獣を狩るもの  (アルタイル白野威)
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1話

作者はそのうち消滅するので


私は狩人だ。獣を狩り獣になり最後には目覚める、狩人だ。

介錯され、またゲールマンを解放し、月の魔物の傀儡にされ、月の魔物を狩る。

しかし最後には再び悪夢に囚われる。

それを繰り返しいつの間にか狩人の悪夢にも囚われ悪夢の元凶を狩る。

もはや何度繰り返されたかもわからない。気まぐれに聖杯に潜り、他世界の狩人に狩られ心が折れかける事などいつもの事だ。

 

そして今も、新しい悪夢へと囚われた。魔神やドラゴン、ヤーナムですら居なかった。神話に登場するような獣が、この悪夢には蔓延っているのだ。

そして狂っていない人が、血を嗜まないヤーナム人以外の人間がこの悪夢にはいるのだ。

それに気づいたのは悪夢に囚われさ迷い、洞窟の中に居た薄汚い緑の獣共を狩った時であった。

緑の獣共は洞窟の広間で裸の女達を嬲り犯していたのだ。その有様は獣としか言えなかった。

獣共を皆狩り女達に話を聞くと緑の獣共はゴブリンといい、知能も力も子供並みの弱い獣だが数が多いらしい。

他の獣と比べると危険度は低く、国や冒険者と呼ばれる連中は見向きもしないのだとか。

 

しかし力のない村人たちにとってはドラゴンなんかよりも身近な危険であり、実際に村を滅ぼした事もあるらしい。

この時に私は決意した。ゴブリン共を狩り、生み出した上位者を狩ると。

所詮狩人など狩ることしか能のない血濡れた人殺しなのだから。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

私は冒険者となった、階級は白磁。一番低いランクだ。

名前についてひと悶着あったがどうでもいいだろう。

ゴブリン退治は人気がなく常に余っている。

ゴブリン退治しか受けない変人もいるようだが。

初心者はまずドブさらいや下水道でネズミ退治をするほうがいいとおすすめされたが、ネズミと下水道には嫌な記憶しかないので断った。

 

ゴブリンのいる洞窟へ向かう途中にある牧場で豚を見かけた時には発狂しそうになってしまった。

ヤーナムやメルゴーの高楼に居る豚ほど大きくはなかったが、それでもガスコインの娘を思い出してしまう。私が会った中で一番まともであった。

だからこそ、豚には恐ろしい死が必要なのだ。

 

閑話休題

 

私の目の前のゴブリン共の洞窟は一度白磁の冒険者たちが挑み帰って来なかった所らしい。

おそらくだが真っ向から挑んだのだろう。集団に囲まれたならばそれはもはや死を意味する。一人一人は弱いヤーナムの群衆ですら群れると脅威になるのだから。

ゴブリン共は最低でも十匹以上居るらしい。各個撃破は簡単だろうが倒している最中に増援を呼ばれては堪ったものではない。

故に炙り出す。火を焚き煙を洞窟内に充満させる。

別の出入口があろうと煙が立ち上るから見つけられる。

 

早速内部に油壺をぶん投げ油を撒き火炎瓶で着火する。

そこいらに転がっている枝や木を薪代りに火勢を強める。

このままいけば浅い所にいるゴブリン共は洞窟から逃げ出し深部のゴブリン共は窒息するだろう。

 

右手にノコギリ鉈、左手に火炎放射器を持ちゴブリン共を待ち構える。

じっと煙の中でも動く物がないか観察する。....動く物はない。

別の出入口から逃げたか?しかし他に煙が立ち上る場所は無い。

煙が行き届いていないか、ゴブリン共が動けなくなったかのどちらか。さてどうするべきか。

突入し止めを刺すか待ち続けるか。

待ち続けゴブリン共に逃げられたら奴らは村を襲うだろう。

...少し確認に入るか。燃え盛る火を消し洞窟内に入る。

少し進んだところで地面に倒れる緑の人形。ゴブリンだ。三匹ほど倒れている。

死んでいるか確認するために石ころをぶつける。

...反応は無い。ここで死んでいるのならば奥のゴブリン共は全滅だろう。

特別丈夫なヤツが残っている可能性もある。上位種はしぶといらしい。

 

 

 

 

粗方浅い所は探索し終わった。ほとんどのゴブリン共は死んでいたが一部の個体は生き残り、粗末な棍棒を振り回してきた。

一発もらってしまったが。幸い軽傷だった為輸血液一個で事足りた。

残る道は一本。最深部に向かう道だろう。

このまま進み依頼を終わらせ新しい依頼を受けに行こう。

腰に携帯ランタンを提げ、左手に獣狩りの松明を持つ。

生き残りのゴブリンに見つかり易くなるが何も見えないよりはマシだ。

道を進んでいき、たどり着いたのはなんとも匂い立つ広間であった。広間にはゴブリンが六匹、そして冒険者達の死体があった。冒険者達は男だけで構成されていた。

 

煙が届かなかったのか、あるいは効かなかったのか。

ゴブリン共は元気にギャアギャアと威嚇するように声を上げた。

松明を落とし火炎放射器に持ち替える。

一体の首に目掛けてスローイングナイフを投擲する。

スローイングナイフは一直線に首へ向かい、突き刺さった。ゴブリンはそのまま倒れ悶えている。

仲間がやられたことに怒ったのか二匹が突撃してくる。

飛びかかってきたゴブリンを変形攻撃で迎撃しもう一匹のゴブリンを叩き切る。

止めに火炎放射器で焼く。残り三匹。

一匹にスローイングナイフを投げるが避けられる。

ゴブリン共が私を中心に三角形の形になる。追い詰めたぞと言わんばかりにギャアギャアと鳴く。

後ろからの一撃を前にステップしてかわし、そのまま前にいるゴブリンを攻撃する。

ノコギリ鉈がゴブリンの体を引き裂く。後二匹。

火炎放射器をゴブリンに投げつける。怯んだ隙に獣狩りの短銃を取り出し怯んだゴブリンを撃つ。後一匹。

やけくそになったのか、めちゃくちゃに棍棒を振り回しながら突っ込んでくる。パリィの的だ。

パリィし体勢を崩す。何が起こったのか分からないという顔をしたゴブリンの腹に右手を突っ込む。内臓をかき回し引きずり出す。ゴブリンはビクンビクンと痙攣し、息絶えた。

 

獣狩りの松明を拾い辺りを見渡す。道も扉も何もない。あるのは死体のみ。

依頼達成だ。冒険者ギルドに戻ろう。

 

 

 

 

途中、再び豚を見てまた発狂しそうになってしまった。

これは訓練が必要だ。

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

ギルドに戻り依頼を達成した事を伝え、新しい依頼を受けようとしたが獣狩りの依頼は無く。ドブさらい等の雑用しか残っていなかった。

ネズミ狩りすら残っていない。

ゴブリン退治は先ほどまで残っていたようだが、ゴブリンスレイヤーなる人物が受けていったらしい。

受付嬢曰く、ゴブリン退治のベテランで銀級とのこと。

銀級か、ランクはほぼ最上位と言ってもいい。私よりもランクが上で尚且人格もいいらしい。

今私に出来ることは何もない。

獣を探して走り回ってもいいが、徒労に終わるだけだろう。

それならば明日まで待ち、獣狩りの依頼が張り出されるのを待った方がいいだろう。

スローイングナイフや火炎瓶の補充をしに狩人の夢へ帰ろう。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

「お帰りなさいませ、狩人様」

 

人形の声が聞こえる。ああ、と返事を返し水盆の使者へと歩む。ゴブリン共から得た血の遺志でスローイングナイフを多めに買い、保管庫に送る。

保管庫から火炎瓶を取り出し、工房でノコギリ鉈を修理する。

記憶の祭壇でカレル文字を爪痕から左回りの変態に付け替える。

ゲールマンは、見当たらない。

目覚めの墓石であの悪夢へと目覚める。

 

 

 

~~~

 

 

町の外、門の近くの茂みにある灯りにて目覚める。

辺りを見渡し、誰にも見られていないことを確認して町に入り、入口付近にある冒険者ギルドに入る。

私の格好が見慣れない為か視線が集まる。

他の冒険者達の格好は金属鎧か革鎧だ。

顔をほぼ隠しているのも原因だろうか。

 

無視して前に進もうとすれば視線が逸れ、私の後ろへ向かう。

何事かと振り向けば薄汚れた鎧兜をつけた男。

首元にあるのは銀に光る札。銀級だ。

げっ、ゴブリンスレイヤー!という声が聞こえた。

つまり彼がゴブリンスレイヤーなのだろう。

彼は壁際の椅子にどっかと座りそのまま我関せずと言ったようにじっとしている。

私も受けるのはゴブリン退治だ。冒険者達が依頼を受け終わるまで待たせてもらおう。

壁にもたれ掛かり腕を組む。

 

「はーい、冒険者の皆さん!朝の依頼張り出しのお時間ですよー!」

 

受付嬢の号令がかかり、冒険者達が餌を目にした(ゲロシャブクソ四足歩行鎖マン)のように駆け寄っていく。

ざわざわざわざわと、ヤーナムにはなかった喧騒が此所にはある。

その様子に頬が少し緩んでしまうがすぐに戻す。

ゴブリンスレイヤーの方に目を向ければ神官とおぼしき少女が何か話している。

首に下がった札は白磁、私と同じだ。

ヤーナムにいた聖職者といえば皆獣になっていたな。

 

冒険者達が受付から離れた所で受付に向かう。

 

「ゴブリン退治の依頼はあるか」

 

「はい、あります..が。またお一人ですか?」

 

「そうだ」

 

「そうですか..二件依頼があります。西の山沿いの村に中規模の巣、北の川沿いの村に小規模の巣です。北の依頼は新人さんが請けたので、西の依頼を請けてくれると助かるのですが...さすがにお一人となるとオススメできません」

 

「そうか、だが獣は放置できん。請けさせてもらうぞ」

 

「ですが...」

 

 

「どうした」

 

その言葉に振り向けば薄汚れた鎧兜の男、ゴブリンスレイヤーだ。この男もゴブリン退治だろう、ならば。

 

「...この男と一緒ならば問題は無いか?」

 

「えっ..はい。問題は無いと思いますが..」

 

「そうか...貴公、ゴブリンスレイヤーだろう?私もゴブリン退治だ、付き合わないか?」

 

後ろを振り向き、言葉を掛ける。付き合うならば問題無し、付き合わなくとも報酬など私には不要なのだから勝手に行けばいいだけだ。

 

「白磁か。好きにしろ」

 

許可は出た。受付嬢を見、顎で促す。

顔をひきつらせた受付嬢が資料にサインする。

 

「あの..」

 

声の方向を向けば神官の少女がこちらを見ている。

 

「なんだ」

 

「あの...私と一緒の白磁ですよね?どうして一人でなんて無茶をしようとしたんですか?」

 

「無茶か、確かに真正面から行けば危険だろう。だが私がするのは狩りだ、冒険ではない。ありとあらゆる手を尽くして狩り尽くす。火を使い毒を使い神秘を使う」

 

私がそう言えば神官は言葉に詰まる。

もう少し説明しようと口を開いた途端、ゴブリンスレイヤーが介入してきた。

 

「何が使える?」

 

「何..?」

 

「道具、魔法、奇跡。神秘とやらはわからんが」

 

その言葉に少し考え。

 

「ナイフや火炎瓶、油、ヤスリ。武器もある。灯りが欲しいならランタンや松明もあるが」

 

「ふむ、そうか。鎖帷子は着けているか?」

 

「ああ、鎧もある」

 

「あるものはすべて使え、いくぞ」

 

...私も愛想はないが、この男はなさすぎでは無いだろうか。

まぁ、この男のお陰で正式に依頼を請けられたのだからいいか。

 

何をしてでも、獣を狩る。それが私だ。

 

 



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2話

妖怪勲章おじさんさん、マジカル紙袋さん、ホワイニキさん、( ・_・)フさん、黒猫の桐さん、鴉神さん、骨蟲さん、藤堂伯約さん、黒鷹商業組合さん、評価ありがとうございます。


最後等へん無理矢理切ったので違和感あるかもしれません。


ゴブリン共の居着いた所は森人(エルフ)と呼ばれる種族が遥かな昔に築いた砦だった。

砦は木製であり、築かれた当時は火除の結界とやらが張られていたらしいが、とうの昔に消え失せたとのこと。

故に火攻めする。火矢を放ち砦を燃やす。

遠くから狙う為、銃は届かない。こんな時こそシモンの武器が役に立つ。

シモンの弓剣、銃器を忌み嫌った彼の為に教会の工房が誂えた特注品。

これでゴブリンスレイヤーの援護をする。

遠距離用の武器を持ったゴブリンを狙い撃つ。

 

「三」

 

隣でゴブリンスレイヤーが討伐数を数える。

ゴブリンスレイヤー目掛け飛んできた石ころを撃ち落とす。

そのまま投石紐を持ったゴブリンを射ぬく。

 

火矢によって炎が砦全体に行き渡り、運良く炎から逃れたゴブリンが入口にたどり着く。

仲間を押し退け我先にと逃げようとする。

そして私達への怒りを滾らせ、入口に佇む女神官に飛びかかり..

「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力お守りください》...!」

無情にも聖壁(プロテクション)に阻まれる。

閉じ込められた事に気付いたゴブリン共は恐慌状態に陥り、煙と炎の中へと消えていった。

 

...奇跡というものは、上位者に祈りを捧げる事で発動するらしい。

上位者共に祈りを捧げたところで、何も得られぬだろうが....この神官の信仰する上位者は秘技を授けるらしい。

そのような上位者がヤーナムにもあって欲しかったものだ。

 

「お前が新たな奇跡を授かったと聞いたのでな」

 

隙間から逃れようとするゴブリンの頭に矢を放つ。

 

「...聖壁(プロテクション)の奇跡を、こんな風に使うなんて...」

 

後ろで話している二人を尻目に、周囲を警戒する。

奇跡について話しているらしいが、道具などどう使おうが勝手だろう。

 

警戒を解きシモンの弓剣を剣に戻す、と同時にポツポツと雨が振りだす。

 

「貴公等、どうする。裏手、脱出口はないらしいが生き残りがいないとも限らん。探索するか?」

 

私の言葉にゴブリンスレイヤーはああと返事をし、空を見上げた。

女神官は両手を組み、跪いて祈った。

 

 

火が消えたところで焼け落ちた砦に入る。

結局、冒険者もゴブリンも生き残りは居なかった。

 

 

 

 

