Inferior Stratos (rain time)
しおりを挟む

プロローグ
プロローグ 前


 インフィニット・ストラトス、通称IS

 天才科学者、篠ノ之束が開発した宇宙用パワードスーツであり、本来は宇宙進出のためのものだった。

 しかし、自身の開発したISが最先端すぎたがゆえに誰も見向きもしなかった。そんな中、ISの名を有名にさせる事件「白騎士事件」が起こる。

 世界各地の軍事基地が何者かにハッキングされ、日本に2341発のミサイルが発射されるものの、一機のIS≪白騎士≫がほぼ破壊、その後このISを確保しようとした現存の戦闘機を撃墜、破壊した事件である。

 

 この事件により、ISは世間で有名になった。宇宙進出ではなく兵器として。

 開発者の束は各国からISを作るように指示したが、ISのコアを467個作ったのちに姿をくらます。

 さらに、このISは女性にしか反応しないという欠点があった。これによって世界は女尊男卑という風潮が広まり、多くの男性が被害を被っている。

 

 

 僕もその一人だ

 

 姉は僕が小3の頃に初代ブリュンヒルデとなった天才だった。兄も天才で剣道も勉学も優秀だった。そのせいで僕は家族の、織斑家の出来損ないとして迫害された。

 兄弟だけでなく周りの人、幼馴染というものから理不尽な暴力を振るわれ続ける毎日を送っていた。

 でも、そんな生活が終わりを迎えそうだ。

 

「おい、ちゃんと連絡したんだろうな」

「したさ、今連絡待ちだ」

 

 誘拐されたのだ。ご丁寧に椅子に括り付けられ、手足も縛られている。どうやら身代金目的の誘拐だろうが、どのみち関係ない、僕は殺される。

 

「大変だ!織斑千冬から連絡があった!」

「どうした?こっちに向かってくるのか」

「違う!『織斑一夏は知らない』といって、それから連絡がないんだ!」

 

 やっぱり。僕はどうやら家族としてみてくれていなかったようだ。

 もう死ぬんだな。

 

「どうする?このガキ」

「依頼主はなんて言ってる?」

「それが全く連絡が取れなくて」

「そうか・・・」

 

 誘拐犯のリーダーらしき男が考え込む。そして僕に話しかけてきた

 

「坊主、お前はどうしたい?」

「?」

「生きたいか死にたいか。お前の境遇は知っている。死にたいっていうなら苦しまずに殺してやる」

 

 こんな人生なんだからもう死んでもいい。家族にも見放されたんだから。

 

 

 でも、

 

 

 そんな中でも味方になってくれる人は少なからずいた。

 その人たちは悲しむだろうか?

 

「僕の味方になってくれた人は僕が死んだら悲しむ?」

「ああ、悲しむさ」

 

 リーダーの男は僕の質問に答えてくれた。

 そうか、それならどんな形でも恩返しがしたい。生きていつか会いたい・・・

 

「・・・生きたい」

「そうか、わかった」

 

 そう言うと男は縛っていた手足の縄を切ってくれた

 

「リーダー!いいんですか、もし依頼主にバレたらまずいっすよ!」

「いや、いい。どうせ連絡が取れないんだろう。いくらでもごまかせるさ」

「でも・・・」

「その時は俺が腹くくるさ」

 

 どうやら僕のことを見逃してくれるらしい

 

「どうして・・・どうして僕を殺さないの?」

「どうしてだろうな、俺にもわからん」

 

 なんでだろうな、と男がつぶやく。そして僕にこう言った

 

「いいか、あそこにある大きいタワーがあるだろう?そこに向かって歩くんだ、わかったな?戻ってくるんじゃねえぞ」

 

 僕はこくりとうなずくと後ろを振り向かずに歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてですか、リーダー」

「うん?」

「やっぱり逃がすのはまずいんじゃ?このことを言われたりしたら俺たち捕まっちまいますよ」

 

 確かにあの坊主がこのことを言ったら俺たちは逮捕されるだろう。ただ、俺にはある予感がした

 

「あの坊主はいつか大成するって俺の勘が言ってた」

「はあ?」

「それに、捕まっても殺してなければ罪はまだ軽くなるしな」

「確かにそうですけど・・・」

 

 仲間は納得してくれないようだ。ただ、あの坊主はそのうち大きい人間になる気がしたのだ

 まあ、殺したくない、生きてほしいという俺の単なるエゴなのかもな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア、ハア・・・」

 どれほど歩いたのだろうか、タワーに向かって歩いているが一向に近づく気がしない。人が多くなったが誰一人僕に見向きもしない、それにここがどこかもわからない

 

「戻ろうか・・・」

 

 いや、戻ってくるなと言われたし、戻ったとしても誰もいないかもしれない。もしかしたら今度こそ殺されるかもしれない

 そんな状態でもなんとか広い通りには出れた、僕は道にあったベンチに座り体を休める

 

「・・・?」

 

 なんだろう、何かが引っかかる。この町は僕のいた町と何かが違う。

 

 なんだろう・・・

 なん・・だろ・・・

 

 そして僕は疲れからか意識を手放してしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・うん・・・?」

 

 目を覚ますと見知らぬ天井があった。確か僕はベンチで意識を手放して・・・

 

「あ」

 

 僕と同じくらいの少年がのぞき込んできた。

 

「じいちゃん!目覚ましたよ!」

「こら、大きい声出すんじゃない。びっくりしてしまうだろう」

「あっ、ごめんなさい」

 

 そういってキッチンから頭が真っ白なおじいさんが出てきた。男の子は僕に大きい声を出したことで謝ってきた

 

「いや、大丈夫・・・」

 

 いままで、暴言や罵倒されたことしかなく、謝罪されたことはなかったからあいまいな返事しかできなかった

 

「ところで、君の名前は?」

「お、織斑一夏・・・です」

「一夏君か、君のお父さんやお母さんはどうした?」

「・・・親はいません、兄弟には捨てられました」

「「!」」

 

 なぜかわからないけど、僕は正直に答えた。でもどうせこの二人も僕のことを悪く言うだろう。だって、僕は織斑家の・・・

 

「大変だったね」

「!?」

 

 いきなり男の子にやさしく抱きしめられた。突然のことで僕は何も動くことができなかった。

 

「痛かったよね、つらかったよね。でも大丈夫、僕たちはそんなことしないから、ね」

 

 やさしかった。嬉しかった。同い年の男の子にそんな風に言われたのは味方だった人以外で初めてだった。おじいさんも僕の背中をさすってくれた

 

「つらいことを今吐き出しておきなさい。私たちは君の味方だよ」

 

 気が付くと僕は涙を流した。今までつらかったこと、今やさしくしてくれること、いろんな感情がごっちゃになって気持ちが晴れるまで泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから彼らは自身の紹介をした。おじいさんは「遠藤幸雄(ゆきお)」、男の子は「遠藤雪広(ゆきひろ)」という名前であること、雪広と同じ小6であること、二人暮らしでいること

 

 そして二人は血がつながっていないということ。

 

 雪広は家族に迫害されていて、学校にも通えずに親、特に父親からひどい暴力を受けていた。母親も見て見ぬふりをする親である時を境に家からいなくなったらしい。雪広はそのまま衰弱していったが、たまたま入った強盗のおかげで一命を取りとめ、孤児院に入り、幸雄おじいさんに引き取られて、今に至っている

 

 僕も自分自身のことを話したら、「そんな兄弟は兄弟じゃない!クズだ!!」と二人とも怒ってくれた。本当にうれしかった

 

 話をするうちに幸雄おじいさんは僕にこう言った

 

「家族にならないか?」

「え?」

「もちろん、無理強いはしない。君が良ければだが」

「でも・・僕何も持っていないし・・」

「大丈夫だ。3人で生活できる金は持ってる。安心しなさい」

「一緒に住もうよ、一夏!」

 

 もう、迷うことなんてない

 

「よろしくお願いします、幸雄父さん、雪広兄さん」

 

 こうして、僕は新たな家族の、遠藤家の一人となった。




 ということでストーリーが始まります
おおまかな時間軸としては一夏の年齢視点で

小1 白騎士事件

小3 第一回モンド・グロッソ

小5 鈴と出会う

小6 誘拐される

という流れです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ 中

一人称ですが
一夏は「俺」
雪広は「自分」、キレると「俺」
です


 俺が遠藤一夏になってから3年がたった。この土地のこともよくわかるようになった

 

 ここは日本の首都、東京都であること、東京都が女尊男卑禁止地区という世界でもかなり珍しい都市なことがわかった。市長曰く、「今の時代は優秀な人々が不当な扱いを受けている、ならばその優秀な人材を集めよう」ということでその条例を作ったらしい。

 結果として東京は今まで以上に大きな会社が立ち並び、治安も他の地域と比べて段違いに良く、そのため東京は男のユートピアと言われたりもしている。

 

 俺たちの話をしよう。

 雪兄さんは学費の免除となる特別推薦枠で私立のトップの男子学に、俺は頭はいいといわれていたが、兄さんほど頭が良くなかったし、家計に負担をかけたくなかったから上位の共学の公立に入学した。結局、俺たち二人は小学校にはほとんど行けず、中学校で孤立しないか心配だったがそんなことはなかった。

 俺は剣道ではなく剣術や居合を学んでいる。こちらのほうがより実践向きでもしもの時に使えるからだ。仲間にも恵まれ、その力を上達させた。結果、周辺の学校では知らない人はいないほど俺はいい意味で有名になった。今はボクシングや体術なども学んでいる。

 雪兄さんは殺人術というものを学んでいる。実際に人を殺すのではなく、殺し方を学ぶことで殺されないようにどう立ち回るべきかを教えている。最初は俺もびっくりしたが、これを学校の体育の時間でやっているから驚きだった。(さすが私立と思った)まあ、俺もちゃっかり学んだりもした。他にも俺たちは自身の長所を自由に伸ばしていった。

 

 でも、楽しいことだけじゃなかった。幸雄父さんががんに侵されたのだ。しかも進行が早く、発症して1か月でこの世を去ってしまった。その時は雪兄さんとともに泣き、その後は荒れに荒れた。それでも先生や仲間たちが励ましてくれて今はもう立ち直っている。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで高校受験を終えた次の日、あるニュースで持ちきりとなった

 

 

「『世界初の男性IS操縦者発見! その名は織斑一春! 全国で第二の男性IS操縦者調査へ!』・・・か」

 

 俺の元兄がISを動かしたらしい。その影響で世界各地で男性IS操縦者を発掘することになった。なったのだが・・・

 

「らしいな、ここもその対象なのかな?」

「無理無理、どうせ動かねえっつうの」

「それにIS学園行きって文字通り地獄じゃねーか」

「絶対女尊男卑の人間がいっぱいに決まってる」

 

 クラスメイトたちはそれほど興味を持っていない、というのも女尊男卑が嫌になって東京に来た人がほとんどであり、男子でIS動かして女子高に・・・といった考えを持つ人はほとんどいない。女子にもIS学園は女尊男卑の巣窟と言われるほどその風潮を嫌っている。

 

「なあ一夏、こんな検査さぼってカラオケに行こうぜ」

「そうしたいのはやまやまだが、しないと研究所行きらしいぜ」

「マジ?それはやだな・・・」

 

 そんな雑談をしていると俺の携帯からメールが届いた。兄さんからだ。

 曰く、IS適正検査の補佐にされたらしく俺たちの地区担当になったとのこと

そんなメールだったが、追伸に気になることが書いてあった

 

「『嫌な予感がする』・・・か」

 

 雪兄さんはこういうときの勘がよいわけではなく、いつも杞憂に終わっている

 

 でも、今回のこの一文は・・・俺もそんな感じがした

 

 

 

 

 

 

 

 

 土曜日、この体育館はIS適性検査場としてその地区の中3男子が集まっている。担当の人は一見中学生のようでめっちゃキョドっていたが、兄さんがうまくまわった為、滞りなく進んでいる。

 誰も反応がないがみんな「やっぱりな」という感じだった。むしろ喜んでいる人が多い。

 そして俺の番になった。

 動くわけない、そう思っていた。

 

 

 

 気が付くと俺はISを纏っていた・・・

 

 

 

 最悪だ。

 担当の人が慌てているところに兄さんがフォローに入る

 

「山田先生、まずは残りの生徒の確認です。ここで時間をつぶすのは生徒に迷惑ですから」

「そ、そうでしたね。すみません、テンパってしまって」

「そのための補佐ですから」

 

 兄さんはうまく対応し残りの生徒の検査を終えた。結局俺だけISが反応したのだ

 担当の人には連絡を待ってほしいといって席を外してもらっている

 

「さて一夏、酷な話だが聞く覚悟はついたか」

「そのために時間を作ってくれたんだろう」

「ああ、残念ながら良くてIS学園、最悪は研究所に飛ばされる」

 

 やっぱりか。ほんとに最悪だ。研究所は生きていられる保証がない。俺には後ろ盾がないから研究所に行かされるだろう。でもIS学園にはあの屑がいる。つまり、どう転んでも俺にとっては嫌な選択しか残っていない

 

「研究所に行くというのは俺や俺たちの先輩がどうにかするから心配するな」

「でも、どうやって研究所行きを阻止するんだ?俺には後ろ盾がないし」

「政府のやばい情報や上層部の汚職を引きぬいて交渉材料にする」

 

 そうだった。兄さんは中学でプログラミングの才能が開花し、特にハッキングが他の人よりもとびぬけている。その能力を中学で磨き続けた結果、今では世界各国の重要データを自由に見れるほどだ。「いいのか?」と聞いたが「バレなきゃ問題ない」って笑顔で返された。まるで束さんみたいだったよ

 

「・・・」

 

 束さんこと篠ノ之束は幼少期、俺の味方になってくれた数少ないうちの一人で、いつも俺のことを気にかけてくれていた。暴力を受けていた俺を匿ってくれた。ISが兵器として認識され、女尊男卑が蔓延して俺への世間の態度がより強くなった時「いっくん、・・・ごめん、・・・ほんとにごめんね・・・」と泣きながら俺に謝ってくれた。

 今どうしているだろうか?俺のことを探しているのだろうか?それとも、あきらめてしまったのだろうか?

 

「大丈夫か?一夏」

「あ、いや。少し考え事をしていた」

「そうか。まあ、心配するなって言いたいとこだが状況が状況だからな・・・」

 

 でも、と兄さんはポン、と俺の頭に手をのせた

 

「つらくなったらいつでも相談しろ、一夏」

「・・・ありがとう、兄さん」

「弟のためならなんだってするさ!」

 

 犯罪以外ならな、と笑って雪兄さんは言ってくれた。

 いい兄さんに恵まれた、もう俺一人だけじゃない、大丈夫。そう思っているところに

 

 

 「探したよ!!いっくん!!!」

 

 聞いたことのある懐かしい声がした

 その声に俺はすぐに反応することができなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弟がISを動かしてしまった。一夏の元兄である屑がISを動かせたため、一夏も動かせてしまうのでは、という自分の予想が当たってしまった。まずは政府がどう動くかだがどうせ研究室送りにするだろう。そうさせないためにハッキングで政府の汚職を見つけるか・・・。

 ふと一夏を見るとやはり不安な表情を浮かべている。自分はその不安をできるだけ取り除こうとして一夏の頭をなでる。大事な弟だから、それが兄としてのふるまいだ。

 

 

「探したよ!!いっくん!!!」

 

 

 そんな中、体育館の入り口で女性の声がした。その姿はまるで不思議の国のアリスのような服にメカチックなうさ耳をつけた奇抜な女性だった。こっちに向かってくる。

 でも、自分はそいつを知っている

 

「篠ノ之、束・・!」

 

 篠ノ之束、ISの生みの親で世界中で知らない人はいないほどの有名人

 そして・・・女尊男卑を生み出した元凶であり、一夏をより苦しめた人間。

 

 すぐさま俺は一夏を背後に回して、奴の前に立ちはだかった。大事な弟を守るために無意識に動いた。

 

「おい、私はいっくんに用があるんだ。そこをどけ」

「ハッ、はいそうですかっていうか、普通?」

「なんだよお前、偉そうにしやがって」

「てめえに言われたくねえな」 

「「・・・」」

 

 まさか殺人術がこうして生きるとはな。いつでも致命傷を与える準備はできている、奴が動いたらこちらも動く。奴もその気のようだ。

 あたりは殺気で包まれる。緊張が走る、狙いは奴の心臓・・・

 

 

 「ま、待ってくれ!二人とも!」

 

 

 そんな中、後ろにいたはずの一夏が俺たちの間に割って入った

 突然のことで自分も篠ノ之束も驚き、殺気も消える

 

「雪兄さん、束さんは味方だ!小さい頃に助けてくれた恩人なんだ!」

「そ、そうなのか?」

「ああ、で、束さん!雪兄さんは今の大事な家族なんだ!」

「そ、そうなの?」

「ああ、誘拐された後、俺のことを家族として受け入れてくれた大事な兄さんなんだ!」

 

 そういえば、一夏が小さい頃に味方になってくれた人がいるって言ってたが、その一人が篠ノ之束だったのか・・・!あまり深入りしないほうがいいと思って詳しく聞いていなかったが、まさかだったな。

 

「すみません!早とちりしてしまって・・・てっきり一夏を連れ去ろうとするのかと」

「こっちこそごめん!てっきりいっくんをいじめる人間かと」

 

 向こうも早とちりだったらしく互いに謝る。

 

「いっくん、久しぶりだね!!会いたかったよ!!」

「俺もです、束さん。でもどうして俺がここにいるってわかったんですか?」

「あのクズがISを動かせたときにもしかしたらいっくんも動かせるんじゃないかな~って予想してたの。で、ISの反応が分かったからそこに飛んできたわけ。そしたらビンゴだったよ!」

 

 篠ノ之束も自分と同じことを考えていたのか。確かにISの生みの親ならISを動かした反応から逆探知して探すこともできるわけか。

 それにしても篠ノ之束も織斑一春を屑と認識しているのか。メディアでは人格破綻者と言われているが思っていた以上にまともで助かる。

 と考えているところに篠ノ之束が自分のほうに顔を向けた。

 

「そういえば、君の名前は?」

「あっ、申し遅れました。一夏の兄の遠藤雪広です」

「雪広・・・、うん!『ゆーくん』だね!」

「ゆ、ゆーくん?」

「ああ、束さんは親しい人にはあだ名で呼ぶんだ、雪兄さん」

「出会って間もないのにか?」

「そりゃあ、いっくんの味方になってくれた人だもん!」

 

 そうか、一夏のことを本当に大切にしてくれていたのか。

 ・・・それならこの人に任せても大丈夫だな。たぶん一夏とは少なくとも3年は会えないだろう。高校でももっと話とかしたかったが割り切るしかない・・・。

 

「兄さん?聞いてる?」

「あ、わりい、聞いてなかった」

「兄さん、ISに触れた?」

「まだだった、どうせ動かないだろう」

「ゆーくんも確認してね。多分、動かないだろうけど・・・」

 

 わかってる。篠ノ之束の言う通り、どうせ動かない。動かないほうがいい。よくてIS学園という監獄、悪けりゃ研究所なんだから。

 

 

 

 でも

 

 

 

 動かせたら一夏と同じ高校に行けるのだろうか?それだったら動いてもいいかもな・・・

 複雑な思いで自分はISに触れる。

 動かないはずだった。

 

 「!」

 

 頭に情報が流れる。そのISが手に取ったかのようにわかる。

 

 

 気が付くと自分はISを纏っていた

 

「「「え?」」」

 

 自分たち3人は予想外の出来事にただただ呆然としていた




補足
 雪広、一夏は全寮だったが家は近かったため、土日は家に帰って家族三人で生活していた
 幸雄死後は家を解約し、それぞれの寮で生活していたが、かなりの頻度で一夏が雪広の所に遊びに来ていた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ 後

あの後担当の人が来て、自分がISを動かしたこと、束さん(仲良くなったのでさん付けで呼ぶことにした)がいたことでものすごくテンパっていたが、何とか落ち着かせた。そして、自分たちがISを動かせたということは内緒にしてもらうように何とか言いくるめた。

今、自分たちは束さんの極秘ラボにお邪魔している

 そこで、自分たちはお互いの情報を交換した

束さんはISが学会で認められなかったこと、467個のコアを作って行方をくらましたこと、その間もいろんな団体に追われて一夏を探す余裕がなかったこと、・・・そして「白騎士事件」の真相も

 

「あの頃の私は子供だった、有意性を示せばいいと思って各国のミサイルをハッキングして全部迎撃すれば認められると思ってた」

「でも。兵器として認知されてしまった、と」

「うん・・・、しかも女性しか動かせないのも後で知って・・・」

「えっ、束さんでもわからないんですか?」

「わかってたらすぐにでもそのバグを直してるよ、いっくん」

 

 女性にしか反応しないのはバグだったのか。運がないというか、自身の夢のためにやったことが裏目に出続けてしまうとは。束さんがISの最大の被害者なのかもしれないな・・・。

 それだけじゃない、と束さんは言う。白騎士の操縦を織斑千冬、一夏を迫害していた張本人、に任せたことで死者が出てしまったことを嘆いていた。

 

「でも、白騎士事件での死者は0って」

「確かにミサイルによる死者は0だった。でも戦闘機とか軍艦とか、白騎士を捕まえようとした軍の人は・・・あいつのせいで・・・!」

「「・・・」」

「私がもっといろんな人と関わってれば、あいつじゃなくてもっと思いやりのある人に頼んでおけば・・・!」

 

 束さんは手が白くなるほど固く握られていた。もっと違うやり方をすれば、ISは束さんの思い描いていたパワードスーツとなって、宇宙進出の手助けになっただろう。兵器とみられても、死人を出さずに済んだだろう。そうならなかった、間違った選択をしてしまったことに後悔しているのだろう。

 でも、その選択が正しかった、間違っていたとはその時はわからない。人は予知する力なんてないのだから。神でもない限りその時に100%正しい選択をすることはできない。

 ふう、と束さんは一息ついた

 

「ごめんね、みっともない姿見せちゃって」

「大丈夫ですよ。にしても意外とまともなんだなーって安心しました」

「・・・ゆーくんは私のことをどう思っていたのかな?」

「最初は一夏の敵、その後は痛い恰好のヤバいやつてきな?」

「結構辛らつだね!?キミ!」

 

 いや、今時そんな恰好する人はいない。いてもコミケしかいないだろう?

 一夏は必死に笑いをこらえている。どうやら自分の発言がツボったらしい

 

「いっくんもなに笑っているのさ!」

「い、いや、・・・痛い恰好って・・・その通りだなって・・・クククッ」

「いっくんも何気にひどい!!」

 

 先ほどとは打って変わって束さんは頬を膨らませている。その姿はまるで小学生のようでその姿に俺たち二人は笑っていた。

 よくわかった。束さんは才能があるがゆえに、友達に、仲間に恵まれていなかったのだ。相談できる人も誤りを正してくれる人もいなかったから間違った選択肢を選んでしまったのだろう。ある意味、自分たちと同じ、小さいときに味方がいなかった人間だったのだろう。そんな束さんに親近感がわく。

 初めて会った時とは考えられないほど、この場は和やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後いったん寮に戻り、その2日後、再び束さんの極秘ラボにおじゃました。これからどうするかの話し合いの続きをしている

結論として、自分と一夏が男性IS操縦者であることを一昨日公にした。研究所に送られる問題は、束さんがバックにいると伝え、自分たちの身に何かが起きたら容赦しないと束さんの声帯付きのメッセージでメディアに流した。つまり、自分たちはIS学園に入ることになる。束さん曰く、IS学園在籍ならどこの国も手出しがしづらいため、そのほうが安全らしい。

 一夏を迫害していたクズたちがいるのは不安だが、一夏と同じ学校に行くことになった。その点は良かったと思う。

 

「さて、それじゃ二人には専用機を作らないとね」

「専用機ですか・・・」

「そう!持ってて損はないよ!」

「ですが俺たちは企業所属でも代表候補生でもありませんよ。無所属の男が専用機持ってると世間が文句言ってきません?」

 

 そう、自分たちは無所属なのだ。基本的に専用機持ちは国の代表候補生、企業代表、そして企業のテストパイロットとなる必要がある。織斑一春も無所属と思いがちだが、ハッキングで得た情報では日本企業の倉敷研究所に属するように水面下で動いている。

 

「それなら大丈夫!実は既にダミーの会社を作っているのだ!」

「早いですね。それなら俺たちが企業代表になれば問題ないってわけか」

 

 そういうこと!と明るく答える。企業所属ならそれだけで後ろ盾が付く。そして束さんのオーダーメイドの専用機があれば、学園でも上位に入ることができるだろう。仮に何者かに襲われた時もISで対応すれば間違いなく安全だろう。断る理由なんてない。

 

 でも、

 

「束さん、申し訳ないのですが、辞退させてもらってよろしいですか?」

「「え?」」

 

 一夏も束さんも自分の返答を予想していなかったのだろう。自分は寮に来た書類を二人に見せる

 

「実はこの企業からスカウトを受けていまして・・・」

「『ジレス社』?兄さん、どこの会社だ?」

「イタリアのIS企業さ」

「でもなんでそんなとこを?あそこはまだ第3世代ができ始めたくらいだし・・・わたしならそこよりも断然いいISを作れるんだよ?」

 

 確かにそうだ。普通ならそうするし、自分も他の要因がなければジレス社のほうを100%蹴る。ただ、自分にはある思いがあった

 

「親父が昔ここで働いてたんだ」

「え!お、俺そんな話聞いてないぞ!」

「ああ、一夏が家族になる前にな、昔話で聞いた」

「でも、なんでそこまで固執するのさ?」

「・・・昔、親父がリストラされて途方に暮れていた時、そこのお偉いさんとばったり会って親父の力を見抜いてスカウトされたんだ。ってことは親父の命の恩人がその会社ってわけなんだ。そんな会社からスカウトされたんなら、そこに属してもいいかなってさ」

「そ、それだけのためにか?雪兄さん」

「わかってる、そんなことでその会社に入ることはばかげていることを。でも、それが今できる親父の・・・自分ができなかった親孝行なのかなって」

「!」

「ほんとだったら生きているうちにしたかったけど・・・返し切れない恩があるけど、返す前に逝っちゃったからさ。なら親父を助けてくれたこの会社に尽くすってことが、今できる親父への恩返しかな・・・って」

 

 一夏も束さんもばかげていると思っているに違いない。そんなことはわかっている。我ながらいろいろと飛躍しているし、そのお偉いさんは今もその会社にいるとは限らない。普段の自分だったらあり得ない行為だ。これは単なるエゴだ。

 反対されるに違いない。その時はあきらめよう。束さんのオーダーメイドの専用機を作ってもらおう。図々しいが。

 そして、束さんが口を開く

 

「・・・そこは安全?」

「え?」

「その会社はホワイトか調べた?裏で問題を起こしていたり、犯罪に手を染めていたりしてない?」

「その点は大丈夫です。自分の得意なハッキングで得た情報では完全ホワイトです」

 

 そうか、と束さんは納得したような顔で言った。

 

「私も調べたけど、あそこは悪いうわさがないし・・・、ゆーくんのしたいようにすればいいと思うよ」

「!」

「でも、困ったときとか何か欲しい武器とかあれば私に相談してね!いつでも聞いてあげる。」

「ありがとうございます・・・自分のわがままを聞いてくれて」

「いーのいーの、いっくんの味方になってくれた、本当の家族になってくれた私からのお礼だから」

 

 情が深いというか、やさしいというか、やっぱり束さんはいい人なんだと改めて思う。

 

「でも、雪兄さんと一緒じゃないのは少し寂しいな」

「確かにそうだが、あんまりべったりなのもどうかと思うぞ」

「それもそうだな、それにこれなら本気で兄さんと競い合えるというわけか!」

「・・・そうだな!()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 負けるつもりはないからな、というと、俺だって負けてたまるか、と言ってこぶしを合わせる。これまでも体術やゲームとかで競うことはあったが、どちらかというと先生と生徒みたいにどちらかが教えるという感じだった。そういう点では今回のように競い合えるのは初めてだ。

 IS、動かせてよかったかもな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄さんがジレス社に電話をかけている間に束さんがどんなISがいいかを聞いてきた

 

「いっくんの要望通りのISを作るよ!なんたって束さんなのだから」

 

 にゃっはっはー、と笑う。うさ耳なのににゃーなのか。

 いけね、くだらんことを考えていた。真面目に考えないと・・・

 

「どんな要望でもいいんですか?」

「もちろんだよ!」

 

 俺の要望は第2世代の機体であること、近接メインだが遠距離用の武装も欲しいこと、剣は少なくとも3本ほしいことなどを伝える。

 そして、俺のもっともかなえてほしい要望で、たぶん却下されるだろう要望をいう

 

「それでですが、スペックは他の専用機とほぼ同じくらいがいいです」

「ふむふむ、スペックは同じくらい・・・はい?」

 

 やっぱり聞き返すよな。普通だったら最高クラスのものを作ってほしいと思うだろう

 

「束さんの聞き間違いかな?もう一回言ってくれる?」

「スペックは今の世界にある専用機と同じくらいがいいです」

「・・・どうして?」

「さっき兄さんが『同じスタートラインで勝負できるな』って言ってたじゃないですか、たぶん兄さんは第2世代の専用機を持つ。でも俺が最先端の専用機を持つって不公平かな、と」

 

 兄さんに似たのかな、こういう変なところに固執する癖が。

 

「まあ、いっくんの望みならそうするけど・・・いいの?他の代表候補生は訓練時間も多いし、勝負した時に勝てるかどうか・・・」

「今から入学までに死ぬ気で訓練を積み重ねていきますよ」

 

 幸いにも俺はいろんな格闘技を習ってきた。基礎体力はあるから、まずはISに慣れ、その後今まで学んできたものを生かすようにする

 努力するのは俺の十八番だ。それに最初は負けても次に生かせばいい

 

「・・・ゆーくんといい、いっくんといい、茨の道を行きたがるよね。そんなこと普通はしないよ」

「なんて言ったらいいんでしょうね?最初から強いものを持つと人は努力しなくなるんですよ」

 

 実際にそういうやつはいましたし、というと束さんは気づく。わかってくれたようだ。織斑一春のことを言ってたのだ

 

「でもいっくんはアイツと違って努力し続けてるし、堕落するなんて思わないけど・・・わかった。いっくんの望み通りにするよ」

 

 でも!と束さんは俺に指をさす

 

「あのクズよりもいい機体にはするからね!」

「それは俺も言おうとしてました。わかってくれて何よりです」

「そりゃあ、いっくんのことだもん!」

 

 どこまで知っているのか少し怖いとこもあるが、それでこその束さんだ。

 ああ、俺の人生は捨てたもんじゃないな。だったら、尽くしてくれた束さんの為にも、俺自身の為にもこれから頑張らないとな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『男性IS操縦者、日本で新たに二名見つかる!』

『新たな男性IS操縦者、遠藤雪広はイタリア『ジレス社』、遠藤一夏は日本の『ラビットファクトリー』のテストパイロットへ!』

『新たな二人もIS学園へ!!』

 

 俺様はこのニュースに苛立った。俺だけのハーレム生活に邪魔するものが現れやがった!しかも、この「遠藤一夏」は間違いなくあの出来損ないに違いない!あいつはなぜか束さんには好かれていたからな。まったく、束さんも見る目がないぜ

 

「一春、あの男、まさか」

「ああ、たぶん出来損ないだろう。まったく生きているなんてな」

「おとなしく死んでればよかったものを。私の弟は一春ただ一人なのだから」

 

 まあいい、IS学園でもう一人もろとも踏み台にしてやる。そして、生きていることを後悔させてやるぜ

 こっちには千冬姉がいるし、なんたって俺様は天才なんだからなあ!!覚悟しやがれ!!




 やっとプロローグ終了です

 こういうパターンの物語ではオリ主人公も一夏と同じところに所属しますが、あえて所属を分けました。男兄弟だからそんなにべったりだと変かなと。
 ご都合主義なとこもありますが、それが私の世界なので

p.s.
悪役のセリフが難しい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

現在までの人物紹介など

 遠藤一夏(旧名 織斑一夏)

 見た目 原作の織斑一夏の目を鋭くさせた感じ、あとは同じ

 一人称 俺

 

 原作の主人公。しかし、この世界では優秀な兄とよく比較されたことで「織斑家の出来損ない」というレッテルを張られた。実の兄・織斑一春が主体としていじめられるだけでなく、姉・織斑千冬からも暴力を受けるなどの迫害をされていた。味方はごく少数だった。誘拐され、織斑家に見放されるが、犯人グループがなぜか釈放し、行き倒れになったところを遠藤雪広に拾われ、家族となった。

 一春と比べできないだけで、もともと頭も良いほうで運動もできる部類。そのため、中学は上位の学校に入る実力があった。そこで、仲間とともに剣術などの武術・体術を学んだ。真面目で努力を怠らない性格の為、それぞれの才能を開花していった。

 IS適性検査の後、遠藤雪広と篠ノ之束の仲をとりもった。その後、束のダミーも会社に入り、そこの企業代表となった。入学まで束の作った無人機ISと戦闘を繰り返し、操縦技術を磨いている。

 最初は助けてくれた遠藤雪広に恩を感じて尊敬していたが、今では仲の良い兄弟の関係。ときどき常識はずれだったり、奇怪な行動をする兄のストッパーにもなるが、時にして悪ノリする。

 篠ノ之束とは昔に味方になってくれたこともあり、恩を感じている。いつか束の夢である「ISを宇宙進出させる」ことを手助け出来たらと思っている。

 織斑家のことは恨んでおり、最も嫌っている部類。他にも女尊男卑な人間、自己中心的な人間、自身が偉いと思って居る人間を嫌う。

 原作は鈍感、唐変木だが、ここの一夏は女心や恋愛をわかっている。中学では文武両道で模範的な学生だったが明るく、誰にでも平等に接していたため、クラスメイトには尊敬されていたために、告白はされなかった。(実際は女子が高根の花と思って敬遠していた)

 

 

 

 遠藤雪広

 見た目 「SKET DANCE」の笛吹和義の髪を整え、表情豊かにした感じ

 一人称 自分、俺

 

 オリジナル主人公。

 本名ではない。本名は不明。一般家庭に生まれたが、物心が付き始めたころに、父親からすさまじい勉強虐待を受けており、幼稚園にいる年齢の間に中学、高校内容までをやらされ、「なぜこんなこともできないんだ!」と毎日のように殴られ、ろくな食事をとれず、幼稚園や小学校にいけなかった。一度、反抗的な態度をとったために父親が包丁でめった刺しにし、死にかけて以降父親の指示に反抗しないようにした。幸か不幸か、雪広はその生活に耐える心を持っていたがほぼ壊れかけていた。母親は見て見ぬふりをしていた。

 小4の頃に両親は雪広を残して旅行、道中で事故にあい、死亡。雪広は勉強以外のことを教えてもらえず、外に出るということも考えられなかったため、食料も水も尽きかけ衰弱死しかけたところにたまたま入った強盗に助けられる。その後、孤児院にいたが、誰とも交流することなく、彼の心は完全に閉ざされていた。

 小4の冬、たまたま訪れた老人・遠藤幸雄が雪広と出会い、彼を引き取った。幸雄の献身もあって、徐々に心を取り戻した。名前がなかったので、幸雄から出会ったときに雪が降っていたことから「雪広」と名付けられた。

 勉強虐待のせいかおかげか、学力はケタ違いに良かったが、当初はそんな自分が嫌だった。だが幸雄に褒められ、凄いことだと言われたおかげで勉強ができることを誇りに思い、以降も努力を続けた。そのため、トップの私立中学に「特別推薦枠(後述)」で合格した。

 運動はほとんどできなかったが体育で基礎体力をつける授業にしっかりと参加し、殺人術を本格的に学んだため、普通の中学生よりも体力が付いた。さらに、武器を使った戦闘術も学んでおり、たいていの武器を自在に操れるようになった。

 さらに中学の情報の授業でプログラミングにハマり、先輩や先生から技術を学んでいった。特にハッキングに関してはとびぬけた才能を持っており、国家の機密情報だろうがバレることなく閲覧し、情報を抜き取ることができるレベル。

 一夏のことを大切に思っており、一夏が幸せならそれで良いという感じ。親友であり兄弟であり、背中を預けられる関係。一夏にいい嫁さんが見つかることを祈っている。

 篠ノ之束とは当初、一夏を狙う敵と思い、殺そうとしたが、一夏の助言もあり和解。今ではいざというときに頼れる仲間みたいな感じで仲はよい。

 一夏を傷つけた織斑家を死ぬほど嫌っており、どう抹殺しようか考えているほど。同じくらいに女尊男卑の人間を嫌っている。

  恋愛に関してある大問題を抱えているらしいが・・・?

 

 

 

 遠藤幸雄

 見た目 「テイルズオブエクシリア」のローエン・J・イルベルト

 

 雪広、一夏の育て親。

 温和な性格。雪広と一夏の心を開かせる人格者。

 天候が悪くなり、雨よけとして立ち寄った孤児院で雪広と出会い、彼を引き取る。その後は一夏も加わり、三人で生活するようになる

 雪広、一夏は中学で寮生活となるが、土日は2人とも基本帰ってくるため、寂しさを感じることなく生活していた。むしろ、他の子と遊んだほうがいいといって、二人の交友関係を心配していた。

 しかし、雪広たちが中学1年の初冬に幸雄は癌で倒れる。金曜日であったため、帰ってきた雪広たちに発見され病院に運ばれたが、回復せずに死去する。享年70。

 

 

 

 地域、学校説明

 

 

 東京都

 

 いわずと知れた日本の首都。しかし、世界でも数少ない「男女平等法」という条例を出している。その法は、女尊男卑な思想を持つ人間が東京に入ることを禁止するものである。また、東京都の中で女尊男卑の行為が認められた場合、実刑かつ、生涯東京に入ることを禁じる条約である。

 女尊男卑によって不当な生活を余儀なくされる優秀な男性を引きぬくという裏の目的があったが、結果的に優秀な人材が集まった。女尊男卑が蔓延する中、世界で住みたい都市ランキングで上位に入るようになった。当初は男女比の心配もあったがやや男性が多い状態で収まっている。

 ここに住む人は女尊男卑の人間から逃れるために来た人も多く、女尊男卑の原因となったISを嫌う人が多い。

 

 

 雪広の通っていた中学校

 

 名称「閉成中学校」

 

 日本で東大合格者を一番出している高校の中等部。私立で男子校。教員も男性のみ。

 主要教科の英語、数学、理科、社会、国語以外は生徒の好きな教科を自由に選択することができる日本では稀有な中学校。教師陣も規範にとらわれない独自の教え方をするが、先ほどの説明でもあった通り、優秀な人材が東京にそろっているため、超一流。他校での教え方が独特すぎてクビになった所を、校長が引きぬいて教師をしている人もいる。

 

 体育では実際の生活で役立ちそうな授業をしている。主に体術メインだが、ナイフや棒術といったこともする。そのため、生徒の中ではかなり人気な授業。

 

 「特別推薦枠」という入試制度を導入している。これは学力は十分にあるが、何かしらの原因で学校の成績が悪い生徒を入学させる、いわゆる推薦枠。

 書類審査で学校の評価が()()順に一次試験を合格させ、二次試験では学力テストをし、上位の人を合格させるシステム。だが、受かった生徒はいづれも何かしらの問題(主に心の問題)を抱えているため、中学1年時は同じクラスで固められる。

 一般合格組は特別推薦枠の人たちを「推薦組」として尊敬されることが多いが、特別推薦枠は自身たちを「裏口入学組」と卑下している。




 適当なタイミングでこれから紹介を挟んでいきます
 ISの機体は登場してからにしようと思います


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1章 IS学園入学編
第1話 入学と再会と決闘と


 4月。桜が咲き、新たな年度が始まる季節。

しかしIS学園の1年1組は異様な雰囲気が漂っていた。そこには史上初の男性IS操縦者がいた。

 

 

 クククッ、ついにIS学園に入学したぜ。これで俺様のハーレム生活が始まるってわけだ。俺の時代ってわけだな。にしても、IS学園の生徒は顔立ちもスタイルもいい奴らが多いとは、交流のし甲斐があるってもんだな!隣には箒の熱い視線も来るし、素晴らしいじゃないか!

 おっと、俺の自己紹介の番と来たか・・・

 

「織斑一春です。なぜかISを動かせました。趣味は剣道です。皆さんよろしくお願いします」

 

 にこりと笑うのを忘れない。こうすればたいていの女は落ちる。俺様だからな。

 俺の予想どうり、歓喜の悲鳴があちこちで起こる。気分がいいなあ!

 

「さすがだな、私の弟は」

 

 と、壇上の千冬姉がいう。その後一言二言しゃべるだけで歓声が起こる。流石だな、千冬姉は。あの出来損ないとは比べるまでもない・・・

 

「すみません、遅れました!」

 

 この声、男の声のほうを向くと俺の思考はは止まった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっば、初日から遅刻なんて。俺たちついてないな」

「ホントだな。これだったら前日にこの学園内に入っときゃよかった」

 

 今、俺たちはIS学園に向かっている。今まさに始業式が始まっているという時間なのにだ。

 できる限りISの操縦をしたかったため、前日まで束さんの所で兄さんと訓練をし(兄さんは帰国後、俺たちと同じところで訓練をしていた)当日の始発のモノレールで行く予定だった。しかしモノレールの不調により1時間くらい足止めを食らってしまい、今に至る。遅延証明書もあるし、遅れると連絡はしてあるから問題はない。

 そうこうしているうちにIS学園の正門が見えてくる。そこには一人の女性が立っていた。

 

「おはようございます、雪広くん、一夏くん。大変でしたね。」

「おはようございます。そして、お久しぶりです。山田さん」

 

 雪兄さんが挨拶を返すと俺も挨拶をする。そう、IS適性検査の担当の人が山田真耶だったのだ。

 

「久しぶりですね。あと、雪広くんたちの副担任となったのでわからないことがあったら何でも聞いてくださいね。」

「わかりました。その時はよろしくお願いします、山田先生」

 

 ただ、適性検査の時を思うと本当に頼りになるのか心配だ。

そうこうしていると俺たちのクラスである1年1組の教室につく。

 

「よし、じゃあ入るか」

「ああ、兄さん」

 

 兄さんがノックしてから教室に入る。壇上には・・・織斑一春、織斑千冬がいる。聞いてはいたが視界に入るだけでも不愉快だ。だが、こればかりはどうしようもなかったとのこと。

 幾分かこちらの要求は通ったが、男性IS操縦者を固めたほうが良いとのこと、「ブリュンヒルデ」である織斑千冬のクラスなら問題ないとのことらしい。だが、後者はどうやら織斑千冬信者が通したらしいがこればかりは雪兄さんでもわからないとのこと。束さんならわかるかもしれないが、知りたいときに教えてもらおう。

 そう考えている間に兄さんが自己紹介をする。

 

「遠藤雪広です。男子校出身です。嫌いなものは女尊男卑や自己中心的な人間。それ以外の方は気楽に話しかけてください。よろしくお願いします。」

「遠藤一夏です。武術をたしなんでいます。趣味は菓子作り。嫌いなものは兄さんと同じ女尊男卑だったり自己中心的な人間です。1年間よろしくお願いします。」

 

 兄さんの自己紹介をアレンジさせてもらった。まあ、上々だろう。これで女尊男卑の人間は寄ってこないはず・・・

 

 後ろから殺気。

 兄さんが右、俺は左に動く。間に出席簿が振り下ろされた。

 

「何のつもりです?織斑千冬」

「その出来損ないに罰を与えるだけだが?」

「なぜ罰を与えるのかもわかりませんがずいぶんと横暴ですね?」

「ここは私が法だ。生徒は私に従って当然だろう」

「ここは軍ではない。それすらもわからないようじゃ教師失格ですよ、織斑教授?」

「・・・チッ、まあいい。貴様らの席は空いてる奥の2つだ」

 

さっさと着け、と吐き捨てるように言う。ホント、なんでこんな奴が人気なのか不思議でしょうがない。女尊男卑の人間にとっちゃ神なんだろうが俺らにとっては邪神以外何者でもないがな。

言いたいことは兄さんが大体言ってくれたし、一応指示には従うか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後の休憩時間。先ほど、いきなり一夏に暴行をするとは思いもしなかった。あんな奴に教員免許渡した奴は本当に能がない。どうせブリュンヒルデだからという女尊男卑の人間が渡したのだろう。

この世の中、女尊男卑をなくすには上をどうにかするしかないのか・・・

 

「さっきは大丈夫だったか?一夏」

「大丈夫だよ。心配性だな。兄さんは」

 

 そうか?あんなことがあっては心配しないほうがおかしいんじゃないか?それに弟を心配しない兄がいるはずないだろう?

 ちなみに廊下では多くの女子が牽制しあっている。軽蔑、といったものではなく興味に近い視線を感じている。敵・・・ではなさそうだ

 

「気楽に話しかけてくれるかと思ったが・・・ちょっと残念だな」

「仕方ないよ、女子しかいないところに男がいるだけでもイレギュラーだから」

 

 そういうものなのか?まあ、女子の気持ちなら一夏のほうが分かるはずだ。自分は男子校出身だし、それに自分はアレだから・・・仕方ないか

 

「なんで生きているんだ、出来損ない」

 

 ・・・一番会いたくないやつの一人が来やがった。ったく、なんでこういうやつは絡んでくるのか、めんどくさい

 

「何を言ってる、俺は遠藤一夏だ。お前の言う出来損ないじゃない。」

「俺に口答えするなんてな、いい度胸じゃないか」

「そうだ!一春に口答えするな!出来損ない!!」

 

 なんか織斑の取り巻きがうるせえなあ。こいつ篠ノ之束の妹か?束さんがほぼほぼ断絶している、一夏をいじめていたクズか?見ただけでわかる。こいつは人間的にクソな顔をしている。

 というより、弟が馬鹿にされて俺がそろそろ限界だ。

 

「さっきから黙っていたが何様だよ、てめえら。俺の弟を侮辱しやがって・・・」

「俺を知らないのかい?ブリュンヒルデの弟にして天才の織斑一春を。」

「その天才様は人を侮辱しないと気が済まないのかい?それとも人を不快にすること『だけ』は天才様なのかな?」

「なんだと!?貴様ァ!」

「落ち着きなよ箒、こいつらには何言っても無駄のようだ。凡人には俺たちの考えが分からないんだよ」

 

 そういってどこかに行く。本当胸糞悪いな。あれが天才だったとしたらそんな天才はそこら中にいることになるのに・・・絶対他の人よりも優れていただけの人間だろう。ああいう人間は根幹が腐ってる。いわば社会のゴミだ。抹殺せねば・・・

 そう考えていると一夏が申し訳なさそうに口をひらく

 

「ごめんな、兄さん。」

「お前が謝ることじゃない。一夏こそ、あんな奴らといて辛かっただろう」

「・・・ああ、辛かった。でも今は兄さんがいる。それにあの時みたいな弱い俺じゃない」

 

 うれしいことを言ってくれるじゃないか。弟の成長が見れてうれしいよ

 こんな弟をもって、俺は幸せ者だな・・・

 

 

 ブラコンだと思ったやつ、表に出ような?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 二回目の休憩時間に声をかけられた。その声のほうを向く。セシリア・オルコットがそこにいた。

 自分はこいつを知っている、といっても一方的にだが。イギリスの貴族で代表候補生にして専用機持ち。自分の嫌いなエリートというやつだ。そして女尊男卑の思考を持っているらしい。最後は確信を持てなかったがそうでないことを祈って話しかける

 

「なんでしょう?」

「まあ、何ですの?そのお返事は、このわたくしに話しかけられただけでも光栄だというのに!」

 

 ・・・前言撤回、女尊男卑にどっぷりつかったゴミだった。こんなゴミはほっとくのが一番。

 

「そうですか。自分言ったよね、女尊男卑の人間が嫌いだと」

「フン!男のくせに入試主席であるわたくしにそんな口の利き方なんて、教育がなってないことじゃあありません?」

「お前みたいなやつには敬意なんて必要ない」

 

 一夏の言う通り、こんな奴には敬意を与える必要はない。こういうやつはへりくだると余計に調子に乗るタイプだ。ま、反発してもどうせヒステリックになるからもう、どうしようもないな。

 

「そうですか。話すだけ無駄のようですね。もしなにかあっても教えませんわよ」

 

 そういって席に戻る。・・・なんか今朝から気分の悪いことが続くな。

 

「なんだアイツ、偉そうに」

「ISの代表候補生ってあんな奴がやってんだろうな」

「だな。やっぱ動かしたのは間違いだった気がする」

「それはどうしようもないが、あんな奴が首席なんてな」

「やっぱどうかしているな」

 

 こんな愚痴を一夏と語り合う。IS学園にいなかったらこんな風に学校でだべることはなかっただろう。それについてはよかった・・・のかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 三時間目は織斑千冬の授業だった。あのクズの授業、聞きたくもないがIS関連なので聞いておく価値はあるだろう。

 

「その前にクラス代表を決めなければならないな。簡単に言うとクラス長みたいなものだ。各委員会会議の出席のほか、今月末のクラス代表対抗戦にも参加してもらう。自他推薦は問わん。誰かやるやつはいるか?」

 

 うまくまとめているが、いわゆる雑務を押し付けられる生贄を誰かがやれってことだよな。男子校だったらノリとかで決まるが、生憎ここは女子高。変な空気にしたら学校生活がまずいので黙るに徹する。一夏も沈黙を貫くようだ。

 

「はい!織斑君がいいと思います!」

 

 織斑が推薦される。あいつがクラス長なのは癪だが、面倒ごとを押し付けられるならそれでいい。ただ、男って理由だけで推薦するとなると・・・

 

「私は遠藤君・・・だと二人いるから雪広君を!」

「なら私は一夏君を!」

 

 ・・・やっぱりか。ただ、男に仕事を押し付けようというよりも、クラス代表は男という見栄えのほうを優先している感じだな。それだったら仕方がない。

 どうせ自分らの意見は却下するだろう。あのクズ教師は。

 

「お待ちください!」

 

 とさっき絡んできたゴミ、ことセシリア・オルコットが噛みついてきた。

 即座に一夏にアイコンタクトをする。一夏はバックを開け、あるものを取り出し、スイッチをオンにする

 

「実力からいけばわたくしがクラス代表になるのは当然。それを物珍しい理由で極東の猿にやらされては困ります!」

 

 出るわ出るわ奴からの男性差別の発言が。それだけじゃない。日本差別まで言ってくる。こいつ、どこの国に今いるのか分かってないのか?まあ、それはそれで好都合だがな。

 

「イギリスだってお国自慢ないだろ?」

「なっ・・・!」

 

 チッ・・・クズが割り込みやがって。余計にめんどくさくなってしまう。にしても、この程度でケンカになるとは・・・自意識過剰な人間は中身が幼稚だな。

 勝手に二人でヒートアップしているが、あのクズ教師、止めようとしない。ホント、こいつに教員免許渡したバカはだれだよ。今すぐ剥奪しろ。

 

「それにしてもあなたたち2人は何も言いませんのね。なにも言えないのでしょうか?先ほどの威勢はどこにいったのでしょうね」

 

 こっちに噛みついてくるとは。どんだけ敵を作りたいんだか。エリート様の考えてることはわからねーや

 

「悪いね、こんな低レベルな言い争いに参加したくないもんだから」

「「なっ!?」」

「どうぞ、勝手に日本とイギリスの関係を悪化させてくださいな。自分は知らん」

 

 さっきも言ったが関わるだけ無駄だ。無駄な情報をシャットアウトしようと・・・

 

「ふん!このような腰抜けとは・・・あなたの家族もろくでなしのようですわね!」

 

 

 

 あ?今なんつった?

 

 

 

「聞こえなかったのかしら?あなたの育ての親もろくでもない方だとわたくしは言ったのですわ!」

 

 俺を馬鹿にするのはいい・・・実の親もその通りだ。

 だが、一夏を・・・幸雄父さんを・・・馬鹿にするのか、このゴミハ!!!

 ユルサナイ、ユルサナイユルサナイ、ユルセナイ!!!

 

 

 

 

 コ ロ シ テ ヤ ル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの女!雪兄さんの逆鱗に触れやがった!兄さんは育ててくれた父さんを馬鹿にされるとブチギレるんだ!

 兄さんはめったなことでは怒らないし、俺もケンカをしたのは数回しかない。しかもたいていは雪兄さんが負けていた。ただ、一度だけ雪兄さんがブチギレるとこを見てしまった。東京内で女尊男卑の女3人が雪兄さんをキレさせたのだ。

 はっきりいって惨事だった。一人は血まみれになって手足があり得ない方向に折れ曲がれ、また一人は棒のようなもので地面に手足を磔にされ、残る一人は雪兄さんが馬乗りになって顔を殴りまくっていた。その時の雪兄さんは怖かった。狂気の笑顔を浮かべながら殴っていた。何とか俺と雪兄さんの仲間たちで雪兄さんをおとなしく(気絶)させ、これ以上の被害が出ることはなかった。(女たちは東京の条例で捕まり、二度と東京に足を踏み入れることはなくなった)

 

 兄さんが立ち上がる。マジでキレている・・・俺はすぐに雪兄さんの肩を持った

 

「落ち着け、兄さん」

「・・・オチツイテイラレルトデモ?」

「分かっている。でも駄目だ。兄さんが問題を起こしてどうする」

 

 それに、と俺は畳みかける

 

「俺もそういうレッテルで見られるけど、兄さんはそれでいいの?」

「!」

 

 兄さんは俺が被害をうける行動は絶対にしない。兄弟の絆をこんな形で利用するのは申し訳ないが、今はそうするしかない。

 

「兄さん頼む、俺からの願いだ。抑えてくれ」

「・・・わかった」

 

 兄さんは席に着く。良かった・・・何とか怒りを抑えることに成功した。

 

「話はまとまったな。では来週の月曜日に代表決定戦を行う!いいな!」

 

 何もまとまってねーよ!低能クズ教師が!

 結局俺たちまで巻き込まれるし、まだあのゴミたちは言い争っているし・・・どうかしてるんじゃないか?このクラス。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 ご挨拶

 日常的なものほど文にするのが難しい

 まあ、不定期ですし


 やっと放課後が来た。マジで今日は気分が悪くなる出来事が起こりすぎている。織斑一味はおおよその予想がついていたがオルコットのゴミは完全予想外だった。久しぶりにキレちまうとこだった。

 ただ、あんなゴミの発言で切れそうになるなんて・・・まだまだ自分もガキだな。同じこと言われたら次もキレそうだが。

 

「遠藤君たち!よかった間に合いましたね、これが寮の部屋の鍵です!」

 

 自分たちは山田先生が寮の鍵を持ってくるのを教室で待っていた。その間は多くの女子たちが来て自分たちに質問してきた。あまりの量に疲れはしたが、嫌われている、避けられているよりかはよっぽどましだ。

山田先生から鍵を受け取り、一夏と確認する

 

「1077号室、一夏もだよな」

「ああ、1077号室だ」

 

 よかった、この要望は通ったようだな。見知らぬ女子よりも、一夏が同じ部屋なら何かと都合がいい。なにより、気兼ねなく生活ができる。女子たちも無名の男と同じ部屋であるよりかましに違いない。自分の部屋に行くためにこの場はお開きにするか。

 部屋には付いてこないでよー、と一応くぎを刺す。まあ、部屋番号はみんなに見せたから来ることはないだろう。

 じゃあ行くか、一夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の前までついた。その間に兄さんとは部屋に入ってからの行動の打ち合わせをしていた。

 

「よし、空いた。入るぞ」

 

 いいな、と兄さんは言う。俺は黙ってうなずく。

 部屋に入る。扉を閉めた後、行動を開始する。まずは盗聴器確認。部屋の隅々まで兄さんと探し出す。その機械は束さんお手製のものだから信頼できる。ベッドの下、机の中、モニター、洗面所など結局20近く出てきた。盗聴器がなかったら終わりだったんだが・・・仕方ない。その盗聴器を集め、その前にパソコンに接続したスピーカーを置く。そしてパソコンの再生ボタンを押した後、俺たちは部屋から出る。

 名付けて、「盗聴されるなら一泡吹かせよう作戦」と兄さんが命名した作戦だ。ネーミングは置いといて、ただ盗聴器を見つけて破壊するのではなく、些細な話声のあとにいきなり大音量の音を鳴らして、盗聴している人の鼓膜を破こうという、いわば嫌がらせの倍返しみたいなものだ。

 

「にしても、ここの防音設備はしっかりしているな」

「だな。外だと全く聞こえないし」

 

 あれを実際、雪兄さんがいたとこの寮でやったら、廊下どころか上下の階の部屋からも音が漏れ、何事かと聞かれたことがある。そのくらいの爆音が今流れているはず。それが全く聞こえないから、そういう点ではプライバシーを守っているのか。俺らのは侵害する癖に。

 

「よし、終わったな」

「じゃあ入るか」

 

 兄さん先頭で部屋に入る。録音したものも終わったようでスピーカーからは何の音も出ていない。

 次に俺たちは盗聴器を淡々と踏み潰す。数が数だし、小さいので物理的に破壊したほうが効率的だ。これで盗聴されることはまずないだろう。その後荷物を開き、2つある机はどちらを使うかなどの話をした。とはいっても机とベッドの位置が決まれば後はその時で決めるような感じとなっているが。

 

「よし、大まかなことは済んだし・・・行くか」

 

 兄さんとともに立ち上がり、兄さんの後についていく。

 

 行先は・・・学園長室と生徒会室だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通常、新入生が学校生活において学園長室や生徒会室に行くことはほとんどない。ましてや初日に行くような場所ではない。だが、俺たちの場合は状況が状況だ。世界で稀有な男性IS操縦者であり、後ろ盾がなかった時でも、学園長は率先してこのIS学園に入れるよう話を進めてくれたらしい。その確証がなかったためにその確認ついでの挨拶をするために学園長に行った。いわゆる、ご挨拶をしに行った。

 

「にしても、あの用務員のおっちゃんが学園長とはな」

「ああ、自分もびっくりだった」

 

 そう、この学園で働いている唯一の男性である轡木十蔵(くつわき じゅうぞう)がこの学園の学園長だった。今の時代男がトップに立つと面倒という理由から、表向きは彼の妻が学園長としており、彼自身は用務員として働いていることになっている。

 実際会ってみて分かったが、彼は自分たちの味方になってくれる、いい人だった。彼は信頼できる。学園の良心と噂されているらしいが、本当のようだ。

 

「ただ、生徒会長はいなかったな」

「ああ。まあ、年度初日から仕事はないんだろう」

 

学園長あいさつの後、生徒会室に立ち寄ったが誰もいなかった。部屋は暗く、鍵がかかっていたから、たぶん仕事がなく自室に戻ってしまったのだろう。

 

「いないのなら仕方がない。明日の空き時間にまた行くか」

「そうだな、自分もどんな人か見てみたいし」

 

 生徒会室に寄った後、自分たちは少し早めの夕食をとった。そんなに人がいなかったので誰も来ることなく、クズたちが来ることもなく夕食を済まし、自室に戻っている。

 自室の前につき、兄さんがドアノブに手をかけ、開けようとした

 

「!」

「どうした?兄さ・・・」

 

 声をかけようとしたとき兄さんが人差し指を立てて口に当てる。そして、兄さんがISのプライベートチャネルを開き、そこで会話をしてきた。

 

(誰かが入った、もしくは入っているかもしれない)

(・・・その根拠は?)

(ない。ただそんな予感がする)

(・・・どうする?)

(中の音を確認する)

 

 そう言って、兄さんはドアに耳をあてる。俺も確認したいので兄さんと同じようにする。防音設備がしっかりしているが、こうすれば少しだけ内部の音が分かるはずだ。

 

(・・・音がわずかに聞こえる気がする) 

(敵意は・・・分からないな)

(開けるか?兄さん)

(いきなり襲ってくるかもしれんから態勢だけ作っておけよ)

 

 身構える。相手を想定していつでも反撃ができるようにする。

 兄さんがドアを開くと・・・

 

「おかえりなさいませ!ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」

 

 何事もなかったかのように兄さんはそっとドアを閉じる。再びプライベートチャネルを開く。

 

(・・・ハニトラか?)

(いや・・・ハニトラではない、と思う・・・多分)

 

 襲撃を想定していたので拍子抜けもあるだろうが、予想外過ぎて思考が定まっていない。まさか裸エプロン・・・いや、水着エプロンをやるとは。今時あんな奴がいるんだな。恥を知らない女が。

 

(どうする?敵意はなさそうだけど・・・)

(いや、それ以前にアイツは不法侵入だ。アイツ以外の人の影もなかったし・・・)

 

 と、兄さんはバッグからスタングレネードを取り出す。俺もそれに気づき、立ち位置を交代する

 

(いいな?)

(OK)

 

 兄さんはピンを引きぬく。その2秒後に俺はドアを開ける

 

ガチャ

「おかえりなさ・・」バタン!

 

空いたドアから兄さんはスタングレネードを放り込み、俺はすぐにドアを閉める。そして二人でドアを押さえつけ、侵入者が逃げられないようにする。内側からドアをたたく音がするが

 

バン!

 

と音がするとドアをたたく音が聞こえなくなった。中でしっかり起動したようだ。流石にスタングレネードの音は防音設備のある部屋でも聞こえるのか。

 

「さて、入るぞ」

 

 そう言って俺はドアを開ける。するとそこには・・・

 

  水着エプロンをしている痴女がのたうち回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきなりスタングレネード投げるなんてひどいじゃない!」

「いや、不法侵入していたお前が悪いだろ」

 

 俺たちはスタングレネードから回復した痴女と会話をしている。未だに水着エプロンのままだし・・・頭のネジイかれてるんじゃないのか?

 

「で、何の用です?更識生徒会長?」

「あら、私のこと知っているのね」

「・・・は?」

 

 待て待て待て、この女がIS学園の生徒会長?嘘だろ!?こんな痴女が生徒会長なんて!

 あー、でも雪兄さんの中学校でもそんな感じだったな。こいつが生徒会会長かよ、って思ったし。そういうやつなんだな。

 

「・・・一夏君、なんか変なこと考えてな~い~?」

「いや、こんな痴女が生徒会会長なんて終わってるな、って」

「ちちち、痴女じゃないわよ!」

「えっ!?処女なのにあんなことをするんですか?」

「つまり処女ビッチなんですか!?」

「違うわよ!!!」

 

 素直に回答したら兄さんが悪ノリしたので俺もノってみた。でも、こんなことを平然とするやつは少なくともビッチな奴だと思うのだが・・・

 いずれにせよ、ヤバいやつ、もしくは変態ということでよさそうだ。

 ただ、生徒会長がここにいるなら好都合だ

 

「自分たちは生徒会長を探していたんですよ」

「あら、私とデートしたいのかしら?」

「痴女とデートですか、俺はお断りです」

「だから痴女じゃないってば!!」

 

 今の格好でどう痴女じゃないと証明するのだろうか?というか、いつになったら服を着るのか?

 

「これ以上コントをやっても仕方がないので、2つほどお願いがあります」

「何かしら?」

「まず一つ目、資料室みたいなISのデータが置いてあるところを知りたいのですが」

「・・・どうしてか教えてくれる?」

 

 俺たちは今日のクラス代表決定戦に至る経緯を説明した。そのうえでオルコットを叩きのめすために、オルコットの機体の性能や戦闘スタイルを調べたいためだと説明した。

 

「なるほどね、それは災難だったわね」

「ホントですよ。まったく、代表候補生ってあんな奴ばっかなのか」

「そんなことはないわ。あの子が女尊男卑に染まっているだけよ」

「とにかく、あのゴミを潰す。自分は」

「話がそれちゃったわね、資料室が本校舎にあるから自由に使って大丈夫よ」

 

 あんまりみんなは使ってないけどね、と会長はいう。なんだ、自由に使っていいものだったのか。誰かの許可が必要かと思ってた。それならオルコットのデータを隅々まで調べ上げて対策できるな。

 

「それともう一つですが、自分たちにISの指導をしてもらいたいのです」

「それはどうして?」

「生徒会長は生徒最強である、のでしょう?強い人に教えてもらったほうが力になると思ったので」

 

 図々しいですが、と雪兄さんは肩をすくめていう。確かに強い人に教えてもらうほうがどういう欠点があるかを教えてくれ、早くに克服できる。

 ただ、相手の私情もあるだろう。断られることを想定していたが、

 

「わかったわ。特訓を引き受けるわ」

「いいんですか?」

「ええ。強くなろうとする子、私は好きよ」

 

 どこからか取り出した扇子を開くと「努力必須」と書かれていた。いや、どういう仕組みなんだ?

 ただ、会長と特訓の約束ができたのは大きい。教師は時間的に無理だと思っていたから断られたらどうするか考えていたのだ。

 

「じゃあ、明日の放課後からでいいわね?」

「「はい」」

 

 よし、と会長が言うと同時に扉が開く。

 

「ここにいたのですか!」

「ゲッ!う、虚ちゃん!?」

「会長!また仕事をさぼりましたね!!今すぐ溜まった書類を処理してもらいますよ!」

「で、でも時間的に・・・」

「問答無用です!!」

 

 と虚さんという人が会長の首根っこをつかんで退室していった。

 

「・・・あの人に教えてもらうで大丈夫かな?」

「・・・分からん」

 

 仕事さぼってたのかよ・・・

 結局あの人は水着エプロンのままだったし、そういや会長の本名も聞いてないし・・・

 

「とにかく、やれることはやろう。と、いうことで自分はイギリスのIS情報を探る」

 

 兄さんはさっそくオルコット対策のために動いている。

 そうだ、俺たちはあのクズたちには負けられない。そのために最大限できることをして、決闘当日の勝率を上げるのだ。

 

「兄さん、頑張ろうな」

「一夏、お前もな」

 

 こぶしを合わせる。よし、俺も頑張ろう!

 

 と、言っても今はやれることがないから、武装の確認とISを動かすシミュレーションをするしかないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は飛んで、クラス代表決定戦当日。楯無さん(下の名前で呼ぶ『たっちゃん』はさすがにやめた)との特訓は生徒最強というだけあり、教えはわかりやすく、オルコット対策の訓練もしてもらえた。自分たちも集められる情報はかき集め、一夏とともに対策を練りに練った。あとはその場で対策をするだけだ。

 

 対戦表は以下の通りとなった

 

1試合目 セシリア・オルコットvs遠藤雪広

2試合目 織斑一春vs遠藤一夏

3試合目 セシリア・オルコットvs遠藤一夏

4試合目 織斑一春vs遠藤雪広

5試合目 遠藤雪広vs遠藤一夏

6試合目 織斑一春vsセシリア・オルコット

 

 いきなりゴミアマとの戦闘か・・・織斑のゴミと当たって動作確認をしたかったのが本音だが仕方ない

 

「大丈夫よ。雪広君なら勝てるわよ」

「兄さんなら大丈夫だ!勝ってきてくれ!」

 

 一夏だけでなく楯無さんが応援してくれる。本来ピットには関係者以外立ち入り禁止だが、会長特権と自分たちのコーチをしてくれたのでここにいてもらってる。()()()()もあるが。まあ、弟とコーチに応援されたらしっかり結果出さないとな。

 

 両手で頬をたたき、集中する。今回は訓練ではなく実戦だ。目標を倒すのみ。・・・あのゴミを叩きのめすのみ。

 ダークブルーのISを展開し、カタパルトに乗る。準備万端だ

 

「遠藤雪広、スクーロ・ソーレ、いきます!」

 

 自分はカタパルトから飛び出す。

 目の前には憎き女尊男卑の女が青いISを纏っていた。

 

 アイツを・・・潰すだけだ

 




 次回 代表決定戦!
 戦闘描写が書けるか心配な作者です。

 織斑一春の専用機が来るところは主人公たちが関わらないので全カットです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 vs女尊男卑の女

投稿してわかったのですが、ISの二次小説って今でも新しいのができたり、更新されてますよね
あっという間に1ページ目から外れるんだもん

 あと、第2話の雪広の機体名を修正しました
 イタリア語の読みを間違えていました、申し訳ありません


「あら、逃げずに来ましたのね」

 

 出てきて早々、相変わらずの上から目線。上級階級がこんなんじゃ、世界はよくならないわ。

 自分たちはこいつの機体だけでなくこいつ自身のことも調べた。

 こいつの母はISが発表される前から起業家として会社を成功させた経営者。父はその婿養子で母に頭が上がらない。夫婦仲は当然のようによくないと言われている。どうせオルコットは、社会の風潮と立場が低かった父の影響で女尊男卑の風習に流されたのだろう。

 しかし、両親は()()()()()()()()()()()で事故にあい死んだ。これが腑に落ちていない。そもそもなぜ夫婦として居続けたのかもおかしな点だ。夫婦仲が悪いのならさっさと追い出すのが今の時代の女だろう。離婚しただけで社会的にマイナスとなることはないし。

 自分たちの出した結論は「オルコットの父は母、そして会社のヘイトを買っていたのではないか」ということだった。ここの学園長みたいに、男が社会で上にいるとそれだけで噛みついてくるカスがいる。そうならないように父はあえて表では情けない姿を「演じていた」のではないか。本当は夫婦の仲は良かったのではないか。そう考えると辻褄が合う。

 

 この話でヤツの動揺を誘うことも考えていたが、見る限り相手にしないだろう。まあ、その推測も推測でしかない。真実はわからない。

 

「最後のチャンスを差し上げますわ。わたくしがこの勝負に勝つのは当然のこと。もし、今この場で土下座をすれば降参を認めてあげてもよくってよ」

 

 ・・・ほんと煽ることしかしないのか、このゴミは。それにその言い方は絶対降参を認めないな。そもそも土下座することはネタ以外では絶対しないが。

 

「相変わらずキーキーうるっせえなあ。イギリスの貴族様はこんなにも醜いことを晒して恥ずかしくないのですか?」

「なんですってぇ!!」

 

 プライドが高い奴ほどこういう煽りにすーぐ乗っかる。特にこいつは自身の国に誇りを持っているからいくらでも煽る要素があるから楽だ。いかに自分のペースで物事を進められるか、相手のペースを崩せるかが勝負のモットーだと自分は思っている。真剣勝負ではやらないが、あいにくこれは勝負である。ある程度勝つために小細工を入れることで勝率をできる限り上げる。

 試合前から勝負ってのは始まっているんだよ

 

「もう命乞いしても許しませんわ!容赦なく地べたを這いずり回りなさいな!!」

 

 試合開始とともにヤツがレーザーライフルで撃ってくる。着弾点が右肩なので、左に体をずらしてレーザーを躱す。

 

「避けたですって!?」

「避けるに決まってるだろう?ただの的に当てる練習をしているのではないのですよ、練習番長さん」

「このっ・・・!だったら、ブルーティアーズ!!」

 

 4つのビットが出てきて、自分を取り囲むように動く。あれがヤツの特徴である武器か。データで見た通りだな。

 

「踊りなさい!私のブルーティアーズが奏でる円舞曲で!」

 

 何やらほざいているが気にしない。今はとにかく躱す。躱しつづけてヤツのレーザー攻撃に()()()ことが重要だ。ISの訓練や模擬戦闘をしていたとはいえ、公式戦では自分はまだ素人。やみくもに突っ込むのは愚策だ。この場に慣れてからヤツの弱点を突けばいい。

 それに、疲労がたまってくれればより勝ちやすくなるしな。

 

 

 

 

 

 

「この、ちょこまかと!」

 

 戦闘開始から7分経過。直撃はなかったが最初のほうでレーザーを何度かかすり、SEは8割くらいだ。対してヤツのSEは満タン。というのも、自分は一切の攻撃をしていないのだ。7分間、自分はレーザーの雨を交わし続けていただけだった。

 

「それにしても、攻撃してこないなんて・・・ああ、攻撃できないのですわね。これだから男は」

 

 なにやら自分を馬鹿にしているようだが、これは好都合だ。つまりヤツは今油断している。

 これほどの好機はない!!

 自分はすぐにビームライフルを呼び出し、ヤツ本体を撃つ

 

「!」

 

 ヤツは初めて攻撃してきたことに驚き、それと同時にビットが止まる。そして、すぐさま投擲用短剣を呼び出し、自分に一番近いヤツのビットに投げ、破壊する

 

「わ、私のティアーズが!」

 

 動揺している間にもう一本短剣を呼び出し、同じようにビットを破壊。あっという間に2機のビットを破壊できた。

 ヤツの弱点、それはヤツがビットを操作している間、自身はほとんど動くことができないこと。さらに、ビット操作はかなり集中しなければいけないため、少しの動揺でビットの動きが鈍くなる、もしくは止まるということ。これは資料室で得たヤツがIS学園の実技試験の映像と自分が調べて出てきたイギリスでの模擬戦闘の映像から一夏と予想した弱点だ。実際、楯無さんに聞いたら合っていた。はっきり言って、致命的な弱点だ。

 とはいっても、弱点が分かったところで簡単に勝てるわけではない。特に全方位からのレーザー攻撃は受けてみないと分からない。そのために、この一週間は楯無さんに協力してもらって、全方位攻撃を疑似的に再現してもらっていた。また、自分も一夏が全方位攻撃を経験しているときにその攻撃に加わり、全方位攻撃をする側の行動をすることでヤツの考える攻撃パターンを予測していた。

 その訓練の成果が出ており、かつビットも2機落とせたのは大きい。現にヤツの攻撃は激しくなっているようだが、4機と2機では攻撃の量が違う。余裕でかわしながら、今度はマシンガンを呼び出し、残りのビットも破壊する。

 

 これでヤツが出した分はすべて破壊した。

 

「よくも、よくもわたくしのブルーティアーズを!!」

「破壊するのは当たり前だろう。戦闘において武器破壊は常識。いちいちうるさいんだよ」

「うるさい!男の分際で!!」

 

 もう常套句(じょうとうく)だな、女尊男卑の人間がよくいうセリフ。なんでこんなヤツが入試主席なのか。面接で落とせよ、大学の医学部みたいにさ。イギリスもビットの適正だけで代表候補生にさせるなよ。

 

「その見下している男にお得意の武器を破壊されているのはどこの誰でしょうかね~?」

 

 少しからかう。ここからどう醜い言い訳がでてくるか・・・

 

「うるさい!あなたみたいなクズを育てたドクズな親が見てみたいですわ!!」

「・・・は?」

「あら・・・何度も言って差し上げますわ!あなたを育てた『低俗な』親が見てみたいものですわ!!」

 

 

 あっ、駄目だ

 

 

「・・・ハハハハ、アッハッハッハッハ!!」

 

 人間、怒りが度を過ぎると笑いが止まらなくなると言っていたがその通りのようだ。

 

「本当ならまだとっとくつもりだったが・・・もういいや」

「なにをぶつぶつと」

「いいわ、もう。お前を・・・潰す」

 

 手を顔に当て、大きく息を吸い込む。そして、

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

「なっ!?」

 

 地面に大声で叫ぶ。いきなりのことで驚いているだろう。一夏も驚いているんじゃないかな。このことは一夏にも言ってないし。まあ、今はヤツを再起不能なまでに潰すのみ。

 自分の周りには機体から出た黒い霧でおおわれる。準備完了だ

 

 任せるぞ、()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「な!?」

「あれが・・・」

 

 私は今、一夏君とともにピットで雪広君の戦闘を見ている。ビットも破壊したあと、またオルコットちゃんは雪広君の逆鱗に触れた。そして雪広君は奥の手を出すようだ。

 雪広君に教えてもらったのだが、どうやら雪広君のISは形態変化ができる。第二次移行

(セカンドシフト)でも単一能力(ワンオフアビリティー)でもない。特定の条件を満たすとできると言っていた。そして、形態変化後は特有の武器と単一能力が使える。

 ただ、この単一能力が危険なのだ。本人曰く『理性をなくす』もので、最悪暴走するかもしれないと言っていた。もし、決着がついた後も暴走していることがあったら、即取り押さえるように頼まれてもいたため、私はこのピットにいる。

 

「・・・」

 

 一夏君はあまりのことで固まっている。私も少し動揺している。第二次移行する瞬間は見てきたことがあるが、形態変化は前例がない。それに、形態変化後の雪広君の姿も今回が初めて見るのだ。興味半分、恐怖半分ってとこかしらね・・・

 

『ハアアア!!!』

 

 そして、黒い霧を切り裂くようにして雪広君の姿が、ISが現れる。そこには瞳が赤に染まり、フォルム全体が暗黒に染まったISがいた。

 

 

 

 

「な、なんなんですの!?一体!」

「・・・」

 

 余りの変化に、思わずセシリアは雪広に問いかける。が、雪広は答えない。

 いや、答えられない。彼は今、()()()()()()()()

 

「何か言ったらどうです!!」

「・・・」

「フン!何言っても無駄のようですわね!ならばこれで」

 

 這いつくばりなさい、そう言ってライフルを雪広に定めようとした時、セシリアの視界から雪広が消えた。

 

「!?ど。どこに消えましたの!?」

 

 刹那、上からの警告アラートがなると同時にセシリアは上からたたきつけられる。態勢を立て直し、何とか地面に突っ込むことはなかったが、また雪広を見失ってしまう。

 

 ここからは一方的だった。横から、背後から雪広はセシリアを武器である爪で切り裂き、蹴りを入れ、SEを削っていく。セシリアは反撃をするものの、どれもすべてかわされ、隠しておいた2機のミサイルビットも破壊されてしまった。綺麗だった青の機体も、今は見る影もなくボロボロになっている

 

「この、男の分際で・・・男の分際でええ!!!」

 

 セシリアは再度ライフルを雪広に構え、最大出力で彼の頭を狙おうとした。が、

 

ヒュッ ガキュ

「!?」

 

 引き金を撃つ前に雪広は接近し、左手の爪でライフルを挟む。そして右手の爪でそのライフルを切り裂き破壊する。

 

「い、インターセプター!」

「ガアア!」

 

 ライフルもビットも破壊され、セシリアは最後の武器で唯一の近接武装のダガーを呼び出す。がその武器も雪広の蹴りで弾かれ、手元から離れてしまう

 セシリアは持てる武器がなくなってしまった。だが、雪広はとどめを刺しにゆっくりと近づく

 

「ハアア・・・」

「ゆ、許してください・・・な、何でもしますから・・・」

 

 殺される、そう思ったセシリアは非礼を詫びる。降参は双方共の合意がなければ成立しない。なんとかISのダメージを最小限にとどめようと雪広に謝る。

 が、その願い虚しく、雪広は右手を大きく振りかぶる。大きな爪で上から切り裂かれるのをセシリアは想像し発狂した。

 

「やめて、やめてええええええ!!!」

「・・・ッガアア!!!」

 

 雪広は爪でセシリアを上から切り裂く、そのまま地面に突っ込み、セシリアのSEが0になる。ブルー・ティアーズは半壊し、自身も泡を吹いて気絶している

 

『試合終了。勝者、遠藤雪広』

「ガアアア!!」

 

 試合終了のアナウンスとともに雪広は雄たけびをあげる。そして、一息つくと雪広のISは元の色に、暗黒から青の色が戻り、瞳も元に戻る。その後気絶したセシリアを見向きもせずにピットに戻っていった。

 アリーナは雪広が代表候補生を下したことで歓声とどよめきが沸き起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が戻ったときはヤツがライフルで自分の頭を狙う光景だった。ほんとに、このISの形態変化後の単一能力は使い方が難しい。

 でも勝てた。圧勝ではないが余裕をもって勝つことができた。一夏や楯無さんには感謝しかない。

 

「やったな!兄さん!」

「ああ!やったぞ!」

 

 ISを解除した後、自分は一夏とハイタッチする。

 

「よくやったわ。ま、おねーさんは勝つと思ってたわ」

「いえ、楯無さんの指導のおかげです」

「あらあら、嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」

 

 楯無さんの指導がなかったらこの勝利はなかった。本心からの言葉に楯無さんも気分が良さげだ。

 そして楯無さんからプライベートチャネルが開かれる

 

『それに、暴走しなかったのはよかったんじゃないの?』

『そうですね、まだあの形態変化では不安定ですが何とかなってよかったです』

『なにはともあれ、安心したわ』

 

 意識を取り戻した後、楯無さんにその旨をプライベートチャネルで伝えていた。それが試合後も届かなったら、即取り押さえることになっていたがその心配は杞憂に終わった。

 そして、一夏に視線を向ける

 

「さて、次だな」

「ああ」

「緊張してるか?」

「してない、っていうと嘘になるな」

「・・・大丈夫だ」

 

 と、自分は一夏の肩に手を乗せる

 

「一夏は強くなった。自分が保証する」

「兄さん・・・」

「一夏、過去の因縁をぶち壊してこい!」

「・・・ああ!」

 

 よし、一夏の緊張もだいぶほぐれたようだ。これならあのクズに勝てる。

 『だろう』はいらない。一夏なら絶対勝つ。自分の見ていないとこでも一夏は努力を惜しまなかった。それに、クズは天才と言っていたが、自分はそう思わない。自分は本当の天才を多く見てきたが誰一人、驕るものはいなかった。束さんだって努力を続け、ISを生み出した。中学までは才能がものを言うかもしれないが、高校からはそうはいかないはずだ。努力しない人間は落ちぶれる。

 そうこう考えている間に時間になった。いつの間にかゴミ(オルコット)も片付けられていた

 

「じゃあ、行ってくる」

「ああ、行ってこい」

「うん、・・・遠藤一夏!月詠(ツクヨミ)、出ます!」

 

 一夏が灰色のISを展開しピットから出ていく。

 頑張れ、一夏。お前ならできる。




雪広の機体説明 簡易版

・スクーロ・ソーレ

イタリアのジレス社が製作した雪広専用IS。イタリア語で「暗い太陽」ベースはイタリアが開発した「テンペスタ」であり、第二世代モデル。初期装備をすべて外し、それぞれの戦闘で武器を変えることができる拡張性の高さが特徴。装備格納数も12と他の機体と比べ多め。(一般的に他の機体は5~8)それ以外の性能は他の専用機持ちの機体の平均程度。
また、雪広の格闘スタイルも考慮しており、通常、殴る・蹴るでは自身もダメージを負うが、このISはそれを考慮し、自身のダメージをほぼ0にしている
ただし、末端が無敵というわけではなく、切られたり撃たれたりするとダメージを食らう。打撃に強くなってるイメージ




この世界におけるISの特殊能力

 形態変化  読み方 モードチェンジ

今現在、雪広のみができる変化。単一能力でも第二形態移行でもない。機体の特徴が変化し、搭乗者にも変化が起こる。
どうやらどの専用機も形態変化ができるらしいが詳細は現在不明。
束さんも解析中。


詳しくは代表決定戦が終わった後に書きます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 驕るもの達に現実を

 1戦ごとだと短くなるため、今回は2戦。
「一夏vs織斑」、「雪広vs織斑」です

ちょっと長いですが、どうぞよろしくお願いします

p.s. 誤字報告ありがとうございます。作者はゴリゴリの理系なので国語が苦手です。ご了承ください


「よお、出来損ない。俺様を待たせるとはずいぶん偉くなったなあ」

 

 俺がピットから出ると憎きクズ、織斑一春がいた。昔を思い出す。こいつにいじめられていたこと、天才だったことで俺の居場所を失くしていったこと。思い出したらキリがない。嫌なことしかなかった。・・・いや、束さんや弾、アイツとの生活は楽しかったな。

 

「何も言えないか。そうに決まってるよなあ。何せ俺様は天才なのだから」

 

 ・・・確かに俺に才能はなかった。それは覆せない事実だ。

 だが、その差を埋めるために努力はしてきた。幸い、中学校ではいい仲間と切磋琢磨してきた。もちろん兄さんとも、共に努力した。

 

「凡人は俺様の踏み台になれ、それしかお前は生きている価値はないんだよ」

「うるせえなあ、クズが、お前の弟ではないと何度も言っているだろう。バカか?」

「なっ!?」

 

 感傷に浸っていたがあまりにもウザかったので俺も言い返す。さっきから自身を天才と言っていたが、本物の天才はそんなことを言わない。

 兄さんのいた中学に何度か入ったことがあるが、あそこには天才と言えるような人がたくさんいた。だが、誰もがそれに見合う、いや、見合わないほどの努力を重ねていた。そして、みんなが口をそろえてこう言っていた。『まだ上がいる』と。束さんも天才だったが、宇宙に行く夢をつかむため、努力を積み重ねていった。あのクズ(織斑一春)にはそれがない。どうせ今も努力をしていないでここにいるだろう。現にアイツが訓練するところを俺たちは見ていない。

 そんなクズに負けられない、負けたくない!!

 

「それに今、集中しているのに気づかないのか?そうか、天才様は自己中で人をけなすしか能がないんでしたね。失敬失敬」

「この、俺様を馬鹿にしやがって!あの時みたいに逆らえないようにしてやる!!」

 

 だから、もうお前の弟じゃねえっての。ホント、融通が利かないというか、自己中だから・・・これだから天才様は困る。

 そうこうしている間に試合開始のブザーが鳴る

 

「死ねええええ!」

 

 いきなりの特攻。確かに初撃を入れる一つの手ではある。が、相手のことを知らずに突っ込むとは・・・天才とは程遠いな。

 直線的に突っ込むので最小限に体をそらして剣を呼び出し、そのまま剣道の返し技のようにカウンターを叩き込む

 

「グギャッ!て、てめえ!よくも!」

 

 見事に顔にクリーンヒットし変な声を上げる。初撃をかわされた上にきれいにカウンターを食らったのが癪らしく、激昂して攻撃してくる。だが、クズは馬鹿正直に剣道の型で攻撃しているうえに、怒りによって動きが単調になっている。でも、それをふまえて俺は思った。

 

  『弱い』と。

 

 俺は小学生の頃こんな奴に負けていたのか・・・あまつさえ、コイツを追い越そうという目標にしていたのか・・・

 このクズを目標にしていたのを思い出し、俺は情けなくなる。

 

「おいおい、攻撃してこないじゃないか。俺様のラッシュに手も足も出ないってかあ!」

 

 自責の念に浸っていたので、攻撃するのを忘れていた。クズは何やら誤解して都合のいい解釈をしているが、これ以上付け上がらないように、こちらから攻めてやろうじゃねえか。

 まずは、ヤツの上段からの振り下ろしを躱して右から切り上げる

 

「グエッ!!」

 

 そこから流れを止めずに『袈裟切り』。一回転して右から水平に切る『右薙ぎ』。そして、タックルをしてクズを吹き飛ばした後に『突き』をお見舞いした後に『唐竹割り』で脳天にたたきつける。クズはそのまま地面に激突する。が、まだ終わってないようだ。しぶとさは一人前のようだ。

 

「クソがああ!!!殺してやる!!」

 

 と、雪片弐型が光りだす。あれが白式の単一能力の・・・

 

「この零落白夜で!千冬姉の使っていた剣で!!お前を潰してやるよ!!」

 

 零落白夜。かつて織斑千冬が使っていた単一能力で、自身のSEを消費することでエネルギーシールドを無効化し、相手のSEに直接ダメージを与えるもの。下手をすると一撃受けただけでSEをごっそり削られる。場合によっては相手を殺すことだってできる。

 はっきり言ってこのクズに最も渡しちゃいけないものじゃねえか。倉持技研の連中は何を考えているんだか。ま、その情報は知っているし、対策は十分に立てたし。

 

「くたばれえええ!!!」

 

 再度突撃。突撃しか能がないのか。それで勝てるだなんて脳みそお花畑だろう。

 俺はそのままの剣でクズの上段からの切りを()()()()()()()

 

「な!?なんでだ!?千冬姉から受け継いだ最強の攻撃のはずなのに!!」

 

 当たり前だ。零落白夜はエネルギーシールドを無効化する()()であり、エネルギー体でないものに対しては何の意味もない。つまり、ビームサーベルとかではなく実物の剣や武器でSEを減らさずに受け止めることは可能なのだ。だが、あのクズは最強の剣だと勘違いしていたらしい。

 

「出来損ないのくせに!俺様の最強の攻撃を受け止めやがって!!」

 

 もういいや、こんな奴にこれ以上時間をかけても仕方がない。俺は受け止めていたクズの剣をはじき、剣道の小手のようにクズの手を切りつける。切られた痛みでクズは雪片弐型を落とす。これでヤツの武器はもう無い。

 

「ま、待て!俺はもう武器がない!」

 

 そんな命乞い、知るか。だったら落とさないようにしろ。それか殴る、蹴るの肉弾戦でもできるようにすればいいだろう。まあ、こいつは弱い者いじめで殴る蹴るはしていたが、殴り合いはしたことがないだろう。どうせ、一方的なことしかやらないくせに、いざ殴られると文句を言うやつだ。

 俺はとどめを刺しに剣を振りかぶる

 

「は、話し合おうじゃないか!俺たち兄弟だろう!?」

「何言っている、俺の兄さんは雪兄さん、ただ一人だ」

 

 今更このクズと和解するつもりもないし、どうせその場しのぎの嘘だろう。俺は聞く耳持たずに袈裟切りを決める。

 

『試合終了。勝者、遠藤一夏』

 

 勝利アナウンスが流れ、歓声が沸く。結局俺は剣一本で勝つことができた。()()()も見せることなく勝てた。俺はクズを見向きもせずにピットに戻る。後ろではクズがわめいているが気にしない。

 ただ、あまりにも一春が弱すぎて勝った気がしないな・・・兄さんは褒めてくれるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて心配していた時期が俺にもありました

 

「お゛め゛で゛と゛う゛う゛う゛!!!」

 

 ピットに戻って早々、兄さんはめっちゃ泣きながら俺が勝ったことを祝福してくれた。てっきり俺がやったのと同じように「やったな!」と言ってハイタッチするかなと思っていたが、あまりのことでびっくりした。

 横にいる楯無さんはげんなりしている。

 

「一夏君聞いてよ。君が勝ったら『勝った!一夏が勝った!!』って私の肩を揺さぶるのよ」

「だっで・・・グズッ、一夏が勝ったのを見るとうれじぐで・・・グズッ」

 

 こんなに喜んでくれると俺も嬉しくなる。改めて勝った実感が沸き起こる。

 ああ、俺は勝てたんだ。今までの努力が報われたんだな・・・

 

「おめでどう、おめでどう!!」

「ほら、兄さん、泣き止んで。まだ終わってないだろう」

 

 さすがにもう泣き止んでほしい。一応楯無さんのいる手前しっかりしないと。でも、たぶん俺は勝った余韻でにやけているだろうな。

 

「・・・うらやましい」

「?何か言いました?楯無さん」

「う、ううん。何でもないわ」

 

 なにか小声で言ってた気がしたが・・・まあ、詳しく聞くのは止そう。

 ほら、兄さん。泣き止んで。次も俺が出るんだから

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、泣いた泣いた。1年分は泣いたかな?」

「ホントだよ、マジ泣きすると思わなかった」

 

 一夏の勝利に感極まって泣いてしまったが、もう大丈夫だ。自分も戦闘モードに入る

 本来、次の試合は一夏とゴミ(オルコット)だったのだが、どうやらゴミの機体のダメージレベルが高いらしく、残りの二戦は棄権するとのこと。だから、残りは自分とクズ(織斑一春)、トリで一夏と自分の試合となった。この時点で一夏は勝ち越しとなるのか、うらやましい。

 

「にしても一夏だったらあのクズを気絶させることくらいできたんじゃないか?」

「確かにできたけど、兄さんもクズをボコりたいかなーって」

 

 確かに、オルコットをボコすのが目的だったが、アイツもなんだかんだむかつくからな。一夏のことを馬鹿にしやがって

 なんかイライラしてきたぞ

 

「よーし、この怒りをぶつけるか」

「ほどほどにしなさいよ」

 

 楯無さんから注意が入る。ま、形態変化して暴走するなってことだろうな。その点は大丈夫。さっきの試合を見る限り、形態変化するまでもない

 そろそろ試合開始の時間のようだ

 

「じゃ、いってくる」

「兄さん、大丈夫だろうけど頑張って」

「ほどほどにしなさいね」

 

 これ、戦闘前の掛け声じゃないな。まあ、負けないようにするだけだ

 ピットから出ると一夏にボコされた白の機体がいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと来たか。全く、俺様を待たせるとは、分かってないねえ」

「勝手に待っていたのはお前だろう。文句言っている暇あったら自分の対策でも練ってろよ」

「フン!天才である俺様はそんなことしなくても勝つんだよ!!」

 

 呆れた。さっき一夏に惨敗したのはどこのどいつだか。こんな奴が天才って言ってたやつら馬鹿なんじゃないか?裸の王だろう、どうみても。

 

「さっき一夏に惨敗したのによく自身満々だねえ?」

「うるせえ!さっきのはたまたま負けただけだ!」

 

 でた、『たまたま負けた』という言葉。たまたま判断を間違えた、たまたまミスした、でそのままにするやつはマジで成長しない。敗戦こそ何がいけなかったかを調べるいい機会なのに、それを無駄にするようじゃ救いはないな。

 試合開始のブザーが鳴る。

 

「今度こそ俺が最強だと示してやる!くたばれえええ!!!」

 

 何の変哲もない特攻。直線的だし、その割には遅い。一夏がやったのと同じようにカウンターで右ストレートを放つ

 

「ぷぎゃ!!ってめえ!」

「ただ突っ込むだなんて、お前は馬なの?鹿なの?・・・ああ、両方か」

「!ふざけんじゃねええええ!!!」

 

 どうやら自分の言いたいことはわかったようだ。顔真っ赤にしている。煽り耐性なさすぎるだろう。どれだけ温室育ちなんだ、このクズは。

 その後も突っ込んでは斬るをただ繰り返すので、こっちもそれに合わせてカウンターをする。どれもこちらが驚くほどきれいに決まる。これでよく自身が天才で最強だと思っていられるのか、不思議でならない。

 

「くそがあ!零落白夜!!これでお前は負けだあああ!!」

 

 いや、切り札的に言っても意味ねえよ。もうバレてるし。切り札を叫んで勝つのは漫画や二次小説の主人公だけだ。お前が主人公であってはならない。

 ただ、こっちも確認したいことがあったので好都合だ。

 

「くらえええ!」

 

 何度も見てきた特攻からの振り下ろし。本来ならさっきと同じように顔面にカウンターを叩き込むがあえてせず、ヤツの振り下ろした剣に2本の指でつまむように触れる。

 

「!」

 

 すぐに手を放し、距離をとる。1秒も触れていなかったがSEが2%近く減っていた。

 自分が疑問に思ったのは、『零落白夜は刀身に触れることも危険なのか』というものだ。触れたもののエネルギーシールドを無効にすることは分かっていたが、どれほどのダメージを負うのかまでは分からなかった。行動した結果、予想以上のダメージが入り、生身が刀身に触れること自体が危険だった。真剣白羽取りをしようものなら相当のダメージになっていただろう。危なかった。

 とにかく、これでヤツは用済みだ

 

「遠くまで逃げるとはな、俺様の最強の剣におじけづいたかあ?」

 

 ・・・見下すことを生きがいにしているのか?コイツは。格下に煽られても痛くもかゆくもない。ま、そこまで言うならこちらから行きますか。

 

「そうだよなあ!なんたって俺様は天さ、ゴブッ!!」

 

 油断してしゃべっている間に瞬間加速してみぞおちに一発。そのまま頭をつかみ、膝蹴りを顔面に叩き込む。大きくのけぞったところに回し蹴りを決める。ヤツは吹っ飛ばされ、壁に激突する。

 

「この、卑怯だぞ!しゃべっている間に攻撃してくるなんて!」

「何言っているんだ。戦闘中に無駄口叩いてるほうが悪い。それすらもわからないのか?」

「うるせえええ!俺様が正しいんだああ!零落白夜ァ!!」

 

 激昂して再度零落白夜を使ってこちらに来る。ていうか、零落白夜を連発していいのかよ。自分はヤツの攻撃をただ避け続ける

 

「ひゃははは!ほらほら、俺様を攻撃してみろよ!!」

 

 そろそろか。そう思うと同時に零落白夜が切れる

 

「なっ!?」

「お前、零落白夜の弱点を知らずに使っていたのかよ」

 

 零落白夜の弱点は『自身のSEを消費し続ける』ことだ。つまり、零落白夜を使い続けていてくれれば、こちらから攻撃しなくても勝つことができるのだ。自身の機体の特性すらも知ろうとせずによくここにいられるな。過信とか愚者ってレベルじゃないぞ、これ。

 

 ま、これでヤツの剣も脅威ではなくなった。ヤツのいつも通りの切り下ろしに対し、自分は片手で剣をつかむ。SEは削られるがまだまだ余裕だ。そこから蹴りをいれ、ひるんだ隙に剣を奪い取る

 

「か、返せ!俺様の最強の剣を!!」

 

 誰が返すかよ。そもそも最強じゃないし、その零落白夜が切れた今、それはただの剣のはずだが?

 自分はそのまま離れたところに剣を投げ捨てる

 

「そういやお前さ、俺の弟を馬鹿にしていたよな?兄として黙っちゃいられないんだけど」

「あ、アイツは出来損ないだ!生きてること自体が罪なんだ!俺様がたd」

 

 言い終わる前に顔面を殴り飛ばす。やっぱこいつも社会のゴミだ。もう慈悲なく潰してやる

 左手で頭をつかみ顔面を殴り、蹴りを何度も入れる。手を離した後はボクシングのインファイトみたく、顔面、体にラッシュを入れ、アッパーをかます。最後に縦に一回転して、ヤツの頭にかかと落としを決める。そのままヤツは地面に激突しSEが尽きる。そのまま意識を失ったようで白目をむいている。

 

『試合終了。勝者、遠藤雪広』

 

 あまりにも弱すぎた。これじゃあ手ごたえがなさすぎる。歓声が上がるが、自分自身がなんか盛り上がらない。これでよく天才だと思える精神を知りたい。

 何とも言えない思いの中、自分はピットに戻った

 

 そういえば、自分何も武器呼び出してないじゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪兄さんの試合が終わる少し前、

 

「貴様の機体を寄越せ」

 

 俺たちがいるピット内に織斑千冬と篠ノ之箒が来やがった。そして、開口一番に俺の専用機を差し出せと言ってきた。ちょっと何言ってるかわからない。

 

「何言ってるのですか。言っている意味が分かりません」

「貴様に拒否権はない。貴様の機体は明らかに第三世代の性能を超えている。ゆえにこちらで検査を行う」

 

 どこをどう見たら第三世代の性能を超えているってわかるんだよ。要するにただのいちゃもんに過ぎない。・・・そうか、クズ(織斑一春)に勝ったことが不満ってわけだな。

 正当な理由を並べておくか

 

「この機体は学園の検査を経て使用許可をもらっています。仮に検査をする場合は企業から許可をとる必要があると思いますが」

「私が法だ。そんなものは関係ない。それに、機体性能を超えているという証言者もいるからな」

「誰です?」

「私だ」

 

 篠ノ之箒ことクソモップが名乗り出てきた。

 馬鹿じゃないのか?お前みたいなど素人が機体のスペックを見ただけでわかるはずがない。それにその意見をあたかも正しいとする織斑千冬もふざけている。

 

「お前の機体は明らかに強すぎる!天才である一春が出来損ないに負けるはずがない!!」

 

 モップはクズの狂信者で、クズに惚れているんだった。俺は小さいころ、一春とともにコイツにも暴力を振るわれていた。特にモップは竹刀で俺のことを殴っていたから余計たちが悪かった。

 束さんの妹とは似ても似つかない。どうして姉妹でこんなにも差が出たのだろうか?

 と、考えていると楯無さんが助け舟を出してくれた

 

「織斑先生、それはあまりにも横暴です。しかも一生徒の意見だけで機体の没収は聞いたことがありませんよ」

「うるさい!私は篠ノ之束の妹だぞ!!一生徒ではない!!」

 

 そう。モップは普段束さんのことを嫌うくせに、自分の都合が悪くなると篠ノ之束の妹と言って自分の都合がいいように物事を持っていきやがっていた。まだ、そんな言い訳をいうとはな。中身は全然成長してないようだ。

 

「そういうことだ、つべこべ言わずに寄越せ!」

 

 横暴すぎる。こいつらに正論言って通じる奴らじゃなかった。どうするか悩んでいると

 

「それは聞き捨てなりませんね、織斑先生」

「誰だ!」

 

 否定されたことに激昂するクズ教師。俺たちもその声のほうを向くとそこには一人の老紳士がいた。というか、その人を俺は知っている

 

「り、理事長!?こ、これは・・・」

 

 そう、俺と雪兄さんが挨拶しに行った時の本当の学園長の轡木十蔵さんがいた。これはナイスタイミングすぎる

 

「織斑先生、IS学園が干渉されないのは事実ですが、いったいいつからあなたのルールが適用されるようになったのですか。一夏君の機体はこちらで使用許可を出しています。それをあなたの独断で没収するのはあまりにも見当違いではありませんか?」

「グッ・・・」

 

 クズ教師も理事長には逆らえないようだ。だが・・・

 

「何を言っている!こいつは明らかに反則の機体を使っている!!」

 

 モップはそれでも理事長に噛みつく

 

「君の意見は一意見だ。一意見だけでISを没収することはしない」

「黙れ!私は篠ノ之束の妹だぞ!!」

「だからなんです?確かに君のお姉さんは有名人だがそれだけでしょう?」

「!?」

「それに、君はお姉さんと関係ないと言っていたのでは?だったら今の発言も関係ないでしょう?」

 

 噛みついてきたモップにも正論で黙らせた。今まで篠ノ之束の妹と言って周囲を味方にしていたが、それが利かないことに動揺を隠せないようだ

 

『試合終了。勝者、遠藤雪広』

 

 と、試合終了のアナウンスが流れる。兄さんが順当に勝ったようだが、奴らは驚いて兄さんのいるアリーナの画面を見る。そこには白目を剥いて気絶しているクズがいた。

 

「ほら、織斑が心配でしょう?早く慰めの言葉をかけに行ったらどうです?」

「・・・チッ」

 

 俺の皮肉にしたうちで返すクズ教師と睨みつけているモップ。いやー、兄さん、いいタイミングですばらしい勝利だよ。しかもクズを気絶させるあたり完璧だ。

 覚えていろよ、と捨て台詞とともにピットから去るクズたち。今まで見下されていたこともあり、この状況はとても気持ちいいものだ。

 

「すみません、わざわざ呼び出して」

「いえいえ、生徒を守るためならお安い御用ですよ、更識君」

 

 楯無さんが呼んでくれたのか。この人たちを味方につけてよかった。二人がいなければ、今頃ヤツの意見が通ってしまうところだった

 兄さんがピットに戻ってくる

 

「お疲れ、兄さん」

「お疲れさま」

「お疲れ様です」

「ありがとう。一夏、楯無さん、と・・・理事長!?どうしてこちらに?」

 

 戻ってきたら理事長がいることに驚く雪兄さん。俺はこれまでの経緯を話す

 

「そういうことか。楯無さん、理事長、ありがとうございます」

「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」

「そうよ、おねーさんに頼りなさい」

「・・・なら一つお願いをしてもよろしいですか?」

「?兄さんは何を頼むんだ?」

「いや、これから自分と一夏が戦うのに同じピットから出るのは変でしょ。だからどちらかが向こうのピットに行くときにヤツら(クズと取り巻き)対策として護衛してほしいのです」

 

 確かに、これから戦うのに同じピットから出てくるのはおかしいな。でも向こうのピットはクズたちが使っていたから、一人で行くと確実に面倒なことが起きる。その対策として楯無さんか理事長を同伴させるわけだな。クズが気絶したから保健室にその取り巻きたちが付いているため、向こうのピットは無人だが、念には念を入れるってわけだな。

 話し合いってほどでもないが、話し合った結果、雪兄さんと理事長が向こうのピットに行くことになった。

 

「じゃあ、またあとで」

 

 そう言って兄さんと理事長は向こうのピットに行く。

 最終試合まであと20分。俺は機体の最終調整をする。フェアにするため、楯無さんの助言はしないようにしてほしいと伝えているため、楯無さんは何も言ってこない。

 先ほどとは比べ物にならない戦いとなる。大まかなデータは分かっているが、それを踏まえても勝てるかわからない。

 

 でも、それでも俺は兄さんに、公式戦で勝ちたい。 

 

 

「負けないぞ、兄さん」

 

 そう呟いて俺は最終戦に向け、ピットから出る。




 次回、クラス代表決定戦、決着

 一話の長さを一定にするのは難しいです


一夏の機体説明 簡易版

・月詠(ツクヨミ)
 
表向きは日本に突如現れたラビットファクトリーが製作した一夏専用IS。実際は束お手製のIS。本来なら第四世代以上のものにする予定だったが、一夏の要望を聞き入れ、初期では特殊能力のない第三世代モデルに落ち着いた。装備格納数は10とこちらも多め。初期装備として剣、大剣が付いており、残りは自由に組み替えることができる。特殊武装がないため、その分をエネルギー効率と機動力に与えているため、第二・五世代が正しい表現かもしれない。今のところは。
一夏も格闘スタイルで戦うことがあるため、それを考慮してスクーロ・ソーレと同じく末端部分のエネルギーシールドが厚い。ただし、スクーロ・ソーレよりも装甲は厚くなっている。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 兄弟対決

 意見くれる方もいてなるほどと思いました。ただ、作者は国語が苦手なので見当違いな返しをする恐れがあります。
 また、ストーリーを進めるにつれ、タグが変化していきます
 ご了承ください


 これからこのアリーナでは1組のクラス代表決定戦が行われる。そこにはイギリス代表候補と世界初の男性IS操縦者たちが戦うとのことでほぼ満員となっている。私は興味がなかったが、私の従者が見に行こうとせがまれ、こちらが折れる形でついていった。

 

 私には一つ上の姉がいる。その姉は何でもできる優秀な姉だった。いつの間にか姉と比べられる日々が続き、私はできないほうの人間になった。いくら必死に努力しても追いつけなかった。そして、姉が家の当主になったとき、「今のままでいなさい」と姉から言われ、ショックをうけた。無能のままでいいと言われたようだった。以降姉とは疎遠になっている。

 それだけじゃない。織斑一春が現れたことで私の専用機開発は永久凍結することになった。悔しかった。なんで私ばっかりこんな目に合うのかと。結局、私は開発予定だったISを引き取り、一人で組み立てている。姉だって一人で組み立てたのだから姉を見返すためには一人で組み立てるしかない。

 だが、最近作業室にこもりっぱなしだったから効率が落ちている。その気分転換のためにこの試合を見に来た。出来れば織斑一春が負けるのを見るために。

 ふと、横を見ると先輩が商売、トトカルチョのくじを売っていた。普段ならそんなものに見向きもしないがなんとなく立ち寄った。従者の本音も付いてくる

 

「いらっしゃい!一口200円だよ!」

「なになに~、本命オルコットさんで1.5倍、対抗織斑君で2.5倍、大穴で一夏君75倍、雪広君は90倍か~」

「やっぱり代表候補生だから人気だね!織斑君は何といってもブリュンヒルデの弟!人気になるのも仕方ないね!あとの二人はちょっとね・・・」

 

 無性に腹立たしい。私の専用機が凍結した原因の奴がこんなにに人気だなんて。そして、同じ男性IS操縦者の二人には同情した。勝つと誰も予想していないだなんて。まるで私のようだ。誰にも期待されない私と同じだ。

 

「じゃあ、一夏と雪広のを一口ずつくださ~い」

「まいど!大穴狙うとは、勝負師かな?」

「ううん、同じクラスで仲いいから~」

「なるほどね、君はどう?」

「えっ・・・」

 

 私は何も考えていなかった。買おうと思っていなかったし。でも、その時なぜか買わないって思えなかった。開発が進まないストレスで散財したくなったのだろう。そう思って一口なら買おうと思った。

 普通はオルコットだ。これが一番固い。でも、彼女は女尊男卑思想だ。そんな人間を応援したくない。織斑は論外だ。なら、と二人に絞る。

 

「一夏君のを一口ください・・・」

「はい、まいど!どう予想したの?」

「消去法で残った二人の中で・・・応援したいほうを・・・」

「なるほどね、いいと思うよ!」

 

 一夏君は弟ということもあり、一番私に似ている。だから私は応援の思いもかねて一口買った。どうせ当たらないだろうが、もとからそのつもりだ。彼が優勝するとは思えない。

 空いている席を見つけ、試合が始まるのを待つ。願わくは、一夏君が織斑に勝つのを信じて・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざわざわざわざわ・・・

 今アリーナはどよめきで包まれている。

 

「嘘でしょ!?」

「こんなことってある!?」

「誰よ!!オルコットさんと織斑君が鉄板って言ったやつ!!」

「織斑君に10口買ったのに~!!」

 

 それもそうだ、大番狂わせが何度も起きたからだ。初戦で大本命のオルコットさんが雪広君に叩き潰され、その後棄権。人気のあった織斑も一夏にも雪広にも惨敗した。特に雪広君との戦闘で白目剥いて気絶する姿は滑稽だった。そして次が最終戦、一夏君と雪広君の兄弟対決となる。

 2敗同士の貧相な戦いだと誰もが思っていたはずだ。でも、蓋を開けてみると、棄権があったとはいえ誰も予想しなかった2勝同士の優勝戦いとなった。だが、みんなが驚く中、私は興奮していた。一体どちらが勝つのか。できれば一夏君が勝ってほしい。弟が兄に勝つところを見てみたい。

 もし、そうなったら・・・私はもっと頑張れる。姉に追いつくモチベーションが上がる。だから、勝ってほしい。

 そして、私のトトカルチョの為にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始7分前、自分と一夏はピットから出ていた。観客はざわついている

 

「なんか、ざわついていないか?俺たち何もしていないのに・・・」

「多分、自分たちが優勝争いになると予想してなかったからじゃないか?ネームバリュー的に無名だし」

 

 もし、賭けが行われていたら自分たちは大穴にいるだろう。そのくらい周りの評価は低かったのだろう。

 だが、そんな評価はいらない。一番人気でなくてもいい。勝てば問題ない。

 

「自分は人気がなくていいんだけどね。期待されるの、そんなに好きじゃないし」

「相変わらずだな、兄さんは。兄さんらしいけどね」

「だろ?よく分かってるじゃないか」

「そりゃあ、5年近く兄弟やってるからな」

 

 そりゃそうだ、と自分たちは笑いあう。試合前でも和やかに会話できるのが家族のいいとこだよな。

 でも、そろそろ気を引き締めないとな。試合開始まで2分を切る。

 

「・・・兄さん」

「うん?」

「思えば、これがISでの初めての真剣勝負だな」

「そうだな」

「・・・本気で行くからな」

「当たり前だ。自分も全力で行くぞ」

 

 空気が引き締まる。真剣勝負だ。観客もざわめきがなくなり、静寂が訪れる。

 試合開始30秒前、自分はまず取り出す武器を決める。

 20秒前、一夏の初撃を予想する

 10秒前、深呼吸をして一夏を見る

 ・・・いい目だ。これならいい勝負ができそうだ

 

 試合開始のブザーが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始のブザーが鳴る。だが二人とも動かない。相手の初撃を双方ともに警戒していた。ゆえに動けなかったのだ。双方動かない中、雪広が剣を呼び出す。

 

(突っ込む?いや、兄さんがそんな馬鹿なことをするはずが、いや、裏をかいてくるか?)

 

 一夏は雪広の行動に対し、考える。が、雪広は剣を一夏に()()()

 

「!!」

 

 思考したことでできた一瞬の隙を突かれ、大きく回避行動をする。が、そこに弾丸の雨が降り注ぐ。雪広は剣を投げた後、すぐにマシンガンを呼び出し一夏の回避するであろう場所に撃っていた。一夏はまんまと引っかかったのだ。

 だが、一夏も被害を最小限にしつつ、ビームライフルを呼び出し、雪広に目掛け撃つ。雪広は避けると同時に一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で剣を呼び出しながら接近し、切りつける。が、雪広は投擲用の短剣でそれを受け止める。

 小競り合いの後、二人は距離をとる。

 

「やるな、兄さん」

「一夏こそ、この前より力付けたんじゃないか?」

「兄さんこそ」

 

 互いが互いを誉めあう。この一週間で、オルコット、織斑対策だけでなく、兄弟の対策をそれぞれ練っていた。むしろ、お互いが一番の強敵と想定していたため、より案を練っていた。それを今、実践に移している。

 

 

 

 

 それからは一進一退の攻防が続いた。互いに決定打を決められないが徐々にSEを減らしていく。遠藤兄弟の実力はほぼ互角だが、機体の性能的に一夏のほうがやや優勢だった。そのため、先に雪広のSEが4割を切る。一夏のSEは6割弱ある。

 

「強いな」

「兄さんこそ強いよ。俺は機体の性能で優勢に立っているだけさ」

「それを込みで強いと言っている。それに、自分が破格の条件を蹴ったのに機体のせいにするのはお門違いってもんよ」

 

 ただ、と雪広は武器を収納しリラックスした様子で言う

 

「これで()()()()()()()

「条件?」

「そう。さっき見せたやつさ」

「・・・まさか!」

「そう、そのまさかさ」

 

 両手をクロスして上げ、大きく息を吸い込み

 

「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 雪広は黒い霧に覆われ、切り裂くようにして形態変化(モードチェンジ)した姿が現れる。

 オルコットを完膚なきまでに潰した姿が一夏の前にいる。だが一夏は怯まない。

 

「これが、兄さんの全力・・・」

 

 むしろ喜んでいる。兄さんが俺に全力を尽くして戦っていることに、喜びを感じている。

 

「ここからが本番ってわけだな!雪兄さん!!」

「ガアアア!!」

 

 叫び声とともに一夏にタックルをする雪広。だが、織斑の時とは段違いのスピードで突っ込んできたため、一夏は回避できず直撃する。

 

(速い!これが雪兄さんのISの最高速か!)

 

 一夏は体制を立て直し、形態変化した雪広を見る。が、雪広はすぐに接近して爪で切り裂こうとする。それを剣で受け止め、距離をとる一夏。

 

(こんな形態があるなんて教えてくれなかったし、まずは様子見だ。今の兄さんの特徴を見つけるのが先決。俺の()()()はその後でいい)

 

 一夏は一度受けに回って戦術を組みなおす。出来れば形態変化した雪広の弱点を突くために、雪広に勝つために耐える。

 

 

 

 

 

 

 雪兄さんが形態変化して10分が経った。

 俺は何とか雪兄さんのスピードに慣れたものの、SEが3割まで削られてしまった。いつの間にか逆転を許していた。弱点は見つけたが、そこを突いていけるものではない。

 分かっていることは、形態変化した雪兄さんは理性を失い、本能で行動していること。そして未だにライフルやマシンガンと言った遠距離武装を使っていないことだ。使用不可となっているのかもしれないが、こちらが距離をとろうともすぐに詰めてくる。かといって接近戦だと機動力と本能の勘によって押し負ける。

 なにより、あの形態はまるで獣だ。理性がなくなり、本能の赴くままに行動をしているから、どうすれば・・・・・・・?

 

(なんだ、この違和感?)

 

 なにか引っかかる。多分兄さんはあの形態だと本能で動いている。本能の勘で致命傷を回避していた。俺だってただ回避するだけでなく、カウンターでライフルの狙撃をしたがそれも躱され・・・

 その時あるワンシーンを思い出す。

 

(待て、じゃあどうしてあの時・・・

 

 

()()()()()()()()()()()()()())

 

 

 オルコットの武器を破壊する前まではオルコットの攻撃を躱していた。それなのに武器を破壊した時、雪広は弾くのではなく()()()()()()()()()武器を破壊した。そんな器用なこと、理性がない状態ではできるか?いや、できるはずがない!思えば、オルコットの武器を破壊した後、意識があるような感じがした。そして、それは兄さんが形態変化して10分程度たった後だ

 雪兄さんを見る。兄さんは俺に攻撃することなく俺を見ていた。が、次の瞬間ディスプレイを見るように眼が動いた。確信した。

 

「単刀直入に言うけどさ、意識あるでしょ、兄さん」

「・・・」

「演技しなくていいよ。もう分かっているから」

 

 本当はまだ仮説だ。正しいか分かっていない。ブラフだ。さあ、どう動く・・・

 

「フッ」

 

 と兄さん顔に手を当てて笑う。どうやら俺の予想は当たったようだ

 

「そうか、バレてたか。なら仕方ねえな」

「いいのかよ、自分でネタバレして」

「別に、そこまで分かっていたら騙していても意味ねえし」

 

 ただ、と兄さんはつぶやく

 

「完答、ってわけじゃねえな」

「・・・答えを教えてくれないかな?」

「流石にそこまでは教えねーよ、終わったら教えてやるよ」

 

 そりゃあそうだ。わざわざ自分の特徴を試合中にばらすことはしないよな。

 でも、ここまで分かったのなら好都合だ。

 

「兄さんのそれさ、形態変化だっけ?兄さんが名付けたの?かっこいいよな」

「何だ?時間稼ぎか?」

「いや、純粋にそう思ったんだ。単一能力もあるし」

 

 でもさ、と俺は武器を収納して言う

 

「その形態変化さ、()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

「・・・何だと!?」

 

 気づいたようだな。俺は力を貯めるようにして叫ぶ

 

「ハアアアアアア!!!!」

 

 兄さんの時と同じように俺は黒い霧に覆われる

 さあ、本当の闘いはこれからだ!

 

 

 

 

 

「嘘でしょ!?」

 

 一夏君の形態変化に私は驚く。まさか一夏君もあんな風になるなんて予想もしなかった。ただ、一夏君の形態変化は明らかに雪広君のと似ている。ということは一夏君も理性を失う系なの!?雪広君は事前に聞いてたけど一夏君もなの!?

 と、思っていると私のピットに一夏君からメッセージが届く

 

「何々、『俺は大丈夫です、理性が無くなることはありません』・・・そう」

 

 一夏君は大丈夫というが100%信用できない。見た目が見た目だし、何より前例がない。警戒レベルを上げないとね・・・

 画面を見ると、一夏君が黒い霧を切り裂いて姿が現れる。そこには雪広君と同じように、瞳が赤に染まり、フォルムが黒になった姿だった。

 

 

 

 

 

 一夏の形態変化。それはまるで自分を見ているようだった。同じように瞳が赤になり、黒に包まれている。違うところは武器くらいか。俺は爪に対し、一夏は黒の双剣であることくらいだ。

 

「どうよ、兄さん」

「ああ、まさかお前まで形態変化ができるとはな」

「そりゃあ、この時のためにとっておいた切り札だし」

 

 切り札なら仕方ない。それに自分も形態変化を言ってなかったからお互い様だな

 

「とはいっても、それがどうしたって感じだ、な!」

 

 と、言い切る前に俺は一夏の背後に回り込むように2連続で瞬間加速をし、爪で切り裂こうとする。が、その前に一夏は後ろを見ずに裏拳を叩きつけてくる。

 

「クッ!」

 

 ギリギリでそれを躱し、上に距離をとろうとした。が、それよりも早く一夏が間合いを詰めてくる。そのまま双剣で切り上げようとするのが見えた。

 

(速い!!)

