ハリーポッターとエジプトの王 (もりも)
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荘厳な装飾で彩られた古城は見る影もないほどに甚大な損傷を被っている。
足元を見れば、石造りの壁の瓦礫の下には年若い男女が埋まり絶命していた。
その中で重く冷たく支配する空間があった。この世のものとは思えぬ光景が傍観者数百名の眼前で繰り広がれる。
「無駄だ小僧・・。俺様の目はお前の心を手に取る様に読める。お前の魔力は既に尽きかけ、俺様の膨大な魔力は未だ余力を残している。お前が今考えている事は無謀というものだ。呼べばその時点で死ぬだろう。」
「喧しいぜハゲ。確かに分の悪い賭けには違いないが、この絶望的な状況を考えれば僅かな勝算に賭けるのは当然の手だ。・・・これは闇のゲーム。どちらかが死なない限り終わることはない。この賭けに勝てばお前が死に、負ければ俺が死ぬだけだ。結局その2択しかないのさ。」
古城と崖をつなげる石橋の上で血を流した精悍な少年と悪魔の化身の様な男が対立する。
魔法使いならば必須の杖はもはや意味を成さず、両者の手中にはない。代わりに魔力の光を発しているのは両者が持つ黄金のアイテム。少年の首にかかるペンダント、男の右目に収まった義眼がそれだ。
「まさに神のみぞ知るってのはこのことだっ・・!!」
「な、・・やめろ!今そんなことをしたら!!?」
「神よ!!降臨せよ!!」
力尽き横たわるハリーポッターの絶叫に脇目も振らず、少年は右手を天高く翳し曇天の空を指し叫ぶ。
「オシリスの天空竜!!!!」
7年前、誰がこの未来を予測できていただろうか。
人生には無数の選択があり、それには成功した道もあれば失敗の道もあるだろう。でもどちらが成功なんて誰にもわからない。それでもなお、前に進むには選ばなくてはいけない。勇気を振り絞らなければいけない。
これは少年少女たちが選択してきた軌跡を描いた物語。
◆
魔法界では様々な伝説、伝承が数多く存在する。例えば、死の秘宝やホグワーツの創始者の1人グリフィンドールが創りし剣、スリザリンの継承者だけが操れる蛇語など、一般的には噂話でしか囁かれないが、事実それらは存在し魔法省の上層部や死喰い人の中ではそれらを保有している者もいる。
しかし中にはあまりに強大な闇の力を持ちながらも、あの偉大な魔法使いダンブルドアでさえ見たことがない古の秘宝が存在した。
その秘宝は錬金術の源流とされる古代エジプトで生み出された物だ。しかしその事を知る者も、どういう用途に使う物であるか知る者もいない。墓守の一族と言われる数千年続くエジプトの少数部族が代々隠匿してきたからだった。
彼らはただ待ち続ける。来たるべき時を。
秘宝の継承者が現れることを。
少年は軽い足取りで歩き慣れたトッテナムコートロード駅を通り抜ける。今年で11歳になる薄めの茶髪の少年、「ペップ」こと「ジョゼップ・ゲイム」の習慣はロンドン中心部に構える世界の博物館大英博物館の鑑賞だ。
いつもと同じく博物館には世界中から集まった観光客で賑わっていた。その混雑の中をこれまた慣れたようにスイスイとくぐり抜いていく。そのフットワークは中々のもので、父親から習わされていたフットボールの練習の成果でもある。
「ヤァ、ペップ!今日は少し遅いじゃないか?せっかくビッグイベントの日だっていうのに。」
「せっかくの休日だってのに、担任が意味不明なくらい宿題出してきてさ~。さっきまで母さんに拘束されてたんだよ!!」
ゲート前にいた守衛の男が気さくにペップに声を掛ける。すると少年は如何にもプンプンと怒った口調で言葉を返しながら、1ペニーをゲート両端においてある募金箱の一つ入れた。
大英博物館は入場料が無料であるためプリマリースクール(小学校)に通うペップが毎週通うことができるのだが、マナーとしてこれ見よがしにおいてある募金箱に日本円なら1円に該当する1ペニーをペップはいつも入れている。
ペップはゲートをくぐると足早に歩を進め、お目当てのフロアへ一直線に向かう。いつもなら決まったコースを順々に回っていくにだが、今日は守衛が言っていたようにビッグイベントが開かれているため他の展示物には目もくれないでいた。
大英博物館で特に目玉となるのは古代エジプト展(作者主観)であろうか。世界の略奪館と言われる程のこの博物館は大昔商人が手に入れた文化財が寄付、または商人から買い取った物が多くを占め、そして古代エジプト品の多さは世界一と言ってもいいだろう。十数年前まではツタンカーメンの仮面があったらしい。
それはさておき、この週末から前々から大々的に宣伝されていた古代エジプトの新たに見つかった物品が展示されるイベントが開催されている。もう出尽くしたと思われていた古代エジプト品がこの目で見れるとあって少年のテンションは家でも学校でもハイになり過ぎて周りからドン引かれていた。
「おぉ・・・」
人を掻き分け、お目当ての展示場に足を踏み入れた。見た瞬間にテンションがブチギレるだろうな、という自身の予想に反してペップは目の前の輝く黄金の品々に感嘆の息を漏らした。
スッゲェ・・・・こんな綺麗なものがあるのかぁ・・・。
口を半開きに呆けたペップは数分間身動きしなかったが、周りの人たちにも似たような者がいたのかペップの様子は奇行という程には目立たない。
パチクリと我に返ったペップは品の一つ一つを目をひん剥いてじっくり覗き込む。ガラスケースに鼻がつくほどに近づけ、興奮して荒い鼻息がケースを曇らせる。それはさすがに迷惑行為だったのか警備員に半歩下がるように促されてしまった。
ペップ1人だけ時間軸が違うかのように一つの動作が遅く、一つの品を見るだけで15分くらいかかっていた。そしてその中で今彼が見だしてすでに30分は経過している品があった。その品は他の黄金に比べても一層に輝くホルスの目の模様が一部ある箱に入ったバラバラのパズルであった。
パズルであるなら完成形ではない今の状態にそれほど魅力があるとは思えないのだが、ペップは目を離せないのであった。
「・・・今までに誰1人として完成したことのないパズルか!なにこのワクワク感!それでもって完成した人には願いが一つ叶うって・・ロマンしかないじゃん!!」
ペップが博物館の歴史物に魅かれるのはひとえに言ってロマンを感じるからだろう。大体の人が感じる感情だがこの少年はそれが一層強く感受性が高い。
「すいません!!これ!組み立てるのに挑戦してもいいですか!?」
ペップはビシッと手を挙げ元気よく展示解説員に物申す。唐突の許可の要請に虚をつかれた解説員の男性であったが、「ごめんね坊や?触ることはできないんだよ?」と優しい口調でやんわりと断れた。当然である。超重要文化財であるここの展示物に触れることができるわけがない。子供らしい意見に解説員含め周りの大人は微笑ましく笑い声をあげた。
そんなこんなありながらもペップはエジプト展を大いに楽しんだ。
その傍らでこのイベントの主催者かつエジプト文化庁の職員であるオリエンタルな外見の女性がペップを見つめていた。すると帰り際にその視線に気がついたペップは彼女に声をかける。
「おねーさん、俺になんか用?お茶するなら俺ミルクティーしか飲めないよ?」
「クス・・・いえ・・違うんです。貴方のような少年があんなに展示物に釘付けになっているもので嬉しくなりまして。」
品が良さそうに口に手を当てニコリと微笑む彼女に、(はぇ~・・・美っ人・・・。)とペップはドキリとする。
「お、俺さ!毎週ここ来てるんだ!だ、だからこの展示も開催中は毎週来ると思う!」
「そうですか。エジプトの文化庁の者として貴方ような良い子が興味を持ってくれることは大変嬉しく思います。」
「特にあのパズルがすごく気になるんだ!誰も完成したことのないなんてさ!」
「そうですね・・。あれは3000年も前の物なのに今だに未完成なのですから、もし完成したら願いが叶うというのも本当かもしれないですね。貴方ならどんな願いを叶えてもらいますか?」
女性の質問にペップはスイッチが入ったかのように真剣に悩み出す。
「う~ん・・・。やりたいことはいっぱいあるんだよなぁ~。冒険とか探検とか・・あ、一緒か!漠然というならロマンがあることとかな!?」
「ロマンですか?例えば見たことない生き物見つけたり、・・・・例えば魔法を使ったり?」
「そうそう!魔法は・・どうだろ?できたらそれが一番おもしろそうだよね!中世では魔女狩りがあったくらいだし、本当にあったら使いたいな!はっはっは!」
この後ひとしきりペップが女性にエジプトについて質問を数回して別れることとなった。別れ際ブンブンと手を振るペップでわかるように、彼は女性の話に大満足したようだった。
「イシズさんていうんだなぁ~。明日もいるかなぁ~。でも忙しいよな、偉い人みたいだったし。」
にこやかなペップに対して、職員用の部屋に入ったイシズという名の女性の顔は先程とは打って変わり、陰りのある表情へと変化していたのであった。
週末明けの月曜日、ペップは学校なんて洒落せぇ!!といった態度で授業を受けていた。日曜の昨日も博物館に行ったのだが、イシズには会わずじまいで少し不満げな休日になってしまった。毎週末にだけ通うことを許されているペップだったが、今日帰りに行ってやろうかと画策していた。
しかしペップが住むリトル・ウィンジングはロンドン近郊とは言ってもサブウェイの交通費は小学生の身分上すこぶる痛いし、足りないからだ!
そして今いる学校もリトル・ウィンジングにあるしで、ヌォ~っと頭を抱える。
(土曜日まで待てねぇーーー!!)
頭に昨日まで数時間は見たあのパズルのことが離れない。今までそんなことなんてなかったのに、まるで中毒者のようにそれを求めてしまっている自分がいることにペップは感じていた。
(コカインとかってこういう気分なんかな?)
危ない発想になりかけている少年の図。
物思いに耽っていると、ムチムチの少年がペップに話しかけていた。
「おい、ペップ!フットボールしようぜ!今日こそ負かしてやる!」
「ダドリー・・今気分じゃないんだけども。」
ダドリーという名の少年は脇にボールを抱えてペップを誘う。彼の後ろには何人か控えている。
「俺の言うことに逆らうのか!?」
「なんだよ!なんで俺がお前の言うこと聞かんといかんのすかね!?全くわがままボーイだなお前は!家庭環境知れるぞ!」
「うっせえ!いっつも勝ち逃げするお前が悪いんだぞ!チームもやめちまうしよ!」
父親から習わされていたフットボールだったが、ペップはかなり上手い部類だった。なんだったらロンドンのビッグチームから勧誘がきたほどにだ。
「コーチからはランパードにだってなれるって言われてたのによ!俺が勝ったらチームに戻れよ!
