東方異形録・再 (TsuKi Aka)
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一日目:真夜中の魔法使い
何も見えない暗闇の中に私はいた。おそらくこの感覚は水の中に沈んでいるのだろう。私はその暗闇の中を長い間沈んでいった。とても、とても長い間。虚無の中急に身体中に電流が走る。痛みで思考が上手くまとまらない。そんな痛みと共に私の意識はだんだん遠のいて行った……
目を覚まして、私は辺りを見回した。今度は私は紅い花の咲く途方もなく広い花畑にいた。さっきの暗闇は夢だったのだろうか。いや、それともこちらが夢なのだろうか。私はそう考えていた。空を見上げると、満月が私の足元を優しく照らしている。もう寝なくてはいけない時間だ。私の本能がそう訴える。その本能に従って、私はこの紅い花畑に何かないか探し始めた。花畑には何もなかった。しかし、その先には森があることが分かった。何処か泊まる場所が必要だ。そう思いながら、私は先の見えない森に足を踏み入れた。
月の光がほとんど入らない夜の森の中は案の定暗く、通った道はすぐに忘れてしまって戻れそうにない。そう思いながら歩いているうちに目が慣れてきた。ふと木の根元を見ると、あちこちに生えているキノコが、少しだけ光っているように見えた。私はその光についていと決めて、歩きだした。さらに森の奥に導かれて行き、その光るキノコのに導かれた先には、家が一軒立っていた。泊まれるかどうか聞こうと思い、ドアをノックした……が、どうも留守らしく、返事が返ってくる気配はない。ここには泊まれない、そう思い別の所を探そうと後ろを振り返った。
そこには黒ずくめの人影がいた。
「いやああああああああああああ!!!!」
私は尋常じゃないくらい大きな悲鳴を上げて急いで逃げようとしたが、影はそんな私を一瞬で捕まえた。
「おいおい、どうしたんだよ。こんな夜にこんな所に来るなんて危険だろ?」
ん?妙に高い声で話しかけて来たので気になって影を見た。影は金髪金眼の少女が黒い帽子に黒い服を着ていただけだった。恐怖で私は腰を抜かしてしまった私は、彼女を見て、こう尋ねた。
「今夜、ここに泊めていただけませんか?私、泊まる場所がないんです」
「おう、いいぜ。」
彼女は二つ返事で返事を返した。
「私は魔理沙。普通の魔法使いだ。お前、奇抜な恰好をしているが名前はなんていうんだ?」
「えーと、私の名前は……」
私は言葉を詰まらせた。今、気づいた。私は重大なことを失っていることに。
それは、記憶。
私は暗闇以降の過去のことを何も覚えてはいなかった。記憶消失である自分の事が疑心暗鬼になり、吐き気、目眩を起こす。私は身体が倒れたことには気付けなかった。
「これはやばいな。急いで部屋の中で寝かせ……」
再び意識が遠のく中で、そう魔理沙さんが言っていた気がした。
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一日目-2:うぇるかむ幻想郷
太陽の光で目を覚ました。まだ体感では6時間も経っていないだろう。私はベットの上で横になっていた。ふと横を見る。魔理沙さんがこちらを見ていた。
「よお。大丈夫か、急に倒れたからびっくりしたぞ?」
「もう大丈夫です、ありがとうございます」
簡潔に礼をすませて、私はベットから起き上がる。床には本が散らかっていて、辺りには蛇や蜘蛛がうろちょろしていた。私は虫や爬虫類にはそこまで苦手意識がないらしかった。魔理沙さんの奥にはビーカーに入った色とりどりの液体が乱雑に並べてあった。……魔理沙さんは本当に魔法使いなのかもしれない。すいません、疑ってました。
「お前、もしかして何かあったのか?私でよければ力になるぜ。なんたって私は魔法使いだからな。妖怪でもなんでも解決してやるぜ?」
魔理沙さんの事を信用していた私は、自分の事を伝えた。
「お前、向こうの世界から来たのか!?しかも記憶喪失だって!?大変だ……すぐに元の世界に戻してあげなくちゃな」
魔理沙さんは驚きを隠せない様子だった。
「しかもその様子だと妖怪に一人も会っていないんだろ……?」
「はい、妖怪……?なんですかそれ?」
魔理沙さんは「奇跡かなんかか……早苗とかと関係があるんだろうか」とぼそぼそとつぶやいていたが、私には聞き取れなかった。
「とりあえず、困ったときは霊夢に相談だな。私は博麗神社に出掛けようと考えているんだが、お前、当てがないなら私について来るか?」
私は、その言葉に、「行きます!」と二つ返事で答えた。
「よし、準備するか。あ、その前に……」
魔理沙さんは私に鏡を見せた。いや、私に私を見せたというのが正しいのだろうか。私の姿は黒い髪に金眼の女の子だった。私の服は、何処か歪さを連想させて、不気味に見えた。
しかし、やはり思い出せることは何もなかった。誰だこいつ。可愛いかよ。
「全然、思い出せない……」
「まぁそうだろうな。じゃあ用意を始めるか」
私は用意をすることもないので、魔理沙さんの用意を眺めていた。すると、ふときき忘れていた事があるのに気が付いた。大事な事なので彼女に尋ねる。
「ここは、どこですか?」
「あぁ、言い忘れていたな」
魔理沙さんはこちらを向き言葉を続ける。
「ようこそ、幻想郷へ。ここはいろんな奴らがいる楽しいところさ」
幻想郷という言葉は私の記憶には残っていた。情報はないが、聞いた覚えはある。私は幻想郷にいれば記憶を取り戻すことができるのを確信して、魔理沙さんと一緒に博麗神社へ向かうのだった。
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