陰陽師になりました。 (ラリー)
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プロローグ

これもまた、数年前の作品。
削除するのが勿体無く投稿しました。


うへへへへ・・・ついに、ついに手に入れたぞ!

人間界に発売されているエロゲ!!

辛かった……。

自室のパソコンの前でゲームのパッケージを掲げながら本気でそう思う。

なぜなら俺は神だ、そう簡単に人間界にはいけないし仕事もなかなかサボる事ができない。

だから色々と手を尽くし人間界に行く事を他の神に認めさせ俺は人間界に行く事が出来た。

しかし代償はでかかった…俺の代償…それは…。

二万冊のエロ本だ!!

そう!俺の大事な大事な『ムチムチ天使ちゃん200発』や『爆乳天使のもっこり伝説』などなど

を他の神たちにワイロとして送ったのだ。

おかげで俺の心に多大なダメージと悲しみを与えられたが後悔はない……。

何故ならこのエロゲにはその価値がある!!

早速パッケージからディスクを取り出し、挿入する。

パソコンOK…ティッシュOK…もしもの時のホームページを開き準備OK。

え?何故ホームページを開いたかって?

そんなの決まっている、もし家族が部屋に不法侵入したときゲームを消してホームページの

画面に表示しとけば、誤魔化せるからだ!!

おっと、そんなことを言っている場合ではないな……。

起動♪起動♪

インストールが終了しショートカットをダブルクリックする。

よっしゃー!!キターーーーーーーーー!!!

画面が開きOPのまえの注意書きが出る。

まったく別にいいだろうこんなもの…さっさとOPを見せろ。

無駄だと解かりつつクリックを何度か押す、すると…

あれ?いつもの成人がどうとかが出てこないぞ?

俺は一度消してからもう一度起動する。

しかしエロゲ特有の注意書きだけが見当たらない。

ま、まさか……!?

俺は最悪の想像をしてしまい冷や汗をだらだらと流しながら

震える手で、恐る恐るパッケージを手に取る。

な!!こ、これは!!!

 

「全年齢版じゃねーかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

俺の魂の声が部屋に轟く!!

くそ!なんてこった!!エロシーンがないだと!!?

そんな……。

俺は絶望し、無駄に命を散らした戦友(エロ本)たちを思い出す。

ちくしょーーーーーーー!!

もう全てがどうでもよくなった。

誰でもいいから八つ当たりがしたい!!

俺は八つ当たりが可能なヤツを頭にリストアップしていく。

そして頭によぎる人物……そうゲームショップの店員!!

あいつだあいつにしよう、あいつが親切に教えてくれればこんな事にはならなかった。

ふふふ……恨むなら俺に全年齢版を売った自分を恨め!!←(自己中)

俺は雲を操り人間界に雷呼ぶ……。

標準はOK。くくく、さあ死ぬがいい!!

 

「天誅ぅぅうぅぅぅぅ!!!!」

 

雷を標的に落としその様子をじっくりと眺める。

店員はこんがり焼け、悪は滅びた……。

ハハハ……アハハハハハハハハハハハ!!

 

ー三時間後ー

 

やっちまったーーーーー!!

どうしようやべぇよ俺、今の職場は確実に首だよ!!

無許可で人間殺すのは犯罪だよ!!

確実に捕まるよ!

どうすんだよ!とりあえず俺がどうなるかを考えてシュミレートしてみよう。

俺は捕まった後のことを考える。

 

ーシュミレートー

 

「ねえ、神様ぁ。どうして人間を無許可で殺したのかしら?

よかったら教えてくださる?」

 

尋問の天使が胸元をチラリと俺に見せる

 

「はい!エロゲの為です!!」

 

ーシュミレート終了ー

 

くそ!なんてこった!!言い訳をする前に俺は真実を喋ってしまうじゃないか!!

※そんな尋問はありません

俺は改めて天界の尋問(妄想)に恐怖した。

どうすれば……どうすればいい……。

そしておもむろにパソコンを見る。

パソコンにはエロゲのカモフラージュのためのサイトがあるそしてそのサイトに書いてある

この書き込み……『転生について…』

こ、これだーーーーーーー!!

そうだよ魂がハデスのところに行く前に転生させれば、ばれないじゃん!!

ありがとーーー!!サイトを立てた人、あんた最高だ!!!

サイトを立てた人に感謝をしつつ俺は店員の魂を回収してばれないように趣味の赴くままに色々と改造し

て転生させた。

ふう、いい汗かいた……。

これでみんなハッピーエンド!

清清しい表情を浮かべながら額の汗を拭き、暇になった俺はエロゲではないギャルゲをプレイすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、意外と面白い……」

 

 

 

※後日逮捕されますた。

 

 

 

 

大学二年の夏…。

俺はバイトの帰りに見た眩い光と共に別の世界へと飛んだ……。

正確には別世界の人間になったというべきか?

 

十歳の少年…土御門(つちみかど) 武(たける)。

俺が憑依したこの少年は、かの有名な陰陽師、安部晴明(あべのせいめい)の子孫だそうだ。

しかもこの世界、俺が居た世界とは違って陰陽術が実在するものとして世界的に認知され

一般人でも陰陽術を使える奴はいるし、会社や機関も存在し、さらには霊災と呼ばれる

災害まであるそうな……。

恐ろしい世の中である。

力がある奴をバカにしたら呪い殺されるんじゃね?

 

そんな恐ろしい世界に着た俺だが嬉しい事も在る。

何を隠そう生前の俺はラノベ大好きなオタクである!

その知識を使い、使えそうな術を使えば……

リアルドラゴン○ールごっことか出来るかもしれない!!

しかもだ!

陰陽術で有名な式神!!

あれを俺のパソコンに住む嫁達の姿に出来るかもしれないのだ!!

これはもうやるしかないよね!!

 

早速勉強じゃぁぁぁあ!!

 

全ては俺の桃源郷のために!!

 

 

 

 



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1話

どうも、前回偉大なる野望を掲げ陰陽術の勉強をしている土御門 武です。

今自室で父親にとんでもない人生の選択肢を突きつけられています。

 

なんと、俺は土御門の分家だったようで『しきたり』とやらで本家の娘さんの式神にならなくては

ならないそうだ…。

メンドクセェ……。

陰陽術の勉強で忙しいし…子供の面倒なんてとてもやる気はでない。

そんなのは同い年らしい弟君に頼んで欲しいものだ。

美少女なら考えるがな!!

 

「春虎にやらせれば?本家のお嬢さんと同い年なんでしょ?」

 

「……わかった」

 

式神になれ的な事を言っていたわりにはあっさり俺の提案を受け入れるこの世界の父さん。

すこし間が気になるが、了承してくれたのならいいだろう。

俺はさっさと勉強に……。

 

「武。」

 

「なに?」

 

「お前は陰陽術を学び、何がしたいんだ?」

 

勉強を再び再び開始するために机の参考書を開くと、父さんが話しかけてくる。

まさか…俺の野望に気が付いたのか?

いや、今まで将来についてはこの家で口にした覚えは一度もない。

なら、単なる好奇心だろうか?

まあ、十歳児が陰陽術の参考書や土御門の資料を漁って修行していれば

気になるのはしかたがないか…。

ふむ、ヘタに嘘ついてこれ以上聞かれたりするのは嫌だし正直に答えるか。

それに父さんも男だ。

俺の気持ちを察してくれるはず。

野望を話す事を決めた俺は本気である事を父さんに示すため真剣な表情で口を開いた。

 

「父さん。俺は…理想郷(美少女ハーレム)が見たいんだ」

 

俺の言葉の全てを理解したのか父さんはそうかと言って俺の自室を出るさいに

難しいと思うががんばれよと言って去っていった。

父さんの始めてみた男らしさに感動しながら父さんの背を見送った俺は

もし理想郷が完成したら父さんにも見せてあげようと心に誓った。

 

 

パピー視点

 

数ヶ月前から陰陽術の修行するようになった武。

修行するその姿はどういうわけか鬼気迫る物があった。

気になった私は、『しきたり』の話をするついでに息子に修行する目的について

聞くことにした。

 

すると息子は……。

 

 

「父さん。俺は…理想郷が見たいんだ」

 

と言った。

理想郷。

かつて我等土御門の祖先、安部晴明が夢見た場所と聞く。

清明本人は理想郷が何なのかを文献には残してはいないが歴史学者の間では

清明が望んだ理想郷とは悪鬼や怨霊など、人に害ある存在がいない世界と聞く。

もしかしたら息子は安部清明の夢を実現させようとしているのではないだろうか?

 

もしそうであるのなら、無謀であるがその心意気はよし。

霊災はこの世からなくならないだろうが幼いながらに人々の平和を望み努力する

息子を私は影ながら応援する事を決めた。

 

無茶はするなよ……。

 

 

☆☆

 

 

父さんに夢を語った後、応援されやる気の出た俺は夢の実現を少しでも早めるために

被害がでないように部屋に結界を張った後、式神製作の実験を開始した。

 

資料に従い、人型の紙に自分の呪力を帯びさせた筆と墨で術式を書き込む。

そして肝心の容姿だが…やはり美少女…しかし、失敗してブサイクなのが出来たら

最悪だし…まずは実験として男だな。

 

……。

 

少年陰陽師の十二神将を作ってみるのはどうだろうか?

たしか、あのアニメの十二神将はジジイが一名いたがそれ以外は美男、美女

美少女、美少年、美丈夫の集団だった。

つまり、十二神将全員を作ることが出来れば俺の理想郷はすぐ目の前じゃね?

それに男は俺の理想郷を護るためのガーディアンとしてこき使えば最高じゃね?

くくくくく、リア充なイケメン共をこき使い、美女・美少女を侍らせる。

まさに理想郷!!

 

よっしゃ!みなぎって来た!!!

人型の式にさらに霊気を込めて術式を書きなぐる。

容姿は原作一番のイケメンだと思われる貴様だ!!

 

煉獄の将・騰蛇(とうだ)!!

 

驚恐を司る十二神将最強にして最凶の闘将。

 

コイツなら立派なハーレムガーディアン……もとい、護法式(ごほうしき)になれるはずだ。

 

護法式とは4つに分類される式神の中の一つで、精霊や鬼などの異形の物を使役する

使役式の代替品として作られた、人造式の事。

常に主の傍におり、主の護り主の命令に従う。

忠実な人造の守護者。by猿でも理解できる陰陽術の著者

 

霊気をこれでもかと言うくらいに注ぎ、憎いイケメンをイメージをする。

 

アニメで見た奴の動きを思い出し

 

アニメで見た奴の戦いぶりを妄想し

 

アニメで見た奴の言動と経験を再現し

 

ここに、幻想を結び式と成す――――!

 

※テンションが高いせいか何故かフェイカー風

 

作業が終わると式は光だし光はどんどん人の形となり大きくなっていく。

俺より大きくなった人型は一定の大きさになると発していた光がなくなっていき…

一人の男が姿を現した。

 

姿を現した男は身長186cmぐらいで精悍な顔つきをし、黒とも見紛う深い紅の髪と切れ長の黄金の双眸をもつ。

褐色の肌で、一切の無駄のない逞しい体躯をしている。

 

うん、どこからどう見ても殺意が沸いてくるほどのイケメンさんだね。

思わず殺気を込めて睨んじゃうよ。

 

視線で死なないかな…。

 

 

「十二神将の騰蛇だ。よろしく頼むぞ晴明」

 

「は?」

 

イケメンを睨んでいると、奴は気にした様子を見せず驚きの挨拶をかましてきた。

なに、言っちゃてんのこのイケメンは?

 

「えっと…君は何?」

 

「何を言っているんだお前は…。

俺はお前…晴明に作られた式、十二神将の騰蛇に決まっているだろう」

 

いや、十二神将をモデルに作ったんですが……

え、何?、もしかして自分を十二神将だと思い込んでんの?

そんで十二神将の主=晴明だから俺がを清明と?

やべぇ、失敗だ。

どうやら調子に乗りすぎちゃったようだ。

呪力を無駄に消費しちまった……。

頭を抱えどんよりとしているとイケメンが俺に視線を合わせるようにしゃがみこみ

話しかけてくる。

 

「どうした?晴明」

 

「とりあえず晴明呼ぶな。俺は武だ」

 

「分かった」

 

……。

ふむ一応主で在る俺を心配しているし従順っぽい。

まあ、余計な事を言わなければ立派なハーレムガーディアンだし……。

余計な事を喋らないようにさせれば大丈夫なんじゃね?

 

「お前、これからは紅蓮と名乗れ。自分を十二神将と言うの禁止な。」

 

「いいだろう」

 

想像した通りだ。

コイツは俺の失敗で余計な刷り込みが入っているが基本は唯の式神だ

余計な事を言わないようにすれば何も問題は無い。

ふう。とりあえず安心安心実験は成功。

さっさと風呂入って言って寝よ。

 

「紅蓮。とりあえず姿を変えて、部屋で待機してて。」

 

俺が命令を下すと、奴は身体から真紅の光を放ち、小さくなって……

 

大きな猫か小さな犬のような体躯に、長い耳とあいまって兎にも似たかわいい顔。

毛は白だが、額の模様や首回りにある勾玉のような

突起・瞳の色など赤い色がアクセントとなっているアニメおなじみの姿に変化した。

 

式神というよりペットみたいだ。

そんな感想を抱いて居ると紅蓮が話しかけてきた。

 

「この姿で居るのは構わないが、俺は一応お前の式神だぞ。

どこか行くなら俺を連れていけ」

 

「風呂に行くだけだ。大人しくしてろ」

 

それだけ言って、部屋に張った結界を解いた後、一直線に風呂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 



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2話

前回の成功を機会に部屋に引きこもり、時間を掛けてゆっくりじっくりと

数年掛けて十二神将を完成させた俺だったが……。

いざ計画を進めようとハーレムを作ろうとした時、俺は一つ重要な事に思い至った。

 

 

式神のハーレムってオ○ニーみたいじゃね?

 

だって、自分で妄想した女(式神)で、もにょもにょ、もみもみするってそういう事だよね?

 

なんか想像していたらかなり悲しくなってきた……。

これも心の成長のせいだろうか?

まるで中二病から目が覚めた感覚に似ている……。

 

グッバイ俺の夢……。

 

人の夢と書いて儚い。

まさに言葉の通りだと感じた夏の日だった。

 

ちなみに式神製作に時間が掛かった理由は例の俺のイメージによる刷り込みが理由だ。

あの紅蓮を製作した後その問題は発覚した。

本人曰く「意識していれば武と呼べるが、油断してると名前を呼ぶ時、晴明になる」らしい。

紅蓮の問題を意識して、他の十二神将達を作ってみたつもりだがどういうわけか皆、紅蓮と

同じ問題を抱えてしまっていた。

意識しても式神を模るイメージが優先されるという事なのだろうか?

 

後、知られたら痛い事この上ない前世のアニメを元にした容姿を持つ

十二神将たちの存在を家族に隠す事を決め、彼等には非常事態以外では家族に姿を

あらわさないように命令しておいた。

家族にばれたらきっと悶え死ぬと思う。

 

 

……さて、そんな夢から覚めて心に傷を負いしばらく引きこもっていた俺は、弟である春虎と共に

土御門の本家に来ている。

なんでも本家の夏目ちゃんが熱を出したらしく、それを聞いた春虎が見舞いに行きたいと

父さんに言ったらしい。

そして、そんな息子の願いを父さんは条件付で叶えた……俺が一緒に行くならいいと…。

それを聞いた弟は、俺の部屋に乱入。

俺に付いてきてくれと頼んできた。

まあ、暇だったし傷ついた心を癒すための気分転換になるかもしれないと思いOK

をしたのだが……。

 

紅蓮(もっくんver)と勾陣(こうちん)本家に辿り着いた弟は夏目ちゃんに夢中。

夏目ちゃんも俺に一応挨拶はするがすぐに春虎といちゃいちゃしている。

 

要するに暇になり分家よりも大きな屋敷である本家の庭をこうしてプラプラと

歩く事になったのである。

 

「それにしても大きな庭だな……」

 

周りには緑が溢れ、庭の中心には大きな池まさに金持ちの庭だ。

そして無駄に広い。

当てもなく気分で歩いていると。

 

「ひっく……ひっく」

 

泣いている少女を発見した。

迷子か?

しかし、この土御門の家に子供が無断で入られるとは思えないし……。

そんな事を考えていると……。

 

「…!?」

 

俺の存在に気が付いた少女がはっとした表情になり、涙を勢い良く腕で拭う。

そして、涙を拭い終わると、俺を睨みつけてこう言った。

 

「な、泣いてなんかいないんだからね!!」

 

ツ、ツンデレ…?

 

「私はお父様達と客で招かれているのよ!けど、見て!」

 

自分は客と言い、何故か頭に指をさす少女。

迷子ではないらしいが、何故頭に指を指して俺を怒鳴る?

そして少女はこう続け手言った…。

 

「お祖母様にもらったリボンをこのお庭で失くしちゃったのよ。

大事お客様である私がよ?」

 

 

と……。

何と高慢なクソガキ様だろうか。

将来美人になりそうな顔をしている分、中身が典型的なわがままお譲でとても残念だ。

正直このままリボンなんぞ無視して帰りたいが、こんなクソガキでも一応、土御門の

お客様。

分家の俺が粗相をして、本家とクソガキの親の仲が悪くなったらどんな責任をとらされるか

分かったものではない。

ここはリボンを見つけるまで我慢だ。

 

「わかった。少し待っていてくれ」

 

内面ではメンドクセェと連呼しながら外面は笑顔にして対応する俺。

 

「紅蓮」

 

「…なんだ?」

 

今まで隠形(おんぎょう)して付いてきていた紅蓮が姿を現す。

その表情は、何を言われるのか分かっているのか、とてもふてくされた

ものだった。

 

「リボンを探して来い」

 

「……わかった」

 

主人である俺に対してジド目で睨んだ後、スタスタとリボンを探して

歩いて行った。

 

「ねえ……」

 

「どうした?」

 

「あのかわいい生き物は…何?」

 

「俺の式神だ」

 

「後で……その…触っても」

 

「いいぞ」

 

クソガキのお願いを快く了承する俺。

別に後は全て紅蓮に押し付けて春虎と家に帰ろう何て思っていない。

ただ、クソガキ様のご機嫌取りをさせるだけだ。

そして数分後。

 

見事リボンを見つけた紅蓮にクソガキの相手をさせて俺は弟と共に自宅へ帰ったとさ…。

 

ちなみに遅れて帰ってきた紅蓮はしばらく機嫌が悪かった。

 

 

 

☆☆

 

 

紅蓮視点

 

俺の主は俺が式神になった当初から持つ、記憶の晴明と呪力・容姿・声が

とてもよく似ている。

だからこの世に誕生してから数年、未だに主である武を晴明と呼んでしまいそうになる。

しかし、この問題は俺だけではない他の十二神将も同様に抱えている問題であり

俺達の軽い悩みの種だ。

 

名前を呼ぶだけで気を使うのは正直疲れる。

女の神将達は武に晴明と呼んで嫌われないように必死だ。

その事を、遠まわしで武に伝えると十二神将と武だけの空間なら晴明と呼んでもいいと

許しが出た。

これで少なくとも十二神将と武だけの場なら名前に気を使う必要はなくなりそうだ。

 

そう思っていた矢先に晴明……武が自室に引きこもってしまった。

俺を含めた十二神将の男たちは武の様子から距離をおいてしばらく様子を見ようと

したが女達はこれ幸いと武の世話をするようになった

 

勾陣 天一(てんいつ)太陰(たいいん)天后(てんこう)

 

俺達を武の部屋の隅に追いやり、食事や着替えなどなどの常識の範囲内で

武の家族にばれないように世話を焼いていた。

ばれないようにしているのは武の命令の為だ。

まあ、自分で言うのもなんだが十二神将全員が武の持つ膨大な呪力により生まれた

強力な式神だ。

おそらく武は陰陽師として手札は身内であろうとも、出来る限り隠しておきたいのだろう。

 

世話が常識の範囲内だったのは恐らく武が時々発作を起こすように悶えたり

 

「俺って奴は…中二……」

 

なんて呟いて居たのを見てさすがに自重したのだろう。

もし、自重をしていなかったら武の貞操は風前の灯だったのかもしれない。

 

ちなみに武の症状は癒しや浄化の力を持つ天一が、さりげなく診断したところによると

悶えるのは精神的疲労が原因らしい。

もしかしたら膨大な呪力を使い俺達十二神将を生み出したり、かなりの量の資料を

漁っては修行もしていた付けが来たのかも知れない。

まあ、いい機会だ。

しばらくは、ゆっくりしてもらおう。

 

☆☆

 

 

武が引きこもってから、ようやく精神が安定して来たらしく悶える頻度も少なくなった。

どうやら大分回復したようだ。

少しは元気になった武を見て安堵の表情を浮かべる俺達十二神将。

普段から難しい顔をしている青龍(せいりゅう)も珍しく穏やかな表情を時々

武に向けている。

 

そんなある日、武の弟が突然やって来て一緒に土御門の本家に行って欲しいと

頼み込んできた。

なんでも友達のお見舞いに行きたいのだとか……。

本当は休んでいたいのだろうが武は快く弟の頼みを承諾し、俺と勾陣を

後ろにつれて、弟と共に土御門本家へと訪れた。

 

 

 

「それにしても大きな庭だな……」

 

仲良くしている弟とその友達に気を使い、散歩をする事にした武は土御門本家の

庭を自然を楽しみながら歩いていると……。

 

「ひっく……ひっく」

 

幼い少女が泣いていた。

おそらく迷子か何かだと思う。

少女の事が気になっているのか様子を見ている武。

 

その後、武に気が付いた少女は泣いていたところを見られて恥ずかしかったのか

泣いていた事を誤魔化す様に、ここに居る理由を説明しつつ自分のなくしたリボンを

武のせいにして攻める少女。

正直、癇に障るがあの歳の子供ならしょうがない。

武もそう思っているのか紳士的な態度で少女に対応する。

さすが俺達の主だ。

器が大きく感心してしまう。

そして同時に勾陣の拳からギリリという音が聞こえて背筋に冷たいものを感じてしまう。

 

「紅蓮」

 

武の口から突然呼ばれる、騰蛇ではないもう一つの俺の名前。

この場面で名前を呼ぶのだ、おそらく俺に少女のなくしたリボンを探させる為に呼んでいる

のだろう。

まったく、身内にまで見せたくない手札である俺を泣いていた子供の為

に見せてしまうなど……。

甘いというか優しすぎるというか……。

おもわず渋い顔をしてしまうが、主である武の命令だ。

 

「…なんだ?」

 

俺はしぶしぶ隠形を解いて姿を現し、想像が容易な用件を聞く。

 

「リボンを探して来い」

 

武の用件は思っていた通りだった。

まったくリボンなどの為に……。

 

「……わかった」

 

まあ、命令されたらしょうがない。

俺は武の式神、主の願いを聞き入れるのも仕事のうちだ。

 

少女の臭いを辿りようやくリボンを発見。

この白い姿の時は本当に動物のように鼻が利いて便利だが、同時に情けなく感じる。

まあいい、さっさとリボンを持ち帰ってやるか。

ちなみに見つけたリボンは武たちが居る場所から少しはなれた少女と同じくらいの

高さの木の枝に引っかかっていた。

 

すぐさま、枝の上に上りリボンを手で持ってリボンを汚さないように

二足歩行で武たちの元に戻った。

少女は俺と武にお礼をいい、リボンを見つけて持ってきた俺を撫で回す。

正直、勘弁して欲しいのだが相手は子供。

撫で回す手を振り払う事も出来ず、武に助けを求めるが見放されてしまう上に

勾陣と弟の三人で先に帰ってしまった。

晴明ーーーー!!!??

