オーバーロード ~アルストよりの来訪者~ (ヲリア)
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プロローグ
でもゼノブレイド2にあんなに枠とってくれて俺嬉しいよサークライ
プロローグはゼノブレイド2側のエンディングのネタバレを含みます。
一応見なくても2話以降に影響しないように書きます
世界樹が崩壊する。
もとより頂上からはアルスト全域を見渡し、雲海の水平線が見えるほどに高いため、その頂上から地面に叩きつけられればひとたまりもない。
レックスたちはシャトルに乗り込み、世界樹からの脱出を図るのであった。
00:05:00
00:04:59
そして、それはそのまま、レックスとのお別れの時間を指していた。
己の力はこの世界には過ぎたる力。そう考えた彼女は、この世界樹と運命を共にすると決めた。
レックスがその想いを知った頃には、もはや彼女の手を取ることはできない場所にいたのだ。
00:02:48
00:02:47
そんな彼女の決意を知り、その想いを背負い込んだ少年の心中は、仲間たちにも容易に察することができた。
しかし、それでも、だからこそ、そこで足を止めるわけにはいかない。
彼女の旅路にレックスを巻き込むことは、彼女の本意ではないのだ。
00:00:30
00:00:29
シャトルに火が入る。
その様を見て、無事に脱出できそうだとホムラは思う。
たとえあのシャトルが経年劣化による不具合で不時着することになっても、セイリュウに与えた力で彼らを救ってくれるだろう。
もはや自分が想い、想ってくれる少年と会うことはできないとしても、その顔には笑みが浮かぶ。
00:00:10
00:00:09
後悔はない。レックス、ニア、トラと駆け回った草原の匂いも、ジーク、メレフに教えてもらった世界も、アデル、ラウラ、ユーゴと一緒に戦った経験も、全てが思い出だ。
辛酸を嘗めることもあった。トラウマになることもあった。
だが、それら全てが今の自分を作り出したと思えば、何もかも、かけがえのない出来事であったと言える。
自らの消滅は本望であった。
それでも、本心を言うならば。
レックスたちと、楽しかった、旅を続けたかった。
00:00:05
00:00:04
「もも!ロケットがケーネンレッカで壊れているも!こんなことでユウシャたちを失うのは世界のソンシツも!今助けて・・・ももももも!ジメンが揺れているも!」
誰もが全力でこの世界を生きている。助け合い、ヒトノワができて、絆を深めていく。
しかし、望まれていない努力、余計なお世話というのも、確かに存在するのだ。
00:00:02
23:59:58
00:00:01
23:59:59
「そうだ、楽しかったんだ・・・」
そして、
00:00:00
00:00:01
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・
・
・
--------
大気圏突入の衝撃でシャトルは空中分解し、生身のまま地面に激突するかと思いきや、ホムラが授けていた力によって、それまでの省エネ状態からアルス形態へと変貌し、彼らの救出に成功した。
そして、感傷に浸っていたレックス。その手の中にあったコアクリスタルに光が宿り、ホムラとヒカリが誕生した。
ハナが二人に抱きつき、ニアに背中を押されてレックスも手を伸ばす。
しかし、メレフとジークは今の状況を良く思っていなかった。
「セイリュウ殿、我々がいるこの場所に見覚えはありますか?」
「いや、ないのう。世界樹の上から落ちてきたならば、雲海が見えん道理はない。だというのにここは大地が広がるばかり。グーラでもここまで広くはないぞ」
「まさかここがレックスのいう本当の楽園っちゅーことか?いやいや、んなわけないわ。アルストはメツが攻撃したんだからもっとボロボロのはずやし、まさか神がなんかしたんとちゃうか?」
「なるほど、そういうことであればホムラとヒカリが何か知っているかもしれん」
そういうとセイリュウは着陸し、皆に降りるように伝えると、レックスたちの慣れ親しんだ省エネ状態に戻る。
「?じっちゃん、元に戻れたんじゃないの?」
「いやいや、あれはホムラがわしに一時的にくれた力じゃ。あまり長い時間大きくなっていると本当に戻れるまでしばらくかかるようになってしまう。これからも頼んだぞ?」
「そっか。ところでじっちゃん、ここってどこ?グーラ?」
「まったく、おまえはまるで周りが見えてないのう」
ホムラとヒカリとの再会にまるで周りが見えていなかったようで、レックスは照れたように顔を赤くした。
「それでホムラ、おヌシの
「はい、"せめてもの餞別"といいながら、アルスト中のアルスをつなぎ合わせたとか」
「確かにアルスはつなぎ合わさったならこの広さも納得がいく。だが、ホムラにもわからないとはどういうことだ?」
「神さんが言っとったんには、天の聖杯には全てのブレイドの情報が集まっとるってな。たとえワイらにとって秘境でも、誰かが行ったことがあることがあんならその記憶はあるはずや」
「それこそ全てのアルスが繋がりあったっていう影響じゃない?でもここが私の故郷のグーラだとしても、こんな平地に森なんてあったっけかなあ」
「いやでも、待って・・・構造計算中・・・うそ、これって!?」
違和感を覚えたヒカリが近くの木を調べると、驚きの声を上げる。
「どうしたの?」
「この樹の分子構造がグーラのそれと・・・いえ、アルスト全土のそれと一致していないわ。ありえない」
「それってどういうことさ?ここは私の知ってるグーラじゃないってこと?」
「それどころか、私の予想では」
『やーっとつながったんだも』
その時、ここにいる誰でもない声が彼らの頭の中に響いた。
「!誰だ!」
『ノポン・ダイセンニンだも。今回はこちらの不手際で異世界に飛ばしてしまって申し訳ないも』
「やっぱり・・・!ここはアルストじゃないってわけね。目的は何!」
『だから不手際だと言っているも!オマエタチが世界樹から逃げるときに乗っていたロケットはケーネンレッカでフジチャクすることがわかったから、ボクが助けようとしたも!』
会話することはできても、ノポン・ダイセンニンの姿は一向に見えない。どうやら念話で意思だけを伝えているようだ。
「ノポン・ダイセンニン様、それはありがたいことですが、なぜ我々を助けようとしたのですか?」
『それはオマエタチがメツを倒してアルストに平和をもたらしたユウシャだからも!』
「それでは今の状況をどう説明する?今我々は命をつなぎとめているが、それと別世界とやらに飛ばされるのは何か関係があるとでも?」
『ボクがフジチャクするオマエタチを助けるべく、世界樹が爆発する直前にポータルを開いたんだも!だけど、突然地面が揺れ始めたんだも。それでアンゼンに雲海に降ろすつもりが、別次元に行ってしまったみたいなんだも』
「あー、地面が揺れたって
本当に故意ではないと必死に弁明するが、レックスたちに悪いことをしたという自覚がある分、あまり強気に出られないようだ。
『ともかく、そういうことだも!そこからアルストに転移させるときは時間軸をずらしてアルス結合の時間に合わせるも!だから準備ができるまで生き延びていることも!それじゃあも!』
「あ、ちょっと!それっていつのことなのよ!・・・もう!」
書きだめが少ないのに投稿したので亀ちゃん更新になります
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森の中から
レックスたちのピンチを救おうとしたノポン・ダイセンニンは突然の地震により彼らを異世界に飛ばしてしまった。
今回はキャラ解説を入れていきます。全員分喋らせるのきっつい・・・
世界樹からの脱出に成功し、ホムラたちと再会できたかと思いきや、ノポン・ダイセンニンに手違いで別世界へと転移させられたレックスたち。
「時間が経てば元の世界の時間軸に戻すと言っていたが、トラにはそれがどのくらいの期間になるかわかるか?」
スペルビア特別執権官の軍服を着込んだ男装の麗人、メレフがノポン・ダイセンニンと同じノポン族であるトラに話を聞いた。
「結構長い時間になると思うも。1億年生きたとも言われているダイセンニンの言う時間の感覚はトラたちとぜんぜん違うも。断言はできないけど、1週間や1ヶ月ではきかないと思うも」
トラはノポン族の少年であり、親子3代かけて人工ブレイドであるハナを作り上げた変態天才技師である。
「嘘ぉ!?それじゃあカバンの中身じゃ全然足りないじゃん!どうにかして増やせないかなぁ・・・そうだ、野菜なら植えられるんじゃない?ビャッコ、どう?」
猫耳が特徴的なグーラ人の少女、ニア。意外と食い意地が張っているのは、彼女が成長期の姿であることが関係しているのか。
「草花は心を癒やしてくれますね。植物そのものに我々の世界との違いは感じられませんが、ここに植えてなんとかなるかは私にはわかりません。そういうことであれば私より彼女のほうが得意だと思います」
《植物学》を持つニアのブレイド、ビャッコが答える。ただしそれは植物の性質や種別、効能がわかるものであり、育つ環境であるかどうかを知るものではなかった。
「こう見えてアグリカルチャーは得意分野ですも。今ハナが土を調べた結果、けっこう成分が違うみたいですも。これではアルストの食物が育ちにくいと判断しますも」
《農学》を持つトラの人工ブレイド、ハナJKがその続きを答えた。どの姿であっても同じ身体である以上、持っている知識は同じであるはずだが、スキルを活用するときは形から入るタイプのようだ。
「もも!あまあまういんなが食べられなくなっちゃうも!?それは困るも!」
トラの好物のあまあまういんなはアルストに生息する草食獣、アルマを加工した食品だ。当然、カバンの中に生物が入っているわけがないので、これ以上増えることはない。
「好物が食べられないだけだろ、トラ。肉は植えても生えてこないし、あまあまういんなは今ある分で諦めなきゃ。それにアルストの植物を増やすんじゃなくて、そのへんにあるものを採集すればいいんじゃない?」
雲海に眠るお宝を探して生計を立てるサルベージャーの少年であり、ゼノブレイド2における主人公であるレックス。ただし、この世界において雲海は存在しないため、その技能は完全に腐ることになる。
「採集かぁ。ワイらが諸国周遊してたときはサイカが魚の目利きができるさかい、肉には困らんかったんやが、野菜がどうにも毒の有る無しがわからんくて、下痢が3日も止まらんかったことがあってなあ」
特徴的な口調で話す彼の名はジーク。自称、ジーク・B・極・玄武。何かと運が悪く、彼がいるだけで空気が締まらなくなることもあるが、メレフとセットで大人組とされることが多く、いざというときは頼れる男である。
「王子ぃ~、それはウチでも笑い話にせぇへんで。まあ見知らぬ土地に来たら食べ物には気ぃつけたほうがいいってこっちゃね」
同じく特徴的な口調をしたジークのブレイド、サイカ。ジークのことを「王子」と呼ぶが、それは彼が王族であることに起因する。女性型であるが、電球のかぶりものをしている他、腕が電球のようにガラスの中に光源があるようになっており、見た目にはかなり奇抜な格好をしていると言えよう。
「今回は素材の目利きができる方たちがいて助かりましたね。毒のない食材が手に入ったら私が《料理》しますね」
レックスのブレイド、ホムラ。彼女はブレイドの中でも特別である「天の聖杯」であり、すべてのブレイドの情報を集めて記憶しているという。
「私もレックスのために美味しい料理が作れたらなぁ」
同じくレックスのブレイド、ヒカリ。本来は彼女たちは一心同体であり、ホムラはヒカリが生み出した人格であり姿であったが、紆余曲折を経て二人は分裂してこの場所にいる。
つまり同一人物であるが、ヒカリはホムラと違って料理の腕は壊滅的であり、今は料理することを禁じられている。
「あなたは独創的な創作料理を作る前に、ちゃんとしたレシピ通りに作る努力をするべきね。500年前の私もそう言っているわ」
メレフのブレイド、カグツチがヒカリにそう言い放つ。彼女は500年前にヒカリと一緒に旅をした仲である。だがカグツチはヒカリと一緒に旅をしていたときのドライバー、ブレイドのパートナーと呼ばれる存在が死ぬことにより一度コアに戻っている。ブレイドはコアに戻ると記憶を失うが、それでもカグツチがヒカリと旅をしたことを知っているのは、彼女が記憶を日記帳という形で残していたからである。
「あまいアイスにアクセントとして虫の苦味が合うと思うのは間違っているって言うの?」
「想像で美味しさに確信を得る前に、味見してみることを提案するわ。ドライバーもブレイドも、失敗を次に活かして努力することで経験を積むものなのよ」
「じゃあ味見役してみる?500年前のあなたのドライバーは結構私の料理イケてるって言ってたんだけど」
「イかれてるの間違いじゃない?私は嫌よ。それとメレフ様を巻き込まないでちょうだい」
かつてヒカリがアデルのブレイドであったときから続く、500年来のキャットファイト。その時よりか言葉尻が優しいのはこれまでの旅路によるキズナの深まりによるものか。
「今はホムラに隣で手取り足取り教えてもらえるからさ、もしかしたら少しはうまく出来るかもしれないよ?」
「元々は同一人物なんだけどね・・・なんだか複雑な気分」
