シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。 (ひきがやもとまち)
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プロローグ「転校生はブロンド貴公子と“偽”淑女」

最新話できたのに合わせて連載に回しました。
時間的な事情により『IS原作の妄想作品集』に出してある分はそのままコピペしてあります。問題ある個所は後ほど直すかもしれませんが、大勢に影響しない程度に配慮するつもりです。


 

「はじめまして、“お兄様”。今日からあなたの妹と言うことにされてしまったアルベール・デュノアとロゼンダ・デュノアの娘ジャンヌ・デュノアでーす。

 

 これから兄妹として、よろしくお願いしまーす」

 

 

 

 ブスッとした不機嫌そうな表情を隠そうともしないまま、僕の母を「泥棒猫」と罵った憎い女の娘を自称する少女は吐き捨てるような口調でそう言った。

 

 

 

 両親から受け継いだ混じりっ気のない僕の金髪と違って、錆びたような鈍い輝きが印象を暗いものに変えてしまうくすんだ色の金髪と、やや釣り目がちの僕より青くて濃い瞳。身長体格体重ほとんど全てがまったく同じなのに、どういう訳だか局所的に相反するよう反転させて僕たち姉妹は生まれてきていた。

 

 

 

 同じ人と結ばれた違う人同士の子供たち。

 

 そんな僕らが運命と出会うのは、世界初の男性IS操縦者『織斑一夏君』の情報を盗むため日本に行ってからのこと。

 

 

 

 これは僕の物語ではない。

 

 これは織斑一夏君の物語でもない。

 

 これは僕たち姉妹と周りにいて支えてくれた皆にとっての物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思われますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 

 

 転校生の一人、シャルルはにこやかな笑顔でそう告げて一礼し、クラス中をドッと沸かせる。

 

 なんと言っても世界で二番目の男性IS操縦者で、金髪でブロンドで貴公子だ。おまけに礼儀正しくてお金持ちの息子だなんて年頃の乙女が騒がない方がどうかしているレベルの超優良物件!

 

 

 

 ああーーそれにしても“兄妹”そろって、なんて綺麗なんだろう・・・。

 

 

 

 幾人かのクラスメイトが陶然とした瞳で二人を見つめ、内何割かはシャルルの隣で行儀良く起立したまま自己紹介の出番を待っている彼と瓜二つの金髪美少女に熱く熱心な視線を浴びせまくっていたのに気づいたのは、皮肉にも当事者ではないからと言う理由で織斑千冬担任教師だけだった。

 

 

 

 ーーこのクラスには変態しかいないのか・・・? そう考えて頭痛を感じながらも織斑教諭は残りの二人にも挨拶を促し、銀髪が答える前にくすんだ金髪が「わかりました。では、僭越ながら私から」と、自然な風を装いながらも強引に割って入って面倒事を早急に終わらせようと企図しはじめる。

 

 

 

 相変わらず面倒くさがりな妹の態度に“姉”は苦笑しながら一歩退き、腹違いの妹ではなく実の妹という設定に改竄された彼女、フランスの代表候補生にして『正式』な意味合いでの転校生ジャンヌ・デュノアに場を譲りわたす。

 

 

 

「はじめまして、シャルル・デュノアの妹でジャンヌ・デュノアと申します。

 

 この度の件では本来こちらに来る予定だった私に代わり兄を出向かせるよう国から指示があったのですが、仮にも国の名を背負わすには訓練期間が短すぎると父が渋って首を縦に振らず、妥協案として妹の私とペアでの転校と相成りました。

 

 ふつつか者ではありますが、皆さんどうか仲良くしてくださいませ」

 

 

 

 兄に負けず劣らず礼儀正しい挨拶と、お嬢様然とした立ち居振る舞いにクラスは熱狂。一時、大混乱に陥ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが本場のお嬢様かぁ・・・やっぱ“本物”はちがーー痛っ!? なにすんだよセシリア!」

 

「ふんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー余談になるが、この後で生じた織斑一夏とラウラ・ボーデヴィッヒの因縁発生事件はジャンヌへの好印象が災いして悪印象を強くする結果を招いてしまった。

 

 前後の順番というのは意外と重要なものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・つっかれた~。お嬢様ぶったしゃべり方とか柄じゃないから早くやめたいんですけど、やめちゃダメなのかしらねこれ? あと、ついでとしてヒラヒラしたなっがいスカート脱ぎたい。邪魔」

 

「・・・・・・ジャンヌ・・・。あまりお姉さんみたいなこと言う資格はないって分かってはいるんだけどさ・・・」

 

「あん? なによ? なにか言いたいことでもあるわけ?

 

 親元で愛情いっぱいに育てられた優しくて気立ても良い生粋の“本物さま”が、私みたいに子供の産めない母が気の迷いから人工子宮で生み落としてしまった、出来損ないのなんちゃってお嬢様に御用でもおありで・・・」

 

「スカートの中、ここからだと見えちゃってるよ・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 静かな態度で座り直し、スカートの裾を整えてからコホンとひとつ咳をして。ジャンヌ・デュノアは居住まいを崩しながら目線を横に逸らし、お行儀悪く言ってのける。

 

 

 

「・・・別に下着とかどうでもいいけど、スカートヒラヒラするのはやめておくわ」

 

「うん。僕としても、そうしてくれると嬉しいかな。兄として学園内での立場とかあるし」

 

 

 

 キッと、キツい視線で睨みつけてくる妹だが、流石にこの流れで怖がるのは無理がある。どう見ても照れ隠しとしか映らない。むしろ微笑ましくすらあるだろう。

 

 

 

 だが、それをしてしまうと逆ギレする性質の妹には火にオイルを注ぐ行為なので、シャルロットはしない。そこら辺は気配り上手な彼女の得意分野だ。誰にも負けないし、当然ぼっちの妹に勝ち目など端から存在していない。

 

 

 

 所変わり、国が変わろうとも、デュノア姉妹の有り様に変化や揺らぎを生じさせることは不可能だった。

 

 今まで通りと変わらず姉妹のやりとりは見ている者をホッとさせるが、あいにくと此処はジャンヌの個室であって相部屋ではない(ただし普通のよりやや小さい。急に増えまくった転校生のため突貫工事で作った部屋だからだ)

 

 見ている者はこの場にいる二人だけである。残念。

 

 

 

 

 

 

 

 ーー二人がIS学園に転校してきてから四日が過ぎていた。

 

 やはり姉のコミュ力は半端なかったようで、ルームメイトになった翌日の朝から目標である織斑一夏と連れだって食堂に来て仲睦まじく食事をとっている様を見せられたときには思わず

 

 

 

「はやっ! 早すぎ! アンタ、ちょっとそれはビッチ過ぎるわよ! はしたないわ!」

 

 

 

 と、素がでてしまったために誤魔化すのには苦労させられたものだ。 

 

 

 

「・・・・・・・・・ふんっ!」

 

 

 

 やがて黙ったまま思い出し笑いで微笑んでいる姉に追求する術を見失い、ジャンヌはいつも通りにそっぽを向いて近くに置いてあったマンガを読み出す。日本のマンガだ。

 

 彼女には、どう言うわけだかフランス製の物よりも日本発祥のサブカルチャーを偏愛する奇癖があった。

 

 

 

「おもしろいの? それ」

 

「・・・少なくとも、つまらなくはないわね。だいたい中の上くらい」

 

「なるほど」

 

 

 

 つまり『癖はあるが自分好みでスゴくおもしろい』と言うことか。

 

 二年間の共同生活でジャンヌ・デュノア言語の翻訳機能を完全にマスターしたシャルロット・デュノアは妹の意志をあやまたずに解読して、後で自分も借りて読もうと心に決めた。

 

 

 

「ーーそれよりも、早く織斑のところに戻んなさいよ。アンタの役割は情報入手で、そのための手段については多少強引な手でも構わないって言われてるんでしょ?」

 

 

 

 妹の反撃に思わず口ごもり、顔を赤くするシャルロット。

 

 それは出立時に父から言われた命令内容が問題であり、それについて妹の口から告げられたことも含めて赤面せずにはいられないものだったのだから無理はないとも言えるだろう。

 

 

 

「う、うん。そ、そうだけど。そうだけどさ・・・」

 

 

 

 モジモジと顔を赤らめながら恥ずかしそうにうつむく義理の姉に、ジャンヌ・デュノアは白けた目と表情を向ける。

 

 

 

「今時の女子高生でハニートラップの話題にここまで過剰に反応するのは、スパイとしての適正欠けすぎてないかしら・・・?」

 

「し、仕方ないじゃないか! 僕、処女なんだから!」

 

「いや、義理とは言え妹の前で男女経験のあるなし語るなし。聞きたくないし知りたくもないわ。ぶっちゃけ、先に済ませてたら殺意わくのが女だし」

 

「露骨だね!?」

 

「これでも一応は女なので」

 

 

 

 普段からかわれてる事への意趣返しか、シレっとした態度と口調で言ってのける素直じゃない妹を涙目で睨みつけながらも、姉の方だって負けてはいない。猛然と反攻作戦に打って出る。

 

 

 

「だったら、ジャンヌがすればいいじゃないか。一夏への誘惑。胸は僕のよりも大きいんだし、適任でしょ?」

 

「む、胸は関係ないっていつも言ってるでしょ!? いい加減しつこいわね! 話蒸し返すのは止めなさいよ!」

 

「無理。だって男装しているからって僕はれっきとした女の子だから」

 

「ぐ! ぐぬぬぬぅぅ・・・」

 

 

 

 意趣返しされて呻き声を上げ、涙混じりの怒りの視線で睨みつけられたことで今日の勝負もシャルロットの勝ちが確定した。勝率は9対1・・・って、弱すぎだろジャンヌ。もっとガンバレ。

 

 

 

 

 

 ーーと、そこでシャルロットは表情からふざけた色を消し、まじめな顔で妹と向き合い姉として語りかけ始める。

 

 

 

「ジャンヌ。父さんがハッキリと断言してた言葉は、ちゃんと聞いてたし覚えてもいるよね?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ジャンヌ。僕の目を見て、ちゃんと答えて」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、一応、それなりには・・・・・・」

 

 

 

 翻訳すると『聞きたくない内容だったし、覚えていたくもなかったけど、遺憾ながらも完全に記憶している』となるので、シャルロットはそのまま話を進めていく。

 

 

 

「今回の件が成功しても失敗に終わっても、僕たちの行為は明確な違法行為で犯罪行為だ。フランス本国でならまだしも政府特権で無理強いが効くかも知れないけど、ここ日本だとまず不可能。絶対に捕まるだろうし、フランスへ強制帰国させられた後では力を失った現政権が僕たちを擁護してくれる可能性はきわめて低い。ここまでは忘れてないね?」

 

「・・・・・・・・・まぁ、一応だけなら」

 

「うん、なら本題だ。今回の任務で僕たちが成功しても失敗しても法的に罰せられずに済むイエローゾーンがひとつだけある。それの内容はーー世界初の男性IS操縦者織斑一夏君の子を宿すこと。

 

 それさえ出来れば彼にとって僕たちは守るべき対象となり、世界で唯一の存在を取り合ってる国家群が牽制しあって列強から外れて久しいフランス程度じゃ手が出せなくなる。利権が分散されて僕たち程度の存在感は大きく低下し、どこかの国へお預かりになるとしても一夏が擁護してくれれば多少の融通は利くし、彼に貸しを作っておきたい組織や国家は幾らでもある。

 

 ここまでで忘れてた部分があったら教えてくれるかな? 詳しく語り聞かせてあげるから」

 

「・・・・・・・・・ごめん、さっきのは私が悪かったからもう許して。そろそろ恥ずかしさで死ぬわよ私・・・?」

 

 

 

 頭から布団をかぶって話の途中から敵前逃亡を図ろうとしていたジャンヌだったが、引きこもり体質故に部屋から出られず結果的に義理の姉による言葉責めを終わるまで味合わされてしまった。

 

 

 

 真っ赤になった顔を見られまいと、深く毛布をかぶって丸くなった姿はアルマジロを彷彿させ、敵から身を守るために熱い鱗で覆われた草食恐竜の如き堅牢さを感じさせるものがあった・・・と思う。たぶんだが。

 

 

 

 

 

「ちなみに性行為で確実に子種を宿すためには安全日のーー」

 

「聞きたくない知りたくない! あと、どこの誰に聞いてきた、その下世話な知識の数々!?」

 

「え? 執事のジェイムズさんが「お嬢様方のお命をお助け出来るならば・・・!」って、涙ながらに教えてくれたんだけど・・・」

 

「ジジイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」

 

 

 

 自分のことを幼い頃から甘やかしまくってきた老執事の名を(名前じゃないが、彼女はジジイとしか呼んだことがないので間違っていない)怨敵を罵るような声で叫ぶジャンヌ・デュノア。

 

 あの老人の過保護は、自分そっくりの姉が登場してからと言うもの常軌を逸するものが感じられて正直怖くなっていたのだが、まさか極東の島国に来てまでジジイの呪いに苛まれようとは想定外にも程がある!

 

 

 

「だからね、ジャンヌ。僕たち姉妹が生き延びて、仲良く一緒に暮らしていくためにはーー一夏のお嫁さんと愛人さんになるしかないんじゃないかな・・・?」

 

「アンタ自分がなに言ってんのか、わかって言ってる訳!?」

 

 

 

 実の母を愛人として囲い、会社のためにと切り捨てた父を憎んでいたはずのシャルロットだったが、守りたいと思える対象が一夏よりも先に一人出来ていたため前向きになり過ぎてしまったらしい。発想が父と瓜二つのものになってしまっている。

 

 恐るべきはデュノア家のD・N・A! 略してデューN・A!

 

 

 

「上手いこと言ったつもりか! ぜんぜん上手くないわ! むしろ、つまんないし笑えない!」

 

 

 

 ・・・・・・サーセンでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」

 

「そ、そうなのか? 一応わかってはいるつもりだったんだが・・・」

 

「『一応わかっているつもり』。これは初心者が最も陥りやすい落とし穴ですからね。キチンと理解できていないことでも、知ってるだけで何となく分かったような気になってしまって自論の方が正しく思えてしまう・・・。そう言う経験って、したことありませんか? 織斑さん」

 

「うっ。た、確かに言われてみれば何回かあったような気が・・・」

 

 

 

 シャルロットに優しく間違いを指摘された後、自分の信じる物に僅かながら揺らぎが生じた瞬間を見逃さずにジャンヌが結構キツい指摘をやんわりとしたお嬢様口調で言い放つ。

 

 

 

 普段であれば反発する一夏だが、この時には最初のシャルロットが好印象を与えているので見た目的には瓜二つのジャンヌの悪態じみた指摘には然したる悪感情がわいてこない。

 

 その後に待っている具体的なIS操縦技術『イグニッション・ブースト』の改善点について考えに耽っていたというのもあるが、この姉妹のコンビネーションは意外なほど相性が良くまとまっていた。阿吽の呼吸という奴だ。

 

 姉妹故の遠慮しなさが、この際にはプラスに働いていたとも言える。お互い自分の都合で言いたいことを言うためにも相手の呼吸に応じていた方が問題なく事が進むのである。

 

 

 

 

 

 

 

「だからそうだと私が何回説明したと・・・・・・!」

 

「って、それすらわかってなかったわけ? はあ、ほんとにバカね」

 

「わたくしはてっきりわかった上であんな無茶な戦い方をしているものと思ってましたけど・・・」

 

 

 

 

 

 ブツブツ言ってる外野たちとは大違いだが、これには若干ジャンヌもシャルロットも異論があった。

 

 

 

「みんなは一夏のことを高く評価しすぎだよ。いくら初陣でセシリアのブルー・ディアーズと互角に戦えてたって、入学する前までIS知識皆無な初心者だった時間まで0にするのはさすがに無理があると思うよ?」

 

「「「「うっ!!」」」

 

 

 

 シャルロットの指摘に『強い一夏大好き』三人娘はそろって胸を撃たれたように押さえつけ、

 

 

 

「そうですね。それに皆さんのレベルが高すぎるのも問題ですし、得意とするレンジが織斑さんと違いすぎるのも問題です。専用機は基本的にワンオフ機であることも無関係ではないでしょう。

 

 癖があるからこそ強い専用機は、指導の仕方にも偏りが生じやすいですし、習うことしかしてこなかった人が、いきなり教師役というのも無理があるかと。優れたスポーツ選手が優れた監督やコーチになれるとは限らないのと同じ理屈ですね」

 

「「うっ、ぐ、は・・・!!」」

 

 

 

 ジャンヌの言葉に専用機持ち二人は更なる追い打ちを受けて身を屈めるが、攻撃対象から外れた箒は控えめに手を挙げながら「あのー・・・私の指導は・・・?」と自信損失しかかってる声で尋ねて、

 

 

 

「そもそも射撃訓練に剣道の教え方は役に立ちませんよ? もちろん、応用できれば別ですけれど・・・そんな器用な真似できたりしますか?」

 

「ぐっ、はっ!!」

 

 

 

 二人よりも更にデカいダメージを食らってもんどり打って倒れた箒を至福の表情で見下ろすジャンヌ。

 

 

 

 ーーどうやら昨晩、姉に言い負かされた記憶が尾を引きずっているらしい。存外、執念深い少女だった。

 

 

 

 姉妹の間で余人には聞かせられない(聞かれたらたぶん死ぬ。死因は恥死)内容の語り合いが行われた翌日の土曜。授業は午前の理論学習だけという、優雅にフリーダムな午後を自堕落に過ごせる至福の祝日である。

 

 

 

(土曜・・・グッジョブ!)

 

 

 

 心の中でいい顔しながら親指を立ててるジャンヌ・デュノアと、普段通りに微笑んでるシャルロット・デュノアの偽物兄妹ホントは姉妹は、各国代表候補の指導が役立ってないからと織斑一夏にIS操縦の基礎をレクチャーする運びとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ、そのISなんだけど、山田先生が操縦してたのとだいぶ違うように見えるんだが本当に同じ機体なのか? あっちのネイビーカラーに四枚羽のとは色も形も変わりすぎてて、別物としか思えないんだが・・・ジャンヌの黒い奴は特に」

 

 

 

 一夏の言葉通りデュノア姉妹の駆る機体には、通常の『ラファール』とは大きく異なる改造点がいくつも存在する。

 

 

 

 シャルロットの『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』は本来量産機であるラファールの利点を無視して、コスト度外視の改良が施されており国家代表候補生が乗る専用機にふさわしい性能が発揮できるよう大幅に戦闘力が向上されている。

 

 

 

 まず、武装数の桁が違う。基本装備から威力の高いビーム兵器を大部分削ったことで確保した容量を拡張領域の倍増によって更に肥大化させてあり、ほとんど人型サイズの武器弾薬庫と言っても過言ではない絶大すぎる火力を有する中距離射撃戦の王者と呼ぶべき高性能機にまで引き上げられたのだ。

 

 

 

 

 

 一方で、ジャンヌの『ラファール・キャヴァルリィ・ノワール』は武装の数は増えていない。むしろ減っている。減らしすぎだ。

 

 なにしろ全武装を合わせても三つしか装備してないのだ。通常の量産型より更に武器の数を減らして一体どのような利点を得たと言うのか?

 

 

 

 答えは端的に言ってーー邪魔なお荷物を取っ払ったお陰で、ジャンヌ本来の戦い方である蹂躙が可能となった、である。

 

 

 

 彼女は、ハッキリ言って猪突猛進型だ。深く考えて慎重になっては長所を殺すだけであり、敵を利する効果しかない。

 

 

 

 猛スピードで突っ込んでいって突き刺し、薙ぎ払い、切り払い、圧倒的な圧力で敵陣地を制圧してしまう。攻撃特化というよりかは、攻撃にしか役立たないと言うのが正しいだろう偏りすぎた性格が彼女の戦績を中途半端なものにしてしまっている事実を彼女以外はみな知ってるが彼女だけは気づいてない。お約束だろう。

 

 

 

 外見は、背中にある大きな二枚羽『シェルフ・ノズル』と、左手に取り付けられてる固定武装の『ショット・ランサー』が異彩を放ち、右手に持つ主力兵装『ビーム・フラッグ』は、旗型の斬撃用ビーム兵器という斬新すぎるアイデアが災いして全ての国の選手たちが使用を拒否したデュノア社にとっての黒歴史的な遺産でもある代物だ。

 

 

 

「ーー良いなぁ・・・これ。格好いいかもしれない・・・」

 

 

 

 そんな見たこともない武装ばかりを装備したキャヴァルリィ・ノワールは、一夏の心の男の子な部分を強く刺激させる物であったらしく、視線が引きつけられて離せなくなってしまっていた。ぶっちゃけ厨二臭いのである、この機体。

 

 

 

「あら、お戯れを。このようなアンティークに・・・恥ずかしいですわ・・・」

 

 

 

 頬を押さえて赤くなりながら目を伏せるジャンヌだったが、内心では真顔で大きく頷いていた。

 

 日本の少年向けロボットアニメ大好きっ子である彼女にとってノワールは、まさに理想の機体と断言してもよい存在だった。心底から惚れ込んでいる。

 

 もう一生離さないと、専用機を始めて見たときに駆け寄って抱きしめて、大人たちが力づくで引き剥がすまで泣いて縋りついた機体なのは記憶に残ってないので覚えてない。忘れてるったら忘れているのだ。

 

 

 

 

 

 ーーとにかく彼女がノワールを褒められて頬を染めているのは機体が好きだからであって、同好の士を得たからに過ぎない。

 

 一夏もまた、同性が限りなく少ないIS学園でここまで自分の好みに合う機体と出会えるとは思っていなかったから褒めちぎっただけである。ジャンヌ自身に向けた褒め言葉は一言も口に出してはいない。

 

 

 

 が、しかし。

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 

 あいにくと世界中から理不尽系美少女を募集してきたような織斑一夏ラバーズを相手に、その手の言い分は通用しない。後ほど彼には厳しいお沙汰が下されるのが確定してから始められた訓練内容はシャルロットが射撃関係の諸々を。ジャンヌが高速機動についてと、それぞれの得意分野について専門的知識も込みで分かりやすく教えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 もともとシャルロットを一年半で代表候補に通用するレベルにまで引き上げたのはジャンヌである。

 

 意外と劣等感が強いコンプレックスまみれの性格が、言われたことを理解できない初心者の気持ちを理解するのに役立って、結果的にシャルロットは短期間で驚くべき急成長を遂げることになる。

 

 

 

 なので他の三人と異なりこの二人には、同年代の初心者に教える為のノウハウが始める前から備わっていた。それを最大限活用できるだけの知識も(主にマンガで)貯め込んでもいる。

 

 はじめから教師役としては、圧倒的なアドバンテージがあったのだ。

 

 

 

 

 

「「「ぐぬ、ぐぬぬぬぬぬぬぬ・・・・・・・・・!!!!!!!」」」

 

 

 

 だが、あいにくと以下略。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーと、その時。

 

 

 

 

 

「ねぇ、ちょっとアレ見て。もしかしてアレって、本国でトライアル段階にあるって言うドイツの第三世代型じゃないの・・・?」

 

 

 

 

 

 そんな声を耳にして、一夏はやや感情の削れた表情で声の向かう先に視線を移した。

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 そこにいたのはもう一人の転校生、ドイツ代表候補ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

 

 

「おい」

 

 

 

 オープン回線で声を飛ばしてきたラウラに、一夏は「・・・なんだよ」とぶっきら棒な返事を返す。

 

 

 

「貴様も専用機持ちだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

 

 

 突然の申し出に、一夏は憮然としながら当然の答えを返すのみ。

 

 

 

「イヤだ。理由がねぇよ」

 

「貴様になくても私にはある。

 

 貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様をーー貴様の存在を認めない」

 

 

 

 その声はオープン回線故にジャンヌの耳にも届き、不快さのあまり彼女の秀麗な顔を大きく歪ませた。

 

 

 

 『偉業をなしえただろうことは容易に想像できる』・・・まるで神を信仰しているかのような言いぐさだが、彼女が声から感じられる感情は怒りと憎悪と何かに縋りたいと泣きわめいている子供じみた癇癪だけだった。

 

 

 

 この少女ラウラ・ボーデヴィッヒには、かつての自分と同じ臭いを感じる。気に入らない。ぶちのめしたい。早くかかってこい。実力の差を教えてやる。

 

 

 

 

 

 暗い感情に妹が支配されていくのを慣れている姉だけが感知できて、他の誰にも存在すら気づいてもらえてない、忘れられた存在と化してしまっていたことはラウラにとって運が良かったのか最悪だったのか。

 

 とにかくこの段階でジャンヌとラウラが戦うことは、彼女の中でだけ決定していた。

 

 

 

 

 

 

 

「また今度な」

 

「ふん。ならばーー戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

「ーーアンタこそがねぇぇっ!!!」

 

 

 

 ズガギィンッ!

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

 ラウラの纏った漆黒のISが戦闘状態へシフトした瞬間、刹那の間に右側へと回り込み死角からの不意打ちでランスによる刺突を食らわせる。

 

 

 

 厭な感じでニヤリと嗤うと、

 

 

 

「あーら、ごめんなさい。あんまりにも戦場で隙だらけだったから演習用の案山子と勘違いしちゃって。よく見たらドイツのデカいゴキブリさんじゃない。ちょび髭の尻を舐め飽きたから日本まで男漁りに来るなんて大変そうね、チビじゃり」

 

「貴様・・・フランスのアンティーク如きで私に前に立ちふさがるとはな」

 

「はっ! いきなり機体の性能頼りとは恐れ入るわね。

 

 良いこと教えてあげよっか? マンガやアニメでよくあるパターンよ。

 

 戦いが始まった直後に乗ってる機体の性能を自慢し始める奴は、ほとんどがやられ役の雑魚キャラとして終わる!」

 

「戯言をっ!」

 

 

 

 右手にある巨大砲リボルバーカノンを大きく振るってノワールを引き剥がそうとするラウラだったが、この場合は相手との相性が最悪だった。

 

 

 

 なにせノワールは超接近戦闘特化の強襲型だ。敵に肉薄して短期決戦を強いることこそ必勝パターンの機体なのである。食らいついて自分から離れる選択肢など存在していない。

 

 むしろ力任せに大きく振るってしまったことで隙が生じてしまい、ショットランサーに内蔵されたヘビーマシンガンの好餌となってしまう。

 

 

 

 ガガガガガガガガガガガガガガガっ!!!!

