実力至上主義の教室に不登校経験者が出席する (イタチ丸)
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プロローグ

『人は平等であるか否か』

 

今、現実社会は男女の間は常に平等であると煩く主張し、子供たちに無理矢理叩き込ませる。

実際、それは本当に正しいことなのだろうか。

男と女は能力も違えば役割も違う。前までは男は仕事、女は家事と言われてきていたのだ。

障害者という言葉は差別用語であるとして障がい者に言葉を改めるように言われているが、そんなことをしたところで言葉の意味は変わらない、結局は『障害を持った人間』という意味なのだから。

 

俺がこの問題に答えるとするならば否であろう。人は自分勝手、平等なんてことは初めから思ってもいないのだ。

嘗て過去の偉人が、天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、という言葉をこの世に生み出した。しかし、これは平等を主張した意味ではない。

有名すぎるこの一節には続きがある。それは、生まれた時は皆平等だが、身分や価値観に違いが出るのはどうしてなのか、と疑問を浮かべている。

そして、更にその続きには、差が生まれるのは学問に励んだのか励まなかったのか。そこに違いが生じてくる、と。

それが小学校の教科書にも載っている『学問のすゝめ』の一節の続きだ。

そして、その教えは今現在において何一つ事実として変わっていない。それどころかより複雑かつ深刻化している。

何が言いたいのか、兎にも角にも人間というものは意思を持つことの出来る生き物だ。平等でないからと言って不平等のまま生きていくことが正しいことだとは思わない。

つまり、我々の主張している平等は偽りのものだが、不平等もまた受け入れがたい事実であるということ。

今、我々は偽りのない平等を主張しなければならないという永久の課題を与えられているのかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四月。入学式。

バスの揺れというものは、何故人間を煽るように睡魔を与えるのだろうか。

特に座席に座った時、ぐらぐらと激しいものでもなく、逆に非常に大人しいものでもなく、揺り籠のようにゆらゆらと優しく揺らしてくる。人間を赤子扱いする揺れが何処か腹立たしい。

 

所で、何故バスの揺れの話題を出したか。単純に俺が学校に向かうバスの中で爆睡していたからだ。

とは言ってもせいぜい10分位の間だろうか。辺りが人が増えてきたのか随分と賑やかになっていたのと、頭部に硬いと柔らかいの中間という感触を得たため、ゆっくりと目を開ける。

俺が乗っていた時の倍くらい乗車数が増えていた。その殆どが高校の制服、それも俺が通う学校の制服を着ている人も少なからずいた。

 

そして、感触の主を探るべく起き上がり、振り向くと……

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

俺の隣には見る人の目を引き付けて止まない煌びやかな銀色の髪をした、俺と同じ学校の女子が本を読んでいた。

つまり、俺は爆睡中、彼女の肩を借りて寝込んでいたということになる……。

そう考えると、普段物事に感情を抱かない俺は、あまりの情けなさと恥ずかしさで顔を赤く染めているだろう。

この場合、どう対処すれば良いだろう。取り敢えず謝っておけば何とかなるだろうか。

 

「……あ、あの、すんませんした」

 

「いえいえ……ふふっ、気持ち良さそうに眠っていましたね」

 

「寝不足、なもんで……」

 

まさかそんな返しが来るとは思ってもいなかった。

女子に笑みを浮かべながら揶揄い交じりに言われるとなると先程の感情が更に増してくる。嫌なら嫌と素直に言って欲しいんだけどな。

 

それから彼女とは特に会話もなく車窓の景色を眺めていると背後から揉めている声が聞こえた。

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

OL風の女性が優先座席に堂々と座っている男に注意しているようだった。真横にはさっきの年老いた老婆がいた。

因みに、この男も俺と同じ学校制服を着ていた。

 

「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」

 

OL風の女性は、優先席を老婆に譲ってあげて欲しいと思っているようだった。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー。何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい? どこにも理由はないが」

 

「君が座っている席は優先席よ。お年寄りに譲るのは当然でしょう?」

 

