スルトくん、世界平和目指すってよ (そらそう)
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スルトくん、世界平和目指すってよ

ちからつきたよ…。(ガチャ)
ついでに本編始まる前に力尽きたよ…これもアレも全部スルトくんが魅力的なのが悪いよ~(責任転嫁)


 

 

 

 

 

 ──ああ、オレの最期はいつも、この(これ)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 世界を滅ぼす為に産まれた炎の体(スルト)炎の体(スルト)はオレの意識とは関係無く、この体に触れたモノ全てを燃やし尽くした。

 

 産まれた瞬間から世界の敵として、恐れられ、怨まれ、怒りの目をもってオレを殺そうとしてきた。襲い来る神々の群れ。無力ながら何かを成そうと足掻く人間共。オレが何かをしようとせずとも彼らはオレを殺そうとしてきた。──だから、燃やした。近づく奴等を残らず燃やし尽くした。

 

 

 ──何故世界を焼く。

 そんな事、オレが知ることか。

 

 ──何故、我らを滅ぼそうとする。

 そんな事、オレが知ったことか。

 

 何時だったか、神々の残り滓がそんな事を言っていた。

 ああ、そうだ。オレは何も知らない。生まれ、意識を持った時から燃やす事以外、何も知らない。美しい景色も、言葉を交わす意味も、……心と言うモノも。

  オレには何もない、何も。

 ただ燃やすことしか知らないから燃やした。この力があるから星を滅ぼそうと言う、理由も意味もない単純な行動だった。

 オレに在るのは全てを燃やすこの炎の体と、燃える大地、崩れ落ちる世界。そして、先程まで命だったものの燃え滓。オレの目に映る景色は何時も変わらず、炎だけだった。

 

 

 焦燥感に駆られ、あの氷の獣を喰らい、大神を消し去っても、何も変わりはしなかった。

 ああ、オレには、何もないのか。

 力は有った。

 全てを焼く炎の体も世界を滅ぼす炎の剣も。

 けれど、たったそれだけしか無かったのだ。

 

 その思考の隙を狙って、最後の力を振り絞った大神の力により肉体は太陽として()に閉じ込められた。

 

 ──ああ、呆気ない最後だったな。

 

 

 破壊を続けた炎の巨人は、偉大な神により終止符を打たれたのだ。人々は歓喜に湧き、唯一生き残った、ただ一柱の女神を残し、けれど誰もが明日に希望を見出だした。

 

失ったものは多いけれど、ここからがようやく始まりだ!と、笑って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──けれど世界は、その奇跡の様な勝利を遂げたこの世界に見切りをつけた。

 まるで全てが無駄だったと告げるように、無価値に、世界は閉じようとしていた。

 

 

 

 ────……ああ、下らない。人間も、神々も、巨人も、このオレも、全ては無価値だったのか。

 

 

 

 それは失望だったのか。それとも絶望だったのか。偽なる太陽に揺蕩う火炎を大本とするモノは、体の炎が燻るのを感じながら世界が閉じるのをただ見守っていた。

 

 

 そして全てが終わる瞬間、ふと誰かの視線を感じた。

 

 「…………誰だ。」

 

 返ってくる声はないと知りながらも、気が付けばそんな言葉を口に出していた。しかし、返ってこないと思っていた問いに、声が届いた。凛々しくも、弱々しく、小さな存在に感じる女の声だ。

 

 「……私は、──────。」

 

 

 その瞬間、その奇跡を、オレは決して忘れないだろう。

 

 初めてオレの目を見てくれたヒトだった。その目に恐怖は無く、また怒りも憎しみも無かった。

 ──そんな目を向けられたのは初めてだった。

 

 

 

 「──そう、じゃあ。私達は一緒だわ。」

 

 

 「……一緒だと?…炎の化身たるオレと、脆弱な人間の貴様が」

 

 

 「ええ、そうよ。世界を救おうとして、何も成せないまま炎に包まれ死んでいく女と。世界を滅ぼそうとして、何も成せないまま炎として死んでいく貴方。」

 

 

 不思議な人間の女だった。オレよりも遥かに弱く、この炎の体に触れること無く近づいただけで死んでしまいそうな存在は、笑いながら初めての同類に会えた喜びの声に満ちていた。

 

 

 ────そうか。この女もオレと同じく、巨大な力を持ちながら、その力を振るう意味も理由も見出だせなかった存在なのか。

 

 

 「……女、貴様の名は何と言う。」

 

 「──私の名前はオフェリア。オフェリア・ファムルソローネ。」

 

 

 このヒトとの会話は不思議と嫌ではなかった。あれほど荒れ狂っていた炎の体は凪いでいて、今までの様な苛立ちから来る熱ではない、けれど満たされる熱を彼女から感じたのだ。こんな感情は初めてだった。だから、この感情のままに彼女に何かをしてあげたくて、けれどオレには破壊しか無かった。この名前も分からない衝動のままにオレはオレの持てるもの全てを見せてあげることを、誓った。

 

 

 

 「──オレの名はスルト。炎の身体を持つ巨人の王スルト。女、オフェリア。もしも、もう一度貴様と相見える事が有るならば──」

 

 そんな有り得ない夢を言葉に乗せて放つ。互いに()()()()()()()()()()()()事を知りながら、少しでも縁を繋ぎ、奇跡が起こることを祈って言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 「──貴様に星の終焉を見せよう。オフェリア。」

 

 

 

 それがオレがお前にあげられるモノだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、奇跡は起こった。

 

 

 巨人王スルトと人間の魔術師オフェリアは再会を果たした。オレは歓喜に震え、生まれて初めて、オレがオレとして産まれてきた事に感謝した。

 

 

 忌々しくも別の身体での再会ではあったが。オレ本来の肉体は偽の太陽として大神の牢に閉じ込められている為にそう易々と持って来ることが出来なかったのだ。

 

 

 

 

 それから様々な事が起こり、ようやくオレの肉体(スルト)をあの牢から解き放った。

 

 

 

 

 

 …けれど、ヒトと巨人。生命と破壊の化身ではどうあっても分かりあえるものではなかったのだ。

 

 

 

 大神の牢を破り、炎の巨人として復活したオレの前には死して青ざめていくオフェリアの姿があった。…彼女は命を全て使ってオレを殺そうとしてきたのだ。

 

 

 何故、何故、何故。

 

 

 オレの中で疑問が頭を占める。オレの身体を英雄達と盾を持った混ざり物、そして無力な人間が攻撃してくるがそんな事はどうでも良かった。

 オレにとっては何故オフェリアはオレを殺そうとしてきたのか。

 ただ、その答えが知りたかった。

 

 

 ふと、あの間男のアーチャーを思い出す。あの男の宝具『可能性の虹』を見てから彼女はオレを殺そうとしてきた。……可能性。それはオレには無いものだ。炎しかないオレは可能性と言う多様性は無く、ただ破壊しか出来ない。

 

 

 ……つまり、彼女は、オフェリアは()()()()()()()()()に可能性を見たのか。

 

 

 その答えはとても納得の出来るものだった。

生まれた瞬間から存在を否定されてきたオレは、同じだと、そう言ってくれた彼女にすら拒絶された。

 

──けれど、それは意味があった。

 

 ……ああ、そうか。世界から拒絶されたこの世界は、ただ()()()()()()()のではなく、()()()()()()()()()()()に有ったのか。

 

 

 彼女の決死の行動は、世界に失望したオレに答えを出してくれた。…また彼女からオレは貰ってしまった。

 

 

 ────ピキッ

 

 

 炎の巨体を形作る霊核に今まで無視してきた英雄達の攻撃が遂には届いた。

 

 

 

 「──ぐぅ……っ!!」

 

 

 

 このチャンスを逃すものかと雑魚共が一斉に攻撃してくる。

 

 

 

 ──ピキッピキッピキッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ああ、オレの最期はいつも、この(これ)だ。

 

 

 

 

 

 

 世界から拒絶され、他の生命から存在を否定され殺される。孤独で空虚な最期。

 炎の体から熱を奪われ、四肢は徐々に動きを止める。

 

 

 

 けれど、世界が閉じようとしていたあの時とは違い、オレは何処か満足していた。

 

 あの時、命を懸けた神々の戦いに意味はあったのだと。

 …命を懸けたオフェリアの生に意味はあったのだと。

 

 ただ一つ悲しいとするなら、結局スルト(オレ)はどちらにせよ、その生に意味はなかった、と言う事か。

 

 

 オレが倒れこの世から消える瞬間、盾持つ混ざり物の隣に立っていた人間がオレを見ていた。あの矮小な生物は世界を救いに来ていたのだったか。

 

 

 

 ──そう言えば、オフェリアも最初は世界を救おうとしていたと言っていたな。

 

 

 

 ……もしも、またもう一度が有るのなら、次は世界(彼女)の為に────ふっクク。下らんな。

 

 

 

 

 ──そうしてオレは世界から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………………………。……………………………………。…………何だ、これは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またしても英霊シグルドの体を借りて異世界(オーバーロード)へと、炎の巨人(スルト)は現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続かない。続きがないとも言う。fate×オーバーロードの小説誰か書いて下さい!何でもしますからぁ!


