ダンボール戦機 〜another story〜 (白銀の狼)
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ダンボール戦機とは。

書いてみたかったんです。今回はプロローグでダンボール戦機という作品を知らない人向けになってます。


 

2045年、強化ダンボールの発明により世界の物流は革新的な進歩を得た。あらゆる衝撃を吸収し、ほとんど無にしてしまう。革命的な箱が輸送手段の常識を覆したのだ。

 

 

 

それはやがて、別の目的で使われることになる。

 

 

ストリートで行わる子供達の小さな戦場。

 

 

ホビー用小型ロボット、LBXの戦場は箱の中へと移っていった!

 

 

 

"父さん、これは何?"

 

 

子供は尋ねた。

 

 

"これはLBXって言うんだ"

 

 

父親は答えた。

 

 

"小さな体に無限の可能性を秘めたロボットなんだ"

 

 

LBX。Little Butler eXperience

 

 

山野淳一郎博士によって発明された全長15センチほどの小さな戦士である。手のひらに乗るサイズながらCCMと呼ばれる携帯型端末でコントロールが可能。操作半径は300mと広い。

機体はコアスケルトンと呼ばれる骨格にアーマーフレームという増加装甲を取り付ける。他にも機体を動かすためのモーターやそれに関わるバッテリー、必殺ファンクションと呼ばれるLBXの醍醐味とも言える必殺技を発動ためのコアメモリなど、内部パーツのカスタマイズも可能。

戦うだけでなく、カスタマイズでも楽しむことが出来る。さらに多種多様な武器を持たせれば、世界で一つだけの自分のマシンとなる。

 

 

しかし、完成度の高さが災いと成して遊んだ子供達の怪我が多発した。その為、一時販売中止にまで追い込まれるが、前述した強化ダンボールの中へと戦場を移したことにより、2050年には世界的ホビーとしてその名を轟かせ、世界大会も開催されるようになった。

 

 

 

そして、その裏で世界を闇に包もうとする悪が動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーその名を《イノベーター》

 

 

先進開発庁大臣、海道義光により結成された彼の世界征服のために作られた組織である。脅威の科学力と技術力を持ち合わせる世界きっての重機メーカー《神谷重工》と繋がりを持ち、日本のあらゆる行政機関、施設に構成員を潜らせている。

 

 

彼らの目的は地殻動発電により地球のバランスを崩し、山野淳一郎博士がLBX開発途中に発明した世界のエネルギー事情を一瞬にして解決してしまう半永久機関《エターナルサイクラー》を利用し、エネルギープラントを破壊し世界のエネルギー事情を牛耳るというものだった。

 

 

 

しかし、その計画は開発者である山野淳一郎やイノベーターに対抗するべく彼の助手たちによって構成された《シーカー》。

元イノベーターで海道義光の行為が悪だと知り正義の元に返り咲いた八神英二。

そして、山野淳一郎の息子の山野バンやその仲間達によって阻止された。

 

 

いや、彼の計画を初めに終わらせたのはあの男なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この世界は変わらなくてはならない!』

 

 

 

 

海道義光がイノベーターを組織する以前から、彼の悪事は存在していた。その犠牲者が檜山蓮。後に山野淳一郎の助手になり、伝説のLBXプレイヤー《レックス》となり、そして世界の首脳陣を抹殺するテロを実行しようとした男である。

 

 

 

彼の父は海道義光の手によって殺された。ある施設の建設計画を急かした政府により、施設は建設中に倒壊。それにより大量の死亡者と怪我人を出した。その建設計画の指揮を執っていたのが檜山蓮の父であった。

海道義光ら政府の人間は自分達に非はないとして全ての責任を檜山の父に押し付けた。

 

 

 

おかげで倒壊により怪我を負っていた檜山の父の元には被害者家族や大勢のマスコミがおしかけて、怪我以上の精神的苦痛を負った。

 

 

 

『私は間違ったことはしていない』

 

 

崩れゆく精神と肉体で、彼は子供達にずっとそう言い続けた。

そして息を引き取った。それから檜山蓮と彼の妹は人殺しの子供として世間から見放されて苦しい生活を送った。

檜山蓮は復讐を誓った。自分と妹を、父をこんな目に遭わせた奴らを絶対に許さないと。

 

 

 

成長した彼は真実を知った。父を死なせた男の正体も突き止めた。

だが、彼の戦いはそこでは終わらなかったのだ。

 

 

 

『海道は深い闇の入口に過ぎない。やつの後ろにはもっと恐ろしい悪が潜んでいた』

 

 

 

檜山は海道義光の悪事を調べる中で、世界を管理する者、戦争ですら管理する者の存在を知った。

それが各国の首脳陣の中に潜んでいることを。

 

 

 

『だから、この世界は変わらなくてはならない』

 

 

 

彼は人類に絶望していた。しかし、それでも。

世界のトップ達がいなくなれば、人々は考えるだろう。これから自分達が生きるために。人としてどうあるべきかを。

檜山はそれを世界の人々に理解させたかったのだ。

 

 

 

