OVERLOAD 人類最終試練(凍結) (嵐川隼人)
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プロローグ
ヴァルプルギス名簿(説明集)


※現在登場済みのキャラの説明のみを載せています。また、アズリエルこと番外席次につきましては、後日改めて作る予定です。

※一部ネタバレあり


 ラグナレク・ステアー・テンペスト

 

【種族】

堕天使(アスタロト)

 

【職業】

人類最終試練(ラスト・エンブリオ)

創造者(クリエイター)

復讐者(アヴェンジャー)

 

【詳細】

 本作における主人公。ギルド加入前は、ユグドラシル最強のソロプレイヤーと呼ばれていた。異形種最強職“人類最終試練”の所持者。

 堅苦しい関係を好まず、誰とでもフランクに会話する。心の器が大きく、本気で怒ることは珍しい。

 ナザリック最強の軍隊〈ヴァルプルギス〉のリーダーを務めると共に、精鋭遊撃部隊〈ヴァルハラ〉の部隊長も務めている。

 やる時は全力でやる真面目な性格だが、その本気を出した時の彼のやる気と体力と集中力は常人を超える(モモンガ談)。

 現実での本名は神童拓未。誰もが認めるゲーマーオタクで、何かしら物事に没頭する、やり込む事が半分趣味になっている。

 

 

 

 エリナ・トレイニー・バルバトス

 

【種族】

妖精女王(ティターニア)

 

【職業】

・大賢者

・歌姫

 

【詳細】

 ヴァルプルギス幹部の一人。ステアーによって創造された存在。多くの魔法を使いこなすエキスパートで、魔法支援部隊〈イナンナ〉の部隊長も務める。

 いつも他人を心配する優しい性格だが、正直になれずツンデレ発言を繰り返す。

 メンバーで数少ないツッコミ役で、ナザリックで唯一アインズとステアーの二人共を叩いてツッコめる。特にステアーに対しては時々膝蹴りか裏拳かフライパンが飛ぶこともある。

 同期のミーティアの変態っぷりに頭を悩ませている。

 趣味はカラオケ。

 

 

 ミーティア・デューク・レライエ

 

【種族】

人魚姫(セイレーン)

 

【職業】

世界級騎乗者(ワールド・ライダー)

 

【詳細】

 ヴァルプルギス幹部の一人。エリナと同時に創造された存在。輸送部隊〈トリトン〉の部隊長も務める。

 幹部最速の足と腕を持ち、相手に魔法を詠唱させる暇を与えない攻撃速度はステアーを超えることもある。また“真実の目”と呼ばれる情報看破固有スキルを所持しており、一部を除くほぼ全ての存在の心などを読み取ることができる。

 自他共に認めるロリショタ大好き変態だが、最低限のTPOは弁えている。

 

 

 

 ニークス・アクトレス

 

【種族】

幻影の始祖(ウプイリ)

 

【職業】

・最高料理人

・影の執行者

 

【詳細】

 ヴァルプルギス幹部の一人。オークションで売られていたところをステアーに買われた経緯を持つ。

 ナザリック総料理長を務めており、彼女の作る料理はモモンガ達を昇天させかける程美味いとされている。

 戦闘では持ち前の暗殺術と気配遮断スキルを駆使した奇襲攻撃を得意とするが、魔法詠唱者以外が相手ならタイマンでも戦える程の実力を持つ。

 ナザリックの金欠問題を解決するため、ステアー達がアダマンタイト級冒険者になった後リ・エスティーゼ王国に店を構える。

 

 

 シン・シルエスカ・ヴァーミリオン

 

【種族】

狼王(マーナガルム)

 

【職業】

狂戦士(バーサーカー)

・レンジャー

 

【詳細】

 ヴァルプルギス幹部の一人。ステアーが攻略した6周年記念イベントクエストで仲間になった、彼の1番の相棒。偵察部隊〈フェンリル〉の部隊長も務める。

 一人称が『僕』の狼少女。深読みする部下が多いナザリックの中で最もモモンガとステアーの真意を理解できる。その為、二人の愚痴に付き合う事が多い。

 困っている人を見かけたら放って置けないお人好しで優しい性格の持ち主。普段は落ち着いているが、戦闘になるとかなり好戦的な性格に変わる。

 ステアーとは親友のような関係を持つ。




※説明は随時更新しようと考えています


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序章 最強の堕天使、始動
人類最終試練(ラスト・エンブリオ)、始動


一話目、どうぞ。


 DMMORPG“ユグドラシル”。

 かつて人気を誇ったそのオンラインゲームには、ある伝説のプレイヤーがいた。

 

 曰く、一人で多くの有名ギルドを壊滅させた。

 曰く、一人でワールドアイテムを複数所持している。

 曰く、一人で数多くの神器級アイテムを入手・作成した。

 

 嘘のような事実を残したそのプレイヤーは、いつしか“ユグドラシル最強のソロプレイヤー”と呼ばれるようになった。

 そんな彼が今どうしているかというと、

 

「……………ここ、どこ?」

 

 迷っていた。

 いや、正確には見知らぬ森にいきなり飛ばされてしまった、と言うのが正しいか。

 背中から一対の大きな黒い翼を生やした金髪の青年は、辺りを見渡しながら状況を確認した。

 

「えーっと、確か今日はユグドラシルのサービス終了日だったから、俺はさっきまで残っていた仕事を急いで全部終わらせて、いつも通り“アインズ・ウール・ゴウン”のギルドに向かおうと時間ギリギリにログインしたらなぜか見たことないところにいて、しかもこんな風に口を動かして喋れていて……………」

 

 自分の体をペタペタと触ってみる。

 アバターの姿のはずなのに、脈が動いているのを感じる。

 口に手を当てると、呼吸をしているのがわかる。

 背中の翼に意識を送ってみると、ゲームにしてはあまりにもリアルな動きをしていて、しかも羽が落ちる。

 何かの不具合かと思って手をかざすが、GMコンソールが出現しない。

 夢かと思って手をつねってみると、痛覚を感じる。つねったという触覚もあった。

 耳を澄ませると枝の葉が風で揺れる音が聞こえる。今更気付いたが、視覚もあった。

 試しに自分に意識を向けてみる。するとステータスみたいなものが浮かび上がってきた。

 

 

 

『名前:ラグナレク・ステアー・テンペスト

 

 種族:堕天使(アスタロト)

 

 職業:人類最終試練(ラスト・エンブリオ)創造者(クリエイター)、他

 

 属性:中立(カルマ値±0)

 

 所属:アインズ・ウール・ゴウン(副ギルドマスター)』

 

 

 

 ふーむ、なるほどなるほど……………

 何ということでしょう!

 さっきまではどこにでもいそうな普通の会社員だったのに(自称)、今ではこんなにイケメンで強そうなアニメの主人公みたいな姿に!

 ……………ってアホか、そう簡単に認められるかあぁぁぁぁ!

 

「……………でも、どこをどう見ても、アバターだよな、俺の」

 

 全身をどの角度から見ても、俺のユグドラシルのアバターとしか見えない。

 いや、別にこの姿が嫌いってわけじゃない。むしろこの姿になりたいと思ったこともあったよ?

 でもさ、こんないきなりなれるものなのか?

 だが疑う余地はない。

 疑いようがない。

 場所も場所だ。こんな場所見たことがない。

 

 どうやら俺は、『異世界転生』というものをしてしまったらしい。それも、自分のアバターで、知らない世界に。

 

「……………モモンガさんもこの世界に転生してたりするのかな」

 

 ふと浮かんだ疑問。

 俺がユグドラシルにログインしたのは、サービスが終わる直前だ。

 もしサービスが終わるまでモモンガさんがログインしていたとしたら……………

 気になった俺は、耳に手を当てて『伝言(メッセージ)』を送ってみた。

 頭の中で糸電話をしているような感覚だ。

 しばらく待つが、応答がない。転生していないのか?それとも電波が悪いみたいな理由だったりして。

 

「ん?俺今どうやって伝言(メッセージ)を使ったんだ?」

 

 流れるように使ったが、今思うと不思議だ。

 何で俺、伝言(メッセージ)を使えたんだ?

 何となく体が動いて意識を飛ばしてみただけなんだが………

 

「もしかして……………」

 

 試しにアイテム欄を開くイメージをしながら手を出してみると、異空間と繋がっていそうな穴が出現した。手を突っ込んで、頭の中でほしいものをイメージすると手に何かの感触が起き、引っ張ってみると召喚用の結晶が出てきた。

 こいつはすごい。何となくだが、身体が魔法の使い方を理解しているようだ。

 これはかなり助かる。

 そして俺が今掴んだ結晶に意識を集中させると、結晶から煙が発生し始め、目の前に≪吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・プライド)≫を出現させた。

 この吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・プライド)は、ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”の拠点である“ナザリック大墳墓”の第一、第二、第三階層の守護者シャルティア・ブラッドフォールンという、エロゲの王様ペロロンチーノさんのNPCが使用する眷属の一人を俺が借りていた子だ。

 ペロロンチーノさん曰く『よくシャルティアと一緒に偵察(散歩)してる子』らしい。

 

「お呼びでしょうか、ラグナレク・ステアー・テンペスト様」

 

 いきなり口を開いて喋ったので内心驚いた。

 でもすぐに理解した。

 そうか、俺がアバターとして生きているのだから、NPCである彼女が口を動かして話すのは当たり前といえば当たり前か。

 

「あぁ。実はさ、ちょっとしたイレギュラーが発生してな。そこで、君にいくつか頼みたいことがあるんだが、いいか?」

 

「もちろんでございます!何なりとお申し付けください!至高の42人の御一人、ラグナレク・ステアー・テンペスト様のご命令、この身をかけてでも必ず完遂させる所存です!」

 

「お、おう、そうか」

 

 何、この俺に対する異常な忠誠心は。

 というか、至高の42人?

 もしかして俺を含む“アインズ・ウール・ゴウン”のプレイヤー42人のことか?

 それにこの子の瞳から注がれる尊敬の眼差し………冗談とは思えない。

 

「コホン。まず君に質問だ。この森に見覚えはあるか?」

 

「……………申し訳ございません、ラグナレク・ステアー・テンペスト様。知識の少ない私の記憶の中では、このような森を見たことは一度もございません。眷属でありながらお力添えすることすらできないというこの失態を挽回する機会を与えていただけるのであれば、これに勝る喜びはございません」

 

 いや、天井突き破る勢いの忠誠心だぞ、これ。

 これほどまでに強いと逆に俺が話しづらいな…………よし。

 

「何を言ってるんだ。君は俺の質問に正直に答えてくれたんだ。君に失態はない」

 

「ラグナレク・ステアー・テンペスト様……」

 

「それとさ、出来れば今後俺のことはステアーって呼んでくれ。フルネームで呼ばれると話しづらいんだ」

 

「も、申し訳ございませんラグナレ………いえ、ステアー様!」

 

「うん、それでいい。君の全てを許す。さて、君の返答のおかげで、この世界は俺達が知っている世界じゃない、つまり“異世界に転移してしまった”ことが確定したな」

 

「い、異世界⁈異世界なのですか⁈」

 

「そうだ。ペロロンチーノさんやシャルティアとよく一緒に外に出ていた君が言うんだ、間違いない。一体どうしてこんなことになってしまったのかはわからないが、少なくとも前の世界からこの世界に君と俺が転移したということに変わりはない。ただ、もしそうだとすれば、俺達は少し危機的状況にあると言える。()()()()()()()がないんだ。この世界がどんな世界か、強さはどのくらいかがわからない以上、迂闊に行動するのは危険だと俺は考えている」

 

「さすがはステアー様、このような異常事態に対する冷静な判断、感服したしました」

 

「大げさだよ。そこでだ、君にはある重大な仕事をしてもらいたいんだ」

 

「わかりました。この世界について調査をするのですね」

 

「あー、それもあるんだが………それよりも重大なことだ」

 

 調査よりも重大なことと言われ、彼女は首を傾げた。

 俺は再び異空間に手を入れ、二枚の丸まった紙を取り出した。

 予想通り、紙は真っ白だ。

 二枚の紙に手をかざす。すると紙の一部に丸く色が付き始めた。

 

「これは俺が作ったマジックアイテム≪不思議の地図(ミステリーマップ)≫。持ち主が進んだ部分に沿って地図を完成させるという便利な地図だ。地図は持ち主の意思次第で拡大も縮小もできる。ちなみにこの二つは連携している特殊なアイテムでな、片方で描かれたものがもう片方にも表れる仕組みになっている。これの片方を君に渡す」

 

「そんな!至高の御方であるステアー様の所有物を、私のような眷属風情が持つことなど!」

 

「いいんだ。俺が二つ持っていても意味はないしな。それに、君にこれを渡したのには理由があるんだ」

 

「理由………ですか?」

 

「あぁ。君は確か、シャルティア・ブラッドフォールンの眷属だったな。シャルティアが今どのあたりにいるとか、わかるか?」

 

「はい、何となくではございますが」

 

「ならばよし。君にはシャルティアを辿って、俺達の本拠地………ナザリック地下大墳墓がどこに転移したかを見つけてほしいんだ」

 

「⁈」

 

 さっきから驚くか、感激するかしてないな。体持つのか?

 まぁ、それはおいといて。

 俺がなぜ彼女にナザリックを探させることにしたのか。そもそもどうしてナザリックがあると思っているのか。

 理由は、彼女の存在が示してくれている。

 

「俺は最初、俺だけがこの世界に来たのだと思った。だが、君があの結晶から出てきてくれたことで、それは違うと分かった。なぜなら、君はあくまでシャルティアの眷属だ。主がいない世界で、眷属である君がこうやって()()()()()()()()()()()()()()()()()。ならなぜ君はこうして動いているのか。答えは単純、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。そしてシャルティアはナザリック地下大墳墓の第1・第2・第3階層守護者、命令がない限りナザリック地下大墳墓から出ることは決してありえないはずだ。だからシャルティアがいるなら、ナザリック地下大墳墓もこの世界に来ていると考えてもおかしくない、って訳。でも俺は神様じゃないから、ナザリック地下大墳墓がどこにあるのかまでは全然わからない」

 

「そこで、シャルティア様の眷属である私なら、シャルティア様を辿ってナザリック地下大墳墓の居場所をすぐに発見できると踏んだ………素晴らしいですステアー様、私の存在だけでそこまでお考えになられていたとは!」

 

「君がいたから分かったことだ。礼を言わせてくれ」

 

「礼だなんてそんな!しかしこの()()()、ステアー様のお役に立てたことだけでも光栄に思います!」

 

「ハハハ、それはよかった(ミレア?そんな名前つけてたんだ、ペロロンチーノさん)。それじゃあ、早速だけどこれに乗って」

 

 さりげなく彼女の名前が発覚したところで、また結晶を一つ発動する。

 今度は八足馬(スレイプニール)という八本足の大きな馬型の魔獣だ。

 普通の馬より一回りぐらい大きく、結構がっしりしている。

 

「この子はアウラから借りたんだ。足も速いし、一緒に行けば見つけやすいはず。見つけたら、地図に印を書いといて。それでわかるから」

 

「承知いたしました。このミレア、ステアー様のご命令、必ずや成し遂げて見せます!」

 

「うん、頼んだよミレア」

 

 地図を受け取ったミレアは、八足馬(スレイプニール)に跨る(いや、あれは腰掛けると言ったほうがいいのか?)と、物凄い速さで森を駆け抜けていった。

 あの調子ならすぐに見つけてくれそうだな。

 ………ただ。

 

「あのミレアって子、死の剣士(デスナイト)同様に主を守るモンスターだったよな」

 

 守るべきものから離れてどうするんだ。まぁ、命令したのは俺だからいいけどさ。

 それにしても、凄い忠誠心だったな……

 眷属であれってことは、守護者とかもっと凄いんだろうな……

 もしかしたら今頃、モモンガさんも同じような状況になってるんじゃないか?

 

「……………考えても仕方ないか」

 

 その辺は彼と出会ってから考えよう。

 そう思いながら、俺は地図を広げた。

 そしてびっくりした。

 凄まじい速度で地図の色が塗られていってたのだ。

 いや、飛ばしすぎだろ、大丈夫か?

 まぁ、俺のために頑張ってくれてるんだし、余計な口出しはしない方が彼女の為か。

 

「んじゃ、俺も行くとしますか」

 

 魔法で気配を完全にシャットアウトする。

 そして大きく翼を広げ、上空に飛び出す。

 空から見てみると、結構広そうな森だ。

 とりあえず村か町を探すことを目標に、俺はその場を去った。




次回、ステアーさん誰かと会います。


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第一異世界人発見

二話目、どうぞー。


~ナザリック地下大墳墓、第六階層闘技場~

 

 

 ここはギルド“アインズ・ウール・ゴウン”の拠点、ナザリック地下大墳墓内部の闘技場。

 夜空の星が見えるこの場所に、異形の者達が集っていた。

 その中に一人、金色に光る大きな杖を持った、魔王様風の真っ黒なローブに身を包む骸骨。

 彼の名はモモンガ、“アインズ・ウール・ゴウン”のギルド長である。

 彼もまた、ステアー同様に異世界に転生していた。

 

 ユグドラシル最終日、モモンガはギルドに所属していたかつての仲間たちに、最後の日をナザリックで過ごさないかとメールを送った。

 しかしナザリックに来たのは、スライム族のヘロヘロのみ。更に彼はユグドラシルのサービス終了前にログアウトしてしまったため、実質一人でナザリックを過ごすことになった。

 モモンガは最初、怒った。しかし、すぐに仕方がないと考えた。

 それもそのはず、“アインズ・ウール・ゴウン”の加入条件は、“アバターが異形種であること”と“()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 つまり、全員生活がかかっているのだ。

 

 彼らの世界の環境は、はっきり言うと“最悪”。

 装置なしでは呼吸することすらできないほどに空気は汚染し、100年以上前は義務付けられていた小学校でさえ学費高騰により行かせられない家庭も少なくない。

 そんな世界で“アインズ・ウール・ゴウン”のプレイヤー達は、全員死ぬ気で働きながらプレイしていた。

 仕事の関係でギルドを離れる者が多くなるなど、予想できる。

 

 そしてモモンガは最後を玉座の間で過ごそうとし、静かに目をつぶった………筈だった。

 異常にはすぐ気が付いた。

 時間を過ぎても自分の意識が現実には戻らず、ユグドラシルの世界のままだった。

 他にもGMコンソールが出現しないことにも驚いたが、それよりも彼が驚いたことがあった。

 NPCが、生きて動いているのだ。

 ますます状況が分からなくなり、混乱しだすモモンガ。しかし突然緑色の光に包まれ、急に冷静になった。

 状況を確認するため、モモンガは戦闘メイドプレアデスリーダーのセバス・チャンにナザリック地下大墳墓周辺の状況を確認させた。

 そして数分後、闘技場にナザリック地下大墳墓の守護者を集めさせ、セバスから状況を報告させた。

 モモンガは思わず疑った。

 ナザリック地下大墳墓の周辺は、草原となっていたという。

 自分の記憶が正しければ、ナザリック周辺は沼地だったはず。

 これは異常事態だと考え、とりあえずナザリックを目立たなくさせるようマーレに指示した。

 最後に、モモンガは守護者統括アルベド、及び階層守護者たちから見ての自分はどんな存在かを聞いたのだが………

 

「(何、この高評価⁈)」

 

 彼らから見ての自分に対するあまりの高評価に、頭を悩ませていた。

 これは下手に動けないぞ。

 魔王ロールでそれとなく反応してみたけど、ぶっちゃけこれはやばい。

 そしてアルベドに限っては『私の愛しい方』とか言っちゃってるし!

 タブラさんが作った設定を見た際、最後の『ちなみにビッチである』を『モモンガを愛している』なんて勝手に書き換えてしまったのが原因だ。

 タブラさんに申し訳ないな。

 

「そ、そうか。お前達の考えはわかった、今後とも忠義に励め」

 

「「「「「「「ハッ!」」」」」」」

 

 とりあえず一回その場を離れるために転移した。

 感じるはずのない疲労を感じる。

 すごく疲れた。

 ………それにしても、

 

「ステアーさん………大丈夫かなぁ」

 

 サービスが終わる直前ログインしたのは確認したから、この世界に転生していたとしてもおかしくないけど。

 でも、確認のしようがないからなぁ………伝言(メッセージ)にも反応しなかったし。

 まぁ、死ぬことはなさそうだけど。あの人メチャクチャ強いし。

 

「……………ナザリックを隠したら、捜しに行こうかな」

 

 

 

 一方、モモンガが転移した後

 

「す、すごく怖かったね、お姉ちゃん」

 

「ほんと。あたし潰されるかと思った」

 

「流石はモモンガ様。私達守護者にすらそのお力の効果を発揮するなんて………」

 

「至高ノ御方デアル以上、我々ヨリ強イトハ知ッテイタガ、コレホドトハ」

 

「あれが支配者としての器をお見せになられたモモンガ様なのね」

 

「ツマリハ、我々ノ忠義ニ応エ、支配者トシテノオ顔ヲ見セラレタトイウコトカ」

 

「確実でしょうね」

 

「あたしたちと一緒にいた時も全然、オーラを発していなかったしね。すっごくモモンガ様、優しかったんだよ。喉が渇いたかって飲み物まで出してくれて」

 

 アウラの発言に対し、各守護者から嫉妬の気配が目視できるほど立ちこむ。

 特に大きかったのは、アルベドだ。手がプルプル震え、爪が手袋を破りそうな気配すらある。

 

 びくりと肩を震わせたマーレが若干大きめに声を発する。

 

「あ、あれがナザリック地下大墳墓の支配者として本気になったモモンガ様なんだよね。凄いよね!」

 

 即座に空気が変わった。

 

「全くその通り!私たちの気持ちに応えて、絶対者たる振る舞いを取っていただけるとは………流石は、我々の造物主。

 至高なる四二人の頂点に立たれる方、そして最後までこの地に残りし、慈悲深き方」

 

 アルベドの言葉に合わせ、守護者各員が陶然とした表情を浮かべる。マーレの安堵の色が強く混じっていたが。

 

 自らの造物主である至高の四二人。絶対の忠誠を尽くすべき存在の真なる態度を目にすることができ、これ以上はないという喜びが全身を包み込む。

 

「では私は先に戻ります。モモンガ様がどこに行かれたか不明ですが、御傍に使えるべきでしょうし」

 

「わかりましたセバス。モモンガ様に失礼が無いように仕えなさい。それと何かあった場合はすぐに私に報告を。特にモモンガ様が私をお呼びという場合は即座に駆け付けます。他の何を放ってても!」

 

 隣で聞いていたデミウルゴスが困ったものだという表情を浮かべる。

 

「ところでシャルティア、先程から静かですが、どうかしましたか?」

 

 デミウルゴスの言葉に合わせ、全員の視線がシャルティアに向けられる。

 シャルティアはペロロンチーノによって作られた、いわばエロゲの塊。

 守護者の中でも最も歪んだ性癖(死体愛好癖(ネクロフェリア)とか両刀(バイセクシャル)とか)を多数持っていたことを思い出したアウラは、またかと思った。

 果たして彼女は、しかしそのようなヤバい状態にはなっておらず、何か考えことをしているように見えた。

 

「あれ、シャルティア。いつものように変態属性全開じゃないわね。あんたなら今頃、『あの凄い気配を受けてゾクゾクしてしまって』とか『下着がまずいことに』とか言ってそうなのに」

 

「何を言ってるでありんすか!すでになってるでありんす!」

 

 前言撤回、なった後だった。

 やはりシャルティアは変態だった。

 そんな彼女に、アルベドが一言、

 

「このビッチ」

 

 この発言がきっかけで、シャルティアとアルベドが言い合いに発展したのだが、他の守護者たちは、我関せずと各々の話を始めた。

 

 その話は、ナザリック地下大墳墓の将来の話から、至高の方々御世継ぎ問題、繁殖実験と発展していく。

 

 しばらくして、シャルティアとアルベドの言い合いが終わったのか、こちらに戻ってきた。結局、モモンガに対しては一夫多妻制をとることにしたらしい。

 

「………で、シャルティア。結局何考えてたの?」

 

「あぁ、それについてでありんすが………ミレアという眷属を知ってるかえ?」

 

「えぇ。確かペロロンチーノ様が直々に名づけを行った、貴方の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・プライド)だったかしら」

 

「あー、私知ってる。たしかペロロンチーノ様とシャルティアと一緒に偵察に行っていた眷属よね?」

 

「ラグナレク・ステアー・テンペスト様ガ結晶ニ封ジ、共ニ行動スルコトニナッタ眷属」

 

「その子がどうかしたのかい?」

 

「そのミレアが、先程どこかで召喚されたような感覚が来たんでありんす」

 

 シャルティアの言葉に、その場にいた守護者全員が耳を疑った。

 今彼女は、ミレアが召喚されたといった?

 ミレアは現在、ラグナレク・ステアー・テンペスト様の所有物として連れていかれているはず。

 ということは、ミレアを召喚できるのはラグナレク・ステアー・テンペスト様、ただ一人。

 それはつまり………

 

「まさか………ラグナレク・ステアー・テンペスト様もこの世界に来ているってこと⁈」

 

「何ですって⁈」

 

「ま、まだ本当かどうかはわからんでありんすよ。ただ、モモンガ様のあのオーラを受けてゾクゾクした直後に、そんな感覚を感じ取ったというだけで」

 

 守護者たちに詰め寄られるシャルティア。

 彼女自身、確証はない。眷属が違う場所で勝手に召喚されたという感覚など、初めて感じたからだ。

 すると、アルベドが何かを思い出したように口を開いた。

 

「……………そういえば、さっき玉座の間でモモンガ様の御傍にお仕えさせてもらった際、ラグナレク・ステアー・テンペスト様が“ろぐいん”なるものをしていたとおっしゃっていたわ。モモンガ様のご反応を見た限り、“ろぐいん”というものは、至高の御方である我々の造物主様方が、このナザリックに来たことを示す言葉だと考えられるわ」

 

「で、でも僕達はラグナレク・ステアー・テンペスト様のお姿を見ていないよ。ね、お姉ちゃん?」

 

「うん。ラグナレク・ステアー・テンペスト様がもし来ていらしたとすれば、少なくとも誰か一人はラグナレク・ステアー・テンペスト様にお声をかけてもらっていたはずだし」

 

「しかし、モモンガ様の傍で仕えていたアルベドが、ラグナレク・ステアー・テンペスト様がナザリックに来てくださったということを確認したのも事実のようだし………どうしたものか」

 

 腕を組んで頭を傾げる。

 至高の御方であるラグナレク・ステアー・テンペスト様がこの世界に来ているかもしれないという可能性。

 0とは言えない。しかし確実ともいえない。

 シャルティアの言葉自体、本人も疑心暗鬼になっている。

 だが、モモンガ様が嘘をつかれるとも思えない。

 

 しばらく考えたのち、このことは暫く自分たちだけの話にしようとアルベドが言った。

 

「ラグナレク・ステアー・テンペスト様の件は、確証できるまでモモンガ様にはお伝えせず、我々守護者だけの話にしましょう。不確実な情報を伝えて、それが間違いだった場合のモモンガ様の悲しみは、想像するに足らないでしょう」

 

「しかしアルベド、もし真実だったとしたらどうするんだい?偵察を送って捜索させるなどの行動は早めに取るべきだと、私は考えるがね」

 

「あなたの言いたいことはわかるわ、デミウルゴス。けれど、それを今するのは得策ではないと思うの」

 

「それはどうしてだい?」

 

「『二兎追うものは一兎をも得ず』。一つのことに集中できない者は、必ず失敗することの例えだと、ラグナレク・ステアー・テンペスト様がおっしゃっていたわ。

 今、私達はモモンガ様でさえ予測しえなかった事態に直面している。その状態で未知の世界をいきなり捜索するのは愚者のすることに他ならないわ。ここはまずモモンガ様の命令通りナザリックを隠すことに専念するべきよ」

 

「……………なるほど。わかった。君に従おう」

 

 アルベドの説明にデミウルゴスも納得する。

 その後アルベドは守護者統括として守護者たちに命令し、その場を解散した。

 ステアーの命令で、ミレアがナザリックに向かっていることを知らずに。

 

 

 

 そんな守護者たちが心配している中、当の本人はというと、

 

「────で、右でつかんでいるところを2回まわしたら、今度は上を一回時計回りに動かす」

 

「えっと……こうかしら?」

 

「そうそう。そんで次は………」

 

 一人の女性と一緒に仲良くルービックキューブで遊んでいた、というより彼女にルービックキューブの攻略法を教えていた。

 

 なぜこうなったのか、事は数分前に遡る。

 ミレアにナザリックを探すよう依頼した後、俺は森の上空を飛んでいたのだが、この森がまぁ広いのなんのって。

 どれだけ飛んでも森しか見えなくて、もう景色に飽きてきた。

 そんな時、ふと思った。

 

 ≪伝言(メッセージ)≫使えるなら、≪ゲート≫も使えるんじゃね?