 

 

 

「ぐぅっ!!」

 

「ははははははははっ!!! アンタんとこのはいつだって、バカみたいにデカ過ぎんのよ! マウスの失敗で懲りなかったの? 学習する頭すらなかったの? ああ、そうか。ちょび髭だもんね。それじゃあしょうがないわー。バーカバーカ!」

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 

 

 

 頭に血がのぼって我を忘れたらしく、ラウラが機体特性も禄に考えないで力任せに突貫してくるのを「望むところよ!」と威勢良く応じて自らも一撃必殺の大型ビーム兵器ビームフラッグを振りかぶった瞬間ーー

 

 

 

 

 

『そこの生徒ども! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 

 

 

 

 突然アリーナのスピーカーから担任教師の織斑千冬の声が響いてきて、ジャンヌは「ちっ」と舌打ちすると、最後の嫌がらせをラウラに対して言い放って締めとする。

 

 

 

「お迎えが来たみたいだし、早く行けば飼い犬さん。愛しのご主人様がお呼びですわよ? せいぜい尻尾を振って撫でて貰って喘ぎ声でも上げてなさい、クソビッチ」

 

「・・・・・・!!!! ーーふん。今日のところは引いてやる。決着は次だ、乳牛ブラコン女」

 

「なっ・・・!?」

 

 

 

 最後の最後で一矢報いて、背中を見せて去っていくラウラと、隠されていたジャンヌの本性を知って茫然自失の各国代表候補のメンバーたち。ついでに出番を奪われた一夏。

 

 

 

 そして感情的な妹の致命的すぎる失態に「あちゃ~・・・」と頭を抱える常識人な兄でもある姉と、隠れ巨乳シスコン妹の秘密を暴かれ真っ赤になってプルプル震えているジャンヌ・デュノア。

 

 

 

 なかなかに混沌とした現場に、ジャンヌの叫びが木霊となって響きわたる。

 

 

 

 

 

「わ、わ、わ、私のどこがシスコンだって言うのよーーーーーーっ!!!!!!」

 

 

 

 全部だよ。By.天の声

 

 

つづく



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第2話「ルームメイトは優しくて恐いお姉ちゃん」

「クソッ! クソッ! あのビッチ! ロリビッチめ! 担任の美人教師を追いかけて転校までしてきた元教え子の百合ビッチのくせに生意気なーーーーーーっっ!!!

 次は勝つ! 絶対に勝つ! 必ず勝つ! ぶちのめしてから勝つ!

 ぶっ潰してぶっ倒して、思いっきり勝ち誇ってやるんだからーーーっっ!!!!」

 

 ISアリーナ内に響きわたるフランスから来たデュノア社長令嬢の『お嬢様』という設定保持者ジャンヌ・デュノアの雄叫び。

 それは世界で唯一の男性IS操縦者織斑一夏よりも漢らしくて勇ましい、勝利への渇望と決意に満ち溢れた宣戦布告。・・・・・・なんか色々と間違っている気もするけど、スポーツ選手としては(たぶん)正しい在り方なのだろう。おそらくはだけれども。

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 ・・・・・・そして唖然呆然とさせられる、ジャンヌをお嬢様だと思っていた周囲のクラスメイトたち(一部、他クラス生徒を含む)。

 

 優秀だけれど残念無念きわまりない、それがジャンヌ・デュノアクオリティ。

 

 もの凄く話しかけ辛い状況のなか、普段と同じように普通の態度で彼女に話しかけられるぐらい彼女に慣れてる人間は、兄設定で実の姉でもあるこの人しかいない。

 

「ジャンヌ、大丈夫だった? 怪我とかしてない?」

「ああ? 見りゃわかるでしょ、ないわよそんなモン。むしろ有って堪るかって次元の話だし。

 あんなロリ百合ビッチに掠り傷ひとつでもつけられたりしたら恥って言うか、逆立ちしながら全裸で学園中を練り歩いた方が百倍マシってもの・・・」

「そっか。よかったね。じゃあ今日はもうあがろっか。四時過ぎたし、どのみちアリーナの閉鎖時間だしね」

「はぁ? ざけんじゃないわよ! このやり場のない怒りを誰か適当な奴見つけて発散させずに帰れるわけないでしょーが!」

「いいから」

「聞きなさいよバカ姉! 私は帰らないって言ってんでしょーが! 少しは人の話を聞き・・・」

「いいから」

「・・・・・・あ、はい。ごめんなさい、帰ります。

 ご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ございませんでした・・・」

 

 つい数秒前までラウラに対する怒りで猛っていたジャンヌであったが、姉が湛えている海色の瞳を一目見た瞬間、意識するより先に借りてきた猫のように大人しくなって頭を下げてしまっていた。

 

 姉の瞳は穏やかな春の海を連想させる母性本能に溢れたものであったが、その一方で海面の下に何が潜んでいるのか見ることの出来ない未知への恐怖を孕んでもいた。海面の穏やかさと同時に、暗くて深い深海を連想させられる碧色なのである。

 

「じゃあ、一夏。僕たちはこれで。他のみんなも今日は巻き込んじゃったせいで迷惑かけてごめんね? 埋め合わせはきっと“ジャンヌに”させるから」

「お、おう。じゃあ、また明日な?」

『お疲れさまでし・・・た?』

「うん。それじゃあみんな、また明日! バイバ~イ♪」

 

 不自然なまでにテンションの高い挨拶で場を締めくくり、妹と仲良く手を組んだ姿で去っていくデュノア姉妹。一見しただけでは落ち込んでいる妹を慰めながら帰路につく感動シーンのはずなのに、どう言うわけだかジャンヌの顔色が悪く見える。あと、顔に縦線が入ってる姿を幻視しかけたりもしてしまう。

 

 色々と不可思議な点に満ち満ちた放課後だったけど、何かをあきらめて割り切った色を顔に浮かべた織斑先生が「パン! パン!」と音を立てて柏手を打った音で場は時間を取り戻し正常空間へと帰還を果たす。

 

「言いたいこと、聞きたいことは多々あると言うことは理解しているが、さすがに今日は時間がないし私も疲れた。部屋に戻ってゆっくり休み、明日にでも話は聞いてやる。以上だ。解散!」

 

『お、お疲れさまでしたーっ!!』

 

 強引に話をまとめて去っていく元世界最強ブリュンヒルデの織斑先生。・・・強引なのもたまにはグッジョブ!

 

 

 

 

 

 

 そして、所変わってデュノア姉妹の自室。

 

「・・・・・・・・・(ガタガタガタ)」

「ねぇ、ジャンヌ。僕たちに与えられた任務は覚えているよね? その中で僕たち姉妹に割り振られていた役割も覚えているよね? それとも忘れちゃったかな? だとしたらもう一度だけ思い出してもらう必要性があるんだけど?(ニッコリ☆)」

「・・・・・・・・・お、覚えておりますから、大丈夫ですわお兄さま。ええ、本当の本当に覚えておりますので再教育の必要性だけは本当にまったく金輪際二度と御座いませんのことですことよ・・・・・・(ガクガクガク)」

「ふ~ん、そっか~。僕が教えたこと、ちゃんと覚えていてくれたんだね。兄としても姉としても僕とっても嬉しいな~(かいぐりかいぐり)」

「・・・・・・・・・((;゜д゜)ガクガクブルブル(ひーっ!? 久しぶりにシャルロットが切れかけてる! 私、この状態のお姉ちゃん嫌い!嫌い!大っきらい!

 嫌いな人におそわれそうになってるの! だからお願い、助けに来て正義のヒーロー! か弱い女の子があなたの助けを心待ちにしているわよーっ!?)」

 

 実家にいるとき、姉よりも早い時期からIS操縦の仕方を叩き込まれていた後妻の娘であるジャンヌは、後からやってきた後発組の姉にIS操縦をコーチングしてあげた先生であったが、同時に彼女のはすっぱ過ぎる言動は男を落とすには向いていないと遺伝子上の実母であるロゼンダに酷評され、シャルロットからお嬢様口調と丁重な物腰を学んで覚えることを義務づけられていた過去を持つ、互いが互いにとっての教師姉妹なのである。

 

 その関係性が二人の仲を急速に良くしていくのを助長したのは確かだが、それと同じくらい二人の間の力関係を確立するのにも役立っていた。

 

 平たく言うと、姉の方が圧倒的に上位であり、妹の方は姉の穏やかさのおかげで横柄な態度が黙認されているだけなのがデュノア姉妹の実体だったりする。ぶっちゃけ、ジャンヌは恐姉家なのだ。お姉ちゃんが本気で怒っているときに逆らう勇気など微塵もだせない。

 

 強気に出られるのは腕っ節がものをいう戦場だけ。それ以外の場で偉そうにしてても、姉が少し凄んだだけでしおしおとヘタレる内弁慶少女。それがシャルロット・デュノアの妹ジャンヌ・デュアなのである。

 

 

「ジャンヌ? 僕の話はちゃんと聞いてた? 聞き取れてなかったなら、もう一度最初から言い直してあげるけど?」

「(ビクッ!)・・・い、いえ、ちゃんと聞いてましたわよお兄さま。ええ、もちろん一言一句過つことなく正確に・・・」

「そっか、良かった。ーーじゃあ、この漢字ドリルの書き取り集を朝までに30冊終わらせておくこと。わかったね?」

「・・・へ? い、いや、ちょっと待って、ちょっと待って。私漢字が超苦手だってことくらい、アンタ知ってーー」

「日本で長くやってくためには、漢字が書けて読めないと厄介ごとが多そうだからね。今までやってきたのを『一晩に凝縮しただけ』なんだから、出来るのが当然だと思うよね? ジャンヌ?」

「・・・・・・(ふるふるふる“注:子犬が泣きそうになりながら助けを求めている時の目で”)」

 

 懸命に助けられて然るべきか弱い乙女を演じるジャンヌであるが、やはり普段の行いが祟り、よい子じゃなかったから困っているジャンヌを助けに来てくれる都合のいいヒーロータイプの主人公が現れることはなく、シャルロットは妹に言うことを聞かせるためにも伝家の宝刀を抜き放つ。

 

「忘れてるかもしれないけど、ジャンヌが素を出しちゃった時にはデュノア社にいるお母さんに連絡するよう言われてる監視員は僕だからね? これ以上なにか仕出かすようなら、ヒドいことになっちゃうかも知れないよ? ーーほら、そんな風に」

 

 ーーーぶーん、ぶーん、ぶーん・・・・・・。

 

 ・・・突然に鳴り出したジャンヌがもつ携帯電話のバイブレーション機能。

 

 おっかなびっくりしながら開いてみたところメールが来ていて、一文だけの短い短文が画面中央に表示されていた。

 

 

 

 “お小遣いの額、減らしときました”

 

 

 

 ・・・・・・その日の晩。ジャンヌ・デュノアは、もう二度と許可なくIS展開して戦闘したりしないと、血の涙と共に心に誓ったのでありました。

 

 

 閉じこもり系のオタクであるジャンヌは服装に金かけなくていい代わりとして、ゲームとかグッズとか本とかブルーレイには金かかりまくって今月カツカツ過ぎてた今時女子のオタク少女でもある女の子であった。

 

 

 

 

 

「ーーあれ? 箒ちゃん? こんな時間にこんな場所で、どうしたのかな? 何かあった?」

「ん? ーーああ、デュノアとデュノア妹か。妹の方は、今は落ち着けたようで何よりだったな」

「・・・・・・どうも」

 

 食休み兼ちょっとしたお仕置きとして外に連れ出してこられた妹を連れてシャルロットがやってきたのはIS学園でもあまり人が寄りつくことがない学生寮の裏にある、ときおり簡素な集会の場として使われているぽっかりと空いたような場所。

 

 そこまで来て、姉妹は思わぬ人物と遭遇することになっていた。

 織斑一夏の幼馴染みにして、ISを作った天災科学者篠ノ之束の実妹。それでいて本人に他者より抜きんでている長所としては胸のデカサぐらいしか今のところは存在していない侍ガールの篠ノ之箒だった。

 

 今の彼女は制服を着ておらず、無論のこと全裸でもない。

 白い胴着に紺袴。足下には足袋と草履。一体いつの時代からタイムスリップしてきたのかと疑問に思わざるを得ない出で立ちのクラスメイトから、二人は一本の筒を見せてもらいつつ説明を受けた。

 

 

 箒の実家から抜き身の真剣でもある日本刀が送られてきたから、居合い抜きの練習をしていたらしいのである。

 

「名は緋宵。かの名匠・明動陽晩年の作だ」

 

 箒はそう言って得意げに愛刀の解説をし始める。どうやら届いたばかりの愛用の品を自慢したくて仕方がないらしい。

 変なところで妹と似ている点を見つけられたことからシャルロットは箒に対して好感を抱き、その説明を最後まで聞き逃さずに聞いてあげることにする。

 

 ーーー昼間の失態を蒸し返させないためにも、話を逸らしてくれる話題でさえあれば何でも良かったのは秘密である。

 

 

「名匠、明動陽は女剣士を伴侶としたことから、それまでの刀剣作り一切を捨て、飛騨山中へと移り住み、そこで『女のための刀』を作り続けたことで有名な刀鍛冶でな。柔よく剛を制すの精神に近い『女が男を倒す』というテーマを生涯をかけて研究した御仁でもあるのだ」

 

 箒は気分良く語って聞かせて、明動陽が最後に至ったふたつの結論についてで話を締める。

 

一つ『けして受けることなく剣戟を流し、また己が身に密着して放つ必殺の閃き』

 

一つ『相手よりも早く抜き打ち、その一太刀をもって必殺とする最速の瞬き』

 

 ーーー自分が持っているのは後者であり、刀身が細く長くされた日本刀で、その鞘もまた常識のものより長い。しかし、これが不思議なことに短い刀よりも早く抜けるのだと。

 

 

 話を聞き終えたシャルロットは、全身武器庫な射撃戦タイプのIS《ラファール・リヴァイブ》の操縦者らしく剣術関係は専門外なので「そうなんだー、スゴいねー」と笑顔でほめる以外にできることがない。

 

 対してジャンヌは、やや事情が姉と異なっていた。

 まず、彼女の愛機《キャヴァルリィ・ノワール》は敵に肉薄して短期決戦を強いるのが必勝パターンの強襲型だ。避けるだの流すだのと言った間怠っこしい戦い方は好きになれない。

 ついでに言えば敵が罠を仕掛けて待ちかまえているなら、その罠を食い破って喉元へと食らいつき噛み千切ってやる!――ぐらいの気合いがない臆病者が戦場に立ちたがる理由が理解できない突撃厨でもある。

 

 なので、はっきり言ってジャンヌから見た明動陽の至った結論は『まともにかち合っても勝てないから、逃げ回るのだけ上手くなった逃げ上手』としか見ることができず、

 

「女が男に勝ちたいなら、肉や骨をいくら削られようと相手の心臓一つ穿つことのみ成し遂げられる一芸を磨き上げた方が自分の命一つ分あまって勝ちなんじゃないの?」

 

 ――という、女の子としてどうなんだよ過ぎる発想しか沸いてこないのだ。

 

 それもまた、ジャンヌ・デュノアクオリティ。

 

 

(正直、今までは特別なにも感じてこなかった相手なんだけど・・・なんでかしらね? 今の話を聞かされた途端にメチャクチャ腹立ってきたわ。怒りにまかせて殴りかかったりしたらダメなのかしら?)

 

 ダメに決まっているし、姉の前でそんなことすれば一体どれほどの額がお小遣いから減らされるのか想像することさえ恐ろしすぎる。

 

 結局、ジャンヌはまるで前世で宿敵同士だった生涯の敵と再会した転生者がごとき気持ちを味あわされながら箒の話を聞き流すよう努力し続け、なぜ自分がこんなにも無意味な努力をしなければならなくなっているのかを考えたとき最初に浮かんでくるのは当然のように当然のごとくドイツの百合ロリビッチ少女の貧乳だった。

 

 

(・・・そうよ! 全部アイツが悪いのよ! 私がこんなところで要らない苦労を強いられてるのも、お母さんからお小遣いを減らされたのも、地球の温暖化が止まらないのも、フランスの景気が悪くなる一方なのも、先月発売予定だった『もしも7人の英雄たちとアフター・ストーリー』をウッカリしてて予約注文しとくの忘れちゃってたのも全部が全部アイツが悪い!)

 

 

 ・・・すさまじいレベルの言いがかりであり八つ当たりである。ラブコメヒロインでもここまでは普通しない。つか、最後のは完全無欠の自業自得だと思うよジャンヌちゃん?

 

(それでも今は耐えるしかない・・・! ここで爆発したりしたらお小遣いが! 再来月発売予定の『もしも7人の英雄たちとオルタナティブ』が買えなくなってしまうかも! それだけはイヤ! 絶対にダメ! 『もし7』はオタク人生のバイブル!ないと孤独で死ぬる!)

 

 心の中だけとはいえ、残念さを遺憾なく発揮しまくるジャンヌちゃん。

 そうしてやっとこさ解放されて部屋へと戻り、姉が小さくて可愛いあくびをひとつして「じゃあ、寝るよージャンヌ。お休みなさーい」と部屋の電気を消してからしばらくしてーーーーむくり(ベッドから起きあがる音)

 

 

 

 暗闇の中、姉の寝顔をそっと見つめて頭の中に両親とデュノア社員の面々を思い浮かべながら、迷惑をかけてはいけない人々への配慮を最大限してから出した答え。

 

 

 

「よし、夜襲をかけよう」

 

 

 

 ・・・・・・最低だった。

 

 

 そっと部屋を抜け出してラウラの部屋へと続く廊下の最短ルートは警備側の想定内に入っているため、裏をかいて屋根づたいに相手の部屋を直上から強襲してやろうと上に登ったその瞬間に、

 

 

「「あ」」

 

 バッタリ“そいつ”と再会してしまった。

 

 ドイツの荒武者ラウラ・ボーデヴィッヒと、フランスの火の玉娘ジャンヌ・デュノアとが。

 

 二人の手にはそれぞれマジックペンとインスタントカメラが握りしめられており、それの事実を互いが互いに対してだけ正しく認識してから沈黙が降りて数秒後。

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 

 無言のままに二人の少女は自分の愛機を展開して、第三世代IS武装をぶつけ合いまくりだすのである。

 

 ―――ラウンド2、ファイト!!

 

 

つづく



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第3話「ドイツの冷氷とフランスの猪の噛みつき合い」

 その日、IS学園は朝っぱらから賑やかだった。

 賑やかと言うよりかは、ヒソヒソ、ヒソヒソと小声でささやきを交わしあう静かな喧噪と表現した方が正しいのかもしれないが、とにもかくにもIS学園校門前には人だかりができていて賑わいを見せていたのは確かだ。

 

 人だかりを形成している中心には二人の少女が存在し、一つの看板を二人並んで仲良く持ち合っている。

 

 その看板には大きく太字でこう記されていた。

 

 

 

『私たちは夜中に暴れて校舎を破壊しまくった大馬鹿者です』

 

 

 

 ーーーそう書かれた看板を持たされている、頭に大きなタンコブをこさえた二人組の少女たち。

 ドイツの猪ラウラ・ボーデヴィッヒと、フランスの火の玉娘ジャンヌ・デュノアである。

 それぞれ祖国である生まれ故郷では『ドイツの冷氷』『世界三位のシェアを持つ大手IS企業のお嬢様』と呼ばれていて、恐れられたり愛でられたりしているはずなのだが、今のこの姿はどう贔屓目に見ても『悪いことして担任の先生から罰を与えられた子供』としか映らない。

 

 それでも彼女たちは国家を代表する超エリート。

 国防を担うIS操縦者にして、専用機を与えられてる国家代表候補生。十六歳。

 

 

 ・・・・・・まるでIS社会の矛盾が形となったようなヒドすぎる画面がここにある・・・。

 

 注:『冷氷』とは氷のように冷たくて冷厳なイメージを与える人を指して使う場合が多い表現方法で、『お嬢様』は以下略。

 

 

 

「・・・・・・恩師の七光り」

 

 ジャンヌが言った。ボソッとした声でつぶやき捨てていた。

 もはや隠しても隠しきれないことをしてしまった(晒してしまった)後なので、本性そのままのハスッパな口調で吐き捨てるみたいに小声でつぶやいていた。

 見た目とネコの皮にだまされて先週発売されたばかりの「IS学園美少女操縦者ランキング最新号」を購入した日本のロボット少女オタク達は泣いていい。

 

「・・・・・・シスコンレズ妹」

 

 ラウラも言った。ボソッとした声でつぶやき返してた。

 元から性格が負けず嫌いな少女である。おまけに無礼な態度をとられても、相手が興味のある相手かそうでないかで反応が百八十度変わってしまうオール・オア・ナッシングなところもある好き嫌いが激しすぎる性格の持ち主でもある。

 『ドイツの冷氷』という異名と、ナチス・ドイツの士官服風に改造された制服姿から冷戦沈着で冷厳な女軍人を想像して「IS学園美少女操縦者ランキング最新号」を購入した日本のドイツ第三帝国オタ・・・以下略。

 

 

「・・・・・・雨の日に捨てられた野犬」

「・・・・・・姉離れできない女子高生」

「・・・・・・捨てられても未練たらたらヤンデレ弟子女」

「・・・・・・いい歳して不良を格好いいと思ってるガキ」

「・・・・・・自分を捨てた女を想って枕と布団を濡らす夜。手洗いで下着を洗う休日」

「・・・・・・姉と仲良く過ごした妄想日記。姉妹で遊ぶ禁断の脳内シミュレーション」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 一拍置いて。

 

 

 

 

『・・・・・・なぜその事実を知っているーーーーーーーーーーーーーっっっ!?』

 

 

 

 ーーー二人同時に大爆発!!! どうやら類友だったせいで互いの急所ポイントを無自覚に無意識に意図すらせずに抉ってしまってたらしい!! 効果は抜群だ! お互いに!

 

 

「こ、殺す! 絶対に殺す! それを知ってる人間を生かしておいたら私が死ぬ! 死ななくちゃいけなくなるから先に殺すわ確実に!

 もし、失敗して出来なかったときには死んでやる! 地獄の業火で焼き尽くされて処刑されてやるんだからぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「それはこちらの台詞だ絶対殺す! 殺してやる! ドイツの恥部を知ってしまったお前を生かしておくことはドイツにとっての巨大な損失! 消さねばならない殺さなくてはならない! 祖国のために! 祖国の名誉のために! ジーク・ハイル!!」

 

 大声で叫び合う「殺す」コール。

 ちなみに今の時間帯は朝の午前中であり、IS学園は登校時間の最盛期である。話してる間に(罵り合ってる間に?)生徒達でごった返す時間帯に差し掛かっており、学生寮から学園へと続く道のりも入り口だけは同じ門を通るので(そうでなければ晒し刑の意味がない)大半の生徒達からは丸見え&丸聞こえなのだが、互いに互いのことしか見てない二人は気づいていないし気づけない。

 

 基本的には猪突猛進の一本気娘であり、単純明快シンプル・イズ・ザ・ベズトを好む二人。「気にくわなかったら、とりあえず殺す!」を地で行く彼女たちは以外と似た者同士で単純バカなのである。

 

 従って、自分たちの周囲に集まってきている生徒達の存在には気づいていても気にしていない。その中に誰が何人混ざっていようと些細な些事だ。端数として切り捨ててしまって構わない。

 たとえその中に、鬼のオーラを背後に顕現させて歩んでくる世界最強の旧師がいようとも。にこやかな笑顔を湛えながら拳を握りしめている優しい優しいヤンデレ姉が混ざっていようとも関係ない。今の自分たちにとって大事なのは、目の前にいる小憎らしいあんにゃろうをブチ殺すことのみ!!

 

 

「来い! 『シュヴァルツェア・レーゲン』! 全面に立ちはだかる敵を蹂躙する!」

「来なさい『キャヴァルリィ・ノワール』! 今度こそドイツの国旗に旗をブチ立てるのよ!」

 

 シュピィィィィィィィッッン!!!!

 

 ・・・・・・ツカツカツカーーー

 

『死ね!(死になさい!)全力全快! 《イグニッション・ブース・・・・・・》』

 

 

「「バカは一度死ななきゃ直らない(よね!)!!」」

 

 

 ガン! ゴン! ドゴゴゴゴンッ!!!

 

 

「ぐふぅっ!?」

「どむぅっ!?」

 

 

 一夏でおなじみの後頭部ではなく、鳩尾への直撃を狙って放たれた容赦ない一撃×2。

 気絶するには至らない、絶妙な力加減で放たれたソレらは、二人を地獄の苦痛に突き落とし、地獄ののたうち周りをゴロゴロゴロ学園前の校門前で繰り広げまくらせまくっていた。

 

 

「まったくお前達は・・・昨日の晩にISの無許可使用を禁じられたのを忘れたのか? それとも三歩歩いた時点で忘れてたのか?

 貴様等の記憶力は鶏以下か? 鳥以下なのか? 1M頭のドイツ代表候補とフランス代表候補ども」

「ジャンヌ~? ダメだよ専用機持ちの国家代表候補がプライベートを赤裸々に無許可で語ったりしたら、メッ! なんだよ~?」

 

 いつも通りに怖い怒り顔の織斑先生。ラウラは蛇ならぬ竜に睨まれた蛙のごとく怯えきってフルフル首を左右に振りながら命乞い。

 

 対するジャンヌは別の危機。

 家庭の事情を(痴情を?)耳目のあるところで晒しやがった妹に、お姉ちゃんが激怒状態です。

 

「まさか、言っちゃいけないって知らなかった訳じゃないよね~? わかってて言ったに決まってるもんね~?

 当然、お仕置きされる覚悟で言ったことなんだよね? 悪い子になるつもりで、悪いことしてたんだよね? 悪い事して懲らしめられたかったから悪いこと言ってたんだよね~? ボクにはわかってるんだよジャンヌ? お姉ちゃんって言うのが誰のことなのかはよくわからないけどさ~」

「ち、ちが・・・そうじゃなく・・・・・・てぇ・・・・・・っ!?」

 

 痛みの中、必死に声を振り絞って言い訳を口にしようとするジャンヌ。

 だが、肝心のいい言い訳が思い浮かばなくて「あうあう」としか言うことが出来ない。

 

 彼女とて、わかっているのだ。過去の経験からこういう状態になった姉を相手になに言ったって逆効果にしかならないことぐらい。

 

 言い訳したら罪が重くなる。罰が辛くなる。厳しい厳しいお仕置きレベルが上がりすぎてしまう!

 ・・・だけど、言い訳しないで黙っていると罪状を全面肯定したことにされてしまう。相手の言ってることが全面的に正しいと認めたことにされてしまう!

 

 言い訳しなけりゃ有罪確定。言い訳しても有罪は確定。ただ罰が重くなるだけという、形式ばかりの裁判ゴッコ。これではまるで魔女裁判!