「だからやんねぇって!!というか別にチームメイトでもないのになんでお前がそんなしつこいんだよ!?」
「だって俺お前のファンなんだよ!」
「ダドリー!」
まさかダドリーにキュンとしてしまった。ダドリーのくせに。
ちなみに余談だが、このペップというのもフットボールからくる愛称だ。俺の父親は熱心なフットボールサポーターで近所でも有名だ。若い頃はフーリガンにも参加して結構やばかったらしい。
そんな父さんは古くからのチェルシーFCのサポーターだ。このチームはロンドンの東部に位置したクラブでロンドン南東に位置するサリー州に住むペップたちにとって一番近いビッグクラブで、この学校でも比較的数は多い。もっとも一番近いのはフラムFCだったりするので、フラムサポは弱小クラブということでチェルシーサポから小馬鹿にされがちだ。ランパードというのはチェルシーのレジェンドのミッドフィルダーである。
でもなぜ愛称がペップなのか?それは父さんがチェルシー以外で唯一大絶賛していた元バルセロナの選手、ジョゼップ・グアルディオラからつけた名前だからだ。彼の愛称はペップ。だから俺もペップ。安直だなぁ・・。んでもってそのグアルディオラなんだが、選手としても一流なんだけど、監督として世界ナンバーワンの監督だったりするわけで。世界一有名な監督なだけに、ここフットボールの国ではめっちゃ知られてるから周りもペップ呼びが一瞬で定着した。
さらに余談だが、そのペップ監督は今マンチェスターシティっていう監督をしててキチガイじみてるくらい強かったりする。なので父さんはチェルシーを応援するかシティを応援するかの狭間で苦しんでいる。ちなみに俺はリヴァプールが今のトレンドである。クロップ監督が好きなんだな!熱いし、ロマンがあるし!
とまぁ、フットボール自体は好きなんだけど、今は別のことに興味が向いちゃってんだよな。
「くそっ!今日は嫌に頑固だな。しょうがねえ、お前ら行くぞ!あ!あとハリー、お前球拾いしろよ!」
ダドリーは同居人である使いパシリのハリーを顎で呼び出す。その光景はいつも通りであるため、ペップもハリーをいいように使うダドリーを今更咎めたりはしなかった。
ペップは帰路の途中、どう平日に博物館に行くか考えながら歩いていた。目下の悩みはやはり交通費と帰宅時間にある。交通費は毎週末どうしても行きたいと泣きじゃくり、流した涙と汗の結果週2の回数分の費用は手中に収めた。しかしもらった回数分以上は使うことはできない。すでに月末で今月分はもう無い。そして放課後に行ってしまうと余裕で帰宅時間が20時を回る。そんなことをしてしまうと母からどんな制裁を受けるかわからない。コレクションの博物館のピンバッチがいくつ燃やされるかなんて考えたくも無い。
考えていたら家に近い集合住宅地まで着いてしまっていた。しょうがない、行くなら明日からだなととりあえず今日は諦めた。
ペップは俯ていた顔を上げて前を向いて歩いているといくつものカバンを持たされていたハリーが千鳥足で歩いていた。絶対ダドリーのだろう。そんなハリーに彼は声をかけた。
「おい、ハリー。カバン寄越して!何個か持つよ。」
「え、ペップ?だ、大丈夫だよ!悪いよ!」
「フラフラして何言ってんだ。ヒョロイんだから無理すんな。」
「あ、ありがとう・・。ペップは優しいね。」
「ん?そうか。ハリーの方が優しいと思うけどな。俺ならこのカバン川に投げつけてるぜ?もちろん工場の隣のドブにな!あ!今からやるか?」
「ええ!?そんなことしたらどんな目に合うか!・・・・面白いけどね。ふふ。」
ペップとハリーは特別仲が言い訳では無いが、気は割りかし合う方だ。どちらも悪意というのを持たない性格な分、自然に会話ができる。
「ところでさ!ハリーはあのエジプト展見たか!?」
「ああ、今すごいCMしてるやつ?ううん。そういうとこは連れて行ってもらわないと行けないんだ。ペップは当然見たんでしょ?」
「ああ!すごかったぜ!・・・で、ハリー?お金もってね?」
「え?なに急に?」
「いや実はどうしても明日にもう一回行きたいんだよ!でも金が無いんすよ!もちろんハリーも一緒に行ければ最高なんだけど!」
「・・・ごめん。僕、お小遣いとかもらって無いんだ。」
「・・・世知がれえな。」
子供はなんて無力なんだ。今まさにそれを味わったペップであった。一瞬逡巡した後、「あっ!」と閃いたのように彼は両手を後頭部で組んだ。
ペップとハリーは小走りでダドリーたちが遊んでいる公園に向かった。
「ダドリー!」
ペップは学校でのダドリーの勝負を受けてやることにした。そのペップの言葉にダドリーはニタリと口角を上げた。
「お前の勝利報酬が俺のチーム復帰だったな!だったら俺も報酬をもらうかんな!」
「で?なんだよ?」
「金だ!金をよこせ!!」
ドン、と堂々と金銭要求だった。
「お、お前まぁまぁ下衆なこと今言ってんぞ!?」
「ウルセェ!つっても小銭程度だよ!金もってんだろう、お坊ちゃんよぉ?」
「・・いいぜ。ゼッテェ負かしてやる!オラァ!」
負けず嫌いの2人のモチベはヒートアップした。
勝負方法はバレーコート半分くらいの広さに四方形のラインを引いて、その中で自分の反対側のラインまで相手を抜いて到達したら勝ちだ。
ペップは股抜き5回、アンクルブレイク3回かましてダドリーの財布全額をかっさらった。ハリー曰く、今までの人生で一番エゲツないものを見たと語った。
そして翌日、母親に拝み倒してなんとか放課後の博物館行きを勝ち取ったペップ。最後のハリーにもあの感動を味わせてあげたいということが決め手であった。持ち札があれば友達を出汁することも厭わない性格でもある。本心でもあるんだけどね。
「で、ダドリー。お前も来るんかい。」
「元々俺の金で行くつもりだったんだろうが!!それにハリーが行くなら当然俺にも行く権利あるだろ!」
メンバーはペップ・ハリー・ダドリー・ダドリーの母ぺチュニアの4人だ。ホントは保護者無しがいいんだが、流石に11歳を夜更けの時間出歩かせられない。過保護のぺチュニアが着いてくるのが妥当だろう。
「ダドリーちゃん?ママから離れてはダメよ?」
「・・ププ!ダドリーちゃん!」
「むぐぐ・・・!!」
流石に同級生の前でちゃん付けされ恥ずかしがるダドリー。最初はペチュニアの過保護っぷりに笑い声を零すペップだったが、博物館に着くにつれ公開処刑されているダドリーに同情してきた。
「ハリー。いつも家でもあんな感じなんか?」
「そうだよ。おじさんも加わるから今の2倍だよ。」
「・・まぁ家ではほぼ家族のハリーに見られるぐらいだからいいけど、友達の前であれはキツイな・・。でもそれを毎日見せられるハリーも地獄だな。」
ぺチュニアの猫なで声に少々辟易してきたペップであった。
4人が博物館に着くと、博物館の周辺は混沌としていた。
署内の人員を全部引っ張ってきたんじゃないか、と思えるほどの警察官やパトカーが博物館の前に集結していた。
「ど、どうしたんだ?」
ペップは困惑して周りをキョロキョロと見渡す。その中で警官から聴取を受けている顔馴染みの守衛に話しかけた。ペップに気がついた守衛は自分の知っている限りのことを話してくれた。
「「「パズルが盗まれたぁ!!!???」」」
この騒動はどうやらエジプト展の物品の盗難で起こったことらしい。だが同時にこの警官の数に3人は納得した。
国の重要文化財が盗まれたのだ。しかも他国の。かなりの大問題だ。
しかし不思議なのは、博物館の営業中に盗まれたのだと言う。これに関して全くおかしな事だ。あれだけ混雑していた展示場で日中盗むなんて不可能に近い。いや、絶対無理だ。困惑しているのは3人だけではなく、警察も同様だった。
ペップは脱力した。あれだけ自分が魅かれた物が盗まれたのだ。絵に描いたような落ち込み具合を見せていた。
「元気出してよペップ。すぐに見つかるさ。」
ハリーは慰めるものの、これが焼け石に水な事は重々承知していた。この日の学校で散々熱く語っていたペップが脳裏に残っていたから。ペップの好きなものに対する執着は皆が知るところである。
この騒ぎで博物館は閉鎖されており、ペップたちはトンボ帰りすることになった。しかしその前にペップはイシズを探し回った。自分以上に彼女が傷付いてしまっているのではないかと思ってのことだ。
数分走ったところでイシズを見つけた。
「イシズさん!!」
「・・ペップくん?」
2人は10分かそこら話し、その様子をハリーとダドリーは見つめていた。2人にはイシズと話すペップの様子に目を丸くする。ペップは少し照れながらしどろもどろしながら彼女を励ましていた様子に。
「おい、ハリー。ペップのあんな感じ見たことあるか?」
「ううん。ないよ・・。」
2人の中ではペップは年相応に好きな事にはしゃぐ同級生ではあったが、男気があって堂々とした態度のリーダータイプだ。ああいう風な感じはイメージはない。
「からかうネタができたな。仕返ししてやる。」
「絶対しばかれるよ?」
イシズはペップの手を取り、優しく微笑んだ。
「ありがとう。優しいのね。」
「そ、そんな事ないよ!」
ハリーにも同じことを言われたが、イシズに言われるとなんだか全身がむずかゆい。
「ただ、私はそれほど心配してはいないの。」
「え?」
「一つだけ言えることは、あのパズルは選ばれし者の前だけに現れる。覚えておいてね。」
「そ、それってどういう意味・・・?」
イシズはそれ以上は何も語らず、博物館の中に戻っていった。
そしてペップたちは帰宅するのであった。
ペップはイシズの言葉を何度も頭の中でリピートして家の玄関まで到着した。すると母親が玄関まで出迎えにきてくれた。
「残念だったわね。あんな事件が起きて。」
「うん・・。」
「暗い気分の時に悪いけど、あんた。なんか忘れてることないかい?」
「え?」とそれが何かわからないペップだったが、母の口にした「テ」の一文字でそれが何か察した。
先週のテスト用紙だった。成績に大きく反映されるテストは全て母親に提出するゲイム家のシステムを即座に思い出した。マズイ、とペップは冷や汗をかく。
テストの点数なんてエジプト展のことで頭がいっぱいで5枚中2枚二桁があればいい方のクソみたいな点数だ。一歩後ずさったが、出さないは出さないで悪魔の制裁だ。その選択肢は流石にない。
「あ~~~、引き出しに入れっぱなしだったわ~~。取りに行ってきますよっと!!」
少し震え声で二階の自室に上がっていくペップを見て、母はハァ、と溜息を吐く。どうせ悪い点なのだろうというのは当たりはつけていたからだ。そもそもいい点を取れば、真っ先にドヤ顔で見せてきて小遣いの交渉してくるのが常だから。
自室に入ったペップは一旦間を置こう!タイムアウト取ろうと、椅子に座った。
「・・・来月小遣いないかも。絶望だぁ~~。」