 

「ねえねえ、そういえば聞き忘れていたんだけどさ……」

 

先程まで撫で回していた少女が突然、顔を赤くしモジモジとした動きをする。

どうしたのだろうか?

 

「貴方のご主人様の名前ってなんていうの?」

 

……。

 

……ふむ。

 

この後、俺は少女に武の名前を教え、武の事について教えれる範囲で教えてやった。

別に主である武を困らせようとは思っていない。

ただ、俺は少女の質問に対して一人言を言ったまでのこと……。

 

恋する少女の応援をして幾分かすっきりした俺は武の下へと帰った。

 

 

 

 

 

 



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3話

クソガキ様事件より5年近くの時が流れた。

 

特にする事もなく、普通に過ごしている毎日。

そんな怠惰な日常を描いている俺とは違い、

世間は去年東京で起きた陰陽師のテロにより発生した霊災の復興作業などがテレビでたまに

目に付くが、それだけで特に俺の日常には変化がなかったのだが…

 

突然、変化しないと思っていた日常に変化が訪れた。

陰陽医をしている父さんの患者が引っ越して来たのだ。

なんでもテロに巻き込まれて『鬼の生成り』になってしまい、父さんの治療を受けるために

こんな田舎までわざわざ引っ越してきたらしいのだが……。

 

なんで俺と春虎が面倒を見なくてはならないんだ?

患者は春虎と同年齢の少年だ。

同い年である春虎が面倒を見るのは分かる。

何故俺まで………。

しかもだ、あの少年は俺と春虎に出会った瞬間…。

 

『うおぉぉぉぉおお!!』

 

と、雄叫びを上げながら襲ってきたのだ。

もうびっくりして思わず……

 

陰陽術を使ってしまった。

正直やりすぎたと思ったが相手が『鬼の生成り』であった事が幸いしたのか

少年は多少の怪我と気絶だけで事がすんだ。

 

後日の朝、お詫びに彼の家に訪れたが何故か楽しそうに春虎と談笑していた。

一体何があった?

 

あと、俺についてきた紅蓮と勾陣がとても静かだったが何かあったのだろうか?

 

 

ちなみにこの生成りとは鬼や竜など、その身に何らかの霊的存在を

憑依させた者達のことであり、いわゆる憑き物とほぼ同義。

霊的存在を宿すという事は言わば歩く霊災にも等しい危険な状態であり、

生成りとなった者には封印術が施され、宿った存在を押さえ込むことが求められる。

後、稀にだけど、宿した霊的存在の持つ力を自身のものとして

強大な戦闘力を発揮する術師も存在する。

ただし人間性の喪失や自我消滅、暴走の危険を伴う諸刃の剣で一歩間違えれば

取り返しの付かない事から大抵は押さえ込むだけで戦闘しようなんて考えるのは

ごく僅かな人間だけだ。

少年も抑えるだけのようだしね。

 

まあ、それで春虎と仲良くなっている少年。

阿刀 冬児(あと とうじ)とお互いに自己紹介してそこそこ仲良くやっている。

父さんの治療はうまくいっているようで、彼は春虎と良く遊ぶようになり、

学校にも通い始めた。

 

そして俺はと言うと……。

 

自堕落な生活をしつつ、暇つぶしに冬児の先生をしている。

 

何故、冬児の先生をしているかと言うと、彼が学校に通い始める一週間ほど前に、

自分でも鬼を抑えられるように色々と教えて欲しいと頭を下げに来たので、

暇だった俺は、いい暇つぶしが出来たと思い彼の頼みを聞き入れた。

 

彼が俺に頼みに来たのは、どうやら父さんが冬児の診療中に

勉強やら修行をしていた俺の事を話していたらしい。

5年前は酷い中二病で、いろいろな呪術や知識を貪欲に手を出したからな……。

今となっては誰もが持つ、恥ずかしい黒歴史だ。

 

まあ、俺の黒歴史はどうでもいいとして…。

冬児に頼まれてから、現在に至るまで実技は教えていないが役に立ちそうな知識を春虎に内緒で彼に

教えている。

春虎に内緒なのは、彼に黙っていて欲しいと頼まれたからだ。

理由は恥ずかしいらしい。

 

まあ、別にいいけどね。

 

しかし、この暇つぶしは意外と面白い事に気が付いた。

彼の頭がいいのか?俺の教え方がいいのか分からないのだが、彼は

俺が教えるたびにどんどん知識を吸収し、最近では教えることはもう

ないのでは?と思うほどになっている。

そして俺は思ったのだ教師って意外とらくじゃね?と…。

 

何故なら、ヘタに生徒に干渉せず、教えることだけ教えとけば後は生徒の

責任だ。

教えて欲しいと生徒が言ってこれば教えてやるようにして、生徒の成績が悪いと

文句を言われても教師に分からない所を聞きに来なかった

生徒の努力不足と言ってしまえば問題は無い。

しかも公務員だから、給料は安定しているし将来も安泰だ!

 

よし!俺は教師になるぞ!!

 

 

 

☆☆

 

 

俺の名前は阿刀 冬児。

東京に住んでいた時、霊災に巻き込まれ、鬼を体に宿す事になってしまい

土御門 鷹寛(つちみかど たかひろ)と言う陰陽医の治療を受ける為に田舎に

引っ越す事となった。

 

当時は鬼のどす黒い感情を抑えることが出来ず、陰陽医の息子と聞いていた

兄弟に殴りかかったりしていた。

 

まあ、殴ることは出来ず兄弟の兄の方に、あっさり陰陽術で気絶させられたが……。

 

後日の朝、弟の方がやって来て話しかけてきた。

話す内容はコイツの兄についてで、気絶させられた事もあったせいか話は弾み

弟のほう、春虎とは仲良くなったよかったのだが……。

 

話の途中で兄の方が来たときはやばかった。

正直、殺されるのではないかと思うほどのプレッシャーを放っており、もしかしたら

話の内容を聞かれていたのかもしれない。

春虎もそれを感じていたようで、俺たちは取り留めのない適当な談笑をして誤魔化す事にした。

 

 

春虎の兄、武さんともそこそこ仲良くなり治療も順調に進んだ頃、そろそろ

学校に行っても問題はないと二人の親父さんに言われた。

正直、鬼を暴走させないか不安だったが……。

ふと、親父さんに聞いた武さんの事を思い出した。

 

親父さんの話が本当なら陰陽師としてかなり優秀な人らしい。

もしかしたら、色々と教えてもらえるのでは?

鬼を抑える方法を独学で探すのはかなりの時間がかかる。

もし、教えてもらえるのであれば独学で学ぶよりも時間は少なくてすむだろう。

 

俺は武さんに頭を下げ、鬼を抑えるための知識を教えて欲しいと頼み込んだ。

初めは断られるのではないかと思ったが意外にもすんなり承諾された。

 

それ以来、武さんから色々と陰陽術に関して教えてもらうようになり

学校に通ってからは陰陽術に関係する授業はそこそこいい点数を取らせてもらっている。

後、武さんの授業を受けているとき気が付いたことが在る。

時々、武さんの肩に違和感を感じることがあるのだ。

俺は生成りとなった事で『鬼見』の才能を得た。

それにより霊気の流れや霊的存在を視認し感じ取ること出来る。

つまり武さんの肩には何かが居るという事になる。

それがなんなのかは分からないが武さんが連れているのなら問題はないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 



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4話

東京……。

 

我等土御門の天才、土御門(つちみかど)夜光(やこう)が行った儀式の影響により、

霊的災害が発生するようになってしまった土地。

そしてその霊的災害を祓う陰陽師を目指す為、夢見る若者達が集う場所である。

 

そして……。

 

俺、土御門(つちみかど) 武(たける)も陰陽塾の講師になる為、渋谷にある陰陽塾

へと通うことにした。

ちなみにこの陰陽塾はとても凄い所らしく、現在活躍している陰陽師のほとんどがここの

卒業生らしい、まさにエリートの巣窟と言っても過言ではない。

 

後、最近知ったのだが陰陽1級種という資格を取得すると十二神将と呼ばれるらしい。

十二神将とは言っても、別に資格取得者が十二人居るのではない様だ。

 

まあ、東京に着ても環境が変わっただけで俺のやる事は変わらなかった。

陰陽術の勉強をし、それが扱えるように練習する。

本当に何も変わらない。

変わったことがあったとすれば急々如律令(きゅうきゅうにょりつれい)を授業だけ帝国式の『オーダー』と呼ぶようになったくらいだろうか?

 

「なあ、晴明。」

 

「何だ?紅蓮」

 

男子寮の自室で本を読みながらくつろいでいると白い獣の姿をした紅蓮が話しかけてきたので

返事をする。

 

「いや…。ただ、入学式からこの夏休みまで土御門 夏目に挨拶していないがいいのかと

思ってな」

 

「廊下で軽く挨拶をしているから、問題は無いだろう。

それに、噂によれば彼女…じゃなくて彼は人とあまり関わりを持ちたがらないようだから

今のままで大丈夫だろう。」

 

土御門 夏目。

我が弟の幼馴染の少女で、本家のしきたりとやらで現在は男として振舞っている。

正直意味が分からないが、本家が言っているのだからしょうがない。

本人も本当は嫌なのだろうがしきたりだからと諦め、男として振舞っていると予想している。

そんな夏目に関わり、もし俺のミスで周囲の人間に女とばれたらどうなるか…

正直考えるだけでも恐ろしい。

だから、俺は彼女が入学してから最低限の接触のみを心がけ今まで過ごしてきた。

それなのに今更、自分から挨拶をして余計な接触を増やすわけにはいかないのだ。

 

「まあ、お前がそういうなら別にいいがな……」

 

「それにだ、俺は後半年で卒業だぞ?今更過ぎて怪しいだろう」

 

そんな会話を紅蓮としていると……。

 

ピピ!ピピ!

 

俺の右ポケットに入っている携帯から着信の電子音が鳴り響く。

俺は紅蓮との会話を中断し、ポケットの中の携帯電話を取り出し、電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『あ、土御門君ですか?塾長の倉橋ですけれども…今大丈夫ですか?』

 

なんとビックリ、電話の相手は俺の通う陰陽塾の塾長、倉橋(くらはし)美代(みよ)

だった。

あの、おばあさんとはちょくちょく会話をする事があるが電話で話すなんて初めての事だ。

もしかして何かあったのだろうか?

とりあえず用件を聞いてみよう。

 

「はい、大丈夫ですが何の御用でしょうか?」

 

『実は先日の午後8時頃、十二神将の一人が……泰山府君際を行おうとしました』

 

「何ですって!?」

 

泰山府君際とは、安倍晴明が使ったとされる陰陽道の最高奥義にして死者を蘇らせる

と伝えられている禁断の秘術。

まさかそれを、陰陽術師のエリートである十二神将がやるなんて……。

正直、驚きが隠せない。

しかしだ、何故学長がそんな不祥事を俺に話す?

俺が土御門の人間だからだろうか?

 

『落ち着いてください。術は貴方の弟さんと夏目さんのお陰で失敗に終わり無事に事件は解決しました。』

 

「そうですか………」

 

『しかし、この事件のことは内密にしなければなりません。

そこで、貴方の弟さんと事の顛末を知っている弟さんの友人である阿刀(あと)冬児(とうじ)君

の二人をこの陰陽塾へ入学させようと思いましてね…』

 

なるほど、不祥事を隠し通す為に二人をこの塾へ入れるのか。

たしかに、ここなら二人を監視できるし口封じも容易いだろう。

弟よ、お前は本当についてないな……。

昔は特に酷い目に遭っていなかった弟だが、中学に上がってからのアイツはとにかく不幸になった。

交通事故にあったり、鳥の糞が降ってきたりと……とにかくついてないのだが…この事件で、

もはや何かに呪われているのでは?と思ってしまう。

 

『しかし、彼等は素人。この陰陽塾でやっていけるのかとても心配なのです』

 

「……」

 

耳に聞こえる塾長の心配そうな声。

声を聞くと弟達を心配しているように思えるが…何か嫌な予感がする。

俺が気にしすぎなだけだろうか?

 

『そこで、二人と面識もあり成績優秀な貴方に二人のサポートをお願いしたいのです』

 

「……サポートですか?それなら同い年である夏目が適任だと思いますが」

 

『それはもちろん考えていますが、夏目さん一人に二人の面倒はさすがに大変でしょうし

放課後だけでよいので頼まれてくれませんか?』

 

たしかに塾長の言いたい事もわかるし理解もできる。

放課後だけなら俺も大丈夫だと思うし、やっぱり気にし過ぎらしい。

嫌な予感も気のせいだろう。

 

「分かりました。出来る限りではありますが二人をサポートします」

 

『そうですか…では、夏休み明けから二人をよろしくお願いします』

 

こうして、俺は二人の面倒を見ることを了承し、読んでいた本の続きを読み始める事にした…。

 

 

 

☆☆

 

 

ふう、どうやら成功のようですね……。

塾長室の電話を切り、背もたれにもたれ掛かる私。

 

先程まで私が電話をしていた青年。

土御門(つちみかど) 武(たける)。

土御門の家から帰って来て様子のおかしい孫娘を占った結果、孫娘の初恋相手と分かった。

当時の孫娘の様子を思い出すととても微笑ましい……。

何所からどう見ても何かあったのにバレないように必死で隠しているから思わず占ってしまったしました。

まあ、孫娘の話は置いといて…。

彼、土御門 武には気になる点があるのです。

 

それは夏目さんがこの陰陽塾へ入学した頃の事…。

夏目さんは昔から天才、土御門(つちみかど)夜光(やこう)の生まれ変わりだと噂されていた為、

夜光信者達の護衛として式神を遠くから見守らせつつ、夏目さんと同じ土御門の姓を持つ彼が

間違われて襲われないように動向を気にかけていた時の事……。

 

彼がクラスメイトである女子生徒と話している時、彼の背後に一瞬だけ式神を感知したのです。

彼が入学してからこの三年、彼の持つ式神はゼロ。

もちろん登録もされてはいない、それにもし彼に式神が居たのなら門番をしている高等人造式のオメガ達が気づかないはずがありません。

が気づかないはずがありません。

 

気になった私は彼を塾長室へ何度か呼び出した後、たあいのない会話をしつつ、彼の周囲を見通した。

すると、ほんの僅かにですが複数の式神の気配を感じ取る事に成功しました。

恐らく彼の式神は隠形に特化した存在なのでしょう。

彼との会話を程よく終えた後、彼を男子寮に帰し、彼の傍に居た式神の気配を探り、

式神の姿を見ようと占いをした結果……。

 

 

 

騰蛇 勾陣 六合 青龍 朱雀 天一 太陰 玄武 天后 白虎 天空 太裳

 

 

 

伝説の大陰陽師である安倍晴明(あべの せいめい)の式神達の名前が浮かんでくる

まさか……転生したのは夜光だけでは……。

ありえなくはない、安倍晴明(あべの せいめい)は伝説に名を残す稀代の大陰陽師。

夜光が転生出来てかの大陰陽師が出来ないはずがありません。

しかし、彼が安倍晴明の生まれ変わりだという証拠は何所にも無いのです。

ただ、先祖に憧れて同じ名前の式神を作った可能性もありえます。

 

ですから、私は今回の頼みごとで彼が家族である弟さんやその友人の前では何所かでボロを出す場面があると考え、この一年で彼の正体を見極めさせてもらおうと思っています。

 

 

土御門夜光と安倍晴明、今年は波乱の一年になりそうですね……。

 

 

 

 

 



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5話

塾長の電話から数日後。

弟、土御門(つちみかど)春虎(はるとら)が今度の月曜日から

陰陽塾に通うことになったと連絡が来た。

 

面倒を見るといったが具体的には勉強以外で何をすればいいんだ?

男子寮の案内か?それとも寮母である富士野 真子には注意しろと教えてやるか?

ちなみにこの男子寮の寮母さんはなんとBL好きの貴腐人であり、常に頭の中は

妄想で一杯、きっと我が弟は冬児と共に妄想の犠牲となるだろう。

 

そんな事を考えながら陰陽塾の廊下を歩いていると……。

目の前の曲がり角から一人の先生が出て来て、こっちに向かって来る。

右足の義足と眼鏡がトレードマークでたしか去年、陰陽塾にやって来た

大友 陣(おおとも じん)先生だったかな?

先生は俺を見ながらひょこひょことした足取りで向かってきているので、もしかしたら

俺に用事があるのかもしれない。

 

「おお、丁度よかった。今、君を探してたんや」

 

「何かあったんですか?」

 

相変わらずの軽いノリ。

優秀な教師らしいが言動や雰囲気からはとてもそうには思えない。

 

「いや、別にたいした事じゃないんやけどな?

武クンは、十二体の式神がおるんやろ?そろそろ登録をしてほしいって塾長が言ってたで」

 

「……」

 

隠形をして、いつものように肩に乗っている紅蓮がピクリと動いて反応する。

俺も、幸い表には出てはいないが内心では驚愕している。

何時バレた?

 

「まあ、秘密のほうがカッコええとか、先生も男やから分かるけどな?

一応、陰陽塾の決まりやから今日中にやっといてや」

 

「…わかりました。わざわざ伝えてくださり、ありがとうございます」

 

動揺を悟られ黒歴史がばれるのを恐れた俺は、さっさとこの先生から逃げるべく

お礼を言った後、陰陽塾のセキュリティであるオメガ達の下に向かって歩き始めた。

もちろん登録するのは十二神将達の本名ではなく、紅蓮のようなもう一つの名前の予定だ。

 

「ああ!それから言うの忘れとったんやけど……」

 

「…なんでしょう?」

 

歩き出して先生のいた場所から少し離れた階段を目の前にした時、先生に後ろから声を掛けられる。

 

「君の弟クンとそのお友達は僕が担任をすることになったからよろしゅうな」

 

「…そうですか」

 

 

「それとな……気ぃつけやー。塾長の式神は塾舎中におるから

秘密なんてあのバア様にすぐにバレてしまうで?」

 

「……」

 

 

この日、俺は予定通りにもう一つの名前でオメガ達に登録し男子寮へと帰還したが……

 

 

やべぇ!!黒歴史がばれたらどうしよう!!!

 

と塾長に怯え、眠ることが出来なかった。

 

 

 

☆☆

 

 

ったく、あのバア様は本当に人使いが荒いわ……。

唯でさえ、教職で忙しいのに本当に困ったもんや…。

そう心の中で愚痴りながら、土御門武の背中を見送る。

 

彼と話をする少し前、塾長に呼ばれた僕はさっき土御門武に言ったように

式神の登録をするようにと彼に伝える事と、彼は何かを隠しているかも知れないから

ついでに探ってきて欲しいと頼まれた。

まったく何がついでや、それが本命なんやろうが……。

 

生徒を疑いたくはないが雇い主の命令なら仕方がないと探りを入れてみたが

収穫はゼロ。

いやはや秘密が本当にあるのならとんだ狸やな……。

 

しかし、塾長が土御門とはいえ一人の生徒に興味を抱いているのは珍しい。

まあ、孫娘と夜光の生まれ変わりと噂されている夏目クンと言う例外は存在するんやけど……。

 

あのバア様は生徒に対して基本は放任主義にして実力主義。

無駄のないカリキュラムを作り、陰陽師として先の分からない生徒や

授業について来れない生徒を切り捨てる。

そんな人が一人の生徒に関心を持つのは本当に驚いたと同時に気になった。

 

塾長の狙いと、彼の秘密。

 

一体なんなんやろうな?

まあ、式神が秘密と関係しとるのは分かった。

後は僕なりに彼に接触して調べるだけやな……。

 

 

 

 

 

 

☆おまけ[今日の塾長]☆

 

 

 

 

ふふふ、大友先生のことですからきっと気になって、自主的に調べてくれるでしょう。

私も忙しいので、自主的に手伝っていただけるなんて本当に助かります。

 

「ああ…お茶がおいしい」

 

お茶を飲み、穏やかな表情で手駒を増やした塾長だった。

 

 

                                      

                                  おまけ終了

 

 



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6話

陰陽塾に転入してきた春虎と冬児。

 

早速俺は、放課後二人の面倒を見ることにしたのだが……。

 

「……」

 

「何があったんだ……?」

 

春虎たちの教室に入ると机の上で死んだ魚のような目をしてグッタリしている

春虎と、それを見てニヤニヤと笑っている冬児。

その惨状に思わず思っていた事が口に出てしまった。

本当に何があったんだ?

 

「いや~、春虎のパーフェクトな入塾イベントや春虎の優秀な頭脳が発揮されたんで

夏目に絞られたんですよ」

 

「…なんとなくわかった。」

 

笑いながら事情を話す冬児。

つまりアレだ。春虎は入塾そうそうにトラブルに合い、さらにおバカっぷりを教室で見事

に披露して見せたんだな……。

そして醜態をさらした後、主である夏目にお説教を受けて心がへし折れてしまったって所かな?

 

「?」

 

今…春虎の後ろに何か居たような気が……。

気のせいか?

まあいい。

俺は塾長に頼まれた仕事を……。

 

「塾長に頼まれて、勉強を手伝おうと思って来たのだが……」

 

「…!?」

 

勉強と聞いてビクン!と動く、春虎。

これでは、とてもじゃないが勉強は不可能だろう。

たとえ教えても頭には残らず時間の無駄となって終わりになるだけだ。

しかたがない。

今日のところは男子寮の説明だけにしてやるか。

 

「…とても無理そうだから、男子寮に帰るか?」

 

「神様仏様兄上様!!ありがとうございます!!」

 

帰るか?と言った瞬間涙目で俺を拝みだす春虎。

勉強をしてこなかった春虎の自業自得とはいえ、よほど辛い目にあったのだろう。

少し同情してしまった。

 

「じゃあ、帰るか」

 

「ウッス」

 

「了解!」

 

勉強しないですむと分かって嬉しそうに荷物をまとめだす春虎とやれやれという感じ

で春虎と同じように荷物をまとめる始める冬児。

荷物をまとめる二人を待っていると、春虎の手が止まり何かを思い出したかのように

俺に話しかけてきた。

 

「そういえば、塾長が兄貴の式神について聞いてきたんだけどさ、兄貴式神なんて持ってたのか?