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スルトくん、早速やらかす

スルトくん……お前ってやつは…。


 

目の前に在る存在は、自身よりも遥かにちっぽけな存在だった。そんなモノがたったの六つ程。

 最早炎の巨人ではなく、氷の獣(フェンリル)を喰らったことにより得た氷炎の体、この身に過ぎたる大欲を持ってしまった故に変質して得た悪竜現象(ファブニール)。世界からはみ出そうとし始めたオレを、それらが倒そうとみっともなく足掻いている。

  

 

 思いによって質量を変える大槍、そして竜殺しを成した魔剣が氷炎の体を貫く。

 大神の残り物の人形(ワルキューレ)が、この世界で唯一の神、スカサハ=スカディの加護を受けて渾身の一撃を放つ。

 

 

 その攻撃を煩わしいとばかりに体から冷気が吹き出し、炎が荒れ狂う。足を着けた大地は高温で焼かれ冷気で冷まされ硝子と成り、空気は焼け爛れ凍てつき、突然の高熱と冷気に大気には陽炎(かげろう)が広がり世界が歪む。

 魔力も何もない、単純な高温の熱と氷結。

 それは例え肉体を持たず、霊核により魔力で形を保つ英霊であろうとも、神秘や幻想により形を成す神で在ろうとも、其処らの有象無象と同じくただ焼け、凍てつき、燃えて、凍り、塵となる。防御では意味は無く、回避しようと距離を取っても、オレが足を一歩踏み出せば直ぐに埋まる。 

 ──全てを無意味にする圧倒的な力。

 それがオレだ。燃える太陽の落とし子。破壊の化身たる巨人王スルトだ。

 

 万物では到底敵わない破壊の化身、そのオレの攻撃を。しかし、盾を持つ混ざり物、そして脆弱なヒトが他の者達の前に出てあろうことか、防いだのだ。あの六つの存在の中で戦いに不向きな二つの存在。そんな矮小な生物がこの炎を防いだ。

 ──面白い。

 ならば、と炎の剣を抜いた。

 技術も何もない単純な振り下ろし。それだけで炎の熱により大気は渦巻き、ちっぽけな雑魚共は動きを制限され無様に押し潰される。

 

 

 

 ──しかし、そんな事を易々と許す英雄は此処には居ない。

 

 一瞬の滅びの危機。為ればこそ、一度は(世界)滅亡(邪竜)から救った英雄(シグルド)はもう一度奇跡を起こす。

 

 女神と槍持つ戦乙女から受けた加護を使い、英雄シグルドは渾身の一撃を以て、

 

 ────スルトの剣を、弾き返した。

 

 

 燃え盛る炎の体と同じく、スルトにとって炎の剣は全てを無に還す最恐の武器であった。強力な力を持っていた彼の大神も、この炎の剣の前には手も足も出ず倒された。

 ……それが、避けられるどころか弾き返された。

 

 

 

 

 驚愕し動きを止めたスルトに対し、先程の一撃の反動で体の至る所に深い傷を負ったシグルドは、血を吐き、崩れそうになる身体に力を入れてその隙を逃さぬ様に最後の力を振り絞り、彼の宝具(伝説)を放つ。

 

 「──魔剣解放、壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)!!!!」

 

 そして、その彼に寄り添い支え、横に並び立つ者は英雄シグルドの妻にして大神の娘。名をブリュンヒルデ。戦乙女であるワルキューレから堕ち、ヒトと成ったもの。彼女もシグルドと同じく、霊核に深い傷を負ったまま最期の力を振り絞って自身の宝具(過去)を放つ。

 

 「私も貴方と、共に──!死がふたりを分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)!!!!」

 

 

 二人の英雄の最期の一撃は、

 

 ────ピキッ

 

 確かに、あの巨人王の霊核へと届いた。

 

 その生まれた一瞬の奇跡を大神が残した三姉妹最後のワルキューレ、オルトリンデが見逃す筈もなく氷炎の巨人の霊核へと追撃を射つ。

 

 この世界を壊し(救い)に来た英霊と人間の混ざり物、マシュ。そしてそのマスターである何の能力も無い人間。彼らも消し去るべきこの世界を守る為に決死の攻撃を放つ。

 

 この世界最後の女神、スカサハ=スカディもまた同じく、命を懸ける勇士達に彼女の持てる全ての力を授けた。

 

 

 ─────ピキッピキッピキッ

 

 霊核へと更に攻撃を加えられ、──遂には砕けた。姿を形作る霊核が砕かれた事により氷炎の体が揺れ、崩れ始める。

 そうして、破壊の化身。炎の巨人たるスルトは最後の勇士達の手により倒された。

 

 

 

 

 

 

 ──そう、確かにオレの霊核は砕かれたはずだった。考え事に気を取られていたからとはいえ、このオレが無様にも倒れ、自身の生の無意味さに嘆きながら死んだ。…しかし、実感としてオレの足は再び大地に足を着けている。

 

 

 「………………………………。……………………………………。…………何だこれは。」

 

 

 目の前に広がるのは、広く遠くまで見渡せる程の草原。オレが居た炎と氷雪の世界では、最早見れる場所は数少ないであろう筈の光景。

 

 …訳が分からない。

 

 「──ぐぅ……っ!!」

 

 現状を冷静に見極めようと自身を落ち着かせた瞬間、全身に激痛が走る。どういう事かと自身の身体を見てみれば、炎の巨人たるスルトの姿は無く、何やら見覚えのある手足。

 

 「……。………………。また、……またあの竜殺しの身体かあッ!!」

 

 この身体を認識した瞬間、怒りに大気が震えた。

 

 この英雄の体の中に入ったのはこれで二度目だった。一度目はオフェリアと再会した時。

大神に閉じ(こめ)られ、あの世界が閉じようとした時に、スルトの居る世界を繋げて覗き見たオフェリアの魔眼。

オフェリアがスルトの居た世界(異聞帯)に流れ着いたその時。魔術師としてオフェリアが使い魔を召喚していた為、その特別な眼の能力を利用し、眼を辿りオフェリアの元へと魂だけでもと送れば今と同じようにこの英雄(シグルド)の身体だったのだ。

…其処までは別に良い。牢に在るスルトの炎の体に比べればどの英雄の体であろうとも貧弱で脆く弱いモノだからだ。

 

 

 しかし、この英雄(シグルド)は……ともかく煩かった。何かにつけて竜殺しの妻である者の話を聞かされるのである。やれ我が()此所(ここ)が良い、だのどうでもいい思い出話を聞かされ続けたのだ。普通であればそんなの関係無く全てを燃やせるのだが、炎の体は此処には無く、この竜殺しは残念な事にこの体の持ち主であった。この体に降りてきた際に魂を押し潰せれば話は変わったのかもしれないが、またまた残念な事にこの英雄は逆境に強く、とてもしぶとかった。

 

 とにかく何処に居てもノロケを聞かされ続けていた為に、何時しかスルトはオフェリアの側に立ち続けてオフェリアを眺める事で現実逃避をし始めた。哀れスルト、南無。

 

 そんな記憶を次々と思い出したスルトの怒りは有頂天。

 

 

 「よもや……よもやまた貴様の身体とは何故だッ!!」

 

 何やら見知らぬ世界へと流れ着いたが、そんな事よりもまた忌々しいあの竜殺しの身体で現界するとは何事か!

 

 

 身体が傷だらけである事も忘れ、収まらぬ苛立ちをスルトは近くにあった土が少し盛り上がった場所へと手元にあった武器を正に全身全霊、スルトの全ての炎を込めて投げ放った。それはスルト自身、過去を振り返っても無かったであろう正に全力の投射だった。

 

 乱雑に放たれたシグルドの大切な武器である魔剣グラムは音を置き去りに、光の軌跡を残しながら纏った炎で空気を焼け斬り直進。

 

 見事目標である場所へと直撃。直後に炎が辺り一面を燃やし尽くし周囲一帯の草花や木、大地は吹き飛び消えた。遅れて音が届き、衝撃がどれ程の威力だったのか物語る様に怒号となって鳴り響く。恐らく大陸の半分が消し飛ぶ程の威力だろう。

 

 

 

 「──────フゥゥゥゥゥ…………。」

 

 体の中で荒れ狂う炎の熱を息を吐くことで逃がす。

 あの忌々しい記憶を思い出したが、これで少しは気分が晴れたか。体の苛立ちは収まり、頭に冷静さを取り戻す。

 

 「……ふぅ。…………ん?」

 

 冷静になり、今度こそ状況を確認しようとする。しかし、目の前に不自然な物が映る。

 それは先程投擲の的にした土が盛り上がった場所にあった。その場所は破壊の炎を纏った魔剣により辺り一面が消し飛び、炎の海に成った。それほどの威力で投げたのだから当然なのだが。

 ──しかし、全てが消し飛んだ場所に、焼け焦げ、魔剣が恐らく貫いたのだろう場所が溶け崩れてはいるものの、見事だと言える建築物らしき物が、其処には聳え立っていた。

 

 

 

 

 

 事の顛末を起こしたスルトには知る由も無いが、その建築物の名は、ナザリック地下大墳墓。

 

 

 またの名を────アインズ・ウール・ゴウンと言う。

 

 

 

 

 




まさかこんなノートの隅に書いたかのような落書きにお気に入りが貰えるとは……。ありがてぇ…ありがてぇ…。この恩に報いるために何とか頭を捻って続きを書きましたぜ…!

ネタが切れた。誰か続き書いて(悲願)


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スルトくん、空気が読めない…。

スルトくん、キミにカラオケでGReeeeNのオレンジを歌って欲しい。オフェリアの前でぜひ!


 

 

 ナザリック地下大墳墓。そこには今、侵入者が複数人居た。覗き見できるアイテムを使い、豪華な衣装を身に着けた骸が侵入した賊を静かに見つめる。

 

 

 重圧な鎧に身を包んだ者はトラップ型の転移魔法へ誘導し、虫を無限に召喚する恐怖公の元へ送った。あれほどの鎧を着ているのならば、例え凄腕であろうとも恐怖公が召喚した虫達に肉を喰われる方が早いだろう。

 

 また年を重ねた経験者は要警戒でプレアデスの監視の元、スケルトンの群れの中へ。可能ならば色々な事にあの者達の体を使いたいのであまり傷がない方が好ましいのだが…期待はせずにいよう。もしもスケルトンを突破するほどの力を持つのなら、プレアデスには手を下す許可を出している。

 

 そしてかのガゼフと並ぶと自称していた者は、…ハム助の実力試験に利用するには丁度良いのかもしれない。正直ハム助と初めて会ったときにあっさり平服されてしまった為、実力がどの程度あるのか把握しきれていない。ガゼフと並ぶ者なら良い物差しになるだろう。

 

 そして、少人数であり生きの良さそうな者達は闘技場へと誘った。これで俺も少しは強くなれれば良いのだが……望みは薄そうだな。余り期待せずに挑むか。

 残りは適当に拷問官の所へ送り、色々と情報を抜き取りたい所だ。

 

 正直あの賊共は警戒するほどのモノでは無いと分かってはいるが…不確定要素はなるべく排除したいと思うのは俺の性根が小心者だからだろう……はぁ。っと、思わず心の中でもため息が…。

 