「理解できないねぇ。優先席は優先席であって、法的な義務はどこにも存在しない。この場を動くかどうか、それは今現在この席を有している私が判断することなのだよ。若者だから席を譲る? ははは、実にナンセンスな考え方だ」

 

何とも高校生らしくない喋り方だな。それに絡まれたらめんどくさそう。

 

「私は健康な若者だ。立つことに然程の苦は感じていない。だが、座っている時よりも無駄な体力を消耗するのは明らかだ。無意味で無益なことをするつもりにはなれないねぇ。それとも、チップを弾んでくれるとでも言うのかな?」

 

「それが目上の人に対する態度!?」

 

「目上?君や老婆が私よりも長い人生を送っていることは一目瞭然だ。目上とは年上ではなく、立場が上の者をさすのだよ。それに君も私の年上とはいえ、随分とふてぶてしい態度ではないか」

 

「なっ……あなたは高校生でしょう!?大人の言うことは素直に聞きなさい!」

 

「あ、あの、もういいですから……」

 

老婆もこれ以上大事にしたくないと思ったのか、女性を宥め始める。しかし、高校生に侮辱された女性は怒り心頭のようだ。

 

「どうやら君よりも老婆の方が物わかりが良いようだ。いやはや、まだまだ日本社会も捨てたものじゃないね。残りの余生を存分に謳歌したまえ」

 

無駄に爽やかなスマイルで言い放ち、少年はイヤホンをガンガンにして音楽を聞き始める。

まあ、少年の言っていることは道徳的な面を除けば強ち間違いではない。結局、老人に席を譲らなかったというのは少しモヤモヤするが、確かに席を譲る義務というものはどこにもない。

OLが必死に涙を堪えているとそこへ、思いがけない救いの手が差し伸べられた。

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 

今度は女性の横に立っていた少女が勇気を出して少年へと話しかける。彼女も同じ高校らしい。

 

「レディーに続いてプリティーガールか。どうやら、今日の私には女性運があるらしい」

 

「おばあさん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってもらえないかな?余計なお世話かもしれないけど、社会貢献にもなると思うの」

 

「……成る程、中々面白い意見だ。確かに年寄りに席を譲ることは、社会貢献の一環かも知れない。だが残念ながら私は社会貢献に興味がないんだ。私はただ自分が満足できればそれでいいと思っている。それともう一つ。このように混雑した車内で、優先席に座っている私を悪者にしているが、他の座席に座っている者はどうなんだい?お年寄りを大切に思う心があるのなら、優先席かそうでないかの違いは些細なものだと思うのだがね」

 

やはり少年の堂々とした態度は崩れることはなかった。

しかし、真っ向から立ち向かった少女も挫けることなく

 

「あの、どなたか席を譲ってあげて貰えないでしょうか?誰でもいいんです、お願いします!」

 

この一言を言い放つのに、どれだけの勇気と決断、思いやりがいることだろうか。少女のとる行動は決して簡単なものではない。乗客の1人は必ず「うっぜえなあ……」とか思ってる奴もいるだろう。しかし少女は、臆することなく真剣に乗客へと訴えかけた。

しかしながら、席を譲ってと言われて「はい譲ります」と言える人なんてほとんどいないだろう。逆にいたら口論の時間はなんだったんだってことになる。

俺も動こうとはしなかった。俺にとってはその行動は必要ない、デメリットでしかないと思ったからだ。

今の老人たちは、これまで日本を支えてきた紛れも無い功労者だろう。

しかし俺たち若者は、その国をこれから支える重要な人材だ。

年々進んでいく少子高齢化社会をよく考えれば、老人と若者、どちらが今必要とされているかは考えるまでもない。

それと日本関連でもう一つ意見を述べさせて欲しい。俺は日本人は積極性のない生き物だと思っている。

その理由は、『誰か』がしてくれるだろう、そんな風に日本人は考えてしまうからだ。

日本人は1人だけ違うことをすることに恐れや不安を感じることがある。

例えば多数決で決める時、『Aさんが良いと思う人は拍手をして下さい』と言われたとして、その瞬間、多数の人たちが拍手をしたとする。自分はBさんが良いと思ったから拍手をしなかった。だが、段々自分が間違っているという不安、「おい、何であいつだけ拍手してないんだよ」と軽蔑されるかもしれないという恐怖で後から自分も拍手をしてしまう。そんな経験をしたことはないだろうか?

