ひまりの兄は女性不信 (サウニル)
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第1話

卒論が辛いのと色々影響されて始めました。よろしくお願いします


「サイテー」

「犯罪者」

 俺は女子に囲まれ口々に罵られていた。俺はショックで言葉を発することも出来ず呆然としていた。どうしてこんな事になってしまったのか。

 1週間前に密かに憧れていた女子から告白された俺は人生初の彼女に舞い上がっていた。しかし、その週末に彼女は大学生と思われるイケメンとデートしていたのだ。偶然にもホテルに入っていく様子を見かけてしまった俺は訳が分からないまま走りだし気が付くと我が家の玄関に立っていた。

 何かの間違いであると自分に思い込ませながらの週明け、俺は強姦未遂と浮気の屑野郎となっていた。弁解の余地も与えられないまま、あらゆる人々が俺を屑とみなして疑わなかった。いや、単純に自分に矛先が向くのを恐れただけで俺を信じてくれている人もいたのかもしれない。しかし、結局責められている俺の味方をしてくれるものは誰一人としていなかったんだ。

 周囲の行為はだんだんとエスカレートしていき次第に暴力を振るうものまで現れだした。

 遂に倒れた俺は意識が遠のく中ではっきりと気づいてしまった。

 あの女の口元に歪んだ笑みが浮かんでいる事に。

 

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」

 気がつくと妹であるひまりが目元に涙を浮かべながら必死そうに俺に抱きついていた。

(またあの夢か…)

 俺が女性を信じることのできなくなった事件。当時既に両親が事故で亡くなり、親戚とは疎遠であった俺には頼れる大人は居らず、味方をしてくれるのはひまりだけだった。幸いにも親の残した保険金でお金に困ってはおらず、俺たちはあの町から遠くへとから逃げるように引っ越した。

 しかし、あれ以来俺はひまりを除く女性の目に触れることすらも恐れるようになっている。

「またあの夢?」

 未だに涙を浮かべ心配そうに問いかけてくるひまりの頭を撫でつつ

「大丈夫だよ。ただの夢だから。ありがとうな。こんな俺の心配をしてくれて」

「当たり前だよ。なんて言ってもお兄ちゃんの妹なんだから」

 先程までの涙はどこへ行ったのか、気持ちのいい程のドヤ顔を見せつつも気持ちよさそうに目を細めるいつも通りのひまりには安心させられる。

 ちらりと時計に目をやると時間はまだ真夜中。明日もまた学校がある。しかし、俺はとても眠れそうな気分では無かった。するとそのことに気が付いたのかひまりは俺を抱きしめるとあやすように撫でてきた。

「大丈夫だよ。お兄ちゃんには私がついてるから。何があって私はお兄ちゃんの味方だよ」

 非常に発育の良いひまりの体に包まれながら不思議なほどの安心感とともに心地の良い眠気が襲ってきた。

(今ならいい夢を見ることが出来そうだ)

 そうして俺の意識は再び眠りへと落ちて行った。

 この時の俺は気づくことがなかった。

 ひまりの口元にあの女よりも深い笑みが張り付いている事に。

 




落差のあるヤンデレ好きです
感想もらえると嬉しいです


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第2話 ひまり視点

初投稿にもかかわらず沢山のお気に入りと感想まで頂けました!ありがとうございます!
今回はひまり視点でのお話になります 


「大丈夫だよ。お兄ちゃんには私がついてるから。何があって私はお兄ちゃんの味方だよ」

(もうすぐ…かな…)

 私に抱かれながら安心しきった顔で眠りに落ちた私の、私だけのお兄ちゃんを撫でながら私が思い出したのはこれまでの兄との思い出だ。

 最初は確かにはどこにでもいる兄妹だったんだ。そんな中で血の繋がっているお兄ちゃんを異性として意識するようになったのはいつだったのかは考えてみても分からない。きっと明確なきっかけなんてなかったんだと思う。

