心に傷を負った少年と、ノンナさん (ジャーマンポテトin納豆)
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プロローグ

少年の名前は坂本春馬。

紛争地帯に近い場所で誘拐にあい、

少年兵として戦った。

 

自分が、仲間が生き残る為に殺した。

 

ある時は、まだ10歳にもなっていない子供を殺した。

ある時は、お腹に赤ん坊のいる母親を殺した。

ある時は、助けてくれと泣き叫ぶ男を殺した。

 

そして彼と同じように攫われて少年兵として戦わされた

仲間もいた。

一人は砲弾が直撃して跡形もなく吹き飛ばされて自分が死んだことも分からずに死んだ。

一人は対物ライフルに撃たれて頭から胸までを吹き飛ばされて死んだ。

一人は撃たれて血を流しすぎて死んだ。

一人は最後まで家族にまた会いたいと願いながら死んだ。

一人は機関銃でズタズタにされて死んだ。

一人は戦車に踏まれてぺしゃんこになった。

一人は最後まで生き残った自分を逃がすために、身代わりとなって死んだ。

 

いくら時が経っても何一つ、頭から、耳から、目から、

脳裏から焼き付いて離れない。

耳には銃弾が飛び交う音が、砲弾が炸裂する音が、

敵や仲間の断末魔が離れない。

 

目には命乞いをしてきた人の顔が、殺した子供や母親、

父や母を殺されて死体にすがりついて泣いている子供の姿が忘れられない。

 

毎晩悪夢に魘される。

殺した子供がもっと遊びたかった、生きたかったと。

殺した母親が生まれてもいない子を抱きたかったと。

殺した男が夢を叶えたかったと。

死んだ仲間が

何故お前だけ生きているのかと。

お前もこっちに来いと。

まだまだ戦えるだろうと。

戦って殺してこっちに来いと。

夢の中で訴えてくる。

 

そんなのは現実ではないと分かっている。

だけどどうにもならない。

どうすることも出来ない。

 

泣きながら訴えた。

泣きながら許してくれと叫んだ。

誰か助けてくれと叫んだ。

でも、誰も助けてはくれない。

誰も手を差し伸べてはくれない。

 

 

みんな死んだ。みんな殺した。

みんな殺された。

 

どれだけ願っても変わらない現実。

どれだけ願っても変えることのできない過去。

 

苦しんだ。悲しんだ。

 

人々は彼を哀れんだ。

家族は彼を支えようとした。

だけど、心に深く深く刻み込まれた傷は、

脳裏に焼き付いて離れない記憶は、

いつも、どこでも、ふとした時に蘇る。

彼を蝕み続けた。

記憶がフラッシュバックを起こし、気を失う事もあった。

嘔吐した事もあった。

 

どうすればいいと、周りに聞いた。

どうすればこの苦しみから解放される?

 

 

 

 

 

それからしばらく経ち、

プラウダ高校に入学した彼が出会ったのは

一人の少女。

 

これから先どのように関わり、どのように成長していくのか?

そんな物語



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1話目

今作でのノンナさんはとっても優しいです。

他の方々の作品は最初は冷たいみたいな感じが多いですが、
自分のものは最初から優しいです。

その辺を了承した上でご覧になってください。


プラウダ高校に入学することになった。

昔の記憶なども今はある程度落ち着きを見せたからだ。

だが、本当にふとした時に記憶が蘇る。

テレビから流れる銃声で、削岩機の音で。

連想ができるような物はなんでもだ。

 

入学するプラウダ高校には戦車道が盛んらしいが大丈夫だろうか......

 

 

 

入学式当日、

ある少女に出会った。

金髪で背がとても小さい子だ。

 

彼女を見て危うくフラッシュバックを起こすところだったが、なんとか踏み止まった。

 

話を聞くと、一緒に来ていた友人がいるらしいが、

はぐれてしまったらしい。

 

どうしたものか......

 

「とりあえず、ここにいてもしょうがないから、学校へ向かうとしよう。行けば友達も見つかるかもしれないし。」

 

彼女は

 

「分かったわ。

そういえば自己紹介がまだだったわね!

カチューシャよ!」

 

「そうか、俺は坂本春馬だ。

これからよろしくな、カチューシャ」

 

そう挨拶をすると、学校へ向かった。

 

着くとカチューシャの友人はいなかったので、そのまま入学式の行われる講堂だろうか?

に行くことにした。

 

すると、

カチューシャが急に、

 

「あ、いたわ!ノンナ、こっちよ!」

 

ノンナと呼ばれた少女はこちらに駆け寄ってきた。

 

近づいてくるにつれて緊張し始めた。

彼女は、ノンナと呼ばれた少女は......

俺を逃がす為に死んだ、人にとてもよく似ていたから......

 

「カチューシャ、ようやく見つけました。」

 

「あなたは?」

 

「彼はハルーシャよ!私をここまで連れてきてくれたのよ!」

 

「ノンナを一緒に探してくれたんだから!

ノンナ、迷子になっちゃダメじゃない!」

 

「すみません、カチューシャ。

これからは気をつけます。」

 

「ありがとうございます。カチューシャを連れてきてくれて。

今度改めてお礼を言わせてもらいます。」

 

そうノンナに話しかけられたが、

もう、無理だった。

耐えることが出来なかった。

そのまま気を失ってしまった。

その後、目を覚ますと保健室にいた。

 

ノンナとカチューシャが運んでくれたらしい。

よく俺を運べたな、こんなんでも180cmはあるのだが。

 

......情けないな、姿形が似ている彼女達を見ただけで気を失うとは.........

 

今まで似ている人がいなかったからだろうか、

全く耐えることが出来なかった。

 

これからどうなることやら。

 

その日は保健室で過ごした。

放課後、借りているアパートに帰宅した。

 

 

 

次の日、体調も良くなったので登校してみると、

見慣れた姿が二つほどあるではないか。

 

まさかと思いながら教室に入ると、

そのまさかだった。

 

ノンナとカチューシャだった。

その後の事は覚えていない。

なるべく見ないようにしていたが、

やはり無理があったのだろう。

 

次の日は学校を早々に休んでしまった。

 

これはもう友人関係は無理かなと思いながら過ごしていると、

部屋のインターホンが鳴った。

 

カメラを覗いてみるとノンナだった。

 

慌てて取り乱すところだったが、なんとか耐えることが出来た。

 

なんでも、入学式では倒れ、次の日は何処か体調が優れていない俺を心配して尋ねてきてくれたらしい。

 

「ありがとう。でも大丈夫だ。明日はちゃんと行くさ。」

 

「はぁ......そんな悪そうな体調で良く言えましたね。

分からないとでも、思いましたか?バレバレですよ。」

 

バレた。

どうする?

