3度目の人生は魔法世界で (恋音)
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死喰い人編
第1話 天国と地獄の扉


初めましての方は初めまして、どうも恋音(かのん)と言います。この作品は言語その他諸々残念主人公が他人に振り回され振り回す作品です。
3度目という表記は『2度目の人生はワンピースで』歩んだ主人公が転生し、記憶を持たない状態で『3度目』を魔法の世界で過ごすという事なのです。が、しかし。

───それは主人公使い回すための言い訳だ!

ただ主人公を作るのが面ど…しんど…出な…やや困難であったのでこうなりました。名前や性格が同じなだけであります。よって『2度目』を知らずとも『3度目』を問題なく読めます。

IQは下げてお読みください。


 よぉし。分かった、ひとまず分かった。

 私の前世に色々あって、更に地獄の扉を開く様な人間だった事はよぉく分かった。

 

「………ぴぎゃぁあああっ!!!???」

 

 でも目を覚ました瞬間どう考えても悪役みたいな顔した鼻無し男に睨まれる状況は無いと思う。

 

 

 ==========

 

 

 

 気が付いた時には私は真っ暗な空間に居た。

 

「おう…?」

 

 ぽそっと呟いてみたけど、無駄だった。すぐに分かった。この黒は何もかもを吸収して消す。

 

「誰か居らぬか!であえであえ!!」

 

 ふざけて叫んでみたけど誰も答え無い。

 うーん、ちょっと寂しい。

 

「ん?何これ…え、何これ」

 

 一寸先は闇どころか伸ばしたはずの手のひらだって見えやしない。

 どこが上か下か、どっちが右か左かだって分からないあやふやな世界で身体がフワフワ浮いている感覚。

 少し怖い、けど記憶のどこかで懐かしい感覚が蘇っている。なんというか、生き物全ての原点に帰ってきた様な不思議な感じだ。

 

 ……と言うか、私は誰だ?

 

 いや、記憶はボチボチあるんだ。私が何処かの世界で危機一髪だらけの生活を送っていて、トラブルだらけ苦労だらけで。

 そして大切な何かを**したから、私は誰かの声を聞きながら目を閉じ…あ、ダメだ。

 すごく…嫌な予感がする。

 

 私は、目を閉じた?

 

「私、死んだ?え、ちょっと待ってください神様仏様。これ、もしかしてファンタジーでありがちな転生パターン?私の記憶はどこですか?おいおいちょっと待ってくれよ前世の私は一体何をやらかしたって言うんだ?チヤホヤされて調子乗ってたのか?殺人を起こしたのか?誰かを貶める様な最低な女だったのか?それとも聖女だった?天使だった?ダメだ本当にダメだ記憶と言っていい記憶が全く出てこないジーザスッ!!!!」

『やっっかましい!!』

 

 スッパァァァアンッ!

 そんな音が後ろから聞こえたのと、鈍い痛みが後頭部に生まれた。

 

 思考が一瞬停止した。

 

 私、もしかしていきなり叩かれた?

 

「なにすんの!?なにすんの!?」

『うるさいんじゃお前は!静かに過ごしておったのにギャーギャー喚きおって…!』

「いや普通パニックになりますよね!?」

 

 声の聞こえる方向に顔を向けたが見えなくて悔しい。流石に1発殴っても許されるような気がする。と言うか私だけ痛い思いをするの……実に理不尽。世の中平等って大事だよね〜〜。

 

「ということで殴らせろ推定ジジイ」

『何が「ということ」じゃ、このアホったれ!不法侵入!』

「不法侵入ぅ?」

 

 凄い激しく誤解を生んだ気がする。

 (気分だけ)不服そうな表情をしてみると真っ黒な視界の中で霧がかったようなぼんやりとした輪郭が見えてきた。場所が分かれば上等だ、殴る。

 

『お前、器用な奴じゃな…。わざわざ時空の狭間になど落ちてくるとは』

 

 やれやれと言った様子で推定ジジイが音を零す。耳がぐわんぐわんする感じ、とりあえずこの空間が不快だということが分かった。

 

 懐かしく感じたり不快に感じたり忙しいな、多忙さはまるでブラック企業だよ。だから空間が黒いって事か?

 

「ここはどこ、私は誰、貴方は誘拐犯」

『おい』

 

 決めつけたセリフにツッコミを入れられた。でも出来れば前半二つは教えて欲しいです。

 

『はぁ…ここは時空の狭間』

「じくうのはざま」

『人が死したあと、天国と地獄に行き生まれ変わるが。ここは言わば例外が迷い込む場所じゃ』

「と、言うことは私は死んだ、と」

 

 死んでしまうとは情けない。

 ふむ、と考えてみる。

 

「様々な死因があると思うが、なぜ私は体を動かすことが出来る?なぜこの空間は何も見えない?記憶がない理由は?後私が前世?で何をしてこうなった?それとなぜこの空間に迷い込む事になった…」

『疑問があるのは分かったから少し待たんか!』

 

 これでも結構混乱しているから手早く説明して欲しい。害をなす堕天使じゃないとはだいたい分かったから遠慮なく行く。

 

『そうじゃな…』

 

 一つずつ順番に説明される。

 寝惚けた様な頭を必死に回転させながら仕組みというものを理解した。

 

 まず『天国』と『地獄』という物は死んだ後に行ける空間では無く扉らしい。

 それにより生まれる時の家庭環境に差がある。ベルトコンベアー的なので振り分けていく様だが、死後の世界は工場かよと思った私は悪くない。

 

 善人や良い行いをした人は天国の家庭環境。

 悪人や悪い行いをした人は地獄の家庭環境。

 

 『いい子』で無ければならない理由はこれだったのか。人間の遺伝子や本能で察していた様だ。

 

 

 次に、体を動かせる理由は至極簡単な話。作業を簡単に進ませる為らしい。死んだ状態の一番近い活動可能体にまで戻して、その上感情を持ち出されると現在の堕天使さんの様に面倒臭く、時間を取るから自我も記憶も消すとか。

 死んだ瞬間に記憶が消えるなら私はそれに合わなかったという稀有な存在なのね。

 まぁ記憶があれば死んだ殺した云々の面倒臭い状態になるのは分かるので非常に納得。

 

 私が比較的冷静に話を聞けているのは記憶が無いが故に前世への執着が無いからだと思う。かなり意識しないとぼんやりとした感覚すら思い出せないのは残念だけど、仕組みだから仕方ないか。

 

 

 そして最後にこの空間の話。一つの世界を会社だとすると社長が創造神。そしてその部下が天使らしい。細々とした神様は会社にお邪魔する派遣員やバイトみたいな扱い。……わかりやすいけどその例えはどうなんだ。

 堕天使という存在は天使の中での不良。だから何も無い、時空の狭間に堕とされたらしい。

 

 時空の狭間は人間には視力の関係で真っ黒に見えるけど普通の牢獄の様らしい。

 

 

「私の死因は?」

『なんじゃ、聞き流しておったのにわざわざ気にするのか』

 

 身に覚えがないからこそ他人の話を聞くみたいで気になる。死因知らなければ知らないでいいかなとは思うけど。

 

『記憶を探る、少し待て』

 

 無くした記憶を探るとか凄いな。これが神様じゃないんだから驚きだ。

 実際神様に会ったらどうなっていたんだろう。

 

『あーーー……お前さんアレか…あー…そうか』

「えっ、何、怖っ」

『なるほど、ここ数十億年誰かがここに来た記憶が無いから忘れておったわ。はぁ、お前か』

「何その私が前にもここに来て同じような事した的なため息」

 

『………ほぉ、聡いのォ』

 

 なんでだろう。胃が痛い。

 

『まぁお前に前世はもう関係あるまい』

「…そりゃ、記憶がないのに執着しろ。と言われても困りますけど」

『ちなみに前世の死因は自殺じゃったなー』

「おい!おい!さり気なく暴露しないでいただけますかねぇ!?」

 

 やだ疲れる。堕天使自由過ぎる。

 堕天使という生き物は総じてめちゃくちゃなのか、それとも人を混乱させる存在なのか。

 

 ……にしても自殺ねェ。

 仮定として前世の私が『前にも時空の狭間でこの様なやり取りをした』と置こう。正直な感想としては『もう来たくない』だ。

 ベースとなる人格が違えば話は変わるのだが恐らく同じだろう。もう来たくない、死ねば自分にはここに来る可能性があった。

 

 なのになぜ自殺をした?

 自ら死ぬ様な事を?

 

 うん、分からん。考えるだけ無駄だな。私が新しい人生で長生きすれば良いだけだ。

 

「追い込まれる人生だった、ということは天国行きワンチャンあるな」

『何を考えとるかと思えば先の心配じゃったか。そうじゃな、お前さんはそういう奴じゃな』

「どういう奴かは分からないが転生特典カモン」

 

 定石(セオリー)を楽しみにしています。

 その気持ちを込めて両手を広げると『は?』と言われてしまった。

 顔面が見えないが絶対腹の立つ顔をしている事には違いない。

 

『そんな物は神にしか出来んわ』

「……マジかよ」

 

 稀有な存在。不思議な空間。他と違う空間主。

 そこまで来たらチートで特別な特典が付くのはもう流れでしょ!なんでだよ!

 

『あーあー分かった。分かった。アドバイスだけしてやるわ』

「平穏無事に人生を送れるアドバイス…?」

『…………はて、何か言ったかの』

「おい待てその間はなんだ」

『仕方あるまい、お前の魂にはベッタリと【災厄吸収】という能力がくっついておる。生きるだけで災厄続きじゃ』

「なら!!何故!!それを払拭できる様な!!チートの才能が!!ないんですか!!」

 

 まるで血涙。

 衝撃の事実に涙が止まりません。胃がキリキリする。せめて痛みを無くす仕組み的なのはついていて欲しかった。

 

『人生は〝集中力〟を高めて〝想像力〟と〝思い込み〟で大概なんとかなる。次の生をせいぜい楽しめ』

「その投げやりなアドバイスはな…──ぅを!」

 

 体が、私の体が光だした。

 初めて体が見える。少なくとも皺だらけの手じゃないみたい。

 

 でも更に光が強くなって、光の塊になる。ここまで光れば体云々は見えない。

 

『〝リィンカーネーション〟』

「だだだ、堕天使さん!?」

『なに、失敗はするまい。天国か地獄かはお前さんの前世次第だがの』

 

 笑っていた。

 

『またのぉ』

「も、もう一度は要りませんんんんんッ!」

 

 

 

 災厄吸収能力という不安を抱えながら、私は転生を経験する事になった。




初ハリポタということで設定等に把握漏れあるかもしれませんがその時はこっそり教えてくれると有難いです。
この物語は想像の斜め上を行く系作者、恋音(かのん)よりお送りします


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第2話 赤ん坊は聞いている

 

 転生した。

 その意識はじわじわと実感する。

 

 そして目を覚ましたのだが、私の目の前に鼻のない『the悪役』って顔した男が私を見ていた。

 

 ………まぁ、叫ぶよね。

 

「ぴぎゃぁああああ!?」

 

 赤ん坊特有の甲高い声の喉の焼けそうな痛みがあるので確実に私の声だった。一気に実感した。

 

 目の前の男はぎょっと目を見開いてオロオロしだし、私を抱えたまま誰かの名前を呼び出す。

 

 

 なるほど、自分より混乱している人間が身近にいると冷静になれるな。

 

 そんなことを考えて周囲を確認して見る。

 埃まみれの健康に悪そうな屋敷、湿度の高い空気、薄ぼんやりとした光、蛇。

 

「びいいいいッ!?」

 

 大の大人でも丸呑みできそうな大きさの蛇が『待って、待って』と言いながら私を抱いた男の後ろを付いて…───ん?()()()

 

 冷静になれるとか言ったな、あれは嘘だ。

 パニックになった。

 

「せ、せせ、セブルスーー!」

『待ってってば!』

 

 は、鼻無しさんは何よりもまず先に蛇ーーッ!

 

 

 ==========

 

 

 1週間。順番に次々訪れるヒキニートの様な人達に頭を下げられて鼻無しさんがドヤ顔をする日々が続く。私は限られた範囲の中で死ぬ気で言語を覚えるはめになった。

 理由?何が何だか分からない上にこの世界があまりにもファンタジー過ぎると分かったからだ。

 

 まず私の名前はリィン。家名は正直良く分からない。父親の家名が分からないんだから仕方ないかとは思うけどね。

 

 そして鼻無しさん。やはりというかなんというか父親だった。

 

 感覚的に名前は恐らく『ワガキミ』というらしいが、本当かどうか分からない。だってこの人『やみのていおう』とか『ごしゅじんさま』とか言われてるもん!名前どんだけあるんだ!畜生!

 そして誰もいない事を確認すると毎日毎日『パパでちゅよ〜可愛いでちゅね〜』などと言ってくる。内容は知らない。他人の目を気にしてるということは普段の態度と違うという事だろう。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 言葉に関しては少しずつ根気強く言葉を覚えていく他ないだろうな……。

 

 死ぬ気で言語を学ぶ事になった最大の要因。

 それは周囲の人間がそれぞれ杖を持ち出して振り回すのだ。なんか物浮くし、私浮くし、ご飯作れるし、なにそれやべぇ便利じゃん。

 それを教えてもらいたい。時空の狭間で自称堕天使が言っていた事がこの事なのか良く分からないので。後、寝るのが暇すぎて苦痛。

 

 興味を示して杖に向かって手を伸ばしてみたが蛇に止められた。蛇の言葉は何故か分かる。でも、父と私以外分からないらしい。

 

『だめよリィンちゃん。貴女にはまだ早いわ』

『ナギニ、魔法に興味があるのはいい事じゃないか。我が娘多分天才』

『そうね…──食べちゃいたいくらい』

 

 親バカだなー、とか。魔法なのかー、とか。蛇話だと言葉が分かるなー、とか。そんな事を気にするより前に蛇のナギニさんの発言が怖くて堪らなかった。

 冗談に聞こえないので勘弁してください。

 

 

 まぁこの発言のお陰で何故か蛇語がわかるということが判明したので知識はナギニさんから得ることにした。

 

「なぁさ」

「ッ!喋った、我が子喋った!初めて喋った!」

『ハイハイ喋ったわね。聞こえているから主は落ち着きなさいよ』

「なぁさー」

「せ、セブルスーー!!」

『困ったらセブルス呼ぶの止めなさい』

 

 父親の言葉の意味は分からなかったがナギニさんの返事で大体の意味が分かる。

 

 とりあえずセブルスさんという方は大変だな。

 

 

 

 そんなこんなでいつも通り勉強している今日このごろ。私は父の言っていた言葉の意味や世界の仕組みについて勉強していた。

 

「なぁさ」

『なぁにリィンちゃん』

「〝ハゲル〟の、いみは、何ぞ」

『…髪の毛が抜ける事よ』

 

 なるほど、ハゲか。

 

「…もろもろぞ?」

『元々ね』

 

 私の父親よく「可愛すぎて禿げる」と言いますが元から髪の毛は絶望的です。

 

「なぁさ、きょーじゅねー」

『きょーじゅねー?』

『…色々なこと教えてください』

『なるほど』

 

 ナギニさんは色々なことを知っている。でも蛇だから人間の言葉は喋れない。でも人語は理解出来るみたいだ。

 元々人間だったのに蛇になったみたいだ。感覚的にそう思うだけどから実際は有り得ないだろうけど……有り得ないよね、流石に。こんなファンタジーな世界でも流石に……有り得そう。

 

 とにかく、私が疑問に思った単語やセリフを蛇語に訳して貰って意味を理解するという方法で言語を学んでいる。父親には内緒だ。

 

 ナギニさんがお気に入りだ、と父親も周囲も思ってくれているので沢山お勉強出来る。

 

 

『闇の魔法使いや魔女の中でもヴォルデモート卿の我が主に賛同する人々を死喰い人というの』

「やにゅの、まおつかい」

『リィンちゃんは魔女ね』

「マヨ。さんどー、とは?」

『純血主義でマグル出身者を排除する、って思想の事ね。生粋の魔法使いしか認めないって事』

「まぐまぐ」

『マグル? 魔法が使えない人間の事よ』

 

 ナギニさんまじで有能。舌っ足らずどころじゃない私の言葉を理解してくれる。

 シューシュー言うだけの蛇語なら間違い無く喋れるんだけど、下手に自我がある分聞き取りが出来ても喋る事が苦手だ。

 

 

 この世界には二種類の人間がいる。魔法が使える魔法族と使えないマグル。

 生粋の魔法族やマグルとのハーフなどとその中でも様々に分かれているらしい。

 

 生粋の魔法使いの家系を『純血』

 純血とマグルのハーフを『半純血』

 マグル出身の魔法使いを『穢れた血』

 魔法の使えない魔法族を『スクイブ』

 

「うみゅん…」

 

 差別社会だ。しかも父親は純血至上主義。

 確定じゃないが恐らく私も純血だろう。純血主義を掲げる選民思考の人達にペコペコ頭を下げられていたら父がヤベーヤツって事は分かる。

 まぁ生まれからヒエラルキーの頂点(属性:闇)ならある程度自由は効くのか?

 

 父親は一体何者なんだよ。

 

「おるー…なにゅやつ…」

『我が主が何者か、って?』

 

 ナギニさん。なんで分かるんや。

 

『主は闇の帝王。最も邪悪な魔法使いよ』

「じゃーきゅー」

『あと色々な魔法を開発する研究者でもあるわ』

 

 ということは総合して父親はテロリストのボスって事で、周囲にいる人間は同じ様なヤベー考えを持っていて、テロリスト集団。

 あっ、これ終わった。

 間違いなく地獄の扉だ。自由は消えた。胃がとても痛いです。

 

「我が娘よ」

「ひぎゃぁあああ!?」

 

 バチンッ、と突然出てきた父親に思わず恐怖を覚える。いきなり現れるのは心臓に悪い上に、顔面が見せちゃいけないレベルの有様だから少しこっちの事を考えて欲しい!

 

 その瞬間移動はどうしたの!?魔法!?

 

「紹介したい男がいる」

「んぱぁ」

「ッ!!!ハァイパパですよ!」

「………何をしてらっしゃるんですか我が君」

 

 扉を開けて呆然としているハゲ予備軍の貴族様が父に言葉をかけた。

 それを聞いた父は私を抱き上げ睨みつけてた。

 

「極普通のことだ」

「……」

 

 『何言ってんだこいつ』みたいな顔してるから父は喋らない方がいいと思う。

 

「リィン、こいつはルシウス・マルフォイだ」

「え、我が君怖くない…なんで…?」

 

 ナギニさんに教わってない言葉の意味は分からないが、全部覚えておく。後で聞こう。

 

「……初めまして」

 

 おーっと、その顔は『なんで赤ん坊に自己紹介なんかしなくちゃいけないんだ』的な顔だなー?

 

「あい」

「見たかルシウス、俺様の娘可愛すぎだろ」

「……………やみのていおうとは」

 

 あっ、今の言葉は意味が分かったぞ。

 帝王っぽくは無いよね。

 

 ルシウスさん、という人が遠い目で明後日の方向を向く。

 そうだね、入った瞬間ビクリと肩を震わせていたということはルシウスさんは父に恐怖心に似た感情を抱いていたのに。

 

 威厳、どこいった。

 

『それで主、ルシウス呼んでどうしたの?』

『親族になるから教えておこうかとな』

『あぁ…』

 

 ナギニさんがナイス過ぎる。片目でパチンとウィンクする蛇にキュンとするとは思わなかった。

 

「るぅーさ」

「えっ、わ、私の事か!?」

「るぅーさぁ」

『分かるのかしら、リィンちゃんの母親がルシウスの妹だって』

 

 わぁお、伯父さんでしたか。

 ジロジロ見てみると、ルシウスさんはドヤ顔した闇の帝王(笑)にチラチラ視線を寄越しながら後退した生え際付近にジワリと汗をかいている。

 ブロンドの金髪はサラサラしていて、私も金髪なので血筋はこっちからかと思っている。だってほら、父はハゲじゃん?毛とか、分からないよ。

 

 ルシウスさん、めちゃくちゃ困惑している。

 私が生まれる前の帝王の姿を聞いてみたかったが仕方ない。

 

 ……意思疎通が出来ないの不便だな。

 

「るぅーさぁ」

「は、はい」

 

 手を伸ばせば父に伺いを立て恐る恐る抱き上げた。ふむ、なかなか悪くない抱き心地だ。

 ルシウスさんは父に聞こえない様な小さな声で呟いた。

 

「………息子の方が可愛いな」

 

 私には聞こえてるんですけどなーーーー!?




一人称視点なので情報が正しく伝わらないという。

今作の主人公リィン
例のあの人の娘、つまりラスボスの娘、原作主人公の敵の娘。どっちみち立場がやばいので胃を痛める。

ナギニ
蛇。ヴォルデモートの…保護者的な立場に立ってしまっている。

ヴォルデモート
『我が君』とか『闇の帝王』とか言われている原作ラスボス。魂分けるて不老不死になろうとか思っている頭おかしい人。

ルシウス・マルフォイ
リィンの親戚でどうやらリィンと同じ年の息子がいる様子だフォイ。

母親(オリジナル)
ルシウスの妹。病弱で作者の中では早々にぽっくり逝った感じ。

評価お気に入り、そして感想。ありがとうございます予感はしてた畜生。
まだ物語全然始まってないのでしおりでもポチーと挟んでおいて下さいな。気に入ったら是非是非上記の3つを!


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第3話 3回以上は確定でいいと思う

 

 暦が8月に代わり、生まれて大体2ヶ月が経過したある日の事。いつも通りナギニさんに言葉の勉強と魔法の知識を教えてもらいながら過ごしていた時だった。

 

「世話係が出来た」

 

 鼻と髪と常識無しの父は何を言ってるんだと思った私は悪くないと思う。

 

 唐突に始めて周りの理解を振り切る方法はとてもやめて欲しいし暴君だと思った。父に連れられてやって来た男はビクビク震えながらやや小太りの薄らハゲだった。

 ……魔法を使うとハゲになるのではないか説が私の中で提唱された瞬間だ。

 

「コヤツはピーター・ペティグリューだ」

「ぴ?」

「ピーター」

「ぴーぁー」

「……。我が娘さては天才なのでは???」

「ご、ご主人様…?」

 

 ピーターと呼ばれた人間はやや疲れているのか歳をとって見えるが、おそらく20代前半だと思う。父に振り回されて大変ですね。

 

 生まれてようやく首が座ってきた状態でこの騒ぎ。世話係にしては若すぎる気がするけど。

 

「リィン、これを」

 

 父は私の首にペンダントをかけた。そして蛇語で語りかけてくる。

 

『何かあれば蛇語でセブルスと叫ぶんだ。一瞬にしてやって来る。俺様は表に出にくいからな』

 

 名前しか知らないけどセブルスさんには心から同情したい。

 あとなんで蛇語を理解出来て喋れること前提なのかそこを聞きたいのですが父よ。

 

『我が娘、喋れるのは分かっている』

「むぁ」

『何故わかったか知りたい顔だな、俺様の娘だからに決まっているだろう!』

 

 ………嗚呼、この人アホなのか。

 

 ナギニさんが蛇なのに呆れた表情をしていた。

 

『あの男は強き者に屈服する。裏切りの可能性は捨てきれないのだ……』

 

 なるほどね。

 父にとってピーターは信じられなくて、セブルスさんは信じられる。

 そして私は蛇語を理解出来て喋れる。

 

 だからこそいざと言う時の為にこのペンダントという事か。

 

 ──いつバレた。喋れる事が、ハッキリした自我を持っている事が。

 

『……ごめんねリィンちゃん。私は主の味方なの。隠してあげられないわ』

 

 下手人見つけたわ。うん。

 

『……分かった』

『ソイツはこき使え』

 

 他人には蛇語が分からない。だから父の真似をした純粋無垢な子供のフリをする。

 父は阿呆だけど頭いいとか狡いと思う。

 

「俺様も忙しいからな。世話は貴様とナギニに任せる」

「は、はい!分かりましたご主人様!」

 

 ビクリと肩を震わせて返事をしたピーターは父が出ていった瞬間大きく息を吐いた。

 

 父は一体何をしに行ったんだろうかと思ったけど碌でもない事をしてると考えるとお腹が痛くなるので花畑でルシウスさんと遊んでる事にした。

 

 大の大人が花の冠を被せあって遊……。

 

 想像以上にR18-Gだな。

 

「はぁ……怖かった…」

「いーあ」

「ヒッ!?」

 

 お、おう。怯えすぎでは無いか…?