 

「私・・・は、ジャンヌ・ダルクになりたくな・・・い・・・・・・」

「はいはい。痛みで意識が朦朧としているのは分かったから少しだけ黙っていようね? すぐに保健室まで連れて行ってあげるから・・・ね?」

 

 お姫様抱っこで深手を負った妹を運んでいってあげる王子様系のイケメンお兄様。普段だったら乙女な生徒と腐ってる生徒たちがキャーキャー騒ぐシーンなのに、みんな黙り込んで見送るだけ。静かに静かに二人の背中を見送っていく。

 

「・・・アーメン」

 

 誰かがつぶやいて十字を切る。

 

 

 ・・・・・・「これ以上校内でISつかった喧嘩をされても敵わないから」と言う名目で月末におこなわれる予定だった対抗戦のルールがペア戦に変更されて、「条約違反は連帯責任」と言い渡され、試合当日までは静かにおとなしく平和になったIS学園が戻ってくるのは、ジャンヌ・デュノアの終わらぬ悲鳴が学園中に響きわたってから数時間後のことである・・・・・・。

 

 

つづく



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第4話「『黒色槍騎兵』進撃開始!!」

「や。一夏、ボクたちの試合、見ててくれた?」

「おう。もちろんだぜシャルル。準決勝進出おめでとう」

 

 ぱーん!と、やや身長差がある二人の男性IS操縦者(シャルロットの方は大部分から疑われてるけど一夏は気づいてない。鈍感すぎるから)はアリーナの通路にあるモニター前でハイタッチを交わし合う。

 

「次はいよいよ俺たちとの対戦だな。言うまでもないけど手加減しないぜ? 恩師に対して教えてくれたことを成果として見せつけてやるのが日本流の恩返しだからな」

「もちろんだよ。むしろ手加減なんてしたときには殴ってたところだったよ? こうボコッて感じにね。「恩知らずで不肖者の弟子めーっ!」って」

 

 あはははと、朗らかに楽しく笑い会う二人。次の試合で戦いあう仲なのに、既にして親友同士みたいな好感度の高さです。

 

 実はこの二人、互いのパートナーが原因で協力し合わざるをえない状況に追い込まれた者同士だったりする。

 シャルルのパートナー、ジャンヌは言うまでもなく空気読まない暴走火の玉娘だし。一夏のパートナーは寄りにもよって、“あの”ラウラ・ボーデヴィッヒだ。そりゃ協力し合わないとやってけないし胃が持たない。

 

 犬猿の仲のラウラと一夏が組まざるを得なくなった理由は至ってシンプル。

 千冬姉さんから「組め。異論反論はいっさい認めない。どちらかが問題起こした時には同罪だ」と宣告されてしまったから。

 

 ラウラとしても一夏はともかく、甘さを捨てて一時的に教官時代に戻った千冬を相手に逆らうことが出来るほどの胆力など持ち合わせていない。嫌々で渋々ではあったものの承諾して、一夏の存在ごと無視しながら試合も練習も行い続けてきていた。

 

 そういう事情から一夏には、教師役が必要となったわけなのだが。どう言うわけだか鈴もセシリアも箒にさえも師事させてもらえなかった上に罵倒までされてスゴスゴと引き下がり、廊下で暇そうにしてたシャルルに相談したら「もし、ボクでもいいのなら」と地獄に仏な聖女様降臨の末に今へと至る。

 

「・・・しかし、ジャンヌの戦い方はスゲーよなぁ。ーーーある意味でだけど」

「うん、まぁ・・・・・・そう・・・だね・・・」

 

 そっとつぶやく一夏と、そっと目を逸らすシャルル。

 基本的には突進バカの気がある一夏でさえ(あくまで傾向があると言うだけ。考えれないわけではない)「アレは真似できない」と感じさせられるほど一度火のついたジャンヌは止められなかった。止まってくれなくなってしまうのだった。

 

 

 

「charge‼(シャルジュ/突撃)」

 

 試合開始直後に叫んで飛び出し、突撃を開始したジャンヌは当然のように敵の弾幕で迎撃されたのだが、怯むことなくそのまま弾雨の中を突進し続けて勝利してしまうパターンを一回戦からずっと繰り返してきてるのである。

 

 

「シャルジュ! シャルジュ! シャルジュ!(突撃! 突撃! 突撃!)」

 

 

 ひたすら同じ言葉を連呼しながら突っ込んでくるフランス社長令嬢の突撃は、思わず対戦相手の量産機乗りが顔を引き攣らせ恐怖とともに叫び声を上げてしまうほど勢いと猛々しさと荒々しさに満ちたものだった。

 

「な、なんで止まらないのよ!? 撃たれたら避けるか退るかするでしょ普通なら!!

 そんなにダメージ食らいながら突撃したんじゃ、私たちを倒す前にエネルギー切れで自滅するかもしれないのよ! アンタ、自滅で負けるのが怖くないの!?」

「バカじゃないの!? アンタ達を倒すまで保てばいいのよ! 試合が終わった後に弾残ってたって意味ないじゃないの! やられる前に倒した方が勝ちだ!!」

「む、無茶苦茶だわ! そんなのISバトル理論に反してる!!」

「んなもん知らないわよ! どこの言葉よ!? ドイツ語!? ドイツ語なの!? だったら燃やし尽くしてやるわ! 焚書よ! 私の前でドイツ語しゃべった奴はみんな火刑!」

 

「「本当に無茶苦茶で理不尽だコイツーーーっ!?」」

 

「うるさーい! 喧嘩は勝てばそれでいいっ!!!」

 

 

 

 

「・・・あの啖呵を聞かされたときにしてた千冬姉の表情を見せてやるために録画しとこうか本気で迷ったよ・・・」

「あ、あは、あははははは・・・・・・はぁー・・・」

 

 家庭の事情で親からいろいろ命じられてて、自分だけでなくジャンヌも一夏にもらってもらうつもりになってるフランス代表候補生の悩みとため息は深い。

 

 

 

 ――余談だが、ISファンの間で語り草となるジャンヌが初めて参加した公式のチーム戦。その一部始終を目撃していた観客の一人がポツリと、こうつぶやいていた。

 

「・・・あの子は突撃以外のフランス語を知らないのかな…?」

 

 この一言が、トーナメント後に結成されるジャンヌ・デュノア非公式ファンクラブ会員たちにとってジャンヌを現す言葉になってしまう未来を、今の彼女はまだ知らない・・・。

 

 

 

「ーーまぁ、いいや。過ぎたことだし今更どうすることも出来ないし・・・。次で挽回目指すことにする」

「?? おう、そうか。しっかり頑張れ。俺を失望させてくれるなよ? 御師匠様?」

「そっちこそ。先生を失望させたりしちゃダメなんだからね? ーーあと、それから試合が終わった後の約束を忘れないよーに」

「おう! トーナメントが終わった後で俺に相談したいことがあるってことだったよな? それも姉妹そろっての悩み事なんだろ? だったら任しといてくれ! これでも姉弟の問題で苦労してきた時間は長いんだ。大抵のことは請け負ってやるよ」

「ふふふ、頼もしいね。さすがは一夏、男の子だねぇ☆」

 

 天使のように無垢な笑顔を浮かべるシャルちゃん、マジ堕天使! 一夏は知らない間に外堀を自分で埋めてしまっていることに気づいていない! 夏の大阪城がごときピンチです! 侍の時代は侍の手で終わらされてしまうのか!?

 

「それじゃ、また後で一夏。ーー勝たせてもらうからね」

「おう。負けないぜシャルル。俺はお前達を・・・全力で倒してみせる!」

 

 こつん、とぶつけ合う拳と拳。ここに男同士の男らしい友情は確固として成立された。

 しかし、片方の性別は女である! 女には男同士の約束を守る義務は全くない! 危うし一夏! 危うし一夏の貞操!

 

 思春期男子でチェリーな純朴少年一夏に性的な危険を迫らせながらも準決勝第一試合、織斑一夏&ラウラ・ボーデヴィッヒVSシャルロット・デュノア&ジャンヌ・デュノアの戦いが今、幕を開ける!!

 

 

 

 

『ーーーレディ・・・・・・GO!!』

 

 ビーーーーーーーッ!!!

 

 試合開始のブザーが鳴り響き、今回のトーナメント中一番の見所となるであろう好カードの試合が始まった。

 

 

「うおりゃぁぁぁぁっ!!!」

 

 そして、毎度のように毎度のごとく試合開始直後の突撃を開始するジャンヌ。敵の動きを止められるラウラとしては呆れるしかない。

 

「開幕直後の先制攻撃か・・・。只でさえわかりやすい上に、そう何度も見せつけられては返し技の一つや二つ、阿呆でも思いつくだろうに・・・」

 

 ため息とともに右手を翳し、AICで縛ろうとしたその瞬間。

 ジャンヌが、吠える。

 

「バカじゃないのアンタ!? 罠が待っているなら食い破り、引き千切ってやるだけよ!」

「なに!?」

 

 叫ぶと同時に発射される中距離射撃用武装ショット・ランサー。それは確かに中距離で接触する寸前だったこの距離で使うのが正しい武器ではあったが、試合全体を通してみたら不適切きわまりない使い方でもあった。

 なにしろこの武器、一応は射撃機能を持ってる割に弾数が二発しかないのだ。粒子化できるIS武装の中では特に数が少なすぎる特殊射撃武装。実体のままでは持ち歩く以外に補充はあり得ず、特殊であるが故にデータ量を食い粒子化機能であるが故に弾数が少なくさせられてしまう矛盾を抱えた使いにくいことこの上ない武装。

 

 この場合、開幕直後にいきなり一発ぶっ放してしまうのは余りにも不味い。なぜならキャバルリィ・ノワールの射撃兵装はショット・ランサーを除けば、低火力な中距離射撃兵装のヘビィ・マシンガンしか存在しないからだ。

 

 にも関わらず開幕直後から二発しかない貴重な一発を使ってくることを、正規の軍事教練を受けたラウラは予測していなかった。

 

(こんな戦い方は戦術理論に反している!)

 

 士官になる際に受けさせられた士官学校の戦術理論講義。その中で満点の回答を出して褒め称えられた実績もある優秀な士官学校の生徒にして“実戦経験のないプロの軍人”ラウラ・ボーデヴィッヒは、今このとき確かに喧嘩屋によって機先を制された。

 

「うらぁぁっ!」

「くぅっ!?」

 

 体勢を立て直そうと退こうとしたラウラに、全速力で追撃を仕掛けてくるジャンヌ。

 「追い打ちをかける」でも「追いすがる」でもなく『全速力で追撃してくる』辺りにジャンヌ・デュノアという少女のらしさと言うか、真骨頂があったのかもしれない。

 

「ば、バカか貴様は!? バカなのか貴様は!? こんな戦い方では戦場で生き延びることなどできはしない!」

「バカで悪いか!? バカと言った奴がバカなんだ! ばーかばーか!!」

「子供か貴様は!? もう少し大人になれ! ISがどんなに危険で、国防の要となる存在か本当にわかって・・・・・・」

「うるさーーいっ!! そんなメンドクサいもん知らない! 大人達が勝手にやれ! 私は私で勝手にやるだけだ!

 とにかく今は、目の前の気にくわないアンタをブッ倒せればそれでいい!!!」

「くぅぅ・・・っっ!! このイノシシ女めがぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

 

 

 ・・・激しく罵りまくりながら傷つきながらも前へ前へと突き進んでゆくジャンヌの戦い方を横目で観戦しながらも、シャルルと一夏は苦笑しあわざるを得ない。

 

「・・・ね? あの戦い方を練習されるとボクの居場所なんかないってことが分かるでしょ?」

「確かに。アレじゃあ連携もなにもあったもんじゃねぇや。むしろ邪魔になるだけだな。俺の練習につきあってくれてたのも納得だ」

 

 苦笑を交わし合いながら、二人も戦いを継続し続けている。

 切りつけるために懐内へと飛び込もうとする一夏に対して、牽制射撃で動きを制しつつも戦場全体の外苑部を円軌道でグルグル回り続けているシャルル。

 これがラウラに安全策を意識せざるを得なくさせている最大の理由だった。

 

 一夏は鍛えられたとは言え、まだまだ初心者の域を出たばかり。経験値の差でシャルルには及んでいないし、何より武装と戦術と試合方式の相性が悪すぎている。

 

 一夏の白式は武装が刀一本しかない近接戦闘型であり、敵に近づかなければ何も出来ない関係から機動力に秀でた機体である。敵がスピード型のラファールであっても逃げながら戦って倒しにくる以上は勝機を見いだすことが十分可能な性能を有している。

 

 だが、今回のトーナメント戦は予定外のペア戦が基本である。二人の内どちらかが生き残りさえすれば勝ちであり、二人とも生き残ったまま一機だけ残った敵機を袋叩きにするのだって戦術として認められている。

 極端な話、片方が接近しながら撃ちまくり敵が迎撃するため前に出たら後ろに退き、残った一機が接近しながら背後から撃ち、振り返って倒しにきたら逃げ、背後からもう一機が撃つを繰り返してもルール上は問題ない試合方式なのである。

 

 もちろん、こんな戦術は戦争のやり口であり平和の祭典スポーツ大会で使っていい戦術ではない。勝つには勝てるが非難を浴びるし、国家の代表候補が公式試合でやったりするのは適切ではない戦い方である。

 イタリアのアリーシャ・ジョセスターフも「一対一の試合に一機で参加した選手が技として分身してる」から許されているだけであって、彼女もまたヒールではあってもスポーツ選手の域を脱しているわけでは全くない。そういう機能のワンオフ・アビリティを最大限活用しているだけのこと。ISに乗らず戦わない周りがとやかく言う筋合いは本来ならないのだ。

 それでも言えるのがスポーツという見せ物の興業がもつ欠点と言えるかも知れないし、民間との融和と強調と表現した綺麗な方が正しいのかも知れない。

 

 平和な時代においては微妙なところであるが、どちらにしても今のジャンヌ達には一切まったく関係しないどうでも良いことこの上ない余談に過ぎない。

 

 とにかくはまず勝つことだ。

 

 

「悪いけど一夏、君の機体を相手にボクのリヴァイブだと正面決戦には応じられない。ジャンヌが到着するまで時間稼ぎに徹しさせてもらうよ?」

「構わないぜ。元からそういう形になることをふまえた練習を受けさせてもらった身だ。何とか掻い潜って襲いかかるのが男の戦い方ってもんだぜ!」

 

 切りつけようとすれば足下を撃ち、僅かに下がった分だけ二歩前へ出る。三歩目を踏みだそうとした瞬間には牽制に慣れた頭に直撃弾が来る。

 一瞬でも決意が鈍れば逃げる側としては十分すぎる間だ。ひたすら逃げて縮められた距離を元に戻すことだけに集中する。さっきからその繰り返し。

 二人とも、自分自身が攻撃に使った分以外にはほとんどエネルギーを消耗していない。

 

 一夏はシャルルから連携に関しての座学は受けたが、練習はほとんどやっていなかった。互いのペアを組んでる相手の性格と戦い方を考えれば「意味がない」と言わざるを得なかったから。

 

 だからシャルルは、自分の得意分野であるテクニックの内いくつかを伝授した。余り多くの小技を教えたところで、実際の戦場で使うのは相性の良かった得意技が五種類ぐらいだと言うことを同レベルの練習相手ジャンヌと模擬戦闘を繰り返す間に悟っていたからだ。

 いくつか教えてやらせてみて、「気に入った」と言われた技とテクニックだけを集中して教え、後は自分との戦いの中で実際に使わせながら有効な戦術を一夏自身に組立させた。

 これもまた妹を見ていて気づいたことなのだが、ジャンヌの戦い方は相手選手の言うとおり「ISバトル理論に反しており」マニュアルには載っていない。だが、それでも勝てている。

 勢いだけで勝てるほどISバトルは甘くないことを知るシャルロットは自分なりに分析してみて気づくことができた事実として、ジャンヌはあれで意外にも計算しているらしいと言うこと。

 自分の性格から撤退や安全策を逆に危険と考えて、「自分は前に出るのが一番安全」という常人には理解できないし真似できそうもない自分なりの戦闘理論を組み立てた結果として今のジャンヌがある。

 

 そこまで解れば後は早かった。シャルロットもまた、ジャンヌの姉であり兄でもある自分の戦い方を組み立てるだけであり、子供好きで教えるのが好きな母性愛溢れる彼女にとっては人に既存のやり方を押しつけるよりも自己学習しやすい環境を形成する方がずっと楽だし気持ちいい。

 

 だから一夏の成長速度は予想より速く習熟し、ラウラが戦力に数えるに足る物を既に備えていたのだが、千冬の件でわだかまりが抜けない今の彼女に協力と連携は無理な相談であり、ジャンヌは無理に連携しようとすれば巻き込まれて終わるだけ。

 

 これらの事情により今のシャルルがとっている戦術は、『一夏との距離を一定以上に保ちながらフィールド外周を飛び回り、ラウラに対して色気を出し続ける』という物として完成する。

 

「そっちの手の内は解ってるんだ。なら負けたときの言い訳には使えねぇ。相手の裏をかくのが戦術で、相手の戦術を逆用して勝つのもまた戦術・・・だったよな? 先生」

「さすがだね、男の子・・・っ!!」

 

 今までの段階で既にして一夏の男らしさに惚れかかっていたシャルロットだったが、自分の育て上げた成長分を加算してさらに好感度が上昇してしまっている。ハートマーク状態だ。

 そしてだからこそ、戦いには手を抜かない。徹底的に時間稼ぎに徹し続ける。それが『ジャンヌ・デュノアのパートナー、ジャルル・デュノア』が妹との連携を考慮して確率した戦術だ。姉と妹の二人で一人なIS操縦者姉妹にとって必勝の戦略だ。

 だから続ける。手加減もしないし油断もしない。・・・これは自分一人の戦いでもなければ、一夏と自分二人だけの戦いでもない。忘れてはならない大事な一人が必須の戦力として組み込まれた戦い方なのだからーーーー。

 

 

 

 

 

 乙女なシャルロットに対して、ドイツの氷水ラウラ・ボーデヴィッヒは激しく憤っていた。

 

(クソっ! あのアンティークめ・・・逃げ足ばかり早い骨董品と侮っていたが、この戦況ではいつどこから撃ってくるかまるで解らん! 単純な円軌道の動きは予測し易いが、目の前のバカ妹のせいで姉の動きに合わせていられる余裕が作れん! 挙げ句、私の位置からでも撃とうと思えば撃てなくもない距離を保ち続けるだと・・・?

 性悪なアバズレめ! 女狐め! あの役立たずなポン侍に任せて置くわけには行かないこちらの窮状を把握してもてあそぶつもりか!?)

 

 ラウラは心の中でフランスの代表候補生シャルロット・デュノアを激しく罵り、罵倒する。それ以外に小憎らしい姉の方へ攻撃する手段の持ち合わせが今の彼女にはなかったから。

 

「そらそらどうしたの!? いつもの勢いが無くなってるわよドイツの狂犬! いや、駄犬! 吠えるぐらいしか脳のないアンタの割には大人しくてしおらしい戦い方じゃないの!? ハッキリ言って萌えるわよ!

 なに!? キャラ設定でも変えた!? 萌えポイントをロリサド貧乳からギャップ萌えにでも変換したの!? 候補から代表になってフィギュア化されたら購入して部屋に飾って上げましょうか!?」

「訳の分からん戯れ言を!!」

「はっ! 言ってもらわなきゃわかんなかった? だったら言ってやるわよ! “可愛いわよね”今のアンタって!! マジ萌えて来そうなくらいだわ!」

「・・・・・・はっ!?」

 

 かわいい・・・? カワイイ、可愛い、kawaii・・・・・・可愛い!? 私が!? ドイツ軍で冷徹非常と言われ続けて部下からも敬遠されてる、この私がか!?

 

「い、いったい何を言いだすのだ貴様は! 戦闘中だぞ! 恥を知れ!」

「知らねーわよそんなもん! 気色悪いわね! IS使って殴り合うバトルにいらねーでしょうが恥なんて高尚な代物は!! 殴って倒して勝った奴が強くてスゴい! それだけで十分でしょ!? 他に何を要求するつもりだったのよアンタは!?」

「・・・・・・(ぼーぜん)」

 

 ラウラは思わず迎撃の手を止め、相手の言葉に聞き入ってしまっていた。

 あまりにも乱暴で野蛮で野卑て下品で品性のかけらもない、生の感情丸出しの戦闘理論。いや、理論にもなっていない子供の言い分。

 「勝った奴は負けた奴より強くてスゴい!」なんて、今時高校生が言うか普通? バカバカしい、ガキ臭いし青臭い。卵の殻もとれない新兵の方がまだマシな理屈を言えるのは間違いない。

 

 だが、しかし。

 

 

 

「ーーー悪くない。いや、・・・・・・むしろ“いい”!!」

 

「ああ? アンタなに言って・・・・・・ぶべっ!?」

 

 

 撃たれっぱなしだったラウラが突然叫び声を上げ、訝しがったジャンヌが前に出たところを顔面グーパンチ。IS使ってやられるとマジ痛い。

 

「ちょ、アンタ! いきなりグーはないんじゃないの!? 女の顔に向かってグーはさすがに反則だと思うんだけど!?」

「知らん。男も女も関係ないのが喧嘩なのだろう? 新兵どもからそう聞かされたことがあるが、違うのか?」

「ーーーテメェ・・・・・・・・・」

 

 メラッと。ジャンヌの背後から黒い炎が吹き上がり、《ラファール・キャバルリィ・ノワール》のワンオフ・アビリティ、その真の能力が解き放たれる条件がすべて成立した。“してしまった”。

 

 

「いいわよ、やってやろうじゃない。アンタがそう言うつもりならこっちだって容赦しないわ。全力全快で・・・・・・ぶっ潰す!!!」

「やれるものならやってみろ! フランスの片田舎からきたオタク娘! ドイツのISは世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!!」

 

 

 叫びあう女と女。少女と少女。ガキとガキ。

 二人は今、いっさいの自己矛盾を捨て本能のままに相手を求め合い、只願った。

 

 

『『私はコイツを・・・・・・ぶちのめしたい!!!!』』

 

 

 純粋な心で只願う。自分は勝つ! 敵を倒す! 後は知ったこっちゃねぇ!ーーと。

 

 

 ・・・そして二人の想いに応えて、一つのシステムが起動する。

 

 Danage Level・・・・・・D.

 Mind Condition・・・・・・Uplift.

 Certihcation・・・・・・Clear.

 

《Valkyrie Trace System》・・・・・・・・・boot.

 

『ーー願うか? 汝、自らの変革を望むか? より強い力を欲するkーー』

 

「「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁっっい!!!!」」

 

『(ビクッッ!?)』

 

「「力が欲しいのか、変革を望むのか? そんなもんしてる余裕があるなら早く出せ! 出し惜しみしている暇などあるか! 急げ! 早くしろ! お前から先にぶち壊すぞこの野郎!!」」

 

『りょ、了解。・・・こんなものでどうだろうか?』

 

「「足りーーーーんっ!! もっと寄越せ! もっと寄越しなさい! コイツをぶちのめしてやるために、もっと私の機体を輝かせる力を引き出させろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」

 

『い、イエス・アイマム!!

 ヴァ、ヴァ、ヴァァァァァルキリイィィィィィィッッ!!!!』

 

 

 ・・・聞いてる分には馬鹿話にしか聞こえないけど、聞こえないで見ているだけの人たちにとっては笑えない光景。

 二機のISと二人のIS操縦者が黒いナニカに包まれながら形を変えていき、黒いナニカが黒い炎に包まれて再び姿形を整え直してゆく。

 

 最終的に彼女らを包み込んでいた黒いナニカがブクブクと膨れ上がったと見えた、その次の瞬間。

 

 

 

 ずぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっん!!!!!!!!

 

 

「「私は勝ぁぁぁぁっつ!!! 私が倒ぉぉぉぉぉぉっっす!!!!!

  私がお前を倒して勝ってやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!!!」」

 

 

 

 二人と二機を包んでいた黒いナニカが細切れになって吹き飛ばされて飛び散らされて、なんか聞き違いかも知れないけど『ギャーっ!? ヴァールキリーっ!?』とか、悪の組織のザコ改造人間がやられる時っぽい末期の悲鳴が聞こえたような聞こえなかったような・・・まぁいいか。別にどうでも。

 

 

 

「クソちびラウラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!」

「シスコンおっぱいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!!!!!!」

「私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!」

「お前をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!!!」

 

『絶対に倒して勝ってやる!!!!

 お前より私の方が強いんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!』

 

 

 VTシステムを吸収して強化した愛機を駆る二人の美少女が、黒い獣と化して互いを食い合う! 果たして勝つのはドイツのヤンデレか? フランスのシスコンおっぱいか?

 

 決着の時は近い!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・なんでやねん・・・」

「あは、あははははは・・・・・・・・・はぁ」

 

 

つづく?



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第5話「『女』(スクライド最終回風に)」

 黒く染まったISを纏い、対峙する二人の少女。

 ジャンヌ・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ。

 彼女たちがおこなう勝負は、IS史上に残すべき名勝負となっていた。

 

 本当に。・・・ものすごい“迷”勝負になってしまっていたのである・・・・・・。

 

 

「うおらぁぁぁぁっ!!!」

 

 ガツン!と。

 スピード重視で装甲が薄く、出力もそれほどではないはずのラファール(カスタムされてるけども)で敵機を殴りつけるジャンヌ。

 

「すおりゃぁぁぁっ!!!」

 

 ドゴン!と。

 重武装・重装甲が売りのレーゲンで相手の腹に蹴りを叩き込むラウラ。固定装備の大型リボルバーカノンを殴るのに使って砲身が折れ曲がってしまい、粒子化するのが面倒くさかったから敵より分厚い足で蹴る方を選んだのだ。

 

「オラ! 死ね! 死ね! ぶっ殺ーーーーーすっ!!!」

「こちらの台詞だ大戯けめが! おまえの方こそ死ね! 死ね! 死ねぇぇっい!!」

 

 二機の操縦者ともに、口元からは血が流れ落ちて装甲の半分近くは打撃の衝撃で吹き飛ばされている。残った部分も半壊していて、無傷な箇所はどちらにも見あたらない。

 

 まさに、死闘。

 戦争利用が禁止された最新鋭の世界最高戦力同士が、原始的きわまる殴り合いで死闘を演じ続けてたのだった・・・・・・。

 

 

 

 ーーーそんな中。

 当然のことながら、空を超スピードで飛び回る美少女たちのハイスピードバトルを見に来てたはずの観客たちには、この状況が理解できないし意味が分からない。

 

 

“なぜ、機動兵器が足を止めての殴り合いで雌雄を決しようとしているのだろうか?”