焦った俺は、

 

「......そんな事はない。大丈夫だ。」

 

と、少し冷たく返してしまった。

ノンナは、

 

「そんな顔色でよく言いますね。

どこが悪いんですか?病院には行ったのですか?」

 

と、心配してくれた。

 

だけど、バレた事で動揺していたのだろう。

怒鳴ってしまった。

 

「そんなに、調子が悪そうに見えるなら出て行ってくれ!

もう俺に構わないでくれ!頼むから......!」

 

最低だ......

心配してくれた相手に対して怒鳴るとは。

これでもう関わってこないだろうなと思っていると、

 

「何を言っているんですか?

そんなに辛そうにしているのに放っておけるわけがないでしょう?」

 

「何があったのかちゃんと話しなさい。」

 

そう言われた。

まさかこんな返しをしてくるとは思っても居なかった。

 

だけど俺は、理解をしてくれようとする人を求めていたのだろう。

両親も、医者も手を差し伸べてはくれなかった事に。

これが原因で周りと馴染めずに虐められた事もある。

だからこそ、話してしまった。

 

「......三年前、日本人の少年が紛争地帯から救出された話は知っているか?」

 

「えぇ、勿論知っています。大騒ぎになりましたから。」

 

「あれは俺のことだ。」

 

ノンナは驚いた表情をして

 

「本当ですか?」

 

と聞いてきた。

 

「本当だ。」

 

「ですが、何故そんな紛争地帯にいたのですか?」

 

「俺は、9歳の時に誘拐にあった。

それで売り飛ばされたんだ。

......少年兵として。」

 

こう話すと更に驚いた顔をした。

それはそうだろう。

救出された報道は流れたが、

少年兵だった事実は一切報道されていないのだから。

 

ノンナは、

 

「少年兵、ですか......」

 

「あぁ、そして13歳で救出されるまでの約四年間、兵士として戦わされた。」

 

それを聞いてノンナは

 

「それと、体調になんの関係が?」

 

「心的外傷ストレス障害のせいだ。

多分、PTSDの方が聞き覚えがあるだろう。」

 

「そうですか......」

 

「俺ノンナとカチューシャの顔を見てフラッシュバックを、起こし、たんだ。」

 

「どういう事ですか?」

 

「............うっ!?」

 

俺はトイレに駆け込んだ。

耐えられなかった。

ノンナが背中を優しくさすってくれた。

 

「辛いのなら話さなくても結構ですよ。」

 

「ゲホッ、い、いいや、ここまで、ハァー、ハァー、話したんだ、最後まで話す。聞きたくないって、言って、も無駄、だぞ......ゴホッ」

 

「......はい、わかりました。」

 

「似てたんだよ」

 

「似ていた?」

 

「あぁ、カチューシャは俺が殺した子供に......

ノンナは、俺を戦場から、逃がす為に身代わりになって死んだ人に......」

 

「......そうですか」

 

「オエッ、ゲホゲホ、だから、フラッシュバックしたんだ。」

 

「......知らなかったとは言え、申し訳ありませんでした。」

 

「いいや、二人は悪くないんだ。弱い俺がいけないんだ......」

 

「.........」

 

ノンナは黙ってしまった。

 

「どうする?もっと聞きたいか?」

 

「あなたが辛いのなら聞きません。

ですが、あなたが話したいと言うのなら、聞きます。」

 

「......ありがとう」

 

やはり今まで無意識に理解者を求めていたのだろう。

話してしまった。

 

「すまないが、聞いてくれるか?」

 

「はい。あなたの気が済むまで」

 

「俺、は、殺したんだ。たくさん殺した。

男の人女の人も子供も老人も関係なく殺したんだ......

まだ10歳にもならない子供もいた。

まだお腹に赤ちゃんがいる女性もいた。

命乞いをしてきた人もいた。

いろんな人がいた......」

 

「みんな俺たちが殺したんだ......」

 

泣きながら話した。

 

「生きる為に殺さなきゃならなかった。

じゃなきゃ俺達が殺されるから。」

 

ノンナはただただずっと静かに聞いてくれた。

 

「仲間も死んだんだ。

砲弾で跡形もなく吹き飛んだ奴、

上半身を対物ライフルで吹き飛ばされた奴、

地雷で死んだ奴もいた。

足が、腕が千切れて血を流しすぎて死んだ奴、

最後まで家族に会いたいと泣きながら訴えながら死んだ奴、

俺達のことを死ぬまで心配しながら死んだ奴、

他の奴を庇って投げ込まれた手榴弾を抱えて吹き飛んだ奴、

みんな、みんな死んじまった!」

 

「ノンナに似てる奴がいたって言ったが、

年上で、いつも俺を構ってくれた。助けてくれた。

泣いてると抱きしめて慰めてくれた。

ある時、一緒に逃げようって言われたんだ。

俺は頷いて、次の戦闘の時にどさくさに紛れて逃げようって。」

 

「2日後に、戦闘があって逃げようとしたんだ。

そしたら、敵に周りを囲まれて、どんどん仲間が死んでいったんだ。

一方的だった。

その人は俺の手を引いて逃げようとしたけど、しばらくしたら追いつかれて......

俺を逃がす為に囮になったんだ......

あの時の事は全部覚えてる」

 

 

 

----回想----

 

 

「貴方は生きなさい。

やりたい事や、夢を見つけて、これからの人生を楽しんで。

誰かを好きになって。喧嘩してもいい、だから誰かを愛しなさい。

貴方を大切に思ってくれる人が必ずいるから。

だから私の分まで生きて。」

 

「一緒に逃げようっていったじゃん!

嘘つき!早く逃げようよ!」.

 

「いいから、私の事はいいから行って!

大丈夫よ、いつまでも見守ってるわ。」

 

「さぁ、行きなさい!早く!」

 

 

---------------

 

話終えてノンナを見ると、泣いていた。

それを見たら急に抱きしめられた。

 

「辛かったですね。

苦しかったですね。

悲しかったですね。

だから、あんなに辛そうな顔をしていたんですか。

大丈夫、もう大丈夫ですから。」

 

抱き締められながら泣いた。

泣きながら叫んだ。

 

「殺した人達が!死んだ仲間が!なんでお前だけ生きてるんだって!お前もこっちに来い、お前はこちら側の人間のはずだ。何故そこにいるんだって!夢の中でずっとずっと言ってくるんだ!」

 

「どれだけ忘れようとしても忘れられない!

叫び声が!呻き声が!助けを求める声が!

耳から離れない!」

 

「死んだ仲間の顔が!殺した人達の顔が!

忘れられないんだよ!」

 

「ふとした時に思い出す!

テレビから流れてくる音で!

