この息が止まるその日まで (りんごあめ)
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第0話 「あの日の記憶」

はじめまして、初めての小説投稿なのでクオリティの高い面白いものにはなっていないかもしれませんが少しでも楽しんでいただけるような作品を作れるようできる限り頑張っていきます!

応援よろしくお願いしますm(_ _)m


なんとなくあの日のことを思い出してみる。

 

 

俺は陸上部だった。

だからあの日もいつも通り練習をしていた。

 

休憩時間に遠くで悲鳴が聞こえ、何かと思って見てみると人が人を襲っていた。

 

 

何が起きているのかわからなかった。

 

すぐに陸上部の方からも悲鳴が聞こえた。

その光景は映画とかでよく見るゾンビそのものだった。

うめき声をあげ、ふらふらと歩き人に噛み付いてくる。陸上部の人達も襲われて噛みつかれていた。

 

 

(このままじゃ自分も襲われる、逃げなきゃ…!)

 

そう思い逃げられそうな所を考えた。

 

校門の方を見ると、既にやつらがたくさんいてとても学校の外には出られそうになかった。それなら校舎内に逃げたほうがいいかもしれない思い走りだした。

 

すると途中で陸上部の先輩の肩を担いで逃げようとしていた同じ陸上部の恵飛須沢胡桃をみつけた。

 

すぐに自分も先輩の肩を担いで校舎内へと逃げこむ。

校舎内にもやつらがまだ数は少なかったが入り込んでいて生徒や教師に襲いかかっていた。そのため俺たちは運良く襲われることはなかった。

 

屋上なら安全かもしれないと思ったから屋上へと向かった。扉を叩いて少しすると扉が開かれた。

 

 

そこにいたのは知らない女子生徒2人と佐倉慈先生だった。

ぐったりとしている先輩を見て保健室へ連れて行こうと言ってきたので下はもう駄目だと伝え先輩をそっと降ろす。

 

その後すぐまた扉を叩く音が聞こえた。

 

 

(よかった、まだ生きてる人がいたんだ)

 

そう思い扉を開けようしたがガラスが割れる音がしてうめき声と共にたくさんの手が伸びてきた。すぐに佐倉先生と園芸部のロッカーで扉の前をふさぐ。思っていたよりも力が強くこじ開けられそうになったが手で押して必死におさえた。

 

うめき声がきこえたのは扉の向こうからだけでなく自分の背を向けている方からもだった。

 

後ろをふりかえってみるとと先輩がゆらゆらと立ち上がり胡桃の前に立ち塞がっていた。胡桃がバランスを崩し倒れるとそのまま襲いかかった。

 

 

グシャッ!

 

 

嫌な音がした。落ちていたシャベルを胡桃が思い切り振り回し先輩の首へ突き刺さった。血を吹きだし先輩が倒れた。死んだのだとすぐにわかった。

 

しばらくすると屋上の扉をこじ開けようとしていたやつらも諦めたのか去っていった。

屋上にいた女子生徒はどうすればいいのかわからずその場にへたり込む。俺もしばらくその場で立ちすくんでいだ。

 

 

当たり前だと思っていた日常は一瞬にして当たり前ではなくなってしまった。

いままで当たり前だと思っていたものは何もかも奪われてしまった

 

 

これからどう生きていけばいいのか、俺たちは5人どうすることもできず数日間屋上から出ることが出来なかった。

 

街の方を見渡しても救助が行われているような様子はない。

 

校庭にはたくさんのやつらがいる、学校の外に出ることはできそうにないし電話も繋がらないから助けを求めることもできない。

 

完全に学校に取り残されてしまった。

 

 

もうこんな世界じゃ生きてるいける自信がない生きる意味も感じられない…

 

 

 

(…これならもう死んだ方が楽だ、死にたい)

 

 

俺、明日野 (あすの) (ひかる)はそう思うようになった。




読んでいただきありがとうございました。
こんな感じで今回はプロローグとして主人公の一人称視点で書きましたが基本的には三人称視点で書いていこうと思っています。


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第1章 高校
第一話 「あさ」


小説を書くのはもちろん難しいんですけどタイトルとかを付けるのも上手くできなくて大変ですね…
なかなか納得のいくものが思いつかなくて(^_^;

第一話よろしくお願いします。


カーテンの隙間から覗く光で目が覚める。

 

彼はダンボールで作った仕切りの向こう側をそっと覗く。仕切りの向こうには布団が3枚。

 

1枚は既にきれいにたたまれていて残りの2枚にはまだすうすう寝息をたてて眠っている人が2人。

 

相変わらず早いなあ、などと思いながらまだ寝ている2人を起こさぬよう静かに手早くたたみ制服へと着替える。そして布団の横に置いていたゴルフクラブを手に取りできるだけ音を出さぬようそっと扉を開ける。

 

 

あくびをしながら廊下を歩き手書きの張り紙が貼ってある教室の前で立ち止まった。

 

ガラガラガラ

 

さきほどよりも音を気にせずに扉を開ける。

 

先に起きていた女子生徒がそれに気づき声をかけてくる。

 

 

「おはようひかるくん。まだ朝ごはんもできないしもう少しゆっくり寝ていてよかったのに。ちゃんと休めているの?」

 

同じ学校の制服を着た女子生徒、若狭悠里が心配そうに問いかける。

 

 

「おはよう。大丈夫、ちゃんと休めてるって。俺も朝飯の用意手伝うよ。今日は何にすんの?」

 

悠里の心配をよそに持っていたゴルフクラブを壁に立て掛けてからそう言って手を洗いはじめる。その姿を見て悠里は答える。

 

「うどんにしようと思っていたの。お湯を沸かして入れるだけだし1人でも大丈夫だったのだけど…」

 

「それでもりーさん1人にいつも任せっきりなのも悪いなって思ってさ、それにお椀出して運んだりとか1人でするより2人でやったほうが早く終わるだろ?」

 

優しく微笑んで手際よく沸騰したお湯にうどんを入れていく。そう言われ悠里も納得しお椀や箸を取り出し並べていく。

 

「確かにそうね、じゃあお願いするわ。いつも気を使ってくれてありがとうね、ひかるくん。」

 

「別に気にしなくていいよ、俺が勝手にやってるだけだからさ。」

 

 

そんなふうに話をしているとまた教室の扉が開く。今度はシャベルを持ったツインテールの女子生徒がまだ眠いのか大きなあくびをしながら入ってくる。

 

「おはよ〜2人とも早いな、もうごはんできたのか?」

 

「いやまだだけどもうすぐできるからちょっと待ってろ〜

あ、そうだくるみ、今日も俺が朝の見回り行くから。」

 

胡桃に背を向けうどんを茹でながら伝える。

 

「え、でもひかる昨日も見回り言ってたろ?今日はあたしが行くよ。」

今日は自分が行こうと思っていたため胡桃は光からの申し出を断わろうとする。

 

「お前最近あんまりよく眠れてないだろ。ちょっとでもゆっくり休んどいてほしくてさ。俺は全然大丈夫だから気にすんなよ。」

 

 

光は最近胡桃がよく夜中に目が覚めて苦しそうに息を切らしているのを知っていた。そのため自分が今日も見回りに行くと言い出したのだ。胡桃もそのことに気づかれているとは思っていなかったようで苦笑いをしてわかった。と光の申し出を聞き入れた。

 

 

うどんもできあがりお椀に移していると廊下からバタバタと走ってくる音が聞こえ勢いよく扉が開かれる。

 

「みんな!おっはよ〜!」

帽子を被った女子生徒が元気よく入ってきた。

 

「おはようゆきちゃん。今日も元気ね。」

 

「ゆき、今日も時間ギリギリだったな。もう少し遅かったら叩き起こしに行くとこだったぞ、シャベルで。」

 

ニヤリと笑いシャベルを構えた胡桃に由紀は慌てて飛びつき答える。

 

「わ〜!やめてよくるみちゃん、けがしちゃうよぉ〜」

 

「あはは冗談だよ、でもまた寝坊しそうだったら本当にそうしようかな〜!」

 

そんな2人のやり取りを見て朝から元気だななどと微笑ましく思いながら光と悠里は声をあげる。

 

「よ〜し、朝飯できたぞ〜。今日はうどんだ。」

 

「2人とも運ぶのを手伝ってね。」

2人の一声で胡桃と由紀は立ち上がりうどんを机へと運んでいく。

 

 

「いただきまーす!」

 

 

みんなで手を合わせうどんをすすっていく。

今日は天気がいいから洗濯物がよく乾きそうなどと今日を何をするか決めていく。そうして話をしているうちに先に食べ終わった光が立ち上がる。

 

「さてと…食べ終わったことだしそろそろ見回り行ってくるよ。」

 

「ええ。無理しちゃダメよ?」

 

「まあ大丈夫だろうけど気いつけてな〜。」

 

ゴルフクラブを手に取り教室を出ようとする光に2人が少し心配そうに告げる。

 

 

「ひかるくん!いってらっしゃーい!」

そう言ってパタパタと手を振りながら元気に光を送り出そうとする由紀の声を聞き光は振り返り

 

「うん!いってきます。」

笑顔で手を振り返し3人に告げて教室から出ていく。

扉を閉めるとふぅ、と軽く息を吐き歩きだす。

 

「…よし、今日も行こう。」

 

 

 

教室で彼女らに向けていた笑顔は既に消え冷めた目でまっすぐに前だけを見ていた。

 




読んでいただきありがとうございました。

個人的には無駄に長くなりすぎたかなと思ってます…
もう少し上手くまとめられるように頑張ります…


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第二話 「みまわり」

なかなか上手く書けず悩みながらやっているためどうしても1話書くだけでもかなり時間がかかってしまいます(T^T)

たくさん書いて慣れていくしかないかなとか思いながら頑張ってます^^;
第二話よろしくお願いします。


誰もいない静かな廊下を光はスタスタと歩いていく。綺麗だった校舎は既にボロボロになり血まみれになっていたり窓も割れてしまっている。

 

 

時刻は既に8時半。本来なら既にたくさんの生徒が登校していて騒がしくなっているような時間である。しかしそんな校舎内を歩いているのは光だけ。こんな状況ではさすがにうるさかった頃の学校を思い出して少しばかり寂しくなってしまう。

 

そんなことを頭の中で巡らせながら歩いていると机を高く積み上げている場所へとたどり着く。かれらの侵攻を防ぐために5人で力を合わせ作り上げたバリケードである。バリケードに軽く触れて脆くなっていないかなどを確認していく。

 

「今日も問題なし…と。」

 

バリケードに異常がないことを確認して見回りを終了しようとする。しかしバリケードの向こう側、安全ではないところから気配を感じすぐに物陰に身を隠す。そしてそっと覗いてみる。

 

 

そこにいたのはゆらゆらと力無く歩くモノだった。

 

今日も大丈夫だった、と見回りが完了して少しだけ緩んでいた気を今一度引き締め直す。敵は1体、しかもバリケードとは真逆の方を向いている。これならやれる。そう思った光は制服のポケットからピンポン玉を取り出してやつが向いている方へ力強く投げる。

 

 

甲高い音を立てて転がっていくピンポン玉に気づき一直線に向かっていくため後ろから忍びよっている者にやつはまるで気づきかない。持っていたゴルフクラブを強く握りしめやつの頭を狙い振り下ろす。鈍い音がした。

 

ゴルフクラブが直撃しそのまま前へ倒れこむ。もうほとんど動いておらず数分後には動かなくなるであろう状態だったが確実に仕留めるために光はもう一度頭へクラブを叩き込む。

 

さきほどと同じ鈍い音がなり今度は完全に動かなくなった。死んだことを確認し光はゴルフクラブを見つめる。クラブには赤い血がべっとりとついていた。

 

「このまま帰る訳にはいかないな…」

血に濡れたゴルフクラブを持って彼女達の元へ帰る訳にもいかないと思い光は屋上へ向かう。ゴルフクラブついた血を洗い落とすためだ。

 

 

屋上へたどり着きゴルフクラブを洗いながら何気なく校庭を見下ろしてみる。

 

 

校庭には高校の制服やジャージを着たかれらがふらふらと歩いている。平日の学校だというのに人の声など聞こえない。

かれらになってしまった人達を救う方法などありはしない。自分ができることはかれらの活動を止めて眠らせてやることだけ。命を奪うことしかできないと考えてしまうと自分の無力さに嫌気がさす。

 

ゴルフクラブを洗い終えウジウジと考えていても仕方ない、と自分の頬を軽く叩く。そろそろ戻らないとさすがに心配されてしまうだろうと考え屋上を後にしようとする。

 

思い出したように後ろを振り向き畑に建ててある十字架に歩み寄り静かに語りかける。

 

「今日も頑張るよ。みんなはいつも通り元気にやってるから心配しないで。」

 

「じゃあまたね、…めぐねえ。」

 

そうして屋上を後にし教室へ戻ってくる。

 

学園生活部。

 

彼に生きる意味を再び与えてくれた大切な場所。

 

この場所を守るために生き、かれらと戦う。

 

これが彼が生きる意味としていることでそのためなら自分の命でさえ惜しまない。

 

 

教室に入って彼女たちと話していれば自然と笑顔をになるがどうしても最初だけは作り笑顔を準備しなければぎこちない顔になってしまう。彼女たちを心配させないために必要なことだ。

 

深呼吸をして笑顔を作る。

そうして扉を開け何事もなかったかのように声をかける。

 

 

「ただいま〜見回り無事完了しましたぁ〜。」

 

これが壊れた世界で手にいれた彼の新たな日常だ。




なんとなく会話がないと堅苦しい文になってるなぁって思いました。
心情とかも書こうと思うとすごく堅苦しい表現になってしまう(T^T)

3話ではちゃんと会話させる気でいるのでもう少し柔らかい文になるかなって思います。というかそうなるように頑張ります(^_^;

次回もよろしくお願いします〜


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第三話 「おはなし」

不定期更新になると思いますがができるだけ間隔を開けずに投稿できるように頑張ります(^_^;

第三話よろしくお願いします。


「ただいま〜見回り無事完了しましたぁ〜。」

おどけた口調で見回りが完了したことを報告する。

 

「おかえりなさい。見回りお疲れ様、今日も何事もなかったのよね?」

悠里が光のことを労い改めて見回りのことを確認する。

 

「ああ。バリケードは今日も無事だったよ、まあそうそう壊れることはないだろうけどなー。」

 

わざわざかれらを倒したことなど伝える必要はないと考えバリケードの状況についてだけを伝え椅子に腰掛ける。仮に伝えたとしても心配されて軽くお説教を受けるだけだしめんどうだ。幸い悠里は疑う様子もなくお茶をいれている。よかった、これならバレてはいないだろう。ほっと息をついたのも束の間、胡桃が口を開く。

 

 

「本当にバリケードを見てきただけか?それにしては随分と帰ってくるのが遅かったな。」

 

「え、あ〜まあそうだな……」

余計なこと言うなよ、という気持ちで光は胡桃を睨む…が本人はまったく気にしていないようで窓の外に広がる空を眺めはじめる。

 

「ちょっと光くん、どういうことかしら?もしかしてかれらと戦ってきたの?」

悠里はいつも通りの笑顔でいる、だがしかし笑っていない。無言の圧力に光は屈する。仕方ない、正直に話そう。

 

「バリケードの確認した後に1体だけね、こっちに気づいてなかったし狙いやすいところにいたからさ。」

 

「もう…バリケードの様子を確認してくるだけでいいっていつも言ってるじゃない…そんなに無理して戦わなくていいのに。」

悠里は困ったように彼に語りかける。どうやら今回はお説教をされずに済みそうだ。そう思い光は話を逸らすために口を開く。

 

「わかったよ、ごめんって。そういやゆきがいないけどどこ行ったの?」

 

「由紀ちゃんなら授業に行ったわよ。今日もめぐねえの授業が楽しみだって言っていたわ…」

 

「そっか、もうそんな時間だったか。」

そう呟き時計を見る。時刻は既に9時を少し過ぎたくらい、1時間目の授業が始まっているころだ。

 

「今日はいい天気だな、りーさん俺洗濯してくるよ。使ったタオルとか持ってくぞ。」

 

そう言ってタオルを持って出ていこうとする光を悠里が引き止める。

 

「ひかるくん見回りから帰ってきたばかりじゃない。休んでていいわよ、洗濯なら私がやっておくわ。」

 

悠里は自分が洗濯をすると彼に伝えるが光はそれを拒む。

「まぁ確かにそうなんだけどさ〜なんか今日は体を動かしたい気分なんだよ。気にしないで」

 

そう言って光は教室を出る。屋上へ行く前に由紀の様子を少し見に行ってみる。

 

 

「そうそう!それでね〜昨日もくるみちゃんがさぁ〜」

由紀は楽しそうに話していた。話すと言っても誰もいない教室で1人で話しているだけなのだが。由紀には今も何事もなかった頃の学校が見えている。いきなりそんなふうになったため最初こそ驚いたが元気になった由紀を見ているとこのままの方がいいかもしれないということになり由紀に話を合わせてやることになっている。

 

由紀の様子を確認できたため光は屋上へ行き洗濯をしていく。今日は雲ひとつない快晴である。これならよく乾きそうだ、そんなふうに考えながら洗った物を干していく。しばらくすると屋上の扉が開く。現れたのは胡桃だった。

 

 

「よっ、暇だから洗濯手伝いにきたぞ。」

 

 

 

2人で洗濯をしているためさきほどよりも早いペースで洗っていく。

光は手を止めず胡桃に部室でのことを問いかける。

 

「変な心配かけないために言わないでおいたのになんであんなこと言ったんだよ。危うくりーさんのお説教が始まるとこだったじゃん…」

 

胡桃は少し考えるように上を見上げてからニヤリと笑い答える。

「思ったままのことを言っただけだよ。お前最近1人で無理してる感じあったしさ、お説教されといたほうがよかったんじゃないかー?」

 

「やだよ、りーさんのお説教長いしめんどくさい…まぁ1人でいろいろやろうと無理してたのは認めるし悪かったよ。」

 

「わかればよろしい。よし、これで洗濯物終わりだな。案外早く終わっちまったな。」

 

 

そうだな。と相槌を打つと胡桃がゴルフクラブをじっと見つめていたのでどうしたのかと問いかけてみる。

 

 

 

「いや〜お前も変わってるなーって思って。普通ゴルフクラブなんか武器にするかよ、ってな。」

 

「シャベルを武器にしてるお前にだけには言われたくねーよ。シャベルの方が変わってんだろ。」

すかさず光は反論する。

 

「これが1番使いやすからこれにしてんだよ。それにたまたま近くに落ちていたっていうある意味運命的な出会いをした相棒なんだよ。」

 

「だったら俺もこいつとは運命的な出会いをしたってことになるな。」

 

「そうだっけか、それどこで拾ったんだっけ?」

どうやら胡桃は覚えていないらしく光に尋ねる。

 

「こいつをひろったのは確かみんなで校長室に行った時だったなぁ…」

 

そうぼんやりと呟き光は愛用しているゴルフクラブと出会った時のことを思い浮かべる。

 




会話させるって難しいなって思いました^^;
いいタイトルが思いつかなくて今回は会話している所を多めに書いたので「おはなし」というふうにしてみました。

次のお話ではゴルフクラブを拾った時のことを書いてみようと思います。

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第四話 「ごるふくらぶ」

今回は光視点で書いてみました。

第四話よろしくお願いします。


このゴルフクラブを見つけたのはまだバリケードが完成しておらず3階の安全も確保できていない頃だった。この頃の俺はかれらの相手は胡桃に任せて由紀達と共に逃げたり隠れたりするばかりだった。

 

もう生きていたいなんて思わない、がまだ諦めずに生きようしている人たちがいる中で自分で死ぬなんてことはできなかった。放っておけなかった、ただそれだけだった。みんな死んだら俺も死のう、と思っていたくらい生きることへの執着がなくっなていた。

 

 

 

その日もバリケードを作るために必要な材料を探していた。教室からやつらがいないときを見計らい机を運びだして積み上げていく。

 

校長室を見に行ってみようという提案をりーさんがしてきた。

 

「入ったことがないから何があるかはあまりわからないけれどなにか役に立つものがあるかもしれないと思って…どうかしら?」

 

「確かにそうかもな〜教室ばっかり見るのもつまんないしたまには他の所を探してみるのもいいかもしれない、よし行ってみようぜ校長室。」

 

胡桃も賛成のようだ。いつもは行かない所を探してみるのも悪くない、校長室は3階だから遠くないしやつらの数も少ないだろう。

そう考えて俺も賛成だと伝える。

 

「よし!じゃあ今日はみんなで校長室に行きましょう。みんな気をつけていこうね!」

 

めぐねえが立ち上がって声をあげる。

「めぐねえ今日もすっごく元気だね」

由紀がめぐねえを見上げて言う。

 

「ええ、やっぱりこんな時だからこそ元気でいなきゃ。それとめぐねえじゃなくて佐倉先生でしょ、丈槍さん?」

 

「はーい、佐倉先生。」

 

いつも通りのやりとりをしている、めぐねえって呼ばれるの毎回注意してるけどめんどくさいからもう諦めりゃいいのに、なんて思うけど本人には言わないでおく。こっちのほうが呼びやすいから俺もいつの間にかめぐねえって呼ぶようになってしまった。

 

 

 

 

そして俺たちは校長室へと向かった。屋上と廊下を繋ぐ階段からそっと廊下を覗く。階段から校長室までは少し距離があるが見たところやつらはいない。やつらに気づかれないようにできるだけ静かに早足で進んでいく。校長室までは無事にたどり着けたし鍵もかかっていなかったため普通に開いた。

 

「思っていたより簡単に校長室まではこれたわね。さあ、行きましょう。」

りーさんがそう言って入ろうとした時胡桃が何かに気づき口を開いた。

 

 

「みんなは先に入ってて。向こうにやつらがいるから行ってくる。」

 

「本当だ、いつの間に…というか大丈夫か?無理に相手しなくてもいいんじゃねえのか?」

 

「でも屋上に行く階段の方にいるんだぞ、いまやっとかなきゃ帰る時に鉢合わせになるかもしれないじゃん。」

 

それもそうだな、と考える。胡桃が今から行こうとしているのは俺たちついさっき通ってきた方だ。校長室で何かしらの収穫があってもなくても戻る時に鉢合わせになる可能性は十分にある。そうなってしまっては危険だ、5人の時より1人でいる時にやってしまった方が楽だろう。

 

「じゃあ任せるぞ…無理だけはすんなよくるみ。」

 

「おう!片付いたらすぐ戻ってくるのからな。」

 

そう言って胡桃はやつらに気づきかれないように慎重に隠れながら近づいていった。

 

 

「よし、くるみが戻って来るまでにさっさっと見ちまおうぜ。」

俺はそう3人に言って校長室に入った。

 

 

後から考えてみれば自分でも馬鹿だったと思う。俺たちは扉を閉め忘れしかも全開にして校長室に入ってしまっていた。

 

 

 

「へぇ〜!校長室ってこんなふうになってたんだ〜」

由紀が辺りを見回しながら言った。

 

「そうね、私も校長室に入るの初めてだから知らなかったわ。」

 

「先生も来たことなかったんですか?」

と、りーさんがめぐねえに訊ねていた。どうやらめぐねえもいままで入ったことはなかったらしい。

 

校長室の中は他の教室とかよりは荒らされていなかった。手分けして使えそうなものをさがしていく。そして俺は部屋の隅に置いてあった大きなバックに気づいた。

 

「なんでゴルフクラブなんか置いてあんだ?校長の私物か?」

そうぼやいて俺はゴルフクラブを1本取り出して握ってみる。思ったより持ちやすいな、なんて思っているとめぐねえが何か思い出したらしく口を開いた。

 

「たしか校長先生、ゴルフが趣味だっていう話聞いたことあるわ。だからきっとそれは校長先生の私物じゃないかしら。」

 

「ゴルフが趣味だとしても3階のこの部屋までわざわざ運んでくるとか校長どんだけ好きだったんだよ…」

 

そんなことを言いながらみんなで笑ってると入り口の方から気配がした。胡桃が戻ってきたんだろう、そう思って後ろを振り返った。

 

 

 

 

そこにいたのは胡桃じゃなかった。

うめき声をあげふらふらとこちらをみて近寄ってくるやつらだった。

みんなはっと息を詰まらせる。

 

やつらといっても相手は一体。自分なら簡単にやつから逃げることはできるが由紀たちがいる。そう上手くはいかないだろう。

 

「ど、どうしよう…このままじゃ私たち」

りーさんが怯えた様子でそう呟く。その通りだ、このままじゃ俺たちは助からない。いつもなら胡桃が守ってくれるが今胡桃はそばにいない。

 

 

どうすればいいか自分に問い掛ける。何度も何度も何度も…

自分には何ができる、どうすればみんなを救える…

 

こうしている間にもやつは確実に俺たちの元へと近づいてくる。

 

 

その時は俺は思い出す。自分が手に何かを握っていることを。

昔サスペンスドラマかなんかでゴルフクラブで殺害をするシーンを見た事がある。今自分が持っているのはゴルフクラブだ、もしかしたらと思う。仮に殺すことができなくても怯ませることならできるだろう。

 

やつに向かって歩き出す。後ろからあいつらの声が聞こえた気がしたがはっきりとは聞こえなかった、聞いている場合じゃなかった。

 

 

 

 

俺しか、俺しかいない…

 

あいつらを救えるのは俺しかいないだろ…!

 

 

 

心の中でそう叫ぶ。そして力いっぱいやつ目掛けてゴルフクラブを振り下ろす。

 

 

やつはたおれていた。頭から血が流れ自分持っているゴルフクラブに目を向けると血がべっとりとついている

 

倒れたままやつはピクリとも動かない。

 

やった、頭の中に浮かんできたのはそれだけだった。

俺はみんなを守れたんだ。

 

 

廊下からなにか走ってくる。もちろん胡桃だった。

 

「おい!大丈夫か!?……え?」

 

胡桃が驚いたように目を見開く。それもそのはず頭から血を流し倒れているやつとそれを見下ろす俺。俺がこんなことをするなんて予想もしていなかったんだろう。

 

「…こ、これひかるがやったのか…?」

重苦しく胡桃が口を開く。

 

「…ああ、見りゃわかるだろ」

そう呟き苦笑いを浮かべる。

 

この日俺は初めて人を殺した

 

人といっても人だったモノではあるが。

 

そしてこの時俺の生きる目的が明確に決まった。

ただみんなと一緒に生き死ぬのではなくあいつらを守るために戦い最期を迎えよう。そう心に誓った。

 

 

 

 

ーーーーー

「そういやそんなこともあったな。あの時はほんとびっくりしたよ。

お前がやってくれなきゃみんな無事じゃすまなかったかもしれないんだよな。」

 

「まあな、正直あんな上手くいくとは思ってなかったんだよね。自分でも少しびっくりした」

 

「はは、そっか。まあでも助かってるよ、お前も戦ってくれるようになってだいぶ楽になったし」

 

「そりゃどうも。役に立ってるようでなによりだ」

そう言いながら立ち上がる。洗濯も終わったしそろそろそろ戻ろうと思い胡桃に声をかける。

 

 

「昔話もこの辺にしてそろそろ戻ろうぜ。りーさんが待ってるだろうしさ」

 

胡桃もそうだなと頷き立ち上がり2人で屋上を後にした。

 

 

 

 

 

あいつらを守りぬく。この誓いは何があっても最期まで絶対に貫く

 

彼女たちを守り続けよう。自分の命を懸けて最期まで

この息が止まるその日まで…

 




くるみちゃんがシャベルを使っているようにひかるくんにもちょっと変わった物を武器として使わせてたいなと思いゴルフクラブにしました。

そろそろ遠足にも行かせなくては…
次回もよろしくお願いします。

感想や評価、お気に入りなどもよろしければお願いしますm(_ _)m


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第五話 「たのしいこと」

第五話よろしくお願いします。


「いただきまーす!」

その日の夕食はうどんだった。ついこの間も朝食として食べていたが由紀がうどんがいいと強く推してきたためうどんになった。

 

 

「おかわり!」

食べ終えた由紀が元気よく丼を掲げる。

 

「早すぎだ!よく噛んで食べろよ…」

あまりの早さに胡桃が少し呆れた様子で言う。

 

 

「ちゃんと噛んだよ〜」

胡桃からはそう言われたものの由紀としてはちゃんとよく噛んで食べたつもりだったらしい。

 

そんな様子を見ながら悠里が申し訳なさそうに告げる。

 

「ごめんね、おかわりはないのよ。取りにいかないと…」

 

「購買部にか?だったら取ってくるけど。」

胡桃がうどんをすすりながら訊ねる。

 

「ううん、購買部にはもうないから外まで行かないと」

 

外まで、そう言われて光は由紀をちらりと覗き見る。

 

 

「じゃあめぐねえに聞かないとね」

 

「そうね、じゃあゆきちゃん聞いてきてくれる?」

 

「うん!いってきまーす!」

 

悠里に頼まれて由紀は教室を飛びだしていった。

そんな由紀を見送り胡桃はまたうどんをすすりながら困ったように訊ねる。

 

「外って……めぐねえがいいって言ったらどうすんだ?」

 

「ああ、流石に危なすぎないか?学校から出るだけでもかなりキツイぞ」

光も胡桃と同じように思ったため悠里に問い掛ける。

 

「いつかは出ないとね。足りなくなるのはうどんだけじゃないわ」

そう言うとニコリと笑い鍵を取り出してくるりと回した。見たところ車の鍵だった。

 

車が使えると分かると胡桃は学校を出る手段があると知り納得したようで

「そりゃそうか」

と軽くげっぷをして答えた。

 

「行儀悪りぃぞ…」

と光がツッコミをいれるが本人は気にしていないようだった。

 

車があるから学校を全員で脱出できるし荷物を持って外から学校へ帰ってこれる。それが分かり光は安心したが同時に不安でもあった。校舎から駐車場までは距離がある。確認に1人は危険を冒してまで車まで向かわなければならない。それに由紀のことも不安に思っていた。こうなった世界を今の由紀にはどう映るのか、それでおかしくなったりしないか、不安の方が大きかった。

 

 

 

「ただいまー」

扉が開き由紀が戻ってきた。

 

「どうだった?」

 

「いいけどちゃんと文書にして提出しなさいだって、大げさだよね」

 

どうやら外へと行くことへの許可は降りたらしい。文書にして提出することが大げさだと言う由紀に対して

 

「いやいや、めぐねえだって職員会議とかあんだろ」

と胡桃が適当なことを言って言いくるめる。

 

「そっか〜じゃあ準備しないとな。いろいろと」

光がそう言って立ち上がり言葉を続ける。

 

「じゃあ文書書くのはゆきに任せるぞ。俺は他に考えなきゃなんないことあるし。俺シャワー浴びてくるね」

 

「そうね、ゆきちゃんに任せるわ。ちゃんとしたものを書くのよ?ゆきちゃん。」

悠里からも文書の作成を頼まれた由紀は

 

「は〜い!まっかせて〜!」

とやる気満々な様子だった。

 

 

外に出るならちゃんとした準備が必要だ。改めて光は考える。車のこと、由紀のこと、全員が無事でいられるために必要なもの。やることはたくさんありそうだ。様々なことを頭に巡らせながら光はシャワー室へと向かった。

 

 

 

就寝時間になり4人はそれぞれの寝床に入り眠りにつく……が数十分後突然由紀が布団から飛び起きた。

 

「いいこと思いついた!」

大きな声で言ったため隣で寝ていた胡桃は目が覚め眠い目をこすりながら枕元に置いてあるランプを点ける。

 

「なんだよおい」

 

「すっごい楽しいことだよ」

 

「はいはいなんですか?」

 

胡桃は早く寝たいためかめんどくさそうに由紀に問い掛ける。

 

「それは……」

じっくり間をとるため胡桃はごくっと息を呑み由紀の言葉を待つ。

 

 

 

「…明日のお楽しみ!」

「ほあちょお!」

 

 

由紀の頭に胡桃のチョップが炸裂する

 

なかなかに痛かったようで頭を抱えその場で悶える。

 

 

「…なんだよ、静かに寝かせてほしいんだけど…」

「も〜…2人共どうしたの?」

 

騒ぎに気づき光と悠里も眠い目をこすりながらむくりと起き上がる。

なぜか頭を抱え悶えている由紀を見て胡桃に

 

「乱暴はめっ」

と言うがすぐさま胡桃も

 

「こいつがもったいぶるからさー」と弁明する。

 

「はいはい、2人ともうるさかったからお互い様な。喧嘩両成敗ってやつだ。」

と胡桃と由紀に対して言う。どうやら2人ともしぶしぶ納得したらしい。

 

すると由紀が悠里に抱きつき口を開く。

 

「だってだってほら、今言うより

明日もいいことがあるってほうが楽しみじゃない?」

 

ははっと胡桃は笑い寝転がる

 

「わかったからそういうのは寝る前にな」

 

「まあそうだな、よし!今度こそ寝ようぜ。」

 

そう言って光も寝床に戻る。

それに続き悠里も

 

「そうね。おやすみなさい」

と布団をかぶる。

 

由紀も納得したようでおやすみなさいと挨拶をすると寝床に戻っていく。

 

さっきとはうって変わり静かになる。

このまま朝までゆっくりと眠れそうだと思う光と胡桃だったが

 

 

 

 

「くふふっっ」

と由紀が1人で笑う。

 

 

「「寝ろっ!」」

光と胡桃の怒号がピッタリ重なる。

 

数分後ようやく由紀も眠りについたようですうすうと寝息を立て始める。

 

 

やっと眠れる……

 

そう思いながらいつもより遅い眠りにつく光と胡桃であった…

 




原作のシーンを使って書いてみました。
次回ようやくえんそくに出発します。

次回もよろしくお願いします。

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第六話 「そとへ」

第六話よろしくお願いします。


「はぁ、はぁ、、くるみはまだか…」

柱の裏に隠れ息を切らしながら光は呟く。そして同じように少し先の柱に隠れている悠里と由紀の様子をうかがう。

 

彼らは今校舎の中にいるのではない。校舎の外へ出ているのだ。

なぜ彼らがこんなことをしているのか、時を少し遡ってみる。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

『2日前』

光と悠里が先に起きて朝食の準備をする。人数分の茶碗にご飯をよそっていく。

部室の扉が開き由紀と胡桃が入ってくる。

 

「あ!ごはんだ!!」

由紀は机の上に並ぶ朝食に目を輝かせる。

悠里はそんな由紀に挨拶をしてどの缶詰めを食べたいか問う。

 

「おはよ、ゆきちゃんどれにする?」

 

机の上の缶詰めをひとつひとつ見比べある缶詰めを見つけ手に取る。

 

「あ、大和煮まだあったんだ〜朝から牛!ぜ、贅沢ぅ〜!」

大和煮の缶詰めを開けながら喜ぶ由紀。どうやら由紀は大和煮が好きらしい。

その様子を見て苦笑いを浮かべて胡桃も缶詰めを手に取る。

 

「昭和かよ…あ、鮭もらうぜ〜」

 

「んじゃ俺はサバ缶で」

 

それぞれ好きな缶詰めを選び席につく。そしていつも通りみんなで声を合わせ食べはじめる。

 

 

「「いただきまーす」」

 

 

選んだサバ缶に舌鼓を打っているとなにやら向かいの席に座っている由紀が楽しそうに鼻歌を歌いながら食べていることに気づいた。気になったので声を掛けてみる。

 

「朝からずいぶん機嫌がいいな。どうしたんだ?」

 

光の問いかけに対してご飯を美味しそうに頬張りながら由紀は答える。

 

「うん。いいこと思いついたからね」

 

たしかにそんなことを言って胡桃と騒いでいたな。と光は昨日の夜のことを思い出す。続けてその内容を問い掛ける。

 

「そういやそんなこと言ってたな。どんなのだ?」

 

 

その言葉を待っていた、と言わんばかりにニヤリと笑い由紀は立ち上がって答える。

 

 

 

「遠足行こう!!遠足!」

 

思ってもいなかったことを言われたようで悠里はおもわず聞き返す。

 

「うん?遠足?」

 

「そろそろ遠足の季節じゃない?」

 

「…それはそうね。」

光と胡桃もわけがよく分からずポカーンと由紀を見上げる。

 

…がここからさらにわけの分からないことを由紀が言い始める。

 

 

 

「ふっふっふーわたしきづいたんだ〜

 

学校を出ないで暮らすのが学園生活部。でも!

 

学校行事なら出たことにならない!」

 

 

 

「………………………」

勝ち誇ったようにドヤ顔で言う由紀だったがそれに対して誰も何も言わずに静まりかえる部室…

 

さすがにその空気に由紀も耐えられなくなったようでひとりひとりに改めて問い掛ける。

 

「よね?」

 

「……」

何も言わず由紀のことを見つめる悠里。

 

「…よね?」

 

「……」

そっぽをむく胡桃。

 

「……よね?」

 

「………ズズズ」

何事もなかったかのように味噌汁をすすり始める光。

 

 

静まりかえった部室の中でようやく口を開く者が現れる。胡桃だ。

 

「…いやいやおかしいだろ、遠足って部でやるもんじゃないだろ」

 

そんな的確な胡桃のツッコミに対して由紀は迷いなく言い放つ。

 

「くるみちゃんは頭が固いね!わたしたちの後に道はできるんだよ!」

 

ぬうっ…と胡桃が唸る。そんな由紀の言い分を聞き今度は悠里が口を開く。

 

「…それなら提出用の文書を作りましょ?めぐねえに見てもらわないと」

 

その言葉を待っていた!と言わんばかりに由紀はまたもやニヤリと笑い今度は1枚の紙を取り出す。

 

「じゃーん!」

 

その紙を受け取り目を通す。遠足に行くために提出用の文書だった。

 

「んー…」

一応文書にはなっているが小学生が書くような内容だなと心の中で呟く。胡桃と悠里にも紙を回す。胡桃も微妙な反応だったが悠里はとりあえず大丈夫だと思ったのだろう、由紀にめぐねえに見てもらったらどうかと伝える。

それを聞くと由紀はあっという間に部室を飛び出していった。

 

「さてどうしましょうか」

 

「めぐねえ待ちだなゆきに任せようぜ」

 

「あら、ずいぶん積極的になったわね」

 

「ああ由紀も調子いいみたいだしな」

 

「あとは足だけど…お前ら運転できたりする?」

 

「ゲームならなぁ…」

 

「だよなあ…」

 

部室に残った3人はこれからどうするかを考える。やはり1番の問題は車の奪取とその運転だ。結局そこではまあ何とかなるだろで話が終わった。

 

 

しばらくすると由紀が嬉しそうに帰ってきた。どうやら了承を得たようだ。その後空き教室を使い悠里、胡桃、光の3人で作戦会議が行われた。

 

 

「んじゃ玄関からは無理そうだな。そうすると3階からってことか。」

 

「3階からまっすぐ降りれば駐車場まで150mだけどシャベル背負って全力疾走よ?」

 

「なあ、ほんとにお前1人でいくのか?足なら俺も十分早いと思うんだけど」

 

作戦会議の前に胡桃から自分が車を取りに行くと言われた。光も胡桃も陸上部だったため足は速いし当然光の方が速い。しかし胡桃は自分1人で行くと譲らなかった。

 

「うん、光にはりーさん達のことを守っててほしいんだよ。車を待ってる時にやつらが襲ってくるかもしれないしさ。」

 

「まあ、それはそうなんだけどさ…」

 

「あたしなら大丈夫だって。さっきタイムも測ってきたし任せとけ!」

 

自信満々な様子で胡桃が笑う。そこまで言うならと光もしぶしぶ胡桃に任せることにした。

 

「じゃあ気をつけてね…」

そう言って悠里は胡桃に車の鍵を手渡した。

 

 

それからは物資を入れるためのリュックや怪我をした時の為の医療品を準備したりと購買部や保健室などを回り遠足のための準備に追われた。そうしてあっという間に遠足当日を迎え今に至る。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

胡桃が出た後に3人で1階まで降り玄関の柱に隠れて待っていた。

その際に何度かかれらに気づかれたがその度に光ができるだけ他のかれらに気づきかれないように素早く倒す。倒したのはまだ5体ほどだったがいつどこから現れるか警戒していなければならないために必要以上に疲れてしまっていた。すると悠里が慌てたように声を上げる。

 

「ひかるくん!後ろからきてるわ!」

 

すぐに後ろを振り返ると10mほど先に1体こちらに向かってきているかれらがいた。

 

「くそっ、またかよ!」

すぐに走り出してかれの頭にゴルフクラブを振り下ろす。一撃で仕留めたらしくそのまま倒れ動かなくなる。

 

そろそろまずいと光は心の中で呟く。これ以上戦っていても体力を消耗するだけだがかれらは次々に襲いかかってくる。このままでは全員無事ではいられない、と焦りが生まれてくる。

 

 

ふと校庭を見るとまた1体こちらに向かってきていた。こちらに引き付けてから今度は横殴りにゴルフクラブを振る。またもや頭に直撃し一撃で仕留める。すると遠くからブロロロという音が聞こえこちらに近づいてくる。そして玄関の横にピタリと止まる。

 

 

「早く乗れっ!」

運転席の窓から胡桃が顔を出す。

 

そうして3人は車に乗り込んでいく。

 

「ずいぶん遅かったな。待ちくたびれたぞ…」

光は助手席に乗り込みながら胡桃にぼやく。

 

「やつらの数が多かったしめぐねえの車がどれかわかんなくて手こずっちゃってさ。よし全員乗ったな」

 

全員が車に乗ったことを確認するとすぐにハンドルを切り校庭を突き抜けていく。途中をかれらを2体ほど轢いた。

 

「あ、今轢いたな…」

 

「そんなこと気にしてる場合じゃないし避けるほどの技術もないんだよ!」

 

胡桃はあまり気にしていないらしく、車の運転で手一杯ようだ。

そんなことをしてるうちにあっという間に校門へたどり着いた。

 

 

 

「それじゃぁ遠足に」

「「しゅっぱあつ!」」

 

4人で声を揃えて学校を飛びだす。学校を出るまでいろいろと苦労はあったが4人とも笑顔だった。いままで苦労よりこれからのことの方が楽しみだからだろう。

 

 

 

 

 

 

この日彼らは初めて外の世界へ飛び出した

 




読んでいただきありがとうございました!
ということでここからえんそくのお話となります。

えんそくは2話〜3話に分けて書こうと思っています

次回もよろしくお願いします

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第七話 「ひーろー」

今回はいままでよりも長いです。

第七話よろしくお願いします。


 

えんそくに行くため学校から外に出た学園生活部の4人はショッピングモールを目指し車を走らせる。運転しているのは胡桃で助手席には光が座り地図を見ながらモールまでの道を伝えていく。後ろには由紀と悠里が座っている。

 

 

えんそくでいつも以上にテンションが高くなっている由紀がはしゃぐ。

 

「ごーごー!もっととばしちゃえ〜!」

 

「ゆきちゃん、危ないからちゃんと座ってね。」

 

はしゃぐ由紀を隣に座る悠里が注意する。

 

「くるみこれ以上スピードなんか出すなよ?安全運転で頼む」

 

助手席の光が胡桃にそう釘を刺す。

 

「わかってるよ!そのくらい!」

 

慣れない運転に胡桃はイライラしているようでいつもより強い口調で答える。

 

すると胡桃が急にブレーキをかけて車を止める。他の車が止まっていて道が塞がれていたためだ。

 

「ゆき、りーさん後ろ見ててUターンするから。」

 

「また通行止め?なんか今日多いね。」

 

「そうねえ。胡桃後ろ大丈夫よ」

 

「おーらーい」

 

Uターン曲がり角を曲がる時にかれらを1体轢いたが胡桃も光も気にしていなかった。もう既に何度も轢いてしまって見慣れてしまっていた。

 

「また轢いたな。」

 

「そうだなー。」

 

そんなことにはまるで気づかす後ろに座る由紀は窓から目を輝かせて外を眺めていた。

 

「えんそく楽しいねー」

 

「……そうか?」

 

胡桃は疲れた様子で由紀に答える。それを見て光は胡桃に声をかける。

 

「運転代わろうか?上手くできるかはわかんねえけど。」

 

「あ〜頼むぅ…」

 

やはり疲れていたようで胡桃はすぐに光の提案に応じた。

 

 

 

 

光が運転を代わってからしばらく経つ。途中で何度か通行止めになっているところがあったため遠回りにはなっているが順調に進んでいた。ただ1つのことを除けば…

 

「…んで、次はどっちだ?」

光は助手席の胡桃に問い掛けるがなかなか返事が帰ってこない。

 

 

「…えーと次は………」

胡桃は持っている地図をクルクルと回すばかりでなかなか答えない。

胡桃が地図を上手く読めていないのだ。さきほどからこれが何度も続き無駄に時間がかかっていた。

 

(やばい、迷った……)

 

胡桃が心の中でそう呟き焦っていると後ろからおもわぬ救世主が現れた。由紀である。

 

「んーここじゃないかな?」

後ろからひょこっと顔を出し迷わず地図を指さす。

 

「ん?あ…そうかな?」

むぅと地図を睨む胡桃。その様子を見て悠里が由紀を褒める。

 

「すごいじゃないゆきちゃん。地図読むの得意なのね。」

 

「んーそうなのかな?えへへ」

 

褒められて少し照れくさそうに笑う由紀。そんな由紀に対して光が言う。

 

「なぁゆき、ナビゲーター代わってくれるか?」

 

「うん!いいよ〜!」

光の言葉に嬉しそうに頷く由紀。そうして光はかれらがいないところで1度車を止めて由紀と胡桃に席を代わってもらう。

 

 

 

 

 

由紀にナビゲーターを代わってもらうとさきほどとは違いサクサクと進んでいく。思っていた以上に由紀は地図を読むのが得意だった。

 

 

 

そうしてしばらく進んでいると住宅街に入った。由紀のナビゲートに従い車を走らせていく光。しばらくすると突然後ろで窓の外をぼんやり眺めていた胡桃が何かに気づき目を見開き声を上げる。

 

 

「あ!ストップ!」

 

 

いきなり言われたため光は慌ててブレーキをかける。助手席に座る由紀はシートに頭をぶつけて頭を抱えていた。

 

「イテテ…もういきなりどうしたのくるみちゃん?」

由紀は不満そうな表情で胡桃に訊ねる。

 

「あ、いやなんでもない……」

 

「本当に?何か見つけたの?」

胡桃は窓の外をじっと見たまま答える。そんな様子を不思議に思った悠里が胡桃に問い掛けるが胡桃は

 

「いや本当になんでもないから…ごめんな、いきなり止めたりして。」

 

と答える。窓の外を見つめる胡桃の表情はどこか寂しげなものであった。光は胡桃の目線の先にを追い何を見ているのか分かりなぜ胡桃が車を止めたのか理解した。

 

 

 

胡桃が見つめる先には恵飛須沢と書かれた表札のある家があった。そのことに由紀も気づいたようで口を開いた。

 

「ここもしかしてくるみちゃんの家?」

 

「…ああ。」

胡桃は思いつめたように頷く。

 

「顔出してきたら?ずいぶん帰ってないじゃない」

由紀は笑顔で胡桃に提案するが

 

「でもほら、今日帰るって言ってないしさ…」

 

「いーじゃない別に」

 

「……そうだな。ちょっと顔出してくる!」

 

由紀の言葉に心を動かされたようでさっきとはうって変わり笑顔で車を降りようとする胡桃に悠里は一緒に行こうかと心配そうに訊ねるが胡桃は1人でいいと告げ車を降りる。

無理をして笑っている…そう感じた光は自分も車から降りる。由紀と悠里に聞かれないために車のドアを閉めてから胡桃を呼び止める。

 

 

 

「待てくるみ。本当に1人で大丈夫なのか?」

 

「ははっ、さっきも大丈夫って言ったろ?自分の家に帰るだけだしさ。」

さきほどと同じ笑顔で答える胡桃に光は真剣な表情で話を続ける。

 

「確かに家に帰るだけだ。でももしかしたらってこともあんだろ。そん時お前どうすんだ?いつものように躊躇わずにやれるのか?」

 

胡桃は光が真剣な表情で問い掛けてきたためさきほどとは険しい表情で光を見て答える。

 

「そんなのわかってるよ……大丈夫。もし自分の家族がやつらと同じようになってたらちゃんと倒すから。そうなってたらそいつらはもうあたしの家族なんかじゃないから…」

 

胡桃は悲しそうに下を向くがすぐに顔を上げいつもと変わらぬ強気な口調で光に告げる。

 

「だからあたし1人で大丈夫だからさ!心配しないで光も車で待っててくれ」

 

「わかった。じゃあ車で待ってるから」

 

本人がそう言うなら仕方ない、と光は車へ戻る。

 

「ひかるくんーくるみちゃんと何話してたの?」

 

「別にたいしたことじゃないよ。ちゃんとあいさつしてから戻ってこいよーとかそんな感じ。」

 

由紀にはてきとうなことを言ってごまかしておく。

 

「くるみ大丈夫かしら。」

悠里はやはり心配なようでじっと胡桃の家を眺める。

 

「大丈夫って言ってたし多分大丈夫だろ、自分の家に帰るだけだし。」

光はさきほど胡桃が言っていたことを繰り返す。家に誰かいるとは限らないし大丈夫だ。と心の中で言い聞かせる。大丈夫と言われたものの光も心配なままでいた。

 

 

 

10分ほどすると胡桃が家から出てきた。胡桃の姿を確認し光と悠里は胸をなでおろす。

 

「おかえりー」

 

「…おう」

暗い面持ちで胡桃が戻ってきたため家には誰もいなかったのだろうなと光は悟る。

 

「んーおかえりって変かな?家からおかえりって」

 

「いんじゃね。」

胡桃はそう言うと

 

 

 

「ただいま」

由紀に笑顔で応えた。

 

 

「さて、くるみも戻ってきたしそろそろ行きましょ。」

悠里のかけ声で光は車を走らせる。

 

この日はもう既に暗くなり始めていたため近くのガソリンスタンドに車を停め一夜を明かすこととなった。

外ということでかれらから身を守るために由紀以外の3人で交代で見張りをすることになった。

 

 

 

車の中で持ってきた缶詰めで簡単な夕食をとり夜を迎える。

最初の見張りは胡桃だった。胡桃はぼんやりと夜空を見上げていると不意に頬が温かくなるのを感じ空から目線を落とす。温かさの正体はお茶の入った水筒を頬に当てる光だった。その後ろには悠里の姿もあった。

 

 

 

「あれ、2人ともどうしたの?もう交代だっけ?」

 

「ううんまだ。様子を見に来ただけよ。」

 

「そ、なんとなくね」

 

胡桃の質問に2人はそう答えてそっと腰を下ろす。手渡されたお茶を胡桃がすすり少しの間沈黙がおとずれる。水筒の蓋を光に返し胡桃がゆっくりと話始める。

 

 

 

「もしかしてって思ったんだよな。やばいのはさ学校の中だけで外じゃもう救助が始まってるんじゃないか、みたいな」

 

「ええ、私もちょっと思ってた。実際はそんなことなかったけれどね…」

悠里が寂しげな表情で相槌をうつ。

 

「ヘリがさ、ばばばっーて飛んできて自衛隊?とかそういう人がさ

だいじょぶかー?よくがんばったなーみたいな?」

 

「ふふ、そういうのいいわよね。映画みたい」

胡桃の話を悠里は笑顔で聞いて光は相槌などをうちはしないが黙って耳を傾けている。

 

「でもさそんなの甘くないよね、映画のヒーローとかいるわけないし。」

片手を空に伸ばして胡桃は言葉を紡いでいく。

 

 

 

「そんなのまだわかんねーぞ?」

「え?」

 

黙って耳を傾けていた光が口を開きぼんやりと遠くの方を眺めて穏やかな表情で語り始める。

 

「ヒーローの人達もさ、頑張ってんだよ。今は東京とかで救出作戦とかやっててさ

そんで救助した人集めてデカいバリケード作ってそっから遠征隊みたいなのを募っててさ…」

 

「そっかーじゃあヒーローもうちよっとかかりそう」

 

「そうね。ヒーローさんあとちょっと…」

 

妄想の話に過ぎないとわかってはいるが胡桃も悠里もいるかも分からないヒーローに思いを馳せる。

すると突然後ろから新たに声を発する人が現れた。由紀だ。

 

「あっまーーい!」

「えっ?」 「わっ」 「うお」

 

いきなり後ろから大きな声が聞こえたため3人は驚き振り向いた。由紀はなぜか車の上に乗っていた。

 

「ゆき、なんでお前車の上に乗っかってんだ…」

 

「ヒーローなんて待ってるものじゃないよ!ヒーローはなるもんだ!」

 

光の問いかけを無視し声高らかに由紀は3人に告げた。

 

「おまえどっから聞いてた?」

 

「ん?ヒーローが来るとか来ないとか?」

 

「ヒーローなるってどうすんだよ…」

話の後半しか聞かれていないと知ると胡桃はほっと息をつく。

 

 

「人はね誰かのヒーローになれるんだよ!ダリオマンがゆってた!」

「それマンガじゃねえか!」

胡桃は由紀にツッコミを入れるが由紀はまるで聞いていないようで

 

「ねえ、学園ヒーロー部ってカッコよくない?」

「…カッコよくねぇよ!」

 

「学園ヒーロー部はいつでも誰でも困った人のところへ駆けつけるんだよ!」

「だから人の話を聞けぇ!」

 

そんな2人のやり取りを見て悠里と光は笑いだす。なにがそんなに面白いんだと胡桃からは怒られたがそれでさらに笑ってしまった。

 

 

 

 

それからしばらくしてしっかりと交代で見張りを始めた。胡桃が見張りをしている間に光たち3人は眠りにつく。それから数時間経って光は肩を揺すられて目が覚める。どうやら交代の時間になったらしい。

 

 

 

 

 

 

光は車の上に寝転がりさきほど話していたヒーローのことを思い出す。

 

ヒーローは待つのではなくなるものだ。

 

人は誰でも誰かのヒーローになれる。

 

由紀の好きなマンガの話ではあったがそんな考えも悪くはないと光は思う。

 

 

 

 

(自分は多くの人を救うヒーローにはなれないだろうがせめてあいつらの、由紀達のヒーローにくらいはなりたい。いや、なってやる)

 

 

 

「はは、俺らしくはないかな……でも意外と悪くはないかもしれない」

 

満天の星空を見上げながら自分で考えたことに対してらしくないなどと誰かが聞いているわけでもないがあえて口に出し笑いとばした。

 

 

 

 

光はこれからもあいつらのためなら汚れ役でもなんでもしてやる。と1人夜空のもとで改めて誓ったのであった。

 

 

 

 

 

ちなみにこの後見張りの交代の際に悠里に車の上で寝そべっていたことを叱られたのであったがそれはまた別の話……




読んでいただきありがとうございました。

アニメだとくるみちゃんの家に寄ったりヒーローとかの話カットされてたんで絶対書きたいなぁと前から思ってたんです(^_^;

次回はモールでのお買い物回です。
そろそろみーくん出せるかな^^;

次回もよろしくお願いします!