 

 ≪ゲート≫とは、ユグドラシルに存在した転移魔法の1つ。距離無限、失敗率0%で一定時間、場所と場所を行き来できる門を作る魔法で、ユグドラシルではだいぶお世話になった。

 本来なら行きたい場所を明確にしないといけないが、それはあくまでユグドラシルにいた時の効果。

 異世界に転生したことで何らかの変化があるかもしれないと思い、試しに『近くの建物、人がいるところ』という条件で発動してみた。すると本当に発動し、ゲートが完成した。

 これはいい。ミレアがナザリックを見つけたら、これで移動すれば楽になるな。

 

 そんなことを思って中に入ると、そこはめっちゃ暗いどこかの地下。

 そして目の前には一人の女性が何かをクルクル動かしていた。

 彼女が立っているのは、厳重そうな扉の前。

 隣には、十字型の巨大な鎌が立てかけられている。

 うん、これ完全に宝物庫とかそんな類のやつだ。

 

「……………」

 

 どうやら彼女には俺の姿が見えていないようだ。

 気配を消す魔法を使っておいて正解だった。

 

「……………」

 

 それにしても、さっきから何をクルクル動かしているんだろう。

 そう思って俺は音を立てないよう静かに彼女に近づいた。

 そして横から覗いてみると、その正体がわかった。

 

 ルービックキューブだ。

 

 こんな異世界にルービックキューブ⁈と一瞬驚いたが、間違いない。

 彼女はルービックキューブを動かし、赤の面を揃えようとしていた。

 

「………一面は簡単なんだけど、二面以上が急に難しくなるのよね、()()()()()()

 

「あー、何かわかるわ、その気持ち。俺も最初はそうだった」

 

「あら、じゃあ姿()()()()()()()()()の貴方は、これができるのかしら?」

 

「もちろん、何度もやったからな。教えようか?」

 

「えぇ、よろしく頼むわ」

 

 

 ………ってなことがあって、今に至る。

 あと何手かでルービックキューブが全面揃うところで、俺は今の状況の異常に気がついた。

 

「って、若干ノリで教えちゃったけど、君には俺の姿が見えるのか?あ、そこを反時計回りに動かして」

 

「今更ね、ぼんやりとだけ見えるわ。何となく人じゃないのもわかるし。こんな感じ?」

 

「そこまでわかってたのか。いつから気付いてた?そうそう、んで次にそっちを二回まわして」

 

「そうね………貴方が私の横からルビクキューを覗いた時からかしら。次はここを動かせばいい?」

 

「ほぼ最初からじゃん。なんで言わなかったんだ?そう、その後はわかるか?」

 

「だって、いつ気づくんだろうって思うと面白くって。えぇ、あとはここをこうして」

 

 ルービックキューブを動かしながら、彼女に色々質問する。

 要するに俺は彼女に遊ばれたようだ。こやつめ、やりおるわ。

 

「………よし、完成したな」

 

「えぇ、あなたのおかげで」

 

 完成したルービックキューブを四方から見始める彼女。

 まさかできるとは思ってなかったのだろう、少し驚いているようにも見えた。

 

「……………それにしても不思議な人ね。私は生まれてからずっとこの場所でこの宝物庫を守ってきたけど、ここまで不思議と安心して話せた人はあなたが初めてよ」

 

「生まれてからって、他に話せる人はいないのか?」

 

「一応いるわ。といっても、漆黒聖典の隊長さんぐらいだけど」

 

「漆黒聖典?」

 

「スレイン法国の特務部隊のことよ。存在は秘匿されているのだけど」

 

「その秘匿の存在を俺に話して大丈夫なのか?」

 

「私の存在そのものが秘匿ですもの、それぐらい大丈夫よ」

 

 その後、彼女はいくつかの情報を俺に教えてくれた。

 まず、俺が今いるのはスレイン法国という、600年前に現れた強大な力を持つ6名のぷれいやー(おそらくプレイヤーのことだと思われる)によって救われた人間の国家らしい。

 この国では、いわば『人間至上主義』なる理念を掲げており、人間族以外の他種族は全て殲滅するべきだと考えているものが多いそうだ。

 

「まるで異形種狩りだな………」

 

「異形種狩り?」

 

「いや、何でもない、こっちの話だ。それで、他には?」

 

「あとは隊長さんから聞いた噂話ぐらいかしら。私自身この場所から離れたことがないから、知ってることはそれだけ」

 

「そうか………」

 

 予想はしていたが、やはりそこまで情報は手に入れられなかった。

 強いて言えば、このスレイン法国は俺達“アインズ・ウール・ゴウン”にとって最も注意すべき国と考えたほうがいいということぐらいか。

 しかし、600年前に現れた6名のぷれいやー………ユグドラシルのプレイヤーと考えたほうがいいな。

 

「それにしても、俺みたいなやつにそんな情報教えて、本当に大丈夫なのか?」

 

「いいのよ。私にとっては国なんてどうでもいいの。私はただ、私より強い存在と出会い、その存在との間に強い子供を残すことができれば、それでいい」

 

 自分の腹をさすりながら、不気味な笑みを浮かべて話す彼女。

 どうやら彼女は、相当な戦闘狂のようだ。

 普通の人なら恐怖しかねない彼女の笑顔は、しかし俺にはなぜかそれが美しく見えた。

 

「ねぇ………貴方は強いのかしら?」

 

 扉に預けていた鎌を手に取り、ジャキンと俺の首元に刃を近づける彼女。

 彼女にははっきりと見えていないはずだが、何故か視線は俺の目とぴったり合っていた。

 

「さぁ?試してみるか?」

 

 不思議と彼女に何か高揚感を感じた俺は、魔法を解除して彼女に俺の姿を見せた。

 一瞬俺の姿に彼女は驚く。しかし視線はぶれていない。

 暫く沈黙が走る。といっても数分ぐらいか。

 彼女は冗談めいた表情で俺から鎌を下げた。

 

「……………参ったわね。貴方の強さが全く()()()()()。隙があるようで、まるでない。手を出したら、一瞬で殺されそう」

 

「ハハハ、そうか」

 

 どうやら俺に挑戦するのをあきらめたようだ。

 正直彼女の戦いを見てみたいという気持ちがあったのは、内緒である。

 ふと、気になって不思議の地図(ミステリー・マップ)を広げた。ミレアはまだ北に向かって移動しているようだ。

 

「まだ時間があるな………」

 

「時間があるなら、私の話し相手になってくれないかしら?正直暇なのよ」

 

 あからさまに暇ですオーラを出す彼女。

 そのオーラに苦笑しながらも、俺は彼女の相手をすることにした。

 

「(これ以上動くのは危険そうだしな)わかった、いいよ。俺はラグナレク・ステアー・テンペスト、ステアーって呼んでくれ」

 

「ラグナレク・ステアー・テンペスト………それがあなたの名前なのね。私のことは、番外席次でいいわ」

 

 こうして、ミレアがナザリックを見つけてくれるまでの間、俺は番外席次と一緒に時間を潰すことにした。




ステアーさんは結構マイペースなようです。


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お前が………欲しい!

3話目、どうぞ。



※12月14日、一部修正しました。


~ナザリック地下大墳墓・上空~

 

「世界征服………なんて面白いかもしれないな」

 

 満天の星空の下で、漆黒の鎧を装着した骸骨が呟く。

 その後ろには、蛙のような顔で背中に蝙蝠のような羽を生やした悪魔が飛んでいる。

 

 守護者達から熱烈な高評価を受けたモモンガは、彼らの信頼度に精神的な疲れを感じ(本当は疲れなど感じるはずはないが)、気分転換に一人で散歩しようと漆黒の鎧で身を隠し、お忍びで外に出ようとした。

 

 しかし、自分でナザリックの警戒態勢を限界にまで引き上げたことを忘れており、入り口である第一階層を警備していたデミウルゴスとその配下三名に出会ってしまい、すぐにバレる。

 だがデミウルゴスはモモンガの何気ない行動に対し、何か意味があるのではと勝手に深読みしたらしく、結果デミウルゴスだけモモンガの付き添いとして同行することを許可する形になって、今に至る。

 

「(まぁ、そんなこと出来る訳ないけど)………ん?」

 

 ズドドドという大きな音が下から聞こえる。

 視線を下げると、マーレがナザリック周辺の土を盛りあげて動かしているのが見えた。

 偽装工作頑張ってるなー。

 

「デミウルゴスよ。私は今からマーレの陣中見舞いに行こうと思っている。彼に褒美を与えたいのだが………何がいいと思う?」

 

「モモンガ様がお声をかけられるだけで十分かと………」

 

「うむ、そうか……」

 

 NPCの忠誠心を見れば、確かにそれだけで十分かもしれない。

 けど、あっちが誠意を見せてくれているのに、こっちが誠意を見せないというのは後味が悪い。

 ………あ、あれがいいんじゃないか?

 

 プレゼントを考えた俺は、再び仮面を装備し、マーレのもとに降りた。

 するとマーレがこちらに気付き、向かって走ってきた。

 

「モモンガ様!どうしてこちらに?もしかして僕、何か失敗でも………」

 

「違うとも、マーレ。お前は何も失敗していない。ナザリックの発見を未然に阻止するお前の仕事は最も重要なものだ。そのことに対し、私がどれだけ満足しているのか知ってほしいと思ってな」

 

「は、はい!モモンガ様!」

 

「うむ。ではこれを………」

 

 マーレに見えるように手をひらき、一つの指輪を出現させた。

 するとそれを見たマーレが、びっくりして慌て始めた。

 

「リ、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン⁈」

 

 この指輪は、『ナザリック内のほぼ全ての部屋に自由に出入りすることができる』という効果を持つもので、プレイヤーである俺達しか装備していない便利なアイテムだ。

 

「こ、これは、至高の方々しか所持することを許されない物!う、受け取れるはずが………」

 

「冷静になるのだ、マーレ。お前の働きは、信頼に値するものだ。この指輪は、お前の今までの行動と、これからの仕事を効率よく行えることを考え、判断したものだと思ってほしい。これからもナザリックのために貢献してくれ」

 

「は、はい!」

 

 マーレは恐る恐る指輪を手に取り、ゆっくりと自分の薬指にはめた。

 ん?どうして薬指にはめたんだ?マーレは確か男の娘だったよな?

 うん、きっと偶々だ。深い意味はないはずだ。

 

「あ、ありがとうございます!モモンガ様のご期待にそえるよう、これからも精進します!」

 

 どうやら喜んでもらえたらしい。

 オッドアイをキラキラと輝かせてお礼を言ってくれた。

 

「あの、ところでモモンガ様、どうしてそのような格好を?」

 

「ん、んん、それは、だな」

 

「簡単よ、マーレ」

 

 突然のマーレの質問にどう答えればよいか一瞬考えると、後ろ上空からアルベドがゆっくりと降りてきた。

 ナイスタイミングだ!

 

「モモンガ様は、下部である私達の仕事を邪魔しないように、とのお考えなの。モモンガ様がいらっしゃるとわかれば、我々は手を止め、敬意を示してしまいますから。そうですね、モモンガ様?」

 

「………さ、流石はアルベド、私の真意を見抜くとは」

 

 本当はただ、お忍びで散歩したかっただけだったとはとても言えない。

 ここはアルベドの考えを肯定しておこう。

 

「守護者統括として当然のことをしたまで。たとえそうでなくとも、至高の御方であるモモンガ様の御心の洞察には、自信がございます」

 

「な、なるほど………」

 

 納得したようにマーレが腕を動かす。すると月の光で指輪が光った。それもアルベドの前で。

 あ、これはまずいと一瞬恐怖した。

 俺からマーレにこの指輪を渡したことが分かれば、俺を愛してるって設定にしたアルベドは絶対キレて、

 

「あら、マーレ。それはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンかしら?」

 

「は、はい!モモンガ様が僕にくださったんです!」

 

「そう。よかったわね」

 

 キレて………ない?

 視線を下げると、彼女の右手になぜか同じリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがはめられていた。

 いつの間に持ってたんだ?というか、俺渡した記憶はないんだけど。

 

「アルベド、その右手にある指輪は?」

 

「こちらは至高の御方が一人にして、“アインズ・ウール・ゴウン”副ギルドマスターであるラグナレク・ステアー・テンペスト様が私に授けてくださった、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンでございます」

 

「………すまないが、少し見せてくれないか?」

 

「モモンガ様のご命令とあらば」

 

 特に嫌な顔を見せることなく、アルベドは指輪を外して俺に渡してくれた。

 確かにこれはステアーさんのリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだ。

 でもこの指輪、もしかして………

 

「ステアーさんは、この指輪について何か言っていたか?」

 

「はい。この指輪を渡すということは、君のことを信頼していることの証明になる、と」

 

「そうか………大切にするのだぞ」

 

「勿論でございます。至高の御方であるラグナレク・ステアー・テンペスト様が授けてくださったこの指輪に対する信頼を裏切ることがないよう、この身をかけてより精進していく所存でございます」

 

 ステアーさんの指輪をアルベドに返す。

 様子を見る限り、()()()はまだしていないようだ。

 でもステアーさんがこれを渡すってことは、本当にアルベドを信頼しているんだな。

 

「………では、私はそろそろ戻るとしよう。デミウルゴスは、また次の機会に」

 

「ハッ。このデミウルゴス、至高の御方で仰せられるモモンガ様の信頼を得られるよう、これからもより尽力いたします」

 

「うむ」

 

 ある程度気分転換もできたので、俺は転移魔法で自室に戻った。

 そしていつものローブ姿に変身し、部屋を出ようとしたとき、小さいテーブルの上に置かれた写真盾が目に入った。

 そこには俺とステアーさん、そして一人の()()()()()()()が、家族写真のように写っていた。

 

「………」

 

 無意識に手が伸びる。

 この写真に写っている女性は人間種。つまり、俺達のギルドの人ではない。

 ギルドの人ではないが、ギルドにとっては少し特別な人だった。

 そう、俺達、いや、()()()()にとって特別な………

 

「………っと、こんなことをしている場合じゃなかった」

 

 写真を元に戻し、俺は部屋を出た。

 

 

 

 

~同刻、スレイン法国~

 

 番外席次と出会ってから、どのくらい時間が経ったんだろう。

 彼女との会話が続く中、俺は彼女がどんな人生を歩んでいたのかを知った。

 

 まず最初に驚いたのは、彼女には名前が無かった。

 話によると、彼女の出身はこの国ではなく、エルフの王国らしい。

 何でも、エルフの王国とこのスレイン法国は元々友好的な関係を築いていたが、何らかの理由でエルフの王国が裏切り、長年戦争状態だという。

 しかしスレイン法国は600年前に現れたぷれいやー達が残した遺産(おそらくユグドラシルの装備品やマジックアイテムと思われる)により圧倒的軍事力を保有しており、結論から言うとエルフの王国には勝ち目がない。

 その時、エルフの王は『自分より強い子供の軍団を作れば勝てるんじゃね?』などというゴミ以下の考えをするようになり、片っ端からエルフ族の女性に子作りを強制するようになったという。

 だが、誰一人として、王の強さの半分にすら到達できたものは生まれなかったらしい。

 

 それから長い月日が経ち、それでも尚その軍団が完成することを夢見ていた王は、ある強行手段にでた。それは、当時スレイン法国の切り札とされた女性を攫い、その者に自身の子供を出産させる、というものだった。

 要するに、『自国民のエルフ女性は弱いから、強い個体が生まれない………そうだ、隣の国から強い女拉致って、そいつに産ませたらいいんだ!』ということだ。もはや表現できないぐらいクソすぎて、怒りを通り越して呆れる。

 そして王は、法国の切り札とされていたその女性をなんと攫うことに成功し、自分の子供を作らせた。

 しかし現実は常に残酷。出産を直前に控えたある日、法国のスパイによってその女性は奪還され、結局子供を手に入れることは出来なかった。

 一方その女性を奪還した法国は、女性とその子供の存在を最重要秘匿事項とし、秘密裏に出産を行うことを決めた。

 そうして生まれたのが、今の番外席次らしい。

 

「おかげで強くはなれたけど、外には出られないし、やることも宝物庫の警護かルビクキューしかない日々………最高につまらなかったわ」

 

「そうか………それで、君の母親はどうしたんだ?」

 

「私を産んだ後、突然姿を消したらしいわ。国は総力をあげて彼女を捜索したみたいだけど、手掛かりは一切掴めず、結局行方不明ってことであきらめざるを得なかった。そして私に物心がついた時、漆黒聖典の番外席次として宝物庫を警護することを命じられたの。多分、私が逃げないように監視するためでしょうけど」

 

「ふぅん………その人を恨んだことは?」

 

「何度もあるわ。今度会ったら絶対にその首を跳ね飛ばしてやるって思ったこともある」

 

 母親への怒りを思い出し、笑みを無くす番外席次。

 しかしすぐに笑みを取り戻し、だけど、と続けた。

 

「だけど、こうしてあなたと話していると、その人は私を守るために姿を消したんじゃないかって思えてきたの」

 

「………なるほどな。エルフの王との間に生まれた君を、エルフの王が狙わない訳がない。だからあえて秘匿とされた自分が国から去ることでエルフの王の矛先を自分に向けさせ、更に自分が去ったことで自動的に国は君のことを何が何でも外へ出さないようにする。それが結果としてエルフの王から君を守ることにつながると考えた、というわけか。確かにそれなら筋は通る」

 

 最初はひどい母親かと思ったが、そう考えると実はいい人なのかもしれない。

 しかし、だとすればその人は今どうしているのだろう。

 法国の元最強だから、同じように捕まったりはしてないと思うが………

 

「………フフッ」

 

「どうかした?」

 

「あなたとは初めて会ったはずなのに、不思議なくらい心が安心するの。自分でいうのもあれだけど、私って結構異常者なのよね。“自分を倒せるような強者との間に強い子供を作りたい”とか、普通言わないでしょう?だというのに、今の私はあなたと普通の人のように話せている。唯一の会話相手だった隊長さんにも、こんな風に話したことは無かったから、新しい自分を見つけたみたいで面白くて」

 

「………………」

 

 この数時間で、俺の中での彼女に対する印象が変わっていることに気が付いた。

 最初は彼女のことが少し()()()に思っていた。

 こんな真っ暗な部屋で一人黙々とルービックキューブで遊んでいて、しかも戦闘狂。ペロロンチーノさんが萌え属性だとか言っていた“ヤンデレ”というそれなのでは、とさえ思った。

 しかしいざ彼女と話し合ってみると、不気味要素が一切ない()()の女性だった。

 一般の目から見れば普通じゃないかもしれないが、俺にとっては普通に見える。

 人類最終試練(ラスト・エンブリオ)という()()()()()()()()()種族になったせいで、感覚が狂っているのかもしれない。

 

 ふと、彼女の笑顔を見た時、()()()()の顔がそれと重なった。

 

「っ………」

 

 ほんの一瞬だけだった。しかしその一瞬を感じた瞬間、俺の中である考えが浮かんだ。

 

 

──────この人を連れて行こう。

 

 

 スレイン法国には申し訳ないが、俺は彼女という存在に興味を持ってしまった。人間である彼女を、ここから連れ出したいと思った。

 

「…………番外席次」

 

「何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と一緒に来る気はないか?」




ステアーさんは結構大胆なことをするようです。

※アルベドの指輪の位置、よく考えたら左手の薬指はまずいと思い、急遽右手に変更しました。


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カルネ村での再会

4話目、どうぞ

※5月9日、一部編集しました

※8月19日、一部編集しました


『ね、ぇ………』

 

 青年に抱きかかえられた少女が、青年の頬にやさしく触れながら掠れた声で話しかける。

 

『喋るな、傷が広がるぞ』

 

 腹部から血を流している少女に無理をさせまいと青年が忠告するが、少女は口を開き続ける。

 

『拓未…は………私の、こと……ずっと、好きでいて、くれる?』

 

『…あぁ。だから、それ以上口を………』

 

『……フフ、フ…………嬉しい、わ…………私も、好き…よ………大好、き』

 

 涙を流しながら話す少女の瞼が、徐々に閉じてゆく。

 

『わかった………わかったから、もう喋らないでくれ……………』

 

『本当に………………拓未のこと……………………………………』

 

 頬を伝う一筋の涙。その一滴が地面に落ちた瞬間、彼に触れていた少女の手が力なく倒れる。

 

『お、おい………頼む………君がいなくなったら、俺は…………だから、頼む………』

 

『……………………………』

 

 目の前の現実を認められない青年は、何度も少女に話しかける。しかし少女は幸せそうな顔で瞳を完全に閉じたまま、二度と彼に反応することは無かった。

 

『………っ、逝くなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

 

「っ⁈…………はぁ……………はぁ…………はぁ…………」

 

 森の中でステアーは目を覚ます。神童拓未(かつての自分)の時の悪夢にうなされたせいか、酷い表情になっている。

 

「…………大丈夫?あなた、今物凄く酷い顔になってるわよ」

 

「番外席次…………」

 

 彼の隣で寝ていた番外席次が心配そうに声をかける。

 一回深呼吸して、ステアーは冷静になった。

 

「あぁ、大丈夫。昔の悪い夢を見ただけだ」

 

「ふぅん………まぁ、深くは聞かないことにするわ」

 

「そうしてくれると助かるよ」

 

 空を見上げると、太陽が昇っている。どうやら朝のようだ。

 

「それにしても、昨日は色々驚かされたわ。どこからか持ってきた木の人形の鼻を触ったら私に化けたり、空間に変な穴が開いたと思って通ったらなぜか森にいたり、貴方本当に何者?」

 

「マジックアイテム模倣人形(ダミードール)と、【転移門(ゲート)】のことか。模倣人形(ダミードール)というのは、鼻に触れた生物と全く同じ強さ、同じ姿に変身するアイテムで、一度使えば戦闘で倒れるまではずっと変身した状態を保つんだ」

 

「へぇ、結構便利なのね」

 

「ところがどっこい、この模倣人形(ダミードール)には弱点がある。模倣人形(ダミードール)の鼻は特殊なセンサーになっていて、触れた生物の情報を瞬時に解析し、データとして人形そのものに登録することで初めて機能するんだけど、そのデータって容量が凄く大きい上に人形が倒れて元に戻っても消去されないよう何重にも保護される。それ故、何度も使用することができる代わり、登録したデータ以外の生物には一切変身できなくなるんだ。しかもこれ、俺の創造者(クリエイター)でしか作成出来ない上に、必要な素材が多すぎるから、大量生産も出来ない。だから、意外と扱いづらいし、むやみやたらに使うこともできないんだ」

 

「ふーん、そうなの」

 

「そして【転移門(ゲート)】、こいつは転移魔法の1つだよ。失敗率0%で距離は無限、一定時間場所と場所を行き来できる空間の門を作り出す便利な魔法だ。多分君だったら、頑張れば使えるようになると思う」

 

「そんな魔法があるのね………知らなかったわ」

 

「ハハハ…………本当は場所を指定しないといけないけど、ぶっちゃけ地理とか全然わかんなかったから“とりあえずスレイン法国からめっちゃ遠いところ”ってした結果、こんなところに来てしまったんだけどね」

 

 まぁ、番外席次を誘ったらあっさり承諾されたから、偽装工作としてパーマ○のコピーロボット使って番外席次のコピー(ちなみに意思疎通は出来るので、異常事態が発生しない限りバレないとは思うが)を置いてきて、彼女を外に出すことができたから良しとしよう。

 

「それで、この後どうするの?」

 

「そうだな…………とりあえず、ミレアと合流するか。幸い、ミレアが通った道の途中のようだし」

 

 不思議の地図(ミステリー・マップ)を広げながら、予定を話す。

 先ほどいたスレイン法国からかなり北まで飛んできたようだ。

 だが一直線に塗られた地図の一部の途中にいることから、すでにミレアが通った道だと推測できる。

 

「ミレア?」

 

「あー、そうか。説明してなかったな。ちょっとややこしいんだが、ミレアっていうのは俺のかつての同志が従えている吸血鬼が召喚する眷属の一人を俺が借りた子だ。間接的には俺の眷属ってなるか?」

 

「吸血鬼?貴方の知り合いにそんなのがいるの?」

 

「あぁ。他にも色々いるけどその辺りはあっちに着いてからでも遅くは……………ん?」

 

 遠くのほうで何かの気配を感じる。

 かなり多いが、おそらく人間その他の生命の気配だろう。

 方向はミレアが走っている方向と同じだが、距離はかなり遠くだ。

 

「どうしたの?」

 

「…………人間の気配を感じた。しかし、何か不自然だ」

 

「気になるの?」

 

「あぁ……………番外席次、少しこっちに」

 

「え、えぇ…………」

 

 番外席次をこちらに近づかせる。

 そして俺は彼女の背中と足に腕を当て、所謂お姫様だっこをさせてもらった。

 

「あら、お姫様だっこなんて、大胆♪」

 

「変なことを言うな。後何で楽しそうなんだ?」

 

「こういうの、ちょっと憧れてたから、つい」

 

「君ってちょいちょい乙女になるよね?………まぁ、いいか。とにかく俺は今から飛ぶ。その間はこうさせてもらうぞ」

 

「仰せのままに、ご主人様♪」

 

「まだ従者の契約とかその他諸々やってないだろ……………」

 

 何か外に出た途端ラフになってないか、番外席次のやつ。

 まぁいいや。とりあえず番外席次を抱えた俺は、翼を広げて生命の気配を感じた場所へ一気に飛んで行った。

 

 

 

 

~数十分後~

 

「…………………………」

 

「あれは、戦闘でもしているのかしら?」

 

 気配を感じた方向に向かって飛んでいると、煙のような物が見えてきた。

 更に近づくと、そこには村らしき集落があった。

 

 ……………兵士たちが村人を虐殺している真っ只中の。

 

「虐殺、だな」

 

「あの鎧は、おそらくバハルス帝国の兵士のものね。中身はどうか知らないけど」

 

「……………」

 

「それにしても結構派手にやってるわね。村人が一方的にやられてるわ」

 

「……………」

 

「……急に無言になって、さっきから変よ?」

 

 番外席次がステアーに声をかけるが、彼は一切反応しない。

 彼の視線は、村で起こっている虐殺の光景を見つめたままだ。

 

「(最初は不思議に思った。元いた世界で起こっていたら不快な気持ちになるはずなのに、そんな気持ちには一切なれない。何というか、他人事のように思える。異形種になったことで、人間種に対する感情が変化しているみたいだ……………だが)」

 

 ステアーが村の入り口と思われるところに目を向けると、小さい二人の女の子が騎士達に追いかけられ、必死に逃げているのが見えた。どうやら騎士達は、相手が子供だろうと容赦する気はないらしい。

 

 助けても何の意味もない。ただの自己満足にすぎない行動だと頭が判断している。

 しかし彼の心には、先程の夢で見た光景が鮮明に浮き出ていた。

 

『本当に…………拓未のこと………』

 

 神童拓未が守れなかった、大切な人の死。

 その死を沸々と思い出させる彼らの行動を見た瞬間、何か太い糸がブチりと切れる音が彼の心で響いた。

 

「…………伝言(メッセージ)。ミレア、俺の声が聞こえるか?」

 

『もちろんです、ステアー様。どうされましたか?』

 

「俺は今、訳あって君が進んでいる方向の先にある村の上空にいる。ナザリックを捜しているところ申し訳ないが、もう一つ頼みがあるんだ」

 

『何なりとお申し付けください、ステアー様』

 

「何、簡単なことだ……………この村にいる兵士どもを全員始末しろ。ただし村人は殺すな、彼らからはいくつか情報を聞き出すつもりだ」

 

『はっ。始末の方法は、私の自由でよろしいでしょうか?』

 

「あぁ。強いて言うなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()殺せ。できるか?」

 

『………御心のままに、ステアー様』

 

 ミレアに連絡し、この村にいる騎士どもを任せる。

 その間、ステアーは先ほど逃げていた女の子たちの所へ向かうことにする。

 

「俺に怒りを覚えさせたらどうなるか、その身をもって教えてやる。但しその時には、お前達は八つ裂きになっているだろうけどな」

 

 

 

 

「はぁはぁ」

 

「頑張って!」

 

 カルネ村に住んでいる少女、エンリ・エモットとその妹のネム・エモットは、正体の分からない騎士達から必死に逃げていた。

 

「(何で………こんなことになったんだろう。さっきまではいつもと変わらなかったのに。決して豊かじゃないけど、お父さんとお母さん、ネムと村の皆と生きていくには困らない生活をしていた……………なのに、どうして私達は逃げているんだろう?)」

 

「きゃ!」

 

「ネム⁈」

 

 倒れた妹に駆け寄るエンリ。その直ぐ後ろから四人の騎士がおってきた。

 

「やっと追い詰めたぞ、ガキども」

 

「悪く思うなよ……………これも任務なんだ」

 

 そう言って、騎士たちがネムに斬りかかる。エンリはネムを抱きしめて庇い、背中に傷を負った。

 

「せめて一瞬で終わらせてやる」

 

「い、いや……………お願い…………誰か……………」

 

 妹を抱きしめ、必死に願う。

 騎士が振り上げた剣を無言で振り下ろし、

 

 

 

「………………?」

 

 攻撃が飛んでこない。

 騎士を見てみると、エンリに攻撃が当たる直前のところで何故か止まっていた。

 よく見てみると、他の騎士達も同じような状態になっていた。

 

「な、何だ………身体が、言うことを、聞か………」

 

 騎士の体は、何かにとりつかれたかのように全く動かない。

 一瞬何が起こったのか分からなかった。

 その時、目の前を一枚の羽が舞い降りてきた。

 太陽の光で輝く、真っ黒で神秘的な羽だ。

 ゆっくりと顔をあげる。空中に、背中から真っ黒な翼を生やした金髪の青年と、彼の左腕に捕まる白黒の女性がいた。

 

「第六位階魔法【寄生する人形達(パラサイト・マリオネット)】─────自分よりレベルの低い相手の体に魔法の糸を人形のように貼り付け、思うが儘に操る一種の洗脳魔法。思ったより効果は絶大みたいだな」

 

「な、何だ、貴様ぁ!」

 

「これから死ぬ奴に名乗る気はない………さて」

 

 青年、ステアーは彼らを糸で繋いだままエンリ達のところへ降りていく。

 エンリは不思議に思った。

 何故自分は、此処まで彼に安心を感じているのだろう。

 見るからに人間ではない。ゴブリンと同じ悪い魔物の可能性だってある。

 なのに、恐怖を一切感じない。それどころか、むしろ安心を感じていた。

 何故かはわからない。分からないのに、この人は私達の味方だと、そう強く確信している自分を疑問に思った。

 

「大丈夫か、君たち?」

 

「は、はい………」

 

「うん」

 

