホントニトキヲトメタンダ! アノマンガノヨウニ!!」

 

 

世界(ザ・ワールド)に置いていかれた少年に未来などなく、銀のナイフは彼の体を引き裂き、突き刺さり、荒れ狂う。ダークシャドウが何とか致命傷にならないよう心臓や脳を中心にガードを固めるが、全てを防ぎきることは叶わず、足や腕には何本もナイフが刺さっていた。

 

ラッシュ攻撃のダメージも残っていたため、自由に体を動かすことも叶わず、ダークシャドウに守られる形で地面に落下、衝突した。

 

「ベホイミ」

 

流石にやりすぎたと感じた魔理沙は、常闇に回復魔法をかける。あまりにも速く回復させたので、観客も審判も誰も気づくことはなく、そのまま試合は続行される。

 

「......そろそろ降参するか?」

 

「....あぁ、そうだな。ゲホッ、架空の存在の力を我がモノのように扱えるお前に勝てるなんて、ハナから思ってなどいない......」

 

「だが......、諦めるつもりはない...。最後まで影は光と一心同体、影は常にヒーローと共にある、俺は影であり光、漆黒ヒーロー、ツクヨミだ」

 

「そう。痛いセリフを噛まずに言えたご褒美に、魔理沙さんがとっておきのプレゼントを君にあげよう。最終ラウンドだッ!!!」

 

表情の読みづらい魔理沙の顔だが、この時だけははっきりと出ていた。同じA組になって以来、最高の笑顔を。

 

常闇に悪寒が走り、最大限の警戒を試みたが、魔理沙の姿はいつの間にか消え去っていた。ザ・ワールドではない、指はいつも通り可動する。何秒たっても奇襲してこない上、会場もどうやら状況を把握出来ていない様子のため、魔理沙は完全にこの会場から消えたということだ。

 

しかし、常闇には心当たりがあった。いや、心当たりしかない。さっきの魔理沙の行動は完全にDIOの攻撃を再現だ。時止めとサウザンドナイフ、第三部ラストで主人公『空条承太郎』に使用したDIOの攻撃だということを常闇は知っている。そして魔理沙の最後のセリフも同様にDIOが放ったセリフ。最後に今現在の状況を把握すると......あの漆黒の魔女は今......ッ!!

 

「ダークシャドウ! 上だ!!」

 

「ウソダロ」

 

危険を察知した常闇踏陰はすぐさま自分のスタンドに命令を下す。おそらくヤツはもう決着をつけるつもりで遥か空の彼方まで飛び、アレを何かしらの方法で持ってくるに違いない!! そして最後はアレでトドメを刺すのがヤツの狙い!! 反応できなければ死ぬ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロードローラーだッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽を喰らい、空から猛スピードで落下する一人の少女。彼女が手に携えるモノは整地のスペシャリスト、ロードローラー。圧倒的重量と高度何千メートルからの落下によって生産された破壊力は、たった一人の少年に、轟音と共に降り注ぐ。

 

 

ゴゥウゥウウン!!!

 

 

ロードローラーが常闇と接触し、衝撃波が飛散する。しかし接触なんていうソフトな表現とは全く違い、蓄積された破壊力が常闇の身体の隅々まで駆け巡ってダメージが尋常ではない。正直、耐えているのが奇跡である。もはや人ではない。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーッ!!!!」

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!!」

 

 

ロードローラーを境にして繰り広げられるラッシュバトルが始まる。より速く、より強く、拳を叩き込むべく、己の命とプライドを賭け、全力でぶつかり合う二人の熱気が、会場全体をよりいっそう盛り上げ、包み込んでいる。

 

しかし、物理的に常闇は不利の立場にある。落下する超重量級の物体を拳で跳ね返すことなど、普通の人間が為せる技ではない。

 

そしてスタンドのパワーの差も一目瞭然、ザ・ワールドは射程距離が短い代わりに圧倒的な攻撃力を誇るが、ダークシャドウは射程距離が長い分攻撃力は劣ってしまっている。ロードローラーが太陽光を防ぎ、影を形成しているおかげで普段より力は出るが、まだザ・ワールドに勝てるほどのパワーはない。常闇はそのことを理解しているが、打開策は一向に浮かばない。このままでは潰されてしまう。

 

 

「どうした常闇踏陰ェ! お前の力はこんなものか!! もっと楽しく激しく殴りあおうぜぇええええええええええWRYYYYYYY!!!」

 

 

さらにラッシュ速度を上げてきた魔理沙に対し、劣性を敷かれる常闇踏陰。ロードローラーの高度は少しずつ減っていき、地面との距離は限りなく近くなっている。

 

 

「ぶっ潰れろ!! 限界突破(リミットオーバー)魔砲『ファイナルマスタースパーク』!!!!」

 

 

魔理沙はトドメの一撃として、右手に出現した八卦炉をロードローラーに叩き込み、八卦炉が耐えられないほどの魔力を注ぎ込んだ。膨大な魔力量が蓄積され、今にも破裂しかねない八卦炉を無理やり押さえつけ、そして起動させた。

 

 

 

カッ!! ゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 

 

 

次の瞬間、スタジアム中央は莫大な光エネルギーと衝撃波によって全てが白に包まれた。光が強すぎるため、誰もステージの様子を確認することができないが、この光が収まった頃がこの二回戦第一試合の決着と言えるだろう。というか、もうこれ以上暴れるなというのが観客席に座る者達の願いである。

 

 

光が少しずつ収まり、次々と観客が目を開いていった。彼らはすぐステージの様子を確認し、二人の現在地を特定すべく目を凝らす。一番早く目に入ったのは黒き魔女、結依魔理沙。悠然と朗らかに堂々とステージに佇み、相手の様子を探っている。一方、もう一人の黒き少年、常闇踏陰は......

 

 

「...........流石に時止めて『ダークシャドウ・ザ・ワールド』とかにはならなかったか。覚醒もしなかったし......、まぁ、そんなにポンポン覚醒されたら困るの私だしね」

 

 

常闇踏陰は、ステージ中央に出来たクレーターの底で気絶していた。彼のダークシャドウは光が弱点、トドメにビームなど泣きっ面に蜂である。

 

審判の判断によりこの試合は結依魔理沙の勝利となり、幕を収めた。しかしあまりにもやり過ぎなため審判にメガホンで説教されるという、奇妙なエンドを迎えた結依魔理沙であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

「やりすぎさねアンタ。もっと自分の個性が与える影響力を考えなんさい!!」

 

「すみません。最高に「ハイ!」ってやつだアアアアア......みたいな気分になっt」

 

「言い訳は後にしておくれ!!」

 

「はい......」

 

 

学ばない元男、結依魔理沙。今までに似たようなことがいくつかあったにも関わらず、同じ過ちを繰り返してしまった。すみませんでした。

 

でも最後のトドメのアレは割とダメージ与えてないからね!!? あれタダの見かけ倒しだから常闇本体に対するダメージはそこまで無いから!! 致命傷になるほどのダメージを与えるなって先生に言われたこと私覚えてるから!!

 

 

ただ、ダークシャドウの弱点が光だってことに気づいたのは、マスパ撃って3秒後だったけどね。

 

 

「言い訳は後だってさっき言ったでしょ!!」

 

「まだ言ってません!!」

 

 

言葉に出していないのに何故かバレた。あのクソババァ、読心術を噛んでるなんて聞いてねぇぞ。治癒と全然関係ねーじゃねぇか。あと今気づいたんだけど、リカバリガールがチューで傷を癒すのは、治癒だからチューなの? 『ちゆ』だから『ちゅー』、うわ寒。

 

そんなどうでもいいことは置いておき、今は常闇

くんだ。そこまで重傷を負ったわけではないが、過度に光エネルギーを浴びたせいで、意識が不明になっている。ヤバい、私、結構クズなのかもしれない。力解放しまくって守るべき仲間を傷つけるとか、私に何やってんだよ。何のためにヒーロー目指してんだよ。というか、生徒同士で殴り合わせる体育祭って普通に考えたら裁判沙汰だよな。いやだからこんな時何考えてんだよ私、今起こっている現実から目を背けるな。

 

 

......最近、能力使いすぎてカルマ値がまた上昇しているのかもしれない。カルマ値が上昇すると調子に乗りやすくなったり、冷静な判断が欠けたり、暴力的な衝動に駆られやすくなって手加減できなくなったりするからな。......どうしたら人に好かれるような人になれるんだろう。ジャンプ系主人公とか、ミリオ先輩みたいな......、はぁ、私には無理なんだろうか......

 

「ん......」

 

そうこうしているうちに常闇の目が覚めた。

 

「起きたか常闇くん!!」

 

よかった、マジでよかった。これで目が覚めないなんてことになったら......考えたくない。

 

「あぁ......頭がガンガンする......」

 

「ドライアイスで頭冷やす?」

 

「やめろ......、低温火傷が......」

 

「流石に冗談を聞けるほどの体力は無いか」

 

とりあえず、無事なようだ。目立った外傷も特になく、骨折やヒビも無し。個性に関してはダークシャドウを出してもらわない限りわからないが、恐らく大丈夫だろう。

 

「常闇、すまなかった。マジでゴメン」

 

「気にするな......。結依がここまでDIOを再現できるなんてな......、本当にDIOと戦っているような気分を味わえた.........」

 

「そ......そうか...」

 

常闇はどこか満足気な表情で天井を見つめていた。とても安らかで静かで、まるで生きていることを感じさせない雰囲気を漂わせ......

 

「......死ぬなよ?」

 

「目を瞑っただけで死ぬ人間がいるわけないだろう?」

 

「いやでも死亡フラグが漂ってたから....、まぁいいや」

 

とりあえず無事なようだし、この場を立ち去るとしますか......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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保健室から立ち去り、観客席に向かおうとしていた魔理沙だが、廊下にて意外な人物と遭遇した。

 

(ゲッ、エンデヴァー.....!!)

 

ナンバー2ヒーロー、轟焦凍の父親、エンデヴァー。彼の個性は『ヘルフレイム』、炎系統では地上最強と呼ばれる彼の事件解決数は史上最多であり、最強のヒーローの一角。

 

なお家族を犠牲にした元凶!! 内心どう思っているか知らんが、私の目に映る貴様は勝利に囚われた野望家! 結依魔理沙の嫌いな事ベスト3でナンバーワンに輝くのは「家族が傷つくこと」で、二番目は「大切な仲間が傷つくこと」で、三番目は「杏仁豆腐」だ!! お前家族や仲間に迷惑かけてるくせに何言ってんだとか言ったやつは......、うん、反省してます。ごめんなさい。

 

だがしかし!! 駄菓子菓子!! この男は息子である轟焦凍から母親を奪い、精神を歪め、本来享受されるべき幸せを摘み取った!! お前ワンピースの世界で人殺したろとか、一番人の幸せを奪っているのはお前だろうがとか言ったやつは......、うん、ちょっと黙ろうか。これ以上言ったら泣くぞ。

 

 

エンデヴァーもこちらに気づき、ゆっくりと私の方向へ歩いてきた。やはり私の個性とか、オールマイトとの繋がりとかを聞こうとしているのだろう。ちょうどいい、ここで説教という名のブーメランをぶつけて、エンデヴァーと一緒にどうやったら平和の象徴みたいな人に好かれるキャラになれるか考えようではないか。うん、よし、やろう。やるぞ。

 

「やぁ、エンデva」

 

 

 

スッ......スタスタスタ

 

 

 

 

すっ、素通りだとおおおおおお!!? 何で!? 私という、ある意味何人の人と個性婚したかわかんないぐらい大量の個性がハイブリッドした最強無敵の私を素通り!!? おま、おまま、目が腐ってんじゃねーの!? ちょっとくらい構ってくれたっていいじゃん!! 構ええええええええええ!!!!

 

 

魔理沙の心の声は届くことなく、彼は普通に去っていった。もしかして、私の親が個性婚しまくっていると勘違いしてドン引きしているのか? 全然違うよーお父さん、ウチの家族は不倫できるほどの時間なんて無いんだよー。いやマジでー。おーい。

 

 

 

 

その後エンデヴァーは緑谷と出会い、原作通りの展開を迎えるのであった。

 

 

 







次は轟戦だ! 長ぇ! でも体育祭はいろいろ大事だから仕方ねぇ! しゃーねぇ!


いろいろ紹介

なし!! 閉廷! 解散!!




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轟焦凍:wakefulness(40話)



ついに40話まで来てしまった。


USJ編の序盤あたりを編集しました。うん。




 

 

 

エンデヴァーに無視され、心が沈んだ状態で観客席に戻った結依魔理沙。こんな悲しい最強の魔法使いがあっていいだろうか.......、良くないよクソッタレ。

 

「おかえり魔理沙ちゃん、随分と落ち込んでいる様子だけど、どうしたのかしら?」

 

「あぁ梅雨ちゃん聞いてくれよ....、エンデヴァーに無視されたんだよ......酷くねぇか?」

 

「きっと常闇ちゃんとの戦いで引かれたんだわ。やりすぎよ魔理沙ちゃん」

 

「お前まで言うんかーい(´TωT`)」

 

先生にもメガホンで叱られ、可愛い梅雨ちゃんにも叱られ、もう生きていける気がしません。帰ったら分身回収して崖に突っ込みます。......死なないけど。

 

「それより見ろよ緑谷と轟の試合! さっきもやべーけどこっちもヤベーよ!!」

 

珍しく峰田が熱心に試合を観戦しているかと思ってたら......、そうか、緑谷くんと轟くんの勝負か。私が特訓した分、戦闘技術は原作と比にならないくらい強くなっているから......ワンチャン勝利あるかもな。とにかく、見物だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

〜 緑谷サイド 〜

 

 

「スマァァアアアアアアアシュッ!!!」

 

ドゴォォォン!!

 

緑谷は己が制御出来る10%の範囲内で、轟の氷の猛攻を防ぎ切っている。いや、捌ききっていると言ったほうが正しい。師匠から学んだ対範囲攻撃用戦闘訓練の成果を活かし、迫り来る大氷河を最小限のエネルギーで確実に避けていく。

 

地面の氷も油断ならない。凍った地面に軽く足を踏み込めば、そこから一気に足を凍らせられて身動きを封じられてしまう。氷の上を歩く際はしっかりと氷を叩き割って歩く。そこさえ注意していれば後はどうにかなるだろう。

 

 

『緑谷!! 一回戦の地味な戦いの時とは正反対のスタイルで轟の猛攻を回避し続ける!!! 何だよ、全然イメージと違うじゃん!!』

 

『入学試験の時よりも格段に動きがパワーアップしているな.........。ッたく、結依に毒されやがって』

 

 

氷に道を阻まれる緑谷だが、次々に氷の壁をぶち破り、少しずつ轟に近づいている。普通は近づけば近づくほど、少量のエネルギーでは捌ききれない攻撃が襲い掛かってくるはずなのだが、緑谷はそれすらを乗り越え、確実に轟との距離を縮めている。直接攻撃に変わるのも時間の問題だろう。

 

「緑谷.........ッ!!」

 

流石の轟も焦りを覚え、大雑把な範囲攻撃のスタイルから緑谷への直接攻撃+氷の追撃のスタイルに変更。範囲攻撃を酷使し過ぎると低温のあまり、体が動かなくなるという弱点があるため、慎重に個性を使わなければならない。

 

「轟くん......轟くんと師匠の会話を盗み聞きした僕は最低なヤツかもしれないけど、これだけは言わせてほしい......」

 

緑谷の言葉を聞いた轟は一瞬、驚きで動きが固まった。聞かれていたのか......と、轟が思考している間には既に緑谷の射程圏内。

 

(しまった......ッ!!)

 

「君は! 間違っているよ!!!」

 

轟の腹にぶち込まれる怒りの鉄拳。ダメージはある程度軽減されているが、それでも人が数メートル後方へ吹っ飛ぶほどの威力はある。熱の篭った緑谷のスマッシュは、冷却された鉄壁の鎧にひとつ、キズをつけた。

 

「君の家族関係について僕から言えることなんて何一つない......、壮絶すぎて、僕の介入する場所なんてどこにもない......。けど......、どんな事情があったとしても! 自分の半分だけの力で優勝しようなんて考えは間違っている!! みんな本気で優勝目指して頑張っているのに! 君だけ.....、君だけ家族の事情に囚われて、みんなと違う目標を達成しようと独りでもがこうとするなんて馬鹿げてるよ!!」

 

緑谷は自分の正直な思いを精一杯、轟にぶつけた。自分には轟くんの家庭を、一般的で優しさに満ちた家庭に変えることなんてできない。できるはずがない。......けど、轟くんが見失ってしまった大切な夢を取り戻すことはできる。

 

"お前はどんなヒーローになりたいんだ?"

 

師匠はあの時、轟くんの見失ってしまったものをわかっていた。ほんとに師匠は完璧で、何でも解決する最強のヒーローだけど、だからってずっと師匠に頼っていいわけじゃない。憧れのオールマイトも、六年前の大怪我で活動限界時間が三時間になってしまった。どんなに完璧なヒーローでも、終わりは必ず訪れる。誰かに頼りっぱなしじゃダメなんだ!!

 

緑谷は轟の大切なものを取り戻すべく、再び轟と対面する。やっぱり師匠なら一発で解決してくれるかもしれないけど......、それでも、僕が助けてあげるんだ。余計なお世話はヒーローの本質ってね!

 

「僕はいつだって全力だ!!! みんなを助けられる最高のヒーローになりたいから、全力でみんなと向き合いたいんだ!! だから轟くんも......」

 

 

『全力でかかって来い!!』

 

"立て。こんなもので倒れていてはオールマイトはおろか雑魚敵にすら..."

 

"もうダメ、子供たちが...日に日にあの人に似てくる...。焦凍の...あの子の左側が、時折とても醜く思えてしまうの"

 

(俺は親父を......許さない)

 

"お前はどんなヒーローになりたいんだ?"

 

"君だけ......、君だけ家族の事情に囚われて、みんなと違う目標を達成しようと独りでもがこうとするなんて馬鹿げてるよ!!"

 

(俺は間違っていないはずだ......、俺は......)

 

 

再び立ち上がった轟は、緑谷に向けて再度巨大な氷河を放った。

 

「100%デトロイト・スマッシュ!!」

 

右人差し指を犠牲にしたワンフォーオールの本気の力で、迫り来る大氷河を粉々に打ち砕き、相殺した。実技試験以来の許容オーバーデトロイト・スマッシュだったため、痛みが尋常じゃないくらい血肉に響く。

 

それでも緑谷は痛みを耐え、弱みを見せず、轟の前に立った。

 

「.......轟くんは全然自分のことを理解していない。その半冷半燃の個性は、轟くんのお母さんとお父さんから遺伝的に受け継がれた個性だけど、それは単なる生物的観点から判断した結果であって、それは正解じゃない。」

 

「誰から受け継いだとか、血筋がどうとかは関係ない。個性っていうものは、他の誰かに縛られる存在じゃあない。自分自身が誇りに思える......、自分らしさという概念そのものこそが個性、僕はそう思っている。」

 

「だから、半冷半燃はお母さんとお父さんのハイブリッド個性なんかじゃない。君の個性だ!!」

 

 

俺の個性......

 

 

"いいのよ......お前は...、血に囚われることなんかない"

 

"なりたいヒーローになってもいいんだよ......"

 

 

いつからか忘れてしまっていた母の言葉......

 

 

俺がなりたいヒーロー......

 

 

"お前はどんなヒーローになりたいんだ?"

 

 

俺は......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((焦凍......))

 

自分の名前を囁く声が聞こえる。

 

......嘘だ。なんで、なんで母さんの声が.....、聞こえるはずのない本物の母さんの声が、どこからか聞こえてくる......。

 

((貴方にあんなことしてしまって.....母さんは母さん失格だけど......、これだけ言わせて頂戴...))

 

 

((応援してるわ......頑張ってね、焦凍.....。))

 

 

打ち砕かれた氷の心。解放された熱が内側から外側へと広がっていく。彼の心を縛るものはもう何も無い。ただ進むべき己のヒーローの道を、一歩ずつ、歩んでいくだけ。

 

 

心の解放を象徴するかのように、彼の周りから急激な吹雪と熱風が吹き荒れた。混じって温風になるという生易しいものではなく、互いの個性が尊重された、凶悪な嵐へと変貌する。

 

あまりの暴風に緑谷は空中へ吹き飛ばされ、およそ3秒後に地面に着地した。なんとか綺麗に着地出来たものの、轟の様子が急変し、さっきまでとの雰囲気の違いがビシビシと肌に伝わる。

 

 

『轟が巻き返したァ!! 轟の反撃がここから始まるのかッ!!?』

 

『......青い炎だと......?』

 

 

轟から憎悪の心が消え失せ、蒼き誠実な心を手に入れ、普段とは全く違う個性の姿を見せていた。

 

彼のエンデヴァー譲りの紅き炎は、蒼き炎へと変わり、右側の氷は、ドライアイスのような真っ白な色へと変わっている。その上、炎の温度は紅の時より高い温度を放ち、氷の温度は絶対零度に近い低温を保ち続けている。進化と呼んでも過言ではないほどの超強化に、轟自身も驚きを隠せないが、緑谷に勝つことだけを頭に入れ、心を落ち着かせる。

 

 

覚醒轟焦凍が今ここにて、爆誕した。

 

 

「かっちゃんといっしょだ......、轟くん...君は......」

 

「緑谷......ありがとう。お前もお前の師匠も、俺の傷口に容赦なく塩を送り込みやがって.....、イカれてるよ......。.........もうどうなっても知らねぇぞ」

 

ゴクリ......と唾を飲み込み、次の攻撃を警戒する緑谷。師匠からあらゆる攻撃の避け方を学んだが、まだ体がそれについていけるほどのパワーや技術がない。もし轟くんがとてつもないエネルギーのこもった攻撃を先に仕掛けられたら、僕の勝ち筋は完全にゼロへと終着する。不味い、絶対に負けられない!!

 

轟くんがどれほどの規模の攻撃を放ってくるか予測できないため、己が出せる最大火力で応対するしかない。両腕を犠牲にした......、デトロイト・スマッシュ......いや、デトロイト・フィストで。

 

仮にダメだったとしても、足さえ残っていれば僕はまだ戦える。あの事件以降ずっと足技を鍛えてきたんだ......、支障は出ないはずだ。

 

「行くぞ緑谷......、これが俺の全力だ。」

 

「来いッ......轟くん!!!」

 

両者ともに両腕に力を込め、最大火力の一撃に全てを賭けた。互いに譲れぬ戦い、果たしてどちらが勝つのか......

 

 

「アブソリュートフレア!!」

 

「最大出力デトロイト・フィスト!!!」

 

 

極限まで冷却された空気と膨大なまでの熱量がぶつかり合い、会場が消滅してもおかしくないほどの大規模な爆発が発生する。しかし、事前に魔理沙が張っていた固有結界のおかげで会場への影響は大幅に削減されたが、とてつもない光量と衝撃波で会場の様子を確認することができない。もう、そこらのプロヒーローなんて比べ物にならないくらいのエネルギー波に観客は意気消沈。あの魔理沙って子だけが異常だと思っていたのに......、今年の雄英高校一年はいったいどうなっているのやら。

 

 

煙が晴れ、姿を現したのは轟焦凍。しかし全力を尽くしたのか、元の姿に戻っていた。覚醒状態には時間制限か何かしらの制約があるのかもしれないと、轟は自分の身に起きた事象を考察する。

 

「......緑谷は.........!」

 

考察なんてしている場合ではない。仮にあの攻撃を緑谷が耐え切った場合、また試合の始まりに逆戻り。もう氷も炎も少ししか出せない今の俺では、緑谷に勝つことはできない......。起き上がられる前にトドメを刺さなければ、母さんの想いが無駄に..

「轟......くん.........」

 

「緑谷.........お前............」

 

緑谷は立っていた。両手両足を震えさせながら、そこに立っていた。もう立っていることが奇跡と呼べるほど、彼の体は弱っていたが、諦めの悪い彼は己が倒れることを許さない。

 

「.........。」

 

「緑谷.........?」

 

いや、もう既に限界だったのだ。倒れなかったのは、最後まで戦おうとする気持ちの表れであったのかもしれない。しかし、彼の意識はもう、虚空の闇へと葬られてしまっていたのだ。立ったまま、そう、立ったまま気絶したのである。

 

 

 

その後、二人とも保健室へ連行。緑谷は絶対安静、轟は次の試合まで保健室で休むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「とんでもねぇ試合になったな......」

 

会場を観戦していた魔理沙は、轟が覚醒したり、いつの間にか来ていた轟のお母さんにビックリしたり、そのことに気づいたエンデヴァーが何考えてたか知らないけど、轟の母さんに近づこうとしてたから全力で守ったりと、いろいろ仕事をしていた。

 

これ3回戦目で私、轟と当たるよね。うへぇ、ただでさえ最近、強キャラが続出しすぎて対処が追いつかないというのに、何なんだよこの世界は。もういやや。後でお見舞いに行くか。

 

「轟......、アイツあんなの隠してたのか」

 

「ピカードゴーン。ピカードゴーン。ピカーd」

 

「峰田ちゃん、気持ちはわかるけど少し落ち着いてくれないかしら」

 

「風がぶわーって来たよぶわーって! 轟くんやっぱ強い!!」

 

「大丈夫かな......デクくん......。」

 

「仮にも私の弟子を名乗ってんだから、この程度じゃ死なないさ。多分。」

 

 

時間は刻刻と流れ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






割と内容少なかったかもしれない。すまぬ!!


でもやりたいシーンはやれたからちょっと満足。



いろいろ紹介

アブソリュートフレア:覚醒状態限定技。一瞬で相手を絶対零度の個体に閉じ込め、一気に何千万度の炎で大爆発を起こさせる究極必殺技。よく死ななかったな。


実は今日、4月27日ということで、記念に番外編EXを作っておりました。今日中に出すのでもうしばしお待ちを......





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番外編EX 異形のワンダーランド(427話)



今回はただの異形郷です。おまけ。


ほのぼのしてるよ。





 

 

数ある世界の中でも珍しいとされる世界、異形郷。この世界には一人の母なる存在から生み出された異形なる者達が複数暮らしている。彼らを種族別に分けると人間、妖怪、神や獣など多種多様だが、特に争いも起きることなく、それぞれの住処を持って生活している。

 

ここは異形郷、美しくも残酷なこの世界で一つ、彼らの歴史を揺るがすほどの出来事が発生することに気がつくものは、極小数を除き誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

〜 魔王城王室 〜

 

 

「全員集まったようだし、UNOやるわよ」

 

「オイ!? 聴いてネェぞそえなこと!! おま、ヒョットしてアホなの魔王? 亜保! こんなクソ妄想思考を文字に変えても誰も得しないぞ。」

 

「カチカチカチカチカチカチカチカチ......」

 

状況を全く把握出来ていない異形魔理沙と異形霊夢。いきなり魔王城への招待状を咲夜から直接貰ったため、宴会でも開くのかと淡い期待を寄せていた二人だったが、見事に打ち砕かれた。

 

「煩いわコソ泥。私が決めた以上、貴方達に拒否する運命はないのよ。理解したらUNOやるわよ」

 

意見を曲げる気のない魔王、異形レミリア。どんな理由があってUNOをやりたがるのかは誰も察することができないが、とにかくUNOをやりたいらしい。

 

頑固なレミリアに対し、眉間にシワを寄せる異形魔理沙。あまりにも期待ハズレな結果に腹を立てている模様。

 

「諦めましょう魔理沙さん。魔王様の意見を曲げられるのはお母様しかいません。そしてそのお母様もダウトにノリノリである以上、私達に勝ち目はありません。そうでしょう、お母様?」

 

「そうよ魔理ちゃん。嫌々言ってないで大人しく参加しなさい。......ほら霊夢も!」

 

既に諦め気味な異形妖夢が魔理沙にゲームの参加を促そうとする。と、同時に異形の母である異形紫も、不服な様子の霊夢を宥めようと頭をよしよしと撫でている。

 

「母上まで......、はぁ、さっさと終らせて蛙とするか」

 

「カチカチカチカチ......」

 

両者ともに夢を諦め、大人しくゲームに参加しようとする。なんだかんだお母様も参加するし、他のメンツも一緒にこういうことをするのも珍しいから、ちょっとくらい付き合ってやるかと、自分の行動を無理矢理正当化させた魔理沙。果たしてこのゲームをやる必要性が何処に存在するというのか。否、全く無いだろう。これはただのお遊びであるのだから。

 

 

魔王城にて、熾烈な戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

参加メンバーは異形霊夢、異形魔理沙、異形レミリア、異形紫、異形妖夢、そして主人に強制参加させられた十三騎士団団長、異形咲夜の六名に決定された。

 

「能力の使用は禁止よ。その証として、母上特性の『能力封じの腕輪』をしてもらうわ。ほらさっさと付けなさいイナゴ共。母上は別につけなくてもいいわよ」

 

「母上だけECO非遺棄だぞチスイコウモリ....っと間違つた魔王様wwwwww」

 

「霧雨魔理沙様、今すぐ撤回を。魔王様への不敬が見受けられます」

 

「まぁまぁまぁ、落ち着いて。レミィ、私も腕輪を付けるわ......だからもっとみんなに優しくしてあげて。魔理ちゃんは直ぐに煽り返すのは悪い癖よ、もっと仲良くね?」

 

「「母上......」」

 

場がなんとか収まったところで、再びルール説明が始まる。ルールは普通のUNOと同じ、手札が残り一枚になったらスペルカードと宣言し、誰かを攻撃する。最後の一枚を捨てた時に「ラストスペル」と宣言し、誰かに特大級のスペカをぶつけて勝利する。なお、スキップやドローカード、リバース、ワイルドカード(色を指定できるカード)といった特殊カードでのラストスペルは無効。した場合は二枚ドローする。スペカ宣言を忘れた場合も二枚ドローする。

 

また今回のルールでは、手札に同じ色も数字もない場合、山札から一枚ドローする。それが場のカードと同じ色または同じ数字、ワイルドカードならばそのまま場に出すことが可能。でなければそのままターン終了となる。

 

「理解出来たかしら?」

 

「カチカチカチカチ......」

 

「ささと殺ろーか」

 

「みなさん、割とせっかちなんですね」

 

「さぁ、始めましょう。美しく咲く死想郷(ネクロファンタジア)で、この世で最も無駄な遊戯を...」

 

さっそく山札がシャッフルされ、それぞれ七枚ずつ配られる。あるものはニヤつき、あるものは困り顔に、あるものは無表情だったりと、それぞれ配られたカードに対する反応はまちまちであった。

 

「......?」

 

「オイオイ霊夢ゥ、このカードはreverseつって、出したら流れを逆転できるカード......うわ、トゲでカードが穴ぼこだなこりゃ」

 

「泥棒、他人のカードを盗み見するのはルール違反よ」

 

「うっせーな、俺とレイイムは一新胴体よ」

 

「魔理沙さん、それ言い訳になってないです。」

 

少々準備に時間を要したが、ついに場は整えられた。能力封じの腕輪を付け、隣のプレイヤーに自分の手札を見られないよう両腕を胸に引きつける。

 

「まずはジャンケンね......」

 

どのゲームであれ、先行を取ることは場の流れを作る絶好のチャンス。この場にいる全員が敵の行動を予測し、己が勝利する道を切り開こうとし、視線が交差する。全員、本気なのだ。

 

 

『『最初はグー!! じゃんけん......』』

 

 

『『ポンッ!!!』』

 

 

「ッしゃあ! 私の勝ちィ!!」

 

「じゃあ魔理ちゃんから時計回りね」

 

「能力さえあれば私が先行になる運命だったのに......」

 

「自分で能力禁止にしといて何言ってるんですか........。」

 

勝った異形魔理沙から時計回りのため、順番は魔理沙→紫→霊夢→妖夢→咲夜→レミリアの順となった。

 

不服な様子のレミリアを置いてけぼりにして、順に手札を捨てていく彼女たち。前半は手札不足による山札からのドローということは起きないため、特に何も無く順番が回る。現在の場のカードは緑の5、ここでレミリアが変なことしなければ、二周目のスタートである。

 

「リバース」

 

ここでレミリア、緑のリバースを使用。時計回りから反時計回りへと順番が変わり、魔理沙のターンが先延ばしされる。

 

「は??? おい、俺の番何取ってくんすか」

 

「ルール上何も問題ないでしょう? これも一興よ」

 

「ドンマイです、魔理沙さん」

 

あっけらかんとしたレミリアの態度に腹を立てつつも、次の自分のターンが来るまでじっと堪える異形魔理沙。魔理沙の手札にはドローカード二枚とワイルドドローカード(相手に四枚引かせて、色を指定できるカード)一枚が入っているため、自分のターンさえ回ってくれば、レミリアの手札に打撃を与えられるのだ。サァッッ!! 濃い!!

 

「スキップ♡」

 

「母上ェェエエエエエエ!!!!」

 

「フフフごめんなさい魔理ちゃん。ちょっと苛めたくなっちゃった♡」

 

「流石ね母上。ドンマイ、ドブネズミ」

 

「お前次のターンこそ覚悟しておけ。泣き叫んでカリスマブレイクしても許しを乞わねぇから」

 

やっと魔理沙のターンが訪れると思いきや、母上がスキップを使ったため、次のターンはレミリアへと移行する。グッと唇を噛み締め、レミリアに中指を立ててなんとか自我を保つ魔理沙。その様子を嘲笑う魔王。姿が異形と言えど、雰囲気はまるで仲の良い家族のようだ。

 

 

三周目、今度こそはと待ち構える魔理沙。逆に言うなら、もう二度と特殊カード使うなカス。

 

「ほら魔理沙、貴方の番よ」

 

「はぁ〜、殺っとKitaca。レメィ、てまえはここで終りだッッ!!!」

 

ドンッと音を立てながら魔理沙は二枚のカードを一気に出した。それは一周目からずっと大切に持っていたドローカード二枚。あのクソッタレ魔王に会心の一撃を与えるべくずっと堪えていた鬱憤を今、解き放ったのだ!!

 

「奇遇ねドブネズミ、私もドローカードあるわよ」

 

「合計三枚のドローカードを確認、ドローカードで対処」

 

「えぇっ八枚!? そんなぁ......あんまりだ」

 

「痛てぇ、ちょ痛んだけど!! おい半人! お前の半霊がさっきからチクチク刺してくんだ!! 止めさせて差し上げろ」

 

「あー、私が八枚カード引いた原因が魔理沙さんだったからですかね.........。もう、チクチクしたらダメって言ってるのに......」

 

八つ当たり気味に異形妖夢の半霊が魔理沙にネチネチと突っかかる。たかが半霊ごときの弱めなタックルに負けるほど魔理沙は弱くないが、この半霊、体中から刃が飛び出ているため、タックルするたびに目や脳に刃が突き刺さるのだ。

 

なんとか半霊を宥めさせ、ゲームが再開される。現在最も手札が多いのは妖夢だが、次に多いのは魔理沙である。この流れのままだと妖夢とサシで勝負するハメになるため、なんとしてでもこの流れを断ち切らなければならないが、方法が全く思いつかない。

「......スペ......スペカ......スペカッ!!」

 

ここで霊夢のスペカ宣言。身体中から無数の針が飛び出し、いつでも準備万端。最初の犠牲者はいったい誰になるのか。

 

「えっ......私?」

 

「...............」コクリ

 

霊夢は無言で妖夢に近づき、無数の針で妖夢を滅多刺しにする。肌が見えないほどに針が敷き詰められ、あらゆる関節という関節に針を突き刺した。これが誰も血を流す必要の無いスペルカードゲームだなんて口走るものがいれば、即刻処分されるだろう。ガンジーでも助走つけて殴るレベル。

 

だが滅多刺しにされた妖夢は何事も無かったかのようにゲームを再開。異形妖夢の骨は何者にも切断されない頑丈な骨なため、霊夢の針攻撃も難なく受け止めることができた。

 

 

 

 

こうして、ちゃくちゃくとゲームは進行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

「結局残ったのは俺とお前か」

 

「タイマンよ変態魔法使い。ま、貴女が私に勝つ運命なんてないけどね」

 

現在残っているプレイヤーは二名。異形魔理沙と異形レミリアである。一抜けは霊夢、次に咲夜、その次は紫、妖夢と抜けていき、残ったのはあの二人だけ。スペカとラストスペルのせいで魔王城が血まみれになってしまったが、ゲームはまだ終わらない。

 

「勝つ運命? 知ったこちゃあないね。相手が魔王だろうとなんだろうと、お前が臨む未来が全て現実になるでも? 魔理沙さんのこの手札見て諦めをつけろッッ!!!!」

 

魔理沙が必死に手札を整え、わざと手札から出せるカードが無いと言って山札から集めに集めた特殊カードたち。上手く要らないカードを処理し、ついに魔理沙の手札は四枚、相手は二枚。勝つる。

 

「ワイルドドローカード×3枚、色は蒼な。」

 

相手にカードを四枚引かせる+色を指定できるワイルドドローカードが三枚、つまり相手は12枚もののカードを引かなければならない。そして魔理沙は......

 

「スペルカードッ!! 弧野兎螺未歯羅沙頽雄繰辺黄可!!」

 

字的に全く読み方の分からない攻撃がレミリアの頬を襲い、レミリアごと壁に叩きつける。要はただのグーパンチ、そうとうストレスを溜めていたようだ。

 

だがこれで手札の差は11枚。カードを引いたとはいえ、ヤツが取れる手段と言えば私の指定した青色のカードを出さないことだ。普通に考えて、この局面で色を青にしたということは、最後の手札が青なんだろうと相手が予測するのは必然的。

 

駄菓子菓子!! 私が青と言ったのはただのフェイク、私の最後の一枚の色の正体は黄色だ。これで私がこのゲームを抜けられる確率は三分の一までに絞ることができただろう。後はこの確率を引き当てるだけで私の勝利は確定する。さぁ、とびきりのエンターテイナーによるフィニッシュを。

 

「あら、いつから勝利したと勘違いしているのかしら? 頭が幸せそうでなによりだわムシケラ」

 

「あ"ー? 日本語喋れるぅ? この状況を把握出来ないのかチスイコウモリ。お前はッ! 負けるんだよ!」

 

「そんなに自信満々なのね。じゃあ、負けた方は罰ゲームをするっていうのはどうかしら。負けないんでしょ?」

 

「ほーん。自分から死んでいくスタンスは嫌いじゃないよ。彫ら、さっさとカードを場に出せや」

 

はよ出せと急かす魔理沙の顔を見て、笑いを堪える魔王様。いや、隠すことなく笑っていた。魔理沙の姿を嘲笑いながら、彼女は手札を公開した。

 

「リバース、リバース、リバース、リバース、リバース、スキップ、スキップ、スキップ、スキップ、4、2、スペカ、7、ラストスペル」

 

「は? ちょ? おま、おママっ、おまっ、え? それ犯則だろ。リバースの後、naturalにスキップ入れる上に数字? それ犯s」

 

「いつから普通のルールだと勘違いしてたのかしら? 常識に囚われているようじゃ、この世界を生き抜くことなんて出来ないわよ最強の魔法使い(自称)」

 

「それとコレは関係ねぇーだrグゲバァ!!!」

 

グングニルが地面から無数に生えだし、魔理沙の五臓六腑+顔面が容赦なく貫かれる。肉片が零れ落ち、内臓が丸見えになり、見るも無惨な死体が完成された。なお、生きている模様。

 

「じゃ、罰ゲームね」

 

「これも十分罰ゲームだとおまわん?」

 

「当たり前じゃない。じゃ、罰ゲームの内容を伝えるわ、心して聞きなさい泥棒」

 

「帰っていい?」

 

とてつもなくお家に帰りたい魔理沙だが、何はどうあれ負けた以上は話を聞こうと、そう思った魔理沙であったが。

 

まさかこれが原因でアレがこーなるなど、この時、一人を除いて誰も知ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

レミリアは機密事項なのか、魔理沙の耳元でコソコソと内容を告げる。そのとんでもない内容に魔理沙は嫌な顔をするが、こちらにもメリットはあるにはあるので、その計画に参加することにした。

 

「母上を喜ばせるいい機会じゃない?」

 

「そうだが......、俺の役割が酷くね?」

 

「我慢しなさい。」

 

再び魔理沙が苦い顔をしたが、ちらと後ろを向くと、母上がニッコリと笑顔で手を振っていたため、逃げられないのだろうと悟り、観念した。

 

「カチカチカチカチ......」

 

「あー? 何の話すてたって?」

 

レミリアと魔理沙のセリフが気になったのか、魔理沙に内容を説明してもらうとせがんできた異形霊夢。すると魔理沙は少し深呼吸を入れた後、クルリと出入口への道を歩みながら言葉を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと世界征服の計画をな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






時間ギリギリィ!! なんとか間に合ったぞい。


虐殺系出来なくてすまん。あまり私の性分には合わないようだ。代わりに彼女らが身を削った遊戯をしてくださったから勘弁しt((r


いろいろ紹介

異形レミリア:ここでのオリ設定。人の名前を覚えない(覚える気がない)。常に相手を見下し、いつでも強者の余裕を見せつける魔王城の主。カリスマブレイクは一切することは無く、常に王者の風格。能力は最上位の運命系能力だが、能力はフメイ。

ガチのオリ設定。

異形紫:全ての異形たちの母親らしく、姿はほぼ八雲紫と変わらない。一応ここでの設定は、自分の生み出した異形達が大好きで、愛している。それ以外は全て利用されるだけのただの道具。

最近はよく魔理沙を弄る。





ギリギリアウトか。



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リベンジマッチ(41話)




令和ッ!!





 

 

 

青白の轟くんかっけぇ......なんて思い耽る今日この頃。現在、私こと結依魔理沙は二回戦を突破し、準決勝に進出。他もまぁまぁ色々あった結果、次のトーナメント表はこうなった。

 

準決勝戦

 

第一試合 結依魔理沙 VS 轟焦凍

 

第二試合 爆豪勝己 VS 飯田天哉

 

 

あぁ、上鳴負けてもうたか。わかってるとはいえ、レシプロの加速に生身の人間が反応出来るわけないか。ドンマイ。

 

しかし、戦闘センスお化けの爆豪に勝つのは無理そうだなぁ。アイツは昔っから動きがおかしい(いい意味で)から、スピード特化で対人戦闘技術の足りない委員長じゃ爆豪に勝てない気が......、や、でも速いってだけでも十分強いしなぁ。もうやってもらわなきゃわかんね。

 

問題は私の相手である轟焦凍。アイツ目覚めやがった。あの絶対零度と蒼い炎は確かにヤバいが、別に極低温で凍らされたところで足止めにも何にもならないし、というか熱変動無効を使えば火傷も凍結も効かない。ただし、こっちも自分の体から放出する熱攻撃が一切出せなくなるけどな。

 

でも何も問題は無い。問題があるとしたら、この体育祭編の話数が通常の三倍ほどの長さになってしまったから、そろそろ決着させなければならない。あと二話くらいで決着させよう。そうしよう。

 

 

 

魔理沙は控え室で茶を啜りながら、次の試合が来るまで待機していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『準決! サクサク行くぜ』

 

『お互いA組屈指の実力者対決! 二回戦では二人とも派手に暴れまくって会場を盛り上げてくれたぜ!! 今回もやり過ぎないよう程々に暴れてくれ! 結依魔理沙VS轟焦凍!!』

 

『スタートッ!』

 

 

やっと来たよ準決勝、対戦相手は轟焦凍! どうやら心も吹っ切れたようで随分と勇ましい雰囲気が出てるじゃないか。やはり人間、笑顔が一番だな。

 

ほら、轟くんもニコッとしてるぞ。ちょー珍s

 

 

「アブソリュートフレア」

 

 

轟は悪意の無い純粋な笑顔からいつもの冷静な目付きへ変え、緑谷くんを屠った必殺奥義を初手から発動させた。絶対零度の氷が私をフィールドごと凍らせ、核にも匹敵する蒼き炎が全てを燃やし、ステージが大爆発を起こす。あまりの唐突さで魔理沙は反応することが出来ず、全ての攻撃がモロ直撃し、姿が一時的に見えなくなってしまった。

 

果たして準決勝第一試合は三秒で終わってしまうのか。

 

 

それはある意味的を得ていた。

 

 

ドゴンッ!!! という大きな爆音と共に全てが終結した。人々の目に映った光景は信じ難い現実として焼き付けられ、動揺を隠せずにいる。二回戦で、あの緑谷出久を戦闘不能にしたアブソリュートフレアを正面から受けて......

 

 

『結依魔理沙! 会心の一撃で場外フィニィィイイイイイイイイイイイッシュ!!!』

 

 

歓声が湧き上がる。ほんの一瞬の出来事で誰も見ることが出来なかったが、魔理沙の一撃で轟が場外まで吹き飛ばされたということだけは理解することが出来た。

 

『おいイレイザー! 速すぎて理解できないから解説任せたぜ!!』

 

『....おそらく、シンプルに真っ直ぐ走って殴りにいったのだろう。俺にもよく分からない』

 

『アレを正面から受けてなお止まることなく殴るって、なんてクレイジーなガールだぜ.........』

 

 

相澤の予測の通り、魔理沙はただ真っ直ぐ走って殴っただけであった。絶対零度の氷で左腕が千切れようとも、灼熱の蒼き炎に身を焦がされようとも、魔理沙は問答無用で突破し、強烈な右ストレートを轟の頬に叩き込んだのだ。

 

千切れた左腕を高速で修復し、焼け焦げた雄英高校のジャージは人に気づかれる前に直した魔理沙。そして轟の安否を確認するために、ステージ外へと降り立つ。

 

「お疲れさん。アクエリでも飲む?」

 

私は異空間からスポーツドリンクをパッと取り出し、轟の目の前に差し出した。美味しいよね、アクエリアス。私は嫌いだけど。

 

「...今、何した......」

 

アクエリより状況説明を求める轟焦凍。なんだよ、お前もアクエリ嫌いなのか。もしかして、ポカリも嫌か? 私は嫌だ。

 

まぁそれは置いといて、説明は必要みたいだからしてあげよう。

 

「走って殴った、以上!」

 

「....そうか。」

 

何かを悟ったのか、呆れた顔で空を見上げる轟焦凍。しかし右腕は目を覆い隠すように添えてあった。

 

「......泣いてるの?」

 

「....泣いてねぇよ」

 

「お母さんが応援してくれたのに準決で瞬殺されたから面目ない気持ちなの?」

 

「心を読むんじゃねぇ」

 

悪意しか感じ取れない魔理沙の笑い声が轟の耳を犯す。今までだったら憎悪を募らせていたはずのムカつく言葉は、何故か心地よいものへと変化している。決して轟がマゾになったわけでなく、心に余裕が出来たということの証拠であった。

「...ありがとう」

 

 

 

轟の口から、微かに感謝の言葉が漏れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

〜 控え室 〜

 

 

轟との戦闘を終えた魔理沙は、次の最終決戦に向けて準備をしていた。心を落ち着かせるためにお茶を用意し、腹が減っては戦ができぬということでクッキー☆を用意し、ついでにCDプレイヤーに『感情の摩天楼 〜 Cosmic Mind』(処刑用BGM)を流して気分爽快ダイヤモンドユカイ。いつでもかかって来やがれ。

 

ちなみに爆豪VS飯田の結果は、案の定爆豪の勝利で終わった。もう、爆豪の動体視力が気持ち悪いくらいヤバかった。レシプロの蹴りを見切ってカウンターとか、一体どこまで強くなったのだか。

 

 

バアン!!

 

 

......何事? 突拍子もなくドアが思いっきり開かれて、誰かがやってきたようだ。確かにいつでもかかってこいとは言ったが......比喩だよ?

 

「あ? なんでボサボサ野郎がここに...、控え室......あ!! ここ2の方かクソが!!」

 

出てきやがったのは決勝戦最後の敵である爆豪勝己。あの言葉的に、部屋間違えたなこの野郎。女の子のいる部屋に堂々と押しかけるとはいい度胸してんな爆発さん太郎が!!

 

「部屋間違えたのかな爆豪きゅん? 私が案内してやろーか?」

 

「テメェの案内なんかいらねぇよ!! あとそのCDプレイヤー止めろ! うるせぇ!!」

 

仕方なく停止ボタンを押して音楽を止める。んったく、せっかく気分爽快ダイヤモンドユカイだったのに今じゃダダ下がりカタストロフィだわ。責任取れや。

 

不満気な目線で爆豪を睨んでいると、それに気づいたのか爆豪が再び食ってかかってきた。

 

「何か言いたいことでもあんのか、あぁん?」

 

「いや、幼馴染兼お前の師匠として少々言いたいことがあってな......」

 

「誰が弟子だ」

 

「まぁ、そういうなって。で? 私に勝つ勝算はあるの? ちゃんと考えてないと轟きゅんみたいに瞬殺するよ」

 

「......言わねーよカス」

 

「ま、そう言うと思ってたよ。じゃ、修行の成果を楽しみにしてるね」

 

とりあえず手短に話を切り終えて、私はまたクッキーを摘んで出場のコールがかかるまで暇を潰そうとしたのだが、爆豪が部屋の扉を開けると、少し震えた声で呟くように言葉を発した。

 

「......一回戦の時、テメェ表情変えたよな。何があった」

 

爆豪は振り返らず、ボソッと言葉を零した。少々動揺したが、悟られぬよう何気ない雰囲気を漂わせつつ言葉を返す。

 

「......何も無かったよ。一撃で」

 

「実際は」

 

「いや、ほんと実際もなにも一撃でおしまいさ」

 

そう言うと、爆豪は今までに見せたことないくらいの悲壮な顔を私に向けた。そして部屋を出ていこうと......すると見せかけて鋭い剣幕で突如部屋の机をぶっ叩き、爆発させた。ギョッと驚いた私の顔面を爆豪は鷲掴みした後、鋭い目付きで睨みつけながら言いつける。

 

「嘘つくんじゃねぇよボサボサが。俺より強え奴がしみったれた顔をすんなボケカス。さっさとはっきり言え、でなきゃ殺す」

 

爆豪は魔理沙の顔面に圧をかけるよう力を込め、何かを吐かせようとどこか必死に魔理沙を押さえつけた。

 

「私に何を吐かせたいんだよ」

 

「惚けてんじゃねぇ、一回戦の時から様子が変わった、今もそうだ。何隠しているか知らねーがこの決勝戦でもそんな表情されっと萎えるんだよ。だから吐け」

 

真剣な目付きで魔理沙の首と顔を押さえつける爆豪勝己。なるほど、そういうことか。妙に突っかかってくると思ってたらそういう事だったのね。

 

「つまり私の心配をしてくれたと」

 

「都合のいい解釈をするなクソボケカスが」

 

「だってどー考えてもそーでしょうが!!」

 

確かに爆豪の言う通り、この雄英体育祭で不安要素が増えた。異形連中がこれからどう動くのか予想できないし、ほんの少しずつだが覚醒者も増えている。自分がこの世界に生まれたことで与える影響が割と多くて困っているには困っている。だけど、困っている様子はそこまで周りに見せていない。見せないよう振舞ってきたんだから、それに気づくってことは相当私に気を使ってるってことだよな! つまり! 爆豪は私の心配をしてくれたってことだ!! 異議なし!!

 

 

しばらく言い合いになった後、結局爆豪が折れて部屋を出ていった。なんだアイツ、可愛いところもあるじゃないか。やっぱり性格丸くなったなー。

 

 

 

さて、クッキーもお茶もCDプレイヤーも爆破されたし、寝るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

『さァいよいよラスト!! 雄英一年の頂点がここで決まる!! 決勝戦、結依VS爆豪!!!』

 

『今!! スタート!!!!』

 

 

景気のいい目覚ましが私の脳をフル回転させ、血の流れを徐々に速くする。やっとここまで辿り着いたんだから、爆豪に勝って三冠を果たし、ゆっくりとおうちで寝るとしよう。正真正銘、これが雄英体育祭最後のショータイムだ。気合いを入れろ。

 

肩の骨を軽く鳴らし、気合いを入れる結依魔理沙。対する爆豪は......ずっと私のことを鋭い目付きで睨んでいる。控え室のこと、まだ引きずっているのかな?

 

「おい、結依」

 

「おっ、おう...なんだよ爆豪」

 

いきなり爆豪に苗字で呼ばれたから、驚いて上手く返事が出来なかった。あれ、爆豪が苗字で私を呼びかけたの、何気に人生初じゃね?

 

「俺はお前に、一度も勝てたことはねぇ」

 

「お、おu「返事するな黙って聞け!!」ハイ...」

 

何か爆豪が言いたげなようだ。目付きが控え室の時と一緒になっている。心読もうかな。

 

「その上、テメェの力を借りてまで手に入れた覚醒の力でさえ、テメェを超えることが出来ねぇ」

 

「なんでこんなに俺は情けねぇーんだよなぁ!! プライドも何もかも全てテメェに握りつぶされて、何度もテメェに負けて!! 俺は弱すぎだって言うのか!! あぁん!!」

 

爆豪が漏らしたのは、弱音だった。ナンバーワンを取ってこその最強のヒーロー、そうありたいと願う爆豪の前に現れたのは最強の壁、結依魔理沙。これまで爆豪は一度も彼女に勝てず、取るべき最強の証は全て彼女が持っていった。その上、彼女に助けられることもあった。諭されたこともあった。あまりにも高い壁に爆豪は己のプライドを少しずつ抑圧していき、結果的に魔理沙に稽古をつけてもらうことさえ許してしまった。アイツがいなければ、自分がナンバーワンだったはず....と考える自分に嫌気がさす日々。爆豪の自尊心はズタボロであった。

 

だがしかし、爆豪は結依に勝つことを諦めたわけではなかった。いやむしろここまで自身を犠牲にした以上、成果を出さなければならないとまで感じている。それくらい、彼は勝利に飢えていたのだ。

 

「はぁ....、とにかくテメェ、手加減なんかすんなよ。全力のテメェを上から捩じ伏せる...そんで俺がトップだ」

 

ギラついた爆豪の視線と宣戦布告を受けて、呆れた顔をする魔理沙。爆豪、昔っからずっと変わってないんだな。魔理ちゃんはある意味感心しているよ、ここまで変化を受け付けない奴は初めて見た。人間誰しも成長すれば、見た目も考えも味覚も変わるもんだと思っていたのだが、爆豪は変わんねぇや。すげぇや。

 

「そこまで言うなら、私も覚悟して立ち向かうとしよう。そんなに潰したいなら殺ってみろ」

 

腹を括って、戦闘態勢に移行する。幼稚園児の時に初めて爆豪と戦い、その後も何回かちょっかいを受けて、高校生になってまたぶつかって、戦闘訓練で暴走を止めて、二週間前に覚醒の特訓(実験)に付き合ってもらって......まぁ、断ち切れない運命のように戦ったな。会う度にいがみ合う、腐れ縁のような関係だったけど、なんだかんだ楽しかったぜ。こんなこと絶対本人の前で言わねぇけどな。

 

「上等だ。喋る暇もなく殺してやるよ」

 

爆豪も戦闘態勢に入った。昔と比べ、筋肉や体格がしなやかでかつ強靭になっている。油断も隙もない構えに、流石の私も警戒せざるをえない。本気なんだな爆豪、本気で私を倒したいんだな。

 

 

会場には声が聞こえていなかったのか、早くしろとでも言いたげな表情で観客は二人を見ていた。というかさっきから実況のほうも煩い。こちとら人間関係で困っているんじゃい!!

 

 

 

 

結依魔理沙と爆豪勝己、雄英高校一年A組のトップクラスの実力を持った幼馴染同士の試合。果たして勝利を手にするのは爆豪か、はたまた結依か。

 

 

 

 

 

 

 






爆豪、頑張れ。


いろいろ紹介

感情の摩天楼 〜 Cosmic Mind:東方キャラ、聖白蓮のテーマBGM。最初だけ聞くと処刑用BGMだけど、最後まで聞くと感動で涙が溢れるんぜよ。ぜひ聞いてほしい。



次か次の次で体育祭編ラストですねぇ。長かった。




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ピースサイン(42話)




爆豪VS結依......ここに極まれり。



雄英高校受験編を編集。大筋はあまり変えず、説明を書き足した感じで......、難しいなぁ。


50話到達!! よし、次は100話だ!!



お気に入り400突破!! なんか色々とめでたい!









 

 

 

幾多の戦いをくぐり抜け、ついに最後となった雄英体育祭一年勝ち抜きトーナメント。TOREやったり、騎馬戦やったり、アクシデント発生したりと大変だったが、この決勝戦を持って全てが閉幕する。そう、爆豪との決着をつけてラストだ。

 

「爆豪ォオオオオオオオオオ!!!!!」

 

「ボサボサァアアアアアアアアア!!!!」

 

互いに右手を構えながら一直線に走り、立ち向かう。なんだろう、このTHE・最終決戦みたいな雰囲気は......シチュエーションが私好みで興奮度MAXなんだが。やる気が湧いてくるぜ。

 

爆豪の右手の大振りが目前まで迫っている。だが遅い、私の鍛え上げた動体視力の前では、爆豪の動きなどカタツムリ同然。しかも何度も見慣れた右手の大振りが来たのだから尚更喰らうわけがない。

 

私は爆豪の攻撃を弾きつつ、投げ技でカウンターを決めようと仕掛ける。やはり遅い、覚醒すれば反応できると思うがどうやら今は使う気配はないようだ。初手の一撃は私が頂くとしよう。

 

「見えてるわボケ」

 

首根っこを掴んだ途端、腹部でかなり強烈な爆発が発生し、衝撃で吹き飛ばされる。うへぇ、足の皮剥けてそうで怖いわぁ。というか、カウンターをカウンターで返すなんて相当強くなってんな爆豪。

 

「初反撃じゃない? 爆豪きゅん」

 

「テメェと訓練した時もこれくらいやってるわボサボサ」

 

「まぁ、そうだねぇ。でもまだまだだよなぁ!」

 

爆豪のいる方向に右手をかざし、個性を発動させる。昔手に入れた爆豪の個性と炸裂の個性、組み合わせることで強力な攻撃へと転じる。私の今までの努力を見るがいい......

 

「エクスバースト」

 

直線上に連鎖爆発を起こしながら襲いかかる魔理沙の攻撃。いきなり初見技を撃ってきた魔理沙を睨みつつ、爆破を使って爆豪は大きく右に回避した。やりおるな......だがまだ私のターンだ。

 

「からのザ・マウンテン!!」

 

追撃は戦闘の基本、回避後は隙が出やすいのでちょっとデカめの技を放つ。本来は超次元サッカーで使うべきブロック技だが、下から山が突き出るだけでも十分な破壊力を出せるので採用した。案の定、爆豪も空中に投げ出されてるしな。

 

「ほんとテメェの個性何でもありだな。対策もクソもねぇ」

 

「それは私への褒め言葉として受け取っておくよ。青山レーザー!!」

 

最近使ってあげてなかった青山の個性、ネビルレーザーで空中にいる爆豪へさらに追撃をかける。三秒以上射出すると下痢になりかねないので気をつけなければ。試したことないけど。

 

「二度も効くかよ」

 

余裕をかます魔理沙の隙を利用し、爆轟は軽くビームを避けて錐揉み回転しながら魔理沙に突撃。その行動が次にどう繋がるか悟った魔理沙だが、時既に遅し。素の回避もガードも出来ないまま攻撃が放たれた。

 

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!!」

 

ゲボハァッッ!!!!!

 

 

ステージの半分が爆発で見えなくなるほどの大規模かつ強烈な爆発が前半身を焦土に変え、爆風が魔理沙をステージから追い出そうと襲いかかる。立ち位置がステージの端だったのも悪く、普通に考えれば場外アウトでゲームセットだろう。

 

しかし魔理沙の辞書に「敗北」の文字は無い。

 

 

煙が晴れ、爆豪が次の動きを読むべく警戒態勢をとるが、魔理沙の姿は見当たらない。代わりに何故か見たことの無いコウモリのような動物が複数、爆豪の周りを煽るように漂っていた。

 

怪しさを隠しきれないコウモリに、爆豪は容赦なく攻撃を仕掛ける。するとコウモリは、キキキッ! と不思議な鳴き声を上げながら逃げていき、爆豪の目の前で人の形を形成する。勘のいい爆豪は既に気づいていた、あのコウモリの正体は......

 

「魔理ちゃん復活!! さぁ、まだまだ勝負は終わんないぜ?」

 

結依魔理沙が正体を現す。コウモリの姿へと変えることでダメージを最小限に抑えるかつ移動も可能にする技、「バットウィズイン」によって爆豪のハウザーを避けることに成功した。カッコイイよねこれ、出来ればウィッチタイムも使いたいけど、流石に面白くないのでピンチの時以外使わない。ん、常闇にザ・ワールド使ったからウィッチタイムくらいいいだろって? あれはノリだ。

 

「コウモリにもなれんのかボサボサ野郎」

 

「リクエストがあるのならご自由にどうぞ爆豪きゅん。例えば......ドラゴンとかな」

 

たった今思いついたことを即実行する魔理沙。こういう対策の取りようのない変幻自在のスタイルが魔理沙の強みであり、最強と呼ばれる所以であろう。いくら相手が見ただけで完璧に把握することが出来たとしても、次から次へと新しい牙を差し向けられてはどうしようもないのと同じであり、その事実に気づいている爆豪は終始しかめっ面である。いや、気づいてなくても終始しかめっ面でいるだろう。

 

魔理沙の背中には変幻自在の銀の翼が飛び出し、肌には並の金属を軽々と弾く強力な鱗がビッシリと生え、顔は完全に霧雨魔理沙とかけ離れた龍の顔へと変貌していた。おまけに尻尾も生えている。

 

魔理沙が変身したのはモンスターハンターの古龍、バルファルク。古龍なのに間違ってシビレ罠置いてしまったランキング上位にランクインする彼の速さはジェットエンジンのごとく、あらゆるものを吹き飛ばすスタイリッシュなモンスター。そのためか体は流線型の形で、翼は二種類の形に変形できる。カッコイイ。

 

「キィィィィィィィィィィィィン!!!!!」

 

バルファルク特有の咆哮を天に向けて叫び、爆豪に向かって超音速アタックをかます。ごめん嘘、ステージが小さいため超音速というよりただの巨体を活かしたタックル。だがしかし爆豪にとっては有効打になるはずだ。だってデカいし。

 

しかし爆豪の姿が見当たらない。背後に周りこんだ形跡は見られなかったはずだgケバブッッ!!!

 

体の真下から膨大な爆発により体勢を崩したバルファルクもとい結依魔理沙。どうやら爆豪は瞬時に弱点を見抜いてバルファルクの真下に潜り込み、強烈な一撃を加えたようだ。クソッ、逆に巨体を利用されてしまったか!

 

キィィィィィィィィア!!!(振り返り翼叩きつけ)

 

だがしかし、魔理沙は爆豪の爆発の反動を利用してバルファルクお得意のカウンター、振り返ってからの刺突翼叩きつけが見事爆豪に命中し、翼爪で体の動きを封じる。フフフ、甘いんだよ爆豪きゅん。ブレイブ回避も出来ないお前がバルファルクの翼叩きつけを避けられるわけなかろう。もっと学んでくるがよい(上から目線)。

 

「が......ぅごけねぇ!」

 

「ほらほらどうした爆豪きゅん。最初の勢いはどうしたんだい、ほらぁ?」

 

時間経過と共に爆豪に重心を傾ける結依魔理沙。時間が経てば経つほど爆豪の体への負荷がドンドン増えていき、早めに脱出しなければ背骨がへし折れるだろう。しかし人間と比べ物にならないくらいの体重を持つ古龍の押さえつけから脱出するのは不可能なため、押さえられた時点で爆豪は負け確定なのだ。

 

だが爆豪にはたったひとつ、脱出の手段がある。それは爆豪が障害物競走で緑谷に見せた最強状態、「覚醒」.....魔理沙がこの戦いで最も注意を払っているチート能力である。使い時は今まさにこの時であろう。

 

だがしかし! そんなこと心を読まなくてもお見通しだぜ爆豪きゅん!! 最大火力の爆発による反動と爆煙を利用して脱出し、油断している私を狩りに来るんだろう? だったらこっちは変身解除して甲虫王者ムシキングで定番の「スーパートルネードスロー」でカウンター&場外ENDに導いてやろうではないか!!

 

 

爆豪の体が武装色の覇気のごとく黒く染まり、手からはニトログリセリンのような汗がフツフツと吹き上がる。どうやらそろそろのようだ。いつでも来い。

 

核熱新生爆発(ニュークリアフュージョン)!!!」

 

障害物競走で巨大ロボを跡形もなく消し飛ばした覚醒爆豪の必殺技が発動。巨大な龍の姿は爆発と爆煙によって観客の目から消え、莫大な熱エネルギーがステージ全体に容赦なく拡散されていく。その隙に爆豪は魔理沙との距離を置き、体勢を立て直す。一方魔理沙は通常姿に戻り、爆心地にて「スーパートルネードスロー」の構えをとっていた。爆心地の温度は数千度。アスファルトの沸点は300度、完全に気化され、まともな足場など存在しない。足場ないくせにどう構えをとるんだよ......とか言った人は北斗百裂拳の刑に処す。

 

冗談はさておき、あの野郎。後始末するこっちの身を知らずに大火力技出しやがって、いつでも来いと言ったがもっと加減ができないのか......。熱変動無効とか空中浮遊とか持ってなかったら死んでたぞ。......そろそろウザイと言われかねないが私は言うぞ......「死なないけど」。

 

 

ジュッ

 

 

急に横腹あたりに温かさを感じ、視線をズラすと私の体が超高温の熱線か何かで穴を空けられているのが見えた。うっかり横腹の穴を見続けていると、爆豪が反撃の隙を与えないようにするためか、次から次へと熱線を撃ってくる。

 

魔理沙が腕を払うと、周りの炎がスっと消えていく。横腹も超再生によって修復され、地形も元に戻って状況は再びリセットされてしまった。これじゃ泥試合だ。私の能力の大半は危険だからセーブしなきゃ扱えないし、かといって相手を場外にワープさせるなんてことは、最終決戦的に私が許さない。だが投げ主体のこの状態でやり合うのはイマイチ火力が足りん......。

 

「......やめだ。せっかくの最終決戦なのに何で相手に気を使わなければならないんだ。」

 

何かが吹っ切れたのか、魔理沙はやれやれと両手を振りながら、ため息を吐くように言葉を続ける。

 

「もう幼馴染だからとか、人間だからとか、そんな理由で手加減しても面白くない。私は異形魔理沙、ギリギリの戦いをするのも好きだが、常識外れの火力で上から捩じ伏せるのも、割と嫌いじゃないんだぜ?」

 

「お前も好きだろう?」

 

直後魔理沙の殺気に近いオーラが爆豪にのみ押し寄せる。魔理沙の目付きが明らかに変化し、顔の皮が破かれて本来隠れている口元が明らかとなる。

 

「......最初から本気だしやがれ」

 

「それは悪かったな。謝るからお前もそろそろ本気出せ」

 

「わーかってるわクソボサボサ。テメェがいない間に練習した俺の新技を食らって死ね」

 

爆豪を見て魔理沙はニンマリとした悪い笑顔を見せると、首を90度曲げながら自分のこめかみに何処かから取り出した拳銃を当てた。

 

「顕現せよ刻刻帝(ザフキエル)。『第一の弾(アレフ)』」

 

魔理沙はその言葉と同時に自分のこめかみを拳銃で撃ち抜き、その後爆豪の視界から消える。何が起こっているのか全く理解できず、周囲を警戒する爆豪だが、既に魔理沙の第二の攻撃は始まっていた。

 

「ゴールド・エクスペ「死ねッ!」ンん"!!?」

 

だが爆豪は起点を利かした一撃を結依の顔面に叩き込む。かなり強烈な威力が顔面に入り、流石の魔理沙も怯んだかと思えたが......