「一心同体の時でもヒカリちゃんの矯正はできませんでしたし・・・大丈夫でしょうか」
独創的な料理スキルを持つヒカリが、何故料理が上手なホムラという人格を生み出せたのか、まったくもって謎である。
「カグツチ、今はそれより大事なことがある。仲がいいのは良いことだが」
「申し訳ありません、メレフ様。しかし仲がいいというのは訂正して頂けますか?」
犬猿の仲・・・ヒカリ曰く、カグツチはスペルビアの狗・・・メレフはそういう解釈をしたようだ。
「考慮しておこう。だが先に周囲の安全確認だ。アルストにも名を冠する者のように強大なモンスターが大勢いただろう。縄張りバルバロッサのような強い相手との突発的な戦闘は控えたいものだ」
「あたしは安心して寝られる場所を探したいなぁ。野宿は何回かやってるけど、流石に1か月ともなると身体中が痛くなるし」
「じゃあ村とか国とか、人がたくさん住んでる場所を探そう。あればいいんだけどね・・・」
--------
「ローリングスマーッシュ!」
「ナンダ、コイツラ!」
「ギ、ツヨイ!ニゲロ!」
レックスたちは周辺を探索していた。スパイドのようなクモ型のモンスター、キャビルのような芋虫型のモンスターと出くわした。だがいずれもその見た目は少し異なっていたし、今目の前にいた肌の色が緑色の人間の子供の背丈ぐらいのモンスター(もちろんゴブリンであるが、レックスたちはこれを鳥人類のモンスター、ターキン族を人間にしたみたいだと言っていた)はアルストでは見たことはなかった。
「追わないの?」
「依頼を受けたわけでもない。追い払う程度で十分だろう」
ただ、メレフが危惧したような強いモンスターは今まで存在しなかった。いずれもグーラの平原・・・およそレベル10前後の・・・モンスターらと強さは変わらなかった。世界中を旅したレックスたちにとっては敵ではなかった。
「結構歩いたけど、なかなか森の中抜けないね」
「でも、生えている木の種類が変わってきましたも。きっともうすぐですも」
《森林学》を持つハナJDが森の終わりを察知する。森は外から見ただけではわからないが、日光を最大限受け止めて成長する木と、日光が少なくても成長できる木がある。前者となる木が増えてきたことから、もうすぐ抜けられると察知したのだ。
「足跡が多くなってきたも!それにここに井戸があるも。きっと村の人達がいっつも水を汲みに来ているんだも!」
そして《観察眼》を持つブレイドらの力を借りて人間の足跡を探り、それを道標として森の中を歩いていた。これで確実に人のいる場所にたどり着ける。
薄暗い森の中を抜けようとしたとき、ちょうど太い木の影で足跡が途切れているのを発見した。
「ふむ・・・誰かそこにいるのか?」
「・・・」
「出てきませんね。メレフ様、武器をおろしてみるのはいかがでしょう?この足跡の小ささから、おそらくは女性のものだと思われます。我々に敵対の意思があると思われているのかもしれません」
「俺たちは人の集まっている場所に行きたいんだ。傷つけるつもりはないから、出てきてくれないかな?」
レックスの、同年代と思われる少年の声を聞いて、少し緊張が解けたのか、少女が木の陰からひょっこりと顔をのぞかせた。
「あ、あの、もしかして冒険者の方でしょうか?」
レックス・ホムラ・ヒカリ・じっちゃん
ニア・ビャッコ
トラ・ハナ
メレフ・カグツチ
ジーク・サイカ
クロスオーバー総勢12名。多すぎィ!
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ファーストクエスト
私、エンリ・エモットはお父さんとお母さんに頼まれて、水くみをしていました。井戸は村外れにあるのに、一日に必要な水を用意するには、とても重い木桶を持って何度も何度も往復しないといけません。毎日やっていて慣れてるとはいえ、とっても疲れます。これで2往復目。まだまだ先は長いです。
「結構歩いたけど、なかなか森の中抜けないね」
井戸の近くで休憩していると、トブの森の中から声が聞こえてきました。自分と同じくらいか、それより幼いぐらいの女の子の声。迷子になったのかな?と思って様子をちらっと見てみました。その声をよく聞けば、村の人達でも、いつも来る冒険者の方でもないとわかったはずだけど。
「でも、生えている木の種類が変わってきましたも。きっともうすぐですも」
「足跡が多くなってきたも!それにここに井戸があるも。きっと村の人達がいっつも水を汲みに来ているんだも!」
その声を聞いて、その姿を見て、私はすぐさま木の陰に身を隠した。
茶色と白の雄々しい毛並みをして、人の言葉を喋り、叡智を感じさせる黒い目。私が小さい頃から村の人達に言い聞かされた、森の賢王の特徴に似ていたから。
「ふむ・・・誰かそこにいるのか?」
心臓がどきんと鳴った。
今度は大人の低い女性の声。
私が隠れている場所がばれている?
すぐに顔を引っ込めたからばれてないよね?
どくどく鳴っている心臓の音が聞こえてしまうんじゃないか?
森の賢王を使役していて、私はその餌になってしまうの?
「・・・」
「出てきませんね。メレフ様、武器をおろしてみるのはいかがでしょう?この足跡の小ささから、おそらくは女性のものだと思われます。我々に敵対の意思があると思われているのかもしれません」
「俺たちは人の集まっている場所に行きたいんだ。傷つけるつもりはないから、出てきてくれないかな?」
今度は男の子の声。ンフィーと同じぐらいの年頃?それにその前に聞こえた男の声は私を本当に気遣ってくれているみたいに、丁寧な口調をしている。それに私の場所は本当にばれているみたいだ。このまま隠れていてもしょうがない、ここは思い切って・・・
「あ、あの、もしかして冒険者の方でしょうか?」
--------
「冒険者・・・なのかなぁ?」
アルストに冒険者なんて職業はなかったけど、秘境めぐりする人たちのことかなぁ?
「冒険をするつもりはないだろう?我々は平穏無事に日々を過ごせればいいんだ」
「それであんさんは何もんや?」
「はい、私はエンリ。エンリ・エモットです。あなた方はもしかして森の賢王を従えたんですか?」
「森の賢王?誰それ?」
「茶色と白の雄々しい毛並みをして、人の言葉を喋り、叡智を感じさせる黒い目をした恐ろしい化物だと村の人達に言い聞かされてきました」
聞いたことがないけど、エンリはトラの方を見て言っているような・・・
「茶色と白の毛並みで、言葉を喋って、黒い目の・・・えぇっ!?トラが森の賢王!?」
「あなた達が森の賢王をその力で従わせたんですよね?」
「そんなわけないも!トラはこっちに来たばっかりだし、けんおーなんて呼ばれたことないも!?」
「ご主人はとぉーっても賢いんですも!賢王といっても過言ではないですも。この前ハナが
「はいはい、ノロケ話はここまでにしとき。話が進まなくてこまるわ」
トラは賢王なんてガラじゃないし、ふふっ、トラが「賢王様ー」なんて呼ばれているの想像したら笑いがこみ上げて、くくっ。
「どないしたんやボン、そんなニヤケづらかまして。気色悪いで」
「ごめんごめん、なんでもない。それでエンリはここで何しているの?」
「私は今からあっちにあるカルネ村に水を運ぶところです。今始めたばかりだから、私に何か頼み事をされても困ります」
そういうとエンリは木桶に水を貯め始めた。結構重そうだな・・・
「へえー、近くに村があるんだ。じゃあ手伝うからさ、村まで案内してくれない?俺たち寝泊まりできる場所を探しているんだ」
「いいんですか?それぐらいだったら喜んで。空き家があればいいけど、どうだったかなあ」
「寝泊まりだけじゃなくて食べるものも欲しいなぁ。お金は出すからさ、これぐらいでどう?」
そう言うとニアがカバンから1000G(ゴールド)出した。モルスの地についてからは店とかなかったからお金は有り余っている。相場はよくわからないけど、あまり高くならないといいな。
「なんですか、これ?」
「ゴールドだけど・・・あー、アルストとはお金が違うんだ」
アルストではお金はどこに行っても使えたんだけど。世界が違うとお金の種類も変わってくるものなんだ。よくわかんないなあ・・・
「じゃあ畑仕事とかすることにするよ。それでどう?」
「わかりました。でも食べ物はあまり余裕が無いので、あまり大飯食らいだと困ります」
「じゃあイダテンは呼ぶわけにはいかないも!あいつとぉーってもよく食べるも!」
たしかにイダテンはいっぱい食べるうえにグルメだからなあ。とうぶん呼び出さないほうがいいかな。
木桶はエンリの分しかないので、水筒や料理用の携帯鍋に水を汲んで運び始めた。
「そういえば、いまこの場所にいないブレイドってどうなっているんだろう?ここに呼び出せるけど、そうじゃないときってフレースヴェルグの村にいるのかな?」
「わかんないけど、本当にお腹が減って死んじゃうーってなったら出てくるんじゃない?」
そんなことになったらお笑いだけど、拾ったコアクリスタルは全部同調したからブレイドは100人ぐらいいたはずだし、全員一気にご飯が欲しいとか言われたらシャレになんないな・・・
「さっき足跡探しのために呼んだユウオウさんに聞いたんですが、呼ばれる前までの記憶がないんですって。眠っている状態みたいですね」
「気になるのは場所だな。難しいだろうが、普段はアルストにいるのだとすればダイセンニンの力を借りずとも帰れるかもしれん。だが、詳しいことは村で落ち着いてからじっくり話すことにしよう」
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「おかげで水くみが早く済みました。ありがとうございました!」
カルネ村の女の子、エンリちゃんの仕事のお手伝いを終えました。
私達の住む世界、アルストは雲海に浮かぶ
つまり周りが常に水に囲まれているから、そこらじゅうに水源がある。
だから井戸を見る機会は少なかったし、使うのはこれがはじめての体験だった。
「報酬のご飯、期待してるよ!」
「えーっと・・・5、6、・・・11人ですか。ちょっとうちの材料じゃ足りないかも」
「じゃあ俺たちはおすそ分けをもらってくるよ。村の人達に顔見せもしたいしね!」
「それじゃあ私は料理を手伝いますね」
旅の間の食べ物はお店で売っていたものが中心だったけど、トラの家やレックスの家みたいにキッチンがあるときは私が料理を作ってみんなに振る舞っていた。
「よろしくおねがいします、えーっと」
「私の名前はホムラです。よろしくね、エンリちゃん」
「おねーちゃん、この人たちだぁれ?」
「ネム、この人たちは水くみを手伝ってくれたの。私は料理しているから、あなたはこの人たちと一緒に隣の家からパンとか野菜を分けてきてもらって」
「オレの名前はレックス。よろしくなネム!」
「わかった!よろしくね、レックス!」
ネムちゃんが元気よく返事すると、レックスたちと一緒に駆け出していきました。元気がいいですね。
「それじゃあお料理の下ごしらえしましょうか」
森のなかで私達に襲いかかってきた、イノシシみたいなモンスターのお肉を取り出し、塩こしょうで下味をつける。
「手慣れてますね」
「当然です、みんなの料理は私が作ってきたんですから。今日は私達とエンリちゃんとネムちゃんがいますし、具材が少ないみたいですから、お鍋にしましょうか」
「わかりました。それじゃあかまどはこっちです。あっ、そういえば火種の調子が悪くってうまく火がつけられないんです」
「大丈夫ですよ、火を使った料理なら何でもござれ、です♪」
手のひらから炎を出して薪に火をつけた。
「えっ!?ホムラさんって
「マジックキャスター?なんですかそれ?」
「私も知り合いがそうってだけで詳しくは知らないんですが・・・とにかくいろんなすごい魔法を使える人たちのことです」
すごい魔法・・・レックスは私みたいに炎を出せるわけじゃないし、ブレイドの力がみんな魔法みたいに見えるのかな。
「他にはどんなことができるんですか?」
「えーっと、ブレイドにできてドライバーにできないことってことなら・・・そうですね、武器を出してエーテルを込められる、とか」
「へえー、すごいんですね」
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「終わったよ!報告聞く?」
「ご苦労様でした。ご飯を作ってから聞きますよ」
村のみんなに食材を分けてもらったレックスさんたちが帰ってきました。
「今日のご飯はお鍋なので、こっちのお肉は煮ることにしましょう。野菜はとっても新鮮なのでサラダにしましょうか。みんな、外から帰ってきたときはちゃんと手を洗うんですよ」
「わかってるって。口うるさいなあホムラは」
「ニア、こういうんはバカにならへんで。この前ワイがちょっとぐらい手が汚れてても大丈夫やろって思いながら飯食ったときはなぁ」
「まだ出来上がるまで時間があるとはいえ、食事の前に淑女の前で言うような話題ではないぞそれは」
てきぱきと料理を進めていく。こうみるとホムラさんってお姉ちゃんというかお母さんみたいだなぁ。・・・おっぱいも大きいし。
「・・・?どうしたの、エンリちゃん?そんなに私のこと見つめちゃって」
「あっ!?いえいえ、なんでもないです!それにしてはちょっと露出度がって、なんでもないです!」
出るところはでて、お腹は引っ込んでるし、背中とか空いててちょっと色気を感じちゃうし・・・って何考えてるの私!?