~~~

 

 

ここ最近はゴブリンスレイヤーと女神官と組んでいる。

ゴブリンスレイヤーと、私の目的が一致しているからだ。

私はゴブリンという獣を狩る。ゴブリンスレイヤーはゴブリンを殺す。ちょうど良いのだ。

アルフレートと協力していた頃を思い出す。

 

ゴブリン退治を終え、ギルドに戻る。

ギルドに入れば視線が集まるが、それもすぐ霧散する。

しかし今回は三つほど、視線が消えなかった。

受付をみれば三人、ギルドでは見なかった冒険者がいる。

耳の長い女、背の低い髭の男、リザードマン。

耳長は森人(エルフ)だろう。

あの木製の砦を築いた種族だ。

背の低い髭は知らん。リザードマン、居るとは聞いていたが。姿形は獣に近いが...二人と一緒なのを見れば危険性は無いことがわかった。

 

だが爬虫類、とりわけ蛇は嫌いだ。禁域の森は何度迷い蛇の餌になったことか。三人といえばヤーナムの影だ。

トニトルスを持ったヤーナムの影の火炎弾を何度背中に食らった事か。

 

気が付けばゴブリンスレイヤーはずかずかと受付に進んでおり。

女神官がこちらをチラチラみていた。

小走りで合流し、ゴブリンスレイヤーの後ろに付く。

 

「無事に終わった」

 

「...はい、何とか、無事に」

 

受付嬢と二人が話をしている。

受付嬢が私をあまり好いていないことはゴブリンスレイヤーと組んで数日で分かった。

受付嬢と二人の話を聞きつつ、暇潰しに何かないかと探っていると、オルゴールが見つかった。

ガスコインの娘が持っていた物だ。しかし此処で鳴らすのは迷惑だろう。

そう思い仕舞おうとすれば。

 

「何ですか?それ」

 

受付の近くにいた全員が此方を見ており、女神官が尋ねてきた。

 

「..オルゴールだ」

 

「...オルゴールって?」

 

横の森人が興味深そうにオルゴールを眺めながら言った。

この悪夢にはオルゴールが無いのか。

 

「...音楽が込められた小さな箱だ。聞いてみるか?」

 

そう言ってみればゴブリンスレイヤー以外が目を輝かせた。

オルゴールを鳴らすとヤーナムの子守唄が流れる。

音楽が鳴っている事に気付いたのか、ギルドにいた全員が此方を見ている。

子守唄が一周したためオルゴールをしまう。

 

「何て言えばいいんでしょうか...」

 

「それより聞きたい事がある。この三人はなんだ?」

 

女神官の言葉を遮り受付嬢に尋ねる。

チラリと女神官を見れば頬を膨らませ此方を睨んでいた。

言葉を遮られた事がそんなにも不満なのだろうか。

 

「あっその方達はですね。ゴブリンスレイヤーさんのお客さんです」

 

ゴブリンスレイヤーの客か。十中八九ゴブリン関係だろう。

 

 

「...ゴブリンか?」

 

「違うわよ」

 

違うのか。予想が外れたな。

 

森人は疑わしそうゴブリンスレイヤーを見ている。

 

「あなたが、オルクボルグ?そうは見えないけれど...」

 

「当然だ。俺はそう呼ばれた事は無い」

 

その言葉に森人はムッとし、背低髭は笑いを噛み殺し、リザードマンは慣れているのか奇妙な手つきで合掌すると、緩やかな動作でゴブリンスレイヤーへ頭を垂れた。

「拙僧らは小鬼殺し殿に用事があるのだ。時間をもらえるかな」

 

「構わん」

 

「でしたら二階に応接室があるので、よろしければ..」

 

ゴブリンスレイヤーが即答し、受付嬢が声をかけると、リザードマンはありがたいと合掌して応じた。

 

「貴公、貴公。私達はどうする?共に行くか?それとも貴公だけか?」

 

「そ、そうです。同行した方が..良いですよね?」

 

私達の言葉を聞いて、ゴブリンスレイヤーは私達を上から下まで眺めると。

 

「休んでいろ」

 

ぶっきらぼうに言い残すと、ずかずかと無造作に階段を登っていった。

三人がその後を追って行く。

さて。

 

「言いつけの通り、休んで居ようじゃないか」

 

「あっ、はい!」

 

 

女神官に言葉をかけ、ロビーの壁際の椅子に座る。

獣狩りの短銃を取り出し、手入れする。

布で拭き、照明の光に翳すと嵌め込まれた血晶石がキラリと光った。

 

「...その光った石は、何ですか?」

 

「ふむ、まぁ、これの威力を上げる為のものだ。一つやろう」

 

使者に売るつもりだったそこそこの血晶石を渡す。

勿論呪われてはいない。そんなものを聖職者に渡せるものか。

 

「売るなり削るなり好きにするといい。錫杖に付けるのもいいかもな」

 

そう言い手入れを再開する。獣狩りの短銃を仕舞い、エヴェリンを取り出す。

思えばこの銃にも苦労させられた物だ。カインの装束を着た奴らが多く使っていた。

ああ、貴族のドレスを着た男もいたな。

時折侵入してくる変態共は何なのだろうか。

そういった類いに限って強者なのだから尚更困る。

 

 

粗方手入れし終わってしまった。

ゴブリンスレイヤーはまだ降りてこない。

何もやることがない。ああ、暇だ。ヤーナムでは暇なぞなかったというのに。

女神官を見れば眠いのか、舟を漕いでいる。

そして女神官を見ている二人組。首元の札を見れば白磁。

私達と同じだ。声をかけるか迷っているのだろうか。

だが私のこともチラチラ見ている。まるで怯える様に。

ふむ。私の事が怖いのだろうか。

....そんなに怖いか?血に濡れている訳でもなし。

ヤーナムでは怯えられた事はほぼ無かったがなぁ。

私が見ている事に気付いたのか、その場を立ち去った。

 

....たまには装備を変えてみるか。

 

 

 

 

腕部と脚部をカインに替えた。カインの血族に連なっていた時にしか着ていなかったが、たまには良いものだ。

手甲を外して磨いていると、ゴブリンスレイヤーが二階から降りてきた。

受付にそのまま向かうと報酬を受け取っていた。

依頼を請けたのだろう。

ゴブリンスレイヤーに近づき尋ねる。

 

「ゴブリンか?」

 

「ああ」

 

「そうか。場所は?規模は?」

 

「森人の土地だ。ゴブリンロードかチャンピオンがいるだろう」

 

かなり大規模のようだ。女神官を起こしゴブリンと伝える。

それだけで察した女神官はゴブリンスレイヤーに駆け寄っていく。

獣狩りの始まりだ。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

あの後三人がパーティーに加わり、計六人パーティーと成った。髭は鉱人(ドワーフ)だそうだ。森人は妖精弓手と呼べと言われた。リザードマンも蜥蜴僧侶と呼ぶことになった。

森人の土地は遠く、三日が過ぎた。

今も夜であり、円陣を組み中央に篝火を焚いた。

 

「そう言えば、みんな、どうして冒険者になったの?」

 

妖精弓手が尋ねる。

 

「そりゃあ、旨いもん喰う為に決まっておろうが。耳長はどうだ」

 

「だと思った。...私は外の世界に憧れて、ってとこね」

 

「拙僧は、異端を殺して位階を高め、竜となるためだ」

 

「えっ」

 

様々な理由が在るものだ。

ゴブリンスレイヤーが答えようとするが妖精弓手に遮られる。

視線が私に集まる。答えねばなるまい。

 

「獣を狩り、上位者を狩り、悪夢を終わらせる為だ」

 

私がそう言えば、妖精弓手と女神官が首を傾げ、鉱人が片眉を下げ、

蜥蜴僧侶が奇妙な手つきで合掌する。

 

「獣は獣だ、人を殺し喰らい辱しめ、貶める。それら全てを狩り尽くすのだ」

 

「上位者共は人を操り壊し、嗤う連中だ。神と崇められていもしたな」

 

女神官が顔をひきつらせる。

 

「か、神殺しをしようとしているんですか...!?」

 

「神と崇められるだけの別物だ。神ではない」

 

女神官の言葉を否定する。

 

「.....夕食にしよう」

 

空気を変えるため、夕食の準備に取りかかる。

豚の肉を串に荒々しく突き刺し、火で焼く。

 

「では拙僧も」

 

蜥蜴僧侶が干し肉に香辛料をまぶし焼き上げる。

女神官も乾燥豆を使いスープを作り始めた。

 

「おお!いい匂いだの」

 

鉱人が豚の肉と干し肉の匂いを嗅ぎながら言う。

 

「好きに持っていけ」

 

革袋から新たな肉と匂い立つ血の酒を取り出し言う。

 

「そうか!では遠慮なく」

 

「これだから鉱人はやなのよね。お肉ばっかりで、意地汚いったら」

 

「野菜しか喰えん兎もどきにゃ、肉の美味さはわからんよ!」

 

右手に豚、左手に干し肉を持った鉱人と、頬杖をついた妖精弓手の喧嘩を見ながら匂い立つ血の酒を呷る。

不味い、ヤーナム人は血を嗜むと言うが良く飲めたものだ。

やはり獣を引き付ける道具として使うのがいいな。

 

ちびちび飲んでいると何時の間にやら酒を取り出した鉱人に目をつけられた。

 

「おい狩人の、その手に持っとるもんは何じゃ?酒か?ならばわしにも寄越せぃ!」

 

「...止めておけ、これは只の酒ではない。酒とすら呼べない物だ」

 

「ほほう?」

 

「....便宜上酒と呼ばれているが、アルコールは入っていないからな」

 

「何じゃつまらんの。ほれ!かみきり丸。お前さんも飲めや!」

 

鉱人が差し出した酒をがぶりとゴブリンスレイヤーは呷った。

黙々と食事を進め、作業に没頭するゴブリンスレイヤーを妖精弓手は面白く無さそうに眺め、不満気に息を漏らす。

 

「...なんだ?」

 

「......なんで、たべてるときも、兜、脱がないわけ?」

 

「不意討ちで頭を殴られれば、意識が飛ぶからな」

 

「たべてばっかりないで、あなたも何か出しなさいよ」

 

完全に酔っている。いつの間に飲んだ。

酔っぱらいは面倒だ。ゴブリンスレイヤーに任せるとしよう。

無くなった匂い立つ血の酒の瓶を仕舞い、持ち物を確認する。

輸血液、水銀弾、白い丸薬、火炎瓶、油壺、スローイングナイフ、毒メス、石ころ、骨髄の灰、発火ヤスリ、雷光ヤスリ、エーブリエタースの先触れ、聖歌の鐘、夜空の瞳、小さなトニトルス、古い狩人の遺骨、処刑人の手袋、他に強化素材。

 

獣狩りに必要な物は粗方持っている。

獣血の丸薬は無いが、あれを使って防御力が下がり、死んでしまえばこの関係も終わってしまう為、持ってこなくても良かっただろう。

まぁ死んだら関係が終わりなのはいつものことだ。

 

協力者に間接的に殺されることもあるが。

 

「あなたも、そのマスク外しなさいよ」

 

酔っぱらいが此方に絡んできた。

ゴブリンスレイヤーは何をしているのかと見れば、雑嚢からチーズを取り出していた。

そのチーズを興味深そうに眺める蜥蜴僧侶。

 

「..ゴブリンスレイヤーが食料を出したぞ。見に行ってはどうだ」

 

そう提案し意識を反らす。チーズに気付いた妖精弓手は黒曜石のナイフを取り出し、切り分けた。

鉱人が炙った方が旨いと言い、女神官が細い鉄串を差し出しくるくると炙っていく。

 

「ほれ、できたぞ。上等なチーズだわい」

 

全員にチーズが行き渡り、各々口に運ぶ。

 

「甘露!」

 

蜥蜴僧侶が快哉をあげ、長い尻尾が地面を叩いた。

ふむ。私もチーズは初めて食べるが、良いものだな。

今度買ってみるか。

 

「甘露!甘露!」

 

「生まれて初めて食うチーズが旨いとは、何よりじゃ」

 

鉱人が愉快そうに酒を呷りながら笑った。

各々チーズの感想を述べ、話題がゴブリンスレイヤーの呼び名に変わった。

 

「オルクボルグは、森人の伝説に出てくる刀のこと。オルク...ゴブリンが近づくと青白く輝く、小鬼殺しの名刀よ」

 

「鍛えたのはわしら鉱人じゃがの。わしらの呼び方がかみきり丸じゃ」

 

妖精弓手の自慢に鉱人が茶々を入れる。

そして始まるいつもの喧嘩。ここ最近の定番だ。

 

「さて、私は見張りをするとしよう。貴公等は安心して夢に赴くがいい」

 

言い残し、遠眼鏡で辺りの草原を見渡す。

何も無い。岩すら無い。ヤーナムにこのような草原はなかったな。狩人の夢の花畑が一番近いか?