俺、一度も見たこと無いんだけど」

 

「…ああ。必要が無い時は隠形をしているからな」

 

「へ~。どんな式神なんだ?教えてくれよ」

 

「俺も昔気配は感じ取った事があるんですけど見たことはないっすからね。

是非見せてもらいたいですね」

 

塾長…いや、あの婆さん、こいつ等に教えやがった!!

いや!落ち着け。

まだ大丈夫だ。

白い方の紅蓮を見せればこいつ等だって満足するはずだ。

本当の姿を見せなければまだ、大丈夫のはずだ!!

 

「仕方ないな……紅蓮」

 

『おいおい、いいのかよ!明らかにあの婆さんの罠だぞ!!』

 

「主命だ。今すぐ隠形を解け」

 

「………」

 

俺の命令により指定位置になっている俺の肩から姿を現す紅蓮。

その表情はとても不機嫌そうだ。

 

「おお!小動物みたいで意外とかわいい!!」

 

「これは予想外だな。もっとゴツイ式神を想像していたんですが……」

 

「フン」

 

姿を現した紅蓮を見て、喜ぶ春虎と予想外と言った表情をしつつ、紅蓮を観察する冬児。

そしてその二人の態度が気に食わないのか、鼻を鳴らし、そっぽを向く紅蓮。

 

「もう満足しただろ?そろそろ帰るぞ」

 

「ああ!待ってくれよ兄貴!折角だしコイツを撫でさせてくれない?」

 

「なんで俺がお前に撫でられなきゃいけないんだ!断れ武!!」

 

「おお!喋った!!」

 

「喋って、悪いか!!」

 

紅蓮を撫でたいと言ってきた春虎に拒絶の反応を見せる紅蓮。

しかしその拒絶の反応で紅蓮が喋る事を知った春虎はさらにテンションをあげて喜ぶ。

拒絶する紅蓮と撫でたい春虎のやり取りを見つつ、何時になったら帰れるのだろうと

軽くため息を吐きながらそう思った。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

兄貴と冬児の三人で男子寮と戻った俺は、男子寮についてある程度の事を兄貴に教えてもらった

後、俺は自分に割り当てられた部屋に入り、ベットに倒れこむ。

 

 

つ…疲れた…。

講師達の呆れ顔→無視のコンボにクラスメイト達の『こんな問題もわからねーのかよ』と言いたげな

クラスメイトの冷たい視線に含み笑い。

しかも味方だと思っていた夏目からも説教。

唯一の救いは周りとは違ういつも通りの兄貴の態度。

兄貴は本当に昔から変わらないな……。

 

「……」

 

もし、こんな時…北斗が居てくれたら……。

ベットに転がりながら思わずそんな事を思ってしまう。

アイツが…いや、北斗の術者がもし、俺が陰陽塾に入ったと知ったら喜んでくれるだろうか?

きっと、北斗なら喜んでくれるはず。

式神だったけど、俺の知っている親友の北斗なら……きっと…。

 

「式神?」

 

式神という単語が何故か頭にひっかかる。

……。

やべ!

 

「忘れてた!親父から餞別に貰った式神!!」

 

親父から貰った式神の存在を思い出した俺は荷物から五芒星の書かれた封筒を取り出す。

 

『春虎。陰陽師を目指すならお前も『土御門』の一人だ』

 

親父が土御門の名を出して、俺にくれた式神。

夏目の雪風や北斗みたいにかっこいい奴かそれとも兄貴の紅蓮みたいにかわいい小動物みたいな

奴かもしれない。

 

ドキドキしながら式神を呼び出そうとするが……。

 

つ……使い方がわからん!!

 

「取り扱い説明書とかない…よな」

 

もちろんそんなものを親父から貰った記憶はない。

封筒みたいな形をしてるから、とりあえず封を……。

 

ピリ

 

「!?」

 

封を開けようと封筒の端に手を掛けると左目の下にある夏目の術式が一瞬疼いたと

思い手で触ってみるがなんともない。

気のせいか?

そんな事を思っていると…。

 

ポン!

 

「!!?」

 

軽い破裂音が後ろから聞こえ、驚きながら振り返ると……。

 

「……」

 

「……」

 

俺に向かって土下座をかましながらプルプルと震えるコスプレをした小学生くらいの少女が居た。

少女は染めたと思われる銀髪に、コスプレアイテムだと思われる耳と尻尾を装備している。

一体何所から不法侵入したんだ…?

 

「お…お前…」

 

「お…おお初におめもじ致しまするっっ!!わ…わわわたくしっ!コンと申しますっ!!」

 

俺が少女の素性について質問しようとすると、少女はビクリ!と激しく体を震わせて

涙目になりながら挨拶をして来た。

 

「このたび祖狐(そこ)葛(くず)の葉(は)が御末裔であらせられる土御門 春虎様の護法たるを

仰せつかりましたっ!ふ…ふつっ!ふつつか者ではございますがっ!!何とぞ、よしなにっ…!!」

 

「え…えっと…」

 

突然の少女の自己紹介に戸惑っていると少女の言葉で少女の正体がなんとなくだが分かった。

しかし……これは…。

親父の趣味なのか…?

 

「ひょっとして、お前って…俺の式神?」

 

コクコク!

 

俺の言葉に肯定し、上下に頭をコクコクと振るコンと名乗った少女。

そうか…この子が親父がくれた式神か……。

今まで抱いてきた親父のイメージが音を立てて崩壊し、幼女趣味の変態というイメージが俺の

中に形成された。

 

…………。

 

「ところでさ、なんでいきなり出てきたの?」

 

「お…隠形を致しておりました所お声がかかったようでしたので……」

 

「え!?ずっと傍で隠れていたって事?マジで!?」

 

「は…はい」

 

疑問に思っていたことを聞くと、少女…コンはずっと俺の傍に隠れていたらしい。

それを聞いた俺はふと今朝の出来事を思い出す。

 

『お前の式神も共に登録した』

 

と、門番をしている狛犬に言われたっけ……。

あれは、コイツの事だったんだな。

 

「コ…コンは春虎様の護法にございますれば。常に御身をお守りせねばなりませぬ故…。

コ…コンは以前にも土御門の分家の方にお仕えした事がありましたっ!

い…以前の記憶はございませんがお仕えしたのは一度ではありませんっ!」

 

おどおどしながら自分の経歴と自身が護法である事を話すコン。

しかし、コンの言葉に気になることが一つ。

コンの言った以前に仕えていた人物。

土御門の分家に仕えているのなら、コンは俺の家に代々仕えているという事になる。

つまり、そうなるとコンは俺じゃなくて長男である兄貴に仕えるのが普通だと思うんだが……。

まあ、兄貴は自分の式神持っているし、親父からコンを貰うときに断ったのかも知れないな。

よし!ごちゃごちゃ考えるのはもうやめだ!コンは俺の式神なんだから、コンの事をもっと

色々と知らないとな!

 

「コン!とりあえずお前の得意技を教えてくれ!」

 

「はははいっっ!!恐れながら隠形の術なら…」

 

俺が得意技について聞くとコンは姿を消して『隠形』と呼ばれる術を披露してくれるコン。

 

「すげぇ!全然分からねぇ!!」

 

ポン

 

「おおっ!!」

 

姿を消したと思った数秒後、再び姿を現すコン。

すげぇ!さすが式神だぜ!!

 

「やるじゃんコン!」

 

「いえ…そ…そそのような…も…もったいなく……」

 

俺が心から褒めると、顔を赤くして尻尾をブンブンと動かし照れるコン。

いやはや、これは予想以上の式神だ。

 

「すげぇな。消えている間は誰にも分からないんじゃないか?」

 

「あ……その…高位の陰陽師が相手ですと…本日のように悟られてしまう可能性が…」

 

「ああ、そういえば門に居た狛犬にはバレていたっけ」

 

「いえ、狛犬もそうなのですが…は、春虎様の兄君にもコンの存在を悟られたようで…」

 

「え?」

 

この後、コンに詳しい話を聞いたのだが、なんでも兄貴が教室に入って来たすぐに

俺の後ろに『隠形』の術で待機していたコンに気づいたらしい。

気のせいじゃないかとコンに聞いたが、目があって数秒ほどじっと見られたそうだ。

昔から優秀だと思っていたが、まさか学生で高位の陰陽師レベルとは思わなかった。

もし…俺が兄貴ぐらいの実力になれば、北斗の術者に一歩でも近づけるのだろうか?

 

 




感想にあった質問の答え。

オリ主の容姿は晴明の若い頃の容姿です。
つまりイケメンさんですね。
ちくそう。


※評価をお待ちしております。


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7話

「ほう……。夜光の転生者と思われる子供の周囲を見ておったら懐かしい顔をした男と式神が

おる。あ奴に渡す式に手を加えて、夜光のついでに巻き込むか?」

 

薄暗い一室に居る老人。

彼は、水晶を覗き込み薄気味悪い笑顔を浮かべ、一瞬だけ水晶に映った青年によくにた人物を思い出す。

 

 

☆☆

 

「!?」

 

「どうした?晴明」

 

「いや…なんか寒気が……」

 

春虎を男子寮に案内した後、十二神将達と窮屈であるが結界の張ってある自室でくつろいで居ると

突然、悪寒のようなものをゾクリと感じた。

悪寒を感じ、体を震わせた俺が気になったのか、近くに居た十二神将の一人で

ある六合(りくごう)が俺に話しかけて来たので正直に答えた。

隙間風か?それとも風邪でも引いてしまったのだろうか?

そう思ってチラリと窓を見てみるが、窓はきちんと閉まっている。

ただ、単純に風邪か?

 

「風邪でしょうか?でしたら私が治療をしましょうか?」

 

「いや、別にたいした事はないから別にいいよ」

 

「ダメよ晴明!大事な体なんだから治療は受けるべきよ!!」

 

「そうだな。万が一、風邪が酷くなったら大変だ」

 

「それに明日、風邪で欠席なさると皆勤賞を逃してしまいますよ」

 

風邪と思った天一が治療を申し出たが、たいした事もないので治療を断ると

それを聞いていた太陰(たいいん)、勾陣(こうじん)、天后(てんこう)の三人が俺に治療を受けるように

話しかけてきた。

確かに彼女達の言っている事は間違っていない。

しかし、こんな事でいちいち頼るのも情けない気する……。

チラリと十二神将の男組を見るが……。

 

「さて、俺達は散歩でもしてくるか」

 

「そうだな。たまにはいいだろう騰蛇(とうだ)お前も来い」

 

「?別にいいが……」

 

俺が奴等を見た瞬間、急に散歩をすると言い出し、隠形をして男組は全員俺の目の前から

姿を消した。

待てやコラ!逃げやがったな、あの裏切り者共め!!

 

「では、治療をするので動かないでください」

 

「わかった」

 

まあいい。

別に問題はないんだ。

大人しく治療を受けよう。

 

☆☆☆

 

「寮の周辺にはいないな……」

 

「まさか簡単な物とはいえ、天空の結界を抜けてくるとは……

晴明が震えた時は呪術を受けたのではないのかと肝を冷やしたぞ」

 

男子寮周辺に術者を即策する俺、六合と十二神将。

周辺を捜索している清龍と玄武の会話を聞いてさっきの事を思い出す…。

結界の一部が破られると同時に身震いをした晴明。

何かの呪術を受けたのではないかと心配をしたが何も無かった。

天空の結界が相手の術を相殺したのか?それともこちらの様子もしくは戦力を一瞬でもいいから

確認したかったのか…?

 

「例の婆さんが仕掛けてきたか……」

 

「いや、あの小娘程度では我が結界を抜けることは不可能」

 

「あの老婆よりも高位の術者となるが……そんな人間は今のところ知らないな。

騰蛇(とうだ)、陰陽塾であの老婆よりも強力な術者は居るか?もしくは塾内に侵入者は居たか?」

 

周辺を捜索し終わった俺達は自分達の考えを述べる。

騰蛇(とうだ)は塾長を勤めている老婆を怪しんでいるが、それはない。

天空の言っているようにあの程度の人間に一部でも破られるような代物ではない。

しかし、そうなると天空の結界を破るような人間に心当たりがない。

晴明に陰陽塾にだけ連れ出される騰蛇(とうだ)に塾内で老婆以外の高位の術者に心当たりを聞いてみるが……。

 

「いや…見ていない」

 

「そうか……」

 

しかたがない。

敵が動くまで待つとしよう。

 

「それにしても晴明は、用心深いのかそうでないのか分からんな」

 

「身内にも厳しい発言をしながら、結局は甘いからな……晴明は」

 

これ以上議論をしてもしょうがないと思ったのか玄武(げんぶ)、朱雀(すざく)が晴明

について話し出す。

 

「まあ、今回はよいではないか。術の効果で盗み聞きをされては適わん。

確か、テレビでやっていたアイコンタクトと言うやつだったな」

 

「ああ、チラリと我等を見たあの訴え掛けるような目は、

術者に悟られないように周囲を探って来いという意味だったのだろう」

 

そして、白虎(びゃっこ)と玄武(げんぶ)も続くように喋り始めた。

騰蛇以外は陰陽塾に行けなくなった。

やることがない俺達はテレビを見るのが趣味の一つとなった為、晴明のアイコンタクトにも対応が出来た。

晴明本人は伝わればいい、程度に思っていたかもしれないが俺は久しぶりの主の命を全う出来た事に

満足していた。

テレビには感謝だな。

 



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8話

「土御門君、ちょっといい?」

 

天一の治療を受けた翌日の今日。

陰陽塾で平穏な日常を謳歌していると、クラスメイトの女子学生が二時限目の

休み時間に話しかけて来たので話を聞いてみると……。

 

『アイツ……本物のバカだったんだな………』

 

「……」

 

そう、隠形している紅蓮の言う本物のバカ…春虎がついにやらかしたらしい。

なんでもクラスメイトの男子とケンカして式神勝負をする事になったようだ。

本当に不幸というかアホと言うか……。

つーか、アイツに式神なんて居たんだな……。

…って、そんな事考えている場合じゃないねぇ!

あのバカは素人だ、塾講師が付いていてもヘタしたら大怪我をするぞ。

 

「紅蓮。悪いが様子を見てきてくれないか?」

 

『はぁ……しょうがない奴だな…たしか呪練場(じゅれんじょう)だったな』

 

「すまん」

 

あのバカが大怪我をしていないか心配になった俺は、紅蓮に様子を見てくるように

頼むと、姿を見せていないが、呆れた声で俺の願いを了承し、呪術の修練場である

『呪練場(じゅれんじょう)』へと向かっていった。

 

 

呪練場

 

国内最大級の呪術の練習場であり、防壁は国家一級陰陽師が施したもので

相当威力の大きい呪術や霊災でも破られない仕様となっている。

 

 

「まったく、バカもバカだが…あの先生は一体何を考えているのやら」

 

脳裏に浮かぶ関西弁の怪しい講師を思い出しながら、教室に戻る俺だった。

 

☆☆

 

「俺だって式神じゃん」

 

「ふざけんな!!」

 

今、呪練場の中央で術を施している剣道の胴着と木刀?を装備したバカが世に言うヤンキー?風な

男子生徒が出したと思われる黒い人型の簡易式と対峙しており、術者であるはずのバカが

自分も式神なのだからと言って自身の護法式である狐の少女の代わりに直接戦うらしい。

 

……………。

 

バカだ!アイツは正真正銘の大バカ者だ!!

見ろ!観客席に居る周りの人間が全員ポカーンとした表情をし、時が止まっているかの様に

固まってしまっているぞ!!

 

「ははは春虎様っ!!せ、僭越ながら賛同致しかねますっ!刃を交えるのはあくまでコンの

役目!ど…どうか春虎様は後方にて!!」

 

「ダメだ。だって俺、式神の使い方が全然わからねぇもん」

 

おいおい、なんか開き直ってるぞ……。

 

「そそ、そのような事はコンだけでも……!」

 

「悪い。それじゃあ意味ないんだ。

わからない俺は……俺なりのやり方を見つけていかなきゃいけないし……

それにだ、コン」

 

「?」

 

「これは、俺の喧嘩だ」

 

……フン。

バカはバカでも……面白いバカの様だ。

その度胸だけは認めてやるよ。

 

「でで、でもっ!!」

 

「そんな顔すんなって。

これでも喧嘩はそこそこ経験がある」

 

頑なに自分の意思を曲げない主に涙目になりながら進言する式の

頭を撫でた後、笑みを見せて敵である簡易式を睨む春虎。

 

「準備は……ええようやな」

 

立会人として少し離れた場所に居る眼鏡の講師が中央に居る春虎と自身の簡易式

から少し離れた所に居る、男子生徒に確認を取り……。

 

「では……始め!!」

 

試合が始まり拳と木刀が交差する。

術者の男子生徒と春虎も気合は十分。

レベルは低いだろうが、お互い本気の真剣勝負。

正直最後まで見届けて、主である晴明に報告したい所だが……。

 

怪しいネズミを追い出すか……

 

 

・・・

 

 

「なんと…無様な…!見るに堪えぬ!!」

 

「…アレが王の選んだ式神だというのか?」

 

呪練場の観客席よりも後方にある柱の裏で中央の戦いを見て激昂している一人の男と

闇のように深い姿なき異形の声。

彼等の目的は崇拝する王自らが式に選んだ青年がどれほど優秀なのかを見ること………。

それなのに、目の前で行われている試合は低レベルかつ無様なもの。

呆れを通り越して憎しみすら沸いている。

 

「北辰王はまだ目覚めていません。

今はまだ未熟な子供……近しい者を身近に置きたいと思うのも無理からぬことでしょう」

 

「だが、その大将があのような下郎などと……到底承服できぬ…」

 

「はい…ええ、まったく」

 

「あのような王自らが自身を貶めるような真似はさせては成らない。

王が目覚めるまででいい……誰かが傍について正しく導かねば…」

 

「ならば……他でもない私の導きで…王の威光を取り戻さねば……!!

その為にまず、あの邪魔なガキを…」

 

姿を見えぬ声と会話した男は一つの結論に至り、懐から呪符を取り出したその時。

炎が男を襲い、持っていた呪符を燃やしてしまう。

 

「なっ!?誰だ!姿を見せろ!!」

 

男は辺りを警戒するが

誰もいない。

 

「隠形か……ならば…角行鬼(かくぎょうき)!これ以上、何かされる前にこの場から離脱します!!」

 

「……ふん、いいだろう」

 

男の命令に異形の声が承諾すると、男は姿を消してしまった。

 

『逃げたか……』

 

主の命により隠形をして青年達の真剣勝負を見守っていた紅蓮は

異形の声の放つ僅かな瘴気を察知して男を観察していたが、動きを見せたので

自身の生み出す炎で呪府を灰にした後、追撃を加えようと背後を取ったが、強い瘴気が男を覆うようにして発生し、瘴気が晴れた時には男はその場にいなかった。

 

『やれやれ、晴明に報告することが増えた』

 

 

☆☆☆

 

次の日……。

 

寮の布団で目覚めた俺は昨日、紅蓮から聞いた二つの報告を思い出した。

一つは式神勝負で春虎がクラスメイトの男子と引き分けた事。

もう一つは姿を見せない異形の存在と共に春虎を見ていた男。

北辰王と言っていたらしいから正体は夜光信者……。

目的は、信仰している北辰王の近くをウロチョロする春虎の抹殺か……。

 

「紅蓮。すまないが今日一日、春虎を見ていてくれないか?」

 

「わかった。それと、今日からしばらくは他の神将達も陰陽塾に連れて行けよ」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

俺の頼みを聞いて姿を現した紅蓮は、護衛の十二神将を付けるように言った後、隠形を

して俺の部屋から出て行った。

それにしてもとんでもない事になったもんだ。

まさか夏目クンを確保するのではなく、周囲の人間の抹殺とは……。

そのうち冬児や俺の命が狙われかねないな……怖い怖い。

 

「朱雀、太陰、六合、勾陣、付いてきてくれ」

 

「「「「了解」」」」

 

こうして俺は塾の準備をした後、隠形をした神将4人を連れて陰陽塾へと向かった。

 

☆☆☆

 

 

私の名前は倉橋 京子(くらはし きょうこ)。

陰陽塾の一年生。

絶賛初恋が続く恋する乙女である。

現在は思い出のあの人と話すための一歩を踏み出そうとしている。

ここまで来る道のりは本当に長かった……。

 

今年の春は、土御門 夏目君に紹介してもらおうとしたんだけど……。

 

『ごめん。僕はあの人とほとんど面識が無いんだ……』

 

と言って断られるし……。

まあ、無理に頼むのは嫌だったからその場は引いたんだけど。

別の方法をあの手この手と考えているうちに夏となってしまった。

彼は三年生だ。このままでは、話しかけられずに卒業してしまう!

そう思って焦っていた夏休みを終えた今、ついに一昨日の月曜日にチャンスが到来したの!!!

チャンス…別名、土御門 春虎。

夏休みが終わった後、転入してきた二人の男子生徒の片割れ。

倉橋の情報では彼はあの人の弟らしい。

これは神様が私にくれた最後のチャンス!

彼と仲良くし、あの人……土御門 武さんに絶対に会う!!

 

こうして、私のあの人と仲良くなるための計画を実行し始めたのだけど……。

何故だろう?普段クールだった夏目君の様子がおかしい。

転入したての彼に学食の場所を教えようとしたら……

 

『大丈夫だよ、倉橋さん。学食の場所は僕が教えるから…』

 

授業内容を理解していないだろうと思いノートを貸そうとしたら……。

 

『大丈夫だよ、倉橋さん。ボクガノートヲ見セルカラ……』

 

彼と友達になる為のきっかけを作ろうとすると必ず、夏目君が邪魔をする。

まさかこれは………。

 

『京子ちゃんも読んでみない?このファンタジー(BL)小説!おもしろいわよ~』

 

我が女子寮の寮母である木府 亜子(きふ あこ)さんの愛読書物に出てくるような関係なのでは!?

しかし、あの成績優秀で女の子にモテそうな夏目君が彼と特殊な関係になるだろうか?