 出来ればデミウルゴスが立てたこのナザリック地下大墳墓へ賊を招き入れる作戦は嫌だったのだが、今後の事を考えるとそうも言っていられない。…彼らと築き上げたナザリック地下大墳墓。それをあんなモノが足を着けるなど……虫酸が走る。こんなことは早々に終わらせたい所だ。

 

 さて、そろそろ闘技場へ俺も行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓、闘技場。

 そこには百は優に超えるであろう異業種の者達。そしてこの墳墓の主であるアインズ・ウール・ゴウンが、この地に足を踏み入れてしまった賊である四人組のパーティーを囲みながら見つめていた。

 

 「人の顔を見て吐くとは失礼にも程があるだろうが」

 

 彼ら四人組の人間達と対面する骸<アインズ>がこの地を汚した事に機嫌を悪くする。

 

 「?!彼女に何をした!!」

 

 嘔吐物を吐き続ける小柄な少女を庇うように彼女の仲間が前に出て武器を構える。

 

 「……うっぁ………………だ…、ダメ…っ!!皆逃げて…!!!!」

 

 武器を構える仲間達に吐き気を堪えながら少女が叫ぶ。その叫びを聞いた仲間達が異常に気付く。

 

 現在嘔吐物で顔が汚れている少女、アルシェは世界で有数のタレント(特殊能力)持ちだった。その能力は相手がマジックキャスターか、その相手は第何位階の魔法を扱えるのかを見抜くと言う、珍しいタレント持ちでも希有の能力だった。これほど危険な事が付きまとう冒険に需要のある能力は早々無いだろう。

 …そう、冒険に需要がある能力とはつまり──危険を直ぐに察する事。

 その彼女が恐怖に顔を歪めながら悲鳴のように叫んだ。

 

 ──まずい。

 このパーティーのリーダー的存在であるヘッケランが直ぐにでも逃げられる場所を探すが周囲は様々な異業種に囲まれており、そして目の前にはその異業種達を纏め上げているであろう異様な骸の怪物。

 

 …まず誰かが犠牲にならなきゃ助からないだろうな。だがそんな事──。

 

 いつもは飄々とした男であるヘッケランだが、こと身内に対しては大事にし過ぎる男だった。

 

 ここには優しい親友が、愛した女が、そして何より将来有望な少女。妹達の為に危険な事を承知でこんな場所にまで来た幼い命が、自分の選んだ依頼が原因で死んでしまうかもしれない。この中で見捨てよう等と思える人は誰一人として居ない。……なら、やることは決まっている。仲間を守るため一歩踏み出そうとした時待ったの声がかけられた。

 

 「おっと、たった一人に任せる程落ちぶれてはいませんよ」

 

 明らかな絶望の前に、ぎこちないながらも安心させる為であろう、笑顔を浮かべて彼の親友たるロバーが横に並び立つ。

 そして、俺の愛する彼女イミーナもまた同じだった。

 

 「ふふ、大体さっきパーティー全員で連携して押し止めるのに精一杯だった相手に、たった一人じゃ直ぐに倒されるわよ」

 

 頬に汗を流しながらそれでも目の前の敵を睨み付ける彼女の姿。

 イミーナ達もまた、ここに連れてきてしまった少女を生かす為に精一杯の勇気を振り絞っていた。

 

 …ああ、情けないな。俺はコイツらを巻き込んだってのに、そんな格好いいとこ見せられたら逃げろなんて口が裂けても言えねぇな…っ。

 

 ヘッケランは彼らの優しさに泣きそうになるのを耐えながら前を向き、ここで果てる覚悟を……決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「逃げろ、アルシェ」

 

 私の目の前でヘッケランがそう呟く。えっ、と言葉になら無い声が口から零れ出る。仲間達に目を向ければ優しくまるで兄のように思っていたヘッケランやロバーが、色々と意味深な事を言う姉のような存在のイミーナが、私に背を向けながら決死の覚悟をしたように「逃げろ」と言った。

 

 「……っ!そん、な事……出来るわけが──」

 

 私は知っている。この目の前の化け物が、とても私達じゃ敵わないヤツだという事を。絶対に死んでしまう。どうせ逃げられない、だから私も戦うと皆に言おうとして────仲間達の笑顔を見てしまった。

 

 死を覚悟して、けれど何としてもお前は生きろと。彼らは私にそう言っていた。

 

 最早私に言葉は無かった。…………そうだ。私には妹達が待っている。あの両親に任せていては遠からず飢えて死ぬか、…もしくは売られてしまうかもしれない。私のたった一つの生きる理由。それを分かっているからこそ、彼らは“生きろ”と言った。

 

 ……。

 ……………………ありがとう。

 

 その優しさへの嬉しさも。どうしようもない悲しみも。非力な自分への悔しさも。全て心の中に押し込めて、私も覚悟を決めた。何を犠牲にしてでも、ここから生きて帰ると──!

 

 

 仲間達に背を向け走り、魔法を唱えるべく魔力を操る事に専念する。

 

 「…そう簡単に逃がすとでも?」

 

 骸が喋る。まるで家畜に喋りかけているかのような無機質で無感情な声。

 その声を聞いていると背筋に冷たいモノが走り、恐怖で足が止まってしまいそうになる。

 

 ──いつの間にか、走り出していた私の真横にあの骸の怪物が立っていた。その手には謎の魔力が集まっていて何らかの魔法を使ったのだと分かった。…ああ、こんな……呆気なく。

 その大きな骨の手が私の顔に触れる──

 

 「俺達が、そう簡単に殺らせるとでも?」

 

 ──ことはなく、仲間達が剣を振り抜き私から引き剥がした。

 

 「…っ!へ、大した事無いな。ほらほらアルシェ!さっさと帰んねぇと妹たちがべそかいちまうぞ!」

 

 …ヘッケラン。

 

 「生きる事とは苦悩の連続。ですが大丈夫。貴方は決して一人ではありません!貴方の思い、苦悩、痛みを背負ってくれる人は世界に必ず居ます。さあ、どうか足を止めずに!」

 

 …ロバー。

 

 「まったく、世話の焼ける娘だよ。まあ、そういう所が可愛いんだけどね!このアホの男どもの面倒は私が見とくから、安心して行ってきなさいアルシェ!」

 

 ……イミーナ。

 

 仲間達の声が聞こえる。誰がどう見ても、ただの強がりだと分かる強張った声。それらを見ていた周囲の異業種が彼らを嘲り嗤う。

 …けれど、彼らの勇気(強がり)は私の足は進ませた。

 

 「……っ。フライッ!!」

 

 魔法を発動させる魔力が溜まり呪文を唱えた瞬間、私の体が宙に浮かぶ。上には夜空があり、星が光っていた。この辺りの地理には疎いけど、星座を便りに進めば見知っている土地に出る筈。

 必ず、必ず生きて帰ってみせる…!!

 

 

 

 

 

 

 

 「───う、おおおおおおおおおぉ!!!!」

 

 ヘッケランが骸の化け物に斬りかかる。

 

 イミーナの矢を放つ音。ロバーの野太い呪文を唱える声。攻撃の音は彼ら達のものしか聞こえない。だが……化け物にとってはそんな攻撃、意に介するものでは無いのだろう。

 

 

 「斬撃、刺突、打撃。そんな攻撃では私を傷付ける事もできない。」

 

 骸から無慈悲に語られる事実。その真実はつまり──仲間が生き残るという、俺達のわずかな希望は、…絶たれた事を意味していた。

 

 「…そ、そんなのどんなインチキよ!」

 

 イミーナが叫ぶ。あの化け物が言うことが本当なら、この世界のほぼ全ての生物はこの骸には決して勝てないではないか。…誰も、かの伝説の十三英雄も。そんな事が脳裏に浮かび、また恐怖が這い上がる。

 

 

 「落ち着いてください!本当にそうだと言うのであれば、先程私達と必死に戦う必要は無かった筈です!」

 

 ロバーがそんなイミーナや他の仲間達を落ち着かせるべく声を張り上げる。

 

 

 「そうだ!どんなヤツでも弱点となるものはある筈だ…!」

 

 ヘッケランが打開策を見つけるべく、自身に言い聞かせる様に言い放つ。

 

 

 「…やれやれ。信用されないとは悲しい事だ。」

 

 骸の怪物が芝居のかかった動きで悲しみを表す。そんな笑えない冗談を口にしたと思っていると、突然魔力が膨れ上がった。

 

 「タッチ・オブ・アンデス」

 

 聞き慣れない魔法を骸は唱えた。

 

 「…!何の魔法だ!?ロバー!」

 

 「魔法に疎い私であっても人間には扱えないものだと言うことは分かりますが……!」

 

 未知の怪物の見知らぬ魔法に戸惑う事しか出来ない仲間の声。

 相手が言わずとも理解する。ここからが……本当の地獄だと。

 

 「シャルティア、先程飛び去ったあの娘に恐怖を教えてやれ。生還という甘き希望からの事実と、直面した時の絶望への落差をもって罰としよう。その後で苦痛無く慈悲深く殺せ。」

 

 骸は告げる。

 

 「かしこまりんした、アインズ様。」

 

 シャルティアと呼ばれた従者らしき少女が返事をし、直ぐに行動を起こす。

 

「させるかっ!」

 

 シャルティアを止めるためにヘッケランは少女の姿をした怪物に斬りかかる。しかし──

 

 「……………………あ?」

 

 ──剣を持っていた手が腕ごと消えていた。

 

 「へ、ヘッケラン!!」

 

 無防備となったヘッケランを守ろうとイミーナやロバーが駆け寄る。だがヘッケランの腕を切り落としたシャルティアは意に介する事なくアルシェを追おうと空を飛ぶ。

 

 「なっ!ま、待て!」

 

 ヘッケラン達の声も無視してシャルティアはアルシェを追う。

 

 

 

 

 「──!!」

 

 迫り来るシャルティアにアルシェは気付く。

 ──まずい、このままじゃ…!

 追い付かれる。その前にもっと距離を伸ばそうと魔力を込めるが、あの骸の怪物を目の当たりにした時からうまく魔力が練れない!仮説だけど、恐らくあの怪物の魔力に当てられたせいか…!