工事の音で!」

 

そう泣きながら叫んだ。

でも、ノンナは決して頭を撫でる手を止めなかった。

どれだけ涙や鼻水で服を汚しても抱きしめる事を辞めなかった。

 

 

----side ノンナ----

 

彼と初めて会ったのはカチューシャを送り届けてくれた時でした。

その時の彼は少し辛そうな顔をしていました。

そして、私の顔を見た瞬間だけ本当に辛そうな顔をしました。

ですが一瞬だったので、気のせいだろうと思い、カチューシャと二言、三言ほど会話をしてから彼にお礼を言う為に話しかけました。

 

その後彼は倒れてしまいました。

私とカチューシャの二人で保健室に運び込みました。

 

 

次の日彼は登校してきたのですが、

どうにも体調が優れない様子。

無理をしているのでしょう。

 

 

今日はついに

彼は学校を休みました。

心配になった私は先生に家の住所を教えてもらい、

訪ねました。すると彼は大丈夫だと言いましたが、

顔色は優れていないし、足取りは覚束ない。

こんな状態でよくも大丈夫だなどと言えましたね。

 

それを言うと、怒鳴られました。

大丈夫だから。気にするな。調子が悪そうに見えるなら出て行けと言われてしまいました。

しかしこんな状態の彼を放っておけません。

何があったのか話せと言いました。

 

そこから彼はポツリポツリと話し始めてくれました。

 

紛争地帯の近くで誘拐にあった事

3年前の紛争地帯で救出された子供は彼である事

そして13歳で救出されるまでの約四年間少年兵として戦っていた事

 

そして私とカチューシャの顔を見た時の表情の理由を

聞いていて私は涙を流していました。

話しながら彼は泣いていました。

 

 

 

気がついたらそして彼を抱き締めていました。服が汚れようが構いません。

 

頭を撫でながら抱き締めると、泣きながら訴えてきました。

 

しばらくすると泣き疲れたのか寝てしまいました。

ですが、今は辛そうな顔はしていません。

安心した顔で寝ています。

 

 

 

これからこの先の人生で彼には沢山の幸せが来る事を願いながら、私も彼を抱き締めたまま寝てしまいました。

 

 

----side out----

 

 

 

 

 




どうだったでしょうか?
評価お願いします。
思った事を感想で書いてくれると嬉しいです。



ちなみに現段階でノンナさんは主人公の名前を知りません。
カチューシャがハルーシャと言っておりますが
本名を知りません。
まだお互いに自己紹介していないので。


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2話目

 

 

起きたらノンナに抱きしめられていた。

 

「起きましたか。

よく眠れましたか?」

 

一瞬何が何だか分からなかったが、

寝てしまう前の事を思い出した。

 

そうか......

ノンナに全部話したんだっけな......

その後、抱きしめられたまま寝てしまったのか

でも、こんなに安心して寝られたのはいつ以来だろう。

ノンナには、感謝しきれないな。

あとで何かお礼をしなきゃな。

 

「ありがとう。

おかげで、いつ以来か分からないけど、安心して眠れたよ」

 

そうお礼を言うと、

ノンナは微笑みながら、

 

「そうですか。それは良かったです。

これからも私は貴方の側にいますから」

 

そう言ってくれた。

こんなにも心配してくれるなんてな。

 

「ありがとう、本当にありがとう」

 

嬉しくて思わず泣きそうになったが、堪えた。

 

 

しかし、一体いつまで抱きしめているのだろうか?

 

「なぁ、その、いつまで抱きしめているんだ?

その、段々と恥ずかしくなってきたから離してほしいんだけど」

 

と、聞いてみたのだが、ノンナは

 

「そうですね......

貴方が一人でも安心して眠れるようになるまででしょうか?あと、私は離す気は全くありませんよ」

 

断られてしまった。

心配してくれるのはありがたいんだけど、その...

胸についているとても立派なものがですね...

俺の色々なものをゴリゴリ削っていくわけでして...

 

「............まじか」

 

「ふふっ、まじです」

 

嬉しそうに笑いながら返された。

 

こんな顔されたらこれ以上何も言えないじゃないか......

そんな事を考えているとノンナが、

 

「しかし丁度いい時間ですし、お腹も空いてきましたね。何か作るとしましょう。食べたいものはありますか?」

 

なんと料理までしてくれるらしい

しかし申し訳ないので、断ろうとすると

 

「いいえ、やらせて頂きます。

私が貴方にやってあげたいのです」

 

頑として譲らなかった。

しかしなぁ......

こんなに自分の為にやりたいと言ってくれているのだしこれ以上断るのも悪いからなぁ

 

「わかった。

すまない、お願いしてもいいか?」

 

謝りながらお願いすると、

 

「そういう時はありがとう、の一言でいいんですよ」

 

そう言われてしまった。

俺は、

 

「ありがとう、ノンナ」

 

そう言うとノンナは

 

「えぇ、どういたしまして」

 

また、嬉しそうに笑いながら言った。

 

「では、何か食べたいものはありますか?」

 

「いや、作ってもらうんだ。なんでもいいよ。

食べられないものも、アレルギーもないからな」

 

「分かりました。食材はありますか?」

 

「冷蔵庫に一通り揃ってるよ。

その、外に出ると何がきっかけでフラッシュバックするか分からないから」

 

「......申し訳ありませんでした。

余計な事を言わせてしまいましたね」

 

「いいや、気にしないでくれ。俺が勝手に言ったんだ。大丈夫だから」

 

「......はい。

では、作るとしましょう。少し待っていてくださいね」

 

そう言うとノンナはキッチンに向かって行った。

するとふと、思い出したようにノンナが言った。

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。

ノンナと言います。よろしくお願いします」

 

確かにしていなかった。

俺はカチューシャが呼んでいたのを聞いて知っていたが。

 

「そうだな。

俺は坂本春馬。よろしくノンナ」

 

「はい」

 

また、嬉しそうに笑ってキッチンに入っていった

 

 

 

俺は小さな声で

 

「ありがとう、ノンナ」

 

そう言ったのだった。

 

 

しばらくして、いい匂いがし始めた。

最初は断ったが、いい匂いがしてくると待ち遠しくてしょうがない。胃袋と鼻というやつはなんとも現金なものだ。

 

 

 

またしばらくして、ノンナに呼ばれた。

料理が出来たらしい。

席に着くとそこには、なんとも美味しそうな料理が並んでいた。

 

ボルシチにビーフストロガノフ、パンにご飯

早く食べたい。

 

なんて思っていたら顔に出ていたのだろう。

ノンナが少し笑いながら、

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

言われてしまった。

恥ずかしい...

しかし、美味しそうだし腹も減っていたので

 

「あぁ、頂きます」

 

すぐに食べ始めた。

一口食べると、

 

「おぉ......!うまい!