 幼い頃から一緒に育ってきたお兄ちゃんはいつでも私のヒーローだった。迷子になって泣いていても私を見つけ出して安心させてくれた。男子に身体の事をからかわれている時にも助けてくれた。そしてお父さんとお母さんが死んじゃって私が塞込んできた時にも落ち着くまで傍にいてくれた。そうした積み重ねが私の中の女を目覚めさせたんだ。きっと元々その気はあったんだと思う。こうしている今も兄の可愛い寝顔、そして匂い、その全てに己が狂わされていくことを実感してしまう。お兄ちゃんが他の女に取られるところなんて想像したくはなかった。

「お兄ちゃん…好き…すきぃ」

 お兄ちゃんの手を私の胸にあてがう。それだけで私の身体の芯から熱を帯びていくのを感じる。これをお兄ちゃんに自らされてしまったら私は一体どうなってしまうのか、考えるだけでも股が湿り気を帯びてくる。この衝動のままに想いを伝えたいと思った回数は計り知れない。きっとお兄ちゃんは私を拒むことはしない。しかしまだだ、それだけでは足りない。本当の意味で私抜きでいられなくするためにも、これまで我慢して『妹』を演じてきたのだ。あの時だってそうだ。あの女に嵌められて、失意の中にある兄に対しても私はあくまでも妹として私は接してきた。おかげでお兄ちゃんは私を今でも健気な妹だと信じているはずだ。

(今、目を覚まして私のしていることに気づいたらどんな反応をするんだろう?)

 その想像すら私の興奮を加速させていく。残念ながらこれまでの生活の中でこの程度では起きないことは分かってる。私の中の興奮はより強い刺激を求めているが、ギリギリのところで踏み止まっている。今はまだこれで我慢しなければこれまでの全てが無駄になってしまう可能性もあるんだ。

(もうすぐ…私抜きではいられない体にしてあげるからね?それに時間はいくらでもあるんだから、焦らずに今のこの兄妹の距離感を楽しむのもアリだよね?大好きだよ、お兄ちゃん♪)

 こうして夜は更けていく…




ゲームでのヒロイン視点のお話好きです。地の文はこれでよかったのか…
感想お待ちしてます!


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第3話

ひまり視点どれくらい入れるのがいいんでしょうかね…
今回は兄視点です



 カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。

(そうか昨日俺はあの夢を見てひまりに…)

 隣を見るといつものように無防備なひまりが眠っていた。

 いつも通りのこととはいえここまで警戒感のない様を見ていると、将来変な男に捕まるんじゃないかと心配になる。

(ん?)

 その時確かに胸の奥が痛むのを感じた。

(待て待て待て、いくら可愛くて俺の唯一話せる女の子だからってひまりは妹なんだぞ…)

 信頼を向けてくれているであろう妹にそんな目を向けてしまったことに対して罪悪感を感じているとひまりがもぞもぞと動き出した。

「うーん、お兄ちゃんおはよってきゃあああああ!」

 寝起きで大きく欠伸をしたと思ったら突然悲鳴を上げた。何故かひまりのパジャマのボタンが外れていたのだ。

 一方で、俺はついさっきまで自戒していたはずなのに突然の出来事に対して何も考えられず固まってしまっていた。

「き、着替えてくるね!」

 慌てて体を隠しながらひまりが出ていくと、バタンと力強く閉められた扉の音が俺の意識を呼び戻した。

(やっぱりでかい…ってまた何を考えているんだ俺は!)