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第八話 「はじめまして」

いつの間にかUAが1000を越えていてびっくりしました!読んでくださっているみなさん、ありがとうございますm(_ _)m

第八話よろしくお願いします。


夜が明けて学園生活部の4人はショッピングモールを目指し車を走らせる。後ろに座っている由紀は思い出したように口を開いた。

 

「そういえばこの車4人乗りだけどりーさん狭くない?めぐねえと3人で座ってるけど」

 

「え?そ、そうね少し狭いけど大丈夫よ。ゆきちゃんの方こそ大丈夫?」

悠里は少し驚き慌てて返事を返す。

 

 

「えんそく、めぐねえも来てたんだな。昨日は何もそんなこと言ってなかったからわかんなかったけど。」

 

「そうみたいだな、いきなり言われるとちょっと焦るよな…」

 

運転席と助手席に座る光と胡桃は由紀に聞こえないように小さな声で話す。昨日まではめぐねえのことを何も言わなかったため2人も少し驚いていた。

 

 

「わたしは大丈夫だよ。めぐねえも大丈夫?

うん、そっかぁ〜。早く着かないかな〜ねぇねぇあとどれくらいで着くの?」

 

「そうだなー、地図を見た感じあと15分くらいかな。」

 

「わかった〜楽しみだなぁー」

 

由紀は笑顔で答える。

 

「それならすぐに降りられるように準備しなきゃね、ゆきちゃん。」

 

「はーい!めぐねえもちゃんと準備しておいてね」

 

悠里からそう言われ由紀はリュックの中身を改めて確認し始める。確認が終わるとリュックを抱きかかえ悠里に笑顔で話しかける。

 

「準備おっけーだよ!りーさん」

 

「うん、おかいもの楽しみね。ゆきちゃんは何か欲しい物とかある?

 

「う〜ん…やっぱりお菓子とかかな。あ、あとマンガも見たいかも!それとね〜……」

 

 

由紀と悠里に楽しそうに話している中、光と胡桃もショッピングモールについてのことを話していた。

 

「モールの中ってさ、やっぱりたくさんいるのかな。やつら」

 

「どうだろうな、まったくいないってことはないだろうけど今日は平日だしやつらで溢れかえってることはなさそうだけど。」

 

「そっか…着いてからだけどあたしが1番前行くからさ光は1番後ろにいてくれないか?」

 

「わかった、じゃあ背中は任せとけ。だから前は頼むぞ」

 

「ああ、任しとけ!」

 

 

 

 

そうしているうちに車は目指していたショッピングモールへとたどり着いた。車から降り光達は店の外観を軽く見回すが学校とひどく荒れているようだった。

 

 

「とうちゃ〜く!!」

由紀は車から降りると楽しそうにクルリと一回転しはしゃいでる。そんな様子を見て胡桃はニヤッとして由紀に言う。

 

「おまえ遠足で熱出すタイプだなぁ?」

 

「そ、、そんなことないもん!」

 

慌てて反論する由紀だったが

 

「ほら、もう赤くなってるぞー」

と胡桃がさらにからかう。

 

まあまあと悠里が胡桃と由紀に声をかけ話を終わらせる。

 

「もう!めぐねえこそ…………」

めぐねえに向かって何か話をしている由紀をよそに胡桃が小声で2人に話しかける。

 

「ここまでは上手くいったな。」

 

「そうね、今日は平日だしで歩いてるやつらも少なかったものね」

 

「アイツら…みんな学校や仕事に行ってるんだな。まるで生前の記憶があるみたいに…」

 

胡桃が暗い表情で俯く。そんな胡桃を元気づけようと悠里が笑顔で答える。

 

「まあ、この先も気を抜かず遠足を楽しみましょう?せっかく久しぶりのショッピングなんだし」

 

 

 

 

「ねぇ、みんなー!」

由紀が呼ぶ声が聞こえ顔を上げると由紀が先に進んで手を振っていた。早く行こうと促しているのだろう、そう思い光はゆっくり歩き出し笑みを浮かべながら口を開く。

 

「そうだぞ。…それにあの危なかっしいやつの面倒も見ないとさ」

 

 

2人の言葉を聞いて胡桃はいつもの表情に戻り頷き歩き出した。

 

「そうだな、せっかくの遠足だし楽しまなきゃもったいないな!」

 

 

 

入り口にたどり着くと由紀が大きな声で中に向かって声をかける。

「おやすみですか〜こーんにちはぁ〜」

 

「ゆきちゃん静かに、今イベントをしているみたいよ。」

悠里が落ちていたチラシを拾い由紀に見せた。

 

「ん?イベント?」

 

「うん、コンサートイベントをしているみたいだから静かにね。」

 

「はぁーい!」 「「しっー!」」

静かにと言った矢先すぐに大きな声を出す由紀に3人は慌てて注意する。これでこっそりとモールの中を移動する理由ができたと光は一安心する。この状況が分かっていない由紀にどう説明するか悩んでいたからだ。

 

 

 

 

 

モールの中に入り少し歩くと大きく開けた場所に着いた。至るところからかれらのうめき声が聞こえる。

 

「やっぱりいるわね…」

気づかれないように小さな声で悠里が言った。

 

「これくらいの数ならどうってことない。みんな、できるだけ音立てないようにあたしの後ろついてきてくれ。」

 

「ええ、わかったわ。」

 

「俺が1番最後走るから後ろは気にせず走ってくれ」

それぞれ言葉を交わし心の準備をする。

 

 

 

「よし、行くぞ!」

胡桃の合図で1列になり走りだす。止まっているエスカレーター目掛けて一直線に走る。幸い途中でかれらに行く手を阻まれることもなくエスカレーターを登り2階にたどり着く。そして近くのCDショップに入り急いで店のシャッターを閉めた。

 

ふぅ、光が息を吐くと悠里と胡桃が近寄ってきた。

 

「この中にはいないみたいよ。」

 

「おう、そっか。ありがとな」

 

しばらく何か使える物がないか店の中をまわる。特にめぼしい物は見つからなかったため光は胡桃と共に悠里に声をかけに行く。

 

 

「りーさん、あたしたち地下を見てくるよ。」

 

「食品売り場?でもとっくに腐ってるんじゃないかしら」

 

「そうだろうけど缶詰めとかは欲しいだろ?やばそうだったらすぐに戻ってくるから大丈夫だって。」

 

 

そう言って閉めたシャッターを再び開け光と胡桃は店の外に出る。悠里も顔を覗かせる。

 

「じゃあ無茶はしないでね…」

 

「わかってるって。あたしらが戻ってくるまで店から出ないで待っててくれ」

悠里にそう忠告しておき2人は走り出した。光が1度後ろを振り返ってみると悠里が心配そうに2人を見つめていた。

 

 

 

 

「できるだけ早く戻んないとな。りーさんすごい心配そうにこっち見てた」

 

「そりゃそうだろうな。急いで拾ってこようぜ」

 

走りながら会話をしていると正面から1体こちらに気づき向かってくるかれらがいた。光が走るスピードを速め近くまで行きゴルフクラブを振り下ろす。

 

倒れたまま動かなくなる。今回も一撃で仕留めたようだ。

 

その様子を見て胡桃が呟く。

「やっぱりもっと気づかれないように移動した方いいかもな。」

 

「そうだな、学校の中より数多いみたいだしできるだけ相手にしたくないしな」

 

 

2人はここまでの自分たちの行動を少し反省しゆっくりと進んでいくことにした。

さきほどよりもかれらに気づかれないような場所を進んでいく。ペースは落ちてしまったが1度も気づかれることなく地下の食品売り場までたどり着くことができた。

 

 

かなり薄暗かったため持ってきていたライトを点け辺り照らす。

 

「やっぱりだいぶ荒れてるな、というかすごい臭いだなここ…」

 

「ああ、りーさんの言ってた通りほとんど腐ってるんだろうな。野菜とか果物は諦めて缶詰めだけでも取って帰ろう」

 

そう言って慎重に2人は進んでいく。生鮮食品の売り場を抜けると臭いも少しはマシになった。しばらく歩いていると缶詰めの並ぶ売り場を見つける。

 

「あった!」

缶詰めの並ぶ棚の前にしゃがみこんで持ってきたリュックに詰め込んでいく。

 

「よ〜し大漁大漁!お、大和煮だ。……え?」

 

胡桃は落ちていた大和煮の缶詰めに手を伸ばす……が同じ缶詰めの反対側からも小さな手が伸びてきた。手といっても人のものではなく毛に覆われたかわいらしい手であった。

 

 

「うわっ!」胡桃は驚き手を引っこめる。

 

「どうした、大丈夫か?って…え、犬?」

 

胡桃の声を聞き駆け寄って来た光だったが大和煮に手を伸ばす犬を見て驚く。

 

 

「……意外な生存者を見つけてしまった。」

光は真顔で呟く。

 

「いや、生存者って言うのかこれ!?」

「わん!わん!」

「うおぉ〜なんだなんだ!」

 

ツッコミを入れているといきなり吠えだした犬に驚く胡桃。

 

そして

 

 

カプっ

と大和煮の缶を咥えて走り去ってしまった。

 

「あ!ズルいぞ!それはあたしんだ!」

「落ち着け、お前まで吠えてどうすんだ。」

と、吠える胡桃と冷静に言い放つ光。しかし後ろからカランカラン、と缶が蹴られるような音が聞こえすぐに後ろを振り向きライトで照らす。

 

そこにはうめき声を上げ2人のすぐそばにまで迫っているかれらがいた。

 

 

「やべ…!」

「急いで戻るぞ!」

 

 

目当ての缶詰めを手にいれたためここには用はないとリュックを背負い2人はすぐに1階を目指し走り出す。近くにかれらがいなかったためすぐに2階へ続くエスカレーターまで戻ってくることができた。

 

 

 

2人がいるCDショップのシャッター開け中に入る。

 

「ふ〜助かったぁ」

「お前が吠えなきゃあんな危ないことにはなんなかったのになー」

「いや、吠えたのはあたしじゃねえ!犬だ!」

 

 

 

光がからかっていると店の奥から悠里と由紀が駆け足で出迎えてきた。

 

「2人とも大丈夫だっ……ん?」

悠里が途中で下の方を見始めたため光と胡桃もそれにつられて下をみる。子犬が下ろしかけていたシャッターの隙間から走り込んできた。しかも缶詰めを咥えていたため2人はさきほど地下で会った犬だとすぐにわかった。

 

「あ!こいつ大和煮泥棒だ!」

「泥棒じゃねえ、ただの生存者だ。」

 

光は真顔で声を荒らげる胡桃に言い返す。

 

「あ!わんちゃんだぁ〜!」

悠里の後ろからひょっこりと由紀が顔を覗かせる。

 

「わん!」

咥えていた缶詰めを放し吠える。

 

「…はっ!ふふ〜ん」

それを見た由紀が突然ハッとしてしゃがみこみ、

 

「ワン!ワン!ワン!」

…なぜが吠えだした。

 

「わん!わん!わん!」

由紀につられて犬も同じように吠える。

 

 

「通じあってる!?」

そんな1人と1匹に胡桃が驚くような素振りをみせる。

 

「いや〜…たまたまじゃないか?」

光は苦笑して答える。

 

「ワオ〜ン!」

 

「わお〜ん!」

 

由紀がそのまま犬に抱きつこうとするがそれを後ろから胡桃が止める。

 

「まてまてまて!」

もう少しで抱きつけるというところで止められたため由紀は悔しそうにその場でジタバタする。

 

その間に悠里が大和煮の缶を開け犬に差し出す。

そしてそれを夢中で頬張り始めている間に悠里は手袋をしてそっと後ろに回り込む。

 

 

「…りーさん早くぅ〜」

 

「…ちょっと待って〜」

 

胡桃の小声での呼びかけに同じように小声で返す。そして真後ろまで回り込むと勢いよく抱き上げる。

犬は少し驚き始めのうちだけジタバタとしたがすぐにおとなしくなった。

 

「あ〜!りーさんズルい!!」

 

犬を抱きかかえている悠里に羨ましそうに言う。

 

「大丈夫、噛まれてないみたい。はい、ゆきちゃん。」

 

犬が噛まれていないことを確認し由紀の方へ近づける。

 

「はじめして!わんちゃん。」

由紀が犬の目を見てそう挨拶すると由紀の顔を舐め始めた。

 

「わぁ…!わーい!わーい!わんちゃんだぁ〜!!」

 

由紀は嬉しそうに犬を抱き上げてはしゃいでいた。

 

「ねえ、あの子どうしたの?」

悠里が光と胡桃に犬について問う。

 

「地下でばったり会った大和煮泥棒だよ。」

「いや泥棒じゃねえよ、生存者だってば」

 

「そ、そう…飼い主はどうしたのかしら。」

2人の回答に苦笑いを浮かべながら悠里は話を続ける。

 

「さあな、いたら連れてくるって。」

 

そんなふうに話していると由紀が首輪に気づき声を上げる。

 

「首輪に何か書いてある〜、たろう…まる?太郎丸?」

「わん!」

 

由紀が首輪に書かれていた名前を読み上げると元気よく犬は声を上げた。どうやらこの犬は太郎丸というらしい。

 

 

「へぇ〜太郎丸っていうのか。よろしくな太郎丸!」

胡桃が名前を呼び挨拶をするとわん!とまた鳴いた。人懐っこいやつなのだなと光は思った。

 

 

 

 

「さて!じゃあ太郎丸も連れて次は3階へ行きましょう〜」

 

「は〜い!」

悠里の指示をうけ由紀は太郎丸が逃げないようにリュック中に顔だけ出るように入れてやる。おとなしく入っているためぬいぐるみのようだとみんなうっとりとする。

 

「はは、かわいいやつだな。よし、みんな忘れ物はないな?じゃあ出発するぞー」

 

光が声をかけシャッターを開ける。近くにかれらがいないことを確認し全員外へ出る。

 

 

 

 

 

4人は新たな仲間に太郎丸を加えて新たな目的地を目指し歩みを進めていく




読んでいただきありがとうございました。

最初にえんそく2〜3話で書きますとか言ってましたけど全然収まりそうにないですね^^;嘘ついちゃいましたごめんなさい(^_^;

今回太郎丸が出てきましたがショッピングモールでのお話はアニメの方メインで書いていきます。

次こそ、次こそはみーくん出します…(多分)

次回もよろしくお願いします。

感想や評価、お気に入りなどよろしければお願いしますm(_ _)m


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第九話 「であい」

かなり長くなってしまいました(^_^;

第九話よろしくお願いします。


えんそくに来ていた4人はショッピングモールで出会った犬、太郎丸を仲間に加え次の階を目指していた。かれらに見つからないように慎重に進み3階へたどり着くと次の目的地を悠里が告げる。

 

「みんな、次は電器屋に行くわよ」

そう言って悠里はモールに入る際に見つけた館内の地図を見て場所を確認する。どうやら今いる場所からそう遠くない所にあるらしい。光と胡桃も地図を見せてもらい場所を把握し1列になり進んでいく。

 

かれらを遠くに多少見かけはしたが近くにはいなかったため簡単に電器屋に着くことができた。

 

「やっぱり1階よりも少ないな、やつら。」

 

「そうね。やつらやっぱり階段が苦手なのね。」

3階に着いてから明らかにかれらの数が減ったことに悠里と胡桃も気づいたようだった。

 

「多分体の筋力とかがだいぶ落ちてるんだろうな、学校のやつらもだけど階段とか苦手みたいだし走ってるとことか見たことない」

2人の会話を聞き光も口を開いた。

 

「あー確かに言われてみれば走ってるとことか見たことないな。」

 

 

「そうね、走ったりして襲ってこないから逃げたりするのもだいぶ楽よね。」

 

「さすがにあの数に走って追いかけられるのはキツイよな…」

かれらの習性について話していると由紀の声が前の方から聞こえた。

 

「みんな何話してるのー?電器屋にお買い物早く行こうよ〜」

由紀が少し先を歩いて3人にそう促す。早足で3人は由紀に追いつき電器屋を目指す。

 

少し歩くと目当ての店に着いた。まず最初に光と胡桃が店の中にかれらがいないか確認する。その結果かれらはいなかったためシャッターを閉め買い物を始める。

悠里があらかじめ必要な物をメモにまとめていたため手際よく集めることができた。カセットコンロや電池など必要な物をリュックに詰めていく。

 

 

 

「コンロにボンベ、それから………あった!」

そう言って悠里はある物を手にとる。

 

「防犯ブザー?なにに使うんだよそれ」

胡桃が不思議そうに問いかける。

 

「かっわいいー!確かここを引っ張ると〜…」

そう言って防犯ブザーを引っ張ろうとする由紀だったが

 

「だめよ。イベント中だって言ったでしょ?」

悠里が手を引っ込めてそれを阻止する。

 

「え〜ちょっとくらい〜」

また引っ張ろうと手を伸ばす由紀だったが」

 

 

 

「だ・め・よ〜!」

悠里が笑顔で由紀に告げる。後ろには黒いオーラのようなものが見えた…気がした。

 

「ひぃ〜〜わかりましたぁ…」

笑顔のまま告げてきた悠里に恐怖を覚え由紀はものすごい速さで後ずさりをした。

 

「そんなもんどうするんだよ?」

胡桃が改めて悠里に問う。

 

「防犯よ。ぼ・う・は・ん」

悠里はニコリと笑い答えた。結局何に使うのかは教えてくれなかったが悠里のことだ、きっと何か考えがあるのだろうと思い光は深くは聞かなかった。

 

 

 

「さて、だいたい必要なものは揃ったけどこれからどうする?」

店から出ると光がそう3人に問いかける。

 

「そうね。それじゃぁ次はお洋服を見に行きましょう」

悠里が次の目的地を指定した。目的地を聞くと由紀だけではなく胡桃まで嬉しそうに声を上げた。

 

「「やったぁー!」」

 

「しっー」

すぐに悠里が静かにするよう促す。2人はごめんと少し恥ずかしそうに小さな声で答えた。

 

 

 

服屋は同じ3階にあったためすぐに着くことができた。

店に入るやいなや由紀はすぐに嬉しそうに駆け出していった。

 

「おい由紀、待てよ〜!」

胡桃は由紀を追いかけて行ったがこちらもまた嬉しそうな様子だった。

 

「2人とも店に着いたとたんにテンション上がったな…」

光ははしゃぐ2人を見て苦笑いを浮かべて悠里に言う。

 

「ふふふ。そうね、2人ともずいぶん楽しそうにしてるわね」

と言う悠里の声もいつもより明るく聞こえた。

 

「なんだ、りーさんもだったか。」

 

「そうね。こんな機会めったにないし、さあ私達も行きましょ?」

笑顔で歩きだし気になる服を手にとり見ていく悠里。楽しそうにしている3人を見て

 

「こんな時でもおしゃれに気を配るとは、さすが女子だな」

と1人で呟き笑って光も店内へと入っていく。

 

 

「ねえ、りーさんこれどうかな?」

 

「あらかわいいじゃない」

 

「これ似合うかな?」

 

「うん、似合ってるよ〜」

 

「あ、これもかわいいよー!」

 

楽しそうに服を見ていく3人を光はイスに座り眺める。すると光の元に太郎丸が近寄ってきてわん!と鳴いた。

 

「はは、太郎丸お前もひまか。みんな俺たちそっちのけで楽しんじゃってるもんな。」

太郎丸の頭を撫でながら光は笑う。撫でられて嬉しいようで太郎丸はしっぽを振って光にくっついていた。

 

 

 

しばらく太郎丸と遊んでいると試着室のカーテンがシャッと開かれ由紀から声をかけられた。

 

「ひかるくーん、どう、似合ってる?」

なぜかドヤ顔で聞いてきた由紀。

 

「うん、いいと思うぞ。似合ってる似合ってる。」

と笑って光は答える。

 

その後胡桃と悠里も試着室から出てきて試着した服を見せ合う。

 

(なんでさっきだけ俺にも聞いたんだ…?)

光は心の中だけ疑問に思うが笑顔で感想を言いあう3人を見て自分は暇だがみんな楽しそうにしているからいいか。と光は買い物が済むまで太郎丸と遊ぶことにした。出会った頃よりかなりなついくれた気がした。

 

 

 

 

ようやく買い物が済んだようで3人から声をかけられた。かなりの数試着していたが結局持ってきたのは水着を含め全員2着程度だった。

 

「お買い物楽しかったね〜」

 

「え、あんだけ着て結局それだけしか買わないんすか…」

 

「ええ。あまりたくさん持って来ても持ち帰るのが大変だもの。」

 

「選ぶの大変だったよなぁ悪いな光、だいぶ待たせちゃって。」

 

「いえいえ楽しかったようでなによりです。」

光は苦笑いで答える。やはり女子の買い物は驚くほど長いなと思う光であった…

 

 

 

4人と1匹は4階へと上がった。途中かれらと出くわしたが悠里がCDショップで手に入れたサイリウムを取り出しそれを遠く投げ注意を引き戦わずに通り抜けることができた。

 

「便利だな。それ」

 

「そうでしょ?たくさん持ってきたし学校でも使えそうよね。」

 

胡桃と悠里が話していると光がやってきた。1人でペットショップへ行っていたのだ。

 

「ひかるくんおかえりなさい。どうだった?」

 

「ちょうどよさそうなのあったよ。太郎丸が食べられそうなのはさすがに学校にはないもんな。危うく忘れるとこだったよ」

 

「よかったね。太郎丸、ひかるくんがおまえのごはん買ってきてくれたよ」

 

由紀がリュックの中の太郎丸に語りかけるとわんと鳴いた。

 

「太郎丸ありがとうって言ってるのかな?」

 

「さあな、もしそう言ってるんだったら取ってきた甲斐があったって思えるけどな。」

太郎丸を撫でながら光は答えた。

 

「じゃあ最後に5階に行きましょう。誰もいなかったらその後は学校に帰るってことでいいわよね?」

 

悠里が3人に確認をとる。光も胡桃も頷き5階を目指す。

 

「いるとしたらここだよな…」

5階に向かう途中胡桃は少し緊張した声で言う。

 

「そうだろうな。見た感じ4階までには誰もいなかったしな。」

5階へ続く階段を登り上までたどり着く。そしてそこにあった物を見て3人は目を見開く。

 

そこにあったのはダンボール箱や木の板で作られたバリケードらしきものだった。

すると突然由紀の背にいる太郎丸が吠えだした。

 

「どうしたの?太郎丸」

由紀が問いかけるが太郎丸は吠え続ける。

 

「太郎丸、静かに。ね?」

 

「くぅん……」

しばらく悠里が撫でていると太郎丸は悲しそうに吠えるのをやめた。

 

「太郎丸もしかしたらこの中から出てきたんじゃないか?」

その様子を見て胡桃が口を開く。

 

「確かに。もしかしたら中に生存者がいるかも…!」

 

「あたし中を見てくるよ。みんなここで待ってて」

 

「くるみ、1人で大丈夫か?俺も行くよ。」

 

1人で中の様子を確認しに行こうとする胡桃を光は呼び止めたが

 

「1人でいいよ。ちょっと見てきたらすぐ戻ってくるって。あ、リュック持ってて」

 

胡桃背負っていたリュックを光に投げ渡すとダンボールのバリケードをよじのぼり仲良く入っていった。

 

「どう?」

心配そうに悠里が中の胡桃に訊ねる。しかしその直後

 

 

 

 

「くるな!!」

 

胡桃の声が響いた。そして慌てて胡桃がバリケードから落ちるように出てきた。

 

「だ、だいしょうぶ?」

胡桃を心配して声をかける由紀だったが胡桃は焦った様子で顔を上げ3人に言った。

 

 

「急げ!やつらだ!」

 

その直後積み上げたダンボール箱がゆらゆら揺れて音を立てて崩れる。そして現れたのはたくさんのかれらだった。

 

「そ、そんな…!」

「走るぞ!早く!」

 

由紀の肩をたたきすぐに走り出すように促す。

 

 

 

そうして4人は急いで階段を下っていく。必死に走り3階にある小さな部屋を見つけその部屋に身を隠した。部屋に入る直前由紀がその場に膝をつき倒れそうになる。慌てて悠里が抱きとめ声をかける。

 

「ゆきちゃん大丈夫!?ゆきちゃん!」

体を揺すってみるがなんの反応もない。どうやら意識を失っているようだった。

 

「とりあえず中に入って寝かせよう。ここにいたらあぶない。」

光が悠里に中に入るよう急かす。悠里達が入ったのを確認した後光はそっと辺りを見回す。どうやら逃げ切れたようだ。それを確認すると静かに扉を閉める。

 

 

 

 

部屋の長椅子に由紀を寝かしつけほっと息をつく。

 

「ゆきちゃんのこともあるしここで少し休んで行きましょう」

 

悠里は眠っている由紀の隣に腰かけながら言う。

 

「そうだな。ずっと歩きっぱなしでゆきもりーさんも疲れてるよな」

 

「まあ、暗くなる前にはここを出たいけどひとまず休んでくか」

 

悠里の提案に賛成し2人も部屋の椅子に腰かける。

 

「胡桃たちの方が疲れてるでしょ?2人もゆっくり休んでね。はい、お水」

 

「おう、さんきゅ」「ありがと」

 

悠里から差し出されたペットボトルを受け取り口に運びほっと息をつく。モール着いてからは飲まず食わずでここまで来たこともありここにきて疲れがどっと出てきた。

 

「いまのうちにゆっくり休んで。2人にばっかり苦労かけちゃってごめんね。」

 

「いや、気にしなくていいよ。これが俺らの仕事だし」

うっすら笑みを浮かべ光は悠里を気遣う。

 

 

 

「ん〜」

長椅子に寝かせていた由紀がゆっくりと起きあがった。

 

「ゆきちゃん!大丈夫だった?」

眠っていた由紀が目を覚ましたため光と胡桃も由紀に駆け寄った。由紀はいつもより頬が赤くなっており汗をかいていた。悠里がおでこに手を当て心配そうに呟ぶやいた。

 

「熱があるわね…」

 

「へ〜きだよ…」

平気だと言うが由紀の声はいつもよりも弱々しくいまにも消えてしまいそうなほど小さな声だった。

 

「ケガは?」

 

「それは大丈夫よ」

悠里から由紀の容態を聞くと胡桃はニヤリとしわざとからかうように由紀に声をかけた。

 

「やっぱり遠足で熱出すタイプだったかぁ〜」

 

「えへへ〜」

普段なら何かしら言い返す由紀であるが今回ばかりは弱々しい声で笑うことしかできていなかった。

 

「ゆきちゃん少しの間休んでいて。出発する時に起こすから。」

 

「わかった〜」

悠里の言うことを聞きもう一度由紀は横になる。するとすぐに寝息をたて始めた。由紀が眠りについたとわかると胡桃は暗い表情で口を開いた。

 

 

「どうも来るのが遅すぎたみたいだな」

 

「5階のことか?」

 

「うん」

 

「あたしたちみたいに避難して大勢暮らしてたんだろうな。それが……」

 

胡桃そこで言葉を詰まらせ辛そうな表情をしていた。あまりにも悲惨な様子だったのであろう光は胡桃の様子からそう察し同じように暗い面持ちになる。

 

「…ほかに誰か生きてると思う?」

 

途切れてしまった会話を悠里が続けさせる。

 

「いてほしいけど…無理だろ」

 

「そうね…」

 

すると胡桃はなにか決心したようにすっと立ち上がり真剣な眼差しで光と悠里に告げた。

 

 

 

「もしあたしが感染しても迷わないでほしい。」

 

「何言ってるの、もう…」

冗談じゃない、と言いたげに悠里は胡桃を見上げるがそこで黙り込んでしまう。いろいろと思うことがあるのだろう、複雑そうな様子でそのまま俯いてしまった。

 

 

「約束してくれ……」

胡桃はいまにも消え入りそうな声でそう続けた。

 

 

 

「わかった。」

少し間をあけて光が頷いた。

 

「え、ひかるくん…!」

光がはっきりと言いきったことに驚き悠里は顔を上げる。そして何か言おうとしたが光がそれを遮るように言葉を続ける。

 

 

「その代わりお前も約束してくれ、

俺が感染した時にも迷わない…って。」

 

 

「…ああ、わかった。じゃあさ、ゆびきり。」

 

「おう」

そう言って光と胡桃は小指を絡める。その後悠里とも同じようにゆびきりをした。

 

「…ええ、わかったわ。」

悠里は寂しげに笑い2人と指を絡めた。ゆびきりをすると光が立ち上がりここを出発することを提案する。

 

「そろそろ日も暮れてきたし帰ろう。夜になる前にここを離れたい」

 

「そうね、じゃあ行きましょうか。

ゆきちゃん起きて。そろそろ学校へ帰りましょ」

 

 

「うん、わかったぁ…」

いつもほどの元気はなかったがさきほどよりはだいぶ楽になったようですぐに立ち上がった。由紀はまだ眠いらしくあくびをしながら目をこすっている。

 

 

 

 

「だっしゅ〜つ。」

4人は無事に1階へたどり着きモールの入り口まで戻って来ることができていた。夕方になり日が暮れ始めていたためかれらの数が少し減っていて思いのほか楽に脱出できた。

 

「さ、帰りましょうか。」

 

「ゆき〜帰るぞー」

 

「……」

さきほどからなぜか入り口の方をじっと見つめている由紀に胡桃が呼びかけた。しかし由紀は何も言わずただひたすら入り口の方を見つめるだけであった。その様子を不審に思い光が由紀に近づき声をかける。

 

「なあ、ゆきどうしたんだ?さっきからずっとそっち向いてさ。」

 

 

「ねえ、いまなにか聞こえなかった?」

太郎丸を抱きかかえ由紀が珍しく真剣な眼差しを向け光に問いかける。

 

「…いや、別に何も聞こえなかったけど」

 

「声がしたの。私たちを呼んでた」

「わん!わん!」

由紀だけには何か聞こえたようで声が聞こえたのだと必死に主張する。太郎丸も何か伝えたそうに鳴いていた。

 

「ゆき、それ気のせいだよ、早く帰ろうぜ?」

そんな由紀に困り顔で胡桃と悠里も近づき優しく諭す。

 

「ちがうよ!ほんとに声がしたもん!」

胡桃からそう言われたが聞き入れるつもりはないようで由紀は声がしたと繰り返す。

 

「わん!わん!」

 

「わわ。待って、一緒に行く!」

突然太郎丸が暴れだし由紀の腕からすり抜けてモールの中へ走り出してしまった。由紀も太郎丸を追いかけモールの中へ走り出す。

 

 

「だめ!待ってゆきちゃん!」

慌てて悠里が叫び呼び止めようとするが由紀はそのまま中へ入ってしまった。

 

「とにかく急いで追いかけるぞ!」

光は走りながら2人に呼びかける。そうして3人は由紀と太郎丸を追いかけ再びモールの中へと駆け込んだ。

 

 

「くそ…!どうなってんだ!」

先に走り出した光が最初に由紀の背中を捉えた。しかしなぜか光でも追いつけないほど由紀は速かった。

 

 

すると先の方からなにやらピアノのような音が聞こえてくる。しかし弾いている訳ではなく叩きつけるような勢いで低い音が鳴り響くばかりの気味の悪いものだった。そしてその直後聞こえてきた別のものに光は耳を疑った。

 

 

 

「……誰か!誰かきて!…助けて!!」

 

 

「いまの声……まさか!」

間違いない、今の声は自分たち以外の人間の叫び声だ。光はそう確信する。

 

そうしているうちにあっという間に由紀と光は1階の広場へたどり着く。そして由紀が指を指し叫ぶ。

 

 

「いた!!あそこ!」

光が由紀の指指す方向を見る。

 

 

 

そこにいたのはピアノの上でたくさんのかれらに囲まれて身動きが取れなくなっている1人の少女であった。

 

少し遅れて胡桃と悠里もやってくる。そして目の前に広がる光景に目を疑う。

 

「…!本当にいた…」

ピアノの上で怯える少女を見上げ2人は驚いたように声をもらす。

 

 

 

 

この日、世界が変わってから初めて4人は自分たち以外の生存者に出会った。

 




読んでいただきありがとうございました!

前回の更新から1週間以上経ってしまってすみません…なかなか書く時間がとれなくて…(T^T)これからしばらくは更新めちゃくちゃ遅いと思いますが気長に待っていただけると幸いです。

さて次回でようやくえんそくが終わります。思っていたよりかなり長くかかってしまった…
これからもよろしくお願いします。

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第十話 「ただいま」

2週間ぶりですね。お久しぶりです。

今日はクリスマスですがクリスマス何も関係ない話です^^;
もう少しお話を進められていれば書けたかもしれない( ´-ω-)

メリークリスマス。

第十話よろしくお願いします。


「…!本当にいた…」

 

突然モールの中へと引き返した由紀を追うとそこにはたくさんのかれらに囲まれている1人の少女がいた。

 

由紀が彼女の元へと駆け出そうとするが悠里がリュックを掴んでそれを止めた。

 

「ダメ!ゆきちゃん危ないわ!!」

 

「でも…でも!!」

すると由紀は何か思い出したように目を見開き叫びをあげた。

そしてリュックから腕を抜き悠里の制止を振り切って走りだした。

「ゆきちゃん!!」

止めたのにもかかわらず由紀がかれらの元へ飛び込んでいってしまい悠里はその場で立ち尽くしてしまう。

 

 

「助けに……きゃああ!!」

ピアノの上に立っていた少女はかれらの足を掴まれ下へと引きずり下ろされてしまった。

 

「ああ…!!」

それを見て由紀は1度立ち止まるがすぐに走りだした。

 

「なろっ!」

「…っ!」

 

胡桃と光が由紀の後を追いかれらの群れに飛びこんでいく。自分達に背を向けているものばかりだっため簡単になぎ倒していく。しかしそれも最初だけで2人に気づいたかれらが次々に襲い掛かってくる。

 

 

 

 

「…くっ、これじゃキリが…!」

 

「はあ、はあ、数が多すぎる」

 

かれらと戦うことに慣れている2人だがあまりの多さに苦戦してしまう。体力の消耗も激しく一撃で仕留められないことも増えてしまっていた。

 

 

そんな危機的状況の中悠里が突然声を上げる。

 

「みんな!…耳塞いで!!」

そう言うと悠里はさきほど手に入れた防犯ブザーの紐を引っ張りそれを鳴らした。

 

 

けたたましい音がモール内に鳴り響く。かれらはその音に怯みその場で動けなくなっていた。その隙に由紀が彼女の元に駆け寄る。

 

「ねえ、一緒に行こう?」

そう言い由紀は彼女の手をとる。

 

「ゆき、早く!」

かれらを倒しながら由紀を急かす。2人を先に逃がし光と胡桃は残ったかれらを仕留めていく。

怯んで動けなくなっていたためすぐに倒すことができた。

 

 

 

 

 

「よし、これで全部だな。」

 

「ああ、他のやつらが来ないうちに俺たちも行こう」

 

そうして光達も先に車へ逃げた3人の後を追い走り出す。しかし光は床に何か落ちていることに気づき足を止めた。

 

「これは…うちの学校の手帳だ。そういえばさっきのやつ、俺らと同じ制服着てたな」

 

助けた少女の姿を思い出し同じ学校の生徒だったと気づく。そんなふうにしていると少し先を走っていた胡桃から声をかけられる。

 

「おい!何してんだよさっさと行くぞ!」

 

「あ、わりい。今行く」

胡桃に急かされ光も走り出した。拾った手帳は車で返せばいいと思いズボンのポケットにしまう。

 

 

 

入り口まではかれらに会うことなく走り抜けることができた。すると車に向かっていた悠里達に追いつくことができた。

 

「よかった…2人ともケガはない?」

 

「ああ、大丈夫だよ。りーさん達も無事でよかった」

胡桃が答えると悠里に肩を担がれていた少女が口を開いた。

 

「あの…すみません、他に女の子見ませんでしたか?同い年くらいの…」

 

「いいえ、誰も見なかったわ」

悠里がそう答えると寂しげな表情で

「そうですか…」

と一言呟きモールを見上げていた。

 

 

「そろそろ行くけどみんな忘れ物とかないか?まあ、あったとしても今から取りになんか行かないけど。」

と光が確認をとる。

 

「取りに行かないんならわざわざ聞くなよ…まあ多分ないだろうし大丈夫だろ」

 

「ええ、私も大丈夫よ。じゃあ帰りましょう」

胡桃と悠里が答え車に乗り込んでいく。

 

「そっか。来た道は覚えてるし帰りはどっかで止まんないで帰ろうと思うんだけどいいか?」

 

「ええ、夜の方がやつらの数も少ないだろうし楽に荷物を運べそうだしいいと思うわ。」

悠里が答える。帰りはどこにも止まらず学校まで帰ることになった。帰りの予定も決まり光も車に乗ろうとするがあることに気づく。胡桃が運転席に座っていたのだ。

 

「なんでお前がそこ座ってんだ、助手席はそっちじゃないぞ。」

 

「そんなのわかってるよ!帰りはあたしが運転してくよ。おまえばっかりに任せておけないからな。道も覚えてるから心配すんな」

 

自信満々な様子で言ってきたため光は仕方ない、とため息をつきながら助手席に乗り込んだ。

 

「…安全運転でお願いしますよー」

 

「おう任しとけ!最初の曲がり角は右だよな…?」

 

「いや覚えてねぇじゃん!左だよ!」

任せろと言った矢先道を間違えた。もしかしたら無事に学校に帰れないのではないか、と思い光は頭を抱えた。

 

 

 

 

しかしそんな心配は必要なかった。間違えていたのは最初だけでそこからは1度も道を間違えず車を走らせていた、が光はまた別のことで頭を抱えていた。

 

 

「た、太郎丸さーん。もう少し大人しくしてもらえません?」

 

「わん!わん!」

しっぽを振って楽しそうに飛び跳ねているのだ。車に乗ってから突然興奮したように跳ねていて悠里が抱き抱えて大人しくさせようとしてもすぐに抜け出してしまっていた。

 

「太郎丸、もう少し大人しく…ね?」

「わん!」

 

「困ったわね…」

 

「太郎丸のやつどうしたんだよ。さっきからミラー越しにチラチラ見えて運転に集中できないんだけど…」

運転している胡桃も気が散って集中できていないらしい。

 

「モールから抜け出せて嬉しいとかかな…?というかこんな状態でよくあの2人は寝てられるな」

光が苦笑しながら後ろを振り向く。

太郎丸がこんなに騒がしくしているのにもかかわらず由紀と女子生徒はぐっすりと眠っている。

 

「2人ともすごく疲れてるんだうな。学校着くまで寝かせてやろうぜ」

 

「そうだな。後は太郎丸が大人しくしてくれればなぁ…」

光はそう言いながら前を向き直す。太郎丸は跳ね続けている

 

「太郎丸〜し・ず・か・に〜ね?」

悠里が笑みを浮かべたまま太郎丸にそう告げる。笑っているが目が笑っていない。黒いオーラがでている、ような気がして光と胡桃は背筋がぞっとし顔を引きつらせた。

 

「………」

太郎丸もさきほどとは見違えたように大人しくなり悠里の膝の上に座っていた。

 

「いい子ね〜太郎丸〜」

 

「…わん」

 

 

「…いきなり大人しくなったな太郎丸。」

 

「やっぱりりーさんって怖い…」

 

「絶対に怒らせてはいけない人だよなぁ…」

悠里には聞こえないように小声で話す2人だったが、

 

「うん?2人とも何か言った?」

太郎丸の頭を撫でながら笑顔のまま悠里が問いかけてきた。

 

「い、いやなにも!あんなにはしゃいでた太郎丸を大人しくさせるなんてさすがだなーって話してただけだよ!なぁ、ひかる!?」

 

「あー…そうそう。りーさんすごいなぁ〜って褒めてただけだから決して悪いことなんて言ってないから。俺は」

 

 

「…そう、ならよかった。褒めるんならちゃんと聞こえるように褒めてくれればいいのに〜」

 

 

「「はい、すみません…」」

2人は声を揃え謝罪の言葉を述べる。

りーさんは地獄耳だ、と思った2人であったがそんなことはもちろん口には出さないでおいた。これも聞かれたら次なんてない…そんな気がしたからだ。

 

 

 

太郎丸が大人しくなってからは誰も騒がしくする者などおらず車内は静まりかえっていた。光はそっと後ろを振り返ってみる。さきほどまで元気に飛び跳ねていた太郎丸は悠里の膝の上で丸くなり眠っていた。そして悠里も疲れていたのだろう、窓に頭をもたれかけて眠っている。もちろん由紀と助けた女子生徒も眠ったままだ。

 

3人の様子を確認し前を向き直し自分もそっと目を瞑ってみる。すると突然強い眠気が襲ってきた。自分では大丈夫だと思っていたがだいぶ疲れが溜まっていたようだ。このまま眠ってしまおうとも思ったが自分まで眠ってしまったら運転している胡桃に悪い気がして光は目を開け横目で胡桃をそっと覗き見る。

 

胡桃はまっすぐ前を見つめ迷いなくハンドルを切り車を走らせていた。1度は眠ることをやめた光であったが胡桃の様子を見て道に迷うこともなさそうだと思いやはり自分も少し眠ることにした。

目を瞑るとどんどんまぶたが重くなってきてそのまま1度も目を開けることなくあっという間眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぁひ…る。…ひかる?」

 

「ん?」

 

なんとなく誰か自分を呼ぶような声がして光はゆっくりと目を開く。

 

「あ、悪ぃ寝てたのかぁ〜」

どうやら声の主は運転席に座る胡桃だったようだ。光はまだ少し眠い目をこすりながら胡桃に問いかける。

 

「ん〜どうした?」

 

「いやぁ、ちょっと話し相手が欲しくなってさ。ずいぶん荒っぽい運転してるのに後ろの連中はぐっすりだし。」

ミラー越しに後ろの3人を見ながら胡桃は苦笑する。

 

「1度も起きずにぐっすり眠っちゃうくらい疲れてるんだろうな。着くまでこのままにしとこうぜ。」

自分が眠る前と変わらず後ろでぎゅうぎゅうに詰めて座り寝ている3人を見て光は答えた。

 

 

「………でもこの車だいぶ汚しちまったな…めぐねえ許してくれるかな…?」

少し間を開けて申し訳なさそうに胡桃が呟く。モールを出発する前に車の様子を確認してみたが正面の至る所には血が飛び跳ねておりへこみ、すり傷もたくさんついていてた。

 

「めぐねえなら多分わかってくれるさ、運転初めてだったし仕方ないって。気にすることはないさ」

不安げに言う胡桃を元気づけようと光はわざと明るい言い方で答える。

 

「うん、そう…だといいな」

光はそう言われ胡桃もほんの少しだけ笑みを浮かべる。

 

 

「なあ、あいつらってさ。」

胡桃は少しだけ俯き静かに口を開いた。

 

「あいつら?」

 

「…ほら外をうろついてる連中。」

 

「ああ。あいつらか。」

 

「……意識って残ってるのかな?」

 

「そう、だな……」

思いがけないことを聞かれ光は言葉を詰まらせる。そのようなことはあまり考えないようにしていた。殺意が鈍り躊躇ってしまうのを恐れていたからだ。

 

 

「胡桃はさ、どう考えてんの?」

結局上手く言葉がまとまらず質問に質問で返す形で受け流した。

 

「残ってないと思う……そうじゃなきゃ嫌すぎる。いままで顔見知りとか友達だった奴らがさ、他にもさ……でもしょうがないもんな、どうしようも…できなかったんだもんな。だから、

さっきの約束、ほんとよろしくな。

おまえやりーさんにしか頼めないから。」

 

 

「…ああ分かってる。お前も俺がそうなった時はよろしく頼む、俺だってお前らにしか頼めない。」

 

「ああ。」

 

 

「2人とも暗いことばかり言って…もっと明るく楽しいことも考えなきゃいつかだめになっちゃうわよ?」

突然後ろから声が聞こえる。見てみると悠里が目を覚まし微笑んでいた。しかしそれは楽しそうにではなく、どこか悲しげな微笑みだった。

 

「なんだ、りーさんも起きてたのか。まぁ、りーさんの言う通りだな。こんな時だからこそ俺達は明るく楽しくいこうぜ。」

 

「うん、そうだな。明るく楽しく、か。そのための学園生活部だよな」

 

「そうね。大丈夫、私もちゃんと約束は守るわ。」

 

「「ああ、約束な」」

夕日に照らされる車内で3人は改めて約束を交わした。

3人はそれ以上口を開くことはなかった。悲しい約束を交わしてしまいなんともやりきれぬ気持ちになってしまった。

 

 

 

 

「あ、そういえば…」

車内が静寂に包まれてから数分後、光が何かを思い出したように声を上げた。ズボンのポケットから何かを取り出す。さきほどモール内で拾った生徒手帳であった。

 

「ん?どうしたんだ、それうちの学校の手帳じゃん」

 

「さっきモールで拾ったんだよ、ピアノの近くに落ちてた。直樹美紀って書いてある」

 

「もしかしてこの子のかしら?中を見てみてくれない?他の人の避難先とか載ってるかもだし」

 

悠里が由紀と共に眠る女子生徒を横目で見ながらそう光に告げる。

 

「そうだな。」

そう言い光は手帳をペラペラとめくり始める。手帳の後半のメモが書けるページを開くとそこには数日間の日記が記されていた。

 

「………」

日記を見て光は言葉を失う。

そこに書かれていたのはあの日モールで起こった出来事、その後他の生存者に助けられて生き延びたこと、しかしそこでも感染が広がり自分と友人だけが生き残ったこと。そして生き残った友人も出ていってしまいそれを止めることができず1人になってしまったこと。

 

 

予想以上に過酷な境遇を送っていたということを知り光はそっと彼女を見やる。1人で生き延びるなど自分には到底できなかったし他の生存者とここまで生きてこられたのは幸運なことだったと痛感した。

 

パタンと両手で手帳を閉じそっと息を吐く。その様子を見て後ろから悠里が声をかける。

 

「何かあった?」

 

「…いや、何もなかったよ。」

 

「そう…」

悠里が残念そうに呟く。

かなり重い話だし人の日記を見て勝手にその内容を話すのは本人に悪いと思い光は手帳の内容は話さないことにした。彼女には後で謝って返そうそう思いもう一度ポケットの中にしまった。

 

「…俺たちってさ、結構運がよかったんだな」

日記を見てその思いを口に出さずにはいられなくなり光は静かに2人に言った。

 

 

「そりゃそうだろうな。お、学校が見えてきたぞ」

 

「無事に帰ってこれたわね。」

 

学校が見えてきたため光の話はそこで遮られてしまったがあまり気にしなかった。光も帰ってこれことに安堵し喜びを感じていたからだ。

 

 

 

「ただいま」

 

「「おかえりなさい」」

 

 

 

3人は全員の無事とをここまでの苦労を労うように互いに声を掛け合った。

 

 

 

こうして学園生活部初のえんそくは終わりを迎えた。




読んでいただきありがとうございました。
ようやくえんそく終わり迎えられました。次回からはみーくんを加えた学校でのお話です。

次回もよろしくお願いします。


がっこうぐらしとは全く関係ないですけど僕が最近1番嬉しかったことは公開初日に仮面ライダーの映画を見に行けたことです。いやぁ〜泣きました(笑)サプライズには感激しちゃって号泣してました。ライダー好きの方はぜひ見に行ってみてください^^;

恐らく今回が今年最後の投稿になると思います。
みなさま良いお年を〜


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第十一話 「かんげいかい」

お久しぶりです、りんごあめです!
2ヶ月ぶりですが僕とこの小説を覚えてくださっている方はいたのだろうか…笑
書くのが久しぶりすぎて1話書くのにめちゃくちゃ時間かかってしまった^^;もうちょっと早く書けるように頑張ります

第十一話よろしくお願いします。



「バリケード異常なし、今日も大丈夫そうだな。」

 

1人でそうつぶやくとバリケードに背を向け歩きだす。いつもの部室に着くとそっと扉を開く。

 

「ただいま〜」

 

「おう、どうだったー?」

 

椅子に腰掛けながら本を読んでいた胡桃がそのまま顔を上げることなく光を出迎える。

 

「今日も異常なし、近くにやつらもいなかったしそのまま帰ってきた。」

 

「そうか、ごくろう。」

 

「そういやりーさんとゆきがいないけどどこ行ったんだ?」

 

光が見回りに行く時には部室にいた2人がいないことに気づき1人でくつろいでいた胡桃にどこに行ったのかを問う。

 

