GLITTeR (モチネコ)
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PROLOGUE
1話


 

 

物を拾った。

 

親戚や友達からの貰い物、誕生日、はたまた大好きな家族からのプレゼントなどで幼い子供が大切に胸に抱いていそうな、可愛いらしい微笑みを浮かべた淡いブラウンのテディベアだ。

ふわふわとした触り心地の良い布地についた砂利や埃などの汚れを撫でるように指の腹で払う。取れかけてしまっている片目は下手に動かせば今にも取れてしまいそうで、弱く眉を寄せながら、はみ出た綿を指先で優しく入れ込んでいく。

 

酷く閑寂な一帯。

 

立ち入り禁止、と書かれた標識が頼りなく風に揺れた。

路上にひっくり返っていたり衝突した状態で歩道に突っ込み静止したままの車は所有者を失い文字通り既に廃車と化していた。

お世辞にも住みたい・・・と言うより近寄りたくないと思ってしまうくらい、街であるのに街でない場所の人気は、別世界のように清々しいほどに皆無だった。

 

 

バサバサと鳩が飛び去る。

 

 

足元で乱雑に散らばるガラスの破片に映った気味の悪い大きな目玉へ反射的に銃口だけ向けて引き金を引く。

白色の硬質な異形が振り上げた刃は、がら空きだった背中に届くことは無かった。

 

 

壊れた乳母車

 

片っぽの靴

 

捩じ曲がった自転車

 

中途半端に崩れた建物

 

瓦礫の山

 

千切れて拉げた花

 

それらを目に映しつつ、角張った豆腐の如き超絶巨大な物体を背に、ノイズの入った通信機に指を添える。

───直後、異常を報せる警報が鳴り響き渡った。

 

「うおッ、マジか・・!!」

 

遠くで佇んでいた青年の肩が警報の回数に驚いてビクリと跳ねた。前髪をカチューシャで後ろに流した髪を片手で無造作に掻きながら、“おいおい今日は忙しいな”と面倒そうに溢す。

 

 

「こちら白縫衣。現在地から北北西の方向にて(ゲート)の発生を確認、直ちに掃討に向かいます」

《こちら本部、了解。・・・ただでさえ連戦なんだから、必要なら応援を要請するように。いいわね?》

「本当にヤバそうなら、迷わずそうさせて頂きますと──も!」

 

地を蹴って高く跳躍。

空中に形成したコンパクトサイズの足場(グラスホッパー)で前進と跳躍を繰り返す。

 

(・・・目視でギリ警戒区域内ってとこですかね)

 

もう一度、足のサイズの二分の一程度の小ささにまで縮小させた足場を強く踏み、自らを弾丸に見立てるかの如く、斜め下方へ身を踊らせる。

 

「──オプトリ、M.A.C.F.(マーコフ)起動。出力、“高”!」

 

刹那、遥か遠方に飛び去った少女。

その体躯から噴射したと思われるトリオンエネルギー。

きらきらとしたコバルトグリーンの微粒子の軌跡は、遠目からでも充分に確認出来た。

 

「うーーわ。元から小せぇのにあっという間に更に小っちゃくなっていきやがった・・・空飛ぶとか女版ア●ムかっての。チートリオンにしか成せねぇ(わざ)だな、ありゃ」

 

 

 

両手に装備した散弾銃の銃口を眼下に群れる白色の異形へ向けて、撃つ。

今日だけでもその動作が何度目かなんていちいち数えちゃいない。

鉛弾(レッドバレット)。使い手の能力やトリオン量に左右される癖の強さから敬遠されてしまいがちなのだが、彼女にとってはそんな事は問題ではなかった。

連射性に優れた物に改造が成された銃口より放たれた黒色の弾丸は、引き金が引かれた分だけの数かと思った次の瞬間には数百発近くまでに分散していた。

しかし鉛弾(レッドバレット)の懸念要素など何処吹く風、確かな弾速を維持したまま目標へと降り注がれる様は大雨さながら。

 

 

──グオオォォォォォッッ!!

 

 

誘導の不足を“視線”で補われた隙の無い射撃。

全弾をまともに食らった異形の群れにのみ、その至る各所に漆黒の花が咲いた。当然、その重みに耐えられるわけも無く。

 

(連戦?それがなんですか。活きが良くて結構!それでこそ()り甲斐があるってもの!出現に出現を重ねるなら、私はその分、殲滅し尽くすだけッ!)