 あの光景はしばらく忘れられないものになるだろうということは確信出来た。

「お兄ちゃん、入るね?」

 しばらくの間、俺が再び自己嫌悪に襲われているとひまりが戻ってきた。

「さっきはすまん!」

「いやそれはこっちの台詞だよ!お兄ちゃんは何にも悪くないんだから頭を上げて?ね?」

 これ以上謝ってもひまりが困るだけだと悟った俺は改めてひまりに向き直り

「その…これからは気を付けるんだぞ?俺だったからよかったものを」

「それは大丈夫だよ。お兄ちゃん以外の男の人と寝るなんてありえないもん!」

「そうはいっても俺もひまりもいずれ社会に出ていくんだぞ?職場が違えば一緒に暮らすこともできなくなるかもしれないだろ?」

「むむむ…そうなったらおにーちゃんに養ってもらうもん!お兄ちゃんこそ私なしで生活できるの?」

 そんな問いかけに思わずぎくりとしてしまった。

「確かに今の俺はひまりに支えてもらってなんとか生活が出来ている状態だ。でもこのままひまりに迷惑をかけ続けるわけにもいかないからな。社会に出るまでには何としても自立してみせるよ」

 こんな強がりを言いつつも、今の俺にはひまりのいない生活というものが俺にはまるで想像できなかった。

「気にしなくていいのに…」

 不満そうに口を尖らせるひまりを撫でながら時計を見てみるとそれなりに時間が経ってしまっていた。

「さあ今日も学校だ。そろそろ準備しないと遅れるしそろそろ準備しようか」

「うん!そうだね!」

「というわけで着替えたいから少し部屋を出てってくれるか?」

「わ、分かった、すぐに出ていくね」

 顔を真っ赤にしたひまりが言葉通りに急いで部屋を出て行った。こんな風に笑ったり恥ずかしがったり怒ったりとコロコロと表情を変えるひまりを見ていると本当に癒される。

(本当にひまりには感謝してもしきれないなぁ)

 妹がどれほど俺を助けてくれているかを改めて実感しながら俺は着替え始めるのだった。




恥ずかしがらせるかお兄ちゃんなら平気だよ?とするかで迷いましたがヤンデレモードと妹モードの差を際立たせたかったので今回はこうなりました
更新頑張るので感想ください!何でもはしません!


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第4話

遅くなりました。主人公の過去は書こうと思ったんですけど筆が乗らなかったので曖昧なまま進めようと思います。期待してくれてた方は申し訳ないです。
沢山の評価と感想とお気に入りありがとうございます。バーが赤くなった時は一人で悶えてました


 俺は女性不信である。その為に人通りの少ない早めの時間帯にひまりと一緒に登校するのが俺達の日課だ。

そして、俺が通うのは近所の男子校、ひまりは少し遠くの女子校に通っている。方向が同じとは言え毎日付き添ってくれるひまりには悪いと思っている。 それでも、まだ一人で出歩くのには抵抗がある。それに、こうしてひまりと一緒に登校することを楽しみにしている自分もいるのだ。

「あー!今日英単語の小テストがあるんだった!どうしよう…」

 何故今なのかは分からないが急にひまりが慌てだした。

「範囲は分からないのか?」

「えへへ…単語帳を学校に置きっ放しにしちゃってるんだよね」

 可愛らしく舌をペロリとだすひまりに呆れてしまった。

「それじゃあどうしようもないか、学校に着いてから頑張れよ?」

「うー…昨日のうちに気づいてたら友達に教えてもらう事もできたのにー」

「もしもの話をしてもしょうがないだろ?実際に気づかなかったんだから」

「現実を突きつけないでー!」

  (そう、もしもの話なんてなんの意味も無いんだ。もしもの話に意味があるなら俺はきっとあんな間に合わなかったはずだ。なんて、これこそもしもの話だな…)

 おきながら呆れてしまう。そんな時だった。

「あ、ごめんなさい」

 見ず知らずの女性とぶつかってしまっていた。謝らなければ、俺はそう思ったがそれ以上の速度で頭の中はあの忌々しい記憶で埋め尽くされていった。

 

 気が付くと俺はどこかの路地でひまりに抱きしめられながらあやすように頭を撫でられていた。

「ひまり…?」

「落ち着いた?」

 ひまりは俺を撫でる手を止めずに微笑んでいた。

 どうやら運悪く女性と遭遇して呆然として立ち尽くしていた俺の手を引いて近くの路地で落ち着かせてくれていたらしい。

 普段は女性と出会っただけでここまで取り乱してしまうようなことはない。ここしばらく出会わずにいたおかげですっかり気が抜けていたり、その為にぶつかってしまった事と謝罪という会話を求められた事などが重なって俺の思考は飛んでしまっていたようだ。