 

 下を見れば未だに仲間達の姿が、小さくだが見える。

 距離が離れていない?……そんな、何時もならもっと早く飛べる筈なのに──。

 

 「あら?鬼ごっこは終わり?」

 

 不意に上から声がかかる。

 

 「なっ…、しまっ──」

 

 上からかけられた声の持ち主は自分とそう年は変わらないのであろう少女。髪は月の様に白く輝き、肌はまるで死人のごとき青白さで、深紅の瞳が嫌なほど不気味に綺麗で目が離せない。

 

 「ふふ。どうやって逃げるのかと眺めていたら、上に逃げていくものでしたから驚いたでありんす。……それに、その様子を見るにどうやら何かを勘違いなさっている様でありんすねぇ?」

 

 不気味に、愉しげに、目の前の少女の皮を被ったもう一人の化け物が口を裂けながら嗤う。

 

 「……それは、どういう事…?」

 

 掠れた小さな声が自分の口から出る。

 

 …何かを勘違い?

 空を飛んで逃げようとした事がおかしい…?

 それは一体どういう事なのか。

 

 嫌に動悸が激しい。自分の心臓の音が大きく聞こえる。手の平に汗が滲む。口の中は渇いていき、息をする事すら忘れる。

 

 「どうやらほんとうに分かっていなかった様でありんすねぇ…。」

 

 嫌だ。聞きたくない。一度でも聞いてしまえばもう、立ち上がれなくなってしまう。嫌だ、やめろ──。

 

 「ここは地下、大墳墓でありんす。空に輝く星は偉大なる方が創りたもうた至高の宝石、穢れた地上と繋がることは決して無い。偉大なる至高の四十一人が創りたもうたこの世の楽園でありんすぇ。」

 

 目の前の怪物が嗤う。口を人間ではあり得ないほど引き裂きながら愉しそうに、残酷な真実を告げる。

 

 「……う、嘘!だって空には星が光っている!そんな話、本当ならまるで神そのものじゃない!」

 

 脳が理解を拒む。

 大地の中に空を創るなど、例え人より巨大な超常の力を持つ異業種でも不可能だ。そんな事が可能なのは物語で語られるだけの神だけ。……そんな事あるはずない!そんな事有るわけが…っ!

 

 「私が嘘なんかついてどうするんでありんすか?そう、我らが仕える至高の四十一人。正しく、神でありますぇ。」

 

 …それじゃ、何処へ行こうと逃げられないじゃない。相手は自分達よりも遥かに格上の怪物。隠れてやり過ごそうとしてもここは敵の本拠地。1つの国と言って良い程の異業種の群れ。

 実力も数も地の利さえも、全て相手に分がある。

 

 ……だめだ。無理だ。できない。いくら考えてもコイツらから生き残るなんて…。

 

 目の前怪物から目を逸らしたくて、下に居る仲間達にすがる様に目を向けた。

 其所には腕を切り落とされたヘッケラン。足を切り飛ばされたイミーナ。お腹に大きな傷を負ったロバー。最早、誰もまともに戦える姿ではなかった。……それでも、彼らは武器を振るっていた。それはきっと生きる為ではなく、…私のため。

 例え周囲を囲む異業種達に嘲笑われ様とも、少しでも長く注意を引き付ける為に。

 

 「……イミーナ。ヘッケラン。ロバー……っ!」

 

 視界が歪む。仲間達を呼ぶ声はか細く震え、目からは涙がとめどなく零れ落ちる。

 無駄だった。仲間達の決死の行いは全部。その事が堪らなく悔しくて悲しくて、それを台無しにしてしまった自身への怒りが混ざって子供の様に不様に泣いてしまう。

 

 「あら、良い声と顔で鳴くものでありんすねぇ。…お持ち帰りしてもアインズ様なら許して下さるかしら?」

 

 ひたり。気付けば少女の怪物の手は私の頬に触れていた。触られた場所から血の気が引いていくのが分かる。

 

 「"私の眼を見ろ"」

 

 目の前の怪物から発せられた言葉に抵抗することが出来ず、まるで吸い込まれるかの様に少女の眼を見詰めてしまう。

 

 「…ぁ………ぃ…や…!」

 

 少しずつ自分という意識が身体から切り離されていく感覚。白紙の紙が黒に塗り潰されていくかの様に何かが置き換わっていく。

 

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだ…いや……!!

 

 誰か、助けて!

 

 

 ……誰か。

 

 

 

 

 お願い……助けて。

 

 

 

 

 

 私の仲間たちを、…たすけて。

 

 

 視界が黒に染まる。

 夜空より深く、星の輝きも無く。ただ凍える程の寒さに震える。

 

 寒い……さむいよ。

 

 瞼を閉じよう。諦めて、楽になってしまおう。

 何処からか聞こえる誘う声に従うように瞼を閉じる。

 

 

もう、何も映らない。真っ暗な黒の景色に

 

 ──日の光が見えた。

 

 「……ぇ」

 

 強い光。

 暖かく、あまねく全ての存在に光を注ぐ神のごとき輝き。

 何者も近付く事は出来ず、また理解することもない。

 ──けれど、誰もが空を見上げれば、必ず見つめ返してくれる巨大な存在。

 

 

 

 黒に染まった夜の世界に──太陽の日が昇った。

 

 

 

 「なっ!?」

 

 目を開けば、目の前には少女の姿した怪物が驚愕の表情をしていた。

 その美しいまでの姿には──腕が無くなっていた。

 私の頬に触れていた手があった腕が、まるで焼き切られたかの様に断面からは絶えず焦げた肉の匂いがした。

 

 どういう事か理解する間も無く、下からとてつもない爆音と共に強い風が吹き荒れた。空中に居た私と怪物はその影響をまともに食らい、吹き飛ばされる。

 

 四方八方に振り回されなが何とかしようともう一度フライの魔法を唱える。

 

 「っ!フライ…!」

 

 上に飛ぼうとしても無意味。なら、風に逆らわず流れに乗る…!

 自分としても何を言っているのか分からない事を実行に移す。風の流れに乗るとはそう簡単にはいかず、見えない海の荒波に木造のボロ船で挑んでいる気分だった。

 

 

 風に乗る事を専念していると突如強い衝撃がアルシェの身体を襲う。

 

 「うっ!」

 

 衝撃で肺にある空気が口から出る。

 どうやらようやく何かにぶつかった様だ。空中から脱却することに成功したか…我ながら流石に死んだと思った…。

 

 何がどうなったのか訳が分からないまま、現状を理解しようとアルシェは目を開いた。

 

 「……え?」

 

 そこには、まるで太陽が落ちたかのような景色が広がっていた。大地は焼き焦げ、空気は爛れ、かつては闘技場かの様な形をしていた場所は見る影も無く消え去り、ただ其所には炎が揺らめいていた。

 

 「ン。生きていたか、女。」

 

 ふと突然声がかけられた。見ればどうやら私がぶつかったのは大地でも壁でもなく、人だった。

 私を雑に俵の様に脇に担ぐ人は男であった。

 私が意識を戻した事を確認した男は、これまた雑に地面に放り出した。強く打ち付けたお尻を擦りながら油断無く、目の前の人物を注意深く観察する。目は赤く、白と黒の混じった髪、長身の身体。この地下墳墓の調査隊には見掛けなかった人。

 

 …もしかしたらあの化け物の仲間かもしれない。あの怪物たちも人の形を真似ていた。姿形は信用できない。怪しすぎる。しかし私は……その怪しすぎる人を、怪物たちの仲間だとは思えなかった。

 何故なら、その長身の身体は傷だらけだった。どれほどの激しい戦闘をすればそうなるのか戦慄するほどに深い致命傷の傷が幾つもある。しかし、そんな傷は……彼の背には1つも無かった。その事が意味することは一つ。何もかもが不明な彼は守る側の存在である事、それだけは信用出来る。

 

 「…女。貴様名はなんだ。」

 

 彼から尋ねられた。…何が起きたのか全く分からない。けれど今するべき事は決まっている!

 

 「…私の名前はアルシェ。見ず知らずの貴方に恥を忍んで頼みがある。」

 

 お尻を地面に着けたまま、真っ直ぐ立ち此方を見下ろす彼の瞳を見つめたまま告げる。

 

 「私の、私の仲間達を救って欲しい。その為なら、──私の全てを貴方に差し出す。」

 

 見ず知らずの人物に、それもこんな所に現れた人に一か八かの賭けに出る。炎に包まれたこの場所にはまだ仲間達が居る。恐らくあの骸の怪物と一緒に私と同じく吹き飛ばされたのだろう。ならあの怪物たちが見つけるよりも前に私が見つけ、この場所から直ぐに脱出する!その為には私一人では駄目だ。仲間達だけでは力不足だ。…この爆発を起こしたであろうこの男の協力が必要だ。今後この男に売女のようにされようとも構うもんか。仲間達を必ず、救う!