ノンナ、これすごくうまいぞ!」

 

思わず言ってしまうほど美味しかった。

 

「そうですか。それは良かったです。

おかわりもありますから」

 

「おう!」

 

「ふふっ、そんな慌てて食べなくても誰も取ったりはしませんよ」

 

美味しくて、必死になって食べていたら笑われてしまった。

 

3回ほどおかわりをして満足した。

あまりにも美味しかったので食べ過ぎてしまった。

 

「ご馳走さまでした」

 

「お粗末様でした」

 

「ノンナ、とても美味しかった。

ありがとう」

 

お礼を言うとノンナは

また、しかし先程よりも嬉しそうに笑って

 

「えぇ、どういたしまして」

 

こう言った。

 

 

 

ノンナの作ってくれた料理は、

とても温かくて、心まで満たされた。

幸せな気持ちになるほど美味しかった。

 

 

 

飯も食べたしもう帰るのかと思っていたので、

 

「ノンナ、そろそろ帰るだろ?時間も遅いし」

 

そう聞くとノンナは

何を言っているのだ?と言わんばかりの顔をしながら、

 

「いいえ?帰りませんよ?

私はさっき、春馬が一人でも安心して眠れるようになるまでは抱きしめて一緒に寝ると言いましたが?」

 

......泊まっていくらしい。

流石に色々と、まずいので

なんとか説得して帰らせようとしたのだが、

無理だった。

だって、

 

「春馬は私と一緒に居たくないのですか?

そうですか、ならば帰ります」

 

なんて悲しそうな顔しながら言われたら

誰だって断れないだろ。

しかもこれからもここに泊まるらしい。

いや、もういいけどさ......

 

 

 

別問題で眠れなくなりそうだ......

 

 

 

 

 

 

 



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3話目


かなり長いあいだ書いてなくてすいません。
それでも呼んでくれるのであれば嬉しいです。


 

 

ノンナと出会ってから何日かが過ぎた

この数日、必ずノンナが訪ねてきている。

二日に一度ぐらいの頻度で泊まっていく。

ノンナと寝ると凄い気持ちよく眠れるんだよな。

安心するし。

ただ、寝るまでが辛い。

なんでってあの大きな胸に抱き締められるもんだから、男子高校生としてはかなりまずいわけで......

まぁ性欲が勝つよりも安心して寝れるという方に軍配が上がるんだけども。

ただ本当にノンナのおかげでフラッシュバックする事もなくなったし、ノンナが戦車道をやっているからリハビリ程度に考えて連れて行って貰ったのだ。

そうしたらなんと何も無かった。

多分ノンナがいるっていう安心感があるからだろう。

ノンナがいなかったら間違いなくパニックを起こす。

 

 

 

 

 

学校では昼休みはカチューシャとノンナと過ごすもんだから、クラスの、いや学年どころか学校中から睨まれてる気がしてならない。

そりゃそうだろう。

ノンナは言わずもがな、美人だし、

カチューシャも小さくて可愛らしいから、男女双方からの人気が凄まじい。

既にファンクラブがあるレベルなのだから、どれだけ人気なのか分かるだろう。

 

 

戦車道の方はノンナの先輩が部長だそうで、事情を話したところ快く了承してくれた。

その時、

 

「ノンナがカチューシャ以外にこんなに世話焼いて熱心になるなんて君が初めてなんだよ?だからノンナをよろしくね?泣かせたら承知しないよ」

 

って言われた。

もちろんそんな気はさらさらないから、

 

「分かってます。何があっても泣かしません」

 

きっぱり言い切ってきた。

 

そうしたら、どうやって耳に入ったのか分からないが、ノンナに話が行ったらしくそれ以降スキンシップがさらに激しくなった。

 

 

 

「何を考えているのですか?」

 

「いや、ここ数日の事をちょっと」

 

「そうですか。何か、変わった事はありましたか?」

 

「ありまくりだよ。ノンナに初めて会ってから、今まで家族と医者に国の役人ぐらいしか知らない事を初めて誰かに話したんだ。そっから色々変わっていった」

 

「本当にノンナには感謝しても仕切れない」

 

「いいんですよ。私が貴方の側に居たいと思った。寄り添って支えてあげたいと思った。ただこれだけの事ですから」

 

ノンナは本当に可能な限り俺の側に居てくれる。

本当なら毎日泊まって一緒にいてあげたいらしいが、流石にそれはまずいから、断った。

まぁ二日に一回のペースで泊まるけど。

これに関しては、学校側にも事情を説明した。

その時ノンナが、

 

「この条件を飲んでいただけないのなら、私はこの学校では戦車道はやりません。退学しろというのなら退学致します」

 

こう言い切ったのだ。

自分のためにここまでやってくれるなんて、本当に有難い。

こんな言葉じゃ本来なら表せないのだが。

 

 

 

 

「夕食が出来たので食べましょう」

 

ノンナに呼ばれ席に着く。

 

「じゃ、頂きます」

 

「えぇ、召し上がれ」

 

ノンナの料理は本当に美味しい。

これが毎日食えるのだ。

嬉しくてしょうがない。

ここ最近の楽しみは昼と夜の食事になっている。

 

 

そうやって食べていると必ずノンナは嬉しそうに、幸せそうにこちらを見ながら微笑んでいる。

何故か聞いたところ、

 

「自分の中作った料理をここまで美味しそうに食べて貰えるのです。嬉しくもなりますし、幸せな気持ちになりますよ」

 

そう言われるとこちらも嬉しくなってしまう。

少しばかり恥ずかしいが。

 

 

こんな感じの日常が過ぎていった。

 

 






久しぶりの更新だから
変かもしれないですけど、勘弁してください。


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4話目

  

長らく投稿していませんでしたがそれでも読んでいただけるのであれば幸いです。


 

 

 

ノンナと出会ってから半年。

たった半年なのに本当に色々な事があった。

 

一つはノンナが戦車道の選手として物凄く優秀だという事。

本当にこれは驚いた。

ノンナに、

 

「私が戦車道をやっている所を見てみませんか?そうすれば少しでも症状が改善されるはずです」

 

と言ってこなければ知ることは無かっただろう。

見に行ってみたのだが驚いたことにその時はフラッシュバックを起こすことは無かった。どうしてなのか理由は分からないが。

まぁ、以前学校に俺と一緒に暮らすことを認めさせる時に認めないと言ったら辞めてやると言われた先生方の顔からして何となくそうなのではないかと思っていたが予想の遥か上をいくものだった。

 

ノンナは砲撃、隊の指揮、判断能力等々。すべてが一流だった。

特に秀でていたのは砲撃だった。

実際に上級生との模擬戦でバンバン砲弾を当てまくったのだ。相手の車両に吸い込まれるように当たるもんだから驚いた。

奇襲を仕掛けられた時も冷静に対処して二両やったところで自分もやられてしまった。

その時はヒヤッとしたもんだ。いくら特殊なカーボンだか何だかでコーティングされているとはいえだ。

 

 

それとは別にカチューシャがノンナ以上に指揮能力や作戦立案能力に長けている事にも驚いた。

カチューシャの立案した作戦は上級生との実力を見る模擬戦で遺憾なくその実力を発揮していた。負けはしたがかなりいい所まで先輩方を追い詰めていた。敗因としては隊長さんが思わぬところで奇襲を仕掛けた事だろう。