そう言いながらテストの入ったデスクのテーブル裏の引き出しを開ける。
右上に3と書かれた用紙に辟易しながら乱雑に5枚同時に引き抜く。・・・しかし上に物が乗っているのか、引っ張り出せない。この物なかなか重量あるなと思うが、そんなもの入れたっけ?と思い返す。引き出しを全開に開けるかと、気が進まない自身の腕を無理くり引き抜く。
すると、決して家にないはずだが、めちゃくちゃ見覚えのある物が引き出しに入っていた。
ペップはそっと引き出しを元に収める。
「いやいや・・・・。なわけない。疲れてんな。」
眉間を揉みほぐし、もう一度引き出しを開けてみる。
中に入っていたのは、光り輝く純金のパズルであった。
「・・・・。」
「なんで?」
少年の魔法界を揺るがす事件の始まりだった。
オリジナル多め。勢いで全部書いたんで肩痛い。
ジョゼップ・ゲイム Josep Game
イングランド人
マグル
151cm
左利き
ドリブラー
遊戯要素を名前に入れたかったので、ゲームを安直にぶち込んだ。今後サッカーすることはあまりないが、代わりにクディッチで活躍する予定。
割と友達にはカッコつけがち。
割とハンサムで英国人っぽい顔。
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2
二階の自室でペップが1人パズルに没頭していることで、ゲイム家では土曜の夜にヒストリー番組が始まるとリビングのソファーを中心に騒がしくなるのが恒例なのだが、ここ数週間全く音沙汰がなく落ち着いたサタデーナイトが続いた。
隣家の主人が心配で尋ねてくるほどの違和感にペップの両親は頭を悩ましていた。
「いつもは呆れるほどに喧しいのに・・急にどうしたのかしら?学校から帰ってもずっと部屋に篭ってるのよ・・。」
「僕としてはフットボール中継を大画面で観れるのは嬉しいけどね。」
「ちょっと!!真剣に考えてよ!!あなたは心配じゃ無いの!?」
「まぁまぁ落ち着けよ。あの子も思春期に入ってるんだ。色んなことに興味を持つこともあるだろ?」
ペップがいつも占領するソファーの左端に持たれかかって父は母を宥める。
「小さい頃はあれだけフットボールに夢中だったけど、これだろ?」
父はリビングに所狭しと置いてあるペップのコレクションを指差した。
「あの子は興味があることに凄く素直なんだ。その時その時好きなことをさせてあげよう。」
昔フーリガンに参加していたとは思えないほどに温和な口調で様子を見ようと父は促した。
父の言葉に口を少しとんがらせながらも渋々納得した母。彼女はなんだかんだでペップに対し少し過保護なところがあるから日頃口うるさくなるのだろう。
引き出しからパズルが出てきてから、俺は気がついた時には一心不乱にパズルを組み立てていた。といっても摩訶不思議な形状すぎて全くピースがハマらないけど、それでも手が止まることがなかった。
パズルを見つけた時は「なんであるの?」とか「俺が窃盗犯扱いされるんじゃ・・」とか頭に浮かんできたが、一瞬で沈んでいった。
博物館で言われたイシズさんの言葉・・
『パズルは選ばれし者の前だけに現れる。』
つまり俺は選ばれし者だってことなのか?本当にそうか分からないけど、それが俺に火をつけたのは確かだ。
不思議なこと、自分の想像を超える何かこそ俺が求め続けたことだったからだ。
・・・・そして俺はそのことしか頭が無いかのように他のことに興味を失ってしまった。
この二週間他人と何か喋った記憶が無いほどだ。
それはそうと、ハリーとダドリー一家が夜逃げをしたらしい。別に借金とかしてもいないらしく不思議ではあったけど、その不思議は俺の興味を引くことはない。
あの2人はそこそこ話す間だったし、ダドリーに関してはフットボールのことで意識していたところもある。
・・でも正直どうでもいいとさえ感じている。自分でも少し驚くほどドライだ、とも。
パズルは半分ほどしか未だできていないが、飽きは一切感じない。なんでだろうか?・・表現は難しいけど、なぜか誰かと話しているかのように感じるからだと思う。その不思議な感覚がますます俺を惹きつける理由なのかもしれない。
とうとう学校まで休むようになってしまった。でもそんなことは問題でさえ思わなくなった。
流石に母さんが部屋に入ってきて怒鳴ってきたので、俺は逃げるようにパズルを持って外へ飛び出した。
◆
魔法界では今年にかの有名なハリー・ポッターがホグワーツに入学すると大きな話題となっていた。
ハリー・ジェイムズ・ポッターと言えば、魔法界を暗黒のドン底まで堕としこんだ例のあの人を倒したことで知らぬ者はいない伝説的でさえある少年だ。彼のおかげでそれまで続いた闇の時代が過ぎ去り、人々に彼が英雄視するのは必然であった。
それほどまでに例のあの人、ヴォルデモートが畏怖されていた存在であったかがわかるというもの。
そしてヴォルデモートの影響力は未だ健在で、ハリーが赤ん坊の時に死亡したのでかれこれ11年が過ぎようとしているが裏では未だに彼の忠臣が息を潜めていると聞く。
そしてその中の1人、バーテミウス・クラウチ・ジュニアはマグルの世界に身を隠しなんとか生き延びていた。
魔法界の名家聖28一族「クラウチ」の出身であり、ヴォルデモートに忠誠を誓った彼は闇祓いのリストの最上位に挙がるであろう人物だ。
舌を蛇のように過敏に動かす癖を持つ彼の身なりは浮浪者そのもので、重たく沈んだ瞳はその姿から違和感を感じさせなかった。しかし彼も意味もなく流浪の生活をしているわけではない。彼には目的があった。
それは主の完全なる復活。
そのためにひたすらある物を探すため足を動かす。それが彼の仕事だ。ただクィレルとは違い主とは遠く、なおかつ真偽も不確かなこの仕事に大きなイラつきを感じていた。
彼の仕事は遥か昔、魔法使いという概念すらなかった古代に存在した秘宝を探し出すこと。
その秘宝は願いを叶える、と眉唾なものではあったが、そんなものにも縋らなくてはならないほどあの人の復活は困難であったからだ。分霊箱に魂を分けているからこそ完全に死ぬことはないが・・。
あらゆる可能性を探るために何人かがそれぞれの担当をしており、クラウチJrがこれの担当になった。
彼はあらゆる手を使い、かつてはエジプトまで赴きその存在の調査を行なったが箸にも棒にもかからず半ば途方に暮れていたが、ふと母国にて興味深い催しが行われると聞き及んだ。
すかさず目当ての大英博物館へ足を運んだが、その物品が紛失した後だった。
しかしその事件の詳細を関係者から聞き出すと、彼はその紛失した品こそが自分が求めていた物であることを確信した。
その品の説明文の文言が願いが叶うということではないか。今まで数年に渡って箸にも棒にもかからなかったことを思えば確信するまでにこの文言を盲信するのも無理はないかもしれない。
彼は徹底的に探った。
するとサリー州のある街にあの博物館によく出入りしていた少年が人が変わったかのように何かに夢中になっていたという情報が入る。博物館の守衛の口からふと零れ出た一言だった。
闇の魔術の類には人の心を支配する性質がある。普通なら日常レベルの微々たる変化だがクラウチJrは見逃さなかった。
闇眩ましを用いて直ちにリトル・ウィンジングへと足を踏み入れた。
そしてそこから大した時間は経過していない。都合よくペップが公園でパズルを弄っていたからだ。
彼の舌はゆっくりと下唇を舐める。
◆
ペップは体力が限界を超えない限り、空腹だろうと寝不足だろうとパズルを触ることをやめない状態が続いている。母からの視線から逃れるため公園の物陰でこっそりとしていた彼はここ数日そういう状態だ。
未だ未完成ながら半分以上を組み立て順調に進んでいたが、どうも今日は落ち着かないでいた。口で形容することは彼ではできない何かを彼は感じていたからだ。彼は自身に近づく正面からくる足音に目を向け、見窄らしい男を視界に捉える。
(なんだ?このおっさん?)
明らかに不審者・・・クラウチJrの姿にペップは自然と警戒すると同時に手に持つパズルを自分の背中に隠した。
パズルを隠されたクラウチJrは眉を顰め、高ぶる興奮を抑えながらペップに問いかけた。
「小僧、今手に持っている物を見せてみろ。少し見せるだけでいい。」
「・・・・」
ペップは答えない。おそらくこの男がこのパズルがどういう物か知っていることをその猟奇的な眼光から図りとったからだろう。本来ここにあるはずもない物を持っているのだ。隠す行為は自然から出た行動だった。
クラウチJrは数秒ペップの言葉を待ったが、返答がないことに手を震わせ言葉では表さなくともイラつきが体に表れる。
「もう一度、・・・いいか?もう一度言う。そのパズルを俺に見せろ!」
今にも鬱憤が爆発しそうな男に子供のペップは流石に怯んだ。しかし今や自分の欲求の大部分を占めるこのパズルを手放すわけもなく、明らかな拒絶の意思をクラウチJrに向けた。
そのペップの態度に抑えていたクラウチJrは右手で腰に差した杖を掴み、ペップへ差しむけた。
「ガキが、大人しく従えばいいものを!!・・クルーシオ!!」
「ぅあ”あ”あ”ぁ”ぃあ”あ”!!!!!????」
魔法界の人間であれば、聞くだけで血が引き慄くであろうその魔法をクラウチJrは躊躇もなく言い放った。
ペップは彼の意思に関係なく全身を駆け巡るあまりの激痛に捩れのたうち回る。
男は口角を歪に持ち上げた。この呪文は彼が最も好んできた磔の呪文だ。使えばそれだけでアズカバンに収監される許されざる呪文の一つ。
30秒ほどが経過したところでクラウチJrは呪文を一時的に休止させる。
「・・・それを大人しく手放す気にはなった、か?いや答えることもできるわけもない。大人でさえ発狂する呪文だ。」
クラウチJrは地に伏せたペップを仰向けに転がし腹の前に握りしめるパズルに手をかける。
しかしその握る手が離れることがない。グググ、とクラウチJrが引っ張れば、ペップの体ごと付いてくるほどペップはパズルを握りこんでいた。
「・・ぐ・・っ。な、んだ・・お前ぇ。」
「バ、バカな・・!?この呪文を受けてまともに意識があるだとっ・・!!??」
大人であろうと発狂するこの呪文を受けてもなお、意識を保つペップにクラウチJrに戦慄した。
そしてゾクリと悪寒を感じたクラウチJrの視線は自然と目的のパズルに移る。高度の魔法使いである彼だからこそ微弱なソレを感じ取ったからだ。
「なんだ・・・これから発する魔力と邪の鳴動は・・・。」
杖しかり魔具には魔力や意思のような何かが内包していることがある。ならば幻の秘宝とされるパズル・・・千年パズルならば一体どれほどの力があるだろうか。
(驚くべきは・・・この魔力の流れ。この小僧に秘宝の魔力がなだれ込んでいる!磔の呪文がイマイチ効果が薄かったのは、秘宝の魔力が小僧を守っていると言うことだったか!?)