疑問に思った私は、彼と一緒に転入してきた阿刀 冬児(あと とうじ)君に二人の関係を聞いてみた。

すると……。

 

『土御門のしきたりで、あの二人は心も体も繋がっている』

 

驚愕。

まさにその一言。

まさか本当にそんな関係の人が居るなんて……。

ま、まぁ、夏目君が邪魔する理由も分かったし、そういう事ならちゃんと夏目君に話を通して

彼とは仲良くなりましょう。

 

そう思って、夏目君に話をしようとした昨日……。

弟君が男子生徒と授業中に喧嘩をした。

喧嘩と言っても、特別扱いの彼を気に食わないクラスメイトの男子が、一方的に突っかかり、

彼の護法式の逆鱗に触れて、返り討ち。

そして、このままでいけないと判断した大友先生により呪練場で式神勝負をする事となった。

なったのだけど……。

 

男子生徒は人型の簡易式に対して彼は自分の護法式である小さな女の子を出すのかと

クラス全員が思って、呪練場の中央を観客席から見ていたのだけど……。

 

「俺だって式神じゃん」

 

剣道の胴着と木刀を装備した彼が現れ、自分も式神だから戦うと宣言。

護法の少女との会話を聞いて分かったが、彼は自分の喧嘩だからと一人で戦う事を決めたらしい。

心意気は認めるけど……陰陽師としては凄いバカね…。

 

そして、呆れるクラスメイトの皆が見守る中、式神勝負が始まった。

始まったのだけど……内容は……唯の殴り合い。

簡易式が彼を殴り、殴られた彼が木刀で簡易式を殴り……。

私の知っている式神勝負とはかなりかけ離れた泥臭い勝負が目の前で展開され……

最後は男子生徒の呪力切れと弟君の体力切れにより引き分け……。

 

正直、女子には見るに耐えない勝負だったけど、男子には好評だったようで

勝負の後、彼はクラスメイト達と仲良くなったみたいで皆から春虎やツッチーと呼ばれるようになった。

そして、放課後の教室でついに私は夏目君に……。

 

「私、武さんが好きなの!だから春虎に紹介してもらえるように協力して!!」

 

「え…えーーー!!」

 

お願いした。

誠心誠意お願いし、快く了承してもらった。

少し彼の両肩に指が食い込んだかも知れないが、彼は男の子。

問題は無いはずよ。

でも……彼の肩、男子にしては細くて華奢だったような……。

まぁ、それはいいわ!

今日!夏目君と春虎と冬児の三人の協力により今日の放課後、ついに武さんに会える……。

 

………。

 

そして、今日の講義が全て終了し、春虎と夏目君が武さんを呼びに言っているのだけど……。

 

「おそいわね……どうかしたのかしら?」

 

「さあ?もしかしたら武さんが居なくて探しているのかもな……」

 

そう、私を武さんに紹介してもらう為に一年の教室で待っているのだけど

武さんを呼びに行っている二人が帰ってこない。

もしかしたら、冬児の言うように先に帰ったんじゃ……。

 

そんな事を思っていると……。

 

「大変だ!夏目が黒い何かに連れて行かれた!!」

 

……。

………。

えーーー!!

 

 




コン「ぱ、ぱぱ、パソコンの前の皆様、はじめましてでございまする!
本日はアニメにならってコンが予告を担当します!!」

コン「じ、次回!現れる謎の男と異形の者、は、はは春虎様と誘拐された夏目殿や、兄君たちの運命は……ど、どうなるんでしょうか!?コ、コココ、コンは心配でありまするーーーーーーー!!!」

※コンさん、涙目でフェードアウトした為、『ジャンケン☆コン!!』のコーナーは中止と成りました



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9話 上

「へ~京子の奴、兄貴の事が好きだったんだな……」

 

「うん、そうみたい。本人から聞いたときはビックリしたよ」

 

京子に兄貴を紹介する為、兄貴の居るであろう三年の教室に向かう俺と夏目。

しかし京子と兄貴はいつ知り合ったのだろうか?

少なくとも俺は幼い時、京子と会った覚えはない。

 

「それにしても…凄いなー倉橋さんは……」

 

「何が?」

 

「だって、あそこまで正直に自分の気持ちを他人に伝えられるんだよ。

凄い事じゃないか……正直羨ましいよ」

 

「まぁ…確かに凄いよな」

 

夏目の言うとおり、あそこまで他人に自分の気持ちを伝えられる京子は凄いと思う。

俺は……無理だな。うん。

そんな事を思いながら廊下を歩いていると……。

 

「はると……!!」

 

突然の夏目の声と共に俺の視界が黒く塗りつぶされ前が見えなくなる。

一体ナンなんだこりゃ!?

 

「夏目!!何所だ!?無事なのか!?おい!!」

 

「春虎様!落ち着いてください!!むやみに動いては危険です!!」

 

夏目が居た場所に手を伸ばすが空を切るだけ。

大きな声で呼びかけても返事はない。

聞こえるのは俺を止めるコンの声のみ。

どこだ夏目!

 

暗い闇をさまようと、次第に視界は晴れていき、いつもの陰陽塾の廊下の光景が目の前に広がる。

夏目は!?

 

「夏目!返事をしろ!夏目!!」

 

辺りを見渡し探してみるも、夏目はいない。

くそ!!どうすれば!!

 

「小僧!!そのチンチクリンな式神を連れて教室に戻れ!

奴の狙いは土御門 夏目と親しい人間だ!!」

 

「ち!ちちち、チンチクリンですとーーー!!」

 

「お前は!?」

 

後ろから聞こえた怒鳴り声に振り向くと、兄貴の小動物な式神……『紅蓮』が居た。

どうしてここに…。

 

「いいから、さっさと行くぞ!間に合わなくなってもいいのか!?」

 

「っち!」

 

走り出す、紅蓮を追いかけながら教室に向かう俺とコン。

紅蓮についてはいろいろ聞きたい事があるが、今はそれどころじゃない!

無事で居てくれよみんな!!

ダッシュで階段を駆け下り、いつも自分達の通う教室の扉を勢いよく、開ける。

息を切らしながら、周りを見ると全員居る。

よかった……。

って!安心している場合じゃない!!

 

「大変だ!夏目が黒い何かに連れて行かれた!!」

 

 

☆☆☆

 

 

「もしかしたら夜光信者の仕業かも……全く、冗談じゃないわよ!!

よりにもよってこんな時に!!」

 

「どうゆう事だよ…何か知っているのか!?」

 

俺が何があったのか詳細に話す。

すると、京子は何か知っているらしい反応をみせる。

俺はどういうことなのか京子に質問したその時……。

 

「うわぁあああ!!」

 

冬児を通して仲良くなったクラスメイトの百枝 天馬(ももえ てんま)が教室に駆け込む

と同時に黒い何かが、教室の扉を破壊して中に入ってきた。

 

「春虎様!」

 

「なんじゃありゃーー!!天馬!お前のペットか!?」

 

「違うよ!!廊下を歩いていたら追いかけてきたんだよ!!」

 

天馬にアレが何者なのか聞いてみるが知らないらしい。

じゃあ、一体ナンなんだよアレは…!!

つーか、天馬は何で錫杖なんて持ってるんだ?

 

「蟲毒(こどく)……。」

 

「蟲毒だと?これが……」

 

こどく?孤独?京子と冬児は知っているみたいだけど…なんなんだそれ?

 

「バカ虎…お前に分かりやすく言うと陰陽術でメジャーな呪詛だ。

蜘蛛や百足なんかの虫を、大量に一つの壺の中に入れて共食いさせた上で

最後に生き残った強い『蟲』を器にして、呪詛という呪力を注ぎ込んだ式神の一種だ」

 

京子と冬児が何を言っているのか分からなくて首をかしげていると

呆れた様子で分かりやすく説明してくれた冬児。

……もう少し勉強しよ…。

 

「で…でも、おかしくない!?『蟲毒』の呪詛式は禁呪だけど塾舎はビル全体に

結界が張ってあるから、許可がないかぎり、侵入なんて出来ないはずなのに!!」

 

天馬がご丁寧に解説していると、黒い物体がぷっくりと膨らみ……。

 

「うわーーー!!!」

 

「きゃーーー!!」

 

ギョロリと馬鹿でかい瞳を開眼したと、同時に黒くて小さな塊が瞳から

涙のように湧き出て俺達に向かって飛んでくる。

気持ち悪っ!!

 

「ちくしょう。ご丁寧に携帯もつながらねぇ!!」

 

「しまった!結界が張られているわ!」

 

「なんだって!?」

 

本当だ!冬児の言う通り、携帯が使えない上、京子の言う結界のせいで廊下に逃げる事も

出来ない!!

ちくしょう!!

 

「天馬!手伝って!!あとの二人は素人なんだから、私達で何とかしないと!!」

 

「あ、う……。わ!!」

 

「天馬!!」

 

目玉の式神に応戦しようと懐から、術符を取り出す二人。

しかし、天馬は緊張の為か符を床に落としてしまい大きな隙が出来てしまった為、

謎の黒い物体が天馬を襲う。

 

「伏せろ!眼鏡!!」

 

「え?…うひゃーー!!」

 

「何、この炎!?」

 

眼鏡…じゃなかった。

天馬を襲った黒い物体と目玉は結界を破って、出現した炎により焼き消える。

まさか、この声は……。

 

「紅蓮!!」

 

「俺がちょっと目を放した瞬間にこれか……運がなさ過ぎるだろ…」

 

額の模様から赤い光を放ちながら体に炎を纏わせる紅蓮。

炎を操る…これが、紅蓮の能力か…。

 

「運が無い事は認めるが、今まで何所に行ってたんだよ」

 

「俺は、お前が教室に入ったのを見届けた後、土御門 夏目の居場所を探っていたんだよ。

それにしても……あんな悪趣味な式神を見る事になるとは……」

 

「夏目の居場所が分かるのか!?」

 

「ああ、奴はもう自分の存在を隠す気がないのだろう。

おかげですぐに見つかった。」

 

「本当か!?じゃあ早速、夏目を助けに行こう!」

 

「ふざけるな!お前みたいな半人前以下の小僧が行っても死ぬだけだ!!」

 

「!?」

 

紅蓮の言葉が心に刺さる。

確かに俺は、バカで素人で…何も出来ない。

だけど……。

 

「俺は夏目の式神だ!夏目を守るのが俺の役目なんだ!!邪魔すんな!!!」

 

「………相手は夜光信者の呪捜官と異形の何かだ。何をしてくるのか分からない、

ヘタしたら本当に死ぬんだぞ」

 

確認をするように敵の事を話す紅蓮。

俺は……。

 

「そんな事は関係ない。俺は…夏目を助ける」

 

正直に自分の気持ちを紅蓮に向かって言葉にして吐き出した。

 

「春虎様ぁ……」

 

「犯人は呪捜官……なるほど、だから塾内に侵入できたのね」

 

俺の言葉に黙り、考えるように目を瞑った紅蓮。

そして……。

 

「……付いてくるなら、勝手にしろ。ただし、余計な事をするな」

 

「おう!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『晴明。どうやら敵は動いたようだぞ』

 

「ああ、分かっている」

 

勾陣もどうやら敵の瘴気を感知したらしい。

まさか、紅蓮に付いて貰うように頼んだ今日に動き出すとは……。

瘴気の動きは手に取るよう分かる。

場所は『呪練場』か…。

つーか、俺みたいな学生でも感知される瘴気って事は雑魚のようだ。

春虎の心配は不要だったかな?

きっとすぐにでも、塾講師である先生達にボコられたあげくに祓われて終わりだろう。

しかし、これは規模が小さいがテレビでしか見れないような実戦を生で見れる

チャンスではなかろうか?

ならば……。

 

「『呪練場』に行くか」

 

『我々もこのまま隠形して付いて行こう』

 

野次馬根性丸出しで見に行くとしよう。

 

………。

 

『我こそは角行鬼!』

 

「そして我が名は飛車丸!!」

 

何これ?

塾講師の先生達による実戦を見ることが出来ると期待していたのに、わざわざ『呪練所』まで

来て、行われているのは戦闘ではなく、へんな男の痛々しい奇行。

男は自分を飛車丸と名乗り、仮面をつけた自分の式神には角行鬼と名乗らせている。

なるほど……中二病か…。

たぶん自分が、土御門 夜光の式神だと思っているんだろう。

 

「ん?」

 

男の中二な行動で気が付かなかったが、よく見れば春虎と冬児と知らない顔の男女に……

呪符で縛られた夏目がいる。

何してるんだあいつ等?

 

「本物なの?あれ、本物の角行鬼!?ウソォ!!?」

 

いやいや、眼鏡君。

本物のわけないでしょ。

あれは唯の中二病の産物です。

つーか、やめて!

あの男を見ているとまるで昔の自分を見ているようで辛いんだよ!!

 

「角行鬼~!その生意気な白いおチビちゃんをやっちゃって~~!!」

 

ああ…あの男を凄く殴りたい…。

そして出来るなら俺の黒歴史ごと存在を抹消したい。

 

 



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9話 中

紅蓮の後を追いかけて辿り着いたのは『呪練場』。

中央には夜光信者と思われる黒いスーツの男と呪符により自由を奪われ、床に

転がっている夏目。

 

「これではっきりしたわ。さすがに貴方とは予想はしていなかったけど……

まさか本当に呪捜官が犯人なんてね。」

 

「倉橋家のじゃじゃ馬ですか。日頃は王とあまり関わっていなかったのに……

予想外でしたね」

 

「おい!夏目には何もしてないんだろうな!?」

 

「もちろんです。霊的に拘束はしていますが、夏目君には危害を加える気は毛頭ありません。

雛とはいえ、彼は我々の王なのですから」

 

相手の言葉はあまり信用したくないが、夏目の状態を見る限り本当に拘束されている

だけのようだ。

夏目の状態に少しだけ安心していると……。

 

「さて、私はこれから彼を解放して、大人しく引き下がる事にしましょう」

 

「ほう…。陰陽塾で騒動を起こしたくせにやけにあっさり引くとは……何故だ?」

 

男がくるりと背を向けた時、紅蓮が紅の炎を纏いながら男を引きとめ、目的を問う。

確かに紅蓮の言う通りだ。

夏目を拉致したくせに、その夏目をあっさり解放。

一体、奴の目的は何なんだ?

 

「おやおや?その炎は……なるほど。君はあの時の…。

いいでしょう。あの時、隠形をしていた私を察知したご褒美に教えて差し上げましょう」

 

こいつ、紅蓮を知っているのか?

男の口ぶりから察すると以前に紅蓮と会っているらしい。

 

「今回は私と言う存在を彼に知ってもらうついでに邪魔者を抹殺する為の行動でしたからね。

もう、重要な目的は達成されているのですよ」

 

「そんな事の為に……。わかっているんですか?

もう貴方は陰陽庁に戻れない!むしろ逆に追われる立場になる!!

逃げ切れるなんて本当に出来ると思っているんですか!?」

 

そうだ。

夏目の言うとおりだ。

こんな事をしておいて陰陽庁に戻れるわけがない。

この後、コイツはどうするつもりなんだ?

 

「王よ…貴方の崇拝者は陰陽庁に大勢存在しております。」

 

「そんなバカな…!!」

 

「当然でしょう?陰陽術に深く関わる者にこそ北辰王の偉大さは理解できる。

しかし、愚かな事にほとんどの者は王を闇へと葬り、存在をタブーにしている。

これを忘恩の徒と呼ばずしてなんと呼びましょう」

 

マジかよ!?

夜光信者は陰陽庁にも複数存在しているのか!!

夏目に諭すように説明する男の言葉に驚愕する俺達。

 

「では、今回はこれで失礼いたします。遠からぬ再会を願って……」

 

夏目に向かい、一礼する男。

ダメだ!この男をここで見逃してはいけない!!

ここで見逃せば、この男はまた夏目に手を出してくる!!

その時、夏目が傷つけば、俺は『また守れなかった』と、きっと後悔する!!

そうならないように!

夏目を傷つけさせないように!!

 

 

俺が!

 

俺が…夏目を守る!!

 

 

「…天馬。これ、借りるぞ」

 

「え?うん。これは元々、大友先生が春虎君に渡して欲しいって言われていたやつだから

返さなくていいよ。でも春虎君、一体なにを……」

 

「………」

 

天馬が持っていた錫杖を借りる。

天馬の話では元々、俺に渡すように大友先生に言われていた物らしいから

壊しても大丈夫だろう。

もし、天馬の私物だったら弁償しないといけないと思っていたから少し気が楽だ。

 

「おや?どうゆうつもりですか?」

 

「お前をここで見逃すわけにはいかない」

 

「おやおや……別に構いませんよ?なんでもやってみてごらんなさい。

本物の陰陽師として、実力のほどを見て差し上げましょう。」

 

俺は錫杖の先端を奴に向けると、奴は滑稽な物を見るような表情を浮かべて

俺を見る。

分かってはいたけど、完全に俺を舐めきっているな……。

 

「止しなさい!腐っていても、相手はプロよ!!アンタみたいな素人じゃ、

相手にならないわ!」

 

「そんな事、言われなくても分かってる。

でもさ、俺はもう夏目を守れなかったと後悔はしたくない!!」

 

「ははははは!!北辰王を守る?貴方みたいな未熟者が?

いいでしょう!このまま帰ろうと思いましたが止めです!!

王に相応しい臣が私…いえ、『私達』であることを君を殺し、王の前で証明しましょう!!!」

 

奴が両腕を大きく上に上げると、瘴気と共に一体の巨大な鬼が姿を現す。

頭には鬼特有の角、顔には仮面。

そして……奴には左腕がない。

 

「隻腕!?隻腕の鬼って……そんなっまさか!?」

 

『我が偉大なる王よ…貴方より賜りし名をお忘れではあるまい!

我等は北辰王、土御門 夜光が使役せし二体の護法……

我こそは角行鬼!』

 

「そして我が名は飛車丸!!」

 

「本物なの?あれ、本物の角行鬼!?ウソォ!!?」

 

鬼の出現に動揺する俺達。

角行鬼と飛車丸って……確か塾長が言っていた夜光の式神だよな…。

本当に本物なのか?

 

『王よ…我が姿をお見せしても目覚める兆候すらないとは……』

 

「これは中々てこずりそうだ」

 

「そんな!角行鬼と飛車丸は夜光亡き後、闇へと消え、所在は今でも分からないままのはず!?」

 

「それはですね…君が夜行の生まれ変わり私は飛車丸の生まれ変わりなんです…だからこそ角行鬼は

「ぷっ!はははははははははっ!!」……」

 

自分を飛車丸と名乗った男が夏目の疑問に対し、答えている途中。

床の方から笑い声が聞こえて来た。

突然の笑い声に全員の視線が、紅蓮に集中する。

何がそんなにおかしいんだ?

 

「お、お前が……?お前みたいなの雑魚が飛車丸で目の前の木偶の棒が角行鬼だって?

ぷぷぷっ!」

 

「角行鬼~!その生意気な白いおチビちゃんをやっちゃって~~!!」

 

『たかが畜生の式神風情が!!我々を侮辱した事を後悔させてくれる!!』

 

突然のオカマボイスに背筋がゾクリと来たがそんな事はどうでもいい。

紅蓮の言った事が本当なら、あの男は飛車丸ではなく、ただの頭のネジが数本抜けた

イカレたオカマだ!!

そう思ったら全然怖くねぇ!!

紅蓮に向かって突進してくる鬼を迎撃するために錫杖を何時でも鬼に

突き出せるように構える。

攻撃するタイミングは紅蓮を攻撃する瞬間……。

 

「ほう……いい武器を持ってるみたいだから手伝ってやるよ」

 

「え?」

 

俺が鬼に備えていると、床に居た紅蓮が俺の肩によじ登る。

どうやら手伝ってくれるらしいが……。

目の前には俺ごと紅蓮を殴ろうと大きな拳を振りかぶり突進してくる鬼。

もしかして俺って盾にされてる?

 

「俺が合図したら奴の懐に飛び込んで、奴に攻撃しろ!」

 

「はぁ!?ちょ…!?」

 

「今だ!!」

 

「くっそ!!やってやるよ!!」

 

戸惑う俺を無視して、合図と思われる声と共に俺の肩から飛び出し炎を纏う。

そして纏った炎を凄い勢いで向かって来る拳に放つ紅蓮。

俺はそんな紅蓮に悪態をついて、鬼の顔面に狙いをさだめ……。

 

「くらえ!!」

 

俺は全力で鬼の面に錫杖を突き刺した。

面はバキンと言う音を立てて割れ、次にはズブリと肉を刺したような感覚が錫杖を

伝って感じる。

手ごたえあり!

 

「やばいぞ!急いで離れろ!!」

 

「なんで瘴気が!?」

 

『ああぁぁぁああああぁあああああ!!!』

 

確かな手ごたえに鬼を倒したと思った俺だったが、

割った面が床に落ちた瞬間。

面から瘴気が湧き出て……ヤバイ!瘴気に飲み込まれる!!

苦しむ鬼の声をBGMに何とか脱出しようと体を動かすが間に合わない!!

 

「チッ!!仕方のない奴め!!」

 

瘴気に囲まれ、もうだめだと思った次の瞬間。

紅蓮の盛大な舌打ちと共に瘴気で見えにくくなった視界が赤…いや紅一色に一瞬だけ

染まったと思ったら、誰かに抱えられ空を飛んでいた。

 

☆☆

 

 

「チッ!!仕方のない奴め!!」

 

晴明の弟である春虎が怪しい瘴気を薄く漂わせている面を破壊した瞬間

面から瘴気が勢いよくあふれ出し、鬼ごと春虎を飲み込もうと動き出す。

このままでは春虎は瘴気に飲み込まれる。

助けるにはこの姿だと間に合わない。

……すまん…晴明。

 

俺は白い獣の姿から本来の姿に戻り、春虎にまとわり付く瘴気を炎で祓った

後、春虎を抱えて後方に飛ぶ。

 

「あ、あんた誰だ?」

 

右腕で抱えていた春虎が、ようやく状況を理解したのか俺が誰なのか質問をしてくる。

 

「紅蓮だ…物覚えの悪い奴め……。

それよりも前を見ろ、お前が壊した面から何かが出てくるぞ。」

 

「え…?あの…マジで?」

 

俺と、鬼を取り込み形を作る瘴気を見ながら驚く春虎。

同時に見て驚くなんて器用な奴だ……。

それとも俺の言葉を聞いて自分のせいでこうなったとでも思っているからか?

 

「春虎様!大丈夫でありますか!?」

 

「春虎!!」

 

「春虎君!!」

 

「春虎、怪我はない!?」

 

チンチクリンの式神…たしかコンだったか?あと晴明が面倒をみていた冬児に眼鏡男子と

昔、俺を撫で回した女子が春虎を心配して駆け寄ってくる。

 

「ああ、なんとか……」

 

春虎が近寄ってくる仲間達に無事を報告しようとした時。

 

「こ、こんなの聞いてない!あの面は角行鬼を制御するための封印のはず!!

もう、ワケがわからな~~~い!!!」

 

鬼を使役していた男が喚きだした後、逃げ出した。

どうゆうことだ?あの面はアイツが鬼に付けさせた物じゃないのか?

それに、あの男は聞いていないと言った……それはつまり裏で糸を

引いている奴がいるって事に……

 

『ブラァアアアアアアア!!!』

 

俺が考え事をしながら瘴気を警戒していると。

瘴気は四速歩行の獣のような形をした後、咆哮と共に姿を現した。

姿を現した異形の物は鋭い爪と牙を持つ大人一人を丸かじりできるほど巨大な

虎だった。

ただ、普通の虎とは違いその背中には大きく鳥のような翼が生えていた。

 

 

 

 

 

 

 




コン「ジャンケンコン!あっち向いてホイ!」勝ち  指→

窮奇「………」 頭←

コン「ジャンケンコン!あっち向いてホイ!」 頭→

窮奇「………」勝ち 指→

コン「っは!?」

窮奇「ブラァアアアアアア!!」

モシャモシャ……ゴクンッ…。

※コンさんは美味しく頂かれました。



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9話 下

サブタイトル書き忘れた様なので書きました。


『ほう……まさか目覚めて始めに見たのが貴様とは…実に忌々しい』

 

「なに?」

 

異形は俺を見て言葉のとおり忌々しそうな表情で俺を見る。

何だ?こいつは俺を知っているのか?