 

 「……。……。良いだろう。我が名はスルト。貴様を我が現界の楔としよう。」

 

 スルトと名乗った男は少し考える素振りをして頷いた。

 

 「なら直ぐに仲間達を探して──」

 

 「──行かせるとでも?」

 

 背筋に冷や水を入れられたかの様な感覚。この声は、……怪物達の首領である骸の声。その声は私達と相対したときよりも重く、怒りと憎悪にまみれていた。

 

その殺気を受けた私の足は震え、腰は抜けて力が入らなくなっていた。後はただ歯を鳴らして不様に死ぬ時を待つだけだった。

 

 そんな私に興味を無くしたのか、視線を逸らし、私の前に立つスルトに視線を向けた。先程よりも更に強い憤怒と憎悪の混ざった殺気を彼に向けた。もし私に向けられていたら死んでしまう程の殺気を受けながら彼は何でもない事の様に口を開いた。

 

 「……あれが貴様の仲間か?」

 

 「……えっ」

 

 「……は?」

 

 謎の男、スルトは空気の読めない事を口にした。

 

 

 




ぐっちゃん引けたのに項羽様引けなかったよ……ガクッ


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スルトくん、空気を読もうと努力する

スルトくんは努力の子!!(迫真)


 

 魔剣グラムを投擲した後、焼け野原に立つスルトは自身の炎を受けて尚まだ形を保つ建築物、ナザリックに興味を示した。

 

 「ほう。我が炎を受けてまだ保つか。」

 

 魔剣グラムが盛り上がった丘の地中を進み、地中に埋まっていたこの建物に恐らく突き刺さったのであろう痕跡が溶けた城壁から見てとれる。

 魔剣を呼び戻そうとするが、何らかの阻害を受けているのか手元に戻ってくる気配が無い。この違和感は恐らく魔術の類い。どうやらこの建築物らしき物は主が居るらしい。そしてこの感じから察するに外部からの魔力操作を受け付けない類いのモノか。

 

 「……。成る程、オレを誘っているのか。」

 

 終焉の炎を受けても尚形を保つこの城壁は、尋常な存在が作ったものでは無い。ならば此処に施された魔力防壁はこの主が施した魔術だろう。だが外部からの接触を恐れる等、これ程のモノを造った存在がこんな小心染みた小細工を弄する筈がない。

 ──つまり、誘っているのだ。このオレを。

 炎の巨人王たるこのスルトを。

 

 「クク。──面白い、貴様の誘いに乗ってやろう。」

 

 何故この世界へ来たのか、何故オレは今も生きているのか、何故竜殺しの肉体が在るのか、この世界は何なのか。

 不明瞭な事ばかりだが、少なくともこの建物の主はこのオレの炎を受けて尚敷地内へ招き入れる存在だ。成らば会ってやろう。その存在を、この目で見極めてやろう。

 

 

 足を踏み出し、今も尚スルトの炎が燃え続ける荒野を進む。

 丘のように土が盛り上がっていた場所は最早無く。其所に在ったモノは全ては燃え、クレーターの様に大地は抉られて、只その中心に埋もれていた城壁が現れていた。その大きさたるや。およそ、人の造り出したモノではない。

 近付き見れば、まだ下まで埋まっている様子。全体図を見ようとすればかなりの手間を食うだろう。

 

 ようやく建物へとたどり着き、魔剣グラムが貫いたのであろう溶けた城壁から敷地内へと入る。

 建物の中は炎で焼き焦げ黒ずみ、元々は華やかな色合いだったのであろう壁や床は見る影も無くなっていた。

 試しに魔剣グラムを呼び戻せば、奥から一直線に戻ってきた。どうやら敷地内では魔力阻害は働かない様だ。ならば誘われたと言う予想は外れてはいない。

しばらく周囲を探索し、自身を誘った人物の推測を立てる。

 

 「フン。成る程、神の類いか。」

 

 屋敷内の作りからはおおよそ生活の営みを感じない。生き物として必要な構造は無く、どちらかと言えば招く者である神の神殿を感じさせる。

 

 「神が、オレを巨人王スルトだと知って尚招くか。」

 

 周囲を見渡せば大量に燃え尽きた死骸があった。スルトの怒りの炎に理不尽に巻き込まれた哀れな犠牲者。その燃え滓からは微量ながら魔力を発している。

 この魔力は魔獣か、もしくは死霊の類いか。どちらにせよ、こんな陰の魔力が溜まり渦巻いている場所を寝床にする主の存在は冥界の神と同類か。なら相当根暗で陰湿な存在だろう。……面倒だな、燃やすか。

 知りたい情報さえ手に入れられれば不要な存在だ。面倒な因縁を吹っ掛けてきたならば容赦無くこの世の未練ごと燃やし尽くそう。

 

 周囲を観察しながら瓦礫や燃え滓を飛び越え、床が崩れて空いた隙間から少しずつ下の階へ降りていく。外見からでは分からない程この神殿らしきものは広く深い様だ。

 

 

 

 炎で燃え溶け、黒く焦げ色褪せた代わり映えしない敷地内を散策していると、ふと床から何かの魔力を感じる。

 それも複数。

 どうやら此処より更に下、空洞があり、複数の魔力が其処で輪になって集まっていた。

 そして、無数に存在する魔力の中でも別格の魔力を秘めた存在が、輪の中心に立っている。間違いなく、この神殿の主だろう。

 

 ──此処まで降りて来い。

 

 暗にそう言っているとしか思えない程に輪の陣形は崩れず、また中心の巨大な魔力は動かない。

 

 

 ──成らば話は早い。

 

 

 取り戻した魔剣に再び火炎の魔力を籠める。しかし怒りで投げた先程とは違い、これは炎の巨人王を招いた者への挨拶代わり。後ついでに下へ行く道を作るため。

 

 スルトは魔剣グラムを真下に居る主目掛けて解き放つ。只全てを破壊するスルトの宝具とは違い、此は只一つを目指した男の宝具。

 

 拳に風のルーンを刻み、極限まで意識を集中し、目で見るのは只一点のみ。魔剣を対象目掛けて投げ放ち、魔剣の柄頭を殴りながら風のルーンを暴発させることで促進力を増幅させ、対象に回避させる隙を与えない絶技を繰り出す。

 

 「魔剣擬似展開、──壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)!!」

 

 この竜殺しの身体が覚えている宝具。元居た世界では魔剣を上手く扱えず宝の持ち腐れだったが、此度は違う。その使い方を身をもって知ったからこそ今、その真価を発揮する!

 

 拳を打ち付けた轟音と共に魔剣グラムは真下へと空気を切りながら真っ直ぐ進み、スルトの炎を纏う事で床と周囲を吹き飛ばし燃やしながら進む。

 そして出来た大きな穴に向かってスルトも飛び込み、一直線に落ちていく。

 

 「さて、どれ程の者か。」

 

 スルトは落ちながらこの下で待つこの神殿の主を想う。話の通じる奴、通じない奴。どちらにせよ情報を少しでも収穫出来れば上々だ。

 

 

 

 

 そして、とうとうこの神殿の主が居るであろう階層まで降りてきた。

 空中に魔力で足場を形成し、そこに足着けて立ち、上空から周囲を見渡す。そこにはただ広い空間があった。

 下に視線を向ければ大地があり、そこは炎で焼け焦げた場所が有る。其所に魔剣グラムが突き刺さっているのが見えた。そしてその周囲には輪を描くように何らかの建築物が在り、サーヴァントとしてこの身体(竜殺し)が抑止力により授けられた知識にある、ローマの闘技場の様な形をしていた。それも炎により大分黒ずみ、瓦礫の山となって見る影も無くなっているが。

 

 「……何だアレは。」

 

 そんな中、暫く周囲を見ていたスルトは空中を飛ぶ物体を見付ける。よく見れば人間のようだった。ソレがウニョウニョと気色の悪い動きで飛び回っている。これにはスルトもドン引きした。

 ソレが此方に向かってウニョウニョしながら近付いてきたので心底キモい行動を今すぐ止めさせようと捕まえる。

 

 「うっ!」

 

 捕まえた衝撃でその人間はうめき声を上げた。捕まえる為に雑に脇で挟んだ人間は、どうやら小柄で髪が短いが女のようだった。

 第一印象は最悪だが、此処に居た筈の主について聞くため魔力で足場を新たに作り、滑る様に地上へと降りる。

 

無事炎が燃え続ける地上にたどり着き、どうしたものか考えていると脇から声が上がった。

 

 「……え?」

 

 それは困惑の声。意味が分からないと言った雰囲気が漂っていた。それは此方の台詞だと言いたい所をスルトは我慢し、あの変な動きはアンデットに成りかけてた訳では無く、それどころか意識をはっきり持ちながらあの動きをしていたのかと更にドン引きしていた。

 

 「ン。生きていたか、女。」

 

 一応念のため意識を確認する。気が狂ってあんな行動をしていたのか確認の為に脇から離し、地面に置いた。しかしオレの問いかけを無視し、その女は地面に座りながら此方を観察するように見てきた。

 

 互いに無言の空間が続く。

 

 ……成る程。此がオフェリアの言っていた変人、と言う人種か。

 

 新たな知識に感動し、オフェリアに深く感謝しながらも、このままでは埒が明かないので仕方なく、もう一度問いかける。

 

 「…女、貴様名は何だ。」

 

 その問いに座り込んでいた女はハッとしたような表情になり、口を開いた。

 

 「…私の名前はアルシェ。見ず知らずの貴方に恥を忍んで頼みがある。」

 

 人間はしっかりとした口調で喋った。

 この破壊の顕現であるスルトを前にして目の前のアルシェと名乗った女は、恐怖ではなく、怒りではなく、恨みでもなく、…希望を持って、オレの目を見つめながら言葉を紡ぎ続ける。

 

 「私の、私の仲間達を救って欲しい。その為なら、──私の全てを貴方に差し出す。」

 

 仲間を救う?どういう事なのか意味が分からない。何が起こっているのか分からないこの状況で、取引に応じるのはリスクが有りすぎる。

 だが──。

 

 

 この人間と同じ"あの目"を向けてきた存在を、オレは思い出す。

 この世界へ転がり落ちる前、このオレを同じだと笑った人間を。世界を救おうとして何も出来ず死んで、そして最期にはこの炎の巨人王を倒す事で世界を救った女を。

 

 

 

 ──……ああ、思い出した。オレはあの死ぬ瞬間。成そうと思ったのだ。

 一度目は何も成せず終わった彼女が、二度目は希望を抱いて成し遂げた事を。

 破壊の顕現たる、この炎の巨人王(スルト)が!