 

「にぃ......」

 

煙の中からニンマリ笑った魔理沙が爆豪の首根っこを掴み、片手で地面に叩き付ける。爆豪の一撃はザフキエルで加速した魔理沙にとって避けられるものであったが、あえて食らうことで油断させ、爆豪に一撃を食らわせる。そして薙ぎ払うように爆豪をぶん投げ、手を差し向けた。

 

「廃線『ぶらり廃駅下車の旅』」

 

別空間から現れた廃れた電車が爆豪に迫る。体育祭ステージ中央に突如電車が登場したことに、観客はもう驚きの表情すら見せることは無かった。ロードローラーを境に人が殴り合いしたあの時の時点で既に感覚は麻痺し、諦めにも見える深い眼差しを彼女らに向けて、親の如く見守る。オーディエンスはそれしかできない。

 

これも初見技だから反応が遅れるだろうと考えた魔理沙は、自分の出した廃車の中に突っ込む。ザフキエルの力により圧倒的な速さで廃車の中を突き進み、真横から奇襲をかけようと距離を詰める。

 

だがその作戦はすぐさま瓦解した。爆豪が廃車内に入り込んできていたのだ。勘か、はたまた思慮深い脳みその計算結果によってか否かは定かではないが、どうやら奇襲はバレてしまったようだ。鉢合わせた二人は同時に走り、ぶつかり、近接格闘技術の応酬が始まる。魔理沙はあらゆる世界の武術を組み込んだある意味自己流の武術、爆豪は己のフィジカルを最大限に引き出す立ち回りで殴り、蹴る。狭い電車の中で二人は壮絶な戦いを繰り広げた後、天井を突破って再びステージへと復帰する。

 

おかしい、割と真面目に攻撃しているはずなのにドンドン適応されていく。ザフキエルで速度を上げたにも関わらずに私のCQCに応対できているのも理解し難いし、まぁとにかく攻め続けるしかない。

 

「マキシマムドライブ」

 

別空間から取り出したジョーカーのガイアメモリを能力で無理矢理引き出し、引き出されたエネルギーを拳に纏って爆豪の腹に会心の一撃を加える。

 

流石に今のは効いたのか、腹を押さえて後退りする爆豪。そこへさらにラッシュを撃ち込み、爆豪を大きく吹っ飛ばした。

 

「もうそろそろ諦めろ。腐れ縁とはいえ、別に私は爆豪を一方的にボコしたくねぇんだよ。いやあんなこと言ったけどさ、うんアレだよ、わたしも見栄を張っただけだから......な?」

 

少し息切れを起こしている魔理沙の下で、立ち上がろうとする爆豪。何が彼をここまで動かしているのか。その決して折れない不屈の精神はいったい何処から来ているのか。理解し難い現状を見せつけられ、表情に困る魔理沙。爆豪に向けていた殺気も消し去って様子を伺う。

 

「お断りだ真っ黒ボサボサ野郎。テメェに勝たなきゃ俺は一生の恥晒しだ」

 

「いや、別に私に負けたくらいで恥って「黙れ!!」アッハイ」

 

「お前に世話されたくねぇんだよ。助けられ、強くされ、手取り足取りテメェの指示に従うのはウンザリだ。女に世話される男なんて洒落にならねぇ」

 

爆豪の言葉に目を丸くする魔理沙だが、言葉の意味を理解したのか、頭に電球を発生させながら口を開ける。

 

「つまり爆豪きゅんは私を女として見ている+素直になれない自分にやきもきしてい「んなわけあるかボケカスクソゴミボサボサ野郎ォォオオオオオオオオオオオオ!!!」盛大な罵倒ッッるっはぁぁあああああ!!!!」

 

ローアングルからの強烈な爆裂に仰け反ってしまったが、体勢を持ち直して相見える魔理沙。爆豪も力を振り絞って立ち上がり、相手の目を見据えている。

 

「けどよォ、こんなクソみてぇな弱音を吐くのは恥辱の極みだが、俺の身体はもう限界だ。せいぜいあと一発、テメーの身体を場外に吹き飛ばすことしか出来ねぇ。」

 

「だからボサボサ、最後の一発勝負だ。全身全霊かけて俺と戦うことを誓え。微塵も手加減するな、正真正銘の一撃を全力で込めろ。それで負けたら、後はテメェが好きにやれ。悔いは残さない」

 

「....わかったよ爆豪、もう決着をつけよう。」

 

二人の立ち姿からおふざけの気配は消え、まるで永きに渡る因縁を断ち切るために戦う勇者のような雰囲気が溢れていた。悔いは残さないと、あの諦めの悪い爆豪がそう言ったのだ。それほどこの戦いに何かを見出していたのかもしれない。よくわからないがとにかく、爆豪の想いに応えてやらねば。

 

精神を統一し、この星に感謝するように気を高める。一万回の正拳突きとかいうネテロみたいなことはやらないが、たった一秒にこの私の全てを注ぎ込もう。大丈夫、固有結界はまだ健在のはずだ。死なない......よなぁきっと。でも手を抜いたらきっと爆豪に殺される。なら、お前の言う通り悔いの無い一撃を決めよう。それでお前が満足すらなら......それでいい。

 

爆豪も準備が整ったのか、覚醒全開で私と決着をつけるようだ。しかし体力の消耗が激しく、吸っても吸っても落ち着かない爆豪の姿を見て、手加減したくなる気持ちが湧いてきたが、そっとこころの隅に置いていった。それがアイツへの優しさだ。

 

「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

「ハァァァァァァァァァアア!!!!」

 

 

 

 

「ツァーリ・ボンバアアアアア!!!!」

 

「ふんッッ!!!!!!」

 

 

世界史上最強の核爆弾の名を冠した爆豪の全力を右腕で無理矢理ぶん殴った魔理沙。己のもつ全てのバフスキル・魔法を右腕に一気に集中させ、爆発が広がる前に一撃を叩き込む。その威力は当然ながら凄まじいものとなり、固有結界はその莫大な衝撃に耐えきれず崩壊。勢い余って壁が貫通し、爆豪は本当の場外へと飛び出してしまった。

 

もちろん代償も多く、魔理沙は右半身を衝撃波にもってかれた。が、お得意の超再生と別空間から取り出した完全回復薬によって復活を果たした。いや、私のことはどうでもいい。この様子だと爆豪はとんでもないグロテスクな姿へと変わってるに違いない。ごめん、思ってたより酷い結果だコレ。早く救出しないと!!

 

「時間停止」ブゥゥン

 

時を止め、ワープを使って爆豪の救出に向かう魔理沙。何はともあれ、これで体育祭全種目が無事に(マインドコントロール)終了した。生徒たちの熱い思いと観客の声援で溢れた体育祭は遂に閉会式へと移り、歴史が刻まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日を境に、魔理沙はより多くの受難と立ち向かうはめになることを、今の彼女は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「それではこれより!! 表彰式に移ります!」

 

わあああああああああああああああ!!!!!

 

 

......いやぁ、ヤバかった。まさか爆豪の身体が大気圏を突破して、太陽の重力を振り切って、後もう少ししたらオールトの雲を抜けそうなくらいの速さで吹っ飛ばされてたとは思わなかった。しかもあまりの極低温で冷凍保存されてるし、秒で復活させたら全ての記憶を失っていたもんだから酷く焦ったよ。上手く弄って元に戻し、私は保健室で爆豪に全身全霊の土下座をかましたのだが、何故か怒られなかった。「全力を尽くしたなら、それでいい」と、爆豪は言ったのだが私にはよくわからない。

 

そして現在、私達は表彰台の上に立っている。てっきり爆豪は原作のように枷でも付けられているかと思いきや、割と普通に佇んでいた。また、分身のおかげで飯田くんが轟くんと一緒に三位の台に並んで立っている。良かった、本当に良かった。マジで頑張って良かったと、心の底から涙を流したい。出ないけどな!

 

「メダル授与よ!! 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

 

「私がメダルを持ってk「我らがヒーロー『オールマイト』ォ!!!」」

 

シーン...

 

空高くから派手に着地したオールマイトとミッドナイトのセリフが見事にカブり、生徒たち及び観客全員に沈黙が走る。反応に困ったオールマイトが何も言わずに三位の表彰台へ歩いていくのを見て、結依は笑いを堪えていた。

 

「飯田少年、おめでとう! 爆豪少年に必殺技を止められてしまったのは仕方がない。が、そこで諦めずに次の一手を考えることができれば、君はさらに成長できるだろう」

 

「はい! ありがとうございます、先生!!」

 

ピシッと直角90度腰を曲げてお礼を申す飯田天哉。あまりの真面目さにオールマイトはやや狼狽えたが、いつものスマイルを見せて次の表彰へと移る。

 

「轟少年、おめでとう! 前より顔つきが変わったのには、何かワケがあるのかな」

 

「...俺は緑谷と結依にキッカケをもらって、気持ちが変わりました。ただ、まだ俺にはやらなくちゃいけないことがある。まだ取り戻せるとわかったから......」

 

「......深くは聞くまいよ。今の君ならきっと取り戻せる」

 

オールマイトが優しくハグし、次の表彰台へと移る。そこには、何か思い耽っている爆豪の姿があった。

 

「爆豪少年、よく頑張った。君は最後まで全力で自分と向き合い、ここまで辿り着いたね。私が君に言うことは何一つ無い、君が君自身の思い描くヒーローになれるよう、応援しているよ」

 

「.........次は絶対アイツをぶっ飛ばす」

 

「......ほどほどにね?」

 

相も変わらない爆豪にオールマイトは微妙な心境になりつつも、最後の表彰台へと移る。地球上で最も厄介で何考えているか全く読めない生徒、結依魔理沙の元へ。

 

「結依少女、三冠おめでとう! 君はこの体育祭でまた一つ、栄誉ある伝説を歴史に刻んだ。とても素晴らしいことだ、君は学校の誇りだよ」

 

「ありがとうございまs」

 

「けどね!? ちょっとやり過ぎな気がしてならないんだよねオジサン!! 君の個性は非常に強力とはいえ、制御出来ないわけではないのだろう? もっと慎みを持って、立派なヒーローになろう!! 期待しているよ!」

 

「はい! これからも頑張ります、先生!」

 

サラッと返事を返す彼女に呆れを感じながら、オールマイトは最後のメダルを魔理沙の首にかけてあげた。魔理沙は金メダルを手にすると、何処か嬉々とした表情を浮かべて大切にジャージの中へ仕舞う。人らしい表情もちゃんとあるじゃないか......と、オールマイトは失礼ながらそう感じた。

 

気を取り戻し、最後に一言。

 

「......さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん! この場の誰にもここに立つ可能性はあった!! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと登っていくその姿!! 次代のヒーローは確実にその目を伸ばしている!!」

 

「てな感じで最後に一言!! 皆さんご唱和ください!!」

 

 

「せーのッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プルスu『おつかれさまでした!!!』ルト...」

 

「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」

 

「ああいや...疲れだろうなと思って......」

 

 

オールマイトの配慮が仇となり、観客や生徒から一斉に突っ込まれるオールマイト。お茶目なところもまた、彼の魅力なのだろう。

 

最後まで人を笑顔に変えたオールマイトを横目に、終始笑っている魔理沙。ガタイのいいオールマイトがお茶目な行動を連発しているせいでもあるが、何よりこの体育祭が無事に終わってくれたことに喜びを感じていたのだ。

 

恐らくこれからも何かしらの事件に巻き込まれるかもしれないが、今はこの束の間の平和を楽しんでもいいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

的なこと言っておけば少しは私の好感度はアップすると思い、言ってみた。

 

 

 

 

 

 

 

雄英高校体育祭編 完。

 

 

 

 







長かった。マジで。


今週から六月中旬まで酷く忙しくなるので、投稿頻度が低下もしくはしない可能性大です。六月下旬からおそらく復活するのでよろしくお願いします。テストなんてクソ喰らえ。


いろいろ紹介

ザ・マウンテン:イナズマイレブンの壁山くんが使うブロック技。ふとましい。

バットウィズイン:アンブラの魔女、ベヨネッタの技。ベヨ姉、スマブラばっかじゃなくて原作もやってあげるから...、だから私に拳銃を向けないで。

バルファルク:銀翼の凶星。天彗龍の異名を持つ。個人的にブレイブスタイルだったら楽に狩れる気がする。ただし翼での突き二連続は避けられない。

スーパートルネードスロー:甲虫王者ムシキングに登場するカブトムシのパーの超必殺技。カッコイイ。

ザフキエル(刻刻帝):デート・ア・ライブ、時崎狂三の扱う天使の力。時計の時刻の数と同じ能力数(12個)が使える。能力は全て時間関連。可愛い。

廃線『ぶらり廃駅下車の旅』:ぶらり途中下車の旅をもじった八雲紫のスペルカード。忘れ去られたものがたどり着く幻想郷に、役目を終えた電車が流れ着いたのかな。

マキシマムドライブ:ガイアメモリの力を最大限に引き出すこと。

ガイアメモリ:仮面ライダーダブルに登場する変身アイテム。そのまま使うとドーパントと呼ばれる怪物になるが、ベルトがあれば仮面ライダーに変身できる。詳しくはウェブで。

ツァーリ・ボンバ:核爆弾の皇帝、ソ連が開発した最もエネルギー放出量の高い爆弾。発生するキノコ雲はエベレストの高さの10倍ほどの高さまで成長する。なんつーもん作ってんだ人類。




次回、職場体験......ではなく、少々魔理沙にアレがやってきます。体育祭で随分と暴れたせいで、アレが来ます。多分、三話くらいで終わります。






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第7章:ヒーロー公安委員会編
アナタはワタシ(43話)





体育祭後の二つの事件......


14話の誤字修正ありがとうございます。いかんせん見落としがちで......







 

 

 

 

雄英体育祭というビッグイベントが終了し、二日間の休暇が取られた。理由は単純にイベント後の生徒の配慮と、トップヒーローからの指名の集計の情報漏れを防ぐためか......まぁ、そんなところだろう。久しぶりに感じるベッドの温もりが私を疲れという鎖から解き放ってくれている気がする。

 

 

 

......と言いたいところだが、少々厄介な事になった。体育祭が終わった今日の夕方、瞬間移動でお家に帰り自分の部屋を覗くと、ステイン戦を任していたはずの分身がやけにベットでグッタリしていたのだ。自分で回復魔法を使えないほど疲労していたとは正直考えられないが、とりあえず疲労を回復させて結果報告をしあった。

 

まさかステインが覚醒して私とほぼ互角の争いをしていたなんて信じられないが、私が言うのだからそうなのだろう。なんかステインの話をしている時の私が、何処か儚げというか、なんか感謝か何かの念を感じさせるような表情をしていたのが気になったが、まぁいいだろう。

 

で、さっそく元の体に戻ろうと分身と合体しようとしたんだが......

 

 

「「元に戻らない......だとッッ!?!?」」

 

 

Bカップの胸同士がお互いに反発するだけで何も起こらない。何度も何度もトライしても変わらない現状に、二人の魔女は青ざめた。

 

緊急事態発生。結依魔理沙、この世に二人存在することになっちまった。何でだあああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

「おおお落ち着け私! 原因を...原因を究明するんだ!! 大賢者!」

 

〔はい、何でしょうかマスター。〕

 

「「身体が元に戻りません!!!」」

 

必死な表情で訴える結依魔理沙×2。

 

〔.....おそらく、精神の変質が原因かと。〕

 

「「精神の変質?」」

 

ダブルマスターの悩みを狼狽えつつも見抜いた大賢者。文字だけではどっちがどっちだか判断不可能なため、ステインと戦った魔理沙をステ魔理。体育祭で戦った魔理沙を本来の路線の魔理沙、略して本魔理とする。

 

本魔理「精神の変質ってどゆこと?」

 

〔そのままの意味です。二人のマスターは精神の形が少々異なっているのです。〕

 

ステ魔理「でも精神が変わったくらいで普通は何ともなくない? 記憶の違いとか能力数の違いは何ともないのに」

 

〔解。マスターの『多重並列存在』で生み出された分身はオリジナルとほぼ同一といって過言ではありません。そのため片方ずつ別の能力を所持していたとしても、融合の際の解析・取得に何ら問題はありません。また記憶に関しても存在値が等しい限り特に問題はありません。〕

 

本魔理「存在値って何?」

 

〔解。世界に干渉する力を数値化したものです。他の動物は運動、食事、排便といった行動を取れますが、人間の持つ言葉、感情、思考といったものが乏しく、他の動物は人間より存在値は比較的低いと判断出来ます。また、マスターは世界への直接干渉が可能な為、存在値は非常に高いです。〕

 

ステ魔理「で、何で精神の差異は許されないの」

 

〔解。精神の差異は、存在値の差異でもあるからです。精神は人間の潜在的要素のひとつであり、存在値との関わりが深いためです〕

 

本魔理「頭痛くなってきたわ。カルピス飲んでくるからステ魔理は大賢者と考察してて。まとまったら顔出すわ」

 

自分の部屋のドアに手をかけ、冷蔵庫に向かおうとする本魔理の肩を掴み、引き戻そうとするステ魔理。

 

ステ魔理「逃げるなよ? 私だろ?」

 

本魔理「カルピス飲むだけだって。ほら、その手を離せよ、私だろ?」

 

ステ魔理「やたら厨二病チックな単語の羅列から逃げたくなる気持ちはわかるが少しは我慢しろ私。」

 

本魔理「カルピスゥゥゥウウウウウ!!!」

 

台所の方向に手を伸ばしたまま、ステ魔理に襟を掴まれて引きずられる本魔理。そのまま部屋のベッドに座らされ、大賢者の話の続きを聞くことにした。

聞いてるだけでも痛い単語に身を悶えさせながらも、二人の魔女は大賢者の考察を聞く。ステ魔理と本魔理、両者共に人を助けるという部分は似通っているが、ステ魔理は人の為、本魔理はまだ戦闘狂の部分がある......と微妙な違いがある。微々たる差異が多重並列存在の融合という点に関しては非常に大きな差異なため、これからは気をつけなければならない。

 

また、解決方法は単純らしく、精神の差異をほぼゼロまで減らせば融合可能となるらしい。つまり、片方がもう片方のために心を変えなければならないということだ。

 

本魔理「フンッッ!!」バンッ ガシッ

 

ステ魔理「突然なんだよ、情緒不安定か」

 

本魔理「いやこういう時の展開って、自分が本物だと主張して殴り合うのが定番のネタだから...」

 

ステ魔理「意味不明な理由で殴るんじゃない」

 

〔......。〕

 

お約束の展開が起こらなかったことに変な焦りを感じた本魔理がステ魔理へグーパンチを食らわす。が、本気では無かったため軽く防がれた。

 

〔コホン......、マスター。これからの生活に関してはどう対応をとるつもりですか〕

 

「「あっ......」」

 

大賢者の言葉にハッと気づく二人。現段階では元に戻らないとわかった以上、これからのことを考えなければ後々問題になる。戸籍関連や家族関連、学校関連、考えるとしたらこのあたりだろう。同じことを考えていたのか、振り向くと私と目が合った。

 

ステ魔理「戸籍は......、干渉系能力で無理矢理存在していたことにする? 実は双子でした的な」

 

本魔理「まぁその辺は能力で解決させるとするか。ただ私的には、お母さんにはちゃんとこのことを伝えたい」

 

ステ魔理「それな。けど大丈夫か? 片方しか許しませんとか言われたら......」

 

本魔理「......まぁとにかく、母さんの反応しだいだな」

 

シンとする魔理沙の部屋。別に一人で生活するのが怖いわけではない。親に見捨てられたというレッテルを貼り付けられるのが怖いのだ。いや、恐らく捨てられることはサラサラないと思うが、可能性としては捨てきれない。沈黙は続いた。

 

未確定の未来を想像してもしょうがない。二人はそう切り替えて不安を払拭し、次の話題へと移る。

 

ステ魔理「......じゃ、学校はどうする? 私が増えたからもう一人の私も学校に通わせてくださいとか通じるわけないよなぁ?」

 

本魔理「一日交代で登校して....、帰ってきたら能力で記憶を共有するとかなら、ワンチャン行けるかもしれないが......」

 

う〜ん......と悩み合う二人。本魔理の意見は至極合理的な意見と言えるが、それは元人間としてどうなのか。他者から見れば毎日学校へ行っているように見えるが、本人たちからすれば一日置きにしか通っていないのだ。記憶共有したとしてもその結果は変わらない。

 

本当に些細なことだが、カルマ値や存在値が概念としてある以上気をつけなければならない。

 

ステ魔理「....私が姿を少し変えて、能力使って双子設定を世界に刻んで、それで二人とも雄英高校に行くなんてのはどう? それで戸籍問題も解決させて......って感じで」

 

本魔理「んー、すると入学時とか戦闘訓練、USJ事件、体育祭の出来事でお前の存在の辻褄を合わせなきゃならんな。あの時何してたのとか言われたらどうすんのさ?」

 

ステ魔理「風邪ひいてました、で通す」

 

本魔理「そんな都合のいい風邪なんてねぇよ。というか一度も引いたことないだろ!!」

 

ステ魔理のボケにツッコミを入れる本魔理沙。ある意味一人ツッコミとでも言える行動に二人は恥ずかしがる。

 

とりあえず親に一言言ってから、双子設定と姿変更で元から雄英にいた事にすることに決定した二人。辻褄合わせは後後詳しく決めることにし、この議論は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在、私(本魔理)はベッドという名の怠惰の魔境にてYouTubeを弄っていた。ぶっちゃけると私の生活スタイルは不健康そのもので、大抵何も無い休日とかはベッドから一切出ない。昔はボランティアでゴミ拾いとかしていたけど今年が余りにも濃厚過ぎて全然やれてない。事件が多すぎる....ッ!!

 

親がいない時は大抵ベッドの上で食事を作り、ベッドの上で勉強し、ベッドで寝る。サイコキネシスは私の不健康生活に欠かせない能力だが、たまにうっかり力加減を間違えて破裂させることがある。1回だけ、作った料理を爆散させてベッドが酷いことになったが、大嘘付きでリセットし事なきを得た。やはり便利だ、大嘘付き。

 

 

ピンポーン

 

 

本魔理「......母さんか?」

 

ステ魔理「透視能力で見たけど母さんじゃない。黒タキシードの男性だった」

 

本魔理「何それ怖い」

 

そろそろ著作権侵害の削除要請で派遣された人が私たちの家に凸りに来たのかな? ディズニーの手先かな? なんて思いながら私は玄関に着いた。どうかネズミが出ませんように......

 

そっとドアノブを捻り、外の様子を確認した。

 

 

「はいはいどちら様......」

 

「ヒーロー公安委員会の者です。結依魔理沙様はいらっしゃi」

 

ガチャン

 

 

閉めたドアの後ろで心臓バクバクの魔理沙。ディズニーより厄介な案件が目の前に現れ、なかなか落ち着きを取り戻せない。

 

呼吸を整えた魔理沙は家のドア鍵を閉め、籠城作戦に出た。おのれヒーロー公安委員会、いや本当にヒーロー公安委員会かどうか判断出来ないが、どっちにしたって困るのは私だ。タダでさえ自分が二人いると言うのに、なんでこんな面倒くさい案件が面倒くさいタイミングでやって来るんだよ。私はキングボンビーか!!

 

 

愚痴を吐きつつ、魔理沙は透視能力を使って玄関の外の様子を監視した。

 

 

 

 

 

 

「......ザザッ、こちら特殊部隊2957、特殊危険指定人物の様子を、どうぞ」

 

「......ザザッ、こちらNo.193、対象はドアの鍵を閉めて籠城中、『対籠城作戦』に移行する、どうぞ」

 

「......ザザッ、相手は世界のパワーバランスを崩壊させる危険人物、慎重に行動せよ。なお対象は読心系個性を所持している。偽の情報を掴ませ、任務を遂行せよ」

 

「......ザザッ、了解。任務を遂行する」

 

男は手に持っていたトランシーバーを胸ポケットにしまい、ドアの前に佇んでいた。彼の目的はただ一つ、特別危険指定人物の一人、「結依魔理沙」を無事協会へ連行すること。道を踏み外せば最悪、死を迎えるこのミッション、成功させるためにはどんな手段も選ばない。

魔理沙は訪ねてきた黒タキシードの男性ばかりを警戒して気づいていなかったが、家の外には10台ほど政府専用車やヘリ、SPが待機しており、家周辺を包囲しているのだ。さらに魔理沙家から半径5キロメートルに住んでいる住民は既に「地雷撤去」の名目の元、避難を完了させている。

 

全てはこちらの計画通りであり、最後に残すは結依魔理沙の説得のみ。籠城された場合も想定済みなため、次の行動へと移る。

 

 

 

 

 

そんなことも露知らず、魔理沙は玄関内でずっとタキシードの男の様子を透視能力で監視していた。

 

 

「すみません、結依魔理沙様。貴方様のお母様がヒーロー協会本部にて貴方様をお待ちしております。至急、御足労を」

 

男が口を開き、用件を伝える。

 

「......母さんは今、仕事中だ。ヒーロー協会本部に呼び出される筋合いなどないんだよ。回れ右しておうちにお帰り」

 

「嘘ではありません。その証拠として、貴方様の個性でご確認ください」

 

「......これで違ってたら警察呼ぶからな。」

 

丁寧な敬語で淡々と用件を述べていく黒タキシード。たじろぎもしないその姿勢がさらに私を緊張させる。しかも私の個性を知ってるのか......、ヒーロー公安委員会なら知ってて納得だが、死柄木弔にもワンチャンバレてる可能性があるからヴィラン連合の可能性も捨てきれない。

 

とりあえず魔理沙は千里眼を使って母さんの様子を確認した。目に映ったのは母親が本部内で協会関係者と何かを話している様子。どうやら母さんがヒーロー協会本部にいるのは本当だったようだ。チッ、ヴィラン連合だったら全てが片付いたのに。

 

「なんで母さんがそんなチンケなとこにいんだよ。私が納得出来る理由を述べないとなぁ、魔理ちゃん困っちゃうわ」

 

「貴方様の個性に関することです」

 

納得出来る理由であった。

 

「......ふ、ふ〜ん。へぇ、そぅかぁ。でもさぁ、私の個性と母親が拉致られてる関連性って皆無ですよねぇー? そうだよねー?」

 

「これ以上ここで明かす事は出来ません。至急、御足労を」

 

「いやでもさ! 関連性無いだろコレ!! さっさと母さん釈放して家族会議させろや黒タキシードさん!!」

 

「至急、御足労を」

 

全くブレない黒タキシード。黒は何ものにも染まらないとでも言いたいのだろうか。

 

「帰れっつってんだろ」

 

キレ気味な声で追い払おうとする女。

 

「御足労を」

 

だがその足を一歩も後退させない男。

 

「帰れ」

 

「お断りします」

 

「帰れ」

 

「お断りします」

 

「帰れ」

 

「お断りs」

 

 

 

「土に還れぇええええええええええええええッッ!!!!!!!!」

 

宙を舞う黒タキシードの男性。飛び散る真っ赤な小雨。あまりの執着につい右手を振るってしまった魔理沙は自分の仕出かした事の重要さに気づき、顔色が黒から青へと変化する。やべぇ、つい勢いで殴ってしまった......。

 

するとそれを切っ掛けに大量のSP達がどこからともなく現れ、私を逃がさないよう囲みだした。全員の手には銃火器が渡されており、銃口が全て私の方向に向けられている。私が出来ることはひとつ、両手を空に向けて上げることだ。

 

「某日17時51分、特別危険指定人物が黒タキシードの男性に暴行。これより現行犯逮捕する。」

 

「......え、待って、おかしくね!? いや確かに現行犯逮捕かもしんねぇけど過剰過ぎません!? 人一人に対する派遣人数狂ってません!?!?!?」

 

何が何だかわけがわからない。わかったことは、空に真っ黒なヘリが3台、家の近くの道路に黒塗りの高級車が10台、SPが推定100人以上!!

 

後、特別危険指定人物って何!? ああいうのは解除されたんじゃないの塚内くん!?!?!?

 

「オラ! さっさと車に乗れ!!」

 

SPが私の腕を無理矢理引っ張り、黒塗りの高級車に連れ込もうとする。嫌だアアアアアア!! 私を連れてかないでぇええええええ!!!!

 

「待て待て待って!! ねぇ! これ強制連行だよね!? これ私の自由の権利の侵害だよね!? 身体の自由はどこに行ったんだよ!!!」

 

「いいから乗れ。話はそれからだ」

 

強面のオジサンがタバコをふかしながら応えた。

 

(不味いッ!! このままでは私の人生がヤバい!! かといってここで能力使ってSPを蹴散らせば、冤罪事件から有罪事件へと早変わり!! いったいどうすれば......、ハッ!! ステ魔理!!)

 

絶望に濡れつつも希望を見いだした本魔理。この状況を変えられるのは、私と同じ力を持ったもう一人の私しかいない!! 頼む! 一生のお願い! ステ魔理助けてくれええええええええ!!!!

 

(......頑張れ私。お前の代理は私が務めてあげるよ)

 

テレパシーで直接脳に伝えられたステ魔理のメッセージ。だが内容は、本魔理を消し去って真の結依魔理沙に成り代わろうとする野望の塊。救いなど存在しなかった。

 

「ステ魔理助けてくれぇええええええ!!!」

 

絶望を直視できないあまり、断られたはずの救いにまだしがみつこうとする本魔理。しかし、彼女を救おうとするものは半径5キロ以内に誰もおらず、そのまま高級車へと連れ込まれた。

 

「おのれ日本政府がああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

主人公「結依魔理沙」、5月某日17時51分、暴行罪で逮捕。

 

 

 

 

 

 







捕まった。


勉強しなければならないのだが、ついつい触れちゃうのは仕方の無いことなのかな? ホントは六月下旬に一気に開放したかったんだが......


アリーヴェデルチ。



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日本の闇(44話)



沢山の評価、お気に入り登録、感想、ありがとうございます。6月下旬から復活するつもりでしたが、意外にもテストが6月上旬に集中したのと、勉強から逃げたい一心による早めの復活です。(ただし、私の成績は死にました)


多分、激的展開がここから増えていくと思うので、そこのところよろしくお願いします。






くろまく〜






 

 

 

前回のあらすじを一文で現すとしたら......

 

 

「暴行罪で現行犯逮捕された。」だな。

 

 

 

車の窓を覗き込みながら、前回のあらすじを一文で纏めた主人公もとい結依魔理沙。虚ろな表情で日没を眺め、大量のSP達と共に刑務所へ向かう。あぁ、私の運命はあの太陽のように沈んでいくとでも言うのか。カラスの鳴き声に耳を傾けて、現実から目を背き、ただただ時間が過ぎていく。もうなんかどうでもいいや。この車両を爆破させて爆発オチENDでこの小説も幕を下ろそうか。

 

ヒヒッ、ヒヒッ、っと渇いた笑い声を上げながら、物騒な考えを思いつく。思えばなんでこうなったのか自分でもよく分からない。今までバレないよう色々と暗躍していたが、あのしょぼパンチで逮捕されるなんて今までの苦労はなんだったんだ。時間巻き戻ってくんねぇかなぁ......、あ。

 

起死回生のチャンスを思いついた魔理沙。そうだ、時間戻せばいいじゃん! アイツらがやって来る前の時間に巻き戻して、この悲惨な運命を書き換えてやればいいんだ!! ナイス私、ナイスだよ!

 

さっそく時を巻き戻すべく、こっそり能力を発動させ......、させ......、あれ? 能力が使えないぞコレ。おーい大賢者さーん、どうなってんのコレ。時間が巻き戻らないんですけど!!

 

〔非常に強力な干渉系能力を察知。過去への移動手段は全て妨害されています。解決策は現状、見当たりません〕

 

えぇ?(困惑)。そんなこと出来るやつがこの世界にいるっていうのか? ステ魔理がやったとしても同じ私だから解除できるはずだし、訳分からん。絶対関わっちゃいけない奴だから今日は無視で。

 

希望が再び絶望へと変わり、あしたのジョー最終話のごとく真っ白に燃え尽きた魔理沙。

 

「ほら、さっさと出てこい」

 

運転していたSPの人達が私の腕を引っ張り、車から引き摺り降ろした。諦め顔を上げて目の前の建造物を見やると、私は確信した。まだ真っ当に生きれるチャンスがある....と。

 

「......なーんだ、てっきり刑務所にぶち込まれるかと思ってたけどそういうことか。」

 

私が連れてこられた場所はヒーロー協会本部であった。そう、あの黒タキシードが散々私を連れていこうとしたあのヒーロー協会本部だ。つまり私があの男をぶん殴ったことを口実にして、この場所に連れてきたってことか。とんだ猿芝居だぜ。

 

おそらくぶん殴ったことを不問にしてやるから何か要求を呑め......と、そういう流れにするのが奴らの目的なんだろう。そうじゃなきゃこんなリスクの高い団体行動を政府がやるわけ無い。そしてその要求とやらもそこまで悪質では無いと思う......相手が悪すぎるからな。でもやりなぁ、私がされたくないことをチクチク責めてくるんだからさぁ。初見殺しのドッキリ、表社会での立場の崩壊、家族......しかもキレるギリギリのラインを踏み外さないようやってのけたんだから、うん、死ね。

 

心の中で静かに悪態をつき、私はSPと共に本部の中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

「で、私に何を求めているんですか」

 

「おぉ、話が早くて助かるよ魔理沙くん。流石は体育祭で三冠を取っただけのことはあるね」

 

The・会議室みたいな場所に連れ込まれ、現在、厳重な警備の元でヒーロー公安委員会の人達とお話中。偉い人かどうかはよく分からないが、全員オッサンだし、警察とヒーローとSPが背後にめっちゃいるし、金持ってそうだから多分偉い人だろう。監視カメラが部屋の四つ角に設置してあり、ボイスレコーダーも透視能力で確認できたことから、そうとうな準備をしていることがわかった。もしかしたらこの一連の流れは、随分と前から練られていた作戦だったかもしれんな。

 

目の前に置かれていた茶を啜りつつ、冷静に状況を判断する。

 

「おっと申し訳ない、自己紹介がまだだったね。私はヒーロー公安委員会所属の佐藤だ。そしてこちらが伊藤、鈴木、田中、そして警視庁ヴィラン特別捜査本部から来てくださった塚内警部と、刑事部から来てくださった堀内警部だ。」

 

「「「「よろしくお願いします」」」」

 

「久しぶりだね、結依魔理沙ちゃん。大きくなったね」

 

「なんでここに居るんだよ塚内ィ......」

 

知り合い1名、そして全く知らないモブ達が5名の自己紹介が終わり、一旦落ち着く魔理沙。佐藤さんとか鈴木さんとか、名前が普通すぎてこの世界じゃ珍しすぎる。そして刑事部の二人、まぁヴィラン特別捜査本部は刑事部の一部だからどっちも刑事部でいいんだが、警部が二人も来ちゃったよ。警視総監、警視監、警視正、警視の次に偉い人達が二人も来たよ。やべぇ、めんどくせぇ。

 

嫌な顔をしていると、佐藤さんが口を開いた。

 

「では本題に入るとしよう。まず、君は幼少期にヴィランと戦闘をし、法律を破り、二度目のあの事件を切っ掛けに政府は君を重要危険人物に指定、執行猶予付きでね。その後は特に何も無く、今年の4月Ф日に執行猶予は正式に解除され、それでめでたしめでたしと言いたいところだったんだが.....」

 

「最近、ヴィラン連合と関わりのある人物や凶悪犯といった奴らが警察署前に気絶した状態で倒れ込むという事件があってね。警察が捜査を開始したのだが手がかりが全く無い。最終的には正体不明のヴィジランテがやったという結論にいたり、捜査は断念された」

 

フムフムとしっかりお話を聞く魔理沙。なお、冷や汗が止まらない模様。

 

「しかし、誰かが机の上に映像を記録したカメラを置いていったのだ。それを見た職員が中を調べると、君が極悪ヴィランを瞬殺している映像が流れたのだ。そのヴィランと気絶しているヴィランの顔が一致し、我々は君を再び秘密裏に監視することになった。」

 

「その日から監視して1ヶ月、一つだけ奇妙なことがあった。それは監視していた職員が、時々君が何をしていたのか頭からすっぽ抜ける現象が起きたのだ。ランダムで一定時間の間、君が何をしていたのかハッキリと思い出せなくなるのだ。しかもその間はいつになっても思い出せない。頭を悩ませたが、相澤くんが貸してくれた君の個性について詳しく書いてあったしおりを見て確信したよ......」

 

「君は、マインドコントロールを使って事件を隠蔽していた......そうだね?」

 

「......」

 

問い詰める佐藤の顔を見つめ返すことができず、プイと何も無い方向へ顔を向け、黙秘。なんでだろう、言い返したいのだが上手く言葉に出来ない。このままじゃ肯定してるのと同じじゃないか(事実だけど)。

 

言いたいことを頑張って一つに絞り、私は口を開いた。

 

「確かに私はマインドコントロールが使えます。が、それだけでは私が使ったという証拠になりません......、他の誰かがやってるかもしれないでしょ?」

 

「確かにそうだ。これでは君が事件を隠蔽していたという証拠にはならない」

 

さっきは私を自白させようと誘導させてたくせに何言うとんねん。

 

「だが、これはどうだ?」

 

そう言いながら、机の下から取り出されたのは黒色のノートパソコン。佐藤はノートパソコンに保存された記録映像を見せようと私の目の前に設置した。そして私以外の人も様子を確認すべく、私の周りに集合する。随分と自信満々だが、これに何が入っているというのか。

 

「......ッ!? .....、うわぁ」

 

パソコンの映像に映っていたのは、私がステインと激闘を繰り広げている映像であった。なんでステ魔理の方にコイツらがストーカーしていたのかは分からないが、アイツの話的に撮られてることに全く気がついてなかったな。が、ステ魔理がステインを吹っ飛ばした後の戦闘の映像が何故か記録されておらず、最後は血みどろのステ魔理と、再起不能のステインが何処からか現れて終了した。映像に残ってないのはおそらく、固有結界が原因だろう。そして結界内でステインが覚醒し、決着が着いたと。

 

「君はこの時、雄英体育祭に出場していたね? しかしこの映像には君とヒーロー殺し「ステイン」との戦闘が記録されている。これはどういうことか、説明してほしいね」

 

どこか勝ち誇ったような表情をしているような気がしてイライラが吹き出しそうになるが、面には絶対出さないよう制御する。

 

「......私の分身にステインを再起不能にするよう命令しました。」

 

「何故?」

 

「未来予知でステインがヴィラン連合と手を組み、勢力を拡大させる未来を見ました、それを未然に防いだだけです。そして現在進行形で増えていく被害者数を止めたかっただけです。......それだけ」

 

一番は飯田くんのお兄さんが再起不能になる未来を変えたかったからだけどな。大好きな人が動けなくなる姿なんて、誰だって見たくないしな。

 

 

そうとはいえ、この理論は相手が指名手配犯ステインだったからこそギリギリ許せそうな感じではあるが、やってることは「アイツ犯罪起こしそう。せや! 犯罪を未然に防ぐためにアイツ再起不能にしたろ!」というアホ極まりない行動だったことは認めよう。すまん。

 

 

 

「......君はたまに変な方向へと暴走するが、人を救いたいという気持ちがあるということはわかった。だが、個性使用許可の無い者が特別な理由も無く個性を使用するのは法律で禁じられている。ステインと戦おうとする前に、まずは我々に通報するとかしないのかい?」

 

「....だって公的機関って対応遅すぎるから役に立たないし」

 

「何だって?」

 

「いえ、あの、考えてませんでした。すみません」

 

素直な気持ちを込めて全力で謝った(つもりの)魔理沙。相手の方が社会的に正しいのはわかる。私がわざわざ出しゃばる必要性が皆無なのもわかる。自分の心の中に、戦うことを楽しんでいる自分が存在しているのもわかる。うん、ゲス野郎だな私。自覚はしているのだが、どうしてこう何も感じなくなってしまったのか。人ならざるものになってしまったからなのかな。

 

 

まぁ、そんな化け物でも一つだけ言えることがあるとしたら......

 

 

誰かを救いたいと思う気持ちは、たとえ極悪人がその気持ちを抱いていたとしても、たとえ救いたい人物が冷酷非道な奴だとしても、救うこと自体に善悪は存在しない......ってことだ。

 

 

うん、何を言っているんだ私は。説得力が無さすぎてただの痛いセリフじゃないか。その上内容がどっかの別作品被っていたとしたら私は一週間押し入れの中で引きこもるぞ。

 

確かに私は勝手にヴィラン退治するわ、幼馴染を魔改造するわ、クラスメイトを脅すわ、許可無く個性を使うわ、爆発させるわ、クラスメイトをロードローラーで潰すわ、幼馴染を宇宙まで吹き飛ばすわ、etc、悪行の限りを尽くしたかもしれん。が、全てが悪だとは思っていない。ヴィラン襲撃から皆を守ったことが悪だとは断じて思っていないし、ステインからインゲニウムを守ったことが悪だなんて一切合切思っていない。つまり、そういうことだ。

 

何だかんだ過去を振り返り、自分の行いを反省した魔理沙。反省したからには、これからの人生に活かさなければならない。頑張って今年中に暴走する癖を直します。頑張るぞい。

 

 

キリのいい所で佐藤がまた話し始めた。

 

「......とにかく、このままでは君は逮捕されることになる。が、君にはまだチャンスがある。」

 

佐藤が机の下から再び何かを取り出し、私の前に提示した。

 

「......これは、ヒーロー免許証か?」

 

「そうだ。君が正式にヒーローとして活動してくれれば、これまでの君の行いも全て丸く収まり、さらに我々の協力を得ることができる。その上こちらも対ヴィランへの大幅な戦力の増強、君への警戒態勢の解除、建物への損害ゼロ、災害による被害者ゼロ、ヴィラン発生の抑制効果も見込める。どうだい、いい案だと思わないかい?」

 

フムフム.....と悩むフリをするが、内心は今すぐにでもその免許証に手を伸ばしたい気持ちでいっぱいだ。だってデメリット無くね? あるとしたら、災害時やヴィラン発生時にひっぱりだこにされるってことくらいだ。全然OK。

 

「それにもう一つ、こちらから協力のお願いがあるのだが......」

 

佐藤が何か言いたげな様子でこちらを伺っている。

 

「何さ」

 

「君も知っているように、超常が認識されてから世界各地で個性の研究が行われている。しかし、まだまだ個性には謎が多く、解明されていない謎が幾つも残っているのだ。が! そこで、君の出番だ。どうか人類の未来の為にも、その無尽蔵な力をお借りしたい。」

 

情熱が見え隠れするような喋り方で、静かに協力を要請する佐藤。なんだろう、ヒーロー免許証を提示した時より熱い気持ちが伝わってくるんだが。こっちが本命だったのか?

 

まぁ細かいところは置いておき、別に協力しない理由も特にないため、了承の合図を送る。

 

「ありがとう結依魔理沙くん! 君は本当に素晴らしい人だよ!!」

 

「そのかわり、こちらも協力が必要になった時は利用させてもらうからな」

 

「もちろん構わないさ!! 好きに使ってくれ!」

 

後半の妙なテンションの上がりように何かが引っかかるが、まぁ逮捕されなくて済むし、まさか政府&警察とのパイプを手に入れることになるなんてラッキーかもな。良かった良かった。

 

 

......、"魔理沙くんの力があれば、待ち続けていた○○ホビー株式会社の新商品が今年中にやって来るに違いない。"...ですか。へぇ〜。

 

帰り際に心をチラッと読み、何かを悟った魔理沙。やっぱり人間は単純なのかな、私も含めてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、魔理沙くん。君にはまだやる事があるよ。というか君にまだヒーロー免許証渡してないでしょ!!」

 

帰ろうとドアに手をかけようとした時、佐藤が肩をがっちり掴んで引き止めた。あぁ、そういえば提示されただけでまだちゃんと受け取ってなかったな。

 

「じゃあください」

 

「確かに君に免許証を渡すと言ったが、タダで渡すわけにはいかない」

 

「タダというか、契約成立したじゃあないですか」

 

「いやそれとこれとは別でね。君の実力を我々に見せてくれないと正式に渡すことが出来ない。要は君に、特別本免試験を受けてもらう。」

 

「えぇ......?」

 

やはり物事はそう易々と進むものではないようだ。特別本免試験......、仮免をすっ飛ばしてくれたのはありがたいが、果たして何をやらされるというのか。

 

「ほら、こちらに来たまえ。今日は人数が多いから3グループに分けて移動するよ」

 

会議室中央に集まった私とその他モブラーズ。どうやら人が多過ぎたため、3つに分けて移動するらしい。ここから一体どう移動するというのだろうか。てか狭い!!

 

「ポチッとな」ピッ

 

謎のスイッチが押され、会議室全体が突如として揺れ始めた。もしかしたら、このヒーロー協会本部の会議室中央には少数しか知ることの出来ない隠しエレベーターがあるのかもしれない。これは楽しみだn

 

「気をつけろー、舌噛むぞー」

 

ギャグ表現のように地面がパカッと開き、内蔵が上に持ち上げられる感覚が襲う。ん? と思いながら足下を除くと、そこには大きな大きな落とし穴が存在した。読めた、完全に読めた。これがホントのオチって奴だな。

 

「エレベェェエエエエタァァアアァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」ブチッ

 

絶叫を上げながら落下していく最強(笑)の魔法使い。ヒーロー公安委員会所属の四人以外全員は絶叫を上げながら真下へ落下する。魔理沙は空を飛べば全てが解決するはずなのだが、やはり突発的な出来事に関しては未だに耐性が無いようだ。そのまま自由落下に身を任せていると、下に敷かれていた超モフモフした何かに体を包み込まれ、衝撃を和らげた。

 

「ビビった。マジでビビったぞオイ」

 

ビビりすぎて舌噛んでしまった。ちょっと痛い。

 

「ここは......」

 

塚内警部とその他のメンバーも無事に着地し、周りの様子を探る。

 

「あはは、警部さん。ここは彼女の実力を確かめるために日本とその他諸外国からの協力を得て作られた特別ステージ、「マルチスタジアム」です。」

 

立ち上がった直後に、揺れと騒音を起こしながら入口の扉が開かれた。なんで個人の為に国単位でここまで金をかけるのか終始意味不明だったが、少し歩いて扉の向こうの景色を覗いてみると、さらに謎が深まった。

 

「......ノートルダム大聖堂炎上......ッ!」

 

「全然違うよ魔理沙くん。ここパリじゃないし、炎上なんてしてないからね?」

 

「パリは燃えているかァァアアアアッ!!!!」

 

扉の先は何処かの山と繋がっており、少し踏み出した先には、大規模火災によって今にも被害が増えている街の景色があった。焦げ臭さが鼻につき、熱風が肌を掠っていく。唐突の非常事態にほとんどの人間が狼狽えている中、魔理沙だけは謎の衝動に駆られ、大声で意味不明な叫びを上げた。

 

「落ち着いて魔理沙くん。このステージは超巨大ジオラマとそれを地下へ収納できる制御システム、限りなく現実に近い超高性能ホログラフィック映像、ホログラフィック映像に合わせて変化する音、匂い、空気の肌触りなどをリアルに再現した補助機能を兼ね備えた特別ステージ。この状況全ては我々が設定したものだ。」

 

佐藤の言葉に合わせて頷く伊藤、鈴木、田中。彼らの説明によって皆、落ち着きを取り戻した。

 

ここはヒーロー協会本部地下に隠された秘密の特別ステージ(実験場)。ヒーロー公安委員会関係者、一部の警察、信頼の高いヒーロー、研究者のみ立ち入ることを許される場所。個性実験や訓練場としての使用はもちろん、情報漏洩防止の為の会議室としての役割や警察の事件・事故の実証実験としても使われることもある。用途は多種多様、今回の場合もその中に含まれる。

 

「......」

 

あまりの有能さに言葉が出ない魔理沙。これってもしヒーロー免許証手に入れたら、この特殊実験場を貸してくれるんじゃね。もう多古場海浜公園で個性の特訓をする必要性が無くなるわけだ。これが近未来の技術って奴か......ッ!!

 

 

 

感心すると共に、これからやらされるだろう本免試験に気を集中させる。滅多なことは起こらないはずだが、この世界は油断ならないので身構えておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たして免許獲得なるか......

 

 

 

 






鈴木「なにこのザラザラした赤い肉」

魔理沙「あっ、それうっかり噛みちぎった私の舌です」

鈴木「ファッ!!?」




多分、次でヒーロー公安委員会編は終了です。






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即席人類補完計画(45話)




テスト終わったのに忙しいとは何事か。






キルラキル面白かったZ




 

 

 

ヒーロー協会本部地下に隠された特別ステージ、「マルチスタジアム」にて特別本免試験を受けることになった結依魔理沙(本魔理)。これに受かれば正式にヒーローとして扱われ、やれることが非常に増える。頑張るぞ。

 

「状況はこうだ。『非常に厄介なヴィラン団体が○○街に出没。街が火災に包まれ、駆けつけたヒーローは全滅し、ほとんどの住人が逃げ遅れている』。君の目的は住民の保護もとい安全な場所への避難誘導と怪我の治療。さらにはヴィラン団体の確保。これが特別本免試験達成の条件だ」

 

「一人で?」

 

「......買いかぶりすぎたかな?」

 

「いーや全く。私に任せろ」

 

達成条件がどう見ても一人では不可能な内容だが、魔理沙は余裕の表情を返した。

 

本来、ここまで大規模な事件は駆けつけたヒーローと警察が役割を分け、協力して取り掛かかるものだ。人命救助、消火活動、ヴィラン対処、避難誘導、治療etc....。大抵、多くの命を救うためには多くの協力が必要になるのは当たり前のことである。

 

のだが一人だけ、これと似たような状況で多くの人間を救い出した伝説的ヒーローが存在する。そのヒーローの名は「オールマイト」。今回設定された状況は、かつてオールマイトが大活躍した大災害発生時の状況とほぼ似たような状況に設定されている。彼女の実力は最低でもオールマイト以上と推定したため、高難度な試験を用意したのだ。

 

魔理沙は早速、街の中に飛び込もうと大ジャンプを......する直前で再び佐藤に肩をがっちり掴まれた。

 

「まだだ魔理沙くん、まだ! まだ説明終わってない!!」

 

「まだ何かあるのか......」

 

「あぁ。君にはヴィラン役を引き受けてくれたヒーローを紹介しなきゃね。ヒーロー達、彼女に自己紹介を頼むよ」

 

佐藤の呼びかけに応じ、複数のヒーロー達が私の目の前にやってきた。さっきまで職員の警備を務めていたヒーロー達がヴィラン役をやってくれるのか。いや、元からその予定で呼ばれていたのかな?

 

何だろうと構わないが、とりあえず自己紹介をパッと聞いてサッと試験を終わらせよう。

 

「俺はヒーロー『ギャングオルカ』。今回の試験、ヴィラン役として参陣する」

 

現れたヒーローはギャングオルカ。ヒーローランキング10位の実力と見た目がヴィランっぽいランキング3位の実力を兼ね備える超実力者。個性は「シャチ」、単純な身体能力の高さと超音波による攻撃を得意とするシャチ顔のオジサンだ。顔怖い。

 

「結依魔理沙です。よろしく」

 

「ほぉ、貴様が超問題児「結依魔理沙」か。力のみを手に入れて驕り高ぶる貴様にこのような機会を与えるなど、本来ならばあってはならないことだ。だが、貴様がこの試験でヒーローなりうる『心』を持っていると証明するならば! 俺はお前を歓迎する」

 

身が竦むような声と至近距離で目に映るシャチの顔。流石はヴィランっぽい見た目ランキング第3位、常人なら軽くチビってしまうだろう。だが私には効かん。さんざん母さんの怒り顔を見てきた私にとってギャングオルカなど屁でも無いわ。

 

「やってやんよ」

 

私もギャングオルカと同様に鋭い目付きで睨み返す。私も正直ヴィランっぽい見た目なため、ギャングオルカの後ろで控えていた部下達が怯えた表情で身をすくめていた。目線と目線が交差し、火花が散りかねない雰囲気であったが、後がつっかえているので今は保留。

 

身を引いたギャングオルカの次に現れたのは...

 

「体育祭で焦凍が世話になったな.....小娘ェ」

 

血走った目付き、燃えたぎる髭、ガッチリした体格から溢れ出る覇王のオーラ。一度目に映れば忘れないほど印象が強いあのヒーローの名は......

 

「......エンデヴァーもいたのか」

 

何で会議の時に気づかなかったんだろ。いつも炎を滾らせているから気づくはずなんだが......、個性消してた? それとも後から来たのかな?

 

「フン......貴様の親が貴様にどんな訓練を施したかは知らんが、必ず焦凍を貴様より強いヒーローに育ててみせるからな。覚悟しておけ」

 

全く別の話で対抗心を燃やすエンデヴァー。ブレないなこの人。

 

「そして最後は......この人だ」

 

「えーと自己紹介でしたっけ。俺は「ホークス」、よろしくねマツケンちゃん?」

 

「結依です」

 

最後に出てきたのは全然知らないヒーロー、「ホークス」。背中から鷲のような羽が生えていて顔が割とイケメン、というのが第一印象だろうか。そして人の名前に興味関心が無い。

 

「そうそうマトイちゃん(笑) 『結依です』結依ちゃんね....、いやー俺より速い君を一目だけでも見ておきたくてここに来た。以上!」

 

マイペースな性格を感じさせる腑抜けた声だが、どこか強者の気配が漂っている。ワンパンマンのサイタマに近いような雰囲気だ。流石にワンパンチはしないと思うが。

 

「とりあえず、期待ハズレにはさせませんよ。先輩」

 

それだけ言っておいた。ミホークだかトマホークだか知らんが、誰が相手になろうともこの私は負けやしない。何を無くそうともその自信さえ持っていれば何だって出来るのだから。

 

 

三人のヒーローと一人の魔女が織り成すエンターテインメントが今、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

魔理沙、ギャングオルカ、エンデヴァー、ホークスがそれぞれの地点に移動し、指示が下るまでその場で待機する。被災者役はどうやらSPの人達がやるようで、全員私服の格好でそれぞれ被災ポイントにて待機しているらしい。SPの私服ってすげぇ気になるけど今は考えるのをやめとこう。とりあえず、スタートしたらそのSP達を救出し、ヴィランを確保すればいいということだ。

 

また、審査員役のヒーロー公安委員会所属四名と警察二名は特別な部屋にて魔理沙の動向を監視し、評価をつける。どうやって魔理沙の動向を探るかと言うと、街中に隠された超小型監視カメラと空中から撮影する高性能ドローン数十台が私の動きを捉えるらしい。

 

そして私には少々制限がある。一つ、マインドコントロールまたはその類のものの使用禁止。火災そのものが無かったことにされたら、また試験をやることになるしな。

二つ、あくまでヴィランの確保であり殺してはならない。当たり前なんだが、私の今までの行動のせいで信用されていないようだ。失敬な。

三つ、迅速に丁寧に動け。これ制限でも何でもないただの注意喚起じゃねーか!!

 

公安がどんだけ私を腫れ物扱いしているのかが身に染みて分かった。後で本部を大量のナメクジで埋めつくしてやろう。体力回復するぞ。

 

ちなみにこの本免試験は仮免試験の時と同じく減点方式で採点するらしい。へぇー。

 

 

《結依魔理沙の特別本免試験、スタートです。》

 

 

アナウンスと共にブザーの音が鳴り響く。どうやら試験が始まったみたいだ。ならば早速行動に移すとしよう。救助は迅速丁寧にだしな。

 

「特性発動、あめふらし」

 

魔理沙は右腕を天に掲げ、大量の雨雲を自身の周りに発生させた。その雨雲を風魔法を使って街の中心に移動させ、指を鳴らす。指パッチンをすることに特に意味は無いが、あれだ、ルーティンだルーティン。集中力大事。

 

 

指パッチンと同時に降雨が街を包み込む。これであらかた火災は片付いただろう。まぁこの炎たちはただの演出だから雨降らしても実際には効果が無いが、試験だからゴチャゴチャ言わない。成すべきことを為すだけだ。

 

「.....日本は災害の多い国だからさ、この能力はこの国にとって有難いヤツだよな。『サイコキネシス』」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ......

 

全身にサイコパワーを循環させ、ヴィラン以外の全ての被災者を空中へ巻き上げる。数十人がかりで捜索し、瓦礫を退かし、火を避けて、助ける。その流れをたった一つの能力で全てをこなし、行方不明者を一人も出さずに魔理沙は救い出す。その後、空中に巻き上げた全ての被災者を同時に自分の元まで瞬間移動させた。何も難しいことをやっているわけではない。今まで戦闘用に使ってきた能力を、この時は人を救うための力として働いているだけなのだ。扱いには非常に慣れている。流れ作業だなコレ。

 

あっという間に全員を救い出した後、私は即席で大きめの仮テントをポンと出現させ、そこを保健所代わりとして設置した。迅速に丁寧に救い出したつもりだが、もしかしたら誰か怪我している可能性も否定できない。それを考慮して保健所内には『回復の円筒』が設置されている。この円筒の範囲内にいれば傷がみるみる回復し、疲労回復、便秘改善、睡眠不足解消......、明日には元気ハツラツな状態で朝を迎えられるだろう。....ここの世界観と全く合致していないせいで違和感が激しいが気にしてはいけない。......違和感がやべぇ。

 

最後に仮テントの周りを結界で囲み、これで『住民(被災者)の保護』と『治療』が完了したわけだ。スタートから三分弱、残す目標は『ヴィランの確保』のみといったところかな。終わりは近い!!

 

 

そうして魔理沙は雨の街の中を一人で突っ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

「なるほど、雨で俺のヘルフレイムを弱体化させる魂胆か。くだらん」

 

二割しか正解を導き出せない残念ヒーローおよび凶悪ヴィラン団体の主将の一人、エンデヴァー。彼は北東部にて待機するよう本部から伝えられており、魔理沙が来た時は容赦なく攻撃していいとの連絡があった。仮に本部から連絡が無かったとしても彼は容赦なく魔理沙に勝負を挑んでいただろう。最高傑作である焦凍を秒殺したあの小娘を合法的に説教できるのだから。

 

 

要は八つ当たりしたかっただけのエンデヴァーの元に一人のヒーローが現れた。

 

 

「来たな小娘。容赦はせんz」

 

「北斗神拳究極奥義『無想天生』」ドゴォ!!

 

 

哀しみを背負うことで習得することが出来る北斗神拳の究極奥義を遠慮なくぶっぱなした魔理沙。すかさずエンデヴァーは反撃しようとするが、一つも攻撃が当たらない。まるで攻撃そのものが魔理沙を避けるように流れていくのだ。

 

人外じみた動きに翻弄されたエンデヴァーの虚を、魔理沙は一突き、拳を入れる。ただ拳を叩き込むだけの動作だが、この一連の動作を極限までひたすらに高めたことが、誰も認知することの出来ない技へと進化させたのだ。殴られた相手は殴られたと感じることが出来ず、一瞬の衝撃だけが身体全身に伝わる。これが北斗神拳究極奥義『無想転生』。深い哀しみを背負うことで回避不能の攻撃を繰り出すチート技だ。相手は死ぬ。

 

 

魔理沙の足元にはヴィランが一人気絶していた。魔理沙の力と気迫に押し負け、八つ当たりすら願わなかった哀れなヴィランの姿が。

 

「あと二人か」

 

頭の中を整理し、格闘漫画風の険しい顔で空を見つめた。......エンデヴァー、ごめん。尺ないから瞬殺したこと許してくれ。未覚醒轟くんよりは断然強いことは皆知ってるから安心してくれ。大丈夫、うん、きっと。

 

再び魔理沙は雨の中走り出した。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

「エンデヴァーさんがこんな早くやられるなんてあの子怖いなー。」

 

空中からエンデヴァーの様子を視察していたヒーローもとい凶悪ヴィラン団体の主将のひとり、ホークス。お得意の『剛翼』で魔理沙の動作の監視および仲間への連絡役、戦闘補助などサポート役を担っていた彼だが、流石に瞬間移動する魔理沙の動きについて行くことが出来なかったようだ。そして現在、気絶したエンデヴァーの様子を空中から発見したのだ。

 

「今なら助けられるかな。今んとこ近くにいる気配はしないし、俺の速さなら大丈夫大丈夫」

 

「そんな保証どこにあるんだ?」

 

斬撃。気配を完全に殺し背後から何者かがホークスを襲った。いや、この状況で襲ってくる人物は一人しかいない。

 

「いつの間に背後に.....ッ」

 

「はーいもちろん魔理ちゃんですこんにちわ、そしてさようなら」

 

剣に変化していた右腕を一旦元に戻した後、異空間から制御棒を取り出す。東方キャラの霊烏路空の核の力を使うためには制御棒が必須なのだ。まぁ、無くても大賢者が何とかしてくれるのだが、そこは気にしない。

 

胸の間からヤタガラスの瞳が現れ、いつでも核の力を扱えるようになった。しかしガチの核を使うとヒーロー協会本部が死の海と化すのでスペルカードを使う。丁寧にって言ってたしな。

 

これから起こることに悪寒を感じたのか、ホークスは出来るだけ遠くまで移動して距離を保とうとする。が、それは無駄だ。何故なら......

 

「サブタレニアンサン」

 

突如地下に誕生した真っ赤な太陽。強大な重力がホークスの動きをとらえ、中心に引きずり込もうとする。太陽の重力を振り切るには第三宇宙速度(時速6万弱キロメートル)が必要らしいが流石のホークスも時速6万キロは出せるはずなく、ズルズルと引きずり込まれる。

 

「......こりゃ未来も安泰かな」

 

後輩である魔理沙の火力に若干のため息を交えて呟く。ヒーロー志望である以上、彼女には人を助けたいという気持ちが少なからずあるのだろう。が、生き物は皆自分より強いものを見ると警戒心が掻き立てられるため、どうにも疑ってしまう。だからこその特別本免試験なのだが。

 

「からのキラークイーンッ!! 太陽を爆破しろォーーッ!!」

 

言っていることが無茶苦茶である。だがそれをいとも簡単に成し遂げるのが結依魔理沙。自分が生み出した太陽で相手を引き込み、射程圏内に入った瞬間に太陽を爆弾に変えて起爆させる。もう一度言おう、無茶苦茶である。

 

赤色巨星の大爆発に巻き込まれたホークスは満身創痍の状態で遥か彼方まで吹き飛ばされる。だがそこも対策済みであり、吹っ飛んだ先にスキマ妖怪のスキマを設置することでホークスの身柄を確保。なんて抜かりの無い処置だろうか。やり方は野蛮かもしれないが、HPが0じゃなければ人間は生きていけるはずなのだ。きっと。

 

「最後はギャングオルカか。文字数が6000突破する前にトドメを刺すか」

 

探知系能力で居場所は分かっているため魔理沙は即刻瞬間移動した。もう試験もラストスパート、ゴールは目の前だ。

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

「オルカ隊ty誰だお前!! ここで何をsアバフッッ!!!」メメシャア!!

 

「通りすがりの魔理沙さんだ、覚えておけ」

 

ギャングオルカの元で働く下っ端戦闘員の目の前に突如現れた真っ黒少女。動揺する彼に対し魔理沙の容赦のない右ストレートが炸裂し、ビルの壁に叩きつけられる。

 

一瞬とはいえ間近で戦闘が発生ため、他の戦闘員もその音を聞きつつけて魔理沙の存在を確認する。

 

「いつの間に背後に近づくとはなァ!! ヒーロー!!」

 

「こんな細身の野郎がエンデヴァーさんとホークスさんを倒したはずがねェ! さっさと囲んで袋叩きだ!!」

 

「フフフお嬢さん、あなたの手を見ているとその......少し下品なんですが、フフッ...『勃  ○』しちゃいましてねぇ......」

 

まともな名前すら付けて貰えない戦闘員A、B、Cの迫真の演技を目の当たりにした魔理沙。演技が上手すぎて本当に三流のヴィランと戦闘しているような気分だ。ただ、一人だけ杜王町の殺人鬼がいるのは気のせいだろうか。

 

気を取り直し、まずは周りのヴィランを処理すべく動こうとした魔理沙だったが、ある一人の存在の登場によってそれは遮られた。

 

「フハハハハよく来たなヒーロー!!我はこの超凶悪犯罪組織スクランブルシャークの頭領、ギャングオルカだ。ノコノコと我々の目の前に現れたということは死にに来たということでいいのk」

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に以下略『エクスプロージョン』ッ!!」

 

ギャングオルカの前口上も爆裂魔法の詠唱も面倒くさくなったので、詠唱破棄エスプロで全て片付ける。全員の目の前で特大規模の爆発が発生し、周りに存在する全ての物体(魔理沙を除く)を爆風で吹き飛ばす。もちろん反応できたものは誰も.....

 

「ククククク、その程度か」

 

いや、一人いた。爆風を超音波で相殺させたラスボスが。

 

「素直に倒れていれば楽になれたのに」

 

「クハハハ小娘が笑わせてくれるな!! 先の攻撃は中々のものだったが、その程度でイキる貴様の存在などダボハゼの糞と変わらんッッ!!!」

 

「......」

 

魔理沙は特に何も言わず、ギャングオルカのいる方向へ真っ直ぐ走り出した。眉間にシワを寄せに寄せまくった表情で迫りくる彼女の姿は.....そう、修羅。修羅のごとき表情で彼女はシャチに襲いかかる。

 

「まだ動ける者はコンクリートガンで奴の動きを封じろ。全力でだ!!」

 

生き残っていた下っ端ヴィランが瓦礫の裏から参上し、手持ちのコンクリートガンの銃口を魔理沙に向ける。だが魔理沙は既にギャングオルカの顎下まで接近し、拳を叩き込もうとしていた。

 

「廬山昇龍覇ッ!!」セイントセイヤッ!!

 

巨大な龍のオーラが胴体から顎を駆け、強烈なアッパーカットが炸裂する。流石はドラゴン紫龍が5年かけて身につけた奥義、決まるととても気持ちいい。昇竜拳くらい気持ちいい。

 

真上に吹き飛ばされたギャングオルカは空中で一度静止した後、激しいスピードと共に地面に衝突する。 そのタイミングを見計らって魔理沙は戦闘可能な下っ端たちのいる方向に振り返った。

 

「さて、一匹たりとも逃がしはしないからなァ」

 

「にっ、逃げろ!!」

 

「逃げられるとでもッッ!!!」

 

残るは残党共と鬼ごっこ。悲鳴をあげながら逃げ惑う彼らと終始ニコニコしている魔女との鬼ごっこは、まさに楽園(地獄)の中を駆け巡る鳥と人間(罪人と鬼)のよう。いや、ただのシューティングゲームだ。

 

「指鉄砲、指鉄砲、指鉄砲、魔貫光殺砲、波動拳、滅びのバーストストリィィィイイイイイム!!!!」

 

殺さない程度に弱めた弾幕を次々と指から発射し残党共を撃墜していく。たまに両手でやらなきゃ出ないやつもあるが、大抵は指一本で一撃よ。

 

残党共を全て気絶させた魔理沙は捕まえたヴィランたちをキャッチリングというリング状の光の鎖で全員締めあげた。これを破りたければ、一兆度の火球を吐けるくらい強くなりなさい。......無理だけどな。

 

そして最後は街を元通りにして終わりにしよう。これから建築会社への依頼がめっきり減るかもしれないが、許してくれ。

 

「大嘘付き」

 

因果律に干渉し「街には被害が無かった」ことにすることで街が受けたダメージを全て消し去った。マインドコントロールと一緒だろって言われる可能性を考慮して「街が襲撃された」という部分は弄らなかったが、あの人たちわかってくれるかなぁ。

 

 

《特別本免試験、終了です》

 

 

お、やっと終わったか。

 

 

 

雨雲が消え、街に太陽の光が射し込む。まるでさっきの出来事が夢であったかのように不安は消え去り、「平和」が訪れる。全部作り物であることは重々承知してはいるが、たとえ作り物でも綺麗な青空と人の笑顔が見れただけでとてつもない安心感に満たされるのは不思議なものだ。私もそろそろ戦闘狂を卒業かな。

 

 

今日は私の微かな人間性を取り戻すいい機会になったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






終わらなかった......。後、テスト後も以上に忙しくて投稿遅れました。ジャンケンに負けたせいで責任者になるとかあるあるすぎて泣きそう。のんびりしたいなぁ。



次は母親と家族会議してヒーロー公安委員会編終了ということで。そして各章の最後にやる番外編を一つやったら次の職場体験編へ......ということでよろしくお願いします。



いろいろ紹介

サイタマ:ワンパンマンの主人公。

ミホーク:ワンピース界最強の剣士。

トマホーク:北アメリカのインディアンが使う斧。白人がヨーロッパから大量輸入した斧を現地の入植者やネイティブ・アメリカンが改良したもの。(ウィキペディア)

あめふらし:ポケモンの特性のひとつ。

霊烏路空:東方地霊殿6ボス。八坂神奈子によって与えられたヤタガラスの力で地上を征服しようとしたが、霊夢たち自機組によって地上征服を断念。胸が大きくてお姉さんみたいな体つきをしているが、鳥頭でアホの子である。お⑨。

サブタレニアンサン:霊烏路空もといお空の最後のスペカ。私は未だにクリア出来ません。

キラークイーン:吉良吉影のスタンド。触れたものを何でも爆弾に変えられる第一の爆弾、対象の温度を感知して抹殺するまでどこまでも追跡する第二の爆弾「シアハートアタック」、キラークイーンが取り憑いた人間から吉良に関する情報を聞き出そうとしたものを爆破し、時間を一時間巻き戻す第三の爆弾「バイツァダスト」の三つの能力を持つ。

杜王町の殺人鬼:つまり吉良吉影。

エクスプロージョン:めぐみんがこよなく愛する最強の爆裂魔法。学年に一人以上は完全詠唱できる奴がいる。

廬山昇龍覇:聖闘士星矢のキャラ、ドラゴン紫龍が使う最大の奥義。廬山にある大瀑布をも逆流させるほどのパワーがある。

魔貫光殺砲:額に二本の指を当て、指先に溜まった気を螺旋を纏った光線にして放つ技。おまえたちに殺されたナメック星人たちの怒りを思い知れ!!

波動拳:ストリートファイターシリーズのキャラ、リュウやケンなどが使う技。↓↘→+P

滅びのバーストストリーム:遊戯王に登場するモンスター、青眼の白龍の攻撃名。

キャッチリング:ウルトラマンが最終話でゼットンに使用した捕縛技。身体をクルクルと回転させてリング状の光の鎖を生成し、相手にかけて捕縛する。けど破られる。







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結依魔理沙:ターニングポイント(46話)



今回はシリアルです。




 

 

 

 

「......免許取っちゃった。」

 

まじまじと免許証を見つめながらボヤく。あの後、佐藤さんから直々にヒーロー免許証を貰い、免許取得者のみ受けられる「ヒーローの心得」という名の講習を受け、最後に私の能力について詳しく書かれたあの本を複製し渡して、やっと帰ることを許された。本部を出る頃には午後の9時、もう母さん帰ってるかなぁ。後、ステ魔理はどうしてるんだか。

 

帰りは瞬間移動で帰ろうかと思ったが、夕焼けもちょうど綺麗だし、たまには足で帰ることにした。決して母さんとの家族会議を先延ばしにしたいわけではない。断じてない。

 

ちなみにヒーロー免許証以外にもいくつか許可証も佐藤さんから貰った。本部から指定された個性での治療を許可する『特別医療免許証』。様々な研究施設の立ち入り・研究の協力を許可する『サイエンスパス』。ヒーロー協会本部の地下にある実験施設マルチスタジアムの使用許可証......とまぁいろいろ手に入れてしまった。公共機関は行動が遅いとか前にボソッと言ってしまったが、全然そんなことは無かった。ごめんさい。

 

心の中で平謝りをしていると、いつの間にか多古場海浜公園の前まで歩いて来ていた。アレ? ヒーロー協会本部と多古場海浜公園って結構距離があるハズなんだが、都合よすぎじゃね? 私走ってないからね?