例え間違えていても、多数が間違えているのだから仕方ない、そう言い訳をすることも出来る。そう考えてしまうのが日本人の特徴だと思っている。

今起こっている、席を譲るという場合でもそうだ。周囲が誰も譲らないという不安、「席譲るんだったら揉める前から譲ってやれよ」と言われるかもしれない恐怖で乗客全体が悪い空気を作っているのだ。

 

「あ、あの……この席、よければどうぞ」

 

 

やがて一人の女性が手を挙げて席を譲った。呼びかけていた女子生徒はお礼を言い、お婆さんをそこの席に座らせる。

華々しい高校デビューがこんなトラブルから始まるとは、この先ロクでもない1日を過ごしそうだな……。そんなことを考えながら、バスが目的地へと辿り着く。

混雑のせいで急いで降りようとする人も中にはいた。俺はそれを避けるために後から降りることにした。

 

「あ、あのっ……!」

 

不意に声をかけられた。声の主の方へと振り向くと隣に座っていた少女がこちらを見つめていた。

 

「貴方も新入生、ですよね?良ければ一緒に行きませんか?」

 

……え、マジで?まさかさっき迷惑かけちゃった奴に誘われるとは思わなかった。

だが、この先迷ったりする可能性があるので、一人で行くよりかは複数で行った方が安心感がある。結果、共に行くことにした。

 

「なあ、あんたはああいうトラブルとか気にしないのか?めっちゃ静かに本を読んでいたけど」

 

「……トラブル、ですか?そんなことありましたっけ?」

 

気づいてなかったらしい。集中力が高いのか天然なのか……どちらにしろ、この少女は独特の雰囲気を醸し出している。

最近の女子は色々と怖いのが多いと思っていたが、彼女に恐怖は全く感じられない。気軽に話せそうな子だ。

 

「あ、そういえば自己紹介するのを忘れていました。私は椎名ひよりと申します。クラスは1年C組です。これからよろしくお願いしますね」

 

「……成滝翔也。クラスは確か1年D組。よろしく」

 

他クラスではあるが、久々に友達作りをやって、成功した。

 

 



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第1話 Dクラス

それにしても、いつ以来の学校だろうか。

 

俺は三年の二学期から今までずっと不登校の身であった。

別にクラスの人にいじめられてたとかそういうのではない。寧ろ、クラスでは結構馴染んでた方だったと思う。

かなり大きなトラブルに巻き込まれた、というのが正しいだろうか。

これ以上はあまり思い出したくないので言わないことにさせてもらうが、とにかくその一件で俺は精神崩壊しかけた。

だから、正直俺は高校に行きたくはなかった。

なら、何故行っているのか。義務教育を終えたら高校に行かなくてもいいのに。そう思っている人も少なくないだろう。

 

学校の入学式というものは、新入生にとって一つの試練のスタートを意味する。

学校生活を満喫するために必要不可欠な友達作りが出来るかどうか、この日から数日に全てがかかっている。これに失敗すると、悲惨な3年間が待っていると言えるだろう。

今の時代、俺みたいな若者は一人では生きていけない。だから、ここでそれなりの人間関係を築いておきたいと思っているのだ。

 

そうこうしている内に自分の教室へと辿り着く。

ぐるりと教室を見渡し、俺は自分のネームプレートが置かれた席へと向かった。

窓際近くの……よっしゃ、後ろの方だ。

今の俺に前目の席は苦痛だから、良かった良かった。

それはそうと、辺りを見回す限り、登校している生徒の人数は半分くらい。

大体は席について、資料を読んだりボーッとしてたりしている。対して、一部は前からの知り合いなのか、一瞬にして仲良くなったのか談笑をしているのも見受けられた。

 

さてと、どうしようか。この空いた時間で誰かに話しかけて親しい関係でも作ってみるか?

……あれ、初対面の人に話しかける時って何て言えばいいんだっけ?