ま、まあ、ちょっとスタイルは抜群だし、格好は色んな意味ですごいし、性格は憧れるし・・・。服装は抜きにして、いつか私もホムラさんみたいになれるかな。
「ええんかぁ~ボン、ホムラが他の女に取られるで?」
「えっ、ホムラが他の女の子に・・・って、いやいやいやいや、違うだろジーク!?ホムラはそんな目移りするような・・・違う違う、そうじゃない!?」
「何そんな動揺してんのよ。もう」
ホムラさんに似ている金髪の人・・・ヒカリさんが目を背けている。ちょっと耳が赤くなってるけど、何があったんだろう?
それに猫耳の女の子・・・ニアちゃんの目がちょっと怖い・・・
「きょうの料理、完成です!」
「いただきまーす!」
お鍋にサラダ、それともらってきたパン。ちなみに家の中に12人も一緒に御飯を食べられる場所はないので、外で食べている。
「村の様子はどうでした?」
「それがいろいろと大変でさ、村の人達がみーんなさっきのエンリみたいにトラを見かけた時に「森の賢王だーっ!」って驚いちゃってさ。仕方ないからトラはそこらへんで素材集めさせてたんだけど、今度は私のことを「ビーストマンだーっ!」ってさ。私の耳が頭の上にあるからだって」
「ニアちゃんってビーストマンだったんですか!?」
「違ぇよ!」
「天然の天丼。基本中の基本ですね」
「どういう意味ですも?」
「知らんでもええこっちゃ」
「ということでニアとビャッコもとりあえず素材集めに行かせて、オレたちだけでおすそ分けを貰いに行ってきた。まあしばらくはオレたちここにいようと思うから、トラもニアもビャッコも後で紹介することにするよ」
「そうなんですか」
事情は聞いて、多少は慣れたといっても風変わりな格好をした人たちだと思う。全体的に露出度が高かったり、変なアクセサリーをつけてたり・・・。でも性格は普通だから、村に馴染むのは時間の問題かな。
私達がお鍋をつつきながら談笑していた、その時。
カーン、カーン、カーン。
「?なんの音?」
「この音は、村の外に不審者が現れたときの鐘の音です!皆さん、家の中に入ってください!」
「オレたちも戦うよ!」
「レックス、我々はエンリの言うとおりに家の中に避難するんだ」
「なんで!?オレたち村のみんなに恩があるじゃないか?」
「それでも、政治的な内容を含む可能性があるならば、下手に手を出すべきではない」
「助けちゃだめって言ってるのか!?」
「落ち着けボン、メレフは助けてはいけないとは一言もいっちゃおらん。戦うべきだったら村人たちを家ん中に放り込まずに武器を持って戦えって言うやろ。ワイらはここの家の窓からちょいと門のほうを見て、武力が必要になりそうだったら手ぇ貸せばええ」
「アタシもそれに賛成。村のことちゃんとよく知っているならそうしてもいいと思うけど、詳しい事情も知らないうちに政治に巻き込まれるのは嫌だね」
メレフって人はなんというかしっかりとした身のこなしで、とっても頭が良くて偉い人なのかなぁって思いましたが。
「なぁ!あんたたち腕っぷしは立つんだろ!?村長の後ろについていてくんねえか?」
「は?我々はあくまで部外者であるから、直接的な戦力が必要でないのならいざというときに備えるだけにとどめようと思っていたのだが。村人全員に隠れているように通達したのは、
「格好からして山賊じゃないと思うが、国の騎士団でもない。目的がよくわからないから、とりあえず抵抗できるだけの戦力があることを見せたほうがうまくいくと思う。うちらの村長に危害を加えそうだったら、どうか守ってくれねえか?」
「なんや、最初からボンの言うとおりにしても良かったんか」
「・・・もう少し早く話してほしかったな。了解した。ではそれに立ち会うことにするが、あまり深入りさせてくれるなよ?」
感想お待ちしています。
評価はモチベーションに繋がります。
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傭兵団、始動!
「村長、あの者らに見覚えは?」
「ありません」
不審者が現れたとの一報から、村の入口でその真偽を確かめようとした村長と、見かけ上の戦力として後ろに控えていたレックスたち。
現れたのは鎧を身にまとった騎士たちで、村長には見覚えないようだ。騎士たちは村長と、その後ろにいるレックスたちを見つけると、武器を構えながら問いかけてきた。
「貴様らは王国の冒険者か!」
「そうじゃないけど、そもそも王国って?」
「レックス、村の者たちから地理情報は聞かなかったのか?ここ、カルネ村は王国の領地だ」
「ふん、おおかた旅人と言ったところか。ならば村から出ていくことだな。村人以外の命を刈り取る必要はないからな」
指揮官らしき人が指示すると、周りの騎士たちが火矢を構え始めた。
「!カルネ村に何をするつもりだ!」
「我々は鮮血帝の命によってこの村を焼き払いに来たのだ。貴様らはこの村に偶然立ち寄った旅人に過ぎないのならさっさと逃げることをおすすめするぞ。まあ・・・」
そう言うと指揮官らしき男はレックスたち、それもホムラとヒカリ、カグツチといった女性らをいやらしい目で見つめながら言った。
「そこの娘たちをやるというのなら、せめて苦痛なく滅ぼしてやろう」
そう言うと横にいた男・・・副指揮官であろうか・・・が困ったような顔を手で覆った。
「こいつぶっ倒しちゃお、レックス。話はそれからでいい」
「何が鮮血帝の命や。上の人の命令だったらなんだってするんか、自分」
「レックス、やつの言うことに耳を貸す必要はない。『せめて苦痛なく滅ぼしてやろう』、だと?薄ら笑いしながら人を殺そうと言う輩なぞ何を言っても信用ならん」
「やっつけちゃうも!」
「カルネ村はオレたちにメシと寝る場所をくれた場所だし、見知った人たちを襲おうなんて許さないぞ!」
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私、ガゼフ・ストロノーフは急いでいた。なんでもリ・エスティーゼ付近の村々を襲っている帝国騎士を目撃した、と。
貴族たちは多少国民の数が減る程度だと、物事の重要性を理解せず、これまでと同じ税収を得ようとしている。
働くものが一人でも減った状態でこれまでと同じ量を維持しようとするなら、一人ひとりにかかる負担は倍増する。ましてや、隣村が滅んだから、その村が今まで納めてきた税のぶんだけ金を払えなぞ、だれが納得できるだろうか。
ゆえに私ができることは唯一つ。速やかにそれを退治することだ。ただし、その程度の輩に最強装備は必要ないとのことで、満足な装備は与えられていない。正直、貴族たちにきな臭いところがあるが・・・そうであっても、帝国と共謀して自国民を殺すような貴族がいるだろうか。・・・考えたくもない。
次はカルネ村だが・・・見られているな。村の方角・・・ということは、彼らはまだ生きているということか!間に合ってよかった。
あれは村長と・・・ここらでは見慣れない格好の者たち。どうやら冒険者か旅人の助力を得たようだな。
「皆!生きている村を見つけたぞ!」
私についてきてくれた戦士たちの顔に活気が戻る。無理もない、ここまで休憩もなく駆けてきて、その上道中にあった村全てが壊滅していた。やるせない気持ちにもなっていただろう。
「おまえたちは何者だ!」
村長の後ろにいた少年が声を張り上げて話しかけてきた。かなり警戒されている・・・もしや、すでに帝国騎士に襲われた後なのか!?であれば我々がその仲間だと疑われるのも仕方ない。皆傭兵団のように統一感のない軽装で来ているから騎士とは思われないにしても、彼らにとって害するものであれば皆同じく敵だ。
「私は王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフである!このあたりに出没している、村を襲う賊を追っているところだ!敵意はない!」
「村長、この人は本当に王国戦士長なの?」
「い、いいえ、私は名前はしっていても顔までは知らないので・・・」
「ならば彼の言うことを裏付ける証拠はないということか」
すぐさま馬から降りる。言葉で説得するより前に行動するべき場面だとわかったからだ。
「あなた方がこの村を守ってくれたのだろう?感謝する」
「当然のことをしたまでだよ!」
「眩しいものだな。我々こそ民を守るべき存在だと言うのに、場合によっては目の前に助けたい人がいても力になれないことがある。君のような人間が世界に溢れていてほしいものだ」
「へへ・・・照れるなぁ」
「世辞はそこまでにしてもらおう。あなた方は先に我々が戦った鮮血帝の騎士となにか関係があるのか?」
「やはりそうであったか。私はリ・エスティーゼ王国より命を受けてこのあたりの村を襲っている帝国騎士を退治しにきたのだ」
「ほんならあんさんの仕事を奪ってしもうたってことやな。ワイらがおらんかったらこの村滅んでたで」
「それは本当に申し訳ないと思っている。間に合わなかった我々をどうか許してほしい」
頭を下げる。副隊長やラナー王女からは、王国戦士長がそう簡単に頭を下げるなと口酸っぱく言われているが、気持ちを伝えたいのなら深いことを考えずにそうするべきだと私は考えている。
「許すも何も、オレたちは怒ってるわけじゃないし、このくらいどうってことないよ!」
「そうそう、メレフは仕事柄はっきりさせたいのはわかるし、亀ちゃんも当たりが強すぎ。そんでもってレックスは考えなさすぎ!」
「ごめんニア、でもうまくまとまりそうで良かったよ」
「では帝国騎士を引き渡してくれるだろうか。我々が倒したわけではないが、対象がいなくなったという証がほしい」
「いいんだけどさ、私達いま根無し草っていうか・・・とりあえずカルネ村に住まわせてもらう予定だけど、現地のお金がないんだよね」
「わかった。私の裁量で出せる分だけ出すことを約束しよう。ただ今は軍事行動中なので持ち合わせがない。王国についたら私の名前を出してくれ。すぐに駆けつける」
「ニアったらがめついも!」
「もらえるもんはもらうべきや。特に金が無いときはな」
根無し草、つまり所属が決まっていないということは、彼らは冒険者ではなく旅人であったか。帝国騎士を下したその実力次第では王国にスカウトするのもいいかもしれん。しかし少年少女から大人まで、はては人間と亜人に獣まで、バラエティに富んだパーティだな。
「隊長!周辺を警戒していた偵察員からの報告です!」
「どうした?」
彼らに聞かせるべき話題ではかもしれん。
「はい、四方に出歩かせた偵察員が今戻ってきたところ、どの隊員も天使を召喚している人影をみて、危険を感じて戻ってきたと。おそらくこの村は包囲されています!」
「なんだと?」
天使を従えるほどの練度を持つ隊を村を包囲するために使う?このカルネ村になにかがあるとは考えにくい。ならば狙いは・・・私か!