『人は獣にあらず。人は神にあらず。

人が人であるために、今一度、考えるのだ…。

人とは何かを、何をするべきかを。  

賢くなり過ぎた人間は、この世の全てを管理し支配しようとする。まるで神であるかのように。  

大きな力を手に入れた人間は、弱者を喰らいどんな残酷な行いもいとわない。まるで獣であるかのように。  

進歩し過ぎた人は、人であることを、いつの間にか忘れてしまったんだ。俺は世界の人々に考えさせたかった。人はどうあるべきか、人が人であるめの真実の姿を…』

 

 

 

彼は薄れゆく意識の中、自分を止めた少年に世界の首脳陣を抹殺したあとに世界に投げかけるはずだったメッセージを伝えた。それを聞いた少年は瞳を輝かせながら前を向いて答えた。

 

 

 

『変われるよ。...変えてみせる。レックスが望んだ世界は…俺が作ってみせる』

 

 

 

かつて自分が教えた技で自分の相棒の機体を貫いてみせた少年に体を支えられながら、檜山は彼の仲間の待つ飛行機への階段を昇る。その途中で彼はその少年を突き飛ばす。

 

 

 

『えっ!?』

 

 

 

『拓也! 乗ったぞ! 二人とも無事だ!』

 

 

 

彼はCCMで飛行機に乗るかつての友人にそう言うと、その瞬間に少年と檜山の距離は遠ざかる。檜山の乗っていた飛行船と少年の乗る飛行機の連絡通路が切り離されたのだ。

 

 

『何やってんだよ! 早く手を!』

 

 

 

少年は片手で飛行機の通路の手すりに掴まりながらもう片手を彼へと伸ばす。しかし、檜山は手を伸ばすことなく少年を見つめた。

 

 

 

 

『ゲームオーバーだ.....バン』

 

 

 

そう言いながら彼は心中で思った。あいつなら、自分の考えを変えてみせた山野バンなら。この世界を変えられるのではないかと。彼はこの死にゆくひと時で子供達に希望を見た。後に、ある人類最高のAIは彼の人格を再現する。その時の彼はこのように言った。

 

 

 

『未来は! 子供達の手の中にある!』

 

 

 

 

こうして、LBXを中心に世界を脅かそうしたイノベーターの脅威は去っていた。この出来事は少年少女達や関わった全ての人に心に少なからず傷を残しつつも彼らを成長させた。

 

 

 

 

 

 

これ以降語られるのは、檜山蓮を倒した山野バンや彼の仲間達に纏わる物語である。

 








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オペレーション・デイ・ブレイクのその後

オペレーション・デイ・ブレイクとは八神英二が考案した世界の夜明けをかけた檜山蓮、イノベーターとの最終決戦のことである。


 

 

イノベーター事件から数日経った頃。テレビや新聞、ネットでは毎日のように色々なニュースが飛び交っていた。

 

 

 

海道義光の死が世間に公表され、新しい先進開発庁大臣が財前総理の指名で別の人間へと変わった。これによりオプティマと呼ばれる先進医療技術の認可が降りて、たくさんの人の命が救われた。

 

 

ーーーそれは山野淳一郎の助手であった石森里奈の妹も例外ではない。少しずつ回復の目処が立ち、3ヶ月後には動かなくなった両足は再び動かすことが可能になり、大地を踏むことができるだろう。

 

 

 

 

イノベーターに関わっていたほとんどの人物が投獄され、犯罪の痕跡がない者もそれなりの罰を受けた。しかし、このことは世間に公表されることは無く、政府と警察が秘密裏に行った。

特に海道義光との関係が濃厚だった神谷重工会長は懲戒免職にされ、神谷重工も別会社に吸収される形となった。またLBX開発部門は神谷会長の息子、神谷コウスケを筆頭にクリスターイングラム社へと召集された。

神谷重工の生み出したデクーとアヌビス量産機は、後に市場に売り出されその扱いやすさから人気を博す。インビットは当初の企画通り警備会社での警備用LBXとしてデビューすることになる。

 

 

 

自爆したサターンは太平洋沖に沈み、それの回収作業が始まった。そこにはタイニーオービット社長の宇崎拓也も立ち会っていた。

彼はあれだけ巨大だったロケットのような飛行船がこの広い海に散り散りになったことに改めて海の広さを感じる。そして、彼の親友だった男もこの海の中へと消えていったことを思うと彼は目頭が熱くなる。

 

 

 

「檜山......」

 

 

自分は親友だと思っていたが、あいつは自分のことをどう思っていたのかと疑心暗鬼の気持ちに苛まれる。だがもし、あの時自分に電話を入れてきたのは.....そう考えても、檜山蓮はもういない。その為、答えは永遠に分からないままだ。

 

 

 

最後にあいつの作ったコーヒーが飲みたかった。

 

 

 

拓也はもはや叶うことの無い願いを心にしまい、作業員達に背を向ける。彼はヘリポートへと向かう前に共に来ていたTO社の技術開発主任の結城に声をかける。

 

 

 