 父の娘というレッテルが邪魔をして…──ん?まてよ?果たしてこのレッテルは邪魔か?

 

「ぴあ」

「は、ハイッ!」

「そぉ」

「……??」

「そーおー!」

 

 ビシッと窓を指さして訴えた。喋る筋肉を鍛えなければならない気がする。

 

 私は、外の世界を知りたい。

 

「ひょっとして…外に出たい…とか?」

「うあー」

「あっ、際ですか…。えっ、コニュニケーションが取れるの?なんで?」

 

 全ての理由は『父の娘だから』で済ませて欲しいです。

 

 そう、父の娘というレッテルは使える。

 少なくとも怯える人間に対しては。

 

 虎の威を借る狐?笠に着る?他人の威光で威張る?

 なんとでも言うがいい。自分本位な人間は何でも利用する。快適と、怠惰、そして安全の為に。

 

「ぴあー」

「は、はい!」

「……ごお」

「ヒェッ」

 

 さぁ、私を連れていくのだ。

 

 

 ==========

 

 

「ひゃぁあ!」

 

 バチンと姿現し─瞬間移動の魔法─の音と共に一気に明るくなった視界。始めて見る外の世界に思わず興奮する。

 斜めに歪んだ建物は道の両側にそびえ立っており、街ゆく人々はローブを着込んでいる。建物の中はキラキラしていて、そこらで物が浮いていたりなど様子は様々だ。

 

 うん。封ぜられし厨二心的なのが疼くよね。

 

 そりゃ、父は闇の云々とか名乗るわけだ。頭も可哀想な事になってるし。

 ……魔法研究者なら発毛魔法的なの作ればいいのに。

 

「えーっと、お気に召した…?」

「ぬあああ」

「……よく分かんないんだけど」

 

 赤子は皆そういうものだよ、学べ独身。

 

「じゃあ首動かせる?」

「む!」

 

 コクリ、と頭を縦に振ると目に見えてホッとした表情に変わった。

 

「ここがグリンゴッツ魔法ginkou」

「ぬ?」

「ginkou…お金を渡したり受け取ったり」

 

 なるほど銀行か。

 説明によるとグリンゴッツ魔法銀行はゴブリンが経営する魔法界唯一の銀行らしい。お金だけじゃなくて様々な物も仕舞えるとか。

 

「こっちはオリバンダー杖店。僕がgakuseizidaiの頃からkeieiされてるけど…」

 

 ふんふんなるほどなるほど。

 

 ……全くとは言わないが分からないな!

 説明を聞くには勉強不足だ。無理。所々意味の分からない単語があるから重要な部分が分からない。蛇語翻訳機の発売はまだですか。

 

 動詞や副詞はまぁまぁ大丈夫だ。でも名詞が特殊すぎるんだこの世界は!

 

「で、こっちはフローリシュ・アンド・ブロッツ書店。ホグワーツのkyoukasyoとかtyomeizinの本もあるよ」

「んむぅ…?」

「あー…流石に分からない…かな…」

 

 私が分からないと頷くと、ピーターは私を抱いたまま少し震えた。

 

「………」

 

 私の機嫌は損ねたく無い、という事か。

 

 まあ、自我があると分かった以上『訴える』事も『伝える』事も出来る。

 ピーターが怯える、私の父に。

 

「ごお!」

 

 強き者に屈服するなら、私に屈服しろ。

 今は父の威光で威張るだけの狐だけど、心に強く染み付けばいい。

 

 私の平穏の為に…──

 

「わっ!」

「うわぁ!?」

「にょあッ!?」

 

 心臓が飛び出るかと思った。

 

 私を落としそうになったのか、ピーターはワタワタと焦る。

 『他人を利用して安心安全を手に入れる』って感じに決意を固めようとしてた時に邪魔するのは止めて頂けませんかね。

 

「もっ、もう、ホント、止めてよジェームズ」

「えぇ!? ピーターに子供!? なんで!?」

「ちょっと、声が大き過ぎるって!」

「ゥアーッ!」

「ほら!」

 

 そこには生え際が少し寂しくなった眼鏡の男が驚いた顔をして私を見ていた。

 

 ……やっぱり魔法使うとハゲるのでは?

 

 いや、そこまで酷くは無いんだけど。それでも、ねェ。

 闇の頂点に立つ父は全てハゲていて、その親戚のルシウスさんも生え際がハゲていて、父に私の世話係としてなら認められるピーターも円型のハゲ。とりあえず有能な人達はハゲている。

 

 つまり使えば使うだけハゲて……。

 

 いやいやまてまて、目の前のハゲもどきが居るじゃないかリィン。

 この人が魔法苦手だったりしたらハゲにはならない。それは決定される。

 

「ぴーあ」

「う、ご、ごめんね。……このmegane掛けてるジェームズはgakuseizidaiからitazuraが好きでとってもやかましいんだ」

「うあ?」

「……ごめんなさい」

 

 よく分からない。とりあえずこの男がジェームズという名前なのは理解した。

 

「まさか驚かして驚かされるとは思ってもみなかったよ……流石ワームテールだ」

「僕はジェームズの言ってる流石の意味が全く分かんない」

「ええ、本当にねッ!」

 

 スパーンッとジェームズさんの頭に平手が炸裂した。……随分気持ち良く決まったな。

 

「ごめんなさいピーター、と、赤ちゃん」

「う、うん。でもジェームズの手綱は持っていて欲しいよ、リリー」

 

 私より小さな赤ん坊を抱いた女の人はリリーさんと言うらしい。多分ジェームズさんと夫婦だ。

 

「ジェームズ、何してんだ?って、おお、は!?ピーターァァア!?えっ、なんでガキが!?」

「シリウスもうるさい…」

「いい加減にしなさいよそこの双子。ハリーが起きちゃったらどうするの」

 

 シリウスさんという方が増えた。やだどんどん増える。

  赤ん坊のハリー君はこの騒音の中スヤスヤと眠っていた。こんな中で寝れるとか将来は大物になれるんじゃないだろうか。

 

 私やルシウスさんの息子と同年代かな〜。

 学校はホグワーツ魔法魔術学校って言うところが有名で、イギリスに住んでたら大概その学校らしい。……父はあまり好きじゃ無いみたいだ。

 

 するとほんの少しの差だけど私を抱く腕の力が強くなる。

 

「ぴあ?」

 

 見上げると悲しそうに笑っている。視線の先には騒がしいジェームズさんとシリウスさん、そしてハリー君を抱いたリリーさん。

 

 

「……ごめんね」

 

 

 私の視線に気付いたのかピーターは小さな声で謝った。

 

 

 その謝罪は、誰に向けて言ったんだ。




幼少期は一人称視点で聞きなれない単語達はローマ字にすることにしました。解読しようと思えば簡単に出来るやつ。
ピーター・ペティグリューの長い物には巻かれろ的な精神、嫌いじゃない。


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第4話 悪戯のお菓子と苦労の味は同じ

「だから! 我が君は私の息子の可愛さを分かっていないのです!」

「ルシウス貴様っ、我が娘が世界で一番可愛いと認めないのか!」

「我が君!」

「ルシウス!」

 

 ……一体なんだよこの大人共。

 

『男って馬鹿ね……』

「ばう……」

 

 ナギニさんの言葉に全面賛成したハロウィンの午後。大人げない親達の親バカ喧嘩を聞き流しながら目の前のドラコ君と遊んでいた。

 少なくとも生まれて4ヶ月の子供を放っておいて喧嘩をする親は失格だと思う。

 

「んぱぁ!」

「呼んだか」

 

 呼べば簡単にやってくるので嬉しそうな顔をしている父を──突き落とす。

 

「ぴ〜あ〜?」

 

 ピーターはどこですか?

 

「セブルスーーッ!」

 

 おい待て、呼ぶ相手が違う。私は!頼めば!外に出してくれる!ピーターを呼んだんです!

 

「リィンよ、最近ピーターばっかりじゃないか」

「んべー」

「うっ、我が子可愛すぎ…」

 

 ちょっとした反抗心で舌を出しても父(属性:親バカ)には効かなかった。いや、ある意味クリティカルヒットしてるんだけど。

 

「1ヶ月ピーター禁止令をする」

「めっ」

「禁止令やめる〜〜〜可愛すぎ〜〜」

「落ちたものですね、闇の帝王」

 

 簡単に叱っただけでコロッと表情と態度を変える闇の帝王はこちらになります。

 

 ドヤ顔してる所悪いけどルシウスさんはその言葉言えないからね。息子のドラコ君をめちゃくちゃ可愛がってるじゃん?『いやいやぁ』ってドラコ君が首を横に振ったらこの世の終わりみたいな顔してたじゃん?

 ……死喰い人終わったな。

 

「我が君、お呼びですかな」

 

 扉からのっそりと現れたのは肩まで髪を伸ばした幸薄そうな──

 

『──コウモリ?』

「コウモリ……」

「我が君、そうやってしみじみと言うのをやめていただきたい…。何故唐突にコウモリなどと」

 

 蛇語(パーセルタング)で呟いた言葉を目敏く聞き取った父がポツリと呟く。コウモリの人は眉間に皺を寄せ、酷く疲れた顔をして父を見ていた。

 

 あぁ、この人が苦労人。

 

 ……噂のセブルスさんね。把握した。約半年生きてきてようやくお目にかかれたよ。

 彼は他の死喰い人と違って父への扱いが雑に見える。おそらくここ数ヶ月親バカ化した父の手綱を握っていたからだろう。お疲れ様です。

 

「んぱぁ〜」

「どうした我が娘よ」

 

 呼んで指をさせば、不服そうにしながらも苦労人を紹介する。

 

「あやつはセブルスだ」

「せう、うす」

 

 名前の呼び方を教えてくれたので繰り返してみるが思ったより喋れなかった。喋ることは今後の課題だと思うけど、ちょっとした言い方で意図を読み取る父とピーターが悪い。

 

「セブルス」

「せううす」

「セブルスだ」

「せうううー」

「………セウでいい」

「我が君!」

 

 ルシウスさん並に発音が難しい。もごもごと口の中で繰り返し練習するが上手く発音できない。

 

「せうさぁ」

 

 セブさんでいいや。今後の発音に期待。

 ちなみにルシウスさんは発音的にフルの方が楽だったりする。

 

「………なんでしょうか、姫君」

「セブルス。ドラコの方が可愛いでしょう?」

「ルシウスも少々黙りやがった方がよろしいと思いますがね」

 

 そう言えば闇の魔法族の人達には姫君って呼ばれてたな。

 

「ぱ、めっ!」

「……何言ってるんだコイツは」

 

 聞こえたからな。絶対一生忘れてやらないからな。

 

「……我が君を叱り付けろと仰せですか」

 

 その通りですね!

 心の中でやっと正解したかと大喝采していると父が蛇に癒されていた。ナギニさんはとても喜んでいるから良いんだけど動物虐待……。

 

 ナギニさんがもし人間になったらめちゃくちゃ綺麗な人なんだろうなぁ。化粧は濃いめでミステリアスが似合うと思う。いっそ口紅を黒にしてみるとかさ。

 私の中でナギニさん元人間説が強く根付いているんだけど流石に違うよね。人間が動物になれるわけが無い。

 魔法?呪い?はたまた遺伝?1度でもいいからお目にかかってみたい。

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

「んあ!」

 

 抱っこの催促をすると微妙な顔をしながら渋々抱き上げた。初回ピーターと違って遠慮が無い。

 父に伺い立てるとかそこら辺ね。

 

「姫君の父上は拗ねていらっしゃいますからドラコと遊ぶのですよー」

 

 激しく棒読みのセブさん。

 

 ペンダントをしている限りもしもピンチになった時『セブルス』とパーセルタングで呼べば即座に反応してやって来てくれるらしいけど未だに怖くて実験してない。どんな人がやって来るのか的な視点で。

 この人が来るのかぁ。

 

 真面目で堅物、そして陰湿そう。

 だけどその分扱いが正しければ動かしやすいタイプでもありそうだ。逆にルシウスさんは扱いにくいタイプ。

 

 ……弱点を見つければなぁ。

 

「……? samukeがする」

 

 ボソリと呟いて首を傾げたセブさん。

 

 抱かれ心地がすごく悪い。絶対にピーターを見習った方がいいと思う。

 

「ぴーあーッ!」

「うわっ!?」

 

 抱っこをお願いした身としてはなかなか訴えづらい事だけどチェンジで。

 

 喉が焼けそうなくらい大きな声で叫ぶとそれに驚いたセブさんが私を落としかけた。

 

 ビックリすると人って物を落とすんだね、勉強になったよ。

 

「失礼します…!」

 

 ドタドタと走る音が聞こえて部屋に飛び込んできたのは世話係のピーター。待ってた。

 

「えっ、スニベルス!?」

「な、ピーター・ペティグリュー…!?」

 

 2人が顔を見合わせて驚く。口が鯉のようにパクパクと開いたり閉じたりしているけど、見た限り知り合いでしたってオチだな。

 

「なんでこんな所に……闇の魔術が好きだってのは知ってたけど……」

「リリー達はどうした、ポッターやブラックと何故居ないんだ……」

 

 ……ポッター、ってあの初回限定盤外出で出会った薄らハゲだよね。

 

 あ!ハゲで思い出した!セブさんあんまりハゲてない!でも髪質はねっとりしてるからびっくりするくらい悪いね!魔法を使うと髪の毛に異変が現れるかもしれない!

 父LOVEのベラさんって女の人も髪の毛がストーブで焼かれたみたいにチリチリしてたし。あれはもう髪質が異常。

 

「リリーには言わない。だからジェームズに言わないで……お願いだ」

「……分かった、お互い交換条件だ」

 

 あ、私が呑気に髪の毛の話してた間に心の整理が付いたみたい。

 お互い真剣な顔で呟く様に言った。

 

 とりあえずセブさんはリリーさんが弱点なのかもしれない。確かジェームズさんのお嫁さんの赤ん坊抱いた赤毛の女の人、だったよね。

 

「ぴあ?」

「あ、ごめん。スニベルスは学生時代同学年だったんだ。ジェームズ達が率先していじめてたって言った方がいいのかな」

「貴様……ッ!」

「うわっ、ごめんスニベルス!説明癖が!」

 

 その説明癖は私のせいだわ。

 なにか疑問がある度にピーターを呼んでたもんね。仕方ない。

 

「すいえうす」

 

 あだ名らしい呼び方を真似してみたら横で無関係のルシウスさんが吹いた。解せぬ。

 

「……セブさんでいいからそれだけはやめろ」

「やだぁ、セブさんとか似合わない」

「学生の頃に比べて随分と度胸が付いたようで何よりですなぁ、kosigintyaku」

 

 こ、こし?腰なんだって?

 まだまだ分からない単語が多すぎて嫌になる。

 

 ただピーターは初めの頃に比べて堂々としだした。アレか、姫君のお気に入りだと言われているからかな。そうだね、都合いいからお気に入りだよ。ナギニさんの次に。

 

 あ、お腹空いた。

 

「ぎゅえう!」

「何語だ」

「あ、多分お腹空いたんだと思う」

「……お前は何故わかる」

「…………慣れ?」

 

 これがピータークオリティ。言葉にすらなってない言葉を読み取って叶えるから私は言葉が発達してくれない。これはこれで快適かな?

 

 抱っこの催促をピーターにすればピーターは随分と慣れた様子で抱き上げる。役目を取られたセブさんは若干不機嫌な顔付きになった。

 これは、負けず嫌いかもしれないな。

 

 ……うん、使えるな。

 

「おやつにしようか。今日はハロウィンだし」

「いん!」

「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、って言葉があるんだ」

「〝とあといー〟」

 

 ──ポンッ

 

 愉快な音を立ててお菓子の種を持った花が咲いた。私の手から、お菓子と花が咲いた。

 ちょっと自分でも何言ってるか分からない。

 

「うっそ……魔法使えてる……。ごごご、ご主人様ぁぁあ!?」

「んぱぁああ!」

「我が子天才…ッ!」

 

 視界の端に悔しがるルシウスさんと頭を抱えてしゃがみ込んだセブさんと、キラキラ目を輝かせているドラコ君が居た。カオスだなと思いました。まる。




ドラコ・マルフォイ
…リィンの従兄妹でルシウスの息子

ピーター・ペティグリュー
…この度翻訳機の称号を手に入れた

セブルス・スネイプ
…まだ胃薬は必要としてない。まだ闇側。


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第5話 涙の数だけ味方が減る

 

 

 微睡んだ思考の中で父が私を抱いていた。ようやく見つけた宝物を大切に守る子供の様に。

 

「あぁ…これが〝愛しさ〟だったのか…」 

 

 真っ赤に染った宝石みたいな『空』から、ぽつりぽつりと『雨』が降り、私の顔を濡らす。

 室内にぼんやりとランタンが揺れていた。

 

「欲しかった、ずっと、手に入れたかった」

「ぅあ…」

「愛してる。愛してる。……リィン、愛してる」

 

 確かめるように何度も呟かれる言葉、限界だった眠気が一気に襲いかかってきて、私は心地よく目を閉じた。

 

 起きた時に、親バカの蛇面があっても、もう叫ばない。

 

 

 

「びぃぎゃあああああ!」

 

 嘘。叫んだ。

 さすがに顔面がホラー。私、ホラー無理です。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「魔法が上手、魔法が上手」

 

 そんなあんよのノリで魔法を求められても。

 

「ベラ、ピーター。魔法の様子はどうだ?」

「えっと、流石ご主人様の娘と言いますか、魔力の循環がスムーズなので暴走はしてません……」

 

 魔法が使えたその翌日、急遽私の魔力テストの様な事が行われた。

 私専属超優秀世話係のピーターが私の手を握って、父の側近であり髪が物凄いチリ毛のベラトリックス・レストレンジ─通称ベラ─が屈んで私を見ながら『天才』という判断を下す。

 

 魔法というのは杖が無いと出来ない物だと思っていたけど、どうやら素手でもいけるらしい。

 

「ぴあ」

「えっ、何?」

「んおあー!」

 

 右手で杖を振る真似をしてみるとピーターはすぐに察してくれた様で自分の杖を貸してくれた。

 

 まず最初に疑問がある。それを検証する。

 

 時空の狭間に居た堕天使は『人生は〝集中力〟を高めて〝想像力〟と〝思い込み〟で大概なんとかなる』と言った。

 問題は『集中力』と『想像力』と『思い込み』

 

「〝うあーれーお〟!」

 

 杖を置いてまず浮遊魔法を使う。何度も見たから想像しやすい。

 ………ピーターが浮いた。うん、成功。

 

「び、びっくりした。あ、でも杖使って無いね」

 

 今度は私は杖を振って魔法を使ってみた。さっきと同じ様に、同じくらいの力で魔法を。

 

「ぴぎゃん!」

 

 不発。

 なるほど、大体わかった。

 

「ど、どういうこと?さっきはうまくいったのになんで使えないの?」

 

 ピーターは困惑した表情で私を見た。私は想像以上の結果にほくそ笑む。

 

 確かに集中力と想像力と思い込みが必要になってくる訳だ。私は一つの仮説を立てた。

 

「んにょ」

 

 この杖は魔法を制御するためのものだ。そして、素手で使えるということは、杖は必要ない。

 

 ピーターに杖を返しながらそう思う。

 

 

 魔法とは、人が誰しも使えるものであると考える。魔法の使える素質は魔力としよう。

 マグルとはその魔力が足りない者、そして魔法族とはその魔力が一定以上の数値を持っている者の事だろう。

 

 不可思議な能力を持つ魔力というものは、扱いづらいものなのだろう。そして、それを制御するためのものが杖。

 

 『コントロールさえ出来れば杖はむしろ邪魔になる』という事。

 

 『集中力』と『想像力』と『思い込み』の補助をしてくれる杖だけど、必要以上が出ないようにセーブされている恐れが高い。

 

 感覚でだけど杖無しとありで魔法を使う時同じくらいの量の魔力を使った。

 イメージするならホースと蛇口だろう。流れる水の量の半分を魔法だと置くと、ホースは全開で使う事が出来、蛇口は捻らなければ出ない。

 

 呪文を唱える事は、恐らく捻る動作。

 

 

 あくまでも私の考えた仮説だから正解とは言えないけど。

 

 ピーターの様子を見た限り、子供の時代には魔力の暴走とやらがよく起きるのだろう。つまりそれを学ぶ為に勉学をし、杖を手にいれる。

 

 そうなると杖無しでは魔法が使えないと認識されていくんだ。子供の頃、杖無しで使えたのに。

 

 

 ダメだ、魔法界の闇を覗いた気がする。洗脳教い…──胃が痛くなってきた。

 

 

 この世界は常識を疑ってかかることにする。

 闇が深い。

 

 ひとまず、私の魔法についての解釈はこう。

 ・発動は〝呪文〟では無く魔法の『想像(イメージ)

 ・『集中』してコントロールすれば杖は不要

 ・『思い込み』で魔法界は魔法族を支配

 

 うん、闇が深い。特に最後。

 自我がある状態であり、この世界の常識を持たないからこそ気付ける物なのかもしれない。

 

 

「にしても姫君は可愛いねぇ…」

「ドラコの方が可愛い」

「ルシウス・マルフォイお前うるさい。私達の愛しい闇の帝王と姫君の親族になったからって調子乗りやがって…」

「お前の方が何倍もうるさいベラトリックス・ブラック。我が妻と姉妹とは思えん程の野蛮さだ」

「野蛮さ上等じゃないの、私は闇の帝王のもっとも忠実な従者だ」

 

 ベラはブラックって苗字だったっけ?レストレンジだと思ってたんだけど。

 私が疑問に首を傾げているとピーターがこっそり呟いた。

 

「ブラックはベラトリックスのkyuusei、昔の家名だよ。ルシウスのお嫁さんはベラトリックスの妹なんだ」

 

 はへ〜、流石貴族。しかも血を遵守する思想の持ち主。近親交配凄いな。

 ……でもそれよりも口に出してない疑問をサラッと答えたピーターの方が凄い。なにその才能。

 

「魔法を覚えさせよう」

 

 カッ!と目を見開いて父が告げる。

 想像以上にホラー。

 

「アバダ」

「クルーシオ」

「インぺリオ」

 

 即答したのは上からベラ、ルシウスさん、セブさんだ。真顔だ。ビックリするくらい真顔だ。

 

「……それ全部許されざる呪文じゃん」

 

 ピーターが死んだ目で呟いた。

 

 名前から嫌な予感しかしないので謹んでお断り申し上げます!全力で!