 

咆哮と砂埃を上げて地に釘付けとなった異形(奴ら)を見るなり口許を吊り上げさせた少女は、両手に握る武器を銃から(つるぎ)に変え、片っ端から排除するべく異形の中心へと降下していった。

 

 




(アイビスはさすがにあれだけれど、チカ子の鉛弾ライトニングの弾速は約束されているみたいで。うちの子はそんな彼女を(トリオン的な意味で)上回ってしまっているのでその辺はお察し。
のちの【ホニャホニャ主人公設定】では既に部隊に配属後の時点の物を載せていますが、プロローグから暫くは配属『前』のお話となります。少々ややこしくて申し訳無いですが、何卒よろしくお願い致します。)


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2話

一帯を柔らかく撫でて去った穏やかで心地の良い微風に、少女は目蓋を伏せていた。

 

 

《──トリオン兵出現の第三波から四時間半が経過。空間安定、依然として(ゲート)の発生及び敵増援の予兆見られず。》

 

「こちら白縫衣。現況の報知、ありがとう御座います」

 

平穏なのは実に良い事だが、音沙汰が無いというのもなかなかに酷である。

戦いの衝撃に巻き込まれないよう距離を取って様子を見ていた見物客─米屋 陽介─は、「なーんだ、立ち寝してんのかと思った」とストローを咥えながら呟いたが、さすがに少女へは届いていないようだった。

戦闘体に伝わったマニュアルのような通信へ返答してから程無くして聴こえた、本部オペレーター、沢村 響子の溜め息に少女の眉が複雑そうに寄った。

 

「・・・すみません、沢村さん。お忙しい中わざわざ任務のサポートまでして頂いて・・・」

《ん?いいのよ、全然。あなたのサポートは別にこれが初めてじゃないんだし。それこそ、“わざわざ”気にすることじゃないわ?》

「ふぐっ・・・・」

 

沢村自身、自らが吐いた溜め息の理由の大半は他に有った。星咲本人も薄々自覚はしている反面、それに気が付いた自分に気が付きたくなくて、何処かに奥深い場所に仕舞っている骨の髄まで染み込んだある種の『悪癖』。

しかし、直面する現実は誰にだって等しく純粋なまでに残酷である。

 

《・・()()()()よ、星咲ちゃん。トリオン兵をズタボロにし過ぎ。前にも言ったわよね?あんまり損傷が激しいと解析に支障が出るって》

「うぅぅ・・・・・」

 

長時間、一挺の散弾銃を手に携えた兵士の鑑とも言える直立不動を保っていた少女─白縫衣 星咲─の小柄な体躯は、ついに膝から崩れ落ちた。

 

「え。な、なんだ。どうした?」

 

適当に景色を見渡しつつパックのフルーツジュースで喉を潤していた米屋は、再び目にした星咲の様子の─分かりやすい間違い探しもビックリな─大きな違いに思わず二度見をしたのも束の間、緊急性は感じなかったのか、やり取りを知らない彼は呑気に胡座をかいて独り言を口にしただけだった。

 

─────一方。

 

《動きを鈍らせたり弱らせたりするのにも攻撃はもちろん必要だけど、弱点部位はハナから明確なんだから、“ある程度”弱らせてそこを重点的に狙えば過剰な攻撃もしないで済むし、武器の破損やチップが悲鳴を挙げたりなんて事も起きないで済むでしょう?あなたが、ストレス発散も兼ねたつい()っちゃうんだ系の戦闘狂なのは知ってる。解析出来ようが出来なかろうがどのみちボーダー(うち)に還元もされる。だからって、あまり暴れ過ぎないで頂戴ね?》

「ず、ずびばぜぇん・・・・」

 

美人オペレーター、沢村 響子の指摘は、更地のど真ん中で四つん這い(オルツ)の体勢を持続している星咲へ、まるで止めのように悉く刺さっていった。泣いてはいないが、かなり濁った発音の謝罪だ。

何を隠そうこのオペレーター、かつては現地で剣を振るっていた元戦闘隊員───中でも、前衛を張る攻撃手(アタッカー)として活躍していた華々しい経歴を持つ、今を輝く敏腕界境防衛組織(ボーダー)職員なのだ。

その血を騒がせた彼女の前では、10代半ばとは言え組織で有名な戦闘狂もただの隊員となってしまうらしい。

 

《それで、任務のことだけどどうする?というのも、切り上げるにはまだちょっと余裕があるのよね。》

「・・・いえ、このまま時間まで警戒態勢を継続します」

 

膝に付いた汚れを払い除け、若干よろけながらも立ち上がった星咲のその()に灯る火はまだ盛んだ。

部隊に配属していない以上、有り合わせの混成部隊を除いた防衛任務は基本単独での出動。

だが、本部に異動をしてからずっっとそのスタイルで任務に臨んでいた星咲はもう慣れっこだった。

モニター越しから見た真っ直ぐ前を見据える少女の姿に、我が子を心から想う母親のような面持ちで沢村は微笑みを浮かべた。

 

《・・・・・そう、分かったわ。近くの暇そうにしてる米屋君には、いざという時の星咲ちゃんの戦闘への加勢の許可を本部長がすでに下したから、お互い協力し合って戦うのよ?一人で突っ走り過ぎないこと!》

「はあい」

《返事はしっかり》

「はいっ!」

《よろしい》

 

星咲のオペレーターに就いているとは言え付きっきりは難しい。当然ながら他にも仕事を受け持っている沢村との通信は、一旦中断となった。

 

「その歳にしては殊勝(しゅしょー)な心掛けだな、感心感心」

 

頭にポン、と乗った手の平。特段拒むような素振りはせず米屋を見上げる。

 

「まだいらしたんですね?よっぽどお暇と見た」

「ひっでーなぁ、いざって時はこの槍弧月のお兄さんも加わってやるってのに」

「あはっ、それはそれは頼もしいですねぇ♪その時になったら是非よろしくお願いします」

「おう、任せとけ!」

 