「よしよし。一体何があったのか、お兄さんに教えてくれるか?」

 

「え、えっと、それが私達にもわからないんです。さっきまではいつもの日常だったのに、突然騎士達が私達を襲ってきて………お母さんと、お父さんが、私達を逃がして、くれて………」

 

「………そうか、二人とも辛かっただろうによく頑張ったね。後はお兄さんに任せなさい」

 

「お、おい!天使、風情が、俺達人間様に、手を出し、て………ただで、済むと思」

 

ーバンッー

 

 操られてもなお口を開き続ける騎士の首が突然爆散する。近くにいた騎士たちはその返り血を浴び、悲鳴を上げた。

 

「何もできない雑種の分際で、減らず口を叩くんじゃない」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ⁈」

 

「お、お助け………」

 

「助けて、とでも言う気か?ふざけるな」

 

 ステアーが右手を少し強く握る。すると口を開いた騎士二人の全身が一瞬で綺麗に切り刻まれ、ミンチ状になった。

 残った最後の一人は、この先に待ち受ける死に対し恐怖で声が出せなくなっていた。

 

「あ……あぁ…………」

 

「怖いか?怖いだろうな。だが恨みたいなら自分を恨め。俺が今お前達にしていることは、お前達がこの二人、そして村人にやってきたことと同じことだ。お前達は無力な村人を虐殺した。だから俺も、無力になったお前達をこうして殺している。因果応報、ってやつだ」

 

 右手を複雑に動かすと、先程頭が爆散した騎士の体が立ち上がり、剣を取った。

 

「ひいぃ!し、仕方なかったんだ!これは上からの命令で、従うしかなかったんだ!もうこれ以上は誰も殺さない!今すぐこの村から出て行く!それで許してくれないなら、何でもする!何でもするから、どうか命だけはぁ!」

 

「……へぇ、()()()?」

 

「あ、あぁ!本当だ、何でもする!だから……」

 

命だけは助けてくれ、そう言いかけた兵士に対し、ステアーは不気味な満面の笑みを浮かべ、手を動かし無慈悲に言葉を放った。

 

「じゃあ、()()()()()()()()()()()。異論は認めない」

 

 死体は残った騎士に剣を向け、本物の人形のように不気味な動きで斬りかかった。

 

「や、やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 騎士は叫ぶ。しかしその声もむなしく、騎士は死体に一刀両断され、真っ二つに切れて絶命した。

 

「何でもするだなんて言うからだよ……って、聞こえてないか」

 

 エンリとネムは一瞬恐怖した。番外席次は、強者然とする彼に内心興奮していた。

 当の本人はというと、

 

「にしても……うわぁ、思ったより死体の動き方気持ち悪いな。これはアカン、子供たちに見せていいもんじゃない」

 

 どこぞのホラーゲームのような動きをした死体に対し、エンリとネムの二人の前で見せたのは失敗だったと、自分の行為を反省していた。

 それ以前に子供の前で人間の頭を爆散させ、更に二人賽の目切りにした時点で気づかなかったのだろうか。

 

「えっと………怖かったよな?ごめんね」

 

 振り返り、二人に怖がらせたことを謝る。

 エンリとネムは、彼の優しくなった表情を見て、すぐに安心する。

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

「そうか。なら良かった」

 

 二人の安心した表情を見てそう言った時、魔法の発生を感じ取る。

 エンリとネムの後ろに目を向けると、大きな空間の穴《転移門(ゲート)》が出現し、中から彼の良く知る人物が現れた。

 

 

 

「あれ、もしかしてステアーさん⁈」



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君の名は

一度でいいから使ってみたかった、このタイトル。



今回、番外席次に名前が付けられます。

五話目、どうぞ

※一部編集しました


「あれ、もしかしてステアーさん⁈」

 

 エンリとネムの後ろに現れた【転移門(ゲート)】。

 そこから出てきた骸骨は、ステアーを見てすぐに口を開いた。

 突然現れた骸骨に、エンリとネムは驚いてステアーの後ろに隠れた。

 ステアーは、目の前にいる『死の王』を見て、本当に自分の知るあの人なのか確かめたくなり、

 

「………………黒歴史、パンドラズ・アクター」

 

「がふっ!」

 

「軍服、敬礼、ドイツ語」

 

「ごはっ!」

 

「【Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)】」

 

「感動の再会を俺の黒歴史で滅茶苦茶にしないでください、ステアーさん!!」

 

 あ、本物だ。間違いない。

 

「すみません。こんな黒歴史でダメージ受けるのモモンガさんぐらいだと思って」

 

「他に確かめようはあったはずですけど………」

 

「だって、確実じゃないですか」

 

「そうですけど!」

 

「お待たせいたしました。モモンガ様」

 

 【転移門(ゲート)】から、今度は全身真っ黒なフルプレートの鎧を着た戦士が現れる。

 ステアーはその姿を見た瞬間、それが誰かを理解した。

 

「その鎧姿、誰かと思えば守護者統括のアルベドじゃないか」

 

「…………ま、まさか、ラグナレク・ステアー・テンペスト様⁈」

 

「そうそう。いやー、まさか二人とこんなに早く会えるとは思いませんでしたよ。昨日シャルティアの眷属のミレアっていう吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・プライド)を結晶から召喚したら動けていたので、予想はしていましたが」

 

「ミレア……って確か、ペロロンチーノさんが前に言ってた、ちょっと特別な眷属でしたっけ?」

 

「えぇ、そうですよ。名前があったのは、昨日初めて知りましたけど。あ、ちなみに今は……………」

 

 会話をしていると、突然村の方向から阿鼻叫喚が響き始めた。

 おそらく村を襲った兵士達の声だろう。

 

「あんな感じで、村のゴミ共を処理してもらってます」

 

「へぇ………なら、俺も手伝いますよ。ゴミの片づけは、人数が多いほうが効率的でしょう?【中位アンデッド作成:死の剣士(デスナイト)】」

 

 ステアーの足元に転がる騎士の死体にモモンガが手をかざす。するとその死体を黒い何かが包み込み、姿を不気味な騎士に変貌させた。

 

「(うわ、キモッ!)死の剣士(デスナイト)よ、そこの鎧を着た騎士達を殺せ」

 

≪グオオオォォォォ!!≫

 

 一瞬気持ち悪いと思いながらも、表には出さす淡々と命令する。死の剣士(デスナイト)は咆哮をあげると、そのまま村へと向かっていった。

 

「えっ………」

 

「やっぱり、ユグドラシルの時とは魔法やスキルの効果が少し変化しているみたいですね。同じ守るモンスターであるミレアが僕から離れて命令通りナザリックを捜しに行ってしまったのも、相手のコマンドをちょっと弄るぐらいしか効果がなかった【寄生する人形達(パラサイト・マリオネット)】がドフラミ○ゴの能力みたいに騎士達を自由に操れるようになっていたのも理解できます」

 

「あのステアーさん、ちょっと冷静すぎませんか?」

 

「そうですか?………あ、そうだ。モモンガさん、治癒のポーションって持ってます?」

 

「あ、はい。持ってますけど」

 

 至って冷静に状況を判断するステアーは、モモンガが取り出した赤いポーションを受け取る。すると、彼の後ろに隠れている姉妹に振り返り、目線の高さが同じぐらいになるようしゃがみ、エンリに話しかけた。

 

「大丈夫、この人はお兄さんの友達だよ。見た目はちょっと、と言うかかなりアレだけど、根は優しい人だから。背中を斬られたみたいだね。このポーションを飲んでみて。あっという間に傷が治るはずだよ」

 

「は、はい………」

 

 言われるがまま、エンリはそのポーションを受け取り、飲んだ。すると傷があった個所が緑色に発光し、まるで始めから無かったかのように消えた。

 

「す、凄い………傷が」

 

「よし、これで大丈夫。後は防御の魔法をかけておきたいけど………正直この手の魔法は苦手でね。モモンガさん、頼みます」

 

「えぇ、任せてください。【生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)】【矢守りの障壁(ウォールオブプロテクションフロムアローズ)】」

 

 姉妹を中心にドーム状のバリアが二つ形成される。一つは生物を通さない魔法で、もう一つは射撃能力を弱める魔法だ。

 

「特殊なバリアを張らせてもらった。大抵はそこにいれば安全だ。それと、念のためこれをくれてやる」

 

 懐に手を突っ込み、何かの角笛を二つ取り出したモモンガは、それを姉妹たちに向かって投げた。

 

小鬼(ゴブリン)将軍の角笛だ。何かあればこの角笛を吹くといい。吹けばゴブリンの軍勢が現れて、お前達に従うはずだ」

 

「あ、あの、助けてくださって、ありがとうございます!」

 

「礼ならステアーさんに言うといい。私はただ、彼を手伝っただけに過ぎないからな」

 

「別に大したことはしていませんよ。それじゃあ行きましょうか」

 

「えぇ」

 

 ステアーとモモンガは、村に向かって歩こうとする。するとエンリが何かを頼もうと声をかけた。

 

「あ、あの!図々しいとは思います!でも、頼れる人はあなた様方しかいないんです!どうか、どうか!」

 

「お父さんとお母さんを助けてほしい………そう言いたいんだね」

 

「っ、はい!どうか、お願いします!」

 

「生きていれば、尽力するよ。ただ………あまり、期待はしないほうがいい。そうやって誰かを守るために庇った人は、大抵早死にしてしまうから………」

 

「ステアーさん………」

 

 彼女たちの願いに答えようと考えるステアー。しかし、彼の瞳の奥には、何か虚しさを感じる悲しみがあった。

 モモンガは心配するが、すぐに大丈夫だと笑い顔で誤魔化す。

 

「あ、ありがとうございます!あ、あの、御名前は何と仰るのですか?」

 

「名前………そうだな」

 

 名前を尋ねられ、何かを考えるような仕草をするモモンガ。すると、ステアーが伝言(メッセージ)を使い、モモンガに話しかけてきた。

 

『モモンガさん、一つ提案があります』

 

『提案ですか?』

 

『えぇ。実は昨日分かったことなんですが、この世界には僕達以外にもユグドラシルのプレイヤーが転生しているみたいなんですよ』

 

『え、そうなんですか?』

 

『はい。そこで思ったんですけど、僕達のギルドって、ユグドラシルでは結構有名な方でしたよね?だったら………………って名乗るのはどうですか?』

 

『なるほど。確かにその名前が広がれば………』

 

『ただ、これには敵プレイヤーがナザリックを攻めてくる可能性も含まれます。その時は………』

 

『まぁ、大丈夫でしょう。なんたって、ステアーさんと()()がいますから』

 

『アハハ………それもそうですね。じゃあ、お願いします』

 

 伝言(メッセージ)を切ると、モモンガは両手を勢い良く広げ、魔王感を全開にして言い放った。

 

「我が名を知れ。我こそが、アインズ・ウール・ゴウン!アインズと呼ぶがいい!」

 

「そして俺はラグナレク・ステアー・テンペスト。気軽にステアーって呼んでくれ」

 

 ステアーも翼を大きく広げ、それっぽく名乗る。そして彼らは、再び村に向かって歩き出した。

 

 

 

 

「そういえばステアーさん、彼女は一体?」

 

「うん?………あ、そうだ。二人に彼女のこと紹介するの忘れてました」

 

 道中、番外席次のことについて一切説明していなかったことを思い出したステアーは、まずモモンガ……ではなくアインズとアルベドに番外席次のことを説明した。そして番外席次にも、アインズとアルベドがどういう存在なのか説明し、お互い敵ではないことを伝えた。アルベドは少し不服そうだったが、ステアーが気に入った人間だと理解し納得したようだ。

 

「それにしても、結構大胆なことしましたね」

 

「僕が一番驚いてますよ。今思うと、何であんなことしようと考えたのか謎です」

 

「ハハハ、でもステアーさんらしくていいじゃないですか」

 

「僕らしい………そうですね。あ、謎と言えばアインズさん」

 

「何ですか?」

 

「あの、これはあくまで僕の予想なんですけど………アルベドの設定、弄りました?」

 

「うっ………な、何でそう思ったんです?」

 

「なんかアルベドがアインズさんに向ける視線に、恋する乙女のような感情が含まれているような気がしたので、もしかして『ユグドラシル最終日を玉座の間で過ごそうと思い、いざ玉座に座ってみた時ふとタブラさんの作ったアルベドの設定が気になり、試しに開いてみたらさすが設定魔といえるぐらい長い設定文をスクロールしてみたら、最後に【ちなみにビッチである】という設定があり、タブラさんがギャップ萌えだったのを思い出したはいいがこれは可哀そうだと思い、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンでビッチ設定を消して、変わりに【モモンガを愛してる】とかそんな感じの設定に恥ずかしいと思いながらも弄った結果、転移したのと同時にその設定が反映されてしまい、今のアルベドが出来上がってしまった』んじゃないかと思って」

 

「エスパーですか、あなたは!………あ」

 

「………………あとで、詳しく説明してもらいますよ」

 

「………………はい」

 

 ステアーに隠し事は通じない、アインズはそう確信した。

 と、その時、番外席次が何かを思い出したように口を開いた。

 

「そういえばステアー、今思い出したのだけど」

 

「何だ?」

 

「さっき私のこと番外席次って呼んでたけど、それ昨日の時点でやめてるから………」

 

「………………あ」

 

 ステアーも思い出した。そうだ、昨日の時点で彼女は番外席次を実質やめているんだった。

 つまり、彼女は所謂名無しの状態だ。

 なら元番外席次と呼ぶか?いや、それはなんか違う。

 

「うーん……………改めて、ちゃんとした名前を付けるっていうのはどうだ?新しい自分の一歩、みたいな感じで」

 

人類最終試練(ラスト・エンブリオ)たるラグナレク・ステアー・テンペスト様が、直々に名づけを⁈」

 

 急にアルベドが慌て始める。何をそんなに驚くことがあるのだろうか。

 

「うん、そうだけど。何か問題?」

 

「い、いえ、そういうわけでは………」

 

「?まあ、いいや。それで一応名前は既に考えてる」

 

「へぇ、何て名前かしら?」

 

「アズリエル・フェイティ。死を司る大天使アズリエルと、運命という意味のfateをもじった名前だ。絶死絶命という肩書を持った君にはぴったりだと思うけど」

 

「アズリエル………いい響きね。気に入ったわ」

 

「よし、じゃあ今日から君は“アズリエル・フェイティ”だ」

 

 ステアーが名前を付けた瞬間、彼女の全身が一瞬だけ光った。

 思わず目をこする。しかしその光はすでに無くなっていた。

 

「………気のせい、か?」

 

「どうしたの、そんなに私を見つめて」

 

「い、いや……………何でもない。ほら、早くいくぞ、()()()()()

 

 思い違いだったようだと考え、ステアーは何事もなかったかのように村へ歩き始めた。

 

 



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王国戦士長との邂逅

投稿が遅れてしまってごめんなさい!

6話目、どうぞ!

※5月9日、一部編集しました。


~カルネ村~

 

 無事モモンガさん改め、アインズさんとアルベドの二人と再会を果たした俺は、ミレアと死の剣士(デスナイト)騎士の殺戮(ゴミ処理)に行った村へ向かい、そこで無双している二人を止めた。俺がミレアに騎士達の強さはどうだったか聞いてみると、『一人で十分倒せるぐらいの雑魚だったが、死の剣士(デスナイト)が参戦したことで更に掃除がしやすくなった』そうだ。おかげで村の中心には騎士たちの死体が山のように積みあがっていた。

 

 無論、村人の死体も沢山あった。その中にはあの姉妹の両親も………

 

 俺達が村についた時はすでに二人とも息を引き取っていた。母親のほうは姉妹の姉の方とよく似た顔をしていたのですぐにわかった。最初は姉妹に同情し、手持ちの蘇生アイテムで二人を生き返らせようと思った。しかしこの世界についてあまりにも情報が少ない今、使用した場合のデメリットがあまりにも大きすぎると判断した。それに、たとえ生き返らせれたとしても、正常に蘇生、つまり100%間違えなく生き返らせれるかどうかも確証できない。彼女達には申し訳ないが、今は自分達の命が助かっただけで我慢してもらうことにしよう。

 

 彼女達で思い出したが、どうやらこの世界ではアバター、つまり今の俺達の姿や種族は、設定文そのままの存在として認識されているらしい。村に着く直前、姉妹の反応から予測した俺は、アインズさんに嫉妬マスクを装備してもらい骸骨の部分を隠してもらった。すると、生き残った村人たちは彼を人間の魔法詠唱者(マジック・キャスター)だと認識し、あの姉妹ほど怖がる様子は見せなかった。ちなみに俺は元々見た目が人間寄りだったから、翼を体内に収納するだけで事足りた。一応村人たちには、俺はアインズさんの友人で、アルベドとアズリエルはその付き人、ミレアは魔物の部下ということで通した。アウラの八足馬(スレイプニール)は………俺のペットと言っておけばいいか。無論、俺達の姿を知っている二人には、記憶操作の魔法をかけさせてもらっている。

 

 話を戻そう。村を救った後、アインズさんと俺は村長夫妻からこの世界について色々教えてもらった。まずここはリ・エスティーゼ王国のカルネ村で、俺が転移したスレイン法国からかなり離れた場所にあった。

 次に金銭だ。ユグドラシルの時に使っていた金貨を見せたところ、村長夫妻は見たことがないといった。村長夫妻が持っていた金貨を見せてもらうと、予想以上に歪で価値の低いものだった。

 その後、冒険者や他の街等について話してもらったが、どれも聞いたことのない常識と単語で、アインズさんは少し混乱していた。俺?俺はちゃんと頭の中で整理しながら聞いていたから大丈夫。

 

 暫く村長夫妻から情報をもらった後、村の葬儀が行われたので俺達も参加した。そこにはあの姉妹、エンリとネムの姿もあった。

 

 葬儀が終わった後、今後の方針について話し合うため一度ナザリックに帰ろうとした時、何かがこの村に近づいてくる気配を感じ取った。ミレアに確認させると、先程とは違う鎧を装備した騎士団がこちらに来ているとのこと。今回の襲撃について何か関係があるかもしれないと思った俺は、アインズさんと一緒にその騎士団に接触することにした。

 

 

 

 やがて村の中央の道に数体の騎兵が現れた。確かにさっきの生ゴミとは違う鎧だ。それに武器の形などが個人で微妙に違っている。しかしその統一性のない見た目とは裏腹に、陣形は見事に整っている。相当な熟練者のようだ。

 

騎兵達のリーダーと思われる筋肉隆起の男が俺たちに話しかけてきた。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣で村々を荒らし回っている帝国の騎士達を討伐するべく、王の御命令で村々を周っている者である」

 

「王国戦士長⁈」

 

 男の名を聞いて、村長は驚きの声を上げた。それほど凄い人物なのだろうか。

 

「(なぁアズリエル、ガゼフって知ってる?)」

 

「(噂は聞いたことあるわ。かつて王国の御前試合で優勝を果たした人で、王直属の精鋭兵士達を指揮している、王国最強の戦士らしいわよ)」

 

「(王国最強の戦士…………ふーん)」

 

「この村の村長だな。横にいるのは一体誰なのか教えてもらいたい」

 

 村長が俺たちのことを説明しようとすると、アインズが前に出た。

 

「それには及びません。初めまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われていましたので助けに来た魔法詠唱者(マジック・キャスター)です」

 

「同じく、魔法詠唱者(マジック・キャスター)のラグナレク・ステアー・テンペストと言います」

 

「おぉ、そうでしたか!」

 

 話を聞いたガゼフさんは馬から降り、俺達に頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉もない」

 

 どうやらわざわざ礼を言うために降りてくれたようだ。王国戦士長という身分でありながら、俺達を疑って攻撃するどころかこうも真摯に礼を言ってくれるとは…………悪い人じゃない、いい人だ。

 礼はいらないと言おうとした時、また違う気配を感じ取った。今度のはこの村を中心に囲んでいるようだ。

 

「戦士長!周囲に複数の人影を確認。村を囲むような形で接近しつつあります!」

 

「何っ⁈」

 

「………どうやら状況は思わしくないようですね。ガゼフ殿、ここは一旦村長の家に入りましょう」

 

「…………わかりました、テンペスト殿。そうしましょう」

 

 

 

 

 ガゼフ率いる部隊の一人の報告を聞き、俺達は村長の家に入った。家の窓から遠くを覗いてみると、複数の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の姿が見えた。

 それと同時に、彼らの上空に多数の『天使』も確認できた。

 

『ステアーさん、あれって【炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)】ですよね?』

 

『そうですね』

 

 ガゼフの話によると、どうやら彼らは“陽光聖典”という、スレイン法国最強の戦闘集団、六色聖典の1つだということがわかった。ちなみにアズリエルの話では、“漆黒聖典”もその六色聖典の1つに入るらしい。まぁ、それはどうでもいいか。

 

「しかし凄い数だな…………我々だけで抑えられるか、どうか」

 

「王国最強の戦士であるガゼフ殿でも、勝てる見込みは低いと?」

 

「……えぇ。お恥ずかしい限りです」

 

「でも、逃げる気はないんですよね?」

 

 俺の言葉に、ガゼフは反応する。

 彼の瞳からは、恐怖ではなく闘志を感じ取る。

 自分と相手がどれほど戦力差があるのか理解したうえで、それでも尚戦うつもりらしい。

 

「勿論ですとも。私は王国を背負う者の一人、こんなところで諦めるわけにはいきません」

 

「…………成程。勇敢な方なのですね。ではガゼフ殿、もし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としたら、どうされますか?」

 

「なんと⁈」

 

 突然の質問に、ガゼフは驚きの表情を見せた。後ろにいるアルベドとミレアも驚きの声をあげた。

 

「実を言うと、僕とアインズさんは暫く辺境の地に住んでいたもので、この辺りについてはほとんど知らないんです。そこで、ガゼフ殿が知っていることを色々教えていただきたいのです。それと、少額でいいので報酬をいただければ十分なので」

 

「そ、そんなことで構わないのか!」

 

「えぇ。それと条件というのは、村人たちを安全な場所に移すことを最優先に動かせてもらうということです。ガゼフ殿の戦闘に参加するのは、それが終わった後です。それまでは………」

 

「……なるほど、我々が敵をひきつけ、村人たちの逃げる時間を稼ぐ訳か」

 

「そういうことです。どうでしょう?」

 

「断る理由もない。是非そうさせてくれ!」

 

 そう言って勢いよく頭を下げるガゼフ。自分で言うのも何だが、彼にとってこれほど好都合な商談はないと思える。

 

「商談成立ですね。アインズさんも、構いませんよね?」

 

「えぇ、私は構いませんよ。こういう時のステアーさんは誰にも止められないってわかってるし

 

「何か言いました?」

 

「いえ、何も…………おっとそうだ。王国戦士長殿、出発する前にこれを」

 

 懐からアインズさんが出したもの、それは木で出来た小さな彫刻だった。

 

「これは?」

 

「お守りのような物ですよ。受け取ってください」

 

「おぉ!貴方からの贈り物だ、ありがたく頂こう!では私はそろそろ行きます。万が一、我らが負けたとしても村人たちのことを頼む!」

 

「勿論です。この私、アインズ・ウール・ゴウンと彼、ラグナレク・ステアー・テンペストの名に懸けて、村人たちを守りましょう」

 

 そう言ってアインズさんはガゼフと握手する。俺もガゼフと握手すると、彼はそのまま馬に跨り、笑みを浮かべながら出て行った。

 

 

 

 ガゼフと彼の部隊の背を見送った後、アルベドが俺に質問してきた。

 

「ラグナレク・ステアー・テンペスト様。お聞きしたいのですが…………」

 

「何故ガゼフに協力することを提案したのか、だろ?」

 

「っ‼……はい。ラグナレク・ステアー・テンペスト様は…………」

 

「一々フルで呼ばなくていいよ。ミレアにも言ったけど、俺のことはステアーでいい。そっちの方がしっくりくる」

 

「も、申し訳ございませんラグ…………ステアー様。ステアー様は、ナザリックにおいて最も()()()()()()()()()()()()慈悲深き方だとは重々承知しております。しかし、あの者に協力することは、我々ナザリックの手の内を明かしてしまうというデメリットがあるように思えてしまうのですが」

 

「アハハ、確かにアルベドの言う通り、あのガゼフさんに協力することは少々のデメリットがある。それは間違いないね」

 

「では何故?それを理解した上で、どうして?」

 

「それ以上にメリットがあるからさ。ガゼフさんは王国最強の戦士長。彼との繋がりを作ることで情報が多く手に入る、資金は…………まぁ、それはあったら嬉しいなぐらいの気持ちでいいかな。金より情報目的の方が印象もいいしね。それに…………」

 

「それに?」

 

「さっき村を救ったんだ。今回を含めて二回もこの村を救ったとなれば、俺達はこの村にとって英雄のような存在になる。とすれば、ナザリックから誰かをここに派遣して監視させたとしても怪しまれることは無い」

 

「そ、そこまでお考えになられた上であのような提案を即座に思いつかれ、実行されたのですね!ステアー様の深きお考え、このアルベド感服いたしました。ステアー様のお考えを読み取れなかった愚かな私をお許しください」

 

 俺の言葉に跪くアルベド。上司に対して尊敬しているのはわかるけど、ここまでされると逆に俺が話しにくくなる。

 

「もう、一々大げさだって。そんなことで俺が怒る訳無いの、知ってるでしょ。それに、俺と話す時はもっと肩の力抜いて、気楽に砕けた感じで話していいよ」

 

「し、至高の御方であるステアー様にそのような口を聞くなど…………」

 

「俺が良いって言ってるんだから良いの」

 

「は、はぁ。わかりました……至高の御方であるステアー様の御命令というのであれば…………」

 

 少しぎこちない感じで話すアルベド。その様子を見ていると、アインズさんから伝言(メッセージ)が送られてきた。

 

『ステアーさん』

 

『何ですかアインズさん?』

 

『本音は、どうなんですか?』

 

『本音って………さっきも言ったようにメリットがあるからで…………』

 

 

()()()()のこと………考えたからなんじゃないんですか?』

 

 

『………………………』

 

 彼女の名前を言われ、アインズさんに目を向ける。骸骨となった彼の表情には変化は全く見れないが、その瞳には何か真剣な思いが込められている。

 

『……ハハハ、やっぱりバレちゃいましたか』

 

『リアルで何年も一緒にいたんですから、流石にそれぐらいはわかりますよ』

 

『そっか…………えぇ、その通りですよ。多分朝に彼女の夢を見てしまったからかもしれませんね』

 

『静葉さんの夢…………もしかして、()()()の?』

 

『そうですよ。だから、この村を救いたいって、あの姉妹を救いたいって思ったんです…………勝手なことをしてしまって、本当にすみません』

 

『いえ、構いませんよ。静葉さんのこと、ステアーさん…………いや、()()()()がどれだけ大事にしていたか、俺知ってますから。でも、次からはせめて俺に一回言ってくださいよ?俺の方にも、手順という物があるんですから』

 

『以後気をつけます』

 

 そう言いながらも、俺の心の中には、やはり彼女の姿が浮かび上がってしまう。そして自然に、彼女なら、って考えてしまう。彼女はもういないと分かっているのに………分かっているはずなのに……

 

「(……………静葉)」

 

 この世にいない人物の名前を心で呟きながら、俺はアインズさんと一緒に村人を村の倉庫へ避難させた。



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堕天使の戯れ

やっとステアーさんの戦闘シーンです。

※一部編集しました。


~村の倉庫~

 

「君で最後か?」

 

「は、はい!」

 

 最後の村人が倉庫に避難するのを確認する。全員避難したと判断し、倉庫の扉を閉めた。

 

「これで避難は完了っと。時間的にもそろそろですね」

 

「そうですね。行きますか?」

 

「うん…………あ、いや、ちょっとタイム」

 

 ガゼフさんのところに向かう直前、アズリエルを見て思い出す。そういえば相手はスレイン法国だから、アズリエルのことがバレるのは非常にまずいな。ここで待ってもらうか?