あるいは星輪草、星輪樹辺りか。

そのどちらも嫌な場所に有ったものだ。

 

ヤーナムの(嫌な)思い出に浸りつつ警戒を続けていれば、いつの間にか朝を迎えていた。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

朝を迎え、準備を整え進み。ゴブリン共の巣穴を見つけた。

大地に半ば埋もれた白石造りの四角い入口。遺跡だろう。

入口にはゴブリンが二匹、灰色の狼が一匹傍らで座っている。

 

「ゴブリンのくせに番犬まで連れちゃって。生意気よね」

 

「余裕がある群れの証拠だ」

 

妖精弓手が鼻を鳴らしゴブリンスレイヤーが応じる。

 

「そう、それじゃ仕掛けるから」

 

妖精弓手が矢筒から矢を引き抜く。

私達とは違う、金属を用いない矢。

鏃は芽、矢羽は葉だ。彼女がヤーナムに行けば嗤われるに違いない。

シモンがそうだったのだから。

 

妖精弓手が矢を放つ、が。ゴブリン共よりも幾分か右に逸れている。

ダメか、と私がシモンの弓剣に矢を番えた瞬間。

矢が大きく弧を描き、片方のゴブリンの頚椎を吹き飛ばし、もう片方のゴブリンの眼窩に飛び込み貫いた。

目を見開いた狼が飛び起き咆哮をあげようとすれば、間髪いれずに放たれた二射目が狼の喉奥に突き刺さった。

 

私がどう足掻こうと真似できない、驚くしかない軌道であった。

 

「すごいです!」

 

「見事だが...なんですかな、今のは?魔法の類かね?」

 

女神官が目を輝かせ、蜥蜴僧侶が目を大きく開いて問う。

その言葉に妖精弓手はふふんと自慢気に鼻を鳴らし、ゆるく首を横に降った。

 

「充分に熟達した技術は、魔法と見分けが付かないものよ」

 

寿命の長い森人達だからこそ出来る芸当だろう。

少なくとも私には寿命がいくら有ろうが修得はできないだろう。

弓剣を剣に変形させ、回転ノコギリに持ち替える。

腰に下げていたルドウイークの長銃を引き抜く。

 

ゴブリンスレイヤーがゴブリンの死体にナイフを突き立てかき回している。

例のアレだろう。モツ抜きを嬉々として行う狩人から見れば普通だが、そうでない者には見慣れない光景だろう。

事実、妖精弓手が顔を強張らせている。

 

そうして肝を引きずり出したゴブリンスレイヤーは、手拭いで包み、引き絞る。

顔面蒼白になり、逃げ出そうとする妖精弓手を拘束する。

 

「ね、ねぇ、ちょっと、嘘でしょう?か、狩人も手を離して、ね?」

 

助けを求める目を憐れみの目で返し、ゴブリンスレイヤーを促す。

赤黒い布を持ち薄汚れた鎧兜を身に付けた男が顔を隠した男に拘束された涙目の少女に近づく。

端から見れば事案だろう。

だがこれは必要な事なのだ。嗅ぎ付けられては困る。

 

 

 

 

 

 

遺跡の入口に入ると、狭い通路が下に続いていた。

壁面には絵が掘られている。

 

「...ふむ。拙僧が思うに、これは神殿だろうか」

 

「この辺りの平野は、神代の頃に戦争があったそうですから。その時の砦かなにか...。造りとしては人の手による物...のようですが」

 

「兵士は去り、代わりに小鬼が棲まう、か。残酷なものだ」

 

蜥蜴僧侶は重々しく頷き、合掌する。

 

「残酷と言えば...耳長の、大丈夫かの?」

 

森人の伝統的な装束を汚され、妖精弓手は啜り泣いていた。

罪悪感を感じない訳では無いが、見つかる可能性を減らす為だ。恨め。

 

「慣れろ」

 

松明を左手に握り、右手に剣を抜いたゴブリンスレイヤーが淡々と言った。

 

「戻ったら、覚えていなさい。あなた達」

 

「覚えておこう」

 

「ああ」

 

一応返事をしておく。

ランタンと獣狩りの松明の光がいつもより小さい。

古い森人達の結界が張られているようだ。

 

遺跡の道は今まで一本道だった。もっとも、螺旋状に成っているようだが。

下り坂が終わると通路が左右に分かれていた。

 

「待って」

 

分かれ道に入った途端、妖精弓手が鋭く言った。

 

「どうした」

 

「動かないで」

 

短く命じ、腹這いになり床に這いつくばった。

石畳の隙間を指先でなぞり、探っていく。

 

「鳴子か」

 

「多分。真新しいから気付けたけど、うっかりしてると踏んでしまうわね。気をつけて」

 

見れば僅かに浮き上がっている。

聖杯ダンジョンにも似たような物はあった。

鳴子ではなく火矢で殺しに来ていたが。

 

ゴブリンスレイヤーが辺りを見渡し、女神官が何か、と尋ねれば。

 

「トーテムが見当たらん」

 

ゴブリンシャーマンが作るものだ。それがないとは、ゴブリンシャーマンがいないことを意味する。

となればあの真新しい鳴子を只のゴブリンだけで作った事になる。

奇妙だ。

 

「只のゴブリンだけでは仕掛けられん。ここに呼び寄せる手もあるが、やめた方が良さそうだ」

 

「小鬼殺し殿は以前にも大規模な巣を潰したと伺った。その時はどのように?」

 

「燻りだし、個別に潰す。火をかける。河の水を流し込む。手は色々ある。ここでは使えんが」

 

「足跡はわかるか?」

 

「そういうのはわしの出番じゃ」

 

鉱人が前に出て身を屈め、通路をくるくる歩いて回る。

石畳を蹴りつけ、じっと見つめる。

 

「わかったぞい、奴らのねぐらは左側じゃ」

 

自信たっぷりにそう告げた。

 

「そうか、ならばこちらからいくぞ」

 

ゴブリンスレイヤーは右の道に剣を突き出し示す。

右の道の奥からは臭いが漂ってくる。

匂い立つ、ヤーナムの如き臭いだ。

進めば進む程臭気は強くなる。

ゴブリンスレイヤー以外の皆が顔を歪める。

女神官の歯がトラウマなのかかたかたと鳴っている。

 

やがて見えてきた腐りかけの木の扉を蹴り破る。

扉の先はゴブリン共の糞溜めであった。

骨、糞、死骸。がらくたの山。壁は赤黒く染まっている。

その中に薄汚れ、無残な傷痕のある森人が捕らえられいていた。

右半身が葡萄の房を埋め込まれたかのように傷ついている。

生きてはいる。だが憔悴しきっている。

 

「水薬を...!」

 

「いや、これほど弱っていると喉に詰まるやもしれぬ」

 

「傷そのものは命に関わらん。が、危うい。憔悴しきっている。奇跡を」

 

「はい....!」

 

女神官が奇跡を使い森人を治している間、沸々と沸く獣への殺意を修めクズ山を漁る。

まだ形を残した背嚢を堀当てる。中を探れば遺跡の地図だろう葉が見つかった。

それを広げようとし、クズ山から飛び出してきたゴブリンの短剣に腕を刺される。

咄嗟に振り払い、短剣を引き抜きバックステップで距離を取る。

長銃を撃とうとし、指に力が入らない事に気づく。

刺された短剣を見ればベットリと付着する黒い粘液。毒だ。

急いで白い丸薬を取り出すが、落としてしまう。

 

「狩人さん!」

 

女神官の焦った声が聞こえる。

何とも初歩的なミスを犯した物だ。

狩人の命である血が消えていく感覚がする。

ゴブリンスレイヤーが剣をゴブリンに突き立てる姿が見えた。

 

「狩人さん!大丈夫ですか!?今水薬を...!」

 

「...そこに落ちた丸薬をひろえ」

 

「え?はい!わかりました!」

 

女神官に白い丸薬を拾わせ、服用する。

毒は治っただろうが体力は回復しない。

輸血液を取り出し、輸血する。

二本使い、失った血を補充する。

 

「...良かった」

 

女神官がほっと息をつく。妖精弓手や鉱人、蜥蜴僧侶もこちらを心配そうに見ている。

ああ...悪いが...

 

「少し...休ませてもらうぞ...」

 

眠い、狩人だと言うのに、ねむい。

このまま眠れば、狩人の夢に戻るのだろうか...。

 

 

 

 




誰かもっとクオリティ高いの書いて


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3話

お気に入りが1000を越えてるし投票者57人いるとか夢かな?

新しいブラボ×ゴブスレssでたし目覚めてもいいよな(ハラキリ)


夢を見た。悪夢が始まった、輸血された時の夢を。

記憶を失い、ヨセフカ診療所の獣に喰われた夢を。

聖職者の獣に、ガスコイン神父に、血に渇いた獣に、ヘムウィックの魔女に、教区長エミーリアに、黒獣パールに、ローゲリウスに、ヤーナムの影に、ロマに、再誕者に、星界からの使者に、エーブリエタースに、アメンドーズに、ミコラーシュに、メルゴーの乳母に、ゲールマンに、月の魔物に、ルドウイークに、初代教区長ローレンスに、失敗作たちに、時計塔のマリアに、ゴースの遺児に。

彼らに敗れ、目覚める(死 ぬ)夢を見た。

 

喰われ、斬られ、叩き潰され、目を抉られ、燃やされ、神秘を撃たれ、目覚める(死 ぬ)自分を見た。

何度も挑み、敗れ、しかし最後には打ち破る自分を見た。

オドン教会の皆が殺され、膝をつき泣く自分を見た。

感情もなく、ただただ獣を狩る自分を見た。

鐘を鳴らし、協力者を集い、人間性を取り戻す自分を見た。

 

 

全て、全てあの獣狩りの夜に起こった事だ。

記憶のない私の人生とも呼べるそれ。

夢の中の自分に手を伸ばし......伸ばした手を掴まれた。

目を開けば女神官が心配そうに私の手を握っていた。

私が起きたことに気づいたのか、パッと顔を綻ばせる。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!狩人さんが起きましたよ!」

 

「そうか」

 

「あなた、もう少し心配なさいよ」

 

「している」

 

「あなたねぇ...」

 

周りを見れば私を中心に固まっていた。

守っていてくれたのだろう。

ふらつきながら立ち上がり、全員の顔を見て礼を言う。

 

「迷惑をかけてすまないな....ありがとう」

 

「助け合うのは当たり前ですよ」

 

「そうよ、仲間なんだから」

 

鉱人と蜥蜴僧侶がうむうむと頷く。

森人が捕らえられていた場所を見れば、そこに森人はいなかった。

 

「あの森人の事は心配なさるな。狩人殿が眠っている間に、拙僧の竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)にて外へ運び出した」

 

「そうか」

 

 

「お前が見つけた地図を見る限り、左の通路の先は回廊だ」

 

葉の地図を見ながらゴブリンスレイヤーが言った。

 

「吹き抜けになっている。十中八九、其処だ。奴らが寝れる程広い場所は他にない」

 

あの道がゴブリンの寝床に繋がっているのは確からしい。

ゴブリンスレイヤーは地図を無造作に折りたたみ、自分の背嚢に押し込んだ。

 