「なんかあったんか?」
「隠す必要もあるまい。どうやら私の命を狙いに刺客が来たようだ。すでにこの村は包囲されている。このまま私だけが逃げればこの村は犠牲になるだろう」
だから、打って出る。私が村を見捨てることができないことは相手にわかられているだろう。そこまで用意周到な相手であれば、私の能力以上の編成を用意しているはずだ。ならば・・・
「単刀直入に言おう。雇われる気はないか?」
「相手の規模はわかっているのか?」
「正確なところはわからん。おそらく、我々だけでは勝てないと言ってもいいだろう。相手は我々を殺しに来たのだからな」
「傭兵ってことならオレたちに任せて!元々傭兵団もやってたんだ。腕には自信があるよ!」
「はは、それは頼もしい。ちなみに団長はそこの隻眼の男か?」
「隻眼の男、なんかかっちょええな。まあハズレや、ワイは後から乗っかったクチやからな。正解はこっち」
「オレの名はレックス。フレースヴェルク傭兵団の団長を受け継いだんだ。高くつくからね!」
「う、うむ、よろしくお願いする」
なにか複雑な事情・・・前任者が教育中に殉職したというあたりか。
正直協力は得られないと思っていたが、幸運であったな。名前に聞き覚えはないが、実績があるのなら頼もしいかぎりだ。
「作戦はどうする?」
「もちろん一点突破だ。包囲されている状況で村に危害を加えないようにするにはそれしかない。全速力で駆け抜けるぞ」
--------
「猛獣は檻に入った。だが奴は鉄格子を食い破り、その中の子を守らんとするだろう」
「ニグン隊長!想定通りガゼフらが向かってきます!」
「了解した。では迎え討つこととしよう、亀の頭を出させて首を刈るようにな」
ガゼフ・ストロノーフ。王国最強の剣であり、人類の宝。個の強さを議論するならば五指に入るだろうその実力は、味方になれば必ず人類救済の力になるだろう。
だが、彼に鮮血帝の10分の1でも、いや、せめて政治に少しでも関わろうという意志さえあればこんなことをせずとも良かったのに。
部下の手前態度に出す訳にはいかないが、できることなら彼を殺す任務など受けたくはなかった。だが、彼がいないほうが世界にとって都合がいいと上層部は判断したのだ。ならば私はそれに従うまで。
「報告します!先行して村を焼かせていた部隊員が帰還しました!この先にいるカルネ村にて冒険者と思われる集団と交戦し、敗北した模様!」
「ならばそいつらはガゼフと合流した可能性が高いな。王国のアダマンタイト級冒険者ではあるまいな?」
「はい、【青の薔薇】、【朱の雫】ともに別の任務に出ています。帰還した隊員も彼らではないと言っています」
「戦いにイレギュラーはつきものだ。彼らほどの実力者でない限り我々の敵ではないが、警戒はしておけ」
もし彼が助力を要請するとしたら、事情を説明し、自身が害される程の実力者に囲まれていると説明するだろう。彼は実直だからな。だからもし戦場に立つとするなら、それは殺される覚悟のあるやつらということだ。だからどんな善良な奴だとしても容赦しない。そして、油断はできない。我々が戦力を隠すように、世界には隠れた実力者なんていくらでも存在しうるのだから。
「見えてきました、ガゼフ一行です!」
「天使を散開させろ!間合いの外から弱らせるんだ!」
隊を固めて正面突破か、芸はないが力あるものにとっては王道こそ正しい道。あとは協力者がどこにいる?奴らの中に混じっているか、それとも囮か。
天使による包囲攻撃と魔法によって足を止めたガゼフが問いかけてきた。
「なぜだ!なぜ法国の人間が私を殺そうとする!?」
「貴様が死んだほうが後々人類にとっての利益に、未来の損失が少なくなると法国が判断したのだ。その理由は自分でもわかっているのではないか?」
「わかりたくもない!私は王の剣!ただそれだけだ!それだけでいいというのに、なぜそうなってしまうんだ!」
「わかろうとしないからこそ、貴様はここで殺されるのだ!」
ここまで愚直なやつとは、呆れを通り越して感心してしまうな。こちらの隊もかなり傷ついてしまったが、ガゼフはもう虫の息だ。
「ふん。カルネ村にいた協力者はどうした?姿を見せないということは、さしずめ村の守りを任せたといったところか?」
「ふっ、我々だけで勝てればよかったのだがなっ・・・」
「それだったら!」
「ここにいるぞ!」
ガゼフの隊員の後ろから天使を斬りながら何者かが現れた。こいつらがやつの協力者か!
「遅れてやってくるとはヒーローの真似事か?戦力の逐次投入は愚策だぞ」
「あの馬ってのに乗れるのがいなくてね!頑張って走ってきたんだ!」
馬を知らない?こいつらどこか別の世界からやってきたのか?
「ダブルスピンエーッジ!」
「ジャガースクラッチ!」
「ぐるぐるカッター!」
天使がやられるスピードが早い!そこそこできる奴らであったか。
「レックス!雑魚はワイらに任せろ!」
「だからそこにいる将を討つんだ!」
「わかった!そっちは頼んだ、ジーク、メレフ!」
「さぁ、おっぱじめるでぇ!」
--------
「烈火!」
「
メレフが攻撃を引き付け、ジークが相手を攻撃する。今回は回復役がいないが、二人だけでも十分に相手ができた。
「ぐぁっ!」
「ひるむな!魔法で迎撃するんだ!」
「
「やらせるかよ!
「俺だって!
陽光聖典の隊員らによる魔法の一斉射撃。第三位階を扱える
「やったか!?」
その余波によって砂煙が立ち上り、陽炎によって空間が歪んで見えるほどの熱量を食らった相手は。
「その程度か?まるで当たってないぞ」
「メレフ様の玉の肌には傷一つつかせません!」
その全てが有効打とならず、さばかれていた。
メレフに同調したブレイド、カグツチのスキル、《ゆらめく炎》は射撃による攻撃に対する回避率を上げる効果を持つ。そこにメレフ本来の素早さによってほとんどの攻撃を避けていた。また、必中効果を持つ
「ワイらもええとこ見せんとなぁ!いくでぇサイカ!」
「王子も無茶せんといてな!」
「轟力降臨!
ジークが大剣を思いっきり地面に叩きつけると、【極】の文字と共に周囲に電撃が流れ、陽光聖典の隊員は嘘のように吹き飛んでいく。
アルストにおいて雷轟のジークと呼ばれていた彼の実力は高い。かつてレックスたちがドライバーとしての経験が浅かったとはいえ、3人相手に腕試しを仕掛け、三度追い詰めた実績もある。
「決まったなっ・・・!」
「王子、後ろ、後ろ!」
「なんやサイカ、今はワイがキメてる最中やぞ?ボケる場面じゃ「ちゃうちゃう、背中のマントが!」って、あぁーっ!」
だが、なぜ三度も腕試しを仕掛けることになったかというと、持ち前の運の悪さゆえにである。
「おんどれぇ・・・ワイの一張羅に何してくれとんじゃあ!」
「それはただの腹いせ、ぐあぁ!」
はやくアインズ様出したい・・・
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降臨
あらすじ
カルネ村についたレックスたちは食事と定住地の礼として人助けを始める。
帝国騎士を名乗る者たちを鎧袖一触した後、王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフが現れる。
彼は自分の代わりに村を救ってくれたレックスたちに礼を言うが、その時、法国の特殊部隊の陽光聖典に村は包囲されていた。それもそのはず、先に現れた帝国騎士の目的は唯一つ、ガゼフ・ストロノーフを誘い出し、抹殺するためであった。
「ジークたちはうまくやってるみたいだ。こっちもやるよ!」
「回復はあたしに任せて!」
「こんなやつ、ヨユーだも!」
ガゼフの助太刀に入り、陽光聖典と戦うレックスたち。数が多い隊員たちをジークとメレフに任せ、レックス、ニア、トラの3人が陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーインと相まみえていた。
「返り討ちにしてやる、
ニグンの召喚した天使がメイスを振りかぶり、レックスたちを襲う。
「当たらないよ!」
だが大ぶりの攻撃は回避されてしまい、逆にレックスたちにチャンスを与えた。
「崩れろ!」
ニアがツインリングによる攻撃で相手の体勢を崩し、
「転べも!」
トラがシールドを叩きつけ、その勢いで転ばせ、
「ナナコオリ!打ち上がれ!」
その間にニアが武器をナックルにチェンジし、そのアーツで相手を浮かせ、
「スザク!」
「オレは生まれたときからス「スマッシュ!ウィング!」」
レックスがブレイドをスザクにチェンジし、口上を上げる前にツインサイスのアーツで地面に叩きつける。その一撃で
「
「どんなもんだよ!」
「奥の手だが使わざるを得まい。最高位天使を召喚する!おまえら、時間を稼げ!」
「あれは・・・もしかしてコアクリスタル!?大事そうに持ってたってことは、もしかしてカグツチみたいに超強いブレイドが出てくる?レックス、さっさと決めるよ!」
ニグンがすばやく後ろに下がり、そこを埋めるように陽光聖典の隊員が列をなす。ジークとメレフの活躍によってその数は減らしているものの、魔封じの水晶の発動を防ぐに至らない。
「見よ、これが
「で、でかい!」
「まるで
「こんなブレイド本当にいるのかも!?」
かつてアルストで見てきたブレイドの中で一番大きかった、モーフと同調していたブレイド---3~4メートルほどの一ツ目のブレイド---よりもはるかに大きい。
「こんなブレイドに・・・勝てるのか?」
「あれはブレイドではないわ」
ヒカリとホムラが一歩前に出て相手を分析した。
「天の聖杯は全てのブレイドの情報を管理します。つまり、その全ての姿形を知っているし、そこから予測もできます」
「姿にも大きさにも一致するブレイドはいなかった。人と共にあれ、とされて生まれてくるんだから、たとえ千年経ってもあんなのが生まれるはずがない。でも、ブレイドかそうじゃないかは今重要なことじゃないわ」
「ヒカリ様、それはどういう意味でしょうか?」
「ビャッコが相手と戦うとき、相手がブレイドだからって手加減するの?名を冠するものだからって尻尾巻いて逃げるの?考えるべきは・・・立ちふさがる者に立ち向かうかどうかよ!」
--------
「薙ぎ払え!」
ニグンが
「ご主人を守るですも!」
だがその攻撃はトラが同調しているブレイド、ハナの力によってガードされ、ダメージを最小限に抑える。
「ラウンドヒーリング!」
「もふもふなサポートだも!」
そこをすかさずニアのアーツによって減った体力を回復する。
「決めてくれ!」
「参ります!フレイム、ノヴァ!」
そしてトラがヘイトを稼いでいる間に力をため終えたレックスが聖杯の剣をホムラに投げ渡し、必殺技を放つ。
「なかなかの一撃だったが、その程度で最高位天使は堕ちん!」
「まだまだこれからだよ、ニア!」
「準備オッケー!これでもくらいな!」
間髪入れず、ニアがツインリングをビャッコに投げ渡す。
「タイガーレイジ!」
獣の咆哮があたりに響く。
「どうした?先程の男の攻撃のほうが痛いようだが」
「私の攻撃は布石でね!」
「本命はこっちも!ハナ!最大パワーで行くも!」
「ハナが判決を下しますも!」
ハナがマフラーに包まれ、子供の姿から大きく成長した大人の姿、ハナJDになる。ホムラとヒカリの持つ武器に似た剣でめった切りにし、銃に変形させて撃ち抜く。
「バカのひとつ覚えか?その程度の攻撃では最高位天使の自然回復にも追いつかないぞ?」
「まあ見てなって!」
ブレイドは属性を持ち、全部で8種類に分類される。それらは以下のように反発しあっている。
火 ⇔ 水
雷 ⇔ 地
風 ⇔ 氷
光 ⇔ 闇
そして、これらの属性を特定の順番と強さで相手に叩き込むことで、打ち込んだ属性が共鳴し、強力な一撃、ブレイドコンボを発生させる。
これまでにホムラの火、ビャッコの水の必殺技を当てていた。ハナは体内に埋め込まれた属性チップによって自身の属性を任意に変更できる。今回、ハナJDは属性チップにより氷をまとっていた状態で必殺技を放った。
「!?なんだ、氷の爆発か!?」
「どうだ!」
ダイヤモンドダストと呼ばれるブレイドコンボが成立し、氷属性の爆発が起こる。その威力はそれまでの必殺技の威力とは一線を画し、
「ホムラ、もう一回行くよ!」
「はい、レックス!プロミネンス、リボルト!」
「それが貴様らの戦術か!ならば次はそこのビーストマンの女だな。
「そうきたか!ライコ!」
「守ります!」
自身にヘイトが集まっていると感じたニアは、ハンマーを持った防御系のブレイド、ライコを呼び出してガードを固める。この状態ではブレイドコンボの中継に水属性を使うことはできない、が。
「ご主人、敵があっち向いていますも!」
「ハナJKの出番だも!」
「モードチェンジ、了解ですも!」
再びハナがマフラーに包まれ、今度は一回り若いメイド姿になる。その清楚な姿には似つかわしくないはずなのに不思議と似合っている、巨大なミサイルランチャーを展開する。
「ノポニック、デストロイ!」
火属性のミサイルが天使に殺到し、巨体ゆえにその全てが着弾した。
「攻撃に迷いがない・・・ビーストマンを止めていてもまだ奴らの連携は続いている!?」
「そのとおり!これでフィニッシュだ、ヒカリ!」
連携の最後をヒカリが担当する。
「ここが因果の果てよ」
ヒカリの属性は名前の通り光。その光り輝く剣で回転斬りを仕掛けると、どこからともなく光の爆発が起こる。
「くそ、またか!貴様らマジックキャスターでもないのにどこからそんな攻撃を!」
「そういうもんなんだよ!」
なぜそのようなことが起こるのか、レックスたちは考えたこともない。ある属性で順番に攻撃することによって起こる、そういう法則だという認識だ。
「これ以上やらせるか!