 

『まさか…覚えていないというのか!?

あの小僧と共に我が肉体を滅ぼした事も!!』

 

「…あの小僧?」

 

誰だ?もしかして晴明の事か?

しかし、俺はコイツと会った覚えなんてまるでない。

 

『まあいい。覚えていようがいまいが関係ない。

貴様を殺し!あの小僧の血筋の人間、全てを食らってくれるわぁ!!』

 

「よく分からんが、お前はここで滅ぼす!!」

 

真正面からこちらに向かって来る奴に、右手をかざして炎を浴びせる。

しかし……。

 

『ブラァアアアアアアアアア!!』

 

「なに!?」

 

奴の咆哮と共に俺が奴に浴びせた炎が掻き消える。

 

『貴様の炎など、恐れるに足らぬわ!!』

 

「っち!!お前等、ここは俺が食い止めるからさっさと逃げろ!!」

 

「でも、夏目が……」

 

俺の炎が効かない事が分かり、後ろに居る春虎たちを守れないと思った俺は

囮となって逃がす事にしたが、土御門 夏目が気になるのか誰一人逃げ出そうとはしない。

 

「……一瞬だけ隙を作る。その隙に乗じて逃げるか、土御門 夏目を助けるかはお前達の

自由だ」

 

「……ありがとう」

 

春虎に礼を言われると同時に右手に炎を灯し、異形の真上に飛ぶ。

 

『バカが!ワザワザ我に食われに来たか!!』

 

奴が自分の真上に飛んだ俺を見て、大きく口を開き俺を食らいつこうと

牙をむき出しにして襲ってくる。

俺は奴の口めがけ、さっきと同じように右手をかざす。

しかし、さっきと違い高温の白い炎蛇を奴の顔に叩き込む。

 

「食らえ!!」

 

『グアァアアアアアア!!』

 

蛇の形をした白い炎は奴の顔面に直撃した事で、奴は苦しみの声を上げる。

よし!このまま一気に……。

 

『オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、オノレ、

オノレ、オノレェエエエエエエエエイ!!!! 』

 

「何!?」

 

俺が一気に畳みかけようとした瞬間、奴は自身の瘴気を全方位に放出した。

ヤバイ!!これほどの瘴気をあいつ等が受けたら……。

最悪の展開を想像してしまいながらも、春虎たちが恐らく居るであろう、土御門 夏目が

倒れていた場所に目をやる。

 

「「「急急如律令(オーダー)!!!」」」

 

春虎たちを視線で捕らえると、夏目と眼鏡に例の少女の三人が妖気を防ぐために結界を張っていた。

そこそこ強力な結界だが、襲い掛かってくる妖気を防げるかどうかは五分五分だ。

 

 

☆☆☆

 

 

ー異形の物である窮奇が復活する少し前の事ー

 

 

「晴明、更衣室で何をするつもりだ?」

 

「ん?目立ちたくないから変装をしようかと思ってね」

 

変質者な中二病をボコボコにしてやろうと決心した俺は、今後の事を考え

正体がばれないように変装する事にしたので男子更衣室に隅に置かれた着物『式服』を身に纏い

備え付けだと思われる狐の仮面に認識を阻害する術を施した後、顔に付ける。

これで、俺だと認識される事はない……たぶん。

しかし……近くにあった鏡で自分の姿をみる。

うん、何所からどう観察してもりっぱな不審者だ。

 

「さて、準備も出来たから行こうか?」

 

と、意気込んで『兎歩』で呪練場に移動してみたものの……。

 

なんぞこれ?

足で歩いてくのが面倒だからと霊脈を利用して空間移動を行った罰があたったのか?

俺の目の前には巨大な瘴気の波が迫っていた。

って、こんなのが直撃したら体調不良じゃ、済まないぞ!!

 

「オンハンドマダラ、アボキャジャヤニソロソロソワカ!!」

 

一般人なら死んでしまうのではないかと思うほどに濃い瘴気を真言により

発生した結界により防ぐ。

やれやれ、なんとか術が間に合ったか。

しかし、俺のような塾生でも防げたんだ、意外とたいした事は無いみたいだな。

やはり三流で中二な術者……。

 

 

『この霊力……まさか貴様……』

 

 

瘴気が晴れて、視界がよくなった後、目の前には若○ボイスのでっかいタイガーが居た。

って、窮奇やん。メッチャにらんでるやん。

でも、不思議と危機感はない。

見かけだけなのか?

何か言ってるみたいだけど、とりあえず……。

 

「朱雀、太陰、六合、勾陣……やれ」

 

『おう!』

 

☆☆☆

 

 

突然、俺達の目の前に現れた狐の仮面を付けた男。

夏目たちの張った結界よりも強力な結界を張り、俺達を瘴気から守った?のか?

とりあえず味方だと思う男は結界の次に名前を呼ぶと四人の男女が現れ、

巨大な虎のバケモノに向かって行った。

一体どうなってるんだ?

 

「はっ!」

 

「フン!!」

 

「えーい!!」

 

「はぁ!!」

 

掛け声と共に巨大な大剣を持って虎の翼を切りつける赤い髪の男。

さらに、槍?のようなものを虎の右前足に突き立てる長髪の男。

そして、竜巻を発生させて虎の顔面を攻撃するコンと同じくらいの女の子と

長身の女性が短剣二つを両手で構えて虎の胸をX印のように切り裂く。

 

『グォオオオオオオオオ!!』

 

恐ろしいバケモノだと思っていた虎が一方的に四人の男女になぶられていく。

すげぇ……。

目の前の凄まじい光景に俺以外の奴等も驚いた表情を見せる。

 

「天神地祇、辞別けては産土大神、神集獄妖官神々、この霊縛神法を助け給え」

 

『……オノレェ』

 

札を構え術の詠唱を始める男を見て虎のバケモノは男に恨みの言葉を血と共に吐く

 

「困々々、至道神勅、急々如塞、道塞、結塞縛。不通不起、縛々々律令」

 

『オノレェ!!法師ぃぃぃいいいいいいい!!!!!』

 

 

「万魔拱服!!」

 

 

男の足元に五芒星が強烈な光と共に出現し、辺りを浄化し始める。

そして……。

 

『ブラァアアアアアア!!』

 

虎のバケモノは消し飛び、跡形も残らずこの世界から姿を消した。

 

☆☆☆

 

 

「やはりそうであったか……あの残りカスを修復して仮面に押し込んでおいて

正解じゃったな……。晴明よ、夜光が死んで貯まった鬱憤を晴らさせてくれよ?」

 

 

 



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10話

さきほどはどうも失礼しました。
あのような感じに投稿している人がいたので
別にいいのかと思ってやってみたのですが……。
今後は気おつけます。
本編を楽しみにしていた皆様。
混乱させてしまい、申し訳ありませんでした。


「私は飛車丸だ!飛車丸なんだぞ!!なのに角行鬼が……」

 

呪練場から逃走した呪捜官の男は助けを求めるため、自分に生きる道を教えてくれたある『お方』

の元へと走っていた。

 

「ああ、クソ!!あの方になんと言えばいいんだ!!」

 

『お主の前世を教えてやろう』

 

「…落ち着け……ともかく今はあの方に指示を仰ぐしか………」

 

立ち止まり落ち着くためにゆっくりと深呼吸をする男。

 

「しばらく見んうちに、呪捜官の質もかなり落ちたな……」

 

「ひぃ!?だ、誰だ!?」

 

男が立ち止まり息を整えると彼の後ろから声が掛かる。

声を聞くと男だと判断が付くが、姿が見えない。

何所に居るのかキョロキョロと辺りを見渡す呪捜官の男。

 

「霊災が増加している悪影響で、優秀な人材が祓魔局に偏ってるいうことか……

どうにも不穏なことやで」

 

落ち着け、相手はまだ姿を現していない!すぐにここから離れれば……!?

男がその場を離れようとした時には既に遅かった。

なぜならもう……既に男の体は指一本、動かすことが出来なくなってしまっていたのだから……。

 

これは…不動金縛り……!?

くそ!どういうことだ!?真言も…気配すらもなかった……!!

この術者は何者なんだ!?

 

男が術者の正体について考えを巡らせ始めた時。

視線の先に術者の物と思われる杖と義足が目に入る。

 

 

そういえば聞いたことがある…凄腕の呪捜官の噂を………。

その呪捜官は『十二神将』の一人に数えられながら、職務の隠密性ゆえ名を表に出すことの

なかったという陰陽師……。

右足を失ってからは現役を退き、その後を知るものは上層部の数名のみという……。

まさか……こんな所で出会う事になろうとは……。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「全く…えらい時間外労働もあったもんやで…………」

 

倒れた夜光信者をみて思わずため息が出てしまう。

 

「しっかし、いまどき珍しい程のステレオタイプな雑魚やったなぁ…」

 

「おそらく深度の深い暗示を長期にわたってかけられていたのでしょう」

 

僕があまりにもな雑魚っぷりに感想を漏らしていると後ろから天敵の声が聞こえた。

ったく、このババァは……。

声のした方へ、振り向くと塾長の愛用の猫型の式が僕の後ろでお座りをしていた。

 

「塾長…見とったんですね?あのみっともないお遊戯を……」

 

「もちろんです。大事な生徒達なんですからね」

 

おそらくこのババアのことや、どうせ僕の監視込みなんやろうな………。

とんだ狸ババアや。

 

「なにか仰いましたか?」

 

「いいえ、塾長。僕なーんも言うてませんよ」

 

ぼくの心の声を読みよった。武君が倒した窮奇以上のバケモノやで……

 

「……あらためてご苦労様でした、大友先生。」

 

猫だけど呆れた表情で僕に労いの言葉を述べる塾長。

しかし言葉が終わると雰囲気が一変し少し重たいものとなる。

 

「ですが…今回は生徒を危険に晒しすぎたのではないのではありませんか?

あまり感心できません。

せめて彼が紛い物を出した時点でなんらかの介入をするべきでした。」

 

鋭い視線で僕の事を叱る塾長。

確かに、雑魚だけやったら塾長は正しい。

ただ、今回は……。

 

「無茶を言わんといて下さい。しょぼいストーカーならともかく、すぐ近くに超大物が

絡んどったんですよ?それに…また足を取られたら、今後の講師生活に差し支えますやん」

 

僕がそう言うとこのババアはなんとそれがどうしたとばかりの声で……。

 

「車椅子を押す式神なら私が創って差し上げますよ」

 

…と言いおった。

 

「わぁ、恐れ多い」

 

はよう死ねへんかな…このババア。

にこやかな表情を浮かべながら心の中で毒を吐く。

 

「何か?」

 

あ、ヤバイちょっと怒っとる……。

ちょっとシャレにならないと思った僕は話題をすり替える事にした。

 

「ま、まあ…それに塾長が気になっていた彼も居ましたから……」

 

「彼ですか……」

 

まさか僕等みたいな役職やのうて…本物の十二神将を拝む事になろうとは……。

どおりで塾長が直接しらべとったわけや。

伝説の復活……ヘタしたら夜光よりも問題になるな……。

 

「正直彼が、現れた時は別の人間と思ってましたよ」

 

「まあ、かなり強力な術みたいでしたから……あれは仕方がありません」

 

そう。

僕が狐の仮面を被った男をはじめ見たとき誰か気づかんかった。

おそらく、何らかの術で周りが彼と認識しないようにしとったんやろうけど

陰陽塾で実力があり、僕と塾長以外で助けにくる人物と言ったら

彼しかいない。

他に強力な陰陽師の講師がおれば…少しはそっちに僕や塾長の目は行ったかもしれへんけど

時間稼ぎにもならんな……。

まあ、春虎君達にはしっかりと術はきいてた見たいやけど……。

彼、十二神将を護衛に付けてたし、過保護見たいやから何時か正体ばれそうやな…。

しかし……

 

「塾長も危ない橋を渡ったんと違います?この阿呆が夜光信者やって、とっくに

わかっとったのに放置して……」

 

「…彼と『双角会』との繋がりは事前に判明していましたが……

それ以上のことはわかりませんでした。

今回は彼の事と同時に探る事の出来る良い機会だったのです」

 

なるほど…これで確信した。

やっぱり今回の事はこのババアのシナリオ通りやったと……。

 

「つまりアレですか?やっぱり生徒をダシに?それって『感心できません』のと

ちゃいます?」

 

「これくらいのことは『慣れて』くれないと困りますからね。

それに……ちゃんと当人たちにもあらかじめ注意していますよ」

 

ワイの皮肉をしれっと返しおった。

悪魔や生徒を地獄に落とす悪魔がおる……。

 

「何か?」

 

「いいえ、なんにも」

 

「では、後処理をよろしくお願いします。

私も陰陽庁に色々と連絡しておかねばなりませんので……」

 

面倒ごとを押し付けるだけ押し付けて、さっさと逃げようとするババアを呼び止めた後、

僕は今回の仕事について聞きたい事があったので、ババアに質問をした。

 

「あの……時間外手当とかつかんのでしょうかね?」

 

ぼくがそう言うとあのババアは……

 

「まあ?可愛い生徒のためですよ?お金なんて問題じゃないでしょう?ホホホ」

 

と、さわやかに僕の質問に答えた後、どこかに行ってしまった。

 

「…金やのうてセーイの問題やっちゅうねん……」

 

あーーーー!!ほんまにムカツクわーーーー!!

 

 



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11話

 

武 視点

 

先日、中二病をこじらせた男による誘拐事件は終了した。

タイガーさんを滅した後、俺の正体がばれる可能性をより低くする為、

さっさと紅蓮以外の十二神将を連れて『兎歩』で男子寮にある自室に帰還した。

 

残してきた紅蓮の話によると、春虎一行は講師と呪捜官の事情聴取を夜の十時まで

受けていたそうな……。

ちなみに犯人は逮捕されたらしいのだが、記憶を呪術によりロックが掛けられていて

今も陰陽庁では犯人から情報を少しでも得るために解呪の作業をしているようだ。

ご苦労様です。

 

そして現在の俺はというと……。

 

「住むって……お前が!?」

 

「そう言っただろ?」

 

「ここは男子寮だぞっ!?」

 

「僕だって男子生徒だ」

 

廊下で愚弟の幼馴染の女の子が愚弟の隣にある空き部屋に押しかけてくるというラブコメ展開

を遠くからメンチを切りながら観察している。

春虎……。

そういえば引越し祝いを渡していなかったな……。

うん……春虎の引越し祝いには不能になる呪いでいいな!!

俺がとある漫画を思い出して製作した呪いの一つ、『THE EN○ OF SON(ジ・エン○オブサン)』

を食らわせてやるぞ!!

 

「わかっていないな春虎…。

この前の件で君は何も思わなかったのか?」

 

ほほう?この間とな?

その辺を詳しく聞かせてもらおうやないか……。←嫉妬により思わず関西弁

 

「な……何を?」

 

「ぼくがいかに常日頃から危険に晒されているかってことさ」

 

危険?あー…あの変態の事か……。

つまりあれか?大好きな春虎に対して遠まわしに『私を守ってね!』と言いたい訳ですか?

かわいいじゃないですかコンチクショウ!!

 

「……それで?」

 

そ……それでだと…?愚弟よ、何故こんなにも分かりやすいサインにお前は気づかないだ?

わざとか?わざとなんだな?

夏目もかわいそうに……あんなラブコメ主人公みたいな奴に惚れるなんて……。

 

「それで?じゃないっ!!

君は僕の式神なんだぞっ?

君には僕を守る義務がある…二十四時間ずっと!!」

 

に…二十四時間ずっと……だと…?

夏目の大胆な発言に戦慄する俺。

なに?最近の高校生は恋愛の順序をすっとばしてゴールするのが普通なの?

それとも俺の考えが古いの?

……やばい。

ちょっと俺にはショックが強すぎた……。

部屋に戻ってお茶でも飲んで落ち着こう。

俺は脚を引きずりながらトボトボと自室に戻った。

 

ま、呪いは確実に掛けてやるがな!!

 

 

富士野 真子 視点

 

み、見てしまったわ……。

春虎君と冬児君に夏目君の夢の三角関係を観察しようと見ていたけど……

まさか…まさか……春虎君の実の兄である武君を巻き込んだ四角関係だったなんて!!

武君が夏目君と春虎君の二人を見るあの嫉妬のこもった瞳……。

間違いないわ!!

ああ!!本当に目が離せないわ!!

 

 

 







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12話

武視点

 

「……これでよし」

 

自室に戻り、落ち着きを取り戻した俺は自らの心の中で宣伝した

不能になる呪を部屋に居るであろう春虎に行使した。

発情期の犬や猫に実験で成功させたし、呪いが成功していれば

今晩にでもアイツは文字通り、役に立たなくなったリトルに戦慄する事だろう。

 

そう心の中で弟の不幸を喜んでいると……

 

「兄貴?今大丈夫か?」

 

「!?……ああ」

 

扉のノック音と共に俺が呪いを掛けた張本人がやって来た。

なんだ!?まさか、バレたのか!!?

驚きのあまり、出そうになった声を押し殺し、出来るだけ平常時の声を出して

扉の向こうに居るであろう弟に返事をする。

 

落ち着け……。

まだ、呪いの話とは決まったわけじゃない。

落ち着いて対応すれば何も問題はない…。

呼吸を整えゆっくりと玄関の扉に近づいて扉を開ける。

 

 

「どうした?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

扉を開き、目の前の居る春虎に声を掛ける。

 

「実はさ……兄貴に会わせたい奴が居て…」

 

愚弟はそれだけを言うと後ろに視線を投げかける。

すると愚弟の後ろから………。

 

きょぬー美少女が現れた!!

 

 

「…お久しぶりです武さん。」

 

「君は………」

 

彼女のメロン様に夢中になっている中、突然喋りかけてきたのそれっぽい返事を

思わず返してしまった俺。

やべ……お久しぶりってなんぞ?

俺、全く覚えてねえや……。

でも、俺が覚えていたと思って凄く嬉しそうな顔をしているし……。

覚えてないなんて今更いえねー……。

 

「あの時は失礼な態度を取って本当にすみませんでした。

そして、リボンを探すのを手伝ってくれて本当にありがとうございました」

 

「気にしなくていい。」

 

リボン…?

ダメだ!思い出しそうだけど思い出せねーーー!!

もっとだ、もっと情報をくれ!!

そしたら思い出せそうだから!!!

もっと情報をプリーズ!!

 

「あの……これから夏目君の引越し祝いのパーティーをしようと思うのですが…。

武さんは…お時間大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

うん!君のような美少女のためなら火の中、水の中!!

でも、君の事を思い出したいから、もうちょっと情報が欲しいかな!!!

 

「では、行きましょうか……」

 

 

 

春虎視点

 

 

 

夏目の引越し祝いに男子寮に訪れた天馬と京子。

あの事件に巻き込まれたメンバーが揃い、あの事件について話をしていると

突然、エロ本を使った後に訪れるすっきりとした感覚が襲ってきた。

何故、突然あの感覚が襲ってきたのか分からないが、物事を考えるのに今の状態は

歓迎だ。

 

「あの謎の陰陽師は結局誰だったんだろうね……」

 

謎の陰陽師。

確かに謎だ……。

あの陰陽師は何故、あのタイミングで現れた?

何故、仮面で正体を隠す必要があったんだ?

一つ、一つ、整理していこう……。

 

まずはタイミングの良さ……。

 

可能性は低いが偶然か、もしくは俺達を監視していたのだろう。

 

そして正体を隠す理由。

俺達に正体を隠したいのか?それとも敵に正体を隠したいのかの二つだ。

それとも両方なのか……。

 

「ところで春虎……武さんの件についてなんだけど………」

 

謎の陰陽師について考えていると京子が、話しかけてきた。

兄貴の件について?……ああ、京子を兄貴に紹介するって話か…。

 

「わかった。ついでにみんなの予定が大丈夫なら、夏目の引越し祝いって事にして

兄貴を誘うか?」

 

「お?珍しく春虎が頭をつかっているな……明日は台風か?」

 

「この時期に台風はありえないだろ……さあ、善は急げだ。」

 

 




お久しぶりです。
リアルが忙しすぎて執筆がなかなか進みませんでした。
今後も更新がかなり遅れると思いますのでご了承ください。


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13話

 

天馬視点

 

事情聴取を終えて、授業に復帰した僕達5人だったんだけど

春虎君の様子がおかしい。

いや、別に悪い事じゃないんだ。

授業も集中しているし、出来なかった簡易式の生成にも成功させている。

いい事なんだけど……。

 

覇気というかやる気?と言うものが一切、感じられないんだ。

常に冷静で…言葉に表すと明鏡止水っていうのかな?

 

ともかくおかしい。

冬児君やクラスのみんなもそれを感じ取っていて、いろいろと噂をされている。

 

曰く、頭のよくなる呪術を夏目くんに(自主規制)された

 

曰く、寮母さんの流している噂が本当で、新しい扉を開いてしまった。

 

曰く、授業の合間にトイレで保健体育の教科書を読んで賢者になっている。

 

などなど。

本当にどうしたんだろう?

 

冬児君は面白いからほっとけと言うけど……。

 

放課後、ちょっと先生に相談してみよう。

 

 

☆☆☆

 

放課後の職員室。

僕は担任講師である大友先生に向き合い例の相談事をしていた。

 

「ふ~ん。もしかしたらあの事件で変な呪力を浴びてああなったんかもしれんな」

 

「……それって大丈夫なんですか?」

 

ある意味、それは霊災なんではないだろうか?

 

「僕も何とかしようと思っとっただけどな……別に本人に害があるわけでも

ないし、ほおって置けば大丈夫やろ。それに……もし、危険な物やったら既に

あの狸少年がなんとかするやろうし」

 

「狸少年ですか?」

 

「そ、だから君は安心して授業に集中するとええよ」

 

そういって職員室を追い出される僕。

狸少年って一体だれの事だろうか?

疑問を抱えながら自宅に戻って、次の日を迎えた僕達の目の前には

授業に四苦八苦している春虎君が目の前に居た。

 

☆☆☆

 

ー数日前ー

 

春虎(呪)授業復帰初日の放課後。

 

大友視点

 

「最近、春虎君が優秀なんやけど……なんか知らん?

過保護の武君」

 

「知りませんよ。事件で変な呪力でも浴びた副作用なんじゃないですか?」

 

「ほほう。僕も知らんような術式をただの呪力と君は言うんか?」

 

春虎君の様子がおかしくなったのはあの事件の事情聴取が終わった

頃。

もしかしたら、事件の事で授業に集中できないのでは?と出鱈目な式に護衛させる

過保護な兄が何かをしたのではないかとカマ掛けてみたんやけど……。

 

「……ええ、そうですよ。それに本人にたいした影響はないようですから

数日で元に戻るでしょう」

 

「ほう、数日で……まあ、ええわ。家族が心配なのは分かるし、今回は目を瞑っとくし

追求はせんわ」

 

まったく、人使いの荒い妖怪ババアに過保護な狸少年。

僕の周りにはまともな人間はろくなのがおらんな。

 

☆☆

 

武視点

 

やべぇよ!!