 

「アバダは最高よ最高。goumonも捨てがたいけど闇の魔術のsinzuiと言えばこれさ!」

「いや、やはりクルーシオだ。記憶操作をすれば証拠が残らない」

「インぺリオの方がいい、いざと言う時ヤツらを操れれば便利だと何度思ったことか…!」

 

「スニベルスはなんかごめん」

 

 口々にそれぞれが利点と思うところを上げていく。ピーターが罪悪感に塗れた顔をしながらセブさんに謝っているので学生時代の怨恨か。

 

「ぴあ!」

「1771年に人間に対して使用することを禁止されてる禁忌の魔法だよ。もし使ったら一生アズカバンだ」

「あじゅかびゃん」

「上手!」

 

 アズカバンとは監獄らしく、吸魂鬼(ディメンター)と呼ばれる生物が看守で、彼らは世界でもっともおぞましい生物らしい。平和や幸福を奪い、絶望を与えるとかなんとか。

 あれ?闇の魔法使いとそう変わり無いよね?

 

 まぁそれでも魂を取られて昏睡状態にするらしいから一生涯近付きたく無いね。うん、アズカバンという所には絶対入らないようにしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 ──約1年後、フラグは見事に回収した。

 

「なにぬえぞぉおおぉおッ!!」

 

 リィン。父は闇の帝王。

 歳は1歳と数ヶ月、現在アズカバンでござる。

 

 牢屋の中のな。




短めですね。ひとまずこれにて死喰い人編は終わり。隠された1年間は適当にわちゃわちゃ過ごしていたと考えて。


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閑話
第6話 「死にたくない」「死なせない」


基本ヴォルデモート風味の三人称視点。三人称視点の場合はサブタイトルに「」←これ使っていきます。


 本名はトム・マールヴォロ・リドル

 現在、闇の帝王ヴォルデモート。

 マグルを異様に嫌い、英国魔法界を恐怖と混乱に陥れた男。目的の為ならなんでも利用し、他人の力を借りることを嫌う。異様なまでに力に飢え酷く差別的な思想を持っている。選民思想という考えが顕著に出ている者だっただろう。

 

 愛を知らず、愛を恐れた、それが彼だった。

 

 彼には妻がいる。いや、居たといった方が正しい。その妻というのは名ばかりだ、ただ血筋を残すためだけの道具。

 

 マルフォイ家長女。かのルシウス・マルフォイの妹であり、深窓の令嬢と謳われる女性だ。

 

 ヴォルデモートはそれでも興味を抱くことはなかった。

 

 

 近親婚約もあって彼らには子供が生まれた。ただ、自分の血筋を残すためだけの道具が。

 

 

 彼の妻は産後簡単に死を迎えた。

 脆い、脆すぎる。自分以外の人間とはこんなにも脆いものだったのか。ヴォルデモートはそう考えた。

 最後の望みということもあり、(なさ)けをかけ、頼みである子供をその腕に抱いた。

 

 たったそれだけた事で彼が変わるとは誰も知らなかったし分からなかっただろう。

 

「柔らかい」

 

 ぽつりと呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。

 腕の中でゆっくりと眠っている子供にも聞こえてなかったようだ。

 

 すやすやと小さな寝息を立て、眠る我が子。

 彼の心の中にある温かいものに気づいた。

 

 これはなんだ。分からない、知らない。

 

 顔は自然と険しくなる。自分の知らない何かと葛藤していると、子供が目を覚ました。真っ黒な瞳がキラキラと輝いてヴォルデモートの目線と交わった。

 

 ……そして泣かれた。

 

 小さな温もりに触れた時2人の間には微かな愛が生まれる。

 

 

 予想外の日々が続いた。ヴォルデモートは小さな子供の虜になった

 初めての子供というのは、こういうものなのだろう、親が患う典型的な病気。

 

 『親バカ化』

 

 側近であったベラトリックス・レストレンジはその豹変ぷりに頭を悩ませ1度倒れた。

 

 子供の名前はリィン。

 

 『生まれ変わっても思い出せるほど幸せな記憶と感情に溢れた人生になりますように』と願いを込めてつけられた幸せの名前だ。それが本人にとって呪いとも知らずに。

 そこはいいだろう、どうせ本人が何とかする。

 

 闇の帝王ヴォルデモートは口の中で飴玉を転がす子供のように何度も復唱する。ようやく名前を呼べた時、彼女はふわりと笑った。

 

 『ぬぁ』

 

 とくり、と心臓が音を鳴らす事に、その温もりに魅了されていく。どんどんどんどん深くまで。

 その感情は親として至って当たり前の感情だったが、ヴォルデモートは知らなかった。酷く困惑した。

 1度彼女と離れようとお世話係をつけた。嫉妬した。……これもまた初めての感情だった。

 

 ヴォルデモートは生きたいと思い始めた。

 

 離れたくない。離れがたい。死にこんなにも恐怖したのは初めてだった。

 

 ヴォルデモートは日常を楽しんだ。パーセルタングを操れると知り自分第一な男は自分の事のように喜んだ。

 子煩悩などではないと口で言いながらも子煩悩同士口論を繰り広げた。

 部下とも言い難い奴らを相手に威厳を振り回すも子供部屋へ1歩入れば側近がまたかという顔をするほどの豹変っぷりだった。

 ……眠りから覚める瞬間に立ち会うと必ず泣き叫ばれることに酷いショックを受けていたが。

 

 たった数ヶ月、されど数ヶ月。その多忙さ故時折顔を見せることが叶わなかったが、普段やることを削ってまで会う時間を作り出した。それは己の周りに与える恐怖がなしえた無茶だろう。

 

 彼にとっては『異常』な日々であったが、普通の人間であれば『日常』の日々だ。

 

 

 ある時親は初めて子の眠る時を眺めた。日中唐突に引き起こった魔法の開花、それにより魔力が暴走する危険性もあったからだ。それは非常に危険なもので、子供の、しかも赤ん坊の体にかかる負荷は想像を絶する。

 そしてその感情が生まれたのは唐突なことだった。……気付いたという方が正しいか。

 

 ベットの中で眠る我が子。涎を垂らして間抜けな顔で警戒心や畏怖や怯えなど欠片も見当たらない。父親という立場で手に入れた無条件の信頼。

 

「愛してる」

 

 自然と言葉が零れ落ちた。

 嗚呼そうだ、愛しているんだ。少し力を入れれば壊してしまうような、こんなか細い命が愛しくてたまらない。

 愛を知らなかった、生まれてずっと愛を知らなかった。他人よりも優位に立とうと模索することしかしてこなかった。

 

 ヴォルデモートはほんの少し眠りから覚めた子を抱きしめて何度も何度も同じ想いを呟く。

 

 雨のような涙がポツリポツリと子供の顔を濡らす。感情が溢れてくる。知らない、知らなかった、やっと知れた。

 

 

 望まれなかった存在は初めて他人を望む。

 嫌われていた存在は初めて愛を知る。

 大事な者を壊す存在は初めて守ると誓う。

 

 

 ───やっと気持ち(あい)を知ったのに。

 

 

 

 

 子供の1歳の誕生日を数ヶ月過ぎたハロウィンの日、リィンに魔法を教えだしてちょうど1年。

 ヴォルデモートは忠実な部下であるセブルス・スネイプと娘の世話係であるピーター・ペティグリューの話を聞いてしまった。

 

「なんだって!?スニベルス、ご主人様が倒される予言の存在知ったの!?」

「声が大きいぞピーター・ペティグリュー!予言があったのは具体的に分からないが……姫君が生まれる前後だ」

「どこで手に入れたの!?な、な、内容は?」

「ええい、やかましいッ!吾輩はダンブルドアに対しスパイで教師をしていると言っただろう!」

 

 セブルスが語る内容は要約すると『7月の終わりに闇の帝王を倒す男が、帝王に3度抗った両親の元に生まれてくる』ということ。

 この予言が過去にされたということはもう生まれている。

 

 そして、この2人にはその人物に心当たりがあった。

 

「ね、ねェセブルス…」

「……貴様に名前を呼ばれることは不愉快だが恐らく思っていることは同意する」

「やっぱりそれって……」

「ああ、ポッターの。いや、リリーの息子の事であろ──」

 

 ガタンと扉が開く音がした。そこに立っていたのはヴォルデモート、話題の主だった。

 セブルスとピーターは顔色を途端に変える。セブルスはリリーの事が大切で、ピーターはジェームズの親友だ。

 

 聞かれるには余りにも不都合な話題。

 

「それは真か」

 

 死にたくない。そう願ったヴォルデモートは過去の残虐な、人々に恐れられる闇の帝王の顔をしていた。

 

「……真かと聞いているッ!」

「ま、真の話です…!」

 

 誤魔化すことなど出来やしない。

 そうそう察したセブルスは慌てて答える。

 

 まずい、このままでは非常にまずい。

 

 それはヴォルデモートもセブルスもピーターも3人が思ったことだった。

 姫君が悲しみます、などという説得が効くはずもない。いや、聞こえないだろう。

 

「そうか……。ピーターよ、貴様は確かポッターを知っていたな?」

 

 ヴォルデモートが聞くとピーターはビクリと肩を震わせた。

 魔力による無意識の威圧が彼を襲う。

 

 ここに、リィンがいなくて良かった。恐怖で竦んで今後に影響を及ぼすかもしれなかった。

 

 ピーターは現実逃避の一環としてそんなことを考える。昔なら自分の身の安全を優先して考えただろうにと心の中でため息を吐く。

 

「……ッ、知っています。けど、どこにいるか」

「〝服従せよ(インぺリオ)〟!」

 

 許されざる呪文であろうと、ヴォルデモートは恐れない。もっとも恐れるのは死ぬこと。娘を残して、死ぬことだ。

 

「言え、ポッターはどこにいる」

 

 ヴォルデモートは少なくとも1年間ピーターを近くで見てきた。娘の世話係を任せなければきっと分からなかっただろう。

 

 嘘をついている。

 

 元々表情に出やすいピーターだからこそ簡単に分かってしまう。

 

「──……──…─」

「チッ、貴様が秘密の守人か。ならば自主的に話してもらう他あるまい」

 

 秘密の守人と忠誠の術の力を用いて秘密を守ることになった者。守人に秘密を教えた者はその情報を口にすることは出来ず、守人のみが情報を口頭や筆記で他者に伝える事が出来る。

 しかし魔法で口を割らせる事が出来ない。

 

 だが秘密を手に入れる為に。その裏を返せば『秘密の守人の口さえ割ればいい』のだ。

 

 魔法を使わなくても吐かせる方法はいくらでもある。

 

 予言など知らない。

 その存在など…──消してしまえば解決する。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 セブルス・スネイプは急いで話した。

 相手はアルバス・ダンブルドア。ホグワーツ魔法魔術学校の校長であり、国際魔法使い連盟議長、ウィゼンガモット主席魔法戦士、マーリン勲章勲一等、最高大魔法使い。まぁなんにせよ色々凄い人間だ。

 

「このままではリリーが…!」

「落ち着くのじゃセブルス。第一秘密の守人でポッター夫妻の居場所は守られてお──」

「──ピーター・ペティグリューでしょう!」

 

 吐き捨てるように言えば、ダンブルドアの瞳は大きく見開かれる。

 

「どこで、それを……」

 

 ──ゴドリックの谷。

 

 ピーターの反応してしまった単語とダンブルドアの反応が全ての答えだった。

 

 1981年10月31日。空に浮かぶ三日月がうっすらと光を放っている。

 それは、これから先の未来を映し出したような月だった。

 

「セブルス、リリーを助けたいか」

「当然だとも……!」

「例え危険だとしても、どんな辛い孤独でも、どんなことでもやる気はあるか」

 

「何事であろうとも」

 

 

 ──間に合ってくれ、ペティグリュー

 

 

 例え卑怯者だと罵られようとも。

 なんでもしよう。

 

 それがリリーを助けることに繋がるのなら。

 

 

 

 ……後にこの誓いがセブルスという男を苦しめる事態を招く事になるとは誰も分からなかった。

 

 

 ==========

 

 

 

 ピーター・ペティグリューは走った。

 予言があったのはハリーが産まれる前から知っていた。

 秘密の守人を立てなくてはならない。その時に選ばれたのがピーター・ペティグリューだったので、姿くらましや姿現しができない結界を貼っている事を知っていた。

 

 間に合え、間に合え。

 

 ピーターにとってジェームズは親友で、闇陣営に屈した時から罪悪感は募っていた。

 だからといって、死んで欲しいわけじゃ無い。

 

「お?ピーター?お前もジェームズの所に悪戯しに行くのか?」

 

 声をかけられてビクリと焦る。ビビり癖は治ってない様だ。

 彼が振り返るとその場に立っていたのはシリウス・ブラック。学生時代、共に学舎で過ごしていた仲間だった。

 

「ッ、シリウス…!」

「どうしたんだよそんなに焦って、あ、日付か」

 

 アイツは多少遅れてもやらない方が拗ねるから焦るなよ、などとシリウスは笑う。

 ピーターは愛想笑いも返せなかった。

 

「ごめん急ぐから」

 

 言い訳など考えている暇さえもったいない。

 そう思い背を向けるとその手をシリウスが心配そうな顔をして掴む。

 

「お前倒れそうな感じなんだけど…」

「──離してッ!」

 

 自分でも思っていたより大きな声が出たことに驚いてか、お互い目を白黒させる。

 

「どうしたんだよワームテール、お前変だぞ」

「早く行かないと…! ジェームズが!」

 

 口走った言葉にハッとなって口を塞ぐ。

 シリウスは異常な様子と『ジェームズ』という単語に眉を顰める。

 

「どういう事だよ…ジェームズに何があ──」

 

 その時だった。女性特有の甲高い叫び声が2人の耳に入った。叫んだ言葉は親友の名前。

 聞き覚えのある声だ。

 

「リリーの声!?」

 

 スッ、と走った光。その色は普通に過ごしていたら見ることの無い魔法の色、緑。

 魔法族の中で『緑の光』と言えば十中八九『死の呪い』の認識だろう。

 

「あ、ああ……あぁ……ジェームズ…リリー…」

 

 脱力感に襲われピーターは膝から崩れ落ちる。

 シリウスは状況が掴めないながらもピーターの胸ぐらを掴んで問い詰めた。

 

「どういう事だよ! 一体何があったんだ!」

「なんで…邪魔したんだよ……」

「おいピーター!」

「……ここに居たら殺される…ご主人様に…」

「ご? 何言ってんだ! 答えろよ!」

 

 その場には大きな光が生み出された。

 

 『自爆呪文』

 

 肉を切らせて骨を断つ戦法で、ピーターがリィンに付き合って居たら生み出された失敗作だ。

 身体の1部を犠牲に、周囲にいる生き物を例外なく破壊する。

 死の呪いよりリスクが高いのに、殺傷力は比べるまでもなく低い。だがこの場では『痛み分け』としてちょうど良かった。

 

 三日月が照らしたその場には、気を失ったシリウスとピーターの小指だけが残されていた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「殺せない」

 

 男は呟いた。

 母親と子供を目の前にして呟いた。

 

「無理だ、無理だ、無理だ!」

 

 自分の子と同じくらいの子。子を想う親。

 その気持ち(あい)を知ってしまった。知らなかったら良かったなんて考えなかったけれど。

 

「貴方…、今なんて」

「──そこまでだ」

 

 男の背後で杖を突きつけた父親が居た。

 

「……気絶したのでは無かったのか」

「残念だけど防がせて貰った。杖無しって結構難しいね、死の呪文じゃなくて心から良かったよ」

「フッ、流石はポッターの血筋、か」

 

 ハシバミ色の視線と緑色の視線が男を見る。

 母親も男に杖を突きつけた。

 

「引いて」

「リリー!?」

「ここから引いて」

 

 男は目を見開く。

 

「無理だ、俺様は、子供を殺さねばならん」

「引いて、私は貴方を殺せない。そして貴方も私達を殺せない」

「……侮辱したつもりか」

「したつもりなんてないわ。多分貴方、私達と同じね」

 

 死と同じ色の瞳は臆すること無く男に注がれる。母親という存在とはこんなにも強いものだったのか。

 

「…………殺さなければならない」

「避けてリリー。僕が殺る」

 

 

「〝アバダ・ケタブラ〟」

「──ジェームズッ!」

 

 どちらが発した言葉か。

 

 少なくとも世界から男が姿を消した。

 男が与える事になる『自らに比肩する証』を()()()()()()()()()が、倒れた母親を安心した表情で抱きしめる真っ黒な男をじっと見ていた。

 

 真っ黒な男の下に轢かれていたのは気を失った父親だと言うことに気付かないまま。

 

 

 

 本来、男の子に与える筈だった魂の欠片は一体どこに行ったのか。──それは災厄だけが知っている。




魔法界は混乱と喜びに満ち溢れた。闇の魔法使いの一斉投獄、闇の帝王の滅亡。闇の帝王を打ち破った『生き残った一家』は混乱が収まるまで、子供が成長するまで隠れ住むと決めたらしいが、親友であったシリウス・ブラックの裏切りが堪えたのだろうと言う話だ。

それでも賑わう。

だが、誰一人として闇の帝王の名は言わなかった。


日刊新聞に常に乗るニュースに一部の人間はため息を吐く。やつはまだ死んでいない。そして一斉投獄に含まれていた闇の帝王の娘がどのような混乱を巻き起こすのか。──魔法界の未来はまだ見えない。




ヴォルデモート…(世界の認識的には)死んだ。死の呪いを浴びても元々魂分けてるから死なないし実は()()()()分霊箱になってないけど(世間的に)死んだ。

セブルス・スネイプ…ダブルスパイの始まりです。

ピーター・ペティグリュー…動物生活の始まりです。

シリウス・ブラック…目撃証言でポッター夫妻を助けようとするピーターを阻止し、殺した事から投獄生活の始まりです。

ポッター夫妻…マグル生活の始まりです。

ハリー・ポッター…物語の始まりです。


一応主人公「遺憾の意」



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第7話 「野郎の弱り顔堪らん」「アバダ」

「ダンブルドア!」

 

 『生き残った一家』と呼ばれ出したポッター夫妻とその男の子。

 彼らは体調を考慮して聖マンゴ魔法疾患傷害病院。イングランド、ロンドンに位置する魔法病院で様子を見ていた。

 

 彼らの元に現れたのはセブルス・スネイプに頼まれたアルバス・ダンブルドア。

 人の良さそうな笑みを浮かべてジェームズ・ポッターに手を振る。

 

 駆け寄るジェームズは新聞を片手に苦悶の表情を浮かべていた。

 

「ダンブルドア!何かの間違いです!シリウスは闇側の人間なんかじゃ…!」

「分かっておるジェームズ。リリーも無事そうで一安心したわい」

「ダンブルドア先生……。その、ご心配をお掛けしました」

「良い、無事なだけで」

 

 ニッコリ笑うとダンブルドアは子供用のベットで寝入るハリーに目を向けた。

 

「……予言のことは聞いておるな」

「えぇ。ハリーの額に、呪いの印が」

 

 ハリーの額にはヴォルデモートが苦し紛れに放った()()()()()()()死の呪いを打ち破った跡が稲妻の様に付いていた。

 詠まれた予言にはこうあった。

 

 ──闇の帝王が自らに比肩する証を印す。

 

「(違う)」

 

 確かに傍から見れば予言にあった証と見えるかも知れないだろう。

 だが比肩するとは思えない。これは呪いに対して愛の守りによって護られた証だ。

 

 比肩とは、つまるところヴォルデモートと同等の力を持った物である。

 

「(どこじゃ、一体どこに。……ッ!)」

 

 ヴォルデモートは姿を保てなくなり、ジェームズの放った死の呪いにより姿を消した。死んだ生きているかの判断は付かない。

 だが、だ。

 

 ダンブルドアは嫌な予感に冷や汗を流す。

 

「付けることが、叶わなかった……?」

「ダンブルドア?」

 

 ボソリと呟いてジェームズとリリーを見る。

 愛の守護呪文は恐らく2人が無意識の内に付けた物だろう。本来なら2人、もしくは1人が死ぬ場合で無ければ完成されなかった。

 

 リリーのハリーを護る為の愛。

 ジェームズの禁忌を恐れず家族を守る愛。

 

 もう1つ、死の呪いが完成されなかった何かの一因は置いておく。

 

 もしも誰かが死を迎え、ハリーが愛の守護呪文で護られ生き残る。もしもそんな状況があれば。

 どうなるのか、一つだけ心当たりのある魔法があった。

 

 最も邪悪なる魔術。分霊箱(ホークラックス)。不死性を獲得するために自身の魂の一部を閉じ込めるための強力な物だ。

 もしも、ハリーがヴォルデモートの魂を閉じ込めるための『箱』になれば。

 

「(それこそが比肩する証)」

 

 確かに彼の魂を持っていれば比肩する力を手に入れるかもしれない。

 

 だが実際問題どうだ。

 闇の魔術が使われた痕跡は全くない。

 

 同じ条件の別の誰かが予言の子だったのか、それともなんらかの要因で『予言が消滅』してしまったのか。

 

 後者ならば魔法界は混乱と危機を迎える。

 闇の帝王を打ち破る者が消えてしまう。

 

 

 

 ダンブルドアは正解に近い答えを出す。いや、ほぼ正解だ。

 知らない事は2つだけ。この世界に現れた災厄のやる気、そしてそれを見事に吸収し栄養と変えてしまう吸魂鬼(ディメンター)もビックリの吸収力。

 

 

「ダンブルドア、シリウスは冤罪だ!アイツがピーターを殺すはずが無い…ッ!」

「っ、あぁ、分かっておるよ」

 

 シリウス・ブラックは、世間的に『闇の魔法使いでポッター夫妻をヴォルデモートに売った』とされ、『阻止しようとしたピーター・ペティグリューを殺した』とされている。

 

「シリウスは僕らを売るはずない。それにピーターは守人だった。嫌な考察しか出来ないのが悔しいけど、ピーターは口を割ったのかもしれない」

「……そうじゃな」

 

 ダンブルドアはそう答えるしか出来なかった。

 手元に戻ってきたセブルスという手駒。元々彼が闇の帝王の命令でホグワーツにスパイとして存在していたことは気付いていた。

 これ幸いと二重でスパイをしてもらうこととなった今、ジェームズの考察は半分あたりだ。彼も闇側に存在していた。気付かなかったから今の状態になってしまったのだ。

 