「因果律予測・・・レックス、大きいの来るわよ!」
「わかった!みんな、一気に行くよ!」
レックスたちが武器に込められたエーテルを一気に開放した瞬間、
「今までこの一撃に耐えられた者はいない・・・っ!なんだと!?」
「まずは、オレ!スザク!」
本来ならばレックスたちが全滅する威力であったが、エーテルに包まれたレックスたちの勢いを止めることはできない。
「ニア、頼む!」
「任せときなって!ナナコオリ!」
ほんの少しの攻撃を受けても尽きるはずだった体力がみるみるうちに回復していく。
「なんだ・・・これは・・・」
「トラ、ハナ、続けてよろしく!」
「ホイ来たも!ハナJS、イケイケだも!」
ドライバーが入れ替わり立ち替わり、ブレイドをチェンジしながら必殺技を当てていく。
「まだまだぁ!ヒカリ!」
「やめろぉぉぉぉ!
その攻撃は止まることを知らず、むしろ勢いを増している。こうなっては大天使の自然回復力はもうあてにならない。ニグンが必死に召喚モンスターに回復やバフを入れているが、もはや焼け石に水だ。
「誰か、誰かこいつらを止めてくれぇ!」
「もういっちょ!」
このまま続ければ反撃のチャンスを与えることなく倒すことができると踏んでいた。
「レックス、みんな、伏せてぇ!」
「
突然どこからともなく声が聞こえてきたかと思えば、
「なんだぁ!?」
「バカ、しっかり地面を掴んでなさい!」
「ハナー!」
「ご主人、捕まるですも!」
黒い空間は強い引力を持ち、
「ど、
「オレたちが苦労した敵が、こんな・・・一体誰が?なんのために?」
声が聞こえた方向を見た。
地には魔獣、鎧武者、アンデッドの群れが。
空には悪魔、吸血鬼、ドラゴンの軍勢が。
虫けらの抵抗など無意味だと言わんばかりの力がそこにあった。
そして、その中心でローブをはためかせる姿は、まさしく魔王であった。
「手柄を横からかっさらいに来たんだよ・・・悪のギルドらしく、な」
スマブラが楽しみだけど、本当に書きたいシーンはもっと先にある(白目)
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家族
あらすじ
魔 王 降 臨
レックスたちがアルストから転移したその時、同時にとある陵墓もまたこの世界に招かれていた。
その陵墓の名前はナザリック地下大墳墓。その持ち主であるモモンガは慎重であった。
かつてユグドラシルにおいて最強であると自負していたギルドも、もはやメンバーは自分ひとり。NPCが自ら考え、行動する異世界において未だ負け知らずでいることはできないだろうと考えていた。
ナザリック内で今自分ができることを確認した後は、外にいる生物のレベルを知る。そのために彼はアイテムボックスから《遠隔視の鏡/ミラー・オブ・リモート・ビューイング》を取り出し、幾重にも防護呪文やアイテムを消費してまで安全を確保した上で周囲を探索する。
「うーむ、このあたりの生物はどれもユグドラシルの初心者エリアで見た覚えがあるな。欲を言えば狩りをしている姿を見れば本当の実力もわかるのだが」
ユグドラシルにおいて、対象のレベルや職業構成を知る魔法はない。レベルに関して言えば、PvPを愛するプレイヤーであれば理由がない限りレベル100にしている。職業構成は「簡単に知れるようだったらゲームとして面白くないだろう」というのが運営のスタンスだ。ネタがすぐにバレてしまう環境であれば、弱点の少ない職業、種族で固めるプレイヤーばかりになってしまうだろう。未知だらけの世界を作り上げたおかげで、いわゆる「変態構成」が生まれる余地があるのだ。
だがモモンガからすれば、そんな一発屋の「変態構成」でキルされればたまったものじゃない。レベルダウンこそあるものの、リスポーンが可能であることが知られているユグドラシルではFPSのように「命が軽い」が、異世界に来た今、その常識は疑ってかかるべきだ。鏡に見えるモンスターが初心者用の弱いモンスターに見えて実はレベル150だったら、ゲームなら喜劇でも、その結果起こるのは
これまで《遠隔視の鏡/ミラー・オブ・リモート・ビューイング》を駆使して見えたのはいずれも低レベルのモンスターとモブにしか見えない人間のみ。人間については《農家/ファーマー》であろう者たちが、たかだか水が入った木桶を運ぶのに汗水たらしている時点で、危険を感じる必要もないと判断した。
「セバス、何時間たった?」
「4時間と38分になります」
「おお、もうそんな時間か(骨の体になってから疲れを感じなくなっているなぁ)。だがなにも成果がないというのも味気ない。なら5時間まであと22分頑張るとするか」
はじめこそ変化した使い方にあたふたしたものだが、コツを掴んでからは意のままに操れる。部下が働いている中で何もしないのは社会人としての心が痛む。だから、キリが悪いからという雑な理由で操作を続行した。その勤勉な願いが通じたのか、あるものを視界の端に捉えた。
「ん、森のなかに見かけない色合いのものが。拡大して・・・ッ!?」
もはや反射と言っていいほどの反応速度で今まで座っていた椅子から飛び退いた。
そんな主人の姿を見てすぐさまセバスも応戦体勢をとった。
「プレイヤーだ、カウンターに気をつけろ」
「承知いたしました、命を賭してもモモンガ様をお守りいたします」
・
・
・
だが想定していた探知に対する反撃魔法は来ない。防御が間に合ったのかと鏡に掛けられたアイテムを確認したが、消費された様子はない。
「おかしいぞ・・・さっき見た限りでは10人ぐらいいたはずだ・・・そこまで大人数なら探知阻害役も用意するのが普通だ」
「あれがプレイヤーですか?」
「そうだ。青、黄、赤とずいぶんとまあカラフルで統一感がない。全体的に露出度が高く、派手だ。村にいた人間とはずいぶんと違うと思わないか?」
「私もそう思います」
リアル志向のゲームを除き、ユグドラシルのようなDMMORPGにおいては、一定のレベルを超えたあたりから地味な服装ではなくなってくる。
より個性的に、絵になるキャラクターになりきるため、生活感のない色合いの服やアクセサリーがドロップするようになる。
たいがいそういったアイテムのほうが性能がいいので、暗殺者RPなどの特定の事情がない限り、高レベルプレイヤーは独特のファッションになっていくものなのだ。
鏡の中推定プレイヤーたちは剣を振り回し、苦もなくモンスターを狩っていく。彼らの動きはモモンガにも追えるものであり、相手のモンスターはモモンガが危惧したような高レベルモンスターの擬態でもなかった。それは幸いだが、今度は彼らの物差しになるモンスターが見当たらない。
「よろしければ私が偵察に行ってまいります」
「バカをいえ、おまえたちは全員大切なギルドメンバーの作った子どもたちだ。どんな間違いがあっても俺のミスで死なせたとなったらあの人達に顔向けできない。全員戦士の軍団とかいうネタパーティだったおかげで我々は気づかれずに観察を続けられるんだ。気長に待とうではないか」
--------
あれから監視を続けたものの、カウンターが発動する気配はない。監視を続けていたら最初ははセバスだけだったが、続けて見ているうちに俺に会いたいという守護者が集まり、さながら映画上映会のようになってしまった。
「ふむ、奴らは拠点を持たずに転移してきたか。この村を住処にするために恩を売っているということか」
「彼らは良いプレイヤーなのですね」
「人間に良いも悪いもあるのかしら?」
「いるでありんしょう、いい声で鳴く人間こそいい人間でありんす」
「その意見には同意するよシャルティア、人間は食料として潰す以外にも、その悲鳴には価値があるものだ」
「強イ人間デアレバイイ。弱イ者ハ不要ダ」
これは・・・守護者たちの人間に対する価値観が見えてくるな。やはりカルマ値が低い連中の発言にはトゲがある。それに俺たちアインズ・ウール・ゴウンは元々異業種PK(プレイヤー・キラー)する人間に対抗する、異業種だけで構成されたPKK(プレイヤー・キラー・キラー)ギルドだった。もしかしたらその意志が受け継がれているのかもしれない。
「おまえたち、人間種を軽視するのは許そう。だが強者は違う。自分を殺す実力のある相手に油断してかかるのは愚か者のすることだ」
「申し訳ございません、モモンガ様」
多少の意識改革をしていかないと余計な敵を作ってしまいそうだ。モモンガは自分の心のメモ帳に意識改善をメモした。
「さて、奴らの話だな。私はこいつらをプレイヤーだと思っていた。だがよくよく考えてみると、そうではない可能性もあるのだ。なぜそう思ったのかお前達にわかるか?」
ざわりと守護者達の間にどよめきが生まれる。理解できないというよりは混乱か。今まで俺がプレイヤーだと言っていたからそう信じていたのに、自分の口からまた否定されたからか。あまり不用意に断定するとNPCの考えを狭めてしまいそうだな。
プレイヤーではないという理由について聞いているのは、情報の偽装こそ醍醐味だったユグドラシル時代では、相手の作戦について逐一ギルドメンバーで意見交換していた名残だ。自分の考えが間違っている可能性もあるし、よりよい対抗策がその会議の中で生まれることも多々あった。だからこそ彼らにもギルドメンバーと同じく、考えて発言させることで戦術眼を養ってほしいという意図もある。まあ、軽くアルベドやデミウルゴスと話した時にこいつらの頭やべーと思ったから、自分の意見を補強しようとしたのが一番だが。
「それでは私からよろしいでしょうか」
「いいぞ、話してみろデミウルゴス」
「はい、彼らは撒き餌であり、プレイヤーが使役する守護者であるとお考えになったと私は愚考します」
「続けよ」
「モモンガ様が当初彼らがプレイヤーであると判断されたのは、彼らが傭兵モンスターの様な汎用的な見た目ではなく、それぞれが特徴的な装備をしているほか、召喚モンスターのように一定時間後に送還されることを前提とせず、村人との交流や食事を重視していることから判断されたのだと思います」
うわー、俺の考え全部どころかそれ以上深掘りしてる。俺は見た目で判断してたけど、生産活動とか人間種だったら必須だもんな。「あいつはスーツ着ているからお金持ちだ」みたいな事言おうとしてた。
「しかし彼らがプレイヤーであるとすれば、情報系の魔法に対して全く無防備であることが不可解です。位置が筒抜けであれば、超々遠距離から超位魔法を放つことすら可能だ。命が惜しくない狂人であるならば話は別ですが」
「フル装備のわらわであれば耐え切ってみせるでありんす」
「それはシャルティアが前衛職だからでしょ?私やマーレが食らっちゃったら相当ヤバイし」
「仮に彼らが全員前衛職だとしても被害は甚大になる。プレイヤーが11人もいてなぜそこまで偏ったパーティになったのか、相手が馬鹿という結論しか見出せませんでした。しかし、モモンガ様の深遠なる叡智によってもたらされた助言によってようやくその謎が解けました」
「それは彼らが干渉を受けることを前提としているから。彼らに監視対策を持たせない代わりに、彼らの行動を後ろから観察させる者を用意した、そうでしょう?」
自分の説明に横槍を入れられたデミウルゴスはムッとする。だが、彼女も愛する主人のためにアピールしたいのだろう、そう思って素直に引き下がることにした。
「私の姉さんは探知魔法のスペシャリストで、一日の長がある。話を聞いたことがあるのですが、探知魔法の対策には、探知した相手を攻撃する攻勢防御、そもそも探知に引っかからなくする隠蔽の他に、そういった探知魔法をトリガーにする魔法を使わず、囮を見張るだけにとどめておき、引っかかった者が周囲に現れたら広範囲攻撃を浴びせるという戦術があるらしいのです。曰く、自分が探知されていることを知る手段は多くても、自分が見ている場所が誰かに探知されているかを知る手段は少ないが故に生み出された戦術とか」
そうそう、だから目に見える召喚モンスターに手を出すときは自分の姿を見せないという鉄則が生まれたんだよな。
「そういえばペロロンチーノ様から一度そういった罠に引っかかったことがあると聞いたでありんす。なんでも探知アイテムで「えろモンむす」を見つけたらしく、飛んでいったら「運営に見つからない様に上から見たときだけ絵が見えるように加工したハリボテ」だったらしく、その場に着いたら焼き払われそうになったと。人間はペロロンチーノ様を害するためになんと卑劣な手口を使うでありんしょうか」
「ペロロンチーノォ!」
お前、そんな間抜けな話聞いたことないぞ!昔からあるゲームに出てくるエロ本に群がる兵士みたいなことしやがって・・・あ、沈静化した。
というかNPCは異世界に召喚される前の会話を覚えているのか、あとで確認しないと。
「ま、まぁアルベドの言うとおり、彼らのお粗末な耐性はそれで説明がつく。そしてNPCが外を出回れるようになったことでプレイヤーと誤認させる行動を取り、手を出させようとしたのか」
なんだろう、怒りがこみ上げてくる。精神抑制に引っかからない程度に苛立ちが溜まっている。この感情の正体はなんだ。
手を出させる・・・後ろにいるプレイヤーは自分が作り上げたNPCが傷ついてもいいと思っているのか。どうでもいいと思っているのか。彼らは生きているんだぞ。でも、生きたまま、捨てられている。
「どうして・・・どうしてそんなことができるんだ!」