 

 

 ・・・・・・その答えはおそらく、誰も知らない。戦ってる本人たちすら分かっていないだろう。

 なぜなら、分かるだけの考える力が残っているなら今この状況になってないと思うから・・・・・・。

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・((゜д゜)ポカーン』

 

 

「・・・見に来た人たちがみんな同じ顔になってるね・・・」

「・・・ああ。もっとも、ピットから見ている千冬姉たちも同じようなものだと思うけどな・・・」

「・・・・・・今からボクたちがあの中に割って入っていって出来ることって何かあると思う・・・?」

「・・・・・・ゾ」

「ぞ?」

「ゾンビアタックぐらいかな・・・・・・」

「・・・つまり、特攻して無駄死にするぐらいしかないってことだね・・・」

 

 一夏は答えない。ラウラを相手に一人で挑んでも今の自分では勝てない事実を認めた時と同じように、今、二人がおこなっている戦いに乱入して生きて帰れる可能性が万に一つも見いだせなかったから。

 

 結果。本来のフランス代表と世界初の男性IS操縦者は二人だけで勝手に休戦して互いのペア同士による戦いを観戦し始めて、二対二の戦いが知らない間に一対一が二つずつという形に変わってしまっていたことを茫然自失状態の織斑千冬はまだ気づけていない・・・・・・。

 

 

「「ふんっ!!」」

 

 ガゴォォォッン!!

 

 互いの頭と頭をぶつけ合い、頭突きと頭突きをぶちかまし合い、のけぞり合う二人。

 すぐさまラウラは足を繰り出し、ジャンヌは伸びてきた足を掴んで引きずり込んでボディブロー。

 

「ぐほぁっ!?」

「へ・・・っ!」

 

 ニヤリと嗤うジャンヌだが、その顔もすぐに苦痛に歪む。

 ISによる装甲補正で防御力が上回っていたラウラが予想よりも早く立ち直って拳を振り上げジャンヌの顎目掛けてアッパーカットを叩き込む。

 

「ぐ・・・はぁ・・・っ!?」

「・・・ふっ・・・」

 

 ニヒルに嗤い、宙に打ち上げられた敵手を見送るラウラ。

 だが、「してやったり」の笑顔も長くは続かない。根性と負けず嫌いさでは相手の方がずっと上なのだから、ラウラが予想よりも早い立ち直りを見せた以上はノンビリと脳脳震盪など起こしてられない。即座に回復させて次なる打撃を叩き込まねば!!

 

「う、ぐ、お・・・・・・うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 ズゴォォォォォォッン!!!!

 

 打ち上げられた体勢からまともな打撃が出来なくて、両手の拳と拳を併せて脳天めがけて打ち下ろす!

 普通に考えたら空を飛べるISに取り、宙に浮かばされることは必ずしも行動の自由を奪われることではないと分かりそうなものだが、今の二人には分からない。不可能だ。なぜならそんな理性は殴り合いが始まる前に捨て去っていたから! 理性を捨てたせいで無くなってるから、殴り合っているのだから!

 

「ごふぅぅぅっ!?」

 

 言葉では表現できない衝撃に脳を揺さぶられたラウラが、自分でも意味不明な苦痛の声を上げる。女の子が上げていい悲鳴じゃなかったけど、そんなことは今の二人にとってどうでもいい。気にするぐらいなら今この瞬間の自分たちにはなっていない。

 

 ただ、目の前の敵に勝ちたい倒したい。自分の方が強いんだと叫びたい!!

 

 その一心で二人は殴り合う。IS使って殴り合う。

 そんな二人に対して心から言いたい。ーーIS外して普通に殴り合えよ、と・・・・・・。

 

 

「ぐ、お、あ・・・じ、ジャャンンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!!」

「ぎ、が、ご・・・ら、ラァウゥラァァァァァァァァァァァッッ!!!!!」

 

 

 再びの再戦。殴り合いが再開されました。ISバリアに有効なダメージを与えられるように計算されたIS武装使わないで殴り合うだけの戦闘のため、見た目のインパクトと違ってダメージ総量そのものは少なく、ぶっちゃけ操縦者自身の方が遙かに痛かったりする戦いを続けていく中、残っていた装甲とともにエネルギーは底を尽きていき、最後に残ったわずかな残量のみで形成された互いにとって最後の武器。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの鉤爪(クロー)。

 ラファール・キャバルリィ・ノワールの鋼鉄製グローブ。

 

 ・・・・・・VTシステムを乗っ取って武装が増えたはずなのに、元から持っていた武器すら使おうとしない少女たち。

 これでも彼女たちは、世の中を変えた最新鋭SFロボット兵器の扱い方を学ぶ学校の優等生である。成績表での話だけれど・・・・・・。

 

 

 

「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「・・・ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・」

 

 

 荒く息を吐いて方を震わせ合いながら、餓狼が如きギラギラした目で互いを睨み、低く静かな声で互いは互いの名を呼び合う。

 

 

「・・・ぜはぁ、ぜはぁ・・・ら、ラウラぁぁぁぁぁ・・・・・・」

「・・・げほっ、ごほっ・・・じゃ、ジャンヌぅぅぅぅ・・・・・・」

 

 

 死力を尽くして戦いあう。それが故の死闘。死闘の決着故に後は無し。

 互いに余力のない二人が残っている力のすべてを込めて拳を握り、万全な状態の0.1パーセントにすら満たない威力の攻撃に己が全てを込めて叩き込むため叫び合う!

 

「私はぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・」

「お前にぃぃぃぃぃ・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

「「勝つ!!!」」

 

 

 

 バゴォッ!!!!

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 ・・・拳と拳がぶつかり合って、乙女と乙女の勝負に決着の時をもたらす。

 ーーいやまぁ、正確には拳がぶつかってるのは相手の頬と頬であって、拳同士は掠りもせずに横を通り過ぎて行ってるんだけれども。拳に当たってたら痛みのあまり決着どころじゃなくなってたんだろうけども。

 

 それでも二人の乙女の拳が互いの顔面を捉えていたのは間違いなくて、当たると同時に一瞬の遅れもなく互いのISは粒子となって消え去っていて、二人は同時に倒れ込み、そのまま起きあがることなく倒れ続けている・・・・・・。

 

 

「ど、どっちが勝ったんだ・・・・・・?」

 

 観客の誰かが囁くように小さな声でつぶやいた。

 その疑問はアリーナに集まった人々すべてが共有する疑問であり、答えが欲しいと渇望して止まない今この時では至上の命題。

 

 

 どっちだ? どっちだ? どっちが勝ったんだ・・・・・・?

 

 隣の席に座る赤の他人とささやき声で同じ疑問をぶつけ合う観客たち。

 やがて彼らに、最後に残った勝利者が答えを“突き上げる”。

 

 

 

 バッ!!!

 

 

 倒れた二人の少女の内、灰色がかってくすんだ金髪の少女が倒れたまま手のひらを天に向かって突き上げる!

 

 

 そして!

 

 ぎゅ、ぎゅーーーギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!

 

 

 と、何かを握りつぶすように手のひらの指を一本一本曲げてゆき、最後には握り拳になるよう力を込める!

 

 

 ・・・いやまか、その仕草と彼女との間に関係性は皆無なのだが、“この仕草を知っているのはどちらの方か”を示す上では大変わかりやすい仕草だったのかもしれない。

 

 

 歓声が湧き、アリーナ全体を押し包み、勝利者の名を唱えて死闘の果ての勝利を祝福する!

 

 

 ーージャンヌ! ジャンヌ! ジャンヌ! ジャンヌ! ジャンヌ! ジャンヌ!ーー

 

 

 終わらない勝者を称える声を分厚い壁越しに聞きながら、ISバトルの先駆者にして教える側の専門家である織斑千冬先生が、ポリポリ頭をかきながらつぶやく声は誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

「・・・いや、エネルギーが切れた方が敗けのルールなんだから、さっきの一撃が当たった瞬間に双方引き分けだろ・・・?」

「あは、あはは、あははははは・・・・・・・・・」

 

 ーー訂正。千冬先生の隣にいて苦笑いを浮かべてる山田先生には聞こえてたみたいです。

 

 

 

 

 

「ーーなんか、あの二人に全部もってかれちまったなー。俺たちのことなんて誰も覚えてなさそうな状況だわ」

「だねー。あはははは」

 

 無視されてるのに楽しそうな笑顔でグチる一夏と、朗らかに笑って妹に出来た『初めての悪友』に感謝の想いを抱く妹の姉。

 

 二人にとって自分たちが試合で得た物は小さかったが、気分そのものは悪くない。むしろ久しぶりに気持ちよく、面倒事から解放された快眠を貪れそうだと安堵するほどに。

 

 

 ーーが、その答えはまだ早かったことを、一夏より先にシャルロットの方が感知する。

 偶然にも空を見上げた先に小さな天を見いだした彼女は即座にハイパーセンサーを使用。目標物の正体を見極める。

 

「・・・一夏。どうやら空気を読めない出歯亀さんは、どこの国にもいるみたいだよ?」

「あ? ーーなるほどな。確かに今の日本にはこういう奴らが多い。この前あったばかりだから、よーく分かるぜ」

 

 一夏も指さされた方を見上げてハイパーセンサーを使用。

 先月の試合で乱入してきた『人の心を理解できない=人の間の空気が読めない』無人IS二機がこちらに向かって飛翔してきているのを視認した。

 

「行くか?」

「だね。このまま乱入されたんじゃ、せっかく楽しんでくれてる人たちに申し訳が立たないし。気づかれないようソォッと出て、空で誰も知られない迎撃戦を仕掛けよう。織斑先生には怒られるだろうけど、無断で・・・ね?」

「わかってるさ。任せとけ。これでも俺は千冬姉に怒られるプロなんだからな」

 

 それ自慢になってないよーと、笑い合いながら二人はアリーナを抜け出して空へと飛び立つ。

 千冬が気づいた時には空中戦は始まっており、オレンジのラファールと純白の白式。前回とは違って“真っ黒い全身装甲の無人IS”は性能が大幅に強化され武装も変更されていたものの、“過去に千冬が使っていたものと似た刀を使っていたこと”が災いして一夏の逆鱗に触れてしまい。

 万全に近い状態の彼に勝つにはコンピューター程度だと荷が克ちすぎ、そのまま倒されて彼に経験値を与えに来ただけの踏み台ロボットにされてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 ーー試合終了後、しばらく後の保健室で。

 

「ーー私は勝つ! 私がお前を倒してみせる!」

 

 ぼやっとした光が天井から降りてきているのを感じて目を覚ましたラウラは目覚めた途端に起きあがり、頭に乗せてあった濡れタオルを吹き飛ばしながら吠え猛り出していた。

 

「どこだ!? どこにいるジャンヌ・デュノア!? 私はここだ! お前が倒すべき敵の私はここにいるぞぉぉぉっ!!! ーーーーーあ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 一頻り騒いでから、彼女はようやく気づくことが出来た。

 ・・・自分の吹き飛ばした濡れタオルを顔面にブチ当てられて張り付けられた状態にある旧師、織斑千冬先生が自分を見舞うために訪れてくれてたのだという事実を今更に・・・・・・。

 

 

「ーーーラウラ」

「は、はい・・・」

「お前には説教してやらねばと思ってきたのだが・・・どうやら杞憂に終わっていたらしい。自分で友達が作れるようになって良かったな」

「ーーは?」

 

 訳が分からず相手の顔を凝視するラウラ。

 それに対して千冬が見せた表情は、教官時代とも別れた時とも違う。なんだかよく分からない嬉しさと悲しさがような複雑すぎる感情を持て余しているような顔。

 

 やがて、ポンと彼女の頭に手を置いて視線を下げさせてからつぶやき捨てるように、こう言った。

 

「卒業おめでとうと言ったのだ馬鹿者。それぐらい言われずとも気づけるようになれ」

 

 そういって逃げるように保健室を出て行ってしまった織斑先生。

 一人残されたラウラは尊敬する恩師からの訳わからない言葉に頭の中を支配され、グルグルグルグル回りまくらせてから長い時間をかけてようやく答えに行き着いた。

 

 

 やはり、これしかないーーと。

 

 

 

 

 

 

 

 さらに翌日のHL前。ジャンヌ・デュノアは教室にある自分の席で突っ伏していた。机に突っ伏すことで、顔色を隠そうと最大限度の努力をしていた。

 今の彼女の脳裏に満ちるのは、昨日の晩に姉が言った意外すぎる言葉。

 

 

『ね、ねぇジャンヌ。い、今から僕と二人で一夏が一人で使ってる大浴場に僕たちに関しての秘密を打ち明けにいくよ。いい・・・よね?』

『ぶふぅっ!?』

 

 

 ・・・不意打ちにも程がある奇襲攻撃。やるならせめて、男相手に一人でやってほしかった・・・。妹を(年頃処女)を巻き込まないでよお姉ちゃぁぁぁん・・・・・・。

 

 

 

(・・・死ぬわ! 死にたいわ! あ、ああああ、あの男には、はははハダカ見られた翌日に平気な顔して挨拶なんて出来る訳ないし! 恥ずかしさで死ぬし! 恥ずか死ねるわ確実に!)

 

 真っ赤になってる顔を誰にも見られたくなくて、更に強く顔を押しつけて隠そうとするジャンヌ。

 が、耳まで真っ赤になってる中で顔だけ隠してもあまり意味はない。むしろ逆に強調されてバレバレである。

 

 ・・・相変わらず変なところで遺憾なく残念さを発揮しまくる少女だった。

 

(ああ、ダメ! 死ぬ! 死んじゃう! 恥ずかしさで体の奥から炎が燃えだしてきて焼け死にそうだわ! いっそ殺して! 焼き尽くして! 焼き滅ぼして浄化して! 

 穢れる前の清い心と体を持ってた私に戻るため、火刑に処して! 煉獄の炎で焼き清めて頂戴! ジャンヌつながりでジャンヌ・ダルクみたいにぃぃぃぃぃぃぃっっ!!)

 

 歴史上の偉人に対して大変失礼なことを思っていると自覚せぬまま、ジャンヌは顔を突っ伏したまま右手で机をバンバン叩き出す。周囲の女子たちがビクッ!となってヒソヒソと話し出してるところを突っ伏してるせいで見えないまま、知らず知らずのうちに醜態と恥をさらし続けるフランスから来た残念美少女ジャンヌ・デュノア。

 

 彼女の未来はいったいどこに辿り着けるのか!?

 

 

「み、みなさん、おはようございます・・・」

 

 副担任の山田先生が入ってきたのが聞こえたけど、無視する。そりゃ副担任なんだから来るでしょ、当たり前じゃん。と、ひねくれ台詞を心の中で吐き捨てながら山田先生の挨拶を聞き流そうとする。

 

 ・・・なんか口元が引き攣ってるときみたいな声が出てる気がするけど、気のせいよ。ええ間違いないわ確実に。少なくとも今朝の食堂で妹を置いてどっかに行った本当は姉の兄なんか全く以て関係しているはずがない。気のせいなのよ、杞憂だわ。『先に行っててジャンヌ、ボクちょっと準備してくることがあるから』なんて普通の姉妹でも姉が妹によく言う言葉よ知らないけれどきっとそう。

 

 ーーーだからもうこれ以上、私が恥ずかしい思いをさせられる可能性は万に一つもあり得ない・・・・・・。

 

 

「今日は、ですね・・・みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでるといいますか、ええと・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・気のせい、気のせい、気のせい、気のせい・・・・・・

 

「じゃあ、入ってきてください」

「失礼します。シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。ということです。はぁぁ・・・・・・」

 

「ということです、じゃねぇぇわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!!!」

 

「ヒィィィィィィ!!!!?(ビクビクビクッ!!!)」

 

 ジャンヌ・デュノア大激怒! 自分が裏切ることは悦しめるけど、裏切られるのは我慢できない性格の彼女は、信じていた(普段の状態は)優しい姉の裏切りに思わず立ち上がり掴みかかろうとする!

 

「アンタ! 親父から言われた命令はどうしたのよ! どうする気なのよ!? 正体さらしちゃったら作戦第一段階失敗確実になっちゃったじゃないの!?」

「うん、そうだねジャンヌ。だから作戦は第二段階に移行。ボクたち二人で一夏を誘惑する方向に進路変換だよ☆」

「なぁっ!?」

 

 思わぬ急展開に、予想外の事態には突撃以外に打つべき手を持たないイノシシ妹はフリーズしてしまい、恋愛沙汰に関してだけは勇猛果敢でジャンヌによく似たC4突撃を好むシャルロットはニッコリと微笑んで妹の将来のため『退路を断つ』。

 

「ジャンヌだって今更問題ないでしょ? だってボクたちは昨日の夜、お風呂で一夏に色々見られているんだし・・・・・・」

 

 ダッ!(一夏、白式を展開して教室の窓から猛ダッシュ)

 

 バシュンッ!(セシリアたち、ISを展開して発砲して一夏の逃亡を即座に阻止)

 

「あらあら、一夏さん? どこかにお出かけですか? 実はわたくし、前からご相談したいと思っていた急用を今さっき突然に思い出しましたので、その予定はキャンセルしていただたきたいのです。如何でしょうか?

 もちろん、無理にとは申し上げませんけど・・・(がちゃこん)」

「いや、セシリアちょっと待て! その言い方はおかしい! 主に右手で構えたライフルの部分とかが!!

「・・・一夏、貴様どういうつもりか聞かせてもらおうか。無論、無理にとは言わない。日本国民には自由が約束されている。

 だからこそ、聞かせたくないのは死を覚悟して言わぬ道を選んだのだと解釈する」

「待て待て箒! 説明を求めたいのは俺の方だし、お前にとって自由とは何なのかについても聞きたくて仕方がなくなってる今この時なんだが!?」

「一夏、アンタを殺すわ」

「鈴、いつどこから乱入してたのかは知らんが、とりあえず落ち着け。お前のそれは脅迫でも攻撃開始宣言でもなくて、単なる危ない人の一言だ」

 

 

 シャルロットを男だと思いこんでた面々(変なところで一夏と同レベルになる人たち)は、ジャンヌと言うライバル一人だけが加入したと思って堪えてたのに二人もラバーズ入りした後だった事実を事後報告で聞かされて怒り狂っていた。

 

 この中で唯一説明してくれそうなジャンヌは、姉に迫っていてこちらのことなど見ていない。自分一人でどうにかするしか生き延びる道はない一夏が必死に生存へと続くか細い光明を探し回っていたのと同じ頃の同じ教室内で当のジャンヌ・デュノアもまた窮地に陥る寸前だったという事実を、これから知ることになる。

 

 

「どうすんのよアンタ!? どうしてくれんのよアンタ!? 私の女としてのプライドは!? 貞操は!? 初めてのナニやソレは!? 乙女にとって大切にしてきた物を色々返せコラーーっ!!」

「うーん・・・ジャンヌの場合、たぶん無理なんじゃないかなぁー・・・いろいろと全部、後の祭りになってると思うし・・・」

「どういう意味よ!? ーーーっ!? か、身体が動かない・・・? これは!?」

「ーー私だ」

「ラウラ! ドイツの狂犬め! 生きていやがったわね丁度いいわ! 私の今この瞬間に堪りまくったストレスを発散させるため模擬戦しなさい! 私にブチのめされなさい!

 そうすれば少しだけだけど私の気も晴れてスッキリと眠れ・・・何やってんのよアンタ?」

「ん? 見て分からんのか? 誓いのキスだ」

「はぁっ!? ちょ、おま、気でも狂ったかこのバカ! あと、AICはずせ! 卑怯だぞマジで! 生身の相手にIS武装を使用するなーっ!?」

「フランスでは気に入った相手を穢すことが友愛の示し方だと聞いた。故に、私はこれからお前の唇を奪って陵辱し、穢し尽くす」

「どこのフランスだ!? いつのフランスの文化だ!? そんなキチガイ文化が一般的だったフランスは歴史上に一度たりとも実在しない! 二次元だフィクションだ創作物の中にしかない空想上のフランス文化だ! 現実とフィクションを混同した挙句に人の唇を奪おうとするなー!!」

 

 ジタバタと暴れてみるがビクともしない。さすがはドイツの最新型ISに装備された第三世代武装。捕らえられなければどうという事はなくとも、捕らえられてしまうとチートに近い。生身の力で抜け出すのは容易ではない。

 

「く、クソっ! こうなったらノワールを展開して・・・って、うわぁっ!? やめろ! 唇をタコみたいに突き出しながら私を待ち受けようとするな! 引っ張るな! 第三世代武装を間違った使い方で穢そうとするな! 待て!待て! お願いだから待ってくれ! な? な?

 話せば分かる話せば分かる話せば分か・・・る・・・・・・い、い、いやぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

つづく?




VTアヴェンジ・システムの説明:

『コイツに勝ちたい、負けたくない』と言った自分以外の誰かに対して強い対抗意識を感じた時だけ発動する一時的なパワーアップ機能。後に箒が受領する紅椿の『絢爛舞踏』と発動条件が似ているが性質は真逆。

『誰かと共に歩んでいく』のは同じでも、「支え合い」や「支えられたい」と言った女らしい感情からくる男女の関係ではない。
「私はこれだけやった。次はお前だ。さぁ、どうする!?」な感じで、ライバルめいた友情が基になっているシステム。


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第6話「乙女たちの心は晴れのち曇り、もしくは曇天模様」

『一夏・・・・・・』

『シャルロット・・・・・・』

 

 暮れなずむIS学園校舎の廊下で、織斑一夏とシャルロット・デュノアは互いの瞳を見つめ合いながら徐々に身体をの距離を縮めていたーーー

 

「ーーあ、れ?」

 

 そして、キスするかしないかの直前に目が覚める。甘い夢から目覚めた先に広がっていたのはIS学園にある自室だった。

 

「はぁー・・・なんだ夢かぁ・・・」

 

 はい、その通り。夢落ちです。思春期女子で初恋相手と初めて出来た男友達が同一人という女尊男卑な今の世の中だと恐竜の化石かオーパーツ並に希少な美少女シャルロット・デュノアは、お約束的な朝の目覚めを余韻と共に満喫しながら布団の中で体を起こす。

 

「よ、よく考えてみたら学校の廊下でなんてことしてたんだろうね僕たちは・・・あは、あはははは。ーーでも、せっかく夢ならもうちょっとえ、エッチな内容でも僕は全然構わな・・・・・・って、何を言ってるんだろうね僕は!? ちょっと浮かれすぎちゃってるのかな!? でも、しょうがないよね!? 初恋なんだから!?

 ジャンヌだって、そうでしょ!?」

 

 妹が出来たことにより一人で過ごす時間が物理的に短くなったせいで独り言が多くなっていたシャルロット。

 たいていは近くにいる妹に聞こえるように言って返事が返ってきてたから、事実上の会話になってた一人語り形式の内心吐露の癖を初めての恋愛で情緒不安定になってる彼女は遺憾なく発揮して腹違いの妹に同意を求めてみたのだが。

 

 

 

 

「シラナイ。私ハ、モウ誰モ信ジナイ・・・・・・」

 

 

 

 ーー返ってきたのは、夜通しゲームやりながら布団かぶってた引きこもりゲーマーな妹の機械口調ボイスによる回答拒否。

 ブルマーが学園指定で体操服に復権しているIS学園内にありながら、着ているパジャマ代わりの服装はジャージ。青色で名札の部分には「じゃんぬ・でゅのあ」と記された、今時ブルマー以上にどこで手に入れられるか不明な物品を身にまとったジャンヌは死んだ魚の目をして画面を見ながら、機械的動作で古典的名作RPGを再プレイ中。

 

 嫌なことがあると思い出の中に逃避したくなるオタク系女子のダメな部分全快で、トーナメント決着からの約一ヶ月間を過ごしてきていたフランス代表候補ナンバー2、シャルロット・デュノアの実妹ジャンヌ・デュノア。

 

 彼女は先月終わりに負った心の傷からいまだに立ち直れていないまま、家(寮)と学校の距離が近いからサボる口実には使えない事実だけを寄る辺にしてIS学園と自分との関わり合いを繋ぎ止めていた。

 

 とは言え、それはあくまで「学校には通えている。登校拒否児にはなっていない」と言う程度の意味しか持たず、彼女の日常は最初の一日目から変わることなく荒みきっていた。

 

 食べたお菓子の袋はほったらかしのまま、しばらくしてゲームが一段落したときに捨てに行く。服は着替えず何日も何日も着た切り雀のヨレヨレジャージを着心地がよくなって過ごしやすいから長らく愛用し続けている堕落振り。ーーあんまし入学前から変わった様子がないかもですね。

 

 

「愛ナンテ偽リ。ニセモノ。コノ世ハ全部ウソダラケ・・・・・・ダカラ私ハ、ファーストキッスヲ女ニ奪ワレタリナンカシテイナイ・・・・・・」

「相当に重傷だね、これは・・・」

 

 思わずシャルロットは、人差し指をこめかみに当てて頭痛をこらえる仕草をしてしまうほどジャンヌのトラウマ震度はヒドいものだった。ヒドすぎていた。

 このままだと本当に出家して、修道院かどこかの僧院にでも入り「生涯を神に捧げます」とか言い出すんじゃないかと思えてくるほどに。ジャンヌ繋がりだけにね。

 

「あのさ、ジャンヌ? 気持ちは分からなくもない・・・いや、実際にはあんましよく分からない、分かるようになりたくない難しい問題だとは思うし、僕も悪いことしちゃったかもなーって反省していることだけどさ? でも、そろそろ外にぐらい出たっていいんじゃないのかな?

 だって、ホラ見てよジャンヌ! お日様と空気がこんなに気持ちいい!」

 

 バサァッ!と、閉め切って暗くしていた部屋のカーテンを思い切りよく開け放ち、夏の太陽の日差しを存分に浴びながら健康的でボーイッシュな魅力にあふれた美少女の姉シャルロット・デュノアが微笑みを向けると妹は。

 

 

「ぎゃああああああっ!? 直射日光がぁぁぁっ!? 太陽光線がぁぁぁっ!?