「今朝自立してみせるって豪語したばっかりなのにこの様か。情けなさすぎるな」

「気にしなくていいって言ったでしょ?それに私は好きだよ?お兄ちゃんのお世話」

 違うという事は分かっているのに好きという言葉に思わず動揺してしまった。

「そうだ、時間は?」

 動揺を隠す為少し大袈裟に携帯を取り出し時間を確認する。思っていたより時間が過ぎてしまっていたようだ。

「もうこんな時間か。大丈夫なのか?」

「平気だよ。それに今のお兄ちゃんを一人になんてできないよ」

 平気とは言ったが遅刻しないとは言っていない。おそらく俺に気を使っているのだろう。

「それでもテストがあるって」

「何度も言わせないで。学校なんかより私はお兄ちゃんの方が心配なの!それともお兄ちゃんは私が邪魔なの?」

 そんな訳がない。そう答えようとしたが言葉にはならなかった。

 ひまりの目に怪しい光が灯っていたように見えたからだ。

「大丈夫?まだ辛いの?」

 俺の顔を心配そうに覗き込んでくるひまりの目には先程の光は消え失せていた。

「あ…ああ、俺は大丈夫だ。」

(気のせいか…?)

あのひまりがあんな目をするなんて俺は自分の目を信じられなかった。

「ねえ、今日はお休みしない?どうせ遅刻しちゃうなら1日くらい平気だよ」

「これ以上迷惑はかけたくないんだ。今からでも行くよ」

「お兄ちゃんがそう言うなら良いけど」

そういうひまりはいつも通りの目をしていた。

(いつも通りのひまりだ。やっぱり気のせいだったみたいだな)

 そうして俺たちは登校を再開した。先程までと違って時間が過ぎてしまっているから人通りも増えている。だが、これ以上ひまりに無様な姿を見せたくない一心で覚悟を決めていたからか再び意識が飛ぶような事はなかった。

 

「じゃあ気をつけてね!」

「ひまりも気をつけろよ」

 何とか学校に辿りついた俺達は校門の前でひまりに別れを告げていた。

 授業はもう始まっている時間で、教師の姿がないことが幸いだった。ひまりが登校しに戻って行くのを見届けると俺は急いで教室へと向かって行った。教師から小言は頂いたが、何とか許してもらえた。

 休み時間に入ると俺はクラスメイトの友人に詰め寄られていた。

「授業をサボってデートとは良い御身分だなあ!」

「は?」

「しらばっくれてんじゃねーよ、校門前でピンク髪で巨乳の子とイチャついてるのを確かに見たぞ!どこであんな可愛い彼女作りやがった!というか女性不信じゃなかったのかよ!」

 いつも朝早くに出てきているから見られたことはなかったのだろう。ここは男子校だから女子に飢えているのだろう。興奮気味に捲し立てられるように飛んでくる質問に対して

「妹だよ。不甲斐ない俺に付き添ってくれてるんだ」

 とだけ答えると。

「騙されねえぞ!あの距離感は絶対家族のものじゃねえよ!」

 その言葉を聞いて少し嬉しく思ってしまったのは何故だろうか。

「2人で暮らすようになって長いから普通の家族とは色々違うのかもな」

 その言葉はどちらかと言うと自分に言い聞かせる為のものだったのかもしれない。

「そ、それは悪いこと聞いたな」

 俺の両親が他界しているのは知っているはずだが、蒸し返してしまったと思ったのか反省した様子だったが

「ああ、気にすんな」

「だったらお義兄さん!妹さんを俺に紹介していただけないでしょうか!」

 気にすんなと言った途端にコロッと態度を変えてきやがった。こいつなりに話題の転換を図ってくれたのだと思う。こいつとの付き合いはそこそこ長い。馬鹿なところもあるがきっと根も良いやつなんだと思う。だがひまりとこいつが付き合っているところを想像するというどうしようもなく胸が苦しくなる。いや、こいつに限った話ではない、例えどんなに相手がいい男で、どんなに俺よりひまりを幸せにできる男であったとしても、ひまりを渡したくはないと思ってしまった。