 

 とっさに脚部サーベルを呼び出し、両足で対応する

 

「クッソ!決まると思ったのに!まだ隠し持っていたんだな!」

「使うタイミングがなくて結果的にそうなっただけだ!」

 

 鍔迫り合いの後、互いに距離をとる。

 一夏の形態変化でスピード、パワーはほぼ互角ってとこか。それで実力も同じくらいで、SEも同じくらい・・・

 なおさら負けたくないな!

 

「いくぞ一夏ァ!」

「受けて立つぜェ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどよりもハイスピードの戦闘が行われた。高速で動き、攻撃し躱すを互いにする。まともなダメージを入れたり入れられたりを繰り返し、両者ともにSEが3%を切った。

 

「ハア、ハア・・・」

「フウ、フウ・・・」

 

 周りがうるさいが今はそんなことに気を向けられないほど真剣だ。一夏も俺もそろそろ限界が近い

 でも、それでも

 

「一夏ァ!楽しいなア!!」

「ああ!最ッ高だ!!」

 

 気を抜くと笑顔になってしまう。こんなにいい勝負ができること、一夏がこれほどまでに成長したことなど、嬉しい気持ちで溢れそうだ。一夏もそう思っている。でも、今は真剣勝負だ。そんなことを言ってられない。

 それに、真に満足を得るには勝つ以外ないのだから。

 SEはともに少ない。もう一撃も喰らうことは許されない。次の一撃で決めるしかない。自分は爪を構える。一夏もそう思ったのか、剣を構えているが攻撃してこない

 

 あたりに静寂が訪れる。先ほどまで騒がしかった外野も静まっている。

 

「「・・・!」」

 

 同時に動く。共に直線的に突っ込む特攻。

 

 だと思ったぜ!一夏!!

 

 俺はその軌道から外れるように()()()()()()。いわゆる『八艘飛び』で一夏の視界から、一夏の攻撃の軌道から外れる。一夏の剣が宙を舞うのを見た。

 

「終わりだアアア!!!」

 

 完璧に決まった。一夏の攻撃を想像の斜め上を超えて躱し、右手の爪の一撃が刺さる。

 

 

 

 そのはずだった

 

 

 

「・・・あ?」

 

 感触がない。いや、あるのは地面に刺さった感触。思考が止まる。

 そして確信した

 

(()()()()!?)

 

 気配がする左を見ると一夏が剣を振り回す姿が見えた。ここから回避は・・・できない!!さっきの大振りで立て直せない!!

 一夏の右薙ぎの攻撃が直撃し俺の体は吹っ飛ぶ。そのまま地面に二度、三度叩きつけられて転がり、仰向けの状態で止まる。そして、

 

『試合終了。勝者、遠藤一夏』

 

 俺は負けたのだと悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝った・・・ついに、兄さんに勝った。

 でも、勢い余ってやり過ぎたかも・・・あれから兄さんのISは解除され、ピクリとも動かない。

 

「・・・兄さん?」

 

 俺はISを解除して恐る恐る兄さんに近づき、呼ぶ。もしかしたら気絶したかも・・・

 

「一夏」

「!」

 

 雪兄さんがゆっくりと起き上がる。そして俺に近づき・・・

ポンと兄さんの手が俺の頭に乗せられる

 

「お前の勝ちだ。悔しいけど、それ以上に嬉しいよ。一夏がこんなに成長したのが分かって」

「兄さん・・・ありがとう・・」

 

 嬉しさのあまり、涙が止まらない

 

「おいおい、泣くなよ。これじゃあどっちが勝ったか分かんないじゃないか」

「でも・・・嬉しくて・・・」

「・・・よくやったよ」

 

 兄さんは肩を叩いて賛辞の言葉をかけてくれる。それが妙に嬉しくて仕方がない。

 

「それに、周りにも自分たちのことをアピールできてよかった」

「え?」

「聞こえないか?この歓声が」

 

 周りに集中すると至る所で俺たちへの拍手が沸き起こっていた。それだけ俺たちはいい試合ができたのだろう。最終戦にふさわしい試合となったはずだ。

 

「さて、戻るか。()()()()()()()()()()

「グズッ・・・ああ」

 

 俺たちはそれぞれのピットに戻る。が、その前に兄さんに呼び止められる

 

「そうだ、一つ言い忘れていた」

「何?」

「今回は負けたが、次はそうはいかないからな!!」

「ああ!もちろんだ!次も兄さんに勝つ!!」

 

 もう一度近づいて、こぶしを合わせる。周りから歓声が沸く。

 今ほど嬉しいことはこれからもないだろう

 

 

 

 

 最終成績は

 

遠藤一夏 3勝 (1勝は棄権)

遠藤雪広 2勝1敗

織斑一春 1勝2敗 (1勝は棄権)

セシリア・オルコット 3敗 (2敗は棄権)

 

となり、クラス代表決定戦は幕を閉じた。

 

 

 

 

余談だが、その夜、豪勢なパフェを食べる女子二人組がいたとか。

 




 危うく前書きでネタバレをするところでした。推敲って大事。
 ま、それでも間違いが多発しますけどね

 次は機体、登場人物説明です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話までの世界観と機体説明と主要登場人物

 あとがきに書いた内容と被るところがあります
 設定も穴があるかもしれませんがそういうものだと思ってください


 この世界におけるISの特殊能力

 

 形態変化  読み方 モードチェンジ

 

 今現在、雪広と一夏だけができる変化。単一能力でも第二形態移行でもない。機体の特徴が変化し、搭乗者にも変化が起こる。形態変化の条件や効果はそれぞれで異なる。

どうやらどの専用機も形態変化ができるらしいが詳細は現在不明。

雪広、一夏ともに会社内の模擬戦にて初めて形態変化するのを観測。同時に雪広は単一能力を発動している。

詳細は束も解析中。

 

 

 機体説明

 

・スクーロ・ソーレ

 イタリアのジレス社が製作した雪広専用IS。イタリア語で「暗い太陽」ベースはイタリアが開発した「テンペスタ」であり、第二世代モデル。初期装備をすべて外し、それぞれの戦闘で武器を変えることができる拡張性の高さが特徴。装備格納数も12と他の機体と比べ多め。(一般的に他の機体は5~8)それ以外の性能は他の専用機持ちの機体の平均程度。

 また、雪広の格闘スタイルも考慮しており、通常、殴る・蹴るでは自身もダメージを負うが、このISはそれを考慮し、自身のダメージをほぼ0にしている

 ただし、末端が無敵というわけではなく、切られたり撃たれたりすると普通にダメージを食らう。打撃に強くなっているイメージ

 

主な武装

遠隔操作鞭

投擲用短剣×8

脚部サーベル×2

ビームライフル

マシンガン

スタングレネード

 

 第二世代らしく特徴的な武装はほとんどない。

「遠隔操作鞭」は手に装着することで鞭のように攻撃できる。また、実際に振らなくても、脳波で動かすこともできるため、予想外の動きもできる。前回の戦闘までに使いこなせなかったため、使用しなかった。ただ、これを装備すると触手のように見えるため、一夏や他の生徒には大変不評。一言でいうと「キモイ」とのこと。雪広は気に入っているらしい。

 

 

 形態変化条件

 SEが4割を下回ると無条件で発動可能。4割を超えていても形態変化は可能だが、最大SEの4割まで削られる。また、対戦相手への負の感情(怒り、憎しみ、殺意など)が大きいほどSEの上限が緩くなる。対オルコットでは彼女への殺意から、SEが8割近くあっても形態変化できた。

 形態変化時に黒い霧に覆われ、切り裂くようにして現れるが、実際は黒い霧は自然と晴れる。また、変化時は外部からの攻撃を無効にできる。仮面ライダーの変身がいい例。

 

 

 形態変化後の特徴

・機体は黒中心のカラーリングとなる

・新たな武器「爪」が装備可能となる

・一人称が「俺」になり、攻撃的になる

・機動力、パワー、反応速度が上昇するが、遠距離武装が使用不可能になる

・眼が赤に染まる(参考:艦これの敵深海棲艦 戦艦ル級elite級)

 

 

 形態変化後の単一能力

 「ノーリーズン(no reason)」

 理性を捨て、本能がむき出しになる、精神に作用する単一能力。本能で行動することで反射神経がよくなり、致命傷や危機を察知しやすくなる。最初に時間指定ができ、5~20分の間に設定をして発動する。意識は失っていないが、本能に身を任せているため、能力発動中は自身の体の言うことが聞かなくなるが、最後の2分は徐々に体の言うことが聞いてくれるようになる。

 本能で行動するため、理詰めで行動することができない、相手の戦術に乗りやすい、チーム戦に向かないといった欠点があり、これを解決するのが雪広の今後の課題となっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

・月詠(ツクヨミ)

 表向きは日本に突如現れたラビットファクトリーが製作した一夏専用IS。実際は束お手製のIS。本来なら第四世代以上のものにする予定だったが、一夏の要望を聞き入れ、初期では特殊能力のない第三世代モデルに落ち着いた。スペックも他の専用機と比べ、エネルギー効率と機動力は高めで、それ以外は平均程度。装備格納数は10とこちらも多め。初期装備として剣、大剣が付いており、残りは自由に組み替えることができる。特殊武装がないため、その分をエネルギー効率と機動力に与えている。が、こちらも形態変化ができるため第三世代扱いとなった。

 一夏も格闘スタイルで戦うことがあるため、それを考慮してスクーロ・ソーレと同じく末端部分のエネルギーシールドが厚い。ただし、スクーロ・ソーレよりも装甲は厚くなっている。

 

主な武装

剣×2

大剣×2

太刀×3

短剣×4

ショットガン

ランチャーミサイル

ビームライフル

グレネード

 

 スクーロ・ソーレと同じく第二世代メインの武器が中心。剣の種類が豊富にあり、それらを状況に合わせて使い分ける。2本以上あるのは、何かしらにより使えなくなった時の予備としてある。

 

 

 形態変化条件

 SEが4割を下回ると無条件で発動可能。4割を超えていても形態変化は可能だが、最大SEの4割まで削られる。

 スクーロ・ソーレと同じく、形態変化時に黒い霧に覆われ、切り裂くようにして現れるが、実際は黒い霧は自然と晴れる。また、変化時は外部からの攻撃を無効にできる。

 

 形態変化後の特徴

・機体は黒中心のカラーリングとなる

・新たな武器「双剣」が装備可能となる

・全ての機能、速度が上昇するが、遠距離武装のアシスト機能がオフになっているため、遠距離攻撃は不向きになっている。

・単一能力はない

・眼が赤に染まる(参考:艦これの敵深海棲艦 戦艦ル級elite級)

 

 

 

 

 

・白式

 日本のIS企業・倉持技研が設計開発した織斑一春専用IS。第三世代。原作通り、機動力は最高クラスで、単一能力もあるが、燃費は最悪。なぜ白騎士と同じ単一能力を持っているかは不明。たまたま白騎士と同時期に作ったコアであり、白騎士に影響されたのではないかと束は推測している。

 

 単一能力

 「零落白夜」

 対象のエネルギーを消滅させる。シールドバリアーを斬り裂くことで相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えられることになるが、一歩間違えれば相手を殺しかねない危険な能力である。自身のシールドエネルギーを消費して稼動するため、諸刃の剣でもある。

 

 

 

主要登場人物紹介

 

・篠ノ之束

 見た目 原作と同じ

 一人称 私、束さん

 

 ISを作り出した本人。幼少期の一夏の味方になってくれた人。

 一夏や一夏の味方には優しく、あだ名呼びをするが、敵対する者には容赦ない。これは織斑千冬、篠ノ之箒にもそうであり、特に白騎士事件の後、千冬とは断絶している。本人はそのことを知らない。

 原作では他人にとことん興味がないが、この世界の彼女は普通に対応する。ただ、学生時代はあまりの天才に周囲が近づかなかった。関わっていた、というより絡んできたのが千冬であったため、交友関係が少なかった。このことを束は後悔している。

 一夏を迫害していた篠ノ之箒や、それを見て見ぬふりをした両親に嫌気がさしており、既に縁を切っている。本人たちはそのことを知らない。

 ラビットファクトリーの社長としており、ISの解明、男性でも乗れるISの開発をしている。そして、ISが兵器ではなく、宇宙進出するのを夢見ている。今は雪広、一夏が使える『形態変化』の仕組みや発動条件などを解明している。

 一夏の仲間たちには協力を惜しまない。雪広の「遠隔操作鞭」も束が製作したが、デザインは先述のとおり壊滅的。

 

 

・織斑一春

 一夏の血の繋がった元双子の兄。一夏を迫害していたうちの一人。

 幼いときは住んでいる中の同世代よりも才能に恵まれており、周囲がそれを称賛した結果、傲慢な人間になった。同期の中で、自分自身が一番上だと思い、仲間にして一夏を虐めていた。努力することは才能の無い人間がすることだと思っており、努力をしていない。その結果、一夏だけでなく、既にIS学園では出遅れているが、本人はそのことに気づいていない。

 

・織斑千冬

 一夏の血の繋がった元姉。一夏を迫害していたうちの一人。

 初代ブリュンヒルデで、白騎士のパイロット。剣道に天才的な才能があり、それによって唯我独尊な性格になった。他人のことを思いやることはなく、自身の為か、一春・箒のためならそのほかの人間を犠牲にしてまで行動しようとする人格破綻者。一夏をストレスのはけ口として暴力で迫害し、誘拐されたときに見捨てた。

 ブリュンヒルデを口実に思い通りに行動しようとするが、学園長には逆らえない。

 

・篠ノ之箒

 篠ノ之束の妹で、一夏を迫害していたうちの一人。

 気に入らないことがあると竹刀で暴力行為を行う、幼稚な性格の持ち主。織斑一春に好意を抱いており、織斑一春のことを絶対視しているため、彼の言うことが正しいと妄信しており、彼に逆らうものには暴力をふるう。一夏に対しても剣道の建前で防具をつけていない一夏に対し、竹刀で叩いていた。

 ISによって一春と離れ離れになってしまったため、束のことを恨んでいるが、都合のいいときだけ束の妹と言う。

 




 大体こんな感じです。あとは読者の想像にお任せします。特にISの機体はお任せします。作者は二人の機体はフェイスマスクがないそれぞれのカラーリングの白騎士を想定しています。
 これからもちょいちょい、この説明回を開く予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 exile

 雪広は育ててくれた幸雄のことを外では「親父」と言いますが、身内だけ(一夏と幸雄)の時は「じっちゃん」と呼びます。決してミスではありません。

 そして、読者が離れる展開かもしれません。こういう小説と思って読み進めてください。

あと、お気に入り数がまさかの100になりました。皆さん、ありがとうございます。何にもフィードバックできませんが


 ピットに戻ると、楯無さんと何故か山田先生がいた。

 

「おめでとう、一夏君」

「おめでとうございます」

「ありがとうございます、楯無さん、山田先生」

 

 あれ?なんで山田先生がここにいるんだ?織斑のほうにいたはずなのに

 

「クラス代表決定戦を最後まで見るためにここに来たそうよ。織斑千冬は試合そっちのけで一春君の看病に行っちゃったから」

「ほんとですよ。公私混同しないでほしいです・・・」

 

 何というか、山田先生も大変なんだろうな

 

「ところで、一夏君。君が3勝したからクラス代表になりますけど・・・」

「ああ、それは辞退させていただきます」

「えっ!?ど、どうしてですか!?」

「面倒ごとをするのが嫌なので。それに、優勝者がクラス代表になるとは言っていませんでしたし」

 

 このクラス代表決定戦はあくまでクラス代表を決めるための戦闘であり、優勝者がクラス代表になるとは一言も言ってない。大体こういうのはクラス代表になれる『権利』だろうから、それを放棄するのはできるだろう

 

「じ、じゃあ次点の雪広君に聞いて見ま・・・」

「自分がどうかしました?」

 

 と、ここで兄さんだけがこっちのピットに来た。(学園長は庭の仕事で別れた)なんか今日、タイミングが良すぎるな。エスパーでも身に着けたか?ま、兄さんも拒否するだろう。

 

「ちょうど良かった。雪広君、クラス代表に・・・」

「パスで」

「早い!!」

 

 やっぱり、兄さんも面倒ごとを押し付けられると思ったからだろうな。

 ということはクズになるのか・・・それはそれで嫌だが仕方ないな

 

「うう~、じゃあ織斑君に聞いてきます・・・」

 

 トボトボとピットから出ていく山田先生。確かに、あんな素人をクラス代表にするのは嫌なんだろう。明日のショートホームルームで文句が出るに違いない。

 

「ねえ、織斑君はクラス代表になると思う?」

「ああ、それについては大丈夫です。ヤツがなる以外ありえませんから」

 

 拒否しようがしまいが、と兄さんは言う。

 

「え?でも彼が拒否したらオルコットちゃんがクラス代表にならない?」

「ええ。ですから()()()()()()()()()()。今夜それを確定させるので」

 

 やっぱり兄さんはアレをしたのか。兄さんは今までにやったことを楯無さんに伝える。そして、最後にこうなるだろうと楯無さんに説明した。

 

「分かったわ。私が最後に言えばいいのね」

「はい。ご迷惑をおかけします」

「いいのよ。生徒会長なんだから」

 

 『率先垂範』と書かれた扇を開く楯無さん。あの扇はどういう仕組みなのか?

 

「じゃあ、お疲れ様ね、二人とも。今日はゆっくり休むのよ。雪広君は特に夜更かししちゃだめだぞ」

「はい」

「分かってますって」

 

 楯無さんはそう言ってピットから出る。俺たちも戻るか。でも、その前にやることがある

 

「さて、整備するか。流石に全部は無理だが、大きな傷とかは今日のうちにやっとかないとな」

「そうだな」

 

 いくら疲れていてもそのままにするのは機体に悪影響だし、何より相棒だからな。

 とはいっても、俺たちは満身創痍だから大きな問題だけやって、あとは明日に回すか。それに、兄さんはやらなきゃいけないこともあるだろうし。って、兄さんの言ってたことまんまだな。

 

「さて、そんじゃやりますか~」

「おおー」

 

 

 

 

 

 

 あの後整備をしてそのまま早めの夕食。あんまり人がいなかったから、さっさと食べ終え、部屋に戻る。雪兄さんはそのまま()()()()をする。

 

「どこまで進んでいるの?」

「もう動画と音源は流してある。これからそれぞれに対応していくってわけ」

「なるほど。ってことはあんまり時間かからない?」

「まあ、それぞれの対応する時間は少ないな。個別で来るから少しめんどくさいが」

「なら、今回の試合の反省しない?レポート書かなきゃいけないし」

「そうだな。並行してやるか」

 

 専用機持ちは公式の試合ごとにレポートを書く必要がある。そのためにも今日の反省は必要不可欠だった。兄さんは作業しているのと同時に俺と今日の試合、主に俺たちの試合の反省会をした。あの時、もっと牽制すればよかったとか、もっと慎重にすればよかったとかで、双方にまだまだ課題があることが分かった。そして、形態変化のことも話した。

 

「自分はジレス社の模擬戦で初めてできた、と言うよりなった感じかな。『負けたくない!』って焦っていたら、なんか精神世界?みたいなとこに来て・・・後はあんまり覚えてない」

「兄さんもか、俺も大体似たような感じだな。俺もそこで何したかは覚えてないんだ」

「とはいっても、自分はその後暴走してたらしいし・・・まだ弱かったからすぐに取り押さえられたけど」

 

 ま、それが単一能力だったんだけどね、と兄さんは言う。暴走する姿が容易に想像つく。

 

「でも、トリガーは何だろうな。束さんも分かってないって言うし」

「そこは俺たちが考えるとこじゃないな。それをうまく使えるようにするのが先だ」

「それもそうだな」

 

 こんな感じの充実した反省会をして、レポートも書き終わった。兄さんもレポートや()()()()が終わったようだ。

 

「疲れた~」

「兄さんもお疲れ。タオル温める?」

「ああ、助かる」

 

 兄さんはベッドに横たわる。兄さんは結構目を酷使するから、時々温タオルで目を温めて目の疲れを取っている。今日も試合だけでなく、その後もパソコンに張り付いていたから相当疲れが溜まっているだろう。俺はタオルを温め、兄さんの目に乗せる。

 

「ああー、あったけえ~」

「お疲れ、兄さん。何か飲み物買ってくるか?」

「じゃあ緑茶で。できれば温かいやつ」

「分かった」

 

 俺は財布を持って部屋から出る。本当なら茶葉があればよかったが最近まで訓練や対策などでそれを買う余裕がなかった。だから自販機まで行くことにした。

 

 ただ、俺は俺たちの部屋に近づくやつを見逃していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏と家に帰る。玄関には幸雄じっちゃんが出迎えてくれる。

 ああ、これは夢だ。懐かしい夢。分かっているが起きようと思わない。今に不満があるということではないが、あの時が一番満たされていた。じっちゃんがいる。一夏がいる。三人でこたつに入ってたわいもない話をする。これほど幸せなことはない家族の時間。

 コンコンとドアを叩く音がする。一夏が帰ってきたか。現実に戻り、タオルを取ってドアに向かう。

 ドアを叩かなくても鍵で開ければと思ったが、飲み物を二つ買ったから両手が塞がっているのだろうと思い、半分寝ぼけた状態でドアを開ける。

 

「サンキューな、いち・・・」

「こ、こんばんは」

 

 一夏じゃなくゴミ(セシリア・オルコット)がいた。一気に最悪な気分になった。なんだコイツ、試合の腹いせにでも来たか?このゴミにさっきの夢の時間を奪われたことが余計にイライラを募らせる。

 内心では舌打ちしつつ、皮肉交じりに話す

 

「どうしましたか、オルコットさん。この極東の猿に何の御用があるのでしょうか」

「・・・すみません、謝罪しに参りました」

 

 は?何言ってんだコイツ。あんな代表候補生にあるまじき発言を連発しておいて今更謝罪とか、頭に蛆でも湧いてんじゃないか?

 

「先日はあなたの家族を馬鹿にしてすみませんでした!」

 

 深々と頭を下げるがどうだっていい、むしろ視界にいるだけで不愉快だ。でも平静を装う

 

「・・・で?」

「え?」

「おいおい、まさかとは思うが、平謝りで許されると思ったか?散々俺たちのことを猿だのクズだの吐き捨てといてさ」

「あ、あの・・・」

「そんで、何?試合に負けたら手のひら返すように謝罪?本当に申し訳ないと思っていたらもっと早くに謝罪するのが普通じゃないの?」

 

 こいつの謝罪は本当の謝罪ではない。見下していた男に負けたから、それの被害を抑えるために動いている、許されようとする謝罪だ。生きる上では上手なやり方だろうが、こんな人間が俺は嫌いだ。反吐が出る。

 

「で、でも、どうしても謝りたくて・・・」

「じゃあ一つ聞くけど・・・もし俺とお前の試合で『俺が負けていたら』お前は今謝罪しているか?」

「!?そ、それは・・・」

「しないよなあ。『やはり男は生きる価値なんてないですわ!』とか『これだから男は』っていうだろうなあ」

「あ、あの・・・その・・・」

 

 図星のようだな。女尊男卑の人間ってどういう思考回路しているんだ

 

「それに、もう取り返しはつかないと思うけどね」

「え!?ど、どういうことですの!?」

「自分で考えなよ、エリートなんでしょ?こんな底辺のクズに教えられるのも嫌でしょう?」

「そ、そんなこと」

「あるよね、だって自分はクズの家庭に育てられた男だから」

 

 もういいや、これ以上は本当に不愉快だ。

 

「ということで、君のことを許すつもりなんてさらさらないし、君を見ていると不愉快だから。それでは帰ってください」

「あ、あの・・・」

「もう一度言いますね、帰ってください。」

「そ、その・・・」

 

 その場から動こうとしない。・・・もう我慢の限界だ

 

「・・・『帰れ』って言ってんのが分かんないのか!!!」

「ッヒイ!?」

「あれだけ罵詈雑言浴びせといて、すいませんでした、の一言だあ?調子乗ってんじゃねえよ!!!」

「あああ・・・」

「一夏のことも親父のことも馬鹿にしやがって!!!ふざけんなよ!!!大事な家族を馬鹿にした奴を許すわけねえだろ!!!クズが!!!!」

 

 周りから音がする。見ると何人かが何事か見に来ていた。のほほんさんもいる。そうだった、今は夜だった。これ以上怒鳴り散らすと周りに迷惑をさらにかけてしまう。怒り抑え、別れを告げる。

 

「もういいだろ。じゃあな、イギリス代表候補生さん。俺を敵に回したことを後悔するんだな!」

 

 バタン!!と強くドアを閉め、ベッドに倒れる。最悪な気分だ。目を温めなおそうとするが、タオルは何とも言えない温度になっていた。乱暴にタオルを投げ捨てる

 

「チッ!!」

 

 誰もいない部屋に俺の舌打ちが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トボトボとセシリアは俯いて自身の部屋に行く。

 男はみんな弱い。社会的にも実力的にもそう思っていた。だが、それはクラス代表戦で粉砕された。今まで何と愚かだったか。なんと自分が傲慢であったか。思い知らされた。それと同時に雪広たちへの申し訳なさでいっぱいになった。謝罪しようと行動に出た。

 だが、拒絶された。許してもらえると思っていたが、その考えが甘かった。どうすれば許しを得られるか、もう無駄なのか、様々な思いがセシリアを駆け巡る。

 

「待ってたわよ」

 

 突然の声に顔を上げる。そこにはセシリアの部屋の近くの壁にもたれかかっている楯無がいた。

 

「あ、あなたは生徒会長の・・・」

「そう、更識楯無よ」

「な、何の御用ですか?」

 

 もしかして雪広との仲を取り持ってくれるかも、淡い期待をセシリアは持つ。

 

 しかし、次の言葉で絶望のどん底に叩き落される

 

 

 

「イギリス政府からの通達よ。セシリア・オルコット・・・あなたをこの学園から退学することが決定したわ」

「・・・えっ?」

 

 あまりのことにセシリアは固まる。その間に楯無はスマホである動画を開き再生する。するとセシリア自身の1週間前の教室で言った日本を侮辱する音声が流れる。

 

「そ、それは・・・」

「これ?あなたは分かっているんじゃない?あなたが日本に対して言った差別発言でしょ?」

 

 これだけじゃないわ、と言って別の動画を再生する。そこには今日の試合で雪広に言った侮辱が映像付きで流れていた

 

「え!?」

「これ今日のクラス代表決定戦ね。新鮮そのものよ」

 

 まずい、非常にまずい。この二つが公開されたら退学では済まされない・・・そうセシリアは思っているが

 

「もう無駄よ」

「え?」

「分からない?これらの動画は()()()()()()()()()()()()()。つまり、これは今も全世界中で流れているのよ。もちろんあなたの祖国にも、政府にも流れているわ」

「!?」

「『こんな人間を代表候補にするのか』って世界中、特に欧州の国がイギリスを非難しているわ、これからどうなっちゃうのかしらね?」

「あ・・・あああ・・・」

 

 祖国にプライドを持っているセシリアは、自身が原因でイギリスに泥を塗ってしまった事実に対し、これ以上ない精神的ダメージを負う。

 

「と、いうわけで改めて言うわね」

 

 楯無は放心しているセシリアを見て・・・死刑宣告をする

 

 

「セシリア・オルコット、本日をもってあなたを退学とします」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、IS学園に入ることを許可してあるイギリス大使館の役人が来て、オルコットを連れて行ったのを見届けた。愚かな代表候補生だったわね

 

「それにしても・・・」

 

 と、私はこの動画を見る。

 これに私は何の関与もしていない。全部彼、雪広君がやったことだ。

 

 雪広君がやったこと、それは入学初日のオルコットの発言を録音し、それを発信したことだ。それもただ発信するのではなかった。まずはイギリス政府にのみ、その音声動画を流した。当初、イギリス政府は知らぬ存ぜぬで、なかったことにしようとした。しかし、今日の朝にその動画をイギリス以外のEUの各国に流した。

 さらに、イギリスはその動画をもみ消そうとしたという情報まで流したことで、イギリスは窮地に立たされた。そして、追い打ちをかけるように今日のオルコットの戦闘結果の動画とイギリスのIS企業の汚職問題(そのほとんどが女尊男卑の人間によるもの)を全世界に発信したことで、イギリスはこんな人間を代表候補生にするのか、企業も人も腐ってる、差別をする人間を代表にするから惨敗するのだと、世界中からバッシングを受けることになった。

 少なくともオルコットは重い罪が課される。だが、それでもイギリスは孤立するだろう。特にIS産業は深刻なダメージになる。場合によっては国が崩壊しかねない。

 

(ここまで読んだうえでやったというの?)

 

 各国がどう動くかを推測しきった上での行動だろう。さらにネットで拡散させるようにネットの住民も味方につけ、彼女を退学以上に追い込んだのだ。

 もし、彼が敵に回ったらと考えるとゾッとする。

 

「彼を警戒しなきゃね・・・」

 

 学園のために。そして守るべき者のために。

 

 

 

 

 

 

「思ったより時間がかかったな」

 

 緑茶だけピンポイントで切れていたから買うのに手間取ってしまった。まあ、いい散歩にはなった。夜に歩くのも悪くなはいな、違った景色が見れて楽しいし。

 部屋の前までついた後、鍵を開けて部屋に入る

 

「兄さん、遅くなってごめん」

「・・・おう」

「怒ってる?」

「お前に対してじゃない」

「話なら聞くさ。嫌なことは吐き出したほうが楽だろう?」

 

 話を聞くと、オルコットが今更謝りに来たらしい。そりゃ兄さんも不機嫌になるわけだ。俺は話を聞きつつ、買ってきたお茶を温めて兄さんに渡す

 

「ほんと何様って感じだ。あの野郎」

「でも、あの動画を流したでしょ?」

「ああ、多分退学(クビ)になるはずだ。そうしなきゃ、イギリスは大バッシングを受けるからな」

 

 お茶を飲んで兄さんは話す。話したからか、それともお茶のおかげか、怒りも収まってきたようだ。

 

「でも、ISと関係のないイギリスの人は少し可哀そうかな。何もやってないのに国が叩かれているから」

「配慮はしたつもりだけどね。IS企業とその代表候補生に非難が集中するようにネットにも書き込んどいたし。ISに関係のないイギリスの人には申し訳ないと思うけど、こうでもしないと女尊男卑のクズたちは減らないからね。女尊男卑の人間は死んでも治らないから」

 

 最後のは兄さんの口癖だが、強ち間違いではないと思う。今回のは社会の掃除ってわけだな

 

「ありがとな、一夏」

「どういたしまして、びっくりしたよ。俺が遅いことにキレたのかと」

「タイミング的にそう見えるな」

 

 ははは、と笑いあう。良かった、兄さんの機嫌も直ったようだ。大きなことを終わったし、何とかなって良かった。あとは明日になってから考えよう。

 




 原作読んでて思ったんですよ。あれだけ日本のことを罵っておいて、平謝りで許されるっておかしいのでは、と。小学生ならまだしも高校生ですよ。それも代表候補生ですよ。ちょっと無理があるのではと思うんです。それに、主人公がセシリアと仲良くなる未来がどうしても見えないのでこうなりました。

"exile"は某アイドルグループではなく、英語で「追放」という意味です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 助言

 やっとヒロインが主人公と接触します
 思えば、ISなのにヒロインが出ていないって致命的では?



 次の日の朝食、行儀は悪いがスマホでニュースを見ながら朝食を食べている。理由はもちろん、あのクズがどうなったかを知るためだ

 

「セシリア・オルコットは代表候補生規約違反でIS学園から退学され、強制送還。専用機の没収、代表候補生から除名・・・か」

「まあ、当然じゃないか?生ぬるい気もするけど」

「まだ確定ではないだろう。分かってるだけの情報って感じだな」

 

 詳しくはまたハッキングして調べるか。絶対これだけじゃすまされない気もする。イギリスのIS委員会にも捜査が入ったらしく、イギリスのIS産業は深刻なダメージとなっただろう。知ったこっちゃないが

 あとはクラス代表のほうだな。うまくいっているといいが

 

 

 

 

「クラス代表は、織斑一春に決定した」

 

 織斑千冬の口から告げられた言葉に、安堵する。自分たちの辞退は通じたようだ。一夏も胸をなでおろしている。だが周りから「何でー」とブーイングが起こる。

 

「な、なぜです!?俺は1勝しかしてないのに・・・」

「俺と兄さんが辞退したからだ」

「な、なんでだよ!てめえが勝ったんだからてめえがやればいいだろ!」

「試合の結果で決めるとは一言も言ってないから関係ねえよ。まあ、試合結果で言うんだったら俺が勝者だからな。勝者命令でお前がやれ」

「なんだと!?」

「いいじゃないか、お前は自分たちよりも期待されていたんだし、試合では自分たちに『惨敗』したけど、これからクラスのために結果を残すんでしょ?」

「くそっ!!」

 

 試合で惨敗したことを強調したからか、クズの顔が怒りにゆがむ。実に滑稽だった。周りもクズをクラス代表に推薦したことに後悔しているようだ。

 そんな周りの反応からか織斑千冬も不機嫌そうに退室する。ざまあみろ。

 

「後ですが、オルコットさんは今朝のニュースでも知っての通り退学になりました。皆さんも規則を守らないとああなってしまうので気を付けてくださいね」

 

 そう言って山田先生も退室する。おいおい、織斑千冬はその情報を言わずに退室したのかよ。全く、教師としてあるまじき姿だな。それなのに女子に人気なのは、女尊男卑の人間だからだろうか。そうでなければ愚か者だろう。

 まあ、このクラスの人間が女尊男卑の思想に染まっていないことを祈るだけだ

 

 

 

 

 

 時は過ぎ放課後。授業は織斑千冬が公開処刑をするように俺たちに指示したが、難なくこなしてやった。相変わらずクズ(織斑一春)には甘かった。もう失望されてもいい時期だぞ。

 今、俺たちは整備室に向かっている。昨日の戦闘で細かな修復ができていないのでそれをやるためだ。どうせ整備室はあまり人がいないだろうから遠慮なく使える。

 移動中、昼休みに兄さんが仕入れた情報(という名のハッキング)を俺に話している。

 

「どうやらイギリスは欧州のイグニッションプランから除外されるのが確定。それに伴い、イギリスのIS企業の株は大幅下落。これだとイギリスのIS産業は衰退するかもな」

「他国にどう影響する?」

「どっちかというと競争相手がいなくなったことで欧州全体ではプラスで他はそんなに影響なさげだな。イギリスのIS産業を欧州各国で分割して買収する流れになりそう。イギリスの撤退でイグニッションプランはドイツが一強になって、次点でイタリア、その他の国が続いている感じ。フランスは未だに除外の瀬戸際だな」

「他のイギリスの会社はどうなの?影響受けてる?」

「あんまり変わってない。IS企業だけ大打撃を受けている感じだな」

 

 兄さんの理想の形だな。他には迷惑をできるだけかけずに敵を潰すのをモットーにしている兄さんにとって今回の結果は良さげだな。

 整備室に入る。人の気配は無い・・・いや

 

「一人いるな、兄さん」

「あんま大きい声でしゃべるのは止そう。集中しているかもしれないし」

 

 親しくないグループが大きい声でしゃべっているのは時として不快にさせる。俺たちは小声で話してISを整備している人の横を通り過ぎる。そのISは見た感じ整備と言うよりも組み立てている感じだ。でもISを組み立てているとなると、いったいどういう人なのか?

 ま、まずは俺の機体の整備からだ。昨日の細かい傷の修復からだな。兄さんも始めているし、俺もやりますか。

 

 

 

 

 

 機体整備も終わり、武器の確認とISの出力調整をしている。武器確認はいいが、一応IS動かして3か月くらいしか経っていないので、調整は兄さんと意見を出しながらやっている。機体の細かい情報は企業秘密だが、俺たちの相互間では共有していいと両会社から許可を得ている。

 

「スラスター全体の出力を5%上げるのはどう?」

「でもSEに影響でない?あんまり上げると移動でSE消費しちまうし」

「そうだよな、難しいよな」

「ほんと、ISって奥が深い」

 

 より効率よくしていこうと話しているところに、一人の人影が来る

 

「あ、あの!」

「「うん?」」

 

 誰だ?水色の髪が内側にはねていて、眼鏡をかけている見知らぬ女の子。整備室にいた子だろう。でも一組じゃない。雰囲気的に同じ学年だと思うが・・・

 

「貴方たちが噂の遠藤兄弟?」

「噂が何なのかわからないけどそうだよ。俺が弟の遠藤一夏。こっちが遠藤雪広」

「よろしく。てか噂って何?やべー噂?」

 

 兄さんならあり得るけど、俺までヤバいやつだったら泣くよ。俺は至って普通だから。そうでありたい

 

「ううん。あのクラス代表決定戦で二人が凄い試合したから」

「あれか。あれは自分たちの前の試合が酷かったからじゃないか?」

「確かに二人以外は弱かった。特に織斑は。でもそれ抜きで凄かった」

「そこまで言われると嬉しいよ。えーっと・・・」

「私は更識簪。四組のクラス代表」

「そうか、よろしくね。更識さん」

「簪でいい。苗字呼びは好きじゃない」

「了解。簪さん」

 

 苗字呼びが苦手か・・・俺も昔はそうだったな。織斑が嫌だった。

 あれ、更識ってことは・・・と思うのと同時に兄さんが質問する。

 

「もしかして、楯無さんの妹?」

「・・・そうだけど、そう思わないでほしい」

 

 簪さんの顔が暗くなる。なんかこの顔を知っている。コンプレックスを抱えていたあの頃の俺と同じような顔だ。兄さんも察する

 

「ごめん、悪いことを聞いたね。これからよろしく、でいいのかな?」

「え?」

 

 うん?簪さんはなぜか唖然とした顔でこちらを見る

 

「どうした?」

「いや、私の姉を知っている人がそんな反応するの、初めてで・・・今まで姉と比べられていたから・・・」

 

 彼女も俺と同じ、できる兄弟に比べられていたのか。その気持ちは痛いほどよく分かる。でも、兄さんが先に言った

 

「何言ってるの。簪さんは簪さん。楯無さんは楯無さんじゃないか。そこを比べる理由がないよ。でしょ?一夏」

「もちろんだな。比べる意味がないな」

「!」

 

 初めて会って俺自身の話をした時、兄さんはさっきのように言ってくれた。俺もその言葉に救われたし、これはきっと簪さんにも効くはず

 

「そっか・・・ありがとう」

「別にありがとうって言われるほどのことじゃないさ」

 

 そう言うけど、兄さんは人のために動いてくれている。無自覚かもしれないがそれで救われる人もいる。俺だってそうだった。本当に兄さんは尊敬する。

 ・・・敵に回すと相手を絶望の底の底に叩き落すけど

 

 

 

 それから簪さんと話をした。日本代表候補生であること、それなのに簪さんの専用機は永久凍結されたこと、その開発途中の状態を引き取って、簪さんが一人で組み立てていること、凍結の原因が織斑一春の専用機の為であったことを知った。

 あのクズはこんなところにも迷惑をかけているのかよ

 

「でも、あなたたちがボコボコにしてくれた。だから私も頑張ろうと思った」

 

 その気持ちわかる。嫌な奴がボコされるのって見てるだけでも痛快だからな。女尊男卑の人間がやられる姿は実に愉快だし。

 

「でも、なぜ一人で組み立てているんだ?こういう開発ってもっと人がいるもんだと思ったけど」

 

 一夏が疑問を尋ねる。確かに、こういう開発は大人数でやるイメージがある。でもここには自分たち三人以外の人影がない

 

「それは・・・私の姉は一人で組み立てたから・・・」

「楯無さんが一人で?」

「そう・・・だから私も一人で組み立てる。姉に追いつくために」

 

 姉に追いつくため。かつての一夏も追いつこうと、迫害されながらもやってきた。でも結局は無駄だったんだけど。完全に無駄ではなかったが、認められることは一切なかった。

 でも、追いつくためか・・・

 

「それが本当に追いつくものなの?」

「え?」

「ISを一人で組み立てるってこと以外でも追いつけるものってあるんじゃない?変に固執するのはどうかなって」

 

 なんか簪さんは楯無さんに対して意地を張っているようにも見える。昔に何か一悶着があったのかもしれない

 

「・・・あなたに何が分かるっていうの!」

「分からない。だって君と君のお姉さんの間で何があったかは知らない」

「だったら口を挟ま・・・」

「でも一つだけ言いたい。一回面と向かって話してみるのがいいよ。無理にとは言わないけど」

「・・・どうしてそんなこと言うの」

「楯無さんに会ったからこそかな。あの人、飄飄としているけど人間的にいい人だし、そんな人が家族を大事にしないことはないと思うんだよね」

「!!」

 

 楯無さんは自分たちにちょっかいをかけることがあるが、いざというときに味方になってくれる。それは昨日の時に示した。そんな人が家族を、妹を蔑ろにするとは思えない

 

「ま、自分の戯言だから気にしないでもいいよ。気に障ったらごめんね」

「・・・」

「あと、息抜きもするのがいいよ。いつも切羽詰まったようにするのは大変だよ。もっと気楽にいこうよ」

 

 そう言って、自分は整備室を後にする。個人的には兄弟、姉妹の中が良くないってのを見たくない、っていうエゴがあるんだけどね。

 ある程度離れたところで一夏と話をする。

 

「それより、一夏、さっきからほとんど喋って無かったけど」

「・・・いや、言いたいこと全部兄さんが言っていたし、問題ないかなって」

「そっか。それならいいさ。ね、()()()()

「さっきから後をつけていますよね」

 

 後ろの物陰から楯無さんが現れる

 

「あら、いつから気付いていたの?」

「簪さんと話をしているときに。それを兄さんに伝えた」

「わざわざ隠れるような仲ではないでしょう。あなたとの関係だから」

 

 いつも楯無さんがよくやる「いけない関係」風のふりをする。が、今日の楯無さんはそれに乗らない雰囲気だった

 

「そうね、でも聞きたいことがあるの。簪ちゃんに何したの?」

「?何って、話しただけですが?」

「ホントでしょうね?ひどいこと言ったりしてないでしょうね」

 

 分かった。この人簪を陰で見ていたのか。自分たちが何かするんじゃないかと警戒していたのか。

 てか、これってストーカーじゃないか

 

「何もしてませんよ。だったら妹さんに確認すればいいじゃないですか」

「・・・それができたら苦労してないわよ」

「やっぱり。姉妹仲が現在進行形でこじれているんですね」

 

 なんだかんだでこの人は不器用なんだな。意外な気もするが何でもできる人はいない

 

「・・・君たちはさ、喧嘩したらどう仲直りしていた?」

「俺たちですか?・・・そう喧嘩したことないしな」

 

 男兄弟なら何かしらで喧嘩するものと思いがちだが、今までに殴り合いまでの喧嘩になったのは一回だけだし、そもそも喧嘩をしていない。楯無さんも自分たちのを参考にしようと思ったのだろう

 

「そう・・・仲いいのね」

「そうですね、ただ一つ言えるのは向き合うことです」

「向き合う?」

「ええ。今あなたたちは互いを見ようとしていない。まずは面と向かって話すべきだ。何か心当たりがあるなら、謝ってから自分の思いを伝えるのがいいと思いますよ」

「そうですね。俺たちも喧嘩はしませんが『こうしてほしい、これはしないでほしい』っていうことは言っていますね」

 

 喧嘩になる前にちょっとしたことを言うことが喧嘩をしない秘訣なのかもな。多分楯無さんたちはこじれて、話さなくなって、さらにこじれることになった気がする

 

「なるほど・・・」

「ま、まずは簪さんと向かい合うことがいいですよ。陰からストーカー紛いなことをせずに直接話すのが最善です」

「・・・分かったわ」

 

 では戻りますね、と言って部屋に戻る。にしても楯無さんに妹がいたとは・・・意外だな

 

「性格が真反対って感じだったな」

「俺たちは似ている感じだし、仲直りはできるかな?」

「できるさ。少なくとも相手を恨んでいるとか蔑ろにはしていないし・・・」

 

 ああいうタイプはすれ違っているだけで、すぐに仲直りできる。いわば、パズルのピースのように、バラバラになっていたが、元に戻りやすいようなものだ。

 

「俺たちが喧嘩しなさすぎなのかな?」

「・・・無理に火種作らなくてもいいだろう」

 

 その場のノリみたいな悪態はつくが傷つけることはしない。それに喧嘩ばかりの兄弟も自分が嫌だ

 まあ、何とかなればいいんだけどね

 

 

 

 

 

 

 次の日の放課後、自分は機体の調整をするため整備室に再びいた。一夏は射撃演習に行っている。整備室に入ると簪さんが来た。

 

「雪広君、昨日はありがとう」

「?何が?」

「今日のお昼にお姉ちゃんが来て謝ってきたの。それでお姉ちゃんと話をしたの」

「なるほど、ってことは仲直りしたの?」

「うん、私も変に意地張ってた。雪広君の言う通りだった」

 

 そして、簪さんは頭を下げる

 

「いやいや、そんな必要ないって」

「ううん、あなたに怒鳴っちゃったから。謝りたくて」

「別に気にしてないけど・・・まあ、いいよ」

 

 ありがとう、とお礼を言われる。自分は何もしてないけどね。アドバイスと言えないことを言っただけだし

 

「それでね、お願いがあるんだけど・・・」

「何?」

「私と・・・友達になってくれる?」

「もちろんさ」

 

 簪さんの顔が明るくなる。さてはまだ友達出来ていないな

 

「それに、友達って契約じゃないしさ、いちいち言わなくてもいいと思うんだよね」

「そ、そうかな?」

「持論だけど、そのくらいの距離だと思うよ。友達っていうのはさ」

 

 本当に仲良くなった人は『親友』で、友達は『普通に話ができる』くらいの中だと思うし、これからいろんな人と仲を深めればいいと自分は思ってる。

 

「ということで、改めてよろしくね。簪さ・・・『さん』付けはなしでいいか?」

「うん。こっちこそよろしく。雪広」

「ああ、簪」

 

 右手を差し出し、握手する。そういえばこんな風に女子の手を握るのはなかったな。これで中学の奴らにマウントを取れそうだ

 

「それでね、もう一つお願いがあるの」

「もう一つ?」

「うん、私の専用機・・・一人じゃ完成するまで時間がかかりすぎるの・・・」

 

 なるほど、手伝ってほしいってことね。一人で作るっていう固執から抜け出したようで良かった。でも・・・

 

「自分の訓練もあるし、できるだけ手伝うけど・・・自分は組み立てやったことないから、そんなに力になれないと思うよ」

「でも人手は欲しいの」

「クラスメイトは?」

「・・・ほとんど会話してないから・・・」

「ぼっちなのね」

 

 うぐう!とうめく簪。やべ、直球すぎた

 

「いや、まだだ!これから会話すればいいさ」

「でも、どうすれば?」

「たしか、クラス対抗戦で優勝すれば半年間デザートのフリーパスが貰えるだろう?『クラス対抗戦で優勝するために手伝ってほしい』って言えば手伝ってくれるよ」

「だ、大丈夫かな・・・」

「大丈夫さ。もっと図々しくなればいいさ」

 

 こういう時のノリは女子のほうが乗ってくれる。1組のクラス代表決めるときのノリなら多分乗ってくれるだろう

 

「分かった。やってみる」

「おう、頑張れ」

 

 こうして自分は簪と友達になった。この後一夏も来て、簪と友達になった

 

 

 

 

 

 

 夜、自分は飲み物を買いに自販機に向かう。なんとなく夜に散歩をしたくなったついでだ。お茶を買って戻ろうとした時、楯無さんとばったり会った

 

「こんばんは、楯無さん」

「こんばんは、それとありがとうね」

「簪のことですか、自分は何もしてませんよ」

「君が背中を押してくれたから簪ちゃんと仲直りできたのよ」

「さいですか」 

 

 ほんとに何もしていないんだけどね

 

「・・・ねえ、質問に答えてくれる?」

「・・・何ですか」

「君は私たちの敵?・・・それとも味方?」

 

 敵か味方か。多分オルコットの件で警戒されているんだろう

 ま、ここで嘘ついても仕方ないし、本音を言おう

 

「自分は・・・女尊男卑に染まった人間、社会のゴミ、自分の家族を害する者の敵です」

「・・・それ以外は?」

「どっちでもありません。第三者です」

 

 でも、と一呼吸して言う

 

「女尊男卑などで迫害された者の味方です。もちろん仲間や友達、楯無さんや簪、学園長は味方ですね」

「・・・本当?」

「今は、ですね。女尊男卑になったり、社会の悪になったら敵になりますけど」

 

 そんなことは起こらないでしょうが、と肩をすくめながら言う。全部本当のことだ。何一つ嘘は言ってない

 

「そう、分かったわ。ごめんなさいね、変な質問しちゃって」

「ま、あれだけのことをしたのだから警戒するのが当然ですよね」

 

 一国を壊滅ほどではないが、大打撃を与えたのだから警戒しないほうがヤバい

 

「あまりにもやり過ぎたら敵とみなすから」

「大丈夫ですよ、テロリストにはなりませんよ。一夏がいますし」

「・・・雪広君って結構ブラコンじゃない?」

「シスコンのあなたが言います?」

 

 はっはっは、と二人で笑いあう。お互い様だな。ま、危険人物ではないことを伝えられたようだし、良かった。

 またね、といって楯無さんは部屋に戻る。自分も夜遅くになったので自室に戻った

 こんな風にお礼を言われるのも、まあ悪くは無いな

 

 

 

 

 

 

「ここがIS学園ね・・・」

 

 一人の少女が校門に立っていた

 




 イギリスですが
・IS産業は完全撤退、権利は他国に売却され、会社は吸収される
・セシリアは退学、専用機の没収、代表候補生の資格剥奪のほかに、日本への侮辱による賠償からの資産差し押さえ、国外追放 となっています。書ききれなかったのでここに置いときます。後に影響はしないと思います。多分


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章 クラス対抗戦
第8話 再会と完成


メインヒロイン登場!


 クラス代表決定戦から一週間が経った。クラスでも話をする人が増えた。相変わらずクズたちは睨んでくるが気にしない。こういうアンチに対しては無視が一番って兄さんも言っていたし。

 でも今日はいつもより教室がざわついている。どうしたのだろうか?

 クラスでよく話す、のほほんさん―本名『布仏本音』で更識家の従者であり、簪の専属メイドらしい―に聞いてみる

 

「どうやら2組に転校生が来るんだって~」

「この時期に転校なのか?」

 

 兄さんもそう思うよな。どちらかというと入学が遅れたっていう理由なんじゃないかな?

 

「で、どんな情報があるの?」

「確かね~、中国の代表候補生だったかな~?」

「中国か・・・」

 

 あそこはISが登場したことで国が良くなった数少ない国だったな。もともと男尊女卑気味だったけど、ISの登場で女性の地位が上がり、結果的に男女平等になった。老害たちもISの登場でまともな若い人たちにより、社会から追放され、国全体の質が一気によくなった。日本との国交も良くなったんだよな。

 でも俺はアイツのことが思い浮かんだ

 

「どうした?」

「あ、いや、何でもない」

 

 アイツは今どうしているのだろうか?日本にいるのか、中国に帰ったのか、いろんな思いが渦巻く

 ふと、教室の入り口が騒がしくなった。見るとクズ(織斑一春)が誰かと言い争っているようだ。相手が陰に隠れて見えないが、クズを押しのけてこちらにやってくる

 どうやら噂の転校生らしい、って・・・

 

「で、あんたたちが男性IS操縦者ってわけ・・・一夏?」

「り、鈴・・・?」

 

 彼女を見て思わず名前を口にした。間違えるものか、あの時からの面影がはっきりと残っているし、何より俺の名前がすぐに出ている。

 彼女は・・・

 

「一夏だよね・・・」

「時間的に2組に戻ったほうがいいと思うよ。ここ、織斑千冬が担任だから」

「そ、そうね!一夏!また後でね!!」

 

 鈴は2組に行ってしまった。兄さんは鈴を理不尽な暴力から救ってくれたのだが、せっかく話すチャンスを失ってしまった。でも、話す機会はこれからあるはずだ。聞きたいことが山ほどある。

 だが、まずはクズ(織斑千冬)の授業だ。難問を当ててくるから気を引き締めないと

 

 

 

 

 

 

 お昼。俺たちは学食に行く。入学してすぐの時はあまりにも人が集まりすぎて食事どころじゃなく、昼は屋上とかレストスペースでパンをかじっていた。今はその人数も減り、学食でも動物園みたいにならずに済んでいる。

 

「待ってたわよ、一夏!」

「鈴、席取っといてくれるか?混み始めそうだし」

「分かったわ!」

 

 軽快なフットワークで席を確保する。片手にはラーメンを持ちながらよくあんなに動けるな

 途中、簪とも合流し、鈴のいる席に向かう

 

「まずは自己紹介からね!あたしは鳳鈴音(ファン・リンイン)よ!中国代表候補生、よろしくね!」

「私は更識簪。日本の代表候補生です。よろしく」

「自分は遠藤雪広。世界で3番目の男性IS操縦者だったかな?よろしく」

「俺は必要ないかもしれないけど、遠藤一夏だ」

「『遠藤』?」

 

 そうだった。俺が織斑の名前を捨てたのを言ってなかった。

 誘拐され織斑千冬に捨てられたこと、今の兄さんの家族に拾われ、織斑を捨てたことと、鈴と別れてから現在までを説明した。

 

「・・・そう。一夏を助けてくれてありがとうね」

「いやいや、あの状況なら助けるに決まっているし、受け入れてくれた親父に感謝してくれ」

 

 俺は見つけてくれた兄さんに感謝しているんだけどな。兄さんは褒められるのはあんまり好きじゃないから言わないけど

 それから鈴は一夏と別れてからのことを話した。一夏がいなくなって悲しんだこと、中2の時、母方の両親の介護のために中国に戻ったこと、ISの適性があったから努力したら代表候補生になったこと、IS学園には書類不備で入学が遅れたこと。そして、2組のクラス代表になったこと。

 

「また何でクラス代表になったんだ?」

「あたしもやる気なかったのよ。でも代表候補生で専用機持ちって言ったらその時のクラス代表が『変わって!!』って言われたから」

「なるほど、専用機持ちなら優勝しやすく、デザートパスを手に入れやすいからか」

「そ。雪広だっけ?言う通りよ。みんなの意見を聞いたうえで変わったから問題ないわよ」

 

 そうだよな。クラス代表を変われ、なんて言ったら絶対孤立してしまう。鈴がそんなことするわけないよな

 

「あなたもクラス代表なんだね?」

「そうよ、ってことは簪も?」

「うん。4組の代表。・・・負けないから」

「あたしだって負ける気なんて微塵もないわよ!」

 

 二人の間に火花が散る。代表候補生同士と言うこともあり、ライバルになるだろう

 

「で、1組の代表はどっちなの?」

「俺たちじゃないぞ」

「え?・・・まさかアイツ?」

「そ。クズに押し付けた」

「・・・それはそれで好都合ね。クラス対抗戦でボコボコにできるんだから!」

「私も。あいつをこの手で叩き潰す」

 

 クラス代表なら鈴や簪と戦えたが、クズがボコされるならそれで良かった。結果オーライって感じだな

 いい感じで盛り上がっているところに歓迎されざる客が来た

 

「こんなところにいたのか、鈴」

「・・・何よ、アンタを呼んだ覚えはないけれど」

 

 クズとモップが来やがった。ヤツは俺たちを一瞥するように見て鈴に言う

 

「なーに、どうせそこの出来損ないとつるんでいるだろうと思ったからね」

「いちいち癪に障るわね・・・」

「こんなのが1組の代表なんて・・・呆れて物も言えない」

「何だと!?」

「落ち着きなよ、箒。どうせ出来損ないといる連中なんだから仕方がないさ」

 

 その出来損ないに惨敗したのはどこの誰だったんだか

 

「それにお姉さんと比べて所詮、代表候補生止まりなんだから、俺たちよりもそこの底辺たちといるほうがいいのさ」

 

 姉と比べられるのを一番に嫌う簪の地雷を踏みぬくとは。よくそんなに敵を作ろうとするのか、天才の考えていることは分からねー。

 

「見下している相手に惨敗した上に白目剥いて無様に気絶して、皆からの期待を裏切ったのはどこの姉の七光りの自称天才だったっけ」

 

 おー、簪も嫌味たっぷりにして言い返すねー。いいぞ、もっとやれ

 

「貴様!一春を侮辱するな!」

 

 モップがどこからか出した木刀で簪を叩こうとする。が、当たる前に兄さんがつかみ、木刀を止める

 

「なっ!?」

「おーおー、これじゃあ木刀が可哀そうだ。こんな心が腐りきった人間に使われて」

「貴様ぁっ!!」

「もういいさ、行こう箒。こんな奴らに相手するほうが無駄だったんだから」

 

 クズたちは去っていく。ったく、絡んできたのはそっちだっただろうが

 

「本当にむかつくわ!前より性格悪くなってんじゃない!?」

「あんな奴、死ねばいいのに」

 

 代表候補生たちは憤慨する。てか、簪口悪くなりすぎ。

 

「ああいうのはいちいち反応しないほうがいいよ。労力の無駄さ」

 

 煽り返すのが一番いいんだけどね、と兄さんが言う。確かに、クズは自分のことを棚に上げているから、そこを突けばキレるだろう

 

「どうせ最後は『千冬姉~』とか言ってんだろう」

 

 馬鹿にしたモノマネで噴き出す俺たち。兄さんはこういう時に場を和ますのが上手だ。時には自虐を混ぜるときもあるが

 いい時間になったので教室に戻ろうと兄さんたちが席を立つ。俺も続こうとした時、鈴に袖をつかまれた

 

「どうした?」

「あのさ、放課後、屋上に来て」

 

 そう言って鈴も席を立つ

 ・・・あの時の返事だろうな。

 

 俺は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、言われた通り屋上に来た。そこには俺と鈴以外誰もいない

 鈴がベンチに座っている。俺もその隣に座る

 

「・・・来たわね」

「・・・ああ」

「心配したのよ・・・弾も蘭ちゃんも一夏のこと心配していたのよ」

「悪かった。連絡したいと思っていたんだ。だけどできなかった」

 

 すまない、と再度謝る。誘拐された時、連絡手段を失い、どうしようもなかったのだ

 

「いいよ、一夏とまた会えたんだもん」

「・・・ありがとう」

 

 沈黙。俺たちは景色を見る。空は赤みがかかっていて、海をオレンジに染めている。

 

「ねえ、一夏。覚えてる?あの時の約束」

「忘れるもんか。『料理が上達したら酢豚を毎日作ってあげる』だろ?」

「うん」

「プロポーズ・・・だよな」

「・・・うん」

 

 俺は誘拐される前に鈴から告白されていた。その時は鈴が顔を赤くしてすぐに帰ってしまったから返事ができなかった。その後、俺は誘拐されてしまった

 その返事を今、鈴は求めている

 

 俺は・・・鈴が好きだ。友達ではなく異性として、恋人として一緒にいたいと思っている。俺でよければ、と言いたい。言い出したい。

 

 

 だけど

 

 

「・・・もう少し待っててくれないか」

「・・・え?」

 

 鈴が好き。他の誰よりも鈴が好きだ。

 でも不安なんだ

 

「分かってる。ここで返事をするべきだろうと。・・・でも不安なんだ。俺が鈴に迷惑をかけるんじゃないかって。鈴を幸せにできないんじゃないかって・・・」

 

 大切にしたい。だからこそ、俺でいいのかという不安が大きくなる。俺が鈴を幸せにできるのか、俺よりも幸せにできる奴がいるんじゃないか

 そんな思いが渦巻いてしまう

 

「ごめんな、すぐに答えられなくて・・・幻滅したならそれでいい」

 

 俺は顔を俯かせて言う。今、鈴はどんな顔しているかわからない。いや、知るのが怖い。上げられない

 

「顔を上げて、一夏」

 

 やさしい声がする。言葉通りに俺は顔を上げ、鈴を見る

 

「もしかして彼女がいるかも、って思ってたからその答えは意外だったけど」

 

 でも、と鈴ははにかんで言う

 

「自信がないなら、一夏が自信を持つまで、自信をもって私の告白に答えてくれるまで待つわ。いや、待ってあげる」

 

 答えは『応諾』だった。良かった、こんな俺を待ってくれるのか。煮え切らない思いの俺を受け入れてくれるのか。思わず涙がこぼれそうになる

 

「・・・ありがとう」

「どういたしまして、なのかな?」

 

 さっきまでの夕焼けが俺たちを明るく照らすように感じる。でもここからだ。延々と先延ばしにしてはいけない。俺が鈴を幸せにできる、そうなれると早く自信が持てるように頑張らなければ

 

「だけど!せめて高校卒業までには答えを出してね!」

「分かった。頑張るよ」

 

 頑張ってよ!と手を握って鈴は答える。

 過去の記憶に蹴りをつけなければ。いつか、いつの日か、鈴の求める答えを言えるように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホント、思い返すだけでも腹立つ」

「落ち着け、簪。プログラム、ミスるぞ」

 

 時を同じくして放課後、自分は簪と整備室にいた。簪の専用機を完成させるためにいるが、前と比べ、大人数になった。4組のクラスメイトは簪のお願いに快く受け入れ、総出で開発にあたっている。その中に、自分や一夏、のほほんさんもいる。今日は一夏は鈴に呼ばれていたからいないが、これだけいれば何とかなる。

 最初はいつになったら完成するか、完成の目処すら立っていなかったが、これなら今日中には完成する。細かい調整込みでクラス対抗戦までには間に合いそうだ。

 

 そして、簪が最後のプログラム入力とエラーがないか確認している

 

「バグは・・・うん、出ていない」

「てことは!」

「完成・・・した!」

 

 おおー!と拍手が起こる。まだ調整が残ってはいるが、1週間で出来上がるとは・・・さすがIS学園生。だてに倍率の高い入試を勝ち抜いていない

 

「みんな、ありがとう・・・!」

「いいよいいよ、友達でしょ!」

「これならクラス対抗戦で優勝だ!」

「そして私たちにデザートパスを!!」

 

 最後のは欲望駄々洩れって感じだが、団結力は強くなったようだ。1週間前までぼっちだったのが嘘のようだ

 

「でも、これから試運転をしなきゃ」

「それなら自分がすぐ近くのアリーナ借りているから、そこでやるといいよ」

「・・・雪広っていろんなこと見越しているよね?」

 

 自分の訓練がすぐできるからなんだけどね、本当は。まあ、結果的にそうなったという事にしとこう

 

 

 

 

 

 

 あの後は簪の飛行テストや射撃練習も無事に終わり、帰り道。

 

「まだ出力とかを調整したほうがいいかも」

「そうか?見た感じ動きは悪くなかったけど」

「安定はしているけど全力ではない感じかな」

 

 なるほど。実際に乗ったから分かる事もあるしな。っと、一夏からメールが来た。なになに・・・なるほど~?

 

「ほう~?」

「どうしたの?」

「一夏からのメール。クラス対抗戦まで鈴のサポートをするって」

「へえ~・・・一夏ってもしかして鈴のこと」

「多分そうだよね。いや~、青春だね~」

 

 多分、一夏は鈴のことが好きなんだろう。鈴と会話しているとき、微妙に嬉しそうな顔していたし・・・

 一夏のことをよく分かっているし、自分が口を挟むようなことはしない。そもそも自分は()()()()()()()()()

 

「なら、自分は簪のサポートに徹するかな」

「え、いいの?」

「専用機の手伝いもしたし、最後まで徹底的に手伝うよ。友達でしょ?」

 

 ま、専用機の手伝いはほとんどできなかったけどね。雑用メインで動いていたし

 

「分かった。お願いね」

「まかせて。目指すは優勝だ!」

「おおー」

 

 これって代理兄弟戦闘になるじゃないか。なおさら負けられないな!

 一夏、あの時の借りを返してやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで1組のほうは?」

「知らん」




 こういう恋の展開もありかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 夢への変化

 クラス対抗戦開幕!
 1戦目は3組vs4組


 クラス対抗戦当日。IS学園の行事の一つで、各学年のクラスで争う大会。優勝した組にはクラス全員にデザートの半年フリーパスが貰えるらしいが、自分にとってはそれほど重要じゃない。実際、自分は4組、一夏は2組の手伝いをしていたもんだし。

 しかしながら、選手ではない人間が鈴や簪の控室に行くのはどうかと思ったので、自分たちは観客席にいる。クラスで固まる必要もないため、主に2組と4組の生徒が多くいるところに席を取っている

 

「まずはどこからだっけ?一夏」

「まずは3組対4組、その後1組対2組、休憩挟んで勝ち上がった組同士の戦いになる」

「ほー、つまり決勝は2組対4組になるわけか」

「まあ、そうなるよな」

 

 簪が代表候補でない人に負けないと思うし、鈴がクズに負けるのは考えられない。3組には失礼かもしれないが、流石に差が大きすぎる

 

「ま、優勝するのは簪だがな」

「は?鈴が優勝するに決まっているだろ?」

「は?」

「やるか?」

「なんかここで火花が散っているね~」

 

 自分の隣にはのほほんさんがいる。どうやら彼女は生徒会所属でお菓子を食べられるらしく、デザートパスにそれほど興味がないようだ。何より簪の従者で友達だから自分と同じく、実質4組の手伝いをしていた

 

「ま、まずは簪の応援だな、兄さん」

「ああ、簪が出てきたな」

「3組のほうも出てきた。あと5分くらいで試合が始まるな」

「かんちゃん、大丈夫だよね?」

「おいおい、のほほんさんが不安になってどうする?さすがに勝てるだろう」

 

 一夏がのほほんさんを励ます。実践はこれが初めてだが、訓練機相手なら心配ない。国家代表ならわからないが、言い方は悪いが一般生徒だ。負けるはずない

 

「まずは、簪の応援をしよう。この場を盛り上げよう!!」

 

 勝てよ!簪!!

 

 

 

 

 

 

 

 私にとって、そしてこの子にとっての初めての公式戦。織斑をこの手で倒すことはなさそうだが、初戦で鈴と当たらなくてよかった。とはいっても、気を緩めることはしない。実際、イギリスの元代表候補がやらかしているからだ

 3組の代表が出てくる。そして、相手から通信が来る

 

「それがあんたの専用機?」

「・・・そうだけど」

「そんな機体が専用機なんだ。これなら私でも勝てるわ。」

 

 これは相手の本心だろうか、それとも挑発だろうか。どちらにせよ、聞き流すのがいいと雪広にも言われていた。でも、機体のことを馬鹿にされるのはちょっと許せない。この子は4組のみんなと本音、そして雪広とともに作り上げた機体だ。だからこそ、ここは相手に挑発をし返す

 

「でもあなたは専用機を持ってないじゃない。・・・持てない、ってほうが正しいのかもしれないけど」

「何だって?」

「そうでしょう、あなたは代表候補でもテストパイロットでもないんだから。あなたの発言は私への僻みにしか聞こえないよ」

 

 相手のペースを崩す、雪広がよくやるやり方だと教えてくれた。思った以上にすらすら言葉が出て私自身もびっくりだ。相手は顔を赤くしている。どうやらこちらの挑発が効いているようだ。こんな人をクラス代表にしたのは間違いなんじゃない?

 と、試合開始のブザーが鳴る

 

「落ちろおおお!!」

 

 相手はラファール・リヴァイヴ、汎用性の高い訓練機だ。試合開始とともにフルオートマシンガンで攻める。でもあまりにも単調すぎる

 余裕で避けた後、こちらのアサルトライフルで1発撃つ。狙いは相手のマシンガンだ。相手は攻めることに手いっぱいだったのか、回避することなくマシンガンに命中し、爆散する。これも雪広に教わった戦法だ。相手の武器を破壊して、反撃の芽を極限まで減らす戦法だ

 

「私の機体を馬鹿にしてその程度なの?」

「うるさい!」

 

 漏れた本音に対し、相手はより怒る。だが取り出してきたのは実体シールド。一回防御に回ろうという事か。相手もただ突っ込む馬鹿ではないようだ

 

「これならどう?ライフル程度じゃあ破壊なんてできないわよ?」

 

 別に正直にライフルで応じる必要はない。こちらは私の十八番である薙刀をコールし、切り下ろす。流石に破壊はできないが、それでも相手は防御に精いっぱいだ。それならば攻撃の手を緩めない。リーチを生かした突きで何度も攻める。いくらシールドが強固でも同じ個所、それも一点を集中的に狙われると脆くなる。つまり、

 

「し、シールドが!!」

「破壊できたけど、どう?」

 

 これで防御しても意味がないことを示す。私の機体を馬鹿にしておいてこの程度なんて・・・身の程を知らなさすぎる。これなら・・・

 

「この!『姉のお飾り』のくせに!」

 

 え?コイツ、今なんて?頭が真っ白になる。相手は私の動きが止まったのを見て顔を歪める

 

「そうよ、姉の劣化版だと言ったのよ!そうでしょう?あなたのお姉さんならこんなセコイことせずに攻めてくるのに、アンタはネチネチ嫌らしいことしかできないじゃない」

 

 ・・・違う、ちがう、ちがう、ちがう!!

 

「違う!!」

「違わないわよ、姉の付属品!」

 

 違う!私は姉の付属品じゃない!私は私だ!

 

「ほら、スキだらけ!」

「キャアアア!!」

 

 いけない、試合中なのに目の前に集中できていない!立て直そうと距離を取り、ライフルで連射する。でも当たらない。当てたいのに当たらない

 

「ほら、全然当たってないわよ」

「うるさい!!」

「もう一丁!!」

「ああっ!!」

 

 まずい、完全にペースが乱されている。どうすれば、どうすれば・・・わからない、どうしたら、どうしよう・・・

 負けちゃうの・・・?ここまで頑張ってきたのに?4組のみんなとの頑張りが無駄になっちゃうの?

 それは嫌だ、負けたくない。でも、余計に焦ってしまう。どうしようどうしようどうしよう・・・

 

「簪~・・・」

 

 ?どこからか声がする。気のせいか、幻聴か・・・

 

「簪~~~!!!!」

 

 いや、観客席からだ。聞いたことのある声、私の知っている声。真っ暗だった時に光を照らしてくれた雪広の声。

 顔を上げるといた。雪広と一夏が見えた。でも彼らはさっきまでなかった横断幕を持っている。そこにはこう書かれていた

 

 

『お前は お前だ!』

 

 

 ・・・そうだ。私は私だ。更識楯無の妹ではあるけれども、姉の付属品じゃなく、私は・・・更識簪だ!

 雪広だって言っていたじゃないか、『人の意見を正直に聞くな』と。そう教えられたじゃないか!何弱気になっているんだ私!!

 そう考えを改めていたが、私は失念をしていた。これが試合中であったことに。

 

「なにぼさっとしてるのよ!」

 

 声に気づき焦るが、時既に遅い。目の前にグレネードが2つ、ピンはすでに抜かれている

 

「しまっ・・・」

 

 目の前で爆発が起きた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 さっきまで私はアリーナで試合をしていたはずだ。でも今私は見知らぬ水色の空間にいる。なぜかISスーツでもなく、制服になっている。いてもたってもいられず、歩くとそこから波紋が発生する。下は水面みたいになっているが私は映っていない

 

「夢?」

 

 そう思っていると前に人らしきものがいる。が、なぜかぼやけていて男か女かさえもわからない。もっと言ってしまうと見た目では人かどうかもわからない。

 でも私は人だと認識している。

 

「君はどうして力が欲しいんだい?」

 

 その人が私に問いかけてくる。

 なぜ力が欲しいのか・・・ありのままの考えをその人にぶつける

 

「前だったら『姉に追いつくため』って答えていたと思う。でも、そうじゃないってことに気づいたの」

「・・・」

「私は、『私を見てほしい、私個人を見てほしい』。だから求めるかな。力を」 

 

 でも、それだけじゃない。もっと私の中にあるもの、私の本質であり、最近考えが変わった私の夢を語る。

 

「私ね、ヒーローに憧れていたの。完全無欠で、弱い私を救ってくれるヒーローを。でも、そんなんじゃダメだって教えてくれる友達がいたの」

 

 雪広はそんな受け身じゃだめだ、って言ってた。最初は私も反論したが、その後に言った言葉で世界が変わった

 

「『だったら(お前)がヒーローになればいいじゃん』って。私がヒーローになれば、私を見た人が救われるって」

 

 私みたいに弱者だった人が努力して強い人に勝つ。このことで弱い人の希望のヒーローとなる。そう雪広は教えてくれた。初めてそう聞いた時は頭を強く殴られるほどの衝撃を受けた。でも、そうだ。私がお姉ちゃんに勝てたら、それは努力を積み重ねている人たちの希望になる。

 

「だから、『私がみんなのヒーローになるために』力がほしい」

「・・・プッ」

 

 アハハ、とその人が笑う。だが、だんだんとその輪郭がはっきりしてくる。見ると銀髪で、銀の制服に包まれた中学生くらいの男の子になった

 

「ヒーローになるために、力が欲しい・・・か。面白いね!」

「・・・変かな?」

「ううん、全然いいよ!気に入ったよ!」

 

 でも、と彼は言う

 

「でも、君はまだ隠していることがあるでしょ」

「え!?」

「ズバリ、簪ちゃんはもっと『はっちゃけたいでしょ』」

「!?」

「僕にはわかるよ。君のお姉さんみたいに明るく、皆を盛り上げる陽キャになりたいんでしょ」

 

 すべて知られている。お姉ちゃんに憧れていたのも、何でもできるだけじゃなく、ムードメーカーであったこともそうだった。私もそうなりたかったけど、その勇気が持てなかった

 

「・・・私にもできるかな?やってもいいかな?」

「できるさ!自信持って!クラスのみんなに慕われていたんだし、大丈夫だよ!」

「そうか・・・それならやってみる!」

「うん!その意気だよ!」

 

 彼としっかり握手をする。それと同時に視界がぼやけてくる

 

「じゃあね、『僕のマスター』。ちょっとばかりサービスをしてあげる」

「え?」

「君が()()()で、僕の相棒で良かったよ。頑張ってね」

 

 どういうこと?それになんで私の名前を?

 そう思ったが、問う前に意識が途切れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かんちゃん!!!」

「意識がこっちに向き過ぎたのはマズかったか・・・」

「やばいかもな、兄さん・・・」

 

 明らかにペースが乱されていたため、それをリセットさせようとはした。だが、意識をこちらに向けさせ過ぎてしまったようだ。何もしないよりはましと思ったが、裏目に出てしまったかもしれないな・・・

 砂煙により、簪の姿が見えない。それが自分たちに余計な焦りを生む

 

「でも、まだ終わってないよね、負けてないよね!?」

「落ち着け、のほほんさん。まだ試合終了のアナウンスはないから負けてはいない。多分負けることはないと思う。ただ」

「ただ?」

「機体があまりにも損傷すると、次の試合までに100%の力を出し切れるかが分からない」

 

 それに、訓練機に手こずったことも、のちの評価で影響するかもしれない。それほどダメージがなければ・・・?

 

「兄さん、どうした?」

「いや、簪の機体が見えたような気がしたんだが・・・あんなに明るかったか?」

 

 簪の打鉄弐式は淡い水色の機体だったはず。なんか銀色に見えたような?太陽光の反射をした影響か?

 砂煙がだんだんと晴れ、簪の姿があらわになる

 

「「!?」」

「かんちゃん!!って、え!?」

 

 簪は無傷だった。だが、そうじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。機体の骨格は変わっていないが形はよりシャープになり、色が水色から銀色になっていた。

 あまりの変化に自分とのほほんさんは動揺する

 

「せ、第二次移行(セカンドシフト)!?」

「いや、第一次移行(ファーストシフト)からかなりの時間を動かさないとそうならないはず!この短期間でそうなった事例はなかったはずだ!」

 

 イレギュラーか?俺たちなら男性IS操縦者だから可能性はありそうだが、簪においてそれは無いと思う。もしくは簪の隠れた才能か?はたまた、そういう機体なのか?

 混乱する中、一夏がふとつぶやく

 

形態変化(モードチェンジ)?」

「「え?」」

「形態変化ならこの変化の説明がつくんじゃないか?俺たちしか前例がない分、ありえそうだし」

 

 確かに。自分たちも機体の色が大きく変わるし、まだ形態変化は仕組みが分かっていない。簪もなれないと断言はできない

 

「それに、そうじゃなかったとしても機体はほぼ無傷になっているからいいことなんじゃないか?」

「そ、そうだね!」

 

 一夏の言う通りだ。悪い状態ではないから、これは喜ぶべき状況だ。間違いなくこの試合は勝てる。ただ、

 

「なんか、ライバルに塩送りすぎたかもしれないな」

 

 学年別トーナメント、強敵を作ってしまったかもしれないな

 

 

 

 

 

 

 

 視界が開ける。現実世界に戻ったようだ。自分の姿を見ると、面影はあるがよりシャープになった形で、色も銀色になっていた。機体のダメージも直っている。もしかして、さっきの世界はISのコアの世界だろうか?ISには人格があり、そこには世界があるらしい、とは言われているが・・・そうなら、あの少年はこの子(打鉄弐式)なの?

 

「な、なんなのよ!その機体は!?」

 

 まだ試合中だった。でも心なしか、気分がすっごくいい。今までにないハイな気分だ

 

「いや~、ありがとね!君のおかげでさらに強くなったみたいだよ!」

 

 口調も変わっているのが分かる。でもすごく嬉しい。

 信じられないかもしれないが、これが私の《素》だ。小さい頃は姉と同じくらいに活発だったのだが、姉と比較されたりとされた結果、陰キャみたいな引っ込み思案な子になってしまった。

 でも、それを今日この場で断ち切る!!

 

「ふん!機体が変わったところで、所詮は付属品のあんたには負けないわよ!」

「別に付属品でも簪は簪だし。嫌味で言ったところで、もう簪には意味ないよ~」

「!?」

 

 さっきまでと性格が大きく変わったことで相手が動揺してる。そんな隙を見逃さないよ

 

「スキだらけ!」

「キャア!」

 

 薙刀で大きく振りかぶって斬る。油断していたから溜めの時間をかけることができ、その分SEを大きく削る

 卑怯だ、なんだ、と相手が言ってくるがもう気にしない。もうさっさと終わらせよう

 

「もういいよ、じゃあね。簪のアンチさん。簪の引き立て役をありがとう!」

 

 そう言って山嵐のミサイルポットを開き、ミサイルを発射する。本来なら全部発射したかったが、あとの試合も考えて半分の24発を撃ち込む。ま、それでも見栄えはいいけどね。悪役を爆破させて倒すなんて、まさにヒーローっぽいじゃん!

実際に24発全てが直撃し、爆発する。それと同時にブザーが鳴る

 

「試合終了。勝者、更識簪」

 

 歓声が上がる。特に4組の所の盛り上がりは凄いのが見ただけで分かる。4組の皆に感謝しかない

 

「4組のみんな~!ありがと~~!!!」

 

 私の言葉に反応するように会場全体が盛り上がる。4組のみんなもすごく喜んでいる。雪広なんか両手を上げて喜んでくれてる。こんな思いは今までなかった。私がみんなの期待に応え、それをみんなが喜ぶ姿が見られる。これほどうれしいことだったのか

 でも、まだだ。あと一つ、さっきよりも強い鈴が勝ちあがる。優勝の為にも気を引き締めないとね!私のデザートパスの為にも!

 




 ちょっとストーリーが強引と言うか、まあそんな感じです
 簪は原作よりもかなり明るい性格になります。特に形態変化時は一人称が「簪」になるレベルで明るい(ちょいウザめな?)キャラになりました
 形態変化の秘密も解明する一歩となりそうです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 不測事態

 お久しぶりです
 
 やっと納得いくものができました


 簪の勝利から20分後、1組対2組の試合が始まった。だが、これは先ほどと比べて盛り上がっていない。当然だ。終始、鈴がクズを圧倒している。そもそも、中国の代表候補とISに乗って1ヶ月ちょいの素人なのだからクズが勝てるわけない。濃密な訓練をしていれば話は違うかもしれないが、鈴は俺とみっちり訓練をしていたし、クズはISの訓練をしていたという情報を聞いてない。

 

「リンリンつよ〜い」

「これはもう見るまでもないな。それに鈴は手の内を全部出してない」

 

 兄さんも分かるか。鈴はこの試合で一回も鈴のIS・甲龍の特殊武装である「衝撃砲」を使っていない。これはいわゆる空気砲の強化版みたいなもので、不可視で連射もでき、何より稼働限界角度がない。ただ、俺と模擬戦をしていた時、着弾点を肉眼で見る癖があったため何回かは勝つことができたが、最後はその癖を直そうとさらに強くなろうとしてた。とはいえ、まだ肉眼で見ないでの命中率は高くないが、クズ相手なら問題ない

 

「絶対、簪を警戒しているよな」

「そりゃあ、あの変化があったからだろう。俺だって今の鈴と同じ状況なら、切り札出さないよ」

「・・・自分は切り札使ってでもボコボコにしそう」

 

 ・・・兄さんって敵に対しては結構短気なんだよな。あの時(クラス代表決定戦)もイギリスの奴を潰す時に単一能力の「ノーリーズン」使ってたし。時々、後先考えないから少し不安だ

 ま、何事も無ければ大丈夫だろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら!避けてるだけじゃ勝てないわよ!!」

 

 一回戦でコイツ(一春)と当たるなんてね!一夏や簪の分含めてコイツをぶっ倒してやるわ!

 なんて、思ってたけど、何コイツ?あまりにも弱すぎる。剣道の型にはまった攻撃か突撃しかしてこないじゃない?馬鹿にしてんの?

 

「アンタ、よくそれで勝てると思ってたのね」

「うるさい!俺は天才なんだ!ここから逆転なんて余裕なんだよ!!」

 

 何が天才よ。1組のクラス代表決定戦で惨敗してるのを映像で見たわ。天才だったら負けてないわよ。むしろ一夏たちの方がよっぽど才能がある。本人たちは努力したからだと言っていたが、その努力ができる時点で才能だ。模擬戦では一夏には勝ち越してはいるがこれからはどうなるかわからない

 にしても、なんでコイツのせいで一夏が苦しめられたのか、どうして私は苛められてたあの時助けられなかったのか、色んな思いが怒りに変わる

 

「そこだァ!零落白夜ァ!」

 

 クズが私の隙を突いて、切り札で攻撃してくる。・・・甘いわよ

 躱してカウンターをもろに決める

 

「グボァッ!!な、何でだ!」

「私がワザと隙を作ったのにまんまと引っかかるなんてね。アンタが天才だなんて笑えないわ。」

「ウルセエェェ!!俺に黙って切られればいいんだよ!!」

 

 呆れた。うまくいかないと癇癪おこすなんて、小学生よ。精神年齢は全く成長してないってことね。ならあたしがもう一度現実を見せてやるわ!!

 二本の大剣の双天牙月を構え、トドメを刺そうとした・・・が

 

[警告、上空から未確認IS]

 

 この警告にすぐ中心から離れる。その直後、上から見たことのないISが特大のビームでバリアを破って乱入してきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だあっ!?」

 

 鈴が勝つと思ってしっかりと見ていなかったが、轟音とともに一機のISが乱入してきた。ただ、あのISは見たことが・・・いや、似ているのはある。束さんのとこで模擬戦で相手した「ゴーレム」とそっくりだ。無人機ISを作ったから相手してほしいとのことで相手したのは覚えている。

 てことは、束さんが原因なのか?でも何のために?明らかに鈴が勝つところに邪魔をするか?逆だったらありえるかもしれないが・・・

 

「助けてーー!!」

「いやーー!!死にたくないーーー!!!」

 

 悲鳴で我に帰る。そうだ、まずは避難だ。相手はIS学園のバリアを破るほどの兵装を持っているのは確か。それが人間に当たったら間違いなく消し飛ぶ。こちらに意識が向かれる前に逃げなければ!だが、

 

「兄さん!扉が開かない!」

「何!?」

 

 嘘だろ!さっきまで閉まってなかっただろ!まさか、あのISがやったのか!?

何かできることは・・・そうだ!管制室だ!そこでは今どんな対策立てているか確認しよう!こういう時は緊急時の担当に頼るのが一番だ

 ISで連絡を取る

 

「こちら、遠藤雪広です!聞こえますか!」

「怒鳴るな、騒がしい」

 

 そうだった!クズ(織斑千冬)が緊急時の指揮官だった!!でも、そんなことに構う余裕はない!

 自分は手短に今の事態を言う。主にこの扉をどうするのか

 

「今、そこの扉はハッキングを受けている。三年生達が対処しているところだ」

「で、何分かかりますか!」

 

 時間がかかるならその分何かしらの対策をしなければならない。自分たちは専用機持ちだから仮に未確認ISがこちらに攻撃をしたとしても何発かは耐えられるはず

 だが、管制室からまさかの答えが出てきた

 

「さあな」

「さあな、ってどう言う事だよ!!」

「コイツらの力量を知るわけないだろう。コイツらができる奴なら時間はかからない。それだけだ」

「ふざけんな!!それでも緊急時の指揮官の言葉か!!!」

「事実を言ったまでだ」

 

 コイツは人の命なんて微塵も興味ないんだ。身内さえ良ければいいのかよ、サイコパスが!

 怒りで頭が真っ白になる中、同じくISでこれらの会話を聞いていた一夏が話す

 

「兄さん、扉を壊したほうがいい!そうすればすぐに避難できる!!」

「!ああ!そうし「駄目だ、私が許さん」な、何故だ!!」

「学園の備品だぞ?修復にどれだけの費用がかかると思っている?」

「て、テメエ!人の命をなんだと思ってるんだ!!!!」

「だからこちらも手を打っている。それに私が法なのだからな」

 

 クソ!どうする!普通なら命令無視して破壊がいい。だが、それを口実に俺らを研究所に飛ばそうとしているようにも思える。百歩譲って自分が飛ばされるのはいいが、一夏まで巻き込むわけにはいかない

 しかし、ここで救いのメールが差し向けられる、と同時に山田先生が叫ぶ

 

「遠藤君!扉を壊してください!私が責任とります!」

「おい!私が「ありがとうございます!こちらは任せてください!!」」

 

 と、山田先生から許可を取ったように見えるが、実際は山田先生の発言の直前に学園長のメールから扉の破壊の許可が出た。そのため命令無視で破壊するつもりだったが、山田先生がタイミングよく許可を出したのでそれに乗るようにした

 なんて、説明している場合じゃあない!

 

「手だけ部分展開で行くぞ!そこのISにできるだけ刺激を与えないようにする!」

「了解!」

 

 今回、無人機がどう対応するかが全く読めない。なら、できるだけ敵と認知しないようにISを最低限の展開にして扉を破壊するようにする。これが最善かはわからないが、今思う最善の選択をする

 ISの武装のおかげで難なく扉を破壊する

 

「一夏、ここの避難誘導を頼む!自分はもう一方の扉を開ける!」

「わかった!みんな!落ち着け!!こういう時こそ落ち着いて逃げるんだ!!押すんじゃないぞ!」

 

 よし、一夏のほうは大丈夫そうだ。自分は急いで他の扉の所に向かって、逃げ道をさらに確保するために急ぐ。中では鈴が乱入ISの対応をしている。本来ならすぐに助けたいが、まずはみんなの非難が先だ。自分たちのやれることが先だ。

 避難の時間は稼いでくれよ!鈴!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなり来た未確認ISに最初こそ何かと困惑したが、すぐに状況を確認した。相手はアリーナのシールドを破壊するだけの武装がある。下手にそれを使われても周りに被害が出てしまうからまずは動かずに様子を見るのが先決だ。そして、管理室に救護の要請をする

 

「先生!救援部隊はまだですか!」

「待ってろ、今アリーナの扉がロックされている。それまで時間を稼げ。いいな」

 

 ・・・コイツ舐めてんの?時間を稼げっていう指示なら誰でもできるのに。織斑千冬だからと予想はしていたが改めてクズだと実感した

 まあ、あたしも代表候補生、それも軍属であるからそれ相応の対処の仕方は受けている。こういう時に率先して対処するようにも言われていたから仕方がない

 ただ、計算外だったのはクズ(織斑一春)がいたことだった

 

「助けなんていらねえよ!俺様が華麗に倒して、お前らとの格の違いを見せてやる!」

「馬鹿!勝手に動くな!!」

「うるせえ!零落白夜!!」

 

 クズが未確認ISに対して攻撃を仕掛ける。だが、長い手で剣が当たる前にクズの体をふっとばした。

 

「ぐべえっ!」

「あの馬鹿!!」

 

 そのまま、未確認ISは掌からアリーナのシールドを破壊したビームを発射する態勢に入る。このまま撃ってもらってクズに深手を負わせるのも良かったが、死なれたり、けがをされたりするとあたしが後々面倒だから助けることにした。幸い、クズは気絶したから下手に暴れられることなく運ぶことができ、未確認ISからのビームを躱した。

 とはいえ、こちらは荷物を抱えた状況。相手のほうが性能的に上だ。どうしたら・・・

 

「り~ん!!」

「か、簪!?」

「仲間のピンチに、私、参上!!」

「ありがとう!まずはこいつ運ぶからソイツを見張ってて!」

 

 ピットから簪が来てくれた。どうやらピットは開いていたようで、簪が助けに来てくれたのだ。これなら対処がしやすい。まずはピットにクズを置いてアリーナに戻る。相変わらず、未確認ISは動かないし喋りもしない。・・・まさか無人機?

 

「・・・ねえ、こいつさ、人乗ってる?」

「いや、乗ってないんじゃない?」

「でも、無人ISなんて聞いたことがないわよ」

「でもさ、このISから生体反応が無いんだけど」

 

 確かに普通ならどのISでも生体反応がある。たとえ全身装甲(フルスキン)ISでもだ。あたしの生体反応のセンサーが故障したかと思ったが、そうではなさそうだ

 

「つ・ま・り!心置きなくぶっ飛ばせるってわけだね!」

「・・・アンタそんな性格だったのね」

「うん!今まで隠していたけど、もう吹っ切れちゃった☆」

 

 ・・・凄い変わりようね。それも形態変化の影響かしら?

 そうじゃない。まずは無人機の対処が先だ。幸いあたしも簪もSEは十分にある。簪は形態変化前の状態だが、問題ない。まずは時間稼ぎ。観客席はだんだんと人が少なくなっているから、全員が避難するまで持たせるわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()には誰もいなくなった。避難は完了したようだ。その間に無人機は攻撃を仕掛けてきたが、すべて躱したため、簪ともどもSEは減っていない。

 だが別の問題を抱えている

 

「・・・どう?効いてる?」

「駄目、全然効いてない」

 

 こちらの遠距離攻撃が一切通用していないのだ。あたしの衝撃砲も簪の牽制のライフルも効いていない。傷一つついていないのだ。避難ついでに少しでもSEを削れればと思っていたがために、嬉しくない誤算だ。

 かといって近接攻撃をしようものなら、あのビームを躱せるかわからない。一方が突っ込み、その隙にもう一方が最大火力で叩き斬るのも考えたが、リスクが大きすぎる。

 

「・・・一つだけ方法があるよ。私が形態変化すれば打開策がある」

「ホント!?なら早く変身しなさいよ!」

「やろうと思ってもできなかったんだよ、でも今ならできそう」

 

 そういうと、簪は武器をしまい、両手を少し広げる。すると簪のISは銀色に変化していった

 

「よし!簪ちゃん、変身完了!!」

「・・・静かに形態変化したわね」

「ホントだったらド派手にやりたかったけど、状況が状況だしね~」

 

 それはそうだ。ここでライダーや戦隊ものみたいな変身をしたら一発ぶん殴っていただろう。

 で、どうするか聞くと、簪の単一能力で無人ISのビームを撃つ手を破壊し、とどめに私の双天牙月でダメージを与えてほしいというもの。確かにビームさえ使えなくなれば、あのISは倒すのは難しくない。

 

「で、アンタの単一能力ってどんなの?」

「この子の単一能力は・・・」

 

 突然マイクが入る音が聞こえ、大声が聞こえる

 

 

『一春―――!!男ならばその程度の相手に勝てずしてどうする!!』

 

 モップが放送室から叫んで・・・ちょっと待って!放送室に人が倒れてる!このままじゃあ中の人たちが危ない!まさか気絶させたっていうの!?

 てっきり避難したものだと思っていた!マズい!すごくマズい!!

 

「あの馬鹿!!」

 

 無人機が放送室に向けて銃口を向ける。駄目!!これじゃあ間に合わない!!

 

「間に合ええ!!」

 

 簪が飛び出し、刀身が光った薙刀で間合いを詰める。が、それより早く無人機が放送室にビームを撃った

 駄目だ、間に合わない、射線と反対方向にいるからここからでは無理・・・

 

 

 

 

 

 

「「させるか!!」」

 

 どこからか来た一夏たちが射線上にギリギリで大きなシールドを張り、ビームを受け止める態勢に入る。でも、あのビームはアリーナのシールドを破壊した威力だ。これじゃあ一夏たちが持たない!!必死の思いをプライベートチャネルで叫ぶ

 

「駄目!一夏たち、避けて!!」

「大丈夫だ、鈴!確かに真っ向から受け止めるのは無理だけど」

「ビームの()()くらいなら変えられるだろ!!」

 

 そう言って二人はシールドをビームに対して真正面ではなく、斜めになるようにしてビームを迎える。確かに真正面で受け止めるとシールドはたやすく破壊されてしまうだろう。だが、斜めにすることでビームを受け止める表面積を大きくすることで威力を分散させることができる。そして、受け止めるのではなく受け流すなら一夏たちへのダメージも少なくなるはずだ。

 結果、ビームの受け止めはできなかったが放送室から逸れたところに被弾した。放送室は無事のようだ

 

「一夏!雪広!」

「こっちは大丈夫だ!また撃ってきてもいいように兄さんと防衛している!」

「だから、ソレを任せたぞ!!」

 

 良かった。一夏たちは無事のようだ。無人機もあのように防御されたのは想定外だったのか動揺しているように見える

 その隙を見逃さない影がいた

 

「簪ちゃんを忘れちゃ困るんですけど!」

 

 さっき邪魔によって単一能力を出せずにいた簪が無人機と距離を詰める。そして大きく薙刀を振りかぶる

 するとその薙刀は淡い光に包まれる

 

「喰らえ!『光極(こうぎょく)』!!」

 

 勢いよく振り下ろすと刀身の光が斬撃波となって無人機に迫る。だが、あれでは遅い。所見の私でも躱せてしまう。実際に無人機も難なく躱し・・・

 

「甘いよ」

「!!」

 

 なんと先ほどの斬撃の軌道が直角に曲がった。しかも初速よりも早い速度で無人機の右手目掛けて飛んでいく。無人機も予想外だったのか反応が遅れ、右手に斬撃波が直撃する。

 

「いくら丈夫だとしても、特大のビームを出す出口に傷を負ったらどうなるだろうね?」

「!!」

 

 簪の言葉の後、無人機の右手が爆発する。爆風の後、無人機の右手が変形していることから、脅威のビームは撃つことができない。仮にビームを撃つとしても、あの火力は出ることはないし、最悪誘爆する。だが、そうなることくらいわかるはずだ。

 だからこそ今がチャンス!

 

「と、いうことで後は任せたよ」

「わかったわ!!」

 

 一番危険な攻撃が飛んでこない今、私のハイパワーの甲龍で無人機を機能停止にする!一気に間合いを詰めると無人機は左の腕で私を薙ぎ払おうとしてきた。だけど私は右手に持った片方の双天牙月でそれを受け流す。

 これによって無人機の体制が崩れる。どうやら機能しなくなった右手の影響だろう。だが好都合よ!

 

「くらえ!!」

 

 がら空きの胴に左手でもう一方の双天牙月を叩きこむ。そのまま回転切りで二発胴に当てる。機械だから息はしないだろうが、息する間も与えずにラッシュを続ける。時折、反撃はしてくるが躱してカウンターを決める。

 

「・・・!」

 

 十何発か叩き込むと無人機は動かなくなった。流石にこれだけダメージを与えればSEもなくなるわね。アドレナリンが切れたのか疲れがどっと押し寄せてくる

 空中にいた簪が私の所に降りてきた

 

「お疲れ、鈴」

「ええ、簪もお疲れ様。まさかあんな単一能力(ワンオフアビリティー)とはね」

「そうでしょー?私も初めてだったからうまくいくかわからなかったけど良かった~」

「とにかく、皆無事でよかったわ」

「そうだね!雪広たちもファインプレーだったし」

 

 そうね、と言いつつ、一夏たちもここに降りてくると思って振り返ると

 

ヴォン!

「!!」

「嘘!?」

 

 なんと無人機がこちらに右手を向けていた!まさか・・・誘爆覚悟で私たちを道連れにするつもり!?回避が間に合わな・・・

 

ゴシャッ!!!

「「!!」」

「全く、二人とも詰めが甘いんだから」

「こういうのは完全に潰さないと、何が起こるかわからないからな」

 

 上にいた一夏たちが無人機を叩き潰した。完全に腕が胴体から離れ、無人機は本当に機能しなくなったようだ。だが、

 

「くたばれ」

 

 雪広はさらに頭部を剣で何度も突き刺し、原型が分からなくなるまで止まらなかった。少し恐怖を感じたが、それ以上に動くかもしれないことを考えていなかった私たちのミスの罪悪感の方が大きかった。

 

「鈴!けがはないか!?」

「だ、大丈夫よ。そんなに心配しなくても」

「あんまり多いとかえって足手まといになると思って俺たちは戦闘に参加してなかったけど、大丈夫だったか不安でさ」

 

 全く、一夏は心配性なんだから・・・私は代表候補生よ?こういう不測の事態の訓練だったしてるんだから

 

「代表候補生だからね。こういうのも慣れているのよ。でも心配してくれてありがと」

「っ!あ、ああ!」

「ぶーぶー、私には心配してくれないの~?」

「も、もちろん簪も心配してたぞ!友達だもんな!」

「ってことは鈴に対してはそれ以上ってわけだね」

「え!いや、あの・・・」

 

 そんな反応されるとこっちも恥ずかしくなっちゃうじゃない!一夏ったら!

 嬉しいけど!!

 

「スクラップ完了~、皆お疲れ様」

 

 雪広が戻ってきた。無人機は見るも無残な姿になっていた。やりすぎな気もする

 

「お疲れ、兄さん」

「雪広もお疲れ」

「お疲れ~、どうだった、私の活躍!」

「ああ、凄かったよ。ありがとうな、簪」

「! う、うん!!ありがと!」

 

 なんか、簪の反応が・・・まさか

 

「まずはピットに戻ろう。鈴と簪は疲れているだろうから」

 

 一夏の言葉でみんなピットに戻っていく。簪を問い詰めることはできなかったが、その確認は後でもできる

 とにもかくにも、無人機を対処出来て良かったわ。

 




 主人公たちが撃破しなくてもいいんじゃないかと思ったものの、雪広たちがおいしいところをもって言った感が出ている・・・

 そろそろ1巻が終わりそうですね
 その時にキャラと機体紹介して、小話も入れようかなと


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 事後報告と予想

 説明し忘れてしまったのですが、無人ISが放送室を攻撃した時に雪広たちは中に入って防御できたのは、無人ISが乱入した時にアリーナのシールドに穴が出来たためです


 クラス対抗戦の日の夕方、自分と一夏は会議室にいる。ここには織斑千冬やその他の教師、織斑一春、篠ノ之箒、そして簪、鈴、楯無さん、十蔵さんもいる。無人機の件で呼び出されたのだ。

 山田先生が部屋に入る。これで全員そろったようだ。十蔵さんが話し始める

 

「皆さん揃ったようなのでこれから緊急会議を始めます。議題は皆さんご存知の通り、クラス対抗戦での乱入ISについてです。では、更識さんよろしくお願いします」

 

 楯無さんは今回現れたISについて今分かっている情報を報告した。無人機であり、今のところ現存するどのコアでもない、つまり存在しないはずの468個目のコアではないかとのこと。IS学園を襲撃した理由は不明のままだと。

 自分の予想では束さんの作ったコアなのだろうが、如何せんIS学園を襲撃する理由がない。あとで確認する必要がありそうだな・・・

 その後、無人ISを止めた簪と鈴の報告を終える

 

「ありがとうございました。・・・それでは質疑応答の時間を設けます。なにか質問や意見のある方はどうぞ」

 

 直後、織斑千冬が挙手をする。なんとなく嫌な予感がする・・・

 十蔵さんに指名され、ヤツは立ち上がって言う

 

「学園長、遠藤兄弟のISは無人ISの高火力レーザーに耐えています。これは明らかに今ある第3世代のISの性能を上回っています。直ちに没収し我々が保管、もしくは織斑一春に渡すべきです」

 

 なんつー理論だ。草も生えない。それに、その考えに賛同するクズの狂信者もいるのはどうしようもない

 

「織斑先生はそう言っていますが、雪広君、何か反論などはありますか?」

 

 おっと、自分が指名されたか。それならばこちらの意見でも言ってやろうじゃないか

 

「ではまず一言・・・今の考えに賛同した方はバカ丸出しですね」

 

 嘲笑するように吐き捨てる。クズやその信者たちは顔を真っ赤にしているのが目に見えるがお構いなしに続ける

 

「まず今回の議題は『無人ISについて』です。つまり乱入ISが何者なのか、何の目的でIS学園に来たのかを確認し、今後そのようなことがないように、来たとしても被害を最小限にするような対策を立てるのが議題の目標のはずです。それなのに自分たちの機体を没収するというのはこの議題の内容にそぐわないと思いますが、いかがでしょう、学園長」

「そうですね。明らかに的外れな意見ですね」

 

 学園長が言うと狂信者たちは俯いた。何も言い返せないようだ、と言うより言い返しようがない。クズは相変わらず自分たちを睨んでいる

 

「まだあります。緊急時の対応についてです。無人ISが現れて、自分たちが扉を壊そうとした時、織斑先生、なんて言いました?まさか覚えてないとは言わせませんよ」

「・・・」

「それに、無人ISが現れた後も指揮官であるあなたはろくな指示をしなかったそうじゃないですか。どういうことです?代表候補生に丸投げですか?自分自身は高みの見物ですか?」

「・・・チッ」

「それに、扉を破壊した後、我先にと逃げ出した教師の方々、そんなに我が身がかわいいのですか。この学園から立ち去ったらどうです?命の危険はなくなりますよ?」

「「「・・・」」」

 

 ・・・なんだよ、誰も言い返せないのかよ。つまんねーな。所詮、女尊男卑の女は口先だけだな

 まだまだ言うことがあったが十蔵さんが手を叩く

 

「・・・では、あの場にいたにもかかわらず避難誘導をしなかった教師は減給4か月を言い渡します。セキュリティについては今後改善する方針とします。そして、織斑先生、あなたの緊急時の指揮権を剥奪します。そしてその指揮権を山田先生に移します。何か反論はありませんか」

 

 山田先生か・・・少し不安があるがたぶん大丈夫だろう。そもそもこんなことが起こらないのが一番だが

 

「では、これで・・・」

「最後に・・・「ちょっと待ってください!!」」

 

 くそ、最後に奴らの処罰について言おうと思ったがクズが遮りやがった

 

「どうされましたか、織斑先生。先ほどまでのは決定事項ですよ」

「そうではありません!遠藤兄弟は『避難無視』をしています!これは明らかに罰するべきです!!」

 

 ほーう?少ない脳みそでも穴を突いてくるとはな。ま、それが奴らの首を絞めていることにまでは気づいていないようだが

 

「生徒は避難するように命令があった。だがこいつらはその命令を無視し、アリーナに侵入し戦闘に参加した!これを罰しないのはいかがかと思われます、学園長!」

「・・・雪広君、何か反論は?」

「・・・確かにその点は間違いではありませんね」

「ならば話が早い!専用機をよこせ!」

 

 こいつ、自分たちの専用機を取る以外のことを考えてないな。だがこっちも黙ってはいられない

 

「・・・こちらの意見を受け入れるならばその命令に従いましょう」

「に、兄さん!?」

「な、なに考えてるのよ!?」

「そうだよ!雪広は無人ISの無力化に貢献したじゃん!!」

 

 一夏達がうろたえてしまった。先に自分の考えを伝えておくべきだった。すぐにプライベートチャネルでみんなに大丈夫だから安心して、と伝える

 

「で、貴様の要件は何だ」

「簡単な話ですよ。『織斑一春と篠ノ之箒の処罰』についてです」

「何!?」

「何を驚いているのですか、彼らも無人ISが来た時に適切な行動をしていないじゃないですか」

 

 すると今まで黙っていた馬鹿達が騒ぎ出す

 

「何を言ってやがる!俺は何も間違っていない!!」

「そうだ!私達が何をしたというのだ!」

「分からないなら教えてやるよ。織斑、お前は乱入ISに対し何が起こるかわからないにもかかわらず『自身を過信して』特攻をし、場を混乱させた。篠ノ之、てめえは放送室の人たちを暴力で気絶させた上にその人たちの『命の危機にさらす行為』をした。何も間違ってはいないだろう」

「違う!私は一春に激を入れようと・・・」

「その織斑は気絶して退場しているのに気づかなかったのか?まさかそんな安い応援で意識を取り戻し、あまつさえパワーアップするとか思ってんのか?脳みそ取り換えたほうがいいぞ」

「貴様ァーー!!」

 

 どこからか竹刀を取り出して自分に突撃。ほんと懲りないよな、こいつも。ただ、今回は周りに人が多いから竹刀をはじくと迷惑がかかる。だから竹刀をつかみそのまま顎に掌底を叩き込む。あえて気絶しない程度に撃ったから、モップが悶絶しているのを確認した

 

「なにより、この二人も織斑先生の言っていた『避難無視』をしています。まさかとは思いますが、織斑先生、私たちを罰し織斑達には何のおとがめなしとは考えていませんでしたよね?」

「・・・くそっ」

「それに自分たちはあくまで防衛していたのに対し、織斑達は場を混乱させていますからね。どちらがより罰せられるかは一目瞭然でしょう?自分たちの専用機を剥奪するならそれ以上の罰をこいつらに受けてもらわないと」

「・・・」

 

 考えることバレバレなんだよ。お前の思い通りになると思うなよ

 

「と、いう事で後の判断は学園長に任せます」

「分かりました。・・・では、避難無視をした雪広君と一夏君は放送室の生徒を守ったことをふまえて十枚の反省文、避難無視かつ場を混乱させたとして織斑君には五十枚、避難無視かつ他の生徒を気絶させ、危険にさらしたことから百枚の反省文かつ一週間の自室謹慎を言い渡します」

「「「なっ・・・!」」」

 

 クズどもが驚いているが、妥当だろう。個人的には織斑の罰をもう少し厳しくしてもいいと思ったが学園長がそう言ったのなら仕方がない。ただ一夏に迷惑をかけてしまったな。

 プライベートチャネルで一夏に謝ると気にするな、って返事が来た。良かった

 

「これで緊急会議を終わります。皆さんお忙しい中ありがとうございました」

 

 さて、さっさと反省文を終わらせるとするか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、一夏とともに自分たちの自室にいる。夕飯も風呂も反省文も済ませ、盗聴されていないのを確認してからパソコンである人に電話をかける。相手は束さんだ

 1、2コールしたらすぐ出てきた

 

「もすもす終日?束さんだよ~」

「終日~、雪広です」

「こんばんは、一夏です」

「そっちから電話をかけるってことは何か聞きたいことがあるのかな?」

 

 よく分かってらっしゃる。今日現れた無人ISとあることを聞くために電話をしたのだ

 

「ええ、2点ほど」

「最初は何かな?」

「今日現れた無人ISについてです」

「・・・」

「単刀直入に言います。束さんの差し金ですか?」

 

 あのフォルムは束さんが作ったような感じがした。もしかしたら誤作動だったのかもしれない、そんな思いで返答を待つ

 

「・・・確かにあのISは私が作ったゴーレムだよ」

 

 でも私は知らないの、と束さんは言い淀むようにして言う

 

「実は前に試運転していたゴーレムが帰ってこなかったことがあったの」

「「!!」」

「なんとなくで作ったものだったし、海の上で通信が無くなったからてっきり海の底に落ちちゃったのかと思ったんだけど、まさかこんな風になるなんて・・・」

「まさか、独自で進化して俺たちのところに来たのか?」

「いや、調べたら明らかに改造された跡があったの。だからどこかの団体かがやったのかと思う」

「その団体は?」

「分かんない、束さんも今調べているんだけどその記録だけ抜け落ちてる感じなの」

「どこかのテロ組織だったりするかもな」

「・・・その節はあるぞ、一夏」

「え!?」

 

 一夏は半分冗談で言ったかもしれないが、自分はふと思いついた組織がある

 

亡国機業(ファントム・タスク)、最近活動が水面下だが活発になっている組織だ。もっとも目的が分からないからテロ組織なのかがよく分からないんだがな」

「そうだね、最近ISの強奪事件が起こっているんだけど亡国機業がやっているんじゃないかと思う」

「で、でも今回なんでIS学園を襲撃したんだ?」

「分からない。亡国機業じゃないかもしれないが・・・どちらにせよ警戒しないとな」

「束さんも機体を奪われることがないようにするよ」

 

 束さんの機体を奪われると非常にまずいからな。あの人遊びで最先端以上の機体作り上げるし。今回は何とかなって良かったが二度目は無いようにしてもらいたい

 まあ、束さんが犯人じゃなくてよかった

 

「さて、もう一つですが、『形態変化(モードチェンジ)』についてです」

「!何かわかったことがあるの!?ゆーくん!」

「あくまで自分の仮説ですが、おおよそ」

 

 束さんに簪が形態変化したことを伝える。無人ISを調べていたために、3人目の形態変化をした人が現れたことを知らなかったようで、とても驚いていた

 

「それで自分、一夏、簪の三人の共通点から形態変化できる条件のヒントがあるのではないかと思うんです」

「で、ゆーくんの考えている共通点って?」

「多分ですが、『幼少期につらい経験をした』上で『自身が所有するISのシンクロ率が高く』、『戦闘中に強い負の感情やストレスを感じる』。この三条件じゃないかと」

 

 何気に一夏と自分はISのシンクロ率が高いし、簪も組み立ての時からずっと接触していたからか高いし、他の条件も満たしているし・・・かなり的を得ていると思う

 

「・・・つまりその簪、って子もこの条件を満たしていたってこと?」

「ええ、どれも当てはまっています。もっとも、自分は三つ目がややあいまいなので確証とは言えませんが」

「あれ?でも俺たち、今はストレスなくても形態変化できるけど?」

「ああ、今言ったのは()()()形態変化するときの条件さ。一度発動したらいつでもなれるんじゃないか?」

 

 条件はあるがな、と付け足す。自分たちはSEがある程度減ってないと発動できないし、自分はさらに感情に左右されるし・・・まだまだ未知の機体なんだな

 

「なーるほどね。いい情報ありがとう!」

「いえ、自分も聞きたいこと聞けて良かったです」

「束さんも元気そうで何よりです」

「うんうん、二人ともうまくやれていてよかったよ」

 

 じゃ、またねーと言って電話が途切れる

 

「束さんの差し金じゃなくてよかったな、」

「ああ、だけど束さんが機体を盗まれるなんて・・・」

「束さんも人間なんだから一つや二つミスがあるだろう、そこを突かれた感じだな」

 

 もっとも、そいつがいる団体は気をつけなければならないことに変わりないが

 とは言いつつ・・・自分たちではどうしようもないし・・・

 

「兄さん、もう寝たら?船漕いでるぞ」

「っああ、そうだな」

 

 あんまり気を詰めすぎるのも良くないし今日はもう寝よう。おやすみ、と言ってベッドに入る。今日は濃い一日だったよ

 でも、皆無事でよかった




 これで1巻終了!長かった
 1か月くらい更新できなかったのに、まさかお気に入りが200件超えていて驚きました。読んでくれる人がいて嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 旧友と恋

短編日常回 二本立て


 クラス対抗戦が終わってすぐの土曜日。本当なら鈴とデートでも誘おうと思ったが、先日の無人ISの件で国に報告をしなければならないという事で断られてしまった。簪も報告しなければならないようで見かけなかった。代表候補生でもやることがあって大変だな。

 ただ、やっと暇な時間ができたから行きたかったところに行ける

 

「で、自分も付いて行っていいとこなのか?」

「ああ。兄さんに合わせたい人がいるんだ」

「そうか。だがこの場所って・・・」

 

 今いるのは俺が昔、兄さんの家族になる前の町にいる。ここにはろくな思い出がない。織斑に迫害され、町ぐるみでも差別を受けていた場所だ。はっきり言ってこんな町は焦土にしたい。でもそうするとあいつらの家まで被害が出てしまう。

 

「兄さんの言う通りさ。でも大事な友達がここにいる。そいつらと会いたいし、兄さんにも会わせたいんだ」

「なるほどな・・・で、そろそろ着くのか?」

「ああ、っとここだ」

 

 土曜日だから多分アイツらはいるだろう。元気だといいんだけどな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・」

 

 俺の名は五反田弾。実家が五反田食堂のため、休みの日は家の手伝いをしている。お昼時の時間が過ぎたためか、今客はいない。けどいつ客が来るかわからないから店番しながらテレビを見ている。ちょうど男性IS操縦者についての話をしている

 織斑一春のことをやけに持ち上げているが、こいつは正真正銘のクズだ。双子の弟をいじめて、行方不明と聞いた時は喜んでいた人間だ。こいつの本性が全国に知れ渡れば、評価は変わるんじゃないかと思うが、俺が言ったところで誰も聞きやしないだろう

 次に遠藤兄弟のことが上がるもコメンテーターは興味がないようですぐ次の話題に移ってしまった。だけど、男性IS操縦者の遠藤一夏を見ると昔を思い出す。俺の親友の一夏の面影があるのだ。しかも名前も同じ。一度だけでも会って話をしてみたい。そして、一夏なのかと・・・俺の親友の一夏なのかと聞きたい。

 

ガラララッ

 

 っと、お客さんが来たようだ。高校生くらいの男が二人組・・・って

 

「え!?」

 

 思わず声が出てしまった。明らかにこの二人はさっきテレビで見た男性IS操縦者にそっくりだった。片方はメガネかけてて、もう一方は・・・やはり俺の知っている一夏が成長した顔にそっくりだ。でも、今は客で来ているし・・・いきなりこちらから質問するのは店としてよくない。平静を装いつつ、会計の時に質問でもしよう

 テーブル席に二人を座らせ、お冷を渡す

 

「ここって何がお勧め?一夏」

 

 やっぱりこの兄弟はあの男性IS操縦者たちかもな

 

「俺は知ってるからそれでいい?」

「わかった、一夏に任せよう」

 

 すみませーん、と店員を呼ぶ声がしたので注文を伺いに行く

 

「お待たせしました、何にしましょう」

「それじゃあ・・・『業火野菜炒め』を二つで」

 

 

 ・・・え?

 

「な、なんで・・・」

 

 なんでこのメニューを知っているんだ?これはここで働いたやつしか知らない裏メニューなのに・・・

 まさか・・・!

 

「一夏なのか・・・?俺の知っている・・・」

「ああ、久しぶりだな。弾」

 

 

 

 

 

 

 

 俺がここの裏メニューを注文すると、弾は俺に気づいたようだ。こいつ、イケメンになってるじゃないか。でも昔と変わらない雰囲気を持っている

 すると固まっていた弾が厨房にダッシュして叫ぶ

 

「じいちゃん!!蘭!!一夏が!一夏が来た!!!」

 

 すると厨房から筋骨隆々な老人、厳さんと中学生の女子、蘭ちゃんが来る

 

「弾、何を言ってやがる、一夏君は・・・」

「そうだよ、お兄。一夏さんは・・・」

「お久しぶりです。厳さん、蘭ちゃん」

 

 二人とも俺の姿を見て固まる

 厳さんは変わって無いな~、蘭ちゃんはかわいくなったな。昔の数少ないいい思い出が蘇ってくる

 

「い、一夏さん・・・?」

「一夏君なのか・・・?」

「はい。その・・・何というか・・・ただいま戻りました」

 

 その後、蘭ちゃんに泣きつかれたり、弾にどこにいたんだよ!と肩揺さぶられたり、厳さんには心配かけやがって!!と軽いヘッドロックをかけられた。さらに弾と蘭ちゃんのお母さんである蓮さんに昔の友人である数馬も来て、俺が無事だったのを喜んでくれた。

 ああ、よかった。みんな元気でいて。それに俺のことずっと覚えていてくれてありがとう

 

 

 

 

 

 みんなが落ち着いてからテーブルに座って話始める。他の客が入らないように臨時休業の看板を立てたらしく、心置きなく話せる

 

「で、なんだが・・・一夏、その男は誰だ?」

「ああ、こちらは俺の今の兄さんで男性IS操縦者の遠藤雪広だ」

「遠藤雪広です。今の一夏の兄です。一夏の味方になってくれていてありがとうございます」

 

 兄さんが一礼して自己紹介をする。そういえば兄さんはまだ自己紹介してなかったな

 だが、今の発言に蘭ちゃんが反応する

 

「今の兄?」

「ああ、話すと長くなるけどもう織斑を捨てたんだ」

 

 小5の時に誘拐され雪兄さんに拾われたこと、遠藤一夏になったこと、IS学園に兄さんともども入学したこと、鈴がIS学園に来たことを話した

 

「鈴もIS学園にいるんだな!それなら安心したぜ」

「でも今日来れなかったのは残念です」

「まあ、いつでも会えるからさ。またみんなで集まろう!」

 

 そうしよう、とみんなが賛同する。今度は鈴も来られるときに来よう

 その後、俺が行方不明になった後ここでは何があったかをみんなから聞いた、といってもいい内容ではなかったが。とにかく織斑派閥が大きかったこと、皆織斑の信者みたいになっていたことだった。弾と数馬はうまく生活をしていて、織斑と関わらないようにしていたし、蘭ちゃんは私立の聖マリアンヌ女学園に行くことで織斑との接触を避けていたとのこと。蓮さん、厳さん、ファインプレーです

 

「アイツ、蘭にも口説いてきやがったこともあってな」

「下心丸見えだったよ」

「ホントですよ!あの目は今でも忘れませんもん!体をなめるように見たあの目を!!」

「あのクソガキ、半殺しにしようか考えていたぞ」

「蘭ちゃんも大変だったな。厳さん、気持ちは十分にわかります」

「・・・ところでアイツはIS学園でも人気者なのか?」

 

 弾が恐る恐る聞いてくる。すると兄さんが待ってましたとばかりにしゃべり始める

 

「いや、IS学園の公式戦で自分たちに惨敗したから人気者ではないな」

「そうか・・・って!一夏あのクズに圧勝したのか!?」

「ああ、まあ・・・」

「見せようか?一夏とクズの公式戦。データはあるし、テレビで映せるしな」

 

 なんで持っているんだよ!!なんか恥ずかしいわ!!