 

気になる点が多いがひとまず無視し、久しぶりに第二の我が家なる多古場海浜公園に足を踏み入れた。

 

風が私を海へ誘導するように背中を押す。夜は大陸側から海側に向かって風が吹くので自然とそうなるのは当たり前なんだが、たまにはロマンチックな感性に浸っても神様は許してくれるだろう。

 

それにしても昔は海岸線が見えなくなるくらいのゴミの山がいたる所にあったのに、今じゃビーチスポットとして機能しているんだから驚かざるをえない。しかもシンリンカムイがポイ捨て禁止キャンペーンみたいなのも始めてるもんだから......、ホント昔の多古場を知ってる私にとっては感動ものだねぇ。ドラマでも始まんねぇかなぁ。

 

懐かしむように風景を楽しんだ後、魔理沙は砂浜のある場所に赴き、腰を下ろす。両手を背中より後ろにペタリと置き、波の音に耳を澄まし、何となく目を閉じてみた。前世はそこまで自然に興味は無かった気がするけど、今は唯一の癒しかもしれない。人間って自分に無いものばかりを求める生き物らしいし、能力をほぼ全て手に入れた私が次に欲しいものは地球かもしれん。面倒臭いからやらないけど。

 

急に賢者タイムに入り、自分の思考を冷静に分析したながら海を眺めた。......海って広いなぁ。こんなにデカい海を「はァッ!!」かめはめ波一発で破壊できるサイヤ人共の潜在エネルギーはヤベぇよなぁ。それ言ったら、天元突破グレンラガンは銀河をぶん投げる「セイッッ!!」とかいう訳分からんスケール「アタァッッ!!」で戦うしなぁ。そんな奴らをねじ伏せられる干渉系能力って「ブラァあぁああぁああ!!!!」

 

ピキッ

 

「夜中の9時からジャッキー・チェンのマネすんの止めろォ!!! やんなら万里の長城でやりやがれこのベスト・キッド!!」

 

「ヒッ......、え? 師匠?」

 

ん? 今ものすごく聞き覚えのある声がしたぞ。

 

「え......もしかして緑谷くん?」

 

「......万里の長城行ってきます。」

 

「行くな、待て、早まるな。略してEMT(エミリアたんマジ天使)!!」

 

「師匠、全然略せてないです」

 

謎の掛け声の正体は緑谷出久。まさか緑谷くんもこの公園に来ていたとは意外......、いや全然普通だ。いつもの緑谷くんだ。

 

とりあえず事情を聞こう。

 

「緑谷くん......ここで何してたの」

 

「あっ、えーと、その、今日の体育祭で轟くんに負けちゃったので、一から鍛え直そうと......」

 

恥ずかしがりながら伝える緑谷。モジモジ具合がどうも乙女である。別に恥ずかしがることなんてなかろうに。

 

「師匠こそどうなんですか」

 

「えー、私は単に疲れたからここに来ただけ。」

 

「......瞬間移動の個性を使えばベットまで直行なんじゃ......」

 

「たまにはロマンチックも必要なんだよ」

 

緑谷の正論を適当にはぐらかし、砂場の上を寝っ転がる魔理沙。しかし髪の毛に砂がつくと困るので、地上から3ミリだけ体を浮かしている。緑谷くんも私の隣で寝っ転がり、二人で広い夜空を何気なく見つめていた。

 

「......なぁ緑谷くん」

 

「何でしょうか師匠」

 

「ロマンチックって......何」

 

「知りません」

 

「......」

 

何気ない会話を交わそうとしたが、開始三秒で閉じてしまった。

 

「......なぁ緑谷くん」

 

「...はい、何でしょうか」

 

「もし、私のメンタルが意外に豆腐メンタルだったらどうする?」

 

「......?」

 

「例えばさぁ、割と好き勝手しているように見えてさぁ、内心は物凄い葛藤に悩まされてるとかさぁ。いつも調子に乗ってるようで実は毛布の中でやっちまったって反省してたりとか。」

 

「......。」

 

何も言わない緑谷くん。それはそれで悲しいのは何故だろうか。それとも選ぶべき会話を間違えたのだろうか。もっとポップな感じにしたほうが幼馴染として(今は師弟関係だが)話しやすいのかな。

「.....強い師匠が何を悩んでいるのか僕にはサッパリだけど、僕は師匠の味方だよ」

 

「......おぅ」

 

何だろう、ちょっとドキッとしてしまった。ヤバい、精神的BLに目覚めてしまう。気を抑えろ、波紋の呼吸だ......ッ!! これ以上この小説にタグを増やしてはならんッッ!!

 

「師匠はちょっと暴走するところもあるし手加減出来ないし頭のネジ緩いし特訓も鬼畜だけど...」

 

「オイ」

 

急に罵倒されて現実に帰ってきた魔理沙。いや、おかげで精神的BLに目覚めなくて済んだから感謝するわ。その代わり心にダメージを負ったけどな。

 

「師匠は困っている人を見かけたら颯爽と助けてくれる最高のヒーローだよ」

 

ズキューンッッ!!

 

ばっ、馬鹿なッ!? あの女の子苦手なオタク気質の緑谷くんが私を褒め落とすだとッッ!!? 地味に笑顔が眩しいのもある意味腹立つぞクソッタレ! くっそなんて純粋無垢な瞳なんだ。余計に腹立つわ!

 

「...あーそう。弟子が言うならそうかもな」

 

ぐぬぬぬぬ、今だに味方だと言ってくれたことが内心嬉しくてニヤケを隠すのが辛い。最強の魔法使い(自称)が幼馴染(弟子)の前でニヤけるとか何の恥辱プレイだ。表情筋引きちぎろうかな、痛覚無効にすれば痛くないし。

 

頭を左右に振って狂気的な思考を振り払う。いくら私が超再生を持ってるからって、戦闘してるわけでもないのに表情筋を引きちぎるのは常識的にどうだろうか。もう私は正式にヒーローなんだから子供の手本に成れるくらいの常識は必要不可欠。頑張ろ。

 

心の中でこっそりと目標を掲げた魔理沙であった。

 

「師匠、僕も質問いいですか?」

 

「何さ」

 

今度は緑谷くんの方から質問が来た。心読んで先読みしてもいいが流石に緑谷くんが可哀想なので止めとこう。

 

「どうすればもっと強くなれますか?」

 

「......心読むまでもなかった。ホント脳筋だね緑谷くん」

 

呆れた顔で緑谷くんを見つめる。いったい誰が緑谷くんのキャラを崩壊させたのだろうか。もちろん私だ。

 

「あんなに師匠に動きを教わったのに、体育祭の二回戦目で轟くんに負けて......、情けなくて師匠に申し訳ないです」

 

「いや、アレは単に轟くんが超絶パワーアップしたから仕方がないというか......」

 

今思うと緑谷くんが非常に不憫だ。一年間サイタマトレーニングをして異常なまでにパワーアップしたのに、一時的にパワーが上がった天才に努力をねじ伏せられるとか悲しすぎません? 世の中厳しすぎません? 私に関してはもはや理不尽の極みじゃねぇか。

 

結構シビアなこの世界に悲観しつつも、とりあえず緑谷くんの質問に答えるべく向き合う。初っ端からチートを貰った私が努力云々話しても意味無い気がするが、言うぜ。

 

「んー、じゃあ緑谷くんも轟くんみたいに覚醒すればいいんじゃない」

 

「出来るんですか師匠!!?」

 

「あっ、えっ、うん。うーん? うん。まぁ、その、うん、出来るかもしんないし、出来ないかもしんないし.....」

 

「出来るんですね!!!」

 

「いやー、その、あの、適正とか多分あると思うし、あんま期待しないほうga」

 

「ではさっそく家に帰って腕立て伏せ200回、スクワット200回、ランニング100キロやってきます!!」

 

「倍になってる! ハゲマントの倍やるの緑谷くん!? しかもランニング100キロって何処まで走る気!?!?」

 

「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「待って! ねぇ待って!! 練習量増やしたとしても覚醒するかどうかなんて確証無い......、行っちゃったし......」

 

つい口が滑ったせいで緑谷くんを地獄の血反吐ぶち撒きフルマラソンに出向させてしまった。いや、私は悪くない。悪いのは人の話を聞かなかった緑谷くんなのだ。まぁ、相当悔しさが積もってたことだけは言葉が無くても伝わったけどさ。緑谷くん、お母さんに何て言い訳するんだろうか。

 

嵐のように過ぎ去った緑谷くんとの時間。最後は酷いオチだったが、良いこともちゃんとあった。うん、じゃあそろそろお家に......

 

「遅せぇ」ベシッ

 

「ヘブッ!? ......何だ、ステ魔理か。」

 

ちょうどいいタイミングでステ魔理の登場。お迎えに来てくれたようだ。

 

「何だ......じゃないからね? いくら私が私を見捨てたとしてもさ、道草くって母さんとの家族会議を先延ばしにすんの止めてくんない!? 私、そういう話をするって母さんに先に言ったんだけどお前の帰りが遅すぎて母さん寝ちゃったんだけど!!」

 

わー、やっちまったなー(棒)。じゃあ家族会議はまた明日で......

 

「いや今日やるから。私の登校がかかってんだから早く家に帰るぞ」

 

ステ魔理が執拗的に私を家に帰らそうと急かしてくる。仕方ない、相手の心を揺さぶる取っておきの言い訳を言ってやるか。

 

「ステ魔理は私を見捨てた。私は家族会議を先延ばしにした。なぁ、お互い様だろ?」

 

「けど家族会議をすること自体は関係無いよねはい論破。帰るぞ」

 

「えっ? えっ? おま、おままままア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッ!!!!!」

 

全然心が揺れてない上に、自分自身に論破されるという訳の分からない状況に追い込まれた本魔理沙。その隙をつき、瞬間移動で本魔理ごと我が家に連れて帰るステ魔理。見た目は同じでも微妙に精神の違う二人の物語はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とかなんとか言っておけば、家族会議を次の47話に先延ばしに出来ると思っていたがまだ続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【結依家緊急家族会議】

 

眠ってしまった母さんを個性「マーメイド」(第3話で獲得)を使って目覚めの唄を歌って起こす。まずは母さんが起きてなきゃ意味が無いからな。だから早く起きてくれ母s拳ッッ!!?

 

寝起きの母パンチをモロに受け、壁に叩きつけられた魔理沙。しまった、母さんは寝起きが非常に悪いことを忘れていた。いったい我が家で目覚まし時計が何千体犠牲になったのやら。

 

「ぅるさーい。いったい何時だと思って......、んー? 娘がえー、二人?」

 

見事な寝癖のついた母さんはまだ寝ぼけているようだ。いや間違っていはいないが、また殴られるのも嫌なのでちゃんと起こそう。

 

ステ魔理「母さん、家族会議」

 

「あぁそれねー。もう一人の魔理沙帰って来ないしまた明日zZZZZ」

 

本魔理「母さん、もう帰って来てる。帰って来てるから起こしたんだよ」

 

「えー? zZZZZ.....」

 

ダメだこれ、意地でも起きないつもりだ。仕方ない、アレを使うか。こんなことのために使いたくはなかったが全然起きないからやるしかない。

 

「「キング・クリムゾンッッ!!!」」

 

 

 

 

 

〜 5分後 〜

 

 

 

 

 

本魔理「えー、これから結依家緊急家族会議を始めたいと思います。父さんはブラックリーマンで今日も帰ってこないので除外します。さてと、まずは参加者の確認から。えー、まず私、ステ魔理、母さん、後は画面越しで見てる誰かさん。以上」

 

キング・クリムゾンで5分だけ時間を飛ばし、飛ばした時間の中で母さんのアイズを開眼させた後、流れのままに会議を始めた。キング・クリムゾンが飛ばせる時間は本来5秒までだが、幼少期からの特訓で最高1時間まで飛ばすことが出来るようになった。ザ・ワールドと一緒だな。

 

とりあえず前口上は述べたので本題に入るとする。

 

本魔理「えー母さん、実は諸事情により分身が元に戻らなくなりました。何か知りたいことがあったら何でもどうぞ。」

 

出来ることなら諸事情に関しては触れないで欲しいけど、母さんには知る権利があるので聞かれたら答えることにした。なんで自分から進んで言わないのかって? ごめん、私チキンなんだよ。

 

「......zZZZ。うん、で?」

 

特に興味の無さそうなご様子。てっきり「まーたウチの子はやらかして!! 何回注意すれば分かるのよ!!」くらいには怒ると思っていたんだが。まだ眠いのかな。

 

本魔理「えーなので、私らの個性を使ってそこのステ魔理を私の双子という設定にし、戸籍を作り、姿を変えて二人で高校通いたいんですが......、その、ダメでしょうか?」

 

正直、通る可能性は低い。理由はとにかく単純で金が足りん。いや二人分の学費を支払うことは出来なくはないが、そうするとただでさえ忙しい二人の仕事がさらに忙しくなってしまう。過労死なんてことになったら大変だ。

 

「......別に娘が一人や二人増えたところで別に構わないけど、母さんから一つ条件を出すわ」

 

本魔理「お、おぅ......おぅれぇい? 今、娘が一人や二人増えたところで別に構わないっつったぞマイマザー。え......、えっ?」

 

思ってた返事の内容と今言われた返事の内容が見事に食い違い、言語障害を引き起こしてしまった私。この問題ってこんなにあっさりと解決するもんなの? いや、まだ条件がある。その条件の内容が厳しい可能性だって全然あるはずだ。絶対にそうだ。

 

「条件は、二人とも仲良く! 協力しあって家族と幸せに暮らすこと......以上!! 後、危ないことに首を突っ込むのは控えめに。母さん、まだ心配性治ってないから」

 

本魔理「了解! さっそくアメリカのヤクザ団体一つ潰して報酬金稼いで......、え?」

 

ステ魔理「母さん、条件はそれだけなの? 私ら何でも出来るから学費だって金銀財宝を換金して稼げるし、食事も要らないし、とにかく何でも出来るんだよ? もっと良い方法があるh」

 

「はい、愛のビンタ」バチコーン!!

 

ステ魔理「ゲバッッ!?!?」ドゴォ!!

 

本魔理「何で私もッッ!!?」メゴォ!!

 

母の貫通愛のビンタで再び壁に叩きつけられる魔理沙たち。頬に真っ赤なモミジの葉の痕を残し、やや涙目の状態で母を見返す。

 

「魔理沙、心配する気持ちは嬉しいけど自分を犠牲にするのはダメ。お金なら何とかするから心配しなくてもいいのよ。それとも、娘が二人に増えたからって片方を見捨てるとでも思った? 残念ながら母さんはあんた達を見捨てません。娘を見捨てる母親がどこの世界にいるのよ」

 

「「......母さん。」」

 

当たり前のように堂々と言い張った母の美しさに感動を覚えた。こんなにいい母親を昔の私ときたら「母さんは母さんだけど本当の母さんじゃない」とかほざきやがってバカヤロー。こんなに優しい母さんが母さんじゃないわけないだろうが。最高の母さんだ。

 

あまりの感動に二人は母さんをギュッとハグをした。やっぱり家族はいいもんだ、こんなにも温かくて心地よいのだから。温かすぎて涙まで漏れてしまったし、もう、もう、ヤバい。マザコンキメェとか言われながら脛を蹴られても今の私なら耐えられる気がする。もう、みんなマザコンになっちまえ(狂乱)。

 

温かいハグをした後、母さんは朝ドラを見るために早めに寝た。母からの許可を得た私たちはさっそくステ魔理の戸籍作りとマイコン(マインドコントロール)を使って世界中の人間に「結依魔理沙には双子がいる」という設定を植え付けた。いや、実際には今までの経歴を事細かく設定しないとマイコンの効果が切れる可能性があるので、しっかりと設定する。だが16年間の人生を事細かく捏造するなど、そう簡単に上手くいくはずもなく、結果的に夜中の3時までかかるハメになった。夜更かしダメ、ゼッタイ。

 

 

 

 

 

 

けど明日は振替休日なのでのんびり寝るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







シリアス(笑)。今回は軽い感じになりました。



いろいろ紹介

特別医療免許証:指定された個性による治療を許可する免許証。魔理沙の場合、依存性や副作用の効果が低いものならだいたい許可される。現在許可されている回復能力・回復アイテムは回復の円筒とベホイミのみ。

サイエンスパス:様々な研究機関の出入りまたは研究の協力を許可するパスポート。現在は日本国内限定だが、いずれは世界のあらゆる研究機関に訪れることが可能になると、国連や学会で決まったとか決まってないとか。

マルチスタジアムの使用許可証:あらゆる災害を体験出来るUSJをコンパクト化したかのような多目的実験施設「マルチスタジアム」の使用許可証。あらゆる災害を想定した実験の他、フラットモードにすることで戦闘ステージに移行したり、会議室を出現させることも可能。なおステージ上に行われた出来事は全てデータとして回収され、超高性能コンピュータによって綺麗にまとめられる。壁は核ミサイル三発分を耐えるほどの耐久力を持つ。もう多古場なんていらねぇな。




次回、番外編「異世界かるてっと・カオスフル」(仮題)。世界観は違いますがちょっとカオスなアレです。アレなんです。


ちなみにマスチュロはマザコンではございません。信じてください(棒)。




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番外編3 異世界かるてっと編
番外編3 異世界かるてっと 〜 始業式 〜





世界を面白くするのは我々自身だ。総員! 出動せよ!! 「「「オオオオオ!!!!」」」







 

 

 

「魔理沙、早くしないと遅刻するわよー」

 

「母さんさぁ、私には瞬間移動があるから絶対遅刻しないって何回言えばいいんじゃい!!」

 

「いいから準備済ませなさーい」

 

「あいあーい」

 

長きにわたり繰り広げられた体育祭編は終了し、今日からステイン編......、いやステインは倒したので職場体験編がスタートする。流石に体育祭の時みたいな内容の濃さにはならないだろうけど、そろそろコード000を作ったマスターとやらに会わなきゃならんからなぁ。会いたくねぇ。

 

テキパキと準備を済ませ、制服を秒で着る。そしていつも通り、「いってきます」と言って私は家のドアを開けた。

 

「いってらっしゃーい」

 

ドアに手をかけ、雄英高校1年A組のドアと私の家のドアを空間系能力で繋ぐことでどこでもドアに早変わり。扉の向こうにはいつもの学校生活が私を待っているだろう。さっそくオープンせねば。

 

「みんな久しぶり! 雄英高校1年の花、魔理ちゃんのご登場だお(^ω^)」ガチャリ

 

おふざけ全開で登校した魔理沙だったが、そのセリフに反応するものはいなかった。いや普通はスルーするのが当たり前なんだが、常時激昂ラージャンである爆豪勝己ならば「黙れボサボサ。二度と喋んじゃねぇ!!」とキレた口調で返事をするのが1年A組の恒例行事(適当)。だがどうもその反応がない。というか、皆から異様な視線を感じるのはなんでだろうか。決して私が変態的クレイジーサイコパスだからそう見られているというわけではなく、まるで初めて出会った転校生のような視線を皆が向けてくるのだ。え? なんで? 体育祭編が長引いたのとヒーロー公安委員会編のせいで主人公である魔理ちゃんのことを忘れたとでも言うのか。冗談キツイぜ。

 

だがクラスをよく見るとその原因が分かった。どうやら私は入るべき教室を間違えたようだ。緑谷くんも爆豪もいないが、教室の雰囲気は雄英高校。てことはやはり私は間違えたのだ。いやー、あんなセリフを別のクラスでやるとか恥ずかしいことこの上ないわー。

 

しかし一つだけ説明できないことがある。いや、このことに触れたら全てが可笑しいということになるのだが、私はまだここを()()()()()()()()()()()からな。だって私が繋いだ扉は雄英高校の扉だもん。クラスを間違えてもそれだけは間違えるわけがない。なんだが......

 

「なんで他世界キャラが1年A組の生徒になっているんじゃァアアアアアアアアアア!!?」

 

これから始まるのはただの学校生活ではなく、ただただカオスの四重奏(カルテット)、もっと言うならプルスケイオス(さらに混沌)と言ったところか。何を言ってんだろ自分。わけわっかんねーよ。誰か助けて。

 

 

 

結依魔理沙の異世界かるてっと、スタート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

カツンッ

 

「これより、本能寺雄英幻想木ノ葉隠れボボボーボ・ボーボボ歌舞伎町学園高校1年A組朝の会を始める。呼ばれたものは己の持てる全ての力を振り絞って返事をしろ! では行くぞ!!」

 

「DIO!!」

 

「フンッ......スタンドも使えないただの人間(食料)ごとき存在で、このDIOの名を気安く呼ぶんじゃあない」

 

「ほぉ、随分と余裕だなDIO。ならば貴様は放課後で【征討死胴室】(生徒指導室)行きだ。その腐れきった精神を、この私、鬼龍院皐月自らの手で更正させてやる。覚悟しておけ」

 

「フン......」

 

1年A組担任教師、「鬼龍院皐月」の出席確認(脅し)を尊大な態度で突っぱねた悪のカリスマ、「DIO」。両者ともにプライドが高く、目が合っては因縁吹っ掛けて争うほど仲がいいらしい(情報元は後ろの席のアインズ様)。

 

そのDIOの隣の席に座っている私こと結依魔理沙は現在困惑中。なんでDIO様が生徒になってんの。なんで皐月様が高校の教師をやってんの。疑問は尽きないし、意味不明だし、何より怖い。ここカオスすぎていくら異形の私でも耐えられません。別に皐月様とDIO様だけなら問題ないでしょと言う輩は、今から皐月様が生徒の名前を呼ぶから耳の穴かっぽじってよーく聞くがいい。ヤバいから。

 

「次! 球磨川禊!!」

 

〔先生、個体名:球磨川禊は今日も屋上にてサボりです〕

 

「大賢者よ、感謝する。球磨川は私のバクザンのサビにしておくから安心するがいい」

 

〔承知しました。〕

 

サボりをチクった大賢者(リムル=テンペスト)は皐月先生の言葉を聞き、そのまま元の席に着席した。ツッコミどころが多すぎて頭が追いつかない。球磨川禊......このクラスにいたのか。みんなの脳みそに螺子を埋め込みそうで怖い。というかリムル=テンペスト......いや、我らがグーグル先生こと大賢者までこのクラスにいるなんて思ってもなかった。というか、いちいちツッコミを入れたら話進まねぇ!! 情報量が多すぎる!

 

 

その後、次々と生徒の名前が呼ばれていった。大体しか把握出来ていないがここでクラスメイトの紹介をしたいと思う。まず悪のカリスマDIO様、そして先生である鬼龍院皐月、サボり魔の球磨川禊、生徒会長の大賢者(リムル=テンペスト)、オーバーロードのアインズ・ウール・ゴウン、孫悟空、霧雨魔理沙、八雲紫、ストリートファイターシリーズからリュウ、天彗龍バルファルク、英雄王ギルガメッシュ、紅魔族のめぐみん、ハイラルの勇者リンク、吉良吉影、みんな大好きオールマイト、オールフォーワン、ドラゴン紫龍、大魔王バーン、仮面ライダーディケイド、フランドール・スカーレット、etc。訳がわからないよサヤカちゃん。

 

そして勘のいい人なら気づいただろう。今名前を上げたクラスメイトは全員、私がかつて使用した能力の本来の持ち主たちなのだ。先生である鬼龍院皐月だけは違うが、大賢者はいつも世話になってるし、球磨川禊の『大嘘憑き』は干渉系能力の中でも私がかなり使っている便利能力、アインズ様はオバロ系魔法、孫悟空は瞬間移動とか気とかそのあたりだろう。絶対何かが関係しているに違いない。

 

我ながらいい推理をしたと、満足した表情で足を組んだ。が、そのせいで自分が名を呼ばれていることに気付かず、皐月様の怒りに触れる。

 

「そこの新人、初日から返事もしないとは随分と大きな態度だな。ならば貴様には()()を受けてもらう。大魔王バーン、やれ」

 

「弱小種族の分際で余に命令するな。が、アレは恒例行事であるから新人には受けてもらうとしよう。余の『メラ』を......」

 

「え? ちょちょちょ待って!!」

 

バーンがそう言うと何処からか湧いてでたバーンの部下たちが魔理沙の両腕をガッチリ固定し、有無を言わさずにバーンと対極の位置に連れていかれた。これはアレか、新人に対する洗礼ってヤツか。しかもその洗礼はかの有名な「今のはメラゾーマではない、メラだ」ってヤツときた。朝から大魔王の攻撃とはどんな眠気覚ましだ。逆に永遠の眠りにつくわ。

 

だがしかし、私には結界系能力やチート能力がある! 直撃してもベホマで全回復できる! 相手が大魔王だろうとこの私にかかればちょちょいのちょいなのだ。負けるはずがない。

 

「フッ(余裕の笑み)、何が大魔王だ阿呆め。この私を誰と心得える......、最近ヒーロー免許を取得した最強の魔法使い、結依魔理沙さんだ。メラなんぞマホカンタで跳ね返したるわ」

 

「余の前で最強の魔法使いを語るとは......、貴様は楽に死なさんぞ。メラ」トゥルルルッ!

 

大魔王のメラ(規模はメラゾーマ並)が私の元に近づいてくる。が、しかし速度は非常に遅いため、手足が自由なら余裕で避けれる。まぁ、宣言通りマホカンタで返してやろう。

 

「はいマホカンタ............、あれ?」

 

何故か魔法が発動しない。どんなに手に力を込めてもピクリとも反応しない。ポーズを変えたり、表情に力を込めたりといろいろパターンを試してみたが何も起こらない。え、あ、これ詰んだ。あんなにイキってたのに学校生活開始数分後で私の人生ゴールインなんですけど。ねぇ、おい私しっかりしろ。魔法、頼む魔法出て。300円奢るからさ、ねぇ、頼むから魔法発動してくれぇえぇえええええ!!!

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ......

 

 

爆炎がすぐ目の前まで接近し、私は自分の死を予感した。徐々に熱が肌を焦がし、ゆっくりと焦らすように命を削る。が、私の身体は業火の炎に焼かれることなく、五体満足で生還していた。死んで....ないだと.......!?

 

〔マスターへの直接攻撃は私が許しません〕

 

目の前にいたのはバーンではなく大賢者であった。大賢者が咄嗟に魔理沙を庇い、メラを虚無崩壊で相殺することで事なきを得たのだ。なんて華麗なる技、リムルの姿も相まって尊みが深い。

 

「大賢者よ、なぜ貴様がその女を守る。弱肉強食の世界で弱者が死ぬのは世の摂理じゃろうが」

 

〔解。マスターは私にとって大切な存在です。それ以上の理由は有りません〕

 

「フン......愚か者め。人間風情なんぞ救っても無駄だと言うものを」

 

大魔王バーンは何かを諦めたかのような表情をした後、私の目の前までズンと距離を詰めた。

 

「小娘.....命拾いをしたな。だが次は必ず貴様を殺す。この素晴らしき強者だけの世界に貴様のようなゴミは要らぬのだからな」

 

そう言って大魔王バーンはスタスタと自分の席へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

怖ぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

〜 一時間目スタート五分前 〜

 

 

〔マスター、少々お話が....〕

 

朝の会を終えてヘトヘトになった魔理沙の元に、大賢者が歩み寄ってきた。

 

「大賢者......、お前って本当にあの大賢者なのか?」

 

能力を使用することができないと判明し、頭を悩ます魔理沙。もしかしたらこの大賢者も、私の知っている大賢者とは違う大賢者の可能性がある。マスターと呼ばれる理由が不明になるが、可能性は十分あるので一応確認をとった。

 

〔はい、あの大賢者です。最近、多古場公園で個体名:緑谷出久を無意識に地獄の扉へ導いたマスターの忠実なるスキル、大賢者です。〕

 

「言わなくていい、言わなくていいから......」

 

確認が取れた代わりに心を抉られる。ちくしょう、そんな事言うなよ。泣いても知らんぞ。

 

グッと堪えた魔理沙は再び大賢者と向き合う。

 

「で、ここは何なの」

 

〔解。ここはマスターの脳内に補完された能力たちの中枢地点、「アビリティア」です〕

 

平然と述べる大賢者。へぇー、アビリティアねぇ。ふーん。

 

「.......すまん、何言ってるかわからない。私の脳内? 能力の中枢地点? 最近この小説限定の厨二病チックな言葉ばっかりで全身打撲を訴える人急増中なんだけど」

 

〔.....。「アビリティア」は深層心理より浅い場所に位置し、マスターが手に入れた能力の残滓(ざんし)が集う場所です。マスターのために分かりやすく説明しますと、マスターが能力者の力を手に入れると同時に、その能力者の意思や記憶などの一部も取り込みます。それが能力者の残滓で、その残滓達が集まるこの世界が「アビリティア」と呼ばれているのです。理解しましたか?〕

 

「あっ、ハイ。理解しました」

 

大賢者に押し切られ、思わず頷いてしまった私。まぁ痛い言葉は我慢して状況を整理すると、今見えているクラスメイトは全員、私の持っている能力の意志の破片みたいなものであると。そんでこの学校は「アビリティア」という世界の一部......なのかな? スケールが壮大。

 

〔マスターが能力を使用できない理由は、能力発動の命令が内部(アビリティア内)だと無効化されるからです。本来は外部世界からマスターが能力名を叫ぶことで能力に命令を出し、使用します。しかしアビリティア内ではマスターの権限は他の能力と平等になるため、強制命令が使用不可......というわけです。〕

 

「長い説明ご苦労。つまり私はこの世界では最弱であると。うん、ちょっと窓から飛び降りてくる」

 

能力使用不可に深い理由が存在したことを理解した魔理沙は、この世界の化け物達に八つ裂きにされるより飛び降り自殺の方がマシだと判断し、窓に手をかける。

 

〔マスター、気を強く持ってください。〕

 

「無理に決まってんだろ!! こんな世界、命がいくつあっても足りんわ!! ギルに紫に大魔王バーン、悟空にアインズに球磨川禊! フランにDIO、吉良、オールフォーワン、バルファルク!! ラスボスばっかじゃねぇか!!」

 

〔いいえマスター、まだ助かる方法はあります〕

 

状況が酷すぎて半狂乱になった魔理沙だが、助かる方法があると聞いて即ピタリと動きを止め、大賢者の言葉に耳を傾ける。

 

「マジで?」

 

〔はい。助かる方法はたった一つ、それは生徒全員と契約(おともだちになる)することです〕

 

「......はい?」

 

大賢者の言葉の意味を汲み取れず、首を傾げるマスター。おともだち? つまりこの化け物達とフレンズになれと。そんな非現実的な現象はさっさとおうちにお帰り。

 

〔確かに彼らと契約できる可能性は低いですが、その分得られる利益は莫大です。試しに私と契約しましょう〕

 

そう言うと大賢者は私の手を左右にはたき、その後拳と拳を上下に二回はたき、最後は二人の拳と拳を軽く当てて動きは終了した。

 

契約(おともだち)完了です〕

 

「なにこの友情溢れる契約方法。」

 

仮面ライダーフォーゼを思い出すかのような契約の仕方で虚をつかれた魔理沙。が、その後身体に異変が起こった。

 

「......あれ? 何か急に冷静になれてきた気がする。あー、契約すると契約した対象の能力を借り受けることが出来るのか。なるほど」

 

〔その通りです。契約した相手の能力を使用する際には制限がかかりますが、この世界はマスターの精神世界の一種であるため、マスターの場合は一切の制限がありません。契約すればするほど、マスターはどんどん強くなるのです。〕

 

「てことは、今なら大賢者がバーンに使ってた虚無崩壊も使えるの!!? さっそくバーンに再戦を挑んで......」

 

〔否。私が虚無崩壊を使用できる理由は、虚空之神(アザトース)と契約しているからです。虚無崩壊を使用するには虚空之神と契約する必要があります。なお、今の状態で彼に会い、生きて帰ることが可能な確率は0.000%です。〕

 

「よし、もう一時間目も始まるし勉強しよう。大賢者、話は後だ」

 

〔了。大賢者モードから生徒会長モードに移行。......完了しました。〕

 

〔じゃあ授業頑張ろうね、黒魔理ちゃん!〕

 

「お、おう......。え、大賢者ってそんなこと出来んの? 生徒会長モードって何......」

疑問の余地が更に増えたが、とりあえずやることが決まったのでリラックスする魔理沙。まず、このクラスの生徒半分以上と契約し、大魔王バーンと再戦する。わけがわからんこの世界で生き抜く為にはまずこのクラスの頂点を目指す。見ていろよ神様共、このイカれたカルテットの中でリバースイデオロギーを起こす魔理沙さんの勇姿をなァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ワンチャンこれ別シリーズとして出すかもしれない。番外編は3話くらいで終わらすつもりだからバーンを倒すとこまでは行かないけど、別シリーズに出すとしたらいけるかもなぁ。


いろいろ紹介

鬼龍院皐月:バクザン(剣)と神衣「純血」に残っていた残滓から再現された鬼龍院皐月。元作品はキルラキルで本能寺学園の生徒会長。高校生だが、この世界では圧倒的なカリスマ性で先生を務めている。なお、スパルタの模様。

DIO:スタンド「ザ・ワールド」に残っていた残滓から再現されたDIO。元作品はジョジョの奇妙な冒険第三部スターダストクルセイダース。圧倒的なカリスマ性で悪の頂点に立とうとしているが、周りの面子が濃すぎて部下作りが難しい模様。人間とは基本仲良くしない。しかしプッチ神父というホモだちがいる。

大賢者(リムル=テンペスト):大賢者は最初から自我が存在しているので、いつも通りのままでした。元作品は転生したらスライムだった件。この世界では何千万、何億の能力を束ねる生徒会長。アザトースくんと仲良し。完全にヒロイン。

アインズ・ウール・ゴウン:オバロ系魔法、または魔法「The goal of all life is death」に残っていた残滓から再現されたアインズ様。元作品はオーバーロード。この世界では守護者が周りにいないため、魔王ロールのようなことをする必要がなくなった。そのため人間にも優しい。普段は大人しいが戦闘や力試しは好き。

孫悟空:瞬間移動、気、かめはめ波などと言った能力に残っていた残滓から再現された孫悟空。元作品は誰もが知っているドラゴンボール。この世界は強者だらけなので、本人は毎日が楽しい模様。目と目があったら即刻力試しと言わんばかりの戦闘狂で、一日三回は誰かと戦っている。しかし飯の時間にはキッチリ帰る。

霧雨魔理沙:八卦炉、または魔法を使う程度の能力に残っていた残滓から再現された霧雨魔理沙。元作品は東方Project。実力的にこのクラスでは弱者に位置するが、弾幕ごっこならほぼ負けない乙女。結依魔理沙と名前や見た目が似ている(ほぼ同じ)ため、親近感を感じている。努力家。実力差が激しくても自前の根性と努力で無理矢理埋めるヤバい子。

八雲紫:境界を操る程度の能力に残っていた残滓から再現されたゆかりん。元作品は東方Project。妖怪の賢者と呼ばれるほど切れ者で、とにかく数学が強い。この世界では割と流れるままに生きている模様。暇になると強者にちょっかいを出して楽しむクレイジーバbピチューン




多いのでここまで。ちなみにこの世界のキャラたちは皆、原作通りの性格やキャラというわけではないので気をつけてください。あくまで残滓なので、本人とは似ているようで違うと解釈してください。


アデュー。






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番外編3 1時限目 魔理沙の時間①



この素晴らしき世界にインスピレーション。君のハートにレボリューションッ!!




この世界に登場するアニメ・ゲーム・漫画のキャラクターたちは原作通りの性格やキャラをしているわけではありません。そこの所をよろしくお願いします。


結依魔理沙の現在の能力数......1


東方異形郷の幽香編3が来ましたね。いやー、最終焉やら魔王やら、終わりがそろそろ見えてきそうな展開ですねぇ。画力もめちゃくちゃ上がっていて凄く......ヤバい(語彙力の死亡)。






 

 

 

「ここを......して、こう......するとこうなります。」

 

一時間目、数学の授業。といってもやってることは中学一年レベルなので現在私は妄想中。というかクラスの大半が寝ているので授業の意味が無い。数学の先生(ただのハゲたおっさん)も注意する気がサラサラ無く、ただただ時間が過ぎていく。初日から学級崩壊まっしぐらでお先真っ暗だが、元々パワーバランスが可笑しいし、これが当たり前なのかもしれない。まだ世紀末にならないだけマシだ。

 

私はこの数学の時間の間、今現在契約出来そうな人物について思考していた。まず倒すべきバーンは論外、DIOもギルガメッシュも紫もオールフォーワンも論外、アインズ様は何かしら等価交換しないと契約してくれないかもしれないし、フランちゃんは遊んであげれば契約してくれるかもしれないが、その遊びがハード過ぎて多分私は死ぬ。バルファルクも論外、めぐみん......いけそうかも。魔理沙もオールマイトも仲良くなった後に事情を説明すれば契約してくれるかもしれん。え、孫悟空? そら「オラと勝負して勝ったら契約でも何でもしてやっぞ」って言うに決まってるじゃないですか。死にます。

 

リンクとリュウと吉良吉影とディケイドは...、わからん。だが吉良吉影に今近づくのはやめよう、暗殺されかねん。

 

そう言えば大賢者がアザトースと契約したって言っていたが、このクラスにアザトースはいない。つまりは1年A組以外にもクラスがあるってことだ。次の五分休みにちょっと廊下に出てみようか。何かしらの発見があるかもしれん。

 

「....なので、はい結依くん。ここの答えは?」

 

「......zzzzZZZZ」

 

「....オジサンのとっておきだァ」ビュンッ

 

「ヘブシッッ!!?」

 

魔理沙の脳天にチョークが直撃し、目がぱっちり開く。結界さえあれば......、あぁ早く能力を取り戻さなきゃなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

〜 2時間目スタート五分前 〜

 

 

チャイムと同時にクラスの様子はガラッと変わる。一時間目から冬眠していた奴らはチャイムの音で目覚め、思い思いに行動を起こす。その内の一人である結依魔理沙は現在、両手両膝を地面に密着させ、土下座に非常に近いポーズをとっていた。

 

 

説明しよう、結依魔理沙はコミュ障である。「喰らった相手の能力をパクる能力」により小、中学校の同級生から畏れられ、避けられていたため、コミュニケーション能力が常人より育たなかったのである。シャイなのだ。

 

何かを初めてやる時、誰かにお手本を見せてもらった方が分かりやすく実践しやすいと考えた結依魔理沙。そこで、彼女はある最強の助っ人を呼び出した。この有象無象にいる荒くれ者共を纏められる最強の生徒会長及び唯一の仲間......。

 

「大賢者ァァアアアアアアアアアアアア!!」

 

〔生徒会長モードから大賢者モードに移行、成功しました。......お呼びでしょうか、マスター〕

 

これほど強力な助っ人は他にいないだろう。朝の会のバーンの様子から察するに、大賢者は強者からかなり高い評価を得ている。その上、頭がいい。話によれば大賢者はかの八雲紫と数学のテストで一位を争うほど頭がいいらしい (情報提供は後ろの席のアインズ様)。つまり、大賢者にかかれば私もコミュ障を脱却できるということだ。

 

「大賢者、友達作りを手伝ってくれ」

 

〔了。対象人物を選択してください〕

 

「最も私と姿が似ている+あまり危険じゃない霧雨魔理沙で」

 

〔了解しました。私についてきてください〕

 

そう言うと大賢者はスタスタと魔理沙のいる場所に向かっていった。コミュ障の私に手を差し伸べて、輪の中に連れてってくれる彼女は、私にとって救世主(メシア)に等しい。頼もしすぎて涙が止まらない。

 

大賢者はフランドールと話していた霧雨魔理沙の肩をポンポンと叩く。すると魔理沙はスっと振り向き、大賢者と顔を見合わせた。

 

「珍しいな大賢者。私に何の用だぜ」

 

 〔私のマスターと友達になってください〕

 

「ファッ!?」

 

「......マスター?」

 

あまりに真っ直ぐな大賢者の言葉に結依は思わず奇声をあげる。やめて、マスター呼びは他所ではやらないでくれ大賢者。マジで...........。

 

どうしようもないくらい率直で、あまりに純粋で無機質な大賢者の言葉は、私のメンタルを根こそぎ削っていった。あまりの恥ずかしさで立っているのがやっとであり、あと少しの風が背中を押せば真っ逆さまに涙の池へポチャリ。涙腺崩壊待ったナシだろう。何とかしてここから体制を元に戻さねばならぬ。頑張れ私、踏ん張れ私。恥辱に染まろうと我は我なり。

 

「その隣の新人がお前のマスターなのか?」

 

〔そうです。〕

 

「へぇ〜......、姿が私に似てるけど弱そうだな。名前は何ていうんだ?」

 

「ン"ン"フ......、結依魔理沙、いつか最強の魔法使いに返り咲く女だ」

 

『弱そう』という言葉の追撃を喰らいつつ、私は頑張って返事を返した。

 

「うへぇ。私には関係ないが、あまり最強とか連呼すると他の奴らに目をつけられるから気をつけろよ。」

 

そう言うと魔理沙(霧雨)は急に何かを思い詰めるような表情に変えた。

 

「......どしたの?」

 

「あれ、お前たちの用件って何だっけ」

 

「ド忘れしてたんかーい」

 

〔マスターと友達になり、契約をしてほしいです〕

 

「あーそれそれ。その件なんだが......」

 

魔理沙(霧雨)は少し間をあけた後、なにか閃いたような仕草をとり、話を続けた。

 

「別にいいぜ」

 

「よっしゃあああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!!!」

 

「ただし! 条件がある」

 

ビクッと体を震わせる魔理沙(結依)。条件、やはりタダで契約させてくれるほどお人好しではなかったか。さてさてどんな条件が来るんだか、バーンに一発拳を入れろはナシで。

 

「バーンを一発殴ってこい」

 

「却下」

 

〔霧雨魔理沙、それはあんまりです。〕

 

ナシと頭の中で言った直後に魔理沙が言ったので、思わずマジ声で返してしまった。多分冗談なんだろうけどシャレにならんから止めて。

 

「冗談、冗談なんだぜ。まぁさておき、その条件ってのは簡単なもんで、図書室からある魔術書を借りてきてほしいんだ」

 

「魔術書?」

 

「そう、魔術書。お前は新人だから知らないと思うが、この学校の図書室には様々な世界の魔法や技術の書が沢山納品されていてな。もちろん、持ち出し禁止の禁書も存在する」

 

禁書......という単語とこの霧雨魔理沙という人物の性格からオチを察してしまった私。これ命張るやつだ。死ぬかもしれんやつだコレ。

 

「つまり、結依と大賢者には禁書『甦之書(よみがえりのしょ)』を私のとこに持ってきてほしい。そしたら、契約でも何でもしてあげるぜ」

 

案の定そうであった。

 

「...すまん、禁書って持ち出し禁止なんだよな」

 

当たり前のことを聞いた。

 

「そうだぜ。つまりは窃盗だぜ」

 

「コイツ......言いやがった」

 

〔禁書の持ち出しは一般生徒に許されていません。至急発言の撤回を〕

 

「嫌なら別にいいんだぜ? その代わり、今までの話もパーだけどな」

 

どうやら魔理沙(霧雨)は一歩も譲歩するつもりはなく、私に残された選択肢は持ち出し禁止の禁書を霧雨に渡すか、諦めて別の人と契約するかの二択に絞られた。

 

別にここで後者の方を選んだとしても、誰にも咎められることはない。むしろ人に窃盗を頼む輩と仲良くする方が後々危険になるかもしれない。だがしかし、私は結依魔理沙だ。自分からはまだ明言してないが、友達になると決めたからにはしっかりと友達にならなければならない。それが元男の筋だと私は思う。我思う故に我あり。

 

「......その頼み事、聞き受けたぜ」

 

〔マスター!?〕

 

「へぇー、ちなみに図書室には紫色のこわーい魔女と、なんか羽の生えたド変態マゾがいるんだぜ? そいつらを抑え込めるほどの実力はあるのか?」

 

「無い。けどやる」

 

「無茶苦茶だな。正気かお前」

 

「まぁ、任せろ」

 

私はそれだけ口にすると、チャイムが鳴るのを見計らって元の席に着席した。大賢者もそれに従って元の席に戻る。

 

 

「......無理に決まってんだぜ」

 

 

その小さな後ろ姿を見ながら、霧雨は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

〜 昼休み 〜

 

 

結依は事前に大賢者と図書室前に集合し、現在彼女らはお目当ての禁書を手に入れるべく、図書室内を散策していた。

 

「流石は他世界のあらゆる魔法や技術の本が納品されている図書室。デカすぎて一番上の本棚が見えねぇ」

 

〔ここはマスターの記憶の引き出しだけではなく、能力達が持っていた歴史の一部を本として保存されています。よって蓄積された膨大な量の知識を内蔵するために、空間系能力を使用して空間を拡大しています。〕

 

へぇー、と思いながら私はただひたすらに歩き回った。この図書室の大きさは少なくとも東京ドーム五個分以上はある上に、真上を眺めると無数の本棚が縦に列をなして空中に浮いているのだ。仮面ライダーWの『星の本棚』と言えば伝わる人には伝わる。伝わらない人のためにもうひとつ例を挙げるならば、ヴワル魔法図書館の十倍以上はデカい。うん、とにかくデカい。

 

「大賢者.....、禁書って何処にあるの?」

 

〔解。禁書は閲覧を許可された生徒だけがその保管場所を知ることが出来ます。また、禁書の保管場所は常に変化するため、再度禁書を読むには再び許可を貰わなければなりません。〕

 

「えぇー、無理ゲーじゃね?」

 

〔はい。だから昼休み前に不可能と仰ったんです〕

 

鬼畜すぎる設定に頭を悩ます魔理沙。セキュリティのハードルが高すぎて攻略できる気がしない。まぁ、そのおかげで不本意な事故が起こらずに済んでいるのだろう。が、やはりキツいものはキツい。仮に禁書の保管場所が空中に浮いている本棚の何処かに隠されているとしたら、その時は全力で不満を叫びながら本棚をよじ登るとしよう。多分、途中で落下するだろうけどな。

 

 

とりあえず、今私に出来ることはただひたすらに歩き続けることだ。見飽きてしまった本たちに囲まれながら、延々と当てのない道を進み続ける。

 

いかにも迷宮に迷ったかのような雰囲気が出てしまっているが、ここは一応図書室である。図書室なんだけどなぁ......。

 

 

 

 

 

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ......

 

見渡す全てが本だらけでだんだん目が疲れてきた私は、近くの本棚を背もたれにして寄りかかる。広すぎて自分がどこを歩いているんだか分からんし、禁書が何処に保管されてるか見当もつかない。今何時なのかすらも把握できなくなって、とにかく私は冷静さを保つために3分ほどボーッとさせた。

 

〔お疲れですか?〕

 

「もう限界......疲れた。」

 

〔コーヒーの差し入れいります?〕

 

「......どこから取り出したそのコーヒー。貰うわ」

 

大賢者がPONと取り出したコーヒーを啜りつつ、私は必死に考える。よくありがちなパターンに、本棚の何処かに仕掛けられたスイッチを押すと隠し扉が現れるというものがある。が、そういうのは多分この図書室にはない。全ての本棚が一定の距離を保ち、尚且つ全ての本棚は地面と接してないのだ。全部浮いてるのに隠しスイッチでからくり的な仕掛けは作れないだろう。

 

ならば、空間のどこかに隠しているとしたら? 本棚そのものに隠しているのではなく、禁書庫と図書室を繋ぐ空間の繋ぎ目があり、そこから出入り出来るとしたら? そう考えたら禁書庫の位置を毎回変えることが出来る理由も納得出来るし、私がどんなに探しても見つからないのも納得出来る。実際、そういうことが出来る他世界のキャラを私は知っているし、もしかしたら禁書庫の向こう側にそいつがいるかもしれんな。まぁ霧雨魔理沙が言っていた「こわーい紫色の魔法使いとド変態マゾ」に関しては無視で。ド変態マゾの見当つかないが、まぁなんとかなるしょ。

 

「なぁ、大賢者。この図書室の何処かに空間の繋ぎ目らしきものは見えないか?」

 

〔はい、あります。十分程前にマスターが通ってきた道の真上に、非常に強力で隠蔽率の高い結界の入口があります。〕

 

「よし、じゃあこのコーヒーを飲み終わったらさっそく......、うん? 今十分程前って......」

 

私が大賢者の顔を睨むと、大賢者はプイと後ろを向いてスタスタと歩き始めた。え、えぇ? 何でそん時に教えてくれなかったの大賢者さん。意地悪過ぎません?

 

いろいろと言いたいことがあったが、取り敢えず大賢者について行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

〜 10分後 〜

 

 

〔虚無崩壊〕バキーン

 

「マジで禁書庫への入口があったし」

 

私たちは10分ほど前に通った道の上にたどり着き、虚無崩壊で無理矢理こじ開けることに成功させた。本当にあったのなら尚更聞きたい、なんでここ通った時に言ってくれなかったんだい大賢者さん?

 

〔行きましょう。〕

 

「やっぱガンスルーなのね大賢者さん」

 

何がなんでも話さない大賢者の後ろについて行き、境界線の向こうへと足を踏み入れる。体がゾワゾワと震えるような感覚が全身に伝わってきたが気にしない。サッと暗いトンネルのような道を歩き、光が差し込む禁書庫の中へと入り込む。

 

「ここが禁書庫......、うぇっ......魔素濃度が濃くて息が詰まりそうだ」

 

〔解。禁書庫では非常に強力な禁書の品質を落とさないために、常時高濃度で高密度な魔素を展開しています。普通の人間では3分も待たずに怪人・怪獣化しますがマスターは適性が高いので問題ありません。〕

 

「そう聞いて安心はしたが......危険だってことに変わりはないな。サッと「甦之書」を回収してとっととトンズラするとしよう」

 

魔理沙(結依)はそう言うと真っ先に目の前の本棚から漁り出した。禁書は他の本より量が少ないとはいえ、あらゆる世界からありったけの禁書が集められているため量は多い。闇雲に探したとしても目当てのものはそう簡単に見つかることはない。それでも必死に探し出そうとするのが、この結依魔理沙という人物(脳筋)である。

 

〔マスターはその辺の本棚で探してください。私は今から精神ネットワークにアクセスをかけて本を探し出します〕

 

「了解」

 

私は大賢者に返事を返すと、禁書を片っ端から取り出し、表紙を確認し、適当にぶん投げた。一部護身用に使えそうなものも回収しつつ、私はひたすらに甦之書を探す。多すぎて全然見つからないけどな。

 

 

 

 

昼休みの時間はとっくに過ぎていることも知らず、彼女らは禁書を探し出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ジブリール、誰かが結界を破って侵入したわ」

 

「分かっていますわパチュリー・ノーレッジ。侵入者はどうやら生徒会長と正体不明のムシケラのようですね。生徒会長は私が対処しますから、あのおこぼれに縋るムシケラは貴方たちが処理しなさい。それが終わりましたら、生徒会長に話をお聞きしましょうか。何か理由があるかもしれません」

 

「ベティは全然構わないけど、ジブリールはそれで大丈夫なのかしら。相手はあの大賢者なのよ」

 

「2分ほど時間は稼げるのでその間にそちらを片付けてください。」

 

「「わかったわよ」」

 

 

 

 

三人の図書局員は話を終えると、すぐに行動を起こせるよう準備を整えたのであった。

 

 

 

 

 

 

To Be Continued......

 

 

 

 

 







異形アリス可愛い。夏も忙しいが頑張って話を進めよう。ん? 番外編なんてもん作るからスピードが遅いですって? 全くその通りです。

だが、止められない♪ 止まらない♪ かーっぱえびせん♪



いろいろ紹介

ギルガメッシュ:『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』と『乖離剣エア』に残っていた残滓から再現されたギルガメッシュ。作品はFateシリーズ。性格は言うまでもなく傲慢で、隙あらば先生すら抹殺しかねない。雑魚に興味はなく、かといって強者が好きというわけではない。ギルに危険視されるほどの強者には大抵鉄槌が下される。逃れる方法は、とりあえずギルの視界に入らないこと。千里眼持ちだけど。

オールフォーワン:この人の場合、オールフォーワンの個性から再現されたのでは無く、オールフォーワンが今まで手に入れてきた個性(筋骨バネ化、膂力増強など)に僅かに含まれていた残滓が集合、合体して再現されたオールフォーワン。作品は僕のヒーローアカデミア。基本的に目立とうとせず、いつも俯瞰的にクラスを観ている。圧倒的なカリスマを持つが、やはりこの世界の住人たちのキャラが濃すぎて部下作りは難しい模様。優しそうな男性を装っているが、裏では結構アレである。

フランドール・スカーレット:ありとあらゆるものを破壊する程度の能力に残っていた残滓から再現されたフランドール・スカーレット。作品は東方Project。495年間幽閉されていたので精神年齢は非常に若い。クラスメイトの霧雨魔理沙とバルファルク、めぐみんと非常に仲良しこよし。とっても可愛らしい言動を取るが、戦闘や弾幕ごっことなると話は別。種族が吸血鬼なだけに身体的フィジカルは高く、能力がエグいので相手をする時は細心の注意を払おう。

バルファルク:よく精神外世界でお弁当の具材として犠牲になっている古龍種のモンスター。肉片や素材に残っていた残滓から再現された。作品はモンスターハンター。何故かフランドールと仲がいい。フランドール曰く、「優しくてカッコよくて、そして乗っていると気持ちいい」らしい。音速を超えるスピードと変形する翼が特徴。身体が大きいので学校内にいる時は体のサイズを小さくしている。頑張れば擬人化も出来る模様。

めぐみん:爆裂魔法「エクスプロージョン」に残っていた残滓から再現されためぐみん。作品はこの素晴らしい世界に祝福を!。同じ魔法使いである霧雨魔理沙とは仲が良く、またフランドールに関しては妹のように接している。一日一回爆裂魔法を放つのが彼女の趣味だが大幅な魔力消費により動けなくなるので、いつも魔理沙とフランとバルファルクが回収しに行く。なお、めぐみんという名はあだ名のように聞こえるが、あだ名ではなく本名である。




さて、図書局員から逃げ切れるだろうか。





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番外編3 2時限目 魔理沙の時間②




ゼロから始める愛のダンジョン。カタカタ骨の折れそうな図書室内。




登録者444人到達ありがとうございます。427人の時に祝いたかったのですがうっかり忘れてました。これからもよろしくお願いします。




 

 

 

「本、本、本、本......、本ばっかで頭可笑しくなりそうだわ。しかも題名も物騒なものばっかだし......」

 

結依魔理沙は前回、甦之書と呼ばれる禁書を探し出すために片っ端から本を取り出して調べていた。取り出してはぶん投げ、取り出してはぶん投げと繰り返している内に心も肩も疲労が蓄積し、現在は完全に寝っ転がっておやすみモード。つまり脳筋魔法使いは図書室という正反対の性質に殺され、見事に打ち負かされたのだ。うん、何言ってるのか分からん。

 

なんとなく手元に落ちていた本を魔理沙はヒョイと持ち上げて題名を確認すると、「ハリーポッター 〜 禁断の魔法 その① 〜」と書かれていた。絶対アバダケタブラだコレ。死ぬやつだコレ。危険だからコレもぶん投げとこう。

 

疲れきった肩をもう一度振り回し、遠くへ本を飛ばす。するとちょうど大賢者から連絡が入ってきた。

 

〔マスター、甦之書の所在を特定しました。〕

 

「マジ!? 場所は!?」

 

〔ここから真っ直ぐ78メートルほど歩いた後、右に100メートル進み、さらに空中に昇って左に41メートル、右斜め上方向に69メートル進み、そしてさらにそこから半回転して斜め上に31メートr.....〕

 

「すみません大賢者さん。覚えられん上に空中歩けません」

 

〔了。マスターの脳内に館内マップを表示しました。赤く光る点の場所が甦之書の所在地です。それとこれも渡しておきます〕

 

大賢者から謎の本を受け取った。

 

「これは......、リゼロの風系統魔法「フーラ」の書?」

 

〔はい。禁書庫に入る前に一つ回収しておきました。禁書庫内は魔素濃度が非常に高いため、今のマスターでも十分行使することが出来ます〕

 

「サンキューな大賢者。禁書庫にある風魔法って全て災害レベル並みだからマジで助かったわ」

 

〔仰せのままに。〕

 

そう言って大賢者は私に礼を捧げた。何だろう、私より圧倒的に強い大賢者に礼を捧げられるとむず痒い気持ちでいっぱいになる。これは単に私が本能的に大賢者に対して負い目を感じているんだろう。頑張って強くなろう。

 

私はフーラの書を抱えて、脳内マップを頼りに目的の場所へと駆け足で行った。今が何時か分からないが、早めに回収した方が問題を起こさずに済むかもしれない。そう思って、魔理沙はさらに速度を上げて走った。

 

 

 

しかし、問題の方からやってくるとは思わなかった。

 

 

 

「そこまでよ」

 

「図書室内の乱暴行為は御法度なのかしら」

 

ドゴォ!!

 

「うぉっ!?」

 

角を右に曲がった途端、カラフルな弾幕と紫色の結晶のような何かが私の進路を遮るように放たれた。急な出来事に驚き、後退りをし、私は撃ってきた犯人の顔を確認する。

 

撃ってきた犯人は二人。一人は紫色のちょっと変わった帽子を被った、年中パジャマのような格好をした魔法使い。もう一人は左右対称にぶら下がったゴールデンドリルが特徴の、お嬢様のようなドレスを着たロリ。

 

「......やっぱセキュリティクソ堅いじゃないか。まさか図書局員に動かない大図書館と禁書庫の大精霊がいたとはなぁ......」

 

私は二人の影を見上げながら、夢を見ているような浮ついた声を上げた。

 

犯人はパチュリー・ノーレッジとベアトリス。この学校の図書局員にして禁書庫を守る者の一人であり熟練の魔法使い。その二人が今まさに、私の目の前を阻んでいるのだ。

 

「魔理沙に似ているけど、あなた新人ね。今すぐ禁書庫から出ていくなら見逃してあげてもいいわよ」

 

余裕の表情で見下ろすパチュリー。

 

「許可無く禁書庫に立ち寄るのは校則違反なのよ。さっさと出ていくかしら」

 

ムッとした表情で言い放つベアトリス。

 

「......残念ながら約束はちゃあんと守るのが私のポリシーなんでね。五秒くらい見逃してもらおうか......、『フーラ(目潰し)』」

 

私は大賢者から受け取ったフーラの書を使い、鋭く短い突風を巻き起こす。多古場で9年間鍛えただけあって風の調節は完璧、低コストかつ相手を封じるにはやはり目潰しが丁度いい。一瞬の隙を作った魔理沙はベアトリスとパチュリーの間を全速力で駆け抜け、お目当ての場所まで目指す。

 

「遅い。『ヒューマ』」

 

だがベアトリスは瞬時に「扉渡り」と呼ばれる空間転移魔法で私の目の前に現れ、再び紫色の水晶を解き放った。

 

「ァ......ッブ!!」

 

何とか紙一重で避ける魔理沙だが、正直ギリギリである。何よりこの禁書庫は本棚だらけのため、単純にスペースが足りないのだ。魔法戦は基本、範囲攻撃が主体なので狭い場所だと追い詰められる危険性が高い。少なくとも常時動いてなければ弾幕に囲まれてボコボコにされるだろう。それだけは何としてでも避けなければ、弾幕ゲーだけに。

 

地上に居続けるのは不利だと悟った私はフーラの風を両足首と両手首に纏い、空中へと逃げた。これカッコイイけど重心が不安定すぎてかなり制御が難しい......が、何とか上手く扱って空中を移動する。

 

「人間の割に魔法の扱いだけは手慣れているのかしら」

 

ベアトリスがいつの間にか私の背後に現れ、後ろから細かい弾幕が次々と射出するが難なく避けていく。しかし反撃できない!

 

「小、中学校の青春を全て個性に注ぎ込んだからな。戦闘に関しては私はそれなりの経験者よッ!」

 

「たかが9年間の努力を誇らしく自慢するなど、愚かにも程があるのよ。さっさと死んでもらうのかしら」

 

「ハハハ教えてやろう、大事なのは量じゃあなくて質だ。掛け算を覚えるのに10年も費やす奴より、たった一年で掛け算も割り算も連立方程式も解けるやつの方が良いに決まってるだろゥ?」

 

「喧しい蝿ね。サッサと死ぬかしら、『アル・ヒューマ』」

 

ベアトリスの背後から魔法陣が5つほど出現し、それら全てが私を標的として捉えている。アル・ヒューマはヒューマ系魔法最上位クラスの魔法で、かなりの質量のある結晶を撃ち出してくるから絶対避けねばならない。

 

が、私にはとっておきの魔書を脇に抱えていた。大賢者は私のためにフーラの書を持ってきていたが、私だって護身用にいくつか魔書を持ち込んでいる。特に今の状況を覆すのにうってつけの魔書が一つ、あるんだよなぁ!

 

【燃え尽きろ、外法の業】

 

「ウィル・オ・ウィスプ!!」ボン!!

 

「ま、魔法陣が暴発!? お前何をしたのよ!!」

 

「発動直前の魔法を暴発させることの出来る魔法、ウィル・オ・ウィスプ。魔法使い殺しの魔法だぜ金色ロリ!!」

 

「そのロリという呼び名を止めるのかしら。無性に腹が立つのよ!!」

 

魔力暴発により魔理沙との距離を離された挙句、金色ロリ呼ばわりされてキレ気味のベアトリス。離れたとしても遠距離から魔法攻撃は可能だが、その分弾速が予測されやすいため当てるのがとても困難だろう。ベアトリスはギッと歯ぎしりをしつつ、再び魔理沙の後ろを追いかける。

 

ベアトリスの悔しそうな表情を見て、安心した魔理沙。このまま目的地まで突っ込めば何とかなるかもしれない。

 

「これで距離を稼げt」

 

「『シャマク』」

 

「目があああああああああああッッ!!!!」

 

「甘いのかしら」

 

どんなに距離を離したところで、ベアトリスの「扉渡り」から逃れることは出来ない。そのことを忘れていた魔理沙は背後からのシャマクに対応出来ず、目の前が真っ暗になってしまった。

 

ベアトリスは再びアル・ヒューマを放つべく魔法陣を形成する。不意打ちにシャマクを使用したのは、ウィル・オ・ウィスプを封じつつ確実にダメージを与えるためだ。悔しい表情も魔理沙を騙すための演技であり、完全にベアトリスが魔理沙より上をいった瞬間であった。

 

「さようならなのよ脳筋魔法使い。お前はここで終わるのかしら」

 

五つの魔法陣が怪しい光を帯び、エネルギーが蓄積されていく。今はただの人間である魔理沙が生粋の魔法の使い手であるベアトリスのアル・ヒューマを直撃で喰らうことになれば、四肢を欠損し腹に風穴を空けられて絶命することになるだろう。そうなることを知っていて尚ベアトリスは止めない。

 

何故ならここは弱肉強食で非情で非常識な世界。傍若無人、阿鼻叫喚、有象無象、酒池肉林.....、種族を問わず誰でも参加出来る実力至上主義の究極のエンターテインメント。これが、これこそが、「異世界かるてっと(アルティメットカオス)」である。

 

「そんなクソみてぇな世界なんぞあってたまるかァああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

「『アル・ヒューマ』」

 

五つの巨大な紫水晶が隕石の如く降り注ぐ。たった一人の人間にここまでするかと言わせるほどの質量弾に魔理沙はどこから撃たれたかすら気づいていない。魔法耐性が皆無なため、シャマクが思った以上に効きすぎているようだ。

 

メギョ

 

何かが潰れた。いや、普通に考えれば潰れるのは私の体のはずなのだが、潰された感触が一切無い。チラとベアトリスのいる方向に目を開けると、そこには複数の紫水晶が刺さったある人物と、その人物を盾にして私を守ってくれた大賢者がそこにいた。

 

「大賢者ァああああああああぁぁぁ!!!」

 

〔ご無事でしょうかマスター。無理はなさらずにお気をつけください〕

 

「あっ、はい。サンキュー」

 

あまりにイケメンすぎる大賢者の登場に私はまた感動の涙を流しかけたが、いつもの素っ気ない大賢者のセリフを聞いて冷静になる。

 

「で、その人は誰?」

 

〔図書局副局長、神殺しの兵器、天翼種(フリューゲル)にして最後の番外個体(イレギュラー)、『ジブリール』です〕

 

「ジブッ......ン!!?」

 

ジブリール。かつて神「アストルフォ」に作られた神殺しの兵器であり、ジブリールは最後にして唯一の不完全個体。不完全であるからこそ彼女は知識と経験を蓄え、数多の種族を屠ってきた。ちなみに魔力を使い過ぎると幼女化する。

 

「あらあらぁ? Meをshield代わりに扱うなんてCrazy極まりないですわ大賢者。生徒会長なら何でも許されると思って?」

 

尚、ド変態マゾである。

 

〔......。〕ブンッ

 

「大賢者が無言でジブリールを投げた!!?」

 

ジブリールの発言をガン無視し、大賢者は無言でジブリールの身体をぶん投げた。しかもベアトリスを巻き添えに出来るよう投げる方向を調整してだ。

 

「ジブリールこっちに来ないで欲しいのかし.......ぐわなのよッ!!」

 

扉渡りすら行えずに見事ベアトリスはジブリールと共に本棚に叩きつけられる。よし、過程はどうあれ二人片付いたし、今が甦之書を手に入れるチャンスだ。グッバァイ〜、ベアトリス&ジブリール(DIO風)。

 

一つ突っ込むとしたら、断末魔が「ぐわなのよ」って可愛すぎないかあの幼女。後でなでなでしに行こう。

 

「で、何でジブリールと大賢者が喧嘩しているの? 図書局副局長って言ってたから襲われたのか?」

 

〔はい。奇襲を仕掛けられたので反撃をしました。また、戦闘中にてマスターの状況を確認後、個体名:ジブリールを誘導し上手く盾として機能させました。〕

 

「......ありがとう」

 

流石ですわ姉御、マジ感服致しましたワレィ。

 

とりあえず落ち着いてきたので大賢者に指示を出す。正直大賢者さんだけで全てが片付きそうだが、私だって活躍しているところを見せなくてはな。

 

「大賢者、あの二人の後始末は任せた。その間に私は禁書を取ってくる!」

 

〔了。〕

 

「私を忘れてはいないでしょうね?」

 

ハッと前を向くとそこにはパチュリーがいた。最初の目潰しから姿を現さなかったのが気がかりだったが、案の定何かを施したようだ。妙に自信アリアリな様子がまさに怪しい。

 

「貴方たちがドンパチやっている内に地雷と結界を施させて貰ったわ。さぁ、奪えるものなら奪ってみせなさい? 火&土符『ラーヴァクロムr』」

 

【燃え尽きろ、外法の業】ボンッ!!

 

「むきゅっッ!?」

 

抱えていた魔術書が爆発し、パチュリーは素っ頓狂な声を上げた。流石はウィル・オ・ウィスプ、初見じゃ絶対対処出来ない魔法だぜ。

 

スペカ宣言をされる前に魔力暴発を起こし、何とか阻止することが出来た魔理沙。いろいろと派手に動いたため目的の本の場所からは離れてしまったが、後方にアル・フーラを噴出すれば強烈な推進力で行けそうな気がする。というかサッサとしないと5時間目の授業遅れる!!

 

※既に遅れています。

 

「アル・フーラ!! 一気にカタをつけるッ!!」

 

「させないわよ......、金&水符「マーキュリーポイズン」!」

 

高速で移動する私の背後から金と水色の弾幕が交差しながら襲い掛かる。マーキュリーポイズンの弾幕の動きは直線ではなく弧を描くように前へ進み、さらに金の弾幕と水色の弾幕では左右の動きが逆な為、避けづらいが特に問題は無い。上手く本棚の曲がり角や空中を活用し、左右に迫ってきた弾に注意すればどうてことはない。

 

ただ、そろそろチュロスのイマジネーションが切れかけているのが不味い。またワンピースの時みたいに意味不明なエンディングを迎えるのはゴメンなのでサッサとカタをつけよう。

 

 

グングンと空中を上昇し、脳内マップの通り目的の本が納められている本棚の近くまでやってきた。しかし見つからない。すぐ近くにあるはずなのだが、他にも本が大量に有りすぎて見分けがつかん。木を隠すなら森の中とはよく言ったもんだ。

 

悠長に探そうとすると弾幕の餌食になりかねないので、私は空中を飛び回りながら本の題名を読んでいった。自分の速度が早すぎて全部を読むことは難しいが、なんとかするしかない。

 

目を凝らして題名を探していると、一瞬、「甦」という字が見えた気がした。魔理沙は一旦ブレーキをかけて速度を落とし、字が見えた場所まで戻っていった。すると......

 

「よっしゃあああああああああああああああああああああああああ!!!! 『甦之書』見つけたぞぉぉおおおおお!!!」

 

ついに見つけた甦之書。今までの苦労も相まってガッツポーズを取ってしまった魔理沙だが、弾幕はお構い無しに襲ってくるので被弾には気をつける。いやしかし、やっと禁書を見つけたぞ。本当に苦労した甲斐があった! よっしゃあ!!

 

「じゃあ回収しy...い"ぃ"っだい"手が痛い!!」

 

さっそく魔理沙は本に手をかけたが、強力な結界に弾かれてしまった。おのれ紫モヤシ......、お目当ての本にわざわざこんなクソ結界を張りやがってこのやろう。ここまで来たのに手に入れられないなんて.......、畜生。

 

「いやまだ何とかなるはずだ。結界を張った張本人さえ倒せれば......」

 

私は遠くから弾幕を放ってくるパチュリーを睨みつけ、もうひとつの魔書を脇から取り出した。ウィル・オ・ウィスプの射程圏外からパチュリーは弾幕を放っているので、別の魔法を使うとしよう。

 

「呪文「ヘブンズ・ゲート」発動!!」

 

そう唱えた瞬間、光の魔法陣が目の前に描かれ、中から巨大なモンスターが二体出現した。流石はTCGデュエルマスターズ、いいモンスターが現れたじゃないか。この呪文を簡単に説明すると、二体の光文明の、『ブロッカー』という役割を持っているモンスターをノーコストで手札からバトルゾーンに出すという能力だ。まぁ、とりあえず二体の巨大なモンスターを召喚したと捉えてくれて構わない。

 

「さぁモンスターよ、片方はこの結界を破壊し、もう片方はあの紫パジャウーマンを片付けろ」

 

「誰がパジャウーマンよ」

 

\オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"/

 

活きのいい咆哮を上げ、二体のモンスターはそれぞれの役割をこなすべく動き出した。モンスターAはその巨体を活かした立ち回りと尋常ならざる耐久力、防御力でパチュリーを追い込んでいく。弾幕が彼の鎧に直撃しようともビクともせず、右手に携えた巨大な剣が弾幕を空間もろとも切断する。これでパチュリーは私を邪魔することは出来ぬ。後はモンスターBが結界を壊してくれれば万々歳なんだが。

 

「壊れる?」

 

\ヴゥ"ヴヴゥヴ/

 

「そうか、ダメか。......あぁん"もう、もっと私にパワーがあればいいのに!!」

 

結界を壊すなら今しかない。時間が経てばあのモンスターAとはいえパチュリーの何らかの策で封じ込められるか、戦闘不能にされるだろうし、大賢者はジブリールとベアトリスの二人を抑え込んでくれている。だが長時間も戦い続ければ、スタミナ切れになって負けてしまうだろう。

 

〔否。私はスタミナ切れを起こすことはありません。ご了承ください〕

 

「あっ、ハイ」

 

急に大賢者の声が頭の中から響いた。どうやらスタミナ切れは起こすことは無いらしいのでそっちは安心するとしよう。まぁ、とにかく今結界を壊さなければ恐らく次のチャンスは難しい。ヘブンズ・ゲートに持ってかれた魔素の量が異常に多く、もう私は結界の近くで魔法を使うことが出来ない。フーラによる飛翔効果も切れたので、この結界の周りの魔素が再び満たされるまで私は逃げることも出来ない。これヘブンズ・ゲート使わない方が良かったんじゃないかって今更考えるようになったが、もう成るようになれ。もう死ぬ気で結界を殴り続けるしか道は無いのだ。

 

「うぉおおおおおおおお!!! 一発一発に殺意を込めて殴り続けろモンスターB!」

 

一生懸命、結界を殴り続けるモンスターBを全力で応援する魔理沙。このミッション攻略の最後の鍵はモンスターBに託されたといっても過言ではない。頑張れ、モンスターB。生きて帰ったら、一緒に酒屋にでもいってビールを酌み交わそうぜ。未成年だけどな。

 

BGM(曲名) 〜 ROUNDBOUT 〜

 

なんか悲しげなギターのような音が聞こえてきたが、気にせず結界を殴り続けるモンスターB。だがギターの音以外にも別の音が聞こえてくる。空を切るような鋭い加速音、微かにエンジン音も聞こえる気がする。何だ、一体何が迫っているというのだ。

 

ジョジョにエンジン音が大きくなっていき、確実にこちらに迫っているということが分かる。だが振り向いている暇など無い。振り向いている暇があったら結界破壊の作業に精を出さねば、頑張っている大賢者に申し訳がない。

 

「.......ぃ......。」

 

「け.........ぃ......ッ!!」

 

誰かが叫んでいる。誰だ? 図書局のヤツらが叫ぶわけないし、大賢者じゃあるまいし。

 

「結依ッ! 迎えに来てやったぜー!!」

 

結依魔理沙は振り向いた。聞き覚えのある声に、聞き覚えのある口調、声の正体を知りたいという欲求に耐えきれず、結依は振り向いてしまった。そして私は後悔した。知らない方が幸せだったと、己の背後の光景を見て確信した。

ドゴンッッ!!!