「お前にひまりは渡さん」

「てめーシスコン野郎か!」

 こんな風にじゃれあいながらも、すでにひまりは俺にとってただの妹には収まらない存在となっていることを自覚させられてしまったのだった。

 

 放課後、いつものように学校近くの無人の神社でひまりを待ちながらも悩んでいた。

 今日の学校でおれはひまりを一人の女の子として見てしまっていることを自覚させられた。最早自分に対する言い訳も浮かばない。

 ふと見ると携帯にひまりからもう少しで着くと通知が来ていた。

(やっぱり、この想いを伝える事なんて出来ない)

 あくまでひまりは妹なのだ。近親婚は法律により禁じられている。何より、こんな馬鹿げた想いをひまりに押し付けて捨てられてしまう事をどうしようもなく恐れていた。

(この想いは誰にも悟られちゃならない)

 そうして、俺が決意を固めたところでひまりの姿が見えた。

「待たせてごめんね」

 その言葉に対して返事をすることができずに固めた決意があっけなく瓦解していくのを感じた。

「どうしたのお兄ちゃん?」

 呆けたように動かない俺を不審に思ったのかひまりの顔が近づいてくる。

「い、いや、何でもない。ちょっと立ち眩んだだけだ」

 俺は目を背け照れ隠しをするように呟いた。その瞬間に己の失策を悟った。

「立ち眩み⁉︎お兄ちゃん大丈夫⁉︎」

 案の定ひまりは心配そうにして顔を覗き込んできた。

(俺は何をやってるんだ。立ち眩みなんて言ったらひまりが心配するなんて分かりきっていたじゃないか)

「一瞬だけだよ、気にしないでくれ」

「駄目だよ。しっかり休んでもらうからね!」

「分かったよ。休むから落ち着いてくれ」

 有無を言わせぬひまりに押されてしばらく休むことになってしまった。

 まあどうせ早く帰ってもひまりと二人きりなのは変わらない。そう思い直して一旦落ち着くことにした。

「なあ、ひまりは好きな人っているのか?」

「いきなりどうしたの?」

 駄目だ。やはりひまりと一緒にいると自分を制御出来ない。

「いや、何となく気になっただけだ」

 我ながら苦しい言い訳だと思う。

「そっか、好きな人…うーん、今はお兄ちゃんさえいればそれでいいかな」

 その答えを聞いてひまりの枷となっている事を改めて認識させられた。しかし、それ以上の興奮が俺を包んでいた。

「そ、そうか、兄冥利に尽きるよ」

「大袈裟だよーもう」

 その後もいろいろ話していたが。その興奮を抑えることに気を回していて何を喋っていたかはほとんど覚えていなかった。




卒論忙しくなるので更新頻度はこれくらいになると思います。
完結はさせるつもりなので気長にお付き合いいただけると嬉しいです。


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第5話

突然ですが最終話です。話を上手く膨らませられなかったです。執筆って難しいですね


 ひまりを妹ではなく1人の女の子として意識するようになったあの日から数日が経った。俺は相変わらず寝不足気味の生活を送っていた。しかし、それは前のように悪夢に魘されているからではない。その原因であるひまりは今、俺の腕に抱き着いて気持ちよさそうに眠っている。いや、ひまりに非はない。俺が勝手に意識してしまっているだけの話だ。しかし、意中の女の子がすぐ隣で無防備に眠っているのだ。これで意識をするなという方が難しい。

 この実の妹と一緒に眠るという一般的には奇妙に映るであろう習慣は、あの事件以来頻繁に悪夢に魘されていた俺を心配したひまりが、突然俺の布団に潜り込んできて始まったものである。既に数年も毎日一緒に寝ているのだ、今更改めようにも何かきっかけが無ければ、ひまりは不審に思うだろうし、今の俺に上手く誤魔化す自信はない。