まあ暇なのは認めるけどよ、と顔を逸らして口を“3”の形にしながら誤魔化すようにぼそぼそ付け加えられた言葉に、星咲は目を細めて面白そうに笑った。

 




(1話目よりちょっと前くらいのお話でした。
あ。今更ですが、主人公の性格上、機嫌や調子が良い時などにセリフの語尾に『♪』マークが付く事があるのでご一報までに。
・・・・ソロで活動していた頃の主人公の隊服のデザインがまるで思い浮かばぬぇ・・・・・)


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◆0──Character
BBF風主人公設定


ワールドトリガー公式設定本、BBFを参考にした、主人公のBBF風詳細設定ページです。
主人公ちゃんが使用する銃器トリガーに実在する銃の銘柄を挙げていますが、あくまで『脱!汎用型銃器』を目的としたリアリティー欲しさに付けただけであり、詳しいわけでは無いので悪しからず。
タグにも御座います通り、作者は設定大好き人間の設定厨ゆえ、それらが苦手な方の閲覧はオススメ出来ません。ちゃっかり軽いネタバレもぶっ込んでます。
作った当日は設定ページをトップバッターにさせて頂いていましたが、読者様からのご指摘を受け、新しく追加したプロローグのお尻に置き換えさせて頂きました。
少しでもお楽しみ頂けたら幸いです(^ ^)

・・・今気付きましたが、賢い筋肉の中の人、ナイフ縛りで有名な白血球さんなのですね・・!!?
(※情報量過多傾向に有り)


▶ BORDER HQ A-RANK #2

HOSAKI SHIRANUI

 

 

“ 一匹残らず殲滅するだけのカンタンなお仕事じゃないですか~~♪ ”

 

 

■  白縫衣 星咲(しらぬい ほさき)

 

<PROFILE>

├ポジション:オールラウンダー

├年齢:15歳

├誕生日:9月3日

├身長:152cm

├血液型:A型

├星座:おおかみ座

├職業:中学生

├容姿:白鼠色の背中下までの長いクセ毛を普段は後頭部の高い位置で団子状にまとめており、左右のもみ上げもクセでウェーブしている。緩やかなV字のオン眉。

瞳は生き生きとした蒲公英色で、大きめのツリ目。

└好きなもの:玉狛の皆、猫、自己鍛錬、ボーダー、マカロニサラダ、豆乳系の食べ物、ポッキー、ドーナツ、ビスケット、討滅etc・・・

 

<FAMILY>

└不明 

 

<PARAMETER>

├トリオン:測定不能(段階ごとに分けられた出力制限有り)

├攻撃:8

├防御・援護:5

├機動:14

├技術:9

├射程:6

├指揮:5

├特殊戦術:10

└TOTAL=57

(※トリオン値は除く)

 

<SIDE EFFECT>

・強化自然治癒力(仮称) :ランクB(特殊体質)

└人間・動物などの心身全体が生まれながらにして持っている、ケガや病気を治す力・機能を広くまとめた総称。手術を施したり、人工的な薬物を投与したりしなくても治る機能のこと。「自己治癒力」とも呼ばれる。

機能の中には、「自己再生機能(外傷の治癒)」と「自己防衛機能(細菌に対する免疫機能)」が認められている。

星咲は特に前者に優れており、生身の肉体に受けた外傷はよほどの重傷でも無い限り、大概はその日の内に回復してしまう。無論、トリオン体には適用されない。

本人の中では「自分は人より傷の治りが早いんだ」程度の認識でしかなかったが、過去からその兆しは有ったようだ。

 

<RELATION① ver.Send>

├→ 迅(及び玉狛第一勢):兄(姉/父)代わり、家族

├→ 時枝(及び嵐山隊):猫仲間、敬慕

├→ 緑川:ライバル(主に迅関係)、個人戦相手その1

└→ 菊地原:反抗(?)

 

<RELATION② ver.Receive>

├← 可愛い可愛い妹分 } 迅/玉狛第一勢

├← とても仲良し } 時枝

├← もっと遊びたい! } 緑川

├← そわそわする } 笹森

├← 唯我と代われ } 出水

├← ツワモノ同士 } 太刀川、空閑

├← ノーコメントで。 } 菊地原

└← おもしろい色 } 天羽

 

<TRIGGER SET>

((GT)はガンナートリガー、(AT)はアタッカートリガー、(DT)はディフェンストリガー、(OT)はオプショントリガーとする)

 

[ MAIN(右) ]

├(GT)アステロイド+スパイダー:(改)突撃銃(アサルトライフル)(PP-2000型)※外観のみ

├(AT)スコーピオン

├(OT)テレポーター(試作)

├(OT)*M.A.C.F.