意識が吹っ飛びかけるほどの莫大な衝撃を受け、モンスターBの肩から退場してしまった。私の体は空中で大回転を起こし、空へ舞いあがる。どうやらこの図書室は、多分空間を弄って全体の大きさを曖昧にしているのだろう。結構上に吹き飛ばされたというのに、天井らしきものに近づいている感じがしない。

 

 

最大の高さまでたどり着いた私の体は、後は重力に従って落下するのみとなった。落下中、私は5人の人物を目撃した。一人は銀翼の翼を携え、音速で結界に突っ込んだアホみたいな古龍。もう一人は私と同じ様に巻き込まれてしまった紫パジャウーマンの死体(気絶)。3人目も同じくして風穴を空けられたモンスターB。4人目は銀翼の古龍の背中にて楽しげな表情をしている、私と同じ格好をした白黒の魔法使い。5人目は白黒の魔法使いと共に、古龍の上ではしゃいでいる狂った吸血鬼。

 

「キャー!! 今の凄い楽しい!! バルちゃんもう一回やってー!」

 

「キィィン.....」

 

「おーい大丈夫か結依ー。甦之書は手に入れたー? って、結依どこいった?」

 

結界が張られていた場所に大きな風穴が出来ていることを確認した私は、狂ったように笑い出した。笑っている上に涙もちょっと溢れてきた気がする。賽の河原でせっせと石を積み上げていたら、鬼にぶっ壊された挙句に草野球チームに強制参加させられたような気分だ。心底解せない。

 

 

"種族問わず誰でも参加出来る実力至上主義の究極のエンターテインメント。これが、これこそが、「異世界かるてっと」である。"

 

 

「こんなクソみてぇな世界あってたまるかァアアァアァアアァアアアアアアアッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued......

 

 

 

 







次で魔理沙編を終了し、この番外編もいったん終了ですかね。またやる機会があったら、またその時に。


遅れて申し訳ない。多分、八月以降からペース上がると思うので、よろしくお願いします。


流石にヒロアカ4期までには大体終わらせたいなぁ。



いろいろ紹介

ROUNDBOUT:海外でジョジョの奇妙な冒険のTo Be Continued...が流行ってる? らしく、その時に流れる曲。ついやってしまった。




Thank you!



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番外編3 3時限目 魔理沙の時間③




お久しぶりです。



ちょっと急ぎ足に書いたのでアレ? と思う部分が多いです。あと量が非常に多いです。1万文字です。飽きてしまったらすみません。適当にスクロールして下さい。




ただし、覚悟をしておいて下さい。



???「覚悟とは!! 暗闇の荒野に!! 進むべき道を切り開くことだッ!」








 

 

 

 

結依魔理沙、絶賛落下中。

 

 

「クッッッソガァアアアアアアッ!!!!」

 

 

訳の分からない展開に訳の分からないエンディングを迎え、訳の分からない悲劇が訪れた私だったが、何故か頭は冷静であった。いや、恐らく大賢者との契約のお陰なのだろう。どんな窮地に立たせられても冷静な判断を欠かず、最適解の打開策を練る大賢者さんの力の一部が私に流れ込んでくる。大丈夫、ウィル・オ・ウィスプの書とヘブンズ・ゲートの書は衝撃で落としてしまったが、フーラの書だけは辛うじて守りきることが出来た。さらにヘブンズ・ゲートを使った場所から離れているおかげで魔法も使える。まだ私は戦えるのだ。頑張れ私!!

 

「フーラッ!!」

 

再び両手首と両足首に風を纏い、最小限のエネルギーで最大限の機動力と推進力を手に入れる。落下状態から体勢を立て直そうと全身に力を入れるが、落下速度が速く、全身に過負荷が襲う。

 

「ッ......、危ねぇ」

 

姿勢を正常に戻した時には地面スレスレまで近づいていた。危うく落下死するところだった。

 

「が! 死にかけたおかげで私の脳ミソがアドレナリンでひッッじょぉーに燃え滾ってきた!! 覚悟しな図書局員と霧雨魔理沙及びその他二名! 魔理さんを怒らせたらどうなるか、その脳髄に叩き込んでやる」

 

謎の決意が溢れ出し、頭上を睨みつける結依魔理沙。ここまで粘ってきてやっと禁書を見つけたというのに、依頼人本人が首突っ込んだ挙句に私を叩き落とすなど言語道断。許されざる行為だぜ。

 

魔法武装(マジックウェポン):カゼツルギ」

 

魔理沙は右手に風の剣を作り出し、空中へと掛けていく。この魔法武装は両手首に纏わせたフーラの応用であり、魔素回路を上手く剣の形に整えたのだ。昔に比べて随分と器用になったもんだぜ。今でもブッパは好きだけどな。

 

右手の風剣を構え、グングンと上昇していく。真っ直ぐに上だけを見据え、空高く飛び立とうとする。

 

「....ゼェ、.....ゼェ、.....帰ってきたァ!」

 

「あ、おかえり結依」

 

「魔理沙ァ....死ぬかと思ったぞテメェ.....ッ」

 

「まぁまぁそう怒んなって。生きてたんだから良かったじゃんか」

 

「キィン」

 

何とか落下前の位置に戻って来ることが出来たが、妙に霧雨魔理沙が余裕そうな表情でイライラが復活する。というかもう少し心配しろ、こちとら命張ってんじゃい!!

 

しかしバルファルクの鳴き声が可愛いので許すッ!

 

「あ、バーンに立ち向かってって返り討ちにあった魔理沙似のお姉ちゃん!」

 

ひょこっとバルファルクの鱗の隙間から現れたのは、我らが一年A組の天使に近い悪魔、フランドール・スカーレット。何しに来たのかは全然わからん。

 

「......はい、何ですか。」

 

「お姉ちゃん、じゅぎょうサボってフランに内緒の遊びしてるなんてズルい!! フランも混ぜろ!」

 

「いやね? これ遊びじゃないからね? 私はただそこのキノコ魔法使いとの約束を果たすために.......」

 

「はーい、ゴタクはいりませんっ! 早くフランを遊びに混ぜるか混ぜるかどっちかにしないと...、キュッとしてぇ〜、キュッとして〜〜、キュッとしてー」

 

「わかった、分かったから右手を握りしめるのは止めてくれ。死ぬ」

 

「お姉ちゃん、物わかりがいいね! じゃあ遊びに行ってくる〜」

 

そう言うとフランは飛び立っていった。何で遊びに行くのに私の許可がいるのか意味不明だったが、とりあえずフランの遊び相手にはご冥福を祈っておこう。アディオス。

 

そして微妙にフランのキャラがブレているのは気の所為だろうか。

 

〔国語の授業の賜物です。〕

 

そして脳内に直接送られた大賢者の言葉ァ!

 

「それは良かった。語彙力がアップして人を恐喝出来るくらいには成長したとかどんな皮肉だ」

 

〔国語の授業の賜物です。〕

 

曲げない大賢者を無視して、私は霧雨魔理沙に歩み寄る。わざわざ依頼しておいて自ら突っ込んだ理由を聞かねば、私の心が静まらん。

 

「で、何で来たの」

 

「そりゃあ帰りの会になっても戻ってこないお前を心配して来てやったんだぜ。感謝するんだぜ」

 

「え? もうそんな時間?」

 

「そんな時間。」

 

結依魔理沙、ここにてやっと今の時間を知る。ここの図書室及び禁書庫内は常に明かりが灯されている閉鎖空間なため、時間の流れが全く読めないのだ。入学早々サボりをキメたことになるな。

 

「あー、後、バルファルクが突っ込んだおかげでお目当ての禁書に張られていた結界がぶっ壊れたわけなんだがー、ちゃんと回収出来た?」

 

「もちろん。ここにあるぜ」

 

そう言って霧雨は胸ポケットから禁書「甦之書」を取り出した。どうやら上手く手に入れていたようだ。良かった、さっきの衝撃で禁書がバラバラになりましたとかにならなくて非常に良かった。

 

「てことは目的達成か。よし、帰る」

 

「もう少し漁っても許されるんじゃないかなぁ。ここは禁書の宝庫だからな」

 

「却下。もう二度と私は禁書泥棒はしないからな」

 

「へいへい、了解なんだぜ。」

 

渋々了承した霧雨魔理沙はバルファルクに話をつけ、ここから脱出するよう指示を出す。

 

「しっかり捕まれよ結依」

 

「わーってるよ。ただ、バルファルクの鱗って結構切れ味gァアーーッ!!」

 

喋る間もなく急発進する超特急バルファルク号。流石は音速を超える古龍、風圧と身体にかかる負荷が大きすぎてうっかり手を離しかねん。だが離してしまえばそれこそ人生の終了を意味するので、死ぬ気でバルファルクの鱗を握りしめた。

 

「ぁぁああそういえば! 大賢者とフランを置いてっテッっ!!? ......、シタカンダシ」

 

「あー、アイツらなら大丈夫だ。なんてたってウチのクラス最強候補の二人なんだからな。まぁ、それ言ったらほとんどのヤツらが最強候補に入るわけなんだが......」

 

「タッ、タチカニ」

 

「とはいえ、一瞬だけだがジブリールの姿が見えた気がするんだよなぁ。このまま上手く脱出出来るとは思えないぜ」

 

「......、大賢者。」

 

話しているうちに不安が芽生えてきた結依魔理沙。さっきまで、「大賢者なら何とかなるでしょ」と楽観的に状況を捉えていたが、何だか嫌な予感がする。とりあえず様子だけでも見ておきたい。

 

「バルファルク、大賢者のところまで連れてってくれないか?」

 

「キィン」

 

「おい結依、何考えてんだぜ。今あそこは恐らくとんでもない争いが起こッーーッ!!」

 

話が通じたのかバルファルクは大賢者のいる方向へと転換し、超スピードで激戦区へと突っ込もうとする。本も本棚も空気も何もかもを引き裂き、加速音が鳴り響く。

 

強烈な衝撃が全身を伝い、爆音が鼓膜を突き破ろうとした時には、我々は激戦区の中心に降り立っていた。まだ反動の震えが止まってはいないが、周辺の状況を確認すべく辺りを見回してみる。左を振り向くと、両手に何やらおぞましいほどの破壊力を持ったエネルギーが圧縮され、集中している状態で構えを取っているジブリールの姿があった。

 

「あらら? 大きなトカゲの上に乗せられただけのヒューマンがイキリたって何をしに来たのでしょうか。まさか、非力な貴女方が委員長を助けられると勘違いをしてしまったのでしょうか?」

 

「ハァ....ハァ..、もちろんその通りだぜお姉さん。なんてったって友達なんだからな」

 

「キィヤアアアアアアアアアアア!!!」

 

「......この様子じゃあ弾幕ごっこで済みそうにないな。覚悟を決めたんだぜ」

 

相対する一人と三人。大賢者との戦闘により衣服がボロボロだが、気迫は一切衰えず、神のイカヅチのような金色の雷が両手の中で発光している。私見だが、あれは恐らくジブリールの魔法「天撃」を両手に纏っている。天撃は広範囲に強烈な魔法攻撃を食らわせる魔法であって被害が大きい。よって、その破壊のエネルギーを両手に圧縮することで被害を最小限かつ攻撃力を最大限に引き出しているのだろう。なんて器用な......。

 

〔警告。マスターが個体名:ジブリールに勝利する確率、3%〕

 

反対側から声が聞こえ、振り向くとボロボロの大賢者がそこにいた。だが大きな傷跡やらは見当たらないため、恐らくジブリールと同じく小さなダメージが多く蓄積されているのだろう。そんなボロボロな大賢者は、私達のためにボロボロのまま警告をしてくれた。

 

「ありがとう大賢者。勝率3%、FGOの闇課金ガチャから最高レアリティが出てくる確率より倍はマシだぜ」

 

吐き捨てるように言うことで己を奮い立たせようとする結依魔理沙。実際のところ勝率とガチャの排出率を同等に扱うのはお門違いではあるが、こうでも言わないと足が震えて前に踏み出せん。要は気持ちの持ちようってことだ。

 

 

それに希望はまだある。

 

 

霧魔理(きりまり)、バルファルク、私と今すぐ契約してくれ」

 

結依の言葉を聞いた霧魔理(霧雨魔理沙)は、何かを察したような表情をする。

 

「なるほど友達契約ね。ちょうど()()が一つあるし、今ここで約束を果たすのもアリなんだぜ。」

 

「キィンイン」

 

結依の考えを汲み取り、二人と一匹の手が重なり合う。お互いにそこまで深い関係が無いにもかかわらず、彼女らは手を取り合い、強大な敵を倒すべく力を合わせる。種や世界線を超えた熱きタッグがここに今、爆誕する。

 

 

「「「友情合体!!!」」」

 

 

「ブレイブ!」

 

「ファイヤー!」

 

「キィィンッ!」

 

「グレートバーンガーンッ!!」

 

 

背後で爆発エフェクトが発生しそうなほど綺麗にセリフを決め、ついに爆誕した現段階最強形態。通称、「友情合体」。セリフ含め某ロボットアニメの丸パクリとかそういうのではなく、これは友情契約したもの同士が為すことの出来る合体技。全ステータスが飛躍的に上昇し、さらに合体した契約者の能力を全て扱うことの出来る究極の奥義である。

 

尚、姿に関しては結依や霧雨の身体をベースに、ところどころ銀色の鱗や翼が生え、亜人種のような見た目へと変化している。

 

「ついノリで言ってしまったが、契約一つでこんなことも出来るなんてな......」

 

「私も初めてやってみたが、ここまで綺麗に決まるとは思ってもみなかったぜ。二人ならよく見かけるが、三人でも成功するもんなんだな」

 

「キィン」

 

一つとなった身体で三つの意識が話し合う。第三者目線で見れば不審者として通報されかねないが、今はそんなことを気にしている暇は無い。

 

「三人合体!! ただのムシケラだと思っていましたが、まさかこんな現象を引き起こしてくれるなんて思ってもみませんでした! ならば、私もそれなりの誠意を見せなければなりませんね」

 

ジブリールはついさっきまで消していた天撃の力を再び呼び起こし、両手に纏わせた。稲光がジブリールの両手を中心に発生し、死の匂いが目の前を覆い尽くす。

 

だが彼女らは屈しない。彼女らは正真正銘、一人ではなく三人で戦っているのだから。

 

「「人間様を舐めるなよ」」

 

その言葉と同時に、彼女らはバルファルクの翼を展開し、圧倒的な瞬発力でジブリールとの距離を詰める。轟音と風圧が周囲の物体を彼方に吹き飛ばし、迫り来る。

 

「皆ジブリールの両手にだけは絶対触れるな!」

 

「避けられるものなら避けてみてください」

 

迫り来るジブリールの両手。秘められた破壊のエネルギーは掠ってさえなお凶暴で、凶悪で、全てをかき消しされてしまう。

 

「エンジン起動! 瞬間加速!」

 

触れるギリギリのラインで真横に避け、死角へと潜り込む魔理沙たち。合体したことによる全体的なフィジカルアップとバルファルクの生体エンジンが可能にした立ち回り、我々ながら上手い身のこなしだと賞賛できる。だがそれを予測していたのか、ジブリールは左手を既に背後にまわし、強力な爆発系魔法を放った。

 

「キイィインッ!!」

 

「その程度のお遊びで私に触れられるとでも?」

 

両足が地面を擦り、摩擦が熱を発生させる。痛い、なんとか体勢は維持出来たが足の皮がベロベロにめくれて激痛が全身を走る。勝てそうな未来が一切合切見えてこなくて、さっきからネガティブな思考が私を邪魔してくるが、無理矢理頭から追い出して気合を入れる。勝たなきゃ死ぬ、だから勝つのだ。

 

魔理沙たちは周りに散らばった魔導書に目を向ける。ジブリールに隙はないし、強くなったとはいえ私達にはやれる限度というものがある。ならば手数と戦略で乗り切るしかない。これが今私が出来る精一杯の考えで、いつもの私の考えだ。

 

「......三つ、そこと、そこと、そこの魔導書を、ジブリールになるべくバレないよう回収するんだ。それ使って何するかは......察してくれ」

 

「了解。やりたいことは何となく理解したが、結依はそれでいいのか?」

 

「...あぁ、別にいい。」

 

「......わかったんだぜ。」

 

「キィィン。」

 

言葉が足りなくても、理解してくれる仲間がここにいる。その素晴らしさを身に染みながら結依は、ある作戦を実行する。勝率3%の微かな希望にかけて。

 

「大賢者、わかってんだろうな?」

 

〔......御意。〕

 

「...よし、全員突ッ込めェ!!」

 

全員(一人)による総攻撃がジブリールを倒すべく動き出す。意思が三つあるとはいえ、私達の目的が一致している今、一瞬のブレなど起こることは無い。近づいてくる私達にジブリールは何度も魔法弾を撃ってくるが、身体を上手く逸らして回避する。

 

「ならばこんなのはどうでしょう?」

 

ジブリールが右手を天に掲げると、私達の足元に青白い光が照らされる。危険を察知した私らはすぐさま横に回避すると、照らされた場所に雷撃が発生した。これで終わりかと少し安心した私達だったが、あの雷撃を合図に地面が点々と照らされていく。

 

ちょこまかと動く我々をジブリールは無差別雷撃で動きを崩そうと考えたのだ。

 

 

無数の雷撃が視界を覆い尽くす。

 

 

「危なッ! これじゃ作戦が実行できねぇ!」

 

「おい結依、なんとかならないのか?」

 

「あっぶ!! 何とかしたいが今は何も思いつかん!!」

 

〔私に任せてください。〕

 

「大賢者!?」

 

雷に翻弄され、思うように動けなくなった私達を救うべく大賢者がジブリールに向かって走り出した。足元に降り注ぐ青白い光が地面に到達するタイミングを見越し、最短最速の経路を通ってジブリールの元まで近づいていく。

 

〔契約:虚空之神/虚無崩壊・形状変化〕

 

全てを無へと還す破壊のエネルギーが大賢者の両手に集中し、双剣のような形へ変化する。大賢者はその禍々しい暗黒の双剣を手馴れた手つきで操り、変則的な軌道でジブリールの身体に刃を突き立てようとする。

 

「そんなにあの方が大事だとでも言うのでしょうか? 貴方様のような優れた方が、あのような人間になぜ肩を貸すのでしょうか」

 

〔解。彼女は私のマスターであり、友達であり、仲間です。これ以上の理由は有りません〕

 

「随分と人間臭くなりましたわね大賢者。昔の方がもう少し叡智でありましたわッ!!」

 

天撃と虚無崩壊の斬撃が衝突を繰り返す。たとえ圧縮したとはいえ、両者ともに全てを破壊するエネルギーを身に纏っている。そんな危険な代物がぶつかり合えばどうなるか、その後の展開は直ぐに予想が出来た。衝突を繰り返す度に青白い閃光と漆黒の雷が弾け合い、衝撃波があらゆる物体を消滅させる。

 

そのおかげか無数の雷が消滅し、あの二人に集中する形となった。だが二次被害がヤバい。二人の間から破滅の衝撃波が発生して近寄れない上に、飛んできた衝撃波が周りの物体を片っ端から消滅させている。このままでは私の作戦に必要な三つの魔書まで消されかねん。早々に回収せねばならん。

 

「大賢者が引き付けている内にさっさと魔書を回収するぞ!!」

 

「させませんわ」

 

大賢者と戦ってなお余裕があるのか、ジブリールは空いた右腕の掌から高速のミニ天撃弾を放つ。

 

「そう来ると思ってたぜ、合体解除!」

 

天撃弾が当たる直前に分離し、上手く避けることに成功した私達。そしてジブリールが驚いた瞬間を逃さずに私と魔理沙は魔書を回収すべく、ローリングをしながら目当ての本を手に入れる。バルファルクはどうするかと言うと......、

 

「キィイィイインッ!!!」ドゴォンッ!!

 

その身体の大きさと速さを使い、私と魔理沙の動向に気を向かせないのがバルファルクの役目。バルファルクはその大きな掌でガッチリとジブリールの身体を掴み、重量とスピードが乗った状態で大きく本棚に叩きつける。

 

だがそれでも、この化け物を倒すには力が足りなかった。

 

「...トカゲの分際で私の身体に気安く触れるな」

 

ジブリールから強烈な覇気と魔力爆発が発生し、バルファルクの身体は大きく吹き飛ばされる。

 

「バルファルク!! おい魔理沙、魔書は回収出来たのか!?」

 

「落ち着け結依、魔書はちゃんと回収しているんだぜ。あと残りの一つは......、そこだ!!」

 

魔理沙の指差す方向、それは最後に回収すべき魔書の在り処......なのだが、そこはちょうどバルファルクとジブリールの間の真ん中であった。

 

「アレ、アレをどう取れと.....」

 

「私に任せるんだぜ」

 

霧雨魔理沙はそう言うと、ホウキを使ってジブリールの目の前でサッと降りた。何考えてるのかサッパリ分からなかった結依だが、霧魔理の言葉を聞いて考えを察する。

 

「私の友達をよくも吹っ飛ばしてくれたな、図書局副局長」

 

「これはこれはいつも大切な本を堂々とSteelするpoor witch、霧雨魔理沙様。今日はどのようなbooksをお探しで?」

 

「相変わらず癪に障る紹介ありがとよ。今日の当番がお前だと分かってたら、こんな大規模な窃盗なんてしなかったけどな」

 

霧魔理はジブリールと会話をしつつも、手を後ろに回して結依にこっそりとサインを送っていた。

 

(時間稼ぐから今のうちに....か、了解)

 

了解と心の中で言いつつも、具体的にどうやればあそこにある魔書を回収出来るか見当もつかない結依魔理沙。不意打ちの通用しない相手の目の前で本を回収したら、怪しまれて即刻天に召されてしまう。果たしてどうすればいいのやら。

 

動けない私に気づいた霧魔理はジブリールにバレないよう、足で目当ての魔書を結依が取りやすい位置まで蹴飛ばした。ナイスファインプレー、これならこっそりと回収出来る。

 

直ぐに私は行動を起こし、魔書の回収に向かう。バルファルクの体を上手く盾にしながら目当ての魔書に手を伸ばす。鱗がチクチクして何とも言えない気持ちだが、あとほんの数センチ手を伸ばせば届きそうだ。

 

「甘いですわ人間。私が見逃すとでも?」

 

「イ"ッッツ"あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

「結依!!」

 

手が届くギリギリのところでジブリールは指先から熱光線を放射し、結依の手の甲を貫通させる。久方ぶりの尋常ではない痛みが脳をガンガン揺らしていく。痛覚無効を常時発動していたあの頃がまるで夢だったかのような、遠い思い出に感じてしまうのは気の所為だろうか。それほど私は痛覚無効が恋しい。

 

痛みを堪えながら、私は立ち上がる。手を焼かれたが、もう片方の腕で取り損ねた魔書を回収する。この時なぜジブリールは追撃を仕掛けて来なかったのかは謎だが、この時の私はそんなのことを考えている余裕は無かった。

 

「ぃぃいいいいい!!! い! でもッ、これで魔書は全て揃った!! 覚悟しろジブリール、テメェのターンは終わりだ!! 半永久的に私のターン!!」

 

「ほぅ.....、対私用に何を準備していたのでしょうか。ムシケラの最後の悪足掻きをぜひ見してください」

 

「魔理沙! 魔書カモン!!」

 

「投げるからちゃんと受け取れよ」

 

パシッと霧魔理から魔書を受け取った結依は、本の背後でニヤリと笑う。そろそろ決着つけないと本気でワンピースの時みたいに訳分からんBADENDが始まってしまうから、最後は最大級の技を撃って綺麗に締めるとしよう。

 

「超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣、超暴走魔法陣......」

 

説明しよう。超暴走魔法陣とは、魔法の暴走確率をとんでもなく底上げすることの出来るドラクエの奥義的な魔法。効果は重複するが、超暴走魔法陣の使用後に二回魔法を放つと効果が消える。

 

ちなみに超暴走魔法陣は魔法の暴走確率を底上げするだけで火力自体がバリ上がるわけではない。だが、結依の主人公補正と最終局面の緊張感が混ざり合い、結依の周囲からドス黒いオーラが溢れ出す。

 

「......これは流石に見逃せませんね。死になさい」

 

「超暴走魔法陣.....、バルファルク!! 全員回収して空中へ飛べッ!!」

 

「キィイイイィイイイイインッッ!!」

 

倒れていたバルファルクが結依の声に呼応し、咆哮を上げながら立ち上がる。嫌な気配を感じたジブリールは次々と結依達目掛けて紫色の魔法弾を連打打ちするが、バルファルクが真っ先に三人を回収し、空へ飛んだ。

 

「ぐおおおおおおおおおお耐えろぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

「んんんんんんんんん!!!!」

 

〔....。ぉおおおおおおおおおおお〕

 

ほぼ直角九十度の方向で飛翔するバルファルクの背中に全力でしがみつく三人。ただでさえキツイのに後ろからジブリールの殺人レーザーがビュンビュン飛んでくるせいでさらに辛い。レーザーを避けるたびに体が揺れ、落ちそうになって下を覗くと死が見える。地獄のような時間だが、二三回まばたきすればすぐ終わるほどの一瞬の時間だ。これさえ終われば......

 

「私達の勝利だ」

 

禁書庫で最も高い位置まで辿り着いた私達は、真上からジブリールを見下ろし、大きく宣言した。

 

「この場合は亜空間に逃走してやり過ごすのが賢明ですが、それだと面白くないので真正面から迎撃しますね☆」

 

かなり距離が離れていても視認出来るほどの巨大なオーラがジブリールを覆い尽くし、ドンドンエネルギーを蓄積させていく。

 

今までジブリールは図書館を崩壊させないよう力を制限し、敵対するものを次々と迎撃してきた。だが、守るべき図書館がもう既に壊滅状態となったせいか、今まで抑えてきた魔力を全て解放し、元凶である三人と一匹を潰すべく力を注ぐ。

 

ジブリールが腕を動かした。美しく妖艶な人差し指を前方にかざし、展開した魔法陣にそっと優しく触れる。

 

 

極大魔法が発動した。

 

 

「「彗星崩壊ダブルマスタースパーク」ッ!!」

 

 

急降下するバルファルクの上で結依、大賢者、霧雨魔理沙が八卦炉に手を重ねた瞬間、禁書庫の全てを覆い尽くすほどの超極太マスタースパークが放出された。皆の想いが一つになり、想いがさらにマスタースパークを増幅させる。無限の力を得たマスタースパークは徐々にジブリールの極大魔法を押しのけていく。

 

「こんな......、舐めプしていたとはいえ人種(イマニティ)ごときにこの私が負けるなど......」

 

「突っ込めええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

 

バルファルクの勢いに乗っかり、全てを破壊しかねないエネルギーの発生源に向かって強引に進んでいく。距離が近づく度にエネルギー量が増大し、身も心も削られていくが、無駄にタフな根性で耐え抜き、そして......

 

「ジブリィィイイイルッッ!!!」

 

マスタースパークの魔法陣と極大魔法の魔法陣が触れ合い、大爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ここまで来て爆発オチかよッッ!! ...ん?」

 

驚いて飛び上がり、周囲を確認する私。何が起こったのかよく分からず、落ち着くのに何分か時間を要したが周りの景色を見て全てを察した私は、ため息と共に言葉を吐いた。

 

「......なんだ、夢オチか......。」

 

さっきまでの出来事が全て夢だったと思うと、妙に悲しい気持ちになって仕方がなかった。が、夢は夢なのでスッパリと諦めることにした。結構、最終回みたいな展開で楽しかったのになぁ、友達契約もしたのになぁ、うわぁ。

 

「魔理沙ー、朝ごはん出来たわよー」

 

「分かったよ今行く」

 

いつもの母親の声が部屋まで届き、急ぎ足で着替えた後私は階段をかけ降りていった。実は夢オチに見せかけた無限ループオチなんじゃないかと警戒もしたが、時空の歪みは今のところ感じられないので考えないようにした。

 

 

〔...夢じゃありませんよ〕

 

 

 

 

 

 

 

 

この日から、結依魔理沙は同じ様な夢を毎日見ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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《結依魔理沙の深層心理内》

 

 

 

音も無く、光すら無い暗黒の空間。深層心理。ここは人が認識することの出来ない己の感情や欲望、業、力の眠る場所。だが彼女の深層心理は他の人間と二つ、異なる点が存在していた。

 

 

深層心理の空間のさらに奥深くに、一つの扉が存在していた。この空間内で最も異質な存在で、重厚で、周りに七本の楔が何かを抑え込むよう巻きついている。扉の正面には五つの施錠がされており、扉の付近には二つ施錠が転がっていた。

 

 

そして、扉の近くにて座り込む少女が一人。顔が帽子に隠れて素顔を確認することが出来ないが、少女らしき人が確かに存在していた。

 

 

少女は何かに気づくと、こちらを見て笑った。ケタケタ、ケタケタと笑った。何が面白かったのか、それはその少女に聞かなければ分からない。が、笑い声がやけに不気味で、恐怖に近い感情を感じさせる彼女を、あなたは、()()()は、身の危険を悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

This story is organized from beginning. Madness is always on your side.All in the fate of the provisional beginning.The keyword is awakening.

 

 

 

 

 

 









深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いているのだ。



もう、まとめ方無茶苦茶ですね。何でカゼツルギ装備したのにいつの間にか消滅してたりとか、霧雨魔理沙が魔書を欲した理由が書かれてないとか、爆発オチとか、夢オチとか、グレートバーンガーンとか。


これが異世界かるてっとか......(棒)




次回、職場体験編(免許持ち)へPlus ultra!!





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第8章:職場体験編?
イベント明けの学校は辛いけど楽しければOKです(47話)



わーい職場体験だー。





 

 

番外編のせいで本筋の話を忘れた人のために軽くこの本魔理沙様が説明してやろう。えー、堂々と体育祭で三冠を手にした私はその日の夕方にヒーロー公安委員会に強制連行され拉致監禁。これ以上好き勝手したいのならばヒーローになってヒーローとして活動しろと、私を恐れた委員会の人達がそう告げた。私はそれを了承し、特別なヒーロー試験を受けて見事合格。特別ヒーロー免許とその他諸々を手に入れた。

 

そして分裂して元に戻せなくなった分身、ステ魔理の事について家族会議をし、母さんと約束した後、夜中の三時までステ魔理の16年間の経歴を捏造し、ついに今日、私とステ魔理は学校に登校するのだ。

 

「いってらっしゃい魔理沙、ステ魔理。今日は瞬間移動使わないの?」

 

本魔理「あぁ、せっかくヒーローになったから登校ついでにパトロールでもしようかなと」

 

ステ魔理「私も私として登校するのは初めてだから歩くことにした。私、『結依魔梨奈(ケツイマリナ)』として....」

 

そう、今日からステ魔理は私の双子の妹、魔梨奈としてこれから生活していく。そして姿も双子だということでほぼ同じにした。唯一の違いは、魔理沙の方がロングヘアで魔梨奈の方がショートヘアという些細な違い。私とほぼ同じ能力を持っているのに姿が全く似てないと疑われかねないからな。こうしたのだ。

 

目の前のドアを大きく開けると、美しい大空が広がっていた。休み明けは学校行きたくないという欲求に駆られがちだが、いざ外の空気を吸うと気持ちが良くなってやる気が湧いてくる。今日も頑張ろうってな。

 

 

「「いってきまーす」」

 

 

大好きな家族に手を振って、私達は歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グサッ

 

 

魔理沙「なんか刺さった。」

 

魔梨奈「ちょっ!? はぁ?! 足元!!」

 

へっ? と困惑しながら足元を見てみると、そこにはカモフラージュで見えにくくした大量のマキビシが家の前に仕掛けられていた。

 

どう見ても私たちに対する攻撃だ。あの体育祭のおかげで知名度がアップしたが、その弊害でこういうヤツらに目をつけられやすくなったのかもしれん。少し、面倒だ。

 

魔理沙「......レベルが低いな。今までに比べたら大したことは無いが執着されると厄介だな」

 

魔梨奈「私らは問題無いが母さんに迷惑がかかるのは解せん。魔理沙、軽く捻ってきて。ヒーローでしょ?」

 

グイグイと魔梨奈に背中を押された魔理沙は、仕方なく索敵能力を展開させる。マキビシを仕掛けてからそこまで時間は経ってないだろうから、すぐに見つかるだろう。

 

魔理沙「へいへい、三秒待ってろ」シュン

 

 

 

魔理沙「捕まえてきた」

 

案の定、すぐ近くにいた。

 

「離せ神に仇なす穢れ共ッ!! 我らが異形排斥主義集団の一員であるこの私にィ、穢らわしい手で触るな、顔を見せるな! 腕を動かすな! 口を動かすな! 息をするなァァアアア!! テメェらのような価値の無い怪物共は死ぬことでしか人の役に立てないくせに偉そうにすんじゃねェぞカスがァ!!!」

 

怒鳴り散らす男に魔理沙は呆れたような、これから一分後に捌かれる豚を見るような目でその男を嫌悪した。一応、サイコキネシスで空中に固定してあるので不審な動きは出来ないはずだが、警戒は怠らない。

 

魔梨奈「いかにも悪役感あるくせにマキビシばら撒くだけってショボいなお前」

 

「喋るなと言っだろうがこの野獣共くぁwせdrftgyふじこlp」

 

魔理沙「お、そうだな(適当)。じゃあさようなら」

 

これ以上の罵倒は聞くに耐えないので、無言の表情で私は犯人護送専用ホールという空間魔法で作った特殊ホールの中にポイとぶん投げ、事なきを得た。

 

魔理奈「それ何?」

 

魔理沙「あぁ、これは警察との取り決めで犯人捕まえたら特定の場所に投げ入れて欲しいって言われたから作った専用ホール。ちなみに犯人だと断定出来る証拠を先に送らないと開かない仕組みになってる」

 

魔梨奈「え、じゃあもう既にアイツが犯人である証拠を送ったんだ。我ながらスゲー」

 

魔理沙「散歩とかゴミ拾いとかする度にこういう変人に突っかかれることは多かったからな、慣れたもんだな」

 

アハハーと適当に笑いながらついさっきの出来事を忘れようとする二人。今日はショボかったが、どうしてこういう朝に限って災難な目に遭うのか。もう呪いなんじゃないかなと疑いたくなるが、気にせず前を向いて歩く二人。まだ学校すら始まってないのだから気が滅入る。大丈夫かな今日。

 

考えても仕方が無いので、私達は再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

その後魔理沙たちは二三回、雇われ暗殺者やどっかの国の諜報員などに尾行、または命を狙われるといった行為を受けたが、魔理沙の容赦ない反撃に彼らは撃沈。警察署本部に強制送還された。

 

しかし、久しぶりに通学路を歩いたとはいえ、ここまで犯罪者とエンカウントするとは思ってもみなかった。というか他国からのスパイまで私を詮索してくるってどういうことだ? 百歩譲って日本のヴィランに命を狙われるのは納得するとしても、海外のスパイやら暗殺者に命を狙われることは納得できん。どんだけ私を危険視してるんだこの世界は。日本は許しても世界は許しません....ってか? 泣いていいですか。

 

「なぁステ魔......梨奈、この世界野蛮過ぎじゃね?」

 

「気にしたら負けだ魔理沙。都市が機能しなくなって、歩く人間全てモヒカンヒャッハー肩パットの世紀末な世界に比べたらまだマシな方だ」

 

「なんで北斗の拳と僕のヒーローアカデミアを比べるんだよ......、世界観まるっきり違うじゃねーか」

 

「ちょっとは心に余裕が出来るかなと思って言ってみた魔梨奈さんの配慮です〜。遠慮なく受け取ってください。......まぁ、そんなこと喋ってたら学校着いたけどね。」

 

いつの間にか雄英高校の門前までたどり着いた私達。瞬間移動を使ってないのにまるで一瞬で雄英高校にたどり着いた気分だ。てことは毎日歩いて登校すれば暗殺者やスパイを逮捕出来る上に一瞬で雄英高校に着いた気分になれるのか。一石二鳥じゃあないか!

 

なんてふと考えてみたが、すぐさまこの案を脳内で却下した。高揚とした気分などつかの間であり、ふと襲われた時のことを思い出せば、あのあまりの理不尽さに腹が立って心がダダ下がりクライシスになる。一石二鳥どころじゃない、三石零鳥プラス大怪我だ。何言ってんだか自分でもわからん!!

 

意味の無い思考に悩まされる魔理沙だったが、背後から生物の高速接近反応を感じ取ったことですぐさま臨戦態勢をとった。また暗殺者が私の命を狙いに来たのだろうか。人間にしては中々の速度だが、その程度では今からやる私のラリアットを避けることはできまい。まぁ、足の速さと攻撃を避ける速さは別物だがそこは気にしてはいけない。安心して死ねぇい!!

 

「魔理沙く〜〜〜〜〜んッ!!」

 

「なんだ飯田くんじゃあないか」

 

どうやら暗殺者ではなく、走ってきたのはクラス委員長の飯田天哉であった。

 

「......ハァ、ハァ、ハァ...」

 

「...随分と個性全開で走ってたみたいだけど、どうしたの? 暗殺者にでも襲われたか?」

 

「.....ハァ、君にッ...ハァ......っ言いたい事があって......、ッハァ、走って......来たんだ」

 

「......おう、わかったから落ち着け。な?」

 

「っハァ、すまない。この状態じゃあ言いたい事も言えなくなってしまう。少し待っていてくれないか?」

 

飯田天哉はスー、ハーと全身カクカクさせながら深呼吸し心を落ち着かせた。そして私の方にクルッと向き合い、少し咳払いをした後、大声で叫んだ。

 

「僕の大切な兄さんを救ってくれてありがとう!!!」

 

「「は、ちょっ!? バカお前静かにしろ!! バレるだろーが!!!」」

 

「すまない!!」

 

いきなり何を言い出すかと思えば、大声で言ってはならない機密事項を声高々に叫んだ飯田くん。自分の気持ちに正直すぎる余りとんでもないことを叫びやがった。警察との取り決めでステインのことは内密にと言われてんのに!!

 

一応、「僕の大切な兄さん...」まで聞こえた瞬間にルナチャイルドの周りの音を消す程度の能力で消したから大事には至らなかったが、危ないところだった。

 

「......まぁ、その、お兄さん元気だったか?」

 

焦りを沈静化するために取り敢えずお兄さんの様態を聞いた。

 

「あぁ、兄さんは無事だ。今は病院で安静しているが三日で退院だそうだ。魔理沙くん、本当にありがとう」

 

「気にすんな、クラスメイトだからな。」

 

直角九十度で礼を申し上げた飯田くんに私はニコッと笑い返す。やはりヒーローは良い、人にありがとうやお礼を言われた時の清々しい気分は私に自分の在り方を教えてくれる。

 

ちょっと気分に浸っていると、突如として飯田くんが曲げていた腰を元に戻して背筋を伸ばし、右腕を九十度に曲げてロボットダンスのように腕をカクカクと動かしながら声を出した。

 

「だがしかし、だがしかしなのだよ魔理沙くん!! 相手がどんなに凶悪な犯罪者であれ、許可も無しに個性を無断で使用して人を傷つけるのは法律違反だぞ魔理沙くん! そこをちゃんと理解しているのかね!」

 

「えっあっ、......ハイ」

 

「いつ警察に捕まってもおかしくないんだぞ! そこをもっと深く考えたまえ!」

 

「ハイ......。」

 

「仮に君が捕まったとしても、飯田家総出で君を助けると僕の父さんと母さんと兄さんが言っているから、心配はしなくてもおそらく大丈夫なはずだ。が! 君はしっっかりと反省して次また同じ間違いをしないよう気をつけるのだぞ。では魔理沙くん、また教室で会おう」

 

スイッチが切り替わったかのように注意を受け、さらに置いてかれた魔理沙たち。あっという間過ぎてただ飯田の背中を眺めることしか出来ない。

 

「それと魔梨奈くん! 君からもちゃんと魔理沙くんに言っておいてくれ! あまり無茶をしないようにと!」

 

それだけ言うと飯田くんは全速力で校舎内に入ったかと思うと、廊下を走らないというルールに乗っ取って、ロボットのようにカクカクと1年A組の教室まで歩いていった。

 

 

急に疲れが襲い、溜息を漏らす二人。

 

 

「だってよステ魔理。もう二度と法律破るなよ(棒)」

 

「お前が言うな私。とにかく、私の存在がちゃんと確立していることが証明されたからさっさと教室入るぞ」

 

「へーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

〔五時間目の授業5分前〕

 

 

登校してからは特に何事もなかった。魔梨奈に関しても特に言及はされなかったが、爆豪と轟くんにジロジロと見られたのだけはちょっと引っかかった。が、まぁ気の所為でしょう。能力の中で最も強いとされる干渉系の効果を受けてるんだから、バレるはずがない。

 

 

そんなこんなで魔梨奈と一緒に昼食を取り、教室のドアを開けて足を踏み入れると、久しぶりのクラスメイト達がガヤガヤと話し合っているのを目撃した。

 

「超声かけられたよ来る途中!!」

 

「私もジロジロ見られてなんか恥ずかしかった!」

 

「俺も!」

 

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

 

「ドンマイ」

 

「何話してんの皆様方〜」

 

いつもは自分から話しかけることなど滅多にない魔理沙だが、最近ロクな目にあってないため、誰かと話して心を癒したいという気持ちが強くなり、取り敢えずいつもの調子で話しかけてみた。

 

「あっ! 魔理沙に魔梨奈!! そういえば魔理沙は行く途中どうだった!? 声かけられた!?」

 

「どーなの!?」

 

目をキラキラさせながら食い付いてくる芦戸と葉隠の様子に、魔理沙と魔梨奈は若干たじろいだ。

 

「あぁ、まぁ、声かけられたわ(犯罪者に)」

 

「やっぱり!!」

 

「そりゃあ雄英体育祭で三冠取った王者だもんなぁ! 注目されないわけが無い」

 

「流石は魔理沙ちゃんだわ。やり過ぎだけど」

 

「いつにも増して戦い方がすっげぇハデだったもんなぁ! めっちゃヒーローから指名来てるだろうな!」

 

「あはは、あざす」

 

過程はどうあれ三冠取ったことを褒められて、嬉しい気持ちになる魔理沙。なんか久しぶりの会話にちょっとだけ気分が舞い上がる。結依魔理沙は陰キャだった?

 

「魔梨奈は大丈夫? 今回も体調不良で参加出来なかったけど、体の具合はどう?」

 

「あぁ、今日は大丈夫だ」

 

「お前がいないと魔理沙を止められる奴が誰一人いなくなるからなー、しっかり頼むぜ!」

 

「無事で良かったわ。ケロケロ」

 

「またよろしくね魔梨奈ちゃん!」

 

「うん!」

 

「おはよう」

 

楽しげに会話を繰り広げていると、相澤先生が挨拶と共に教室のドアを開けた。と同時にクラスメイト全員がピタッと会話を止め、姿勢を正して椅子に座った。僅か1ヶ月と半分で身につけた1年A組の技だったが、相澤は特にツッコミも入れずに教台の前に立った。

 

「えー今日の"ヒーロー情報学"、ちょっと特別だぞ」

 

特別、という言葉を聞いて多くの人が心の中で大きく反応した。相澤先生が特別という授業、それで思いつくことと言えば小テストとかだろうか。私はなんにも覚えてない。死んだわ。

 

「『コードネーム』、ヒーロー名の考案だ。」

 

「胸ふくらむヤツきたああああああああ!!」

 

1年A組に響き渡る歓声、今までの出来事の中で一二を争うほどの喜びっぷりに相澤は内心保護者にも似たような、微笑ましい気持ちに陥る。が、合理主義者である彼は直ぐに切り替え、生徒達に興奮を抑えるよう注意を促した。

 

静かになったところで話を再開する。

 

「というのも先日話した「プロからのドラフト指名」に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2、3年から...、つまり今回来た"指名"は将来性に対する"興味"に近い」

 

「卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある」

 

「大人は勝手だ!」

 

厳しい現実に峰田は憤慨した。

 

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

 

「そ。でその指名の結果がこうだ」

 

相澤がポンと黒板を叩くと、A組の指名件数が棒グラフ化された表が黒板に投影された。何処から投影されてるのか全く見当もつかないが、なんか黒板に投影されてた。

 

 

A組指名件数

 

 

一位 轟焦凍 … 3986件

 

二位 爆豪勝己 … 3215件

 

三位 緑谷出久 … 478件

 

四位 常闇踏陰 … 360件

 

五位 飯田天哉 … 301件

 

六位 上鳴電気 … 207件

 

七位 八百万百 … 108件

 

八位 切島鋭児郎 … 68件

 

九位 麗日お茶子 … 20件

 

 

「だーーー白黒ついた!」

 

「私の名前なーーーーい!」

 

「一位と二位逆転してんじゃん」

 

「轟と違って性格が地雷だからビビって取り下げたんじゃね?」

 

「ビビってんじゃねーよプロが!!」

 

「流石ですわ轟さん」

 

「ほとんど親の話題ありきだろ...」

 

「20! 20!」ユッサユッサ

 

「うむ」

 

「やったな緑谷! 400越えじゃねーか!」

 

「......もっと鍛えなきゃ」

 

それぞれが結果に対する反応を見せ、再びガヤガヤと話し始めた1年A組。結果を振り返って自分の反省点を探すものや、素直に喜ぶものなどいたが、このグラフを見て誰もが疑問に思うことがあった。

 

一人、忘れてはならない人物の名が載ってないのだ。

 

「......変ね、魔理沙ちゃんの名前が無いわ」

 

「あっっ! ホントだ......確かに魔理沙の名前がねぇ!」

 

「どういうことだ....?」

 

クラスメイト全員が抱いた疑問、それは結依魔理沙への指名が一件も表示されていないことだった。

 

「雄英高校体育祭史上初の三冠を制覇した最強の師匠がどのヒーロー事務所からも指名が来なかった理由として考えられることは三つ。一つ目は師匠の圧倒的な力に他のヒーローが恐れて指名を入れなかったからしかしその場合だとかっちゃんの指名件数の多さを説明することが出来ない上にどんなに暴虐的な個性だったとしても一件も師匠に舞い込んで来ないのは明らかに異常と言っても過言ではない。二つ目は師匠の何かしらの事情によって指名が一つも入らないからこれが僕の中で最も可能性が高く師匠だからこそ納得出来る答えだと思う。これは憶測に過ぎないが師匠の人外じみた個性を危険視した政府が師匠に対して何かしらの制約または協力関係を結び他のヒーロー事務所にヒーロー公安委員会を通して師匠への指名をさせないよう連絡していたとしたら今現在の状況について納得g」

 

「おいどうした緑谷!? 緑谷! おい緑谷!! 緑谷が壊れた!」

 

初めてクラスメイトに見せる緑谷出久の本性。その豹変ぶりに驚いた峰田は正気に戻すべく緑谷の身体を上下左右に降ったりなど、いろいろ試みた。が、緑谷のブツブツが止まる気配は無い。

 

「......よって師匠は誰からも無下に扱ってはならない最強の存在であり、オールマイトは僕の嫁。

Q.E.D.証明完了」バタッ

 

「緑谷が死んだーーーーーッ!?」

 

「このひとでなし!」

 

「あーあーあーお前ら静かにしろ。魔理沙、起立してこの問題について回答を。ただし手短にな」

 

「あーやっぱこうなるかぁー、仕方ない私が教えてあげよう」

 

私はゴホン...と咳をしながら席を立った。そして相澤先生に言われた通りに手短に理由を伝える。

 

 

スゥゥゥーーッ

 

 

「実は私、正式にヒーローになりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜〜〜、......へっ?」

 

 

「「「ええええええええええええええええええええええええええ!!?!?」」」

 

 

驚愕の事実に誰もが唖然とした表情でガチガチに固まり、身震い一つ起こさない石像と化した。

 

 

「それってつまり、魔理沙ちゃんは正式にヒーローとなったから職場体験をする必要が無くなったということなのかしら?」

 

「その通りだぜ梅雨ちゃん。もう学校通う理由の半分が消滅したな」

 

「じゃじゃじゃあもう既にどこかのヒーロー事務所に所属してるってことか!!?」

 

「事務所に所属はしてないが一応政府...、正確にはヒーロー公安委員会直属のヒーローという扱いになった。多分そろそろ発表されると思う」

 

「なんで!?」

 

「秘密!!」

 

未だにポカーンと呆気に取られたままの1年A組だったが、時が経つにつれて魔理沙の言葉の真意を理解した。魔理沙の言ったことを簡潔に述べるなら、魔理沙は飛び級に飛び級を重ねてヒーローとして立つべき場所まで一気に登りつめたということだ。意味がわからない。

 

「まぁ、そういうことだ。話がそれたがお前らには指名の有無関係なく、いわゆる「職場体験」ってのに行ってもらう」

 

相澤が話のレールを元に戻したが、何名かはまだ別の世界に置いてかれているようだ。が、合理主義者の彼は容赦なく彼らを放置して話を進めた。

 

「おまえらは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りのある訓練をしようってこった」

 

「それでヒーロー名か...」

 

「たっ、楽しみだなぁ」

 

砂藤力道とお茶子が納得したかのように頷き、職場体験の雰囲気を夢想する。が、さっきの出来事が印象的すぎて心に重りがついたようだ。

 

「まぁ仮ではあるが適当なもんは.....」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

クラスに颯爽と入ってきたのは、一学年主任のミッドナイト先生。どうやらさっきまでの会話の内容を聞いた上にタイミングを計って登場したようだ。

 

「この時の名が! 世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね!!」

 

「「ミッドナイト!!」」

 

「まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」

 

ミッドナイトに生徒のネーミングセンスの査定を全任せにした相澤は、ゴソゴソと寝袋を取り出して寝る準備を開始した。

 

「...将来自分がどうなるのか、名をつけることでイメージが固まり、そこに近づいていく。それが「名は体を表す」ってことだ」

 

「"オールマイト"とかな」

 

そう最後に告げると、相澤先生はたったの2秒で熟睡に入った。この人やる気があるのか無いのかハッキリと区別出来ないぞ。

 

とはいえ、魔理沙は既にヒーロー登録の際にヒーロー名は決定していたので何も問題は無かった。

 

 

 

(あ......やべ)

 

 

 

問題は無かったが......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(魔梨奈のヒーロー名どうしよう......ッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめて! 魔理沙の世界に干渉する特殊能力で、今まで築き上げてきたフラグを焼き払われたら、何度も夢想した最終回が消滅して作者の精神まで燃え尽きちゃう!

 

 

お願い、死なないでネーミングセンス! あんたが今ここで倒れたら、母さんや魔梨奈との約束はどうなっちゃうの? 小説はまだ生き残ってる。ここを耐えれば、堀越に勝てるんだから!

 

 

次回、「ネーミングセンス」死す。

 

デュエルスタンバイ!

 

 

 

 

 

 






魔理沙「えー、皆様に魔梨奈について補足説明をさせて頂きます」

魔梨奈「いつにも増してかしこまってるな。らしくないぜ私」

魔理沙「バカヤローお客様は神様だって小学校で習わなかったかあぁん? 作者は最終回を書きたいという欲でも動いてるけどな、それ以上に皆様がお気に入り登録してくれたり暖かい感想を送ってくれるのが作者の活動の源泉になんだよJK」

魔梨奈「お前もJKじゃねぇか....」

魔理沙「えー、それでは補足説明です。魔梨奈を雄英高校に存在させようとした時に、最も頭を抱えたのは今まで経験したイベント(戦闘訓練やUSJ事件、雄英高校体育祭など)の史実をどうするかでした。無理矢理に、イベントに参加していたと設定すると設定された史実と本来の史実との間に歪みが発生し、そこに世界の自浄作用が働くと、設定した史実はキレイさっぱり落ちてしまいます」

魔梨奈「分かりやすく言うと、セロハンテープの上に油性ペンで黒く塗りつぶしても、ちょっと擦るだけで直ぐにインクが落ちるの見たことあるでしょ? アレといっしょ」

魔理沙「それを回避するために、私らは「魔梨奈はイベント時に調子を崩す虚弱体質」という設定をしました。こうすることで丸く収まりました」

魔梨奈「ちなみに自分で自分の干渉効果を受けることはありません。ただ周りがそう思うようになるだけです」

魔理沙「だから魔梨奈がこの設定を忘れると、ワンチャンクラスメイトに不審に思われるから気をつけてな」

魔梨奈「はいはい」

魔理沙「他に何か質問がございましたら是非感想欄にてメッセージを送ってください。心よりお待ちしております」

魔梨奈「質問の内容は問いませんので、ご自由に何なりと申し上げ下さい。紳士(笑)な回答が返ってきます」

魔理沙「露骨な感想稼ぎはこれにておしまい。ではまた次回にて」








───
NHK





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「ネーミングセンス」死す。(48話)



ふとした時に自分の作品を見返すと、「今と比べると話が結構ぶっ飛んでんなぁ」としみじみ思う今日この頃。煽りが凄い。


テスト解せぬ。





 

 

(魔梨奈のヒーローネーム考えてねぇ!!)

 

 

そういえばそうだった。設定ばっか考えていたせいで今のことを考えるのを忘れていた。ヤッベェ何も考えてねェ!!

 

魔理沙はバッと後ろに振り返った。

 

お前のヒーローネームどうする?

 

「ヒーローネーム? それもう決まってるじゃ......、私かッ!!」

 

どうしようか。見た目がほぼ同じとはいえ、ヒーローネームまで被せるのは御法度だぞ

 

そうだな。......取りあえず、もし私に出番が回ってきたら上手く誤魔化して時間を稼いでくれ。出来るだけ早めに考えとく

 

了解。じゃあお前が当てられた瞬間、私が自ら挙手してヒーローネームを発表し、時間を稼ぐ。後は任せたぞ

 

フッと笑みを浮かべながら腕と腕をクロスさせ、協力の意思を表示する彼女ら。

 

「じゃあ先に魔理沙から発表しましょうか! さっきの様子だとまだ誰にも話してないんでしょう?」

 

((うわぁ))

 

開幕直後に作戦を潰されてしまった。

 

「......はい。じゃあ発表します」

 

もう退路はどこにも存在しないので、魔理沙は大人しく教壇の前まで歩き、真正面を向いた。なんだかヤケに目線が集まってくるせいで少し緊張するが、これで登録した以上もうどうしようもないので、私は精一杯声を出した。

 

 

「『マジックヒーロー マリッサ☆』です。」

 

 

シーン...

 

 

静まる1年A組。誰一人として拍手とか、すげぇとか可愛いとかカッコイイとか、そういった反応が一切無かった。虚無、そう、まるで大切な何かを失ったかのような虚無感。ただヒーローネームを発表しただけなのに、どうしてこんな酷い有り様を目に焼き付けなければならないのか。心の中ではどうなっているのかも気になるが、読んで酷かったら私は立ち直れる気がしない。もう帰りたい。

 

顔面真っ黒だった魔理沙だが、あまりの反応の無さで全身真っ白と化したまま、静かに元の席に戻った。魔梨奈に慰めてもらおうと後ろを振り返ったが、どうやら魔梨奈にも飛び火したらしく、灰のようになってしまっていた。もうどうしようもなくやるせない気持ちになった私は、静かに相澤先生と同じ道を歩むことにした。夢ならばどれほどよかったでしょう。

 

 

しかしそんな事の裏腹に、クラスメイトの内心はほぼ一つに統一されていた。別に魔理沙のヒーローネームが壊滅的だったから反応しなかったわけではない。むしろとても良い部類だ。なんだが、問題はあのような、「無茶苦茶」や「暴走機関車」という言葉が似合いそうな彼女から、そのようなマトモなヒーロー名が出てきたのか。そこに彼ら彼女らは驚いていた。

 

 

(あの魔理沙がマトモなのを出したんだ....。それでいて俺たちが変なヒーローネーム発表したら恥ずかしいなんてモノじゃない!! 公開処刑だ!!)

 

 

異様にネーミングセンスのハードルがぐんと上がり、ほとんどのクラスメイトが真剣な顔つきでヒーローネームを考え始めた。考える時間として用意された15分をフルに使い、必死に己の、ヒーローとしての名を考えた。

 

 

〜 15分後 〜

 

 

「じゃあそろそろ出来た人から発表してね!」

 

「「「!!!」」」

 

(((発表形式かよ!!?)))

 

(最初の魔理沙が発表形式だったから、何となく予測はしていたけど......度胸が.....)

 

「じゃあ最初はアタシから!」

 

最初に躍り出たのは個性『酸』でお馴染みの芦戸三奈。ハードルが高くなったせいで誰もが一番手を避けようとする中、彼女の天真爛漫な性格が先陣を切ることになった。

 

芦戸が教壇の前に立つと、自分のヒーローネームが書かれたプラカードを恥じらいもなく出し、堂々と己の名を叫んだ。

 

「『エイリアンクイーン』!!」

 

「2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? 止めときな!!」

 

「ちぇー」

 

不発。どことなく自信のあった芦戸だったが、ミッドナイト先生に却下されて不服に思いつつも、大人しく席に座って別のヒーローネームを考え始める。

 

(((初っ端からヤベーの来た!!! けどハードル下げてくれてありがとう!!!)))

 

初撃から地雷が爆発したおかげでハードルがやや低くなったことに感謝するクラスメイト一同。尊い犠牲であった。本人は全く気にも止めてないが。

 

「じゃあ次私いいかしら」ケロッ

 

「「梅雨ちゃん!!」」

 

次に参戦したのはメインヒロインより人気の高いヒロイン、蛙吹梅雨。クラス内でも温和で優しい彼女が付ける、己のヒーローの名とは。

 

「小学生の時から決めてたの。『フロッピー』」

 

「カワイイ!! 親しみやすくて良いわ!!」

 

「皆から愛されるお手本のようなネーミングね!」

 

「「フロッピィィィイイイイイイイ!!!」」

 

\フロッピー! フロッピー! フロッピー!/

 

流石は優等生、ネーミングセンスの良さにミッドナイト先生は絶賛し、他のクラスメイトはその癒し効果によって緊張がほぐれる。フロッピー、なんて響きの良い名前だろうか。

 

(.....はっ! しまった、つい流れでフロッピーコールをしてしまったが、今大事なのは魔理奈のヒーローネームだ。早く決めねば相澤先生の「不合理の極み」パンチが炸裂してしまう。何とかせねば)

 

「起きろ魔梨奈、このままだとお前だけ居残りになるぞ」

 

「ふぁっ!? ......あぁ、ハイ。了解」

 

突然起こされてビックリするも、魔梨奈は魔理沙の心を読んで状況を理解した。が、一ミリもやる気が湧いてこなかったので再び眠りについた。

 

「寝るな。私も一緒に考えたげるからさ、な?」

 

「......あい」

 

渋々了承した魔梨奈を見て、「お前のためにやってんだろうが!!」と般若顔でツッコミを入れたかったが、グッと喉元に押しとどめる。

 

さて、魔梨奈のヒーローネームか。即席でオリジナルネームを考えようとすると大抵ネーミングセンスが死ぬからなぁ。そうだなぁ、どっかからちょうどいい名前をパクろう。そうしよう、その方が見栄えもいいしカッコイイし違和感も無い。何より私の本来の能力は「食べた相手の能力を死ぬまでパクる程度の能力」、そういう能力なんだから名前だってパクっても許されるはずだ(論理破綻)。

 

そうこう考える内に切島くんが教壇の前に立ち、自分のヒーローネームを発表しようとしていた。もう少しクラスメイトの名前を聞いてからでも遅くはない。参考にしよう。

 

「んじゃ俺!! 『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』!!」

 

「「赤の狂騒」! これはアレね!? 漢気ヒーロー"紅頼雄斗(クリムゾンライオット)"リスペクトね!」

 

「そっス! だいぶ古いけど俺の目指すヒーロー像は"(クリムゾン)"そのものなんス」

 

「フフ.....憧れの名を背負うってからには相応の重圧がついてまわるわよ」

 

「覚悟の上っス!!」

 

グッと腕に力を込め、己の覚悟を示す切島くん。憧れのヒーローの名を冠して己の道を突き進もうとする切島くんの漢気に、男子のほとんどが感服の意を表した。

 

一方、魔理沙はというと......

 

(憧れは著作権の壁を超えるッッ!!)

 

切島の覚悟を利用し、これから考える魔梨奈のヒーローネームに正当性を持たせようと企んでいた。

 

「魔梨奈.........魔女......魔法使い.......顔黒い.....魔法少女....、ブラックマジシャン......ブラックマジシャンガール......ブラックマジシャンガール!!」

 

突然と閃いた瞬間であった。

 

「魔梨奈、お前は今日からブラックマジシャンガールな。異論は認める」

 

「え.....?」

 

「え?」

 

魔理沙が少しパクったヒーローネームの案を提供したが、どうやら本人は本人で普通にオリジナルのネームを考えていたようだ。机の上には裏返しにされたネームプレートが一枚、私の目の前にポンと置いてある。

 

「もしかしてもう考えた?」

 

「......そうだけど」

 

てっきり()のことだから同じ考えをしてると思っていたが、そうでもなかった。これが存在値の違いって奴か......ッ!!

 

「そ、そうか。見てもいいかソレ?」

 

「...別にいいけど......笑うのは禁止」

 

「ハッハッハ自分で自分を笑うわけなかろう? ちゃあんと受け止めたるわ」

 

魔梨奈は少し躊躇いつつも、私の言葉を信じてプラカードをひっくり返した。結構深く考えてたっぽいからネーミングセンスは恐らく死んでないだろう。きっと、たぶん。

 

そこに書かれていたものは......

 

 

 

 

「覇王系ヒーロー、デスマリッジ=レイガン2世」

 

 

 

 

「どう?」

 

「絶対却下」

 

「どうやらこのヒーローネームの魅力が伝わってないようだな。仕方ない、この私が私に教えてや」

 

「結構です。ハイ」

 

えぇ? とでも言いたげな魔梨奈を見て、何とも言えない気持ちに囚われる。コイツは、ネーミングセンスを亜空間に放置してきたようなコイツは、私とほぼ同じ存在値が等しい私なのだ。私なんだけどなぁ、何でこうなった。

 

「やっぱお前ブラックマジシャンガールな」

 

「断る。帝王系ヒーロー、デスマリッジ=フューチャーの名は変えん」

 

「さっきとヒーローネーム違ぇじゃねぇか!!」

 

この適当さ加減、やはり私は私であったか。ある意味安心というか、逆に怖いというかなんというか。誰かボケ担当を別のヤツに替えてくれ。

 

「じゃあ間をとって、『覇王系ヒーロー デスマリッジ=ブラックマジシャンガール=フューチャー二世』で行こう」

 

「もう好きにしてくれ。頭痛で禿げる」

 

魔理沙から許可を貰った魔梨奈は意気揚揚と新たなネームプレートに自分のヒーローネームを書いていく。他のクラスメイトも大方決まったのか、次々と教壇の方へ順番に並び始めた。後並んでいない人は、まだネーム書いてる途中の魔梨奈と、緑谷くんだけだ。

 

「どうしたの緑谷きゅん。......あ」

 

アドバイスしようと緑谷に近づいた魔理沙だが、それよりも先に言うべきことがあったのを思い出した。

 

「....昨日はデマ吹き込んですみませんでした」

 

「...えっ、あっ、師匠!! あっ、あー全然大丈夫です! 朝になる前に家に帰りましたから!!」

 

緑谷のフォローが逆に魔理沙の心に突き刺さる。これ絶対大丈夫じゃない。だって、目がやつれてるもん。絶対夜寝なかっただろ!!

 

「ちなみにどこまで走ったの?」

 

「えーと、確か...長野県の飛騨山脈あたりで挫折して帰りました。」

 

「本ッ当にスミマセンでしたッ!!」

 

直角九十度の全力謝罪、軽はずみな発言で往復100キロは超えているであろう道程を夜中に走らせてしまうなど、鬼畜の所業。が、真に受ける緑谷くんはアホ通り越して超脳筋バカです。

 

「師匠は謝る必要は無いですよ! 第一、走っただけで強くなれるわけないのに.....ハハ、あの時は少し焦ってたかも知れません。それより、師匠の要件は何でしょうか?」

 

「あっ、あー、そうそれ。なんか緑谷きゅんがヒーローネーム決めに困ってそうだから助け舟出したろうと思っただけよ」

 

「師匠は何でも御見通しですね。...ハイ、ちょうど今困ってまして、どうしようかなと......」

 

うーん、と深く頭を抱えて唸る緑谷。あの様子だと相当悩みまくっているんだろう。フッ、私が戦闘以外でも腕が立つということを証明するチャンスが来たようだな。魔梨奈のネーミングセンスは厨二病こじらせた変態的な感性であったが、ククク奴は四天王の中でも最弱。この私と比べることすら厚かましい。フッ、つまりは緑谷くんに見合うヒーローネームを考えるなど、私にとっては朝飯前ということだ。

 

「オールマイト二号」

 

「直球すぎません?!?!」

 

「じゃあグリーンゴリラビット」

 

「....コスチュームを馬鹿にされた気がする...」

 

「面倒臭いな、ならこれならどうだ? 」

 

「『マッスルブレイン(脳筋)』」

 

「遊ばないでください!!」

 

あらま、どうやら緑谷くんはお気に召さなかったようだ。なんでだろうなぁ、ちゃんと個性や身体的特徴、戦闘スタイル、容姿から想像しやすい、誰にでも覚えてもらえるヒーローネームを考えたんだけどなぁ。まぁ、おふざけはここまでにしてちゃんとアドバイスをしてやろう。

 

先に緑谷くんに軽くスマンと言ったあと、少し咳払いをして真面目な目付きに切り替えた。

 

「......まぁ相澤先生も言ってたが、名付けるなら『自分が心の底からこうなりたい』って思ったもんにしな。そしたら自然と身体がその名に合うモノへと変化するから。うん。きっと」

 

「心の底から....なりたい.........」

 

柄にも合わず、少し臭いセリフを言ってしまったが、言いたいことは伝わったようで良かった。緑谷くんはまた深く考え始めた後、ハッと思いついたかのように手を動かし始めた。もう心配はいるまい。頑張れ緑谷くん。

 

私は席に戻って、みんなのヒーローネーム発表に耳を傾けた。皆が皆同じというわけではないが、それぞれのヒーローネームには、それぞれの思いやら信念やら理想やらが込められているのだろう。もちろん私だって思いを込めて考え、ヒーローネームを決めた。流石にフロッピーには勝てないが、私も人に愛されるような、素晴らしいヒーローになりたいと思う。うん、なろう。このクソチート個性とともに。

 

「そろそろ時間も迫ってきているから、この時間内に終わらなかった人達は放課後までにネームプレートを提出すること! 今終わってないのは再考中の爆豪くんと、結依魔梨奈ちゃん、そして緑谷くんね」

 

宣告されるタイムリミット。残り僅かな時間の中、先陣を切ったのは我らが主人公の分身、結依魔梨奈だ。

 

「じゃあ私出来たので発表します。『覇王系ヒーロー デスマリッジ=ブラックマジシャンガール=アーチャーデストロイ二世』」

 

「それならこことそこを省略して、『マジシャンガール』にしましょう」

 

「えぇ....? デスマリッジダメ?」

 

「ダメです」

 

「あああああああブチチブry((」

 

「言わせねーよ」

 

とっさに「音をかき消す(ナリ)程度の能力」でいつかのネタを封殺した魔理沙。なんか今日の魔梨奈のテンションが異常だ。そんなに学校行くことが楽しかったのだろうか。いや楽しいけどアレは流石に引くわ。

 

「僕、行きます」

 

魔梨奈の屍を踏み越えて、二番手に名乗り出たのは我らが弟子、緑谷出久。原作だと「デク」だった気がするが、こっちはどうだろうか。

 

「僕のヒーローネームは、コレです」

 

緑谷はネームプレートを持ち替えて、皆に見えるよう提示した。緑谷くんが「なりたいと思った」自分のヒーローネーム.....

 

 

「『ヒーロー ニューエース』です」

 

 

(デクじゃなかった!!)

 

 

ヒーロー名が『デク』じゃないどころか、個性に由来したモノでもなく、憧れのヒーロー名に則ったわけでもない、オリジナルのネームが来たことに驚きを隠せない魔理沙。そろそろ緑谷ファンに怒られても文句言えない所まで踏み込んでしまった気がするぞコレ。今ならまだ間に合う、戻れエース!

 

 

「新たなエース! このヒーローネームにした理由を聞いてもいいかしら!」

 

「はい。僕は師匠のアドバイスで、『自分がなりたいと思ったモノ』の名を付けろと教わったので、オールマイトにも負けないような『新しい最高のヒーロー』になると、そう覚悟を決めて付けました。悔いは無いです」

 

「いいわいいわ非常にいいわッ! 切島くんと同様、その名を背負うってからには相応の重圧がかかるでしょうけど、その覚悟なら大丈夫そうね! 応援するわ!」

 

「ありがとうございます、精一杯頑張ります!」

 

 

わあああああああああああああああぁぁぁ!!!