 いや、無理だな。見るからに俺についてくる気満々だし………仕方ない、この仮面使うか。

 

「アズリエル、これ付けて」

 

「何これ?」

 

「ただの仮面。スレイン法国に君のことがバレると色々面倒だから、つけておけば大丈夫かなと」

 

「………そういうことね。わかったわ」

 

 俺の言葉通りに仮面を付けるアズリエル。とりあえずこれで外に出ても大丈夫だな。後は………

 

「ミレア、君はここに残ってくれるか」

 

「ハッ。しかし、何ゆえに?」

 

「今から俺達はガゼフさん達と入れ替わる。その際、彼らの治療を頼みたい。彼らに死んでもらっては、本末転倒だからね」

 

「なるほど、わかりました。どうか、お気をつけて」

 

「うん。それじゃあ行ってきまーす!」

 

 朝起きてすぐ学校に行くような感覚でミレアに告げると、俺とアインズさん、アルベドとアズリエルは村の倉庫からどこかの荒野へと転移した。

 目の前には金髪の変なおっさん一名、モブ系兵士数十名、そして大量の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)がいた。

 

「うわぁ、こうしてみると圧巻だな。流石はスレイン法国の陽光聖典、と言ったところか」

 

「………何者だ?」

 

「おっと、失礼。僕はラグナレク・ステアー・テンペスト。近辺に住む魔法詠唱者(マジック・キャスター)ですよ。そしてこっちが」

 

「初めまして。アインズ・ウール・ゴウンと言います。親しみを込めて、アインズ、と呼んでいただいて結構です」

 

「後ろにいるのはアルベドとアズリエル・フェイティ。僕達の同伴者です。以後お見知りおきを」

 

 失敬失敬、初めての人に挨拶するのを忘れてたよ。常識なのにさ。

 

 …………まぁ、別にこいつらにしなくてもいいんだけど。

 

「さて…………早速ですが本題に入ります。僕達と、取引をいたしませんか?」

 

「取引?」

 

「簡単なことです……………………無駄な抵抗をせず、皆さんの命を僕達に差し出してください。そうすれば、苦痛なき死を与えましょう。拒否するというのであれば、愚劣の対価として絶望と苦痛、それらの中で死に絶えてもらいます」

 

「何?…………フ、フフ、フハハハハ!何を言い出すかと思えば、我々の命をお前達のようなただの魔法詠唱者(マジック・キャスター)に差し出せと?愚かな、全く持って愚かよ」

 

 俺の言葉に、陽光聖典の兵士たちは馬鹿にするように笑い始める。その様子を見たアルベドは、今にも手を出しそうなのを必死に我慢していた。切れると思ったけど、頑張るなぁアルベド。

 

「愚か?それは私達の言葉ですよ。はっきり言って、皆さんでは私達に勝つことは不可能です」

 

「無知とは哀れなものだ。その愚かさのつけを、お前達は今から支払うことになるぞ?」

 

「さぁ、それはどうでしょう?実のところ、私はガゼフ殿を通して全て観察していました。その私がここに来たというのは、必勝という確信を得たから。もし皆さんに勝てないようだったら、あの男は見捨てたと思われませんか?」

 

「ほう」

 

 アインズさん、それ物凄い正論。相手も結構納得しちゃってるよ。

 

「ですが……………期待外れですね。ここまで弱い奴らが、私達が救った村を襲っていたとはな」

 

「大きく出たな、魔法詠唱者(マジック・キャスター)?これほどの蛮勇の持ち主は見たことがない」

 

「それはこちらのセリフです。僕たちがここまで忠告してあげているのに一切逃げようとしないとは。天使たちを召喚しすぎて、頭おかしくなったんですか?」

 

 いや、実際頭はおかしい、というか悪いと思うけど。

 

「戯言はそこまでだ。それより、ストロノーフをどこへやったのか教えてもらおうか」

 

「………要するに()達の取引には応じない、ということでしょうか?」

 

「無論。我々陽光聖典は全員、第三位階魔法を習得した精鋭の魔法詠唱者(マジック・キャスター)で構成されたエリート部隊。貴様達のような()()の命令など、従うつもりはない」

 

「凡人、ねぇ…………」

 

 第三位階魔法程度でエリートとか、そっちのほうが凡人だよ。ユグドラシルじゃ、そんなの基本魔法、いやそれ以前の雑魚魔法だぞ。

 というかこれがエリートなの?ないわー。

 

「…………アインズさん」

 

「何ですか、ステアーさん?」

 

「すみません、二人と一緒にちょーーーーっと後ろに下がってもらえませんか?あいつら、僕一人で片づけるんで」

 

 

 

~アインズside~

 

 笑顔で拳をボキボキ鳴らしながらアインズに下がるようにステアーが言う。

 この瞬間彼は察した。あぁ、陽光聖典は終わりだな、と。思わず、心の中で彼らに合掌した。

 

「わかりました。ですが、手加減はしてくださいよ?」

 

「大丈夫ですって。死なない程度に殺すだけですから」

 

 それどっちですか、というツッコミはあえてしない。アインズ自身、今の彼を刺激するのは何かまずいと本能が判断しているのを感じていた。

 

 アインズ…………鈴木悟は、リアルで神童拓未と同じ職場で働いていた。その為、ギルドメンバーの中では人一倍彼のことを知っている。それゆえに、今の彼は危険だと即座に理解できた。

 

 ステアーは笑顔のまま、静かに陽光聖典に向かって歩き始める。

 

「ほう?逃げることなく向かってくるとはな。面白い、その勇気に免じて、一瞬で終わらせてやろう………やれ」

 

 二体の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が光の剣を持ち、彼に襲い掛かる。しかしステアーはそれを気にも留めず、歩き続ける。

 

「ステアー様!?」

 

 危ないと思ったのか、アルベドが危険を知らせる。しかし、それは杞憂だとすぐに理解した。

 天使の剣が彼の赤いチャック柄のTシャツ──正確には彼が作った神器級アイテムのローブなのだが、見た目はどう見てもそれにしか見えない──に当たった瞬間、飴細工の花瓶で叩いたように粉々に砕け散った。

 

「なっ⁈」

 

「ん?何か当たったのか?後君達ちょっと邪魔」

 

 何事も無かったような反応をした後、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)達の頭を強く掴む。そしてそのままごみを捨てるように投げ飛ばし、消滅させた。

 

「くっ…………ぜ、全天使で総攻撃を仕掛けろ!」

 

 さすがに困惑したニグンが、天使達全員で攻撃するよう命令する。ガゼフたちにとってこの天使達はかなりの強敵だった。その強敵が大量に襲い掛かってくる。この世界の人間にとってはまさに地獄のような光景だ。しかし…………

 

「数で攻めようとするのは、戦い方を知らない馬鹿の証拠だ。【負の爆裂(ネガティブ・バースト)】」

 

 驚くどころか、呆れたような声で魔法を発動する。すると光を反転してような黒い光の波動が発生し、瞬く間に天使達をかき消した。

 

「………あり、ありえない…………」

 

 突然の出来事に、陽光聖典の兵士たちが慌て始める。それでもゆっくりと近づいてくるステアーに遂に恐怖し始めた兵士たちは、次々に魔法をステアーに放ち始める。しかしその魔法は全て、彼のローブによって完全に無効化された。

 

「俺の堕天使の衣(アスタルテ・クロース)は、上位魔法・物理攻撃を完全に無効化する。その程度の攻撃、貫通するとでも思ったのか?」

 

「ひぃぃ、ば、化け物が!」

 

 一人の兵士がステアーに向けてボウガンを放つ。そろそろ鬱陶しく感じ始めたステアーが何かしようとすると、突然アズリエルがステアーの前に出てきて、矢を弾き返した。返された矢は真っすぐ飛んで行き、ボウガンを放った兵士の頭と身体を分離させた。

 

「………何で出てきたんだ、アズリエル。俺一人で片づけるって、さっき言っただろ?」

 

「知ってるわよ。ただ、貴方相手にあんな玩具を使う兵士が、最低すぎて殺意を抱いただけよ」

 

 どうやらステアーという圧倒的強者に対し、ボウガンという下らない道具を使った事に怒り、思わず手が出てしまったようだ。

 

「くっ…………【監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)】!」

 

 今度はニグンが、自身の召喚した監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)をステアーに向かわせる。

 それに気づいたステアーは、アズリエルに下がるよう指示する。彼の前に立った(正確には浮かんでいるが)監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)は、大きなメイスを彼に振り下ろすが、ステアーは特に慌てることなく静かに攻撃を受け止めた。

 

「はい、さようなら。【獄炎(ヘルフレイム)】」

 

 ステアーが人差し指を向けると、その指先から小さな炎が放たれる。吹けば消えそうなその黒い炎はゆっくりと進み、監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)の体に付着した。

 

 瞬間、監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)の全身を黒い炎が覆いつくした。天すら焼こうという勢いで燃え上がる黒炎は天使の姿を溶かすようにかき消し、天使と共に呆気なく消え去った。

 

「嘘だろ………」

 

「上位天使を………たった一撃で」

 

 上位天使が消滅したことで、無数の混乱が生じる。

 ニグンも、目の前で起きたことに驚きを隠せないでいた。

 

「どうしたんだ?もうネタ切れか?」

 

 打つ手なしと見たステアーが、彼らを煽る。

 すると、我に返ったニグンが懐からクリスタルを取り出し、大きく掲げた

 

「こうなれば最終手段…………最高位天使を召喚する!」

 

「「「「「おぉっ!!」」」」」

 

 ニグンの言葉に、兵士たちは歓喜の声をあげる。どうやらまだ奥の手があったらしい。

 

「(あれは、魔封じの水晶…………熾天使(セラフ)でも召喚する気か?)」

 

 まぁ何にせよ、天使である限り問題はない。

 

 そう考えているうちに、ニグンの持つクリスタルが破壊され、強い光が発生した。

 

「見よ!最高位天使の尊き姿を!【威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)】!」

 

 それは、光り輝く翼が集合した聖なる存在だった。

 彼らにとって至高善の存在。それを前に陽光聖典の兵士たちは喝采をあげた。

 なんという神々しさ!なんという美しい天使だ!

 そんな声が上がる中、ステアーはその存在を見て呆気にとられた。

 

「(…………嘘だろ。こいつが最高位天使?)」

 

 予想の斜め上を行く存在が召喚されたことに、思わず心の中でずっこけた。

 熾天使(セラフ)を召喚すると一瞬でも思った自分が馬鹿みたいだ。

 

「…………なぁ、一応聞いとくぞ。最高位天使って、主天使(これ)のことか?」

 

「その通りだ!そしてこの主天使(ドミニオン)が、今から貴様を葬り去る!その次はアインズ・ウール・ゴウン、貴様の番だ!」

 

 ステアーの後ろに立つアインズを指さし、ニグンは堂々と胸を張って宣言した。

 

「はぁ…………第三位階魔法を使えることが精鋭だと聞いた時から何となく予想してたけど、まさかここまで低レベルだったなんて…………」

 

「て、低レベルだと!貴様!最高位天使を前に何故そのような口が利ける!」

 

「逆に何で主天使(ドミニオン)で俺に勝てると思ったんだよ。しかも一体だけとか頭おかしいだろ。まぁ、天使って時点で、俺に勝てる訳無いけど」

 

 完全にお手上げ、といった動作で呆れたような言葉を言うステアー。

 最高位天使が降臨したにもかかわらず、何故態度を一切変えないのか。

 魔神にすら勝利した存在に勝てる存在などこの世に存在しないはずだ。

 

「そ、そうか!はったりだ!そうだ、そうに違いない!威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!奴に【善なる極撃(ホーリースマイト)】を放て!」

 

 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)はゆっくりとステアーの前に移動する。そして持っている杖を掲げ、ステアーに巨大な光の柱を落とした。

 人間が到達できない、第七位階魔法を発動した瞬間、勝利を感じた。

 

 しかし、目の前にいる青年、ステアーはその攻撃を受けても平然としていた。消し飛ぶことも、地に伏すこともなく、ただ両足で普通に立っていた。

 

「【善なる極撃(ホーリースマイト)】は、相手のカルマ値が悪に偏っている程大ダメージを与えられる第七位階魔法。アインズさんならともかく、中立属性の俺にはあんまり効かないな」

 

「ば、馬鹿な…………最高位天使の一撃を耐えただと!」

 

「気は済んだ?もうこれいらないよね?【暗黒孔(ブラックホール)】」

 

 攻撃を受け終わった後、何事も無かったかのようにステアーは威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)に向けて小さな黒点を放つ。黒点は中空で止まり、瞬間凄まじい引力を発生させる。黒点の最も近くにいた威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)はその黒点に抵抗する暇もなくあっさりと吸い込まれてしまった。

 

「…………き、貴様………いい、一体何者だ。最高位天使を一撃で葬り去るような魔法詠唱者(マジック・キャスター)が、今まで無名だったはずが………」

 

「何者、か………そうだな、答え合わせがてら改めて自己紹介しよう」

 

 そう言ってステアーは両腕を前に広げる。

 そして背中に意識を集中させると、体内に隠れていた漆黒の翼が姿を現す。

 翼を大きく広げると、ゲームのラスボス感を全開に出し、名乗りを上げた。

 

 

 

「俺は堕天使(アスタロト)のラグナレク・ステアー・テンペスト。またの名を──────人類最終試練(ラスト・エンブリオ)




アインズさんとアルベドさんの活躍、全部ステアーさんとアズリエルがもっていっちゃいましたね。活躍を見たかった方、ごめんなさい。


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罪の代償

気が付いたらUAが9000を超えてました。

読んでくださり、本当にありがとうございます!




 ニグンは後悔した。

 目の前にいる青年の技量を測ろうともせず、ただの魔法詠唱者(マジック・キャスター)と考え挑んだ自分を恨んだ。

 

 彼は、母国であるスレイン法国からある任を受けていた。

 

 その任とは、『リ・エスティーゼ王国最強の戦士長、ガゼフ・ストロノーフの抹殺』。

 ニグンはガゼフを誘き出す為、致し方ない犠牲として王国付近の村々を襲撃した。

 

 暫くしてガゼフが姿を現す。ニグンはガゼフに対し、陽光聖典が召喚した天使の軍勢を使用して抹殺を測った。

 途中までは優勢だった。王国最強とはいえ、陽光聖典の凄まじい戦力には敵わなかった。

 

 最後のとどめを刺そうとした時、ガゼフはニグン達にこんな言葉を残した。

 

『馬鹿め、お前達はわかっていない。あの村には俺よりも強い御仁達がいる。お前達は………お前達は、ドラゴンの尾を踏んだのだ………』

 

 その時は、どうせ負け犬の遠吠えだと思い、気にもしなかった。そしてとどめを刺そうと思ったその瞬間、ガゼフの姿が突然消え、入れ替わるように不気味なローブを羽織った仮面の男と一人の青年が現れた。

 

『うわぁ、こうしてみると圧巻だな。流石はスレイン法国の陽光聖典、と言ったところか』

 

 思えば、この時から自分たちの敗北は決まっていたのかもしれないと、ニグンは思った。

 

 突然現れた二人の魔法詠唱者(マジック・キャスター)は、取引と言って自分の命を差し出せと要求した。

 この時ニグンは、自分達より上の魔法詠唱者(マジック・キャスター)など存在しないと考え、彼らの要求を拒否した。

 すると、ラグナレク・ステアー・テンペストと名乗った青年が自分達に近づいてきた。

 

 逃げずに向かってくる彼を、ニグンは嘲笑した。そして彼に死を与えようと天使達を仕向けさせたが、

 

『ん?何か当たったのか?後君達ちょっと邪魔』

 

 初めに二体の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が投げ飛ばされる。次に全天使を向かわせるが、

 

『数で攻めようとするのは、戦い方を知らない馬鹿の証拠だ』

 

 黒い光の衝撃波が放たれ、全滅する。予想外の出来事に困惑しだしたニグンは、自身の監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を仕掛ける。

 

『はい、さようなら』

 

 が、これも失敗。監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)の攻撃をいとも容易く受け止め、逆に漆黒の炎で燃やし尽くされてしまった。

 遂には法国から渡された最後の切り札である最高位天使威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を召喚し、第七位階魔法【善なる極撃(ホーリースマイト)】をぶつけさせたが、

 

『気は済んだ?もうこれいらないよね?』

 

 人間の限界である第六位階魔法を超えた究極の第七位階魔法を喰らってもなお平然としていた。

 そして自分達の希望だった主天使(ドミニオン)は、ステアーの放った小さな黒点に呆気なく吸いこまれ、消滅した。

 

 ありえない…………ガゼフでさえ苦戦した天使の軍勢を、更には魔神をも葬り去った最高位天使を、こんなにもあっさりと倒されるとは思わなかった。

 一体誰なんだ、ニグンがそう聞くと、青年は静かに背中から漆黒の翼を生やし、自身を名乗った。

 

 

『俺は堕天使(アスタロト)のラグナレク・ステアー・テンペスト。またの名を──────人類最終試練(ラスト・エンブリオ)

 

 

 人類最終試練(ラスト・エンブリオ)…………その言葉に、ニグンは思わず耳を疑った。

 

 実はスレイン法国を築き上げた六大神がユグドラシルで体験したことは、伝説や御伽噺として記録され後世に残っていた。

 その中で最も有名な御伽噺に登場するのが、伝説の魔王 人類最終試練(ラスト・エンブリオ)である。

 

『かつて六大神がいた世界で1500人の人間達が同盟を組み、魔物の国を滅ぼそうとした事件があった。

 そしていざ魔物の国を攻めようとした時、突如彼らの前に一人の堕天使が現れる。

 その堕天使は八人の従属神を従わせ人間に対抗したが、こちらは1500人。数では圧倒的に不利だと考えられたが、それは間違いであった。

 たった九人を相手にしているはずなのに、従属神一人一人がまるで国1つを滅ぼしかねない巨大な厄災。それがいくつも同時に襲い掛かってくるような気持ちにさせるほどの圧倒的強さ。

 そして、その従属神を容易く凌駕する一人の堕天使によって、人間は瞬く間に敗北した。

 人間は理解した。あれにだけは絶対に関わってはいけない、あれにだけは絶対怒りを感じさせてはいけないことを。

 名を、人類最終試練(ラスト・エンブリオ)。全ての種族を超えた、『修羅』の異名を持つ魔王である』

 

 六大神が最も恐れた伝説の魔王、人類最終試練(ラスト・エンブリオ)

 修羅の異名を持つ存在が今、自分の目の前にいる。

 なるほど、道理で勝てない訳だ、とニグンは自分を嘲笑し、膝から崩れ落ちた。

 

「どうやら、自分の立場を理解したみたいだな」

 

「……………………」

 

「寡黙は是なり、だ…………【冥府の門(タルタロス)】」

 

 ステアーが呪文を唱えると、彼の後ろに巨大な扉が出現する。鎖が大量に巻き付けられたその黒い扉から放たれる禍々しいオーラは凄まじい。

 指を鳴らすと、扉の鎖がジャラジャラと音を立てて外れていく。そして全て外れた扉は重々しい音をたてながら開かれた。

 

「君達の罪、存分に数えながら贖え」

 

 ステアーの言葉と共に、無数の不気味な手が飛び出し、陽光聖典の兵士たちを掴んだ。兵士たちは悲鳴を上げる間もなく、扉の中へと引きずり込まれる。

 そして最後の一人になってしまったニグンにも悪魔の手が伸びる。すると掴まれる直前、ステアーは彼の前に立った。

 

人類最終試練(ラスト・エンブリオ)よ…………私は…………間違っていたのだろうか…………国のためにしてきたこと、全て…………」

 

「…………君の祖国を思う気持ちは、人類最終試練(ラスト・エンブリオ)である俺が認める。ただ、君はやり方を間違えてしまった。それが君の罪だ」

 

 ステアーの最後の言葉を聞き、ニグンはそのまま扉へと引きずり込まれる。そして扉は再び重い音を立てて閉じ、鎖が巻き付いて消えた。

 

 

 

「終わりましたか」

 

「えぇ」

 

 アインズが近づくと、突然ガラスが割れたような音が響く。それを見上げると、空間にヒビが入っていた。

 

「どうやら誰かが見ていたみたいですね。私の情報系魔法に対する攻性防壁が発動したみたいです」

 

「みたいですね。とりあえず、向こうに僕達のことが知られる可能性は無いですし、このままミレア達を連れて帰りますか」

 

「そうですね。行きますか」

 

 すべてが終わったことを確認すると、ステアーはカルネ村でミレアと、ずっとどこにいたのだろうか、アウラの八足馬(スレイプニール)と合流した。ミレアに治療されたガゼフはステアー達に礼を言い、『この恩は必ず返す』と言って村を離れた。その後アインズとステアーも我が家に帰ろうと、満天の星空を見ながら歩いていた。

 

「それにしても、すごく綺麗な夜空ですね」

 

「そうですね。ブルー・プラネットさんにも見せたかったです」

 

「あー、自然が大好きでしたもんね、あの人…………ん?」

 

 途中、どこからか音が聞こえてくる。それに気が付いたステアーは空間から何か黒い板を取り出した。

 

「ステアーさん………何ですか、そのスマホみたいな黒い石板っぽいのは?」

 

伝言石(メッセージ・ストーン)。数に限りがありますが、伝言(メッセージ)を使えない戦士職の人とも伝言(メッセージ)が使えるマジックアイテムです。通話専用のスマホと思っていただければいいかと」

 

 話しながら伝言石(メッセージ・ストーン)のボタンを押す。そして耳に当て、もしもしと言った。

 

「もしもし、ステアーですk」

 

『もしもし、じゃないでしょ、この馬鹿マスタァァーー‼‼』

 

 開始早々聞こえたのは、少女の怒鳴り声。あまりの大きさに、アインズやアルベド、アズリエルにミレアまでも驚いていた。

 伝言石(メッセージ・ストーン)の相手は続ける。

 

『あんたねぇ、突然私達の前から消えといて勝手に人間を送ってくるんじゃないわよ!牢獄の中に送られてきたから良かったものの、そうじゃなかったらどうするつもりだったのよ!というか、何でニューロニストのところに送らないでこっちに送ったのよ⁈こういうのはあいつの仕事なの、知ってるでしょ!』

 

「ごめんごめん、()()()。送り先、【失われる世界(ロストワールド)】のままだったの、忘れてたよ」

 

『はぁ⁈あんた副ギルドマスターでしょ⁈もうちょっと自覚をもって行動を………』

 

『エ・リ・ナ・ちゃーん♡誰と話してるのですかぁ?』

 

『ちょっ、急に抱き着いてくるな変態!話しづらいでしょうが!』

 

『もうエリナちゃんったら照れちゃってぇ~、可愛いですねぇ♪』

 

『照れてない!』

 

 少女、エリナの声に被さるようにもう一人の女性の声が聞こえてくる。エリナより少しお姉さんっぽい声だ。

 

「その声………ミーティアか?」

 

『ん?この少年とも大人ともとれる声は………ご無事だったのですね、マスター!』

 

「あぁ。心配かけて、ごめんな」

 

『本当ですよ、マスター。マスターがいない間、失われる世界(ロストワールド)は所謂“お通夜状態”でございましたから。特にエリナちゃんは、マスターがいなくなった、とずっと泣いていて』

 

『ちょっ、何言ってるの!泣いたりしてないわよ!』

 

『先程なんて幽閉の扉(タルタロス)で牢獄に人間が送られてきた際、“マスターが生きてる!”と鼻水をたらして泣いていたんですよ~?』

 

「あのエリナが鼻水を?それ本当?」

 

『ンな訳無いでしょ‼勝手なこと言うな!マスターも真に受けないでよね!』

 

『あらあら、必死に隠そうとするエリナちゃんも可愛いですねぇ♪』

 

『あーもう、だから引っ付くな!ぶっ飛ばすわよ!』

 

「アハハ…………」

 

 電話越しで繰り広げられる光景を思い浮かべ、思わず苦笑いする。

 

『とにかく!こいつらは私達がニューロニストのところに送っとくから、早く帰ってきなさいよ。みんなマスターを待ってるんだから』

 

「わかった。それじゃあ、また」

 

『うん、じゃあね』

 

『きゃー♡ツンデレエリナちゃんがマスターに素直な反応を~♡』

 

『今すぐその減らず口縫い合わすわよ、ミーティア!』

 

 電話越しにガシャン、パリンと物が破壊される音が響く。

 後でちゃんと直しとけよ、とだけ言い、ステアーは電話……もとい伝言石(メッセージ・ストーン)の通話を切った。

 

「エリナとミーティアって確か、ステアーさんのN()P()C()、でしたよね?」

 

「えぇ、そうですよ。何か気になることでも?」

 

「いや、その、何と言うか………砕けてるなぁ、と思いまして」

 

「あぁ、そのことですか。確かにアルベドやミレアに比べたらかなり砕けた感じでしたね」

 

「ステアーさんはそれでいいんですか?何か馬鹿とか言われてましたけど」

 

「構いません。むしろあそこまでぶっちゃけてくれた方が話しやすくて助かります」

 

 ぶっちゃけすぎなのでは、とアインズはツッコミたかったが、本人が良しとしているならいいかと心に留めた。

 

「…………………さて、これから忙しくなりますね」

 

「そうですね。でも、ステアーさんがいてくれて本当に良かったです。ステアーさんがいてこその、アインズ・ウール・ゴウンですから」

 

「そんな大げさな。でもまぁ、やるからには全力を尽くしましょう」

 

「えぇ。その為にも、アインズ・ウール・ゴウンの名を」

 

「世界に轟かせましょう、アインズさん」

 

 ステアーとアインズは改めて決意する。

 この世界にいるかもしれない仲間たちが気付いてくれるよう、世界にアインズ・ウール・ゴウンの名を轟かせよう、と。

 

 

 

 

 

 

 

『…………………ところでアインズさん、ナザリックに着いた後でいいんですけど』

 

『何ですか、ステアーさん?』

 

『いや、そろそろアルベドに何をしたのか教えてもらいたくて?』

 

『うぐっ………忘れていてほしかった』

 

『甘いですね、アインズさん。僕がそんなこと忘れる訳無いでしょう?何ならアルベドに聞いても』

 

『わかりました、言います。言いますからそれだけはやめてください!』

 

 伝言(メッセージ)越しに不気味な笑顔を浮かべるステアー。その顔を見た瞬間、絶対に弄られる未来しか見えなかったアインズであった。



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帰ってきた我が家

番外席次が段々普通の女の子になっている気がする……………

※5/9、一部編集しました。


~ナザリック地下大墳墓・アインズの部屋~

 

 陽光聖典を始末したステアー達は、ナザリックに帰還する。

 帰還後ステアーはアルベドにミレアと八足馬(スレイプニール)をそれぞれシャルティアとアウラの所へ連れて行ってもらうよう頼み、守護者達を玉座の間に集合させるよう伝えた。一方ステアーは一度アズリエルを自身の部屋に連れて行き、しばらくそこで時間を潰すよう伝え、そのままアインズの部屋に転移した。

 

 アインズの部屋に転移した後、ステアーは先に部屋に戻っていたアインズと向かい合うように座り、カルネ村でお互いが出会うまでの経緯を話し合った。

 

「それじゃ、まずは僕から話しますね」

 

「えぇ、お願いします」

 

 そう言って、ステアーは今までの経緯を話した。

 

 ユグドラシルのサービスが終了する直前まで仕事をしていた彼は、ギリギリの時間でユグドラシルにログインした。しかしログインした彼が次に目覚めたのは、いつも見るナザリックの光景ではなく、スレイン法国の近くの森だった。

 

 疑問に思った彼は、あの手この手を使い異世界に転生してしまったことを理解した。そして自分が転生しているのなら、アインズも転生しているのでは、と推測した彼はシャルティアの眷属、ミレアとアウラの八足馬(スレイプニール)不思議の地図(ミステリー・マップ)を持たせてナザリックを捜索させた。

 

 一方彼はゲートで人がいるところへ転移したところ、スレイン法国の宝物庫にいる番外席次、もといアズリエル・フェイティと遭遇する。その後色々情報を聞き出した後、何故か彼女のことが気に入ったステアーは、模倣人形(ダミードール)で偽装工作を行い、何の騒動も起こさず彼女を連れだした。

 

 そして偶然にもミレアが通った道に転移した彼は一度彼女と合流しようと考えた時、ミレアが進む方向から妙な気配を感じ取った。気になって向かうと、カルネ村が兵士たちに襲撃されていたのが確認できた。その光景を見た彼はミレアに兵士たちを抹殺するよう指示し、エンリとネムを襲った兵士たちに制裁を加えたところで、ゲートを使ったアインズと出会った、と。

 

「成程………じゃあ次は俺ですね」

 

 ステアーの経緯を聞くと、今度はアインズが話しはじめた。

 

 アインズはユグドラシルのサービスが終了したあの日、最後の時間を玉座の間で過ごしていた。しかし時間を過ぎても現実に戻らず、疑問になったアインズがGMコンソールを使おうとしたが、表示されなかった。

 

 ますます状況が分からなくなった時、突然NPCであるアルベドが喋り出した。その後色々試した結果、ゲームではなくなっていることを知ったアインズは、ナザリックを隠蔽し周囲の警戒を強めさせた。そしてアイテムの変化を確認するため遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)を使ったところ、偶然カルネ村が襲われているのを確認し、情報収集のため助けに行こうとしたところ、ステアーと再会した。

 

「成程…………そういえば、アインズさんは今アンデッドなんですよね。身体の方はどうなんですか?」

 

「感情が高ぶったり激しくなったりすると、強制的に抑制されるようになりましたね。あと、食欲とか睡眠欲もなくなりました。性欲は…………無くもない、って感じですね。ステアーさんの方は?」

 

「そうですね……生命の気配を感じ取れるぐらいに五感が鋭くなった気はします。食欲は今のところ無いですけど、食事できるかどうかはまだ確かめていません。ただ睡眠欲は普通にありますし、性欲もあるかないかでいえばある方です」

 

「へぇ、思ったより結構人間寄りなんですね」

 

「………………そうですね」

 

 人間寄りと言われることに、ステアーは不思議と違和感を感じなかった。

 これも種族の影響だろうか、とステアーは推測した。

 

「それでアインズさん、そろそろアルベドのあの熱い視線について教えていただけますか?」

 

「えーっと、その…………何といいますか………」

 

「…………そういえばアインズさん、さっき僕のこと“エスパー”って言ってましたよね?あれって、まさか…………」

 

「………………………はい、お察しの通りです」

 

「マジっすか」

 

 思わぬ答えに、ステアーは天を仰いだ。今のステアーの心にあるのは、笑いたい気持ちではなく、やってしまったかという感情だった。

 

「はぁ…………まぁ設定はそうだとして、他に何か彼女にしていませんか?」

 

「っ…………い、いや、何も」

 

「何もしていないのなら、どうして視線を外すんですか?」

 

「ぐっ」

 

「ア・イ・ン・ズ・さ・ん?」

 

 ステアーはジト目でアインズを見つめる。口元は少し笑っているように見える。これは“正直に言わないと、どうなるか知らないよ?”というステアーなりの警告だ。

 何とか無言を突き通そうとしたが、彼のゴミを見るような視線に耐え兼ね、遂に白状した。

 

「……を……………た……」

 

「聞こえません、もう一度言ってください」

 

「……を、触りました………」

 

「何を触ったんですか?大人なんですからはっきりと」

 

「胸を触りました」

 

 一瞬ステアーの思考が止まる。そして数秒後、ステアーは一言、

 

「…………上司が部下にセクハラですか?」

 

「ち、違います!そういう目的で触ったんじゃないんです!ユグドラシルの時に規制されていた18禁行為が消えているのか確認しようと思って…………」

 