俺の呪いが大友先生にばれちまったよ!!

 

まあ先生も「家族(性の乱れ)が心配なのは分かるし、今回は目を瞑っとくし

追求はせんわ」

 

と言ってくれたし、さっさと解呪解呪!!




オリジナル話の上、スランプ気味だったので更新が思った以上に遅れてしまった……。


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14話

ー武視点ー

 

春虎の強制賢者の呪い(ジ・エンドオブ・サン)が解けた数日後

事件が起こった……。

事件の現場は我が男子寮のシャワー室。

まあ、事件と言ってもたいしたものではない。

 

ただ、男装少女がシャワーを浴びにやって来た人間の恥部を見て絶叫をあげたのだ。

お陰で悲鳴を聞きつけた寮内の人間、一部を除いて巻き込んだ大騒ぎとなってしまたが…。

と、くだらない事件の癖に凄まじい規模の事件だったわけだ。

それにしてもよく夏目が女であることが、バレなかったな。

運がいいのか悪いのかよく分からんな。

 

そんな昨日の出来事を思い出しつつ、寮の食堂で朝食を貪る。

たとえ……。

 

「夏目君と春虎君に武君は、あの名門である土御門の幼馴染!

半年遅れで夏目君と武君を追いかけて塾に入ったと思ったら……」

 

頭の中が腐っている寮母が妄想を垂れ流そうとも……。

 

「春虎君と冬児君に武君が三人で寮生活を始めちゃって!

そしたら夏目君も冬児君と武君の二人に負けじと入寮してくれて…」

 

腐った寮母が時々、俺をチラ見してこようと……。

 

「ほらっ?凄いじゃない?お姉さん凄くときめいちゃうわ」

 

朝食に集中しろ!心を乱すな!!

あんな腐った女は無視しろ!!!

明鏡止水だ!!

 

「女子寮の寮母さんと二人で大興奮!!『続報を待つ!!』ですって」

 

待つんじゃねぇ!!ぶち殺すぞ、クソ寮母共!!!

持っている箸がミシミシと悲鳴を上げる。

 

「さらにこれが女子寮の生徒さんにもバカ受けなんですって!」

 

バキっ!

クソ寮母の妄想によりついに箸がご臨終してしまった。

…やべぇ、さすがにキレそうだ。

これ以上ここにいたら思わず寮母の顔面に、拳を叩き込みそうだ。

寮母の妄想に耐え切れなくなった俺は、さっさと食器を戻して

学校に向かった。

 

 

ー春虎視点ー

 

「あ~~朝から疲れた~…」

 

「朝だけは俺も同意だ」

 

簡易式を動かす特訓と寮母さんの妄想に兄貴の漏れ出す呪力で、精神的に疲労した状態で

の授業だったからな……。

一日の授業が終わり、寮に帰ってきた俺と冬児は食堂でグッタリしていた。

 

「コラっ。二人ともだらしないぞ」

 

「ううっ、寮でくらい大目にみてくれよ……今日は朝と課題のせいで、えらい消耗

した……」

 

俺がグッタリしていると、夏目がやって来て俺と冬至に渇を入れてきたが

無理だ、勘弁してくれ……。

 

「ま、簡易式を動かすのにアレだけ全力振り絞ってりゃな…。

お前から漏れ出た呪力で、横の塾生の簡易式が反応して動いたくらいだ。」

 

畜生。なんで俺の簡易式が動かなくて隣の奴の式が俺の呪力で動くんだよ…。

 

「春虎は呪力のコントロールが大雑把過ぎるんだよ。

方向が定まらないからあんな事に……」

 

「たのむ夏目…もう式神の話はやめてくれ………」

 

「全く…じゃあ僕は部屋に戻るよ、また夕食の時にね………」

 

俺の決死の懇願が届いたようで、夏目は部屋へと戻っていった。

そして、夏目が部屋に戻った数分後……。

 

「ない!!!」

 

夏目の大きな声が聞こえた……。

 

 

 

 



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15話

ー武視点ー

 

今、俺は目の前にある存在についてとっても悩んでいる。

その存在は……。

 

 

土御門 夏目。

 

 

 

長髪をリボンで束ねる美少女もしくは美少年でも通用する美形だ。

 

 

 

 

彼は二メートルほどの身長を誇り。

 

 

 

 

 

 

ボディービルダークラスの筋肉鎧を纏う。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

全身を油でテカらせ、ブーメランパンツを履いている。

 

 

 

 

「夏さんと呼べ」

 

 

 

やべぇ……。

男子寮をうろうろしていた夏目の式神を保護した後、夏目が帰ってくるまで

改造して遊んでいたら大変な事になってしまった。

さっきまでこのポーズをキメた『マチョ夏さん』で大爆笑して遊んでいたのだが、夏目の

 

「ない!!」

 

と言う声を聞いて思い出したのだ……これは夏目の式神だと。

元に戻すにしても……。

 

「夏さんと呼べ」

 

ムッキーン☆

 

無理だ!!

首から下が完全に別の生き物になっている!!

元に戻すにしても時間が掛かる!!

どうする!!どうする!!このまま外に放逐するか?

ダメだ!!ばれたら確実に殺されて、寮母共に本物と認識される!!

それだけは阻止せねばならぬ!

 

…………!!

 

 

そうだ!!

いい事を思いついた!!

この方法を使えば確実にバレることなく………。

 

 

ー春虎視点ー

 

 

「おい…どうかしたのか?夏目」

 

夏目は寮に響くほどの大声を出した後、走って俺達の居る

食堂に戻ってきた。

忘れ物でもしたのか?

 

「部屋に置いてた式神が…簡易式の形代がなくなってる……居なくなってるんだ!!」

 

ん?簡易式?ああ、そういえば今日の課題であったな。

それがなくなったのだろうか?

 

「課題の?」

 

「違う!昨夜作ったオリジナルの簡易式だよっ!!朝は間違いなくあったのに……」

 

課題の簡易式か?と思い夏目に聞いてみたが、どうやら違うようだ。

俺達に説明した後、頭を両手で抱えて顔を青くする夏目。

なんだ?そんなにやばいものなのか?なんかブツブツ言っているぞ。

でも、今朝あった簡易式がなくなるなんて……。

 

「まさか、盗まれたのか?」

 

「オリジナルって、どんなものを作ったんだ?」

 

「あ、いや、それは…」

 

考えてた事と疑問を口にする俺と冬児の言葉にうろたえる夏目。

なんだ?そんなにやばいものだったのか?

 

「あれ?夏目、なんでここにいるの?」

 

「さっき塾舎出たときすれ違ったばっかなのに」

 

「じゃ、あれは人違――――い!!?」

 

帰ってきた三人組の寮生の言葉を聞いて凄まじい速度で食堂を出て行く夏目。

 

「? な…なんだ、あいつ」

 

「ははぁ……読めた」

 

俺と帰ってきた寮生の三人組が唖然と夏目の奇行に驚いて居る中、冬児は夏目の行動を理解した

かのような言動を口にして食堂の椅子から腰を上げる。

夏目を追うのだろうか?

 

「春虎、俺達も塾舎に戻るぜ。夏目がトラブったらしい」

 

 

 

 

マジで?

 

 

 

ー天馬視点ー

 

まいったなぁ……。

塾が終わった帰り道。

のどが乾いたから、ジュースを買おうと思い財布をいつも入れている

制服のズボンのポケットから取り出そうとしたんだけど……。

ポケットに手を入れた瞬間、あるはずの財布がないことに気が付いた僕は

面倒だけど、来た道を引き返して塾舎に戻ってきて財布をさがしている。

教室にはなかったから、あるとすればもう呪練場のロッカールームだ。

もしかしたら、着替えるときに落としたのかもしれない。

そう思い、ロッカールームまでやって来た僕は、ロッカールームの扉を開けた。

 

「えっと……誰?」

 

そして、扉を開けた僕が見たものは……。

 

 

身長は僕と同じくらいで顔をドクロの仮面で隠し、赤い外装に黒いアーマーを装備した……

 

 

「ふむ…呼び名はいくつかあるが……『アーチャー』と呼んでくれたまえ」

 

 

不審者だった。

 

 

 



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16話

ー武視点ー

 

よし!後、少しで元の術式に影響を出さず、上書きした分を完全に消去できるぞ……。

それにしても……あのネタ式大丈夫か?

幼き頃に製作した負の遺産シリーズ第3弾『僕の考えた正義の味方』。

中二の塊である彼の容姿を夏目に変え彼には暴走した夏目の式神の偽者になってもらっている。

そうすることで、夏目たちの目はそちらに向き、俺は楽に証拠隠滅作業を終わらせ

ばれないように『僕の考えた正義の味方』と転移させて返却すればいいだけ。

我ながらうまい作戦だと思う。

まあ、この作戦に穴があるとすればあいつが上手く立ち回れるか出来ないかで

作戦の成功率が変わってくる。

上手くやれよ……『僕の考えた正義の味方』。

いや…夏さん!

 

 

ー天馬視点ー

 

う~ん。

僕は今、目の前の不審者に頭を悩ませている。

不審者かもしれないし、身長的に考えて塾生の可能性もなくはない。

まあ、塾舎は結界で守られているし登録されてない人間が侵入するのは難しい。

やっぱり塾生なのかな?声もどこかで聞いたことある気がするし……。

後、長髪とか。

あの格好はコスプレ?

とりあえず……。

 

刺激しないように財布を捜そう。

 

「……何か、探し物かね」

 

「え……はい。財布を」

 

「ふむ…私も探すのを手伝おう」

 

アーチャーさん?と距離を取り床をキョロキョロと視線を泳がせて探していると

僕の行動に疑問を持ったであろうアーチャーさんの質問に答えると、アーチャーさん

は四つんばいになって財布探しを手伝ってくれる。

格好はアレだけどいい人なのかな?

 

 

…………。

………。

……。

…。

 

ーしばらくしてー

 

「ん?ひょっとしてこれかね」

 

「え?ああ!これです!ありがとうございます!!」

 

あれから、しばらく探し続けていると、アーチャーさんが僕の

財布を見つけてくれた。

お礼を言った後に気が付いたのだけど、アーチャーさんの服がホコリまみれに

なっている。

やはり格好はアレだけどいい人のようだ。

もしかしたら中二病という人生に一度はなる病になっているだけかもしれない。

まあ、僕も女の子を落としまくる神様ごっこをしていたから分からなくもない。

もし、彼の正体が身近な人でも変わらず接してあげようと心の中で誓った。

 

「えっと…アーチャーさん。財布、捜すのを手伝ってくれてありがとうございました」

 

「何、ただの暇つぶしだ。気にしなくてかまわんよ」

 

「それでも、ありがとうございました。じゃあ、僕はもう帰ります」

 

「本当に気にしなくて構わんのだが…まあいい、気をつけて帰りたまえ」

 

ロッカールームを出て、下駄箱に向かう為に廊下を歩く僕。

それにしても、あの声……やっぱり聞き覚えがあるんだよな…。

もしかしてクラスメイト?

う~~ん

 

クラスメイト達のことを考えていると後、もう少しのところなんだけど分からない。

本当もう、喉から手が出そうなくらいに。

って、考えているうちに下駄箱まで着いちゃったみたいだ。

 

「よお、天馬!今帰りか?」

 

「あ、春虎君……に…夏目君!?」

 

そうだ!!あの声は夏目君だよ!!!

イメージが全然、合わなくて気が付かなかった!!

そうか!そうだったんだ!!

って、ダメじゃないか僕!!夏目君が中二病患者であることは秘密にしないと!!

 

「ええっと!僕、急いでるから!!また明日ね!!!」

 

あのままだと、春虎君の前でボロを出しそうだったから、急いで緊急離脱した僕。

夏目君!秘密は守るからね!!

 

 

ー春虎視点ー

 

 

何だったんだ?天馬の奴。

 

「ひょっとして、あいつ…夏目の簡易式にあったんじゃ……」

 

ああ、なるほど。

夏目の話だとお風呂用の簡易式らしいし、最悪天馬の前で脱……

 

「僕は地下を探す!!春虎は一階から上に!冬児は最上階から下に探してって!!

見つけたら確保!!」

 

「「わかった!」」

 

塾舎内に入った俺は、夏目の指示道理に一階から教室を一つ一つ、しらみつぶしに

探していった。

 

「くそ!一人じゃ、辛い。コン!!お前も手伝ってくれ!!」

 

「りょりょ了解いたしましたっ!」

 

一人から二人になり、調べる速度は上がったが全然見つからない。

 

「ここも居ねぇな…コン、そっちは?」

 

「むむ無人ですぅ!」

 

俺とコンで一回は全て調べたが夏目の簡易式は居なかった。

なら、二階か?

 

「コン!二階に行くぞ!!…って、あれ?

夏目!?早いな、もう地下は探し終わったのか?」

 

コンと共に階段を登ろうとしたら、夏目の後ろ姿を見つけた。

 

 

 

ー『僕の考えた正義の味方』視点ー

 

ふむ、マスターの命令を遂行するため、簡易式のフリをしつつ人気のないロッカールームに

潜伏していたのだが……。

まさか、呪力を無駄にしないように礼装を元に戻した所をメガネの青年に見られるとは……。

扉が開いた瞬間、とっさに近くにあったお面をおもわず被ってしまったが…まあ、結果オーライ

と言う奴だ。

今はお面をはずして元の場所におき、服装も呪力がもったいないが制服に変換する。

『接触は最低限にしつつ、簡易式が元に戻るまで本物の夏目に見つからず時間を稼げ!』か……。

まったく、無茶を言ってくれる。

そんな事を考えながら塾舎の階段を登っていると……

 

「コン!二階に行くぞ!!…って、あれ?

夏目!?早いな、もう地下は探し終わったのか?」

 

振り返ると、金髪の青年と狐耳+尻尾のついた和服幼女が階段を上りながら

私に話しかけてきた。本物の知り合いか?

まあ、見つかったのだから慌ててもしかたがない。

とにかく、冷静に対処してどこかに行ってもらおう。

そう思い振り返ると……。

 

「うおおおおおおお!!?」

 

「は、春虎様!!?」

 

金髪少年が足を滑らせたのだろうか?

彼は階段から転落しようとしていた。

このままだと廊下に頭をぶつける可能性が高い!

距離を考えると引っ張りあげるのは間に合わない!

ならば……!!

 

「夏目!?何を!?」

 

「黙れ!舌を噛むぞ!!」

 

転倒する時、私がクッションになればいい!!

私は青年をホールドし、空中で彼を上で私が下の状態にして……。

 

「ぐっ!」

 

「おい!大丈夫かよ!!夏目!!!」

 

背中が床に激突したが、見事に青年を怪我をさせずに助けることが出来た。

が……。

 

「どどどど、どうしようコン!夏目が……」

 

「春虎様!!落ち着いてください!!今すぐ人を呼んできますゆえ、春虎様は

夏目殿を……」

 

「わわ、わかった!コン頼む!!」

 

「ははっ!!」

 

不味い状態になってしまった。

大事になる前に、狐の式……確かコンだったな。

彼女に止めるよう青年…春虎に頼まねば。

 

「私は平気だ。春虎、大事になる前に今すぐコンを止めろ。

後、何時まで私の上に乗っている気だ?」

 

「ばかやろう!そんなの無理に決まっているだろう!!」

 

やれやれ。

任務失敗か。

しかたがない、マスターには悪いが私が式神であることを正直に話して…。

 

「うひょぉぉぉぉおおおお!!!イッツ リアル ファンタジィィィィィ!!!」

 

「アンド ドリィィィィィム!!!」

 

「ちょっとぉぉおおおお!!今それどころじゃ……って、何サラッと写メってるんでスか

あんたらぁ!?」

 

ふむ、本当のことを話そうと思ったら妙な女性二人がやって何やら騒いでいる。

これがカオスというやつなのか?

これは、場が収まるまでおとなしくしておいたほうが得策だな。

余計にこじれそうだ。

 

「はあっ!?私ったらつい!

でも、イケナイわ春虎君、無理矢理なんてっ!で、でも時には強引さも必要よねっ!?

だって思春期なんですモノ!」

 

「何口走ってんだ、あんた!?」

 

「初めまして、春虎君!女子寮寮母の木府(きふ)亜子(あこ)です!

君の噂はかねがねっ!それはもう、かねがね!!」

 

「初めまして、木府さん!けどご丁寧に挨拶前に写メの連射止めろ!

そして撮ったデータを消せぇっ!!」

 

「春虎様!人を連れてまいりし「きゃぁああああああ!!確かにこれは大変だわ!!」

 

「ケータイ小説キタ――――!!」

 

「ちょっと!みんな――――――!!

待て、コラ―――――――!!」

 

女性達が全員去っていったが

このままだと、どんどん騒ぎが大きくなる。

しかたがないここは私が『簡易式が元に戻った。すぐに転移して入れ替えするぞ』

む?

 

 

ー翌日ー

 

春虎視点

 

勘違いしたダブル寮母に写メを撮られまくられた上に同級生にも勘違いされ……。

しかも俺を助けてくれたのは夏目の簡易式で、俺の心配はまったくの無駄だった。

 

結果……。

 

 

 

 

皆に距離を置かれました。

 

 

 

「……屈辱(くつじょきゅ)だ」

 

 

そうっスね、夏目さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーおまけー

 

『僕の考えた正義の味方』は他の黒歴史と共に焼却されました。

 

 

 

 



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17話

ー武視点ー

 

卒業試験が終わったら、京子とデートの約束をしたり、

ついでに春虎がBL、ロリコンとさまざまな称号を得るさわがしい日々が過ぎていく中。

 

予知夢と思われる夢を見た。

予知夢とは高い霊能力と技を持つ陰陽師でも、見ようとして見ることはできない

とても稀な現象である。

内容は主に、自分の身に起こる不幸…もしくは自分に近しい人間の不幸の二つに分けられる。

 

さて、ここからが問題だ。

なんと俺はこの予知夢を見てしまったのだ。

内容は断片的な物だったが、起これば大変な事態になる。

 

始めは、霊災を修祓する学生達に学生を見守る先生達。

おそらく、実技の進級試験。

生徒達の中には春虎や冬児と見知った人間が居た。

 

次に四足歩行のバケモノ。

プロの講師達が居たので信じたくはないが……修祓に失敗したのだろう。

 

そして、バケモノの次はグラサン装備のヤンキー。

額にバッテンの刺青をしていたので、かなりヤバイ奴だと思う。

霊災を暴走させた犯人だろうか?

 

そして最後に……瓦礫に潰されたメガネ君と京子ちゃん……霊災の影響で

暴走する冬児。

まさに地獄絵図だ。

悪夢にも程がある。

しかしだ、もしこれが本当に起こったとしたら?

考えたくもないね!

絶対に阻止してみせる!!

 

幸い、俺の卒業試験は終わったし、1年生の進級試験までには時間がある!

準備をしつつ、1年生の実習試験の内容を確認しよう。

霊災修祓でなければただの夢で済まされるのだから……。

 

しかし……俺の運がいいのか悪いのか………春虎の情報によると1年生の実習試験は……

 

 

霊災修祓だった。

 

 

ー春虎視点ー

 

数多の誤解もようやく解け、日常を取り戻した俺だったが

あらたなトラブルに襲われていた。

そう!進級試験だ!!

今までの努力が点数として現れ、俺が2年に上がれるかが決まる重要な試験である。

なのに……。

筆記試験は惨敗。

夏目に散々しごかれたのに……。

だが、嘆いても仕方がない。

今日の実技試験で挽回できれば……進級出来るはず…たぶん。

 

「では…これより進級試験を始める!全員心して事にかかるように!」

 

『はい!』

 

先生の試験開始の言葉と同時に小さな霊災が発生し、事前に割り当てられた結界班

が霊災の周りを結界で覆い、霊災が次のフェイズに移行しないようにする。

 

そして、結界が張られた次の段階として俺達、修祓班が霊災の修祓を開始する。

が……。

 

「おい!強すぎるぞ、お前っ!もうちょっと弱めろって!!」

 

「ちょ!?春虎君、今度は弱すぎ!ちゃんと出力を安定させて!」

 

「何やってんだよツッチー!ずれてるだろ!!」

 

何故か来る、俺への非難の数々。

 

「おれかっ!?全部おれのせいかっ!?お前ら自分のミスまで俺のせいにしてないか!?」

 

周りの非難の集中を浴びた俺は作業を思わず中断して周りの奴に言い返す。

あ…やべっ!出力が…。

 

「何やってんの、バカ虎!!」

 

「やべっ!!」

 

俺が作業を中断した事により霊災の出力が一瞬だけ激しく乱れるが

隣に居た天馬が俺の前に出て、手印を結ぶ。

 

「臨!兵!闘!者!皆!陣!列!在!前!」

 

天馬のフォローのお陰で霊災は安定した。

危ない所だった……天馬には感謝だな。

 

「ありがとう天馬」

 

「…春虎君。お礼は後でいいから、前に集中して」

 

「お、おう。マジすみませんでした」

 

「百枝すげぇ!!」

 

「一気に安定したぞ!天馬ナイス!!」

 

「ただのメガネじゃなかったんだね!!」

 

試験に集中しているのせいだろうか?なんか、天馬が怖い。

怖がっている俺とは対照的に、クラスメイト達は天馬のファインプレーに称賛の言葉を

送っていた。

まあ、霊災も安定したし、このままいけば実技は安心…ん?

なんだろう?なんか違和感が……。

 

「あれ?おい、なんか変じゃないか?」

 

安心して作業を再開する俺だったが、霊災に先程はなかった違和感を感じる。

しかも違和感を感じているのは俺だけじゃなく他のクラスメイト達にも感じているらしい。

一体何が起こったんだ?

 

「絶対おかしいよ、これ!!」

 

「霊気が強くなってる!!」

 

ヴオオオオ!

 

「!?」

 

しばらく違和感を感じていると、霊災の霊力が強くなりやがった!!

瘴気も強くなって……かなりヤバイ状況だ!!

 

「結界班は、現状を維持!!修祓班は結界の外に出ろ!!」

 

先生が指示を飛ばし、結界の外へと退避する俺達、修祓班だったが……。

 

「百枝!!何をしているんだっ!!今すぐ結界の外に出ろ!!」

 

「天馬っ!?何やってんだよ!!早く逃げろ!!!」

 

霊災が強くなる中、一人佇む天馬に逃げる様子はない。

先生の言葉にも反応を見せずただ、目の前の霊災を見て天馬は……。

 

「この声は我が声にあらじ。」

 

パン!