やばい、不登校になってから人との接し方をド忘れしている。意外と些細なことだったと思うんだが…。

…考えれば考えるほど、そもそも友達ってなんだろう?って疑問が浮かんでくる。もう重症だよこれ。

あたふたしている間に、教室はどんどん生徒が登校し密集していく。

もう諦めようかな、まあ別に良いし。最悪、唯一の他クラスの友達の椎名に頼りまくるし。男子が女子に頼りっぱなしってのは見っともないがそんなの知らんし。

 

「「……あ」」

 

急に俺の側から誰か僕とお話しして友達になってよ!というオーラを出している(勝手な思い込み)気配がしたので振り向くと、そのオーラとは裏腹に死んだ魚の目をした少年がこちらを見つめていた。

 

「…俺は綾小路清隆(あやのこうじきよたか)。よろしくな」

 

「え、あ、おう。成滝翔也だ」

 

「いきなり自己紹介するのね、貴方達」

 

その隣の席には、不器用な俺達を冷たい視線で見つめる少女の姿。

彼女の名前も聞いておくか。名前だけでも知っておきたい。

 

「自己紹介しろって言いたそうな顔ね。拒否しても構わないかしら?」

 

「…まあ、強制はしないからな。言いたくないならそれで良い」

 

無理にまで自己紹介させるつもりはない。顔だけ覚えてとっとと席に着こうとした時、少女はムッとした顔でこちらを見つめる。

 

「…堀北鈴音(ほりきたすずね)

 

「「…えっ?」」

 

「名前よ。そんなことも分からないのかしら」

 

いや言うんかい。まあ、名前教えてくれたからそれで良しとしよう。

 

それから数分ほど経って、始業を告げるチャイムが鳴った。

それとほぼ同時に一人のスーツ姿の女性が教室に入ってきた。

 

「新入生諸君。私はこのDクラスを受け持つことになった茶柱佐枝だ。担当科目は日本史だ。当校では学年ごとのクラス替えは存在しない。よって、私たちは三年間お前達と共に過ごすことになると思う。よろしく。今から一時間後に入学式が行われるが、その前に当校の特殊なルールについて説明をしたいと思う」

 

この学校には、そこら辺の県立や私立高校とは異なる特殊な部分がある。

学校に通う生徒全員に敷地内にある寮での学校生活を義務付けると共に、在学中は特例を除き外部との連絡を一切禁じている。

例え肉親であったとしても、学校側の許可なく連絡を取ることは許されない。

当然のことながら許可なく敷地内から出ることも禁じられている。

ただしその反面、生徒達が苦労しないよう数多くの施設も存在する。カラオケやシアタールーム、カフェなど、一つの街が形成されていると言っても良い。

そしてもう一つ特徴がある。それがSシステムの導入だ。

 

「今から配る学生証カード。このカードにはポイントが振り分けられており、ポイントを消費することによって敷地内にある施設の利用や売店での商品の購入が可能。クレジットカードのようなものだな。敷地内で買えないものはなく、また、学校内でもそれは同様だ」

 

この学生証カードは現金の意味合いを持つ。

あえて小銭や紙幣を持たせないことで、学生内の金銭トラブルを防ぐことが出来る。ポイントの全ては学校側から無償で提供される。

そのポイントというのは、毎月1日に自動的に振り込まれることになっているそうだ。

因みに、このポイントは1ポイントにつき1円の価値がある。現在、俺達の元には10万ポイントあるらしい。つまり、先生から10万円のお小遣いを貰ったということ。

何故ここまでの額を振り分けたのかは疑問には思うが、クラス内ではそんなこと関係なくはしゃいでる奴らがほとんどだった。

 

「驚いたか?当校は実力主義だからな。それで生徒を測る。入学を果たしたお前達には、それだけの価値と可能性がある。まあ、遠慮なく使うが良い。ポイントはどう使おうがお前達の自由だ。だが、無理矢理カツアゲするような真似だけはするなよ?当校はいじめにだけは敏感だからな」

 

それにしても、入学しただけで10万円の価値が俺達にあるのか。

…普通に考えておかしいだろこの額。何か企んでたりしているのだろうか。

 