「先生、シリウスの疑いを晴らしたい」

「よく考えるんじゃジェームズ。シリウスが裏切ったなどという話はお主が1番分かっておる、がしかしのぉ。シリウスでさえ、気絶に追い込まれたんじゃ」

「……ッ!?」

 

 シリウス・ブラックは優秀だ。()()()()()()()()()()()()()()()のに、気絶させられた。

 目撃証言では2人しか見えなかった、という事はピーターがやった可能性もある。

 

 もしくは死の淵でピーターが対抗、もしくは何かしらの呪文を弾き返す守護の魔法。

 

「ピーターはシリウスに魔法を使えない!負けるって、本人もよく分かっている…!」

「そうじゃ、そうなんじゃよ」

「絶対シリウスが防ぐ。死の呪いだったとしたらシリウスは今頃死んでた。気絶で済むなんてより一層おかしい」

 

 可能性として考えられるのは『新たな呪文を開発した』という事。

 

「まって………まさか……!」

 

 常人より頭の回転が早いのが仇となる。真実に、気付いた。

 

「ピーターは…──闇側だった?」

 

 信じられない。信じたくない。

 だけど納得出来る。

 

 ダンブルドアは優秀な教え子に同情するよう目を閉じた。

 

「そんな、嘘だ、ワームテール、なんで…! 信じたくない、僕らは一緒に、ずっと一緒にッ!」

「ジェームズ。今シリウスをアズカバンの外に出すと非常に危険なんじゃよ。……ピーターの使った魔法に心当たりが無い、ということは闇側の何か大事な秘密なのやもしれん」

 

 それがただ『自分の身代わりを作ろうとして失敗した』結果だとは知らない。

 

「だから、シリウスをアズカバンに…?」

「そうじゃ、1番敵が近付かず、誰もが嫌う。良いか、秘密の守人が消えてないという証拠はお主らがよく分かっておる」

「え、えぇ。守人は生きてる。どこかで。今だに忠誠の術が掛かってますから……」

「隠れるのじゃ2人共。ハリーを連れて、奴らの目が届かぬ所に」

「そんな…ッ!?」

 

 ジェームズは連続した衝撃に思わずふらつく。

 病み上がりと言えばそうなのでダンブルドアは彼を大人しく座るように指示する。

 

 僕は戦える。

 

 そう目が語っている。

 

「(すっかり父親になったのぉ)」

 

 ダンブルドアは自慢の髭を撫でながら微笑み生徒の成長を素直に喜んだ。

 

「マグルじゃ」

「マグル?」

「リリーや、酷なことかもしれんがペチュニアの傍でマグルとして過ごすんじゃ。せめて、ハリーが入学できるほど成長するまで」

 

 ペチュニア・ダーズリー。リリーと同じ家で生まれ、姉妹で育てられてきた。しかし彼女とは魔法の有無や性格などでいつの間にか疎遠になっていた。

 

 狼狽えながらも数秒後にはしっかりとした視線で頷く。ろくに護れない自分と、抵抗すら出来ない子供。

 身を隠す方がずっといい。

 

 少なくとも友人に裏切られた可能性が高く、若干の人間不信も否めない。

 

「あ、ダンブルドア先生…」

「なんじゃい?」

「……『あの人』には、子供がいるんですよね」

「なんと…! 隠していたが気付いておったか」

 

 なんのこと?とジェームズが首を傾げる。ここは母親の勘というものなのだろう。

 

「これから、見てこようとは思っておる」

「『見てくる』?」

 

 その微妙な言い方に疑問符が浮かぶ。ダンブルドアは少し緊張した面持ちで子供の居る場所を答えた。

 

「アズカバン」

 

 そんな、とリリーは口を塞ぐ。先日一斉に捕えられた事は知っていたが、子供まで捕らえていたとは。

 その視線に混乱は見えたが、軽蔑などの悪感情は見えないことにダンブルドアはホッとする。

 

 リリーとジェームズは気付いていない。

 その子供が我が子と同じ歳だと。

 

「……シリウスをどうかよろしくお願いします」

 

 ジェームズは頭を下げて頼み込む。

 それに習ってリリーも頭を下げた。

 

「今は出せんが……近い将来、出せるかものォ」

 

 お茶目なじいさんは本音を隠して2人にウインクしてみせた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 見つけてしまった。強力な闇の魔術が掛けられた痕跡を見つけてしまった。

 

 

 ああ、本当に。

 彼女で良かった。

 

 ──ハリーを殺さなくて済む。殺すために生かすなんて事をしなくて。

 

 

 残念だ。本当に残念だ。

 

 生き残った男の子として称えられたであろう男の子の比肩する証がこの子で。

 予言は完璧に意味をなさなくなってしまった。

 

 ──邪魔にしかならない。

 

 

 ダンブルドアはせめぎ合う2つの感情を押し留め目的の人物の牢獄の前に立ち名前を呼んだ。

 

「シリウス」

 

 寝ぼけ眼で鎖に繋がれたシリウスがぼんやり顔を上げると、そこには看守では無く1人の老人の姿が薄明かりに照らされていた。

 

「……ダンブルドア、先生」

 

 たった数日で憔悴しきったシリウスがくしゃりと顔を歪めた。

 

「俺…ジェームズを助けようとしたピーターの邪魔をしちまったんだ…」

「(気付いておらんのか、ピーターの裏切りと)」

 

 ダンブルドアは心の中で算段を練る。

 ややあって口を開く。

 

「のぉシリウス、儂の頼みを聞いてくれんか」

「頼み、だと?ハッ、親友殺しの汚名を被った囚人に何が出来るってんだ…ッ!」

 

 自虐気味に鼻で笑う。

 ダンブルドアは黙って首を振った。そんなことないと諌めるように。実際それが真実であり自暴自棄になっているだろうと判断をくだす。

 

 シリウスが『ジェームズとリリーが死んだ』と思っている、と気付けなかった。

 

 世間は親友(ピーター)だが、自分は親友(ジェームズ)殺しの名を被っていると、それならダンブルドアは分かってくれるだろう?と。

 

「実はのォ、ヴォルデモートには娘が居る」

「……は!?」

「しかもここにじゃよ」

 

 驚愕の表情と感情が見て取れる。ダンブルドアは愉快そうに髭を撫でながら笑った。

 

 一方シリウスは困惑しまくりだ。

 

「世間ではお主が『ブラック』だと思っておるからの」

 

 ブラック家とはイギリス最古の魔法家系の一つであり、事実上イギリス魔法界の王家とされている。

 

 『純血よ永遠なれ』

 

 家訓にそうあるように純血主義だ。

 今ここにいるシリウス以外。

 

 そして殆どが死喰い人や闇の魔法使い達と血縁関係を持っている。

 

「……ダンブルドア、それってつまり」

 

 ホグワーツ魔法魔術学校で学生時代、シリウスはジェームズに続き次席。

 目に鋭さが加わる。

 

「奴の娘を警戒していて欲しいのじゃ」

 

 ざわりと災厄が顔を覗かせる。シリウスの表情は対ヴォルデモート組織、不死鳥の騎士団に所属していた頃と全く同じだ。

 ピリピリと張り詰めた空気、その2人だけ放つ空気が異質であった。

 

「アンタは、俺を『ブラック』として娘に取り入り、もしもの時止める立場に居れと言うんだな」

 

「(シリウス、儂の頼みはもっと残酷なのじゃ)」

 

 悲しげにダンブルドアは笑った。

 

 彼は『英雄』を育てる。自分の教員人生で最大の失敗である『生徒』を止めるために。

 ─それには少しばかり『過保護な名付け親』は必要無い。

 

 目の前の男を『囚え』『利用』する。

 

 『生徒』を止める武器の1つとなる様に。

 

「強力な闇の痕跡を見つけたのじゃ、あやつの娘の心臓に。破壊されたヴォルデモートの魂の一部がひっかかっておる」

「なるほど、いつ利用されるか分からない訳だ」

「……そうとも言うな」

 

 本音を言えば──ヴォルデモートを殺すために娘の方を殺す武器となってもらう。

 

 今殺すのはダメだ。

 ヴォルデモートが分霊箱を使っていると仮定してみると答えは出てくる。彼の魂の一部(どうぐ)が破壊された瞬間、分かってしまう。

 

 つまり、『娘』が死を迎えた時が戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 『帝王』や『娘』に対抗しうる『英雄』を育てるまで生かしておかなければならない。

 

 

 残酷だ。

 

「親友殺しにはちゃうどいいかもしれないな」

 

 泣きそうな顔で笑うシリウスは共に残酷になれるだろうか。

 

 いつか告げねばならん。

 

 ──ヴォルデモートの娘を殺すのだ、と。

 

 

 

 

 

 後に親友が生きている事やヴォルデモートの娘が名付け子と同い年だと知り発狂するだろう。それはまた未来の話である。

 

 世界の忌み子は近くのフロアで比肩する証を持ち眠っていた。

 着々と死亡フラグが建設されている事に気付かない小さな狐は、明日も災厄のイタズラをその身に浴びるだろう。




ダイジェスト
ジェームズ「ピーターが裏切ってシリウス冤罪。シリウス守るために事実は黙ってマグル生活!」
リリー「マグルかぁ……夫が不安」
ダンブルドア「(予言無いかもしれないけど英雄(ハリー)を育てる準備)」

シリウス「ジェームズとリリー死んじまった?マジで?ピーターが止めようとしてくれたのに?やべー」
ダンブルドア「Youちょっと災厄と協力してみなYO!」
シリウス「スパイってところかァ」
ダンブルドア「(ついでに良いタイミングで殺して欲しいな☆)」

災厄「リィンさんこんにちはー!!こっそり爆弾仕掛けてあげますねー!!(大声)」
リィン「スヤァ…」

原作キャラからのコメント
ハリー「えっ、僕偽物の英雄でっち上げってこと?」
シリウス「えっ、俺闇の魔法使いのフリするの?牢獄で?無駄じゃね?ただ閉じ込めておくための体のいいセリフ?だけどダメ押しで利用するってこと?」


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監獄生活編
第8話 まさかという道は必ず転ぶ


 

「かんぱとうりゃいッ!」

 

 ハロウィンから数日、アズカバンという例の監獄に入れられた1歳と半程の『冬』

 

 もう一度声を大にして言わせてほしい。

 

 冬ッ!

 

 牢屋の中は異様に空間が広くひどく殺風景で埃まみれ、そして窓から容赦なく吹き付ける風。

 空間に留まる空気は全くない。寒い。

 

 海の音は聞こえ、ここに来てからずっと窓柵の外に見える空がどんよりと曇っている。……海風と雪のダブルコンボなのだろう。いや、雪は降っていないからまだマシか。

 

 お情け程度の薄い汚れた布とも言い難い何かに包まって寒さをしのぐ。

 

 子供体温で高くてよかった。確実に死ぬ。

 いや、そもそも子供だと抵抗力の関係で風邪ひいたらぽっくり逝く。

 

 風を防げる何かさえない。

 

 

 ……これ、下手すりゃ風の通りが限定されているから余計寒くない?

 

 え、死ぬ。

 

「にゅぎゃぁあーーーッ!」

 

 ご近所さんはどうやら居ない模様で大声を出しても文句を言われた試しがない。とにかく、体温を上げて体力を付けて抵抗力付けないと…!

 

 ガチめに死ぬ!餓死も凍死も両方辛い!

 健やかに育って清らかに死にたい!

 

 事故死とか餓死とか自殺とか嫌すぎる。

 

 ここに来て3日。

 装備:布(以下)+囚人服

 常備品:水質の悪い水+カチカチのパン(カビ)

 

 私はどうして死んでないのか、そこが疑問で堪らないよパピー。君の血筋かなァ?

 

「んぬぬぬ…」

 

 死ぬことは絶対嫌という前提はあるけど世の中には死んだ方がマシな目ってあるからなァ。

 もっと人生楽しみたい。平和に過ごしたい。

 あと、時空の狭間に行きたくないのもある。

 

 世知辛い。

 

──ゾワッ

 

「……ッ!」

 

 背筋が凍るような冷たさ。

 吹き抜ける風と同時に背中に虫が這う様なゾワゾワとした不快感が襲う。

 

 布の中でぎゅっと体を丸める。

 少しでも素肌が空気に触れる面積を小さくしないと本気で死ぬ。

 

 ぞくりぞくりと背筋は危険信号を発している。

 

 

 あ、やばい、泣きそう。

 

 どうしようもない孤独とか訳の分からない物への恐怖とか。触れる肌が無いこととか。

 寂しい。

 

 まだ3日、もう3日?分からない。

 

 ただ一つ確実に分かることはある。

 扉の向こう側にやっと進展があった。そこには奇っ怪な物体。

 

 格子の奥、廊下に何かがいた。

 

「──ヒュッ」

 

 恐怖で喉から詰まった空気の漏れる音がする。

 こんな追い詰められる展開は望んでなかったのでパニックに陥る。

 

 来るな、来るな。

 

 願いは虚しく何重にも掛けられた鎖と鍵が外れる音がした。

 

──ゴトン…

 

 魔法で何か対処が出来ないか?

 記憶を探ろうにも混乱して集中出来ない。

 

 そうこうしている内に何かが入ってきた。

 

 その姿はこの世の物と思えない程おぞましく醜い形をしていて、どこがどこ部位なのかも分からない。

 言葉にするのが難しい形状なんて初めてだ。

 

 まるで水の中を浮遊する墨汁の様。

 

 あれは本当に生物?

 疑えばようやく分かった。

 

 これ、吸魂鬼(ディメンター)だ。

 この世で最もおぞましい生物。

 

「………ッ」

 

 必死に寝たフリをする。

 落ち着け、死にはしない。私はまだ死ぬわけない。そう思い込め。

 

 扉を開けたということは吸魂鬼には物体として存在する。壁を通り抜けるという事は出来ない。

 そして鍵を空けるという行動は理性も考える頭も存在するということ。

 

 もしも一連の流れがインプットされた行動だとどうしようも無いけど。

 

「う……ァ……」

 

 頭がズキズキと痛む。

 ゾクゾクと背中に寒気が走る。

 

 世界が回る。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 夢を見たような気がする。

 独りぼっちで布団に包まって神様にお願いするんだ、「助けて」って。

 何も信じられないなら支配してしまえばいい。

 

 孤独は恐ろしく、人を壊す。

 

「……ん、ぅ」

 

 ぼんやりと目が覚める。寒い事には変わりないけど先程よりいくらか暖かい。

 

 寒いから、死んでない。

 

 ズビッと鼻を啜る。ズキンと頭が痛くなった。

 あー、これ風邪だ。背筋の寒気も頭痛も典型的な風邪の症状だ。

 よくよく考えると、あの極寒の状況で服もまともじゃなく少し大きめの囚人服。風邪引かないわけない。

 

 私は馬鹿じゃなかった、それで良かったって事で完結!

 

 看病などある訳無いしどうするかと思いながらぼんやりと重たい瞼を開いた。

 ───…コンマレベルで閉じた。

 

 凄い、世界新記録の速さかもしれない……。

 

 頭もバッチリ覚めた。ついでにトラウマにもなっただろうな。

 

 こちらを見てい無いのが幸いだが、恐怖の根源である吸魂鬼が10匹位同じ空間で(たむろ)してた。

 これは子供じゃなくても泣くレベル。

 

 えっ、何、私殺されるの?

 じゃなんでこんなに私の上に布が沢山あるの?

 

 え、なんで?

 

 あっ、無理。こっち近づく気配がする。おぞましい所の話じゃないよピーター。これは気配を隠す気が全く無い殺戮兵器(りふじん)の感じ。

 

 分かるか、分かるか?

 分からねェだろうな畜生ッ!

 

 あ、やばい、泣きたい。

 泣きそうなんじゃなくて、泣きたい。

 

 数秒だったか数分だったか。

 近くで気配はするのに動く様子を見せないままの吸魂鬼が居る空間に音が生まれた。

 

 

「ナァ、寝テル?」

 

 は?

 

「寝テルミタイ、寒ソウ」

 

 ひ?

 

「絶対コレ風邪ダヨナ」

 

 ふ?

 

「風邪トカ……ナントカナラナイ?」

 

 へ?

 

「俺ラ魔法使エナイカラ、コレ以上無理」

 

「ほわぁああッ!?」

「「ウワッ!?」」

 

 理解出来ない情報に起き上がると吸魂鬼2匹は悲鳴を上げながらお互いの手を握りあった。

 

 んん!?なんで!?

 

「起キテタ!」

「聞カレタ!」

「ぎぃえええ!?喋るした!喋るしたァ!?」

「「キェェェェアァァァシャベッタァァアア」」

 

 なんでぇぇえええ!?

 喋れるの!?そのビジュアルで!?

 は!?なにやってんの!?この状況は何!?

 

「まつ、ま、まっ、まつ!まつ!」

「待テ、ジャナィノカ!」

「まてするしたじょろんぼ!」

「ジョロンボ!?」

 

 混乱が抜けきらない中1匹の吸魂鬼が近付いて来て混乱に極みがかる。

 口!口怖い!目!無い!黒い!怖い!不気味!

 

「ぴぎゃぁあああッ!」

「ピギャー、ジャナクテ……ッ!」

 

 SAN値直葬。

 あ、意識落ちる。

 

 

 

「どぅあわあああっ!?」

「起キテモソレカ!」

 

 

 夢みたいだけど夢じゃなかった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 混乱に混乱を重ねて数時間経った。

 結果として吸魂鬼の皆さんが布を被るという事で事態は落ち着いた。

 

 私のせいだよね、ごめんなさい。

 

 えっ、これ私のせいなの?

 

「アーアー、コンニチハ」

「こんにゅいあ」

「ァ、ソコハ子供」

「で、でめんちゅあー?」

「ソウ、吸魂鬼。怖クナイヨ」

「ふちゅに、こわきぞ」

 

 吸魂鬼が物理的な質量を持っているなら拳でぶん殴れる。魔法も効くと信じたい。少なくとも瓦礫を作れば攻撃出来る。

 すごく脳筋な事を考えて落ち着かせた。

 

 力技過ぎる納得の仕方だけど。

 

「あよ、ぬの、あいあと」

「布?ドウイタシマシテ……」

 

 ゴソゴソと布に丸まりながらお礼を述べる。

 布の中で石の欠片を握りしめ視線を向けた。

 

「なに、なにぬえ、たすく、たしゅける?」

「『ドウシテ助ケタ』?」

「それ、ぞ」

「熱出シタカラ流石ニ、ナァ?」

 

 会話を出来る吸魂鬼は他の吸魂鬼に同意を求める。すると他の吸魂鬼の1部も同意した。

 残りの吸魂鬼は被った布をバサバサと動かすだけ。あ、頷いてるのか。

 

 どうやら話せる吸魂鬼とそれ以外が居るが、言葉は分かる上に思考能力は大差ない様。

 

 伝聞と大分イメージが違う。

 

 死喰い人は世間的に悪。吸魂鬼もどちらかと言えば悪。

 怖いけど優しいぞ?なんでだ?

 

 私の疑問が伝わったのか先程まで受け答えをしていた吸魂鬼が答えてくれた。

 

「エット…───」

 

 語ってくれた言葉は予想以外の衝撃だった。

 

 まず吸魂鬼というのは不生不死。

 生まれた事も無ければ死ぬ事も無いという理解出来ない存在だった。

 

 どう言った経緯で『吸魂鬼』が出来たのか。

 

 答えは『変化した』だった。ここは吸魂鬼自身分かってないらしいので割愛。

 神や堕天使の仲間と考えるのがいいだろう。

 

 無性なので分からないが口調的に『男』という扱いでいかせてもらう。

 

 彼らは『平和や幸福を奪う』という事に違いは無かった。無くても支障は無いみたいらしいから感覚的に高級料理なのだろう。絶望を与えるとかそういうのは知らん。

 それと『魂を取る』というのはデマらしい。

 人間の魂と身体を乖離(かいり)させる()()とか。

 

 はったおすぞ。

 何が乖離させるだけだ、お前らの常識が乖離してるんだろうが。

 

 分かっていたけど、うん、常識は疑います。

 

「……ん?なにゆえ、わたし、とるない?」

 

 吸魂鬼の傍に居ると無条件で少しずつ奪い取ってしまうという『平和や幸福』に何故私が該当しないのか。純粋に疑問に思い伝える。

 すると決定的な爆弾が落とされた。

 

「平和ト無縁」

「幸福ハ絶望ノ前触レ」

「災厄ガ染ミ付イテル、俺達ト同等」

 

 一周まわって殺意しか湧いてこない。

 つまり『平和とか幸福とか取ろうと思っても取るべき物が存在しない、これからもなァ!』って事ですよね?

 彼らは平和や幸福以外奪い取れないから、『奪われない』=『そんなもの無い』という事かな?

 

 

 ……ちょっと堕天使さん私とお話しよっかー。

 

 私の魂に染み付いてるらしい【災厄吸収】について事細かく説明しやがれド畜生。

 

「……まァ、なっとぅく」

「不本意ソウ」

 

 吸魂鬼無効化とでも考えておこう。

 うん、それが有ったから私は無事こうやってコミュニケーションが取れるし生き延びれたんだから結果オーライ。……うん、オーライ。

 

「…──ふかのうぞぼけええええ!」

「ャッパリヵ」

 

 それが無かったらそもそもこんな事態に陥らなかっただろうがドアホ!

 

「落チ着ヶー落チ着ヶー。熱上ガルゾ」

「きゅう……」

 

 グラグラと視界が揺れる。

 ダメだ、体調やばい。

 

 ひとまず予想外の看守を意図せず攻略出来たのは良かったとだけ考えておこう。

 




誰がこの展開を想像しただろうか。
私の中で不生不死は神様の1種だと考えている。

リィン
…災厄に振り回され軽率に胃を痛め精神的な死を迎える。物語はまだ始まらない。知ってるか?コレ、序盤なんだぜ?言うならプロローグ段階だぜ?

吸魂鬼
…はるか昔に造られた存在。幸福や平和などの感情のみ奪える、孤独の存在。この世で最もおぞましい生物。実は喋れる。



魔法の言葉は〜?
\捏造設定〜!/

決め言葉は〜?
\キャラ崩壊〜!/

合言葉は〜?
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作者の得意技は〜?
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第9話 1番の課題が発音だということをまだ知らない

 最低限の看病だったが無事熱も下がり、改めて現状を色々把握することが出来た。

 

 私が居るアズカバンはとにかく寒い場所。吸魂鬼が看守をやっているせいか脱獄する気力も無い人間が多い。そして魂を取られて人が結構簡単かつ定期的に死(別名:魂と肉体の乖離)を迎える。

 ……お巫山戯がすぎるぞ吸魂鬼。怖い。

 

 私は世界で1番脅威の闇の帝王ヴォルデモートの娘として『生まれた』から捕まった。

 世界とは実に理不尽だ。

 

 吸魂鬼は私が珍しいタイプの人間だから特別に味方してくれるらしい。将来私が大人になったら『あの時お前は泣き喚いて』って懐かしい話をして弄るんだとか。残念だったな、お前らの顔はいつまで経っても泣く。

 

 そして最後。

 驚く程やることがない。

 

 いや、これ本当に重要。

 

 ……『動物』を壊す方法を知ってるか?