玉座の間に自分の声がビリビリと響き渡る。理由がわかったことで感情が爆発して、精神抑制で逆に冷静になった。不快な気持ちはそれでもなおじわじわと心を蝕む。だがそれでも周りを見る余裕はできた。
守護者たちが青ざめた顔でガタガタと震えながら跪いている。彼らに対して怒ったわけではないが、俺も上司が苛立っているときにそれが自分に向かってくるのではないかと思うと、職に就ける人間が少ないリアルであれば命取り。ここまでではなくとも恐れるだろう。
「すまん!お前たちのことを怒っているわけではないんだ!むしろその反対だ!俺はお前たちを見捨てない!絶対に捨て駒になんてするものか!」
「モモンガ様・・・」
「お前たちはギルドメンバーの忘れ形見のようなもの。この世界にくるまでは懐かしいという気持ちしか浮かばなかった。だが、今やお前たちと話し合い、一緒に作戦を立てられる。わかったんだ、アルベドはタブラさんの、シャルティアはペロロンチーノの、アウラとマーレはぶくぶく茶釜さんの、デミウルゴスはウルベルトさんの、コキュートスは武人建御雷さんの子どもだと!」
「俺は、お前たちと家族になりたいんだ!」
あたりはしん、と静まり返る。言いたいことを言ったら、今になって恥ずかしくなってきた。なんだよ、いい年こいて家族になりたいとか熱弁しちゃって、これで笑われちゃったら一生引きこもっちゃいそうだ。
うっ、うっ、と、声が聞こえる。声をだすことは失礼に当たると思いながらも、歓喜を目に留めることはできない。こらえきれない思いは涙となって守護者たちの顔を歪ませた。
「あ、ありがたき、しあわっ、せ・・・!!
オォォ・・・ナント、慈悲深キ、オ方!」
「モモンガ様っ・・・!さらなる、さらなる忠義を尽くさせてもらいます!」
「お、おう・・・期待しているぞ」
あーん、と親からはぐれた子供のような泣き声さえ聞こえてきた。もはや鑑賞会に移る気力もなくなってきた。鏡の中彼らはしばらくは動きもなさそうなので、休憩がてら転移して席を外すことにした。
悪役ムーブした理由まで行きたかったけど、脇道にそれてしまいました。
感想、評価ありがとうございます!
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戦術
あらすじ
レックスを見つけたモモンガ。彼らのことを囮に使われたNPCだと考えた彼は激昂した。
あの後いたたまれなくなったモモンガは自室の椅子で本を読んでいた。もっともそれはただの気分を落ち着かせようとするポーズであって、実際のところ内容はほとんど頭の中に入ってこなかった。
何か悪いことしたかなぁ・・・またあの中に入っていくの気まずいなあ。
そう思い始めたころ、セバスが「大変見苦しい姿を晒してしまいました」と謝りに来た。自室に転移してからわずか5分後のことである。
(はやっ)と心の中でツッコミつつも威厳たっぷりに「わかった。続きを見に行こう」と今一度観賞会に戻ることにした。
ーーーーーーーー
モモンガが戻ってきた頃には、周辺の村を荒らしていた騎士とレックスが戦っていた。しかし彼らが現地住民と比べてある程度強い程度の情報しか集まらなかった。その後、王国戦士長、ガゼフ=ストロノーフと名乗る者と会談をしていた。武術の心得があるセバスは「およそ30レベルぐらいと推測されます」と話していた。それも結局「王国と呼ばれる国はその程度の戦力を重要な役職につけている」程度の情報しかない。
彼がこの村に来たのは周辺を荒らしていた騎士が現れたとの情報を聞いてのことだが、それは彼を呼び寄せる罠。彼らはすでに包囲されているということで、それらをなぎ倒せば立て続けに起きていたイベントも終了かな、と思っていた。
「モモンガ様、よろしいでしょうか」
「デミウルゴスか、なんだ?」
「はい、モモンガ様は彼らに介入するタイミングを図っている様子。シモベの出撃準備は整っております」
「(仕事早っ。これが有能な部下を持った上司の気持ちか)わかった。だが、せっかくどこの誰だかがこの世界の情報を集めているのだ。利益は最大限に活かさないとな」
NPCを外に出せるようになって、一人の時よりも格段に打てる手の数は増えた。だけどそのためには身を守るためのアイテムが必要だ。
攻撃を受けた時だけ消費するタイプだけでは心もとないから、使うことで一定時間守れるタイプも併用しなければ、大切なギルドメンバーの子供と言える彼らを傷つけるかもしれない。
それを考えれば無一文でほっぽり出されたような彼らの処遇には同情する。だが、ノーリスクでリターンを得られるこの機会を逃すわけにはいかない。
時が過ぎれば、陽光聖典と呼ばれる集団が彼らとガゼフを襲っていた。陽光聖典はいずれもユグドラシルでは第三位階魔法相当の召喚魔法によって生み出される天使を従えていた。特段容姿に代わりもなかったが、隊長格と思われるものが召喚した天使はわずかに強かったのかもしれない。
モモンガたちはいずれもレベル100。その域に達している時点で、たとえ乱数によってきまる召喚モンスターのパラメータが最大化されるタレントでも、第三位階程度の術の強さがどうこうとかわからないのだ。
特に苦労もなくバッサバッサと天使をなぎ倒していることから、奴らはレベル50以上かなぁとぼんやり考えていたが、突然陽光聖典の隊長が〈魔封じの水晶〉を取り出し、おもむろに使ったかと思えば、中から出てきたのはまた天使、それもレベルにすれば70から80といったところか。
「なんてもったいない使い方だ。だがようやく面白そうな相手を出してきたじゃないか」
「わらわであればあの程度本気の装備をだすまでもないでありんす」
「彼らが役不足であるならば私が行ってまいります」
「君たち、手柄が欲しいからといってあまりがっついてはいけないよ。我々はモモンガ様の手足。「行け」と命じられたその時動けばいい。引きしぼられた弓であればいい。だが、その時になって出来ませんでしたでは済まされませんよ?」
デミウルゴスがそう言うと、シャルティア、アウラ、コキュートスはいそいそと配下の者たちに準備を整えるように伝えた。なんだか大ごとになっちゃったなあとモモンガは思っていたが、もはや止めろとも言い難い。そんな微妙な気持ちになりつつも、ようやく奴らのレベルを測れる「ものさし」が現れたことに感謝していた。
ーーーーーーーー
「へぇぇ、あの人たち前衛と後衛に分かれて戦ってますね」
「前衛は戦士で、後衛は武器に力を送るなんてへんな戦い方でありんす」
「私たちの中にそんな戦い方するのがいないだけで、人間の中にはそんなやつらもいるんじゃない?」
「確かに戦闘中に武器を生み出すスキルはありますが・・・」
「見て。後衛が姿を変えた時に前衛の持っていた武器が変わっているわ。たぶんそれぞれの姿に対応する武器を渡すことで状況に対応している」
「うむ」
確かに前衛の中でもヒーラーを担当していたネコミミの少女が武器を持ち替えて相手の攻撃を防いでいた。その時々で後衛のバフを受けてステータスを変化させてロールを変化させるなんて・・・そりゃあ魔法対策なんて考えてない変態ビルドなだけあるな。回復役にヘイトが溜まって集中攻撃されてもあれで防御を固められれば、その隙にアタッカーがダメージを稼ぐ。
それだけ言えば強いビルドに聞こえるが、現実は違う。
まず、相当のプレイスキルが必要だ。戦う前衛とステータスを変化させる後衛の二人一組を前提としている時点でもはやおかしい。いつ防御すればいいのか、周りに回復を必要とする者がいるのか、余裕があるから攻撃するべきなのか、それらを相手の様子をうかがいながら意思を合致させなければならない。最初は後衛が召喚モンスターで前衛がコントロールしていると思ったぐらいだ。まあ俺だったらそんな無駄なMPの使い方はしない。
「奴らは・・・(ゲームキャラクターのロールプレイのことをどうやって説明すればいいんだ?)あー、こういう戦い方をするように設定されたNPCなのだろう。おそらく、何らかの・・・そう、物語に出てくる登場人物を再現したんだろう」
「物語の登場人物の再現といえば、かつてペロロンチーノ様が苦しめられたと言われた相手もそうであったでありんす」
「ほう、ペロロンチーノ様を苦しめるまでの強さを持った相手とは、是非とも対策したいところだね。シャルティア、もっと詳しく教えてくれないか?」
そんなことがあったのか!ユグドラシルでかつてのゲームを再現するロールプレイヤーの9割は、再現のために無駄な職業をとったりするせいでまず勝てないんだよな。でも残り1割のキレッキレの変態は、プレイヤースキルがワールド級に高かったりシステムにマッチしてたりして、新しい戦術がそこから生まれることもザラにあったりした。
今なお人気の高いゲーム会社の看板キャラクターを模倣して、本人曰く、「飛翔《フライ》に使用するMPがもったいないからジャンプ力にステータスを割り振って、飛び回りながら火球《ファイアボール》を投げつける」という戦術でユーザー主催のロールプレイヤー限定大会で優勝したやつもいるぐらいだ。無論それは牽制による詠唱キャンセル、ジャンプによる攻撃の回避、時に格闘攻撃を織り交ぜて翻弄するといった圧倒的なプレイヤースキルの元に成立した強さであり、だれにも真似できなかった。チートを疑ったプレイヤーによって特定され、彼のキャラクター名ではなく、本名から「フルダ戦法」のほうが定着したのは笑えた。
「私にもそのプレイヤーについて教えてくれないか?」
「はい、ペロロンチーノ様は『努力は認めるが、なぜもっと攻めないんだ!』とおっしゃり、服を少しずつ削り取っていったのですが、その相手もろとも「あかばん」によって消滅されそうになったと」
「へぇ、相手に手を出させて強烈なカウンターをするタイプの相手かしら。遠距離攻撃に対しても対抗できるとすればかなり厄介ね。・・・どうなされたのですか、モモンガ様?」
「ペロロンチーノォ!」
あ、沈静化した。
「はぁ・・・その話はもういい。お前たちが心配する必要はない」
「彼らと天使との戦闘が始まってから3分ほど時間が経っております」
「もうそんなに経ったの、セバス?こいつらあの程度の相手に手こずりすぎ。モモンガ様が退屈しちゃうでしょ」
「あの、きっと、この人たちはレベルが低いんだよ、お姉ちゃん」
「私のような盾役でもレベル70の天使相手なら1分でカタがつくわ」
「防御寄りの構成だとしてもあれだけの数を揃えてこうなのだから、つまりそういうことなのでしょう」
ユグドラシルにおいては、レベルが10離れていれば基本的に「相手にならない」。
デス・ナイトのように特殊能力によって一撃を耐えることが出来ても、それ単体で勝つことはあり得ない。
逆に言えば、互角の戦いをしている両者のレベルの差は10以内に収まるということ。
しかも1体に対して複数だ。レベル60から70、高くてもせいぜい75止まり。
「よし、突入するぞ。たとえMPを別のことに割り振っても奴らに我々を傷つける手段はないだろう。プレイヤーの痕跡を持つ陽光聖典とやらを捕らえるぞ」
「ですがモモンガ様はあれは囮だと言ったでありんす。姿を見せるのはよろしくないのでは?」
「バカねシャルティア、モモンガ様が何の策もなしに行動すると思っているの?」
「ふっ、これはユグドラシルでも使われたことのある手垢のついた戦法だ。種が割れていればどうということはない。せっかく用意してくれた戦力だ、派手に行くぞ」
--------
「それではモモンガ様、手はず通り15時、1分後に転移門《ゲート》を開くでありんす」
「わかった」
魔法持続時間延長化《エクステンドマジック》という魔法強化系のスキルがある。その名の通り、魔法の効果時間を伸ばすものだ。バフやデバフに使う他、条件反射、カウンター系の魔法にも使用できる。モモンガが常日頃かけている探知阻害魔法にはこれを使っている。
だが、最強の魔法を永続的に使うことはできない。効果時間が続いている間、MPがどんどん目に見えて減っていくからだ。当時のプレイヤーはそこに目をつけた。
「魔法遅延化・探知対策《ディレイマジック・カウンターディテクト》」
探知対策に対する対策をしていたとしても、それは永続的に使用するためどうしても格が落ちる。
遭遇戦であれば、相手の探知対策も永続化するために相殺できるだけの威力にとどまるため、問題なかった。
「魔法遅延化・魔法抵抗難度強化・現断《ディレイ・ペネトレートマジック・リアリティ・スラッシュ》」
だが、それが万全な用意をしたものであれば?当然受けきれないだろう。戦術からして見破られているならば、それを防ぐ手立てはない。
「魔法遅延化・魔法三重化・隕石落下《ディレイ・トリプレッドマジック・メテオフォール》」
モモンガは魔法遅延化の効果時間を完璧に把握し、狙ったタイミングで発動させることができるほどの廃人プレイヤーだ。その技量を持ってすれば、転移する瞬間に探知対策を発動して相手の座標を特定し、その1秒後に発動するように設定した魔法を当てることができる。
「時間です」「転移門《ゲート》」
「行くぞ、っと、まだ天使を倒せてなかったのか。仕方ない、魔法最強化《マキシマイズマジック》」
タイミングを図りながら、ゆっくりを足を進めて。
「暗黒孔《ブラックホール》」
どうだ、ロボットはロボットらしく、俺とスマブラしないか?
