仮面ライダーアマゾンズ pain is an CRoss-Z (血祭り)
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1話

吸って吐く動作を頭で考え、隙間風のような乾いた呼吸音を幾度と繰り返し、止まるかも分からないこの身体に命を必死に繋ぎ止める。

灰色の空の下、古びた廃園の湿った土が、泥と血に塗れた身体を一層冷やしてくる。

既に満身創痍、身体中の骨や肉はぐちゃぐちゃにミックスされ、何が骨格で何が内臓かも分からなかったが不思議と痛みはなかった。

もはや痛覚なんて残っていなかった。

目の前は、目の出血のせいなのか視界全てが地獄の底かと見間違うほどに真っ赤になっていた。

その赤い視界に、ふと刺々しい、ブーツのような足が入ってきた。

直後、何かに髪を掴まれ持ち上げられ視点が上がり、目の前には、楕円形の大きな目と、頬が裂けたような大口をした顔があった。

忘れるはずもない、赤い顔をした、俺を殺しに来た奴の顔がそこにあった。

 

「…ああ本当、目が見えなくて良かった。」

 

そう言い奴は、空いた片手で俺の顔をなぞるように触ってきた。生まれた赤子を扱うようように、愛おしそうに首筋を嗅ぎ、顔を撫でる。

目の前の奴こそ、父親。

俺を殺しに来た、俺の父親。

「お前は本当に、七羽さんによく似てるなぁ」

僅かに涙ぐむような声で干渉に浸る。

その視力の失われた白い目。

レンズのようなその目は視えるはずのない息子の顔をぼんやりと写していた。

異形の手は、己の息子の顔を再三撫で尽くしたのち、自身のベルトに付いたハンドルに伸びる。

「天国に行ったら七羽さんに、母さんによろしく言っといてくれ」

ああでも、と男は付け足し。

「お前はいっぱい人を不幸にさせちゃったからなぁ…もしも、お前が地獄に落ちたなら」

数秒の沈黙の後、ハンドルを回し、ベルトについた二つの目が、鈍く緑色に光る。

「俺も後で行くからさ、その時は一緒に地獄巡りしような」

ベルトから延びたエネルギーのオーラが手に集中していく。

生まれてきて、たった数年だった。

楽しかった記憶は、女の子を好きになった事、愛してくれた母の温もりの事、友達と過ごした記憶と。

辛い記憶ばかりだと思っていたが、自分が思っていたよりも、自分は恵まれていたのかも知れない。

でも、嫌だ、まだ足りないんだ。

長瀬達から聞いた、学校の事、スポーツの事、オシャレの事やバイクの事。

見てみたい事、やってみたい事、感じたい事、まだまだいっぱいある。

生きたいだけなんだ、生きていたいだけなんだ。

なんでそれがダメなんだ。

それだけでいいんだ、贅沢は言わない、さっき言った事全部じゃなくてもいいんだ。

生きていたいんだ、生きて…

ああ、ダメだ、考え事をしてたら呼吸するのを忘れていた。

もう身体は動かない、肺や心臓も力なく、僅かに動いてる気がする程度であった。

「…じゃあな、千翼。俺が責任持って地獄に送ってやる」

腹へめがけ、男は自身の息子に最後の一撃をいれようとする。

ああもうダメだ、これ以上は意識を保てない。

辛い事ばかりだったけど、楽しかった事もあった。

(母さん、イユ、長瀬、みんな…)

「オラァッ!」

突然横から、威勢のいい声と共に何かが男の身体を吹き飛ばした。

自身もまた、髪を掴まれ宙ぶらりんであったその手を離れ、突然地面に叩きつけられた。衝撃の余り身体から離れかけていた意識が僅かに戻る。

視点が再び横ばいになり、生い茂った雑草のせいでよく見えなかったが、目に映ったその光景は。

 

先程まで自分を殺そうとしていた父親の姿と。

 

全身を燃やしながら立ち、何かを纏った誰か。

 

(あれは…龍?)

 

そこで意識は暗闇の中へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

「…ん、あれ」

気がつくとそこは、よく知っている見慣れた場所だった。

teamXの溜まり場だった、あのクラブ

だった。

かつての仲間達と共にたむろした、あの場所だった。

以前の父の襲来と乱闘により無茶苦茶になってしまったが、床は千翼の寝ている範囲だけは瓦礫が避けられていた。

だがガラスの破片が散っているのか仰向けになった背中にはチクチクとした痛みがあった。

「ぐっ、ああッ!」

長椅子に寝させられていた身体に力を入れてはみたが、呻いてしまう程に強烈な痛みが全身に走りとても起き上がれない。

背中を刺す痛みの方が幾分かマシだった為、再び身体を横にする。

だが、この痛み。そして抗えない空腹感。

先程までその痛みさえ無くなるほどの満身創痍からここまで回復しているという事は。

「生きてるのか…おれ」

天国というにはあまりに見知った場所、痛みと重み、生きてるという実感がそこにはあった。

(助かったのか、あそこから?でもどうやって、あんなどうしようも出来ないところから。どうして)

考えれば考える程意味が分からず、全身の痛みに加え頭痛までしだしたが、それはこの場所へと繋がる階段から足音が聞こえてきた事でピタリと止んだ。

何者かがこちらへ来る気配。

そう感じ取り千翼は限界まで息を気配を殺した。

C4か、はたまた父か。一般人が来てもそれはそれで困る。これだけ腹をすかした状態はほぼ初めてだ。人を見た瞬間襲うのではという恐怖もあった。

しかしどれだけ考えを巡らせても、身体は動かず、入り口の方をただじっと睨むことしか出来なかった。

だが、現れたのはそのどちらでもなく。

「お、目ぇ覚めたか」

「…ひろきっ!」

千翼のよく知っている、友人の顔だった。

放浪していた千翼を拾い、最初の頃は喧嘩も多く良いように使われてると思ってたが、気にかけてくれ、そして彼の助力が無ければきっと自分の命があと少し短いものになっていただろうと思う。

そして何故か、友人だろうと御構い無しに刺激されるはずの空腹感は、この男に対しては全く感じられなかった。

「ひろきっ!お前が助けてくれたのか!?」

だが、彼は。

「あー…わりぃけど、オレひろきって名前じゃねぇよ」

自分の知っている、彼ではないと否定した。

「…は?お、お前何言って」

「おめぇ丸々1週間は寝てたぞ」

自分が知る顔のこの男が、自分の知っている彼ではないと言う。

「じゃあ、お前は誰なんだよ…」

「あ、ああ悪りぃ。オレの名前は万丈、万丈龍我だ。お前は?」

「…バンジョー?」

徐々に戻ってきた全身の痛みで頭が冴えてきた。激しい痛みが、寧ろ冷静にさせてくれた。

千翼は力なく、言われた名前を復唱する。

「バンジョー、リュウガ。バンジョー…バンジョー」

「で、お前なんて言うんだよ名前」

「…千翼」

「ええっとこういう時は…なぁ、千翼。今は何年の何月だ?」

「え…2017年の6月だけど…」

「2017…なんで時間が戻ってんだ…?」

「そもそも、何の話してるかさっぱりだ。そっちこそ本当にヒロキじゃないの?どっかで頭打っておかしくなったんじゃないのか?」

「まぁ宇宙で爆発したけど、頭は打ってねぇから多分大丈夫だ」

「絶対大丈夫じゃなさそうじゃん…」

「こっちだって訳わかんねぇよ。死ぬ気でエボルトと一緒に自爆したのになんか生きてるし。目が覚めりゃスカイウォールはねぇし。なんだよ東京って、東都じゃねぇのかよ」

「なぁ」

「ん?なんだよ」

「聞かせてくれないか、その、お前の言ってる世界の事。ほら、なんか、分かるかもしれないし」

「あー、それは別にかまわねぇけど」

そういうと万丈は、自分の知っている事を語り出した。

スカイウォールの惨劇というのがあった事、それにより日本は三つの国に分かれてしまったという事、結果戦争が始まった事。

そして人々を、愛と平和の為に戦った仮面ライダーという存在の事。

最初は、長瀬が自分をからかっているのだと、悪い冗談でも詳しく聞いていけばいつかボロが出る、そう思ってた。

しかし、聞けば聞くほど、逆に彼の言う彼の世界はドンドン肉付けされ現実味をおびていった。

万丈は決して説明が上手いとは言えなかった。長瀬もそういう事は下手くそで不器用だったが、彼ほどではない。だからこそそれが余計にその世界観の生々しさ、現実味を帯びてきてしまい、彼が今語っている世界の住人であるというのを後押ししていたように感じた。

「そんで、俺はそのエボルトを道連れにその時空の裂け目に飛び込んだって訳だ。どうだ?分かったか?」

「え…」

「え?じゃねぇよちゃんと聞いてんのか?」

「ああ、うん…お前がひろきじゃないって事は、十分に分かった」

信じられない事だが、信じるしかないのだと思った。

しかしやはり疑問は残る、そんな別世界の人間がなぜこの世界に来てしまったのか。

そのことについて尋ねても

「知らね、戦兎にでも聞いてみねぇとさっぱりだ」

逆に言えば、その戦兎、彼の言っていた桐生戦兎という人にさえ聞けば万事解決なのだろうか。

聞く限り、物理学者でありとても頭が良いのだと思われるので、きっとそうなのだろう。

自意識過剰なナルシスト、だそうだが一体どんな人物なのだろう。

「戦兎って人、なんか凄い人なんだな」

「そうだな」

彼は少し物悲しそうな顔をしながらそう言った。

それが少し、気がかりだった。

「やっぱりその、戦兎って人とかほかの仲間にも、会いたい?」

「まぁ、ここがC世界ってので、戦兎が言った通りならみんなこの世界のどっかにはいるかも知れねぇけど」

「じゃあ、探して見ればいいじゃん」

「気楽に言ってくれるぜ。探してるよ、ずっと」

万丈はそういい近くに転がっていたバーカウンターの椅子を立たせ、そこに腰かけた。

「でも全然みつからねぇんだよ。この街、東都と全然違ってよくわかんねぇし」

そう言った直後、ああ!と叫び突然立ち上がる。

座っていた椅子は勢いよく万丈の後ろへ吹っ飛び大きな音をたて壁にぶち当たる。

「そうだよ、お前この街の人間なんだろ!?道案内とか、出来るか!?」

「あ、はぁ?」

「頼む!なんでもいい、このままだとこの街ぐるぐる回って終わりそうなんだ!この通り!」

突然何をと思ったが、確かに理にはかなってる。

助けてくれた借りもある。

それに彼はやはり長瀬に似ているからだろう、なんだか放ってはおけない。

だが、それには千翼にはいくつかの問題もあり。

「そ、それよりまずは身体直さないとどうにも…」

「あ、そっか…ていうかお前、傷は大丈夫なのかよ。なんかここに運んできちまったけど」

「あ、そうだ。その部屋の隅に積んであるダンボール、あるか?」

そういいながら、首や視線を必死に使い、そのダンボールの方へ万丈の注意を向ける。

「ああ、あれがどうした?」

「そのダンボール、こっちに持ってきて欲しいんだ。」

そう言われ万丈は千翼の言っていたダンボールを持ってくる。

「それに入ってる中身、ちょっと出してくれないか」

中を開けてみると、ゼリー飲料のようなものが大量に入っていた。

「それさ、開けて飲ませてくれないか」

「お、おう」

そのゼリー飲料を開けて口元に持っていくと、それを死に物狂いで千翼は飲み出した。

「おいおいもうちょっと落ち着いて飲めって──」

だがそう言いかけたところで、彼はそれを飲み干しそして、起き上がった。

「…おい、もう起きて大丈夫なのか?」

「ああ、うん。助かった、ありがとう。後は自分で出来るから」

そう言い今度はダンボールの中に手を突っ込み中のゼリー飲料を貪りだす千翼。

さながらそれは、飢えた獣か餓鬼のようだった。

一心不乱に、プラスチックの割り吸い出し飲み干し傍に捨てるというのを繰り返し、一箱無くなった所でようやく千翼の動きが止まった。

「…うん、もう、大丈夫だ」

そういい万丈の方へと振り返る。

「お前…なんだよ、それ」

振り返った千翼の顔や身体は。

「お前、本当に人間かよ…」

思わずそう言ってしまうのも無理はなく、千翼の身体は見た限り健康そのもの、傷も完全に癒えていたのである。

だが、千翼はその言葉に酷く顔を歪ませた。怒りとも、怯えとも取れるその表情に万丈も何かまずい事を言ったのではと思った。

「あ、ああ、なんか気に障ったか?」

「お、俺は!人間、だから…大丈夫、何も、変な事は、ないから」

「そっか、いや、本当にすげぇなぁと思っただけでさ」

「別にいいよ、でも」

そういうと彼はしっかりとした足取りで、万丈の方へと近づていく。

それに数歩引いてしまう万丈だったが、そのまま顔を数センチの距離にまで近づけ

「でも、二度と人間じゃないなんて、言わないでくれ。頼むから」

「…ああ、分かったよ」

その口調や態度の余裕のなさに、万丈も何かを察しそう約束した。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡る事1週間前。