「りーさんは屋上に洗濯物を干しに、ゆきはあいつの様子を見てくるって。」

 

「なるほどね」

 

胡桃の言うあいつとは昨日のえんそくで連れ帰ってきた女子生徒のことだ。よほど疲れていたのか彼女は車で眠ってから1度も目を覚ましていない。そのため由紀と悠里が2人がかりで3階まで運び光と胡桃で荷物運びと安全の確保を行ったのであった。

 

「…そしてそんな中お前は1人だけダラダラと漫画を読んでいたと。」

 

会話中も1度も目を合わせることなく熱心に漫画を読む胡桃に光は小馬鹿にしたように言った。

 

「仕方なくだ!あたしだって洗濯手伝おうとしたんだ、そしたらりーさんが1人でも大丈夫だって言って行っちゃったから、仕方なくだ!」

 

「ふーん」

 

「おまえ信じてないだろ!ほんとだからな!」

 

「はいはい、わかったよそういうことにしといてやる。」

 

ムキになって弁明する胡桃を適当にあしらい光は部室を後にしようとさきほど閉めたばかりの扉に再び手をかける。

 

「ん、どこ行くんだ?」

 

「ゆきたちのとこ。俺もちょっと様子みてくる」

 

胡桃に目的地を伝え部室を後にする。そろそろ彼女も起きているかもしれない。由紀だけでは目覚めたばかりの彼女を混乱させてしまうかもしれないと考え光も様子を見に行くことにした。

 

「ゆきーあの子の様子はどうだ〜?……あれ?」

 

寝室として使っている部屋に既にいるはずの由紀に声をかけた光だが返事は帰ってこない。ここに既にいるはずの由紀の姿がないのだ。しかしいないのは由紀だけではなく、

 

「2人ともいない…」

 

部屋にはソファーに寝かせていたはずの女子生徒の姿もなく床にはフタの空いたペットボトルがころがっていた。

 

 

すぐに隣の部屋の扉を開け2人がいないか確かめる。しかし2人は見つからなかった。万が一のことも考え光は1度部室に戻り3人で由紀たちを捜すことにした。

 

 

「おい、くるみちょっと手伝え」

勢いよく扉を開けさきほどと変わらず漫画を読んでいた胡桃を呼ぶ。

 

「いきなりどうしたんだよ、何があった?」

 

「どうしたのひかるくん、そんなに慌てて」

 

「りーさんもいるのか、ならちょうどいい。あいつらがいなくなった」

 

光は胡桃達に由紀たち2人の姿が見当たらず近くの教室にはいなかったことを伝えた。

 

「まじかよ、多分大丈夫だろうけどもしもバリケードの外に出てたら…」

 

「…!急いで捜しに行きましょう!」

 

胡桃の言葉で焦りを感じたのか悠里は顔をこわばらせすぐに部室を飛び出していった。すぐさま光と胡桃も部室を飛び出し後を追った。

 

 

 

「ゆきー!どこだ〜!」

 

「ゆきちゃんいたら返事して!」

 

静まりかえった廊下に胡桃と悠里の声が響く。しかし返事は帰ってこない。このままでは埒が明かない、光はそう判断し近くの部屋の扉を1つ1つ開け中を覗き始めた。

 

「呼んでも返事がないんだ、だったらかたっぱしから扉開けて見つけた方が早いだろ。」

 

「確かにそうね」

 

胡桃と悠里は頷き光と同じように近くの部屋の扉を開け中に由紀達がいないか確認する。そうして次々に扉を開けながら廊下を進んでいくと声が聞こえた。

 

 

「みーくんも言ってあげて。めぐねえは影薄くないよーって」

 

「めぐねえはちゃんといるよって……ね?」

 

胡桃と悠里にもその声は届いたようではっと目を見開き声のした方を見やる。

 

「いまの声って…」

 

「間違いない、ゆきだ!」

 

声の主が由紀であると確信した3人は由紀がいるであろう教室へ駆けだし勢いよくその教室の扉を開ける。そこには突然開かれた扉に驚きこちらを見つめる由紀と同じように驚いた様子で光達を見つめる女子生徒の姿があった。

 

「ゆき!」

 

「…よかったここにいたのね」

 

捜していた由紀が見つかり安堵の表情を浮かべ胡桃と悠里は由紀の元へと駆け寄る。状況が飲み込めずその様子を女子生徒は呆然と眺めている。そんな彼女の元へとゆっくり歩み寄る。

 

「あの…」

 

「見つかってよかった。2人とも突然いなくなったもんだから心配してたんだ。」

 

「すみません…」

 

「いや大丈夫、気にしなくていいよ。大方ゆきに連れ回されてたとかそういう感じだろ?」

 

「はい…そんな感じです」

 

「そっか、お互いいろいろと聞きたいこともあるだろうしとりあえず戻ろう。普段使ってる部屋があるから話はそっちでってことで」

 

 

 

 

 

由紀達にも声をかけ5人は学園生活部の部室へ戻る。ちょうど授業が始まる時間であったため由紀には授業に行かせ席を外させた。部室にいるのは由紀以外の4人、そして太郎丸。太郎丸に朝食をあげ全員が席につくのを確認すると悠里が口を開いた。

 

「さっきはごめんなさい驚かせてしまったわよね?」

 

「いえ、こちらこそ心配をかけてしまいすみません。」

 

女子生徒は申し訳なさそうに3人に謝罪の言葉を述べる。

 

「気にすんなって、2人とも無事だったわけだしさ。とりあえず名前聞いてなかったから聞いてもいいか?」

 

「直樹美紀です、よろしくお願いします」

 

それから光達も自己紹介をし、互いにここまでどうやって生き延びてきたかやこの学校の設備などについて話を進めていく。そして話題は学園生活部についてに変わる。

 

「ゆき先輩も言ってたいたのですがその学園生活部って何ですか?」

 

「落ち着いた頃にめぐねえとりーさんが考えたんだよな」

 

「そうね。毎日ただ暮らすのも疲れるからいっそ部活の合宿ってことにしましょうってね。」

 

美紀の質問に対し胡桃と悠里が部ができた理由やどんな活動をしてきたかを詳しく説明していく。その間美紀は時折頷きながら静かに2人の話を聞いていた。そして一通り説明が終わるとゆっくりと口を開いた。

 

「…なるほど。それでそのめぐねえという方は今どこに?」

 

「「……」」

 

美紀の質問を聞き胡桃と悠里の表情が暗くなり部室が静寂に包まれる。自分達にとっては思い出したくないあの日の出来事が脳裏をよぎり話すのを躊躇っているようであった。そんな2人の様子をみて光は小さく息を吐き静寂を破る。

 

 

 

 

 

「…もういないんだ」

 

「え…」

 

光の言葉に美紀が少し驚いたように声を漏らす。光はそんな美紀を気にすることなく話を続ける。

 

「めぐねえは俺たちを生かすために犠牲になったんだ。俺たち4人がこうして無事でいるのも、モールでお前と会えたのも全部めぐねえがいたからだ…」

 

「そう、だったんですか…じゃあどうしてゆき先輩はあんな風に?まるで今も隣にいるような言い方を…」

 

「ゆきにはめぐねえが見えてるんだ」

 

さきほど変わらぬ暗い面持ちのまま胡桃が答えた。美紀がそれは幽霊的な意味でなのかと質問を続けるが

 

「そうじゃなくて……」

胡桃はそこで言葉を詰まらせる。上手く言葉がまとまらないのだろう。そう考えた光が胡桃の代わりにその後を続ける。

 

「部活を始めてしばらくした頃、それまですごく落ち込んでたゆきが突然元気になって俺らも安心してたんだけどさ誰もいない所に向かってまるでそこに誰かいるみたいに喋り始めたんだよ。他にもいろいろとさ、こう、元気になりすぎたって言えばいいのかな…」

 

「あの子の中では事件はおきていないの。学校は平和で先生も生徒もいっぱいいて…最初はたまにそんな風になる感じだったんだけどめぐねえが…亡くなってからずっとなの」

 

光が言葉を途切らせると今度は悠里がその後を話す。悠里はどこか寂しげな眼差しで由紀の状態を説明する。美紀は3人から由紀の容態を聞くと気の毒そうな顔をして

 

「そうなんですか…早く治るといいですね…」

 

と一言小さく呟いた。

そんな美紀に胡桃は不満げに眉をひそめ悠里は何か言いたげな顔をしていたがそれをこらえて美紀に告げた。

 

 

「1つお願いがあるの。ここにいる間あの子に合わせてくれる?」

 

「でもそれじゃ……」

 

と言いかけたところで部室の扉が大きな音を立て開かれる。授業を受けていた由紀が部室に帰ってきた。由紀は部室中を覗き込み美紀の姿を見つけるとぱぁっと明るく顔を輝かせ美紀に駆け寄った。

 

「みーくんここにいたんだ!さっきは途中までしか学校の案内できなかったからいまから行こう?屋上とかまだ行ってないしさ!」

 

「え?ちょっ、待ってくださいゆき先輩!」

 

美紀は困り顔で光達を見ながら由紀に手を握られひきずられていくようにして部室を出ていってしまった。その様子をみて太郎丸も後に続き飛び出していってしまい部室に取り残された3人は顔を見合わせ、ため息をついた。

 

「はは、あんな風になったゆきは止められないからな…」

 

「行動力はやたらとあるからな、ゆきは…」

 

「ねえ2人とも、せっかく新しく部員が加わるかもしれないんだし歓迎会でもしてみない?」

 

由紀の行動に苦笑いを浮かべていた光と胡桃に悠里が歓迎会をしようという話を持ち出した。

 

「歓迎会って、突然どうしたんだよこんな環境じゃできることもたいしてないだろ」

 

「そうだよ、それにあいつあんまそういうの喜ばなそうな感じがするんだけど…」

 

「そうね、部室を軽く飾りつけしてお菓子やジュースを出すだけも十分じゃない?喜ぶかどうかはやってみなきゃわからないし、ね?」

 

 

 

 

 

 

 

「飾りつけはこんなもんでいいだろー?」

 

「ああ、いいと思うぞ。なあくるみ、りーさん、引き出しにクラッカーが入ってたんだけどこれお前らが取ってきたやつか?」

 

「クラッカー?持ち込んでないと思うわ。多分ゆきちゃんじゃないかしら?」

 

「やっぱこういうのはゆきだよな。これもせっかくだから使っちゃおうぜ、どうせ使う時なんかそうそうないだろうし。」

 

悠里の突然の提案にあまり乗り気ではなさそうな光と胡桃に具体的な案も上げ説得を試みる。そんな悠里の様子に乗り気ではなかった2人もそこまで言うならとしぶしぶ賛成し歓迎会の準備を始めた。

部室に簡単な飾りつけを施し机の上にはクッキーなどのお菓子を綺麗に皿に広げいつ2人が戻ってきてもいいようにクラッカーを構え由紀達の帰りを待つ。それから少しすると由紀達の声が聞こえた。それを聞いた3人はクラッカーを扉の方に向ける。

 

「来たぞ。タイミングミスんなよ。」

 

「おう。ひかる、りーさんいいか、ちゃんと喜ばれるようにテンション高めに笑顔で言うんだぞ。」

 

「ええ、わかってるわよ」

2人が入ってきてからの事を改めて確認し扉が開くのを今か今かと待つ。

ゆっくりと扉が開かれ由紀と美紀が部室に入ってくる。その瞬間を狙いクラッカーを思いきりひっぱりパンと大きな音を鳴らす。

突然のことに驚き口を開けている美紀に3人は笑顔で呼びかける。

 

 

「「「ようこそ学園生活部へ!」」」

 

「………」

 

 

部室に静寂が訪れる。

なにか反応をくれと心の底から思う光だが美紀は驚き目を見開かせたまま動かない。そっと横目で胡桃の様子を伺うと気まずそうに笑顔を引きつらせていた。自分もこんな顔をしているのだろうかと不安になる光だったがこのなんともいえぬ空気のなか由紀が目を輝かせ叫ぶ。

 

「ちょ、何これぇ!!」

 

「お、驚かせようと思って!」

 

「ええ、どう…かしらゆきちゃん!」

 

由紀の一言に救われたかのように胡桃と悠里がたどたどしく由紀に答えていく。由紀は目を輝かせたまま胡桃達の方を向き

 

「すごいよ!でもずるいわたしもやりたかったぁー」

 

「みんなでやったらサプライズにならないだろ?助かったぞゆき」

 

「む〜そうだけどさー」

 

自分も飾りつけをしたかったと駄々をこねる由紀を胡桃と悠里がなだめる。その様子に助かった、とホッと息をつく光だったが未だにひと言も発していない美紀に申し訳なさげに訊ねる。

 

「…あーもしかしてはずした?」

 

光のひと言で美紀に全員視線が集まる。すると美紀はふふ、と声を漏らしほんの少し頬を赤く染め笑みを浮かべ

 

「ありがとうございます。嬉しいです」

 

と光達に告げた。それを聞くと由紀はニコリと笑い美紀に問いかける。

 

「じゃあさ、さっきも聞いたけど入部してくれる?」

 

 

 

「仮入部からでよければ」

 

と微笑み由紀に答えた。それを聞くと4人は明るい笑みを浮かべた。そして由紀が両手を上げ美紀に抱きついた。

 

 

「いいよ、それじゃ改めて!

ようこそ学園生活部へ!みーくん仮入部おめでとう!」

 

「みーくんじゃありません!」

すぐさま反論する美紀だったがその顔には嬉しそうな笑みがあった。

 

 

 

 

そんな2人のやり取り眺めて悠里が微笑む。

「ふふ、やっぱり歓迎会開いてよかったでしょ?」

 

「そうだな。あいつも喜んでくれてるみたいだしな」

 

「ああ、それにここにきてからずっと暗い顔してたけどやっと笑顔になってくれたしな。歓迎会大成功、だな」

 

 

 

 

 

こうして学園生活部に仮入部ではあるが1人新たな部員が加わった。

 




読んでくださりありがとうございました。
今回はアニメ6話の一部と原作3巻の一部を使って書いてみました。
次のお話はアニメではなく原作よりのお話になるかなと思います。

この2ヶ月どうして小説を投稿していなかったのか理由を説明させていただくと大学受験があったからです。センターと一般入試の勉強に集中したいと思い年明けからは小説を書いておりませんでしたが無事に志望校に合格したためようやく小説を書くことができました。これからはもう少し早く更新できると思うのでよろしくお願いします。

感想や評価、お気に入りもよろしければお願いしますm(_ _)m


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第十二話 「たいいくさい」

なかなか書きあげることができず予定より投稿するのが遅くなってしまった^^;

第十二話よろしくお願いします。


 

美紀が学園生活部に仮入部という形で加わった翌日、彼女は悠里と家計簿に目を通していた。何かしていた方が落ち着くからと悠里に手伝いを申しでた。様々な説明を受けこれからの方針を練っていると突然なにか閃いたように由紀が立ち上がり声をあげた。

 

「体育祭!」

 

由紀の突然の一言に光は首をかしげ悠里はあら、と小さく呟き美紀は怪訝そうに由紀を見つめ胡桃がなぜ体育祭なのかと理由を訊ねた。

 

「みんなで体動かすと楽しくなるよ!ね?みーくんも一緒に!」

 

「…仕事が終わったら一緒に遊びましょう?」

 

「もう、遊びじゃないよ部活動!」

 

「部活動?」

 

そうは言われたもののさっぱり意味が分からないといった様子で首をかしげる美紀をみて悠里が由紀に声をかけた。

 

「ゆきちゃん、みきさんはまだ知らないから」

 

「あっ、そっか。学園生活部心得第五条!」

 

由紀は思い出したような素振りを見せ手を上げるとそれに続いて美紀以外の3人も手を上げ声を合わせた。

 

「「「「部員は折々の学園の行事を大切にすべし!」」」」

 

「だ、か、ら、体育祭!わかった?」

 

そう言って美紀に駆け寄るが

 

「さっぱりわかりません。」

 

と即答された。さらに美紀は語気を強め

 

「もっと他にやるべきことがあるんじゃないですか?」

 

と由紀に詰め寄るがそんなことは全く気にしていない様子で

 

「やるべきことよりやりたいことだよ〜」

 

「ダメ人間じゃないですか!」

 

お互い一歩も譲らないといった様子になってしまった。このような時の由紀は何を言っても聞かないと分かっているためひとまず美紀を納得させるため光が助け舟を出した。

 

「いい機会なんじゃないか?ゆきのことをよく知るためのいい機会だと思うけど?」

 

それを聞くと美紀は納得してくれたようで軽くため息をつき

 

「…わかりました確かにそうですね。」

 

「じゃあ始めよ!体育祭!!」

 

 

 

美紀の参加も決まり5人はさっそく体育祭の準備に取りかかった。

玉入れの為に鍋を吊るしたり紙とガムテープで玉を作っていく。光は部室の前の廊下に徒競走用のテープを貼り付けていた。貼り終えると部室に入り悠里のポスター作成の手伝いをした。準備は1時間ほどで終わりいよいよ体育祭が始まった。

始めに簡単な開会式を行ってから最初の種目に移る。第1種目は徒競走である。

 

参加するのは胡桃と美紀、そして光。胡桃と美紀で競い勝った方が1番足の速い光と走るということになった。

 

床に貼られたテープの前に2人が立ち軽く準備運動をする。その際胡桃がシャベルを背負っている事に気づき美紀が声をかける。胡桃はにやりと笑い

 

「ハンデ」

 

と一言だけ発した。胡桃と意図がわかると美紀もにやりと笑い

 

「なるほど」

 

と一言だけ呟き胡桃の提案を自信ありげに受けた。

2人の準備が終わったのを確認すると由紀と光がゴールの位置で開始の合図をする。

 

「よーい、どん!」

それを聞き2人が一斉に走りだす。出たしこそは一緒だったが少しずつ差が開いていく。先にゴールにたどり着いたのは胡桃だった。胡桃よりわずかに遅れ美紀もゴールへたどり着く。息を切らし肩を揺らしながら胡桃は笑みを浮かべ美紀の方を向いて

 

「結構やるじゃん。」

 

美紀の走りを讃えた。胡桃同様肩で息をしながら美紀はその場に座り込むと

 

「ハンデつきで負けるとは…」

ハンデを背負った相手だったため勝てると見込んでいたにも関わらず敗北を喫したため悔しそうに唇をかみしめた。

 

多少の時間をおき光と胡桃の番になる。さきほどより入念に準備運動をしていた胡桃がとあることに気づき顔を上げる。

 

「なんでゴルフクラブ背負ってんだよ」

 

「ん?そりゃハンデに決まってんだろ。」

 

余裕の笑みを浮かべ胡桃に向かって言い放つ。胡桃はそんな彼の様子に眉を吊り上げ睨む。

 

「…ほう随分舐めならたもんだな〜あたし相手にハンデをつけるとはいい度胸じゃないか」

 

「ああ、ハンデつけてても今のお前には負ける気がしねぇ」

 

「言ったな?じゃあもしお前が負けたら今日の夕飯無しな。」

 

「いいぜ、そんなことには絶対ならないけどな」

 

約束を交わしスタートラインに立つ。由紀が2人の準備ができたのを確認し声を上げる。

 

「よーいどん!」

2人が一斉に飛び出した。勢いよく廊下を駆け抜ける光と胡桃、そしてその様子を息を呑んで見届ける由紀と美紀。先にゴールへたどり着いたのは…

 

 

 

 

 

「ああ〜!ちくしょう…ハンデつけられて負けるとか悔しすぎる…!」

 

「さっきお前もやってたけどな。」

 

結果として勝ったのは光だった。ハンデつきで負けた胡桃が床に拳を叩きつけ唸る。その様子を苦笑いを浮かべながら光は見下ろす。徒競走は光の勝利で幕を閉じた。

 

その後も体育祭は順調に進んでいく。二人三脚、玉入れ、大玉転がし、借り物競走。最初はあまり乗り気ではなかった美紀も競技が進むにつれだんだん楽しそうに笑うことが増えていった。そんな彼女に光達は安堵しほっと胸をなでおろした。

 

 

 

全ての競技が終わった頃には日も暮れはじめ教室も茜色に染まっていた。由紀が太郎丸とゴミ捨てに行き残った4人で教室の後片付けをしていく。ボールを箱にしまいながら光が口を開いた。

 

「なにも考えないで体を動かすっていいよな〜久しぶりだったから楽しかった」

 

「ええ、そうね。みきさんも楽しかった?」

 

自分の名前を呼ばれて少しだけ驚いたような素振りをみせると美紀は少しだけ悠里から顔を逸らし「はい…楽しかったです」と小さく呟いた。その言葉を聞き3人は静かに微笑んだ。

 

「そっか。最初は嫌そうだったのに途中からよく笑ってたからさ、楽しんでくれてるんだなってあたしたちもひと安心してたんだ。」

 

「え、私そんなに笑ってましたか?」

 

美紀は思いもよらないといったふうに目を丸くし頬を赤らめ胡桃に問いかける。

 

「なんだ気づいてなかったのか?玉入れしてる頃にはゆきと同じくらい楽しそうに笑ってたぜ?」

 

「ゆ、ゆき先輩ほど楽しんではいません!」

 

胡桃が笑ってそう言うと一緒にするなといったように美紀は慌てて否定しさらに顔を赤くした。しかし由紀のことで思うことがあるのか暗い顔をでぽつりと呟いた。

 

「ゆき先輩これからどうするんですか?」

 

「ん、ゆきならゴミ捨てに行ってるぞ。」

 

光が由紀の居場所を伝えるが美紀は首を横に振って、

 

「そうじゃなくて、このままじゃダメですよね。」

 

不安げな様子で3人に訴えかける。胡桃は美紀の方をへ向き直り「別にダメじゃないだろ」と美紀の考えに異を唱える。

 

「ゆきちゃんは学園生活部に欠かせない子よ?楽しいこといっぱい思いついてくれるから私もくるみも、ひかるくんも助かってる。…それじゃダメ?」

 

悠里はいつものような笑みで美紀に優しく訊ねる。美紀はそんな2人の言葉に呆れたように口を開く。

 

「そうやって甘やかしてるから、治るものも治らないんじゃないですか?」

 

「…甘やかすとか治るとかそういうものじゃないのよ」

 

顔に笑みを浮かべたまま美紀の問いかけに答えるが目が笑っていない。それに気づいた胡桃が緊張に顔を強ばらせる。不穏な空気が空気が教室に立ち込める。そんな空気に臆することなく美紀は悠里の目を真っ直ぐ見据え言い放つ。

 

「どう違うんですか?」

 

 

「……まだ知らないから」

 

「え?」

悠里は目線を下に落としぽつりぽつりと呟く。握りしめられた拳はプルプルと震え悠里の激情を表していた。

 

「あなたはまだゆきのことをよく知らないから、ゆきのおかげでどれだけ私たちが助かってるか…あなたはまだ知らないからそんなことを言えるのよ…」

 

一瞬戸惑ったような顔をした美紀だったがすぐに険しい顔に戻り悠里に、光と胡桃に言い放つ。

 

「…そんなのただの共依存じゃないですか!」

 

「…!」

 

「あなたねっ…!」

 

共依存。自分達の築いてきた関係を、これまでの自分達の努力を。突然自分達の前に現われた者のたったひと言に否定され悠里の怒りは頂点に達する。肩を震わせ憎悪に満ちた目で睨みつける。対する美紀も自分は間違ってはいない、そう主張するように悠里を睨み返す。

これ以上2人の関係に溝を作ってしまうのはこれからの生活に響くと判断しここまで沈黙を貫いてきた光が2人の間に割り込み仲裁に入る。

 

「そこまでだ、2人ともちょっと落ち着けって」

 

「……」

 

「私間違ったこと言ってますか?」

 

光の仲裁に悠里は怒りを抑えずに黙り込み美紀はまだ諦めていないようでさらに詰め寄ってくる。答えを聞かせろと目で訴えてくるため自分の考えを正直に伝えてやることにする。

 

「俺は2人の考えどっちも間違ってはいないと思う」

 

「…それじゃ答えにならないと思います!」

 

美紀が声を荒らげるがそれと同時に教室の扉が開く音がし全員の視線がそちらに集まる。

 

「ゴミ捨て行ってきたよー、あ!片付けまだ終わってないじゃん!もう〜みんな何してたの?早く片付けてご飯にしようよ」

 

「お、おう!そうだな早く片付けちまおう」

 

胡桃が慌てて片付けを再開し悠里達も後に続く。事情を知らない由紀のおかげでなんとか言い争いを終わらせることに成功する。光は由紀に「ありがとう」と一言声をかける。由紀は何のことかわからず首をかしげていたがその後すぐに「うん!」と頷き笑い返した。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。
やっぱり小説書くのって難しい
次回もよろしくお願いします。

感想や評価、お気に入りなどもよろしければお願いしますm(_ _)m


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第十三話 「わからないこと」

第十三話よろしくお願いします。


体育祭の一件で学園生活部には険悪な雰囲気が立ちこめていた。そんな中、直樹美紀は1人バリケードの外に出ていた。もちろんこのことは誰にも言っていない。

 

 

今日は何の予定もなかったため昼食を食べてからはそれぞれ別行動を取っていた。

由紀はいつものように授業を受けに誰もいない教室へ。胡桃と悠里は昼食の片付けを済ませた後部室や寝床として使っている部屋の掃除をすると言っていた。いまなら気付かれずに抜け出せるかもしれない、そう思い美紀はリュックを取り足早に部室を出た。部室から遠い方のバリケードの前に着くと美紀はリュックからプレーヤーを取り出し音楽を流す。これを囮にしかれらの注意を引きもう1つのバリケードの方から悠里達に気づかれないようそっと外に出る。階段で2階に降り辺りを見回すと近くにかれらの姿はない。廊下の奥をみると複数のかれらが同じ方向に歩いていた。その様子にひと安心し軽く息を吐き慎重に目的地を目指す。幸いかれらに遭遇することなくたどり着くことができた。

 

美紀はできるだけ音を立てないように図書室と書かれたプレートがある扉をそっと開いた。

 

 

 

 

 

部屋の中は明かりがなければ本の題名など見えないほど薄暗い。リュックから懐中電灯を取り出し本棚を照らしながら歩く。そして心理学と書かれた本棚を見つけると立ち止まり本の背表紙ひとつひとつに目を通していく。そんな中であることに気づく。

 

「どうしてここだけ本がないんだろう…」

 

隙間なく埋められ本棚の中にぽっかりと本が置かれていない所があった。なぜだろうと疑問が生じたが考えても分からないことだと諦め目当ての本を見つけリュックにしまっていく。思っていたより少なかったが仕方ない、早く戻らないと怪しまれると思い図書室を後にしようとする。

 

「こんなとこで何してんだ?危ないだろ」

 

「え!」

 

突然後ろから声が聞こえ慌てて振り返る。するとそこには自分と同じようにリュックを背負った光が目を丸くして立っていた。

 

「ひかる先輩!?どうしてここに?」

 

「それはこっちが言いたいんだけど…まぁちょっと本を探しにな。」

 

「わ、わたしもです」

 

「まぁ図書室に来るってことはそれしかないよな。もう用がないなら危ないし一緒に戻ろうぜ。」

 

光が笑いながら言った。

 

 

 

 

2人で静かな廊下を歩く。美紀の仕掛けた囮のおかげか近くにかれらはおらず簡単に階段まで戻ってくることができた。階段を登りながら美紀が光に問いかけた。

 

「昨日のことで聞きたいことがあるんです。どうしてどっちも間違ってないって言ったんですか?ひかる先輩はゆき先輩のことどう思ってるんですか」

 

そう言われ光は足を止め立ち止まる。

 

「…そうだな〜、とりあえず立ち話もなんだし座ろうぜ」

 

少しの沈黙の後、階段に座り美紀にも座るよう促す。美紀は頷きそっと光の隣に腰掛けた。

 

「昨日言ってたことだけど、」

 

光はきまりが悪そうに頬をかいて考えこむ。それからゆっくりと口を開いた。

 

「…まぁ実際ほんとにどっちも間違ったこと言ってないって思ってるんだよ。みきの言う通りこのままじゃダメって分かってるし俺もそう思う。でもりーさんが言ってたようにあいつがいたからここまでなんとかやってこれた。

なぜかいつもどうにもならないって時に答えをくれるのがゆきなんだ。モールに行ったのも突然ゆきが遠足行こうって言いだしたからだし。だからこのままでもいいやって思ったりもしちゃってさ、またあいつが俺たちを助けてくれるんじゃないかって。だからどっちの方が正しいか分かんないんだよ」

 

苦笑いを浮かべながら答える。

 

「そう、だったんですか…」

 

光の真意を知り美紀は困ったように顔を曇らせうつむき呟く。

 

「さっぱりわかりません…私たちはどうするのが1番いいんでしょう…」

 

 

「さぁな、俺たちにはわからないことだらけだ」

 

明るい声で光が言うと美紀はそれにつられ顔を上げる。

 

「ゆきのことだけじゃない、どうしてこんな世界になったのか、また元の普通の世界に戻れるのか、このままここにいていいのか。どうやって生きるのが1番いい選択なのか俺たちには考えてもわからないことだらけだろ?」

 

「…そうですね」

 

美紀は静かに頷き光の言葉を待つ。

 

「だからそんなに急がなくてもいいんじゃないか?もっとゆっくり考えて、考えてそれで答えを出せばいいと思う。そしたら意外と答えがわかる時があるかもしれないからさ。ゆきのことももう少し様子見て考えてくれないか?時間は結構ありそうだし。」

 

「ゆっくり考える…」

 

光の言っていた事を繰り返しこれまでの自分を振り返る。

モールの小さな部屋で親友と太郎丸と3人で生き残り「生きていればそれでいいの?」と問われ親友が出ていった後モヤモヤとした気持ちが残ったまま部屋を飛び出し学園生活部に助けられた。そして部屋に閉じこもっていた自分と違い適当なことばかり言って過ごしている由紀達を見て焦りや怒りを感じそのまま感情をぶつけた。わからないことを解決するために急ぎすぎにゆっくり考えることで答えを得ることができるなら…

 

 

 

 

「それで答えを出せるなら試してみてもいいのかもしれません」

 

決心した様子で光を見つめ美紀は言った。

 

「そっか」

 

光は答えを聞くとふふっと笑い立ち上がって階段を登り始める。

 

「そろそろ戻ろう、もしかしたらあいつら心配してるかも。」

 

「やっぱりひかる先輩も黙って下に降りてたんですか?」

 

「もちろん、度々黙って下に降りてる。」

 

「先輩も悪い人ですね。」

 

美紀はうっすら笑みを浮かべ光の後ろを歩く。

 

階段を上がるとすぐに部室の前に着いた。美紀が深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。光はそれが終わり準備できたのを確認すると扉をゆっくりと開けた。

 

中に入ると不満げに机に置かれたプレーヤーを見つめる悠里がいた。胡桃気まずそうに隣に座っている。美紀が入ってくるのを確認すると悠里は鋭い視線を向け声をかける。

 

「みきさん、もしかして下に行った?」

 

「はい、ひかる先輩と一緒に」

 

「え、そうなの?…だったらいいのだけれど行くならちゃんと教えてからにしてね」

 

1人で行ったと思っていた悠里は驚いたように目を丸くする。

 

本当は光も美紀も1人で下に降りていたのだがこのひと言のおかげで自分へのお咎めもなくなりそうだと光は安堵に胸を撫で下ろす。

 

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

「あら、どうしたの?」

 

悠里と胡桃の視線が自分に向いているの確認し意を決して話す。

 

「まず昨日のことですが…すみませんでした!」

 

そう言って頭を下げる彼女の姿に2人は驚いて目を丸くし突然どうしてたのかと問いかける。

 

「みなさんの気持ちもあまり考えずきつい言い方をしてしまったと思って、反省してます。」

 

「…別にいいよあたしはもう気にしてないし」

 

「そうね。謝ってくれたしもういいわ、顔を上げて?」

 

突然の謝罪に少し戸惑っいながらも2人は美紀に顔を上げるよう促す。それを聞き顔を上げるともう1つ話があるとさらに話を続ける。

 

「学園生活部に正式に入部しようと思います。」

 

「へー」

 

「え?」

 

胡桃は少し嬉しそうに美紀の話を聞き悠里は不思議そうに首をかしげた。

 

「どういう風の吹き回しなの?」

 

「少し考え直したんです。」

 

そう言うと美紀は椅子に腰掛けた。ずっと立ったままだった光もそれに続き腰掛ける。

 

「ちょっと焦りすぎてたんじゃないかって思ったんです。今の私たちにはわからないことがたくさんあって、それを解決するためにもう少しゆっくりと周りを見てどうするか決めてもいいんじゃないかって。ひかる先輩と話して思ったんです。」

 

「へー、ひかるがそんなこと言ってたとは意外だな〜」

 

ニヤニヤと眺めてくる胡桃に光は「文句あんのか」と肘をついて睨む。

 

「はは、別にー。ってことらしいけどりーさんどうする?あたしはいいと思うぜ」

 

胡桃は笑って美紀の入部を認めるか悠里に訊ねる。悠里は軽く微笑むと立ち上がって美紀を見る。

 

「なるほどね、わかったわ。歓迎します」

 

そう言って手を前に出した。

 

「…!ありがとうございます」

 

美紀は軽く頬を染め嬉しそうに自分の手を前に出し握手を交わす。

 

「よかったなみき。」

 

胡桃も笑みを浮かべ美紀を見上げる。

 

 

「たっだいま〜!あれ?りーさんとみーくんどうしたの?握手なんかして」

 

授業を終えた由紀が2人の様子見て驚いていた。悠里は由紀に笑いかけ事情を話した。

 

「ほんと!?みーくん正式に入部してくれるのー!?」

 

「はい、よろしくお願いしますゆき先輩。」

 

満面の笑みでこちらに飛びついてきた由紀に美紀も少し恥ずかしそうに笑いかけた。

 

 

 

 

「これでなんとか仲良くやってけそうだな、おまえのお手柄だな。」

 

光の背中を叩きながら胡桃が笑う。光は笑みを浮かべ

 

「別に俺はなにもしてねぇよ、思ってたこと言っただけだ。どうするか決めたのは全部みきだからあいつのおかげかな。」

 

そう言って由紀とじゃれ合う美紀を眺めた。

 

「まぁ、それもそうだな」

 

 

険悪な雰囲気は去り部員が1名増えたが学園生活部にいままでのような平穏な日々が戻った。

 




読んでいただきありがとうございました。

原作よりの話にするとか言ってたけどそんなことなかったですね^^;
みーくんが正式に学園生活部に入部する所オリジナルで書いてみようかなーって思いたって書いてみたのですがどうだったでしょうか?

次回もよろしくお願いします。
感想や評価なども気軽にお待ちしてます(*´v`)


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第十四話 「ためらい」

遅くなってしまいましたすみません(^_^;

今回はいつもより短いし2人しかでできません。できるだけ早く次のお話を書きますのでm(_ _)m

第十四話よろしくお願いします。


シャワーを浴び1日の汗を流し終えジャージに着替えてシャワー室を後にする。もういまごろみんな寝ているだろうかなどと考えながら1人廊下を歩く。何気なく割れた窓から校庭を見下ろす。雨が降っているため外にいるかれらが昇降口の辺りに群がっていた。

 

「やっぱり前より増えてる…」

 

昇降口に群がるかれらを見て呟いた。このまま数が増え続けるのであればもう外に出ることができなくなるかもしれない、それならいまのうちに学校を出るべきなのではないか、しかしここ以外に安全に暮らせる場所などあるのか。様々なことが頭の中を巡る。が考えがまとまることがなくはあ、と重いため息をつき歩きだす。他のみんなの意見も聞いてみよう、そんなふうに頭の中で考えを巡らせているといつの間にか部室の前までたどり着いていた。

 

 

 

 

「まだ寝てなかったのか、夜更かしは美容に悪いんだぞー。」

 

「余計なお世話だ、ちょっと考えごとしてたら眠れなくなっちゃって。ひかるは何してたんだ?」

 

「シャワー浴びてきた。」

 

「なるほど」

 

光は憂鬱そうに肘をつき腰掛け外を眺める胡桃に憎まれ口をたたく。扉を閉めると胡桃の向かい側の椅子にそっと腰掛ける。

 

「最近前よりやつらの数増えてきたと思わないか?」

 

光は胡桃と同じように窓の方へ顔を向けて言った。

 

「ああ、あたしもそう思う。玄関にも一応バリケードはあるから中にいる数はたいして変わってないだろうけど」

 

「このままやつらの数が増え続けたら俺たちもう外に出られなくなるかもな。」

 

「…かもしれないな」

 

「いっそのこといまのうちにここを出てもいいかもしれない、なんて思ったりもしてんだけどどう思う。」

 

胡桃はそれを聞くと驚いたように眉をぴくりと動かした。

 

「そりゃ…ずっとここにいる訳にはいかないってあたしも思うけど行くあてなんかないだろ?あたしたち5人と太郎丸連れて安全なとこなんて見つかるのかなって思うとずっとここにいた方がいいんじゃないかって」

 

不安そうな顔で胡桃は呟く。それを聞くと光はそっと息を吐き立ち上がる。

 

「やっぱそうだよな。まぁもうしばらくは大丈夫そうだしまた後でみんなで考えるか。」

 

胡桃は「そうだな」と小さく呟くとうつむいた。そんな様子が気になりどうしたのかと訊ねると胡桃は重々しく口を開いた。

 

「今日見回り行った時に近くにやつらが1人いてさ。送ってやろうって思って近づいたんだ。転ばしたらさケータイが落ちてそれに写真が貼ってあって同じクラスだったやつだって気づいちゃって一瞬躊躇ったんだ、」

 

光は目を閉じ黙って胡桃の話に耳を傾ける。

 

「ひかるはさ、そういうので躊躇ったことあるのかなって…」

 

それを聞き光はゆっくり目を開けて

 

「くるみは優しいな」

 

とひと言だけ発した。

 

「え、どういうことだよ」

 

予想外の返答で胡桃は困惑した様子で聞き返す。光はまた窓の方を向き話しはじめた。

 

「あいつらを送ってやるとか思って倒したことなんか俺1度もないんだ。ただ邪魔な敵だとしか思ってないんだよ。俺がいろいろ想って躊躇ったとしても容赦なく襲ってくるだろうしさ。それに」

 

そこで1度話を区切る。そしていつもとは違う虚ろな目になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう覚えてないんだよ友達の顔とか知り合いの顔なんて。思い出したところでもう二度と会えないだろうしどうでもいいやって…親の顔だってもうなんとなくしか覚えてない。 俺はただ殺すだけだ、あんな風になった連中の気持ちなんてどうでもいい」

 

「そ、そんなの…」

 

胡桃は衝撃を受けたように目を見開き光を見る。しかし光はさきほどとは打って変わっていつもと変わらぬ表情で胡桃を見る。

 

「だから躊躇ったことなんか1度もないんだ。そういう事を想えるくるみは優しいしそれが普通なんだろうなって俺は思う。あ、ちゃんとお前らのことは覚えてるぞ、もちろんめぐねぇも」

 

苦笑いをして頬をかく。そしておもむろに立ち上がった。

 

「さ、俺たちもそろそろ寝ようぜ。そろそろ眠くなってきたし」

 

そう言ってあくびをしながら胡桃に背を向け部室を後にしようとする。

 

 

 

 

 

「なあ、もう1つ聞いていいか?」

 

「ん、どうした。」

 

部室の扉に手をかけたところで呼び止められ足を止める。

 

「これが全部夢でさ、朝起きたら元通りの学校に戻ってたらって考えたことある?」

 

そう問われ一瞬光は黙りこむ。そして背を向けたまま答えた。

 

「…最初の頃は毎晩夢みてたよ…でももうそれもどうでもいい、俺はお前らが生きててくれるだけで十分だ。それが俺が生きてる理由だから。それ以外のことはどうなったっていい」

 

光はそのまま部室を出て寝床に向かう。

 

「そんな生きかた悲しすぎるよ…」

 

1人部室に取り残さた胡桃が消え入りそうな小さな声で呟き机に顔を伏せた。

 

 

 




読んでいただきありがとうございました!

なんというか光くんをただの優しい良い奴じゃなくちょっとだけヤバいやつみたいに書きたいと初めから思ってたんですけどなかなかそんな風に書けてないなって思ってこんなお話にしてみました。上手く伝わったかな^^;学園生活部のことしか眼中にない人だと思っていただければいいですかね笑

次回もよろしくお願いします。

感想などもいただけると嬉しいです(*´v`)


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第十五話 「おてがみ」

めちゃくちゃ遅くなっちゃっいました(^_^;すみません

第十五話よろしくお願いします。


目の前で頭から血が滲み全く動かなくなったものを虚ろな目で黙って見下ろす。しばらくしてはぁ、とため息をついて振り返り歩き出す。かれらにゴルフクラブを振り降ろした時ふと昨日の胡桃の話を思い出したがやはり何も感じなかった。そんな自分に呆れ光はまたため息をつく。やはり自分には人の心がないのではないか、そんなことを思いながらバリケードの中へと戻っていった。

 

 

 

 

屋上で血に濡れたクラブを洗ってから部室へ戻る。

 

「ただいまー」

 

「待てぇー!太郎丸〜!」

 

「わん!」

 

「こらー!待てぇ〜!」

 

「…ん?」

 

てっきりおかえりとひと言言われ出迎えられると思っていたため目の前で起こっている状況に頭が追いつかずその場で固まる。太郎丸が部室を駆け回り由紀もその後を追い走り回る。そんな様子を黙って目で追っていると「おかえり」と苦笑いでいる胡桃に声をかけられた。由紀達の邪魔にならないように小走りで胡桃達の元に歩み寄った。

 

「…あいつら一体なにしてんの?」

 

「由紀が太郎丸を風呂に入れようとしてるところ。」

 

「それがなんであんな追いかけっこになってたんだよ、早く入れればいいじゃん」

 

胡桃の回答に首を傾げる光に美紀が困ったように答えた。

 

「そうしたいんですけど太郎丸お風呂入りたがらないんですよ、だからあんなふうに…」

 

「あ〜そういうことね…」

 

苦笑いで光も由紀と太郎丸を目で追う。4人でその光景を微笑ましく眺めていると突然由紀が足を滑らせて棚へ勢いよくぶつかってしまう。その衝撃で上に置かれていた箱が音を立てて次々に落ちてくる。4人は慌てて由紀に駆け寄り声をかける。由紀は照れくさそうに笑うと床に散らばった箱や紙を片付けはじめた。光達も紙を拾い上げまとめていく。そんな中由紀がある箱に気づきそれを拾う。くまの絵が描かれた可愛らしい箱だった。

 

「これって…」

 

「めぐねぇの私物かしら?」

 

箱に描かれたくまがめぐねぇの車にあったものと同じだったことに気づき声をかける。由紀は近くに落ちている便箋を手にとると何かひらめいたように顔を輝かせて立ち上がった。

 

「みんな!お手紙、書いてみようよ!」

 

 

 

 

 

「でも手紙を書いたとしてどうやって出すんだ?」

 

「あっ!郵便局は学校の外だった…」

 

「先輩気づいてなかったんですか」

 

「確かに郵便局には行けないしな〜学校から出せればいいけどな」

 

由紀の提案で手紙を書くことにしたものの肝心の手紙を出す方法がなく彼らは頭を悩ませていた。

 

「じゃあひかるくんが言うように学校から直接出しましょう」

 

「まぁ、そうは言ったけどどうやって?」

 

思いつきで適当に言ったことが採用されそうになり光は待ったをかける。すると胡桃が何か思いついたようで「あっ!」と声を上げた。

 

「手紙と言ったら伝書鳩だ!」

 

「…へ〜それでその肝心なハトがいないんだけど?」

 

「そりゃあこれから捕まえるんだよ」

 

「どうやって?」

 

「そりゃあ…こう!」

 

そう言うと胡桃はシャベルを思い切り振り下ろした。

 

「いやいや死ぬ、そんなしたらハト飛ばす前に死んじゃう!」

 

すかさず光がツッコミをいれる。胡桃は気にせず話を続ける。

 

「大丈夫、峰打ちにするから!こう!」

 

「無理だから、そもそも多分そんなんしてもハトに当たらないから!」

 

更にツッコミをいれた。胡桃は「そうかな?」と首を傾げ光ははぁ、と呆れたようにため息をつく。それを見ていた悠里と美紀も苦笑いで頷く。すると由紀が4人を呼び持っていた物を前に突きだした。

 

「お手紙といったらこれ!」

 

「ん、風船か〜そんなもんどこにあったんだ?」

 

「この前のえんそくの時実は買ってきてたんだよ〜」

 

光の問いかけに対し自慢げに答えると風船を1つ取り出し息を吹いて膨らませていく。それを見た美紀が「それじゃ飛ばないでしょう」と呟くが由紀気にせず息を吹き続ける。そしてパンッ!と大きな音で割れた。

 

 

 

 

 

「…さてどうやって飛ばせるくらいまで風船膨らませるか」

 

「伝書鳩は…」

「それはない。」

 

由紀の持っていた風船で手紙を飛ばすことになったが大きく膨らまる手段がなく手紙を出せないとなり話は降り出しに戻ってしまう。胡桃がハトを使おうとしつこく提案してきたがその度に光が「それはない。」と一蹴した。

 

「ヘリウムガスとかあれば飛ばせそうですけど…」

 

美紀のひと言で悠里が思い出したように声を上げる。

 

「そういえば昔スキューバ部が使ってたのがあったかも」

 

「そんな部活あったんですね。初めて聞きました」

 

美紀が少し驚いたように答えた。

 

「確かにそれ使えばなんとかなりそうだな。俺取ってくるわ」

 

そう言って光が立ち上がると「待って」と悠里が引き止めた。

 

「ボンベは1人じゃ運べないわ」

 

「それならあたしも行くよ」

 

悠里の言葉を聞くと胡桃も立ち上がり自分も行くと申しでた。

 

「そう。なら2人にお願いしていい?」

 

「任しとけ!力仕事はあたしらの仕事だしな」

 

胡桃は二っと歯を見せて笑った。

 

「そうかもな。じゃあちょっくら行ってくる」

 

 

 

 

部室を出て廊下を歩く。そこで光はずっと考えていたことを胡桃に問いかけた。

 

「なあ、手紙を書いたとして受けとってくれる人っていると思うか?」

 

「あたしはいると思うぜ。人類がみんないなくなったってことはないだろ」

 

「…だよな、俺らみたいに生き残った強運の持ち主も少しはいるよな」

 

「ああ、万が一ってことがあるからな。当てにしてる、おまえとは1番付き合い長いし」

 

「そうだな。部活一緒だったもんな、…クラスもだっけか?」

 

「そうだぞ、なんだよ忘れてたのか」

 

ケラケラと笑い走っていく胡桃を見て光もそっと微笑み後を追いかけた。追いつくとひと言、

 

「俺も当てにしてる。」

 

そう呟いて胡桃を抜き去って先に部屋と入った。胡桃は驚いた顔をして一瞬立ち止まると嬉しそうな笑みを浮かべて光の後を追った。

 

 

「お、本当にあった。これを台車に乗っけていけばいいか…ん?」

 

物置として使われていた部屋に着いてからヘリウムガスはすぐに見つかった。ちょうど部屋にあった台車に乗せようと後ろを振り返ると胡桃が次々に物を乗せていた。

 

「そのカゴとか糸とか何に使おうとしてんだ?」

 

「そりゃハト捕まえる罠に決まってんだろ?」

 

「諦めてなかったのかよ!…まぁいいやガス乗せるの手伝え」

 

 

 

 

目的のヘリウムガスも手に入れ2人は部室へ戻る。残っていた3人は既に手紙を書き始めていたようで机に向かってペンを走らせていた。

 

台車を部室の中へ入れると胡桃はすぐにカゴや糸を拾い上げる。そして興奮ぎみに声をかける。

 

「それじゃああたしはハト捕まえてくる!」

 

「いってらっしゃ〜い」

 

胡桃を見送り手紙の続きを書こうと急かされ光も席に着こうとする。すると美紀が怪訝そうな顔をしているのに気づき声をかける。

 

「みきどうかしたのか?」

 

「あ、いえなんでもないです。さ、先輩も早く手紙書きましょう」

 

「お、おうわかった。」

 

このまま問いつめても答えてくれないような気がしたため光は諦め席に着く。手紙を書こうにも何を書いたらいいか分からず考え込む。しばらくの間考えたが結局何も思い浮かばず自分達の居場所や人数を書き最後にこれを読む人を労うような言葉を並べた。由紀は手紙の他に絵を描いたりもしていたが自分は絵が得意ではなかったためその1枚だけにした。

 

それからしばらくすると胡桃が上機嫌な様子で帰ってきた。そして持っていたカゴを自慢げに見せつけてくる。

 

「じゃーん!ハト捕まえてきたぜ!」

 

「え、本当に捕まえたのかよ。失敗すると思ってたのに」

 

「な、失礼な!あたしにかかればこんなもん楽勝だよ!」

 

「すっご〜い!くるみちゃんやるねぇ〜」

 

「ほんとに捕まえてくるとは…」

 

「ちょっとびっくりね…」

 

他の3人もそれぞれ感想を述べながらカゴの中のハトをジロジロと見つめる。胡桃は誇らしげな顔をしてハトを見て言った。

 

「伝書鳩も捕まえたし手紙、飛ばそうぜ!」

 

 

 

 

 

ヘリウムガスで膨らまた風船に手紙を括りつけて屋上へ出ようとする、が突然雨が降ってきてしまい手紙を出すのは明日ということになった。それからはいつも通り夕食を取りシャワーを浴び寝床についた。

 

 

 

 

翌日天気は晴れ、屋上へ出ると青空が広がっていた。由紀が胡桃の捕まえたハトに声をかけた。

 

「鳩子ちゃんも頑張ってねー」

 

「ちょっと待て誰が鳩子ちゃんだ。」

 

すぐさま胡桃が不服そうに聞き返す。

 

「この子だよー鳩錦鳩子ちゃん。」

 

「違う!こいつはアルノーだ」

 

「えー私も名前つけたい〜」

 

「そもそも捕まえのはあたしだ!」

 

「鳩子ちゃんの方が絶対かわいい!」

 

「こいつアルノーって感じの顔してるだろう!」

 

伝書鳩の名前で由紀と胡桃が何故か喧嘩を始めてしまった。困ったように美紀は仲裁しようとするが一向に終わりそうにない。しょうもない事で喧嘩なんかしやがって。と心の中でだけ吐き捨て2人に声をかけた。

 

「じゃあ間をとってアルノー鳩錦三世にしよう。」

 

2人は顔を見合わせると「仕方ない。」と言って喧嘩をやめた。どうやら納得してくれたらしい。

 

「今日からおまえはアルノー鳩錦三世だぞ!」

 

改めて由紀がハトに名前を呼びかけた。

 

「三世は一体どこから…」

 

悠里が聞いてきたが光は咳払いをしてそっぽを向いた。

 

 

「アルノー鳩錦三世、飛んでくれよ!」

 

「じゃあみんなで一斉に飛ばそ!」

 

 

いよいよ手紙を飛ばす。

 

「せーの!」

 

悠里のひと声で数を数える。

 

「「いち、にー、さーん!」」

 

 

 

 

掛け声で同時に手を離す。明るい青空に色鮮やかな風船、そして伝書鳩アルノー鳩錦三世が優雅に飛んでいく。飛ばした手紙を誰かが受け取り読んでくれると信じて。5人は自然と笑顔になり手紙が飛んでいく様をそれが見えなくなるまでいつまでも手を振り眺めていた。

 

 




読んでいただきありがとうございました!