 

 

 ────世界を、救おう 。

 

 そう、身勝手な自分自身に。誓ったのだ。

 

 

 

 「……。……。良いだろう。我が名はスルト。貴様を我が現界の楔としよう。」

 

 

 オレがやるべき事は決まった。ならば後は行動に移すのみ。

先ずはこの壊れかけの霊核を補強するために、魔力を供給してくれる存在が必要だ。この目の前の女は取引に応じれば全てを差し出すと言った。なら都合が良い。仮契約として此の身の楔にしてやろう。裏切る成らば令呪ごと燃やし尽くせば良い。依り代等、人間が溢れる世界で事足りぬ事は無い。

 

今この時だけ、この女。アルシェと名乗った人間の、騎士と成ろう。

 

 オレの返事を聞いたアルシェは勢いよく立ち上がり、焦る様に口は開いた。

 

 「なら直ぐに仲間達を探して──」

 

 「──行かせるとでも?」

 

 アルシェの言葉に被せる様に、オレの背後から声が聞こえた。

 それは生き物ではない生気無き声。俗に言うアンデット科スケルトン属に属する者。

 

 その目には身を焦がす程の憤怒と憎悪。

 生者であれば誰だろうと。この感情の前には身がすくみ、震えて死を連想する。

 

 しかし、スルトにとっては産まれて直ぐに向けられたよく知る目。今更死者から怨み言を聞かされようとも何も想うことは無く、ただ冷静に現れた者を分析していた。

 

 

 

 目の前の骸骨は、死者とは思えない程の高密度の魔力を秘めていた。その魔力は此処に降りてくる前に感じた神殿の主らしきもの。

 

 コイツがこの神殿の主か。

 

 

 そう納得し、実際に目にする事で確信を得た。

 ──しかし。

 

 …コイツ、混ざり者か。

 

 それは概念の存在であるスルトだからこそ見抜けた事。この異形の中身。…つまり、魂が。魂の形が歪なのだ。

本来の生物であれば多少の誤差はあれど、同じ種族であれば形は似か寄る。

 この骸の魂の形は異業種でありながらヒトのモノに近く、それがまるで誰かに歪まされたかのようにその姿に相応しい魂に成りかけていた。

 

 その事実に気付いたスルトは考えた。

もしやアルシェが言う仲間とは、コイツの事では?だいぶヒトからかけ離れた姿形だが、魂はヒトのモノに近い。生命とは死霊であろうと人間であろうと神であろうと変わらず、同種と群れ行動する。ならコイツは本質的にはヒトなのだからその可能性は有るだろう。

 

 …いや、流石に違うだろう。憤怒や憎悪にまみれたこんな目を、仲間と言う存在に向ける等生き物として不自然だ。

 

 ……。

 ……。

 しかし、可能性はゼロではない。事実、オレが元居た世界へやって来たカルデアと言うモノ共は、ヒトの魂を無理やり歪めた存在を二つ程引き連れていた。…成らばこの女の仲間が負の魔力を撒き散らす目の前の骸でも可笑しくはない。

 

 スルトはそう思い、この沈黙漂う重圧の中。軽く口を開く。

 

 「……あれが貴様の仲間か?」

 

 そう口を開いた瞬間。

 

 

 ──空気が、凍った。

 

 

 

 「……えっ」

 

 茫然と口を開けるアルシェ。その顔には言葉の意味が理解出来ないと書かれている。

 

 「……は?」

 

対して骸骨は更に煮えたぎる程の怒りと憎悪で、最後の理性が吹き飛びそうに成っていた。

 

 

 その反応を見てスルトは思った。

 

 ……。

 ……。

 …………………やはり生命(いきもの)とは、分からない。

 

 

 世界平和を誓ったスルトは、これからの事を思い。そして考える事をやめた。

 

 




もう少し書いてから投稿するつもりでしたが、5000文字を越えそうだったので分けて投稿。という訳で話が進まなかった、すまぬ…!


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スルトくん、意味を考える


うおおお……!語彙力が足りぬと痛感するのぜ…!

「クク 文才が無い。」(ククが付けば誰でもスルトくん説)


 

 

ナザリック地下闘技場。そこには二人の人間と白骨の骸が向かい合い、互いに様子を伺っていた。その中の一人である骸、自身をアインズ・ウール・ゴウンと再定義した男は二人の男女の内、片方の男に注意を向けていた。

 

 先程その男にふざけた事を言われ胸の内に怒りが燻っているが、精神抑制により少し冷静さを取り戻し分析を始める。

 

 このナザリックを壊す程の力。

 傷だらけで致命傷すら見受けられる姿で在りながら、それらを感じさせない程の余裕に溢れた自然体。

 

 無愛想な無表情だが、男はこちらを注視していることを感じる。……。恐らく、男も俺と同じ予想をしている筈だ。成らば直接聞いて判断するのみ。

 

 

「……。お前はもしや、ユグドラシルのプレイヤーか?」

 

 予想は所詮、予想に過ぎない。不確定要素が多い目の前の男をただの予想だけで判断したのでは、いずれ大きな過ちを犯す。ナザリックを……アインズ・ウール・ゴウンの名を背負う覚悟を決めた以上、これ以上の無様を晒す訳にはいかない。その前に少しでも相手から情報を引き出す。

 

 アインズの問いかけを聞いた男は少し驚いた様な顔をしていた。

 

 「ユグドラシル? ……成る程。貴様はオレと同郷か。」

 

 

 ──同郷。

 

 男はハッキリとその言葉を口にした。それはつまり──

 

 ──やはりコイツは、ユグドラシルのプレイヤーか!

 

 この世界へナザリックごと転移した時からずっと考えていた事。自身を選ばれた特別な人間だと考えていないアインズだからこそ一番先に思い付いた。それは"ナザリックと同じくこの世界に流れ着いた他のプレイヤーが居る筈だ"という考え。

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンはユグドラシルの中でも悪名高いギルドの名だ。もし他のプレイヤーが聞けばまず間違いなく敵対する。

 

 ……そうならない為に、ひたすら隠してきた。そうならない様に、他のプレイヤーに負けない程の力を付けるため自分や子供達…NPCの成長を図ってきた。

 

 ──しかしそれは全て、無駄となった。目の前に恐れていた"プレイヤー"が現れたのだ。

 

 俺、『モモンガ』と言うユグドラシルプレイヤーは、ユグドラシルの中では良くても中の上。弱くはないが勝てる程の実力は無い。その差を課金アイテムや戦略で埋めてきたに過ぎない。単純な実力なら子供達の方が俺よりもずっと強い。アインズ・ウール・ゴウンの仲間達ならもっと強い。

 

 …しかしナザリックにかつての仲間達の姿は無く。仲間達が残した子供達を傷付ける訳にはいかない。

 

 仲間達が帰ってくるナザリックを(けが)したこの男は殺す。これは変えない。変えられる筈がない。許せる筈がない!

 この男は何度でもナザリックを殺しに来るだろう。仲間の子供達を皆、殺すだろう。

 ……成らばやることは決まっている。

 

 この男を、自滅覚悟で俺の持てる全てを使って必ず殺す…!

 

 「──時間停止(タイムストップ)。」

 

 先手必勝。まずは小手調べに時間停止対策をしているのかを確認する。

 魔法を唱えた瞬間から自分を中心に周囲の時間が止まるのを骨と化した肌で感じとる。

 

 地下闘技場を今も燃やし続ける炎がその揺らめきを止め、上に空いた穴から落ちてくる瓦礫も空中でその動きを止めた。

 多少は魔術を嗜んでいたのであろう侵入者である人間の女も、またも見知らぬ魔法に驚愕の表情をしたままの姿で命の時間を停止した。

 だが──。

 

 「………やはり時間停止対策はしているか。」

 

 止まった時の中で、唯一。目の前の男だけは興味深そうに周囲を観察していた。

 その事実に少し落胆する。出来れば簡単に御し得る存在であって欲しいと思っていたが相手はかなりの使い手の様だ。

 

 …まずいなぁ。完全に油断していたからとはいえ、ろくな装備も無く明らかに接近戦特化の高レベルプレイヤーの相手が務まると思うほど自分に酔ってはいない。

 

 全て無くしてしまう。

 

 そんな最低な未来を予想して、もう無くしてしまった筈の胸の心臓が早く打つのを幻聴する。

 

 ──焦るな。冷静になれ。

 

 俺はアインズ・ウール・ゴウンの名を背負っているんだぞ。その名には仲間達の名声と誇りが在り、そして大切な子供達も居る。

 

 ──冷静に、分析しろ。

 

 小心者な自分自身に言い聞かせる。

 

 

 相手は炎を使う事はこの周囲を見れば分かる。

 そして複数の短剣。恐らく何らかのマジックアイテムの筈だ。

 時間停止対策もしっかり準備するほどの高レベルユグドラシルプレイヤー。

 男であり長身。

 そして傷だらけの身体。

 俺が今知っている男の情報はこれくらいだ。明らかに情報が不足している。

 

 そして俺の最も得意とするのは即死魔法。…通用するか?もし相手がそれを対策していた場合かなり苦しい戦いになる…いや、しているだろうな。

 ならシャルティアの時と同じ様に……いや駄目だ。アレ等はギルドメンバー達から託された物。もし破壊されたら、奪われでもしたらどうする!仮に宝物庫から取り出すとしてもそれは確実に勝てると想定した時だけだ。

 …………。ならば、今を見逃して情報を集めるべきか?……いや、致命傷の傷がある今がその倒すチャンスかもしれない。

 慎重に行くべきなのか、大胆に攻めるのか。

 こうやって悩む度にやはり俺は人の上に立つべき存在じゃないと思う。

 …時間停止(タイムストップ)が効かない以上、この魔法を使うメリットが無い。この魔法の発動中は範囲内の全てのプレイヤーの攻撃、または攻撃魔法の使用が不可だからだ。

 ならば無駄に魔力を消費する必要もない、そう考え時間停止(タイムストップ)を解除する。

 

 それにより動きを止めた炎は再び動き始め、宙に浮いていた瓦礫は重力に従い落ちていった。

 男の後ろに居る人間の女も再び動き始め、その驚愕の表情から恐怖へと変わり悲鳴の様に叫んだ。

 

 「また新しい魔法?!気を付けて、この怪物は未知の魔法を使う。もしかしたらバハルス帝国のフルーダ・パラダイン様の『第六位階』も越える…!」

 

 バハルス帝国のフルーダ・パラダイン?何だか凄そうな名前だ。……しかし『第六位階』?もしかしたら俺達と同じく実力を隠しているプレイヤーの可能性があるな。帝国に偵察を行う際には注意しなくては。

 

 

 そんな人間の女の言葉には全く触れず、周囲を観察していた男が口を開く。

 

 「聞きたい事がある。」

 

 

 ……仲間っぽい女の事を全力で無視しているなこの男。まあ、俺にはどうでもいいが。…ちょっとあの子泣きそうになってるぞ!