 

「マジで!?見たい!!」

「俺も!!」

「私も!!」

 

 って、みんな見たいのかよ!!厳さんも蓮さんも心なしか見たがっているし、兄さんはもう準備完了させているし!!

 

「それじゃあ始まり始まり~」

 

 仕方ない、もう一度どこが駄目だったかを反省するように見よう!そうしないと見れないわ!!

 結局俺と兄さんの試合も見ることになり、俺が勝った時に拍手された。嬉しいけれども流石に恥ずかしかった。

 

 

 

 帰り道、兄さんと横に並んで歩いている。今日は楽しかったし、会えてよかった

 

「いい友達だったな」

「そりゃあ、昔の友達だからな」

「そうか・・・ところで別れ際に蘭ちゃんと何話していたんだ?」

「・・・そこはプライベートということで」

 

 そっか、と兄さんは言い返し、それ以上の追及はしてこなかった。別れ際に蘭ちゃんが言ったこと

 

「鈴さんの思いに答えてくださいね」

 

 だった。なんで蘭ちゃんが知っているのか疑問もあるが、その言葉は重い。俺は鈴の告白に逃げているからだ。鈴も待ってくれてはいるがそれに甘えてはいけない。俺も早くその自信を持たないと・・・鈴を幸せにする自信を。

 

「待っていてくれ、鈴」

 

 その独り言は夕焼けの空に溶けていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は変わり、金曜日の放課後。一夏と鈴は企業報告をしているらしくそれぞれの部屋で報告をしている。ということで簪を誘って模擬戦をやった。共に形態変化をしたが、簪は単一能力の光極(こうぎょく)を操作するのに気を取られ過ぎたために、その隙を突いて自分が勝った。とは言いつつ、自分も遠距離攻撃がないため、かなりの接戦となった。

 今二人でピットに入り、その試合を映像で振り返っている

 

「まだこの子を使いこなせてないな・・・」

「これから使いこなせればいいんじゃないか?」

 

 いきなり使いこなせるほうが少数なわけだし、時間はまだあるからこれから使いこなせればいいだろう

 

「でも雪広はうまく使いこなせていそうだし・・・」

 

 なんかむくれてしまった。やべ、ここからどういう言葉で返したらいいかわからないぞ。これが男子校出身の弊害か

 

「「・・・」」

 

 無音。どうしようかと簪の顔を見る。むくれてはいないが、どことなく赤い気がする

 と、簪が沈黙を破る

 

「・・・あのさ、雪広」

「うん?」

「あの時助けてくれてありがとうね」

 

 あの時?簪を助けた覚えはないのだが・・・

 

「あの時って?」

「クラス対抗戦で三組との対戦の時、雪広のおかげで立て直すことができたんだよ」

「あれか。でも応援しただけだぞ」

 

 それに一夏も応援していたし、と付け足す。

 すると簪は体を寄せるようにしてきた

 

「それだけじゃない、無人ISが来て放送室を守ったでしょ?」

「ああ、でもあれは簪を守ってはないと思うが・・・」

「ううん、私が助けられなかった人たちを雪広は助けることができた」

 

 それにも一夏はいたんだがと思ったが口には出さない。

 すると簪はおもむろに立って言う

 

「私ね、昔・・・最近までヒーローに憧れていたんだ。みんなを・・・私を助けてくれるヒーローを」

「うん」

「実際そんな私を助けてくれるヒーローなんていない、そう思っていたんだ」

 

 でも、と簪は言葉を区切って話す

 

「私に手を差し伸べてくれる人がいた。目標に押しつぶされそうだった私を助けてくれる人がいた」

「・・・」

「その人は私に新たな道を導いてくれた。そして私が助けられなかった人も助けた、それで思ったんだ。その人は私の理想のヒーローだったんだって」

「・・・自分ってわけか」

「・・・そうだよ」

「・・・言っておくが自分は全員を助けるようなヒーローなんかじゃないと思うぞ」

 

 実際、イギリスの代表候補をこの手でつぶしているしな

 

「簪が思っている勧善懲悪のヒーローとはかけ離れている、自分はそんなんじゃない。簪が思っているような人間じゃないぞ」

「・・・確かにそうかもしれない」

 

 でも、と簪は言葉を続ける

 

「私が助けたかった人も助けてくれた。何より私を救ってくれた。希望を与えてくれた。だから・・・」

 

 簪は深呼吸して、自分の目を見つめてはっきり言う

 

 

 

「私は、雪広のことが好きなの」

 

 

 

 ・・・これが告白と言うものだろう。予想外のことで思考が止まる

 

 再び沈黙が支配する。何というべきか、何を言うべきなのか・・・

 

 声を出そうとした時、簪が慌てたようにしゃべり始める

 

「と、と、という事でね!私の気持ち伝えたから!あっ!きょ、今日は女子会開くから準備しないと!じゃあ、またね!!」

 

 返事待ってるからね!と言って逃げるようにピットから去っていった。簪がいなくなって一人となったことで、次第に思考がまとまってくる

 

 ・・・まさかそれほど好意をもっていたとは。よもや告白されるとは・・・

 

 これが多くの男子高校生が求めていた告白なのだろう

 今自分はどんな顔しているだろうか。いや、言われなくてもわかる。多分・・・

 

 

 

 

 ()()()で満たされている顔をしている

 

「駄目だよ・・・自分なんかに・・・人の成り損ないの自分なんかに・・・恋しちゃ・・・」

 

 うつむき、頭を抱えた自分の悲痛な独り言はピットの中に消えていった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話までの主要登場人物紹介と機体説明

 追加説明あり


主要登場人物紹介

 

・凰鈴音(ファン・リンイン)

見た目 原作と同じ

一人称 あたし

 

 中国の代表候補生。

 父は日本人、母は中国人のハーフで小5の時、日本に来る。転校当初は慣れない日本語と名前のせいでいじめられそうになるが、一夏に助けられる。その後、一夏と弾と仲良くなり、特に一夏には恋心を抱いていた。一夏が誘拐され、行方不明になったときは一番悲しみ、どこかで一夏は生きていると思いながらも、一夏の分まで生きようと決意。

 中2の時に母方の両親の介護が必要となったために中国に帰国。両親は離婚しておらず、仲も良い。その後ISの才能があることが分かり、わずか1年で代表候補生になる。本来なら4月にはIS学園に入学する予定だったが、書類不備で入学が遅れる。

 サバサバしていて物事をはっきり言うほうだが、相手のことにも気を使うことができる。そのため下手に敵を作るようなことはしない。クラス代表も変わってもらうつもりはなかったが、2組のクラス総意のもと、クラス代表になる。クラスとの仲も良い。

 体型についてだが原作と同じく恵まれた体格ではない。しかし、本人はそのことをそれほど気にしておらず、ステータスだ、と主張するほど。だが、あまりにも体型をいじられるとへこむ。

 一夏とは再会できた喜びもあり、再会したその日に告白している。返答はもらえていないが、鈴自身も一夏が自身のことを好きなことは分かっており、告白の答えを待っている。でも早く答えてほしいとも思っている。

 雪広とは当初「誰だコイツ、一夏に付きまとって」という第一印象だったが、一夏の恩人という事もあり、申し訳ない気持ちを持つも友達になる。なんとなくヤバいやつだとも思っている。

 簪とは代表候補生同士という事もあり、仲間でライバル。

 一夏を迫害していた織斑家には絶対的な嫌悪を抱いており、真っ向から反発する。また、その狂信者に対しても嫌っている。他にも、女尊男卑の人間やふんぞりかえっている人間も嫌う。

 

 

・更識簪

見た目 覚醒前は原作と同じ

    覚醒後は儚げ感が無くなる

一人称 私、簪ちゃん

 

 日本の代表候補生。

 先代の更識楯無の次女。小さい頃は姉以上に活発な子だったが、姉の才能や周りの反応からだんだんと内気になり、さらに姉との仲もこじれてしまう。当初は姉に追いつくという目標しか持たなかったため、周りが見えなくなってしまう。

 倉敷研究所から専用機をもらう予定だったが、織斑一春により簪の専用機研究は永久凍結になった。開発途中のISを引き取り自身で組み立てようとしたが、雪広たちに心を開き4組総出で専用機を組み立てる。この時に姉との仲は修復された。

 クラス対抗戦では3組の挑発で窮地に立つも、形態変化のトリガーとなり覚醒。さらに昔の活発な性格が表に出るようになる。本人曰く、ちょいウザで明るい感じ。(形態変化時に一人称が「簪ちゃんとなる」)

 雪広は当初周りから期待されていないことで哀れみを感じていたが、クラス代表決定戦でその考えが吹き飛ぶ。その後、友達となり特に専用機開発に携わってくれたこともあり好意を持つ。そして、クラス対抗戦の無人ISで自身が守れなかった人たちを雪広が守ったことで、昔描いていた理想のヒーローと重なり、恋に落ちる。返事待ち。

 一夏とは雪広以上に自身の環境と似ていることから親しみを感じていて、その後友達になる。だが、鈴との関係をむず痒く思っており、さっさとくっつけば、と内心思っている。

 鈴とは仲間でライバル。そして一夏との恋愛を応援している。

 一春に対しては専用機の凍結要因であり、性格も最悪なため、鈴以上に嫌っている。それを擁護する織斑千冬や篠ノ之箒に対しても嫌っている。

 何気に形態変化を発動できた初の女性でもある。

 

 

・更識楯無

 見た目 原作と同じ

 一人称 私

 

 現生徒会会長。現ロシア代表。

 簪の姉。才能がありすぎて中学3年の時に楯無の名を引き継ぐ。だが、そのことと口下手なことにより簪との仲がこじれる。

 ムードメーカーで自由奔放。仕事をため込む癖があり、そのたびに従者の布仏虚に締めあげられる。

 簪とは仲がこじれたが、和解。ストーキングすることはなくなった。だが、簪には甘くなってしまい、時にそこを簪自身に突かれてしまうことも。

 遠藤兄弟とは護衛のために接触するが、雪広に対し危機感を持つ。簪との仲を結果的に取り持ったことや敵意はないことは分かったが、雪広に対しては依然警戒を続けている。

 織斑千冬は以前から横暴な行為が目立ってはいたが、今年は特にそれが目立つため、問題行動を起こさないよう見張っている。問題行動が発覚次第、理事長に連絡している。

 織斑一春は簪の専用機凍結や性格から毛嫌いしているが、更生できないかとも考えている。篠ノ之箒に対しても同じ。

 

 

・五反田弾

 一夏の旧友。幼少期の一夏と仲が良く、数少ない味方の一人。鈴とも仲が良い。

 一夏を虐めていた織斑一春とはできるだけ関わらないようにしていた。

 IS学園に対してはいい印象を持っていないため、原作のようにIS学園に行きたいと思うことはない。

 蘭に対しては大事な妹と思っており、妹の為なら体を張れる。また、五反田家のヒエラルキーも原作とは異なり、低くない。

 

・五反田蘭

 弾の妹。幼少期の一夏の数少ない味方の一人。よく一夏とも遊んでいた。

 織斑一春に一度口説かれたことがあるが、本性を知っていることもあり、角が立たないように避けた。その後接触しないように私立マリアンヌ女学園に入学する。

 弾に対してはあたりが強くなく、仲はかなり良い。本人に言ってないが自慢の兄だと思っている。

 一夏に対しては友人もしくは先輩と思っており、恋愛感情はない。

 鈴に対しては前述から恋敵ではないため、仲の良い先輩後輩の関係。また、一夏との関係が発展するのを望んでいるし、何なら手助けしようとも考えている。

 

 

・遠藤一夏

 男性IS操縦者で主人公の一人。

 鈴に告白されるが踏み切れていない。でも鈴のことは異性として好き。

 

・遠藤雪広

 男性IS操縦者で主人公の一人。

 仲間に対しては甘いが、敵とみなした相手には容赦しない。たとえ相手が謝罪や反省しても拒絶する。

 恋愛に対しては何かしらの問題を抱えている。

 

 

機体説明

 

・甲龍

 鈴の専用機であり、中国の第三世代IS。近接格闘が得意であり、エネルギー効率が良い。だが、装備格納数は4つと少なめ。初期装備として大型の青龍刀「双天牙月」があり、双剣やブーメランとして使用している。

 また、第三世代兵器として「龍砲(りゅうほう)」も初期装備としている。これは空間に圧力を加え、衝撃砲として相手に打ち込む。性質上、全方位攻撃が可能。また単発モードと連射モードがあり、連射モードは単射モードに比べ威力、精度が落ちる。元が空気の為、距離がある程度長くなると威力、精度が急激に落ちるため、長距離攻撃には向いていない。

 

 

 

・打鉄弐式

 簪の専用機であり、日本の第三世代IS。本来は倉持技研が開発を進めていたが、男性IS操縦者の専用機開発に技術者をすべて投入するという上層部の方針から永久凍結され、簪が引き取る。その後4組のクラスメイト+αの協力のもと完成。

 装備格納数は7つと一般的。専用装備として山嵐(やまあらし)という第三世代技術のマルチロックオン・システムの独立誘導ミサイルを搭載している。だがシステム的に容量が大きく、スロットを3つ消費してしまう欠点を持つ

 

 

 形態変化条件

 ISを展開してから最低5分の稼働かつ、本人の気分がある程度高まっているとき発動可能。一度ISを解除した場合、再度展開してから5分経たないと発動できない。そのため、無人ISが乱入直後は形態変化ができなかった。

 形態変化時は機体が少し発光して、形が鋭くなる。だが、気分を高めるためにあえてスモークで演出することもできる。その分SEは消費する。

 雪広たちと同じく形態変化時はダメージを受けない

 

 形態変化後の特徴

・機体は銀色のカラーリングとなり形が鋭くなる

・一人称が「簪ちゃん」になる

・防御力、攻撃力が上昇、他の機能や速度も上昇するが、その幅は形態変化時の気分で変わる。ノっているほど上昇幅が大きい。また、むらっ気になるため、想定外のことに対してパ二くりやすくなってしまう。

・目に星が浮かぶようになる(参考:とある魔術の禁書目録の「食蜂操祈」)

 

 形態変化後の単一能力

 「光極(こうぎょく)」

 自身のSEをエネルギー化する単一能力。武器にまとわせることでその武器の耐久力を上げたり、形状を変化させたり、斬撃波として飛ばしたりすることができる。斬撃波もある程度なら操作することが可能。他の応用も利くようで、現在模索中。

 今はまだ慣れていないからか扱うのに意識を向ける必要があり、複雑な操作ほど動きが制限されてしまう。意識せずに使いこなすことが簪の今後の課題ともいえる。

 

 

 

・ゴーレムⅠ(無人IS)

 クラス対抗戦で乱入してきたIS。所属は不明だが、亡国機業ではないかと言われている。

 元は束が遊びで製作した無人機。だが試運転中に強奪されてしまい、改造を経て乱入してきた。腕が異様に大きく、特大なビームを右手から出すことができる。遠距離武装が効かないほど装甲が厚い。

 

 

 

 

 

 その他

 

・形態変化

 雪広、一夏、簪だけが発動できる。初めて発動するには

『幼少期の辛い過去』

『ISのシンクロ率』

『戦闘中で強い負の感情を持つ』

ことが必要ではないかと予想されている。実際、束・楯無ともに試してはいるが、未だに発動できていないためこの説が有力と思われている。

 初めて形態変化した時はコア内部に精神が入るらしいが詳細は不明。2回目以降はそれぞれ違う条件で形態変化できるようになる。

 簪の場合、形態変化した後も性格が変化している。

 

 

・亡国機業

 正体不明の組織。噂では各地で戦争を止めたりしているらしいが、他国のISを奪うなどの犯罪行為もしている。雪広のハッキング技術でも情報が出ていない。

 

 




「第5話までの世界観と・・・」にて、雪広達の形態変化後の眼の表記がなかったので修正
二人とも眼が赤くなります(参考:艦これ 戦艦ル級elite)

 次回から2巻 新たなヒロインが登場か?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章 タッグマッチトーナメント
第13話 火種の転校生たち


 原作2巻開始!


 無人IS襲来から二週間ほど、簪に告白されてから3日ほど過ぎた。早く簪と話がしたかったが、休みの日という事もあってか、こういう時に限って接触できなかった。とはいっても、()()()()()を信じてもらえるか・・・何より簪は傷ついてしまうかもしれない・・・でもこれを先延ばしにするのは根本的解決と言えないし・・・

 

「どうした?兄さん、なんか具合悪そうだけど・・・」

「いや、何でもない」

「そうか・・・あんまり溜め込むなよ、兄さん」

 

 ・・・うん、そうだよな。やっぱり先延ばしにするのはやめだ。今日言おう。()()()()()()()今日簪に言おう。・・・自分の事を。

 と、山田先生とクズ教師が入ってくる。クズ教師曰く、今日から本格的なISの訓練が始まるらしい。またふざけたことを言っていたらしいがもう慣れてしまった。慣れていいものでもないが。

 今度は山田先生に代わってホームルームが始まる

 

「今日はですね、なんと転校生を紹介します!それも二人です!!」

「「「ええええええっ!?」」」

 

 転校生、しかも二人ということでクラスメイトが驚く。だが、なぜこの時期なのだろうか?何よりなぜ一組に集中させる必要があるのか?一夏も同じことを考えているのか首をかしげている

 どうぞ、と山田先生が言うと扉が開かれ転校生が入る。すると騒めいていた教室が一瞬で静かになった。入ってきたうちの一人が()()()()()を着ていたからだ

 すぐに一夏にプライベートチャネルを開く

 

(どういうことだ?男性IS操縦者は俺たちだけじゃなかったのか?)

(そのはずだが・・・もしかしたら男の格好をしているだけかもしれないが)

 

 スカートが嫌いとかそういう理由があるのかもしれないと思った。その疑惑の生徒が自己紹介をする

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

 金髪の美少年?が一礼する。その後、誰かのつぶやきで自身が男だと言い切った。だが

 

(という事はアイツが4番目の男性IS操縦者ってことになるけど・・・本当に男か?俺にはそうは見えないが)

(ああ、自分もそう思う。あれで男と言い切るのには無理がありすぎる。それに世間が全然騒いでないし、自分もそう言ったニュースは見たことがない)

 

 それだけじゃない、と続けて会話する

 

(デュノアってことはデュノア社の人間かもしれない。その場合は厄介かもな)

(確か、あそこは経営が傾いているって言ってたが・・・まさか!)

(スパイの可能性もある。一番厄介な可能性だがな)

(・・・どうする?兄さん)

(向こうがどう出てくるかだな。こちらから仕掛けることはしなくていい。だけど、ちょっと調べないとな・・・)

 

 こりゃあ今日の訓練は無理そうだな。出来るだけ情報を集めないと最善手を打てないからな

 

(分かった。もし絡んできたらうまく対応するよ。できるだけ関わらないようにする)

(ああ、気をつけてな。お前のほうが話しやすそうだから絡んできそうだし)

 

 と、一旦通信を切る。それまで聴覚を遮断していたため、みんな盛り上がっているようだが前後がつかめない

 すると山田先生はもう一人の生徒に注目するように言う。長い銀髪で小柄だが威圧感満載のオーラ、そして眼帯か。いろんな要素が詰め込まれているな。クラスもだんだんと静まっていくが一向に話始めようとしない

 

「・・・挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

 ・・・嫌な予感がする。これはもしかしたら千冬信者かもしれないな

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 なんとまあ簡略した自己紹介だこと。これ以上言う必要はないってことか?

 

「あの・・・以上ですか?」

「以上だ」

 

 すると織斑一春の所に歩き、クズの前に立つ

 

「貴様が織斑一春だな」

「そうだけど、俺に何か・・・」

 

 バシンッ!!

 クズに対して思い切り平手打ちをかました。ヤツがカッコつけていただけに痛快だなw

 

「てめえ!何しやがる!」

「認めない。貴様が教官の弟であるなど、認めるものか」

 

 これは珍しい、千冬信者ではあるのに織斑一春を嫌うとは。基本どちらともの信者がほとんどのはずだが、こいつはレアキャラだな

 なんて思っていると今度はこちらに来た

 

「貴様は教官に歯向かっているそうだな」

「だからなに・・・」

 

 ヒュッ

 上体を反らすとボーデヴィッヒの手が空を切る。平手打ちかと思ったが、ナイフで頸動脈あたりを横薙ぎしてくるのかよ。ま、殺意があふれ出ていたからやってくるんだろうなとは思っていたが

 

「何?ドイツの軍人は気に入らない相手を傷つけていいのかい?」

「教官は絶対の存在だ。貴様の行為は万死に値する」

「ふーん。その行為が織斑千冬の価値を下げているってわかんないの?織斑千冬が自己中心的で他の人間を排除するクズだと主張するようなもんだが?」

「!!・・・チッ!!」

 

 織斑千冬のことを相当崇拝しているらしい。ボーデヴィッヒは矛を収め苛立つように空いている席に着く。その後ようやくクズ教師がSHRを始める

 

「・・・では、一限目は2組との合同でISの合同練習だ。一春、デュノアの面倒を見てやれ(遠藤・・・あのままくたばれば良かったのだがな)」

 

 心の声が駄々洩れだっつーの。自分に睨みながら言うんじゃねーよ、全く。

 ま、自分たちはデュノアの面倒を見ろと一言もいわれていないから、さっさと更衣室に向かおう

 

「行くぞ一夏」

「おう!」

 

 と言って教室の窓から飛び降りる。この教室は3階だがISがあれば問題ない。着地の前に脚部を部分展開して衝撃をなくし、そのまま更衣室まで最短経路でダッシュだ。これなら余裕で授業に間に合う。

 にしてもやることが増えちまった。デュノアに加え、ボーデヴィッヒのことも調べなければならなくなっちまったじゃないか。なぜ調べるかって?

 

 ()だからだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は飛んでお昼休み。初めての実習では教師の実力を示そうという名のもとに、俺たちに恥をかかせようと俺と雪兄さん対山田先生の模擬戦をやらせた。ま、兄さんとだったから阿吽の呼吸で山田先生に勝利することができたんだけどな。この時の織斑千冬の顔は滑稽だったよ。その後は特に問題もなく授業を終えた。

 

「君が遠藤一夏君だね」

 

 と、疑惑の男子が声をかけてきた

 

「ああ、確か・・・シャルル・デュノアだったな」

「うん、改めてよろしくね」

 

 こっちはよろしくするつもりはないがな、と心では言う。それを微塵も出さずにデュノアと握手する

 

「ところでさ、今からお昼だよね?今から一緒に食べない?交流を兼ねてさ」

 

 なんか俺と接触をしているようにも見える。さて、どうするか・・・できればこいつの裏の情報が分かるまで関わりたくないが・・・

 と、そこへクラスメイト達がこちらに来る

 

「あーーーっ!!デュノア君だ!!!」

「ねえねえ、今からお昼一緒に食べよ!!」

「デュノア君のこと、もーっと知りたいし!!!」

「え、ええっと・・・」

 

 ナイスタイミングで食事のお誘いが来たようだな。これはその流れに乗せよう

 

「誘われたんだからそっちに行きなよ。俺たちの交流もいつでもできるからさ」

「うん・・・そうだね・・・」

「それじゃ、レッツゴー!」

 

 心なしか残念そうな顔になるも、クラスメイト達に連れていかれた。

 さて、俺も食堂に向かおう

 

 

 

 

 ・・・思った以上に混んでいるな。デュノアがいるから皆こぞって来たのだろう。これは席を確保できるかどうか・・・

 

「一夏!こっちこっち!」

「席なら取っといたよ!」

「私もいるよ~」

「サンキュー。鈴、簪、のほほんさん」

 

 こういう時こその友達だな。しかも席の位置もデュノアのいるところからかなり離れているところだからより好都合だ

 食堂から昼食を取って鈴たちの所に行く。食べながら話し始める

 

「なあ、デュノアってどう思う?」

「・・・アイツに気をつけなさいよ。絶対女よ」

「私もそう思うな~」

「私は見てないけど、男ってのは怪しすぎるな」

 

 どうやらデュノアが女ではないかと思っているようだ。クラスメイトが疑問に思っていなさすぎるから俺と兄さんがおかしいのかと少し不安になっていたが、安心した

 

「そうだよな。色々とおかしいもんな。見た目も世間の反応も」

「そうだね。普通男性IS操縦者がでたら騒ぐもん。それにヨーロッパでは初めてでしょ?なのにそこの反応が無さすぎるのはおかしいよ」

「それにアイツ、骨格が女子だもん。一夏や雪広みたいな感じじゃないわ。声だって男とは思えないような高さだし」

 

 鈴は体、簪は世間の目からデュノアが女だと推測している。俺も二人に同意見だ

 

「それに~、でゅっちーISについて詳しすぎるんだよね~。ゆっきーといっちーが山ピーと戦っているときに機体の説明をしていたけど、スラスラ言葉が出たもん。私じゃあ言えないよ~」

「それは勉強不足じゃないの?」

「かんちゃんひど~い。昔はそんなひどいこと言わなかったのに~」

「え~?でも明るくなって嬉しいって言ったのはどこの誰だったかな?」

 

 それとこれとは別だよ~、とのほほんさんがふくれっ面になる。なるほど、そんなことがあったのか。確かに兄さんのいた中学のトップレベルでもない限り、短期間でそれほどの知識を覚えて答えることは出来なさそうだし、時間をかけていたとすると今度はなぜ男性IS操縦者を名乗らなかったのかが疑問になる。アイツ、首を絞めたな

 ところで、と簪がきょろきょろしながら質問する

 

「雪広は?」

「あれ~?授業までは一緒だったのに」

「そういえばいないわね。どうしたの?」

「ああ、兄さんは今自室かな。多分デュノアの情報を探ってる」

 

 午後は休むと聞いていたし。こういう時は大抵、何かを調べているときだ。今回ならデュノアのことだろう。午後は座学だし、兄さんなら受けなくてもカバーできるから、その時間を使っているのだろう

 

「ええ~、いないのか・・・残念」

「そんなに兄さんに会いたかったのか?」

「かんちゃん、ゆっきーに告白したんだよね。その返事を聞きたいんでしょ~?」

「「・・・ええっ!?」」

「ほ、本音!」

 

 さっきのおかえし~とのほほんさんが言う。ってそうだったのか!?だからここ最近の兄さん、変だったのか。にしても、まさか兄さんに惚れてしまうとは・・・本当のことを言うべきなのだろうか・・・

 ・・・いや、やめとこう。兄さん自身のことだし、俺がでしゃばることじゃない。それに、俺自身も鈴の告白を待ってもらっている俺が言う資格もない

 っと、携帯が震えている。メールが来たようだ。兄さんからのようだ

 

『今夜情報を引き出すためにカマかけようと思ってる。手伝ってくれるか?』

 

 男同士の交流という事で部屋に連れ込んで尋問をするようだ。『わかった。鈴たちにも伝えとくか?』と返すとすぐにOKの返事が来た

 文字通り姦しくしゃべっている3人にこのことを伝える

 

「兄さんと今夜、デュノアにカマかける」

「「「!!!」」」

 

 兄さんから来たメールを見せ、どのようにカマかけるかを伝える

 

「あたしたちもいたほうがいいんじゃない?万が一のこともありそうだし・・・」

「いや、今回は俺たちでやる。あんまり多いと話してくれないかもしれないし、警戒してきそうだし」

「・・・分かったわ」

「気をつけてね~」

「でも無茶はダメだぞ♪」

「ああ、ってかなんか楯無さんっぽい言い方だな、それ」

「やっぱり?やっぱお姉ちゃんに似ているんだよね~」

 

 鈴や簪は代表候補生という事もあり、あんまり関わると問題になるかもしれない。俺たちは国の代表候補ではないからある程度は大丈夫のはずだ

 

 さて、午後からの授業も頑張りますか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夜。実行する時間帯だな。デュノアの部屋はクラスメイトのネットワークからすぐに聞き出すことができた。どうやら急遽決まったことなので一人部屋らしい。しかも、部屋に入った上に俺が聞いた時まで部屋から出ていないそうだ。そこまで出ている情報にも少し恐怖を感じるが、好都合だ。

 デュノアの部屋の扉を二回ノックする。するとデュノアが出てきた。ジャージ姿で男とも女とも思える格好だな

 

「はーい、って遠藤君?」

「ああ、こんばんは。あと遠藤だと二人いるから一夏でいいよ」

「こんばんは。わかったよ、一夏。ところでどうしたの?」

「昼、デュノアが誘ってくれたのに交流ができなかっただろ?放課後もシャルルを見なかったし、今から親交を深めようかと思ってたんだが」

「あー、そうだね・・・どうしようかな・・」

 

 なんだ?昼は交流しようとしてきたのに、今はためらっている感じがする。まさか感づかれたか?・・・ここはあえて引こう。最悪次の日にするか。感づかれないためにも

 

「もしかして、間が悪かったか?違う日にするか?」

「う、ううん!早いほうがいいしね。ここでやろうか?」

「いや、俺の部屋でやろう。色々もてなすぜ」

「っ・・・」

 

 なんか一瞬顔がこわばった気がするが・・・あえて気づかないふりをする

 

「?どうした?」

「な、何でもないよ!じゃあ、少し準備してから行ってもいい?」

「ああ。待ってるよ」

 

 よし、おびき寄せることに成功したことを雪兄さんに伝える。間もなくデュノアが部屋から出てくる

 

「お待たせ」

「それじゃあ行こうか。男同士気兼ねなく話そうぜ!」

「うん・・・」

 

 明らかに反応が悪いし、これは女なのは確定だな。あとはなぜ男装をしているのかだな

 

 覚悟しろよ、シャルル・デュノア

 

 

 

 

 

 

 僕、ことシャルル・デュノアは同じ男性IS操縦者の一夏からのお誘いで男子同士の交流会をすることになった。でも、僕は一夏の部屋でやることに不安を感じている。僕の知られてはいけない秘密を・・・知られそうで。なにより、社長から接触するなと言われている人と関わりそうで

 ほどなくして一夏の部屋につく。ノックもせずに扉を開く

 

「ほら、先に入って」

「お、おじゃましまーす・・・」

 

 一夏につられるがまま部屋に入る。見たところもう一人の男性IS操縦者はいなさそう・・・

 

「ん?デュノアか」

 

 思わずびくっとしてしまった。ドアから死角のベッドにもう一人の男性IS操縦者、遠藤雪広が出てきた。そうだよね、一夏の部屋だもんね。彼がいて当然だよね・・・

 

「ま、好きなとこに座ってよ。ベッドでも椅子でもいいからさ。あと何か飲む?緑茶?水?」

「りょ、緑茶で」

 

 OKと雪広はお茶を淹れ始める。思っていたよりも話しやすそうだし・・・社長は関わるなと言ってはいたがそんなことはなさそう・・・

 

「ほい、熱いから気をつけてな。一夏も」

「うん、ありがとう」

「サンキュー」

 

 あ、美味しい。なんていうんだろう。なんか落ち着く。

 

「それじゃあ、一夏、扉ロックして。女子たちが入れないようにさ」

「ああ、分かった」

 

 一夏が立ち上がり、ガチャリとドアをロックする。それを見て、僕は話題をふる

 

「何から話そうか?」

「うーん、そうだなー」

 

 と言うのを聞きながら、僕はお茶をすする。どんなことを話すのだろう?

 

「じゃあ、質問いい?」

「うん、いいよ」

「それじゃあさ、

 

 

 

 

 なんで男装してるんだい?シャルロット・デュノアさん?」

 

 




 シャルルの恰好は原作と同じです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 露呈

 よくこの手の二次小説である「戸籍を調べた」ですが、戸籍制度は2019年現在、日本と中国のみのようです
 フランスは代わりに市民籍というものがあるようで、出生届けを出した段階で作られ、生まれた場所や日時、両親の名前が書き込まれます。
 詳しくは調べてみてください。ということで本編どうぞ



「なんで男装してるんだい?シャルロット・デュノアさん?」

 

 こっちはデュノアが女であることは分かっている。得意のハッキングで出た情報では、シャルル・デュノアは市民籍がない、つまり存在しない人だった。その代わり、シャルロット・デュノアという女の市民籍は存在していた。年齢的にも、父親の名前的にもほぼ間違いない。あとは本人の口から答え合わせをしてもらおう

 

「な、なに言っているのさ!胸もないし!男として入ってきているじゃないか!」

「そうか、だったらその上のジャージを脱いでみろよ」

「え!?」

「男なら上半身裸になってもなんも問題ないはずだが?それともできない理由でもあんのか?」

 

 逃げようとしたって一夏のほうが扉に近い。それにドアに鍵もしている。逃げられはしない

 

「どうする?何なら強引にいってもいいんだぞ?こっちとしては手間がかかるし、面倒くさいのだがな」

「兄さん、さすがに強引なのはまずいよ。女の子に対してセクハラになっちまう」

「そうだよ!セクハラだよ!!」

「・・・今、女だと認めたな?」

「!?」

 

 墓穴を掘ったぞ、コイツ。外見が女っぽいんだからせめて中身は男を演じ切ろうぜ・・・

 

「で、改めて言うがお前は男なのか?女なのか?」

「・・・」

 

 黙る。だが、こいつの顔は悲痛な叫びを押し殺している顔だ。自分の得た情報が正しければ・・・と、思うなかでデュノアが口を開く

 

「いつから気付いていたの?」

「そういうってことは女だということでいいんだね?」

 

 こくり、とうなずく。思ったよりも早く告発してくれそうでなによりだ

 

「まあ、一目見ておかしいと思ったな」

「ああ、俺もそう思った」

「う、嘘でしょ!?頑張ったのに!」

 

 あれでOKがでたのも色々とおかしいが・・・まあ、細かいことを気にしていたら本題に入れない

 

「で、本題だが・・・どうして男と偽って入学したんだ?」

「それは・・・実家のほうからそうしろって言われて・・・」

「デュノア社だろ?そこは傾き始めているから・・・広告塔としてきたのか」

「半分正解だよ、遠藤君。だけどそれだけじゃないんだ」

 

 そんな気はしている。だけど、本人の口から真実を確認したいためにあえて話さない

 

「男と偽って入学した理由。それは織斑一春君、もしくは遠藤一夏君の専用機のデータを盗むためなんだ」

 

 やはり、スパイ目的で来たのか。最悪なパターンじゃないか

 と、ここで一夏が疑問をぶつける

 

「でも、そんなにデュノア社って経営危機なのか?量産機のラファール・リヴァイブは第三位のシェア率だっただろ?」

「第二世代はな。あそこは第三世代の開発が遅れている」

「そう。欧州では欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』を進めているんだけど僕の会社、デュノア社は間に合わなかった。そのせいで政府からの援助が大幅にカットされたの。次の企画発表の時に間に合わないと援助が全面カットされちゃうの」

 

 どれも間違ったことは言っていない。情報通りのことだ

 

「だけど、なんでお前がそんなことを命令されるんだよ!実の娘に!」

「それはね・・・僕は愛人の子供だからだよ」

「!!」

「・・・」

「・・・遠藤君は驚かないんだね」

「市民権を調べたんだ。お前の両親、父親はデュノア社社長だったんだが、母親はデュノア社長夫人ではなかったからな。まさかとは思っていたが・・・」

「そっか・・・そこまで調べていたんだね」

 

 ハッキングだけどな

 

「引き取られたのは二年前。ちょうどお母さんが亡くなったときにね、父の部下がやってきたの。それでいろいろ検査をする過程でIS適性が高かったから、非公式だけどデュノア社のテストパイロットをやることになったの」

「・・・嫌なら話さないでいいぞ。な?兄さん」

「ああ、無理しなくていいから」

 

 大丈夫、と言ってはいるが、顔は大丈夫じゃない。表情が無くなっていく

 ()()()の自分の顔になっていく

 

「父に会ったのは二回くらいでね、会話は数回だった。普段は別邸に住んでいたんだけど、初めて会ったときは本邸に呼ばれてね。あの時はひどかったなあ。本妻の人に殴られたんだ。『この泥棒猫の娘が!』ってね。参っちゃうよ。お母さんもちょっとくらい教えてくれたらよかったんだけどね」

 

 何も言えなかった。最悪の想定通りのことになっている。一夏もあまりのことに呆然としている

 

「とまあ、こんなところかな。結局初日でバレちゃったし、きっと本国に呼び戻されるんだろうね・・・なんか話したら楽になったよ。最後まで聞いてくれてありがとう。それと、今まで騙しててごめんね」

 

 デュノアは頭を下げるが、その表情は痛々しかった

 

 ・・・なるほどな

 

 

 

 

 

 

 シャルル、もといシャルロットの告発に絶句してしまった。まさかここまで大きな問題だとは・・・俺と同じくらいのひどい人生を歩んでくる人がいるなんて・・・俺は一体どうしたら良いのだろうか

 兄さんに目を向ける

 

「!」

「なるほどなぁ」

 

 兄さんは椅子から立ち上がりゆっくりと机に近づき、両手をつける。机は壁に向いているため、兄さんの表情は見えない。

 だけど分かる

 

「つまり、社長らの圧力で従うしかなかった。ってわけか・・・」

「「・・・」」

「で、デュノア。お前はそれでいいのか?」

 

 突然、兄さんはシャルロットに質問する

 

「いいも悪いもないよ。僕に選ぶ権利なんてないんだから、仕方がないよ」

「・・・そうだよなぁ。どうしようもないよなぁ。俺たち子供に選ぶ権利なんてないよなぁ・・・」

 

 

 そう言うと兄さんは頭を下げる。重い空気が漂い始める中・・・

 

「・・・冗談じゃない」

「・・・え?」

 

 ぼそりと、でもはっきりと兄さんはつぶやく。シャルロットも聞こえたようで顔を上げる。そして

 

「・・・冗談じゃない!!!!」

「!?」

「なんでこんなことが許される!!なんでしたくもないことを強制される!!!なんで!なんで!!俺たちは自由を許されないんだ!!!!」

「え、遠藤君?」

「こんなクズが会社のトップにいるなんて・・・いい訳ない!!いい訳ねえんだ!!!」

「ど、どうしたの!?急に!」

 

 兄さんが激怒する。このことは兄さんの逆鱗に触れているもんな。デュノア社に対して

 でも、まずは落ち着かせないと。俺は兄さんの肩に手を置く

 

「兄さん」

「一夏ならわかるだろう!!分かるだろう、お前なら!なあ!!」

()()()()()()()()()()()()()()()、そうだろう」

「そうだ!だから!」

「そうならないようにするんだろう?怒鳴るだけじゃあ何にも解決しないぞ」

「・・・!」

 

 目をギュッとつぶって歯を食いしばり、荒い呼吸を落ち着かせていく。兄さんは数回の深呼吸の後、大きく息を吐く

 

「・・・悪い、一夏」

「気持ちはわかるよ」

「・・・ああ」

 

 気持ちはわかる。だけど言わない。4年くらい兄弟なのだから言わなくてもわかる

 兄さんは振り返り、椅子に座ってシャルロットと再び対面する

 

「すまない、取り乱して。気分を害したなら申し訳ない」

「う、ううん。そんなことないよ。突然すぎて驚いちゃったけど」

「まあ、シャルロットからしたらそう見えるよな」

 

 俺は兄さんのことがよく分かるから取り乱すんだろうなとは思っていた。兄さんも実の両親に勉強を強制されたうえで虐待を受けていた。だからシャルロットの気持ちが理解でき、デュノア社の社長たちの考えも理解してしまったのだろう。そして兄さんはシャルロットを昔の兄さん自身と重ねて見たのだろう。だからあんな風に怒り狂ったのだ

 ふと見ると兄さんは前かがみになる。こういう時は話の核心をするときだ

 

「さて、デュノア。自分から一つ質問がある」

「う、うん」

「デュノア社長、社長夫人をどう思っている?」

「・・・え?」

「要はこいつらを()()()()()()()()()()ってことさ」

 

 やっぱり、兄さんはこいつらを潰すんだな。まあ、俺もこんなクソ野郎どもは生きる価値なんてないと思っているが

 

「・・・どうして?」

「うん?」

「どうして遠藤君は、僕を助けてくれるの?会って間もない相手なのに。スパイで来た相手をどうして?」

 

 確かに、シャルロットはそう思ってしまうだろう。シャルロットから見たら兄さんは救世主、さながら悪いやつらからいたいけな少女を守ろうとするヒーローに見える。だが、

 

「・・・君は何か勘違いをしているようだね」

「え?」

「自分は君を助けるためじゃない。他人の人生を犠牲にしてまで自身は甘い蜜を吸う権力者をこの世から消し去るためだ」

「!」

「自分はな、悪い人間以外の人が理不尽な力に潰されないような世界にしたいと思っているんだ。そんな世界において、その社長のようなクズは邪魔なんだ」

 

 要するにだ、と一呼吸して兄さんは言う

 

「自分が気に入らないから潰す。ただそれだけだ。もちろん、周りに迷惑はかけないようにするけどな」

 

 たいていのヒーローは苦しむ人を助けるために悪を倒す。つまり、苦しむ人がいるからその根源を倒す。だけど、兄さんは自分の信念に合わないヤツ、社会悪な人間を潰すのが目標なんだ。結果的には救っているが、兄さんは人を救おうという意志をもっていない

 

「・・・だったら」

「ん?」

「だったら、僕を・・・僕も救ってほしい」

 

 シャルロットが助けを求めている。普通の主人公ならすぐに「救ってやる!」とかいうだろう

 

「・・・やだね」

「え!?」

「自分たちはもう15,6だ。待ってりゃ誰かが助けたり救ってくれたりしてくれるような年じゃないんだ」

 

 今度はふんぞり返って椅子にもたれかかる。兄さんらしいと言えば兄さんらしいが・・・シャルロットは悲痛な顔になる

 

「じゃ、じゃあ・・・」

「だから、対価が必要だな」

「対価?」

「そうさ、他人に何かを求めるときはそれ相応の報酬とかあるだろう」

 

 基本は金だがな、と兄さんは言う。確かにこの時代、無償で何かをするのはよほどの善人しかいないだろう。兄さんは善人ではないがな

 

「ぼ、僕は・・・どうしたら・・・」

「だから対価が必要だと言っているだろう」

「な、何でもするから!だから、僕を助けて!!」

 

 ふーん、と兄さんは目を細める

 

「じゃあ、お前の体で」

「えっ!?」

「兄さん!?」

「・・・ていう風に言う輩もいるから、『何でもする』は言わないほうがいい」

「わ、分かった・・・」

 

 そうだよな、兄さんがそんなことを言うわけないよな。兄さんにおいてはその要求は()()()なのだから

 

「で、だ。自分が求める対価だが・・・」

「・・・」

「『こちらからの質問に正直に答えてもらう』の一点だ」

「・・・」

 

 シャルロットは呆然としている。どうしたんだ?

 

「シャルロット、どうしたんだ?」

「あ、いや・・・それだけでいいのかなって」

「なに言っているのさ、十分なことじゃないか。自分はデュノアの情報からデュノア社長たちを潰せる。デュノアはその束縛から救われる。win-winじゃないか?まあ、アフターケアをする手間が増えたがな」

 

 なるほど、もともとそのつもりだったんだな。兄さんはデュノア社を潰すためにシャルロットを味方につけるつもりだったんだな

 でも、助けるのはあくまでついでか・・・ま、そこが兄さんらしいと言えばらしいのだが

 

「で、どうするんだ?」

「そんなのもう決まっているよ」

 

 そう言うとシャルロットは頭を下げる

 

「お願いします」

「交渉成立だな」

「うん。こちらこそよろしくね。遠藤君」

「自分も名前でいいよ。雪広で」

「僕も名前でいいよ」

「わかった、これからよろしくな」

「うん・・・よろしくお願いします」

 

 二人は握手をする。

 ここからが本番だ

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ質問するからしっかり答えてね」

「分かった」

「一夏も何か疑問があったら質問してくれ。自分以外の視点からの切込みも欲しいし」

「了解だ」

 

 自分は机に向かっている。パソコンで質問と回答を記録するためだ

 さあ、質問開始だ

 

「いきなり確認で悪いが、シャルロットの母さんが亡くなってすぐに社長の部下がやってきたのが二年前、でいいよな」

「・・・うん、そうだよ」

「で、IS適性があって非公式のテストパイロットに、その後デュノア社は傾き始めたと」

「うん」

「まず日本語はいつから覚え始めた?」

「確か・・・二年前、デュノア社に来てから会社で。社長が覚えるように、って言ってた」

「男装はいつからするように言われていた?」

「・・・3か月くらい前だったかな。男性IS操縦者が見つかったくらい」

「そうか、じゃあテストパイロットやっていた時に給料は支払われていた?」

「それは・・・どうなんだろう。デュノア社に入ってから見てないな」

 

 まあ、普通は中高生が通帳を管理することはないだろう。自分たちは管理せざるを得なかったから、変な質問だったか・・・

 と、一夏が疑問をぶつける

 

「見てないってことはそれほど困った生活はしていなかったのか?」

「うん、部下の人が大抵買ってきてくれたし・・・時々外にも出られたし」

 

 なんか思っていたよりも縛られていないな。もっと不自由な生活かと思っていたが、外出もできていたようだし・・・

 

「そうだ、データを取るって言っていたけどどうやって取るつもりだったの?」

「それはね・・・」

 

 シャルロットはポケットからやや大き目なUSBみたいな機械を取り出す

 

「これをISに差せばデータを取れるって言われて・・・」

「で、今日隙があれば取ろうと」

「ま、まあね・・・命令されていたし」

「それ、預かってもいい?」

「いいよ。どうせもう使わないから」

 

 シャルロットからその機械を受け取る。見たところ普通のUSBみたいだが・・・

 あっ、と一夏が何か思い出したように反応する

 

「そうだ、さっきなんか引っかかることがあったんだ」

「引っかかること?」

「シャルロットは俺か織斑のデータを取れって言われていたんだろう?兄さんのは何も言われていなかったのか」

「そ、それは・・・」

 

 なぜかシャルロットは口ごもる

 

「何か言いにくいことなのか?」

「その・・・社長は雪広には近づくなって」

「ほう・・・なんで?」

「分からないけど、とにかく雪広と接触するくらいなら織斑君、無理なら一夏のデータが欲しいって」

 

 つまり、自分のデータには興味がないという事か。同じ第二世代の機体に用はない感じか。あながち間違ってはいないとは思う

 

「つまり、雪兄さんは接触するなと」

「うん。だからお昼とか放課後とかは織斑君と接触しようとしたんだけど、僕を邪魔者みたいな目で見てきたし、訓練もしていなかったから・・・嫌になっちゃって」

「アイツはクズだぞ。接触しないほうがいい」

 

 そこから一夏は過去のことを話した。数々のクズたちの悪事をシャルロットに伝えると顔を歪める

 

「そんな人だったんだ・・・嫌な感じはしたけど、それ以上だったな」

「多分あいつは思い通りに動く女にしか興味がないからな。シャルロットのことも煩わしいと思っただろう」

「サイッテーだね・・・一夏たちにバレてよかったのかも」

 

 確かに、クズにバレた場合最悪脅されて性処理にされていたかもしれない。そういう意味では早めに見切りをつけたのは良かった

 

「それで、シャルロットが女だったことは俺たちだけの秘密にするのか?」

「いや、楯無さんや鈴と簪には伝えようと思う」

「え!?だ、大丈夫なの?」

「大丈夫。鈴や簪、楯無さんは信頼できるから。事情を伝えれば味方になってくれるよ」

「それに、皆シャルロットが女だと思っているし」

「な、なんでみんな分かっちゃうのかな!?」

 

 むしろ、他のクラスメイト達がなぜ気づかないのかが不思議なくらいだ、とは言わないでおく

 すると一夏はおもむろに生徒手帳を開く

 

「そういえば兄さん、特記事項は?」

「なんのだ?」

「いや、『在学生は在学中にあらゆる団体に帰属しない』ってのがあったような・・・それでシャルロットは守られるんじゃないかって」

「ある。確か第二一だったな」

「それなら僕は3年間・・・」

「いや、あくまで()()()の話だ。シャルロットはデュノア社に所属しているし、何よりフランス代表候補生だ。デュノア社やフランスからの命令に背くのはできないはずだ。その特記事項は意味をなさない」

「そっか・・・悪いシャルロット。変な期待を持たせて」

「ううん、気にしてないよ」

「だから楯無さんを味方につける。あの人国家代表だし、発言権はありそうだし」

「そういう事なんだね。わかったよ」

 

 本当は暗部組織の長だからというのは伏せておく

 

「・・・うん、わかった。今のところはこれでいいかな」

「力になれた?」

「まだ確信が分からないけど、いい情報だと思う。じゃあ、明日から自分は情報を抜き・・・調べてくるから、一夏はシャルロットを護衛する感じで頼む」

「ああ、任された!」

「二人とも、改めてよろしくお願いします」

 

 深々とシャルロットは頭を下げる。でも何か引っかかるんだけどな。シャルロットは嘘をついていないように思うのだが・・・

 

「じゃあ、改めて親睦会でもするか!」

「・・・そうだな。あんまり重い話ばかりだと参っちゃうからな」

 

 その後は三人でたわいもない話や一夏からの無茶ぶり一発芸をやらされる羽目になった

 男子校で受けた鉄板ネタが大スベリした時は死にたくなるくらい恥ずかしかったものの、それでシャルロットを和ませられたのなら良かったのかもしれない

 ・・・自分は泣きそうになったがな

 

 




 シャルロットの家事情は難しい!(本音)
 なにより、話をどこで区切ろうかが大変でした


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 予想、そして・・・

 シャルロットが真実を語った次の日。兄さんは朝一に楯無さんの所に行き、シャルロットのことを伝えに行った。俺はシャルロットが女だと思われないように周りを警戒することになったが、皆そのような反応が無いし、クズも男だから関わってこない。そういう意味ではありがたかった。鈴や簪、あとのほほんさんには昼の時に屋上で伝えた。鈴たちも黙ってくれるようでシャルロットも安心していた

 で、放課後。今日は鈴と簪、そしてシャルロットとともに特訓している。兄さんはデュノア社の情報を得るために楯無さんと動いているが、俺はその力にはなれないため学年別トーナメントに向けて力をつけている。他の生徒もいるため、シャルロットではなく『シャルル』と呼ぶように気をつけないと

 ちょうど四人だったので1対1の模擬戦を二回やることになった。まずは鈴対簪、そして俺対シャルロットで戦うことに。初戦は簪が勝った。

 

「ああーーっ!!その形態変化(モードチェンジ)が強い~!!」

「戦闘スタイルが変わるからね。分かっていても攻略しづらいでしょ」

「トーナメントまでに攻略を考えないといけないわね・・・」

 

 向こうでは鈴と簪が反省会を開いている。今回鈴は初めて形態変化をする相手と戦ったため、簪の形態変化に対応できずに完敗した。簪もまだ単一能力を十分には使いこなせていないらしく、まだまだのようだ

 俺たちはというと・・・

 

「まさか『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』がこうもあっさり攻略されるなんて・・・」

 

 接戦だったが、俺はシャルロットに勝つことができた

 シャルロットの得意戦法の『砂漠の逃げ水』はどんな時であっても相手から一定の距離と攻撃リズムを保つ、ハイレベルで安定した戦い方だ。シャルロットの専用機『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』は装備格納数が20と俺たちの機体よりも倍近くあり、様々な武器がある。さらにシャルロット自身ができる『高速切替』で通常武器をコールするのにかかる時間のラグがほぼゼロとなるため、シャルロットの戦い方はかなりの完成度となっている。

 でも完成度が高くても完璧ではない。何事にも弱点というものはある

 

「シャルルの『砂漠の逃げ水』ってさ、相手に合わせて戦うのがメインだろ?俺が攻めなかった時戸惑ったでしょ?」

「うん・・・なんで来ないんだろうって思って動けなかった」

「いわゆる受け身の戦い方なんだよな。相手から攻めてきてもらって、相手を崩す。確かに強いけど、それは自分自身の土俵で戦うことをやめている」

 

 剣術にも後の先というものがあり、相手の攻撃に合わせて自身の攻撃を撃ち込む戦法もある。その戦い方が弱い訳ではない。だが、

 

「シャルルの場合、それ()()できないのが問題なことだと思う。実際、シャルルが後の先でしか戦えないと踏んだからそれに合わせたうえで俺の土俵に引っ張り上げられた」

「・・・そうだね。特に銃で間合いを離したから接近したのに、まさか銃で殴りかかるなんて想定外だったよ」

 

 でもこれは兄さんの技なんだけどな。銃を取り出して接近してきた相手を、実は銃型の鈍器で返り討ちにする戦法で俺も見事に引っかかった。意外と分からないものなんだな

 

「あとは安定した戦いってのも気になるな」

「え?でも安定しているほうが良くない?」

「確かにいつも高いレベルをコンスタントに出せるのはメリットさ。でも、こういう模擬戦の時は新しいことに挑戦するほうがいいんじゃないかな?不安定だからこそ時に強力な技とか生み出せるかもしれないし」

 

 常にリスクを減らしていくのも悪くはないが、時にはリスクを冒してリターンを求めるときがあるかもしれない。それにこれは模擬戦だからいくら負けても問題ないし。兄さんと模擬戦をするときお互いにリスクを冒しているから、どちらかがあっさり負けるときもあるし、時にかなりいい勝負をするときもある。俺はそう思う

 

「ま、俺の一意見だからさ」

「ううん、参考になったよ」

「さて、次はどうする?」

 

 次はどの組み合わせで戦うか決めようとしたのだが

 

「おい、遠藤一夏。貴様も専用機持ちとはな。ちょうどいい。私と戦え」

 

 転校初日に兄さんを殺そうとしたボーデヴィッヒが来た。

 こいつのことも兄さんは調べていたらしく、ある程度の情報はある。どうやらドイツの軍属でIS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長。織斑千冬のことを崇拝しており、俺たち、とくに雪兄さんは織斑千冬に対して反抗的だからという事で排除しようと思っているとのこと。全く、どこをどう見たらあのクズ教師を崇拝できるんだか。それ以上は時間的に無理だったということで、シャルロットの件が終わったら調べ上げるって兄さんが言っていたな

 で、兄さんがいないから俺を標的にしているわけか

 

「断る。敵に手の内を見せるわけにはいかねえし、何よりその態度が気に食わねえ」

 

 クズみたいに文句を言ってくるだろうが気にしないのが一番だ・・・

 

「そうか、ならば戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 いうが早いか左肩に装備された大型の実装砲が火を噴く。ってマジか!一般生徒もいる中でやるか普通!!模擬戦をするときはできるだけ周りに飛び火しないようにしていたというのに、こいつにはその配慮がない!!

 ま、問題ないけど。俺は実物シールドを展開し、無人ISから放送室を守る要領で地面に受け流す。地面ならどれだけえぐれようが大丈夫。よし、文句なしの受け流しだ

 

「やめようぜ?今のお前じゃあ俺たちを倒せない」

「何だと!?」

 

 俺たち四人ならこいつに負けることはない。と言っても守りに徹すればの話だが

 

『そこの生徒!何をやっている!』

 

 と、どうやら騒ぎを聞きつけた担当の先生がスピーカー越しに叫ぶ

 

「・・・ふん。今日は引こう」

 

 そう言ってアリーナゲートから出ていく。良識ある先生で面倒ごとにならずに済んだ

 

「凄いね、キレイに受け流すなんて」

「あ、あたし教えてほしいな・・・なんて」

「僕も教わりたいな」

「なら、私も!」

「わ、分かったから」

 

 どうやら、この後は受け流し講座になりそうだな。うまく教えられるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏たちが訓練をしているとき、生徒会室では

 

「もー!!こんなに仕事溜め込まないでくださいよ!!」

「だって溜まっちゃうんだもん」

「楯無さんがさぼっているからでしょう!全く!!」

 

 自分は楯無さんが溜めに溜めた仕事の消化を手伝っている。シャルロットのことで味方になってもらいたいのとデュノア社の情報を取ってほしいための対価として生徒会の仕事を手伝うことを自分から言った。だが、まさかここまで溜め込んでいるとは思わなかった。

 それだったら簪にお願いして簪のプロマイドとかにすればよかったかもしれないが、こればかりはしょうがない。早く、正確に書類にハンコを押していく

 30分くらいで楯無さんの言っていたノルマは達成できた

 

「ありがと♪また手伝ってもらおうかしら?」

「絶対ヤです」

 

 慣れないことを処理するのは疲れるし、それに今回はやることが他にもある

 

「で、どうですか。デュノア社の情報は」

「ええ、かなり調べられたわ」

 

 真剣になった楯無さんからデータを送ってもらい、それを見る。確かに自分が調べた以上に細かく記載がされていた

 

「でも一つだけ疑問があるのよ」

「奇遇ですね。自分も一つ気になるところが」

 

 そう言って取り出したのはデュノア社社長のことだ。本名アルベール・デュノアであり、もともとは中小企業だったデュノア社を大企業にした父が急死し、若くして社長に。その後現在の妻、ロマーヌ・デュノアとは資金援助のために結婚。二人の間に子供はいない。

 そして自分が気になるところ、それは

 

「なぜ黒い話が一つもないんだ?」

 

 シャルロットを使い捨ての駒にしているのに、全く黒い話がないという事だ。自分だけでなく、更識家の力を使ってまでも出てこないのは異常だ。ついでに調べた夫人のほうはわんさか出てくるというのに

 すると楯無さんから話しかけられる

 

「ねえ。雪広君」

「何でしょう?」

「シャルロットちゃんのいう事は信用できる?」

「ええ、嘘をついているようには見えませんでしたが・・・なにかおかしな点でも?」

「シャルロットちゃんがというよりも社長に対して疑問があるのよ」

 

 楯無さんは椅子にもたれかかるようにして疑問を述べる

 

「どうして()()()()()()()()()()って言ったのかしら?」

「それは自分の機体が第二世代だからなのでは?」

「そうじゃないわ。だって雪広君は()()()()()()()じゃない」

 

 ・・・確かにそうだ。よく考えれば形態変化をしているのは自分含め世界で三人しかいない。それでいて男性IS操縦者なのだから希少価値はより高いはず

 

「・・・形態変化を知らないって線は」

「無いわ。だって雪広君たちがやったクラス代表決定戦が記録に残っているからよ。デュノア社社長が見てないなんてことはまず無いわ」

「つまり、自分や一夏のデータのほうが織斑よりも価値があると」 

 

 断言できるわ、と楯無さんは言いきる。そうするとなぜ自分との接触を禁止したのかが余計に分からない。デュノア社社長は何を考えているのか全く分からない

 それに何かシャルロットに聞き逃していることがあったような・・・

 

「あんまり根詰めすぎるのはよくないわ。休憩しましょ」

「そうですね・・・ソファーに座っていいですか?」

「ええ、それ柔らかくて気持ちいいわよ」

 

 椅子から立ち上がってソファーに座る

 

「うはー、ふかふかー」

「いいでしょ?毎日来てもいいわよ?」

「仕事しなくてもいいという条件ならばですがね」

「・・・」

「図星ですか」

 

 いくら腑抜けていても隙は見せない。楯無さんはそういうのに長けているからなおさらだ

 

「にしても先輩ってこういう時()頼りになるな~」

「『は』じゃなくて『も』でしょ?」

「何言ってるんですか、いつもは簪のストーキングしているくせに」

「しし、してないわよ!いつもは!!・・・週3くらい・・・」

「してるじゃないですか!まったく!!」

 

 姉妹仲直ってるのになにしてるんだよ!

 

「そもそも初めてときは痴女かと思いましたからね!」

「だから痴女じゃないってば!!」

「どうみても裸エプロンは痴女ですよ!!それかハニートラップかと思ったりも・・・」

 

 ・・・あれ?

 

「?どうしたの?」

「ちょっと待ってください」

 

 そうか、そうだ!

 

「思い出しました!」

「な、なにを?」

「シャルロットに聞く質問です!なんで忘れていたんだ、自分!」

 

 昨日の時に聞くべきだったのに!

 

「どんな質問なの?」

「男性IS操縦者に対してハニートラップ・・・色仕掛けを仕掛けろ、と言われたかどうかです」

「・・・そういう事ね。つまりは男性IS操縦者の子種を取れれば・・・言い方は悪いけど研究につながる」

「それだけじゃありません。ヤったことを脅して自国に男性IS操縦者を取り込むこともできます。襲われたとか理由をでっち上げれば、女尊男卑である現代ならシャルロットの言い分が通るはずですし」

 

 シャルロットを駒としているなら絶対に命令するはずだ。データを盗む以上に強力だし、男装がばれても使える

 もっとも、命令されるほうはたまったもんじゃないが

 

「でも、もしも言われていなかったらデュノア社社長の魂胆が全く分からなくなる」

「・・・ねえ、もしかしたらなんだけど」

 

 楯無さんがある可能性を口にする

 

「もしかして社長は―――じゃないかしら」

「そ、そんなこと、ありえないでしょう!」

「でももしそうだとしたらほぼ全てにおいて辻褄が合わない?シャルロットちゃんを引き取ったのも、IS学園にいれたのも。雪広君への対応は分からないけど」

 

 辻褄は合う。それ以外のことは当てはまりそうにない。でも

 

「・・・まだ確定とは言い切れません。特にシャルロットからもらったあの機械の解析が分からない限り」

 

 ISのデータを盗むと言われているあの機械は楯無さんに預け、そのプログラムデータを解析してもらっている。パソコンのスペック上、楯無さんの所でやったほうが早いと踏んだため、それは楯無さんに任せている。明日には解析結果が出るとのこと。

 

「そうね、でもプログラムデータだけでいいの?私はそっちに精通してないから分からないけど」

「それに関しては自分が解読できるので大丈夫ですよ」

 

 ハッキングはプログラムを理解していなければできないことだし、大丈夫だ

 

「もしそのデータが機能してないことが分かれば・・・」

「十中八九、私の考えた通りになると思うわ」

「でも、そんなこと・・・」

「そんなに社長が気に入らないの?」

「っ・・・」

 

 気に入らないと言えば気に入らない。というより自分の一世代上の人間が信用できない。自分は親に・・・実の親に愛されなかったのだから

 

「そこに私情を挟むのはよくないわ。正しいことが見えなくなっちゃうもの」

「・・・そうですね」

 

 そうだ、それとこれとは別だ。なんだかんだで楯無さんはしっかりしている

 

「で、なんですが・・・チケットもろもろを三人分手配できます?」

「もうしたわ。乗り込むのよね?」

「はい、不確定なことも多いので本人から聞くのが手っ取り早いかと」

「・・・無茶はダメだからね」

「分かってますって」

 

 さて、あとはシャルロットに質問するのとあの機械の解析だ

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、夜。再び一夏にシャルロットをここに連れてくるようにお願いした

 

「で、どうしたの?雪広?」

「悪いね。一つ重大な質問をし忘れていた」

「じ、重大?」

 

 身構えるシャルロット。一夏も真剣に聞いている

 

「質問な。社長から『男性IS操縦者にハニートラップを仕掛けろ』的なことを言われたか?」

「えっ!?」

 

 するとシャルロットは顔を真っ赤にして慌てふためく

 

「ハニートラップって、その、えええ、エッチなこと!?」

「それ以外あるか?」

「だ、駄目だよ!僕たちまだ子供なんだから!!」

 

 ・・・あれ、なんで自分が怒られてるの?というより、あまりにもウブ過ぎないか?思春期の男女ならそういうことに興味を持つはずだろ?普通は。それとも男子中学校ならではのことなのか?

 っと、話が逸れた

 

「そういうってことは、言われてないと取っていいんだな?」

「あ、当たり前じゃないか!!」

「・・・なるほど」

 

 一夏は分かったようだ。この質問の意図が

 

「シャルロットを駒と考えているなら、そうするように命令するはずだと。でもそうじゃなかったってことは・・・」

「・・・信じがたいがそうなのかもな」

「な、何が?」

 

 シャルロットは落ち着きは取り戻したが話の展開についてきてないようだ。まあ、それとして・・・本題だ

 

「一夏、シャルロット。おおよそのデュノア社の・・・社長の考えが分かった」

「「!!」」

「そこで、本心を確認するためにデュノア社に明後日乗り込もうと思っている」

「明後日!?」

「急すぎないか?兄さん」

「急がないとマズいかもしれないからな」

 

 でだ、と一区切りつけた後にはっきりと言う

 

「お前らは一緒に来るか?」

「え!?」

「今回、他国の代表候補生たちが絡むと後々面倒になりそうだが、自分と一夏は国に縛られていないから大丈夫。シャルロットも当事者だし、行こうと思えば行けるのだが」

「・・・」

「俺は着いて行く。兄さんが暴走しないように見張んないとな!」

 

 やっぱり一夏は来るようで安心した。少し不安があったからこれは心強い。さて、シャルロットはどうするか・・・

 

「別に無理はさせない。色々と辛いかもしれないから」

「・・・」

 

 考えている。流石に酷か・・・

 

「行く・・・僕も着いて行く」

「!」

「もう待っているのは嫌、受け身の人生はもう嫌だ!社長たちの考えをこの目で確かめに行きたい!」

 

 出会った時とは思えない発言で戸惑ったが、いい成長じゃないか?自分の知らないところで何かあったのかもな

 

「分かった、明日にはフランスに行く手配ができるから準備してくれ、今日はこれでおしまい。夜遅くにありがとうな」

 

 こっちこそありがとう、と言ってシャルロットは部屋から出ていく

 すると、一夏が話しかける

 

「なあ、シャルロットに今の考えを言わないのか?」

「・・・実はシャルロットのことを完全に信用していない」

「俺は嘘をついているようには見えないけど・・・」

「自分もそう思う。でも万一の為もあるしな。それにまだ本当かわからないし・・・過度に期待させるのもどうかなと」

「そうだな。とにかく明後日だな」

「ああ、体調とかには気を付けてくれ」

 

 自分は明日までに情報をもう一度仕入れる。そして楯無さんからあの機械の正体を知る

 さて、覚悟しろよ・・・『お前』の人生はこれまでなのだから

 




 これ、シャルロットにとってめっちゃ濃い一週間になりそう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 誰がために

 フランスのとある街、そこは数多くの高層ビルが立ち並ぶ。その中特に大きなビルの前に自分たちはいる

 

「へ~え、ここがデュノア社か」

「思った以上に大きいな」

「・・・」

 

 自分たち三人はデュノア社の前にいる

 日本時間の木曜の昼にフランス行きの飛行機に乗り、時差をなくすために一日泊ってから乗り込むことに。泊まったホテルで()()()()()をして、デュノア社の前まで来た

 

「準備はいいな?」

「ああ、もちろん!」

「うん・・・」

「よし、じゃあ行こう」

 

 そう言って入り口に入る。そして、楯無さんが自分とデュノア社長との面会を約束してくれたため、それを受付嬢に伝える。受付嬢も自分のIS学園の制服と学生証から迅速に対応してくれた。どうやって伝えたかって?もちろんフランス語ですよ。会話程度なら英語以外でもやれたら面白くね、という中学の仲間たちによって覚えていたものがこういう時に役立つんだな

 数分後、受付嬢から面会の許可が下り、社長室までを案内してもらうことに。道中、自分や一夏を見下しているような女尊男卑の人間の目線もあったが気にすることなく最上階の社長室にたどり着く

 まずはノック。大企業の会社においてのマナーはよく分からないが、いきなり入るのは失礼だろう

 

「どうぞ」

 

 壮年の男性の声、しかも日本語で返ってきた。それはありがたい

 失礼します、と職員室に入る感じで社長室に入る。そこには二人の姿があった

 大きめの高級そうな椅子に座っているのがデュノア社の社長アルベール・デュノアだ。社長の貫禄があり、年相応の顔つきである。隣に立っているのがその婦人ロマーヌ・デュノア。こちらはやや若作りをしている感じがあり、高圧的な態度で自分たちを見ている

 

「はじめまして、私は()()()()()()・デュノアのクラスメイトで世界三番目の男性IS操縦者の遠藤雪広です。以後お見知りおきを」

「同じくシャルロットの学友で世界二番目の男性IS操縦者の遠藤一夏です」

「・・・私はシャルロット・デュノアの父、そしてデュノア社長のアルベール・デュノアだ」

 

 シャルロットと実名を出しても動揺してないのか・・・そもそもこの会談を社長自ら応諾したことから、楯無さんが言っていた通りになるかもしれない

 

「で、何の用かしら?生憎、私たちはあなたたちとは違って暇ではないのよ」

 

 ロマーヌは典型的な女尊男卑であり、自分たちに皮肉を込めて言っているようだが気にしない

 

「なら、単刀直入に言いましょう。シャルロットがすべて告白してくれましたよ」

「そうだろうな・・・つまり男性IS操縦者のデータは得られなかったと」

「ええ。その通りです」

「はあ、やはり無理だったか」

「ッ・・・!」

 

 シャルロットは奥歯を噛むようにしてうつむく。やはりこの人は私のことを道具としか見ていなかった、そう言いたげな顔だった

 

 でもな、多分違うんだよ

 

「デュノア社長、失礼かもしれませんが()()()()()()()()()()()()

「何?」

「本当はデータなんて取れないように仕込んだのでしょう?」

「え!?」

「なっ!?」

 

 シャルロットとロマーヌは予想外だったのか驚いている。それをしり目に自分はシャルロットから預かった機械を取り出す

 

「これ、あなたがデータを盗むためにシャルロットに渡したものですよね?」

「ああ、間違いない。それはISにつなげることでデータを盗めるものだ」

「ええ、それが本当かどうかハックして調べてもらいました」

「何だと?」

 

 こちらがそのプログラムです、と紙で見せる

 

「にしてもすごいですね、こうプログラミングをするとデータを抜き取って指定の端末に保存できるとは・・・相当いいプログラマーがいるのですね」

 

 ですが、と社長机にプログラムのある二か所を強調したデータの紙を置いたとき、明らかにアルベールは動揺した

 

「まずはここ、抜き取ったデータを保存する端末を指定するプログラムです。なぜ指定先が()()()()なんですか」

「・・・」

「それと、最後のほうにあるこの一文です。これは最後に()()()()()()()()()()()()()()ですよね?違いますか?」

「・・・」

 

 アルベールは沈黙を貫く。するとシャルロットが声を上げる

 

「ごめん、どういうことか全然わからないんだけど・・・」

「簡潔に言うと、この機械ではデータを盗むのは絶対不可能って事さ」

「!?」

「ちょっとどういうことよ!何しくじって・・・」

「お前は黙っていろ」

 

 一夏が威圧するとロマーヌは黙り込む。助かったぞ、一夏。いちいち反応されると話が終わらないからな

 

「つまり、これを渡している時点であなたにはデータを取るためにシャルロットをIS学園に入れたのではないという事が分かりました」

 

 それだけではない。社長の矛盾点を突いて行く

 

「そもそもですが、なぜシャルロットの母が亡くなったとき彼女を引き取ったのですか?あなたにとって問題の火種となる愛人の子供ですよ?」

「たとえ愛人の子供であっても殺すと世間が許さないだろう。そのほうが会社の損失が大きいと踏んだからだ」

「愛人の子供ですからもみ消すことくらいできるのでは?あなたみたいな大企業の社長ならそれくらい簡単でしょう?」

「・・・娘はISの適性が高かった。テストパイロットとしての利用価値が十分にあるから引き取った。生憎テストパイロットが人手不足だったのでな」

 

 それはダウトだ

 

「おかしいですね、シャルロットは引き取られた()ISの適性検査を行ったと聞いています。社長の言い分だと適性検査をする()からシャルロットは適性があると知っていることになりますが?」

「っ・・・」

「それに娘を道具のように思っているなら、どうしてハニートラップをしろと言わなかったのですか?」

「何だと!?」

「だってそうでしょう?機械は不良品でデータが盗めないなら、デュノア社として利益となる手段は『男性IS操縦者を会社に取り込む』、もしくは『男性IS操縦者の子種を持ってくる』。それ以外会社の利益として考えられる手段が私には思いつきませんでしたが?」

「・・・」

「気づかなかった、そういう考えもあります。ですが私はそうは思いません。あなたがそんなポンコツではないと私は思っています。実際にポンコツだったらとっくの昔に倒産しているのですから」

「・・・」

 

 それだけじゃない、シャルロットの口座も他のテストパイロットと同じ額の給料が毎月支払われていた。会社が経営難になっているのにどうでもいいと思う娘にまで正規の給料を渡すのもおかしな点だ。娘を蔑ろにしているとは到底思えない

 すると、黙っていたシャルロットが叫ぶ

 

「ちょ、ちょっと待って!だったらなんで僕をIS学園に入れさせたのさ!どうしてデータを取ってこいだなんて言って、男のふりして入学させたのさ!」

「それは・・・シャルロット、お前を救うためなんじゃないかな」

 

 え?とシャルロットは呆然とする。自分も最初はそう思ったさ。でも楯無さんが言う通り、これが一番つじつまが合うし、これ以上の正答はないはずだ

 

「これは推測なのですが・・・あなたはIS学園特記事項の第21項を使って守ろうとしたのでは?」

「そ、それはありえないって雪広が言っていたじゃないか!」

「ああ、確かに企業や国の命令から守ることはできない。自分もそう思っていた。でも違ったんだ」

 

 これは想像もつかなかったことだったからな。デュノア社長がここまでするのかと

 

「この21項は、例えばある代表候補生の国や所属企業が不祥事を起こしても、その代表候補生は守られるっていう使い方ができる。まあ、企業が不祥事を起こした場合、最悪は代表候補生の資格は剥奪されるかもしれないが、それでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ」

 

 つまり、と一呼吸してから楯無さんが予想していたことを言う

 

「アルベールさん、あなたは自身の人生を捨ててシャルロットを守ろうとしましたね?」

「!!」

「な!?」

 

 図星のようだ。アルベールは目を見開く。シャルロットも自分の仮説に驚く。無理もないか、道具のように使われていたと思っていたら、実は守ろうとしていたなんて、普通は想像つかないだろう

 だが、こればかりは本当かわからない。本心は本人から聞くのが一番だが

 

「ど、どうして?どうしてそんな事するのさ!引き取られてから2年間録に合わないで・・・会社の道具のように僕を扱ってきたこの人が!!」

「と、あなたの娘さんは言っていますが、どうなんですか?これもあなたが考えている作戦のうちなのですか?」

 

 自分はその場から下がり、シャルロットとアルベールが向かい合う形になる。一夏はロマーヌをしゃべらせないように見張ってくれている。さて・・・口を割るのか?

 

「・・・もうずいぶんと前の話だ」

 

 ついにアルベールは白状をするようだ

 

「当時、私はこの会社の一般社員として働きながら社長としての勉強もこなしていた。父が急死し、私は若くして社長になったのだが、あまりに早すぎたのでな。うまくいかないことが続き、会社が傾きかけてしまった。そこで資金援助をしてもらう代わりにロマーヌと結婚することになった。だが、一つ懸念があったのだ。その時まで会社の従業員と付き合っていた」

「その人って・・・」

「お前の母親、クラリスだ。彼女とは愛し合っていたのだが、私の力不足のせいで彼女と別れることになってしまった・・・そしてある時クラリスは会社を退職したのだ」

 

 懐かしいような、それでいて悲しげな眼で過去を振り返るアルベール。

 

「その後なぜクラリスが退職したのかを調べて知ったのだ。子供を・・・シャルロットを身ごもったからだと」

「!!」

「それを知ったときはすぐに一緒に暮らそうと言った。社長の座を捨ててでも一緒になろうと何度も何度も。だがクラリスは断ったのだ。『それではあなたの部下たちが困ってしまう。私のことは気にしないで、あなたは会社の・・・皆さんのために尽くしてください』と言われてな。何度も振られた。子供はどうするんだと聞くと『私が大事に育てるから』と言って聞かなかったんだ」

 

 ただ、とアルベールはその言葉をかみしめるように漏らす

 

「『私の身に何か起きたら、その時はこの子をお願い』と頼んできたのだ」

「・・・」

「そしてクラリスが病に伏したとき、できる限りの援助をした。いい医療を受けさせたのだが・・・その甲斐もなくクラリスは・・・」

 

 アルベールは手を強く握る。痛いほどその気持ちはわかる。最愛の人を失う気持ちは言葉にできないくらいの悲しみだから

 

「そしてすぐにシャルロットを引き取ったのだが、問題が起きた。また会社が傾き始めたのだ。しかも以前よりも傾き方が早く、このままでは倒産してしまう。そうなると娘まで迷惑がかかってしまう。そんなときあるニュースが飛び込んできた。君たち男性IS操縦者が現れたというニュースが。そしてひらめいたのだ」

「男性IS操縦者のデータを盗む名目でIS学園に入れる・・・ですか」

「ああ、そうさ。だが、もしかしたらシャルロットは本当にデータを盗んでしまうかもしれない。そうなるとスパイとして罪を犯してしまう・・・だから必死に考えた結果があの機械のわけだ」

「そうですね、あれでデータを盗もうとしても『不能犯』が確実に適応されますね」

「不能犯?」

「不能犯というのは犯行をしてその結果を出そうと行動しても、その行為から結果を絶対得られない行為のことさ。具体的には人を殺そうと呪術を行っても、それで人を殺すことは絶対不可能だから不能犯になる。そして、不能犯は未遂犯と違って犯罪の危険がないから有罪・無罪以前の話で()()()()()()()()()()()

「!!」

 

 まさかここまで考えていたとは・・・そしてそれを読み切った楯無さんにも感心する。不能犯の知識は楯無さんから頂いた

 

「娘は真面目な子だ。だから私の命令通りにあの機械を使うようにすれば罪に問われることもない。そして、シャルロットがIS学園にいる間に私が罪をかぶれば娘は自由の身になる。テストパイロットとして給料を渡していたから生活にも困らずには生きていける。だが娘にはつらい思いをさせてしまった・・・」

「だから悪役に徹そうとしたと」

「全ては娘を守るために・・・したことだ」

 

 ここまでシャルロットのことを思って・・・いや、愛していたとは。共にいられなかった恋人のため、その娘のために自らを犠牲にしようとしてまで助けようとしたのか・・・

 そしてシャルロットの男装がお粗末だったのも納得がいった。早くにバレてほしかったわけか。それなのになぜクラスメイトは気づかなかったのか

 ふとシャルロットを見ると俯いている。いきなりこんな話をされても理解が追い付かないだろう。自分だったら納得できずに激昂してしまう。あとはシャルロット次第だ。突き放すもよし、和解するもよしだ

 だが、まだやることがある

 自分はロマーヌのほうに振り向く

 

「さて、こちらの話は以上だとして・・・ロマーヌさん。あなた何か隠し事はしていませんか?」

「はあ?何よいきなり」

「例えばデュノア社の横領の主犯であるという事ですよ」

「な!?冗談じゃない!!何でたらめをいうの、このガキ!!」

「いや~、でもデータはあるんですよね~。横領で引き抜かれた額がなぜかあなたの口座に振り込まれていましたよ。デュノア社の経営が悪いのに羽振りのいい生活をしているそうじゃあありませんか」

「な、なぜそれを!?」

 

 全部ハッキングで得た情報だ。この女は横領だけでなく暴行や詐欺など、裏を取ったら真っ黒だった

 それだけじゃない

 

「それに、男性IS操縦者のデータを取って来いと言ったのはアンタの命令だろう?」

「何言っているの!?そういうなら証拠を出しなさいよ!」

「証拠は・・・その機械のプログラムですよ」

 

 自分は先ほどのデータを盗めない機械を指さす

 

「何ですって?」

「さっきアルベールさんはシャルロットを守るために盗めない機械を作ったと言いましたが、それだったらこんなプログラムは作らなくていいはずです。わざわざこんなプログラムになっているのは明らかに誰かを欺くためだと予想しています。当初はアルベールさんを黒と思っていたのでアルベールさんを欺くためと思いましたが・・・あなたを欺くためですよね?アルベールさん?」

「・・・そうだ。お前が裏で何かをしていると感じてはいたが・・・横領の件まで絡んでいたとはな!」

 

 多分データを盗む案を出したのはロマーヌだろう。それを知ったアルベールさんはシャルロットにその機械を渡す前に短時間で誰かに書き換えさせたのだろう

 ま、もうコイツの人生は詰みだがな

 

「と、いう事でロマーヌさん。あなたのしてきたこと全てを警察に報告しておいたので、じきに来るでしょう。ああ、あなたをかばっていた人間は今頃牢の中なのでもうお終いですよ」

「!?」

「早いな、兄さん。やることが」

 

 これは楯無さんがやってくれたのだがな。さて、あとはおとなしく観念するのかだか

 

「冗談じゃないわ!こんなところで捕まってたまるものか!!お前ら、出てこい!!」

 

 そういうと社長室のドアが開き、8人の女がラファールを纏って入ってくる。さっき自分たちがすれ違った女尊男卑の人間達か。ロマーヌ自身もラファールを展開していた

 

「こうなったらこいつらを皆殺しにしてやる!!私に楯突いたことを後悔させてやるわ!!!」

「やはりこうなったか・・・準備はいいな、二人とも?」

「ああ、もちろん!」

「うん!」

「社長はできる限り安全なところに身を隠してください!」

「分かった、後は頼む!」

 

 やはり足掻くか。なら引導を渡してやる!!

 

 




 デュノア社長室は頑丈でまあまあ広いです
 そして、扉は一つで敵が近いため社長は避難できず、身を隠してもらっています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 時を賭け

 R-15タグ、確認よし
 今回の戦闘で・・・


 ロマーヌ夫人の最後のあがきとして始まったIS戦。相手は計9機のラファールに対し、こちらは専用機の3人。社長を守る条件はあるものの、俺たちのほうに分がある。

 奴らは三人グループで俺たちにそれぞれ襲い掛かる。ロマーヌは雪兄さんの方へと向かった。ということは、俺は取り巻きの三人を潰すだけか

 

「くたばれええーーー!!!」

 

 そのうちの一人が特攻をかます。だが、これは何度も見てきた光景だ。しかもあのクズよりも遅い・・・遅すぎる

 剣術でカウンターを叩き込む。だが、今回は場所が場所だけに吹き飛ばすようなことはしない。壁とかを極力破壊しないように相手にダメージを叩き込む

 

「よ、よくも!!こうなったら囲うのよ!」

「私は右から!」

「じゃあ左で!」

 

 囲まれた。だが何も問題はない。こういう戦闘は中学の時に学んだ護身術で多対一を使えば攻略できる。とくに今回は戦力差もあり、相手は素人だから余計にやりやすい

 

「くらえええーーー!!」

 

 三方向からの攻撃に両手に剣を持ち、右手と左手で一人ずつ対応し、もう一人の攻撃はかわし続ける。やはり素人、そしてスペックもこちらが勝っているため余裕で対応できる

 

「この!!いい加減に!!」

 

 攻撃を躱され続けられていたこのグループのリーダーらしき女は自分に特攻を再度かます。両隣にいる女たちも突っ込んできた。頃合いとみて、俺はリーダー格の女から逃げるように後ろに下がる

 するとどうなるか。俺のいたところに二人が剣で切り込む、そこにもう一人が俺めがけて突っ込む。イラついていて()()()()()()()()()()()両隣の女たちを見ていない。両隣の女たちもずっと受け止められていたのに躱されたから方向転換もままならない。よって

 

「「えっ?」」

「ごべえっ!?!?」

 

 同士撃ち(フレンドリー・ファイア)が起こる。これでリーダー格の女のISは強制解除され、その上気絶している。

 

「な、何やってんのよ!!」

「あんただってやったじゃないの!!」

 

 しかも残った女は責任逃れしようと言い争う始末。ならとどめを刺すか

 一人の頭を両手で持ち、頭を俺の膝に近づけながら膝蹴り。これでISが強制解除され、意識も刈り取る。もう一人は口を開く前に回し蹴りを顎あたりに叩き込む。

これで俺のところに来た女たちは倒した。兄さんもシャルロットもまだのようだが、手出しはしなくていいだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は5分もかからなかった。ロマーヌを除く取り巻きたちは気絶させ、ロマーヌの乗っていたラファールも強制解除させた。時にアルベールさんに銃を乱射するときがあり、かばうようにしたためSEはまあ減ってしまった。また、シャルロットはてこずったらしくSEが少ない。が、問題はない。ロマーヌのラファールだけ他よりも丈夫だったのか、意識を刈り取ることはできなかったが・・・チェックメイトだ

 

「な・・・なんで!?こっちは9人もいたのに!?」

「機体の差もあるが・・・乗り手が酷すぎるからでは?」

 

 いくらスペックの高い機体でも初心者が乗ってはその能力を生かせない。自分は上手とは言えないが、少なくともこいつらよりかはISを動かしているし、機体のスペックも負けていない

 

「もう無駄ですよ。ISも取り巻きもない、もう詰んでるんです。諦めましょう」

 

 抵抗するなら腕か足をへし折ろう。そう脅せばこんなチンピラは黙る・・・

 

「フフフッ・・・」

「何がおかしい?」

「だってねえ?私がこんなところで終わるわけないじゃないの」

 

 ロマーヌは懐から茶色のペンダントを取り出す・・・まさか!?

 

「私がもう一機ISを持っているかもしれないと考えられなかったことが・・・アンタらの敗因よ!!」

 

 新たなISをロマーヌは展開する。形はラファール・リヴァイブに似ているが緑の量産機ではなく、赤黒に染まっていた。心なしか装甲も厚そうに感じる

 

「どう?私のラファール・リヴァイブ・Ωは?」

「その機体はまさか!」

「そうよ、ここのコアを私があるところで改造して私の専用機にしたのよ!」

「貴様!私たち会社の機体を!!」

 

 激昂するアルベールさん。会社の、というあたり根がまじめなのだろう。だがそれどころじゃない。こいついったい何処で改造したんだ?

 

「お前のバックに何がいる!」

「決まっているでしょう。女性権利団体よ」

 

 女性権利団体。昔は女性というだけで差別されないように活動を続けていた団体だった。だがISが現れた今では女尊男卑をモットーとし、女は神に選ばれた崇高なる存在であり、男はそれに服従すべきという思想を掲げる、カルトとなってしまった団体だ。なによりも同じ女性でも男をかばったりする女性も粛清しているため、とてもたちが悪い。裏では亡国機業ともつながっているのではないかという考えもある

 

「あそこは素晴らしいわ。女性こそ最も尊い存在であり何をしても許されるもの。私たちの理想の世界があるのよ!」

「何言ってやがる、男を奴隷にしなければ存在できないくせによ」

「何言ってるの、私たちがこき使ってやってんのよ。ありがたく思うのが普通なのよ」

 

 狂ってやがる。こんなキチガイが存在していいものなのか

 

「唯一、織斑一春様はブリュンヒルデ様の血を引く崇高なお方。他はゴミ同然なのよ!!それに味方するそこの泥棒猫の娘もまとめて・・・」

 

 言い切る前に瞬間加速(イグニッション・ブースト)で間合いを詰め、鳩尾に蹴りを叩き込む。こんな奴は話を聞くだけ無駄だ。それに奇襲を仕掛けるにはちょうど良かったし、完全に決まった。

 はずだった

 

「やっぱり、私の話も聞けないようなゴミはすぐに始末するべきだったわね」

 

 効いてないのか?いったん距離をとる。するとヤツは一本の杖を取り出してきた

 

「ならばこれで裁きを受けてもらうわ」

 

 その杖が自分に向かって振り下ろされた。刹那

 

ズン!!

「!!!」

 

 何だ!?体がいきなり重くなった!まるで何かに上から押しつぶされそうなそんな力を受けている。まずい!足が持たない!!

 

「がっ・・・」

「雪広!」

「雪兄さん!!」

 

 (ひざまず)くどころかうつ伏せになるように倒れてしまったことで、一夏たちが不安そうに叫ぶ

 

「どう?この『強力な重力(ピュイサン・グラヴィテ)』は?」

 

 ビュイサン・グラヴィテ・・・重力系の第三世代兵器か?これはかなり厄介だぞ。何より前情報がないのはかなりつらいものがある

 

「このままいたぶって・・・」

 

 一夏がロマーヌの喋っている隙を突いての切込みにかかる。が、ロマーヌの持つ杖を向けられると勢いが弱まり、跪く形になってしまった

 

「ぐぐっ・・・」

「「一夏!」」

「くそ、かなり重いな・・・」

 

 悪くない奇襲だった。だが、あの杖を向けられるだけで発動する上に自分への効果が消えないとは・・・だが

 

「どうやら、対象を複数にするとその能力は弱まるな・・・」

 

 先ほどまで立ち上がることすらできないほど上から圧力をかけられていたが、今は立つことができるくらいにはなった。だがいつも以上に体に負担がかかる上に出力をあげてやっと立てるレベルだ。

 はっきり言ってかなりマズい

 

「あー、もう面倒だわ。ここにいるIS全員にかけちゃいましょ」

 

 ロマーヌは杖を高く上げ、円を描くようにした後に振り下ろす

 

「んうっ!!」

 

 シャルロットにもこの影響が出たのか・・・他を見ると影響がなさそうだからISに乗っている人、もしくはISに影響が出るタイプのやつか

 一刻も早く慣れないとこのままじゃ全滅する!

 

「さあて・・・このままいたぶってもいけれど」

 

 ロマーヌが見下すように自分を見たが、その視線を逸らしある人に向ける

 

「やっぱりここは一番むかつくアナタから殺しましょうか」

「「「!!!」」」

 

 アイツ、アルベールさんを殺す気だ!!自分は何とか動けるがヤツの向こう側にアルベールさんがいるから助けづらい・・・いや、特攻すれば

 

「ゴミどもは這いつくばりなさい!」

「「ぐあああ!!」」

 

 自分と一夏にさらに上から力を加えられ、這いつくばってしまう。くそ!複数相手でも圧力をさらにかけられるのかよ!!何とかしないと、アルベールさんが危ない!シャルロットの機体もSEが少ないからシャルロットも危ない!!

 

「最後に私に歯向かったこと、泥棒猫の味方になったことを後悔しながら死ね!!」

 

 ロマーヌはヘヴィーボウガンを取り出し、アルベールさんに目掛けて撃つ準備をしている。自分も一夏も動けない!

 

「アルベールさん、逃げろおおおお!!!」

 

 何とか顔を上げ、アルベールさんに向かって叫ぶ。だがロマーヌは無慈悲に一発アルベールさんに向けて撃ちやがった。ISの弾だと人なんて余裕で殺せる。動け、自分の体!動け!!動・・・

 そのときオレンジの機体が動く。ヤツの兵装の影響が少なかったシャルロットが渾身の力を振り絞ってアルベールさんを守るように立ちふさがった。そして

 

パァンッ!

 

「「え?」」

 

 まるでスローモーションのような、時間がゆっくり進んでいるように感じた

 シャルロットが大きくのけぞって、2,3歩後ろによろけた後、後ろから倒れこんだ。ISは強制解除され・・・

 

 待ってくれ、・・・今、頭に入らなかったか?頭や体の急所に攻撃が当たるとSEって大きく削られるんじゃあなかったか?それにSEが少ないとき、それ以上の攻撃は()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 静寂。何も音が聞こえない。だれも言葉を発さない

 

 

 

 

 

 

「・・・シャルロット?」

 

 アルベールさんはよたよたとシャルロットに近づきシャルロットを抱く

 その手には真っ赤な血が付き、シャルロットの頭がだんだんと赤くなる

 

「・・・シャルロット!」

 

 ・・・返事はない

 

「シャルロット!シャルロット!!」

 

 いくらアルベールさんが呼び掛けても反応しない・・・

 

「嘘だ・・・」

「・・・」

「シャルロット!!シャルロット!!!」

 

 アルベールさんの叫びに近い呼びかけだけが響く

 

「・・・っうっ、うあっ・・・うああああああ!!!」

 

 父の叫び声が部屋を満たした

 




 少し短いけどここで区切る!
 ・・・少し無理があったか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 鐘は鳴る

 今回もR-15だな。うん


「あれ?」

 

 ここは・・・どこ?確かデュノア社にいて・・・社長夫人が改造したISを展開して・・・それで、僕は・・・

 

「!?」

 

 撃たれた。それも頭を撃ちぬかれたんだった!!上半身を起こし、急いで手で触って頭を確認する。

 が、血は出ていない。傷ついてはいないようだ。でも不安だったから()()()()()()()()を見て確認する。本当に傷は無いよう・・・って

 

「え!?」

 

 なんで水面の上で座ってるの!?それにどうしてIS学園の制服なの!?それよりもここどこ!?見渡しても水平線しかない。雪広も一夏も・・・誰もいない。どうしよう・・・

 

「知りてえか?」

 

 いきなり声がした。しかも後ろから

 後ろを振り向くと人影がいた。人ではなく人の影が立体としていた。だが、これがさっきの声の主なのだろうと妙に納得してしまう

 

「ここは死後の世界さ。つまりお前は死んだのさ」

「・・・」

 

 僕は死んだのか・・・そうだよね。SEが少ない中で頭を撃たれて無傷なわけないよね

 

「でも、俺様は寛大だからお前に元の世界に戻るチャンスを与えよう」

「・・・」

「戻りたいだろう?うん?」

「いや、いい」

「・・・は?」

 

 もうどうでもよくなっちゃった。死んだというのならもうそれでいいや。戻ったところであの義母にやられるんじゃあ、意味ないよ

 

「もういいんだ。早くお母さんのところに連れてってよ」

「・・・」

 

 疲れた。もう楽になりたい

 ・・・これならもう苦しまずに済む・・・これなら

 

「いいのかよ」

「え?」

「いいのか、と俺は聞いているんだ」

 

 何も答えない。もうどうだって・・・

 

「元の世界に戻りたくねえのかよ!!」

 

 黒い影は手らしきもので僕の胸倉をつかんで立ち上がらせる

 

「何諦めてんだよ!戻るんじゃないのかよ!!」

「もういいさ。僕の人生そんなもんさ・・・」

「違うんだよ!俺様が言いたいのはな!」

 

 影が一呼吸して

 次の言葉で心のダムが壊れる

 

「こんな時まで、()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

「!!」

「生憎、ここは俺様とテメエしかいねえんだよ!それともなんだァ!?満足した人生だったか!?」

 

 ・・・そんなわけない

 

「母親が死んで、父親のモルモットで幸せだったか!義理の母親に泥棒猫の娘と言われて嬉しかったか!」

「・・・い」

「その後の二年は充実していたか!IS学園では男装できて嬉しかったか!!」

「・・・さい」

「父親の本心を知って、理解する前に義母に殺されて!お前の人生は満足だったんだな!ああそうか!!お前の人生は幸せだ!!お前は幸せ者だなあ!!!」

「うるさい黙れえええええええ!!!!!!!!!」

 

 影の胸倉をつかみ返す

 

「お母さんが死んで、泥棒猫の娘と言われて、したくもない男装をさせられて、スパイ行為をやらされて、殺されて・・・そんな人生が嬉しい訳あるか!!!!」

「・・・」

「女の子として学校に行きたい!クラスメイトと遊びたい!オシャレしたい!楽しく生きたい!!恋人だって作りたい!!・・・それに!!」

「それがお前の本音だろう」

「ッ!!」

「こうでもしないとお前は本心を言わねえだろう」

「・・・テメエ!!」

 

 こいつの掌の上だったのかよ!ムカツク!!

 

「それに俺はお前のことを知っている。お前が2年近く()()()()()()()()()()

「な!?」

「さっきのがお前の本当の姿だろう?うん?」

 

 ・・・ああ、そうさ

 

「そうだ!あれが僕の本当の姿さ!!おとなしいだって?他人に気を使えるだって?周りが信用できない中ならそうなるのも当然だろう!!!」

 

 小さい頃はやんちゃで男勝りだった。でもお母さんが死んで、引き取られたくもなかった人に引き取られて・・・そんな状況だと本当の性格を隠さざるを得ないだろう!

 

「で、どうするんだ?お前は元の世界に戻りたいのか?」

「・・・ああ!戻りたいさ!」

 

 まだやりたいこともたくさんある。それに・・・

 

「じゃあ、俺様がじきじきに力をやると言ったら、欲しいか?」

「・・・ほしい」

「どうしてだ?」

 

 どうしてかだって?そんなの当然だ!

 

「僕を助けてくれた雪広や一夏、事情を分かってくれた鈴たちの思いを無下にしないために!僕がこれからの人生を謳歌するために!そして!―――のために!」

「・・・」

「ふーっ、ふーっ・・・」

 

 久々に大声で叫びまくったために息が荒くなる。そんな音しか聞こえない

 

「ふっ、ははは!!」

「な、何がおかしい!!」

「良かった、お前がそう言う思いでいるんだったら俺はお前に使()()()()()()()()

「は?何言って・・・」

 

 待て、使われてもいい?そもそも、なんでこいつは僕のことを知っている?

 いつの間にか影は僕の手から離れていた

 

「まずは謝らなければならないことがある。ここは死後の世界ではない。お前は今仮死状態さ。頭を撃たれて」

「・・・」

「まあ、正確には撃ちぬかれてはいない。でも完全に衝撃は殺せていないから、頭蓋骨はヒビ入っているし出血もしている。でもこのままじゃあ命の危機だ」

「・・・」

「でもその傷は俺様が治してやる。今回だけの出血大サービスだ」

「お前は一体?それに死後の世界じゃないならここは・・・」

 

 すると影から人に変わる。黒の学ランを全開にし、オレンジのシャツを着ている、ザ・不良の男子高校生だ。髪もオレンジに黒のメッシュが入っている

 

「最初はこんな貧相な奴かと思ったが、お前が『俺の主人』で良かったよ」

「は?待て・・・」

 

 視界が急にぼやける。クソ、まだお前のことを聞いては・・・

 

「俺様のことは分かるだろう?言葉を交わさなくともお前ならわかるはずだ」

「・・・そうか」

 

 そういうことか。こいつは・・・

 

「じゃあな。あのメス豚を黙らせろよな」

 

 意識がなくなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テメエエエ!!!」

「よくもシャルロットを!!!」

「アハハッ!まさか泥棒猫の娘がかばうとはね!これは傑作だわ!!」

 

 こいつは許せない!!義理とはいえ、娘を殺してそれが正しいだって!?ふざけんな!!

 

「ガアアアアアア!!!」

「ハアアアアアア!!!」

 

 俺たちは怒りによって形態変化する。どうやら俺も怒りで形態変化ができるようになったようだ。立てるようになり、SEもかなり残っている。これでヤツを潰す!

 

「ヴォアアア!!」

「ッラア!」 

 

 兄さんが爪で薙ぎ払おうと突っ込む。ワンテンポずらして俺も別角度でこいつの首を取りに行く!いつものスピードではないがこれなら・・・

 

「じゃあこうしましょ」

 

 ロマーヌが杖で何か振り払うようにする

 

ドン!

「!!」

「かはっ!」

 

 さっきまであった圧力が一気に消えた。だが、さっきまでその力に対抗して上向きに出力を大きく出していたため、天井に激突してしまう。まさかオンオフができるのかよ!

 

「無様ね!ならもう一度這いつくばりなさい!!」

「ゴゥ!!」

「ごほっ!!」

 

 また上から圧力が加わり、床に叩きつけられる。

 

「ほらほらほら!!!」

 

 上に、下に叩きつけられる。ただSEが削られてしまう。何もできないのか!

 改めて上から圧力をかけられ、這いつくばってしまう。機体よりも体のダメージが大きく、思うように力が入らない・・・

 

「さーて、それじゃあ改めてそこの無能に制裁を与えてやるわ。今度は邪魔も入らないし」

 

 くそ!俺たちは見るしかできないのかよ!シャルロットを無駄死にさせてしまうのか!まともな人が殺されるのを黙ってみるしか道はないのかよ!!

 

「これで!ガキもろとも死になさい!!」

 

 ヘヴィーボウガンをアルベールさんのほうへ連射する。アルベールさんはシャルロットを抱きしめたまま動かない!

 

「やめろおおおおお!!!」

 

 叫ぶ。でもそんな都合よくヒーローは現れない。神がいるならなんでこんな運命をたどらせるのか・・・ヒーローがいるなら何故あの二人を救ってくれないのか

 そんな思い虚しくアルベールさんの所に弾丸の雨が降る。土煙で様子が見えない

 

「くそおおおお!!!」

「さーて、今度はゴミたちを処分しないとねえ?」

 

 どうして、どうしてこうなんだ!こんなクズがのうのうと生きて、罪もない人が殺されるんだ!どうして・・・どうして!!

 

「な!?」

 

 どうした?兄さんが何か驚いた顔になる。向いているほうはシャルロットがいたところだ。土煙が薄れて・・・

 

「え!?」

「何よ?私の後ろになんかいるっていうの?」

 

 ロマーヌは後ろを振り向く。そこにいたのは・・・

 

「「シャルロット!?」」

「ど、どうして!?この手で殺したはずなのに!!」

 

 シャルロットがラファール・リヴァイブを展開して立っていた。だけど何か様子がおかしい

 

「くひ、くひひひっ・・・」

 

 足を開いて両手を顔で覆いながら笑う。それに笑い方もそんな風ではなかったはずだが・・・

 

「ひひひひひひゃはははははは!!!!」

 

 いきなりシャルロットの体と機体が黒く染まる。何事かと誰もしゃべらない

 足元から黒が消え去ると、そこにはラファール・リヴァイブがいた。しかし、シャルロットの愛機であった明るいオレンジではなく、濁ったようなダークオレンジのカラーリングで、ところどころに黒のラインがある。

 これは、まさか・・・

 

形態変化(モードチェンジ)、だと!?」

 

 シャルロットもできるようになったのか!?た、確かにシャルロットはつらい過去を持っていた。だがISのシンクロ率は分からないし、なによりストレスを感じていたのか?明らかに死んでいたはずだが

 

「・・・そうか」

 

 兄さんが理性を取り戻し、この状況を理解したようだ

 

「『死』は大きな()()()()となる。シャルロットは死にかけだったが、()()()()()ことで大きなストレスを感じたのだろう。それがトリガーとなったのか」

 

 ってことはあのクズが結果的にシャルロットを強めたことになるのか!

 

「ふん!死にぞこないが!だったらもう一度殺してやる!!」

 

 再度圧をかけるようにロマーヌは杖を掲げる。が、その前にシャルロットは右手を突き出す

 するとシャルロットの身長くらいの大鎌が出てくる。そして大きく振りかぶって、その先端を地面に突き刺す

 

malédiction(マレディクション)

 

 そうシャルロットは言い、引き抜くとそこから影が出てくる。その影はだんだんとシャルロットと同じ大きさの人型となってシャルロットの隣に立つ

 

「その影もろとも這いつくばりなさい!!」

 

 先ほどの杖をシャルロット目掛け振り下ろす。するとシャルロット()俺たちと同じように地面に這いつくばってしまう。が、影は立ったまま微動だにしない

 

「な!?も、もう一度!」

 

 再び杖を振り下ろすも、影は動じない。するとシャルロットがロマーヌに言う

 

「お前さ、やっぱり脳みそ無いよね」

「な、なんですってえ!?」

「こいつは僕のSEから生まれた、いわゆる()()()()()()さ」

「だから何だって言うのよ!!」

「お前のその特殊武装はいわゆる質量をもつものに作用する。つまり、質量をほぼ持たない物には効果ないでしょ?」

「な!?」

 

 なんてことだ。つまりシャルロットの単一能力はヤツのあの特殊武装を無視できるわけか!

 

「だからこうなる」

 

 シャルロットの影は瞬間加速でロマーヌに接近し、手を剣に変えて切りつける

 

「キャアアアア!!!」

 

 すると先ほどまでの圧力が消える。兄さんもシャルロットも同じように動けるようになった

 

「よし!これなら戦える!」

「援護するぞシャルロッ・・・」

「いらねえ!!」

「な、何言ってるんだ!」

「ここはやらせてくれ・・・というかアレは()の獲物だ!!」

「だけど!」

「いいじゃねえか。好きにやらせようぜ。一夏。それとも今のシャルロットがあのクズに負けるとでも?」

 

 確かにあの特殊武装がなければ素人が乗っている機体だ。まず問題ない。でも万が一のこともある

 

「わかった。万が一の時はすぐに乱入する。そのときは文句言うなよ」

「なら、そうならないようにするまでさ!!」

 

 影が即座にヤツの背後に回り込み、シャルロットの方へ斬り飛ばす。為す術なく、ヤツは吹っ飛ばされ、シャルロットはタイミングよくボディーブローを入れる。この時にヤツは杖を落とし、シャルロットはそれを踏み折る

 特殊武装のないロマーヌの機体を強制解除にするまでに時間はかからなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 クズ(ロマーヌ)のISのSEを簡単に強制解除できた。取り巻きたちも目覚めたが、俺の機体を見て恐怖して何もできずに身を寄せ合う

 クズが俺に命乞いをする

 

「お、お願い・・・いままであなたにやってきたことを謝るから・・・お願い・・・」

「・・・」

「お、お金とかいくらでも払うわ!だからお願い!!」

 

 俺は剣を取り出し上に掲げる。振り下ろせばいつでも殺せる

 

「ま、待って!!お願い!殺さないで!!な、()()()()()()()!!」

 

 今の言葉、つい最近俺が雪広に言った言葉だ。そのとき雪広に注意されたっけ。

 でも俺は甘くないからな

 

「殺さないで?何でもするから?俺を殺しといてよくそんなセリフを吐けるね」

「そ、それは・・・事故!事故なのよ!殺すつもりなんてなかったの!!」

 

 はっ、呆れた。そして醜く言い訳するこいつに腹が立ってきた

 

「これからは親子仲良く暮らしましょう!今までのことを水に流して!!」

 

 ザシュッ!!

 

 上げていた剣をそのままクズの右肩に振り下ろす

 

「え?」

 

 地面にクズの右腕が落ちる。あまりの出来事に頭が追い付いてないようだ。だが、切り口から出るおびただしい鮮血に意識と痛みがやっと追いつく

 

「いや゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

「うるせえなあ!」

 

 今度はより鋭く、薄い剣を右の逆手で取り出しクズの口に入れる。そして思いっきり右に動かす

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

 

 クズの左側が口裂け女のようになる。もっとも、血が噴き出しているが。ははっ、これはいい

 

「滑稽な姿になったじゃないか!ええ!?ロマーヌよお!」

「あ゛っ・・・あ゛あ゛っ・・・」

「ねえねえ、今どんな気持ち?見下していた妾の子にいたぶられて、どんな気持ちかい?ええ!?」

「あ゛あ゛っ・・・あ゛あ゛っ・・・」

「なんだよ、もっと反応しろよ!つまんねえなあ!!」

 

 もういいや、これだけやればもう十分だ。もう一度剣を呼び出し大きく振りかぶる

 

「じゃあね、ロマーヌ・デュノア。後悔しながら死ね。そして・・・地獄に落ちろ!!!」

「~~~~~~~~!!!!!」

 

 そのままヤツの脳天に振り下ろす!これで!くたばれ!!

 

 

 ガアンッ!!

 

 

 は?なんで

 

「何で止めるんだよ、雪広」

 

 雪広がまるでクズを守るようにして俺の剣を受け止める。すごく、すごく気に入らない

 

「どうして止めるんだよ!おい!!」

「確かに、こいつを殺すのは悪くない。こいつは死んで当然の人間だからな」

「だったら!そこをどけ!!」

()()()()()()()()()が聞こえなかったのか?」

「・・・は?」

 

 声?そんなの、聞こえてなかった・・・

 

「シャルロット・・・」

「!」

 

 アルベールのほうを向く。すると彼はつらそうな顔で俺に語り掛ける

 

「頼む・・・それだけはやめてくれ・・・」

「・・・なんでですか。この女を擁護するんですか」

 

 やっぱりこの男は俺よりもこのクズが大事なのか・・・

 

「違う!!私は、お前に殺人をしてほしくないんだ!」

「!」

「確かにこの女は裁かれる必要のある人間だ。死刑でもいいだろう。だが、お前が殺すのは父としてしてほしくないんだ!!」

「だけど・・・だけど!!」

「分かっている!いまさら父親面するなということも!私に言う資格がないという事も!だが、頼む・・・シャルロット・・・」

 

 俺は・・・俺は・・・!

 

「ううわああああああ!!!!」

 

 

 再度剣を振りかぶって、振り下ろす

 

 

 

 

 誰もいない床に

 

 

「・・・分かった。これで終わりにする」

 

 駄目だ。あの人の泣きそうな顔を見ると、俺も辛くなる。それにこいつはどうせ裁かれるんだ。殺すよりももっと生き恥を晒して・・・もらわないと・・・

 あれ・・・?いしき・・・が・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルロット!!」

 

 いきなりシャルロットが倒れてしまい、アルベールさんが慌てる。ISも解除され、横たわっている。すぐに自分たちもISを解除して駆けつけ、脈と呼吸を確認

 

「・・・脈拍・・・呼吸、ともに正常です。多分疲労で倒れたのでしょう」

「よ、良かった・・・」

「でも万が一のこともあるし、検査は必要だよな?」

「ああ、それなら到着したんじゃないか?」

 

 かすかにサイレンの音がする。やっと到着したか

 

「あとはその人たちに任せよう」

 

 

 この後、自分たちは事情徴収のために警察に・・・と思いきや、先ほどまでの戦闘で負傷したために病院に行くことに。ロマーヌ達も手当てを受けてから逮捕されるとのこと。そしてアルベールさんも先ほどまでの戦闘で少し巻き込まれたため、全員そろって病院へと行くことになった。

 こうして、デュノア社での戦闘は幕を閉じた

 




 malédiction フランス語で「呪い」です

 次でシャルロットの家問題は終了予定

 
(裏話)
 実はここのデュノア社戦は1話で完結させる予定でした。そのため、第16話とその次の題名をつなげて「誰がために鐘は鳴る」にしよう、と思ったのですが長くなってしまったがゆえ、第17話の題名を挿入することに
 「誰がために鐘は鳴る」・・・いいですよね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 ONE MORE CHANCE

 いや、本当に難航しました
 シャルロットのお父さんの計画ってかなり穴があるんだと感想から知りました。言われればそうですね
 言ってませんでしたが、私は原作知識が8巻で止まっていますのでご了承を



 あの戦闘から翌日。あの場にいた全員がフランスで一番大きい病院に送られ、そこで夜を過ごした。それぞれ違う病室に入れられたため、自分は一夏と合流してアルベールさんの病室に行く。そこはアルベールさんがベッドに腰かけていて、彼以外誰もいなかった

 

「けがの具合はどうですか?アルベールさん」

「私は大丈夫といったのだがな・・・周りがそれでもというものだから。それよりも君たちは大丈夫なのかね?」

「まあ、動けているので大丈夫です」

 

 アルベールさんは肩に切り傷を負うだけだったが、部下たちの病院に行ったほうがいいという意見に折れ、一日入院したとのこと。自分たちは打撲こそ多数有れど、骨折はしておらず今日で一応は退院できる

 

「シャルロットはまだ目覚め無いのか・・・」

「脳は異常ないと言っていたので、そろそろ起きると思いますが」

 

 シャルロットは未だに眠っている。形態変化による弊害なのか、それともただの疲れなのかは分からない

 ちなみにロマーヌとその取り巻き達は応急手当てを受け、意識が戻った後に警察に連行されるとのこと。もう一生塀の中にいてほしいものだ

 

「そうか、なら娘が起きたときは・・・無事だったときは私に伝えてくれ」

 

 アルベールさんは立ち上がる。その言い方・・・

 

「アルベールさん、何処に行くつもりですか?」

「・・・君たちならわかるはずだ」

「・・・出頭するのですか」

「ああ。私は娘にスパイ行為をさせようとし、偽装入学させた。これは私が命令したのだから私が裁かれることだ」

「「・・・」」

「もう何も心残りは無い・・・娘もこれからは安心して暮らせられる。私が願っていた通りだ」

 

 今から自白すれば罪は軽くなる。でも本当にいいのだろうか、これが正しいのだろうか?アルベールさんは確かに罪を犯したが、娘の為であり個人的に裁かれてほしくない。だが、それを見逃すのもいいのか・・・と様々な思いが渦巻く

 

「兄さん・・・」

「これは、どうしようも・・・」

「ちょーっと待ったーー!!!」

 

 いきなり場にふさわしくない大声がして勢いよく扉が開かれる。そこにはいつもの姿(不思議の国のアリス)の束さんが立っていた。自分たち三人はあまりの出来事に驚く

 

「束さん、フランスに参・上!」

「ぷ、プロフェッサー・篠ノ之!?」

「束さん、どうしてここに?」

「それはいっくんたちがデュノア社で戦っていたのを人工衛星から見ていたのだ!それでこの病院に運ばれたから来たのだ!」

 

 だが何故ここにわざわざ来たんだ?お見舞いされるほどの傷ではないし・・・

 

「さて・・・ここに来たのはある目的があるの。アルベール・デュノアに会いに来た」

「「え!?」」

「わ、私ですか!?」

 

 どういうことだ?何の理由でアルベールさんと接触しようと思っているんだ?一夏も束さんの考えていることが分からないらしく、首をかしげている

 

「アルベール・デュノア、君の会社は第三世代の開発が滞っている、で間違いないよね?」

「はい・・・お恥ずかしながら」

「そこで、この束さんたちが協力してあげようと思うのだよ。条件付きでね」

 

 つまり、契約を結びに来たというわけか。だけどいったいどんな契約なのか。束さんがデュノア社から受けるメリットが思いつかないのだが

 

「して、その条件とは?」

「条件は二つ、一つは君の娘、シャルロット・デュノアが欲しいのさ」

「!?」

「おっと、言い方がマズかったね。正確にはシャルロット・デュノアのISのデータが欲しいのだよん」

 

 シャルロットのデータ?そこまでの価値が・・・あ

 

「ですが、それでよろしいのでしょうか?娘の機体は第二世代。自分自身で言うのもなんですが、いわば時代遅れの機体ですよ?」

「なに卑屈になっているの。私にとっては十分魅力あるものだよ。だって()()()()()()()()んだから」

「!!」

「実は束さんも詳しく分かっていなくてね。サンプルのデータが欲しいのだけど、あいにく数が少なすぎるんだよ。現在形態変化できるのはそこにいるいっくん、ゆーくんを含めて4人しかいないの。つまり希少価値は十分に高いから契約しに来たのだよ」

 

 束さんの言う通り、形態変化できる人が4人、女で考えると二人目の存在。形態変化を解明したい束さんにとってはそのデータは十分に価値あるものだ。

 

「二つ目は、まだこれからなんだけど・・・宇宙開発用のISを作ってほしいと私が言ったら量産してほしい」

「宇宙用のISですか・・・」

「私の夢でもあるからね。それにもともとは宇宙開発のために作ったから。でも、いくら私が作っても世界に浸透しなければならない。だったら世界的に名のある企業に頼もうかなって」

「・・・ですが、なぜここですか?他にも有名企業ならあるはずですが・・・」

「君が宇宙に興味があるからだよ。大学でも宇宙を専攻していて、宇宙に興味があったのも知っている。それに私が初めてISの論文を出したとき、君は否定せずに意見を聞いてくれたよね」

「覚えていてくれていたのですか・・・ですが、結局私は何の力にもなれなかった・・・」

「ううん、とっても嬉しかったんだよ。その時のお礼もあるから君に頼んでいるの」

 

 束さんってかなり情に厚いからな。お気に入りの相手に対してはかなり好待遇してくれるから、アルベールさんにとっては天啓だろう

 

「私が協力すれば成果のある機体が作れる。そうなれば政府も資金援助をしてくれて会社も立て直せる。どう?悪くないんじゃないかな?」

「・・・そうしたいのはやまやまですが、生憎私はこれから捕まる身。その願いはお断りしま・・・」

「ああ、偽装入学やスパイ行為とかに関しては政府が目をつむるように束さんが説得させたから。警察の所に行っても意味ないよ」

「「「な!?」」」

「ま、フランス政府も厄介な女性権利団体を追い出せたから二つ返事でOKだったんだけどね。IS学園側も今回は大目に見るってことになったし」

 

 さらっと言っているが、自分たちは驚くしかなかった。これでアルベールさんが罪をかぶることはなくなった。にしても政府と学園を動かすとは・・・改めて束さんの影響力を思い知った

 

「ただ、束さんとしては偽装入学させたのは悪手だったかな~」

「どう悪手だったんですか?束さん?」

「偽装入学させたってことは学園の生徒ではない、つまり()()()()()()()()()()()ことになる」

「「「!!」」」

 

 それは盲点だった。そうか、偽装入学の時点でIS学園の生徒ではないから特記事項もクソもないことになるのか。そうなるとシャルロット自身も裁かれる可能性があったわけか

 

「社長の娘だからってIS学園に入れられるとは限らない。でも偽装してまでやるのはまずかったかな~。まあ、今回に関してはゆーくんがすぐに気づいたし、何より私が味方したってのが大きいから結果オーライだね!!」

 

 ほんとに結果オーライすぎる。というより思った以上にアルベールさんの作戦がガバガバだったのは自分も気づかなかった

 

「おやおやぁ?ゆーくん、その顔は気づいてなかったようだね?」

「そ、そうですね・・・盲点でした」

「ふっふーん♪まだまだ甘ちゃんだねえ」

「ソウデスネ、ショウジンシマス」

 

 煽ってきやがって。その憎たらしい顔を殴りたい

 と、束さんは煽り顔から一転して真面目な顔でアルベールさんに向く

 

「で、どうする?まだ断る理由がある?」

「・・・すべてはあなたの手の上でしたか」

「ギブアンドテイクだと言ってほしいな~」

「物は言いようですね」

 

 ははは、と笑いつつ束さんは右手を差し出す。その手をアルベールさんは両手でがっちりと握る

 

「これからよろしくお願いします。プロフェッサー・篠ノ之」

「もちろん!!契約成立だね!!これからよろしく!」

 

 そんな姿を自分たちはただ見ていた。なによりこの問題を解決した束さんが、なんとなくうらやましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これからどうするんです?」

 

 束さんが自社に戻った後、兄さんがアルベールさんに尋ねる

 

「そうだな・・・まずは臨時の会議でこのことを社員たちに伝えて・・・」

「いや、そういう事ではないです」

 

 言葉足らずですいません、と謝る。兄さんの聞きたいことは、シャルロットのことだろうな

 

「シャルロットとは・・・これからどうするつもりです?」

「・・・」

 

 アルベールさんは俺たちから目を背け、俯く

 

「・・・娘には辛い思いをさせてしまった。娘を守ろうとして冷たく接していたし、それに私の計画はあまりにも欠陥がありすぎた。偶然が重なったから娘も会社も助かったが・・・これでは娘を守ろうとしたなんて言う資格はない。そもそも私はクラリスを、シャルロットを捨てたのだ。いまさら父親面なんてできないさ」

「でもあなた、シャルロットが暴走した時は止めましたよね」

「あ、あれは無意識のうちに・・・体が勝手に・・・」

 

 ま、血の繋がった子供が殺人をする現場を見たら、誰だって止めるよな。普通は

 何気なく扉を見ると・・・あっ・・・

 アルベールさんはまだ気づいてないようだ。兄さんは・・・気づいているのかな?