 

「でぇ?結論から言えば?結局のところ?千翼を?取り逃がした、というわけか」

大都会の街並み、巨大なビルの最上階のオフィス。

スーツ姿の40代程の男が、パノラマになったそのオフィスの真ん中に鎮座している。車椅子に乗り、全員をミイラのように包帯で巻かれ滑稽にさえ見える程に痛々しい姿で。

「時に君達。労働と対価の意味はお分りかな?誰でもわかる大変初歩的な一般常識だね?」

君達、と言葉を向ける先には。

全身血塗れで真黒の防具を身につけソファにだらしなく横になっている男と、ノートタブレットを持ちこちらも気だるげに壁に寄りかかったメガネ姿の男性がいた。

「我々は、君達をプロだと見込んで、加えて潤沢な装備を揃え、さらに高額な援助や支援をして、君達を雇っているんだよ」

そう言うとスーツの男は、だらりと締まりのない二人に向き

「なのにだ…アマゾン1匹満足に殺せんとはどういう事だぁッ!!」

外からも聞こえるのではないかという声で罵声を浴びせた。

「何も捕獲しろなんぞ言ってないんだぞ!殺せと命じた筈だッ!駆除だ駆除ッ!駆除駆除駆除駆除ッ!簡単な事だろうッ!何故出来んのだぁッ!」

一面のガラスが割れるのではというような、耳をつんざくその咆哮に、アンニュイな様子の二人も流石に眉間にシワがよる。

「いやぁでもぉ橘きょくちょー、流石にアレを他のアマゾンと一緒にするのはどうかと──」

スーツの男、橘雄悟にメガネの青年、札森一郎が言う。

「シャラップッ!君には言っていない!フゥ…黒崎君、説明願いたいね」

橘はそう言いソファにのさばる男──黒崎武に矛先を向ける。

「ハア…説明も何も、見てただろうが。腑抜け共が三文芝居に感化されて戦意喪失、おまけにガキの業務妨害、その隙に二人仲良く愛の逃避行ですよぉ」

首を回しソファにさらに浅く座りながらそう説明する黒崎に、橘は目を見開き、顔を赤く小刻みに震え出すが、目を閉じ大きく深呼吸をして、何も言わず自身のデスクへ行き、そこから何かを取り出した。

「これはまだ試作の段階なのでね、正常に作動するかは未知数なのだが」

彼は奇跡的に無事であった左手でその何かを持ち二人の座る場所へと戻る。

「アマゾン探知機、とでも命名しておこう。アマゾン細胞特有の電気信号や熱を感知し、知らせる装置だ。これと同じモノを他に5つ用意してある」

橘はそのアマゾン探知機を黒崎へ投げる。が、力が入らない為か、或いはわざとなのか、探知機は黒崎の足元へと軽い音を立て落ちた。

「いいかね…これが最後のチャンスと思いたまえ」

そういうと落ち着かせた表情が一変、怒り様を顔にさらけ出し

「今すぐにあのオリジナルを探し出して、木っ端微塵に粉砕してこいッ!!分かったかッ!!」

最後の最後に特大の雄叫びを上げ、彼ら二人に退出を命じた。

「んでどうしますぅ?」

「どうするもねぇだろ、今すぐイケる奴全員呼び出せ」

黒崎はそう言い札森に各隊に連絡をするようを支持する。

「次でぜってぇぶっ殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、探すの手伝ってくれんのか」

「…それが、俺ちょっと命狙われてて、だからあんまり表を出歩きなくないっていうか…だから、助けて貰っといてなんだけど、あんまり手伝えない」

その後も千翼と万丈はクラブで話を続けていた。

千翼は未だダンボールの中のゼリー飲料を飲み続けているが、先程と比べると落ち着いた様子で食べていた。

「そっかぁ、まぁそうだよな。あんな状況だった訳だし。そのふぉーしー?って奴らもなんかいるんだろ?」

「そうだ、ずっと気になってたんだ。ねぇ万丈、あれなんだったの?」

千翼は、自分が助けられた際の光景を万丈に話す。

自分の命を救った恩人。恐らくはこの万丈なのだろうが、しかしあんなアマゾンはこれまで見たことがなかった。

「さっきも言ったろ?アレが仮面ライダーって奴だ」

「あの場にはとう──赤いアマゾンと緑のアマゾンがいたはずだ。両方とも相当強いんだ、どうやって逃げたんだ?」

「飛んで」

「飛べるの!?」

「そういう風に戦兎が創ってたみたいだからな」

「へぇ…凄いんだな、戦兎って」

「いやぁアイツはただの変人だぜ?」

万丈はそういうと

「なぁ、飲み物とかってこの辺のやつ飲んでもいいのか?ここに来てから何にも飲んでねぇから喉乾いてんだよ」

「あ、ああ。多分冷蔵庫の中が無事ならそんなかに何かあるはずだ」

「へへ、わりぃな」

と言い万丈は飲み物の物色を始めた。

 

 

 

ふと、イユの事を思い出した。

彼女は鳥類、カラスのアマゾンだった。

戦っている時もよくその能力を使って敵を翻弄したりしていた。

しかし千翼が覚えている限り、飛行や滑空をするのはあっても大空を飛ぶ、といった事を彼女はした事がないはずだ。

彼女は、死体からアマゾンへと生まれ変わる事で生き返った子だった。

シグマタイプと呼ばれるアマゾンは、喜怒哀楽といった感情に極端に乏しくなる。

恐らくは好奇心などもそうだ。

きっと、イユは飛べたのであろう、でもそれをしなかったのは、無駄な行為だと判断した為だ。

もし出来る事なら、イユと一緒にあの空を飛ぶというのも、やってみたかったなと千翼は思った。

 

「飛んでみたかったな」

ポツリと口からそう出てしまう、すると粗方飲み物を荒らし終わった万丈が

「あー空から探すってのもありだな…じゃあついでにお前も飛んでみっか?」

そう千翼に提案する。

「な、いいよそんな。大体そんな人が空飛んでたら目立って仕方ないだろ。見つかったらどうするんだよ」

「見つけやすくなるだろ?」

「見つかったら俺は殺されるんだぞ!」

「あそっか」

「万丈ってもしかして、凄くバカ?」

「バカ言うなよ!せめて筋肉付けろ筋肉!」

「意味わかんないし…」

無駄話もほどほどに、ずっと気になっていた事を千翼は彼に聞いてみる事にした。

「ねぇ、万丈はなんで、俺を助けてくれたの?」

あの公園、イユの思い出の場所、イユの眠る場所、自分の墓場となりかねた場所

あの場には、自分を含め3人のアマゾンだけだった

自分はそこで生きる為に戦い、死ぬはずだった

「ああ、それがオレにも分かんなくて。気が付いたらお前の事助けてた」

万丈は気が付いたらこの世界にいたのだと言う。

目が覚めると、街中裏路地に一人倒れており当てもなく放浪していたが、エボルトとの戦いの疲れからかすぐにまた意識を失った。

その後再び目を覚ますと、彼は赤いアマゾン、アマゾンアルファの目の前に立っていた。

記憶が曖昧だったが自分は後ろにいる男を助け無ければならないと使命感があり、なんとかしてあの場にいた二人を撒いたらしい。

「で、一応お前を病院に連れていったんだけど」

「は!?え、そんな事聞いてない!」

「言ってなかったからな」

しかし病院に連れて行ったはいいが、勿論そんなボロボロの患者を個人が運んできたという事で万丈自身にあらぬ疑いをかけられたりそもそも千翼に合う血液型の血のストックが切れかけていたりとその後もかなりの大騒動だったそうだ。

「なんか急患が一斉に来てたらしくて、それで血液が足りねぇって事だったんで、たまたま俺とお前の血液型が一致したからそのままお前に血を渡したりして…あ、治療費はお前の財布から抜いちゃった」

「ええ…」

「仕方ねぇだろドルクが使えねぇとか聞いてなかったし」

「何それ…まぁ、でもうん。色々助けてくれたんだな」

「俺もなんでお前にここまで助けてんのかはよくわかんねぇけどよ、でも…」

万丈が言いかけたその時、またもクラブへ通じる階段から足音が聞こえて来た。

時刻は既に夜中の3時、クラブであれば稼ぎ時の時間帯だろうが、電光看板の灯りも付いていないこの店に来るのはteamXのみんなやオーナー、そして──

降りてくる人数は聞こえる音からして10~20人程、こんな所にそんな大所帯で来るのは千翼の知っている限り1つしかなかった。

「4C…!万丈、隠れろ!」

千翼はそう言い、万丈を引っ張り込んでカウンターの裏へと隠れた。

そして少しして武装した人間がクラブへと降りてきた。

「あれぇ、おっかしいっすねぇ。確かにここに反応してるんだけどなぁ」

そう言いながら札森はトランシーバーのような機械を持ち不規則にクラブ中を歩き回っていた。

「発見に1週間も掛かる辺り技術班のコレも大した事ねぇな」

気怠そうに黒崎はそう言い、だらりと下ろして持っていた銃を構え

千翼達の隠れていたバーカウンターへ発砲した。

「うぉッ!?」

「ばッ!ば、万丈!」

「そこにいるんだろぉ?出てこいよぉ」

隠れていて視認出来ないが、カウンターの周りを4Cの部隊が取り囲むのが分かる。

半六角形で壁際にあるこの机は、包囲するには絶好のポイントだったのかも知れない。

完全な判断ミス、鉄で出来たエアロック扉の個室に隠れた方がまだマシだったかも知れない。

いや、今後悔しても仕方がない、千翼は咄嗟に取ったドライバーを腰に撒き、注射器状のアイテム──アマゾンインジェクターを差し込む

「…あれっ!?なんで!?」

インジェクターを差し込んだのに変身出来ない。

普段であればすぐにでも身体が変化するはずだった。故障か、それともダメージが大きすぎた結果なのか。

原因が全く分からない、今は一刻も早くこの場から逃げなければならないのに。

焦りようは隣の万丈も見て取れた。

「おい。どうしたんだ!?」

敵には既にこちらの事は気付かれてるが、バレないよう念のため小声で聞く。

「出来ない…なんで…」

と何度も何度も注射器の押し子を押している。

「なんで…なんで…」

「もうやめとけって!ここは任せろ」

万丈はスカジャンの裏から何かを取り出した。

歯車がデザインされたハンドルの付いたそれを腰にあてるとベルト状になり腰に固定された。

それに謎のアイテムを差し込むとベルトの右手側についたハンドルをグルグルと回し始めた。

「いいか、いっせーので飛び出すぞ」

「ちょっと、何考えて」

「いっせーの!──」

千翼の腕を引っ張り上げた万丈は腰についたドライバーに何かを差し込んだ。

<Aer you ready?>

「変身ッ!」

謎の音声が鳴り直後に万丈の周りを管が取り囲む。

4Cは飛び出してきた二人に一斉に射撃を始めたがその管がバリアのようになり一切寄せ付けなかった。

<ウェイクアップクローズ!ゲットグレートドラゴン!>

<イェーイ!>

万丈の姿は、青色ベースの戦闘スーツと思しき姿になっていた。

「捕まってろよ!」

千翼を抱き抱え、地上へと続く階段を上り地上に出る。

それに続き4Cも階段を上り銃を構えるが、二人はそこから地面を蹴り上げ一気に建物の高層へとジャンプした。

 

 

 