なかなか書く時間が取れなくて^^;来週から大学も始まるのでまたさらに遅くなるかも(T^T)

マイペースに頑張ります。



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第十六話 「しょうらい」

だいぶ遅くなってしまいました(._.)楽しみにしてくださっていた方がいたらすみません、話もなかなか進まずほんと申し訳ない(^_^;)
少しずつではありますが頑張ります

第十六話よろしくお願いします。


「いつになったら終わるんだ…」

 

光は1人廊下の掃除をしていた。何気なく廊下を歩いていると掃除をしていた悠里を見つけ話を聞くと由紀と太郎丸が貯水槽の藻まみれになって校内を走り回っていたらしい。悠里は他にも洗濯などやることが残っていると言っていたため自分が代わりに掃除をすると申し出たのだ。しかし予想以上に由紀達が廊下を汚しておりかれこれ1時間以上汚れを拭き取っていた。

 

 

 

 

「やっと終わった…!」

 

廊下と屋上の汚れを全て拭き終わる頃には既に日が傾き夕焼けに染まっていた。掃除の達成感と疲労感にため息をつきながら部室を目指しふらふらと歩いていると美紀の声が聞こえた。

 

 

「今日やれることは今日やらないとダメです!せっかくこの学校にはいろいろと設備が整ってるんですよ?今のうちにそれを活かさないと、将来のために!」

 

「…ただいま、何の話してたの?」

 

光の声に気づき皆が一斉に部室の外に目を向ける。

 

「あ、ひかるくんおかえりなさ〜い。ずっと何してたの?」

 

「…お前らが走り回ってできた汚れを全部拭いてたんだよ…1人で。」

 

光が眉を吊り上げ不満げに由紀を睨む。

 

「そ、そうだったんだぁ……ごみん。」

 

由紀はいらだちのこもった声に震え申し訳なさそうにしながら小さく縮こまった。悠里も申し訳なさそうに声をかける。

 

「ごめんなさいね、結局きみ1人に任せちゃって」

 

「いや、りーさんも忙しかったんだろ?仕方ないって」

 

そう言って椅子に腰掛けると先程の話の続きを聞こうと口を開く。

 

「それで何の話してたの?」

 

「ゆき先輩がダメ人間だったので注意してたんです」

 

「なるほど確かにダメ人間だもんな。」

 

「え〜!2人ともひどいよぉ〜」

 

2人にダメ人間呼ばわりされ由紀は美紀に泣きつく。美紀はため息をつくと由紀を見下ろし口を開く。

 

「冗談、ということにしておきます。ダメ人間呼ばわりされたくないんだったらもっとしっかりしてください、いいですね?」

 

「…はい」

 

由紀はそうたしなめられるとしゅんとした様子で頷いた。

 

 

「先輩は将来どうしたいんですか?」

 

そう問われると由紀は腕を組み唸る。

 

「んー最近は就職がいいかなって。だってテスト受けなくてよくなるんでしょ?」

 

「就職試験があるなぁ」

 

「…え?」

 

胡桃にそう言われ由紀はきょとんとして固まる。どうやら試験が一斉ないと思いこんでいたらしい。

 

「大変らしいですね。就職活動」

 

「や、やっぱりずっと高校生でいようかなー?」

 

「やっぱりダメ人間ですね。」

 

「よし!みーくんと同級生になってあげる」

 

「結構です。」

 

「…」

 

美紀から即答され由紀はまたもやしゅんとしてしまう。

 

「進学か就職か、りーさんはどうしたい?」

 

そんな2人をよそに胡桃は考えを巡らせながら悠里に問いかけた。

 

「え?そんな何を言って…くるみこそどうしたいの?」

 

悠里は困惑した顔で言うと質問には答えず聞き返した。

 

「んーやっぱり就職かな」

 

それを聞くと由紀がにやりと笑う。

 

「就職ってことはやっぱりシャベルくんと一緒のところ?」

 

「発想が安直すぎるわ!」

 

胡桃が目を吊り上げ吠える。

 

「不景気だと女性の採用は少ないらしいわよ?」

 

「まあ、扱いは慣れてるしそういう仕事向いてそうだなーいいんじゃね?」

 

光と悠里も小馬鹿にしたように答える。

 

「だ!か!ら!他にもあるだろ!永久就職してお…お嫁さんとか。」

 

「なんで自分で言って照れてんだよ…」

 

顔を赤くしにやにやとしている胡桃を呆れ顔で光は見ると小さくため息をついた。

由紀はなにか考えるように上を向き呟いた。

 

「お嫁さん…やっぱりシャベルくんと?」

 

「なんでそうなるんだよ!!」

 

胡桃はそう言うと由紀の肩を掴み大きく揺すった。そんな2人のやり取りを楽しそうに笑いながら3人は眺める。そんななか悠里が光に問いかける。

 

「ひかるくんはどうなの?」

 

「俺は…どっちかというと進学かな?俺ほんとは医者になりたかったんだ」

 

「へぇ〜お医者さんか〜!ひかるくん頭いいもんね!」

 

由紀がうんうんと頷きながら話に割り込んでくる。

 

「そんなことないよ、他に将来の夢みたいなものならあるし」

 

「ええ〜そうなの?なになに、教えて?」

 

「…ずっとみんなと一緒にいること……かな。みんなと楽しく過ごせれば進学でも就職でもどっちでもいいやって思う。」

 

光の言葉に一同は驚いたように口を開ける、がすぐに嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「へぇ〜そんなこと思ってたのか〜」

 

「そうね。確かにみんなで一緒にいることが私たちにとって1番大切な事かもしれないわね」

 

「はい、私もそう思います。」

 

「私もそれすっごくいいことだと思う!ひかるくんいいこと言うね〜」

 

4人からそう言われほんのり笑みを浮かべ立ち上がった。

 

「はいはいどうも。さあ、そろそろ夕飯の準備始めようぜ。その前にちょっとトイレ行ってくる。

 

そういうと足早に部室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっとみんなと一緒にいること……それ以外俺は何もいらない。あの日いろんなものを失ってから俺はそう決めた」

 

夕焼けに照らされて赤く染まる校舎を歩きながら光は決心した表情をする。遠い将来のことよりも今や明日を彼女たちを誰1人欠けることなく生きさせる、そちらの方が大切だ。その為にやれることをやるのだと光は改めて自分の役目を確認しそう決意した。

 

…たとえそれで自分が命を落とすことになったとしても。

 

 




読んでいただきありがとうございました!

大学が始まって思ったよりも時間がとれなかったり体調を崩して寝込んでしまったこともありだいぶ更新が遅くなってしまいました(^_^;)

一応高校編も後半に入ったかな〜なんて思ってます。25話までにはきっと終わるはず…(笑)高校編以降も書いていく予定ではありますがこのペースでいったら夏頃になりそう(´-ω-`)とにかく完結させられるように頑張ります!

次回もよろしくお願いします。


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第十七話 「しんじつ」

今回は久しぶりにちょっと長めになっております。

第十七話よろしくお願いします。


知らなければよかった。そう後悔する日はこれから先こないだろうと自信を持って言える。そう思えてしまうほどにこの日彼らの心は大きく揺さぶられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、話ってなに?」

 

何事もなく今日もいつも通りの1日を過ごせた、そう思いながら寝床に就こうとした所で突然光は悠里に呼び止められた。話があると言われ「それなら明日でもいいんじゃない?」と返したがなにやら神妙な面持ちをしていたためひとまず話を聞くことにした。部室で向かい合わせに座りランプだけをつけ今に至る。

 

 

 

「これなんだけど…」

 

そう言いながら悠里はポケットから鍵を取り出しそっと置いた。

 

「鍵?これがどうしたんだ?」

 

鍵を拾い上げながらそう悠里に問いかける。

 

「それ、佐倉って書いてあるでしょ?この前てがみを書いている時みきさんが見つけたの。」

 

「なるほど。佐倉ってことは多分めぐねぇのだよな?どこの鍵かわかったのか?」

 

「いいえ、今日探してみたんだけど見つからなかったわ」

 

「そっか。」

 

そこで会話が途切れしばらくの間沈黙が続く。その後光がゆっくりと息を吐きながらその沈黙を破った。

 

「なぁりーさん……俺このごろ思うことがあってさ。」

 

「……なに?」

 

「最近、この学校おかしいんじゃないかって…。ここ、学校にしてはいろいろ設備が整いすぎてる気がして。暮らしに必要な電気や水とかがちゃんと通っていて食料もたくさんあって…まるで最初から生活ができるようにして作ってあるみたいだなって」

 

それを聞くと少し驚いたような素振りを見せてから口を開いた。

 

「私も同じこと考えてたの。学校にしては確かに不自然だと思う所が多いわよね。」

 

そう悠里が話終えた時部室の扉が静かに音をたてて開いた。その音につられ2人は扉の方を向きじっと見つめる。扉を開け現れたのは美紀だった。

 

「みきさんどうしたの?」

 

「眠れなくて…先輩たちこそどうしたんですか?」

 

「私たちも眠れなくて…ココアでも飲む?」

 

そう言われると「お願いします」と少し申し訳なさそうにしながら静かに椅子に座った。

 

悠里からココアの入ったカップを差し出されるとそれを一口だけすすり険しい表情をし言った。

 

「気になることがあったんです。」

 

「ん、気になることって?」

 

「私この前いいましたよね。この学校設備が整っているって。」

 

「…ええ言っていたわね」

 

「言ってから気づいたんです。……整いすぎじゃありませんか?私改めて学園案内を見返してみたんです。太陽電池も雨水の貯水槽も屋上の畑や食料の備蓄、最初から学校の中で暮らしていけるように作ってあるようで。一つ一つの設備は珍しくないと思います。最新鋭のオフィスビルなら特に…でもそれが学校にあるのはおかしいと思うんです」

 

「…俺達も同じこと考えてたんだよ、さっきまでその話をしてた」

 

「え、そうだったんですか?あれ、先輩の持ってる鍵ってこの前の…」

 

光の持つ鍵をじっと見つめながら美紀はつぶやく。

 

「この間あなたが見つけてくれたものよ。この鍵が何か謎を解き明かす糸口になるような気がして。ほんとは明日みんなで探すつもりだったけどこれから3人で探してみない?」

 

そう悠里が真剣な表情で2人を見ながら提案した。

 

「…じゃあとりあえず職員室行ってみるか」

 

あくびをしながら光が立ち上がった。美紀も賛成だったようでそのまま3人で職員室へと向かうことにした。

 

 

職員室の扉を開け電気をつける。中を見回しながら美紀が言った。

 

「職員室はもう探したんですよね?それならもう来てもしょうがないんじゃないですか?」

 

「でもちゃんと探したのはめぐねぇの机くらいだから、今日は眠くなるまで探すことにしましょう?」

 

「そうですね、もともと眠れなかったわけですしね」

 

そう苦笑いを浮かべながら鍵に合う物の捜索を始める。最初に教師の机の引き出しの鍵穴にいれていく。しかしどの引き出しにも鍵は合わず他の物を探していく。すると入口の方から声をかけられた。

 

「あれ?みんなどうしたのー?」

 

声の主は由紀だった。ぬいぐるみを抱きながら眠たそうに目をこすりながら職員室へ入ってきた。少し焦ったように悠里が答える。

 

「ゆ、由紀ちゃんこそどうしたの?」

 

「なんかさ〜怖い夢見ちゃって。起きたら3人ともいなくてびっくりしたよ〜」

 

「そうだったんですか。すみません佐倉先生から探し物を頼まれて…ね?ひかる先輩!」

 

「え、あーうん。みきが見つけた鍵がどこのなのか探してほしいってめぐねぇに言われてさ〜うん。」

 

慌てて言い訳をし光もとりあえず頷きその場を収めようとする。がしかしそれを聞き由紀は目を輝かせた。

 

「…あ!宝探しだね!私も手伝うよ〜!」

 

「え!……じゃあ頼む…」

 

予想外の反応に驚く3人だったがこうなっては仕方ないとため息をつき由紀も加え捜索を再開することにした。

 

上機嫌な様子で鼻歌を歌いながら大きな棚の中を探す由紀。それからしばらくすると大きな声を上げ3人を呼んだ。

 

「あ!もしかしてこれじゃない!?」

 

その声を聞き3人は足早に由紀の元へ集まった。そして固唾を呑んで由紀を見つめる。しかし由紀が取り出したのは帽子を被ったクマのようなぬいぐるみだった。

 

「かわいいでしょ〜?」

 

「…そうね〜」

 

「元の場所に戻しておいてください」

 

「ええー……」

 

美紀からそう言われ由紀はがっくりと肩を落とす。その姿をやれやれとため息をつきながら見送り光達は捜索を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、これじゃないかな!?」

 

5分ほどすると由紀がまたもや声を上げ光達を呼び寄せた。

 

「はいはい今度は何ですか〜?」

 

光が仕方ないと言わんばかりに息を吐きながら由紀に問いかけた。悠里と美紀も同じようにして由紀に注目する。

 

「じゃーん!全国のみなさん、聴こえてますか〜?」

 

由紀は取り出したマイクを持ちながらそう言うとなにやらポーズをとり始めた。そして机の上に置いてあるカメラを指さしながら「撮影して」と促した。美紀はやる気なさげにカメラを取り構える。

 

「…はいじゃあ撮りまーす。」

 

「え、待って、まだ心の準備ができてな…」

 

カシャ。

 

由紀が言い終わる前にシャッターをきったため慌てた様子の由紀がカメラに収められた。美紀は出てきた写真を手渡す。それを受け取った由紀は不思議そうにそれをしばらく見つめると

 

「ただの紙じゃん!」

 

勢いよく机に叩きつけた。

 

「インスタントカメラなんですからすぐに出てくるわけないじゃないですか」

 

呆れたように美紀が言うとなるほどといったように由紀は頷いた。

 

「あ、ほんとだ〜!すごいカメラと名付けよう!」

 

「インスタントカメラです。」

 

そんな2人を悠里は悲しげな顔で見るとゆっくりと視線を下に落とした。そんな彼女の様子が気になり光がその視線を追うとそこには1枚の写真があった。

 

「あ、これって…」

 

悠里はその写真を見つめたまま由紀に問いかける。

 

「ねえ、ゆきちゃん本当に覚えてないの?このカメラで写真を撮ったこと、この写真を撮った後になにが起きたのか。覚えてないの…?」

 

声を少しだけ震わせながら問う悠里に何を言っているのかわからないというように困惑した様子で由紀は慌てふためく。

 

「ゆ、ゆきがふざけてばっかだから怒っちゃったんだよ、俺達が探してんのは鍵で開けられる物だろ?さあ、そろそろまじめに探そうぜ?」

 

「そっかぁ!わかった、ちゃんと探すね!」

 

そう言うと由紀はパタパタと走りだしていった。由紀が離れたのを確認すると光は優しく悠里に声をかける。

 

「いきなりどうしたんだよりーさん。今のゆきにあんなこと言ってもさ、どうにもならないだろ?」

 

「そうです、らしくないですよゆうり先輩」

 

美紀も心配そうに言う。少し間を置いて下を向いたままの悠里はゆっくりと口を開いた。

 

「……ひかる君は覚えてるでしょ?このあとすぐだったの。この写真を撮ったすぐ後にめぐねぇは…」

 

「…あぁ覚えてるよ。でも今は探し物が先だ、そのめぐねぇが遺してくれた手がかりがあるかもしれないんだ。」

 

「そうね…」

 

そう硬い声で言うと光は悠里達の元から離れていった。

 

 

あのようになっても無理はない、と光は心の中でつぶやく。あの写真を見てしまっては嫌でもあの時の事を思い出してしまう。実際自分も思い出してしまい気が沈みそうになっていた。そんな自分自身も奮い立たせるためにも突き放すようなことを悠里に言っていた。

 

 

 

 

「何も見つからないですね…」

 

「う〜ん、とりあえず明日みんなで探してみるか。職員室以外のところにあるかもしれないしな」

 

「そうね。また明日頑張りましょう」

 

それからしばらく職員室をくまなく探したが結局何も見つからず今日は諦めようとしていた。しかしまたもや由紀が声を上げ光達は由紀の元へ集まる。

 

「今度は何を見つけたんですか?」

 

最初から諦めたようにそっぽを向いて美紀が訊ねる。表情には出していないが光と悠里も同じであった。

 

「ここだよ〜」

 

由紀は自慢げに棚の1番下の戸を指さして示す。

 

「ん、その棚はもう探したぞ?」

 

「へへーん、そう思うでしょ?」

 

ニヤリと笑いながら由紀は戸を奥に押し込む。するとカチッと音がなり隣の戸が横に開いた。どうやら飾り板になっていたようだ。中には小さな金庫が1つしまわれていた。

 

「飾り板だったのね。よく気づいたわねゆきちゃん」

 

「すごいでしょー?鍵穴があるしこれに試してみたら?」

 

光が金庫の前にしゃがみこみ鍵穴へ差し込む。そしてゆっくりと回す。

 

カチャっ。

 

「開いた!」

 

「ねえねえ、何か入ってる?」

 

そう問われ光はゆっくり中に入っていた物を取り出す。入ってたのは授業で使うDVDとその資料であったようだ。

 

「うん、授業で使う資料とかばっかりだな」

 

「なるほど〜めぐねぇから頼まれたのはそれだったんだ〜見つかってよかったね!」

 

「えぇ。……手がかりはなかったわね。」

 

「…はい、少し残念ですけどね」

 

悠里と美紀は由紀に聞こえないよう小さな声で話す。手がかりではなかったものの探し物が見つかったことには安堵しているようであった。

 

その間光は取り出した資料一枚一枚に目を通していた。何か見落としていたりしないか確認するためだった。一枚、また一枚と目を通しては後ろに周していく。そして最後の一枚にたどり着く。

 

「……!!」

 

光はその1枚を見るやいなや目を見開き愕然とする。自分でもうるさく感じるほどに心臓が速く脈打っていた。

見つけてしまった。光にはその1枚の資料への興味と恐怖を感じそれが吐き気を催すほどなにぐるぐるとと目まぐるしく頭の中を巡っていた。

 

「めぐねぇに頼まれたことってこれで終わり?」

 

「……!あ、うん。そうだな」

 

「じゃあめぐねぇに終わったよって伝えてくるね」

 

由紀がそう言って駆け足で職員室を出ていく。それを見送ってから悠里が不思議そうに訊ねてきた。

 

「ひかる君大丈夫?なんだか様子がおかしいけど…」

 

「……………こい。」

 

「え?」

 

「……急いでくるみを起こしてこい。」

 

かすれ気味な声でそう言うと2人の前にゆっくりと『緊急避難マニュアル』と書かれた1枚の冊子を突き出した。

それを見て2人も驚いたように目を見開き顔つきが変わる。足早に職員室を飛び出し胡桃の元へ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由紀を寝かせてから4人は部室に集まる。緊張した顔で3人が見守る中、光がそれを開き読み上げる。

 

 

そこには書いてあった。外をうろつくかれらが人為的な生物兵器であること。今自分達の置かれている状況は感染爆発、いわゆるパンデミックの初期の封じ込めに失敗して起きているということ。『そして寛容と労りの精神は今や美徳ではない』といったようないままでの常識ではありえないと言いたくなるようなことがたくさんあった。知りたかったことのほとんどがその1冊には書いてあった。

 

それを読み終えた光はゆっくりと彼女達の様子を伺う。不安そうな表情をしていたり考えこんだ様子でいたりと様々だった。

 

「ちょっと待て!!」

 

胡桃がそう叫び思いきり拳を机に叩きつける。

 

その声と音に3人はびくりと肩を震わせ胡桃を見る。胡桃は叩きつけた拳を強く握りしめ叫ぶ。

 

「どういうことだよ……なんなんだよそれ!」

 

「…くるみ先輩落ち着いてください」

 

「落ち着いていられる訳ないだろ!今の聞いてお前は何とも思わなかったのかよ!?」

 

胡桃は美紀の胸ぐらを強く掴んで睨みつける。美紀は焦ったように「そんなことはない」と否定するが胡桃は変わらず鋭い視線を向け続けていた。

 

「落ち着いてくるみ!みんな気持ちは同じよ。私だって信じられないわ…」

 

腕を掴み美紀との間に割って入り胡桃をなだめる。それにより胡桃も少しは落ち着いたようで大きくため息をつき静かに椅子に座ると美紀に「悪い。」とひと言謝った。

 

 

 

「…とりあえずみんな今は気持ちを整理する時間を作ろう。とりあえず今日はもう遅いしお開きってことで。落ち着いたらまたみんなで話し合おう」

 

誰も目を合わせず黙りこみ重苦しくなっている雰囲気をどうにかしようと光が声を上げる。3人もそれに同意しゆっくりと寝室へと戻っていった。

それを見送ってから1人光は屋上へと向かう。そして畑に作られためぐねぇの墓の前にゆっくりと座る。

 

 

「…めぐねぇはさ、知ってたの?」

 

墓を見上げながら小さくつぶやきため息をひとつ。そして思いきりその場に仰向けに寝転がる。

 

 

 

「知らない方がいい事もあるっては言うけど本当その通りだな…やっぱ知りたくなかったよこんなこと。俺は、俺達はこれからどうすればいいんだろうな…。」

 

 

 

 

 

気持ちの整理がつくまで彼はただひたすらに星空を眺めていた。屋上を出る頃にはうっすらと明るくなり日が昇り始めていたが気にすることなく寝室へ戻り寝床についた。




読んでいただきありがとうございました!

ようやくここまで来れた…(笑)
なかなか1話書くだけでも数日かかっちゃうし毎日書ける時間があるって訳でもないのでどうしても遅くなってしまうんですよね(._.)他の方たちはどれくらいで書き上げてるのか気になっている今日この頃です(;´∀`)

今月の目標は最低でも2話投稿することです、頑張ります!
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第十八話 「はれのひ」

相変わらずゆっくりな更新ペースですががんばります。

第十八話よろしくお願いします。


「なるほどな〜こんなに汚かったとは…この中に飛び込むとか太郎丸お前すごいな」

 

 

 

時刻は10時ちょっと前、雲一つない快晴である。額にじんわり汗をかくほど屋上は日差しが強く暑い。藻が大量に繁殖した貯水槽にデッキブラシを突っ込みながらそう言うと太郎丸が「わん!」と元気に答える。それからしばらくすると楽しげな声が聞こえ屋上の扉が開かれた。

 

「わ〜すごい青空!」

 

「ええ、いい天気ね」

 

「ひかるもう来てたのか、早いな」

 

「ん、そうか?っていうかお前らが遅いだけじゃ……」

 

振り返りながら言いかけた光はそこでピタリと固まった。理由は簡単でそこにいた4人に目を奪われたからだ。

普段の制服やジャージ姿ではなんとも思わないが水着となっては話は別だ。由紀と美紀の白く細い腕や脚、胡桃のほどよく引き締まった太もも、そして悠里の豊満な胸におもわず息を呑んでしまう。光とて年頃の男であるため同じ年頃の女子4人の水着姿に見惚れずにはいられなかった。

 

「…?先輩どうかしましたか?」

 

「不思議に思った美紀がそう聞いてきたが「なんでもない。」とだけ答えそっぽを向く。そしてそのままふぅ、と小さく息を吐き気持ちを落ち着かせる。そして、

 

「……ふう、早いとこ掃除、始めようぜ」

 

いつもも変わらぬ様子を装いデッキブラシを彼女たちの前に差しだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ5人がこんなことをしているのか、それは数時間のことだった。

由紀が太郎丸の散歩に出た後、部室では4人が険しい表情で頭を悩ませていた。悩みの種は昨日発見したマニュアルのことである。

 

「…みんな昨日はよく眠れた?」

 

「全っ然。おかげで寝不足だよ…」

 

悠里の問いかけに対し大きなあくびをしながら胡桃が答える。悠里の方を向いたまま胡桃は話す。

 

「なあ、あの鍵ってめぐねぇの名前が書いてたんだよな?てことはめぐねぇは最初から知ってたのかな…」

 

「何か起こるとわかってて隠していた。そう言いたいの?」

 

悠里はいつもより声を低くし聞きかえす。

 

「わかんねえよ、わかんねえけど……」

 

そう口ごもり胡桃は黙り込んで俯いた。それからすぐ「たぶんですけど」と小さく美紀が声を上げた。

 

「これって開封指示があるじゃないですか、渡されたのはずっと前だとしても中を読んだのはおそらくこうなった後なんじゃないかと…」

 

「あーもう!わかんねえよ、頭の中ぐちゃぐちゃで考えがまとまらねぇ…」

 

そうツインテールを振り乱しながら胡桃が頭を抱える。それからしばらく皆同じように深刻そうな顔をして黙りこんでしまっていた。たったの一晩では気持ちの整理など付かなかった。それは光も同じであったがいつまでもこうしていては何も始まらない、そう思い昨日1人で読み返していた時に見つけたものを伝えることにした。

 

「でもこいつには面白そうなことも書いてあったぞ」

 

そう言うと3人はパッと顔を上げ光を見る。3人の気が自分に向いているのを確認すると学校の見取り図が書いてあるページを開く。

 

「ここ、非常避難区画って書いてるだろ?気になって生徒手帳とかにある学校見取り図見てみたけどこんなとこ、そもそも地下二階なんてものどこにも乗ってなかった。怪しいと思わないか?」

 

「地下二階、そんな場所があったなんて…知らなかったわ」

 

「そこに行けばなにか、あるのかな……」

 

「行ってみる価値ありそうですね」

 

そう言いながら4人がマニュアルをじっと見つめていると部室の扉が開かれる。由紀が太郎丸の散歩から帰ってきたのだ。扉の開く音に4人は肩をびくりと上げると由紀の目に入らぬようマニュアルを机の下に隠し出迎える。

 

「お、おかえりゆきちゃん。散歩ありがとね」

 

「うん、それよりみんな!おそうじしよう!!」

 

「「「え?」」」

 

いつもながらの突然の提案に一同はぽーかんと口を開ける。胡桃が咳払いをし由紀に理由を訊ねる。

由紀の話によると散歩で屋上に出た際太郎丸がはしゃいで藻で埋め尽くされた貯水槽に飛び込んでしまったらしい。実際彼女が連れて帰ってきた太郎丸は体に藻が付いて汚れていたし少し濡れていた。それで掃除しようと思いたったらしい。が本当のところは自分も水遊びがしたくなったからのようだ。本人は否定していたが。それを悠里が聞き入れたため今に至る。

 

 

 

「そんじゃまず池にいる魚を移すか。」

 

「はーい!なんか金魚すくいみたいだね〜」

 

「こいつら金魚じゃないけどな」

 

最初に網やバケツを使い池の魚たちを移動させる。それから池の水を抜きいよいよデッキブラシでこすっていく。

 

「っと!………わ〜!すごくヌルヌルしてるよ…」

 

「そうね、転ばないように気をつけてね〜!」

 

貯水槽の中に入った由紀が足を滑らせながら声を上げる。それを見た悠里が注意をする。

 

「うん、気をつけ……っわぁー!いてて…」

 

気をつける、そう言おうとした矢先由紀が思いきり足を滑らせ尻もちをつく。呆れたようにため息をしながらも美紀が近寄り手を伸ばす。

 

「もー言ったそばから転ぶなんて…しっかりしてください。大丈夫ですか?」

 

「えへへ、ありがと〜」

 

恥ずかしそうに笑いながら手をとる由紀、しかしまたもや足を滑らせ美紀を道連れにし転んでしまう。

 

「いたた…もう!ゆき先輩、巻きこまないでくださいよ〜!」

 

「ご、ごめん!みーくん」

 

腰をさすりながら眉を釣り上げ怒る美紀、そして申し訳なさそうに謝る由紀。それを見て胡桃は楽しそうに口を開けて笑った。

 

「あはははははは、なにしてんだよ2人とも、コントみたいなことして…ははっ」

 

胡桃に腹を抱え笑われ美紀は恥ずかしそうに顔を赤くする。「早く終わらせましょう」と言うとぷんぷんと怒ったように背を向けて掃除を再開した。

 

「この調子ならあっという間に終わりそうだなー」

 

デッキブラシを動かしながら胡桃が言う。

 

「うん!たのしみだな〜水あそび!」

 

「ふふふ、そうね。天気もいいしせっかくだから屋上でお昼食べましょうか」

 

「おお〜!いいね楽しそう!よし、楽しみが増えたしおそうじ頑張るぞ〜」

 

由紀が目を輝かせさきほどまでよりも熱心にブラシをこする。どうやら悠里の話を聞いてモチベーションが上がったらしい。

そんな由紀の頑張りもあってか掃除は思っていたよりも早く終わり綺麗になった貯水槽に水を入れていく。その間ソファーを運んできたりパラソルを持ってきたりと屋上で快適に過ごす準備をしていく。それらが終わりソファーでひと息ついていると昼食をどうするかという話になった。

 

「せっかく外で食べられるんだからカレーとかどう!?絶対おいしいと思うんだよ!」

 

そう提案してきたのは由紀である。これ以上いいものはないというほど自信満々な様子で言う。

 

「確かにいいかもな、よくキャンプとかでもカレー作ったりするもんなー」

 

「でしょでしょ!?ひかる君もそう思うよね?」

 

「んーそうだな。レトルトのカレー結構あったしそれにするか」

 

胡桃と光がそう頷きお昼はカレーに決まった。ちょうど話がまとまる頃には貯水槽にもちょうどいいくらいに水が溜まっていたこともあり昼食の前に少し遊ぶことにした。

 

 

 

「…うん、ちょっと冷たいけどこれくらいなら大丈夫そうね」

 

悠里が足の先を少しだけ水につけ水温を確認する。それを聞き由紀が今にも飛びこもうと構えていることに気づき悠里は声をかける。

 

「プールと違ってここはコンクリートだから飛びこんだりしたらあぶな……」

 

 

バシャーン!!

 

そう言った時には時すでに遅し、大きな水しぶきをあげ由紀が飛びこんでいた。

 

「えへへーいっちばーん!!」

 

「あ!ズルいぞゆき!こうなりゃあたしも!」

 

「もう〜」と困ったように息をつく悠里だったが今度は胡桃も飛びこもうとしているのに気づき慌てて声を上げる。

 

「ちょっ、くるみまで!飛びこんだらあぶないんだから……ね…」

 

言い終わる頃には胡桃も同じように同じように大きく水しぶきを上げて飛びこんでしまっていた。それを見た悠里はがっくりと肩を落とし美紀は苦笑いで由紀達を見ていた。

 

「ゆきはともかくさーくるみも結構子供っぽいとこあるよな〜思いきり飛びこんじゃうとか」

 

「あはは…確かにそうかもしれませんね」

 

水をかけあいながらじゃれる2人を見て光と美紀は苦笑いを浮かべた。

 

「2人も遊んできたら?せっかく水着もあるんだし」

 

「そうですね…あ、そういえばどうして私の分の水着もあったんですか?先輩方の分があるのはまだわかるんですけど」

 

「それを言うなら俺も。俺えんそくの時水着なんか取ってこなかったぞ?」

 

2人から問いかけられ悠里はニコリと微笑みながら答える。

 

「みきさんの分はゆきちゃんの予備なの、どっちにするか決めきれなくて2つとも持ってきたのよ。ひかる君のは私たちが。せっかくだからひかる君のも選んであげようってなって」

 

「へえーそうだったのか、お気遣いどうも。」

 

「どういたしまして、私はお昼の用意持ってくるから2人は遊んでていいわよ」

 

「1人じゃ大変だろ、俺も手伝うよ」

 

「ん〜じゃあお願いしようかしら」

 

「なら私も…」

 

「いや、2人で大丈夫だよ、みきはあいつらと遊んでてくれ、何しでかすかわかんねえしな」

 

「あはは、わかりました。じゃあお願いしますね」

 

「ああ、頼んだぞー」

美紀にそう言うと2人は屋上を後にし校舎に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

「なぁりーさん」

 

「なに?」

 

人気の全くない静かな校舎の中、光は歩きながら悠里に話しかけた。悠里に気になっていたことを問いかけたかったからだ。

 

「どうしてゆきの話に乗ったんだ?昨日あんな物を見つけて…それなのに貯水槽の掃除なんていういつでもできそうな話に乗ったのか、それがずっと気になってたんだ。ほんとならこんなことしてる場合じゃねぇだろ」

 

「そうね。」とつぶやきひと呼吸おいて悠里はゆっくりと口を開く。

 

「…だからこそよ。やっぱり私たちには考えを整理する時間が必要だわ。これらのことも……めぐねぇのことも」

 

 

それを聞き光は言いたいことをぐっと抑えひと言「そうだな…。」とだけ返した。今の彼女には言っても無駄だと判断したからだ。真実を知って怖くなり結論を先送りにしようとしているのなら少しくらいは待ってやろう、そう思ったのだ。

 

 

 

部室から必要なものをとり屋上へ戻る。遊んでいた3人に声かけそれぞれ胸の前で手を合わせる。

 

「「「いただきます」」」

 

 

「ん〜!外で食べるカレーってやっぱりすごくおいしいね」

 

凄まじい勢いカレーを頬張り由紀が感動したように声を上げる。その様子を楽しそうに眺めながら4人は頷く。

 

「ねぇねぇみんなどの辛さの食べてるの?」

 

「えーと、私は中辛です。ゆき先輩は?」

 

それを聞くと「あっ」と声を出しニコリと笑った。

 

「じゃあおんなじだね〜中辛ってゴロゴロの野菜が入ってておいしいよね!」

 

「え!ゆき先輩てっきり甘口かと…」

 

「それって私がお子さまって言ってる?」

 

「いえ!その、なんとなくなんですけど…」

 

「やっぱりお子さまって言われてる気がする〜」

 

美紀から驚かれ由紀はガックリと落ちこむ。その様子を見て美紀が慌てて話を逸らす。

 

「あ、くるみ先輩は辛口って感じですよね!」

 

胡桃は頷く…かと思いきや恥ずかしそうに目を逸らしながらポツリと呟いた。

 

「……あたしは、甘口…だけど…」

 

「え!意外ですね」

 

「べ、別に辛口が苦手ってわけじゃないぞ!あ、味が好きっていうかー辛口食べる時だってあるぞ!」

 

意外だと言われ胡桃は焦ったように弁明する。必死に弁明する様子があまりに面白かったため少しからかってみることにした。

 

「言い訳すんなって、ほんとは辛いの苦手なんだろ〜?そんな顔真っ赤にして言っちゃって。あ、もしかして甘口でも辛くて赤くなってんのかな?」

 

「ちっがーう!!バカにすんなよな!味が好きなんだ!ひ、日差しが暑いから赤くなってるだけだー!」

 

目を釣り上げ光の肩をブンブン揺さぶり叫ぶ。そんな胡桃の様子を見て4人は楽しそうに笑う。それからも他愛のない話をしながら昼食を摂り「ごちそうさまでした」と挨拶をしまた遊びはじめる。

貯水槽の中を泳いだり悠里が以前から持ち込んでいたらしき水鉄砲を使い突如始まった胡桃と悠里の対決。結果は巻き添えをくらった美紀がホースによる放水で2人とも吹き飛ばすという結末を迎えたりと5人は日が暮れるまで楽しいひと時を過した。

 

 

 

 

 

日も暮れてきて辺りが夕焼けに染まって来る頃由紀達が太郎丸とフリスビーで遊んでいる中、光はソファーに座り美紀のCDプレーヤーをいじっていた。このプレーヤーはラジオも聴けると言っていたため何か聞こえないか確かめていたのだ。しかし聴こえてくるのはノイズばかり、駄目だったかとガックリ肩を落とすと美紀が歩み寄っていた。どうやらずっとソファーに座り込んでいたのが気になり声をかけに来てくれたらしい。そこで美紀はプレーヤーに気づき声を上げた。

 

「悪い、屋上ならラジオ聴こえたりしないかなって思って借りてた」

 

「いえ、気にしないでください。何か聴こえましたか?」

 

「残念ながらなんにも。本当に俺たち以外誰もいないんじゃないかって思いそうになってきたよ。ま、そんなことはないだろうけど……。これ返すよ、ありがとな」

 

「…大丈夫ですよ、きっと私たちの他にも生きてる人はたくさんいますよ…。」

 

そう言って美紀はプレーヤーを受け取るとそれをじっと見つめていた。それは少し寂しそうにそれでいてどこか懐かしんでいる顔だった。そんな美紀の元へ太郎丸がトコトコと駆け寄ってきた。

 

「太郎丸、どうしたの?」

 

そう言ってしゃがむと太郎丸はプレーヤーに顔を近づけくんくんと匂いを嗅ぎ出した。その様子に美紀も光も首を傾げていたが美紀がはっとして太郎丸に問いかける。

 

「圭の、匂いがするの…?」

 

そう言ってそのままゆっくりと顔の上まで手を近づけそっと頭を撫でる。太郎丸は嫌がることなくじっとしていたがすぐに走り去ってしまう。美紀は悲しそうに俯いてしまうが太郎丸はフリスビーを咥えすぐに戻ってきた。美紀は驚いたように目を丸くする。

 

「遊んでほしいんじゃないか?」

 

「……!はい!」

 

そう言って美紀はフリスビーを受け取る。すると太郎丸が嬉しそうに飛びついてきた。美紀は嬉しそうに太郎丸をぎゅっと優しく抱きしめていた。

 

「よかったな、みき」

 

自分はここにいては邪魔だと感じ光はそっとその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜さむっ。」

 

「風も冷たくなってきたな。ほら」

 

そう言うと光は寒そうに震えていた胡桃の肩に制服をかけた。胡桃はちょっと意外そうだといったように「ありがとう」と答える。

 

「寒くなってきたしそろそろ終わりにしましょうかね」

 

片付けのため校舎に戻っていた悠里がやってきた。悠里も寒いと感じたのか同じように制服を羽織っていた。

 

「今日はこんな風に遊んでよかったな。」

 

そう光が向こうで遊ぶ美紀達を眺めながら言う。

 

「あら、反対だったんじゃないの?」

 

お昼に言われたことを思い出し悠里が問いかける。

 

「始めはそうだったけどさ、美紀と太郎丸見てたら今日は1日遊んで正解だったなって。あんなに嫌われてた美紀が太郎丸と楽しそうに遊んでるし」

 

笑みを浮かべながらそう答えると悠里達も美紀達の方を見て微笑んだ。

 

「そうだな、太郎丸のやつ美紀にだけは触らせてやらなかったもんなー」

 

「そうね。みきさんすごく嬉しそう」

 

「ああ、いつまでもこういう平和な日常?みたいなのが続いたらいいのに」

 

ぼんやりと光はそうつぶやいた。

 

「そうね、そんな日常を続けるためにも明日は地下に行きましょう。ちゃんと真実を知ることも大切なことだもの」

 

「そうだな…さて、早いとこ片付けて中に入ろう。魚を貯水槽に戻してソファーとか中に運ぶくらいで終わりかな」

 

光達はそんなことを話しながら魚を貯水槽へと戻していく。

 

「ゆきちゃーん!みきさんそろそろ終わりにしましょう。お魚池に戻すの手伝ってくれるー?」

 

「「はーい!」」

 

呼ばれた由紀達が駆け足でこちらにやってくる。由紀も美紀もとても満足げな笑みを浮かべていた。

 

「今日は楽しかったね〜またみんなでプールで遊ぼうね!」

 

「おう、そうだな!ゆき今度はあたしが1番に飛びこんでやるからな!」

 

「ふふーん、くるみちゃんに1番はゆずらないよ〜?」

 

「なんだと〜?こんにゃろ!」

 

軽口をたたきあいながらじゃれる由紀と胡桃を見て3人は微笑む。

やっぱり彼女たちには笑顔が1番似合う、こんな世界でもいつまでも笑っていられるそんな日々をいつまでも続けたい。そしてそんな彼女たちを側で見守っていたい。彼はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………そう思っていた。

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。
光くんのいつもとは違う普通の男な面もほんのちょっと垣間見えた回でした。光くんだって男の子ですからあんな風になっても仕方ないですよね┏( .-. ┏ ) ┓ちなみにお昼のカレーの話はドラマCDをもとに書いてみました(^^;

次回もよろしくお願いします〜


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第十九話 「あめのひ」

お久しぶりです、まただいぶ期間が空いてしまいましたね(^^;

平日はなかなか書く時間なくて全然進まなくなっちゃうんですよね、なんとか土日だけでも書き上げないと…(笑)

第十九話よろしくお願いします。


ゴルフクラブをぎゅっと強く握り締め走る。正面から両手をだらしなくのばしこちらに向かってくるモノがくる。その腕が自分に触れる前に握り締めたゴルフクラブを首の辺りを狙い横殴りに振る。狙い通り首に当たると勢いよく壁に叩きつけられ動かなくなる。割れた窓から入る雨に濡れながらかれらが蔓延る校舎を彼は1人走りぬける。

 

どうしてこうなるのか。この地獄のような世界で少しの平穏や幸せを求めてはいけなかったのか?もし神様なんてものがいるならその理由を問いつめてやりたい。そんなことを心の中で吐き捨てながら彼はひたすらに走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

「太郎丸まだ帰ってこないのか?」

 

「うん、いつもならご飯になるとすぐ戻ってくるのに」

 

太郎丸がいない、それに最初に気づいたのは由紀だった。いつもなら名前を呼ぶとすぐに駆けつけてくるが今日は何度呼んでも姿が見えない。普段から賢いためむやみにバリケードの外へ出たりもしないため近くの教室を探したが見つからなかった。

 

「賢すぎるのも困りものだな…」

 

「首輪めいいっぱいきつくしてたんだけどね」

 

胡桃と悠里が困ったように息を吐く。

 

「私もう一度探してきます、どこかで迷子になってるのかもしれないし…」

 

「私も!雨降ってるし風邪引いたら大変だもん」

 

よほど太郎丸が心配らしい、美紀がもう一度行ってくると言い出し由紀も一緒に行こうとしているようだ。それを聞き胡桃がシャベルを持ち立ち上がる。

 

「じゃあみんなでもっかい行くか!あいつ頭いいしワケもなく危ないとこ突っ込んだりしないだろうしみんなはこの階を重点的に探してくれ、他はあたしが行く」

 

「1人じゃ危ねえだろ雨も降ってるし…」

 

「いいや、大丈夫だ。1人の方が動きやすいし任せとけって」

 

光がそう言いかけた所で手を前に突き出し胡桃が答える。自信ありげで聞く耳を持たなそうな様子だった為彼はそれ以上は言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあこの辺は任せたぞー」

 

階段の前で背を向けたまま胡桃が言う。

 

「ああ、お前も気をつけろよ」

 

光もひと言そう答えるとお互い「じゃあな」と手を振る。胡桃が階段を降りていき視界から消えそうになる。

 

「…くるみ!」

 

「ん、どしたー?」

 

呼び止められた胡桃は首をかしげながら振り返る。しかし光はなにも答えない。なぜ呼び止めたのか自分でも分からなかった。理由の分からぬ不安に駆られ咄嗟に呼び止めてしまった。

 

「……いやなんでもない。気をつけて行ってこいよ。」

 

「おう!」

 

光の返事を聞いてニッと歯を見せて笑うと彼女は階段を駆け下りていった。胸に残る不安は消えることなく彼はそれからしばらく階段をじっと見下ろしたまま動くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「太郎丸ー!どこだ〜?おーーい」

 

胡桃と別れ1人太郎丸を探す、が彼は教室の中をよく探すことなく反射的に声を上げていた。さきほど感じた不安がずっとまとわりついていて太郎丸を探すことへ集中できていなかった。

 

「なんなんだろうな…すごいモヤモヤする。ひとまず由紀達と合流しよ…」

 

指で頬をかきながらそうつぶやき部室へ戻る。中へ入ると由紀と美紀、そして悠里は既に帰ってきていた。

 

「先輩おかえりなさい、どうでした?」

 

「いやダメだった、そっちもか?」

 

扉を閉めながらそう問いかけると美紀達は残念そうにうなずいた。4人で探して見つからなかった、そこからどうやらこの階には太郎丸はいないという結論に至った。

 

「…そうなると下にいるかもしれないってことよね、下にはくるみが行ったのよね?」

 

「うん、そういえばくるみちゃん遅いね…迷子にでもなったのかなー?」

 

「くるみ先輩にかぎってそんなことにはならないですよ。きっともうすぐ帰ってきますって」

 

由紀と美紀の会話を聞き光は思いだす。自分が感じた不安は胡桃と別れる頃からだ、彼女1人に任せてよかったのだろうか。いままでと同じように無事に帰ってくるのか、自分もやっぱりついていくべきだったのではないか。いまさらになって後悔の念が彼を襲う。

 

 

 

 

彼がそう頭を悩ませているちょうどその時、部室の扉がカタカタと音を立てた。それを聞きつけた由紀がパタパタと走りながら扉へと向かう。その瞬間光の中に悪寒が走りぬける。そしてハッとして声を出す。

 

「…っ!待て!」

 

「わ!ひ、ひかる君どうしたの?」

 

自分が思っていたよりも大きな声が出ていたらしい、由紀はビクッと肩を震わせ振り向いた。

 

「……俺が開ける、下がってろ」

 

神妙な面持ちをしていた彼の圧に押され訳も分からぬまま由紀はうんうんと頷き後ろに下がる。なぜこんなことをしたのか自分でも分からない、だが開けてはならないそんな気がした。彼は大きく息を吐きながらゆっくり扉に手をかける。もしもということに備えてゴルフクラブを握りしめながらそっとその扉を開けた。

 

 

 

 

「……なんだくるみか。びっくりさせやがって…ずいぶんと遅かったけど大丈夫だった……か?」

 

扉の前にいたのが胡桃だと分かるとはあ、と安堵の息を漏らしそう問いかけるがその時彼女の体がふらりと揺れて光の方へ倒れ込んでくる。慌てて抱きとめると今にも消え入りそうな声でぽつりとつぶやいた。

 

「………ミスっ、た……」

 

「え?………………ぁ」

 

そこで光は悟った。苦しそうに息をする血色の悪い顔、そして抑えられた腕にある噛まれたような傷とそこから流れる赤い血。なにがあったのかすぐに理解する。噛まれたのだ、と……。

 

「……っ、くるみ!」

 

「そんな……!」

 

悠里と美紀が目を見開き口元を両手で覆う。かなりのショックを受けているようだった。3人が驚きのあまり言葉を失う中、普段とは違い凛とした声で由紀が声を上げる。

 

「……救急箱、職員室にあったよね?取ってくる!」

 

そう言って部室を飛び出す由紀を見て我に返った光はかすれた声を上げる。

 

「……りーさん、手伝って、くれ。ひとまず寝かせないと……」

 

「そうね、このままじゃ…いけないものね……」

 

その声にハッとしたように顔を上げ悠里はすぐに駆け寄り片方の肩を担ぐ。2人で胡桃の肩を担ぎ部室をゆっくりと出る。後ろから美紀も付き添おうとしてきたが由紀の方も心配だから様子を見てきてほしいと頼み向かわせた。

 

 

寝室を目指しゆっくりと歩みを進める。その途中ら胡桃が小さな声をしぼりだす。

 

「めぐ、ねぇ…めぐねぇ、だったんだ…。」

 

「「……!」」

 

めぐねぇ、その名前を聞き2人は驚き目を見開く。2人は何も返すことができずただ黙り込みひたすら歩いた。寝室に着くと胡桃をソファーにそっと寝かせる。背後から駆け足でこちらに来る足音が聞こえ振り返ると救急箱を持った由紀と美紀が飛びこんでくる。2人は共に息を切らし心配そうに横たわる胡桃を見つめていた。

 

 

悠里に替えの包帯を持ってもらい腕の傷に手際よく包帯を巻いていく。その間苦しそうに息をする胡桃を見て光は後悔の念に押しつぶされそうになりぎゅっと唇を噛み締める。あの時1人で行かせてしまった自分が憎くてたまらなかった。

 

「ねぇひかるくん、なにか手伝えることないかな……?」

 

「………いや、今は特にない、かな。」

 

心配そうに問いかけてきた由紀に普段の彼からは想像もつかないほど細く弱々しい声でそう答える。

 

「じゃあゆきちゃん、お湯沸かしてきてくれる…?」

 

「…!うん、行ってくる!」

 

悠里からそう頼まれた由紀は力強く頷き部室へ駆けだしていく。

 

「ひかる先輩もゆうり先輩も少し休んでください、私も手伝いますから」

 

2人のことが心配になった美紀が声を上げる。

 

「休むわけにはいかないわ、ゆきちゃんばかりに頑張らせるわけにもいかないから…」

 

立ち上がり美紀にそう答えたところで悠里はふらりと立ちくらみを起こし倒れそうになる。慌てて美紀が抱きとめ声をかける。

 

「そんなことないですよ!先輩も十分頑張ってます、でも少しは休まないと…」

 

「あぁあああぁっ!」

 

その時胡桃がこれまでとは比べ物にならないほど大きな叫び声を上げる。光はすぐに額の汗をタオルで拭き取ってやる。その最中、腕の傷口の辺りがびきびきと不気味に蠢いた。

 

「………っ!」

 

それを見て光は血の気が引いていくのを感じた。胡桃の容態が悪化しているにも関わらず自分にはどうすることもできずいる、その事への焦りや苛立ちが頭がいっぱいになっていた。背中には嫌な汗がまとわりつき額には大粒の汗が流れる。

 

「ダメ、だった……ごめん、太郎、丸……。」

 

「ぇ……うそ…。」

 

 

胡桃の言葉を聞き美紀は青ざめた顔を両手で覆う。胡桃は苦しそうに息を切らしながら何があったのか話はじめる。

 

「避難、区画に…めぐねぇがぁ、、ちくしょう………!」

 

 

その場にいた全員がショックのあまりその場で動くことができなかった。いままで積み上げてきた大切なものが音を立てて崩れ去る、そんなイメージが彼の中で流れた。

 

 

 

 

 

 

部屋には外で降り続ける雨音、そして胡桃の悲痛な叫び声だけが響いていた。

 

 




読んでいただきありがとうございました!