 

 「……聞きたい事、だと?人様の家に無断で侵入し、あまつさえ壁や床を壊してここまで降りてきて。……何だ、何が聞きたい。」

 

 この男の今までの諸行を思い出し、少し理性が引きちぎられそうになったが必死に耐えて冷静に聞き返す。…冷静になって考えてみたら俺達は不可抗力とはいえこの土地を不法占拠している様なものでは…。い、いや今は目の前の事を考えよう!うん!それに男の情報を引き出すこのチャンスを逃す訳にはいかないし!

 

 

 そんな葛藤の中、男の言う言葉はあまりにも予想外で──。

 

 

 

 

 「貴様はこの世界へ自身が招かれた意味(・・・・・・・・・・・・・・)をどう考える。」

 

 

 

 「────。」

 

 

 

 ──俺が、招かれた意味(・・・・・・)

 

 

 …それは考えたことがある。考えない筈がない。

 元々はただ普通の人間だった俺が。突然異世界へ連れてこられた意味なんて──。

 

 

俺の元居た世界。

そこはどん詰まりの絶望の世界だった。

土地は枯れ、作物は育たず。大気汚染により周囲には常に濃い霧に囲まれて一歩先すら見渡せない灰色。

子供は親元から離され働かされて。だだ働いて味の濃い栄養食品を食べては寝て、また働く。意味の無い延命活動。緩やかに終わっていく事だけをただ皆ひしひしと感じていた。

 美味しい食べ物もなく。美しい景色も見えない厚い雲に覆われた現実の世界。働き続けながら代わり映えしないこの先の未来を想っては呪っていた。何かを変えたいと願ってもただの人間にそんな力は無く、妥協と締観でただ何となく、生きているから生きてきた。親の愛なんぞ知らず、友情なんて分からず、無意味な人生を送っていた。

このまま何も無く無価値なまま俺は死んでいくのか、そう考えて。

 

 

 

 

 ──けれど、運命に出会えた。

 

 

 

 

 MMORPG『ユグドラシル』。ありきたりな非現実への逃避。

 

 作り物の世界、しかしそこで目にしたものは──かけがえのない"美しいもの"だった。

 

 現実の世界には最早存在しない晴れた青空。

 色んな可能性に満ちた空想。

 そして──、そして大切で……楽しかったギルドの仲間達。

 

 嘘の世界には、本当の世界にはないモノがいっぱいあった。

 知らない事を沢山知った。

 楽しくて笑ってしまうという事を初めて体験した。楽しかった事に思いを()せれば明日も段々楽しみになって。

胸が締め付けられるほどの好きだと言う感情も知った。この嘘の世界が好きだったんだ。無機質だけど、温かくて、穏やかな時間を過ごして。誰かと一緒に居る事はこんなにも安らぐモノなのかと。息を吸うのが辛いと思っていた世界が、少しだけ軽く感じた。

 

 悲しい事も知った。

 とある事件が切欠でギルドメンバーが一人、また一人と優しい嘘の世界から消えていった。

その度にこの世界での思い出が現実に犯され消えてなくなる感覚に襲われて呼吸を忘れてしまう。胸を必死に引っ掻く様に自分に出来ることを何でもやった。仲間が欲しいと望んだものを頑張って集めて、少しでも気に入らないと思うモノがあれば排除した。皆がここに居てくれるように。皆が俺の世界から離れない様に。

 …けれど夢はいつか終わり、目を覚ます時間はやってくるもので。

 

 誰も居なくなった俺の世界には色が消え失せた。この嘘しかない世界には楽しかった思い出の残骸だけが取り残されて。あんなに暖かった筈の場所がとても寒く感じた。

 

 何故。何故。何故。

 

 意味のない自問自答を繰り返した。今更答えを出した所で溢れた雫は還らず、又返答者も居ない。ソレを繰り返す事に何の意味も無いのだとしても『…もしかしたら、きっと。』そんな希望を抱いてしまう。だから繰り返した。

 

 しかし現実とはやはり残酷なもの。

 最後に縋っていた"仲間達が帰ってくるかもしれない世界"をも俺から奪っていった。

 

 叫ぶほど拒絶した。止めてくれ、奪わないでくれ。これ以上現実に置いて行かないでくれ。あそこには何もない。何もない。ここには無い。そこにしか救いはないんだ。頼む、頼む。止めてくれ、奪わないで。

 

 いくら暴れもがこうが世界は変わらず、無慈悲に冷酷に平等に、終わりを告げた。

 

 

 無意味に終わる。そう、──そのはずだった。

 

 

 

 けれど終わる筈の世界はまだ目の前に在り。思い出の残骸と一緒に異世界へと来ていた。

 俺は歓喜した。

 世界は終わってなどいなかった。仲間達の帰ってくる場所はまだ此処に在る。ならば守らなければ。

 

何を差し出してでも。己の全てを投げ出して。

 

 

 

 

 …そうだ、そうだ。俺がこの世界へ招かれた意味など──

 

 

 「そんなもの、決まっている。」

 

 

 世界の意思だとか、人類を救う為でもない。ましてや魔王になりたい訳でもなく。

 

──これはただ一人の我儘で、ちっぽけな"願い"。

 

 

 

 「────守る為に(・・・・)。」

 

 

 その言葉を言った瞬間。

 

 

 ──俺の中で何かが変わった気がした。何が変わったのか、上手く言語化が出来ないけれど。

 

 「…守る為、か。」

 

 そんな俺の言葉を聞いた目の前の男は目を細め鼻で笑うと踵を返した。

 

 「なっ!待て────ん?」

 

 男に逃げるのかと声をかけようとした所で『念話(メッセージ)』が届いた。

 

 『アインズ様、申し訳ありません。少しばかりご相談が。』

 

 『デミウルゴスか。良い申せ。』

 

 正直この得体知れない男の前で隙を晒したく無いのだが、デミウルゴスからならば無視する訳にもいかない。それで何度助けられた事か。…同じくらい厄介事も持ってくるが。

 

 『はっ!この世界へ転移した際にアインズ様が拾った獣が何やらその男に話があると。』

 

 ……俺が拾った獣?何だ??誰の事を言っているんだ????情報が足りないよデミえもーん!!

 いやまあデミウルゴスも俺が手を煩わせない様に手短に伝えているんだと思うが…。ハム助だろうか、いやもしかしたらリザードマン??うーん分からん!

 

 『…何?……分かった、連れてこい。』

 

 デミウルゴスとの念話(メッセージ)を閉じ、こちらへ背を向けて外に去ろうとする男に声をかける。

 

 

 「……待て。」

 

 先程まで怒りを向けていた相手に「ちょっとゆっくりして行けよー!」とか言いにくい。少しばかり……いやかなり気まずい!が、連れてこいと言った以上は責任を果たさねば…。

 

 「何だ。」

 

 声をかけられた男はゆっくりと振り返り、問い質してきた。

 

 「…どうやら貴様と話をしたい者が居るらしい。」

 

 「ほう。…面倒だがいいだろう。」

 

 

 意外とあっさり了承したな…。

 

 そんな事を考えていると闘技場の中心にシャルティアのゲートが出現した。黒い闇で覆われた円形状の空間から二つの人影が現れた。

 

 

 それはゲートを出現させたシャルティアと────。

 

 

 

 

 「…パツシィ?」

 

 

 獣人の少年、パツシィだった。何故パツシィが?そんな疑問が頭を占めるが彼については知らない事が多い。…もしかしたらこの男の仲間なのか。

 

 

ゲートから出現したのを見た男は目を細め、二人を見定めていた。

 

 

 「ン。来たか。そこの出来損ないか、オレに話があるという者は。」

 

 その男が発した言葉に奥歯を噛みながらパツシィは口を開いた。

 

 「っ…ああそうだ。そうだろうな。確かにオレ達ヤガは成りそこないだ。人にも魔獣にも成りきれない半端者。」

 

 パツシィは自虐的な笑みを浮かべ、その美しい毛並みを逆立てた。しかしその瞳は謎の男に向けて続けている。

 

 「けどまあ、そんな事はどうでもいい。…もう終わった事だ。でだ、オレはお前に聞きたい事がある。」

 

 この謎の男は確実にパツシィよりも強い。獣は常に強者には従順だ。それは魔獣だろうと関係なく、存在する自然の掟。ハム助も恐怖のオーラを浴びただけで直ぐに服従した。

 …だがパツシィはその男を前にして引くこと無く、真っ直ぐに見つめ問い掛けた。

 

 「……お前は、その…。カルデアって名前に聞き覚えはないか?」

 

 カルデア?それがパツシィが、こんな死ぬかもしれない場所にまで足を運んだ理由。

…そうか。パツシィも何かを探し続けているのか。

 

 「……カルデア。ああ、知っている。」

 

 「っ!ほ、本当か!な、ならそのカルデアのマスター?ってのは生きてたか?!」

 

 パツシィは目を見開き鼻息を荒げながら興奮気味に問い詰める。

 

 「…生きているだろうな。」

 

 

 ──生きている。

 

 その言葉を聞いた瞬間、パツシィは崩れる様に膝を着いた。

 

 「?!パツシィ大丈夫か!」

 

 それを見て俺は咄嗟にパツシィを支える。だが彼は大丈夫かの問いにも答えず無言で俯いたままだった。

 

 「……。…パツシィ。」

 

 再びの問い。だがこれは先程とは違う。何故なら──。

 

 「……てた……生き、てた。生きてたっ!アイツが……。そうか……そうか…っ!」

 

 ──涙を、必死に堪えながら。彼は安堵の表情を浮かべていた。

 

 ……俺にはカルデアと言うモノも、そのマスターと言う人物も知らない。だが、パツシィがこれ程までに気にする人物なら…その人はきっと優しい人に違いない。ああ、いつか。会ってみたいものだ。

 

 

 「……。以上か。」

 

 泣き続けるパツシィを無視し男は再び背を向け歩き出した。

 

「ま、待ってくれ!」

 

そんな男をパツシィは呼び止めた。その声を聞いた男は面倒そうに振り返る。

「オレの名前はパツシィだ。良ければアンタの名前を聞かせてくれ。」

 

「…我が名はスルト。炎の巨人王、スルト。」

 

炎の巨人王、スルト。それがこの男の名前。『ユグドラシル』ではあまり記憶に無い。無名とは考えづらい程の力を持つ男の名。今まで隠れていたのか、ただ単に強力なワールドアイテムを所持しているだけなのか。