「無意識に揉んだ、と?」

 

「……はい」

 

「ふーん………まぁ、タブラさんなら許してくれそうですけど。ちなみに、初めて女性の胸を触った感想は?」

 

「……最高」

 

「素直でよろしい」

 

 ステアーの質問に正直に答えるアインズ。どうやら彼なりに罪悪感は持っているらしく、タブラのNPCを汚してしまったと後悔していた。

 

「責任、とりましょうね」

 

 真剣な表情で、ステアーはアインズの肩に手を置き、そう言った。

 

「はい……………アルベドで思い出しましたけど、ステアーさんに一つ聞きたいことがあったんです」

 

「聞きたいこと?」

 

「指輪のことですよ。アルベドがステアーさんからもらったと言っていたので、ずっと気になりまして」

 

「指輪……あぁ、あのリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのことですか」

 

 左手人差し指にはめられた黄金の指輪を掲げて見つめる。

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 本来であれば特定箇所以外転移が不可能なナザリック内において、回数制限無く自由に部屋を転移できる特殊な指輪だ。

 

「何でアルベドにあげたんですか?それにあの指輪って確かステアーさんの……」

 

「………………アインズさんは、アイテムとは何のためにあるかって考えたことはありますか?」

 

「何のために…………ですか?」

 

「えぇ。これはあくまで僕の考え…………いや、()()の考え方なんですけどね。

 

 アイテムというのは、それぞれ何らかの役割を与えられて作り出されます。例えば、伝言石(メッセージ・ストーン)は魔法職を一切取っていない戦士職の人と伝言(メッセージ)で会話するために作られましたし、アインズさんがエンリ達に渡したゴブリン将軍の角笛は複数のゴブリンを味方として呼び寄せるために作られています。

 

 そんな感じで、アイテムには必ず役割があるんです。ですが、その役割を果たすためには、その使い手が必要なんです。例えそれが世界級(ワールド)アイテムだったとしても、使う人がいなければただの飾りになってしまいますから。

 

 僕がアルベドにあの指輪を渡したのは、それと同じです。確かにあの指輪は大切な物ですけど、僕が持つより守護者統括である彼女が持っていたほうが、指輪も喜ぶと思ったんです」

 

「……それで、あの指輪を」

 

「…………まぁ、元々ナザリックのNPC全員に愛着があるから、っていうのもありますけどね」

 

 真面目な話の後、少しふざけた言い方をして笑うステアー。それにつられ、アインズも笑い始める。

 

 すると、アインズに伝言(メッセージ)が送られる。失礼、と言ってその場から立ち、応答する。

 

「………………………………うむ、わかった。今から向かい…………え?………そ、そうか………わかった、では私から直接伝えておく。お前はそのまま待機しろ」

 

 どうやら相手はアルベドのようだ。

 アルベドの説明を受け、一瞬驚いたような声を出すがすぐに魔王ロールでその場で待つよう命令し、アインズは伝言(メッセージ)を切った。

 そして何故か手を顔に当て、ため息をついた。

 

「えーっと、ステアーさん。アルベドから二つ報告があります。まず一つ目は、第四階層守護者ガルガンチュア及び第八階層守護者ヴィクティムを除く全階層守護者と戦闘メイドプレアデスが揃ったようです」

 

「思ったより早いですね」

 

「えぇ、そしてもう一つ──────が、ステアーさんの部屋で待機しているそうです」

 

「……………は?」

 

 

 

 

~ステアーの部屋~

 

「……………遅いわね」

 

 ステアーにこの部屋で待つように言われてから、かなりの時間が経つ。

 その間、私はこの部屋にある様々な置物などを見たり触ったりした。黒いガラスのようなのが付けられ、横にはカチカチと音を鳴らせるボタンのようなものがある板とか、ピッピッピッと音を鳴らしながら数字…………なのかしら、が緑色に発光しながら次々に変化する箱とか。

 

 そんなものを色々見てみたけど、正直飽きた。

 確かに面白そうだとは思うけど、使い方がわからないし。

 

 結局私は大人しく彼のものと思われるベッドに座り込み、待つことにした。

 勿論その間私は一人だ。つまり、宝物庫に閉じ込められていた時とあまり変わらない状態だ。強いて違いを言うならば、宝物庫のように窮屈で暗い部屋ではなく、明るく広々とした部屋にいることぐらいだ。

 

 そう、それだけの違いしかない。ないはずなのに……………

 

「(宝物庫にいた時よりも時間が長く感じる……………)」

 

 思えば、彼と出会った時から私はおかしくなっている。悪い方向にではなく、おそらく良い方向に。

 

 私は、スレイン法国の切り札とされた女性と、その女性を強姦したエルフの王の間に産まれた。そして産まれて間もない頃、私の母は法国から消えた。そのせいで私は宝物庫に閉じ込められ、つまらない日々を過ごす羽目になった。

 

 産んでくれたこと自体は憎んでない。それは不可抗力のようなものだと、私はわかっている。性格が歪んだのも、エルフの王の性格が遺伝子的に継がれたものだとも思っている。だって自分より強い男との間に子供を産んで、その子供がどれほど強くなるのか気になる、なんてエルフの王とほぼ同じじゃない。

 

 唯一私がその母親を恨んだことといえば、私にだけあんな窮屈な生活を送らせ、自分は逃げて自由に生きているということだ。何で自分だけこんな生活を送らないといけないのか、私には理解できなかった。もし今度会ったとしたらその首を斬り飛ばしてやる、とも思った。

 

 けど、今は違う。ラグナレク・ステアー・テンペスト…………………かつて1500人の人間を相手に無双した伝説の魔王、人類最終試練(ラスト・エンブリオ)を名乗る彼と出会った時、私の全てが変わったような気がした。

 自分を守るために母は敢えて法国を逃げ出し、私を宝物庫という安全な場所に保護させたとか、彼と会わなかったら出来ない考えだった。

 

 そして今もそうだ。今まで宝物庫で閉じ込められた期間に比べたら圧倒的に短い時間を、私はそれ以上に長く感じている。宝物庫にいた時は一切感じえなかった感覚だ。

 

「……フフフ」

 

 思わず口が緩み、笑みが浮かぶ。

 本当に私はおかしい。あの日からまだ一日ぐらいしか経っていないけど、私は彼と一緒にいることが楽しみで仕方がない。

 これが俗に言う、恋心………………なのかしら。

 

「………………ところで、いつまで置物に化けているつもり?」

 

 彼の机の上に置かれた獣の置物()()()()()()()()()に声をかける。

 すると獣は閉じていた瞳からパープルアイを覗かせ、視線を私に向けた。

 

『へぇ…………気づいてたんだ』

 

「見た目はそれっぽいけど、溢れた魔力までは隠せていないわよ」

 

『魔力……MPのことか。成程、それは迂闊だったよ』

 

「迂闊?それは嘘ね。さしずめ、ステアーが連れてきた人間がどれほどの存在かを確かめるためにわざと魔力を漏らし続けた…………違うかしら?」

 

『アハハ、面白いことを言うね、君は』

 

 すると獣は机から飛び降り、視線を向けたまま私の前まで歩いてきた。

 

『君、名前は?』

 

「アズリエル・フェイティ…………といっても、ステアーにつけてもらった名前なんだけど」

 

『へぇ、(あるじ)君が名づけをしたんだ…………じゃあ、僕と一緒だね』

 

「貴方もステアーに名前を付けてもらったの?」

 

『うん、そうだよ』

 

 そう言うと、その獣は黒い霧に包まれる。すると中から獣ではなく、人型の異形が現れた。

 

 極限まで薄めた紫の髪にリボンを巻き付けたサイドテール。

 透き通ったパープルアイに、中性的な顔つき。

頭からは猫のような耳に、腰からは巨大な尻尾が生えている。

 身長は、子供より少し高いぐらいだ。

 

 

 

「自己紹介するよ。ナザリック地下大墳墓【失われる世界(ロストワールド)】領域守護部隊<ヴァルプルギス>幹部が一人、シン・シルエスカ・ヴァーミリオン。ねえ、アズリエルさん。折角暇なんだ、僕と一緒に………………遊ボウヨ」



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不慮の事故?

投稿が遅れてしまい、本当に申し訳ございませんでした!

まさか一か月も更新が遅れるとは思ってもいませんでした………


「…………って感じで僕は彼女と追いかけっこを始めたって訳」

 

「ふーん………」

 

 顔がトマトのように真っ赤に染まっているアズリエルの隣で、シンから事の顛末を聞く。

 

 

 

 

 話は数分前に遡る。

 

 俺が率いる部隊<ヴァルプルギス>の一人、シン・シルエスカ・ヴァーミリオンが俺の部屋で待機しているという説明をアルベドから聞いた俺は、すぐさま指輪で自分の部屋に転移した。

 

「アズリエル、大丈ぶほぁ⁈」

 

 アズリエルが無事かどうか確認しようとした瞬間、いきなりこちらにアズリエルが飛んできて、そのままぶっ倒れた。

 

「いてて…………ん?」

 

 起き上がろうとした時、右手で何かを掴んだ。何だろうと思って手を動かすと、やや大きめのマシュマロみたいだった。

 

「ぁ……………ぁ…………………」

 

 覆いかぶさるように倒れ込むアズリエルの顔がみるみる紅潮していく。口がわなわなと震え始め、今にも爆発しそうな勢いだ。

 アズリエルは顔を真っ赤にして後退りする様に俺から離れる。するとその様子を見ていたシンがニヤニヤした表情で、

 

「大胆なスキンシップだね、(あるじ)君」

 

「大胆?」

 

 そこで俺はハッとなった。えっ、ちょっと待って、てことはさっきの感触ってまさか………

 

「………………スーテーアー?

 

「っ⁈」

 

 突然響く、殺気のこもった冷たい声。

 ゆっくり視線を向けると、赤面状態で拳をボキボキと鳴らすアズリエルがそこに立っていた。

 彼女の後ろから、ゴゴゴという音が鳴っている気がした。

 

「えっと………その……………すいませんでした」

 

 そう言った途端、俺は彼女から人間離れした威力のアッパーカットを顎に喰らい、宙を舞った。見事な一撃だったのを覚えている。

 

 

 

 

 以上のことがあり、現在に至る訳だ。正直、アッパーで済んで良かったと思ってる。

 それにしても、アズリエルって結構胸あったんだな。服のせいで全然分からなかった。着痩せするタイプか?

 

「えっと、アズリエルさん?まだ、怒っています?」

 

「別に」

 

 いやいや、右手で拳を作りながら言われても説得力ないから、とは敢えて言わないことにしておく。もし言えば、もう一発拳が飛んでくるに違いない。

 その様子を見て、目の前にいる薄紫髪の少女は腹を抱えて笑っている。

 

「アハハ、主君は本当に面白いね」

 

「シン……………笑いすぎだ」

 

 シン・シルエスカ・ヴァーミリオン。 

 

 【失われる世界(ロストワールド)】の領域守護部隊<ヴァルプルギス>の幹部で、人狼(ワーウルフ)の最強種狼王(マーナガルム)を取得している、俺の最初のNPCだ。

 俺のNPCとは言っても、俺が作った訳ではない。元々彼女は、異形種最強職“人類最終試練(ラスト・エンブリオ)”を取得ためのイベントクエストで登場したボスだった。

 

 そのイベントが開催されたのは、ユグドラシルのサービスが始まって5周年を迎えた時だ。

 

 運営はその記念として、ユグドラシルにおける全ての頂点というコンセプトで作った三種のチート職業をイベント攻略者に配布するという大規模イベントを催した。その中でも“人類最終試練(ラスト・エンブリオ)”はユグドラシルで唯一“種族と職業の両方の性能を持つ特殊な()()”で、運営自身が公式で“規格外の職業”と掲示するほどのチート能力を持っていた。紹介映像に至っては、コメント欄に『何コレ、チートすぎるwww』『ワールドアイテム涙目』『ゲームバランス、ガン無視』といった表記が多数存在していた。

 

 参加条件は無し、誰でも参加可能。つまり、誰もが手に入れるチャンスがあるということ。更に相手はたった一人の人類最終試練(ラスト・エンブリオ)持ちボスモンスターのみ。

 言うまでもなく、この規格外な職業を手に入れようと、数多くの異形種プレイヤーが熱を入れて挑戦した。

 

 結論から言えば、挑戦者は全員惨敗した。記念すべき最初の挑戦をしたのは、平均レベル50の四人パーティで、巷では少々名をあげていたらしい。しかし開始から5分、HPの5分の1も削れないうちに全員がやられたという。

 

 流石にレベル50は低すぎたかと考えられ、今度は平均レベル80の6人パーティが挑戦した。が、これも完敗、ダメージすら与えられなかったらしい。

 その後も高レベルプレイヤー達が次々に挑戦し、ついにはレベル100クラスの有名ギルドのメンバー30名が挑戦するということもあったが、全員攻撃する暇すら与えられずに敗北していったという。挑戦したプレイヤーたちが全員絶望したのは、予想できるだろう。

 最終的にそのイベントは、『運営が作った攻略不可のクエスト』と言われ、挑戦するものが激減していった。

 

 それから一年が経ち、イベントの最終日となったその日のことだ。実はその日が、俺にとって初めてのユグドラシルだった。種族は天使、職業は戦士(ファイター)という至って普通の組み合わせだ。

 最初はチュートリアルに従い操作方法を学んだ。チュートリアルが終わると、俺は早速何かのクエストを攻略したいと思った。が、流石はユグドラシルと言うべきか、ほとんどが高難度のクエストで、俺ではとても攻略できそうにないと感じた。

 その時だ、スクロールを勢いよく下まで移動させると、一番下の欄に“亜人種限定、レベル無制限”と書かれたクエストに目が行った。おっ、これ良さそうだな、と思った俺は、そのクエストに挑戦することにした。それが、あの攻略不可とされたイベントクエストだ。

 

 ちなみにイベントに参加したプレイヤーは全員50以上の高レベルプレイヤーで、レベルたったの2(天使1+戦士(ファイター)1)で挑戦したプレイヤーは俺だけだった。当たり前だ、最初に平均レベル50の4人組パーティがイベントを攻略できなかった時点でそれ以下のレベルのプレイヤーが参加する訳がない。失敗するに決まっている、と皆考えるからだ。

 

 が、そんなことも知らない俺は、初期装備のまま彼女に挑戦した。すると、ありえない現象が起こった。

 レベル100クラスのギルドが全力を持ってしても傷一つ付けれなかった彼女に、なんと俺の攻撃が当たったのだ。しかもその一撃だけで、彼女のHPを4分の1も削った。今まで挑戦してきたプレイヤー達から見れば、バグが起きたかチートを使ったとしか思えないようなことだろう。

 

 だが運営によると、それはイベントを開始した初期から存在した仕様であってバグでもチートでもない、むしろ正攻法だ、という。その仕様というのが、人類最終試練(ラスト・エンブリオ)が規格外な強さを持つ理由となった特殊なスキルが関係しているのだが………まぁ、それは今回置いておこう。

 

 そんなこんなで俺はイベントで彼女を倒し、晴れてチート職業兼種族“人類最終試練(ラスト・エンブリオ)”を取得した訳だ。すると突然彼女が立ち上がり、

 

『まさか君みたいなルーキーに人類最終試練(ラスト・エンブリオ)の座を取られるなんて思ってもなかった。強いんだね、君は。

 …………よし、決めた。今日から君について行くことにするよ。君と一緒なら、もっと強くなれる気がするんだ』

 

 と、イベント会話が発生したかと思えばすぐに、

 

『NPCが仲間になりました!』

 

 という強制スクロールが発生し、なんと元ボスモンスターである彼女が俺のNPCとして共に行動することになった。ちなみにレベルは俺と同じ2(人狼(ワーウルフ)1+軽戦士(フェンサー)1)。

 実はこれ、運営が作成した裏イベントを、俺が偶然にも発見してしまったのだ。そのイベントの発生方法が、

 

 

『合計レベル10未満のプレイヤーが、初期装備のまま一人で攻略すると、ビギナーズボーナスとして限定NPCが配布される』

 

 

 こんなの、誰がわかるか⁈

 レベル50のパーティが失敗した時点で、たったレベル10未満のプレイヤーがソロで挑戦するとか考えられないだろ⁈

 

 と、一瞬思ったが、よく考えると、悪いのはプレイヤーである俺達だ。初めに50で挑戦したのが間違いだった。もっと低いレベルで参加すれば気付けたかもしれない。

 

 まあ、そういうわけで俺はユグドラシル初ログインから数時間足らずでチート職を手に入れた挙句、ボスモンスターを仲間にしてしまったというわけだ。そのボスモンスターが、シン・シルエスカ・ヴァーミリオンだ。

 

「いやー、それにしても見事なアッパーカットだったね、アズリエルさん。喧嘩とか慣れてるの?」

 

「喧嘩はしたことないわ。漆黒聖典の隊長さんと初めて会った時、ボコボコにしたことはあったけれど」

 

「初対面の相手をボコるって、一体何があったらそうなるんだ……」

 

「何って…………だってあの人、私と会って早々、『俺一人で漆黒聖典だ!』なんて大声で堂々と言ってきたのよ?しかも私を見下すような表情で。あまりにもムカついたから、すぐボコボコにしてやって、馬の小便で顔を洗わせたりして、彼のプライドをズタズタにしてやったわ」

 

「……………さらりとえげつないな、アズリエル」

 

「ち、ちなみに、その人はどうなったの?」

 

「『俺はゴミだ』とか思い始めて暫く鬱になった後、私に敬語で話しかけてくるぐらい()()()な性格に変わってたわ」

 

「「うわぁ…………」」

 

 過去を思い出し、フフフと不気味に笑いだすアズリエル。

 漆黒聖典の隊長さん(会ったことないけど)に同情したい気持ちになった。

 

「あ、アハハ……思ったより、ナザリックに早く馴染めそうだね、主君」

 

「そ、そうだな、ハハ、ハ」

 

 思わず俺達は苦笑いする。

 どうやら俺は、相当ヤバい人間を気に入ってしまったみたいだ。

 

「コ、コホン。ところでシン、君はどうやって俺が今日ナザリックに帰ってくることを知ったんだ?話によれば、アルベドはまだ君に俺のことを話していなかったらしいけど」

 

「あぁ、それ、エリナとミーティアから聞いたんだ。主君達が帰ってくる少し前ぐらいに、二人が嬉しそうな顔で人間を真実の部屋に持って行っていくのが見えてさ、気になって何かあったのか聞いてみたんだ。そうしたら二人とも、主君が今日ナザリックに帰ってくるって笑顔で話してくれてね、それで知った」

 

「成程な。ちなみに他に知ってるのは?」

 

「ヴァルプルギスの幹部全員には話してるみたい。ミーティア曰く、主君のために宴を準備してるって」

 

「俺のために宴を?マジで?」

 

「うん。あ、でも今は行っちゃだめだよ。主君はこの後、玉座の間に行って階層守護者達に状況を話すんでしょ?」

 

「うぐっ…………そうだった、忘れてた」

 

 今の今まですっかり忘れていた。

 そうだ、確かこの後玉座の間に行って、階層守護者達に会いに行くんだった。

 すると丁度タイミングよくアインズさんから伝言(メッセージ)が送られてきた。

 

「もしもし、アインズさん?」

 

『ステアーさん、そっちは大丈夫なんですか?』

 

「あ、はい。問題ありません。アインズさんの方は?」

 

『そうですか………こちらも大丈夫です。ちょうど今、俺が名前を変えたことと、ステアーさんが帰ってきていることを伝えたところです』

 

「わかりました。では今からそちらに向かいます」

 

『了解しました』

 

 そういうと、アインズさんは伝言(メッセージ)を切った。

 

「さて、と。じゃあ行くか。アズリエルも一緒に来てくれ」

 

「えぇ、わかったわ」

 

「僕も一緒に行ってもいいかな?一応ヴァルプルギスの代表としてモモンガ様……いや、アインズ様に一度挨拶するべきだと思って」

 

「あぁ、勿論構わない。それじゃあ二人とも、転移するから俺の腕を掴んで」

 

 翼を大きく広げ、掴みやすい態勢をとると、シンは左腕に、アズリエルは右腕に掴まった。

 そして俺は指輪“リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン”を使い、守護者達が待つ玉座の間に向かった。




次回の投稿は、来月になるかもしれません。



話は変わりますが、UAが15,000を超えました。
いつも読んでくださる方、本当にありがとうございます。

まだまだ未熟な私ですが、これからもよろしくお願いします。


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気楽な二番目

二月にインフルにかかってしまい、それから暫く体がだるくなった上に話の内容が思い浮かばず、気が付けば四月になっていました。

投稿が遅れてしまい、本当に申し訳ございませんでした。



今回は少し長いです、どうぞ。



~ナザリック地下大墳墓 玉座の間~

 

 喜色満面。

 この玉座の間にて、至高の存在アインズ・ウール・ゴウンに跪く従者達の今の感情を示すにふさわしい言葉だ。それほどに、彼の存在はこのナザリック地下大墳墓において大きかったと言うべきか。

 

 “アインズ・ウール・ゴウン”副ギルドマスター、ラグナレク・ステアー・テンペストの帰還。

 

 それがモモンガことアインズ・ウール・ゴウンの口から出た瞬間、戦闘メイドプレアデスを含む階層守護者達は、思わずナザリックの支配者の御前で声を叫びたくなるほどに満ち溢れた喜びを抑えるのに必死になっていた。

 

「…………来たか」

 

 暫くすると、アインズが徐に立ち上がる。

 それの意味を察した階層守護者達は、伏せていた顔をあげ、アインズに視線を向ける。すると、守護者とアインズの間に、それは姿を現した。

 

「はい、到着っと」

 

 美しく輝く神秘的な漆黒の翼。

 透き通った青い瞳を映えさせる短髪のゴールドヘアー。

 それらが視界に入った時、守護者達は「おぉ…」と思わず声を漏らした。

 

「おっ、驚いてくれてるようで何より」

 

「あのさ主君、あたかもドッキリしようとしてました感出してるけど、実際何にも考えずに飛んだよね?」

 

「バレたか」

 

「「バレるわ」」

 

「おぉ、まさかの息ピッタリな反応…………」

 

「登場して早々、いきなりボケるのやめてくれませんか、ステアーさん」

 

 ナザリックの支配者然とした言動をとるアインズとは反対に、場を茶化すというか、超が付くほどマイペースかつ軽い口調で話すステアー。彼の左に付く彼の従者にさえ、砕けたを通り越すような口調で突っ込まれている。しかしその話し方は、むしろ守護者達に彼を本物だと示すには十分すぎるほどのものであり、守護者達が最も安心するものであった。

 

「いや~、すいませんアインズさん。いつもの癖でつい」

 

「癖って……まぁ、そこがステアーさんのいい所なんですけどね」

 

「アハハ………さて、と。んじゃ、場の空気がちょっと緩んだところで」

 

 先に言っておこう、空気が緩んだと彼は言っているが、実際何にも考えずにその場の状況を話しただけであって、深い意味は全くない。だが、ナザリックで一番頭がいいデミウルゴスは、ナザリックの至高の存在に対し絶対ともいえる忠誠を誓っているがゆえに、そんな何気ない言動さえも99%の確率で深読みしてしまう。

 

「(おぉ、成程。ラグナレク・ステアー・テンペスト様は、我々に対し対等な会話をすることを望まれる御方。しかし、至高の存在に対し絶対なる忠誠を誓う我々にとって、それは死に値する愚行かつ失礼に値する行動……そんな我々の緊張を和らげるためにあのような行動を行った、という訳ですね!)」

 

 自分で勝手に深読みし、その上さらに彼らに対する忠誠が強まる。そんなことを、アインズとステアーは知る由もなく、何事もなかったかのようにステアーは口を開いた。

 

「“アインズ・ウール・ゴウン”至高の42人が一人にして副ギルドマスター、人類最終試練(ラスト・エンブリオ)、名をラグナレク・ステアー・テンペスト。本日今を持って、このナザリック地下大墳墓に帰還したことを宣言する!…………うわ、これ思ったより恥ずかしいな

 

 せっかくカッコよく決まろうとしていたのに、この男最後の最後で本音を吐き台無しにする。一体何がしたいんだ、と思わずツッコミを入れたくなる。

 

「もー、主君ってば!せっかくカッコ良かったのに~、勿体ない」

 

「えっ、もしかして声出てた?」

 

「まさか心で喋ってたつもりだったの⁈めっちゃ駄々洩れだったよ!もしかしてボケ?ボケ狙ってるの?」

 

「狙ってるか!素だよ、素!」

 

「それはそれで恥ずかしいよ!」

 

「というか、貴方本当に人類最終試練(ラスト・エンブリオ)なのよね?何だかただのドジな堕天使にしか見えなくなってきたのだけど」

 

「馬鹿と天才は紙一重って言うだろ?俺はそれだから!」

 

「「それ君(貴方)が言う⁈」」

 

「騒々しい!静かにせよ!」

 

 これ以上は歯止めが利かなくなると本能で感じたアインズは、スッと立ち上がり、大声でカッコつけながら命令口調でその場を静かにさせる。さすがのステアーも、この時のアインズに少しびっくりしたようだ、翼が力なく地面に垂れてしまった。

 

「吠えたら吠え返すみたいなことしてたら、いつまで経っても本題に入れませんから。次やったら割と本気で怒りますよ」

 

「すいません………」

 

「全く…………コホン。取り乱してすまなかった、守護者達よ。改めて言おう。我が右腕にして至高の42人が一人、ラグナレク・ステアー・テンペストさんがこのナザリックに帰還した。ではステアーさん、ナザリックに帰還するまでの間、何があったのか詳しく教えてください」

 

「わかりました」

 

 ステアーは、この世界に来てから今に至るまでの経緯を、一つずつ丁寧に守護者達に説明した。内容はアインズに伝えたこととほぼ同じ。同時並行で、アズリエルの紹介もした。

 

「……という訳だ。不可抗力だったとはいえ、みんなの前から急に姿を消すような事になってしまって申し訳ないと思ってる。迷惑をかけて、本当にごめん」

 

 説明を終えると、ステアーは守護者全員に頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。

 頭を下げられた守護者達は、彼の行動に驚愕した。それもそのはず、至高の42人の一人にしてナザリック最強とも謳われる存在が、自らに起きた不慮の事故を自身の汚名とし、謝罪の意をシモベである彼等に示したのだから。

 

「そして、宣言するよ。もう二度と、ナザリックから、みんなの前から姿を消さない、何があっても絶対にここに帰ってくると!」

 

 絶対に帰ってくる………そうステアーは宣言した。その言葉に守護者達は喜びの声を上げたが、何故かアルベドだけは少し怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

「……俺の話は以上だ。それとさっき説明したように彼女、アズリエル・フェイティはこの世界の協力者であると同時に、スレイン法国最重要秘匿事項とされている存在だ。今は模倣人形を使って騒動なく連れてきているが、いつ何処でバレるかわからない。そこで彼女をナザリックで保護したいと思っている。構いませんよね、アインズさん」

 

「えぇ、ステアーさんの協力者なら構いません。さて、では改めてお前達に問う。ステアーさんの帰還に異論がある者はいるか?いるならば、その場で立ちあがって意を示し、理由を述べよ」

 

 至高の存在の帰還に、異論を持つ者などいるはずがない。それはこの場にいる全てのシモベ達に共通する考えであった。

 

「……異論はないようだな。ではこれより、ステアーさんに対し『忠誠の儀』を行う。私の時と同じように思ったことを全て言えばいい。まずはシャルティア!」

 

 アインズに呼ばれ、シャルティアは何かに満ちた表情で顔を上げた。

 その何かとは、決意。一度姿を消したと思われた存在が今こうして此処に戻ってきた事に対し、忠誠の儀に全身全霊をかけようという、強い思いだった。

 

 

「この世のあらゆる種族を超え頂点に立たれた、真の最強の存在でございます。創造と破壊の化身といっても過言ではないでしょう」

 

 シャルティア・ブラッドフォールン。

 エロゲ愛好家ペロロンチーノが作ったNPCであり、第一・第二・第三階層の三つを守護している真祖(トゥルーヴァンパイア)。見た目は14歳程の幼い少女に見えるが、その戦闘力は階層守護者の中でトップクラスという恐ろしい子である。

 

 創造と破壊の化身かぁ……強ち間違いではないけど、彼女はなんか盛りすぎてるような気もする(二つの意味で)。

 

「コキュートス」

 

 

「絶対ナル強者デアリナガラ尚上ヲ目指シ、何事ニモ全力デ取リ組マレル、正々堂々トサレタ武人ノ鏡ト呼ベル存在カト」

 

 コキュートス。

 ザ・サムライこと武人建御雷が作ったNPCで、第五階層を守護する蟲王(ヴァーミンロード)。ライトブルーの外殻に身を包む2.5mの巨大な二足歩行の蟲で、背中からは氷柱のような鋭いスパイクが無数に飛び出しており、そのせいか常に冷気を纏っている。武人として誇り高い性格の持ち主で、武器を持たせればナザリックの守護者で右に出る者はいないとさえ言われている。

 

 確かに何事にも全力は出してるけど、絶対なる強者と武人の鏡というのは大げさだな。まぁ、コキュートスらしいけど。

 

「アウラ」

 

 

「強く、優しく、そしてアインズ様のように大変慈悲深く、どんな相手にも怯むことなく立ち向かう勇敢な御方です」

 

 アウラ・ベラ・フィオーラ。

 ペロロンチーノの実姉、ぶくぶく茶釜が作ったNPCの一人で、右目が緑、左目が青のオッドアイを持つダークエルフ。いつも元気で明るい女の子で、ぶくぶく茶釜さんの趣味により男装させられている。

 

 何度見ても違和感が全くない。そして勇敢というのは、1500人のプレイヤー達をヴァルプルギス幹部と一緒にボコボコにしたことを言っているのかな。確かに今思えば、あれは無謀に近かった行動だった。懐かしいな。

 

「マーレ」

 

 

「も、物凄く優しくて、か、カッコいい御方だと思います」

 

 マーレ・ベロ・フィオーレ。

 同じくぶくぶく茶釜が作ったNPCで、アウラの双子の弟。同じオッドアイだが、色は姉と逆になっている。臆病で言葉使いも戸惑いがちな男の子で、姉同様製作者の趣味で女装させられている。ちなみにこの双子、共に第六階層の守護者である。

 

 アウラもそうだったが、マーレも違和感のない見た目をしている。おかげでぶくぶく茶釜さんに言われるまでずっと女だと思っていた。

 

「デミウルゴス」

 

 

「領域守護部隊<ヴァルプルギス>を率いておられ、自由奔放と見える全ての行動がナザリックの貢献へと繋がる、冷静で聡明かつ瞬時の判断力に長けた御方でございます」

 

 デミウルゴス。

 ナザリックのメンバーで最も「悪」に拘ったウルベルト・アレイン・オードルのNPCで、人間らしい姿とは裏腹に、人を陥れ苦痛や絶望を与えながら破滅させることを喜びとするTHE・悪魔。第七階層の守護者で、ナザリックトップクラスの頭脳を持っており、防衛時のNPC指揮官という設定を与えられている。

 

 何かデミウルゴスの忠誠の次元違くね?高評価にも程があるぞ、それ。

 

「セバス」

 

 

「どのような種族にも分け隔てなく平等に接され、アインズ様と共に最後までこのナザリックに残ってくださった、慈愛に満ち溢れる慈悲深き御方です」

 

 セバス・チャン。

 正義感溢れるたっち・みーが作成したNPCで、彼は階層守護者ではないがその実力は守護者に匹敵している。戦闘メイドプレアデスのリーダーを務めている紳士な執事で、実は個人的に好きなNPCでもある。

 

 ていうか、さっきからこの高評価の嵐何なの、マジで?流石にこれは予想してなかったよ。

 

「最後になったが………アルベド」

 

 

「至高の御方々から絶大な信頼を受けられ、そして私の愛するアインズ様の右腕と呼ばれるに相応しい強大な力を持った素晴らしい御方でございます」

 

 アルベド。

 人間らしい姿をベースに腰から生えた黒い翼と頭の白い二本の角が特徴的な、純白のサキュバスにして、ナザリックの守護者統括である。彼女は設定魔のタブラ・スマラグディナによって作られたNPCの一人で、ナザリック一番の防御力を誇っている。現在はアインズがちょっとした出来心で『ちなみにビッチである』を『モモンガを愛している』に変えてしまったことで、アインズに対する愛情がヤバイ子になってしまっている。

 

 それが原因だろうか、彼女の言葉には何か本心が隠れているように感じる…………その内ハッキリさせといた方が良さそうだな。

 

 まぁ、それはさておき、何この高評価?信頼してくれてるってレベルじゃないんだけど。もしかして、アインズさんも同じようなこと言われてたのか?