「結城、作業の進行具合はどうだ」

 

 

 

「予定より少し遅れているようです」

 

 

結城の報告にそうかと短く答えると拓也は手に持つアタッシュケースを見る。この中には自分達が命を懸けて守ろうとしたエターナルサイクラーの再現品がある。これを持って総理大臣の所へ向かい、地殻動発電計画を完全に消滅させるのだ。

 

 

 

「これでやっと兄さんの戦いが終わるんだ」

 

 

拓也は瞼を閉じて、かつてこれを守ろうと命を落とした亡き兄のことを思い浮かべる。父が死んでからは反目し合っていたが兄が死ぬ間際までは共に海道義光と戦ったのだ。兄の願いだけでも叶えるために彼は結城に声をかけて共にその場を去る。

自分の親友が作ろうとした世界を作るために。今、自分が出来ることをやろうと身を引きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、世間はイノベーターなどという組織がいた事など梅雨知らず、穏やかな時が流れていた。よくテレビで見かけていた大臣が死んだり、謎の飛行船が沈没していたりしようと彼らの日常が揺らいだ訳では無い。

だから、彼らはいつも通りの日常を過ごす。

 

 

 

 

逆に悪の組織と戦うことが日常となっていた少年たちは、本当のあるべき日常の生活へと回帰していた。

 

 

 

 

「いってきまーす!」

 

 

「バン、気をつけるのよ!」

 

 

分かってるって! と元気のよい返事に見送った母親は笑顔をうかべる。それを家の中で見守っていた父親も同様だ。

 

 

約4年ぶりに実家へと、妻の元へと戻った山野淳一郎とイノベーターとの戦いを終えた山野バンは彼らを待っていた母、真理絵と共に家族として当たり前の生活に戻っていた。

淳一郎は僅かな休暇を家族とすごしつつ、TO社に赴いてはエターナルサイクラーの完成品を作っていた。それも彼の設計が完璧だったため、もう時期終わろうとしている。

 

 

しかし、それが終わっても淳一郎が家にいるのはバンに心のケアが必要だと思ったからだ。聞けば拓也の兄、悠介が死んだ時に息子がLBXを叩き壊そうとするまで心を病ませていたのだ。今回は息子が慕っていた檜山が死んだのだ。中学生の少年がそれをまともに受け止められるのかと不安だったのだが。

 

 

 

「...どうやらその心配は無さそうだな」

 

 

 

住宅街から学校へと駆けていく息子の姿を見ながら淳一郎も真理絵のように微笑むと、自室へと戻った。そこには至る所にグラフやデータの書かれた紙が散乱し、真理絵が見たら一触即発の状況に陥ってもおかしくはなかった。淳一郎はそろそろ纏めるかと、苦笑し腰を下ろして紙を拾い集める。

 

 

 

「こうしていられるのもあと半年か...」

 

 

淳一郎は『Mチップ』『オメガダイン』と書かれた資料をファイルに綴じながら深刻そうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イノベーター事件が終わってもう1人、家庭の事情が変わった少年がいた。それは山野バンの持つエターナルサイクラーの設計図を内蔵するプラチナカプセル奪取のために送り込まれ、彼とのLBXバトルを通してその楽しさを知り、仲間を知り、諦めない心を知り、そして義祖父の悪行を知った少年がいた。

 

 

 

その名を海道ジン。彼は今、解体されていく海道邸を見上げる。ここには多くの思い出があったが、義光は忙しく共にいたのはほんのひと時で、1番長い時を過ごしたのは執事だった。その執事はイノベーターの悪行を知っていたが加担していなかったとして、罷免を免れていた。だからこうして今もジンのそばに仕えているのだ。

 

 

 

「おぼっちゃま、そろそろ」

 

 

 

「あぁ」

 

 

理由はどうあれ、自分を絶望の淵から救い上げてくれた義祖父を恨むことは彼には出来なかったが、義理の孫として果たす使命はたくさん存在した。この作業を依頼したのも彼なのだ。解体した後は土地を売却し、義祖父により被害を被った人々の謝罪に送るつもりであった。それで彼が許されるとは思わないが、ジンとしては彼から育ててもらった身としてその責任があると感じていた。幸い、義光の持っていた遺産は莫大で、彼が血の繋がった孫や子供を持たなかったためそれは全てジンへと相続されることになった。

 

 

おかげで執事を伴ってA国へと留学することが出来る。まだ中学生なため、働くことの出来ない彼からすればありがたいことだった。最も、それがなくても彼には支援してくれる人間が少なからず2人はいるのだが。

 

 

 

「行こう」

 

 

 

ジンが執事にそう声をかけるとエンジンがかかり、車が動き出す。窓から遠くなる壊されていく我が家を見つめながらジンは目を伏せると、正面へと目を向けた。彼がこれから向かうのは自分に大切なことを教えてくれたライバルであり親友の所へ。

着く頃には学校が終わる時間だろうか。ジンは時計を見つつ変わりゆく外の景色を見つめる。その目に悲しみや憂いはなく、これから未来へと向かっていくという希望に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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