└(OT)グラスホッパー

 

[ SUB(左) ]

├(GT)ハウンド+スパイダー:(改)短機関銃(サブマシンガン)(H&K MP7型)※外観のみ

├(OT)カメレオン

├(DT)シールド

├(OT)*リストレイント(試作)

└(OT)グラスホッパー

 

正隊員でも通常は4対の計8セットだが、A級隊員ならではの権限を嬉々として行使。結果、チップを5対10セットに拡張した。ご覧の通り、改造好き(勉強中)。

(*1、*2共に本人発案のオリジナルオプショントリガー。性能は別ページにて。尚、*1についてはカメレオンとの併用は不可。)

 

 

<BATTLE STYLE>

(└※BBFには無記載)

専ら、スピード・機動力特化型の“ 独創派万能手 ”。

セットしたトリガーと自身の戦闘能力を存分に活用した、天地を縦横無尽に動き(飛び)回る戦法(立体高速機動戦闘)を得意とする所から、付いた異名が『(ボーダーの)暴れ星』。イントネーションは『流れ星』と同じ。他、『敵狙撃手の敵』、『空中パルクール女』等々。

言わずもがな、単騎でのトリオン兵撃破率も非常に高く相応の戦績も持つ。必要とあらば乱射魔と化す事も。しかしトリオン体で動き回り過ぎると生身に戻った際にちょいちょい筋肉痛に見舞われる。

鎌型、斧型、何かしらの刃型、マンティスもどき等々、最早『刃』と思っていないスコーピオンのバリエーションは豊かでその扱いにも長けている。狙撃武器も扱えない事もないが、ジッと出来ない。

機能は違うが、風間隊の隊服のように自らの隊服にも細工を加えており、大変面倒な事に上記の特性が更に向上している。

 

 

<PERSONAL>

ボーダー提携の普通校通いの中学3年。

陽気で呑気、穏和で剽軽、ノリは良いが根は真面目という謎な性格。年齢にしては落ち着いていて雰囲気も気さく。照れるとうねりのある揉み上げを弄る癖がある。

どこか余裕を感じさせるような微妙に間延びした敬語で話し、その時の気分やテンションによって敬語が外れたりスパイス(毒舌)が混ざる事が間々ある。本部内の人脈はそこそこ広いものの数は疎ら。

「(もの)すごく・・・○○です」が地味に口癖。一人称は「私」、「白縫衣」、「白縫衣さん」。

 

 

【戦闘本能は遺伝子級!?陽気に健気に、凶器と狂気を巧みに操る小さな剛の猛者!】

物心が付いた頃には既に玉狛支部に所属していた星咲は、成長の過程の中で小南桐絵や迅悠一、木崎レイジ等他数人が師匠のようなものだった為、彼女自身がその賜物と言えよう。そら強いわ。

【その身に流れるトリオンは湧き水の如し】

トリオンエネルギー───。

目に見えぬ臓器とそこから生み出される力は、生身の肉体─心臓の真横─に位置している。

トリオン量は人によって当然差異があるが、彼女の場合は、無尽蔵で際限も途方も無いほど異常なまでに抜きん出た量のトリオンをその身に宿している。

量自体は先天的なものでは無いとは言え、いつか心身に悪い意味での影響が及びかねないと危惧視した上層部により、身に付ける上でなるべく目立たないサイズとデザインの“トリオン産出抑制装置”と銘打った装身具を、『何かが起こってしまう前の応急処置』として彼女に提供される事となった。

一度だけ、本部に異動する以前に病床に就いた事があるようだが・・・・・。

よって、ストックを含めた戦闘体にも、トリオンの量を段階ごとに制御する細工が本人同意のもと予め成されており、戦闘時では通信を介しリアルタイムで[部隊長(→本部の上層部)]へ、必要に応じた出力制限の解除要請を行わなければならない。

「いっぱいいっぱいになったら私爆死しちゃうんですかねぇ?」と、当人はヘラヘラと呑気に聞き捨てならない供述をしている。

 

 

─┼ツワモノホイホイ┼─

   [ホサキ]

中3女子にしてサイハイブーツ着用というなかなかの剛の者。

上着の裾とブーツの履き口との間に存在する新手の絶対領域に誰かが気が付いた。ちなみにハンドガンをセットすると、ガーターベルトみたいな形で太ももあたりに装着される。

“暴れ星”の名に恥じない戦績と『対人戦では当たりたくない隊員ランキング』で割りと上位を誇っている所為で、目が格子状の人とかA級3バカとか黒トリの白チビあたりなどが何かとホイホイしてくる。

那須隊の日浦 茜とは好きな物の一部と学校のクラスが、王子隊の蔵内 和紀とは誕生日(と星座)と血液型が一緒である。

彼女がよく自分の事を苗字で呼んだりするのはたぶん佐鳥の影響だよねと囁かれつつある。最近からツインガトリングに挑戦するようになったのはトリオンタンクだからこそ成せる(わざ)。ぜったい佐鳥の影響。

木崎お兄さんのフルアームズに憧憬の念を抱くお年頃(Cカップ)

 

 



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*オプショントリガーについて

前項でちゃっかりお披露目した2種のオプトリについて説明させて頂くページになります。
中身は別モノとして、同じように改造を施したA級加古隊の『タイマー』や『魔光』、『韋駄天』あたりと捉えて頂ければ。通常(ノーマル)トリガー以上↑ギリ玉狛特製トリガー未満↓くらい。
・・・・が、自分で考えておいて可笑しな話なのですがぶっちゃけまだあやふやな部分が有るので、物語を進めていきながら情報が明確になったらその都度書き足していこうかなと思っています。