 焼ける焦げる腐った性根と根性が灰になるぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!!!!」

「吸血鬼か!? 僕の妹は!!」

 

 

 久しぶりに陽の光をモロに浴びて身体が拒絶反応を起こしてしまったジャンヌは、ゴロゴロ、ゴロゴロ床を転がり逃げ回り。姉からの全力常識ツッコミは非常識な生活が日常と化しているオタク少女の耳には絶対回避で完全スルーされてしまうのだった。

 

 学校と寮を往復すること“だけ”が外出のすべてという生活を約一ヶ月間続けてきたジャンヌの身体はすっかり環境に適合してしまっており、直射日光に当て続けるのは厳禁な精密機器であるゲーム機一式を取りそろえて持ってきていた引きこもり用カスタマイズを施された学園寮の自室に寄生していた今の彼女にとって強すぎる日の光は毒であり、身体に為になってはくれない。むしろ健康を損ない体を壊す有害物質となり果てていたのである。

 

「・・・はぁ。全くもう、ボクたちの立場を認めさせる活躍で見直してたのに、すぐダメにしちゃうんだから。ジャンヌの天の邪鬼~」

 

 膨れっ面をして見せながらシャルロットが言う、ジャンヌの活躍。それは前回のトーナメント戦決勝で見せたVTシステムを乗っ取ったVTAシステムについてのことだ。

 あのシステムは、ただでさえ非人道性が問題視されていたのもあって研究者たちの間では欠陥品という認識で一致していた事実上のガラクタでしかなかったのだが。

 “アレ”でジャンヌが示した成果は意外なほど大きな広がりを見せ、研究開発及び数少ない成功例の一つ《ラファール》にも再度注目が集まってきていた。

 

 なにしろISコアには限りがあり、専用機は一度造ってしまうと簡単には研究用に解体することは出来ない縛りがある。国益を損なう上に、そもそもが一点物なため別の機体で成功したシステムが自国の機体に適合するのか否か未知数すぎている。

 その点、ノワールはジャンヌ専用のカスタムがなされているとは言っても、所詮は量産機がベースとなったマイナーチェンジ機でしかない。一個人のためだけに特注された専用機よりかはシステムの方を合わせやすい上に、金さえ払えば手に入れられるという利点はワンオフ機以外ほとんどない専用機では決して獲得できない優位性でもある。

 

 もう一機の成功例がドイツの最新鋭機で専用機でもあるシュヴァルツェア・レーゲンだったことも重なり、今デュノア社にはラファールの発注と研究開発のために投資したいとする電話が殺到している旨を、先月の性別自白発表イベント開催前日に父から電話で聞かされていたシャルロットは妹を大いに見直して、お礼に幸せのお裾分けをするつもりで前回のアレを引き起こしてしまったわけのなだが。

 

 ・・・・・・完全に裏目に出てしまい、逆効果の極地状態になってしまっていたーーー。

 

 

「お父さんから『ジャンヌを褒めてやってくれ』って言付けられるほど大活躍したばっかりなのになぁ・・・」

「ーーいいじゃない、別に。今日は休みなんだし、誰にも迷惑かけてないんだからゲームやらせてよ。もう少しでクリアなのよ、このゲーム。『7人の英雄伝説3』って言って、スーファミ時代に流行った名作で・・・・・・」

 

 

 

 

 バシュッ!(非オタのシャルロットが、ゲーム機の電源コードを引っこ抜く音)

 

 ぶつん。(画面がブラックアウトして、ラスボス戦中のゲームが記録ごと消された音)

 

 

 

 

「何すんのよアンタはーーーーーーーーーっ!?」

「休みの日に朝からゲームなんて良くありません。若いんだからお外に出て遊びましょう。

 ーーと言うわけだから今日は一日、僕と二人で一夏と一緒にダブルデートで決定ね☆」

「diable(ディアーブル/悪魔)かよ!? 普通に死ぬわ!?」

 

 心優しい姉からの気を利かせてくれた悪意なき処刑宣告。

 裸を見られたばかりの相手にファーストキスを同性の女に奪われるところまで続けて見られてしまったから恥ずかしさで引きこもっていたというのに、すべてを台無しにして盲目的に恋に向かって突き進もうとする姉の猪突猛進ぶりに流石のジャンヌもドン引き気味。二人はやっぱり血のつながった姉妹みたいです。

 

 

「私、次アイツと会って話しかけられたら殺すか死ぬかのどちらかしか選べない自信と確信が有り余ってたから今の今まで精神的にも物理的にも引き籠もり続けていたんですけど、そこん所をもう少しだけでも配慮していただけませんかしらねぇ!? シャルロットお姉様ぁっ!?」

「そんなこと言っても、もう少しで臨海学校に行く日が来ちゃうんだから、今の内に慣れておかないと大変なことをしでかしちゃうかもしれないんだよ? それでもいいの? 大丈夫なの? 本当の本当に?」

「う。そ、それはぁ・・・・・・」

 

 ジャンヌは口ごもって、言いよどむ。

 確かにマズいのだ。今のままでは夏休み前、直前になって行われる夏の臨海学校で一夏と遭遇してしまったときにノワールを展開してワンオフ・アビリティを使わないでいられる自信は皆無なのだから。

 

 せめて水着姿を見られても、普通にショット・ランサーで串刺しにしようとしてしまう程度に押さえられるようにならないと、自分は殺人犯として刑務所に入れられゲームとお別れしなければならなくなってしまう・・・!

 

(そんなのはイヤだ! 絶対に! 発売直後から売り切れ続出で続編決定した『7人の英雄たちと・・・』が買えなくなっちゃう!)

 

 ジャンヌは姉の挑発に乗る決意を固めた。(注:普通は槍で刺し殺そうとしただけで殺人未遂ですが、IS学園で一夏が殺されそうになるのは日常茶飯事なので誰も気にしてません。治外法権だからか法律の解釈がいろいろおかしい学校がIS学園です)

 

 

「・・・わかった、行くわ。行けばいいんでしょ?」

「よかった! ジャンヌなら分かってくれると信じていたよ! ジャンヌ大好き!」

「・・・・・・ふん」

 

 姉に抱きつかれて、そっぽを向くジャンヌ。

 頬が赤く染まっているのを隠そうとしたのがバレバレであっても指摘しないで上げている、優しい姉のシャルロット。

 

 

 ・・・二人の関係がこうなったのには理由があり、それは二人が知り合う前まで遡られる。

 

 ジャンヌはもともと考えるのが苦手ではないが『嫌い』な子供だった。

 物事は単純でシンプルな方がいいに決まっているし、グダグダ考えるよりかは殴り壊してしまった方が手っ取り早くていい。心の底からそう信じて生きてきた暴走好きな女の子がデュノア社の社長令嬢ジャンヌ・デュノアだったのだ。

 

 だが、その一方で世の中がそれほど単純に出来てはいないことぐらい十六年近く続いた社長令嬢人生の中で理解してもいた。

 だからこその、お嬢様な仮面。礼儀作法という決められたレールの上を乗って歩くだけでいい、考えることは何もない台本を演じるだけの役割をそれなりに美味くこなしてきたつもりでいる。

 

 ただ、正直な気持ちを白状するなら「面倒くさいなぁ~」の、一言に尽きていた。

 

 壁があるならブチ抜きながら突き進んでやればいい。ムカつく奴には語って聞かせるよりも、拳で語り合った方が手っ取り早い。どこに走るのかで迷うよりかは、走り出した方へと向ってまっすぐ進んで行くのが一番楽だ。

 

 

『迂回とか後退とかまだるっこしい単語が載ってる辞書なんて焚書よ! 焚書! 燃やしながら貫き進んでやればいいじゃない!』

 

 

 ・・・そう言う思考パターンをしてしまう性質の持ち主であり、そう言う考え方を好む人間なのだと幼い頃から自分を理解していた彼女は『指揮官』を求め続けて生きてきた。

 

 『自分をもっとも上手く使ってくれる指揮官に、自分という槍を委ねたい』。

 それがジャンヌ・デュノアと言う少女が幼女時代から抱き続けてきた願望であり、姉が現れてからスッカリ依存するようになってしまった理由である。

 

 自分は槍だ、とジャンヌは規定している。槍で、騎馬で、騎兵こそが自分なのだと幼い頃からジャンヌは自分自身を決めつけて、もっとも優れた槍で騎馬で騎兵になろうと努力してきた。

 騎兵は突進力が最高の武器だ。勢いを殺がれてしまった騎兵など、単なる的でしかない。突撃と猛進こそが自分という騎兵にとって一番相性のいい生き方(戦い方)だったから。

 

 だからと言って、ひたすら突進し続けたのでは息切れして矛先が敵の喉元に届くかどうか、勝敗が運任せになってしまう。それは嫌だ。

 戦うからには勝ちたかったし、負けるよりも勝った方が気持ち良い。

 

 的確なタイミングで最適な場所に自分を投入してくれる指揮官が自分には絶対に必要不可欠なんだと確信していたジャンヌにとって、包容力があって頭が良くて冷静な姉のシャルロットが登場したことは天恵に均しく内心でめちゃくちゃ喜びのダンスを踊ったりした。・・・表面的には仏頂面でぶっきらぼうに挨拶しただけだったけど。ひねくれ者な天の邪鬼だから。

 

 

 ーーそう言う理由から、シャルロットの妹になってからのジャンヌは日常だとあまり物事を考えない少女になってしまっていた。

 苦手分野にキャパを割くより、得意分野の戦闘で突撃するとき威力を少しでも上げるにはどうすればいいかを考えてた方がまだしも役に立つだろうと確信しながら日常生活と学園生活を送るアブナイ女子高生になってしまっていたのである。

 

 

 ・・・まぁ、だからこそ今この時この場所で、アホなやり取りをしなけりゃならなくなっているのだけれども。

 

 

 

「それで? どこへ何しに、何を求めに行くつもりなの?」

「駅前のショッピングモールだよ。臨海学校で着るための水着を買い替えようと思ってるんだ。学園指定のスクール水着はさすがにちょっと・・・この歳だとね(赤~///)」

「は? なんでよ?」

「え? なんでって・・・・・・ジャンヌは気にならないの? スクール水着なんだよ?」

「なにがよ? 萌えられるし良いじゃないの、旧型スク水」

「・・・・・・」

「ああ、競泳水着がダメって訳じゃないのよ? 『ケツ女!!』は面白かったしエロかったし、女子高生が着る競泳水着は小学生にスクール水着の組み合わせと甲乙つけがたい事実を思い知らされたし。

 私も買うなら、ああいう使い方を検討しておいた方がいいのかしら・・・・・・って、シャルロット? なんで顔が怖くなってるの? え、笑顔が怖いわよ? ちょ、シャ、やめ、許してお姉ちゃんーーーーーーっっ!?」

 

 

 ぶつん。(ジャンヌが意識を自分で切った音)

 

 

つづく



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第7話「海に着いたら、暑かった・・・」

「海っ! 見えたぁっ!」

 

 トンネルを抜けた先に海を見つけたIS学園1年1組の女生徒たちがバスの中で歓声を上げる。

 

 臨海学校初日、天候にも恵まれたバス移動の最中も男女比率99.9パーセントが年頃乙女なIS学園の生徒たちは今日も姦しかった。

 

「おー。やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」

「う、うん? そうだねっ」

 

 名は体を表すを地で行く男、織斑一夏は一年中真夏のテンションで席が隣り合ったシャルロットに話しかけ、先日の水着買い換えイベント中にプレゼントをもらえたシャルロットは心ここにあらずの心境で同意を示す。

 

 ぶっちゃけ意思疎通が成り立ってない会話であったが、脳は個別のもので世界観も主観も個人個人によるものでしかない人間の場合は必ずしも真実やら理解の共有は必要ない。

 ただ『相手に自分の思いが伝わったから返事を返してくれた』という、結果から逆算された思い込みで会話を成立している風に見せかければ済む話である。

 

 例を挙げてみよう。例えばこの二人ならば、

 

「それ、そんなに気に入ったのか?」

「えっ、あ、うん。まあ、ね。えへへ」

 

 『自分に似合うと思ったのを選んで欲しい』とお願いして一夏にプレゼントしてもらったブレスレットを眺めながら思い出し笑いに笑みを漏らす元男装少女のシャルロットと、それを見やりながら「こんなに気に入ってくれると、高いもんじゃなかったのが逆に申し訳ないなー」と感想を抱く朴念仁で人の好意に鈍感な「想いの大切さを説く少年」織斑一夏。

 

 彼らの一方通行な想いと思いのすれ違いにより発生している絆の強さで敵と戦う宿命を負った少年少女たちの存在こそが、人と人は決してわかり合えず繋がり合うこともない宇宙が終わるその時まで孤独のままに過ごすだけの寂しい生き物であることを証明していると言えるのではないだろうか?

 

 

 

「・・・字、あまり・・・・・・」

 

 窓外に映し出される大海原を眺めながら「グデ~・・・」っと伸びてるシャルロットの妹ジャンヌ・デュノアは、そう締めくくる。

 今朝の厨二哲学的に見た腐った世界への考察はいまいちな出来だった。今少し客観的な論旨に基づき理論を展開すべきだったかもしれない。明日の次回までに改善が必要である。字余り。

 

 

「まったく、シャルロットさんたら朝からえらくご機嫌ですわね」

「うん。そうだね。ごめんね。えへへ・・・・・・」

「??? (ま、いいか)向こうに着いたら泳ごうぜ。箒、泳ぐの得意だろ?」

「そ、そう、だな。ああ。昔はよく遠泳をしたものだな」

 

 

 思い思いの挙動と理由で青春を満喫している十代の健全な肉体と精神の持ち主たちは、いつも以上にハイテンション! はしゃぎにはしゃいで騒ぎ立てる!

 ・・・すべては夏の魔力が成せる業。夏という季節は人を狂わせる魔力を秘めている。

 ぜんぶ夏が悪いのだから!!

 

 

 

「・・・あぢ~~~・・・・・・クソあぢ~~~・・・・・・マジあぢぃ~~~~・・・・・・いくらなんでも暑すぎでしょ日本の夏・・・。

 温暖化とか環境破壊とかどうでいいから休み取りなさいよ太陽。マジ暑苦しい・・・・・・」

 

 

 ――そんな中。

 夏のきらめく日差しの下で遊ぶよりも、エアコンの効いた屋内でゲームしていたいと願う腐った精神と肉体を持つ十代女子のジャンヌだけは普段以上にローテンション。ぜんぶ夏が性悪だから悪いのだ。(注:よい子は絶対真似しちゃいけない、悪い子の思考です)

 

「だいたい同じ夏でも暑すぎるでしょ、日本の夏って・・・フランスだともう少し涼しかったはずなのに、どういう理屈よこれは。誰か出てきて説明しないよコラ」

 

 柄の悪い目つきと口調でブツブツ言いながら、バスの座席で一番後ろの隅っこに陣取り携帯ゲームに興じている、転んでもただでは起きない悪い子ジャンヌは今日も平常運行中です。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

『は~~~い』

「え!? ちょ、ま、今ちょうどいいとこなのに!? ジーク様から告白されるまでカウントダウン入ったばかりなのに!? お願いだから後1時間だけ到着待ってよーーっ!!!」

「長すぎるわ大馬鹿者ーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

「あべしっ!?」

 

 ・・・割と本気で今日も通常運行中のジャンヌ・デュノアちゃんでした・・・。

 

 

 

「・・・あー、痛てぇ・・・。ちょっとゲームしてただけで、あんなに怒ることないじゃないのよ。織斑センセーの切れキャラウザい。

 そんなだから実弟相手にツンデレるほど男日照りになるのよ、あのブヒルデ様は」

 

 拳骨食らった頭頂部を押さえながら、涙目でブツブツしつつもしっかり水着には着替えて海にも向かうジャンヌちゃん。なんだかんだ言いつつも海のバカンスには興味津々なお年頃の娘です。

 

「海・・・いいわよね、憧れるわ。――ノルマンディー公ウィリアムによるイングランド王国征服! エドワード糞太子の病没に、戦争不景気でイングランド軍撤退! ザマーミロ!

 シャルル5世賢明王万歳! くたばれ神輿王シャルル7世! 地獄に落ちろっ!! 名前繋がりで子供の頃からバカにされててムカつくのよアンタは! お姉ちゃんの偽名にまで使われて呪いにきてんじゃねーーーっ!

 海の向こうの異敵の、くっそバカ野郎ーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!」

 

 ・・・興味の持ち方が斜め上過ぎてて、ちょっとだけ怖い美少女ジャンヌ・デュノア十六歳。

 最近、中古ショップで購入したPSPソフト『ジャンヌ・ダルク(SEC)』にハマっている女子高生です。

 

 

「・・・ん? アレって、もしかしなくても・・・織斑とシノノノ? 何やってんのかしら、あんな所で・・・」

 

 ひとしきり叫んで(厨二心的に)満足して、海へと向かう歩みを再開したジャンヌは前方に見知った二人組を発見した。男女ペアの一人ずつだ。

 

 馬シッポみたいな髪型の女は、おそらく篠ノ之箒。ツンデレ侍でキリリとしてて、内面はヘタレの内弁慶少女なクラスメイトだ。

 真面目なくせして根がエロいという、お前はどこの猫又侍かと問いたくなるほどの王道を行く日本の侍ガールキャラ定番設定の量産機乗りでもある。

 

 もう一人の男は、織斑一夏だ。――以上、説明終わり。コイツについて私が今更言わなきゃ知らないことなんてないでしょ。なんか文句ある?(ギロリ)

 

 

「えーと・・・・・・抜くぞ?」

「好きにしろ。私には関係ない」

 

 

 二人は道端で地面を見下ろしながら何かについて語り合っていた。

 この位置からでは何かが見えないし分からないので、ひとまずジャンヌが思ったことは、

 

(聞きようによっては、めちゃくちゃエロかったわよね。今のやり取り)

 

 ――だった事を、ここに明記しておくものである。・・・誰も要らんと思うけれども。

 

「そ、それじゃあ失礼して・・・せー、の!」

 

 キィィィィン・・・・・・。

 

「ん?」

 

 一夏が何かを抜こうと踏ん張りだして、ほぼ同時に上空からも変な音が聞こえてきて、しばらくしたらニンジン型ロケットが空から落ちてきてドッカーンと着地して織斑たち驚かせ、

 

 

「あっはっはっ! 引っかかったね、いっくん! 束さんは学習する生き物なんだよ、ぶいぶい!」

 

 と、ニンジンの中からエプロンドレス姿で機械のウサ耳つけた三十路前でピンク髪の女が出てきて騒ぎまくりだした。

 

 

「・・・・・・」

 

 白い目になったジャンヌは、それからようやく一夏たちに向かって歩いて近づき始める。

 

 

「お、お久しぶりです、束さん」

「うんうん。おひさだね。本当に久しいねー。ところでいっくん。箒ちゃんはどこかな? さっきまで一緒だったよね? トイレ? まあ、この私が開発した箒ちゃん探知機ですぐ見つかる――――」

 

 

 

「ねぇ、一夏。その変なコスプレしたオバサン誰よ? 有明にはまだ時期が早いし、場所も間違ってるじゃない。マナーを守らないオタクはみんなの邪魔になるんだからちゃんと排除しときなさいよね、まったくもう」

 

 

 

 その瞬間。ジャンヌの放った悪意なき一言により世界の刻は止められてしまった・・・・・・。

 

 

つづく

 

 

 

おまけ「一夏君とジャンヌちゃんと束さん」

 

一夏「えーと・・・ジャンヌさん? 知ってると思うけど一応言っとくと、この人は篠ノ之束さんな?」

 

ジャンヌ「知んないわよ。誰よその人。篠ノ之箒の又従兄弟かなんかなの? 日本人は似たような名前多すぎて分かりづらいんだけど?」

 

一夏「えー・・・」

 

束「・・・ふっふっふ・・・こ、この天才の束さんを前にオバサン呼ばわりとは勇気ある子だねぇ・・・言っておくけど束さんはまだ二十八――――」

 

ジャンヌ「いや、オバサンでしょ? その年齢だったら十分すぎるほど。二十過ぎた女はみんなオバサン呼ばわり確定キャラ。これ、日本のラノベ業界では一般常識よ?」

 

一夏・束「「マジで!? どうなってんの日本の少年向けライトノベル業界!?」」

 

(注:束さんの同級生な姉を持つシスコン一夏)



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第8話「『天災篠ノ之束を知ってるかい・・・?』『知らない(ドキッパリ)』」

 前回までのあらすじ。

 

 IS学園臨海学校宿泊先の旅館から海へと続く丘の上において。

 天災ウサミミMAD篠ノ之束(二十代後半、三十路前)は、フランスから来た巨乳女子高生ジャンヌ・デュノアから生涯初の『オバサン』呼ばわりされて刻を止めておりました・・・。

 

 

 

「あ、あの~・・・ジャンヌさん? この人って一応、篠ノ之束さんなんですけども・・・?」

 

 雰囲気的に(主に束の雰囲気最優先な理由により)思わず敬語をつかった疑問形で確認を取ってしまう織斑一夏。世界最強にして最恐でもある姉を持つ身として、その人の親友が如何に規格外でエキセントリックな行動に出るかを知るが故の臆病さからくる言動だったのだが。

 

 ――残念ながら、ゲームとキャラクターに興味をもっても脚本家と声優にはあんまし興味ないライトゲーマー・ジャンヌちゃんに思いの丈はチリほども届いてはもらえなかった。

 

「・・・・・・??? それはさっき聞かされたばかりだけど・・・え、なに? この人ってIS学園生なら知っとかないとヤバいIS関係者か何かだったりするの?」

「い、いやー・・・。関係者と言えば一番の関係者で、当事者レベルの人でもあるんだけども・・・」

 

 ぶっちゃけ、開発者ご本人様です。

 そう断言してしまえば済む話なんだけど、一夏にとっては当たり前すぎて説明したことも無い常識だったため即座に頭が働いて反応してはもらえなかった。

 

 当然だ。彼にとって幼少期から少年時代における一番親しく過ごした人たちの内の一人でもある篠ノ之束が世界を変える大発明をしたことは女尊男卑云々は別として素直にスゲーと感心している事柄だったし、何よりも家族が少なく身内寄りの価値基準を持つ彼にとって身内の一人で箒の実姉でもある彼女は大切な人の一人でもあるのだから。

 

 あと、付け加えるなら彼の既知世界は意外と狭く、バイト経験ある割にはテレビやネットも大して見てきてない情報オンチでもあったから世間一般の常識については疎いのである。

 

 

 『ISを作った篠ノ之束は天才であり天災。それは誰もが知ってて当たり前の常識』

 

 

 ――そう言う基準が彼にはあって、そこから斜め上にはみ出し過ぎたジャンヌのオタク的価値基準は彼から見て文字通り『言葉が通じない外国人のもの』でしかなかったのである・・・・・・。

 

 

 

「・・・学校で習った教科書とかで見たこと無いか? ISを開発した天才科学者の篠ノ之束さんが、この人本人なんだが?」

「あ。・・・あ~、あ~・・・言われてみたら居たわね確か、そんな感じの人が。――子供の頃に習ったっきりで忘れてたけど(ボソリ)」

「今、なにか物スゲー不穏当なつぶやき発しませんでしたかねジャンヌさん!?」

 

 またしても普段タメ口が基本の一夏による、敬語ツッコミが炸裂した!

 背後から感じられるプレッシャーが勢いを強めていく一方な彼は必死だ!!

 

 ・・・だが、オタク少女ジャンヌ・デュノアには効果が薄かった!

 

「ち、違うわよ! 覚えてるわよしっかりとね! 教科書に載ってるような超有名人だし、IS学園の授業でも名前だけならしょっちゅう聞かされてる人なんだから覚えていて当然じゃない!!

 そんな奴を私が知らないとでも思ってたわけぇ!? バカじゃないの!? バカなんじゃないのアンタって!?

 ・・・ただ、知ってて当たり前な状況がずっと続いてきたせいで顔と本名がちょっとだけ記憶から飛んでたってだけで忘れてた訳じゃ無いんだから、そんな恐い顔して怒らなくたっていいじゃないのよぅ・・・(せっかく見せるための水着選びガンバッタのに・・・ブツブツ)」

 

 

注:人はそれを忘れていたと表現します。

  あと、何故このタイミングでデレることが出来るのか理解不能です。

 

 

 

「なぜ、このタイミングで顔を赤く染めている・・・? ――まぁいいか。それよりもだ。

 束さんのこと思い出したってのは本当だな? ちゃんと教科書に載ってた束さんのこと覚えているんだな? 写真だって本人見た後の今なら間違えたりしないよな?」

「あ、当たり前じゃ無い! むしろアンタ、この私がそれぐらいのこと出来ないとでも思ってたの!? 

 ふん! とんだ名誉棄損のワタシ侮辱罪ね! バカすぎる暴言を吐いた罰として燃やされて裁かれたいのかしら!?」

「・・・何故そこで俺がキレられるんだよ・・・。そこはひとまず置いとくとして、まずはテストが先だ。

 ジャンヌ、お前が束さんについて知ってる情報を全て話せ。そうしたらきっと束さんも怒らずに許してくれるさ、きっと。たぶん。おそらくは・・・(無理だろうけど、ボソッと)」

「う」

 

 最後の部分は都合良く聞こえない窮地に追い込まれるジャンヌ・デュノア。

 ぶっちゃけ彼女、愛機の《ノワール》にベタ惚れする一方で他のISには興味ゼロだったからほとんど学んできてません。テストで答えられりゃそれでOKな典型的ダメっ子な学生です。

 

 

「ISバトルは敵機種がなんであろうと、戦って戦って勝ちさえすればそれでいい!

 ひたすら前進して敵を槍でブッ刺してくるだけ考えるのが、IS操縦者ってもんでしょうが!?」

 

 

 ジャンヌ・デュノアのジャンヌ・デュノアたる所以が、この発言に凝縮されている。

 清々しいまでに割り切りすぎたイノシシ少女がここにいた。

 

 

 

「え、えーと確かえっと、私の記憶が確かならば、あの人の顔の形は確かえっと・・・」

 

 必死に幼い頃からの記憶をたぐり出すため奮闘するジャンヌ。

 普段から当たり前に見ていて、見ようと思えばいつでも見れるから明確に記憶しておらず、いざ「思い出していってみろ」と言われたときに思い出せなくてテンパる少女の典型例がここにある。

 

 ・・・思い出すも何も目の前に本人がいるのだから、そのまま表現すれば良いことなのだけど、根が良い子な上に不意打ちされると上手く捻くれられずに混乱してしまう予想外の事態に弱い少女ジャンヌ・デュノアは、律儀にも言われたとおりに自分の知ってる『今まで学んできた授業内容』を思い出そうと頑張り続ける。

 

 ――まぁ、頑張らないと思い出せない時点で『忘れていた事実』を大声で自白しているに等しいのだけども。

 それでもジャンヌは頑張ります。人にバカを見る目で見られた以上は、覆してバカに仕返してやるのが世の非情さってもんなんだからね!