 答えは無だ。虚無だ。暇だ。

 

 人間暇になると精神から壊れてしまう。死活問題だ。監獄の中にいる人間にはなるべく関わらないようにと言われていたが吸魂鬼に話し相手になってもらうとか私が簡単に死を迎える。もちろん精神的に。

 

 この世界、私の視界が特にハードモード。

 

 お化けとコンニチハが苦手と言うか無理って言ってんじゃん。やめろよ世界。世界を終わらせるぞコノヤロウ。

 

「ぬぁ……」

 

 吸魂鬼は実に便利な存在で私がどこにいても大体の場所はわかるらしい。それの理由が災厄。

 微かに感じる疫病神の気配を辿るらしい。

 

 やだ、吸魂鬼怖い。

 

 つまり私は1人牢屋の中で暇を潰すことをしなくてもいいということ。

 アズカバンを体力作りも兼ねてお散歩します。

 

 牢屋の外に出る方法はもちろん魔法。杖が無くても魔法が使えるっていいね。

 

 1度父に倣ってピーターと一緒に自分を開発して見たが見事失敗した。気にしないことにした。

 

「へぷしっ」

 

 気温が低くて思わずくしゃみをする。

 

 今いる廊下はもちろん寒いのだが、私の牢屋は余計に風が酷くて体感気温が低い。

 

 風邪が治ったからといってこれから引かないという証拠はないむしろ引く可能性の方が高いだろう。なぜなら、ここは世界で1番の監獄だから。

 さらに寒くなる気温はもちろん、感染性の病気、死喰い人の拠点よりも埃にまみれた環境による病気の悪化など。

 ……正直めちゃくちゃ怖い。

 

 物理的に来てくれたら対処のしようはある、だけど医療知識がない私にとって病気は困る。

 

 だから体力作りに繋がるのだ。

 

 どうあがいても死と隣り合わせで人生怖い。

 怖がってばっかりだな。

 

 うん、とにかく散歩だ。散歩をしよう。

 

 私が散歩をすることで手に入れるメリット。

 ・アズカバンの作り把握できる

 ・体力作り

 ・情報

 

 一番最後は特に大切で、私の中では『情報こそ生き延びる術、生き残る術』だと考えている。

 実際、私は何も知らなかった。世界が思う父の脅威と出生に関する罪。

 

 生まれたこと自体が罪だなんて知らなかった。

 その知らなかったが通用しないのが世界だ。

 

 こうなるとどこからどこまでがアウトでセーフか私の中の常識とすり合わせる必要がある。

 本当に生きていけるのか。突然私が死刑になって命を落とすことはないのか。

 

 生ぬるい考えじゃきっと生き残れない。情報や弱点を貪欲に手に入る。

 

 

 

 ……えっ。監獄の中で?

 

 無理だね(断定)

 

「ぴぎゃッ!」

 

 覚束無い足取りでは段差のある床に躓く。

 大人ではそこまで気にならないサイズかもしれないけど1歳半程の子供には辛い段差だ。

 

「うう……」

 

 熱が上がってきました。

 劣悪な環境に加えて体力作り中の体力不足。

 

 私はべちょっと転び地面に寝転んだままになる。動けない。しんどい。

 精神と体力に負荷がかけられすぎてる。

 

 床で寝てやるぜェ?簡単に死ねるぜェ?

 

「きゃっかぁ!」

 

 いやいやいやいや、シャレにならん。

 くっ、危うく敵の目論見通りになる所だった。

 

 敵は多分『この世界』と『人間』で望むことは私の『死』だろうな。

 

 直接殺そうとしないのは疑問だけど。

 

「誰だ…?」

「ピギャッ」

 

 低い男の声が聞こえて思わず飛び起きる。

 声のする方向から現在地真正面の牢屋で確定なんだけど。あるんだよ、目が、扉の鉄格子の隙間に光って………。

 

「ビヂャアッ!」

「なんでこんな所にガキが……」

 

 恐る恐る聞いてみた。

 

「みめ、ひと?」

「いやそこでその質問が来るのはおかしいだろ」

 

 見た目が人かどうか、これ大事。父は人じゃない。あと吸魂鬼もキツイ。

 

「生物学上は人じゃね?」

「ぎゅるんぴょ」

「なんだよそれ」

 

 まとも?まともな見た目?大丈夫?私のSAN値直送しない?

 この際種族が人間じゃなくてもいいから目に優しい原型にして欲しい。

 

「どうすりゃいいんだこれ」

「…………なみゃえ」

「は?」

「なみゃえ、は」

「名前か?」

 

 たどたどしい発音だけどきちんと言いたい事が伝わった様だ。

 しばらく時間が空いたが相手は答えてくれた。

 

「シリウス・ブラック……」

「ひぎゃん!」

「な、なんだよ」

 

 めっちゃ聞いた事あるーー!

 えっ、なんで?なんでここにいるの?え、ジェームズさんやピーターと学生時代仲良かった人でしょ?なんで?悪いことしたの?なんで?

 

「おじしゃん」

「おじッ……せめてお父さんレベルだろ」

 

 うちの父年齢不詳だけどシリウスさんよりは年上だよ。どちらかと言うとお兄さんだね。

 

「しぃうしゅしゃん」

「おう」

「なにゆぇ、いる?」

「……間接的に親友殺したから」

 

 よく分からんがジェームズさん死んだの?

 この人の親友ってジェームズさんだよね?

 

 うん、わからんこと多すぎ。

 

「おじしゃん」

「シリウスさん」

「おじしゃん、わたし、そこはいる、よき?」

「んー、っと。入っていいか?いや無理だろ」

「おーけー?」

「……出来るんなら──」

 

 〝開け(アロホモーラ)

 

「──な……は?」

 

 ガチャン、と音を立てて鍵が開いた。

 

「いやいやいやいや!?なんで?鍵は!?」

 

 おじさん、自分が住んでるここは魔法使える人間が居るってことを忘れてないか?

 鍵のかかった部屋に入ること程度造作もない。

 

 子供用ベッドの鍵を何度開けて脱走したと?

 

「なんで入ってきたんだよ!」

「めっ」

「えー…何がダメなんだよこれ……」

 

 脱走したら脱走したで吸魂鬼が鬼の形相でキスを迫りに来るから安心して欲しい。どこが安心できるかは知らないけど。

 

「わたし、おなにゃぇ」

「はい…」

「りぎん」

「リギン?」

「りみぃん…」

「リミン?」

「り、り……。ひゃつおんふかのー…」

「なんだこれ、なんだこれ」

 

 私の名前って発音するのこんなに難しかったかな。謎でござる。

 ……自分の名前なんて言ったこと無いや。

 

「おじしゃん」

「シリウスさん、だろ」

「おじしゃん、よぶなみゃえ、付けるして?」

「は?えーっと……呼び名を付けろ?」

「ぴょ!」

 

 いい人そうだし、どうせここには体力作りとして通うだろう。名前に特に拘り無いからつけて欲しい。

 その意味を込め重たい頭を縦に振るとシリウスさんは考え出した。

 

「ぴー」

「ぴぎゃん!?」

 

 ぴーぴー言ってるからそうなったの?

 ハハ、なんだかピーターと被るなぁ。

 

「やめよう、俺にダメージが来る」

「ぴー…」

 

 私にも来ました。

 

「あ、動物にしようぜ。俺の親友は動物由来のあだ名使ってたんだ」

「どーびゅ、ヂュ」

「後半の発音酷い」

 

 呆れ果てた目でモゴモゴ喋る私を見る。

 動物って言ってもなぁ、果たして私の知識と同じような動物がいるか分からないし。

 

「おじしゃんは?」

「あ?俺はパッドフットって言われてた」

「ぱ…どふー、と。どふぃー?」

「なんか嫌なんだけど」

 

 長いんだよあだ名が!本名より長いって!呼べないじゃん!短縮するしか無いじゃん!

 ……シリウス・ブラックの『ブラック』から取ってもいいんだけど。

 

「なりば、クロ」

「どこの言語だ……。かっこ悪いから却下」

 

 日本語ですけどクッッソわがままな坊ちゃん。

 流石ベラの親戚!ブラック家はロクな人間が居ないと見た!

 

 じゃあ私の呼び方考えてくれよ!本名が発音できないって私ヤバい!すごくヤバい!テンションもヤバい!

 

「……猫?」

「にゃん」

「犬?」

「わん」

「ハムスター」

「にゅ!?…みょ、け、へ、へけー!」

「ブハ…ッ! わりィからかい過ぎた」

 

 無茶振りでも頑張った私を褒めてくれていいんだよ?ハムスターに鳴き声ってあるの?チュー?

 

 ツボにハマっていたのか、しばらく笑い転げた後、私の顔に手を置いてじっくり観察し始めた。

 

「あー。金毛に黒目、か……」

「け、やぁー!」

「……金髪。ん?お前の目……若干赤みがかってるな。あ、暗くしたら赤く見える」

 

 毛って言い方なんか嫌だと主張したら伝わった様で一安心。しかし衝撃の新事実が知らされた。

 

 光の中では黒くて、闇の中では赤い瞳。

 そういえばパパ上の目は赤かったかなぁって思い出しました畜生破滅フラグかよ。

 

「……なぁおい」

「わにゅ?」

「闇の帝王って知ってるか?」

「んぱぁ」

「………嫌な予感がする」

 

 青ざめた顔でそう呟いた。

 私の思い至った考えと類似しているようだし、赤目というのがどう考えてもアウトな事に変わりないという確認と同意だった。

 

「お前の『んぱ』って。父親の意味か?」

 

 わぁ!胃が痛いよ!わたし、目は黒で通す!

 使えるかもしれないけど精神負担的に黒で通す事にするよ!

 とりあえず助けて欲しいな!

 

「うぬん」

 

 少し考え私は首を縦に頷くと、目の前の頭は力を失った様にフラフラ揺れた後ガンッと音を立てて頭を地面にぶつけた。

 

「き…」

「きぃー?」

「聞いてねぇぞダンブルドアぁぁあッ!!!」

 

 ダンブルドアって、誰?




何も解決してない。呼び方とか絶対忘れてる。
ただこのワンコは目の前の幼女の姿に度肝抜かれてるだけ。
魔法の言葉は『帝王の娘だから』で乗り切る気満々小娘はシェアハウス()の相手と出会った。

メタ的な理由→呼び名が決まらなかった。


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第10話 普通とか常識とか知らないので

 たまたま迷い込んだ牢屋に居たのは私の世話係と学生時代親友だったシリウス・ブラック。

 私は彼を『グリム』と。彼は私を狐の尻尾、という意味らしい『ヴォルペテイル』から略して『ティー』と呼び合い出した。……昨日から。

 ネーミングセンスはよく分からない。名前から略すんじゃダメですかね?

 

 

 その翌日である今日、私は一体何をしているかと言うと。

 

「ふぎゃあん……」

 

 ──結構死んでた。

 

 

 

 

「おいおいおいおい……なんだよこの状況……」

 

 私は布お化けと化した吸魂鬼に運ばれてグリムの部屋に来ていた。出会って2日目からもうクライマックス。

 

 何故吸魂鬼が布お化けかと言うと、私の視界に優しくないのとグリムの混乱を避ける為に薄汚れた布を被って貰ったのだ。

 

「おい、どうした」

「ねちゅ……」

 

 吸魂鬼が私をポイッとグリムに向けて投げると驚きながらもキャッチした。私はボールか。

 

「うわっ、熱っ………ッ!」

 

 無駄にひんやりとしたグリムの手が私の額に当たる。

 

 ……待って、不自然なレベルで体温低い。

 

「あうあ!らっき!らっき!ダメ!ぬの、ばいちゃんっ!」

 

 吸魂鬼って幸福的な奴吸い取るじゃないですかヤダもー!ハリネズミのジレンマー!

 グリムのなんか色んな物を吸い取っているというSAN値チェック入りそうな光景を目にしたので布お化けとなった吸魂鬼にサヨウナラを告げる!ここでグリムがロストするとやばい!私、頼れる人居ない!

 

「治セ、絶対ニ。アンタガ貴族ナラ出来ル筈」

 

 んもぉぉぉ!喋らないでぇぇえ!?

 

「ハッ!? なんだそれ…!?」

 

 動揺した様子のグリムは声を荒らげるが吸魂鬼は見向きもせずに消えていった。

 看守的に脱走しそうな人間を放っておいて大丈夫なのか……こちらとしてはありがたけど。

 

「グリム……」

「ティー、生きてるか?」

「ばいちゃんきん……」

「生きてるな」

 

 熱が異様に高くなるだけで今回のは風邪特有の症状がない。頭は不思議と冴えてるし今ならなんでも出来そうな感じがする。

 あっ、ダメなやつかコレ。

 

「これは……魔力の暴走か? まさか魔法が開花したとかか?」

「かいか…すてた」

「おい待てなんで動詞に過去形が付いた。既に開花してた後って言う事か!?」

「いぐざくとりー」

 

 元気良くサムズアップするが魔力の暴走って死ぬ危険性あるやつじゃ無かったかな?私が死ぬのかな?く、死なば諸共!巻き添えはしてやる!

 

「じばきゅ」

「怖いこと言うな。自爆は洒落にならねェ」

 

 間違えて自爆魔法開発した時はピーターの髪が全て犠牲になったから確かにお洒落では無い。

 生えてよかった。心無しか増えた気がするが。

 

「………………マジか」

 

 ピーターが昔循環を調べるか何かでした時と同じ様に、私を膝にのせたグリムは手を握って調べると呆然とした様子でポツリと呟いた。完璧無意識下だったんだろうな……やだな……聞きたくないな……。

 

大人(おれ)より魔力量があるとか化け物か?」

「んぱのえいきょ、でしゅからな」

「闇の帝王の血筋ヤベェ」

 

 私も思った。

 

 でもなぁ、魔力量の多さには血筋以外に心当たりは2つある。

 

 1つ、使用回数による成長。

 魔法が使えると分かってから1年間私は闇の魔法使い(エリート)達に扱かれていた。と言っても種類に偏りはあるが、守護呪文なら大得意だぜ!

 

 もう1つ、私が転生者だということ。

 歳を重ねる毎に、とかの周期で成長するのなら前世分もしくは狭間での時間も含まれてあると思う。時間の概念無いみたいだし微妙だけど。

 

「ここまで魔力量があるなら、アレか……子供にまず使えるのかアレって……」

「にょ?」

 

 よく分からないので首を捻って見上げると顎に手を置き考え込んでいるグリムの姿。

 身なりが整っていてもう少し太って真下からのアングルじゃなかったらそれなりに美形だったと思うんだが台無しだ。

 

「………魔結晶を作る」

 

 魔結晶、ほう、あれね。

 …………分からん。全く分からん。

 

「まけ、けー」

「………魔結晶」

「まけんびょー」

「まけっしょう」

「まけっびょう」

「しょ」

「しょ」

「繰り返せ、魔結晶」

「ケヌュンビョッ」

「何語だ」

 

 言葉って難しいね。

 

 言語と格闘しているとグリムはとてもとても深く、それはもう海の底にまで辿り着きそうな程の深いため息を吐いて、説明をし始めた。

 そのため息が魔結晶についてなのか発音についてなのかは考えないでおいてやろう、私の為に。

 

「魔結晶は魔法族の貴族特有の伝統、って言ったらいいのか。親から受け継ぐ方法で、だ」

 

 私の目の前でグリムが自分の手を握りしめた。

 ん?何してるんだ?

 

「いくぜ…?」

 

 グッ、と力を込めた瞬間グリムの手に光が灯った。魔法使いなんでもありだな。

 

「わぁっ!」

 

 ぼんやりとした優しげな光が薄れていくとグリムは手を開いた。その手のひらには小指の爪サイズだが宝石の様なキラキラした石があった。

 すごく甘い匂いがする。

 

「こりぇは?」

「魔結晶だ。簡潔に言うと魔力の塊」

 

 不純物の混ざらない純粋な魔力程無色透明になっていうらしい。グリムの魔結晶は薄めの紫。

 うん、質がいいのか悪いのか分からない。

 

「これがなかなか難しいんだよなぁ。魔力を貯めるって事で高く売れるんだけど、純血貴族くらいしか伝承してねェし、見ての通り小さいから自然発生した魔結晶の方が使える」

「し、じぇん」

「人間じゃなくて魔法生物とか、そういうその他の要因から生まれるんだ」

 

 で、と前置きしてグリムは私を見る。

 

「これをお前もやれ」

「サヨウナラ」

「諦めるな」

 

 丁寧に頭を下げたが許可されなかった。

 

「むりゅ、むりゅぅ!」

「お前のその熱は魔力溜り、つって。魔力が体の規定量以上保持している状態で………着いてきてるか?」

「んぬん…」

「あ。分かってなさそう」

 

 言葉が難しすぎて頭蓋骨割れる。

 うんうん唸っているとグリムが仕方ないといった表情でハッキリ言った。

 

「お腹いっぱいで吐きそう」

「なっときゅ」

 

 となるとどうにかして魔力を消費しなければならないのか。その方法が魔結晶。

 ただし、くそ難しいという前提付き。

 

「魔法使って消費させてもいいんだけど杖無いと不安だしなぁ…。つーか魔力溜りって普通マグルにあるものであって魔法族は無いんだけど」

「ん、んぅ?」

 

 だからね、よく分からない。私貴族としてのアレコレどころか世界の常識すら身につける前の段階でここに入ったんだよね。

 

 名前から察するに魔力溜りって魔力が溜まりまくってる状態だよね。

 発散させないといけない、というわけか。

 魔法族は発散させる魔法(ほうほう)を知っているけど、魔法族になりきれない魔力量を持っているマグルは発散出来ないから私のような状態になる。

 

 ……魔法使えばいいだけじゃん?

 

 

 あっ、ああー!そうか!子供の魔法は安定しないからって理由で杖が必須なんですね!杖無しで使ったら暴走も否定出来ないと!

 

 体の規定量を超えている魔力は毎日使って発散していたからこんな状態にもならなかったし、幸か不幸か魔法のエリート共が周囲に居たから暴発等もしなかった、と。

 

 ……魔力消費に手っ取り早そうなのは攻撃力増し増しの魔法達だけど使ったこと無いものを杖無しの魔法族の近くで使いたくないんだよなぁ。

 暴発、暴走、ダメ絶対。

 

「ん? あ?」

 

 ベシベシと膝を叩いて思考中のグリムを現実に戻す。

 険しい顔して居たが視線が交差した。

 

「……放って…い…殺すのも…りか…」

 

 待て、なんか物騒なワード聞こえた。

 

「お前さ、本当に闇の帝王の子供なのか?」

 

 背筋がゾワゾワと嫌な警告を発する。

 

 あのさ、グリム。

 ひょっとしてなんだけど誰かに私を殺せとでも言われてるの?それとも親が誰ってだけで私も同じ存在だと思われるの?

 

 

 グッ、と私の喉にグリムの手が伸びる。軽くだけど絞められる。

 

 

「違って、欲しいんだけどなァ」

 

 

 そい呟いた数秒後、グリムは項垂れた。

 

「俺に依存しろ……俺の思い通りに動け……そうしたら…生きれる筈だから……ダンブルドアがきっとお前を助けてくれる……」

 

 あ、コレ色々吸い取られて精神参ってる絶対。

 

「にょー」

 

 グッと手を握りしめて魔力を掻き集める。魔法を使うようにすればいいのかよく分からないけど色々詰め込んだ塊を作り出す…!

 

 視界がチカチカ揺れる。

 

「んみゅ!」

 

 手のひらの中に何かの石が出来た。上手くいったと思う。

 それをグリムに、シリウスに差し出した。

 

「ん、あー、あー!」

「……何言ってんだ」

 

 よし、喉の調子は良好!

 

「び」

「び?」

「びぎゃぁああああああっ!」

 

「……は!?」

 

 私の最大限の音量で泣き叫ぶと、グリムはギョッとした表情で手を離した。

 ちらりと見えたがグリムの手は私の異様に高かった熱で赤くなっている。

 

「何事ダ、リィン!」

 

 布を被って無い吸魂鬼が喋りながら現れてさぞかし驚いただろう。私に近寄っても何の影響が無い事が不思議だろう。

 

「わたしは!この、せかいにょ!あく、やみのていおーにょ、むしゅめ!」

 

 私はこの世を脅かす悪の頂点に立つ男が溺愛する一人娘で。

 

「せかいにょ、きょーきぃ!」

 

 次世代の悪役だろう。

 

「ねりゃう、ことあまた!てきは、せかい!」

 

 私を利用しようと企む者はこれからも現れる。

 私の敵はこの世界そのものであり、味方でさえ敵である。

 

「でみょ、わたしは、いしぞある!」

 

 だけど私は敵に歯向かう言葉があって、護る術があって、知恵がある。

 

「おまえが、いじょんしろ!」

 

 私は帝王の娘。

 下から見上げられる存在であり、世界の畏怖する存在であり、請われ、機嫌を取られ、受動的な存在だ。

 

 私ね、自分から動かずに何もしないまま世の不条理を嘆く悲劇のヒロインが大っ嫌いなんだよ。

 

「ふ、ははっ、なんだそれ……。自分からきっちり認めた上に俺の言葉隅から隅まで把握しやがって。普通じゃねェ…!」

「ふつうにゃど、クソくらえッ!」

「だな!」

 

 吸魂鬼が状況を把握出来ないまま距離を離す。

 グリムの平和とか幸福とか吸い取らない様にという配慮なのかもしれない。

 

「俺はシリウス・ブラック。純血主義で魔法界の王族と言われているブラック家の──異端児だ」

 

 そこで『ブラック家』と言ったら闇の魔法族としてのスパイでもなんでも出来ただろうに、グリムは御丁寧に『異端児』と言ってくれた。

 私はこの寒い牢獄で唯一の味方を作れた様だ。

 

 

 

「とりあえずこの真っ黒な魔結晶は不純物が多すぎるからこれから特訓な」

 

 

 努力は嫌でござる。




私を利用しようと企む者はこれから『も』現れる

ヴォルペテイル(リィン)
…ネーミングセンスが無いのであだ名の由来がよく分からない理解出来ない。努力は嫌でござる(2回目)

グリム(シリウス)
…自虐じみていたが、この度『ダンブルドアのスパイ』ではなく『リィンの味方』になった。ダンブルドア側ではある。

物語はリィンのせいで複雑化。
とりあえず不思議語(ひらがなの小文字)はこれにておしまい。次回から進展。


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第11話 神は決して無能では無い

災厄「ヤッタルデ」


 私は現状が謎で堪らない。

 

「如何しましたかな?」

 

 コウモリみたいな真っ黒で不健康な男が隣に並んで学校の道具を買いに来てるとか。

 

「なにゆえ……」

 

 学校なんてどうでもいいからアズカバンに引きこもりたいです。

 

 

 

 シリウス・ブラックことグリムに出会って約10年。その間に色々なことをした。

 

 数ヶ月に1回現れる看守長(人間)の目を欺きつつ、風、温度、湿度、除菌洗浄と色々環境を整えたり。整えられた時は大号泣したけど。

 グリムが犬の姿になれるので吸魂鬼から幸福を吸い取られる事を回避したり。こっそり手紙のやり取りで交流を図ってたことを知った時は大爆笑したけど。

 魔力溜りでもないのに熱と吐き気が収まらなくて原因調べたらコチコチご飯の中に毒が入ってると知ったり。正直世界の殺意の高さより殺意(物理)に耐えれる体に恐怖したけど。

 グリムがホグワーツで起こった色々なことを教えてくれたり。ほぼ抜け道や悪戯だったけど。

 

 うん、引きこもりライフ快適じゃん?