 

拍手の一回で霊災の出力を安定させ…

 

「この声は、神の声。まがものよ、

禍者よ、呪いの息を打ち祓う、この息は神の御息。」

 

溢れ出る瘴気を散らし。

 

「この身を縛る禍つ鎖を打ち砕く、呪いの息を打ち破る風の剣。

妖気に誘うものは、利剣を抜き放ち打ち祓うものなり。」

 

跡形もなく霊災を消滅させた。

 

「て、天馬?」

 

霊災を単独で処理して見せた天馬。

皆、天馬の凄さに唖然としている。

だけど……目の前の天馬が俺の知っている天馬とは違う気がする。

もしかしたら実力を隠していただけかも知れないが……俺は

そう感じていた。

 

唖然と、皆が天馬を見つめている中、どさっ!と何かが崩れ落ちる音が聞こえた。

音の方を見てみると、頭を両手で抱え、地面に崩れ落ちている冬児の姿が目に飛び込んできた。

 

「おい…。全員…ここから離れろっ!いま…すぐ…に…」

 

「冬児!!?大丈夫か!?おい!?」

 

苦しみながらも、この場から離れるように訴える冬児の傍に駆け寄る俺。

声を掛けるも、聞こえるのは冬児の苦しむ声だけ。

返事をする事も出来ないのか!?

 

「ああぁぁぁぁああぁあああああ!!」

 

「冬児!!?」

 

苦しみのあまりに断末魔の叫びを上げる冬児。

まさか、このまま鬼に飲まれるんじゃ……。

そんな最悪の未来を考えていると大きな破砕音と共に一体のバケモノが姿を表した。

おいおい!こんな時にそれはないだろう!!

 

「フ……フェーズ3……『タイプ・キマイラ』――――『鵺』!?」

 

 

 

 

 



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18話

ー春虎ー

 

ただでさえ、大変な時に現れた厄介な化け物。

奴の出現により、恐怖と驚愕に支配されるクラスメイトや講師達。

しかし、そんな中で一人だけ恐怖にも驚愕にも支配されず、ただ、バケモノの

前に立っている男が居た。

 

そう、見た目は俺がよく知る友人の天馬。

しかし、中身が全然違う。

根拠はないけど、俺にはそう感じる。

バケモノと一対一で睨み合う天馬?

周りに居るクラスメイト達と先生は息を呑み、一体と一人の様子を見守る。

そんな中……。

 

「なんだぁ~~~?」

 

一人のヤンキーが現れた。

 

「ガキが俺の獲物に何をやってやがる」

 

突如、俺達の前に現れた謎のヤンキーは天馬?を睨みつける。

獲物?何言ってんだこのヤンキー?

額にバッテン付けてるし、薬でもキメてるのか?

 

「…オ……『オーガ・イーター』……!!」

 

異常事態に空気を読まずに現れた頭のイカれたヤンキーと認識してみていたが、先生

が驚いた様子で暴走族のニックネームみたいな名前を口にする。

先生の知り合いなのか?

 

「おい、ジジイ。その名で俺を呼ぶんじゃねぇ。

俺の名は鏡(かがみ)怜路(れいじ)だ。

『十二神将』相手にチョーシくれてっと…ぶっ殺すぞ」

 

先生の知り合いではないようだが…じゅ…十二神将だって?

先生に指を指してぶっ殺すと言ってるこのヤンキーが?

いやいや、ありえないだろ。

こんなヤンキーが十二神将なわけが……。

 

『虫が多いからぁ!!』

 

『うっせぇブス!!』

 

『ち○こ、もいじゃうから♪』

 

うん。

あのヤンキーは間違いなく十二神将だ。

夏の事件を思い出し、奴が十二神将の一人だと俺は確信した。

 

「くくく……あははははははははは!!」

 

「…メガネのガキ、何がそんなにおもしれぇんだ?」

 

十二神将のぶっ殺す発言を聞いて始めは堪えていたが無理だったのか

爆笑する天馬?。

 

「君のような男が十二神将だって?だったらウチの塾の講師達は皆、十二神将だね。

嘘をつくんだったらもっとマシな嘘を付くんだな……三下」

 

「…よし、決めた。獲物の次はてめぇだクソガキ」

 

「百枝!!挑発をするんじゃない!!……鏡独立祓魔官!我々は陰陽塾の者だ!!

実技試験中にこのフェーズ3の襲撃を受けた!!至急応援を―――」

 

「応援もクソもあるか…そいつは俺の獲物だ。テメエらは邪魔だ。

退け。」

 

くそ!ヤンキーの奴めちゃくちゃだ!!

天馬?の挑発が相当ムカついたのか、先生の話を全く聞いていないぞ!!

 

「ばっ―――刺激を与えるな!!」

 

先生の警告を無視して自分に近づいて来るヤンキーに対して戦闘体制をとるバケモノ。

奴の瘴気の高まりを感じる。

このまま戦いが始まったら冬児や皆が……。

 

「ナウマクサンマンダボダナン、

ギャランケインバリヤハラハタジュチラマヤソワカ!」

 

これから行われる戦闘に戦々恐々としていると、天馬?の

言霊と共に一陣の風が吹き……。

 

『ギョォオオオオオオオオ!!!』

 

バケモノの四肢が空に舞ってボトボトと音を鳴らしながら地面に落ち、自分の手足を

斬られたバケモノは悲鳴を上げながら地面に転がっている。

試験の時も思ったけど本当に凄い。

天馬の姿をしたあいつは一体何者なんだ?

 

「……古書でも漁らない限り、分からないような呪術にあの男を思い出させる

メガネ…気にいらねぇ………そして何より…俺の獲物を横取りしてんじゃねーぞ

クソガキが!!ぶっ殺してやるよ!!!」

 

「ど、独立官!その生徒の問題行動については我々が―――」

 

「知るかジジイ!!ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・

サラバタタラタ・ センダマカロシャダ・ケンギャキギャキ・サラバビギナン・

ウンタラタ・カンマン!!」

 

呪文詠唱と共にヤンキーの周りに吹き荒れる炎の嵐。

そのすべてが天馬?に向かっていく。

なんだよこれ!?まるで災害じゃないか!!

 

「火界咒……!?なんて力だ!?」

 

夏目の言う通りあの炎に凄い力を感じる。

あんなのがまともの当たれば天馬?は跡形も残らないぞ!!

 

「オンキリキリバザラウンハッタ、オンハンドマダラアボキャジャヤニイ、ソロソロソワカ!」

 

天馬?を焼き尽くさんと迫る炎。

しかし天馬?に届く数メートル程のところで天馬?の言霊による呪術が

発動した。

天馬?の呪術は目の前に水の竜巻を発生させて迫り来る炎を飲み込みながら

ヤンキーに突っ込んでいく。

 

「なめるなぁ!!」

 

早九字!?呪文詠唱も手印もなしで発動させてあの水の竜巻を防ぎやがった!?

もう、ハイレベルすぎてスゲェ以外に言葉がでないぞ!!

 

「……てめぇ。マジで何者だ?ぜってぇ塾生じゃねぇだろ?双角会か?」

 

「双角会?何それ?」

 

「……まあいい。てめぇの手足を焼いて、尋問すれば言いだけだ。」

 

「やれるの?三下の君に……さ」

 

距離を取り、睨み合う両者。

双角会?まったく次から次えと新しい単語を……。

筆記惨敗者の理解力をなめるなよ!!←ヤケクソ

 

「まあいい。地獄を見せてや―――くそがっ!!」

 

ドパン!!!

 

今度はなんなんだよ!!

地面から吹き出る大量の瘴気。

その光景はさっきのバケモノが現れた時の状態によく似ている。

 

「ざけんじゃねぇぞ!!誰かが霊脈をいじりやがった!!!」

 

ヤンキーの声と同時に瘴気が倒れているバケモノの体内へと吸い込まれていく。

まさか!?

 

「っち!食って回復しやがったか!!」

 

俺達の目の前で完全回復したバケモノに舌打ちをするヤンキー。

これって、かなりやばい状況なんじゃないか!?

って……消えた?

 

瘴気で完全回復したバケモノ。

てっきり襲い掛かってくると思っていたのに奴は姿を消した。

 

もしかして逃げたのか?

 

 

 




結構早めに更新できたはず……。
これからも応援よろしくお願いします。

※感想・評価などをお待ちしております。


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19話

 

ー京子視点ー

 

「っち!霊脈に逃げやがったか……」

 

舌打ちをするありえない十二神将から視線をはずし、天馬の姿をした何かを見る。

普段の天馬ではあり得ない霊力と呪力。

彼が天馬じゃない事は確実。

じゃあ本物の天馬はどこ?

今、十二神将と戦っているの目の前の彼は一体……。

 

「ああああああぁあぁああぁああ!!」

 

「冬児!!」

 

偽天馬の事を考えをめぐらせていると、突然の叫び声に思考を中断してしまう。

もう!今度は一体何なのよ!!

叫び声のした方に視線を向けると冬児が頭を抱え、苦しそうにしている。

そういえばさっきもあんな状態になっていたけど…まさかさっきの瘴気のせいで

体に影響が!?

皆が冬児を注目する中、偽天馬に気をつけながら一歩一歩と近づいていく。

 

「鵺じゃねぇ……動的霊災…?いや…そのガキ憑いてやがっ!?」

 

「彼に近づくな」

 

そして、冬児に近づく十二神将の足元から何らかの術式が発動し、呪詛の縄が

十二神将を縛り上げると共に偽天馬の警告が聞こえた。

 

「……。てめぇ…マジでブチ殺してやる……!!」

 

「この札を彼の額に張るといい。今よりもだいぶ楽になると思う」

 

「え?…ああ、ありがとう」

 

「シカトしてんじゃねーぞ、メガネェ!!」

 

偽天馬は呪術で十二神将を縛り、警告の声を発した後は、まるで十二神将に

対して興味を失ったかのように、縛られた十二神将の横を素通りして一枚の

呪符を、春虎に渡して、それを冬児の額に張るように指示をだす。

しかし、そんな偽天馬の行動が十二神将の怒りに更なる火をつけた。

十二神将は元から凶悪な顔をさらに憎しみの表情で歪め、刃物のように鋭い霊力

をあたりに撒き散らし、強引に呪詛の縄を引きちぎる。

が……。

 

「こ…これは……まさか…テメェ……局長の……」

 

引きちぎられた縄が十二神将の手に絡み付いたと思ったら、荒々しい霊力の嵐が消え、

十二神将の額に刻まれたバツと同じ物が十二神将の手の甲に浮かび上がった。

十二神将はそのバツを驚愕の表情で見た後、奴は前のめりに倒れこんだ。

 

「組長?まあ、使えそうな封印術だったから呪詛の縄に組み込ませてもらったよ。

あと、体力を奪う術式もついでに少々」

 

十二神将の呟きは聞こえなかったけど、どうでもいい。

驚くべき事に、あの偽天馬は一つの呪術に二つの呪術を組み込んだ。

それがどれだけ凄い事か、塾生の私にだって分かる。

そして、なんとなくだけど偽天馬の正体についても分かった。

私の想像が正しかければ彼は……呪練場で助けてくれた仮面の男。

あの仮面の男も、複数のプロの陰陽師がようやく発動できる呪術を一人でこなし、

跡形もなく対象のバケモノを消し去った。

それに、あの場には天馬もいた。

おそらく、仮面の男は私達の中で天馬が一番入れ替われ易いと判断されたんだわ。

こうして、偽天馬について考えていると……

 

「カガミ!何をしているカ!!」

 

「獺祭(だっさい)!?独りで先行きすぎ!」

 

上空から二羽の鴉?が現れ、ギャーギャーと騒ぎ始めた。

なに…あれ?

 

「カガミ寝てる!!サボッてる!!」

 

「カガミ!!」

 

「そもそも鵺どこ?鵺いない!」

 

「カガミ!きちんと祓ったか?」

 

「まさか逃がしたのか?カガミ、逃がしたか!!」

 

「もしかして、やられた上に逃がしたか!」

 

二羽のマシンガントークに誰もがぽかんとした表情を浮かべていると

大きなエンジン音と共に一台のバイクに乗った男が近づいてくる。

 

「鏡!どうした!?一体何があった!!」

 

「ゼンジロー大変!!カガミのバカ、鵺逃がした!!」

 

「失態!!失態!!」

 

男は私達の近くの路上にバイクを止めた後、すぐさま倒れている十二神将の男に駆け寄る。

たしかこの人…十二神将の……。

私達の前に現れたバイクの男はなんとニュースによく出る木暮(こぐれ)禅次郎(ぜんじろう)

だった。

 

 

 

 

 

 




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20話

ー武視点ー

 

木暮(こぐれ)禅次郎(ぜんじろう)。

一般人から、陰陽師を目指す人間まで誰もが知っている

もっとも有名な陰陽師で陰陽師の花形。

やばくね?

もし、偽メガネ君一号が捕まったら……。

 

俺…逮捕されるんじゃね?

 

……。

 

逃げろぉーーー!!!

全速力で逃げろぉーーーー!!!

いや、落ち着け!!相手は十二神将最強……逃げても、捕まるだけだ。

ならば、アレを使って……。

 

 

 

ー木暮 禅次郎視点ー

 

倒れる鏡が怪我をしていないか心配になった俺は

鏡に駆け寄り、体を調べる。

よかった…鏡は気絶しているだけだ。

しかし……。

この術式は……鏡の手の甲に刻まれた見覚えのあるバツ印。

これは鏡の額に施された封印術……いや、同じように見えて全くの別物だ。

術式は額のものよりも複雑化されたあげく、見たことのないような術式が

混じっている。

鏡は問題児だが、腕は確かだ。

鵺のような霊災がこんな複雑な術を使ったとは思えない。

だとしたら又角会か?

くそ!もう少し俺がはやく辿り着いていれば……。

……悔やんでもしょうがない。

今は鏡を倒した術者の情報を少しでも集めて本局に伝える方が先だ。

 

「すまない!鏡がいろいろやらかしたと思うが、現状を知る為に事情を説明してくれないか?」

 

「はっ!陰陽塾の実技試験の最中に『タイプ・キマイラ』鵺の襲撃を受け、鏡独立官と

我が塾生……かもしれない者が、鵺と戦闘しましたが第三者の介入により、鵺は逃走。

しかし……その後…鏡独立官と彼が……」

 

鏡が鵺を逃がした?

それに塾生かもしれない者?

状況がいまいち掴めない。

しかし、講師である彼の発言から分かったことは二つ。

鏡は鵺を逃がした。

そして……講師の視線の先に居る少年を見る。

彼が鏡にこの呪詛を仕掛けた?

頭のてっぺんからつま先まで見たが、普通の少年だ。

……もしかして彼が陣(じん)の言っていた土御門……。

なるほど……夜光の転生と言われるだけある。

納得した俺は、彼からどうして鏡と戦闘になったのか事情を聞く為に

彼に話しかけようとするが……。

 

「術式開放!!」

 

「なに!?」

 

彼は左腕に仕込んでいたと思われる呪詛を発動させ、一瞬で自分自身を焼いた。

突然の行動に驚いたが、彼が消失するさい一瞬だけ人型が見えた。

間違いない…アレは式神の形代だった。

つまり、式を操作していた人間が居て、証拠隠滅の為に焼いたという事になる。

そもそも、何故塾生に式を紛れ込ませた?

術者の目的は…一体なんなんだ?

 

さまざまな可能性や疑問に頭を悩ませる俺だったが、とりあえず

本局に俺が分かってる情報を通達した。

しかし……式だけで鏡を倒すとは………もしかして今回のテロは『D』が動いて

居るのか?

 

 

ー道満視点ー

 

「くかかかかか!愉快愉快!!実に愉快!!式であれほどの呪術戦を繰り広げる

とは……あいも変わらずバケモノ染みた奴よ!!」

 

「……例の彼?」

 

「ん?なんじゃ、鈴。お主も晴明に興味を持ったか?」

 

「十二神将のツインテール幼女は気になるけど…彼は幼女じゃないから興味ないわ」

 

「そ…そうか」

 

相変わらず変な奴よ。

安部晴明よりも幼女がいいとは……。

まぁよい。

今はそんなことよりも奴の観察じゃ。

今回はあの男の願いを聞きいれ、わしは手をだせんが……。

もうすぐじゃ…もうすぐ……主に会いに行くぞ、晴明。

黒いリムジンの中…わしは未来に起こるであろう宿敵との呪術比べに思いをはせる。

 

 

 




みなさんお久しぶりです。リアルが忙しくなかなか更新できませんでしたが
ようやく更新できました。
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21話

 

ー大友視点ー

 

「なんで鏡のガキが絡んできてるんですか!?」

 

電話の向こう側にいる僕の元上司…天海(あまみ)大善(だいぜん)。

禅次郎から事の顛末をきいた僕は、先程まで一緒にいた彼に

問題児について文句を叩き付けた。

 

「バカヤロウ。鏡は独立官だぞ?修祓で鉢合わせることだってあるだろうよ。

ちなみにだが、被害が出ているのは陰陽塾だけじゃねぇんだからな。

ニュースでも出てるだろ、都内でも負傷者や霊障を負った者だらけだ」

 

……。

 

「しかも霊災はまだ終わってねぇ…確認された鵺は四体。

鬼門と裏鬼門に二体ずつだ。

このうち上野と品川は仕留めたが、残り二体は逃亡し都内に潜伏している」

 

鏡だけじゃなく、他も逃がしたやて!?

 

「霊視官が全力で探しているが……見つけたとしても相手は飛行型。

捕捉は困難だ」

 

「ヘリを使えばええでしょう?」

 

「鵺の機動性にはおっつかねぇよ。そもそも関係各所に許可を取るだけでも手間が掛かる

上に『D』が関係しているかもしれねぇんだ……人員もそこまで出せねぇ」

 

確かに『D』を警戒する為に、人員を分ける必要がある。

だが……。

 

「そんなん手が空いてて無駄に顔が広い部長がやればええやないですかっ!?」

 

そう、この無駄に顔が広い人なら関係各所もすんなり許可を通してくれる可能性が高い。

部長に動くように催促する僕。

 

「なんだとテメェ!このクソ忙しい中電話かけてきやがった分際で!!

……まあお前を『D』案件の協力要請の為に呼び出した最中にこんな事になったのは

悪いと思っている。

呪捜部の……というより、俺のミスだ。すまねぇ」

 

「それは……」

 

……そう言われると、僕も大人気なかったも知れないと思えてくる。

いや、冷静に考えれば塾生から離れた自分も責任がある。

 

「…古巣の用事にノコノコ付き合ったんはあくまで僕の判断ですからね。

その点を責めるつもりは……」

 

「おう?そうか、ならいいや」

 

……は?

一度冷静になった感情がジジイの一言で噴火した。

 

「ってこらジジィ!!なんやその態度は!?人をただ働きさせときながら……」

 

「ただ働き?変だな…美代ちゃんからはギャラの請求が……」

 

「なんやて!?あのごうつくババァ!!!

 

あのクソババァ!!

部長の一言で怒りの矛先を一瞬で、笑顔でほくそ笑んでいるであろうクソババァに

むける。

なにが塾生の為ならお金は関係ないや!!帰ったら請求したる!!

今まで苦労させられた分もまとめて請求したる!!

僕がババァへの復讐に燃えていると電話越しからジジイの笑い声が聞こえてた。

 

「クククッ。美代ちゃんらしいぜ……とにかくだ、現場で何人か双角会のメンバーを

しょっぴいてる。だが、肝心のリーダー格や『D』はまだだ。」

 

「たしか比良多(ひらた)君が言うてた六人部(むとべ)千尋(ちひろ)ですか?」

 

「確証はまだないが鵺を逃がす手助けをした『妨害者』がクサイな…。

なんでもその場で霊脈を操ったらしい…手口が大連寺(だいれんじ)と同じだ。

旧御霊部は鬼気祓いの儀式で霊脈の扱いには詳しいからな。

まあ、そういうわけで俺は今とても忙しい、愚痴なら他にしときな…ああ…

だが、ちょうどお前にやれる情報が二つある。

一つは、例のメガネの少年だが…陰陽塾のシャワー室で無事に見つかった

縛られていただけで、ケガはないそうだ」

 

「…そうですか」

 

心配していた自身の生徒の情報に安心する。

本当に無事でよかった。

 

「二つ目だが……つい半時間前の決定だ。

もう、美代ちゃんの方に話は行っているはずだが……今回の霊災に対応するにあたり

祓魔局の修祓司令室は二年前と同じ作戦を立てたようだ」

 

ん?どうゆうことや?

なんで霊災に対応するために陰陽塾が関係するんや。

 

「…なんです作戦て?しかもなんで陰陽塾にその話が……」

 

僕が作戦について部長に問うと、部長の重い声が電話から聞こえた。

 

「二年前…祓魔局は動的霊災をおびき寄せる為に『餌』を使った。

動的霊災が好むのは上質の陰の気……『竜』だ」

 

「り…竜?」

 

陰陽塾に竜……まさか。

悪い予感と緊張でのどが渇く。

 

「二年前…土御門家当主で『竜』の主である土御門夏目の父親に協力を要請した」

 

「ちょ…ちょっと待ってください!いま竜を持っているのは……」

 

「ああ、土御門の竜を再び利用する為……祓魔局はその主…土御門家次期当主、土御門

夏目に協力を要請するそうだ」

 

そんな!!優秀ではあるがまだ彼は学生なんやぞ!!

あのバカ司令部は何考えとるんや!!

そんな作戦を聞いたら彼の父親が激怒して協力なんてとても……。

 

「ちなみに現当主である土御門夏目の父親は……すでに許可をだしたそうだぜ?」

 

部長の言葉を聞いた僕はケータイを地面に叩き付けたい衝動に駆られたが

乱暴に通話を切るだけに留めて、その場から駆け出した。

 

 

 




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22話

ー春虎視点ー

 

メガネ……じゃなかった天馬が無事に発見された。

ケガや呪詛などの被害はなく精密検査を受けたが何一つ問題は

なかったそうだ。

冬児も、偽天馬がくれた札のお陰で堕ちる事無く、体調も安定しているらしい。

念のため、病院で陰陽医が来るまでは絶対安静を言われた冬児を除いて

陰陽塾の教室で天馬と合流した俺と夏目と京子だったが冬児の事を知った俺以外の

三人の顔が暗い。

 

「まさか…冬児君がそんなことになっていたなんて……」

 

「天馬はもう大丈夫なのか?」

 

「うん……ただ眠らされただけみたいだから」

 

苦笑いを浮かべながら自身のことを話す天馬。

あの偽天馬は一体何が目的で天馬と入れ替わったんだ?

霊災テロを起こす為?

でも、テロを起こすような犯罪者が冬児を治療してくれるわけがない。

正直、偽天馬に関しては難しすぎて俺にはわからない。

それよりも今は……。

 

「…夏目に京子に天馬も悪かったな、冬児の事を今まで黙ってて」

 

「……」

 

「まあ…なかなか言い出せることじゃないし……」

 

「…そうだね」

 

俺の言葉を黙って聞く夏目に、納得しているが事が重すぎて表情の暗い京子。

それに同調する天馬。

 

「なんか…こっちに来てから俺や冬児とみんな結構いい感じだったからさ、

言い出しづらかったっていうかこのままでいいやって……その…」

 

くそ!言い訳るなよ俺!!