「なんすかあれ…」

建物の屋上を次々と渡り遠ざかっていく二人を見上げ札森が言う。

「知るか、新種のアマゾンかなんかだろ」

「でもあれ、さっき突っかかってきたガキっすよね?」

「なんなんだよ…あッ、つぅ…」

見たものをイマイチ飲み込めず、持病の頭痛がし出し乗ってきたバンに持たれる黒崎。常備してある頭痛薬を取り出し、用法を無視したような数を服薬する。

「クッソ、また千翼を狩り損ねるしアイツは変なのになってるし」

そういい、おぼつかない足で車に乗り込もうとし「あぁ!割にあわねぇ!」と叫び力任せに車体を蹴飛ばした。

 

 

 

「ねぇ万丈」

「なんだ?」

ビルを上へ上へとジャンプし渡り歩く万丈。

目が覚めてからあのクラブにいたせいか時間間隔がなかったが、外は既に日は落ち冷たいビル風が担がれた体を刺すように吹く。

空には満月があり、高いところを渡っているせいか、いつもより近く感じる。

 

「お前は、ひろきじゃないんだろう?」

「ああ」

「じゃあ、なんで俺のことを助けてくれるんだ?」

「それは…」

しばらく考えこんだのち、万丈は

「…愛と平和のため、かな」

と、答えた。

 

「なにそれ」

意味はよくわからなかったが、何故だかそれがおかしく笑みを漏らす。

「あーなんで笑うんだよそこで!」

「ごめんごめん。そうか、愛と平和、か」

自分の人生は、そんなものとは無縁だった。

平和はなく、愛情も自分自身が喰らった。本能に理性が耐えられなかった。

この呪われた身体に、そんなものとは到底無縁のように感じる。

だが、それでも、そうだとしても。

俺は、生きたい。

 

「いいな、愛と平和」

「…ああ」



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2話

「はあー…めんどくせぇ」

打ちっぱなしのコンクリートで囲われた空間、白い蛍光灯と果てなく高い天上。ここは4C駆除部隊、黒崎隊の待機室。

「なんなんでしょうねぇ、アレ。研究部門もそんなもん知らないんですって。あ、見てくださいコレ、SNSでめちゃくちゃ拡散されてますよ。スパイダーマン東京に現るとか言って──」

「ちょっと黙ってろ」

椅子から落ちそうな程浅く座りだらりと灯りの少ない暗い天上を見上げていた黒崎は首だけを札森の方へ向けて言った。

「出れそうな奴は後どれくらいいる」

「ええー黙ってろってさっき」

「ああ?」

「…うっす」

黒崎に指示され、札森は持っているタブレットPCで所属隊員の現状を専用アプリで確認する。

「ええっと黒崎隊3名赤松隊は非番合わせて7名藤尾隊は…ああ、そういやウチと統合してたんでしたっけ」

「フルで10人かぁ…」

「あ、俺と黒崎さん入れて3人です」

「…チッ」

黒崎は舌打ちをすると再び天上を見上げる。

どうしても納得出来なかった。何故あのガキ──長瀬があんな事になっていたのか。

いや、そもそもアレは本当にアマゾンなのか。

一瞬しか見えなかったがガジェットもシステムも今まで見てきたアマゾンそのどれとも明らかに違う。まるで別世界の物を見せられた気分だ。

あの捜索もほぼ千翼は死んだものと思っての結果ありきのはずだった。

アマゾン探知機は研究部曰く死体であろうと検知可能、その為あのミッションの真意は千翼というオリジナルの回収だったのではと黒崎は考えていた。やはり何か裏があるのではと

「やっぱ食えねぇなあのタヌキ」

「え?何かいいました?」

「何にも言ってねぇよ黙ってろ」

目を見開き黒崎はとぼけた物言いの札森の方へ再び向いてそう言った。

 

「おや、休憩中だったかな?」

声のする方へ二人が目を向ける、部屋のテーブルに置かれた液晶画面に橘が映し出されていた。

「ご苦労だったね黒崎君、話は情報部から聞いているよ。まさかあんなイレギュラーが現れるとはねぇ…想定外だったッ!」

いつものわざとらしい大げさな物言いで橘は言う。

「この前はああは言ったがまぁ、そういう事ならば仕方がないなぁうん」

「じゃあもう駆除はいいんですかぁ。もうやる気が出ねぇよ」

「そういう訳にはいかない…が、あちらに行動がない限りこちらから下手に出だしも出来ないだろう何せ──あの水澤悠と鷹山仁を倒した相手だからね」

橘がそういうと彼が写っていた映像は画面内の左下へと移動し、代わりに表示された画像に、二人は驚愕した。

地に伏せた二体のアマゾン。外的損傷はあまり見受けられないが、血に塗れ力なく倒れている様子は恐らくそれなりのダメージを食らっているのが分かる。

「これは情報部の報告で、1週間前に衛星から撮影されたものだそうだ。既に彼らは現場からは逃走しているので行方は分からないが、これだけでもあのイレギュラーの恐ろしさを理解出来るだろう」

「局長…ありゃアマゾンなのか、それとも」

「それも今情報部が必死に分析しているよ。だが、一つ興味深い話はある。イレギュラーは千翼討伐の際妨害に入った少年に似ているという話だったね、実は──」

 

 

 

 

 

「ほらよ、お前本当に水だけでいいのか?」

「うん。食べるのは、あんまり好きじゃなくて」

4Cの襲撃から逃走後、千翼と万丈の二人はとある漁師小屋にいた。

夜更けの暗く、しかし満月の月明かりが太陽にも負けない程に煌々と海や海岸を照らしている。

万丈は道すがら寄ったコンビニであらかた物を買い、小屋の前でライターで火をおこし、沸かしていた湯をインスタントラーメンに注いでいた。

「食べるの好きじゃないって、食べなきゃ力でねぇだろ」

「まぁ、そうなんだけど。ちょっとお腹空かなくて」

「ふぅん、そっか。じゃあ俺はコレをっと。いやぁ本当C世界でもこのカップ麺売ってて良かったぁ!なんか世界が全然違うと居心地悪いっていうかさ、だから馴染みのもんあるとアガるっていうかさ」

ラーメンを啜り頬張りながらそう言う万丈。

「ていうかこんなトコ良く知ってたな」

「うん、まぁ。ここ、小さい頃に母さんと暮らしてたんだ」

「へぇ。変わってんな」

「色々あったから」

千翼はそう言うと、万丈に渡された水の蓋を開けて飲む。

今日は雲も風もなく、さざなみの音がかすかにこちらにも聴こえてくる。

小さい頃、母さんと過ごしたあの頃を思い出す。

あの頃は、少ない自分の人生にとって、更に短い間だったが、とても幸せな時間だった。

後で考え分かったが、母さんは恐らく父さんから俺を逃す為にあんな放浪生活をしていたのだろう。物知らぬ頃はそれを何とも思っていなかったが、teamXのみんなの話を聞けば、それが普通ではなく、他人から見れば決して恵まれていたとは思えなかった。

だがやはり、幸福な時だったのだ。母と遊び、夜は寄り添い抱かれて眠ったあの頃は。

その幸せも、自分が喰らってしまったのだけれど。

自分の中に潜む、もう一つの本性が、本能が、野生が、それを良しとはしなかった。

「なぁ、そういやさ」

「え、あ、な、何?」

万丈に声をかけられ、千翼は思い出とトラウマに浸りきっていた意識を現実に引き戻す。

「お前、なんかそのベルト。あん時なんかしようとしてたけど、それもしかして変身出来たりすんのか?」

「あ、ああコレ?うん、万丈のとは全然違うけど、なんかそんな感じ」

「ふぅん」

「まぁ、何故かあの時は出来なかったんだけど」

「あー、じゃあ今なら出来るのか?」

「…試してみる」

千翼はそういいベルトを装着し変身しようとする。だがあの時と同じ、装置が作動せず身体は変化しない。

「やっぱりダメだ…何が原因なんだろう」

「ハザードレベルが下がってるとか!」

「ハザ、何?」

「あ、そっかお前は関係ないもんな」

「…でも、それかも知れない」

千翼はここに来るまで、万丈と出会い今に至るまでずっと引っかかっていた事があった。

あれだけの消耗ののち、万丈にあのゼリーを渡して貰うまでの間、食人衝動が全く起きなかったのだ。

それだけじゃない。先程寄ったコンビニでも、外で待ってると言ったのに万丈が「財布お前しか持ってないから来てくれ」と無理矢理入店させられたが、そこにいた店員を見ても、腹が空かなかった。抑制剤はとうの昔に切れているのに。

(俺の体の中で、何かが変化してるのか…)

「おーいどうしたー」

「え、ごめん何でもない。どうも調子が悪いみたいで」

「そっか」

千翼はとりあえずその場を誤魔化した。

まだ出会って間もない万丈に、食人衝動の話は流石に出来ない。もしそんな事を言えば、最悪万丈すらも敵になるかも知れない。そう考えていた千翼は自分の事を話せずにいた。

だが千翼は追われる身である、いい加減万丈もその事に不審がるはずだ。そもそも普通ならまず最初にその事を聞いてくるはずだ。

万丈が自分を気にかけているのかそういう発想に至らないだけなのかは分からない。

それに敵に回るかも知れないとも思っているが、同時に万丈にならこの事を話しても味方でいてくれるのではという期待もあった。

長瀬に似ている、それだけの理由だが、だがやはり彼は見た目だけでなく何処か長瀬に似ているのだ。

千翼は言うべきかと躊躇っていた。

「ねぇ、万丈。あのさ、実は俺──」

 

「探したよ、千翼」

 

火が燃やす木の音、波の音、自分達二人の声以外の、別の声が海岸側から聞こえた。

聞き馴染みはなかったが、聞き覚えはあった。

かつて4Cにいた頃、執拗にイユを殺そうとした、そしてあの公園で俺を殺そうとしたアイツの声。

「君を、殺しに来た」

 

「──ッ!」

千翼は咄嗟にドライバーを腰に装着させるが、自身の変身能力がなくなっている事を思い出す。

ゆっくりと自分達の方へと向かいながら彼は自身のドライバーへ手をかける。

「アマゾン」

そう小さく発し、千翼と同じように注射器状の装置を押し込む。緑のオーラやエネルギーが不気味に燃え上がった。

「あ、アイツあの時の!」

万丈は変身した彼を見てようやくアレが何者なのかが分かった。彼もまたベルトを装着しボトルを差し込みハンドルを回した。

「変身ッ!」

先程の青い姿へと変身した万丈は、千翼を自分の背中の後ろに回るように立ちファイティングポーズを取った。

「…君はあの時の赤い龍のか」

「ああそうだよ。コイツに手ぇ出してみろ、またぶっ倒してやる!」

「君は、彼がどんなに危険なのか分かってない」

「…だからなんだよ」

「彼は、放っておけばこの世界を破滅させかねない存在なんだよ」

「・・・」

「彼はね、いや彼の持つ細胞には人をアマゾンに変えてしまう性質があるんだ。それは人に感染に、ドンドン増える。だから放っては──」

「やめてくれっ!」

千翼は咄嗟に叫んだ。隠して起きたかった事実を、自分で伝えるべき真実を、こうも直接的に伝えられるのが耐えられなかった。

自分から言えばまだ決心もついた、だがこれでは、自分は嘘つきであり、助けてくれた人を騙していた卑怯者になる気がしたのだ。

それを聞いた万丈の反応を、見るのが恐かった。

「なぁ千翼」

万丈は、背中にいた千翼の方を振り返る。

変身している為仮面がついており、万丈の表情を読み取る事が出来なかった、それが千翼にとって尚の事恐怖だった。

自分が殺される事への恐怖、というより自分を守ってくれた人が敵になるかも知れないという恐怖があった。だが万丈は。

「やっぱお前、すっげぇ大変な目にあってたんだな」

中腰になり自分を見上げるような姿勢でそう言った。

「分かるぜ、自分が世界滅ぼすかも知れないなんてやっぱ嫌だよな。俺もそうだったし」

「え?」

「でもさ、やっぱ普通死にたくはねぇよな。オレは──まぁ、自分でもよくわかんねぇけど」

「万丈…」

「まぁとにかく、俺はお前を守る。約束だからな」

「約束…?」

「…まぁアレだ。とりあえずは」

万丈は立ち上がり、再び緑のアマゾン方へ

「あんたをぶっ倒さなきゃ先には進めねぇって事か」

そういい、戦う意思を緑のアマゾンへ向けた。

だが、緑のアマゾンはそう言ってまた構え直す万丈ではなく、千翼の方へと視線を向けていた。

「千翼、なんでアマゾンにならないんだ」

「…したくても、出来ないんだよ」

「それは、どういう──」

「分かんないよ!だからこうして守って貰う事しか出来なくて、戦えるなら、俺だってあんたを──」

そう言いかける千翼だったが、突然緑のアマゾンは変身を解いてしまう。

それに千翼は困惑し、喋るのをやめてしまった。

「何かが、君の中で起きているのか…」

「お、おい!やんのか!やんねぇのか!」

「やめておく。君には仁さんと二人がかりでも一度負けてる、実力差があり過ぎる。それよりも」

変身を解いた彼は再び歩き出し、千翼の方へと近づいていく。

「おい!それ以上近づいたら──」

叫ぶ万丈を尻目にドライバーを手放し、彼は敵意がない事を示しながら千翼へとさらに近づく。

「千翼、君を調べさせてくれないか。確認したい事がある。君を殺すかは、その後で考える」

もちろん千翼は彼のいう事が信じられなかった。一度自分を殺そうとした相手だ、罠かもしれないと。

だが、彼からは嘘をついているような感じがなかった。そしてそれ以上に、自分の体に起きている変化を、知りたかった。

 