 

「残り時間、三十秒」

「ちょっ、ま・・・っ!?」

 

 慌てるジャンヌ。

 あらかじめ指定していた訳でもない制限時間をいきなり言われて慌て出すジャンヌを白い視線で見つめる一夏。

 

 色々と混沌化してきている状況の中、正直いって「そう言えば顔があったわね・・・」程度にしか覚えていないジャンヌが正解に至れる可能性はない。

 教科書の偉人写真にラクガキして過ごしたジャンヌの子供時代の記憶に、彼女が求める答えなどどこを探しても見つかる余地は最初から無かったからである。

 

 いつでもかどうかは知らないが、少なくとも今の彼女が求める答えは過去には無くて、目の前の今にある。――具体的には目前で固まったままなウサミミ科学者が其れである。

 

「そうだわ! 思い出した!」

 

 ジャンヌは満面の笑顔を浮かべて叫ぶように答えを出す。・・・忘れていた事実を声高に叫んでいることなど一切自覚しないままに・・・・・・。

 

 

*:上遠野浩平著『ブギーポップ・クエスチョン 沈黙ピラミッド』より一部を抜粋

 

  Question8『記憶ってなんですか?』

  ヒント:思ったよりアテになりません。

 

 

 

 

 

「顔の両側に耳があって、鼻の下に口があったわ!!!!」

 

 

 

 

 ・・・・・・日本の海で、フランスから来たIS操縦者がバカを晒して世界初の男性IS操縦者の刻をも止め、世界を揺るがした天災は誰にも流した涙を見られないために走り去る。

 

 今日もIS学園と日本国の平和は維持されたまま始まったばかりであった・・・・・・。

 

 

 

 

  Question9『世界ってなんですか?』

  ヒント:実はかなりいい加減ですが、許してくれません。

 

 

つづく

 

 

 

おまけ「ジャンヌ・デュノアの『水着イベント』」

 

「・・・行っちまった・・・束さん立ち直れると良いんだけどなぁ・・・ああ見えて意外と打たれ弱い所ある人だし・・・」

 

「どうでもいいじゃない、あんなの。どうせ学園と無関係な不審者なんだし。

 それよりオリムラ、アンタ何か言うことないの? あるでしょ? ほら」

 

「??? 何をだよ? お前が思ってたよりずっとアホだったってことか?」

 

「ちっがうわよ! 本当にバカなんじゃないのアンタって!? 私ぐらいにいい女が水着姿で男の前に立ってやっているんだから、ごく自然に言うべき言葉があるのが当然でしょ?」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、私が着てきてやってるんだから絶賛されて当然なのは分かりきってる常識ではあるんだけど、朴念仁のアンタには気の利いた言葉が思いつけるほどの甲斐性なんてこれっぽっちも求める気は無いし、それでも男の義務として言うべきことぐらいは言ってもらわないと女として困るのよねー」

 

「(ムカ。女尊男卑イラつく・・・。ちょっと意地悪してからかってやるか)・・・ジャンヌちゃん、超せくしー(超棒読み)」

 

 

「え(ボッと不意打ちで超絶赤面)」

「え?(不意打ちで赤面されて超気まずい)」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・(///////)」

「・・・・・・・・・(///////)」

 

 

 

『一夏(さん・織斑君)は、まだか――――――――っ!?』

(海で待ちくたびれてる、代表候補生含むIS学園水着女子一同、心からの雄叫び)



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第9話「夏の夜の女子会という猥談」

 IS学園臨海学校初日。

 その昼には・・・・・・本当に色々なことがあった。

 

 十代乙女な中国代表候補がM字開脚しながら幼馴染みの後頭部に自分の股間を押し当てて誘惑してから溺れ死にかけたり。(死んでたらライバル減って少し楽かも。専用機持ちは国家の国益代表候補生)

 元世界最強の国立学校美人教師が実弟の前にビキニ着て現れて、堂々とデカいオッパイで圧倒するという、お色気悪女教師キャラとしか思えない犯罪スレスレ行為を披露したり。

 

 ・・・本当にここは国立の超エリート校なのだろうか?

 

 ジャンヌは本気で本国に問い合わせる必要性を感じていたが周りは気にしてないみたいだし、治外法権の学園だし、なにより日本人のHENTAIぶりは国の一部でも有名だったし等の理由が重なって流してしまった。

 

 

 んで、今に至る。

 

「ね、ねえアンタ達。ちょ~っとアタシについてきてもらえない?」

「「え?(は?)」」

 

 夜分遅く――と言うほどでは無くとも就寝時間が迫っているぐらいの時間帯に鈴が、シャルロットとジャンヌの部屋を青い顔色しながら尋ねてきて有無を言わせずついてくるよう促されたので仕方なしに随伴してやったところ。

 

 

 

「お前ら、あいつのどこがいいんだ?」

 

 

 

 ・・・いきなりそう言われた。担任の織斑先生に。

 しかもその直前には実弟の一夏がセシリアの尻揉んでる所をドア開けた直後に見せられたばかりだったし、思わずジャンヌが

 

「はあ?」

 

 と、物凄く柄の悪い口調と表情で「コイツついにブラコンをこじらせて頭おかしくなったか?」的なニュアンスを込めた反応をしてしまっても仕方のないことだった。そのはずだ。

 

 ・・・それなのにどうして自分だけ頭にタンコブこさえられねばならないのだろうか・・・?

 

 やっぱり世界は不条理な差別と階級制に満ちている。いつか絶対に焼き払おうと、決意を新たに無言でしながら周囲の反応を聞いてみる。

 

「わ、私は別に・・・・・・以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので」

 

 と、奢ってもらったラムネを傾けながら箒。

 

 

 ――ちなみにジャンヌは奢ってもらったジュースについて、たぶん教え子の前で晒してる恥態を黙らせとくための賄賂なんだろうと意訳している。

 外国人にとって意訳は難しい――

 

 

「あ、あたしは、腐れ縁なだけだし・・・・・・」

 

 スポーツドリンクのフチをなぞりながら、もごもごと鈴。

 

「わ、わたくしはクラス代表としてしっかりしてほしいだけです」

 

 さっき見られたエロ行動の反発故なのか、ツンとした態度で答えるセシリア。

 

「ふむ、そうか。ではそう一夏に伝えておこう」

 

 しれっとそんなことを言う千冬に、三人はギョッとしてから一斉に詰め寄って

 

「「「言わなくていいです!!」」」

 

 ハモる。なんとなく昔ネットで見たドリフの漫才映像を彷彿させる光景に千冬は「はっはっはっ」と笑い、ジャンヌは笑う千冬の姿を見ながら「オッサンかよ・・・」とつぶやいてしまって、また殴られた。やっぱり世界は不条理だ。焼き滅ぼしたい。

 

「僕はその――あの、私は・・・・・・やさしいところ、です・・・・・・」

 

 ぽつりとそう言ったのはジャンヌの姉で腹違いの姉妹、シャルロット。

 声の小ささとは裏腹にそこには真摯な響きが込められていて、思わずジャンヌは

 

(いや、アンタの方が遙かに優しいでしょ絶対に。比べ物にならないぐらいには)

 

 と、シスコン補正が入りまくってるけど正しい見方で姉のことを正確に再評価していた。ちなみに声には出していない。ツンデレシスターは素直になれないからこそのツンデレです。

 

「ほう。しかしなぁ、アイツは誰にでもやさしいぞ」

「そ、そうですね・・・・・・。そこがちょっと、悔しいかなぁ」

 

 あははと照れ笑いしながら熱くなった頬を仰ぐシャルロット。その様子をうらやましさ半分、悔しさ半分の負け犬じみた視線で見つめている前述した三人。

 

 その様子を少し離れた位置で眺めながらラウラ・ボーデヴィッヒは内心で首をかしげていた。

 

(―――??? 私は「殴ってやる」とかなんとか言われた記憶ぐらいしか無いのだが・・・優しかったのか? アイツ?

 ・・・ひょっとしなくても、誰にでも優しくする奴でさえ「殴ってやる」と断言したくなるほどの嫌な奴になっていたということなのか、つい最近までの私って・・・)

 

 VTシステムのせいで記憶に一部混乱が見られる改心後のラウラが地味にヘコんでいると、命じられた内容には絶対服従な恩師の口から「で、お前は?」と聞かれ、さっきから自分の思考に浸ってたせいで一言も発しないまま黙り込んでいた彼女は脊髄反射の要領で即応する。

 

 

「ジャンヌ倒す」

 

 

 ぶっ! と、それを聞いたジャンヌが飲んでる途中だったジュースを吹き出し旅館の布団を汚してしまったけど、流石にこれは彼女だけを怒る訳にはいかない状況なので眉をキリキリ急角度に上げるだけで振り上げかけた拳を納める千冬。

 元世界最強だろうと、所詮は生の感情を制御仕切れていない愚民の一人でしかない人でした。人類皆愚民です。

 

 ・・・ていうか、なんでコイツを連れてこさせた? 専用機持ちという以外に関連性ほぼねぇぞ、この世界線だと。

 

 

「いや、一夏について聞いたのだが・・・」

「こ、これは失礼しました。――小官が思いますに弟御はザコだと思います。特に心が」

「・・・そう思う理由は?」

「言うまでもありません。以前までの私と似たものを感じるからです。

 数ヶ月前までズブの素人だった学生が、ちょっと成果を上げたら付け上がり、自分は前より強くなったと自惚れる・・・優秀さを認められた軍人であれば誰もがよくする経験です。

 少なくとも今の時点では、特筆するほどの状態でもないのでは?」

「・・・・・・」

 

 間違ってはいなかったが、話の趣旨とは百八十度以上違いすぎてたので今日の所はスルーさせてもらうことにした。

 

「まあ、強い弱いは別としてだ。あいつは役に立つぞ。家事も料理もなかなかだし、マッサージだってうまい。そうだろ、オルコット?」

 

 後日改めて問いただそうと心に決めたブラコン姉ちゃんは、気分を切り替えるためか、それとも単に酔っ払ってきただけなのか蕩々と弟自慢を語り出し、酔っ払いに絡まれたセシリアを赤面してうつむかせながら、頷かせまでしてしまう。

 

 ・・・日本の法律だとセクハラの罪って、同性にも適用してもらえるのかしら? あ、ここ治外法権のIS学園だったわ。

 ――やっぱ便利ね治外法権って。支配者階級にとってはだけど。スッゲェ焼き滅ぼしたい。

 

「というわけで、付き合える女は得だな。どうだ、欲しいか?」

 

 身近の教え子が危険思想に染まり始めている中で、平然と弟を競りに出すかのような発言をする女教師と、瞳を輝かせながら「え!?」と声を上げる少女達。

 

 ・・・買う気かよ、コイツらは・・・。この旅館は何か? 奴隷売買の非合法オークション会場かなにかだったのか?

 ――だとしたらメチャクチャに焼き尽くされても文句言う資格はないわよねぇ・・・。

 

「く、くれるんですか?」

 

 オズオズと尋ねて確認を取ってくる箒。

 

「やるか、バカ。女ならな、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする。自分を磨けよ、ガキども」

 

 三本目のビールを口にして楽しそうに笑いながら答える千冬。

 もう本当に目の前にいる反逆者みたいな少女の気持ちに気づいてくれ、千冬先生。アンタのせいで旅館がピンチなんですから。

 

 

「・・・ああ、そう言えばお前にも聞いてなかったなデュノア妹。お前は一夏のどこが好きなんだ?」

 

 ず~っと黙りっぱなしで話だけ聞き流してやっていたジャンヌにも、ようやく声をかけて顔を向ける千冬先生。

 目がトロ~ンとしてるし、頬も赤い。呂律も怪しくなりかけている。――やっぱ酔ってるだけでしょ、このオバサン。この短時間にビール三本も飲めば当たり前の結果なんだし、酒量ぐらい弁えなさいよね。いい年なんだから。

 

 大変失礼な言い様を心の中だけで言うことで気を遣ってやるジャンヌ。酔っ払いになに言っても無駄だし、無意味だという常識くらいは弁えている少女である。

 

 だからこそ、今この時に何を言っても相手はどうせ覚えちゃいないからという油断を生んだ訳でもあるのだけれども。

 

 

 

「どうでもいいんじゃない? そんなもの」

 

 

 

「・・・なに?」

 

 

 予想外だったらしいジャンヌの返答に、織斑千冬は瞬時にして往事の判断力と観察眼を取り戻したが、酔っ払いだと断定してしまっているジャンヌは気がつかない。

 

 

「他人に説明する理由なんて、どうせ後から考えたコジツケでしょ? そんなもん考える暇があるなら行動した方が手っ取り早いし、第一楽じゃないの。面倒くさくなくて済むし」

「・・・・・・」

「うちの母方の家の家訓はね、『お前を好きだと叫ぶ時には大きな声で。お前が嫌いだと罵るときにはもっともっと大きな声で』って教えられながら育ってるのよ私は。だから理由とか理屈とかどうでもいいの。

 倒したきゃ倒す、戦いたければ戦う、闇討ちしたかったら相手が誰だろうと闇討ちするし、告白したい相手には好きな相手がいようといまいと関係なく告白して力尽くでも自分のことを好きにさせる。基本でしょ?」

「・・・それはリスクが高すぎる。ダメだった場合は元の関係にさえ戻れなくなるかもしれんのだぞ? そうなって諦めきれる自信がお前にあるというのか?」

「恋愛は戦争なんでしょ? だったら何とかしなさいよ、それぐらい。

 振られるのが恐くて告白できないチキンは黙って遠くから眺めるだけの少女漫画ヒロインやってりゃいいし、何度振られても一から再スタートすればいいな甘粕的恋愛感だって有りだと思うけど?

 土台、これは人の心を奪い合う戦争の話でしかないんだから好きに戦って、やめたくなったら何時でもどこでもやめればいいんじゃないの? 誰も強制なんかしないわよ、赤の他人の気持ちなんてものにはね」

 

 

 割り切りまくった断言をする、立てた片膝に頬杖ついて半分胡座かいてるフランス娘のイノシシ少女を、周囲の少女達は驚愕と共に見つめ直し、担任の織斑千冬は見直したような瞳で、どこか敗北感を漂わせながら教え子を見つめ、最後に残ったドイツから来たちびっ子少女はこうつぶやいていた。

 

 

 

「それでこそ、私のライバル(宿敵)だ。次の死合いで今度こそ決着を付けてやる」

「・・・ねぇ、私あんまり日本語詳しくないんだけど、今物スッゴく不穏当な当て字を使ってなかった?」

 

つづく




今話で千冬先生がジャンヌと箒に真逆のことを言っている理由についての説明です。

箒たちは普段は勢いあるくせして肝心なところでヘタレる悪癖を持ってます。
「欲しいか?」と言われて「くれるんですか?」と答えてしまう他力本願な姿勢でいる箒たちには「怖いからって姉から与えてもらおうとするのは筋違いだぞ?」的なニュアンスを込めた返しをしていたと言う解釈で書いたのが今話の彼女です。

逆にジャンヌに対しては、「リスクを考慮しないでおこなう突撃は勇気ではなく蛮行だぞ?」と言う意味を込めて失敗した時のリスクについて語らせてます。

彼女自身の恋愛思想については原作通りに語っていません。あくまで年長者としての立ち位置で語らせてみた回ですので誤解なさいませんようお願いします。


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第10話「天災の傲慢な理屈VSひねくれ者の生意気な屁理屈」

ここから連載用に書いた話となります。


「・・・と、これらの理由よりISは現在も進化の途中で、全容はつかめていないそうです」

 

 ジャンヌ・デュノアがふてくされた表情を浮かべながらそっぽを向きつつも、眼前に立つ織斑先生に質問の回答を述べていた。

 

 場所は旅館の裏手にあるプライベート・ビーチの一角、IS試験用ビーチだ。四方を切り立った崖に囲まれた狭い空間で、合宿の目的である新装備のテストもここで行われる予定。

 

「さすがに学業“だけ”は優秀だな。遅刻の件はこれで許してやろう」

「・・・・・・・・・・・・どーも」

 

 ぺこりと頭を下げて後ろに下がり、一夏たち他の専用機乗りが並んでいる列の一員に戻る。

 彼女たちが乗る専用機は単にワンオフ機と言うだけではなくて、自国のIS技術を公の場で喧伝してもらわなくてはならない分だけテストさせられる装備品の数が多く、どこの国でも使えるライセンス生産可能な量産機用の装備を試す一般生徒たちとは別枠扱いになっていた。

 

 ・・・・・・やっぱ世の中に平等なんてないじゃないのよ・・・・・・

 

 ジャンヌはそう思う。たまたま適性を生まれ持ってなかった時点で他のどんな技術で強くなろうとトップに立てないIS時代の不条理さと不合理さに義憤を感じながら、いつか必ず腐った世界を煉獄の業火で焼き尽くしてやると心の中で誓いを立てながら。

 

 ちなみに彼女が遅刻した理由は、言うまでもなくゲームを夜更かしプレイしてたせいでの寝坊である。

 言い訳したところで絶対に誰も庇ってくれる訳ないと分かりきっていたため、仕方なしに問われた質問に大人しく答えるしかなかった自分の置かれた状況と地位が気に食わなかった。

 

 “だから悪いのは私じゃなくて、世の中の方だと断言する”

 

 ジャンヌ・デュノアは思春期。

 つまり誰もが掛かる恐ろしい病、“厨二病”患者になる年頃です。

 

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に準備を行え」

 

 織斑先生の言葉に一年生全員から「はーい」と、小気味よい返事が返されて、それぞれがバラバラに散っていく。

 ジャンヌたちも、何故か混じってきている篠ノ之箒を不思議に思いながらも自分たちの準備に取りかかろうとした、まさにその時。

 

 

「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い。お前には今日から専用―――」

「ちーちゃ~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!」

 

 ずどどどどど・・・! 織斑先生が箒を呼ぶ声に応えるかの如く、砂煙を上げながら人影が走ってくる。無茶苦茶早い。

 

 問題はその人影が千冬先生にとっては旧知の人物でありながら明らかにIS学園教員とは思えないエキセントリックな服装に身を包んでいたと言うこと。そして今いるこの場所は関係者以外立ち入り禁止の秘密ビーチであるということ。

 

 ――ようするに早い話が、本人に直接復讐できない場合には八つ当たりする対象に持ってこいな不審者という訳で。

 

 

「えい」

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃ――へぶしっ!?」

 

 千冬目掛けて飛びかかろうとした瞬間を見計らい、ジャンヌ・デュノアに足払いされたISの産みの親にして天災科学者の篠ノ之束は転がされ、超スピードで砂地の上を顔面スライディング。

 アスファルトの上と比べりゃ遙かにマシとは言え、それでも間違いなく痛い。痛すぎる光景に目撃者たちである専用機乗り一同は

 

「「「う、うわー・・・」」」

 

 と、盛大に顔をしかめさせられていた。――若干一名、犯人だけが横向いて口笛吹いてたけどいつものことだから気にすんなよ、束さん。

 

「お、おい。大丈夫か束? ・・・生きてるか?」

 

 千冬先生が心配そうに声をかけて上げる。

 基本的に自分がやる分には遠慮容赦なく攻撃してくる人なのであるが、他人に身内が攻撃されると同情的な気分になってしまいがちな彼女は、まさに織斑一夏の姉らしい似たもの同士な姉弟であった。もう結婚しちゃえよお前ら、いやマジで。

 

「ぐぬぬぬぬ・・・・・・おい! ちょっとそこのフランス金髪女!」

「なによ、国籍不明で年甲斐もないド派手なピンク髪オバサン。何か私にご用でも?」

「オバサン言うなだし!? て言うかキミ、昨日から邪魔ばっかりしてくるけど、束さんに何の恨みがあるのさ!?」

「はっ! べ~つに~? 私はただ単に新装備のテストしに行くため動こうとして足を前に出しただけですけど~? なにかそれに問題ありまして~?

 仮に問題あったとしても、前方確認怠りながら猛スピードで突っ込んできたアンタが悪い~♪」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ・・・・・・っっ!!!!!!」

 

 減らず口を叩いて挑発するジャンヌと、ついつい高すぎるプライドが原因で解っていても乗ってしまう篠ノ之束。

 

 正直、周りで見ている側の感想としては、

 

 

『ガキかよ、どっちも』

 

 

 としか言いようがない状況だった。

 

 

「――ちっ。ま~あ~? 束さんは天才だから凡人の妬みからくる罵倒や嫌がらせなんかには慣れてるし気にならないから、特別に無視してあげるよ。よかったね、フランスの金髪女。

 命を長らえることが出来たんだから、束さんには大いに感謝を捧げなよ~?」

「はぁ? アンタいい年して自分で自分のこと天才とか言っちゃってんの? バッカじゃないの? それって如何にもな自信過剰で自意識過剰な“自称”天才キャラの特徴じゃない。

 天才キャラ自称したいなら、それぐらいの常識は知っといてから名乗って欲しかったんですけど天才様~?」

「キッ!!(人を殺せそうな目付き)」

「はっ!(人を小馬鹿に仕切った上から目線の厨二的カッコイイ目付き)」

 

 

 ・・・おガキ様劇場再び再演。

 誰かもう、この果てなく続きそうな負の連鎖を終わらせるため断ち切ってくれ・・・。

 

 

 

 ――と言う訳で強制的にぶった切りました。続きが気になる人は別枠で用意しますので言ってちょ♡

 ぶっちゃけ重苦しい展開になっちゃいましたので作風に合わなくなり無かったことにされた黒歴史イベントです。

 

 

 

「た、た、大変です! お、おお、織斑先生っ! こ、こ、これを見て下さいっ!」

 

 いきなり大声を上げながら山田先生が走ってきて、慌てながら小型端末を担任で上司の織斑千冬先生に手渡し、画面を見た千冬の表情が曇る。

 

「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし・・・・・・」

「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働をしていた――」

「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」

「す、すみませんっ・・・・・・」

 

 そんなやり取りを交わす二人を眺めながら、ジャンヌ・デュノアはいつもと変わらない。

 

「いや、普通に言いまくっちゃってるじゃないのよ。機密事項をお互いに」

『うっ』

「つか、機密事項って言葉を人前で堂々と口走ってどうすんの。詳しい内容までは知らない奴らの前でなんだから、余計な詮索誘うような表現用いるなっつーの。

 どこのタイムボカンなウッカリ発明家よ、アンタ達は」

「う、ぐ、ぐぬぬぬぬぅぅぅ・・・・・・っ!!!!」

 

 侮辱された織斑先生、大激怒! ・・・でも自分が悪いので暴れられません。

 大魔神は裁きにだけ来て、それ以外何もしてくれないからこそ正義の味方として暴れられるのです。自分が悪いのに侮辱されて怒ったからで暴れたらワガママな暴れん坊のガキです。

 

 大魔神は、正義の味方か破壊神か? その答えを決めるのは大魔神の行動如何なのが悲しい現実です。

 

 

「と、とにかく! 私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ」

「了解した。――全員、注目!」

 

 山田先生が走り去った後、千冬先生はパンパンと手を叩いて生徒全員を振り向かせて、その様子を白い目で眺めていたジャンヌから評されてしまった。

 

「・・・・・・誤魔化して逃げたわね」

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る!」

 

 大声で掻き消される、不用意な発言をした自分自身への責任追及。

 

 IS学園は日本にある国立学校であり、超エリート校です。

 生徒は全員IS操縦者になれる適性を持ち、ISは有事の際には国防力になるので代表候補でなくても国家の大切な財産です。だから優遇されてます。ようするに一級公務員ですね。

 

 ・・・・・・余談ですが、日本にある国立エリート校はほぼ全て官僚を育成するための教育機関であり、千冬先生と山田先生はこの学校の卒業生です。

 官僚は本質的に責任を分散する性質を持つ職業です。お後がよろしいかどうかは知りません。

 

 

「今日のテストは中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自自室内待機すること。以上だ!」

 

 突然に宣言された不測の事態に、ざわざわと騒がしくなる有事の際の国防力な女子一同。

 

「え・・・・・・?」

「ちゅ、中止? なんで? 特殊任務って・・・・・・」

「状況が全然わかんないだけど・・・・・・」

 

 

 注:これでも彼女たちはIS操縦者です。IS操縦者は女尊男卑の象徴であり、世界最高戦力を使えるからこそ特権階級にいられる存在です。一応は。

 

 

「とっとと戻れ! 以後、許可無く室外に出たものは我々で身柄を拘束する! いいな!!」

「「「は、はいっ!」」」

 

 千冬に一喝されて慌ただしくも動き出し、ようやくテスト中止の準備を始めるIS学園一年女子一同。

 怯えながらではあるが手際は良く、訓練された手順通りにテスト装備を解除してカートに乗せて運んでいく。

 

 その様子を眺めながら、ドイツ軍少佐ラウラ・ボーデヴィッヒから一言。

 

「ほう。さすがは日本の国防戦力候補たち。

 やるべき事を教えてもらえば、動きが異常に早くなる」

「自分たちで考えて決めるのは苦手みたいだけどねー」

「お前ら専用機乗りも余計な指摘をしてないで準備せんか!?」

 

 織斑先生、微妙に頬を染めながらの叫び。なんか段々とヤケッパチになってきている気がする今日のイベントと彼女は相性が悪い。

 

「はっ! 小官もそうしたいのは山々なのですが・・・・・・」

「ぶっちゃけ、何やればいいのか、やっていいのか分かんないですけども?」

「う」

 

 またしても言葉に詰まる織斑先生。

 専用機はイメージだけで出し入れ可能なトンデモロボットなので通常の片付け作業を必要とせず、テスト中止しろと言われりゃ即座に中止は可能。

 逆に新装備の方は特殊なのが多すぎるせいで、整備課ではない彼女たちには触っていいのかどうかさえ判然としない精密機器の塊ばかり。

 

 ――要するに、何もできない。やることがない。命令待ちな待機状態という、暇な時間を持て余していたジャンヌたちだった。

 

「で、では専用機持ちは全員集合! 織斑、オルコット、デュノア姉妹、ボーデヴィッヒ、凰! ――それと、篠ノ之も来い」

「はい!」

「へーい」

 

 妙に気合いの入った返事をした箒と、いつも通りに気の抜けた返事をするジャンヌが対照的に見えて、

 

(だ、大丈夫なのか・・・? この状態で・・・)

 

 まっとうな理由で先行きに不安を感じさせられ、堂々と胸を張って歩く巨乳と、頭の後ろで手を組んで歩くから結果的にドカンとロケットおっぱいになる巨乳たちの後ろで一人、胸板を――じゃなかった、胸をざわつかせながらついていく一夏であった。

 

 

つづく

 

 

次回予告っぽいオマケ『福音事件と日本の対応』

 

「では、現状を説明する。二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代の専用IS『シルバリオ・ゴスペル』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった。

 それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

「はーい、一つだけ確認いいですかセンセー」

「許可する。デュノア妹、言ってみるがいい」

「んじゃ、確認ね。――どうして日本の代表たちが出撃しないで訓練生を出させてのよ。おかしいでしょ絶対に。

 なんのために国民の血税で贅沢な暮らしさせてやってると思ってんの、お宅らの国の代表どもは。有事の際の国防力なら給料分は働けバーカ」

「・・・・・・すまんな、デュノア妹。質問には答えてやりたいが、今は緊急事態だ。余裕がない。

 その為、この件については後日改めて詳細な事情説明をおこなう場を用意してやるから、今は目の前の事態に集中するのだ!」

『緊急事態に現場責任者が官僚的答弁で誤魔化したっ!? 本当に大丈夫なの!? この作戦!』

 

 

 

おまけ2『一夏君と束さん』

 

「ところで、いっくーん。昨日はあんまり話せなかった久しぶりの再会な束さんと感動的なハグハグは~?」

「えーと・・・ですね・・・。(い、言えない・・・。束さんが走り去っていった後に意識しちまった、巨乳クラスメイトの水着姿が目に焼き付いちまって今の今まで忘れてましたなんて死んでも言えるかーっ!!!)」