「行くぞ」

 

ずかずかと進むゴブリンスレイヤーの後に続き汚物に濡れた部屋を出る。

そのまま進み回廊を目指す。回転ノコギリを握りしめながら。

 

 

 

 

~~~

 

 

途中警邏のゴブリンに何度か出会ったが妖精弓手が射殺し、仕留め損なえばゴブリンスレイヤーが飛び掛かった。

 

「呪文はいくつ残っている?」

 

回廊を前にしたところでゴブリンスレイヤーが言った。

 

「えっと、私は小癒(ヒール)を使ったきりなので...あと二回です」

 

「拙僧も竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)を一度のみだ。三回は行けるが....」

 

蜥蜴僧侶が自分の荷物を探り、牙を一掴み手に取った。

 

竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)の奇跡には触媒がいる。この呪文に関しては、あと一度が限界と思ってもらいたい」

 

「わかった」

 

「わしは、呪文にもよるが、四回か五回はいけるはずじゃ。四回は確実じゃの。安心せいよ」

 

鉱人はそう言ってからから笑う。

呪文とやらには使用回数があり、高位の者程回数が増えるらしい。

竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)の呪文と神秘は少し似ている。神秘も血の水銀弾を触媒として使用する。

消費する水銀弾の数は神秘によってちがうが、彼方への呼びかけの如く、多く触媒を要するのだろう。

これより先はゴブリンの寝床だ。先のようにやられぬ様、気を引き締めねば。

 

 

 

 

 

地図通り進み、回廊へたどり着いた。

回廊は地図通り吹き抜けになっていた。

壁には神代の戦いを描いた絵が残されていた。上位者共の戦いだ。

剣を揮い、雷槌を投げ、やがてサイコロに手を伸ばす。

 

崖のように切り立った壁面の下には、広場があり、ゴブリン共が蔓延っていた。大群だ。

ゴースに祈る漁村民ぐらい要るかもしれない。

これ程の大群となると策を立てねばなるまい。無策で挑めば数秒後には肉塊に変貌するだろう。

 

だが此方にはゴブリンスレイヤーがたてた作戦がある。

 

 

~~~

 

 

 

 

 

「《呑めや歌えや酒の精(スピリット)。歌って踊って眠りこけ、酒呑む夢を見せとくれ》」

 

鉱人が酒を口に含み、吐き出す。飛沫が霧のように散り、ゴブリン共に降りかかる。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、我らに遍くを受け入れられる、静謐をお与えください》」

 

女神官の奇跡が発動し、辺りから音が消え去る。

 

眠りこけたゴブリンの頭を回転ノコギリの槌で潰し回る。

潰し、潰し、潰し、潰し潰し潰す。虫を潰すかの如く殺す。

 

ゴブリンを皆狩り終わるのは、三十分足らずで完了した。

落下死体溜まりの如き様となった広場を見渡す。

壁、床、柱、全てがゴブリンの血に濡れている。

血舐めが大喜びしそうだ。

 

ゴブリンスレイヤーが剣の切っ先を広場の奥に向ける。

狩人の様に血濡れた彼は、ずかずかと歩き出した。

追いかけようと、小走りすれば...血の臭いに混じり、知らぬ臭いが鼻についた。

そして足元から使者達がメッセージを抱えて現れる。

 

《この先、強敵に注意しろ》

 

《スクロールが有効だ》

 

槌を背にある丸ノコと組み合わせ、持ち上げる。

妖精弓手や鉱人が何事かと私を見たとき、ずん、と。大気が震えた。

ゴブリンスレイヤーの奥、暗闇からそれが現れる。

額に生える角、腐敗臭漂う口。手にした巨大な戦鎚。

教会の巨人よりも大きい、筋骨隆々の青黒い体。

 

 

「オーガ.....ッ!」

 

 

「ゴブリン共がやけに静かだと思えば、雑兵の役にもたたんか....。貴様ら、先の森人とは違うな。ここを我らが砦と知っての狼藉と見た」

 

恐ろしい獣のような声音でオーガが喋る。

金の瞳がらんらんと燃えている。

 

 

「....なんだ、ゴブリンではないのか」

 

「オーガよ、知らないの.....!?」

 

ゴブリンスレイヤーが淡々と言い、妖精弓手が弓に矢を番えながら叫ぶ。

 

オーガか、聞いた話では人を喰う鬼らしい。獣と何が変わろうか。

 

「知らん」

 

ゴブリンスレイヤーが面倒臭そうに言った。

 

「貴様!この我を、魔神将より軍を預かるこの我を、侮っているのか....ッ!!」

 

「上位種がいるのはわかりきっていたが。ふぅむ。...貴様も、魔神将とやらも、知らん」

 

その言葉にオーガが吠え、戦鎚を石床に叩きつける。

 

「ならばァ!その身を以てして我が威力を知るが良い!」

 

青白い巨大な左手が此方には突きだされる。

 

「《 カリブンクルス(火石) ..クレスクント(成長)....》」

 

ポウッとその掌に僅かな光が生まれ、それがぐるりと裏返るようにして炎に転じる。

炎はやがて橙に、次いで白く、やがては蒼く。

 

火球(ファイアボール)が来るぞぉっ!!」

 

「《――――― ヤクタ(投射)!》」

 

鉱人が叫ぶと同時にオーガが呪文を投じた。

放たれた火の玉は尾を引いて宙を飛ぶ。

 

「散って!」

 

バラバラに散らばる中、女神官が前に飛び出す。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください》」

 

火球の前に立ちはだかり、錫杖を突き付け祈り、聖壁の奇跡が発動する。

火球は聖壁にぶつかり、聖壁を焼きつくしにかかる。

余波、余熱が女神官を襲い、ジリジリと焦がす。

 

「い、と《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください》!」

 

唇を乾かせ、肺を焼かれながらも重ねて祈りを捧げ続ける。

 

「あ、ああっ!」

 

だが、ついに聖壁の奇跡は突き破られる。致命的な炎と熱は霧散するも、熱風が吹き荒れ、女神官が膝をつき舌をだして喘ぐ。

 

「小癪な小娘が...!あの森人のように、楽に生かされると思うな!」

 

「させるか」

 

オーガの足に回転ノコギリを振る。回転にする細かい刃がオーガの足を削る。

 

「ふん!」

 

オーガの振り回す戦鎚をステップで回避する。

 

竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)を出せ。手が足らん」

 

「承った、小鬼殺し殿!」

 

 

「ええい、ちょこまかと!」

 

私めがけ振り下ろされる戦鎚を前ステップで避け足の腱に回転ノコギリを押し付ける。

金属が削れる音が響き渡る。

 

「《仕事だ仕事だ、土精(ノーム)ども。砂粒一粒、転がり廻せば石となる》!」

 

鉱人が砂を一掴み宙へ振りかけながら呪文を唱える。

唱え終わった瞬間、砂が礫に転じ、オーガの巨体へ釣瓶打ちに襲いかかった。

連続する衝撃にオーガが怯み、そこへ妖精弓手が撃ち抜く。

 

「ぬああっ!?」

 

右目を射ぬかれたオーガは体勢を崩し頭を下げる。

押し付けていた回転ノコギリを戻し、下げられた頭に移動する。矢の突き刺さっていない左目に右腕を叩き込む。乱暴にかき回し左目を持っていく。血が飛び散り私に降りかかる。

 

「かああ!貴様ッ!」

 

怒らせ私に注目させる。

ゴブリンスレイヤーがオーガの後ろに回り腱を切りつけるも、金属音と共に弾かれる。

 

 

「そこかァ!」

 

オーガの戦鎚がゴブリンスレイヤーに振られ、鉄兜にかする。

それだけで吹き飛び柱に激突する。

 

「ゴ、ゴブリンスレイヤーさんっ!」

 

少し回復した女神官がゴブリンスレイヤーにふらつきながら駆け寄る。

 

「巫女殿!任せた!」

 

オーガが右目の矢を抜き、折り捨てた。

あっというまに潰れた筈の右目が癒え、爛々と憎悪に燃える。しかし抉られ、ぐちゃぐちゃになった左目は再生しない。

 

「鉱人、妖精弓手、蜥蜴僧侶!援護を!」

 

「了解した!」

 

蜥蜴僧侶が竜牙兵を引き連れオーガの行く手を阻む。

妖精弓手が素早く広間を駆けながら矢を放つ。放たれた矢は次々オーガの巨体に刺さる...が。

 

「蜥蜴に小娘がッ!鬱陶しいぞ!」

 

大して効果はなく、オーガは戦鎚を壁に打ち込んだ。

衝撃が遺跡を襲い、天井が崩れる。

崩れた天井から降り注ぐ瓦礫の礫が鉱人を襲い、着地点を見失った妖精弓手にオーガが戦鎚を振り回すが、曲芸めいて宙で身を捻り、潜り抜けた。

 

「ふん!」

 

回転ノコギリを頭上で溜め、力を込めてオーガに振り下ろす。

オーガの肉に食い込み削っていく。しかし回転が止まり、食い込んだまま抜けなくなる。

 

「グハハ、捕らえたぞ」

 

引き抜こうと力を込め、変形機構から壊れた槌が外れる。

壊れた槌を捨て、シモンの弓剣を取り出す。

 

「オルクボルグ!」

 

妖精弓手の声に、ゴブリンスレイヤーが倒れていた場所を見れば、何やら巻物を手に此方へ進んでくる。

 

「戦場で余所見とはなァ!」

 

見ていた隙を突かれ、巨大な左手に掴まれ持ち上げられる。

ギリギリと締め付けられ、骨が軋む。

 

「このまま握り潰してくれるわ!」

 

グッと力が込められ、骨が折れ、内臓が潰れる。

血が口から溢れ、マスクから漏れだす。

 

「狩人さん!」

 

女神官が叫ぶ。

 

「クッハハハ!」

 

勢い良く壁へ向け投げつけられる。

幸いにして、血はまだ残っている。石ころをぶつけられただけで死ぬくらい弱っているが。

輸血液を取り出し輸血する。なんとか生き延びた。

だがまだ骨が折れている。すぐ治るが、この瞬間を狙われれば今度こそ死ぬだろう。

 

 

「《 カリブンクルス(火石) ..クレスクント(成長)....》」

 

恐るべき威力を見せた火球の呪文が再び唱えられる。

ゴブリンスレイヤーが飛び出しオーガの前に躍り出る。

 

「そのボロボロの体で何ができる?貴様を焼きつくし、小娘共をゴブリン共の孕み袋にしてくれるわ!」

 

「《ヤクタ(投射)!》」

 

火の玉が投じられ、轟音と閃光が飛ぶ。

静寂が訪れ...やがて目に映ったのは一面に広がる水。それもただの水ではなく海水。そして2つに別れたオーガ。

 

何をしたのかとゴブリンスレイヤーを見れば、その手には燃え尽きていく巻物。海水に浸れど火は止まらず、跡形もなく消え去った

 

「お、ご、おあ、が、あぁあぁ...!」

 

オーガのもがき苦しむ声が海水の広間に響く。

止めを刺そうと足に力を入れて立ち上がるが、おぼつかない。

ふらふらと歩き、蜥蜴僧侶に支えられた。

 

ゴブリンスレイヤーがオーガに近づき、何度も剣を振り下ろした。

オーガの断末魔が響き渡る。

そして彼は生き残りを始末しようと奥に向かい...倒れた。

 

 

 

 

 

地上に出れば、森人達が馬車の前にいた。

皆が皆煌びやかな装備を纏っている。

代表であろう森人が何かを言おうとし、止めた。

馬車に無言で乗り込んだからだ。森人と仲の悪い鉱人でさえ何も言わず、ずっと口を閉ざしている。

 

私の傷は既に癒えた。しかし疲労までは消えない。

掴まれ握り潰されることなど何時ぶりだっただろうか。

オドン教会のアメンドーズ以来だろうか。

一息吐き、壊れた回転ノコギリを見る。完全に壊れた訳ではなく、変形機構と槌が壊れたようだ。

これならば直せる。最悪使者から買おうかと思ったが、血の意志を使わずに済みそうだ。

 

寝息が聞こえ顔を上げれば私以外の皆は眠りについていた。

そういえばゴブリンに奇襲され短剣を刺されたあの時、何故私は眠ったのだろうか。

奇襲され毒に侵される事などヤーナムでは日常であったのに。違いは仲間...パーティーの有無か。

私は安心していたのか?無防備に眠る程?