 

「で、どうするんです?シャルロットとはやり直すつもりですか?」

「・・・いや、いまさらやり直そうとは思わない」

「どうしてですか!あの時、明らかにシャルロットはあなたを守ろうとしたじゃないですか!」

「先ほども言ったが、いまさら父親面はできない。おこがましいにもほどがある。シャルロットは私のことを・・・」

「そうなの?」

「!?」

「しゃ、シャルロット!?」

「いつからいたんだ?」

「束さんが出てきたときあたりから・・・ずっと扉の前で待ってた」

 

 兄さんとアルベールさんはやっとシャルロットがドアの前にいたことに驚く。本当に二人とも気づいていなかったようだ。というより、シャルロットはかなり序盤からいたことになるな。入ってくればよかったのに

 シャルロットは部屋に入り、アルベールさんの前まで歩く。兄さんは一歩下がってドアの前で立つ

 

「社長・・・本当のことを教えてください。僕のことをどう思っているんですか?」

「わ・・・私は・・・その・・・」

 

 言い淀んでいる。いろんな葛藤があるのだろう。娘として接したい。でも今までの行いが首を絞めている。それにシャルロットもどう思っているのか・・・

 

「・・・そんなに一緒にいたくないのですか?」

「そ、そんなことは!!」

「・・・だって僕のことを避けているように感じたので・・・」

「そ、それは・・・」

「「「・・・」」」

 

 どうするべきか、この沈黙。でも俺たちが口を出すべきではないはず。兄さんも見るに徹しているし・・・本人次第か

 

「もう嘘つかないで・・・」

「え?」

 

 するとシャルロットは怒るような、何かを訴えるかのように俯いて叫ぶ

 

「こんな時まで自身に嘘をつかないでって言ってるの!!」

「!」

「僕を守るためにしてきたんでしょ!?守るためにあえて突き放したんでしょ!!もうその必要はないだろ!!」

「シャルロット・・・」

「扉の前で聞いてたよ!本当だったら僕も捕まるかもしれなかったって、偶然が重なったからうまくいっただけだって!でも僕を助けようとしたことに変わりはないだろ!!」

「・・・」

「それに・・・僕を・・・僕をもう一人にしないでよ!!()()()()!!!」

「!!」

 

 シャルロットはアルベールさんに顔をうずめるようにして抱き着く。肩も震えている

 

「もう一人は嫌なの!!僕と離れないでよ!!!」

「・・・いいのか?」

「いいもなにも僕のためにしてくれたんでしょ?もう恨んでないから。だから、だから!うう~~~」

 

 シャルロットは強く抱きしめる。アルベールさんもシャルロットを抱きしめる。その目から涙がこぼれ落ちる

 

「すまなかった・・・今まで・・・すまなかったっ・・・!」

「お父さん・・・ううあっ・・・」

 

 良かった。これで本当に一件落着だ。もう親子仲がすれ違うことはなさそうだ。やばい、この光景を見ていると俺まで目頭が熱くなってきた

 目元を抑え、気分を紛らわそうと兄さんの方を見る

 

「・・・あれ?」

 

 兄さんがいない。もしかして部屋から出ていったのだろうか?空気を読んで出たのかもしれない。俺もこの部屋から出ると遠くに兄さんの背中が見えた。追いかけよう

 

 

 

 

 気づけば中庭のところまで来ていた。結構なスピードで歩いているからアルベールさんの病室からかなり遠ざかってしまったが、やっと兄さんに声が届くところまで来た

 

「兄さん!」

「・・・ああ、一夏か」

「・・・どうした?」

「なんでもない」

 

 嘘だ。明らかに不機嫌になっている。でも、何か癪に障ることがあっただろうか?

 

「なあ、一夏。やっぱり自分はさ」

 

 と兄さんは自販機の横に立ち、寄りかかるようにして吐き出す

 

「やっぱり、自分は・・・()()()()()()

「は?何言っているんだ。兄さんの暗躍があったからデュノア社は持ち直したし、アルベールさんだって・・・」

「そうじゃないんだ」

 

 兄さんは体の向きを変え、壁と向かい合うようにして立つ

 

「さっき束さんが言っていたこと、偽装入学のことだけどさ・・・自分も気づかなかった。束さんがいなけりゃあ、シャルロットもアルベールさんもデュノア社も助からなかった。自分のしたことなんて束さんと比べたら小さすぎる」

「いや、束さんと比べるのはやめたほうがいい。あの人は別格だから」

「まあ、そうなんだが・・・自分は自分のしたことで助けた気になっていたから、自分も楽観視していたことが情けなくってさ・・・」

 

 それだけじゃない気がする。兄さんの今の雰囲気は落ち込んでいるとかの感じじゃない

 

「それに、さっきの光景見てさ、なんとなく思ったんだ」

 

 ・・・分かってしまった。兄さんが何を言いたいのかも

 

「普通はさ、なんだかんだですれ違っていた親子の絆が戻って大団円!良かったとか感動したとか思うじゃん?」

「・・・」

「それなのに・・・それなのに()は・・・無性に腹立たしくなってさ。そんなことを思う自身に幻滅したというか、やっぱり最低だなって思っちまって」

「・・・」

「ホントさ・・・あの光景がなぜか腹立たしいし・・・そんな自分にも腹が立つ!!」

 

 ダン!!と自販機を叩く。

 兄さんは俺とは違って、実の親から虐待を受けた。だから親子の絆を題材とした絵や小説はかなり嫌っている。だからあの光景も兄さんの癪に障ったのだろう。でも女尊男卑の人間を制裁した結果、関係が修復されたという事もあり、ああなるように願っていたのも事実だ。なんて声を掛けたら・・・

 

「・・・ほんと、一夏には申し訳ないな。こんな最低な兄貴でよ・・・」

「・・・ッ!!」

 

 そんなことない!兄さんは立派だ!そんな卑屈になるな!って、言いたい。でも兄さんのことだ。下手に褒めると余計に落ち込んでしまう

 どうしようかと考えた結果、俺が導いた行動は・・・

 

「・・・そこのベンチに座ったら?少しは落ち着こう?」

「・・・ああ」

 

 俺は兄さんをベンチに座るように促した。こういうときは何もしないのがいい。ただ時が過ぎるようにすればいい。たまにはそんな時間(とき)が必要なのだから

 中庭では心地よい風が吹き、青空が広がっている。兄さんはベンチに座って空を見つめる。俺も隣に座って空を見る。言葉を交わすことなく、ゆっくりと時間は過ぎていく

 雲一つない空に小鳥が二羽羽ばたいていった

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「そういえばなんですが一つだけ気になる点があるんです」

 

 気分を落ち着かせて二人のいる病室に戻った後、自分はある疑問をアルベールさんに聞く

 

「どうして自分と関わるなとシャルロットに命令したのですか?織斑よりもデータの価値はあると思いますが」

「そ、それは・・・」

 

 なぜか言い淀むアルベールさん。何かあるのか?

 

「雪広君に対してある噂があってな・・・火の無いところに煙は立たぬというだろう?」

「どうせろくでもないか悪い噂なのでしょう?」

 

 女尊男卑の人間が流しているんだろう。自分たちの価値を下げようとするために

 

「で、どんな噂なんです?」

 

 どんな質の低い噂が流れているのか、気にはなる

 

「・・・『遠藤雪広はイギリス代表候補生を再起不能にするまで叩き潰した』とか『遠藤雪広は気に入らないイギリス国家を潰した』でな」

「「・・・」」

 

 ・・・・・・

 

「実際にイギリスはそのようになっているし・・・もしものことを思ったらそんな人間と接触はさせたくないと思ってな」

「・・・」

「まあ、噂は噂でしかなかったからな。噂に振り回されて申し訳ない」

 

 その噂は事実です。持ち上げないでください。

 一夏、そのジト目を向けないでください

 

「・・・なんて顔をすればいい?」

「笑えばいいさ」

「「?」」

 

 デュノア親子は真実を知らず、疑問符を浮かべていた




 シャルロットの家の問題はかなり難しいですよね。書く側だとここの処理が大変だと思い知らされました
 これでデュノア社問題は終わりです。次は説明回


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話までの主要登場人物紹介と機体説明

 追加説明あり
 ある程度は読み飛ばして構いません


主要登場人物紹介

 

・シャルロット・デュノア

見た目 覚醒前は原作と同じ

    覚醒後はツリ目に

 

 フランスの代表候補生。

 幼少期はフランスの片田舎で母のクラリスと二人で生活をしていた。だが13歳の時に母が死去したのち、デュノア社に引き取られる。その時に父親がデュノア社社長のアルベール・デュノアだと知る。

 デュノア社ではISの適性検査から非公式のテストパイロットとなる。その後IS学園に男性IS操縦者のデータを取るように命令され、男装して入学。しかし、遠藤兄弟に即バレる。

 デュノア社に突入した時にアルベールから事情を聞き、真相を知る。その後抵抗するロマーヌに頭を撃たれ重体となるが、それがトリガーとなって覚醒。男勝りな性格が前に出るようになる。ロマーヌを倒した後、アルベールと和解。

 雪広とはアルベールから接触するなと釘を打たれていたため警戒するが、彼のことを知り、良い印象を持つ。特にシャルロット自身を救ってくれるように陰ながらも一番動いてくれたことに心をときめかせる。

 一夏とはそれほど警戒していなかったが、正体がばれた後は頼れる印象を持つ。鈴といい関係なことをうらやましく思っている

 

 

・アルベール・デュノア

見た目 「鋼の錬金術師」のヴァン・ホーエンハイム

 

 シャルロット・デュノアの実の父。

 大学卒業後、デュノア社の一般社員として働き、その中でクラリスと付き合う。ある程度したら社長になるはずだったが、先代の社長が急死したため、若くして社長になった。そのため一度会社は傾いてしまい、資金援助をしてもらう代わりにロマーヌと婚約。その時にクラリスとは別れることに。クラリスが身ごもっていることを知ったときは社長を辞める気でいたが逆に説得され、もしものときは娘を救ってほしいと言われる。

 クラリスが亡くなった後、シャルロットを引き取るが再度会社が傾き、娘を助けようと何とかしようとした結果、データを盗むという名目で娘をIS学園に入れさせることにした。実際はこの方法は悪手だったが、束の協力によって事なきを得る。本人曰く「奇跡が重なったから良かったものの、人生で最大の失敗」とのこと。

 束のISに関する論文に対し、好印象を持っていたが協力することはできなかった。が、この思いが束に対して好印象を持たせたため、周り回ってシャルロットを助ける要因となった。

 シャルロットとは真実を話した後も罪悪感から距離を取ろうとしてしまったが、シャルロットの思いを知り、完全に和解。大事な娘。

 ロマーヌとは政略結婚で、しかもロマーヌが傲慢だったため愛情は無かった。薄々彼女が会社の経営危機の原因ではないかと思っていた。ロマーヌが警察に捕まった後すぐに離婚をし、縁を切った。

 雪広とは『雪広がイギリスのIS産業を潰した』という噂(結果的にホント)から最も警戒していた。実際にデュノア社に乗り込んできたときは死を悟ったが、味方となり助けてくれたため感謝しつつも、噂に振り回されたことを申し訳なく思っている。

 

 

・クラリス

見た目 「鋼の錬金術師」のトリシャ・エルリック

 

 シャルロットの実の母。

 思いやりはあるが男勝りで、自身の思ったことをすぐには曲げようとしない性格。デュノア社で働いているときにアルベールと知り合い、恋仲になる。だがアルベールが若くして社長となり、会社の事情を知ってクラリス自ら別れを決断。その時にシャルロットを身ごもっていることを知った上での行動だった。その後シャルロットを一人で育てるも、病死する。

 

 

・ロマーヌ

 

 デュノア社の元社長夫人でシャルロットの元義理の母。自己中心的で傲慢。時代の流れで女尊男卑の思考になる。デュノア社の横領をしていた張本人。会社を潰してさっさと別の会社に寄生するつもりでいたが、雪広の暴露により悪事がばれる。その後女性権利団体からもらったISでひと暴れするが、覚醒したシャルロットに敗北。右手を欠損し、顔も無残にされる。

 

 

 

機体説明

 

・ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ

 シャルロットの専用機であり、フランスの第二世代IS。基本装備をすべて外し拡張領域が倍になっている。そのため装備格納数は20と現段階で最多。また、シャルロットの持つ「ラピッド・スイッチ」に対応できるようにバススロットに高速処理を施している。第二世代とはいえ、そのスペックは第三世代に匹敵する。楯殺し(シールド・ピアース)も存在。

 

 

 形態変化条件

 最大SEの10%を()()()()()ことで発動可能。ただし、SEが15%を下回っている場合は発動不可。

 形態変化時は自身でダメージを与えた場所から体、機体共に黒く染まり、足元からその黒が消えていく。

 雪広たちと同じく形態変化時はダメージを受けず、逆に形態変化中に触れるとSEが削られる

 

 形態変化後の特徴

・カラーリングがオレンジから濁ったようなダークオレンジになる

・新たな武器「大鎌」が使用可能となる

・一人称が「俺」になり、残虐性が増す

・パワーが大きく上昇、他の機能も上昇するが、燃費が悪くなる

・目のハイライトが消える

 

 

 形態変化後の単一能力

 「malédiction(マレディクション)

 人型のエネルギー体を作る単一能力。「オート」と「マニュエル」の二種類ある。どちらも1体ごとにSEを消費する。「オート」はそのエネルギー体が自動で行動するためシャルロット自身の負担も少ないが、シャルロット以外は攻撃対象となってしまうためチーム戦は不向き。「マニュエル」はシャルロットが自由に動かせられるため制御しやすく、盾としてシャルロットを守らせることも可能。ただし制御しなければならないため、シャルロットの負担が大きく、SE消費量も「オート」より多いのが欠点。

 現段階では「オート」では2体、「マニュエル」では1体が限界

 ロマーヌ戦では「マニュエル」で操作をしていた

 

 

 

・ラファール・リヴァイブ・Ω

 ロマーヌが使っていた女性権利団体のIS。元はデュノア社の機体だったが、ロマーヌが勝手に私物化した上に無断改装を施す。ラファール・リヴァイブの原型は同じだが赤黒のカラーリングをしている。

 第三世代兵器として「強力な重力(ピュイサン・グラヴィテ)」を装備している。これは対象のISに対して重力を増幅させるだけでなく、逆向きにも力が働くように変換される。複数に発動させると効果は弱まるが、重ね掛けは二回まで可能。また、対象が離れすぎると効果が無くなる。

 

 

 

 

 

 その他

 

・女性権利団体

 元は日本が男女平等ではなかった時に女性の地位向上のために設立した団体。だが、男女平等となったときから過激なフェミニストが目立つようになり、ISが世に浸透してからは女尊男卑の思考を持つようになり、しかも世界に広まってしまう。

 ISの生みの親の篠ノ之束、初代ブリュンヒルデの織斑千冬を神として、織斑一春は神の血が流れるアダムとして崇拝されている。それ以外の男はゴミと見なしている。本人たちはそのことを知らない

 犯罪行為も女性なら何しても良いという過激な思考を持つ人間で上層部は構成されており、国の重役もこの団体に属する人がいるため、不祥事をもみ消している。亡国機業とのつながりがあるのではないかと予想されている。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 悪魔の言霊

 祝、20話!
 まさかここまで行けるとは・・・私自身びっくりです

 今回何と男主人公たちが!(コマーシャル風)


 週が明けた月曜の放課後。あたしは学年別トーナメントに向けて第三アリーナで調整をしている。一夏たちはうまくいったらしく、昨日の夜に一夏から国際電話で聞いた。ケガしたって聞いた時は焦っちゃったけど、無事で何よりだったわ。一夏たちは向こうの時間で昨日の昼に飛行機で日本に帰るって言っていたから、もう日本にはいる時間だろう。明日から授業に復帰するとのこと。会うのは明日までの辛抱ね。

 それにしても簪が来ないわね。何かあったのかしら?

 

「お待たせ~」

「遅かったじゃない?どうしたのよ」

「お姉ちゃんたら、ま~た仕事をさぼっていたから・・・やりなさい!って喝を与えていたの」

「またあの人は・・・頼りになるのかならないのか」

「時に頼れるニート的な?」

 

 めちゃめちゃディスってるわね。楯無さんいたら泣くわよ、きっと

 

「そういえばなんだけど・・・今朝の噂聞いた?」

「ああ、『学年別トーナメントで優勝したら男子のうち誰かと交際できる』ってやつ?」

「それ。鈴はどう思う?」

「どうせデマでしょ。どっかの誰かが言ったのか、もしくは尾ひれがついた結果があれなんじゃない?女子が好きそうな話題じゃない」

 

 もしくは生徒のやる気を出すために楯無さんが言ったか

 何はともあれ、噂に振り回されるのはよくない。しっかりと情報源とかを確認しないとね

 

「で、ホントのとこはどうなの?」

「別に、そもそも一夏や雪広に対して拒否権がないじゃない。そういうのはアイツら嫌うわ」

「だよね~特に雪広は嫌いそう」

 

 とはいえ敗退するつもりもない。こっちだって中国の代表候補生としての意地があるもの!

 

「噂がどうであれ私は負けるつもりなんてないよ。もちろん鈴にも」

「ふふん!今日こそアンタを完全攻略してやるわ!」

 

 実は簪に対して負け越している。まだ形態変化についていけず、こちらが不利になってしまうことが多い。何とかしてトーナメントまでに戦略を立てないと

 運よくここにはあたしたち以外誰もいない。今すぐに模擬戦を始められる。そう思った矢先・・・

 

「おい!なんでてめえらがいる!」

「ここは一春が使うんだ!貴様らはさっさと出ていけ!!」

 

 チッ、思わず舌打ちをしてしまう。なんで織斑一春(クズ)篠ノ之箒(取り巻き)が来るんだ。そもそもあたしたちが金曜の昼に申請した時はアンタらが使うとはどこにも書いてなかったわよ?

 

「どうせアンタのお姉さんに頼んで強引に変えたんでしょう?ブリュンヒルデの七光り君?」

「なんだと!?俺を馬鹿にしやがって!!」

「貴様!許さん!!」

 

 否定しないってことはほぼ確定ね。本当にあのクズ教師、公平性のかけらもない。ふざけやがって

 だが、こちらも黙って引き下がるのも癪だ

 

「だったら相手してあげるわよ。負けたらここから立ち去りなさい」

「ふん!俺様が負けるわけねえ!」

「何言ってるの?あんたに負ける未来が見えないわよ。何だったらそこのモップも相手してやるわ」

「何だと!?馬鹿にするな!!」

 

 二対一ならいい練習相手にはなる。簪の前に準備運動がてらやってやる。と思ったのだが

 

「ちょっと!私も戦いたいよ!」

「じゃあ二対二にする?でもそれだと速攻よ?」

「じゃあじゃんけんしよ!勝った方があれらとやるで」

「なめやがってええ!!!」

「成敗してくれる!!」

 

 馬鹿にされて激昂したクズどもが私たちに切りかかる。まだ試合が始まっていないのに、ホント最低で低能なやつらね。ならこちらも・・・

 

ドゴン!

「「「「!?」」」」

 

 クズどもが突っ込んでくる直線状に砲弾が飛来する。いきなりのことでクズどもも緊急停止し、砲弾が飛んできた方向を見る

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

 織斑の顔がゆがむ。そういえばコイツ、入学してすぐにボーデヴィッヒに殴られていたわね。詳しくは知らないけど

 

「貴様!邪魔をするな!!」

「教官の弟の『白式』に日本の『打鉄弐式』、中国の『甲龍(こうりゅう)』か・・・データで見たほうがまだ強そうではあったな」

「何だと!?」

「一春を馬鹿にするな!!」

 

 味方・・・ではなさそうね。これはどうなるやら。三つ巴ならまだマシ。厄介なのは奴らが手を組むこと、だけどそれはなさそうね

 

「何?さりげなく私をディスってるけど、アンチ?」

「いちいち噛みついたら負けよ、簪」

「大丈夫、大丈夫。落ち着いているよ~」

 

 こんな見え見えの煽りに乗るつもりはない。どうせこの場で戦闘させ情報を引きぬくか、もしくは大会前に潰しにかかるか

 こいつの雰囲気からでしか詳しく察する情報がないのはつらいわね。雪広はシャルロットのことでボーデヴィッヒのことを何も調べられていないから何にも分からないのよね。あたしも簪も組が違うし、一夏たちもいなかったから一組に行く理由もなかったし。

 

「まずはテメエから潰してやる!!」

「ハッ!教官の弟にあるまじき弱さ、そんな奴が専用機を持とうと私にかなうはずが無い!何なら貴様ら四人まとめて来たらどうだ?」

「俺様に喧嘩売ったことを後悔させてやる!!いくぞ、箒!!」

「ああ!!その無駄口を叩けなくしてやる!!」

 

 と、馬鹿二人はボーデヴィッヒに突っ込んでいく。あたしたちはというと・・・

 

「どうする?」

「私はパス。あいつらの仲間と思われるのは死んでもごめんだよ。やる気が一気に失せちゃった」

「奇遇ね。あたしも」

 

 さっきの言葉、アイツにとっては煽るつもりでいたようだがあたしたちにとってはやる気が失せる内容だ。あたしもあんなクズどもと一括りにされるのはごめんだわ

 

「で、どうかしら?この試合」

「どう考えてもアンチ(ボーデヴィッヒ)が勝つでしょう?逆に負けたら専用機を持つ代表候補生として恥だよ」

 

 アンチって・・・まあ合っているけどね

 

 

 

 試合内容?5分くらいで決したわよ。速攻で取り巻き(モップ)が落とされ、クズも零落白夜を当てられずにボコされた。ただその試合でアイツの第三世代型兵器がどんなのかは分かったわ

 

 『慣性停止能力(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)

 

 読んで字のごとく、動いている物体を止める能力だ。はっきり言って強すぎる能力だ。だって一対一ならそれに捕まった時点でタコ殴りにされて詰むもの

 その分欠点もあるはず。簪とプライベートチャネルでその能力の効果範囲について話し合う

 

『どう思う?あの能力の範囲』

『一点・・・ではなさそう。流石にそれだと扱いづらいから、多分一本の線に触れると発動する感じかな』

『一本の線・・・面じゃなくて?』

『面かもしれない。でも見た感じあの能力はすごく集中しないと出来なさそうだし、面だとそれだけで手いっぱいになりそう』

 

 なるほど。確かにあの能力を使っているときは周りを気にするそぶりがなかった。つまり周りを警戒していなかったのではなく、できなかったほうが正しいのか。それならまだ攻略できそうね

 

『ところでなんかあのクズ、いたぶられてない?』

『いいじゃん。ざまあって気分だし』

『でもこれで再起不能になるまであたしたちは放っておいたら、あの教師がうるさいんじゃない?』

『・・・確かに』

 

 どうせ『なぜ助けなかった!!代表候補生としての自覚はあるのか!?』とかいう未来が見える

 

『あたしだって助けたくないわよ。でも後々面倒だし』

『はぁ~~~・・・仕方ない。止めさせるか』

 

 プライベートチャネルを切って、こちらも動きだす。ああ、ああ、完膚なきまでに潰されているわね。ボーデヴィッヒは無傷に対して、クズどものほうはISアーマーも一部失われているし、もうSEは残ってなさそうね

 とどめに一発撃とうとした大型カノンに向けて衝撃砲を放つ。ヤツもそれに気づいたようでクズどもから離れる

 

「ほう、やっと貴様らが来たか」

「何言っているの、コイツを回収しに来たのよ」

「おい!邪魔をするな!!こいつを叩き潰して・・・」

「無理だろ。ここから逆転なんて奇跡を重ねないとできないのに、馬鹿なんじゃないの?」

「なんだと!?テメエ!!」

「いいのよ。あたしたちはアンタらがここで殺されようとも」

 

 命の危機を感じ取ったのか、さすがにクズどもも黙った。本当にめんどくさいんだから

 

「逃げるのか?ずいぶんと腰抜けた代表候補生だな」

「別にアンタとやる理由なんてないもの」

「アンチと接触したくないしね」

「なら、戦わざるを得ない状態にしてやる!!」

 

 あたしたちに照準を合わせる。あたしたちはクズどもをその場に残して二手に分かれてその砲撃をクズどもから逸らすように誘導する。あたしの方を狙ってきたか

 とにかく躱すことに専念する。一定の距離を取りつつも、こちらからは手出ししない

 

「貴様!なめているのか!!」

「だから、あたしたちは戦うつもりなんてないのよ」

 

 こちらの手の内を晒すつもりはないし、アンタの考えに乗るほどお人よしじゃないのよ

 ある程度逃げ回るとアイツも頭に血が上ったのか、あたしに見切りをつけ簪に砲撃をする

 

「なら貴様から倒してやる!!」

 

 なんか簪が悪い顔になっている。何か企んで・・・あっ

 

「くらえ!!」

 

 ボーデヴィッヒの砲撃に対して難なく躱す簪。その後ろには

 

「「は?」」

 

 クズどもがいた。事故と見せるためにわざとやったわね。

 

「う、うわあああ!!」

 

 悲鳴を上げるクズ。あたしから離れているからかばえないけど、みっともなくて笑ったわ。まあ、この程度なら死にはしないだろう

 とその時、クズをかばうように影が入り込んできた。そして、その砲撃をはじく

 

「ち、千冬姉!!」

 

 ピンチの時に颯爽と登場しているが、はっきり言って遅すぎる。ISを纏ってないのにブレードを持って砲弾をはじくのは恐ろしいが、こちらにとっては害悪でしかない

 

「おい、更識妹。今のはどういうことだ」

「どうとは?」

「お前が避けたせいで一春たちが危険な目にあったという事だ。どう責任を取ってもらおうか」

 

 どうせ専用機を取り上げようとするんだろう。何かにつけて専用機を寄越せとしか言わないな、コイツ。でも簪も黙ってはいない

 

「そもそもここでドンパチしているときに止めに入るのが普通では?一体あなたは何をしていたのでしょうか?職務怠慢ですよ」

「クッ・・・」

「あなたが入ればそこのアンチも矛を収めていたはずなのに、私たちがそこのアンチに潰されるのを待っていたのではありませんか?」

「・・・」

 

 沈黙は肯定と見なせる。こいつの本性を世界中に発信させてやりたい。こんな教育者として最低な奴がブリュンヒルデでIS学園の教師をしているのだと

 

「でも結局は愛しの雑魚が壊されそうになったから止めに入った。違いますか」

「・・・!」

 

 殺気。軽蔑していた簪はすぐさまバックステップで距離を取る。数瞬後、簪のいたところにブレードが振り下ろされた

 

「言葉をわきまえろよ、小娘」

「尊敬できる人にはわきまえますよ。アンタには微塵もその気持ちがわかないのでね」

「「・・・」」

 

 にらみ合いが続く。どうしようかと考えていると、ボーデヴィッヒが口を開く

 

「教官、私はどうしたら良いのでしょうか!」

「・・・この戦いは学年別トーナメントでつけてもらおう。それまで一切の私闘を禁ずる!」

 

 なるほど、そう来たか。これならボーデヴィッヒはクズに対して危害を加えられないからね。本来ならあたしたちが潰れればという算段だったのだろう。クズ教師は渋い顔で言っていたから。

 クズ教師はゴミどもを連れてピットから、ボーデヴィッヒも別のピットから出ていく。ここにはあたしと簪しかいない。でも訓練する気じゃなくなった

 

「どうしようか?」

「なんか疲れちゃったから終わりにしない?」

「そうね。今日はもう切り上げね」

 

 本来なら簪の形態変化突破の鍵を見つけようと思ったけど・・・ま、ボーデヴィッヒがどんな奴で実際に触れたから良かったとしよう

 

 あとクズたちは機体が大破したとはいえ、トーナメントには間に合うとのこと。もう少し助けるのを遅らせてよかったわね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夕方、夏が近いこともあり18時半でも夕日がきらめいている

 

「あー、右手痛い。」

 

 私はたまりに溜まった生徒会の仕事をかなり終わらすことに成功した。本当ならもう少し溜めても大丈夫だと思ったが、簪ちゃん(愛しの妹)に喝を入れられちゃったからやらざるを得ないわ。仕事の後、虚ちゃんと別れ、私はなんとなく散歩をしてから部屋に戻ろうと思った。運よく簪ちゃんとすれ違えればな~なんて。ぐへへ

 

「・・・ん?」

 

 そんなことを考えていると曲がり角の先で言い争う声が聞こえた。だが声の片方の正体が分かったため、息を殺して近づく。そばの植木に超小型の盗聴器を仕掛けておいてそこから離れる。

 

『何故こんなところで教師など!』

『やれやれ』

 

 どうやら織斑千冬と直近で転校してきたばかりのラウラ・ボーデヴィッヒのようだ

 

『何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ』

『このような極東の地で、何の役目があるのですか!?』

 

そういえばラウラちゃんは昔織斑千冬に教えられていたわね。あんな奴を尊敬するなんて・・・見る目が無いわね

 

『お願いです。ドイツで再びご指導をしてください!ここではあなたの能力は半分も生かされません』

『何故言い切れる?』

『この学園の生徒のほとんどは意識が低く、ISをファッションと勘違いしているからです。なにより、教官に反発する輩もいる始末!』

『ほう』

 

 その後もラウラちゃんは危機感がないだの、教える価値がないなどひとしきりの言葉を吐き出す。確かにISは兵器だしその意見は間違ってはいない。だけど皆があなたのような軍人ではないのよ。その意識を在学中に持つための学校でもあるんだから

 って、本人に言っても聞かないだろうけど

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ』

『はっ!』

『お前は私に歯向かう人間をどう思う?』

『万死に値します!』

『そうか・・・』

 

 何を企んでいるというの?

 

『今月末の学年末トーナメントがあるだろ?』

『はい!十分承知しております!』

『お前はその反逆者と早く当たりたいか、決勝で当たりたいか、どちらだ?』

『私は真っ先にこの手で潰したいです!』

『そうか・・・ならそうなるように手配してやる』

 

 は?トーナメントはランダムにしているのに・・・まさか勝手に変えようというの!?

 

『で、だ。私からボーデヴィッヒに命令を与える』

『はい!何なりとおっしゃってください!』

『一回戦で遠藤雪広をお前に当てる。その時に・・・完膚なきまで叩き潰せ。()()()()()()

「!!!」

『了解しました!教官の期待に応えて見せます!!』

 

 たったったっ、と歩き去る音が聞こえる。ラウラちゃんが去ったようだ。私も盗聴をやめようとした時

 

『ふふ、使える()は使わないとな』

「!?」

 

 すたすた、と織斑千冬も去ったようだ。だが今の言葉は不快すぎる。あんなに慕っていた部下を駒呼ばわりするのは人として間違っている。一春以外はどうなってもいいという事か

 でも、今のままだと遠藤兄弟、特に雪広君が危ない。いくら彼らが強くても一対一では間違いなくラウラちゃんが最強だ。これでは試合で事故として殺されてしまうかもしれない。どうしたら・・・

 

「そうだ!だから・・・今すぐに学園長室に行かないと!」

 

 まずはこのことを十蔵さんに伝えないと。そして私の案を通してもらおう。私は足早に学園長室に向かった。

 

 ・・・っとその前に盗聴器を回収しないと

 

 




 出番ありません!
 何気に初めてのことです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 相手探し

 お気に入りが300突破
 いや本当ありがたいです、というよりも意外と見ている人が多くてびっくりです
 これからの展開で減りそうですが



 火曜日。約一週間ぶりの登校だ。みんなも久しぶりとか声をかけてくれる。いつも通りの日常が始まる。ただ一つ、シャルロットがいないことを除いて

 SHRの時間となって、山田先生が教室に入ってくる

 

「皆さん、おはようございます。今日はですね、転校生・・・というべきなのでしょうか?と、とにかく入ってきてください」

「失礼します」

 

 入ってきたのはシャルロットだった。今までと異なるのは男子の制服ではなく、女子の制服を着ていることだ。もう性別を偽らなくてもいいからな

 

「シャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアです。諸事情により性別を偽って入学していましたが、問題が解消したので本当の姿でこれからこの学園の生徒になります。改めてよろしくお願いします」

 

 一礼するシャルロット。それにより、教室はざわつく。まだ日本ではデュノア社のニュースは報道してないようでシャルロットの事情を知らない人がほとんどだ。男と思っていたからか、狙っていた女子からは落胆の声が大きかった。中にはカップリングが消えたと嘆く人もちらほら。そんな中、クズ(織斑一春)はじろじろとシャルロットを見ている

 山田先生はざわつきを鎮めるようにSHRを続ける

 

「皆さん、まだSHRは終わっていませんよ!もう一つ重大なことがあるので聞いてください!!」

 

 なんだ?重大なことって。みんなもさっきまでの騒ぎが嘘のように静まる

 

「今月末のトーナメントですが、今年はタッグマッチになりました!」

 

 タッグマッチだと?いきなりのルール変更に再度ざわつく。自分も驚いている。なにせ、今まで個人戦しかやったことがないからな。

 大まかなこととしては大会までにペアを申請すること、それまでにペアが決まってない場合は当日にランダムで決まるとのこと。細かいルールは追って伝えるそうだ。その情報はしっかり取っておかなければ

 と、SHRが終わると同時にクズがシャルロットに近づく

 

「やあ、シャルロット。色々と大変だったんだね」

 

 何だアイツ?シャルロットになれなれしく話して。今までは関わるな的な雰囲気を出していたくせに

 

「俺は君が女の子だったことをうすうす感じていたよ」

「・・・」

「だからさ。今回の学年末トーナメント、一緒に組まないか?俺と」

 

 右手を差し出すクズ。女だと思ってなかっただろ、絶対。言葉だけではいい男に見えなくもないが頭の中は邪なことで埋まっているだろう

 そんな右手をシャルロットは

 

 パァン!

 

 自身の右手を振りかぶって、クズの右手の甲を思い切りはたく。かなりの音でクラスのざわつきもなくなる。クズも予想外のことだったのか呆然としていた

 

「よく言えるね。何にも知らないくせに」

 

 身長の都合上、睨み上げるようにクズを見るシャルロット。それはそうだろう。ヤツはシャルロットのことを何も知らないのだし

 

「男装しているときは関わろうとしてこなかったくせに、今になって関わってくるなんてさ。キモイんだよ」

「なっ!?」

「っていうか、さっきから胸見すぎ。どうせ僕の体が目当て何でしょう?」

「そ、そんなわけあるか!そんな出まかせ!」

「そういう目線って女はわかるんだよ。さっきから僕の体をなめるように見やがって。ゴミクズが」

「貴様!口をわきまえろ!!」

 

 モップが木刀を振りかぶる。なんかこの流れも久々な気がする。前までだったら止めに入っただろう。でも入らない。なぜならば

 

「・・・ラアッ!」

 

 木刀を躱し、そのまま回転して回し蹴りをモップの肝臓あたりに直撃させる。見事なほどのクリーンヒットだ。モップも声を出せずに蹴られたところを抑えてうずくまる

 

「箒!?」

「お前にはそこのゴリラ女が十分だろ。中身はクズだけど体ならそっちの方がお気に入りだろ?」

「てめえ・・・!」

 

 クズがゆがんだ笑いを浮かべる。そして、その奥の女子たちが何かに怯えている。何事かとドアのほうを向くと、クズ教師(織斑千冬)がいた。

 シャルロットに警告をする前にクズ教師はシャルロットに近づき、縦にした出席簿をシャルロットに目掛けて振り下ろす。流石にまずい!

 

「シッ!」

ガァン!

 

 しかし、見越していたように後ろ回し蹴りで出席簿の面をとらえ、それを吹っ飛ばす。今出席簿から出てはいけないような金属音が聞こえたのだが?あれを頭に振り下ろすクズ教師は・・・どうかしてるんだった

 それよりもスカートでやる技ではないな。パンツ見せすぎ

 

「なんですか?なんてものを振り下ろすおつもりですか?暴力教師」

「口をわきまえろよ、小娘。ここは私が法なのだからな」

「ハッ!そんなクソみたいな法があってたまるかよ。terreur(テルール)かよ、ここは」

 

 テルール・・・18世紀にフランスであった恐怖政治か。まさしくその通りだな。独裁的だし、自身の意見に反するヤツをぶっ叩いているし。

 でもこれじゃあ埒が明かないのでシャルロットを止めに入るか

 

「それ以上は止めとけ。何言っても無駄だ。それに授業が始まる」

「・・・はーい」

 

 食らいついてくるかと思ったが、割とすんなり聞いてくれた。タイミングよく一限目開始の時刻となったため全員席に着く。最初はこのクズ教師のIS理論だった。どうせ自分たちにガンガン質問を飛ばしてくるだろう。でも休んでいた分はのほほんさんに頼んでおいたノートを写させてもらったし、授業に置いて行かれることはない

 

 その次の休みにはシャルロットの所にみんなが集まり、性格が変わったとか色々と問い詰められていた。それでもクラスの仲間とは打ち解けられたようでなんか安心した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の休み時間はシャルロットだけでなく、俺たちの周りにも女子が集まった。というのも・・・

 

「私と組んで!一夏君!!」

「ぜひ私と!雪広君!!」

 

 俺たちをタッグマッチのペアになりたい女子が多いようだ。男子だからというのもあるだろうが、俺たちは専用機持ちでもある。つまり仲間にすれば一気に優勝のチャンスが広がるというわけか。でも、いきなり決めるわけにもいかない。なにせ初めてのタッグマッチだし、中には初対面の子もいる。兄さんも慎重になっているようだ。

 その中で聞きなれた声がする

 

「雪広、一夏、久しぶり」

「簪か。久しぶりだな」

「・・・簪も自分とペアになりたい感じか?」

 

 簪は兄さんのことが好きだから、一組に来て立候補するために来た・・・と思ったのだが簪は首を横に振る

 

「ううん、お姉ちゃんから伝言預かっているの」

「伝言?」

「うん、『今日の昼、生徒会室に来て』だって。私も詳しいことは知らない」

 

 何だろう?問題を起こしたというわけじゃなさそうだし、思い当たることが何もない。兄さんとアイコンタクトするも、兄さんも知らないようだ

 

 

 

 

 という事で、何事もなく昼休み。俺たちは生徒会室に来た。ノックして入ると楯無さんが座っていた

 

「来たわね。それじゃあ座って」

 

 適当に俺たちは座る。いつもは冗談を一つや二つは言う楯無さんがいきなり本題に入るなんて・・・一体何があったのだろうか?

 

「実はね、今回のトーナメントでタッグマッチにしたのは私の案なの」

「そうなんですか。でもどうしていきなり変えたんです?」

「・・・実はね、昨日ラウラちゃんと織斑千冬が話をしている現場を偶然とらえたのよ」

 

 そこから昨日あった会話を聞いた。織斑千冬が対戦カードを操作して兄さんとボーデヴィッヒを一回戦で当てること。そして、その時に公開処刑をするとのこと

 

「私の予想だと織斑千冬は試合終了の合図をオフにしてラウラちゃんが雪広君を再起不能になる、もしくは殺すまでいたぶらせるつもりよ」

「・・・なるほど。機械の故障だったと言って事故に見せかけようという魂胆か。笑えないな」

「はっきり言うと現時点で一年生最強はラウラちゃんよ。君たちには申し訳ないけど、彼女は軍人でISの稼働時間も長い。一対一ではかなわないわ」

「だからタッグマッチにした、と」

 

 そうよ、と言いつつ「正解」と書かれた扇子を開く。これはかなり深刻なことでは?

 

「で、そのタッグマッチトーナメントで君たち二人には代表候補生とペアになってほしいのよ」

「確かに、そうすれば自分がボーデヴィッヒに勝てる確率が上がる」

「ですが、それだと他の一般生徒から文句言われません?戦力が固まりすぎると」

「それに関しては安心して。専用機持ちは『相手が専用機を持っているとき()()自分の専用機を使うことができる』って補足を出したから」

 

 なるほど、つまり相手が専用機を持っていない二人ならば、こちらも訓練機で戦わなければならないわけか。それなら戦力的に文句を言う人は少なくなるだろう

 

「自分と一夏が組む、というのは無しですか?コンビネーションなら一番良いかと」

「・・・それも考えたけど、君たちはISでのタッグマッチは経験ないでしょ?普段コンビネーションが取れていても、IS戦ではそうとも言えるかわからないし・・・時間的にも厳しいかなと思うの」

「そうですね。失礼しました」

 

 兄さんが頭を下げる。普段が相性良くてもIS戦という普段ではない中ではうまく連携が取れるか分からないからな

 

「という事で、私の話はおしまい。わざわざありがとうね」

「いえ、こちらこそありがとうございます」

「ありがとうございます」

 

 そう言って俺たちは生徒会室を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になった。楯無さんの話から簪かシャルロットと組むことになる。一夏が放課後、速攻で2組に突っ込んでいったから鈴はなしだ。弟の恋路を邪魔しないのがいい兄貴ってもんよ

 と、話がずれた。簪かシャルロット、どちらに頼むか・・・シャルロットは未だに女子たちが集まって話せそうにないし、友達歴の長い簪に頼もう。席を立って、廊下に出る

 簪なら今回の件を分かってくれるはずだ。それに自分のことも言わなければ。なんだかんだで簪の告白から一週間以上も空いてしまった。早く言わないと・・・

 いや待て、自分のことを言うタイミングか?このタイミングで自分のことを暴露したら、コンビネーションに支障が出てしまうんじゃないか?でも早く話さないといけないし・・・

 

「きゃっ!」

「うおっと!」

 

 堂々巡りしていて人とぶつかってしまった、って

 

「簪!?」

「雪広、どうしたの?考え事?」

「あ、ああ。まあな」

 

 即エンカウントするなんて。ツいてるのかツいてないのか

 まずはペアになりたいかだけ聞こう

 

「簪ってさ、タッグマッチのペア決めた?」

「うん。本音と」

 

 え?

 

「ほ、本音・・・のほほんさんと?」

「うん。どうしたの?」

「いや、てっきり自分と組みたいって言うのかと」

「・・・それは自意識過剰なんじゃないの~?」

 

 簪はニヤニヤと笑ってくる。やべ、今の発言はイキった発言だった!そんなつもりじゃなかったのに!

 

「いや、その・・・簪の気持ち的にそうなのかな~って」

「まあ、雪広と組みたい気持ちもあったよ。でも本音のほうがコンビネーションいいと思ったの」

「そういえばのほほんさんは簪の従者だったな。普段そんな感じしないから忘れてた」

「本音とならISで訓練したこともあるし。それに、雪広達と戦いたいし?ペアだと勝負できないからね。雪広達に勝って、簪ちゃんが最強なのを証明するのだ!」

 

 少し前まではこんな発言なんてしないような感じだったのに、すっかり成長(?)しちゃって・・・

 

「だから気にしないで。トーナメントが終わった後に返事を教えてもらうから」

「!」

「それじゃ、またね~」

 

 足早に簪は去っていく

 ・・・気を使ってくれたのだろう。たとえ性格が変わっても根はやさしいことに変わりはないんだな。そんなやさしさに後ろめたくも感謝している。トーナメントが終わったらしっかりと向き合おう。でも、負ける気はさらさらない!

 それじゃ、シャルロットのいる一組に戻ろう

 

 

 

 どこだ?一組に戻ったがシャルロットいなかった。いろんなところ回ったがどこにもいない。みんなに聞いても見失ったとかで有力情報がない。部屋にもいないとすると・・・あとは、屋上か?

 ダメもとで屋上のドアを開く。夕日が空を赤く染めている。だけどここにもいないのか。にしても綺麗だな、この景色。思わず手すりのところまで歩く

 

「雪広?」

「!?」

 

 どこからか声がしたんだか!?左右を見てもいないのに

 

「後ろだよ、雪広」

 

 後ろを振り向くと、入り口の上にシャルロットは座っていた。そこは入り口からは死角になるから、通りで見えなかったわけか

 そこからシャルロットは飛び降り、自分の近くの手すりに体を預ける。

 

「どうしたんだ?こんなところにいてさ」

「今日はいろんな人が押し寄せてきたからね。なんとなく一人になりたくて」

「そっか、災難だったな」

「嫌いじゃないけどね。それにここの景色を見たくなって」

 

 そういうシャルロットは様になっていた。夕日をバックに金髪の娘が黄昏(たそがれ)ている。この姿を見たら一目ぼれするヤツがいてもおかしくなさそうだ

 と、本来の目的を言わなければ

 

「そういえばさ、シャルロットはペア決めた?」

「いや、まだだよ?」

「なら、できれば自分と組んでくれないか?」

「・・・え!?ゆ、雪広と!?」

「嫌か?」

 

 よく考えたらシャルロットが組んでくれる保証はない。でも簪は組んでしまっているからシャルロットは頼みの綱だ。ここは引き下がるわけにはいかない

 

「ううん!全然!むしろこっちからお願いしたかったよ!!」

「本当か!」

「雪広に言おうと思っていたんだけど、皆が集まっちゃったし・・・気づいた時には雪広はいなかったし」

 

 これは助かる。シャルロットとならボーデヴィッヒに対して有効な戦略が立てられるからまずは一つ目の関門突破だ。これからトーナメントまで戦略を詰めていかないと・・・って

 

「シャルロット、顔が赤いようだが・・・大丈夫か?」

「えっ!?ぜ、全然、問題ないよ!大丈夫!!」

 

 そうか、気のせいならいいんだが・・・まさかな

 

「と、ところでさ!」

「何だい?」

「ど、どうして僕を選んでくれたの?」

 

 シャルロットは人差し指を合わせながらおずおずと聞いてくる。理由は・・・このことは言わないといけないよな

 

「ちょっと真面目な話だけど、いいか?」

「う、うん」

 

 シャルロットも雰囲気を察したのか、真面目になる。自分は今日の昼に楯無さんから聞いたことを伝えた

 

「・・・つまり、楯無さんから組むようにっていう理由?」

「最初は簪に頼んだのだけど、簪は本音と組むて言われてさ」

「次に僕のとこに来たっていうわけか・・・ふーん」

 

 なんかまずいこと言ったかな?顔の赤みは引いたようだが、心なしか冷たい気がする

 

「何というか・・・その・・・なんかすまない・・・」

「・・・まあ、雪広にはお父さんを救ってくれたこともあるし、協力するよ・・・それに二人きりになれるのはチャンスじゃないか・・・」

「何がチャンス?」

「いやいや!なんでも!と、とにかくボーデヴィッヒさんに勝てるように、優勝できるように頑張ろー!!」

「お、おおー!」

 

 トーナメントまでにシャルロットと連携を組めるように努力あるのみ。ボーデヴィッヒに殺されないために、クズ教師の思い通りになってたまるか!

 

 

 

 

 ちなみに一夏は鈴とペアに無事なれたそうだ

 




 雪広に恋愛フラグが立っているのですが、後に回収します
 原作の主人公みたいなことはさせません


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 vs狂信者

 学年別トーナメント当日。自分とシャルロットは第三アリーナの控え室にいる。この大会には各国政府の関係者などの重役が来賓として見に来るようで、その様子をモニターから見ている

 だが、はっきり言って興味ない。自分の試合に集中しないと。というのも

 

「対戦相手がボーデヴィッヒはともかく、一回戦の第一試合なんてね」

「最初なら機械トラブルでごまかしが効くだろうからな。ったく、せこい手を使いやがって」

 

 前日のトーナメントの組み合わせの発表で、やはりボーデヴィッヒとの対戦となった。しかもご丁寧に初戦ときた。途中の試合で機材トラブルが起こるのはおかしいからな。その辺は知恵が回るのかよ

 ちなみに一夏・鈴ペアは一回戦の後半、簪・本音ペアは一回戦の最後の為、今は観客席にいるそうだ。

 

「うだうだ言っても仕方ないし、そろそろ時間だな」

「そうだね。まずは作戦通りにすればいいね?」

「ああ、その後も基本は作戦通りに。想定外の時は臨機応変に行こう」

 

 できる限りシャルロットとマンツーマンで訓練をして、連携を深めていった。他にもボーデヴィッヒの情報を得意のハッキングで抜き出したり、鈴と簪から聞いたヤツの単一能力を聞いたりして対策を練りに練った。ここまでやったんだ。絶対生き残ってやる

 入場のアナウンスが入ってきた。自分たちはISを展開して戦場へ向かった

 

 

 

 観客が凄い。ほぼ満員で歓声が凄い・・・ってシャルロットはどこに手を振っているんだ?その方向を見るとアルベールさんがいた。隣は誰かわからないが多分フランス政府の人だろう。自分も見つけたから頭を下げる。向こうも手を振り返してくれた

 それが気に入らなかったのか、ボーデヴィッヒが挑発してくる

 

「貴様ら第二世代(アンティーク)ごときが私にかなうはずがない。特に遠藤雪広。貴様はこの手で息の根を止めてやる」

 

 おいおい、堂々と殺害予告をしてきたよ、この銀髪チビ。ISって録画機能があるはずだから、これはもう手遅れではないか?

 そんなことを考えながら煽り返そうとしたが、シャルロットに先を越されてしまった

 

「はっ!生産性の目処が立ってないガラクタに乗っているのはどこの指示待ち軍人だったか。ああ!隣国にそんな国の代表候補生がいたなあ!」

「なんだと貴様!!我が祖国を侮辱するな!!」

 

 シャルロット、お前めっちゃ煽るようになったな。自分の言う言葉が無くなってしまったよ。言う事がないからボーデヴィッヒのペアを見る。確かこいつは・・・3組のクラス代表だったか?

 

「ふふん!あんたたちは私に負けるのよ!だってこっちには一年最強のボーデヴィッヒさんがいるんだから!!」

 

 簪に煽っただけのことはあるようで自分たちにも煽ってきた。ちょっと女尊男卑思考があるが今回は気にしない。だってこいつは即退場してもらう予定だから

 そう思っているうちに試合開始のカウントダウンが始まり・・・

 

 試合開始のブザーが鳴る

 

 と、同時に自分たちはスモークグレネードのピンを抜き、自分は相手に投げて、シャルロットはその場で即起爆させる。狙いは銀髪チビのペアだ。

 

「!!」

 

 もともと戦力にはならないだろうが、万が一のことを考えて試合開始後、すぐに倒すのが第一段階の作戦だ。銀髪チビは軍人だから視界を奪われても対処されてしまうが、もう一方は民間人。それに専用機持ちではないから戦闘経験もほぼ無い。視界を奪われたらパニックになって何もできない。そして、銀髪チビの性格上、味方を助けようとはしないはずだ

 作戦通りとなって、3組の奴は悲鳴も上げられないまま自分たちに叩きのめされ、すぐに戦闘不能となった

 

「先に片方を潰す作戦か、無意味だな」

「そりゃあ仲間を仲間と思っていないヤツにとっては無意味だな」

「私に仲間など不要だ。弱者と戯れる暇はない」

 

 さすが、あのクズ教師の信者だな。他人には興味ないような発言。だったら自分たちでその引導を渡してやろう

 

「だったら見せてやる。お前が見下しているアンティークの連携を」

「フン!まとめてひねり潰してやる!祖国と教官を侮辱した奴らは消えろ!!」

 

 ここからが本番だ!頼んだぞ、シャルロット!!

 

 

 

 

 

 

 

「上手な立ち回りね」

「うまい具合にアンチ(ボーデヴィッヒ)を翻弄しているね」

 

 俺たちは試合がまだ先なので観客席で兄さんとシャルロットを応援している。試合開始してすぐヤツ(ボーデヴィッヒ)のペアを落とした後、兄さんたちはヤツに対して一定の距離をとって戦う事を徹底している。相手の単一能力を発動できない距離を保つことで、リスクを最小限にしているようだ

 

「それにしても、2週間とは思えない仕上がりね。阿吽の呼吸じゃないの?」

「どっちかというと、兄さんが合わせている感じだな。もともと兄さんは人に合わせるのが得意だし」

 

 でも兄さんとの連携なら俺が一番だけどな!

 

「む~~・・・」

 

 簪はどこか不満げだ。大方、兄さんとシャルロットがうまく行き過ぎていることだろう

 

「簪、今回に関しては雪広の命がかかわっているんだし、それにアンタは雪広の申し出を断っているんだから」

「分かってはいるけどさ・・・雪広が取られそうで」

 

 口をとがらせて拗ねる簪。恋する乙女にとっては死活問題なのだろう。俺は唐変木ではないが、女ではないから完全な女心は知らん。だからフォローで何を言ったら良いかはわからない

 こういう時はそっとするか、簪の言う事に対して頷くのがいいだろう

 なんて思っていたら試合が動き出した

 

「兄さんが突っ込んでいった!!」

「「!!」」

 

 死ぬなよ・・・兄さん!

 

 

 

 

 

 

 

 思ったよりも相手を追い込めていないな。二対一に持ち込んだはいいものの、こちらの攻撃をうまくいなしている。自分たちも攻撃を躱しているから、一向に試合が進まない、がこれでいい。そろそろ第二段階だ

 

「この!目障りな!」

 

 相手はイラついてきたようだ。意表を突くような奇襲は今しかない!剣を呼び出し、チビのワイヤーブレードをかいくぐる。そして瞬間加速をして()()()()()()()突撃する。が、チビは右手をかざす

 ピタッ、と剣が止まってしまう

 

「愚かだな。私のAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)では・・・」

 

 無力だ、と言いたかったチビの顔が驚愕する。そうだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 チビのAICはその網にかかったものを停止させる。このとき、それに触れているものすべてに対して効果があると分かった。ならばチビが剣にその網を当てる前に()()()()()()()()()()()()()()()。AICにかかるのは剣だけになるため、自分自身はフリーとなる。そして、AICはかなり集中しないとできない上に、別のものを止めようとするときは再度AICの網を張りなおさないとならないため、大きな隙ができる。

 もちろんそれは簡単なことではない。AICの網は不可視であるし、チビは剣ではなく体にAICを当てるかもしれない。さらにAICに引っかかったように見せるのも大変だ。

 だからこそ、二対一にしてからは一定の距離を保ちながら遠距離武装で攻め続けることで、チビのAICの網を張るおおよその位置を出した。剣を前に出すことで剣をAICの網にかけようと誘導した。AICに引っかかったように見せるためにシャルロットにその演技を見てもらい、相手が苛立った状態なら騙せるくらいにした。

 そして今、大きなチャンスが出来た。勢いに任せ、チビの腹部に右ストレートを叩き込む。手ごたえ・・・

 

「カハッ・・・」

「・・・浅いか」

 

 くそ、完璧だったんだがな。チビは右ストレートを当てられるのと同じ時に、後ろに引いたのだ。それだと威力が減ってしまう。腐っても軍人というわけか

 

「貴様・・・ただで済むと思うなよ!!」

「ああそうだな。だが一つ忘れていないか?これはタッグマッチだという事に」

 

 自分の攻撃は不発だったが、時間は稼げた。第二段階完了だ

 

「これで準備完了さ」

「それがどうした!アンティークの火力で、このシュヴァルツェア・レーゲンを堕とすことなど」

 

 不可だ、と言うことをやめるチビ。そうだろう、シャルロットは右手に持ったハンドガンを自身のこめかみあたりに銃口を向けている。まるでロシアンルーレットをするかのように。異様な光景にチビも、周りも、アリーナ全体が静かになる

 

「アンティークの真価、見せてやるよ」

 

 乾いた銃声が響いた

 

 

 

 

 

 

 

 異様だった。雪広がボーデヴィッヒに有効打を与えたと思ったら、シャルロットは自分自身の頭に銃口を向けていた。そして自殺をするかのように躊躇なく引き金を引いた光景に誰も声を出せずにいた

 

「な、なにやってるのよ・・・」

 

 声を絞り出すように今の思いを口に出す。アイツの行動は分からない・・・と思ったその時、シャルロットの体と機体が黒に染まる

 

「なっ!?」

「もしかして・・・」

 

 あまりの変化に目を疑った。一体何がおきたのよ!?簪は何かに気づいたようだけど・・・

 

「アハハハハハハハハッ!!!」

 

 シャルロットらしき黒の物体が高笑いした後、足元から黒が消えていく。そこにはさっきと色が異なるラファール・リヴァイブがいた。これって一夏が言っていた・・・

 

「・・・形態変化だね」

「あんなふうにシャルロットが変身するとは思わなかったけどな」

 

 形態変化だったのか。それならさっきのはそのトリガーってわけね。それなら納得した。会場はシャルロットの変化にざわついている

 

「さーて、シャルロットの形態変化をしっかり見ておかないとね。改めて対策を練り直す必要があるかもだし」

 

 簪はすぐに対策を練っている。あたしもそうしようとしたのだが・・・

 なぜか心がちくりと痛んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それがルーティーンになったのか」

「まーね。あの時の怒りも思い出せるし、これが手っ取り早いっていうか?」

 

 なかなかな光景だよな。頭を撃ちぬいて変身するなんて。ダークヒーローでもいないよな、そんな変身するヤツ

 

「それが噂の形態変化か、だが貴様がアンティークであることに変わりはない!!」

「・・・ならこれでどうよ」

 

 シャルロットは大鎌を呼び出してすぐ、地面に突き刺し、それを引きぬく。そこから影のようなエネルギー体が現れ、人の形になる。シャルロットの単一能力『マレディクション』だ。この影は『マニュエル』モードだな。第三段階もうまくいっている

 

「それが形態変化の単一能力か、所詮は烏合の衆。どれほど弱者が束になったところで私にかなうはずが無い!」

「それはどうかな!!」

 

 シャルロットとその影はボーデヴィッヒに接近戦を畳みかける。チビもシャルロットの動きを封じようとAICを発動させようとする。そうはさせない

 自分はライフルを持ち、チビに撃ちまくる。当てなくてもいい。とにかくチビの気を逸らすことが重要だ。そうすれば高い集中力を必要とするAICは使えなくなる

 

「ちっ・・・小癪な!」

「うらああっ!!」

 

 シャルロットと影はボーデヴィッヒを追い込んでいく。先ほどよりもパワーが増し、かつ手数が倍となり、さらにAICは自分が遠距離からの攻撃で集中できないように阻害している。いくら一年生最強であろうと、この攻撃に防戦一方となり、押され始めてきた。

 そして、影が放った一撃でチビの態勢が崩れた。好機とばかりにシャルロットは懐に入り、第二世代最強のデュノア社傑作装備のパイルバンカー、通称『楯殺し(シールド・ピアーズ)』を呼び出す

 

「!!!」

「くたばれ、ゴミカス」

 

 チビの腹部にパイルバンカーを計三発叩き込む。これでチビのSEはかなり削ったはずだ。ここから一気に自分も加勢してとどめを刺す。最終段階に入っ・・・

 

 

 ゾクッ!!

 

 

 強烈な悪寒を感じた。理論ではない。自分の中にある第六感が警告を出している!

 

「離れろ!シャルロット!!」

「え!?わ、わかった!!」

 

 シャルロットも攻撃を止め、自分の所に下がる。影はシャルロットを守るようにシャルロットが操作している。対してチビは何か苦しんでいるような動きをしているかのよう

 刹那、

 

「あああああああっ!!!!」

 

 チビの機体が激しく放電し、ISが変形していった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなところで負けるのか、私は・・・!

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の識別上の記号。人工合成からつくられた、ただ戦いのためだけに作られた人間。私は優秀だった。常に最高レベルを保ち続けていた。

 だが、それはISが出てくるまでの話。超高速戦闘における胴体反射の強化をするために肉眼にナノマシンを移植処理されたことで、すべてが変わった

 不適合が起こらないはずだったその手術で、私の左目は金色に変色。思うように体が動かせなくなってしまった。結果、IS訓練でも後れを取ることとなり、いつしかその目が落ちこぼれの烙印となってしまった。

 そんな私を救ってくれたのが織斑教官だった。彼女の訓練により、私は再度部隊最強の座に返り咲いた。そして思った。彼女の考えは正しいのだと。他者を蹴り落してでも最強であればよいという事も。私にとって、織斑教官は絶対なのだから。

 それなのに、それなのに!織斑教官に歯向かう輩がいる!!許していい訳がない!!教官からも反逆者を抹殺するように頼まれたのだ!負けるわけにはいかない!!

 そのための・・・力が欲しい!!

 

『願うか・・・?汝、強大な力を欲するか・・・?』

 

 どこかで、しかしはっきりと聞こえた声。言うまでもない。力があれば、目の前の敵も、教官に歯向かう者もすべてひねり潰してやる!!!

 教官の為なら、私のすべてをくれてやる!!

 

「その力・・・唯一無二の力を・・・私に寄越せ!!!」

 

 

Walküre Verfolgen System……starte

 




 最後の一文はドイツ語で「ヴァルキリー・トレース・システム 起動」を意味しているはずです
 Google先生に翻訳させたのでそこのミスはご了承ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 vs贋作

 これはかなり構成に時間がかかりましたね


 チビのISが溶け、チビを包み上げる。そしてだんだんと人型に、いや、ISのようなものになった。だが、自分はこのISに見覚えがある

 

「雪広、これは・・・」

「『暮桜』に似ているな」

 

 クズ教師が現役の時に使っていたISにそっくりだった。だがそんな風に変化することはあり得るのだろうか?第二次移行(セカンドシフト)や形態変化ではISの形は変わるが、元の形や面影は残っている。このチビにおいてはそれがないということはその二つではない。

 ふと、束さんとISについて話していた時に知ったシステムを思い出す

 

「VTシステムか?」

「VTシステムって、アラスカ条約で禁止されているあの?」

 

 VTシステム。正式名称は『ヴァルキリー・トレース・システム』。モンド・グロッソ優勝者などの戦闘データを入力し、それをその通りに実行させるいわばデータ通りのコピーを生み出すシステム。だが束さん曰く、十全とは程遠く最低なシステムであるらしく、シャルロットの言った通り禁止されている。その時自分もそうなんだ程度にしか聞いていなかったので、詳しくは知らない。

 まずはどんな状況なのかを山田先生から聞かないと

 

「山田先生、これはどういう状態ですか?続行ですか?」

『いえ、試合は中止です!ですが、教師部隊用の緊急用ピットがまたしてもロックされていて・・・最低でも10分はかかります!』

「分かりました。こちらもうまくやるので、お願いしますね」

 

 最低でも10分か・・・相手がどう動くかわからない以上、何とも言えない。が、今のところはヤツが動く気配がない。できれば撤退したいが、まだ観客席には生徒が多数いる。ヤツが暴れられるとそこにまで被害が出るかもしれないため、引くにも引けない

 

「ねえ雪広。アレ、動かないけど?」

「下手に刺激させないようにしよう。でも気を抜くなよ」

「ああ、分かっ・・・」

 

「うおおおぉっ!!!」

 

 選手用のピットから白のISが飛び出してきた。間違いなくあのクズの白式。クズはチビだったものに対してブレードを振りかぶろうとした。が、それより早くソレはロングブレードを振り、クズの胴体を横一閃に斬る。とんでもないスピードでクズは吹っ飛ばされ、壁にめり込み意識を失った。

 まずいな・・・明らかにパワーもスピードもケタ違いだ。なんて思っていたら、こちらに標的を定めてきやがった!!

 

 ヒュッ、ガキュ!!

「ぐおおおっ!」

 

 なんつー力だ!鍔迫り合いにはなっているが、明らかに押されている。本当に余計なことをしてくれたな、あのクズ!!

 きりもみ回転で剣を受け流し、態勢を立て直す

 

「シャルロット、とにかく回避だ!攻めなくていい!」

「ああ!時間を稼げばいいんだな!!」

「15分くらいは保てるように『ちょっ、織斑先生何を・・・おい、さっさと倒せ』」

 

 突如管制室からクズ教師が言ってきやがる。何を言ってんだ、こいつは!!自分はアレの標的にされたようで執拗に攻撃してくる。それを避けるのに精いっぱいでしゃべられない

 

『アリーナに被害が出る。そうなる前に早く倒せ』

「だったら、早く教師部隊のほうを何とかしやがれ!俺らはてめえの駒じゃあねえんだよ!!」

『なんだ?所詮はその程度か?それともおじけづいたか?情けないことこの上ないな』

「なんだと!!!」

 

 やけに煽ってきやがるな。残念ながら自分はその程度の煽りには乗らないんだよ。シャルロットは・・・今の状態だと乗りやすいのかもしれない。そうであってほしい

 でも、なぜ今煽るか・・・煽る理由は相手を不快にさせる他、相手が痛い目に合うように誘導するためが基本。今回の場合は自分やシャルロットがアレに対して重傷、もしくは重体にさせるため・・・だけか?それだったらもっと早く、チビがアレになったときに言うはず。

 ・・・そうか。瞬間加速でアレにタックルした後、すぐ離れる。これでしゃべる余裕ができた

 

「シャルロット、撤退だ。ピットに戻るぞ」

『はっ!おじけづいたか!』

「ええ。だからそこに転がっているクズを囮にして撤退しますわ」

『なんだと貴様!!!』

 

 激昂するところから確信した。クズに攻撃がいかないようにするため、自分たちを囮にしようとしたのだろう。教師部隊が到着したらすぐに保護されるだろうから、その時間稼ぎにしようとしたわけか。残念だったな、てめえの手の上に転がされるわけないだろ、バーカ

 アレが迫ってくる。逃げながらクズ教師から情報を得なければ

 

「こちらの要求を飲まなければ、自分たちはここから撤退する」

『・・・』

「言っておくが、織斑の命は実質自分たちが握っているんだ。早くしないと愛しの弟がバラバラになって帰ってくるかもしれんぞ」

『クッ・・・』

 

 すぐに返答するかと思ったが、まだのようだ。弟関連なら即答するかと思ったが、そうとう癪に触っているのだろう。少し遅れて返事が来た

 

『なんだ条件は』

「まずはアレを鎮静化させるまで、自分やシャルロットに責任を押し付けないでください。アンタならやりそうなので」

『・・・分かった』

「二つ目はアレについてわかることを話してください。それを参考にします。ああ、嘘はつかないほうがいいですよ。自分たちが死んだら、織斑が危険になるのでね」

 

 クズ教師は舌打ちした後、説明する。やはりVTシステムらしく、おおよそは自分の知っている情報と合致していた。が、その危険性は初めて聞いた。どうやら身体に大きな負担がかかるため、神経断裂や組織の破壊、最悪は死亡するとのこと。言われればその通りだな、だから禁止されたのか

 また、そのデータは第一回モンド・グロッソの優勝者、つまりはクズ教師のデータを基にしているとのこと。暮桜に似ていたのはそういうわけか

 

「なるほど。最後に一つ。最初と被っていますが、仮に自分たちでアレを制圧できた時、ボーデヴィッヒの生死について文句言わないでくださいね」

『なんだと!?』

「VTシステムによって死ぬことだってあるのでしょう?助けるのが遅くて死んでました、ってことになっても自分たちに責任を押し付けないことです」

『貴様ァ!!』

「いいんですよ、飲めなければ自分たちは撤退するのみですから」

『クソッ・・・・・・分かった。だが織斑は死なせるなよ?もし、貴様らだけが・・・』

「はいはい、わかりましたよっと」

 

 通信を切断する。しっかりと記録してあるから、クズ教師がこの約束を反故にすることはできない。とはいっても織斑を見捨てたらさすがに世間体的にマズいか・・・

 問題は偽暮桜をどうするかだ。ここは代表候補生に聞いて見る。もちろん偽暮桜から逃げ回りながら

 

「どうする?このまま逃げたほうが良さげ?それとも倒すなりしたほうがいい?」

「・・・このままじゃあジリ貧は確実。10分は持つかもしれないけど、それは教師部隊が来る最短の時間だし・・・」

「逃げ回っている間にチビが死ぬのを待つってのは?一応ISは操縦者がいること前提だから、中の奴が死んだら機能は停止するのでは?」

「でもVTシステムが発動してどのくらいたったら死ぬかわからないし・・・それに『システム』だから中の奴が死んでいてもシステムは動き続ける可能性が高い」

 

 つまり話をまとめると・・・

 

「アレを倒す方が生き延びる可能性が高い、ってわけか」

「・・・どうする?はっきり言って勝てる見込み無いんだけど」

「ちなみにシャルロットのSEは?」

「あと2割くらい。この子()と形態変化で消費しすぎたから・・・」

「こっちは8割近くある。だからメインは自分で行くしかない」

 

 シャルロットの形態変化と単一能力はどちらもSEを消費する、かなりハイリスクなものとなっている。対して自分は今回形態変化せず、シャルロットの援護で遠距離から攻めていたため、SEはかなり残っている。もしもシャルロットがチビに負けたとしても、自分でとどめをさせるようにするためだ。決しておいしいところを取ろうとしたわけではない。断じて。

 

「でも雪広がアレとタイマン張るのはできるの?」

「だから形態変化する。それなら勝機はある」

 

 でもそのためには、一度立ち止まって集中しなければならない。つまり完全に無防備となってしまう。その隙を偽暮桜は見逃すとは思えない。だから

 

「時間稼ぎ、任せてもいいか?」

「おっけー、やってやろうじゃない!!」

「・・・死ぬなよ」

「ふふん、デュノア社の意地を見せてやる!!」

 

 シャルロットは偽暮桜に突っ込んでいく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪広の時間稼ぎのためにも、俺は大鎌を手に持ち、偽暮桜に突っ込む。ヤツよりも速い速度で突っ込めれば相手を押し込むことができる。そうなるはずだった

 

 ガッ!!

 

「嘘だろ!?」

 

 形態変化でパワーが上がったとしてもこちらが押し負けているなんて、どんな力持っているんだよ!!ならば、影を回り込ませて挟撃するしかない!

 影の標的を偽暮桜に設定して、二対一の状態にした。だが偽暮桜は片手で俺たちをそれぞれ対応してきやがる。こいつ、一対多でも対応できるのかよ!影と連携を組んでいても受け止められるとどうしようもない。が、攻め続ける

 ある程度した後、ヤツが俺に対し、剣を振り上げてくる。あまりの速度に躱せないと判断したため、大鎌で受け止めようとした。だが

 

 ガンッ!!

 

「うわっ!!」

 

 ヤツの攻撃に耐えられず大鎌を離してしまい、両腕が上がってしまった。まずい!今、無防備だ!ヤツは俺の胴に袈裟切りを仕掛けてくるのは分かっているのに、体が動かない!ならば、影を楯にするしかない!!

 間一髪で影を俺の前に呼び寄せた。背に腹は代えられない。影の背を蹴り、ヤツの攻撃をギリギリで避ける。影は偽暮桜の袈裟切りで形を維持できなくなり、霧散してしまった。

 でも時間は稼げたようだ

 

「ガアアアアアアア!!!」

 

 俺の背後から咆哮が聞こえる。それと同時に俺は偽暮桜から距離を置き、クズ(織斑一春)を回収して離れる。俺の仕事はおおよそ終わった

 あとは任せたよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い霧を切り裂き、偽暮桜と対峙する。シャルロットはクズを回収して離れたところに退避したようだ。偽暮桜はまだ動いてこない

 これでもヤツのほうが機動力もパワーも上を取られているだろう。だが、こちらにはいい情報がある。ヤツが()()()()()()()()()()()()()で動いているという事だ。初代のモンド・グロッソでは、今の俺の機体のような格闘戦を主にして戦うISはいなかった。つまり、俺の戦い方はデータにない可能性がある。そこを突くしか勝ち目はない

 ヤツとにらみ合いをする。動くべきか、待つべきか・・・攻めたい気持ちを抑えてここはあえて待つ。時間は稼げた方がいいからな。攻めの衝動を抑えていると、ヤツは痺れを切らして特攻する。クズやモップの比にならないスピードだ。

 だが()()()。反応速度も上がっているし、さっきまで逃げ回ったり攻撃を躱したりしていたため、目が慣れた。ヤツの袈裟切りも受け流し、距離を置く。

 

「終いにしよう」

 

 爪を呼び出し、構える。後ろにシャルロットがいるのを確認し一言二言伝えた後、ヤツを見る。俺もヤツも動かない

 一分か、一秒か、一瞬か・・・時間が流れた後

 

「「・・・!」」

 

 同時に動く。双方直線的に突っ込む特攻。だが、俺はそこから『八艘飛び』で右斜めに飛ぶ。クラス代表決定戦で一夏にやったのと同じやり方だ

 ヤツはそれを見てからなのか、見越していたのか剣の軌道を変えて俺をとらえにかかる・・・かかったな

 

「これはタッグマッチだ」

 

 刹那、ヤツは頭を狙撃された。想定外のようで上体が上がる。狙撃主はシャルロットだ

 特攻前、シャルロットに狙撃のお願いをしておいたのだ。もしもの時に二人で練習しておいたことだったが、成功だ

 

「ウオラアア!!!」

 

 右の爪の渾身の一撃を無防備な首に叩き込む

 

 

 

 ザシュッ・・・

 

 

 ヤツの頭が離れる。頭は地面に落ちると同時に粒子となって消え去った。これで終わった・・・

 

 

 

 こともなくヤツはまだ俺に突っ込んでくる

 

 

 

「想定内だ」

 

 システムで動いている以上、頭を吹き飛ばしてもまだまだ健在の可能性は十分にあった。もちろん対策はある。

 頭を離すのと同時に脚部用ブレードを左足に呼び出し、ヤツの右下から斜めに蹴り上げ・・・切り上げる。一夏がやっていた『一閃二段の構え』の俺なりのアレンジ版だ。ヤツはかわすことができずに切り上げが直撃する

 

「ぎ、ギ・・・ガ・・・」

 

 切り上げたところから粒子となって消えていき、ヤツは倒れる。残ったのはその場で倒れたチビだけ。一応息はある

 IS反応もなし。という事は

 

「・・・終わった」

 

 戦闘時間は偽暮桜になってからわずか8分。教師部隊が来る最速よりも短かったが、もっと長く感じた。自分もシャルロットもISを解除する。自分は集中力が切れて座り込み、こちらにシャルロットが来る

 

「お疲れ様。凄かったよ」

「いや、シャルロットのおかげさ。かなり負担をかけさせてしまったし・・・」

「そんなことないよ。雪広がいなければ、アレをどうにかすることなんてできなかった」

「そう言ってもらえるなら嬉しいよ」

 

 自分もシャルロットも多少の怪我はあるかもしれないが、無事で済んだ。この2分後に教師部隊が到着し、事の経緯を説明した後ピットに戻った

 こうして学年末トーナメントは幕を閉じた。

 




 そろそろ更新速度が落ちそう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 Zerstörung

 お久しぶりです。新学期ですね。更新速度がかなり落ちますが、不定期ですし問題ない

 今回、ストーリーの進行により二度目のタグ追加をしました
 またまた読者が離れる展開です。ご注意ください


「ふう・・・」

 

 ふとため息が漏れてしまった。無理もない。今日は死ぬかもしれない経験をしたのだから精神的に疲れた。その後の報告は明日でよいと先生から伝えられたので、()()()()()()()()後、自室に戻っている。一夏は部屋にいるだろう

 部屋の前に着き、鍵を開いて中に入る

 

「お帰り、兄さん」

「ただいま・・・」

「遅かったけど、何かあったのか?」

「いや、やることをやっただけだ」

 

 そっか、と返事を聞き自分はベッドに倒れこむ。五分経ったら声かけてと一夏に言って目を閉じる。五分経つ前に目を開けてベッドから脱出。少しはスッキリした

 すると一夏が何かを聞きたそうにしていた

 

「・・・兄さんさ」

「うん?」

「ボーデヴィッヒを助けたの?」

「・・・」

「ほら、アイツは一応社会的弱者の部類に入るんじゃないか?それだったら兄さんは手を差し伸べるのかなって」

 

 チビを調べたら、どうやらヤツは遺伝子強化試験体、つまり人工的に造られた人間だった。そんな環境がいいはずもなく、愛情なんてない生活だった。そんな人を、自分と同じかそれ以上のひどい環境で育った人を救いたいのが自分の小さな夢だ

 

「そりゃあ、もちろん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぁ・・・」

 

 医務室で横になっていた私の駒(ラウラ)は目を覚ます

 

「気が付いたか」

 

 その声にラウラは起き上がろうとする。敬愛している私の声に反応したようだ。だが、体が悲鳴を上げているのか、やっとの思いで起き上がる

 

「私・・・は・・・?」

「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある」

「何が・・・起きたのですか・・・?」

 

 私はこれまでの経緯を説明することにした。ラウラのISにVTシステムが組み込まれていたこと、それが発動して大会は中止になったこと。そして、それを嫌な奴(雪広)が鎮めたことを

 

「巧妙に隠されていた。操縦者の精神状態、そして操縦者の願望など、すべてがそろうと発動するようだ」

「・・・私が望んだからですね」

 

 力を欲したことを、その力で織斑千冬が正しいことを証明したかったのだろう。だがそれだけではないようだ。何か迷っている。これでは私の思い通りに動くかわからない

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「は、はい!」

 

 突然名前を呼ばれ、ラウラは驚きを合わせて顔を上げる。ここは喝を入れておこう。これからも私の駒として動かすために教育をしなければな

 

「無様だな」

「・・・え?」

「試合では旧型のIS二機に振り回され、単一能力すらも発動できず、パイルバンカーで決着をつけられる。そしてVTシステムで力を手に入れても暴走し、挙句の果てに遠藤雪広に助けられる始末」

「あ・・・」

「私は言ったはずだ、完膚なきまでに遠藤雪広を叩き潰せと」

 

 だがラウラはかけ布団をぎゅっと握っておずおずと信じられないことを語る

 

「教官・・・遠藤雪広は、彼は強いです。私では倒すことが難しいです。それに・・・強いだけではないはずです」

「ほう?」

「暴走していた私を救ってくれました。敵対していたはずの、敵意を持っていた私を。・・・もしかしたら教官に反発する理由があるのではないでしょうか?」

「・・・」

「教官、一度彼と話してみてはどうでしょうか?彼はあなたが思ったほど悪い人間ではないかもしれません」

 

 こいつは何を言っているのだ?あのクズ生徒に対して殺意が無くなったばかりか、話し合えだと!?私はブリュンヒルデ、世界最強なのだぞ!私の考えこそ絶対であり、コイツもそう思っていたのに

 コイツには失望した

 

「・・・どうやら私はお前を買い被っていたようだ」

「え?」

「私の敵に対して、ここまで腑抜けるとはな。力を求め、私を慕っていた時とは大違いだ」

「あ、あの・・・」

「所詮はお前もその程度の、お前が見下していた連中と同程度だったというわけか」

「い、いえ!違いま・・・」

「いいや、違わない。前のお前なら、私のいう事に対して従順に聞いていた。だが、お前は今、私に楯突いたのだ」

「そ、そのつもりで言ったわけでは!」

「私に意見を言った時点で反抗したも同然」

 

 踵を返す。この顔を見たくない、不愉快だ。飼い犬に手を噛まれるのはこういう事か

 

「もう私のことを教官というな。貴様に言われる筋合いはない」

「きょ、教官!待ってください!も、もう一度だけチャンスを!私に・・・」

「貴様のような腑抜けに用は無い」

 

 保健室から出る。何か叫んでいるが耳障りだ。やはり所詮は試験体。私の駒にはならなかったようだ。やはり一春と箒、そして束以外はクズだな

 

 と、思っていたが雪広を葬るための駒は欲しいところだな。その点ではボーデヴィッヒは最適。仕方ない、明日あたりで許してやろう。そうすればボーデヴィッヒは今まで以上に私の思い通りに動いてくれるはずだ。今度こそ奴ら兄弟を葬ってもらおう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、やることをやるために保健室に来た。ここにあのチビがいるのだろう。いや、いるようだ。声が聞こえる

 

「グズッ・・・ヒック・・・」

 

 泣いているのか?何かあったのか?まあいい、とにかく警戒を怠らないようにしないと。その扉を開ける

 

「・・・誰だ」

「お前の敵さ」

「・・・そうか」

 

 反応が薄い。それに殺意も感じない。これじゃあ拍子抜けだ

 

「何があった」

「・・・」

「・・・まあ、自分と敵対しているしな」

 

 こんな奴にこの情報を言ってもつまらない。踵を返そうとした時

 

「・・・待ってくれ、話を聞いてくれ」

「ふーん」

 

 こいつの心情が分からん。だが、今は敵意がなさそうだ。椅子を持ってきてチビが見える位置に座ると、チビはこれまでのことを話した。それだけでなく、自身の生まれなどもすべて話してきた。

 こいつの出生や生い立ちは知っていたが、改めて織斑千冬がクズだと認識したわ。でも、クズ教師にとってコイツはいい駒だろうから、あえて厳しくしたってこともあり得る。と考えていると

 

「質問をしたい、お前はなぜ強い?」

「は?」

「私は強さだけを求めてきた。だが、お前は暴走した私を止めることができた。気になるのだ!どうやってその強さを得たのか」

 

 VTシステムを止められたのはアシストがあったからなんだけどな。でも言うといろいろと面倒だから言わなくていいだろう。にしても強さか・・・考えたこともなかったな

 

「そうだな・・・守るためか」

「守る・・・?」

「そ。自分の命を守るためさ」

 

 ヒーローとかは『他人を守るためさ!』という臭いセリフを言うだろうが、自分はそんな人間じゃない。自分の夢を実現するためにはまず生きていることが必要条件。

 

「時に人は自分以外の人を守りたくなるときがあるかもしれないけどな」

「・・・」

「ま、この質問は千差万別。正答なんてない。自分が正しいと思うことをすればいいさ」

「正しいこと・・・」

「そ。よーするに自分で考えろってことだ」

 

 なんか希望を与えるようなことを言っているかもしれない。事実、チビの目に光が戻っている。良かった・・・

 

 

 

 

 

 これなら効きそうだ

 

「それよりもお前に伝言。今すぐメールを見ろとさ」

「メール?」

「内容は知らんけど、ドイツのお偉いさんが見ろってさ。今確認すれば?」

 

 チビは携帯を取り出してメールを確認する。目が動いている。しっかり読んでいるようだ

 

 

 その目がだんだんと見開き、手が震え始めていく。顔も青ざめていくのがよくわかる

 

 内容を知らないと言ったが嘘だ。そもそも伝言自体も嘘。でもコイツにメールが来ているのはハッキングして知っているし、もちろん内容も知っている。だからチビは恐怖しているのだ。

 メールの内容、それはドイツ代表候補の剥奪、並びに本国への帰還命令だ。理由は男性IS操縦者である自分への殺害未遂。音源もしっかりと残っており、代表候補生として、そして軍人としてあるまじき行動をしたことへの処罰なのだろう。()()()()

 実際はVTシステムの責任をチビに押し付けるためではないかと思う。IS条約で禁止されているものを公にされるよりも代表候補生の不祥事のほうが軽いと思っての行動だろう。要はこのチビは囮にされる

 

「どうしたんだい?」

 

 自分はあえて知らないふりをしてチビに聞く。さあ、どう行動するか。絶望か、逆ギレか、精神崩壊か。逆ギレしたなら速攻抑えて、楯無さんに突き出す。いつ襲ってきてもいいように身構えるが・・・

 

「そんな・・・う、嘘だ・・・」

 

 放心している模様。現実を受け入れられないようだ。なら甘い誘惑を醸し出してやろう

 

「どうしようもない時は誰かに頼るのも強さの秘訣だぞ?」

「!」

 

 とは言っても無理だがな。いくら織斑千冬が出しゃばったとしてもどうにかなる問題ではない。確かにヤツには『ブリュンヒルデ』という絶大な人気はあるが、あくまで()()。それに何の権力もない。国家を動かすのは不可能だ。束さんなら可能かもしれないが、コイツに束さんとのパイプがあるはずもない。だからもう詰みなんだよ

 と思っていたのだがチビは意外な行動に出た

 

「お、お願いがある・・・私を・・・助けてほしい・・・」

「は?」

 

 何を言ってんだコイツ?なぜ敵対している自分に助けるんだよ?

 

「頼む・・・もうお前しか・・・遠藤雪広しかいないんだ・・・教官にも見捨てられて・・・もう・・・」

「・・・」

「図々しいのは承知している・・・頼む・・・」

 

 悲痛な思いがひしひしと伝わる。今目の前にはただのか弱い少女がいる。シーツを弱弱しく握り、目から涙がこぼれそうな少女が。

 

 自分はその震えている手をしっかりとつかんで

 

「大丈夫、自分が守る。助けてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 って言えば三流のヒーローになれるんだろうな。

 

 

「誰が助けるんだよ、ヴァーカ」

 

 悪人顔負けの悪い顔になりながらチビを見下す。誰が敵に塩を送ることなんてするかよ

 コイツはどうあれ敵だ。敵なら完膚なきまで、社会から退場するまで徹底的に潰さなきゃ。敵を助けるなんて甘いんだよ。いつ寝首を書くかもわからんし。そもそも悪いやつが改心するなんて漫画の中しか起きないことなんだよ

 チビの目がうつろになっていく。ははっ、ざまあねえな

 

「あ、ああっ・・・」

「図々しいって分かっているならこの返答も分かっていただろう?なに絶望してんだよ」

 

 非情だとか言われるかもしれない。でもコイツは明確な殺意があったのだ。そんな奴にために行動しようなんて、自分にはできない。漫画のよくある主人公だけがやればいい

 最後に・・・コイツの心を壊す

 

「俺を敵に回したのが運の尽きだったな。遺伝子強化試験体C-0037」

「!!!」

「所詮は試験体。織斑千冬に見放されるのも当然なんだよ」

「あああ・・・」

「もうお前を必要とする人などいない。だから

 

 

 

 もうくたばっちまえ」

 

 

 

 刹那、チビがベッドに倒れる。顔に手をやっているから表情は分からない。だが

 

「はは、はははっ・・・・ははははは」

 

 乾いた笑い声が部屋を不快で満たす。どうやら壊れたようだ。いや、壊したというほうが正解か

 これでやることは終わった。このチビを再起不能にすることに。自分に一夏、仲間の安全のためだ。何も悪くないし、最善の手に違いはない

 うるさくなった保健室から自分は出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・助けるわけないじゃん」

 

 一夏に正直に伝える。

 

「確かに、チビは被害者だ。だが、自分に明確な敵意があった。そんな奴を助けるようなお人よしではないことは分かってんだろ?」

「まあ、そうだけどさ。シャルロットと状況は似ているかなと思ったからな。どちらも上の命令に逆らえない状況だったからさ」

 

 確かにチビもクズ教師に命令されていたから、その点ではシャルロットと共通点はある。だが

 

「明確な違いは『その命令に対して本人がどう思っていたか』だ。チビはそれを実行するほうが良いと思って積極的に自分たちに危害を加えようとした。対してシャルロットは未然に防いだとはいえ、スパイに消極的だった。だからシャルロットは被害者だから助けたし、チビは敵だから見限った」

 

 運がなかったと言えばそうだな。師がクズ教師だったことや助けたのが自分だったという点ではチビにも同情するかもしれない。だからといって助けないけど。自分はヒーローじゃないし

 

「分かっているだろ?自分は『仲間にやさしく、自分に厳しく、敵には超厳しく』がモットーだし」

「もちろん分かっている。俺も兄さんの立場だったらアイツを見限っているし」

 

 でも少しだけ同情してしまうな、と一夏はつぶやく。少しだけ罪悪感はある。でも、ヤツは自分たちを殺すかもしれない。万が一でもその可能性を潰さなければ。あとで後悔しても遅いのだから

 

 

 後日、チビは退学してドイツに引き渡された。その後の彼女の行方は知らない。多分『処分』されたのだろう。クズ教師は使える駒が無くなったせいか明らかに不機嫌だった。ざまあ

 

 あと、VTシステムを搭載したであろう研究所は跡形もなく消し飛ばされただけでなくドイツのIS関係者の汚職問題が公にされ、IS産業に大打撃を被りイギリスの二の舞に。特にチビの所属していたIS配備特殊部隊は責任の多くを押し付けられ、解散することになった。今回自分はノータッチだったから、多分束さんがやったのだろう。すべてはドイツとチビが原因だし、知ったこっちゃあないがな

 




 ラウラは形態変化の条件を満たしているってコメントを見て確かにそうだと思いました。ですが、ラウラをアンチ(退場)にした原因として

・主人公の性格上仲良くできない(敵は敵としか見ない)
・形態変化は自身の素の性格が表に出るようになるため、ラウラの素の性格が思い浮かばない
・単純に数が増えると動かしづらい

が主な原因です。彼女が好きな方は他の二次小説に行くことをおすすめします。


 ちなみにタイトルはドイツ語で「破壊」です

 そして、原作2巻が終了!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 常人の成り損ない

 
 お久しぶりです。学業が鬼のようにきつく、時間が取れなかったです
 前回の展開でお気に入りの数が減るかと思いましたが、新たにお気に入りにした人もいて、トントンでした
 今回はフラグ回収です


 チビが学園から去った二日後の午後4時半。太陽がやや傾き始める時間帯に自分は屋上にいる。本来なら今日は学年末トーナメントの続きだったのだが、チビの件もあり一年生と二年生は一回戦のみの実施となり、予定よりも早く終わってしまった。

 

「はあ・・・」

 

 手すりに体重をかけ、景色を眺めている。空は雲が覆い、今の心情を表しているかのようだ。ガチャリ、と扉が開く。簪が来たのだろう。

 今日、簪に告白の答えをするのだ。午後5時に屋上に来てくれと言っておいたから、かなり早く来たようだ。今まで結果的に逃げてしまっていたが、もう逃げない。

 

「早かったな、かんざ・・・」

 

 簪だと思って振り向いたが、そこには予想外の金髪の少女がいた。

 

「こんにちは、雪広」

「あ・・・え・・・?ど、どうしてシャルロットが?」

 

 来ると思っていなかった人が来て思考が止まりかけたが、何とか立て直して質問する

 

「雪広に用事があってね・・・部屋にもいなかったし、ここなのかなって」

「そっか・・・今すぐじゃないとダメ?」

「うん、ダメ」

 

 何か嫌な予感がする。なぜ深呼吸してるんだ。なぜ頬が少し赤いんだ。いや、思い上がりだ。そんなはずはない

 

「ありがとう」

「へ?」

 

 いきなりの感謝の言葉に呆然としてしまう

 

「僕を、お父さんを、デュノア社を救ってくれて。まだお礼していなかったなって」

「・・・あれは束さんが助けたもんさ。自分が礼を言われる筋合いは無い」

「ううん、雪広も助けてくれた。データ取るために奔走してくれたの、楯無さんから聞いたよ」

 

 あの人は・・・余計なことを。でも黙っておけとは言ってなかったしデータ取ったのは事実だし、仕方ないか

 

「雪広が動いてくれなかったら、今頃僕はここにいられなかったかもしれない。ううん、お父さんの思いも知らずに捕まっていたかもしれない。だから、ありがとう」

「・・・そうか」

「・・・雪広っていい人だよね」

「それはお門違いさ、自分が善人なわけがない」

 

 善人ならどんな人にも手を差し伸べるはず。更生できたかもしれない欧州の二人を退学に追いやった自分がいい人なわけがない

 シャルロットから目を逸らし、手すりにもたれかかる

 

「自己評価低いね。それでも僕にとってはいい人・・・いや、恩人だよ。僕を、お父さんを救ってくれたいい人だよ」

「・・・結果的にはな」

「むう・・・」

 

 つかつかとシャルロットが近づく音がすると、いきなり両手で肩をつかまれシャルロットの方へと向かされる。シャルロットは怒っているような、恥ずかしがっているような顔で叫ぶ

 

「僕と話しているんだから僕を見て!!」

「は、ハイ!」

「雪広には感謝してもしきれない!でもそれ以上に雪広のことが気になって仕方がないの!!」

「・・・え?」

 

 待って、それって・・・

 

「僕自身分かっている!ちょろい女だと!でも仕方ないじゃないか!!どん底にいた僕に手を差し伸べてくれた人を好きになるのは!!」

「・・・」

 

 

 嘘だろ

 

「僕は、雪広が好きなの!恋しているの!君に!!」

「あ・・・え???」

 

 冗談だろ?いや、なんで、どうして、ああ駄目だ。考えがまとまらない

 そんな顔を見て不満に思ったのか、シャルロットは自分の顔をつかむ

 

「ほ、本気なんだから!だ、だ、だから!!」

 

 グイっと顔を近づけさせられる。シャルロットも顔を近づけてくる。アメジストの瞳に長いまつげ、透き通る白い肌に夕日のコントラスト、シャルロットの整った顔の細部まで確認できる距離になる。それでも距離を縮めようと力を入れられる。

 待って、こうなると、このままだとキ

 

「ストーーーップ!!!!」

「「うわっ!!」」

 

 突然の声に二人で驚いた。シャルロットの両手から解放され声のするほうを向くと、怒り気味の簪がいた。簪を呼ぶために待っていたじゃないか

 簪は足早に自分たちに近づきシャルロットに問い詰める

 

「シャルロット!何しようとしたの!!抜け駆けは許さないよ!!」

「い、いいじゃないか!キスくらい、フランスじゃ普通だよ!」

「今の状況はそういう感じじゃないでしょ!!」

 

 三人いないが姦しくなった。早く仲裁すべきなのだろうが、言い争いをやめるタイミングがつかめない。それに未だにこのことを先延ばしにしたい気持ちもある。その気持ちが足を引っ張り、言葉が出てこない。

 やぱり自分は情けな・・・

 

「「で、雪広はどっちを選ぶの!!」」

「は、ハイッ!?」

「「雪広はどっちが好きなの!!」」

「っ・・・」

 

 自然と俯いてしまう。頭の中ではずっとシミュレーションしたのに、なかなか言葉が出てこない。状況はかなり違ってしまったが、どのような言葉を言うべきか考えていたのに声が出ない。ああ、なるほど。モテる男はこんな気持ちになるのか

 でも・・・もう逃げられない、いや逃げない

 顔を上げ、二人を見る。もう目を背けない

 

「簪、シャルロット」

「「・・・」」

「・・・

 

 

 

 

 ごめん」

 

 

「「え?」」

「自分は・・・君たちの気持ちに答えることはできない」

 

 シャルロットは俯き、簪の顔が悲痛に歪む。ああ、こんな顔をさせるなんて、友達に辛い思いをさせるなんて、自分はどうしようもない人間だ

 

「・・・どうして?」

「うん?」

「僕たちを選べない理由があるんだよね・・・その理由を知りたい」

「わ、私も・・・知りたい・・・」

 

 そうだよな。断る理由を言わなければいけないよな。言わなければ。

 彼女たちは納得してくれるだろうか

 

「分かった。でもその前に」

 

 さっきからドアの向こうから気配がする。おおよそ楯無さんがいるのだろう。いや、楯無さんだけじゃないな

 

「出てきたらどうです?ドアの所にいる皆さん!」

 

 声を張り上げ、楯無さん達に聞こえるように言う。扉が開くと楯無さんだけでなく、一夏と鈴がそこにいた。お前らだったか

 

「ばれちゃった?」

「お、お姉ちゃんたち!?どうしてここに!?」

「簪ちゃんが何か気合を入れて屋上に向かっていたから気になっちゃって・・・け、決してストーカーをしたわけじゃないのよ!」

「あたしも気になってね。あとを追いかけていたの。そしたら、その、シャルロットが告白を聞いちゃって・・・」

「き、聞いてたの!?」

「聞こえたのよ!アンタ、大きい声で言ってたんだから!」

「で、でも聞き耳立てることはないだろ!」

「そーだそーだ!!」

 

 意外と屋上のドアは防音ではないようだ。それを抜きにしてもシャルロットは声を張り上げていたから聞こえても仕方がないか

 女子たちが騒いでいる中、一夏が辛そうな顔で自分を見る

 

「兄さん・・・言うのか」

「言わなきゃ分かってくれないだろう。ある意味楯無さんもいるんなら手間が省けるし」

「でも!」

「自分は気にしてねえよ。安心しろ」

 

 一夏は心配性だな。こんな兄貴を気遣ってくれるなんて。いい弟を持ったものだ

 まだ騒ぎ続ける女性陣たちに向かってパンパンと手を叩いて騒ぎを鎮める

 

「自分が簪たちの好意を断る理由を話すためには、自分の過去を話さないといけない」

「過去・・・」

「そうです、楯無さん。()()()()()()()()()()()()()()()()です。あなたには話さなければと思っていたので好都合だ」

 

 戯言ですが、と吐き捨てるように一区切りをつけて手すりにもたれかかる。そこから自分は過去を語りだした。

 

 

 

 

 

 物心つく前から教育(虐待)は始まっていた。少なくとも物心ついた時に覚えていた光景、それは窓のない狭い部屋、大きな机、そして山のように積まれた問題集に参考書。それも中学・高校でやる内容の物ばかりで、これらをただひたすらやる毎日。食事は一日朝に一回、昼は無くて夜は父親が毎日出すテストの結果であるかないかが決まっていた。もっとも、父親の気分でもあったが。いくらミスのない回答を作っても、機嫌が悪ければいちゃもんをつけて殴られ、食事が無いことなんてザラにあった。外に出ることも許されず、幼稚園や小学校にも行くことを許さなかった。友達なんてできるわけがない。でも最初は逃げようとも反発しようとも思わなかった。世界が部屋の中と父親だけだったんだ。それが普通だと思っていたからだ。

でも、ある時、たしか7歳くらいの時に一度だけ父親に刃向かった、というより思いを伝えたんだ。「こんなことをしたくない、外に出てみたい」と。そうしたら父親はどうしたと思う?真っ赤な顔で部屋から出た後、戻ってきたんだよ。

 

 

 包丁を持ってさ。

 

 ・・・あとは分かるだろう?たった二言いっただけ、それなのに滅多刺しにされたんだ。腹に背中、足とすぐに死なない場所を刺してさ。痛くて、熱くて、痛くて、痛くて・・・気を失った。それで死ねたらどれほど楽だったか

 

 ・・・気づいたら見知らぬ天井。病院に連れていかれたんだ。死ななかった、いや、()()()()()()()()。父親が病院に連れて行ったんだ。自分という作品を失くすのは勿体なかったのだろう。皮肉にも「外に出たい」願いはこんな形で叶えられたんだ。

 

 その後傷が治って退院したんだが、またあの生活に逆戻り。しかもその時に父親から言われたんだ。「次は殺す」と。もう逆らう気力すら無くなってさ、10歳の時、両親が旅行で事故死するまでこんな地獄が続いたんだ

 

 

 

 

 

 

「とまあ、これが空白だった自分の幼少期の話」

 

 雪広の言葉に誰もが黙り込む。鈴とシャルロットは驚愕し、簪と楯無は手で口を押さえ、一夏は俯いて手を固く握りしめながら。女性陣はまさか彼がそんな人生を歩んでいたとは夢にも思っていなかった。一夏はこの話を聞いてはいたが、聞いて気分の良いものではない。どうしようもない怒りを抑えるしかなかった。

そんな静寂の中、楯無が口を開く

 

「で、でもそれと今に何の関係があるの?それで人間不信になっちゃったとか?」

「・・・その程度だったら良かったんですけどね」

 

 雪広は手すりから体を離し、先ほどよりも明るく振る舞う

 

「話は飛躍するのですが、私の中学では結構ぶっ飛んだ授業をしていましてね、他だと問題になることをするんですよ」

「例えば?」

「保健体育の授業でエロビデオ見させられるとか」

「「「「・・・は!?」」」」

 

 サラッとした爆弾発言に頬を赤らめるにする女性陣。真っ先に立ち直ったシャルロットが叫ぶ

 

「だ、駄目だよ!!そんなえ、エッチなこと!!」

「男子校だから許されるんだよ」

「「「「そういう問題じゃないよ(わよ)!!」」」」

「いやいや、みんなそう言うけどさ、人間が生まれるためには必要な行為だろ?何も恥ずかしいことじゃない」

「そ、そうだけど・・・///」

「それに性欲ってのはさ、動物が持つ三大欲求の1つ。それで得られる快楽、特に愛する人とのその行為は他とは比較できないほどの快楽を感じる()()()んだ。ならば性行為をしたいのは快楽を得たい人として当然の理。何の問題がある?」

 

 何の悪びれも無く雪広は言う雪広に対し、彼女たちは顔を真っ赤にする。この光景はまるで雪広が彼女たちをからかっているようも見える

 ただ一人、悲痛な顔で佇む一夏を除いて

 

「兄さん、そろそろ本題に戻したほうがいい。それ以上はセクハラになる」

「そうか、そういうものなのか」

「『男子校の常識は世間の非常識』。そう言ってるだろ?」

「そうだった。なら話を戻すか」

 

 雪広は未だ顔を赤くしている女性陣に手を叩いて現実に引き戻させる

 

「私の問題が発覚したのはさっきの保健体育の授業。そのビデオでな、自分は()()()()()()()()()()

「・・・は?」

「興奮しているやつもいた。興味津々に見ているやつもいた。それなのに自分は何も無かったんだ。それに先生も気づいたようでな、授業の翌日に呼び出されて精密検査を受けたんだ」

 

 雪広は深呼吸をして、意を決するように淡々と話す

 

「検査の結果、一部の神経が欠損していたんだ」

「・・・」

「その影響として、『性的欲求・恋愛欲求の欠落』だと予想された」

「「「「!!」」」」

「もう分かるだろ?自分はさ

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 またしても静まる。彼女たちは誰もが嘘だと思う。そんなわけはないと。だが、雪広が嘘をついているとは思えない雰囲気に気圧されて何も言えなくなってしまう

 

「恋愛ができない、常人の成り損ないなのさ。自分は」

「・・・」

「ここで繋がるのさ。なぜ神経がズタズタなのか」

「包丁で刺されて・・・」

「鈴、ご名答。その時の治療も充分では無かったのだろう。元々自分が虐待されていたのを気づかなかった医者だ。治療も杜撰だったに違いない。何より体に障がいがなかったから余計に発見が遅れた」

 

 ヤブ医者とは言い切れないか、と肩をすくめる。その中で楯無が気づく

 

「篠ノ之博士は?あの人なら何でもできるんじゃない?雪広君なら面識あると思うし」

「って思うじゃないですか」

 

 と、今まで黙っていた一夏が口を開く

 

「神経って治すのすごく難しいんですよ。それに兄さんの場合長時間放置された上に成長までしているんです。・・・束さんでも成功率はよく見積もって30%だと」

「し、篠ノ之博士が!?」

「しかもうまくいっても完全に回復するかもわからない。兄さんみたいに数年放置されていた後の手術は前例がないので後遺症がどうなるかもわからない。だから束さんでもリスク無しで治すのは困難だと」

「それだけじゃない。仮説の段階ですが、神経回路が壊れている()()()()I()S()()()()()()()()()()のかもしれないんです」

「!?」

「神経回路が壊れているからISが女だと誤認しているのかもしれない。もし完全に治ったらISを動かせられなくなるかもしれないんです」

 

 自虐的に笑う雪広に対して、簪が声を上げる

 

「で、でもさ!私はそれでも治した方がいいと思う!それじゃあ雪広が報われないよ・・・」

「ありがとう簪。でも駄目なんだ」

「どうして!」

「もし神経が治ってISを動かせなくなったらクズな研究者はどう推測するか。自分と同じように神経を壊してIS適性が出るか確かめようとするだろう」

「!」

「非人道的だ。そんなことが許されるはずはない。でも0とは言い切れない。自分のせいで男たちが、罪のない人が壊されるのは嫌なんだ」

 

 もし神経とISが密接しているならば、男性IS操縦者を作り出せることができる。どの国も男性IS操縦者が欲しい時にこの情報が出回った場合、いくつかの国は人体実験をするに違いない。被害妄想と思われるかもしれないが、わずかな最悪の可能性を雪広は恐れていた

 

「事が大きくなってしまったが話を戻すと、簪とシャルロットの告白には答えられない。恋愛ができないのだから」

「「・・・」」

「だから殴るなり蹴飛ばすなり刺すなり好きなようにしてくれ。避けないから」

「ど、どうしてよ!?アンタが何もそこまで・・・」

「理由がどうであれ、自分は二人の恋路を踏みにじった。これに関しては断罪されて当然だし、二人にはその権利がある」

 

 覚悟を決めたかのように雪広は二人から目を逸らさない。しかし、簪とシャルロットは動けないでいた。

 フられたことへの怒り、しかしその理由を聞いて悲しみ、でもこの恋心を諦めきれない執念、様々な思いがごちゃまぜになっていて何の行為がしたいのか本人ですら分かっていないのだ。家庭に難があった代表候補生とはいえ15の少女。振られた理由が想像を超える内容では思考もまとまらないのは仕方のないことだ

 だんだんと重くなっていく静寂。一夏も鈴も楯無もどう声をかけて良いかわからず、ただ時間が過ぎていく。そして痺れを切らした雪広が「ふぅ・・・」と一息ついて切り出す

 

「二人とも、一発自分を殴れ」

「「な!?」」

「少なからず自分への怒りはあるはずだ。だったら一回それを自分にぶつけてくれ。そうすれば少しは考えがまとまるんじゃないか?」

「いくらなんでもそれは・・・」

「鈴、駄目だ」

「どうしてよ、そんなことしても・・・!」

「これは兄さんたちの問題だ。俺たちが踏み込んでいいことじゃない」

「!・・・そうね。ごめん」

 

 雪広の行動は正しいとは限らない。彼女たちに罪悪感を背負わせる行為を助長させる可能性があるのだから。だがそれは彼なりの配慮だった

 しばらくして、意を決するように簪が顔を上げる

 

「いいの?」

「ああ、もちろん」

「雪広・・・ごめんね」

 

 簪は雪広に近づく。察した彼はメガネを一夏に投げ渡し、簪をじっと見る。簪は右手を構え・・・

 

バチン!!!

 

「ありがとう・・・っ」

「簪ちゃん!」

 

 簪は泣きそうな顔になって屋上から去り、それに楯無が追いかけていった

 それと同時にシャルロットが歩み寄る

 

「僕も・・・いいよね?」

 

 雪広は無言でうなずく。シャルロットは簪よりも大きく構え・・・

 

 バシンッ!!

 

「・・・ごめんね」

「あっ・・・」

 

 辛そうな笑顔でシャルロットは去る。その背中に鈴はどうしたらいいかわからず困っていると、一夏が助言をする

 

「鈴、シャルロットのそばにいてくれ。一人じゃ辛いだろうから」

「一夏・・・そうね、行ってくる!」

 

 鈴はシャルロットを追いかけて屋上からいなくなり、兄弟二人だけの空間になる

 

「兄さん・・・」

「一夏・・・嫌われたかな?」

「・・・それは分からないよ」

「そうだよな・・・」

「・・・帰ろ?」

「・・・ああ」

 

 いつの間にか雲が無くなり、空には三日月が彼らを照らしていた

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう雪広君、ってどうしたの?なんか元気ない?」

「おはよう。いろいろあったんだ、いろいろ・・・」

 

 次の日の朝の教室。まだ数人しかいない教室にいつも通り朝早く一人で来ていた。でも、昨日はしっかりと眠ることはできなかった。簪は、シャルロットは、自分の事をどう思っているのか。フった男のことなんて嫌いになったかな・・・

 

「雪広」

 

 ビクッとしてしまう声。思わずその声のほうを向くと、やはりシャルロットがいた。そして、その後ろに簪もいた。二人は自分の前に立つ。怒っているのだろうか?

 簪たちが口を開く

 

「私ね、昨日あの後ずっと考えたんだ」

「僕も夜、ずーっと考えたの」

「うん・・・」

「これから雪広とどう向き合ったらいいか迷ったの」

「それでね、今の私たちの気持ちを伝えたいの」

「・・・」

 

 許してくれるのか。関わらないでほしいって言われるのか。嫌いになったのか。様々な思いが込みあがってくる

 覚悟を決める

 

 

 

「「諦めないから」」

「え?」

 

 だが、二人の答えは予想外のものだった

 

「簪を選んでいたら諦めが付いていたかもしれない。でもあの答えではいそうですか、ってなれなかった」

「私も。私自身諦めが悪いって思ったけどね」

「でも、自分はその感情が無いって・・・」

「『予想された』だけで100%じゃないんでしょ」

「!」

「ほんのわずかでも可能性があるなら、希望があるなら、私はそれに賭けたい。だって友達だもん」

「その感情が戻るなら、協力するのが仲間ってものでしょ?それに、僕を好きになってくれたら一石二鳥で文句ないし、ね」

「って!また抜け駆けはズルい!!」

「駆け引きはもう始まっているんだよ!」

 

 火花を散らす二人。でもその光景がとても嬉しかった

 好意を踏みにじったのに、それでもいつも通りに思ってくれている。私情があるとはいえ、仲間だと思ってくれている。それだけ。ただそれだけ。だけど救われた

 思わず顔がほころんでしまい、それを見た二人も笑顔になる

 

「分かった。ただ、無理ならいつでも諦めていいから。自分のために二人が人生を棒に振ることはしなくていい」

「「・・・」」

 

 でも、それでも今の思いを伝えよう

 

「でも、是非自分が君たちを好きになるように・・・君たち色に染め上げてくれたら嬉しいよ」

「もちろん!!私の魅力で染め上げてあげる!」

「僕だって、負けないよ!!」

「だから、これからもよろしく。簪、シャルロット」

 

 三人で拳を合わせる

 こういう時なのだろう、心が救われるというのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった。これなら安心ね」

「ああ。昨日はありがとうな、鈴。」

「おねーさんも安心したわ。これで貸し借りチャラだからね」

 




 この小説を書くとき、ヒロインたちと仲がいい時、誰か一人を恋人として選ぶと友情が壊れると思ったんです。どうするか考えに考えた結果、『主人公が恋愛出来なければいい』というぶっ飛んだ結論に至りました。
 ISの二次小説で恋愛ができない形の主人公はほとんどないから面白いかな、という事で主人公には苦難の道を歩ませてしまった・・・。一応言っておきますが、これはフィクションです。神経欠損と恋愛感情には何の因果もありません。この世界だけです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話までの主要登場人物紹介と機体説明

 追加説明あり
 ある程度は読み飛ばして構いません
 とても短いです


主要登場人物紹介

 

・遠藤雪広

 世界で三番目の男性IS操縦者。

 たとえ原作が人気のヒロインでも敵だと容赦しない。

 虐待により、恋愛感情を失くしてしまった。というよりも男女の区別がついていない状態に近い。雪広自身は中学まで異性との接触が無かったことも恋愛ができない要因ではないかと思っている。

 性に興味はないものの中学が男子校であり下ネタの話も飛び交っていたため、そういうことはかなり詳しい。一度IS学園で下ネタを話題にしようとしたところ、一夏に腹パンされ未遂に終わる

 

 

・遠藤一夏

 世界で二番目の男性IS操縦者。

 鈴が好きだが未だ恋人になる一歩を自ら進めずにいる。

 実は中学1年の時まで鈴の告白に気づかない唐変木だったが、速攻で雪広の中学の保健体育の授業を受けさせ唐変木ではなくなった。雪広には感謝しているものの、女子に対しても男子校のノリをしそうで不安を抱いている

 

 

・凰鈴音

 中国代表候補生。一夏のことが好き。

 一年生の専用機持ちの中で一番まとも。2組の中でも人気が高く、頼れるお姉さんポジションにいる。一部、おかんとも呼ばれている。苦労人っぽい。

 専用機持ちの中で、形態変化ができないことに一抹の不安を抱いている

 

 

・シャルロット・デュノア

 フランス代表候補生。雪広のことが好き。

 偽りの仮面を捨て、素の自分を出せるようになった。頼れる姉御肌。男装時よりも男勝りになった。タッグマッチの訓練で雪広に猛アピールしていたが、雪広の実態に納得。それでも恋心を諦めきれずにいる。

 性知識はなく、初心である

 

 

・更識簪

 日本の代表候補生。雪広のことが好き。

 出会った当初とは思えないほど明るく、クラスメイトを引っ張るようになった。最近になって、姉と比べられた事で自分は不幸だと思っていたことを恥じている。シャルロットと同じく雪広への思いを諦めずにいる。

 割と姉以上にムードメーカーとなった

 

 

・更識楯無

 ロシアの代表兼生徒会長。

 なんだかんだ簪のストーキングを続けている。簪にはバレているが本人は気づいていない。雪広の過去が全く掴めていなかったが、彼の口から真相を知る。未だ雪広の警戒をしてはいるが、彼の生涯を聞いて納得した。

 意外と下ネタは苦手

 

 

 

機体の追加情報

 

・月詠(ツクヨミ) 、スクーロ・ソーレ

 形態変化条件が「SEが5割を下回ると無条件で発動」に強化

 

 

・打鉄弐式

 形態変化条件が「ISを展開して最低4分の稼働かつ、本人の気分がある程度高まっているとき」に強化

 単一能力において形状変化をすることで「自身にエネルギーを纏わせることでダメージを大きく減らす」能力が追加

 

 

・ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ

 単一能力において、「『マニュエル』でのエネルギー体を2体まで生成」に強化

 




 伏線だったりそうでなかったり


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4章 臨海学校
第26話 それぞれ


 
 今回も難航しました。日常ほど難しいものはないです


 7月の頭。梅雨が明け、うだるような暑さになる時期。だがそれ以上に俺たちのクラスメイト達は浮足立っていた。来週には二泊三日の臨海学校があるからだ。

 臨海学校はISの稼働訓練と名目上言われているが、それがあるのは2日目のみ。初日は完全にフリーで、1年生たちの小旅行とされている。俺はその準備として駅前のショッピングモールに鈴と行くことにした。

 デートらしく駅前で集合という事にしたのだが、集合時間の30分前についてしまう。楽しみにしていたとはいえあまりにも早すぎるだろ、と反省していたが

 

「あれ、一夏?待った?」

「いや、全然!鈴こそ早かったな」

「そ、そりゃ楽しみにしていたもん」

 

 鈴も集合時間の前に到着。鈴も楽しみにしていたのか早く着いたようだ。それはさておき

 

「服、凄く似合っているよ」

「そう?良かった」

 

 鈴の私服姿は小学校以来でISの制服とは違う良さを感じる。言葉ではうまく言い表すことができず、ありきたりのことしか言えなかったけど、鈴も嬉しそうでこっちも嬉しくなる

 

「じゃあ、行こうか」

「なら、手繋いで?」

「あ、ああ!」

 

 3年前だったら迷子にならないように程度しか考えなかっただろうが、今は違う。こんなにもドキドキするものなんだな。そんな舞い上がった気持ちで俺たちはショッピングモールに向かった。

 

 

 さて、そのショッピングモールでまずは水着を買わなければ。いったん鈴と別れてそれぞれ水着を見る。さすがに中学の水着では味気ないから新調したいものだ。男物の水着は店の一画にしかなかったが、逆に多すぎてもそんなに選ばないだろう。むしろ、女性のほうがいろんな種類のを選びたがるだろうし、これについては女尊男卑でも何でもないはずだ

 無難なハーフパンツ型のを買って鈴のところに行く

 

「どう?いいもの見つかった?」

「ええ、これはどうよ?」

 

 見せてきた水着はオレンジ基調のセパレートタイプの水着だった。それを着ている鈴を想像する・・・え、可愛すぎないか?

 

「・・・ニヤけてるわよ?」

「ハッ!に、似合うぞ!とても!!」

 

 変なことを想像したのをごまかすように、思わず食い入るように言う。ってこれじゃあ変な想像をしてました、って言っているようなものじゃないか!

 鈴は少しほほを赤らめる

 

「ま、まあ、私の目に狂いはなかったというか・・・一夏が似合うっていうなら文句ないわね」

「そ、そうだな」

「じゃあ買ってくるから待ってて」

 

 鈴は小走りにレジのほうに向かう。そんな後ろ姿もかわいらしいと見惚れていた

 だから後ろにいた女に気づかなかった

 

「そこのアンタ、これを買いなさい」

「は?」

「聞こえなかったの?アンタがこれらを買えって命令しているのよ。ISを使える女の命令を聞くのは当然でしょう」

 

 そう言って、見知らぬ女は服の入ったカゴを俺に押し付けてくる。これは典型的な女尊男卑の輩か。東京ではそんなやつはいなかったが、これが普通なのか。少し落胆しながらも、こいつに反論をかましていく

 

「ではあなたは当然ISを動かすことができるんですよね」

「え?いや、私は・・・」

「動かすことができないのですか?あなたの言い分は『ISを動かせられる人が偉い』ですよね?ならあなたはISを使うことができないのに男よりも偉いというのは矛盾していませんか?」

「う、うるさい!ISを起動できない劣等種の存在で!!」

 

 私は悪くないかのようにヒステリックに喚き散らす女。こんなのが社会にいることに驚きつつ、切り札を切る

 

「そうですか、数少ない男性IS操縦者である俺が劣等種ですか。ああ、これがIS学園の学生証です」

「え、遠藤一夏ですって!?」

「あなたはISを動かせられない。対して俺は動かせられる。どちらが偉いかは一目瞭然ですが、いかがでしょう?」

 

 やや煽りながら問い詰めていく。これほど言えばそそくさと逃げるだろう。こっちは貴重な男性IS操縦者。女の言い分はいくら何でも通ることはない。相手もわかっているはず

 

 だが俺の予想は甘かった

 

「男の分際で・・・私を侮辱して・・・ふざけるな!!」

 

 マジか、殴りかかってきやがった。ここまで立場を理解してないなんて、低能な女もいたものだ。だが殴ってくるとは言え、ド素人の拳なんぞ避けるのは容易。避けようとしたのだが

 

「おいおい、ガキに手を出すなんてみっともないにも程があるぜ」

 

 別の女が低能の拳をつかむ。なんだ?助けてくれたとはいえ、茶髪ロングで切れ目のOL風な女は知らないのだが

 

「何よ!そのガキの味方になるつもり!?」

「その通りだが?てめえみたいな社会のゴミから守るために、な!」

「がっ!」

 

 茶髪の女が低能の背後を取り、頭をつかんで地面にたたきつける。断末魔を少し上げた後、低能は気絶。その直後に警備員の人たちが来て事情を説明した後、低能は連行されていった。

 警備員たちを見届けた後、鈴が慌てて戻ってきた

 

「一夏、どうしたの!何かあったの!?」

 

 俺はこれまでのことを話す。女尊男卑の女に絡まれたこと、それをこの女性が助けたこと

 

「そうだったの、一夏を助けてくれてありがとうございました!」

「お礼を言うのが遅れましたが、助けてくれてありがとうございました」

「いいって、俺が勝手にやったもんだから。にしても災難だったな、デート中に」

「え、ええ。まあ・・・」

 

 第三者にデートと言われるとなんか恥ずかしいな・・・

 

「かーっ、青春だねえ!じゃあ俺は退散しますか!またな!」

 

 そう言って、その人は離れていく。結局名前も聞けなかった。一体誰だったのだろうか?それとも人を助けずにはいられない性格の人なのだろうか?そもそもあんなにスムーズに背後を取って人を無力化できるのだろうか?