「質問は無いようだな。では良い学生ライフを送ってくれたまえ」

 

先生が戸惑う生徒を尻目に教室から退出していった。

 

「思っていた程堅苦しい学校ではないみたいね」

 

「確かに、何というか凄く緩いな」

 

「優遇されすぎて少し怖いがな…」

 

考え方によっては、敷地外へは一歩も出れないという制限はあるが、タダで提供されるポイントや、施設には不満などないという楽園とも言える程生徒達は優遇されていると言える。

そしてこの学校の最大の魅力は、進学率、就職率が100%に近いというところ。

国主導によって徹底した指導を行い、希望する未来に全力で応えるという。

実際、卒業生の中には有名人も少なからずいるらしい。どんなに偏差値が高かったり、知名度の高い優秀な学校でも、秀でた分野は限られている。スポーツに強い、音楽に強いなど。しかし、ここはどんなジャンルでも望みを叶えてしまう。

この学校の詳細は、謎が多いというか分からないことだらけだ。

生徒の望みに全力で応えるのと引き換えに、何かリスクがあるのだろうか。

…入学初日からこんなこと考えてる俺が馬鹿馬鹿しく思えてきたわ。まあ、とりあえずは早くクラスに馴染むことから考えよう。

 

「あの、少し話を聞いて貰ってもいいかな?」

 

かなりの大金を貰って浮かれる生徒だらけの教室の中で、1人の好青年が手を挙げた。

如何にも優等生って感じだな。めっちゃモテてそう、てか絶対モテてる。

 

「僕らは今日から三年間同じクラスで過ごすことになる。だから今から自己紹介をして、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

生徒の大半が口に出来なかったことを軽々と言った好青年。

今時の高校生でこんなこと言える人稀でしょ、何というかそこに痺れる憧れる。

 

「賛成ー! 私たち、まだ皆の名前とか全然分からないし」

 

1人が賛同したことにより、クラスメイト達が次々に賛同していく。

 

「僕の名前は平田洋介(ひらたようすけ)。中学の時は皆から洋介って呼ばれることが多かったから、気軽に下の名前で呼んでくれると嬉しいかな。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、サッカー部に入部するつもりだよ。よろしく」

 

提案者である好青年はスラスラと、非の打ち所がない完璧な自己紹介をする。

凄いな。そしてサッカー×イケメンとかチーターかよ。クラスの女子の大半は銃で心撃ち抜かれてるんだろうな。

こういう奴が数ヶ月で彼女作って充実した学校生活送るんだろうな。

まあこれに関しては別に何とも思わない、流石に現実は見るよ。

 

平田洋介に続いて、他の生徒も続いて自己紹介するが、緊張してあまり喋れないという生徒が複数で若干グダっていた。

教室入っていきなり自己紹介という形なのだから、無理もない。

次は1人の男子生徒の自己紹介。

 

「俺の名前は山内春樹(やまうちはるき)。小学生の時は卓球で全国に、中学時代は野球部でエースで背番号は四番だった。けどインターハイで怪我をして今はリハビリ中だ。よろしくう」

 

おいおい、インターハイって高校の総体だろ…?

ウケ狙いで言ってるのか、ただの馬鹿なのか。受けた印象は口が軽く、お調子者って感じだった。

 

「じゃあ次は私だねっ」

 

元気よく立ち上がったのは……先程バスの中で老婆を助けた少女だった。

 

「私は櫛田(くしだ)桔梗(ききょう)と言います。中学からの友達は一人もこの学校に進学していないので一人ぼっちです。だから早く皆さんの顔と名前を憶えて友達になりたいと思っています」

 

大体の生徒が一言で挨拶を終えていく中、櫛田と名乗った少女はさらに発言を続けた。

 

「私の最初の目的として、ここにいる皆さんと仲良くなりたいです。自己紹介が終わったら、是非皆さんの連絡先を教えてください!」

 

化け物じみたコミュ力に俺は圧倒されてしまう。

もう私誰とでも仲良くなれます、ってオーラ出てるし。ほんの10%で良いからその能力くれないかな…。

 