M.A.C.F.:【移動】、【特殊】

 

ボーダー初!ハイリスク・ハイリターンの画期的「空中浮揚」系トリガー

 

Motion Assistance Control Function。

通称、「動作補助調整機能」。略称時の読みは「マーコフ」。

発案、及び愛用者である白縫衣隊員が幼き頃から抱き続けた「そーらを(自由にー)飛ーびたーい(なー)」という願望がついに形となったトリガー。誰もが一度は思った事があるのではないだろうか。

 

[仕組み]

└カメレオン起動時の際に消費するトリオンを減らす装置が組み込まれた風間隊の隊服のように、それに近い細工が隊服────ではなく、後述の機能面もあって戦闘体そのものに施されている。カメレオンとの併用はX。

 

[特性]

└「節約」<「超消費」。全くの真逆である。

そもそもの「空中浮揚」を成立させる上で必須となるエネルギー(トリオン)を噴射する“噴出孔”が隊服の各所に散りばめられており、その噴出孔からの微細なトリオン出力調整が可能となる。調整は勿論の事、あとは本人の体重移動さえしっかりしていれば、それこそ何処ぞの巨人に対抗しうる唯一の手段高速立体機動(ワイヤー無しver)の真似事だって出来る。

 

[特色]

└上記のシステムにより飛行が実現。まず「宙に浮ける(一定時間の浮揚)」事が何より面白い点と言えるだろう。戦闘行為以外に常に消費され続ける大幅なトリオンと引き換えに、機動力と敏捷性が格段に向上する。

無論、訓練・鍛練(下積み)が必要。

 

[性能]

└チップにインプットされたAI(エー・アイ)的な何かによる出力調整や、体重移動の際の姿勢制御などのサポート機能付き。

ちなみにトリガーホルダーと戦闘体の破損を防ぐ為のセーフティ機能も内包されており、トリオンの過剰出力によって生じるオーバーヒート、またはオーバーヒート寸前時には『その場で()()()()()()()』か『()()緊急脱出(ベイルアウト)』のいずれかの措置が、警告アナウンスと共に戦闘体の現在地によって最も適したどれかが執行される仕様となっている。

前者は、緊急脱出の有効範囲“外”に居る場合に適用。万が一範囲外に居ても即行解除が成されるのではなく、すぐに範囲内に戻れる距離であればそれまで()ってくれるという強かさも兼ね備えている。

 

[余談]

└星咲以外の隊員が扱うにしても、前提条件として「膨大な量のトリオン」と「(戦闘体において)高度な身体能力とバランス感覚」、「高所恐怖症ではない」等々が挙げられる代物。

技術開発部の方々の粋な計らいによって、星咲が背中の部分から放出する際は蝶の羽に近い形状を象る。ちゃんとパタパタする。

「マーコフとやらを起動した時の隊服は、()()()()()()俺達の姉妹トリガーに見えなくもないな」とは風間隊長のお言葉。

これでアナタも●ィン●ーベル!(違う)

 

 

リストレイント:【捕縛】

 

現地で戦う隊員必見!便利なお手軽拘束具

 

「拘束」を意味するオリジナルオプショントリガー。

マーコフほどクセは強くなく、トリオン製のモノなら戦闘体でもトリオン兵・人型近界民でも、胴体や手足などへの拘束が可能。

 

[仕組み]

└外観は至ってシンプルかつ簡易的だが、スコーピオンのように使い手の腕前やトリオンによって形状や強硬度が変わる。

基本的に動きを止めたい対象に狙いを定めれば拘束は可能。“設置”して引っ掛けるなど罠のような使い方も出来るが、リストレイント使用の時は、そのチップをセットしている側の武器を一度仕舞ってからでないと使う事は出来ない。

 

拘束の解き方は、メジャーな方法で「した者」が解除するか「された者」が足掻いて壊すかの二通りある。

狙撃手(スナイパー)射手(シューター)銃手(ガンナー)の射撃でも壊せない事は無いが、「()()()()()の破壊」を目的としていても威力に細心の注意を払わないと「拘束具ごとうっかり味方を撃ち抜く」はめになってしまうので、射撃の腕に確かな自身が有る者以外は下手に外部からの破壊は試みない方が仲間と己の為でもある。

攻撃手(アタッカー)も然り。

 

 



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◆1──Waltz of soliste
ラウンジのとある一角にて


端末を肘あたりに抱えて歩む足並みは少しだけ早い。

その身を包む赤地に白や黒のラインが入った身なりは目立つようで、すれ違うC級隊員に頭を下げられたりB級隊員から挨拶をされるのは珍しくなく、親しい人からは愛称で呼ばれたり肩を組まれたりそのまま軽くシメられたりもして、嫌ではないが、生身でなくても痛さはなんとなく分かる。

広いラウンジに出た。

一度足を止めて人で賑わうスペースへ何度か視線を左右させると、夕暮れの陽光が射し込む一枚一枚が大きい窓ガラスの付近に立つ目当ての後ろ姿を発見した。

今日は運が良いらしい。たまに受ける良い意味での妨害も無く、歩調もスムーズだ。

 

「星咲」

 

両手を腰の後ろあたりで重ね、外の景色をぼんやり眺めていた少女が呼び声に振り向いた。

 

「あ、みつえだ先ぱーい」

「こんにちは。今、ちょっとだけ大丈夫?」

「ハイハイ、どうされました?」

「コレなんだけど・・・」

 

小脇に抱えていた薄型の端末を手に持ち直し画面を見せる。すると、覗き込んだ彼女の真剣な面持ちから一変し、途端に「ふぁ!?」と変わった高い声を挙げた。自分よりずっと明るい色の瞳を見開かせている。

その様子が面白くて、つい吹き出しそうになった笑いを瞬時に口の中で殺すと片側の頬がぷくりと膨らんだ。大丈夫、気付かれてない。・・・よね?