 

 今日はいつもと違い日課であるグリムの牢屋に行ったけど彼が居なかった。その代わり現在私の隣に居るコウモリ男さんが『ホグワーツ魔法魔術学校に入学するから準備するZ』的な感じで来て引きずられるままに外に出たけど。

 会話続かないよね、普通。

 

「Ms.リィン?」

「だい、じょうぶ、ぞり」

「……ぞり?」

「大丈夫どりゅん」

「…………どりゅん?」

「あー、えー、言語不自由、許すして」

「そちらの状況を考えれば仕方ない事だとは思いますがね」

 

 ため息混じりに独り言が聞こえた。

 自己紹介してないけどこの人はホグワーツの教師らしい。

 

 グリム談によるとホグワーツ入学には手紙が届くらしいが、私は環境が特殊だから仕方ない。

 

「それでは買い物を開始する」

「いえっさー!」

「効率良く、そして素早く終わらせ帰還する」

「大賛成ぞ!」

 

 ラジャッ!と敬礼してみるが華麗に無視されてしまった。悲しい。

 

「まず杖の選定」

「…………つえ」

「魔法使いには()()()()杖が必要である」

 

 お、おお?基本的に?という事はこの人杖無しがあると考えているのかな?お仲間!先生私とお仲間さん!

 

「お金は?」

「吾輩が用意してある」

 

 流石にお金という概念が無い、って事は無かったか。

 見せてもらうが単位がどれくらいなのか分からない。単位を!単位を教えて欲しい!

 

「銅貨、銀貨、金貨に別れている。銅貨はクヌート。29クヌートで銀貨1シックル。17シックルで金貨1ガリオンだ」

「クヌート、シックル、ガリオン」

「では問題だ」

「ぴゃっ!」

 

 唐突な問題にビックリして肩が跳ねる。コウモリ男さんはこちらを見ずに買い物リストを見ながら言った。

 

「子供でも飲めるバタービールという甘い飲み物だが、カップサイズで10シックルである。1ガリオンで買った場合釣りは幾つだ」

「な、7シックルでは?」

「ではその釣りを全て銅貨で換算すると?」

「203クヌート……」

「……ふむ、この程度の知識は大丈夫だと考えて良さそうだな」

 

 子供でも分かりそうなことをなんで聞くんだろうと思ったけど私教育とは無縁の場所でここまで育ちましたから、本来では野生児とほぼ同じ知識だったというわけか。

 やべぇ誤魔化しようが無い。

 

「杖!」

「ん、あぁ、すまない。考え事をしていた」

 

 多分この人良い人だ。

 歩く速度をわざと落としてくれているみたいだし会話に知識を織り交ぜてくれる。

 

 バタービール飲んでみたい。

 

「てっきり」

「はい?」

「筋肉は衰えておるとばかり思っていたが体力はある様だな」

「あそこ、狭き。筋肉付く方法沢山実況済み」

「実況するな」

「犯行」

「それも違う」

 

 何年経っても言葉は難しい。

 グリムと話しているから全く喋れない訳じゃ無いけどね。

 

 

 まずダイアゴン横丁にある杖専門店「オリバンダー」という所で杖を選ぶ。材質は不死鳥の尾羽根にレッドオーク。柔軟性があり、長さかなり短めの18cm。

 

 杖には忠誠心というものがある様だ。

 相性とかじゃないのかな……。

 

 店主のオリバンダーさん曰く『最も均整が取れている材木に、自発性のある芯材。持ち主の選り好みが激しい。理想は頭の回転が速く順応性が高い………が杖が短いので持ち主の性格に少々難ありというのが私の意見である』

 

 なら長いのくれ。反抗的な杖は要らん。

 ……交換不可らしいけど。

 

 

 続いて向かった先は鍋。はじめてのおつかいというわけで1人で向かった。まぁ薄ぼんやりと前世の感覚があるわけですから問題無く買えた。

 その間にコウモリ男さんはフローリッシュ・アンド・ブリッツ書店という所で教科書を買ってきてくれた。

 

 効率を求めるだけある。

 

「あとは制服とペットか……」

「ペット…?動物?」

「左様」

 

 動物と聞いて思い当たるのはやはりナギニさんだ。私、蛇と話せるよー!

 

「……なお、蛇では無い」

「ほぎゃん!?」

 

 あれっ、なんで私が蛇を求めていること分かったんだろう。

 

「校長が自ら選んだペットが居る。連れてくる故、目の前の店で制服の採寸をする様に」

「はーい……」

「貴様は出生や環境が特殊であったからな、その配慮だろう」

 

 ダンブルドア校長が思っていたより良い人だった。グリムの話によると好感度は高いみたいだけど盲信させる天才ってイメージだったから。

 

 いや、この人含めて警戒した方がいいよな。

 

「では」

 

 踵を返してどこかへ向かって行ったので私も店に入る。

 中には採寸している男の子とキョロキョロ周りを見回している男の子、計2人居た。

 

「ん?兄姉の付き添いか?」

 

 採寸していた子が失礼な事言ったので頬を膨らませる。

 

「採寸ぞ!ホグワーツ入学生!」

「……驚いた、こんなチビが居たのか」

 

 そう言われてハッとする。私は採寸している男の子の肩より背が低かった。

 

「なん、じゃと……」

 

 え、栄養失調だとッ!?

 グリムがチビチビ言ってきたけど大人目線の話だとばかり…!まさか同年代と比べてもこんなに体格差が生まれるとは!

 

「わ、ホント、軽いね」

 

 一気に目線が変わる。キョロキョロしてた方の子に脇の下に手を入れられ持ち上げられた様だ。

 

「私、特殊環境下、居るした、居る所」

 

「キミもホグワーツ入学生?」

「ん、あぁ」

「魔法界の事詳しい?」

「………そうだけど」

 

 ホッとした表情で男の子は良かったと呟く。

 

「僕魔法界の事知らずに育ったんだ!良かったら教えて欲しいな」

「……キミ、マグル生まれか?」

「えっ?生まれは分かんないなぁ。父さんと母さんは魔法界の事詳しいから違うと思うけど」

「私も教える事ぞ願う!」

「キミがマグル生まれ?」

「残念無念、穢れた血とやらではござりませぬ」

「僕心底キミの環境が気になってきたよ」

「僕もだ」

 

 魔法界出身でも教わらない環境ってあるんだよ坊っちゃん達。

 

「僕ハリー、キミ達は?」

「僕はドラコだ。家名はマルフォイ」

「リィンぞ」

 

 聞き覚えがある様な無い様な気がするけどとりあえず言いたい事は1つ。

 

「私、いつまで拘束続行?」

「「あっ」」

 

 いつまで経っても降ろされる気配が無いので進言する。

 

「はい坊ちゃん終わりですよ」

「……ん」

 

 ドラコ君の採寸が終わったようで採寸台から降り、代わりにハリー君が乗る。

 

「Ms.リィンは」

「呼び捨てでよろしきですぞり」

「……リィンは何故そんな喋り方なんだ?」

「ドラコ君」

「ドラコでいい」

「ドラコは1歳児が閉鎖空間にて教育など何もせず育つしたなればどうなると予想するです?」

「………………廃人か、人形だな」

「なれば私はまだよろしき方ですぞね」

 

 閉鎖空間って言っても快適な生活だったしグリムや吸魂鬼と会話出来たからね。

 

「聞いて損した気分だ」

「なにゆえ!?」

「心情的な意味で……知らなきゃいい事は世の中にあるんだってこと、分かった」

 

 お腹を押さえながらドラコは遠い目で呟く。

 私、グリムの過去─悪戯仕掛け人の悪戯録─を聞く度に良くするから分かるけどそれ胃痛だな?

 

「まぁ地雷ボンッは否定です」

「えっと、地雷じゃないって事…?」

 

 僕ハリーでいいよ、と言いながら聞いてきた。

 

「正解です!」

 

 にぱり、と好印象に見えるように笑うとおずおずと手を伸ばされ撫でられた。

 

「………僕さ、妹欲しかったんだ」

「父が言うには、妹はろくなものじゃないと言っていたが……」

「私愛すされたキャラになるを願望中!」

「ヤバいコイツ意図的に人を誑かすタイプだ」

「前言撤回……したいけど……僕の中で歳下の守るタイプが欲しいって願望が……! 騙されててもいいから…!」

「キミさては損するタイプの人間だな」

 

 妹キャラとかほぼ無条件に愛されるお得なポジションなので進んで妹キャラになる。

 

 ハリーの採寸が終わったので私と交代する。

 サイズが最小でも余って採寸に時間がかかってごめんお姉さん。

 

「終わりましたかなMs.リィン」

 

 コウモリ男さんが犬を連れて戻ってきた。

 その真っ黒な犬は死んだ目でリードに繋がれており非常に大人しいが、私は目が合った瞬間気づいた。

 

 お前、グリムだな???

 シリウス・ブラックだな???

 

 コウモリ男さんがハリーやドラコを見て嫌そうな顔をする。そこになんの因縁があるのか分からないが私はそこの見覚えのある犬に言いたい。

 

 だからグリムだよねお前???

 

「それ」

 

 私が犬を指さすとコウモリ男さんは調子を取り戻したのか、リードを私に渡してきた。

 私の採寸はどうやら無事終わったようだ。

 

「校長からプレゼントだ」

「………名前は?」

「付けてもいいと」

「ではグリム」

「…ヴ、ワンッ」

 

 あ、コイツグリムだ。

 腕を広げておいでーってしてみるとポフリと肩に顎を乗せて来た。死んだ目だったけどホッとしたみたい。

 

「……説明は、いただくですぞり」

「ヴァンッ…」

 

 悲しそうに鳴いた。グリムはアニメーガスと言って動物もどきになれる魔法を使え、変身後の姿は真っ黒な犬だ。

 学生時代の悪友、悪戯仕掛け人にパッドフットと呼ばれていた由来はここらしい。

 

 兎に角、校長からグリムが送られてきたという事は間違いなく監視。校長は敵だった。

 問題はコウモリ男さんがグリムはシリウス・ブラックだと言う事を知っているかどうか。

 

「この犬何ぞ?」

「分からん」

 

 クイッとハリーに引っ張られた。

 

「この人誰?」

「えっ、誰?ホグワーツの先生と予想?」

「……言ってなかったか」

 

 コウモリ男さんは考える素振りを見せ、口を開きかけた。

 

「ドラコ、採寸は終わったかな」

「愛する僕のハリー!」

 

 ドラコの父親とハリーの両親がやって来て、お互い固まった。固形物質だらけかよ。

 これはお互い知り合いだったとか言うパターンですかな。

 

「セ、セブルス!?」

「スニベルスぅ!?」

「セブ!?」

 

「……ルシウス、リリー。とポッター」

 

 今、私の脳細胞が輝いた。

 

「あ……」

 

 ポツリと言葉が零れ全員の視線が集まる。

 ハリーとそっくりの父親が私の傍に座っているグリムに目をやる。

 

「エッ、パッ…──ゴフッ!?」

「ゥウウウウウ!」

 

 グリムが吹っ飛んでハリーの父親の口をダイナミックに塞いだ。口封じ(物理)凄い音したよ。

 

「素晴らしい忠犬具合だ。褒めてさしあげよう」

 

 グリムが嫌そうな顔して、そっと私の後ろに隠れた。おい、忠犬具合どこ行った。

 うん、ごめん、ちょっと情報量が一気に来たから帰っても良い?

 

 えーっと、私の父は闇の帝王。

 

 その部下はコウモリ男さんであるセブルス・スネイプと、彼に視線を向けているルシウス・マルフォイ。

 

 そして彼の息子で、いとこのドラコ。

 

 父に殺されかけたが生き残った英雄一家と呼ばれ、グリムの学生時代の親友であるジェームズ・ポッターとその奥さんよリリー・ポッター。

 そして息子のハリー。

 

 

 つまり、私はこの場にいる全員と会ったことがあるという訳だ!なんだそれは!

 

 

「セブルス、いつの間に子供を…?」

「違う!」

 

 セブさんは必死に否定しているが、闇側の人間だけじゃない現状上手く言葉が出せない様だ。

 下手したら光側にバレるもんね。闇側は一斉投獄されてアズカバンだもんね。私にみたいに。

 

 …………………はぁ????

 

 何だ、うら若き私は投獄されたというのに良い地位に居るいい歳こいたおっさん共はお日様の下悠々と過ごしていたという事?

 

「……ふ、ざけるなぞ貴様ら!」

「いきなりどうした」

 

 ドラコが目を白黒させている。

 

 そりゃ、私は親が親だから仕方ないけどさ、なんで父に謁見所のレベルじゃない所業を出来るセブさんや親戚筋になったルシウスさんはこんな平和に生きてるの!?

 平和侮辱罪で鉄槌下すけどいいよね!?世界で1番平和を望んでいる私に与えられないとか神様無能かよ!いや災厄が有能過ぎるだけか!?

 

 

 フゥーーー落ち着け落ち着け。

 

 

 ひとまず目標は私が味わったこと。

 

 胃 の 壁 を す り 減 ら す 事 。

 

「ポッター一家様、この度は身内が大変ぞご迷惑ぶっかけるしたぞりんちょ」

「ごめん語尾と言い回しが気になって話に集中出来ない」

「ハリー黙る」

 

 頬っぺたを引っ張ってハリーの口を塞ぐ。

 私の口封じ(物理)はなんて優しいんだ。

 

「いやぁ、ルシウスさんもお元気いっぱいで嬉しい限定ですぞり!」

「は、はァ……?」

 

 困惑してセブさんと私の間を見たりしているルシウスさん。私が誰か気付いて無いようなので好都合だよね。

 

「私はこの通り、ルシウスさんが言うした通りの容姿。中の上、上の下にぞなりますてまことにビックリ仰天ぞ!ドラコは言うした通り美人となりますたね!いやぁ、影口などという所が似るせず私一安心ですたぞ!」

 

 私が脅しネタとして覚えてなかったとでも思うなよ。1文字1句覚えているからな!『何が我が娘1番だ親バカめ精々中の上か上の下にしかならんだろう、なぁ姫君』『それに比べて私の息子の可愛さと来たらこれは将来美人確定だ!』などとツラツラツラツラ。

 多弁症が貴様は!ノイローゼになるわ!

 

 そこまで言うとルシウスさんはサッと顔色を消していった。

 言葉の意味が分かっているのは恐らく本人とセブさんだけだろう。

 

「ね、セブ先生!」

 

 アイコンタクトを送る。

 『誰かに口を割ったらお前の過去をバラす』とね。もちろんチラリとリリーさんに視線を送ることを忘れない。

 何かしらの弱点なんでしょ。

 

──バタン

 

「へ、あ、父上が倒れた!」

「大丈夫ですか!?ドラコこれ大丈夫!?」

「分かるか!僕は癒者じゃないんだぞ!?」

 

 慌てる子供達とそれを尻目に呆然と立ち尽くす大人達。

 その光景を見ながら小さく言葉を漏らした。

 

「やはりこれはあかんだろ」

 

 ポッターとマルフォイと私が同じ学年で集うという宿命に、世界の殺意の波動を確かに感じた。

 




ドラコ・マルフォイ……この作品でリィンのいとこ。純血主義の貴族であり、胃は弱い。良くも悪くも色々な所が父譲り。生え際とか。
ハリーポッター……原作主人公。魔法界を知らないが原作と違い愛は確かに知っている。母親の方が好きです。父親の愛は重すぎる。

ホグワーツ入学前の子供達はロンドンにある漏れ鍋という店から魔法界のダイアゴン横丁に入ります。リィンはアズカバン直行なので街への入り方とか知りません。

これを機に原作読むことオススメします。もしくはDVD借りて見てみなさい。
原作知識なんてものが無駄になります。


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賢者の石編
第12話 「僕の平和な世界」


 ハリー・ポッターの生活はごく普通な生活だった。小憎たらしい従兄弟のダドリーと毎日口喧嘩をしながら学校へ通い、どこか世間知らずな父親のテンションに振り回されながら、母親を見習い色々な常識を付けて行った。

 

「大変!ジェームズ!ジェームズ!ホグワーツから手紙が来たわ!」

「ッ、本当かいリリー!」

 

 いつも落ち着いて行動する母親リリー・ポッターの稀な行動にハリーはメガネを直しながら部屋から降りて様子を伺う。

 ただし父親のジェームズ・ポッターは普段通りに思えた。

 

「遂に隠れる必要が無いって事だね……!マグル生活はなかなかに快適だったけどやっぱり魔法が使えないとキツかったんだ!」

「今更掃除を手でやるのキツかったのよね…。でも心配だわ、向こうの情報は一切遮断していたからどうなっているか……」

 

 祭りでも開きそうなテンションに困惑する。

 するとジェームズは部屋の外から眺めていたハリーに気付きおいでとジェスチャーをした。

 

「うわっ!」

 

 脇に手を入れられ持ち上げられるとハリーは驚きの声を漏らす。

 

「ハリー!君も魔法使いになったんだ!」

「……頭おかしくなったの父さん」

「ちょ、ハリーは僕に辛辣過ぎない!?」

 

 その父と子のやり取りでリリーがクスクスと笑みを零す。

 

 ──幸せだなぁ…

 

 よくある日常の風景。

 たった少しの事で変わった幸せな時間。

 

「ハリー、愛してるよ」

「私も貴方の事を愛してるわ、ハリー」

 

「……いっつも言うね」

 

 聞きなれた言葉を照れ隠しで誤魔化した。

 極々一般的な、普通な生活だった。

 

 

 ==========

 

 

 

「すっっごい…!」

 

 グリンゴッツ銀行でお金を引き落とす為にトロッコ列車に乗ったハリーは興奮した様子で声を上げた。

 

 ロンドンにある漏れ鍋から、様々な店が点在するダイアゴン横丁に入ればそこは別世界。

 魔法という物が存在すると知ってどれだけワクワクしたことか。

 

 ハリーはすごいすごいと何度も繰り返した。

 

「うっ……何度乗っても慣れないわ……」

 

 顔を青くするリリーだったが流石ジェームズの息子というか。

 親子揃ってテンションを上げる様子に苦笑いを零す。

 

 トロッコは右へ左へ左へ右へと、道順を覚えようとさせない程グネグネと曲がる。

 トロッコは深く潜ると地下湖のそばを通る。鍾乳石や石筍が天井や地面からせり出していた。

 

「僕いつも分からなくなるんだけど……」

「ん?なんだい?」

 

 ハリーはトロッコの音に負けないよう大声で呼びかける。するとジェームズは首を傾げた。

 

「鍾乳石と石筍って何が違うの?」

「上から垂れるのが鍾乳石、下から盛り上がるのが石筍だよ。ハリーは偉いね、疑問に思ったことを解明しようとするんだから。どこかのダーズリーとは違うね」

「ジェームズ……。ペチュニアの息子を悪く言わな……うっ…」

 

 真っ青なリリーがそう注意をするとようやくトロッコは止まる。

 グリンゴッツの小鬼─名はグリップフック─が金庫の鍵を開けた。

 

 ハリーは思わず息を呑む。

 中は金貨の山。銀貨の山。銅貨の山。

 

 いつも節約ばかりと口にする両親、いや、主にリリーだが。まさか我が家にこんな財産があるとは想像もしてなかったのだ。

 

「父さん達……何者なの……」

「闇の帝王を退けた英雄一家。と、言われながらも危険から逃げる為にマグル社会に夜逃げした普通の家族さ」

「………それ、普通じゃないよ」

 

 やはりハリーの父はどこか常識外れだ。

 

 

 ==========

 

 

 

 おかえりなさいポッターさん。

 

 自分が特に何かをした訳でもないのに父親の恩恵の様に道行く人々にそう言われる。

 もちろん社交辞令だという事も分かっているしどうしようもない事は分かっていた。

 

「(まともに買い物も出来ないや)」

 

 親が称えられる事は嬉しいし、他の人と違う特別感は高揚をもたらす。

 だが両親の愛を一心に受けたハリーにとってそれは大事な事ではなく余分な事。

 彼にとって1番大事な事は名声でも名誉でも栄光でも無く、辛い時も楽しい時も共感したい時にそばに居て愛してるを呟いてくれる親なのだ。

 

「ねェ、父さん母さん」

「ん?なんだい?」

「どうしたの?」

「……生きててくれてありがとう。僕、幸せ」

「僕はああああ!世界で1番んんんん!幸せだぁあああ!!」

「やめて父さん恥ずかしいよ」

 

 

 ハリーは表情を戻して次に入る予定だった店に入った。

 

 そこで、運命の出会いをする。

 

 

「(小さい……)」

 

 キョロキョロと周囲を見回す金髪の小さな女の子を見つけた。

 小動物の様な仕草に少し笑みが零れる。

 

 その子に習いハリーも周りを見渡す。採寸している自分と同年代であろう子も訝しげに女の子を見ているようだった。

 

「ん?兄姉の付き添いか?」

 

 盗み聞きしていたらどうやら違うらしい。

 耐え兼ねてすぐさま近寄り持ち上げてみた。驚く程に軽い。従兄弟のダドリーの4分の1も無いかもしれない。

 

「僕ハリー、君達は?」

 

 ハリーの魔法族の最初の友は、間違いなくこの2人だった。

 

 

 

 運命は変えられるから運命なのだ。

 偶然の巡り合わせにより出会えた奇跡にも等しい運命。しかしそれは日頃の行いや選択によって変わるもの。

 

「(よろしくね)」

 

 お互いの保護者のドタバタ具合に、3人は結局耐えきれず笑いあった。

 

 

 

 ==========

 

 

 キングス・クロス駅の9と3/4番線からホグワーツ特急が出る。

 

「えっ、じゃあもしかして傷……」

「うん、あるよ。これ?」

 

 ハリーはこれから過ごす学び舎、イギリスが誇るホグワーツ魔法魔術学校へ向かう電車のコンパートメントの中。ロナルド・ウィーズリー──ロンと会話を楽しんでいた。

 

「わお……凄い……」

 

 ハリーが前髪をかきあげるとイナズマの形の古傷が肌に刻まれていた。ロンは生き残った証に目を取られる。

 

「でも僕まだ自分の事がよく分かってないんだ」

「自分の事なのに?」

「うん。父さんも母さんもずっと魔法界の事分からなかったんだ」

「へー…」

 

 純血貴族、つまりは生まれた頃から魔法界で過ごした者。ロンの知識は魔法界の常識と見て間違いなかった。

 

 どうやら名前を言ってはいけない人、闇の帝王ヴォルデモートがポッター一家を襲った。死の呪いから唯一生き残ったハリー。そしてジェームズは撃退し、ヴォルデモートは姿を世から消した。

 生存は不明であるが多くの者が死んだと言うのだ、いや、死んだと願っている。

 