前回が「はれのひ」だったのに対し今回は「あめのひ」として前回の明るい日常回とは違い暗いお話になっているというのを表現してみました。

次回もよろしくお願いします┏( .-. ┏ ) ┓


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第二十話 「せんぱい」

お久しぶりです。一応生きてました。

第二十話よろしくお願いします。


「もしあたしが感染しても迷わないでほしい。」

 

「わかった。」

 

 

「その代わりお前も約束してくれ、

俺が感染した時にも迷わない…って。」

 

 

「…ああ、わかった。じゃあさ、ゆびきり。」

 

「おう」

 

ーーーーーーーーー

「おまえやりーさんにしか頼めないから。」

 

 

「…ああ分かってる。お前も俺がそうなった時はよろしく頼む、俺だってお前らにしか頼めない。」

 

「私もちゃんと約束は守るわ。」

 

「「ああ、約束な」」

 

 

 

 

ショッピングモールでの話、夕日に照らさた車の中3人で誓った約束をふと思い出した。あの時はわかった、たいして躊躇うこともなく頷いた。だがそれはそんなこと起こるはずがない、自分達に限ってそんなことはありえない。そう思っていたからであろうと今は思う。しかしそれは起きてしまった。あの日の約束を果たさなければならない時が来てしまった。けれども苦しむ彼女の姿を見てその思いは揺らいでしまった。自分は約束を果たせるのだろうか、自分は、自分は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あぁあああぁぁあ!!」

 

「……っ!!」

 

耳の中に響き渡った叫び声に光はびくりと身体を震わせ顔を上げる。状況が飲み込めず瞬きしながら辺りを見回す。手錠をかけられ真っ白なシーツを全身に被せられて悲痛な叫びを上げもがき苦しむ胡桃。そしてその前で耳をふさいで力なくへたり込む悠里の姿。カタッと小さく音を立てながら座っていた椅子から立ち上がるとその音に気づき悠里がゆっくりと振り返ってこちらを見上げた。

 

「あ、ひかるくん起きたのね。」

 

「あぁ………やっぱり俺寝てたのか…」

 

「ええ、すごく顔色が悪くて今にも倒れそうだったから少し休んだ方がいいって言ったのだけど…覚えてないの?」

 

そう言って首をかしげる悠里だったが疲れきった顔やその顔色の悪さから見て彼女の方がよっぽど今にも倒れそうだと光は思った。自分もこんな感じなのだろうか。

 

「そういやゆき達は?」

 

「ゆきちゃんは部室にいるんじゃないかしら。みきさんは……薬を取りに行ったわ」

 

「…?薬って…くるみ治せるのか!?というか、そんなのどこにあったんだ?」

 

光は驚いたように悠里に詰め寄る。

 

「マニュアルに書いてあったのよ。地下の避難区画にあるって……」

 

「……は?」

 

悠里に言葉にぴたりと動きを止める。そしてすぐに

 

「1人で行かせたのか……?」

 

「偵察に行ってくるだけだって言っ…」

「くるみだってそう言って!!」

 

声を荒らげ悠里の言葉を遮る。悠里は肩をビクリと震わせ黙り込む。そして少し間を空けて答える。

 

「私も最初は同じように止めたわよ…でも相手がめぐねぇだったからこうなったんじゃないかって。自分ならめぐねぇを知らないから大丈夫だって…そしたら言い返せなくて…あなたはどうなの?相手がめぐねぇでもいつも通りできるの?」

 

そうまっすぐ光の目を見つめ問いかける。光は黙り込む。

確かにそうだろう。胡桃はいままで何度もやつらを仕留めてきた。そんな彼女がそれをためらい逆に深手を負ってきたのだ。理由などそれくらいしか考えられない。自分だったらどうか。相手は苦楽を共にした大切な人、彼女がいたから今自分達はこうして生きている。そんな恩人の息の根を止めることなどできるのか。

 

 

 

 

 

ふぅ、と大きく息を吐きぽんと悠里の左肩をたたく。そして彼女の横を通り過ぎ答える。

 

 

そんなもの決まっている。迷うことなど何もない。

 

「できるさ。相手が誰だとしても躊躇わないよ、ずっと前に決めたことだから。というか…助かるかもしれない命ともう助からない命だったらさ、助かるかもしれないほうを取るに決まってんだろ。」

 

そう言ってぎこちなくだが笑みをうかべる。

 

「そう…あなたも行くつもりなのね。」

 

「もちろん。お世話になったやつらが誰も行かないで面識のない後輩1人に見送りを任せるとかあの人に申し訳ないじゃん?だから行ってくる。みんなの分もまとめて俺が伝えてくるから。」

 

「ええ、じゃああなたに託すわ。よろしくね……」

 

わかった。そう言おうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

「いやあぁぁぁあ!!」

 

突然部屋の外から聞こえてきた悲鳴に2人は驚く。今の声は間違いなく由紀のものだった。

 

「……ゆきちゃん!?」

 

「俺様子見に行ってく………!?」

 

そう言いかけて部屋を飛び出そうとした光だったが目の前に現れたソレに息をのみ言葉を失う。

 

そこに現れたのは本来ならこの階からは排除されいるはずのないかれらであった。しかも1体などではなく複数である。

 

すぐに扉の近くにいたものをクラブで転ばせ扉を閉め鍵を掛ける。大きな音を立て閉めたため複数のかれらが扉をドンドンと叩く。

部屋の奥まで下がり2人は様子をうかがう。

 

「うそ…どうしてここにあいつらが…もしかしてバリケードが壊された……?ゆきちゃんは……?」

 

「まじかよ、こんな時に…これじゃ外に出られねぇ…!」

 

2人は息をひそめ外にいるかれらがいなくなるのを待つ。途中胡桃が叫びだすこともあってなかなか静かにならなかったが10分ほどすると扉を叩く音は聞こえなくなった。

 

 

 

 

「だいぶおとなしくなったな、行くなら今かもしれない。」

 

「そうかもね…でも気をつけて近くにはいるはずだから…」

 

「そりゃあね。無事に部屋から出られればそれでいい、俺が出たらすぐに鍵閉めてくれよ。」

 

「えぇ…。信じて待ってるから…ちゃんと美紀さんと2人で無事に帰ってくるって。」

 

「当たり前だ、必ず薬も持って帰ってくるから………じゃ。」

 

そう言って扉に手をかける。

 

 

 

 

 

 

「いってらっしゃい。」

 

扉を開ける寸前そう悠里から声をかけられる。はっ、と小さく息を吐き出し動きを止める。それからそっと後ろを振り返り

 

 

 

 

「いってきます。」

 

そう笑顔で返し光は扉を開いた。

 

 

 

 

 

「……行こう。」

 

部屋から出てそう小さくつふやく。カチャリ。と鍵のかかる音がした、もう後戻りはできない。周りにかれらがいないのを確認し大きく深呼吸をする。

まずは美紀と合流しなければ。悠里の話では彼女は1人で地下に向かったと聞いた。おそらく胡桃のシャベルか何か武器になる物は持っているだろうが心配だ。まだ地下には行っていないはずだし彼女を探すことに専念しよう。そう決めて走り出す。階段の近くにさしかかるとこちらに向かい迫ってくるかれらが2体、そのうちの1体の足に横殴りでゴルフクラブを打ちつける。そうして転ばせた所でそのまま棒立ちになっているもう1体の後ろまで走り抜けそのまま頭に重い一撃をくらわせる。一撃で仕留め、転ばせた方の頭も殴り叩き割る。

 

階段を降り廊下に出ると複数のかれらが集まっている場所を見つける。よく見るとそこにはかれらに今にも囲まれそうになっている美紀の姿があった。

 

「あ、見つけた…!」

 

すぐに彼女を助けるため走りだそうまだこちらには気づいておらず背を向けているかれらを背後からなぎ払っていく。彼女の元へ早く駆けつけるのが目的のため正確さは求めずかれらを転ばせることのみを狙い続けた。

 

 

「みき大丈夫か!?」

 

そう言ってかれらを蹴飛ばしたりクラブで殴り倒しながら駆け寄った。

 

「え……先輩どうしてここに!?」

 

美紀は突然現れた光に驚き目を見開く。

 

「来ない訳にはいかないだろ。走れるか?こいつらどうにかして早く地下降りるぞ!」

 

「は、はい!もちろんです!!」

 

光は美紀の問いかけなどお構いなしにかれらに向かっていく。それにつられ美紀も走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

「なんとか地下まで来れましたね。私1人じゃダメだったかも…先輩ありがとうございます。…………先輩?」

 

 

「………ん、あぁ。俺も1人だったらこんな上手くいかなかったと思う。」

 

合流した2人は手際よくかれらから逃げ延びて目標としていた地下の避難区画までたどり着くことができていた。しかし地下へ続く階段が見えた頃から彼の様子がおかしいと気づいていた。話しかけても少し遅れて返事が帰ってきたり、先程までとは違う雰囲気で顔がこわばっているようであった。まるで恐怖を感じているかのような顔つきだった。地下に降りた2人は辺りを見回す。そこはあまり広くはなく、奥にはシャッターが中途半端に開いておりそこからさらに道が続いているようだ。

 

「あ、先輩床に血が…。これって……」

 

「くるみのだろうな。シャッターの辺りからずっと血が続いてるし多分あのシャッターの先に…」

 

そこまで言うと光は言葉を詰まらせる。額からは汗が流れごくりと息を呑む。背中にも汗が流れとても気持ち悪い。バクバクと先程までより早く心臓が脈打ちその音がうるさいくらい耳の中で響く。もう何も聞こえないしあの半開きになったシャッターしか目に入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

いるのだ。あの向こうに『あの人』が。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思えば思うほど心臓が早く脈打ち息が荒くなる。汗もダラダラと流れ手足が震える。

 

いるんだ、あの向こうに。

怖い、怖い、怖い。会いたくない、会いたくない、会いたくない。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんぱい。」

 

「……っ!」

 

やわらかな声が耳の中に流れる。そして手にも暖かな温もりを感じる。ゆっくりと下に目線を落とす。それは自分の手をやさしく包み込む美紀の手だった。目線を上に戻すといつもとは違うやさしさを感じる美紀のやわらかなほほ笑みがあった。そしてそのままやさしい声でゆっくりと語りかける。

 

 

「大丈夫ですか?先輩ものすごく具合が悪そうな顔してます。ちょっと落ちついて考えてみましょう。どうしていまここにいるんでしたっけ?」

 

「……くるみを、治すために薬、を取りにきた……。」

 

「そうですね。ちゃんと覚えてましたね、私たちはくるみ先輩のために薬を取りにきたんでしたよね。じゃあもう1つ質問です。」

 

光はぷつぷつと言葉を途切れさせながら答える。そして美紀は笑みをうかべ頷いて続ける。

 

 

 

 

 

 

「あなたは今1人ですか?それとも誰かと一緒にいますか?」

 

「……え?」

 

思いがけない質問に光はぽかんと美紀を見る。しかし美紀はじっと光を見つめ答えを待つ。

 

「ひとり、じゃない。……2人、みきが一緒にいる」

 

「そうです!私がいます。先輩はひとりじゃありません。私がついてます。私がそばにいます。だから大丈夫です、先輩みたいに役に立つかはわかりませんがちゃんとそばにいます。だから一緒にいきましょう、2人で行けばきっとなんとなかります。だからできる限りいつも通りいつもと同じようにいきましょう。そうすればきっとうまくいきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀の言葉を聞き美紀の手の温かさを感じると次第にあれほどうるさく鳴っていた心臓はいつもと同じようにゆっくりと鳴り耳の中からも消えた。そして自然と笑みがこぼれた。

 

「ふふっ、落ちつきましたか?」

 

それを見ると美紀も満足そうに笑い返した。

 

「あぁ、ものすごくな。ありがとな、みき。もう大丈夫だ。」

 

「いえいえ、お役に立てたようでよかったです。」

 

「……行こう。早くみんなを安心させてやらないと。」

 

「はい。」と頷き美紀は握っていた手を離し床に置いていたシャベルをぎゅっと握りしめる。2人はゆっくりとシャッターをくぐりその先へと足を踏み入れた。




読んでいただきありがとうございました!

3ヶ月ぶりの更新になってしまいました…待っていた方がいたらほんとごめんなさいm(_ _)m大学ってすごい大変だなって、家帰ってきてからも小説書く元気や時間がなかったりして…やっと書けました(^_^;)

今回のお話ですがみーくんと光くんが地下に薬を取りいく話でした。
本当ならみーくんこういうことしないかもしれないけれどこういう優しいみーくんが見たくてこんな展開にしてみたんですがいかがでしたか?次回いよいよめぐねぇとの対面です。

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第二十一話 「さくらめぐみせんせい」

第二十一話よろしくお願いします。


ゆっくりと慎重に足を踏み入れる。水の跳ねる音がして自分の足元が冷たくなる。周りを見渡すとシャッターの中はくるぶしの辺りまで水が張っていた。

 

そこからゆっくりと足を2歩、3歩と進める、がそこで2人は歩みを止めた。

 

視線を感じる、そう思い目を細めると小さな明かりの向こうからゆっくりと近づいてくる人影が見えた。そして明かりを越えこちら側に来たそれはやはり……。

 

 

あの日、あの時と同じ見慣れた髪型、服。間違いない、あの人だ。

隣りにいる美紀を横目で見るとあの人をしっかりと見据え顔をこわばらせて固まっている。

 

「一旦向こうに戻るぞ、早く」

 

そう言いながら彼女の手を掴みシャッターをくぐり抜ける。

 

「…あの人ですよね?」

 

呼吸を整え緊張した面持ちで美紀が問いかける。それに光は無言で頷きじっとシャッターの方を見つめる。ガシャン、と何かがぶつかる音がした。開いている隙間から足が見えた。どうやらくぐることができずそのままシャッターを叩き続けているようだ。

 

 

大きく深呼吸をして光はゆっくりと口を開いた。

 

「久しぶりだな、めぐねぇ」

 

そこにいるのはあの日かれらから命を犠牲にして自分達を助けてくれためぐねぇと呼び慕っていたあの人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺のこと覚えてる?あれから大変だったけどなんとかみんなで、たまには喧嘩したこともあったけどなんとか今日まで全員無事に生きてこれたよ。新しい部員も増えたんだよ。びっくりしちゃうよな。」

 

穏やかな声でそう語りかけながら光はゆっくりと近づいていく。その様子に慌てたように美紀が声をかける。

 

「せ、先輩!危ないですよ」

 

「…最後に挨拶しておきたいんだ。ちゃんと気持ちが届くはわかんないけどさ、りーさんともそう約束したし…それにみきもいるから俺はもう大丈夫だ。」

 

穏やかな笑みを浮かべながら光はゆっくりと近づいていく。すると美紀もそれに続きゆっくりとあの人の前まで近づいた。

 

「‪新入部員ですからね、私もちゃんと挨拶するべきだと思って」

 

「そっか。」

 

そう言って2人は彼女の前に立った。

 

「はじめまして。新入部員の直樹美紀です。めぐねぇのことはみんなから聞きました、優しくていつもみんなを支えてたって…お会いできてよかったです。」

 

美紀の挨拶が終わり今度は光が声をかける。ガシャガシャと音を立てているシャッターに手を当てながら口を開く。

 

「俺達のこと傷つけたくなかったからこんなとこに来たんだよな?ずっと1人で……。でももう俺達大丈夫だから……。

 

 

 

りーさんは前よりもみんなことしっかりまとめくれる。物の管理も正確にやってちゃんと先の事まで考えて助けてくれるし。ゆきはちょっとおかしくなったのは変わんないけどあいつのふとした閃きがみんなを助けたり元気にしたりしてくれる。くるみは危ないこととか力仕事とか大変な事をどんどん自分がやるって買って出てくれてみんなのことをいつも守ってくれる…新しく入ったみきはすごい真面目で冷静に物事を考えてるし困った時にはちゃんと手を貸してくれる。みんな強くなった。いい意味で変わったんだ。おれだけ、何にも変わんないで弱いままで…」

 

悲しげに笑う光を美紀が否定する。

 

「ひかる先輩はすごく強いですよ。いつもみんなのことを考えて動いてくれますしちゃんと守ってくれます。すごく頼りになる人です。みんなすごく強くて頼りになる、こうなれたのはめぐねぇのおかげだと思います。私だってめぐねぇがいなかったらここにいなかったと思います。」

 

 

「俺達は5人で力合わせて暮らしているから、いままでも…これからもきっとそうやって全部乗り越えていくから、もう休んでいいよ。めぐねぇのことは絶対忘れないから、だから!………」

 

そう言って言葉を続けようとしたその時、足を掴まれる、彼の足を掴んだそれはとても冷たく人の手とは思えないほどであった。そこで改めて実感する。自分達を支えてくれた温かくて優しいあの人はもういないのだと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ…もう終わりだ。そろそろ本当に別れを告げなければならない。ここで彼女と別れて自分達は先に進まなければならない。その瞬間思い出す。みんなで協力して成し遂げたこと、みんなで話し笑ったこと、そして彼女の自分達に向けていたあの笑顔を。たくさんのことが走馬灯のように駆け巡り彼の手を震わせる。

 

 

だからこそ言わなければならない。最後に1番伝えたかったあの言葉を……!

 

 

 

震える手をそのままに持っているゴルフクラブを強く握りしめ頭上へ振り上げる。そしてシャッターから覗かせた頭へ狙いを定める。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました…佐倉慈先生。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう叫びクラブを振り下ろす彼の頬には一筋の涙がつたっていた。

 




読んでいただきありがとうございました。

今回はめぐねぇに別れを告げるところまでということでちょっと短めになっちゃいました。ここで終わらせた方がキリがいいかなと思って、

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第二十二話 「おかえり」

9月中に投稿するつもりだったのにギリギリ間に合わなかったぁ…。

第二十二話よろしくお願いします。


「ここのどこかに薬が…」

 

「薬見つけてすぐに戻るぞ。ここの探索は後からでもできるだろうしな。」

 

避難区画の奥まで進むと倉庫のような部屋に行きついた。そこに置いてあるダンボールや箱を見ると食料や衣類などが置かれてるいるとわかった。しかし今の目的はそれらではない。感染した者にも効く可能性のある薬だ。

 

 

 

「先輩、こんなところに机があります」

 

薬の捜索をしていると美紀に呼ばれすぐに駆け寄る。美紀の言う通りそこに机がひとつ。職員室で使われている物と同じ机と椅子が置かれていた。そしてその上には1冊のノートが。

 

「……めぐねぇ。ありがとな、俺達ちゃんと生きるよ」

 

ノートには小さな子供が書くような文字には見えないぐにゃぐにゃとした線ばかりが書かれていた。しかしその中ではっきりと文字として読めるものがあった。

 

それは美紀以外の自分達の名前、そして『生きて』の文字。あのような姿になって1人になってからも彼女は自分達のことを想い続けてくれていた、それが分かり光は嬉しく思い笑みをこぼした。

 

 

「あ、先輩救急箱がありました!もしかしたらこの中に…」

 

振り返ると机の近くに大きな救急箱が置かれていた。持っていたノートを置きすぐに光もそこへ駆け出ししゃがみこんだ。すると箱に赤黒い手形がついていることに気づく。おそらくめぐねぇのであろう。2人はそう察し箱の前で手を合わせた。

 

「あった!初期感染者用実験薬。これで治せるかもしれない。」

 

「はい、とりあえず今はこれだけ持ってすぐに帰りましょう」

 

みつけた薬を美紀が背負ってきていたリュックに詰めてその場を後にしようしたその時だった。

 

 

『電力低下により地下区画は非常電源へ切り替わりました』

 

突然アナウンスが流れ、赤色の明かりへと切り替わった。

 

「何が起こってんだ、電力低下ってどういうことだ。」

 

「さっき地下に来る前停電が起きたんです。もしかしたらそのせいかもしれません」

 

「なるほど、とりあえず早く戻るぞ!」

 

そう言って2人は走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

来た道を全速力で走る2人だったが慌てて足を止める。

 

「おいおい、まじかよ…」

 

「…っ!時間がないのに…」

 

2人の行く先から無数のかれらが現れ行く手を阻んでいた。

 

急いで引き返すがそちらにある扉からもかれらが現れさらに行くてを塞がれる。かれらが現れた扉の向かい側にも扉がある。光はそこに逃げ込もうと考え、勢いよく開く。すると部屋から何か小さな生き物が飛び出してきた。それは光達には目もくれずかれら達の方へ駆け出しっていった。

 

「いまのは…?」

 

「おい急げ!早く閉めないとさすがにやばい!」

 

飛び出してきた何かに気を取られている美紀の腕をつかみすぐに部屋の中に入り扉を閉め近くの荷物を扉に押し当てて塞いだ。

 

「はぁ、はぁ、どうしましょう、このままじゃ上に戻れませんしくるみ先輩も…」

 

「さすがにあの数は無理だ。どうにか去ってくれるのを待たないと…!」

 

そう言った矢先、反対側から強い力で扉を押される。2人は体ごと扉を押して必死に押し返そうと試みる。

しかしその努力もむなしく、あっという間にこじ開けられてしまった。

かれらの大群が一気に光達に押し寄せる。

 

「みき!奥の棚、上までよじ登るぞ!あの高さなら多分…!」

 

「…っ、はい!」

 

2人は部屋の奥にある人が乗っても大丈夫そうな棚によじ登った。光の予想通りかれらが手を伸ばしても届かない高さだった。しかしもうこの部屋はたくさんのかれらによって出口まで塞がれていて到底無傷では行けそうにない。隣にいる美紀を見ると頭を抱え涙を流し、

 

「ごめん……………圭」

 

と力なく呟いている。

 

どうする、どうすればここを出られる。自分を犠牲にして噛まれながらもかれらを倒し美紀を逃がすか?しかしまだ部屋を出てもおそらくかれらはたくさんいる。しかしそれ以外に何も思いつかない。美紀を感染させる訳にはいかない。自分を犠牲にしてでも他の人を助けられるならそれでいい。最初からそう思っていたではないか。でもそんな考えもいまでは揺らいでしまう。

 

 

 

自分はあの人にめぐねぇに言ってしまった。みんなで力を合わせ生きていくと、そしてあの人に別れを告げた、

 

 

 

 

いや、殺した。自分はそう言って仕方ないからと、命を守るために大切な恩人の息の根を止めてしまった。自分が、自分達が生きるためには邪魔だからと彼女を殺した。そして変わり果てた姿になってもなお自分達のことを想い続け、

『生きて』そう願っていた。それを知ってしまって自分は

 

 

 

生きたい。

 

そう思ってしまった。彼女達ともっと一緒にいたい。笑いながら過ごしていきたい、そう思ってしまった。そんな少し先の未来をここで捨てたくない。

 

そう思ってしまい、美紀と同じようにこの場から動けなくなっていた。

 

 

そんな自分に嫌気がさしてしまっていたそんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『下校時刻になりました。まだ学校に残っている生徒は早くお家に帰りましょう』

 

突然スピーカーから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「……これってゆき、先輩…?」

 

その声に美紀も気づき不思議にそうに顔を上げる。

 

『みんな学校は好きですか?私は大好きです。

変って言われるかもしれないけど…でも学校ってすごいよ!

実験室は変な道具がいっぱい。

音楽室、キレイな楽器とこわい肖像画。

放送室、学校中がステージ。

 

…なんでもあってまるでひとつの国みたいです!

こんな変な建物は他になくて…私は大好きです』

 

流れてくる由紀の声は普段の元気にあふれたものとは違い、とても穏やかで優しく、心に語りかけてくるような声をしていた。

その声に光と美紀はじっと耳をすませて聞きいる。

 

『勉強はキライだけど先生はキライじゃないし、宿題忘れて、見せてもらって、居眠りしちゃって怒られて…。

クラスの人と仲良くなって、ケンカして、みんなで一緒に…時にはひとりで。

楽しいことも悲しいこともいっぱいいっぱいあって、だから…

 

 

 

私はこの学校が大好きです』

 

 

「すごい…みんな、いなくなってく…。」

 

「先輩、いまなら行けるかもしれません!」

 

 

 

由紀の言葉に心を動かされたのは光達だけではなかった。この放送が流れてから、あれだけ自分達へと手を伸ばしていたかれらがそれを止め、それどころか2人には目もくれず皆この部屋から出ていったのだ。

2人が部屋からそっと外へ顔を覗かせるとあれほどいたかれらがひとりもおらずここにいるのは光と美紀の2人だけになっていた。

 

今なら行ける。そう判断して2人は胡桃や悠里達が待つ3階を目指し走りだす。予想通り地下にはもうだれもおらず簡単に1階へと戻ってくることができた。

 

「すごい、1階にも全然いない!」

 

「正直、信じられません!あれだけいたやつらが全くいないなんて…。ゆき先輩のおかげなんでしょうか?」

 

「それ以外考えられないな、これならすぐに3階まで戻れそうだ!」

 

1階に出てからもかれらの姿は全くなかった。走りながら2人は驚き目を丸くする。廊下の窓から外を見るとたくさんのかれらが校舎に背を向け学校の外へと向かっていた。由紀の言った言葉の通り、下校しているようであった。

 

 

2人が走っている最中も由紀の放送は続く。

 

『みんなも好きだよね?……ずっとずっと好きだからここにいるんだよね?

でも、どんなにいいことも終わりはあるから…ずっと続くものはなくて、それは悲しいけど…でもそのほうがいいと思うから……。

だから学校はもう終わりです。いつかまた会えると思う、でももう今日は終わり。

いま学校にいるみんな、こんにちは、ありがとう…さようなら。

 

 

 

 

……またあした』

 

そうしてプチッ、とスピーカーの切れる音が聞こえこれ以上放送が続くことはなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「「ただいま!「もどりました!」

 

思いきり音を立て扉を開ける。その音に驚いたようにこちらを見てやがて安心したように笑みをこぼす。そんな悠里が2人を出迎えてくれた。

 

「よかった…2人とも無事で、ほんとによかった……。」

 

目に涙を浮かべながら悠里が駆け寄ってくる。

 

「ご心配をおかけしました、2人とも無事です」

 

「ちゃんと薬も見つけてきた、これでなんとかなるはず」

 

悠里を安心させるため笑顔見せてから目的の達成を報告する。そうして胡桃の前へとしゃがみ美紀のリュックから持ってきた薬を取り出す。

袋を開けると中には注射器が入っていた。どうやらこれを感染者に刺せばいいようだ。噛み傷のある腕に巻かれた包帯を外し注射する。胡桃の顔を見るとさきほどまでよりほんの少しではあるが楽になっているように見えた。

 

 

 

「みんな!」

 

後ろから声が聞こえ振り向くとそこには由紀がいた。今度は光と美紀が由紀を出迎えに駆け寄った。

 

「ゆき先輩、無事でよかったです!それに先輩のおかげで私たち帰ってこれました。本当にありがとうございます。」

 

「え、そうなの?」

 

「あぁ、お前のおかげだ。ほんとに助かった、ありがとなゆき。」

 

2人にそう言われ少し戸惑ったようにしていた由紀だったが、

 

「そっか、それならよかった〜!私もみんなの力になれて嬉しい」

 

と照れたように笑った。

 

「あ、そうだ!くるみちゃんは?薬持ってこれたの?」

 

「もう薬は打ったから多分大丈夫だと思うぞ」

 

「ほんと!?よかったぁ。あ!それなら太郎丸も!」

 

「え、太郎丸いるんですか!?」

 

驚いたように美紀が迫った。

 

「う、うん。困ってた私を太郎丸が助けてくれたんだ、太郎丸のおかげで放送室に入れたんだよ」

 

そう微笑んで由紀が答える。見たところ腕に抱えてはいないだろうしリュックの中だろうか。そう思い光は床に置かれた由紀のリュックに近づく。

 

「一応顔に帽子を被せといたけど大丈夫かな、気をつけてね…?」

 

「おう、わかってる。」

 

そう言ってゆっくりとリュックを開けていく。

 

「バウ!バウ!」

 

いままでの太郎丸からは想像もできないような唸り声をあげリュックから飛び出そうとする。それをすぐに光は両手で押さえつける。唸り声をあげ暴れる太郎丸の体は冷たくなっておりもう手遅れであるということを嫌でも突きつけてくる。

 

「…っ、りーさん薬持ってきてくれ、このまま薬打とう」

 

悠里は頷くと薬を持ってパタパタと駆けてくる。そして太郎丸の傷口の辺りに手早く打ち込む。最初はジタバタと暴れ続けていた太郎丸だったが次第に大人しくなる。聞き耳を立てると浅くではあるが呼吸はしているようであった。

 

「これで太郎丸も大丈夫でしょうか…。」

 

少し不安そうに美紀が呟く。

 

「大丈夫だよ、太郎丸もきっと良くなるよ」

 

そんな彼女を落ち着かせるように由紀が優しく手を握る。安心したように「そうですよね」と小さく呟き笑みを浮かべた。

 

「なんか今日はすごい疲れたな」

 

光が誰に言うでもなくぽつりと呟いた。

 

「そりゃあそうだよ。今日はみんなすっごくがんばったもん。くるみちゃんも太郎丸も…。」

 

「そうですね、すみません少し疲れてしまったのでちょっと休んでもいいですか…?」

 

「ええ、みきさんとても頑張ったもの。ゆっくり休んで」

 

悠里はそう問いかける美紀に優しく微笑むと胡桃の元に歩み寄り座る。朝まで胡桃のそばにいるつもりらしい。

 

「私もちょっと疲れちゃった。みーくんと一緒にちょっと休むね」

 

由紀もそう言って美紀と共にたたまれた布団にもたれかかって目を閉じる。それからあっという間にすうすうと寝息を立てて眠りについてしまった。いつの間にか悠里も疲れていたようで眠ってしまっていた。

起きているのは光ただひとり、だったが

 

 

安心したような顔をして倒れるようにその場に寝転びゆっくりと目を閉じた。そしてその直後彼からも寝息が聞こえてくる。

 

 

 

少し休むと言っていた2人も含め、それから全員朝まで目を覚ますことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

日が昇り朝が来る。布団も敷かれていない硬い床だったが疲れのせいか気持ちよさそうな寝顔で寝息を立てている光。自力ではもうしばらくは起きそうにないといった様子である。が

 

「くるみちゃぁあん!!」

 

「痛っでぇぇ!?」

 

苦悶の声をあげ飛び起きた。

 

「くるみちゃん!よかったぁぁ!」

 

「おいおい、そんな大きな声で騒ぐなって、それにおまえ今ひかるのこと踏んづけて来たろ?あいつすごい上げて飛びおきたぞ?」

 

「え……?あ!ご、ごめんひかるくん!大丈夫!?」

 

どうやら自分は由紀に踏んづけられ飛び起きたらしい。

 

「あ〜いや、うん大丈夫」

 

背中をさすりながら苦笑いを浮かべながら答えた。

今の騒ぎで目が覚めたようで悠里もゆっくりと

顔を上げ胡桃を見て涙を浮かべ抱きついた。由紀もそれに続いて泣きじゃりながら抱きつく。

 

当の胡桃は困ったようにわらいながら2人の頭を撫でやがて光の方を見る。そんな彼女に、

 

 

 

 

 

「おかえり、くるみ。」

 

優しく笑いかけた。

 

その言葉を噛み締めるように胡桃も微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……。ただいま」

 

 




読んでいただきありがとうございました!

今回のタイトル「おかえり」はかれらに対して学校から家へと『おかえり』という意味と薬を取りに行くのとめぐねえに会いに行った光と美紀、みんなのために1人で頑張り帰ってきた由紀、感染した状態から回復して目を覚ました胡桃への『おかえり』という意味でのおかえりということで付けてみました。
高校編はあと1話か2話で終わる予定です。

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第二十三話 「しんろ」

第二十三話よろしくお願いします。


 

屋上でたたずむ5人。今の時刻は10時を少し過ぎた頃、胡桃の事で満面の笑みで喜んでいた彼らだったが今は打って変わって皆寂しげな表情をしている。その中でも特に美紀は辛そうな顔をしてうつむいていた。

 

2時間ほど前のことだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

胡桃の回復を喜ぶ4人。胡桃もありがとうと言いながら照れ笑いでいる中、弱々しい声が部屋の隅から聞こえてくる。太郎丸も意識が戻り寝床から出ようと前足でパタパタと箱の縁を叩いていた。

 

「太郎丸!」

 

すぐに気づいた美紀が駆け寄る

 

「…太郎丸もよくなるんだよね?…ね?」

 

由紀が少し不安そうに言う。光は太郎丸の方を向いたまま、

 

「薬はちゃんと打った、けど多分遅すぎたと思う…」

 

静かに言った。

 

胡桃の場合は感染してからあまり時間が立たないうちに薬を投与することができた。しかし太郎丸の場合は感染してから半日ほど経ってしまっていた。そのため胡桃よりも感染が進んでいたためあまり効果がなかったのかもしれない。その証拠に抱き抱えられ寝床から出た太郎丸は虚ろな表情で足も震え立っているのもままならない状態だった。

 

 

 

「あ、そんなに無理に動いたらだめだよ」

 

「もしかしてお腹が空いてるのかな?太郎丸ご飯食べる?」

 

そう言われると甘えたような声で太郎丸が鳴く。どうやら本当にお腹が減っていたらしい。

 

「はい、みきさん。あなたが太郎丸にあげた方がいいと思うわ」

 

そう言って悠里がそっと差しだす。

 

 

それを静かに受け取り皿に少しだけ出してやる。太郎丸はゆっくりと近づくと少しずつ食べ始める。しかしすぐに苦しそうにむせこんでしまう。

 

「あ!先輩お水お願いします」

 

すぐに光がダンボールにしまわれていた物を取り出し蓋を開け手渡してやる。太郎丸を自分の膝の上に乗せ手に水を貯めそれを飲ませる。苦しそうに少しずつ水を飲んでいる太郎丸を見て美紀は目に涙をためながら語りかける。

 

「おかえり太郎丸……。聞いたよ、ゆき先輩のこと助けてくれたって。おまえは本当にすごいよ、モールでも先輩達を連れて私のこと助けてくれたね。私がここにいるのも全部太郎丸のおかげ……。ありがとう、だからこれからもずっと一緒に………」

 

そう言いかけると太郎丸が小さな声で鳴いた。そして美紀のことを見上げる。そして、

 

 

 

 

にこりと笑った。

 

 

 

 

美紀を含めその場にいた誰の目から見てもそんな表情をしていた。

 

 

 

 

 

そしてそのまま眠るようにゆっくりと目を閉じ、

 

 

 

 

 

それから太郎丸が目を覚ますことはなかった。

 

 

 

 

 

太郎丸がもう起きることはないと悟った彼女達は大粒の涙を流す。なんとなくわかってはいたのだろうがやはり目の前でこうなってしまうのはショックが大きかったのだろう。彼女達が落ち着きを取り戻すまでそっとしておくことにした。

 

2、30分ほどすると全員なんとか落ちついてきたようで部屋には鼻をすする音だけが聞こえるようになった。

 

そんな彼女達の様子を確認してから光はようやく口を開いた。

 

「………みんな、太郎丸のお墓作らないか?このままにしておくよりはちゃんとみんなの手でお墓つくって休ませてあげた方が俺はいいかなって思ったんだけどさ……。」

 

皆の顔色をうかがいながらそう提案する。するとすぐに由紀が頷いた。

 

「うん…、うん。いいと思う。その方が太郎丸もきっとゆっくり眠れるよね」

 

そう答えながらまた目に涙を浮かべ泣きだした。他の3人もそんな由紀につられまた涙を流しながらもそれがいいと賛成してくれた。

 

そういったことがあり今に至る。

お墓の場所はめぐねえの墓の隣にすることになった。

胡桃にシャベルで穴を掘ってもらい布で包まれた太郎丸をそっと入れてやった。掘り返した土を戻そうとした時、由紀が声を上げた。

 

「これも一緒に、どうかな?」

 

見せてきたのは普段由紀が被っている猫の耳のような形をした帽子だった。太郎丸に被せたりした際に付いたのであろう赤黒く汚れていた。

美紀はこくりと頷き、

 

「はい、喜ぶと思います。一緒にいれてあげましょう」

 

由紀から帽子を受け取りそっと太郎丸の上に乗せた。

 

「……さあ、お別れしましょうか…。」

 

名残惜しさをこらえ悠里がそう告げる。4人は黙って頷き胡桃がゆっくりと土を戻していく。

 

「みーくん…大丈夫?」

 

その最中由紀が優しく声をかける。美紀は埋められていくのをじっと見つめたまま、

 

「大丈夫、です。……太郎丸は私のこと助けてくれたんだから私も元気に見送らなきゃだめ…ですよね」

 

首輪をぎゅっと握りしめ力なくつぶやいた。

 

「そんなことないよ。」

 

由紀はそう答えると自分のリボンを解いてめぐねえのお墓に結びながら、

 

「悲しいことをあんまりガマンしてると大切なことを忘れちゃうから。……私もめぐねえのさいごの言葉ずっと忘れてたから…。だから悲しい時は悲しくていいんだよ?大丈夫じゃなくていいんだよ?だから忘れないであげて、太郎丸のさいごの言葉。」

 

「言葉って……太郎丸は何も…」

 

「言ってたよ!」

 

美紀がそう言いかけると由紀が美紀の手を握り言った。

 

「みーくんにありがとうって!そう言ってたよ、笑顔でありがとうって……。私たちからはそう見えたよ」

 

はっとしたように顔を上げ美紀は周りを見る。胡桃と悠里がにこりと微笑みながら頷いた。

 

「………っ!ぁ………っわたしも!…ありがとうって……!」

 

堪えていた涙が溢れ出し由紀抱きついて泣きじゃくる。胡桃と悠里も彼女の傍に行くと優しく肩を撫でてやる。屋上には美紀の嗚咽と由紀達のすすり泣く声だけが響いていた。

 

そんな彼女達を一目見ると彼は背を向け手すりに両手を着くとぼんやりと空を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これまで一緒にいた太郎丸との別れ。彼には何度も助けられた。モールで美紀と出会わせてくれた事から始まり学校でも太郎丸が来てから彼女達も少し明るくなった。精神的な支えになっていたし、最後には感染しているにもかかわらず由紀を窮地から救った。

人でこそないものの彼も立派な学園生活部の一員と言っていいだろう。

 

そんな彼が死んだのだ。悲しくないはずがないのに涙など出てこない。悲しい出来事のはずなのに胸が苦しくなったりもしていない。

ああ、太郎丸が死んだのか。それくらいにしか彼は感じていなかった。

そんな心情に自分でもおかしいと思うがどれほど太郎丸のことを想っても何もこみ上げてこなかった。

自分の心はとうとうおかしくなってしまったのか…。ふん、自分を蔑むように鼻で笑うと彼はただひたすらに空を眺め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから20分ほどすると後ろから名前を呼ばれた。振り返ると4人が「そろそろ行こう。」と言ってきた。涙で腫れた目をしていたが皆その表情は爽やかなものだった。各々気持ちの整理が着きなんとか受け入れることができたようだ。

 

最後にみんなで2つの墓に手を合わせてから屋上を後にする。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

部室に戻り椅子に腰掛けると「これからどうしようか」と胡桃が声を上げた。

 

「ねえ、地下の避難区画って薬の他にも何かあった?」

 

そう言われて悠里が思い出したように光に訊ねる。

 

「あの時は急いでたしそんなにちゃんとは見てなかったけど食べ物とかはあったと思うぞ」

 

「だったら地下に行ってみない?いろいろと役に立つ物があるかもしれないわ」

 

「そうだな……せっかくだし全員で行ってみるか」

 

「え、みんなで?大丈夫かしら…」

 

光の提案に悠里は不安げに声を上げていたが、

 

「私はいいと思いますよ。あそこ結構広かったのでみんなで手分けした方がいいと思います」

 

「あたしも賛成だな。別にもうアイツらはいないんだし全員でも大丈夫だろ」

 

「私も〜!これはあれだね、たからさがしだね!それならみんなで行ったほうが楽しいと思う!」

 

由紀だけはいつも通り少しズレたことを言う。

 

 

うーん、と困ったような素振りをみせていた悠里だったがそれからすぐに諦めたように息を吐く。

 

「みんながそう言うのならそうしましょう。」

 

渋々折れてくれたようで5人で地下の探索をすることとなった。

 

 

 

それから各自準備を始めた。準備と言ってもリュックを持ってきたり用をたすくらいではあったが。10分も経たぬ内に全員準備を終え部室に戻ってきた。

 

 

 

「………、よっ!と」

 

持っているシャベルを1度強く握りしめてから頭上で器用にクルクルと3回ほど回転させ胸の前に突き出す。そしてうんうんと頷き、

 

「うむ、完璧」

 

満足そうにニヤリと笑った。

 

「くるみ先輩よかったです。調子良さそうで」

 

「いやぁ〜ご心配をおかけしました」

 

ふにゃふにゃと笑みを浮かべて胡桃は頬をかく。先ほどのシャベルの振り回しを見た由紀が目を輝かせている。

 

「くるみちゃんすごいね!アクション俳優みたいだったよー!」

 

「そうかそうかーいやぁ、それほどでも〜……いてっ、、、なんだよ」

 

由紀からそう言われ満更でもないように手を振る胡桃だったが光に持っていたマニュアルで軽く頭をはたかれる。

 

「あまり調子に乗んなよ?一応病み上がりなんだから。元気そうでよかったですけどねー」

 

呆れたように光が釘を刺す。そんな彼に胡桃は「はいはいー」とふてくされたようにそっぽを向き答える。

 

「もぉ〜みんなまじめにね?そろそろ出発するわよ」

 

そんな彼らに困り顔で言う。

 

そんな彼らに代わって由紀が「はーい!」と元気よく手を上げ返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「いろいろありそうね、これだけあればしばらくは大丈夫そう」

 

無事に地下避難区画にやってきた5人は手分けして役に立ちそうな物を探していた。非常食から替えの制服やジャージなどの衣類、ランプや電池など様々な物が見つかった。

 

光が衣服などを探していると少し離れた場所から由紀と美紀の声が聞こえてくる。

 

「お、この味のまいう棒久しぶりに見つけた!なかなか売ってないけどすごく美味しいんだよね〜あ、かわいいぬいぐるみとかもないかな!?」

 

「ゆき先輩、前みたいにぬいぐるみとかは見つけてくていいですからね、ちゃんと役に立ちそうな物を探してください」

 

「も、も〜分かってるよぉそれくらい、みーくんそんなに私のこと信用してないの?」

 

「そうですね、こういう時に関しては………してないですね。」

「えー!そんなぁ!?」

 

美紀の返答にガーンと言った擬音がよく合いそうな声とぽっかりと口を開けて由紀はガックリと膝をつく。思っていたよりショックを受けていたようで美紀は慌てて

 

「だ、大丈夫です!いつもはちゃんと信用してますよ!?」

 

と必死にフォローしていた。

 

「なんかこういうの久しぶりだなー学園生活部復活、だな」

 

由紀達のやり取りを見ていた胡桃が笑いながら言ってくる。

 

「そうだな、まあ元はと言えばお前がやらかしたおかげでいろいろとえらいことになったんだけどな。」

 

「はい、すいませんでした……ってか普通そういうこと言うか!?もっとデリカシーってもんはないのかよ!そういうこと言ってるとモテないぞ」

 

ギグっとして謝った胡桃だったがすぐに不服そうに抗議する。

 

「余計なお世話だ、別にこういうのはお前にしか言わないから」

 

そんな彼女をあしらうように光は言う。「なんだとー!」とまた怒り出す胡桃だったがすぐにはぁ、と肩を落とす。

 

「まぁ悪かったとは本当に思ってるよ、今回は油断した自分が悪いというか……」

 

「わかってるんならそれでいいよ」

 

そう言って胡桃の言葉を遮った。しゅんとしている胡桃を見て少しからかいすぎたかと軽く反省する。「探すの続けようぜ」とひと言かけて何事もなかったように探索を再開する。「わかった」と頷くと胡桃も作業を再開した。

 

 

 

 

 

それからしばらく探索を続けていたがこれ以上は持ち帰れそうにないしあっても使い切れないだろうということになりここで撤収しようと決まった。4人が帰ろうとすると由紀の姿が見えないことに胡桃が気づく。

 

 

「あれそういや、ゆきどこ行った?」

 

「ん、さっきまでいたよな?」

 

「おかしいわね、勝手に上に戻ったってこともないだろうし……。」

 

「まったく、ゆき先輩ってどうしていつもこうなるんでしょう…」

 

探しにいこうそう思っているとパタパタ走ってくる足音が聞こえ由紀が姿を現した。

 

「ねえ、みんなちょっと来て!」

 

「ゆきちゃん、もう戻るって言ったわよね?」

 

「うん、分かってるけどちょっと来て!何かすごいものがあるかもしれない!」

 

興奮したようについてこいと促す由紀。4人は仕方ないと渋々ついて行くことにした。

由紀に連れられた場所に着くとそこには異様に大きな扉が上を見ると冷蔵室と書かれたプレートがあった。

「こんなとこに冷蔵室なんてあったのか、よく見つけたなゆき」

 

胡桃が関心したように呟いた。

 

「でももう腐ってたりしてないかしら…?」

 

「大丈夫じゃないですかね、ここにも電気は通ってますし。」

 

「ねえ!とりあえず開けてみようよ〜!」

 

由紀がウキウキした様子で急かす。「はいはい」と軽く受け流しながら光は冷蔵室の扉に手をかける。

 

「一応慎重にね?」

 

「何があるかわかりませんからね」

 

「いっそ思いきりばっと開けちゃった方がいいんじゃないか?」

 

「ほらほら、はやくはやくぅ〜何が入ってるか気になるからさ〜」

 

次々に何度も後ろから口を出してくる4人。ゆっくり開けろら思いきり開けろ、早くしろらもうどっちでもいいから早くしろ、やっぱり慎重に…。などと次々にバラバラに違うことを言われ続ける。

 

 

 

 

「……やかましいわ!何か危ない物があるかもしれないんだぞ、せめて意見をまとめてから騒いでくれ気が散る!いいかゆっくり開けるからな、邪魔すんなよ、特にくるみとゆき!」

 

そんな4人に光がツッコミをいれる。何があるかわからない、とそれなりに警戒して開けようとしていたのに後ろが騒がれて気が散ってしまった。

はあ、ため息をついてから改めて扉に手をかける。さすがに彼女達も今度はおとなしく見守っていた。

 

ゆっくりと扉を開けていく。扉が空いていくにつれ後ろにいた4人もジリジリと距離を詰め中を覗き込もうとする。そうして開かれた扉の中を見ると5人は思わずゴクリと喉を鳴らした。

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「……うおおおおおおおおお!」」」」」

 

 

 

 

目を輝かせながら雄叫びのような喜びの声を上げた。

 

 

 

 

 

 

「「「「「いただきます!!」」」」」

 

一同は机に置かれたそれにごくりと喉を鳴らしフォークで口に運ぶ。あまりの美味しさに幸せそうな笑みをこぼす。

 

「うっめぇぇー!」

 

感動したように声を上げる。なぜか涙まで流していた。

 

「まさか生きてる内にステーキなんてものをまた食べられるとは思わなかった…いままでで1番の昼飯だな…。」

 

光も感慨深そうに言う。彼の言った通り今彼らの前に並べられているのはステーキだ。地下の冷蔵室その中身を見て全員が歓声を上げたのはこのステーキを発見したからだ。

 

「おいゆき!もっと味わって食えよ!?」

 

由紀の方をふと見た胡桃が驚く。由紀は既にステーキを平らげていた。

 

「あ〜おいしかったぁ……すごく幸せな気分」

 

本人の言う通りとても幸せそうな顔をして上を見上げていた。

 

「まったくおまえってやつは…ほら、みきを見てみろ」

 

胡桃が呆れたようにため息をつくとそう言って美紀を指さす。上品に一口大に切るとそれをそっと口に運びゆっくりと飲み込む。そして

 

「おいしい……」

 

と呟き満面の笑みを浮かべ静かにその喜びを噛みしめていた。そんな彼女を見て由紀は「おお〜」と関心したように頷いていた。

 

「確かにすごくおいしいわね。みんなご飯のおかわりあるけどいる?」

「「「「いただきます!」」」」

 

悠里が炊飯器を開けながら訪ねると、

 

はっと目を輝かせ4人は即答して茶碗を持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ステーキという豪華な昼食を堪能した後、4人が落ちついているのを確認すると4人に声をかける。

 

「腹もいい感じに膨れたところでみんなに話がある。」

 

4人が何事かとじっとこちらに視線を集める。光は避難マニュアルと街の地図を机の下から取り出して言った。

 

 

 

 

 

 

 

「あまり時間もないだろうから今ここで決めたい。これからどうするのか、

 

俺達の『進路』について。」

 




読んでいただきありがとうございました!