突然の大声に近くの人達が一瞬こちらを見たり、通りがかった足を止めたりとザワつきを見せた。特に表情は崩さず人差し指を口元に当てる。

 

「しー」

「うっ・・・す、すみません・・・」

「空いてる席に座ろうか」

「は、はぃぃ・・・!」

 

一時的に注目を浴びた事に関しての羞恥なんかよりも、画面を見せた時のほうがテンションが明らかに上回っているように見えた。

横長の鉢植えに仕切られた席を見つけて、向かい合うようにして腰を下ろす。

すると星咲は、思い出したように両手を胸の前でパチンと合わせた。

 

「あ!お疲れ様です」

「うん、星咲もお疲れ様。なにか飲み物買ってくるから待ってて」

「や、私が買ってきます!」

「・・・そう?じゃあ、お願いしようかな」

「30秒以内に戻りまーす」

「え、急がなくてい──あ・・・・」

 

下ろしたばかりの腰を上げかけて、またストンと下ろした。

凝視していた画面から顔を上げた星咲に、みつえだ、元い時枝が声をかけたのは、快活に自動販売機に向かって行く彼女の背中だった。

 

「もっどりました~」

「早いね、さすが」

「いえいえ恐縮です。訊きそびれちゃいましたけど、オレンジで大丈夫でしたか?」

「ありがとう、ちょうど飲みたかったんだ」

 

テーブルに置かれた紙コップにはポップな絵柄で描かれた果物のイラストがプリントされており、色は違うがどちらも丸々としている。

橙色と赤色、さっぱり爽やかなオレンジジュースとリンゴジュースは、ストローから喉を通って五臓六腑に癒しを与えた。過密スケジュールの中の束の間の休息である。

 

「は~~~・・・・」と突っ伏す星咲を眠たげな瞳が見つめる。

時枝も去年までお世話になった第三中学校の制服に身を包んでいる点と時間帯で、真っ先に彼の脳内に浮上したのは“学校帰り”の四文字。

界境防衛組織(ボーダー)に所属している人間のほとんどが中学や高校に通う現役の学生達ばかりで、日々の学校を終えても家に帰る前にここに立ち寄る者が居るのは割りと日常風景だ。

ただ、星咲は()()()()()()()()()()()()()()

学び舎での生活はどちらかと言うとメンタル面を酷使させる場面が多いのだが、彼女が、特に他者にはどんなに疲弊していても自身の弱った所を見せずに隠し通すタイプである事を、ほんの数年の仲ながらも時枝は見抜いていた。

 

「・・・・任務?」

「はい、お昼で切り上げてからずっと・・・連チャンでした・・・」

「警報すごかったらしいしね。どのくらい倒したの?」

「ん~~~・・・全部で、じゅう・・・じゅうー・・5体以上は、たぶん。一遍ではないですよっ?一遍に十数体も来られたら白縫衣でもパニクりますし・・・!」

 

 

時枝は腕を伸ばした。

 

(一対複数っていうのもなかなか異例なんだけどね。星咲はいまはソロ。仕方がないと言ったらそれまでだけど・・・・)

 

大人しく突っ伏した姿勢から上体を起こした彼女の、国内では滅多に目にしない色の頭髪の上に手を乗せると双眸を丸くさせて固まった。

綿毛にふわふわと触れるようにゆっくり撫でる。

 

「単独の状態で、充分なくらいよく頑張ったと思うよ。本当にお疲れさま」

「いえ全然っ・・・先輩と比べたらまだまだ全然甘ちゃんです・・・!それにいつの間にか米屋ん先輩がいましたし」

 

撫でていた手が不意に止まる。

 

「・・・そうなの?」

「完っ全に傍観決め込んでましたけどね。ですが、きちんとこの白縫衣が、トリオン兵どもを片っ端から平らげてやりましたとも!」

 

誇らし気に片手を胸元に添えた星咲はそう言った。現地での応酬の中で生まれた『保険』を、隊ぐるみで事務仕事に追われていた時枝が把握しているはずも無かった。

 

「そ、それであの、先程のて、ててん、てん、天使はっ・・!」

「落ち着いて?」

 

無遠慮に脳内に流れ出した某CMを早急に取っ払い、興奮を抑えるようにソワソワと微弱且つ小刻みに震える星咲の前に、太腿の上に乗せていた薄型のノート端末をテーブルに置いた。