 

 

クラス全体から拍手と歓声が湧き上がり、何だかとても感動ムードだ。もう原作緑谷くんの影も形も無いのが寂しいぞコノヤロー。.....本当に昔に比べて成長してんなぁ。

 

「.....チッ」

 

「はいそこの爆発さん太郎嫉妬しないー」

 

「誰が嫉妬するかクソが!」

 

「え〜じゃあさっきの舌打ち何〜? ねぇ何さ〜爆豪くぅ〜ん、ネーミングセンスが壊滅的な爆豪くぅ〜ん」

 

「......ぶち殺してぇ」

 

不機嫌な爆豪のハートを全力で煽っていく魔理沙。煽り耐性の無い爆豪は相変わらず口悪く返事を返すが、態度は割と丸かった。目付きも昔よりギラついてないし、こっちもこっちでビフォーアフターしているのだろう。

 

 

魔梨奈と爆豪以外はそれぞれヒーローネームが決まり、この授業は幕引きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

《下校時刻》

 

 

下校時刻を知らせるチャイムと共に、雄英生徒はいっせいに外に出る。そこから交通機関を利用して都会に遊びに行く人や、近場のマックやスタバで談義する人、または最新のゲームをプレイするためにいち早く帰宅する人など、様々である。

 

魔理沙と魔梨奈は特に誰かに誘われているわけではないので、もちろん帰宅する。

 

「おい魔理沙と.....魔梨奈、ちょっといいか?」

 

「お、轟きゅんだ」

 

「いいけど.....何か用でも?」

 

だがそんな彼女らを引き止めたのは、クラスメイトの轟焦凍。何か用があるみたいなので話を聞くつもりだが、轟くんの様子が少々おかしい。どこか困惑気味というか、焦燥に駆られているというか。

 

「.....ここは話しづらいな。一旦教室に戻っても構わねぇか?」

 

「お....おう」

 

そんな様子の変わった轟焦凍に魔理沙は少々戸惑いながら返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これバレたな。

 











どうやったら情景描写を長々と表現出来るんだクソッタレめ。語彙力が足りなくて物悲しいぜ。


まさかヒーローネーム決めに丸々一話使うと思ってなかった。名前は確かに大事だけど、流石に多すぎたぜ。やっちまったぜ。


丸々1話使ったくせにクラスメイトのヒーローネームをちゃんと紹介してなかったのでここで紹介するぜ。フリガナは念の為だぜ。

必要ない方は全力でスクロールしてください。


芦戸三奈(あしどみな):黒目とピンク肌が特徴の女の子。ヒーロー名は『ピンキー』。

蛙吹梅雨(あすいつゆ):カエルっぽい女の子。ヒーロー名は『フロッピー』。

飯田天哉(いいだてんや):クラス委員長。いろいろ固い。ヒーロー名は『インゲニウム二号』。原作では『天哉』だったが、あの事件を魔理沙が未然に解決したためこうなりました。

麗日お茶子(うららかおちゃこ):丸っこい顔の女の子。原作ヒロイン。ヒーロー名は『ウラビティ』。

尾白猿夫(おじろましらお):これといって特徴のない普通の人。ヒーロー名は『テイルマン』。あの事件以来、魔理沙のことが気になっているとかいないとか。

上鳴電気(かみなりでんき):陽キャ一号。ノリのいい面白い奴。ヒーロー名は『チャージズマ』。

切島鋭児郎(きりしまえいじろう):陽キャ二号。漢気溢れる熱血ボーイ。ヒーロー名は『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』。

結依魔理沙(けついまりさ):主人公。クラスの異端児。ヒーロー名は『マリッサ☆』。クッキー☆を意識したわけではない。

結依魔梨奈(けついまりな):主人公の分身。魔理沙のストッパー。皆には「虚弱体質」と認識されているが、そう思わせているだけである。ヒーロー名は『ブラックマジシャンガール』。クロスオーバーだから許される(はず)。

口田甲司(こうだこうじ):無口な少年。実は魔理沙が雄英に入学する前から、生物と会話出来る個性で魔理沙の存在を知っていたが、無口なので特に何も無い。ヒーロー名は『アニマ』。

佐藤力動(さとうりきどう):どうみてもキン肉マンにしかみえない。ヒーロー名は『シュガーマン』。

障子目蔵(しょうじめぞう):物に対する執着心がおそらく無いミニマリスト。ミニマリストだけど身体はデカい。ヒーロー名は『テンタコル』。

耳郎響香(じろうきょうか):イヤホン耳可愛い。可愛い。ヒーロー名は『イヤホン=ジャック』。

瀬呂範太(せろはんた):しょうゆ顔。ヒーロー名は『セロファン』。

常闇踏陰(とこやみふみかげ):魔理沙のおかげでジョジョにハマった厨二病少年。ヒーロー名は『ツクヨミ』。

轟焦凍(とどろきしょうと):母親と和解し、新たなスタートを切ったイケメン。覚醒者の一人。ヒーロー名は『ショート』。魔梨奈について不審に思っている。

爆豪勝己(ばくごうかつき):結依、緑谷の幼なじみ。気性が荒いけど最近はやや丸い。覚醒者の一人。ネーミングセンスが壊滅的なため現在はヒーロー名無し。

緑谷出久(みどりやいずく):結依、爆豪の幼なじみ。気弱な性格から行動力のある人間へと変化。強くなるためならば何でもする。ヒーロー名は『ニューエース』。原作では『デク』だったが心持ちが変化し、皆の前で堂々と「最高のヒーローになる」と言える度胸が身についた。

峰田実(みねたみのる):僕のヒーローアカデミアエロ担当。エロのためならばどんな壁も乗り越える。ヒーロー名は『グレープジュース』。

八百万百(やおよろずもも):クラス副委員長。賢明な判断の出来るクラスのブレイン。だが自分の実力に自信がない。ヒーロー名は『クリエイティ』。




日常回はムズい。







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日常という名の非日常(49話)



最近、『キングダム』という漫画にハマってます。紀元前の中国の話とかクソどうでもいいと思っていた私でしたが、めっちゃハマりました。




とりあえず、楊端和さんと羌瘣の足の裏舐めてきます。





 

 

《朝の時間》

 

 

俺は何を見ているのだろうか。体育祭の疲れがまだ抜けきってないせいなのか、それとも準決勝で結依に負けたせいなのか、......クソ親父のせいか。

 

 

体育祭の振替休日を母親と過ごし、有意義な時間の取れた轟焦凍。母親とのわだかまりを解消し、心を入れ替えて登校した彼であったが、今現在とんでもないハプニングを目にしてしまった。

 

「結依が......二人いる...?」

 

自分を変えるきっかけを作り、体育祭で大暴れをした1年A組の暴君、結依魔理沙が何故か二人に増えて登校していた。

 

「あの髪の短い結依は何なんだ.....」

 

いつもの結依より髪の長さが短い結依と、いつも通りの結依が自分の席に座る。確か魔理沙の席の後ろは口田甲司の席があるはずだが、現在彼女(髪の長い方)の席の後ろには髪の短い方の彼女が座っている。どういうことだ? それならば髪の長い方が本物の結依魔理沙なのか、それとも口田の席の前に座る髪の短い方こそが本物なのか。

 

疑問は尽きないが何より一番驚くべきことは、誰もそのことを不思議に感じないことだ。誰一人、魔理沙たちに対して「なんで魔理沙が二人いるの」や、「どうしてこうなったの」等の質問をしない。あまりにも異常すぎる。仮にどちらかが偽物だとしても、片方は絶対雄英バリアをくぐり抜けることは出来ないはずだ。いや、結依ならどうにでも出来るのかもしれないが、どっちにしろ異常だ。

 

「常闇、少し()()()()をしてもいいか?」

 

「構わないが、どうかしたのか?」

 

轟は人に聞くのが一番いいと判断し、常闇に結依のことについて聞くことにした。

 

「結依が二人いるんだが、いったいどういうことなんだ?」

 

「本当に変な質問だな。結依は元から二人だろう? 姉の魔理沙と妹の魔梨奈で二人」

 

「サイキョーノフタリダゼ!」

 

「そうか......すまなかったな。」

 

轟は常闇とダークシャドウに礼を言いつつ、少し席を離れた。

 

姉妹、名前が違う、元からいた......。理解はやっと追いついたが、尚更今の現実を事実だと認められない。元からいた? じゃあ戦闘訓練の組み合わせの時や、USJ事件、体育祭の時は何をしていた? 戸籍は? その魔梨奈という存在がこの1年A組に元からあったということは、今までずっとこのクラスは21人クラスだったってことだ。教師陣はどう思っているのだろうか。この感じだとおそらく誰も何も思っていない。これが普通なのだと思い込んでいる。

 

 

もしかしたら、おかしいのは自分だけなのだろうか。この魔理沙と魔梨奈がいるという現実こそが普通で、俺の頭の中に補完されている記憶こそが虚実なのだろうか。そう考えると何だか頭の中がスッキリしてきた。これが事実で、二人いることに違和感を感じたのはただの自分の思い込みからで、今起きていることに何も変なことは無い。そうか、そうなのか。

 

自分の頭の中を整理し終えた轟は、気を取り直して席に戻る。まだ体育祭の疲れが抜けきってなかったのだろう。帰ったら早めに風呂に入って寝るのが良さそうだ。

 

「おい半分野郎、ちょっとこっち来い」

 

突然の呼び出しに轟は驚きを見せ.....ることはなく冷静に声のした方向に顔を向ける。声の正体は爆豪勝己、体育祭で準優勝を果たした1年A組最強の一角。粗暴な性格で人当たりの悪い彼が人を呼び付けるなど、異常であった。

 

轟は再び席を立ち、爆豪のいる席へと向かった。

 

「珍しいな。お前から呼ぶなんて」

 

「俺かてテメェのことなんざ呼びたくねぇよ。()()()()()()。」

 

「!? 爆豪、お前....気づいているのか?」

 

「当たり前だろうがクソが」

 

爆豪はこの異変に気づいていた。轟と違い、人に聞くという考えを持たなかった彼はこの状況について冷静に自分なりの考えを出し、犯人の目星も付けていたのだ。

 

「いったい誰の仕業d......、結依か」

 

「こんなこと出来んのはボサボサだけだ。恐らくだがアイツの言う『干渉系』ってヤツを使ったに違いねぇ。......チートが」

 

犯人の正体が即刻割れ、納得と同時に犯人の能力の恐ろしさを実感した。非常識を常識に変える力、言葉だけではその恐ろしさが伝わらないのが非常に惜しい。せめてものの例えとして言うならば、本田圭佑選手が全裸で国道を時速60キロで走り、それを国民がメディアを通して声援を送るくらい恐ろしい事態だ。流石にそこまで酷くはないが、とにかくヤバイのだ。

 

何よりこの問題は「違和感」を持つことでやっと問題そのものを認識できる。つまり、「違和感」がなければこの状況に気づくことすら出来ない。これは正に今の状況と合致している。干渉系能力、なんて恐ろしさだ。

 

「......何で俺たちには効かないんだ?」

 

「どう考えてもアレに決まってんだろうがアホ。テメェも体育祭でアレ使ってデクをボコボコにしただろうが」

 

「....『覚醒』か。」

 

「それ以外何がある」

 

干渉系能力、覚醒者、この二つが何かしらの関係にあるとしたら、自分はそれのおかげでこの状況を把握出来ているのだろう。ならば自分はどうすべきか。実際、魔梨奈という存在が確定しているだけで何かしら実害が発生しているわけでもないし、何より結依は理由なくそんなことをする人間ではない。だったら知らないフリをしてそのままにしておくのも良いかもしれない。が、やはり事情聴取くらいはしてもいいだろう。この状況を理解してしまった以上、自分たちにも事情を知る権利はあるはずだ。どこかタイミングを狙って結依から直接聞いてみよう。

 

「なぁ爆豪、放課後に直接結依から話を聞かないか? 何だかんだ結依のこと詳しく知らないし、ちょうどいい機会じゃないか?」

 

「勝手にしろ。だがボサボサを呼ぶならお前が呼べ、俺は教室にいる」

 

「何でだ」

 

「うるせぇ。大人しく従えこの半分野郎」

 

「爆豪、お前実は恥ずかしがり屋.....」

 

「んだとコラァ!! 殺すぞ!!」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

都合よく二人の会話がチャイムと同時に終了し、両者共に席に座って大人しくする。この時に喋ると担任の相澤先生にミイラにされるので、誰一人喋ることは無い。

 

 

(結依から話を聞こう)

 

 

改めて決意した轟焦凍であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

《放課後の教室》

 

 

轟に「教室で話し合わないか?」と誘われたのでやってきた魔理沙達。爆豪がいることに驚きを感じたが、どうやら二人で聞くつもりだったようだ。まぁ爆豪はツンデレだからな。仕方ない。

 

呼び出された理由やそう思った経緯を轟からあらかた聞くと、魔理沙は理解したかのように頷く。

 

「で、今に至ると。」

 

「あぁ、だから教えてくれ結i......魔理沙と魔梨奈、この意味わからねぇ状況と...その『覚醒』とやらについて」

 

「さっさと吐けクソボサボサとクソボサボサ二号」

 

「誰がクソボサボサ二号だ」

 

「落ち着け魔梨奈、いつもの爆豪だ。で、事情説明と覚醒について話せばいいのね。まぁ覚醒については少々自分の見解も含まれてるから鵜呑みにはしないように......」

 

コホンと咳を出して喉の調子を良くし、少々頭を掻き毟りつつ魔理沙は事情を話し始めた。

 

「何でこんな状況にしたかっていうと、まぁその、諸事情によって分身が元に戻らなくなってな。その分身が魔梨奈のことなんだけど、魔梨奈はただの分身と違って個性も性格も何もかも私と等しいわけ。ぶっちゃけ魔梨奈もオリジナルって言っても過言ではないな。で、その魔梨奈が学校に行くと決めたから、それを実現しただけ。以上」

 

「......無茶苦茶だな、お前」

 

「それは私達にとって褒め言葉だぜ」

 

フフンと同時にドヤ顔を晒す二人は、まるで仲の良い双子のようであった。

 

「そんで、何で轟きゅんと爆豪が私らの能力の影響を受けなかったかというと....、まぁ爆豪の言う通り『覚醒』したことが原因だろうね。私の干渉系能力を、覚醒した個性因子がブロックしたんでしょう。はー厄介厄介」

 

「テメェの個性が雑魚だったからじゃねぇのか」

 

「言ったな? じゃあお前の許容ラインがどれくらいか調査する為に片っ端から干渉系能力使ってくぞこの野郎。五体満足で帰れると思うなよ」

 

「落ち着け魔理沙、いつもの爆豪だ。」

 

睨み合う魔理沙と爆豪。いつもの事だが、この二人はその気になればマジで激突するので魔梨奈と轟がそれぞれの肩を掴み、争いを未然に防ぐ。

 

「....結依達の動機はわかった。異論も無い」

 

「そうか。もし反対したらタイマンで殴り合って無理矢理賛成させようかと思っていたが、その必要はなかったみたいだな。で、爆豪は?」

 

「どうでもいい。俺はもう帰る」

 

「爆豪も賛成ということで」

 

「......聞きたいことも大体聞けた。干渉系能力が非常に危険だと言うことしか理解できなかったが、俺は魔理沙達がそれらを正しく使いこなすことを信じるしか無さそうだな。信じてるからな?」

 

「あぁ、悪いことには使わん。というかヒーローになった以上それなりのモラルは守らんとな」

 

「私はヒーローじゃないけどモラルは守る。任せたまえ」

 

「......心配だ。」

 

 

 

 

魔理沙達の笑顔が、妙に怪しく感じた轟だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

轟達と話し合いを付けた魔理沙達は、特にやることも無いのでそのまま瞬間移動で家に帰った。

 

「ただいまー」

 

「あら魔理沙お帰りー。いつもより遅かったね」

 

「まぁ、ちょっとね」

 

玄関にて靴を脱ぎ、居間にあるソファにダイビングする魔理沙。フカフカのソファに今日の疲れを移し、のんびりと体を伸ばす。気持ちいい。

 

「あれ、魔梨奈はどうしたの?」

 

「あー魔梨奈は何か用事があるから先行っててって言ってどっか行った」

 

「そう、了解!」

 

ソファから落ち、絨毯の上でゴロゴロと転がりながら魔梨奈の事について返事を返す。用事って何だろうなぁ、なんかあったっけ。考えてもしゃーないし取り敢えず待ってるしかないか。

 

「......ちょっと湿度高いな。空気中の水分使ってかき氷でも作るか」

 

夏の蒸し暑さなどあらゆる耐性を兼ね備えた魔理沙にとって屁でもないが、部屋が湿気だらけだと鬱陶しいのでかき氷を作ることにした。ちょうど夏だし、湿度も下げられるので一石二鳥。毎年の夏は大体こうしている。

 

魔理沙は無詠唱で氷を作成し、サイコキネシスで細かく砕いた後、ヤオモモの個性『創造』で作ったかき氷用カップにさっき砕いた氷を投入する。そして肝心のシロップは多分冷蔵庫の中なので、八雲紫のスキマに右腕だけ突っ込み、冷蔵庫の中にシロップが無いか手探りで探す。がどこにも見つからない。仕方ないので瞬間移動し、5秒で三種類のシロップを買ってきた。イチゴ、メロン、ブルーハワイ....、どれも美味いので取り敢えず全部かけてみる。

 

汚いかき氷が出来てしまった。

 

「母さん、かき氷食う?」

 

「あぁちょうだい。けどそのグロテスクなかき氷以外で」

 

「チッ、これ私が食うのかぁ」

 

いかにも不味そうなかき氷を見て、眉をひそめる魔理沙。いや待て、もしかしたらワンチャン美味いかもしれん。見た目はグロテスクだが、その代わり味は美味しいというシーンを漫画で見たことがある。つまり、これもまた美味しい可能性だってあるはずだ。絶対美味い。

 

魔理沙はさっそくスプーンを創造し、グロテスクな氷の山を勢いよく削る。物は試し、人は常に挑戦するからこそ美しい。だから私はこれを食すぅぅうつうううううう!!!!

 

「ん!」

 

口の中に三種類のシロップがかかったかき氷を突っ込む。サイコキネシスで上手く氷を削れたおかげで、氷の食感がフワフワとしている。そこからイチゴシロップの香りと甘さが、メロンシロップのお淑やかな味わいと勢力争いを始め、その上からブルーハワイが覆い被さるように台無しにする。つまり、クソ不味い。

 

真っ黒い顔が真っ青に染まる瞬間であった。

 

「ス、ス、スキマスキマ......、う"っ、ヴェぇぇえええええああ!!!!」

 

能力でスキマを作り、その中に嘔吐する魔理沙。これ妖怪の賢者さんが見たら血相変えてぶん殴りそうだなぁと、申し訳なく思いつつも容赦なく嘔吐する。これが魔理沙クオリティ。ちなみに吐いた汚物は家のトイレに繋がっているので、後でジャーしに行こう。

 

気分が少し悪くなりつつも、しょうがないと割り切って気持ちを入れ替える

 

「ふぅ、酷い目にあったぜ」

 

「魔理沙ーかき氷まだなのー」

 

「スみマすぇーン。かき氷はさっきのグロテスクなヤツで最後デェース。諦めてクだサーイ」

 

「あっそう」

 

なんて辛辣な返しなんだ。

 

 

無駄に労力を消費した魔理沙は、大人しくソファで寝っ転がりながらテレビを見ることにした。魔梨奈早く帰ってこないかなー。帰ったら一緒にスマブラやるつもりだったんだけどなぁ。暇じゃあー。

 

全身に風魔法をかけて涼しみつつ、テレビの電源をつけた。すると......

 

 

『緊急速報です。午後六時三十二分、保須市路地裏にてパフォーマンスヒーロー「サーカス」が遺体として発見されました。遺体には複数箇所に刺し傷が見られ、警察は殺人事件として調査を進めるもようです。また......』

 

 

「は....?」

 

 

唐突の事件ニュースに口がふさがらない。え、ステイン? いやでもステインは既に魔梨奈がぶっ倒して、今は私らの異空間内で仮死状態にして保管してるんだぜ。だからこれはステイン関連じゃない、とすると別の誰かの犯行ということになる。誰? 心当たりのある人間がいるとすれば......、ダメだヴィラン連合くらいしか思いつかない。仮にヴィラン連合だったとしてもいきなりこんなことするか? アイツらならもう少し人の話題になりそうなデカい事件を起こすはずだよな。え? マジだれ? それとも運命は変えられないとでも言うのか? ステインを倒しても、別の誰かがステインと同じ犯行をするとでも言うのか。ふざけるな、そんなクソ設定誰が得するんだ。直ぐにでも犯人止めねぇと、最悪ヴィラン連合が強化されるかもしれねぇ。そんなの死んでも許さん!!

 

 

ブゥゥゥゥン......

 

 

懐にしまっていた携帯が揺れ動き、着信を知らせる。誰がかけてきたのか何処と無く予想出来た魔理沙は、すぐさま携帯のロック画面を解除し、電話に出た。

 

「.....魔理沙だ。」

 

〔こちら塚内警部。至急、保須市に来てもらいたい。君と少し話を交えなきゃいけないけどいいかな?〕

 

「ちょうど緊急速報見てたからそのつもりだったぜ。七秒以内にそっちに行く。じゃ」

 

ピッと通話を切った魔理沙は現場に急行すべく、すぐに玄関先に向かった。

 

「母さん、急用が出来たから出かけてくる。帰るの遅かったら私の分の夕飯を冷蔵庫にでも入れといて!」

 

靴を履きながら母に言葉を残すと、魔理沙は急いで瞬間移動して現場に乗り込んで行った。

 

「ちょっと魔理沙何処に行くの!! ...何なのかしら......」

 

 

 

 

 

 

 

空っぽの空間に、母一人だけの声が静かに反響した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 










戦闘狂さん、全然戦いません。多分次もまだ戦いません。戦闘パート書きたい。めっさ書きたい。



やっと最後で展開がやって来ました。これで少しは作業スピードが上がりそうです。おそらく。




いろいろ紹介

魔理沙の個性の変化:本来、ちゃんと詠唱(少なくとも魔法名を呼ぶ)をしないと発動出来ない個性だったが、簡易的な魔法なら無詠唱、干渉系能力以外なら略語でも発動出来るようになった。やったね魔理ちゃん、成長してるよ!

ヒーロー『サーカス』:この作品のオリジナルヒーロー。華麗でダイナミックな動きで相手を翻弄する姿が、まるでサーカスのようだったからこういうヒーローネームになったらしい。なお、お亡くなりになったもよう。




ざわ・・・ざわ・・・





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運命は変えられない(50話)




※強い「急展開」にご注意ください。








 

 

 

《保須市》

 

 

「さてと、現場現場......警察見っけ」

 

瞬間移動で保須市に直行した結依魔理沙。適当な場所を選んだため、現場と全く違う場所に降り立ったんじゃないかと懸念していたが運良く目の前に移動できた。

 

さっそく魔理沙は目的の場所まで走り、現場に集まってきた野次馬や警察を掻き分けて中に進む。

 

「こっこら君! 子供が現場に入るんじゃあない!!」

 

「あぁすみません警察の皆さん、通してください

 

「!!」

 

魔理沙の一声でこの場にいた全ての人間が道を開け、姿勢を正して一列に並びだした。ツイッターに投稿している人間も、通りすがりの一般市民も、調査に来た警察達も全員、魔理沙の歩みをただ呆然と見ている。強大な何かに体を縛り付けられたような圧迫感が、姿勢を崩すことを許さない。

 

「やぁ塚内警部。久しぶり」

 

「そう言えるほど時間は経ってないけどね、マリッサ☆。後、早く皆を元に戻しなさい」

 

「へいへい」

 

指パッチンで皆を元に戻すと、集まっていた一般市民は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。少し申し訳ないが、まぁいなくなってもらった方が好都合だ。

 

すまし顔で登場する魔理沙に塚内以外の警察達は困惑の表情だ。誰かと思えばあの雄英体育祭の猛者、結依魔理沙。特別な事情によりヒーローになったらしいが、何するかたまったもんじゃない。そうそうにお引き取り願おうと考えたが、正直にそう言える自身もないので彼らは全力で魔理沙をスルーすることにした。

 

「ニュースで大体のことは把握している。そこのヒーローさんが誰かに殺されちまったってことだよなぁ。一応言っとくが、私じゃないぞ。アリバイもある」

 

「分かっている。確証があるわけではないが、君がこういうことをする人間だとは思っていない。君を呼んだのはもっと別の理由にある。あまり大声では言えないからちょっとこっちに来てもらえないかな?」

 

「あーそれだったらもっといい方法があるわ。塚内警部、その内容は心の中で言ってくれないか? テレパシーで聴きとって返事するわ」

 

「......便利だ」

 

あまりの手軽さについ心の声が漏れた塚内警部。驚きつつも冷静さを取り戻した彼は、ジッと魔理沙のいる方向を見つめながら心の中で内容を伝える。

 

傍から見れば変人である。

 

(もしもし。 どう、聞こえる?)

 

(バッチリ聞こえてる。あとこっちガン見しなくても伝わるから楽にしていいぜ)

 

「そうか、すまない」

 

(声出てるって)

 

「あっ....。......慣れないものだ」

 

初テレパシーでドギマギする塚内警部を見て、なんだかニヤニヤしてしまう魔理沙。さっきから他の警察(捜査官)が変人を見るかのような目付きで塚内警部を見てるから、なおさら笑いが込み上げてくる。笑うな、堪えろ結依魔理沙。あの人はああ見えて警部だ。笑ったら面子が......面子...、あヤバイ笑いそう。

 

(魔理沙、少し笑うのをやめてくれないか。なんか恥ずかしい)

 

(そ、そっすか......www)

 

(だからやめてって!)

 

(了解です笑うのやめます。はい、本題は何ですか)

 

(切り替えが早くてよろしい。本題なんだが、今ステインの身柄が何処にあるか分かるかい?)

 

(それなら私の異空間内に放置してますよ。はい。腐ってませんし、なんならピンピンです)

 

(今この場で、私だけに見せることは出来るか?)

 

(余裕です。)

 

「改造・無意識を操る程度の能力」

 

少し改造したこの能力で私と塚内警部の存在を他者に意識させなくした。簡単に言うと、今、私と塚内警部は限りなく影の薄い人間となったのだ。今この場でサンバをやろうが大声で叫んでいようが誰も気づくことは出来ない。とても寂しい能力なのだ。

 

まぁそれはつまり、この場でステインの身柄を出しても誰も気づかないってことだからいいんだろうけど。

 

(塚内警部、今なら何やってもバレません。もし塚内警部が今ここでストレスを発散したいのなら、私目をつぶってあげますよ)

 

「仮にも僕は警部だ。君もそろそろいい加減にしないと、後で処罰が下るかもしれないぞ」

 

(声出てるって......w)

 

「........出てしまったが、さっきみたいな視線が全然来ないな。......本当に何やっても気づかれないのか。」

 

「御自身で実感してもらえて恐縮です。さて、そろそろステインの身柄ですね。少々お待ちを」

 

「....君は何とも掴みどころのない性格だな」

 

からかってきたと思えば、急に冷静になったり、有能な一面を見せつつもふざけてきたりと、まさに掴みどころがない。単にふざけてるだけかもしれないが、......あまり深く考えるのは止めよう。

 

塚内が思考停止しかけてる間、魔理沙はステインを収容していた異空間の穴に手を突っ込み、ステインの身柄を取り出した。本当は瓦礫に潰れて血まみれだったが、魔梨奈が元通りに戻してくれたおかげで特にヤバそうな雰囲気はない。念の為に生死の確認をしたが、脈はあるし地味に呼吸もしてる。ただ意識が戻って来てないようだ。逆に今戻ったら困る。

 

「はいステイン」

 

「...大の大人の首根っこを片手で掴んで手渡されても、困るのは僕なんだが......。まぁいい。この事件の犯人がステインじゃないことが確定したからね。......しかしステインではないとなると、一体誰がサーカスを....」

 

「えい」ペタ

 

「勝手に遺体に触るんじゃない!」

 

「誤解ですぜ塚内警部。私はただこの人が殺される数時間前の記憶を読んで犯人を特定しているだけです。死体フェチじゃないです」

 

「そんなことも出来るのかい!?」

 

「これが魔理沙クオリティですから」

 

触れることで他者の記憶を見ることが出来る能力、「サイコメトリー」によって犯人を特定しようとする魔理沙。誤って全ての記憶を読み取らないよう慎重に探っていく。はー、この人結婚してたんかぁー。子どもが.....二人、奥さん美人だなぁ。趣味はプラモ製作と家族旅行で、休みの日はよく観光名所に家族を連れてって.....、惜しい人亡くしたな。

 

誤って家族構成と趣味を知ってしまったが、落ち着いて探りを入れよう。この人が死ぬ直前に起きた出来事、背後からナイフで全身を滅多刺し、トドメに頸動脈を切って多量出血....。地味に声も聞こえてくる。「.....イヒ、いひひひヒひ、いひひひひひひひひひひひひひひひヒヒヒヒヒヒひひひひひひひひひヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒひひひひひひヒヒヒヒひひひひひひひひ!!!!」ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

「怖ッ!!?」

 

「どうしたんだい魔理沙、何かわかったのか?」

 

遺体からサッと手を引いた魔理沙を見て、塚内は手がかりを掴んだと勘違いしたが、実際はただの恐怖映像であった。犯人は確かにステインじゃなかったし、少しだけ可能性を疑っていた魔梨奈でもなかった。見えた犯人は見知らぬ男。だが余りにも狂った殺人鬼であった。動機らしい口実を吐くことも無く、ただ己の衝動を満たすためだけにナイフを振り回す狂人。目の焦点が全然合ってないから余計に怖い。なんかそんな奴を前に見たことある気がするが、仮にそうだとしても思い出したくない。怖すぎる。

 

「犯人はわかったのか......?」

 

「......心当たりは無くはないですが...、いや、まさかなぁ......、前はそれなりに前兆があったから納得出来たけど...、今回は少し変だ。いやでもこの唐突さこそヤツららしいというか......」

 

「一体何の話をしてるんだ魔理沙」

 

「塚内警部、すみません。犯人を突き止めるのは少々難しいです。また何かあったらいつでも呼んでください。じゃ」シュン

 

「魔理沙!? 君は一体何を見たんd」

 

塚内が手を伸ばそうとした先には、何も存在していなかった。あるのはさっきまで蚊帳の外にされていた捜査官達の仕事ぶりのみ。

 

結局、犯人の正体が不明のままこの調査は終わることとなった。魔理沙が記憶の中で見たかもしれない犯人像も、本人が話さない限りどうしようもない。どことなく不穏な空気を感じた塚内は、深く帽子を被り、事が解決することを静かに願った。

 

 

 

 

〔...。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日から一週間ほど経った今日に至るまで、連日連夜ヒーローが殺害される事件が発生した。それも保須市のみならず全国各地でだ。事件が起こる度に魔理沙は現場に駆けつけ、調査を手伝い、犯人の痕跡を得るべく奮闘するのだが、あまり手がかりらしい手がかりはない。

 

いや、普通の犯人だったらここまで苦労しない。私をここまで苦労させられるヤツなど三枠に絞られる。一人は魔梨奈、なってったって私と同能力持ってんだから何でもアリだ。それを言うと私も候補になってしまうが、メタ的な理由で私は違う。だって主人公だし。

 

ちなみにサーカスさんが殺されたあの夜、念の為に魔梨奈に聞いてみたが、「マジ....?」とガチで困惑した表情を見せた。どうやら初耳だったらしい。まぁ、それ以降魔梨奈も犯人探しを手伝ってくれているから魔梨奈は違うだろう。何より家族を疑いたくない。

 

二つ目の候補は「異形軍団」。体育祭で存在確認出来たし、正直コイツらな気がする。特に全国各地に現れたっていうのと、殺されたヒーロー達が最後に見た犯人像がそれぞれ一致していなかったのも怪しい。そしてさらにその犯人達? の共通点は全然トチ狂ったかのように笑いながら惨殺していることだ。異形妖精ではないが、似たような部類に違いない。

 

ただ不可解なのは、ヤツらはヒーローしか狙ってないってことだ。異形達のことを知っている人ならばより一層変に‪感じるだろう。ヤツらだったらヒーローどころか、そこら辺の一般市民にも見境なく襲いかかるはずだが何故かしない。それプラス、記憶の中では被害者を滅多刺しにしてるのに遺体には数箇所しか刺し傷が無い。被害者があまりの恐怖で記憶を誇張したのかもしれないが、やはり怪しい。

 

三つ目の候補は「ただの犯罪集団」。別にステインとか、異形とか関係なしにヒーローを寄って集ってリンチしている説。ただし、プロヒーローはそこら辺のチンピラなどに負ける要素は無い。そう考えると殺ったのは今や化石となった暴力団か、それとも轟くんレベルの個性を持つ若い子が気晴らしにやった少年犯罪か、まだ見ぬ未知の存在による宣戦布告か。まぁでもこの辺は可能性として低いから気にしなくてもいいや。急に全国各地で発生した理由を説明出来ないからな。

 

 

考えたくはないが、新たな「覚醒者」による犯罪の可能性も拭えん。今はだいぶ少なくなったが、原因不明の個性暴走とか四月ごろにあったからな。世の中物騒ですわぁー。

 

 

「ZZZZZ.....」

 

「寝るな」スパン

 

「痛った! 何ですか相澤先生、今痛覚無効切ってるんですから叩かないでください!!」

 

「お前がいつまでたっても職場体験の事務所選択の紙を提出しないからだ。全く、放課後はこちらも忙しいというのに....不合理の極みだ。」

 

「....てっきりヒーローになったから、職場体験なんてしなくても良いと今日の5時間目まで思ってたんですけど.....。というか47話でそう言ったのに何であの時否定しなかったんですか!!」

 

「これはヒーロー公安委員会からのお告げだ。他のヤツらにも言えることだが、ヒーローはヒーロー以前に公務員という役職だ。その事をお前は全く理解していないらしいから、職場体験でしっかりと学んできてほしいようだ」

 

「......免許とったんだけどな」

 

そんなやる気ゼロな魔理沙を見かねた相澤は、一つ助言をすることにした。

 

「魔理沙、二十歳になったから大人になっただとか、ヒーロー免許を取得したからヒーローになったと思うのは大きな勘違いだ。プロヒーローがどんな風に活動しているのか、現場での対応の仕方やヒーローとしての在り方を知り、『経験』を積まなければ一人前のヒーローとは言えない。お前が目指しているのは中途半端なヒーローか?」

 

「......。」

 

悩みに悩む魔理沙。一通り目を通して見たが全くもって興味が湧かない。確かに相澤先生の言う通りだし、経験はいくつ積んでも損することはない。適当でもいいから事務所くらい選ぼう、そう考えた魔理沙は目をつぶり、適当なところを指さした。神様の言う通りってヤツだ。

 

神様が選んだ、私の事務所の行き先は.....

 

「.....マニュアル事務所...」

 

「保須のヒーロー事務所か。力で解決するお前にはうってつけだな」

 

「....そっすね」

 

 

微妙な気分になりつつも、気を取り直して前を向く。そうだな、ヒーローになったんだからマニュアルは必要だよな。ゲームやる時だって説明書を見るのと同じだ。ちょうどいいな。うん。ちょうどいいんじゃあ!!

 

 

 

自分の行動に正当性を持たせ、大人しく魔理沙は帰宅することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

さらに二日ほど経った今日この頃。私達1年A組は職場体験に向けて最低限の知識や心構えを身につけていた。職場体験まで残り数日、気を引き締めねば。

 

ま、今は三時間目の現代文の授業だけどな。教科担当はセメントス先生。声がおっとりしてるから、めっちゃ眠たい。凄く眠たい。このまま寝たい。

 

「おい魔理沙、魔理沙、私!!」

 

「....なんだ魔梨奈か。起きるから後三十分寝かせてくれ」

 

「お前が起きた頃には授業終わってるよ。...いやそういうこと言いに来たんじゃない。今すぐサーチ能力使え! ありえない速度で何かがこっちに突っ込んで来るぞ!」

 

「はぁ? どゆ......、マジかよ」

 

てっきり魔梨奈の下手なジョークかと思っていたが、マジで未確認高速飛翔体が雄英高校目掛けて突っ込もうとしていた。意味がわからん。どういう精神構造をしたら午前中にテロを起こす気になるんだろうか。さっさとお帰り願うとしよう。

 

授業中にもかかわらず、彼女らは席を立って窓を開放した。

 

「魔理沙少女、魔梨奈少女、今は授業中です。席を立つのは当てられてからですよ」

 

「どうしちゃったの二人とも? 空に何かにあるのー」

 

自分達の謎行動に案の定ざわめき出した1年A組の仲間たち。飯田くんが「授業中は立つべからず! べからずだぞ魔理沙くん! 魔梨奈くん!」と席を立ちながら注意を促しているが、それを気にしている暇は無い。

 

「私だって授業妨害する気はサラサラ無いぜ? けど今回は違う。未確認飛行物体がこの教室目掛けて衝突しようとしている」

 

「今からATフィールドを張るから気にせず授業をしてていいけど、もしかしたら窓割れるかもしれないから気をつけてね」

 

(((えぇ......?)))

 

困惑するクラスメイト。魔理沙達にとってアクシデントは日常茶飯事だが、クラスメイト達にとっては人生で数えられる程度の出来事だ。未確認飛行物体が教室に衝突するなど誰が信じられるだろうか。

 

「師匠、嫌な予感がします」

 

「でしょ? 多分、五秒後くらいにはやって来るから今すぐ伏せた方がいいぜ。ガラスの破片に滅多刺しされっからな」

 

「邪魔だボサボサダブル!」

 

「はい今黙ろうか爆発さん太郎。マジで時間無いんだから」

 

「......はい、3、2、1 ──ドン」

 

 

ドン!!!

 

 

魔理沙達の言う通り、得体の知れない何が轟音と振動を纏いながら教室に衝突しようとした。が、魔理沙のATフィールドがそれを許さず、すんでのところで抑えつけていた。窓ガラスは1年A組に留まらず全体の約九割以上が崩壊してしまったが、ゼロコンマ一秒後には魔梨奈が修復能力で直したため被害はおそらくゼロ。理解する暇もなくほとんどの人間が唖然とする中、魔理沙達は衝突してきたモノの正体を知り、深いため息をつく。何回邪魔すれば気が済むのだろうか。何度このセリフを吐けばいいのだろうか。顔見る度に思い出す幼きトラウマ。そろそろ決着を着けねばならない。

 

「「何しに来やがったコード000!!!」」

 

「マスターとの約束を放置する貴女に弁明の機会はありません。今すぐ死になさい」

 

襲来してきた者の正体は自己進化型人工知能、NOUMUコード000。だが初期に比べて容姿がいろいろと変化していた。髪が白髪ちょいショートから銀髪ロングへと変化し、軍服っぽい謎のコスチュームから白統一の機械チックなコーデへと変化している。目も金色単色から金赤のオッドアイとなった。マスター、てめぇ趣味変わったな? 性別もなんか男の娘からジト目少女に変わってるし、絶対性癖漏れてるだろこれ。

 

魔理沙とコード000の目が合う。両者共に嫌悪感剥き出しの目付きで睨み合う。

 

 

運命の歯車が回り出す。

 

 

 

 







少し展開が加速しています。御容赦を。




全国各地で急激に増えた刺殺事件。コード000の襲来。職場体験......、いろいろと濃厚になって来たと思います。こっから先、無茶苦茶な展開が増えると思いますが暖かい目で見てください。


銀髪美少女っていいよね。


いろいろ紹介

改造・無意識を操る程度の能力:東方Projectのキャラ、古明地こいしの能力を改造。本来は自分限定の能力だったが、改造し、自分含め四人の存在を限りなく薄くさせる能力となった。四人同士は認知可能。



次回、対談。





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ディスカッション(51話)



今回はオリキャラ設定厨オンパレードです。苦手な方は流し読みまたはブラウザバック、最悪の場合スマホをぶん投げて難を逃れてください。




東方キャノンボール、ガチャが闇深い。リセマラしまくって星5ゆかりんと星5写し絵で諦めたぜ。ゲーム内容、桃鉄劣化版みたいだけどキャラが可愛くて音楽が最高だから止められません。楽しい。





 

 

 

 

「「何しに来やがったんだコード000!」」

 

「二度も同じセリフを吐くのは無駄な行為です、結依魔理......二人?」

 

突如として襲来した彼女の目の前には、結依魔理沙二人と1年A組生徒たちが戦闘態勢で構えていた。1年A組に関しては調査対象外なため特に関心は無いが、データに一切の記録が無い()()()()()()()()()()の登場に関心を寄せる。前触れも無く、当たり前のように佇む彼女を見てコード000は考察を進めるも推測の域を出ることはない。ハッキリと分かるのは分身系能力の最高クラスであるという事のみ。

 

「......やはり殺すのはやめておきましょう。結依魔理沙二人、貴女方のクラスメイトを危機に晒したくなければ今すぐマスターに会いに行きなさい。拒否権は無効」

 

「私も傲慢だがお前もなかなかだな。会いには行ってやるが今日は学校だから明日だ」

 

「拒否権は無効」

 

「少しくらい譲歩してくれたっていいだろう? ジャパニーズおもてなしは日本人のフィーチャーだろ?」

 

「拒否権は無効」

 

「あーわかった、わかった。......ならば戦争だ。頭の固い機械人形にはそれ相応の手段を選ばねばならんようだな」

 

「.....潜在エネルギー、体育祭でノ身体能力、智力、能力総数、エネルギー総数、etc......これらのデータから導き出される私の戦闘勝率2%。...結依魔理沙、今回はここまでにしておきます。ただし明日来なければ貴女の家を破壊してでも連れていくのでご理解を」

 

「......は?」

 

戦う気満々で構えていた魔理沙だが、喧嘩ふっかけた本人が真っ先に戦闘を辞退したことに驚きを隠せない。いや懸命な判断なんだろうけど、アイツに責任の「せ」の字は存在しないのだろうか。

 

「.....お前、マジで帰るの?」

 

魔梨奈が事実確認をとる。

 

「ハイ。戦略的撤退です」

 

そう言い終わるとコード000は姿を消した。展開の速さに流石の魔理沙達でさえポカーンと空を見上げる中、異変に気づいた先生方が1年A組に集合する。先生方による事情調査が始まる中、魔理沙と魔梨奈は空を見上げっぱなしのまま、ずっと同じことを考えていた。

 

 

 

 

((今日のアイツ、めっちゃ流暢に喋るやんけ))

 

 

 

今日一番の驚きであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

六月Σ日土曜日、魔理沙と魔梨奈は約束通りマスターと呼ばれる親玉に会いに行くことになった。朝目が覚めると机の上にマスターの居場所を示す受信機が手紙と共に添えてあったので、それを頼りに現在山の中を探索中。手紙の内容はこの受信機の説明と入り口の開き方、あと山の中で遭遇すると面倒臭い奴がいるという警告のみ。一言コメントには「一週間クソ暇だった」と書き残されていた。

 

「それにしても、何で山の中なんだ」

 

「分からない。自己進化型人工知能を作るのに適した環境なんじゃない」

 

「そうか、じゃあこの森燃やすか」

 

「冗談にならないからやめてもらおうか」

 

起伏の激しい山道を苦もなく乗り越え、雑談を交えつつ歩を進める。度々見られる倒木や巨大な足跡の正体が気になるところだが、家を爆破されるわけにはいかないのでスルーしていく。まぁ熊が出てきたところで問題は無い。出てきたら一撃で仕留めて今日の夕飯にしよう。熊、食べたことないし。

 

しばらく歩くと受信機が指し示す場所に到着した。この辺りは森が開けていて、ススキやらなんやらが生えに生えまくっている。つまり建築物らしきものは何一つ見当たらないのである。

 

「地下だな」

 

「敵ながら男のロマンを理解しているとは、天晴れ」

 

感動を覚えつつ、地下につながる秘密の入り口を探そうとする魔理沙達。手紙によると、茂みの中央に折れた石柱があるらしく、そこが入り口のキーとなっているらしい。

 

手紙の通り、折れた石柱に似せた入り口にたどり着いた。手紙に書いてあるパスワードを石柱に入力すると、石柱が地面の下にズブズブと沈んでいく。その一秒後、地鳴りと共に地下へのエレベーターが勢いよく出現した。

 

「行こう」

 

「.....なんだろう、エヴァ思い出すの私だけ?」

 

「気持ちはわかる。さ、アスカ・ラングレーがダミープラグを挿入されたエヴァ初号機に喰われる前にエレベーターに乗ろう」

 

「やめろよ、あのシーン曲も相まってトラウマなんだよ」

 

適当なことを喋りながらエレベーターに乗る二人。すぐに着くかと思いきや、思いのほか深い位置に地下室が存在していた。私らは大丈夫だが、ここに住んでいるマスターとやらは気圧の調整はちゃんと行っているのだろうか。そんな心配を脳の片隅に放置しつつ、二人はオリジナルの脳内シュミレーションゲームで暇を潰していた。お互いにテレパシーが使えれば手軽に出来るため、皆にもぜひやってもらいたい。流行らせコラ。

 

 

 

 

 

しばらくすると、大きめな振動と同時にレトロな効果音が流れた。どうやらヤツらの住処に到着したらしい。さっそく二人はエレベーターの扉をこじ開け、様子を確認した。が、見えるのは複雑に入り組んだ廊下だけだ。......あの、防衛に全振りしすぎじゃないですかマスターさん。これではいつまでたってもマスターに会えない。最悪廊下歩くだけで51話が終わってしまう。ならば......

 

 

「「キング・クリムゾン!!」」

 

「『結果』だけだ! この世には『結果』だけが残るッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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〜 二時間後 〜

 

 

「どうやらこの部屋がヤツの部屋っぽいな」

 

「生体反応もある......、今度こそアイツの部屋だ! 間違いねぇ! ヤツの臭いがプンプンするぜぇッ!」

 

「そう言って何度部屋間違えたと思う? まぁでも今度こそ正解だろう」

 

思い出される数々の罠。暗証番号のかかったトイレ部屋や、時代錯誤の宝物庫、進めば進むほど枝分かれしていく廊下、登れない階段、ドッキリ、奥行きがあるように見えるただの立体絵、サランラップ、人形がビッシリと詰まった部屋、武器庫、図書館、ボールプール、発電機、開発室、ウサギ小屋、弓道場etc、もはや館内見学になってしまったが、この部屋でおそらく最後だ。絶対この中にいる。

 

「「せーのっ、そぉいッ!!!」」

 

暗証番号らしきものがかかったドアをヤクザキックで吹き飛ばし、堂々と登場する二人。派手に蹴り飛ばしたせいでホコリが宙を舞い、視界が一瞬遮られる。再び目を開けると、そこにはさっき蹴り飛ばしたドアが空中でピタリと制止していた。異様な光景だが、理由は単純明白。ヤツが飛んできたドアを片手で止めただけのこと。

 

「いらっしゃいませ、結依魔理沙様」

 

「コード000、約束通り来たぞ」

 

「....てっきりメカメカしいかと思ってたけど、案外人間らしい部屋なんだな」

 

コード000がドアを地面に投げ捨て、丁寧に一礼をする。雰囲気の違いに違和感を覚えつつも、魔理沙は魔理沙らしく挨拶を返す。そんな彼女らを横目に魔梨奈は、部屋の様子を伺っていた。

 

木製の床に可愛らしいカーペット、ミニテーブル、柔らかいソファ、楕円状の照明、意外と一般家庭と変わらない。全身炸裂兵器のようなヤツらが棲む部屋とは思えないほどのほのぼの感。人は環境や人間関係によって人格が形作られると言われるが、こんなに普通な環境の中でどういう風に育ったらあんな戦闘狂になれるのだろうか。理解出来ない。

 

特大ブーメランがおでこにクリーンヒットした。

 

「やぁやぁ魔理沙くん、.....ともう一人の魔理沙くん? 初めまして」

 

コード000の背後からスっと現れた一人の男。どうやら彼がマスターらしい。見た目的には二十代後半に見える。

 

「私はこの子らのマスター、山田総二郎。最近の裏世界じゃあ『クリエイター』って名前で通ってる。よろしくね君たち」

 

「知ってるだろうけど自己紹介はしとく。結依魔理沙だ、よろしく」

 

「結依魔梨奈、魔理沙の分身だけど事情により戻れなくなった。よろしくね」

 

互いに自己紹介を終えた三人は、話し合いの場としてソファとミニテーブルが置かれている場所に移った。テーブルを境にマスターと二人が座り、後からお茶を運んできたコード000がマスターの隣に座る。ついにこういう日がやってきた。

 

「ふぅ、さて。まずは君たちを呼び出した理由について少し話そうか。いきなりなもんだからビックリ仰天だったろう? 滅多にない機会だし、ちゃんと最後まで聞いてもらうよ君たち」

 

「....お、おう」

 

なんかもっとこう、碇ゲンドウみたいなコテコテの頭トンカチだとイメージしていたが、思っていたより非常に知的で大人っぽい。脳内での悪い人イメージと現実でのいい人イメージの差異が私の心に歪みを生んでいる。どっちなんだ......?

 

「君たちを呼び出した理由はそう! 君たちと私には()()()()()()()()があるということに私が気づいたからさ!! これは正しく運命的な出会い! 必然そのものだったのさ!」

 

「......つまり?」

 

 

「つまり君たちと私は同じ故郷出身、いや、()()()()()()()()()ってところかな?」

 

「「ふーん......、............ん?」」

 

 

「「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」」

 

えええええええええええええええええええええええええええええええええええ?!?!?!

 

 

「「マジ?!?」」

 

「マジ。魔理沙がうちの子と戦ったときや体育祭とかで使った能力は全部あっちの世界で知られている技だろう? それに君の姿も......確か霧雨魔理沙だったよね? 合ってる?」

 

「こいつマジだ......」

 

震え出す二人。てっきりこの世界はそういうシステムは無いと思っていた二人だが、新たな発見に感極が有り余って叫び声を上げる。これを聞けただけでももう満足だ。前世の記憶が共有出来なくて今までちょっと寂しかったが、夢が叶うぞ!!

 

疑心暗鬼に満ちた二人の顔が満面の笑みに変わり、マスターも思わずニッコリ。だが彼女らの笑顔が続くことはなく、突如修羅の形相でマスターの胸ぐらを掴んでひねり上げた。

 

「じゃあなんで前世マトモだった人間がこっちでヴィラン側についてんだ。それでもお前は前世日本人かッ!!」

 

「魔理沙ー、ブーメラン」

 

魔梨奈の一言で魔理沙はマスターの胸ぐらを離し、わざとらしく「う"っ"!!」と叫びながら膝を着いた。どうやら魔理沙らも謎のテンションに囚われたようだ。

 

「フフ、聞いちゃう? 何故、前世日本人だった私が今までヴィラン側について活動していたか......。ちょーーっと回想シーン長くなっちゃうけど、聞いちゃう?」

 

「じゃあいいです」

 

「そんなに聞きたいのかぁ! じゃあさっそく回想シーンに......と言いたいところだけど、残念ながら僕の話は内容が濃い上に長すぎるんでね。なんで私がヴィラン側にいたのかを簡潔に言うと、オールフォーワンが幼少期の私を救ってくれたからってのと、私が彼にヴィラン側として資金調達をする見返りに、我が娘たちに『個性』を付与してくれたからさ」

 

「......。」

 

サラッととんでもない事情を聞いてしまったが、ここでツッコミを入れて話を広げると肝心な内容に触れられん。好奇心をグッと抑えねば。

 

好奇心を抑える魔理沙達を見て察したマスターは、彼女らのために話題を変えることにした。

 

「そうだ、私の個性についてまだ話していなかったね。」

 

『個性』というキーワードに反応し、魔理沙たちはすぐさま目線をマスターに移す。

 

「ゴフン...私も転生の際に『個性』を手に入れてね。『二次創作』......それが私の個性だ。触れた物体を丸々コピーし、コピーした物体を改造出来る個性。自分含め生物には触れても効果がない。いやぁ、これのおかげで今私は食っていけてるんだけどね。神様は有難いねぇ」

 

「二次創作......、なるほど自分ではなく非生物を改造する能力......。これは個性獲得案件だな」

 

「なぁマスター、お前の髪の毛喰ってもいい? 大丈夫痛みは一瞬だからさ」

 

マスターににじり寄る二人。流石は同じ転生者、持ってる個性は一級品である。だがそんなチート能力をガッツリパクれるこの個性こそ、真のチート能力かもしれない。

 

そろそろ異世界転生者を養殖してチート能力をがっぽがっぽ手に入れるのも良さそうだ......、と脳内で悪ふざけをしつつ、マスターの髪の毛に手を伸ばした。

 

「あの君たち、表情がとんでもなく悪いよ? 鏡でも持ってくる?」

 

「「大丈夫大丈夫、どんなに悪い顔してたとしても、どうせ真っ黒で見えないから」」

 

「なんで棒読mッ......あ"ーーーーーッ!!」

 

マスターの毛根が悲鳴を上げながら外に引っこ抜かれる。一瞬の大きな痛みが彼の脳を刺激し、マスターは彼女らに大切な髪の毛を持ってかれたのを自覚した。

 

「......なんとも言えない味だ」

 

「...硬い」

 

「髪の毛喰われた上に酷評とは......」

 

胸ぐらを捻りあげられ、髪の毛を毟られ、酷評を下されたマスター。踏んだり蹴ったりとはこのことを指すのだろう。さらにアイデンティティである個性『二次創作』さえもパクられたのだから余計に酷い。

 

ため息を吐いたマスターだったが、彼女らの前で悲しげな雰囲気を醸し出したところで無意味なのはとうに知っている。ので、前向きな気持ちを切り替える。そろそろ本当の目的についても話さなければならないしな。

 

お茶とお菓子をツマミながらどう話を展開していくか考えるマスター。あまりこういうのは得意ではないから、どうしても不器用になってしまう。出来ることなら家族全員で押さえつけて無理矢理要求を飲ませたいところだ。が、あいにく相手はチート魔女二名。自分らも中々の修羅場をくぐって来たとはいえ勝てる見込みがない。余りのコミュ力が足りなさで誰かから笑われかねんが、私なりに上手く交渉しよう。

 

「あ、君達に紹介したい家族がいるんだ。というか()()()()()()()()()()だから、先に君の仲間になる子たちを紹介してもいいよね」

 

「「今なんつった?!?!」」

 

「おいでー皆。お客様だぞー」

 

契約という謎の単語に頭を抱えるうちに、マスターの呼び声によって即座に現れた六人。その面々を見た瞬間、魔理沙らは察した。こんなにいるとは予想していなかったが、コイツら全員コード000と同じタイプのヤツらだ。全員人の形をしているが、生体エネルギーの数値が人とは大きく異なっている。なるほど娘ね。

 

「これが私の娘たち、『自己進化型人工知能NOUMU』ズだ」

 

ビシッと整列するNOUMU達。魔理沙は並んでいる彼女らをじっくりと観察するが、なんか、全員可愛い。お淑やかなお姉さんぽいヤツからロリロリのロリまでジャンルが幅広い。マスター、お前の性癖の広さを甘く見ていたよ。今までは憎い相手だったが、こうやって冷静に見ると私の好みドンピシャな子が多い。......クッ、なんて複雑な気分だ。

 

「ねぇ、マスター」

 

「どうしたんだいコード003?」

 

「なんでコイツが私達の家にいるの!! しかも増えてるし!!」

 

「あー、お前は確かUSJの時の狂気ロリ」

 

「誰がロリよ!! まったく、何しにきたのかぜんぜんわかんないけど、今この場でコイツをぶっ飛ばせばあの時の復讐を......」

 

「ダメよサンちゃん。仮にもお客様なんだからぶっ飛ばしてはいけません」

 

今にも暴走しそうだったコード003を止めたのは、同じくUSJ事件にて襲撃してきたコード005であった。

 

「お久しぶりです魔理沙さん」

 

「.....お前も確かUSJにいたよな。全身に武器仕込んでたあの......」

 

「はい私です。以後お見知り置きを」

 

妙に落ち着いていて胸の大きい彼女に魔理沙は違和感を感じるも、何事もなく手を差し出したので私は彼女の手を取り握手を交わした。

 

手からミシッという音が聞こえたのは気のせいだろうか。

 

私は握手を終えると、マスターに彼女らの説明を頼んだ。初めて見るヤツらもいるし、なんで急に呼び出したのか事情を知りたいからだ。なんか契約とかほざいているからそこもじっくりと聞かねばならん。

 

「はいはい落ち着いて。今から説明してあげるさ。えーまず君達から見て一番右にいるのはコード000ことゼロちゃん。私の相棒かつ嫁さ! その左隣がコード001。ゼロちゃんに似て真面目でやや無口だけど甘い物大好きな可愛い娘さ。そのさらに隣がコード002。男勝りで力のある頼れるお姉ちゃん、に見せかけてるけど実は男なんだ。ギャップ萌えだろ? そのさらに隣がコード003、お転婆貧乳ロリで超可愛い。そのさらに隣はコード005、巨乳お姉さんは皆の夢さ! そしてさらに隣はコード006、ショタです。困り顔が愛おしいです。一番左はコード007、和服巫女で家事全般最強の超カワベリキュート娘です。ね、みんな可愛いだろう?」

 

「「「「「「「「......。」」」」」」」」

 

マスターの高速紹介の内容にドン引きする二人の魔女と、照れて声が一切出ないコードナンバーズ。同じ沈黙だが、温度差が違いすぎて風邪ひきそうだ。え、何これ。何これ。ハーレムすか? ハーレムなんですか? あらゆる萌え属性が揃った萌え無双ハーレムっすか?

 

「あの、マスターさん。頭大丈夫ですか」

 

「あぁ全然大丈夫。むしろ絶好調さ! いやぁ他の人に娘たちの魅力を伝えるのってこんなに気持ちがいいんだなぁ! もっと君達に語りたいんだけどいいかな!?」

 

「いいからさっさと要件を言え。わざわざ全員読んだってことは、何か言わなきゃいけないことがあるんだろ?」

 

興奮するマスターを辛辣な返事で撃退する魔梨奈。ハッと我に返ったマスターは咳き込みつつ、話を続けた。

 

「すまんすまん癖でな。......ふぅ、散々茶番をやってきたけど、私の本命はただ君達と駄弁ることじゃあない。君との交渉だ」

 

その言葉を聞いた時、魔理沙達は即座に察した。

 

「なるほど交渉ねぇ。で? 何がしたいの?」

 

「君と私らの間に協力関係を結びたいのさ。そろそろヴィラン達と縁を切って君に乗り移りたいと思ってね」

 

「はぁ。まぁオールフォーワンより明らかに個性をたくさん持ってるからな。目的はそれだけか?」

 

「それもあるが、それ以上に私は君らからちょっと......その、取り返したいのさ......」

 

「コード004だろ?」

 

「.....流石にあからさますぎたかな。」

 

ちょっと申し訳なさそうな顔をするマスター。気不味い雰囲気が彼女らを覆うが、魔理沙と魔梨奈はケロッとした表情で返事をした。

 

「ま、全然構わないけどね。好きに貰ってっちゃって」

 

「正直どう処理すればいいのかずっと迷ってたし、この機会に返却した方がお互いに良さそうだね」

 

二人は顔を合わせながら意見を合致させると、マスターが号泣しながらこちらに突っ込んできた。

 

「二人ともあ"り"か"と"う"!!! こっちにも非があるから返してなんて通じると思わなかったけど!! 本当にありがどう!! ずっどあゑなぐでざびじがっだんだよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

「わかった! わかったから落ち着け! わかっ、ちょ......くっつくなって!! お前の涙と鼻水が...ァあああああああああついたあああああああああああああ!!!!」

 

全身の穴という穴から体液を噴出したマスターに泣きつかれ、魔理沙達の服に鼻水やら涙が飛び散る。とりあえず汚いので魔理沙と魔梨奈は光の速度でビンタを繰り出し、マスターの身体を吹っ飛ばした。ちょっとやりすぎたため、人工知能ズが襲いかかってくるんじゃあないかと考えていたが特に何も無かった。

 

「アレはマスターが悪いです」

 

「もう少し品を出せないのかしら......」

 

呆れるコード000と007。

 

「でもそんなマスターが好きだよねー」

 

「「「「ねー!」」」」

 

「「お前ら仲良しかよ......」」

 

姉妹愛というか、マスター愛というか......、七人の可愛い少女達が一人の男を思ってニコニコするって、お前ら、お前ら、クソ羨ましいぞコノヤロウ。性別変えようかな。

 

 

 

 

 

 

to be continued......

 

 









2週間空いてしまった。次でマスターとの会話は終わりだなぁ。オリキャラばっかで申し訳ない。けど楽しい。



一年って、早い。



いろいろ紹介(今回は長い)

・碇ゲンドウ:新世紀エヴァンゲリオンの登場キャラ。主人公碇シンジの父親。性格は冷徹でシンジくんに厳しい。グラサン......声優が立木文彦......まるでダメなおっさん......、ウッ!

・個性『二次創作』:自分含めた生物を除くあらゆる物体(ただし手で触れられるもの)をコピーすることができ、さらにそれを改造(見た目や性能など)することが出来る能力。しかし、二つ以上の物体を同時並列的に改造するのは不可能。また、どんなに改造しても本質は変わらない(触れると爆発する石に改造したとしても、それは分類上『石』に分類される)。また、個性は個性因子が無いと付けられないため、改造した物体に個性の付与は不可能。

・コード000:ビフォーアフターが激しい人工知能初号機。姿イメージはドラッグオンドラグーン3のウタウタイ姉妹の長女、ゼロ。マスターが特に気に入っているため、個性は複数所持している。ちなみにコード000はマスターの特典として神様から個性と一緒に手渡されたので、実質神造人間である。また、その他のコードシリーズは全てコード000を元にし、マスターの個性『二次創作』によって複製改造された模造品。しかしマスターは全てのコードシリーズを愛している。

・コード001:複製改造第一号。所持している個性は『千里眼』。自分の個性について全く知識の無かったマスターの初めて個性使用で誕生したため、初期のコード000と性格がほぼ変わらず、せいぜい見た目と甘い物好き属性しか付けられなかった。が、最近コード000のキャラが変化してきているのでキャラが立ってきた。姿イメージはまどマギの暁美ほむらに近いようで遠い。

・コード002:複製改造第二号。自分の個性に慣れてきたマスターが張り切って作った人造人間。個性は『闘気硬化』、身体の一部分を気で固めて強化する能力。姿イメージはSINoALICEのシンデレラ。男勝りな女の子のような荒っぽい性格だが、家族には気配りできる偉い子。本来コードシリーズは全員機械人形(オートマタ)なので性器などといったものは付いていないが、本人は男と言い張っている。

・コード003:複製改造第三号。そろそろロリが欲しいと感じてきたマスターが張り切って作った人造人間。個性は『反射回避』、敵の攻撃の意思に反応して絶対回避する能力。姿イメージはブレイブソード×ブレイズソウルのエクス=レプリカ。性格は生意気だが、そこがいいとマスターは言う。最近、他のコードシリーズからサンちゃんと呼ばれることに不服を感じている。



睡眠は大事。




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史上最強のタッグ(52話)




早くもあの方が登場。







東方LOSTWORD(二次創作)めっちゃ面白そう。










 

 

 

「痛たたた、そのビンタは結構身に染みる....」

 

「おう、年頃の乙女に鼻水つけるたぁマナーがなってないな。マスター」

 

「だって君たち元男じゃん? いいじゃん、ちょっとくらい......」

 

「「何も良くない」」

 

これが能力を得たオタクの末路なのか。いや、私だって男として転生したならばこんな趣味に費やしていたのかもしれない。

 

マスターを哀れな目で見つめながら、さっさとコード004を解放するために能力を発揮する。今までいろんなものを格納してきたから、どこの空間にどの物体があるのか全然把握していない。というかアイツの身柄って異空間じゃなくて、あの時戦闘した場所の、空間の隙間に放置してきたよな。つまり、今一度あの場所に戻ってもう一度空間を切り裂き、アイツを解放しなければならんってことだ。うわぁ......。

 

二人の魔女はため息をついた。

 

「おいマスター、ちょっとコード004連れてくるから結界解いてくれない? 正直、結界無かったらこの地下の部屋だって瞬間移動で迷わず一発だったのに。」

 

「でも部屋巡りはなんだかんだ楽しかったな」

 

不満な表情を出す魔理沙と、つい何十分か前の出来事を楽しげに思い出す魔梨奈。

 

そう、この地下全体にはやたら頑丈な結界が張ってあった。ここに入る前はただの防衛結界だと思っていたが、他にも瞬間移動や座標移動に反応して排除する機能や酸素供給機能、圧力調整機能など高度な技術が施されていた。結界系はまどろっこしい能力なので、私は演算系能力の補助を受けつつ張っているが......、いや今見ると中々に凄いな。

 

「あーそれはごめんね。ちょっといろんな事情で.........、いややっぱいいや。はっちゃん、結界解いちゃっていいよ」

 

はっちゃん呼びされて反応したのは、和服姿が魅力的な彼女、コード008であった。

 

「マスター、良いのでしょうか? 結界を解いたら()()()()が地下に侵入してしまいますよ?」

 

「大丈夫大丈夫。だってこっちには最強の戦力が揃ってるんだからね。ゼロちゃんで五分五分だから、そこに魔女を二人加えたらもう一方的にボコボコに出来るじゃあないか」

 

「そうですね、マスター」

 

「だから何だよ......『あのもの』って...」

 

あのものの正体がどうしても気になる魔理沙。ここに案内された時も『厄介なヤツ』がいるとか言っていたから、山の中だし、てっきり熊かなんかだと思っていた。が、ゼロちゃんが五分五分になるほどの敵が熊なわけが無い。それだったら幼少期の私は熊より雑魚になってしまう。それは断じて認めん。

 

となると考えられるヤツは......、潜伏している異形達か、それとも驚異的な進化を遂げた未確認生物か。実態が掴めないが、確かに巨大な生体反応が近くにあるのは能力で感じ取れる。そいつが『あのもの』なんだろう。

 

「結界、解除します」

 

幾つもの機能が施された結界が音を立てて崩れていく。今のところ生死に問題は無いが、時間は限られている。襲いかかるであろう『あのもの』をぶっ飛ばして、さっさとコード004を回収せねば。

 

 

ドドドドドドドドドド!

 

 

結界の消失に反応したのか、地鳴りが徐々に聞こえてくる。かなり速い速度でこちらに向かってきているようだ。好戦的なのか、それとも頭のイカれた変態か。どちらにしろ、こちらは既に戦闘体勢に移行しているので準備は万端。隙は一切無い。

 

 

ガラガラガラガラッ!!

 

 

部屋の天井が崩れ、土煙が舞う。『あのもの』がここに来たのだ。......来たのだが....、随分と酷い絵面が見えるのは気の所為だろうか。恐らくコイツは素手で固い土を掘り進んできた、それはわかる。だがそのせいでコイツは部屋のカーペットに顔面を突っ込ませ、上半身は身動きが取れず、下半身はまだ隠れている。

 

さらにこの生物は所々おかしい点が幾つかある。身長はもちろんのこと、顎部が異常に発達している。切島鋭児郎の個性『硬化』を彷彿とさせる見た目だ。さらに背中には恐竜のようなゴツゴツとした何かが生え、凶悪な見た目により一層拍車をかけている。とても地球上の生物とは思えない見た目だ。

 

「なんだコイツ」

 

「新手のゴリラじゃね?」

 

この謎の生物に関して意見を交わし合う魔女達。だがマスターはこの生物について知っているのか、魔理沙達に話し始める。

 

「彼は......『オールフォーワン』の身辺警護に務めていた人間、()()()()()()()さ。」

 

そう言うとマスターはゴクリと唾を飲み込んだ。ギガントマキア......、全く聞き覚えの無い名前に魔理沙達は首を傾げる。

 

「やっと外に出る気になったか。裏切り者......」

 

顔を横に向けながら、ギガントマキアはドスの効いた声でマスターを威圧する。

 

「だから、裏切ってないって! あーもー、何で私の言うことは信じないくせにあの()()()()()()()()()は信じてんのさ!」

 

「余所者のお前よりドクターの方が付き合いが長い。それにドクターは俺より頭がいい。ドクターがお前を裏切り者と言った以上、俺はお前を粛清する」

 

より一層殺意が増したギガントマキアに震えるマスター。サッとコード000の背後に回ると、コソッと魔理沙たちに耳打ちする。

 

「つまりこういうことなんだお二人さん。アイツと住む場所被ったせいで中々に引越しが出来なくてね。ササッとやっつけてくんない?」

 

「.....何やらかしたのか知らんが、随分と面倒臭いヤツを連れてきたな...」

 

「でもアイツさ、すげーフォント変えて強者感増し増しにしてるけど、今とんでもなく隙だらけだよね? むしろこれリンチタイムだよね?」

 

 

今の状態を簡易的(手抜き)に表すとこうである。→

【挿絵表示】

 

 

 

粛清されるのはどう見てもあちら側と言わざるを得ない。全生物共通の弱点である顔面を晒し、さらに両腕がいまだに穴から抜くことが出来ず、反撃不可。偉そうな口調で喋ることしか出来ない、ただの木偶の坊と化した人間にいったい何が出来るのだろうか......否、何も出来ない。

 

 

((......勝てるッ!))

 

 

リンチタイムの始まりだ。

 

 

コキコキと指の関節を鳴らしながら近づく魔女二人に、ギガントマキアは警戒しながら低く唸る。

 

「何者だ貴様ら。ヤツらの仲間か」

 

「.....。」

 

「......、フッ(暗黒微笑)」

 

 

 

「「滅べ」」

 

 

 

ドゴァ!!