前述の通り、魔具には意思がある。術者が杖を選ぶのではなく、杖が術者を選ぶという認識は魔法界にとって聞き馴染みのないことではない。グリフィンドールの剣などはその最たる例であろう。
未完成でありながらパズルから発する魔力はペップの体を覆うように纏わせている。つまりこの時点でクラウチJrの脳裏にはペップこそがパズルに選ばれし者であると過ぎっていた。
だが、選ばれた者が別にいるとしても他の者が扱えないという訳でもない。術者がそれらを屈服させてしまえば所有権は移ることもあるからだ。
そういった意味では彼の「主人」は最も支配的な人物だ。
そしてこの状況にクラウチJrは確信した。
俄かに信じ難かったこの秘宝が齎す力が本物であることを。
「・・・物が自らの意思で主人を守るなど多少の驚きだが、果たしてどれほどの防御力があると言うのか。」
唇を舐めながら猟奇的な眼差しをペップに向け、クラウチJrは最悪の呪文を唱える。
「アバダ・ケダ・・!!」
数ある呪文の中でも唯一直接的に死を与えるものを男はペップの眉間に目掛けて杖を振り下ろした。
だが、杖の切っ先はペップに向くことはなく、なぜか杖は彼の右側に設置された公園の遊具の手前に突き刺さった。
勿論彼自身がそうしたのではない。クラウチJrは殺人の快楽と目的の達成感の二つを邪魔されたことに憤怒の顔を表しているのだから。
クラウチJrの背後には1人の女性が純白の杖を彼に差し向けていた。
「離れなさい。・・然もなくば次は延髄に叩き込みます。」
凛とした声色にクラウチJrはこの女が自分側の人間ではないことを感じ取る。
「・・ハッ!・・・俺はお前をどこの誰だか知らないが、お前は俺のことを知らない訳ではあるまい。この俺を相手にすることは深い闇を相手取ることになるぞ!」
「私にとってあなた方の闇さえ淡さを感じます。退きなさい。そのパズルはあなた程度で御しできる代物ではありません。」
自分を死喰い人と知りつつも、言葉に淀みもなく撤退を促す彼女に杖を手放したクラウチJrは流石に分が悪いと両手を上へ掲げた。
「お行きなさい。本来私はあなた方死喰い人・・いえ魔法界の人間に手出しする気はありません。」
「・・・一つ聞きたい。お前はパズル・・いや、七つの千年アイテムを守る墓守の一族だな?」
クラウチJrは後ろの彼女を一瞥もせずに彼女の正体を言い当てる。
「何度もエジプトへ足を運んだ貴方には答える必要がないようですが。」
「・・・今になって疑問に感じたことがある。この数年、七つもあるそのアイテムを俺は探し続け、何人もの政府の要人に尋問を繰り返してもそれの所在にはありつけなかった。だが、なぜ今になって博物館に展示するなどその存在を表舞台にさらけ出したのだ!?」
「答える義務はありません。」
「この魔具は自らの意思を持ち、明らかに使用者を選別する類の物だ。そう簡単に適合者が現れるなどない。・・・だとすればあまりにタイミングが良すぎる。」
クラウチJrはこれまでの過程を頭で整理していく程、今の状況が作為的な筋書きに思え始めた。
「初めからこの・・マグルのガキにこのパズルを渡すかのように。」
「・・・。」
「まぁ・・・今回は退くとしよう。これ以上深堀していけば殺されかねん。だが、一つ忠告しておこう。俺たちは蛇がごとく執念深い・・・・精々そのガキを匿う様励むがいい。」
どこへ逃げようとパズルを手に入れてやると言い残し、死喰い人クラウチJrは闇晦ましでこの場所から去っていった。
女は一息を吹き、意識が未だに朦朧としていたペップを跪いて顔を覗き込んだ。すると杖を一振りして彼の肩をポンと叩く。
「・・・っあ!?さ、さっきの奴は!?」
ガバッと起き上がったペップは先ほどの苦しみが嘘の様に忙しなく周りを見渡す。
「去りました。・・・また、会いましたね。少年。」
「あんたは、イシズさん・・。なんでここに・・・ていうかさっきまでのはなんだったんだ?」
ペップの問いにイシズはゆるりと立ち上がり、杖をクラウチJrが置いていった杖に向けて「コンフリンゴ」と呟く。
すると地に落ちている杖が突如爆破され、地面ごと跡形も無くなってしまった。
「へっ!?」
これにペップは最近では失っていた表情を大いに歪ませ驚愕した。何が起こっているのか分からない、そんな風に大口を開けている。
「これは魔法です。・・・そして先ほどの男と私は魔法使いに該当します。急にこんな突飛な話をされても困るでしょうが・・」
「貴方は千年パズルに選ばれし者。そして3000年前の古代エジプトの王の生まれ変わりなのです。」
魔法の衝撃にイシズの言葉も頭に入ってこないペップ。これまでマグルとして育ってきた彼にとってこの非常識な光景を理解することは土台無理な話である。
しかし千年パズルを手にした時点から彼の生きる道が180度一変することはすでに決定事項だった。
これから彼を待ち受けるのは、魔法界を揺るがす闇と何千年にも渡る戦いなのだから。
「しかし貴方にはまだその器たるには力はありません。今はその身を隠し、来たる時まで力をつけるのです。」
「貴方にはホグワーツ魔法魔術学校へ入学してもらいます。」
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3
7つの千年アイテムを揃えし者は封印されし強大な闇の力を手に入る。墓守の一族の古から伝承される伝説であった。
千年パズル始め、他のアイテムが持つ力を考えれば信憑性は確かに高い言い伝えだ。
墓守の一族の生き残りの女、イシズが持つ千年タウクが持つ力は未来視。その未来を見通す力でペップがパズルを手にすることはまだパズルが王の墓に安置されている時からわかっていたことであった。
しかし本来ペップがパズルを手にする時期は今からおおよそ10年後。彼が探検家となり、王の墓を通過することでパズルを手にすることが正しい歴史だったはずなのだ。
イシズはタウクで見たその未来を良しとしなかった。なぜならその未来の先ではパズルを手に入れたペップは殺され、闇の門が開き「奴」が力を手に入れてしまうからだ。
千年タウクを持つイシズはもちろん、千年アイテムを持つ者はタウクが導き出す未来を改変することができる。歴史の分岐点を創り出すことができる者なのだ。
そこでイシズはパズルを強引に持ち出し、現時点でのペップとパズルを引き合わせた。引き出しに忍ばせたのは当然彼女の仕業だ。
パズルを狙うクラウチJrたち、そして「やつ」らに現時点のペップの存在を明るみにさせるのは賭けではあったが、今の彼は実にタイミングのいい年齢でタウクの見せる未来は彼女の思惑通りの筋書きを描いた。
それがペップのホグワーツ入学である。
千年アイテムに選ばれし者は先天的に魔力を内在しており、ペップもマグルとはいえその才は確かにあった。その才が本来開花するのはパズルを手にいれる10年後なのだが、パズルを手にしたことでパズルが未完成でも今の彼も魔力を僅かながらも芽吹く結果となった。となれば、彼をホグワーツに入学させる土台は為したことになる。今後命を狙われるであろう彼を隠すにはあの学校は実に都合の良い場所だ。校長のダンブルドアはイギリス魔法界だけではなく、世界的な魔法使いであり、ホグワーツの防御力は魔法界屈指と認知されている。特に来年度からハリー・ポッターのおかげでより警戒網を強めるであろう。
現時点のイシズの未来視はホグワーツにペップを入学させたことでその少年の生存はとりあえず無事である。しかし前述同様千年アイテムの存在は未来を変えることができる。結局のところ彼女が見る未来とは仮定の話である。それでも彼女は明るい未来のため女の身でありながら愚直に前に進んだのであった。
◆
イシズから粗方の説明をされたペップは「漏れ鍋」というパブを目指しロンドンに向かった。
絶賛困惑中・・・・かと思いきや全然そんなことは欠片もなかったペップ。話の唐突さにキャパはとうに超えていたが、それをはるかに超える壮大さにワックワクのドッキドキしていた。
「魔法・・・マァジで!あるのか!!」
軽く周りに引かれながらペップはロンドン市内パディントン駅をスキップで横切る。
パディントン駅は有名なハイドパークのすぐ北にあり、ホテルなどあるためカバンを背負った観光客が目立つ。そして立ち並ぶ店はアラブ系の店も多く、特有の混雑さで賑わっていた。
そんな中、違和感もなく溶け込んでいたイシズが待ち合わせの漏れ鍋前でキョロキョロしていたペップに声をかけた。
「ジョゼップ、こちらです。」
「あ!イシズさん!こんちわー!!」
無意味にテンションの高いペップの挨拶に少し微笑むイシズは漏れ鍋の扉を開き中へ入るよう促した。
漏れ鍋の中は外と同様に人が所狭しと混雑していて盛況である。ペップは初めて入るパブに新鮮さを感じたものの、魔法の道具を買いに来たという期待感があったのでただのパブに案内されたことに不満も感じた。
「イシズさん・・なんでこんなとこに「あなた方ですね、校長からかねてより話は聞いております。」・・・。」
ペップの言葉を遮ったのは、高齢ながらもハキハキとした貴婦人であった。
「貴方が副校長のマクゴナガルさんですね。初めましてイシズと申します。この少年がジョゼップ・ゲイム。例の秘宝に選ばれし少年です。」
「・・・なるほど、入学前というのに潜在的な魔力を感じさせますわ。」
副校長なる貴婦人はその目力の強い瞳でペップを覗き込む。
(ポッターが入学する年にまたこのような少年が来るとは今年はどのようになるやら・・)
ペップから発する、いやパズルから溢れる魔力にマクゴナガルは控える新学期に憂いを帯びた心境だ。
「副校長・・ってなると、あんたも魔法使い!?」
「当然です。・・しかしゲイム、貴方は目上に対する言葉遣いが少々なっていませんね。私の寮に入れば少し矯正をいたしましょう。」
「うぇ・・(こういうタイプの人か)。」
模範的な教育者の副校長に既に苦手意識が芽生えたペップだった。
マクゴナガルとの話はそこそこに2人はパブの裏へと入り込んだ。ペップが不思議に思っているとイシズは純白の杖を取り出し壁へと一振りした。すると壁が裂けたと思えば何もなかったはずの店の向こう側に別の世界が現れた。
商店街のような店が立ち並び、ロンドンの住人たちとは違う風貌をした通行人たちを見てペップはこの壁の先が魔法の世界なんだと直感した。
「まず制服を買いに行きましょうか。採寸だけ先にして仕立てが終わる頃までに他のものを揃えましょう。」
イシズの言うことに頷いてペップは彼女の後ろについていく。
全てに目移りしてなかなか歩を進めないペップであったが、イシズは催促することはせず一緒に立ち止まってあげていたあたり彼女はペップに優しかった。その表情はどこか弟を思うような暖かいものだった。
道具はフクロウをはじめ一通り買い揃え、残るはいよいよ杖の番になった。