すみません前回の終わりに高校編は後1話か2話で終わるって言っちゃったのですがすみません後もう2話にさせていただきます(^_^;)
25話までを高校編ということでよろしくお願いしますm(_ _)m
今回はアニメ最終回と原作4巻の一部を合わせて作りました。思ってたより長くなってしまった…

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第二十四話 「ぜんや」

遅くなりました、すみません(T_T)

第二十四話よろしくお願いします。


「あまり時間もないだろうから今ここで決めたい。これからどうするのか、

 

俺達の『進路』について。」

 

 

 

 

 

光の言葉に真剣な表情で黙りこむ4人。光はさらに続ける。

 

「昨日の雨と大量になだれ込んできたやつらのせいで電気が使えなくなった。水も電動で汲み上げた訳だから同じように使えなくなるだろう。今はまだ非常用電源ってのがあるからそれでなんとかなるけどそれも2日もすればなくなる、正直もうこの学校を出た方がいいと思うんだ。やつらもいつ戻ってくるか分からないし出るなら今しかない」

 

彼の考えを聞き考えこんでいた彼女達であったが胡桃が手を挙げた。

 

「…仮にここを出るとして行くあてはあるのか?確かに電気も水も使えないここでまた大量のやつらに囲まれて暮らすよりはいいのかもしれないけど目的地とかはあるのか?」

 

「目的地なら書いてあっただろ、マニュアルに」

 

そう言うと光はマニュアルのあるページを開き指を指した。

 

「このページに緊急連絡先、それから拠点一覧ってのがあるだろ?拠点のとこにこの学校が書かれてるんだ。電気も水も通っていたここが拠点にされているってことは他の場所も同じように生活できるようになっている可能性がある、それからこの地図なんだけど…」

 

そう言って机の上に地図も広げる。

 

「この地図の2箇所まるで囲ってあるだろ?それにめぐねえっぽい字で避難先って書いてあるんだ」

 

「あっ!たしかにこれめぐねえの字だよ!えっと、聖イシドロス大学…とランダルコーポレーションって所に丸がついてるね、ここに行けばいいってことなのかな」

 

地図の字を確認すると由紀が頷いた。

 

「めぐねえ、ちゃんと私たちの進路考えててくれたのね…」

 

「じゃあこのどっちかを目指すとしてだ…ランダルコーポレーションってのはなんか怪しいなぁ…」

 

「就職か進学か、ですね…」

 

「どちらを目指すとしても俺が心配なことは、仮に向こうに先に避難してる人がいたとして俺達を素直に受け入れてくれんのかってことだ。言葉が通じて頭が働く分、場合によってはあいつらよりも面倒なことになるかもしれない。」

 

光の言葉に胡桃達は「確かに。」と不安げにうつむく中、由紀が口を開いた。

 

 

「私は進学したいなー。就職しちゃったらみんな忙しくなってなかなか会えなくなるかもしれないし。それにもし学校でいじわるされても何回もみんなでお願いしますって頑張れば仲良くできるかもしれないし。私はみんなともっと一緒にいたいな」

 

にこやかな笑みを浮かべながら言う由紀に4人は顔を見合わせるとやがて笑みをこぼした。

 

「ははっ、あたしはゆきに賛成だな。あたしももっとみんなで一緒にいたい」

 

「私もそう思うわ。みんなで一緒にいることが大切だと思う」

 

「私も賛成です。もし上手くいかないことがあったらその時はその時です。5人で乗り越えればいいだけです」

 

そんな4人の答えを聞き光は4人を見ながら言う。

 

「じゃあ目的地は大学、ってことで決まりだな」

 

5人が力強く頷くと突然由紀がぱっと顔を輝かせた。

 

 

 

「じゃあ卒業式、やろ!学校を出て新しい所に旅立つってことは卒業するってことだよね、だからやろうよ卒業式!」

 

「あの、私3年生じゃないんですけど…?」

 

「みーくんは……うん、頭いいし飛び級で卒業!ってことで」

 

「そんなのでいいんでしょうか…。」

 

「まあまあ、あたしはそんな細かいことは気にしなくていいと思うぞ。そういうことでいいんじゃね」

 

「それなら卒業証書とか飾りつけとかいろいろ準備しないとね」

 

「学園生活部最後の部活動、だな。それならすぐに準備始めちゃおうぜ」

 

「「「「おー!」」」」

 

 

 

 

そうして学園生活部最後の部活動を行うための準備が始まった。

卒業式は翌日に行うことになりそれぞれ役割を分担することとなった。

卒業証書を作る者、飾りつけをする者、送辞を書く者、答辞を書く者、学校の掃除をする者、みなそれぞれ明日の準備を進めていった。

 

明日にはもう長く世話になったこの学校を出るというのに誰も寂しそうな素振りは見せず皆笑顔で作業に取り掛かっておりどこか楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日の夜、夕食を済ませてからは特にやることもないし明日に備えて早く寝ようということになりいつもより少し早く就寝することになった。その際少し夜風に当たってくると部屋を後にしまたもや屋上にやって来ていた。ただ何をするでもなく座りこみひたすら夜空を眺めていた。

 

 

ガチャリと扉が開く音がする。誰かと思いそちらを見ると現れたのは胡桃だった。よぉ、と軽く片手を上げるとどこかそわそわしたようにこちらに歩いてきた。

 

「なんだまだ寝てなかったのか。他のみんなは?」

 

「え、あー、多分寝てると思う。おまえの様子を見てくるから先に寝ててって言っといた」

 

そう。と軽く返事をすると光はさきほどから気になっていたことを問いかけた。

 

「入ってきた時から思ってたんだけどどうした?ずっと片腕だけジャージの中に突っ込んで…。何か隠してんのか?」

 

そう言われると胡桃はぴくりと肩を震わせた。1度大きく深呼吸をすると勢いよく光の前へと突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

勢いよく自分の前に腕を突き出され彼は驚いて目を見開かせた。正確には彼女がその手に持っている黒く光る物に対してだが。

 

 

 

「じょ、冗談はよしてくれ、なんの真似だぁー……。」

 

 

 

 

「乗らなくていいって!こんなふうに出したあたしがいうのもなんだけど!」

 

両手を上げながら棒読みで言う光の腕を下げさせながら胡桃が言う。

 

「はいはい、ほんとその通りだよ。なんでおもちゃの銃なんか持ってきたんだよ、てかどこにあったんだそれ」

 

「地下の探索してる時に見つけたんだ……ていうかこれおもちゃじゃないぞ」

 

 

「………は、今なんて言った?」

 

おもちゃじゃない、その一言に光は固まり思わず聞き返す。

 

「だから…これ多分本物なんだって。結構重いし、地下には弾もあったし……ほら持ってみろよ」

 

差し出された銃を受け取り光は顔を強ばらせる。

その銃はおもちゃというにはあまりにも重すぎた。地下に弾もあったということからおそらく本物の銃なのだろう。なぜ銃などという危険な物がここにあるのか、様々な考えが頭をよぎる。

 

「やっぱりあいつらから身を守るために置いてあったのかな……」

 

「いや、確実に頭に当てないといけないし拳銃なんて素人には持っていてもあまり意味はない。とすると他の理由で、例えば………」

 

「例えば?」

 

 

 

 

 

 

人間相手に使うため。

これ以上彼女を不安にさせたくなかったため口には出さなかったが彼はそう考えた。人間同士での抗争の際、拳銃を持っているだけでも脅しの道具として効果を発揮する。このような状況では争いが起きないはずがない。感染者の駆除よりもむしろそのためにあるのではないかと彼は考えずにいられなかった。

 

 

「さあ?なんだろうな。とりあえずこの銃だけど……」

 

 

 

そう言ってなんの躊躇もなく後ろに振りかぶると、そのまま校庭の方を向いてぽい、と放り投げた。

 

「あー!なにしてんだよ!?」

 

「いらないだろあんな物。あんなのが無くても俺達は生きていける」

 

「そっか、そうだな……。」

 

拳銃を投げ捨てられ慌てていた胡桃だったが納得したように頷いた…かと思うと今度は不安げな顔でその場にしゃがみこんだ。

 

「なぁ、あたしこれから生きていけるのかな……?」

 

「なんだ、急に心配にでもなったか?」

 

「いままではこの学校であたしたちだけで好き勝手やって生きてたけどこれからはそうもいかないかもしれないだろ?他の生存者と会えたとして必ずしも仲良くやってけるとは限らないっておまえも言ってたろ。そういうこと考えると不安にもなっちゃうよ……」

 

「それでもなんとかしなくちゃいけないだろうな……。」

 

そう言いながら彼女と同じ目線になるようしゃがみこむ。

 

「ここを出ても誰とも争うことなくみんなで生きていけるなんて思っちゃいないさ。どうにか上手いことやって生きなきゃ。俺達は大丈夫だってそう約束もしたし今更後には引けない」

 

「……約束?」

 

「5人で力合わせて乗り越えていくからって俺達は大丈夫だからって、約束したんだ………約束して、俺はめぐねえを殺したから……。」

 

「…っ!殺したって……そんなことないだろあれは殺したとは言わないよ……!」

 

 

「いや、殺しちゃったんだよ。めぐねえのことも、自分自身のことも」

 

そう言って苦笑する光を意味がわからない、と言いたげに険しい表情で見る胡桃をよそに話を続ける。

 

「あの時、めぐねえを終わらせた時、自分の中で何かが無くなったような…上手く言えないけどそんな感じがしてさ。お前が無事に目を覚ました時みんな泣いて喜んだり太郎丸が死んて泣いて悲しんでいた時全く涙なんて出てこなかったんだよ。ちゃんと嬉しいとか悲しいとかは感じたのにな。太郎丸のことに関しては死んじゃったかー、ぐらいにしか感じなかったんだよ。変に乾いちまったっていうのかな…特に誰かが死ぬことに関してはもうほとんど何も感じなくなってるのかもしれない」

 

「そうか……ごめんあたしのせいで…」

 

話を聞いた胡桃が顔をうずくめながら悲しげに言った。

 

「謝る必要なんかないだろ、これはお前のせいなんかじゃない俺がおかしいだけだから」

 

鼻で笑うように彼は否定した。彼女を責める気なんて微塵もない。自分が勝手におかしくなっただけ、ただそれだけのことなのだから。

 

「でも!お前らのことは大切だと思ってる、それだけは絶対に変わらないから」

 

「それはなんかちょっと恥ずかしいな……。嬉しいけど」

 

「お前らがいるから俺はまだ生きようと思ってるんだ。もう俺にはお前らしかいないから、そのためならもうなんだってするだろうな」

 

「それは頼りなるな…ははっ、じゃあこれからもみんなのことをよろしくな」

 

そう言って2人は笑みを浮かべた。それから少しして光がよし、と立ち上がった。

 

「俺達もそろそろ寝ようぜ。卒業式午前中からやるんだし」

 

「そうだなー。ふぁぁ…ちょうど眠くなってきたしそろそろ戻るかぁ」

 

互いにあくびをしながら後にする。部屋に戻ると他の3人はやはりもう眠りについていてすぅすぅと寝息を立てていた。

 

「じゃあおやすみ。」

 

「おう、おやすみまた明日な。」

 

胡桃と挨拶を済ませる布団に潜り込むとすぐにまぶたが重くなってきた。5分もしないうちに彼も寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、制服に着替え全員でいつもの部室でいつものように朝食をとる。

全員の食事を済みほっと一息ついた頃、5人はそれぞれ顔を見合わせてから笑みを浮かべる。そろそろ行こうと立ち上がり昨日のうちに飾り付けも済ませた教室へと揃って移動する。

5つ横並びに並べられた椅子の前に1人ひとり立っていく。

5人全員が椅子の前に立ったのを確認すると悠里が前を向きすぅ、と息を吸う。そして、

 

 

 

 

「それではこれより巡ヶ丘学院高校の卒業証書授与式を執り行います」

 

 

 

 

5人だけの卒業式、学園生活部最後の部活動が始まった。




読んでいただきありがとうございました!

今回はこれからの進路、そして卒業式前夜のお話でした。アニメでは銃は出てなかったけど原作では出てきてるんですよねーいろいろと話は違いますが(^_^;)
次回ようやく高校編最終話です。

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第二十五話 「そつぎょう」

高校編最終話です

第二十五話よろしくお願いします。


「在校生、送辞」

 

ショートカットの銀髪をした生徒が静かに教壇の前に立ち一礼をする。2年生の直樹美紀である。

5人だけで執り行われる卒業式は彼女の送辞から始まった。

 

「月日の流れるのはとても早いものです。先輩たちと会ったばかりと思っていたのに、もう卒業の季節なのですね」

 

原稿をまっすぐ見つめいつもと同じような真面目さを感じさせる声で読み始めた。

 

「この学校の外には大きな未来が広がっています。社会の荒波の中に漕ぎ出していく自分を思うと誇らしさと同時に不安も感じます。

 

そんな私に先輩たちは学園生活部に誘ってくれました。」

 

 

そう言うとさきほどまでの固い声色が少しほぐれ懐かしむように柔らかな声になり読むのを続けた。

 

「そこで私は自分の力を信じ努力すること。

困難に立ち向かう勇気。

どんな時でもくじけない明るい心。

誰かのためを想い歩み続ける優しさを知りました。

 

だからもう、不安はありません」

 

そう言い切ると目に涙をうかべながら声を震わせ、顔を上げ前にいる4人を1人ずつしっかり見つめる。

 

「先輩たちなら、そして私も…学園生活部で得たことを活かせばこれから何があっても立ち向かっていけると思うからです。

ほんとうに……ほんとうにありがとうございました。

 

………在校生代表兼卒業生 直樹美紀」

 

最後に再び一礼をし、温かい拍手に彼女は思わず涙をこぼした。ほんのり笑みをうかべ自分の座席へと戻る。

 

それを確認すると茶髪のロングヘアをしている生徒、若狭悠里が次を読み上げる。

 

 

「続いて卒業生答辞」

 

「はい!」

 

元気よく返事をして歩みだしたのは美紀よりほんの少しだけ長い桃色の髪をした生徒、丈槍由紀だ。今日はいつもと違い髪を2箇所肩の辺りで結んでいる。

 

少し強ばった表情で原稿を勢いよく広げると美紀を見てペコりと頭を下げながら読み始めた。

 

「直樹美紀さん心に迫る答辞をどうもありがとう!

私たちにとってみーくん……美紀さん?美紀、さん、との…」

「みーくんでいいです……」

 

「えへへ……ごめん、じゃあみーくん!」

 

どうも腑に落ちないと言ったように自分の名前を言う由紀に見兼ねた美紀が赤い目をこすりながらふてくされたように返す。

 

そんな2人のやり取りに紫がかった髪をツインテールにしたている恵飛須沢胡桃と5人の中で唯一の男子生徒である明日野光が笑いをこらえようと肩を震わせながら下を向いた。

 

 

それまで笑っていた由紀だったがやがてどこか寂しそうな顔をして答辞を続けた。

 

「…みーくんとの出会いはとても大切なものでした

 

あのね、私たちみーくんがいたから頑張れたんだよ。

他にも、太郎丸やめぐねえとかもいて。いなくなっちゃった人もいるけど………一緒に卒業できて嬉しい…です。これからも…ずっと、ずっと一緒にいま…しょう、

卒業生代表 …… 丈槍由紀」

 

ポタポタと涙を落としていた由紀はそう言うと顔を原稿にうずめた。その様子に彼女達も涙を流しながら駆け寄った。彼女の頭を撫でたり労いの声をかけている中に彼も少し遅れて歩みよる。その時ふと彼女の持つ原稿用紙が見えその中身に驚いた。

 

彼女の持つ髪には何も書かれていなかった。白紙の原稿用紙に書かれている振りをして彼女はいま思うありのままの気持ちを伝えていた。

それも由紀らしいな、と思い笑みをうかべて光は「がんばったな。」と

つぶやいた。

 

 

 

「卒業証書授与」

 

由紀達が落ち着くのを待ってから式は次へと進んだ。

 

さて。と一言つぶやきながら光が教壇に立つ。彼が証書を渡すことになっていたからだ。すると彼は教卓の中をごそごそと探るとある物を取り出しそれを身につけた。

 

 

 

 

「ぷっ、あははは!ひかるくんなにそれ〜!」

 

「お、おまえなにしてんだよ!笑わせんなって!…ははは」

 

「ふ、ふふ…どうしたのそれ?」

 

「何してるんですかまったく………ふっ」

 

3人は思わず吹き出し笑い声を上げる。そんな中美紀だけは呆れたような顔をして光を見る、が口元をむにむにと動かしている。どうやら笑いをこらえようとしているらしい。

 

彼が身につけたのは宴会芸などで使うような丸メガネとヒゲがくっついているものである。それを突然真顔でつけだしたため彼女達は思わず吹き出したのだ。

 

「いや、なんか校長先生感でるかなって思って付けてみた。」

 

「そ、そういうことか。ってかそんなもんどこにあったんだよ」

 

「校長室。昨日掃除してる時見つけた」

 

「ゴルフクラブといい、うちの校長先生ちょっと変わってるわね…」

 

「……まあとにかく始めんぞー最初は美紀だっけか」

 

 

ごほん、と咳払いをして早く始めるよう促す。卒業証書を渡す順番は前日に由紀の提案でくじ引きで決めた。美紀から始まり最後は光ということになっている。

 

「卒業証書 直樹美紀。おめでとう、これからもよろしくな」

 

「……はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

優しげな笑みをうかべ証書を受け取る彼女を見送って次の名前を呼ぶ。

 

「じゃ、次 若狭悠里。」

 

「…はい」

 

「おめでとう。…いつもいろいろと頑張ってくれてありがとな」

 

「ううん、ひかるくんこそいつもみんなのために頑張ってくれてるし、こちらこそありがとう」

 

そう言って笑い証書を手渡した。

 

「次は……丈槍由紀。」

 

「は、はい!!」

 

少しだけいつもより大きな声で元気よく手を挙げ教壇の前に立つ。そんな由紀におもわず笑いをこぼしながらも証書を手渡した。

 

「おめでとう、これからもいままで通り元気よくいてくれよ?」

 

「うん、もちろん!ひかるくんメガネとおひげ似合ってるよ。あ、そうだちょっとお願いがあるんだけどー」

 

「おう……あ、ありがと。お願いって?」

 

「あのね、私もやってみたい!卒業証書渡すの!」

 

「おう、別にいいぞ。じゃあくるみのやつを任せた」

 

「ありがとう〜!じゃあそのメガネとおひげも貸して?」

 

「え…自分で付けといてなんだけどこれ必要か?」

 

「必要だよ!私も校長先生なりたいもん!」

 

由紀が鼻息荒く詰め寄ってくるので身を引きながら付けていたメガネを渡した。満足そうにそれを付けるとにやりと笑う。

 

「じゃあ…ごほん、恵飛須沢胡桃君!」

 

「…はい、なんで君付けなんだよ……。」

 

やれやれ、と言ったような顔をして教壇の前に立つ胡桃。由紀はそんな彼女に何か企んでいるような笑みをうかべていた。

 

 

 

「卒業証書、恵飛須沢胡桃。おめでとう!」

 

「はい、どうも……っておい!引っこめんな、早く渡せ〜!」

 

「ふふーん、引っかかったねくるみちゃん!そう簡単には渡さないよ〜?」

 

「おまえさてはこれがやりたかっただけだな!?あ、ちょ…こんにゃろ、ちょこまかと……!」

 

胡桃が受け取る寸前、由紀が証書を引っこめさらにそれを渡すまいと右に左に揺さぶる。そしてそれを取ろうと必死に腕をバタバタ伸ばす胡桃。そんな2人の戯れに彼らは声を出し笑う。その後数十秒の格闘の末、証書を奪い取ることに成功した胡桃の勝利で決着が付いた。

 

 

 

 

 

「ゆき、おまえ後で覚えとけよ…?」

 

「もう〜そんなカッカしないで〜…シワが増えちゃうよ?」

 

「シワが増えるとしたらそれは一体のせいだろうなぁ〜……?」

 

「う〜…ご、ごめんなひゃい…ひゅみまへんでひた〜!」

 

ニヤニヤと笑っていたが頬をひっぱりぐにぐにされ涙目になりながら謝る由紀にふん、と鼻息を荒くしていた胡桃はその手を離しため息をつく。そうしてからスタスタと教壇に立つと横にいる光を見て言った。

 

「最後はおまえだぞ。ほら、あたしが渡すからさ」

 

「あ、そっかそうだったな。ところでくるみ」

 

「ん?なんだ?」

 

 

 

 

 

「ヒゲとメガネは付けないのか?」

 

「付けんわ!」

 

 

 

 

 

 

「卒業証書、 明日野光。……はい、卒業おめでとう」

 

「はい、どうもありがとうございます……。」

 

由紀の件がなければ食らわなかっただろうチョップでヒリヒリする頭をさすりながら卒業証書を受け取る。不機嫌だった所にさらに油を注ぐようなことをしたのだから仕方ない。そんな光の姿にはぁ、と息を吐きながら胡桃が口を開いた。

 

 

 

「…まぁおまえにはいろいろ感謝してる。世話になった、みんなのことよろしくな。」

 

「……?そりゃもちろん。こっちこそこれからもよろしく」

 

「あぁ、よろしく…」

 

恥ずかしそうに、そしてどこか寂しげな顔をして頬をかく胡桃に笑みをうかべながら席に戻る。全員に証書の授与がされたため式は次へと進んだ。

 

 

卒業式の定番ともいえる歌を最後に歌い、式は終わりを迎えた。皆笑顔で教室を後にしていく中、最後に出ようとした光はふと何気なく後ろを振り返った。

 

 

 

 

そこには満面の笑みで自分達を見送るめぐねえがいた…気がした。由紀でもあるまいしと困ったように1人で笑う。そして前を向き直し教室を出る前に一言、

 

 

 

「ありがとうございました」

 

あの時と同じその言葉をもう一度つぶやき教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「みんな忘れ物はないか?出発してからあったとしても取りには行かないからな。」

 

「なんか前もおんなじようなこと言ってたよな…みんな大丈夫かー?」

 

「私は大丈夫です。ゆき先輩も何回も確認しましたし大丈夫ですよね?」

 

「もう…みーくんが言うから何回も一緒に確認したじゃん…大丈夫だってば〜」

 

「私も大丈夫よ、くるみたちも大丈夫?」

 

「うん大丈夫だ」

 

「俺も。………じゃあそろそろ行くか」

 

 

それが合図となり胡桃がエンジンをかける。そしてゆっくりとアクセルを踏み車は進みだす。

 

 

学校の外の世界へと。

 

彼女達がこれからの話に花を咲かせている中、光は1人助手席から外を眺めながらもう一度改めて胸の内を確認する。

 

 

 

 

外へ出ればこれまで以上に危険が伴うだろう。自分がどうにかしなければ。もしかしたら他の生存者に会うことがあるかもしれない。その時だって争いが起きたりして自分達に危険が及ぶこともあるだろう。どんなに友好的な態度を取ってきても警戒はしなければならない。彼女達以外はそう簡単に信用しない。今ある大切なものを失わないために、その為に自分の考え得る最高最善の判断を下す、たとえそれで自分がどうなってでも彼女達のために動き続けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――この息が止まるその日まで




読んでいただきありがとうございました!

これで高校でのお話は終わりとなり彼らは外の世界へと旅立ちました。
書くのが遅いあまりこの小説を投稿してからほぼ1年経ってしまいました(^^;

自分的にはもう1年かぁ…としみじみと思っております笑
これからも自分なりに頑張っていくので応援よろしくお願いします

ここからは先はオリジナルの展開もあるかも……?(^^;


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第二章 卒業旅行
第二十六話 「たびだち」


今回から卒業旅行編です。

第二十六話よろしくお願いします。


卒業式を行い学校の外へと旅立った学園生活部の5人。あれから2日ほど経ったが車に乗っているにも関わらず未だに高校からはそう離れていない。なぜなら、

 

「ここもダメだな、ちょっと戻って他の道探すぞ」

 

「はいよー……後ろ大丈夫かー?」

 

「ええ、大丈夫よ。下がっていいわ」

 

「んーなかなか進めないね」

 

「はい、乗り捨てられた車や倒れている電柱が多いですもんね、仕方ありません」

 

地図上では進める道も今はパンデミックにより持ち主のいない車や折れて倒れた電柱によって通れなくなっている場所がたくさんあった。そのため思うように進めずにいたのだ。

 

「よしよし、この辺りは大丈夫そうだな、おいゆきー次はどっちだ?」

 

「んーと…三丁目五番地だから多分、次の角右に曲がってー」

 

「よっしゃ」

 

道の案内を地図を読むのが得意な由紀に任せ胡桃が指示の通り運転をする。するとそんな中、由紀が声をかけた。

 

「ねぇ、くるみちゃん」

 

「んー?」

 

「卒業旅行たのしいね」

 

「そうだな……っあ!」

 

名前を呼ばれちらりと横目で由紀を見ながら角を曲がろうとする。するとちょうど角を曲がったところにかれらが1体現れ慌ててハンドルを切る。キキーッと甲高い音を出しながらなんとか何にもぶつかることなく曲がりきった。胡桃と助手席に座る光は安堵の表情を浮かべる。しかし後ろの方からくぐもった声が聞こえてきたため後ろを振り返ってみると

 

「ゆきちゃん…あんまり運転している人に話しかけちゃダメよ……?」

 

「う、うん。ごみん………」

 

「あの、2人ともはやくどいてください、私…つぶれそうです………。」

 

勢いよく曲がったせいで後ろに座る3人は片方にぎゅうぎゅうと押し込められる形になり美紀がドアと由紀達2人に挟まれ窮屈そうにしていた。本人の言うようにつぶされそうになっている。

 

 

 

 

 

そんなトラブルもありながら運転をしているうちにコンビニをみつけ車を停める。胡桃が疲れたようにあくびをしながら腕を伸ばし「今日はここまでだな」と言う。既に夕方になっておりこれ以上動くのは危険だからだ。

 

車があるため夜でも進むこと自体はできる。しかし暗い夜道ではライトを付けながら走らなければならない。光や音に反応して集まるかれらに対してとても目立ち危険な状態に陥りやすい。そのため日が暮れる前に車を停め翌日に備えるようにしていた。

 

「そうね、今日はここまでにしておきましょう。くるみお疲れ様」

 

「今日も車までお泊まりか〜布団が恋しいよぉ…」

 

「確かに。俺たち5人で寝るには窮屈すぎるもんな」

 

車で移動するためこれまでのような決まった寝床などなく常に全員で車中泊をしていた。足を伸ばしてゆっくり眠ることができない、学校を出てからというものこれが彼らの頭を悩ませていた。

 

「まぁ、他に寝るとこなんかないし我慢するしかないって。よし、コンビニになんかないか一応見てくるよ」

 

「俺も行ってくる。そんな時間かかんないと思うからちょっと待っててくれ」

 

そう言って光と胡桃がドアを開けようとすると由紀が声を上げ2人を呼び止めた。

 

「私も行きたいなーねぇねぇ、いいでしょ?」

 

「いいっていいって。どうせすぐ終わるから」

 

そう答えて車から降りると由紀もすぐに美紀にドアを開けてもらい車から降りた。

 

「くるみちゃんたち運転で疲れてるでしょ?一緒に行くよ」

 

そう言ってなぜか目をキラキラ輝かせじっと見つめてくる由紀。そんな彼女に胡桃が歩み寄ると頬にそっと自分の手をあてた。

 

「わ、冷たっ!ちょ、くすぐったいよ〜…」

 

由紀が驚いたように声を上げるとそのまま両手で顔をむにむにとくすぐった。

 

「ゆきに化けた宇宙人めー本物のゆきはどこだー」

 

「うう〜…手伝うって言ったのにこの仕打ち…」

 

 

「はは……ちなみにゆき、ほんとのところは?」

 

苦笑しながら光が尋ねると観念したようにえへへと笑いながら言った。

 

 

 

「…コンビニでマンガでも読みたいなって」

「ですよね。」

 

そんなことだろうと思ったといわんばかりに息を吐きながら歩きだす。そしてそのまま、

 

「ちゃんと気をつけんだぞ〜」

 

とあくびをしながら言って中に入っていった。

 

 

「あくびしながら入って行くようなやつに気をつけろとか言われても説得力ないんだけど…」

 

「ほらいいってさ!はやく行こくるみちゃん!」

 

「わかったわかった」

 

ご機嫌な由紀に背中を押され胡桃達もコンビニに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

ライトで照らしながら店の中を物色していく。無論かれらが突然現れたりすることへの警戒も怠らない。

 

「だいぶ荒らされてるな」

 

「こりゃダメだな」

 

店内を歩き回ったがこれといって役に立ちそうな物は見つからなかった。水などの飲食物もほとんどなくなっており他の誰かが既に持ち去ったのかもしれないという結論に至った。

 

「とりあえずあたし裏を見てくるからここで待ってろよ」

 

「りょーかい、じゃあ床そうじしとくね」

 

パタパタと走りだし売り物として出されていたほうきを手に取ると手際よく掃除をしていった。

 

 

 

 

 

由紀は少し変わった。これまでのふわふわとした雰囲気が少し落ちつきや余裕があるように感じていた。どうやら胡桃も同じようなことを思っていたのかそんな由紀の姿をまじまじと見つめていた。

 

 

「なぁ、おまえ最近ちょっと………」

 

 

 

 

 

 

 

「美人になったなー?…えへへ、そうかな〜?」

 

「はあ!?ちがっ…」

 

胡桃が言いかけると由紀が被せて照れたようにニヤニヤして頭をかいた。

 

「クールビューティー?」

 

「クールでもビューティでもねぇよ!」

 

「わー!ひどいよくるみちゃん、わ、私だってお化粧とかすれば…」

 

 

 

……やっぱり変わってなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いや〜ここに停めて正解だったな、あたしの目に狂いはなかったわけだ」

 

「たまたまなのに何言ってんだ、まぁでも本当にここでよかったな。まさか布団があるとは」

 

 

コンビニの奥、休憩室などにでも使われていた部屋で5人は久々の布団のありがたさを堪能しながら寝転んでいた。

胡桃が1人で探索に入った部屋、そこはなかなかの広さで仮眠が取れるようにでもしていたのか布団が置いてあったり品出し前の食料などのダンボールまでおかれていた。

 

「見た感じちょっと大きいコンビニだとは思ってましたけど布団まであるとは思いもしませんでしたね…」

 

「ええ、久しぶりに足を伸ばせるしゆっくり眠れそうね。掃除までさせちゃってごめんね、呼んでくれればやったんだけれど」

 

美紀と悠里も満足そうに笑みを浮かべている。そんな中、由紀が突然笑いだす。

 

「ふふふ、こうやってみんなで眠れるのは私がここをそうじしたからなんだよ?みんな感謝するんだよ〜?」

「え!うそ…」

 

間髪入れずに美紀から信じられないといった反応をされ半泣きで美紀にをゆさぶる。すると今度は胡桃が、

 

「なんか最近役に立つよなー」

 

「くるみちゃんまで!?まるで普段は役立たずみたいな〜……」

 

「ははは、嘘だよ」

 

「そ、ずっと役に立ってるって俺達は分かってるから」

 

べそをかきはじめた由紀にそう笑いかける。由紀は恥ずかしくなったのか布団に潜り込んでつぶやく。

 

「そ、そうかな?」

 

「それは間違いありません」

 

「ゆきちゃんはもう大丈夫ね…」

 

皆からそう言われ由紀はやはり恥ずかしいのだろう、布団にくるまったまま「…うん」と小さな声で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあみんなそろそろ寝ましょうか」

 

「そうですね、おやすみなさい」

 

「「「「おやすみー」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日。運転席に光が助手席に由紀が、他の3人が後ろにといったように座りゆっくりと出発する。

 

「じ、じゃあ音楽かけるね?」

 

「変なトコ押すなよー?」

 

「大丈夫だよ!……多分」

 

胡桃に茶化され不服そうに頬を膨らませてCDを入れボタンを押す。めぐねえの私物であろうCDを車の中で見つけたため気分を上げるためそれをかけようとなったのだ。

 

ボタンが押されどんな音楽が流れてくるのかと5人は耳を澄ませる。

そんな彼らをよそにスピーカーから聞こえてきたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇねぇ、誰か聞いてる?

こちらは巡々丘ワンワン放送局!

この世の終わりを生きてるみんな元気かーい?

今日も元気にはっじめるよー!』

 

 

 

聞こえてきたのは歌声ではく活発な印象を抱かせる女性の声だった。

 




読んでいただきありがとうございました!

前回までで高校編が終わり今回からは卒業旅行編となります。原作の6巻からのところですね。実は高校でのお話よりここからの話を書くのを楽しみにしていました(^^;

書いてみたかった話がいくつかあるので少しでもおもしろいと思ってもらえるよう頑張りますので
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第二十七話 「ほうもん」

大学のテストとかが忙しくて全然更新できませんでした(^_^;)遅くなってすみません

第二十七話よろしくお願いします。


「ここ、ですよね?」

 

「多分な、言ってたとおりのとこに来たわけだし」

 

「とりあえず行ってみようぜ。いなかったらそんときはそんときだ。」

 

「みんな気をつけてね。もしもってことがあるかもしれないから」

 

「うん!じゃありーさんいってきまーす!」

 

そう言って4人は手を振った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『ねぇねぇ、誰か聞いてる?

こちらは巡々丘ワンワン放送局!

この世の終わりを生きてるみんな元気かーい?

今日も元気にはっじめるよー!』

 

 

由紀がCDで音楽を流そうとボタンを押すと突然聞こえてきた女性の声。その声に一同は驚き目を見開いた。

光は由紀の持つCDのジャケットを見る。どうみてもそれは洋楽のCDでラジオではないはず、なのだが……。

 

『それじゃ今日もゴキゲンなナンバーいってみよー!まずはダスベスの【天より降り来るもの・第三】から、【戦いは終わらない】をどうぞ!」

 

聞こえてくるのは活発な雰囲気を感じさせる女性の声だった。

 

「これもしかして本当に放送されてるラジオなんじゃ…」

 

美紀が何かに気づいたように指を指す。それからすぐにあっ、と何かに気づいたように悠里が声を上げた。

 

「みて!これFMってなってるわ!」

 

「ほんとだ!ってことはやっぱりどっかから放送してるってことか」

 

車の画面にFMの文字が出ている。どうやら由紀がボタンを押し間違えてこのラジオを受信したらしい。それに胡桃と由紀も気づいたようで5人は顔を見合わせるとパッと明るい笑顔を見せた。

 

「やっぱりあたしたち以外にもいたんだ!」

 

「ねぇ!会いに行ってみようよ、この人のとこに!」

 

「そうね、私も会ってみたいわ」

 

「そうですね。でも…」

 

自分達の他にも生存者がいた、そのことに喜ぶ彼女達だったが美紀の一言、

 

「どこにいるか分からないですよね。」

 

………。

 

その一言で3人は黙りこくった。

 

「そこなんだよなぁ…せっかく俺達以外にも人がいるって早速わかったんだし俺も会いたい気持ちはわかるけどさ、どこにいるのかねぇ…」

 

黙りこんだ3人に変わり光が口を開く。うーんとうなりながら黙る4人。ラジオからは2曲目の曲が流されていた。

 

『ご清聴ありがとう!いやー本当静かだよね。というか静かすぎだよもうちょっと騒ごうよみんな〜…静かすぎてワタシは退屈だよ……そうだ!これ聞いてるリスナーのみんなよかったら会いに来てよ』

 

どうやって会いにいくか、その方法が思いつかず車内には2曲目も終わりラジオの女性の残念そうな声だけが流れていた。

 

「まったく、こっちだってそうしたいよ…」

 

会いに来てほしいという声に対し恨めしそうにつぶやく胡桃。そんな彼女に同意するように苦笑して光達は頷く。それを見た由紀がスピーカーの方に両手を口元にそえて話しかけた。

 

「もしもーし!おねえさんはどこにいるんですかー?」

 

「電話じゃないんだしそんなことやっても意味ないだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ!会いに来てよとか言っといて住所言い忘れてたね、えっと住所はね〜………」

「は?」

 

由紀の思わぬ行動にツッコミをいれようとした光だったがその直後、本当にラジオから住所を読み上げる声が聞こえ間抜けな声が出た。後ろを見ると、胡桃達も驚いたように目を丸くしていた。

 

『…はい!今言ったとこからラジオやってるからよかったら遊びにきてねー!お茶とお菓子もあるからおもてなししちゃうよ〜?いつでも待ってるからね!

こちらはワンワン放送局、それじゃあみんなまた明日!バイバーイ!』

 

これで放送は終わりのようでそれからは何も聞こえなかった。そして少しの沈黙の後、

 

 

 

 

「……住所聞けちゃったね」

 

「通じた!?」

 

「いやいやいや、ゆうり先輩たまたまですって…」

 

「今言ってたとこそんな遠くないしあたしたちの方から会いにいってやるかー」

 

「俺達リスナー歴1日だけどだいじょぶだろうか」

 

「いや、そこはそんなに大事じゃないと思うけど…」

 

ラジオの女性の居場所があっさりと分かり思い思いに口を開く5人だったがとりあえず彼女の元に会いに行くということで話は決まった。

 

「地図を見る限り明日には着きそうね」

 

「そうだなーゆき、ちゃんとナビしてくれよ〜」

 

「まっかせてー!くるみちゃんでもあるまいし迷ったりなんかしないよ」

 

「おい、おまえはいつもひと言余計なんだよ……」

 

「わぁー!痛たたた、くるみちゃん頭グリグリしないでぇー!」

 

助手席に座る由紀の頭を後ろから胡桃が両手で拳を作り押し当てる。そんな2人のやり取りに苦笑しながら光が言う。

 

「仲がよくて結構だが次どっちに曲がりゃいいの?………ちょっ、おい聞いてる?」

 

「痛たたた…み、右です!」

 

「……りょかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「もう、くるみちゃんってばすぐいじわるしてくるんだから〜」

 

「おまえが余計なこと言ってくるからだろ!」

 

「2人とも仲が良すぎですよ。狭いんですからもう少し大人しくしてください」

 

「「はい、すみません」」

 

「後輩にそんなこと言われてお前ら悲しくないの…?」

 

 

 

その日の夜、道の端に車を停め5人は簡単な夕食をとっていた。由紀が胡桃をおちょくることを言いそれに胡桃が応え反撃する、という流れが何度も続いた。それに呆れた美紀が2人を窘めている、というのが今の状況である。

 

「そうね。私は見ててちょっと楽しかったけど2人共もう少し静かにした方がいいかもね」

 

悠里からもそう言われ胡桃はバツの悪そうな顔をする。そんな彼女を見て由紀はニヤリと笑って、

 

「くるみちゃんうるさくしたらダメじゃない、まったくもー」

「おまえが余計なこと言わなきゃいいだけなんだよ!」

 

そう吠えて由紀に手を伸ばそうとした時、悠里がサッとその手を掴み笑みを浮かべる。

 

「もう少し静かにした方がいいって言ったわよね?ゆきちゃん?くるみ?」

「「は、はい……」」

 

変わらず笑みを浮かべる悠里の背後に黒い何かが見えた………気がした。そんな彼女の圧力に屈し2人はあっという間に黙りこんだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「寝る前にちょっと外の空気吸ってくる」

 

「わかりました、気をつけてくださいね」

 

「おう。」

 

運転席のドアを空け外に出る。ドアを閉めその場で腕をまっすぐ上げ思いきり伸びをする。ふぅ、と息を吐き歩き出すと背後からドアの開く音がして振り返る。そしてそのまま自分の元に歩み寄ってくる彼女に首をかしげながら声をかけた。

 

「ん、どうした?りーさん」

 

「私も一緒に行っていいかしら?」

 

そう言って悠里は後ろで手を組みながら光の横を歩きだした。

 

「めずらしいな、りーさんがこういうのに着いてくるなんてさ。危険なことはいつも避けるのに」

 

そう言うと彼女はふむ、と少し考えるように目を細める。

 

「ちょっと話がしたくなってね…」

 

「そうか。ちょうどあそこにベンチもあるし座って話そうか」

 

光がベンチを指さすと悠里もそうね。と頷いた。街灯などは点いてるはずもなくあるのはライトの光とうっすらと照らす月明かりのみ。持っているライトで辺りを照らしかれらが近くにはいないことを確認してからそれを消し2人はベンチに腰かけた。

 

「やっぱりラジオの人のことが気になるんだろ?」

 

「ええ。私たちの他にも生存者がいたのは嬉しいけどいざ会うとなると少し怖くて。悪い人だったらどうしようって」

 

そう言って下を向く悠里の顔は強ばっており不安や緊張の色が簡単に見てとれた。それを聞いた光はうーん。と考えるような声を出すと

 

 

「まあ俺達なら大丈夫じゃないか?」

 

と明るい声で言った。

 

「そりゃこんな世界だし生きてるやつの中には悪いやつもいるだろうけどさ、俺達ならなんとかできる気がするんだよ。たったの5人で結構長いこと上手くやっていけてたし人1人にどうにかされるくらいなら今頃とっくに死んでるって」

 

そう言って悠里の肩にぽんと手を置いて優しく笑いかける。

 

「だから大丈夫。もしなにかあっても俺がどうにかするから。適当すぎるって思うかもしれないけど少しは気楽にいこう。な?」

 

光の言葉に悠里はそっと頷き笑みをみせる。

 

「そうよね、私たちならきっと大丈夫、よね?………めぐねえ」

 

「え?」

 

「あ…ううん何でもないわ。そうよね心配ばかりしていてもなにも始まらなものね」

 

そう言うと彼女はすっと立ち上がり彼の方を見る。

 

「さ、遅くなってもみんなを心配させちゃうしそろそろ戻りましょ」

 

「……そだな、戻るか」

 

 

彼女の笑みがどこか影のあるぎこちない笑みだったことが気がかりだったがそれ以上は何も言わず車に戻った。

 

 

 

車に戻ると3人は既に眠っていた。そんな彼女達を起こさぬようそっとドアを開けると小さな声でおやすみとだけ交わし2人も眠りについた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そうして今5人はラジオで言われていた住所の場所へたどり着き話は冒頭の場面に戻る。

もしもという時に備え1人が待機し残りの4人で中に入るということになった。ラジオが発信されていた場所は放送局などではなかった。そこにあったのは1軒の家である。しかし普通の家とは異なる部分がある。それは、

 

「入口どこだろう?」

 

「ぐるっと周ってみるか」

 

入口となるドアが見当たらないのである。その壁は白く目の前は大きなシャッター閉ざされていて入れそうにない、そんな長方形の形をした家だった。

 

入口を探して家の周りを半周ほどした時だった。ふと上を見上げた光があるものをみつけた。すぐに3人を呼び止めて上を指さす。

 

「あそこ、ハシゴがある。もしかしたら上から入れるのかも」

 

「おおー!ほんとだ、ひかるくんお手柄だね!」

 

「どうも、先に俺が登って上の様子見てくる」

 

そう言うとハシゴに手を伸ばしすいすいと登っていく。梯子は地面までは伸びていなかったが由紀でも手の届く高さにあったため彼女達も楽に登ってこれるだろう、そんなことを考えているうちに屋上に着く。誰もいないことを確認し下で待つ由紀達に手を振り登ってくるよう促した。

全員が来るまで彼は辺りを見回していた。

 

「足跡がある……!」

 

自分のいる所から屋上に足跡が続いていることに気づきそれを消さないように辿っていく。すると大きなハンドルのような物がついた蓋のような物をみつけた。見たところ他には何もないしここが入口とみて間違いないだろう。ハンドルを握り回そうと試みる、しかし

 

「……重すぎる!おいみんなちょっと手伝ってくれ!」

 

思っていたよりも固く1人では難しいと判断し梯子ちょうど登り終えていた3人を呼びよせた。

 

 

 

「なるほどここから中に入れそうですね」

 

「よし、せーので回すぞゆきいいな?」

 

「わかってるでばーくるみちゃんこそちゃんと回してよ?」

 

「じゃ回すぞー。せーの!」

 

ハンドルを一回転させると蓋が持ち上がった。中を覗き込むとまた梯子がかかっており何もない部屋に繋がっていた。梯子の降りるとそこは矢印の書かれた扉が1つあるだけ。4人は互いに顔を見合わせると決心したように頷きドアに手を掛けゆっくりと矢印の方向に引いた。

 

 

 

 

 

 

「誰もいないね」

 

ドアの先には大きな机と座りやすそうな椅子が1つずつ。その上にラジオで使うと思われるマイクやスピーカーなどの機材。そして向かい側には大量のCDが敷きつめられた棚があるだけ。その部屋には誰もいなかった。

 

「そうだな…ドアが2つあるし他の部屋も一応見てみるか」

 

 

 

 

 

もしかしたらもう既に、と諦めの色を見せた胡桃が歩きだそうとした時、ガチャリとドアが開かれた。

 

 

その人は眠たそうにあくびをすると目の前にいる者たちに気づき目が合う。きょとんとした顔で彼らを見ていたその女性はやがてパッと顔を輝かせこちらへ向かってきた。

 

「あの…」

 

「え……え!うそ、ホントにきた、ホントに来てくれた!!やったぁああ!」

 

その女性は大きな声でそう叫んだかと思うと口元を両手で覆い今度は飛び跳ねた。

 

「えっと……あの、ここワンワン放送局で合ってます…?」

 

自分達に目もくれず暴れだしたその女性に光が恐る恐る声をかける。するとようやく自分以外に人がいることを思い出したようでぱたりと動きを止めこちらに向き直る。

 

「あはは〜ごめんね!本当に来てくれるなんて思ってなくて嬉しくてつい1人ではしゃいじゃった。そうだよ、キミたちはワタシの放送聞いてくれたリスナーさんってことでいいのかな?」

 

「まあ、はい。1回だけですけど…」

 

「1回でも十分だよ!回数なんて関係ないない!こうして来てくれたんだもん!すっごく嬉しいよ!」

 

そう言うと彼女は光の手をとりブンブンと凄まじい勢いで振った。

 

「は、はいそりゃよかったです!てか痛いです、落ち着いてください!」

 

「あっ!いっけない、ワタシってばまた1人で!もう本当にごめんね!そろそろ落ち着きます!」

 

「なんかこう、いろいろすごいな、ゆきみたいだ」

 

「え!?私っていつもあんな感じなの?」

 

「そうですね、ゆき先輩が2人に増えたみたいです」

 

鼻息荒く言う彼女に押されながら3人は苦笑いで頷く。そんな彼らを一瞥するとぱんと手を叩き自分の方に注意を向かせる。

 

「よし!それじゃ遊びに来てくれたリスナーさん、ラジオで言ってた通りおもてなししちゃうよ!4人だね、すぐお菓子とか持ってくるからその辺に座ってて!」

 

そう言ってドアを開けようとする彼女を慌てて由紀が呼び止める。

 

「あ、あの!外でもう1人友達が待ってるから連れてきていいですか!」

 

「もちろん!仲間はずれにしちゃかわいそうだもん!すぐ連れてきて!」

 

「ら、らじゃー!」

 

そう言われた由紀はバタバタと忙しなく部屋を後にする。

 

「ちょっ、待てゆき!あたしも一緒にいく!あ〜2人とも悪いけどここで待っててくれ。りーさん連れてくるから」

 

そう言って駆け出して行った胡桃を見送り部屋には光と美紀の2人だけになり、はきほどまであんなに騒がしかった部屋が突然静まりかえる。

 

「急に静かになったな…」

 

「私たち以外みんな元気な人でしたからね…」

 

たった数分の間にどっと疲れが増えた、そんな気がして2人は「はあー」とため息をつく。すると両手にお菓子やジュースなどをどっさりと抱え

さきほどの女性が戻ってきた。それをテーブルに置くと恥ずかしそうにそして申し訳なさそうに2人に笑みをみせた。

 

「さっきは取り乱しちゃってホントごめんね!久しぶりに人に会えたのが嬉しくて嬉しくて」

 

「大丈夫です、気にしないでください。私たちも嬉しかったですし」

 

美紀がそう答えると安心したように息を吐くとまた元気な笑顔に戻った。

 

「そう言ってもらえて嬉しいよ、ありがと!ワタシは霧島(きりしま)涼音(すずね)。よろしくね!」




読んでいただきありがとうございました!

今回は新キャラを登場させました。原作でも出てきますが名前も出ず出会うこともできなかったキャラですので勝手に名前付けてこのお話では登場させることにしました。元気な人っていうイメージで書いたのですがどうだったでしょうか笑

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m



そしてがっこうぐらしの原作が最終回を迎えましたね。
読んだのですがこれはいい終わり方だなと僕は思いましたね(T_T)
アニメの2期はあるのだろうか…笑


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第二十八話 「いっしょに」

大学も冬休みに入りやっとゆっくり書く時間が取れました…

メリークリスマス。
まあ、今年もクリスマス全然関係ない話だしもうすぐ終わりそうなんですけどね…

第二十八話よろしくお願いします。


たまたま流れているのを発見したラジオ。そこで言っていた場所で出会ったその女性、名前は霧島涼音。髪は美紀より少し長いボブカットで服装や表情からは自分達より年齢は少し上かと思わせる大人びた印象を与える、おまけに美人。そんな容姿をしている人だった。

 

車で1人待っていた悠里も合流しひとまず互いに自己紹介をしようということになり学園生活部から始めた。5人がそれぞれ話し終わると彼女、霧島涼音はうん。と大きく頷くと明るい声で自己紹介を始めた。

 

「じゃあ次はワタシの番だね!名前は霧島涼音。年は21でみんなよりちょっと年上だね。まあでもそんなの気にしないで仲良くしてくれると嬉しいな〜今日は会いに来てくれてほんとにありがとう!お菓子もジュースもあるし楽しくおしゃべりしよう!ってな感じでよろしく〜」

 

「よろしくお願いします!え、えーと霧島さんは…」

 

「涼音でいいよ。えと…由紀ちゃんだよね?気を遣わなくて大丈夫だよ、タメ口で気楽に話そ?」

 

緊張しているのかぎごちなく話す由紀にそう優しく笑いかける。それを見て由紀もほっとしたような顔をしてほほ笑んだ。

 

「じゃあ…涼音さん!涼音さんはずっとここで暮らしてたの?」

 

「ううん、住んでた家もここじゃないしあれが起こった時もここにいた訳じゃないよ」

 

「じゃあどうしてここにいるんですか?」

 

光がそう尋ねると涼音は神妙な面持ちをして答えた。

 

「お父さんがね何か困ったことがあったら、それも命に関わるようなことだったらここに逃げなさいって前から教えられてたの。もしかしてこうなるってわかってたのかな…。なんてね!そんなことはないと思うけど。」

 

「「「「え!」」」」

 

最後にそう言って笑う涼音だったが由紀以外の4人が突然大きな声を上げ驚いたようにビクッと肩を震わせ目を丸くする。

 

「え?なになにみんな急にどうしたの?」

 

「そのことについて私たちちょっと心当たりがあって…。涼音さんのお父さんってどこでお仕事をされてたんですか?」

 

悠里がそう言うと涼音はうーんと、思い出すように上を向く。

 

「たしか……ランダルコーポレーションってとこだったかな。そこで薬かなんかの研究をしてるって言ってたと思う」

 

「やっぱり……」

 

悠里はリュックから避難マニュアルを取りだし涼音に渡しこれに書かれていること、自分達がどうやって生きてきたのか話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「うそ…!じゃあもしかしてお父さんは最初から知ってたってこと…?これに書いてあることがほんとならそういうことだよね……。」

 

「あの、お父さんはいまどこにいるんですか?」

 

「わからない。親には何回も連絡しようとしたけど全く繋がらなくて…」

 

美紀の問いかけに涼音は片手を額に当てうつむく。

 

「みんなのいた高校もランダルコーポレーションが関わってたから設備も整ってて生活できてたってことなんだね。ちょっと心の整理がつかないや……。」

 

「まぁあたしたちも最初はすごいショック受けてどうしようってなったよ。でもただじっとしてるだけじゃどうしようもないしそれでこれに書いてあるもう1つの避難先の聖イシドロス大学に行ってみようと思ってるんだ。」

 

 

 

「たしかにこのままじゃ何も変わらないもんね………よし決めた!」

 

何かを決心したように力強く立ち上がって涼音は光達を見ながら言った。

 

「お父さんを探さなきゃ!これに書いてあることが本当なのか確かめたい。きっとお父さんは知っている筈だから…直接会って確かめたい。お願い、ワタシも一緒に連れてって!」

 

彼女からしたら断れられるのではと不安だったのだろう、不安げにこちらを見ながら頭を下げた。しかし、もちろんそんな心配は必要なく…

 

「もちろん!大歓声だよ、みんなもいいよね!」

 

「もちろんあたしは構わないよ」

 

「そりゃな。もちろん父親探すのも手伝うさ」

 

胡桃がそう答えると光達も3人も笑顔で頷く。涼音はそれを見てほっとしたように、そしてなにより目に涙をうかべ嬉しそうな笑顔になる。

 

「…っ、みんな…ありがと、本当にありがとう!」

 

「ふふっ、これからよろしくね涼音さん!」

 

「決まりだな。それでどうする?もうすぐに出発するか?」

 

「あの、というか…」

 

「みーくんどうしたの?」

 

「車もう私たち5人でぎゅうぎゅうなんですけどどうしましょうか…」

 

「「「「……。」」」」

 

 

 

 

 

「言われてみれば確かにそうね」

 

「足が速いくるみちゃんが車にしがみついて走ればいいんじゃない?」

 

「よし、ゆきちょっと表出ろあたしが運転してそれができるかおまえで試してやる」

「痛たたたたごめんなさい冗談だよぉ!」

 

ちょっとは真面目に考えろ。と言いたいような目で光はため息をつく。

 

そんな彼女らをおもしろがってクスクスと笑う涼音が机からある物をつまみ上げ言った。

 

「ぷっ、あははは!キミ達ほんと面白いね。そのことなら心配ご無用!ワタシの車なら全員乗れるよ」

 

「本当ですか!?あれ、でも外に車なんてなかったと思うんですけど」

 

「あーそっかシャッター閉めてたもんね。見せてあげる」

 

そう言うと彼女は部屋の奥のドアを開け中から手招きをする。

 

「光くん、それにみんなも!着いてきてここから下に降りられるからー」

 

 

 

 

 

 

 

涼音の後に続き部屋に入ると中には下へと階段があった。下へと降りると広いガレージになっていた。そしてそこにあったのは…

 

 

 

「わーすっごーい!これキャンプの車だあ!」

 

「ゆき先輩せめてキャンピングカーって言ってください」

 

「そ!どうみんな?これが霧島家自慢のキャンピングカーだよ!」

 

「確かにこれなら全員乗っても大丈夫そうですね」

 

「涼音さん中見させてもらってもいいですか?」

 

「もちろんだよりーさん!さぁみんなも入って入って〜」

 

涼音に急かされぞろぞろと車内に入っていく。そして中を見回し皆が感嘆の声を上げた。

 

「すごく広いですね…!これならなんの問題もなさそうです」

 

中は想像以上に広い造りになっていた。全員が余裕で座れるテーブルと椅子、その上にはエアコン。二段ベッドが3つあり6人全員が眠ることができ水洗のトイレまである。そして小さなシンクにコンロ、冷蔵庫に電子レンジもあった。

 

「いや、完璧すぎません?これがあればどこにでも行けるじゃん」

 

美紀と光の言葉に満足そうに笑みをうかべて涼音は頷く。

 

「ね?これならみんな一緒に行けるでしょ?ベッドもちょっと狭いかもしないけど光くんでも足伸ばして寝られるだろうしトイレとかコンロとかもあるから生活するにはそんなに困らないと思うよ。まぁ時々水を汲みに行かないとだけどその辺に川とか結構あるしなんとかなるよ」

 

「なるほどな、じゃあとりあえずこれに乗り換えるとして…出発は明日にしないか?もう昼過ぎてるし涼音さんも準備しなきゃいけないだろうしな」

 

「胡桃ちゃんの言うように明日出発ってことにしてくれるとありがたいかな。上に布団もあるし今日はウチに泊まればいいよ」

 

「そうですね。じゃあ今日は泊めさせてもらいましょうか」

 

「はーい!それじゃ今日は夜までパーティーしよう!」

 

「夜更かしはだめよゆきちゃん?ちゃんと寝なきゃ、ね?」

 

「は、はーい……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

出発を明日に決めた一行は元いた部屋に戻り夕食を摂っていた。

 

「さっきの部屋似てたな」

 

「…え、似てたって何にだ?」

 

突然つぶやいた光にレトルトのカレーを頬張りながら胡桃が聞き返す。

 

「さっきの部屋と学校の地下だよ。中身とかあのコンテナとかさ、すごい似てるなあと思ったんだよ」

 

「それ私も思いました。やっぱり似てましたよね…」

 

キャンピングカーを見てしばらくしてから、夕食を摂ることなり涼音が何か取ってくると言い別の部屋へと言った際、自分達も手伝うと後に続いたのだがその部屋があまりにも学校の避難区画と似ていたのだ。医薬品や食料などまるで初めから立てこもることができるようにしているかのようであった。涼音に聞いたが彼女も理由は知らなかったそうだ。

 

「やっぱりお父さんは知ってたんだろうね、キャンピングカーだってほんとはこういう時のために用意してたのかも…」

 

「涼音さん、キャンピングカーってずっとここにあったの?」

 

由紀の問いに彼女は首を横に振る。

 

「ううん、元々住んでた家にあったのをワタシが運転してきたの。お母さんもいなかったから置き手紙を書いてここに来たんだけど来ないってことは、まぁ、ね?」

 

「だいじょうぶだよ!きっと2人とも無事だよ!…あ、そうだ!キャンピングカーがあるってことはやっぱりキャンプ行ったことあるの?」

 

「ふふ、ありがとね由紀ちゃん。キャンプ何回も行ったことあるよ〜。山梨の富士山が見えるキャンプ場に行ったことあるんだけどね、あそこはすごいキレイで感動したなぁ!…また行きたいなーなんて」

 

笑みをうかべながら彼女は思い出にふけるように目をふせる。かと思うとすぐにパッと目を開く。

 

「まっ、でもみんなとこれから旅に出るのもすごく楽しみだよ?みんなすごく面白いし一緒にいて退屈しなさそうだもん」

 

「ふふ、ありがとうございます。私たちも楽しみです、新しい車もありますし」

 

「ウチの車気に入ってもらえたようで嬉しいよ。」

 

「はい、本当にありがとうございます。でも…………」

 

涼音に優しい笑みを見せる悠里。しかし彼女はでも、と前置いた。

そして言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…でも、めぐねえ気にしてなきゃいいけど……。」

 

「え?」

 

彼女の言った意味が分からず涼音は思わず首をかしげる。しかしそれは他の4人も同じで怪訝そうな顔をしていた。

 

「…あ〜、だ、大丈夫だよな?ゆき」

 

「う、うんうん!大丈夫だってよ!」

 

「そうか、ならいいけど…」

 

「え?え?どういうこと…?」

 

光がすかさず由紀に言うと後ろを振り返ってから彼女は答えた。すると悠里はハッとしたように辺りを見回す。涼音はますます訳がわからないといったように首をかしげていた。

 

「ご、ごめんなさい。なんでもないわ…」

 

「そっか……。あ〜ご馳走さま、食べ終わったし先にシャワー浴びさせてもらってもいいですか?」

 

「ね、ねえ、さっきのってどういう…」

「それは今度話しますから」

 

「そ、そっか…どうぞ〜、ごゆっくり……。」

 

半ば強引に話を遮り彼は部屋を後にした。

 

 

 

 

「ふぅ……シャワーなんて久しぶりだな」

 

皆より早く夕食を済ませシャワーを浴びる光は数日振りに浴びるシャワーに心地よさそうに目を細める。そんな中、彼は以前自分で言ったことを思い出す。

 

生存者を会ってもすぐに信用せず警戒を怠らないこと。今のところ霧島涼音は悪い人間ではないように思える。しかしまだ完全に信用はしない。これから先もしも自分達に危害を加えてきたら、その時は容赦なく排除する。

 

それに悠里の先ほどの発言。あれも明らかに彼女の様子が不自然だった。彼女のことも少し気にかけなればならないかもしれない。

今一度気を引き締めるように両手で軽くパンと頬をたたく。シャワーを止めジャージに着替えると彼女らが待つ部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、荷物を移し替え忘れ物がないか確認し車に乗り込む。

 

「よし、じゃあみんな忘れ物はないな?そろそろ出発するぞー」

 

「そういうひかるくんこそ忘れ物があったり……」

「しない」

 

「だよねー」

 

「みんなーシャッター開けたからいつでも出られるよ!」

 

「ありがと涼音さん!いよいよ出発だね!」

 

「だな!ひかる、安全運転で頼むぞ」

 

「安心しろ間違いなくお前より安全運転しているから。じゃ、行くぞー」

 

 

 

 

こうして彼らは新たな仲間と車を手に入れ改めて大学を目指し走り出した。

 




読んでいただきありがとうございました!