言い訳する自分に苛立ちながら、正直に話すことを決意した俺は

どもっていた口をしっかり開いた。

 

「俺は…せっかくの雰囲気を壊したくなかったんだ。

また、壊してしまいたくなくて……。

黙っていた冬児の事も見逃してくれ、あいつはむしろ俺に気を遣って黙ってたんだよ。

俺が今の生活を……みんなとの関係を気に入ってるって事、お見通しだったろうからさ」

 

俺は姿勢を正して、沢山の気持ちを込めて皆に頭を下げた。

 

「黙ってて、ごめん!でもあいつは本当に安全なんだ。

被災して一年近くずっと『それ系』の施設で治療していたしさ!

おれ…親父と兄貴と一緒に何回か行ったことあるんだけど、すげーキツそう

でさ…確かにそのころは、暴発っていうか…お、鬼になりかけたこともあったんだけど

今は絶対に安全だから!!」

 

頭を下げたまま、俺は必死に話した。

正直…じぶんでも上手くしゃべれていないのは自覚している。

それでも!冬児を見るみんなの目が変わらないように俺は口を止めることをしないで

喋りきった。

そして……。

 

「まったく…春虎といい冬児といい……ぼくらのことを馬鹿にするにもほどがある」

 

夏目にぺしんと頭を叩かれ、頭を上げる。

 

「え?あの……」

 

「夏目君?」

 

「だってそうだろ?冬児が生成りだからって、僕らが態度を変える事をこの二人

はほんの少しでも心配したんだよ?」

 

頭を上げ、いつもの調子で話す夏目に戸惑う俺と京子に天馬。

そんな俺達を似記する事無く、夏目は話を続けた。

 

「冗談じゃない。こんなに僕等を馬鹿にした話があるかい?

生成りだろうとなんだろうと、冬児は冬児だ!!

当たり前じゃないか、馬鹿虎!!」

 

……。

 

「ま……まったくね!でもしょうがないんじゃない?

その辺は男子っていつもズレてるもの!ね、天馬?

あっ!武さんは例外だけど♪」

 

「へ―――あ、う、うん!そうだねっ!!み、水臭いよ二人とも」

 

夏目の言葉に少し戸惑いながらもいつもの調子に戻る二人。

そんな皆をみて俺は…俺達は本当にいい仲間を持ったと心のそこから思った俺は

感謝の言葉を口にした。

 

「お前ら……ありがとう」

 

…おれは、不運なんかじゃない。

なんて幸運な奴なんだろう。

いつもの皆を見て本当にそう思う。

あれ?

一瞬…ほんの一瞬だが……夏目の笑顔が記憶の中に居る竜ではない親友の

北斗(ほくと)と重なった。

 

最高の仲間を持ったことに幸福感を感じつつ、いつもの調子に戻った俺達だったが

このあと、さらなる出来事が俺達に襲い掛かる。

 

ー武視点ー

 

ー時は遡り春虎達が陰陽塾に向かっている頃……ー

 

ふはははは!!

予知夢を回避し、無事に証拠も隠滅してやったぜ!!

これで京子ちゃん(巨乳)とデートが………。

 

「武君!春虎君たちがテロに巻き込まれて……塾長から呼び出しが!!」

 

寮にある自身の部屋の中心でニヤニヤとした表情を作る俺。

心の中で高らかに笑い、今まさに勝利宣言をしようとしたところで

まさかのお呼び出しに有頂天だったテンションが落ちてマントルを突き破り

熱かった体が汗で冷える。

 

お、おおおお落ち着けけけけ…大丈夫。

大丈夫だ。現場に証拠はないんや。

しらばっくれてしまえばええんや……。

とりあえず、知らないフリをすることにした俺は、心の安定の為、十二神将の

女性陣を眺めた後、腐った寮母(悪魔の使い)に導かれ、塾長室にやって来た。

第一声が……。

 

「天馬君についてお話してもらえますね?土御門 武君」

 

バレてーら。

ばれていたならしょうがない。

俺は観念して予知夢や実技試験に式神を潜入させ、大暴れした事について話をした。

 

…………。

………。

……。

…。

 

 

「…そうですか」

 

全てを話し終えた後、塾長は一言そういって……。

 

「ご苦労さまでした。そして…京子さん達を助けてくれて本当にありがとうございました」

 

「え?」

 

てっきり退学処分にでもなるのかと思っていたのに塾長の労いの言葉と

お礼に戸惑う俺。

 

「しかし、あの子達を守る為とはいえ、今度からは一言だけでもいいので

私や大友先生に相談してから動いてください。」

 

「…すみません」

 

ふむ…これはあれか?お説教だけで終了なのか?

無罪放免?俺の大勝利?

 

「この件についてはもういいこの辺にして…そろそろ本題に入りましょう」

 

「本題ですか?」

 

あれ?さっきの話が本題じゃないの?

じゃあ、塾長は一体何の為に俺をよんだんだ?

正直、心当たりはいくつかあるが……。

緊張と不安で体に力が入る。

 

「実はあなたにお願いしたい事がありまして………」

 

あ、なんかやばそう。

かなり嫌な予感がする。

 

「実は陰陽庁から霊災修祓の為、夏目君に『竜』を貸して欲しいと要請がありまして…

彼一人で現場に向かわせるわけにはいけませんから、夏目君に何かあった時の

為に同行して欲しいんですよ。あ、もちろん正体を隠してもらっても構いませんよ?」

 

正体を隠すは意味が分からないが一つだけ分かったことがある。

つまりあれですか?なにかあった時の為の肉壁になれと?

塾長…あなたは俺を殺す気ですか?

 

「……成功報酬は我が陰陽塾、塾講師の内定で―――」

 

「夏目のサポートをよろこんでやらせていただきます」

 

イヤだと眼で訴えていた俺だったが、突然正義に目覚め、お願い事を喜んで

引き受け、呪符などの準備の為に部屋へと戻った。

しかし、正体を隠してもいいってどういう事だったのだろうか?

もしかして、霊災現場に協力要請もしていない塾生が居たら不味いからか?

まあ、免許持っていないし、そりゃあそうか……。

じゃあ、なにか正体を隠す衣装とか考えないと……以前つかった奴がたしか

あそこにあったはず……。

 

 

 

 

ー塾長視点ー

 

陰陽庁司令部から連絡を受けた私は、まず土御門夏目君を呼ぶのではなく

彼の親戚である土御門武君を塾長室へ呼びました。

昼間の件について話したかったのと、彼には私からお願い事をしたかったからです。

彼を呼び出し、問答無用で事情を聞いた所によると予知夢をみた彼は、予知を回避しようと

今回の行動を起こしたそうです。

確かに彼が動かなければ被害は大きくなり、場合によっては霊災で死傷者が出ていたかも

しれません。

まあ、陰陽庁では『D』…法師のせいにされているようですが……。

別にそのままでいいでしょう。

彼の事を話せば確実に騒ぎと混乱が大きくなり、夜光信者達のような者がさらに

増えるだけでしょうから…。

 

私は彼に今度から一言、報告してから動いて欲しいとお願いしたあと

本題であるお願い事をした。

私のお願い事を聞いて渋っていた彼でしたが、彼の進路志望の内容を思い出し、

彼の希望を必ず叶える事を今回の報酬にすると伝えると快く承諾してくれました。

報酬を聞いて承諾する彼の顔は、将棋をする時のあの人と似ていて……。

少し、懐かしい気持ちになりました。

 

「ではよろしくお願いしますね。晴明さん」

 

お願い事を承諾した後、一人になった塾長室で彼のもう一つの名前をつぶやいた。

 

 

 




あけましておめでとうございます。
今年も『陰陽師になりました』をよろしくお願いします。

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23話

ー春虎視点ー

 

「そんな!?夏目君は、まだ学生なのよっ?どうして祓魔局の作戦に

むりやり駆り出されなきゃならないのよっ!」

 

塾長室で京子の声が響き渡る。

あの後、塾長室に呼び出され、俺達が聞かされたのは夏目が祓魔局の作戦

の参加要請が来ているという話だった。

 

「ちなみに、これは強制ではありません。夏目さんには拒否権があります。

それと……京子さん塾内ではちゃんと敬語をつかいなさい」

 

「でもっ!」

 

あらぶる京子をいさめるような口調で語り掛ける塾長に天馬が食い下がる。

俺もそうだがいくら拒否権があるといっても今回の話には納得がいかないからだ。

 

「あんな事件のすぐあとですよ?失礼ですけどあんまりだと僕は思います。

祓魔局は陰陽塾の現状を把握していないんじゃないんですか!?」

 

「……父は」

 

天馬が塾長に祓魔局に対する感情をぶちまけていると傍らで夏目が

ポツリと呟いた。

 

「父は、OKを出したんですね?」

 

「祓魔局はそう言っているわ……なんならお父さんと相談してみますか?」

 

「…いえそれには及びません」

 

塾長と話し始めた夏目を静かに見守る俺達。

俺は…なんとなく夏目が言おうとしていることが分かる。

正直…作戦参加には納得できない。

でも……俺はコイツの式神だ。

だから……

 

「祓魔局に出頭します」

 

どんな道でも付いていって、全力で守ってやる!

 

「まってよ夏目君!祓魔局だって竜が君に譲渡されているって分かっていたら

きっと次善策を採用していたはずだよ!!」

 

「父が引き受けた以上、これは土御門の問題……なら、土御門の人間として

僕は責任を果たしてみせる」

 

「でもっ!」

 

「天馬さん」

 

作戦参加を決めた夏目の考えを変えようと必死に説得する天馬に

塾長が声を掛ける。

 

「残念ですが…おそらく祓魔局は最初から夏目さんに竜を使わせるつもりで

この作戦を立てているわ。

囮になるのが『夏目さんの』竜であることこそに意味があるのです」

 

塾長の言葉に背筋が凍る。

なんとなくだが馬鹿の俺でもわかった…つまり祓魔局の連中は……。

 

「今回の霊災は二年前と同じ……今回も夜光信者によるテロ行為である

可能性が極めて高いんです。

だからこそ夏目さんが現場に立てば信者達も無茶な行動はできない。

つまり……」

 

「『人質』代わりってこと?」

 

 

夏目を人質にするつもりだ。

 

 

ー武視点ー

 

塾長室から部屋に戻って慌てて準備したのに部屋の中がシリアスすぎて

中に入れないし、人に見られるのも面倒なので隠形をして塾長室を盗聴中なう。

ちなみに現在の俺はスーツ姿に変声機の代わりとなる呪符を内側に貼り付けた

狐の面を装備している。

さすがに着物を着ている時間はなかったよ。

 

しかし、人質とは夏目も大変だな。

 

しばらく盗聴していると、夏目の話から冬児の話へと変わった。

何でも眼を離した隙にいなくなってしまったようだ。

塾長の話では意識が朦朧としている状態だったとか……。

ふむ…一応軽い封印処置をしたから安心だと思っていたんだが……。

何か不具合でも起きたか?

それとも処置をミスったか?

 

『春虎、天馬は急いで冬児を探して。夏目君には私が付き添う』

 

京子ちゃんの言葉に思考がとまる。

あれ?今いけんじゃね?

 

『なら俺もつきそおう』見たいな感じで入れるんじゃね?

俺の出番そろそろじゃね?

 

『……なら、私が個人的に雇った陰陽師も夏目さんの護衛につけましょう。

もうそろそろこちらに来ると思いますが……かなりの凄腕なので安心ですよ』

 

塾長ナイス!そして風呂敷がでかすぎです!!

 

「どうも、本郷(ほんごう)明(あきら)です。」

 

心の中で塾長に抗議しつつ、何食わぬ顔で塾長室に入った。

顔…みえないんだけどね。

 

 




久しぶりの投稿……。
仕事が大変でなかなか更新が……。



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24話

 

春虎視点

 

夏目の護衛に塾長が雇ったスーツ姿の仮面の男。

まちがいない。あの仮面は以前夏目が誘拐されたときに現れた謎の陰陽師の物だ。

本名以外は未だに不明だが、実力は夏目が誘拐されそうになった時に見たし、塾長のお墨付きだ。

塾長の話を聞けば、夏目にはさらに陰陽庁から護衛が配属されるというし、夏目の安全は飛躍的に上がるだろう。

ひとまず夏目に関しては安心した俺は、冬児を探す為に走り出した。

それなのに……。

 

「あの馬鹿、どこに行きやがった!?」

 

そこそこの時間を掛けて町を走り回り、冬児の馬鹿が見つからない現状に思わず悪態をつく。

コンや天馬、先生達も冬児を治療してくれる人を探してくれているのに!!

全然見つかりやしねぇ!!こうなったら……。

陰陽塾から出る際、本郷さんが『弱いが囮や盾に使える式神だ…持って行くといい』と

言って渡してくれた式札をしまっていたポケットから取り出す。

いや、ダメだ。

たぶん戦闘用だろうし、捜索には向かないだろう。

ちきしょう!!本当にどこにいやがるんだ!!

 

「そこの少年。人探しか?」

 

現状に一人でイラついていると見知らぬおっさんが声を掛けてきた。

 

「さっきから走り回っていただろう?誰か探しているのか?

誰をさがしているのか知らないが、それと同じ制服を着た少年なら少し前に見かけたぞ。

様子がおかしかったから覚えている」

 

おおっ!!天の助けならぬおっさんの助け!!

ようやく冬児の情報を掴めるぞ!!

 

「本当ですかっ!?一体どこで……」

 

「あの先のオフィスフィルの近くだ」

 

俺がおっさんが見た場所を聞くと、おっさんは右手で冬児が居た場所を指を差して

教えてくれた。

ってあの場所は……実技試験の場所じゃねーか!!

なんであんな所に居るんだよ!!

 

「あ、ありがとうございます!!本当にありがとう!!」

 

おっさんに礼を言って、再び走り出す。

あれ?

走り出した一瞬。おっさんに違和感を感じた俺は瞬時に振り返るが……。

さっきまで話していたはずのおっさんの姿は何所にもなかった。

 

 

夏目視点

 

陰陽塾で春虎と別れた私は、塾長に雇われた護衛の本郷さんと私が心配で付いてきてくれる事になった

倉橋さんの三人で民家のない広場に設置されたテントに来ています。

テントの外では陰陽師達が霊災の確保迎撃の為の準備をしていてとても慌しい様子を見せています。

そんな中、外の準備が出来るまで待機しているように言われた私は、陰陽庁から私の護衛任務に付く

人と出会う事になったのですけど……。

 

「初めまして……ではないか…じゃあ改めて、俺は独立祓魔官の小暮(こぐれ)禅次郎(ぜんじろう)。

今回君達には俺達と作戦を遂行してもらうことになった。はっきり言って危険な任務だ。

そこで、君達は俺と一緒に行動してもらう。つまり俺がそこの仮面の彼と同じ護衛役ってわけだ。

あんたも作戦中は俺のいう事をよく聞いて指示に従って欲しい。」

 

十二神将が護衛役!?

 

「ちょっと待ってください!フェーズ3の霊災を修祓するんですよね?

ぼくに付いていたら戦力的に……」

 

「アハハハハッ、大丈夫だ。今回の作戦では祓魔局が総力を結集する。

そんな心配はしなくていいよ」

 

戦力の低下について心配して発言してみましたが

どうやら、問題はなさそうです。

それにしてもこの人…緊急事態なのに態度が軽いような……。

 

「あ、それはそうと…きみら陣(じん)が担任なんだろ?

どう、あいつ?真面目に講師してる?」

 

「え?」

 

「……『陣』って」

 

言われて一瞬、私と倉橋さんは分からなかった。

けど、私達の担任ですから……。

 

「大友先生!?」

 

「お、お知り合いなんですか?」

 

倉橋さんと私は驚きを隠せませんでした。

意外です。意外すぎます。

まさか十二神将と大友先生が知り合いだったなんて……。

 

「知り合いって言うか……そもそも陰陽塾で同級だったから」

 

「ええ!?陰陽塾のっ?」

 

「あれ?そんなに意外か?陰陽庁には塾の卒業生なんか山ほどいるぜ?」

 

違います!そんな事で私達は驚いていないんです。

まさか……まさか大友先生が二十代だったなんて!!

 

「俺等は三六期生でさ…『三六(さぶろく)の三羽烏(さんばがらす)』なんて呼ばれていたんだぜ」

 

「小暮さんと大友先生が友達だったなんて……」

 

「きっと大友先生は小暮さんしか友達が居なかったじゃない?」

 

「凄くありえそうな……」

 

「でしょ?それにしても意外すぎる組み合わせね……あれ?」

 

小暮さんの話に倉橋さんと花を裂かせていると倉橋さんが何かに疑問を持った様です。

どうしたんでしょう。

 

「『三羽烏』ってことはもう一人居るんですか?」

 

「あ」

 

倉橋さんの疑問を聞いて、さっきまでの明るい表情を一変させバツの悪そうな顔を

する小暮さん。

その様子を見るに、どうやら地雷だった様です。

 

「うん…まぁ…その……いや、大した話じゃないんだけども……」

 

気まずそうにしどろもどろに話す。小暮さん。

正直どうすればいいのか戸惑います。

 

「失礼します。小暮独立官。お待たせしました」

 

テントに入ってくるスーツ姿の男性にホッっとした表情を見せた小暮さんは

そそくさと男性の隣に移動し、男性の紹介を始めました。

 

「呪捜部(じゅそうぶ)の比良多(ひらた)篤祢(あつね)だ。」

 

 

 



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25話

武視点

 

「呪捜部(じゅそうぶ)の比良多(ひらた)篤祢(あつね)だ。」

 

十二神将の若き天才様に紹介されたイケメンがさわやかに一礼した。

 

「今日はこいつにも同行してもらう。

理由は…まあ言わなくてもわかるよな?」

 

小暮さんの話に重い空気が流れる。

ふむ…犯人が夜光信者なんていうテロリストの可能性が高いから夏目の護衛

って事かな?

あれ?もしかして俺は要らない子ですか?

むむむ!いくらプロの陰陽師とはいえ、お前のようなイケメンには負けんぞ!!

 

「…初めまして土御門夏目さん。呪捜部の比良多といいます。

去年は同僚が大変不名誉な真似をしてしまいました。同じ呪捜官として深くお詫びいたします」

 

やべぇよこれ、勝てる気しねぇよ……。

呪術だけじゃなくイケメン度でも勝てる気しねぇよ……。

京子ちゃん大丈夫だよね?このイケメンに惚れてないよね?

デートの約束覚えているよね?

そんなことを考えているとイケメンが俺の傍までやって来た。

 

「同じ護衛としてよろしくお願いしますね……本郷さん」

 

ゾク!

 

なんだ!?一瞬凄い寒気が……。

まさか…コイツまさか………。

限界まで眼を見開き奴の顔を見る。

先程と違いニヤリとした笑みを俺に向けるイケメン……。

コイツ……ホモやろうだったのかぁああああ!!

間違いねぇ!!あの寒気は俺の尻を狙ってる気配に違いない!!

 

「さて……顔合わせも終わった所で丁度時間になった事だし…夏目君お願いできるかな?」

 

「はい」

 

イケメンから尻を死守している間に、作戦時間が来たようだ。

テントに居た全員が小暮さん後を付いていきながらテントの外に出る。

さて……いよいよ決戦の時だ!!

頼みましたよ!!小暮さん!!

俺達は安全な所で応援してますからね!!

 

ー10分後ー

 

来ない……。

夏目が土御門の竜である『北斗』(ほくと)を実体化させ動的霊災を誘い出すかの様に

空中を旋回しているというのに全く現れる気配がしない。

いや、気配はなんとなく感じるのだ。

霊災は、こちらにゆっくりとだがこちらに向かって来る。

それにしても遅い…奴は一体何をして……。

霊災の動向が気になった俺は瞑想し、意識を霊災に集中する。

ん?

霊災の霊力が……上がっている?

集中する前は気づかなかったが霊災の霊力が上昇している。

もしかしてまた瘴気を食いながらこっちに向かっているのか?

それとも次のフェーズへ移行する為の準備を……。

 

急にスピードを上げた!?

 

北斗の存在を確信したのか?

奴は先程とは比べ物にならないスピードでこちらに向かって来る!!

 

『目標を視認!タイプ・キマイラ、接近までおよそ二分!!

迎撃用意!!』

 

いよいよ戦闘が始まる。

落ち着け……俺よりもすごいプロの陰陽師がここには沢山居て

十二神将のエース様もここに居るんだ。

俺達に危険なんか……。

 

『だ、第二の動的霊災を発見!』

 

ば、ばかな!?さっきは一体しか感じなかったぞ!!

それがもう一体だなんて……。

くそ!もうすぐ卒業とはいえ、やっぱり俺はまだまだプロにはかなわないな。

ここは予定通りにプロの方々に任せて俺は夏目と京子ちゃんを連れて

裏鬼門の安全圏まで退避を……。

 

 

『南西……裏鬼門より接近中っ!!』

 

 

まじで?

じゃあ俺達はどうしたら……。

周りのプロの皆さんも新たに接近してくる霊災に動揺している。

かなり不味い状況だ。

 

「…ふん。君の竜は相当な美人らしいな、おかげで手間が省けた」

 

ニッと輝かしい笑顔で言う小暮さん。

おお!!さすが十二神将だ、これくらい余裕ってやつですね!!

 

『南西より接近中の動的霊災は接近まで約六分だ!

ただいまより当作戦は『プランC』に移行する!

また…以後、第一、第二の動的霊災をそれぞれ『キマイラ01』

『キマイラ02』と呼称する』

 

『繰り返すっ『プランC』だ!』

 

「小暮さんプランCって一体なんですか?」

 

「ん?要はいっぺんに両方修祓するってだけの話だ。

まあ、奴等を閉じ込めるための結界を張るタイミングがタイトにはなるがな」

 

俺の質問に分かりやすく説明してくれる小暮さん。

その表情は自信に溢れていた。

とても安心できる。

 

「さぁ少し下がるぞ!比良多お前も来い」

 

「あ、あの北斗は?」

 

小暮さんの指示に従い後ろに下がる俺達。

ただ一人、自分の式である竜を心配する夏目は小暮さんにどうすればいいのか

質問をした。

 

「『02』が到着するまで上空で待機だ。ただい、『01』には

近づけるなよ。修祓の巻き添えを食う」

 

「わかりました!」

 

移動をしながら小暮さんの指示に大きな返事で返す夏目。

俺達が移動を続けていると陰の気が風に紛れ始めた。

奴等がここに到達するまで残り僅か。

そんな時、一つのテントから数人の陰陽師達が

飛び出して来た。

テントに独立祓魔官待機所と書かれているから小暮さんと同じ、俺達陰陽師

の頂点が出動したのだろう。

これで俺達の安全も就職内定の安全も確保されたってわけだ。

 




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