そんな考えを一先ず頭の隅に置き、別の疑問を問い掛ける。

 

「ほう。敵にプレイヤーネームを晒すのか。…プレイヤーに自身の名前を知られるとはつまり、弱点を教える様なものだ。それを何故簡単に明かす?」

 

高レベルのプレイヤーにとっては常識のソレ。PKを許される『ユグドラシル』では常に他のプレイヤーに襲われる危険性があった。ネット等でプレイヤーネームを検索すれば簡単に能力や技構成、更には弱点属性に所持アイテム等簡単に分かる。故にプレイヤーネームは身内以外には基本晒さないという常識がある(しかし有名所は直ぐに広まってしまうが)。

それなのに何故この男は『スルト』というプレイヤーネームを晒したのか。この疑問だけは問わねばならない。

 

「理由?真名を隠すなぞ半端なサーヴァントがする事だ。このオレ、スルトにはそんなもの必要は無い。」

 

スルトと名乗る男は赤い目を細め、口元を歪に歪ませながら嗤った。

よっぽど自身の力に自信が有るのかもしくはそのリスクを埋めるほどの何かが在るのか。

 

男の様子を観察していると、何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「……ああ、そうだったな。おい、冥界の歪な神擬きよ。貴様に確認をしよう。」

 

男は嗤う事を止め、ただ無表情に此方に瞳を向ける。

 

「…確認だと?今さら聞くべき事など何も無い筈だが?」

 

俺の言葉を聞いた男は、尚も無感情のまま瞳を向ける。まるで心の内を見透かすかのような居心地の悪さ。

男はその後ろで腰を抜かしている女を指差し、俺を見詰めながら言葉を重ねる。

 

「貴様、この女の仲間を隠し持っているな。此処へ出せ。」

 

「……。」

 

…成る程。最悪の場合は人質にと俺が考えている事くらいは想定していた訳か。……ならば隠している必要も無いな。先程の行動から察するにあの賊どもはこの男にとっては取るに足らないモノ。だが無視できる程無価値ではない──なら利用してやろう。

 

「……良いだろう。このナザリックを汚した賊を解放するなぞ許せることではない、…だが貴様が真名を明かしたならばその対価にあの三人を差し出そう。」

 

その会話を聞いていたシャルティアがゲートの中に入り、直ぐに鎖で縛られた人間を三人連れてきた。そして投げ出す様に大雑把に男の前に差し出す。

 

「ン。……女、貴様の言う仲間とはコレか。」

 

男は暫く昏睡状態にある三人を観察していたが、確認をとるように後ろに居る女に声をかけた。

 

「……えっ…あ、うん。」

 

突然の展開に付いていけてないのか、女は困惑した面持ちで恐る恐る前に出てきた。

そして地面に横たわる三人をじっと見つめて大粒の涙を溢す。

「ああ…………良かった。……っ良かっ…た!みん、な……傷一つ無い(・・・・・)…っ」

 

よっぽど嬉しいのだろう。女は未だ眠り続ける仲間達に抱きつきながら泣き続ける。…ああ、この場に姿を表す前に下準備(・・・)をして正解だったな。

 

「…フム。ならばもう此処に用はない。」

 

そう男は言うと再び背を向け、女と賊を雑に担ぎ上げ外に向かって歩き出した。

 

 もう一度引き留めるか考えたが、今はパツシィに寄り添っていよう。このナザリックを傷付けた者を見逃すなど出来はしないが…、あの男を殺す事は何時でも出来るだろう。

 

 俺がこの地へ来た意味。このナザリックの新しい者達も含めて、"アインズ・ウール・ゴウンを守る"事。なら今は敵か仲間か選ぶなら、仲間を優先する。

 ……それだけの事だ。

 

 

 

 

 

 

 「……ズズズ。悪いな、…えーと。アインズ・サマ。」

 

 パツシィは鼻水を啜りながらちょっと照れ臭そうにそっぽを向いた。目がまだ赤い。

 

 「いやなに、気にする必要はない。ほらハンカチだ。これで顔を拭くといい。」

 

 アイテムボックスからハンカチを取り出す。このアイテムボックスというものは相変わらず便利だなぁ。

 

 「お、おう。ありがとよ。」

 

 ぎこちないながらもハンカチをしっかりと受け取り涙や鼻水を拭いとった。…少し毛がハネてる。

 

 

 

 「…にしても此処も大分壊されたな。」

 

 「……ああ、そうだな。」

 

 パツシィは壊された闘技場の上を見ていた。闘技場の空には星ぼしが輝いているが其処には大きな穴が空いており、この夜空が壁に描かれた偽物だと分かってしまう。

 

 「オレ、さ。実はこの闘技場の夜空が好きなんだ。オレの元居た世界だと空は何時も曇っていて、更には猛吹雪。晴れたところ何て此処に来るまでは一度も見たことが無かった。」

 

 彼、…パツシィも恐らくはプレイヤーだ。俺の周りには常にアルベドが付いてるから、何となく聞きづらくて直接聞いたことはない。

 身体能力は人間以上だが守護者達に勝てるほどの実力は無いようで、多分低レベルプレイヤーか、もしくは『ユグドラシル』を始めたばかりのプレイヤーだろう。

 先程話題に出た"カルデア"なるものは彼が所属、ないしお世話になったギルドだろうか。

 俺の元居た世界も常に分厚い雲に覆われて、マスク無しで外に出ようものなら健康を損なう程の大気汚染。太陽の光なぞ遂に感じること無くこんな異世界へと迷いでた。パツシィも同じくそんな景色ばかりを見ていたに違いない。ならブループラネットさんのこの夜空を見て、きっと俺が感じた感動を彼も味わったのかもしれない。…それならとても嬉しい。

 

 

 「だからこのナザリックへ連れてこられた時、この夜空を見て凄いって思ったんだ。だから……なんだ。もうあの夜空が見れないのは残念だな。」

 

 「……そうか。」

 

 凄い、か。…ああ、空に浮かぶ星は本当に綺麗で儚くて。本物の夜空よりも美しい。ブループラネットさんの描いた世界(優しい嘘)はここにはある。何物にも代えがたい宝物。

 

 そんな何気ない会話をパツシィと続けていると、ずっと後ろで控えていたシャルティアがパツシィと俺の間に割り込んできた。

 

 「アーイーンーズーさーまー!!たった今!あの憎たらしい男はこのナザリックより離脱したでありんす!」

 

 頬っぺたをいっぱいに膨らませて何とも愛らしい顔だ。…何をそんなに拗ねているのだろうか?

 

 「ん?そうか。ならば守護者及び全階層の僕(しもべ)とこの世界で新たに加わった仲間も王の玉座に集めてくれ。」

 

 そう伝えるとシャルティアは驚いた様に目を見開いた。

 

 「えっナザリックの全人員でありんすか?」

 

まあそうだよな。あの男の対策会議なら守護者たちだけで十分だ。…だけど、俺がこれからやろうとしているのはそれだけじゃない。

 

 「そうだ、全員だ。下級の者も含め全てを集めよ。」

 

 「か、畏まりましたでありんす!」

 

 元気よく背筋を伸ばし返事をするシャルティアを見てほっこりしていたが、改めて考えるとシャルティアの語尾の京都弁って適当過ぎやしないだろうか。ペロロンチーノェ……。

 

 俺の言葉を聞き、すぐさまにシャルティアはゲートを開きこの場から消えていった。それを見届けた俺も即座に動く。

 

 「…なあ。アインズ・サマ。」

 

 「ん?なんだパツシィ。」

 

俺とシャルティアのやり取りを黙って眺めていたパツシィが首を傾けながら尋ねてきた。

 

 「そういう伝達って、メッセージ?ってやつでやったほうが早いんじゃないか?なんでアンタから伝えずにわざわざ面倒な遠回りしてんだ?」

 

 「……。うん、…まあ俺もそう思うがな。アルベドやデミウルゴスが許してくれないから仕方ない。」

 

 一度俺が念話(メッセージ)を通して一人一人にカウンセリングの様な真似事をしたことがあるが、デミウルゴスとアルベドに怒られた。なんでも畏れ多い至高のお方から直接お話を得ることは名誉な事で、特別な事以外は極力避けて欲しいらしい。直接会って話す訳じゃないから緊張しないだろうし話しやすいのでは?と当時の俺は自身の名案に自慢気だったのだが…見事に恥を晒した。

 

 「ふーん。そんな面倒をわざわざやる何てやっぱアンタ達も変人だな。魔術師ってのは変なのしか居ないのか?」

 

 「……そんな筈は……無い、とは…言えないなぁ…。」

 

 うちのギルドメンバーって全員変わった人たちだからなぁ。

 

 「コホン。まあ世間話もここまでだ。俺達も王の玉座に行く事にしよう。」

 

 咳払いを一つ。

 気持ちを切り替えていく。パツシィと話しているとつい素が出てしまうがここからはナザリックを統べる王の出番だ。

 

 今日この時、恐れていたプレイヤーに出会った。それもナザリックの脅威として。

 この地を踏み荒らし、炎を振り撒いて嵐の如く去っていった。

 許す事は出来ない。

 殺さなければ満足できない。

 じわじわと苦しませなければこの身に纏う憤怒の炎は消え去らない。

 

 だが、少し忘れていたモノがあった。大切な願いが。忌々しくもあの男の問いによって思い出した。…だからこれはある意味運命の日だ。()()として、()()として。今日新たに生まれ直そう。

 

 これはその為の────

 

 

 

 ────自身への誓いだ。

 

 

 「私に付いてこいパツシィ。」

 

 「お、おう。」

 

 

 さあ、世界征服でもなく、『アインズ・ウール・ゴウン』の為でもない。

 

 一人の男の我儘を──始めよう。

 

 

 

 





書き終わった後に気付いた事。
「あっアルシェの仲間達生き返らせるの忘れてた。」
しかし書き終わったものを弄るのはめんど…ゲフンゲフン。プロットも何もなくライブ感で書いてるからねしょうがないね!是非も無し!!
まあ、アインズ様がちゃんと生き返らせたから万事解決だね!
……この作品で一番悲惨なのはアルシェなのかもしれないと思う今日この頃。


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