「分かった」

「おい千翼っ!」

「大丈夫!多分…だから万丈、もう、いいよ」

「…そうかよ。お前がそういうんならまぁ」

万丈も変身を解く。千翼は、ありがとうと言いまた緑のアマゾンの方へと目を向ける。

「俺も知りたい、今俺に、何が起きてるのかを」

「うん。よし、じゃあついてきて」

「あ、そういや。一応、あんた名前なんてんだ?」

そういえば千翼自身も聞いた事が無かったような気がする。

ひたすら自分やイユを壊しにくる、緑のアマゾンとしか認識していなかった。

「悠。水澤悠」

「ハルカ…」

「バイクで移動するけど…三人乗りでも、大丈夫かな」

「あー俺は変身すればバイクには追いつけるぞ」

「それじゃ目立ち過ぎるよ。何処かにサイドカーの代わりになるものでもあれば──」

「あ!ちょっとまってて」

千翼はそういい漁師小屋の中へと入っていき、何かを漁る音をさせたかと思えばすぐにまた出てきた。

「これ!小さい頃に遊んでた土とか運ぶヤツなんだけど…イケるかな」

そういい千翼は農具用二輪車を引っ張り出し千翼の出してきたモノに悠は思わず「ふふっ」と笑ってしまった。

「うん、多分大丈夫じゃないかな。でも、暗いうちじゃないと悪目立ちはするだろうから早く繋いで行こう。で、どっちが乗るかだけど…」

 

 

 

「なぁ、すっげぇケツが痛いんだけど」

「ごめん。でも、ジャンケンで決めたんだからさ」

「後これめっちゃ軋むし曲がる時とかこうぐわあんってなってすっげぇ恐えんだけどぉ!」

「だからごめんって!」

「やっぱ変身して行くべきだったんじゃねぇかこれ!」

「…ついたよ、ここだ」

悠はそういうと、バイクを止めた。

海外沿いから走り続け、人気のない道路を進み、時間は日が僅かに登り始めるような頃になっていた。

「ここって」

「啓践大学、知り合いだった人がここに勤めてて、研究室とかにも入らせて貰ってた。研究は、アマゾン細胞の事とかも、ね」

 

 

 

 

「長瀬裕樹が行方不明?」

「ああ、それも今から1週間前からだ。ご両親やご友人はいつもの家出だろうとの事だが、ではどこに寝泊まりしているかと聞けば誰も知らないそうだ」

「いやでも俺たち見ましたし」

「そこなんだよ札森君。この街に確かにいるのにいないと思い込まれている。でだ、彼の行動パターンを聞きさらにここ1週間の彼の行方を照らし合わせて見たんだが」

そう言い画面は凄惨なアマゾン2体の画像から、街のマップへと切り替わった。

「全くと言っていい程違う」

「気分変えただけじゃねぇの」

「その可能性もあるがね黒崎君。人間というのはどうしたってパターンが出てくるものなのだよ。しかしそれがこうも合致しないとなると」

「別人だっていいたいのか」

「そこはなんとも言えん。だが私にはどうにも、因果関係がありそうなんだよ」

「で、結局何が言いたいんだよ。局長さんよぉ」

いい加減飽きたという風に黒崎は大あくびをして画面からも目を外し明後日の方向に首を向ける。

「この長瀬裕樹と思われる別人を、捕獲して欲しいのです」

「…は?」

黒崎も正気かというように画面の方へと再び目を向けた。

「…失敬、こういうべきだったかね。興味深いサンプルだ、是非欲しいと」

「…局長、あんた」

「あんなアマゾンシステム見たことがない。野座間の仕業かはたまた別組織によるモノなのか…調べてみる必要がある」

「無理だろ。そんなの」

「だから戦い方を変えるんだよ。暴力ではなく、権力にものを言わせるのさ」

そういうと橘は椅子ごとくるりと身体を窓の方へ向けた。黒崎には表情が見えなかったが、邪悪なものを感じずにはいられなかった。



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3話

「良かった、あんまり変わってない」

朝5時半の大学は、早朝の為人はほぼおらず、忍び込むにはあまり不審にならない、自然と中へ入れるいい時間だった。

 

「ここに座って」

研究室に入ると悠は側にあった丸椅子へ千翼を手引きした。

「僕も決して詳しいわけじゃないけど、見よう見まねで覚えているから、君の細胞がどう変化したかくらいなら分かる」

机に置かれた注射器を手に取り、注射の準備をし、悠は千翼の脈に針を刺す。

採血したその血を液体の入った容器に入れ、血液を数滴垂らし左右に軽く振る。

「色々と調べる事があるから、二人は隣の部屋にでも行って休んでるといい。確かベットなんかもあったはずだし」

悠は顕微鏡にその液体を垂らし、レンズを除きこむ。

そう言われ千翼と万丈は隣の部屋へと移った。

 

細胞が生きていれば、殺す。

千翼は有罪か無罪かを待つ被告の心境だった。もし細胞が生きていれば彼は今すぐにでも殺しにくるのではないだろうか。

──だがアマゾン細胞が死んでいたらどうする?

そんな事があり得るのだろうか。

生きているものが死滅している。生まれついてからずっと付いて回ったこの呪いが、いなくなったのなら自分は果たしてどうなるのだろうか。

どちらにしても不安しか残らない。

時間が牛歩の速さでしか進んでくれない。吊るされた時計の秒針は止まっている気さえしてくる。

 

随分と時間が経った。

緊張で吐きそうな千翼と、万丈もそんな様子の千翼を見かねて「ちょっと、覗いて見ようぜ」と悠のいる部屋へ入って行った。

悠は、顕微鏡を覗き込んだまま微動だにしなかった。

「おい、終わったか?」

そう聞かれる悠はしかし全く動く気配がなかった。

「な、なぁ。どうなんだよ、おい」

一向に動こうとしない悠に検査結果を迫る。

二人の様子が気になり千翼も研究室へと入る。悠は、ゆっくりと、顕微鏡から目を離した。

その目は、何か理解しがたいものを見たような、平常心が保てていないような表情だった。

「で。生きてんのか、死んでるのか?その、なんとか細胞」

「…分からない」

「分からないって、あんた分かるつってたじゃねぇか」

「…結果だけ見れば恐らくは、アマゾン細胞は消滅していると思う」

「じゃあそう言えばいいじゃねぇかよ」

「違う、そんな簡単な話じゃない。二人とも、そこにかけて…いいか千翼、落ち着いて聞いて欲しい」

悠は体を千翼と万丈のいる方向へと向けた。

「君は、もしかしたらヒトでもアマゾンでもないものになっているかも知れない」

「…え?」

悠は一度、目を瞑り軽く息を整え、また顕微鏡の中を覗き込みながら「この細胞はヒトとも、アマゾンとも違う。未知の細胞に変異してる…」と言い顕微鏡から目を離すと、今度は悠は千翼に質問を始めた。

「正直に答えて。ここ最近、人を食べたくなった事は?」

「──お前に襲われてから1週間ずっと寝てて、起きたら万丈がいた。で、すっごくお腹は空いてたんだけど、不思議と万丈を食べたいとは思わなかった。そのあと4Cが来て逃げる途中にコンビニにも寄ったんだけど、店員を見ても、全く食べたいとは思わなかった」

「僕と仁さん、君を殺して、1週間経ってるとはいえ治癒が早すぎると思うんだけど」

「ゼリー、食べたから。タンパク質の」

「それだけ?」

「それだけ」

「アマゾンになれないみたいだけど、それは彼に助けられた後からずっと?」

千翼は無言で数回頷く。

「じゃあ最後だ。あの公園から1週間、これまで一度もやった事のない事とか、した?」

「えっと…」

千翼は暫く考え込んだ後、「あっ!」と言うと「輸血!万丈に輸血して貰ったんだ!」

「…分かった。ありがとう」

「な、なんか分かったのかよ」

二人の問答の間、黙っていた万丈がそう口を開いた。

「…念の為言うけど、僕は専門家じゃない。正直、仁さんや野座間の研究所とかの方が詳しく分かるだろう。だからこれは僕の推測だけど」

悠はそう前置きをし次のように続けた。

「アマゾン細胞の治癒能力が向上している。多分他のアマゾン体のどれよりも。この細胞、増えない代わりに減りもしないんだ。減った側から増えていく」

「それ凄い事なのか」

「アマゾン体でも大量のエネルギーを摂取してやっと治る傷も、コレは瞬時に回復すると思う。そしてタンパク質を摂取すれば恐らくそれ以上のスピードで」

少し間を置き、悠はこうも続けた。

「そして何より凄いのは…それによって起き得る食人衝動の喪失だろう。勿論摂取すればそれだけ得るものがあるから完全とは言えないだろうけど、エネルギーは全て自給自足で補っている。共食いして増えるなんて、そんな…」

一人驚きを抑えられない悠だったが、説明を聞いていた万丈は何を言っているのか分からないという顔をしていた。

千翼も悠が何を言っているのかは分かっていなかった。だが理解してない訳ではなかった。あまりの事に、思考が止まってしまったのだ。

人を食わなくていい。食べたいと思わなくなった。

『食人衝動の消失』

これは千翼にとって、まさに福音といっても過言ではない喜びだったのだ。

まだ確証はなくとも、その可能性がある。そして今の食人衝動の失せた自分という証拠が、もう人食いをしなくていいという

「千翼がアマゾンになれなかったのは細胞が変異した結果、既存のアマゾン細胞どれとも違うから機能しなかったんだ…そもそも、これをアマゾン細胞といっていいのかも疑問だけど」

悠そう言うと、今度は万丈の方へ視線を変えた。

「万丈、だったよね。君もアマゾンみたいな姿になれるけど、何か特殊な細胞があったりするの?」

万丈は、そう言われると少し考えた後、話を始めた。また自身の出生から。

そして自分には生まれつきエボルトという異星人の事、その遺伝子の事、様々な事を。

「…でもよ、良かったじゃねぇか。その、マラソン細胞ってのがなくなったんだろ?」

千翼と悠にそう言う万丈だったが、悠は浮かない顔をして少し下を向いた。

「…現状、今の千翼の細胞が他の人間にどんな影響を及ぼすかは未知数だ。これまでは水分を介した感染だけだったけど、もしかしたら今は空気感染するようになってるかも知れない。そうなら、やっぱり千翼は、殺さないといけないのかも」

「…は?いやいや、おかしいだろ!話しがちげぇじゃねぇか!だってお前、細胞は死んだっていって──」

「でも食人衝動は、あっても本当に極々僅かだろうと思う。我慢もいらない範囲、今生きてるアマゾンの中で一番人を食わないアマゾンだろう。人を食べないのなら、殺さなくてもいいんじゃないかって、そう思う自分がいる…」