 

「おファッ!!」

 

 

ノーモーションからの強烈なダブルキックにより、下半身が天井に埋まっているのにも関わらず、天井そのものを砕きながら遥か遠くまで吹っ飛ばした。ギガントマキアが通った後は地面が丸く抉られ、瓦礫が散乱し、焼け跡が残る。なかなかの手応えを感じた魔理沙達。だが生体反応を見るに致命傷には至っていないようだ。

 

「ハッハッハ残念だったなァギガントマキア! こちとら史上最強の魔法使い(自称)やぞ」

 

「二時間後にでも出直してきな」

 

カッコつけのセリフを吐いた後、二人は勢いよくハイタッチをした。ここ最近、小物のような立ち回りばっかしてきたからな。憂さ晴らしに丁度いい。

 

「......My Room。」

 

「どちらにしろ引っ越す際に証拠隠滅の為に壊す予定だったので丁度いいと思います。マスター」

 

「....私の日記帳、私の秘蔵コレクション...」

 

背後で何か悲しげな声が聞こえてきたが、気にしない。今は敵に集中を向けるのが最善だからだ。猛烈な蹴りをお見舞いしたというのに生体反応に異常がないとは、相手は相当なタフ野郎。気を抜いてると胸ぐら掴まれてぶん投げられるかもしれん。

 

魔理沙は拳を構え、魔梨奈は聖剣を取り出して次の攻撃に備える。遠くから微かに叫び声が届き、ギガントマキアが立ち上がったのを感じ取った。障壁を砕きながらこちらに向かってくるヤツに対して、魔理沙は気でも狂ったのかヤツの真正面に向かって突っ走る。正面衝突は免れない。

 

「ォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「ギガントマキアアアアアアアッ!!」

 

衝突ギリギリのラインでギガントマキアは魔理沙の顔面を掴もうと素早く腕を伸ばした。が、魔理沙の身体はまるで()()()()()()()のように貫通し、マキアは体勢を崩す。その直後、電撃のようなものが全身に流れ出したが、マキアはビクともしない。

 

「へぇ、お前って属性耐性も割と高めなのかァ。マジの脳筋ゴリラなんだなァ!!」

 

マキアの攻撃は魔理沙の身体に触れられないにも関わらず、魔理沙はマキアの突出したマキアの固い部位を掴み、背後へと回り込む。

 

マキアに殴られた部分だけ自然系(ロギア)化し、自分の手だけを実体化するとか、とんでもない重労働だ。しかしそのおかげで隙だらけの背後に強烈な一撃を叩き込めるってことだよなァ!!!

 

「無常を刻む、圧殺の女王の嘆きに散れ...」

 

 

「極大魔法『如意練鎚(レラーゾ・マドラーガ)』!!!」

 

 

かなり巨大な体格を誇るマキアをすっぽりと収められるほどの魔法陣が出現し、大規模な衝撃波が打ち出される。マキアは必死に耐えようとするも、あまりの威力に為す術もなく、そのまま衝撃波に飲み込まれてしまった。

 

そして吹っ飛んだ先に待ち構えていたのは、ロトの剣を構えた魔梨奈であった。

 

「オーライ、オーライ......って、割と早く来たなぁ......」

 

ロトの剣を逆手に持ち、ギガデインを剣に込める。ヤツには電撃が効かないのは承知の上、しかし剣撃で傷をつけた場所にギガデインを押し込めば攻撃は通る。多分きっと。

 

剣とマキアが重なる瞬間を捉え、魔梨奈は一閃を繰り出した。

 

 

「ギガストラッシュ」

 

 

金色に輝くロトの剣がマキアの腹部を一閃。マキアは勢いに乗ったまま、血を吹き出し空中にて大回転を繰り返す。

 

「「後は任せたぞ、トラウマ製造機」」

 

「言われるまでもありません」

 

最後に構えていたのは過去に魔理沙を苦しめた因縁の宿敵かつ仲間、コード000。凛とした表情で異空間からヴィジョーカーの腕を召喚し、タイミングよく首根っこを掴む。勢いが相殺されたのを本能的に感じ取ったマキアはすぐさま腕を壊そうと藻掻くが、ピクリともしない。

 

「我々を地下に閉じ込めた不届き者に制裁を」

 

眼光が紅く強く染まり、殺意に近い意思がギガントマキアに突き刺さる。

 

「『金剛撃』」

 

マキアの顎下に出現したもうひとつの金色の腕が、強烈なアッパー攻撃を繰り出した。ちょうどマキアが掘ってきた穴に合わせてかち上げたので、ヤツを地上に送り返すことが出来た。

 

「......終わった?」

 

「終わってません。しかし()()()がトドメを指すでしょう」

 

地上まで続く大きな穴を見上げながら、マスターと佇むコード000。マキアの生体反応はかなり鈍くなったが、依然としてまだトドメには至っていない。しかし勝利は確信する。ギガントマキアは確かに脳筋だが、あの二人も魔法使いを名乗っておきながらもかなり脳筋である。脳筋同士の戦いの勝敗の分け目は単に力の強さ。魔理沙一人でさえマキアを圧倒出来る上に、さらにもう一人追加すれば勝利は間違いないだろう。

 

 

コード000はそっと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

地上に送り返されたギガントマキアは辺りを見回し、周辺のニオイを嗅ぎ分ける。敵が居ないことを確認したマキアは警戒をしつつ、木々の中に身を潜めた。

 

マキアは考える。いかにも貧弱そうな身体を持った女三人に何故自分はこうもあっさり敗北したのかを。普段なら数秒で肉塊に変えていたはずなのにだ。あの顔黒金髪ロング人間の身のこなしと尋常ならざる攻撃力、金髪ショートの剣さばき、白い女から突如出現した金色のゴリラパンチ。いったいどんな改造を施せばそのような事が出来るのか疑問に思うマキアだが、答えは見つからない。

 

......マキアは思い出す、あの二人の金髪顔黒人間の『個性』を。金髪ロングは最初、自分の身体をワザと貫通させ電気を流した。普通の人間なら、これがその人間の『個性』だと判断する。しかし金髪ロングは電気の個性以外にも、衝撃波のようなものを放つ個性を使ってきた。よく考えれば、一番最初の蹴りも身体強化系の個性だったに違いない。金髪ショートの方も同様である。ということは、この二人は単純に複数個性の所持者ということになる。

 

有り得るだろうか。自身も複数個性の所持者であるのだから、可能性は無いとは言えない。だが複数個性の所持者は極小数である。それが二人もここに集まるなどラッキーにしては都合が良すぎる。

 

 

(マキア.....、もし僕に何かがあった時、僕の後継者が君を頼りに行くだろう。後継が君の力を借り受けるに値するかどうかは、君の判断に任せよう。よろしく頼んだよ......)

 

 

ふと、主の声が過ぎる。複数個性所持、それなりの破壊衝動を持った豪胆な性格、顔面真っ黒、圧倒的な強さ、王のオーラ......、全ての点と点が繋がり、形を作り始める。もしかしたら、ヤツらは.....ヤツらは。

 

試さなければならない。ヤツらが後継として受け継ぐに値する存在かを。オールフォーワンの意志を継ぐものとして、己の全てを注ぐに値する価値があるのかを。

 

「.....盛大な勘違いだな」

 

「へい」メゴオォ!!

 

いつの間にか背後に回り込まれ、頬に強烈な一撃を加えられたマキアは確信した。コイツやっぱ主の後継だ。情の欠けらも無い理不尽な攻撃を平然と繰り出せるヤツなど、常人が為せる技ではない。

 

体勢を立て直したマキアは、二人の魔女と対峙する。正直もう後継だと認めてもいい。だが戦いがまだ終わってはない以上、最後まで戦い続けなければならない。それが男の掟である。

 

戦いの意思を持つマキアの前に、魔理沙は指の骨を鳴らしながら近づいてくる。ドス黒いオーラを放ちながら、眼光を静かに灯し、彼女はマキアの前に立ちはだかる。

 

「.....二つ、お前の間違いを正そう。一つ、私はオールフォーワンの後継ではないし、情の無い殺戮マシーンでもない。二つ、私は女だから男の掟とやらを守る道理は無い」

 

「戯言を。顔面が黒い女で複数個性所持者など、主の後継以外の何物でもない。いや、お前の父親が主の可能性だって有り得る。そうだ、絶対そうに違いない。お前と主は共通点が非常に多いし、何より主の後継でなければ俺が負けることなど無い。やはりお前は主の後継だ」

 

がんなに認めないマキア。絶望のオーラLv3を垂れ流しながら脅しているのに、ヤツは恐怖心に負けることなく私を後継者認定する。何なんじゃコイツはぁ!!

 

「.....何で人の話を聞いてくれないんだッ! さっきから言ってること全部お前の中の自論じゃねぇかッ!!」

 

「魔理沙、諦めて後継になろ? な? もしかしたらギガントマキア、仲間になるかもよ?」

 

茂みの中から助言する魔梨奈。だが断る。

 

「お断りだぜ! こんなヤツ仲間にしたところで、結局は塚内君にバレて独房行きだ! 消え失せるがいい、『失墜する天空(フォールンダウン)』!!」

 

超位魔法、『失墜する天空』。超高熱源体から放たれる絶熱が膨張し、効果範囲内にいるもの全てを葬り去る魔法。極大魔法にも匹敵する程の威力があるが、超位魔法は発動まで非常に時間がかかるのが難点。しかし私の場合、ノータイムで発動可能なので問題ない。

 

 

なぜ極大魔法ではなく、超位魔法を選択したのかって? ......魅せプだ。

 

 

「主ィィィィィイイイイイイイイ!!!!」

 

断末魔の叫びと共にギガントマキアは超位魔法の光に飲み込まれる。この超位魔法、面白いことに効果範囲外には一切の影響を与えないため、余波や熱風がこちらに吹き付けてくることは一切無い。指定範囲内だけをキレイさっぱり燃やし尽くすという、とてもエコロジーな魔法なのだ。

 

塵も残さず消し去った......と思いきや、マキアの身体はガッツリ燃え残っていた。どういう体質なのか知らないが、やたらと身長が縮んでしまい、ピクリとも動く気配が無い。どうやら昏睡状態に陥ったようだ。

 

「.....サンドバッグみたいなヤツだったが、耐久力に関してはマジで吹っ切れてたな......」

 

小学五年生くらいのサイズにまで縮んだギガントマキアの頬をつつきながら、取り敢えず格納すべくゲートオブバビロンを解放する。

 

すると茂みの中から出てきた魔梨奈が、マキアに向かってボールのようなものをぶつけた。

 

「お前それモンスターボ...」

 

「ペットにして庭で飼おうぜ! 調教は任せろ」

 

「......ご愁傷さま」

 

結依家の新たなペット兼用心棒、ギガントマキアが仲間入りを果たした瞬間であった。

 

マキアとの戦いは一件落着し、メンタル的に疲れた魔理沙は地面に座り込んだ。結局マキアが何でマスターを付け狙っていたのかは分からずじまいだが、別に知ったところで何か変わる訳でもないので、魔理沙は考えるのをやめた。

 

少し間が空いた頃に、マスターとコードシリーズ達が駆けつけてきた。

 

「片付いたのかしら」

 

「ギガントマキアは倒せたのかい?」

 

コード000とマスターが辺りを見回しながら魔理沙達に聞いた。

 

「「もちろん」」

 

「魔梨奈......、お前は見てただけだろーが」

 

「最後にマキアをモンスターボォォル!に収めたのは私だから、私がトドメを指したようなもんじゃないか。つまり私の手柄」

 

「バカヤロー。過程が大事なんだ過程が! 結果だけを求めているとレクイエムで殴られるぞ」

 

「過程も何も、世の中に残るものは全て結果だ。黄熱病の研究で功績を残した野口英世って実は奥さんにDVするヤツだったけど、世間には知られず高い評価を受けてるんだぜ? つまりそういうことなんだよ」

 

「過去のある一人の人間の人生を根拠に持ち出してくるのは筋違いってもんじゃあないか? 野口さんがどうだろうと知ったこっちゃあねぇ、今この現実に存在するのは私がフォールンダウンでギガントマキアにトドメを指したという真実だけだ」

 

「そのマキアをモンスターボォォルに格納したのは私だけどね☆」

 

「 ......我が分身ながら失望したぞ。いいだろう......戦争だッ!! 死にたい奴から前に出ろッ!!」

 

「どっちが真のモノホンか試そうじゃねぇか...!」

 

睨み合う魔理沙と魔梨奈。この二人が殴り合いを始めれば、再来年の地形図にはこの場所の存在が消滅しているだろう。くだらない理由で地形を変えられるなど迷惑この上ない。

 

「お二人さん落ち着こ? ね? ここで異変を起こしたら警察に通報されるからさ!」

 

「マスターのお望みどおりあの二人を止めます。コードシリーズ、全員出撃です」

 

「「「「了解(ラジャー)」」」」

 

「ちょっと我が子達!? ねぇ待って止まって!? 被害拡大するだけだから少し落ち着いて!!」

 

魔理沙達に続いてコードシリーズが参戦し、構図がさらにカオスと化す。火に油を注ぐとはまさにこの事、彼女らの参戦を切っ掛けに新たな争いが勃発する。

 

「「「「戦争じゃああああああああ!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本国憲法第九条を完全に無視した彼女らの激闘は三日三晩も続き、近隣の住民から通報されて警察が出動したとされるこの事件。この事件はのちに都市伝説として扱われ、日本中に広く知れ渡るのはまだ先の未来である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コード004「私は?」

 

 

 






この章が終わったら、そろそろ皆さんには覚悟してもらいます。




いろいろ紹介

・ギガントマキア:ヴィラン連合のボス、オールフォーワンに信頼されている身辺警護の一人。複数個性所持を改造なしで適応している化け物。数年前、オールマイトに勢力を削がれ敗北を予感したオールフォーワンは、ギガントマキアを総二郎のいる山奥の付近に隠した。

・自然系(ロギア):ワンピースに登場する悪魔の実の系統の一つ。自然系の悪魔の実を食べた者は自然をその身に体現することが出来る。自然そのものと言っても過言ではないので、普通に殴ろうとしても攻撃は当たらない。ただし覇気を纏えば実体を捉えることができ、攻撃を当てることが出来る。

・ギガストラッシュ:ダイの大冒険の主人公ダイが使用する技の中で最も高火力な技。ギガデインを剣に込めて放つ技だが、主人公ダイはライデインまでしか使えないので使用するには十秒ほどライデインをチャージしなければならない。っおぃ

・金剛撃:対鬼形戦闘用ヴィジョーカーの腕でただぶん殴る。以上。

・絶望のオーラLv3:このオーラに触れた者に『混乱』を付与する。しかしマキアには耐性があったもよう。MAXであるLv5だと『即死』を付与する。耐性積まなきゃ死ぬ。作品は『オーバーロード』。

・失墜する天空:堕ちろ! 堕ちたな(確信)。

・日本国憲法第九条:①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

②全校の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。




編集して気づいたんだが、ついに楽曲を乗せられるようになったのか。シオンタウンのBGMを延々と流すのも面白そうだなぁ.....





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働かざる者食うべからず(53話)

 

 

 

「無茶苦茶疲れた......。」

 

三日三晩のガチ戦闘をしていたら、いつの間にか職場体験当日の朝になっていた魔理沙達。久しぶりにカロリーを大量消費したせいか疲れが全く取れない。だが大丈夫、私には『疲労軽減』スキルがたんまりある。こやつらを全起動してしまえば疲れなんぞ屁でもない。

 

スキル全開にすることで疲労という荷物をポイ捨てする。あぁ、スッキリ。サイコキネシスで肩をモミモミすれば更によろしい。結構疲れが取れた気がする。

 

 

気持ちが良くなったところで今日の朝の出来事をサラッと述べよう。コードシリーズとの殴り合いが終わった直後、私らは拳の友情を交わした。決してスケバンではない、断じて。そしてその直後にコード004のことを思い出し、即座に救出。04にはこれまでの経緯を知らないため、解放したや否や私たちに殴りかかろうとした、というか殴られた。その後コード000が訳を説明し、和解した後、無事我が家に帰宅。軽く説教くらって食事を済ませ、学校に瞬間登校。しかし職場体験当日は国際空港に集合だったので再び瞬間移動して今現在ここにいる。

 

 

情報量が濃すぎて怪文書のようになってしまった。

 

 

「おはようございます師匠」

 

「おはよう緑谷きゅん。めっちゃ久しぶりに見た気がする」

 

緑谷きゅんが私に挨拶しに来た。三日三晩の戦闘で時間感覚が少し狂ったのか、二週間くらい久しぶりに出会った感覚がする。

 

「......あの師匠、先週のあの件はどうなりましたか?」

 

「あー、まー何とかしたから大丈夫。気にすんな」

 

「そうですか.....。それと師匠.....、いえ何でもないです」

 

「.....『少し臭い気がする』ねぇ、まぁ三日間風呂入ってなかったからな。仕方ない」

 

「あ、いや! 師匠! 別にそんなこと思って...、......すみません」

 

心を読まれて動揺する緑谷。まぁこれは普通に私が悪いな。優しい配慮でギリ触れなかった緑谷きゅんに私から勝手に近づいただけのこと、緑谷きゅんが謝る必要はない。さっさと身体を新品にしてピチピチ(死語)お肌に戻すとしよう。

 

「自爆」

 

「へ?」

 

ボンッ!!!!!!

 

己の身体を極限まで脆くした後、体内エネルギーの一部分を暴走させて内部爆散した魔理沙。一歩間違えると重力が歪んでブラックホールに転じ、地球そのものを喰らってしまいかねない危険な方法だが、みんなに裸を見られず身体を清潔にするにはこれしかない。爆散後、魔理沙(という名の精神エネルギー体)は余った一部のエネルギーを不死の能力に使い、再び人間の身体を生成し始める。制服も個性『創造』で製作し、魔理沙は生まれたての赤ちゃんと同じような肌を持って復活を果たした。

 

「どーよ」

 

「無茶苦茶ですね......師匠」

クルッと一回転し、幼なじみに自慢する魔理沙。しかし方法が方法なため緑谷は少し引き気味であった。

 

「あっ! 魔理沙だー!!」

 

「おぉ魔理沙! 先週のアレ大丈夫だったか!?」

 

「魔理沙ちゃん、また変なことしてないわよね?」

 

「オイラにあの美人紹介してくれよ魔理沙! せめてLINEだけでも!!」

 

「やぁみんな久しぶり。先週のアレはまぁこっちで何とかしたぜ。......あと峰田、テメェに紹介する女はいねぇ、控えめに言って消えろ」

 

「辛辣!!」

 

魔理沙の存在を確認したA組のクラスメイトがやいのやいのと魔理沙の周りに集まってくる。そのおかげで事情説明に追いやられることになった魔理沙であったが、相澤先生のおかげで長引くことはなかった。

 

「そこ、うるさい。......ッて間に合ったのか結依、遅刻ギリギリだぞ」

 

「あ、はい。なんとか間に合いました」

 

「よろしい、次からは五分前に到着するように。それと結依、先週の件に関しては雄英高校は関わらん。お前の方で処理してくれ」

 

「了解」

 

了解と言ったが、もう既に解決済みである。

 

「後は魔梨奈だが、アイツはどこだ。結依、お前と一緒じゃないのか?」

 

「え?」

 

辺りを見回すが、魔梨奈の姿がどこにも見当たらない。家で朝食を食ってる時は居たのだが、まだ時間がかかっているのか? というかアイツ、誰のところの職場体験に行くんだ? 全然把握出来ていないが、まぁ魔梨奈のことだからすぐ来るだろう。......来るかどうかめっちゃ怪しいけど。

 

「.....まぁ、アイツのことだからすぐ来ますよ。......多分」

 

「職場体験先の方々に迷惑かけやがって....。姉が姉なら妹も妹か......」

 

「.....何でサラッと私まで罵倒されなければならんのだ......ッ!」

 

拳をギュッと握り締める魔理沙。妹も元はと言えば私だから二重で罵倒された気分だ。解せないが、今ここで相澤先生の頬に冥躰震虎拳を叩き込めば退学確定であろう。クッ、私の寛容さに助けられたなイレイザーヘッド!(負け惜しみ)

 

魔理沙の睨みを無視しつつ相澤先生は話を進めた。

 

「魔梨奈以外全員、コスチューム持ったな。本来なら公共の場では着用現金の身だ、落としたりするなよ」

 

「はーい!!」

 

「伸ばすな「はい」だ芦戸。くれぐれも失礼のないように! じゃあ行け」

 

ついに始まった職場体験。全員が脇にヒーローコスチュームを抱えながら、それぞれの方向へと散らばっていく。私はこれから瞬間移動で保須市に向かうので動く必要はない。お金がかからなくて便利だが、何か大切なものを失いそうだ。

 

次々とクラスメイトが離れていく中、公式ヒロインである麗日お茶子がすれ違いざまに声をかけた。

 

「じゃあね結依さん! また学校で会おうね!」

 

「あぁ、ガンヘッドさんのところでも元気でな」

 

「......あれ? ウチ言ったっけ?」

 

「思考を読んだだけさ。簡単だろぅ?」

 

「やっぱ結依さんはすごいなぁ〜。私もこの職場体験で結依さんのように強くなるから、応援してね!」

 

「フッフッフ、職場体験先の人が困惑するくらい応援したるわ」

 

そう言うとお茶子は笑顔で手を振りながら、事務所の方向へと走っていった。あー、可愛い。やる気も少し補充されたし、私もそろそろ行くとしよう。

 

「せーのっ」

 

とうっ! と叫びながら魔理沙はジャンプをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わた......を...止、め、てく......」

 

 

 

 

謎の着信に気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

「よっと、着いた」

 

昔のテレビ番組の編集のように、ジャンプからの瞬間移動で目的地にたどり着く魔理沙。ここが私の職場体験先の『マニュアル事務所』、いかにも地味という言葉が似合いそうな事務所だ。ここで学ぶのかぁ......、他のヤツらが羨ましい。

 

事務所の中へと進んでいく。階段を登った先の左の壁にドアがあり、ドアの上には『Office』と書かれた看板のようなものがあった。さっそくそのドアに手をかけ、中に入る。

 

「お邪魔しマース」

 

棒読みで挨拶をし、オフィス内へと足を踏み入れる。外側が地味ならば中の方もやはり地味で、オフィスという言葉を忠実に再現したようなシンプルな造り。薄灰色の壁に囲まれ、机の上にはスペックのよろしくないノートパソコンが置かれている。やはり来る場所を間違えてしまった気がする。あの試験で無想天生を食らわしてしまったエンデヴァー事務所はダメだとしても、エリートヒーローであるベストジーニストの事務所とかにしとけばよかった。過去に戻って昔の自分を叱りたいが、生憎まだ使えないため諦めるしかない。

 

そんなことを考えている内に、一人の男が私を迎えに来た。

 

「やぁ、君が雄英高校1年A組の結依魔理沙くん......いや、マジックヒーロー『マリッサ☆』くん。僕はノーマルヒーロー『マニュアル』、今日から三日間よろしくね」

 

「....よろしく......お願いします」

 

人間味のあるヒーローが私に丁寧に挨拶を返し、笑顔で私に手を差し出した。私はその手を受け取り、握手を交わす。私とは対極の位置にある平和のオーラを感じる。平和ァ......

 

「いや〜でもビックリだなぁ〜! 今まで以上に猛者揃いだったあの雄英体育祭で全種目完封した君がここを選んでくれるなんて本当にビックリだよ〜! 何か志望理由とかあったのかい?」

 

「目つぶって適当に指さしたらここになりました。私は他の人よりちょっと異常なんで、ここで普通を学べたらいいなとほんの少し思ってます。他にたいそうな理由はありません」

 

「そそ、そっかぁ〜! やっぱそうだよねぇ〜、委員会直属のヒーローだし、ここに来る理由なんて皆無だしねぇ〜。もう委員会で大体のことは聞かされてると思うし、僕から教えることなんてもう何もない......からどうしようか。一緒に街をパトロールするとか、どうかな?」

 

「行きます」

 

「よよし、ん分かった! 今から着替えるから準備しといてね! あ、そこの部屋空いてるからそこで着替えて大丈夫だよ!」

 

「もう着替えました」シュバッ

 

「早ッ! ちょちょ、ちょっと待ってて!!」

 

ドタバタと焦りながらヒーローコスチュームに着替えるマニュアル。魔理沙は直感的に感じた、この人めっちゃ弄りがいがあるぞ......と。この私に異常に気を使っているせいで空回りしているこの感じ、見てると面白い。フッフッフ、プロヒーローを遊び倒してやるぜ。

 

邪悪な考えを膨らませ、ニヤつきながら待機する魔理沙。これから三日間、有意義に過ごせそうだ。

 

「お待たせマリッサ☆ さぁパトロールに行こう!」

 

了解(ラジャー)

 

 

 

職場体験一日目が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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《保須市》

 

マニュアルの事務所から出て数分、私達はただただ平和なこの街をパトロールしている。前に塚内くんと調査したヒーロー殺害事件以来、保須市では一切殺人事件が発生していない。全国各地で急に増えだしたヒーロー殺害事件も今では終息の傾向にあるらしいし、一体何だったのか想像がつかない。どこかのアホみたいにSNSで「ヒーロー殺しましたウェーイ」とか上げてたら即刻潰しに行けるんだがなぁ。世の中は甘くないということか。

 

それにしても保須市は平和だ。と言っても今は全国で警備を強化しているらしいし、防犯キャンペーンも開催して全体的に犯罪対策の意識が高い。流石のヴィランもこの状態じゃ動けないのだろう。毎日こうだったらヒーローなんていらないんだが、緊迫した状態が続いたら人間は疲れてしまう生き物だから仕方ない。程々にやろう。

 

「ふわぁ....」

 

平和な保須市の街並みを見渡していると、ついついあくびをしてしまった。ついさっきまで激戦を繰り返していた分、この平和な空気が生暖かく感じてしまう。一度スイッチが入るとなかなか消せないせいか、いまだに私の心は闘志が宿っている。あー、誰かと戦いたい。魔梨奈がいれば模擬戦出来るんだけどなぁ。暇だァ。

 

「眠いのかいマリッサ☆? ちゃんと睡眠を取らないとお肌にダメージがいくよ」

 

「あー大丈夫です。さっき自爆して再生したんでピチピチお肌です」

 

「自爆?! 再生!? 何それ!?」

 

「ただちょっと三日三晩殺し合いしてたんで、なんというか精神的にまだ疲れが残ってまして....」

 

「...殺し合いて......ここ、日本だよ?」

 

「知ってます」

 

野蛮なワードを平然に吐く魔理沙に、マニュアルは痛感する。生きてる世界が全然違うということを。

 

「は、ははは、あっ、あーッ! あそこに荷物運びに苦労しているお婆さんがいるよ! マリッサ☆ 小さな助けは大きな助けの第一歩! さぁ頑張って!」

 

お婆さんを指さしながら、私に救助を要請するマニュアル。流石はノーマルヒーロー、隣に元特別危険人物が歩いていても正常な判断が下せる。正にヒーロー界のマニュアルである。

 

私は自分自身に幻覚魔法をかけ、お婆さんの所へ歩み寄る。私の顔は初対面にはあまりよろしくないので、幻覚魔法で相手が最も好みだと感じる人物に見えるようにし、さらに相手の精神に癒し効果を与えるオーラを放ちながら、お婆さんと対面する。今のお婆さんが私を見ればきっと菅田将暉が助けに来たように見えるだろう。

 

「おはようお婆さん。手伝おうかい?」

 

「すっ、スっ、菅田将暉ッ!?」バタッ

 

「お婆ァさァーーーーーーーんッッ!!!」

 

鼻に深紅のバラを咲かせ、静かに息を引き取ったお婆さん。それはそれは安らかな死であった。

 

「マッ、マニュアルさん!! お婆さんが!!」

 

安らかに眠るお婆さんを抱えながら、必死に助けを求める。この人を助けたい、自分の無罪を証明したい、不安、焦燥、あらゆる思いが先走ってしまうが、それら全てを抑えつつ私は先輩の到着を待った。

 

「どうしたんだいマリッサ! まっ!? ちょっ!? 橋本環奈ッッ!!?」バタッ

 

「マッ、マニュアルさァーーーーーんッッ!!」

 

ノーマルヒーロー『マニュアル』、橋本環奈の隠れファンであるが故に、その生命の泉を枯らしてしまった。鼻から血液を瞬間速度333km/hで噴出し、後頭部を強打してそのままピクリともせず死亡。ダイイニングメッセージには『橋本環奈』の文字が残され、彼は天珠を全うしてしまった。

 

幻覚魔法により見る人によってそれぞれ姿が変わってしまうため、お婆さんの目には菅田将暉、マニュアルの目には橋本環奈が映ってしまった。その結果、二人の尊い命が失われることになるなど三分前の私には予想だにしなかった。

 

人間の命とは、何とも儚きものなのか......

 

「ねぇねぇお母さん、あそこにいるのって....仮面ライダーッッ!!?」バタッ

 

「山崎賢人ッッ!!?」バタッ

 

「二宮和也ッッ!!?」バタッ

 

「玉森裕太ッッ!!?」バタッ

 

「ミ○キーッッ!!?」バタッ

 

「藤井流星ッッ!!?」バタッ

 

「ぬほぉぉおっ!? ワイの推しキャラの『ふぶき姫』ちゃんッ!!? 僕に会いに来ッ!?!?」グチャッ

 

それはそれは安らかなshi(以下略)

 

次々と倒れゆく保須の人々、抗うことの出来ない運命に人は跪き、そして死ぬ。魔理沙以外誰もいなくなったこの街で一人、魔理沙はやっと己の罪を認識した。可愛いが正義ならば美しいは罪、責めるならばもっとロリ系にしとけば良かったと......

 

見渡す景色の中に人は存在せず、下を向くと血に染った無数の死体が眼下を覆い尽くす。こんなつもりじゃなかったと弁明したいところだが、生憎弁明を聞いてくれる人間すらいない。どうしてこうなったのかと世界に問いただしたい。美しいは、罪だ。

 

 

魔理沙は達観した表情で空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※多量出血で倒れた方々は、後に魔理沙が全員復活させました。

 

 

 

 







まだ一日目である。



いろいろ紹介

・冥躰震虎拳:ワンパンマンに登場するスイリューという男が使う拳法のひとつ。相手は死ぬ。

・菅田将暉:イケメン俳優。ヒロアカの映画一作目の主題歌を歌った人。この世界にもいたようだ。

・橋本環奈:実写化に引っ張りだこな女優。千年に一度の逸材。もう怒ったかんなっ!

・山崎賢人:実写化に引っ張りだこな俳優。また山崎賢人か......

・二宮和也:『嵐』のメンバー。実写化GANTZ面白かったです。

・玉森裕太:Kis-My-Ft2のメンバー。

・ミッキー:法廷で会いましょう

・藤井流星:我らがジャニーズWESTの藤井流星さんじゃあああああああああぁぁぁ(にわか)

・ふぶき姫:妖怪ウォッチのキャラ、プリチー族のSランク妖怪。その名の通り吹雪を起こすことが出来る妖怪。





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それぞれの思い(54話)




だんだん投稿スピードが落ちます。ワンチャン1ヶ月くらい途切れる可能性もあります。ご了承ください。

あと前回、"覚悟してください"という思わせぶりな発言をしてしまいましたが、まだかかりそうなので気にしないでください。気にしないでください(ホモは二度刺す)。







 

 

 

 

前回、保須市の人々が多量出血で死にかけたところを魔理沙の能力で復活させた。ただし、原因を作ったのも魔理沙なので結局は自業自得というかマッチポンプというかなんというか。初日から何をやっているんだと、担任の先生にドヤされかねないが隠蔽すれば問題なし。私は事実の隠蔽に関しては園児の頃から手馴れているからな、隠蔽しちゃうぜ。

 

あの後、しばらく保須市のパトロールを続行していたが特に何も無かった。おかしいな、我が家から雄英高校までの通学路にはアホみたいにアサシンやら狂信者やらヴィランがいたというのに、この街には一切いないぞ。治安良すぎないか? いや我が家の周辺が異常なまでに治安が悪いのか。母さんと引越しの相談でもしようかな。

 

なんて思い耽るのもつかの間、時刻はもう夕刻となってしまった。

 

「僕はそこのコンビニで買ってくるけど、マリッサも買うかい?」

 

気遣ってくれたのか、マニュアルが私を誘った。

 

「いや、私は料理出来るので大丈夫です。なんなら作りましょうか?」

 

「ほ......、いや僕の分は大丈夫! 少し待ってて」

 

あのマリッサの料理......と興味本位が湧くが、今までのマリッサの行いを見て危険と判断し、丁重に断る。胃が爆発する料理とか食わされるかもしれないと、失礼ながらも警戒してしまうマニュアルだった。

 

「......連れないなァ」

 

期待外れとも言いたげな声で魔理沙は呟いた。

 

 

 

 

 

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《緑谷出久side》

 

am.10:54

緑谷出久は先代ワンフォーオールの継承者の盟友『グラントリノ』からの指名により、職場体験として出向くことになる。オールマイト情報によると、グラントリノは昔雄英高校に1年だけ務めたことがあり、学生時代のオールマイトを実践訓練でゲロ吐かせるほど鍛え上げた、まさにスパルタ先生と呼べる人であったらしい。しかし現在はそれなりに時が過ぎたこともありかなりのご老人になってしまったが、まだまだヒーローとして活動出来るほどの活力は残っている。とにかく、かなり凄いスーパーお爺ちゃんなのだ。

 

そんなスーパーお爺ちゃんの元で緑谷出久は何をしているのかというと......

 

ドゴォ!!

 

「ヘブぅウぅッッ!!?」

 

「どうした9代、オールマイトはこんな壁ちょちょいと越えていったぞ」

 

「ちょっ......ちょっと待っ、ちょっと待ってください! さっきから僕! 何でこんなに殴られなきゃいけないんですか!!」

 

「何でって、お前は体は割と完成しているからな。ただひたすらに実戦練習よ」

 

「いきなりドア開けたらケチャップでびちょ濡れのお爺さんがいて、ちょっと心配したら急に体を触られて、「よし、その身体なら特に問題はないな」とか言われて急に「今から実践練習やるぞスタート」って言われても状況が頭に追いつかくて訳がわかりません!!」

 

「つべこべ言うな焦れったい、強くなりたいならさっさと実践練習だ!!」

 

「返事!!」

 

「イエッサーッッ!!!!」

 

 

流れのままに実践練習を始める緑谷出久。さっきのパンチ具合から、かなりの強者であると察した緑谷は最初からフルスロットルで迎え撃つことにした。常時ワンフォーオール フルカウル 10%と見聞色の覇気を組み合わせた最強のスタイルで老獪な戦士と向き合う。両者共に覚悟が決まったようだ。

 

「デトロイトスマッシュ!!」

 

「遅い......が、狙いは悪かぁねぇな...ッ!?」

 

胴体目掛けて放った緑谷のデコピンデトロイトスマッシュを個性『ジェット』で大きく右側に避け、壁に張り付いたグラントリノ。だがいつの間にか第二の攻撃が目の前に迫っており、咄嗟に天井へと回避する。なんて反応速度の速さと躊躇のなさ、いったい誰に教えてもらえばこんな化け物地味たことが可能なのやら。

 

「.......ッ外した!」

 

「小僧......なかなかやるな。もう教えることないかもなァ」

 

「.....いえ、仕留めたはずなのに避けられてしまいました。僕はまだまだです」

 

「上昇志向......最近の若者は随分たぁ元気なもんだ」

 

「まだいきますよッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「いい動きだ小僧。しかし攻撃が単調だ、もっと工夫をこらせ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「さっきより若干動きが鈍いぞ小僧。もっと頑張らんか!!」

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!」

 

「どうした、へばったか!! オールマイトならこんな壁ちょちょいと越えていくぞ!!!」

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉ......もう.........無理」

 

「おーい小僧、大丈夫かー」

 

 

 

 

このノリで計6時間、緑谷はグラントリノと永遠に殴り合いを続けていた。最初の2時間は非常に良かった。動きも見切れていたし、それなりに仕留められそうな瞬間もいくつかあった。が、時間が経過するごとに動きを読まれるようになり、3時間後にはほとんど攻撃が当たらず、5時間後にはもう全ての攻撃にカウンターを合わせられてしまい終始ボコボコであった。地獄だ。

 

この実践訓練で緑谷は己の短所を嫌というほど思い知った。長期戦に対する脆弱さ、単調な攻撃パターン、個性の使い方がまだ荒削りなとこ、その他もろもろ直すべき部分がたくさんあった。しかし緑谷はめげない、むしろ自分はまだ強くなれるんだと期待を抱いていた。体育祭では師匠やかっちゃん、轟くんが快進撃を見せていたが、自分はまだ何もなせていないことに悔しさを感じたあの夜。師匠の新たな特訓の提案を試してみたものの、成長を一切感じられなかった自分の不甲斐なさ。今ここで、過去の自分自身をも凌駕するほど鍛え上げれば、僕は最高のヒーローに一歩近づくことが出来る。今まで感じてきた悔しさも不甲斐なさも、全てこの日のためのものであったと証明出来る。よし、この三日間頑張って師匠やかっちゃんに成果を見せるんだ!!

 

寝ていた体を無理やりたたき起こし、緑谷は立ち上がる。

 

「........ぅおおおおおおおおおお!!!!」

 

「さぁ! ドンドン僕をしごいてくださいグラントリノ! 僕はまだまだやれます!!」

 

真っ直ぐな目を向ける緑谷。やる気は十分だ。

 

「いや、今日はもう終わりだ小僧。飯食って寝るぞ」

 

「えっ.....?」

 

「老人の就寝時間ははぇーんだ。そんなにやりたければ外で自主練でもしてな。俺は寝るぞ」

 

え?

 

 

 

 

 

 

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《爆豪勝己side》

 

 

ベストジーニストから指名が届いていた爆豪勝己は、さっそく事務所に向かっていき無事到着した。おそらくベストジーニストがよりに腕をかけて育て上げたサイドキック達と乱戦または勝ち上がりタイマンバトルを行い、最後にベストジーニスト本人と手合わせする......という最高のシナリオを脳内に打ち立てていたのだが、現実はそこまで世紀末ではなかった。

 

「正直、君の事は好きじゃない」

 

「は?」

 

ジーニストの好きじゃない発言に首を傾げる爆豪。好きでもない奴を指名する人間がどこにいるというのか。考えが全く読めず、爆豪はややキレ気味であった。

 

「私の事務所を選んだのもどうせ、五本の指に入る超人気ヒーローだからだろ?」

 

ジーニストの言い草にまたシワがひとつ、眉間に寄ってしまった爆豪。爆豪がこの事務所を選んだ理由は、単に多くの指名の中で最も実力のある事務所だったからだ。No.4ヒーロー『ベストジーニスト』、ファッションセンスも然る事ながら戦闘の才能もある完璧超人。結依魔理沙を倒すための糧としてはこの上なく丁度いい相手であった。

 

しかし何かがおかしい。相手の雰囲気がどうも胡散臭いというか、人を招き入れる態度ではない。何を考えているのか......

 

「指名入れたのあんただろが.......」

 

「そう! 最近は良い子な志望者ばかりでねぇ。久々にグッと来たよ」

 

 

「君のような凶暴な人間を"矯正"するのが私のヒーロー活動、ヴィランもヒーローも表裏一体...そのギラついた目に見せてやるよ。何がヒーローたらしめるのか......」

 

 

「ンだと......」

 

「ちなみに後もう一人、確か『結依魔理沙』だったか.....。彼女も指名しようと思っていたのだが、ヒーロー公安委員に止められてね。非常に残念だよ」

 

「.....クソが」

 

「無念はさておき、君にはまず彼らサイドキックと同じ"訓練"を行ってもらう。"良い子"なら誰でも出来る簡単な訓練だから、それが終わったら君の大好きな"戦闘訓練"をやろう。やってくれるかな?」

 

「はン、上等だ。直ぐにテメェをぶっ潰してあのボサボサ野郎より強くなってやる!!」

 

「......グッド」

 

 

 

その後爆豪は、この事務所を選んだことを後悔することになる。

 

 

 

 

 

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《轟焦凍side》

 

 

轟焦凍は父親であるエンデヴァーから指名が入っており、念入りな損得鑑定と心の折り合いの末、ついにエンデヴァー事務所に行く事が決定した。例の件より未だに父親のことを許す気がない轟だが、自分の成長のためと、父親のヒーローとしての仕事ぶりを見届けるためにと上手く理由を作り、静かに目の前の扉を開く。

 

「やっと来たか焦凍......待ちくたびれたぞ」

 

「親父......、何だこれは」

 

轟焦凍は、自分の目の前に広がっている光景を信じることが出来なかった。見覚えのあるクラスメイトの絵(手描き)が燃えカスとなって周辺に散らばり、父親はやはり見覚えのあるクラスメイトの絵(手描き)が張り付けられたサンドバッグを延々と殴り続け、壁には完全に見覚えのあるクラスメイトの名前(手書き)と、その左に打倒! という文字が貼っつけられている。

 

轟は疑った。コイツは本当に自分の父親なのだろうかと。

 

「......結依に何かされたのか」

 

「少し黙れ焦凍よ。今忙しい」シュッ!シュッ!

 

「......何かあったのか」

 

「黙れェェェ焦凍ォォ!! それ以上言うなァァァ!!!」シュッ!シュッ!バゴォ!!

 

触れられたくなかったのか、エンデヴァーは殴っていたサンドバッグを思い切り吹っ飛ばし、壁に激突させる。その振動が事務所全体に伝わり、サイドキック達が慌ててエンデヴァーの元に集おうとしたのは完全なる事故だが、轟焦凍は気にしない。

 

しかし、結依魔理沙関連で触れられたくない事があるならばなぜ隠そうとしないのか。なぜいかにも手描きで書かれた結依魔理沙の絵がそこら中に炭火焼きの状態で放ったらかしにするのか。なぜ家ではなく事務所の壁に『打倒! 結依魔理沙!!』(しかも墨汁で力強く書かれている)の文字を貼っつけるのか。それは人としてどうなのかいろいろと問いただしたい気持ちでいっぱいの轟であったが、それら全てを心の内に押し込み、本題に入ろうとする。轟はツッコミキャラではないのだ。

 

「親父......いいからさっさと炎の扱い方を教えてくれ。三日しかねぇんだ」

 

轟の言葉にピクっと、反応を示すエンデヴァー。今まで散々炎熱(左側)の個性の使用を毛切らっていたあの焦凍が、自分から積極的に学ぼうとしていることを。滅多にないチャンスにエンデヴァーはさっきまで患っていた誰かさんに対する因縁を振り払い、焦凍を鍛えることに思考をチェンジする。

 

「焦凍......いいのだな。昔のような生半可な覚悟では乗り越えられない特訓だと自覚した上での言葉だと受け取っていいのだな?」

 

「構わねぇ。俺もオールマイトのように強く...」

 

「......ついてこい。案内してやる」

 

轟を手招きしつつ、エンデヴァーは事務所のオフィスから退出した。その背後に轟は黙ってついていく。迷いは無い。この三日間で結依や爆豪、緑谷達と張り合えるほど強くなって、経験を積み、最高のヒーローに俺もなる。そのためならあの親父の力を借りることさえ厭わない。

 

 

轟焦凍の炎はまだ燃え始めたばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

「焦凍、特訓中の私語は禁止だ。特に『オールマイト』、『結依魔理沙』という単語を口にした瞬間に即刻特訓を中止すr」

 

「うるせぇ」

 

 

 

 

 

 

 







そんなに書くことなかったのでボリュームは少なめ。久しぶりに緑谷達の話を書けた気がする。


緑谷くんはかの魔法使いに大改造され、体はもう器としてだいたい完成しています。なのでオールマイトと同じ実践練習のオンパレード。後に緑谷は語る、「師匠より無茶苦茶じゃない分マシ」と。


不良大好きベストジーニスト。もしも爆豪と魔理沙が彼の事務所で鉢合わせたら、いつも通り喧嘩になって事務所が消滅していたでしょう。やったね。


殺意もりもりエンデヴァー。まだ試験の時の出来事を引き摺っているらしく、この状態で再び魔理沙と出逢えば「もう一度勝負しろ結依ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」と凄みを効かせながら迫り来るでしょう。ぜひ塚内くんに通報してあげてください。



次から職場体験3日目まで緑谷sideが続きます。よろしくお願いします。





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頑張ル君は美しイ(55話)




たくさんの失敗を重ねてはじめて、真実の全体像が見えてくるのです。(ジークムント・フロイト)





 

 

 

《緑谷side》

 

 

なんだかんだあって職場体験三日目。二日目は一日中グラントリノと練習に付き合って貰いながら、対人戦闘の知識を研究し続けていた。血を吐くまでやり続けた結果、ついに僕はオールマイトと同じ「マッスルフォーム」に変身出来るようになった。ただし一日10分だけである。

 

「むぅんッ!!!」

 

着ていた服が弾け飛び、凶暴な筋肉達が姿を現した。全生物を圧倒する大胸筋、オリハルコンですら貫けない腹筋群、覇王の風格三角筋、僧坊筋、上腕三頭筋、広背筋、腎筋群、力の権化上腕二頭筋、破壊の行進大腿四頭筋、その他もろもろが自己主張を始め、緑谷出久という存在の格を底上げする。目は隠れてはいないので、容姿は限りなくヤングエイジ時代のオールマイトに近い。

 

「HAHAHA......やりましたよグラントリノ! これで僕もオールマイトに継ぐ9代目に馴れた気がします!!」

 

「......お前さんが頑張った証だ。......早すぎる気もしないわけではないが」

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!!」

 

「畏まらんでいい、というかするな。お前さんの風格がオールマイトに似すぎてこっちの調子が狂っちまう」

 

「す、すみません。ちょっとトゥルーフォームに戻ります」

 

身体から煙をモクモクと放出していくと、いつもの緑谷出久の姿に戻った。さっきの変身で上半身に着ていた服が布切れと化してしまったが、そんな些細なことは今の緑谷にとってどうでもよく、ただただ自分は強くなったのだという実感に感動を覚えていた。師匠にも報告しようと思ったが、直ぐにお披露目するのは勿体ないのでしばらく秘密である。きっと師匠でも驚くだろう。

 

「そういえばお前さん、名前はなんて言うんだ?」

 

「えっ、あっ、言ってませんでしたっけ。僕の名前は緑谷出q」

 

「それは違うだろ?」

 

「え?」

 

困惑する緑谷。それは違う......とはどういうことなのか。少し考えた結果、その真意を理解することが出来た。昔の自分なら夢のまた夢と片付けていたであろうこの名を......

 

 

「ワンフォーオール9代目継承者、『ニューエース』ですッッ!!」

 

 

「そうか、では行くぞニューエース。ちょいと渋谷でパトロールだ」

 

「はいッ!!」

 

力強い声が耳に届き、若かりし頃のオールマイトと姿を重ねるグラントリノ。奴も昔、「平和の象徴になって皆の心を照らしたい」と暑苦しく語っていた。ニューエースもまた、何かを叫びながら人々に平和をもたらす存在となるのだろう。それまで自分が生きているかは定かではないが、出来ればそれを見届けてからあの世に逝きたいものだ。

 

グラントリノは己のマントを翻して駅に向かった。その背後をニューエースが追う。未来へのバトンは、既に託された。

 

「......ところで、あまりにも唐突で頭が追いつかいないのですが、なぜ渋谷でパトロールを?」

 

緑谷が素朴な疑問を出した。

 

「あぁそれはな、ここいらは過疎化が進んでいて犯罪率が低いもんだからな。渋谷あたりは人口密度が高いから小さなイザコザは日常茶飯事、まさにうってつけの場所よ」

 

「なるほど......勉強になります!!」

 

緑谷はポーチからメモ帳を取り出し、いつものように学んだことを書き留めた。

 

「おっと、タクシーが来た。ほら早く乗んなさい!」

 

グラントリノが手招きをするが、緑谷は満ち満ちとした表情でグラントリノの誘いを断る。

 

「あっ、僕は走っていくんでグラントリノは先に行っててください! 追いつきます!!」

 

「は? こっから渋谷まで何キロかかると思って......あの小僧、もう行きやがった......」

 

元気すぎる後継にグラントリノはため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 P.M.5:48 〜

 

 

野原を超え林を抜けて山を越え、宙を舞い夕日と共に走る男、緑谷出久。グラントリノの乗る新幹線の後ろを全力疾走で追いかけているが、速すぎて後方車両から100メートルほど離れてしまっている。さすが新幹線といったところか。だが緑谷には秘策がある。ついさっき会得した強化変身、「マッスルフォーム」を使えば追いつけるかもしれない。制限時間が10分しかないのが弱点だが、滅多に使うわけでもないので使ってしまおう。5分あれば大丈夫。

 

「フンッッッハッ!!!」

 

コスチュームが弾け飛び、ガタイのいいパンイチ少年が現れる。傍から見れば変態だが緑谷にとってこの姿は努力の証、オールマイトの後継者であるという誇りそのものなのだ。パンツが弾け飛ばないのはお約束だ。

 

緑谷は空気を高速で蹴り続ける「月歩」という技で空を駆け抜ける。身体から吹き出る熱を冷えた空気が冷却し、なかなかに心地いい。

 

「オールマイトになった気分だ......」

 

緑谷は言葉にできないほどの感動を感じていた。ずっと憧れ続けてきた、オールマイトのような最高のヒーロー。その軌跡を振り返ると、自分がいかに恵まれていたのかが身に染みてわかる。幼少期に師匠と出会い、オールマイトから個性を受け継ぎ、雄英高校に入学し、必死こいて鍛え続けて、今の自分がある。なんとも感慨深い。

 

 

それはまるで奇跡のようなお話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォ!!

 

 

「え?」

 

 

感動もつかの間、何者かがグラントリノの乗っている新幹線に激突した。新幹線は黒い煙を吹き出しながら徐々に減速していく。

 

何がどうなっているのか全く理解できなかったが、緑谷は先に乗客の安全を確認すべく減速した新幹線に追いつき、遠くから様子を覗こうとした。

 

「一体何が.....」

 

何とか回り込み、様子を見る緑谷。だが五秒も経たずにグラントリノが、U()S()J()()()()()()()()()()()()()()を掴んだまま新幹線から飛び出した。

 

「グラントリノ!?」

 

「小僧! お前はどこか安全な場所まで逃げろ!! 警察にも通報だ!!」

 

「グラントリノ.....しかし!」

 

「いいから早くs」

 

言い終わる前にグラントリノは保須の市街地まで行ってしまった。嫌な予感がする、何か強大なエネルギーが保須を中心に渦めいているような、得体の知れない力が溢れている気がする。ごめんなさいグラントリノ、逃げることなんて出来ません!!

 

緑谷はすぐにグラントリノの後を追うことにした。グラントリノが抑えていたあの怪物、USJにいた脳無とかなり似ていた。あんな脳ミソむき出しの怪物がそこら辺にいるわけがない、親戚か兄弟か。もしもUSJの脳無と全く同じ力を持っていたとしたら、グラントリノとはいえかなり危険だ。放っておくわけにはいかない。

 

己の正義に従い、緑谷は保須に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

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《???side》

 

 

 

保須市で脳無が複数体出没し、街は焼け、駆けつけたヒーローは脳無達の無慈悲な力によってねじ伏せられる。

 

 

 

〜 五分前 〜

 

 

「......この街に確かあのチート野郎がいるんだよな?」

 

「えぇ、彼女は現在ノーマルヒーローの元で職場体験中ですね」

 

「ハッ、普通その個性で凡人のとこ行くなんてつくづく笑えるぜ。ギャグかよ」

 

保須市のとあるビルの一角、かつてUSJを襲撃したヴィラン連合の二人が街並みを見下ろしながら会話をしていた。

 

「まーどっちにしろ、こっちにはあの対オールマイト用脳無を遥かに凌ぐ最強の脳無が五体いるんだ。流石のアイツでも死ぬぜ?」

 

「しかし貴重な脳無の中でもさらに貴重な個体を五体も貸してくれるなんて、先生方は何を考えているのか......」

 

黒霧はあまりに不自然なご好意に疑問を抱いていた。脳無は複数の人間を掛け合わせ、複数個性の所持に対応出来るようにしたいわば改造人間。製造工程は不明だが、一か月前の時点では一体の製造にかなり時間を要していたはずだ。さらに先生が言うにこの脳無達は通常の個体とは一線を画す『最上位(ハイエンド)』個体らしく、なんと他の脳無と違って知恵を持ち、会話もある程度出来るらしい。

 

なら尚更これを死柄木に託した理由が謎だ。そこまであの人間を処理したいのか。謎は深まるばかりであった。

 

「そう深く考えるな黒霧。つまんねぇだろ」

 

「......。」

 

「あーもいい。早く脳無だせ黒霧、さっさと試してみようぜ」

 

新しい玩具に魅せられた子供のように、目先の欲望に溺れる死柄木。黒霧は渋りつつも、仕方なく個性「ワープホール」を使って五体のハイエンドを呼び出した。

 

「でデででデでデデてタ、ソト、そトダ」

 

「みっミみっみナごろシ。みなごろしみなごろしみなごろしみなごろしみなごろしみなごろしみなごろしみなごろしみな」

 

「.....aaafuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuckfuck!」

 

「タスケテ、タスケテネスさんネスさんネスさん痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いあ"ァ"あ"あ"ァぁ"う"ぉ"ゑ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"

 

 

キ モ チ イ イ

 

 

 

「見たな見たな見たなたな見た見たな見たな見たな見たな見たな見たな見たな見殺すたな見たな見たな見たな見たな見たな見たな見たな見たな見たなて見て見て見て見て!!」

 

ワープゲートから出現した複数のハイエンド脳無。その姿は下位や上位の個体と違い、まず脳がフードのような皮で隠れている。そして全体的に黒く、細身だが皮の下は筋繊維の塊である。身長は2メートルほどある。

 

「こいつら本当に会話出来んのか?」

 

「さぁ、どうなんでしょうか......」

 

言葉とは思えないほど狂った叫びに二人は首を傾げる。が、取り敢えずこの街を思い切り壊してくれればそれでいいと死柄木は考え、命令を下した。

 

「脳無、この街の全てを壊せ。全てだ。あとこの写真に写っているコイツ、コイツを見つけたら全力で殺せ。いいな?」

 

「「「「「......リョーカイ」」」」」

 

命令は伝わるのか、五体のハイエンドは同時に了承する。そして一斉に翼を広げ、それぞれの方向に散らばっていった。道中にある全ての物体に危害を加えながら、一人残らず一掃し、さらに体内に格納していた下位・上位脳無をばら撒きながら被害を拡大していく。上位脳無一体でさえも街に大規模な被害をもたらすというのに、ハイエンド脳無五体、上位脳無十体、下位脳無二十体がたった一つの街に集中している。シュミレーションゲームで弱者を甚振るかのような快感に死柄木は興奮する。

 

 

 

が、そこに一人のヒーローが立ち塞がった。

 

 

「......せっかく様子見で来たっつーのに、何だコレ。 いつもの脳無に比べて随分と禍々しいな」

 

死柄木の目の前に突如現れた金髪の魔女。一見ただフワフワ浮いてるだけの少女に見えるが、少女とは思えない圧倒的な存在感に死柄木達は身構え、飛んで行ったはずのハイエンド脳無達は存在に気づいたのか、Uターンして戻ってきていた。

 

長い髪を漂わせ、暗黒に満ちた表情でこちらを睨んでくる魔女に死柄木は不快感に苛まれた。あの顔、あの目あの表情、この世でオールマイトの次に憎い存在、USJ襲撃を散々な結果で終わらせた元凶。死柄木は憎しみの篭った声で叫ぶ。

 

 

「結依魔理沙ァァァッッ!!!!!」

 

 

魔法系(マジック)ヒーロー『マリッサ』、ここに見ンンンンッッ参!!!! 死にたい奴は順番を守って一人ずつ来い。まぁ守らなくても結果は変わらんがな」

 

 

不敵に笑う最強のヒーロー、結依魔理沙が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

《魔理沙side》

 

 

私、結依魔理沙は今、めっちゃ困ってます。一つ、死柄木が何かやらかさないか様子見でやってきたら案の定やらかしていた件。二つ、保須のどこかに魔梨奈が現れたが、様子がおかしい件。三つ、休憩中に遊び半分で緑谷くんの様子を観察してたら、パンイチで快感を得ていた件。さて、どこからツッコめばいいのやら。

 

まず死柄木の方だが、なんか見たことない脳無が五体もいるんだけど何なんだこいつらは。原作では三体だけだったし、こんなに禍々しくもない。オリキャラなのかまだ見ぬ原作キャラなのか判別つかんが、なんか弱そうなので早めに倒しておこう。

 

問題は魔梨奈の方。いきなり現れたかと思えば、オーラダダ漏れの状態でさっきから彷徨いてるのが意味わからん。職場体験もサボってたことを考えると、反抗期? スケバン? アイツがスケバンになったら先公の手に負えないので、姉として私が更生させねばならない。

 

とりあえず緑谷くんはパス。

 

 

「ふぅ、状況は整理出来た。じゃあどーぞご自由にかかってきなさい」

 

「おママおまオまオマお、ッよい?」

 

「stronger than youuuuuuuuuuuu!!!!!」

 

「底板そそそこそこココココココココ遺体たたたたたたたた

 

ブ ロ ッ コ リ ー

 

 

「残念、英語しか科目取ってないからお前らの言葉理解できないわ」

 

〔彼らの言葉を翻訳致しましょうか?〕

 

「いらんわ!!!」

 

大賢者の余計なお節介を回避しつつ、脳無達に睨みを利かせる魔理沙。USJで出現した対オールマイト用脳無よりかはマシな奴五体に囲まれているが、あん時と違って今の私はフルスロットル。最近じゃ苦手だった初見殺しもだいぶ対応出来るようになった。見せてあげよう、ニュー魔理沙様の最高のヒーローショーを。

 

「fuck」

 

一体の脳無が巨躯な翼を羽ばたかせ、筋繊維が異常に膨れ上がった右腕をこちらに向けながら迫ってくる。

 

「Sit,sleep over there.」

 

英語スラングを英語で返しつつ、能力で変質した巨大で肉塊な右腕を振り払う。強烈な一撃が向かってきた脳無の右頬を砕き、体を回転させながら遠くのビルに衝突した。造作もない、こんなものいつも爆豪とやり合っている日常茶飯事レベルだ。

 

「おまおまマつヨイ。ころっッこコロろっこロす」

 

「見た見た見た見たよ。見て見た見てよ見たぞ見たら見たら見たら 殺す」

 

 

ジ ャ ー マ ン ポ テ ト

 

 

「私はフライドポテト派だッ!!」

 

一体目の脳無が吹き飛ばされたのを切っ掛けに、次々と他の脳無達がこちらに向かってくる。私より体格が大きいため懐に潜り込むのは簡単だが、多勢で突っ込まれるとなかなかに厄介。そして脳無である以上、何かしらの個性をそれぞれ4〜5個ほど持ち合わせているはずだ。......いつものギリギリの戦いは止めておいた方が良さそうだ。戦闘映えしないが仕方あるまい。

 

「ぽぁ」

 

一体の脳無が顔面から炎を吹き出す。避けるのは簡単だが、避けた隙を狙って攻撃してくるのを読唇能力で先読みし、あえて炎をくらう。炎耐性を全開にしているので火傷すら負わない。やったね。

 

脳無達の攻撃を避けつつ何発か拳を叩き込んだ後、私は両腕を()()()()()()()()()()()()()()に形を変え、近くにいた二体の脳無を

 

「頂きます」

 

 

呆気なく喰らった。

 

 

変形した両腕は血も骨も惜しみなく飲み喰らい、咀嚼し、欲を潤す。ワニのような腕は満足したのか、ゲップを吐き出すとスルスルと元の両腕に戻った。

 

「......ところどころ個性ダダ被りしてるが、珍しい個性も手に入ったな。まぁ、及第点だな」

 

「アイツ、脳無を喰ったぞ......」

 

「貴重な脳無が.....」

 

ドン引きの死柄木と多大な利益の損失に嘆く黒霧。だがそんなこと知ったこちゃあない、珍しい"個性()"を私の目の前に差し出したお前らが悪いのだ。自分を憎め。

 

〔能力『メルエム』が発動しました。自然治癒力上昇。筋力上昇。瞬発力上昇。思考速度+0.42%。感覚倍増etc。個性を複数獲得。同系統能力は同グループに統合されました。『ハイエンド』への変身が可能です。〕

 

大賢者が今日も元気に私のステータスを教えてくれる。『メルエム』とはハンターハンターという世界で猛威を奮った、キメラアントという怪物の王の名だ。メルエムの能力は喰らった相手の能力やステータスを自分に上乗せ出来る......、ってアレ? なんか似たような力が他にもあったような......

 

そしてハイエンドに変身出来るようになったのは『擬態』という雑魚スライムが持つ能力。これで変身できる姿は4278931。ざっと427万ほどだ。

 

「次の方どうぞ」

 

丁寧に右手を添えつつ、魔理沙は礼をした。

 

「くタクったくクッたくっタクった」

 

「見タたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた、、、、、、た」

 

「......喧しく喋る割には全然近寄ってこねぇな。動物並には頭が働くようでよろしい。が、残念ながらそれは悪手だな。干渉系能力者(チートキャラ)を相手に、後手に回った時点でお前らは負けなんだぜ?」

 

〔/kill @P〕

 

〉_

 

/noumu[high end 3] deleted successfully

 

 

 

 

 

 

 

「つまりこういうことさ」

 

魔理沙の近くにいた一体の脳無が、跡形もなく消滅してしまった。文字通り、跡形もなく。

 

「......な......ッッ?!」

 

「これは......一体どういう......?」

 

「ん、今の状況がよく分かってないようだな。 ほらゲームでチートコードあるだろ、アレだよアレ。マイクラやったことある?」

 

魔理沙から説明を受ける死柄木だったが、全く頭に入ってこなかった。いや、チートコードは理解している。死柄木はよくゲームに触れる機会が多く、時にはゲームデータを改竄したり、チートコードやコマンドで遊ぶことは多々あった。が、それはゲーム上での話であって現実ではない。

 

世界そのものを数値化し、ゲームのごとく弄ることが出来る力。使い過ぎればこの世界に一種の不具合(バグ)を発生させる危険な力。

 

「......、こんな、こんなふざけた話があるかッッ!! お前は神になったとでも言うのか!!」

 

死柄木弔は問う。お前は何者かと。

 

 

「残念、不正解! 私は最強の魔法使い『結依魔理沙』! この名のお前の8ビットしかない脳みそに叩き込んでおけッッ!!」

 

私は答えた。私は自称最強の魔法使いであると。

 

 

「ニゲにゲにゲヨう」

 

動物並の思考により、逃げる選択をする脳無。敵はあまりにも強大で、未知で、現状では勝つ術もないとわかった以上、相手から出来るだけ距離を話すことが最優先となる。生きていれば経験が積める、生きていれば強くなれる、生きていればチャンスが巡る、生きていれば復讐が出来る。とにかく生き残りさえすればいい、そう一匹の生物は考えた。

 

 

やはり動物並の思考と言わざるを得ない。

 

 

逃がすわけなかろう(逃げられる保証があると?)」キュッ

 

 

ボンッッ!!!

 

 

 

魔理沙は()()手中に収めていた脳無の"破壊の目"を握りつぶし、残った一体を跡形もなく消し飛ばした。最初に向かってきたfuck野郎が残っているが、あれは警察に突き出すために生かしただけであって、潰すべき敵はこれで全て潰したことになる。

 

後は死柄木達だが、軽く吹っ飛ばしておかえり願おう。これ以上の原作崩壊はかなり不味いということが最近判明した。ここ最近、空間が時折歪んで見えることがあった。あまり気にしていなかったが、大賢者曰く「原作崩壊が原因。非常に危険」らしい。よく分からなかったが大賢者が強く言うので、まぁそういうことらしい。だから最近は()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()。している......、している? ん、アレおかしいぞ? なんで私、使ってんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"それはお前が『最強の魔法使い』だから"

 

"それはお前が『化け物』だから"

 

 

"それはお前が『異形だから』"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"それはお前が敷かれたレールの上で踊るだけの、何とも哀れな『器』だからさ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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私は残った一体の脳無に瞬間移動で近づき、フェムトファイバーの組紐で脳無を拘束する。フェムトファイバー、説明すると長くなるので簡単に言わせてもらおう。要はめっちゃ強い組紐である。仮に私並みの筋力を持ち合わせていたとしてもこの組紐を解くことは不可能。そんな組紐で脳無を亀甲縛りし、取り敢えず王の財宝(ゲートオブバビロン)の中に放置する。これで私のミッションはほぼ完了した。

 

「で、どうするお二人さん?」

 

ニヤリとした表情で二人を見つめる。

 

「ブッ殺す」

 

「待って下さい死柄木弔! 今はまだ辛抱するときです、早まってはいけません!!」

 

「そうよ弔くん! アンタが今倒れたら、黒霧や先生との約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、魔理沙に勝てるんだから!(皮肉) 次回、『弔死す』 。デュエルスタンバイ!」

 

「やっぱコイツブッ殺す!! 黒霧ィ!!」

 

「......この結果を見て少しは考えを直して下さいよ!!」

 

死柄木は自分の右腕を黒霧のワープホールの中に勢い良く手を突っ込む。かつて先生の指導の元で黒霧と開発した即死コンボ、自分の「崩壊」の個性と黒霧の「ワープ」の個性を合わせたシンプルで最強な技。

 

魔理沙の目の前に黒霧のワープホールが出現した。そして穴の中から死柄木の右腕だけが飛び出し、魔理沙の顔面をガッチリと捕らえる。顔面の皮膚から崩壊が進んでいき、10秒も経たぬ内に全身が灰と化す。まさに即死コンボとでと言えるべき必殺技だが、喰らった当の本人は.........

 

「......ゲームが好きなお前に私から一つ教えてやろう。ラスボスに即死系は効かんッッ!!」

 

顔面に五指を密着させられていても、彼女は余裕の表情を崩すことは無かった。あまりの理不尽さに死柄木は逆ギレしたが、黒霧はため息をつきながら「やはり」と呟いた。

 

「クソっ、クソッッ!! 邪魔ばっかしやがってこのクソババアが!! 次会った時は必ずブッ殺してやるから首洗って待ってろ!!」

 

死柄木の捨て台詞に魔理沙のネタセンサーがビンビンに反応した。

 

「ぶっ殺すだと? 私達ギャングの世界ではな、ブッ殺すと心に決めた時は、既にッ行動は終わっているんだッッ!!」

 

独特の効果音と決めポーズが死柄木に炸裂する。

 

「ブッ殺した......なら使ってもいいゾ」

 

ジョジョ画風で人差し指を天に向けながらドヤ顔をかましてくる魔理沙に対し、死柄木の憤怒はとうに限界を迎えていた。

 

「知るかカス! ハゲ! ジブリの雑魚キャラ!」

 

「誰がまっくろくろすけだブッ殺すぞ」

 

有言不実行、前言撤回、何が原作崩壊だクソ喰らえ。右手にカイザーフェニックスを構えながら二人の動向を警戒するが、黒霧がこの状況に耐えきれなかったのか死柄木を無理やり引きずり、ワープの個性で逃亡した。まぁ、終わりよければ全てよし。

 

取り敢えず私は今の状況を警察に報告しなければならないので、私はゲートなバビロンからスマホを取り出す。激動ではあったが余裕だったな。

 

報告を終え、次に魔理沙が目を付けたのは巨大なエネルギーの発生源、おそらく魔梨奈がいる場所に座標を合わせる。座標を......、ざひょっ、すいませーん大賢者さーん! 手伝って下さーい!!

 

〔......大人しく瞬間移動を使って下さい。それにマスター、まだ脳無退治は終わっていません。下位・上位個体の脳無が既に最上位個体から排出されています。至急そちらの対処を〕

 

「グッ......やってくれたな死柄木弔、いらん置き土産を渡してくれちゃって......サッと終わらすぞ」

 

魔理沙は瞬間移動を使った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキッ







人間は誰でも猛獣使いであり、その猛獣にあたるのが、各人の性情だという。おれの場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。(『山月記』 李徴)




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ホウカイノ波(56話)



エゴはあなたに
あなたではないあなたを
信じさせている。

肉体こそあなただととか
業績こそあなただとか
競争して
他人より優位に立つことが
大切などと信じこませようとしている。

実際は、生まれることも
死ぬこともない魂が
人間としての体験を
しているだけなのだ。

(ウエイン・W・ダイアー)



※後半、超大変更を施しました。内容が大幅に変わっています。申し訳ございません。





 

 

 

 

《緑谷side》

 

 

「はぁっ、はあっ、はぁっ、はあっ......」

 

グラントリノを追いかけ街中を散策していた緑谷であったが、街の惨状はお世辞にも大丈夫とは言えなかった。住民の悲痛な叫び声が各方向から共鳴するように反響し合い、消えてはまた聞こえてくる。車のガソリンが引火したのか各所からは火の手が拡大して住民はパニックに陥っている。地方のヒーローが彼らを避難させているから今のところ大事には至ってないが、少し被害が大きすぎないか? グラントリノと怪物の争いで周りに危害が及んでいるにしても、あまりに規模が大きすぎる。どう見ても他のヴィランも同時に暴れてるようにしか......

 

考える緑谷だが突然の突風で身体を煽られ、思考を一瞬停止してしまう。そして再び目を開けたその時、緑谷は己の状況を疑った。無性に両腕が痛く、突風が止む気配がない。さっきまで火災で発生した熱が充満していたというのに、今は嘘のように涼しい。むしろ寒いくらいだ。しかし一番の問題点はそこではない。緑谷はグッと目線を下に向けた。

 

 

地に足がついてなかった。

 

 

「!!?」

 

よく耳をすませばバサバサと音が鳴っているのが分かる。緑谷は後ろを振り向いた。そこには翼を大きく羽ばたかせ、鳥のような足で両腕を掴みながら飛行している脳無がいた。

 

「もう一体いたのか!」

 

緑谷は自分を掴んでいる脳無を叩き落とそうとするが、下の大爆発に気を取られてしまう。目を向けると複数の脳無が高層ビルや娯楽施設、目につくもの全てに対して破壊の限りを尽くしていた。一体二体どころの話ではない。五、六、七......少なくとも十体以上この街に集中している。おかしい、ここまで用意出来るならなぜUSJの時に使わなかったのか。脳無一体でもプロヒーロー数名ほどの戦力にはなる。しかしそれだけの力を秘めているからこそ増産が難しく、USJの時は一体だけ(しかも対オールマイト用)しか連れて来れなかったはずだ。安価での生産が可能になって、供給が安定したとか? そういえばUSJ襲撃のヴィランの中に、師匠と争っていた女の人がいたよな。主戦力がそっちに切り替わったから、脳無を切り捨てたのか? 切り捨てるにしても脳無はかなりの戦力、保須で切る必要なんて.........あ! 師匠!!

 

確信にたどり着いた緑谷出久。きっとヴィラン連合は、師匠の職場体験先を狙って脳無を投入し倒すつもりだったんだ! 連合側で新たな戦力を手に入れたのか、技術革新が起きたのか不明だが、不必要になった脳無(おそらくUSJの時より弱い)を師匠にぶつけつつ、脳無の戦闘データ回収かつヒーロー社会への打撃を与えるのがヴィラン連合の目的だ。

 

「取り敢えず、この脳無を叩き落とさなきゃ」

 

緑谷はデコピンの照準を脳無の目に合わせる。体育祭で散々みてきた師匠のテクニカルなデコピン、「見て学ぶ」ことに関してはかなりの自信があるからワンチャン出来るかもしれない。いいや出来る!