 考えていると袖をクイクイと引っ張られる

 

「どうした?」

「ううん、何でもないよ。デート続けよ?」

 

 まあいいか。悪い人じゃないなら問題ないし、それに鈴とのデートの途中だし

 鈴は俺の手を先ほどよりも強く握る

 

「今日のデート中はもう離れないからね!また変なのが絡んできたら今度はあたしが追っ払うから!」

「絡んでこないことがベストだけど、頼りにしてる」

「まっかせなさい!」

 

 男として守られるのはどうかと思う反面、鈴の勇敢な姿も見てみたいとも思う。そんな思いの中デートを再開した。

 結局何事も問題なく終わったんだけどな。鈴のかわいい姿を見れたので文句ないけど

 

 

 

 

 助けたガキと離れた後、俺は相方と待ち合わせていた場所に急ぐ。結構時間を食っちまったから、アイツはもういるだろう

 

「おーい、スコール!」

「あら、遅かったじゃない、オータム」

「悪い、いろいろあったんだ」

 

 さっきまでのことを手短に話す。スコールも俺と同じく女尊男卑の女が死ぬほど嫌いだし遅れた理由として納得してくれるだろ。

 実際にスコールも納得してくれたが、不快そうに顔をしかめる

 

「本当に増えているわね、女尊男卑(バカ)な女が」

「マジで反吐が出る。特にこの国は酷いな」

「私たちが紛争地域の人々を助けているのに・・・といっても女尊男卑の要因となったISを使っている私たちが言えたことじゃないわね」

 

 二人そろってため息をつく。

 俺たちは亡国機業(ファントム・タスク)という国際テロ組織に所属している。といっても無差別に人を殺しまくったり、領土を占領したりするような外道ではなく、紛争や違法行為で利益を得ようとする屑たちをぶっ潰すために武力を行使する、自分で言うのもなんだが必要悪の団体だな。ほかにも金持ちのボディーガードだったり警備だったりと金さえ積めば傭兵のような仕事もしたりする。最近は特に紛争で金を巻き上げようとする輩が多かったから大変だったよ。

 とまあ、こんな団体だから女尊男卑に染まる奴なんていないはず。そう思っていたんだが

 

「最近俺たちにもそういう輩が増え始めたよな」

「ええ。全く、バカな思想に染まるなんて・・・最近だと内部でクループを作っているとか」

「『過激派』だろ?一回灸をすえたほうがいいんじゃねえか?」

「まだ小さいし、分裂やクーデターできるほどの規模じゃあないわ。トップも何も言ってないし」

「そうか・・・でも気を付けないと。マドカもそんな思想に染まらせないようにしないとな」

「大丈夫よ。あの子は賢いわ」

 

 そうだな、俺よりも賢いもんなあいつは。

 ・・・あいつの顔で思い出した

 

「なあ、スコール。今日助けた男なんだけどな」

「何、あなたの好みのタイプ?」

「違えよ!」

「ごめんごめん。で、その男がどうしたの?」

「ああ、それなんだけどな・・・

 

 

 織斑計画の奴かもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

『姉さん!電話に出ないなんてどういうことですか!!いいですか私は姉さんの作った専用機が欲しいんです。逆らうやつらを屈服させる力が欲しいんです!あなたなら作れますよね!あなたのせいで私たちは家族がバラバラになったんだからその責任をとってもらいm』

 バキバキッ!!

 

 デュノア社の手伝いをし、いっくんの送られてきたデータを確認し、ゆーくんの欲しがっていた武器の調整も終わって久々のラボに届いていた一件の留守電。番号を確認せずに聞いたのがいけなかった。最後まで聞くことなく電話機を破壊する。

 

「・・・何が家族だ」

 

 家族だから。愚妹が言っていたが、私にとっては免罪符にしか聞こえない

 

 私はほかの人と比べ、ずば抜けて優秀だった。勉強も運動も。周りは何でもできるって言って気味悪がられてもいた。ただ当時の私には全くできなかったことが一つ、『剣道』だけは才能が全くなかった。試合とかでは負けないのだが、剣道の『形』を体に覚えさせることができず、当然私の父親が経営する篠ノ之道場で教えられる篠ノ之流を覚えることがどうしてもできなかった。だから私ができるほかのことで数多くの賞を掻っ攫っていた。認められるために。

 でも家族は何も見てくれなかった。そればかりか剣道の才能があった妹を溺愛するようになり、私はただいるだけの存在に。そのころには私も家族に興味がなくなり、周りもほとんど話しかけてこなくなった。だから私は自分の夢を追いかけてきた。

 それなのに、それなのに・・・

 

「今更家族面なんて・・・」

 

 家族とは縁を切った、と私は日本政府にはっきり言いきった。戸籍も外し、赤の他人になったのに、政府の無能(クズ)たちが勝手に『保護プログラム』というものを作って家族をバラバラにさせたのに、どうして私に文句を言ってくるのか。そして今更家族だからとかで好き放題言いやがって。私のことを気にかけてくれたいっくんを虐めておいて・・・ふざけるな

 

「ふざけんな!!!」

 ガシャン!!

 

 壊れた電話を再度殴りつける。電話だったものがバラバラになる。それでも怒りが収まらない。壊したい、つぶしたい。そして、憎い。今度はテーブルに向かって鬱憤を晴らそうと右手を強く握ろうとする。

 

 それと同時にパタパタと足音が近づき、扉が開く

 

「どうしましたか!?」

「・・・何でもないよ、くーちゃん。ちょっと不快な留守電が入っていただけ」

「ですが、血が!止めないと!」

 

 部屋に備えていた救急箱を持ってきてくれる銀髪の少女。名はくーちゃんことクロエ・クロニクル。以前ゆーくん達に危害を与えようとしたクソガキを作った研究施設で拾った子だ。彼女は失敗作だったらしく処分される運命だったのだが私が拾い、研究員を逆に処分してやった。以降、私のラボに住んで家事とか仕事の手伝いをしてもらっている

 

「大丈夫だって、束さんの体は丈夫だから」

「だめです!そこからバイ菌が入って炎症を起こすかもしれないのですよ!」

「でも」

「いいから!」

 

 やや強引に止血される。本当に必要ないんだけどね。私は異常なほど丈夫だったし

 するとくーちゃんはぽつりぽつりと言葉を吐き出す

 

「束様、どうかご自身を労わってください。私は不安なのです。何でも平気だという束様が・・・壊れてしまいそうで」

「!」

「束様がいなくなったら、私はまた・・・一人ぼっちに・・・」

 

 かき消える声。肉体だけではない、精神的に傷ついているのをくーちゃんは見越している。私はくーちゃんをここまで心配させていたのか。ケガしていない左手でくーちゃんの頭を撫でる

 

「ごめんね。気を付けるから」

「・・・はい。ではそろそろ夕飯ができるのでもう少し待っていてくださいね」

 

 そういって部屋から出ていくのを見届ける。さっきまでの怒りはほとんどなくなっていた。くーちゃんと話しただけで気持ちがこんなに落ち着く。くーちゃんは自己評価が低いから謙遜するけど、そんなことはない。仕事も家事もしてくれるし、何より私と話してくれる。それだけで心にゆとりができる。

多分だけど、私が欲しかった・・・家族のつながりみたいなものがここにある気がする。

 たとえそれが偽りであっても、このつながりが欲しかった。

 

「ありがとうね、くーちゃん」

 

 そんな言葉(本音)が漏れた

 




 原作の束さんがあそこまでイかれているのって、教育にも問題がある気がするんです。実際両親すら認知してないですし、ネグレクトに近いことをされたんじゃないかと


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 想定外


 人は時に理不尽を味わう。思ってもみない時に
 私は単位で理不尽を受けました。悲しい



 青い海、白い砂浜。絵にかいたようなビーチが目の前に広がっている。学校のプールでしか泳いだことのない俺にとって、こんなビーチは人生で初めてだ。しかも貸し切りとは・・・こういう時は国立バンザイだ。

 今日は臨海学校初日。つまり完全自由時間の日だ。俺はよくつるむメンバーの中で一足先にビーチに来た。男の着替えなんてすぐだからな

 と、まず来たのはシャルロットとのほほんさんか

 

「一夏じゃん。おお、その水着いいね」

「いっちー、かっこいい~」

「シャルロットにのほほん・・・さんか」

 

 二人の姿を見て、のほほんさんの姿で若干戸惑ってしまった。シャルロットはオレンジのビキニで体のラインを強調している。着やせするタイプのようで、かなりセクシーだ。問題はのほほんさんだ。

 

「それは・・・水着なのか?」

「どうみても水着でしょ~?」

「いや、どうみても着ぐるみだよ」

 

 シャルロットのツッコミのように、のほほんさんは某電気ネズミの着ぐるみを着ているようにしか見えない。百歩譲って冬用のパジャマだ。見ているだけでより暑く感じてしまう

 

「ま、まあ二人ともにあっているよ」

「やった~、いっちーに褒められた~」

「でしょ?僕、結構自信あったんだ」

「兄さんの気を引くためにか?」

「まあね。この水着で少しでも気を引こうなんて思っていたんだけどね」

「だけど、兄さんは・・・」

 

 と言いかけたところでこちらに二つの人影が近づいてくる

 

「一夏、お待たせ!」

「少し遅れちゃったね」

 

 鈴と簪が合流。鈴は先日のデートで選んだ水着を着ている。脳内で妄想していた通り、いやそれ以上の破壊力だ。カメラがあったら永久保存したい。簪は水色ベースのパレオで明るさと可愛さが相まっている

 

「簪はイメージ通りな感じだな」

「いいでしょ~・・・『ここ』じゃ勝てないから」

「簪、気持ちはよーーくわかるわ。でもあんたの方がまだマシよ」

 

 簪と鈴はシャルロットの一部分を凝視する。俺まで見たら絶対鈴に殴られるから、静観する。俺はソコの大きさなんてまったく気にしていないけどな

 さて、これで()()()ことだし

 

「泳ぎに行く?」

「え?待って。一人足りないじゃない」

 

 ここには俺と鈴、シャルロット、簪、そしてのほほんさんの()()がいる。鈴と簪の言い分も間違ってはいない

 

「雪広は?」

「まさか、喧嘩したとか?」

 

 兄さんがいないことに疑問を持つ二人。それに対し、俺たち三人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる

 

「兄さんは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 バスの移動中、旅館まであと10分程度までさかのぼる。

 俺と兄さんはバスの席が隣同士で、兄さんが窓側、俺が通路側だった。兄さんはバスが発車してしばらくすると眠ってしまった。耳栓もしているので寝る気満々だったのだろう。俺は隣のクラスメイトと話をしたり、トランプで楽しんだりした

 で、あと十分だと担任が言っていたので兄さんを起こそうと肩を叩く。さっきから微動だにしていなかったから、相当疲れていたのか?

 

「兄さん、そろそろ着くよ」

「・・・」

「兄さん、起きて。ほら」

「・・・」

 

 反応がない?と思ったら右手でOKサインを出す。起きているようだ。

 

 でも何かおかしい。心なしか呼吸が荒い

 

「兄さん、どうした?」

「・・・」

「マズいことが起こったのか?」

「・・・」

「体調悪いのか?」

「・・・ウップ」

 

 え?もしかして・・・

 

「・・・酔った?」

「・・・」

 

 兄さんはコクリと無言でうなずく

 

 ・・・嘘だろ?

 

 

 

 

 

 

 

「「酔ったの!?IS乗っているのに!?」」

「俺も酔うなんて思ってもみなかった」

「ゆっきーの顔真っ青だった」

「バス降りてすぐ崩れ落ちたよね」

 

 鈴たちの反応も納得だ。いままでバスには乗ったことがほとんどなかったから兄さんもバス酔いするとは思わなかったらしい。幸い、バス内では吐くことはなかった

 

「つまり雪広は・・・」

「旅館の部屋にいるってこと、だよね?」

「いや、多分部屋のトイレで吐いてる」

「マジでダメじゃん!」

 

 俺が担いで旅館の個室に運んですぐにトイレで吐いていたからな。それでもビーチに行こうとしてたんだけど、ドクターストップさせた

 

「『水着のJK達を見れる貴重な機会なんだ!行かせろオロロロロ』って遺言を聞いてから一通り介抱して置いてきた。さすがにビーチで吐かれると色々とアウトだろ?」

「余裕でアウトよ。逆に語り継がれるわよ」

 

 確かに。水着の女子高生がビーチで遊んでいる中で嘔吐する雪兄さん。想像してもシュールすぎる

 

「よりによってこんな日に・・・」

「兄さんって学校の楽しいイベントの時に限って体調を崩しやすくてさ。呪われてるんじゃないかって思うくらい」

「呪われたような人生なのに」

 

 言うな、簪。兄さん自身もわかっているだろうから

 ふとシャルロットが疑問を投げる

 

「あれ?雪広ってそういうのに興味ないんじゃなかった?」

「何でも中学の同期に自慢するためだと。兄さんの中学って女子とどれだけ関わったかで自慢できるらしい」

「なんだ、残念。悩殺できるのかと思ったのに」

 

 見せつけるかのようにポーズをとるシャルロット。無意識に鈴たちを煽るなよ

 それよりも、そろそろ海に入りたい。さすがに砂浜で駄弁るには辛くなってきた。適度にこの話題を切るとしよう

 

「そういうわけだから兄さんの分まで楽しもう」

「そうね。雪広には申し訳ない気もするけど仕方ないし」

「よーし、海だー!!」

「レッツゴー!」

「ああ、待ってよ~、かんちゃ~ん」

 

 そのあとは海で泳ぎ、クラスメイト達とビーチバレーもして初日の自由時間を満喫した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか夜。バスで酔って吐いた後、泥のように眠ったらあっという間だ。気分はよくはないが、旅館に着いた時よりはだいぶマシだ

 夕食の時間も眠っていたが、旅館の方が自分のためにわざわざ作ってくれた。感謝しつつ風呂はシャワーで済ます。ここの温泉は格別らしいのだが体がまだ重いため、その楽しみは明日にとっておこう

 

「兄さんどう?体調は?」

「ああ、だいぶマシになった」

 

 これ水な、と言って一夏が投げたペットボトルを取り、一口水を含む。ぬるめの温度が一夏らしい配慮だ

 

「風呂はどうだった?よかった?」

「最ッ高だった!露天風呂もあったし、独り占めできてもう贅沢だったよ」

「そりゃあ良かった。明日満喫するか」

 

 それにクズと鉢合わせしなくてよかった

 ただ・・・なんとなく嫌な予感がする。体調が悪いときにありがちな、言いようのない不安が消えない

 

「一夏」

「うん?」

「一夏は自分の大事な家族だからな」

「どうしたんだよ兄さん。なんか恥ずかしいよ」

「・・・すまん。柄にもないことを言ったな」

 

 明日、何事もなければいいんだけどな。杞憂で済むと信じ、明日に向けて早めに就寝しよう

 でも、今日ずっと寝ていたから寝れるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これを取り付ければ暴走する・・・と。これで私たちの実験がわかるのね」

 

 アメリカ軍のとある施設。一人の女がそばにある銀のISに手のひらサイズの装置を取り付ける

 

「この前の機体は代表候補生程度にやられたけど、今回なら大丈夫でしょう。これがうまくいけば無人機のISを思いのまま。そうすればあの団体から独立できる・・・」

 

 わずかにある明かりが女の歪んだ顔を映し出す

 

「ホント、あそこは崇高な考えがわからないのだから。さっさと独立して世界を、とその前に設定しないとね。ここで暴れてもらうわよ」

 

 ディスプレイで入力していく。その目的地は

 

「『東京』・・・っと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、どうなっている!」

「わかりません!ですが、機体が勝手に!」

「バカな!ISが無人で動くはずが!」

「ダメです!こちらからのアクションに全く反応ありません!」

「マズいです!ISが外に!」

「今すぐ軍に要請を!これ以上被害が出る前に!!」

「は、班長!機体がこっちに来ます!」

「総員、退避!!もしくは何かにつかまるか縮こまれ!!吹き飛ばされるぞ!!」

 

 慌てふためく整備員たち。あざ笑うかのように銀のISは夜の空に飛び立っていく。

混乱した現場を見るようにして先ほどの女が満足そうにその場を立ち去った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 臨海学校二日目の朝。体調は万全に回復。これならISの実習は参加できる。

 自分たち専用機持ちは本国から送られてきている新型装備や対空戦、対地戦などのパッケージの運用のデータ収集を行う。要するにそれぞれのパッケージで軽く打ち合いをしてその改善点を報告するのだ。それが済めば自身の機体のチューニングを徹底的にやるとのこと。いつもメンテナンスをしてはいるが、今までの成長分もあるので再度チューニングをするのはいい機会だ

 ただ一つだけ、おかしなことが。モップが専用機持ちのグループにいる。

 

「なんでお前がここにいるんだ」

「はっ!お前ら凡人には分からねえだろうよ」

「私も専用機持ちになるのだ。それも最強のな」

「はいはい、そーですか」

 

 天才とその取り巻きの考えてることは分からねー。クズ教師も何も言わないし・・・本当にもらうのか?それとも俺たちへ何かしらの嫌がらせか?いや、それより自身のすべきことに専念しないと。そこにかける時間がもったいない。ほかの面子もさっさと持ち場に行ってしまったようだ。

 自身のコンテナのところに行き、ジレス社からもらった2つのパスコードでコンテナを開ける。さて、どんなパッケージが

 

 

 

 

「ハッロー!束さん、参上!!」

 

 え?

 




 普通ならヒロインとキャッキャすると思うんですが、なぜかこの展開がひらめきました。ある意味この展開は他ではないと思うんです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 不安

 

 待て待て待て。何故束さんがいる?そもそもこのコンテナにどうやって侵入した?

 

「サプライズ的に面白いかなってさ!」

 

 そうですか、って普通に心を読まないでください。顔に出てましたか

 

「それよりも何故ここに来たのです?」

「そりゃあ、いっくんの機体の調整に来たのだよ。整備士としてね。生で見た方がより調整しやすいし」

 

 許可は取ってあるよん、と誇らしげに言う。そういやここ最近、色々とありすぎて束さんと会えていなかったな。それも兼ねて、会いに来たのもあるだろう。

 

「さてさて、ゆーくんの驚き顔を見れたことだし、いっくんの所に行きますか」

「一夏ならあっちに」

「やっほー、いっくん」

「速っ!」

 

 さっきまでここにいたのに、どうして目で追う前に一夏のところにいるんだ。一夏とはそんなに近くないぞ。あれか?瞬間移動でも使ってるのか?それとも時空でも歪めているのか?・・・どっちにしても束さんなら出来そうだな

 ただ・・・本当にそれだけなのだろうか。会ってはいないものの電話ならドイツの件でも話をしたし、わざわざ束さんが会いに来るか?それもクラスメイトがいる中で。それとも・・・いや、考えすぎか?

 

 

 

 

「やっほー、いっくん」

「た、束さん!?どうしてここに!?」

「いい反応をしてくれるね~。束さん嬉しいよ」

「ど、どうも。ってそうじゃなくて!」

「もちろん、いっくんの機体の整備をしにきたのだよん。実際に見た方がいいでしょ」

 

 そ、それだけのためにか?それだけのために引きこもりに近い束さんが外に出るのか?

 

「何か変なことを考えていない?」

「いえ、何も」

「それじゃあISを展開してね」

 

 危ない危ない。下手に拗ねられると長いからな。表情に出さないようにしないと。

 束さんの指示通りにISを展開し、束さんはコードを取り付けてデータを読み取っていく

 

「うん、うん!しっかり手入れもしているようだし、稼働率もいい感じだね!これならまだまだ強くなれるよ!」

「ありがとうございます」

「細かいところは私が調整したから、動かしてみて」

 

 ある程度皆から離れた後、急上昇をして前後左右に動かす。おお、今までよりもよりスムーズに動く。武器の展開もわずかだが早くなっている。流石としか言いようがない

 

「どうだった?」

「バッチリです。相変わらず凄いとしか」

「はっはっはー。褒めても何も出てこないぞ?」

「姉さん!!」

 

 と、俺たちのところにずかずかとモップが来やがった。なんでこいつが来るんだ?まさか専用機持ちに居座っていたのって、束さんが絡んでいるのか?

 

「私の専用機は!?頼んだでしょう!?」

「は?何言っているのさ。私は知らないね」

「何を寝ぼけたことを!あなたに留守電を入れたでしょう!!」

「じゃあ『作る』って折り返しの電話は聞いたの?ん?」

「そ、それは・・・」

 

 束さんに頼んでいるとは・・・関係ないだのほざいておいて、こういう時には泣き付くとは情けないにも程がある。そのくせ、ほかの人が同じようなことをしたら『恥を知れ!』で殴るんだろうな。救えない

 

「わ、私はあなたの妹だ!それに、あなたのせいで家族がバラバラになった!だからあなたは私に専用機を作る義務がある!!」

「へえ・・・」

 

 すると束さんの目が鋭くなる。これは嫌悪ではない、もっと黒い感情。そんな目を向けられ、モップは怯えたように後ずさる。かくいう俺も冷や汗がにじみ出る

 

「じゃあさ、お前は今まで私のことを姉として見てきたかい」

「は、はい?」

「妹面するんだったら、私のことを姉として接してきたんだよねえ?」

「も、もちろん・・・」

「嘘はいけないよ。私のことを姉として見ていなかったくせに」

 

 モップが後ずさった分以上に束さんが近づく。もう胸と胸が触れ合いそうなところまでに近い

 

「剣道に才能がないと知ったとき、お前はどんな目で私を見ていた?ISが発表されるまで、お前はどう私と接していた?答えてみろよ」

「あ・・・う・・・」

「答えられないか?忘れたか?なら今教えてやるよ」

 

 今、俺は束さんの表情を見れない位置にいる。でも、どんな目をしているかは想像がつく。

 

 ゴミを見る目でモップを見つめているだろう

 

「今お前を見ている(軽蔑する)ように接していたんだよ、お前は・・・いや、お前ら家族は」

「わ、私は・・・そんなこと・・・知らない」

「そうだろうなあ。する側は自身のしたことを忘れるのだから。でもな、された側はそれをいつまでも覚えているんだよ!!」

 

 束さんの叫びに皆が何事かと反応する。ただ俺は束さんの言葉を黙って聞いていた。

 俺は何も束さんのことを知らなかったんだ。俺がいじめられている時、束さんも苦しんでいたのか。それなのにそれを微塵も出さずに、俺を元気づけようと明るく接してくれていたなんて・・・。おこがましいだろうが、何も力になれなかった自分が情けなくなる

 

「束さん・・・俺」

「気にしないで。これは私の元家族の問題。いっくんが気にすることはないよ」

 

 小さいときに見せていた優しい笑顔を俺に向けてくれる。違うんだ。束さんを慰めたいだけなんだ。でも悲しいことに、俺には慰める言葉が出てこない

 

「な!?も、元家族だって!?」

「はあ?戸籍は抜いたって言ったはずだけど?どうせ都合の悪い情報は聞いてなかったんだろ。お前と私はとっくに赤の他人だ」

「で、でも家族が・・・」

「それは日本政府がやったことだ。私は関係ない。文句はそいつらに言うんだな」

「そ、そんな・・・」

 

 頼みの綱が途切れたことで崩れ落ちるモップ。それにクズども(一春と千冬)が群がってきやがった

 

「束さん、それはあまりにもひどいではありませんか?箒はたった一人の血の繋がった妹でしょう」

「そうだぞ、束。縁を切ったとはいえ、お前の家族に変わりはないのだから」

「・・・ハハハハハハハハハ!!!」

 

 束さんが狂ったように笑い出す。いや、笑っているようで目は全く笑っていない

 

「家族を大事にしろ?血の繋がった妹を大事にしろ?お前らがそれを言うか!?弟を見捨てたお前らが!?滑稽すぎて束さんの耳がおかしくなったのかと思ったよ!!」

「あ、あれは出来損ないだ!家族でも何でもありません!」

「ハッ!矛盾してるじゃないか。血はつながっているだろう!ほら、私を納得できる言い訳でも言ってみろよ!!」

「ううっ・・・」

「・・・チッ」

 

 口論では束さんに勝てないと悟ったのかクズは黙り込み、クズ教師は舌打ちをする。二人は今だ放心しているモップを担いで持ち場を離れていく

 

「・・・本当、あいつら全く成長してないんだね」

「そのくらい性格がひん曲がっているんですよ。無駄に才能もあったから余計に」

「でも・・・私もあいつらと同類だね。実の家族を蔑ろにしているし」

「それは自信を卑下しすぎですよ、束さん。アレは落ちに落ちぶれている。あなたはそんな人ではない」

 

 いつの間にか傍にいた兄さんが会話に入ってくる。代表候補生たちもうなずいている

 

「って、みんな集まったのか」

「だって篠ノ之博士が怒っていたようだったし、ゴリラ女(モップ)が噛みついている感じったから気になって」

「私も何事かと」

「あはは、ごめんね。作業の邪魔をしちゃって」

「いえ、あたしたちが気になっただけなので」

「もう大丈夫だから、心配しなくていいよ」

 

 わかりました、と言って各自作業に戻っていく。ある程度離れた後、束さんが俺に聞こえる程度で話しかける

 

「実はね・・・私が来たのには理由があるんだ」

「いったい何が?」

「・・・勘なの」

「勘・・・ですか」

「今日、嫌な予感がしてね。根拠とか全くないけど、もしものことを思って来たの」

 

 冗談ではない真剣な顔で話す束さん。確かに、束さんの第六感は当たる方だ。特に悪いことの勘はかなり正しい

 

「そのためだけに?」

「杞憂だといいんだけど、心配でね」

 

 そしてわざわざ来たということは()()()()()()()()()のだろう。それこそ誰かが重傷を負うような悪いことが起こると。でも臨海学校で重傷を負うレベルのことが起こるのか?機体トラブルで海に突っ込んで溺れるとか事故が起こるとか

 

「事故程度なら私がいれば問題ない。ある程度なら治療もできるし、そもそもそんな事故を未然に防ぐだけだし」

「そうですね。束さんなら出来そうですね」

 

 何事もなければ。そう信じるしかない。幸い午前中は問題なく進んだ。束さんは鈴たちのチューニングを手伝いつつ、俺のデータを入念にとっていく

 

 

 しかし、午後の訓練開始直後で束さんの悪い予感が的中することになる

 

 

 

 

 

 

 旅館にある会議室。ここに教師陣と俺たち専用機持ちが集まっている。

 織斑千冬からの情報によると、先ほどハワイ沖で試験稼働を行っていたアメリカ・イスラエル共同開発の試作IS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が暴走し、なぜか日本に向かって高速で飛行しているとのこと。2時間後にこの付近の海域に接触するため、自分たちで対処しろとIS委員会が命令を下したとのこと。しかも暴走ISのコアネットワークが切れているようで、束さんが止めようとしたがコマンドが効かない。想定を超える最悪の状況だ

 

「正確な機体の情報開示を僕は要求します。対象の情報も無しに対策など立てることはできません」

「・・・口外はするなよ。破った場合、査問委員会からの監視が最低二年つくと思え」

「上等さ。代表候補生を舐めるな」

 

 シャルロットが先陣を切って言う。ただ、おかしな話の気もする。そもそもIS委員会はなぜ学生の自分たちに責務を押し付けたのか。この暴走を止められる戦力は持っているはずだ。それにわざわざ自分たちのところに失態をさらけ出すか?普通はもみ消すはずなのに

 

 もしかしてこのクズ教師が一枚噛んでいる?

 

 福音の詳細なデータが公開され、議論をする声に耳を傾ける

 

「広域殲滅戦用IS・・・特殊射撃型でオールレンジ攻撃可能か・・・」

「砲口が36門・・・この火力じゃ一発でも直撃したら無事じゃ済まないわ」

「それよりもこの機動力のほうが厄介だね。スペック上では私たちの機体ではついていけない」

「僕の機動力重視のパッケージなら何とかついていけるけど、攻撃も防御も手薄になるし」

「それよりも近接性能が全く分からないわ。迂闊に近づくのも危険だわ」

ここ(旅館)にきて暴れられる可能性もあるから、誰かはここで防衛をしなきゃいけないし・・・」

 

 代表候補生たちは策を練っているが、最適解が見つからない。ただ自分はこの事件そのものが気になった。

 ただのISの暴走なら前例があるし、それで体の一部を失った国家代表もいる。しかし、今回は()()()で暴走している。これは過去に一度もない。明らかに外部の手が加わっているとしか思えない。それに何故日本にまっすぐ来ているのか。それも東京を通るように狂いなく来ている。気になる・・・

 

「兄さん?どうしたんだ?」

「いや、なんでこのISが暴走したのか気になってな」

「確かに気になるけど・・・今はその暴走を止めるのが目的じゃないか?」

「そうだったな。議論とは関係のないことだった。すまん」

 

 何を考えていたんだ、自分は。まずは目の前の問題を解決することが重要じゃないか

 改めて銀の福音のデータを見る。見るのだがデータが足りない。これでは完全に作戦を成功するには問題がある

 

「皆さんの意見を聞きたい。偵察はできます?」

「無理だ。コイツはマッハ2の速度で飛行中だ。接触できるのは1回きりだ」

 

 一回きり・・・ならば偵察兼妨害役で防御・機動重視の一陣が行き、ある程度時間と情報を稼いだ後本命の二陣と即座に交代してISを止める。これが今できる最適解ではないか。

この考えを言おうとしたのだが

 

「なら俺の出番だな。俺の零落白夜があれば一発で仕留められる何も問題はないだろう?」

「そうだな。その方針で行くとしよう」

 

 待て待てクズども。なに勝手に決めようとしてんだよ。確かに今回において相手は無人機だし、零落白夜は最適だと思う。だが、こいつの技量を全く信用していない。いかんせん、ろくに訓練をしていないやつが本番でうまくいくなんて考えられない。100%失敗する

 

「待ってください!これでは不十分です!もしも零落白夜で仕留められなかったらどうするんですか!」

「おいおい、俺が失敗なんてするわけないだろう、鈴?」

「うっさい!もしものことにも備えるのが作戦会議よ!楽観視していたら死ぬわよ!!それと下の名前で呼ぶな!!」

 

 鈴の言う通り、もしものことまで考えて穴を極限まで埋めるのが常識だ。それにこの作戦で行くにしても問題がある

 

「どうやって移動するんですか?白式なら速度は問題なさそうですが、SEは持ちませんよ?」

「なら一人を織斑の運搬係にさせる。この中なら・・・遠藤弟。貴様がこの中で機動に優れたパッケージを持っている。貴様がやれ」

「「は?」」

「よし、この作戦は織斑、遠藤弟の2名で行う。残りは旅館の警備に回れ」

 

 ふざけんなよ。なに勝手に決めてやがるんだ。こんな穴だらけの作戦に一夏を巻き込ませるわけにはいかない

 

「その作戦は無謀だね」

 

 と、いつの間にか会議室に入っていた束さんがその作戦を批判する。自分が反論しても権力で黙殺されるところだったからナイスタイミングです

 

「なんだと?」

「援護も無しに突っ込むのはよほどの馬鹿か自殺したい奴だけだよ。愛しの弟が海の藻屑になってもいいなら文句ないけど」

「・・・ならお前は案があるのか」

「それはゆーくんに言ってもらおうかな」

 

 ここで自分に振るんですか。なら自分の考えを言うだけだ

 

「この場合は部隊を二手に分け、一陣は織斑中心の強襲部隊で暴走ISの進路をふさぐ。ある程度時間を稼いで二陣の部隊と合流し、被弾を最小限としたヒットアンドアウェイ。一陣で倒せれば御の字、倒せなくても足止めができれば二陣のSEを機動に回さなくてよくなりますから、これが良いかと。できれば総出撃が最適ですが、どうでしょう」

「いいと思うよ。でも総出撃だとここが手薄になっちゃうからそこは詰めないとね」

「手数も足りないですね・・・奴ら(セシリアとラウラ)を潰したのはミスだったか」

「おい、貴様ら。決定権は私にあるんだ」

「だからあなたが納得できる案を詰めているんですよ。全員ができる限り被害を抑えて作戦を完遂するために。それともこれより良い案があるのですか?」

「・・・」 

 

 無いんなら文句言うなよ。織斑はどうなってもいいが、一夏や仲間たちは死んでほしくない。もっと詰めていかなければ

 最終的に一陣は織斑と一夏、二陣で自分と鈴、旅館の防衛は簪とシャルロットに決まった。二人はやや不満そうだったが、形態変化の単一能力では防衛に適しているから仕方ないとのこと

 

 だが、会議後にクズ教師が織斑に何か言っていたのが気になった。何かとんでもないことをやらかす気がして

 




 いろいろと書きたいことはありましたが練った結果、カットしたところも多かったです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 オチル

 いろいろと詰め込みすぎた気がします


 

 作戦開始30分前。作戦の最終確認した後、俺は一人で旅館の休憩室の椅子に座っている。ここからだと満月を映した海がよく見える。

 俺は今回織斑の運搬役だ。兄さんと鈴が来るまでの時間稼ぎ兼兄さん達のアシストをする。できる限り早く運搬するために装甲も削るため、敵の攻撃は避けるのが絶対条件。万が一SEが尽きたら命が危ない。

 死ぬかもしれないのだ

 

「スゥー・・・フゥー・・・」

 

 深呼吸をして落ち着かせようとするも、死の不安がにじり寄る。これが実践なのか。兄さんとの模擬戦で殺気を何度も浴びてきたから大丈夫だとは思っていたものの、これほど違うのか

 嫌な汗がにじみ出る。体は熱いのに中が冷える。海が黒く見える。闇が俺を飲み込んで・・・

 

「一夏?」

 

 ハッと意識が戻り、馴染みの声のした方を向く。鈴がこちらに向かってくる

 

「雪広は?」

「兄さんは束さんに呼び止められてる」

「一緒に居なくていいの?」

「『先行ってて』って言ってさ、何か聞かれたくないことなのかもと思って。それかろくでもない痴話話」

 

 そっか、と鈴は俺の横に座る。この胸のドキドキは鈴が近くにいるからか、それとも作戦の不安によるものなのか。

 

「緊張してる?」

「え?」

 

 いきなりの問いかけに呆けてしまう。さらに鈴は俺の手を握ってくる。待って、手汗が

 

「不安?うまくいくか」

「・・・ああ、怖いよ」

 

 思わず本音が漏れてしまう。俺は鈴が思っているほど心が強くない。兄さんなら涼しい顔でこの作戦に臨むと思うが、俺はそうじゃない。死ぬかもしれないことが怖くて恐ろしくて・・・

 

「鈴は強いな・・・俺なんかと違ってしっかりと構えてる」

「そんなことないわ。私だってうまくいかないかもしれないと思うと怖いわよ。それを表に出さないだけ」

 

 それに、と鈴は手を強く握る

 

一夏(好きな人)が一緒にいるもの。うまくいかないわけないじゃない!」

「!」

「だから、頼りにしてるわよ、一夏!」

 

 ああそうだ。昔と変わらず俺のことを必要としてくれていて、信頼してくれた。こんな情けない姿を晒しても、それでも信頼してくれる。そんなやさしさに惹かれたのだ。

 

「鈴」

「なに?」

「ありがとう。それと、無事にいくように頑張ろう」

「ええ!もちろん!」

 

 先ほどの不安が嘘のように消える。我ながらちょろい男だな、好きな人に応援されるだけで気分がよくなるなんて。いや、これが普通なのかもしれない。

 とにかく、この作戦を成功させよう。せめて誰一人重傷を負わずに終わるように・・・

 

 

 

 

 

「・・・チッ」

「フン・・・」

 

 作戦開始20分前。作戦の要である俺は誰よりも早く出撃場所に着いたが、気に食わない奴(遠藤雪広)が居やがった。言葉を交わさずに離れたところに座る。俺のことを興味なさげに奴は目を閉じる。その行為も無性に腹が立つ。

 IS学園では大ハーレムを築いてやろうと思っていたのに、こいつらのせいで俺様の評価が高くない。寄ってくる女は俺様を持ち上げるがそこらの一般人と変わらない。専用機持ちは皆奴らとくっついているのが癪だ。

 だが、それも今日で終わりだ!何せ俺には千冬姉からの特別な伝言があるからな

 

『お前が邪魔だと思うやつらは排除しても構わない』ってなあ!

 

 つまりはそういうことだろう?なにせ、こっちには世界最強の姉がいる。いくらでももみ消すことができるのだから。それこそその(殺す)瞬間を撮影されない限り俺様は無実になる!今日が・・・

 

「おい」

「・・・ンだよ」

「これだけは言っておく」

 

 やつは俺の前に立ち見下ろす。俺様を見下ろすんじゃねえ、凡人が

 

「今回の作戦、間違っても変な気を起こすなよ」

「・・・ハッ!するわけねえだろ。てめえらこそ俺の足引っ張んじゃねえぞ。俺が決めるんだからなあ!!」

「・・・そうかい」

 

 奴は元の場所に戻る。変な気を起こす?これは正当な命令だ!てめえのそのむかつく顔を絶望に歪ませてやる!そして出来損ないもIS学園から追放してやる!

 これからは俺様の時代だ!!

 

 

 

 

 

 

 作戦開始3分前。いつでも出撃できる状態だ。今回の作戦の二陣は兄さんが鈴の運搬兼迎撃をするとのこと。鈴の運搬をするなんてうらやましい、代わってほしい。でも誰かがコイツを運ばなければいけないから・・・仕方ない

 

 作戦開始の合図と同時に最高速で接触地点に向かう。限界までスピードに割り振ったため、数秒で同時に出撃した鈴たちが遥か後方になる。

 こいつと話すことなど何もない。本来なら初撃を外した後の対策などで作戦を立てるべく話し合うのがいいのだろうが、織斑は何も聞かないだろう。俺自身コイツとは口もききたくない。

 コイツが銀の福音を倒せば御の字、駄目でも足止めをして3対1で押し切る。と、そうこう考えているうちに銀の福音が見える

 

「見えたぞ!準備はできてるな!」

「うるせえ!俺に指図するな!!」

 

 織斑は俺から離れ、瞬間加速で福音に迫る

 

「くらえええええ!!」

 

 って、何やってんだ!奇襲なのに叫ぶバカがどこにいるんだよ!!自分の位置をばらす愚行をしやがって!

 案の定福音は雪片弐型を難なく躱す。そして

 

『敵機確認。迎撃モードへ移行』

 

 福音からの音声。だがこれは作戦の内だ。もともと織斑の奇襲には期待はしていない。俺の役目は兄さんと鈴がくるまでの時間稼ぎだ。福音に敵と思わせつつ、足止めを行う。武器を持たない状態で最低でも2分ほどの時間を稼がなければ

 

「まだだあ!!俺様が主役なんだああ!!」

 

 とまたしても単騎突っ込んでいくバカ。だが今度は福音が奴に対し、エネルギー弾の雨を放つ。それにビビったのか奴は攻撃をやめ回避しようとするが、数発直撃する

 

「ぐえあああーーー!」

 

 奴が落下していくのを見て俺は奴のSEの減りを確認する。数発で半分近くを削られている。奴の機体の防御性能を考えて、俺は1発の直撃ならギリ耐えることはできるが、二発目は避けることもできないだろう。つまり直撃ゼロが最低条件のデスマッチってわけか。

 すると福音がこちらを向く。どうやら俺も敵と認識しているようだ。機械とは思えないような殺気で銃口をこちらに向けてくる

 

「上等だ!来い、福音!!」

 

 やってやろうじゃないか!鈴たちが来るまで避け続けてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えたわ!福音と一夏の戦闘を確認!」

「よし、一夏は大丈夫そうだな!」

 

 戦闘地点に到着。一夏は疲労が見えるものの、損傷はほとんどない。対して織斑はボロボロだが無駄に元気そうだ

 福音は一切傷がついていない上に疲れも見えない。やはり無人なのだろう

 

「兄さん、鈴!」

「一夏、よくやったわ!あたしたちも加勢するわよ!」

「これとこれを渡す。援護は頼んだぞ」

 

 マシンガンとビームライフルを一夏に渡す。今回一夏は武装を持たずに出撃の上、装甲が薄く接近戦は圧倒的不利のため、合流時に自分が遠距離武装を渡す算段となっている。これで援護をしてもらう

 

「おい!俺様を忘れるな!!」

「だったら1発でもゴスペルに傷をつけろよ、天才君?」

「言っておくけど、あんたをかばいながら戦う余裕なんてないから。邪魔だけはしないことね」

「勝手に突っ込んでもいいが、SEが切れて落ちても見殺しにするからな」

「・・・チッ!」

 

 かなり辛辣な言葉をクズに吐き捨てる。一応見殺しにするつもりはない。あのクズ教師がうるさいのもそうだが、戦闘に乱入する確率を減らすためだ。さすがのクズも死にたくはないだろう。ゴスペルから離れていく。最後まで見ることなくゴスペルの情報を一夏から確認する

 

「近接武装はなく、直撃でこのダメージか」

「なら作戦通り、あたしと雪広はヒットアンドアウェイ、一夏は援護射撃でいいわね?行くわよ!!」

「「了解!!」」

 

 まずは自分が武器を展開せずに突っ込む。エネルギーの弾幕が張られるが、武器を持った一夏と鈴のほうを警戒しているようで、こちらの弾幕は薄い。速攻で奴に近づき剣を展開し切りつける

 

「La・・・」

 

 思ったより浅い。体を捻って直撃を避けやがったか。銃口がこちらを向くがそれよりも早く離脱。今度は銃を展開し弾薬をばらまく。今度は自分を警戒しているようで先ほどとは比較できないようなエネルギー弾の雨が降る。これを全身全霊で避ける。

 その隙を鈴がつく。瞬間加速で懐に潜り双天牙月で二発福音を切り裂く

 

「La・・・!」

 

 さすが代表候補生。重いのを二発も叩き込むとは。離脱も手馴れている。今度は自分だがまだ自分を警戒しているらしく、弾幕が厚い。これでは自分も鈴も攻めることはできない。でも

 

「俺を忘れるなよ、福音」

 

 狙いすました一夏が福音の頭部を狙撃する。いくら機械とはいえ頭部のダメージは他の箇所よりも大きい。一瞬警戒が弱まったところに自分が再度突っ込み、今度は直撃させる

 

「La!」

「おっと!?」

 

 離脱よりも早くゴスペルはエネルギー弾を撃って反撃に出た。幸い、足をかすめただけでそれほどダメージは入っていない

 こいつ、戦闘中に学習しているな?だとしたら厄介だ

 

「兄さん!大丈夫か!?」

「無事だ!こいつ学習しているから長期戦は不利かも!」

「わかったわ!早くにケリをつけろってことね!」

 

 倒せなくなる前にカタをつけてやる

 

 

 この後先ほどよりも精度を高めながらヒットアンドアウェイをするが、ゴスペルも着々と対応してくる。一度武器を投擲して奇策をやったものの、二度目はもう通用しない。自分も鈴もゴスペルのエネルギー弾を掠る回数が増え、SEが削れていく。一夏がヘイトを買っているものの、そろそろ策が尽きる。とはいえだ

 

「向こうも追い詰めてるんじゃないか?」

「ええ、重いのを一発かませば黙らせられそうよ」

 

 相手も消耗している。自分と鈴のヒットアンドアウェイと一夏の狙撃を何度もやればSEが減るのも当然。ならば

 

「被弾覚悟で自分が切りに行く」

「そ、それは危険だ!直撃したら・・・」

「全面はシールドを複数枚展開して本体への被弾をなくす。基本奴の反撃は前からのエネルギー弾だ。シールドを展開すればダメージはかなり減らせる」

 

 なにより、今までシールドを一度も展開していない。奴もこの武装があるとは想定してないだろう。だからこその一手だ

 

「・・・わかった。頼んだ、兄さん」

「それならあたしたちでヘイトを買うから、任せたわよ!」

「おう!」

 

 一夏と鈴がゴスペルを攪乱(かくらん)させる。自分にも弾幕が張られるが関係ない。シールドを展開してその雨を突っ込んでいく。肩や足に被弾するが止まらない。懐に突っ込み、シールドとシールドの隙間から剣を突き刺す。間髪入れずに右手で切り下ろし、そのまま左手で切り上げる

 

「La・・・La・・・」

 

 手ごたえあり!もう一押しで

 

 

 

 

「ぐあっ!!」

 

 何かが突っ込んで自分は弾き飛ばされる。一体何が

 

・・・え?

 

 

 

 

 

 

 これは絶好の機会だ!奴らは俺がまだいることに気づいていない。福音も弱っているし今がチャンスだ!

 幸い福音に気づかれることなくぶっさせる()がある!俺がとどめを刺し、ゴミも捨てられる。一石二鳥だ!!

 零落白夜を発動させ、奴が突っ込んでから俺も剣を突き出すように突っ込む

 これで死ねえええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 たまたまだった。織斑が視界に入ったのは。あいつ、まだ撤退してなかったのか。消えればいいのに

 だが奴は零落白夜を発動し、兄さんのところに突っ込もうとしてくる。まさか、兄さんもろとも刺す気か!?兄さんは気づいてないし、鈴も福音が壁になって見えていない。今叫んでも間に合わない!なら!

 

「一夏!?」

 

 鈴は突然俺がエネルギー弾の雨を強引に抜けたことに驚く。幸い二発かするだけで済んだがそれどころじゃない。もしものために身に着けた二段階瞬時加速(ダブル・イグニッションブースト)で兄さんを跳ね飛ばす

 

 

「こはっ・・・」

 

 

 直後、俺の腹から血塗られた雪片弐型が飛び出ていた。零落白夜で絶対防御を貫かれたのか・・・

 ああ、俺がこんな怪我してどうすんだよ。傷つかずに帰ろうって鈴と約束したのに

 

 ごめんな・・・鈴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、一夏ああああああああ!!!!」

「チッ・・・出来損ないが邪魔しやがって。まあいい、撤退撤退」

 

 鈴の悲鳴。クズがなにか言っているがそれらも耳に入らない

 一夏が刺された。それもクズの零落白夜で

 嘘・・・じゃない。事実。受け入れたくない現実。どうして一夏がこんな目に

 大事な弟が・・・どうして?

 

 

 ・・・自分のせいなのか?

 

「違う・・・」

 

 本当だろうか。クズが居なくなるのを確認しなかったからこんなことになったのではないか

 

「違う・・・っ」

 

 本当だろうか。もっと早くにゴスペルを追い詰めていればこんなことにならなかったのではないか

 

「違う・・・!」

 

 本当だろうか。クズが後ろで刺しに来るのを怠った・・・自分のせいではないのか

 

 違うのに、違う違う!冷静になれ!・・・なのに

 

 

 

 一夏が傷ついたのは・・・お前のせいよ

 

 

 

 幻聴か現実か。そんな声が、そんな言葉が頭に入る。

 

 

 ・・・ジブンノセイ?

 

 何かが・・・壊れる音がする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、一夏ぁ!!しっかりして!」

「ごほっ、ごぽっ!」

 

 腹部を貫かれ落下する一夏を鈴が支えて叫ぶ。一夏は吐血をし、腹部からも夥しい血が流れる。錯乱した鈴は泣きそうになりながら雪広に助けを求めようとする。が

 

「雪広!どうしよう!?一夏が・・・雪広!?」

「ああ・・・ああっ・・・ああああっ!」

 

 雪広は頭を押さえうずくまる。

 

「雪広!どうしたの!!」

「鈴・・・一夏を連れて・・・撤退しろ・・・」

「雪広は!?どうするのよ!」

「早く・・・俺が俺じゃなくなる前に・・・!」

「何言ってるの!見捨てるなんて・・・」

「早く!!!」

「ひっ・・・」

 

 いきなりのことで戸惑う鈴。だが早くしなければ一夏の命が危なくなる。少し迷った後、鈴は嗚咽を漏らしながら一夏を抱えその場を離脱する。

 雪広と機能停止寸前の福音しかこの場にいない。福音は警戒をしているのか、機能停止しているのか動かない。それでも雪広はもだえ苦しむ。

 

「ああ・・・あアア・・・アアアアアア・・・・!!」

 

 怨嗟のような声を漏らすと同時に彼の体が、機体が黒に取り込まれ完全な球体に包まれる。そして

 

 

 

 

 

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 

 

 黒い球体が割れ、中から金の瞳をもつ漆黒の機体が咆哮をあげた。

 

 




 さて、この後の展開どうしよう
 そしてまた更新速度が遅くなるのでご了承ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 悪事

 前話の最後に出てきた雪広の機体はFate/Zeroのバーサーカーの兜がない状態を想定しています


 

「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・」

 

 私とシャルロットは今、全速力で帰投地点に向かっている。先ほど束さんから一夏が負傷し、撤退しているとの連絡が来た。作戦もいったん中止ということで防衛の持ち場を離れる許可を得て、束さんの手助けに入る。

 帰投地点には既に束さんが待機していた

 

「お待たせしました!鈴たちは?」

「もうそろそろだから!君たちは鈴ちゃんの傍にいてあげて!」

 

 それと同時に空の向こうからこちらに向かってくる機体を確認する。だけど2つしかない。どう考えても足りない。まだ来ると信じたい

 二つの機体が近づいてくる。近づくにつれ彼らの姿がはっきりとして・・・見間違いだと信じたかった

 一夏の腹が貫かれ、今も夥しい血が流れていることに

 

「いっくん!鈴ちゃん!」

「束さん!一夏が!!一夏がぁ!!!」

「治療するから任せて!絶対助けるから!!」

 

 束さんは一夏を抱え、簡易治療室に全速力で運ぶ。負傷と聞いていたがとんでもないほどの重傷だ。束さんが診るのだから助かると信じたい。 

 それよりも

 

「ひぐっ・・・私がっ・・・私がしっがりしていれば・・・うぐっ・・・もっと注意深くしていれば・・・あああっ!!」

「鈴!落ち着いて!」

「深呼吸、ゆっくりでいいから深呼吸して。ゆっくり、そう。ゆっくり」

 

 鈴がひどく錯乱しているので落ち着かせようとする。無理もない、好きな人が目の前で刺されて死にそうになったら誰だって取り乱してしまう。でもまずは鈴に落ち着いてもらわないと。辛い気持ちは痛いほどわかるけど、一体何が起きたのかを確認しなくちゃいけないから

 数回の深い深呼吸をして、鈴は幾ばくか落ち着きを取り戻し、少しずつだが言葉を絞り出す

 

「で、何があったの?」

「い、一夏が・・・織斑に・・・刺されて」

「「はあっ!?」」

 

 てっきり福音にやられたのかと思っていたけど、まさかあのクズがやったの!?よりによってこんな時に!?

 

アイツ(織斑)は、雪広を狙ってたんだけど・・・一夏が・・・庇って・・・それでっ・・・」

「あのヤロー、ふっざけやがって!!」

 

 シャルロットが鬼の形相で怒る。私は怒りのあまり逆に冷静になっているようだ。まさか作戦中にそんなことをするほどのクズだったとはね。私たちはあのクズを買い被っていたようだ。

 でもまだマシだったのかもしれない。もし一夏とクズだけで作戦に行っていたら、一夏は海に沈んでいたかもしれない。あの時に束さんと雪広が助言しなければ・・・

 

 え、待って。雪広は?戻ってないの?・・・え、うそでしょ 

 

 まさか・・・沈んで

 

「専用機持ちに告ぐ。再度作戦会議を開く。至急会議室に来い」

 

 クズ教師からの無線で我に返る。そうだ、まだ沈んだと決まったわけじゃない。落ち着け、私!

 ピシャリと顔を叩いて冷静さを取り戻す。指示に従うのは癪だがヤツが緊急時の指揮権があるから仕方がない。鈴を心配しつつ、急いで旅館の会議室に向かう。

 それにそこには織斑もいるだろう。何をしでかしたのかしっかりと問い詰めてやる

 

 

 

 

 

 会議室に到着し、扉を開く。そこには織斑千冬となぜか篠ノ之箒、そして織斑一春も何食わぬ顔をしてここにいる。こちらに気づいた三人は不快な笑みを浮かべる。なぜそうも人を煽るのか、むかつく

 そんな奴らを見るや否や、シャルロットが怒りながら歩み寄る

 

「織斑!お前よくも!」

「何だ?俺が何かしたか?」

「とぼけんじゃねえ!!」

 

 バン!!とシャルロットは手を机に叩きつける。今にも織斑に殴りかかる勢いで言葉をまくしたてる

 

「鈴から聞いた!お前がっ、一夏を刺したってなあ!!」

「おいおい、言いがかりもよせよ。あいつらが悪いんだからよ」

「そうだ!言いがかりだ!」

「何を言ってやがる!」

「俺は福音に零落白夜を当てようとしたんだ。そこに出来損ないが突っ込んできて勝手に刺されたんだよ。悪いのは出来損ないのほうだ」

 

 俺は悪くないとほざいているが、小馬鹿にしたように話すこいつの言葉は信用できない。それに明らかに鈴と話がすれ違っている。鈴がこんな嘘をつくとは思えない。

 鈴が必死の思いで言葉を出す

 

「そ、そんなことない!あたしが見てた!アンタが、雪広を刺そうとして・・・一夏が・・・」

「なら証拠はあんのかよ。俺が刺殺そうとした証拠がよお!」

「そ、それは・・・」

「無いんだろ、冤罪はよせよ!」

「録画機能がある!それで確認すればいい!」

 

 私はとっさに叫ぶ。ISには録画機能があり、IS稼働中の過去の出来事を操縦者の視点で見ることができる。これがあれば証拠にもなるし、鈴の言うことが正しいとわかる!

 なのに

 

「駄目だ」

 

 クズ教師が却下する。コイツふざけてるのか!?はっきりとした証拠を隠蔽する気か!

 

「それを繋げる機械がない。それに今、凰は気が動転している。そんな奴の言葉を鵜呑みにするほど私は愚かではないのでな」

「「「はあ!?」」」

「つまり、出来損ないが腹を刺されたのは奴が勝手に一春の邪魔をしたからだ。それで間違いない」

 

 あまりの暴論にさすがの私も反論する

 

「いい加減にしてください!!それでは何故織斑の言葉を信じるのですか!?確証がないのでは同じことでしょう!!」

「何を言う!一春が嘘をつくわけがない!!貴様らの方が間違っているんだ!!」

「篠ノ之の言う通り、一春の言葉に間違いはないからな。それに今はそんなくだらないことをしている場合じゃない」

「くだらない、だって!」

 

 まさに一触即発。シャルロットはクズ教師の発言に殴りかかる寸前だ。鈴は何も言えずに涙を流す。どうしたらいいの、雪広だって無事かもわからないし・・・

 考えろ、考え・・・

 

 

「はいはい、いったん落ち着こうね」

 

 

 会議室の出入り口から聞いたことのある声。それに全員が顔を向けると、束さんがドアにもたれかかって立っていた

 

「ここは部外者立ち入り禁止だ。出て行ってもらおう」

「何言っているのかな?いっくんの治療をしたんだし」

「それは貴様が勝手にやったことだろう」

「この作戦を一緒に詰めていたけど?」

「・・・用件はなんだ」

 

 クズ教師は何も言えなくなったようで束さんの侵入を許す。それを冷ややかな目で見て、私たちには屈託のない笑顔で語る

 

「まず一つ目ね。いっくんの一命は取り留めたよ」

「ほんとですか!?」

「もう少し遅かったら危なかったけど、鈴ちゃんが早く運んでくれたから何とかなったよ。もう峠は通り越したし、明日には目覚めるよ」

「そうですか。でも、良かった・・・っ」

 

 鈴は緊張が解けたからか座り込み嬉し涙を流す。私もシャルロットも一安心し、鈴の背中を両側からさする。クズどもは不快そうな顔をしていたが

 それを軽蔑するように見て束さんは言葉を続ける

 

「二つ目ね。いっくんを刺した犯人についてなんだけど」

「「「!!」」」

「その話はもう終わったことだ。今更蒸し返すな」

「何言ってるの、『証拠』があればいいんでしょ?」

「そんなものはどこにも・・・」

「これを見ても同じことが言える?」

 

 そう言って束さんは手に持っている機械を操作する。すると会議室のスクリーンにある映像が映し出される。

 そこには福音中心に戦闘を行う雪広と一夏と鈴、離れたところに織斑が映し出される

 

「こ、これは・・・!」

 

 この映像に織斑は顔を青くし後ずさる。それでも映像は続く。

 雪広と鈴がヒットアンドアウェイ、一夏が援護射撃で徐々に福音を追い詰める。だが福音も戦闘の中で成長し、段々と三人を追い詰めていく。双方ともに消耗した後、雪広がシールドを展開して特攻する。

 そのあとに織斑が醜悪な顔で後ろから零落白夜を展開して雪広に突っ込んでいく。そして気づいた一夏が雪広に突撃をして雪広をかばい、腹を貫かれる。ここで映像が途切れる

 つかつかと束さんは織斑に近づく

 

「で、『証拠』がなんだって?」

「あ・・・う・・・あ・・・」

 

 織斑は口をパクパクさせ、言葉を出そうとするが全く出てこない。完全な証拠を出され、言い訳も考えられないのだろう。だがそれでも噛みつくやつはいる

 

「ふざけるな姉さん!そんな合成認めるか!!」

「そうだ!!そもそもその映像はどうやって撮ったというのだ!!」

 

 モップとクズ教師が束さんに反論する。これを合成と言い張るしかないからある意味当然の反論だね。無駄だと思うけど

 でもいったいどうやって撮ったのだろう?

 

「束さんお手製のドローン型カメラで撮ったものだよ。これがあればリアルタイムで撮った映像を見れるものでね、ゆーくんの装備として載せるようにお願いしたのさ。いっくん達にもしものことを思ってね」

 

 なるほど、だから三人称視点の映像が取れていたのか。それに一夏が負傷したって連絡が来る前から束さんが知っていたのもそういうわけか。相変わらず抜け目がない

 ぐうの音も出なくなった二人。クズ教師はそれでも何かを考えているよう。だがさらに束さんは追撃を送る

 

「そうそう、隠したって無駄だから。もうこの映像は学園の理事長に渡っている」

「何だって!?いつ送ったんだ!!」

「言ったじゃん、このカメラは『リアルタイム』で見れるって」

「ま、まさか!」

「そう。理事長はこの作戦をリアルタイムで見ていたから、逃げられないよ」

「そ、そもそも理事長にどうやって映像を送ったのだ!IS関係者しか知らない連絡先を!」

 

 束さんならそんなのハッキングで分かりそうなんだけどな。それすらも考えられないほど追い詰められてるってわけかな

 

「ハッキングで送ってもよかったんだけど、それだといまいち信頼されないと思ったからね。彼女に手伝ってもらったよ」

 

 と、束さんが扉の方を向くとその扉が開く。そこには童顔の胸が大きい先生が

 

「山田先生・・・」

「ええ、私が束さんに連絡先を伝えました」

 

 そこにいる山田先生はいつものようなおどおどした感じは全くなく、クズ教師を睨んでいる

 

「貴様・・・私を裏切ったのか!!」

「裏切る?裏切ったのはあなたの方ですよ」

「何?」

「あなたと出会ったころは尊敬していました。世界を制した人はどんな素晴らしい人なのだろうと。ですがふたを開ければ、ろくに職務もせず、すぐに暴力で生徒を黙らせていました。そして今年はあなたの血縁だけを優遇し、ほかの生徒をないがしろにする始末。もううんざりです!!」

 

 今までの鬱憤を晴らすかのように叫ぶ。いつもが温厚なだけに叫んだ時に皆が少し驚く

 そして山田先生は淡々と話していく

 

「理事長から連絡です。今を持って織斑千冬の緊急時における指揮権を凍結。代理として私、山田真耶が指揮権代理に任命する。処罰については後々に決める、と」

「な!?」

「織斑先生、あなたは自室で待機。もうこの作戦には関わらないでください。織斑君、篠ノ之さんも同様です」

「ふ、ふざけるな!私がっ!?」

 

 モップが何か言う前に束さんが強烈なボディーブローをお見舞いする。反論をすることなくモップは意識を失い、その場に崩れ落ちる。

 

「束さん!どうして!」

「うるさくなる前に黙らしただけだよ。で、お前はどうするんだ?文句があるならコイツと同じように黙らすけど」

 

 ぐっ、と束さんがこぶしを握ると織斑は情けない声を出して束さんから離れ、クズ教師の後ろにしがみつく。先ほどまでの傲慢さが消え、無様で滑稽な姿を晒す。

 そのあとクズどもは気絶したモップを担いで他の教師の監視の下で退室した。すると緊張が解けたのか山田先生がいつもの感じに戻る。そして束さんに向けて頭を下げる

 

「ごめんなさい!本来なら私たちが一夏君を守らなければならないのに重傷を負わせてしまって・・・」

「そんなことないよ。君は奴らの悪事を暴露するのに一役買ってくれたじゃん」

「ですがこのようになってしまったのはこの作戦を止めなかった私の落ち度もあります。彼らを同じ作戦に入れるべきでないとはっきりと言わなかったから・・・」

 

 山田先生は正義感が人一倍強いからこのことに申し訳なく思っているのだろう。いつもはドジでどこか抜けているけど、生徒思いの立派な先生だね。

 でも束さんが居なかったら今頃どうなっていたか。感謝してもしきれない

 

「束さん、ありがとうございます。あなたが居なかったら奴らが好き勝手にやられるところでした」

「僕もキレて殴ってしまうところだったので、助かりました」

「それに、一夏を助けてくれて・・・改めてありがとうございます」

「ううん、君たち(代表候補生たち)がそんなに責任を感じなくていいよ。こういう時こそ大人を頼ってよ」

 

 碌でもない大人もいるけど、と束さんが付け足す。報道では人格破綻者だとか言われていたが、そんなことはない。一夏の味方になってくれるとても頼もしい人じゃないか。

 すると束さんは真剣な顔になる

 

「今回のことも反省しなきゃならないけど、まだ問題があるんだ。福音も、ゆーくんのことも」

「「「!!」」」

 

 そうだよ!雪広のこと鈴から聞こうと思っていたんだけど、あまりの出来事に聞けずじまいだったから忘れていた!

 シャルロットも思い出したようで声を荒げる

 

「そうだ!雪広は!?」

「鈴、一緒じゃなかったの!?」

「そ、それが・・・撤退するときに、『置いていけ』って言われて・・・」

「「ええっ!?」」

 

 ど、どういうこと!?まさか鈴たちを福音から逃がすために殿を務めたんじゃ・・・それで帰ってこないってことはつまり・・・

 最悪の事態を考える前に束さんが困った表情でこちらを見る

 

「ゆーくんなんだけど・・・この映像を見た方が早いね」

 

 機械を再度操作してスクリーンに新たな映像を映す。

 そこには

 

「え?」

 

 

 銀と漆黒の機体が激しい戦闘を繰り広げていた

 




 何故篠ノ之がいたかは次回で説明します。それほど大した内容ではないですが


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 福音と狂気

 

 時は鈴と一夏が撤退した直後まで遡る

 

 鈴たちが撤退し、雪広と福音しかいない海上。漆黒に染まった雪広は未だ動かない福音を警戒する。その手には爪が装備されており、いつでも福音を切り裂こうと身構える

 一向に動かない福音。ずっと警戒するのは疲れたのか、そろそろ警戒を解こうと雪広が福音から視線を外そうとした。

 

 次の瞬間、福音が光る

 

「!?」

 

 突然のことに距離を取って身構える雪広。彼の本能が危険と判断しすぐに攻撃はせず、福音の発光が止むのを待つ。

 光がだんだんと収縮していく。その中心にはエネルギーの翼を持つ銀の福音がいた。ここにきて第二形態移行(セカンドシフト)したのだ。彼らとの戦闘によって皮肉にも進化を遂げる要因を作ってしまったのだ

 

「RU~~・・・」

「・・・」

 

 またしてもにらみ合う両者。福音は目の前の人間が自身に害を成すのかを、雪広は一夏に危害を成すのかと判断しながら最大限の警戒をする。どちらかが攻撃を開始すれば戦闘が始まってしまう殺伐とした空気があたりを包む

 

「「・・・」」

 

 だが動かない。暴走しているとはいえ、双方ともに自身の不利益となることをしたくないのだ。誰が寝ている毒蛇に棒でつつこうとするか。よほどの馬鹿か自殺志願者、もの好きでなければそんなことはしない。両者は自身への危害が最小に物事が進むのを望む

 数分ののち、福音が動く

 

「La・・・」

 

 雪広への警戒を解いた。彼からの攻撃がない以上、敵ではないと判断したのだ。それを見て雪広も少しだが肩の力が抜ける。

 それを見た福音は完全に雪広に背を向け飛び立とうとする。本来の目的である東京に向かうために残りのエネルギーから最速で移動できるように計算をし、動き出す。

 

 

 

 動き出してしまったのだ

 

「GAAAAAAA!!!」

「La!?」

 

 突然、本当に突然だった。

雪広が咆哮とともに福音に爪を立てて突撃をかましたのだ。突然の豹変に福音も驚いたようにその場から離れようとするも完全な奇襲に虚を突かれ、振り落とされた爪が頭を直撃する。福音はそのまま派手な水しぶきをあげて海に落ちる。

 

 雪広はなぜ攻撃したのか。それは福音が移動しようとした『向き』によるものだった。

 

 福音が飛ぼうとした方向は奇しくも一夏たちがいる臨海学校の旅館に近い向きだったのだ。今の雪広にとって一夏に害を成す可能性のあるものはすべて敵とみなしている、いわば暴走状態。そのため、福音の行動を『一夏たちを襲撃するために動いた』と判断し、攻撃を行った。たとえ一夏を狙う目的であろうとなかろうと今の彼には関係ない。

 そして敵とみなしたら完全に殺すまでその獲物を追い続ける殺戮兵器と成す。

 

 雪広は福音が落ちた水面を睨む。あの攻撃程度では機能停止にはなってないだろうと戦闘準備をする。

 ザバアッ、と福音が真上に上昇し雪広を睨むかのようにとらえる。その目は彼を敵と判断するかのような、先ほどの奇襲に腹を立てているかのような恨みを籠めたように睨んでいるかのよう。それを感じ取ったのか、雪広も武器である爪を構える

 

 そして

 

「LaLaLaaaaaaaaa!!!!!」

「GOOOSPELLLLL!!!!!」

 

 二つの機体が戦闘を開始する

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

 雪広は生きている。そう喜んだのも束の間、僕たちはただ雪広と福音が戦う映像を見ていた。見たことのない雪広の機体、進化した福音、そして二機の激しい戦闘。何が起きているのかわからなかった。

 ひねり出すかのように鈴が呟く

 

「こ・・・これは?」

「これが今のゆーくんと福音の現状だよ」

 

 そう束さんが苦虫を嚙み潰したように答える。

 ここに束さんがいるのは指揮の補助として山田先生が正式にお願いしたためだ。それに対し束さんは二つ返事で了解し、手伝うのを惜しまないとのこと。あの大天才にして会社の協力者が味方になるのは心強い。

 でもこの現状は予想外だ。思わず束さんに質問をする

 

「雪広に、何が起きてるんですか」

「多分だけど、ゆーくんはセカンドシフトをしながら暴走しているんだと思う」

「「ぼ、暴走だって!?」」

 

 鈴とともに叫んでしまう。暴走ってことは、あの福音と同じ状態になっている?

 と、冷静そうな簪が束さんに質問する

 

「どうして雪広が暴走していると予想しているのですか」

「それは福音と同じく、私のコマンドが一切効かないから。これは福音と同じだしね。それに・・・」

 

 と束さんが自身の目を指す

 

()()()がね」

「目の色?」

 

 映像を見ると雪広の目が金色に光っている。確かに雪広の形態変化は目が赤になるけど、金色になったのは見たことがない

 

「ゆーくんの目が金色になったのは過去に一度だけ。それはゆーくんが()()()形態変化をしたときなんだ。その時ゆーくんが暴走していたから辻褄が合うんだ」

 

 なるほど。それなら暴走しているってことが納得した。他のみんなも納得している。でもこれってかなりマズいのでは?

 鈴もそう思ったようで

 

「これってマズいですよね」

「うん。すっごくマズいよ。だって・・・」

「今、雪広は福音と戦っている。早くしないと雪広が落とされるかもしれない」

「それだけじゃない。仮に雪広が福音を倒せたとしても、雪広が暴走していると次に雪広が何をするかわからない。最悪、本土に行って暴れる可能性だってある」

「二人とも代弁をありがとう。そう、どっちに転んだとしても被害が出る可能性があるんだ」

 

 だから、と束さんはじっと私達の目を見る

 

「君たち3人にはゆーくん、福音の無力化を行ってほしい。ゆーくんと福音が交戦中なら福音を優先で無力化を、ゆーくんが勝った後なら鎮静化を、・・・もし福音が勝ったならゆーくんの救助優先で福音を無力化を行ってほしい。もしもゆーくんが暴走しているなら、君たちの方がそれを止められると思うの。・・・やってくれる?」

 

 それが最善の選択かもしれない。雪広が僕たちを認識できれば問題はないけど、認識してくれるかは分からない。最悪、僕たちを判別できずに見境なく暴れるかもしれない。 

 雪広がどう動くか見当がつかない、不確定な要素が大きい大変な作戦だ。でもこの作戦に参加しない理由はないし、二人も同じ考えのようだ

 

「当たり前です。僕たちに任せてください」

「雪広を救うためならいつもよりも頑張るしかないでしょ!」

「あたしも行きます」

「鈴ちゃんはいっくんの傍にいてあげなくていい?」

「・・・そうしたいのもそうですが仲間をないがしろにするつもりはありません。それに一夏もあたしが雪広を助けるのを望んでいるはずです」

「わかった。今度は邪魔が入らないようにしっかり見張っているから」

 

 ・・・またクズどもが横やりを入れられないように対策してくれるのは助かる。

 余談だが、先ほどゴリラ女(篠ノ之)がここにいたのはカス教師(織斑千冬)が福音の討伐に向かわせるためとのこと。要はおいしいところを横取りさせようと画策していたのこと。ろくでもないし、本当にどうでもいい話だ

 

「よし、じゃあみんなが準備次第、作戦開始ね!ゆーくんの安全と鎮静化を任せたよ!!」

「「「了解!!」」」

 

 雪広、助けに行くから待ってろよ!!

 

 

 

 

 

 銀と漆黒がぶつかり合う。雪広の近接による猛攻の嵐を福音は躱し、いなし、受け流してほぼ無力化していく。雪広も暴走しているとはいえ、同じ攻撃を繰り返さない。今度は正中線や体軸を容赦なく狙っていく。正中線には人体の急所が複数あり、体軸は体の中心であるために回避は難しい。一撃一撃で確実にSEを削っていこうと彼は本能で判断した。

 だが相手は人ではない機械だ。正中線だろうが急所は無く、軸も安易にずらすことができる。攻撃パターンを変えても、福音には攻撃が届かない。

 

「UUUU!!!!」

 

 だんだんとイラついていく雪広。それでも攻撃は雑にならず緩急をつけたり、右半身を重点的に攻めたりと攻めの姿勢を崩さない。が、それでも近接だけでは福音にダメージが入らない。

 そして雪広の放った突きに対してガードが甘くなったわき腹を福音は蹴り飛ばす

 

「GUUU!!」

 

 雪広はそれを本能で察したのか、蹴りと同時に後ろに下がることでダメージを押さえる。だが福音と距離が離れてしまった。

 

「La!!」

 

 福音は好機と言わんばかりにエネルギーの翼とを広げ、雪広に向けて無数のエネルギー弾を発射する。それを雪広は針の穴を縫うように回避していく。暴走しているとはいえ、これを直撃すると死ぬと雪広は本能で判断しており、防戦に徹している。が、福音の弾幕は一向に減ることなく、むしろ精度が上がっていき雪広を追い詰めていく。

 エネルギー弾が足をかすめると同時に雪広はさらに後方に飛び、距離を取ろうとする。そこを狙って福音は瞬間加速で雪広との距離を縮め、ゼロ距離でエネルギー弾を放つ。

 

 いや、放とうとした

 

「RUUU!!!」

「La!?」

 

 近づいた福音に雪広はさらに近づき、エネルギー弾が放たれる前に蹴りを叩き込む。これにより福音は攻撃を中断し、苦悶の機械音を出しながら距離を再度とる。

 それを見て雪広は自分を抱くようにして前かがみになり、

 

「AAAAAAAA!!!!」

 

 叫ぶ。叫び続ける。そして彼の機体に変化が起こる。

 だんだんと雪広の背中から、彼の背中にも翼が生えていく。だが福音のようなエネルギーの翼ではなく、悪魔や堕天使のような漆黒の翼が雪広の機体から半分ほど現れたのち、息を吸い込み

 

「WRYYYYYYY!!!!」

 

 再度叫ぶと同時に悪魔の翼が完全に生える。その大きさは福音の持つ翼と同じ大きさを持ち、無数の羽で構成されている。

 福音はその変化に戸惑いはしたものの、すぐに敵と再度認識しエネルギー弾を張ろうとする

 

「RUAAAAAAA!!!!」

 

 その前に雪広が叫んで前に体を突き出すと羽の一部が翼から離れ、宙を舞う。その数15枚。その羽は空中で静止し、先端が福音に向く。それから雪広はおもむろに右手を挙げ、福音が弾幕を張ると同時に振り下ろされる。

 すると羽の先端からレーザーが発射された。福音のエネルギー弾ほど太くはないが、福音のエネルギー弾を貫く。数本が複数のエネルギー弾にあたり相殺されるが、残ったレーザーがすべて福音へ吸い込まれていく

 

「La!?!?」

 

 想定外すぎる攻撃に福音は反応が遅れるものの、持ち前の機動力で致命傷を躱す。再度翼を広げて、雪広に向けてエネルギー弾をばらまく。対して雪広はさらに羽を出し、計20枚からレーザーを放つ。先ほどと比べても一発の威力は変わってない。一部の羽は彼に降りかかる無数のエネルギー弾を打ち抜き、残りの羽で福音に攻撃する。今度は福音が防戦一方だ。ジリジリとSEを削られ、弾幕を張って耐えようとするがそれ以上に雪広の攻撃は苛烈になる。

 そして一本のレーザーが福音の翼を貫く。

 

「L~~!?」

 

 まるで痛みを感じるかのように機械音を出し、動きが止まる。それを見逃さず雪広はすべての羽を福音に向けて発射した。先ほどよりも多くのレーザーが福音に突き刺さってのけぞり、機能が止まりかけるのを福音は耐える。一度撤退し、SEの自然回復を待ってから東京に向かうのが最善と判断して敵である雪広を見る。 

 福音の視界から雪広が消えていた。360度どこを探しても見つからないため、上にいると判断し上に向かってエネルギー弾を当てようと手をかざして上を見る

 

 

 だがいなかった

 

 

「OOOOAAAA!!!!」

 

 雪広は真下から爪を立て、下から上に切り裂く。福音は一瞬の対応に遅れ、もろにその攻撃を受ける。その流れで雪広は捻りながら回転して頭に蹴りを叩き込む。これで福音は機能がほぼ停止し空中に留まるだけで精一杯になるが、雪広は容赦をしない。弱った敵に情けをかけることはなく、さらに羽を出し再度右手を上げ照準を福音に向ける。そして、無慈悲に手を振り下ろす。

 計30本のレーザーが一斉に福音を串刺しにした

 

「・・・!」

 

 声を出すことすらできず福音は自由落下を開始し、海に堕ちていった。大きい水しぶきを見届けた後、再度浮上してくるかを目視で確認する雪広。だが、時間だけが過ぎていく。5分経過。それでも福音は浮上してこない。

 雪広は勝利を確信した

 

「WOOOOOO!!!!」

 

 勝利の咆哮をあげる。一夏に害を成すものを排除できた達成感を噛み締めようと再度咆哮を上げようとした。

 

 

 彼が三つの機体を見るまでは。

 

 

 それらがこちらに近づく。マゼンダ・オレンジ・水と灰色の機体が何か自分に言っているが雪広は別のことを考えていた。それらは一夏のいる旅館の方向から来た。つまり一夏に何かしでかした連中ではないか、一夏に危害を与えた連中ではないか、そんな考えを決めつけてしまう。先ほどの戦闘で疲弊したものの、奮起するために叫ぶ

 

「EEEEYYYY!!!!」

 

 雪広はその機体たちを敵と判断した

 

 

 

 ・・・判断してしまったのだ

 




 
 補足

 雪広と福音の戦闘描写にて全て大文字表記が雪広の発言です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 佳境

 風邪ひきました
 思った以上に長引きました
 季節の変わり目にはご注意ください


 透き通るような青い空、どこまでも続くような青空を見るように寝っ転がっているのに俺は気づいた。

 

「・・・は?」

 

 俺は確か、兄さんを庇って・・・そうだ、クズに腹をぶっ刺されて・・・

 しかし腹をさすって確認しても血はついていない。体中の痛みや出血による倦怠感もなく、起き上がろうとして地面を見る。いや、そこは地面ではなかった。水面のようなもので、触れたところから波紋が広がる。それでいて俺を映していない。どこだここは・・・まさか、死んだのか?

 

「死んでいないよ」

「わっ!?」

 

 突然後ろからの声に驚き、急いで体を向ける。そこには少女らしき人がそこに立っていた。何故かその少女の周りに靄のようなものがかかっていて顔や年齢までは分からない。でも、俺はこの子を知っていると認識している。どこかで一回あったことがあるような・・・

 するとその少女は俺に話しかけてくる

 

「ねえ?少しお話しない?」

「いや、早く行かないと。福音がまだ倒していないし、鈴と兄さんが戦っているかもしれない。助けないと」

 

 俺はここから立ち去ろうと少女に背を向けて・・・足が止まる。

 あたり一面何もない。見えるのは水平線のみ。出口らしきものも何もない

 

「なあ、出口は?」

「無いわ」

 

 無いだって!?まさか閉じ込められたのか!?

 

「大丈夫。もう少ししたらここから出られるから、それまでお話しましょう?」

 

 本当ならそんな言葉を鵜呑みにはしない。しないのだが、この少女の言葉は不思議と間違いを言ってはいないと思う。出口もなく今何もすることがないのなら仕方ない。話をして気分を紛らわそう

 

「いいぜ、何話す?」

 

 少女はうーんと唸る。話す内容を考えていなかったのか、それとも何から話そうか迷っているのか。少女は数秒考えたのち、決めた!と叫んだから後者のようだ

 

「質問。貴方にとって一番大事な人って誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況ははっきり言って良くはない。あたしたちが雪広と合流する前に地鳴りのような叫び声が聞こえたときは何があったのか不安になったけど、雪広が福音を倒した勝利の咆哮だったようだ。福音が残り、雪広が落とされるという最悪の展開ではなかった。

 問題はそのあとだった。雪広に無事かどうか話しかけたのだが、明らかに暴走しているようでこっちの話を聞いているように見えない。

 むしろだんだんと殺気が強くなっていくのがわかる

 

「ねえ、あたし嫌な予感がするんだけど」

「残念ながら私も」

「奇遇だね、僕もだよ」

 

 あたしたちの姿を見て暴走が止まれば、という淡い希望を踏みにじるかのように雪広は敵意を向けてきて、

 

「EEEEYYYY!!!!」

 

 先ほどの映像では無かった漆黒の翼を広げ、あたしたちを敵として見るかのように咆哮する雪広。やっぱりこうなるのか

 

「・・・どう見ても威嚇よね」

「これは力尽くで抑えるしかないね」

「もー、私たちのことがわからないなんて!」

「ホントだよね。お仕置きしなきゃね」

「いいね!正気に戻ったら何してもらおうかな~」

「お仕置きって、全く」

 

 警戒をしながら軽口を交わす二人に突っ込んではいるが、内心は少し焦っている。シャルロットも簪も一筋の汗が伝っているのを見ると二人もそうなのだろう。

 今の雪広はあたしと一夏と三人で抑えていた福音を一人で倒しきっている。つまり、今の力は彼の方が圧倒的に強いし、あの翼は見たことがない。どれほどの火力か、どんな戦闘をしてくるのかが全く分からない。そのうえこちらの目的はあくまで雪広の鎮静化だ。間違っても殺しちゃいけないのに対し、向こうは明らかに殺しにかかるだろう。

 

「やり辛いわね・・・」

 

 思わず本音が漏れてしまう

 

「そうだよね。どう来るか全くわからないし」

「いきなり突撃してきたりして」

「やめてよ、シャルロ・・・」

 

 やめてよ、シャルロット。あたしがそう言い切ることはなかった。

 

 突然、本当に突然雪広が瞬間加速をかましてあたしに横なぎの一閃を放ってきた。

 

「きゃっ!」

 

 警戒していたとはいえ、話の最中に攻撃されると反応が遅れる。なんとかしゃがむようにしてその初撃を躱した。でもこの躱し方は良くない。相手からの追撃に対応することができない。事実、雪広は上段に剣を構えているのが見える

 

「せらあっ!!」

 

 それが振り下ろされる前にシャルロットがパイルバンカーで雪広を貫こうとする。簪は回避地点を予測しマシンガンを構えるも、それらを察知したのか雪広はバックステップを大きくとって距離を開ける

 

「助かったわ」

「いきなり攻撃してくるなんて、って思ったけど雪広はそういうのを平然とするタイプだった」

「雪広ってトリックプレーやだまし討ちが得意だよね~・・・本当に厄介」

 

 簪の言う通り、雪広は暗殺者って思うくらいそれが上手。そういうことをする相手とは中国で戦ってきたことはあるが、どれも精度は低く破れかぶれのようなものだった。

 改めて思う。雪広は敵に回すと厄介であると

 

「どうやら、あの翼を使うみたいだよ」

「RUAAAAAA!!!!」

 

 再度雪広が叫ぶと、翼から羽が十数枚ほど離れて雪広を囲むようにして静止する。あの羽はなんなのか、双天牙月を構えてさっきのような特攻に警戒をする。

 と同時に束さんから通信が来た

 

「みんな!ゆーくんのあの羽はビット兵器と思った方がいい!ビットをゆーくんはすべて動かすし、あれからのレーザーは強力だから直撃だけは絶対避けて!」

 

 なるほど、あれは一つ一つがビットなのね。それなら先ほど戦った福音と似たようにすればなんとかなるはず。先ほどと同じようにうまくいくかは分からないが、何も作戦が思いつかないよりかはましだ

 

「みんな、最初の福音を倒すときの作戦で行くわよ!文句ない!?」

「それが最善だね、了解!」

「それに向こうは待ってくれないみたいだしね」

 

 この作戦を伝えて許可を取るのと同時にビットからレーザーが発射された。福音と比べても弾幕の量は多いけどこの作戦でまずは様子見ね。

 さあ、勝負よ!雪広!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大事な人?」

 

 突拍子もない質問につい聞き直してしまう

 

「そう。一番大事な人。あなたにとって大事な人を一人上げるとしたら誰?」

 

 大事な人はいる。俺を救ってくれた兄さんと幸雄父さん、小学校の時に味方してくれた弾と数馬、中学のクラスメートに今のクラスメート、簪に楯無さん。

 そして、愛している鈴。

 でも一人を選ぶとなると・・・どうしても二人の顔が頭をよぎる

 

「二人じゃ駄目か?」

「うーん・・・その二人ってどんな人?」

「一人は俺の兄さんの遠藤雪広。血はつながっていないけど兄弟で、俺を助けてくれた恩人。そして俺のことを一番気にかけてくれる優しい兄さん。変な思考回路をしていたり、無駄な才能が有ったりで面白い人でもあるな。ちょっと他の人に対して厳しいとこがあるけど」

 

 うんうんと相槌を打つ少女にもう一人を紹介する

 

「もう一人は凰鈴音。小学校の幼馴染で・・・俺の初恋の相手。小学校の時虐められていたんだけど、それを助けようとしてくれた女の子でさ。久しぶりに会ったときは本当にうれしかったよ。あの時と全く・・・いや、ほとんど変わっていなかった」

「?何か変わったところがあったの?」

「自信がついていたんだ。それに昔以上に凛々しくて、可憐で、それでいて可愛かった」

 

 本当ならもっと語ることができるが、要所だけを抑えて話す。すると少女は顎に手を当てるようなしぐさをする

 

「ならどうして貴方は彼女の告白に答えなかったの?」

「なあっ!?」

 

 ど、どうしてそれを知っているんだ!?何も言ってないのに!

 

「ずっと見てきたからね。当然だわ」

「『ずっと見てきた』ってどういうことだ!?」

 

 てか今、心を読まなかったか!?コイツ一体何者だ!?

 

「まだわからない?私のマスター?」

「マスター?・・・ってことは、『月詠』か!?」

「やっとわかった?そう、私は『月詠』のコア人格だよ」

 

 こ、コア人格なのか?言われてみれば初めて形態変化をしたときに見たような・・・

 だが何故姿がはっきりと見えない?

 

「それは一回置いといて、どうして彼女の告白を受けなかったの?」

「そ、それは、俺が鈴の隣にいていいのか・・・鈴を幸せにできるかが不安で・・・」

「それは違うわ。本当に好きならその人を幸せにするように『頑張る』のよ。あなたは彼女の好意から逃げているわ」

 

 それと、と月詠は俺の目を見てはっきりと言う

 

「お兄さんのことが心配なのも原因でしょう?」

「!!」

「お兄さんは恋愛ができないから結婚なんてできるわけない。あなたが彼女と付き合ってしまったらお兄さんが一人ぼっちになってしまうって思っているでしょ?」

 

 図星だった。心を読まれているから当然と言えば当然なのだが、いざ言葉で言われると痛感する。

 もし俺が鈴と付き合ったら家族の時間が減ってしまう。そしてもし鈴と結婚することになると、兄さんは本当に一人になってしまう。兄弟のつながりが強いのに、俺がその繋がりを一方的に引き裂くようで・・・

 それだけじゃない

 

「それもある。でもそれ以上に俺だけが幸せになっていいのかって思うんだ。兄さんはその幸せを得ることができないのに俺が、俺だけが貰えるのは・・・どうなのかなって」

 

 兄さんが絶対に得ることのできないもの(恋愛)を俺が得ることで兄さんとの仲が壊れてしまうかもしれない。たった一人の家族、たった一人の兄弟だからこそ失うかもしれない可能性が怖かった。

 

「私の考えなんだけど、兄弟っていつまでも一緒に居るものなの?」

「え?」

「兄弟は『生涯ずっと一緒に居る』ものなの?」

「そ、それは・・・」

「いつかはそれぞれの人生を歩むのでしょう?それなのにあなたはいつまでもお兄さんとともにいようとする気なの?」

「・・・」

「それにお兄さんって弟の幸せに嫉妬するような人なの?そうならそんな関係を断つべきだし、そうじゃないのならお兄さんに失礼よ。なによりあなたを好きでいてくれる彼女にも失礼じゃない?」

「!」

 

 そうか、おれは兄さんの本当の気持ちを聞かずに一人で勝手に悩んで逃げていた。そして鈴の思いも踏みにじっていたんだ。

 

「最低だな、俺」

「でもそれに早く気づけて良かったんじゃない?」

「ああ、そうだな。ありがとう、月詠」

「マスターのためになったのなら幸いだわ」

 

 するとこの世界が明るくなりだす。そろそろ現実に戻されるのだとなんとなくわかった

 

「マスター!」

 

 最後に月詠は俺に向かって叫ぶ

 

「マスターのお兄さんはあなたが落とされたことで暴走しているわ!だからマスターが止めに行ってあげて!!」

「ああ、わかった!」

 

 それと!と世界が光る中、月詠は一呼吸して

 

「マス・・・はまだ・・・を十全に・・・えて・・・いわ!!」

「何だって?」

 

 ノイズが走って最後の言葉がうまく聞き取れない。聞き返そうとしたがその前に目の前の光が強くなって、俺の意識は落ちていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの作戦で上手くいけばと思った自分が恨めしい。あまりにも楽観視していたようだ

 

「ビット増えすぎでしょ?どういうこと?40って」

「しかもそれで本人もしっかり動けるなんて・・・あたしも想定外よ」

「完全にイギリス(ブルー・ティアーズ)の上位互換じゃないか、クソッタレ」

 

 福音の時は30までしか出していなかったのに、そこから10増えた。すべての羽がまるで意識を持っているかのようにレーザーを撃ちまくる上、雪広自身も近接から銃撃までどれも致命傷となるほどの攻撃を行ってくる。こちらから攻めることすら許されていない状態だ

 

「WWWWIIII!!!」

「散開!!」

 

 雨では生ぬるいようなほどの夥しい量のレーザー40本があたしたちに降りかかる。それを分散させるために三手に分かれて回避をする

 だが

 

「嘘だろオイ!」

「マジ!?」

「簪!シャルロット!」

「WWWEEEEE!!」

 

 回避先を予測したかのように各6つの羽が二人を取り囲むように構えていた。さらに羽を増やすことができるの!?その羽を打ち払おうにも雪広が邪魔をして援護ができない!

 

 二人はなすすべなく、複数のレーザーに貫かれ爆発が起こる

 

「二人ともおおお!!!」

「WRAAAAA!!!」

「あぐうっ!!」

 

 二人に気を引かれた隙に雪広からの回し蹴りがこめかみに直撃する。吹っ飛ばされ、体勢を立て直すも頭部のダメージを完全に殺し切れず、焦点が定まらない。だがISからの警告音が鳴り響く。ぼやける目で見えたのは無数の羽があたしに向けてエネルギーを蓄えている光景だった。その光はまるで蛍のような光で、あたしを包み込むかのよう

 

 ああ、あたし、死んだな・・・

 

 そう思い、ゆっくりと目を閉じてしまう。もっと一夏とデートしたかったな・・・

 

 

光極(こうぎょく)

malédiction(マレディクション)

「WEA!?」

「ハッ!?」

 

 

 だが、雪広の驚きの声に我に返る。ぼやけた視界には黒い影が光るエネルギーの剣を持って雪広と鍔迫り合いをしている光景だった。それが原因かレーザーの発射が遅れる。あたしはギリギリでその弾幕から逃れることができた。

 声がした後ろを向くと黒が強めのオレンジの機体と銀に光る機体がこちらに向かってくる

 

「あっぶね、間に合った」

「鈴、怪我無い?」

「シャルロットと簪ね!あんたたちの方こそ無事なの!?」

「まーね。直撃する直前で『形態変化』をしたから」

「変身中なら無敵だからね。何とかなったよ。危なかったけど」

「なら良かったわ。あたしだけじゃどうしようもない状態だし」

 

 視力は元に戻ったが、先ほどの攻撃で脳が揺らされたからかコンディションが悪い。これだとレーザーを避けるのに精いっぱいで攻めることはできそうにない

 

「OK、じゃあ攻撃は俺たちに任せな」

「簪ちゃんたちの単一能力は雪広に効くようだし」

「わかったわ、あたしは出来るだけビットの注意を引き付けるわ」

「助かる。俺の今使ってる単一能力は少し集中しないといけない状態だから」

「私も動きが鈍っちゃうから、フォローお願いしていい?」

「ええ、善処するわ」

 

 さすがに任せろとは言えない。あの量の弾幕を一人で避けるのは至難の業だ。でも、それでもシャルロットと簪が倒れたらどうしようもなくなってしまう。ならあたしはこの二人を守りぬくのがこの作戦の役目だ。

 

 

 ・・・たとえあたしが犠牲になろうとも

 

 

 




 一夏君は恋や愛がないと結婚は無理と考えています。政略結婚などは恋や愛がなくても強制的に結婚しますが、一夏君はそんなの結婚ではないと思う派なので
 愛がなくても結婚はできる などの感想はお控えください

 あと個人的ですがこの作品、1周年みたいです。途中更新が長く止まりましたが完結まで頑張るつもりです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話 あっけない幕切れ

 

 

 ・・・見たことのないような天井だ。確か俺は・・・

 ああそうだ。織斑に刺されて、俺のISであろう月詠と話をしていたのか。意識がはっきりとしてくる。頭を動かして今の状況を確認。腹あたりには包帯が厚く巻かれており、腕には点滴が打たれている。右手の近くにナースコールらしき呼び出しのやつがある。これを押せばよさそうだ。

 ぐっとそれに力を籠める、1秒・・・2秒・・・と数えていると遠くからドドドドと足音が近づいてくる。勢いよく扉が開かれると、束さんがなだれ込んでくる

 

「いっくん!!良かった!目覚めたんだね!!」

「はい、迷惑をおかけしました」

「いいのいいの!いっくんが悪いわけじゃないし。今すぐ診察するから・・・ってええ!?」

 

 すぐに束さんが今の俺の状態を確認すると驚いたリアクションをする。先ほどまであった腹の怪我が完治していたのだから。これには俺も驚いたよ。

 でもこれなら兄さんを止められる。束さんに点滴の針や体についている機械を取り外してもらってから起き上がり、両手を開いて閉じるのを繰り返す。うん、これまでの人生の中で最高に体調がいい

 

「束さん、今の状況はどうなっていますか?」

「え!?えーっと・・・今はその・・・」

「兄さんが暴走しているのは分かってます」

「ど、どうしてそれを!?」

 

 ここまで驚く束さんは珍しいと思いつつ、先ほどまで見ていた夢を伝える。といっても鈴への気持ちの部分はさすがに恥ずかしいのでそこは伏せたけど

 

「で、でもさっきまで怪我していたから・・・束さんは行ってほしくないな」

「兄さんが暴走したのは俺が落ちたのが原因です。なら俺が無事だと伝えられたら兄さんの暴走も止まるのではないかって」

「でも確証がないよ?」

 

 確かに兄さんの暴走が止まるとは言い切れない。先ほど見たのは俺が見た夢物語だったのかもしれない。それでも

 

「わずかな可能性でも俺は止めに行きたい。それに俺が助けに入れば物理的に止められる可能性も増えるでしょう?」

 

 これ以上兄さんが暴走するのは嫌だし、俺が原因のようなものだから、これは贖罪だ。自分でまいてしまった種はしっかり刈り取らないと。

 はあー、とため息をついてポリポリと頭を掻きながら束さんは口を開く

 

「仕方ないなー、分かった。会議室で今の状況を伝えるから」

 

 ただし!と俺にビシッと指を差して

 

「無茶はしないこと!また大けがはしないこと!約束してね!」

「けがはするかもしれませんが、無茶だけはしません。絶対です」

「ん~・・・まあ良いかな」

 

 じゃあついてきて、と束さんの後を追っていく。会議室に入ると山田先生が幽霊でも見たかのように驚きながらも事情を束さんに伝えてもらい、現状を教えてもらう

 

「鈴たちを敵と認識しているんだな・・・」

「それに押され始めている。撤退させないといけないけど、ゆーくんがどう動くかわからないし」

 

 なら一刻も早くそこに行った方がいい。そう結論付けた俺は二人に出撃許可を貰う

 

「本音をいうと、安静にして欲しいのですが・・・わかりました、許可します」

「いい!もう一度言うけど絶対無茶しちゃダメだからね!!」

「わかりました!」

 

 そのまま俺は会議室を出て出撃地点に向かう。早く鈴たちのとこに行かないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

「AAAARRRR!!!!」

「しぶといなあ!!」

「鈴、大丈夫!?」

「あ、あたしは大丈夫よ!それより雪広に注意して!!」

 

 二人の単一能力で雪広のSEを徐々に削ぐことはできているが、羽の数は一向に減ることがない。むしろ、簪とシャルロットは単一能力による集中で直撃こそしないが被弾が増えている。あたし自身も先ほどの倍近くを引き付けているものの、これ以上だと躱し切れずにSEが尽きてしまう。被弾覚悟で羽を叩き落とすこともやってみたのだが、落ちた羽の枚数分だけ新たに雪広が再生してくるから無意味と判断し回避行動を続けている。あたしのSEも余裕がなくなってきた。

 だが、それ以上に簪とシャルロットのSEが危うい。もともとSEを消費する単一能力であり、特にシャルロットは形態変化の時にSEを削っている。戦闘が長引けば長引くほどこちらが不利になっていく。

 雪広の猛攻を躱しながらどうするか作戦を練る

 

「どうする?一回撤退する?簪ちゃん、ちょーっとSEがまずいのだけど」

「でも俺たちが撤退したら雪広がどうなるか分かんねえし」

 

 どちらの言い分もわかる。撤退のタイミングを間違えると全滅の恐れもあるし、撤退後再び来ても雪広は別の場所で暴れて被害が出るかもしれない。なら・・・

 

「あと一撃、雪広に大きいのをぶちかましてあげて。それで撤退よ」

「分かった」

「了解だよ」

「それと、一撃与えたらすぐ撤退して。殿はあたしが務める。あたしがすべてのアレ(ビット)を受けきるから」

「「はあ!?」」

 

 さすがに驚くか。無理もないよね

 

「無謀だよ!それは!鈴が死んじゃう!」

「一夏が悲しむぞ!!」

「分かってる!でもこれが最善よ!雪広にダメージを与えればビットの動きも鈍くなるわ」

 

 実際、簪とシャルロットの単一能力で雪広にダメージを与えるほどビットの動きも遅くなっている。大ダメージを与えればすべてのビットを捌けることだって不可能じゃない・・・いや捌き切る

 それしか・・・今のあたしが役立つところがないから・・・

 

「あんたたちを信用しているから、あたしを信じて・・・頼んだわ」

「・・・ここで言い争っても仕方ないしな。わかった、影も限界だし、大きいのをぶっこんでやる」

「そこまで言われたらここで決めなきゃね」

「よし、やるわ!!」

 

 あたしは龍砲とマシンガンで簪とシャルロットの周りの羽を打ち落とす。フリーとなった二人は両手を突き出して極限まで集中し、シャルロットの影が最速で雪広に肉薄する。その影が持つ簪のエネルギーの剣も体と同じくらいまでに大きくなって雪広に上段から振り下ろされる。最速で最大の一撃。雪広も回避が間に合わないと判断したのか、爪を上でクロスしつつエネルギーの羽で体を包むかのようにして守りの姿勢をとる

 刹那、エネルギー同士のぶつかり合いで雪広のビットもろとも吹き飛ばされそうになる

 

「UUUUUU・・・!」

「押し込めええっ・・・!」

「これならああ・・・!」

 

 簪が右手をさらに出すとエネルギーの剣から数本の針が浮き出てきた。そして右手を握るとその針たちが一斉に雪広に突き刺しに行く。これで相手の集中が切れたところで押し込む算段だった

 

「UUUUOOOO!!!」

 

 それを察知したのか、寸前で雪広は新たな羽を出してピンポイントで針との間に入って事なきを得てしまう

 

「押されてるっ・・・!」

「もう・・・ダメえっ・・・」

 

 ここまでしてもダメなのか。アイツは本当にISを一年も乗ってないのにと思うと嫉妬どころかむしろ感心する。

 

 でもね、アンタは大きなミスを犯しているわ。

だってさっきのエネルギー衝突の余波でここに一切のビットがないのよ。今のあたしは完全にフリーなのよ。あたしが何もしないわけないじゃない

 

「GA・・?!」

 

 気配と敵意を消して雪広の背後に回り込み、限界まで圧縮した龍砲をガラ空きの背中に叩き込む。完全に想定外だったらしく、直撃して体勢が崩れる

 

「「「いけええええ!!!」」」

 

 エネルギー体の力が強まり、剣の強度も強くなったようで徐々に雪広が押されていく。

 

 ピシリッ、ピシリッ

 

とエネルギーの翼に亀裂が入り、まばゆい光が垣間見えた刹那、大爆発が起こる

 

「くうっ・・・」

 

 先ほどとは比にならないような暴風に耐え、雪広の状態を見守る。この攻撃ならもしかしたらSEが尽きているかもしれない。そうだとしたら、落下してISごと沈んでしまうかもしれないので撤退はできそうにない

 簪とシャルロットがこちらに来る

 

「・・・どうかな?倒せたんじゃない?」

「分からないけどもうこっちのSEが尽きかけだし、これ以上は無理だ」

「そうね、でもこれなら流石の雪広も倒れるでしょ」

「「鈴、それフラグ」」

 

 言われてから確かにそうだと思った。爆発の黒煙で雪広の姿が確認できないが、警戒を引き上げようとして

 

 

 二つの金の球が揺らめく

 

 

「DDDYYY!!!!!」

 

 黒煙を吹き飛ばして雪広が出てきた。とはいえ先ほどの攻撃は効いたらしく、頭から血が流れており、翼も半壊して左側しか生えていない。でもまだ動けるようだ

 

「嘘・・・でしょ・・・」

「化物・・・かよ・・・」

「マジ・・・?」

「RUUUUU!!!!」

 

 呆然とするあたしたちを嘲笑うかのように再度羽を出そうとする。心が折れそうになるのを何とかこらえ、相手の出方を伺いつつ、撤退のタイミングを探る。が、

 

「UU・・・」

 

 雪広もどうやらSEが切れかかっているのか、出した羽は力なく海に落ちていく。絶望していたが、これなら撤退できると希望が見えて・・・

 撤退を決断しようとしたとき新たなIS反応が超高速で後ろから来る

 

「こんな時に・・・っ!?」

 

 厄介だと思いつつ乱入してくる機体を確認して思わず思考が止まってしまった

 

 落とされたはずの彼が・・・ヒーローのように来てくれたから・・・

 

 

 

 

 

 

 鈴たちの交戦地帯に全速力で向かうと、満身創痍の四人がいた。間に合ってよかったと安堵すると同時にここまで兄さんが暴走したのが俺のせいと思うと心が痛む。簪とシャルロットは驚いたような顔をして、鈴は今にも泣きだしそうになっている

 

「一夏・・・!」

「鈴、言いたいことはあるかもだけど今は兄さんを止めるのが先だ」

 

 兄さんを止める手立てはなんとなくわかる。鈴を制止し、俺は武器を何も出さず兄さんに近づく。俺はもう大丈夫だと伝えるために、それだけを伝えるのに武器は必要ない

 

「ちょっと、一夏!危ないよ!」

「せめてシールドだけでも展開したほうがいいって!!」

「大丈夫、任せてくれ」

 

 簪たちの不安をよそに、兄さんにゆっくりと近づいていく。兄さんはまだ俺に気づいてないようで殺気を放つが、一歩踏み出せば切られる距離までお構いなしに近づいていく。すると兄さんは爪を展開し、俺を仕留める構えをして威嚇する

 

「GAAAAA!!!」

「兄さん」

「A・・・!?」

 

 はっきりと一言。ただそれだけ。それだけだが兄さんはぴたっと止まる。まるで呆けているよう。兄さんに語るだけで上手くいくなんて馬鹿馬鹿しいかもしれないが、俺ならこのやり方で上手くいくと直感で思ったのだ

 事実兄さんからの殺気が無くなり、警戒が無くなっている

 

「俺だよ、兄さん」

「I・・・CHI・・・KA・・・?」

「ああ、一夏だ。兄さんの弟の遠藤一夏だ」

 

 獣が言葉を始めて話すかのように兄さんが言葉を紡いでいく。やっと俺のことがわかるようになったようだ。そんな兄さんにさらに近づいて手を握る。展開していた爪が粒子となって消え、兄さんも俺の手を握り返す。もう一押しだ

 

「思い出したか?俺は無事だよ。安心して」

「ICHIKA・・・ICHIカ!・・・イチカアッ!!」

「おっと!」

 

 完全に俺を認識したようで兄さんの目が金色から元に戻り、兄さんは俺に抱き着く。突然で後ろによろけそうになったが立て直す。

 

「スマナカッタ・・・オレガ・・・オレノセイデ・・・オマエガ・・・!!」

「兄さんは悪くないよ。もう大丈夫だから」

「ゴメンヨ・・・ごめんよおっ・・・!」

 

 泣きじゃくる兄さんの背を優しく擦る。昔兄さんに慰めてくれた時と同じように今度は俺が兄さんを慰める。なんか昔に戻ったような気がして懐かしさを感じつつ兄さんが落ち着くまで兄さんの好きにさせよう。もう暴走の心配は無さそうだ。

 顔だけ後ろを向くと鈴たちが呆然としている。こんな形で兄さんの暴走が収まるとは思ってもみなかったのだろう。フリーの左手でピースサインを見せると皆は安堵の表情になり、武器をおろす。

 こんな感じで兄さんの暴走を止める作戦はあっけなく幕を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、一夏。もう大丈夫だ」

 

 しばらくした後、兄さんはそう言って俺から離れる。ボロボロではあるが、いつもの機体に戻っているからもう心配ない。そして兄さんは鈴たちに申し訳なさそうにしながら頭を下げる

 

「すまなかった、みんな。許されないことをしでかしたけど・・・どうか許してほしい」

 

 暴走していたし、その原因も兄さんのせいではないとはいえ、罪悪感が半端ではないのだろう

 するとシャルロットが笑って・・・いや、ニヤついて雪広の前に立つ

 

「許すけど~、タダじゃちょっとねえ~?何かしらの対価が欲しいな~」

「・・・あの時のお返しってわけか」

 

 あの時・・・シャルロットが女だとバレた時のことを言っているのだろう。おどけたようにシャルロットはふるまう

 

「別に~?僕はそんなつもりは決して、け~っしてないけど?」

「・・・できる範囲内なら了承する。簪も鈴も」

 

 言質取った♪と眼を輝かせるシャルロット。それに続いて簪と鈴もニヤついて兄さんに何を頼むか考える

 

「じゃあ僕は、デート一回分で埋め合わせかな」

「私は~映画館デートしたいな~」

「あたしはアンタとのデートは別にだし・・・帰ったら学食のパフェ奢りなさい。一番高いの」

「・・・いいのか?それで許してくれるのか」

 

 兄さんは不安な表情を浮かべたまま言葉を吐き出す。兄さんにとって許されざることをしたと思っているようで、その埋め合わせ程度で許されるのかと思っているのだろう。けど、今回ばかりは兄さんの意思でそうしたかったわけじゃなく仕方がないと俺は思う

 

「何言ってるの。アンタの暴走は仕方がなかったじゃない。それにあたしはそもそも怒ってないわ」

「私も気にしてないよ。雪広が悪くないのは分かっているから」

「そうそう。事故のようなもんだろ?でも約束は守ってもらうけどね」

 

 鈴たちも俺と同じように思っているようでそれほど気にしていないよう。それを感じた兄さんから不安な表情が消え、安堵の笑みがこぼれる

 

「そっか・・・ありがとう、みんな」

 

 再度頭を下げるが、その言葉に不安がない。心からの感謝を伝える。

 

 そして山田先生に敵反応がないことと、兄さんの暴走が止まったこと、福音のコアを回収したことを伝える。そののちに『帰投してください』と通信を受ける

 

「じゃあ、帰ろっか」

 

 俺の言葉に皆が返事をし、旅館に向かう

 

 

 作戦、完遂だ

 

 




 福音戦、暴走戦はこれにて終了!
 でも臨海学校はあと1,2話くらい続きます
 あと、資格試験のため更新遅れます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話 互いの知らない所で

 試験終わりました
 その勢いで書こうとしたのですが、インフルAでダウンしてました



 作戦終了後、束さんによる精密検査と機体チェックをしてもらった。機体のダメージは大きかったものの、鈴たちに骨折のような大きな怪我はなさそうでその日のうちに解散になるだろう。俺はみんなよりも一足先に解放され、許可を貰って一人で夜の砂浜を歩いていた。夏とはいえ、夜は肌寒いため制服での夜の散歩だ。砂浜を踏む足音と波の音しか鼓膜に届かず、まるでこの世界に俺だけしかいないような気持ちになる。

 それにしてもIS学園に入ってから色々とあった。クラス代表戦に無人機襲来、デュノア社の件、そして今日のこと。これほどのことを体験してもほぼ無傷で生きていられるのって案外凄いことでは?俺はこの世界の主人公みたいだと、とふと思う。

 IS学園に入ってから今までの出来事を思い出してみようと腰を下ろして海を眺める。作戦前は真っ黒で何もかもを飲み込むような恐ろしいものに見えたが、今は星の光で淡く揺らめいている。

 

「おお・・・」

 

 見上げると天の川が綺麗に映っていた。そうか、今日は七夕だったな。そんなことをすっかり忘れていたよ。昔、一度だけ兄さんと父さんの三人で星を見に行ったときしかはっきりと星を見たことがなく、東京やIS学園の周辺では人工の光が多いからこれほどしっかりとは見えないから思わず感動した。どれが織姫でどれが彦星なのだろうか?

 

「一夏?」

「へあっ!?」

「どうしたのよ、そんな声出して」

「わ、悪い悪い。星に夢中になっていたから、いきなり呼ばれてびっくりしただけ」

 

 完全に自分の世界に籠っていたから鈴が来たことに気づかず、変な声を出してしまった。

 

「鈴は大丈夫だったのか?」

「本当は安静だって言われていたけど、一夏が砂浜にいるってわかったから抜け出しちゃった」

「そっか・・・隣座るか?」

「うん」

 

 俺の隣に鈴が座り、海を眺めている。その横顔が星で照らされて顔のパーツが細かく見える。ああ、どこを見ても愛おしい

 

「?あたしの顔に何かついてる?」

「いや、鈴の顔を見ていただけ」

「そう・・・」

 

 今の言葉は変態みたいだと言って後悔したが、鈴は顔を赤らめ、ぷいっとそっぽを向くだけにとどまった。そんな行為も可愛いと思っていると鈴が顔をそむけたまま語りかけてくる

 

「心配したんだからね。一夏が死んじゃうかと思ったんだから」

「それはすまなかった。でもあれしか方法が思いつかなかったんだ」

「だからって、一夏が捨て身になっちゃダメ!あたしが一番悲しいんだから・・・もっと自分を大事にしてよ・・・」

 

 顔をそむけながらも体を預けてくる。それを受け止めつつ、鈴の言葉を反芻する。

 ・・・鈴はいつもそうだ。俺のことを必要としてくれている。俺がいなくなると本気で悲しんでくれる。俺の存在を認めてくれる。だからそんな鈴に惚れたのに・・・俺は逃げていた。自身がなくて、何かを失うのではないかと怖くて、向き合おうとしなかった。

 

 でも決心する時だ

 

「なあ、鈴」

「何?」

「俺さ、織斑に腹刺されて死にかけた時に思ったんだ。なんで鈴が告白してくれた時にあいまいな返事をしてしまったのだろうって」

「・・・」

「鈴への思いを踏みにじったまま死ぬのかと思ってさ。後悔した。だから・・・もう後悔したくない」

「!」

 

 鈴が驚いたようにこちらを向く。その目をじっと見て、

 

「まだ鈴を幸せにできるか自信を持って言えないけど・・・俺は・・・鈴と付き合いたい」

 

 思っていたことを鈴にさらけ出す。鈴に告白されているから付き合いたいって俺が言うのはおかしいかもしれないけど、それ以外の言葉が思いつかなかった。でもこの言葉に嘘偽りはない

 

「幸せになるように頑張るから・・・一緒に居たいようになるから・・・!?」

 

 思いを伝え切ろうと思った矢先、いきなり鈴の両目から涙がボロボロとこぼれ落ちる。思わず言葉が途切れてしまう。予想外の反応でどうしたら良いかわからない、もしかして嫌だったのか?