魔法使いといえば杖という印象は皆抱いている通り、ペップも同様だ。剣のように自分だけの武器を手にいれる様でオリバンダーが奥から杖を選んでくるのを今か今かと待ちわびる。
するとその時1人の少女が店へと入ってきた。
ソバージュがかった髪だが端正な顔をしている少女はカッカッと規則正しい足音を鳴らしながら受付の前に立った。
「あら?いないのかしら?」
「オリバンダーさんなら今俺の杖を探してくれてるよ。」
「そうなのね。貴方も新入生?」
「そうだよ。学校楽しみだな!」
「そうね。・・ただ私はこの世界のことよく知らないから今は不安の方が大きいかしら。」
「一緒だよ!俺もこの世界の出身じゃないからさ!」
「じゃあ貴方も完全なマグル?よかった。こんな早く他の子が見つかるなんて!少し心細かったの。」
「じゃあこの世界で初めての友達になれそうだ。よろしく!俺はジョゼップ。ペップと呼んでくれ。」
「私はハーマイオニー・グレンジャー。呼び方は好きにしてもらっていいわ。」
「じゃあ・・・レンジャーでいい?探検家みたいでカッコイイ響きだし!」
「・・・・それはお断りしとくわ。」
早くも友達を獲得したペップ。そうこうしてるうちにオリバンダーが杖を持ってきた。
「これが俺の杖か〜!!」
「お待ちなさい。気が早いですよ君。それは候補の一つ、手に持って相性を見てみなさい。」
オリバンダーにその主人なり得るか試すように促される。
しかしペップは杖を一振りするも、何の反応も起きなかった。あれ?と首をかしげるも何度振っても無反応だったので、相性最悪なのかとオリバンダーは別の杖と交換するがそれも一切反応がない。
「おかしいな・・・。相性が悪いとはいえ何かしらの反応はするはずだが。」
ガーン、と周りの人間が聞こえるぐらいに肩落とすペップに、イシズがオリバンダーに少しペップの杖の選択に注文をつけた。
「古く格式の高い杖はありますか?彼にはそういった系統が合うかもしれません。」
彼女の言葉に疑問符を店主は抱いた。この活発でいかにもヤンチャ小僧のような少年に格式高い杖?と感じずに思えなかったからだ。しかし要望を出されれば用意するのが仕事だ。思いつく限りの条件に該当する杖を思い起こす。
店主の脳裏にその条件にピタリと当てはまる物が浮かぶが、イヤイヤと首を振る。その杖は聖28一族のような純潔でも更に高潔な者にしか靡かない一品だ。だが、オリバンダーの一流の直感がこの杖がどこかペップにしっくりくるんじゃないかと感じさせた。
物は試しとその杖をペップに差し出す。そしてペップはオリバンダー同様に直感でこの杖が自分のものだと確信した。
頭上に杖を構えた何かを感じさせるペップの姿に皆が一様に納得したような顔を浮かべる。
「その杖はまだホグワーツが創立する前から現存する古き品です。私の記憶の中でもそれを扱っていた者はございませんでした。君は一体・・・何者なのでしょう?」
「・・いえ、彼はこれから何者かになるのです。」
イシズが意味深な言葉を発する傍で、ペップはブンブンと嬉しそうに杖を振り回した。
「ねぇ、何かやってみてよ!」
「イイぜ!・・・ならこの前イシズさんが唱えてた奴でもやってみるか!」
ハーマイオニーの催促に意気揚々とペップは答えると、以前イシズが公園で唱えた呪文をテーブルの上の物を標的に試してみる。
「コンフリンゴ!!」
「待ちなさい!そんな呪文を・・・」
元気よく唱えた呪文は爆発を起こす強力なものだ。そんなもの店内で唱えるなど魔法を知っている者からしたら正気ではない。オリバンダーは思わず絶叫したが・・・・
「あら?」
これまた何も反応が起きないのか?と周囲に思わせた瞬間、対象物ではなくペップ自らが・・・・爆発した。
「どぅっあっちぃいい!!!!???」
着ていた服が焼き飛ぶほどの炎にペップは悶絶する。そもそも魔法経験の無さもあって大した出力が出ていなかったため、辛うじて火傷を負うまでではなかったものの・・・
「・・才能はあまり、ないようね。」
ハーマイオニーの辛辣なコメントがペップの背中に突き刺さったのであった。
買い物を終わり帰路を辿っているペップはイシズについて行きながらショックを受けていた。
「・・・才能ないのかな〜?」
「あの呪文は入学前の子供ができるものではありません。肩を落とさないでイイですよ。」
「じゃあ、才能ある!?」
「それはわかりません。」
「ええ〜〜・・・。」
ワクワクしてた分、落胆もひとしきり。子供の思考通り、自分の思い描いてことと違ったことにブーたれている。
しかしイシズにとってはペップが既存の魔法界の呪文が出来る出来ないはさして重要ではない。ペップに求める力は別にある。
「貴方はカードの力を使いこなさなければならないのですから・・・」
「え?」
イシズの足取りはダイアゴン横丁から逸れていく。
それにつれて人の身なりは怪しく、徘徊する不審な者が増えていく。昼にも関わらず影が差すこの通りの異様な雰囲気にペップは明らかに動揺を露わにしているが、イシズは迷いなく最奥の店へ手を掛けた。
一見店ではなく廃屋寸前の土埃を被ったアパートメントに見えるが、確かにドアの横には慎ましく「shop」の表札が掛けられている。
「何の店?」
二人が店の中に入るも商品は一つも陳列されてはおらずただただ薄暗い一室であった。しかも人気もないと来たものだ。いよいよ身の危険を感じ始めたペップはイシズの手を取り帰るよう促すが、誰もいないと思っていたカウンターの向こうから萎んだ様な声が耳に入ってきた。
「ヒッヒッヒッヒィ・・・ようやくこの時が来たのネェ〜。」
「マダム・マリアーム。彼がかの王の現し身です。今日は彼が使うカードを頂きに参りました。」
「言わなくともカードなら用意してあるとも。ヒッヒ!年老いたアタシでは一年掛けてもたった30枚ほどしか作れなかったけどネェ。」
「十分ですマダム。未熟な彼ではそう使い切れる数ではありません。」
この大きく背中が丸くなった老婆が出してきたのは丁度手に収まるほどのカードの束。このカードが先程イシズが言っていた物だというのはペップも理解したが、不可思議なのはそのカードは裏にこそ模様が描かれているが肝心の表は白紙であった。
「こんなの何に使うの?魔法のアイテム?」
「千年アイテム同士が戦う上で重要なものです。魔法使いの杖と同じでコレを媒体に魔力を具現化することができるのです。」
「?」
「7つのアイテムが共通して持つ力は召喚術です。エジプトの何処かに安置された魔物の魂を召喚し戦わせることができるのです。」
「そ、そんなことができんのか!??」
「それだけではないわい。このカードには魔法も込めることができるんじゃ!例えば規模が大ききく複雑で周到な準備が要する魔法も事前にこのカードに込めておれば、いざという時瞬間的に発動することができる!」
「このカードを扱える様になれば、ただの魔法使いに負けることはあり得ません。」
「・・・・」
元々魔法に関する知識のないペップにそれがどんな効力があって、どれほど凄い事なのか分かるわけもなく、口を半開きにしてただ頷いている。そんな顔を見てイシズはカードを手に取り試しに一度見本を見せる。
「出でよ、ゾルガ!」
イシズが魔物の名を口すると同時に、彼女が持つ千年タウクとカードが光を帯び出す。
一瞬ビクついたもののペップがその光るカードを覗き込むと、見たことのない魔物の絵が映し出され光がカードから飛び出てきたのだ。
「う、うわ・・。」
その光はまさにカードに描かれた魔物の姿に変貌した。
頭部から肩まである異様な形状の鎧、そこから覗くのは赤い一つ目。鎧の下にはローブがはためいている。
宙に浮くそれは魔法を見たことがあるペップから見ても異質な存在感だった。
「この様に召喚し、僕として戦わせます。」
「スッゲェ・・!!こんなことが俺もできる様になるのか!?」
「そのためにはまず千年パズルを完成せねばなりません。」
◆
ガタンゴトンと昔ながらのSL汽車にペップは揺られながらホグワーツに向かっている。もちろん魔法族の知り合いなんていないので車内の一室で1人で寛いでいた。
ここまで来るのに紆余曲折あって、久々にリラックスできる時間を得たペップは窓の木漏れ日にウトウトと気持ち良さげだ。
まずマグル出身者にとって入学まで何が大変かと言うと、魔法界への認識がまるでないことだ。それはそうだろう。魔法界からすればマグルの世界は隣接した世界とされているが、逆は存在自体知らないのだ。首相などを除けばだが。
ペップがいきなり魔法使いになると言い出しても頭がおかしくなったとしか思われないだろう。実際そうだった。ペップ、そしてイシズが共に両親へその話をしに行った時は割と話を聞いてくれる父でさえ疑いの目を向けてきたのだ。
勿論魔法の存在、魔法界のことを目の前で証明して見せたものの、両親はイシズのことを服装もあってかヤバイ宗教宣教者としか見れなかった。ただ、真摯に受け答えするイシズに対し両親も徐々に話を受け止めていくのだったが、ホグワーツが全寮制だと聞き猛反発してきたのが母親だった。やはり一人息子をよく分からない自分の目が届かないところに送り出すのにかなり抵抗があるのだろう。ゴネにゴネた。
結局はペップ自身の説得により母親が折れる形になったが、それはもう5時間を超える話し合いだった。それからはやれ準備はできているのか、やれどういう学風なのか、やれいつ帰ってくるのか、列車に乗るまであーだこーだ口出しされてきたことで若干ノイローゼ気味だ。
「でもまぁ、今までのダチに会えなくなったのはちょっと寂しいな・・・。」
窓枠に肩肘を置き少しセンチな気分にもなったが、自分の置かれた立場を考えるとあまり悠長にもしてられないとも考えていた。
イシズから聞いているのはパズルの所有者となったことで自分の命が狙われているということ。
公園で会ったあの男のような輩がやってくると思うとゾッとするが、なんとか魔法をマスターしていき返り討ちしてやるという気概が彼のうちに上がってきていた。
そしてイマイチまだ理解が及んでいないカードの存在と、依然としてこねくり回すものの全く先へと進まないでいたので今だに未完成のままのパズルだ。
イシズが言うには力が本当に必要になった時使うことができるらしい。
モヤモヤして少し中途半端な心持ちのまま出発した旅路を進むペップ。試練の一年の始まりを迎えたのである。
いつになったらパズルは完成するのか。
あとこのキャラクター誰だよ、とか思ったりしてるかな?クロスオーバーだしどちらか原作知らないとかもあるかもだし、キャラ説明とかした方がいいのかな?あとがきで。
独り言だけど、2話時点でお気に入り4は辛い。ツラミ。かなり。
ヒロアカの方はわりかしもっと増えてたんだけどなぁ〜。
4人の方、マジでありがとう!