 

「そうか…………君達の忠誠は確かに理解した。それじゃあ話が終わる前に一つ、アインズさん」

 

「えぇ」

 

 アインズは玉座からゆっくりと立ち上がり、ギルドの証………スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持って床を叩き、守護者に向け宣誓した。

 

「忠実なる我が部下達よ!これよりお前達の指標となる方針を厳命する!」

 

「「「「「「「っ!!!」」」」」」」

 

 ナザリックの至高の存在からの直々の命令、それを聞いた守護者達は一字一句聞き逃すまいとアインズとステアーの言葉に耳を傾けた。

 

 

「我等アインズ・ウール・ゴウンの名を世界に轟かせ、永久不変の伝説とせよ!!」

 

 

「俺達がこの世界で為すべきこと、それは“世界に存在する全ての英雄を塗り潰す”!!」

 

 

「今はまだ手探りの状態だが、(きた)る未来に向け準備をせよ。このアインズ・ウール・ゴウンこそが、世界で最も偉大な存在であることを知らしめるために!!」

 

 

「この世に神がいるというのなら、天の座から引きずり下ろす!俺達以外に魔王がいるなら、噛み殺せ!邪魔をするものは、力と知恵と権力と数でねじ伏せてやれ!」

 

 

「光と闇、天と地、正義と悪、その全ては我らのもの!何物にも覆せぬ絶対的な存在は、我等アインズ・ウール・ゴウン以外必要ない!」

 

 

「俺達は栄光のギルド、アインズ・ウール・ゴウン!これよりその誇り高き名を、この世界の過去・現在・未来の全てに刻み込め!」

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンの名を、この世界に刻み、永遠の伝説とする。

 アインズとステアーの宣誓に、守護者は全員神に祈りを捧げているような姿勢になった。

 今まで誰もやったことがないデカいことに対し、守護者は勿論、ステアーとアインズも心臓を高鳴らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………以上だ。では私は部屋に戻るとしよう。ステアーさんはどうされますか?」

 

「僕も一旦、自分の部屋に戻ろうと思います。アズリエルも一緒に来てくれ。シンはさっき俺達が宣誓したことをヴァルプルギスのメンバー全員に伝えてくれないか?」

 

「えぇ、わかったわ」

 

「了解、主君」

 

「オーケー。んじゃ、戻ろう」

 

 短い会話を終えると、ステアーはアズリエルを連れ、アインズと同時にそれぞれ自室へと転移した。

 二人+αが転移したのを確認すると、シンも同じように失われる世界(ロストワールド)へと転移しようすると、立ち上がったアルベドがそれを止めた。

 

「待って、シン。今から貴方にも伝えなくちゃいけないことがあるの」

 

「伝えなくちゃいけないこと?」

 

「えぇ…………デミウルゴス、アインズ様とお話しした際の言葉を皆に…」

 

「畏まりました」

 

 極めて真剣な表情のデミウルゴスは立ち上がり、守護者達の前に出た。一体何だろうとシンはデミウルゴスの言葉に耳を傾ける。

 

「アインズ様が夜空をご覧になられていた時です。あの御方は私の前でこう仰いました、『世界征服………なんて面白いかもしれないな』と……」

 

「「「「「「「っ!!!」」」」」」」

 

 デミウルゴスの口から伝えられる、至高の存在の言葉。それを聞いた途端、守護者達の瞳は一変した。

 それを確認したアルベドは、守護者統括として宣言した。

 

 

「皆聞いたわね。守護者統括として命じます、ナザリック地下大墳墓の最終目的は、アインズ様とステアー様に巨大な宝石箱を…………この世界をお渡しすることと知りなさい!」

 

『オオオオォォォォォォォォォォ!!!』

 

 至高の二人の目標を再確認すると、下部達は玉座の間に響き渡るほどに明白な雄叫びを上げた。

 全ては、ナザリックのために、と心で誓いながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…………うん、アルベド、それ多分意味違う、絶対違う。というか、アインズ様と主君、行動するたびに勘違いされてるような気がする………聞かれたら、正直に伝えよう)」

 

 至高の存在に対する忠誠が強すぎるがために盛大に深読みし、歓喜をあげる守護者達を他所に、シン・シルエスカ・ヴァーミリオンは一人、自らの主とナザリックの支配者に対し心で合掌を送った。




次回はオリジナル回になると思います(予定は未定)。


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幻影の真祖(ウプイリ)

オリジナル展開って、思ったより書くの難しいですね……



新キャラ一名、登場します。

そして今後登場する新キャラの名前が多数出てきます。

※8月23日、『虚無の指輪』に関する設定を大幅に変更しました。


〜第九階層・ステアーの部屋〜

 

「はぁ…………疲れた」

 

 NPC達による忠誠の儀を終え、今後のナザリックの方針を伝えたステアーは、アズリエルを連れて自室に戻る。

 死と隣り合わせの激戦を終えた直後のような表情をした彼は、そのまま倒れるようにベッドに体を沈めた。

 

「貴方、そんなに疲れるようなことしてたかしら?」

 

「いや、肉体的疲労は感じてないよ。ただ、精神的疲労がなぁ……」

 

 この世界に来た時、シャルティアの眷属である吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・プライド)のミレアを召喚した時の彼女の反応から、ナザリックのNPC達は自分を含むギルドメンバーに対する忠誠が高いことは薄々予想はしていた。が、彼等の忠誠心はその予想を遥かに上回っていた。

 過ぎたるは猶及ばざるが如し、という言葉がある。これは、『やり過ぎることは、やり足りないことと同じで、例え良いことであってもやり過ぎることはかえって害になる』という意味である。

 NPC達が、それだけ自分に忠誠を誓ってくれている、ということは良いことだ。しかし、余りに忠誠心が高すぎると、自分が何かやらかした時に彼等を失望させてしまうのでは、という不安も芽生えさせる。その不安が、現在のステアーの精神的な疲労となってしまっている。

 

「まぁ………仕方ないか」

 

「何が仕方ないんだ、(あるじ)?」

 

「どおわぁぁぉ⁈」

 

 突然耳元に声をかけられたステアーは、素っ頓狂な叫び声で驚き、ベッドから地面に落下する。

 振り返ると、いつの間にいたのだろうか、一人の少女がこちらを見ていた。

 

 美麗で長いゴールドヘアーに、それを結ぶ黒い大きなリボン。

 ネクタイを付けた黒のシャツの上から赤いレーザージャケットを羽織り、拘束具が付いた白いスカートを履いている。

 身長はアウラかマーレと同じか少し高いくらいで、真紅の瞳を持つ端整な顔立ちは人間の少女を思わせる。

 

「に、ニークスか。ビックリしたぁ……」

 

「すまない、隣の彼女は私に気付いていたものだから、主も気付いているものだと思っていたのだが」

 

「えっ、そうなのアズリエル?」

 

「さっきここに来た時、目の前にいたわよ。気付かない方が驚きだわ」

 

「まじかぁ…………俺どんだけ疲れてるんだよ………」

 

 自分で自分に呆れるような声を出しながら、目の前の少女に目をやる。

 

 ニークス・アクトレス。

 ヴァルプルギス幹部の一人で、設定では“ナザリック地下大墳墓総料理長”を務めている幻影の真祖(ウプイリ)の少女だ。

 幻影の真祖(ウプイリ)というのは、二重の影(ドッペルゲンガー)真祖(トゥルーヴァンパイア)の二つの特性を持つ種族なのだが、取得しているのはユグドラシルでは彼女しかいない。

 何でそう断言できるのかって?答えは単純、この種族を手に入れられるのは人類最終試練(ラスト・エンブリオ)、つまり俺以外いないからだ。

 

 人類最終試練(ラスト・エンブリオ)のチート能力の1つ、種族統合化(ヒュージョン・オブ・レイス)

 簡単に言えば、レベルが最大になった複数の種族を特定の組み合わせで統合し一つに纏める、というもの。

 例えばレベル15の天使とレベル15の悪魔を統合すると、俺の種族堕天使(アスタロト)に進化する、と言った感じだ。

 

 さて、突然だがここで一つ算数の計算をしよう。

 レベル15の天使とレベル15の悪魔、合わせてレベルはいくつになるか?

 無論、答えは30だ。

 つまり、統合した堕天使(アスタロト)の最大レベルは30になる!…………と思うだろ?それが違うんだ。

 実際はレベル2()0()、つまり計算から1()0()も低くなっている。その残りの10はどこ行ったのかというと、空欄として存在している。空欄ということはつまり、新しい種族又は職業を加えることが可能になる、ということだ。

 

 …………強すぎる能力って、案外説明しにくいな。

 まぁ、この種族統合化をより詳しく説明すると、まず組み合わせられる種族は決まっている。そして種族統合化後に作成された種族は、

 

 最大レベル=15+(組み合わせた数-1)×5

 

 という計算の元一つに纏められる、というのがスキルの能力だ。

 そして種族統合化したものは、進化する前の種族の最大レベル時の能力をそのまま引き継がれる。つまりレベルは20だが、実質レベル30時と同じ強さになっているわけで、空欄部分に新しい種族又は職業を設定しレベルを最大にしたことでレベル100に達成した場合、それはほぼレベル110になったことと同じになる。

 

 要は組み合わせ次第では半無限にレベルをあげることが可能になる。これが種族統合化のチート能力だ。

 

 この能力を知った時、『いや運営さん、チートにもほどがあるぞ!』って思わず突っ込んだよ。

 だって半無限にレベルが上がるんだぜ?無双できないようパワーバランスが保たれているユグドラシルでこんなの作ったらダメだろって本気で思ったからな。

 でもこれで終わりじゃないぞ?言っただろ、()()()()()()()()って。人類最終試練(ラスト・エンブリオ)にはこれ以上にチートな能力沢山あるんだから、もう驚きを通り越して呆れたわ、うん。

 

「…………って、誰に説明してんだ、俺」

 

「急にどうしたの?」

 

「いや、何でもない、気にするな」

 

 話を戻そう。

 

 先程説明した通り、ニークスは総料理長という役職に就いており、こと料理に関して右に出る者は今まで一人もいない、というのが設定だ。つまり、ナザリックで一番料理がうまい。

 見た目は高貴な貴族出身のお嬢様っぽいが、一応シャルティアと同じアンデッドで、確か年齢は150歳から数えていない……だったか?

 とても大人びた口調と落ち着いた雰囲気の礼儀正しい少女で、料理人である一方情報収集が得意で、暗殺能力を中心とした先手必勝タイプの超攻撃的ビルド構成になっている。また生物から吸い取った血を元に変幻自在に変身する能力を持っており、女優(アクトレス)の職業にふさわしい演技力を持っている、という設定になっている。

 

 尚シンと同じく彼女も俺が作ったNPCではなく、元々NPC販売というユグドラシル版奴隷販売で不良品のレッテルを張られて売り出されていた彼女を俺が買い取って仲間にしたNPCだ。

 そもそもNPC販売というのは、野良で彷徨っていたNPC、又はプレイヤーが作成しビルド構成に失敗したとして捨てられたNPC等を中心に、初心者などに高値で売りさばくというユグドラシルでは違法スレスレの商売であり、正直俺は大嫌いだった。NPCであれ、命を金でやり取りするような行為自体、見るたびに胸糞が悪くなる。

 しかしそんな俺にもある時NPC販売を見に行く機会があり、その時に出会ったのがニークスだった。

 彼女は元々ある初心者ギルドのマスターが作ったNPCだったらしいが、ある時ギルドが攻め落とされ、その報酬として買収されたという説明を受けた。

 マスターは平和的なプレイヤーだったのだろう、当時の彼女は料理職の非戦闘員的ビルド構成になっていた。その為、戦闘では全く使えないと言われ全然売れなかったという。俺が見に行った時の販売で売れなかった場合、販売者は彼女のデータを消し去るつもりだと言っていた。

 

 そしていざ彼女のオークションが始まったのだが、プレイヤーは全く手をあげない。販売者は値段を徐々に下げていくが、挙がる気配は一切なかった。そしてオークションが終わろうとしたその瞬間に、俺は咄嗟に手をあげた。

 自分で言うのも何だが、俺はユグドラシルで一番NPCという存在に愛着を持っているプレイヤーだと自負している。だから、彼女が消えるということがどうしても納得できなかった俺は、彼女を保護という名目で自分のものにしたいと考えた。今思うと変な人にしか思えないが、後悔はしていない。勿論、クエストとかで稼いだ綺麗な金貨で手に入れたから、安心しろ。NPC一人、金貨3億枚なんて安いもんだ。

 

「ところで、主の隣にいるハーフエルフは何者だ?敵ではないようだが」

 

「あぁ、紹介するよ。彼女はスレイン法国漆黒聖典元番外席次、今はアズリエル・フェイティを名乗ってもらってる。簡単に言うと、現地協力者だよ」

 

「成程、現地協力者か」

 

 そう言うとニークスはアズリエルの前に立ち、彼女に握手を求めた。

 

「初めまして、私の名はニークス・アクトレス。ヴァルプルギス幹部にして、このナザリックの総料理長を務めている。ニークスで構わない」

 

「よろしく」

 

 アズリエルも特に怪訝そうな顔をすることもなく普通に握手する。

 

「それで………何でニークスが俺の部屋に?」

 

「あぁ、宴の準備が出来たから、呼びに来たんだ」

 

「宴………そういえばシンが言ってたような」

 

 忠誠の儀のことで頭がいっぱいだったから、宴の存在をすっかり忘れていた。というか、アインズさん誘うのも忘れてた。どうしよ、今から連絡入れるか?

 

「その必要はない。アインズ様の所にはフィアが向かっている。おそらく今は、宴の説明を受けているはずだ」

 

「何で俺の考えてることわかったんだ?」

 

「何年君と一緒にいたと思っている」

 

「そうか」

 

 アインズさんの件は、ニークス達が処理してくれたようだ。

 それにしても、宴か。現実はそんな楽しそうなイベントと全く無縁だったから、凄い楽しみだな。というか、そもそも俺飲食できるのか?一応人類最終試練(ラスト・エンブリオ)は職業扱いになってるし、堕天使(アスタロト)は確かアンデッド扱いじゃなかったから大丈夫だとは思うけど。

 

 …………ん?待てよ。

 よくよく考えてみたら、宴ってことはつまり、この後ヴァルプルギスのメンバー全員と顔を合わせるってことだよな。

 あ、やばい、そう考えたら何か急に緊張してきた。

 シンとニークスはともかく、エリナとミーティアとは電話越しでしか話してないし、他のメンバーが俺にどんな反応をするのか全然予想できないんだけど。

 ……いや、大丈夫だ。忠誠の儀に耐えた俺だ、こうなったら気合で乗り切ってやる!

 

 そんなことを考えていると、アインズさんから伝言(メッセージ)が送られてきた。

 

「アインズさん?」

 

『どうも、ステアーさん。さっきぶりですね』

 

「そうですね。それで、どうしました?」

 

『いや、実はですね、ステアーさんのNPCの……フィア・ジークフリート、でしたっけ?さっき彼が私のところに来たんですよ。何でも、ステアーさんが帰還したことを祝って宴をするとか』

 

「えぇ、そうらしいですね」

 

『らしいって、ステアーさんが提案したんじゃないんですか?』

 

「違いますよ。さっき電話をかけてきたエリナが僕のこと失われる世界(ロストワールド)の皆に話したらしくて、ヴァルプルギスの幹部……僕のNPC達が僕のために色々考えてくれたみたいです」

 

『えっ、そうなんですか?ということはこの“試作型疑似受肉装置”ってアイテムは、ステアーさんが俺の為に作ってくれた訳じゃないと?』

 

「“試作型疑似受肉装置”?」

 

『はい。フィアによると、【スケルトン族限定で、装備した者に疑似的な生身の身体、つまり受肉をさせ、一時的に食事を可能とする】アクセサリーらしいです。何でも宴をするにあたり、アンデッドの俺も普通に食事ができるよう、レイ・オーグマーが突貫で作ってくれたとか。心当たり無いですか?』

 

「全くありませんね。そもそもこの世界に来てから、フィアとレイのどちらとも会ってませんし。というか、試作型ってどういうことですか?」

 

『さぁ……それはわかりませんね』

 

「ふーん……そうですか」

 

 ってか、今更だけど俺のNPC達って、自分の意思で色々行動する奴多くないか?

 いや、確かに全員の設定に“言いたいことははっきりという”みたいな自我が強くなりそうなことは色々書いてけどさ。

 

『まぁ、装置の話はもう置いといて、話を戻します。その宴なんですけど、もしよろしければステアーさんの疑似人形(レプリカドール)を何体か貸してほしいんです』

 

疑似人形(レプリカドール)って、僕の創造者(クリエイター)で作れる模倣人形(ダミードール)の時間制限があるバージョンのやつですよね?良いですけど、何に使うんですか?」

 

『階層守護者達と、戦闘メイドプレアデスのメンバー全員に使おうかと。何か、俺だけ参加するのもあれですし、彼らも参加させてあげたいなぁ、っと思って。でも全員参加させたら、ナザリックを防衛する人がいなくなるじゃないですか。だから、ステアーさんの疑似人形(レプリカドール)で彼らの分身体を作って、宴の間だけ本人たちに代わって防衛を任せたいんですよ』

 

「そういうことですか。わかりました。それじゃあ……ニークス、ちょっとお使いを頼めるか?アインズさんに疑似人形(レプリカドール)を届けてほしいんだ。結構な数になるけど」

 

「わかった。任せてくれ」

 

「ありがとう。という訳なので、ニークスに人形を届けてもらいますので、受け取っといてください」

 

『わかりました。ありがとうございます。では、宴の会場……失われる世界(ロストワールド)で』

 

「はい……って、アインズさん、失われる世界(ロストワールド)の行き方知ってましたっけ?」

 

『いえ、全く。フィアが途中まで案内してくれるみたいなので、大丈夫だとは思います』

 

「そうですか。じゃあ、また後で」

 

 メッセージを切ると、俺は空間の穴に手を突っ込み、疑似人形(レプリカドール)を取り出した。

 疑似人形(レプリカドール)の効果は、模倣人形(ダミードール)とほぼ一緒。一つ異なるのは、疑似人形(レプリカドール)は最大10時間しか活動できないという点だ。

 その代わり、模倣人形(ダミードール)よりも必要な素材が少なく、手軽に作成することができるのが利点だ。

 

「それじゃあこれ、頼んだ」

 

「承知した」

 

 13体の疑似人形(レプリカドール)を手渡すと、ニークスは俺の部屋を出て、アインズさんの部屋に向かった。

 

「さて……それじゃ、俺達も出発するか、アズリエル……って、ごめん、めっちゃ待った?」

 

 そろそろ出発しようとアズリエルに振りかえると、相当暇だったのだろう、部屋の壁にもたれて宝物庫にいた時のように一人でルービックキューブを始めていた。

 

「やっと?」

 

「うん。いやホント、ごめん」

 

「別にいいわよ。それで、貴方が言っていたその失われる世界(ロストワールド)って場所、そこに今から行くわけ?」

 

「そうだよ。ただそこはナザリックで一番特殊な場所になっていてさ、基本的に直接転移することは出来ないんだ。だから、ちょっと歩くことになるけど、構わないか?」

 

「ええ、いいわよ」

 

「よし。それじゃあ行くか」

 

 そう言うと、アズリエルは俺の腕にしがみつく。

 それを確認した後、俺は失われる世界(ロストワールド)への入り口が存在する階層に転移した。

 

 

 

 

「行き先は、ナザリック地下大墳墓第五階層─────()()()()だ」




前書きにも書きましたが、オリジナル展開って本当に難しいです。

次回もかなり遅れて投稿することになるかもしれません。
出来る限り早く投稿できるよう頑張ります。

※2022年4月28日、統合進化を種族統合化に変更、性能についても修正を加えました。


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楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)

何とか二日連続で投稿できました……目と腰が凄く痛い(・・;)

そして今回、物凄く文章が長いです。


~ナザリック地下大墳墓 第五階層・氷結牢獄~

 

 

 

「────よし到着…って寒っ!!

 

 転移直後、凍えるような冷たい風に驚くステアー。

 しかしその感覚が走ったのは一瞬で、すぐに寒さを感じなくなった。

 

「あっぶね、氷結対策の指輪付けてたのが幸いしたか」

 

 右手の中指にはめた水色の指輪を見て、ほっと一安心する。

 ふと、自分の左腕が震えている感覚がはしる。目を向けると、余りの寒さに体を震わせるアズリエルの姿があった。

 

「アズリエル、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫……ただ、ちょっと寒い、だけ」

 

「全然大丈夫そうには見えないけどね!?」

 

 口では大丈夫と言っているが、身体の震えが全然止まりそうにない。

 それを見かねたステアーは、自分の堕天使の衣(アスタルテ・クロース)を脱ぎ、アズリエルの肩にかけた。

 

「……あら、さっきまで感じてた寒さが無くなった」

 

堕天使の衣(アスタルテ・クロース)は上位魔法・物理攻撃を完全に無効化する他に、一部状態異常を無効にする、フィールド効果を受け付けないという能力があるんだ。失われる世界(ロストワールド)の入り口まではこの寒さが続くと思うから、暫くはそれを着てて」

 

「貴方は大丈夫なの?腕が丸見えだけど」

 

「俺には氷結対策の指輪があるからな、服がなくても十分だ」

 

「そう……ありがとう

 

 アズリエルは自分で自分の言葉に少し驚いた。

 今私、()()()()()と言った?

 ありがとうなんて言葉、今まで一度も言ったことが無いのに……

 

「何か言ったか?」

 

「何でもないわ」

 

 どうやらステアーには聞こえていなかったらしく、無表情で済ました。

 

「?……まぁ、いいや。とりあえず、入るよ」

 

「入るって……この建物に?」

 

「そう」

 

 彼が指をさしたのは、見渡す限り氷で覆われた極寒の地で最も寒いと言われている場所───氷結牢獄。

 寒々しい氷の世界に異質な雰囲気を運ぶメルヘンチックな二階建ての洋館で、ナザリックに敵対したものがここに放り込まれる。

 先程ステアーが捕え、失われる世界(ロストワールド)に送った陽光聖典の隊員たちは、エリナとミーティアによりこの牢獄の一室である“真実の部屋”へ運ばれている。

 

「この氷結牢獄の中に、失われる世界(ロストワールド)への入り口を設置してあるんだ。さて、行こうか」

 

 ステアーは、ゆっくりと館の扉を開く。

 内部の廊下は全て青白い氷に覆われており、かなりの数の実体を持たないアンデッド(幽霊に近い)が屋敷内を徘徊していた。

 ステアーが一歩建物に足を踏み入れると、徘徊していたアンデッド達がステアーに向け一礼し始めた。

 

「御勤めご苦労様!……じゃあアズリエル、俺についてきて。大丈夫、俺がいる限り彼らは攻撃してこないから」

 

「えぇ」

 

 そう言って、出来る限り離れないようアズリエルをついてこさせる。

 おそらく彼女程の強者なら、ここの徘徊するアンデッドが襲ってきても倒せそうだが、争いは出来る限り避けたいというのが、ステアーの考えだ。

 

「ねえ、ステアー。あのアンデッドは一体何のためにここにいるの?」

 

「さっきも言ったように、この館は“氷結牢獄”っていう名前だ。つまり、ここはナザリックにおける牢獄だ。変に罠を仕掛けたり色々細工するより、彼等に任せた方が安心なんだ」

 

「へぇ、そうなの。というか、牢獄ってことはつまり」

 

「その通り、さっき俺が捕えた陽光聖典の隊員たちも、この氷結牢獄に送り込まれて……おや?」

 

 突然足を止めるステアー。

 どうしたのかアズリエルが聞こうとすると、静かにするようジェスチャーされる。

 音を立てずに耳を澄ませてみると、奥の方から何やら声が聞こえてきた。

 いや、声というよりは、悲鳴に近いだろうか。

 

「………どうやら、ニューロニストが陽光聖典の隊員たちに色々情報を聞き出してる真っ最中みたいだな。折角だ、ちょっとだけ挨拶しに寄り道するか」

 

 再びステアーが歩き始める。アズリエルもついて行くと、聞こえてきた悲鳴がさらに大きくなっていった。この世のものとは思えないような、断末魔に近い悲鳴だ。

 

 暫く歩くと、一つの扉にたどり着く。どうやらここから悲鳴が鳴っているようだ。

 

「ここが、特別情報収集官ニューロニスト・ペインキルが情報収集や拷問を行う“真実の部屋”だ。さて……」

 

 扉の前に立つと、ステアーは少し強めに扉をノックする。

 すると部屋の奥から、はーいという女性らしき口調のだみ声が返ってくる。

 そして突然悲鳴が聞こえなくなると、扉がゆっくりと開かれ、中からボンテージを着用した、膨れた体の半魚人のような謎の生き物が姿を現した。

 驚きなのは、その見た目に反し花のようないい香りが漂ってきたことだ。

 

「あら~、どなたかと思ったら、ステアー様じゃな~いですか〜。お会いできて光栄です~」

 

「久しぶりだな、()()()()()()。相変わらず肌綺麗だな」

 

「はい~。お肌の手入れは、乙女の命ですから~。そうおっしゃるステアー様も、今日は一段とイケメンに磨きがかかっておりますよ~」

 

「ハハハ、そうか。そういわれると嬉しいよ。ところで、さっきまでここで悲鳴が聞こえてたんだけど、もしかして仕事中だった?」

 

「えぇ~、ステアー様が送ってくださった人間の皆さんに~、色々聞いているところでした~。でも久しぶりの客人でしたので~、少~しだけの間眠ってもらいました~」

 

「成程ね。ちなみに、今の段階で分かったことってある?」

 

「1つだけあります~。といっても、ミーティアさんが調べてくださったんですけどね~。実はあの人たち、み~んな特殊な魔法がかけられてまして~、特定の質問を三回すると自動で発動して~、答えた人間を死なせる仕組みになっていたんですよ~」

 

「えっ、そうなの?よく気が付いたな、ミーティア」

 

「本当、助かりました~。ミーティアさんが居なかったら、私すぐに死なせてましたから~。ところで、ステアー様のとなりにいる人間は、一体どちら様~?」

 

「あぁ、紹介するよ。アズリエル・フェイティ。ニューちゃんが今拷問している陽光聖典が所属している国、スレイン法国の最重要秘匿機構にして、漆黒聖典の元番外席次だ。俺が見てきた人間の中じゃ、多分一番強いんじゃないかな」

 

「あら~、そうなんですか~。初めまして、ニューロニストよ~ん。ニューロニストちゃんって呼んでね~」

 

「え、えぇ……」

 

 言葉は返すものの、ちょっと引いてるように見える。

 流石にニューロニストは、アズリエルには少しきつかったか?