彼女が興奮混じりに『天使』と称したモノは、その画面にこれでもかと映っていた。

フワフワの体毛を持ち、リラックスした体勢で細かい網目状のバスケットにすっぽり収まり、画面越しにクリクリの円らな瞳で此方をジッと見つめる愛らしさMAXの────猫。

 

「ほわぁぁあ・・・!!」

「(わかる)」

 

両手で口元をマスクのように覆って声も必死に抑え、されどその蒲公英色の瞳に菱形の輝きが宿る。

基本的に眠たげでブレない無表情が通常運転な時枝でも、目の前の微笑ましい光景には敵わなかった。猫と星咲の、現在進行形で100パーセント良い成分しか含んでいないダブルパンチをモロに食らいつつも流石は時枝。

表面では仄かに柔和な雰囲気を纏うだけで、心の中では幾重にも共感し、同感した。

此処に限らず席によって設置されている緑。心や身体の疲れを癒し、疲れた目を休ませる緑。鎮静作用で緊張を緩和し、穏やかな気持ちを与える緑。

 

穏やかなこの一時を崩してしまいかねない事実を伝えなくてはいけない事に、時枝は静かに、画面の猫に気を取られている星咲に悟られないように目蓋を伏せた。

 



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星咲と五光星

話の中で触れますが、作者は「行きたい願望」を募らせるだけで一度としてまだ行けた試しがありません。
なので、当作品をご覧になられている画面の向こうの貴方様が一度でも、またはリピーターな方から見たら、ひょっとしたら「流れ」に違和感を与えてしまうかもしれないため、事前にお伝えさせて頂きます。
・・・・あ、猫カフェの話です。行ぎだい。
それでは、どうぞ!


 

それを顔に出すかは別として、天使(好きな物)を前にトキメキを感じない者など果たして居るのだろうか。

 

 

 

(も、もふっ・・・・・極上のモフみ・・・!!)

 

彼女は、ただ見ていた。

水が付着した部分から溶けて失くなってしまいそうな、引っ張り出せるものなら今直ぐ画面から引っ張り出して、母性を具現化したような優しさに溢れた抱擁で愛でたくなる綿菓子にも似たその毛並みは、実際に触れなくても視覚と脳がちゃんと再現していた。たったそれだけで広がる花園(妄想)の海。

サイトの顔を飾るに相応しいチョイス。撮影者さんありがとう&グッジョブ。

いとも簡単にハートを射止められた少女の目が遂に回り出した。

 

「・・・・星咲」

「!は、はいっ」

 

(私ってば先輩の前でなんという醜態を・・・!!)

 

“デレ”が全面に表れ始めた星咲の意識は、自分の名を呼ぶ声に現実に引き戻された。

(かぶり)を左右に振って、じっと集中する。

妄想に羽搏(はばた)く意識の端っこに残されたなけなしの理性が、時枝が発した声音の微々たる差異を感じ取ったから。

 

「・・・あのね。ココア、居たでしょ?前におれ達が遊びに行った一週間後に、病気で亡くなっちゃったんだって」

「!!」

 

生身の肉体には心臓がある。

それがドクリと強く脈打って止まった。そして、静かに拍動が再開する。

 

「そう・・なんです・・・?」

「うん・・・・それで、この子は新入りさん。名前はまだ決まっていないらしい」

 

生命の死。ヒトや動物が必ず迎える避けられぬ運命。そこに至るまで色々な要因が重なったり、鋏で一本の糸を切るみたいに突然であったりと辿る道は様々だが、来る客来る客に可愛がられていたココアという名の一匹の猫は、天寿を全うする前に『病気』という形でこの世を去った。

その訃報を知ったファン達は、店舗を通してココアに花やメッセージカード、好物などを渡したそうだ。

 

時枝は、画面の猫の頭部にそっと指先を添える。

家庭で二匹の猫を飼っている彼もまた、ココアの死に心を痛めた一人だった。

 

「ごめんね・・・?伝えなきゃと思ったら、こんなタイミングになっちゃって」

「いえ・・・・猫の寿命は人間より短いですけど、同時にデリケートでもありますからね。野良なら尚更。知らせてくれてありがとうございます」

 

カップの細かい氷が解け、水と混ざり、味が少しだけ薄まっていた。

 

「うん。だから、スケジュールが合ったら、ココアにも新入りさんにもご挨拶に行こうね」

「もちろんです!」

 

時枝からの誘いは一度では無かった。そもそもの切っ掛けは、お互いに好きな物が同じであった事。

隊員であるが故なのか、出掛ける先は猫カフェを第一候補に、ペットショップや喫茶店といった癒し系スポットだった。

好みが同じな者同士として何かアクションの一つや二つ起こせないだろうかと星咲も悩んではいたが、何分、相手は他部隊以上の仕事量を抱える部隊に所属している隊員の一人だ。大して親しくもない間柄なのに、まして後輩が先輩に外出のお誘いなどと出過ぎた生意気な真似が出来る理由も隙も勇気も、当時の星咲には無かった。

今日も、貴重な時間を割きながら、時枝は何度目かの誘いの言葉を少女に掛ける。

スケジュールに不都合が生じる以外に断腸の思いで『NO』は出さない星咲は、感謝の意も込めて、笑顔で大きく頷いた。

 