悠は、そういったきり黙ってしまった。そこから誰も口を開くことはなかった。

程なくして学校のチャイムが鳴り響いた。

気がつくと時間は既に8時半を回っていた。

「…そろそろ人が増えてくる。帰ろう」

そういい悠は器具を片付け始めた。

「っておい!結局、お前は千翼を…」

そう言う万丈に悠は、機材を元あった場所へ戻しながら、背中をむけこちらをみずに答える。

「殺さない。とりあえずは…けど、彼の細胞が暴走する事があれば…その時は──」

その言葉に句点をつける事なく、悠は持ち物をとり部屋から出ていってしまった。

 

 

 

 

悠と別れた二人は、教室を出て大学を後にした。

万丈は持ってきた農具用の二輪車を持って帰ろうとしたが、それはあまりに目立つのでやめてほしいと千翼が止めた。

大学には申し訳ないが、これはそのまま引き取って貰おうということになった。

 

「なぁ」

「うん、言いたい事は分かる」

 

外に出て暫く歩いていたが、どこに行ってもずっと道行く人、残らずこちらを見てくる気がする。

千翼も万丈も、そう感じていた。

それは驚愕だったり、不審的だったり、困惑や恐怖、様々ではあるが一貫して気分のいい目線ではなかった。

こちらを見ながら何処かへ電話をかける者もいた。

逆にスマホをこちらへ向けて写真を撮る人もいた。

流石に万丈もそれには喧嘩腰で近づいて一言言おうとしたが、一目散に逃げてしまい結局撮られっぱなしになってしまった。

「なぁ、やっぱ変だよな」

加減そうな顔をする万丈。千翼も流石に

「…人通りの多いところなら、紛れて目立たなくなるかもしれないしそっち行いってみよう」

万丈は千翼に言われるまま共に街の大通りへと入っていった。

しかし、それが不味かった。

事実を知るという意味では、ある意味正しかったのかも知れないが、知らなければこんな混乱もなかったかも知れない。

 

『先週未明、…区…にある飲食店にて十代の少年二人組による強盗殺人が発生しました。少年二人は店に押し入った後、客に殴る蹴るといった暴行をし、更に刃物のようなもので客の腕や足を切りうち名が死亡、6人が重症、その日の売上と客の財布を奪い取り逃走したという事です。その後行方が分かっておらず、警察は極めて凶悪な事件として少年らの顔写真を一部公開するという、異例の措置を取りました。また犯人は──』

大通りの巨大なスクリーンには、千翼と万丈の顔が大きく映し出されていた。

目線は入っていたがそれも気休め程度でしかなく、一目見れば誰か分かるってしまう。

「なんだよこれ…先週って、アイツ何したんだよ…」

「さっきから人に見られてたのはコレだったんだ」

唖然とする二人だったが、二人へ向けられる無数の視線に気付き、その場を逃げるように後にした。

 

「何がどうなってんだよ」

「分かんない、けど。おれを捕まえる為にあんな事してたのかも」

大通りから全力で走り駆け込んだ細い路地裏、少し息を潜めていた。

「なぁ、死んだ奴がいたっつってたけど、あそこから逃げる時誰も殺してねぇよな?なんで死んでるんだよ」

「先週なら多分、おれが殺した人達だ」

千翼は、目を閉じ深呼吸をする。

あまり思い出したくない記憶に、血が急に早くなるのを感じていた。

そうして緊張した身体を、落ち着かせる為に。

「ああ、アイツが言ってたなそんな事」

小さく零す万丈、千翼は先程から気になっていたその物言いについて聞いた。

「ねぇ万丈、そのさっきから言ってるアイツって、誰?」

万丈はそれに対し、少し目を逸らしてきゅっと口元を閉める。

そのしまった、というリアクションは千翼の中の疑問を更に増幅されてしまうものだった。

「悠が来た時もそうだった。約束がどうとかって、それはなんなの?」

表の通りの何処かの飲食店、その排気口の音が低く響くだけの静寂。

万丈はしばらく黙り込んでしまったが「まぁ、その長瀬ってのに頼まれたんだわ、お前の事」と言った。

「長瀬が…でもなんで」

「それはいいからよ、とりあえずはどっか移動しねぇとな。なんかいい場所知らねぇか──」

万丈がそう言いかけたその時、目の前に大勢の足音がこちらに向かってくる音が聞こえてきた。

「ヤバい万丈、多分4Cだ!」

「昨日の奴らか!」

反対方向へ逃げようとする二人だったが、逃走しようとした進行方向からも人の気配を感じ、更には建物の上の方からもこちらへの視線を感じる。

「袋の鼠ってわけか…」

「万丈、こうなったらアレになって逃げるしか!」

「お、おう!」

千翼に言われ万丈はドライバーを取り出す。だがその瞬間何者かが発砲、万丈のドライバーを持った手を的確に射抜いた。

「万丈ッ!」

「うっつぅ…!ああくそっ!」

撃ち抜かれた手を抑え歯をくいしばりながらも、再びドライバーを手にしようとする万丈だったが、「はい、それまでぇ。次動いたら殺すぞ」銃を万丈の脳天にピタリとつけ、黒崎の警告で二人とも身動きを封じられてしまった。

「よう千翼。お前まだ生きてたんだな」

「黒崎…!」

「そんな恐い顔すんなよ。まぁ、今から手前を殺すって奴相手じゃそうなるか」

やれ、と黒崎が支持を出すと4Cは千翼目掛け一斉攻撃を始めた。

飛び続ける銃弾と血液、それは人一人に浴びせる量を遥かに超えるような火力の暴力だった。

千翼の叫びも、怒涛の銃撃音によってかき消されるほどの圧倒的な数の。

全身が再びあの時のような、血と骨と肉が混ざり合った、最早肉塊としか言いようがない程に滅茶滅茶にされる。

「千翼…ッ!てめぇこの野郎ッ!──」

「動くなって言ってんだろ。お前もああはなりたくなきゃ、素直についてこいよ。長瀬裕樹に似た、誰かさん」

銃を向けたまま黒崎は万丈を無理矢理立たせ腕を素早く拘束し、こう言った。

「うちの局長がな、お前に興味があるらしくてな。一緒に来てもらうぜ」

そういい黒崎は万丈を顎に横蹴りを入れる。不意打ちと千翼の無残な姿に気を取られていた為に万丈もなす術なく気絶、千翼だったものと共に部下に回収させその場を後にした。

それはまさに、ほんの数分の出来事であった。

 

「はい。ご協力感謝致します」

そう言い携帯電話の通話を切る橘。

窓の外は雲一つない晴天、太陽の光が全面ガラスのこの部屋に煌々と入り込んでくる。

橘はその光景を、ただただ真顔で見ていた。

 

「橘局長もやり方がえげつないですよねぇ」

「元々そういう奴だろ、アレは」

4Cビル内の廊下、万丈を連行する途中で札森が黒崎にそう話題を振った。

「警察上層や報道機関に私と繋がりの深い人物がいるから彼らを使ってあの二人を指名手配し報道、民間人やSNSを使って居場所の特定と潜伏を封じる作戦って…それ自体殆ど犯罪じゃないですかマジで」

「お偉いさんってのは上になるほど大なり小なり犯罪者だ。要はバレなきゃいいんだよ、お前も政府の人間ならそれくらい分かるだろ」

「いやぁ、分かりたくないっすねぇ…あ、そういや千翼君どうなりました?」

「あーあれな、廃棄したいところだけど、アレでもオリジナルだからな。それなりの処理をしてから捨てるらしい」

「へぇ。なんか残酷っすねぇ」

そう言いながらも、黒崎も札森も実にあっけらかんとした様子であった。

 

 

「やあ、君が長瀬君か。私はこの4C局長をやっている橘というものだ。以後よろしく」

万丈が目を覚ますと、そこは手術室の様な場所だった。

無影灯の光につい目を細めるが、段々と慣れて来たその目に移ったのは、白い防護服を着た人間たちと、スーツ姿のキザそうな中年であった。

「おい、ここどこだよ。千翼はどうなったんだよ!」

怒りで暴れる万丈だったが、身体をしっかりと拘束されておりどれだけやっても精々台を軋ませるのがやっとであった。

橘はその様子を見て鼻で笑いながらこう言った。

「いやぁまさか、千翼の友人に君のような面白いサンプルがいるとはねぇ。類は友を呼ぶ、という事か…率直に聞かせて欲しい。君は何者だ?」

橘はそう尋ねる。「誰に作られた?何処の組織だ?」

万丈はそう言う橘に対し吐き捨てる様に答える。

「はっ、誰が教えてやるか。まぁ、有り体にいや宇宙人か」

橘は万丈のその態度が気に入らなかったが、あくまでリードを取る為冷静を装った。

「はぁ宇宙人。では宇宙人に改造されたとでも?」

「そう言ってんだろ」

「これは面白い。では君もまた宇宙人であり、つまりは地球人権もないから法律は気にしなくて言いわけだこれはいい。では遠慮なく、実験させてもらおう」

「あ?実験だ?」

そういう万丈に橘は邪悪な笑みで返し、部下に何か指示したのち再び万丈の方へと向き直す。

「まずは君が一体どういったアマゾン体なのか否、アマゾンかどうかを聞かせてくれ。言葉と、君の身体でね」

 

 

千翼が目を覚ますと、そこはとても暗く、また冷たい場所であった。




もし続きを待っていただいた方が一人でもいらっしゃったのなら大変お待たせしました。
どう展開したらいいかを散々考えてましたらなあなあで2ヶ月経っておりました。
申し訳ないです。


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4話

「寒っ…ここは」

千翼が目を覚ますとそこは、光のない、凍てつくような空気で満たされた場所だった。

地獄だろうか、そうも考えたが少違うようだった。

昔海沿いの、あの小屋で暮らしていた頃にもとても寒い日はあった。

意地悪な寒波がそのまま凍らせてしまいそうな、それ程に寒い日が。

だがこれは違う。

もっと無機質で、突き放したような寒さだ。

そして、千翼はこの寒さを前にも一度だけ経験している。

「そうか。ここは、冷凍庫か」

かつて、一度は自分もされかかった事のある凍結保存。

彼が寝ていた横には、アマゾンが何体も横たわっていた。

例え地獄だったとしても、例え閻魔様や魔王であったとしても、そんな惨い仕打ちはしないだろう。地獄の底でまで、アマゾンの姿でいるなんて。

ここはきっと、保存状態の良いアマゾン体を置いておく冷凍庫ではないかと千翼は考えた。

現にここに保存されているアマゾン体は、その殆どが五体満足に揃っている。

見たことのない変異を遂げているものもいた。

「ていうかおれ、治ってる…」

あれだけの銃弾を撃ち込まれたはずなのに、今は何処も痛くない。

傷一つ残っていない自分の身体に、アマゾン体であった頃とはまた別の、得体の知れない恐怖感を感じた。

だが今は一刻も早くここから脱出する事が先決だと、理解の及ばぬこの身体の事は一先ず置いておく事にした。

「でも、どうしよう」

出口は目の前の扉があるが、きっと外には4Cの人間がいる。しかも内側からは開かないようになっている為、気配が消えたのちこっそりと脱出なども出来なさそうだ。

何かいい策はないかと、ボロボロになった服から色々と取り出しては見たものの、持ち物と言えば今は使えないものばかり。

幸いベルトは取り上げられてなかったようだったが、今では無用の長物だ。

「アマゾンに、なれればな」

そう考え、そしてその事に千翼は酷く戸惑った。

あれだけ嫌っていたモノに、少しでも戻れればと気持ちになっている自分が、分からなかった。

 

「考えろ、何かあるはずだ…」

寒さは決して厳しいとは思わなかった。

だが問題は自分の身体よりも、時間だった。

意識の糸が切れる寸前、確かに聞こえた黒崎の言葉。

『うちの局長がな、お前に興味があるらしくてな。一緒に来てもらうぜ』

『興味』という不穏なワード。

局長──橘は何を考えてるのかよく分からないが、それは決して良いモノではないのは間違いないだろう。

風の流れが変わったように感じた。

密閉されたこの空間で、それが起こると言うことは空調の出力に変化があった、或いは

(扉が開いたのか!)