残った車両の中から数両の別動隊で奇襲を仕掛けてきた。

それに勝てると思っていた所に奇襲と来たもんだから一年生はパニックとまではいかないものの混乱してしまいその隙を突かれた、と言うところだろう。

 

 

 

他にあった事と言えば、フラッシュバックを何度か起こした事だろう。

 

この半年でフラッシュバックを三回起こしたことがある。

その時はフラッシュバックよりもノンナの方が大変だったと思う。

 

医務室に運ばれて目を覚ますと泣き腫らした目をしながら俺の手を握ってずっと傍に居てくれたのだ。

 

俺の目が覚めたと分かると飛びついてきて大泣きしてしまったのだ。

その声に驚いた先生が飛んで来てくれたのだがノンナを見るなり、ニヤニヤしながら出て行った。

その日から数日はノンナは俺から風呂、トイレ、飯を作る時以外は常に俺の傍から離れようとはしなかった。

飯は横に来て食べさせようとするし、寝る時は俺をその大きな胸に抱きしめて頭を撫でながら寝る。

もう本当にこっちの方が大変だった。

ゴリゴリと削られて行く理性を必死こいて修復する。

まぁ一時間もすれば俺も寝てしまうのだが。

 

 

それともう一つ。

ノンナに戦車道の練習もあるし洗濯とかよりもそっちを優先したらどうだ、と提案したことがある。

その時の事は本当に後悔している。

 

何故ってそう言った瞬間にノンナが泣き出してしまったのだ。

そりゃもう大泣き。

どうすればいいのか分からず、ただ俺の発言がいけなかった事は分かる。

オロオロするばかりの俺。

 

その日は何とかなったのだが次の日から数日口を利いてもらえず、もうどうすればいいのか分からなくて隊長さんとカチューシャに相談したところ、周りに居た他の先輩方や同級生にも満場一致で、

 

「「「「「「ハルーシャ(春馬君)(坂本君)(坂本)(春馬)がどう考えても悪い」」」」」」

 

と言われてしまった。

悪いとは分かってはいたが、皆にも言われてしまってはどうしようもない。

 

という事で、練習が終わるまでノンナを待っていた。

そして出てきたノンナを捕まえてどうにか話を聞いてもらいながら謝罪する事二十分。

 

なんとか許してもらった。

 

しかしその後が大変だった。

もう二度とあんな事を言わない事。今まで以上にノンナに甘える事等々。

色々と約束させられた。

 

しかもその日の夜は何時も以上にノンナがくっついてくるもんだから本当に大変だった。

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて俺はノンナと一緒に過ごしている。

珍しく今日は戦車道の練習が休みらしく一日中家でゴロゴロしている。

 

「春馬、何をしているのですか?」

 

「んー?ノンナに似合いそうな服が無いか考えてた」

 

「私に似合う服、ですか?」

 

「あぁ」

 

そう。俺は今何かノンナに似合う服は無い物かと考えていた。

日頃お世話になっているしそれの恩返しとまではいかないが何か出来ないかと思っていた。

 

「それで、どんな服が似合いそうですか?」

 

「そうだなぁ……セーターとか似合いそうだなぁ」

 

「セーター、ですか?」

 

「あぁ。あの丈が長いセーターあるだろ?あれとかいい」

 

まぁノンナってむっっっっっちゃスタイル良いから隠すか強調するかなんだけど、なんでか分からないけどあんま他の奴に見せたくないから強調路線は無しで。

セーターなら余り身体のラインとかで無さそうだし。

 

そう思ってノンナを見るが、

 

(これ、どんな服を着ても身体のライン出ちゃうんじゃね?)

 

そう思わずにはいられないぐらいスタイルが良いのだ。

まぁこの際そんな事を言ったら何も着れなくなってしまうので妥協しよう。

 

「後はジーパンみたいなカッコいい系とか綺麗系の服も良く似合いそうだな」

 

「ふむ」

 

「後は結構可愛い系も似合うかもしれないな。まぁ何でも似合いそうだけど」

 

そう言うとノンナは考えていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ……自分がその様な服装をしている事が想像できないのです」

 

「え?」

 

「今まで余り服装を考えた事など無かったもので」

 

「そうなのか……ならこれからそう言う服を沢山着ればいいんじゃないか?」

 

「そう…ですね。それに春馬も居ることですしね」

 

「あぁ。沢山見せてくれよ?」

 

「勿論です」

 

そう言うとノンナはキッチンに入って行った。

時計を見ると十一時半になったところ。そろそろ昼飯を作り始めるのだろう。

 

暫くすると良い匂いがし始めてきた。

今の俺の楽しみと言えばノンナと過ごす日常とノンナの作ってくれる料理だろう。

短時間で手の込んだ料理を作ってくれるし、しかも美味しいと来た。それにレパートリーも豊富で食べ飽きない。

 

「今日はパスタです。カルボナーラですが宜しいですか?」

 

「勿論。ノンナの作る飯は旨いからな。何でも食えるぞ」

 

「ふふっ。そうですか。なら手を洗ってテーブルを拭いておいてくれませんか?」

 

「お安い御用だ」

 

言われた通りにする。

拭き終わったのと同じタイミングでノンナが飯を持って来た。

言っていた通りにカルボナーラで上に乗っている半熟卵が何とも美味しそうではないか。

 

「胡椒はかけますか?」

 

「頼む」

 

そこに胡椒が掛かってきて更に良い匂いを放つ。

 

「それでは食べましょうか」

 

「「頂きます」」

 

「うめぇ」

 

「そうですか。良かったです」

 

そう言って俺を見るノンナは嬉しそうに笑う。

 

「ノンナ……食っている俺を見ていて楽しいか?」

 

「えぇ。とても。美味しそうに食べてくれますから見ていて嬉しいですし楽しいです」

 

「そっか……」

 

そう言って本当に嬉しそうに答えるがこればっかりは慣れない。

 

そうしているうちによそられた分を食べ終わってしまった。

 

それを見たノンナは、

 

「お代わりしますか?」

 

「頼む。大盛で」

 

「はい。分かっていますよ」

 

直ぐにお代わりをよそいに行ってくれる。

もう今更だが俺の胃袋はノンナにがっしり掴まれてしまっているようだ。

 

 

今日の飯も美味かったです。

そして今日も一日、ノンナと過ごすことが出来てとても幸せだった。

 

 

 

 

ーーーー side ノンナ ----

 

 

春馬と初めて出会ってから既に半年。

その間に色々な事がありました。

 

カチューシャ達にもう付き合っているのかと聞かれたり。

まぁ付き合っている訳ではないと言ったら死ぬほど驚かれましたが。

好きなんですが、勇気が出ないというか……

 

フラッシュバックを起こした春馬を見て泣いてしまったり。

 

他にも春馬に戦車道の練習を見てもらった事でしょうか?