 それにこんな風に言い訳を重ねているが、結局はひまりの寝顔をこうして隣から眺められる今を手放すことが嫌なだけだ。

「お兄ちゃん……」

 ひまりの口から寝言が聞こえてくる。どんな夢を見ているのかは分からないが、俺に関する夢を見ているようだ。

(なんでこれまで意識せずにこられたんだ……)

 ひまりに腕を拘束されていなかったら頭を抱えてしまっていただろう。以前の俺が悪夢に魘されていた事すら信じられなくなってくるほどにひまりを意識してしまっていた。しかし、そんな問いの答えなんて分かりきっている。

(兄妹だったから、だよな)

  兄妹だったから、ひまりは俺をこんなにも慕ってくれているのだろう。兄妹だったから、女性不信になった俺でもひまりを信じる事ができた。そして今は、兄妹だから、俺はこの想いを伝える事ができないのだ。

(なんで俺達は兄妹として生まれてきちゃったんだろうな……もし兄妹じゃなかったら……)

 世間体を気にしているのではない。俺が恐れているのはひまりに捨てられてしまうことだけだ。もし今の俺がひまりに愛想を尽かされてしまったら文字通り生きていく事は出来ないし、生きていこうとも思えない。

(最近ひまりに偉そうに『もしもの話に意味なんてしてもしょうがない』なんて語ったばかりなのにな、情け無い)

 意味がないと分かっていても今はそのもしもの話に縋りたい気分だった。

 伝えればいいじゃないか。ひまりなら受け入れてくれる。頭の隅でそんな考えがよぎる。

「駄目に決まってるだろ……」

 思わず声が漏れてしまった事に気が付いたその時だった。

「お兄ちゃん、何が駄目なの?」

 振り向くといつの間にか起きていたらしいひまりが笑っていた。しかし、その笑顔はいつもの快活さなど無かったかのように感じる程に蠱惑的なものであった。

「ひまり……なのか……?」

 ひまりがこんな顔をしていることが信じられなかった。

「私に決まってるよ。一体誰に見えたの?」

「いや、ちょっとボーッとしてたみたいだ。いつも通りのひまりだよ」

 そう、どんな顔をしていようがひまりはひまりだ。

「幻覚が見えるようになったのかって心配しちゃったよ……それでお兄ちゃん、一体何が駄目なのかな?」

 再び問いかけてきた。ひまりにバレるわけにはいかないと曖昧な笑みを浮かべ

「いや、しょうもない事だよ。ひまりに聞いてもらうような事じゃない。」

 誤魔化す事にした。しかし、

「隠さなくて良いんだよ?私たちは兄妹なんだから」

 優しく諭すように語りかけてくる。どうやって誤魔化せば良いのかと思案しながらも、本当にひまりなら受け入れてくれるのではないかと思えてきた。

「大丈夫私だけは何があってもお兄ちゃんの味方だよ」

 考えがまとまらず、黙ってしまっている俺に対して重ねるようにそう言うとひまりは俺の頭を撫で始めた。

「……ひまりの事が好きなんだ」

 遂に言ってしまった。もう戻れない。

「どうしようもなく好きになってたんだ!妹じゃなくて1人の女の子として……気持ち悪いよな、血まで繋がってる兄妹なのに……だからこんなこと考えてる俺が駄目だなって思って」