揃っていない靴底の音がそれぞれ一定のリズムで冷凍倉庫に響く。

恐らく数は3人。一人は防護服を纏っており、残りは4Cであろうか、銃火器が歩くたびに重苦しい金属音を立てている。

千翼はひとまず身を潜め、しかし入口へと向かい息を潜め進み出す。

 

「なあ、あの実験体、ありゃなんなんだ?」

隊員の一人が尋ねる。防護服をきた職員、研究班の人間はそれに少し沈黙を挟みながらその問いに返した。

「少なくとも、今の我々の、人類の技術では再現不可能なモノ…としか言えんな」

「アレは他所の企業のアマゾンに似た何かの可能性が高いって話じゃなかったか」

「我々もその線が一番可能性が高いと思っていた。だが調べる程に、アレは未知の細胞なんだよ。外宇宙から来たとしか思えない程地球のどこ細胞にも似ていない」

防護服を来ているため声がこもって聞こえるが、その言葉は神妙な、しかし高揚感に満ちており、それを聞いた二人はどう反応していいのか分からず困惑していた。

「まぁ天文学的奇跡による突然変異、であるならその限りではないのかも知れん。アレがもし誰かが作ったものなら…そいつは稀代の天才か、地球外の叡智だろう」

研究員と思しき男は、更に胸を躍らせたように早口でそう言った。

「兎に角、ここにあるサンプルと組み合わせてみてどう変化を起こすか…本番はここからなんだ。『あの腕』とも、どういう反応を示すか」

愉しそうに談る男に、顔は見えないが4Cの二人は引いているようであった。

「ま…まぁ何にしても、必要なもん出してここ出るぞ。気味が悪くて仕方ないんだ」

そして彼らはこの冷蔵庫からサンプルの回収を始めた。

入口は開けっ放し、千翼はこれ幸いとばかりに

そこから抜け出した。

問題はここからだ。

万丈がどのフロアにいるのか。

だか、おおよその見当はついていた。

(局長がいて、研究班がいて──きっと、あそこだ。イユを直したりしていた、あのフロアのはず)

監視網を潜り抜け、千翼は目的地へと歩みを進めた。

 

「サンプルc-1、アマゾン細胞がサンプルが食い尽くし、サンプルが活動を停止。」

「サンプルa-3、結果出ました。これなんですが…」

「…よし、では2班はa-3の配分を元にフェイズ4へ移行しろ」

フロア内では職員達が研究室や手術室をせわしなく行き交っていた。

「局長ォ、これ俺たちお邪魔なんじゃないっすかねぇ」

その様子を観覧ガラス越しに見ていた黒崎達が言った。

「俺たちここ最近まともに休み貰ってないんすわ。千翼も駆除したし、サンプルも取ってきたし、そろそろ羽休めと行きたいんすけどねぇ」

そう言い、黒崎はその場にいる自分の部隊員達に顔を向ける。

「コイツらの士気も練度も大分落ちてて、使いもんになんないし」

「…良いだろう。まぁ、サンプルが逃げ出す心配もないしな」

そう言いながら、手術台の上で拘束されている『サンプル』をじっと見つめ右の口角を僅かに上へ動かす。

「アマゾンに使用する事を想定した拘束具だ。流石に逃げ出せんだろう」

目線の先のサンプル──万丈は今も何度ももがくが、血を抜かれ上手く力が入らず、意識も朦朧とし始め目も虚ろいできている。

「幸い、彼は輸血をすれば体内で即座にあの未知の細胞へと変異する。血液さえ用意すれば無限に出来るとはいやはや」

橘は煌々とした目をさせ独白のように語る。

「未知の細胞、では味気ないな…名前はあった方がいい。商品には必ず名前が必要だからね、うーん何がいいか…」

左手で顎を抑えながら、さも考えてるかのような様子で、廊下をクルクルと回る橘。

靴底の軽い音が、軽薄なビッグビジネスの算段を立ててるように黒崎達には見えた。

「どうでもいいんすけど、俺たちもう行っても大丈夫っすかねぇ」

「ん?ハッハッハッハッ、すまない。すっかり忘れていたよ」

橘のわざとらしい笑い方に、黒崎は僅かに頭痛が起こり、眉間にシワを寄せる。

「さあ、休日を満喫してきたまえ」

そう言われその場を後にする黒崎隊の面々。

橘はそれを見送りながら

「そう、存分にね。良き、シュウマツを」

真顔で、そう呟いた。

 

 

 

 

(確か、この階段を上がれば…)

長い非常用階段を登った末に、千翼は目星を付けたフロアの扉へとたどり着いた。

念の為他のエリアも見て回ったが、矢張りそれらしいものはなく、更に人の気配は全て例の手術室のあるエリアへと動いているようであった。

助け出す方法も模索した。しかしマトモな装備もない今では、精々人質を取って交渉するくらいしか手段がなかった。

「開けたらすぐに目の前にいる人を捕まえる。開けたら捕まえる、開けたら捕まえる…」

やる事を小さく復唱しながら、非常扉の金具に手をつける。

「…よし」

覚悟を決め、重い扉を勢いよく開き、一番近くに立っていた人間へと全速力でタックルを決め、首の後ろへ手を回した。

「全員動くなッ!」

突然の絶叫に室内にいた科学者達は一斉に千翼と人質の方へと顔を向けた。

「おや、千翼じゃないか!まさか生きていたとはねぇ」

人質に取ったその相手は、橘だった。

「あんた、だったのか…」

これは幸運か、交渉としては最高のカードを手に入れた千翼だったが、しかしその橘本人からはイマイチ焦りの色のようなものが微塵もなかった。

寧ろ、生きていた事を喜んでるとさえ思える顔だった。

「い、いやそれよりも!万丈を解放しろ!」

再び叫んだ千翼だったが、橘は尚も顔色を変えず喋り続けた。

「いや、当然とも言えるのかね。彼の細胞を取り入れたのであれば、あそこから再生するのもわけなかっただろう。いやしかし、『あの温度』にも耐えられるのか…素晴らしいな」

「なんのことを言って、人の話を──」

「あの冷凍室の温度は人が入る時以外、最大でマイナス100度まで下げられてるんだよ」

つまり、と橘は更に続ける。

「君はそんな、南極すら越える酷寒を物ともせず再生したわけだ!」

千翼には何が言いたいのか分からなかった。しかも自分が人質にされているこんな状況で、何故それは言う必要があるのか、全く理解し難かった。

「いや、君の友達は実に興味深かった。彼の細胞のおかげで、我々は、いや人類は!新たな進化を迎えられるかも知れないんだからな」

「…何を言ってるんだ?」

「分からないかい?彼がもたらした進化の話さ!進化…エボリューション、そうだ。アレはエボリューション細胞がいい。略してE細胞!」

「何の話をしてんだよ!」

壊れたラジオか人形か、その情報量を千翼は飲み込めず、飲み込まれそうになっていた。

 

「お前はッ!人質でッ!代わりにッ!万丈をッ!解放しろッ!」

「…ああ、私は人質だったのか。いや失敬、人質として取るには余りにも──私は万全過ぎてね」

橘はそういうと、手を入れていたポケットで何かを押した。

直後、けたたましい警報音と共に壁が爆発、そこから「何か」が2体、姿を現した。

「あ、アレって──」

目の前に立っていたのは2体の、辛うじてアマゾンと認識出来る『何か』だった。

「紹介しよう、彼らはシグマ・F。まぁ要するに、シグマタイプの改造品だ」

 

その身体は、ツギハギだらけでありバランスが悪く、そのつなぎ目からは気泡がポコポコと音を立て沸いており、目はシグマタイプ以上の生気のなさで虚ろいでいた。

そして妙な液体を体のつなぎ目や眼から垂れ流しており、アマゾンの醜さすら凌駕する、あまりに冒涜的な醜悪さであった。

 

「既存のアマゾンの死体を組み合わせる事で最強のアマゾンを作ることも可能であり、また死体を回収すれば何度もリサイクルが可能で経済的。まぁ美しさにはいささか欠けるが…なに、ここまでくればこれはこれで、芸術的とも言えなくもないだろう?」

「何言ってんだよ…何だよこれ…!」

千翼は恐怖した。その見た目だけで、ではない。

つまりコレを、この悪趣味極まり無いモノを、橘達は作り上げたという事だ。アマゾン相手にだとしてもやっていい事と悪い事位はあるはずだ。なのにそれを、平気でやったのだ。

それがどうしてか、堪らなく恐ろしかった。

 

「…前にも言ったと思うが、人権問題になるようなら勿論私だって手を出さないさ。しかし、これはあくまで死体と、自称宇宙人くんの細胞で構成されたモノだ。ちゃんとその辺はクリアしているさ」

そう言うと橘は、自分の首にかかる、すっかり緩み切った千翼の腕を外し立ち上がった。

そしてジャケットの襟を正すと、怯え切って腰が抜けている千翼を見下ろしながら言った。

 

「さて…君とサンプルがここに来て一週間がたった。その間に君は驚異の再生を遂げ、我々はシグマ・Fを作り研究は次の段階に進んでいる。我々の研究結果が間違ってなければ君は既にアマゾン体にはなれないし溶原性細胞もアマゾン化のリスクがなくなっている…幸い今日から月曜まで黒崎君たちは非番だ。君が、彼を諦めてくれるなら私は、君を見逃してもいいと考えている。君は死んだままという事にしてね」

しかし、と橘は続け

「そうでないのなら…丁度彼らの戦闘データが欲しかったところなんだ…君はスパーリングの相手には丁度いい」

一歩、一歩と橘は怯える千翼の方へと歩み寄る。それと同じように2体のアマゾンもこちらへ近付いてくる。

 

千翼は、もうそれでもいいのではないかと思った。

彼は裕樹ではないと言う。確かに輸血してくれた恩もアマゾンでなくなれた事への感謝もある。だがそれでも、つい先日あったばかりの他人ではないか。

橘が言うには溶原性細胞のリスクまで無くなっているというではないか。

つまり悠が唯一懸念していた部分すら解決していたのだ。

もう自分は本当に、人間になれたのではないか。

 

おれは生きたい、その願いは変わらない。

でも、結局ここで捕まって仕舞えば、以前と変わらない、いやもっと、以前よりも酷い仕打ちがあるのではないかと考えた。

ならばいっそ、ここで逃げ出して仕舞えば。

千翼は、そう思いつつ、観覧ガラスの方へと目を向けた。

拘束られている万丈は、新たな血を入れられている最中であった。

その目は、しっかりと開いており、そして千翼を強く見つめていた。

 

千翼はその目に、何か強いメッセージを感じた。

それは、自分とイユを逃がすため4Cへと果敢に立ち塞がった、友人の目と同じものだった。

 

(千翼、逃げろ!)

 

そう聞こえては無意識だった。

千翼は、腑抜けていた身体を一気に跳ね上げ、手術室の扉へと向かい駆けた。

しかし扉にはカードキーによるロックがかかっており入れない。

橘の背後にいたアマゾンたちが、橘の合図で千翼への迫る。

片方のアマゾンの爪が千翼の背中を引き裂く。

激痛が走り、床に膝をつけるももう片方のアマゾンの鎌をすんでの所でかわし、扉のロックを破壊させた。

そして室内へ侵入すると、万丈の所へ駆け寄った。

室内にいた他の職員達は皆部屋の隅へと退避し、事の行く末を案じる。

「ひろきッ!」

万丈へそう呼びかける。

「千翼お前!なんで逃げなかったんだ!後俺は裕樹じゃねぇって──」

「逃げれる訳ない!待ってて、今すぐ外すから!」

しかし拘束具は予想以上にしっかり作られており、今の千翼の力ではとてもこれを破壊する事は無理だった。

「それは本来アマゾンを拘束するものだからね。人間の力では外せる訳がない」

遅れて室内へ入ってくる橘が、嘲るようにそう言った。

「千翼、もう諦めたまえよ。どう頑張ってもアマゾンでない君に勝ち目はない」

橘はそう言うと、右手を振り上げ、アマゾンに対して『待て』という命令を出す。

「アマゾンでない、おれ…」

「そうだ、君はもうアマゾンではない。いや厳密にはまだアマゾンだが、君の溶原性細胞とe細胞の絶妙なバランスによって、今の君には食人衝動も溶原性細胞のアマゾン化もない、アマゾンにもなれない。害がないものを消そうとするほど我々も鬼ではない。だからここでそのサンプルから手を引けば今の行動は水に流してやろう」

橘は優しげに、余裕を匂わせるようにそう言った。

(厳密にはまだアマゾン?)