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4
「お静かに!今から寮の組み分けをします。呼ばれた生徒は前の椅子に座るように。」
でかいおっさんの案内でホグワーツに着いた俺は上級生が集まるホールで同級生の中に埋もれている。前にパブで会ったばぁちゃん先生が寮の組み分けって言ってるけど、どういうこった?あの椅子に座ってなんかあんのかなぁ?変な帽子だけ置いてっけど。全寮制とは聞いてたけど、どういう風なんかはイシズさんも詳しくは知らないっぽいし。
「アボット・ハンナ!」
おっ!1人目の奴が呼ばれたな。Abbottだからスペル順か。なら俺は早い方だな!
「ハッフルパフ!!」
うわっ!!!?帽子が喋った!?マジで魔法なんでもありだな!ってかあいつが決めてんのかよ!
順々に新入生の入寮が決まりホール内が沸き立ってはいるが、教師上級生共に早く本命の番になってほしいかのように少し落ち着かない雰囲気の中ペップの番がやってきた。
「ゲイム・ジョゼップ!」
「えっ!!!???」
ペップの名を聞いて1人の声が響き渡る。この名前の時は静寂になっているので一際だ。
その声の主は皆の目当てとなっているハリーであった。
「ん?」とその声に後ろを振り向いたペップだったが、小柄なハリーは前の者に隠れて見えてはいなかった。
(な、なんでペップがホグワーツにいるんだ!?)
まさかの同郷との再会に目を剥くハリー。そして一方、教師陣に目を向ければ校長のダンブルドアがペップを品定めするかのように注視していた。
面白そうな顔をして組み分け帽子を手に取って眺めるペップを帽子自身が早くするよう促して、やっとこさペップは椅子に座り帽子を深々と被る。
すると帽子はううむ、と唸りだした。
「・・・魔法使いとして才能がある、という訳ではないが、底知れない何かを確かに持っておる。そしてその性格は様々だ。興味が尽きないその探究心は確かにレイブンクローに当てはまる。ハッフルパフの特徴の優しさ、グリフィンドールの勇猛さも兼ね備えておる。だが、スリザリンの狡猾さ・・・言い方を変えれば駆け引きの上手さも垣間見える。君はいずれ偉人になる素質がある。何の、とは言えないがね。」
「褒めてくれるのは嬉しいけどさ。早く言ってよ。もう待ちきれねぇよぉ!」
「逆に君はどこの寮に行きたいかね?」
「そんなパターンもありなん?・・・そうだな。じゃあどの寮が俺にとって面白い?」
自分にとって異世界をこれから体験していくのだ。例えどの寮になろうがペップは十二分に楽しんでいくだろう。その上でどこに入ればこの世界を1から100まで味わい尽くせるのか、そこが彼が求めているものである。
「ホッホ!ならば・・・・スリザリン!!!」
おおっ!?と異様な歓声が湧き上がる。
中でもそのスリザリン生が一番面食らった顔をしているのは、おそらくペップが名前からしてマグル出身であると思っていたからだ。スリザリンは純血主義が濃い寮なのでまず純粋なマグル出身者が入ることがない。
そして1人愕然としていたのはペップの友人ハリーである。
ロン・ウィーズリーから聞いていた話ではスリザリンは闇の魔法使いを多く輩出していることから印象は大分悪かった。そんなところに選ばれてしまったペップを何かの間違いだと言わんばかりに口を開いて惚けていた。
「へへ、スリザリンか!緑がイメージカラーはちょっと嫌だけど、なかなか個性的な奴らがいてそうだな!顔的に。」
ペップが揚々と席に座れど戸惑うかのように上級生も彼に声を掛けづらいようであった。
遠巻きな視線を受けながらも目の前のお菓子に手をつけ後の同輩の番を眺めていると、帽子に触れもせずスリザリンに選ばれた金髪オールバックの少年がこちらの席へ向かってきた。
「早いな〜お前!あれか!スリザリンの申し子か!?」
冗談そうにドラコ・マルフォイと呼ばれていた少年にペップは声を掛けたが、鼻で笑うかのようにドラコは見下した目をペップに向ける。
「悪いが、同寮とはいえ魔法族ではないだろう君と僕は馴れ合うつもりはない。格というものを知った方がいいよ。特にこの寮では、ね。」
「はあ?」
発した第一声がこれである。当然ペップはこの発言に憤慨するが、周辺のスリザリン生を見渡すにドラコと同一な視線を感じた。
(なるへそ、こういう感じね。)
11歳ながらもこのような差別的な感情はペップはある程度理解している。お国柄というべきか、イングランドは階級制が存在しているのでこういう風潮はこっちでもあるのかと少し感心すらしていた。
そんな態度を隠そうともしないドラコは続けざまに言葉を続ける。
「そして忌々しいことに今年はあのハリー・ポッターが入学してくる。両親は魔法使いだが、母親の方は元はマグルの出だ。なのに純血の僕らを差し置いて今や魔法界の英雄さ。冗談じゃない!」
「は?ハリー・ポッター??」
「知らないのかい?・・・無理もないか。あの有名なポッターもマグルの世界までは届いてないだろうからね。ほら、丁度よく奴の出番だ。」
ドラコに顎で視線を誘導されると目線の先にはよく見知った友人が上段の席に座っていた。
「は、ハリー?何でこんなとこに居んだよ?」
「じ、じゃあ元からハリーの入学は決まってたんか!?」
「ち、違うよ。僕も突然の話でびっくりしたんだ。でも僕の親は魔法使いだったらしいけど、ペップこそどうしてホグワーツに?両親は普通だったよね?」
「まぁ、説明するとなんか・・・説明しきれる自信ないんだけどな・・。」
ペップはハリーがグリフィンドールの席に着く前に摑まえ、久々の再会をした。
しかし今しがたスリザリンに選ばれたペップがグリフィンドール生の中にいるのがあまり良く思われていないのか、こちらでも嫌悪感のある視線を向けられてしまう。
(案の定嫌われてんな俺の寮・・。ああも高圧的だとなぁ〜〜。)
「ちょっと!私に対して挨拶はないのかしら?」
ハリーの後ろから彼と同じくグリフィンドールに選ばれたハーマイオニーが姿を見せる。実はペップのすぐ後に彼女が組み分けされていたのだったが、ペップは一切気づいてもいなかった。
「ハーマイオ・・・レンジャー!お前もグリフィンドールかよ!」
「あのね!それ全然まっったく面白くないからやめてくれる?・・それにしても貴方がスリザリン なんて驚いたわ。同じマグルだし、なんていうか・・気は良い人だと思っていたから。」
「何だよ?スリザリンだとそんな悪いのかよ?確かに雰囲気の良い寮ではなかったけど。」
「当たり前だよ!闇の魔法使いはみんなスリザリンの出身なんだから!ロクなもんじゃない!」
3人の会話の中に入ってきてスリザリンに対して辛辣な意見を言ってきたのは、赤毛の少年ロン・ウィーズリー。
スリザリンを毛嫌いする態度はありありでハリーとハーマイオニーをペップから引き離す。
「ロン!ペップは悪い人間じゃないよ!」
「どうだか!ぱっと見は良くても組み分け帽子は人の本当の姿を見抜くんだ!」
「じゃあ何だよ!俺が悪人になるって言いたいのかよ!」
「ああ!いずれアズカバンの世話になるだろうさ!」
「アズカバンって何だ!?」
ギャアギャアと騒ぎ立てるペップとロンに当然マクゴナガルの雷が落ち、この場がお開きになった後、各それぞれが自分たちの寮へと向かっていった。ペップはスリザリンの寮がある地下へ向かう。そしてホールでは数名の教師が残っており、座る校長の席の前で響かせない大きさで話し合っていた。
「・・・彼が例の女から言われていた少年ですかな?さして何も、我輩は感じませんでしたが?」
「注目するのは彼が持っているパズルの方です。遠目では分かりづらいですが、確かに異質な力を感じさせます。」
「ふっ・・しかし完全なマグル出身で我が寮へ入るとは・・・今後の彼の生活に同情しますな。」
「同情するなら気にかけておやりなさい。彼はホグワーツから出ることは死に近くなるのです。決して退校させるような事態にならぬように!」
黒髮のねっとりした雰囲気をしたスリザリンの寮監スネイプとマクゴナガル。
ペップが正式な入学者ではないことを校内では彼らだけが知っており、噂の少年がどうだったか談合していた。
「あまりセブルスにプレッシャーをかけるでない、ミネルバ。セブルスもゲイムに気を揉む余裕はないのじゃ。」
「どういうことです、それは?」
「・・校長。」
「あぁ、悪いのセブルス。とにかく様子見じゃのう。まだパズルは完成してはおらぬのじゃろう?ならば気にかけるのはハリー1人で十分じゃ。」
「しかしイシズの話ではクラウチJrがゲイムに既に接触しているのですよ?あの辺りの輩は何をしでかすか・・本来なら考えたくもないですが。」
「校内ならば問題はないでしょうな。巣を壊された蟻のように地べたを這う彼らに余力はあるとお思いか?・・・話はもう結構。無駄に警戒して労力を割かれては明日からの授業に支障がきたしますので、我輩はもう休ませてもらいます。」
スネイプはローブを翻してホールを出て行く。スリザリンの寮監ということでペップに関することを校長らから吹き込まれたが、彼にとってそれはどうでも良いことである。彼の目的は別にある。面倒事なら他でやってくれ、これが彼の本心であった。
「ミネルバ。イシズは千年アイテムの他に何か言ってはいなかったか?」
「ええ。彼女は奴らの他に別のアイテムを狙う者たちがいると言っていました。その名はグールズ。地中海周辺を主にした野盗集団らしいのですが、その首領が何でもアイテムを所持しているのだとか。」
「ほう・・・。それは厄介そうじゃの。」
「それともう一つ、アイテムを持つ者はそれに秘められし特殊技能の他に魔物を操る力を得る、だそうです。」
「魔物じゃと?」
「ええ、魔獣などとも違う古代エジプトより用いられる怪物です。」
◆
あまり幸先も良くなさそうなペップの学校生活が始まったが、意外にも不自由の無い日々をペップは過ごしていた。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じた物を加えると何になるか?」
「眠り薬!!」
「ベゾアール石を見つけて来いと言われたらどこを探すかね?」
「山羊の胃から!」
「・・・ほう。見事だゲイム。普段から教科書を読み込んでいるだけあるな。旺盛な姿勢を評してスリザリンに3点をあげよう。」
「よっしゃ!スネイプ先生おっとこ前!」
魔法薬学の授業では秀才のハーマイオニーを差し置いて答えを当てるなど今までのマグルの授業では考えられないほどに充実していたペップである。
「すごいよペップ!こんな勉強できるタイプだった!?」
「ヘッヘッヘ!まぁ楽しいからな!学校の勉強でも社会とかは好きだったし。」
「ああ〜・・・。でも凄いよ!ハーマイオニーなんていつも一番で誰も敵わない。」
「おかげでいっつもアイツに睨まれてるけどな。」