その時はフラッシュバックを起こさなかったので大きな進歩でしょうね。

 

後はそうですね……

あぁ、戦車道の練習が忙しいのなら春馬の事よりもそっちを優先してはどうかと春馬自身に言われた事もありましたね。

まぁその後数日程口を利かなかったら謝って来たので許してあげました。

幾つか約束事をさせましたが、それぐらいならいいでしょう。

出来ない事では無いですし。

 

 

 

 

 

 

 

そして今日は戦車道の練習がお休みです。

だから一日春馬と一緒に居る事が出来ます。これ程嬉しい事は無いでしょう。

 

春馬を見てみると何やらボーっと考え事でもしているのでしょうか?

声を掛けてみれば私に似合う服を考えていたと。

 

私に似合う服、ですか……

 

考えた事などありませんでしたね。

私にはどんなものが似合うのでしょうか?

 

聞いてみるとセーターや、カッコいい系綺麗系、可愛い系。

最後に何でも似合うと言ってくれました。これは嬉しいですね。

今までの私服と言えば部屋で着るTシャツに短パンのようなジーンズに同じような感じで外着が二、三着あるぐらいでしたから考えた事など本当にありませんでしたし。

土日は練習があって出かけることなど殆ど無く、休みがあっても疲れて寝ている事が多かったです。

 

と、考えていると春馬が声を掛けてきました。私が考え事をしていたからでしょう。

何を考えていたのか教えるとこれから沢山着ればいいと言ってくれました。

 

その時は春馬、貴方に沢山見てもらいますよ。

 

そう言って時計を見てみると昼食を作り始めるのには丁度いい時間になっていました。

 

今日はどうしましょうか……

パスタでいいでしょうか。よし、そうしましょう。

たしか、カルボナーラなら作れる材料が揃っていたはず。

 

あぁ、ありました。

パスタを茹でてソースを作って……

それに茹で卵を乗せてしまえば……

 

はい。カルボナーラの完成です。

春馬にテーブルを拭いておいてもらったので盛り付けて運びます。

 

あぁ、胡椒を忘れるところでした。

春馬もかけるので持って行っておきましょう。

念の為聞いてからかけることにしますが。

 

 

挨拶をしてから食べ始める。

春馬は見ていてこちらが嬉しくなるような食べっぷりなので見ていて飽きることがありません。

 

春馬は直ぐに食べ終わってしまってお代わりするか聞くと、いつも通り大盛でお代わりを頼むと。

作った物を此処まで美味しそうに食べてくれるのは嬉しいです。

 

 

私は春馬の胃袋を掴む事が出来ているでしょうか?

 

 

 

今日も一日、春馬と過ごす事が出来てとても幸せでした。

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 






こんな感じです。
本当に待たせてしまって申し訳ない。

これからも投稿期間が開いてしまう事がありますがそれでも読んでくれるのなら嬉しいです。



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5話目



お久しぶりです。
他の作品ばかり書いていて書いていませんでした。
申し訳ないです。



 

 

早いものでもう一年生の三学期に入っている。

ノンナとは同じ部屋に一緒に住んでいた。

 

最初は数日に一度だったのが三日に一度、二日に一度、そして毎日来るようになり今では同じ部屋に一緒に住んでいる。

と言うのも夏休みが終わってからいきなりノンナが訪ねてきたのだ。

それまでは戦車道の合宿や練習で忙しかったらしく夏休みは来ることがまばらだったのだ。そしたら久しぶりに来たと思ったら大荷物を抱えているもんだから驚いた。

何があったのかを聞いてみたら、

 

「ここ最近は毎日春馬の所へ来ているでしょう?もうこうなっては一緒に住んでいるものと変わらないと思ったのでいっその事もう同じ部屋に住んでしまおうと思ったのですが」

 

うん。本当に訳が分からなかった。

いや、毎日来るようになってからはもう帰ったりするのが大変だからいっそ此処に住んだ方がいいんじゃないかって思ったりしたことはある。でもまさか本当に現実になるなんて思ってなかったもんだから普通に驚いた。

 

「俺がもし断ったら?」

 

一応そう聞いてみた。

そしたらノンナはとんでもないことを言い出したのだ。

 

「春馬なら断らないと知っていますから大丈夫ですよ。それに私、住んでいた部屋を引き払ってきてしまったので。断られたら野宿するしかありませんね」

 

と笑いながら言ったのだ。

前半部分はまぁ信頼されているという事でいいだろう。しかし後半はもうほとんど脅しの様な物じゃないかと改めて考えれば思う。

それを聞いた俺は頭が回らなくなって了承した。

今考えればカチューシャや隊長さん達の所もあったのではないかと思ったが俺自身ノンナと一緒に住めるという事をとても嬉しく思っていたから何も言わなかった。それ以前に言ったらノンナ含めカチューシャ達から非難を浴びることは逃れられなかっただろうし。

 

という事で既にノンナと一緒に住み始めてから六か月になろうとしていた。

最初は酷いもんだった。慣れていると思ったが何かあるたびに緊張したりしていた。

なんせ風呂から出る時にバスタオル一枚で出て来るとかそんな感じだったからもう大変だった。理性の崩壊を必死になって抑える一方であのまま襲い掛かりたいという本能も出てきて本能と戦うので必死だった。

今は慣れたという訳ではないがまぁ普通に生活できるようにはなっている。

 

 

 

 

 

俺のアパートは学校から近く、歩いて五分ほどの所にある。

ノンナは戦車道の練習もある為帰りが九時を過ぎることも珍しくはない。それを考えるとこのアパートはスッゴイいい立地だ。

土日の練習はほぼ確実にどちらかは休みになっているので二人で出かけたり家でゴロゴロとのんびりとしたりと充実している日常を送っていた。

 

 

 

「春馬、今日は帰りが少し遅くなるので昨日の残り物を温めて先に晩御飯を食べていてください」

 

「ん。分かった」

 

「それでは行きましょうか」

 

毎朝、起きればすぐ隣にノンナが居る。

そして一緒に朝食を摂って、二人並んで学校に向かう。

これが俺の、ノンナにとっての当たり前の日常になっていた。

 

 

 

 

 

「それでは春馬、また後で」

 

「おう。練習頑張れ」

 

「はい」

 

RHLが終わればノンナは練習に向かう。

俺は部活に入っているわけではないのでこのまま帰宅する。

 

帰ったら何時もノンナに言われている通りしっかり手を洗ってうがいをする。

これをしないと怒られるんだなぁ……

取り敢えず晩飯を食ってその後はテレビを見たりしながら時間を潰す。

 

 

時計を見れば十時になっていた。

今日は遅くなるって言ってたからそろそろ出るか。

 

ノンナを迎えに行く。

遅い時間帯に帰って来るノンナが心配で気が付けば迎えに行くようになっていた。

それに季節柄と言うのもあるがプラウダ高校がある学園艦は青森港を拠点としている為、その周辺を航行している。だから物凄く寒い。そりゃもうびっくりするぐらい寒い。

これで心配するなと言う方が無理だ。

これでも都会育ちな俺は初めてこっちの雪を見た時に普通に仰天した。

どう考えたって休校レベルだろと思ってノンナに聞いてみたら、

 