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第11話「境界線上に立つ遙か以前より戦闘は始まっているべきものである」

更新です。
「千冬先生フルボッコ回」もしくは「がんばれ僕らの千冬先生回!」です。
「学園バトル物に出てくる元世界最強の教師キャラの教え子が空気読めない奴だったらこうなります回」でも良いかもしれません。


「では、現状を説明する。二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代の専用IS『シルバリオ・ゴスペル』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった。

 それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

「はーい、一つだけ確認いいですかセンセー」

「許可する。デュノア妹、言ってみるがいい」

「んじゃ、確認ね。――どうして日本の代表たちが出撃しないで訓練生を出させるのよ。おかしいでしょ絶対に。

 なんのために国民の血税で贅沢な暮らしさせてやってると思ってんの、お宅らの国の代表どもは。有事の際の国防力なら給料分は働けバーカ」

「・・・すまんな、デュノア妹。質問には答えてやりたいが、今は緊急事態だ。余裕がない。

 その為、この件については後日改めて詳細な事情説明をおこなう場を用意してやるから、今は目の前の事態に集中するのだ!」

『緊急事態に現場責任者が官僚的答弁で誤魔化したっ!? 本当に大丈夫なの!? この作戦!』

 

 

 

 

 ・・・そんなやり取りで始められたIS学園臨海学校組による、暴走した軍用IS対策会議。

 のっけからシリアスムードを台無しにしてくれる会話をぶちかまされて調子を崩しはしたものの、そこはそれ。

 ギャグとシリアスで減り張りを付けるのは戦う学生たちの得意分野であり、本領でもあるので千冬先生による状況説明が続けられる中で冷静さを取り戻していき、途中から真面目に正座して話に聞き入れるほど完治していた。(注:若干一名、胡坐かいて余所見しているフランス人がいるが気にするな。いつものことである)

 

 

「・・・これらの情報を整合すると、この機体は五十分後に二キロ先の空域を通過することがわかった。ISでのアプローチは一回が限界だろう」

 

 重々しい口調で告げてから弟の顔を見下ろし、真っ直ぐ見つめ。

 

「そのため機動性に優れた白式が参加するか否かで、作戦内容は大きく変わらざるをえない。

 ――とは言え、これは訓練ではなく実戦だ。もし覚悟がないなら無理強いはしない」

「・・・やります。俺が、やってみせます」

 

 尊敬する姉からの問いに、一夏は真っ直ぐ瞳を見つめ返しながら返事をして、決意の重さを言葉で示した。

 

 千冬も覚悟を見せてくれた弟の成長を嬉しく感じ、それを表に現さぬよう注意しながら作戦内容を具体的に説明しようとする。

 

「よし。それでは作戦の具体的な内容に入――――」

「とゆーかさー」

 

 テキトーに外を見ていた目線を千冬へと戻したジャンヌが、ひねくれ者らしく気になってしまった疑問を気を遣ってやることなくハッキリと口にして訊いてしまった。

 

 

 

「今の断られてた場合には、どういう作戦でいくつもりだったの? スピードと距離から見て、白式以外には一回のアプローチも無理そうだと思うんだけど?」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 場に沈黙が満ちあふれ、ジャンヌもそこまで大した問題提起をしたつもりもなくて不思議に思ったから聞いてみただけの質問の効果にバツの悪い思いを味わわされて逆恨みを抱きかけてしまうのだった。ひねくれ者は予想外の事態に意外と弱い。

 

「選択肢があるようで無い選択肢の出てくるRPGって、昔は多かったわよね・・・レ○ール城とか」

「ゴホン! ごほんごほんゴホホホン!!」

 

 織斑先生、《ごまかしの咳》連続発動! 今この場においてはコレをやるしかないので、コレをやりまくるより他に道はない。

 この状況から戦局を覆して大逆転勝利するのは、さすがの元世界最強ブリュンヒルデにも不可能だったから。

 

「あー・・・他の者も織斑と同様だ。出撃を強制はしない。自分の意思で作戦に参加するかどうかを選んで決めてくれて構わない」

 

 その言葉に不敵な笑みで返したのはセシリアと鈴。

 穏やかそうな微笑みに自信を湛えたシャルロット。

 手に入れたばかりの力を振るいたくて仕方ない箒。

 

 ここまでは期待通りの反応が返ってきたのだが・・・・・・しかし。

 

「どうした、デュノア妹にボーデヴィッヒ。お前たちは作戦に不参加を希望しているのか? 無反応では判別できないのだが?」

「いや、そう言うわけじゃないんだけどさぁ・・・」

「・・・うむ・・・」

 

 曖昧な表情で半端な答えを返すジャンヌと、何かを悩んでいるような難しい表情で唸ってみせるラウラ。

 

 二人は反対ではないものの、『どう反応を返したものかで困っている』・・・そんな風情の態度と表情を浮かべていた。

 

「・・・??? なんだ? 今の作戦に問題でもあったのか?」

「いえ、滅相もありません教官。――いえ、織斑先生。反対ではないのです。ないのですが・・・」

「ですが?」

「私たちって自己判断でIS使って、敵と戦ってもいい立場だったっけ?」

「・・・・・・」

 

 織斑千冬、憮然。・・・・・・とした表情を浮かべることで誤魔化したパート2。

 自分の教え子の中に一部だけ含まれている問題児どものせいで忘れられがちであるが(実際に千冬は今の今まで半ば以上忘れていた)

 ISは国家資産であり、使用するには国家の認証が必要であり、『戦争利用が禁止されている』人がまとって戦う機械の鎧型パワードスーツでもあるのだ。

 

 当然、操縦者個人の責任と判断で勝手に使ってよい物では断じてない(一国の軍隊に匹敵する戦力を個人の判断で振るわれたら世界が滅びかねないし)

 母国政府からの命令なしに戦闘行為をおこなって破損させてしまった場合、国が被る損害額は個人で賄えることは可能か不可能かと問われたら答えはもちろん「絶対にNO!」

 

 なにしろ世界三位のシェアを誇るデュノア社を開発費だけで傾けさせた代物である。

 程度にもよるが、仮にもしも無許可で使用して大破させてしまった時の責任が操縦者だけで済ませてもらえる保障はどこにもない。

 IS学園の特記事項も学園外はフォローしてないし、権力から介入されないことを認められてる側が、介入する権利だけ要求するのも無理がある。

 

 挙げ句、これから挑む予定の敵は『アメリカとイスラエルが極秘裏に開発した軍用IS』

 送られてきたデータによると格闘性能は未知数で、特殊スキルの有無は不明。

 相対距離の関係から偵察すら不可能な上に、アプローチ可能なのは一回こっきりで作戦を考えてる時間は検証時間込みで五十分未満。

 出撃して目指すポイントに到着するまでの時間も必要だから、実際には半分以下と見るのが安全パイだろう。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ――今、初めて気がついた。

 戦力としての脅威度だけは高く見積もってたけど、正直ここまで洒落にならない惨状だとは思っても見なかった。

 

 これは・・・本気でヤバいかもしれないな。コイツらの判断だけで出撃決めさせるとかホントの本気で洒落にならない事態を招きかねない超非常事態になってしまいかねん・・・!!

 

 

 戦いを始める前から、勝利後のことを考えて不安がるのは他人から見ると滑稽に思えるかもしれないが、実戦とはそう言う物なんだから仕方がない。

 

 『勝ちさえすれば後はどうとでもなる』とか言ってる奴らは超楽観主義者かド素人のどちらかだし、『とにかく全力を尽くすのみ!』が許されるのは命令に従うだけでいい兵士と士官と中級指揮官クラスまでである。

 勝つための作戦を立てる側には当然のように『勝利した後』のことまで考えられた作戦を立案し、実行に移すまでに準備を整えなければいけない義務がある。

 

 準備不足を精神論で誤魔化して兵士たちを前線に送り込むのではインパール作戦だし、碌な戦略案もないままに出撃させたのではベトナム出兵だ。さすがの千冬でも嫌すぎる・・・。

 

 と言って―――

 

 

「・・・・・・(チラリ)」

「ん? どうかしたのか千冬姉?」

「どうしたのですか千冬さん・・・いえ、織斑先生。私たちはいつでも出撃する心構えは済ませてありますが?(キラキラお目々)」

 

 国から許可もらえなくても自己判断で出撃を決められるのは一夏の白式と箒の紅椿のみ。

 

 一夏の場合は短期間で急成長したし実績もあるから実力的には信用できなくもないけど、知識不足なのは否めない。まして相手は特殊『射撃型』・・・基本的バトル・スタンスのシューター・フローすら教えたことのない奴に「落としてこい」とか命令するのは無理がありすぎる。

 教えてないことを知らないのも出来ないのも仕方がないことだけど、知らないものは知らないし、知らないことは偶然でもない限り出来ないのである。

 

 そして、敵の弱点を突いて攻撃してくるのは実戦においては常道である。卑怯でも何でもない。「知らないのに勝てると思い込んで出てきた奴がマヌケ」・・・それが実戦なのだから本気でどうしようもない。

 「ルールは守るべきもの」とは思うけど、ルール破って近づいてきてる奴に対処するための作戦会議の場でそれ言ってどうすんだ?とも思いはする。

 

 

(・・・アンビバレンツ!!!)

 

 混乱のあまり、慣れない英単語を頭の中だけで叫びながら、千冬は弟たちとは別の人間――彼らと同じくらいルールを尊重しない少女(失礼)に縋るような思いで鋭く尖った視線を送り込むと・・・・・・

 

「一応言っときますけど、幾らワタシがひねくれてるからって自分の我が儘に国と会社と家族全員を巻き込める決定はできませんからね? そういうのはワタシと同名の聖女様に言ってください、KY過ぎてフランス救った救国の聖女様に。

 あの命令無視して突っ込みたがる特攻大好きなファイヤーガールなら、喜んで旗持って敵中目指して突っ込んでってくれますよきっと。シェルジュ!シェルジュ!シェルジュ!とかバカみたいに叫び声を上げながら真っ直ぐに」

 

 そりゃお前だよ!――と、大声出して罵倒したいところではあったが、そんなことやってる場合じゃどう考えたってない。

 今は考えるときではなくて・・・・・・決断すべき場面だ。

 

 

「・・・・・・わかった・・・。私も腹を決めよう。

 本音を言えば、危険極まりない実際の敵と戦う戦場に教え子たちだけを出撃させるような命令はしたくなかったが・・・・・・」

「じゃあ、一緒に出撃すればいいじゃない。元世界最強のIS操縦者なんでしょ? 楽勝なんじゃない?」

「命令したくはなかったが!!」

 

 織斑千冬の大声出して誤魔化すパート3。

 空気読まない聖女と同名のフランス人は、やっぱり空気を読んだ行動をしてくれない。

 

「事ここに至っては致し方ない・・・治外法権の地IS学園教師の権限を以て命令させてもらう。お前たちの命・・・私に預けてくれ! 頼む!! この通りだ!!」

 

 そう言って教え子に対して頭を下げる織斑先生。

 一見すると三年B組的感動的な名場面だからなのか何名かが「織斑先生・・・そこまで私たちのことを・・・っ」と感極まってるのもいるにはいたのだが。

 

 

「・・・そこまで出来るのに、自分が出撃するのだけは嫌なのね・・・・・・」

「しっ! いい加減お前は黙っていろ! 教官にだって色々と事情という物がおありなのだ!きっとな!!」

「ごほんごほんごほん!!!」

 

 空気読まないフランス人と、空気読めないドイツ人コンビの二人にはいまいち通用してくれない昭和日本のノリと勢い。

 国籍による文化の違いって難しい・・・・・・。

 

 

つづく

 

次回予告のようなオマケ

 

束「聞いて聞いて! ここは断・然! 紅椿の出番なんだよ!

 なんと紅椿には現在絶賛机上の空論中の最新装備『展開装甲』が搭載されてるから、それを調整して、ほいほいほいっと。ホラ! 完成! これでスピードはばっちり!」

 

ジ「いや、スピード上げたんだったら試運転ぐらいさせてから使わせなさいよ。調整終えたばかりの工場製品乗って戦場に行けとか、アホなんじゃないのアンタ?」

 

束「ふべっ!?」

 

ラ「確かにな・・・。どんな異常が起きるか未知数の試作機は、軍においてさえ専属のテストパイロットを乗せて幾重もの安全確認試験をおこなった後に実戦配備されるのが普通だ。

 調整を終えたばかりで満足に動くかどうかも分からない新型に乗り戦場に出るよう命じられるのは、死んでこいと言われたようなものだからな。正直、ぞっとしない」

 

束「ふぎゃあっ!?」

 

――天災MADで戦場のド素人が泣かされる頃にー・・・・・・。




「本来は私がやるべきことを任せるのは心苦しいが・・・」
「じゃあ、自分でやれば?」――子供の理屈の典型が時には正しい場合もある一例な今話の内容。
『閃光のハサウェイ』だったら「正しくとも往々にして実現不可能」とか言われるのかもしれませんけどね(苦笑)


・・・ただまぁ、やれるのにやらない事情って、やらない側の人たちが作ってる場合が多いんですよねぇ・・・。ひねくれててゴメンナサイ。


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第12話(仮)「どうして現場に血が流れるんだの答えたち」

出来はしたんですが・・・アイデア有りすぎて一つにまとめられずに困ってます。
後ほど変えるかもしれませんので、ひとまずは12話(仮)ってことにしておかせてくださいませ。
たとえ変えたとしても次話には影響しない類の変更点ですから話には問題ありません。

それからアイデアの多さに振り回されすぎてジャンヌたち以外の出番まで書いてる余裕がなかったです。ごめんなさい。一夏の負傷後の回からは出す予定でいますので何卒・・・

謝罪:
何度も書いたり消したりしているうちに文字数が把握できなくなってたみたいです。滅茶苦茶短くなってますね、今回・・・本気でゴメンなさい。以後は絶対気を付けます。


 織斑先生による宣言がなされ、IS学園臨海学校組はシルバリオ・ゴスペル対策会議を(ようやく)本格的に開始していた。

 

 ―――が、しかし。

 

 そもそも自分たちから望んだ戦いでもないし、相手は意味も無く猛スピードで接近してきてるだけの暴走マシーンだし、彼女たちに対処するよう命じてきたのは部外者なはずのIS委員会だしで、現場が考えて決めるべきこと自体があんまりない。

 

 時間的要因から参加できる機体は限られまくってるのに、その少ない中から選抜した機体だけでもアプローチできるのは一度きり。敵の性能は未知数で、特殊スキルの有無は不明。

 

 暴走してるから敵の目的は不明。どこに向かってるのかも不明。どこに行って何するかも不明。何ができるのかさえもが未知数。

 

 

 これで一体、何をどう話し合えと・・・・・・?

 

 

「通常であるなら『被害を最小限に抑えるにはどうすればいいか?』ぐらいは話し合えるのだがな・・・。出せる戦力が織斑の白式と、オルコットのブルー・ティアーズだけではどうしようも・・・」

「ちなみに、ブルーの方は高機動パッケージを『装備したら』ギリギリで参加できるかもってレベルらしいわよ? ・・・蒸し返しになっちゃって悪いんだけどさ・・・さっきの作戦参加するかどうかの質問で織斑に拒否られてたら本気でどうする気だったの?

 今んところ織斑の白式しか参加可能な機体が存在しないし、白式だけでも移動用の足が無いと付いた途端にガス欠起こしかねない距離での作戦なんだけど・・・」

「ごほんごほんごほんごほん!!!」

 

 漫才会話再び。でも正論。

 現実の実戦は小説よりも奇策が通用しづらかった。

 

 

「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~」

 

 そんなとき、部屋のど真ん中の天井からひっこり顔を出してきたのは束さん。

 底抜けに明るい声で会話を遮りながら「くるりん」と宙で一回転しつつ着地を決め―――

 

「あれ? まだいたのオバサン? ・・・って言うか何しきたの? ここって一応は作戦会議室だからコスプレイヤーにいられても困るんだけど・・・」

 

 ――る事が出来ずに着地失敗。すってんころりん、ドンガラガッシャーン! ぐがぼぎどがぎ! ・・・鈍い音を轟かせながらようやく止まった。

 

 

「ふぎゃあああっ!? 腕が・・・腕がぁぁぁぁぁっ!?」

「いや、そこは眼でしょ普通なら」

「・・・いや、この惨状を前にしてその返しは流石の私もどうかと思うのだが・・・」

 

 人体には不可能な有りえない方向へと曲がってしまった右手を左手で掴んで叫び声を上げ始める天災MADの束さん。

 念のために説明しておくが、邪気眼ではない。念のため。

 

「ふー、ふー、・・・あー、危なかったし痛かった~。ちーちゃんと同じで人間超えてなかったら関節繋げただけじゃ治らない大怪我になるところだったよ-」

「いや、束。私でも多分、それは真似できないししたくはないのだが・・・」

 

 人間の限界は超えても、人間を辞めたくはない千冬さんが冷や汗交じりにツッコみつつも、身内なので話だけでも聞いてやろうという構えを見せたことで調子づいた彼女はいつもの本調子を取り戻したようだった。

 

 

「聞いて聞いて! ここは断・然! 紅椿の出番なんだよ!

 なんと紅椿には現在絶賛机上の空論中の最新装備『展開装甲』が搭載されてるから、それを調整して、ほいほいほいっと。ホラ! 完成! これでスピードはばっちり! 作戦参加は余裕だね!」

 

 得意げに箒が与えられて調整終えたばかりの機体データを弄くってからドヤ顔を見せる天災。

 世界の二歩も三歩も先を行く技術力は大した物ではあるのだが。

 この場合は、いまいち現実が見えていなかったかも知れない。・・・あるいは、この場合『も』かもしれないけれども。

 

「いや、スピード上げたんだったら試運転ぐらいさせてから使わせなさいよ。調整終えたばかりの工場製品乗って戦場に行けとか、アホなんじゃないのアンタ?」

「ふべっ!?」

「確かにな・・・。どんな異常が起きるか未知数の試作機は、軍においてさえ専属のテストパイロットを乗せて幾重もの安全確認試験をおこなった後に実戦配備されるのが普通だ。

 調整を終えたばかりで満足に動くかどうかも分からない新型に乗り戦場に出るよう命じられるのは、死んでこいと言われたようなものだからな。正直、ぞっとしない」

「ふぎゃあっ!?」

 

 ――天災MADで戦場のド素人が泣かされる頃にー・・・・・・。

 スペックデータだけ上げれば高性能で強いと考える、実際の現場で使うときのことを考え切れてない辺りが、彼女が天才であり天災でもある所以なのかも知れない。

 

「つか、その機体使ってブルー下げるんじゃ、実質二機参加のままじゃない。人数増えてないのに、初陣の一般生徒出してどうする気なのよアンタ? 自分より若いから、妹を抹殺したかったの?」

「誰がするか!? 違うわいボケーーーーっ!! そのオバサン呼ばわりネタいい加減やめてよね! 束さんはまだ二十・・・ゴニュゴニュ才なんだからね!」

「・・・そのセリフを言うこと自体が、オバサンキャラ以外の何者でもないわよね・・・」

「うがーーっ!?」

 

 

 銀の福音戦出撃まで、約十分!

 

 ・・・ぶっちゃけ、今の時点でやること全部終わってしまった一夏と箒以外は何して待ってればいいのだろうか・・・?

 

つづく?

 

 

予告のようなオマケ

 

一夏「うおおおっ!」

 

 零落白夜を発動。光の刃が銀の福音に触れる、その瞬間。

 ――福音はなんと、最高速度のままこちらに反転。後退の姿となって身構えた。

 

一夏「一度体勢を立て直し――いや。このまま押し切る!」

 

ジャンヌ「なんでよ!? 一撃必殺の奇襲が失敗したら遅滞戦闘に移行して私たちの到着待てばいい話じゃないの!? 数の差で押し切れるチャンスなのに、なんでわざわざ後退した敵を追いかけてるの!? てゆーか、これって迎撃作戦なんですけどぉっ!?」

 

ラウラ「・・・高速で接近してきてるから白式と紅椿しか追いつけなかっただけであって、後退してくれるなら普通に我々も戦闘に参加できるからな・・・。日本のブシドーというのは本気でよく分からん・・・」




ちなみに一夏&箒による福音戦ファーストバトルは描写しません。
だって原作のままやるしかないですからね、参加できる機体が他にないんじゃ変えられません。

ですので次話は出撃していくのを追いかけてって回収する話か、負傷直後からのどちらかになります。


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第13話「暴かれる真実(笑)」

更新です。またしても一つにまとめきれずに時間ばかりが・・・っ!
でもまぁ、今回は学習しましたので一応は形になってると思います。たぶんですけども。
なお、今作はギャグ作品です。格好いい原作がお好きな方は一瞥もすることなく去っていくことをお勧めします。いやマジで。


 午後四時前。

 一夏が箒を庇って被弾して意識不明の重傷を負ったことにより銀の福音迎撃作戦は失敗し、織斑先生から『自分が呼ぶまで各自待機』を命じられた操縦者たちが旅館に帰還してきてから三時間以上が過ぎたころ。

 

 臨時病室と化した旅館の一室にはベッドが置かれ、包帯だらけの一夏が横たわり、その傍らには箒が。部屋の壁に背中を預けるようにしてジャンヌが座り込んでいた。

 

「……」

「……」

 

 二人は無言のまま同席し、身じろぎもせずに目を覚まそうとしない一夏と同じ部屋に居続けていたのだが。

 

 その内実は、あまり友好的なものとは言いがたかった。

 

 

「…ジャンヌ。すまないが私は今、お前の話を聞いてやれる気力はな―――」

 

 項垂れたままの箒が気力を失った声で苦情を言うと。

 

「あ̋?」

「……なんでもありません」

 

 殺気の籠もりまくった狂眼とドスの利いた声で返されるから、黙り込んで引き下がるしかなくなってるだけだったりする。

 

 もともと箒の怒りには中身がなく、プライドや虚栄心といった内実のない衝動から来る脊髄反射じみた反発心に過ぎず、本気で人を殺したいと願う本物の殺意なんか浴びせられた日にはビビって黙り込むしか他にない。

 

 部屋を出て行けば済むとは言っても、一夏が心配で出て行くことが出来ない。

 だからと言って本気の怒りで暴発寸前のジャンヌに「傷心中だから気を遣って欲しい」とお願いするのも恐くて出来ない。

 じゃあ、割り切って黙ったまま二人一緒に過ごせるかと言われたら、それはそれで辛くて嫌な八方塞がりの窮状に今の彼女は追い詰められていたのであった。

 

(き、気マズイ…)

 

 いったい何故どうしてこうなったのだろうか? 自分はただ、怪我した一夏が心配で不安でお見舞いに来ているだけなのに―――。

 

「そう言えばさー」

 

 ジャンヌが、何気なさを装った声と態度でやり場のないストレス発散目的での嫌がらせ毒舌を『再開』するため箒に声をかけてきた。

 

「凰から聞いたんだけど、織斑がこうなったのってアンタのせいなんだってね?

 なんでも、敵を前にして戦場でボーッと突っ立ってたせいで敵に撃たれそうになったところを織斑に庇ってもらって無傷で帰ってこれたんだって訊いたんだけど、本当なのアレ? ねぇ、味方を負傷させた味方殺しの篠ノ之箒さん?」

「ぐふっ!? ……い、一部に悪意的解釈が入ってはいるが本当…です……」

「ふーん?」

 

 ヘタレではあっても根はクソ真面目で誠実でありたいと願っている箒は、自分の方が悪かったり、間違っていたと自覚させられる不利な状況に弱い。

 そういう時は素直に謝るか、逆ギレして斬りかかるかのどちらかしか選べる選択肢を持ち合わせていないのだ。

 

 なんかこれだけ聞くと、最近の切れやすい若者なのか、素直で可愛い乙女なのか判別しづらくなるのが微妙なところである。ある意味で、半端物な彼女にはふさわしいのかもしれないけれども。

 

「あー、それとさー。途中で聞こえてきた通信内容なんだけどさー。アレって酷いわよね~? 『馬鹿者何をしている、せっかくのチャンスに犯罪者などをかばって』って言うアレ。

 私たちって世界最高戦力の兵器で、人殺さないスポーツやってる代表候補生で、その自覚あると認められたから専用機与えられてるはずなのに、『勝利のためなら犯罪者は死んでいい』って、専用機持ちの資格ないにも程があると思うんですよねー、私としましては~」

「う、ぐ…はぁ、はぁ…」

「あー、そっか。そう言えば篠ノ之さんは代表候補でもないのに、お姉さんが開発者本人だったから個人的にお願いして専用機作ってもらえる特権階級にあったんですよね☆ ごめんなさ~い、忘れてました~♪ 忘れてただけなんで許してくださーい♡ テヘペロwww」

「ぐぅぅ、うぅぅぅ……」

「いやー、でもさっすがお姉さんはIS作った天才ですよね-。ちゃんと勉強してるじゃないですか。“有史以来、世界が平等であったことは一度もない”と妹さんの前で断言されちゃうなんて♪

 改めて考えると、あれってスッゲー嫌味ですよね~? 『お前が専用機手に入れられたのは私の妹だからだ。他人から認められた他の連中とお前とじゃ格が違うんだよ。妹思いで甘々なお姉ちゃんに感謝しなさーい♡』…ってか?」

「うううううぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!! ねぇぇぇぇぇぇさぁぁぁぁぁぁぁっっん!!!

 あなたは! 貴女って人だけは――――っ!!!!!!(激怒)」

 

 

 

 キュピィィィィィッン!!!

 

 

「はっ!? 今、箒ちゃんが私の助けを求めたような気が……!?

 でも、なんでだろう…。

 今行ったら斬り殺しに来るような気が、ものスッゴくしてるのは!?」

「…束…、安心していい。お前は変な機械を頭に乗っけてるから毒電波を受信してるだけだ…病院で休ませてもらえばきっと明日には良くなっているさ……」

「ちょっ!? 違うよ、ちーちゃん! 束さんは本当にどこからともなく箒ちゃんの助けを呼ぶ声が頭に響いてきたんだよ! こう…キュピィィィッンっとね!!」

「束……」

「だから違うんだってば! その可哀想な物を見る目は本当にやめてーっ!?」

 

 

 

 

 ――などという二次災害が発生しているのと同じ頃。

 一夏の横たえられた仮病室でジャンヌが箒をいたぶっている部屋の外。

 

 …扉を開けた横で二人からは見えないように息を潜ませながら中国代表凰鈴音が、壁に張り付いたままの姿勢で出るに出られず困り果てていた。

 

(――待機命令無視して一夏の仇討つために箒を誘いに来てやったってのに、なんでジャンヌまでいるのよ!? しかもあんな殺気だった殺意の波動みたいな状態で!