 

「あ、あれ?なんであたし、泣いてるんだろ?」

 

 何度ぬぐっても涙をこぼす鈴は自分の感情に困惑しているよう。でもその表情は嬉しそうだ

 

「り、鈴?」

「違うの。こんなにうれしいのに。待ちわびていたのに、涙がっ・・・止まらなくて・・・!」

 

 鈴は感情が追い付いていなくて混乱しているのだろう。いったん気持ちを整理させるために、そういうしっかりとした建前で鈴を抱きしめ、背中を優しく叩く。気持ちを落ち着かせるにはこれが一番だと兄さんから教わったのが今生きたようだ。

 落ち着いたところで鈴が俺を見つめて、口を開く

 

「あたしも、気持ちは変わらない。一夏のことが好き。だけど一夏があたしを幸せにするのと同じくらい、あたしも一夏を幸せにするから。だから二人で頑張ろ?」

「ああ、二人で幸せになろう。たくさんの思い出を作ろう。だから、これからもよろしくな」

「うん、こちらこそよろしくね」

 

 ぎゅっと抱きあう。夢・・・じゃないんだな、小学校からの初恋が実るなんて。この幸せは今までに感じた幸せとはまた違い、心を満たしていく。

 どれ程経ったか。抱きしめる力が弱まり、密着状態から少し距離を開けて互いの顔を見る。すると鈴が思わず笑みを漏らす

 

「フフッ」

「どうした?」

「一夏がね、返事に答えてくれるのが早くて嬉しいな~って。もう1年くらいかかるかなって思ってたから」

「そこまで待たせるつもりは・・・なかった、と、思う・・・多分」

「なんで歯切れ悪いのよ」

「1年待たせる未来が普通に見えたからだ。スマン」

「べつにいいよ」

 

 で、その後もたわいもない話をして、そして初めてのキスを交わした。初めてのそれはレモンの味がすると言っていたが、俺はあまりの緊張でそんな味わう余裕なんてなかったし、鈴に至っては「塩飴の味がした」とムードお構いなしの感想だった。海辺だからなんじゃないかって笑いあいながらもう少しだけ夜の浜辺で二人だけの時を楽しんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見た?」

「見た。鈴の跡をつけた甲斐があったね」

「これが恋愛かぁ~。やっば、僕の方がドキドキしてる」

「胸キュンすぎて尊い」

「わかりみが深い」

 

 そんな二人をみる二人がいたのだが、一夏たちは気づくことなく二人の空間を噛み締めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、まさかあんな方法で暴走を止めるとはね。兄弟ならではの解決方法だったのかな?」

 

 旅館の近くにある岬の柵に腰掛けながら、束はディスプレイを取り出して今日の出来事を振り返る。さながら無血開城のごとく、暴走していた雪広を言葉だけで止めた一夏の映像が流れていた

 

「ほかの子たちの言葉は通じていなかったし、私の連絡にも反応なかったし・・・兄弟の絆は伊達じゃないって感じかな」

 

 ディスプレイを見ながら感想を漏らす束。だが後ろから人の気配を察知し、後ろを向かずに耳を後ろに集中させる

 

「あれ?束さんですか」

「なーんだ。ゆーくんか。ケガは大丈夫?」

「はい、おかげさまで。あと時間があったので岬で海を眺めようかなと。束さんこそこちらで何をされてたのですか?」

「今日の反省と考察」

 

 警戒心を解いて流れているディスプレイを見せると、雪広は申し訳なさそうな表情を浮かべる

 

「申し訳ありませんでした。本当に迷惑かけました」

「いや、ゆーくんが悪いわけじゃないし。気にすることじゃないよ」

「とはいえ、黒歴史のようなものなので・・・」

 

 誰が暴走した姿を好き好んでみようか。大抵は恥ずかしさや未熟さで思い出したくない思い出の一つに刻まれてしまう。雪広も例外ではなかった

 

「ごめんごめん。ゆーくんの前では見ないようにするよ」

「そうしてくれると助かります」

 

 柵にうなだれながら雪広は思いを伝える。その後は互いに話すことなく海を眺める。月が辺りを照らし、波の音だけがこの場を支配する

 その支配を破るように束が語り掛ける

 

「・・・ところでなんだけど」

「何でしょう?」

「ゆーくんは夢を持ってる?」

「随分といきなりな質問ですね」

 

 同じタイミングでお互いに目線を向ける。雪広は束からのいきなりの質問に対してやや困惑気味に、対して束は雪広への純粋な興味を持って視線を交わす

 

「私は知っての通り、宇宙のことをもっと知りたいし、ISが宇宙用に使われてほしい。でも、ゆーくんの夢は聞いたことなかったな~って。こんな時しか聞けないだろうし」

「・・・」

「別に無理して答えなくてもいいからね。無いなら無いって答えても構わないから」

「いえ、ありますよ。無謀と言えるような夢が」

 

 ピクリと束の眉が動く

 

「・・・それはこの束さんをもってしても?」

「ええ」

 

 ためらいもなく無理だと即答する雪広。ピクピクリと先ほどよりも眉を動かしてより興味を持つように束は話を続ける

 

「気になるな~!どんな夢なの!」

「・・・『一人でも多く、将来の子供たちの努力が報われる社会を作りたい』って夢なんですよ」

「ほえ?」

 

 虚を突かれたかのようにぽかんとする束に対し、雪広は苦笑いを浮かべる

 

「思っていたのと違いましたか」

「なんか『すごいもの作るぞ!』とか『何かを発見するぞ!』的なものかと思ってたから・・・ちょっと意外」

「ははっ、一夏にも同じようなことを言われました」

 

 でも違うんです、と大きく伸びをして雪広は夜空を見上げる

 

「自分は束さんが思っているほど頭良くありませんよ」

「でもゆーくんの中学は日本一頭いいとこだったじゃん。そこで上位を維持していたんだったら頭いいんじゃない?」

「確かにそうかもしれません。ですが世間が言う『頭がいい人』ってのは、授業で与えられたものを正しく詰め込むことができて、正しくアウトプットができる奴なんですよ。どんな教科であれ、覚えていた英単語や公式、歴史や文法を当てはめるパズルが得意な奴が有利なんです。自分はただ、パズルを強制され続けてやり慣れているだけです」

「そういうものなんだ・・・」

「束さんの場合は勉強というパズルも得意だから『勉強ができる』と『頭がいい』がイコールに見えるんでしょう。ですがそうじゃない奴もいます。実際にそういうやつ見てきましたからね」

「いたんだ。勉強できないけど凄い人を」

「ええ。そいつらを見て思うんですよ、『自分は勉強ができるだけなんだ』って」

 

 ですが、と力強く雪広は口調を強める

 

「自分にそういう才能はなくとも、その才能ある未来の子供たちを育てることはできる。一人一人の持つ才能が開花できるような環境を作ることはできるはずです。そんな社会に出来たら最高だと思いません?」

「つまり未来の子供全員が幸せになるような社会を目指すってのが夢?」

「正確には『努力を積み重ねる子供』が『できるだけ』幸せになる社会ですかね。努力も無しに夢かなえたいような口だけの奴を幸せにするつもりはないですし、努力をしたとしても受験競争などで報われないこともある。でもそれ以外の外部のせいで、主にいじめや虐待によって精神的に追いやられてしまう子だっているのが今の現状です。そんな子供たちを見たくはないんです」

 

 雪広自身も虐待され、心を閉ざしていた時期がある。さまざまな要因が重なって今は元気に毎日を送っているが、ひとつでもズレがあったら彼は今もなお心を閉ざしていたかもしれない。

 

「そのためにも、この国に蔓延るいじめや虐待の諸問題を減らしていきたいのが今後の目標ですね」

「なるほどね~」

「無謀でしょう?」

「無謀だね~。でも私は嫌いじゃないな」

 

 いじめや虐待は基準が難しいだけでなく、発見そのものが難しい。そして人がかかわる以上、それらをすべて無くすのは確かに不可能に近い。また、この時代の蔓延る女尊男卑の風習がいじめや虐待の後押しをしてしまい、毎年より酷くなっている。

 だからこそ彼はそんな社会を変えたいと本気で考えている。束に語るその目は決意に満ちていた

 

「ちなみにまずは何からするつもりなの?」

「女尊男卑の風習を無くすことですね。それが原因でいじめや虐待が助長されているので。そのためにはISが男でも動かせられるようになればいいのですが・・・どうなんですか、ISのほうは。女性しか動かせない謎は解けました?」

「解けていたらとっくのとんに論文出して世界に放映してるよ。ゆーくんも手伝ってよ~」

「あなたでも解けないものを解けと?」

「え~、そこは他力本願なの~?」

「・・・理解しようとはしてるんですが、1ミクロンもわからんのですよ。そこは適材適所ということで。ISが男でも動かせられるようになったら私が先駆者となって女尊男卑を潰しますから」

「すごいでしょ?私の最高傑作は」

「本当にもう・・・うぷっ・・・ため息しか出ないくらいに」

 

 フフンとドヤ顔で勝ち誇る束。その仕草は子供っぽさが目立つがそれも含めて束らしいのだと妙に雪広は納得してしまう。

 

「やっぱりゆーくんと話すのって楽しいな♪」

「まだまだ語り合いましょうよ。夜はこれからなんですから」

 

 まだまだ夜は長い。夜の雰囲気だからか、はたまたこの場に二人しかいないからか。夢の語り合いやたわいもない会話は途切れることなく、二人の夢の語り合いは夜遅くまで続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六者三様の夜を過ごしているが

 

「スコール!M!大丈夫か!」

「私は無事よ!」

「・・・生きてる」

「くっそ!!俺たちだけでも生き残るぞ!!」

 

 水面下では何かが起きているのを彼らは知らない




 天の川ですが本来は「高い位置のほうがよく見える」「旧暦の七夕、今の8月が良く見える」らしいです。
 臨海学校編はこれにて無事閉幕!3巻分が終わりました。いや~、長かった。小説ってこんなに書くのが大変だと再認識しましたね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Coffee Break
pt.1 ブルークリスマス・イヴ


 初番外編です。クリスマスに合わせた話を書けたらと思ったので間に合って良かったです。
 番外編なので本編との関係はありません



 光あるところに影がある。勝者いるところに敗者がいる。

 全人類が幸せになることはあり得ない。そんなことは分かり切っている。事実、自分は未来全員の子供を幸せにしようとは思っていない。不可能なんだから

 分かっている。分かりきっている。

 

 

 

 

 

 

「ジングルベル♪ジングルベル♪鈴が鳴る~♪」

「We wish a merry Christmas♪ We wish a merry Christmas♪」

 

 12月の初週。息が白くなってきた今日この頃、町はもうクリスマス一色になっている。どこの店にもクリスマスの飾り付けがあり、もうクリスマスセールが行われている店もある。クリスマスケーキや七面鳥、チキンの予約を承っているとこもあり、外を歩くと心なしかカップルが多いようにも感じる。

 クリスマス。それはイエス・キリストの降誕祭であり、カップルたちがひと冬の思い出を作る時でもある、世界中の人が浮かれている時期。要はカップルにとっての一大イベントの日だ。早いものだな

 

「・・・もうこの季節か」

「そうだな・・・兄さん」

 

 部屋にいる一夏と会話をする。お互いの顔を見なくても、どんな表情をしているかこの時期は分かってしまう

 

「・・・準備しないとな」

「そうだな」

「はぁ・・・本当に・・・

 

 

 

 

 

  最悪な季節がやってきたな」

 

 今年もクリスマスはやってくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマスが一週間前になり、町全体がクリスマス一色になっている今日この頃。ここIS学園でもそれに染まっていた。最も、ほとんどの生徒は彼氏がいないため友達を集めてのパーティーをすることになっている。数少ない他校に彼氏がいる子たちはクリスマスイブにデートをするって惚気ていたわ。

 そんな中、あたしたち三人は食堂のテーブルで話をしていた。しかしその空気は・・・クリスマスとは思えないほど重い。クリスマスよりも心配なことがあるからだ

 

「「「あのさ」」」

 

 沈黙を破ろうとしたら思いっきり被ってしまった。こういう時に限って発言が被ることって多くない?っと、話がそれたわね

 

「あたしから言ってもいい?といっても、考えていることは多分同じだろうけど」

「うん、いいよ」

「僕もそう思うから言って」

「あのさ・・・一夏と雪広、最近おかしくない?」

 

 どうやら二人も同じことを考えていたようで、首を縦に振る。そう、ここ最近一夏と雪広が変なのだ。目に見えて調子が悪い

 

「ISの実習や訓練でも初歩的なミスが目立つし、形態変化も不安定だし、模擬戦の勝率が落ちてるし・・・少し前のほうがもっと上手に乗っていたわよ」

「ISもそうだけど、授業中もなんか上の空なんだよね。雪広なんか簡単な計算ミスを連発していたし・・・。いつもだったらそんなこと絶対ないのにさ」

「生徒会でもちょっとね。一夏に書類仕事を手伝ってもらっているんだけど、書類の書き間違いがここ最近酷くて・・・いつもお姉ちゃんが任せていたんだけど、今は任せられないって言って仕事を外してるくらいだし・・・何かあったのかな?」

 

 うーん、と三人そろって考え込む。スランプというよりも心がここに非ずといったような感じなのよね。あたしたちといるときは笑っているんだけど、無理をしているように感じるし・・・何より、二人そろって目に見えるほどの調子を落とすのは珍しい

 

「いつから?二人が目に見えて調子を落としたのって」

「といってもそんな二人にべったりじゃねえし・・・」

「あっ」

「何か思い当たるものあった?」

「たしかよ、先週一夏とデートしていたんだけど」

「惚気か?」

「違うわよ!で、その時に一夏が店のクリスマスツリーを見た時、明らかに悲しそうな顔をしていたのよ。何でもないようにふるまっていたけど、思えばその辺りから調子が落ち始めた気がするのよ」

 

 しかしスランプの原因がクリスマスだとしても何が原因なのだろうか?それに一夏がクリスマスで調子を落とすのは考えにくいというか・・・

 

「でもさ、二人がスランプになるのとクリスマスって関係ある?特に一夏なんてクリスマスは最高の日じゃないか」

「そうだよね。雪広ならともかく、彼女がいる一夏がクリスマス嫌いなんて、そんなことある?」

「というか、鈴は一夏と予定無いの?クリスマスにさ」

「それが、一夏から何にも無くて・・・聞こうにもあの時の顔が忘れられなくて聞けなかったの」

 

 怒っているような、恨んでいるような、悲しんでいるような、そんな顔でクリスマスツリーを見ていた一夏の顔は今でもはっきりと覚えている。思えばクリスマスソングが町から聞こえた時にも悲しそうな感じが出ていたような・・・

 でも・・・それでもクリスマス何だから一夏と過ごしたい気持ちも当然ある。

 

「一夏も雪広もその時からだとしたら、昔クリスマスに何かあったのかな?」

「けどそんなこと聞けねえし・・・そんな情報を知っている人なんてそういないし・・・」

 

 行き詰ってしまった。三人そろっても事態が進まず、あったかかった緑茶がぬるくなってしまった。そんな所に一人の人影がやってくる

 

「あら、三人そろって女子会?私も混ざっていい?」

「お姉ちゃん、お仕事は?まさかまたサボってないでしょうね?」

「してないわよ!しっかり働いたわ!」

 

 楯無先輩がやってきた。楯無さんなら一夏たちのことを知っていそうだ。束さんほどではないけど、この人の情報収集力は伊達じゃないし、聞いてみる価値はありそう

 

「楯無先輩、最近一夏たちがスランプ気味なんですが、何か知ってることあります?」

「!」

 

 この反応を見るに知っているようね。だけど何故か言葉を出そうとしない。いつもだったら本人の知られていない内容までぺらぺらとしゃべるのに、この時だけは言葉を選んでいるようだ

 

「何か知ってそうですね。僕たちに教えてくれません?」

「えーっと・・・それは本人たちのプライバシーに関わるというか・・・なんというか」

「駄目?」

 

 出た、簪の必殺上目遣い。これをした暁には楯無先輩はどんな簪のお願い事をも聞いてしまう、楯無先輩に対してだけの必殺技だ。本当にチョロすぎます、先輩。

 だが、今日はそれをもってしても口を割らない。初めて抵抗したんじゃないかしら

 

「い、いくら簪ちゃんのお願いでも・・・これだけはダメ!」

「ぷー」

「む、むくれてもダメだからね!」

 

 とはいえ、相当揺らいでるじゃないですか。簪の顔を見ないように楯無先輩はそっぽを向く。いや、耐えただけでも褒めるべきなのか?

 それよりもだ

 

「そんなに雪広たちにとって知られたくない内容なんですか?」

「ええ、まあ。私だったらあんまり知られてほしくないというか・・・掘り返してほしくない内容というか・・・」

「何を掘り返したくないんですか?」

「「「「ひゃあああ!?」」」」

 

 話題の一夏が突然来たことに思わず悲鳴を上げてしまった。いつもなら気配とかで分かるのに、今日は一段と薄いというより覇気がない。後ろの雪広も一夏以上に元気がない。それでも彼は務めて明るくふるまう

 

「何?男子禁制の話で盛り上がってた?やましい話でもしてたの?」

「してないわよ!」

 

 雪広、セクハラで訴えるわよ!って、言いたいところだが、無理して冗談を言ってるよう。それに一夏もいつもならセクハラを言う雪広に強烈なツッコミをするのだけど、今日はそれすらない。

 それほど一夏たちは調子が悪いのだと改めて認識してしまう

 

「そういえばなんだけど・・・みんなクリスマスイブって空いてる?」

「「「「えっ!?」」」」

 

 まさかのここで聞く?というよりなぜ皆にも聞くの?一夏は何を考えている?いけない、いろんな思考がぐるぐる頭を駆け巡ってしまう。

 落ち着けあたし。心の中で深呼吸だ。すぅ~、はぁ~・・・よし落ち着いた

 

「あたしは無いわ」

「私もないね」

「僕も空いてる」

「おねーさんもフリーよ」

「・・・なら俺たちに付き合ってくれません?会わせたい人がいるんで」

 

 会わせたい人?誰?なんでイブの時なの?それとも二人が調子悪いのってその人がかかわっている?

 楯無先輩を見ると察したのか神妙な顔になる。ってことは一夏たちの今の状態に関わる人なのだろう。でも一体誰なんだろ?そもそもどんな関係なのだろう?それを聞ける雰囲気ではないし、当日に知る流れなのかな?

 結局詳しくは聞かされないまま、イブの日に駅で集合してから案内するって言って二人は去ってしまった。あたしたちも痴話話をある程度してその日はお開きとなった。本当なら一夏とクリスマスデートしたいんだけどな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマスイブ当日。あたしたちは指定時間である昼頃に駅で集合した。できれば制服で来てほしいということで制服なのだが、雪がパラパラと舞っていて寒い。誰よ、こんな防寒性能低い制服にしたのは、ってあたしか

 そのあとモノレールに揺られて首都の東京へ。そこからバスでまあまあ揺られている。どこに行くのだろうか?都心から離れるためか、このバスにはあたしたち以外誰も乗っていない

 

「雪広、あとどのくらいかかる?」

「あと2駅分だからそろそろだよ」

 

 そろそろだけど、東京とは思えないような閑散としたところに行っている。こんなところもあるのね。

 そして目的のバス停でおり、雪広を先頭で少し歩く。お寺の門が見えてきた。

 寺・・・会いたい人・・・もしかして・・・

 

「こんにちは。雪広君、一夏君」

 

 門をくぐると箒を持ったお坊さんが二人にあいさつをかけてきた。漫画で描いたような優しそうなお坊さんで年は80くらいだろうか。それでも背筋はしっかりしていて元気そう

 

「「ご無沙汰しています」」

「花はいつものところに置いてあるから、それを持っていきなさい」

「いつもありがとうございます」

「いえいえ、私にできることはこれくらいですから。して、こちらの方々は?」

「学友たちと先輩です」

 

 雪広に紹介され、自己紹介をする。その後、一夏と雪広はあたしたちから離れ、お坊さんとあたしたちだけになる。するとお坊さんがあたしたちに話しかけてくる

 

「彼らは学校になじめていますか?私はIS学園のことを詳しく知らないのですが」

「はい、なじめていますよ。クラスでも好評です」

「鈴の言う通りです。それに僕は彼らに救われましたし」

「私も彼らに助けてもらいました。今は良きクラスメートです!」

「いい後輩たちですよ」

「そうですか。それはなによりです。そして・・・あなたが鈴さんですか。一夏君の恋人ですね」

「にゃっ!?」

 

 どどど、どうしてそれを知っているの!?!?

 

「8月の時に一夏君が伝えてくれました。何でも頼りがいがあって、優しくて、とてもかわいらしいと」

「おうおう、好かれているね~鈴さんよ」

「羨まし~」

「ホント、アツアツね」

「うう~///」

 

 嬉しさ半分、恥ずかしさ半分とはまさにこのことね・・・いや、恥ずかしさが勝ってるわ。何お坊さんに惚気てるのよ、一夏は!!嬉しいけど!!

 だが、その後すぐにお坊さんは笑みを消して深々と頭を下げる

 

「これからも彼らとよき友であってください。()()()()()彼らの傍にいてください」

「・・・」

 

 含みのある言い方。楯無先輩は一夏たちにとってどんな日か分かっているような反応をしている。そんな反応を見て、あたしたちはなんとなくだけど分かった気がする。分かってしまった気がする。だってこれまでのことがすべて当てはまっているのだから

 

 でももし本当なら、どれほど残酷なのだろうか

 

「お待たせ」

「行こうか」

 

 一夏たちが戻ってきた。一夏は花を、雪広は水の入った桶を持って。再度雪広を先頭に歩く。言葉は交わせない。

 歩いた先には墓地が見える。二人はお構いなくその中の道を進み、他よりも少し大きめの一つの墓石の前で止まる

 

 「遠藤幸雄」の文字が刻まれている墓石の前で

 

「戻ったよ、父さん」

「また戻ってきたよ」

 

 この墓に眠っている人が、一夏たちを育ててくれた人なのね。そして会わせたかった人は幸雄さんのことだったのね。シャルロットも簪もやはりと確信したようで、でも二人にかける言葉が見つからなくって・・・

 そう考えているうちに雪広は水を墓石にかけ、一夏は花を手際よく供えている。一夏の話では3年前に亡くなったと聞いているが、その墓は新品と言っても忖度ないほど手入れがされていた。あのお坊さんがやってくれているのだろう

 その墓石に二人が語り掛ける

 

「親父、今日は仲間たちを連れてきたよ」

「俺の仲間と、大事な人さ」

「みんな、いきなりで悪いけど自己紹介してくれるかい?紹介したいんだ」

 

 もともと会わせたい人がいると言われていたからある程度は考えていたし、戸惑うことなくあたしからお墓に向かって自己紹介をする

 

「凰鈴音です。雪広とはよき仲間で、一夏と付き合っています。よろしくお願いいたします」

「更識簪です。姉との仲を取り持ってくれた雪広たちを育ててくださり、ありがとうございます」

「姉の楯無です。簪ともども感謝します」

「シャルロット・デュノアです。雪広たちに色々と救われた身です。感謝の意をここに」

 

 少し懺悔っぽくなってしまったけどその思いは伝えられただろうか。すると二人がお墓の前で語り始める

 

「今日はさ、仲間たちを見せたくて・・・皆には無理してもらって来てもらったんだ」

「いつか会わせたいと思っていたから・・・素敵な仲間たちだろ?」

「今までよりも、去年の三回忌よりも来てくれる人が多い・・・って今まで自分たちしか来ていないから当然か」

 

 ははっ、と乾いた笑いを出す二人。どうしよう、何をするのがいいのかしら。下手に声かけるわけにもいかないし・・・

 

「皆さん、外は冷えますよ。中に入りなさい」

 

 さっきのお坊さんがあたしたちの声をかけてくれた。どうやら温かい飲み物を出してくれるとのこと。雪の結晶が大きくなってきて冬の風が体をつんざく。

 

「ほら、一夏も雪広も行こ?」

「いや、まだ俺たちは話がしたい」

「先に行っててくれ。後で合流するから」

「でも・・・!」

 

 流石に二人を残して寺の中に入るわけにはいかないと思ったのだが、お坊さんがあたしの肩を叩く

 

()()だけにしてあげなさい。雪広君、一夏君。気が済んだら部屋に入りなさい」

「「・・・ありがとうございます」」

「皆さん、行きましょうか」

 

 そういわれ、一夏たちを残してお寺に向かった。その時ちらっと見た二人の眼からは・・・いや、言わないでおこう

 

 

 

 

 

「どうぞ、熱いので気をつけてくださいね」

 

 暖かい部屋の中、お坊さん、本名龍一さんがお茶を出してくれた。ありがたくいただいてる。ああ、体の中まで染み渡る

 するとシャルロットが意を決したかのように龍一さんに尋ねる

 

「失礼なことを聞きますが、幸雄さんっていつ亡くなられたのですか」

 

 分かってはいるが、それでも気になってしまう。もしかしたら違うのだと思いたくて。シャルロットも簪もそう思ったのだろう。

 龍一さんは少し静止した後、あたしたちの向かいに座って口を開く

 

「世間でいうクリスマスイブ、つまり今日が彼の命日です」

「っ!」

 

 やっぱりそうなのか。だからあんなにも調子が悪かったのか。

 当然だ、大事な人が亡くなったという日にどうやって明るく過ごせと言えるのだろうか

 

「朝だろうと、夜だろうと、春だろうと、秋だろうと人はいつか亡くなります。それは自然の摂理です。私は仏教に身をゆだねておりますゆえ、ほかの宗教の行事にはそれほど興味はありません」

「・・・」

「ですが、それでも思うのですよ。仏は彼らに残酷であると。なぜ彼らをこれほどまでに苦しめるのかと。よりによって世間が賑わうときに辛い経験をさせるのかと。こんなことを言うのは僧として失格ですけど」

 

 本当に残酷だ。あたしは神様とかを信じてはいないけど、余計に信用ができない。いるとしたら一発ぶん殴らないと気が済まない。あの二人がなにをしたというのか。前世に大罪でも犯したのだろうか

 

「二人がクリスマスを嫌っているのって・・・幸雄さんが亡くなったから、ですか?」

「正確にはクリスマスで幸せな人を見ると腹が立つと、本人たちが言っていました。なんでも、『まるで自分たちの親が死んだことを周りが喜んでいるようで辛い』と。一回忌の時はそのストレスが爆発して兄弟で大喧嘩をして、二人とも入院する羽目になりましたし・・・三回忌のときはその辛さを紛らわせようとして中学で無茶をして入院する羽目になったそうですし・・・」

「碌な目に合っていませんね」

「はい、今年もまた無茶をするのではないかと思っていたのですが・・・」

 

 と、今まで悲しそうな顔で語っていた龍一さんがあたしたちに向けて笑みを向ける

 

「今年はあなたたちがいたおかげか、だいぶマシでしたよ」

「あ、あれでマシだったんですか?」

 

 簪の言いたいことはすごくわかる。あそこまで調子が落ちても、それでマシだったということは・・・去年はもっとひどかったのだろう。ましてや一昨年なんかは悲惨だったのだろう。確か兄弟喧嘩したのは一回だけって言っていたから、その時だったのか

 今のあたしに何ができるだろうか。どうすれば二人の・・・一夏の悲しみを取り除けるか。

 と、玄関の扉が開かれる音がする

 

「龍一さん、戻りました~。雪がヤバいです」

「はーっ、部屋で温まりたい」

 

 

 

 

 

 

 玄関前で雪を払い、暖かな部屋に入る雪広と一夏。外に長くいたため、鼻や耳、手が赤くかじかんでいる。そして、二人の眼も赤くなっていた。

 二人は鈴たちが去ったあと、多くのことを語っていた。盆の時から新たに起きた事や、幸雄が生きていた時の思い出を思いつく限り彼の墓の前で。その時に幸雄の最期の時を思い出し、もう会えないのだと嫌でも認識させることへの寂しさが二人の目から零れ落ちた。ただ静かに、二人は涙を流し続けていた。亡くなってから3年が経とうとしているが、未だにこの時期になると寂しさが募ってしまう。

 さすがに体が冷えて目が痛くなってきたので、まだ気持ちの整理がつかないまま二人は暖かな部屋に避難する。それを見て彼らを知っている楯無が言葉を発する

 

「どう?気持ちの整理はついた?」

「「・・・」」

「まだのようね」

 

 まだ心が荒んでいる彼らは問いに答えることができない。そんな雰囲気を感じ、鈴がおもむろに立ち上がり、一夏の前に立つ

 

「ん」

「・・・鈴?」

「あたしを抱きしめなさい」

「え・・・?」

「だから、抱きしめなさい。慰めてあげるから」

 

 両腕をひろげ、飛び込んで来いと伝える鈴。一夏は無意識のうちにフラフラと吸い寄せられるように鈴に抱き着く。

 

「鈴・・・」

「何も言わなくていいから。落ち着くまでこうしてあげるから」

 

 鈴はかがんでいる一夏の頭を撫でる。どうしたらよいか考えた結果、鈴は一夏抱きしめることにした。ハグはストレスを解消できてリラックスできると最近どこかで聞いたし、今すぐにできると思い、鈴は即行動に移した。彼の傍にいてあげたいと、せめて今だけは彼のこの悲しみを少しでも和らげたいと思ったゆえの行動だった。

 一夏は何も言わずに鈴を抱きしめる。効果覿面(てきめん)のようで、一夏は氷が解けるように雰囲気が柔らくなっていく。それを見て残る女性陣も立ち上がって雪広の前に立ち、アピールする

 

「ぼ、僕のところもいいよ!雪広!さあ!!」

「私も!いーっぱい抱きしめてあげる!」

「おねーさんの所でもいいわよ?おっきなクッションで抱いてあ・げ・る♪」

 

 普段の雪広なら競うなよ、と言って呆れるところ。だが、今の彼もそんな余裕などなくシャルロットと簪を同時に勢いよく抱きしめる

 

「うわあっ!」

「雪広、が、がっつきすぎ!」

 

 二人同時に来ると思っておらず予想外の勢いによろめくが、力が半分に分散されたことで何とか踏ん張り、雪広を支える。雪広はそのまま彼女たちに体を預け、ポツリとつぶやく

 

「あったかい・・・あったかいなあ・・・優しさが染みるなあ・・・」

「・・・もっと僕たちで温まってよ。時間はあるんだから」

「こんな風に抱かれるのっていつ以来だったか・・・懐かしいなあ・・・」

「気の済むまでいーよ。私もぎゅーってするから」

「・・・そうさせてもらう」

 

 先ほどよりも強く二人を抱きしめる雪広。そんな彼にシャルロットと簪はそれぞれ空いている右手と左手で背中をさする。雪広は二人のやさしさに今日までたまっていた負の感情が抜けていくのを、シャルロットと簪は雪広を抱くのは役得と少し思いつつ彼の役に立てられることの喜びを感じながら、思い思いの時が流れていった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、私は?」

「「 お姉ちゃん(先輩)は黙ってて(ください)」」

「ヒドイ!」

 

 ただ楯無は蚊帳の外になってしまったが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴、今日は本当にありがとうな。おかげで気分が良くなったよ」

「それなら嬉しいわ」

 

 満面の笑みを一夏に向ける。うん、いつもの一夏に戻ったわね。一時期はどうなるか心配したけど、もう大丈夫そうね

 

「ところで、本当に良かったのか?」

「何が?」

「いや、今日をみんなと過ごすことにしてさ」

 

 そう、今あたしたちは学校の食堂を借りて合同クリスマスパーティに参加している。本来はカップル禁制なのだが、特例で参加してもいいと言われたので雪広たちと参加することにした。確かに、二人っきりのデートの方が良かったと思うあたしもいる。でも

 

「聞いたわよ。ここ二年のクリスマスは病院のお世話になっていたのを。一夏が無茶して今年も病院なんてことにならないようにするにはあたしだけじゃ無理があるわ」

「うぐっ!痛いところを突かれたな・・・」

「それに二人でいるよりも、皆と一緒の方がより楽しいでしょ?それに、二人っきりになれることは来年でもできるけど、皆でワイワイやれるのは毎年できるとは限らないじゃない」

 

 実際、あたしもこれほどの規模のパーティーは参加したことないし、興味はあったのよね。友達とこうやって騒ぐのも悪くはない

 向こうではカラオケ大会で盛り上がっているようだ。そこから雪広がこちらにやってくる。雪広も今日の件で吹っ切れたようで楽しそうにこちらに近づいてくる

 

「一夏!カラオケやるってさ!自分とデュエットしようぜ!」

「ほら、いってきなさい。あたしも何歌うか気になるし」

「ああ!行こうか!」

 

 一夏があたしから離れる。その時にふと来年も今日みたいに落ち込んでしまうのではないかと思ってしまった。そのときは今日みたいに元気づけられるか言いようのない不安が一瞬迫る。

 でも

 

「大丈夫。もう今までのように落ち込まないよ」

「そうですか?」

「ああ、本当の意味で私の死を今日乗り越えられたから。君たちのおかげだよ」

「それなら良かっ・・・」

 

 え?

 

 声がしたであろう方を思わず見た。見たのだが、そこには誰もいない。誰かいた形跡もない。あたしはいったい誰と会話していたの?

 もしかして・・・

 

「鈴~!一夏と雪広がデュエットするって!」

「近くで聞きなよ!」

「わ、分かったわ!今すぐ行くから!」

 

 そんなわけないよね。幽霊なんて信じないタイプだし。

 

 でももし近くにいるなら、あの人が近くにいるなら、私は誓う。

 

(一夏の支えに、大事なパートナーになります。だからどうか、あたしたちを見守っててください)

 

 心でそう言って、あたしは一夏のところに向かっていった

 




 人ならばいつかは死ぬ。その時はいつか分からない。その時思ったんです、楽しいイベントの日と大事な人の死が重なってしまったら残された人は何を思うのか、と。そんなテーマでずっと書きたいと思っていたネタなのでこれが書けて満足です。心情をもう少し入れられたらとも思ったのですが、急ピッチで仕上げたのと、私ごときの力ではこれが限界でした

 本来ならクリスマスイブに投稿予定でしたが、予想以上に文字が多くなってしまい一日遅れる結果となってしまいました。クリスマスだからセーフということで
 聖の6時間、ずっと執筆した甲斐がありました

 p.s. 題名「二人ぼっちだったクリスマスイブ」と迷いました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5章 期末試験
第35話 後遺症


 遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
 オリジナル章開始です



 臨海学校が終わり、1学期もそろそろ終わる。だが、その前に大きな壁がある。そう、期末試験だ。

 IS学園の期末試験は一般科目だけでなくIS理論、そしてISの実技も行われる。座学は他の高校と比べて難度は高いが、実技は基礎的なことを中心とするようでそれほど難しくない。雪広たちは期末に向けていつも通りの日々を過ごす。

 

 そう、いつも通り・・・

 

 

 

 

 

 そのはずだった

 

 

 

 

 

 

 振替休日が明けてから初めての授業はISの実技授業だ。臨海学校明けの初めてのISの演習だが、試験が近いこともあってか皆のやる気はいつも以上に感じる。流石に休みの日にISの訓練はする気もなく、シャルロットと簪のデートで休日を過ごすことになったので、3日ぶりのIS訓練となる

 今日はISに乗ってホバリングをするとのこと。自分がするのは難しくないんだけど、説明するの難しいんだよなあ

 

「ではお手本として、雪広君と一夏君にやってもらいましょう」

 

 山田先生から指名され、自分たちは前に出る。織斑千冬はあの事件の後、謹慎処分を言い渡され、担任から副担任に降格されたとのこと。山田先生が繰り上げで担任となってISの指導をしている。一部の馬鹿な(女尊男卑の)女たちが喚いていたな。

 それはいいとして、ISを展開しようと目を閉じてイメージをする。いつも通りにイメージして・・・

 

 

『La・・・』

 

 ん?なんか光景が浮かんだような?

 今は、余計なことを思い出さなくていい。集中・・・

 

 

『被弾覚悟で自分が切りに行く』

 

 違う!何故あの光景が(よみがえ)るんだ!もう終わったことだ!

 頭を左右にふってその記憶を忘れようと・・・

 

 

『こはっ・・・』

『い、一夏ああああああああ!!!!』

 

 やめろ!思い出すな、俺!いやだ!あの事は思い出したくない!!忘れろ!忘れろ!!

 嫌な冷や汗が流れる中、ISを展開することに集中しt

 

 

 

『一夏が傷ついたのは・・・オマエノセイヨ』

 

 ああ、あああっ、ああアアアあアアああ亜アアアああア亜亜AAAA亜アアア!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山田先生に指名され、見本となるようにホバリングをする。よしできた。いつも模擬戦でやっているからできて当然なんだけどな。兄さんもできているだろうと思ってちらっと見てみると

 

「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・」

 

 まだISすら展開していない。珍しい、ISの展開に手間取るなんて・・・ん?

 

「兄さん?」

「あっ、ああっ・・・アアアアッ!!」

「兄さん!?」

 

 いや、何かがおかしい!頭を押さえてうずくまった兄さんに近づき、状況を確認する

 

「兄さん!大丈夫か!?」

「アアアアアアッ!!」

「どうしましたか、雪広君!」

 

 山田先生が急いで兄さんのところに来るも、兄さんは取り乱したままだ。いや、悪化している。何故だ!?さっきまで普通にしていたのに!

 なおも取り乱す兄さん。どうしたら良いかわからず山田先生を見るが、先生はオロオロするばかり。

 その時、集団からシャルロットが飛び出し、兄さんに近づく。そして

 

「シッ!!」

「ウグッ!」

 

 勢いに乗せて兄さんに回し蹴りを叩き込んで気絶させる

 

「シャルロットさん!何を!」

「雪広を黙らせただけです。気絶させた方が良いと判断したので」

「な、何もそこまで!」

「あの状態は異常だった。あれでもしもISを展開されたら周りに被害が及ぶかもしれなかった。独断でやったことには謝ります」

「いや、助かったよ。シャルロット」

 

 確かにあの状態でISを展開していたら、そこからマシンガンとかで乱射していたら、確実に死人が出ていた。それに兄さんも意識ある方が辛そうだったし、英断だと思う。少し過激だったが

 

「本当なら首に手刀当てて意識を刈り取ろうかと思ったんだけど、うまくいかなくてね。確実な方をやらせてもらったよ」

「・・・誰を実験台にしたかは聞かないでおく」

「と、とにかく雪広君を保健室に!」

「なら僕が行きます。僕がやったので責任もって運びます」

 

 兄さんの方を担いで保健室に向かうシャルロット。その背中が見えなくなる前に授業は再開された。だが、俺もほとんどのクラスメイトも兄さんのことが気になって仕方がなくなり、授業に集中出来なかった。いったい兄さんの身に何が起きたんだ?

 

 

 

 

「・・・っあ」

「大丈夫?」

「あれ?どうしてシャルロットが?というか、ここは?」

 

 保健室についてベッドに横にさせてすぐに雪広は目覚めた。雪広はすぐ起き上がって辺りを見回しているが、まだ意識が曖昧のよう

 

「いきなり取り乱したんだよ。覚えてない?」

「・・・ああ、思い出した」

「どうしたの?いきなりでびっくりしちゃったんだけど?」

「一夏が・・・織斑に落とされた光景がフラッシュバックしてな。それもリアルに」

 

 一夏が落とされた光景。銀の福音の時のことだな。それだったら仕方がないのかもしれない・・・

 え?でも、どうしてあの時に突然その光景が出てくるんだ?奴ら(織斑姉弟)はいないし、いきなりすぎるというか・・・何か腑に落ちない

 その前に雪広の体調確認だ

 

「で、今はどう?落ち着いてる?」

「ああ。ただ腹がなんか痛いんだが」

「ごめん、それは僕のせい」

 

 雪広が取り乱してISを展開されて暴れるのを防ぐために回し蹴りを叩き込んだことを説明して謝る。駄目だ、最近手が出るのが早くなってる気がする。一夏が落とされた時もそうだったし、気を付けないと

 

「いや、助かったよ。もう大丈夫だ」

「そう?少し休んだら?」

「ううん、体調は悪くないし、一夏たちが心配しているだろうから戻るよ」

「じゃあ一緒に行こ?」

 

 保険医に感謝を伝えた後、僕たちはアリーナに戻った。と言っても、着いた時にはもう授業は終わってたんだけどね。一夏もすごく心配していたようで、雪広の姿を見て安心していた。結局あの光景がフラッシュバックしたのは謎だけど、たまたまだったのだろう。

 

 そう、たまたまだったのだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 あれから雪広はいつも通りだった。事情を知らなかった鈴と簪に心配されたが、特に問題なく授業にも出ていた。

 そして放課後、僕らはISの自主訓練でいつものメンバーが集まっていた。今日は3対2で模擬戦をする。この3対2は防衛側の3人と仮想敵の2人に分かれての戦闘で、3人側はいかに損害を出さないで勝つことを目標とし、2人側はどれだけ爪痕を残せるかというのを目標としている模擬戦だ

 ISを展開して所定の位置に行こうとして・・・なんか不安になって雪広を見る

 

 雪広は動かない

 

 嫌な予感しかしない

 

「ハッ・・・アアッ・・・」

「兄さん!?」

 

 頭を押さえ、うずくまる雪広。今朝と同じ発作が出ている!

 

「鈴!簪!中止だ!」

「え!?」

「ど、どうしたの!?」

「雪広がさっきからおかしい!」

 

 二人が急いでこちらに向かってくる。その間、一夏は雪広をなだめてもらい気分を落ち着かせようとする。が、

 

「嫌だ・・・もう・・・!」

「兄さん落ち着いて!ほら、深呼吸」

「はあっ・・・はっ・・・はっはっ・・!」

 

 一夏が雪広の背をさするが、一向に良くならない。なんとかして抑えないと!

 

「雪広!」

「どうしたの!?」

「今日の発作が出ている!とにかく落ち着かせないと!」

 

 鈴と簪は今日のことを知らないからすぐには動けないでいた。だから僕と一夏で雪広を急いでなだめる。暴れないようにするのと安心させるために一夏は左手を、僕は右手を握って雪広が落ち着くのを待つ。鈴と簪は雪広の背後に回ってもらい背中をさすってもらう。

 数分経って、雪広の呼吸が元に戻る。落ち着いてよかった

 

「すまない・・・皆」

「私たちは大丈夫だよ」

「それよりどうしたのよ、いったい」

()()()()()・・・また思い出して・・・それもさっきより鮮明に・・・」

「あの光景?」

 

 三人は首をかしげるが、僕はわかる。保健室で聞いた、あの時のことがまた思い出したのだろう。それでまた取り乱したのだろう。でもどうして?同じ日に二度もこんなことが起きたんだ?

 ・・・まさか

 

「すまないが、今日はお暇させてもらう。こんな状態じゃ足手まといもいいとこだ」

「そうね。無理しちゃいけないわ」

「もう一日、ゆっくり休んで。ね?」

「・・・」

 

 鈴と簪はねぎらいの言葉をかけるが、一夏は何か考えているよう。もしも普通の言葉をかけるようだったら僕はこれを言うべきだろう

 

「兄さん、()()()()()()()()()()

「え?」

「うん、僕もそうしてもらった方がいいと思う」

 

 医者に診てもらうべき、そう言おうと思っていたけど、束さんの方がより正しく診断してくれると思う。今までこんな風におかしくなることはなかったし、とても不安だ。雪広が壊れそうで

 

「い、一夏にシャルロット?流石にそれほどじゃ無いぞ?体は元気だし」

「今日と今の取り乱し方は異常だ。一度診てもらうべきだ。束さんなら医学にも詳しいだろう」

「で、でも束さんに迷惑じゃ」

「もうアポは取ってある。昼休みの時にな」

 

 ああ、だから昼休みの時一夏はいなかったのか。流石にクラスメイトの前でその話はできないからね。

 雪広は観念したのか両手を挙げるジェスチャーをする

 

「分かった。診てもらう。で、いつ?」

「今日の夕方」

「早くない!?今から行くの!?」

「善は急げだ。いくぞ兄さん」

「ちょ、待てって!うわ力強い!」

 

 一夏に引っ張られるようにして連れていかれる雪広。それを見届けると静かな空間になる。言葉を出そうにも言葉が出てこない

 かろうじて簪が口を開く

 

「雪広、なんともなければいいね」

 

 本当にそうであってほしい。だけどそれは希望的観測なのだろう。2回までなら偶然という言葉で一応片づけられるが・・・一夏は気づいたから焦っていたのかな?

 そんな不安を抱えながらも、期末試験に向けて僕たちは訓練を積む。気持ちが入らなかったのは仕方がなかったと思う

 

 

 

 

 

 

 そして夜。食堂で鈴と簪と世間話をしている。が、なんか言葉が出てこない。未だに雪広と一夏は帰ってこないことが不安で仕方がないのだ

 

「雪広、何かあったのかな・・・」

「待つしかないのって辛いね」

 

 本当にそうだ。何もできなくて・・・福音の時のようにもどかしい

 すると鈴の携帯が鳴る。着信音からして一夏から電話が来たとのこと。話を中断し、鈴は電話に出る

 

「もしもし、一夏?どうだった?」

『・・・少しマズいことが分かった』

「「「!!」」」

 

 電話越しに聞こえた言葉に言葉が出なかった。雪広の身に何が・・・

 

 

『兄さんは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 ASD、急性ストレス障害だって』




 本当ならPTSDと言いたいとこでしたが、定義によると大きなストレスを経験後1ヶ月以上症状に苦しむ場合のストレス障害らしく、雪広の例ではASDらしいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話 蝕む牙、迫る毒牙

 
 学生の本業は勉強。ということで頑張っていました
 この話は一夏が雪広を連れだした直後から始まります


 兄さんを強制的に連れ出し、束さんと合流する場所までモノレールで移動中。なんか兄さんは少し不満を抱いているようで若干拗ねてる

 

「なあ、そこまで急がなくても良かったんじゃ?」

「いや、早いに越したことはない。それに、兄さんは自分自身のことをよく理解してないから。兄さんの『自分は大丈夫』ほど信用のない言葉はない」

「辛らつだな・・・泣きそうだぜ」

 

 他人の体調が悪いことは敏感なくせに、自身のことは鈍感すぎる。中学の時も『大丈夫だ。問題ない』と言った日はもれなく保健室のお世話になっていたそう。何が問題ないだよ、問題しかないじゃないか

 と、思っているうちに目的の駅に着く。そこから道を外れたところを歩き、人気のない合流地点に到着。そこには誰もいないように見える。しかし、何もなかったところからウサミミが出てきたかと思うと、頭の方から徐々に束さんの姿がスーッと現れる

 

「やあやあ、二人とも!3日ぶりだねえ!」

「こんにちは。無理言ってすみません」

「ううん、いっくんだけじゃなくて束さんも気になってたから」

「そんなですか?いたって元気ですよ?」

「まあ、細かいことは私のラボで聞こうではないか。それじゃついてきて~」

 

 束さんの後についていく俺たち。その最中、気になった疑問を束さんにぶつける

 

「ところで、さっきのアレは何ですか?透明になっていたんですか?」

「そう!束さんが発明した『すけすけになれーるくん』だよ!このウサミミを付ければ自由に姿を消すことができるスーパーな発明品さ!」

 

 ネーミングセンスはともかくなんてものを作っているんだよ。というか、あのウサミミただのヘッドギアじゃなかったんだ。束さんの痛い趣味かと思っていたよ

 すると兄さんからISでのプライベートチャネルが開く

 

『束さんのアレ、趣味じゃなかったんだな』

『俺も初耳だった。でもウサミミじゃなくてよくね?』

『それは・・・まあ、束さんの趣味なんだろう。うん・・・痛いけど』

『束さんだからギリ許されてる感じだよな』

『わかる。でもいくつまであの格好するんだろ?流石に40になってもあの格好は・・・』

『それなw』

 

「・・・いっくんにゆっくん、何を話してるのかな~?」

「「え゛っ!?」」

 

 今、声出てたか!?プライベートチャネルだっただろ、そんなわけ・・・

 くるっと束さんが振り向く。振り向くのだが・・・背中から冷や汗が滲み出てきた

 

「このウサミミはいろんな電波を傍受できるんだよね~。他人の電話だったり、メールだったり・・・ISのプライベートチャネルだったり」

「そうなんですか」

「い、いきなりどうしたんですか?」

 

 わかっている。もうわかっているんだ。ISのプライベートチャネルの内容が束さんに筒抜けだったんだろう。兄さんは努めて平静を装っている。俺も装おうとしたが少しどもってしまった

 束さんは満面の笑みで俺たちに近づく。おかしい、その顔が怖くてまともに見られない

 

「今白状するなら・・・束さんの本気のげんこつを免除しよう。束さんは寛大だからね♪」

「「・・・」」

「もう一回聞くね・・・何を話してたのカナ?」

「「スイマセンでした!!」」

 

 速攻で兄さんと土下座した。

 ダサいって?それで命が助かるならいくらでも頭を地面に擦り付けてやる。裏路地だったため、目撃者がいなかったのはせめてもの救いだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、そんなこともあって束さんのラボに到着。ここに来るのは初めてISを動かした時以来だな。懐かしさを感じるとともに、部屋に見知らぬ少女が入ってくる

 

「雪広様、一夏様、緑茶です。どうぞ」

「ああ、ありがとう。ところで君は?」

「申し遅れました。私、束様の従者のクロエ・クロニクルです」

「も~、そうじゃなくって家族なんだから」

 

 束さん曰く、ドイツのクソガキを作っていた研究所で拾ったとのこと。それで家事が壊滅的な束さんの手伝いをしてくれているとのこと。俺たちが出た後に入ったのだから面識が無いのか。

 これからよろしくと、お互い挨拶をして本題に入る

 

「さて、ゆーくん。今日のことをできる限り細かく話してくれる?無理はしなくていいから」

「え、ええ。分かりました」

 

 さっきまでとは打って変わり、明らかに顔が曇る。辛いかもしれないが、俺は兄さんではないから何が兄さんを錯乱させたかを知らない。兄さんの口から何が起きたのかを聞かないと俺もどうしたら良いかわからない。

 

「それじゃあ、一から話しますね」

 

 パニックになったときのことを事細かに話していく。兄さん曰く、ISを展開しようとしたときに福音のことを思い出してしまうとのこと。特に俺が織斑に貫かれる光景が鮮明に見えるようで、それで気が動転してしまうとのことだ。

 ただ、兄さんの話し方に少し疑問がある

 

「はっきりと原因がわかっているのに、今は何とも無いんだな」

「ああ、確かに。自分も驚くぐらい落ち着いている。もちろん、一夏が落とされたのを何とも思っているわけじゃないからな」

「分かっているよ、それくらい」

「・・・」

 

 俺への気遣いもできているし、だからこそ今日の出来事に疑問が残る。あの時だけパニックになったのか、それともその光景に耐性がついたのか。素人の俺が考えても結論が出てこないから、今まで黙っている束さんの方を向く。束さんは顎に手を添え、しばらく考えるように黙ったのち、兄さんに指示を出す

 

「ゆーくん、今からやってほしいことがあるんだけど・・・()()()()()()()()()()()

「?何をすればいいのでしょう?」

「ISを展開して。右手だけでいいから」

「わ、分かりました。右手だけ展開しますね」

 

 兄さんが席を立ち、十分な間隔を持って展開しようとする。その間に束さんからのプライベートチャネルが開かれた

 

『いっくん、束さんの声聞こえてる?』

『わっ!?いきなりなんですか!?』

『要点だけ言うね。ゆーくんが暴れだしそうになったら二人で止めるよ』

 

 何を・・・そう送り返そうとして、でも心配になって兄さんの方を向く。左手は右腕に添え、右手を前に出して展開しようとする。ものの数コンマで展開されるはずだ。兄さんなら造作もない・・・

 

「・・・」

 

 が、そんな予想を裏切り、いつまでたっても兄さんはISを展開しない。それどころか額から汗が滲み出てきて、手が震えてきた。まさか!?

 

「ア・・・アアアッ・・・」

「いっくん、ゆーくんの左手を抑えて!私は右を抑えるから!!」

 

 束さんは俺に指図すると同時に兄さんに駆け寄って手をがっちり絡めて動けないようにする。それに続いて俺は空いている左手をそっと握って、兄さんの背中をさする

 

「兄さん、落ち着いて!ほら、ゆっくり吸って・・・」

「ゆーくん、落ち着いて。ほら、束さん見て」

「ハッ・・ハッ・・ハッハッハッ!」

 

 駄目だ!今までで一番パニックになっている!どうしよう、どうしよう!!

 

「ゆーくん、ごめんね!!」

「グエァッ!!!」

 

 すると束さんは右手の拘束を解くや否や兄さんの背後に回り込んで裸締め、もといチョークスリーパーを決める。カエルが潰れたような声を出して、数秒で兄さんは落ちた。あまりの早業に俺はただ呆然と見るしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄さんを別室に運んでベッドに寝かせ、俺と束さんは先ほどの部屋に戻る。クロエさんが付き添ってくれているから、目覚めてもすぐに対応できるから大丈夫だ

 それよりも

 

「さて、今診たけどゆーくんの今の状況はわかったよ。十中八九これだと思うけど・・・聞く覚悟ある?」

「はい。それを聞くために来たんですから」

 

 というよりも素人の俺でもわかる。今日だけで三度の取り乱す発作で、その原因は過去のトラウマのフラッシュバック。しかもどれもある条件下で起きている。俗にいうアレだろう

 

「じゃあはっきり言うね・・・ゆーくんは『ASD』、つまり『急性ストレス障害』だね。原因は福音の時の事故によるストレスと見て間違いない」

「え?PTSDではないんですか?」

「確かに症状は同じだけど、PTSDはそれが1ヶ月以上続く場合。ゆーくんは1週間もたってないからASDのほうが正しいんだ」

 

 それは初耳だ。そんな風に区別されているなんて。

 それよりも、あの出来事で兄さんのメンタルがやられてしまったわけか・・・俺があの時刺されなければ・・・

 

「言っておくけど、いっくんが悪いわけじゃないからね。悪いのはいっくんを刺そうとした屑たちなんだから。自己嫌悪しちゃだめだよ」

「束さん・・・ありがとうございます」

 

 そうだ、俺まで気落ちしてどうする。俺がやるべきはただ一つ。兄さんの回復の手助けだ。そのために無理して束さんにお願いしたのだから。だが

 

「束さん、兄さんの病気はどうやって治すのですか?」

「それなんだけど・・・自然経過しかないの」

「そ、そんな!何かいい治療法は無いんですか!?」

「あるにはある。けどそれをやったからと言って良くなるとは限らないの。下手なことをしたら逆にトラウマを悪化させちゃうかもしれないし・・・」

「薬とかは?精神安定剤とかで落ち着かせるのは」

「それはダメなんだ。ASDからの回復を妨げてしまうんだ。精神病はとにかく待つしかない。でもね、ASDは治らない病気じゃない。データで見ても時間経過で自然と治ることが多いから。焦らなくて大丈夫。」

「でも治るか治らないかは兄さん次第ということですか」

 

 俺はただ待つことしかできないのか・・・!

 いつも兄さんに助けられているのに、こういう時に力になれないなんて・・・

 

「ううん、ゆーくん自身だけじゃなくて周りの人の支えも必要だよ。『待ってるよ』みたいな言葉でもゆーくんの支えになるから」

「そ、そうですか!」

「でも限度は守ってね」

 

 失敬な、毎時間俺が兄さんにメッセージを送ると思ってるのか?そこまで依存はしてない・・・はずだ。

 その後、言ってはならない言葉を一通り聞いた後、今後について話し合う

 

「この状態でIS学園には戻れないね。ISを展開するときに強烈なフラッシュバックをしているから、あそこだと悪化する恐れがある」

「そうですね。絶対さっきみたいにパニックになってしまうでしょうし」

「だからゆーくんをここで預けてもらう。それでここで治療に専念させる。いいね?」

「分かりました。学園には俺から伝えときます」

 

 そういえば、そろそろ期末試験じゃないか。って兄さんは間に合うのか?

 

「束さん、兄さんは期末試験までに治りますか?」

「うーん・・・2週間弱で治るかは微妙だね。場合にとっては事情を伝えて試験を遅らすとか免除とかしてもらおう」

「そうですね。学園長に伝えれば何かしらケアはしてくれるでしょう。学園長は福音のことを知っていますし」

 

 あの人はしっかり対応してくれるし、今回も伝えれば何かしら対応をしてくれるはずだ。実技は免除してくれるだろう。筆記は・・・問題ないか。兄さんだし

 

「いっくん、そろそろIS学園に戻ったら?時間も時間だし」

「そうですね。電話で鈴たちに伝えてから戻ります。では・・・兄さんのこと頼みます」

「まっかせなさい!」

 

 俺は束さんと別れ、未だ眠る兄さんを見た後クロエさんに挨拶をして帰路についた

 

 兄さん、待ってるからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得できません!この内容は!!」

 

 時間は少し戻って昼頃の、とあるビルの会議室。ここにIS委員会の上層部とIS学園長の十蔵が『福音事件の問題行動における処罰』について会議を開いていた。暴走した福音を止めるよう、IS委員会が織斑千冬に依頼したということでIS委員会が彼らの処遇を決め、その事後報告を確認するために十蔵が呼ばれたのだ。

 だが、その処遇に学園長の十蔵が異議を唱える

 

「どういうことですか!織斑兄弟への処罰が軽く、そして雪広君への処罰があるのですか!」

 

 決定案に書かれていた内容、それは福音事件で一夏を貫いて作戦に重大な支障をきたした織斑一春はわずかな反省文、それを実行させるよう指示した織斑千冬は1ヶ月の給与減額とあまりにも軽い処罰だった。生徒一人を殺そうとしたのにこの処罰はあまりにも軽すぎる。

 そして、そこにはなぜか雪広への処罰も記載されていた。それも停学3カ月とあまりにも処罰の内容が重い

 

「当然でしょう。彼も違反を犯した。ISでの暴走という大きな違反を」

「彼は被害者です!そもそも織斑兄弟が殺人をしようとした結果なってしまった二次的被害に他ありません!」

「はたしてそうでしょうか?」

 

 何を、と十蔵は吐き捨てる。しかし、IS委員会の会長は肩をすくめて、迷惑そうに話す

 

「この男が暴走したのはたまたま一春君の行動でそうなっただけ。仮に福音がその弟を刺したとしても同じような暴走をしていたでしょう」

「そんな戯言を!」

「ないと言い切れないでしょう?ならばその男にも処罰があって当然のこと」

「ならば何故織斑兄弟よりも重いのです!織斑兄弟は意図的な殺人未遂です!なぜ彼らがあまりにも軽い内容なのですか!!」

「当然、ブリュンヒルデの一族だからですよ。彼らは今の英雄のようなものです。重い罰は世間が許さないでしょう」

「英雄など関係ない!権力あるものが罪を軽くして良い訳がない!」

 

 すると十蔵の近くにいたIS委員が数人立ち上がって圧力をかけるように十蔵の近くで彼を見下ろす。そして委員長は高圧的な態度で十蔵に語りだす

 

「言っておきますが、あなたがIS学園の学園長に居られるのは我々が黙っているからですからね。やろうと思えばいつでもあなたを首にすることもできますよ。そして後任はこちらで指定することだってできるのですから・・・」

「くっ・・・」

 

 生徒のために首になるのは厭わない。しかし、その後の生活で遠藤兄弟が不当に差別する輩が学園長になる恐れが十分にある。もしそうなったら更識楯無しか彼らを守る後ろ盾が無くなってしまう。彼女一人にそれを背負わせるのは酷すぎると考え、十蔵は強く出ることができなくなってしまった。

 それでも十蔵は諦めない

 

「学園の職員、生徒のほとんどはあなた方みたいな女尊男卑の思想を持っていません。もしこの処遇が広まった場合、あなた方への不信感が募るでしょう」

「たかが一個人の不満など取るに足らない内容です」

「果たしてそうでしょうか?今の時代、誰でも情報を発信できます。彼女たちがこの処遇を世間に公開した場合、世間からの印象は悪くなりますよ」

「そんなもの、デマと捉えられて終わりです。それにその情報を削除させればいいだけの話」

「ですが、不信感は残りますよ」

「貴方、相当死にたいようね」

「今の時代の流れからあり得そうな話を述べただけです」

 

 どちらも一歩も引かず、にらみ合いが続く。が、ここで会議室のドアが開き、IS委員の一人が委員長に耳打ちする。すると委員長は十蔵の近くにいた委員をもとの位置に座らせ、威圧的な態度を消した。

 

「確かに、あなたの言う通りです。この処遇では我々の印象が悪くなるかもしれませんね。これは却下しましょう」

「・・・そうですか」

 

 やけにあっさりと引き下がったことで十蔵は警戒を強める。この後に続く言葉を彼は待った

 

「改定として、彼らの処遇は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやってくれた、篠ノ之」

「千冬さんのため、一春のためならこれくらい当然です!」

 

 一年の寮長室、そこに千冬と箒が向かい合って座っていた

 

「まさかでしたよ。あの憎き男がああも情けなくなるとは。奴らを尾行して正解でした」

「映像を見ても、こいつはISの起動もままならないだろう。それならばこの学園にいる価値などない」

 

 一春と千冬は福音事件で謹慎処分だったが、箒は深くかかわってないとして処罰はなく、普通に授業を受けていた。そんな中で雪広がパニックを起こし、何かあると思って尾行した結果、思わぬ収穫を得てしまった。すぐさま千冬のところに行き、千冬はこの映像と雪広の状態を、パイプを持っていたIS委員会の一員に渡したのだ

 

「どうでしょう、一泡吹かせられそうですかね?」

「それは上次第だ。だが上の連中はほとんどが女性権利団体の幹部たちだ。あの男どもが不快でならないだろう。それ相応に動くはずだ」

 

 すると千冬の携帯からメッセージが届く。メッセージを開き読む千冬。その顔はだんだんと悪い笑みを浮かべていった

 

「喜べ篠ノ之。朗報だ」

「何でしょう!」

「IS委員会からのお達しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 遠藤兄の期末試験は・・・私との模擬戦闘だ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話 PARONIRIA

 
 すいません、閲覧注意かも。気を付けてください
 シリアス展開が続いてしまうな・・・


 暗い道に自分は立っている。意識がはっきりしていないのに体は分かっているかのように歩き続けている。ここはどこなのか、何故歩いているのか、そもそもこの体は自分自身なのか?浮遊感を感じながらも、目的もなく歩く。すると一瞬だけ意識が揺らぐ

 

 

 

 景色が変わった。いきなり廊下に立っていることに気づいた。ここは・・・母校である中学の廊下か。見慣れている光景に懐かしさを感じつつ、誰もいない不気味さ、窓から光が全くない怖さも感じながら廊下の突き当りを曲がる。

 すると別の学校の廊下になっていた。IS学園の廊下だろうか?だが異様に長い。前を見ても後ろを見ても突き当りが見えないし、幅も異様に広い。それでもなぜか足は動き続ける

 そして教室の扉の前に立ち止まる。そこがどこの教室か確認せず、流されるように取っ手に手をかけ開けて中に入ろうとして・・・

 

 

 

 

 一夏が仰向けで腹を貫かれ、血を流す姿が見えた

 

 

 

「・・・!!!」

 

 いきなりの光景に思わず大きく後ずさってしまう。あの刺さり方は・・・嫌でも見た()()()()と同じだ。意識がはっきりとしないのに、恐怖が支配する。

 背中に壁ではない何かがぶつかり、驚きながらも後ろを向く。そこにはいつもの専用機持ちである鈴、簪、シャルロットの背が見えた。知っている友人がいることに安堵していると、三人がこちらを振り向いて

 

『雪広~』

 

 声が出なかった。目が抉れ、鼻や口から赤黒い液体を垂らして自分の名を呼ぶ。その声もノイズがかかっているかのような人と思えないような声だった。彼女たちと呼べない化物から逃げようとしても足が全く動かない。思わずしゃがんで頭を押さえうずくまる。こうでもしないと情報が五感から伝わってしまう。が

 

「あなたがやったからではありませんか」

 

 右から俺の嫌いな金髪ロールの女が俺にささやきかける。何故いるのか、不快だから消えろと吐き捨てようとするも声が出ない

 

「貴様が教官の弟になったからだろう、軟弱物が」

 

 左から銀髪のチビの声がして睨もうと顔を向けたが、すでにいなくなっていた。何が何だかわからず視線を落とすと

 

 

 手が血濡れた白式になっていた

 

「!?!?」

 

 何が起きたか分からない、なぜ手が白式になっているのか。なぜ白式と認識しているのか。なぜ白式そのものになっているのか。わけがわからず、答えも見つからない問いをただ繰り返す。驚くように飛び上がって・・・おもむろに顔を上げた先で

 三体が自分に抱き着いてきた

 

「「「どうして、私(僕)(あたし)たちをこんな目にシタノ・・・?」」」

「あ・・・あ・・・」

 

 触られているのにその感覚がない。まるで幽霊に抱かれて、いや、取りつかれている感じなのに、その腕の重さは認識できてしまう。振りほどこうとしてもその腕は固く、身動きが取れない。三体の顔を見ないように後ろを向こうと顔をそむけると

 

 一夏が腹に大きな赤黒い穴を空けて、顔にも大きな穴が開いた状態で自分に抱き着かんとする光景が見えた

 

「ニ、兄・・・sAン・・・。蜉ゥ縺代※・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあああああああ!!!!!」

「雪広様、落ち着いてください!夢です!夢ですから!!そう、深呼吸して・・・ゆっくりでいいですから」

 

 ベッドの中で暴れだす雪広をなだめようと試みるクロエ。まるで雪広が悪夢にうなされていることを予期しているかのような手際で雪広をなだめる。雪広の瞳にハイライトが戻り、クロエを認識できるようになった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・お、おはよう。クロエ・・・今何時?」

「午前6時55分です」

「目覚まし時計のように正確じゃないか・・・くそったれ」

 

 雪広が悪夢にうなされて暴れだしそうになるのは今回だけではない。雪広が束のラボに住んで5日目になるが、どの日も悪夢で半狂乱になって目覚めるようになってしまったのだ。最初の2回こそクロエはどうしたら良いかわからず、束が雪広を拘束することで落ち着かせていたが、毎日ほぼ同じ時間に悪夢で発狂しているため慣れた対応をしている。最も、慣れていいものではないが

 

「どうしますか?朝食はまだできていませんが、できたらお呼びしましょうか?それともここに置いておきましょうか?」

「・・・今日も置いてくれ。まだ起きたい気分じゃない」

「分かりました」

「すまない・・・」

 

 雪広自身も最初こそはこれっきりだろうと思っていたのだが、毎日悪夢に苛まれるようになってしまい精神的に参ってしまった。いっそ眠らなければと思ったりもしたのだけれども、徹夜ができるタイプではないと彼は悟っていた。それに眠らなければ、今度は肉体が悲鳴を上げることが目に見えている。

 朝日を見ようと思えずに彼は布団の中にくるまり、眠らない程度に無意識を保とうとして時を過ごしていた。その動作を確認して、クロエはその場を去り束のいる研究室に入る

 

「くーちゃん、おはよう。どうだった?」

「おはようございます。駄目です、前日と変わりません」

「心理療法も効いてないか・・・」

「束様もお体には気を付けてください。あなたも倒れてしまったらもうどうしようもありませんから」

「大丈夫だよ、そこまでのヘマはしないって。本当だから」

 

 束も何もしていなかったわけではない。紙や電子媒体から数多くある論文を生かして、雪広に対し心理治療を行っている。しかし、その効果は未だにない。この論文がでたらめなのか、束が生かし切れていないのか、それとも雪広が抱えるトラウマが大きすぎるのか。束自身その答えが見つからず、日に日に生気を失っていく彼を見て内心焦りが募る。

 

 クロエも雪広の心配もさることながら、何もできない自身に失望している。家事洗濯と今この場では彼女しかできないため、十分彼らを支えている。しかしクロエ自身やっていることはごく普通のことだと感じてしまう。そして、ともに生活をしていたからこそ彼女は束の焦りも見抜いているが、どんな言葉をかけてよいかわからず悶々としている。

 

 流れのない淀んだ池のような陰鬱とした空気が彼らを侵食していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る

 雪広が学校を休んで二日目のIS学園の生徒会室。放課後に楯無は雪広を除く一年生の専用機持ちを集めていた。わざわざ生徒会室に集められたということは、これからの話は一般生徒に知られてはならない事、もしくは悪い知らせだと悟り、全員神妙な顔で楯無が来るのを黙って待つ

 

「ごめんなさい、少し遅れたわね」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。それよりも・・・なにかマズいことが起きたの?」

「・・・察しがいいわね」

 

 楯無は空いている上座に座り、資料を机に置く。それは『福音事件における事後報告』と『今後の対応』についての報告書だった

 

「これは?」

「福音事件あったでしょ?IS委員会が決めた報告内容とこれからの学園の方針よ」

「何故IS委員会が?関係ないのでは?」

「それが、福音事件を解決するためにIS委員会が織斑千冬に指示を出していたようなの。普通なら自衛隊とかがやることを、あの人の勝手な指示で君たちに任せたのよ」

 

 彼らは全く気付かなかったから考えもしなかっただろうが、ISで訓練しているとはいえ15の子供に国の不祥事を解決させるわけない。4人はそう考えていた。

 

 それは置いておいて、と楯無は言葉を続ける

 

「問題はここからなのよ。その事件の不祥事として織斑姉弟、そして雪広君も処罰の対象に入っているのよ」

 

 織斑姉弟はともかく、雪広が処罰されることに驚く4人。そしてその違反内容を伝えつつ、IS委員会の思惑を語る

 

「IS委員会の上層はほとんどが女尊男卑の思想に染まっていて、女性権利団体の上層部でもあるのよ。男でISに乗れる雪広君や一夏君が目障りだったから、排除する流れになったんだと思う」

「いかにもクソ女どもがやりそうな手ですね」

 

 一夏が軽蔑するように吐き捨てる。決められたのは百歩譲るとして、最重要なのは雪広への処罰の内容だ。その疑問をシャルロットが先陣を切る

 

「で、雪広の処罰って何ですか?」

「それが期末試験で決めることになったのよ」

「は?なぜ期末試験なんです?」

「期末試験の成績でいい成績なら今回のことを不問とみなす事になるようなの。男性IS操縦者だし、いい成績なら今後の研究に役立つということでこういう風な結果になったらしいの。()()()

 

 建前は。この言葉で少しだけ弛緩していた生徒会室の緊張の糸が再度張られることとなった。おそらく、次の言葉こそ楯無が彼らに伝えたい内容だろうと心構えをする

 

「建前は、ってどういうことですか?」

「期末試験の内容もむこうが指示することとなったのよ」

 

 その内容は、と楯無が一呼吸おいて、IS委員会が決めた最悪の試験内容を伝える

 

「ISでの織斑千冬との1対1、よ」

「「「「は?」」」」

 

 思いがけない試験内容に思考が止まる四人。そこから畳みかけるように楯無は最悪のシナリオが起きた要因を伝えていく

 

「どうやら雪広君がISをろくに動かせないって情報が伝わってしまったらしいの。そこにIS委員会が付けこんで雪広君のトラウマを刺激させて再起不能にしようとする魂胆よ」

「そんな・・・」

 

 愕然とする鈴。そうなるのは無理もない。

 織斑千冬は腐ってもブリュンヒルデの称号を二度手に入れている。既に現役を退いたとはいえ、その実力は本物だ。織斑千冬が訓練機かつ彼らが専用機で束になってかかれば勝てるかもしれないが、今回は1対1。しかも当人はISにおけるASD(急性ストレス障害)を発症している。勝てる勝てない以前の問題だ。最悪、雪広は壊れてしまう

 

「どうにかならないんですか!楯無さんや学園長なら!」

「無理なのよ・・・立場は向こうが完全に上なのよ。私たちの意見は却下されてしまうわ」

 

 シャルロットは食い下がろうとして、言葉を飲み込んだ。楯無が歯噛みして、右手が白くなるまで握られていたのが見えたからだ。シャルロットだけでなく楯無自身も結論は変えられないことを悔いているのだ。それを見て彼らはやるせない顔になる。

 

「だから、私からのお願い。雪広君を支えてあげて。こんなことしか言えないのは本当に申し訳ないけど・・・」

 

 いつもの楯無らしからぬ弱気な様子で頭を下げる

 

「いえ、ありがとうございました。兄さんのことは俺たちに任せてください」

「当然よ。あなたたちもテストあるから頑張ってね」

 

 そういってお開きにする楯無。一夏も鈴もシャルロットも立ち上がってこれからのことを考える。だが

 

「お姉ちゃん、()()()もう少し話そ?」

 

 簪だけその場に残る。一夏たちは生徒会室から出ていき、ここには更識姉妹しかいなくなった。今度は簪が問い詰めるように楯無に話しかける

 

「お姉ちゃん、本当に何もできないの?」

「・・・どうして?」

「なんとなく。お姉ちゃんがいいようにやられるなんて思えないから」

 

 一時期不仲になっていたとはいえ、人生の大半を共に過ごしてきた二人。だからこそ楯無が隠し事をしているのではないかという勘があった。

 簪の勘は的中する

 

「・・・そうよ。今回の件は組織の権力を使った個人的な攻撃。流石に見過ごせないわ。それにこの件はある人から頼まれたの」

「ある人って?」

「篠ノ之博士よ」

「ええっ!?」

 

 まさかの名前に驚く簪。楯無曰くIS委員会の行いは目に余ることが多く、今回の件で一度組織の内情を暴露し解体させた方がいいと思ったのと雪広の治療で手が回せないため、依頼として頼み込んできたとのこと。

 依頼で頼んだ、つまり束は楯無に人的なお願いではなく、更識の当主に仕事としてお願いをしたのだ。更識は忘れられているかもしれないが暗部の組織。このことは公にできないため、一夏たちに隠していたのだ。そして簪は姉にある頼みをする

 

「お姉ちゃん、その依頼で私に何かできることない?お姉ちゃんの力になりたいの!私も更識の一員として!」

「・・・それは無理よ」

 

 数少ない妹からの頼み。だが楯無はそれを却下する

 

「どうして!」

「今は情報を集めているの。それこそいろんな手段を使ってね。探偵とかハッカーとか・・・簪ちゃんにそれはできないしやらせないわ」

「・・・」

 

 それは簪も分かっている。そのような暗部のスキルが簪にはないことを。それには危険が付きまとうことも。だが、不安で仕方がないのだ。更識の中で役に立てないのではないかという不安が。またあの時みたいに無能だと言われるのではないかと

 でもね、と楯無は簪をしっかりと見て語る

 

「今回の件ではあなたにしかできないことがあるわ。雪広君を支えられるのは更識の中ではあなたが一番の適任者だわ。それに私は雪広君の方まで気にかけられないの」

「お姉ちゃん・・・」

「改めて言うわ。雪広君のことは任せたわ。姉としてもそうだけど・・・更識の当主として」

「!」

 

 簪に暗部の危険な仕事をさせたくないために、でも本音を隠すようにしたために簪を傷つけてしまった。もう二度とその過ちは踏むまいと楯無は今の本心を簪に打ち明ける

 

「簪ちゃんのことを無能だなんてこれっぽっちも思ってないわ。だから任せたわよ」

「・・・分かった!わたしも頑張るからお姉ちゃんも頑張ってね!!」

 

 楯無が当主となったあの時のようなお互いの思いがすれ違うことなく、簪は納得して部屋から出ていく。その背中を見送った後、楯無は大きく伸びをして再度気合を入れる

 

「簪ちゃんに頑張れって言われたんだもの、ここで頑張らずして誰が当主よ。さて、裏の情報をとらないとね」

 

 いつものおちゃらけた姿は無く、更識の現当主としてIS委員会の情報を探っていった




 雪広の悪夢で一夏が最後に言った文字化けの部分は「助けて」です
 ちょっと簪ちょろいか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話 きっかけは突然に

 

 ゆーくんが束のラボに住んで6日目の夜。明日は日曜日だから夜更かしをする人が多い時だ。けれど、私のラボは人生史上重い雰囲気で包まれている。一向にゆーくんのASDが治らないからだ。むしろ良くなるどころか連日の悪夢でゆーくんは心身ともに疲弊してしまっている。私も心理療法や認知療法、催眠療法などいろいろと手を尽くしているがそれでも治らない。

 私自身も驚くほど疲れが目に見え始めた。得意でない心理学を学ぶのは流石に堪えるものがあるのだろう。しかし、私が休んでいたらゆーくんは良くならない。どうすれば・・・

 

「束様、しっかり寝ていますか?」

「一応寝てはいるんだけどね・・・」

「ですが目に隈ができていますよ。睡眠の質が悪いのでは?」

「うーん・・・そうなのかなあ?」

 

 確かに、ここ最近は寝た気がしない。ゆーくんの精神状態がウイルスのように私にも移っているようだ。でも私の方がマシか。ゆーくんは私以上に苦しんでいるのだから

 

「そもそも束様はいつも部屋で研究しているからでは?これではいつか体壊しますよ」

「だーいじょうぶ。もともと束さんこんな生活だったし」

「ですが、たまには()()()()()()()()()()()

「え~めんど・・・」

 

 ・・・待てよ?もしかしたら・・・いけるか?

 くーちゃんの言葉からゆーくんのASDを治す一つの案が思い浮かぶ。いい起爆剤になるかもしれないけど、場合によっては悪化する恐れも無くはない。

 

「・・・束様?」

「ねえ、くーちゃん。くーちゃんの意見を聞きたい」

「?何でしょうか?」

 

 今思い浮かんだ案をくーちゃんに話す。そのメリットやデメリットを含めてくーちゃんの意見も聞きたい

 

「私は専門家ではないので、はっきりとは言えませんが・・・やめた方がいいと思います。雪広様のトラウマがいつ出てくるかわかりませんし、その時に対応ができません」

「でもさ、ゆーくんが取り乱す時って夢見ている時とISを動かす時だけだよね。それ以外でおかしくなったときはある?」

「確かに・・・ないですね。活動している時は普通ですし、家事の手伝いも束様よりできますし」

「・・・さりげない毒は置いといて、気分転換がゆーくんには必要だと思うの。ここに閉じ込めていることも治らない要因だと思うの」

 

 そう考えると外部との接触を避けるようにしたのは私のミスだったかもしれない。外で何かしらの良い刺激があれば、この状況を打破できるかもしれない。あくまで推測だが

 

「それにゆーくんが心配なら監視すればいいと思う。幸いそれに長けているコネはある」

「なるほど・・・それならいいかもしれませんね」

 

 そうと決まったらさっそく連絡しないと。今ならまだ反応してくれるだろう。急いで更識に電話をかけ、明日の対応をお願いする。

 無理だったら?ステルス搭載のゴーレムたちで対応しよう。これでゆーくんが良くなることを信じるしかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は束さんから外で気分を晴らすといいよ、と言われたので昼頃外に出ることにした。考えてみれば6日間ずっと束さんのラボに籠っていたわけだし、このままでは引きこもりニートもいいとこだ。

 

 

 とでも理由を付けないと、活動しようとしか思えなくなってしまった。このままではよくないのに体も心も言うことを聞かない。外に出たいとも思わないが、束さんにそう言われては否定もできないので、何とかして外に出てみる。

 久しぶりの太陽が自分の目に入ってきて、思わず手をかざす。日光が苦手なようにふるまう姿はまるでドラキュラだと苦笑している間に、瞳孔が調節されたため久しぶりに外の景色を見る

 

 

「・・・あれ?」

 

 

 こんなにも世界に色がなかったか?

 

 思わず声が漏れてしまった。ついに視覚もおかしくなったのか、それとももともとこんな世界だったのか。昔の白黒テレビのようで、色という概念が無くなったようだ・・・そんな感覚で灰色の空を眺めながら周りを見ると、ほかの人はそんな光景に気にすることなくそれぞれの目的のために歩んでいく。そうか、自分がおかしいだけか

 自分だけ世界に取り残されたような感覚を抱きつつ、重い足取りで束さんのラボから離れていく。目的のない日帰り旅行を始めることにした

 

 

 

 

 

「やることがねえっての」

 

 2時間そこら辺を歩いては見たものの、やりたいことが見つからず小さな公園のベンチに座る。そもそも休みの時にいつも何していたか記憶していない。それほど追い詰められているってのか

 

「・・・追い詰められているんだよなあ」

 

 毎日毎日自問自答をする日々。一体自分にとって何が幸せなのかが分からなくなってきた。未来の子供たちが暮らしやすい世の中にしたいと思っていたが、果たしてそれは自身の幸せにつながるのか。そもそも自身の幸せとは何なのか。そんな目標を掲げたから一夏があんな目にあったのではないか。そもそも身近にいる人に迷惑をかけているのではないか。ただただ周りを不幸にしているのではないのか。

 それに、自身のその目標が間違っていたとしたら・・・退学に追い込んだあの二人はそんな処分にされなくても良かったのではないか。自分の勝手な思い込みで二人の人生を壊したのではないか・・・

 

「・・・考えるな」

 

 頭を振ってこれまでの考えを追い出そうとする。精神的に弱っているからそう思ってしまうだけだ。頭を押さえて深呼吸すること3回。落ち着かせようとして顔を上げ、ふと両手を見ると

 

 

 血に濡れていた

 

 

「!?」

 

 思わず二度見する。いつも通りの両手だ。外に出ていなかったためか少しだけ青白くなっているが、血に濡れてはいない。どうやら幻覚すら見るようになってきたとは・・・我ながら情けない

 

「歩こう・・・歩いて気分を紛らわそう」

 

 そうでもしないと思考の沼に沈んでしまいそうだ。歩いていれば、少なくとも余計なことを考えなくて済む。これ以上考えると奴らの怨霊を見る羽目になりそうだ。

重い腰を上げ、再度当てのない旅を再開する。目標もなく、ただ彷徨う旅路を。

 

 

 

 

 

 なんだかんだ時間は消費できたものの、時がたつほどに世界から色が消えているように感じた。引きこもっていたことが原因なのか、長時間歩き続けていたのが原因なのか、足に疲労がたまって大通りのベンチに座ったまま動けないでいた。周りは家族連れや学生同士、カップルたちが笑って自分の前を通り過ぎている。まるで自分に対して幸せをアピールしているようで・・・

 

「・・・落ち着け、被害妄想だ・・・」

 

 分かっている。自分がこうなっているからそう思ってしまうのだろう。今日だけで何度目か忘れたが深呼吸をする。

 それでも目の前の光景に耐え切れず、道路の反対側に目を向けると小学校低学年くらいの子たちが並んで歩いていた。向こうから歩いてきたということと、やや服が汚れていることから公園で遊んでいたのだろうか?今時そんな子供たちもいるのか、それとも自分が知らないだけか、そんなことを思いつつ眺めていると一人が何かに気づいて道路を横切ろうとした

 

 

 

 

 

 

 少年は友達と帰路についていた。昼から友達の家に行ってゲームをしたり、外に出て公園で遊んだりと楽しい一日を過ごしていた。明日は明日で楽しい小学校がある、算数とか座学はつまらないが、たくさんの友達と遊べる日が始まる。そう思っていたためか浮き足が立っていた。

 そんな中で道路の反対側を見ると、彼の母親がいることに気づく。彼女は日用品が切れたことに気づいてそれを買って帰る時だった。それを見つけた少年は母親のところに行こうと一直線で彼女のところに向かっていった

 

 

 

 

 トラックが来ていることも気づかずに

 

 

 

 

 

 

 マズイマスイマズイ!!!

 あの子、絶対にトラックが来ていることを知らない!このままでは轢かれてしまう!!反射的に立ち上がって、その少年のところに向かおうとして・・・倒れてしまう。今日の彷徨(ほうこう)がたたって足に力が入らない!!

 

「動け・・・!」

 

 母親が少年とトラックの存在に気づいて悲鳴が上がる。トラックも少しスピード違反していたのか急ブレーキをするも少年の前では止まらないだろう。少年は急ブレーキの音で反射的なのか本能的なのか足がすくんで立ち止まってしまう

 このままでは命がない!

 

「動け・・・!!」

 

 動いてくれ!けど今走ったところであの子のところまで間に合う距離じゃない!!指をくわえて事故を眺めるしかないのか!

 

 

 ハッと気づく。一つだけ。I()S()()()まだ間に合う!

 

「答えてくれ!!スクーロ!!!」

 

 

 

 

 

 母親は泣いた。息子が今トラックに轢かれてしまうのを見るしかないことに。

 

 観衆は目をつぶった。少年が物言わぬ肉塊になるのを見たくないために。

 

 運転手は悟った。この少年を殺めてしまうことに。

 

 誰もがそれを悟って、受け入れるしかなかった。

 

 ブレーキの音が止み、トラックは静止する。幸い後続車がいなかったため、玉突き事故の二次被害は出なかった。あたりに静寂が侵略する。後悔、嘆き、絶望の空気が漂い始めて・・・懐疑の空気が辺りを包む。

 

 少年がいた場所に何もいなかったのだ。まるでその少年が初めからいなかったように。

 

 トラックの方も何かをはねたような跡は無く、道路には血の一滴も流れていない。ではあの少年はどこに?ざわざわと騒がしくなって

 

「あっ・・・!あそこ!!」

 

 観衆の一人が上を指さす。つられるように一人、また一人と上を見上げると・・・機械が空に漂っていた。いきなり現れた機械に人々が困惑すると、それはゆっくりと下降し地面に着く。その中には

 

「裕太!!」

 

 轢かれそうになった少年がいることに気づいた母親が叫ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 き、危機一髪だった・・・

 通行人に迷惑をかけないように少年のところに瞬間加速し、ISについている保護機能を使って少年を抱えたまま上に瞬間加速。腕の中には少年が驚いた顔でこちらを見ているから意識はあるようだ。保護機能が無ければ瞬間加速によってこの少年は良くて意識不明、悪ければミンチになっていただろう。初めてにしては上出来だ。

 

「駄目だろう。道路に飛び出しちゃ!お母さんにダメだって教えられなかった?」

「ご、ごめんなさい」

 

 腕の中の少年は反省する。即座に謝れる子だから悪いことをしたと分かっただろう。親の教育もしっかり届いていてなにより

 

「もう一回お母さんに怒られるだろうから、しっかり反省してね。道路って意外と危ないから」

「うん、分かった」

「よし、いい子だ」

 

 この子が怖がらないようにゆっくりと降り、母親らしき人の近くに着地。その子を開放する。多分この子の名前を叫んだあたり、母親で間違いないだろう。

 

「駄目じゃないの!!道路に飛び出しちゃ!!」

「ごめんなさい、お母さん」

「本当に・・・本当に心配したんだから!!」

 

 抱きしめる母親を見て、いつもだったら負の感情が少し滲み出てくるものだが今回はそれが出てこない。それすらも感じなくなったのかと半分呆れつつ、自分も岐路に着こうとする。だが

 

「あの!息子を助けていただきありがとうございます!」

「俺も助かったよ。危うくこの子を轢きそうになったのだからよ」

 

 母親と運転手にお礼を言われ、なんて言葉を返すべきか迷っていると

 

「もしかして君、遠藤雪広君!?」

「え!?何故わかったんですか?」

「いや、君が纏っているそれ、ISだろう?」

 

 そうか、ISを纏える男って珍しいのだったな。IS学園で生活していたから稀有な存在なのだと改めて実感する。隠す気もないので正直に正体を明かす

 

「はい。自分は遠藤雪広。世界で3番目の男性IS操縦者です」

「マジか!こんな有名人に助けられるなんて、俺一生分の運使い切ったかも!!」

「しかも子供を助けてくれるなんて・・・神はいるのね!!」

 

 んな大げさな。それに神がいるんだったら邪神しかいないだろう。大の大人がそんなはしゃがないでくれと思っていると、足辺りに感触が。見ると先ほどの子供がぺちぺち叩いていた

 

「どうした、坊や?」

「お兄ちゃん。僕を助けてくれてありがとう」

 

 本人にそう言われ、今更ながら助けた実感がわく。自分の心を知ってか知らずか、その子は興奮気味にしゃべり続ける

 

「お兄ちゃんのそれ、かっこいいよ!正義のヒーローみたい!」

「・・・え?」

 

 正義?自分が?ただ人に迷惑をかけ、二人の人生を滅ぼした自分が?

 なおもその子は口を開く

 

「僕のピンチを救ってくれたお兄ちゃんは僕を助けてくれた正義のヒーローだよ!」

「・・・」

 

 そっか・・・助けることができたんだ。未来がある子供を、この手で。救える命を救えたんだ、この手で。壊すしかできなかった自分が守れたんだ。

 そうだ。自分の夢は『未来の子供たちが過ごしやすい社会を作る』んだ。今助けた子たちが笑っていられるような社会にしたいんだ。本当は間違っていることなのかもしれない。都合よく解釈をしているかもしれない。でも、この子の言葉で・・・今までが救われている気がしてならないんだ。

 

「お兄ちゃん、どうして泣いてるの?」

「え・・・?」

 

 思わず目に手を触れると濡れた感触が。言われるまで泣いていることに気づかなかった。涙を止めようとしても思わず溢れてしまう

 

「どこか痛いの?大丈夫?」

「大丈夫だよ。それよりも」

 

 ISに乗りながらも、自分は男の子を優しく抱きしめる。この子のやさしさが、ぬくもりが自分に憑いていた物を洗い流すように感じる

 

「ありがとう・・・本当にありがとう・・・」

 

 救ったのに、自分が一番救われた。心からそう思って抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プライベートでたまたまいたということにしてもらい、ひとしきりお礼を言われて解放された後に帰路につく。今日嫌というほど見てきた幻影も、血に染まった手も、キツネにつままれたかのように全く見ることなくまっすぐ帰る。曲がり角を曲がってふと空を見上げると

 

 

「おお・・・!」

 

 

 辺り一面綺麗な紅が目に飛び込んでくる。思えばこんな夕日を眺めることは無かった。これほどまで夕日が美しいと思った日はこれからあるだろうか?誰もいないこの場、自分だけがこの景色を独り占めしていいのかと贅沢な罪悪感に包まれる。誰かに伝えたい、この景色を。

 その時に携帯が振動する。誰からかと思って確認すると一夏からだった。

 

「もしもし、一夏か?」

『あ、ああ。兄さん・・・どう?調子は?兄さん、最近反応なかったから、心配で』

 

 そう言われれば、ここ2,3日精神的にやられててまともに携帯を開いていなかった。反応が無くなれば心配するだろう。電話の向こうではいつもの女子たち(代表候補生達)の声が聞こえるから皆心配してくれているのだろう。なら、今の状態をしっかりと伝えよう

 

「そうだな、立ち直りかけ・・・ってとこかな」

『そ、そうか!そうかそうか!!』

 

 大丈夫とは言わない。だってまだ完調ってわけではないし、これまでそう言ってごまかしていたから。でも今日だけで大きく前進はできた。一夏も伝わったようで安心したように声が大きくなる

 するとガタガタと音がしてみんなの声が聞こえる

 

『雪広!5教科のノートは僕が携帯に送るからね!』

『ISの実習は私がまとめておくから!』

『無理するんじゃないわよ!』

「皆・・・ありがとう」

 

 愛されてるんだな、そう思って見上げた夕日は一段と柔らかだった。

 

 

 

 

 そして時は流れ・・・期末試験当日。

 




 ヒロインほとんど関わらないのかよ、書いててそう思いました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話 こんにちは、世界最強(ブリュンヒルデ)

 

 期末試験当日。最初の二日は筆記で三日目は専用機持ちの実技試験、四日目以降は一般生徒の実技試験となる。一日目に教室に入ってきたときは一夏やシャルロット、一組のクラスメイトだけでなく、ほかのクラスにいた鈴や簪が飛びこんできて心配してくれたよ。

 筆記に関しては特に記載しなくてもいいだろう。伊達に最難関の中学校を卒業してないし。精神的に安定してきた一週間である程度復習できたので特に問題なく解けた。

 

 問題なのは三日目、ISの実技だ。

 

 一週間前に一夏経由で聞いた情報では試験管の相手がクズ教師ということだ。しかも合格条件は「戦闘で負けない」が条件ということだ。いくら相手が第二世代の量産機で来るとは言え、腐ってもブリュンヒルデ。自分を潰しにかかるのは目に見えている。だが、これでもマシになった方らしい。当初は「同じ量産機で勝つ」のが条件だとIS委員会(ゴミ)共がほざいていたらしいが、学園長こと十蔵さんが何とか交渉して今の条件になった、と楯無さんから今聞いた

 

「とはいえ、きついのに変わりないんだけどね」

「それでも助かりましたよ。もし最初の条件だったら勝ち目ありませんもん」

 

 ピット内で楯無さんに感謝を述べる。楯無さんは国家代表ということもあって実技試験は免除とのこと。もう筆記も終わったので自分の心配をして見に来てくれた。

 一夏達は、と思った方もいるだろう。自分が三日目の試験のトリであり、一夏達は試験が終わっているからピットに入る理由がないというありがたーいお言葉をクズ教師から貰ったため、ここに残ることができなかった。楯無さんは会長特権ということでここにいる

 

「それにしても嫌ね。こんな観客がいる中でやるなんて」

「大方、公開処刑でしょうね。わざわざ上級生の方も見られるような時間にやるんですし」

 

 ブリュンヒルデがISに乗るからそれを一目見ようとするミーハーな学生が多いのかアリーナは満員となっている。学年末トーナメントかよ

 

「こんなこと言うのもあれだけど・・・勝てる?」

「一夏達にも言ったんですが、正直半々ですね。負けた時は・・・ケアを頼みますね」

「・・・そうならないよう信じてるから」

 

 そう言われちゃ勝たないと、とは言えなかった。なぜなら、まだ完全にトラウマを克服したとは言えないからだ。あくまでISに乗ることができ、身内との模擬戦をするまでは回復したが、このような戦闘でもしっかりとしていられるかは分からない

 それでもやるっきゃない。そう言い聞かせて試合時間前にアリーナに入った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私のピットには数人のIS委員会の役員と委員会直属の整備員が私の乗る打鉄を整備している。彼女たちは女尊権利団体の役員でもある、言わば私の駒だな

 

「千冬様、確認ですが・・・」

「分かっている。奴のトラウマを刺激して再起不能にするのだろう。私ができないわけがない」

 

 IS委員会の役員共に吐き捨てる。今回はIS委員会からの依頼ということで建前は奴の試験監督ということになっている。が、実際はさっき言ったとおりだ。前々から目障りだったんだ。この手で始末してやろうではないか。意気込んで打鉄に乗り込む。うむ、いい整備だ。武器も・・・よし、あるな

 

「ですが、気を付けてください。万が一ということもありますので」

 

 ・・・何だと?

 

「おい、貴様」

「な、何でしょう・・・グエッ!!」

 

 打鉄を展開した右手で「万が一」と言った役員の首を掴んで体を宙に浮かせる。周りが慌てふためき、そいつはもがき苦しんでいるがそんなことはどうでもいい

 

「貴様、私が負けると言いたいのか?ブリュンヒルデである私が、最強の私が!!半年も満たないズブの素人に負けると言いたいのか!?それとも私が負ける姿が見たいというのか!?ああ!!?」

「・・・!」

 

 小刻みに首を振る。その動作が余計に腹立たしく思えた。右手により力を籠めると苦悶の表情が色濃くなる

 

「うぐぐ・・・」

「なら何故万が一と言った?そんなことは断じて無いのだからな」

 

 それに、奴のトラウマを刺激する秘策もある。これさえあれば、奴の心を再起不能にすることだってできる。

 その武器を託してくれた弟の顔が浮かんできたとき、役員に対しての怒りがやわらぐ。仕方ない、今回は大目に見てやるか。手を放して役員を開放すると、そいつは尻餅をついてみっともなく倒れこむ

 

「ゲホッゴホッ・・・」

「次そのようなことを言ったら・・・分かるな?貴様ら、私を崇拝しているなら言葉に気を付けろよ?」

 

 さて、頃合いか。公開処刑の時間だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナからクソ教師が出てくると歓声が沸く。そのほとんどが上級生とファン、そして女尊男卑の思想に染まった連中だ。これほどアウェーなのは久々な気がする。だがある一角は自分に対して期待の目を向けている。つまりあそこに・・・いた。一夏達の姿が見えた。そこに向かって手を振ると、シャルロットと簪が何か書かれた紙を二人で持って自分に見せてくる。ISの機能で拡大すると・・・

 

「頑張れ、大丈夫だ、無理するな、信じてる、か・・・うん、そうだな」

 

 いつの日かに簪にやったことのお返しってわけだな。うん、それだけ応援されているんだ。たとえ相手がブリュンヒルデだろうと負けられないな

 

「さて、分かっていると思うが私が貴様の試験監督だ」

「ええ、よろしこです。ちなみにですがブリュンヒルデであろうお方が全力で私と戦うなんてことは無いですよねえ?」

「当然だ。これは試験だからな。ある程度は手を抜いてやる」

 

 嘘だな。明らかに殺意が溢れている。合格にさせる気などさらさらないだろう。だがな、この一週間、無駄に過ごしてはいないんだよ。こっちだっててめえのことは予習しているんだよ

 

 試合開始10秒前。右手に剣だけを展開する。やるとするなら奴は・・・

 

 試合開始のブザー。それと同時に奴は特攻を仕掛けてきた。

 姉弟らしい直線的な特攻。だがクズとは比にならない速さだ。これだと反応してから避けるのは至難の業。伊達にブリュンヒルデではないということか

 でも分かってる。余裕持って避ける

 

「はあっ!!」

 

 その勢いを殺さずに剣の軌道を変えて襲い掛かってくる。確か篠ノ之流の一閃二段の構えってやつか。

 それも分かってる。それも躱して弾幕を牽制目的で張る。奴はシールドを展開するのを確認して距離を開ける。流石にいきなり畳み込まれると追いつかなくなるから、一旦リセットだ

 

「避けているだけでは私を倒すのは不可能だぞ?それともみじめに逃げ回るか?」

「言ってることが二、三流の悪党ですよ。人を煽る頭脳は皆無のようですね」

「ほう・・・余程死にたいようだな。教師に向かってその発言をするとはな」

「だから言ってるだろう?アンタには尊敬する気持ちがカケラも無いって」

 

 姉弟揃って煽り耐性が無いな。自分の挑発にキレたのか再度突っ込んできて剣を振るってくる。乱雑で暴力的とはいえ、それを帳消しにするスピードとパワーでラッシュを仕掛けてくる。並大抵の操縦者なら何もできずに一気に攻められてSEが尽きてしまうだろう

 

「・・・」

 

 でも躱す

 

「ハアッ!」

 

 これは剣でいなして躱す

 

「・・・チッ!!」

 

 躱し続ける

 

「・・・ラアッ!!」

「おっと!」

 

 今のは危なかった。紙一重で躱す。奴も決定打が決められずかなり苛立っているようだ

 

「この、ちょこまかと!!」

「苛立ってます?映像見た甲斐があったわ~」

「それだけで私の剣技を防げるはずがない!!貴様、何かしたな!?」

「何もしてませんって。しっかりと()()()()予習しただけですって」

「・・・束だな?」

 

 おっと、口が滑ったか?流石に分かってしまうものなのか。反省。

 そう、ここまで躱すことができるのは束さんのおかげだ。試験の相手がコイツだと一夏から教えてもらったので、メンタルが回復した残りの一週間で奴のデータからこれまでの試合映像をくまなく見た。それだけでは不安でしょと束さんに言われ、なんと束さんが織斑千冬の試合の動きを完コピして相手してくれたのだ。だからここまで奴に対応することができるのだ。ここまで尽くしてくれた束さんには感謝しかない。

 そしてその鬱憤が出たのか、今の横薙ぎの攻撃で胴体に隙ができる。この瞬間を待っていた!すかさず胴に一閃を叩き込む動作をする。奴はそれを見てから後ろに下がる。こちらの剣のリーチを想定して紙一重で引き、最速でカウンターの準備に入ろうとするのだろう。

 自分の振りぬかれた剣が・・・

 

 

「うごっ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()

 奴が見誤ったわけでも、自分の腕が長くなったわけでもない。剣をわざとすっぽ抜いたのだ。動きでは剣で振りぬくモーションだっただけに、奴も想定外だったのだろう。見事にクリーンヒットだった

 

「どうです?奇襲の評価は?いい点くださいよ?」

「出来損ない共の分際で!!舐めるなあっ!!!」

 

 自分の攻撃が通ったことに相当腹が立ったのか、殺意のこもった剣技で襲い掛かってくる。それに対し、今度は新たに展開した2本の短剣でいなす。リーチが短い分、余計な力を入れなくていいので敵の剣をいなすにはこれが一番自分にしっくりくる。ただ先ほどよりもスピードは上がっているが、力は落ちている・・・?

 とはいえ、少しでも崩れるとその勢いに飲まれてしまう。怒涛のラッシュに耐えるようにいなして・・・鳥肌が立つ。

 

 上段からの振り下ろし。それだけなのに本能が警告する、この攻撃は危ないと。しかし、自分は反射的に短剣をクロスさせて迎え撃ってしまう。

 

 ガキインッ!!

 

 アリーナ全体に金属の音がこだまする。奴の最速の振り下ろしに二本の短剣は何とか耐えうることはできた。だが

 

「~~~っ!!」

 

 思わず声と涙が出るほど腕に衝撃が来る。腕がしびれ、まともに短剣も持てない。今のは悪手だった!リカバーとして上に瞬間加速する。だが奴はそれをみすみす許さない。こちらにそれ以上の速度で追い打ちをかけに来る。ならば、と右足先に()()()()()()()()武装を展開して奴を迎撃する。それを見て奴は速度をさらに上げて自分に近づく。先ほどの投擲を警戒したからか、投げられる前に切り捨てる気だ。

 

 

 

 

 作戦通り!!

 

「これ、機雷ですよ」

「何!?」

 

 気づいたところでもう遅い!剣風の機雷と剣が交差して、爆ぜる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナの観客は異様な雰囲気で包まれていた。ほとんどが元姉の独壇場となるのを想像していたのだろう。でも兄さんはその猛攻に耐え、逆に有効打を二回も与えている。最も、今のは自爆特攻に近かったけど

 案の定、取り巻きが騒いでいる。ありえない、イカサマをしている、と。全く、それしか言えないのか、こいつらは。するとその筆頭であるモップがこちらに噛みついてくる

 

「嘘だ!?千冬さんが追い込まれるはずない!何か不正をしたな!!」

「するわけないでしょ。あんたたちはすぐいちゃもん付けるのやめたらどう?」

「なんだと!?」

「まあまあ、落ち着きなよ箒。負けたわけじゃないから」

 

 ただクズが落ち着いているのが不気味だ。自慢の姉が手玉に取られているのにこの落ち着きよう。まだ秘策があるとでもいうのか?

 

 先ほどの爆発の煙から兄さんが出てくる。流石に右足の損傷はあるものの、それ以外は大丈夫のようだ。先ほどの振り下ろしで両腕が心配だったが、剣と銃を展開して構えているあたり問題なさそうだ。いけるぞ、兄さん!

 

「フハハハハ!!」

 

 突然、煙の中にいる元姉が笑い出す。それまであった空気が一掃され、しんと静まり返り誰もが煙に注目する。何に対して笑っているんだ?

 

「姉さん、アレを出す気だな?」

 

 アレ?クズがなにか言っていたがその意図がわからない。シルエット的に剣を展開しているように見えるが?奴がその剣で煙を吹き飛ばす

 会場全体が驚きに包まれる。誰もが織斑千冬の持っている剣に注目が集まる

 

「あれは・・・雪片弐型!?」

 

 う、嘘だろ!?なぜその武器が奴の手に!?なぜ打鉄に!?クズの武器のはずなのになぜ奴が持っている!?・・・まさか!

 クズの方を見ると嫌味な顔をして俺たちを嘲笑う

 

「どうた、あれが姉さんの切り札だ!驚いただろう?」

「なんで織斑千冬がお前の武装を持っているの!?」

「教えてやるよ!俺が雪片弐型をアンロックして姉さんに託したんだ!!あれさえあれば姉さんは負けないからな!!」

「このっ!!」

「言っておくが何もルールは破ってないぜぇ?双方の許可を取ってるからなあ?」

 

 コイツがここまで冷静だったのはそういうわけか!本当にこういう嫌がらせは人一倍上手だな、クソが!!

 

「雪広!!しっかりして!!」

 

 シャルロットの叫び声に視線を兄さんに落とす。誰が見ても明らかに動揺の色が見える。マズイ!まだ治りきってない兄さんに雪片弐型を見せたら、心を折った原因を見せたら!

 

「さあ、公開処刑の時間だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑千冬が雪片弐型を持っている。その剣に青白い光が灯る。零落白夜を使ったことが分かったとき、アリーナの観衆は静寂から歓喜に変わっていった。もう見ることの無かった世界最強が現役の時に使っていた武器を持っている。映像や写真でしか見られなかった姿を生で見られる、その喜びに多くの一般生徒が浮かれていた。一部の信者たちは卒倒するものもいる。

 だが、雪広にとっては最悪のものだった。彼にとって雪片弐型は弟が生死を彷徨わせるきっかけとなった武器。それが元凶の姉にわたっている。不気味な青白い光を放つ剣を構える千冬の姿があの時(一夏が刺された時の一春)と重なる

 

「ハッ、ハッ、ハーッ・・・」

 

 取り乱しかける雪広。それを見て効果があったと悪い笑みを浮かべる千冬は追い打ちをかけようとする

 

「どうした?いつもみたいに軽口でも叩いてみたらどうだ?できる訳無いだろうな」

「フーッ、フーッ・・・」

「言っておくが、途中棄権は認めないからな」

 

 そう言い放って剣を水平に構える千冬。最速の一閃を雪広に打つつもりだ。それを雪広は察するものの、トラウマが蘇る。何とか理性で抑えようとするものの、冷や汗が額に溜まって流れ・・・不運にも両目に吸い込まれる。雪広は思わず顔をしかめて目をつぶってしまった。

 それを見逃してはくれなかった

 

「ッ!!」

 

 再度雪広が目を開いた時、瞬間加速で千冬は距離を大きく詰めていた。剣の軌道は雪広の首。もはや回避すらも間に合わない、それを察した雪広はせめて被害を抑えようと首元を両手でガードしながら後ろに動いて衝撃を減らそうとする。

 

「甘い!!」

「!!」

 

 しかし、千冬は強引にその軌道を変える。狙いはガードされている首からノーガードの腹へ。織斑千冬の常人離れした力によって剣がブレることなく軌道を変えていく。

 零落白夜を纏った雪片弐型が雪広の腹をとらえてしまう

 

「おごおっ!!!」

 

 バックステップで剣の勢いを完全に殺せることなく、千冬の本気の斬撃が雪広の腹に直撃する。雪広は吹っ飛ばされ、地面に大きくバウンドして仰向けに倒れる。

 

 

 

 その時の彼の焦点は合っていなかった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話 さようなら、俺の○○○○。

 

『雪広(兄さん)!!』

 

 俺たちの悲痛な叫びは周りの歓声によってかき消える。零落白夜による一撃が兄さんにクリーンヒットしてしまった。まだ試合が終わってないことから、なんとかSEが残ってはいるだろう。しかし、ごっそり削られたのはどう見ても事実。しかも兄さんは仰向けに倒れたままピクリとも動かない

 まさか、気絶している!?それを知ったのかニタニタとクズ教師がゆっくりと兄さんに近づいていく

 

「雪広!目覚めて!!奴が来てるって!!!」

「お願い、届いて!私の想い・・・!!」

 

 シャルロットは叫び、簪は必死に祈っている。かく言う俺や鈴も手を組んで兄さんが立ち上がるのを必死に願う。こんな時に神頼みするのも失礼かもしれないし、神に祈るようになったら終わりとも何かに書かれていたが、それしかできないと縋ってしまう。

 そんな光景に憎い笑みを浮かべ、クズが突っかかってくる

 

「おいおい、いつもの様な余裕な態度はどうしたぁ?」

「うるさい!黙ってろ!」

 

 珍しく簪がガチギレして怒鳴る。シャルロットは怒りのあまりか目のハイライトが消え、ゴミを見るかのようにクズを睨む。それでも奴は止まらない

 

「これはな、罰なんだよ!姉さんに歯向かい続けたツケを生産しているだけなんだ!!だから何されても文句ねえよなあ!!」

「いい加減黙りなさい、あたしだって菩薩じゃないのよ」

 

 クズの煽りに鈴もキレそうになる。組んだ両手が白くなるほど握りしめ、殴りかかるのを抑えているのがわかる。かく言う俺自身も限界に近い

 

「所詮民度が低いとこには低い人間しか集まらないんだよ!掃きだめのてめえらにはお似合いってわけだ!!」

「テメッ・・・!」

 

 俺の方が先にキレてしまい、勢いよく立ち上がって

 

『・・・一夏』

「!?」

「一夏・・・?」

 

 な、何故兄さんの声が?予想外の声にびくりと体が反応して硬直する。幻聴?いや、はっきりと聞こえた。鈴たちも俺がいきなり止まったことに疑問を抱いているよう

 

『一夏・・・聞こえるか?』

 

 再度聞こえる兄さんの声。兄さんの方を見ると、先ほどまで空を見ていた顔がこちらに向いていた。まるで俺を見ているよう。もしかして、プライベートチャネルか?

 確認すると、確かにプライベートチャネルが開いている。間違いなく兄さんだ。何か問題でも起きたのか!?

 

『兄さん!どうしたんだ!?』

『落ち着いて聞いてくれ、その・・・一夏に・・・聞きたいことがあるんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで自分は仰向けなんだ?ここはどこだ?意識がはっきりしない。夢の中で雲の上を歩いている気分だ。そんな中で夢とは思えないような鳩尾から痛みのシグナルが伝わってくる。

 そうだ、ここはISアリーナ。あの武器で腹に大きな一撃を食らったのか。SEはどうなのだろうか、ここから反撃できるのか、そんな考えがまるで他人事のように思える。まずは体制を立て直さないと・・・その思いで体を起き上がらせようと

 

「あ?」

 

 動かない。神経が焼き切れたかのようにうんともすんとも言わない自分の体。神経がやられた?いや、あの攻撃で神経がやられるとは思えない。青空から目を逸らすことなくそんなことを考えて・・・疑問に思う

こんなに青かったか?まるで青と白のペンキをぶちまけたような、写真で見た他国の青空のような空が広がっていた。まるで零落白夜のような・・・

 ゾワッと不快感が広がって

 

「また悪い方に考える~」

「っ!?」

 

 突然見知らぬ女が自分をのぞき込んできたら驚くのは無理もないだろう。ビクリとはしたが、体は一向に動かない。誰だ、この女は。なんとか頭だけは動くので顎を限界まで上げて、不審者の全体像を見渡す。漫画でよくある魔女の格好をしており、モデルの体型で色白。衣装もきわどい。いや、それよりもだ。

 

 そもそもこのアリーナにどうやって侵入したのか

 

「違うわ。ここはアリーナではないわ。そうね、半分精神世界ってとこよ」

 

 精神世界。そういえば一夏が言っていたな。臨海学校の時にISのコアと話をしたって。夢か現実か分からないと唸っていたけど。そうか、つまりこの女は

 

「スクーロ、なんだな?」

 

 そうよ、と誇らしげに肯定する彼女。さっきまで出ていたアドレナリンや奴への恐怖も収まってきて、でも何を語ったらいいか分からない。いきなり精神世界に来たのだから。するとスクーロは自分に愚痴るように語り掛ける

 

「にしても、あなたって意外とメンタル弱いわよね。ある程度は耐えるけど、負荷がかかりすぎると修復しづらいというかなんというか」

「・・・確かにな。否定できない。ところで、体が動かないんだが」

()()精神世界だからよ。完全じゃないから体は動かせないってわけ。暴走しそうだったからこうして強制的にこっちの世界に引きずり込んだってわけ」

 

 そういうものなのか。ISは奥が深いものだと変に納得してしまう。するとスクーロはしゃがんで顔を近づける

 

「で、ここからが本題よ。今からあなたのトラウマを解決するわ」

「・・・随分いきなりだな」

 

 そうでもしないと貴方壊れてしまうもの、とため息交じりに語るスクーロ。そんなことは分かってる。零落白夜を見ると、あの時の記憶がフラッシュバックする。それを克服しないと奴に勝ち目が無いってことくらい。

 でもな、それを克服するのが難しいからトラウマと言われているんだ。それなのに今解決する?どうやって?

 

「だから貴方をここに連れてきたのよ。ここなら時間は無限・・・とは言えないけど十分な時間を確保できるわ」

「・・・」

「正確には貴方が貴方自身の心の奥の気持ちを理解していないのよ」

 

 どういうことだ?自分のことだから自身が一番理解できているだろう?

 

「違うわ。貴方は自分の今の気持ちを理解していない・・・いや、気づいていないのよ」

「つまり、自分自身を理解する時間、ってことでいいのか」

「そうよ。でも貴方だけじゃ時間がかかるから私がアシストしてこのトラウマの根幹を取り除くわ」

 

 トラウマの根幹を見つめなおす。束さんの治療では悪化するかもしれないということで意図的にやらなかったし、そもそも見つめなおす機会なんてそうそうなかった。

 だけど、気になることはある

 

「何故お前はそこまで自分を助ける?言っておくが見返りも何もないぞ」

 

 無償でやる行動はあまり信用ができない。善意でやっているんだったら失礼だけど、どうしても疑ってかかってしまうのが悪い癖だ。

 するとスクーロはバツが悪そうになる。えっ、意外な反応なんだが

 

「そりゃあ、マスターだからってのと・・・今回の件は私も原因の一つだから」

 

 スクーロが原因の一つ?だが、今回が初対面のはずなんだが?スクーロは髪の先端をいじりながらおずおずと話す

 

「ほら、福音の時に弟君が落とされた後、声がしなかった?女の人の声」

「声?・・・ああ、暴走する前に何か聞こえていたような」

「その、ね・・・冗談のつもりだったのよ?でも、その後に貴方が暴走しちゃって・・・」

 

 そうか、後ろめたさがあったわけか。だからそれの貸し借りを無くすために動いているということか・・・

 あれ?もしかして、自分のIS、ポンコツ?

 

「ぽ、ポンコツじゃないわよ!その、たまたま貴方が暴走しただけよ!」

「いや、そこで冗談を言うか?普通。どう見ても冗談と思える状況じゃないだろう」

「それは、その・・・ごめんなさい・・・」

 

 強くいったわけじゃないが最後は聞き取れないほど小さくなってしまう彼女。あれだ、見た目に反してまだ幼いだけだ。先ほどまで見てもどこか子供っぽいし、仕方ないと言えば仕方ない。相棒だしな

 

「と、ともかく!私の汚名返上・・・貴方のトラウマを治すために来たんだから!」

 

 ツッコミどころは多々あるが、先ほどの発言から時間は限られているらしい。本題に進まないと・・・

 

「で、自分自身を見つめなおす、だっけ?」

「そうよ。貴方は貴方自身でも気づいていない傷があるの。それを貴方自身で見つけていくの。こういうのは自分で気づかないと納得できないから」

 

 つまり自身の深層心理を理解する。これができればトラウマを克服できる可能性があるわけか。もちろんリスクがないわけじゃない。トラウマが悪化する可能性もあり、束さんはその危険を冒すべきでないと言って避けていた。でももう時間がない。賭けに出るしかない。

 横になったまま深呼吸して考える。そもそも自分は奴に、奴の剣に対して何故恐怖を感じているのか。思い浮かぶのは一夏が自分を突き飛ばして犠牲になったあの光景。一夏を失いたくない、たった一人の家族を失いたくない事への恐怖。それがトラウマの原因だと思っている

 

「本当にそれだけ?貴方の奥底では何を思っているの?」

 

 違うのか?これ以外の感情があるのか?奴らへの恨み?その根幹を探っているんだ。自身の死の恐怖?人はいつか死ぬし、これではない気がする。気持ちの良いものではないがぐっと我慢して何度も思い返す、一夏が庇って刺されるあの光景を。一夏が庇って刺されて・・・一夏が庇って・・・

 

 ()()()()()()

 

 これまで鮮明にフラッシュバックするとき、必ず一夏が庇うところから映像は始まっていた。刺された印象が強すぎたために見落としていたけど、ここか?このトラウマの根幹がこれなのか?だとするなら、このトラウマの原因って・・・『一夏への罪悪感』か?自分があの時に気づいていれば一夏は傷つくことなかったという不甲斐なさではなく、一夏にそうさせたことへの罪悪感?

 そういえば・・・最近一夏としっかり話していなかったな。余裕持って登校したつもりがギリギリになってまともに話ができなかったし、一週間前もそれほど電話しなかったし、それからも電話しなかった。寂しさはあったけど・・・()()()()()()()()?一夏と会わないことに?無意識に一夏を避けていた?

 

 なら、あの悪夢も罪悪感によるものか?一夏にはもちろん、簪・シャルロット・鈴に対してはASDで心配かけたことへの罪悪感があったのか。追放した奴らに対しても心の奥底では少しだけ、ほんの少しだけ罪悪感があったというのか?

 答えがわかっていそうなスクーロに思わず問いかける

 

「なあ、コレがスクーロの言う自分の本心なのか?」

「なら、確認してみる?」

 

 確認する?どうやって?

 

「今だけ君の弟にプライベートチャネルを繋げるから、話してごらんなさい。というよりもう繋げたから」

 

 おい!?少しくらい心の準備をさせろよ!!気が利くのかポンコツなのか分かんねえな!!

 落ち着け、自分。このテンションで一夏に話しかけたら間違いなく驚く。一夏の方を向いていつも通り、いつも通りに・・・

 

『一夏・・・聞こえるか?』

 

 いきなりの会話に一夏が立ち上がって驚くのが見えた。流石に驚くのも無理ないよな。だが、自分を見てすぐに察したのかプライベートチャネルで返事をしてくれる

 

『兄さん!どうしたんだ!?』

『落ち着いて聞いてくれ、その・・・一夏に・・・聞きたいことがあるんだ』

 

 あ、あれ?なんか言葉が流暢に出てこない。何緊張しているんだよ、久しぶりに会った元カノの対応かよ。自分たちは兄弟じゃないか・・・

 

『その、一夏ってさ・・・自分を恨んでる?』

『・・・へ?』

『いや、ほら、あの・・・臨海学校で、その・・・一夏が傷ついたじゃん?』

 

 コミュ障かよ、ってくらい言葉が詰まる。

 

『それでさ、自分が気づかなかったから・・・つまり、自分のせいで一夏が傷づいたから・・・嫌いになったか心配でさ・・・本当のことを教えてくれ・・・』

 

 言葉にするほど一夏への申し訳なさがふつふつと湧き上がる。自分が原因なのか、あの時もっと視野を広くしていれば、一夏が傷つかずに済んだのか、と

 一夏は本当は自分のことを・・・

 

『兄さん・・・

 

 

 

 

 何言ってるの?マジで』

 

 ・・・

 

 なあっ!?!?

 

『え、いや、えっ・・・ええっ!?』

『いや、兄さんがそんなことを言うなんて思いもしなかったし』

 

 いやいやいや!!こっちは真剣に悩んでいたのに!バカじゃないのこいつ、みたいな顔を一夏は向けてくるし!!

 

『まあ、予想外だけど兄さんの問いにはしっかり答えるよ』

『ああ』

『ぶっちゃけ、そんなこと微塵も考えたこともなかった』

 

 え?

 

『いや、なんでさ。兄さんを恨む理由がないじゃん』

『で、でも、自分のせいで一夏が死にかけて!』

『それは俺も気づくの遅れたわけだし、勝手に俺がやったことだし。というか、そんなことで兄さんを恨むことなんかないよ。はっきり言って杞憂だよ』

 

 流石に鈴を傷付けたら恨むけどな、と言って一夏は笑う。そっか、恨んでない・・・か。なんか変に気負っていたんだな。そう考えるとこれまで何に悩んで苦しんでいたのかが馬鹿馬鹿しくなってきた。そう思うと体が軽くなる

 こんなことならもっと早く一夏とじっくり話しておくべきだった

 

『安心した?』

『ああ、つっかえが取れた気がする』

 

 でも、もう少し、もう少しだけ手伝ってもらおう

 

『もう大丈夫か?』

『じゃあ最後に一つだけお願いがある。発破をかけてくれ』

『分かった・・・兄さん、あんな奴ぶっ飛ばしてやれ!』

『ああ!任せろ!!』

 

 言うや否や、プツッと一夏との通信が途切れる。もう時間なのだろう、なんとなくわかってしまう。でも、充分だ。

 これまで黙っていたスクーロも言葉をかけてくれる

 

「よかったわね。これならもうあの剣(零落白夜)や織斑千冬を見ても大丈夫よ」

「ああ、スクーロもありがとう」

「それだけじゃないわ。貴方に一つプレゼントをあげる」

 

 プレゼント?いったい何を?

 

「簡単に言うと私を()()に使えるようになったわ。それは向こうでのお楽しみ♪」

 

 それじゃ頑張ってね、とエールを貰って意識が遠のく。スクーロ、一夏。本当にありがとう。目覚めた時どうなってるか分からないけど、頑張るよ

 

 

 

 

 

「・・・これで汚名返上よ」

 

 ぼそっと言うな、聞こえたぞ

 




 激難産でした
 夢分先とかフロイトとか深層心理とか資料読んでは文章を作ってやった限界がこれです。下手に手出ししすぎた
 人気作家の壁をひしひし感じましたね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話 ようこそ、新たな力

 

 どれほど待ちわびたことか!憎き出来損ないの片割れを、この手で叩き潰すのを!いつも私と一春の邪魔をする憎たらしい奴が無様に負けるのを!!トラウマを再発させる一撃を決めた手ごたえがあるが、まだ終わらせん。このままじわじわ嬲り続けて心を砕いてやる!

 しかし私が近づくも、奴の反応がない。みっともなく逃げ出すと思っていただけに疑問を抱く。確認するために近づくと奴は気絶しているようだ。それならそれでいい。

 観客席を見ると一春と箒が笑顔で私を応援している。その横では出来損ないが呆然と立っている。いい対比だ。これだけで酒のつまみになる。ああ!愉悦だ!!ならもっとその顔を絶望に染めてやろう!!

 

「どうした、もう終わりか?反応がないようだが、んん?」

 

 2,3度つま先で胴体を小突いてみても反応がない。ならばとばかりに奴の腹を踏む。それと同時に観客が沸き上がる。一春の方を見ると、子供のように無邪気に盛り上がっている。その横では出来損ないの取り巻きたちが泣き叫んでいるよう。そんなことでこの状況は覆らない。私が勝つことに揺らぎなどない!!

 

「ほら、いつものような態度はどうした?取り巻き共も騒いでいるのが聞こえないか?聞こえないよなあ」

 

 零落白夜を弱めに展開し、敢えて顔に近づける。これなら意識が戻ったときに零落白夜が目の前に映る。奴が目覚め、発狂したところで顔面にこれを打ち込む。これならIS委員会の奴らも満足するだろう

 

「ハハハッ!!こいつが目覚めるのが楽しみだなあ!!」

 

「何が楽しみなんだ?」

 

 ・・・まさか!?