アイリーンも同じ感覚だったのだろうか。...わからんな。

 

 

町に着いても私の疑問は晴れなかった。

 

 

 

~~~

 

 

オーガ退治の数日後、私は昇級試験とやらを受けさせられた。

一定の報酬を獲得した者が人格を加味した査定を受けるらしい。私の人格など問題しかないと思っていたが、何故か昇級できた。

持ち物検査などをされていたら不合格どころか投獄されていたかもしれない。ヤーナム以外で血や臓物を持ち歩く輩が何処にいるのだ。

 

とまぁ、色々ギリギリだが昇級した私は、他の獣を狩る依頼も請けれるようになった。

ここ最近はゴブリンスレイヤーも休んでいるし、ゴブリン共以外の獣を狩りに行くのも良いかもしれない。

私個人としてはドラゴンなる神話の獣を見てみたいが、たかが黒曜に依頼は回してくれないだろう。

 

ギルドに入ればパーティーの皆がいた。

妖精弓手とゴブリンスレイヤーが壁際で話しをしており、蜥蜴僧侶がチーズの塊に笑顔でかぶり付きそれを女神官と鉱人が微笑みながら見ていた。

鉱人がこちらに気付き、走りよってきた。

 

「おい狩人の!この石はなんじゃ、わしは見たことも聞いたこともないぞ!」

 

手に持つのは血晶石。前に女神官にやった物だ。

 

「そうだろう。私がいたヤーナムという街以外では存在しない」

 

「なんと!...なぁ狩人の。良ければわしに余りの石をくれんかの?みたところこの石、武具を強化できるのじゃろう?興味があるんじゃ」

 

少し考え、在庫処分に丁度いいかと頷く。

放射、三角、欠損、呪われたゴミを渡す。

ゴミだけではさすがにアレ故耐マイも一つ混ぜたが基本的に使えんし別にいいだろう。

 

「ほっほー!感謝するぞ狩人の!」

 

軽やかな足取りで妖精弓手に向かいおちょくっている。

蜥蜴僧侶達に近づく。

 

「狩人さんも黒曜になったんですね!」

 

その言葉に女神官の首を見れば黒曜の札。

彼女も昇級試験を受け、合計したのだろう。

 

「ああ、貴公も昇級できたのだな」

 

「はい!」

 

「あっ狩人!私にもその石寄越しなさい!まだあるでしょう!?」

 

鉱人に自慢されたのが気にくわないのか妖精弓手が血晶石をねだってきた。

肩を竦めながら本当に必要な血晶石以外を袋に入れて渡す。

 

「欲しいだけ持っていけ。貴公等もな」

 

女神官と蜥蜴僧侶、ゴブリンスレイヤーを見ながらいう。

 

「では一つ、頂こう」

 

「私はもう一つもらっていますから」

 

「......持っていけば、喜ぶか?」

 

袋が回り回って私に軽くなってかえってくる。

妖精弓手と鉱人が私のが綺麗、いやわしのが形が良いと張り合い、蜥蜴僧侶が血晶石を明かりに翳す。

 

この喧騒がなんとも心地よい。

ずっと居たいと思ってしまう程に。だがそれはかなわないだろう。

私は獣狩りを完遂せねばならないのだから。




回転ノコギリに耐マイ付ける馬鹿がいるらしい。

ちなみに私の狩人様はアルデオ 騎士装束 官憲手袋 墓暴きです
それで回転ノコギリ持ってたら私


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4話

ゴブスレ×ブラボSS増えててうれしい

ニコニコでハーレムはもういい系のコメントよく見かけたなぁ
ゴブスレさんには鉱人道士に蜥蜴僧侶、槍使い、牧場主の小父さんいるもんね

今回も低クオリティでガバガバかつ短い


私は今、下水道に居る。なぜかといえば二人の白磁の新人に同行しているためだ。

ゴブリンスレイヤー達は休暇中であり、私はギルドにて依頼を探していた。

そのときはゴブリン退治、ネズミ退治の依頼すら無かった。

珍しいこともあるものだと思いながら壁に寄りかかっていれば、受付嬢に呼ばれたのだ。ミコラーシュに劣らぬイイ笑顔で。

何事かと聞けば白磁に同行しろという。白磁冒険者達はどちらも剣士だ。

危なっかしいから監視しろということらしい。黒曜に頼むことか。

 

そんなことがあって今に至る。今のところ剣士達は問題行動は起こしていない。

ただ力任せに剣を振っているようで、洞窟などで苦労するかもしれない。

 

「貴公等、ここはまだすこし広いからいいが、洞窟等の狭い所では剣を振り回すなよ?」

 

「へっへ!平気だってオッサン!俺自慢の腕力で壁ごと切ってやるぜ!」

 

「そうだぜ、俺たちは力がつえぇんだ。心配するこたぁねぇよ」

 

剣士達は笑いながら言った。

ふむ。確かにこれは危なっかしい。血気盛んなのは良いことだが。

岩を切れたことは私は一度もない。ギルドにいた重戦士ならできるかもしれない。

 

「なんにせよダガーやショートソードは買っておけ、武器を失って戦えませんじゃ話にならん」

 

「あーそうだな、確かに予備は必要かもなー」

 

「でも金あったか?ネズミ退治じゃ一人分買えるかどうかだろ?」

 

「またネズミ退治の依頼受けて稼ごうぜ」

 

初心者は下水道でネズミ退治かドブさらい。

受付嬢はそう言っていたな、私はゴブリン狩りに行ったが。

奥から走り飛び掛かってくるネズミにスローイングナイフを投げつける。

 

「オッサンもやるなぁ!俺らの一つ上の黒曜だろ?」

 

「そうだ、数ヶ月冒険者を続けられれば昇級できるだろう。あと私はオッサンと呼ばれるほど年は食っていない」

 

だが多くはあっけなく死ぬ。診療所で目覚めたばかりの私のように。

その原因の多くはゴブリンだ。

ゴブリンは弱い獣というのが白磁や町人の考えだ。

故に準備を怠り、毒にやられ、数に押され、死ぬ。

 

「んじゃあ、銀級に登り詰めるまで冒険者しなきゃな!」

 

「そんで女にキャーキャー言われる毎日を送るんだ!」

 

ウヘヘと笑う剣士達、まるで兄弟のようだ。

女にキャーキャーされたいというのはよくわからないが、少年達にとっては憧れなのだろう。

カインハースト城の幽霊達ならばすすり泣きながらキャーキャー叫んでくれるが。

 

「おっ、さっきので討伐数満たせたぜ。ギルドに戻ろう」

 

「オッサンもそれでいいよな?」

 

「ああ、あと私はオッサンではない」

 

「じゃあ決まり!こんな臭い所からは撤収だ!」

 

 

 

 

~~~

 

 

 

あの後何事もなくギルドに戻れた。

受付嬢に報告をする。

 

「お疲れさまでした。どうでしたか?彼らは」

 

「装備を揃え経験を積めばすぐ白磁から昇級できるのではないか?」

 

「そうですか。ではこちらが報酬となっています」

 

「...貴公、なぜ私に監視の依頼を?他に適任者がいるだろう」

 

「いえ、手持ち無沙汰のようでしたから。それに、今ギルドでは新人の教育を行ってまして」

 

新人の教育、獣の種類や対処の仕方などを教えているのだろうか。

それならば死んでしまう新人達も少なくなるだろう。忠告を聞かない者以外は。

 

「そうか、無茶をして死ぬ者が減るといいな」

 

「はい」

 

受付から離れ椅子に座る。

今日はもうやることがない。依頼はなく任された仕事も終わった。

狩人の夢で消耗品を補充するのもいいが、使った物はスローイングナイフ一本だけだ。

スローイングナイフ一本のために夢に帰るのは手間だ。

何かないだろうか。ゴブリンスレイヤーに聞けばゴブリンの巣を教えてくれたりしないだろうか。

...教えるくらいなら一人で狩りに行っているか。

 

 

ボーっとしていると入口のベルが鳴る。

入口を見れば薄汚れた革鎧と鉄兜の男、ゴブリンスレイヤーだ。

噂をすればなんとやらだ。だが休暇中のはずだが。

 

「...ゴブリンスレイヤーか。なんだ、生きていやがったのか」

 

槍使いが悪態をつく。

休暇中でギルドに顔を出していなかったから死んだと思われていたのか。

ゴブリンスレイヤーは槍使いを見もせず、ずかずかと待合室に踏み入った。

受付に行かず定位置の椅子にも座らない。何かあったのだろうか。

 

「...すまん、聞いてくれ」

 

ゴブリンスレイヤーの低い声がギルドに響き渡る。

それを聞いて多くの冒険者達がゴブリンスレイヤーを見る。

 

「頼みがある」

 

ゴブリンスレイヤーを頼み、何だろうか。

 

「ゴブリンスレイヤーが頼み?」

 

「あいつの声初めて聞いたぞ、俺。そもそも単独専(ソロ)じゃないのか?」

 

「最近は女の子と....あそこの椅子に座ってる枯れた羽帽子の男と組んでるらしいわ」

 

「リザードマンや鉱人とも組んでたよな。そのあと見なくなったけど」

 

ギルドがゴブリンスレイヤーに関する話で盛り上がる。

私や女神官も話題になっている。時折視線が飛んでくる。

奥の卓には蜥蜴僧侶や鉱人、妖精弓手がおり、ゴブリンスレイヤーのことを見ている。

 

「今夜、ゴブリンの群れが街外れの牧場に来る。斥候(スカウト)が多かった。恐らくロードがいる。ゴブリン共も百匹はくだらんだろう」

 

「ロード!?」

 

冒険者達から驚きの声が上がる。

ロード....ゴブリンの中の白金に値する存在だったか。関係ない、狩るべき獣は狩るだけだ。

 

「時間がない、洞窟ならともかく、野戦では俺一人となると手が足りん。手伝ってほしい、頼む」

 

頭を下げるゴブリンスレイヤー。

 

「どうする?」

 

「どうするったってなぁ」

 

「ゴブリンなぁ」

 

「やりたくねぇなぁ、あいつら汚ねぇしよぉ」

 

誰も直接ゴブリンスレイヤーに言おうとはしない。

ゴブリンスレイヤーも頭を下げたまま微動だにしない。

 

「...おい、勘違いするなよ。ここは冒険者ギルドで、俺たちゃ冒険者だ。お願いなんざ聞く義理はねぇ。依頼を出せよ。つまり、報酬だ。なぁ?」

 

槍使いが声を上げ、周りの冒険者に同意を求める。

 

「そうだ!俺たちは冒険者だ!タダ働きなんてゴメンだぜ!」

 

「そうだよ、依頼だせ依頼!」

 

冒険者たちがはやし立てる。

冒険者は金で動く、対怪物の傭兵のようなものだ。

報酬がなければ動かない。

 

「ああ、もっともな意見だ」

 

「おう、じゃあ言ってみな。俺らにゴブリン百匹相手させる、報酬をよ」

 

 

「すべてだ」

 

ギルドが静まり返る。

ゴブリンスレイヤーの言葉の意味を誰もが掴みかねている。

 

「俺の持つ物、すべてが報酬だ」

 

「私からも出そう」

 

ゴブリンスレイヤーの後に続き、私も報酬、輝く硬貨の詰まった袋を二つ放り投げる。

ヤーナムでは道しるべ以外役に立たん代物だったが、ここでは役に立つ。

 

「狩人...お前が金をだす必要はない」

 

「なに、気にするな。獣は狩らねばならん、あれだけで協力が得られるのなら安いものだ」

 

なくなったら使者たちから購入すればいいだけの話だ。

金は私に必要ない。必要なのは獣を狩るすべだ。

 

「...仕事が終わったらいっぱい奢れゴブリンスレイヤー。金はいらねぇ」

 

槍使いがゴブリンスレイヤーの革鎧を拳で叩きながら言った。

 

「ああ」

 

 

袋の中を確認し、槍使いの他に数人が俺も私もと参加する。

だが少数だ。命を賭ける気にならない者のほうが多数だ。

 

協力が得られればありがたいが、なくとも策はある。

妖精弓手が参加し、蜥蜴僧侶、鉱人も参加する。

女神官が参加すればパーティーが完成する。

そういえば女神官の姿が見えないが、どこにいるのだろうか。

冒険者ギルドにはいないだろう、とすれば神殿か。

まぁ、恐らくついてくるだろう。

 

 

 

「ギ、ギルドからも!い、依頼があります!」

 

声の方向を見れば受付嬢が紙束を抱えていた。

走ってきたのか、顔が赤く、喘いでいる。

 

「ゴブリン一匹につき、金貨一枚の懸賞金を出します!チャンスです!冒険者さん!」

 

大盤振る舞いだ、ギルドも無視できないと考えたか、受付嬢が説得したか。

恐らく後者だろう。かなりの労力をかけたのだろうな。

 

重戦士が立ち上がり、重戦士のパーティーも立ち上がる。

それにつられ次々に冒険者たちが立ち上がる。

気づけば、全員が立ち上がっていた。

一人の冒険者が鬨の声を上げ、他の冒険者がそれに続く。

 

「ねぇオルクボルグ、策はあるの?」

 

妖精弓手が尋ねる。

 

「...罠を張る。まずは罠をつくらねば」

 

「...なぁゴブリンスレイヤー、私に任せてくれないか?」

 

「策はあるのか」

 

「ああ、私にいい考えがある」

 

 

 

 

今宵、冒険者の獣狩りの夜が始まる。




AC二十週年サントラ最高だぜ

AC6まだ?