ワンワン放送局のお姉さん、勝手に名前付けたりとオリジナル設定乗せまくりですが仲間に加わることとなりました〜( ˆᴗˆ )

オリ主にも彼女にも魅力を感じてもらえるようなお話を作れるようこれからもがんばります

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m

今年中にもう1話投稿できるか微妙なのであらかじめ言っときます。
今年もありがとうございました!
良いお年を〜!


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第二十九話 「ほんね」

あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします!

新年1本目の投稿です。今年も頑張っていきたいと思います(⌒▽⌒)

第二十九話よろしくお願いします。


涼音が同行することになり6人で彼女の持つキャンピングカーに乗り換え本来の目的である大学を目指していた。

 

「いやぁ〜この辺やたらと通れない道多いよね、電柱が倒れてたり車で塞がれてたりしてさ」

 

夜になり車を停めて夕食をとっている中涼音が不満げに言う。

 

「そうだな。それに涼音さんの家が大学と真逆の方にあったからだいぶ離れちゃったし、こりゃかなり時間がかかりそうだな」

 

それを聞き光も不満げな声を漏らす。

 

「まあそのおかげで涼音さんに会えてにぎやかな旅になったしこれはこれでよかったよね!」

 

そんな2人に対し今度は由紀が明るい声で言った。

 

「そうだな…ま、でもこの車がありゃ割とどこにでも行けそうだし気楽に行こうぜ。…ふぅ、ごちそうさま」

 

胡桃は満足そうに腹をさすると立ち上がり自分の使っているベッドに寝転んだ。そんな彼女を見て由紀が声を上げる。

 

「くるみちゃん食べてすぐ寝るとブタさんになっちゃうよ?」

 

「ならねぇよ!余計なお世話だ!」

 

胡桃の怒号が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ひかる先輩、なに書いてるんですか?」

 

「まあ日記…かな。涼音さんのとこにたくさんあったノートもらってきたんだ」

 

「そういえばそうでしたね、何に使うのかと思ったら日記ですか。でもいままで書いてませんでしたよね?どうして急に」

 

「せっかくこうやっていろんなとこ移動することになったわけだし何があったかとか記録しといた方がいいのかもって思ってさ」

 

そんなことを言いながらもう一度ノートに目を落とすと今度は由紀がそっと覗き込んできた。

 

「あれ、ひかるくん何書いてるの?」

 

「…日記だよ、あっ、おい見るな!これは俺が死ぬまで誰にも見せないからな!」

 

すかさずノートを閉じそれを抱えると由紀は残念そうな声を上げる。

 

「え〜!いいじゃん少しくらい見たってさ〜」

 

「ま、まぁゆき先輩、日記って人に見られると案外はずかしいものなんですよ。先輩がダメと言ってるんだから諦めましょ?」

 

駄々をこねる彼女を美紀が宥める。渋々ではあるが納得してくれたらしい、静かに椅子に座った由紀は指を口元にあて考えるような仕草を見せる。

 

「でも日記か〜せっかくだからなんかこう、おもしろく書きたいよね」

 

「…?と言いますと?」

 

「……あ!おはなしを作るみたいに書くとか!それを最後まで読むと1つの小説にみたいになってる!とか?」

 

「…それはもうただの小説なんじゃないか?まぁ、そういうのも確かに面白いかもな」

 

そう言いながら苦笑していると悠里がこちらにやってきた。

 

「ひかるくん申し訳ないけど私たちそろそろ着替えたいから…」

 

「わかった、じゃあまた外で待ってるから終わったら呼んでくれ」

 

そう言うと立ち上がり自分のリュックを拾い上げると車のドアを開け外に出た。

キャンピングカーで生活するようになってから夜はジャージに着替えて寝るようになった。そのため彼女らが着替えている間光は1人外に出て待つようになった。そして彼も外でジャージに着替える、というのが最近の習慣になっていた。勿論近くかれらがいる可能性もあるため着替える前によく周りを確認するようにはしているが。

 

 

 

 

 

車に背中を合わせ5分ほどするとドアが開けられる音がした。今日はいつもより早いなと思いながらドアの方を見ると昼間と違い動きやすそうなスウエット姿の涼音が軽く手を挙げこちらにやってきた。

 

「みんなもう着替えたんですか?いつもより速いですね」

 

「ううん、もうちょっとかな。それよりさ2人で少し話さない?」

 

「え?まあ別にいいですけど……」

 

「よかったーじゃあ少し歩こうか」

 

突然どうしたのだろう、と怪訝に思いながら涼音の後に続き歩き出す。

 

「夕方この辺見た時は全然いなかったし多分大丈夫だよね。ここで話そ?万が一出た時はよろしくねってことで」

 

少し歩くと小さな公園くらいの広さの空き地に着いた。そこにある古ぼけたベンチに腰を下ろす。

 

「そうですね、それでなんの用ですか?できれば手短にお願いしたいんですけど。」

 

光がそう言うと涼音は口元に笑みを浮かべる。

 

「みんなといる時よりちょっと冷たいねーやっぱりそういうことか」

 

何のことだと言わんばかりに光が首をかしげると涼音は普段と変わらぬ声の高さで静かに言った。

 

 

 

 

 

 

 

「キミ、ワタシのこと信用してないでしょ」

 

「……。」

 

予想外のことを言われ光は黙り込む。なんと返せばいいかと悩んでいると彼女は話を続ける。

 

「なにも言わないってことはやっぱりそういうことなのかな?もぉ〜ひどいなーワタシは別にキミ達騙して何かしてやろうとか全く考えてないよ!?」

 

「別にそんなこと思ってませんよ?大丈夫ですよ信じますってば」

 

そう言いながら笑みを浮かべると彼がはぁ、とため息をついた。

 

「…いまはそういうお世辞とか作り笑いはナシにして本音で話そうよ。敬語も使わなくていいよ」

 

 

 

 

 

 

彼女がそう言うと光はさきほどまで浮かべていた笑みを消し真顔で正面を向いた。

 

「そうですか。そう言われちゃうとなんかもういいやって感じになっちゃうなぁ……確かに、あなたの言う通り俺はあなたをまだ信じてないよ」

 

光の返答を聞き涼音は満足そうに笑う。

 

「ふふ、いいね〜やっとほんとのキミを見れたって感じかな。ねぇ、ワタシのことどうすれば信じてくれる?」

 

「ずいぶんと単刀直入に聞いてくるな…正直言うとあんたのことは別に悪い人ではないと思ってるよ。一応ね」

 

「へ〜?じゃあなんで信じてくれないのさ?」

 

「一緒にいる時間がまだ短すぎるから。そんだけだよ。他のみんなはずっと学校で一緒に暮らしてたしいまさら裏切らないだろうって思えるけどさ、あんたのことは俺らを利用してなんかしてやろうとか思ってんじゃないかと疑っちゃうんだよ。ほんとにただそれだけ」

 

「……ほんとにそれだけなの?ワタシは必死に無害ですよって説得するつもりでいたのに……じゃあなに、これからも今と同じようにみんなと仲良くしてればワタシのこともちゃんと認めてくれるってこと…?」

 

涼音の言葉を聞くと光はふっ、と小さく笑う。

 

「まあ、そうだな。しばらく一緒にいて俺達に危害を加えるヤツじゃないと分かればね。でもあんたのことはもうそんなに警戒してないよ。裏表全然なさそうだし、悪どいこと考えてる感じまるでしないからさ」

 

「そ、そっかぁ〜よかった、心配して損したよ…」

 

「外で会う人はなにも考えず信じちゃダメだって思ってたからさ、そうしないとみんなの身を守れないって思って」

 

「そうだね、たしかに光くんの言う通りだ!みんなのこと大切に思ってるんだね」

 

「みんながいることが俺にとって生きる意味だから。みんなが生きてなきゃ俺はとっくに死んでるよ」

 

「そんなに大切なのか〜…でも1人で思い詰めるのはよくないよ?たまにはお姉さんにどーんと甘えてきなさい!」

 

自分の胸をドンと叩き笑う涼音に光も思わず笑みをこぼす。

 

「はははっ!なにいってんだか、まぁでもその気持ちだけ受け取っておこうかな。…そろそろ戻ろうみんな心配してるかもしないし」

 

光が立ち上がり歩き出すと「そうだね。」と頷き涼音も後に続く。

 

 

彼女はやはり信じても大丈夫なのかもしれない、そう思いながら車を停めている場所へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

5人が眠りついた頃、彼は1人ノートを開きこれまでのことを書き記していた。あの日自分達の前で何が起こりどうしてきたのか。覚えていることを書き記していく。

 

 

 

 

 

 

 

自分が死んでも自分達の歩んできた道が消えないように。

 

歩んできた道が他の人々が生きるために少しでも役立つように。

 

そのためにいままでのこと、これから起こることを。

 

そしてその時何を話したのか、何を思ったのかを書き残していくことにしよう。

 

 

 




読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第三十話 「やくそく」

最近がっこうぐらしの小説の投稿されている数が増えているような感じがするのは気のせいだろうか…?

第三十話よろしくお願いします。


「はぁ〜……」

 

「ん、お前がため息とは珍しいな。どうしたんだ?」

 

普段は常に明るく元気のある由紀が不満げにため息をついていた。光が訊ねると由紀はその理由を打ち明けた。

 

「お風呂入りたいなーって、やっぱり年頃の女の子としてはそう思うんだよ〜。ね、みーくんもそう思うよね?」

 

「まぁゆっくり体を洗いたいところではありますね」

 

美紀が読んでいた本から目線を上げひと言そう頷いた。

 

「でしょでしょ!ねぇ涼音さーんこの車ってお風呂とかはないんだよね?」

 

「ごめんね、さすがにお風呂はついてないかな〜」

 

運転中の涼音が鏡越しに由紀を見ながら答えた。

 

「お風呂も大事だけどそろそろ洗濯もしないと着替えもないわよ」

 

悠里が続けて声を上げた。

 

「確かにそうだな、どうする?」

 

「……よし!」

 

しばしの沈黙の後、胡桃がバンと机を両手で叩きながら立ち上がる。そのまま運転席の涼音の所まで行き何かを訊ねる。その後涼音がにこりと笑うと胡桃は先程まで座っていた席に座った。

 

「くるみ先輩なにを話してたんですか?」

 

そう問われた胡桃はニヤリと笑い自信ありげに答えた。

 

「ゆきとりーさんの要望が叶えられるいい場所が思いついたんだよ」

 

それから5分ほど経つと車が止まり胡桃は降りるように促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆき、準備はいいかー!」

 

「お着替え完了!準備万端だよ!」

 

「よし!行くぞ〜!」

 

「おお〜!」

 

水着に着替えた2人がかけ声と共に走り出す。

 

 

 

「2人とも元気ね〜」

 

「やっぱくるみもゆきに負けず劣らずアレだよな…」

 

「あの、さすがに今の季節だとちょっと厳しいんじゃ…」

 

「やっぱり若者の発想力ってすごいね〜ちょっと真似できないや…」

 

4人がなんとも言えない目で見守る中、由紀と胡桃は勢いよく飛び込んだ。川に。

 

 

 

 

「冷たああああ!!」

 

水の跳ねる音が聞こえてくるのと同時に由紀の声が響いた……。

 

「ですよね……」

 

「あったかいお茶用意してくるわね」

 

「じゃあ私もタオル取りに戻ります」

 

「あっ!向こうから2人来てるよ!」

 

「今の音に釣られて来たのかもな…。あっちは俺に任せてお前らは車に戻っててくれ」

 

そう言うと悠里達は車へ、光はかれらめがけて駆けだした。

 

 

 

 

 

 

「さすがに川の水は冷たいわよね」

 

「りーさん、そそそういうのはささ、さきに言って……」

 

「はいお茶どうぞ」

「あ、ありがと涼音さん…」

 

悠里に髪をタオルで拭いてもらいながら涼音が渡されたお茶をすすり由紀は寒さに体を震わせる。

 

そんなやり取りを見ながら光達3人は川の水を洗面器に汲み洗濯をしていた。

 

「くるみ先輩は……平気なんですね」

 

「そりゃ鍛え方が違うからな、これくらいどうってことないよ」

 

「鍛え方、ねぇ……。」

 

「なんだよその何か言いたげな目は」

 

「……いや、別に」

 

胡桃から怪訝そうな顔で睨まれながら川の水は思っていたより冷たい、と肩をぶるっと震わせながら光はぼんやりつぶやいた。

 

「まさか川で洗濯、なんてことをする日がくるとは思わなかったなぁ…」

 

「まぁそうだな。昔ばなしではよく聞いたけど実際に自分がやることなんて普通はないもんな」

 

「そうですね。そう考えるとこうやって洗濯するのも案外楽しく思えてきます」

 

そう言いながらクスリと笑う美紀はさらに話を続ける。

 

「なんか久しぶりですよね。こういうの」

 

「こういうのって?」

 

「ゆき先輩が後先考えないで突っ走ってみんなで頭抱えて。みたいな」

 

「言われてみればそうかもな」

 

「ゆき先輩、最近なんていうかその……」

 

「頼れるようになった?」

 

「あ、ひかる先輩それです!」

 

どうやらしっくりきたらしくパッと顔を輝かせ彼を見ると話を続けていく。

 

「頼れるゆき先輩もいいんですけどなんかちょっと物足りなくて」

 

「あんなにゆきのことを否定的だったみきがそんなことを言うとはな。まぁでもわかるよその気持ち」

 

「もう!いつの話をしてるんですか、最初だけですから、今はもう違います」

 

ニヤニヤしながら笑う胡桃に恥ずかしそうに美紀が抗議する。その後にこほん、と咳払いをして話を戻そうとする。

 

「とにかくですね!…大学もいいですけどもう少し、このままでいいかなって思うんです」

 

「先へ進もうと決めたのは俺達だけど確かにそういう気持ちも分かるよ。学校にいた時の方が多少は安定した生活できてたような気もするし」

 

「でもまあ、そうもいかないだろ」

 

洗ってた服をパッと伸ばしながら胡桃が立ち上がる。

 

「こっちがこのままでいたいと思ってもあっちから来たりすんだろ?」

 

「それは……そうですね」

 

 

 

「じゃあ『準備』しとかないとな」

 

そう言って2人を見下ろして微笑む。その時の顔がやけに気になった。

 

 

なにかを決意したようなまっすぐと見つめてくる力のある瞳が。

 

そしてどこか寂しげな儚さを感じさせるような曇りのある笑みが。

 

そんな彼女の顔が彼の頭から離れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くるみ先輩までまともなこと言うなんて……」

「ちょっと待ておまえん中であたしそういうキャラだったのか!?」

 

「ほんと信じられねぇよな…なんかヘンな物でも食ったか?」

 

「おまえもかよ!」

 

光と美紀が笑い出すのに釣られて笑った胡桃の表情はさきほどと違い曇りのない笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その夜、何か物音がしたような気がして彼は目を覚ます。

ぼんやりと眠い目をこすりながらふと窓の外を覗く、直後ベットから飛び起きるとゴルフクラブを取り車を降りた。

 

「あのバカ…!何考えてんだよ!」

 

 

 

 

窓から見えた景色、そこから見えたのは制服姿でシャベルを抱き抱えながらゆっくり遠くへと歩いていく胡桃の姿だった。さらにその先、目に見える距離に3体かれらがいる。にも関わらず彼女は止まることなく歩を進めていた。

 

 

 

 

 

「おいなにしてんだ早く戻れ!くる…み……!」

 

やつらがいる、危ない。そう続けようとしたがそれが彼の口から出ることはなかった。なぜなら目の前で起こったことに驚き声を出すことも忘れたからである。

 

 

 

胡桃が目の前にいる、しかしかれらはまるで気づいていないかのように彼女の横をただ横を通り過ぎた。

 

横を通った瞬間彼女はぴくりと肩を震わせた。襲い掛かってくるかもしれないと身構えたからであろう。しかし何事もなかったかのようにただ横を通り過ぎるかれらに対し今度は大きく肩を震わせた。

 

「待てよ……」

 

力のない声で呼び止めようとする胡桃。しかしかれらには聞こえていない、止まることはなく歩いている。

 

「待てって言ってんだろ!!!あっ…」

 

振り返って背を向けているかれらに対し今度は激怒しているような顔で叫ぶ。と同時に光がいることに気づきしまったと言っているかのような顔でこちらを見た。

 

何か言いたげにこちらを見たままゆっくりと手を前に出した次の瞬間、突然胡桃に背を向けていたはずの彼らが彼女の方へと向き直りうめき声を上げながら襲い掛かった。

 

驚いた胡桃はすぐに後ろへ飛び退く。立ち止まりぼう然と立ち尽くしてい光は頭をぶんぶんと振りすぐに胡桃の元へ駆け出した。

 

 

「バカっ、何やってんだ!」

「ふざけんなバカはお前だ!」

 

かれらへクラブを振り上げながら自分の元へと駆け寄ってくる光へ声を荒らげた胡桃だったががすぐに光に言い返され目を逸らす。

 

「話は後だ!早くこいつらやるぞ!」

 

「わかってるよ!」と声を荒らげながら胡桃もシャベルを握り直し目の前にいるかれらの首元を殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また汚れちゃったな、せっかく洗ったのに」

 

「……。」

 

返り血で汚れた服からジャージに着替え2人は昼間と同じように川で洗濯をしていた。

夜の水に触れるのは昼より冷たく指に痛いと思うほどだ。にも関わらず彼女は気にすることなく水に手を入れ続けていた。

 

 

その時。『冷たい』でふとあることを思い出した。そしてそれを確かめるためタオルで手をよく拭いてから隣りで洗濯を続ける胡桃の様子をうかがう。洗濯に集中してこちらが見ていることに気づいていない、それを確認すると自分の右手で胡桃の頬を触った。

 

 

 

 

 

 

やっぱりか。ひと言、小さな声でつぶやく。

 

何をするんだと言いだけにこちらを見る胡桃に頬から手を離し目を合わせないまま話しはじめる。

 

 

 

「ゆきがお前に触れられた時冷たいと言ったのを思い出した、それで触ってみたら…ほんとに冷たいなお前。さっきやつらが目の前にいたのに素通りしてったし……なあ、本当は薬効いてないのか?」

 

「効いたよ、だからここにいるんだろ」

 

「……。」

 

問いかけに対しふっ、とうっすら笑みをうかべる胡桃。光は何も言わずただ川の水が流れる様を見ていた。

そんな彼を見ていた胡桃は同じように川の水が流れるのを見ながら静かな声で話した。

 

「なあ、あたしがえんそくの時言ったことまだ覚えてるか?」

 

「……感染したら迷わずやれってやつか?」

 

「そ。ああ言ったけどさ結構それって難しいよな。自分でそういったくせにあの時あたしはそれができなかった…大事な人を前にして躊躇っちゃった」

 

腕の傷をぎゅっと押さえそうつぶやく。自分は迷わないでほしい、そう言っておきながらめぐねえを前にして躊躇いその結果傷を負った。そのことを悔やんでいる。彼女の表情や声色からそう言っていると彼は理解した。

 

「おまえには嫌な役目を押し付けちゃったな。みきから聞いたんだよ、めぐねえのとこに行った時、終わらせた時、すごく辛そうにしてたって」

 

「そうか。……何も教えるなって言っときゃよかった」

 

バツの悪そうな顔をしながらつぶやく。それを見て胡桃は軽く笑みをこぼす。

 

「普通はそうなるって!むしろちゃんとできた方がすごいんだ。あたしには絶対できないってわかったから、だから……」

 

「だから?」

 

 

 

 

 

「これから先、もっと体の調子がおかしくなってみんなを危険な目にあわせるかもしれなくなったら……あたしは1人でどこかに行く。そうすればさ…みんな大丈夫だろ?」

「大丈夫なわけないだろやっぱりお前バカだな」

 

「……え?」

 

「そんなのゆき達は納得してくれないだろ、俺も納得する気なんてないけどさ。そんなんだったら俺達は最後まで全員一緒にいるぞ?今更お前1人見捨ててくような白状なやつは誰もいないからな」

 

「そ、そんなのわかんねーよ。本当にそうなったら怖くなって逃げたくなるやつだって…」

 

「いないな。むしろお前を治す方法を死にものぐるいで見つけにいくぞってなるのがあいつらだと思うけど」

 

「……ほんとにそうなのかな…。」

 

「そんなに心配なら本人達に聞いたらいいじゃねえか」

 

「いやさすがにそれはちょっと…」

 

後ろ向きな事ばかりいい続ける胡桃に呆れたように言う。驚いたように目を丸くしながら胡桃は光を見る。

 

「自分で勝手に決めつけてグズグズ言うよりいっそのこと潔く答えを聞いたほうが早いしすっきりすると俺は思うぞ」

 

 

 

「………わかったよ、聞いてみる」

 

心底不安そうな声で頷き体育座りをして顔を伏せる。これでもう1人で出て行こうとしなくなってくれれるだろうか。そう思いながら光も何も言わずに空を見上げた。

 

街灯などはほとんどなくなっているため夜は星がよく見える。学校にいた時から考え事などをして眠れない時は1人で抜け出してはこうして星を見ていたことを思い出した。そんなことをしているうちに思い出す。刺々しい言い方ばかりをしていたが本当に言いたかったこと、少し恥ずかしくなり言えなかったことがなんとなくだが今なら言える気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこにも行かないでほしい…」

 

「え?」

 

「勝手にどっか行ったきり帰ってこないなんてことしてほしくない。誰も欠けることなく最ごまで、みんなで俺は一緒にいたい」

 

そうつぶやく彼の声は自分でも驚いてしまうほど弱々しく消えてしまいそうなくらいか細い声だった。当然胡桃も驚いたような顔で光の方を向いていた。

 

「なんていうかその……おまえらしくないな。

大丈夫、みんながここに居ていいって言ってくれるんならどこにも行くつもりないよ」

 

「つもり、じゃ駄目なんだよ行くなって言ったんだ」

 

「……わかったよ」

 

少しの静寂の後、胡桃は観念したように笑みをこぼした。

 

 

 

「約束、だからな忘れるなよ」

 

「ああ、わかった約束な……仕方ない、大事な友達の頼み、聞いてやる!ほら指切り!」

 

暗い顔をしていた光の手を無理やり取り指切りをして胡桃はにっこり笑った。一瞬また顔を曇らせたがそんな彼女の答えを聞きふっ、と笑みをうかべながら立ち上がった。

 

 

 

 

「…そりゃありがたいな、約束だぞちゃんと守ってくれよ?………もう夜も遅いしそろそろ戻るか、りーさんにバレたら面倒だしな」

「こんな夜遅くに誰にバレたら面倒なの?よく聞こえなかったわ」

 

「り!……さん」

 

突然聞こえた悠里の声にぎょっとしたような声を上げ胡桃はゆっくりと振り返りながら上を見る。そこには光の背後に笑顔で仁王立ちをする悠里の姿があった。無論その笑顔からは優しさや暖かさなどは感じられずむしろ冷たさや恐怖を感じる笑顔である。

 

「あれ、こんな時間にどうしたんだ?俺達はこれから車に……」

「座りなさい」

「……。」

 

車に戻るところだ、と言う前に冷たく遮られる。一瞬黙りこみ口元を引きつらせながら口を開く。

 

「…こんなとこにいたら体冷えるぞ?…だから〜ほら、早く車にもど…!」

「座りなさい」

「はい。」

 

さすがにもうダメだと観念し今度はすんなりと腰を下ろす。声の冷たさからご立腹であることがわかる。とてもじゃないが顔を直視できなかった……。

 

「2人とも何か言うことはあるかしら?」

「「すいませんでした」」

 

悠里がそう問いかけた瞬間2人は同時に頭を下げる。それを見た悠里は呆れたのように息を吐きこちらを見下ろした。

 

「まったく!こんな時間に何をしてたの危ないでしょ!?」

 

 

 

ガミガミと叱りつけてくる悠里に光に安堵したような顔で彼女には聞こえないような小さな声で胡桃に話しかける。

 

「こんなにも真剣に怒ってくるようなやつがお前のこと簡単に見捨てると思うか?」

 

「いや、そうじゃない…と思う。うん、そうだよなあたし、気にし過ぎてた。みんななら心配いらないよな!」

 

そう言って笑顔になる胡桃に安心したように光も笑う。

 

「ちょっと!聞いてる!?」

 

その後もしばらくの間説教は続いたが光も胡桃も話の内容はあまり覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ようやく説教から解放されベッドに戻った後、右手を顔の前に持っていき彼は先程のことを思い出す。

 

 

自分達の元から姿を消さない、そう約束して指切りした時の彼女の指。やはり人の体とは思えない冷たさをしていた。

 

彼女達を守る、そのために自分はこんな世界でも生きることを選んだのに守りきれなかった。その罪悪感が自分の持ち帰った薬により彼女が回復したことで薄れようとしていた。しかし実際はそんなことはなかった。まるで既に死んでいるかのような体の冷たさ。それを知り彼は薄れかけていた罪悪感が戻りはじめ、自分の無力さに胸を締め付けられる感覚に苛まれたその夜、彼はすぐには眠ることができなかった。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました!

絶賛テスト期間中で忙しくなかなか書けなくて…続きを待っていた方がいたら遅くなってしまいすみません(^_^;)次のお話もテストが終わり次第取りかかりますのでしばしお待ちを(T_T)

今回は原作6巻にあるお話でした。ここを読んだ時くるみちゃん大丈夫なの…?とめちゃくちゃショックだったのを覚えてます笑
次回からしばらくは原作にはないお話をしようかと思っております。

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m

感想とかお気に入りもよろしければぜひ…


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第三十一話 「しんじる」

前回から1ヶ月も経ってしまいましたね、すいません(^^;

第三十一話よろしくお願いします。


「……っていう感じであたしの身体、完全に治ったわけじゃないみたいなんだ。隠しててごめん…」

 

翌日。光の言うように胡桃は自身の容態を由紀達に打ち明けることにした。彼女達なら本当のことを話しても受け入れてくれると信じ涼音には感染していたことから説明し今の自分の状態を4人に話した。

 

「そんな…どうしてそんな大事なこと教えてくれなかったのよ……」

 

ひどくショックを受けたようにうつむく悠里に気まずそうに胡桃は答える。

 

「散々心配させたしこれ以上心配かけたくなかったから、それに怖くなって…みんなから距離を取られちゃうんじゃないかって思ったら言い出せなくて……」

 

「そんなわけないよ!」

 

声を次第に小さくしながらそういう胡桃を由紀が遮った。胡桃はもちろん、他の面々も突然由紀が大きな声を出したことに驚きびくりと震えた。

 

「私そんなことしないよ、ううん私だけじゃない。他のみんなもそうだと思う。私たち学園生活部でずっと一緒にいたんだよ、今更くるみちゃんを仲間はずれになんかしないよ」

 

今度はやさしく、慰めるように穏やかな声で胡桃の手をとり微笑んだ。

 

 

 

「そうですよ。確かにちょっとびっくりしましたけど私は追い出そうなんて思いません」

 

「……ええ私も同じよ。くるみを治す方法、これも知らべなきゃいけないわね」

 

美紀と悠里も同じように微笑んだ。そんな3人の顔を驚いたように見ると顔を伏せ小さな声で一言、

 

「…ありがとう」

 

と呟いた。なんの迷いもなく自分を受け入れられて少し恥ずかしいのか、頬を赤らめているように彼には見えた。

 

その後すぐにパッと顔を上げたかと思うと今度は少し緊張した面持ちで涼音の方を向く。

 

「……ずっと隠しててごめん。あたしも一緒にいていいかな…?」

 

不安げに涼音の答えを待つ胡桃。彼女の顔をちらりと見ると涼音は「はぁ〜」と大きなため息をつく。胡桃はもちろん他の者も顔が強ばる。

 

 

 

 

「もぉ〜みんながいい感じの雰囲気でまとめちゃうから話に入れなかったじゃん」

 

そう拗ねたような顔で頬杖をつき不満そうな声を上げる。

 

「ごめんなさい……。やっぱそうだよな、あたしみたいなのいない方が…」

「居ていいよ」

 

「……え?」

 

「いいに決まってるじゃん」

 

消え入りそうな胡桃の声を涼音の穏やかな声が打ち消した。

 

 

 

「感染してたことにはもちろん驚いたけど今のところ大丈夫そうだしみんなも胡桃ちゃんのこと信じてるんだよね?ワタシも信じたいんだ。みんなはワタシのことすんなり受け入れて仲良くしてくれたじゃない?すっごく嬉しかったんだよ…だから今度はワタシがみんなのこと信じる番かなって!いない方がいいなんて言わないでよ……ね?」

 

涼音はそう言うと明るい笑みを見せた。そしてそのまま立ちあがり胡桃の前に行くとすっと右手を前に出した。

 

「ほんとにいいの……後悔しない?」

 

「うん!後悔なんて絶対しないよ」

 

優しく笑いかける涼音に胡桃はゆっくりと自分の手を前に出し、ぎゅっと握手を交した。

 

「改めてよろしくね胡桃ちゃん!」

 

「うん…!よろしく」

 

胡桃は嬉しそうに微笑み頷いた。昨夜のような思い詰めた顔をする彼女はもういなかった。肩の荷がおりたような柔らかい表情を見て光も安心したような笑みを浮かべていた。

 

「よかった…ダメって言われるかと思ったわ……」

 

「あはは、心配かけちゃってごめんね悠里ちゃん。ちょっとまぎらわしかったよね…。さ!話もまとまったことだしそろそろ出発しよっか!」

 

「そうしましょうか。…ひかるくん運転お願いしてもいいかしら」

 

「おう、そんじゃ行きますか。みんな川に忘れ物とかしてないよな〜?」

 

「大丈夫でしたよ、準備オッケーです」

 

「それじゃしゅっぱーつ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

皆の意見もまとまり楽しげな雰囲気が車内に流れる。それから日も暮れて今日はここまでにしようと車を近くの店の駐車場に停めた。そのまま運手席で腕を伸ばしあくびをしていると胡桃が光の所へとやってきた。

 

 

「おつかれ」

 

「ん、どうした?」

 

「おまえにお礼言ってなかったからさ。みんなに正直に話せてよかったよ、ありがとな。あたし…おまえに言われなきゃずっと言い出せなかったかもしれない」

 

「気にすんなよ。あいつらのこと全然心配する必要なかったろ?」

 

「うん、涼音さんもああ言ってくれたしすごく気持ちが楽になった……ほんとありがとな!」

 

ニッと歯を見せ笑う彼女の笑顔は差し込んでくる夕日に照らされより眩しく輝いていた。

 

「おう。」

 

そんな彼女に彼は少し照れくさそうに一言うなずき顔をほころばせた。

その無邪気な笑顔にやはり彼女には笑っていてほしい。改めて彼は思った。




読んでいただきありがとうございました。

更新が遅くなったり短かったりしちゃいましたが次回はできるだけ早く更新いたしますので次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第三十二話 「ちょうはつ」

第三十二話よろしくお願いします。


「まぁ、水は消費も早いし多少は多めにあった方がいいよな」

 

「そうだよねーでも参ったねぇここも水なさそうだよ」

 

「そこそこ大きめのスーパーだし残ってるかもって思ったんですけどね…。棚には並んでないし倉庫の方に行ってみましょう、まだ在庫があるかもしれませんし」

 

 

 

 

彼らは食料調達のためスーパーへ訪れていた。食料というよりは主に水の確保のためである。しかし他の人々が同じように調達来ていたのか既に水などは無くなっていた、ということが続き今訪れているので3つ目だったのだが…。ここでも店頭に並んでいたのは消費期限が切れた物など収穫は無く品出し前の商品が置いてあるであろう倉庫へと足を踏み入れた。

 

「う〜ん暗くて周りがよく見えないね、ライトつけよ」

 

「そうだな。気をつけて進もう」

 

「ゆき先輩たちの方は大丈夫でしょうか」

 

「くるみもいるし大丈夫だろうよ」

 

「まぁ、そうですよね…。」

 

先日のことで胡桃のことが気がかりになっているようで美紀は腑に落ちないように頷く。

光達が訪れたスーパーの向かいにコンビニがあったため二手に分かれて探索をしようと話が決まりスーパーを光、美紀、涼音が

コンビニの方を由紀、胡桃、悠里といったように分かれていた。

 

「まぁ、コンビニなんてすぐ探し終わるだろうしそろそろこっちに合流してくるかもな」

 

そんな話をしながら倉庫に入ってすぐのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあああああ!!くるなっ!……くそっ、なんで……こんなとこで死にたくない!」

 

叫び声が聞こえた。姿は見えずともその切羽詰まった声で危険な状態にいることが分かった。

 

「ちょっ!この声生きてる人だよね、どうする助けに行く?」

 

「襲われてるみたいですし助けましょう!先輩…」

 

「わかってるって、ほら行くぞ!どれくらいいるかもわかんねえし俺からあんまり離れるなよ」

 

 

すぐに助けに行くことを決め3人は声のする方へ走った。積まれたダンボールの間にできた細い道を縫うように進むと腰を抜かして怯える少年と彼に向かってジリジリと距離を詰めていくかれらが1体。

周りを見回し近くにはその2人以外はいないと判断すると美紀達にここにいるようにと目配せで伝えると背を向けるかれらに気づかれないように足音を立てないように近づく。そしてゴルフクラブを頭上までおおきく振りかぶって一撃。

 

 

バタンと力なく倒れたかれらを見下ろしながら顔に浴びた返り血を拭う。

 

「無事か?噛まれたりしてないか?」

 

左手に持つライトで照らしながら腰を抜かす少年に手を差し出す……が

 

「ひぃっ!」

 

少年は手を取ることなくぎょっとしたように後ずさった。理由が分からず首をかしげるが後ろから美紀達に声をかけられ振りむく。

 

「間に合ったみたいですね…ってうわっ!先輩血が……」

 

美紀からそう言われ自分の体を見回す。服にも返り血がかなり付いていることに気づく。

 

「ん、あー思ったより血がついちゃってんのか、なるほどそれでびびったわけね…」

 

ほんの少し呆れたように頷くともう一度少年方に向き直る。

 

「わりぃ、脅かしちゃったか。とりあえず外に出ようぜ?外の空気吸って落ち着こう」

 

「……。」

光がそう言うと少年は何も答えることなくすたすたと1人で倉庫を後にした。

 

「………なぁ、俺にらまれてなかった?」

 

「そー…だね、ちょっとにらんでたような気が…なんでだろうね?」

 

「とりあえず俺らもこの辺見たら外出るか。さっきのやつのこともちょっと心配だし」

 

「そうしましょうか。見た感じ私たちと同じぐらい歳でしたよね」

 

「たしかにー、高校生くらいだったよね!仲良くできるといいね?」

 

「仲良く、ね………」

 

涼音の言葉に苦笑いで答えながら彼らも少年の後追い店の外へ出た。

 

 

 

 

 

 

外に出ると入口の近くで由紀が1人で立っていた。こちらに気づくとパッと顔を輝かせ駆け寄ってくる。

 

「あっ、出てきた!みんなおかえりー」

 

「あれ、由紀ちゃんどうしてこんなとこに?」

 

「みんなが来るの待ってたの!早く戻ろ!みんなびっくりすると思うよ〜?」

 

そう言うと早くしろと言わんばかりに足早に車に向かっていく。何があるのかはわからないがとりあえず由紀の後に続いた。

 

「ただいまー」

 

ドアを開けると悠里が出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい、どうだった?こっちはあまりいい物は見つからなかったのだけど……」

 

「コンビニならしょうがないな、俺らの方はなかなか悪くなかったよ、水もあったしいろいろあったから後でもう1回行ってくる」

 

「ひかるくーん!後で私も一緒に行きたいなー」

 

「ん、じゃあみんなで行くか。結構広かったし」

 

「うん!あ、そんなことよりみんなこっち来てー」

 

先に車内に入っていった由紀がひょこっと顔を覗かし光達を呼んだ。由紀に言われるまま車内に入るとそこには黒髪の短髪で少し鋭い目付きをした少年が座っていた。

 

「あれ、キミさっきの!」

 

最初に口を開いたのは涼音だった。指をさされながらそう言われた彼は小さく笑みを浮かべると立ちあがった。

 

「どうも、先ほどは助けてくれてありがとう。礼を言うよ。」

 

「え、ええ。あのどうしてここに?」

 

美紀が少し驚いたように訊ねると彼はうん、と小さく頷いた。

 

「君達より先にあそこを出たら彼女、由紀ちゃんに会ってね、君達に助けられたことを伝えたら一緒に来ないかと言ってくれてね。とりあえず君達が来るのをここで待たせてもらってたんだ。」

 

「なるほどね!キミのこと気になってたからとりあえずよかったよー」

 

そう涼音が朗らかに笑っているとベッドのカーテンが開かれ胡桃があくびをしながらのそのそと這い出てきた。

 

「ふあぁ〜。ひかる達帰ってきたのかおかえり〜」

 

「ただいま。いないと思ったらなんだ、寝てたのか」

 

「おう、ちょっと疲れちゃってな〜」

 

「起こしてしまったかな?騒がしくしてすまない」

 

「ん……あぁさっきの人ね。んや別に?…ちょっと寝違えたかな、そのへん散歩してくる」

 

そっけなく返すとシャベルを持ち早々に車を出ていった。そんな胡桃見て彼は首をかしげ問う。

 

「俺が何か気に障ることをしてしまったのかな?追いかけなくていいのかい?」

 

「くるみちゃんなら大丈夫だよ、たまにああやって散歩行っちゃうから。あ、もしかたら恥ずかしいのかも!くるみちゃん照れ屋さんだから!」

 

「…そうか、なら大丈夫ということなのかな」

 

「てかまだお互い名前も名乗ってなかったな。また涼音さんの時みたいに自己紹介でもするか?」

 

「お、いいね!光くんの言う通り自己紹介しちゃおうか、胡桃ちゃんが戻ってきたらやろっか!」

 

涼音が元気な声でそう頷く。

 

「そんじゃいまから始めるかー、自己紹介」

 

「あれくるみちゃん!?!?ついさっき出てったばっかりじゃん!」

 

「んー、気が変わったんだよ。ほらやるんだろ?自己紹介。さっさとやっちまおうぜ」

 

パンパンと手を叩き気だるげに言う。胡桃に流されすぐに自己紹介をすることになった。

 

 

年上だからと言う理由で涼音が最初に名を乗りテンション高めに回していく。そうして学園生活部5人も名乗り終え最後に少年が名乗る番になった。

 

 

「俺は草加(くさか)航平(こうへい)、高校3年生だった18歳だ。…よろしく」

 

そう言うと彼は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「へ〜じゃあ草加くんはいろんなとこを回ってるんだー」

 

自己紹介の後は草加のこれまでの話を聞いていた

 

「ああ。俺がいた所もあいつらがたくさんいてね。他の街に行けば安全なんじゃないかと思ったけど今のところどこも同じみたいだね」

 

「あいつらって外にいる人達のことよね?」

 

「ああそうだ。まったく、どこに行ってもいるから気が滅入るよ…あのバケモノどもめ…!」

 

「バケモノか……お前はあいつらのことが憎いか?」

 

草加がかれらのことをバケモノと呼んだことに眉をしかめ問いかけた。

 

「憎いかって…そんなの当然だろ。俺の友人も何人も襲われ二度と会うことも出来なくなった…!あんな薄汚いバケモノ、1匹残らず死んでほしいよ」

 

「っ、そうか……」

 

草加が机の上で拳にぎゅっと力を込めているのを見て胡桃は悲しげな顔でぼんやりと返した。どうやら自分に対してもそう言われていると思ってショックを受けているらしい。後で気にするなと声をかけてやろう、と考えているとふいに涼音が声をかけてくる。

 

「光くーん、さっきから静かだけど大丈夫?」

 

「ん?あぁ…大丈夫。ぼーっとしてた、ちょっと疲れてんのかもしんない」

 

「無理しない方がいいですよ先輩、さっきの店の探索には私たちだけで行ってきますからゆっくり休んでてください」

 

「でもさ…」

「いいからおまえは休んどけって、あたし行くから大丈夫だって!」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ行ってくるわね」

 

「ちゃーんとおとなしくしてなきゃだめだよ?」

 

「おう……気ぃつけてなー」

 

自分も行く気でいたが結局押し切られて光は留守番をしていることになった。

 

「彼のことは俺が見ておくから君達も安心して行ってきてくれ」

 

「……はい、よろしくお願いします」

 

草加も少し疲れていて休みたいと言い同じく車に残ることになりそれ以外の由紀達5人で行くことになった。

 

彼女達を見送り椅子に座る。すると草加の方から声をかけられた。

「疲れてるんだろ?ベッドで横になっていた方がいいんじゃないかな?」

 

「いや?言うほど疲れちゃいなしこのままで十分だ。そんなことよりせっかく2人きりで話せるしちょうどいい」

 

「何か聞きたいことでも?いいだろう聞こうじゃないか」

 

そう言うと草加は光の机を挟んで向かい側の椅子に座り直し腕を組む。

 

 

 

 

「お前ずいぶんと冷静だな。襲われて叫んでいた時とはまるで別人みたいだ」

 

少し冷たく言ってみると草加は途端にさきほどまでとは違い鋭い視線を送りながら答える。

 

「そりゃ死ぬと思ったからね、恐怖を感じてしまったし仕方ないだろ?」

 

「そ、ぼんやりお前の話聞いてたけどずっと戦うことなくここまで来たんだってな。やつらに囲まれたこともないって言ってたし運が良かったんだな」

 

あえて挑発するようにな言い方をしてみると彼は露骨に苛立ちを見せはじめた。

 

「ハァ!?もしかして君は僕のことが嫌いなのか?運なわけあるか、俺の力が優れていたからに決まってる。そもそもあんな動きの遅いやつらに囲まれる方が理解できないよ。そんなことも回避できないほど馬鹿なのかってね?」

 

「あっそ。お前店の中で俺がを助けた時にらんでしたろ?それがなんでか気になっただけさ。嫌な言い方して悪かったな別にお前が嫌いなわけじゃないから安心し……」

「気に食わなかったんだよ……お前のあの顔が…!」

 

光が言い終わる前に草加がぼそりと呟いた。

 

「は?」

 

そう声をもらすと草加は強く光をにらみつけ続ける。

 

「俺を見下したような顔で手を差し出してきただろ!なんで俺がそんな憐れみの目で見下されなきゃいけないんだ、なんで俺がお前らみたいな集まらなきゃ生きていけないやつらに助けられなきゃいけないんだ…!」

 

低い声で憎悪の目を向けながら声を荒げ怒りをあらわにする草加に少し驚きながら見ていると彼は見下したような笑みを浮かべ話を続けた。

 

「あいつらから話は聞いたよ、学校でびくびくと立てこもりくだらない現実逃避をし続けていたってねぇ。俺が毎日いろんなものを利用して上手く生きてていた間にそんなことしていた馬鹿がいたなんて驚きだよ。くだらなすぎて笑えもしないよ!俺はね1人じゃ何もできないようなお前らみたいなやつらが大嫌いなんだよ」

 

 

 

 

「おい……くだらないってのは聞き捨てならないな」

 

くだらない、自分達のこれまでのことをそんな一言で否定してきたことに苛立ちをおぼえ光もにらみ返す。

 

「お前に無理にわかってもらおうとは思わない、けどこっちだって死に物狂いで生きてきたんだ苦しい思いをしてきたんだ、それを勝手にお前の価値観でくだらないなんて決めつけんなよ、他人を見下して自分だけがすごいんだなんて勘違いしているやつに俺達のことをとやかく言うんじゃねえ…!」

 

「嫌いなやつを見下して何が悪い?俺はお前らみたいなやつらとは違う!だからちょっと遊んでやろうと思ったんだよ、お前らの仲バラバラにして1人でいた方がよかったんじゃないのって笑ってやろうと思ってたけど……その前に」

 

そう言うと草加は立ちあがり光を見下して笑う。

 

「その前にお前だけ追い出してやるよ。ついムカついちゃって全部話しちゃったし邪魔なお前をこっから追い出させるように仕向けてやるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…思ってた以上にしょうもないこと考えてたんだな、お前友達いないだろ?ガキみたいなこと言っちゃってさ?

…前言撤回、俺やっぱお前のこと嫌いだわ。そんな馬鹿なやつだとは思ってなかった」

 

「ハァ?」

 

彼のやろうとしていたこと聞き光は呆れてため息をつき笑った。身勝手な子どもじみたその考えに返す言葉も見つからないと言いたいところだが光も立ちあがり真っ直ぐに彼をみる。

 

「やれるもんならやってみろ。そんなこと本気でできると思ってんならな?」

 

そう光は笑ってみせた。




読んでいただきありがとうございました!