中庭でハリーと談笑するペップは後ろの廊下から睨みつけるハーマイオニーを指差す。プライドの高い彼女の癪に障ったようだ。もちろん悪意のあるものではないが。
「確かに!部分的ではあるけど・・・あなたの方が詳しいこともあるわ。でも勘違いしないように!総合では私の方が頭二つ上なんだから!!」
「だから俺は争ってるつもりないっての!大体成績とかどうでも良いし。」
「そうだね。成績気にしてたらマグル学で居眠りしないだろうし。」
「マグル学ったってもう知ってる事聞くだけだしなぁ。2人も一緒だけど。」
「・・それよりハリー、例のことだけど。」
「あ、あれの事?」
会話に加わったハーマイオニーが急に話を替えるとハリーの表情もどことなく引き締まり、話が重要なものか感じさせる。それを感じ取ったペップは何の話か問うも2人して言い淀んでしまう。
「・・・どうしよう。」
「あまり言いふらすのは良くないわ。それにこの事、彼に話したらどんな行動に移すかなんて目に見えてるわ。」
「ああ、授業なんてすっ飛ばしてあの部屋に突入するだろうね。」
ボソボソと会話する2人を不審がっていると、「おーい」とこちらを呼ぶロンが近寄ってきた。
「ハリー!ウッドが君を探してたぜ!クディッチの練習始めるってさ!」
「ええ!?今日は休みだって言ってたのに!」
「急にグラウンドが空いたんだってさ。クディッチ狂いのウッドがそれを見逃すわけないよ。」
「・・・。そんなわけだから、ペップ。それじゃ同じ授業の時までまたね。」
「お、おい?ハリー、さっきの話は〜!!」
「さっきの話って?」
「例の部屋に関する事よ。」
「は!?話したのかよコイツに!?」
「だから何の話なんだよ?」
「お前に話すことなんてない!ハーマイオニー行くぞ!」
「じゃ、じゃあねペップ。」
「お、おう。」
どうにもロンに目の敵にされていることに困惑するペップは一方的な嫌悪に反発する暇もなくハーマイオニーたちを見送った。
何でこんなにもロンがペップに対して当たりがキツイのかというと、スリザリンが大部分を占めてはいるが、不器用で勉強も今ひとつなロンに対し、ペップはバラツキはあるが勉強を苦にはしておらず顔もそこそこにハンサム。そして極めつけはチェスの勝負で負けたことである。ロンはチェスの腕前だけは負けない自信がかなりあったようで、そこでペップを気に食わないやつから明確に嫌いな奴にランクアップしてしまうのであった。
簡潔に言うと妬みでしかないのだが、この年頃には仕方のないことなのかもしれない。
思春期には友達関係の悩みは付き物だが、ペップもその例に洩れずにいた。
人間界では友達もそれなりに多くいたペップだったが、こちらではハリーたち以外では友と呼べる交流がないのだ。
如何せんスリザリンの性質上か、ソリが合わないことが多々あった。マグル出身の自分を蔑み、下に見る輩を迎合することは誰だって無理だ。初めはよく言い争いもあったが、今ではそれさえも無くなっている冷戦状態という最悪の空気感で寮内を過ごしている。
そして最も対立しているのがこの少年、マルフォイだ。
「おい見ろ。穢れた血がまた一人でいるぞ。いい加減他の寮に代わってもらうようダンブルドアにでも頭を下げればいいものを。」
「マルフォイ・・。」
「寮監の授業では上手く媚を売ってるが、誰もお前をスリザリンなんて認めていないからな。」
「また殴られたいのかマルフォイ?」
「っ何だと!?」
「ま、殴り返す勇気があればだけど。クラッブとゴイル頼みだからなお前は。」
マルフォイの挑発に挑発で返すペップ。
両者の関係が冷え切ったのは以前に面白半分でマルフォイらがペップの両親を貶したことから殴り合いの喧嘩に発展してからだった。
その時ペップ対マルフォイ・クラッブ・ゴイルの3人で結果はペップが一番殴られた形とはなったものの、マルフォイは3発殴られ反撃もできぬまま気絶してしまっていたため実質はペップに軍配が上がった。
「箒もまともに乗れないマヌケが、純血の僕に対してよくもそんな無礼をっ・・!」
「はっ・・パパに言いつけるか?」
そんな経緯があるためペップはマルフォイに対して余裕あるし、マルフォイは激しい苛立ちを感じている。しかし根が臆病な彼でもペップに受けた屈辱に流石に腹を据えかねたか、懐の杖をペップに差し向ける。
「二度と舐めた口をきけなくしてやる!!」
負けじとペップも杖を取り出すが、ここは人通りの多い中庭だ。生徒は当然、教師も通りすがる訳で二人を取り囲んだ野次馬を掻き分けマグゴナガルが間を割って入ってきた。
「こんなところで何をやっているのです?杖を人に差し向けるなど誰がそんなことを教えましたか?」
「うっ・・・先生。」
「貴方方随分と余裕を持ってますが既に予鈴はなっていますよ!お行きなさい!」
マグゴナガルが生徒らをすべからず言葉を投げかけると、野次馬たちは蜘蛛の子が逃げ出すように自分たちの授業へと向かっていく。
「スリザリンに3点ずつ減点します。よろしくて?」
「「はい、先生・・。」」
「さぁ、貴方達も授業にお行きなさい。」
「命拾いしたなゲイム!」
「どっちが!!」
「んん〜、実際問題魔法のセンスが絶望的すぎて泣ける・・。満足に箒も自在に乗れないとは。」
マルフォイの言う様に予想以上のセンスの無さにペップは軽く落ち込み、寮の自室のベッドに倒れこむ。
同じマグル出身で馴染みのハリーはクディッチのメンバーになる程箒の扱いが上手く、ハーマイオニーは言わずもがな。比較対象が中々に高レベルなこともあって悔しく思ってる様だ。正直グリフィンドールで言えばネビルやシェーマスとドッコイかそれ以下、下から数えれば片手で足りる。純潔で魔法族出身が大半のスリザリンでは特に悪目立ちしていて先ほどのマルフォイの様に揶揄われることもしばしば。
入学してから数ヶ月経っているが、パズルが完成していないので当然イシズから言われていたカードは扱うには至っていない。
「本当に必要になった時か・・・でも別に今コレが必要ってわけじゃないんだよな。コレ以前に魔法に手一杯だし。」
ペップは首に掛けた作りかけのパズルを下ろして寝台の横の机に置く。興味が尽きたわけではないが、解決しないそれを少し鬱陶しげに見つめる。
「コレ掛けてると首痛いんだよな。金だからめっちゃ重いし、ペンダントとしては絶対向いてねぇよコレ!プラス残りのピースと持ち歩いたら嵩張るし、しばらくは棚にしまっとくか・・・。」
共同部屋の机の棚に超がつく秘宝を使わなくなったおもちゃの様にしまい出すペップ。子供ゆえの危機管理の無さである。確かにパズルを持っていても他人には奇特な目で見られるわ、邪魔くさいわで気持ちはわかるがそれはどうなんだと問いたい。
就寝時刻が過ぎる頃、学校の側にある禁断の森ではここに住む魔法生物の中である騒ぎが起きていた。ケンタウロスのフィレンツェはこの森に潜伏する複数の影に厳戒態勢を敷く様周りに呼びかけ、ここ数日森の中を駆け回っている。
「一体どうなっているんだ。あの傷跡・・相当獰猛な獣の爪痕だった。私を超える様な体躯の・・。なのにこれだけ探し回っても痕跡が見つからないとは。」
ユニコーンを始め、数体の生物が得体の知らない巨大な獣に襲われているこの騒ぎをフィレンツェは突き止めようとしているが、彼が言う様にその問題の獣が見つからないでいた。
(ユニコーンの胴体を切り離すほどの力を持つ獣だ。足跡ぐらいあっても良さそうなものだが・・・。一つ気になると言えば人間の足跡が複数あることだが。)
高度な魔法を使う人間にこの疑念を向けるが、仮に人間がその獣を引き連れているとしたらそれこそ見つけるのは容易いはずだと彼は考える。学校の敷地内であるこの森に闇眩ましはできないので特にだ。妙なこの騒ぎに得体の知れない気持ち悪さをこの聡明なケンタウロスは感じる。学校の森番ハグリットに伝えるべきか迷っていたが、彼が森の中に顔を出さない限り接触は難しくフィレンツェはこの問題をまず自分たちで解決することを第一に考える。
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5
学内にある競技場の中は普段のホグワーツからはかけ離れた雰囲気を発していた。
その狂ったような叫声も含んだ大歓声は今試合をしている自寮のクディッチチームに向けてあげられている。
この試合はグリフィンドールとスリザリンの対戦だ。そしてそのスリザリンの寮生であるペップは肩肘つきながら少し退屈そうな態度で観戦している。
「・・なんちゅうクソゲーだよ。クディッチ。」
ペップはクディッチのめちゃくちゃなルールに辟易して、熱狂する皆の中で項垂れていた。
クディッチの肝は何と言ってもシーカーだ。フットボールであればストライカーで、ラクビーではスクラムハーフであるように試合を決定づけるポジションだ。しかしシーカーのクディッチにおける影響力はそれらの比ではない。
シーカーが黄金の球スニッチを捕まえると点が加点された状態で試合終了となる。ここまではいい。問題はその点が150点というぶっ壊れた得点だ。
他の得点方法がチェイサーのゴール10点だと考えればシーカーさえ良ければ、もうそれでいいやん?となるからだ。
「あら?そうかしら?私は面白いと思うけど!」
隣で熱狂するハーマイオニーがペップに振り向いてそう言う。
「クディッチは長いと数日間もかかるって聞いたわ。そうなると差もその分広がったりするからいい塩梅じゃない?」
「まぁ〜クリケットも俺は怠く感じちゃうからなぁ。」
「シーカーの重要性の比重が高すぎるのがあるからシーカー潰しなんて戦略のあるくらいだし、そう考えたら奥が深いかもね。」
「んで、そのシーカーにハリーが選ばれてるんだからすげーな。」
ペップはいつもダドリーに虐められていた幼馴染のハリーがそんな花形ポジションで代表選手として戦っている姿に目を丸くする。
クディッチにはイマイチそそられないペップもハリーが試合に出ているということでスリザリンの席側ではなくグリフィンドールのハーマイオニーやネビルらの近くにいる。ちなみにロンは少し離れた所でシェーマスとディーンと観戦していた。
今ではスリザリンよりグリフィンドールの方が友達が増えていっているペップ。ネビルは同じ授業になった時、溢れたもの同士でペアを組んだ時にミスをよくする彼をフォローしてなんとか課題を成功させて仲良くなった。初めはスリザリンだっただけで怯えていたネビルだったが、今ではペップの姿を見かけると積極的に話しかけてくるほどだ。そしてディーンに関しては同じフットボール好きで話しが一番合う友人だろう。ディーンはロンドンの四大クラブ「ウエスト・ハムU」のサポーターで本人も結構うまかったりする。昼休憩はよく二人でネビルも合わせて遊んだりするもんだ。
「ねぇ・・何かおかしいわ。」