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5話

バックアップ取れずにデータが消えて書き直したので初投稿です



アサシンクリードオデッセイたのちい



ヤーナムには大量に罠があった。

振り子、とげ付き丸太、薬品棚、エレベーター、アイテム。

その多くはスイッチ式だ。だがそんな仕掛けを作る暇は今はない。

 

旧市街、そこにいたデュラが使っていた固定ガトリング銃。あれの弾が油壺に当たった時、油壺は爆発した。

私はそれを使おうと思った。悪夢を廻り廻ったお陰で、ガトリング銃は何個も持っている。

固定ガトリング銃を作り、いくつか設置する。油壺の爆発で殺しきれなければそのまま銃殺する。

だが、まだ足りん。

オト工房製の時限爆発瓶を使う。爆発瓶は単体ではほとんど役に立たない。

故に処刑隊の車輪に付け、転がしゴブリン共を潰し、爆破する。

ゴブリン共は卑劣だ。人質、肉壁を使ってくるだろう。

鉱人の酩酊(ドランク)や魔術師のなどの呪文でゴブリン共を眠らせ、人質を回収する。

その後はただ冒険者全員で狩り殺す。

そうゴブリンスレイヤーに伝えると

 

「...ガトリングとやらは何だ」

 

「これだ」

 

ガトリング銃を取り出しテーブルに置く。

 

「狩人がいつも左手に持ってる銃とは何が違うの?」

 

妖精弓手が首を傾げながら尋ねてくる。

弓使いの彼女には違いがわからないのだろう。

 

「私がいままで使っていたのは単発式だ。一回撃てばまた装填する必要がある」

 

「そこは弓と同じよね」

 

妖精弓手の言葉に頷く。

 

「だがこれは違う。いちいち装填しなくていい、連射式の銃だ。これを複数用意した」

 

「何個だ」

 

「とりあえず引っ張り出してきた八個だ。これを高台に固定してゴブリン共を狙い撃つ」

 

「扱うのは誰だ」

 

「遠距離攻撃をしたことがある者...または呪文がきれた魔法使い辺りか」

 

剣士や槍使い等、近接職の冒険者達には普通に戦ってもらう。

もし扱わせて背中を撃たれたらたまったものではない。

しっかりと狙える者が良い。

 

デュラが羅患者の獣()を守ったように、私も人を守ろう。

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

牧場の屋根の上で遠眼鏡を持った妖精弓手とガトリング係の冒険者達が辺りを見渡している。

私や槍使い、蜥蜴僧侶等近接職は牧場の周りに散らばり開戦を待っている。

 

 

「来たぞ!ゴブリンだ!」

 

一人のガトリング係が叫ぶ。見れば遠くに蠢く小さな影。薄汚い獣の臭いを私の鼻が嗅ぎ取る。

間違いなくゴブリン共だ。魔術師達が眠雲(スリープ)の呪文を唱える。

霧が現れ、先陣を切っているゴブリン共が霧に突っ込みバタバタと倒れていく。

冒険者達と共に詰め寄り、人質を奪い返す。

 

右手に持った時限爆発車輪をゴブリン共の軍に勢い良く回しながら投げる。

車輪はガタガタと荒ぶりながらもゴブリン共を潰していく。

ガトリング銃が音を立てて弾を撃ち始め、音に気を取られたゴブリンの弓兵達を妖精弓手の矢が打ち抜く。

シャーマンがガトリングに対応しようとするも、呪文を唱える前に撃ち殺される。

 

「弓兵の数は減らしたわ!」

 

妖精弓手が矢を番えながら言った。

 

「うらぁ!やってやるぜ!」

 

「ヒャッハー!金稼ぎの時間じゃあ!」

 

「突撃ー!」

 

槍使いが先陣を切り、冒険者達が叫びながら横側から突っ込んでいく。

私も葬送の刃を変形させながらゴブリンに突撃する。

葬送の刃を振るいゴブリン共の首を飛ばし、飛ばし、斬り捨てる。

 

「GUR!」

 

後ろから灰色の狼に乗ったゴブリンが襲い掛かってくる。

それを避け葬送の刃を変形し狼ごとゴブリンを叩き切る。 

葬送の刃を仕舞い、爆発金鎚に持ち替え近場に居たゴブリンの頭をピンク色の肉塊にする。

 

「GURAGURARUARUARUA!!!」

 

突如唸るような雄叫びが轟く。

雄叫びのした方を見れば田舎者(ホブ)を超えオーガと並ぶ血に濡れた巨体。

小鬼英雄(チャンピオン)だ。ゴブリンでありながら銀級が二人掛かりでも苦戦するという強敵。

 

「はっは!っしゃあ!大物だ!いい加減雑魚相手も嫌になってきたとこだ!首おいてけ!」

 

笑みを浮かべ、人の背丈を超える肉厚の大剣を背負い飛び出していく重戦士。

その後に、やれやれと面倒くさそうに楯を掲げた女戦士が続いていく。

 

「まったく。私は今、討ち取ったゴブリンの首数を数えるので忙しいんだが....」

 

「いいから付き合え!」

 

「わかった、わかった。仕方のない奴め」

 

減らず口を叩き合っている二人の横を通り抜け、棍棒を振るっている小鬼英雄(チャンピオン)の背後に回り込み、力を込めて爆発金槌を叩き付ける。小鬼英雄(チャンピオン)が体勢を崩し両手を地面につける。

体勢を崩した小鬼英雄(チャンピオン)の前にステップで近づき顔に右手を叩き込む。

痛みに悲鳴を上げる小鬼英雄(チャンピオン)の顔を引き寄せ額にエヴェリンを押し付け引き金を引く。

小鬼英雄(チャンピオン)の体から力が抜けるが、死んだマネをしている可能性もある。

爆発金槌を点火させ思い切り小鬼英雄(チャンピオン)の顔に振り下ろす。

爆発が起こり黒煙が晴れると小鬼英雄(チャンピオン)の頭が消し飛んでいた。これで確実に死んだだろう。

 

「うわぁ...」

 

「変な恰好してるとは前から思っていたが...あんな奴だったとは...」

 

後ろで何か言われているが、私はまともな方だ。

脳に瞳を得る(物理)とかしていないし血に渇いても酔ってもいない。正常だ。

彼らが血晶亡者と化した狩人や車輪をぶんまわして肉塊を精製するアルフレートをみたらどう思うのだろう。引くのだろうか。それとも発狂してしまうのだろうか。気になる。

 

気になるが今はゴブリン狩りの夜だ。狩らねば。

ハアァァと息を吐き出し、爆発金槌に火をつけゴブリン共に叩き付ける。

私がすべきことはこれだけだ。小鬼英雄(チャンピオン)は狩った。ロードはゴブリンスレイヤーが狩る。

ゴブリンを狩り、狩り、狩る。最後は上位者共(神々)だ。

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

ゴブリン狩りの夜は終わった。

冒険者達により襲撃のゴブリン共は一匹残らず狩りつくされた。

夜が明けるころには冒険者達も血塗れで狩人のようだった。私は発狂したアルフレートの如き様だったが。

そのせいで数メートルは距離を取られた。あの反応が普通だろう。

まぁすぐ処刑隊装備に着替えたが。頭はアルデオではなくヤーナムの枯羽帽子だが。

アルデオをかぶればさらに距離を置かれるだろうからな。

 

今はギルドの宴を負傷したゴブリンスレイヤーと牛飼娘と共に見ている。寝てしまったが女神官もいる。

素晴らしい眺めだ。酒を飲み、肉を喰らい、皆が笑いあっている。喧騒が心地よい。

ふとゴブリンスレイヤーと槍使いの会話を思い出し尋ねる。

 

「そういえばゴブリンスレイヤー、貴公、槍使いに報酬は払ったのか?」

 

「ああ、既に支払い済みだ」

 

ゴブリンスレイヤーが嘘を吐くとも思えないから本当だろう。

槍使いは酒をがぶがぶ飲んでいるし、奢られた酒は飲み干したんだろう。

 

「おーいオルクボルグ!狩人!こっち来て飲みなさいよ!」

 

「おい耳長の、やめんか!」

 

酔っぱらって赤ら顔の妖精弓手に呼ばれる。

右手には酒瓶、左手は鉱人道士の首に回している。

 

「私は行くが、貴公はどうする?」

 

ゴブリンスレイヤーに尋ねる。

 

「俺は...」

 

「ふむ、まぁゆっくりしておけ」

 

そういいながら妖精弓手の方に歩いていく。

重戦士と女戦士に関わってはいけない奴に向けられる視線を浴びせられた気がするが気のせいだろう。

 

「へっへー、あんたも飲みなさい!火酒よ!」

 

「わし秘蔵の火酒じゃわい。うまいぞー」

 

鉱人道士の酒か。ならばまず間違いなくうまいのだろう。

だが私は生まれてから一度も酒を飲んだことがない。匂い立つ血の酒はノーカンだ。

記憶がなくなる前の私は飲んだことがあるのかもしれないが。

うーむ、どうしたものか。もし酔いでもしてヤーナムの血を誰かにでも入れたりしたら大惨事になる。

 

「はーやくぅ!」

 

「おい貴公やめ」

 

妖精弓手に無理矢理火酒を口に押し込まれる。

周りは面白がりヤジが飛んでくる。

 

「いいぞいいぞ!」

 

「もっと詰め込んでやれ!」

 

「いっそ脱がせ!」

 

口に突っ込まれた火酒がなくなると新たな酒瓶が突っ込まれる。息継ぎをさせろ。

押し付けてくる妖精弓手の腕を狩人の筋力で引き剥がす。

そのままステップで距離をとる。こんなことで狩人の身体能力を使うとは。

だが酒では酔わないことが分かったからいいだろう。やはり狩人は血でしか酔えないか。

 

「あぁーーッ!!オルクボルグが兜はずしてるー!?」

 

ターゲットがゴブリンスレイヤーに向いたようだ。

助かったが、私もマスクを外せとか言われそうだ。

 

「なにィ!?」

 

「なんだと!?」

 

冒険者達が一斉にゴブリンスレイヤーに集まる。

基本兜を外さない彼の顔が気になる冒険者は沢山いるだろう。

いつの間にやら、寝ていた女神官が起きている。彼女がゴブリンスレイヤーの兜を外したのか?

 

「ほほう。これはまた、戦士の相ですな」

 

「うむ。さすがかみきり丸じゃ、良い面構えしとるわい」

 

「ん~?どっかで見たような...?ええい、クソッ!なんか気に入らん!」

 

「ふふ。やっぱり...。意外と...美男子...よ、ね」

 

蜥蜴僧侶、鉱人道士、槍使い、魔女が各々感想を述べる。

私には戦士の相とやらはわからないが、戦士らしい顔つきらしい。

ヤーナムの連中の顔を思い出そうとしたが大概マスクや仮面をしていた。

していなかったのはマリアやミコラーシュ、ゲールマン、デュラ、あたりか。

マリアやゲールマン達は戦士だな、ミコラーシュは....ただの狂った学者か。

ヤーナムに戦士らしい顔つきの者はほとんどいないだろう、そういうことにしておこう。

 

そのまま騒ぎに騒ぎ、気が付けば一日たっていたようだ。

酒瓶が散らかり、冒険者達が床に倒れ伏せ死屍累々であった。

昨日あったゴブリン狩りの夜を、宴を、笑顔を忘れぬ為に、狩人の夢で日記か何かを書こう。

なに、本は大量にあるのだ。一冊ぐらい失敬しても構わないだろう。

 

ああ、朝日が眩しい。

 

 

 




剣の乙女編では人食い豚がでます(ネタバレ)


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6話

俺は月の子!獣ハンターBLOOD!RX!

俺は悲しみの王子!RX!ロボハンター!

俺は怒りの王子!RX!バイオハンター!

人喰い豚、ゆ"る"さ"ん"!(シャドー)ム"ー"ン"ラ"イ"ト"!

メンシス絶対にゆるさねぇ!


ふと思った、爆発金槌は槌なんだから金床に叩き付けても大丈夫だよな
つまり妖精弓手は爆発金槌を受けても平気だということでは...?