 言い終わる前から早くも俺の心は後悔で満ち、ひまりからの断罪を受け入れる覚悟をしていた。しかし、

「何で?何が気持ち悪いの?」

 当のひまりは何がおかしい事なのかまるで分かってないかのような態度だった。

「何でって、俺達は兄妹じゃ……」

 予想していなかった反応に思わず戸惑いを隠せない。

「兄妹の何が駄目なの?」

 そんな俺に被せるように再び問いかけてきた。そんなひまりの様子に俺はまさかと思った。

「ひまりは……良いのか?」

 考えがまとまらないまま口にしたのは、願望が混じって言葉足らずな問いかけだった。

「良いも何もね、私はずっと待ってたんだよ?お兄ちゃんが振り向いてくれるのを」

 しかし、そんな質問でも、ひまりにはしっかり伝わっているようだ。

「私もね、昔からお兄ちゃんの事が大好きだったの。勿論1人の男の人としてね」

 これは追い詰められた俺が見ている夢かそれとも幻覚なのではないかと思った。そんな風に考えもまとまらずに混乱していた俺はついひまりを抱きしめてしまった。

「大丈夫。夢でも幻でもないよ?」

 俺の不安を見透かしたかのようにそう言うとひまりは抱きしめ返してきた。

「嬉しいな。ようやく通じ合えたんだね」

 顔は見えなかったがとても優しい声だった。そして、抱きしめあった事でひまりの体温を感じ、ようやく実感が追いついた。

「怖かったんだ……ひまりに捨てられるのが……」

 思わず弱音が口をついて出る。

「私がお兄ちゃんを捨てられるはずがないのに……でもお兄ちゃんに信用されてなかったって思うとちょっぴり悲しいかも」

 そう言いつつも俺を撫で続けているひまりの手はとても優しいものだった。

「ごめんな、こんなに待たせちゃって」

「良いんだよ兄妹っていう関係も悪くなかったし、そんなお兄ちゃんも大好きだからね。それでも、悪いと思ってるならこれまでの時間を取り返すくらいに私を愛してほしいな」

 俺の中の理性が溶けていくのを感じる。衝動ののままにひまりの唇を奪う。ひまりは驚く素振りも見せずに舌を絡めてきた。そこから俺達は言葉も無いままひたすらに互いの唇を貪りあった。

 

 気がつくと夜が明けていた。

「今日も学校がある、そろそろ準備をしようか」

 ひまりと離れなければならないのは寂しくはあったが、サボるわけにはいかない。そう思っていた。しかし、

「お兄ちゃんはもう満足しちゃったの?」

 そういうひまりは寂しそうにしていたが、その目には妖しい輝きが灯っており、明らかに俺を誘っていた。それでも、さみしそうな顔をしているひまりを放っておけるわけがない。

「そんな訳がないだろ?俺だってまだまだひまりと一緒に居たい」

 もう何度目かも分からないキスをした。しかし、

「まだ……足りない……もっとお兄ちゃんを感じたいよ」

 呼吸も整わないままにそういうと、立ち上がりかけていた俺に体重をかけてきた。抵抗する間もないまま布団に押し倒された俺に覆いかぶさってくると、ひまりは俺の耳元で囁いた。

「今日は一日中……シちゃおっか」

 その瞬間、僅かながらだが戻りかけていた俺の理性は再び蒸発し、最後の一線まであっさり踏み越えていった。

 

 あれから数年が経った。 あの日以来俺とひまりは学校はおろか、外出すら滅多にせずにひたすらひまりと互いを求める非常に爛れた生活を送っていた。両親が残してくれたお金はまだ残っている。だがこんな生活がいつまでも続くわけがない。そう遠くない未来に俺達は破滅するだろう。そんなことは分かっているが関係ない。今はただひまりと愛し合いたい。俺の思いはそれだけだった

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 気が付くとひまりが俺を不思議そうに見つめていた。

「ちょっとな、思い出に浸ってたんだ。ひまりは今、幸せか?」

「聞くまでもないでしょ?お兄ちゃんが私を愛してくれてるんだから、これ以外何もいらないよ?」

 その答えを聞いて安心する。

「だから、これからもずっと私を愛していてね?私もずっとお兄ちゃんの事を愛してるよ」

 そういうひまりの笑顔は幼い頃と何も変わらないものだった。

 




皆様のお陰でなんとか完結させられました。
ヤンデレというよりただの共依存な終わり方になってしまい、期待されている方には申し訳ないです。
またどこかで縁がありましたらよろしくお願いします。


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