 油断した隙を突かれ、奴は滑るようにして私から距離を取り起き上がる。チッ、動けない所をじわじわ嬲る予定だったのだか。まあいい、ここから痛めつけることだってできる。それに奴のSEは少ししかない。私が圧倒的に優位であることに変わりはない。なら軽く挑発でもしてやる

 

「どうした?かかってこないのか?」

「そのための準備をするんですよ」

 

 言うや否や、奴は雄たけびを上げる。どこからともなく黒い霧が奴を立ち込め、それを切り裂くと黒い機体を纏った奴が現れる。これが形態変化(モードチェンジ)というやつか。とはいえ、奴のその状態の単一能力も熟知している。初見では驚くが、種がわかれば何の苦労もない

 

「獣風情で世界最強に勝てると思っているのか?」

「・・・これだけでは無理でしょう。()()()()()()()

「ハッ、奥の手でもあるというのか?そんなハッタリなど私に効くと?」

 

 形態変化以外に奴が隠し技を持ってはいない。IS委員会の奴らの情報では奴の武装も把握している。どれだけブラフを立てようと無駄だ

 

「ハッタリでないということを見せましょうか」

「いい加減認めたらどうだ?もう策がないと。降参しt・・・」

「■■■~~~~~~!!!」

 

 突然奴は天に向かって声にならない声で叫んだ直後、奴に異変が起こる。今度は内側から現れた黒い球で奴は覆われていった

 まさか、ブラフではなかっただと!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、あれって!」

「嘘・・・嘘でしょ!?」

 

 シャルロットが頭を抱え、簪は口を押えながら顔面を青くし、鈴は何も言えず呆然とする。周りも何が起きたのかわからずただ騒いでいる。

 鈴たちは分かるのだ、あれは福音事件で暴走したときの前兆だと。鈴たちは束さんから雪広が暴走するまでの一部始終を見たようで、今の状態がその時と一致していることに気づいたのだ。そしてその時と同じように球体が割れ、中から漆黒に包まれた兄さんと機体が出てきた。暴走したときと同じような登場に三人とも焦りが見える

 

「ってか、一夏はどうしてそんな悠長なのよ!」

 

 俺が焦ってないことに鈴が言ってきた。確かに傍から見れば薄情な弟に見えるだろう。でも兄さんと話して多分こうじゃないかと思うんだ

 

「兄さんは暴走してない。俺はそう思う」

「はあ!?」

「さっき兄さんと会話したんだ。だからもう大丈夫」

「いや、そんな素振り全く見せてなかったよ?」

 

 兄さんとの会話はプライベートチャネルで行ったから、体感時間はごくわずか。傍から見れば俺がただ立ち上がっただけのように見えるから、簪にそうツッコまれても仕方ない。

 すると俺たちの反応がうるさかったのかクズが喚きだす

 

「何か騒いでるが、どうなろうと千冬姉が負ける訳ねえんだよ。テメエらはそこで奴が無様に負けるのを見て・・・」

 

 バンッ!!!

 

「っひぃ!?」

 

 突然兄さんがアリーナのシールドバリアに蜘蛛のように張り付き、クズは情けない声を出してひっくり返る。おそらく瞬間加速でクズの方に向かったのだろう。兄さんの顔は黒で塗りつぶされたようになっており、表情が分からない。だからこそ恐ろしく不気味に見える。

 取り巻きたちも悲鳴すら出せないでいる。鈴たちは逆に兄さんを警戒するあまり、声を出せないでいる。

 そして兄さんはこちらを、俺の方を向いて這うよう近づいてきた。取り巻きたちには安堵を、鈴たちに緊張をもたらす。兄さんがバリアを破ってくるのではないかと警戒しているようだ。だけど、そんな不安をよそに俺の方から近づいていく

 

「「「一夏!!」」」

 

 思わず三人が叫ぶ。無理もない。バリアがあるとはいえ、それが無ければ手を伸ばせば触れられるところまで近づいているから。バリアさえ破れば俺は即死してもおかしくない状況だろう。でも兄さんはそんなことしない、確信して言える。けれど、どうしてこんなことを?

 

「・・・」

 

 するとバリアの向こうにいる兄さんがバリアに手をそっと当てる。もしかして、手を合わせたいのか?現実でも勇気づけて欲しかったのかな?見た目に反して繊細だなと思わず笑みがこぼれる。

それなら応援しよう。バリア越しに手を合わせて応援する

 

「兄さん、頑張れ!」

「イ・・チカ・・・」

 

 ぼそぼそと俺の名をつぶやく兄さん。バリアもあってよく聞き取れず耳を傾けると

 

「ア・・・リガ・・トウ」

 

 小さかったがはっきりと聞こえた。それと同時に兄さんに変化が起こる

 機体から暴走したときと同じ悪魔や堕天使のような漆黒の翼が、羽化したての蝶のようにゆっくりと生える。それと同時に兄さんの左目に収縮するかのように黒が晴れていき、兄さんの素顔が晒される。形態変化で真っ赤だった右目は黄色に光り、左目は黒のオーラを灯していた。しかしその表情からして暴走していないとわかる

 

「それじゃ、行ってくる」

 

 そう言って俺がうなずくのを確認してからすぐに兄さんは上に飛ぶ。()()()()がその場に残ると同時に今度は鬼の形相でクズ教師がアリーナのバリアに横一線を叩き込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 ISは本当に便利だ。後ろを向かなくても見ることができるのだから。いきなり横一線の不意打ちを躱して奴と対面する。というか、一体何にキレてんだ?

 

「貴様!一春に何をした!それと、どういうことだその姿は!!」

 

 そういうことか。クズ(一春)をビビらせただけが?一夏達に何か嫌味を言っていたようだし。それにどういうことだと言われても、これが新たな力、もといスクーロの力を十全に発揮した姿なのだけれど。正確には・・・

 

「これがコイツの形態変化の本当の姿・・・いや、『第二形態変化《セカンドチェンジ》』ですよ」

「何だと!?」

 

 奴が信じられないと言わんとばかりの睨みを利かせてくる。かく言う俺も半信半疑だったんだけどな。まさか形態変化にもう一段階先があるなんて思いもしなかった。

 あの世界(精神世界)から戻ったときに第二形態変化のやり方が頭に入ってきて、実行しただけのこと。第一形態変化との違いや使える武装、そしてこの状態でしかできない単一能力やそのデメリットなどもインプットされている

 

「ふ、ふざけるな!!そんな変形を聞いたことがない!!さては不正に改造したな!?束のところにいる間に!!」

「なら、この試合が終わった後検査しましょうか?理事長と中立の整備士の下で。言っておきますが、あなたの傘下にいる奴には触らせませんよ」

 

 いつも通り暴論でISを奪いに来ると思ったのでしっかりと正論をかます。というか、今試験中なのを忘れていないか?俺に時間を与えていいのかよ

 ならその猶予をしっかりと活用させてもらおうではないか

 

「ハア゛ッ゛!!」

 

 威嚇するような叫び声をあげて翼を大きく広げて前に突きだし、10枚の羽を空中に浮遊させる。これでビビらないのは流石腐ってもブリュンヒルデ。でも、これで単一能力の準備ができた

 

「何だ?今更目くらましか?それともそれが新たな能力か?随分とどうしようもない・・・」

 

 突然の()()()()()()()に発言を中止するクズ教師。暴走していた時と同じように羽からレーザーを発射し、それが命中したのだ。前にいる俺とその浮遊物に気を張っていて、後ろにひそめていた一枚の羽には意識を向けなかったのだろう

 

「後ろからの狙撃に気を付けてくださいね?言い忘れてましたけど」

「貴ッ様・・・!?」

 

 威勢よくこちらに飛び出そうとして、奴は思いとどまった。目の前には10の羽が照準合わせて奴に向いていたのを見て突撃をためらったのだろう。来てくれればハチの巣になっていたのに

 

「それでは、今度はこの包囲網をかいくぐってくださいね」

 

 10もの羽からレーザーの雨を降らしていく。これが今のISの単一能力、『ピューマ』だ。翼から分離した羽がビットに近い機能でレーザーを発射する、イギリスの第三世代の単一能力と似ている性能だ。違いは主にイギリスのが一部オートで動くのに対し、これは一つ一つを完全手動で動かしていることや、数を調節できることだ。ただ、これは外見ではイギリスのと大差なく感じるだろう。今の感じでは。

 クズ教師も最初は小さな被弾を繰り返していたが、この包囲網に慣れてしまう。数分としないうちに紙一重で躱されてしまう

 

「はっ!所詮はイギリスの二番煎じか!種さえわかればこちらのものだ!!」

 

 そして一瞬のスキから瞬間加速で俺の懐に潜りこもうとしてくる。下からの切り上げか。奴はイギリスのブルー・ティアーズの模造品だと思っているのだろう。操縦者が動けないと、都合のいいように考えているから大きな隙を見せている

 

 甘いんだよ

 

「なっ!?」

 

 奴の渾身の切り上げに対し、左翼にSEを分配して左下半身を覆う。左からの斬撃をいなすと、無防備になった胴に回し蹴りを叩き込む。俺が動けると思っていなかったらしく、驚きの声を上げるしかクズ教師は出来なかった。蹴りが見事に決まり大きく吹っ飛ばす。追撃の準備もぬかりない

 

「ぐああっ!!」

 

 吹っ飛ばされると今度はレーザーの餌食になるクズ教師。奴が包囲網をかいくぐって悠長に力をためている間に、奴を吹っ飛ばすであろう位置にあらかじめ羽を設置しておいたのだ。微調整の手間もあったが、それでも全て命中したのは良い。これでかなりSEを削った。

 ここまでならこちらが有利のように思えるだろう

 

「くっ・・・」

 

 予想以上の疲労に追撃ができず、思わず苦悶の声が漏れてしまう。実はこの形態ではSEの消費が大きいのだ。レーザーの出力の一部をSEが賄っており、先ほど翼の変形にもSEを使っている。それだけではない。10近くある羽は全て手動で動かしているため、脳をフル回転させている。イギリスのビットはある程度ISに任せているのに対し、こちらはそんな補助が一切ない。新たに生えた10本近くの手を動かしているようで、知恵熱出てもおかしくないレベルだ。こちらのSEも体力も奴のSEと同じくらい限界だ

 

 次で最後の一撃、そうしなければ体が持たない。

 

 だがどうする?こちらから仕掛けるのは分が悪い。羽を散布させておき、向こうから仕掛けてもらうのが得策だ。しかし奴は先に仕掛けてきてくれるか・・・いや、仕掛けてくる。これだけの観衆がいる中で無様な姿を晒し続けているんだ。これ以上そんな姿は見せまいと試合を終わらせてくるはず。何なら一言二言挑発すれば向こうから仕掛けてくれる。

 問題はそれにどう対応するか。確実に奴のSEを削るには・・・これが今できる限界か。勝利条件を思い出し、その条件にしてくれた十蔵さんに感謝をする。後は、持っている中で一番頑丈な剣を左手に持ち、体勢を立て直すのを待つ

 

「貴様、よくもここまで私をコケにしてくれたな・・・!」

「いや、これ試験ですよね?ブリュンヒルデであろうあんたがまさか本気で戦っていたとなれば、さぞ観衆はがっかりするでしょうね。かのブリュンヒルデは一学生に負けるほど衰えた、と」

「殺す!!()ねえっ!!!」

 

 ギリギリと歯ぎしりしたかと思うと、俺の挑発にキレるクズ教師。すぐに来れないように羽のレーザーで包囲しけん制しながら自身の周りにも羽を散布する。後はこの包囲網を破ったときにどう来るか・・・

 

「これで!終わりだァ!!」

 

 突破して瞬間加速され、奴とゼロ距離になる。かすかに見えたのは奴が得意とする上段からの袈裟斬り。瞬時に反応して右手で持っている剣の先を持ち、奴の攻撃を敢えて受け止める。今までほとんどの攻撃を受け流してきたため、ここで受け止めに来るのは想定外だったようだ。受け流された後の二撃目を潰され、一瞬だけ奴は動揺したのと同時に俺の周りに散布した羽からレーザー攻撃を命令する。これはもう躱すことはできない。零落白夜を発動していないからレーザーを無効化することもできない!チェックメイト!!

 

 だが

 

「うらららああ!!」

 

 躱し切れないと判断したのか、本能で察したのか、奴は剣に力を増してきた。まさか、この剣ごと叩き切るつもりか!?この土壇場で防御を捨てて試合を決めに来るのかよ!

 その考え空しく数刻でこちらの剣が砕け散り、無防備な体を晒してしまう

 

 奴の剣と俺のレーザーがそれぞれの体にたどり着いたのは同時だった




 今回没にしたこと
・第二形態変化で一人称が「我」になる

 ずっと考えていたのですが形態変化のコンセプト的に反するため無しにしました

 4月からより忙しくなるので更新頻度が落ちますが、気長に待っていてください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話 光あるところに

 

 自分はとっさに羽を体に纏うよりも先に斬られ、SEが底をついてしまう。それと同時に奴に10近くのレーザーが直撃し、爆発する。斬られた衝撃で吹っ飛ばされたため、爆風に巻き込まれることは無かったが、勢いよく地面を転がってしまう。何とかアリーナの壁に突っ込む前に止まることができた。立ち上がると同時に、奴のISも地面に着地しているのを見たからSEが尽きたのだと思う。

 問題はどちらが先にSEが尽きたかなのだが・・・無人のアナウンスが流れてこない。どちらもSEは尽きているはずなのに。未だにアナウンスが流れないのが不気味だ

 

「私だ・・・!私が勝っているに違いない!」

 

 これまでの経験からなのか、それともただの見栄なのか奴は叫ぶ。本心を言うと僅かに自分の方が不利かと思う。とはいえ、今回でトラウマは完全に無くなったのは大きい。悪化してしまうかもしれなかったが、この戦闘は大いに価値があった。負けたとしたら仕方ない。その時は補習に付き合ってやる。

 でも、もし・・・

 

『試合終了』

 

 と、機械のアナウンスが流れる。さあ、どうなるか。

 

『只今の試合の結果についてお知らせします』

 

 ん?いつもだったら勝者のアナウンスが流れるだけなのに。何か織斑派が細工を?

 

 

 

『スクーロ・ソーレ並びに打鉄は同時にSEエンプティ。よってこの試合は両者引き分け』

 

 引き分け。それを聞くと同時に会場が沸く。興奮3割、驚きが4割、そして悲鳴が3割。悲鳴はおそらく女尊男卑の連中だろう。ブリュンヒルデの圧勝劇を期待していたのに蓋を開けたら引き分けとなってしまい、最強神話が崩れ去ったことによるものだろう。しかも男に引き分けたというのが信じられないのだろう

 

 充分すぎる結果だ

 

「違う!!私の剣が奴に早く届いていた!!訂正を要求する!!」

 

 クズ教師も信じられないとばかりに抗議をほざく。奴も引き分けると思わなかったのだろう。アナウンスに食い下がろうとする姿があまりにも醜い

 

「故障だ!判定の機械が故障しているに違いない!!直ちに・・・」

「そんなわけないじゃないですか。受け入れましょうや、この結果を」

 

 確かに判定のシステムのみ変になっているのは否定できない。が、コイツの狙いは多分違う

 

「納得できるか!引き分けなどあり得るか!!確認を・・・」

()()確認するんです?」

「何?」

「まさかとは思いますが、あなたの息がかかっている人間に任せようだなんて考えてませんよね?」

 

 わずかに顔をしかめるクズ教師。コイツ、自分が勝ちだと判定するように細工するつもりだったな?この短時間で頭が働いたのは拍手ものだが、舐めんな

 

「公正のために虚先輩に頼みましょう。あの先輩なら機械に強いですし、故障かすぐ分かるでしょう?文句ないですよね?」

「・・・」

「何故黙るんです?何か問題でも?」

 

 こっちは見透かしているんだと圧をかける。これ以上ゴネても無理だと悟ったのか、今度は第二の矢を放ってきた

 

「それなら再戦だ!引き分けたのだからまだ勝敗がついていない!今すぐに再戦だ!!」

 

 背を向けて颯爽とピットに戻ろうとするクズ教師。それにしても何を言っているのか。()()()()()()()()()()

 

「織斑先生、つかぬ事を聞きますがこの試験の合格内容をご存じでないのですか?」

「は?私に勝つのが試験の内容だろう?」

 

 コイツ、全く理解してないな。わざわざ理事長が交渉に交渉を重ねてこの条件にしたのかを

 

「正確には『あんたとの戦闘で負けない』ことですよね?」

「何を言っている。それと私に勝つのは同じことだろう。文句あるのか?」

「大ありですね」

 

 奴の足が止まる。いちゃもんを付けられたと思っているのだろう。鬼のような形相でこちらを睨んでくるが、お前が間違えているんだよ

 

「合格条件は『負けない』ことであって、あなたに勝つことではないということです」

「だから何が言いたい!」

 

 脳みそあるのか?そう言いかけてやめる。奴は生身でもISブレードを振り回せる化物だ。SEが尽きたISを纏っていても攻撃をすることができるだろう。自分にはそんな馬鹿力は無いし、今攻撃されたら躱すことはできない。

 

「分かりやすく言うなら、この試合の合格条件はあなたに勝つ、もしくは()()()()()ことではありませんか?」

「はあ!?」

「だってそうでしょう?『負けない』ことが条件ならば、引き分けも合格、ではありませんか?」

 

 実のことを言うと今回は勝ちに行くというより、負けるリスクをできるだけ減らして戦っていた。奴の攻撃を極力避け、カウンターや不意打ち中心で負けないよう立ち回り、あわよくば引き分けを狙っていた。もちろん勝つことを意識してはいたが、理事長はこの可能性も考えていたのだろう。わざわざ『負けない』を条件にしたのだから。

 

「貴様、そんな屁理屈が通用するとでも!?」

 

 問題はコイツをどうにかしなければ。何かいい手はないか考えていると

 

『あーあー、マイクテスト。聞こえてる~?』

 

 突然楯無さんの声がアリーナに響き渡り、生徒がざわめく。その後に男の声がアリーナに響く

 

『皆さん、突然失礼します。学園長の轡木です』

「なっ!?」

 

 この声は十蔵さんだ。わざわざ見てくれていたのか、まさかこの展開を見越していたのか?

 

『今の試合は機械の判定が故障したわけではなく、完全な引き分けです。そして今回遠藤雪広君の試験内容は、戦闘で負けないこと。これはI()S()()()()()()()()()()()()決めました』

 

 そうですよねIS委員会の皆さん、とアナウンスで十蔵さんは言う。そう言うということは奴ら、ここにいるのか?・・・うん、考えられる。自分が負ける姿を実際に見て、何かと文句を言わんとする姿が見える。

 それはそうと、十蔵さんは言葉を続ける

 

『そして、今の試合は引き分け。これは負けていませんね。それならば試験は合格で良いでしょう』

「で、ですが理事長!引き分けというあいまいな結果で終わらすのも如何なものかと!」

『織斑先生、これは生徒の技量を見定める試合ですよ。それに、ブリュンヒルデのあなたに引き分けた彼に技量が無いわけないじゃないですか』

 

 言いたいことを言ってくれる十蔵さん、マジ有能。あとで菓子折りでも渡そう。クズ教師も正論を言う十蔵さんには強く言い出せないらしく、何も言い返さずに沈黙を貫く。

 形勢逆転。今度は自分が憎らしい笑顔でクズ教師に合否を問いかける。この場で本人の口から言ってもらわないとねえ?

 

「で、織斑先生。試験は合格ですか?」

「グッ・・・」

 

 かなり歯噛みするクズ教師。だが学園長の意見に観念したようだ

 

「え、遠藤雪広の試験は・・・合格、とする・・・!」

 

 とても悔しそうに合格を告げると同時に観客は静寂を破る。そんな中、自分は一夏達にお礼を言おうとして皆がいた所を向いたが、もぬけの殻だった。多分ピットの方に向かっているのだろう。それなら早くピットに戻って喜びを分かち合おう。歓声と悲鳴が充満するアリーナを背にする。

 

 はぁ・・・よかっ・・・た

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼、やりましたね」

「せめてと思っていましたが、これなら楯無さんにも追いつくのでは?」

「あんまし否定できないですね。いつの日かこの座(生徒会長)も奪われてしまいそうですね」

 

 私は理事長とともに管制室を後にし、ある場所に向かっている。雪広君は織斑先生に対して引き分ける結果を出した。今度は私が動く番だ

 目的の場所に近づくのに比例するかのように怒号がはっきりと聞こえてくる。

 

「学園長、何かあったらマズいので私が先に入ります」

「分かりました。よろしくお願いします」

 

 私なら専用機のISがあるので、何かあってもすぐに展開して盾となることができる。それを鑑みたうえで私がピットの扉を開く

 

「貴様らの整備であの男に引き分けることになったのだ!!どう責任を取ってもらおうかあ!?」

「で、ですが整備は完全でした・・・」

「私が引き分けた時点でおかしいんだ!!何のために貴様らがいるんだと思っている!!」

 

 かなり荒れているわね。勝てなかったことに相当苛立っているようでIS委員会の人たちに当たり散らしている。すると織斑先生が私と学園長に気づき、一旦怒りの矛を私に向けてきた

 

「なんだ、楯無?今は取り込み中だ。出て行ってもらおう」

「いえ、私は主にそこにいるIS委員会の方々に用があるのです」

 

 何だと、と織斑先生だけでなくIS委員会の人も反応する。私だって今日まで何もしていなかったわけじゃない。ただ上からの圧力に屈していたわけではないのだ

 

「IS委員会の方々、あなたたちとその上層部がこれまでにもみ消してきた犯罪行為をすべて公にしたわ。ああ、今からあがいてももう遅いわよ。既に校門前に警察が待っているから」

 

 束さんの依頼によって暗部としてIS委員会の情報を集めていたが、埃が出るわ出るわ。IS委員会であり、女性権利団体の幹部であるのをいいことに、男性への強盗や恐喝、果てには殺人まで無かったことにしようと圧をかけていたのだ。とんでもない犯罪者集団だと分かって笑うしかなかったわ。よくもまあ、ここまで野放しにしていたのだと

 それも今日で終わり。しっかりと法の下で裁かれてもらおう

 

「う、嘘よ!そんなこと!」

「ちなみにだけど、もう上層部は捕まっているわ。それと何か問題を起こすようなそぶりを見せたらISを展開していいと許可は下りてるわ。あまり抵抗しないのをおススメするけど?」

 

 牽制に右手だけISを展開する。しかしそれだけで委員会のある人は降参したかのように膝をつき、ある人は泣き崩れる。悪人だから何も感じないけど

 

「話は済んだか?ならば更識、さっさとこいつらをつまみ出せ」

 

 吐き捨てるように言い、委員会の人たちを見下している織斑先生。あたかも無関係だと言わんばかりの雰囲気を出しているけど、あなたにも影響はあるのよ?

 

「織斑先生にも少なからず関係がありますよ」

「・・・何?」

「臨海学校の件ですよ。その処罰は委員会の人たちが勝手に決めたことだけど、今回の件でその処罰の権限は学園長に渡ったわ」

 

 数刻だけ呆然としていたが、私の話した内容に気づいて織斑先生はハッとする。今度は学園長が前に出る

 

「織斑先生、あなた方が福音における雪広君への行いを忘れたとは言わせませんよ?貴方たちへの処罰は追って伝えます。それまでは自宅待機です。弟さんも」

「で、ですが処分の内容は委員会の連中が既に決めたことで・・・」

「彼らにはその権限は既にありません。私が改めて判断します」

「そ、それはあまりにも!」

「織斑先生、これは命令です。貴方の異論は一切認めません」

 

 有無を言わさないほど学園長が圧をかける。織斑先生はIS委員会の目を気にしたのか、それとも学園長の言葉には逆らえないのか、何も言わずに歯を食いしばってピットから出る。これでやっと彼らに正式な罰を与えられるわね。これなら雪広君も納得するでしょ

 

「では楯無さん、彼らをお願いしますね」

 

 さて、私はこの連中を校門の外に連れ出さないと。画竜点睛を欠かないように、仕事を最後までキッチリとしなきゃね。

 

 でも一人でこの人数を運ぶのは大変だから、虚ちゃんを呼ぼうっと

 

 

 

 

 

 

 雪広が待機していたピット内に一夏達四人はたどり着く。いち早くおめでとうと言うために。急いでその扉を開く。

 そこには、制服姿の雪広が右腕で目を覆いながらベンチに横たわっていた

 

「に、兄さん!?」

「「「雪広!?」」」

 

 扉の一番前にいた一夏が真っ先に気づき、四人は慌てて駆け寄る。先ほどの試合で身体にダメージを負ってしまったのかと彼らに不安がよぎる

 

「皆か。自分は大丈夫だ」

「いや、大丈夫そうには見えないって!」

 

 雪広は右腕を退けて、彼らの方を向いて力なく笑う

 

「ああ、ちょっと頭を使いすぎたようだ。あの単一能力はかなり脳を酷使するようでな・・・今になってガタがきた・・・」

 

 ビットを複数操作するのは一部オートですらかなり脳を酷使する。元イギリス代表候補生は6機が限界だったが、雪広はその倍近くのビットを操作、しかもすべて手動で操作していた。脳を酷使していたのは言うまでもないだろう。試合後すぐはアドレナリンの分泌で分からなかったが、ピットに戻ってしばらく後に疲れが一気に来てしまい、雪広は横たわっていたのだ。

 

「今日は試験が終わった記念に集まりたかったけど、今日は無理かな」

「いいって、今日はゆっくりしよう。皆もそれでいいだろ?」

 

 一夏の言葉に首を縦に振る三人。とはいえ、兄さんが起き上がれるようになるまで待っているのもどうかと思っているとシャルロットと簪が前に出る

 

「なら部屋まで僕たちが運ぶよ。二人で肩貸してあげる」

「そうそう。私たちがやってあげる!」

「いや、だったら俺が・・・」

 

 そう言いかけて一夏は気づく。二人の無言の圧力に。ここで出しゃばったらマズいと察し、二人に任せることにした。雪広も二人の申し出に甘えることにし、肩を借りながら帰路に就く。しばらく無言だったが簪が口を開く

 

「雪広」

「どした?」

「本当にヒーローみたいだったよ。絶体絶命の中で新たな力を身に着けてさ。ね?シャルロットもそう思ったでしょ?」

「うん。とってもかっこよかった・・・惚れなおしたって感じ」

「まだ自分を狙っているのかよ」

「まだ諦めてないって言ったはずだけど?」

「私も諦めてないよ~」

「・・・そうかい」

 

 二人の好意になんとなく直視できない雪広は、そっぽを向こうにも左右を固められているためじっと前を見てごまかす

 

「でも、凄かったよ、兄さん。世界最強に引き分けたんだから」

「まあな。勝つのは無理だが、負けないならわずかだけどできるかもと思って作戦を立てて・・・運も味方になったな」

 

 そんな雑談を一夏とも交え、雪広の部屋に進む。窓の外から漏れる夕日が彼らを包んでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしだけ・・・まだ・・・」

 

 そんな中、一人立ち止まった鈴の独り言が虚空に消える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マドカ、大丈夫か!?」

「・・・仕方ない、・・・に行くしかないわ」




 第5章、これにて完結です。

 次章は夏休み編を予定しておりますが、間で関係のないパロディを挟むかもしれません。私の時間と趣で決めるので待ってくれる方は気長に待っていてください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話までの登場人物紹介&機体説明

 追加説明回です


 

 主要登場人物紹介

 

・クロエ・クロニクル

 束がドイツの違法研究所を破壊するときに偶然拾われ、以降束の助手兼家事担当として住み込む。束からの慣れない好意に戸惑いつつも束に心を開くようになった。研究のせいで失明寸前だったが束の治療によって日常生活に支障が出ないほどに回復。また、家事の呑み込みが早く、おかげで束の生活水準が向上した。

 雪広のことを気にしており、立ち直りかけた後も心配をしていた。束の盗撮によって、リアルタイムで期末試験の試合を見ており、完全復活した時は当人の母であるかのように喜んでいた。

 一夏とは雪広を心配する者同士であり、異性とのメル友一号。

 

 

 ・遠藤雪広

 臨海学校の事件がトラウマとなってしまい、ASDとなってしまう。束とクロエの献身もあって、期末試験中にトラウマを克服。さらに機体をさらに進化させた。

 

・遠藤一夏

 臨海学校で生死を彷徨うも復活。そして鈴への思いも固まり、鈴と交際を始める。

 

・凰鈴音

 臨海学校で晴れて一夏と付き合うことに。

 しかし一人だけ形態変化できないことに焦りを抱いており、雪広が第二形態変化できたことでより疎外感・劣等感を抱き始めてしまう

 

 

・更識楯無

 束の依頼により、IS委員会の裏を取るために暗躍。楯無の力を示した。

 最近ろくでもないことを思いついた模様

 

 

 

 

機体の追加情報

 

・スクーロ・ソーレ

 第二形態変化(セカンドチェンジ)

 期末試験で雪広が見せた変化。形態変化とは異なる特徴・単一能力を持つ。基本、形態変化してからでしか第二形態変化することができず、戻ることはできない。

 何故この形態ができたかは現在不明。束も大いに興味を抱いている。

 

 第二形態変化条件

 SEが1/4以下の時にのみ変化可能。

 体が黒に染まった後、黒い球体に包まれてそこからひび割れるようにして現れる。この時も形態変化の変化時と同じく、外部からの攻撃を無効化できる。

 

 

 第二形態変化後の特徴

・機体が漆黒に近いカラーリングになる

・機動力、パワーがさらに上昇し、遠距離武装も使用可能となる

・右目が金に、左目が黒い炎のオーラを纏う(参考: 艦これの敵深海棲艦 戦艦ル級改flagship級)

・背中にエネルギー体の翼が生える

・後述の単一能力により、第二形態変化後は10分が限界

 

 

 第二形態変化後の単一能力

 「piuma(ピューマ)

 翼からビットとなる羽を展開する単一能力。羽からレーザーを出すことができる。ブルー・ティアーズと類似しているが、こちらは全てのビットに対し細かく命令をすることができるため、細かい操作が可能。また、ビットを操作していても当人も動くことができ、無防備にならない。

 欠点はビット操作に膨大な処理能力を求められるため、使用者をかなり選びかつ使用者の脳の負担が大きいこと。搭乗者の雪広自身が頭の回転が速いこともあって、現段階で10程度のビットを同時操作できるものの、10分が限度。期末試験では試合後に反動で動けなくなった。

 限度以上使用すると脳の酷使で目、鼻、耳、口から血が噴き出るらしい。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Coffee break2
pt.2 誰が一番持っている?


 最近ドはまりしたVTuberさんの企画を彼らにやらせました。本編とは一切の関係はありません
 メタネタもあるので苦手な方は見なかったことにしてください



 

 いつもの日常。いつもの放課後。そんな中、雪広・一夏・鈴・簪・シャルの5人は楯無に呼ばれ生徒会室に向かっていた。

 

「にしてもなんだろうな。自分たちを呼ぶなんて」

「何かヤバいことが起きたとか?」

「でもあたしたち皆が予定無くてよかったわね」

「確かに。期末試験もあって大変だったからね」

「・・・」

 

 駄弁りながら歩を進める5人。しかしいつもは饒舌な簪は何か考えているのか、閉口したままだ

 

「どうしたのよ、簪。元気ないわね」

「ううん、そうじゃないよ。なんかお姉ちゃんの碌でもないことに付き合わされる気がして・・・」

「え?そうなの?なんか神妙な顔して今日用事がないか聞きに来たから・・・」

「あの顔は絶っ対くだらないことだよ。自信あるもん」

 

 仲が悪い時があったとはいえほとんどを同じ空間で過ごした姉妹だからこそ、くだらないことをやろうとしていると簪は感じ取っていた。そうこう言っている間に生徒会室に着く。雪広がノックをして扉を開ける

 5人が見たもの、それは机の上の皿にある15個の小さめのシュークリーム。その隣に楯無さんが腕を組んで立っていた。

 

「来たわね!皆!今日は皆にやってもらいたい企画があるのよ」

 

 有無を言わせない畳みかけにはあ、と気の抜けた返事しかできない5人。それでもお構いなしに楯無は続ける

 

「第一回!『誰が持ってるか選手権』!!」

「「「・・・」」」

「いや、誰か盛り上げてよ!!」

「何の説明も無しに言われても」

「あのね、ISに乗っている以上、不運だと困るでしょ?だから運試しが必要だと思ったのよ」

 

 それっぽいことを理由に言いくるめる気満々で楯無は語る。だが、簪が核心に迫る

 

「お姉ちゃん、本当は?」

「M○Mの企画が面白そうだったから皆にやってもらおうと」

「皆、帰ろ~」

「ちょ、ちょっと待って!皆!!」

 

 雪広の一声に生徒会から去ろうとするも、楯無が先回りして必死に説得する

 

「面白そうじゃない?ね?」

「いや、俺たちが悶える姿が見たいだけですよね?」

「僕たちにメリットないし」

「私、ISの整備しよっと」

「今日はアリーナ使えないし、あたしは走ろうかな」

「待って待って!!優勝者には景品があるから」

 

 景品の言葉に反応する数人を見て、楯無は畳みかける

 

「ズバリ、欲しいものを生徒会の予算内で出してあげるわ!」

「・・・どのくらいまでなら出せますか?」

「シンプル1万」

「「「やりましょう」」」

「「待てい!!」」

 

 速攻で許可を出した雪広、簪、シャルに対して一夏と鈴がツッコミを入れる

 

「何兄さん達やる気でいるのさ!」

「いや、せいぜい1時間で1万貰えるかもしれないなら価値あるかなと」

「僕、可愛い服買いたいし」

「ちょっといいフィギュア買えるなって」

「そもそも生徒会の私利私欲に予算で使っちゃダメじゃないですか!」

「鈴ちゃん達が優勝したら最近できた遊園地のペアチケットをあげるわ」

「一夏、やろう」

「そうだな」

 

 一夏達も買収され、やる気になった5人。期末試験が終わったこともあってか浮かれているためにそそのかされたのだろう。それを見て楯無は計画通りと言わんばかりにほくそ笑む

 

「じゃあルール説明ね。シュークリームは15個。うち5個がからし入りよ。順番に食べてって一番当たった、つまり一番からしを引いた人が一番持っているということでその人が優勝よ!」

「5個!?」

「多くないですか!?普通2,3個ですよね?」

「ちなみにそこのバケツは吐く用のだから好きに使ってね」

「吐く前提!?」

「お姉ちゃん、そんなに盛ったの!?」

「ちなみに今のご時世、食べ物を粗末にするのは良くないということで全て虚ちゃんの手作りだから安心してね」

「普通に虚さんのシュークリーム食べたかったよ」

 

 他にも楯無から細かいルール説明を受ける。シュークリームは離れた位置から選択すること、一口で食べること、最後の5個は一斉に食べること、今後の企画のために映像を取ることを伝えられ了承する5人。じゃあ食べる順番を決めてねと言われ、じゃんけんをして順番を決める。順番は

 

 雪広→簪→一夏→鈴→シャル の順となった

 

「それじゃあ誰が持ってる選手権、スタート!!」

 

 

(ここからは分かりやすいように台本形式で行きます)

 

 残り15個中5個当たり

 

雪広「1/3か」

簪「1/3って案外当たるよね」

一夏「兄さん、2/3でもよく外すし」

雪広「いや、じゃんけんだったら『負けない』確率だ。それなら大丈夫だろう!」

シャル「そうだね!期末試験も引き分けたんだし!」

鈴「というか、優勝したくないのね」

雪広「だって当たりがどんだけヤバいか分からないし・・・」

楯無「おねーさん的には引いてほしいんだけどね~」

 

 雪広は一番右のシュークリームを手に取る

 

雪広「いただきます!」(シュークリームを口に入れる)

 

・・・

 

 

 

 

雪広「カハアッ!?!?」(OUT)

皆「アッハハハハww!!」

雪広「ああ!無理!!これ無理ィ!!!」

 

 目を見開き、口を押える雪広に爆笑する一夏たち。雪広は一目散にバケツに向かってからし入りシュークリームを吐く

 

楯無「最初に引くなんて持ってるわね~w」

一夏「兄さん、大丈夫?w」

雪広「あ゛あ゛!!かっら!!待って!かっら!!!」(あまりの辛さに語彙力低下)

楯無「どう?お味は?w」

雪広「辛いって言ってますよね!?理解できます!?」(半ギレ)

簪「こーら、キレないのw」

シャル「勝負に負けたねw」(煽り)

雪広「・・・シャルロット、覚えてろよ」

皆「www」

 

 

 残り14個中4個当たり

 

簪「次は私か・・・あの後に食べるの怖いなあ」

雪広「本当にな」

鈴「でも連続で引くのはなくない?」

簪「・・・うん、そうだね」

 

 簪は真ん中あたりのシュークリームを手に取る

 

簪「いただきます!」(シュークリームを口に入れる)

 

・・・

 

 

 

簪「甘~い♡」(SAFE)

一夏「おお~!」

雪広「引けよ!」

楯無「簪ちゃんになんてこと言うのよ!」(シスコン)

シャル「雪広が攻撃的になってるw」

 

 

 残り13個中4個当たり

 

一夏「待って、緊張してきた」

シャル「ここで当たりを引いて、鈴とデートのペアチケット手に入れるんでしょ?」

一夏「でも兄さんの痴態がなあ」

雪広「うるせえ、さっさと引けや」

 

 手前のシュークリームを手に取る一夏

 

一夏「行きます!」

 

・・・

 

 

 

一夏「セーフ!!」

雪広「つまんねえ男だな!!」(情緒不安定)

 

 

 残り12個中4個当たり

 

鈴「1/3に戻ったのね」

雪広「大丈夫、じゃんけんだったら負けなきゃいい」

一夏「そうだよ!鈴なら引かないって!」

簪・シャル「誰かさんとは違うから!」(雪広を見ながら)

雪広「お前ら、本当に俺のこと好きなんだよな!?」

鈴「はいはい、これにするから」

 

 適当にシュークリームを手にとる

 

鈴「いただきます」

 

・・・

 

 

 

鈴「~♪」(SAFE)

一夏「良かった!!」(鈴以上に歓喜)

 

 

 残り11個中4個当たり

 

シャル「じゃあ、これ」(既に手に取っている)

一夏・鈴「早い早い早い」

楯無「もっと悩んで、尺的に」

シャル「当たる時は当たる。それだけさ」(イケメンスマイル)

簪「うわ、かっこよ」

雪広「これで当たったら滑稽だけどなw」

 

シャル「じゃあ、いただきます」

 

・・・

 

 

 

 パン!とシャルは手を一回叩き、

 

シャル「っし!」(SAFE)

皆「おお~!!」

雪広「フラグ立ったと思ったんだがなあ」

 

 

 残り10個中4個当たり

 

雪広「え、待って?40%!?さっきより確率高いじゃん!」

シャル「あれ~雪広ビビってる?」(煽り)

簪「感想欄でも結構臆病って書かれたもんね~」(メタ煽り)

雪広「・・・すぐに行ったるわ!」

一夏「いや、兄さん落ち着け!」

鈴「立ってる!フラグが立ってるわ!」

 

 一夏の制止を振り切ってシュークリームを手に取って口に入れる

 

 

・・・

 

 

 

雪広「セーフ!!」

一夏・鈴「おお~」

シャル「悶える姿が見たかったのに~」

雪広「お前が痴態を晒すんだよ!!」

 

 

 残り9個中4個当たり

 

一夏「簪、(当たりの)数減らしてくれない?」

簪「嫌だよ!あんな痴態晒したくないよ!」

雪広「・・・」(簪に怒りの凝視)

簪「じゃあこっち!」

 

 雪広から目を逸らして選んだシュークリームを口に運ぶ

 

 

・・・

 

 

 

簪「おいしいかも♪」(SAFE)

一夏・鈴「ええ~!?」

シャル「うそ~!?」

 

 

 残り8個中4個当たり

 

雪広「一夏、ここで当たり引かないと鈴が大変なことになるぞ」

簪「半分以上で当たる確率を彼女にやらせるのは無いね」

シャル「彼氏が彼女を守んないとねえ?」

一夏「・・・引いても地獄、引かなくても地獄とはこのことか・・・!」

鈴「大丈夫よ、覚悟はできてるから」

 

 葛藤を抱えながらも一夏はシュークリームを選んで口に入れる

 

 

・・・

 

 

 

一夏「・・・」

鈴「一夏?」

一夏「鈴・・・ごめん」

鈴「え?」

 

 一夏は鈴の肩に手を置いてうなだれる

 

一夏「頑張って」(SAFE)

 

鈴「えええ!?」

雪広「ハハハw」

楯無「一夏君ひど~いw」

シャル「サイテーw」

簪「それが彼氏のすることかよ!」(煽り)

 

 

 残り7個中4個当たり

 

鈴「違うゲームになったわ・・・」

雪広「いや、ゲームは変わってねえよ。確率が高いだけ」

一夏「うるせえ、正論厨が」(半ギレ)

簪「怖w」

鈴「・・・決めたわ!これよ!いくわ!」

 

 凝視してシュークリームを選び口に入れようと・・・

 

鈴「ハア・・・ハア・・・ハア・・・!」

シャル「いや、なんで持った時から呼吸が荒いのw」

鈴「そ、そんなことないわ!」

 

 決心して口に入れる

 

 

・・・

 

 

 

 

鈴「~~~~~!?」

 

 口を押えてぴょんぴょんし始める鈴

 

簪・一夏・シャル「え?」

雪広・楯無「あっ」(察した)

 

鈴「(ふぁら)い・・・」(OUT)

雪広たち「フフフッww」

一夏「ほら、ごみ箱!これに吐いて!」

鈴「ップエ・・・」

 

 一夏が持つゴミ箱に口の中の物を吐き出す鈴

 

楯無「どうだった?」

鈴「(シュークリームを)持った時に・・・嫌な予感はしてました・・・」

雪広「ようこそ、こちら側へ」

シャル「入りたくなw」

 

 

 残り6個中3個当たり

 

シャル「うわー、半々か。じゃあこれ」

簪「早いね~」

雪広「早○は好かれんぞ~」

一夏・鈴「・・・」

 

 無言で雪広に蹴りを入れる二人

 

雪広「二人とも、黙って蹴りを入れないで」

シャル・簪「www」

 

シャル「悩んでも仕方ないし、これで行くね」

 

 一段落着いたところでシャルはシュークリームを口に入れる

 

 

・・・

 

 

 

 

シャル「!!」(口を押えうろうろする)

 

 ゴミ箱に行こうとするシャルの顔を雪広は掴み、吐きに行かせないようにする

 

雪広「どうしたどうしたw」

シャル「ンン~~~!!」(顔を掴まれてジタバタ)

皆「www」

 

 拘束がほどかれるとゴミ箱に直行して吐く

 

シャル「ケヘッ、ケハッ・・・」

一夏「鬼畜じゃねーかww」

鈴「(吐きに)行かせてやりなさいよw」

雪広「さっきのお返しだよw」

楯無「ひっどww」

簪「ドSww」

 

 

 残り5個中2個当たり

 

楯無「それじゃあ、最後は一斉にいってね!」

一夏「まだ引いてないのは俺と簪か」

雪広「優勝しなくていいからこいつらに食べさせてぇ~」

鈴「もうからしを口に入れたくない」

シャル「ほんとそれ」

簪「でもどうせだったら優勝したくない?お三方?」

雪広・鈴・シャル「絶対イヤ」

 

 各々がシュークリームを手に持つ

 

雪広「せーの!」

 

・・・

 

 

 

「「「・・・」」」

楯無「・・・あれ?」

 

 

 

 

雪広「ンブフゥ!!」(膝から崩れ落ちる)

鈴「ンンン~~!?」(崩れ落ちて四つん這いになる)

シャル・簪・楯無「アッハハハww!!」

 

 雪広・鈴 OUT

 

雪広・鈴「オ゛ア゛ア゛~~~!!!」(悶絶)

楯無「ああ~愉悦~~」(畜生)

一夏「ほら、バケツ!」(健気)

 

 一夏がバケツを二人に近づけるが、ここで問題が発生。このバケツ、一人分しか吐くスペースが無いのだ

 

雪広「アウ゛アウ゛アウ゛~~!!(鈴、早く!)」

鈴「ップエッヘ、エウヘッ・・・!(待って、まだ口にあるの!)」

一夏達「ハハハハww!!」

 

 一刻も早くからしを出したい雪広。しかし鈴がバケツを持って吐いているため、吐くことができずバケツを奪おうとし、それを阻止しながら吐く鈴。

 そんな二人が可笑しすぎて笑いが止まらない四人だった

 

 

 

楯無「ということで、一夏君と簪ちゃんが0回、シャルロットちゃんが1回、雪広君と鈴ちゃんが2回ということで、優勝は雪広君と鈴ちゃん!!」

一夏・簪・シャル「おめでと~!!」

楯無「いや~持ってるわね~。どう?優勝して?」

 

 

雪広「」(屍)

鈴「クハアッ///」(吐息)

シャル「待って、なんで色っぽいの?w」

簪「女の子座りだから余計にw」

一夏「///」

楯無「ああ~おもしろw」

 

 

楯無「というわけで第一回、『誰が持ってる選手権』終わり!面白かったから次回もまた企画しようっと♪」

 

雪広・鈴「絶対やりません!!」

 

 

 

 

一夏「ところでこの話を読んでくれた読者っているのだろうか?」

簪「読んでくれているんじゃない?ネタだけど」

シャル「そもそもここまで見てたら読んでくれてるでしょ」

一夏「それもそうだな」

 




 2日前に二周年を迎えた推しのVtuber、そのオマージュが作れて満足。
 ロシアンシューは映像で見た方が何倍も面白いし、文では限界があるなと実感しましたが、それでも書きたいと思ったし、書きたいことをかけるのが二次創作の強みですね

 本当はもう一巡(本家では中身はワサビ)する予定でしたが、尺的にカットしました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6章 夏、その前に
第43話 二転三転


 お久しぶりです。待っていた皆さん、お待たせしました。ただ今院試に向けて猛勉強の最中です
 それでは新章突入です


「・・・スコール、本当に匿ってもらえるのか?」

「かもじゃない、するのよ。わたしはどうなってもいいから・・・」

「くさいこと言うなよ。俺だってスコールに助けられたんだ。あんたについていくぜ」

「・・・ありがとう、そろそろよ!」

 

 

 

 

 

 期末試験も無事に終わり、あと数日で夏休み。兄さんも復活したし、奴ら(織斑姉弟)にも制裁が入ったし、何も文句なし。篠ノ之も欠席するようになったがそんなことはどうでもいい。奴らの顔を見ない日々が続き、なんか気分も晴れやかだ。やっぱり視界に入っているだけでストレスを感じていたのだと知ったよ。

 今日最後の授業が終わり、教科書をカバンに詰めているとのほほんさんが俺たちに話しかけてきた

 

「ねえねえ、いっちー達は夏休み予定あるの~?」

「俺たちは・・・特にないな」

「しいて言えば盆は東京に行くけど、それ以外はないな。のほほんさんは?」

「わたしは簪ちゃんと実家に戻るつもり~。でも簪ちゃんは代表候補生の合宿で最初の方はいないの~」

 

 日本の代表候補生は夏休みの前半に育成を目的とした合宿があるとのこと。これは日本に限らず各国でも行われているようで、鈴も中国であるとのこと

 

「ということはデュッチ~も?」

「そうだね、夏休み前半は合宿兼企業でデータを取りのためにフランスに戻るよ」

「なるほどね。アルベールさんは元気?」

「元気も元気。社員と一緒にバリバリ働いてるって写真付きで連絡が来るくらい」

「そりゃ社員も付いてくるわけだ」

 

 たわいもない会話をしながら、予約したアリーナで模擬戦をやろうと廊下を出ようとして

 

『専用機持ちの生徒の皆さん、大至急生徒会室へ。繰り返す、専用機持ちの生徒の皆さん、至急生徒会室へ』

 

 突然の楯無さんからの放送。いつもだったらもっとフランクに呼び出すのだが、そんな雰囲気は一切ない。つまり緊急性の問題が発生したのだとわかる

 

「呼び出されたし・・・行くか」

「丁度いい実践になるかもね」

 

 兄さんもシャルロットも察したようで気を引き締める。廊下を出て鈴と簪と合流し、小走りに生徒会室に向かった

 

 

 

 

 

 

「こちらに所属不明のISが二機向かってきているわ」

 

 俺たち専用機持ちのメンバーと二年生のフォルテ・サファイア先輩、三年生のダリル・ケイシー先輩が集まってからの楯無さんの開口一番がそれだった。所属不明のISという言葉からクラス対抗戦の記憶がよみがえる。

 どうやらフィリピン海からいきなりこちらに向かってくるISを探知したとのこと。接近を許してしまったのはステルス装甲をしていたからだそうで、余計にあの時のゴーレムを思い出す

 

「時間が限られているから手短に言うわ。専用機を持つ私たち総出で本土上陸の前に所属不明のISの迎撃、もしくは無力化を図るわ」

「ですが、万一自分たちの包囲を突破され、IS学園に侵入された場合どうします?」

「そこは教師陣に任せるわ。大丈夫、編成はこちらですでに組んでいるから。それに万一に備えて生徒はみんなシェルターに避難しているわ」

 

 クラス対抗戦の時みたいなことにならないわ、と楯無さんは力強く言う。これ以上の説明は時間を節約するため、移動中に細かい作戦を伝えるとのこと。急いで俺たちは出撃準備に取り掛かり、迎撃地点に向かう。

 今回は楯無さんとダリル先輩が前衛で二機のISを食い止め、俺、鈴、簪、シャルロットは増援を警戒しつつそのフォローに回ることとなった。またこれが囮の可能性もあるため、迎撃地点をできる限り本土に近づけている。そして本土奇襲に対応できるよう、フォルテ先輩と兄さんが本土よりに待機している

 

 ただ、二つ気になる点がある。一つはISの移動の割にはかなり遅いことだ。ISの基礎はだいぶ学んできたから、どの程度の速度ならエネルギーをほぼ消費しないで良いか分かるが、その速度と比べても圧倒的に遅すぎる。迎撃地点に間に合うかギリギリだと思っていたが、二機のISは未だに来ない。

二つ目はステルスを維持しなかったことだ。あの時のゴーレムはアリーナに乱入するときまで探知できなかったのに対し、今回は途中でステルスを切ったような感じだった。まるで()()()()()()()()()()()()。敵のISの不調かとも思ったが、そんな状態でこちらに来る理由も見当たらない。

 

 この疑問は今解決できるものではない。まずはそのISを捕まえることが先決だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えたわよ!戦闘準備!!」

 

 先頭の楯無先輩が二機のISを確認すると同時に号令をかける。場合によってはここを強引に突破してくる可能性もあったため、ここは通さまいと俺たちは各自警戒を強めた。

 すると二機のISも楯無たちを発見し警戒し始めたのか、だんだんと速度を下げていく。

 だが

 

「ん?」

「両手を挙げている?」

「・・・!」

 

 二機のうち蜘蛛のようなISが両手を上げ、あたかも降伏をするかのような素振りを見せている?もう一機は何かを抱えているかのようだが、金色の機体のせいで何を持っているかは確認できない。それとその機体を全員が目視できるようになったとき、なぜかダリル先輩が驚いたような気がしたが・・・気のせいか?

 二機のISは声が届く範囲まで近づくと制止する。蜘蛛のようなISから人の腕が見えるから、無人機ではなさそうだ。どうするかを考えていると向こうから話しかけてきた

 

「お前たちは?」

「名乗るほどでもないけど・・・IS学園の生徒会長、ってとこかな?」

「そうか・・・IS学園の生徒たちか。なら話が早い」

 

 こいつ、俺たちが目的なのか!?余計に警戒を高めていると・・・

 

 

「こいつを救ってくれ!頼む!!」

 

「「「は?」」」

 

 いったい何を、と思っていると金の機体の中から女の子が見える。確かに顔が赤くかなり弱っているよう。しかし、その少女の顔を見て俺たち全員が絶句する

 

「織斑・・・千冬!?」

 

 シャルロットが代表するかのように声を絞り出す。ISに抱えられていた少女が憎き織斑千冬を幼くした姿にそっくりだったのだ。まるで双子の妹であるかのよう。だが、迫害されていた時に妹がいたという記憶はない。

 何も言えなくなる俺たちの前に楯無さんは立ち、警戒を強める

 

「はいそうですか、って言うと思う?貴方たち所属不明のISの仲間かもしれない人を助けるような慈善活動家じゃないわよ、IS学園は」

「それは分かっている!けれども!」

「楯無さんの言う通り、自分も反対です」

 

 すると後方にいた兄さんがオープンチャネルで意見を述べる

 

「素性も分からない、顔も分からない、所属不明のISを纏う奴らの言葉など信用する価値もありません。ここで自分たちの足止めをする可能性も否めなくはありませんし」

「・・・そうね。確かに何も情報を出さずにこちらの意見を通すなんておこがましかったわね」

 

 金のISの操縦者がそう言って蜘蛛のIS操縦者とアイコンタクトをする動作を見せた後、二人はバイザーだけを解除する。この二人は織斑千冬と全く似ていない。先の少女の件でこいつらも同じような顔だったらという不安はひとまず解消された。

 

「私はスコール・ミューゼルよ。亡国企業に所属していた・・・テロリストよ」

「俺はオータムだ。でこいつがマドカ。所属は二人ともスコールと同じだ」

 

 亡国企業にテロリスト、この言葉で俺たちは警戒レベルを引き上げる。だが、ダリル先輩は驚いているよう。楯無先輩はいぶかしげにテロリストに問いかける

 

「何?まるで今は所属していないような言い方ね」

「まあ、そのようなものよ」

「だからといって、それを私たちが信用すると思う?」

「なら私たちの知っている情報を出すわ。亡国企業の内部情報もすべて。だから・・・この子を救ってください」

 

 マドカを抱えたまま深々と頭を下げるスコールとオータム。はっきり言って元であろうとテロリストの言葉を信用できるかと言えば、ノーだ。でも腕の中にいる少女は苦しそうだしどうしたものか・・・

 そう考えて改めてオータムの方を見る

 

「ん?」

 

 どこかで見たような顔だ・・・。オータムと名乗った女に見覚えがあるが、気のせいか?そう思っていると鈴からプライベートチャネルが来る

 

『ねえ一夏、オータムって女に見覚えない?』

『鈴もか?俺もそうなんだ』

 

 鈴も見たことのあるってことは、二人でいた時に会ったのか?ここ最近は学校にいたから外部の人と会うわけ無いし、その前に鈴と二人で外に出たのは・・・臨海学校前に水着を買いに行って・・・

 

「はっ!?」

「ど、どうしたのさ?」

「何かあった?」

 

 記憶が繋がって思わず声を出す。それにシャルロットと簪が驚かせたのは申し訳ないが、その前に答え合わせを優先させるためにオータムと名乗った女に質問をする

 

「あの、もしかしてですが以前お会いしました?」

「は?」

「女尊男卑の女に絡まれた時、助けてくれましたよね?」

 

 最初は向こうも首をかしげていたが、

 

「ああ!水着売り場で絡まれていた!」

「そうです!殴りかかってきた女を止めてくれて!」

「んで俺が奴の頭掴んで地面にたたきつけて」

「そうそう!」

 

 あの時の記憶が鮮明に浮かび上がる。すると鈴も俺たちの会話で思い出したようで、「あの時の!」と反応する。まさか助けてもらった女性とこんなところで再会するなんて・・・まるでラブコメ漫画だな。状況的にラブコメ皆無だし、何より鈴一筋だから関係ないけど。

 

「一夏君、その女と会ったことあるの?」

「オータム、あなた彼とどんな関係よ?」

 

 蚊帳の外になっていた皆にお互い端的に説明をする。この場の空気が少しだけほぐれた感じがする。

 改めて今の状況を確認する。スコールさんに抱えられている織斑千冬似の少女を助けてほしいということ、でもオータムさん達はテロリストであること。普通だったら裏があると警戒すべきで、突き放すべきなのだろう。だけど・・・

 

「楯無さん、こんなことを言うのは間違っているかもしれませんが、彼女たちを信用してもよろしいと思うんです」

「でもね、一夏君彼女たちがどういう人かわかってる?」

「分かっています。でも、俺は彼女が悪い人間だと思えないんです」

 

 すると兄さんが銃をオータムさんに向けながら俺に語りかけてきた。

 

「自分は反対だ。オータムってやつが一夏に接触するために近づいたと思えるし」

「でも助けてくれたとき、そんな風には見えなかった!」

「そう演じていた可能性だって否めない。そうは思わないか」

「・・・」

 

 兄さんの言い分ももっともだ。あの時の出会いだって仕組まれていたかもしれない。俺に接触する理由だったのかもしれない。相手はテロリストなのだから、簡単に信用してはいけないということも。それでも、さっきお互いの記憶を確認したときの態度や感情が偽りだと俺は思えなかった。

 また沈黙が流れる。それと共に少女が苦しそうに呻く声がより伝わってくる。どうしたら・・・

 

「楯無、俺からも頼む。彼女たちを信じてくれないか」

 

 ダリル先輩が意を決したかのように俺側の意見を述べた。でも何故?ダリル先輩が彼女たちを庇う理由が見つからない。当然ながら楯無先輩は当然ダリル先輩を怪しんでいるような雰囲気でどう判断するか悩んでいるよう

 三度の沈黙。楯無先輩はちらりと苦しんでいる少女を見て、意向を決定した

 

 

「わかったわ。その子を保護しましょう。ただし、貴方たちは拘束させてもらうわ」

「異論は無いわ。ねえ、オータム?」

「もちろんだ」

 

 流石にオータムさん達を完全に信じているわけではないけど、楯無さんの決断に安堵する。反対に兄さんは不服そうだが、仕方ないという感じだ。

 だが

 

「ダリル先輩、貴方も拘束させてもらうわ」

「・・・は?」

 

 楯無さんの予想外の言葉に俺含めた全員が固まる。そして真っ先にフォルテ先輩が噛みついた

 

「な、なんでッスか!どうして先輩を拘束するッスか!」

 

 それはそうだ。何故ダリル先輩も拘束するのか。オータムさん達を庇うという理由なら俺も拘束されてもおかしくない。それにこちらの戦力を削ぐような行為でもある。楯無さんの意図が読めない。

 しかし、ダリル先輩本人が前に出てそれを制する

 

「楯無・・・分かっていたのか」

「私を、楯無を舐めてもらっちゃ困るわ」

「そうか。受け入れよう」

「物分かりが良くて助かるわ」

 

 なぜなんだ?自身の発言の責任からなのか?鈴たちも楯無さんやダリル先輩の意図がわからない感じで3人を拘束し、少女は楯無さんが抱えていく。

 誰もが納得しない中、俺たちは彼女たちを見張りながらIS学園に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園に到着した後、保護した少女を楯無とダリルが治療室に搬送し、残る彼らはIS学園の地下にある会議室に入った。手錠をかけられたオータムとスコールの後ろにISを部分展開した雪広・シャルロット・簪が立って二人を警戒し、向かいに一夏・鈴・フォルテ、そして轡木理事長も座って、全員が楯無を待つ。

 

「ごめんなさいね、少し遅れたわ」

 

 ノックをした後、楯無とスコールと同じく手錠をかけられたダリルが入室。部屋の空気がより引き締まる。二人は一夏側の空いている椅子に座り、口を開く

 

「まずはあの子の容態だけど、ひとまず無事よ。免疫機能が落ちていたけど二、三日休めば回復するはずだわ」

 

 これがそのバイタルデータよ、と楯無は言って少女のバイタルデータが書かれた紙を二人に渡す。その資料を確認し、二人の緊張が緩む。しかしIS学園陣営は緊張を崩さない

 

「さて、あなた達の要望は通したわ。今度はそっちの番よ」

「ええ、分かっているわ。こちらも対価を出さないとね」

 

 そう言ってスコールは自身の情報を話そうとする。雪広ら三人は二人が変な行動を起こさないかより警戒し、一夏と鈴は何を言うのか身構え、楯無と理事長はスコールの言葉が嘘かどうかを見極めようと集中する

 

 

 

 

 

 が、スコールの言葉は・・・楯無たちの範疇を超えたのだった

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言うと・・・亡国企業が壊滅したわ」

 




 院試が8月末なので、まだ更新頻度は遅いと思われます。
 せめて9月までにこちらの夏も終わらせたいなあ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話 surface

 説明回が続きます


 

「亡国企業が壊滅したわ」

 

 スコールの言葉に俺たち全員があっけにとられる。捕まえたテロリストがそんな言葉を言うと誰が予想できようか。

 

「正確に言うと、私たちの所属している亡国企業が壊滅したのよ」

 

 この言いかえに何の意味があるのかと内心疑問に思う。それは他のみんなも感じたようで全員が首をかしげる。

 ただ一人、ダリル先輩を除いて

 

「嘘、だろ・・・」

 

 彼女が立ち上がって、よろよろとスコールさんに近づく。これに兄さんは先輩を警戒するが、先輩はそれに気づくことがないようだ

 

「嘘だよな?じょ、冗談はやめてくれよ」

「・・・嘘をこの場で言うと思う?」

「嘘だと・・・嘘だと言ってくれよ!!」

 

 そう叫ぶとダリル先輩はスコールさんにすがりつく。懇願するかのように。だがスコールさん達は何も言わず、彼女から申し訳ないというように目線を逸らす。沈黙が肯定であるように、先ほどの発言が嘘ではないということを俺たちは理解し・・・先輩は崩れ落ちた。

 

「先輩!」

 

 フォルテ先輩が駆け寄ってダリル先輩に寄り添う。よほどショックだったのだろうが顔を伏せており、どんな思いなのか分からない

 

「いや、すまない・・・取り乱した」

「先輩、立てるッスか?」

「肩、貸してくれ」

 

 ダリル先輩はフォルテ先輩の肩を借り、よろめきながらも自席に戻る。この反応、もしかして・・・

 と考えていた時、パンと楯無さんが手を叩いて空気をリセットする

 

「さて、説明してもらおうかしら?あなたたちのことを全て吐いてもらうわよ」

「ええ、それじゃあ続けさせてもらうわ。私たち亡国企業(ファントム・タスク)はいわば裏の世界の傭兵集団、テロリストと言われているのは分かっているわよね?」

「ええ、何の目的かさっぱり分からないこともね。もっぱら戦争の火種を作って儲けようとしているんでしょう?もしくは世界征服だったり?」

「半分正解よ」

 

 その言葉に兄さん達三人が一斉に銃口をスコールさん達に向けるも、当人たちは全く動じない。そうされるのを知っているかのように構えている

 

「俺たちは世界征服なんて思ってねえよ。むしろ逆だ」

「逆?」

「ええ、私たちは戦争を止めるために日夜動いているんだもの」

「あなたたち、矛盾したことを言っているのに気づかない?」

 

 俺もそう思う。戦争するように仕掛けているのに、それを止めようとしているなんておかしい。でもスコールさんが嘘をついているようにも思えない

 そもそも『半分』正解って・・・?

 

「内部分裂?」

 

 簪のなんとない一言。それにオータムさんが頷く

 

「そうだ。亡国企業は内部できっちり二つに分かれていたんだ。無駄な戦争を止めるように働く俺たち『穏健派』と、世界を混乱させ、牛耳ろうとする『過激派』にな」

「もともと亡国企業は世界中の戦争・紛争を止めるために作られた非正規の団体だったのよ。それに巻き込まれてしまった孤児を保護もしているわ。でもISが公表されたあたりから『過激派』と呼ばれる連中が増えたのよ。私たちこそ世界の中心だと思う連中がね」

 

 どんな団体でも馬鹿な奴は現れてしまうのか。それが人間の性なのか

 質問いいかしら?と楯無さんが言う

 

「そんな分かれ方ならもっと早くに分裂してるんじゃないの?明らかに一つの組織の中で上手くいくとは思えないわ」

「もともと『過激派』が極少数だったからよ。そんな馬鹿な奴が少しいるってくらいだったし、ここ最近は『過激派』の度が過ぎる行為が度々あったけど、組織として共存できるくらいだったのよ。仮に反乱があったとしても鎮圧できるし、その連中は夢想程度で征服しようと実行する度胸もない連中、そう思っていたのよ」

 

 あの日までは・・・とスコールさんが悔いるように呟く。その後の言葉をオータムさんが引き継ぐ

 

「クーデターが起きやがったんだ。俺たち『穏健派』が少なくなった時を見計らって。各々のグループがそれぞれの紛争止めに勤しんでいる間によ。何も知らずに戻ったら『穏健派』はもう壊滅していた。通信は確認したんだが、俺たち以外の反応は無かった・・・」

「で、あなた達だけ逃げきれたと」

「ああ、自害したかのように自爆したと見せかけてな。追手も来ねえから俺たちが死んだと偽装できているはずだ」

「でもそれからは大変だったわ。身分証明の類は無いから仕事を雇ってもらえる所も限られて・・・何とか生きてきたけど、そんな矢先にあの子が倒れてね。これまでそんなことが無かった子だったし私たちも切羽詰まっていてね」

「それでここ(IS学園)に来たわけ、と」

「それしかなくてね、病院に行っても怪しまれるかもしれないし、金もないからどうしようもなくてね」

 

 壮大すぎるし、情報量が多い。亡国企業の目的やスコールさん達がいたメンバーの最期を考えると、言葉が出てこない

 すると銃を既に下ろした兄さんが口を開く

 

「なるほどな。アンタの情報が正しければ色々と納得する。戦争している所に突っ込んでは早くに終結させたかと思いきや、ISの強盗事件を引き起こすとか。何が目的か分からなかったが、二つに分かれていたとなれば色々と説明がつく。アンタらの情報が正しければな」

 

 以前亡国企業の目的が分からないって言っていたな。ここで嘘は言わないだろうし、この疑問は解決できただろう。兄さんがスコールさん達を信じれば

 ふう、とスコールさんは一息つく

 

「細かいことはお偉いさんに全て話すとして・・・ほかに何か聞きたいことはある?答えられる範囲なら全て答えるわ」

 

 その質問に真っ先に反応したのはフォルテ先輩だ

 

「あの、質問いいッスか?」

「ええ、ダリルのこと?」

「はい・・・ダリル先輩は亡国企業の一員なんッスか?」

 

 多分否定してほしい質問だろう。だけど、これまでの反応から察するに・・・

 

「ええ、そうよ」

 

 スコールさんの答えに静かに首を縦に振るダリル先輩。やはりそうだったのか

 

「ど、どうしてダリル先輩がそこに所属しているんッスか?」

「本人の意思と・・・私と血縁関係だからよ」

「す、スコールさんのッスか!?」

「ええ、私とレ・・・ダリルは叔母と姪の関係よ」

「え!?」

 

 叔母と姪の関係に女子たちが驚く。かく言う俺も驚いている。ダリル先輩が17か18だから・・・

 

「君たち、何を考えているのかしら?」

 

 やめよう。女性の年齢を考えるのは。束さんの時みたいに未遂で終わろう

 思わず場の空気がスコールさんに持ってかれたが、楯無さんが手を叩いて空気を引き締める

 

「で、どうしてダリル先輩は亡国企業に入り、IS学園にも入学することになったのかしら?」

「亡国企業に入ったのは、俺の意思だな。物心つく前に親が死んで、スコール叔母さんに引き取られて・・・11くらいの時にたまたま叔母さんの仕事を知ったんだ。叔母さんや、面識のあったオータムさんが裏で頑張っているのを知って・・・俺もその意志を継ぎたいって思ったからだな」

 

 さらっと言っているが、何気にこの人も壮絶人生歩んでいるな。誰かの人生に似ているような?誰だっけ?

 今度はスコールさんが楯無さんの質問に答える

 

「後者の理由としてIS学園にこの子を入れたのは、一種の保険ね」

「保険?」

「IS学園は世界中で一番ISのコアを有する場所。さっき言った『過激派』がIS学園に襲撃してコアを強奪する可能性があると踏んでいるのよ。だからもしもに備えて私たちの誰かが潜入しておこうって決めていたのよ」

「それで俺が立候補した。IS適性もあったし、生徒として詐称なく入学できたしな」

 

 そうなると、これまでも穏健派の人たちがIS学園に侵入していたのか?そう思っていると鈴も同じ疑問を持っていたようで、スコールさんに質問していた

 

「ってことはこれまでも穏健派の人たちはIS学園にいたんですか?」

「ええ。IS適性のある子は基本潜入していたわ。今はダリルしかいなかったけど、代表候補生になれるほどの力もあるし・・・なによりロシア代表やギリシャ代表候補の貴方たちもいたからね。心配はしてなかったわ」

「あら、私たちを信用していたなんてね」

「IS学園の侵入者が来たら撃退するでしょう?IS学園を守るという点では利害が一致しているはずよ」

 

 確かに。テロリストとはいえ、目的がIS学園の防衛なら敵対する必要もない。敵の敵は味方という感じか。楯無さんも腑に落ちてないが納得はしたようで引き下がる

 

「で、ほかに聞きたいことはある?」

「なら、自分が」

 

 兄さんが挙手をして二人に質問をする。何を質問するのだろうか?

 

「自分が聞きたいのは、アンタらが連れていたガキについてだ。織斑千冬に似ている、いや、瓜二つと言っていいほど過言じゃない」

「・・・」

「たまたまにしては似すぎやしないか?それとも本当に偶然似ているだけなのか?」

 

 保護したあの子は織斑千冬に似ていた。一応アイツと血がつながっているのは俺と双子のクズ以外いないはずだが・・・?

 

「君がそれを知ってどうするつもり?」

「自分は一夏に危害が及ぶのを防ぐだけだ。これで奴がクズどもと同じように一夏に危害を与えるなら、相応の対応をさせてもらうだけだがな」

「・・・」

「何でも答えるんじゃないのか?」

 

 まだ信用してないようで、圧をかけに行く兄さん。ただ、スコールさんたちは何か悩んでいるようで・・・ん?

 今俺の方を見たような?

 

「一夏君」

「はい!?」

 

 突然スコールさんが俺に語りかけてきた。予想外だったので返答が上ずってしまう

 

「あなたは自分の出生を知る覚悟はある?」

 

 ど、どういうことだ?

 

「おい、一夏は関係無いだろ。話逸らすんじゃねえよ!」

「関係あるのよ。あの子のことを語るには、切っても切り離せないのよ」

「何言って・・・」

「私たちは知っているのよ。あの子が織斑千冬に似ているわけを。そして、君の出生も」

 

 何が何だか分からない。なぜ見知らぬ少女と俺の出生が関係しているのか。そして、なぜスコールさんが俺の出生を知っているのか。しかし・・・気にならないというと嘘になる。

 もしかしたらわかるかもしれない。物心ついた時から奴らしか身内がいなかったことも。俺が迫害されていた理由(ワケ)も。納得のいくものを得られるかもしれない

 

「スコールさん、教えてください。あの子のことも・・・俺の出生も」

「一夏!?」

 

 兄さんは驚いて心配そうな目で俺の方を見る。だけど、俺の考えは変わらない。知る権利は俺にあるし、ここは相手が兄さんでも引くつもりはない。

 それを察したのか兄さんは分かった、と言って引き下がってくれた。それを見て、スコールさんが話し始める

 

「あの子、マドカは・・・織斑計画(プロジェクト・モザイカ)の実験体、究極の人類を作る実験体だったのよ」

 

 そして、とスコールさんは俺の方を見て、確かに俺を見据えて

 

「一夏君、君もね」

 

 はっきりと言いきった

 




 お久しぶりです。私情と言いますか・・・
 第一志望の大学院が書類で落とされ、モチベが無くなってました。院試はまだまだ続きますが、こっちも日常に支障がない程度に続けます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話 新たに

 

 実験体?俺が?つまり、俺は・・・人間じゃなかった?は?

 え?嘘だろ?

 

「ちょっと待てよ」

 

 混乱している中で兄さんがスコールさんに睨みを利かす

 

「一夏がその計画に関わっているってことは、あの織斑姉弟も関わっているってことだよな?」

「ええ、あの二人も織斑計画の実験体よ」

「なら何故その情報が一切出てこない?これでも俺は情報通だし、何より知り合いに電子情報を網羅する天才も知っている。そんな情報なぞ見たことも聞いたこともない。そんなことありえると思うか?」

 

 電子情報を網羅する天才、束さんのことだろう。兄さんの反応からしてネット・・・ダークウェブも含めてそのような情報が全くなかったのだろう。

 兄さんに教えてもらったのは、ダークウェブというものは違法なものを取引したり、コンピュータウイルスのサイトに誘導して個人情報を抜き取ったりといったいわばネットの無法地帯だ。また、ダークウェブは秘匿性・匿名性が非常に高いことから表に出ないような非人道的な実験もレポートとして見ることができるそうだ。

 兄さんと束さんがどこまで踏み込んだのかは知らないが、そこですら見たことがないから信用がないと兄さんはスコールさんに物申す。だが

 

「あなたたちが知らなくて当然よ。だって、この実験は当事者たちに口頭と紙媒体のレポートでしか伝えられていないもの」

「何!?」

「今時、紙媒体だけでの情報連絡は時代遅れ・・・でも、こういうアナログだからこそデジタル社会で有効なことだってあるのよ」

 

 どこかの漫画で見たな、最重要機密は紙の書類にして、手渡しで情報を交換すると。確かにこれでは兄さんでも、そして束さんでも情報を網羅することができないというわけか・・・まさしく盲点といったところか

 

「すべての情報が電子の海にあると思ったら、今日でその考えを改めるべきだわ」

「・・・そうですね」

 

 反応からして、スコールさんを認めては無いものの忠告は受け取ったようだ。けれどもそれで話が終わりではない

 

「スコールさん、教えてもらっていいですか?俺のことを」

 

 焦る気持ちが抑えきれず、スコールさんを急かす。早く知りたいのだ、俺の出生を

 それじゃあ話すわね、と一呼吸を置いてスコールさんは語る

 

 

 

 

 

 

「織斑計画、別名はプロジェクト・モザイカ。意図的に遺伝子を組み替えて「最高の人間」を作り出す、要するに普通の人と比べて高い運動能力、免疫・治癒力、基礎学力などが遥かに高い人間を作り出す、そんな倫理のへったくりもない狂気の計画よ」

「・・・いわば植物の品種改良の人間バージョンってことね」

「そんなところよ。私も資料しか見てないからどんな目的でやったかまではわからないけど・・・分かっているのは、その実験の成功体が『織斑千冬』であること、織斑千冬を媒体に作られる中、織斑千冬がその媒体のうち幼稚園児程度まで育った二体の成功体を連れて脱走したこと、そして私たちと一緒にいたマドカは・・・彼女の失敗作であったことなのよ」

 

 と、ここで楯無さんが懐疑の目を向けてスコールさんの話を遮る

 

「そもそもなんであなた達がその情報を知っているのかしら?そこまで機密にしていたのなら、外部に漏れることなどあり得ないでしょうに」

 

 その質問にオータムさんが回答する

 

「俺がたまたまスラムに迷っちまったときにな、研究所から逃げてきたマドカと偶然会ったんだ。そのときマドカは研究所の奴らに追われて取り押さえられていてよ。そいつらを殺してマドカからそのことを聞いて・・・いてもたってもいられなくて俺たちでその研究所を潰したんだ」

「・・・つまり偶然だと?」

「ああ、そうだ。マドカと会ったのも、織斑計画を知ったのも、そしてその計画で生まれた奴と会うことも全て偶然だ。こんなことになるなんて夢にも思わなかったぜ」

「・・・嘘は言ってないようね」

「こんな状態で嘘なんか付けねえっての」

 

 オータムさんが首をすくめた後、スコールさんが話を続ける

 

「そういうことで、マドカは私たちが保護したのよ。それで安全な場所で孤児たちと共に育てようとしたんだけど・・・私たちの組織に入るってあの子から志願して・・・」

「ふざけないで・・・」

 

 突然スコールさんの話を遮ったのは鈴だった。俯きながら鈴はそうか細く、しかし通った声で呟く。そして

 

「ふざけないでよ!!」

 

 はじけるように立ち上がって、激しく激昂する

 先ほどの話で完全に呆けてしまっていたが、ガタンと椅子が倒れる音で思考が徐々にまとまっていく

 

「アンタらふざけんじゃないわよ!!そんなデタラメ通じると思ってんの!?」

「鈴・・・」

「捕まって、情報を出すと言って言うに事欠いてソレ!?それで『はい、そうですか』って言うと思う!?信じれると思う!?」

「鈴・・・!」

「ふざけるな!ふざけるな!!一夏に何の恨みがあるっていうのよ!!アンタ達も一夏を貶めるって言うなら!!!」

「鈴!!」

 

 止めないとマズイ、そう思った俺は鈴を我に返らせようと名前を呼ぶ。二回とも声が届かなかったようで、三回目は強めて叫んだ。ビクリと鈴が驚いた後、今にも泣きそうな顔で俺を見つめる

 

「どうして止めるの、一夏?バカにされているのよ?私は、そんな一夏への、悪意にっ・・・耐えられないわ・・・」

 

 小さく嗚咽をもらす鈴をそっと抱きしめる。こんなに俺のことを想ってくれているのだと、俺も目頭が熱くなる

 でも

 

「鈴、俺のことを想ってくれてありがとう。でもスコールさんの言葉に納得する俺がいるんだ」

「何言って・・・」

「俺に両親がいないことも、鈴や弾よりも物分かりが良かったことも・・・何より俺に小学校以前の記憶が無いことも」

 

 それに鈴はハッとする。

 俺には小学校以前の記憶が無い。おぼろげな記憶すらもない。ガキの頃はつらい記憶しかなかったから、ただ忘れているだけだと思っていたけど、スコールさんの話からして納得できる。親がいないのも、蒸発したからではなく本当にいなかったというのなら辻褄が合うし、奴らほどではなかったが他の同級生よりも運動も勉強もできたことにも納得がいく

 

「一夏・・・あんたは辛くないの?普通の人じゃないって言われて・・・それが真実だと言われて・・・」

「・・・っ」

 

 それは正直、辛いというよりも・・・()()

 鈴が、シャルロットや簪、楯無さんが、なにより兄さんがこの話を聞いて俺のことをどう思うのかが怖い。そんなことを言うような人ではないと分かってはいる。それでも不安になる。これまでの関係が崩れてしまわないかと

 ふっと兄さんの方をみて目が合う。兄さんが何を思っているのか・・・

 

「・・・」

「一夏、先に言っておく」

 

 俺の不安が漏れる前に兄さんが口を開いた

 

「一夏、自分は一夏(お前)じゃないから今の気持ちを完全に理解することはできない。それはお前も分かっているはずだ」

「・・・」

「でも、誰が何と言おうがお前は俺の弟だ。何も変わらないさ、これからもな」

「!」

「安心しろ、一夏。それともなんだ、もうお前とは兄弟じゃねえ、とかいうような薄情な人間だと思うか?」

 

 そうだよな。兄さんがそんな薄情な人間じゃないってわかっていたじゃないか。本当、兄さんは俺に甘いというか・・・

 そんな甘さが今日は特に嬉しいのだけど

 

 今度は簪が声を上げる

 

「私だって変わらないよ。てっきり仮面ライダーくらいの肉体改造をされてるのかと思ってたけど・・・生まれが特殊な普通の人じゃん」

 

 続いてシャルロットも

 

「僕だって妾の子なわけだし、別に何とも思わないよ」

 

 そして、一番大事な鈴も

 

「あたしだって何も変わらないわよ・・・逆に、これで一夏を馬鹿にするやつはあたしがぶん殴ってやるんだから!」

「鈴、皆・・・ありがとう」

 

 思わず言葉が漏れる。こんな単純な言葉しか出てこないけど、仲間や家族、恋人に恵まれたんだと身に染みる

 

「良かったよ。俺が言うのもなんだけど、彼らの関係が壊れなくて」

「この子たちはそんな(やわ)な関係じゃないわよ」

 

 楯無さんの言葉の後、スコールさん達は互いに顔をあわせて小さくうなずくと俺に話しかけてくる

 

「一夏君、貴方にお願いしたいことがあるの。捕まった身で申し訳ないけど、私のお願いを聞いてくれる?」

「いいですよ、何でしょう?」

 

 二つ返事で答えたのは些か不用心だったが、スコールさんが俺たちに助けを求めているのがわかる。それには答えないと

 ありがとう、とスコールさんは言い・・・

 

「マドカと話をしてあげてほしいの」

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・」

 

 治療室で眠っていたマドカが目覚めたのを確認する。隣に座っている一夏が彼女に容態を尋ねた

 

「どうだい?体の調子は」

「ここは?」

「IS学園の治療室だよ」

 

 ぐぐっ、とマドカは上半身を上げ周囲を見渡す。そして自分と一夏だけがこの場にいるのを確認した後、一夏に目線を合わせる

 

「お前は、織斑一夏だな?」

「よくわかったな」

「お前たちが施設から逃げ出す時にその顔を見てな・・・面影があるからな」

「そっか。でも俺は織斑一夏じゃなくなった。今は遠藤一夏だ」

「・・・は?」

「俺は、奴ら・・・織斑千冬と一春に捨てられたんだ」

 

 一夏はこれまでの人生をマドカに話す。いじめに虐待、そして放棄。そののちに自分に拾われたことも全てを包み隠さずに

 

「・・・いい兄を持ったのだな」

「まあ、そういうことになるな」

「そうか・・・私はこれからどうなるのだろうか・・・」

 

 不安に染まった表情のマドカに対し、自分が話を切り出す

 

「その点に関してだが、今のところ君たちは保護する流れになっている」

 

 驚いたようにマドカは俯いていた顔を反射的にあげた。

 彼女たちを保護するのは慈善のためだけではない。今回の三人はIS操縦の技術があり、この学園の防衛に役立てると十蔵さんが判断したからだ。どうやら最近IS学園で辞職した先生が数人いて、特にIS学園の防衛をする人員が少なくなってしまったようなのだ。そのためスコールとオータムはその防衛委強化のための臨時教員として雇うことになるとのこと。

 本音を言えば完全に信用はしてないが、その辺は理事長と楯無さんに任せることにした。あの二人がいるなら大丈夫だろう。そしてマドカに関しては

 

「夏休みを経て、IS学園に転入という扱いになった。君のことは聞いたが、ISの操縦に長けているし問題は無いだろう、保護も兼ねてな」

「・・・いいのか?」

「それは自分に聞かないでくれ。決めたのは学園長だから」

 

 ただ、ここで聞き返すあたりいい子なのだろう。テロリストに所属している奴らはろくでもない連中だと思っていたが・・・自分の視野の狭さが浮き彫りになったよ、恥ずかしい

 

「それで、俺たちが君の、マドカちゃんの案内人をすることになるんだけど、それでいいか?」

 

「あ、ああ。問題ない。むしろ二人の方がいい」

「そ、そうか」

「それじゃあ、俺たちは部屋に戻るから。今日はここでゆっくり体を休めてくれ」

 

 伝えるものも伝えたし、治療室から去ろうと立ち上がる

 

「ま、待ってくれ!」

 

 と、マドカが自分たちを引き留めた。目線的に一夏に対してのようだ

 

「一つ、お願いがあるのだが・・・その・・・」

「どうした?」

「その・・・に・・・」

「に?」

「兄さんと・・・呼んでもいいか?」

「へ?」

 

 思ってもない質問に自分たちは面食らう中、マドカはぽつぽつと言葉を紡いでいく

 

「・・・私はあこがれていた。兄妹というものを。一人ぼっちの時が長かったし、スコールやオータムは仲間だけど家族とはちょっと違う感じだし・・・ダメか?」

「いや、予想外だったから固まっていたけど・・・そっか。俺たち、血が繋がっているしなあ・・・」

 

 顎に手をのせ、少しばかり考える一夏。自分だったらどうだろうか?別に実害が出ることではないし、断る理由が無いけど・・・いきなりだと戸惑うよな、と自分も顎に手をのせていた

 そして一夏は結論を出す

 

「構わないぜ。兄さんと呼んでくれて構わない」

 

 パアっとマドカの顔が明るくなる。相当嬉しかったのか、漫画でしか見たことのないような表情の変化をしていた。一夏もなんか嬉しそうだ

 

「うん!よろしくな、一夏兄さん!雪広兄さん!」

「んっ!?」

 

 待て、今なんて?

 

「え?だって一夏兄さんの兄さんなのだろう?だったら私にとっては雪広兄さんだと思うのだが?・・・もしかしてイヤ?」

 

 ああ、うん。間違ってはいない、のか?一夏とマドカは血が繋がっていて、自分と一夏が兄弟。だから自分とマドカは兄妹。うん、理論的には間違いではない?

 とふと一夏の方を見ると・・・とんでもないほどの目力で自分を見ていた。『まさか断らないだろうな?』と言わんばかりに目で訴えていた。おい、もうシスコン発揮してんじゃねーよ!

 断れない状況になり、自分は観念した

 

「まあ、好きにしな」

 

 元々断るつもりもなかったし、それにこの子の気持ちも分からなくはない。一人は寂しいのはよくわかるし、家族というのを求めるのも分かる。それに幼少期に辛い経験をした点では自分も一夏も同じだし、そういう子の力になれるなら悪くはない。偽善と思われてもだ。

 

 

 

 

 

 こうして元テロリストたちがIS学園に来た顛末としては、IS学園の戦力補強と・・・

 

 新たな妹ができました

 




 コーヒーブレイク挟んで、次こそ夏休み回

 終わっちまったよ、夏


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Coffee break3
pt.3 私たちだって目立ちたい!


 まあまあ好評だったし、何より書きたかった。何も考えずにお楽しみください
 というか、これを書いてるから本編が進まないんだよなぁ

・この回は台本形式です
・今回登場キャラの性格が原作と違うかもしれませんが、ご了承ください


p.s.第六章の題名を少し変えました



 

 IS学園のとある日の食堂。

 一段上の段差に置かれた台。その上にはシュークリームの乗った皿がある。そして、それの前に立つ5人の姿、それを見守るIS学園の生徒たち

 

雪広「ハァ・・・」

楯無「ほら、早くして」

 

 段上にいる雪広に対し、最前列の席で急かす楯無

 

雪広「わかりましたよ・・・!

 

 

 

 

 第二回!誰が持ってる選手権!!」

 

「「「「イエーーーー!!」」」」

 

 

 

 

雪広「えー、楯無さんのお気に入りとなったため第二回が開催されました。今回、こんな企画にやりたいと声を上げた勇者4名はこちら」

 

 

相川「ハンドボール部所属!元気が取り柄の1年1組1番の相川 清香です!」

岸原「これで私もヴァルキリーの一歩を歩んだかも!?リコリンこと、岸原 理子でーす!」

夜竹「夜竹さゆかです・・・」

鷹月「鷹月 静寐です。よろしくお願いします」

 

雪広「ということで、自分含めて五人で・・・」

相川「ん?なんで雪広君も参加するの?」

雪山「海よりも深い深い理由があるんだよ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想

 

 

 

 

 

 

専用機持ち『ジャンケンポン!!』

 

雪広「ウアアアアアアアア!!!!」(一人負け)

 

 

 

回想終了

 

 

 

 

鷹月「短っ!!そして浅っ!!」

雪広「だから泣く泣く参加する羽目に・・・!」

 

 

 

 

一夏「ジャン負けの奴が参加って兄さんが言ったからじゃないか」(ガヤ)

 

 

雪広「うるせえよ!!!」(自業自得)

夜竹「言い出しっぺの法則・・・」

雪広「全く持ってその通りです(泣)」

一同「www」

 

雪広「というより、よく参加しようと思ったね!?」

岸原「面白そうって思ったから!」

相川「同じく!」

雪広「うん、岸原さんはわかる。相川さんも。夜竹さんと鷹月さんは意外なんだけど」

夜竹「興味が・・・あったから」

鷹月「一度は体験してみたいなあって思ってたから」

雪広「後で後悔しても知らんからな?」

 

 

楯無「オープニングトークも終わったことだし、ルール説明するわ。前回と同じくシュークリームは15個。うち5個が今回はわさび入りよ」

雪広「うわ、前回と違うのか」(前回はからし)

楯無「わさびを一番食べた人が優勝で、優勝したら1万円も変わらないわ」

岸原「欲しい!」

楯無「そして!今回限りのボーナスとして、3つわさびを食べた場合は所属している部活・同好会の予算アップもあります!」

4人「イエーーー!!」

 

 4人が所属している部活動のメンバーたちも声援を送る

 

雪広「あれ?部活動に所属してない自分は?」

楯無「何も無いわよ?」

雪広「クソだな」

楯無「さらっと暴言はやめて!?」

 

 なんだかんだ言って順番を決める5人。

 

 相川→夜竹→岸原→鷹月→雪広 の順となった

 

楯無「それじゃあ、スタート!!」

 

 

 

 

 

 

 残り15個中5個当たり

 

相川「いっただきまーす!」

岸原「いけるいける~!」

鷹月「元気いいね」

 

 相川は一番手前のシュークリームを口に入れる

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

相川「ホアアアア!?!?!?」

岸原「アアアア!?」(驚き)

夜竹「どうしたの?」

雪広「食べていいんだよ」(察した)

相川「◯▽Γ◇Φ△☆◇§・・・」

 

 よたよたと相川はバケツに近づき

 

相川「ップエ」(初手OUT)

楯無「アッハッハッハ!!」(悪女)

 

 バケツに顔を突っ込んで吐く姿に笑いが起こる

 

相川「想像以上に入っててびっくりした・・・」

鈴「なめんじゃないわよ!この企画を!」(ガヤ)

シャル「全然緩くないからな!」(ガヤ)

鷹月「ガヤの圧が凄いw」

 

 

 

 

 残り14個中4個当たり

 

夜竹「緊張してきた・・・」

雪広「ただ引かないと賞金はもらえないからな?」

夜竹「さっきの見たら引きたくない方が勝る」

 

 先ほどと異なる皿からシュークリームを手にする

 

夜竹「いただきます・・・」

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

夜竹「美味し~♡」(SAFE)

4人「おおー」

雪広「やるね~」

 

 

 

 残り13個中4個当たり

 

岸原「清香ってさ、さっきの演技じゃないの~?」

相川「いや、ホントだって!辛かったんだって!」

岸原「私ならハズレ引いても余裕だよ~」

雪広「アイツ(ハズレを)食ったな」

 

 相川が選んだ場所と同じ皿のシュークリームを手に取る

 

岸原「いっきまーす!!」

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岸原「ばっ◯×ほあ」(OUT)

4人「ハッハッハッwww」

雪広「今丸々シュークリームが出てきたぞw」

 

 妨害する暇もなく即座にシュークリームを吐く岸原

 

岸原「先に言うわ。ごめん清香」

相川「でしょ?辛いよね?」

雪広「ピクニック気分は覚めたかな?」(貫禄)

一同「www」

 

 

 

 残り12個中3個当たり

 

鷹月「あ~、緊張してきた・・・ここの入学試験以来の緊張だよ・・・」

夜竹「わかる・・・」

雪広「そういうもんなのか?」

 

 鷹月は奥のシュークリームを手に取る

 

鷹月「いただきます」

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

鷹月「うん、甘い」(SAFE)

相川「さすが委員長!」

夜竹「関係・・・ある?」

 

 

 

 残り11個中3個当たり

 

雪広「皆ね、勘違いしているんだよ。このゲームを」

鷹月「え?」

雪広「運否天賦じゃない。楯無(そこの女)との心理戦なんだよ」

岸原「ほうほう?」

雪広「真ん中という分かりやすいところに入れない」

 

 自信満々にシュークリームを手に取り、

 

雪広「いただきます」

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

雪広「甘~い!」(SAFE)

4人「ええ~~!!」

雪広「え~、って何?!」

岸原「だって雪広君のゲロ芸見たかったのに~」

雪広「待って!皆からどう見られてるか不安なんですけど!!」

 

 

 残り10個中3個当たり

 

相川「よっしや~!いきま~す!!」

雪広「何でそんなに元気なの?」

 

 手を挙げながらシュークリームを手に取って口に入れる

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相川「ハアアアアア!!!!」(絶叫)

 

 4人は即座に動いて壁を作る。バケツに行くのを妨害するためだ

 

相川「ほえんはい・・・」

雪広「何だって?」

岸原「美味しいって」(悪魔)

相川「ほへんははい!!」(涙目)

夜竹「多分だけど、『ごめんなさい』だねww」

 

 壁を抜けて相川はワサビシュークリームをバケツに吐く

 

相川「ア゛ア゛ア゛ア゛・・・・」

鷹月「ワサビ入りのシュークリームを食べさせて女の子に『ごめんなさい』と謝らせる

 

 忍びないわ」(ド正論)

 

 

 

相川「インフィニット・ストラトスの二次創作界隈、厳しすぎる・・・」

雪広「大丈夫、体張るのこの小説だけだから」(メタ)

 

 

 

 残り9個中2個当たり

 

夜竹「どうしよう・・・不安になってきた」

岸原「勢いでいけるいける~」

鷹月「また無責任な・・・」

夜竹「イキマーース!」

雪広「待って、夜竹さん!そのノリはやめた方がいい!」

 

 雪広の忠告も空しく、夜竹はシュークリームを口に入れる

 

 

 

 

夜竹「SAFE」

鷹月「何故ネイティブw」

 

 

 残り8個中2個当たり

 

岸原「イキマーース!」

雪広「早い早い早い!!」

 

 岸原は速攻でシュークリームを選ぶ

 

 

 

 

岸原「ウェーイ!」(SAFE)

夜竹「じゃあそのノリがいいのね」

 

 

 残り7個中2個当たり

 

鷹月「私はね、こういうのを考えて、予想してやるのが面白いと思うの。だから・・・

 

 

 イキマーース!//」

雪広「無理しなくていいからねw」

 

 鷹月も空気を読んで同じノリをする

 

 

 

 

鷹月「んん~」(SAFE)

岸原「いいね~!」

 

 

 残り6個中2個当たり

 

雪広「相川さん、さっきから発言ないけど大丈夫?」

相川「舌ノ・・・回復ヲ・・・シテイタ」

一同「(笑)」

 

 連続わさびによるダメージが残っていたようだ

 

雪広「と、いうことでイキマーース!!」

 

 雪広も同じようなノリでシュークリームを手に取る

 

 

 

 

 

雪広「・・・」

 

 

 

 

 

 無言のまま勢いよくバケツに突っ込む雪広

 

 

雪広「・・・ッパァ!!」(OUT)

一同「アッハハハ!!」

 

 吐いた後に雪広が顔を上げる。その口元は緑だけでなく所々赤が混じっていた

 

雪広「痛ってーーー!待って、何これ!!タバスコも入ってる!?」

楯無「それ、簪ちゃん特製の大当たりよ」

雪広「おい、簪ィ!!ふざけんなよ、テメエ!マジで!!」

 

 そのほうが面白いかと by簪

 

 

岸原「このくらいで騒ぐの~?情けないよ~」(棚上げ)

雪広「おい、岸原さん。あんまり調子乗るなら作者に頼んで君の存在を抹消するからな」(メタ脅し)

○○「何、その脅し!?ってか消えかけてる!?」

 

 (この後、しっかり元に戻してもらいました)

 

 

 

 残り5個中1個当たり

 

楯無「最後は五人全員で・・・だけど確認ね。最後に雪広君、岸原さんが引けば引いた人と相川さんが同時優勝。夜竹さん、鷹月さんが引けば相川さんの単独優勝。そして相川さんが引けばパーフェクト達成になるわ」

夜竹「つまり相川さんは優勝確定か・・・」

雪広「しかも、ンンッ!(タバスコによる咽せ)初のパーフェクトがかかってると」

岸原「凄いじゃん!世界初だよ!?」

相川「そもそもこんな企画してるの、ここだけでしょ・・・」

 

 と会話しつつ、全員がシュークリームを手に取る

 

雪広「それでは皆さん、最後のひと踏ん張りです。乾杯!」

 

・・・

 

 

 

・・・

 

 

 

雪広「・・・」(パンと手を叩く)

岸原「・・・」(SAFEの構え)

 

 

 

夜竹「・・・ん?」

鷹月「え?」

 

 

 

 

相川「・・・あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!(泣)」(パーフェクト達成)

全員「ブッハハハハ!!」(爆笑)

 

 半泣きでよたよたバケツに近づき、この世のものとは思えない声で相川はシュークリームを吐く

 

雪広「マジで!?」

岸原「清香すごいよ!」

夜竹「これはもう、脱帽」

鷹月「(無言で拍手)」

相川「ぶえええええ!!」(吐きながら泣いている)

 

 

 

 

楯無「ということで、夜竹ちゃんと鷹月ちゃんが0回、雪広君と岸原ちゃんが1回、そしてなんと!相川ちゃんが3回ということで、優勝は相川ちゃんに決定~!」

4人「イエーーー!!」

楯無「そして、相川ちゃんはまさかのパーフェクト達成ということでハンドボール部は部費の上限を上げます!」

ハンドボール部の皆「やったああ!!!」

楯無「それでは、今回英雄・・・シュークリームのブリュンヒルデとなった相川ちゃん!最後に一言!」

 

 

相川「アウエエエエエ!!!」(まだ吐いてる)

全員「アッハハハ!!!」(爆笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

岸原「清香~今日の食堂のデザート、シュークリームなんだけど」

相川「イヤアアアアア!!!!」

 

 しばらくの間、相川はシュークリーム恐怖症になったとさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無「どう?マドカちゃん?面白かった?」

マドカ「面白かった!それに・・・

 

 

 私もやってみたい!」

 

 

雪広「えっ」

 

楯無「そっか~ならお兄さん達とやりたいよねえ~?」(激悪い顔)

マドカ「うん!一夏兄さんと雪広兄さんと一緒にやってみたい!」

 

 

雪広・一夏「え゛っ」

 

 




 次回コーヒーブレイクは・・・

 『一夏・雪広、死す!』

 シュークリームスタンバイ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7章 夏休みの出来事
第46話 高き壁


 
 今回、アーキタイプ・ブレイカーの子が出てきますが、私は未プレイです



 

 亡国企業(ファントム・タスク)の穏健派が来てから数日、IS学園は夏休みに突入した。多くの生徒が帰省するが、中にはIS学園に残るものもいる。代表候補生たちはそれぞれの専用機のデータ提出と、自国での訓練合宿のため帰省をしている。

 そんな中、中国では代表候補生強化合宿が行われていた。

 

 

 

 

 

 

 中国と台湾。以前の中国は一国二制度の期限前から圧力をかけ、台湾を統治しようとしていた。しかし、ISの登場で女性、特に若い世代の地位や発言力が向上したことで政権内に蔓延る老害たちが排除されていき、中国内部の膿が排斥されたことで驚くほどクリーンな国になった。他の国に対してもしっかりとした友好関係を築いていき、台湾に対しても本当の意味で自治を認め、昔よりも積極的で友好的な交流が行われるようになった。

 IS関連においても交流が盛んだ。現に中国と台湾の代表候補生達の合同合宿が今、行われている。

 

「どうだね?代表候補生達は?」

 

 どこか風格を漂わせるISの長官である中年の男性が、候補生管理官である(ヤン)麗々(レイレイ)に質問を投げる。楊は眼鏡をクイッとした後、持っているタブレットを長官に見せ、報告をする

 

「順調です。どの代表候補生も成長していますが、特に凰鈴音代表候補生の伸びには目を見張るものがあります。また台湾の凰乱音代表候補生も申し分ないです。それぞれの専用機のデータも我々の期待以上の成果を出しています」

「そうかそうか。それはいいことだ」

「・・・」

 

 中国、台湾共に調子がいいという報告に満足げな長官。だが楊管理官は少しだけ曇った表情を浮かべた

 

「どうした?楊麗々管理官?」

「いえ、たいしたことでは・・・」

「君は他人の様子が人一倍察知できると聞いている。何か思ったことがあるのではないか?」

 

 たとえ小さな問題だとしても、取り返しがつかなくなる前に処理をする。そう理念を掲げている長官だからこそか、楊管理官の一抹の不安を読み取った

 

「・・・はい。凰代表候補生なのですが・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆さん、初めまして。アタシは凰乱音。中学三年生の台湾の代表候補生よ!・・・って誰に自己紹介をしているのかしら?

 アタシには鈴お姉ちゃんって言う従姉がいて、中学生のころは何かと面倒を見てもらったの。そんなお姉ちゃんはたった一年で中国の代表候補生になったんだけど、私は10カ月で代表候補生になったのよ!何なら今から飛び級でIS学園に編入だってできるんだから!お姉ちゃんより凄いでしょ!

 昔みたいに後ろ姿を憧れるだけじゃない、もう対等なんだ。お姉ちゃんも中国・台湾合同合宿に来ると知っていたから、宣戦布告のためにこの合宿に来た。あの頃のアタシとは違うと。

 

 そして初日の訓練が終わった今、目の前に目的の人が座っている

 

「ハア・・・ハア・・・」

 

 アタシは気圧されていた。さっきの演習でも妙に殺気立っていたが、終わった今でも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。実際に他の代表候補生達もお姉ちゃんを避けているよう。俯いている分、表情がわからなくて余計に話しかけていいのかと躊躇ってしまう

 するとアタシの存在に気づいたのか、お姉ちゃんの顔が上がりアタシと目が合う

 

「お、お姉ちゃん・・・?」

「・・・乱、久しぶりね。元気にしてた?」

「え!?あ、うん・・・」

 

 どうしよう、話す内容は決めていたはずなのに・・・少しばかり煽ってやろうと思っていたのに言葉が出ない。お姉ちゃんとの会話で出てくるのは当たり障りのない言葉ばかり

 

「その、お姉ちゃんは、どう?」

「あたしは・・・まあ、ぼちぼちかな」

 

 ・・・嘘だ。

 お姉ちゃんのことを一番理解している私だからわかる、それが嘘だということが。それに、何でもなかったらそんな雰囲気を出さないわよ。代表候補生達の訓練とはいえ、これほど殺気立っているのはおかしい

 

 いや、焦っているように思える

 

「お姉ちゃん、どうしたの?何かおかしいよ」

「・・・そんなことないわ」

「ううん、おかしいって!お姉ちゃんらしくな・・・」

「そんなことないって言っているでしょ!!」

「ひぐっ!!」

 

 突然怒鳴られて思わず変な声が出てしまった。そんなアタシのビビった姿にお姉ちゃんはハッとしたようで

 

「・・・ごめん」

 

 小さな声で謝った後、頭を抱え、ため息を漏らすお姉ちゃん。

 

「ほんとごめん。最近あたし、おかしくて・・・なんか怒りっぽくなって。些細なことにもイラつくようになって・・・」

「なにか、あったの?」

 

 こんなお姉ちゃんは今まで見たことがない。お姉ちゃんの心配が先行してしまってアタシは思わずその原因を聞く

 

形態変化(モードチェンジ)、乱は知っている?」

「え?確か、ISの第二形態移行(セカンドシフト)とは異なる変化で・・・これまで4例しか確認されていない変化、だよね?」

 

 数カ月に見つかった男性IS操縦者2人を皮切りに、日本・フランスの代表候補生が成しえた今までとは異なるISの新たな可能性。各国でもその変化の仕組みを解明しようとし、それができる人材を見つけようと動いている。尤も、中国と台湾はそこに力をかけるよりも人材育成に力をかける方針を進めているからあまり関係ないけど。

 ・・・関係ないのになんで形態変化を気にするのだろうか?

 

「あたしと仲いい友達が4人いるんだけど・・・4人ともできるのよ。それ(モードチェンジ)が」

「え!?」

 

 思わず声が出る。お姉ちゃんが今IS界隈で有名な人たちと交流があることに、普通に驚いてしまった。特に男性IS操縦者と友達だなんて・・・そんな交友関係の広さに

 そんなアタシから目線を切ってお姉ちゃんは再度俯く

 

「あたしだけ、形態変化ができていない・・・!ほかの皆はできるのに、あたしだけできない!」

「・・・」

「だんだん皆と離されているのがわかるの・・・あたしだけ、置いていかれているのよ」

「・・・」

「わかってるのよ、形態変化は小さいころの逆境が無ければできないって。何も苦しむことなく育ったあたしにそれを欲する資格なんてない・・・ない、のに・・・!」

「・・・」

「それが無くても、皆と対等に戦えると思っている・・・そう思っているはずなのに、その変化を望んでいるあたしがいて・・・そんな自分に腹が立って!!」

 

 言葉が出なかった。何も、一言も。なんて言えばいいか分からなかった。でも分かることはある。

 お姉ちゃんは壁にぶつかっているんだ。それもアタシが思っているよりも遥か高い壁に。そもそも一年で代表候補生になって、しかも専用機を持つことになってIS学園に入学する、これだけでも凄いことなのに、まだ高みを目指そうとしているのか。でも、その向上心がお姉ちゃんを苦しめいている。

 そして、周りの人たちのレベルもお姉ちゃんを苦しめている要因だということも。お姉ちゃんは周りが形態変化できるからそれができて当然と思っているけど、それは周りが異常なだけだ。アタシやほかの台湾・中国の代表候補生からすればできなくて当然のことなのだから。ただ、世界で4人しかいない形態変化できる人たちが良くも悪くも近くにいて、それがお姉ちゃんの視野を狭めている

 

 このままではお姉ちゃんは絶対に無理をする。絶対に体を壊すまで自分を追い込むに違いない

 でもお姉ちゃんを慰める言葉がアタシには見つからなかった

 

「ごめんね・・・こんな情けない姿晒してさ。幻滅した?」

「幻滅とかじゃなくて、心配だよ・・・」

「・・・ありがとう」

 

 ただ今思っていることしか口にできなかった

 

 

 

 

 

 

 

「焦っているように見える・・・と」

「はい。凰代表候補生は他の中国代表候補生の追随を許さない、中国代表予備と遜色ないほどの実力を持っているのですが・・・何かに焦っているように思うのです」

 

 ふむ、と長官は報告書をペラペラめくり、データを見て考えるそぶりを見せる

 

「これを見る限り、成長してないわけではなさそうだが?」

「はい。先ほども申しましたが、彼女が最も成長しています。現にIS学園においても学年でトップクラスの実力を示しているので」

 

 報告書におけるフランス・日本の代表候補生との戦歴もほぼ互角であり、別段気にすべきほどではない。細かく言うなら、最近の勝率が低いくらいだ

 

「・・・もしかしたらですが」

「言ってくれ。君の方が代表候補生達のことがわかるはずだ」

「凰代表候補生は、形態変化ができないことに焦りを感じているのかもしれません」

「形態変化・・・あれか」

 

 元は男性IS操縦者が使っていた、これまでになかったISの変化。当初、中国の長官は男性IS操縦者というイレギュラーによるものだと思っていたが、日本・フランスの代表候補生もそれができると知ったときは長官も楊も驚いていた

 

「あれには確かに驚いた。なぜこれまでその変化が無かったのか、この数カ月で4人もそれを成しえた学生が現れたのか」

「そうですね、私も驚きました」

 

 だが、と長官は一息つく

 

「あれはイレギュラーだとわが国では割り切ったことだ。そんな不確定なことに血肉を捧げるよりも、代表候補生達の育成に力を入れる方針だろう?」

「はい。現に形態変化の例を作ろうとしている国もありますが、軒並み報告がありません」

 

 ISでも盤石の地位に君臨しようとするアメリカや内部の不祥事で瀬戸際となったイギリスやドイツ、その他の国も形態変化の例を自国で作ろうとしているようだが、楊管理官が言ったように成果が全くない。凰代表候補生のレポートには形態変化の条件の予想が書かれており、他の専門家との予想とほぼ一致しているが確証は全くない。それに力を注ぐよりも育成に力をかけるべきだと中国ではそう結論付けている

 

「とはいえ、凰代表候補生のメンタルが問題だな。まるで・・・いや、野暮な発言だったな。気分を悪くしたのならすまない」

「いえ、私が無茶をしたからです。体を壊したのも私の責任です。だからこそ、彼女は私の二の舞になってほしくないのです」

「その件は任せてもよろしいか?私みたいなおっさんよりも、年が近い君の方がティーンエイジャーのことを理解できるだろう」

「はい。これも候補生管理官の仕事ですから」

 

 それ以外の事務を伝え長官を見送った後、楊管理官は考える。一番の伸びしろである鈴のケアをどうするか。下手に訓練でオーバーワークする恐れがあるため、早くに案を出すべき。しかし下手な案は出せない

 

 廊下を歩きながら楊管理官は思考の海につかることにした

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第47話 立ち返り

  

 合宿の中休み。各々が自由に過ごす中、あたしは電車に揺られていた。その理由は前日に遡る

 

 

 合宿の5日目。この日が終わると明日から3日の中休みを経て合宿の後半戦が始まる。今日の訓練も終わり、一息ついている所にスーツ姿の女性が来た。雰囲気で察したが、確認のため顔を上げると楊管理官だった。

 

「凰代表候補生。一度実家に帰るのはどうでしょうか」

「え?」

 

 楊管理官の意外な言葉に呆けてしまった。この人は自他ともに認めるほど厳しい人だから、合宿中に実家に帰らせるなんて思いもしなかった。でも

 

「・・・いえ、私はここに残ります」

 

 実際にこの合宿では何も成果が出ていない。何かを掴めればいいものの、それすらも感じていない。だから休みの間も訓練して何かきっかけをつかまないと思っていた。

 すると楊管理官はふう、と一息つく

 

「前言撤回します。凰代表候補生、この中休みは実家に帰りなさい。これは命令です」

「え!?ま、待ってください!」

「待ちません。過度な負荷は無駄に体を傷つけるだけです。一度ISから離れて体を休めてきなさい。既にあなたの家族には連絡しましたから」

 

 そ、そこまで根回しされているのかよ、と思った。有無を言わせない発言にあたしはただただ聞き入れるしかなかった

 

「焦る気持ちは分からなくもありません。ですが、目標の定まらない状態でのオーバーワークはリスクしかありません。貴方のためです」

 

 余計なお節介だ。心の底からそう思う。あたしの何を分かっているのか。この悩みはあたしにしか・・・たとえ一夏であろうとも分からないのに

 

「私の言葉は小言に聞こえるかもしれませんが、受け入れてください」

「・・・はい」

 

 言いくるめようとするも言葉が何も出てこなくて、結局首を縦に振るしかできなかった

 

 

 

 

 電車から降り、駅を出る。本当だったら合宿後に来るはずだったあたしの地元が視界に入る。夕日がかかった町並みは今までと変わらない

 

「・・・で」

 

 隣を見るとキャリーケースを引く乱がいる

 

「なーんでアンタも着いて来るのかしら」

「いやさ、久々にお姉ちゃん家に行きたいな~って思ってたから」

 

 連絡はしてあるよ、とドヤ顔で胸を張る乱。

 楊管理官に帰省を言い渡された後、どこから嗅ぎつけてきたのか「アタシもお姉ちゃん家に行く!」って乱が突撃してきた。しかもその場でお母さんに連絡して許可を貰ってた。そんな行動力、誰に似たんだか・・・昔のあたしか。

 

 雑談を交えつつ足を進め、目的の家にたどり着く。臨時休業の紙が貼られている正面ではなく裏に回り、インターホンを鳴らす。するとドアの向こう側から足音が近づき、ドアが開く

 

「お帰り、鈴。乱ちゃんもいらっしゃい」

「ただいま、お母さん」

「おばさん、おじゃまします」

「それより、お店休んだんだ」

「そりゃあね、鈴が帰ってくるんだから。バタバタしてるのは嫌じゃない?」

 

 あたしは別にいいんだけど。むしろお店を手伝って体動かしてないと気が済まない感じがしてならない。それとも、それも見越しているのだろうか?

 

「さ、まずは中に入りなさい。アンタの部屋はそのままだから乱ちゃんと一緒にそこに荷物置いて・・・ここではゆっくりしていきなさい」

 

 久しぶりの身内であるお母さんのおかげか、少し肩の荷が下りた感じがする。そんな思いで乱を引き連れて実家の玄関をあがる。

 3ヶ月しか経ってないのに、実家の匂いに懐かしさを感じた

 

 

 

 

 

 久々の家族と乱との食事はこれまでで一番盛り上がった。あたしはIS学園で一夏と再会したことやほかの仲間たちの話をして、乱は今の学校生活の話をして。一夏と付き合ってるという話ではお母さんもお父さんも喜んでくれた。対して乱は「アタシのお姉ちゃんが・・・!」って嘆いてたわ。あんたのものじゃないわよ、あたしは。

 そして夜。乱が風呂に先に入っていて、お父さんは外で日課になっていた走り込みをしている。リビングにはお母さんと二人きりだ。いつもだったら自分の部屋に行くんだけど、何となくリビングに残ってテレビをボーっと見ている

 

「鈴」

「なに?」

 

 呼ばれた方向に顔を向けると、お母さんはあたしの顔をじっと見つめていた。何も悪いことはしていないけど、なんとなく緊張する。一体何言われるのか、見当がつかない分余計に鼓動が早くなる

 そんなことを見越しているようにお母さんが口を開く

 

「・・・何か悩んでるでしょ」

「!」

「何で分かるの、って思ったでしょ。顔に出てるわよ」

 

 そんな雰囲気を微塵も出していなかったはずなのに・・・身内だから、親だから分かったのだろうか

 

「うん。ちょっとね・・・」

 

 ここで嘘をつく理由は無い。でもそれを吐露しようと思えず、言葉が詰まってしまう。悩みとか全てを親に打ち明けるのがどうにも恥ずかしく感じてしまう

 

「鈴」

 

 それを察したのか、お母さんが真の通る声で話しかける

 

「悩みがあるなら打ち明けた方がいいわ。誰かに聞いてもらうだけでも大分楽になるわ。おせっかいに聞こえるかもしれないけど、これはアンタよりも長く生きてきた経験則よ」

「お母さん・・・」

「まあ、お母さんも若いころは親に悩みを言うのを恥だと思うときがあったけどね!」

 

 アッハッハッハ、と豪快に笑うお母さん。そんな姿が容易に想像つき、思わず吹き出してしまった。

 それにさっきまで悩みを打ち明けるのが恥ずかしいと思っていたのがバカらしく思えてきた。決心するように頷いて、お母さんに悩みを聞くだけ聞いてもらおう

 

「あのね・・・」

 

 

 

 今の悩みを打ち明ける。ISであたしだけが成長できてないように感じること、あたし以外の四人は形態変化ができていること、気にするのは良くないけどどうしても形態変化できないことが気になって仕方がないことを。ため息も交えながら。お母さんはただ黙ってあたしの話を、愚痴を聞いてくれた。一通り話すと僅かだが気持ちが楽になった。

 でもそれでも足りない。根本の解決には至ってない

 

 また思考が暗くなりかけたところにお母さんに質問される

 

「あんたがISに乗った理由、覚えてる?」

「・・・うん。覚えてる」

 

 といっても大層な理由は無い。たまたまISの適性検査が無料でやってて、なんとなくやったら適性がAで。そのままなんとなくISを学んで、少し努力をしていたらいつの間にか中国代表候補生になって。IS学園に行くことになって。

 やってみたらうまくいったから。人よりもうまく乗れたから。一番流行っているもので上手くやれていたから・・・皆からの賞賛が心地よかったから。ただそれだけ。

 そんなちっぽけで何も誇れない理由。こんな理由じゃ家族以外では絶対に言えない

 

「それじゃあ、今は?」

「え?」

「鈴、あんたはどうしてISで強くなりたいと思っているの?昔だったらすぐ辞めて違うことをやってたはずよ」

「それは・・・これでも代表候補生だし、すぐにやめるわけにはいかないと思って・・・」

 

 とっさにそう返したが、お母さんの言葉に納得するあたしがいる。確かに昔から運動神経が良くて、いろんなことに挑戦した。でも飽きっぽさのせいで長く続くことは無かった。昔と同じだったら、こんな悩むことなくやめていたかもしれない。

 

 ・・・なんであたしはISで強くなりたいのだろう?

 皆から後れを取るのが嫌だから?強くない自分が嫌だから?

 代表候補生としてのプライド?それともあたしのプライド?

 

 ・・・

 

 ・・・駄目だ。考えがまとまらない。あたしの気持ちのはずなのに、何もわからない。

 

「それにしても」

 

 お母さんの声でハッと現実に引き戻される

 

「一人で何かを抱えこもうとするところはお父さんにそっくりね」

「そ、そうかな?」

「そっくりよ。お父さんが昔癌になった時、お母さんに何も告げずに離婚しようって言いだしたことがあったのよ」

「え!?」

 

 初耳なんだけど!?そもそも癌だったの!?