 

 

「───しまった・・・!」

「・・・・・??」

 

一瞬、寝ぼけ眼を開かせた時枝は袖の下の腕時計を確認すると、目を点にして頭上に疑問符を浮かべる星咲が突っ込む間も無く腰を上げて背を向けたかと思いきや、動きを止めて振り返った。

頬のあたりで切り揃えられた楊梅(やまもも)色の短い髪がサラリと揺れる。

 

「・・・ねえ、星咲。巻き込んでもいい?」

「?・・ああ♪了解っ、お供します!」

「よし。じゃあ、行こう」

「その前に、お茶買っていきます」

「そうだね。半分持つよ」

 

壁際に複数台設けられている自動販売機で人数分のお茶を買い、それぞれ腕に抱えて目的地を目指した。

 

 

 

「すみません、遅れました」

「戻ったか、充!」

「ええ。頼もしい助っ人も連れて来ました」

「来ました~」

 

時枝の背中からヒョコっと顔を出すと、入った先に居た何人かが立ち上がった。

 

「おおっ」

「星咲ちゃーーん!」

「ちょっ、隣で大きい声出さないで下さい佐鳥先輩」

「いらっしゃい、星咲ちゃん」

「ピンクホワイト綾様先ぱーいっ」

「わっ・・!」

 

嵐山を筆頭に、入室早々のアットホームで和気靄靄とした雰囲気と反応に、星咲は胸の奥で沸き始めた衝動を抑えながら素早い動作で抱えていたお茶をテーブルに置いて。

メンバーへ纏めて応える為か、両腕が千切れんばかりにブンブンブンと一頻り振ったのち、最終的に綾辻へとダイブ(と言っても駆け寄ってギュ、レベル)する形で落ち着いた。

綾辻も綾辻で、抱き留めた拍子にちゃっかり星咲の胴体に腕を回して頭を撫で撫でしてご満悦の様子。

 

(む───!)

 

ここで、佐鳥の瞳がキラリと光った。

こちらに背を向ける星咲の身体の下・・・・彼女の一挙一動で素直に揺れるスカート部分を、何らかの使命感に駆られた彼は最早条件反射並みの動きで咄嗟にクリップボードで隠した。「星咲ちゃんのセコム」を自称しているだけあっていちいち目敏い。

だが、そんなことをしなくても全然セーフである。

 

「ふへへ・・あ!皆さんの分のお茶ですドウゾ!」

「悪いな!」

「ありがと~~!」

「・・って、サトケン先輩は何してるんです?」

「フッフッフ・・・・これは佐鳥にのみ与えられた永遠の密命なのだよ・・!」

「ほ、ほう・・・?」

「気にしなくていいよ」

「はあい」

 

テーブルに置かれたお茶にそれぞれ手を伸ばす。

時枝も買ってからまだ半分近く残っているオレンジジュースを一口飲んだ。生身でないからとは言え本当に良く出来ているな、と改めて思う。ふぅ、と小さな小さな息を吐いてテーブルの空いたスペースにジュースを置いて自分のロッカーを開ける。しゃがんで鞄の引き手を摘まんだ瞬間、何かがチャラ、と手の中で揺れた。

 

(あ・・・・・・)

 

柔く緩めた手の中、キャラクター化された猫のマスコットキーホルダーが時枝を見つめていた。

───互いに初対面をクリアして2週間ほど経過したあの日。

その頃はまだ迅や林藤と一緒に来ることが多かったが、本部で顔を合わせた際に彼女が時枝にと贈った物だった。当時の様子をバッチリ見ていた同じ隊に所属している佐鳥曰く、「星咲ちゃんの片膝ついたあのフォームは、『渡す』じゃなくて確実に『贈呈』とか『献上』とかそう言う類(たぐい)だったよね。いや、まあ、ね?星咲ちゃん後輩だから分からなくもないけど、でもさちょっと端から見たらビックリっていうか理(強制終了)」らしい。

時枝が(おもむろ)に立ち上がらせていたが。

 

「そう言えばあなた、まだ隊は決まっていないらしいわね?」

「そうなんですよー。私は私で意思は伝えたあとに、エライ人達が話し合ってくれてるみたいなんですけどねぇ」

 

そんな会話が後ろから聞こえた時枝はテキパキと用を済ます。

気付けば室内には普段通りの静寂が訪れていて、ほとんどが紙と紙の擦れる音、電卓を叩く音、書き物をするなどの音だけがこの空間を支配していた。

 

〔あ、それ。懐かしいなあ、もう1年以上前か~・・・〕

 

内部通信。佐鳥からのものだ。

横目で後ろを見ると、時枝に背を向けてソファーに座っている佐鳥と目が合った。

嵐山隊でも、隊長である嵐山 准に次ぐほどの明るいキャラクターと茶目っ気のある性格で有名な佐鳥だが、静寂を破らない方法で話し掛けてきた彼に口許が僅かに綻ぶ。

 

(カバンじゃなくて、もっと内側につけようかな。落としたりして失くしたらすごく嫌だし)

 

得意気な微笑を浮かべている佐鳥に短い相槌を返してから、いつもと変わらぬ表情で持ち場に就いた。

 

 



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