ハーマイオニーが先程の熱狂からうって変わってしかめっ面をこちらに向けてきた。
「何が?」
「見てわからない?ハリーの挙動が不自然におかしいのよ!」
「え?俺も箒乗るとあんなもんだぞ?」
「それはあなたがど下手くそだからよ!!」
ハーマイオニーの言葉にショックで落ち込むペップをよそにハリーが右往左往に動き出す箒に振り回されている姿を見て彼女とロン、ハグリッドは騒ぎだす。
「さっきフリントがぶつかってきた時に何かしたのかな!?」
「いや、箒に悪さすることは強力な闇の魔術をかけん限り無理だ。生徒のひよっこにできるとは思えんが。」
ハリーの超人的な箒扱いでなんとかコントロールできてはいるが、この状態がいつまでも続くわけではない。ロンたちはどうする?どうする?とあたふたしているだけであったが、ハーマイオニーだけは周囲を見渡して何か探している様子だ。
「思っていた通りだわ。スネイプを見て!」
双眼鏡をロンに渡して、ハーマイオニーはスネイプが呪いの呪文をかけていると話しだした。
「まさか!」
彼女の発言にペップは異を唱える。
「スネイプがそんなことするかぁ?」
「その通りだ。なんでスネイプ先生がそんなことせにゃならん!」
便乗してハグリッドもそう言うが、双眼鏡を覗けば確かにスネイプが何か呟いてる姿があった。
「まじか・・。」
魔法薬の授業では存外気に入られているペップのスネイプのイメージは皆に比べると10倍は良いことを考えると、にわかに信じがたい光景だったが、真逆の印象のロンたちは瞬時にスネイプを犯人へと決めつけた。
その後、ハーマイオニーがスネイプのマントに火をつけて無事ハリーが復活して試合はグリフィンドールの勝利が決定づけられた。
そしてその夜、敗北のショックを隠せないでいるスリザリン生が地下の寮へ戻ってきたその中でマルフォイ達は特に苛立ちを露わにしていた。その原因は当然同じ1年生がシーカーを務め、試合を決定づけたことへの苛立ちが大半だった。
「くそ!忌々しいポッターめ!とことん僕らを腹立たせるのが上手いらしい!!」
マルフォイは肩に掛けてあったチームタオルをソファーへ叩きつける。彼の言葉にクラッブ・ゴイル・ノットが頷いた。そして後から入ってきたザビニが口を挟んでくる。
「俺はポッターよりもゲイムの方がムカついたけど?」
「ゲイム?」
「ああ。ずっとグリフィンドールの席にいたぜ?あいつ。」
「・・穢れた血の模範的なやつだな。裏切り者だ!!」
クディッチには興味なさそうにして、まさか敵チームと仲良くしているペップに皆が憤慨する。
「あいつ、またボコボコにしてやろうぜ。寮内なら誰もチクる奴なんていやしないぜ?」とゴイル。
「まぁ、確かにこの寮にあいつを庇う奴はいないし、仮にあいつが教師になんて言っても父上に言えばさして問題もないけど。それはこの前もうやったしな。」
「その時はドラコの方がボコボコだったけどな。」
「うるさいぞ!ザビニ!」
「怪我なんてしても魔法使えばすぐ治る。やるならもっと精神的に痛めつけないと。」とノットが提案する。
それを聞いてニヤリとマルフォイは口角を上げた。
マルフォイ達が何がいいか考えようとしたその時、談話室にペップが入ってきた。ペップはこちらを向いた5人にを不審に思いながらも自室に入っていく。
丁度就寝時間が近くなっていたのでマルフォイはその話を翌日に持ち越した。
ところ変わってハリー達は勝利の宴の後、いつもの3人でこっそり話し合っていた。
「それで・・ハグリッドが言ってたそのニコラス・フラメルって人が関係あるの?」
試合中の犯人がスネイプだと話していた折に、うっかりハグリッドが出したその名前にハーマイオニーとロンは今回の秘密の鍵を担っているのだと考えていた。
3人(ネビルも)が入った4階のあの部屋。大きな三頭犬が守っている何かを守っていた。そしてトロールが現れたその日スネイプがあの部屋へ向かっていた目的の鍵だ。
「ええ。きっとそこに手がかりがあるわ。でも、聞いたこともない名前だから調べないといけないけどね。それとなんだけど・・・。」
「何?」
「スネイプが犯人の可能性が高い以上、ペップに探りを入れてみて欲しいのよ。」
「ペップに?じゃあこのことを話すの?」
「僕は反対したんだぜ?そんなこと話せばあいつがスネイプ本人にこの事バラすんじゃないかって!」
「ほら!彼、スネイプとはスリザリン生の中でも気に入られてるでしょ?」
ハーマイオニーはペップに密偵としてこの事件に参加して欲しいようだ。確かに普段魔法薬学では積極的に質問してスネイプに一目置かれているペップ。ならばペップに協力してもらえればこんな都合のいいことはないだろう。
「ペップは信頼できるしいいと思うよ。ただ、これを話すんならもう一度あの部屋にペップを連れて行かないと!放っておいたら一人で入っていきそうだし!」
翌日、ことの顛末を聞いたペップはそんな事件が知らない所で起こっていたのか、とハリーが隠していたことに少しムッとしていた。
「じゃあ前に中庭でコソコソと話していたのはその事だったんだな。」
「うん。ペップにはスネイプが何を狙っているのか、何を目的なのか探りを入れて欲しいんだ。」
「・・そういうのあんま得意じゃないんだけどなぁ。」
ホグワーツの塔でこっそりと集まった四人。
「そこは頑張ってもらうしかないけど・・。」
「でも、ま!面白そうではあるな!!」
「面白い、で済まされても困るんだけど!」
ちょっと楽しみだしてきたペップに釘を刺すハーマイオニーだが、こんなテンションになってきた彼何を言っても無駄なのを知っているハリー。
「今日確か午後の最後に魔法薬あるよな。その後スネイプの部屋に尋ねてみっか!!じゃ放課後またここで会おうぜ!」
「あ!勝手にあの部屋行ったらダメだよ!行くときは僕たちに言ってからだから!」
「分かってるって!!」
意気揚々と階段を降りていくペップに残った3人は不安を胸に抱いた。
ペップは放課後魔法薬学の準備室に押しかけた。扉を開けたスネイプはいつもの不機嫌そうな顔からさらに皺を深めたが、あまり抵抗なくペップを部屋に迎える。
「何の用だゲイム。生徒でここを尋ねてくる者は珍しいが・・。」
「まぁまぁまぁ!寮監の先生には色々聞いてみたい事あるっすよ!」
おおよその生徒は名前すら分からなそうな薬品・材料を置く棚がズラリと囲む中、スネイプは椅子をペップに渡す。意外と友好的な様子でいつも彼がハリーに向ける拒絶感はない。
「殊勝な心掛けだ。他の者にも見習わせたいものだ。」
「スネイプ先生は怖いからね。そのとっつきにくい感じなくせばいいんじゃない?」
「・・お前はもう少し言葉に気をつける方がよいな。言葉はその人物の品性をかたどるものだ。」
恐らくこんなフランクに会話できるには生徒の中ではペップだけだろう。こんな調子で軽いジャブを打ちつつ本命の話を引き出そうと目論む。だが・・・
「・・・そうではない。それをする場合は先に二角獣の角の粉末を入れるのだ。」
「なっるほど!原理はよくワカンねぇけど!」
「他の者とは比較的マシではあるが、どうも得手不得手の差が激しいようだな。この科目は僅かなことでも全て意味がある。基礎がなっていないと応用は不可能だ。」
部屋に入ってから1時間経つが、こんな調子で普通に授業を受けているみたいになってしまっている。
(ってチゲーって!?ここに来た意味全くねえじゃん!どう話持っていったらいいんだ?)
どう切り出そうか、ウンウン頭を捻っているのをみて真面目に魔法学に取り組んでいるとスネイプは内心ペップに感心している。
スネイプからしてペップは礼儀の無さと自分には無い向こう見ずな性格が目につくものの、他の生徒のように友達同士ですぐに解決しようとはせず、出来るだけ自分で解決しようとする姿勢は大したものだと思っている。彼自身もそうであったが、辛いことや困難なことがあっても決して口にすることはない。ペップが今の寮生活などでいい思いをしていないのは彼は知っていた。
そういうところに親近感を感じているのだろうか。彼自身もこうやって長々と生徒と話していることに若干の驚きを感じている。
「しかし良いのかね?授業も大切だが、君には早く解決しないといけないことがあるだろう?」
「?」
「我輩も寮監であるからして当然。聞いておるぞ。パズルのことを。」
「あ、それのことか!」
「・・まさかとは思うが。本気でそのことを忘れているのではあるまいな。」
「え・・いやいやいや!忘れてるわけないじゃないですかぁ〜〜!」
(ヤベェ素で忘れてたわ・・。ホグワーツが面白すぎて)
未だ寝室の棚に入ったパズル。最近はその姿も見てない。ジロリとスネイプに睨まれるが、いかにも図星を突かれたかのように下手なごまかしをする。
「ここに来たのはそのパズルを狙う連中から避けるためであろう。最優先すべきなのはそれの筈だ。」
「いやぁ・・あれ全然完成する気配がなくって。ちょっとお手上げ。」と苦笑い。
「選ばれし者と聞いていたが?」
「本当に必要になった時にって言われたんですけど、それがいつなのかわかんないというか。完成すると願いが叶うらしいですけど。」
「ならば、今君に願いが無いということかね?」
「ん〜・・・自分昔から知らない事とか楽しいことに素直っていうか、目移りしやすいんですよ。昔は飛行機とか乗り物で、ちょっと前はフットボール。今は魔法とホグワーツで正直大満足しちゃってて。」
「なるほど。確かにその節操のない性分は魔法薬学に向いていると言えるかもしれんな。」
呆れたような口調でボヤくスネイプ。
「・・先生は何かお願いしたいことある?」
これだ、と思いついたペップはスネイプに質問を返した。願いはつまり目的。ごく自然に探りが入れれた。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・ぅ。」
「・・・興味があるのかね?君は、私のそれに。」
「い、いや・・まぁ、なんとなく聞いただけですけど・・。」
「なんとなく、と言うならば、我輩はそれに答えなくても文句はあるまいな?」
「そ、そっすね・・ハハ。」
彼の性分からしてその秘めた思いがあったとしても他人に吐露するほど人に信を置いてはいない。当然この質問にスネイプは答えず語気を強めて答えようとはしなかった。
そしてペップはすぐに彼から情報を引き出すことを諦めた。だがそれはスネイプからの威圧感で萎縮したわけではない。その質問を聞いたスネイプの顔が一瞬どこか寂しく心の残滓を引っ掻くような表情に見えてしまったからだ。
一瞬浮かんだスネイプの脳裏には・・・一人の女性がいた。
多分次回ぐらいからカードバトル始まります。(コゴエ)
前振りが長くてごめんなさい。
感想もらえれば元気出るんでください。
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