千翼はそこが引っかかった。自分は、まだアマゾンなのか。

確かに悠もアマゾンとも人でもない細胞と言っていた。

そしてそれは、橘の話の通りなら絶妙なバランスというのでなりたっているのでは無いだろうか。

数秒の沈黙ののち、千翼が口を開いた。

「おれは、まだアマゾンなのか」

「ん?ああ、厳密にはってだけで、まぁ人間とも言えなくもなくてだな──」

「はるかは、人でもないって言ってた」

「…まぁその通りだがその辺は大分些細な事であって、いや待てはるかとは、まさかそれは水澤悠──」

「つまり、おれはまだアマゾンなのか」

「こっちの質問にも答えなさい、水澤悠は今どこに──」

「まだアマゾンなのか」

「…だ、か、ら!君は確かに人ではないが人間社会で生きていけるアマゾンになってるんだだから見逃してやると言っているんだたかだか人かそうでないかなんて些細な問題であってだな!」

橘がそう怒鳴るが、千翼は気にせず更に橘へこういう。

「さっき言ってたバランスを崩れれば、おれはまた前みたいなアマゾンになるのか」

「はぁ…はぁ…ああそうだが──まさか君ッ!」

そいつを止めろ!そう橘が命令すると、アマゾン2体が再び千翼へ飛びかかった。

千翼は身体をしゃがませそれを躱すと、アマゾン達は盛大に吹っ飛び、手術台の周りのカーテンを巻き込んで床へ激突した。

千翼はその隙に細胞を得るとこが出来るモノを探し、そして

 

(アレは…おれの、腕ッ!)

トレイに乗せられた干からびた腕。

それは、かつて人々をアマゾン化された全ての元凶だった。

確か処分されたはずでは、千翼はそう思ったが今はこの『悪魔の腕』こそが打開の鍵だ。

咄嗟にトレイの中にあったその腕を取り、そして

 

腕の皮を、齧り、毟り、飲み込んだ。

 

目の前で起こった事に、橘は目を丸々とさせ、そして

「こんのぉ…大馬鹿ガァッ!」

殺せェ!赤鬼の様な顔でそう絶叫する橘と、簀巻き状態を引きちぎり態勢を立て直したアマゾン達に囲まれ挟まれながら、千翼は上着からドライバーを出し装着する。

 

「おれは生きたい、生きていたい。でも、かあさんも、イユも、タクミもいなくなって、これ以上、大切な人がいなくなるなんて、諦めるなんて、そんな世界で生きていたって、そんなの──」

 

「やれぇッ!」

橘の怒号で、アマゾン達は千翼へと再び飛びかかった。

 

「──そんなの、なんの意味もないッ!」

 

「アマゾンッ!」

 

瑠璃色の炎が千翼を覆い

そして、千翼は再びアマゾンへと

『変身』した



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5話

区切りが良かったので短めです
ラストの方、アマゾンズの主題歌(どちらでも)聴きながら見てもらえるとそれっぽくなる気がします


「アマゾンッ!」

瑠璃色の炎を纏い、千翼は己が最も嫌うモノへと戻った。

大切なともだちに、良く似た彼を守る為に。

 

変身のエネルギーに吹き飛ばされたシグマF達は、その巨体をゆっくりと起こすと、再び千翼──アマゾン・ネオの方へと向かって行った。

 

「はあ…千翼君。君は子どもっぽい所があるが頭の悪い子ではないと思ってたんだがね。」

橘は、しかし自分を落ち着かせるようにそう言った。

「折角アマゾンで無くなったというのに…いや、正確にはアマゾンではあるのだがね」

千翼にシグマF達がじりじりと迫ってくる。

千翼は身体の低く落とし、相手を臨戦態勢を取りつつ、近づいてくる二体を見据える。

万丈は拘束をされたままであり、彼を今巻き込むわけにはいかない。

千翼もまた、ゆっくりと後退して二体と万丈の距離を離そうとする。

3歩程後ろに下がった時、ふと器械台の上に置かれたモノが目に入った。

(これは…!)

千翼の頭の中で、ある作戦が浮かんだ。

しかし、気を逸らしたその隙を、二体は見逃さなかった。

鈍重な動きから一転、強靭な脚力で千翼めがけ飛びかかって行った。

左右から同時の奇襲。千翼は間一髪でしゃがみ、コレを回避した。

一体は壁へ突っ込んだが、もう一体は空中で身体を捻り、その回転の勢いで下段蹴りを放つ。

背後の攻撃に気付いた千翼だったが、防御は間に合わず顔に攻撃は入り、部屋の壁へ吹き飛ばされてしまう。

頭に食らった蹴りにより少し脳震盪を起こしたが、すぐに体勢を整え、千翼はドライバーのインジェクターを押し込む。

腕にアマゾンズクローを生成した千翼は、武装のワイヤーを飛ばし、先ほど攻撃をしてきた個体を拘束した。

だが、壁へ突っ込んだ個体がワイヤーを力任せに引きよせ、今度は反対側の壁へと千翼を吹っ飛ばした。

「千翼、諦めたまえ。確かにシグマFは少々(おつむ)が弱く野性味が強いところはあるが、身体能力、特に腕力ではこれまでのどのアマゾンより秀でている」

橘は、取り戻した普段の調子で千翼を嘲る。

「今からでも遅くはない。彼の血を入れればまた無害なアマゾンに戻れる。さあ」

片膝を付き、肩で息をしていた千翼は、ゆっくりと橘の方へと顔を向けた。

「それは…本当か…?」

「ああ、本当だとも。比率さえ元に調整出来ればね。本当にこの細胞は凄いよ」

「──ああ良かった」

千翼はゆっくりと立ち上がり、橘のある方へと向き。

「なら、気にせず助けられる」

そう言い、千翼は橘──ではなく、万丈の方へと真っ直ぐ突っ込んでいった。

その手に、ビルドドライバーをしっかりと握りながら。

「ッ!やつを止めろ!」

しかし、ドライバーには既にボトルとマグマナックルが装填されており、ドライバーを万丈の腰にあて、千翼はドライバーのハンドルを思いきり回した。

 

<Are you ready?>

 

「お前、どうして逃げなかったんだ」

万丈は少し突き放した様な言い方をしたが、千翼は

「ともだち、おいてはいけないよ」

そう返した。

「ふっ…そうかよ。おし、じゃあ離れろ千翼」

そういう万丈の頭上には、巨大な溶鉱炉の様なものがいつの間にか鎮座していた。

「そこにいるお前らもだッ!熱いぞぉ!」

万丈は部屋の隅や外に離れていた4Cの職員たちにもいう。

突如現れた異様な光景は、非戦闘員である彼らを逃走させるには十分なものだったのだろう。

職員等は次々に部屋の外へ退避、そのままフロアからも逃げていった。

「変身ッ!」

万丈が叫ぶと、釜の中の煮えたぎった液体──マグマが万丈の頭上めがけ一気に注がれた。

「万丈ッ!」

 

まさかの光景に千翼は思わず叫んだ。

幻覚か何かだと思っていたそのマグマは確かに熱く、近づく事すら出来ない。

直後にマグマは7体の龍の姿となりそれが冷えて固まったのち、マグマを流し込んだ溶鉱炉が、拳に似た装置となり固まったマグマを粉砕した。

 

<極熱筋肉!クローズマグマ!アーチャチャチャチャチャチャチャチャチャアチャー!>

 

ドライバーの音声と共に、変身した万丈が姿を表した。

マグマと溶岩を纏ったその姿は、あの時助けてくれたあの赤い龍だった。

 

あまりの事に言葉を失っていた橘だったが我に帰り

「何をしている!その二人を捕えろ!」

そうシグマF達に指示を出す。

本能的に危険だと判断したのだろうか、静観していた2体は橘の指示で再び動き出し、万丈達へ攻撃を仕掛ける。

千翼は再び戦闘体勢を取った。

だが次の瞬間、凄まじい火柱が千翼の横を過ぎ、眼前にいた2体は大きな風穴を開けて動きを止めてしまった。

 

千翼はその熱波の方向へ振り向くと、万丈が拳の形をした武器を突き出すように構えていた。

 

「よし、逃げるぞ千翼」

そういい万丈はいつかの様に千翼を小脇に抱え、天井を破壊した、だが。

「うっそマジかよ…」

天井は完全に破壊されず、欠けた破片が落ちてくるだけだった。

「仮にもバケモノを取り扱ってる訳だからね。万が一に備えて大枚はたいて採用した成果だな。」

橘がそう言うと、先ほど職員達が降りていった階段から、今度は無数の足音がこちらへとかってくるのが聞こえてきた。

「今の4Cでは戦力不足が否めなかったのでね、『おともだち』を呼んでおいたのさ」

がらんとしたフロアは一変、武装した集団で溢れかえった。

「どうする?」

千翼が聞くと

「上がダメなら、前に進むだけだ!」

万丈はそう言い、千翼を抱えたまま真正面へ翔んだ。

それと同時に一斉に発砲を開始、無数と言っていい数の弾丸が二人目掛けて放たれる。

万丈は千翼を抱き抱え、敵に背を向ける形でその頭上を翔び超える。

弾は全て命中しているが、しかしクローズのボディには傷一つ付かなかった。

そして二人は部屋の正面エレベーターを破壊し、そのまま真下へ急降下した。

 

「あそこまで強力とはな……あの兵装の出所も是非押さえておきたいものだ。」

追え、そう橘は兵へと指示を出すと彼らは一斉にまたビルを降り二人を追い始める。

再びがらんと人が居なくなったフロア、橘はただ一人になった。

「……ッ!?」

突如として身体の自由が効かず、姿勢を大きく崩す。

「待った、何故そうなる……!約束と違うではないか……!……契約違反はこちら!?いや、まだそうと決まった訳ではなかろ──」

そう言いかける橘、身体は何かに抵抗するようにぎこちなく動き出す。

己の意思とは関係なく、ソレは橘を強引に研究施設の中へ入れ、そして

「……ッ!?待った、何を考えてる君は!?そんな事をすれば私は……!い、いやだ、それだけはやめろ、やめてくれ!」

ソレは、橘の腕を使い、液体の入った注射器を掴むと、橘の身体にあてがい

「わ、私は、私はアマゾンになんかなりたく──」

 

 

「なんとか一難は去ったな」

4Cビルの正面玄関、その広い空間に万丈は抱えていた千翼を降ろした。

「アレが言ってたアマゾンか」

「……うん」

千翼はそういう万丈に、浮かない様子で返す。

「あ……ごめんな。俺の為になりたくないもんにさせちまって」

「いいんだ。──また、万丈の力は借りることになるかもだけど」

「俺の血なんざ1万でも10万でもやるよ!」

万丈はそう言い袖をまくり上げガッツポーズを取る。

千翼はそんな万丈に、苦笑いしつつ嬉しく思った。

「血ぃなんて1万抜いたら死ぬぞ」

何処からか、嘲笑する様にそう万丈へ指摘する声が聞こえた。

千翼はその声を聞いた瞬間、表情を硬らせた。

声のする方へと顔を向ける万丈と、向けたくても見られない、見たくないといった千翼。

「あ、あんた確か──」

 

千翼はそれでも万丈の方を向いたまま彼に目を合わせようとしない。

(そうだ、悠が復活してたんだから、してない訳がなかったんだ)

彼が本当に避けなければならなかった人。

出会ってはならなかった人。

 

「よお千翼、迎えに来た」

 

<alpha>

 

「──アマゾン」

 

男はそう呟くと、ベルトのハンドルを回す。

 

「一緒に地獄へ行こうぜ」

 



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6話

「千翼、迎えに来たぞ」

 

「あんた…」

万丈は、眼前の赤いアマゾン──アマゾンアルファにそう呟くと、再びドライバーを腰にあて臨戦態勢をとった。

千翼は、意を決し声の主を方へと振り返る。

そこには白い目をした赤いアマゾンが、見えぬはずの目で、こちらをじっと見つめて立っていた。

「じゃあ今度こそ一緒に、あの世へ行こう」

 

そう言うと、千翼へ向かって弾丸の様に飛びかかった。

 