「こちらではこれぐらい普通ですよ?今日も授業と練習はありますし」

 

さも当然と言った風に言い切った。

いや、ノンナ達からすれば普通なんだろうが……

 

 

という訳で心配性な俺は毎日迎えに行くようになっていた。

格納庫に向かうと明かりがまだ点いていた。

こっそり中を見ると、まだ反省会を行っている最中だった。

 

これは時間を見誤ったな……

 

参ったぞこれは。

中に入るのもいいが邪魔してしまいそうで気が引ける。

かと言ってこの雪が積もって寒い中に居たら凍え死んでしまいそうだし。

家に帰るのも面倒だしなぁ。

かと言ってここで長時間待っている事をノンナに知られたら怒られそうだし、どうしたものか。

 

……まぁこれぐらい我慢するか。

 

 

 

 

 

暫く、三十分程経っただろうか。

ノンナやカチューシャ、隊長さん達が出てきた。

俺に気付いたノンナが駆け寄って来る。

 

「春馬、今日もありがとうございます。…………春馬、もしかしてですが此処で暫く待っていましたか?」

 

「あー……いや、その、三十分ぐらい……」

 

「風邪をひいたらどうするのですか?ほら、こんなに手も顔も冷たくなって」

 

「いや、時間を見誤って……」

 

「はぁ……迎えに来てくれるのは嬉しいです。ですが春馬がこんなことになるぐらいだったら迎えに来なくてもいいです」

 

「……すいません」

 

やはり怒られてしまった。

それを見ていた他の皆は呆れていた。

 

「ハルーシャ、ノンナと一緒に暮らして結構時間が経つんだからこんな所で待っていたら怒られるって分かるでしょ?」

 

「仰る通りで……」

 

「春馬君、もしこれから早く来ちゃったら中に入っていいからね?遠慮しない事」

 

「はい……有難うございます……」

 

と、言われてしまった。

うーん……難しいもんだな。

 

「それでは春馬、帰りましょう。早く温まらないと」

 

「あぁ」

 

「隊長、カチューシャ、皆さん、それではさようなら」

 

「うん。二人とも気を付けて」

 

こうして家に帰った。

 

 

 

 

「春馬、もっとこっちに寄ってください」

 

「いや、もう充分だと思うんだけど……!」

 

「いいえ、ダメです。ほらまだこんなに足が冷たいです」

 

家に帰ってノンナが晩飯を食って風呂に入り、さぁ寝るぞとなって問題が起きた。風呂に入ったのにも関わらず足が冷たい俺を心配したノンナがもう俺に思いっ切りくっついてくるのだ。

このままでは寝られない……!

どうすればいいんだ……!?

 

 

 

案の定、ノンナの大きな胸や匂い、体温をダイレクトに感じた俺は次の日、寝不足になってしまった。

 

 

 






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6話目

 

 

 

二年生になって暫くたった。

俺の方は今までと変わらずノンナと一緒に暮らしたり一緒に登校したり、買い物に行ったり何故か休みの日にフラッシュバックを起こした時に甘やかされたり……

まぁ色々とあったのだが。

それとは別に今までお世話になっていた部長さん達が卒業していった。

今まで沢山お世話になっていたのにも関わらず何もお返しが出来ないうちに卒業していってしまった。それを最後に伝えたら笑いながら、

 

「別に気にしなくてもいいのに。でもそうね、だったら早くノンナと結婚して子供の顔でも見せて欲しいわ」

 

そう言われて俺の方は顔を赤くして恥ずかしがっているのにノンナは満更でもない様子でどうしたものかと頭を抱えた。

しかも家に帰ったらノンナが抱き着いてきて、

 

「……子供、作りますか?」

 

なんて言ってきた。本当に何を言っているのか分からなさ過ぎて思考が止まってしまった。

まぁその後すぐにいつもの調子で、

 

「ふふっ、冗談ですよ」

 

と言ってきてからかわれただけだと思ったのだが改めて思い出してみると声音が本気だった。あれは間違いなく本気だった。もし演技だとしたら女優にでも慣れてしまうんじゃないだろうか。

 

まぁ驚きはしたが、もしそうなるのであればもう暫く待って欲しい。

 

 

まぁそれは置いておいて、現状どうなっているかを説明しよう。

先ずノンナとカチューシャは部の中でも中心的な人物であることは間違いない。ただ心配なのが新三年生との対立だ。

どうも俺達が一年生の時から既にあったらしいのだがその時は部長さん達は取り入れた方がいい意見や、一年生二年生達から積極的に意見を聞いてそれを取り入れていたらしい。事実、カチューシャやノンナの意見も採用されている。

そこまでは聞いていて納得した。ただ対立の理由が本当に幼稚で困る。

 

〔二年生なのにカチューシャは作戦に対して意見を言ってくる。そしてそれに従っているノンナも気に食わない〕

 

という理由だった。

聞いた時は心底呆れたもんだ。

いや、去年からそうだったじゃないか。そんなんで優勝できるのかと思ったがまぁそれに関しては部外者である俺が口を出す様な事では無いから何も言えないが。

 

しかもただ上級生下級生で対立しているのではなく、三年生の中にもノンナ、カチューシャの意見に賛成だという事で味方も居て、逆に一年生、二年生の中にも三年生側と言う人もいるし、中立だと言う人もいる物だから事態は無駄に複雑化している。

それをノンナに聞かされた時は納得する事が出来たよ。

格納庫にノンナを迎えに行った時に今まで感じなかった敵意を感じたのだ。こんなの戦場以来だぞ。

まともな方の三年生達はノンナ側についているのだが如何せん三年生として威張りたいというしょうもない奴らが多数を占めているからどうにかしようにも難しいらしい。

しかもそんなんでも三年生と言うべきか、実力はある為に余計だそうだ。

 

ただ、聞いて、実際に見た事もあるがあくまでも静かに対立と言う感じだから気にするほどの事でもないしあの程度ならば下手な事になることはまずないと思うが。ただどちらかが限界を超えた時は大変なことになるだろう。

その前に決着をつけられればいいが、俺が口出ししてどうにかなるようなもんでもないしなぁ……

 

 

 

そして今日も変わらずノンナを迎えに行く。

何時も通り格納庫の所まで行ってそこでノンナが出て来るのを待つ。

約束した時間は九時なのに出てくる気配が全くない。しかも格納庫内から複数の大声が聞こえる。何かあったのだろうか?