 

「だ、大丈夫なの?」

「ええ、本当に早期発見だったから問題なかったわ。でも癌になったってことでお父さん、頭がいっぱいだったらしくてね、死ぬかもしれないって早とちりしたらしいのよ。それでお母さんが悲しむ前に離婚しようっていきなり切り出したのよ」

 

 そ、そういえば中学生の頃、空気がピリついて感じはしていた。喧嘩でもしているのかと思っていたけどそんな大事になりかけていたなんて

 

「で、どうしたの?」

「なかなか話をしたがらなかったけど、何とか聞きだしてね。『馬鹿言うんじゃないよ!』って言って・・・こうして、こうしたわ」

 

 そう言うとお母さんは胸倉をつかむような素振りをして、掌を左右に振る。つまり、お父さんの胸倉掴んで往復ビンタをしたわけか・・・お父さんが原因とは言え、少しばかり同情する

 

「とにかく、お母さんが言いたいのは一人で抱え込みすぎるのは良くないってこと。悩みとかあったら誰かに相談しなさい。ISに関してお母さんはからっきしだから先生とか、それこそ一夏君に聞いてもらうのもありだから」

「・・・分かった」

 

 確かに今の気持ちを話すだけで気分が少し楽になった。こういう時にアドバイスをくれる親がいるのは心強い。でも・・・自身の弱みをさらけ出すようで、悩みを言いたくないあたしがいるのも事実だ。特に一夏に聞かれたくない

 

 どうしてかわからないけど

 




 
 シャンプするときの溜めって感じの話ですね、今回は


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第48話 夢


 おひさしぶりです。2年間忙しかった。
 最近あるオフ会に参加したのと、学生生活最後ということで時間があるのでここに戻ってきました



 

「お前名前がパンダみたいだな」

「パンダなら笹を食うんだろ?笹」

「ヤ、ヤメテ!」

 

 日本に来たばかりのあたしはまだ日本語が不慣れなことともあって、同級生の男子にからかわれていた。やめてと言っても、嫌がる姿を見て男子たちはますますからかってくる

 泣きそうになったその時、あたしを守るように割り込むように人がきて、

 

 それで・・・

 

 

 

 

 

 

「んっ・・・」

 

 夢・・・か。カーテンの隙間から漏れ出ている朝日を見て、目を覚ます

 

「うぅ~ん・・・」

 

 ぐっと上半身を起こしてから手を伸ばし、カーテンを開ける。

 あの夢は覚えてる、というよりも昔の記憶だ。同学年の男子にからかわれていたときに助けてくれたのが一夏だった。一夏自身もいじめられて辛かったというのに、あたしを助けてくれて。それで仲良くなって、一夏のことが気になって・・・いや、助けてくれた時に一夏のことを好きになって・・・

 

「・・・一夏」

¬

 一夏に会いたい。思えば夏休みになって逃げるように中国に帰ったから、一夏と会ってない。声すら聞いてない。

 今のあたしを励ましてほしい。初めてあった時みたいに慰めてほしい。抱きしめてほしい。

 でも会いたくない。こんな状態のあたしを見てほしくない。でも・・・

 

「ん゛ん゛~~」

 

 あたしの部屋にいるもう一つの人影の唸り声で負のループから抜け出す。その声の方を見ると・・・

 

「お姉ちゃん、まぶしい~」

 

 朝弱い乱が朝日に背を向けて猫のように丸くなる。実家のルーティーンでカーテン開けちゃったけど、乱もあたしと同じ部屋で寝ていたのを忘れてた。でも今日は予定があるしそのまま乱を起こす

 

「ほら起きなさい。8時30分よ」

「ん~~今日は休みだし、もう2時間~」

「何言ってるの。今日はあたしと遊びに行くんでしょ。ほら起きて」

「ぬ~~・・・」

 

 乱はのっそりと体を起こし、寝ぼけながら部屋を出る。全く、昔から朝弱いんだから

 ・・・さて、あたしも落ち込んでばかりじゃいられないわ

 パチンと両頬を叩いて気持ちをリセットする。暗いままじゃ乱に心配されるからね

 

 

 

 

 

「そういえば、おじちゃんは大丈夫なの?」

 

 都心にある大型ショッピングセンターでいろいろと見て回り、昼頃だったから中にある飲食店に入った。その中で乱がふと話題を上げたのがさっきの言葉だ。

 乱が言うおじちゃんは私の母方のほうのおじいちゃんのことだ。あたしが中学生の頃、おじいちゃんの体調が悪化してしまい、助けが必要ということで家族そろって中国に戻ったことを乱は知っている。その心配をしているのだろう

 

「一時期は介護が必要なほどだったけど、今は良くなったわ。杖使うようになったけど、それ以外は全然元気よ」

「そっか。それだったらわざわざこっちに残らなくても良かったんじゃない?日本でも友達できたんでしょ?」

「まあね。でもおばあちゃんも体の調子が悪くなったら大変だからってことでね」

「ああ、確かにね」

 

 何かあってからじゃ遅いし、お父さんの方の祖父母はお父さんの兄弟がいるということで家族そろって中国に戻ることになった。あたしも中国に戻ることに反対はしなかった

 

「それにその時は日本にいたいって思えなかったし」

「・・・そっか」

 

 あの時は一夏が行方不明になって、ろくでもない奴らがのうのうと生きているのを見るだけでも辛かった。弾や数馬には申し訳ないけど、当時は日本にいたくなかったって本気で思ったし、日本を恨んでいた。今はそんなこと思ってないけど

 乱もそれを察したのか言葉を控える。ちょっと空気が重くなってしまった。話題を切り替えなきゃ

 

「それにしても、あんたもISに乗るなんてね。しかも代表候補生になって」

「ふっふーん。凄いでしょ?」

 

 何気なく言った言葉だが乱にとって相当嬉しかったらしく、ドヤ顔で胸を張る

 

「アタシだってお姉ちゃんと同じIS適正Aだったし、なんならお姉ちゃんよりも早くに専用機貰ってるからね!」

 

 凄いでしょ、褒めて!って、言わんばかりの雰囲気。今、乱に尻尾がついてたら間違いなくブンブンと左右に振れているだろう。なんだかんだそういう妹らしさは残っているのよね。

 凄いわねと言うと、乱はさらに顔を明るくしてこれまでのISの出来事を話してくれる。それを聞いているうちに、ふと疑問が出てきた。

 

「ところでさ」

「何?」

「乱はさ、どうしてISに乗ろうって決めたの?」

 

 思えば乱も昔はISに興味がなかったのは覚えてる。それなのに乱も同じように少しの期間で代表候補生まで上り詰めたのだ。あたしと同じように飽きっぽい乱がここまで上り詰めたのかが気になる。

 そして、それがわかれば・・・なんとなくだが現状から一歩進めそうな気がした。

 

「それは・・・」

『ちょっと!』

 

 と乱が答える前に近くで女性の声が響く。あたしも乱も何事かと会話を切って声のした方に顔を向ける。見ると明らかに圧化粧で性格の悪そうな女とカウンターに座っている男性が揉めているようだ

 

「あんた男なんでしょう!?だったら私の代金も払いなさい!」

「な、何言ってるんです?関係のないあなたの分を払わないといけないのですか?」

「何言ってんの?私は女性、女なのよ。当然のことじゃない」

 

 チッ、思わず舌打ちが出てしまう。まさか女尊男卑のどうしようもない輩がいるなんて・・・おかげで気分が急降下だ。それにしても中国でもこんな奴がいるとは。母国の人間として・・・いや、こいつ本当に中国人か?

 ともかく、こういう輩に限ってISに乗ったことのない連中だろう。代表候補生のあたしがISで悩んでいるのにそんな奴がISを盾にして平然と威張り散らしてて、無性に腹が立ってきた

 

「お姉ちゃん」

「分かってる」

 

 乱も同じように感じたのだろう。アイコンタクトで乱と共に席を立ち、癇癪を起こしている女の背後まで歩く

 その女が気配を感じ取ったのか後ろを振り向き、あたしたちを認識するやいなや、勝ち誇ったように叫びわめきだした

 

「あなたたちも言ってやりな!女の方が偉いということを!」

 

 あたしたちがさも味方のように叫ぶ勘違い女。そんな脳ミソお花畑女をぶん殴りたい気持ちを抑えつつ背後から言葉を刺す

 

「そうね、ふざけたこと抜かすんじゃないわよ。クソババア」

「・・はあ!?」

「耳まで遠いの?ならアタシがもう一度言ってあげる。ふざけたこと抜かすんじゃないわよ、クソ老害厚化粧クソババア」

 

 乱があたしの言葉以上の毒をその女にぶつける。味方だと思ったその女は顔を赤くし反論しようとする

 

「この・・・!」

「大体、ISが乗れるから女が偉いってどういう思考回路してんのよ。ISを乗れるから偉いってこと自体もおかしいし、そもそも主語がデカすぎなのよ。それ以前にアンタはISに係ったことある?無いわよね?ISに関わっていればそんなバカの思考回路なんてしないものね。アニメと現実の区別がつかないゴミと同じよ。人生やり直したらぁ?」

 

 すんごい口が回る。ある意味たくましく育ったことが見て取れる。とはいえ、あたしが思ってたことをそのまま言ってくれたし、それはそれで痛快だ

 厚化粧女は顔を真っ赤にして反論してくる

 

「だ、だったらあんたたちはISに関わってるんでしょうね!?」

「オバサン、本気(マジ)で言ってる?てか、こっちのお姉ちゃんを知らない?」

「は、はぁ?」

「中国の代表候補生の凰鈴音よ。雑誌でも良く見るでしょ?まさかとは思うけど知らないなんて言わせないわよ。アンタはISでいい思いしようとしたんだから」

 

 そんなアタシは台湾で一番勢いのある代表候補生だけどね、と乱は胸を張って付け加える。さすがにあたしのことは知ってるらしく、女は目を見開いてあたしを凝視する。その女は反論を述べようとしているが、言葉が思いつかないのか間抜けな顔で口をパクパクする

 

「てかアンタ、中国人じゃないでしょ。お姉ちゃんのこと知らなければ中国語が変な感じだし・・・大方、女尊男卑にまみれた日本人ね?はっきり言って迷惑だから」

「ふざけるな!!」

 

 顔からしておよそ日本人と推測したが、そこに厚化粧女が噛みついてきた。そこで噛みついてきたってことは・・・

 

「日本人だと!?あんな後進国の人間に見えるのか!?私は偉大なる韓国人だ!そして、女性権利団体韓国自支部の一員でもあるのよ!」

 

 最後の言葉にあたしは眉を顰める。

女性権利団体。またしてもこいつらか。うんざりするし、韓国に支部作ってんじゃないわよ、全く。ただこいつらの場合、そこらの女尊男卑の勘違い達よりもたちが悪いことだけは分かる

 

「私は女性権利団体韓国自支部の一員!だから!」

 

 そういうと女は懐から黒い光物を出す。それを見た周りの人が悲鳴を上げる。

 

 どう見ても銃、本物だ。一気に緊張が走り、臨戦態勢に入る。ISがあるからあたしが狙われるのは問題ない。でもこいつが無差別に発砲されたらたまったもんじゃない

 

「お前達名誉男性は殺してやるわ!まずはアンタよ、文句を言ってきたチビ!」

「っ!」

 

 女は銃口を乱に向ける。乱もISは持っているが、突然な出来事と恐怖からか立ちすくんで動けないでいる

 

「死ねえ!」

 

 発砲までに女の銃口から推測して弾道を推測する。女の発砲と同時にあたしはISを右手だけ展開し、乱の胴を守るように弾丸を受け止める。

 

 掌真ん中に直撃。ISを展開していたから少しの衝撃で済んだ

 

「なっ!?」

「遅い!」

 

 驚く女に対し、あたしは距離を詰める。反撃してくると思ってなかったのか、女がまごつくのを見て二発目の弾丸を発射する前に手組を掴み、真上に挙げる。二発目が発砲されるが、真下を向いているので流れ弾も跳弾も心配ない。

 女の手首をつかんだまま回り込み、ぐっと力を籠めることで体勢を崩させる。ISに掴まれた痛みと想定外の方向からの力で女が銃から手を話すのを確認したのちに足払いをしつつ右手もつかみ、地面に組み伏せた

 

「この!離せ!私を誰だと!」

「乱!警察に連絡!」

「は、はい!」 

 

 女が叫んでいるが、力を緩めることはしない。左手も動けないように固定させ、身動きが取れないようにする。何か喚き続けるけど関係ない。乱が呼んでくれた警官が来るまであたしは女を取り押さえていた

 

 

 

 

 

 

 

 一悶着はあったものの女を警官に突き出した後は特に何事もなく、いろいろと見て回ることができた。夕方ごろとなり帰路に就く中、乱があたしに語りかける

 

「お姉ちゃんは凄いね」

「どうしたのよ?いきなり」

「だって、銃もってる相手にも恐れずに対処してて・・・アタシは何もできなくて」

「それが普通よ。そんなに気にしなくていいわ」

 

 これからできるようにすればいいわ、と付け加える。乱はただ一言、うんとうなずいた後無言のまま歩く

 

「・・・お姉ちゃん」

「うん?」

 

 再び乱から呼ばれ、再び乱の方に顔をむける

 

「さっき、ISに乗ろうとした理由言えなかったじゃん」

「ああ、そうだったわね」

「本当はね、お姉ちゃんに憧れたからなんだ」

「あたしに?」

 

 意外だった。一緒にいたときもどちらかというとあたしと競ってるような感じだったし、そんな素振りなんて見たこと無かったから、そんな理由で驚く

 

「IS乗って同い年や年上を圧倒してたお姉ちゃんが強くてかっこよくて、お姉ちゃんと同じところに行きたいって思ったの。だからアタシもISに乗りたいって思ったの」

「そう・・・」

 

 キラキラした目で語る乱。でも乱は知らない。あたしが大層もない理由でISに乗っていることも、なんでISに乗り続けているか分からないことも。

 そんな思考にとらわれていると、不意に乱から話しかけられる

 

「先週会った時、お姉ちゃんすっごく悩んでたでしょ」

「・・・あの時はほんとごめん」

 

 気にしなくていいよ、と乱は朗らかに言う

 

「あの時ね、お姉ちゃんってやっぱ凄いんだなって思ったんだ」

 

 ・・・え? いったいどこを見てそう言ったのか?

 そんな顔をしていたのか、乱が言葉を続ける

 

「だってさ、国の代表としてIS学園に行けただけじゃなくてさ、IS学園で(ほか)の国の代表候補生たちと競い合って悩んでたってことでしょ?ほかの中国(お姉ちゃんのとこ)の代表候補生よりも高い次元の壁に当たっているんだなって」

 

 そこは自覚している。同国の同期よりも一歩上のところにいることも。

けど

その悩みが、その壁が超えられる気がしない

 

「でもね」

 

 と乱が一呼吸を置いて乱はあたしを、あたしの目を見る

 

「アタシの知ってるお姉ちゃんは、どんなに、ど~んなに高い壁でも乗り越えられる人だから!だれがどう言おうとアタシはそう信じてる!

だって。アタシにとってお姉ちゃんは憧れで、ライバルで・・・

 

 

 一番のファンだから!」

 

 夕日で顔を照らされながら、乱は屈託のない笑顔で言い切った。

 久々に会って、大人になったと思っていたけど。今のあたしへの言葉や表情は無邪気な子供と同じで。

 そんな乱があたしのことを今でも憧れと、一番のファンだと、本心で言っていることが素直に嬉しかった。あたしが無様な姿をさらしたのにもかかわらずだ

 

「・・・ありがと」

 

 嬉しかったと言い返すことが妙に照れくさくなって、たった一言だけで返す。

 中国に戻ってからずっと沈んでいた心に光が差し込まれた、そんな気分になった

 

「だから・・・お姉ちゃんが一夏さんと付き合ってるって聞いてめっちゃ複雑なの!一夏さんと会ったら一発ぶん殴っていいでしょ?」

「駄目に決まってるでしょ!もっと穏便にしなさいよ!!」

 

 くしゃくしゃっと乱の髪をかき乱す。さっきの照れくささも隠すように。

 希望に満ちた目と声に、問題は解決してないけど、気持ちが少しだけ救われた。




 鈴パートはあと1,2話の予定ですね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第49話 先へ

 合宿の後半戦の初日。鈴は一番に更衣室に入り、ISスーツを着用する。その中で今日こそは、と意気込む。

 

(今日は何か掴めるかもしれない・・・)

 

 合宿前半では焦りが先行して何も得られることが無かった鈴だが、中間の帰省による休みで思考が落ち着いている。そんな中で自他ともに第六感が鋭い鈴は、直観的に今日何かあると感じていた。

 準備運動のため、訓練アリーナへ向かう途中で楊管理官と鉢合わせする

 

「おはようございます、楊管理官」

「凰代表候補生、どうでしたか、帰省は」

「まあ、ぼちぼちですね」

 

 そう鈴は返すものの、その表情は帰省前の張りつめていた時より良くなっていることは見て取れた。言葉に反してリフレッシュはできたのだろうと楊管理官が察する。しかし鈴の表情に陰りが見え、まだ悩んでいる様子が見て取れる。

 

 親切心かお節介か、楊管理官は今日のスケジュールを確認しつつ、鈴に声をかける

 

「あなたには先に言っておくべきでしょうね。今日の訓練についてです」

「はあ」

 

 いきなり何を言ってるのかと、怪訝な顔をする鈴。どうせいつもの小言だろうと軽く聞きながそうという態度を隠さないでいた。

 

 しかし、次の言葉で鈴は自身の第六感が正しかったと思うのに十分な言葉だった。

 

「今日ですが、現中国代表と手合わせができます」

 

 

 

 

 

「初めまして。知っていると思いますが、現中国代表の春美華(チュン・メイファ)です。明後日で20歳と42カ月になります。今日は特別講師としてこちらに来ました。よろしくね」

 

 真面目そうな雰囲気であり、丁寧ながら気さくに話す春だが、代表候補生たちは気圧され声を出せないでいる。

 候補生は多くいるが、代表はただ一人。人口が多ければおのずと熾烈になる中で、中国代表の座にいる人が目の前にいることに多くの代表候補生たちが緊張を持つ

 

「今日は現中国代表と手合わせをする機会を設けた。現在の代表の力を知るいい機会となろう。各自成長の礎となるようにしなさい」

 

 進行役の楊管理官の言葉に代表候補生たちがはい!と声をそろえる。現代表と戦える、こんなことはめったにない機会であり、代表候補生たちは興奮半分、恐れ多さ半分といった表情を浮かべている。

 

「早速だけど、まずは私と手合わせをしましょうか。我こそは、って人います?」

 

 軽い感じで春が声をかける。が、それと同時に戦闘モードに入りプレッシャーを放つ。

 代表候補生とはいえ、ティーンエイジャーにとってはとんでもない気迫であり、ほとんどが気圧される。その中でいの一番に手を挙げる候補生が一人

 私の圧にも対抗できるのね、と春は思いつつ、その代表候補生に語る

 

「よし、キミからやろうか。名前は?」

「凰鈴音です」

 

 

 

 

 

 

 鈴と春はISを展開し、実際の戦闘と同じように所定の位置に着く。その中で鈴は心を落ち着かせつつも気合を入れ直す。現代表との手合わせという、またとない機会。中国代表にどこまで通用するのか、何が足りないのかをこの戦闘でつかまんと意気込む。

 戦闘開始の合図と同時に鈴が瞬間加速(イグニッション・ブースト)で間合いを詰め、双天牙月を振り下ろす。先制攻撃からの連撃。これが鈴の戦闘スタイルだ。

 それに対し春代表は()()()()、一般の剣を展開し迎え撃つ。刃が重なる音とともに、鈴の剣が止まる。重量的にはこちらが上だが、こんなにも軽々と止められたことに鈴はおののくも、接近戦のままラッシュを仕掛ける

 

「はあああ!!」

 

 声を上げ、上下左右から連撃を叩き込む。しかし、全てが()()()()()()()。いなされも反撃もせず、ただただ受け止められていることから鈴は嫌でもわかってしまう。

 中国代表は本気を出していないことを

 

「くっ!」

 

 このままではジリ貧と判断し、瞬時に距離を開けて甲龍の特殊武装「衝撃砲」を使う。鈴は目線で悟られないよう、視線を固定したまま不可視の弾幕を張る

 

「シッ!」

「なっ!?」

 

 しかし春は初撃の衝撃砲に対し、盾を展開して突っ込みながら鈴に接近してきた。まさか正面から突破すると思わなかったものの、鈴はカウンターを決めるため剣を振りぬく

 

「甘いですよ」

 

 だがそれすらも読まれる。想定外で見え見えのカウンターをしてしまい、隙だらけとなった胴に春の一閃が走る

 

「ぐうぅっ!!」

 

 直観的に後ろに下がったものの、かなりの衝撃で鈴は吹っ飛ばされてしまう。空中で体勢を立て直すも、身体に響いたようで鈴はえずきそうになる

 

「パワーもスピードも候補生のなかでは確かに高い。それでいて反射神経もかなり良い。ただ、それだけでは一つ上の段階には行けないですね。衝撃砲をノールックで撃てるようになったのは良いですが、戦略としては甘いところがありますね。」

 

 立て直す中、春に淡々と分析された結果を言われる。ここまで通用しないのか、ここまでいいようにされるのか、あまりの力の差に鈴は気圧されそうになる。

 だけどやられっぱなしなのは癪だ、と鈴は奥歯をかみしめる。そうやって鈴は己を鼓舞した

 

「まだまだぁ!」

 

 声を出すとともに再度鈴は攻撃を仕掛けた

 

 

 

 

 

 

 けれども、あたしの気合もむなしく一方的だった。すべて見切られた後、春代表からの猛攻に受けるのが精一杯で防戦一方を強いられる。カウンターをしようにも、余裕持って躱されたりそれを誘う罠で逆にカウンターを貰ったりし、刻一刻と勝負が決してしまう

 

「クッソ・・・」

 

 目の前に集中しなければと思うのだが、別の事ばかり考えてしまう。

 

 思い出すのは、IS学園での専用機持ちとの模擬戦。特に雪広に初めて模擬戦をした時だ。

 クラス対抗戦の後、雪広と手合わせしたのだが、結論から言うと負けた。悪い言い方だが、たかが数か月しか乗ってない素人相手に、代表候補として負けたのはかなり屈辱的だったのは今でも覚えている。

 その時と似ている。あたしの考えがすべて読まれ、常に先手を打ち続けられた時と一緒だ。完敗ではなかったし油断もあったが、全力を出してもそれすらうまく使われて。

 

 これまで直観に頼って戦って、中国にいたときはそれでも勝てていた。周りからは天才だともてはやされたけど、努力はしてきた。そしてこのままIS学園でも一夏のいい手本になろうと、目指したのに。ふたを開ければ他の代表候補生たち(簪とシャルロット)に後れを取る始末。一夏や雪広には勝ち越してはいるが、そもそも彼らが代表候補生たちと渡り合えていることがおかしいのだ。本当に才能がある、天才と言われるべきは彼らなのだ

 

 言えることが一つ。あたしは天才なんかじゃなかった。

 中国では周りより上手だった。ただそれだけ。

 そして、才能ある連中がいるIS学園では、あたしは凡人になり下がる。

 

(でも・・・)

 

 今のあたしにできること・・・それは

 

 凡人と認めて今を必死になるしかない!

 

「はあああぁぁ!!」

 

 雄叫びと共にこれまで以上の速度で春代表に突っ込む。これまでのことから、特効を仕掛けたらカウンターをしてきていた。実際に、春代表はあたしの軌道から離れると同時に大剣の横なぎが見える。

 

「それならぁ!」

 

 瞬間加速中に軌道を変え、躱すと同時に相手の懐に飛び込む。瞬間加速(イグニッション・ブースト)中の別方向へ力をかけることは体へのGが大きくなり、推奨されない行為だ。身体が軋むほどの衝撃だったが意表を突いた。表情は見えないが、相手も姿勢が崩れている!

 せめて一撃だけでも代表に叩き込む!!

 

「いけええぇぇ!!」

 

 その思いで双剣状態にした双天牙月を、振り下ろす

 

 

 はずだった

 

 

「は?」

 

 空を切る。目の前に何もない。思考が止まる。

 

 上?下?どこにもいない。()()()()

 

 ISは360度見渡せるシステムだ。そのカメラから見ると、春代表はあたしの後ろに回り込んでいた

 

 これすらも読まれていた

 

(あっ・・・)

 

 振り向くと同時に春代表の脚が見える。まるで世界がスローモーションになったように錯覚する。

 それなのに、何も考えられない

 焦点が合わなくなってきた・・・

 

 

 

 

 

 

 どれほど経ったか分からない。数刻、いや数秒、もしかしたら数分は経ったのかもしれない。そんな中あたしは何も考えることなく時が流れる。まるで夢を見ているかのよう。

 ああ、きっとこれは夢なんだ。なぜか青空が広がり、地平線が見える。踏みしめた大地には草原が一面に広がって・・・

 

 ふと気づく。ここはどこなんだ?

 目を閉じて、再度開いても広がるのは草原。

 

「・・・え?」

 

 意識がだんだんと戻ってくるほど、今の状況が分からなくなる。さっきまであたしは確か・・・そう、春代表と闘ってて。蹴りが飛んできたのだけ分かったけど、何も対応できなくて。

 

「え?は?ここ・・・どこよ?」

 

 もしや、あの蹴りが直撃して意識を失った?本当に夢の中なんじゃないか・・・

 

「目覚めたるか」

「え!?」

 

 後ろから知らない男の声が聞こえたことに驚きつつ、あたしは後ろを振り向く。

 そこには大木があり、その前に男が立っていた。しかし、逆光のせいなのか、顔どころか服すらも分からず輪郭しか・・・いや、その輪郭すらも怪しい

 

「汝に問う」

 

 そんなことを気にせず、男があたしに問いかけてきた。普通なら身構えるはずなのに、なぜか棒立ちのままあたしはその男の言葉を聞く

 

「力を欲するか?」

 

 力。

 力があれば、皆から尊敬の目で見られるのだろうか。候補生ではなく、代表になれるのだろうか。そうなれば、今後みんなから羨まれるような生活を送れるのだろうか

 そんな夢が掴めるのかな、思わずあたしは手を伸ばして・・・

 

「・・・」

 

 手が止まる。

 そんなこと考えたことあっただろうか?そもそもなんであたしはこんなに頑張っているのか?なんで力が欲しいと思っているのか?

 あたしが欲しいもの、本当に欲しいもの。名声、は少しある。けどそれが一番じゃ無い。地位?金銭?どれも違う。もっと単純で、もっと身近で・・・

 

「一夏・・・」

 

 ぽつりと呟く。休暇中に一回だけ、一夏に電話した。ただなんとなく声が聞きたくなって。

 いつも通り一夏は優しく、たわいもない話で盛り上がる。途中で乱が乱入したが、それも楽しくて。夏休み後半でみんなと合えるのを楽しみにしてて。そんな一夏と一緒に

 

 そう、一夏やみんなと一緒に・・・

 

 

 

 

 あ

 

 そっか

 

 

 置いていかれるのが嫌なんじゃないんだ

 みんなと・・・一夏と肩を並べていたいんだ。

 今まで同じレベルで競い合える人が同世代でいなくて、だからやる気が起きなくて、すぐに飽きてしまって。

 でもIS学園には代表候補生たちがいて、互角の実力を持っていて。雪広、そして一夏が追い付いてきて、嫉妬や恐怖があったのは事実だけど、それ以上にワクワクしたんだ。

 そんな皆、仲間たちと一緒に高みを目指したい。たったそれだけの話。それだけなのに、今までなんで気づかなかったのだろう

 

 一人で勝手に焦って、勝手にふさぎ込んで・・・馬鹿みたい

 

「・・・いいや」

 

 伸ばしかけた手を戻し、首を横に振って男に答える。そしてあたしは近いところをじっと見て、

 

「いらないわ。あんたの力はいらない。あたしはあたしで追いついて見せる」

 

 はっきりと言い切る。それに男は何も答えない。

 数秒、数分、数十分経つほどの沈黙。お互いに動かない。このまま時間だけが過ぎていくかと思ったその時、突風が吹いた。

 それによって、男の後ろの木から桜のような花弁と若草が舞い散る

 

「我も苦悩していた」

 

 男がぽつりと語りだす

 

「本来の姿をいだすまじく(出さないように)制御することを。本来、汝にはこの力は不要と思案した。何より、強大な力は人を狂わし、驕り、心が腐敗し、憤り、悪に染まってゆく。なればこそ()()は制限をかけた。其実近来にてその制限を外し、畜生に落ちた者あり。」

 

 花吹雪がだんだんと強くなり、男の姿が隠れ始める

 

「しかし、汝は律義なり。それは我が証明す。汝は十分な力を持てり」

 

 桜吹雪が激しくなるにつれ、姿がはっきりしてきた。青の学ランを纏い右腕にマゼンダの腕輪を付けた、古臭い言葉に反してあたしと同い年っぽい男子の姿が

 そんな彼が誰か、あたしはなんとなくわかった

 

「我の機能、十全にす。これは力を授けるのではない。汝の成長の糧なり。

 存分に我の、そして汝の実力を発揮せん。さすれば汝、さらに成長せぬことやあらむ」

 

 彼が右手のこぶしを突き出す。それに応えるようにあたしも右手で突き合わせる

 

「ありがと、()()

「信頼するぞ。()()()よ」

 

 

 

 

 

 

 

 春の蹴りが鈴の方に直撃する。これで勝負は決したと誰もが思った

 が、

 

 バチイッ!!

「!」

 

 突然、鈴の体と機体が青白く光りだす。その直後に蹴りが炸裂したのだが、逆に春の脚が弾き飛ばされるような動きをする。これには春含め多くが驚く。こんな機能は甲龍にも、ましてや中国の保有するISにはない。

 異常事態なのか判断すべく、春代表は距離を取り不測の事態に対応できるよう身構える。見学していたISの長官もすぐに指示を出そうとする。

 しかし、すぐに光は収縮しだす。それと同時に機体が、鈴の姿が現れた

 

「これは・・・!」

「きれい・・・」

 

 マゼンダ色だった機体は澄んだ青色になり、鈴の髪も水色に替わっていた。その色合いは美しく、一部の代表候補生を魅了する

 そんな中で春代表と乱、そして長官は気づく

 

「これは・・・」

「まさか・・・!」

形態変化(モード・チェンジ)!?」

 

 ISの第二形態移行とも彼らは考えたが、それ(第二形態移行)にはない搭乗者の変化。それが鈴の体に起きたことから形態変化だと確信した。

 

 その中で当事者である鈴はただじっと自身の手を見た後、自身の機体を冷静に確認する。確認が終わり、春代表に目線を向ける。春代表も、鈴の確認が終わるまでじっと待っていた

 形態変化という類を見ない出来事が起こったことから、データ取得を優先すべきかと春は考える

 

「春代表、お待たせしました」

「どう?いったん中止する?」

「春代表、このまま続行でお願いします」

 

 はっきりと伝え、鈴は一対の双天牙月を構える。その姿を見た春代表はわかったわ、と一言だけ返し、剣を呼び出して構えを取る。

 

 しばしの静寂、先に動いたのは鈴だった。

 

 衝撃砲による再度の弾幕。誘導ではなく、これで仕留めると言わん威力を込めて春代表に打ち込む

 

「甘い!」

 

 鈴の弾幕に対し、それを春は掻い潜る。そのままのスピードで鈴に右袈裟切りを放つ。

 回避不能、受け止めても、今度はパワーで押し切る、そう春は考えていた。が、

 

「何!?」

 

 驚きの声を上げたのは春だった。鈴は()()()()()()()()()で左袈裟切りを放ったのだ。まるで鏡合わせのような攻撃、内心では驚くも勢いのままに斬撃を撃つ。

 互いの身体に刃がぶつかる。互いに体勢を崩すも、二撃目を出さずに後ろに飛んだ

 

「今の攻撃は良かったわ。でもこのやり方じゃ、追い込まれるのはキミのほうよ?」

 

 今の相打ちで春のSEが削られたが、春の手ごたえではそれ以上のダメージを与えていた。これまで鈴はかなりの痛手を受け続けてきたため、今回のような相打ちを続けても鈴の方が先にSEが尽きるのは明白だった

 

「これも作戦のうちだったらどうでしょう?」

 

 それに対し、鈴は平然と返す。その雰囲気から春はブラフではないことを悟る

 

(SEを減らすことをトリガーとする?なんにせよ警戒すべきは形態変化による特殊攻撃ね・・・)

 

 春も形態変化のことは認知している。4人の形態変化後の単一能力、特に代表候補生たちの単一能力から、未知の攻撃に備えていた。

 その中で鈴が取った行動が

 

「らあっ!!」

 

 双天牙月の片方を投合した。

 

(・・・甘いわ)

 

 心の中で残念がる春。これまでにもブーメランのように連結させて投げることはよくあったが、片方のみを投げナイフのようにすることもよくあることだった。

 つまり、鈴のこの攻撃はいつもの攻撃方法。ましてや、単調で武器を手放す悪手中の悪手だった。

 そう分析した春は勝負を決めるべく、一気に距離を詰める。ガードをしてきても、それを上回る現代表のフルパワーで勝負を決めようとした。

 先の投合から形態変化後もパワーはさほど変化していないことと、鈴に代表のパワーをより感じ取ってもらうために放つ春の全身全霊の一撃。それに対し、鈴は片方しかない双天牙月を両手に持ち、春の攻撃を迎え撃つ

 

 これで終わる、春代表の勝ちだ

 

 刃が重なる瞬間に誰もがそう思っていた

 

 バキンッ!!

「な!?」

 

 刃が重なった瞬間に春代表の剣が()()()。それもいとも簡単に。手入れを欠かしたわけでも劣化を見落としていたわけでもないのに折れた。万一推し負けることを考慮していた春代表にとっては想定外の出来事に思考が止まる。しかし、鈴の双天牙月は止まらない

 

 刃を破壊した双天牙月が春を完全にとらえた

 

「ォゴッ・・・!」

 

 もろに入った一撃に隙ができる。その隙を逃さず、振り下ろした双天牙月の切先を春の腹に繰り出す。

 完全な回避は不可能、そう悟った春はダメージを軽減すべく後ろに飛ぶ。切先が刺さりSEを減らすも体勢を立て直そうとして

 

ドンッ!!

「ガッ・・・!!」

 

 春の頭に衝撃が走る。衝撃砲だ。何もない中でこれほどの攻撃は衝撃砲しかない、と春は悟る。想定外だったのはその威力。明らかにこれまでの威力を軽く超える衝撃に意識が飛びかけ、大きな隙を晒してしまう

 

「・・・!」

 

 ゾーンに入っている鈴が瞬間加速で三度春をとらえる。その目は相手が誰であれ、勝つという決意が漲っていた

 

「舐めるなあぁぁ!!」

 

 それに触発されるように春は気合で意識を戻し、鈴の斬撃に合わせカウンターを放った。

 

 二人の刃が再び各々の機体に接触し・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・以上が彼女のデータとなります」

 

 楊管理官の言葉で締めくくられる。昨日行われた私と代表候補生との手合わせ。そこで起きた鈴代表候補生の形態変化の暫定報告が行われた。それと同時に昨日の戦闘を思い出す。

 

 鈴代表候補生の形態変化、それは一言で言うと「己のSEが削られることで強くなるIS」。形態変化後に相打上等の攻撃を仕掛けたのもそのためだった。そして削られたSEは攻撃に流用できるとのこと

 

「私の武器が壊れたのもそれだった、という訳ですか」

「はい、そして衝撃砲の威力強化も」

「しかもそれが目に見えない、と」

 

 かなり厄介ではあった。これまでの前例たちは特徴ある単一能力であったために、大きな変化が起きると思っていた。それがないからこそ虚を突かれたのだけど

 まだまだ可能性があるようで、凰代表候補生は残りの合宿機関でもデータ取りに奔走するそうだ。

 その後はISの流用方法やさらなるデータ取得の方法、次世代への取り入れなどの意見が出たのちに会議が終了した。長時間座った姿勢だったため、大きく伸びをすると長官が話しかけてきた

 

「春代表、最後に質問いいかな?」

「はい、なんでしょう?」

「今回君は彼女に勝ったが・・・彼女が勝つ可能性はあったかい?」

 

 あの試合は二度目の相打ちによって鈴代表候補生のSEが切れて決着となった。あの試合の後、その日のうちにシミュレーションをしたが、あの時の展開は明らかに私が有利。そこから逆転負けは考えられないし、代表としてあってはならない

 

「私は代表ですよ?代表が候補生に負けることなど万に一つもあり得ないです」

 

 言い切る。これは代表として当然の事実。

 けれど

 

「ですが、彼女のポテンシャルならいつかは越されそうですね」

「そうか。それは楽しみだ」

 

 16歳であそこまで仕上がっているのなら、代表(わたし)を超えてもおかしくない。少なくとも、16だった時と比べたら彼女の方が上だ。恐ろしい才能を持つ年下がいることに私も負けていられない

 よし、と言って気合をつけて会議室を後にした。

 

 

 

 

 

 長いと感じていた合宿も終わり、あたしは空港にいる。思えば中国に帰ってきたときはずっと悩むのだろうと思ってたけど、2週間で解決するなんて思いもしなかった。

 しみじみと思いながら見送りに来てくれた三人に振り向く

 

「またな、鈴。一夏君にもよろしくと伝えといてくれ」

「分かったわ、お父さん」

「鈴、向こうでも体調には気を付けるのよ。あと無理もしないこと。それから・・・」

「分かったって!お母さん小言が多いわ」

 

 心配しているのよ、と一蹴される。いつものことだなと苦笑するも、温かい。

 

 そして乱に目を向ける

 

「お姉ちゃん、向こうでも頑張ってね!」

「ええ、頑張ってくるわ」

 

 ぐっとこぶしを握って応援する乱にあたしもこぶしを握って胸に当てる。そろそろ時間だ。あたしは三人から見送られつつ、入り口ゲートに向かおうとする。

 けど、その前に再度乱のもとに駆け寄った。その勢いのまま、乱の両手を握る

 

「お姉ちゃん?」

「乱、あたしのこと気にかけてくれてありがとうね」

 

 迷惑をかけたからお礼を言ったのだけど、それが妙に恥ずかしく。顔が熱くなるのを感じながら、乱の顔を見ることなく速足で入り口ゲートに向かう

 

「お姉ちゃーん!」

 

 後ろから乱の大声。

 

「アタシ、お姉ちゃんに追いついて見せるからー!!」

 

 そんな激励であり、目標としてくれる乱の言葉に先の恥ずかしさも合いまったことで、あたしは右手をひらひらと返してゲートをくぐった

 

 日本に着いたら、IS学園に着いたら、皆に会ったら、何を話そう。どんな模擬戦をしよう。どうやって皆を驚かそう。考えれば考えるほどキリがない。

 

 今からが楽しみで仕方がない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「乱さん、なんかご機嫌だね」

「うん、あたしのお姉ちゃんはやっぱりすごいんだなって。それにお姉ちゃんに言いたかったことも言えたし」

「なんて言ったの?」

「ふふん、それはね、

 

 宣戦布告♪」

 




 これにて、鈴の夏休み編、完。
 2年半弱、時間をかけました。

 でも、夏休みはまだ続くのです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第50話 仏の地で


 サイドストーリー、sideシャルロット


 

 連日30度を超えるような真夏の日本と異なり、夏とはいえ比較的過ごしやすいと言われる欧州。その中で観光地としても有名なパリ。シャルル・ド・ゴール国際空港に一人の少女が降り立つ

 

「まさか、またここに戻れるなんてね・・・」

 

 フランス代表候補生のシャルロットがポツリと漏らす。

 絶望と諦めの中でフランスを後にし、一週間もたたないうちに不安の中での帰国。心身ともに充実した中で、再び祖国の大地を踏みしめることができるとは数か月前の彼女には想像もつかなかった

 

「おーい、シャルロット~!」

 

 ロビーに着くとシャルロットは自身の名を呼ぶアルベールを見つけた

 

「来てくれたんだ、って仕事は?」

「シャルロットが帰ってくるから仕事は全て部下に丸投げした」

「権力の乱用ォ~!」

 

 自分の仕事を完全に放棄したであろう父にツッコミを入れるシャルロット。そんな言葉のキャッチボールをした後、二人はしみじみとした表情になる。こんな普通の親子の会話ができることにえもしれぬ感情が沸き立つ。

 

「・・・ただいま、お父さん」

「おかえり、シャルロット」

 

 はたから見ればただのあいさつ。しかし二人にとっては感慨深いものであった

 

 

 

 

 

 

「そうか、いろんなことが起こったのだな」

 

 デュノア社に向かう中でこれまでの出来事をひとしきり話し終えお父さんが感想を述べる。思えば本当にいろんなことがあった。

 僕たち家族の事、タッグマッチや臨海学校での暴走、そして雪広のトラウマと覚醒。3か月で3年分のイベントを体験した感覚だ

 

「映像で見たが、雪広君はまた強くなっているな。とんでもない成長だ」

「そうだね、形態変化で唯一2段階目になれるし。希少価値が高まったんじゃない?」

 

 とてつもなく高い、とお父さんが手放しに褒める。惚れた人が褒められるというのはなんか悪くないし、誇らしさがある

 

「だが、彼に勝てるのだろう?シャルロットは」

「そりゃあね。だって代表候補生だよ?」

 

 いくら強くなったとはいえ、数か月の操縦者に負け越すのは代表候補生としてあってはならない。それに手の内が分かる以上はある程度対策が立てられる。それに

 

「それに、僕はデュノア社の代表でもあるんだから。恥ずかしくないようにしないとね」

「シャルロット・・・」

「なに、泣きそう?」

「泣きそう」

 

 信号での停車中にお父さんは目頭を押さえる。こんな涙もろいのかと新たな一面が垣間見れてなんか楽しい。

 そんなこんなでデュノア社についた。車から降りて会社のエントランスに入る前に()()()()()のことを聞く

 

「で、()()の方はどうなのさ?」

 

 この言葉にお父さんの表情がピシッとなり、社長の風格を打漂わせるようになった。そしてニッと左口角を上げて不敵な笑みを浮かべる。ってことは・・・

 

「ああ、ほぼ完成だ。試作段階も完了している」

「じゃあ、間に合ったんだね。イグニッションプランに」

 

 ギリギリだったけどな、とお父さんが付け足す。次回のイグニッションプランに絶望的と言われていたのに試作機が完成するなんて、お父さんの凄さを再認識する

 

「そして今日呼んだのは他でもない。模擬戦をしてもらいたい」

「・・・なるほどぉ」

 

 思わず声が弾む。

 

「今回の試作機()()はシャルロットの形態変化を模倣して作ってきた」

「たち、ってことは複数で戦闘するってことだね」

「ああ、代表候補生3人との戦闘だ。シャルロットの模擬戦にも、彼女たちの実戦経験にも大いに役立つだろう」

 

 だが、とお父さんが一息つく

 

「お前が候補生たちに力を示してほしいと思っている」

「結構煽るじゃ~ん」

「だが負けるつもりはないだろう?」

「最初から負けるつもりで行くバカがいるとでも?」

 

 それはそうだ、とお父さんが頷く。そんな会話をしてると模擬戦会場の控室にたどり着く。

会場はIS学園ほど大きくなく入り口が一つのため、中で3人の代表候補生とあいさつを交わす。皆僕より一つ年下でかなり礼儀正しかった。

 出撃のため、3人がISを展開し出撃する。僕の機体をベースとしているため、僕のラファールと似た印象を抱く。違いは背中にあるバックパック。アレに・・・

 

「では、シャルロットさん、出撃してください」

 

 アナウンスと共にISを展開し、出撃する。少しばかりのウォームアップをして、先の3人と相対する位置にまで動く

 

「それでは、模擬戦始めてください」

 

 開始と共に、3人はバックパックを展開する。すると各パックから黒い物体が噴き出し、だんだんと形になっていく。

それぞれの黒いコピーが形成され、一瞬で1対6になる。これが僕の機体から考えられたデュノア社第三世代IS。僕の形態変化による単一能力を誰でも使える機体だ。

 とはいえ、欠点もある。搭乗者の力量がコピー体にももろに出ることだ。少なくとも今日の相手は僕よりもIS歴が短い

 

 たとえ多人数でも追い込まれるにはいかないなあ!!

 

 

 

 

 

 

 と思ってました。正直舐めてました。

 普通にコピー体同士の連携が予想以上で、デュノア社の技術がすごかったです。おかげでSEが3割まで削れてしまうわ、代表候補生の3人も勝てるんじゃないかと思わせてしまうわ

 

「なら、本家を見せるしかないねえ」

 

 これ以上SEが減るのはキツイが仕方ない。ハンドガンで頭を撃ちぬく。生の形態変化で3人が警戒心を増す。

 

「さて、背に腹は代えられないけど仕方ねえなあ!!」

 

 大鎌を取り出して、影のエネルギー体を作り出す。それも3体分。これまでの限界を超えた数に彼女たちは驚きを隠せないでいる。

 それを見逃さない。影を飛ばし各エネルギー体と1対1に持ち込む。これなら連携を取らない、取らせない。3人の連携自体は高くないから、1対3でもどうとでもなる

 

「さあ、反撃開始だ」

 

 瞬間加速(イグニッション・ブースト)で一番後ろにいる子を狙う。前に二人いるからと警戒心が薄かったようで、対応が遅れる。その大きな隙を見逃さない。

 下からの逆袈裟。後ろに吹き飛ばしたダメ押しに4,5個のグレネードで追撃を図る。あっという間にSEを削り切った

 

「残りは二人」

 

 構えを取る二人にあえて大鎌一本で突撃する。候補生たちは左右から攻撃をするも、連携がまだまだ甘く、隙が大きい。

 

「接近戦の大鎌はこう持つ!!」

 

 大鎌の根元を持ち、鎌と柄で二人の攻撃を受け止め、力で押し返す。同時に受け止められると思ってなかったようで体制が大きく崩れた

 そこに振り抜く大振りの一撃。遠心力を最大限入れたこの一撃で二人のSEを0にする

 

「模擬戦終了、お疲れさまでした」

 

 アナウンスで模擬戦が終了。3人にお疲れと声をかけて一足先に戻る。今の模擬戦で試作機たちの欠点も見つかったらしく、製作スタッフがあわただしく動いている。

3人の連携もまだ拙いが光るものがあるし、これからも負けるわけにはいかないな

 

 

 

 

 

 

 

 次期代表候補生との模擬戦から翌日の夜、デュノア社も参加するパーティーに参加することとなった。本来はお父さんだけの参加の予定だったが、参加しておいた方がいいと言われたので僕も参加することになった

 

「どうだ、シャルロット?ドレスは合うか?」

「もう少し~」

 

 お付きの人に背中のファスナーを閉めてもらい、カーテンを開けてお父さんに姿を見せる

 

「どう?似合ってる?」

「・・・ああ、クラリスにそっくりだ」

 

 目頭を押さえながらお父さんは言葉を漏らす。お母さんが着ていたドレスのようで、何か感慨深い

 

「ほーら、感動するのを抑えて、今から会場に連れてってよ」

「グズッ、ああ、今から案内する」

 

 

 で、今はパーティー会にいる。一通りマナーや仕草を頭に叩き入れておいたので、有名どこの人たちへの挨拶は問題なく済んだ。

 とはいえ、初めてのこういった出来事や慣れないあいさつ回りで少し疲れた。今は会場の外にあるベンチで少し休憩中。休憩中とはいえ人の目がある以上、完全なオフの姿は見せるわけにはいかない。グッと伸びをしてなんとなしに辺りを見回す

 

「うん?」

 

 何か端っこで変な動きが目に入った。気のせい、といつもなら思うのだけどここは重要な人たちが集まる会場。無視すると良くないと第六感が騒ぐ

 

「気のせいならそれでいいし、勘が当たったなら・・・」

 

 先ほどの人を見つけ、気配を消して後を追う。後を追っている二人はパーティー用のドレスで着飾ってはいるもののどこか不自然な上、化粧があまりにも厚い。下品そうな女がこの場にいることが不自然で、余計に怪しさが目立つ。

 警戒心を高め、ワイングラスが並ぶテーブルの近くで奴らをじっと見つめている。が、ただただその女たちは話をしているだけ。遠くにいるお父さんを見ているようだけど何もしないから、ただ化粧が濃いだけの人なのかと、僕の間違いなのだろうかと思い始めてきた。

そんな中で二人はドレスの中に手を突っ込み

 

 

 黒いモノを取り出した

 その黒いモノが拳銃だとすぐに分かった

 

 考えるより早くにISを手だけ一部展開し、上にあったワイングラスやワインボトルを床にすべて落とすことは申し訳ないと思いつつ、ワイングラスがあるテーブルを掴み奴らに投げ飛ばす。

 

「死ねぇ!アルベール・デュぐえっ!!」

「!?」

 

 引き金を引く前に片割れの方にテーブルが直撃する。もう片割れが驚き後ろを向く前に僕は奴に向かってスタートを切る。最速で無力化を図る。が、

 

「このアマ!!」

 

 僕が犯人と悟ったのか僕に向けて拳銃を向ける。後ろに人が居るから躱すわけにはいかない。

 

 引き金が引かれる。

たまたまではあるだろうが、奴のはなった弾丸が僕の頭に吸い込まれる

 

「ガ゙ッ!」

 

 昔を思い出すような頭への衝撃。しかしISを展開した今、拳銃程度ではどうということはない

奴の拳銃を強引に奪い去り、流れるように組み伏せる

 

「この、放せ!私を誰だと思ってる!女性権利団体の一員だぞ!!」

「なら、もっと無力化しないとな!!」

 

 組み伏せた状態から力をかけ、右肩を脱臼させる。骨を折ることも考えたが、流石にやりすぎと思いとどまったための妥協案だ

 

「シャルロット!大丈夫か!?」

「僕は平気だよ。それより警備員!」

 

 女の悲鳴がこだまするが手は緩めない。警備員が来るまで押さえつけていた。警備員達が駆け付け、机の下敷きになって伸びている女共々、テロ未遂犯達が引き連れられるのを眺めていた

 

「・・・」

「どうした、シャルロット?」

「いや、なんでも」

 

 なんとなく嫌な予感がしたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 いろいろあったが、日本に出国する前日となった。そんな中で僕とお父さんはゆかりのある地方に来ていた。僕の後ろを歩くお父さんはコスモスの植木鉢を抱えている

 

「お母さん、コスモス好きだったもんね」

「ああ」

 

 今、お母さんの墓参りに来ている。本来墓参りは11月1日が通例だけど、こうして二人で来れる機会は無かったからこうして来ている。花も菊が主流だが、お母さんはコスモスが好きだったし好きなものを送ることにした

 

「お父さんもお母さんの場所分かるんだね」

「ああ、毎年数回来ていたからな・・・。去年までは懺悔に近かったが」

 

 もう大丈夫だよ、と声をかける。申し訳なさそうな表情だったが、僕の言葉で表情が柔らかくなった。思えばそうか、僕への申し訳なさでいっぱいだったからね

 僕も僕で当時は余裕がなかったけど

 

「お母さん、ただいま」

「クラリス、今年は早めに来た」

 

 お母さんの墓石の前に着き、言葉をかける。こうして二人でお母さんの墓石にいるなんて二人とも想像できなかっただろう。墓石周りは直近でお父さんが掃除をしているため綺麗だった。少し生えている雑草を引き抜き、周りをきれいにした後にコスモスの鉢を墓石の前に置く

 

 そして、合掌

 

(お母さん、僕は元気になったよ。お父さんとも仲良くなったし、今幸せです。だから、これからも見守っててね)

 

 多くのことがあったが、思いつく言葉が少なかった。ただ、今言葉が出てこなくても次があると考えるととても気が楽だ。だからこそ少ない言葉でお母さんに思いを伝える。

 合掌を解きお父さんの方に振り向くと、お父さんも同じタイミングで僕に向いた

 

「もう大丈夫か?」

「うん・・・お父さんはお母さんに何言ったの?」

「これからも見守っててくれ、とな」

「僕も同じこと思った」

 

 ふふっ、と僕らは笑みがこぼれる。なんだかんだ親子だなぁと再認識した

 

「それじゃ、帰るか」

「・・・うん」

 

 またね、お母さん

 頑張ってくるから

 

 




 GW中に書けて良かったです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第51話 日本の夏

 大変お待たせいたしました。


 

 最深部に着くための道、その最初にある炎の壁。この堅牢な壁を自分は突破することから始めなければならない。

 見張りは複数いる。こいつらをやり過ごして、かつどこかにあるはずの侵入口を見つけなければならない。かなり厳しいが凝らして、掻い潜って、凝らして・・・あった。わずかだが穴が。別のアバターを作り、見張りをそちらに視線を誘導させる。

 その隙に打ち込む。壁を突破。セキュリティを掻い潜って自分は内部へ潜入した

 

「・・・?」

 

 潜入したのだが、何かがおかしい。確かに内部構造通りであるはずだが、得も言われぬ違和感。まるで何かに監視されているような・・・

 そもそも内部構造通りで整然とされて

 

 構造通り?こんなにきっちりしているか?

 

「まさか!?」

 

 この内部は()()の腹の中か!?急いで脱出し・・・

 

 ブツン!!

 

 入り口が一瞬で消え去る。やられた!嵌められた!!そして奥から・・・数えきれないほどのウサギの人型実体が

 やられ・・・

 

 

 

 

 

「ぐわーー!!やられたーー!!」

「はっはー!束さんの勝ち~~!!」

 

 椅子にもたれて呻く雪広に対し、勝ち誇った表情の束。それぞれの席にはPCが鎮座している。が、雪広側のPC画面にはデフォルメの束の顔がぎっしりと埋まり、「お前の負け~w」と文字がデカデカと表示されている

 その部屋に一夏が入ってきた

 

「おっ、勝負着いたか。兄さんはこれで20連敗か?」

「まだ18連敗だ!」

「いや~、ハッキング勝負で束さんが負けるわけにいかないんだよね~」

 

 互いの技術力向上のため、雪広と束はそれぞれのPCに侵入し破壊するクラッキング勝負をしていた。相手のPCを破壊するだけでなく、自身のPCがハッキングされないよう、相手のハッキングに対して即座にブロックをする攻防を繰り広げていたが、今回は束の罠に引っ掛かり、雪広がなすすべなく敗北した。

 一夏の言葉通りで雪広は束に挑んでは負け続けていた

 

「でも束さんに1勝もぎ取ったのは凄いと思うよ?」

「そのあとボッコボコにされたけどな」

 

 しかし、雪広は束に全敗していたわけではなかった。一回だけ束の猛攻に耐え、奇襲に近い作戦で束のPCを乗っ取ることに成功したのだった。

 直後に束から再戦を申し込まれ、すぐに対策されて惨敗したのだが

 

「いやいや、私に勝つのは本当に凄いことだからね?」

 

 そのようなたわいもない会話をしていると、再び扉が開く

 

「雪兄、束さん、お疲れ様!」

「お疲れ様です、束様。雪広様も」

 

 今度はマドカとクロエが部屋に入ってきた。彼女たちが視界に入った三人は表情が緩む

 

「くーちゃんにまどちゃん、今日も私の勝ち~」

「自分は負けたわ~」

「流石です、束様」

「雪兄、また勝てるよ!」

 

 雪広と一夏は夏休みで代表候補生たちが帰省をする中、手伝いも兼ねて束のラボにお邪魔することとなっていた。この時、元亡国企業のメンバーだったマドカ、スコール、オータムも束のところで監視兼宿ということで一緒に転がり込んだ

 当初、雪広はマドカに対しかなり警戒を抱いていたのだが

 

「雪兄さん、勉強教えて!」

「・・・ああ、分かった」

 

「雪兄さん、今日のおやつはシュークリームだって!」

「おお、そうか・・・」

 

「雪兄、髪洗って!」

「全く、今日だけだぞ?」

 

 

 と、マドカが距離を詰めまくったことで、今では雪広もシスコンになりかけている

 

 そんな中、マドカは後ろからラッピングした箱を取り出した

 

「マドカ、それは何?」

「さっきね、クッキー()()()()()!」

「ヒエッ」

 

 思わず小さな悲鳴をあげる一夏。雪広と束はサーッと血の気が引き、クロエはスッと視線をそらした

 この反応からわかるのだが、マドカはあまりにも料理が下手なのだ。見栄えだけは良いという質の悪い腕を持っており、このクッキーも見た目()()は売り物と遜色ない

 

「よ、用事を思い出したから束さんは研究室に・・・」

「なーに言ってんですか、いっしょに地獄見ましょうよ(食べましょうよ)

「そうですよ、俺たち三人で食べた方がよりいいですって」

 

 逃げようとした束に雪広と一夏が腕だけISを展開し、両脇からがっちりと腕を組む。一人では抑えられないが、二人で全力を込めれば流石の束でも振り切ることができず、椅子に押し込まれる

 

『絶対逃がしませんよ、てか、あの量を二人で食ったら死にます』

『束さん、あなた天才でしょう?なら胃腸も俺たちより丈夫ですって』

『いや、天才関係ないし!?』

『わかりませんよ?もしかしたら今日は美味しいクッキーかもしれませんよ?』

『なら今までそうやって美味しかったことあった!?』

『ないです』

 

 プライベートチャネルで会話をする犠牲者予定の三人。なんとも醜い争いが水面下で起こっている

 

「ちなみにオータムさんとスコールさんは?俺が知る限り、一緒にいたはずじゃ?」

「クッキー食べたら寝るって言っていなくなっちゃった」

(((ハズレじゃねーか!!!)))

 

 亡国企業の前線にいた二人が寝込むレベルのモノ。普通だったら食べないが正しい選択だろう。

 しかし食べないわけにはいかない。ここで拒否をすれば間違いなく妹が悲しむこととなる。そんな姿を見たくないのだ(束は無理やりだが)

 三人は覚悟を決め、クッキーを手に取る

 

「「「いただきます!!」」」

 

 気合を込め、クッキーを口に入れた。美味しくできたというわずかな望みをかけて。

 

 

「「「ウボァァーー!!!!」」」

 

 

 現実は非情であった

 

 

 

 

 

「祭り?」

「そう!お祭り行きたい!」

 

 劇物クッキーを食べて味覚が戻りつつある今日この頃、マドカが俺に祭りに行きたいとせがんできた。どうやら昨日見ていたアニメで夏祭りの回だったらしく、その雰囲気を味わいたいとのこと

 

「この近くでやってるとこあるのか?」

「知らな~い。一兄は知ってる?」

「いや、俺も知らない」

 

 そもそもな話、この地域のことは詳しくない。束さんの隠れ家は移動式なこともあるし、この場所は俺も初めてだから近くに何があるかもわからない。それが楽しいのだけれど

 

「おう、二人とも・・・」

「やっほ〜・・・」

 

 そんな話をしていると、兄さんと束さんが部屋に入ってきた。ハッキング勝負後だといつもなら束さんが上機嫌だから束さんが勝ったのだと分かるのだが、心なしか二人とも疲れているよう

 

「どっちが勝ったんだ?」

「私が勝ったけど・・・」

「互いに操作ミスりまくって、悔恨が残る試合だった」

 

 ・・・多分劇物クッキーの影響だろう。兄さんは俺よりも消費していたし、束さんは兄さんに消費させられていたし。この二人に今もなおダメージを残すクッキー、恐るべし

 

「雪兄、束さん!お祭り行きたいの!」

「ああ、それなら今日の夜近くでやるらしいよ」

「えっ!そうなんですか?」

 

 なんというタイミング。まるでさし示したかのような時に祭りがあるのか。

 

「なら行こう!みんなで!」

 

 隣を見ると目を輝かせたマドカが嬉々として言う。爛々とした表情に断る選択肢を失った

 

「確かに、自分たちも今日の夜は予定ないし。行くか」

「それじゃ、クーちゃんに言っとくね!あとスコールちゃんとオータムちゃんも呼ぼっか!」

 

 意外なことに束さんもノリ気だし、今日の夜が確定した

 

 

 

 その日の夜、俺たちはラボから少し歩いた先の祭り会場にいた。どこかの河川敷らしいが、道の両脇には屋台がズラリと並んでいて、よくある光景が広がっていた

 

「うわあ~!すっごーい!」

「は~、これがジャパンの祭りか~」

「これはこれは、趣があるわ」

 

 マドカが目を輝かせながらキョロキョロとあたりを見回す。スコールさんもオータムさんも日本の祭りに興味があったらしく、この場の雰囲気に興奮を隠しきれていない。

 そんな三人は浴衣を着ている。近くでレンタル浴衣があったらしく、日本の祭りを十全に楽しむために借りたとのこと。確かに様になっている

 

「いや~祭りなんてひっさびさだなあ!」

 

 そして、いつもは引きこもっている束さんも参加している、のだが

 

「束様、ラフすぎません?」

 

 いつもの不思議の国のアリス衣装ではなく、まさかの白T、ジーンズ、サンダルという組み合わせ。いつもの格好だと目立つが、それ以上にダサ・・・おっさんのような恰好だった。さすがの格好に思わず浴衣姿のクロエがツッコむ

 そんな形でみんなと縁日を回っていると

 

「兄さん達!見て見て!綺麗なのがある!」

 

 マドカがある屋台で立ち止まって語りかける

 

「スーパーボールすくい、か」

「スーパーボール?フットボールと関係あるのか?」

「いえ、スーパーボールっていう良く跳ねるゴムボールがあるんですよ。それをすくうゲームです」

「面白そう!やろ!」

 

 マドカの声でみんなで参加することとなった。それぞれにポイが渡ると、クロエが解説し始める

 

「この網でボールを掬います。ですが、水に触れると破けやすくなるので気を付けてください。全部破けるとおしまいです」

 

 そう言ってボールを掬うクロエだが、掬う前に破けてしまう。俺も兄さんも破けてしまう中、流石と言うべきか、マドカ、オータムさん、スコールさんは初めてなのに一つ掬えていた

 

「ほいほいほいほい」

「ええ~~っ!?」

 

 そんな中で、束さんがめちゃくちゃボールを掬っていた。網にバリアが張っているのかってくらいに掬う姿に、俺たちや店主が驚きを隠せないでいた。

 その結果、

 

「ふい~、こんなもんか」

 

 束さんのお椀にはスーパーボールの山ができていた。相変わらず天才を発揮しているけど、店主が驚きのあまり口が開きっぱなしだった。

 流石にということで俺たちはボールを一個ずつ選んで残りは返すことにした。束さんも取った技術に満足していたようで、戻してほしいという店主のお願いに応えていた

 

「きれい・・・」

「これずっと見ていられるな」

「なかなかの弾力ね。武器として使えるんじゃ?」

「それ武器にしたのは漫画のキャラだけです」

 

 スコールさんの言葉に兄さんがツッコむ。確かに痛いから気持ちは分からんでもない

 

 

 

 その後も縁日が進み屋台で買い食いをしつつ、開けた場所に出た。聞いた話だと、時間的にそろそろだろう

 

「始まったな」

 

 夜空に白い光が吸い込まれていき、パッと花火がはじける。ドーン、と音が遅れてやってくる

 

「はわ~~!」

「こいつぁすげえな」

「綺麗ね」

 

 マドカ達は夜空の華に感動している。俺たちも久々の光景に思わず感嘆を漏らすしかなかった。それぞれが夜空をじっと見つめながら、色とりどりの花火を眺める。心なしか、過去の出来事も洗い流せるような気がする

 

「皆」

 

 ふとマドカに声をかけられる。すると大きな花火が夜空いっぱいに広がって、

 

「来年もみんなで花火見ようね」

 

 満面の笑みを俺たちに向けた。直後に大きな花火の音がやってくる

 

「ああ、そうだな」

 

 来年もみよう。そんな幸せが続くことを祈って。

 

 

 

 

 

 

 

 

「楯無、簪。呼び出してすまないな」

「いえ、私は大丈夫よ」

「お姉ちゃんと帰省して正解だったよ」

 

 更織家のとある一室。暗い畳の部屋に更識当主が姉妹を呼び出す。そこでは、普段は足を踏み入れることは禁じられており、外部に情報が漏れない会議をするときに使われる部屋だ。

 それほどまでに重要なことを彼女たちは認識していた。部屋の空気がピリつく中、楯無が声を上げる

 

「当主、お話とは何でしょう?」

「ああ、

 

女性権利団体が不穏な動きをしている」

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそおいでくださいました!!」

「分かっているな?私の言うことは絶対であることを」

「千冬姉に楯突く奴らは皆殺しだ!」

「ともに世界を変えましょう!」

「流石、私の弟と恋人だ。よくわかっている」

「あなた様方も来てくださり、我ら団体はさらなる思想を広げることができます!」

「お前らも私たちのために指定の日に動いてもらうぞ。いいな?」

「ええ、私はあの(下等生物)を血祭りにしてさしあげますわ」

「コロスコロスコロスコロス・・・」

 

 悪意がゆっくりと、しかし確実に蠢き出していた




 大変遅くなりましたが、これにて夏休み編完!
 3年近くかけてしまった・・・(主に資格勉強に社会人生活が原因)

 さて、次回からは2学期編ですね。
 物語も佳境・・・これ以上はやめときましょう

 それにしても、今回はいろんなネタを盛り込みましたわ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

51話までの登場人物紹介&機体説明

 お久しぶりです
 新章は本年までに始めます


 

主要登場人物紹介 

 

・マドカ

 亡国企業穏健派の一員であり、織斑計画(プロジェクト・モザイカ)の実験体。研究所から逃げたところを偶然オータムに拾われ、オータム所属の亡国企業に所属することになった。亡国企業過激派のテロから命からがら逃げ出し放浪とする中で体調を崩してしまうが、スコールとオータムの計らいでIS学園に行き、IS学園と篠ノ之束に匿ってもらうこととなった。

 家族に強烈な憧れを抱いており、IS学園で一夏と出会ったことで同じ出生から兄と思い慕うようになる。雪広の事も一夏の兄ということで兄と認識するようになった。

 IS操縦が飛び抜けて高いこと、ISの知識も申し分ないことから二学期以降は監視も兼ねて1年1組に編入することに。ただし、当然ながら一般教養は壊滅であったため、夏休み中は雪広が付きっ切りで勉強を教えてもらうことになった。

 仲間には年相応、家族には甘えたがりな幼さがあるが、敵対する人には冷酷な態度をとる。

 少し人見知り。

 

・スコール

 亡国企業穏健派の一員。長年亡国企業に属し、世界で勃発する数多の戦争を終結させていた。過激派によって強襲されるが、オータム・マドカと共に逃げ切ることに成功。その日暮らしながらも耐え抜いていたが、マドカの体調悪化で苦渋の決断からIS学園で匿ってもらうことに。

 ISの技術力の高さや元傭兵であること、IS学園の先生が不足したことが重なり、臨時教師として雇ってもらうこととなった。教養もあることから、副教科として世界史も兼任することとなった。

 自分に厳しく仲間にも厳しい、と本人は言っているが身内には甘いとのこと。特にマドカには甘かった。

 禁句は年齢。「おばさん」発言をした場合、敵なら即首を跳ね飛ばす。仲間でもこの時ばかりは10分の9殺しをするらしい。ソースはオータム。

 

・オータム

 亡国企業穏健派の一員。孤児だったところをスコールに拾われ、亡国企業に属することに。過激派から強襲されるが、自身のコアを大きく爆破させることで自爆したと見せかけて逃げ切れる要因を作った。スコールと同じくIS学園で匿ってもらうとともに臨時教師として雇われることとなった。

 姉御肌な性格であり、よくマドカの面倒を見ていた。最近はマドカが一夏たちに懐いていることから家族ができてよかったと思う反面、一抹の寂しさも感じている。

 酒にめっぽう強いことや酒好きであることから、すでにIS学園の教師の中に飲み仲間ができた。

 

・凰乱音

 台湾代表候補生であり、鈴の従妹。鈴より一つ年が下。容姿や性格が鈴とよく似ており、妹と間違われやすい。鈴二号は彼女にとっての禁句である。昔は鈴の後ろを追いかけるような性格であったが、鈴の憧れから鈴を模倣するようになり、勝気な性格となった。鈴よりも胸と態度がやや大きい。

 鈴に彼氏ができたと知って、初めて会ったら一発殴ることを心に秘めている。

 

・凰鈴音

 専用機持ちで自身だけ形態変化ができないという劣等感と、それに立ち向かって乗り越えたい思いによって形態変化できるようになった

 乱音の体の成長に少し嫉妬している

 

・楊麗々

 中国代表候補生の管理官。元は中国代表候補生だったが、才能のなさを無茶なトレーニングによって補おうとした結果、選手生命にかかわる大けがをしてしまったことでサポートする側になった。

 未だに彼氏がいない

 

 

 

 機体説明

 

 サイレントゼフィルス

 マドカ専用機。イギリスのブルー・ティアーズの二号機。別のテロ組織が強奪したのち、戦場で使われていたところをオータムが強奪。ISの適合度からマドカが搭乗することになり、以降専用機となった。シールドビットを使用するほか、ビームを曲げる偏向制御射撃(フレキシブル)が可能。BTエネルギーと物理弾の両方が使用可能な大型レーザーライフル「星を砕く者(スターブレイカー)」の専用武器がある。先端には近接用の銃剣が取り付けられており、ブルー・ティアーズの弱点である近接攻撃が可能。

 

 アラクネ

 オータム専用機。アメリカの第2世代型。どこかの紛争地帯でオータムが強奪したらしく、本人もどこで手に入れたか忘れたとのこと。

 背中に8つの独立したPICを展開している装甲脚を備えており、一対多を想定した機体となっている。しかし、全ての脚を自在に使うには相当の労力がかかるため、基本は2本で一対として使用している。

 過激派から逃れるために自爆させたが、ある程度の展開・操縦は可能だった。IS学園に到着後は機体の修繕で依然と同じ状態まで回復した。

 

 ゴールデン・ドーン

 スコール専用機。亡国企業から支給されたIS。先端が開閉式となっている巨大な尾を持ち、近接戦闘時には3本目の腕として用いられる。炎を中心とした攻撃が多く、疑似的に蜃気楼を発生させて相手を翻弄させることができる。

 相手から注目を浴びることから囮になりやすいこと、それを踏まえての作戦が立てやすいことから金色にしているとスコールは語るが、マドカ曰く本人が好きな色らしい。周りからはカラーリングを除けばいい機体と言われている。

 

 

 追加情報

 

 甲龍

 形態変化条件

 一戦闘中に失ったSEが計50%以上で変化可能。

 機体が青白いバリアで覆われた後、発行が収まると同時に形態変化が完了する。他の形態変化の機体と同じく、変化中は外部の攻撃を受けない。

 

 形態変化後の特徴

・カラーリングがマゼンダから青に

・装甲が薄くなるが、機動力・攻撃力が上昇する

・口調が丁寧になり、冷静さが増す

・髪と瞳の色が水色になる

 

 単一能力

「隐藏反击(インカンハンジ)」

 相手から受けたことで減ったSEを蓄える単一能力。形態変化前のダメージによる減ったSEも蓄積することが可能。貯めたSEを双天牙月に流すことで武器の大幅強化を行うことができる。

 簪の単一能力「光極」でも似たことができるが、鈴の場合は武器にしか強化ができない代わりにSEを大幅に減らす疑似零落白夜にすることや、相手の武器を破壊するようなエネルギーを纏わせることなどができ、差別化されている。未知な部分が多く、本人も模索中。

 

 

 

 

・亡国機業過激派

 世界を戦争で牛耳ろうとするテロ組織。対立していた穏健派を壊滅させ、世界を我が物にしようと画策している。

 最近になって戦力が増強したことや、ある団体から拠点を手に入れたことで日本に照準を当てているらしい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8章 学校祭、そして・・・
第52話 学園祭、恥、悪


 お久しぶりです。社会人となって、資格試験が大変でした。
 年末年始は頑張ろうと思います。いろいろと


 夏休み最終日の夜。計画がない学生が悲鳴をあげるであろう中、俺は売店で買った菓子や飲み物が入ったビニール袋を下げて静かな廊下を歩く。

 

 思えば臨海学校の後もいろんなことがあった。

 俺の出生を知ったこと、亡国企業の人たちを匿うことになったこと、血の繋がった妹ができたこと、そして鈴も形態変化ができるようになったこと。どれも俺にとってはとんでもない出来事だった。何よりも鈴も形態変化できるようになったのは自分のことのように嬉しかった。これで俺たち5人全員が形態変化できるようになったことで、風の噂では専用機持ちの先輩たちは若干プレッシャーを感じてるらしい。

 ちなみに亡国企業から逃れてきたスコールさんとオータムさんに関してだが、IS学園の臨時教師として働くこととなった。なんでもIS学園から退職者があったため、その穴を防ぐ目的で働くこととなったらしい。教師がいなくなったことに多少の違和感はあるけども。

 そしてマドカだが、なんと1組に編入することとなった。年齢が分からないとのことだから俺たちと同じ一年として、しかも俺と同じ一組に編入となった。織斑千冬と同じような見た目だから不安はあるけど、そこは俺たちでフォローしよう

 そんな考えを巡らせていると、見慣れた番号のドアにたどり着く。俺は荷物の入ったビニール袋をうまく持ち替えてドアを開ける

 

「兄さん、戻った〜」

 

 おう、と奥で返事が聞こえた。奥を覗くと、兄さんはパソコンの画面を睨みながらキーボードをたたきまくっている。部屋出る前(さっき)からずっとこの調子だ

 ダークウェブから情報を漁っているのだろう。だが、兄さんの表情は怪訝だ。大体こういうときは・・・

 

「パソコン睨みつけて、何か悪いニュースでもあった?」

「最近活動家がニュースになるなって、女尊男卑の奴らに然り、机上論しか語らん環境家に然り」

 

 菓子をしまい、飲み物を冷蔵庫に入れる俺に対し、見向きもせずに兄さんはPCのキーボードを打つ

 

「でも、そんなこと今までもあったじゃん?そんな気にすること?」

「個人的にはそんなニュースが多いってことなんだよな。()()()()()()()

「・・・つまりメディアが何か隠してるってことか?」

 

 そんな気がする、と言って兄さんは先ほどと変わらずにキーボードを酷使する。最近のテレビやネットでは何かしらの活動家が問題を起こしたというようなニュースばかりなことは気になってた。そんなマヌケが増えただけか、それを取り上げる機会が増えただけなのか・・・

 それとも裏で何かあるのか

 

「で、その裏を探してると」

「そういうことなんだが・・・その情報が全く出てないんだ。 深いところまで潜っても(ダークウェブで調べても)何もでてこねえ」

 

 話しながら高速でキーボードを打ち続ける。若干のイラつきから成果が何もないのだろう

 

「杞憂であるならそれでいいんだけどね」

「で、本音は?」

「このままだと深読みしすぎる痛いヤツと思われるのがイヤ」

「ぶっちゃけたなオイ」

 

 姿勢を崩した前屈みになってキーボードを強く打っているあたり、ムキになり出している。こうなると時間を忘れて熱中するのが目に見える。明日が休みならほっとくが、明日は始業式だ。流石に止めさせよう

 

「明日始業式だし、準備でもしたら?流石に初日から居眠りはまずいだろ?」

「別に問題な・・・いや、ここはIS学園だったな。織斑千冬(ヤツ)に目つけられるのもアレだし、しゃーねぇ」

 

 兄さんは立ち上がり、部屋のシャワー場に入っていく。そんな姿を見送った後、一抹の不安がよぎる

 

 もっと大きなことが起こるのではないか

 全く情報が出ないように水面下で何か蠢いてるのではないか

 

「考えすぎ、だよな」

 

 兄さんに感化されたのだろう。俺の単なる思い込みだ。

 そう思いながら俺はベッドに横たわった

 

 

 

 

 

 久々の教室は休み明け特有の空気だ。久方ぶりのクラスメイトと会話が弾む。どこ行ってたとか、宿題辛かったとかの話で盛り上がる。

 HRでマドカの編入が発表された時、織斑千冬と同じような見た目だから多少のざわつきはあった。が、すぐにマスコットの立ち位置になり俺が恐れていたことは杞憂に終わった。 一春と箒と千冬(迷惑な奴ら)がいない事もあってつつがなく始業式・午前午後の授業が進み、ホームルームの時間となる。

 

 そして今、俺はというと、

 

 

 窓ガラスが割れんばかりに盛り響く歓声。周りに迷惑をかけるレベルの教室の前で俺、兄さん、シャルロット、相川さんが輪となって拳を出し合う。俺含め全員が殺気を纏っており、互いを喰い殺すかのよう。二学期が始まったばかりの光景とは思えない

 

 なぜこうなったか?理由は数十分前に遡る

 

 夏休みの課題テストが終わり、ホームルームで学園祭の出し物の話し合いとなった。一春(ヤツ)が欠席だったので兄さんが代理でクラスの意見をまとめている。だが、

 

『遠藤兄弟とワンデイクラブ』

『遠藤兄弟とツイスター』

『遠藤兄弟とポッキーゲーム』

 

 これが今出ている案である。俺の目線に気づくと、兄さんは確認のためか俺に質問する

 

「一夏、どう思う?」

「却下だ」

『『えーーー!?』』

 

 俺の即答にみんながブーイングする。いや、どう考えても却下だろ!?

 

「男子たちは我々の共有財産である!」

「我々に癒しを!」

「それを売りにしなきゃ勿体無い!!」

「俺は物じゃねぇ!!」

 

 あまりの物言いに思わず声を荒げてしまった。それでもなおクラスメイト達は食い下がってくる。埒があかないことや兄さんの意見を聞きたいこともあり、目が合った時にアイコンタクトを送る

 

「自分も嫌だな。だって・・・

 

過労死するぞ、自分たちが」

 

 そこかい!?これらの案はどう見てもホストだろ!?性的消費、って兄さんはそこの感覚が無かったんだった!!

 

「それに、これらの案だと自分と一夏だけでみんなは何もしないことになるけど、いいのか?楽しさ半減しない?」

「うっ・・・」

「それは、確かに・・・」

 

 おお、なんか上手く噛み合ってる。これで擬似ホストは回避できた。流石兄さん

 結局、皆で楽しもうとのことでこれまでの意見たちは却下となった。良かった

 

「で、振り出しになるけど何か案ある?」

「メイド喫茶は?」

 

 するとマドカが手を挙げて案を出した。またしても炎がついたかのように盛り上がる

 

「いいじゃんメイド喫茶!」

「一回着てみたかったのよね!」

「マドカちゃん、ナイスアイデア!」

 

 その後もあーだこーだと意見が飛び交い形になっていく。これだと俺らは執事服で動くことになりそうだ。それならまあ、許容だ。執事服はどこで買えるのかと思考をめぐらす。

 

 だが、次の言葉で俺たちは地獄に突き落とされる

 

「兄さんたちもメイド服だよね?」

「「え゛っ゛?」」

 

 ここで即否定をすれば良かったのだが、あまりの発言に俺たちは呆けてしまった。

 その隙が命取りとなってしまったのだ

 

「マドカちゃん、それいい!!」

「女装メイド!確かに面白い!」

「女装でメイド、何も起こるはずもなく、ジュルリ」

 

 やばいやばいやばい!!とんでもない方向に向かってる!!だったらツイスターとかポッキーの方がマシだ!!!

 

「待て待て!!それは聞いてないって!ナシナシ!!」

「いやいやいや、雪広君もメイド服に合うって!」

「男子しかできないよ、女装は!」

 

 流石の兄さんも反論するも、女子たちの熱量と感情に流されてしまう。

 俺たちの白熱の議論の結果、これ以上時間をかけられない事もあり、俺、一夏、シャルロット、相川さんの四人でじゃんけんをして負け残った奴に対応する人がメイド(女子なら執事)をすると言うことになった。その対応が

 

 俺→俺

 兄さん→兄さん

 シャルロット→シャルロット含むクラスメイト全員

 相川さん→俺と兄さん

 

 の対応となった。相応のリスクを払え、と言うことで女子にもリスクを背負わせたものの、50%でメイドとなってしまう。

 目標はシャルロットを負かすこと、次点で兄さんだけを犠牲にすること。

 

 絶対に負けられない戦いがここにある

 

「それでは掛け声は僭越ながら、私鷹月静寐が務めさせていただきます」

 

 まさかのしっかり者である鷹月さんがこのジャンケンを仕切ることとなった

 俺たちは殺さんとばかりの殺気を放つ。普通なら耐えられないはずなのに、相川さんも負けじと勝つというオーラを押し付けてくる

 

「それではいきます!ジャン、ケン、ポン!!」

 

 

 一夏  パー

 雪宏  グー

 シャル チョキ

 相川  グー

 

『『おおーー!!!』』

 

 最初はあいこ、これだけでも歓声が上がる。

 マジで負けられねえ

 

「ジャン、ケン、ポン!!」

 

 一夏  パー

 雪宏  グー

 シャル グー

 相川  パー

 

「しゃぁぁぁ!!!!」

 

 俺と相川さんが勝ち!ということはメイド服回避!!!よっしゃあぁぁぁ!!!!

 思わず手を強くたたいてガッツポーズをあげる。やべえ、ドーパミンがドバドバだ

 

「ああ゛ー!何で勝つんだ私ー!!!」

「清香ナイスファイト!」

「まだよ!まだ希望はあるわ!!」

 

 俺と相川さんが席に戻る。ルンルン気分で席に着くと、残った二人の殺気が強くなる

 

「今日だけは負けられねえんだわ」

「言っとくけど僕はクラスメイトたちの想いを背負ってるんでね」

「そんな邪念に自分が負けるかよ」

「女の執念、見せようじゃないか」

「いきます!ジャン、ケン、ポン!!」

 

 

 

 

 

 

 晴天の空に花火の音が響く。学園祭当日。IS学園ということもあり、学園祭であろうと、基本は生徒が招待した人や政府関係者しかIS学園に入れない。一般参加枠もあるにはあるが、その倍率は千倍以上であり、とんでもない競争が起こる。また、仮にそのチケットが取れても、入場時に手荷物審査を行い、場合によっては入場させないようにしており、迷惑客が来ることを徹底的に潰している。

 

 その中で一年生たちの出し物では2組が中華屋台、3組がゲームの生攻略、4組がコスプレ喫茶となっている。1組と4組は多少似ているが、客層が違うようで4組の方も繁盛している。

その中で鈴と簪は一夏とシャルロットに招待され1組の扉に来ていた

 

「今のところ問題ないわね」

「そうだね。お姉ちゃんからも連絡ないし」

「それにしても1組の出し物、メイド喫茶以外まっったく情報が出なかったわね」

「そうそう、唯一雪広が死んだ目をしていたことしか分からないんだよね」

 

 普通のメイド・執事喫茶なのか、はたまた雪広が何か想像を超えることをするのか、そんな考えの中二人が1組の扉を開くと、

 

「おかえりなさいませ、お嬢様方」

 

 ピシッと礼を決める執事服の一夏が二人を迎える。ただでさえ顔がいい一夏の執事の仕草に二人は思わず見惚れてしまう

 

「ハッ!だめだめ、私には雪広が!」

「いや、これは見惚れるわ」

「かっこいいだろ?結構練習したんだぜ?」

 

 荘厳的な雰囲気から一転していつもの一夏に戻る。とはいえ、その格好からは高校生と思えないような紳士の空気がにじみ出ている

 

「二人もいいじゃないか。簪は仮面ライダーか」

「そう!ただのヒーローじゃない、ダークヒーローのコスだよ!」

「鈴はチャイナ服、もう犯罪だろ」

「ど、どこ見てんのよ馬鹿!」

 

 そんなやり取りをして一夏は二人を席に着かせる。その席にシャルロットがグラスに水を高めから注ぎ、テーブルに用意する

 

「紅茶のように注ぐわね」

「こうすることでミネラルウォーターの口あたりが良くなるんだよ?」

「へぇ~、どこの情報?」

「今僕が考えた」

「デマじゃない!」

 

 学園祭の空気もあってかいつも以上にツッコミが鋭くなる。そんな中、簪は1組の喫茶内を見回す

 

「で、雪広は?」

「そうよ、アイツどこにいるのよ?」

 

 ずっと気になってたであろう簪が口を開く。鈴も雪広がいったい何をするのかが気になるようで仕方がないようだ。

 二人の言葉に顔を見合わせた後ニマ~ッ、とにやける二人

 

「じゃあ雪広呼んでくるw」

「「?」」

 

 何とも言えない反応に疑問が浮かぶ鈴と簪。待つこと数分、店の奥から()()()が出てきた

 

「「ブフォッw!!」」

 

 鈴と簪が長身黒髪ロングのメイドを見て吹き出す。側から見ればメイクがバッチリと決まった長身スレンダーの女性に見えるだろう。そんな彼女の胸元にあるネームプレートは「ユキちゃん」と書かれている。

 

 そう、雪宏だ

 

「「アーーーッハッハッハッハッハッハwww!!!!」」

 

 想像の斜め上の姿に鈴と簪は椅子から崩れ落ちるほど爆笑した。鈴は床をバシバシ叩き、簪は腹を抑えてうずくまる

 

「ヒィ〜〜ッ、ヒッヒッヒッヒッwww」

「アハハッww!!お腹っ、お腹痛い〜www!!」

「死にてぇ」

「まあまあユキちゃん、似合ってるよブフッw」

「ほら笑って兄さん、いや姉さんww」

「ぶん殴っていいか?今なら暴力系ヒロインで許されるだろ」

「似合ってるよ!雪姉!」

「オ・メ・エ・の・せ・い・だ・ぞ」

 

 みょーん、とマドカのほっぺをつねる雪宏。ジタバタとマドカはもがく光景ははたから見れば仲睦まじい姉妹に見える

 実際は兄妹であるのだが

 

 ひとしきりのやりとりの後、二人は腹を抑えながら席に着く

 

「さ~て、何か頼まないとねw」

「笑いすぎてお腹減ってないのよw」

「見物だけだったらチャージ代高くつけるぞ」

「それじゃあ、この『メイドにご褒美セット』で」

「言っておくが、自分にご褒美は指名できないからな」

 

 雪広がくぎを刺すと二人は「え~!?」と落胆の声をあげる

 

「あんたメイドでしょ?ご褒美は受け取るものよ」

「そうだそうだ~!貢がせろ~!」

「一応理由はあるんだ。一つは自分が甘いものが好きではないこと。もう一つは・・・」

 

 二つ目の理由を言うとき、雪広はかがんで二人にしか聞こえない声で話す

 

()()()の時に胃もたれで動けないことを無くすためだ」

「・・・ああ~、なるほどね」

「それはしょうがないか。ならマドカちゃんにご褒美セットで」

「わーい♪」

 

 でも雪広にも何かしてほしいな~、と簪がぼやく。するとシャルロットがピーンと何かを閃き、悪魔の言葉を紡いだ

 

「雪広を外に連れ出す権はどう?」

「おい待てシャルロットォォ!!」

 

 とんでもない言葉に雪広がシャルロットの肩を掴む

 

「これ以上俺に痴態を晒せと!?」

「いいじゃん、減るもんじゃないし」

「俺のSAN値が削れるんだよぉ!」

 

 メイド服を着ているからか、雪広らしからぬ発言をする。雪広はシャルロットの肩をガックンガックン揺さぶるが、二人の視線に気づく

 

「雪広、いくら?」

「絶対に断る!」

「あたしはポケットマネーで(3万円)は出せる」

「私は(5万円)

「やめろぉ!債務者な言い方!」

 

 数十秒の押し問答が続き、埒が明かないということでそれぞれじゃんけんをすることになった。雪広も最初は違う方法でとごねはしたが、手っ取り早く決めれると言いくるめられ、腹をくくった。

 雪広は恥の上塗りを避けるべく、鈴と簪は諸相メイドを連れ出すべく、気合を込めて叫ぶ

 

「「「ジャン、ケン、ポン!!」」」

 

 結果、

 

 2組の教室にて

 

「ほら雪広、桃饅咥えて。ハイチーズ♪」

「」

 

 4組の教室では

 

「ポーズはこうで、はい、笑って~♪」

「」

 

 見事に恥を重ねることとなった

 

 

 

 

 

「お次でお待ちの2名様。チケット確認します」

 

「出身はどちらで?・・・、はい・・・、はい・・・、ではこちらを通過してください」

「・・・はいOKです。ではIS学園の学園祭、楽しんでいってくださ〜い!」

 

 入場ゲートを潜り抜ける二人。一人は貴族のような風潮を思わせる金髪美女、もう一人は規律を守る厳格そうな銀髪美少女。

 

「フン、これほどまでに意識が低いとはな。この学園には価値がない」

「ええ、男がいる時点でここには価値がありませんわ」

 

 不穏な言葉を残し、彼女たちは人込みに紛れていった




 2学期の始まりです。本当に遅くなりました
 物語も佳境に近づいてますね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第53話 祭の一幕

 雪宏が鈴と簪に連れられても1組の盛況は続いていた。女装メイドという唯一無二の存在が居なくとも、同じく唯一の執事である一夏や王子様系メイドのシャルロット、妹系のマドカがいることもあり人気を博していた。人の流れがひと段落し、シャルロットが休憩で外出したのち、二人の新米教師が喫茶店に足を踏み入れる

 

「うーす、来たぞー」

「おかえりなさい、オータム!スコールも!」

「あらあら、可愛いメイドさんね」

 

 ちょうど部屋前に待機していたマドカが対応する。マドカも知り合いが来たことでさらにテンションが高くなったようだ

 

「そうだ!もっと褒めてもいいんだぞ!」

「?可愛いと思うぞ?」

 

 フンスフンスと鼻息荒くするマドカにオータムは若干押され気味に答える。そこに一夏が水とメニューをもってフォローに入る

 

「お嬢様方、こちらが当店のメニューとなります」

「あら、一夏君も様になってるわね」

「ありがとうございます。当店はこちらのメニューが人気でして」

 

 一夏はメニュー表にある人気の品を指差す。それを見て二人はマドカの反応から何を注文してほしいか察した

 

「私は紅茶、オータムは?」

「俺はコーヒー。あと、マドカにご褒美セットデラックスで」

「かしこまり〜♫」

 

 注文をとっていたのは一夏だったがマドカが上機嫌に返事をする。全く、と3人は呆れつつも年相応のあどけない姿に笑みが溢れる

 

「あいつ、かなり丸くなったな」

「これまでは二人に対してもそっけなかったんですか?」

「いや~、なんだかんだで甘えてたわよ。でもあなた達といる方がより年相応な女の子って感じがするわ」

「俺としては少し複雑だけどな。俺が数年かけて距離縮めたのに・・・」

 

 口を尖らすオータムに、仕方ないじゃない、とスコールは返す。もっとも、オータムたちと出会った時のマドカは人間不信に近い状態であった。そこから信頼されるまでになったのはオータムの大きな功績であろう

 

 すると

 

「も、戻ったぞ・・・」

 

 満身創痍な雪広が喫茶店に戻ってきた。ジャンケンに負けたことで鈴と簪に長らく連れまわされ、精神的疲弊が目立っている。それでもウイッグはずれることなく、女性らしさが十分に残っている。そんな中で雪広は新米教師陣と目が合った

 

「げっ、スコールさんにオータムさん・・・」

「おま、雪広か?」

「あらあらあら」

 

 声を出したことでスコールたちは目の前のメイドが雪広と気づく。これ以上知人にメイドの格好を見られたくない雪広にとって、さらに痴態を晒したことに怯む。これまでの反応からこの二人にも笑われるだろうと雪広は思っていた。が、

 

「おいおいおい、俺より可愛いじゃねーか!」

「特殊メイクでもなく、普通の化粧で・・・悔しいほどに似合ってるわ」

「え、あ、ありがとうございます」

 

 まさかの好反応に雪広も普通のお礼しか思いつかなかった。しかし、先生二人の雪広への興味は止まらない

 

「お前マジでいいな・・・これヒットマンでもいけるんじゃないか?」

「私はスパイを勧めたいわ。どう?女装スパイで亡国企業に来ない?」

「絶対しませんよ!てか、あなたの企業もうないでしょ!!」

「新亡国企業作るときにスカウトするわ」

「すげーな兄さんw」

「おちょくってんのか!?」

 

 ギャーギャー騒いでいると、厨房からマドカが注文の品をトレイに載せてやってきた

 

「お待ちどうさまです。こちらがモグモグ紅茶と、コーヒーと、『メイドにご褒美セットデラックス』ですモグモグ」

「ありがと・・・何食べてるの?」

「マドカ?そのセット、なんか少なくないか?」

 

 スコールがいち早くマドカの口の動きに気づく。トレイの上には紅茶とコーヒー、そして『メイドにご褒美セットデラックス』のミニケーキセットがある。しかし、誰がどう見ても皿に対してのケーキの数が少なすぎる。実際、『メイドにご褒美セットデラックス』はミニケーキが8つあるのだが、マドカが持ってきたものには4つしかない

 いつもより少ないケーキ、そしてマドカの口の動き。それから導き出される結論はただ一つ

 

「いや、何フライングでメイドにご褒美セットデラックス(それ)食ってるんだよ!!」

「ちょっと我慢できなくてムグムグ」

「せめてオレに食べさせろよ!!メイドがつまみ食いセットになってるじゃねーか!!」

 

 教師の仮面が剥がれ、完全に素となったオータムがキレッキレのツッコミをみせる。

 

「まあまあ、オータムさん落ち着いて」

「そうそう落ち着いてオータム。老けるよ。パクリ」

「はったおすぞテメエ!?ってか、まだつまみ食いするか!?」

「私もメイドにご褒美セットデラックス注文しようかしら、雪広君に」

「私には非対応ですので」

「じゃあ女装ヒットマンしない?」

「なんでじゃあの次がそれなんですか!?」

 

 目の前でケーキをつまんで口に運ぶマドカにツッコミしまくるオータム。隣ではスコールが雪広を違う意味で口説いている。収集つかなくなりつつある光景に一夏は考えるのをやめた。こういう時シャルロットが居ればある程度は収まるが悲しいかな、彼女はちょうど休憩で不在だった。

 彼女が戻るまでそんなカオスな卓が発生したままだった

 

 

 

 

 生徒以上に大きく騒いでいたスコール達も見回りのために席を立つ。行列もはけ、空席が目立つようになってきたとき、1組のではないメイド服を着た見慣れた人が来る

 

「来たわよ、さあ私を持て成しなさい!」

「一名様お帰りです」

「ありがとうございました〜、ってなるか!」

「すみません。ああ、あそこのテーブルのオーダーお願いします」

「はーい、ってなんでよ!?」

 

 大阪の漫才のような流れるツッコミを楯無はかわす。思った以上にノリツッコミができるようだ

 

「そんな分析いらないわよ!?」

「?誰に対して言ってます?」

 

 次元の壁を破ったツッコミに疑問を持ちつつも、一夏は内線で楯無が来たことを連絡する。すると、奥からシャルロットと雪広がそれぞれコップとメニュー表持ってきた

 

「こちらお水です」

「・・・メニューはこちらになります」

 

 片や王子様メイドで片や女装メイド。表情や仕草も対極であり、凛とした態度なシャルロットに対して、マジで嫌そうな態度の雪広。メイド服を楯無には特に見られたくなかったのだろう、顔が死んでいる。

 案の定、楯無は雪広にクッソ憎たらしい笑みを浮かべる

 

「プッww」

 

 パァン!

 

 目にもとまらぬ平手打ちが楯無の右頬をとらえる。あまりの速さにひっぱたかれた楯無を除き、誰も何が起こったか分からなかったようだ

 

「痛あっ!?待って、今ビンタした!?ビンタしたわよね!!?」

「あまりにもムカつく顔でしたので」

「お父様にも殴られた事ないのに!」

「まあまあ楯無さん、この際左頬もどうです?」

「いやよ!今の結構痛かったのよ!?」

 

 雪広の脳揺さぶるビンタとシャルロットの無茶苦茶なフォローで若干楯無は混乱気味だ。一夏含め回りも情報量の多い光景に理解が追い付いていない。いち早く立ち直った一夏がビンタはメイドのオプション(?)ということで楯無さんを納得させ落ち着きを取り戻させる

 

「まったくもう・・・ところでマドカちゃんは?」

「休憩中で外回ってます」

「そっか・・・なら後で伝えておいて」

 

 んんっと咳払いをする。その行動で3人は先頬の態度を改め、表情を整える

 

「私が来たのは、まあ連絡事項も兼ねてね」

 

 『安全問題無。』と書かれた扇子が開かれる。その文字は()()()()()()()()()()()()()()()()であることが確認できる

 

「とはいっても、今のところは問題ないわ。安心して頂戴な」

 

 さっきの扇子が閉じた後、再度開くと「心配無用」と文字のふちが()()()書かれていた。いったいどんな構造なんだろうか?と三人は疑問に思いつつも、分かりましたと三人で答える。流れるように楯無は言葉を続ける

 

「それじゃあ、事前に言った通り寸劇できる?」

「はい。問題なく」

「俺も大丈夫です」

「僕も言われたとおりに」

 

 学園祭が始まる前に、生徒会の出し物として楯無は専用機持ちに寸劇をお願いしており、それの確認も兼ねてここに来ていた。彼らも問題がないことを了承する。

頼むわね、と真面目な雰囲気で楯無は話す。が、次の瞬間そんな雰囲気が消え、まじめな話はこれで終わりと言わんような再びクッソ憎たらしい笑みを雪広に浮かべる

 

「で、雪広ちゃんのツーショットは?」

「ジャンケンで楯無さんが勝ったらやりましょうか」

「・・・ちなみに負けたら?」

「負けるごとにビンタ」

「せめて罰金にしてよ!?」

 

 楯無はお嬢様だから罰金では痛くもかゆくもない、そのため雪広はビンタを罰ゲームにしたのだろう。一応はオプションと一夏が言っているので、決して憂さ晴らしではない。

 しかし楯無さんは余裕を崩さない。雪広は2学期最初から今日までで4戦全敗という悲惨な結果だ。それを知っているようで、楯無は鼻を鳴らす

 

「いいわよ!勝つまでやってやろうじゃない!」

「つまり負け続ければビンタされ続けると」

「ええ、女に二言は無いわ。ま、私が華麗に勝つんだけどね♪」

「・・・なんだろう、ものすっごいフラグが立った気がする」

 

 一夏が誰にも聞こえないほどの声でポツリと漏らす。

 その後、シャルロットがジャンケンの掛け声を仕切る

 

「それじゃあ、掛け声は僕が・・・いきます!ジャンケン、ポン!!」

 

 

 結果、

 

「はい、チーズ」

「ひーふ(チーズ)」

 

 楯無さんの両頬が膨れ上がる結果となった

 

 

 

 

 三時を少し過ぎ、一般客が各組の教室から部活動の展示室へと流れ始めた頃、俺たちは体育館の裏に来ていた。生徒会、もとい楯無さんが作った寸劇にメインとして参加することになったのだ

 

「とはいっても、基本アドリブでいいと言われてたよな」

「そうだな。()()()()()()()()()()()、この王冠を取られないことって言ってたな」

 

 楯無さんからは灰被り姫、つまりシンデレラのアレンジをやると聞かされている。ただ、詳しい内容は教えてもらえず、非常時以外は王冠を取られないこととしか聞かれていない。つまり、アドリブで寸劇兼ゲームをやるということだろう。それをお客さんが生で見て楽しむ、というのが表の目的か

 

「それにしても、兄さん気合い入ってるな」

「メイドじゃないことがどれほど素晴らしいかを肌で感じてる」

 

 今、俺たちは王子様の服に着替えている。奇異と嘲笑で見られ続けていた兄さんにとってはこの服装でも嬉しいのだろう。若干泣いてるようにも見える。そんなに視線がきつかったのか、メイド服は。とはいえ、この服かなり肌触りがいい。装飾品を除けばいい寝間着になりそうだ

 そんなこんな話をしていると定刻となった

 

「じゃあ、行くか」

「ああ」

 

 俺たちは舞台の上に上がる。足元の僅かな灯りを頼りに指定の位置に立ち、しばらくするとブザーと共にセットの幕が上がる

 

『むかしむかし、あるところにシンデレラという少女がいました』

『否! それはもう名前ではない。幾多の舞踏会を潜り抜け、群がる敵兵を薙ぎ倒し、灰燼を纏う事さえ厭わぬ地上最強の兵士達。彼女らを呼ぶに相応しい称号…………それが『灰被り姫(シンデレラ)』!』

 

 パッ、と俺たち二人に淡いスポットライトが当たる

 

『今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる。2人の王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!!』

 

『なるほど、それなら王冠(コレ)を取られるなって意味がわかるな』

『結構凝ってるな、設定』

 

 楯無さんのナレーションが言い終わると同時に俺たちはプライベートチャネルで意見を交換する。それと共に、何があってもいいように身構える。周りだけでなく上にも視線を向けて全方位に意識を向ける。が、それと同時に照明が一斉に輝く。

 

「うっ!?」

「眩しっ!?」

 

 特に上を警戒していたことで、照明の光が目に直撃してしまう。ルクスの急激な変化に対応しきれず、俺たちは体が硬直してしまった

 そこに襲いかかる人影が二つ

 

「「そこだぁぁっ!!」」

 

 白地に銀の装飾が施されたシンデレラ・ドレスを纏った簪とシャルロットが城の舞台セットの2階から飛び降りて来て、手に持った競技用薙刀と片手剣に近い竹刀で二人に斬りかかってきた

 

「うおっ!?」

「おっとぉっ!?」

 

 直撃を避けるべく、俺たちは強めのバックステップでその場を離れる。二人の声を頼りに着地点を予測して、俺たちは初撃を回避した。が、

 

ズガガガガッ‼︎

 

 ハンドガンによる速射の追撃が襲いかかる。大きく回避したことが仇となり、大きなサイドステップで躱さざるをえなかった。これによって俺たちはそれぞれの物陰に隠れるしかなく、分断されてしまった

 それにしても、ここからどうすべきか、足元にはいい感じの鉄パイプが転がっている。これで対抗するしかないのか

 

「一夏」

 

 突然俺を呼ぶ声にばっ、と後ろを振り向く。そこには簪達と同じドレスを纏った鈴が静かにのジェスチャーで座っていた

 

「鈴!」

「シッ!声落として」

 

 綺麗な姿の鈴に思わずテンションが上がってしまったことを反省しつつ、小声で鈴と物陰で言葉を交わす

 

「ナレーションや簪達の行動から、狙いは王冠(コレ)だよな?」

「そうね。あたしも欲しいっちゃ欲しいけど」

「ちなみにコレを貰えた報酬って?」

「楯無さんが叶えられる範囲での願い一つよ。予算とか倫理的にダメなもの以外ならなんでも」

 

 それなら簪やシャルロットが襲いかかるのがわかる。ちらりと物陰から外を見ると、兄さんが鉄パイプ持って二人と対峙しているのが見て取れる。

それなら好都合。俺の王冠は誰に渡すか一目瞭然だ

 

「鈴、あげるよ」

「え!?いいの?」

「そりゃあ、鈴だからな」

 

 好きな子に渡す以外の選択肢はありえん。躊躇なく王冠を取ろうとして、

 

「待って!」

 

 鈴の一喝で王冠を外そうとした手を止める

 

「一応確認させて。楯無さんが王冠外したら罰ゲームで電撃ってウワサを聞いたから」

「は!?物騒すぎないか!?」

 

 いくら何でもそんなことしないだろう。この劇は()()()()も兼ねてるのだから

 鈴は俺の体、もとい服をペタペタとくまなく触る。服に仕込みがないかを確認しているのだろう

 

「ん、問題無しね。王冠取っても大丈夫よ」

「OK」

 

 王冠を手にかけ、頭から外す。電流は・・・流れない。ホッとしたその時

 

『おっとー!一人の王冠が離れたぞー!その重要な情報が外部にわたる前に取り戻せるのかー!?』

 

 電流に替わって、何とも熱血的な実況が流れる。確かに王冠を失うと何かすることはしているが、想定外の熱血実況に俺たちは思わず吹き出してしまう

 

「想像の斜め上をいったな」

「ふふっ、そうね」

「それじゃ改めて、はい」

 

 手にした王冠を鈴に渡す

 

「今更だけど、ここは安全だよな?」

「うん、もともとあたしは見張り。二人のうちどっちかが来たら二人で見張りって指示だから。特に上を確認よ」

 

 そういって観客席の上側を見る。今のところ目立った形跡はない

 

「向こうは楯無さんが対応しているし、こっちはこっちで頑張らないとな」

「そうね。あとは・・・」

 

 鈴が見る方に目をやると、兄さんと簪・シャルロットコンビが大乱闘を繰り広げていた

 

「あいつらが夢中になりすぎないように見張ることね」

「いやいや、流石に動けなくなるほどの事はしないだろ」

 

 ・・・しないよな?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第54話 revengers

 

 生徒会の寸劇が始まる少し前、スコールとオータムは校門前に位置していた。彼女たちは今回の学校祭で不審者などが入らないかのチェックを抜き打ちで行っている。校門前では一般入場に当たって学園祭委員会の生徒が行ってはいるものの、それだけでは不十分ということで彼女たちや他の教師が見張りに入っている

 

「この時間となると入場も少なくなってきましたね」

「そうね、紛れ込む輩も見つけやすくて助かるわ」

 

 最初こそ来訪者が多く、全てを見張るのが困難なほどだったものの、現在は人がまばらとなっている

 

「ただ、想定以上に()()()は多かったですね」

「そうね。でも彼らまで取り締まっていたらキリがないわ」

 

 彼女たちの言う「スパイ」、それは産業スパイを指している。IS学園の学校祭ではISを使ったイベントもあることから、その技術を盗むために産業スパイとしての潜入者が割とあった。

 しかし、産業スパイは捕まえることは難しい。下手をしたら誤認逮捕だと騒がれてしまい、IS学園にとって不利な状況に陥ってしまう。何より、今回はそのスパイの炙り出しではない

 

「まあ、一旦その話は置いとくとして・・・貴方のその変装と口調、いつ見ても痒くなるわ」

「どう言う意味ですかオイ」

 

 格好こそ1組にいた時と変わらないが、表情を作り、礼儀正しいOL感が出ている。彼女の素を知っている人からしたら違和感甚だしいことこの上ない

 

「素の貴方を知ってるから他所行きモードがすっごく違和感なのよ」

「外部ではいつも『巻紙礼子』スタイルなんですよ」

 

 上品に髪をなびかせてオータムは答える。巻紙礼子はオータムが潜入捜査などでよく用いていた偽名だ。適当に辞書を引っ張って決めた名前だが名前の響きや言いやすさから、オータム本人が一番気に入っている偽名なのだ

 

「あの・・・ここに行きたいのですが、どちらに行けばいいのでしょう?」

 

 そんな中で、客としてきたであろう中学生くらいの少女がオータムに話しかける。オータムは即座に対応する

 

「この展示会はですね、あちらに見える奥の方の建物の3階になります」

「あ、ありがとうございます」

「では、楽しんでくださいね」

 

 愛想の良い笑顔で少女を見送るオータム

 

「うん、めっちゃ違和感。痒くなるくらい」

「なんでだよ!」

 

 手厳しい言葉に思わず素が出るも、んんっ、と咳払いして仮面を取り付けなおす。そんな雑談を交えつつも二人は学園の門に入る人波を見張り続ける。その中でやや大きめの手提げ鞄を持った女性が二人の前を横切る

 瞬間、二人の会話が止まる

 

「・・・スコール」

「ええ、あの女怪しいわ」

 

 頭は動いてないが周りを見まわし続けている目線、学園祭なのに目的地にしか興味ないような挙動、そして・・・何かをしようとする雰囲気。

 テロ組織にいた二人だから確信する。この人間は黒だと。だが、スコールはその女の顔に違和感を抱いた

 

「それだけじゃねえ。奴の鞄から臭いがする」

「!なら早急に対処するわ」

 

 スッと二人は持ち場を離れ、先の女に一直線で近づく。手荷物検査にたどり着く前にスコールがその肩を掴むと、過剰にビクリと反応した

 

「すみませんお客様、大変申し訳ないのですがそのお手荷物をここで確認できないでしょうか?」

「な、なんで・・・っ!?」

 

 反論を振りかざしてその手を振り解こうとするが、その肩が動かない。スコールの握力が不審者の行動を制限した

 

「単刀直入に聞きますね。その中、何が入ってますか?」

 

 スコールがプレッシャーをかけて女に問う。それに気押されたのか、それとも別の要因なのかやたらと手提げの鞄を気にしだす。何度スコールに問われても質問に答えない

 埒が開かないと踏んだスコールは強硬手段に出る

 

「・・・鞄の中を確認します。拒否権はありません」

「クッ!」

 

 手を伸ばして中を確認しようとした時、女は鞄を放り捨てて逃げ出した

 

「オータム!」

「任せろ!」

 

 逃げる相手に対してガゼルの如くオータムは追いかける。そしてスコールは即座に中を確認する

 

(やはりか!)

 

 スコールの鼻が示したように絵に描いたようなプラスチック爆弾が顔をのぞかせる。律儀にもカウントダウンタイマーまで表記されており、猶予はもう無い

 

(解除は絶対間に合わない。私が盾に?いや、私だけで全方位は庇い切れない。なら!)

 

 瞬時に判断したスコールは自身のIS、ゴールデン・ドーンを展開し、瞬間加速で上空に向かう。数刻で高層ビルより高く上がるが、タイマーは3秒を切っていた

 

「そぉれっ!!」

 

 上昇しながらハンマー投げのように一回転し、さらに上へと放り投げる。自身のSEを具現化して衝撃に備えた瞬間にタイマーが0となる

 

 ズドン!という爆音。それに続くように爆風と衝撃。上から叩きつけるように襲いかかるが、SEを二重に張ったこともありダメージは貫通しなかった。とはいえ、校門で爆破でもしたら多くの人が被害を被るほどの威力だった

 

(あの威力だと自爆テロ?いや、そんな度胸あるように見えなかったってことは、おそらくアレね)

 

 考えを巡らせつつも、ひとまずの脅威が去ったことに安堵して地上に急加速で降りる。地上に降りると周りがざわつく中、オータムが不審者を捕らえていた

 

「痛いんだよ!離せ!」

「暴れるから痛えんだよ、動くんじゃねえ」

 

 強くもがき続ける女の右手首を背中に乗るようにして押さえつけ、抵抗できないようにオータムは押さえ込む。オータムの左手には見慣れないISのコアが収められていた

 

「くそっ!なんでISが起動しないの!?」

「展開しようと無駄だ。テメェのISは剥がさせてもらった」

 

 剥離剤(リムーバー)、ISを強制解除させてコアのみの状態にする装置であり、オータムが敵のISを奪取するときに用いていた物だ。亡国企業にいた時は20cmと携帯するには大きすぎて大変であったり、剥離されたISコアは元の操縦者が遠隔で操作できるようになったりと欠点が多い物だったが、篠ノ之束が改良したことで欠点を全て解消し、大きさも10cmまでに小型化することに成功。相手に気づかれることなくISを強制解除できる、ISテロ対策に必須のものとなった

 スコールがISを解除してオータムに近づく。それに気づいたオータムは目線をそのままにスコールにも意識を向ける

 

「おうスコール、無事だったか?」

「ええ、被害はゼロよ。それにしてもやっぱりIS持っていたのね」

「ああ、それによる絶対防御での擬似自爆特攻、最悪の自爆テロされるとこだったわ」

 

 小型爆弾程度ではISの絶対防御は破れない。それを使っての擬似自爆特攻はISが普及し始めた時の紛争地でよくある光景だった。だからこそスコールが即座に対応できたのだ。

 

「まさか、このIS学園でそれをやる輩が出るとはね」

「タダで済むと思うなよ?知ってること、全てゲロってもらうからな」

「フフフッ・・・」

「なんだ、何がおかしい?」

 

 スコール達の威圧に怯むどころか、不遜な態度に成りゆく女に彼女たちは警戒心を高める。女が口を開いたと同時にスコールは女に抱いていた違和感の正体を知覚した

 

「そうだ!思い出したか?スコール・ミューゼル」

「ええ、思い出したわ。過激派のあなたがこんなところにいるなんてね」

 

 その言葉にオータムはハッとする。亡国企業過激派にいた集団の一人に同じ顔がいた記憶が蘇った。その連中への怒りからかオータムの押さえつける力がより強まる

 

「で、聞くけどなんでテロをしようと?」

「何って、新たな世界を作る礎を築いているのよ」

「何いってんだこいつ、薬でラリったか?」

「ハッ、この崇高な考えを理解できないからアンタらは壊滅したのよ!一人残らず駆逐した時は爽快だったわ!!」

「!テメエっ!!」

 

 ガァンッ!!

 

 オータムが関節を破壊する前にスコールが女の顔にサッカーボールキックを叩き込む。この一撃で醜い声を封じ込んだ。先の侮辱はオータム以上にスコールの琴線に大きく抵触した。

 いつもは冷静であるはずのスコールが衝動的に行動をしたことにオータムは怒り以上に驚きあっけに取られていた

 

「ごめんなさい、耐えられなかったわ」

「あ、いや、スコールがやってなきゃ俺が黙らしてたわ」

「それにしても、想像しうる最悪の奴らが来たってことね」

 

 無策でこのようなことをするような女尊男卑の馬鹿ではないことは二人が良くわかっている。その上でIS学園に亡国企業の過激派がテロを起こす。この女は明らかな誘導に違いない。

 そして過激派の狙いははっきりしている

 

「中に二人ほど入れたが、アイツらがうまくやるはずだ」

「そうね、彼女たちを信じましょう。まずはコイツとおはなししないと、ね」

 

 伸びている女の首根っこを掴んで、二人はISの校門から離れていった

 

 

 

 

 

 男が憎い。

 ISに乗れない劣等種。威張ることでしか権威を示せない無能共。私の足元にも及ばない雑種のゴミ同然の生物。

 そんな中で出てきたISに乗れる劣等種が現れました。一人はあの世界最強の弟だったが、残りは私の足元にも及ばない極東の猿共。こんな輩に負けることなどありえない。そのはずでした。

 

 男に負けた。それもこれまでにないISの変化をさせて。

 見たこともないような進化をさせた奴は私を殺さんとする勢いで対峙しました。この時だけ、他の男とは違う強さに惹かれそうになってしまいましたわ。そして、私はあろうことか非礼を詫びようとしてしまったのです。実際、私は試合の後奴に頭を下げたのです。このエリートである私が。

 

 それなのに

 

 奴はそれを拒んだ。こちらの話も聞かずに。こちらの事を知ることなく拒絶してきたのです。そして私はクラスでの発言が問題となって代表候補をはく奪されてしまった。

 イギリスでは品位を欠くような女尊男卑の行為は禁止されているが、周りは普通にオス共を見下しています。特にアジアの猿共は差別して当然の下等生物なのだから皆が見下して当然の事。それなのに私だけ代表候補生をはく奪され、実家の立て直しも行き詰ってしまいました。

 そして代表候補生をはく奪されて数か月後、とうとう私は家を失ってしまいました。母が守ってきた家を。そこらの小汚い成金貴族に奪われてしまったのです。絶望の中追い出され、いつしかスラムに流れ着きました。本当にすべてを失ってしまったのです。

ですが一つだけ、たった一つだけ得たものがあります。

 

「・・・復讐ですわ」

 

 あの男のせいで私の人生は壊された。あのゴミさえいなければ私は今頃エリート街道を進んでいたのに。奴のせいで、奴のせいで。憎い。憎い。土下座させたい。殺したい。この手で殺したい。大勢の前で処刑したい。この手で首を締めあげたい。頭を壊したい。

 その思いでスラムでも必死に生きようと決意した時でした。女神が現れたのです

 

「セシリア・オルコット。力を貸せ。そうすればお前が求める復讐も果たせる」

 

 あの織斑千冬が私に手を差し出したのです。これは夢と思ったのですが、その手を掴んだ時、これは夢ではないと、そして神様は私にチャンスをくれたのだと理解しましたわ。

 聞けばブリュンヒルデはこの世界が腐っているということでとある組織と手を組んでいるとのこと。そして、目標が女のための世界を作るとのこと。それは私が求めている理想の世界。断る選択肢はなくブリュンヒルデについていきました。

 そこから血のにじむ訓練を行い、潜入任務も行いましたわ。すべてはこの世界を正すため。理想の女尊男卑の世界を創るため。あの男を葬るため。

 そして今、それが叶おうとしている

 

(本当はこの手で首を絞めてやりたいのですが、仕方ありませんわ)

 

 今回に任務は男性IS操縦者共の殺害、ないしは重傷を負わせること。私のミッションは人生を壊した男の眉間に穴をあけることですわ。

 今回の学園祭では何かしらの寸劇をする、そこで男性IS操縦者が舞台上に参加すると情報を密告者から得ています。平和ボケしてる無能たちが慌てふためく姿を見納めできるように入念な準備をし、狙撃ポイントまで問題なく侵入できましたわ。特に今回の場所は人が来る気配が全くなく狙撃してくれと言わんばかりのような好条件の場所でしたわ。

 

(さあ、私に歯向かったことを後悔して死になさい)

 

 格納していたライフルを構え射線上に来るのをじっと待つ。遠藤一夏の姿も見えるが、今回の本命はその兄。当人はのんきに舞台上で他の代表候補生と戦闘をして動き回って狙いづらいが、その分狙撃の射線上に入りやすい。じっと待って、高ぶる感情を抑えて、待って、抑えて、待って・・・

 ターゲットの頭が射線上に入りましたわ!

 

(死になさい!!)

 

 

 

 

 

 奴らが憎い。

 あの日、私は奴を始末できなかった。あろうことか私のISが暴走を起こし、助けられる羽目になった。

 ドイツに引き渡された後は悲惨そのものだった。上官から罵詈雑言に暴力の雨にさらされ、全ての責任を押し付けられて部隊は解散。部下も誰一人擁護せず、私は大罪人として戦犯刑務所に収容された。世間では解体されたと言われていたが、実際は別の場所に移送しただけであり、この身を持って存在していることを知った。

 そこからは文字通りの地獄。手足は拘束され、満足な食事もなければ衛生面も劣悪。たまに扉が開いた時は男たちに穢される。軍で経験した拷問訓練とは比べ物にならないほどに尊厳を破壊された。

 もう生きる意味などない。そんな希望が消えかけたときだった

 

(・・・外が、騒がしい・・・)

 

 その日はぼんやりとした意識の中だったが、外の騒がしい音がした。言い争いだけでなく、発砲音、それと何かが潰されるような音。そして機械の駆動音が近づいてくる。その音が振動となって伝わるほどに近づいて・・・私のいる扉の前で止まる

 

 バキバキバキッ!!

 

 直後、扉が引きはがされ、3体のISが入ってきた。そのISたちは見覚えがない上にバイザーで誰が乗っているいるか分からなかった。

 ああ、これらに処刑されるのだろう。やっと楽になれる。

 

「わ、わたしを・・・ころしてくれ・・・」

 

 その時の私はか細い声を絞り出した。これでろくでもなかった人生を終わらせられる。そう思っていた。

 だが、私の運は尽きていなかったのだ。

 

「何言ってんだてめえ、死なれちゃ困るんだよ」

「そうだ、私たちのために働いてもらうぞ」

 

 ・・・どこかで聞いたことのある男女の声。それがどこだったか記憶が混濁していた。だが、次の男の言葉で意識を覚醒させる

 

「俺はテメエがくたばっても構わねえけどよお、千冬姉に感謝しろよな」

「・・・え?」

 

 千冬、敬愛する教官の名前。何故この男がその名前を?

 意識が覚醒したが混乱している中、リーダーらしき操縦者のバイザーが開く。その姿は

 

「あ、ああああっ、きょ、教官・・・!」

「ボーデヴィッヒ、貴様にもう一度だけチャンスをやる。私の野望のために力を貸せ」

 

 この時私は、神様はいると自覚した。体は衰弱していたが、興奮によるアドレナリンからか力を振り絞って跪き、教官の手を取った

 

「教官、この命に代えてもお供仕ります・・・!」

 

 この後は教官の理想の世界を創るために死に物狂いで任務を行った。除籍した軍の経験もあり、教官含む幹部の直属部隊として貢献した。

 そして、今回革命の礎としてIS学園にいる男性IS操縦者を殺害するミッションが課せられた。本来なら教官に歯向かった男を葬りたかったが、それは女尊男卑に妄信する奴に任せることとなった。私は学園生しか使わない廊下を探索しながら、ターゲットの遠藤一夏の殺害を図る。

 

(それにしても、やはりこの学園は無能だ。これほど侵入しやすく、対策も立てられていないとは)

 

 一時期は代表候補としてこの学園にいたが、この学園は平和ボケが甚だしい。今回はそれが私にとって追い風ではあるが、それ以上に腹立たしさも感じる

 

(!)

 

 T字の廊下の奥から人の気配、それと足音が聞こえる。すぐに近くの物陰に潜んでその人間を観察する。この目がとらえた人間は・・・

 

(どうやら私はついているようだ。のこのことターゲットが来るとは)

 

 遠藤一夏がこちらに向かってきている。しかも進行方向的にT字をまっすぐに向かうようで、私の方向への注意は向けられていない。奴が通り過ぎたときに速攻で片づける

 そして奴が私の前を通り過ぎたとき、物陰から勢いよく飛び出す。やや長めのサバイバルナイフで奴の首を断ち切る!

 

「・・・!」

 

 奴が物音でこちらを向いたがもう遅い。すでに間合いはない

 

「死ね」

 

 横薙ぎの一撃。これはターゲットの首を完全にとらえた。

 

 そしてその頭は胴体から離れるのをこの目で見た

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。