あけましておめでとうございます


ゴブリン狩りの夜が終わり、幾日かが経った。

その間に昔の街だという遺跡などを探索していた。妖精弓手曰くあなた達には冒険が足りないとのことらしい。

私としては冒険は聖杯ダンジョンで十分だ。地底人と呼ばれる連中にとっては日常なのだろう。

冒涜聖杯のボスであったあのアメンドーズ、二度とやりあいたくない相手だ。

恐らく私をもっとも殺した獣、上位者はあのアメンドーズだろう。ゴースの遺児よりも苦戦した。

 

閑話休題

 

今日、昇格試験の立会人をしていたゴブリンスレイヤーが依頼書を持ってきたのだ。

その依頼書は名指し、ゴブリンスレイヤーを指名しているらしい。まず間違いなくゴブリン関連だ。ゴブリンスレイヤー以上にゴブリンに詳しい奴はいないだろう。

依頼主は水の街にいる神官だそうだ。報酬は金貨一袋、来るか来ないかを定位置の椅子に座ったゴブリンスレイヤーが確認した。

 

「報酬は一人金貨一袋、来るか来ないか、好きにしろ」

 

ぶっきらぼうな言葉に女神官がこめかみを押さえる。

 

「...はぁ、だいたいわかりました。ええ、わかっていたつもりですけど、わかりました」

 

「そうか」

 

「ええ、はい。あなたの行動にいちいち驚いてたら身が持たないということが」

 

妖精弓手が女神官の言葉にうんうんと頷き肯定する。

蜥蜴僧侶はチーズに齧り付き、鉱人道士はチョッキの裏に宝石と血晶石を二やつきながら縫い付けている。大丈夫だとは思うが変な効果が付きやしないか心配だ。

 

ゴブリンスレイヤーの行動は私からすればまだ常識的である。

いきなり裸になったり奇行に走る狩りの主や協力者よりははるかにマシだ。

時にはミコラーシュの真似をしている者もいるしな。

 

「良いですか、前も言いましたけれど、選択肢があるようでないのは、相談とは言いません」

 

「選択肢はあるだろう」

 

「『一緒に行く』『行かない』は、ただ二択を迫っているだけです。選択肢ではありません」

 

「そうなのか」

 

「そうなんです」

 

「......ふむ」

 

不思議そうに首を傾げるゴブリンスレイヤー。

 

「どうせ私たちが行かないって言ったら一人で行くんでしょ?」

 

「当然だ」

 

やっぱ相談じゃないわよ、これ。と妖精弓手はそういって笑った。

 

「ま、わしらにも『相談』するだけかみきり丸も柔らかくなったっちゅうことかの」

 

「甘露、甘露。.......うむ。よき傾向でありましょうな」

 

鉱人道士、蜥蜴僧侶の二人はそう言い、笑いあった。

 

「私達狩人の相談と比べれば格段にわかりやすいだろうさ」

 

指さしとかはわかりやすいのだがなぁ、理解できないものは理解できない。

交信オンリーの狂人もいるし唐突に座る(ジェスチャー暴発)者もいる。

 

「私達も好きにします、宜しいですか?」

 

「構わん」

 

錫杖を握りしめた女神官の言葉にゴブリンスレイヤーは淡々と応じる。

 

「では、ついて行きますね」

 

女神官がそう言いたおやかに微笑む。ゴブリンスレイヤーは黙り込み、小さくそうかと呟いた。

 

「ま、この前は私の冒険に付き合ってもらったしね。結局ゴブリン狩りになっちゃったけど」

 

妖精弓手がうきうきと長耳を上下させ、荷物をチェックしながら言う。

ゴブリン狩りと言った瞬間ジットリとした目で睨まれたような気がする。

私は狩人の役目を全うしただけであり何も可笑しいことはしていない。

ただ車輪を振り回していただけだが。そう考えた瞬間また睨まれた気がする。

 

「そうそう、あんた達。火攻めとか水攻めとか毒気とかは禁止ね!他の手段を考えるよーに」

 

妖精弓手が見惚れるような笑顔でそう言う。だがそうか...毒と火がダメか。

ならば血攻めなら問題あるまい。血は水ではない、劇毒が付加されるが毒ではなく劇毒故問題ない。

そう考え車輪を仕舞い千景を腰に据えれば妖精弓手の目が向かう。

 

「狩人、あんたのその変な剣。妙な呪文とかかかってないでしょうね?」

 

「ああ、そんなものはない」

 

呪文はかかっていない。呪文は。

ただ私の血を纏うカインハースト製の狩り道具だ。それ以上のことはない。

 

「まぁ狩人のことじゃから何かしらの仕掛けはあるじゃろうな」

 

「無いほうが珍しいですな」

 

「そうね、絶対何かあるわね」

 

確かに全ての狩り武器に変形機構はついている。

常人なら思い付かないであろうイカれた変形機構を持つ瀉血や月光等は見せてはいけないだろう。

狩人なら特別何も思わないが、彼らからしてみればあり得ない武器だ。

自分の血液を武器にするなど。ヤーナムの血さえあればいくらでも回復できる狩人とは違い、彼らがあれだけ血を出せば死ぬだろう。

 

そう考えていると妖精弓手が何か思い付いたのか掌に拳をポンッと当てる。

 

「そうだ!狩人、あんた水の街への道中武器とかあんたが居た街の話しなさいよ。

確か...ヤーナムとかいう名前だったわよね?」

 

「わしも気になるのぉ、行き方さえ分かればあの赤い石を手にいれに行きたいからの」

 

「只の陰気でよそ者嫌いな街だ」

 

「まぁまぁそう言わず、何かあるでしょ~?」

 

私の脇腹を妖精弓手が笑いながらうりうりと肘を押し付けてくる。

確かに獣狩りの夜という特異なことが起きるがそれを話して啓蒙でも得てしまえば目も当てられない。特に女神官、彼女が啓蒙を得て獣化してしまえばどれ程強大な獣になるか想像したくもない。

 

だがまぁ狩り武器や街の話だけならば問題はないか。

血晶石のでき方だけは全力で話題を変えねばならぬが。

 

「わかった、少しは話してやろう」

 

 

 

~~~

 

 

あの後妖精弓手がはっちゃけ飲み比べを鉱人道士に挑んだ。

結果は火を見るよりも明らかだろう。

さて水の街へはだが、馬車で行くという。

馬車といえばカインハーストだが、この悪夢では馬車を引いていた馬が死んでいるなんていうことはないだろう。

馬車に乗り込めば妖精弓手が開口一番こういってきた。

 

「さぁ狩人!いろいろ吐いてもらうわよ!」

 

二日酔いになっていそうなくらいは飲んでいたのだがピンピンしている。

森人は酒に弱いのではなかったのか。そう思っていればガタン、と馬車が動き出した。

それに合わせ話し始める。

 

「ふむ、まぁ昨日話した通りヤーナムは山間にある陰気でよそ者嫌いのクソのような街だ」

 

「自分がいた街をクソ扱いってどうなのよ...」

 

妖精弓手が何やら言っているがヤーナムはクソだ。クソの中のクソだ。

 

「ヤーナムは医療が発達していた、不治の病すらも治せると言われる程な」

 

実態は病を病で塗り潰す治療とすら言えない何かだったが。

 

「私はそれを求めた。結果は散々だったがな」

 

「ということは狩人さんは不治の病に侵されているんですか!?」

 

女神官が声をあげる。

神殿で暮らす彼女は病に苦しむ人々を知っているのだろう。

 

「いいや、既に病は治っている。だが厄介なものに巻き込まれたのさ。私が狩人になったのはその時だ」

 

「法外な値段でも吹っ掛けられたの?」

 

「そのほうがどれだけよかったことか。ヤーナムではあることが起きる。上位者になろうとする愚か者がそれを引き起こすのさ」

 

「上位者って確か神よね...?」

 

「ああそうだ。ヤーナムでは神を上位者と呼び、崇めている。」

 

それと同時に引きずり降ろそうともしているが。

星の娘は哀れではあるがそれはそれとして狩るべき存在でもあった。

 

「ここの狩人は猟師を指すのだろうが、ヤーナムでは違う。そのあることを治める為の存在だ」

 

「あんたが普通の狩人だったら今頃冒険者はいなくなってるでしょうね」

 

妖精弓手が何か言っているが気にせず続ける。

 

「あることを治めればその狩人は用済みとばかりに力を失う。神官が奇跡を使えなくなるようなものだ」

 

一度夜を乗り越えた狩人は夢を見れなくなる。デュラやアイリーンはそう言っていた。

 

「あんたは失ってないの?」

 

「黙秘する。...ヤーナムの話はここらでいいか?」

 

「おっ待つんじゃ狩人、赤い石について聞いとらんぞ」

 

「あれは血晶石、血のように赤い身体能力等を伸ばすことのできる石だ」

 

実際はヤーナムの特異な血が固まりできた血塊だが言わないほうがいいだろう。

血晶石を求め地下遺跡を荒らしまわる狩人もいる。

鉱人道士はそうはならないだろうが他の鉱人はわからんからな。

 

「お前の武器はなぜあんな機構がついている?」

 

ゴブリンスレイヤーが武器に興味を示すのは珍しい。

 

「ふむ、自分を人たらしめる為だったか。最初の狩人が使った狩り武器がそうであったのを引き継いだからともいえる。先日のゴブリン狩りの夜に使った故妖精弓手達は見た可能性もあるな」

 

「あの車輪?」

 

「違う、断じて違う」

 

「とすれば爆発する金鎚か鎌のどちらかですな」

 

「わしは鎌だと思うんじゃ」

 

「拙僧も同じく」

 

「あたりだ。あの鎌は葬送の刃といってな、狩りと介錯の為に最初の狩人が使っていた」

 

私も何度か介錯されている。

 

「介錯って...」

 

「ちなみにだが狩人の間では弓使いは馬鹿にされている。知り合いの弓使いは弓で獣に挑むなどとが固有名詞扱いだ」

 

「耳長のはまず間違いなく馬鹿にされるの」

 

「上等よ言ったやつの頭を射抜いてやるわ」

 

鉱人道士がおちょくり妖精弓手が乗る。

いつもの流れである。女神官が苦笑しているのが見える。

喧嘩を尻目に千景を引き抜き手入れする。といっても変形機構の確認だけだが。

...よし、特に問題はない。耐久も減っていないだろう。

 

「そういえば水の街とはどういう街だ?水がつくからには水路だのいろいろありそうだが」

 

「えっとですね、確か法「私が教えてあげるわ!」の...」

 

女神官に水の街について尋ねれば横から妖精弓手が乱入してきた。

言葉を遮られた女神官が頬をリスのように膨らませ抗議の視線を送るも気づいていないのか、妖精弓手は喋りだす。

 

「水の街はね、湖の中洲にある街よ。神代の砦の上に街が築かれていて、多くの人が訪れるわ。そして法の神殿があるのよ。近隣で一番大きい都市といっていいわ。私がオルクボルグのことを知ったのもそこでよ」

 

「ゴブリンスレイヤーさんを?」

 

辺境の一冒険者の名前を近隣で最大の都市で知るとはどういうことだろうか。

噂にでもなっているのだろうか?

 

「詩になってたのよ、オルクボルグ」

 

ゴブリンスレイヤーが詩か、これはいいことを聞いた。

メモをとって牛飼娘への土産にしてやろう。

 

それはそれとして湖に街か。水に落ちないようにしなければ。

私達狩人は泳げない。恐らく水や海水が別の上位者の領域だからだろう。

忌々しい月の魔物の眷属、使徒である私達狩人は力が出せなくなるのだろう。

 

まぁ私の憶測であり正しいとは限らない。

ヤーナム人がカナズチでその血が入っている狩人もカナズチなだけかもしれない。

なんにせよ落ちなければいい話だ。

 

「狩人殿、顔が強張っていますぞ」

 

「どうしたんじゃ?」

 

「いやなに、湖と聞いて嫌なことを思い出しただけだ」

 

「はっはーん?さては狩人、あんた泳げないわね?」

 

ぐっ...他人に指摘されるのは何でもつらいものだ。

妖精弓手め、後で唐辛子をたらふく食わせてやる。

 

「......そうだ」

 

「ほ、意外じゃのう」

 

「良ければ拙僧がお教えしますが」

 

「いや結構だ」

 

どうせ沈む。

 

 

~~~

 

 

 

馬車で二日もかけてたどり着いた水の街。

様々なにおいがする。どれもいい食べ物のにおいだ。

 

「あー......。お尻、いったぁーい...。」

 

大きく伸びをしながら妖精弓手が言う。

ふむ、聞いていた通り様々な人がいる。只人に鉱人、森人、蜥蜴人。

肉を焼いている出店や菓子が並んだ出店。成程あれがにおいの元か。

 

「胸に金床、尻には轍、へこめば釣り合いが取れるわい。歳月は物を削るからの」

 

「......寸詰まりのくせに」

 

「ふふふ。こう見えてもわしゃあ、鉱人の中じゃ伊達男で通っておるでな」

 

いつものを見つつゴブリンスレイヤーに話しかける。

 

「依頼人は何処だ?神官らしいが」

 

「法の神殿だ」

 

雑嚢からくしゃくしゃになった羊皮紙を見ながら話すゴブリンスレイヤー。

法の神殿か、妖精弓手の話にも出てきたな。

 

「法の神殿はこっちよ」

 