 

「デコロイト・スマッシュ!」

 

指先から放たれる風圧が脳無の右眼に直撃し、緑谷は喜びの声を上げる。叫び、悶絶を繰り返した脳無は緑谷を放した後、今度は憎しみの表情で緑谷に襲いかかる。

 

空中に放り出された緑谷は身動きが取れないはずだが、生憎彼は仮にも最強の魔法使いの弟子兼幼なじみなため、その辺も抜かりない。彼は師匠から空中移動の基礎について学び、さらにグラントリノから空中での精密動作、視線誘導、フェイント、カウンター、反動軽減など数多く学んだ。

 

姿勢を縦にし、後方に一発蹴りを決めて空中に上昇。自由落下に身を任せて襲いかかる脳無に対して緑谷はヒラリと身体を翻し、死角からのローキックが炸裂する。かなり効いたのか、脳無は再び悶絶を繰り返しながら地上に落下していく。しかしこの程度では脳無はくたばらない。緑谷は再び宙を蹴って脳無に素早く近づき、空中で一回転。遠心力を乗せたかかと落としが脳無の頭部に直撃し、脳震盪を起こさせた。

 

ズドンッ!!!

 

地上に綺麗に着地した緑谷はさっき倒した脳無の様子を確認する。脳無は地面にうつ伏せたまま、微動だにしない。気絶......しているのだろう。今のうちにロープなどで縛っておきたいのだが、そんなもの最初から持ち合わせてはいない。誰かに報告して貰いたいが不運なのか降りた場所が人気のない路地裏なため、彷徨く人間などいるはずがなかった。携帯もさっきの戦闘で紛失したため、仕方なく緑谷は最終手段を取った。

 

取り敢えず路地裏から脱出すべく、脳無をお姫様抱っこ(決して変態ではない)して適当に歩く。お姫様抱っこしている理由は、単に引き摺るより速く動くことができ、気持ち的に早く警察に引き渡したかったからだ。

 

(やっぱり気持ち悪い)

 

脳無の肌に触れて思う。何とも言えないブヨブヨ感というか、少なくとも人に触れているというより未知のUMAに触れている気分だった。結局、これは一体何なのだろうか。連合の生物兵器......みたいなものだとずっと思っていたが、そもそもこれは生物なのだろうか? 地球上のものとは思えない見た目に複数の個性を使う動物、改造されたにしても異質過ぎる。現状何もわからないのだからこれ以上の詮索は無駄なんだろうけど、こういう一人でいる時はつい頭によぎってしまう。僕の悪い癖かもしれない。

 

しばらく歩くと向こうに舗装された道路のようなものが小さな隙間から見えるようになった。長かったようで短かったなと、緑谷は安心した表情でその隙間に近づこうとする。一歩、また一歩進んで、光さす世界へと向かう。一歩、一歩、一歩、一歩と進むのだが、何故か足取りが重い。背後に何がいる、そう感じてはいたが後ろに振り向くことが出来ない。脳無の時は振り向けたその勇気は、今じゃ萎んで役に立たない。誰なんだ。いったい誰が僕の背後にいるのか。

 

ついに外に出る隙間の一歩手前まで来た。もし危なかったとしても、この隙間から一歩踏み出せば逃げられるだろうと思った緑谷は、恐る恐る背後を振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ししょうににたひとがいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

バゴォッ!!

 

 

「な.........ぇ......ッ?」

 

緑谷は完全に言葉を失っていた。自分が何故師匠に似た誰かさんに腹の肉を抉られ、壁に叩きつけられ、今目の前で残酷な笑みを浮かべて見下ろしているのか。

 

「.........だれ.....だ.?」

 

落ち着かない気持ちを必死に抑え込み、敵の正体を探る緑谷。暗闇と自分がまだパニックに苛まれているせいで上手く顔が覗けないが、師匠ではないはずだ。流石の師匠でもこんなホラードッキリを仕掛けるほど人道から外れてはいない。いや、やりかねないが腹の肉を抉るようなマネはしない。そう思っていた。

 

が、

 

「オイオイおい知り合いなはずなのに何て冷たい反応だなァ.......、まァ、そんなことはどうでもいい。()()()()、俺が手に入れた真の力を試す為の生贄となれ」

 

すかさず回避する緑谷。自分のいた場所には大きな斬撃痕が残され、犯人の右手にはいつの間にか剣が携わっていた。コイツ、最初から剣を持っていたか? それにこのオーラ、たまに師匠がお遊びで出すドス黒いオーラに近いものを感じる。いや、まさかそんなはずあるわけが.......

 

「あァそういえばお前、俺に対し「誰?」と言ったな。自己紹介がまだでスマンかったな、えーと俺の名は......いや私の名は......」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「魔梨奈さん!?!?」

 

緑谷は驚きが隠せなかった。自分を襲った犯人の正体が師匠の妹で温厚で優しい魔梨奈さんだったとは微塵も思っていなかった。

 

「なんで魔梨奈さんがこんな所に......、それよりそのオーラは何なんですかッ?!」

 

「はァ、二度も言わせるな。私はただこの腐れきった社会を正しく導く為に、二番目の障壁となりそうなお前を抹殺したいだけだ。」

 

「腐りきった社会......?」

 

妙な雰囲気に緑谷は戸惑う。

 

「あァ、世の中にはな、金と名声に目を眩んだ亡者共が腐るほど存在する。亡者共(雑草共)が蔓延るこの社会で真のヒーローを呼び覚ますにはまず亡者共を片っ端から根絶やしにしなければならない。邪魔な亡者さえ消えれば、正しい価値観がこの世に生まれ、そして世界は真の平和を迎える。あの戦いで俺は死んだものだと思っていたが、何の因果か、俺は再びこの世に蘇った。まさに神が我が正義を全世界の人間に知らしめるために、この俺を遣わして下さったに違いない。あァ絶対そうだァ、過ちを犯し続ける人間共を我が導き我が司り我がこの世界に君臨しろという神からのご命令、宿命、運命、そう運命に従うままに我は我は我は我はここにいるぅうゥうッぁあああァアアあああア!!! これは正義の聖戦だッ! 救いようの無い人間共を我が正義によって粛清するッッ!! 我が行動に一点の曇りなし! 俺ガ正義ダァガガガガ愚ぼァへぇあぁああアあうへげぇあ!!!」

 

 

魔梨奈はこの世の愚かさを嘆き、涙を流し、白目をむいたまま、虚無の空を見上げ、自分の正義がいかに正しいかを、目の前の人間に知らしめる。ハッキリ言って彼女は狂っていた。何がどうここまで酷く歪ませたのか不明だが、緑谷は変わり果てたクラスメイトを見て涙を流すしか出来なかった。

 

「......どうして......こんなごとに...ッ!」

 

「どうして? だって? ハ! 我は人間ゾ? 人間は常に変化を繰り返す生き物だッ! お前にとって今の私が狂った人間に見えていたとしても、私にすれば今の私は進化し続けた結果であって卑下するものでは無い! 寧ろ進化に乗り遅れている貴様ら下等生物が悪いっ、狂っている! 完全悪だッっ!! 我が正義に非ず者は全て、磔刑だああああああああぁぁぁ!!」

 

一瞬であった。魔梨奈の身体から無数の刃が四方八方に飛び出し、狭い路地裏の壁を貫通させた後に強引に引き裂いた。緑谷はすんでのところで回避しつつも、これ以上動く余地は無い。自分はどうするべきか迷っていた緑谷だが、お人好しな彼は()()()()()()()()()()しか見つめず、これしかないと判断した。

 

崩れゆくビルの狭間で緑谷は考えていた。クラスメイトを、魔梨奈さんを元に戻すには師匠の力が必要不可欠である、と。師匠の職場体験先は確か保須のノーマルヒーロー事務所のはずだから、ここで派手に暴れたらすぐにでも気づくだろうし、もう既に気づいているかもしれない。五分時間を稼げば確実に来てくれると感じた緑谷は、更地と化した保須の大地に一人立ち上がる。相手は膨大な個性を抱え、何かの拍子で暴走させてしまった女の子一名。勝利条件は()()()()()()()()()()()()()()、そのために五分間時間を稼ぐこと。

 

「絶対に......絶対に僕が止めてみせるッ!」

 

緑谷は再びマッスルフォームの姿に変身し、暴走した魔梨奈に立ち向かう。この姿を維持出来る時間はおよそ五分弱、それが僕の最大限止められる時間(タイムリミット)となる。後は師匠任せだ。

 

飛び交う刃を巧みに回避し、懐まで迫る緑谷。まずは一撃、顎下からのアッパーカットで脳天を揺らし失神させる。魔梨奈は魔理沙と共通の個性なため、対策としては"個性を発動させずに強引に押し切る"方法がある。つまりは短期決戦なのだが、個性のみならず身体機能も人外レベルなため通用するはずがない。となると他の手段としては、"ギリギリ相手の素手が届く範囲"で五分間攻撃を避け続け時間を稼ぐ方法。これなら相手も自分も傷つけずにやり過ごすことが出来る。しかしこれは不可能に近い。近くで避け続けるため、相手は自分を巻き込むような広範囲攻撃を使うことが出来ないが、それを抜いたとしても相手の方が攻撃の手数が多い。必ずどこかでボロが出るだろう。それに相手は即死攻撃(チート能力)を持っている。これに関しては使われないことを祈るしかない。使われた直後、自分の敗北は決定する。鬼畜すぎる。

 

どう足掻いても止められないのかもしれない。理不尽なまでに自分が無様に惨殺されるかもしれない。しかし緑谷は足を止めなかった。この中で一番苦しんでいるのは彼女のはずだ、こんな望まない結果で終わっていいはずがないと、彼女の気持ちを思う度に緑谷の"助けたい"という気持ちが加速する。

 

「ぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」

 

「100%デトロイト・スマッシュ!!」

 

狙い通り顎下からの攻撃で失神を狙う緑谷、だが魔梨奈は一瞬で姿を消し、背後から肥大化した右腕でカウンターを放つ。

 

「分かってますよ!!」

 

見聞色の覇気による攻撃予測でカウンターを防ぎ、緑谷は一歩強く踏み出し反撃の一手を放つ。

 

心を捉えた攻撃に対し、魔梨奈が再び反撃することはなかった。ワザと(ブラフ)なのか別の個性の発動の準備なのか判断出来ないまま緑谷は勢いのまま拳を叩き込もうとする。

 

 

魔梨奈が下卑た表情で笑う。

 

 

アァクセラレェェェタァアアアアア(一方通行)!!」

 

「ガはっッ!!!」

 

ベクトル反射によるカウンターが直撃し、緑谷は後方に大きく吹っ飛ばされビルの壁に激突する。対師匠の個性ノートNo.11、一方通行(アクセラレータ)。あらゆる力の向き(ベクトル)を好きな方向に跳ね返す個性。かなり脳に負担がかかる個性だからあまり使わないって師匠が言ってたけど、暴走状態じゃ何が飛んでくるか分かったもんじゃない。もう少し慎重に動いた方が......

 

「良さそう......。」

 

「ハサミギロチチチチチチチチチチチチチチチチ」

 

緑谷が再び思考開始し目を見開いた時には、既に魔梨奈の攻撃が迫っていた。緑谷は咄嗟の反射神経で身を屈んで回避し、攻撃を避けることに成功した。が、再び立ち上がった緑谷が見た光景は衝撃的なものであった。周囲一帯のビル群が全て均等の高さに切断され、一斉に崩れたのだ。一体どれだけの力を震えばこんな無茶苦茶なことが出来るのか、もし今の攻撃を避けていなかったら自分は確実に真っ二つに切断されていただろう。残り4分弱だが、1分が数時間並の長さに感じる。果たして自分は五体満足で帰れるのだろうか。

 

「うげ戯画ガガガガガガガガガガガガム....。ふぅ、ふぅ、はァっ......この個性ッ、全ッ然制御出来ねぇじゃねぇかァ!! 何でだ! コイツの記憶の通りに使っているというのに!! クソ個性が」

 

身悶えする魔梨奈。そのセリフから察するに、どうやら別の誰かが彼女を乗っ取り、操っているが個性の制御が出来ないということだろう。良かった、もしさっきまでの言動が()()()()()()()()()()()()()()()ものだったならば、どうしようもなかったかもしれない。だが乗っ取られているのなら簡単だ。乗っ取った本人を彼女から引きずり下ろし、叩きのめせば万事解決だ。

 

とはいっても、今は奇跡的に回避出来ているからこそ戦闘が継続しているが次も大丈夫である保証はない。相手が個性を制御出来ない以上隙は存在するが、かといって一つ一つの個性が強力すぎて迂闊には近づけない。となると、やっぱり隙が出来る度に最大級の一撃を叩き込むのが一番な気がする。ベクトル反射をされたら元も子もないが、そこは運に頼るしかない。

 

とにかく隙が出来るまで牽制だ!

 

 

"やっぱ脳筋だね緑谷きゅん"

 

 

そうですね師匠、最近僕自身もそう思えてきましたよッ!!

 

「はぁぁぁぁッ! 連弾デコロイト・スマッシュ!」

 

指から放たれる空気弾を連続で射出し、全弾を敵に叩き込む。理想的な立ち回りは相手に飛び道具だけを使わせ、自分はそれを避けつつ飛び道具で反撃し隙が出来れば一気に距離を詰めて拳を入れる。これがおそらく最も安全な策だろう。しかし敵はそれを見越して必ず接近しようとする。だから僕は空気弾を連続で放ち、相手の接近を防ぐのだ。

 

「はァ、コイツのセリフで言うとするならば、『グミ撃ちは負けフラグ』......だな。確かにその通りだ。本当に戦っているのがバカバカしい」

 

全弾直撃していた敵だったが、突如目に止まらないほどの速さで空気弾を回避しながら接近し、一瞬で緑谷の目の前に君臨した。とっさに身構えた緑谷に対し、敵は強引に腕を掴みアンダースローで緑谷を空中に投げ飛ばした。

 

超電磁砲(レールガン)×5」

 

間髪入れず敵は磁力のこもった鉄球を五個、緑谷に向けて超高速で射出した。

 

「ちょっ!?! アガァアアアハァァァッ!!!」

 

空中で爆発し光が拡散した直後、緑谷はものの見事に地面に激突。マッスルフォームとはいえ流石に超電磁砲(レールガン)五発はどうしようもなく、力なくうつ伏せることしか出来なくなっていた。

 

回復する暇もなく、敵は既に目の前に立っていた。

 

「具がガガガガが、はァっ、はァ、はァ、どうした? 緑谷出久ゥウウゥウヴヴ! 最初の威勢ハァ、どうしたぁ?」

 

「......まだだ、まだ戦えるッ」

 

「その身体で戦えるゥ? 戦えるんけねぇだろぅううがァァハオ日高藩や傘!! はァ、全然慣れねぇなこの身体。」

 

なんとか抗おうとする緑谷に対し、敵は余裕の表情で緑谷を見つめる。

 

「サーてさてさてサーティワン、緑谷!! さあどんな方法で殺されたい? 獰猛な肉食ゴキブリに内部から喰われて死ぬかッッ!!? はたまた仲間全員になぶり殺され、精神的に死ぬかッッ!!? どっち?!?」

 

腐り果てた精神から歪み出る邪悪さに溢れたセリフに、緑谷は何も反応することはなかった。真面目に考えているのか、それとも既に死ぬことを察して諦めたのか、回答を待つ時間を鬱陶しく感じた敵はスキマから神々しい斧(神斧リッタ)を取り出し、うつ伏せる緑谷の首に狙いを定める。

 

時間切れ(タイムオーバー)。サラバだ正しき社会への、供物」

 

 

振り下ろされた神の斧。緑谷の首に刃が届く。

 

 

前に緑谷は斧を片手で弾きつつ立ち上がり、懐まで一気に詰める。呆気を取られた敵は何も出来ないまま、緑谷に最大級の一撃を込める隙を作ってしまう。

 

「なッ!?」

 

「魔梨奈さん、許してください。絶対にあなたを救ってあげます!!」

 

 

 

「デトロイト・スマッシュ!!」

 

 

繰り出される弟子の拳。仲間を、友を救いたいという気持ちを込めたその拳は、淡い翠のオーラを纏って彼女の腹部に接触する。直撃を喰らった魔梨奈は勢いのまま後方へ吹っ飛ぶが、緑谷の姿が見えなくなることはなかった。

 

「オクラホマ・スマッシュ!!」

 

吹っ飛ばした直後に緑谷は空中に瞬間移動し魔梨奈の右腕を掴むと、己を軸にして回転し、地面に向けて投げとばす。

 

魔梨奈は体勢を立て直そうと思考するも、速すぎて体の向きを変えることさえ出来ない。このままでは連続攻撃の流れの末に、再起不能になるだろう。考える、この身体は制御は難しいが何でも出来る。それはつまり今まで常識だと思っていたことと、全く逆の行動を起こすことが出来るということだ。例えるならば、物理法則。

 

「ニューハンプシャー・スマッ?!? 消えた?」

 

「後ろだァッ!!!」

 

先回りして構えていた緑谷に対し、魔梨奈は自身のベクトルを操作することで勢いを相殺し、さらに瞬間移動で背後を奪う。螺旋丸とメラガイアーを組み合わせた強力な火球を緑谷の背後に叩き込み、身体を焼き焦がす。

 

「ッ!!」

 

反射的に反撃するもそこに魔梨奈の姿はいない。

 

「何処だ......、出てこいッ!!」

 

「ここさァッ」

 

ピキッという亀裂音が真上から発生すると、緑谷はとっさに視点を上に向け防御する。

 

「大切断!!」

 

割れた空間の中から魔梨奈が現れ、高低差を利用した強力な手刀が緑谷の腕に接触。緑谷は耐えきったが、余剰エネルギーが地面に流れ込み亀裂を生む。

 

バキィ!!

 

「なんてパワー.........」

 

「ハハハハハどうだァ、この圧倒的な力ァ! お前程度の存在では抗うことの出来ない、史上最強の力を前にして屈服するがいい!!」

 

己の手にした力の大きさに悦に入りながら、魔梨奈は緑谷にローキックを喰らわせた後、両腕を天に掲げてエネルギーを収束し始めた。

 

「その個性は......」

 

「ハハハ、これは『元気玉』。膨大なエネルギーを球状に収束させて放つ究極の技ァ! 雑魚が触れれば塵も残さず消滅するゥ」

 

「させるかッ!!」

 

緑谷は魔梨奈に向かって走り出し再び拳に力を込める。あの膨大なエネルギー、奴の言う通り触れればタダではすまない。が、エネルギーを溜めるに数分かかると察した!! 溜めている今が隙だらけだ!

 

「残念、雄英生徒。この身体の無限のエネルギーを使えば数秒で事足りる」

 

「元気玉」

 

一瞬で直径10メートルほどに膨れ上がった元気玉を魔梨奈はサイドスローでぶん投げる。地面を抉りながら突き進む元気玉に対抗するには、自分の両腕を信じて突っ込むしかない。避けたいところだが、避けられた元気玉がタダでさえボロボロな保須市にどれほどの影響を与えるのか計り知れない。

 

「クソッタレえええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

半端ヤケクソで向かってくるエネルギーの塊に両腕を突っ込み、必死に押し返す。しかしあまりに膨大なエネルギーに緑谷は背後の瓦礫と何度も衝突し、後方へ押し返される。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」

 

腕がグチャグチャに変形しても、足裏が摩擦で焼け焦げていて使い物にならなくても、身体にコンクリートの破片が突き刺さっていても、緑谷は必死に押し返そうと努力した。だが元気玉が止まらない。どれだけ必死に押し返そうとしても元気玉は言うことを聞かない。

 

「何アレ? ねぇちょっと明美こっち来てー! なんか青くなーい?」

 

「うわあの人テレビでも見てたけどつぇー。あの化け物一撃で倒しちゃったよ」

 

「こっちに向かってきてない? 逃げた方が良さげじゃない?」

 

「あっちもコッチも被害だらけでヤバぁ」

 

「ママー!」

 

「早く逃げてください! ここは危険です! 緊急シェルターに避難してください!!」

 

背後から聞こえる住民の声。まだ避難が終わってない場所まで押し返されてしまった。不味い、このままだと住民ごと元気玉に巻き込まれて死んでしまう。早く元気玉を止めなければならない。

 

「止まれッ! 止まれッ! 止まれって言ってんだろ! 止まれよ!! 早く止まれーーーーッ!!」

 

必死に叫ぶ緑谷。止まらない元気玉。衝突までおよそ50メートル、この速度じゃ今頃減速したとしてももう間に合わない。それでも必死に押し返す緑谷。手と足の感覚が無くなったが、胴や顔面を使ってでも緑谷は止めようとした。しかし止まらない元気玉。

 

「誰かッ、誰か止めてくれ。このままじゃ皆が死んでしまう......、誰か、誰かァッ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────師匠ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せな緑谷きゅん」

 

 

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

「ふぇ......?」

 

 

さっきまであった元気玉が忽然と消え、目の前にはもう一人の金髪の魔女が現れる。何が起こったのか全く分からないまま、緑谷は呆然と彼女を見つめる。

 

「.....今日はひでぇな。まだハイエンド倒してから五分くらいしか経ってないっつーのに、なんか街がほぼ更地になんだけど......」

 

彼女はため息を吐くと、スっと緑谷に目線を合わした。

 

魔法系(マジック)ヒーロー、マリッサ☆見参。どったの緑谷きゅん、あんなアホみたいなエネルギーと取っ組み合いするなんて......」

 

やっと魔理沙が登場した喜びと、元気玉が消滅した喜びが重なり、えもいえない感動が緑谷の中で爆発した。

 

「......師匠ぉおおおおぉおおぉおおお!!! 遅過ぎるんですよォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔理沙が来た。

 

 






理想を叶えるには
対価を支払わなければなりません。

(エリザベート・バダンテール)



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テメーは俺を怒らせた(57話)



警告:前話にて暴走した魔梨奈でしたが、後半話を繋げづらかったのでやむを得ず大変更しました。このまま読み進めるといきなり「え?」ってなるので変更前の56話を見た方はもう一度、変更後の56話の後半あたりを読んでくださると幸いです。本当に申し訳ございません。許してください、何でもしますから。


なお、変更後(56話に編集済みとついている)の56話を既に見た方はこのままお進み下さい。


※今回は今まで以上に激しい戦闘が見込まれます。わけわからないかもしれませんが御容赦下さい。





 

 

 

「ししょおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「頑張ったな緑谷きゅん。こんな、こんなにボロボロ………というか死にかけてない? おい、誰だ緑谷きゅんをここまでボコボコにしたヤツは。シバくぞ」

 

「そ、それがですね師匠………」

 

 地面に座りつつ、緑谷は現在の状況を魔理沙に伝える。保須で脳無が複数体出現し、自分が脳無に攫われかけてなんだかんだ倒したこと。その後路地裏にて操られた魔梨奈と出会い、交戦し、そして今に至る過程を緑谷は熱心に語った。魔理沙は何も言わず、緑谷の治療を行いながら淡々と話を聞いていた。

 

「なるほど。魔梨奈は職場体験サボってたわけじゃなくて、何者かに操られてたと。アイツ、三日前は大丈夫だったんだけどな」

 

「………はい。助けたかったんですけど、やはり力不足で………痛っ」

 

「全く無茶をするぜホント。私と全く同じ個性が暴走してるっていうのにさ、果敢に立ち向かうなんて緑谷きゅんはアホか。私の個性の危険性を昔っから理解してたのは緑谷きゅんだというのに、ホント、ボロボロになっちゃってさ」

 

「本当……すみません………グッ!」

 

 目に見える傷は全て消し去り、元通り動ける身体に戻したとはいえ、身体が受けたダメージはそう簡単に抜けることはない。特に緑谷はマッスルフォームによる強化形態を維持しつつ魔梨奈の猛攻を耐え凌いだのだ、いったいどれほどの負荷がかかっていたのか。一歩間違えれば死にかねない危険行為に魔理沙は注意しつつも、自分を待ってくれたことに感謝する魔理沙。

 

 しかし感謝を言い終えた頃には、緑谷は既に寝てしまっていた。どっちにしろ絶対安静だし、このまま緑谷の家のベットに送り届けた方が安全と判断した魔理沙は、緑谷の部屋にスキマを繋げ、優しくベットに乗せてあげた。

 

「………辛い思いをさせて、ごめんな……」

 

 緑谷の頭を優しく撫で、深い哀しみに昏れる。この力があってなお、自分は幼なじみ(弟子)一人救えないというのだろうか。保須の惨状も、自分がもっとしっかりしていればこうならなかったのではないかと、取り留めのない罪悪感が魔理沙を襲う。

 

 これからの自分が出来ること、それはこれ以上被害を拡大させないこと。この保須の悪夢を、私の手をもってして終わらせること。それが今私に出来る唯一の手段、ヒーローとしての使命。

 

「いい夢見ろよ、緑谷きゅん。今から私は、緑谷きゅんや街の人が見てしまった悪夢を、終わらせに行くからな」

 

 覚悟を決めて立ち上がる魔理沙。魔梨奈を乗っ取った犯人は目星が着いている。そいつに地獄を味合わせたら、帰ってみんなでお疲れパーティーを開くぞ。

 

「さぁ、"正義執行(ヒーロー)"の時間だ」

 

 そう言って魔理沙はスキマを閉じ、保須(戦地)に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____________________

 

 

 

 

 

 保須市の外れ、今は大規模な戦闘によりほぼ瓦礫と化した領域の中、異常なまでにエネルギーを蓄えた存在が堂々と佇んでいた。

 

「はァ、可笑しいなァ。アレほどのエネルギー弾ならそろそろ大爆発を引き起こしてもいい頃何だが」

 

 魔梨奈は自分の手を開いては閉じ、開いては閉じと動作確認をし、近くにあった大きな瓦礫に向けて衝撃波を放つ。問題なく粉々に砕けた瓦礫を見て、魔梨奈は自身のコンディションに不具合はないことを確信する。

 

「最初はクソだったが、慣れると本当に便利な個性だなァ。今までずーーッとコイツが持っていたなど、勿体なさすぎる」

 

 先の戦闘で個性の扱いに慣れたのか、かなりスムーズに能力を発動できるようになっていた。言語も不自由になることも、勝手に能力が発動することも無く、完全にこの能力を手中に収めたと感じた彼女は、何も無い空間で大きく高笑いする。

 

 もはや誰にも止められまい。そう思っていた矢先に、自分と全く同じオーラを纏った人間が近づいていることに気づく。

 

「誰だ!!!」

 

 戦闘態勢に移行する魔梨奈に対し、近づいてきた人物は惚けた顔で、ある意味堂々とした態度で、魔梨奈の目の前に現れた。

 

「誰って、私だよ私。ったく忘れたのか? 家族の顔すら忘れるなんて、薄情なヤツだぜ」

 

「魔梨奈さんよォォォ…………」

 

「ッ!?!」

 

 瓦礫の影から現れたその女は、自分以上のドス黒いオーラを纏い、同じ金髪で同じ魔女のような服を着た、瓜二つな見た目をした女だった。いや、他人ではない。魔梨奈は思い出した。この人間は、己が野望を叶える際、最も邪魔になる存在であることを。自分とコイツは、何れにしても必ず戦わなければならない宿命の敵であると。

 

「お前は、結依魔理沙」

 

「やっと思い出してくれた? お姉ちゃんすっごく嬉しい。けどもっと言うなら、()()()()()()()()()()()()()()が消滅してくれればも〜っと嬉しいかなぁ」

 

「何ィ……」

 

 不快な表情を浮かべる魔梨奈。魔理沙は特に表情を変えることなく、話を続ける。

 

「私は回りくどいこと言うの嫌いだからさ、単刀直入に言わせてもらう。お前、()()()()だろ?」

 

「はァ?」

 

 魔理沙の訳の分からない発言に首を傾げる魔梨奈。だが魔理沙はそのまま話を続ける。

 

「おっと、惚けても無駄だぜ? お前がステインである根拠は全部大賢.私が用意したからな。今から証拠述べてってやるから耳の穴かっぽじってよーく聞け。一回しか言わん」

 

 魔理沙はそう言うと、スキマから記録表のようなものを取り出し、そこに書き留めていた言葉の数々を淡々と述べ始めた。

 

「ここ最近、腑に落ちない点がいくつかあった。なぜ私と魔梨奈は、いつまで経っても元の姿に戻れないのか。大賢者曰く、「僅かな存在値の差」がこの現象を引き起こしていると言っていたんだが、それはつまり存在値がズレた原因が体育祭終了以前にあったってことだ。まぁ心当たりがあるとすれば、屋内戦闘訓練、USJ襲撃事件、雄英体育祭、そしてステイン戦の四つに絞られる」

 

「体育祭終了後、私らは()()を探した。個性は同じ、身体能力も等しく、身体の構造や臓器の大きさ、バストサイズ、全部同じだった」

 

「が、唯一違った部分、私は持っていなかったが魔梨奈だけ持っていたモノがあった」

 

「本来の人格以外に、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

 押し黙る魔梨奈。

 

「二重人格…………と言えるほどソレは立派なもんではなく、矮小で直ぐにでも掻き消えそうなくらいひ弱で脆そうな、そんな精神が魔梨奈の精神世界の隅っこに潜んでいた。今思えばコイツは精神世界の腫瘍のようなモノで、見つけたら直ぐに摘むべき芽だった」

 

「さっき言ったように、私にも別人格の芽があるか調べたが私には存在しなかった。つまりこの人格はステイン戦で憑いた代物であり、原因はステインにあるということになる」

 

「もちろん、ステインが憑けた人格なんだから、魔梨奈についた別人格はステインの人格に決まってるよなァ?」

 

 魔理沙の目付きが一層悪くなる。

 

「ここで私に質問、ドラえもん。かなりの精神耐性を持っている魔梨奈がなぜ、ステインの人格に取り憑かれてしまったのか。余程強力な能力でやらん限り、取り憑いて乗っ取ることは不可能なはずなんだが、もしお前がそれに特化した強力な力を手に入れたのなら、出来なくもない」

 

「余程強力な能力、私に匹敵するほどの力、引っかかると思わないか? そういえば私らがチート能力で魔梨奈の存在をマインドコントロールで捏造した時、他のみんなは気づかなかったのに()()()()()気づいていたよなァ。もっと言うなら、確かステインは魔梨奈との戦闘で目覚めてたよなぁ!」

 

「そう覚醒!  お前は覚醒の力で魔梨奈の精神に『人格』を植え付け、寄生虫のごとく成長して魔梨奈の精神を乗っ取ったのさ!! しかもお前は他の覚醒者と違って「精神」が強化されていたからな! 他者の精神を乗っ取るなんて容易いんだろ?」

 

「ここまで回りくどく言ってやったんだ。さっさと自白して正体を明かせ。今ならびっくりドンキーのハンバーグステーキを三割引で食えるクーポンを進呈しよう」

 

 詰め寄り、威圧をかける魔理沙。追い込まれたと思われた魔梨奈だったが、魔梨奈はケラケラと笑いつつ魔理沙に反論する。

 

「はァ、言わせておけばぬけぬけと。人格の植え付け? 精神を乗っ取る? 覚醒者? 馬鹿馬鹿しいにも程がある。存在値だかなんだか知らん値まで使って俺を貶めたいのだろうが、それを吐いたところで結局はお前の被害妄想止まりだ。無意味に等しい」

 

「………あー、そうだな。そう言い返されると流石の魔理ちゃんも困る。確かにチート能力なんて、傍から見れば存在しないに等しいもんな。プログラミングについて全く知らん人に高度なプログラムを見せたとこで理解されるわけないし、私がどんなに言っても結局私の被害妄想止まりだ。お前の言う通りだよ」

 

「だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、仮にお前が魔梨奈じゃなかったとしても、お前は器物損壊罪、許可の無い個性の使用及び個性による暴行罪etcで現行犯逮捕だけどな」

 

「……」

 

 

 シーン

 

 

 静まり返る世界。瓦礫で埋め尽くされたこの世界の中心に二人、魔理沙と魔梨奈が立ち尽くす。誰も言葉を発さず、時間だけが過ぎていく。しばらく立ち尽くしていると、魔梨奈が引き攣った笑みで暴露した。

 

「ハッ、ハハハッ、あーあァ。あのまま騙されて帰っていれば死なずに済んだものを.」

 

 魔梨奈? は必死に強者のオーラを取り繕いながら魔理沙に威圧をかける。

 

「そうさァ、()()()()()()だ。この身体を手に入れた代わりに、コイツの姉妹であるお前くらいは見逃してやろうと思っていたが、正体がバレた以上戦わざるを得ないようだァ」

 

「最初っからそう言えば、こんなに文字数喰うこともなかったんだけどな。さぁ、後は分かってるなステイン?」

 

 刹那、殺気と同時に魔理沙は強烈な波動弾を放ち、ステインに炸裂する。躊躇がない攻撃にステインはたじろぎ、再び立ち上がろうとすると喉元に剣先を向けられてしまった。

 

「お前の罪は三つ。一つ、関係の無い人間まで巻き込み、さらに街に被害を及ぼした罪。二つ、私の大切な幼馴染を傷つけた罪」

 

「そして三つ、お前は、私の家族を傷つけ、挙句の果てに身体を乗っ取り暴虐の限りを尽くした」

 

「私にはお前を()()義務がある。倒すじゃあない、殺す………だ。さしずめお前の本来の覚醒能力は魂撃ではなく『正義之伝染(ミーム汚染)』。お前の正義(人格)が人から人へと伝染し、『信者(共感者)』が増える。人助けの正義なら平和だが、お前の場合、ただ気に食わない人間を殺すだけ。人殺しの正義が信者を犯罪者へと変えるんだ。酷い話だろ? ミーム汚染は立派な干渉系(チート)能力、警察の手に負えるわけがない。なら、私がお前を殺すしかないだろう?」

 

「だから、お前を、この場で、殺す」

 

 溢れんばかりの殺意に周りの瓦礫は砂と化し、地は震え天は嘆く。今までに類を見ないほどの魔理沙の変わり様、内に秘めた暴虐性がステインに何をもたらすのか。ただ殺されるだけでは済まされない。

 

 魔理沙は構えていた剣先でステインの顎下を軽く刺し、殺意を見せつける。

 

 しかしステインは恐怖に屈しなかった。確かに魔理沙は強い、だがステインは魔梨奈の記憶から今までの魔理沙の戦績を知り、勝てる要素を見出した。そして確信する、この殺し合いは自分が有利であると。

 

「…クックック、フッハッハッハッハッハ!! 殺すだと? お前は本当にコイツから話を聞いたのか? コイツの身体を乗っ取る前の時点で既に俺はコイツと互角の力を持っていたんだ。そして今、俺とコイツは合体し、単純計算なら戦力はお前より倍強い。実質二対一、お前のどこに勝算がある?」

 

 自信げに語るステイン。自惚れているわけではない。さきの二対一というのに加え、魔理沙と魔梨奈の戦闘スタイルが同一のものだとするならば、ステインは既に魔理沙の動きを把握している。この身体の記憶を読み取れば初見殺しの能力も対処可能。実質魔理沙の手の内は全てバレているのに等しい。

 

 身体能力、個性が同じで、精神面、戦闘技術、判断力がステイン側に有利ならば、負けるのはどう考えても結依魔理沙である。

 

「………勝算ねぇ。殺ればわかるさ」

 

 魔理沙は全耐性をフル稼働させ、全ての個性をノータイムで発動させられるよう全身にエネルギーを光速で巡回させ、ステインを見据える。もう魔理沙は笑ってなどいない。ただ対象の存在に無限の絶望を刻み込むだけの修羅へと変化していた。

 

 対するステインも全耐性をフル稼働させ、エネルギーを光速で循環させる。ステインは高揚していた。この絶大な力を全力でぶつけ合えば、いったいこの世界はどうなってしまうのか。激しい戦いで待ち受ける臨場感、熱量、スリル、それらは己の糧となり、快感となり、全身を駆け巡るだろう。待ちきれない激戦にステイン(魔梨奈)は舌舐めずりした。

 

「絶対テメェから妹を取り返してやる!!」

 

「来い!! ここがお前の死に場所だァ!!」

 

 両者共に地面を強く蹴り、反動で一気に距離を詰める。蹴りの衝撃波が後方の瓦礫を跡形もなく吹き飛ばし、遂に魔理沙とステイン(魔梨奈)殺し合い(姉妹喧嘩)が始まった。

 

 まずは両者、拳による撃ち合いと瞬間移動による死角からの強襲を繰り返し、何度も何度も衝突し合う。直接顔面を狙ってきた魔理沙に対しステインは慣れた手つきで捌き反撃する。が、魔理沙は無詠唱で防御魔法を唱え、攻撃を一瞬防ぐと再び攻撃を仕掛ける。

 

「どうしたァ…その程度か結依魔理沙。もっと本気で来いッッ!!!」

 

「……ハッ、私は何時だって本気だ。だが今回の私はいつもより百億万倍本気だ!」

 

 魔理沙が指パッチンした途端、ステインの視界から魔理沙の姿が消えた。魔理沙の代わりに出現したのは数千万本の剣。剣の一つ一つ全てが伝説に名を遺した由緒ある剣であり、人類の財産とも呼べる代物がステインの全方位を取り囲み、剣先を向けている。

 

「さぁ、伝説を前に散れ!!」

 

 

「ゼロ距離全方位、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!!」

 

 

 あらゆる英雄の剣で出来た球体は徐々に収縮していき、球体内にいるステインに襲いかかる。

 

「子供騙しな、瞬間移動(ワープ)で避けられる」

 

 ステインは一瞬で別の場所へ移動し、串刺しになる未来を回避した。が、回避先で避けたはずの聖剣が突然目の前に出現し、すかさず回避するも背後からの槍に対応出来ずステインは腹部を貫かれた。

 

「な…………ッ!?」

 

「幻符『殺人ドール 〜 ゲイボルグver.〜』」

 

 容赦のない魔理沙の連続攻撃。幻符「殺人ドール」は十六夜咲夜のスペルカードだが、今回は普段のものとは違う特別版。魔理沙が投げたのは反射するナイフではなく因果律操作によって確実に心臓を貫く神槍、「ゲイ・ボルグ」を投げたのだ。さらに一本ではなく数百本、その全てがステインの心臓に目掛けて無慈悲に突貫する。

 

 ステインは直ぐに腹部を貫通している槍を灰に変え、襲いかかる数百本のゲイ・ボルグを回避しようとするが、ゲイ・ボルグは心臓必中、逃げても時間を先延ばしにするだけで意味が無い。だがステインは逃げつつも魔梨奈の記憶を読み取ってゲイ・ボルグの性質を知り、それに対応出来る能力を見出した。

 

「ザ・ワールド・オーバーヘブンッ!」

 

「残念、それは予測済みだ.」

 

「ッ!? 何だとッ!!」

 

 ゲイ・ボルグがステインの心臓に到達するより速く、魔理沙は懐に接近していた。この女、いったいどこまで先を読んでいるのか。こちらも先読みしているが、この展開は自分が読んだ未来の中で3番目に確率の低い未来だったはずだ。起こるはずがッ

 

 

不可説不可説転撃(無量大数の5400溝乗攻撃)

 

 

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 直後、ステインの視界は完全にシャットアウトした。一瞬だけ真っ白い光が目に映ると、すぐさま暗転し暗黒に包まれる。

 

(な………んだ、いっ、今のは…ッ!?)

 

 先の魔理沙の攻撃は速すぎて見えなかった。せいぜい分かるのは、一秒間に何万発か拳を連続で叩き込まれたという感覚だけ。そして今、暗闇に包まれて何も出来ないという結果だけが残っている。ただそれしか言えない。

 

ドゴォン!! 

 

 地面と衝突したステイン。今ので骨格全体がバラバラに砕け散ったが、持ち前の再生能力で自動修復していく。

 

「ここは………どこだ……アイツは何処にいる」

 

 剥き出しになった白い岩石、おびただしいほどのクレーターの数々がステインの目の前に広がっている。

 

 とても地球とは思えない光景である。もっと言うなら、昔テレビでチラッとだけ見た事のある小惑星イトカワのような、どこか別の星に来たような光景だった。

 

「あの野郎、まさか地球の外まで俺をぶっ飛ばしやg」

 

「見つけたステイン。ここまで吹っ飛んでたか」

 

 背後に出現したオーラにステインは反応し、咄嗟に下がって拳を構える。

 

 暗黒の夜空に浮かぶ深紅の月、恐らく地球から遠く離れた別の惑星(衛星)なのだろうが、その惑星の中心に黒い魔女のシルエットが映し出されている。その魔女は常人ですら可視化するほどのオーラを放ち、瞳の奥底に紅い波動を宿していた。

 

「魔理沙、お前何しやがった」

 

 睨みつけるステイン。だが魔理沙はケラケラと答える。

 

「別に? ただ一秒間に不可説不可説転(ふかせつふかせつてん)回ぶん殴っただけさ」

 

「ふかっ、なんだそれは」

 

「あー教えてやりたいところだが、10の指数を38桁も書き連ねるのは面倒くさいからパスだ。自分で調べろ」

 

 ウザったらしい口調で喋る魔理沙にステインは若干のイラつきを感じながらも、ステインは先の反省を数秒で行った。

 

 この身体は大量の個性を持っているが、個性名を言わなければ個性を発動出来ないのは欠点と言わざるを得ない。だが相手は己の個性を成長させたのか、小規模の個性ならば無詠唱で放つことが出来る。他の人間相手ならば欠点にはならないが、魔理沙が相手だと話が変わる。攻撃を捌く際、相手の方が速ければ必然とこちらが追い込まれてしまう。

 

 さらに自分は個性をあまり把握していない。記憶を見れば対処可能だが、まず相手がそんな悠長に待ってくれるはずもなく、連続攻撃の餌食となってしまう。さらに個性が多ければ多いほど多様な戦闘スタイルを編み出すことが出来、それぞれの特徴を把握しなければ理解が追いつく前に殺されてしまう。

 

 そしてこの戦いで最も大事なのは、何を持って勝利となるのかである。常人ならば、肉を裂き内蔵を引きずり出せば確実に死に至る。だがコイツと俺は違う。どれだけ細かく切り刻もうとも、死ぬことはない。痛みもない。魔力、と呼ばれるものが枯渇して攻撃手段を失うこともなく、どの状態異常もある程度耐性で無効化出来る。

 

 つまり、チート能力者に持久戦は無効である。

 

 チート能力者同士の戦いにおける勝利条件は存在抹消、および"相手の戦意をへし折ること"である。それを悟ったステインは、今まで楽しいと感じていたこの戦いが少々やるせないものに感じてしまった。どちらかが折れるまで無意味に戦い続ける、最初は楽しかろうともしばらくすれば誰でも飽きる。結局はお互いのメンタルの削り合いなのだ。いったいどこに熱くなれる要素があるのだろうか。

 

「ふーん、割と考えてるじゃん。そうさ、これがチート能力者同士の争い。楽しいだろ?」

 

「どこがだ。こんなモノ、ただのメンタルの削り合いだ」

 

「ステインは分かってねぇなぁ……あらゆる世界の主人公、敵キャラ、ラスボス、ヒロインetc、そいつらの能力を思うがままに行使できるんだぞ? 全世界の男子共通の夢じゃないか」

 

「好きなアニメキャラのポーズを取りながら能力を使ったり、好きなゲームキャラのセリフを言いながら能力使ったり、空を飛んで、地を駆けて、無限に楽しめる。好きなキャラ同士の技を掛け合わせて放つなんて中学生なら発狂レベルで喜ぶだろ?」

 

「俺はもう中学生じゃァねぇ………」

 

「そりゃ残念。その身体で体感した者ならば理解してくれると思っていたが、まぁいい。どちらにしろステインには消えてもらわなければならない。誰にも知られることなく永遠に、存在ごと消えてもらおう」

 

 

 魔理沙の周囲に大量の魔法陣が出現し、視界を埋め尽くすほどの弾幕が一気に放たれる。色彩溢れる弾幕だが、その一つ一つにおびただしい殺気が込められているのを感じたステインは舌打ちをするしかなかった。

 

 

「第二ラウンドか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球から約二千光年離れた名もなき惑星の上で、第二ラウンドがスタートする。

 

 

 

 

 

 






どういう場合であれ、家族はみんなにとって奇跡なんだと忘れないでください。


(アン・ラモット)


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激昂魔理沙(58話)





 

 

「ある研究者は言った、『"個性"は人の奥底に眠る"深層心理"の現れである』と。増強系個性は内に秘める闘争心から発現し、属性系個性は本来の性格に起因し、異形系は自分自身の解放を願う。血液型占い並に信用ならんが、これを元に考えると彼女の個性は一体どこに当てはまる? 全てを持つから、全ての性質に当てはまるのだろうか。全てを持つから、他者の性質をより理解出来るのだろうか。全てを持つから、誰よりも優しく、誰よりも残酷で、誰よりも優れていると言えるだろうか」

 

「否」

 

「全ての個性を持つことは、全ての性質に当てはまるのではない。()()()()()()()()()()()()()のだ」

 

「全てを持つことは、ある特定の分野に突出した力を一切持たないことである。全てを持つことは、自己完結しているがために他者との関わりを一切持たないことである。全てを持つことは、完全であり不完全である」

 

 

「それ即ち、無個性である」

 

「それはただの受け皿である」

 

 

「だから(彼女)は器なのだ。全てを受け入れようとして、全てを失った空虚な器。器の中には様々な色をした液体を注ぐことが出来るが、器そのものの色は変わらない。それは即ち不変の存在」

 

 

「だが人は変化する。変化し続けながら生きている。しかし、変化しない人間が存在したとしたら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ即ち、『異形』である」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____________________

 

 

 

 

 家族である魔梨奈をステインとかいうハゲジジイが身体、精神諸共乗っ取り、殺意増し増しな結依魔理沙。眼光は赤く染まり、比類なき力を惜しみなく使って名もなき惑星諸共破壊する。

 

「死に失せろォォォォォッッ!!」

 

 両手に蒼白い雷光を纏い、重ね合わせることで宇宙空間に巨大な雷撃を発生させる。轟音を轟かせながらステインに迫っていくが、ステインはその攻撃が当たる直前でジャンプし、手に持っていた日本刀にさっきの雷撃を纏わせた後、魔理沙に向かって反撃を放つ。

 

 だがステインは跳ね返した雷が直撃したかどうかなど気にすることなく、次の行動に移した。案の定、ステインがさっきまでいた場所には剣山が出現し、さらにステインを追うように次々と地面から出現する。

 

 目の前に突如として現れる車両進入禁止の看板や忘れ去られた路面電車、伝説の剣、高層ビルを避け続け、ステインは大量の魔法陣を形成し、炎、氷、土、風、闇、光、あらゆる属性のレーザーを魔理沙に向けて放出した。

 

「甘いッッ!!」

 

 魔理沙は全身を「覚醒ネコムート」と呼ばれる古代兵器(人型のドラゴン)の姿に変えると、驚異的なスピードでステインに接近する。無数の属性レーザーが魔理沙を襲う。だが魔理沙はその発達した両腕でレーザーを無理やり屈折させた。

 

「チッ」

 

 ステインは舌打ちをしつつも、魔理沙との衝突に備えて岩盤の壁を形成する。不慣れで出来の悪い壁だが、厚みを増やすことで衝撃を緩和。

 

 だがその壁は魔理沙の一撃により一瞬で瓦解する。

 

「残念だったな。私の腕はどこまでも届くぞ」

 

「はァ、残念なのはテメェの方だ。周りを見ろ」

 

 魔理沙が砕いたことにより飛び散った岩の破片。それらが空中でピタリと急停止すると、破片の一つ一つが禍々しいナイフのようなものへと変化する。

 

「…………魂撃付与か」

 

「さぁな。刺されば分かる事だ」

 

 至近距離からの全方位攻撃。さらに肉体ではなく魂に直接攻撃を与える「魂撃」の効果が乗った無数のナイフに囲まれた魔理沙。だが魔理沙は引かなかった。引かずに魔理沙はステインに突っ込み、その首を鷲掴んで地面に叩き下ろす。

 

「ッッ!!?」

 

「残念、どんなに凶悪な技だろうと、()()が無ければ意味が無い。当たらなければどうということはないんだよォ!!」

 

 どこかで聞き覚えのあるセリフを吐きながら、魔理沙はステインを地面に引きずりながら小さな惑星を10周した後、惑星の重力圏外まで上昇する。そして真上からステインを惑星に向けて振り下ろし、ステインと地面が衝突するタイミングを見計らって魔理沙は

 

 

 星諸共爆発させた。

 

 

「これで六個目…………、そろそろ諦めてくんないかなぁ」

 

 魔理沙は慣れない身体で戦うステインをいい事に惑星に叩きつけては爆発、叩きつけては爆発を繰り返して来たが、一向にステインは諦める気がない。そんなにこの身体が気に入ったのだろうか。確かに便利だし毎日能力で遊んでいても飽きないが、かなり特殊な人生を送ることになる。前世の方がもう少しマシだったかもしれない。もうほとんど覚えてないが。

 

「さぁてステインは何処にいるのか……」

 

 広大な宇宙空間の中を見渡す。星の爆発に巻き込まれたならば、かなり遠くまで吹き飛ぶはず。正直に言うと裸眼じゃ探しようがない。探知能力でステインの所在を探るが、その直後巨大な大剣の一撃が魔理沙の脳天に炸裂し、真っ二つに両断した。

 

「…………なーんだ、そんなとこにいたのか」

 

 魔理沙は切られた自身の体を、素手で断面を押し付けることで修復する。約200キロ先に双剣を構えたステインを発見する。こちらの脳天に届かせるには明らかに長さが足りてないが、恐らくオーラを纏って足りない長さを補っていたのだろう。

 

「結局、二刀流に修まるのね。もったいない」

 

 やれやれ……、とでも言いたそうに魔理沙は首を左右に振る。

 

「あァ、いいんだ。戦い方を間違えていたからな、今度は俺流のやり方でお前を狩らせてもらう」

 

 ステインは双剣を十字架(クロス)のように構えた。

 

「あーそう。ま、そろそろ地球に戻らないと世界観が崩壊しかねないし、決着と行こうか」

 

 魔理沙は姿を元に戻すと、全身から泡紫のオーラを放出し、潜在能力を極限まで高める。対するステインもオーラを放ち、魔理沙を見据えた。

 

()()()()は出来ているな?」

 

「あァ、()()()()は出来た」

 

 

 

 

「殺れるもんなら……」「殺せるものなら……」

 

「「殺ってみやがれ(殺してみろ)!!!」」

 

 

 咆哮と同時に両者は宇宙空間を翔る。魂撃が付与されたステインの双剣と強烈なオーラを纏った魔理沙の両腕が、星と星の間にて激突する。両者共に大量のエネルギーを体内に保有するため、衝突の際に発生するエネルギーは星の輝きに匹敵するほど光量を誇っていた。

 

 二人は瞬時に距離を取ると、再び衝突し殴り始める。自己流のCQCによる関節への直接攻撃を防がれたステインは三次元空間を利用した死角からの蹴りを行う。だが魔理沙は瞬間移動で即座に回避し、真上からマスタースパークを放つ。

 

「フンッッ!!」

 

 ステインは左手に構えていた双剣でマスタースパークを受け止め、魔理沙に向けて跳ね返す。だが魔理沙は既に別の場所に瞬間移動し、ステインに向けて波動砲を放った。その直後、魔理沙の真横に突如マスタースパークが出現。ステインが跳ね返したマスパを空間転移で追撃を図ってきたのだ。だが魔理沙は慌てることなく、光線に向けて人差し指を突き立て、真上へと向ける。光線のベクトルが真上を向き、マスパは魔理沙に当たることなく虚空へと消えていった。

 

▼〔acceleration:[limit over @marisa ketui]〕

 

亜光速移動から右脚部の重力強化+全属性付与(防御貫通)による至近距離ローキック×1145141919810の波状攻撃がステインに炸裂し37564本のコズミックレーザーが全方向から攻撃しステインの体内組織の99.9%を死滅させる。ステインが秒で復活。続けて約4270000の変身形態のうち666の形態を合成、全長890016mの巨大化に成功の直後に天元突破グレンラガンを暴走させたかのような暴れっぷりで周辺の小惑星諸共ステインをなぎ払った後自身が精神生命体であることを利用して自身の膨れ上がった肉体を自爆させ半径約8934649427kmに存在するほぼ全ての物質を融解。最後まで読んだ人は一体何を言っているのか分からなかっただろうから簡潔に述べると1秒にも満たない速さで周辺の星々が無に帰ったと認識してくれて構わない。それでももう一度見たい人は再度ループするから見逃さずに頑張ってくれ

 

▼〔cancellation〕

 

「ゲハァァァァァァァッッッ!!!」

 

 認識不可の波状攻撃。何をされたのか全く理解出来ないステインだったが、結果から述べるとついさっきまで存在していた無数の小惑星や遥か向こうで輝いていた恒星すらも消滅し、完全なる無の世界が目の前に広がっていた。

 

 

 

 

 

 ステインはやっと理解することが出来た。

 

 

 

 

 

「絶対勝てない」と…………

 

 

 

 

 

「何故だ、何故俺はアイツに勝てないッ! 身体能力も、個性も同じだと言うのにッ! 精神力だって奴に引けを取らない、いや、むしろ俺の方が強いはずだ! なのに何故!? 何故だ!!」

 

 ステインの全身からエネルギーが漏れだし、光となって拡散していく。

 

 魔理沙は、最後のトドメと言わんばかりに、一気にステインの真正面に近づいた。

 

「教えてやろう。何故お前は負けるのか。それはだな…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相手が私だから。以上」

 

 魔理沙はトンとステイン(魔梨奈)の胸を押すと、魔梨奈の背中から何か得体の知れない奇妙な霊のようなものが現れる。これが魔梨奈に取り憑いていたステインという概念そのものである。コイツは言葉と同様で概念そのものなので、物理的にも精神的にも破壊することが出来ない(そもそも言葉に体も精神もない)。だからこそこうやってステインに勝利を諦めさせることで意志の力を弱め、弱体化したところで取り憑いていた概念をこの世から抹消する。これで全ては決着した。

 

「じゃあな、ステイン。最後にもう一つお前の敗因を言うとしたら、私の家族と友人に手を出したのことだ。俗に言う友情パワーと家族愛が私の力を無限に引き出したのさ。文字通り、私の能力制限を外すほどのな。じゃ、サヨナラ」

 

 ____________________

 

 

 霊体のようなものに触れると、魔理沙は即座に握り締め、破壊した。これによって世界から██████という存在は消滅したのだ。██████って表記されるのは、それを指し示す言葉が存在しないから必然的にこうなっているだけで決して卑猥なものではない。██████が██████に██████して██████の██████がーって言うと卑猥なので、これ以上の██████の連呼は辞めておくとしよう。いやー、なんとか██████を倒せてよかった。

 

 ██████の乗っ取りから解放された魔梨奈は未だに昏睡状態にある。病院に連れてきたいがまだ日本の夜が明けていないだろう。しばらくベットで安静になってもらうしか無さそうだ。というかここどこ。まだ太陽系内だよね? オールトの雲の外までは行ってないよね? 大丈夫だよね? 地球に帰るどころか、二人揃って宇宙の藻屑なんて死んでもゴメンだぜ。というか、宇宙の藻屑ってなんだ。それを言うなら宇宙の塵だろうがァーーーッ! 

 

 宇宙空間で1人ツッコミという、何とも悲しい姿を晒してしまった魔理沙。別に誰も見ていないので恥ずかしくはない。

 

 後は家に帰るだけ。長い長い戦いはやっと幕を閉じた。元はと言えば体育祭で良かれと思ってやったことが、まさかここまで大事に発展するとは思ってもみなかった。やはり、自重した方が事態は悪化しないのだろうか。考え時かもしれない。

 

 ま、取り敢えず帰ったら魔梨奈とお疲れパーティでも開くとしよう。過去を振り返るより、未来を見つめていた方が楽しいに決まっている。早く林間合宿行きたいなぁ。

 

 

 魔理沙は魔梨奈を抱えながら、故郷の星へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピキッ





皆様、今年はお疲れ様でした。




メリークリスマス(激遅)

ハッピーニューイヤー(激早)


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最終章:The World New Order
Witch's night(59話)


 HAPPY NEW YEAR✨


新章にようこそ。






 

 

《保須市 21時12分》

 

 

 ██████との最後の決戦に勝利した私は死に物狂いで地球に帰還し、なんとか保須までたどり着くことが出来た。……宇宙から戻ってきたはいいが、どうやらあの決戦から二週間経過しているらしい。私はそこら辺も配慮して、帰る際にはちゃんと霊夢の「空を飛ぶ(法則からも)程度の能力」でアインシュタインの相対性理論から浮いたというのにこの結果だ。アレか、カビキラーの99%除菌的な、残りの1%までは流石にカバー出来ない的なアレか。逆に二週間に抑えられたことに喜ぶべきか。

 

 まぁどちらにしろこの世界で私は二週間も迷子だったことに変わりない。二人もいなくなって母さんは心配を通り越して激怒してるだろう。早く戻ってやらねば。

 

「その前に保須市を修復するか」

 

 二週間経ったとはいえ、あの決戦で保須には多大なる被害を負った。直ぐに治るほど爪痕は浅くはなく、今も周りは瓦礫にまみれている。だが私の能力ならば、どんなに深い爪痕でも一瞬で治してやれる。いきなり元に戻って他の人がビックリするだろうが、まぁ、いいでしょう。

 

「あー! いた師匠!!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえる。瓦礫の山の上から元気そうな声が私の耳に届き、どことなく安心した。

 

「よう緑谷きゅん、おひさ」

 

「おかえりなさい師匠。アレから二週間経ちましたけど、その、どうでした?」

 

 瓦礫の山を下り、フルカウルで私の元までたどり着いた緑谷。久しぶりの感覚で懐かしさも感じられるこのやり取り、ありがてぇてぇ。

 

「あー、██████はキッチリ私が倒したから安心しな緑谷きゅん。これで保須市は平和だ」

 

 魔理沙は親指を立てた。

 

「……何を言っているのかサッパリ分からないですけど、皆ずっと心配してたんですから。早く帰りましょう」

 

 緑谷の返答。だが妙に違和感がある。

 

「…………アレ? 緑谷きゅんも戦ったよね██████と。しかもさっき、アレから二週間経ったっていってたよね? 忘れた?」

 

「戦うも何も、師匠は()()()()()()()()()()()()行方不明だったじゃないですか。しかも師匠がいない間、保須は大変だったんですよ? USJ襲撃事件で現れた脳無、アレが複数体保須に出現してかなりの被害が出たんですから。現場にいたエンデヴァー含む複数のヒーローと駆けつけたオールマイトが協力して脳無を…………」

 

「あーわかったわかった理解した。あーちくしょう、これは母さんどころか警察や政府にもドヤされる案件だな。今回は仕方なかったとはいえ、なんというか、虚しい限りだぜ」

 

「?」

 

 首を傾げる緑谷。しかし魔理沙は理解した。緑谷含めこの世界のほぼ全ての人間は、あの決戦のことについて全く覚えていないということを。██████の存在を消滅させたおかげで、██████が与えた影響は全て別の存在(脳無)に差し替えられてしまったのだ。それはつまり、私がついさっきまでやってたことも他人には一切認知されていないということで……

 

「……ところでさっきから抱えてる人って、もしかして魔梨奈さん?」

 

「ん? あぁ、()()()()()()()()()()()()()。職場体験サボって一体どこほっつき歩いてたのか知らんけど、まぁこの通り回収したわけよ」

 

「師匠も最後サボってましたよね?」

 

「余計なことは言わねーの。……おい、魔梨奈。そろそろ起きる時間だぞ」ペチペチ

 

「んんぅ…………」

 

 魔理沙は往復ビンタで何度も魔梨奈を起こそうとすると、魔梨奈はハッと目を開眼し魔理沙の腕から一気に飛び上がろうとする。しかし突然と起き上がった魔梨奈に対して魔理沙は回避出来ず、ヘッドアッパーが魔理沙の横顎に炸裂した。

 

「痛たたた…………、ここは?」

 

「…………やっと目覚めたか、眠り姫」

 

「何だわたっ、魔理沙か。どうし…………てッ!? 魔理沙! その、██████のことに関しt」

 

「説明めんどくさいから脳内会話で済ますぞ」

 

 現状説明を口でするには効率が悪いので、私は魔梨奈の脳内に直接情報を送り込んだ。今までの経緯を事細やかに説明すると、魔梨奈は静かに納得した。

 

「そうか、倒したのか。流石だな私。……それに比べてこの私は…………不甲斐ない」

 

「いや、私こそ私に謝らないといかん。私らは同一存在だと言うのに、()()()を強制しちまって、お前に苦労をかけた。出番も奪っちまって、本当に、ゴメンな」

 

「いやいいんだ。私は本来、魔理沙(オリジナル)から生まれた紛い物にすぎないからな。今すぐにも消えてなくならなきゃ他の人に申し訳が……」

 

「バカなこと言うな。お前は既に私ら結依ファミリーの一員なんだ。お前をやっと救えたというのに…………消えるとか、言うなよ……」

 

「…………すまん」

 

 

 静かに抱き合う二人。涙を流すことの出来ない二人であったが、確かにそこに家族愛があった。目には見えない、慈しみの涙が二人の頬を伝って、深く、深く抱きしめ合った。

 

 なお、さっきから見向きもされずに置いてけぼりをくらった緑谷は、遠い目で二人の行為を見守ることしか出来なかった。

 

「じゃ、二人とも、帰りましょうか。我が家に」

 

「…………あぁ、そだな。帰ってお疲れパーティだ」

 

「母さんも心配してるしな。帰ろう」

 

 歩き出す三人。邪魔な瓦礫を退かしながら、我が家に向かって一直線に歩き出す。だがその前にやるべき事を思い出した魔理沙は一旦立ち止まった。

 

「そうだ、街戻すの忘れてた」

 

「その方が瓦礫どかすより早かったね」

 

「ハハハ…………」

 

 大事なことに気付いた魔理沙は、すぐに両手の掌を合わせ、体全身で円を描き、掌を地面につけて街を復元しようとする。魔理沙が復元している間、魔梨奈は緑谷に疑問をぶつけた。

 

「そう言えば、何で緑谷くんはこんな夜遅くまで私らを探してたの?」

 

「それはですね、その、心配で。本当は今も警察や政府、ヒーローが全力で捜索しているのですが、そのー、気が気でなくてこの二週間の間ずっと探してました」

 

「あ、ありがとうね。うん、あざす」

 

「しかしヒーローや警察も被災者の救助として先に瓦礫の下を調査したんですけど、よく見つかりませんでしたね。というか、魔梨奈さんほどの人が瓦礫に埋められるのもなかなか珍しい気もするのですが…………」

 

「え? あ、うん。そだね。何でだろうね」

 

 曖昧な返事しか出来なかった。

 

「本当に不思議です。ま、でも見つかったから良かったです。そろそろ上空で監視している専用ヘリに見つかるでしょうし、師匠たちはこれから事情聴取されまくっちゃうのでしょう。頑張ってください」

 

「頑張ってくださいって言われてもなぁ」

 

 渋い表情をする魔梨奈。当たり前なのだが、やはりめんどくさいことこの上ない。

 

「…………あの、師匠? まだ時間がかかりますか?」

 

「どしたの魔理沙。調子悪くなった? 変わる?」

 

「…………」

 

 一向に進展が見られない魔理沙に対して心配する二人。おそらく██████との決戦でかなりの体力を消耗したのだろう。街を修復するほどの体力すら残ってなかったなんて相当強かったんだなと、そう思った魔梨奈は魔理沙の肩を叩き、交代しようか? という仕草を見せる。

 

 だが、魔理沙はずっと固まっていた。

 

「……能力が使えない」

 

「は?」

 

「え?」

 

 戸惑う二人。だが一番戸惑っているのは魔理沙だった。

 

「……それって、前みたいなカルマ値を抑えるための副作用的なヤツ?」

 

 魔梨奈はUSJ襲撃事件のときに起きた自身の弱体化について思い返した。いつも頼りになる大賢者さんが回線の悪いチャット機能のごとく弱り果て、一部の属性魔法と召喚魔法以外は全て使えなくなったあの件。短時間でフルに能力を活用すればこうなってもおかしくは無い。

 

「違う。あの時は明確な弱体化が発生してたし、使える能力も残ってた。けど今は何故か全ての能力が使えない。弱体化らしい演出がなかったのに」

 

「本当に全部? 召喚魔法は?」

 

「…………ダメだ。マジで何も起こらん」

 

「しっ、師匠?」

 

 初めてのケースに三人は頭を悩ませる。何が何だかさっぱり分からず、色んな能力を片っ端から使ってみようとするが、うんともすんともいわない。

 

 

 この能力、自分の個性のくせにこう言うのもなんだが、まだハッキリと分かってない点が幾つかある。まずこの能力は「個性」なのか、それとも個性とは別の代物なのかはっきり分かっていない。

 本来個性とは身体機能の一部のように働き、使用し続ければ疲労や怪我、体温の上昇などが見られる。のだが私の場合は単に頭痛が酷くなるだけ。もっと無理すると寝込むレベルの風邪をひくというわけの分からなさ。普運動している途中で急に風邪をひいてバッタリ倒れるやつなんて普通いるか? いるかもしれないがかなりのレアケースだろう。とにかく私の個性は異質なのだ。

 さらに何故か知らんが「カルマ値」と呼ばれるものが私の個性に存在し、能力に無理矢理制限をかける。人自分が常日頃使う筋力を無意識にセーブし調整しているように、個性も許容量を超えないよう調整しているかと思いきや、私の場合、あまりに極端である。一定量カルマ値が溜まったら下がるかと思っていたが、タイミングがまちまちで規則性が見つからない。なぜ今使えないのか。あの決戦でかなりカルマ値が上昇したはずだが、なぜ決戦中に弱体化が発生しないのか。USJの時との違いは?

 他にも疑問はあるが、とりあえずこれだけはハッキリさせるため私はあることを魔梨奈に頼んだ。

 

「魔梨奈、お前の大賢者を呼び出せるか?」

 

「出来るけど、何する気?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!? ……マジ?」

 

「どういうことですか師匠」

 

「明確な弱体化はしていない、だが能力は全て使えない。これまでの状況から察すると、可能性は二つに絞られる。一つ、カルマ値の上限が変化して副作用の効果も変化した可能性。二つ、()()()()()()()()()私の能力が封じられている可能性。それを証明するために今から大賢者に私を調査させる。おけ?」

 

「大賢…………、大体分かりました……」

 

 〔お呼びでしょうか、マスター〕

 

 魔梨奈の中の大賢者が起動した。いつもは精神内でしか会話をしないが、今回は緑谷きゅんにも配慮して現実世界にも聞こえるよう音を出す。

 

「この声が大賢者…………、なんだか機械チックですね」

 

「大賢者、今すぐ私を調べてくれ。カルマ値と、他に異変がないか……」

 

 〔了解。個体名「結依魔理沙」の解析を始めます。〕

 

 

 〔解析終了しました。〕

 

「早っ!?」

 

 圧倒的な演算能力の速さに緑谷は驚くも、二人(正確には三人)は平然としていた。そして魔理沙は、自身の解析結果を静かに待つ。

 

 

個体名「結依魔理沙」(一部個性含まず)

 

 

[攻撃力] 測定不能

 

[防御力] 測定不能

 

[知力] 131

 

[特殊攻撃力] 測定不能

 

[特殊防御力] 測定不能

 

[最高速度] 測定不能

 

[存在値] 13兆5987億6325万8161

 

[カルマ値] -532

 

 

「いや師匠これ、カルマ値より他の項目の方が酷くないですか?」

 

「…………いやカルマ値以外はいつも通りだ。だがカルマ値だけは異常に高いッ!!」

 

「……マイナスだから低いのでは?」

 

「緑谷くん、私らのカルマ値がプラスに傾くことなんて一生ありえんぞ。値は低ければ低いほど私らにとっては高いのさ」

 

「そ、そうですか……」

 

 無理に納得した緑谷と、膝が崩れて手を地面につける魔理沙。どうやら緑谷はこのカルマ値の値の意味を真に理解していないようだ。

 

「ちなみにカルマ値-500って、どれくらいヤバいんですか…………?」

 

 緑谷の質問に魔梨奈は答えた。

 

「まず人を殺すことに躊躇がなくなる。そして全身が化け物の姿に変わり果て、目に映る全ての物体を破壊し尽くすだろうな」

 

「それ滅茶苦茶ヤバいじゃないですか!? 逆に何で師匠は平然としてられんですか!?」

 

「それは多分、精神を安定させるスキルのおかげだな。常時抑制するから今までまともに生きていけてたけど、無かったらどっかの伝説の超サイヤ人みたいに暴れまくってたかもな」

 

「うわぁ…………」

 

 魔梨奈の恐るべき発言に緑谷はドン引きする。昔どこかで読んだ「個性終末論」に近い雰囲気を感じ、悪寒が背筋を伝う。何よりその終末を引き起こせる人が隣で挫折しているのが余計にシュールだ。

 

 

 

〔ステータスが更新されました〕

 

 

 

 

「………………ん?」

 

 突然の大賢者の報告に全員の表情が固まってしまった。ステータスの更新、それが自動的に行われるときは大抵、以前のステータスより大幅に値が伸びたことを示している。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということになる。それを理解していた魔理沙と魔梨奈はこの異常と言えるほどの展開に危機感を感じた。

 

「まさか…………」

 

「おい、見ろよ魔理沙。ヤバいぞ」

 

 

[カルマ値] -794

 

〔ステータスが更新されました〕

 

[カルマ値] -938

 

〔ステータスが更新されました〕

 

[カルマ値] -1126

 

〔ステータスが更新されました〕

 

[カルマ値] -1671

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕〔ステータスが更新されました〕.