直後万丈はクローズへと変身、間一髪で敵の鋭い突きを千翼からそらした。

攻撃を阻止されたアルファはクローズへ膝蹴りをして怯ませる。

間髪入れずミドル、ハイキックでクローズを攻める。

クローズは頭めがけて放たれた脚を捕まえ、アルファの空いたボディにストレートパンチを放つ。

強烈な一撃は、アルファを数メートル先へ吹き飛ばした。

アルファはそれでも即座に立ち上がり、再度飛びかかってくる。

「くそ、やっぱやたらつえーぞコイツ!」

基礎スペックは恐らくクローズの方が上、しかしそれでも、アルファの猛攻に徐々に防戦になっていく。

以前千翼を助けた際もこの赤いアマゾンとは少々やり辛さを感じていた万丈だったが、先程まで血を抜かれていたせいか、足元も少しおぼつかなくなっている。この状態では尚のこと苦戦は必至だった。

「お前の匂いは何かが混ざった感じで独特だからな、分かりやすくて助かる」

嗅ぐ様な仕草でアルファは言う。

 

「…ッ!万丈っ!」

千翼もまたアマゾン・ネオへと変身、クローズへ加勢する。

しかしアルファは近づいてきたネオへと即座にターゲットを変更、クローズを蹴り倒す。

不意を突かれ入った一撃は万丈を変身解除へと追い込む。そしてネオへと先程と同じかそれ以上の猛攻を繰り出した。

「くっ…!ああっ…!」

あまりの攻撃の嵐に、ついに膝をつくネオ。

アルファは、トドメと言わんばかりに雄叫びを上げ大口を開くと、ネオへと首元へと噛みつこうとした。

「千翼ッ!」

万丈は力のない足取りで、それでも走りネオを押し倒し守った。

そして

「ッ!?がああああああッ!!」

アルファの牙は、万丈の肩に深々と刺さった。

興奮状態で噛み付いた相手が分かっていないのか、アルファは奇声を上げながら肉をえぐろうと尚も噛み続ける。

「やめろぉ!」

ネオはブレードを展開、アルファの胴体を切り上げて吹き飛ばした。

切られた腹は右半分がぱっくりと開き、アルファは人の姿へと戻った。

息を切らしながら、千翼もまた変身を解く。

「万丈っ!大丈夫か!?」

肩からは多量の出血と、深い噛み跡が痛々しく付いている。

「さ、流石に…やべぇかも…」

「何か、傷を塞げるものが…」

そういうと自分のマフラーが使えるのではと思い、それを傷に当て包帯のように万丈へと巻き付けた。

「お前、いいのかコレ…」

万丈は少し弱々しい声でお礼を言う。

「いいんだ、おまえが守ってくれなかったおれは今頃…それに、今はおまえに持っててほしい」

「あ、ありがとよ」

しかし、二人の会話を裂くように仁は再び叫びながら今度は地面をのたうち回り出した。

「な、なんだ!」

驚く二人をよそに尚も叫び続ける仁。

しかし、絶叫をし続ける彼の身体に、二人はさらに驚愕する事となる。

「なぁ、アイツ確かさっき…」

千翼の一撃で開いたはずの腹の傷。

衣服の上からでも分かる程の大きな傷だった。

「傷が…塞がってる!?」

 

そこへ、一台のバイクがこちらへと向かってきた。

「悠っ!」

赤いバイクから降りると、悠は千翼達と仁の間ほどに駆け寄った。

「仁さん…遅かったか」

悠は、手負いの万丈を確認した後、地面をはいずる男を悲しそうな目で見つめた。

「万丈、君の細胞をあの後さらに調べさせて貰った。そしたらとんでもないことがわかった。」

悠は千翼達へと近付きながらその結果を伝えた。

「溶原性細胞についてはこの間話した通り、そして溶原性細胞由来でないアマゾン細胞がこの細胞と融合した時──」

悠は少し詰まらせ続きを伝えようとしたその時、仁が叫ぶ事をやめた。突然の静寂に一同は仁の方へと目をやる。じっと地面に大の字になっていた鷹山仁がそこにいた。

そして、ゆっくりと起き上がる彼の目は。

先ほどまで白く濁っていたその目は、しっかりと千翼達を見つめていた。

それは、彼の視力が戻ったことを示していた。

「やっと、お前の顔を見れた」

彼は嬉しそうに言う。

そして、少し嗚咽混じりな喋り方になり

「…ほんと、七羽さんによぉく似てるよ」

少し俯いて、目頭を抑える様なポーズを取ったのちひと呼吸置き

「だめだなぁ‥‥。やっぱ、見なきゃ良かったなぁ!」

歯を食いしばったようなその笑顔を、涙や鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、彼は再びドライバーのハンドルを握った。

 

「仁さんっ!もうアマゾンを狩らなくてもいいんです!」

悠は仁へと叫ぶ。

「・・・あ?」

張りついた笑顔のまま、仁は疑問の声でそう返す。

「アマゾン細胞の脅威性は、彼の細胞を使えば抑制できる。培養方法も、まだ試行段階だけど必ず見つかる!」

悠もまた僅かに涙を浮かべながら続ける。

「もう良いんだ。もう、アマゾンは…もう…」

 

「知るか」

尚も笑顔のまま、仁は悠の言葉をばっさりと切った。

「えっ?」

その返事に、悠は困惑を隠さずにいた。

 

「だからなんだ、アマゾンはアマゾンのままなんだろ。俺は狩り続ける。全てのアマゾンを駆除するまで」「仁さん」「話は済んだか?なら引っ込んでてくれ、親子水入らずなんだ」「仁さん貴方は」

言い合い、今にも飛びかからんとする2人だったが。

4Cビルのエントランス方から、断末魔のような悲鳴が上がりその場にいた全員がビルの方へ顔を向けた。

そして何かと戦闘するような、ライフルの発砲音に、また悲鳴とが繰り返し外の広場にまで聞こえてくる。

そして銃撃戦の音も、悲鳴も聞こえなくなり僅かな静寂ののち、コツ、コツ、と広間に近づいてくる足音。そこにいたのは。

 

スーツを真っ赤に染め上げ、左腕を異様な上げ方をしながらこちらへ来る橘の姿が、そこにあった。

その目はすわっており、いつものナルシズムで傲慢な雰囲気は一切なく、悠を始め彼を知るものは皆一瞬誰か分からなかった。それどもまでに別人だった。

 

「ええ、その反応は正しい。私は橘という男ではありませんから。いや正確には、この身体は彼のものですが」

淡々とそう語る男は続けて

「E細胞、でしたかね。確かに素晴らしい。全てを貪欲に喰らおうとする。貯蔵庫の中のアマゾンを全て平らげ、あの場にいた人を全てを食い尽くし尚も貪欲に欲す。素晴らしく、そして危険だ」

アマゾンは自分の変わった姿を見ながら続ける。

「些か美しさに欠けますが。しかしコレもまた、良き終末をもたらすものではある」

 

 

橘と思しき男はそういうと、左手を右手の二の腕へと持っていく。

 

「レジスター!」

悠が叫ぶ。見るとそこにはアマゾンズレジスターが装着されていた。

男はレジスターを起動させると、その周囲に凄まじい熱波を放った。

その場にいた皆が顔を覆い、そして風が収まり再び男の方を見ると

「なんだありゃ…」

万丈がそう漏らす。

そこに立っていたのは、異様な様な姿をしたアマゾンだった。

全高3メートル程、大きな翼とツノそして顎を持ち、人の姿をしているが今まで出たどのアマゾンとも似つかず、しかし様々な動植物の特徴を有していた。

その中には、仁や悠がコレまで出会ったアマゾンの特徴もあった。

そしてそのアマゾンの集合体、その見た目を敢えて呼称するのであれば、恐竜といった風貌であった。

 

「万丈龍我君、でしたね。君の持つその細胞、終末の為に是非欲しい」

そういった次の瞬間には、橘の変身したアマゾン体、恐竜アマゾンは万丈の方へと飛びかかった。

巨体に似つかわしくないスピードだったか、千翼はその奇襲を察知に万丈を突き飛ばした。

万丈を掴もうとした怪物の腕は、千翼を鷲掴みにしそのまま握り潰す。装甲も骨もミシミシと音を立て一瞬で崩壊寸前となった千翼はそのまま万丈を突き飛ばした方向へと投げ飛ばされた。

 

悠、そう仁が言う。2人はドライバーに手を当てる。

「あのヤバそうなのから片付けるぞ、話はその後だ」

「‥‥そうですね」

 

「「アマゾン!」」

 

緑と赤の炎が炸裂し2人は変身、恐竜アマゾンへ飛びかかった。

しかしそれに対し丸太のような尻尾を一振りしアルファとネオ・オメガの攻撃は敢えなく一蹴されてしまう。

なおも果敢に攻める仁と悠だったが、まともなダメージは入っていない。

再度吹き飛ばされ片膝をつきながら

「図体でかくてタフで俊敏おまけに攻撃が全部痛ぇ、反則だろ」

仁はそう愚痴をこぼす。

「少し、昔に戻ったみたいですね」

悠は少し息を上げながら言う。

「そういう感傷に浸ってると後でやり辛くなるぞ」

フッと鼻で笑う仁。

「ええ…でも正気でいてくれる方が、何かあってもきっと、あとぐされがない」

短いやり取りを終え、2人はそれぞれの武器を展開し再び怪物へと立ち向かっていく。

 

その様子を、万丈は朦朧とする意識の中見ていた。

貧血と痛みで上手く立ち上がれなかったが、ようやく這いつくばってでも進めるまでに回復した。

このままでは恐らく、あの2人は勝てない。

自分も加勢しなければ。

 

少し先には投げ飛ばされた千翼がいた。既に変身は解けており、死んだかと心配していたが胸や鼻が僅かに動いているので息はある様子だった。

万丈はそんな千翼へと体を引きずりながら近付く。

今の千翼はアマゾン細胞に比重が偏っている。アマゾン細胞は驚異的だがそれまでの万丈の中の、新たに創造されたエボルトの遺伝子、それと融合したものに比べれば再生力は格段に低い。

 

「死ぬなよ‥‥!千翼ォ‥‥!」

 

ようやく千翼のそばにきた万丈だったが、しかし何が出来るわけでもない。ただ、弱っていく千翼を見ることしか出来なかった。

「なんだよ‥‥約束したのによ、コイツとよ‥‥!」

無力さへの怒りから両手を地面に何度も叩き付ける

、その時フルボトルが一つ地面に転がった。

それを見た万丈は、ある事を思いつく。

(待てよ。アイツがやったのと同じような事を、オレもできれば‥‥!)

その転がったボトル、グレートドラゴンを握り万丈はがむしゃらに念じた。

方法はわからない、だが必死にそうしたいと願った。出来るかはわからない、たがそれに賭けるしかなかった。

万丈の身体が光出す。『この身体』と結びつく以前の、曖昧な存在が周囲を覆った。

それをボトルに移し、キャップを千翼の方へ指した。ボトルはエンプティボトルへと姿を変え、光体は千翼の中へと吸い込まれていった。

 

そしてゆっくりと、千翼は瞼を開いた。

「良かった‥‥!」

安堵する万丈、千翼は何が起こったのかが分からなかった。まだ全身はボロボロで戦えるまではいかないものの、一瞬で意識が戻るまでに回復した事への戸惑いがあった。

「昔な、エボルトって人の身体取っ替え引っ替えするやつがいてさ。理屈はわかんねぇけど、アイツと似たような事出来れば、こうやって力を分けられるじゃないかって思って」

「よく、分かんないけどその、ありがとう」

弱々しくも礼を言う千翼のそのした笑顔に、万丈はどこか友の笑顔と言葉を思い出しその姿を重ねた。

 

「‥‥さ、て」

まだおぼつかない体を起こしベルトにガジェットとボトルを装填する。

「変身すりゃ、多少は楽になるか」

万丈はクローズマグマへと変身、アーマーが身体を支えることでようやく立ち上がれるようになった。

しかし度重なる負傷で既に満身創痍、立ち上がるだけで精一杯だった。

それでも進もうとする万丈に千翼は

「‥‥なんで、そこまでしてくれるんだよ」

万丈へ聞く。

「言ったろ、愛と平和のため──そう、仮面ライダーだからな」

「かめん、ライダー?」

「そう。んで、俺も仮面ライダーだから、な」

じゃ、行ってくるわ。万丈はそう言い、眼前の敵へ立ち向かって行った。

 




絶対に近いうちに次を投稿します。本当にすみません。
長い間何もしてなかったせいか、文字書き下手くそが更に悪化してますがどうか多めに見てください。


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