歩き出した妖精弓手の後ろを歩きながら街並みを見る。

見事な彫刻が商店、宿、民家、分け隔てなく施されている。

 

一見獣がいるようには思えないが、ほんの微かに獣の臭いがする。

狩人の鼻で僅かしか嗅ぎ取れない臭いも道を進むごとに濃くなる。

ゴブリンスレイヤーも気づいているようだがどうやって気づいたのだろうか。

 

やがてついた天秤と剣を組み合わせた意匠の掲げられた社。そこから臭いがする。

女神官が感嘆の息を漏らしている。確かに綺麗ではある。

が綺麗だろうが汚かろうが踏み荒らし獣を狩るのが狩人である。

 

礼拝堂、神殿の最奥。大聖堂と似たような構造のそこには白衣の女が一人。

祭壇に祈る姿を見てエミーリアを思い出し身構えた私は悪くない。

 

ずかずかとゴブリンスレイヤーが進みそれに追従する。

 

「ゴブリン退治に来た」

 

ゴブリンスレイヤーが淡々と言い放つ。

それに慌てながら女神官が挨拶しようと四苦八苦する。

 

「戦士様に...それに、可愛らしい女神官様に...」

 

視線が後ろに居た私達に向かう。

 

「そして、こちらの方々は?」

 

「うむ。一党の同胞でありまする。恐るべき竜を奉じる身なれど、拙僧も及ばずながら、力をお貸ししましょうぞ」

 

奇怪な手つきで合掌する蜥蜴僧侶の横で簡易礼拝を行う。

聖職者にはいい思い出がない。

唯一女神官がいい思い出に値するがそれ以外は襲い掛かってくる記憶しかない。

 

ゴブリンスレイヤーが詳細を聞き始める。

血族が獣になったとして狩れるかをゴブリンスレイヤーに聞いていたが...。

狩人に聞けば鼻で笑われる質問だ。むしろ積極的に狩りに行こうとするだろう。獣の苦痛から解放するために。

 

 

要点をまとめればこうだ。

一ヶ月前より犯罪が増え、巡回を行い切り伏せた人影がゴブリンだった。

地下に住み着いたのだろうゴブリン退治の依頼を出すも冒険者のは帰ってこず、そんな折にゴブリンスレイヤーの詩を聞き依頼したという。

 

地下水道を探索する際は神殿を宿がわりにしていいらしい。眠らぬ狩人に意味はないが。

裏庭の井戸から地下水道に降りるのがいいらしいが...井戸、なぁ。

巨人にお出迎えされなければいいが。そう思いいざ向かえば井戸の横に使者の灯。

なんとも不安を煽る配置である。

 

「どうしたのよそんなしかめっ面で井戸を睨んで」

 

「......トラウマだ」

 

「我慢してくだされ」

 

「わかっている。...が下で大量のナメクジと二匹の巨人がいるのではないかと思ってしまうのだ」

 

「なにそれこわい」

 

「ほ、そんな目にはあいたくないの」

 

嫌な気持ちを押さえ、かけられた梯子を下る。

幸いにもナメクジや巨人はいないようだ。

 

「さて、獣狩りの時間だ」

 

 




クトゥルフ神話trpgたのちい

豚が出るといったな、アレは嘘だ


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7話

ちょっと話がおかしいかもしれないけどゆるして

盾の勇者の成り上がりの主人公がハベルだったらっていうネタ作品書こうかな

SEKIRO楽しみ


水の街、地下水路。

石造りの水路はやはりゴブリン共に侵略されていた。

襲い掛かってきたゴブリン共を八つ裂きにし、腰の携帯ランタンで辺りを照らす。

照らしだされるゴブリン共の遺骸。それ以外は何もなくただ汚水の流れる音が聞こえるのみだ。

かれこれ数時間は潜っているものの、めぼしい物は何一つ見つかっていない。

あまり深くは潜っていないからか。

私やゴブリンスレイヤーの消耗は少ないが、女神官と鉱人道士の秘儀の消耗が激しい。

鉱人道士は秘儀が切れたならば私が武器を渡せばいいが、女神官はそうもいかない。

 

ここらあたりが潮時だ。ゴブリンスレイヤーもそう考えたのだろう。

戻るぞ、と簡潔に告げられた。

 

「収穫なしかぁ」

 

妖精弓手がガックシという風に肩を落としながら言う。

まだ一日目だ。時間はまだまだある。

時間に比例してゴブリンが増えるかもしれないが。

 

耳を澄ませながら道を戻る。

地下水路はまるで聖杯ダンジョンの如く入り組んでいる。

地図がなければ迷うだろう。地図も若干磨れてはいるが。

下水の臭いで鼻が効きにくいのが困る。

ゴブリン共も汚物の臭いを放つ為更にききにくくなる。

 

そうこう考え臭いに眉を寄らせていれば見覚えのある通路まで戻ってきた。

入口付近の通路だ。私が誤って(R2誤爆)つけた傷がある。通路を曲がれば梯子、戻ってきたのだ。

一党の面々を先に行かせ、最後に昇る。

沈みかけた太陽が私達を迎える。

昼頃に地下水路に入ったのだから四、五時間ほど居たのだろう。

 

そこそこ居たのだなと思いつつ報告の為神殿に入ろうとしたが、流石に下水の臭いを染み付かせたまま入るのは駄目だろう。

処刑隊の装束から聖歌隊の装束に着替える。

聖歌隊の装束にはほとんど袖を通さないといっていい。あまり好みでは無いために。

 

依頼人の剣の乙女と言えば井戸に入る前と同じく神殿の最奥、礼拝堂にて祈りを捧げていた。

何故あのような畜生(上位者)共に祈りなぞ捧げられるのか、信者の思考は理解できない。

いや私のような者が異端であることは分かってはいるが。

祈りを捧げる対象が私を悪夢に誘った犯人の同類の以上、どうあがいても祈りなぞ捧げられない。武器なら喜んで向けるが。

 

「何か、成果はありますか?」

 

「やはりゴブリンが住み着いていた。数はわからん、が最低でも三十匹はいる」

 

二十匹、今日地下水路でかち合い狩ったゴブリンの数だ。

一日だけで二十匹にも遭遇するのだから下手したら潜んでいるゴブリンの数は五十、六十を優に越えているかもしれない。

だがそれだけいればこの都を襲っているだろう。

しかし地上で目撃されたのは数匹。

オーガのような、何者かがゴブリンを操っているのかもしれない。

だがそれでも狩り尽くす。何匹いようと獣は全て狩る。

 

報告は終わり今日はもう好きにしていいと剣の乙女から許可がでた。

外はもう夜の戸張が降りているため外出はできないが。

私は輸血液や水銀弾、武器の耐久を回復させるため裏庭の灯りに行かねばならぬが。

ゴブリン共から得られる血の意志は少ない。五匹狩ってヤーナム市民一人分だ。

耐久を回復させるには十分、だが輸血液等を購入するには不十分だ。

ゴブリン狩りの夜で水銀弾をかなり消費してしまった為に水銀弾の購入に血の意志を回したいのだ。ヤーナムであれば水銀弾を落とすヤーナム民がいるため楽に集められるが、この悪夢にはいない。

...この悪夢が夜の内にヤーナムで狩り集めることにしよう。

 

 

 

~~~

 

 

「ねぇ、狩人って夜に居なくなることが多いけど何か知らない?」

 

そう問かけ一党の顔を見回すのは妖精弓手。

 

「しらん」

 

「んー...。すみません、私も知りません」

 

ゴブリンスレイヤーが素っ気なく答え、女神官が唇に指を添え数秒考えたのちに答える。

 

「お前さんらが知らないんじゃあ、儂が知る由もないのぉ」

 

「拙僧も知りませぬな」

 

鉱人道士、蜥蜴僧侶もまた知らないと答える。

 

「ふむむ、誰も知らないなんてね...。そうだ、尾行しない?」

 

「かかっ、乗った!」

 

妖精弓手がニイッと悪戯っ子のような笑みを浮かべ、鉱人道士も笑いを浮かべる。

それを見た蜥蜴僧侶がフーと息を吐き、女神官が苦笑を浮かべる。

ゴブリンスレイヤーはただ何も言わず視線だけを向ける。

 

「さぁ行くわよ!......狩人は何処にいるかわかる?」

 

「なんじゃ耳長娘、それも知らず尾行しようなぞ言ってたんか」

 

鉱人道士があきれたように肩をすくめると妖精弓手の耳と瞼がぴくりと動く。

 

「狩人は報告をした時に別れたわい」

 

「弾を補給しにいくと言ってましたな」

 

「ああ、あの変な筒用の。でも補給できる場所あるの?ここに数日いたけどあの変な筒...銃だっけ?使ってるやつみたことないわよ?」

 

「辺境の街でも使ってはいたんけども、思えばあの防衛戦の時に出した弾の数はすぐさま用意できる数じゃなかったのぉ。こらぁ秘密がありそうだ」

 

「狩人様なら、裏庭に行かれました」

 

声の方向に一党が顔を向ければそこに居るのは剣の乙女。

女神官が慌て妖精弓手が半目で剣の乙女を見る。

 

「とても楽しそうに談笑されていたもので...気になってこっそり聞いていたのです」

 

ダメでしたか?と微笑を浮かべ小首を傾げながら問う剣の乙女。

その問いに女神官があたふたしながら答えようとし、最終的には縮こまってしまった。

 

「言いたいことは色々あるけど...狩人の奴は裏庭に居るのね。情報ありがとう」

 

「いえいえ」

 

ほら行くわよと鉱人道士に声をかけ裏庭へと進んでいく妖精弓手。

裏庭につき辺りを見渡すも狩人の姿はない。

騙された?と考え顎に手を添えうーんと唸っていると後ろから鉱人道士に声をかけられる。

 

「何もそんな急がんでもいいじゃろ」

 

「でも裏庭には井戸しかないじゃない?まさか一人で地下水路に行くとは思えないし」

 

「まぁそれはそうだけんども」

 

「狩人の姿はないし騙されたのかしら」

 

「騙してるようにゃ見えんかったがなぁ」

 

話し合い、とりあえず剣の乙女に文句を言おうという結論に至り、踵を返そうとするが井戸の横が紫色に光ったことに目を奪われる。そしてその中から現れた狩人のと目が合う。

 

「....え?」

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

水銀弾集めが予想以上に早く終わり、狩人の夢に戻れば人形が奇妙な言動をする。

悪夢に転移すれば戻ってきた瞬間を見られる。何だというのだ。

転移、あるいはゲート。その呪文は存在するにはするが珍しく、見つけ売り払えば多くの金貨を手に入れられるという。何を言いたいのかといえば、そう易々と使える物では無いという事だ。

夢を見ることのできる狩人は灯りを使い夢から夢に転移できる。

私達にとっては普通だがこの悪夢の存在にとっては普通ではない。

 

「ねぇ、今あんた、井戸の横から出てきたわよね」

 

「...ああ」

 

「どんな方法で?」

 

どうしたものか。灯りの事は話しても大丈夫ではあるだろうが。

 

転移(ゲート)の巻物なんざお前さんが持っている筈はねぇよな」

 

鉱人道士の言葉で言い訳すらも無理そうだ。...仕方ないか。

 

「ああ、私はここにある灯りで転移をした」

 

「灯りそんなのどこにあるのよ」

 

「井戸の横にゃあ何もねぇぞ」

 

ふむ、灯りは見えていないのか。ヤーナムの血を流す者だけが見えるのだろうか。

 

「貴公等には見えぬのかもしれぬがここには灯りがある。紫の光を放つ灯りが。触ればわかるだろうか?」

 

掌を灯りの上に置く。心なしか灯りの周りにいる使者達が迷惑そうにしている気がする。

妖精弓手が恐る恐るといった感じにこちらへ手を伸ばし、灯りに触れ目を見開く。

 

「...ホントにある」

 

「それは本当か?耳長娘」

 

「嘘なんか吐かないわよ」

 

鉱人道士もまた灯りに触れる。

 

「...本当みたいだわな」

 

「何故貴公等には見えぬのかは知らぬがこれは辺境の街にもある。そして灯りにはある場所を中継にして灯りに転移できる力がある。それで私は転移してきたという訳だ」

 

「それって私達にもできるの?」

 

「恐らくは無理だ。私達狩人にしかできないだろう」

 

「そう、残念ね」

 

「より詳しくは明日の朝、皆の前で話そう。黙っていて悪かったな」

 

「ま、いいわ。許してあげる」

 

「血晶石さえくれりゃわしゃ何も言わんよ」

 

「ああ、珍しい物をやろう」

 

ああ、全く。本当に良い奴らだ。

ヤーナムにも彼らのような奴らがいればよかったのに。

明日の朝、皆ら何か言われなければいいが。

 

 

 

 

 




個人的にヤーナムの血が入っていて狩人の適性がある者しか使者の灯りを見れないと思ってる


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