 

 

 

 

『あんたら一年二年が何を勘違いしているのか分からないけど生意気なのよ。事あるごとにあーだこーだ意見してきてさ』

 

『意見を自由に言う権利はあるわ!それに去年は学年関係なく意見を言っていたじゃない!』

 

『何言ってんの?あんたら下級生は三年生に黙って従う義務があるのよ。それに去年は去年よ。今年は私達のやり方で行のよ』

 

『そんな!』

 

『そもそも気に食わないのよ。特にカチューシャとノンナはね』

 

『そうそう。やたらと出しゃばって他の一、二年を率いている気分にでもなっているんじゃないの?』

 

『そんなこと無いわよ!本当のことを言って意見を言っているだけじゃない!それの何が悪いの!?』

 

と聞こえてくるが大方カチューシャとノンナVS三年生と言った所だろうか。

ノンナの声はあまり聞こえないな。元々大きい声を出すタイプじゃないからな……

ノンナはああ見えて結構頑固だったりする。本当に一度決めたりしたらもう引かない。間違っている事なんかは簡単に修正するんだがそうでないともうこちらが折れるか両者ともに納得するような案が出ない限りは譲らないのだ。

俺は何度も経験しているから言えることだけど。

 

でも大声を出さないから怒った時もそうだ。淡々と責めたり怒ったりする姿は本当におっかない。俺も何度も経験があるが毎度怒らせないようにと誓いを立てるんだがふとした時に怒られてしまう。どうやったってノンナに頭が上がらないもんだな。別に亭主関白とかどうでもいいけど。

 

なんて事を考えているとノンナが出てきた。

 

「春馬、待たせてしまいましたね。行きましょう」

 

「あぁ」

 

「……聞こえていましたか?」

 

「聞こえてたよ」

 

「そうですか……」

 

ノンナはそう言うと黙ってしまった。

俺は当事者じゃないからこんなんでも大丈夫だがノンナは色々と考えているんだろう。

 

「それで、解決はしたか?」

 

「いえ、全然。寧ろ余計にややこしく溝は深くなったと思います」

 

「それは……」

 

「でも、一応何とかなりそうな事が決定しました」

 

「どうするんだ?」

 

「三年生対私達一、二年生で試合をするんです。それでもし私達が勝ったら意見でもなんでも言わせてもらえる。そして作戦立案にも参加させてもらえる」

 

「……もし負けたら?」

 

「三年生が居る間は一切の口出しが出来なくなります。全てにおいて三年生に従わなければいけなくなります」

 

解決方法としては単純明快で分かりやすくていいだろう。

ただ幾ら何でも負けた時にノンナ達に対しての条件が厳しすぎやしないだろうか?

 

「その条件で良かったのか?」

 

「はい。交渉次第では、と言うのもありましたがこれでいいのです。これだけ追い詰められれば皆さんも普段以上の実力を発揮できるでしょうし」

 

「因みに試合はいつ?」

 

「二週間後です」

 

「随分と早いな」

 

「これ以上先にしてしまうと全国大会に支障が出てしまうので仕方が無いです」

 

そうだった。全国大会があったんだ。

このまま対立していては練習にも響くという事だろう。

 

走行しているうちにアパートに着いた。

部屋に入ればノンナはパパっと食事をして風呂に入りそしていつもの様に俺の隣で寝てしまった。それも俺を抱きしめて。嫌では無いんだが刺激が強すぎる。

 

 

しかし、これで解決できればいいが余計にこじれない事を祈るばかりだな。

 

そう考えて俺も目をつぶった。

 

 

 







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7話目

 

 

ーーーー side ノンナ ----

 

 

二年生になって暫く。

 

今現在は春馬と一緒に住んでいます。

一年生の時に夏休みは練習が忙しかったりと顔を合わせる機会が減ってしまってどうしたらいいか悩んだところ、一緒に住めばいいという結論に至りました。

それに毎日のように通っていたので実質一緒に住んでいるのと変わらなかったですし。ならいっそのこと、という事ですね。

 

春馬の訪ねた時は驚いた顔をしていました。

何時もとは違って日用品や衣類と言った必要な物を全て持って春馬の部屋まで行ったのですからそれは驚くでしょう。

 

それから理由を説明して一緒に住み始めて今に至るという訳です。

ちょっとおど……いえ交渉しましたが、快く受け入れてもらえました。

 

 

それから三年生の卒業式があって、隊長にはお世話になっていたのに何もお返しが出来なくてそれを伝えたら、

 

「別に気にしなくてもいいのに。でもそうね、だったら早くノンナと結婚して子供の顔でも見せて欲しいわ」

 

と言われてしまいました。春馬は顔を赤くして恥ずかしがっていたようで周りが見えていなかったようですが、春馬を見た他の部員や三年生は、

 

((((((何を今更恥ずかしがってんだ))))))

 

と言う顔でしたよ?春馬は鈍感ですからこの気持ちに気付いてくれるのはいつになるんでしょうか?まぁ気が付かなかったらこちらから行けばいいだけの話なんですが。

春馬には子供を作るか聞いてみましたが、フリーズしてしまいましたね。

 

 

 

 

日常生活では問題無く過ごしていましたが戦車道の方はいい雰囲気とは言えません。

新三年生と私達下級生の対立が激しく、今までは学年関係なく意見を言い合い作戦を練ったりして今しましたが今はそんなことはなく、練習中でも言い合う事がしばしば。

正直この現状で大会になど望めるはずがありません。

しかし一年生は入って来たばかりで此処のルールなどは知らないので実質私達二年生対三年生と言う構図なのですが。

 

 

特に今日は酷かったです。

練習終わりのミーティングでカチューシャと私を筆頭に下級生組と三年生の言い合い。

三年生の中には私達の様に誰でも意見を言い合ってよりよい作戦を立てた方がいいと考えている方もいますが極少数。そんな状況での言い合いではまともな解決策など出て来る筈も無く。

 

そして結局出てきた解決案は一、二年生対三年生で試合をするという者でした。

条件は、

 

〔一、二年生が勝った場合、意見、作戦立案、ありとあらゆること、なんでも意見を言えるようになる〕

 

しかし負けた場合は、

 

〔三年生が居る間はありとあらゆることに関しての口出しの禁止、全てにおいて三年生に従わなければいけない〕

 

負けた時の条件で〔三年生が居る間〕とありますが引退してからも間違いなく口を出してくるでしょう。

そうやって威張るのが好きなようですし。

そうなれば優勝どころか今ですら勝てていない黒森峰女学院に勝つことなど夢のまた夢。それを考えると、はぁ……頭が重いですね。何としてでも勝たないといけませんね。

 

 

外に出れば春馬が既に迎えに来ていました。また待たせてしまいました。

帰る道すがらそのことを話しながら歩きます。

 

余計にややこしくなっているのは確かですね。

このままで本当にどうするんでしょうか?全国大会すら危ういですし。

取り敢えずやることは二週間後の試合に向けてやれることをやるしかありませんか。

 

 

 

アパートに着いたらパパっと食事を摂って入浴をして、春馬と一緒に布団にもぐる。

あぁ、やはり春馬の匂いは落ち着きます。これで今日も良く寝れます。

 

 

 






ノンナさん、主人公の心境を分かってない……
うらやまけしからん!



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