「うー…ん、やっぱり僕、何もしてないよね」

「死の呪いから生き残っただけでも凄いんだよ」

「えぇ……でも僕普通にマグルで学校通ったくらいなんだけど……。あ、皆勤だよ!」

「キミ結構マイペースだね」

 

 母親の逆境に耐える強い心と他人想いな所。父親のマイペースで悪戯好きな所。

 従兄弟であるダドリーの現実主義な所。

 

 親が生きていて、自分に余裕があるからこそ周りが自然と見える。

 

 周りのいい所を吸収して育ったハリーは卑屈になる事も自信が無いという事も無鉄砲な所も、無くなっていた。

 

──コンコン…

 

「はい?」

 

 コンパートメントの扉を叩く音に2人は視線をそちらに向けた。

 

「探した、ハリー……」

 

 酷く疲れた様子のドラコ・マルフォイが居た。

 

「ゲェ、マルフォイじゃ…」

「あぁ。赤毛にそばかす…ウィーズリーか……ちょっと今お前に構ってる暇が無いくらい忙しい」

「はぁ!?どういう事だよ!?」

 

 ロンとドラコは馬が合わないのか、それとも生まれ持った気質……グリフィンドール家系とスリザリン家系のせいなのか。

 どちらにせよ、ドラコの言葉通りなのは確かだった。

 

「リィンを知らないか?」

「リィンを?」

「あとアレの家名を知らないか? なんか、父上がリィンを丁重に扱えだとか目を離すなとか言ってきたんだ……」

「えっ、どういう事?あの時倒れた人だよね?」

「遠回しだから分かりにくいけど父上の言いたい事は多分『リィンを利用しろ』……だと思う」

「わっかんない。なんでだろ」

「マルフォイ、ハリーに何の用だよ」

「あぁもううるさいな!人探しだよ!家とか関係なく父上が尋常じゃなかったから問い詰めてみようと思ってるだけさ!」

 

 マルフォイ家というのは闇側と光側の両陣営から見て現在微妙な立場にある。

 闇側からは血縁関係がある以上地位が高い家。しかし処罰は受けず中立としてその地位を確立しており、扱いが難しい。光側からは闇陣営の家である筈なのに操られていたと証言され証拠も無ければ何も出来ない狡猾な家と。

 

 中立派とも言えない、傍観派と言うには関わりが必ずある、そんな両板挟みの立場だった。

 

 もちろん子供であるドラコがそんな細かい事を知る筈無いが。

 

「とりあえず僕も手伝うよ。入学前に会いたい」

「助かる……ほんと……」

 

 マルフォイ家は純血貴族もあって知名度は非常に高い。好奇の視線に参っていたのだろう。

 だいぶ弱っており悪態をつく暇もなさそうだ。

 

「(そんなに疲れるなら組み分け終わってから話しかければ良いのに………まぁ面白いから言わないけど)」

 

 結局見つからなかった。

 

 

 

 

「あ、リィン」

「ホントか?」

「どこどこ?キミ達の探してる子って」

 

 組み分けをする為に集まった大広間の人混みの中、ハリーはようやく目的の人物を見つけた。

 その声につられてドラコ、ついでにロンも視線を向ける。

 

 空からフワフワと浮いている蝋燭。幻想的な風景にも関わらずリィンは目の前を真っ直ぐ見ていた。新入生特有の浮かれた様子は全く見えない。

 ……まるで戦場に立っている様だ。

 

 彼女の視線の先にあるのは組み分け帽子。

 実は帽子を被る事で自分の所属する寮を決める事が出来るのだ。

 

 

 寮は全てで4つ。ホグワーツ創設者4名の家名から取られている。

 

 ゴドリックのグリフィンドール。

 真紅に金が映える、勇敢な者が集う獅子の寮。

 

 ロウェナのレイブンクロー。

 青に銀の上品さが魅せる、機知と叡智に優れた者が集う鷲の寮。

 

 ヘルガのハッフルパフ。

 黄と黒が目を惹く、心優しく勤勉で真っ直ぐな者が集うアナグマの寮。

 

 サラザールのスリザリン寮。

 緑を銀で飾り付け、優れた才知を持つ者と狡猾な者が集う蛇の寮。

 

 どうやら名前が呼ばれ始める様だ。

 

 家名のアルファベット順なのでハリーは中盤になる。しかしマルフォイであるドラコはハリーより早いだろう。

 

「………」

 

 ハンナ・アボットの組み分けが終わり次の名前を呼ぶ時、羊皮紙に目を通したマクゴナガル副校長がそっとその目を閉じた。

 

「(リィンの家名、結局なんだろう)」

 

 重々しく口が開かれる。

 

 ぼんやり蝋燭の揺れる火を見ながら新入生は耳を疑う名を聞いた。

 いや、新入生だけでは無い。むしろ生徒全体だけでは無い。

 厳粛な態度を崩さないが、微かに教師にも動揺が見て取れた。

 

 

 当の本人は幻想的な風景にも関わらず目の前を真っ直ぐ見ていた。組み分け帽子の──更に奥。

 世界で1番偉大な魔法使いを。

 

 

「アズカバン・リィンッ!」

 

 

 周囲の人間が騒々しく反応する。

 ハリーの初めて出来た友人は絡みつく様々な視線の中堂々と歩く。

 

 

 ………鼓動が早まった。

 

「(最っ高だよ……リィン……!)」

 

 自分に流れる父親の血を確かに感じた。




リィンのフルネーム登場です。

原作と違い心理的に余裕のあるハリー。
死んでしまっていたかもしれない、と真実を知ったからこそ幸せを確かに感じてます。
それとドラコは余裕が無いのでロンに構ってる暇が無いから険悪さは半減。潜在意識はありますがね。


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第13話 真っ直ぐな願いと運命

 

 入学前。いつも通りアズカバンでゴロゴロしていたら、看守の中で唯一人間の看守長─名前不明─と共にセブさんがやって来た。

 

「……入学だ。荷物はもうまとめ終わった。我々は直接ホグワーツに向かう」

 

 刑期終えた気分になった。

 アズカバンのスローライフ楽しいです。

 

 ……ところで私って終身刑?

 

 

 

 ==========

 

 

 

「改めましてお久しぶりです姫君」

 

 姿くらましという瞬間移動を使ってホグワーツ付近に飛んだ後、セブさんの私室兼準備室である地下室で彼は恭しく頭を垂れた。

 

「荷物、ありがとう」

「……勿体なきお言葉」

 

 セブさんは賢い事に私が赤ん坊の頃の記憶があると悟った様で、忠義の態度を見せる。

 ううーん……父の被害者をまた苦労させるわけか。そう考えたらちょっとだけ反省する。

 

 ちょっとだけ。本当にちょっとだけ。

 

「申し訳ありませんが私は現在我が君のお言葉でホグワーツに潜入しております」

「つまり、父側だとバレるしない様に。私の味方行動は難易度…高、高山?激しい?と?」

「…………はい」

 

 顔を上げさせて向かい合わせで椅子に座る。

 セブさんは死喰い人。つまり闇側。

 ただし世間には闇側だという事がバレない様に光側だと偽っている。

 

「あー……分かるした、分かるした故」

「ご理解感謝致します」

「しかしながら、影では私の味方、と?」

「もちろんでございます。私の忠誠は、我が君と姫君へ……」

 

 わーいやったー!

 セブさんは昔と変わらず味方だーー!

 

「ふぅん」

 

 ……とでも言うと思ったか。

 

 何も知らない子供なら騙せるだろうね。

 頭の弱い、教育もままならない子供なら。

 

 一言言わせてもらうと凄く胡散臭い。

 

 私は彼の事で知っている事がある。

 

 『リリー・ポッターを愛した』

 

 ハリーの母親の事。

 当時の事をよく知るシリウス・ブラック……私の味方であるグリムに2人の関係性を聞いた。

 

 2人はマグル生まれでリリーさんは両親共にマグル。セブさんは彼女を愛した、ハリーの父親であるジェームズさんも彼女を愛した。

 結論で言うと失恋したんだけど。

 

 それでもセブさんは今のリリーさんに会えば動揺を見せる。多分想いは完全に昇華されてない。

 そして父であるヴォルデモートはポッター一家を殺しそびれた。

 

 ……父を放っておけばリリーさんを殺すかもしれないのに、何故忠誠を捧げられる?

 

 

 

 それらを統合した結果、私の下した結論。

 

「そう受け取るですよ…──今は」

「……。」

「私の扱う方法に、困難多大であると思考中ですが、精々頑張るしてください。スパイさん」

 

 地頭は良い。だから遠回しでも伝わる筈。

 

 『今は、闇側の味方だと分かったよ。今はだけどね。未来で、例えばヴォルデモートが倒される時、闇側に居るかどうか分からないからね』

 『私の扱いに困るよね、だって己の立場がどうなるか分からないんだから。一生懸命考えてるよね、まぁ頑張ってね。もしも私の予想があっていたら私の一言でキミの命運決まるもんね、ダブルスパイさん』

 

 

 セブさんはこちらを真っ直ぐ見ながら表面上の返事をした。

 

「えぇ、全ては我が君と姫君の為に」

 

 『闇側からのスパイ』と言う解釈。腹の中では何考えているか分からないけど。

 

「すまないセブルス・スネイプ、渡し忘れた物があった……」

 

 扉の外から聞こえたのは看守長の声。

 セブさんが入室を許可すると不機嫌そうに私を睨みつけながら袋を渡した。私に。

 

「……?」

「お前の、唯一の、荷物だった物だ」

 

 受け取って紙袋をガサゴソ開く。その中にあったのは数少ない記憶の中で唯一の所有物。

 

「……魔法省は渡す必要無いと言っていたが闇の魔術の形跡も無かったし、私からの入学祝い代わりだ」

 

 看守長は変わらず不機嫌面。

 中に鎮座していたのはペンダントだった。

 

 父がくれた物。

 

「……ッ!?」

「あり、ありが、と、ありがと……ッ」

「ど、どうすれば……」

 

 涙が零れる。

 看守長は私の態度に調子を崩してオロオロし始め挙句、見るからに子守りが苦手そうなセブさんにまで助けを求める視線を向けた。

 

「良かった、良かったぁ……」

 

 安心してボロボロ目から涙が出てくる。

 

「良かった……!」

 

 

 ──これでいつでもセブさんを呼び出せる!

 

「ありがと、ございまひゅうううう……」

 

 歓喜あまって抱きつけば、看守長は慌てて自分から私を引き剥がした。

 

「あー、えっと。……10年もよく耐えたな」

「うわぁぁあんっっ!辛いですたああ!」

 

 看守長を10年目にしてようやく絆せた。

 子供が全員無垢で純粋だと思うなよ、こちとら堕天使産の闇の帝王の娘だ。

 

 演技って地味に難しいなぁ。練習しよ。

 

「し、失礼した!」

 

 看守長は私が泣き止めば正気を取り戻して部屋から出て行った。新手のツンデレかな。

 

「姫君……」

「何?」

「……いえ、お元気そうで何よりです」

 

 セブさんひょっとして喧嘩売ってる?

 畜生、この人にバレない演技力身に付けないと私にとってのラスボス、アルバス・ダンブルドア校長に敵わない。

 

 状況確認は、グリムと合流してからの方がいいかな。

 とりあえず、時間が来るまで文字教えて。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「アズカバン・リィン……ッ!」

 

 ミネルバ・マクゴナガル副校長に名前を呼ばれ組み分け帽子の元へ歩く。

 ビビるな、前を向け。

 決して視線を逸らすな。

 

 『……姫君、本当に家名はこれでよろしいのですか?』

 

 家名:アズカバン。

 私が自由に決めていいという事でこうした。

 

 隠すという事はやましい事があると言っているようなものだ。これから7年家を誤魔化すよりは堂々と明言していた方がいい。

 大人にはどうせ闇の帝王の娘だという事はバレている。

 

 もしも未来で『リィンの親はヴォルデモートなのだ!鉄槌を下せ!』的なこと言われたら。その言葉に動揺した無知であった者は何を思うか。

 

 もしその時に私が何かを企んでいたら。

 その計画はあらかた潰れる事になる。

 

 気にしてませんスタイルで隠さない。

 

 何度でも言うけど元は知られている事。なら知らない人に自ら教えておく。

 

 ……と言っても『父親を知らない子供』としてダンブルドアを騙せるのなら使う。

 

「無駄と、推定する」

 

 セブさんはダンブルドアと繋がっている、と予想している身として情報共有の危険性も視野に入れておく必要がある。これに関してはグリムだってそう。監視役だと本人から言われないにしてもそうだと確信しているから向こうに渡す情報の選出はする。

 

 なら赤ん坊の記憶を持っている事も共有する可能性が高い。

 

 私の目的は、中間派として生き延びる事。

 闇側にも光側にも私の存在を使わせてたまるもんですか、って事だ。

 

 

 椅子に座るとハリーやドラコと目が合い笑みが零れる。ドラコは心配そうな顔をしてハリーは笑顔を返してくれた。

 友達という感情は少し嬉しい。親から何かしら教えられていたり、そうでなくてもアズカバンという名前に嫌悪を覚えても良いのに。

 

 変わらない感情は私にとってとても尊い事。

 大切な事。

 

 

 大丈夫、私にも味方はいる。

 

 

「そうだな、キミは…──」

 

 私より前に居たハンナ・アボットの出番で帽子が喋る事は分かっていたから驚きはしないけどビックリはした。

 

「寮って……」

 

 組み分け帽子が結論を下すより先に私は周囲に聞こえるほどの音量で語り掛けた。

 

「ん?」

「皆がその可能性を所持すている故、本人が心どこかで望むした場所が選ばれるのでは」

「………ほう、キミは組み分けをそう取るか」

 

 勇敢、機知、勤勉、狡猾。

 人間それで分けきれる程簡単に造られて無い。

 

 神様がどう思って人間に感情を付属させたのか分からないし、そんな真理的なこと分かりたくもないが、少なくとも『分けられない』と言える。

 

 

 私は次世代の悪役。

 

 ……そんな事、望んでないんだよ。

 

「キミが、望む寮はそこか」

 

 私は真っ直ぐ望む。

 私の命運は私が決めるもので、何者にも奪われない。絶対に思い通りの人形になってたまるか。

 

「運命は変化するもの、故に」

 

 自分の性格を考えれば、血筋を考えれば妥当な寮はある。むしろそこに入るのが理想的なシナリオ通りだろう。……私を悪役に仕立てあげたい者にとって。

 

 そう予想通りに行くと思うなよダンブルドア。

 

 

 

 

「…───ハッフルパフッ!」

 

 

 私と知恵比べと行こうじゃないか、世界。

 

 ……でも口調のせいで締まらなかったからか生徒は苦虫を噛み潰したような顔だった。解せぬ。




寮はなんと驚きハッフルパフ。
去年のハロウィン、Twitterでアンケートをとっていました。

3度目のリィンが入る寮は──(全38票)
グリフィンドール…24%
レイブンクロー…18%
ハッフルパフ…3%
スリザリン…55%

分かってた、知ってた。このスリザリン票の多さよな。

ここで恒例の煽りを(恒例にするな)
い つ 票 数 の 多 い 寮 に 入 れ る と 言 っ た ?

どの寮でも基本の展開的に問題は無かったんです。どっちみち災厄まみれですし。
でも、私にとって1番楽しい展開を望める寮が票数1番小さかったんで、私、とっても嬉しい♡

自称皆様の予想を斜め上に行く恋音でした。


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第14話 鬼が出るか蛇が出るか

 

「リィン・アズカバンです。よろしく」

 

 ハッフルパフの席に座る先輩方や同級生に挨拶をする。嬉しい事にすんなり受け入れてくれた。

 これで『アズカバンとか、なにそれこわっ…近寄らんとこ…』みたいな反応されても別に気にしないんだけど。

 

 周囲の視線は気になるものも、私より後ろは特にトラブルも無く組み分けが進む。私がトラブルだったという意見は聞かない。

 

 知り合い、と言ってもドラコとハリーだけど2人は別の寮になった。ドラコの視線がウザイ。

 ドラコはスリザリン。ハリーはグリフィンドール。彼らの両親の寮と同じだ。

 

 

 さて、これからどうするかなぁ。

 

 

 そんな事を考えているの校長であるダンブルドアが挨拶を始めた。入ったらいけない部屋だと忠告したり、あまり自分には関係無い話だ。

 

「しかしのォ…──」

 

 不自然に話が区切られ生徒の視線がダンブルドアに集う。

 本人は髭を撫でながら困った様に笑っている。

 

 ……と見えた。

 本意は分からない。

 

「……ん?」

 

 目が合った気がした。どうしよう、凄く嫌な予感がするんだ。

 

「今年はハッフルパフの生徒が多くてのォ、部屋が足りんのじゃよ」

 

 嫌な予感がする(確定)

 

「元々部屋の少ない寮、しかし参った。スリザリン寮なら空いておるんじゃが」

 

 教師陣はちらっとダンブルドアに視線を向けるも特に表立って何かを言おうとする人間は居なかった。待って、待って。

 

 ちょっとだけでいいから待って。

 

「そうじゃ、Ms.()()()()()。お主ならスリザリンでも構うまい」

 

 構います。

 構うからニッコニコ笑顔で私に話しかけないで下さい。

 

「私は、ハッフルパフ生」

「しかし寮も足らん。1人移動するだけでちょうどピッタリなんじゃよ……どこかの部屋が規定より多い人数を入れるとなると、同室の者にも厳しい思いをさせてしまうんじゃ」

「それで私が、選択、訣別、視野……選ぶ?されるはおかしい」

「スリザリンもいいぞ?皆がその素質を持っており、望めばその寮になる。……そう言ったのはMs.アズカバン、キミじゃよ」

 

 痛い所を突いてくる。

 私の発言を鑑みるに、スリザリンでも支障は無い。たどたどしい英語で語るも上手く反論は出来ない。だってグリム─シリウス・ブラック─が適当過ぎて口調の過ちを直してくれなかったんだもん!会話出来る分これでもマシな方だけど!

 

 あ、どうしよう。今急にグリムに会いたい。

 

 体に擦り寄せてくるゴワゴワした毛並みと体温が無いことに違和感と焦燥感を覚えながらダンブルドアを睨みつける。

 それを無視しダンブルドアは再び口を開いた。

 

「それにスリザリンでは広い1人部屋じゃぞ?」

 

 本来、そう、『アズカバンに収容されていた何も知らない人形手前の少女』としてなら、他人の目がある方が良いだろう。

 しかしダンブルドアは『ある程度大人びた子供』にとって最良の選択肢を与えた。グリムから聞いたか、セブさんから聞いたか。

 

 

 

 それにグリムが成人男性という事で1人部屋正直めっちゃ助かる!

 

「………………ハッフルパフがいい」

「では生活拠点がスリザリンというハッフルパフ生でどうじゃ?それに寮の教師はセブルスじゃ」

「………………かま、構う無い、否定構う」

「構わない、と言うことじゃな!ほっほっほ、助かった」

 

 悪役に持っていくために半スリザリン生で助かったって事でファイナルアンサー???

 

 

 1人部屋惹かれたんだよ。グリム、というかシリウスを私以外の異性と同室にするのは流石に不味い。私も話したいし。

 

 

 

 前代未聞。ハッフルパフ生inスリザリン寮という奇妙な生徒がホグワーツに入学した。

 

 

 ==========

 

 

「ハァイ、あたしハンナ・アボット」

「えっと、リィン・アズカバンです。ハンナさん」

「ハンナでいいよ、変わった事になったけど同じハッフルパフ生じゃない!」

 

 晩餐の料理が並ぶ中、組み分けが私より早かった女の子に話しかけられた。ハッフルパフはお人好しが多いからここにしたんだけど、結構反応が気になる。

 

「大変そうね、スリザリンに行くの」

「う、うん」

「困った事があったら頼ってね」

「ありがとう……ハンナ」

 

 私より背の低い人が居ないみたいなので私が自然と見上げる形になってしまう。若干感動して涙が目に溜まるのは仕方ないと思う。

 

 うるうるとした瞳で上目遣いという顔の良さをアピールする結果になった。

 

 胸に手を当てて悶えていた。

 同学年に友人が出来るのは助かる。

 

「やぁ、僕はセドリック・ディゴリー。一応ハッフルパフの先輩になるから、僕も頼って欲しいな」

「ありがと、セドリック……」

 

 隣に座っていた先輩が食べ物を取ってくれた。

 ブラブラと足をばたつかせながら喜びを見せるとイケメンは笑う。

 

 久しぶりにまともな食べ物に有りつけた!凄い!食べるの楽しみ!

 

「イギリス料理ってホント、自国民が自虐ネタに使うのが納得する程不味いわね」

 

 ハンナが何か言っている。しかし私は目の前の料理に釘付けだった。

 早速パンを手に取って確認。わぁ、ふわっとしてる。どちらかというと硬い方なのかもしれないけど間違いなく私が普段食べてるパン(乾燥)より柔らかい。

 早速口に含むと食べ応えのある歯触りに幸せを感じ、麦の香りが幸福感を満たす。

 口の中の水分が無くなるのでトマトスープを口に含めば、簡素な味わいなのだがそれでも美味しくて美味しくて。

 

「私……こんな美味しき食事は初体験……!」

 

 想像以上に食べるという行為に飢えていた。

 ハッフルパフからだけで無く様々な所から視線を感じるんだがそんな事気にせず『食べる』楽しみと幸せを料理と共に噛み締める。

 

 イギリス料理が不味い?他国の料理は美味い?

 そんなものカビ付き乾燥パンに比べたら微々たる差なんだよォ!