 

「あ〜ら、もうこんな時間。そろそろ魔法が切れますわ〜。ステアー様、私は仕事に戻ります~」

 

「そうか。すまないな、仕事中に邪魔してしまって」

 

「とんでもございませんわ!むしろ私なんぞの為に声をかけてくださり、ありがとうございます〜」

 

「ハハ、それじゃあ仕事頑張って」

 

「はい〜」

 

 そう言って、ニューロニストは部屋へ戻り、また悲鳴を響かせ始めた。中で一体どんなことが起きているのか気になるが、それは今度の機会にでも聞こうと考え、俺は再び目的地に向かって歩き始めた。

 

「アズリエル、ニューロニストに会ってみた感想を一言」

 

「…………ノーコメントでいいかしら」

 

「うん、何となくその答えは予想してた」

 

 俺も始めて会った時、アズリエルみたいな反応をしてた。

 まぁ中身は意外と乙女で、拷問の他に美容とかにも詳しいから、女性の味方であることは確かだと思う。

 

 

 

 

 それから暫く歩き、俺達は館の最奥地と思われる扉の前に着いた。

 

「さて……アズリエル、ちょっとそこの壁に手を出してみ」

 

「壁?こうかしら」

 

俺の指示通りにアズリエルが壁に手を出すと、壁から白く透明な手が現れ、何かを彼女に手渡す。タブラ・スマラグディナお手製、とても醜悪な造形で作られた赤ん坊っぽい人形、カリカチュアだ。

 

「………何これ」

 

「カリカチュア。俺の友人が作った人形でさ、この扉の先に進むのに必要なんだ。結構独特というか、不気味な造形だろ?」

 

「えぇ、そうね。でも、さっきの半魚人に比べればまだ可愛い方よ」

 

「そうか」

 

 普通なら初見でカリカチュアを見た時『ぎゃあ!』とか『ヒィッ』とか叫んで驚くのだが、ニューロニストのインパクトが強すぎたのか、アズリエルは特に驚くような表情もせず、真顔でステアーに人形を手渡した。

 

「それじゃ、入るか。その前に一つだけ注意しておく。この先ホラードッキリがあるけど、絶対に何があっても攻撃をしたり手を出してはだめだから」

 

「ほらーどっきり?」

 

 聞きなれない単語に首をかしげるアズリエルを他所に、ステアーは扉を開く、室内から何百もの赤ん坊の泣き声が輪唱する音が響き始める。しかしその泣き声の発端と思える生き物の姿はどこにも見当たらない。否、部屋の至るところから気配を感じるため、実際は見えないようになっている、が正しいか。

 

 特に音を気にすることなくスタスタと足を踏み入れるステアーに続いて、アズリエルも部屋に入る。すると部屋の中央と思われる場所に、揺りかごを揺らし続ける女性らしき人物が立っていた。

 長い黒髪に、真っ黒な服を着用している。顔は長い髪に隠れていて、はっきりとは見えない。

 ステアー達が入ってきたことに気づいていないのか、女性は顔を上げずひたすら揺りかごを揺らしている。

 

「ねぇ、気づいてないみたいだけど」

 

「仕方ないよ、だってあの子は恒例行事を終わらせない限りマトモに会話すらできないんだよ」

 

「恒例行事?」

 

「あぁ……………そろそろ来るぞ」

 

 何かを予兆し、ステアーは女性に目を向ける。すると急に揺りかごを揺らすのを止め、中に入っている赤ん坊……みたいな人形を取り出した。

 

 

 

「……ちがう……ちがう…ちがうちがうちがうちがうちがう!」

 

 

 

そう呟くと、彼女は手に持っていた人形を全力投球で壁に叩きつける。投げ飛ばされた人形は余りの威力に原型を保てず破壊される。

 

「私の子……私の子ぉ…私の子私のこわたしのコわたしノコワタシノコワタシノコォォ!!」

 

狂ったように叫びながら、歯をガチガチと鳴らし始めると、それが合図となったのか、不可視状態になっていた泣き声の発端であるレベル10後半のモンスター【腐肉赤子(キャリオン・ベイビー)】が大量に湧き始める。因みにこの腐肉赤子(キャリオン・ベイビー)は、全部タブラさんが自腹を切って大量購入し部屋の至るところに設置しまくったモンスターだ。

 

「うわぁ……相変わらずナイスピッチング」

 

「この状態で、そんなこと言えるの貴方ぐらいじゃないかしら」

 

「この状態で落ち着けてる君もおかしいけどな?」

 

「………お前達か」

 

「おっ、来るか?」

 

俺とアズリエルの気配を感知した彼女は、長い髪の奥から皮膚のない顔と子供を求める必死な目を俺たちに向け、何処からか巨大な鋏を取り出し構えた。

 

「お前達、お前達お前たちおまえたちおまえたち、こどもをこどもをこどもをこどもをさらったなさらったなさらっタなさらっタナサラッタナサラッタナァァ!!」

 

「ねぇ、あれ貴方に殺気を放ってるみたいだけど」

 

「大丈夫、あれは仕様だ。だから絶対に攻撃はするなよ」

 

アアアアァァァァァァァ!!

 

人間が究極まで発狂した時に叫びそうな絶叫を上げながら、彼女は一気にこちらに距離を詰めて来る。そして鋏を持った腕を大きく振りかぶって攻撃しようとし─────

 

 

 

 

俺に当たる直前で動きを停止した。

 

「……へぇ」

 

「(やっぱり、ユグドラシルでのシステム上の設定は残ったままだったか)ごめんね、ニグレド。君の子供はここにいるよ」

 

 動きが静止したニグレドに先程アズリエルから受け取った赤子のカリカチュアを差し出すと、ニグレドはその人形を我が子のようにゆっくりと受け取った。

 そして二度離さないと言わんばかりの抱き方で人形を揺りかごにそっと戻す。彼女が俺達に振りかえると……

 

「この度はナザリックへ帰還されたこと、心よりお喜び申し上げます、ステアー様」

 

 さっきまでの狂った性格はどこへやら、皮膚のない顔をこちらに向け、とても真面目な喋り方で俺に一礼する。

 これが彼女の()だ。

 

「…………もう、驚かないわよ」

 

 昨日今日と驚きの連続しかなかったアズリエルは、もうニグレドの性格が変わった程度では驚かなくなっていた。

 まぁ、流石にあれだけ色々知らないことが目の前で起きたら、そうなるよな。俺だって、なるよ。

 

「それで……アルベドが言っていた現地協力者というのは、そこのハーフエルフでございますか?」

 

「おっ、もう連絡来てたのか。その通り、彼女が現地協力者だ」

 

「そうでしたか……初めまして、ハーフエルフさん?私はニグレドよ、今後よろしくね」

 

「ふぅん。アズリエル・フェイティ、後さっきの吸血鬼に言うの忘れてたけどエルフっていうのやめて」

 

「あら、それは失礼。以後気をつけるわ」

 

 ニグレド。

 

 タブラさんが作ったアルベドを含む三姉妹の内の長女。

 魔法詠唱者であり、情報収集などの調査系に特化した職業構成になっている女性で、生物・無生物問わず目標を即座に発見することができる。

 黒の喪服を身に纏っており、長い黒髪に隠れた、表皮が無く筋肉のみで構成された顔が特徴だ。瞳や歯は部分的に見れば綺麗で美しいのだが、表皮がないために皮・唇・瞼が存在しないことから、全体としては気持ち悪いという印象を持ちやすい。

 また彼女は、

 

1.最初に揺りかごに入っている人形を投げ捨てる。

 

2.『自分の子を攫った』と目の前の相手に襲い掛かる。

 

3.入り口で手に入れた赤子のカリカチュアを相手から受け取る。

 

 この奇抜な寸劇を行ってからじゃないと会話を始めることが出来なくなっている。

 ちなみにカルマ値は覚えていないが、種族を問わず子供という存在に慈悲深いという設定がある。

 うん、何かセバスと似た優しさがあるみたいで、結構気に入っている。

 

「して……ステアー様がこの部屋に来られたということは、失われる世界(ロストワールド)に向かわれると考えてよろしいのでしょうか?」

 

「おっ、よく分かったな」

 

「つい先ほど、フィアから連絡が入ってきました。今夜は失われる世界(ロストワールド)で宴があり、今回初めてアインズ様をご案内するため、楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)の準備をしてほしいと」

 

「成程、なら話は早い。今回俺も使うから、担当者の君に案内してほしい」

 

「承知いたしました」

 

 そう言って、ニグレドは揺りかごの下に足を忍ばせると、カチッというボタンを押す音が鳴る。

 すると、氷が張られている床の一部が動き出し、隠し通路らしきガラスの階段を出現させた。

 

「では、こちらへ」

 

 ニグレドが階段を下りていき、俺とアズリエルも彼女について行く。

 階段は螺旋状に続いており、一定の間隔で赤い松明と青い松明が交互に置かれている。

 この二つの松明は、失われる世界(ロストワールド)へ続く道として作成した俺とタブラさんをイメージして作ったものだ。赤が俺で、青がタブラさんだ。

 

 さてここで、何故ニグレドに失われる世界(ロストワールド)への入り口を担当させたかについて答えておこう。

 そもそも、失われる世界(ロストワールド)というのは、俺がまだソロだった頃に偶然手に入れた世界級(ワールド)アイテム、【永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)】で作った俺の世界だ。

 永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)とは、制作会社に幅広い範囲でシステム変更を要請できるアイテムで、わかりやすく言うと『ドラゴ〇ボールを七つ集めると願いが叶う』がこれ一個で出来るという代物だ。

 しかもソロプレイヤーでフレンドが一人もいなかったころに手に入れたため、誰からの目も気にせず自由に使うことが出来た…………おい、今ボッチって考えただろ。失礼な、フレンドがいないのはゲームの中だけで、現実では鈴木さんとか会社の友達が沢山いたから、ボッチじゃねぇぞ。

 

 それはさておき、偶然にも永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)を手に入れてしまった俺は、ユグドラシルを始めた時からずっとやりたいと思っていたことを実行することにした。それは

 

 『特殊な扉でしか行くことのできない、自分だけの楽園をつくる』

 

 だって考えてもみろ、俺だけの楽園だぜ?いつかは作りたいと思うじゃないか………えっ、楽園を作りたいと考えた理由とかいらないから、さっさと失われる世界(ロストワールド)作った経緯教えろって?わかった、わかった。

 

 それで、だ。早速永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)を使って運営に掛け合って見たところ、最初は渋ったが、世界級(ワールド)アイテムは世界そのものを作りかえるほどの力があるんじゃないかという結論に至り、更に俺が当時最強の職業人類最終試練(ラスト・エンブリオ)を取得していたことから、特別に東京都……よりは狭いが、それでも十分広大な世界を手に入れることに成功し、更に【楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)】という、俺の世界に行くために必要なアイテムまで作成してくれた。運営様様だな。

 

 そんなわけで一つの世界(ちなみに当時はまだ名前を決めてなかった)を手に入れた俺は、その後まぁ色々なんやかんやあってギルド:アインズ・ウール・ゴウンのメンバーになり、その証として楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)をナザリックに配置させることに決めたのだが、一体どこに置こうか悩んだ。最終的にメンバーの力を借りようと全員が集まった時に話したところ、設定魔のタブラさんが『どうせならナザリックの裏ルートでしか行けないシークレットエリアにしましょうよ』と提案してくれた。それは良い考えだ、と思った俺は、早速ナザリックのどこに裏ルートの入り口を作るか考えようとした時、いたずら好きのるし☆ふぁーさんが『牢獄の中に楽園があるって面白くない?』と半分冗談で言ったのだが、それが珍しく承諾され、流れで氷結牢獄の奥に配置することに決まった。その奥の部屋には、既にニグレドが配置されていたのだが、タブラさんは『楽園へのルートを守る存在としては最適じゃないか?』ということになり、それから今に至るという訳だ。

 つまり、ニグレドが担当者になったのは、ある意味偶然だったというわけだ。今思うと、ニグレドがいきなり襲ってくるような部屋の地下に楽園への道が存在するなんて、誰も思わないだろうな。

 因みに、失われる世界(ロストワールド)という名前はメンバー全員で決めた名前だ。結構カッコいいだろ?

 

 

 と、そんな説明していたら、いつのまにか階段の一番下にたどり着いた。

 

「到着いたしました、ステアー様」

 

「へぇ、牢獄の中にこんな大きな扉があったのね」

 

 ニグレドが到着を伝え、アズリエルは目の前の扉を上から下へ向かうように見つめた。

 

 高さは約40m、おそらくガルガンチュアよりも大きい扉。

 全体は白で統一されており、様々な種族を思わせる紋章がいくつも彫られている。

 これが楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)だ。

 

「では、私はこれで失礼いたします」

 

「えっ、もう行っちゃうの?折角だし、君も入ればいいじゃん」

 

「至高の御方の御気遣い、感謝いたします。ですが、私はあの部屋から外に出ることは出来ないのです。ステアー様のご期待に応えられず、誠に申し訳ございません」

 

「そっかぁ…………わかった。ありがとう、ニグレド」

 

 そう言って、ニグレドは来た道を戻っていった。

 その様子を見た後、扉を開けようとした時、

 

「…………あれ、ステアーさん?まだ入ってなかったんですか?」

 

 突然後ろから声を掛けられ、振り向くとそこにはアインズさんとアルベド、階層守護者達、そして戦闘メイドプレアデスの面々が揃っていた。

 

「あ、アインズさん。えぇ、今から入るところなんです」

 

「そうなんですか………それで、この扉が例のやつですか?」

 

「はい。楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)……失われる世界(ロストワールド)に続く、楽園への入り口です」

 

 目の前にそびえたつ巨大な扉に、NPC達は感嘆の声をあげた。

 ふと、そのメンバーの中に、フィアがいないことに気付いた。

 

「あれ、フィアはどうしたんですか?」

 

「彼なら先程、私達の代わりに階層守護者の疑似人形(レプリカ・ドール)を設置しに行ってくれました。ちなみにニークスはフィアに人形を渡した後、宴の料理の準備があると言って先に向かってました」

 

「あー、そうなんですか……まぁ、いいか。フィアとはこの後嫌でも会えるんだし」

 

「ですね」

 

「うし、そんじゃ早速……って、あれ?皆どうしたの?」

 

 早速扉を開けようと思ったら、NPC達が浮かない顔をしていることに気が付いた。

 あれ?俺なんか変なこと言ったか?

 

「……ステアー様、本当によろしいのですか?我々階層守護者、そして戦闘メイドプレアデスが、ステアー様がご創造されたという世界………失われる世界(ロストワールド)に入り、更にはステアー様を祝われるための宴に参加してもよろしいのでしょうか?」

 

「…………なんだ、デミウルゴス。そんなこと気にしてたのか?勿論、良いに決まってるだろ」

 

「デスガステアー様、我々ガ宴ニ参加スルノハ、余リニモ不自然デハナイカト…」

 

「何言ってるんだ、コキュートス。俺の宴に皆が参加する、どこも不自然じゃないだろ?」

 

「そうは仰られますが、我々は至高の存在に忠義を尽くす存在、従者の身分でございます。ステアー様の宴に我々が参加するのは、高貴な貴族のパーティーに一般人が参加するようなものでございます。やはり我々には…………」

 

「んもう、セバスも固いなぁ。というか、もしかして皆そんなこと考えてるの?」

 

 俺の言葉に、全員が頷く。いや俺どんだけ高貴な存在なんだよ。

 あまりの固い考え方に、俺は一回ため息を吐いた。

 

「はぁ………それじゃああれか、『お前ら全員宴に参加しろ』って命令されないと参加しないのか?違うだろ。宴っていうのは、主催者がいて、主役がいて、参加者がいて、皆で全力で楽しむもの、命令されてやるものじゃないだろ。一々細かいこと気にしてるようじゃ、楽しむ物も楽しめないだろ。それに、俺自身が『そうしていい』って言ってるんだ、それ以上の言葉は必要ないだろ」

 

「「「「「「「ッ?!」」」」」」」

 

 ヤバい、半分イライラした状態で説教みたいになっちまった。俺そういうの柄じゃないのに。

 俺どちらかというと、説教される側だぞ(主にエリナに)。

 

「………すまん、ちょっと柄でもないこと言ってしまったね。とにかく、君達には俺の宴に参加してほしいってわけ。宴ってのは、人数が多いほうが楽しいからな。それに、俺って君達が俺の世界に来てどんな反応を示してくれるのか結構楽しみなんだよな。まっ、そういう訳だから、自分達に参加資格があるのかどうかとか、そんな話はもう無しだ!わかったか?」

 

「「「「「「「はっ!」」」」」」」

 

「うし、いい返事だ。それじゃあ早速開けるよ……あ、その前に先に謝っときますね、アインズさん」

 

「えっ、俺?」

 

 そう言って、俺はアインズさんにニヤリとした表情を浮かべてから、扉に振り向いた。アインズさんは首を傾げたが、彼はこの後地獄を見ることになる。何故ならこの扉のパスワードは……

 

「スゥ……〈Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)〉!」

 

「っ?!」

 

 そう、これアインズさんの黒歴史、パンドラズ・アクターの決め台詞がパスワードになってたんだよな~。

 

「(おいぃぃぃぃぃ、何で俺の黒歴史をパスワードにしてるんですか、ステアーさん!)」

 

「(本当にごめん!でもこれ僕が考えたわけじゃなくて、るし☆ふぁーさんが)」

 

「(あいつ、こんなところに爆弾しかけやがって!今度会ったらマジで許さん!ステアーさん、後で絶対、ぜーーーったいにパスワード変えてくださいね!頼みますよ!)」

 

「(わかってます!)」

 

 いや~、本当にごめんね、アインズさん。本当に後でちゃんと変えとくから。今回だけは許せ。

 

 そんなこんなで、パスワードが入力された楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)は重厚な音を立ててゆっくりと開いていく。扉の隙間からは、光が差し込んできた。

 

 

 

「さて……待たせたな、皆。ようこそ、生きとし生けるもの全てを受け入れる俺の楽園────失われる世界(ロストワールド)へ!!」




作者は原作のオーバーロードをほとんど知りません。そのため、この回に登場したニューロニストとニグレドの性格等は、ハーメルンに投稿されている他作者様のオーバーロード二次作品を参考にさせてもらっております。

次回、やっと『失われる世界』に行けます……これの宴編が終わったら、オリキャラ等を纏めようかなって考えてます。

※『反転世界』の表記を『失われる世界』に変更しました。


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失われる世界(ロストワールド)

お久し振りでございます、皆様。
大変長らく投稿しておらず、申し訳ございませんでした……





──失われる世界(ロストワールド)

 

 ステアーさんが俺達のギルドに入った時、その証として設置してくれた楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)から向かうことができる、彼の理想郷。

 

 単語自体は、度々ギルドメンバー同士の会話の話題として何度か出されたことがある。しかし、その世界に行ったことがあるメンバーはたったの3人、ブルー・プラネットさん、タブラ・スマラグディナさん、ヘロヘロさん(ヘロヘロさんは、ステアーさんに半ば強制的に連れていかれたらしい)だけ。無理もない、俺達のギルドのメンバーはみんな社会人、つまりユグドラシルの傍らブラック企業レベルの会社で必死に働いているから、時間が取れなかったんだ。無論、俺も同じ理由で行く機会が取れなかった。

だから、彼等が『行ったことがある』と話した時、メンバー全員で三人に質問攻めしたのを覚えている。そして、そんな俺達の質問に、三人は口を揃えてこう言った。

 

『『『ステアーさん、凝り性にも程がある!』』』

 

 ブルー・プラネットさんやヘロヘロさんならまだしも、まさか1番おまいうなギルド屈指の設定魔タブラさんでさえそう言うとは思わなかった。

 詳しく教えてもらおうとしたが、全員『見た方が早い』の一辺倒で全く教えてもらえなかった。

 結局俺はユグドラシルのサービスが終わる日になってもステアーさんの世界を見ることもなく、そのままで終わりを迎えるつもりでいた。そう考えると、アバターの姿でナザリックごとこの異世界に転移したのは、ある意味嬉しい事故なのかもしれない。

 

 そして今日、ステアーさんがナザリックに帰還したことを祝うための宴が『失われる世界』で催されることが、ステアーさんのNPC達の考えにより決まった。そのことをフィア・ジークフリートから説明された時、緊張すると同時にワクワクもした。ステアーさんのNPC達に、心の奥から親指を立てて賞賛を送りたくなった。

 

 

 

 それから暫く時間が経った現在、扉は開かれ、俺はその失われる世界に初めて足を踏み入れる。そして次の瞬間、一緒に進んだNPC達全員と口を揃えて叫んだ。

 

『暑っ?!!』

 

 目の前に広がる城下町のような風景とか、遠くに見える巨大な城とか、ナザリックのNPCの人口より遥かに多そうな住民らしきNPC達にもツッコミを入れたい、入れたいがそんな事言ってられないほど暑い。

 先程まで氷結牢獄にいたとは思えないほどの熱気だ。デミウルゴスが担当してる第七階層の溶岩とは違う、ジメジメとした暑さ、というか冗談抜きで暑いんだけど!何これ、バグが何かか?!

 

「このジメジメとした暑さ、季節的には梅雨明けの夏、時期的には7月前半あたりか。しくったな、シンとニークスに今の季節教えてもらっとけばよかった」

 

「ちょっと待ってください、ステアーさん。その言い方からすると、もしかしてこの暑さ、ステアーさんの仕様ですか?」

 

「はい、そうです。ついでに言うと、季節は今夏ですが、3ヶ月経つ毎に季節が春夏秋冬を循環する形でフィールド効果が大きく変化するんです。といっても、ネットの情報が元なので少し誇張気味なところもあるかな〜、とは思ってます。後季節に関係なく天候が快晴・晴れ・曇り・雨、それと冬限定で雪にランダムで変化するようになってます。更には気温も季節毎に変化する値の範囲が決まってて……」

 

 何の疑問もなくさらりととんでも無いことを熱く語り始めるステアーさん。内容が壮大すぎたのか、それとも暑さで少し思考が遅れてしまったか、NPC達は皆ポカーンとしていた。

 その様子を見て、あの三人の言葉の意味を理解した。成る程、これは確かに凝り性ってレベルじゃない。もはやユグドラシルを構成するプログラマー・クリエイターのレベルだ。設定が細かすぎて、既に何を言ってるのか全く理解できない。

 

 目は無いはずなのに、思わず眩しいと手を覆ってしまう太陽。

 時々吹いてくる風に規則性は感じず、またその強さもバラバラ。

 さらに、この妙にジメッとした熱を持つ気候。

 

 異世界に来たことで設定が反映されているこの現状で、ここまで現実感のある状況にするには、相当な細かい設定が必要なはずだ。一体どんだけ設定盛り込んだんだ、この人。

 

「(しかし、暑いな。指輪の効果でフィールド効果は受け付けないはずなんだけど……無効化されてるのか?それとも……ん?」

 

 そんな事を考えながら、視線をステアーさんに向けると、その後ろに()()がいた。

 何となく人型には見えるが、手のひらレベルの大きさだ。

 髪は黒く、三つ編みが2つ、後方で結ばれている。

 髪と同じ色のワンピースを着用しており、背中から四枚の半透明な羽が生えている。

 そして目元が真っ暗で見えないが、殺気のような怒りを感じる。

 恐る恐るステアーさんに知らせる。

 

「ステアーさん?ステアーさーん?」

 

「ん?どうしたんですか、アインズさん?ここからがいい所なのに」

 

「いや、あの、後r」

 

 

「こんな猛暑の日に宴を上げようとしている私達を放って何処ほっつき歩いてるかと思ってたら……入り口から入ってすぐの場所で、階層守護者と戦闘メイドプレアデスとアインズ様のみんなにこの世界について呑気にベラベラ話していたなんて、流石は副ギルドマスターにして、反転世界の創造者ね、お勤めご苦労様〜」

 

 

 刹那、湿った空気の暑さを忘れてしまうほどの冷たい空気が漂う。ステアーさんがビクッと肩を震わせ、顔色が青ざめゆっくりと後ろを振り返る。

 

「あ、え、えーっと……エリn」

 

「───とでもいうと思ったか、こんの馬鹿マスタァァァがぁぁぁぁぁーーッ!!」

 

「ぐべらッ!?」

 

 瞬間、怒りを露わにした小柄な少女の叫びと共に強烈な飛び蹴りがステアーさんの顔面にクリーンヒットする。受け身をとれず体勢を崩したステアーさんが地面に尻餅をつくと、少女が凄まじい剣幕でステアーさんに詰め寄る。

 

「あ・ん・た・ね・ぇ、来るなら来るで寄り道せず真っ直ぐ来なさいよ!何ここで無駄話を彼等に駄弁ってるのよ!そもそも、普通考えればこの暑さの真下で暑い服着させられたままベラベラ喋られたら、熱中症になるとか脱水症起こすとか思わないの!?話したいなら話したいなりに、夏服を着てもらうか、せめて薄着になってもらうとかしてもらいなさいよ!」

 

「あ、あはは、ごめんエリナ」

 

「世の中の全てごめんで済むなら、警察はいらないっつーの!何でもかんでも謝ればいいなんて思ったら大間違いよ!つーか、笑ってごまかすな!大体ね、昔から思ってたけど、マスターはいつも……」

 

 ガミガミとマシンガンの如く説教を始める少女。あまりの勢いに、本来なら『不敬です!』とか叫んで殺しにかかりそうなNPC達も介入出来なくなっている。

 

「止めなくていいの?」

 

「うーむ……まぁ、いいんじゃない、か?ステアーさん曰く、アレがステアーさんの望んた従者と主人の関係、らしいからな」

 

「従者と主人というより、上司と部下じゃないの?しかも立ち位置逆だし」

 

「それについては否定しない」

 

「ご心配はいりません。アレは、エリナちゃんなりのマスターに対する()()なのですから」

 

 彼の隣に立っていたアズリエル・フェイティの質問に答えるように、今度は右側から声が響く。

 

 背中を隠すほどにストレートに伸びた薄い黄緑色の髪。

 露出度がとても高く、腰の長いスカートがわりの布が棚引く奇抜な服。

 右足には膝を隠すほどの長いブーツ、左足にはくるぶしを隠す程度の短い靴下と革靴。

 アルベドの色違いの白い翼が腰から一対生えており、毛に覆われたエルフのような耳があった。

 

「本日は全域で晴れ、平均気温は33℃の記録的猛暑日となった真夏の失われる世界(ロストワールド)へようこそお越しくださいました。今回の宴につき、皆様の案内役を務める事になりました、ヴァルプルギス幹部が一人、ミーティア・デューク・レライエでございます。気楽にミーティアとお呼びください。さて、見ての通りエリナちゃんは一度説教を始めますと暫く止まりません。ですので、先に皆様を宴会場へとご案内いたします。どうぞ、こちらへ」

 

 

 

 

───30分後

 

「反省した?」

 

「本当、申し訳ございませんでした」

 

 目の前で腕を組んで、冷たい視線を向ける少女に、俺はただ正座して謝罪するしかなかった。

 

 エリナ・トレイニー・バルバトス。

 ヴァルプルギス幹部の一人で、とある漫画のキャラクターをモデルに俺が一から作成した精霊女王(ティターニア)

 身長わずか15cmという小柄な体の持ち主。前の伝言石(スマホ擬き)越しの話し方から大体予想できるだろうが、所謂ツンデレだ。しかし本当はお人好しな部分がある優しい性格で、何だかんだ周りのことを気にしてくれている。説教するのも、そこからきている……と信じたい。

 バリバリの魔法専門職で、回復魔法・攻撃魔法・強化魔法・弱体化魔法・即死魔法・召喚魔法等、ユグドラシルに存在するほぼ全ての第10位階魔法と一部の超位魔法を会得している、優秀な魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。

 しかし会得している魔法のほとんどが詠唱の長いものだったり、MPの消費が激しいものだったりとデメリットも多く、またそれらを優先してしまうが故に耐久力も低い。なので基本、攻撃よりも味方のバフと敵のデバフを優先して魔法を使わせる。

 それともう一つ、彼女が会得している超位魔法に【厄災の終日(エンドデイ・オブ・カオス)】という、エリナの最後の切り札と呼べる超多重状態異常付与攻撃魔法がある。これは、ユグドラシルに存在する全ての状態異常を範囲5m以内の敵全てに付与させるという迷惑極まりない魔法だ。昔、あるDQNギルドを攻略した際に一度だけ彼女に使用させたことがあるが、それはもうギルドに惨状に惨状といった大混乱を巻き起こし、運営から使用可能チャージ時間の修正が急遽行われたほどだ。

 

「全く……やっと話せると思ったのに、説教させないでよ

 

「今、なんて?」

 

「何でもないから!」

 

「んもう、素直じゃないですね〜、エリナちゃんは。そこが美徳でもあるのですが」

 

「あれが美徳なの?」

 

 説教が終わると、そこにニコニコしながら一人の女性が近づいてくる。その隣には、俺から借りた上着を脱ぎ、袖をまくって暑さをしのぐアズリエルもいた。

 

 ミーティア・デューク・レライエ。

 ヴァルプルギス幹部が一人で、こちらも同じくある小説のキャラクターをモデルに作成した人魚姫(セイレーン)だ。

 人魚姫なのに何故羽が?と思う人も多いので一つ解説しておくと、セイレーンとは元々ギリシャ神話に登場する半人半鳥の怪物、つまり魚とは何の関係もなかった。諸説はあるが、同じ半人半鳥のハーピーと区別するためにあえて人魚として伝えられたとか。しかしユグドラシルはその辺りに詳しいのかわからないが、人魚姫と称しながら、内容は鳥人と人魚の二つが統合進化した特殊な種族セイレーンとした。つまり、表記が人魚姫でも、セイレーンだから翼もある事になるというほぼゴリ押しな設定になった。お陰でミーティアに対応できないフィールドはほぼ存在しない。