「それじゃあ次の人──」

 

進行役として促すように次の生徒に視線を送る平田。しかし、その生徒は平田を睨みつけていた。

髪の毛を真っ赤に染め上げた、如何にも不良少年って感じの生徒だ。

「俺らはガキかよ。自己紹介なんて、やりたい奴だけやればいいだろうが」

 

「僕に強制することは出来ない。でも、クラスで仲良くしていこうとすることは悪いことじゃないと思う。不愉快にさせたのなら、謝りたい」

 

そう言って頭を深く下げた平田。

同時に、そんな彼を擁護するかのように、女子の一部が赤髪を叩き始める。

あの、喧嘩とかいじめはやめてくれよ?こんな場面を先生に見られたらどうすんだよ…。

 

「うっせぇな。俺は別に、仲良しごっこするためにここに入ったわけじゃねえんだよ」

 

不良少年は席を経ち教室を出ていった。その後に続くようにして数名の生徒も立ち上がる。

彼らもまた、自己紹介は必要ないと判断したのだろう。

更に、近くにいた堀北もまたゆっくりと立ち上がる。

堀北はちょっとだけ俺と綾小路の方へ顔を向けたが、俺達が立ち上がらないことを察するとすぐに歩き出した。

てか、綾小路は教室出ないのな。友達欲しいオーラ(勝手な思い込み)出してたから当然か。

 

「…なあ、取り敢えず残った人達で続けねえか?ああいうのはいずれ何とかなるだろ」

 

俺は思わず言いたいことを一言、平田達に告げた。

こんなギスギスしてても何も始まらないし、自己紹介するなら和やかにやらないと……言うて出ていったのほんの一部だし。

 

「…うん、そうだね。勝手に場を設けてごめん。続けようか」

 

「そんじゃ、次は俺な?俺は(いけ)寛治(かんじ)。好きなものは女の子で、嫌いなものはイケメンだ。因みに、絶賛彼女募集中なんで、よろしくっ!」

 

いじられキャラに使えるな、こいつ。

山内同様の馬鹿だが、悪いやつではなさそうだ。

 

「あの、自己紹介をお願い出来るかな?」

 

「フッ。いいだろう」

 

次は、先程バスで頑なに席を譲らなかった男子生徒、高円寺の番だ。

クッソ面倒くさそうな奴とクラスメイトになっちゃったな…。こいつも悪い奴じゃないんだろうけど…。

 

「私の名前は高円寺(こうえんじ)六助(ろくすけ)。高円寺コンツェルンの息子にして、いずれこの日本社会を背負って立つ人間となる男だ」

 

やっぱ金持ちのボンボンだった。

女子達も高円寺をただの変人としか見ていないようだ、そりゃそうだよ。

 

それにしても、一癖もニ癖もある生徒が、このクラスに集まったらしい。僅かな時間の間に、様々な生徒の一面を垣間見た気がした。

 

「さっきは場の雰囲気を戻してくれてありがとう。自己紹介、お願い出来るかな?」

 

あ、次は俺の番か……。

 

 

 

………。

 

 

 

……台詞考えてたのにすっかり忘れたんだが。

他人の自己紹介聞いてる内に頭の中からすっ飛んでしまった。

まあ何か一言ポイっと言えば良いか。俺はゆっくりと立ち上がる。

 

「えっと、成滝翔也です……まあ、俺から話しかけることは少ないけど、遠慮せず気軽に話しかけて欲しい、です。こんな感じで良いか?」

 

「うん、ありがとう。これからよろしくね、成滝くん」

 

……やらかした。

好きなものとか言おうと思ったのに、何も思い浮かばなかったからそのまま流してしまった。

こんなクソみたいな自己紹介で皆が仲良くしてくれるか少々不安だが、まあ何とかなるさ。俺は謎のポジティブ精神を引き出してみる。

 

「……終わった」

 

一方、隣の席にいる綾小路だが、完全に目が死んでいた。

自己紹介ミスったんだろうな……ドンマイドンマイ。

 

こうして俺達は一通り自己紹介を終え、入学式へと足を運んだ……。



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