メリークリスマース!はーっはっはっはっはー!
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崇拝
長期休暇よりも短い時の間でしか創作意欲が湧かないのはなんででしょうね。
あらすじ
レックスと呼ばれる推定NPCの裏には監視しているプレイヤーがいるはずだと思ったモモンガ様。
逆にハメてやろうと準備万端で一歩を踏み出した。
私が法国の至宝を触媒に召喚した
圧倒的な力を見せつけられ、無為に至宝を失った私は、しかし、歓喜に打ち震えていた。
スルシャーナ。死の神として崇められていた彼の力はあらゆる者の抵抗を許さず、その姿は白磁の骸骨であったとされる。その力と姿を見た。
なぜ、今。決まっている。帰還なされたのだ。
なぜ、私の前に。決まっている。我らの祈りが通じたのだ。
なぜ、天使を始末したのか。決まっている。神の御技の前には児戯も同然だからだ。
かのお方は静寂の中、布擦れの音を響かせながらつかつかと早足に我らの間に割り入る。
喧嘩はやめよ、と。そういうことか。我らの隊員は、かのお方の行動の意味は分からずとも、その姿を知らぬ者はいないのだろう、自然と武器を下ろし、平伏していた。それでいい。
「この辺りか」
ぽつりと言葉を漏らされ、一歩を踏み出した。すると、空がまるでガラス細工のようにひび割れる。
何か粗相をしたのか、と思えば、かのお方は東の空に手を挙げる。
その先には、光。光の柱。山の怒りにも似たそれが煌々と輝く。そして遅れてやってくる地響き。
あの規模だ、あらゆるものが死に絶えたのだろう、その魂があの白と黒のガントレットに集まってくる。
怒りだ。間違いなくこのお方は怒られてる。理由を考えるより先に、ただただ伏して許しを請う。
「なんだおまえは!」
「待て!その御方をこれ以上怒らせるな!」
バカが、力の差がわからないのか!?いや、頭を上げることはできない。我々だけでも許してもらわねば。
「たった今、お前たちを見守る者たちは、死んだ。ふふ、『強欲と無欲』に経験値が貯まるのを感じるぞ・・・多すぎないか?」
「ずいぶんと派手なやつやな。ワイらになんかようか?」
「邪魔者を排除しに来た。まあお前たちに用はない、どこにでも好きに行くといい。おっと、そこのひれ伏している奴らは別だ。連れて行け」
「承知いたしました」
おお、もしや私たちは神々の住まう地に招待されようというのか。人々を守るため、あらゆる試練を乗り越え、辛酸を舐めた、その甲斐があった。祈り続けて良かった・・・
『この中に入れ』
ーーーーーーーー
「待ってよ!急に現れて助けてくれたのはいいけどさ、あんたたちが誰だかわからないまま別れるのも目覚めが悪いんだ。せめて名前だけでも教えてくれない?」
「至高の御方に何たる口の聞き様をっ!身の程をわきまえなさい!」
「まあ待て、そういきり立つな。奴らは違うギルドに所属しているのだからな」
前に出るアルベドを手で制しつつ、大仰に前に出てローブをはためかせる。悪役ロールでの撮影会で散々練習した動きだ、体が覚えている。
「我々はギルド、アインズ・ウール・ゴウン。ユグドラシル最悪のギルドと言った方がわかりやすいかな?」
かつてはプレイヤー1500人を41人で退けたギルドだ。この異世界に訪れる前の会話をNPCが覚えているというのなら、その話題を一度となく聞いていたことだろう、結成されてからある程度時間が経ったギルドに所属しているなら知っているはずだ。たとえ新参者だとしても、NPCであればかつて世界が『ユグドラシル』であったことを知っている。
「ギルド、アインズ・ウール・ゴウン?サルベージャーギルドなら知ってるんだけど、それって何かの職業?」
「ユグドラシルってどこかの地名?メレフ、聞いたことある?」
え?
「どこかで知った覚えがあるような・・・そうだ、世界樹だ。1000年前に作られたと推定される遺跡の中で、あの世界樹のことを『ユグドラシル』と記述していたらしい」
「じーちゃんよりもすーっごい長生きしてるノポン族がたまに『ゆぐどらしる』って言ってたも。方言だと思ってたけど、そういうことかも」
えっ?
「はぁ?あんたたち誰に作られたのさ?創造主の名前も思い出せないわけ?」
「ヒカリちゃん、創造主ってお父様のことを話せばいいんでしょうか」
「私たちはそれでいいと思うけど、あの黒いのが言ってるのはたぶん何か前提が違うと思うわ」
「ホムラ様のような特別なブレイドはともかく、私たちはどこかの
「ウチらブレイドはそんなんだし、王子たちドライバーはふつーにお父さんお母さんから生まれたじゃあいかんのか?」
ええ?
「お、お前たちの創造主たるプレイヤーはどこにいるって言うんだ?」
「プレイヤーがなんだかわかりませんがこの世界に
「なるほど、カグツチはいい考えをするな。どうですメレフ様、この方と一緒に帰還方法を探すというのは」
「ワダツミの言うことにも一理あるな。えぇと、アインズ・ウール・ゴウン殿、でいいのか?その力に感銘を受けました。そこで折り入って頼みがあります。どうか我々の帰還にご協力いただけないだろうか」
「ちょっと待て!こちらにも心の準備というものがあるから!」
どうしてこうなった!
「お前たち、ちょっと集まれ」
とりあえず会議だ。
「モモンガ様、なにか問題があったのでしょうか?」
「ああいや、あいつらを監視していたのはあいつらの創造主だと説明したが、そうではなかったらしい。だから計画の変更を伝えなければと思ったのだが」
「さすがはモモンガ様でありんす!何から何まで想定内であったとは」
何から何まで想定外だよ!こんなときの計画なんて一切ないわ!本当は監視プレイヤーを先制攻撃で爆撃してから一気に攻勢に出て落とそうと思ったらもう爆撃だけで全滅してるし、うちの守護者たちの傾向から創造主が消えたら暴れまわると思ってたけどそんなことないし。
あげくの果てに創造主が誰だかわからない上に、この世界に転移させた存在がいるだって!?むしろ俺のほうが話を聞きたいぐらいだ!そうすればもしかしてここにいないギルドメンバーも連れてこれるかも・・・
「・・・どうかなされたんでしょうか、モモンガ様?頭を抱えて」
「これは・・・(まさか、我々の想像力がモモンガ様の想定するレベルのはるか下を行っているから失望されているのでは!)まずい、アルベド!」
「ええ、デミウルゴス!わかっているわ。いま考えてる」
・・・沈静化した。いかんいかん、今のことを考えよう。まず、爆撃した相手は誰だ?弱小プレイヤーギルドだとしてもあっけなさすぎる。たとえ超位魔法だとしてもレベル90あれば一撃でHP全損とはいかないはず。それに奴らは何者だ?NPCじゃなければ、もしや奴ら自身がプレイヤー?いやいや、転移したばっかりでまだ混乱しているだろう中で、あんなにキーワードを散りばめられた会話してもすっとぼけてロールプレイ続けるか普通?それに根っからのロールプレイだとして、どうやって説明すればいいんだ?中に人間が入っているってか?
あっ、ちょっと考え込みすぎた。何か、何かしゃべらないと、守護者たちに何も考えてなかったんだろうって失望される。
「・・・! なるほど、そういうことでしたか。さすがはモモンガ様、全てにおいて抜かりない、まさに端倪すべからざるお方」
「わかったのね、デミウルゴス!」
あっ、頭を上げたらデミウルゴスに先を越された。しかもなんかすげー脂汗かいてるし、すごい深いところまで読み切ってそう。相変わらず『たんげいすべからざる』ってどういう意味だかわかんないけど。
「モモンガ様、どうか私にその計画の一部を話させてもらえますでしょうか」
「うむ、いいだろう、話してみよ」
「まず、我々は彼らを囮に使われたNPCだと考え、それを監視するプレイヤーがいると想定しました。そして、たしかに彼らは監視されていました。プレイヤーではない第三者に」
「ほぅ・・・」
「どういうことでありんすか、デミウルゴス?」
「監視対策魔法に引っかかったのは、陽光聖典を監視する者たち。そして彼らの後ろにプレイヤーはいなかったんです。そうですよね、アルベド」
「ええ、いま尋問官から確認が取れたわ。モモンガ様が爆撃された場所はスレイン法国と呼ばれる国で、陽光聖典の住処だそうよ」
「そうか」
やけにあっけないと思ったら、まったく関係ない現地の国を攻撃していたということか。『強欲と無欲』で吸い取った経験値が多すぎたのは、それだけ多くの住民がいた、ということか。
・・・大量虐殺をしたというのに、まったく心が傷まない。まあ、今はその違和感をさらけ出す時ではない。おとなしく話を聞くことにしよう。
「デミウルゴス、アルベド。何もかもわかったような口をきくけど、それってあいつらの後ろにプレイヤーが居るっていうモモンガ様の判断が間違っていたって言ってんの?」
「そうではないわ、アウラ。それは推測であって、可能性の一つにすぎない。そしてその可能性が間違っていたとしても問題ない手を打っていたのよ」
いや、問題あるだろ!