 話を戻そう、彼女はエリナとほぼ同時期に作成したNPCで、エリナとは形式上姉妹のような関係を持つ。仲はまぁ、見ての通りだ、察してくれ。

 誰にでも敬語で話し、笑顔が絶えない好奇心旺盛な性格で、普段は大人しいが一度気になるものを見つけるととことん調べたがるのが癖。

 サブとして高度な鑑定スキルを持ち、世界級アイテムを除く全てのアイテムの名前と効果を看破する《真実の目》というスキル技を持つ。メインはエリナと真逆の近接型、より詳しく言えば彼女の職業ワールド・ライダー(ワールド・チャンピオンのライダーバージョンと思ってくれればいい)による騎乗スキルでの超高速攻撃を得意としており、エリナとの相性は抜群に高い。ミーティアが先陣を切り、エリナが後方支援する、戦闘においてほぼ確立した戦略だ。

 そのかわり、魔法がほとんど使えず、伝言も送れない。だからいつも、伝言石を携帯している。

 

「ミーティア!久し振りだな」

 

「マスタ~♪やっと面向かって会話することが出来るようになりましたね~♪これでもう、マスターと私達との会話という、傍から見てて悲しい一人芝居を見て精神が痛むこともなくなります~♪」

 

「ガフッ」

 

 後、彼女は心で思ったことをそのまま口に出してしまう正直者。その為、時々他人の心象を抉るようなことを言ってしまう。ちなみに今のセリフは、俺の精神に50のダメージを与えた。効果は抜群だ。

 

「何ダメージ受けてるのよ」

 

「あ、申し訳ございません!私ったらまた心で思ったことを…」

 

「い、いいんだミーティア、事実だから……コホン。ところで、アインズさん達は?」

 

「アインズ様方でございましたら、先程私が宴会場へご案内してきました。おそらく今頃は、この世界の住民及びヴァルプルギス幹部の皆様と交流を深めているかと」

 

「そうか。で、アズリエルはどうしてここに?」

 

「そこのミーティアって奴に、ステアーと一緒に行動して欲しいって言われたのよ。私一人だと、何をするか分からないからって」

 

「成る程、納得」

 

 何の疑問も持たずに肯定すると、アズリエルから無言の肘打ちを頭に食らわされる。結構痛い。

 

「あら、ごめんなさい。うっかり肘が滑ってしまったわ」

 

「うっかり肘が滑るってどういう事だよ」

 

「決して貴方の言葉にイラッてなってわざとやった訳じゃないから」

 

「(絶対わざとやったな、こいつ)」

 

「何漫才始めてんのよ……ほら、さっさと行くわよ。みんなマスターを待ってる」

 

 呆れたような声で、こっちよ、と手招きしながら進み出すエリナと、それに微笑みながら歩き出すミーティア。その後を追うように俺は立ち上がり、アズリエルもこの城下町を進む事にした。



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多種族交流都市

皆様、お久しぶりです。

資格試験が終わり、少し落ち着いてきたのでまた投稿再開しようと思います。

冒険者編はもう少し先かなぁ……

という訳で、宴会編(前編?)です。どうぞ。


 宴会場に向かう途中、アズリエルは物珍しそうな目で城下町を見渡していた。

 それは勿論、あの大墳墓の地下にこのような町が存在していたことへの驚きもある。この町が全てステアーによって作られたということも理由としてある。あるにはあるが、それらは彼女がこの町に興味を示した理由としてはほんの一部程度、些細なものである。

 

「すてあーさま!おかえりなさい!」

 

「ただいま。ちゃんと毛並みは綺麗にしてたかチコ?」

 

「うん!それとね、これすてあーさまにぷれぜんと!」

 

「ありがとう。これは、俺の絵か。チコが描いたのか?」

 

「そうなの!ちこ、しんおねえちゃんにおしえてもらって、がんばってかいたの!」

 

「おぉ、頑張ったな!凄く綺麗に描けてるぞ」

 

「えへへ。それじゃあ、おかあさんとおとうさんがまってるから、ちこ行くね!」

 

「怪我しないように気をつけて戻れよ~」

 

「はーい!すてあーさまもはやくきてね!」

 

 ある時は獣の耳と尻尾を生やした5歳ぐらいの少女に、

 

「よぉ、我らが大将。やっとご到着ですかい?」

 

藍真(らんま)か。やっとというか、本当はもっと早めについていたんだけど、エリナの説教を喰らってさ」

 

「それはマスターがダラダラアインズ様達に熱弁してたからでしょうが!私が悪いみたいに言わないでよね!」

 

「はっはっは!相変わらず仲がよろしいようで」

 

「全く……ところで、なんであんたがここにいるのよ。参加者だったはずでしょ?」

 

「それがですね、実はアマテラスからこの町に着いた後、若頭(わかがしら)が迷子になってしまいましてね、今捜している途中なんですわ」

 

「そういえばあいつ、極度の方向音痴だったな……俺も手伝おうか?」

 

「気持ちはありがてぇが、大将はこの後忙しいでしょう?ここはあっしらに任せて、大将は気にせず先に宴会場にむかっててくださいや。見つけ次第、すぐ連れていきますんで」

 

「そうか、わかった。それじゃ、また後で」

 

「あいよ!」

 

 ある時は額から大きな一本角を生やした、東洋の剣士を思わせる風貌の男に、

 

「あれ、ミーティア先輩に、ステアーの兄貴じゃないっすか?何してんすか、こんなところで?」

 

「やっほー後輩君。私達は今マスターとのハーレムデートを…」

 

「宴会場に向かう途中だよ、リュウセイ」

 

「むぅ、マスターは意地悪です。後輩君の前で冗談ぐらい言わせてください」

 

「ミーティアの冗談は誤解を生みやすいんだよ。そういうリュウセイこそ何やってるんだ?」

 

「自分は今、先輩に頼まれた荷物をアトランティスから宴会場に運んでいるところっす」

 

「荷物って、後ろの荷車に積んでるでっかい木箱のことか」

 

「はい。あ、中身については会場でのお楽しみっつうことになってるんで、よろしくっす」

 

「ふぅん。何をするのか楽しみだな」

 

「えぇ、楽しみしててくださいね。それでは後輩君、それお願いします」

 

「了解っす。んじゃ、また」

 

 ある時は魚がそのまま人間の姿に進化したような見た目の青年に話しかけられ、それらすべてに丁寧に対応するステアー。その光景は、異世界の出身であるアズリエルにはとても珍しいものであった。

 

 とにかく種族が多種多様なのだ。多すぎると言っても過言ではない。この世界にきて少ししか時間が経っていないのに既に獣人や魚人、更には見たこともない角の生えた種族と出会っている。正確には彼等がステアーに話しかけただけなので“見た”と言った方が正しいかもしれないが、一応出会ったと表現しておこう。

 更にアズリエルが興味を引いたのは、見るからに住む環境が全く異なる異種族同士の彼等が、この町で特に目立った対立をすることなく平和に共存しているという光景である。それもそのはず、彼女が元々住んでいた法国は『人こそが神に選ばれた民であり、人以外の他種族は殲滅するべし』といった人間至上主義を掲げており、他の種族との共存など絶対に不可能と断言できるほどに他種族を嫌っている国である。つまり、法国に住む人々にとって、アズリエルが今見ているこの光景はありえないことなのである。まぁ、アズリエルはそもそも法国の理念などどうでもよいと考えているため、法国の考えを持つ人間であるかどうかは正直不明ではあるが。しかしそんな彼女でも、これだけ多様な種族同士が争いなく平和に暮らしていることがどれほど異様なものであるかは理解できる。

 

「どうしたアズリエル、物珍しそうな顔して……って、そうか。そういやアズリエルが元々住んでた国って、人間至上主義の宗教国家だったな」

 

「えぇ、そうよ。正直法国の考えなんて私にはどうでもよかったけど、それでもこんな多種多様な種族が共存している光景は見たことないわ」

 

「まぁ、誰でもこの街に来たらそんな顔するわよね。だってここ、他の都市と比べて種族の多様性が広すぎるもの。私みたいな妖精やあんたみたいなエルフ、シンみたいな獣人にニークスみたいな吸血鬼、ミーティアみたいな人魚にマスターみたいな天使。それだけでも十分すぎるのに加えて鬼人、悪魔、、機械人形、蟲人、鳥人、精霊、更には巨人、竜人まで」 

 

「エリナちゃんが挙げた種族の他に、ゴブリンやドワーフ、オークにスライム、リザードマンにナーガにアストラルにスケルトンにゾンビ、更にはトレントとかドッペルゲンガーもいますね。流石に人間はまだ住んでいませんが」

 

「そう……人間がいないのは何となくわかるけど、そんなに沢山いたのね」

 

「えぇ、いるわ。だってここは失われる世界(ロストワールド)最大級の多種族交流都市ノアだから」

 

 多種族交流都市ノア。

 氷結牢獄地下に設置された楽園の扉から入ってすぐに訪れる、この城下町(正確には都市だが)の名前である。

 名前の通り、そしてエリナとミーティアが話した通り、この町には本当に多種多様な種族、というかユグドラシルに存在するほぼ全ての種族がここに住んでおり、互いに助け合って生活している。

 

「因みにこの世界には全部で9つの都市があって、ノアはこの世界の中心に位置している。他の都市はノアから8方向に散開する形で存在しているんだ」

 

「へぇ……面白そうね」

 

「機会があったら案内するよ」

 

「はいはい、この世界について色々話したい気持ちが強いのはよくわかったから、続きはまた今度にしなさい────着いたわよ」

 

 エリナとミーティアの足が止まり、それにつられてステアーとアズリエルも歩みを止める。いつの間にか太陽も地平線に沈みかけ、空は暗転しつつあった。

 4人がたどり着いたのは、ノアの中心にそびえたつ城、その入り口となる巨大な門の前である。今日は宴会ということもあってか、扉は既に開放されていた。

 

「ヴァルプルギス本部“ヴァルハラ”、それがこの城の名前。宴会場はここの中央庭園よ」

 

「中央庭園が宴会場か。よしわかった、んじゃ行こう」

 

 言葉は冷静そうだが、顔面には『もう楽しみすぎて待ちきれない』といった表情が全力で出ているステアーが早速会場に向かおうとする。

 

「そのままで行かせるかアホ!」

 

「ンガッ?!」

 

 が、エリナにがっしりと襟を掴まれたことで、間抜けな声を上げながら尻もちをつく。

 

「あのねぇ、あんた何もしないでそのまま行くつもりだったの?」

 

「イテテ……なんか、変かな?」

 

「まずズボンの裾と靴!汚れまくってるじゃない!」

 

 エリナに指摘された箇所に目を向ける。確かによく見ると砂やら泥やら色々とついてて、結構汚い。

 

「次に上の服!どうせさっき送ってきた人間相手に舐めプでもしてたんでしょ、穴空いてるじゃない!」

 

 彼女の言う通り、何か細いもので貫かれたような小さな穴が開いていた。上位天使との戦闘で付いたものだろう。よく見るとこれにも泥がついている。野宿した時に付いたと思われる。

 

「最後にあんた、此処に来るまでに一度も風呂入ってないでしょ。せめてシャワーぐらい浴びてきなさい、宴会に参加してる子供達が真似したらどうするのよ!」

 

「それはもっともだ!」

 

 宴会に参加しているのは大人だけではない。それは先程絵をプレゼントしてくれたチコの発言から理解できる。更に自分はこの世界の頂点に君臨する存在でもある。この世界の子供達が憧れない訳がない。そんな自分が風呂に入らず、着替えもせずに宴会場に参加したらどうなる?子供達も真似するに違いない。それは駄目だ、と強く納得する。

 

「まずシャワールームに行って体を洗ってきなさい。宴会用の服は別に用意しておくから」

 

「わかった。この服はどうしたらいい?」

 

「適当に籠に入れといて、後て回収するから。それと、アズリエルだったかしら。あんたも洗ってきなさい。使い方は私が教えるわ」

 

「では私も一緒に」

 

「あんたは宴会用の服取ってきなさい!」

 

「(´・ω・`)ショボン」

 

「了解。んじゃさっさと行くか」

 

「えぇ」

 

 宴会場に向かう前に、城に入ってシャワールームを目指す。因みに余談だが、この城にはシャワールームの他に、スパリゾートナザリックに匹敵する大浴場エリアもあったりするのだが、それはまた今度の話である。

 

「そういえばアズリエルってさ、ずっと宝物庫の前にいたんだろ?体の汚れとか、どうしてたんだ?」

 

「偶に追手を撒きながら外に出かけた時に、服を脱いで川に飛び込んでたわ」

 

「どんな野性的な生活してたのよ。というかそれでよく変な臭いとかつかなかったわね」

 

「法国の近くの川は、人がそのままでも飲める程度には割と綺麗に整備されているのよ。後はそうね、これを使って洗ってるぐらいかしら」

 

 そう言ってアズリエルが懐から取り出したのは、片手サイズの小さな箱。蓋を開けると、中から網に包まれた白い固形物が出てきた。ユグドラシルプレイヤーならどう見てもわかる、石鹸だ。

 

「原理はよく分からないけど、これから出てくる泡を使って洗うと体がかなり綺麗になるのよね」

 

「石鹸じゃねぇか。しかもそのパッケージ、俺が知ってるメーカーで結構高いやつ」

 

「マスターが知っているということは、この石鹸はユグドラシル産なんでしょうか」

 

「スレイン法国ね……プレイヤーが関わっていることはほぼ確実かしら。というか何で石鹼があるのよ」

 

「さぁ?暇つぶしに地下を散歩していたら偶然見つけたのよ」

 

 偶然見つけたってなんだ、どんだけ雑に扱われていたんだ。というかスレイン法国最大の秘匿事項が当たり前のように宝物庫の外を出歩いてるんだが、あいつら大丈夫か?……と、割と本気でステアー達は心配した。

 

「……とかなんとか言ってたら着いたな。んじゃ俺はこっち入るから。アズリエルはエリナと一緒にそっちに入ってくれ。エリナ、アズリエルを頼んだ」

 

「任せなさい。それじゃあついてきて、色々説明するわ」

 

 シャワールームにたどり着くと、ステアーは流れるように説明しながら左の男性用シャワールームに入る。それに気にすることなく返事を返し、エリナはアズリエルを連れて右の女性用シャワールームに入った。因みにミーティアは流れるように一緒に入ろうとするも、エリナの見事なボディブローが決まってぶっ飛ばされ、仕方なく服を取りに行った。

 

 

 

「……ねぇ、脱いだ服はどこに入れたらいいのかしら」

 

「そこら辺の空いてる籠にでも入れ……って、入り口で脱ごうとするなーー!」

 

 どうやら宝物庫に閉じ込められた彼女は、羞恥心というものが無くなっていたようだ。そんなどこかずれた感覚を持つアズリエルに、こいつこの先大丈夫かと不安になるエリナであった。




すみません、アズリエルちゃんの風呂事情等ついては作者の偏見が含まれています。
だって異世界の人達のシャワー描写、見たことないんだもん……


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不思議な存在

やっと書き終わった……
皆さんお待たせいたしました。


シャワーシーンは省略します。
私の文章力ではセンシティブに引っかかりそうだったので……




──ヴァルハラ・シャワールーム更衣室──

 

「…………」

 

 エリナの手解きによりシャワールームで体を洗い終えたアズリエルは、服の準備が整うまでの間簡単な浴衣姿で腰掛に座りボーっとしていた。川で簡単にしか洗わなかった体はボディソープによって艶々と輝き、ハリと潤いを取り戻す。濡らす以外何もしていなかった白黒の髪は、シャンプーにより数年分のこびりついた汚れが一気に取り除かれ、ドライヤーによって乾いたそれはコンディショナーによりサラサラとなびいていた。人生初のシャワーから放たれたお湯によって体は十分に温まり、少し湯気が出ていた。

 向かいに立てかけられた鏡に目をやると、およそ自分とは思えない自分が写った。ここ数年全く切っていなかった髪は地面に届く程伸びており、それだけをみるとかつて自分が見た絵本に登場する塔の上のお姫様のようにさえ思えた。

 

「私が絵本のお姫様………なんて、変な気分ね」

 

 正直言って、信じられない。

 こんなお姫様みたいな髪を伸ばした女が私?片手で巨大な斧を振り回し、宝物庫に近づくやつらを悉く叩き潰し、更には種族を問わず自分より強い存在との間に子供を作り、更にその子供がどれだけ強くなるのかが気になる、なんて頭のおかしいことを言うあの女?自分で言うのも何だが、そんなこと言われるまで気付かないだろう。

 

「──(ステアー)と出会ってから色々おかしいことばかり起きる、って考えてるでしょ?」

 

「えっ?」

 

 そんなアズリエルの心を見透かしたかのように、エリナが髪飾りと服の入った籠をぶら下げた状態で現れる。体の大きさに反して意外と力持ちのようだ。

 エリナは籠を床に置くと、髪飾りを持ってアズリエルの後ろに回り、ドライヤー等で髪をセットしながら話を続けた。

 

「わかるわ、その気持ち。何でか分からないけど、マスターと一緒にいると本来の自分が出てくるっていうか、どんな狂人でもまともな思考になってしまうというか。

 あんたのことはマスターから聞いてるわよ。スレイン法国六色聖典が一つ、漆黒聖典の番外席次にして法国最強と呼ばれた女。エルフの王とかいうカスと元法国最強と呼ばれた女性の娘として生まれ、その存在の危険性から法国の宝物庫の番人と言う形でずっと閉じ込められていた人間。確か、自分より強い存在と戦うことで敗北を知り、更にその相手が男だったらそいつとの間に子供を作り、その子供の強さを知りたいというのが夢だったかしら?全く、どんな歪んだ性格してたのよ、あんた」

 

「だってそれ以外私には何もなかったもの。生まれた時からずっと薄暗い地下で引きこもらされて、ただひたすら侵入してきた雑魚を潰す毎日。話し相手も漆黒聖典の隊長さんが偶に覗きに来るぐらいだし、娯楽も六大神が残したルビクキューで一面を揃える、もしくは絵本とかを読むぐらいだったから」

 

「うわぁ……本当につまらない生活を送っていたのね。私なら多分国を滅ぼして飛び出してるわ。というか絵本なんて読むんだ」

 

「えぇ。六大神が残したものだから、文字は全く読めなかったのだけど。意外だったかしら?」

 

「意外と言えば意外ね。正直戦うことにしか興味がないと思っていたから。マスターについてきたのもそれが理由だと考えてるし」

 

「確かに彼の強さには興味がある。話を聞いたのなら知っていると思うけど、今まで俗にいう強い人とは何度もやり合ってきたわ。私が覚えている中で()()だったのは漆黒聖典の隊長さんぐらいで、他は暇つぶしにすらならなかったけど」

 

「それ、周りが弱いんじゃなくて、あんたやその隊長さんが強すぎるだけなんじゃない?」

 

「……かもしれないわね。だって私は法国最強と呼ばれた女の娘であり、隊長さんは法国で三人しかいない神人だから」

 

「神人?」

 

「“六大神”の血を引く人間の中で、その力を覚醒させた人のことよ。力を覚醒した神人は、六大神が残した武具に身を包んだ場合、個人で大陸を滅ぼせるほどの能力を発揮する、って言われてるわ」

 

 見たことはないから本当かどうかは知らないけど、と呆れた声でアズリエルは答える。

 実際にその神人と呼ばれる隊長と戦い、普通に圧勝したアズリエルにとって、神人の能力が本物なのかどうか疑わしいものなのだろう。そもそも、そんなことができるのなら、どうして今敵対しているエルフの王国を手っ取り早く攻め滅ぼさないのか。その点でも、実力を疑うのは無理もない。

 

「まぁ、私に武器を使わせる程度には強いことは認めるけど、それでも敗北を教えてくれるほどではなかった。私が今まで見たことのある強い人はそれぐらいだった。だけどラグナレク・ステアー・テンペスト……彼は今まで会ったどの存在とも違うって、対峙した時に確信した」

 

「どうしてマスターが、普通とは違う存在だって確信できたの?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()からよ。本当に強いのなら、羊を狩るのに毎回本気を出す狼みたいなことはしない。普段は己の牙と爪は誰にも見えないように隠し、獲物を仕留めるその一瞬にだけ爪を立て牙を見せるの。だから、誰もその力を知ることは出来ない。知ることが出来ないから、誰も手を出すことが出来ない」

 

「成程。んで、マスターはまさにその牙を隠す狼のような存在だと、そう考えてるのね」

 

「えぇ。だから私は彼の誘いに乗ったの。彼の本気にとても興味が沸いたし、彼なら私に敗北を教えてくれるとも思ったから…………それに」

 

「それに?」

 

「宝物庫にずっと閉じ込められるぐらいなら、彼と一緒にいた方が色々面白おかしいことがおきるんじゃないかと思って」

 

 1500人もの人間を相手に勝利した、人類最終試練の名を持つ修羅の魔王。そんな存在と共に行動していて、何も起こらない訳がない。無味乾燥の人生をこの先続けるぐらいなら、かの魔王と行動を共にした方が楽しいだろう……そのような思考に至ったために、アズリエルは彼の誘いに答えることにしたのだった。

 実際、その選択は正解だと彼女は考える。先の戦いで、アズリエルや漆黒聖典に比べれば弱いものの、それでも並大抵の力では倒せないほどの強さを持ってるはずの陽光聖典率いる大天使(アークエンジェル)の軍勢を一瞬で殲滅し、主天使(ドミニオン)の第七位階魔法を受けても平然とし、更にたった数秒で主天使を消し去る等、もはや圧倒的の一言では言い表せないほどの圧倒ぶりを見せた彼に、強さに関する疑いの余地など全くなかった。

 それに、自他共に認める戦闘狂で、しかも強い男と子供を作りたいなんて考えを持つ私を、性格を理解した上で仲間に引き入れようとするような男だ。面白くない訳がない。

 

「ふーん。ま、マスターに振り回されすぎて寝込んだりしないことを祈っておくわ──はい、出来たわよ。服の準備するから、鏡で自分の髪見てたら?」

 

 髪の手入れが終了し、服の準備に取り掛かるエリナ。彼女の言葉に従うように、アズリエルは鏡で自分の髪を観察した。まず長い髪を止めていた自分の金属の髪飾り系統は全て外されている。後髪は金色の金具で一本結びの形に仕上がっている。前髪は白と黒で区別される形で、それぞれ反対の色のヘアクリップで留められており、顔がはっきりと覗けるように仕上がっている。髪の側面はドライヤーでふんわりと丸みを帯びた状態で整えられ、それが違和感なくアズリエルの耳が他人に見えないよう上手に隠していた。

 

「お待たせ。一応あんたと同じか少し大きいぐらいのサイズを選んだつもりだけど、もし合ってなかったら後で言って。調整するから」

 

 ほんの数分程度で準備を終えたエリナが戻る。彼女の手には、黒を基調としたレースのパーティードレスと靴底が少し高いハイヒールがぶら下がっていた。

 

「ところで、ドレスの着方ぐらいはわかるわよね?」

 

「いいえ、全く」

 

「即答!?」

 

「だって興味なかったもの」

 

「大丈夫かしら、こいつ…………わかった。それじゃあ私が着替えるの手伝ってあげるから、ちゃんと覚えなさいよ?」

 

 

 

──────────

 

 一方シャワールームの外では……

 

「遅いですね、エリナちゃん達」

 

「そうだな。ところで、なんでギャグマンガみたいなタンコブついてんだ?」

 

「先程服を持ってシャワールームに入ったら、エリナちゃんが目の前にいたので抱きつこうとした結果です」

 

「そうか」

 

 どこぞの野猿令嬢の弟が着てそうなパーティー服に身を包んだステアーと、複数のタンコブタワーのついたミーティアが、アズリエルとエリナがシャワールームから出てくるのを待っていた。

 

「でっかい絆創膏でも貼ってやろうか?」

 

「いえ、お構いなく。時間が経てば自然治癒すると思いますので。マスターこそ、服に穴が開いていた部分は大丈夫でしたか?」

 

「おう、見ての通りだ。俺自身が強すぎるのも否定はしないが、あっちの世界の大天使は想像以上に弱すぎてな、なんかガラス細工でドッキリをかけられたような気分だったよ」

 

「無理もありません、マスターは異形種の中でも異質な強さをお持ちなのですから。むしろ、あの程度の強さでマスターの堕天使の衣(アスタルテ・クロース)に穴をあけたことに称賛を送るべきかもしれませんよ」

 

「それもそうだな。ま、あの服は俺が持っている神器級装備品の中では()()()()()()()()()し、一応最低限の強さは持っているとみるべきか」

 

 ステアーの言葉にミーティアは首を縦に振り肯定する。

 少しメタい言い方になるが、あまりにもこの環境になれるのが早すぎではないだろうかこの男。

 アインズでさえ、アルベドやデミウルゴス達からの信頼が大きすぎてかなり誇張した言動や魔王ロールをすることでなんとか部下たちとの会話が成立しているというのに。緊張するという感情がないのだろうか。

 

「あ、そういえば。服と共にこちらをマスターにお渡しするのを忘れていました」

 

 そう言ってミーティアはポケットから何かを取り出し、ステアーに手渡した。

 ミーティアが手を離すと、そこには金の指輪と銀の指輪がのせられていた。指輪はどちらも、アインズが複数装着しているような派手なものとは全く違い、小さなダイヤが1つだけはめ込まれているだけのシンプルなものだ。

 

「これ……そっか、確か『何かの拍子に失くした、なんてことになったら嫌だから』って理由で預けてたんだっけ」

 

「はい。本当はそのまま動かさず静置するのも考えられましたが、やはりマスターに渡すのが一番だと考えまして」

 

「成程な」

 

 ミーティアに感謝しつつ、ステアーはその2つの指輪を両方とも左手の薬指に通す。指輪を天井のシャンデリアにかざすと、2つの宝石がとても明るく輝いているように見えた。

 

「少しシンプルにしすぎたかな」

 

「そうですね。しかしマスターはアインズ様のような魔法専門職という訳ではございませんので、機能性を考慮した場合むしろシンプルな方がよろしいのでは?」

 

「それもそうか」

 

「はい。それにもし、仮にその指輪のデザインが凝りすぎますと『こんな綺麗な指輪を装備しながら戦うなんて、もったいなさすぎて無理だよぉ!』と、約一名仰られる方が現れるかと」

 

「ハハハ、確かに言いそう───…持ってきてくれて、ありがとう」

 

「喜んでいただけで幸いです」

 

 指輪から色々と話を膨らませる二人。

 すると、シャワールームの扉が開かれる。奥から漂ってくる石鹸の香りと共に最初に出てきたのは、少し疲れた顔をしたエリナだった。

 エリナが視界に入った途端、ずっと待ちかねていたミーティアは目にもとまらぬ速さでエリナに突進する。

 

「エリナちゃぁぁん!お疲れさまでぶへぇ?!」

 

「疲れているのがわかってるなら飛び込んでくるなっつーの!」

 

 が、判断力は衰えていないようで、いつものようにミーティアの手をすり抜け、腹に見事なブローを放った。

 

「さ、流石はエリナちゃんです」

 

「本っ当飽きないわねあんた。一周回って尊敬すらしてきたわ」

 

「いやー、それほどでも♪」

 

「誉めてない!」

 

「あはは……お疲れ、エリナ。なんかすごい時間がかかってたけど、なんかあったのか?」

 

「えぇ、まぁ。マスターが連れてきたアズリエルって人、ドレスの着方を全く知らなかったのよ。それで教えてたら時間が遅れた」

 

「お、おう。本当にお疲れ様」

 

「全くよ。まぁ、おかげで───これ以上ない仕上がりになったわ。」

 

 言葉に続けて、エリナは後ろを向く。

 するとシャワールームから、エリナの手解きで完璧なイメチェンを果たしたアズリエルが現れる。あまりの変わりように、ステアーは一瞬たじろいだ。

 

「ちょっと、この服動き辛いんだけど」

 

「今度あんた専用のドレスを作るよう頼んであげるから、暫くはそれで我慢して」

 

「……ならいいけど。それにしても、人間用の服もあったのね。人間はいないって聞いたから、てっきり無いと思ったんだけど」

 

「色々と事情があるのよ。今は話せないけど」

 

「ふぅん。ところで、そんなにじっと見つめてどうしたのよ」

 

「あ、あぁ。なんか予想を遥かに超えるレベルで綺麗になってたからついね……」

 

「そう……惚れたのならいつでも伴侶になってあげるわよ?」

 

「よしてくれ、これでも既婚者なんだよ」

 

「あらそうだったの。なら重婚すればいいじゃない。子供が産めるなら愛人扱いでも構わないわ」

 

「思考回路前向きな上にとんでもないこと言うんだな、おい!中身が変わってないようで逆に安心したよ!」

 

 見た目は変わっても中身は全然変化していない彼女に、逆に安心する。見た目はヒトを変えるとは言うが、どうやら例外は存在したようだ。

 

重婚……

 

「何か言ったかエリナ?」

 

「な、何でもないわよ!ほら、準備できたんならさっさと行くわよ!」

 

「おう、そうだな。アインズさん達も待ちくたびれているだろうし、何より」

 

 

 グゥゥゥゥゥゥウウウウウウ……

 

 

「……俺めっちゃ腹が減った」

 

「奇遇ね、私もよ。さっさと行きましょう」

 

「最後までしまらないわねあんたたち……はいはい、じゃあこっちよ」

 

「はーい、それでは2名様ご案内です~♪」

 

 廊下に響き渡る空腹音に呆れつつ、一行は改めて宴会場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

「……綺麗、か」

 

 人知れず、容姿を認められたことに笑みがとまらない乙女の漏らした一言に気付かないまま……




番外席次の髪について、情報が少なかったのでもしかしたら原作とは異なる表現になっているかもしれません。オバマスの番外席次を観察したところ、ベースは白い髪で頭の左部分が黒くなってるように見えたので、今回のような表現になりました。

次回はいよいよ宴会編!そしてその後からはついに冒険者編(予定)!


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