 

「し、しっかり食べるんだよォ!」

 

 あ、ハンナさん頭をグッシャグシャにしながら撫でるのは勘弁してください。食事中は邪魔。

 

 

 

 

 ホグワーツ生活にひとつの楽しみを見出し、他人より遥かに少ない量の食べ物で久しぶりの満腹を感じていると、意を決した様子で誰か先輩が話しかけた。

 

「リィン、貴女の家名はアズカバンなのよね?」

「そうぞ〜。私、気付いた時からずっとアズカバンに居るです」

「きづいたときから」

「パンもカチカチで、お水が透明と不明でした」

「水は無色透明だよォ……セドリックパス……」

 

 苦笑いを零しながらセドリックが変わる。

 

「なんでアズカバンに?」

「……パパが……めっ、なの」

「キミのお父さん?」

「私、分からぬ。不明、不規則、理解不能、分からぬ。でも、アズカバンは私の家……辛い」

 

 アズカバンは放置気味なこともあり生活しやすい。『アズカバンに放り込むぞ!』が法的最終手段ならば私にも適用しておいて欲しい。生まれたことが罪=アズカバン、ならば、悪い事した=アズカバンでも何も支障は無い。

 アズカバンは怖い。その認識をしている、って事を周りに知ってもらって置いたら良い。

 

「まぁ何より栄養不足は否めないね……」

 

 ボソッと1番の問題点をセドリックが呟く。

 それは私も思います。

 

 

 ==========

 

 

「困ったら絶対言うんだよ」

 

 という言質をセドリックから取ったので地下室にあるというスリザリン寮に向かう。ハッフルパフの寮に1度顔を出して、ようやくだ。グリムにも会いたいし。早く。

 

「はぁ……」

 

 でも気が重たい。

 父親を出せば1発で大丈夫だと思うが、純血思想の多いスリザリンで異質な者がやって行けるのか?まぁセブさんに頼めば基本は大丈夫だが。

 

「よし!」

 

 気合いを入れて合言葉を述べる。扉を開けると談話室が目の前に飛び込んできた。重々しい感じと言えばそれまでだが重圧感が質の良さと上品さを見せつけている。

 

 談話室に居た者達と目が合う。どうやら寮の説明の最中だったようだ。

 

「リィン!」

 

 ドラコが私を見つけて駆け寄る。あ、良かった知り合いいて、ホント良かった。

 

「お前の家名どういうことだ馬鹿!」

「馬鹿ァ?分かった待ってドラコ。ね?ね?」

「めちゃくちゃ探したんだぞ?この僕が!一体組み分けが始まるまでどこにいたんだ!」

「アズカバン、出るして、姿くらましでこちらに直接歩行開始を……」

「探し損した!」

 

 理不尽な罵倒にふくれっ面をする。

 さて、7年間この寮でお世話になるのか。

 

「所でリィン、お前父上とどんな関係だ?」

「へ?」

「まぁアズカバンに居たのなら分からないかもしれないが……」

 

 ルシウスさんの話題が出て寮がピリッとした空気に変わる。

 へぇ……グリムからの話でマルフォイっていうのはそれなりに地位の高い家だって聞いてたから納得だ。

 

「説明聞かぬの?」

「僕は『マルフォイ』だ。表立って避難する人間も居ないし、スリザリンの事なら分かっている」

 

「なればそのマルフォイが頭の上がらぬ私ってホントに何ぞり」

「それは僕が聞きたい」

 

 ドラコはそう言うと恭しく手を差し出した。

 

「では父上の言う通り丁重に扱うとしよう」

「上から目線のエスコートぞね」

 

 ドラコの思惑を有難く思いながら手を取る。

 ハッフルパフの私はスリザリンに馴染みにくいだろう。制服の色が違うのが目立つ。それでも私に危害が加えられない様に、というか扱いが難しい私をスリザリンに馴染ませてくれる。

 

 私も察する事が出来たので『本来スリザリンに行くはずだった(素質有り)ハッフルパフ生』という立場で過ごした方がいいのかもしれない。

 

「初めまして、リィン・アズカバンです。礼儀作法どころかおしゃべりぞ疎いです。よろしゅ、よろしくお願いします。」

 

 ぺこっと頭を下げる。

 スリザリンの同級生や先輩方は随分優しいみたいで過度な接触をして来なかった。マルフォイの名前が本当に強い。

 

 スリザリン生は仲間内に親切で過保護みたい。

 ホグワーツ内部では迷子にならない様にしばらく先輩達と行動を共にしてなれる見たい。

 

 手を繋いで私が居なかった時の寮の説明をしてくれる。備え付けの紅茶とかは使っていいらしいし、寮内での扱いはスリザリン生と同じみたい。

 細かい事は自分達にも分からないのでスネイプ先生に聞けって、言ってたから後でセブさんの所に行かないと。

 

「ドラコ、ドラコ」

 

 解散の号令が掛けられまばらに生徒が散っていく最中、私は頼りになる友の名前を呼んだ。

 

「なんだ?」

「関係の、質疑応答」

「えーっと……僕の質問に対する回答をしてくれる、と?」

 

 その言葉に部屋に行こうとしていた人達は思わず立ち止まった。そりゃ気になるよね。

 

「私とドラコ、従兄妹ぞ」

 

 スリザリンの時が一瞬で止まった。

 

 私にとってルシウスさんは伯父さん。つまりその逆も然り。

 私はとっても優しいからドラコの叔父さんが闇の帝王だと言うのは言わないであげるね。

 

 

 

 

 ──今は。

 

「はぁぁぁああぁぁあ!?」

 

 ドラコの絶叫を聞きながら部屋に向かった。




誰が予想したであろう、この展開を。多分別の寮を住処にする生徒って二次創作でないと思う。けどどうしてもスリザリンに入れたかった。ダンブルドアの咄嗟の足掻き。
ハッフルパフ生=闇の魔法族になる可能性が無い人、だからね。


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第15話 必要な物が出てくる部屋

 

 ハッフルパフ生としてだがスリザリン寮で過ごすことになった過去に見ない生徒、私。

 

 スリザリン寮では1人部屋が与えられた。

 他の寮では叶わない事だっただろう。

 

 グリムと名付けたペットは本来の姿であるシリウス・ブラックに戻ると私の現状を(うれ)いた。

 

 2人で今後を相談した結果『1年間は父親が誰か分からないアズカバン育ちの女の子として普通に過ごし様子を見る』という事に。この設定を設けている事自体はダンブルドアにバレている前提だ。後に指摘されても『だって父親の事誰にも言いたくなくね?』って言い返せばいい。

 幼い頃の記憶があっても理解出来ているとは限らないもの。周囲に人間が多くて、父親は『知らない』では無く『分からない』とすればいい。微妙な言い回しの違いは私が言語不自由だと言えば完璧。

 

 私が念の為、キミはダンブルドアのスパイ?ってグリムに向けて首を傾げれば彼は何も言わず沈黙を貫いた。……つまりそういう事だ。

 

 グリムとの情報共有は極力するが、ダンブルドアに受け渡す情報は選別する事にした。

 『グリム(犬)』になっている際の情報は漏れていると考えていい。『シリウス(人)』と共有した情報は2人だけの秘密だ。

 

 そこで生じる矛盾点はおいおい対処するという事に決まった。これは『グリムがシリウスだと知らない私』だからこそ擦り合わせが可能……まぁ起こってもない問題の話は置いておこう。

 

 

 

 授業が始まり、私が1番大変だった事はズバリ文字に関してだ。うん、読めない。そしてまともに喋れない。

 パートナーになってくれた子には助けてもらっている。スリザリン寮で暮らしているが私はハッフルパフ生なので授業はハッフルパフと一緒。最近はハンナに頼りっぱなしだ。

 

 まだまだ魔法を使うに至ってないので私の敵は本格的に文字だよ文字。

 

 

 そして現在。

 

「大変ですたねぇ」

「そうなんだよぉぉ……!」

 

 従兄妹という事をホグワーツにわざと広めたので、ドラコとスリザリン席で朝食を食べていた所に、互いの友人であるハリーが我慢の限界と言わんばかりにやって来ていた。

 いわゆる愚痴。お友達っぽいやり取りにちょっとワクワクしたのは秘密で。

 

「ドラコ、現場ぞ視野移入するした?」

「魔法薬学の授業はスリザリンとグリフィンドールの合同だから当然だな」

 

 内容は魔法薬学の授業について。つまりセブさんの事だ。

 どうやら酷く憎まれているらしく軽くとは言え当たりが厳しいらしい。

 

 問題を3つ出されて答えらなかったから少しからかわれ、メモを取らなかった事に減点させられた。という、普通に考えたらありがちな状況。

 文字に起こしてみれば教育に問題が見当たらないところタチが悪いね。

 

「コイツ、問題出された瞬間『ドラコなら分かります』って言って押し付けたんだぞ?」

「グリフィンドールとスリザリンの仲良しは不可と進呈される知識ぞ?」

「あァそうだ、寮の仲は最悪だ。だから周りはぎょっとしたな。僕らは1年のグリフィンドール代表とスリザリン代表、って言うのが周囲の認識だから」

 

 肘をついてドラコは呆れた表情をした。

 不仲代表選でラスボス同士が仲良かったらそりゃ驚くだろうね。

 

「よくその言葉解読出来るね」

「寮だと良く一緒に居るからな」

「まだスリザリンよ浸透ならずですぞ」

「……『馴染み切ってない』って意味だ」

「なるほど」

 

 よっこいしょ、と正面に座ったハリーが首を傾げた。周りはグリフィンドール生に嫌そうな顔をしているが、マルフォイがそばに居るので文句を言えずに居る。

 

「リィンは他寮での生活どんな感じ?」

「スリザリン多大に優しいで仰天」

「寮監督のスネイプも……?」

「今の所接触無し」

 

 丁度いいタイミングで教授席に向かうセブさんがスリザリン席を横切った。

 

「……『名声を瓶詰め』」

 

 ボソリと呟くと彼は足を止めてじとりと見下ろした。

 ドラコは、というか周囲はギョッとしている。

 

「『栄光を醸造』」

「……」

「『死さえ蓋をする』、と」

 

 私の魔法薬学授業では起こらなかった台詞を続けるとセブさんはようやく口を開いた。

 

「……何か言いたいのですかなMs.アズカバン」

「我が授業で聞くことぞ不可ですた素晴らしきお言葉を復習したのみですぞ?」

 

 ニッコリ微笑むと嫌そうな顔をした。

 

 セブさんがダンブルドアが差し向けた闇陣営へのダブルスパイだと過程すると私の扱いは本当に難しい。

 闇側には『光側だと見せかけ闇側だと悟らせずに任務遂行』、光側には『光側だと見せかけ闇側にリークし光側の利益を生む』

 つまりどちらも『闇側だと見せない』が正解だったりするのだが、ここで子供の私が混ざると面倒な事になる。

 

 だって子供だもん。私に嫌われたらセブさんは光だろうと闇だろうと損しかない。

 私って存在の認識というのは闇側が『庇護対象』で光側が『情報源』だからね。

 

「リィン何してるの……!?」

 

 流石に危機感を覚えたハリーが机から身を乗り出して制服を掴んだ。

 

「だって面白き授業体感がハリーとドラコだけは狡いぞり。私だって揶揄(からか)懇願(こんがん)ぞ……」

「おいやめろ、おい、僕の従妹だろ、こちらの事も考えてくれ!」

 

 実は足元にこっそり居たグリムがとんでもなく笑顔で見上げてくれていたから期待に応えるべきだと思ったんだ。

 

「減点? 教員の教えぞ復唱しただけで?」

 

 流石に可哀想なのでセブさんに助けを出す。

 どちらのスパイにしろセブさんは『闇の帝王の娘』を丁重に扱わなければならない。ホグワーツで不審に思われない程度には。

 減点するかしないか、の選択肢で迷う所だろうから減点しない方向に寄せる。

 

「……!」

 

 思惑に気付いたらしい。目を見開いた。

 

「Ms.アズカバン。そう言えばスリザリンでの生活を聞いてませんでしたなぁ。今晩そちらでお話を聞こうと思いますがよろしいですね」

「構うません」

「では失礼する」

 

 無駄に長い服を翻しながらセブさんは教員席へと向かう。その姿を見送るとハリーとドラコは同時に息を吐いた。

 

「キミ、だいぶヤバいよ」

「分かる」

「自分で言うな」

 

 スン、と足元でグリムが鼻を鳴らした。

 

「グリム……?」

 

 名を呼んでも視線をちらりと向けただけでグリムは、グリフィンドール席へと視線を戻す。なにかに気付いた。

 

「グリム!」

 

 駆け出す彼の名を呼んでも止まらない。向かう先はグリフィンドールの赤毛の男の子。

 唸り声を上げたグリムは彼の椅子に座っていたペットのネズミをバクりと食べ…──。

 

 は?

 

「ああああああああぁぁぁ!?」

「グリムさぁぁああん!?」

 

 男の子と私の声が同時にフロアに響いた。

 

 脱兎のごとく逃げ出す犬っころ、死神犬(グリム)の飼い主が監獄家名(アズカバン)だということは結構有名なので矛先はすぐにこちらへ向く。

 

「どういうことだよ! お前の犬だぞ!?」

「ごめんです!」

 

 言い訳のしようも……いやあるわ! グリムは人間だった! シリウス・ブラックじゃん!

 私に責任ないじゃん!

 

 あっ、でも私にこの男の子を責め返す権利は欠片もない。だって相手は精神的に私よりまだ子供だ! ビークール、ビークール!

 

 …………だがテメェは別だグリム。

 

「停止措置ぞくそ犬ぅぅぅぅうううッ!」

 

 大広間を出てめちゃくちゃ追いかける羽目になった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 グリムが大広間を出て、そして私が出るまでに時間が空いている。1年生、そして運動不足の私の足では追い付けるわけが無い。

 多分一連の流れを見ていた人達はそう予想しただろう、ちなみに私も思っていた。

 

 例えば、セブさんとかダンブルドアとか。

 

 

 しかしそんな予想は外れグリムは一定の距離を保ちながら逃げていく。

 

 あっ、これ誘導されてる。

 

 その考えに至るまで時間はかからなかった。

 

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」

 

 グリムの入っていった空間の前で乱れた呼吸を整える。その空間は先程まで壁だった場所だ。ウロウロと犬っころが彷徨くと突然扉が出現し、その中に平然と入っていった。

 ホグワーツ城は魔法の城なのかな?

 

 ……魔法の城だったわ。

 

「グ、グリム……?」

 

 前足で器用に扉を開けた食事や睡眠どころかお風呂まで共にするペット(成人男性)の名前を呼び空間に入る。

 

 そこは何故か拷問器具が揃いまくった部屋だった、ってなんでだよ!!

 

「グリムぅ、ペっ、行使希望ぞ」

 

 扉が締まったのを確認し、グリムは口からネズミを吐き出した。ヨダレでベタベタの人様のペットは目を回したのか死んでるのか知らないが非常にぐったりしている。

 

「……ティー、俺の後ろに回って待機してろ。あと杖貸せ、杖」

 

 突如人に戻るグリム。なるほど、これから起こる事はダンブルドアに伝わらないってわけか。

 赤子同然の頃決めたヴォルペテイルという呼び名の愛称で呼び、彼は手を差し出す。自然と後ろに回された私は大人しく杖を出した。

 

 正直、杖無い方が慣れてるし。

 

「ワームテール」

 

 はて、私たちはこのネズミの名前を聞いていただろうか。

 四六時中一緒に居るので、私に起こったことはグリムも知っており、グリムが知らない事は私も知らない。

 

 と、言うことはグリムだけが知っているって事かぁ……。

 

 ネズミは目を覚まし、杖を突き付ける『シリウス・ブラック』を見た瞬間竦み上がる。彼のボロボロのローブに掴まり、こっそり見てるが、ネズミは本当にグリムにしか目がいってない。

 

「ワームテール、すまない……お前はアイツらを助けようとしたのに……。でも答えてくれ、なんで生きてるんだ! なんで、秘密が破られたんだよ!」

 

 突然の謝罪と激昴。

 うむ、状況が全く読めないぞ。

 

 グリムがアズカバンにいる理由は親友を殺したからと聞いていた。多分それに関連する何かだと思うけど。

 

「……ッ、ワームテール!」

 

 ネズミは観念したかの様に、大人しく地面を見つめると体を変化させた。むくむくと大きくなって行き、姿は人間へ。

 やったね名前も知らない赤毛のグリフィンドール生! 私たちって同じ様なペット(成人男性)飼ってるんだ!

 

 ネズミ男はオドオドしく視線を下に向けながら口を開く。

 

 その姿に…───

 

「パッドフット、ご、ごめ」

「ピ……」

「──ピータぁー!?」

 

 2人の肩が跳ねた。

 

「ティー?」

 

 恐る恐る、私を振り返るグリム。

 

 私はそんなことを気にせずピーター(仮)の前に躍り出た。

 ピーター。闇の帝王の娘(わたし)のお世話係。

 

 父より一緒に居た時間は長い。限りある人間関係の中で忘れる事のない便利な存在。

 膝をつく体勢のピーター(仮)不思議そうな顔で私を見上げる。

 

「えっ……誰……? シリウスの子供?」

 

 視線は私とグリムを行き来する。グリムは顎に手を当てて思考の海に飛び込んでいる様だ。

 

 ……ピーターだという事は、否定されない。

 

「うーん」

 

 ピーターがネズミになっていたという事は『誰かから身を隠している』という線が濃厚。

 一体何故か?……魔法省や光からだと思う。

 

 いや、思っていた。

 

 グリムはブラック家だったと言えど、学生時代グリフィンドールで結成した悪戯仕掛け人の1人だったから光側。闇側(ピーター)が避けて恐れるのはごく自然な事。

 家名も多分弱いピーターじゃマルフォイみたいに立ち回りする事も不可能。

 ハリーの両親と仲良かった事も直接見ているから後ろめたさも相まって死んだ事に。

 

 納得出来る。状況的に間違いではない。

 でも私は知らなすぎる。

 

 何が、違うんだろう。

 八割勘でしかないんだけど、もっと事態は複雑化している気がする。

 

「えっ、怖い。2人して同じ格好で無言にならないで欲しい」

 

 グリムから聞いたピーターの情報は3点。

 ・学生時代の親友

 ・ポッター夫妻を助けようとした

 ・グリムが殺した

 

 殺された振りをしていたってわけだけど。

 

「スッキリ不明!」

「いや、スッキリすんなよ」

「しゃっきり不明!」

 

 全くわからん! 不足している情報が多すぎて表面上の物事しか分からない! グリムがハゲ散らかす理由に至らない! 『生きてる』『秘密が破られた』で怒る意味が理解不能!

 

 長いものに巻かれろ精神のピーターよ!

 

──ダァンッ!

 

「質疑応答、拒否権皆無ぞ?」

「わぁ〜! どうしよ〜! 影ができると真っ赤になる瞳にすっごい見覚えがある〜!」

 

 ニッコリ笑顔でピーターは言う。

 私が魔法で投げた石(ただし拷問道具)はピーター顔の横を通り過ぎ、壁にぶち当たっていた。

 

 リィン知ってるよ、それが現実逃避だって。

 

「ぴぃ〜たぁ〜?」

「……お、お元気そうで何より、です、姫君」

 

 冷や汗ダラダラで微笑んだピーターの手首を掴んで、グリムに向いた。

 

「グリム、結論は?」

「ティーと約10年過ごして来て何となく、薄々気付いていたんだ。……ワームテール。お前は、闇側だったんだな」

 

 あら、バレてた♡

 

 私はピーターがグリム達の親友だと聞いてひたすらに素知らぬ顔をしていた。私とピーターの繋がりは、バレていなかったから。

 ピーターが何かしら闇側と繋がりがあって情報を手に入れたと確信は持っていたらしいが。

 

 まさか思いっきり闇側だとは思うまい。

 

 『闇側と繋がりがある』と『闇側の人間』じゃ意味合いが180°異なる。

 

 なるべく態度に出さない様にしてたと思ったんだけど、違和感を抱かせるには十分だったってわけね。ハッキリ言って超悔しい。

 

「ピーター、今の立つ値段は?」

「は? お前何言ってんだ?」

「あ、ここは必要の部屋って言うんだ。なんでも必要な物が出てくる場所で、入り方はシリウスに聞いてもらえるといいかも」

「まてピーター! お前さっきの質問なんで分かったんだよ!?」

「……その、僕、姫君のお世話係だったから」

「は〜〜〜あ〜〜〜〜!?」

 

 煽ってるのかと思う程の絶叫。

 同じ発音なのに意味が違うとか理不尽極まりないでござる。

 

「正解は‘I’じゃなくて‘A’の発音で」

「意味不明ぞ〜〜!」

 

 値段(PRICE(プライス))と場所(PLACE(プレイス))なんて誤差じゃん!読み様によっては同じじゃんっ! 多分!

 

「……似た意味を持つ単語ならなんとかなるけど発音方法まで行かれるとわっかんねぇな」

 

 文字を習いだした弊害(へいがい)がここに!

 う〜ん、スーパー解説機、流石すぎる。

 

「あの、所で……。僕これからどうしたらいいの? そのぉ、姫君とシリウスが一緒に居る理由が分からなくて……。ここ10年ずっとネズミだったから世の中にも疎いし……」

 

 ハハハ、お互い頑張ったねとしか言えない。

 そんなピーターに向かってシリウスは慈愛の笑みを浮かべ肩に手を置いた。

 

「ワームテール、知ってるか?俺たち、これから先もペットなんだぜ?」

「うぅ……そんな事言わな…──え? これから先も?」

 

 人間として生きられない。そんな嫌気がさしそうな現実に肩を落としたピーターだったが、その意味に気付いてハッと顔を上げた。

 若干の希望が混ざった目で私達を見る。

 

「どうしてジェームズ達の所にヴォルデモートが向かったのか、俺は分からない。だが闇側で手に入れた情報で止める為に動いた事は分かる。だから俺は、お前を信じたい」

「それ、は……」

「驚けワームテール! ジェームズ達は死んでない、生きてる! ハリーと一緒に居るんだ!」

 

 親友の生存。

 グリムはとても嬉しそうに告げる。

 

「……正直さ、コイツの味方は居ねェ。闇側とは言えない。光側……ダンブルドアは多分敵だ」

「え!? なんで!? 姫君は我がき…──あの人の娘なのに!? それに、それにダンブルドアは敵ってどういう……!」

「知るかよ! 俺達程度であの人の腹ん中分かるわけねぇだろ!」

 

 逆ギレかよ。こいつほんと大人になれないな。

 1人、やり取りを眺めながら考えた。

 

「ピーター」

「ひっ」

 

 普通に名前を呼んだだけで怯えられるとはこれ如何に。解せない。

 

「私、生きること希望する」

 

 1番望んでいる未来をハッキリ伝えると、ピーターはふわりと笑った。

 

「──姫君の仰せのままに」

 

 私のお世話係なんだからちゃんと大人になるまで育てて欲しいな。

 

 お互い様なんだよ、私たちは。

 

 ピーターは力に怯えた。そしてそれを利用して死にたくないと醜く生きながらえている。

 私だってそうだ。権力に怯え、世界に怯え、力を利用してがむしゃらに生きようとしている。

 

 1番の理解者だと、ピーターを知っているから私は断言出来る。

 

 ねェ、一緒に生きよう?

 

 

 

 

 

「あのさ、ティーってなんで? 姫君ってリィンじゃなかったの?」

「俺が適当に付けた。ヴォルペテイルって」

「…………う、うわぁ」

「なんだよそれ。さ、ヴォルデモート側であったことキリキリ喋ってもらうからな」

「姫君それで良かったの!?」

「当時父の呼び名自体ご存知無いぞ」

「悪意ある! 悪意しかない! シリウス最低!」

「口を割った裏切り者は黙ってくださーい」

「ピンポイントで触れたくない所に触れないでくださいごめんね!?」

 

 授業は1日サボった。




──必要の部屋で出てきたのは味方が圧倒的に不足しているリィンの必要な味方でした。


赤毛のグリフィンドール生(ロナルド・ウィーズリー)
……純血貴族の1人。兄妹に劣等感を抱く年頃。ペットがまさかハゲデブのおっさんだとは思わない。

スキャバーズ(ピーター・ペティグリュー)
……ネズミとして生きてきたリィンの世話係。リィンの性格の1面はそっくり。この度味方(信頼度70)へと昇華した。

グリム(シリウス・ブラック)
……『助けようとした、事を邪魔した』という負い目からピーターに責められない。原作の様に敵対する為には『罪悪感』は不要だったね、ナイスファイト。

ヴォルペテイル(リィン・アズカバン)
……実は交渉事が少し苦手。作戦立案とかの方が得意だからピーターには本音でぶつかった。だって経験ないんだもん。アズカバン引きこもりなめんなよ。



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