新たな仲間(?)草加くんを拾ってしまった学園生活部。彼らはこの馬鹿と仲良くしていくことはできるのでしょうか…。

こういうヤツ書くの初めてで予定より幼稚なこと言うヤツになってしまった…もっと上手く書けるようにがんばらなければ(^^;

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第三十三話 「けつべつ」

お久しぶりです、前回から2ヶ月以上投稿できずにいてすみません

またぼちぼちやっていきたいと思います。

第三十三話よろしくお願いします。


「じゃあひかるくんと草加くんはお皿とか洗ってもらえるかしら、私達は外で洗濯してくるから」

 

「わかった、気をつけてな」

 

「私と涼音さんで見張りをしながらするから大丈夫だよ!」

 

「そういうこと!洗い物が終わったら光君達は休んでいいからね!」

 

草加がこのまま同行することになった次の日、彼らは朝食を済ませ川の近くに車を停めた。

男子が車内で洗い物、女子が見張りとタオルや衣類などの洗濯と二手に分かれることになった。

 

「…さて、やるか」

 

女子が車から降りた後、光が呟く。

 

「フン、指図されなくてもわかってるさ」

 

「…別に今のはお前に言ったわけじゃないんだけどな、ただの独り言だ」

 

刺々しい態度で鼻を鳴らす草加に彼はため息まじりにシンクの前に立つ。そんな姿に更に苛立ちを見せるように草加は舌打ちをした。

 

 

 

 

「そういえば、まだ彼女達に俺のことを話していないみたいだね」

 

光が洗い草加がそれを受け取り拭く、という分担作業をしているとそう草加がわざとらしく言ってくる。

 

「…それはお前が割って入ってきたり話を遮ったりあの手この手で邪魔してくるからだろ」

 

「フッ、そうだったかなぁ?」

 

「ほら手止めんなよ、早く拭けって」

 

「チッ……はいはい。」

 

 

 

 

 

 

 

洗い物が大方終わった後草加が思い出したように「そういえば、」と声を上げた。

 

「胡桃ちゃん…だったかな?あのコ俺が近づくと避けるように距離を置くんだよ、君にはそんなふうにしないのにさ。もしかして僕のこと嫌いなのかな」

 

そんなことを言う草加に呆れたようにため息をつき答える。

 

「さぁ?お前がそう思うならそういうことなんじゃないの」

 

「もしかしてあのコは君のお気に入りだったりして。君と彼女はそういう関係なのかな、どこまでいったんだい?」

 

小馬鹿にしたような言い方に光はピクリと眉を動かす。水で濡れた手をタオルで拭きながら低い、苛立った声で草加の方を向いた。

 

「違う……お前そろそろいい加減にしろよ、さっきから好き勝手言いやがって。何も知らないくせに、誰がお気に入りとかそんなもんねえよ。みんな同じくらい大事に決まってんだろ…!」

 

彼がそう語気を強めて詰め寄ると草加は乾いた笑い声を上げた。そしてそのまま胸ぐらを掴んで押し殺すような声をぶつける。

 

「そうかいそうかい。みーんな大事ねぇ……そういう優等生ぶった綺麗事をはくヤツが俺は大嫌いなんだよ!そんな君が彼女達から必要とされなくなるところ、やっぱり僕は見てみたいなぁ…!君と彼女がそういうのじゃないなら俺が食っちゃおうかな、可愛い子ばっかりだし他の子達ともそうするのも良さそうだなぁ」

 

薄気味悪い笑みを浮かべる草加を睨み返し光も言い返す。

 

「昨日も言ったけどやれるもんならやってみな。何をするつもりかは知らないけど絶対無理だからな」

 

「フン、そうやっていられるのも今のうちさ」

 

 

 

「あの、洗い物終わりましたか?様子見てくるようにと言われたんですけ、ど……」

 

互いにそう言い争っていると車のドアが開かれる音と共に美紀が乗り込んできた。そうして掴みあっていた2人と目が合った時だった。突然草加が腕を押さえしゃがみこんだ。

「ぐっ!ぅぅぅ……」

 

「え…あの、草加さんどうしたんですか!?大丈夫ですか?」

 

苦しそうな声を上げた彼に心配そうに美紀が訊ねる。草加が俯いたまま話しはじめた。

 

「洗い物をしていたら明日野君がいきなり掴みかかってきて……抵抗しようとした時に捻ってしまったみたいで、ぐっ…!」

 

突然のことに困惑し美紀は光と草加をきょろきょろと交互に見る。そんな彼女に少し慌てて光は口を開く。

 

「いや、ちがっ…俺はなにも」

「…先輩」

 

はぁ、と息を吐き静かな声色で呼ぶ。その声に光は顔を強ばらせる。

 

「来てください、洗濯のお手伝いお願いします」

 

「ん、それなら俺が手伝うよ」

 

後ろで聞いていた草加が自分がやると名乗り出てるが美紀はそれに首を横に振る。

 

「いえ、先輩にお願いします。腕を捻って痛いんですよね?あなたは車で休んでて大丈夫ですよ、さあ先輩行きましょう」

 

急かすように光の手を取ると美紀はスタスタと車を降りた。

 

 

 

「ちょ、分かったから。そんなに引っ張んなくてもちゃんと歩くから」

 

美紀から連れられた場所は彼女達が洗濯をしていた河川敷、ではなくその近くにあるバス停だった。なぜこんな所にと彼は首を傾げていると美紀が口を開く。

 

「先輩が何もしてないのは分かってますよ。窓空いてて聞こえちゃったんですよ、先輩と草加さんが話してるの」

 

うっすら笑みを浮かべそう言う彼女に光は目を丸くし安堵の息をついた。

 

「なんだ、そうだったのか……」

 

「はい、それにしてもあの人なんか嫌な感じがするなって思ってたんですけどあんなこと言う人だったなんて…まったく、最低ですよ」

 

嫌悪感を露わにし怒った口調で言う彼女に驚きながら問う。

 

「みきもアイツのこと嫌ってたのか…ちなみに他のみんなもそうだったり?」

 

「どうでしょう、そういう話はしてなかったので…。

ゆき先輩は誰にでもあんな感じで接しますしゆうり先輩と涼音さんはいつもと変わらないかなって。あ、でもくるみ先輩はちょっと素っ気ない態度だったような気がしました」

 

「やっぱそうなのか、それ草加も言ってたなぁ。俺のこと嫌いなのかなって」

 

「じゃあやっぱりくるみ先輩もあまりよく思ってないのかもしれませんね」

 

そうだなと頷く彼に美紀はこれからどうするか問いかけた。

 

「すぐ他のみんなにも伝えますか?」

 

「どうだろうな…。できることなら草加には出ていってもらいたいんだがみんなにこのことを言って追い出せるような流れにできるかな……」

 

「そうですよね。あの人が私たちの前で実際に何かひどいことをしてみんなの反感を買うような事があれば上手くいきそうですけど……」

 

「まぁ、それが1番確実かな。すぐにとはいかないかもしれないが、アイツが自爆するのを願ってとりあえず今は様子見かな」

 

「そうしましょう、私も先輩たちに草加さんのことをどう思ってるかそれとなく聞いてみますね。先輩はまた何か嫌なこと言われるかもしれませんが大丈夫です、私は味方ですから!」

 

力強くそう言われ光は少し恥ずかしそうに頬をかく。

 

「はは、それは心強い……ありがとな、みき」

 

「気にしないでください。そろそろ戻りましょう、あんまり遅くなりすぎると心配されちゃいますし」

 

穏やかな笑みでそう言い歩きだす美紀に小さく頷き返す。2人は洗濯をしている河川敷へと歩きだした。

 

なかなか皆に草加のことを打ち明けられず自分だけに攻撃をされ内心ではもどかしさや苛立ちが募っていた。そんな中で美紀が自分は味方だと言ってくれたことに、あまり大きな反応は見せなかったが彼はその言葉に嬉しさや大きな安心感を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

女子達が洗濯をしている河川敷に行くとそこで2人は「げ…」と顔を歪ませた。

 

「ん、洗濯の手伝いをと言っていたのに明日野君も美紀ちゃんもどこに行っていたんだい?」

 

そこには車をいたはずの草加がいた。服の袖をまくり手を水で濡らしている、どうやら洗濯をしていたらしい。うっすら笑みを浮かべひかるくん達を見ていた。

 

「えっと、ちょっといろいろあって…」

 

「いろいろってなんだい?もしかして明日野君に何かされたのかい!?」

 

「違います!先輩はそんなことする人じゃありません!」

 

草加の言葉に美紀が声を荒らげる。すると草加は一瞬残念そうな顔をしてため息をつく。

 

「…そうか、それはすまなかったね」

 

そう言いながら肩にぽんと手を置こうとする草加を美紀はすっと後ろに下がり拒む。彼は僅かにその場で固まるが何事も無かったかのように洗濯をする女子達の方に戻っていった。

 

「まったく、そんなに先輩のことを悪く言いたんですか」

 

頬をふくらませ怒る美紀を光はまあまあと宥める。

 

「まぁ、アイツがやらかすの気長に待とうぜ」

 

ぽんと美紀の肩に手を置き光も女子達の洗濯の手伝いに向かった。

 

 

 

「あ!ひかるくん、みーくんも!2人ともどこ行ってたの?もうお洗濯終わったよ」

 

「あ、そうなの?悪いなちょっと散歩行ってたんだよ」

 

「え〜2人だけずるいよ!今度は私も一緒に行きたいぃ〜」

 

駄々をこねる由紀に苦笑し頬をかく。

 

「わかったわかった、今度な」

 

「約束だからね?それよりね、草加くんすごくお洗濯上手なんだよ!ほら、この前私がジュースこぼして汚したタオルこんなに真っ白にしてくれたの!」

 

機嫌は治してくれたらしい、いつもの調子に戻って目を輝かせる由紀。タオルは見せびらかしなぜかドヤ顔をしていた。

 

「へーこれはすごいな」

 

「知り合いがクリーニング店をしていてね、そこでよく仕事の手伝いをしていたんだ。ちょっとしたコツがあるんだよ」

 

光が感心した顔をしていると草加が自慢げに言ってくる。ふーん、と光が相槌を打っていると少し離れた所から胡桃が声をかけてきた。

 

「おーい、そろそろ車戻るぞ〜!ひかるとみきも来てくれ〜」

 

「ん、わかった今いく〜」

 

手を上げ駆け足で胡桃達の方に向かう。胡桃からジャージなどを渡されそれを両手で抱える。後ろでよいしょ、と胡桃がタオルを持ち上げる。するとそんな彼女に草加が近寄った。

 

「大変だろう、俺が持つよ」

 

「…いや、大丈夫だ。そのまま車戻っていいよ、手伝いしてくれてどうも」

 

そんな彼の手を避けて素っ気なくすたすた歩いていく胡桃。

美紀が言っていたように冷たい態度をとっていた。彼女もやはり草加をよく思っていないようだと彼は確信する。内心喜んでいると突然抱えていた洗濯物を何枚か奪われた。驚き横を見るとニヤニヤしている涼音がいた。

 

「ボッーとしてたなぁ?まったく、美紀ちゃんとデートなんて羨ましいな、ワタシも美紀ちゃんとデートしたいよぉ」

 

「いや違うって。涼音さん、というかそれなら俺じゃなく本人に言ったら?」

 

「あはは〜確かにそうだ……それより光くん何かあった?」

 

「……へ、なんで急に?」

 

突然おちゃらけた声から真面目な声色に変わり問われ思わず間抜けな声を出す。

 

「ん〜ちょっと元気ないかなって、まぁ、女の勘ってやつかな!女の勘って意外と鋭いから甘く見ない方がいいよぉ!ホラお姉さんに何でも相談してみなさい?」

 

結局元通りに明るい声でそう言ってくる涼音に小さい笑みをこぼす。

 

「お姉さんって、ちょっとしか歳変わんねえじゃん……ま、気が向いたら相談しようかな〜」

 

「え〜!つまんないなぁ〜」

 

肘で小突いてくるを適当にあしらい彼は車に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日の夕方のことだった。今日はここで1日過ごそうということになりそれぞれ思い思いに1日を過し、光が悠里と夕食の準備をしている時だった。

 

「ひかるくんちょっと聞きたいんだけど草加君のことどう思ってる?」

 

「どう、か…特に好きって訳ではないな。もしかしてりーさんもあまりよく思ってないのか?」

 

少し困ったように聞いてきた悠里に彼は周りに聞こえないよう声をひそめて問いかける。

 

「えぇ、ちょっと。彼少し距離が近すぎるというか…。それになにか信用できないような感じがあって…会ったばかりの人だし決めつけるのもよくないとは思うんだけれどね…」

 

「そっか。大丈夫だ、そう思ってんのはりーさんだけじゃないから」

 

そう小さな声で言いながらちらりと草加を盗み見る。

彼は胡桃に話でもあったらしい。椅子に座り窓から外を眺めていた胡桃の机を挟んで向かい側に腰かけた。

 

「…なにか用か」

 

それに気づいた一瞬だけ彼を見ると何事も無かったように視線を外に戻した。

 

「俺は何か気に障るようなことをしてしまったのかな。それなら謝りたいと思って、胡桃ちゃんともいい関係を築いていきたいしさ」

 

「別になにも?あたしのことは気にしないでいいよ」

 

机に肘をつき冷たくあしらう彼女に対しそんなことはお構いなしに草加は距離をつめる。

 

「そういうわけにもいかないだろ、俺はみんなと!」

「…!やめっ、触んな!」

 

そう言ってパッと胡桃の手を取る。その瞬間胡桃がビクッと肩を震わせ手を払いのけた。

そして払いのけられた草加は目を見開き自らの手を凝視していた。しばらくの沈黙の後、静かに口を開く。

 

「…俺は前にあいつらから足首を掴まれたことがある。その時の気持ち悪いくらいの手の冷たさを今でも覚えてる……君感染してるね?」

 

「っ……」

 

問いかけに黙り込む胡桃にため息をつきながら草加は立ち上がり見下ろす。

 

「……前言撤回だ、君にはがっかりしたよ。

 

みんな聞いてくれ!彼女は自分が感染しているにも関わらず黙っていた、これは大きな問題だろう。今後の彼女の処遇について決めたい!」

 

声高らかに言い放った草加だったが誰も答えることなく、無言のまま視線が集まる。

そしてその沈黙は由紀の一言で破られた。

 

 

 

 

「知ってたよ?」

 

「……は?」

 

「くるみちゃんが大変なのみんな前から知ってたよ、お薬も使ったしくるみちゃんは大丈夫だよ。このままで全っ然大丈夫だから落ち着いて、ね?」

「ふ、ふざけるな!」

 

由紀の言葉に草加が声を震わせ激昂する。

 

「君達は感染していると分かっていて一緒にいたっていうのか!?ありえない!いつ襲われるか分からない状態でこんな狭い所にいたら危険だろう!今は大丈夫でもいずれ外のヤツらのようになるんだぞ!すぐにでも追い出すべきだろう!

 

そんなバケモノとよく一緒にいられるな、理解に苦しむよ…!」

 

胡桃を指さしバケモノ呼ばわりされ彼の中でプツンと何かが切れた。

草加に掴みかかるとそのまま床に叩きつけた。

 

「…女の子をバケモノ呼ばわりするとかお前最低だな。謝れよおい……くるみに謝れ!!」

 

 

「…………ククク、ハハハハ!」

 

床に叩きつけられたまま草加は光の顔を見て笑いだした。

 

「とうとう暴力を振るったね、意見が合わない人にはそうやって手を出すのか、酷い男だ……俺の言ったこと間違ってないだろう、合理的じゃないか」

 

「……やっぱお前と俺達じゃいろいろと合わないな。お前がここから出ていけば全て丸く収まる、それでいいだろ」

 

「嫌だね。生存者を君は見捨てるのか、感染者なんて放っておいた方がいいだろ何の得もない」

 

「草加君」

 

草加がそう吐き捨てたところで悠里が静かに名前を呼んだ。しかしそれには穏やかな雰囲気などなく冷やかなものであった。

 

「私もひかるくんの言う通りあなたがこの車を降りればいいと思うわ。方針が合わないんですもの、仕方ないわ」

 

「悠里ちゃん、君はコイツの肩をもつのか…他のみんなはどうなのかな?教えてくれよ…!」

 

悠里からも否定され更に機嫌を悪くした様子で問いかける。

そう言われ美紀は草加をにらみながら答えた。

 

「私もひかる先輩に賛成ですね、あなたが出ていけばいいと思います。先輩からあなたのことも聞きました。はっきり言って私はあなたとは一緒にいたくないです」

 

「ごめんね、ワタシも光くんに賛成かな。ワタシはね、みんなのこと信じるって決めたの。だから胡桃ちゃんを追い出すなんてありえないよ」

 

2人に立て続けに言われ草加は唇を震わせる。「そうか…」と小さく呟き由紀の方を向いた。

 

「由紀ちゃんも俺がいなくなればいいって思ってるのかなぁ?答えくれよ、なぁ…!」

 

「ううん」

 

由紀は首を横に振った。そんな彼女に草加は笑みを浮かべた……が由紀は力のこもった顔を彼に向けた。

 

「出ていけなんて言わないよ、みんな仲良くしていた方がいいし。

でもね、その前に謝ってよ。くるみちゃんにひどいこと言ったんだから謝って!くるみちゃん悲しいのずっと我慢してるんだよ!」

 

誰もが草加に対し怒りをぶつけていた中、由紀だけは違った。

彼女は友達のことを想い怒っていた。光は改めて由紀が優しい心の持ち主であることを実感した。

 

「どいつもこいつも…ひかるひかるひかるって!!

……もういいよ、冷めた。もう付き合ってられない。お友達ごっこがしたいなら勝手にすればいい。俺は明日の朝にでも出ていくよ。まったく、喧嘩の1つくらいするかと思ったのにそんなにお互い好きなら無理そうだ。期待外れだよ」

 

全員の意見を聞き冷めてしまったらしい、悪辣な態度を隠すこともなくさらけ出しさきほどまでの激昂はどこへやら、落ち着きはらって低い声でそう吐き捨てた。諦めて自分が出ていくことにしてくれたらしい、それを聞き皆がほっと息をつく。

 

「よかった。俺にあんだけ言っといてずいぶん呆気なく諦めたな」

 

「あぁ、お前らの話聞いて興が醒めたよ、くだらないお友達ごっこをせいぜい今のうちに楽しんでおけばいいさ」

 

「あなたね!!!」

 

「ゆうり先輩、あんなの言わせておけばいいんですよ」

 

腕を広げくつろぎながらそう悪態をつく彼に悠里が食ってかかるがそれを美紀が止める。その通りだと光も頷くと諦めたように肩を落とした。

そんな彼らを鼻で笑いながら草加が声を上げる。

 

「そんなことより夕食はまだかな?せめて夕食くらいは食わせてから出ていかせてくれよ、まさかそれすらしてくれない薄情者の集まりじゃないだろ?」

 

「わかったわよ……!…みんなご飯にしましょう」

 

悠里がこらえるような声で夕食の準備を再開した。

 

「くるみちゃん大丈夫だよ、私たちはみんな一緒にいるからね!」

 

その頃由紀は胡桃の手を握り優しく語りかけていた。時折美紀や涼音と背中をさすったりして必死に安心させようとなぐさめる。

 

「…うん、ありがと………」

 

目に溜まった涙をこぼさせまいとこらえる胡桃の姿を見て光は改めて草加に強い憤りを感じた。彼女に酷い罵声を浴びせ悪びれることもなく座っている彼をどうしても許すことはできなかった。

 

 

それからはほとんど会話もなく暗い雰囲気のまま夕食をとり夜を迎え眠りにつくことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

皆が寝静まった夜、車内から棚が空けられる音や物と物とが擦れるような音がする。それからしばらくしてゆっくりと、できるだけ音を立てないように慎重に車のドアが開けられる。そして慎重に車から降りると、音を立てていた主は駆け足になりすぐにその場から離れようとする。

 

「待てよ」

 

後ろから呼び止められる声が聞こえぴたりと足を止めゆっくりと振り返る。

 

「なんだ起きていたのか。というかドアが開く音がしなかったがどこから出てきた?」

 

「ベッドの横に大きめの窓があってな、そっからさ。こんな遅くに何してたんだよ」

 

「気が変わってね夜に出ていこうとしたんだよ、お前らからしたって早くいなくなってくれた方が嬉しいだろ?」

 

首を傾けながら声をひそめ笑う草加。そんな彼にため息をつく。

 

「そりゃありがたいさ。でも俺が言ったのはそっちじゃねえ、車の中で何してたか聞いたんだ」

 

草加の持つバックを指差しながら問う。その行動に草加も視線をバックへと向け「あぁ」と半笑いで答えた。

 

「食料だよ、すぐに食料のある所へ行き着けるとは限らないからな」

 

「俺達は食料分けてやるなんて一言も言ってないぞ?何勝手に持ち出してんだよ」

 

草加が怒気を帯びた声を発する光に低い声で言う。

 

「言われてないね、でも君達分けるつもりなかったろ?だから独断で詰めさてもらったよ。ま、授業料ということで今回は貰っていくよ」

 

「は?授業料って一体なんのだよ」

 

「そりゃ、世の中優しい人だけじゃないから気をつけようねって言う話の……ね!」

 

草加は意地の悪い笑みを浮かべそう言ったかと思うと踵を返し走り出した。あっと声を上げ慌てて光も後を追い駆けだした。

 

 

 

 

 

 

2人は夜の道を走る。

先を走る草加の持つライトの明かりを頼りにそのあとを追って走る。

しかしそのレースは長くは続くことはなく、

 

「はい残念、捕まえた」

 

「……っ、く、離せ!くそ!思いの外、足が速いんだな……!」

 

「そりゃ一応元陸上部だからな。足には自信があんだよ。

さ、食料返してもらおうか。悪いが俺はお前に何もくれてやるつもりはないからな!」

 

呆気なく追いつかれ焦る草加がよろけながら掴みかかる光を振りほどく。そうして後ずさりしながら睨む。

 

「しつこいな!俺はこんなところで死にたくないんだ、お前らは車もあるしまた簡単に物資なんて調達できるだろ!絶対にこれは返さない、次近づいてきたら容赦なく殴るからな!」

 

バックを胸に抱え叫ぶ彼に光は苛立ち唇をぎゅっと噛む。

どうにかして奪い返したい、自分達が見つけたり悠里が家計簿をつけしっかりと管理までしていた食料をこんな奴にだけは取られたくない。そんな想いから必死に取り返そうと試みた。ここまできたら例え後で彼女達に心配をかけるとしてもお互い痣だらけになるぐらい殴りあってでも取り返すしかない。

 

 

 

 

 

 

そう腹を括り一歩踏み出した時だった。彼はあることに気づきそして、思いついてしまった。自分が無傷で簡単に食料を奪い返す方法を。

 

 

 

「……そうか。分かったこれ以上近づかねえよ、俺はな」

 

わずかに下を向き表情が見えないようにしながら静かに言う彼を不可解そうに草加は首を傾げた。

 

「急に大人しくなったな、まあいい。じゃそろそろ行くよ。君らもくだらない現実逃避をせいぜい楽しめよ…!」

 

そう嫌味を言い背を向けようとした時、光が口を開く。

 

「残念だったな、こんなところで終わりだなんてさ。そんなに近づいてても気づかねえんじゃどのみち駄目だったろうけどな」

 

「ハァ?それってどういう……ぁ!!!!」

 

 

 

 

言葉の真意を問おうとしたその瞬間、背後から草加の肩に手が置かれた。否、置かれるというより手を叩きつけたといったところか、そして力任せに肩を掴む。草加は慌てて振り向き顔を目を見開いた。すぐさま彼の心はきっと恐怖に支配されたのだろう、自らの身に起こったこの状況に発狂した。

 

「うああぁぁああ!やめろ…離せ!!!」

 

「背後からノロノロと足引きづる音まで立てて近づいてたのに……もっと周りに注意した方がいいと思うぜ?」

 

「ああ……ああぁあ!んなこと言ってないで助けろよ!!おい!」

 

肩をがっしり掴み首元に噛みつこうと顔を近づけてくるかれの額に片腕を押し付け引き剥がそうしながら草加は叫ぶ。青ざめた顔で叫ぶ彼に光は鼻で笑いながら答えた。

 

「俺言ったよな、これ以上近づかないってさ?お前だってそれを望んでたじゃないか。あ、お前が叫んでばっかだからまた一体来ちゃったぞ」

 

「そそそ、そんなこと言ってる場合じゃねえだろ早く助けてくれって!!」

 

「そ。んじゃまず手に持ってるバックこっちにぶん投げな。片手塞がってちゃ危ないだろ」

 

「がぁ!……っくそ!……ほら、早くこいつら殺してくれよ頼むから!」

 

左手を軽く出しながらそう言う光に草加は素直にこちらへ奪った食料の入ったバックを投げ渡す。自分の足元その少し先に落ちたバックを光は拾い上げるとそれを肩にかけた。

 

 

 

「なぁおい、何してたんだ………ぐぅっ!早く助けてくれって…それ渡したら助けてくれるって約束だろ……?」

 

一向に向かってこない光に声を震わせる草加。そんな彼をまっすぐ見つめ彼は答えた。

 

 

 

 

「ん、俺はバックを渡せって言っただけなんだけど?何か勘違いしてないか」

 

「へ……お前……!!!あ、がああぁぁああ!やめろおぉおお!」

 

光の答えに唖然とし力の抜けたその刹那、叫び声に釣られ新たにやってきたもう一体のかれらにも掴みかかられそのまま草加は押し倒され地面に強く打ち付けられる。そうしてとうとうかれらの一体が草加の身体に噛みついた。

 

「あぁぁぁぁ!!!がぁ、あああぁあああっ!」

 

身体のあちこちを矢継ぎ早に噛まれ絶叫する彼を見下ろし光は言葉をかける。

 

「そういやゆきも言ってたけどまだくるみに謝ってもらってないなぁ!謝ってくれれば気が変わるかもしれないなぁ!!」

 

「……っ!!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさい!……ごめんなさい!!!」

 

しかしその言葉を聞いても彼は1歩もその場を動くことなどしない。

 

「ようやく謝ってくれたか……。

よかったな、これでお前もバケモノの仲間入りだ。くるみにバケモノなんて言ってたが実際自分もそうなってみて今どんな気持ちだ?

バケモノさんよぉ」

 

ゴミを見るような目で冷たく言い放つ光の声はもう届いていなかったらしい。草加はその問いには答えず身体中を噛まれる痛みや恐怖から喉まで潰し叫ぶばかりだった。

 

 

それから数分後のこと、バキッと硬いものが折れる音と共に絶叫は止まった。見ると草加の首が少し変な方向に曲がっている。首の骨を折られとうとう死んでしまったらしい。頬を涙で濡らし光を失った目を開けたままぴくりとも動かなくなった。

 

そこでようやく光は動きだす。ゴルフクラブを握りしめ今もなお草加を貪るかれらの頭にそれを振り下ろし粉砕した。

 

 

 

 

 

 

「ずいぶん無様な姿になったな。あんなに憎まれ口を叩いていたのがもう懐かしく思えてきやがるよ」

 

草加、だったものに彼はつぶやく。もちろん返事が帰ってくることなどないとわかっていながらである。

 

「まったく、馬鹿なヤツめ…俺達にくっだらねえ喧嘩売るからそうなるんだ。自業自得ってやつだな、まあせめてもの慈悲だと思えお前があいつらにならねえように確実に終わらせてやるよ」

 

冷たく吐き捨てると万が一草加がかれらになってしまうことないようにとゆっくりとクラブを振り上げ狙いを定める。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バイバイ、草加クン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口元をわずかに歪ませ一撃、彼の頭を叩き割った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました!

投稿していない間にUAが10000を超えていてちょっとびっくりしました。みなさまありがとうございます(⌒▽⌒)
これからもゆっくりではありますが更新頑張っていきます(^^;

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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第三十四話 「おんがく」

ちょうど5ヶ月振りの更新になってしまいました…お久しぶりです。

第三十四話よろしくお願いします。


草加だったモノを近くの草むらに隠して近くの川で血に濡れたゴルフクラブを手際よく洗う。そうして車へ戻ろうと歩きながら考える。

 

草加のことをどう言おうか。

悪いのは明らかに草加の方だ、しかしだからといって自分が殺したとあるがままのことを言ってしまうのは彼女たちが少なからずショックを受けるかもしれない。ここは彼女たちのためにも嘘を言っておこう。適当な理由をつけてアイツは夜のうちに出ていった、と。

 

車の前まで帰ってくると、できるだけ音を立てないように車の窓から入り自分のベッドへ戻り何事もなかったかのようにそのまま眠りについた。

 

 

 

翌朝、目が覚めベッドの前のカーテンを開き車内を見渡す。

運転席にも、テーブルの所にも誰もいないようだ。それだけのベッドの前の仕切りのカーテンも皆閉まっており、すうすうと寝息も聞こえてくる。全員まだ眠っているらしい、今のうちだと草加の持っていたリュックを取りベッドから出る。そうして持ち出された食料などを元あった棚にしまい、光は椅子に腰を下ろした。

 

初めてかもしれない。

初めてまだかれらになっていない人間にゴルフクラブを振り下ろした。

あれだけ噛まれていたのだからいずれかれらになってしまうのだがあれはまだ人間だった。自分は初めて人間を殺したのだと自らに投げかける。

 

しかし罪悪感など何も感じることができなかった。何の感情も起こらず、冷酷に武器を振り下ろしただけ。やはり自分には本来なくてはならない心が抜け落ちてしまっているのだろう。

 

大げさなため息をつき、やることがないからと日記を開きこれまでのことを書き記していく。たいした娯楽もなくなってしまったこの世界、書き記すのに没頭し気づけば時間が経っている、ということができる日記に光は自分で予想していた以上に熱中していた。そのせいもあってか彼の日記は日記にしては詳細すぎるくらいその時に彼や彼女らが言った言葉や状況を鮮明に記していた。

 

 

 

「おはようひかるくん」

 

「……。」

 

「ちょっと、聞いてる?ひかるくん!」

 

「ん……あ、おはようりーさん。いつも早起きだな」

 

声をかけられているのに気づかず少し遅れて顔を上げ挨拶をする光。そんな彼にもぉ、と小さくため息をつきながら悠里は辺りを見回し首をかしげる。

 

「ねぇ、あの人の姿が見えないのだけれど……。」

 

「あの人?あー草加のことか。アイツなら夜のうちに出ていったよ、俺が見送ったし間違いない」

 

「え、夜に?なんで急に、彼明日の朝出ていくって言ってなかった?」

 

「それは……なんでだろうな。気が変わったとか言ってたよ、お前らだって早くいなくなった方がいいだろ?とも言ってたな」

 

「……そう。それならそれでいいわ。私だって正直もう会いたくなかったし。…じゃ!朝食の準備しておくわ。ひかるくん、もう少ししたらみんなを起こしてもらってもいい?」

 

「おう。」

 

小さく返事をした。

 

 

 

嘘は言っていない。

気が変わったと言ったのも早くいなくなった方がいいだろうと言ったのもアイツが本当に言っていたことだ。

自分は全てを話していないだけで嘘を言ったわけではない。

これでいい、別に知らなくていいことだってある。彼女達のためだ。

 

そう自分に言い聞かせ何事もなかったかのようにこれまで通り振る舞った。

 

 

 

 

 

朝食を済ませ光の運転で車が走るなか、由紀がひょっこりと現れた。

 

「ねえねえ退屈だし何か音楽流そうよ!」

 

「音楽?CDとかあんのかな…」

 

光がそう言うと由紀はくるりと後ろを向き座っていた涼音に聞く。

 

「う〜ん何もないかなぁ、ごめんね私がいたとこから少しくらい持ってくればよかったね」

 

申し訳なさそうに頬をかく涼音。由紀の望みは叶わないらしい。「そっかぁ」と残念そうにする由紀の様子に美紀も苦笑しながら口を開く。

 

「たしかに音楽があったほうがリラックスできたりするかもしれませんね」

 

「なら今度CDショップでも見つけたら寄ってみるかー」

 

「くるみちゃんいいね!うんうん、そうしよう!」

 

 

にこやかに談笑する彼女達の声に僅かに顔をほころばせながら光は車を停める。運転席を降り悠里へ声をかける。

 

「そろそろ昼飯の時間だよな。車この辺に停めとけばいいよな?」

 

「ええ、大丈夫だと思うわ。みんなそろそろお昼にしましょ」

 

悠里のひと声に机の上を片付けたり、食器を取りだしたり、昼食の用意をしたりと各々準備を始める。時おり笑顔を見せながら動く彼女らの姿を見て光はやはり草加がいなくなってよかったと心の中で思った。昨日までは彼女らに笑顔がいつもより少ないと感じていたこともあり、元の日常が帰ってきたようだと安堵していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「ごちそうさまでした!!」」」」」」

 

昼食後、ゆっくりしていると涼音が「そうだ。」と声を上げた。

 

「ねぇねぇみんな!気分転換にちょっとお散歩にでもいかない?せっかくのいい天気なのにずっと車の中にこもってるのはもったいないよ!」

 

「おさんぽ?いいねいいね〜!私いきた〜い!」

 

ピンと手を挙げ彼女の提案に賛成する由紀。他の面々にも声をかけていく。

 

「ほらほら、みんなもいこーよ!」

 

「…そうですね、私もちょっと外の空気が吸いたいので行きます」

 

「お、いいね〜みーくん!くるみちゃんたちは?」

 

「ん〜あたしはいいや。お昼も食べたしちょっと眠くてさ」

 

「食べてすぐ寝ると太るんじゃない?」

 

「余計なお世話だ!その分あたしは普段よく動いてんだ!」

 

小馬鹿にしたような言い方に胡桃は噛みつき仕返しに由紀の脇腹をくすぐりだした。

 

「おまえこそ運動したほうがいいと思うんだけどなぁ〜??」

「あはははは!ご、ごめんなさいぃぃ…」

 

そんな2人のやり取りを見て微笑みながら今度は悠里が口を開いた。

 

「2人とも騒ぎすぎちゃダメよ、私もくるみと残るわ。食器を洗ったりしたいし」

 

「そっか、じゃあ仕方ないね。ね、ひかるくんはどうする?」

 

問いかけられ光はうーんと小さく唸った。

 

「くるみは車で待ってるって言うしな…うん、俺ついてくよ」

 

笑みを浮かべそう答えた。それを聞いた由紀はぱっと顔を輝かせる。

急いで準備を済ませドアの前で早く行こうと急かしてくる。

 

「あはは、言い出しっぺはワタシだったはずなんだけどなぁ〜。じゃ胡桃ちゃん悠里ちゃん、ちょっと行ってくるね!」

 

「ええ、気をつけて行ってきてくださいね」

 

「みんななんかあったらすぐ戻ってこいよ〜」

 

「うん、もちろん。それじゃあ……」

 

「「「「いってきます!」」」」

 

悠里達に見送られながら4人は手を振り散歩へと出かけた。

 

 

 

 

「ふ~んふんふ〜ん♪」

 

ゆっくりと雲が流れその隙間から暖かい陽の光が射し込んでくる。吹いている風も暑すぎず寒すぎることもない穏やかなものであることから、そろそろ夏が終わり秋へと季節が移り変わろうとしていてることを彼らに感じさせていた。

鼻歌交じりに上機嫌に歩く由紀を先頭に光、美紀、涼音は誰もいない静かな道をゆっくりと歩いていた。

 

しばらくの間他愛もない話をしながら歩いているとそこそこの広さの公園に着いた。そこに置かれたいくつかの遊具に目を配り由紀が「わぁー!」と声を上げた。

 

「懐かしいな〜昔は暗くなるまでよく遊んだなぁ〜」

 

「そうですね。こういうとこに来ると小さい頃のことを思い出してちょっと懐かしくなっちゃいます」

 

由紀の言葉に頷いてそうつぶやくと美紀は顔をほころばせる。

 

「ねぇみーくん!ちょっと遊んでいこ!」

 

「え、私たちもう高校生ですよ、こんなところで遊ぶのはちょっと……」

 

「大丈夫だよ〜誰も見てないし、ちょっとだけ!」

 

渋る美紀の手を半ば無理矢理とり、遊具へ駆け出そうとしたその時だった。人や生物の声などではない優しい音が辺りに響き渡ってきた。

 

 

 

 

「ん、これは……楽器の音か?」

 

「たぶんバイオリンの音だと思います。でもどこから……」

「あ、みんな見て!あそこ、あの丘の上!」

 

涼音が驚いた声で指を指し光達もその指す方を見る。

 

 

その公園には遊具から少し離れた所に小さな丘のような場所が作られていた。そしてそこには屋根があり、木製のテーブルやベンチが置かれている。

そんな場所に若い男が1人立っていた。

男の首元にはバイオリンがあり、そして優雅に身体を動かし音を奏でていた。

 

奏でる音はだんだんとリズムを上げ明るくアップテンポな曲へとなっていった。

奏でられる音色と男の優雅な佇まいに魅入られ4人は静かにその曲に耳を傾けていた。

4、5分ほど経つと一曲引き終わったようで男はゆっくりと首元からバイオリンを離しぐるりと辺りを見回す。

そうして光達の存在に気がついたようで慌ただしくバイオリンをケースにしまい、テーブルに置くと彼らの方へ向かうため丘を駆け下りてきた。

 

男が自分達の方へ向かってきていると知り光達は話を聞いてみることにした。駆け下りてくる男に近づこうと歩き出すと向こうから騒がしい音が鳴る。見ると男が足を滑らせ転び頭から地面に倒れこんでいた。

 

 

 

 

「え、えっと……大丈夫ですか?」

 

慌てて男に駆け寄り涼音が心配そうに顔をのぞき込む。男はふらふらとしながら顔を上げ一言、

 

「は、はい……すみません、大丈夫です……」

 

なんとも力のない声ではにかんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

話をするなら安全な場所でしようということになり車に戻ることにした。

昨日の草加のこともあり、胡桃も悠里も彼を入れることに難色を示していたが由紀や涼音の説得により何とか了承を得ることができた。

 

「えと、はじめまして。僕は瀬戸(せと) (わたる)です。よろしくお願いします」

 

穏やかな声で小さくお辞儀をしたその青年に釣られ光達も「どうも……」とぺこりと頭を下げた。

茶髪で前髪は眉毛の辺りまでかかりサラサラとしたストレートヘアーをしていて若干幼さが残る美青年という言葉が似合う顔、おおよそ大学生くらいだろうかと彼の顔を見る。

 

「えーと……瀬戸さんはどうして外でバイオリンを演奏してたんですか?」

 

「あ、渡でいいですよ、みんなから名前で呼ばれてたので。

外で演奏してたのは他の人に音楽を届けてあげたかったから、ですかね。こんなことになっちゃってもう音楽を聴く機会なんてあんまりないだろうしずっとなんの音もないのは寂しいかなと思って……」

 

涼音に問われるとはにかんで渡はそう答えた。

 

それからも彼の話を聞いた。

渡はバイオリン職人なのだそうだ。彼の父はバイオリニストで父の遺したバイオリンに魅せられそれを超えるバイオリンを作るため試行錯誤を重ねる日々を送っていたらしい。

壊れたバイオリンの修理などでも生計を立てていたらしく、その筋の人間の中でも結構名前が知られているほどの腕前らしい。

 

「渡さんはすごい人なんだね!じゃあ音楽を届けるためにいろんなとこたびしてるの?」

 

目を輝かせる由紀に照れたように頭をかくと渡は首を横に振った。

 

「いえ、住んでるのがこの近くなんです。僕もほんとは旅にでも出ようかなと思ってたんですけど尊敬している人に頼まれたんです。僕たちの帰る場所を守っていてほしいって。それでその人が帰ってくるまで僕はここに残って音楽を奏でようって決めたんです」

 

「へ〜その尊敬してる人はどんな人なんだ?」

 

話を聞いていた胡桃が興味深そうに問うと渡は嬉しそうに顔をほころばせる。

 

「とても正義感が強くて、まさしく正義の味方!って感じの人で行動力もあるし僕の相談にも乗ってくれてカッコよくて……僕の憧れなんです!いまは他の所にも困っている人達がたくさんいるだろからってそういう人達を助けに行っています。

……僕の周りにいた大切な人達は僕とその人を除いてみんな外の人達と同じようになっちゃって。彼にみんなといたいつもの場所でおかえりなさいって出迎えるためにも僕はここで生き続けようと思ってるんです」

 

「そっか、渡さんも大変な思いをしてきたんだな……」

 

「そうですね……でもみなさんだって大変だったんですよね、学校で生活していたと聞きましたが……」

 

そういえば車に戻ってくる途中に由紀がいろいろと喋っていたなと思い出す。彼女の初対面の人ともすぐに仲良く話せるところは自分には真似できないなとつくづく思う。

 

「ええ、でも私たちはみんなで協力していろんなことを乗り越えてきたから……ただただ辛い日々ってわけではありませんでしたね」

 

悠里が学園生活部の面々も見ながら小さく微笑んだ。

 

「みなさんがすごくお互いを信頼しているのは見ていてなんとなくわかります、素敵な人達だなぁって思いました」

 

彼の裏表のないと感じさせる穏やかな声や優しい笑みに自然と彼女達も照れや嬉しさを覗かせる笑みをうかべている。

 

出会ったばかりであるし決めるには早すぎる気もしたがこの渡という青年は害のない人間だろうと光も感じてきていた。草加とは大違いだった。本性を現してからの言動はもちろん苛立ちなどの不快感があったがそれ以前の時にもどことなく胡散臭さや不信感を感じていた。

しかし渡にはそのようなものは一切感じない、本心を言っているとしか思えない表情や声色に光の警戒心も次第に薄れていた。

 

「あの、もう少ししたら日も暮れてきちゃいますしよかったら今日は僕の家に来ませんか?家の前に門もあるので安全ですよ」

 

「そうだな……ここはお言葉に甘えてお世話になろうかな、みんなもそういうことでいい?」

 

「そうですね、私もそれでいいと思います」

 

それからしばらく談笑していると渡がそう提案してきた。

断る理由もないしせっかくだから好意に預からせてもらおうと話も決まり、一同は渡の案内のもと彼の家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「辺りに誰もいないみたいです、いまのうちに門を開けましょう」

 

「了解です………よっと!!」

 

渡の合図で門を開けようと力を込める。ここ最近は古くなって開けるのも一苦労になっていたらしい。実際にその門は重く光も思わず苦笑した。

ギギギギ……と少々耳障りな音を立て門が開く。

それを確認し光は車のほうを向き頭の上で大きく丸を作る。

それからすぐに車が動き敷地の中へ進みだす、そして車が通ってからすぐに今度は内側から門を閉めた。

 

「渡さんいつもこんなんやって外に出てるんですか?大変ですね……」

 

ふぅ、と息をつきながら言うとそれに渡は首を横に振った。

 

「いえ、普段は裏口があってそこから外に出るんです。車は正面の入り口からじゃないと通れないので」

 

渡がそう答えていると後ろが元気な声が聞こえてくる。お、と小さく光が口を開いた。

 

「みんな降りてきたみたいだ。渡さん、俺達も行きましょう」

 

そう言って車から降りてくる彼女達の元へ足早に向かった。

 

 

 

 

 

 

「わーすごい!ほんとにお屋敷だぁ〜!!」

 

「改めて近くで見てみるとやっぱすげえ……」

 

「なかなか雰囲気のある洋館ですね」

 

口々に感嘆の声を上げる彼女達に恥ずかしそうに渡がブンブン首を振る。

 

「ほんと見た目だけですから、中はたいしたものはないですしあんまり期待しないでくださいね!?」

 

屋敷に住んでいると伝えた時からソワソワしていた彼女達の興奮ぶりに困ったように声を上げていた。

 

彼女達が騒ぎだすのも無理もない、渡の家は住宅地の中で圧倒的な存在感を放っていた。どこでも見かけるような家々が建ち並ぶなかで黒い門とレンガと柵で周りをぐるりと囲まれたその白い洋館は思わず立ち止まって見上げてしまいたくなるような立派なものだった。

二階建てのその家は木材を多く使用した木のあたたかさを感じられる居心地のよい内装になっていた。

 

基本的には1階を居住スペース、2階をバイオリンの工房としており、2階へ上がると大きな机の上には道具や作りかけのバイオリンなどが散乱していた。渡は「汚くてすみません。」と恥ずかしそうに片付けようとしていたが初めて見る光景に興味津々だった由紀達がお願いし実際にバイオリンを作るところを見せてもらった。

話している時はとても穏やかな雰囲気だった渡のバイオリンに向ける真剣な眼差しや手際の良さに光達はさっきまでとは別人なのではないかと思ってしまうくらいの驚きと共にその作業に見入っていた。

 

「ふぅ……とりあえず形はこんな感じで、色はまた別の日にということで。どうでしたかねずっと見てただけですし退屈でしたよね、集中しちゃっててあんまり話したりもしませんでしたし……すみません、いつも没頭して区切りのいい所まで作り続けちゃうんです」

 

「ううん、そんなことないです!バイオリン作るとこ初めて見たしおもしろかった!」

 

由紀が満面の笑みで答えそれを見た渡もほっとしたように笑みを見せた。

 

「私たちの方こそすみません、やりづらかったですよね」

 

「いえいえ!むしろ嬉しかったです、いつも1人寂しく作っていたのでなんだが今日は楽しかったです。

外も暗くなってきましたしそろそろ夕食の時間にしましょう、食べ物はたくさん残ってるのでご馳走しますよ。1人だと食べきれずにダメにしちゃいそうなので遠慮せずどうぞ」

 

家には彼とその仲間達で分け合うはずだった食料が備蓄されていた。その仲間達は1人を除いて感染してしまい渡1人で消費することになってしまっていたらしい。

 

家にあった食料をご馳走になりしばらくの間皆で楽しく語り合いその日はお開きとなった。

1人ずつに部屋が与えられおやすみと挨拶を交し眠りについた。

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、光はふと目が覚め布団から出た。喉の渇きを感じ部屋を出てリビングへ向かう。テーブルに置きっぱなしにしていた自分の水を手に取りペットボトルのキャップを開ける、そうしてその水を流しこもうと首を上に向けるとあることに気づいた。

 

「……渡さん?」

 

リビングに階段がありそこから工房として使っている2階の部屋に直接上がれるようになっている構造のため柵はあるが上の様子が見えるようになっている。その柵の隙間から椅子に腰かけ窓のほうを向き空を眺めている渡の姿が見えた。

なんとなく気になったので声をかけてみようと木製の階段を昇る。ギシ、ギシと軋む音に気づいた渡がはっと振り向いて穏やかな表情で首を傾げた。

 

「あ、光くん。どうしたんですかこんな時間に眠れませんでしたか?」

 

「いや、喉が渇いたんでちょっと水を飲みに……渡さんこそ眠れないんですか?」

 

光がそう問い返すと渡は少し悲しげにも思える顔で小さく笑った。

 

「……はい、大切な人達のことを思い出してちょっと寂しくなっちゃって。誰かとあんな風に楽しく過ごせたのはできたのはすごく久しぶりだったので。羨ましいです、あんな賑やかな人達だから毎日悲しい思いなんてせず過ごせるだろうなぁって……」

 

「そうでもないですよ……少なくとも俺は」

 

え?と小さく声を上げ自分を見る渡に光は椅子を彼と同じように窓のほうへ向け静かに腰を下ろした。

 

「車でも話したけど俺達前まで学校にいたんです。その時に自分達の恩人とも言える人を俺は……殺した。

やつらになってたし殺らなきゃ俺達がやられてたから仕方ないんですけどね。それでも俺は大切な人を殺した、その事に変わりはないから。時々夢に見るんです、あの人の頭を叩き潰したあの瞬間を……。」

 

下を向きながら光が語りそれから少しの間2人に沈黙がおとずれる、気まづくなり顔を上げて無理やり笑みを作る。

 

「あ〜暗い話しちゃってすみません、今の話忘れてください。さ、そろそろ寝よっかなぁ……」

 

そう言って立ち上がろうしたその時渡が静かに口を開いた。

 

「……僕も同じです、忘れようにも忘れられないですよねそういうのって」

 

ぴたりと動きを止め光は上げかけていた腰をそっと下ろした。

 

「僕も大切な人を終わらせてしまいました。僕の初恋の人でした。僕、兄がいるんですけどその人は兄の許嫁で、でも彼女は僕を想っていてくれたそうで……俗にいう三角関係というやつでした」

 

少し照れたようにしながらそう言い渡は続ける。

 

「世界がこうなってしばらく経ったある日、彼女は怪我をして僕の前に現れました。噛まれてしまいもう自分は助からないと悟ったそうです。彼女は僕に頼みました、『私を殺して』と。そんなことできるはずないと断ったんですがそうしてる間に彼女は外の人達と同じようになってしまって、それで……」

 

「彼女を終わらせた……ってことですか」

 

「……はい、ふらふらと歩く彼女を見てこれからずっとこんな風にさまよい続けると思うといたたまれなくて、もう休ませてあげよう、と。

後から駆けつけた兄は血を流し倒れる彼女を見て僕を殴りました、どうして殺したんだと。理由を説明すると、俺は一緒に死にたかった、それなら彼女に噛まれてずっと一緒にいたかったと泣き叫びました。僕をだって殺したくはなかったのに……。

それから兄は僕の前から姿を消しました、兄との初めての喧嘩でした。

僕が外に出て音楽を奏でるのは彼女を含めた多くの人へ向けた鎮魂歌なんです。それくらいなんです、僕ができる償いは……。」

 

 

彼の話を聞き光は静かに口を開く。

 

「渡さんも、その……すごく悲しい経験をしたんですね。なんなら俺より悲しい、俺には一緒にいてくれる仲間がいるだけマシなんだ……。なんかすみません、俺自分のことを少しだけ悲劇の主人公みたいに思っていました。世の中にはもっと辛い思いして生きてるってのに」

 

そう言うと渡は静かに首を横に振った。

 

「いいと思います、こんな世界に生きてる時点でみんな悲劇の主人公ですよ。いきなりあたりまえだった日常を奪われて大切な人を失って……。自分を悲劇の主人公だぐらい思ってないと気持ち的にやっていけないですよ!

 

こんな悲しい世界です、みんなそれぞれ様々な目に遭ったと思います。その中で誰の経験が1番辛いとか比べる必要ないですよ。僕もあなた達も他の生存者達も、皆等しく辛い経験をしたはずです。自分の辛い思いをそんな蔑ろにしないでください、しんどい時は抱えこまずに泣いたりしたっていいんですよ」

 

「…………。はは、そっかぁ、確かにそう考えるのもアリだな……。誰かにこんな風に認めてもらえたのは初めてだな」

 

渡の言葉にすとん、と少し肩が軽くなったようなそんな気がした。

 

確かにそうだ、こんな世界でなんの苦労も味わわなかった者などそうそういないだろう。そんななかで自分と誰かをいちいち比べることなど彼の言うとおり無駄かもしれない。

生きてるだけで儲けもの、なんて言葉をどこかで聞いたことがある気がするが案外そうなのかもしれない。光は笑みをうかべ椅子から立ち上がった。

 

「渡さんありがとうございました。少しだけど肩の荷がおりた感じがする、ちょっと楽になった感じで……これからもまだ頑張っていけそうです」

 

光の顔を見て嬉しそうに顔をほころばせ渡は答える。

 

「それはよかったです。

お互い、キバっていきましょう!」

 

「……き、ばって、ん?きば……?」

 

「あ、ああすみません、言いませんかね?元気に頑張っていこうとか張り切っていこう、とかそんな感じなんですけど……」

 

「あ〜なるほど。いいですね、みんなとこれからも元気にやっていけるよう頑張ります。

 

……結構長いこと話しちゃいましたね、そろそろ部屋に戻ります、お話聞いてくれてありがとうございました」

 

「こちらこそありがとうございます、おやすみなさい」

 

渡に軽く手を振り階段を下り部屋に戻った。彼と話して本当に気が楽になったようでその後すぐに彼は悪い夢も見ることなく眠りにつくことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、時間は午前10時を回った頃。

身支度を整えた光達は渡の前に横並びになって向かい合う。

 

「それじゃあ渡さん!」

 

「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」

 

由紀の言葉を合図に一斉に頭を下げる。

そんな彼女達に対して渡は少し驚いたようにしながらも笑みを作り、

 

「こちらこそありがとうございました」

 

そう言って頭を下げた。

 

 

 

「渡さん!バイオリン作るところ見せてくれてありがと!」

 

「食料まで分けていただいて本当にありがとうございます」

 

「こんなオシャレな屋敷に泊まれる日が来るとは思わなかったよ、ありがとうございます!」

 

「弾いてくださったバイオリンとても素敵な音色で感動しました」

 

「ん〜!由紀ちゃん達に言いたいこと全部言われちゃった!とにかく楽しかったです!ありがとう!」

 

 

「こちらこそありがとう、僕もみなさんと過ごせて本っ当に楽しかったです、また来てくださいね!」

 

車に乗り込む前に彼女達が渡に一言お礼を言っていく。

全員が乗り、車のエンジンがかかったのを確認すると光は渡と共に門の前に立つ。

 

周辺にかれらがいないか確認し一気に門を開く。そうして来たとき同様に車に向かって腕で大きく丸を作り合図を送る。それからすぐに門の端による。

 

「渡さんありがとう、本当にあなたと会えてよかったと思います」

 

「ええ、僕もそう思います。由紀さん達にも言いましたがまたいらしてください」

 

車が門のを通り抜けるまでの間に渡と言葉を交わす、そうして固く握手をした。

車が通り抜けるとまた門を閉め人が1人通れるくらいの隙間を開け敷地の外に出た。

 

「せんぱ〜い!大丈夫そうです、早く乗ってくださ〜い!」

 

車の窓から美紀がひょっこり顔を出し手を振る、わかったと答え走りだす。そうしながらくるりと振り返って、

 

「渡さん!お互いキバっていきましょう!!」

 

そう笑い手を振った。

 

それを見た渡はぱっと顔を輝かせて頷く。

 

「はい、お元気で!またお会いしましょう!!」

 

笑顔で手を振り返してくれていた。

 

 

光が車に乗ってからも曲がり角を曲がり姿が見えなくなるまで渡は彼らに手を振り続けてくれていた。

瀬戸渡は光達に人の温かさを改めて感じさせてくれた。

彼の家を出発してからもしばらくの間、光達の顔は明るく、やさしい笑みを作りつづけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました!

前回までは悪い人にあってしまったお話でしたので今回はいい人といい出会いをするお話をしたいと思いこのような展開にしてみました。

またこれからもゆっくり更新になるかと思いますが気長にお待ちいただけるとありがたいです(^^;

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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