 

 

 

 繰り返されるステータス更新、右肩上がりに上昇していくカルマ値に三人は絶句し、ただただ立ち尽くすことしか出来ない。明らかに異常だった、様子がおかしい。だが解決策がわからない。カルマ値の上昇具合が異常に速く、数字がどんどんマイナスになっていけばいくほど私の鼓動が加速する。ダメだ、冷静になれ、しっかりしろ、そう言い聞かせても頭は常に真っ白で何も考えることが出来ない。それでも必死に必死に対策を考えている内に、ついにカルマ値は-9000を突破。この勢いならばあと数秒程度でマイナス1万を突破するだろう。その事実を突きつけられながら、魔理沙はより必死に対策を考える。だがどこかで別のことを期待する自分がいた。

 

 

 カルマ値の限界を知りたい。

 

 カルマ値が限界に至った時、自分はいったいどうなるのだろうか。

 

 

 そう思ってしまったのは、内に秘める好奇心から溢れたものなのか、それとも諦めからなのか、それとももっと深い何かからの…………

 

 

〔ステータスが更新されました〕

 

[カルマ値] -9337

 

〔ステータスが更新されました〕

 

[カルマ値] -9681

 

〔ステータスが更新されました〕

 

[カルマ値] -9996

 

〔ステータスが更新されました〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[カルマ値] -9999+

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____________________

 

 

 

「…………」

 

「……大丈夫、か? どこか変なとこはないか?」

 

「師匠?」

 

「…………」

 

 

「………………」

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

「あー、びっくリした。暴走するかと思った」

 

「師匠ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「よかったぁぁぁ! めっちゃ黙るからヤバいやつかと思ったじゃーん!!」

 

「いやぁメンゴメソゴ。ちょっと悪ふざケしたくなってぬぁ。虐めちゃった」

 

「もー全くこっちまで脅かすんだからー! 私のくせにー! このこのー!」

 

「ハッハッハ!」

 

 魔梨奈は魔理沙の脇腹をくすぐるマネをし、魔理沙はくすぐったそうに反応する。二人は魔理沙のドッキリに引っかかったが、そこに怒ることも無く、ただ魔理沙が無事だったことに酷く安心を覚えた。

 

「じゃあ、あとは街を戻して終わりですね」

 

「まぁ大丈夫とはいえ、カルマ値ブッパした魔理沙はいつ暴走するか分からんから街は私が直すとしよう。それでいいよね魔理沙?」

 

 魔梨奈の問いかけに、魔理沙は答えた。

 

「そだね。よーし身体も元に戻ったァ氏? あでもコイツいらんから移して捨てお。え? 街? 壊せばよくね?」

 

 

 ん? 

 

 

「いやちょっと魔理沙…………、いきなりどした? え? 話聞いてた?」

 

「…………あの、何を言ってるのかよく分からないんですが師匠」

 

「あ? 輪っかんねーの? お前ら? じゃあしかと見とけくそナードと贋作。今から行われるのは最高のエンタテイメントだ!!」

 

 魔理沙は手を向けると、手から()()()()()()()()()()()()()()()()()ニュルっと創造される。そして魔理沙はその肉体と手を繋ぐと、まるで意識が乗り移ったかのように、膨大なエネルギーが肉体に注ぎ込まれる。

 

「いやマジでなにやってんの!? ねぇ! 魔理沙! 今すぐそれ止めろ! 早く帰ってお疲れパーティやるって言ってただr」

 

「喧しい。殺すぞ」

 

「…………ッ!?! 魔梨奈さん、これは……」

 

 魔理沙じゃない……、そう言いかけた瞬間、魔理沙から突如衝撃波が放たれ、二人は後方へ関数のグラフのごとく綺麗に吹き飛ぶ。まだ修復されずに残っていた細かな破片が己に突き刺さるが、気にせず今は魔理沙の方向を見つめている。

 

 

 

「あ"ーー、久ッしッぶッりのシャバ! ま、俺らにとぉーっちゃ16年なんぞ一瞬に過ぎんがァァあ。しかーし余りにも糞人生だったからにー、16年が160年くらい長く感じたぜ」

 

 聞き覚えのある喋り方だった。ただしその声を聞いたものは、タダでは済まされないほど恐ろしい奴で、遠くから見ると魅力的に感じる彼女だが、近くで見るとえもいえない恐怖が湧き上がる。

 

 そいつは知っている奴だった。昔からずっと。そして今もなお。

 

 この世界(小説)の真の原点(主人公)

 

「そう言えば事故紹介まだだったな。仕方ない特別大サーヴィす。教えてやろう、俺の名はなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧雨魔理沙、最強の魔法使いだ」

 

 

 

キタ━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━!!!!! お前を待ってたんだよ! 原点にして頂点 「OK!! じゃあ死のっかっ!」 異形魔理沙ーーーー!!!

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! 逃れられぬカルマ大現実付き(オールリアリティ)」! 「偽物呼ばわりの人の気持ち考えたことあります?」 結依姉妹終了のお知らせ

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! BGM「魔女の舞踏会 〜 magus night 〜」 オワオワリ ファッ!? クーン(ショック死) 「そんな保障どこにあるんだ?」

キタ━━(*^_^*)━━!! えっ、嘘!? まじかーーーー!!! キボウノハナー (*´ω`*)ハヤル ←その絵文字流行らせないし流行らない オンドゥルルラギッタンディスカー!! 

キタワァ━━━━━━(n‘∀‘)η━━━━━━!!!!!! 負けイベント やばやばやば 「テルノ? 何それあたい知らないよ」 外伝の方の異形魔理沙ならワンチャン…………

 

 

 

 

 

()()()()()が、爆誕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「最高にふぁんたすてぃくだろぅう?」

 

 

 不敵に笑う異形魔理沙に二人は身動きを取れずにいた。緑谷は異形魔理沙の圧力に萎縮し、魔梨奈はニコニコ動画にて東方世界を破滅させた元凶の一人を目の前にして足が震えている。本物の、異形魔理沙が目の前にいる。そう思えば思うほど、足の震えが止まらない。

 

「とはユても、この作品わ二次創作ドゥェから実質俺は本物(オリジナル)ではぬぁい。俺もお前も初戦贋作なのよ。なぁ? 緑谷きゅん」

 

「…………」

 

「おい、俺が居間御前に話しかけんよ。話しかけンたら答うって先生ェにならなわかったんどぁ!! 俺が! 今! お前に! 話しかけてんよ!! 聞いてる!?」

 

「……ッそ、そうです!」

 

「よぅし、ちゃあんと答えられた。それデこそ男だ。じゃあそんなクソナードに俺からの門出祝いだ! 受け取れッッ!!!」

 

「えっ」

 

 異形魔理沙は野球の投球モーションのごとく腕を振り下ろすと、恐ろしく殺意の篭もった一撃が放たれた。その一撃はソニックウェーブのような三日月型の斬撃に変化し、緑谷の喉元にまで迫る。

 

「……ひッッ!!」

 

 動けない緑谷。圧倒的殺意の前に身動きが取れず、ただ己の死を待つことしか出来ない。斬撃が喉元に届くまでの僅かな時間の中、緑谷はこれまでの人生の一部始終を呆然と見ていた。それは走馬灯と呼ぶに相応しいものであり、死が直前まで迫っていることの暗示であった。

 

「…………ッ!!」

 

 魔梨奈は咄嗟の判断で緑谷を突き飛ばし、緑谷だけを瞬間移動させる。だが黒い斬撃は対象を魔梨奈に変え、直撃する。

 

「ッ! 重いッッ!!」

 

 あまりに重い一撃。どれほど練度を上げればここまで強い一撃を放てるようになれるのか。魔梨奈は苦戦しつつも、なんとかこの重い一撃を横に流し難を逃れる。

 

「へぇーやるじゃん。この俺の一撃を流すたァ流石俺の贋作! おまいら達の過程を知ってはいたが、ここまでだとは障子き思てなかた」

 

「はァ……はァ…………、異形魔理沙。お前たちの目的はなんだ」

 

 呼吸が荒くなりつつも、魔梨奈は目的を聞き出そうとする。

 

「は? 何言ってん? 敵の前でベラベラと計画を話す鹿馬はどこにも居ねぇよ。俺達の目的はたった一つ、()()()()だ。シンプルだろ?」

 

「世界……征服…………」

 

 あまりに現実性を感じられないが、コイツらが言うと格が違う。マジで世界征服しそうである。

 

「あぁ、本当の目的はまた別なんだが、()()()()()()()世界征服。お前ら旧世界の住人を皆殺しにした後、俺達の楽園を築き上げる。まさに幻想郷(ディストピア)をこの手で創り出すってわけよ」

 

 異形魔理沙はペラペラと自分たちの目的を話した。

 

「お前、それ本当に出来ると思ってんの? この世界を舐めんなよ」

 

 魔梨奈は舌打ちをしながら、異形魔理沙を睨みつけた。

 

「出来る。そんためにこっちは16年間、地道に計画を進行していた。全く、始めての世界だからって念入れすぎなんだよアイツ。俺一人で片付けんだが。というか、元々コレ罰ゲーm」

 

「話は聞かせて貰った!!」

 

 突如謎の男が空から地上へと落下し、魔梨奈の隣で派手に着地をする。

 

「……このタイミングで来るとは、流石ヒーローといったところか…………」

 

「魔梨奈少女、しばらくぶりだね。元気にしてたかい?」

 

「お陰様で」

 

 その男は魔梨奈と軽く言葉を交わすと、ゆっくり立ち上がり特徴的なポーズをとる。その男、この世界で最も最強で最高のヒーロー、数々の伝説を打ち立てた生きる伝説。あの男が助けに来た。

 

「おっと、いつもの台詞を忘れちゃあいけないな! 魔梨奈少女、もう大丈夫! 何故って……」

 

 

「わーーたーーしーーがーーッ! 来たァッ!!」

 

 

 この世界の抑止力、オールマイトが参上した。

 

 

 

「オールヘイト、へぇなるへそ。お前は俺を止めに来たということか」

 

「本当は魔理沙少女を探しに来たのだけども、君はどうやら彼女に似て非なるものらしいな。魔理沙少女をどこにやった!!」

 

「『器』か。ほら見ろよオールシット、お前が探しているのはコイツか?」

 

 異形魔理沙の足元には、意識の無い結依魔理沙が横たわっていた。それを異形魔理沙はサッカーボールのごとくコロコロと足で動かし、弄んでいる。

 

「魔理沙少女! 彼女を返してもらおうか!!」

 

「そいつは出来ない相談だな。コイツの持つ()()()()は危険だ。コレのせいで身体を移動する際に能力を幾つか秘匿化されちまった。ま、やったのはこいつ自身じゃなくて大賢者なのが余計に腹立つんだがな」

 

 異形魔理沙はそう言うと、結依魔理沙の身体を片足で持ち上げ、そして魔梨奈の方向にパスした。

 

「ほらよ、返すわ」

 

「返すんかい!!」

 

 気分屋なのか情緒不安定なのか、返さないといいつつも結局返した異形魔理沙に魔梨奈はおもわずツッコミを入れた。

 

「どっちみちお前ら全員この場で処刑する以上、コイツだけ取っといても意味は無い。それに気付いた俺はまぁぢ天才」

 

 

「が!! これはおまいら達にとって最大のチャンス! おまいら三人がかりでこの俺を殺せば世界は救はれるッ! だが、殺せなければぁ……」

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………ッ!」

 

 

 結界の破壊、それは異形達がこの世界を本格的に侵略しにくるということ。これは避けなければならない絶対事項であり、負けることは許されない。

 

 

 勝てば平和、負ければ侵略。今、史上最大の決戦が始まろうとしていた。

 

 

「オールマイト、初めての共同戦線がコレとは運の尽きですが、何としてでも勝ちましょう。コイツらにこの世界を侵略させるわけにはいけません」

 

「私達なら勝てるさ、魔梨奈少女。君と私と、そして本物の魔理沙少女、三人が協力すれば誰にも負けない」

 

 

「まだ勝てると思っているのなら今すぐに諦めろ。テメェらはここで死ぬ運命、抗いさえ無駄なのさ」

 

 

 異形魔理沙は二つの刀をヘルシングの神父風に十字架のごとく構えると、濃い緋色の眼光をなびかせて、私らの前に君臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回、第一部最終話

 

「ジ・エンド 〜 世界の夜明け 〜」

 

 

 To Be Continued.

 

 

 






おかえりなさい。魔理沙。




本当はもう少し書きたかったけど文字数の都合上ここでカット。すまぬ。次回に持ち越しじゃあ




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ジ・エンド 〜 世界の夜明け 〜 (60話)




前回のあらすじ ↓


妹の結依魔梨奈の身体を乗っ取り、保須市に多大なる被害を与えたステインは結依魔理沙によって存在ごと消滅させられ、世界に平和が戻った。

お互いに反省した魔理沙と魔梨奈は迎えに来た弟子、緑谷出久と共に我が家に帰る予定だった。が、突如魔理沙が能力を使えなくなるという事故が発生。魔理沙のカルマ値が急速に上昇しカンストしてしまう。

危機感を覚える二人。だが今、目前にある災厄は二人の想像以上に危険だということに気付く。


異形魔理沙の復活。


それは、世界崩壊の幕開けである。




それは、あまりにも突然で、前触れに気付く暇もなく、非常で、残酷で、どうしようもないほどの、抗えぬ運命だった。


だが、希望はまだ失われていない。


迎え撃つ結依魔理沙と魔梨奈、そして世界のピンチにNo.1ヒーロー「オールマイト」が参戦し、全てを賭けた最終決戦が今始まろうとしている。この世界を救うために立ち上がれ、ヒーロー。




※一万五千文字カンストです。長いです。休み休み読んでください。







 

 

 

 

「…………あー、ここ何処……」

 

「魔理沙! 起きたか!?」

 

「魔理沙少女……良かった…………」

 

「いんや、魔理沙はこの俺だけだ。異論は認めン」

 

 目が覚めた結依魔理沙。頭の中がまだ朧気で、立ち上がるのも億劫になるほどの気だるさが身体に残っているが、今の状況を察して何とか立ち上がる。

 

「おい、ナレーション。俺を無死するとァいい度胸た。全部██████で隠してやろか?」

 

 魔梨奈とオールマイトが結依魔理沙を心配するなか、結依魔理沙は魔梨奈の能力で現在の状況を把握し、異形魔理沙の方を見つめる。

 

「…………マリッサ、お前……」

 

「はい灰肺、皆まで言うな。あぁもちろん、手前の能力は()()回収させて貰った。元々パクッ……、この魔梨沙様が編み出した能力達だからぬぁ。お前に残しとく義理なんて微塵も無ッいね!」

 

「…………ホントだ、マスパぐらいしか使えねぇ」

 

「まァ? 転生ホヤホヤの一般ピーポーくんには丁度いい末路かもなぁ? どぅ思ンだよ、なろう主人公。いや、ハーメルン主人公って言った方がお似合いかい?」

 

 ニタニタ笑いながら煽り続ける異形魔理沙に対して、結依魔理沙はただ己の掌を見つめていた。

 

 だが、その目は真っ直ぐに何かを見据えていた。

 

「そうだな、私にはこの程度の力がお似合いかもしんねーな。けど一言言わせてもらうとだな、私はお前が奪っていった無数の能力なんかよりもな、もっと大事な力を持っているんだよ」

 

「へェ。そう」

 

 結依魔理沙は応える。

 

「かけがえのない家族と仲間さ。コイツらは私に無限の力を与えてくれる、最強のバフ効果よ」

 

「ほーん、度胸だけは認めるよ。この俺を前にしてそこまで言うたァ、能力貸した甲斐が有るってもんよ」

 

 結依魔理沙の言葉に何かを感じたのか、異形魔理沙は鼻で笑いつつも結依魔理沙の覚悟を認めた。そして異形魔理沙はサッと一本の剣(ショートソード)を生成すると、結依魔理沙に向けて軽く投げる。

 

「やるよ。得物がないと不便だろぅ? あぁ安心しろ、ちゃあんと私に攻撃出来るよう『魂撃』付けてあっから」

 

「…………あざす」

 

 うっかり感謝の言葉が漏れる。別に異形魔理沙から貰わなくても、魔梨奈から貰えればそれで良かったのだが。

 

「さて、もういいか。こんだけ尺も取ったし、満足した? じゃーあー」

 

 異形魔理沙の姿が一瞬で消える。何処に移動したのか、探知系能力であたりを索敵するがその反応は以外と近くに存在した。

 

 オールマイトの首を締め上げる異形魔理沙。その表情は嬉嬉として残酷に、美しく映えていた。

 

「お前から死ね、オールバイト」

 

 異形魔理沙は自身の腕を肥大化させ、ややご挨拶程度にオールマイトの腹部に拳を突っ込む。本人はその程度の感覚なのだが、実際に起きた結果は全くの別物。殴られた彼は、殴られたと認識した時点で既に5キロほど離れたマンション街の一つに激突していた。

 

 ── パァン!! ドォォオオオン ──

 

 音が遅れて耳に届いた。

 

「クフフ、次あ手前ら贋作共だ。よろしこ」

 

「「ッッ!!」」

 

 思考が一瞬止まったが、考えるより先に身体が動いた。振り返り、異形魔理沙に向けて左右から拳が突き出される。しかし異形魔理沙は二人の拳それぞれ片手で止め、裏拳であしらった。

 

〜 BGM「魔女の舞踏会 〜 Magus Night 〜」〜

 

 嫌な不協和音が脳内に流れ込む。強敵を前にして闘気に満ち溢れたり、ラスボスを前にして勇気が湧くような、そんなBGMとは別物の、ただ目の前の相手がいかに異常であるかをこれでもかと言うほど知らしめる、不安を駆り立てるだけの音楽。前におふざけで轟くんに流したことはあるが、やめとけば良かった。

 

 結依魔理沙はちょっとした後悔を引き摺りつつも、剣を持って立ち上がった。

 

「異形魔理沙ァァァァァアアアアアア!!!!」

 

「そんなデカい声出さなくても聞こえてるよ。いくら俺が5000……いや7000? 1万歳でもなァ、地獄耳はええンだゆぬッ!」

 

 喋りつつも異形魔理沙は人差し指から真紅のレーザーを放ち、距離を詰まれないよう牽制する。しかし数多の戦いを乗り越えた結依魔理沙にとって避けるのは容易く、一瞬で敵の懐までたどり着いた。ショートソードは扱い易く素早い。その特性を活かし、結依魔理沙は剣素早く振り下ろす…………と見せかけて、剣を右手から落とし、左手で剣の柄を逆手に掴むと、脇腹を抉るよう弧を描く。フェイクは戦闘の基本かつ私の十八番だ。流石の異形魔理沙

 も右腕に一瞬気を取られて左手からの奇襲に対応出来ていない。初撃はもらったぞ。

 

 キンッ! 

 

 左手が進まない。何か硬い物質が剣にぶつかって押し進むことを拒んでいる。いや、こんな言い回ししなくても分かっている。コイツ防ぎやがった。

 

「小細工は上手いが一歩足りなかったな。贋作」

 

「入ったと思ったんだけどな、残念。だが2撃目はどうかな」

 

「は?」

 

 背後から迫るもう一本の刃、異形魔理沙はそれに気付くと空いた右手の剣でガードし、一撃を防ぐ。

 

「贋作セカンドォ、手前か」

 

「誰がセカンドだ!」

 

 異形魔理沙は両者を双剣で弾き、間合いを取らせる。が、二人は考える隙を与えないよう異形魔理沙の左右から近づき怒涛の連撃を加える。ドラゴンボールを彷彿とさせるような斬り合いが行われるが、異形魔理沙は二人の倍の速度で剣を捌き両者にカウンターを加える。

 

「がハッッ!!」「ゲホッッ!!」

 

「どうだ? これが年季の差よ。森羅万象斬ッ!!」

 

 吹き飛ぶ二人に異形魔理沙は間髪入れず斬撃を放ち、二人の体はアイスホッケーのごとく地を走らされた。皮膚が複雑に尖った地面と擦れて傷だらけになり、二人の肌は仄かに熱を持つ。

 

 アイツ、二人がかりだというのに攻撃を全て捌きやがった。

 

「カロライナァァァァッ!! スマッシュ!!」

 

 一度戦線離脱した二人と入れ替わるかのように、オールマイトは戦場に復帰。鋼すらも優に切断するオールマイトの必殺技「カロライナ・スマッシュ」が空中から繰り出されようとしていた。

 

「ふんンンんッ!!」

 

 だが異形魔理沙はその傲慢な片腕でオールマイトの両腕を鷲掴みし、驚異的な握力で両腕を抑え込む。ヒーローに必殺技を撃たせないという暴挙に出た異形魔理沙だがオールマイトはそれに対して意に介さず、特に技名を叫ぶことなく異形魔理沙にドロップキックを浴びせた。

 

「やるねお前。伊達にNo.1と呼ばれてるだけのことはある」

 

 華麗な身の子なしで体勢を整えた異形魔理沙は首の骨をコキコキと鳴らすと、全身から紅いオーラを噴出させ力を活性化させる。嫌な予感しかない。

 

「お前は3倍くらいで十分かな」

 

 その言葉を残した直後、オールマイトの顔面に回し蹴りが炸裂していた。圧倒的な速さにオールマイト対応出来ず、パキッという音だけが脳内で響いていた。すかさず異形魔理沙は飛び後ろ回し蹴りで追撃を行い、瞬間移動で距離を詰めた後、腹部に一撃を入れオールマイトの反撃に合わせて裏拳とエルボーを加えた後、ゼロ距離界王拳三倍かめはめ波でフィニッシュを決める。

 

「脳筋は大人しく地べたで這いつくばっているといい」

 

「グッ…………フッフッフゥッ! っれが脳筋だって!!?」

 

 怒涛の攻撃とかめはめ波で吹き飛ばされたかと思いきや、オールマイトはその屈強な脚力で踏みとどまり、かめはめ波の中を強引に突き進みながら正義の拳を振りかざした。

 

「おいおいマジかよ……」

 

 オールマイトがここまで脳筋だったことに異形魔理沙は驚きを隠せなかった。

 

「デトロイトォォォ!! スマァァァッシュ!!!」

 

 顔面に叩き込まれるオールマイトの拳。歴代の継承者が紡いできた重く強い拳が異形魔理沙に炸裂し、そのまま地面に向けて叩き込んだ。異形魔理沙一人には収まりきらないほどのパワーが地面を砕き、余剰エネルギーが巨大なクレーターを形成した。

 

「だが効かんンンンンンンんわ!!」トゥルルルッ! 

 

 

 ────── メガンテ ──────

 

 

 突如、黄金に光り輝き出した彼女の身体に危機感を感じたオールマイトは一瞬でその場所から離れるべく足を動かす。そして直後、想像を絶するほどの大規模な大爆発が発生し、爆風と爆撃をモロにくらったオールマイトは全身から血を吹き出しながら後方へと吹き飛ばされた。

 

「「オールマイト!!」」

 

 重傷とも呼べる大ダメージを受けたオールマイトを心配し、駆け寄ろうとする結依魔理沙と魔梨奈。だが、

 

「コッチヲミロ…………」

 

 結依魔理沙とオールマイトの距離のちょうど真ん中のところで、奇妙なラジコン戦車のようなものがこちらに向かってキャタピラを走らせていた。正面に髑髏マークがあり、群青色で塗装された玩具。だがその玩具はあろうことか喋る。「コッチヲミロ」しか言わないが、その言葉だけを繰り返し繰り返し喋る奇妙な玩具に対して結依魔理沙と魔梨奈は心当たりしか無かった。

 

「シアハートアタックッ!?」

 

「魔梨奈、キラークイーンだ! はやく適当なモノを燃やせ!! 死ぬぞ!!」

 

「コッチヲミロォォォォォ!!!」

 

 シアハートアタックと呼ばれるその自動追撃型爆弾は、二人の前に飛びかかると髑髏マークの眼の光がスっと消えた。

 

「「マズイッ!!」」

 

 二人は同時に飛びかかってきたシアハートアタックを剣で弾き返す。だが……

 

 カチッ

 

 スイッチが入ったような音がした直後、再び大爆発が発生した。弾き返したとはいえ、爆心地を少しズラした程度では防ぎきれず、二人は爆風と爆撃に全身を焼かれながら地面に倒れ込んだ。

 

「クッソ……やられた…………ゲホッカホッ」

 

「魔理沙…………大丈夫か。今は人間だから……いつもみたいな無茶は出来ないぞ……」

 

「……あぁ、気合いでなんとかなる」

 

「…………フッ、フフフフフッ! 流石、姉さんは言うことが違うや」

 

 再び立ち上がろうと重い頭を持ち上げる二人。オールマイトが動けない今、私らがオールマイトのカバーに入らなければトドメを刺されてしまう。こっちもかなり負傷してるが、直撃を受けたオールマイトよりかは動けるはずだ。今すぐにでも動いて……

 

「動いて……どうするぅ?」

 

「がハッッ!?」「ゲほッっ!?」

 

 どこからか襲来した異形魔理沙に顔面を鷲掴みされ再び頭部を地面に強く打ち付けられる。頭部を指全体で抑えられ、徐々に握力を強める異形魔理沙に二人はもがき抵抗するがビクともしなかった。

 

「情けないねぁ。それでもヒーローか?」

 

「お前に言われなくたッ…………ぁく"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」ミシミシミシィッ!! 

 

「魔理沙!! ……やめろ、手を離せ!!!」

 

「何言ってんだ。どっちかっていうとお前、コイツより贋作2ndの方が数十倍強く力入れてるぜ? まァ、お前には『痛覚無効』があるから関係ないだろうがな!!」

 

「……ゲス野郎…………ッ!」

 

「ゲス野郎ではない、最強の魔法使い魔理沙様だ。…………抑えるのめんどくせいな、潰すか」

 

「「ッ!!」」

 

 異形魔理沙が再び残酷な笑みを浮かべると、徐々に地面に押し付ける力も強くなっていく。魔梨奈には効果が薄いが、人間の身体に戻った結依魔理沙にとっては絶体絶命のピンチ。身体が丈夫とはいえ、度を過ぎたパワーで押し付けられれば流石に耐えきることは出来ない。全身が押しつぶされミンチと化すだろう。

 

 魔梨奈は必死に魔理沙に向けて手を伸ばす。瞬間移動で逃げれば体勢を立て直せる。魔理沙が死ななくて済む。そんな安易な考えで手を伸ばした。

 

 しかしそれを見逃すほど異形魔理沙は甘くなく、触れる寸前で腕を切断されてしまった。

 

「作戦バレバレ。全部ナレーションが喋っテからな。どんなに精神プロテクト掛けても筒抜けだばぁか!」

 

 クフフ、と嬉々とした表情を顕にする異形魔理沙。圧倒的有利な立場から弱者をジワジワと痛めつけるのは中々の快感で、止める気配は一切ない。このまま殺されてもおかしくないほど、力はドンドン増していく。

 

「させ…………るかぁッ!!」

 

 魔梨奈は残った片腕で波動砲を放とうと掌を、異形魔理沙の顔面と重ね合わせる。

 

「おっと殺すと撃つ…………間違っつた、撃つたらコイツ殺すぞ。お前の大事な家族が、DSSチョーカーで首チョンパされた渚カヲルのごとく、死ぬぞ?」

 

「…………ッ!!!」

 

 異形魔理沙の脅しに、魔梨奈は撃とうにも撃てない状況となってしまった。怒りの矛先を一旦収めると共に腕をゆっくりと地面に下ろす。どっちにしろ異形魔理沙は私ら二人を確実に殺す。私らほど世界征服に邪魔な存在がいない以上、脅そうが脅さまい

 が結局は殺されるのは分かっている。しかし、これ以上はこちらから動くことが出来ない。狙うなら痺れを切らして私らに手をかけようとする瞬間だ。それまで耐え忍ぶしかない。

 

 しかし、チャンスは早く訪れた。

 

「待て……魔理沙少女に扮した偽物よ…………」

 

「……私が…………貴様の相手だッッ!!」

 

 

 オールマイトが再び立ち上がった。

 

 

「オール……マイト! 無事だ!!」

 

「まだ生きてやがったか。あと本物は俺だ。俺が霧雨魔理沙だ」

 

 メガンテによる爆撃の傷はまだ癒えておらず、開いた傷から血を吹き出しながら、オールマイトは異形魔理沙の背後に立っていた。

 

「今すぐその手を引きたまえ。私は、あまり女の子を傷つけたくはないのでね……」

 

「断る。お前こそ、死にたくなければ遠くで指くわえて待って色。コイツらを始末した後でお前も地獄に贈ってやろう」

 

「……今すぐ引かないのならば、私は貴様を殴る」

 

「好きにしろ。ただし、殴るっつーことはだなぁ、殴られる覚悟があるってことでいいんだな?」

 

 オールマイトの警告に異形魔理沙が応じる気配は一切なかった。沈黙するオールマイト、だがしばらくすると、彼は心を鬼に変えてその腕を振りかぶった。

 

「…………デトロイトォォォォォ!!」

 

「……はぁ、戦いの中で敵が最も隙だらけになる瞬間を知ってるか? それはな、()()()()()()だ」

 

「スマァァァァッシュッ!!!」

 

 

 ドゴォォンッ!! 

 

 

 一瞬だった。オールマイトの腕が異形魔理沙に触れる瞬間、ヤツは振り向く勢いに合わせて右腕をなぎ払った。なぎ払っただけかと思っていた。しかしヤツの右腕は淡紫に輝く鋭い刃に変形し、刃の縁は紅く染まっていた。

 

 吹き出した血は雨の如く降り注ぎ、泥のようにべっとりと顔に滴る。余程深く斬られたのか、明らかに出血の量が尋常じゃない。このまま行けば生命に関わるレベルだ。今すぐこの拘束を解いてオールマイトを回復させなきゃマズい。

 

 

 

 …………

 

 

 

 ………………オールマイト? 

 

 

 

 

 

オールマイトは下半身と上半身を分離され、宙を舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 グチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初、何が起きたのかサッパリ分からなかった。目に入る光景を脳が拒絶し、私の中で何かがざわめいた。オールマイトは、異形魔理沙に真っ二つにされ、絶命した。

 

(大丈夫……治せば、魔梨奈が治せば、生き返る……)

 

 死んでもどうせ生き返る、いつもの考え方が私の心を冷静にさせようとしていた。

 

(それでいいのか?)

 

(仲間を殺されても、生き返らせられるなら、別に殺されてもいいとでも?)

 

 今は怒りに身を任せて行動してはいけない。ここで下手な行動をうてば次に殺られるのは私だ。

 

(お前はオールマイトが殺されても何も思わないのか?)

 

 

 手が、震えていた。

 

 

 真っ赤な血を垂れ流すオールマイトの身体見て、私はフツフツと、何かが滾っていた。今日の私は()()()()()()。冷静になれなかった。その原因が精神抑制スキルを失ったからなのは理解していたが、だからといって止められるものではなかった。

 

 

 これは、人間の「怒り」だ。

 

 

 

 

 

「………異形魔理沙ァ」

 

「異形魔理沙ァァァァァァ!!!」

 

 怒りに身を任せた、思考停止状態のハイキックを繰り出した結依魔理沙。しかし、熱り立った獣の攻撃が通用するはずがなく、ATフィールドで直ぐに防がれた。

 

「安心しろ、お前もすぐ楽にしてやる」

 

 抵抗する動きを一瞬止めてしまった結依魔理沙に向けて、異形魔理沙は手から生成した堅く太い大剣を、容赦なくその腹にブスリと、刃を突き立てた。

 

「あ"か"ッ!!!」

 

 ブシュゥゥゥッ! っと血が噴水のごとく溢れ出る。

 

「魔理沙ッ!?!」

 

「オイオイ、剣突き刺したくらいで喚くなんて情けないぜ。お前も人間やめたらどうだ? 少しはまともに戦えるようになるぜ」

 

 異形魔理沙はそう言いながら、右腕で大剣の柄を持ち、内蔵と血が混ざり合うよう細かく剣で引きちぎりながら、グチュグチュとかき混ぜる。

 

「う"か"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"ッ"!!」

 

 感電を疑うレベルの大量の電気信号が脳に送られ、脳が焼け焦げるような感覚が魔理沙を襲った。痛みで思考がままならない、自分の肉体が血と混ざり合ってひとつの液体になろうとしている。

 

「おーい、生きてますかー? ありゃ、これは重傷ですねぇ。じゃけんゴミ箱に捨てましょーねー」

 

 結依魔理沙を大剣ですくい上げると、槍投げの要領で軽々と吹き飛ばし瓦礫の山に勢いよく突き刺した。

 

「がハッ!! ゲホッゲホヴヴェェェ!!」

 

 全身の穴という穴から血を噴出し、体が痙攣して身体機能が全く働かない。結依魔理沙はほぼ再起不能にまで陥った。

 

 

「もう、アイツも死んだようなもんだし、後は手前だけだぜ贋作2ndシーズン」

 

 異形魔理沙が次に狙いを定めたのは、結依魔梨奈だ。

 

「魔理……沙…………」

 

 

 

 "もうお前は私ら結依ファミリーの一員なんだから"

 

 

 

 "そうだろぅ? 魔梨奈"

 

 

 

 "絶対お前を助けてやるからな"

 

 

 

「…………ッ」

 

 

 

 "こちとら史上最強の魔法使い(自称)やぞ"

 

 

 

 

(何が……最強だ)

 

 

 

(魔理沙は……私を命を賭して救ってくれたのに、私は…………まだ誰も救えていないッ……)

 

 

 

(…………ここで、返すんだ)

 

 

 

 

(今こそ、私が、皆を救うべきだ)

 

 

 

 

(たとえ自分の魂が消滅したとしても……)

 

 

 

 

(私は構わないッ!!)

 

 

 魔梨奈は異形魔理沙の左腕を軸にして身体をひねり、異形魔理沙の顔面に向けて蹴りを放とうとするが、難なく右手で止められてしまった。

 

「いいぬぇ、いいぬぇ! そうこなくちゃ面白い!」

 

「お"お"お"お"お"お"お"お"あ"あ"あ"!!!」

 

 切断された左腕の断面から新たな左腕を超速再生で復活させ、怒号と共に拳を突き出し、周辺の空間を歪ませた直後の反動を利用した衝撃波を放つ。

 

「フルカウンター」

 

 ざしゅぅぅぅぅッ!! 

 

 放ったはずの衝撃波は、倍の速度と威力で弾き返され、魔梨奈の右半身は跡形もなく消滅した。右半身どころか、進路方向上にある全ての物体が跡形もなく切断及び消滅し、その影響は天と地両方にまで届くほどだった。

 

「まだだぁぁ!!!」

 

 だが魔梨奈は止まることなく、一歩踏み出した時点で身体の再生は完全に終えていた。我ながらとんでもない再生能力だが、再生能力があったところで魂撃を付与されたら意味は無い。普通に戦闘しても勝ち目はほぼ無い。なら、今自分がもてる全ての力を使ってやるべき事は一体何か。それは…………

 

「Ahこっちには魂撃付いてなぇや。次はバッサリ逝かれないよつ気おつけ」

 

 案の定、異形魔理沙は魂撃を付与し今度こそ私を完全に仕留めるつもりだろう。だが、そう簡単に殺られるつもりなど毛頭ない。とにかく今は、ヤツの隙が出来るまで耐え忍ぶ!! 

 

 お互いに神器クラスの片手剣を構え、両者は再び激戦と呼べるレベルの攻防戦が始まる。互いに地を駆けながら、自身が生み出す余剰エネルギーで剣のリーチを引き伸ばし、斬り合い、接触し、離れ、全身の五感という五感をフルに発揮して縦横無尽に暴れ回る。

 魔法は相手のボロを出させる搦手として扱い、攻撃予測と超反射で敵に読まれぬよう立ち回り、運命操作や予知能力で相手の行動パターンを制限、最も最適解な位置に地雷や獄炎、雷撃、凍氷、とにかく少しでも相手の体勢を傾けられるよう仕掛け、毎回異なるパターンで相手の予測を回避する。

 

 たった数秒、たった数秒しか経過していないはずなのに、異常に時間が長く感じる。能力だけ見ればどっちも異形魔理沙であり、さらに相手は精神すら本物の異形魔理沙。相手が相手なため、いつも以上に続くのは当然なのだが、ここまで続いたことのなかった魔梨奈は徐々に思考加速による疲労が足を引っ張り、予測精度も衰えていく。

 

(そろそろ限界……………ッ!)

 

 苦悶の表情をする魔梨奈。それを見た異形魔理沙はニヤリと笑った。

 

「久方ぶりの全力運動、清々しいね。だがもう飽きたな、決めさせてもらおうか」

 

 まだ余裕の様子である異形魔理沙を見て、一瞬頭の中が真っ白に染まる魔梨奈。力量の差に一瞬屈して集中していた意識が霧散した、ほんの少しだけ意識を手放した直後、今まで避けきっていたはずの攻撃が次々と当たり、身体を削って言った。もう止めることは出来ない。一度ミスすれば二度と立ち直ることなど許されない。常軌を逸した激しい攻撃の連続を一身に受け続けた後、一瞬の浮遊感に身を包まれる。

 

(しまtt)

 

 自身の死を悟ったときには既に、魔梨奈の身体は異形魔理沙の片手剣によって急所を切り刻まれていた。

 

「いい悪夢(ゆめ)を見ろ」

 

 最後に目玉に向けて片手剣を突き刺し、そこから脳を抉るよう剣を捻る。

 

 

 また一人、仲間(家族)が消えてゆく。

 

 

(…………なんッ…………て、……ただで死ぬつもりはないけどなぁ……ッ!!)

 

 

「ッ!?」

 

 魔梨奈は最後の力を振り絞り、全身を使って異形魔理沙の動きを封じると、右手に携えていた片手剣を異形魔理沙の心臓に向けて深く、突き刺した。

 

「がハッッッ!!? てッ、テメェええええええええええ!!!!」

 

「はンッ…………ざまぁ……みろ……」

 

 

 痛みに苦しみ、のたうち回る異形魔理沙。

 

 

「…………もう、時間か…………」

 

 

 涙を流しながら、灰と化す己を見つめる結依魔梨奈。

 

 

「魔理沙…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで……ありが……とう…………」

 

 

 流し続けていた涙も遂に枯れ果て、全身が灰となって空中に霧散していく。

 

 傷だらけの魂は天に召される前に消失し、この世から結依魔梨奈という存在が消えていく。

 

 それを地上から見上げることしか出来なかった結依魔理沙は、誰にも見せたことの無い、悲観と絶望の色に染まった表情を、天に向けていた。

 

「魔梨奈が…………死んだ…………」

 

 

「私が………………」

 

 

「……………」

 

 

「私の……………唯一の…………」

 

 

「…………………」

 

 

「…………」

 

 

「……」

 

 

「…………」ズズッ

 

 

「…………ッ"!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泣きたいのはこっちだ。あ"ァ"あの野郎、ゲホッゴホッ! 最後の最後で俺に剣突き立てやがった…………」

 

 結依魔理沙の背後には、胸部から吹き出す血を右腕で抑え込もうとする異形魔理沙の姿があった。

 

 立ち上がる結依魔理沙。もう四肢は満足に動かないし、感覚も朧気でおぼつかない。今も夢現といっていいくらい不安定な状態だ。

 だが私は、最後まで戦う。オールマイトも、魔梨奈も、命を懸けてここまで繋いだ。だから私にも、正しい未来へと繋ぐ義務がある。私は、止まらない。

 

「…………手前、その傷でまだ動くつもりか?」

 

 異形魔理沙の問いに、結依はさも当然とでも言いたそうな表情で、敵を見据えた。

 

「……魔梨奈が消滅した…………オールマイトも殺された…………、ここまで来たら引き下がれるわけないだろ」

 

 腹部に突き刺さっていた一本の大剣を、結依魔理沙は力を振り絞って抜いた。よろめきつつも踏ん張って耐え忍び、抜いた大剣を持って異形魔理沙に向かっていく。

 

 腹部からはドス黒い血が噴出し、視界が徐々にボヤけていく。錆び付いた鉄を舐めたかのような味が口の中で滞在して、ときどき吐き出しながらも真っ直ぐにヤツの所へ向かっていく。

 

「もう、十分だろう? お前らに俺は倒せない。世界は結局俺たちのモノ。旧世界の人間は死に絶え、異形達が新世界を作り上げて物語は無事ハッピーエンド。それでいいんじゃないかなぁ」

 

「……ヘヘッ、そんな世界……お断りだぜ。そんな誰も笑えないハッピーエンドに価値は無い。そんな、何も無い新世界に意味は無い」

 

「お前がなんと言おうと私は…………屈しないぞ。オールマイトと、魔梨奈、二人が命を懸けて頑張ったヤツらに、応えるために」

 

「テメーの首、天に掲げて知らしめてやる」

 

「クックック……コイツは傑作だぬぁ! ジョークと言えど程度があるっってもんだ!! クックック! 笑わせるじゃないかぁ!!」

 

 黒く深い顔でもハッキリと分かる笑いの表現。だが次の瞬間には、真顔とも言い難い静かな怒りのような表情に変貌する。

 

「言いたいことが山ほどあるがまァ、要点だけ述べるとな……前世一般人のお前が主人公だなんぞ、役者不足にも程があンだよ。もう一回人生出直してくンだな」

 

 向かってくる結依魔理沙に対して、異形魔理沙はその場から動く素振りさえ見せない。今の結依魔理沙が何をしてこようとも、もうどこにも勝ち筋は無い。たとえ今ここで月をぶつけられても、平然と耐えきれるほどの余裕が残っている。これはもう最後の消化試合に過ぎない。

 

 力いっぱい振り下ろされた大剣を、異形魔理沙は気だるそうに片手で受け止める。ここから別の動きに繋げるような気配も一切ない。異形魔理沙は確信しきった笑みで結依魔理沙に笑いかけた。

 

「バイバーイ、ただの一般人さんッ!」

 

 胸を抑えていた右腕を離し、結依魔理沙の顔面に向けて照準を合わす。既に重傷を負っている彼女は、これを避ける余力は残されているはずがない。この人間の死は確定した。────はずだった。

 

「なんッ!?」

 

 異形魔理沙の目の前にあったのは結依魔理沙ではなく八卦炉であった。何で八卦炉が目の前に? と思った直後、背後からおぞましいほどの殺気を感じ、とっさに瞬間移動を使…………われる前に結依魔理沙は背後からもう一つの剣を容赦なく突き刺した。

 

「テメt」

 

「 マ ス タ ー ス パ ー ク 」

 

 代わり身として空中に固定しておいた八卦炉を声帯認証で起動させ、巨大な極太光レーザーを異形魔理沙の顔面に放射。不意をついた一撃に異形魔理沙は対応出来ず、弱点である大量の光エネルギー、すなわち滅光攻撃をモロに喰らってしまう。

 

「あ"か"か"か"か"か"か"か"ッ"ッ"!!」

 

「……成功…………したッ! はハッ、やっぱりお前は私だ。不意打ちとか、謎の能力とか、そういう未知のモノに対する脆弱さ!! それがお前の敗因ッ! 私を能力剥ぎ取られただけの一般人だと侮っていたかもしれんが、こちとらお前が背後に立つ前から頭ン中で作戦立ててたんじゃい!!」

 

 結依魔理沙は最初から諦めていなかった。最後の力を振り絞って近づき、腹から抜いた大剣で斬り掛かると見せかけ、大剣に一瞬気を取られた異形魔理沙の隙を見て八卦炉を能力で固定し、股をスライディングで抜けた後、背後から隠していたもう一本の、異形魔理沙から貰った魂撃付与の剣で突き刺したのだ。作戦を読まれないようずっと心の中で『私が皆を救う』と念じながら。

 

 しかし、ここまで高度なことを一人でやってのけたわけではない。作戦の筋書きを考えたのは確かに私だが、細かい調整は全てアイツに任せている。立ち上がるタイミングや八卦炉投げるタイミング、起動させるタイミング、全部アイツの指示だ。

 

 

 そいつが誰かって? いつも隣に居ただろう? 

 

 

 頭が良くて頼りになる、最強の相棒が。

 

 

 

 

 〔あなた方の思い通りにはさせません。大人しく消滅しなさい〕

 

「大賢者ぁ"ァ"…………手前の仕業かあ"あ"あ"!」

 

 智略の王、ずる賢さナンバーワン、ツンデレ系能力で有名な我らが大賢者さんの仕業だ。

 

 〔解。私とマスターの仕業です。〕

 

 機械チックなボイスで訂正する大賢者。生きていたのならもっと早く連絡してくれれば良かったというのに。やはりツンデレなのか。

 

 〔否。〕

 

 違うそうです。

 

 

「クソがああああああああぁぁぁ!!!」

 

「行けぇぇぇぇぇぇええええ!!!!」

 

 

 マスパの火力がさらに増大し、全身を包み込むほどの光量が異形魔理沙に襲い掛かる。皮膚から肉体の融解が進行し、徐々にその範囲を拡大していく。

 

 結依魔理沙は突き刺した剣を離すことなく、塵も残さずヤツが消滅するまで耐え忍ぶ。強大すぎるマスパの余剰エネルギーは異形魔理沙を盾にして凌いでいる結依にすらも牙を剥き、徐々にその身体を蝕んでいく。どちらが先に消滅するか、見物だ! 

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"この俺があぁぁぁぁ!! こんなッッ糞ジャップ共にィィィィィ!!!」

 

 〔個体名:異形魔理沙から高エネルギー反応。このままでは保須市及び近隣の市町村は爆発と共に跡形もなく消滅します。今すぐ避難を……〕

 

「出来るかボケぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 〔……了。お疲れ様でした、マスター。〕

 

「ああ!! あの世でまた一緒に喋らるといいな!!」

 

 〔…………はい。〕

 

 

 キィィィィン

 

 

 

 

 

 

 

ドンッッッ!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い"い"っ"…………」

 

「私…………生ぎで……」

 

 

「な"ん…………で…………?」

 

 〔ピピーガーピピーピーピーピーガー……〕

 

 

 

 

 この爆発で保須市及び近隣の市町村は壊滅。周辺に放置された瓦礫は全て消滅し、代わりに超巨大なクレーターが私を中心に、地平線の向こうまで広がっていた。

 

 

「異形…………魔理沙………………」

 

 

 

 

「倒じ…………た………………」

 

 

 

 

 

 もう、結依魔理沙の身体は、修復不可能と言えるほど、酷く損傷していた。四肢は消滅し、皮膚は焼けただれた。顔も、もう、笑顔も作れない。

 

 

 

 

 

 

「…………い"だい……げど……ごれで、世界、守れた…………かな"ぁ…………?」

 

 

 

 

「ごれで…………よがっ…………だん……だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残念、お前は世界を守れませんでしたァ

 

 

 

 

 

「…………な"ん……で…………」

 

 

 うつ伏せのまま立ち上がることの出来ない魔理沙の前に、異形魔理沙は現れた。しかし顔面は皮が剥げて頭蓋骨が一部むき出しになり、胸部には大きな穴にが空けられ、さらに背中に十字傷と全身に細かな無数の切り傷が存在している。瀕死……のはずなのだが、全身の傷とむき出しになった人骨が余計に異形らしさをかもし出し、私は、目の前が真っ黒に染まった気がした。

 

「…………はァ、流石だね、流石だよハーメルン主人公。まさかお前らごときにここまで追い詰められるなんざ思ってもみなかった。7000年ぶりといったところかな。あと少し、あともう一押しあれば倒せてたかもなァ」

 

「…………」

 

「ここまでがんばァったご褒美に選濯死をやろう。ひとぉつ、パープルヘイズの殺人ウイルスで死に絶える。ふたぁつ、生きたまんま肉食ゴキブリに鯛内を喰われる。どぉーっちだ」

 

「…………」

 

「無視は悪い子だなァ。何諦めんだよ、頑張れ!! もっと熱くなれよォ!!」

 

「…………どっぢも……断る…………」

 

「じゃ、間をとってチェーンソーで真っ二つにしよう。ゆっくり、じーーっくり真っ二つにしてあげんよ」

 

 異形魔理沙はチェーンソーを生成し、エンジンを掛ける。重低音が鳴り響き、鋭利な刃がダンスを踊る。笑顔の絶えない彼女を前に、結依魔理沙は何も出来ない。ただじっと、その場で思考を停止する以外、何も出来なかった。

 

「あーでもなぁ、だだ真っ二つにしても面白く無いからぁ、ゴールド・エクスペリエンス(黄金体験)で一発殴ってから真っ二つにすっか! 変態キモ親父共が大好きな感度1000倍ってヤツ試したろか! 感度1000倍で真っ二つ!! はハはハハははは!!!」

 

 高らかな笑いと共に、異形魔理沙の背後から出現したスタンド『ゴールド・エクスペリエンス』。その能力、「非生物から生物を生み出す能力」は、実際は殴った物体に生体エネルギーを注入する能力である。この生体エネルギーは人間に注入すると過剰に体が反応し全身の感覚が暴走してしまう。要はつまり、痛みは普段の倍以上強く、そして長く感じてしまうのだ。

 

 感覚が暴走した状態で、チェーンソーで真っ二つにされたらどうなるか。想像に難くない。避けなければならない。避けなければならない。しかし身体は全く動いてくれない。避けなきゃ、避けなきゃ、しかし身体が言うことを聞かない。避けなきゃ、避けなきゃ、避けなきゃ、避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ!!! 

 

「鋭い痛みを…………ゆっくりしていってね!!」

 

 ゴールド・エクスペリエンスの一撃が頬に突き刺さる。ハンマーで頭部をおもいっきり叩かれたかのような痛みが全身をくまなく刺激し、それがゆっくり、長時間持続する。のたうちながら苦しみ藻掻く結依魔理沙を見て、異形魔理沙はえも言えない興奮に包まれた。

 

「クフフ、さぁ魔理ちゃん。チェーンソーのお時間だ!」

 

 動けないのをいい事に異形魔理沙は私の体を一旦持ち上げ、仰向けになるよう放り投げる。

 

「Hey読者の皆さーん! チェーンソーを振り下ろすカウントを皆で数えよーぜぇい! はぁいせーの!」

 

「one……」

 

「ジュワッチ!!」

 

 ドゥルルン! ドゥルルルン!

 

 ヴィィィィィィィィン!!! 

 

 

 オオカミが野ウサギを捕え咆哮するように、チェーンソーはエンジンを轟かせ、私を喰らおうと牙を向ける。そしてその牙は徐々に私へと近づき、けたたましい咆哮がさらに煩く響く。チェーンソーは止まることも、私が感じている恐怖も知らずに、銀色の刃を向ける。

 

「や…………めろ…………やめてくれ…………」

 

「原作の俺だったらこのタイミングでまた千択肢をやるかもしれンが、愛肉……俺は二次創作なんでね。命乞いは効かない趣味だ」

 

「ゆーわけではぁい、ジャッジメントdeathの!」

 

 ガッ

 

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガガリリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリィィ!!!! 

 

 

 子うさぎ(結依魔理沙)に喰らいついた獰猛なオオカミ(チェーンソー)は、あまりの美味しさに興奮が止まらなかった。獲物の肉から皮を裂き、傷口に沿ってチェーンソーを挿入し、細かな刃が肉を高速で削いでいく。

 

 

「い"や"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"か"か"か"か"か"か"こ"う"ぇ"ぇ"ぇ"え"ぇ"え"え"ぇ"え"え"え"え"え"え"え"え"!!!」

「お"ぉ"っ"お"え"っ"お"え"ぇ"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"!!」

 

 

 断末魔は高らかと鳴り響いた。彼女にとって断末魔は心地の良い子守唄。血と臓物に塗れたこの場所はまさしくベッド。眠るのは私ではなく、お前。

 

 

 

 

 

 視界が真っ赤に染っていく。空も、地も、砕けてドロドロになった生卵のような私の体も、そしてこんな身体に変えたヤツの顔も全て、紅く染まる。可笑しいな、さっきまで全て黒かったというのに、どうしちゃったのかなぁ。可笑しいなぁ。

 

 

 もう口も開くことも叶わない、声に出して叫ぶことも出来ない。本当に何も出来ない。出来ることがあるとするならば、それは死を待つこと、たったそれだけ。

 

 

 

(まだ…………死ねない…………)

 

 

(まだ……死にたく…………ない…………)

 

 

(まだ…………やり残したことが……たくさん……ある…………のに……)

 

 

 手を動かそうにも、もう私に、届く腕はない。

 

 

(緑谷…………きゅん…………)

 

 

 

(……爆豪…………轟くん…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

(私は…………繋げなかったよ)

 

 

 

 

 

 

 

(…………世界を……)

 

 

 

 

 

 目が徐々に生気を失い、薄灰色に染まる。心臓の鼓動も、もうとっくにきこえない。頭が……ぼぉーっとする。意識も…………遠のいていく。もう…………何も……聞こえないし、感じない。私は……死ぬ……のか。

 

 

 最後は涙を流し、彼女は、この世を去った。

 

 

 

 

 

 

──── 結依魔理沙、死亡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

《保須市 A.M.4:27 》

 

 

 三人のヒーローを見事捻り潰した異形魔理沙は、計画を次の段階へと移行する。

 

 

「邪間者はこれで全て片したな。サ、早いとこおっ始めるとするか」

 

 

 

()()、いるんだろうう?」

 

 

 異形魔理沙が声をかけたその瞬間、大気にヒビ割れが生じる。徐々にその規模を拡大し、最後はガラスが砕け散ったかのように、空に大きな穴が空いた。

 

「よぉ、元気にしたか?」

 

「カチカチカチカチカチカチカチ…………」

 

 見た目は博麗の巫女、だが顔は太極図(陰陽玉)を映したかのような見た目をしており、陰と陽の狭間には針のような牙がチラチラと輝く。カチカチカチ……という音は、彼女が鳴らしているものだ。

 

 霊夢に扮した異形の存在、「異形霊夢」である。

 

「あ、この怪我どうかて? 心配しなんしタダの重傷だ。しばらくは後遺症残っかもなぁ、でもさ、傷会った方が歴戦古龍ぽくてカックいぃよな! そうだろう?」

 

「カチカチカチカチ……」

 

「はいはい、結界ね。さっさと博麗大結界(全てを受け入れる結界)に取り替えっか。早くしねぇとアイツ煩いし文字数も足りん」

 

 

 

 霊夢と魔理沙は手を繋ぎ、世界を砕く。

 

 

 

 

「あばよ、"僕のヒーローアカデミア"」

 

 

 

 

「そしてハッピーバースディ! "東方異形郷"!」

 

 

 

 








物語は第ニ幕へと続く………







ここまで読んでいただき有難うございました。最後にアンケートを取るのでご協力ください。


内容は「次回以降の本編はR18にした方がいいですか?」です。

Yesを選んだ場合、私は本編の続きをこれとは別の「新しい小説」としてR18の方に投稿します。R18なので薬物乱用や性的描写などといったシーンが含まれますのでご理解頂けると幸いです。

またR18の方で作った場合、皆さんに配慮してR15版を作るつもりは一切無いので御容赦ください。

Noを選んだ場合、グロや暴力はいつも通りで特に変わりません。ただし本編の続きをこれとは別の「新しい小説」としてR15の方に出すか、このまま行くかのどちらかを選んでもらいます。新しい小説として出す方は①を、このまま行く場合は②を選択してください。

また同様に、R15の方で作った場合、皆さんに配慮してR18版を作るつもりは一切無いので御容赦ください。


それでは、どうぞ↓




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番外編X:おまけ
EP01. 結依魔理沙の日常その1




※雄英体育祭が始まるまでの2週間の間のどこかの話






 

 

 休日、結依魔理沙は特に行く予定もなく家でゴロゴロしていた。

 

「……暇だ。暇じゃないけど暇だ」

 

 爆豪との特訓は午前中にみっちり4時間行ったので、午後は特に予定がない。ステインの同行を探る……のは、正直今気分が乗らないので後回し。もし街中で出会ったら容赦しないが、事を荒立てると警察とヒーローが来るので証拠隠滅は念入りにしなければならない。

 いやそんなことはどうでもいい。とにかく暇だ、何か暇を潰せる何かを探さないと死んでしまう。

 

「…………また、異世界行くか?」

 

 一番暇を潰せる場所だが、つい最近行ったばかりだ。正直お腹いっぱいである。何か他の案は無いだろうか……

 

「……そういえば最近、箒で空を飛んでないな。魔女なのに」

 

 昔は乗っていた気がするが、箒を使わなくても飛べることに気づいた瞬間めっきり使わなくなった。当然といえば当然だが、まぁたまには箒に乗って魔女らしくするのも良いかもしれない。

 

「よし、そうしよう。今日は箒に乗って適当にパトロールした後おじちゃんおばちゃんたちの手伝いしてコーラ飲んで寝よ」

 

 異空間から普通の箒を取り出し、身支度を整えてからいざ外へ。玄関の扉を開けると陽気な太陽の陽射しが照りつけ、一瞬だけ立ち眩みしてしまう。

 

「……陽射し嫌いじゃないけど、顔黒いし服も黒いから熱籠るんだよなァ。仕方ない」

 

 魔理沙は指パッチンで全身の発汗を止め、内部から冷却魔法を徐々に浸透させることで程よく涼しい体温を保つ。暑さ耐性を全開にして無力化してもよかったが、夏だからこそ得られる"涼しさ"が欲しかったのでよし。

 

「じゃ、パトロールするか」

 

 箒を股にかけ、重力魔法で体重を調整しつつ反重力を発生させることで、結依魔理沙は地面から浮かび上がる。さらに加速装置として八卦炉を箒の後端に装着し、箒を介して魔力を八卦炉に込めた。

 溜め込んだエネルギーを解放した八卦炉は爆発的な反動で箒を加速させ、ジェット機並の速度で空の世界へと羽ばたいていく。

 

 今日はとある魔女の物語。

 

 

 

 ■

 

 

【繁華街】

 

 

 

 

「きゃぁぁぁ!! ヴィラン!!?」

 

 女の人が叫び声をあげる中、身長3mほどの大男がとおる銀行内で暴れていた。

 彼の名前は「虎田平鵝(とらたたいが)」、彼はここ最近頻繁に多発している強盗事件のリーダー格であり、虎に変身する個性を使って数々の店を襲い、子分と共につい先日この街に侵入してきた。

 警察とヒーローが何度か彼の捕縛を試みたが、何故か捕まらず、今日も犯罪行為を繰り返していた。

 

「金だ!! ありったけの金を詰め込んで早く持ってこい!!!」

 

「さっさと金を詰めねェと殺すぞ!!!」

 

 虎の爪を喉元に当て、女性銀行員を脅す虎田。その様子から、全てを察した人たちは一斉に出入り口へと走り込むが、彼の子分が銃を構えて立ち塞がった。

 

「おっと! 逃げてもらっちゃあ困るねェ! 事が済むまで大人しくそこに座れ」

 

「あぁ〜〜ッと! 携帯電話は全部コッチで預からせて貰うぜ? 秘策があるとはいえヒーローと鉢合わせるのはゴメンだからなぁ?」

 

 下卑た表情を浮かべながら、次々と民間人から携帯電話を取り上げる子分たち。彼らの前で民間人は為す術なく、大人しく従うしかない。

 

「おい縄尾、コイツら全員お前の個性で縛り上げろ。あとあの女以外の銀行員も縛って没収しとけ!!」

 

「「へい!!」」

 

 縄尾は手首から大量の縄を生成し、巧みなテクニックで全員の両手両足を拘束、縛り付けた。

 

「クソっ、アイツら! 最近噂の銀行強盗か!」

 

 彼らの正体が分かった男性銀行員だったが、知ったところでどうしようも無かった。

 

「ヒーロー! ヒーローはいつ来るんだ!?」

 

「誰か助けて!」

 

「ヒーロー!」

 

 パニックになった民間人は大声で叫び、ヒーローに助けを求め、親や仲間を頼るべく叫びまくる。

 そんな阿鼻叫喚な状況にイライラし始めた虎田はポケットからハンドガンを取り出すと、天井に銃を向けて言い放った。

 

 

「黙れ」

 

 パァン!! という派手な銃声音が響いた瞬間、あたり一面の空気が静まり返った。そして虎田は民間人の方に振り返り、不機嫌な態度で話を続ける。

 

「オマエら、立場分かってるのか? 俺はヴィラン、オマエらは人質、その気になればオマエら全員今この場で処刑してもいいんだぜ?」

 

「オレらにとっちゃ人質ってのはあくまで情報漏洩防止のための策であって、サツから巻くための道具ではねェ。だからこそ、生きられるだけで感謝すべきなんだよオマエら」

 

 虎田の言葉に怖気付く民間人。もう誰一人として助けを呼ぶものはいなくなったが、民間人の中に一人だけ笑っているものがいた。

 

「…………おいそこのジジイ、何笑ってやがる」

 

「……クックックッ、お前さん。この街は初めてかい?」

 

 意味不明な質問を問いかける爺さんに対し、虎田は変わらぬ態度で応対する。

 

「どういう意味だ?」

 

「クックックッ、知らないのなら今すぐ自首した方がいい。いや、知っていれば尚更か」

 

「テメェ何を言っている?」

 

 虎田は爺さんに銃口を向けたが、爺さんは全く怯まず話を続ける。

 

「この街の犯罪率は平均より何故かやや高くて物騒なんじゃが、この街の警察による犯罪検挙率はヒーローの犯罪検挙率を軽く抑えて全国トップクラス。この意味が分かるかね?」

 

「ヒーローよりサツの方が怖ぇってか?」

 

「違う」

 

 爺さんの表情に凄みが増し、えもいえない不安感に囚われた子分たちはリーダー同様爺さんに銃を向ける。

 しかし、爺さんは不敵な笑みを残して告げた。

 

「───────魔女じゃよ」

 

 その言葉が耳を通り抜けた瞬間、窓の方からガラスの割れる音が響き渡る。強盗集団が銀行を占拠してから僅か5分、ヒーロー飽和時代において近場のヒーローが現場にすぐ駆け寄ってくることはよくあるため、5分で現場に着くことなど珍しくは無い。

 だが今日に関しては違う。周辺のヒーローのほとんどが欠番かパトロールの巡回ルートが遠く、早くても10分が限界。警察においても連絡がいってから対応するまでに相応の時間がかかるため来るはずがない。じゃあ誰なのか。

 侵入者はヒーローでも警察でもなく、魔女のような見た目をしたただの女の子。しかし、顔は人とは思えないほどに黒く禍々しく染まった化け物のような見た目で、只者では無い雰囲気を醸し出している。

 

「……あ、ガラス飛んだりしてない? 一応突撃した瞬間に破片全部消したから大丈夫だと思うんだけど、怪我してない?」

 

 女の子はすぐ近くの強盗集団に一切目もくれず、目の前の一般市民の心配をしていた。

 

「おいテメェ、何勝手に入ってきてんだ?」

 

「あ?」

 

 虎田の声に反応し、女の子は不機嫌そうに振り向く。

 

「ここはお前みたいなガキが来るとこじゃないぜ」

 

「お前こそこんなあからさまな犯罪行為して何してんだ、捕まりたいのか?」

 

「……お前、どうやら俺の怖さを知らないようだな。知らねェなら教えてやる。俺の名前は虎田平鵝、今日本中を恐怖で震え上がらせている最強の強盗集団のリーダーだ。ニュースで見ただろう?」

 

「あ──、…………あ〜、あ? あぁ、…………あぁ!!」

 

「テメェ絶対分かってねェな。おいオマエら、コイツに俺たちの恐ろしさを分からせてやれ」

 

「「へい!!」」

 

 子分5人が女の子に銃口を向けて構えるという異例の事態、いつ殺されてもおかしくない状況に人質たちは不安と恐怖にどよめく中、当の本人は一切気にする素振りを見せない。

 

「おいガキ、この銃が見えないのか? 死ぬぞ?」

 

「…………銃ね。うん、撃てば?」

 

「何言ってんだテメェ、死にてぇのか!?」

 

「死にてェというより死なねェんだよな、うん。……まぁ避けてもいいけど、それはそれで跳弾とかして一般市民に被害が出たら私が警察に言い逃れできなくなるからね。というか今この状況を警察に見られたら面倒だから早く撃て。そして諦めろ」

 

「…………オマエら、退け」

 

 銃を向けてもビビらない女の子に対し、虎田は子分を退かしつつ女の子にズカズカと近づく。

 獣人化した虎のような見た目の大男、正面に立つだけでとてつもない圧力を感じるはずなのだがそれでもなお女の子は引かず、堂々とした態度を取り続けている。

 

 我慢の限界が来た虎田は女の子の首を掴んで銃口を女の子の口の中に容赦なく突っ込み、引き金に手をかける。

 その様子に多くの女性市民や男性市民が叫び声をあげたが、子分によって黙らされてしまった。

 

「これでもまだビビらないか?」

 

「へ? ふん」

 

「じゃあ、死ね」

 

 再び響き渡る銃声、放たれた弾丸が容赦なく女の子の柔らかい頭蓋骨を破壊し、滴る血と脳汁が後方から湯水の如く溢れ出て…………なんてことにはならなかった。

 

「…………は?」

 

 もう一度引き金を引く虎田だったが何故か銃が弾切れしており、カチカチという音が繰り返し鳴り響く。

 

「……ほおひい(もういい)?」

 

 女の子は口に入れられていた銃の先端を噛みちぎり、3mもある巨大な大男の土手っ腹に拳を叩き込んだ。

 細い腕からは想像できないほどのパワーに大男は吹き飛ばされ、壁を破壊して外へ放り出されてしまう。

 その様子に焦った子分はハンドガンを女の子目掛けて乱射しようとするが、何故かハンドガンは自分たちの手元になく、全て女の子の手に渡っていた。

 

「あのねぇ、いくら今の世の中が個性で溢れかえってるつったって銃はアカンて。銃刀法違反なんだが?」

 

「ま、銃なんかよりもっとヤベェヤツがココにいるけどな」

 

 女の子は片手でハンドガンを全て握りつぶし、子分を睨みつける。

 あまりのヤバさに子分たちは逃げようとするが、瞬間移動で距離を詰めてくる彼女から逃げられるものなど誰一人としておらず、5人全員首に手刀をくらって気絶してしまった。

 

「…………後は皆を解放するだけ、と言いたいところだが」

 

「そこの裏口からコソコソ抜けようとしてるヤツ、見えてるぞ」

 

 女の子が振り返った目線の先には、地味で小柄な男性が存在した。一見関係無さそうに見えるが、強盗集団と同じ服装をしていたため関係者であることは明らかであった。

 

「ナ、なんデぼクの、こっ、コココセイが効かッ、効かない!?」

 

「それはね、秘密」

 

 強盗集団の秘策、それは彼の個性「隠密」を用いた逃走であり、彼と手を繋いだ人間、そして彼と手を繋いだ人間と手を繋いだ人間にステルス効果を付与するという個性によるものだった。これのおかげで強盗集団は今まで警察やヒーローに捕まらずに済んだのだが、今回は相手が悪すぎた。

 この街を影から見守っている非公式ヒーローもといヴィジランテ、結依魔理沙を相手にしたのが運の尽きであった。

 

「じゃ、全員ボコしたし皆解放してあげるね」

 

 最後の一人もキッチリ手刀で気絶させた後、指パッチンで市民を拘束していたロープを全て切断し、市民は無事解放された。

 危機的状況から助かったことに安堵した市民たちは互いに抱き合い、喜びを分かち合う。そんな感激ムードの中一人の女性が魔理沙におそるおそる近づき、小さな声で質問する。

 

「……あの! 外に飛んでったヴィランって……大丈夫なんですか?」

 

 静まり返る空間。その言葉の真意に気づいた市民は一斉に壁に空いた穴から離れ始めるが、結依魔理沙は「ちょっと待って」と一言言い、壊れた壁の向こうへ向かっていく。

 彼女が行ってから約2分後、彼女は戻ってきた。清々しい笑顔で帰ってきた彼女の手元には、ロープで亀甲縛りされた全裸の虎田平鵝がいた。

 

「ね、安心でしょ?」

 

「え、えぇ……」

 

 女性は魔理沙の笑顔よりも、亀甲縛りされた男の下の方に目線がいっていた。

 

「魔理沙ちゃん、元気か?」

 

「あ、爺さんだ」

 

 魔理沙は虎田を適当なところにぶん投げると、知り合いのところに駆け寄って行った。

 

「……何で爺さんがここにいるんだ?」

 

「パチ屋に新台が入ってきたから、金下ろしに来たんじゃ。したらこのザマよ」

 

「……爺さん、あんたこの前婆さんに怒られたろ。また懲りずにパチスロやってんの? 年金で」

 

「良いじゃろうが別に、若者がワシらの自由にケチつけるでない」

 

「それで事件に巻き込まれてんだからシャレにならんわ。ま、私が近くにいて良かったな」

 

 ハハハと笑いながら互いに肩を叩きあった後、結依魔理沙は助かった一般市民たちの方に振り返り、声を上げた。

 

「はーいじゃあ皆さん聞いてくださーい。銀行出る前にちょっと聞いてくださーい」

 

 結依魔理沙の呼びかけに応じた市民たちは嬉々として受け入れ、またある人は彼女に近づき感謝の意を述べた。

 

「ありがとう、君のおかげで助かった!」

 

「どういたしまして。……ところで実はお願いがあるんだけど」

 

「私のこと、忘れてくんない?」

 

 その発言に全員が驚き、疑問を呈した。

 

「どうしてですか?」

 

「あの……ね? 実を言うと私、正式なヒーローじゃないから警察にバレると結構マズイんだよね。ま、忘れないって言ったところで無理矢理忘れさせるから関係ないけど」

 

「……でも」

 

「あと警察が2分くらいで到着するからやっぱりダメですね。はい」

 

 結依魔理沙が指パッチンで音を鳴らすと、市民は羨望の眼差しから困惑した表情へと変化していった。彼らの記憶から、銀行強盗が襲撃に来たこと、結依魔理沙が助けに来たことが抜け落ち、空白のページと化してしまった。

 

「てなわけで爺さん、事情聴取よろしく」

 

「魔理沙ちゃん、警察の方にも小細工しないとバレるぜ?」

 

「…………はァ、分かったやっとくよ」

 

 結依魔理沙は一瞬で姿を消し、現場から遥か遠い上空へ移動。だいたいこの街の事件を解決するときはこの手に限る。

 結依魔理沙は幼少期から、この手の事件をいくつも解決していた。しかしそれらの事件はほとんどの人間の記憶に残っておらず、誰の目にも止まることなく時が過ぎていった結果、この街は「ヒーローよりも警察の方が優秀な街」として有名になり始めた。

 コード000の襲撃以来、隠密行動と証拠隠滅を心がけるようになったおかげで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を出すことが出来た。途中何回か警察に疑われることもあったが、今の所バレてはいない。たまに証拠隠滅忘れるけど、優しい目撃者が黙ってくれるおかげで何とかやり続けられている。やったね。

 

「じゃ、後始末したら今日は帰るか」

 

 魔女は再び箒を取り出して跨ると、警察のいる方向へ飛んで行った。

 

 

 

 

 






ちょくちょくこっちにも色んな話追加するかもしれない。



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