「私の部下の悪魔たちが現地の様子を確認しました。大多数の住民は余波で死んでいる様子ですが、宝物殿と思われる一部の建造物が残っています。また、中にいた守護者が外に出て暴れまわっています。動きからして強さは我々と同等と思われるという報告も上がっています」
「へぇ、つまりどっちにもプレイヤーがいる可能性があって、攻撃するのはどっちでもよかったってことか!モモンガ様の予測はすごいなあ」
「まぁ、それは運が良かっただけだ」
問題なかった!
「そして無関係であった彼らにその力の一端を見せることによって、人間種でありながら適度に強い駒を用意することができた。これも全てモモンガ様だからこそ、つかめた可能性の一つなのよ」
「ナントスバラシイ、流石モモンガ様」
「まあ彼らの心をつかめたのも彼らが欲する力があっただけのこと。ならば次の手は?」
「宝物殿から出てきた敵を制圧し、財宝と情報を奪うことで、戦力の増強を図ります。編成した軍をそのまま利用することにします」
「いいだろう。さて、彼らを長らく待たせてしまったな」
便利な駒として扱うなら、悪印象は持たれないように、次のビジネスチャンスにつながる別れの挨拶にしないとな。
「すまない、急用ができた。できる限りのことはする。次に会う時があれば君たちの世界についても知りたいものだ」
「わかった!オレたちはしばらく村にいると思うから、その時はよろしくね!」
ーーーーーーーー
その後転移した私たちはスレイン法国の宝物殿を守っていた『絶死絶命』と交戦した。レベルが高くとも経験が足りないらしく、守護者たちのパーティだけでも十分に無傷で勝利することができただろう。
「それでデミウルゴス、彼らの言っていたことについてどう考える?」
彼らとははもちろんレックスと呼ばれていた者たちのことだ。ギルドどころかユグドラシルのことを知らなかったり、元の世界に帰りたいと言ったり、いろいろ突飛なことを言っていた。
「はい、彼らは自身が作られるときに創造主によって『誰に作られたかわからない』ように細工をされたのでしょう。ユグドラシルについて知らないと言うのも創造主が『そうあれかし』としたのでしょう。ナザリックの掃除をしているエクレアが『ナザリックに反旗をひるがえす存在』として作られたのも何か意図があるのでしょう、それと同じように彼らを創った者にも意図があるのだと思います。そしてこの世界に転移してしまい、帰りたいと言うのは、創造主と一緒に転移できなかったから出てきた言葉だと思われます」
「・・・なるほど、お前たちはそう思ったか。参考になった」
かつてユグドラシルであった世界。そしてユグドラシルの魔法やモンスターで構成されたこの世界。それらの世界しか知らないNPCにとっては『ユグドラシルで再現できること』の範疇でしか考えることができないのだろう。
そりゃそうだ。誰だって『起こり得ること』で全てを説明できるとしたら、『起こり得ないこと』が起こったなんて考えるはずがない。
だが俺は思う。ただなんとなく思う。俺自身がプレイヤー、この世界の外からやってきた来訪者だからだろうか。
彼らこそが
感想、評価お待ちしております。
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背負った名前
「それでどうするの、レックス?アインズさん行っちゃったよ?」
「それじゃあ村にもどろっか」
「待て、目的を忘れているぞレックス。我々はガゼフ殿の応援に来たのだ、彼の安否を確認しなくては」
ニグンによる天使召喚からのバトル、アインズ・ウール・ゴウン襲来と立て続けにいろいろ起こったため、助太刀するべき相手を見失っていた。ひどく痛めつけられて地面に横たわっていたが、五体満足で息もあった。
「お嬢様、私の力をお使いください」
「わかってる、ヒーリングハイロー!」
ビャッコの武器、ツインリングに込められたエーテルをニアが回復アーツとして放つ。その力でガゼフ含め部下たちが立ち上がれるようになった。
「これは・・・回復魔法か。助かる」
「これくらいなんてことないよ。でも大丈夫?回復したはずだけど、まだ顔が青いよ?」
「ああ、傷は癒えたのだが・・・貴殿らは大丈夫なのか?あの強大な力を持ったアンデッドを目の当たりにして」
ガゼフはアインズ・ウール・ゴウンと名乗る者を恐れていた。それは人間を憎む存在であるアンデッドが王国を滅ぼすほどの力を持っていることに対して。もちろん、王に命ぜられればどんな相手であろうと立ち向かう。しかし、だからといって恐怖がないわけではないのだ。
「アンデッド?」
「おそらく、骸骨が動いていることに忌避感を覚えているのだろう」
「でもさ、オレたちの言葉をしゃべれて、オレたちの味方をしてくれたなら、別に悪いモンスターじゃないんじゃない?」
「いつも悪さばかりしているターキンのなかにも料理をがんばってるやつらもいたも!きっとアインズっていうのは特別なアンデッドなんだも」
「うむ・・・まぁ、そんな考え方もあるか」
考え方の違いというやつだろうか。ガゼフにとってはわかり会えない敵だとしても、レックスたちにとっては数あるモンスターの一つにすぎないのだ。そういえばレックスたちの顔つきをあらためて見てみれば、自分たちと比べてほりが浅いというか、平たい顔というか、この地方に住まう人ではないと思えてきた。そうであれば、広い世界、そのような価値観を持っている人間もいるのだと理解した。
「ともかく、礼を言う。だが私も急ぎこの地に来たのでな、十分な報酬を用意することができないのだ。もしよければ王国に同行いただけないだろうか?」
「わかった。でもオレたちの戦いでカルネ村に被害が出てるんだ。このままほおっておくことはできないよ」
村についたガゼフ一行。確かに村を包囲されたときに火矢を放たれたらしく、家の一部が焦げている。また、ガゼフらが到着するより前、すでにレックスたちが囮部隊と交戦したときにも被害が出ている。レックスたちは村を助けたいが、報酬を受け取るには王国に行かなければならない事情を村長に話した。
「・・・なるほど、状況は理解しました。ですが、村を襲う賊を退治してくれたおかげで私達は生きている。それだけで十分ですよ」
「できた人間だと思うが、為政者としては失格だな。こんなときは『おまえたちがいたから我々は襲われたのだ』とでも言ってしまえばいいのだ」
「言い過ぎだよ、メレフ」
「・・・面目ない。国のいざこざにあなた方を巻き込んでしまった。本当に済まないと思っている。レックス殿、貴殿らへの報酬はこの村の復興を成し遂げた後でも構わないだろうか」
「あんさんらの仕事は国を守るために戦うことや。こーゆーのはワイらに金でも掴ませて任せてしまえばええんや」
「しかし、それを依頼するだけの手持ちが今ないのだ。待ってくれるのであれば必ずや戻ってくると約束するが」
「どれぐらいで戻ってこれるも?」
「そうだな、片道10日、王へとお伺いを立てて正当な報酬金を受け取るまで1週間、合計1ヶ月といったところか」
「長いも!どうにからならないかも?」
さらにいえば、ガゼフ自身彼らの働きに見合うだけの報酬を得られるか心配なのだ。ガゼフのことを敵視している貴族を見ると、難癖つけて報酬を渋るどころか、ガゼフが嘘をついていると言って法国のことすらまともに議題にしないだろうと予測していた。だからこそ彼らをせめて証人として連れて行きたかったのだが・・・
「トラ、ジーク、お前たち言っていることがめちゃくちゃになっているぞ。せめて意見の統一をだな・・・」
「じゃあさ、フレースヴェルグの村みたいに私達と同行してないブレイドをおいておけばいいんじゃない?」
「それだ!ニア、ナイスアイデア!」
そう言うとレックスたちは「イダテンはご飯いっぱい食べるからダメだね」「メイは裁縫上手だったよね」「ヒバナちゃんは私と同じでお料理できますよ」「ユウオウのスイーツを食べれば子どもたちにも笑顔が戻るでしょう」などと議論を重ねると、ブレイドを顕現させた。
「ユウオウ、この村は襲撃で弱っているんだ。だからユウオウたちの力でこの村を復興してくれないか?」
「了解した。それでは部隊名フライング・マーフォーク、出撃する」
「頑張れよー」
次々と人員を生み出すレックスたちの様子に放心したガゼフであったが、マジックキャスターではない彼には「彼らの魔法ではこんなこともできるのか」と言う程度の認識しか持てない。魔力の消費なしに未知の強力なモンスターを生み出すその様は、見る人が見れば位階魔法では説明できないと理解しただろう。
「なるほど、その手があったか。ガゼフ殿、カルネ村の復興は彼らが代行する。あなたの顔を見るに、我々が同行しなければ都合が悪かったのだろう」
「感謝する。それでは共に行こうか」
--------
「うわっ、なんだあいつら・・・白い犬と丸っこいへんな使役獣にキャットウーマンの亜人に、やたらと露出度の高い女たちに・・・しばらく見ない間に王国はサーカス団でも雇ったのか?」
「そういえばお前たちは法国まで遠征していたな。その間にあいつらちょっとした有名人になってたんだよ。変わり種ばっかりだけどな」
「正確な人数はわからんが、かなりの大人数らしい。最初は十人一組のパーティとして登録してたんだが、外では別の仲間と協力していたとかな」
「どんな人数で受けようとも報酬の金額は変わらない以上、儲けは少ないだろうによくやるもんだ」
「賊の襲撃を受けたカルネ村を復興してんのもあいつらの一員だっていうぜ?もう冒険者じゃなくて傭兵団でも名乗ったほうがいいんじゃないか?」
事実、彼らはガゼフに言われるまでは「フレースヴェルグ傭兵団」を名乗ろうとした。しかし、国の外に彼らのような力を持つ団体があると貴族がいい顔をしないと説明されたので、今の形に落ち着いたという経緯を持つ。
「まあそう言うなって。あいつらが来てからずいぶんと治安が良くなったしな」
「あの大人数で全員が相当の実力の持ち主だから二人一組で依頼を受けても難なくこなしちまうし、それでいて高ランク冒険者サマみたいなプライドもねえからどんな地味な依頼も受ける」
「そのうち低ランク冒険者が食うための依頼がなくなるからって追い出したら、今度は王国中の住民を相手に慈善活動みたいなことまでするんだ。依頼を出す金が無い貧乏人相手にも物々交換で応じるあたりありゃ筋金入りだぜ」
この世界に来る前・・・アルストでも困った人を見かけたらすぐに助けていた。お金や貴重なアイテムをもらうため、だけではなく、かけた優しさがいつしか返ってくることを知っているからだ。
大人数の異種族混合パーティのため、登録当初は嫌な顔をされたものだが、その行動からだんだんと信頼に値する者たちだと判断されるようになった。その結果、短期間で銅、銀、金、白金と階級を上げていった。
そんな彼らのチーム名は・・・
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「『ビャッコ隊』は・・・いえ、私がリーダーの部隊ではありませんでした。ここは辞退しておきましょう」
「ふふっ、『ファイヤー勇者軍団』なんてどうですか?」
「なかなかインパクトがあるな、だがまだまだや。ここはワイの『ブレイズ・D・
「なげぇよ!周りの冒険者たちは『漆黒の剣』とか『クラルグラ』とか『蒼の薔薇』みたいにシンプルで覚えやすいし、そんなんでいいんだよ」
「うーん、『フレースヴェルグ傭兵団』は却下されたけど、傭兵団がだめだって話だから『フレースヴェルグ』ならいいんじゃない?」
「そこまでいったら傭兵団もつけないとイマイチだも」
「新しい部隊名を考えたほうがいいだろう。レックス、なにかいい案はあるか?」
「オレぇ?うーん、目新しさでいえばジークの案だけど、やっぱり長すぎるし・・・そうだ!」
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「ただいま!次の依頼ある?」
「おかえりなさい、『アルスター』の皆さん!」
投稿が遅れてしまいましたが、ゼノブレイド基準で1話分をお送りしました。
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