 恐いじゃないの! 声かけづらいじゃないの! 割り込めないし、気付かれるの恐くて帰ることも出来ないじゃないの!! どーしてくれんのよ本当に!!)

 

 声には出さず、心の中だけで、盛大に愚痴と悪態とを連発しまくっていた。

 

 なんだかんだ言いつつも、彼女は箒と同類のプライドから来る衝動で敵と戦うヘタレなので予想外の逆境にはすこぶる弱い。

 自分の立てた計画から一歩でも外に出てしまった状況になると、逆ギレして衝撃砲ぶっ放すか素直に乙女ぶるかの二択しか選択肢を持ち合わせていないのだ。

 

 だから当然彼女も、嘘偽りなくガチな殺気など浴びせられたらビビるしかなく、選ぶべきコマンドも『逃げる』一択だ。他はいらない、必要もない。

 プライドと一夏が絡まない限り、彼女たちの戦いに本当の勇気は必要ないのだ。

 

 欲しいのはただ、ムカつく敵を倒せる力と、分かり易く目に見える勝利のみ。

 己の内側に潜む恐怖心など、あるのを認めるのが恐いから向き合いたくもない。だから倒す力も必要ない!

 

 

 …なんか今、IS操縦者として強い奴ほど心が弱くなる傾向にある様に感じてしまったのは、気のせいだと思いたいぞ……。

 

 

 

「じ、実はだなジャンヌ。私の心には、このような悲劇を招いてしまう要因が内包されているのだ……」

「あん?」

 

 ジャンヌからの虐めに耐えられなくなった箒は、自分が抱えてきた秘密の衝動について語り始めた。

 

 とにかく今は…いや、今だけでもいい。手加減して欲しい…っ!

 ――その一心で、彼女は自身が抱え続けてきた心の闇をジャンヌに語ってしまったのだった……。 

 

 

 

 ―――いつも、力を手に入れると流されてしまうことを。

 ―――手に入れた力は、使いたくて仕方がなくなってしまうことを。

 ―――わき起こる暴力への衝動を、どうしてか抑えられない瞬間があることを。

 

 

「だから私は剣の修行に励んだのだ…。己の脆弱な心を鍛えるために…!!」

 

 

 ―――箒にとって剣術は己を鍛えるものではなくて、律するものだったことを。

 ―――自らの暴力を押さえ込むための抑止力――リミッターだったことを。

 

「けれど、それは非常に危うい境界線なのだという事実を今更ながらに思い知らされた。薄い氷の膜のように、ほんの僅かな重みで壊れてしまう制御装置でしかなった事実をな…。

 紅椿という名の、自分には過ぎた力を手にしてしまった為に私は一夏を傷つけさせてしまった。だから―――」

 

 

 ―――私はもう…ISに乗る資格も理由も失ってしまったのだと言うことを――――

 

 

 一つの決心をつけながら紡いだ決意の言葉で締めると共に、項垂れていた顔を上げた箒が目にしたジャンヌの反応。

 

 それは―――――

 

 

 

「……はあ~~~~~~~?」

 

 

 

 

 ――――と、思いっきり怪訝そうに顔をしかめて、不愉快そうに鼻で笑うという予想外すぎるにも程がある返しであった。

 声には出さなかったけど、言葉よりもハッキリと顔に出ちゃってる。

 

 『なに言っちゃってんのコイツ? アホか』―――と。

 

 

「はぁ~~~~……なぁーにを気にしているのかと不思議に思ってたのにコレって…なんだか私の方がアホみたいに思えてきちゃうわよね…」

「え? え? えぇぇっ?」

 

 箒、混乱。…てっきり同情してくれるとばかり思ってたんだけど…だって、一夏だったら同情して慰めてくれたから。(注:箒も子供の頃から友達いなくて一夏とばかり遊んでたボッチです)

 

「あのね、篠ノ之。ハッキリきっぱり断言させてもらって悪いんだけどさ……」

「う、うむ?」

「すぅぅ~~~~~~………」

 

 ジャンヌ・デュノア。大きく息を吸って、さぁ、どうぞ。

 

 

 

 

 

「ただの邪気眼厨二病よソレは!! 高校生にもなって卒業しなさい!!」

 

 

 

 

 ジャンヌ、大声で喝破! 言ってることは正しいが、お前にもブーメランになるのは承知の上なのか?

 

 

「じゃ、ジャキ…?」

「邪気眼よ邪気眼!

 思春期男子がよくやる妄想の一つで、『俺の右手には凶悪な竜が封印されていて、それを押さえ付けるための修行を続けているのだぁぁぁっ!』とか人前で言ったり、自分一人のときに妄想しまくったりしている奴らのこと!」

「な、なんだその変態どもは! 私はその様な怪しい輩では断じてない! 絶対に違う! 私には本当に暴力的な衝動に抗えない心の弱さがあって、それを押さえ付けるために剣術の修行をだな!」

「どう違うのよ!? 固有名詞以外はまったく同じじゃないの! 厨二病にかかってる奴はみんな同じこと言うのよ!」

「そんな…ならば手に入れた力を使ってみたくなる衝動はどう説明する気だ!?」

「単にアンタがガキなだけよ! 手に入れたオモチャは遊びたくて仕方がないってだけの、ただのガキ!

 つか、思いっきり暴れて壊しまくりたいだけな、ジャイアンよりもガキな自分に変な設定付け加えて格好よく見せようとするな! 藤子先生に土下座して来なさい! 今すぐに!」

「ば、バカな……」

 

 箒、再び愕然。そして今度は、茫然自失。

 一夏と同類でテレビ見ないことが裏目に出た瞬間です。普通だったら、これは恥ずかしい。

 でも、どれだけ恥ずかしいことしていたのか計る基準を持たない今の彼女は驚いてるだけ。知ることが必ずしも幸せではないことを知れ…厨二病です。

 

 

 しばらくして落ち着いたのか、あるいは溜まっていた鬱憤をすべて怒声で流し出す適当な口実が見つかってくれたからか、それとも普段は人から言われる側の人間として言う側に回れたのが嬉しかっただけなのか。

 とにかくジャンヌは冷静さを取り戻して「…はぁ~」と息をつき、頭髪を右手でかき回しながら、いちおう一夏が今の大声で目覚めてないか視線だけ向けて確認しつつ、箒に向かって根本的な疑問を投げかける。

 

「てゆーかさぁ…日本の剣術って人を斬るために習うもんじゃなくて、弱い己の心と戦うために学ぶべき物だって私は聞いたんだけど? …アニメでだけど(ぼそり)」

「―――っ!!!!(ガーーーッン!!!)」

 

 箒、大ショック。

 中学時代に全国大会に出場したときの剣道部員は、みんな勝つために剣道学んで強くなってたはずなのに! 剣術ではそうじゃなかったのか! 自分だけが特別じゃなかったのか! ……厨二です。

 

「あと、ISもう乗らないもなにも、アンタって歴とした国立IS学園の生徒なんでしょ? 学費が税金で払ってもらってる分、卒業まで操縦者続けて在学してないと今まで払ってもらってた分を全額耳そろえて払わされるわよ?

 国防力育成のためにタダで学ばせてやる学校は、国のために働く奴だけタダで学ばせるためにあるんだから」

「―――っ!!!!(ガガーーーッン!!!)

 

 箒、超ショック。

 女尊男卑の世の中だから特別措置で作られた場所じゃなかったのか! …厨二というか、ガキのご都合主義ですよソレは…。(byどっかの平行世界の銀髪魔王)

 

「つか、そもそも紅椿ってアンタ専用に作ってもらった機体なんでしょ? 他の奴に使えるもんなのアレって? 剣道部が最弱すぎることで有名なIS学園に、銃で撃つより刀振って斬撃飛ばした方が当てやすいほど射撃下手な奴って聞いたことないんだけど・・・」

「―――っ!!!!(ガガガガーーーッン!!!)

 

 箒、超大ショック。

 自分専用機を与えられた専用機乗りは、自分の意思だけで辞めることが出来ないし捨てられない! 憧れるだけで専用機に乗ったことないから知らなかった! 学んだことすらなかった! ……だ~か~ら~…。ご都合主義だって言ってんでしょうがさっきから!(by以下同文)

 

 

 …なんかもう、どうでも良くなってきたなここまで来ると。

 

「あー…。なんかもーいいわ。疲れたし、どうでも良くなったから。

 ――それじゃ、行こっか?」

「――――は?」

 

 どこへ? 唖然呆然としていた箒と、意外にも知らなかった情報が多いことに驚かされていた、自分に興味の無い部分は知ろうとしないし学ぼうともしない扉の外の凰鈴音がジャンヌの一言に意表を突かれる。

 

 どこへ? なにしに? 誰の元へ?

 二人にとっては当然の疑問がいくつも飛び交う頭の中で、ジャンヌの声だけはハッキリきっぱり響いてきて理解できた。――――出来てしまった。

 

 

「無論、戦場へ、敵を倒しに。

 三時間も待ってやったのに、未だなんの音沙汰もなく、戦闘解除命令も出そうとしない、要するに戦いたくない気持ち丸わかりな役立たず無能教師どもの代わりに私たちが殺りに行ってやるのよ。復讐戦を。リベンジを。アベンジャーズを」

「た、待機命令が出ているのだが……?」

「んなもん無視するに決まってんでしょ? だいたい最初の接触ときは距離があったけど、三時間経った今なら教師部隊全機出撃させて私たちと一緒に袋叩きにしちゃえばいいのに、やろうとしない時点でやる気ないのは明白でしょ?」

「敵の居場所が分かっていないだけなのでは…」

「んなもん偵察にも出さずにどう調べるって言うのよ!?

 つか、やむを得ずに生徒を前線に出して負傷させましたって言うのなら、教師部隊で人海戦術やって誰か一人が落とされた場所の近くに敵がいるのが分かるんだし、やりゃあいいのよ、生徒を守るために身体を張って給料分のお仕事を。

 絶対防御あるんだから死にゃあしないってのに、あの戦うべきときに腰が重すぎて何もしてくれないヘタレな元世界最強教師め! 生きて帰ってきたら内部告発して給料減らしてやるんだから、覚悟しなさい!」

 

 ジャンヌよ、それは死亡フラグだぞ?

 

「いいのよ! 帰ってこれないつもりで攻めてこその乾坤一擲! 格上相手に逃げ道用意しながら挑んで勝てると思う奴らの頭がおかしいだけ!

 突撃するときに後ろを気にしながらじゃ、勢い落ちるでしょ!? アレと同じよ!」

 

 さいで。

 

「いー、いー、かー、らー、行ー、くー、のー!!

 日本の領海外に出られたら攻撃不可能になっちゃうし、アメ公に回収されたら二度と復讐の機会が無くなっちゃうかもしれないのよ!? アンタそれでもいいの箒!? 気になる男が傷つけられたままで、本当にアンタそれで自分を許すことが出来るの!?」

「!!!」

 

 ジャンヌの言葉は篠ノ之箒の心にかかっていた無力感のカーテンを引き裂いて、彼女は見失っていた自分を再発見した!!

 

 

「…すまない、ジャンヌ。私ではやはり力になれそうにもない。また先ほどと同じ過ちを犯してお前たちまで傷つけてしまったら私は…私は、どうしたら……」

 

 項垂れる姿勢に戻る箒。彼女の見失っていた本当の彼女もこんなんでした。所詮は強がってるだけのヘタレである。

 

「そう…そこまで言うなら仕方がないわね。アンタを自主的に参加させるのは諦めるわ…」

「ああ…すまないな。やはり私よりも適切な人材がいた方がお前たちのためにもな―――」

 

 

 ダダダダダダダッ!!!!

 

 

「――選びなさい、箒。ISに乗って戦って死ぬかもしれない戦場に赴くか、乗らずに今ここでノワールのヘビーマシンガンに撃ち抜かれて死ぬかのどちらかをね。

 臆病者として生き長らえるより、こっちの方がよっぽどアンタの大好きなプライドを守れる名誉のためになるのでしょう…?(にっこり)」

「……(ガタガタガタガタガタ)」

 

 

 篠ノ之箒、銀の福音戦第二ラウンドに強制参加決定。

 つづく!

 

 

次回予告じゃなくて本当のオマケ

 

ジャンヌ「そもそもアンタ達って、普段から一夏をガチで殺そうとしてんのに、なんで敵に対してだけ殺そうとしないの? 気になる男よりも敵の方が好みだったりするの?」

 

原作ヒロン全員『うっ!?』

 

*基本的には脊髄反射で攻撃してるから、そこまで深く考えてない皆さん。

 本能の赴くままに「裸見られて恥ずかしいわ!」=「だから殺す!」に直結してます。

 

 ……何それ、すごく恐い……。

 

 

 

 

『使われることなく消え去っていったネタの一部』

 

 “暴走した軍用機に対処するよう当然命じられた訓練生が満足な情報も与えられないまま出撃して、威力は高いけど外れたときのリスクが巨大すぎる欠陥兵器が命中すること前提で立案された作戦に、新兵+IS歴半年未満の実績あるけど初心者な二人だけで参加してきたのだから、生きて帰投できただけでも御の字なのが現実”だったりはするのである。

 

 むしろ、開発者が『無茶苦茶強い』と太鼓判押した特殊装備だけスゴくて、性能的には平均的な第三世代機と同等でしかない世界中が血眼になって開発している第四世代機に乗った初陣の一般生徒としてはよくやった方、と言えなくも無いのだが。

 

 

 まぁ、好きな男が自分を庇って傷ついてしまったという現実を前にしては、それ以外の事実なんて年頃の乙女心補正でどうでもよくなるものなのかもしれない。

 人は所詮、“真実”を追い求めながら“信じたいと願うものを信じる”生き物であるからして。

 

 

(私はもう……ISには乗らな―――)

 

 傷ついたまま目覚めようとしない包帯だらけになった幼馴染みの姿を見下ろしながら、箒は一つの決意をつけようとしていた。

 

 心の中で小学校時代の思い出を走馬灯のように振り返りながら、『わき起こる暴力衝動を抑えきれない』とか、『剣術は自らの暴力を押さえ込むための抑止力』だとか、『ほんの僅かな重みで壊れてしまう危うい境界線上のリミッター』がどうだとか。

 ジャンヌが聞いたら大喜びしそうなワードを連発しながら自己嫌悪に浸る篠ノ之箒、16才。

 友達は、少ない。

 

 ……完全に邪気眼厨二病じゃねぇか…若さ故の過ちじゃねぇか…。

 お前は一体、どこの『ロミオとジュリエット』を演じるつもりなんだ?と、第三者がいたら訊いてくれたかも知れないこの状況。プライスレスでもなんでもいいから、誰か止めてやれよ。本当に…。

 

 

 

 

「あそこに! 私たちの目の前に! アメ公が造った鈴を鳴らしてりゃいい兵器がプカプカ浮かんでバカみたいに立ち止まったままなのに! どうしてうちらのトップは出せる機体をすべて出して撃墜作戦指示だそうとしないのよ!?

 量産機に乗る教師部隊も到達できる距離で立ち止まったままなのにーーーーっ!!!!」

 

 

 ジャンヌ、大激怒。怒りのあまり言ってる内容が、どっかの世界で核撃たせたブルーな人たちの親玉みたいになっちゃってるけど、こっちの主張は割かし真っ当。

 

 最初に失敗したときに参加できたのが二機だけだったのは、敵が遠すぎて速すぎたからというだけであって、時間掛けてもいいなら普通に全機投入可能であり、中世ヨーロッパの戦争でもない限り実戦に人数制限なんて物は存在しない。

 数は力で、質より量なのが実戦だ。

 「正々堂々、一対一で」なんて数が少ない方しか言わないし、負けてた数で優位に立ったら言わなくなる詭弁でしか無い。

 

 夢もヘチマも浪漫もないが、そんなもの戦争に求める方がおかしいんだし別にいいんじゃね? ・・・それがジャンヌ・デュノアクオリティ~。

 

「だ、だが敵の居場所はわからないのだろう・・・?」

「近くにいる可能性がなきゃ、三時間以上も待機命令だされ続けるわけがないでしょう!?」

 

 これまた真っ当。織斑先生はハッキリと明言してました。

 『状況に変化があれば招集する。各自現状待機しろ』と。

 

 敵が離脱したのを確認できたら間違いなく状況変化だし、待機中の戦闘要員に通達してこない理由も特には思い当たらない。

 

 要するに、状況は変化しておらず、今も戦闘は継続中。少なくとも敵がこちらを襲撃可能で、待機中の操縦者に対処できる距離に留まってるのは明白すぎるということ。

 

 実際に銀の福音は、旅館から三十キロ離れた沖合上空にステルスモードで滞空中。光学迷彩は持ってないから衛星による目視が可能なことを、ラウラだけはこの時既に知っています。

 そして、ハッキングして不正に情報を取得した彼女とは違い、正式な身分と権限を持って情報提供と協力を要請できる織斑先生が知らないと思えるほど彼女は恩師を過小評価していなかったから・・・・・・早い話が隠蔽してますよね? 織斑先生ぇぇ・・・・・・。

 

 

「い、位置の特定に時間がかかってるだけかもしれないわよ・・・?」

「夕方よ! 今は!」

 

 はい、その通り。作戦が開始されたのは昼頃で、今は四時頃。三時間以上もぶっ続けでオアズケ食らわされてたジャンヌの乏しい忍耐心は、こうして爆発しておりました。

 

 どこの誰だ? 火を付けたままコロニーレーザーをほったらかしにしていた大馬鹿者は。爆発しちまってるじゃないか、責任者出てこい織○先生!

 

 

 

 

 

「怪我人治すのは医者の仕事。IS操縦者の仕事は敵を倒してくること。

 役割が違うのよ。ここに居たって何の役にも立たないんだし、ボーっと待ってるだけよりかは敵探してぶっ潰してた方がまだしも少しぐらいはマシでしょ?

 ほ~んと、平和な世の中には向かない難儀な商売だわ。IS操縦者って」

 



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第14話「君の名前を言ってみろ(小物感)」

更新です。いくつか同時進行で書いてたら一番最初に出来ましたので先に出しておきたいと思います。勢いだけの主人公は書いてて楽ですね。
全開は言霊風に理屈が強くなりすぎましたし、出来れば勢いある話に戻したかったのも関係してたのかもしれません。


「む。来たか…」

「げ!? …ら、ラウラ……」

 

 箒を仇討ちメンバーに加えてドナドナしながら浜辺へとやってきたジャンヌは、思わぬ人物が待ち構えていたことで思わず美少女がしてはいけない表情と声で鼻白まされていた。

 

 ――ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 ドイツの代表候補生にして、ジャンヌのファーストキスを力尽くで強奪した少女である。

 女として一生涯残るであろうトラウマの主であり、万が一セカンドキスまで奪われた場合には立ち直れる自信は皆無な相手……要するに『命令がない限りは近寄りたくもない少女』が待っていたわけだから……。

 

 

「…な、なんの用よ? 私たち今からやることがあるんだけど…」

 

 若干以上、腰が引けた状態で問いただす声にも力は無いが虚勢だけは張るのをやめないジャンヌは、負けたことを認めるのが嫌いな思春期。箒や鈴となにも変わらない。

 人類皆愚民、六十億総愚民。しょせん世の中そんなもの。

 

「貴様も凰から誘いを受けて乗ったのだろう? ならば私と同じだ。気にするな。

 ――もっとも私は軍人がもつ特権行使しまくって軍用の偵察衛星で敵の所在を確認済みなのだがな~?」

「ぐ…」

 

 ジャンヌ沈黙。あるいは撃沈。

 ぶっちゃけ、再出撃と再戦は決意したものの索敵に関しては超大雑把にしか考えてなかったイノシシ思考の彼女は鈴からオズオズとした口調で誘いを受けるとアッサリ自分の案を放棄して乗ってきたのだから言い返すことなど出来るはずもない。

 

 

 ……まぁ、自分の計画だと突然の奇襲で慌てて片付けただけの新型装備の中にレーダー類も混ざってるだろうからソレを使おう。

 

 

「片っ端から使っていけば数打ちゃ当たるわよ、きっと」

「軍事機密の塊ばっかなんですけども!?」

「命令違反して軍事機密を個人的復讐戦に使おうってんだから今更よ!!」

 

 

 ……こんな案とも言えない案だったわけだから捨てるのは当然ではあったのだけれども。

 

 それでも言い返さずにはいられないプライドの高さを持つジャンヌは、ISヒロインの一員です。

 

「え、越権行為じゃないの? それって……」

 

 はい、ジャンヌ。お前が言うな。

 

「フ。何を今更……軍人が命令違反と条約違反をすると決めたのだぞ? 越権行為ぐらいは些事だろう?」

「う、ぐ……」

 

 はい、ラウラ。お前の言うとおり。だからもう少しだけでいいから自重しろ?

 

 ――実際問題、この中で一番命令違反を犯したらマズイのはラウラである。

 なにしろドイツ正規軍の少佐であり、専用機《シュヴァルツェア・レーゲン》は現在イギリス・イタリアとコンペしている次期主力機候補のレーゲン型に属する機体であり、落とそうとしている敵は暴走したとは言えアメリカ軍の軍用機でもある。

 

 アメリカもドイツも『軍事転用が可能になったISの取引などを規制することを定めたIS条約』の加盟国であり、今次作戦を命じてきたのIS委員会は『国家が保有するISの動向を監視するために設けられた国際機関』である。

 

 そしてIS条約は『白騎士事件で国家が保有する軍事力もISの前では無力になることが分かった世界の混乱を収めるため』に結ばれている……。

 

 

 ……これって見逃したらヤバいことになるのではないだろうか?

 

「ここから三十キロ離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードで待機中だ。光学迷彩は持っていないようだから目視できる。つまりは、お前でも討てるということだ(ニヤリ)」

「ぐ。ぬぬぬぅぅぅ……」

 

 ライバルをやり込めたことでご満悦なラウラだが、実際にこれからやろうとしていることは『第二次白騎士事件』に成りかねない大惨事にまで発展する可能性は微塵も考慮してないところから見て間違いなく同類である。

 

 個人的動機で世界を揺るがす天災じゃない篠ノ之束モドキになりつつあるドイツ人少女は、その自覚もないまま世界を破滅へ向けて突き進んでしまうのか…!?

 

 

「そ、それにしても目視可能な三十キロ先で待機中の敵発見かぁ~。

 ――そんな間近で見えてるのに何も言ってこないなんて、絶対やる気無いわよね織斑センコー様は?」

「……言うな。教官への尊敬は揺らぎようもないが、最近だとお前のせいで言葉の端々に疑いの目を向けてしまう回数が増えてきているのだから……」

 

 ジャンヌ反撃。一矢報いることに成功したが、IS条約を持ち出した方が効果的だったので賢くはない。やはり人類皆愚民、まちがいない。

 

 …つか、織斑先生は割と本気で何やってんだ? 状況に変化あったら伝えると明言してたような気がするのは気のせいなのか? 彼女の主観だと敵発見は状況変化に属さないのか?

 

 もしかして発見自体は当初からしてたから、攻撃してこない限り状況が変化した訳じゃない。

 「今は攻撃してきてないんだし、このまま何も起きないで済む可能性も~」とかの日本人的考え方に基づく迎撃作戦指揮だったのか? IS条約以前に国際法で領海十二海里に無断侵入してきた兵器を攻撃するのは国家の主権を守るためには必要不可欠なんだけど……。

 

 

「ま、とりあえず征くわよ。ニホンジンの大好きな復讐をしに! 仇討ちに! 復讐戦に!」

「うむ。このまえ映画館で私も見た『四十七士』と言う奴だな。感情任せにツッコんでいって処罰されたイノシシ上司の復讐をするため、職を失った敗残兵の寄せ集めが自暴自棄の末に夜襲を掛けて、敵であれば全て皆殺しにする見当違いな復讐の快楽に酔う……まさに今の私たちには相応しい例えだな」

『……』

 

 二人以外、全員イヤそうな顔して無反応。

 セシリアは騎士道物語大好きなイギリス貴族だし、鈴は主への忠誠示して無謀な特攻絶賛な三国志の国出身だし、箒に至っては時代劇大好き人間だ。今の話で愉快になれる道理がない。

 

 唯一の庶民出身者で、大人たちと権力者の都合によって振り回されかけた経験のあるシャルロットだけが

 

「なんだかな~。まぁ、ジャンヌらしいと言えばらしいのかも」

 

 と、苦笑だけで済ませてしまえる出生の事情を背負っている。

 人は生まれた国と家に生涯縛られざるを得ない生き物なのかもしれなかった……。

 

 

「では、出撃する前に作戦を説明する! 総員傾注! アハトゥング!!!」

『応っ!!』

 

 こうして、それぞれが己の新装備の性能と特徴を伝え合った上で立案された『第二次銀の福音戦』が開始されたのである。

 

 

 

 ―――が、しかし。

 

 

「………――っ?」

 

 ズドゥンッ!!!

 

「初弾命中。続けて砲撃をおこなう!」

 

 ラウラの新装備『八十口径レールガン《ブリッツ》』で不意打ちすることから始まった第二次福音戦で特筆すべき事柄は、意外なほど多くはない。

 

 

 そも不意打ちとは騙し討ちのことであり、敵が奇襲を想定して備えていない限りはほぼ確実に先手を取れる戦法であり、戦いは機先を制した側が有利なのが当然であり、機先を制された側が態勢を整えるため序盤は劣勢を強いられるのもまた当たり前のことでしかない。

 

 正面から挑んでも勝ち目のない敵よりも弱い者たちが用いるのが奇策であり、不意打ちであり、夜陰に紛れて接近してからの夜襲であり奇襲である以上は、戦闘開始直後に鈴たちがひたすら攻めるのも、銀の福音がひたすら退き一方的に押されまくって見えるのも戦術的に見たら双方共に妥当な戦術である。珍しがる要素は何も無い。

 

「うらぁぁぁっ!!!」

『敵機Bを認識。排除行動を開始す――』

「うおりゃぁぁぁぁっ!!!!」

 

 暴走してるが故に戦術コンピューターによる的確な判断を下して行動する銀の福音と、損害無視して前へ前へのジャンヌとの相性は最悪すぎるので、銀の福音がしたたかに損害を被らされたのも実力や性能とは次元の異なる理由によるものであろう。

 

 

 とは言え。

 もともと策を弄するとは、実力で及ばぬ者たちが狡知により実力差を誤魔化そうとしているだけであって、弱者の側の小細工でしかない。

 敵討ちに燃える心で普段よりも勢いはあるが、所詮それは怒りによってアドレナリンが大量に分泌されたことによる精神的暴走状態であるに過ぎない。

 そんなものを頼りにした勢い任せの突撃を敢行したところで限界点に達するまでの時間が早くなるだけで終わるのが軍事上の常識である。

 

 また、これも忘れられがちであるが今回の奇襲作戦に参加したメンバーの内、実戦経験があるのは新兵+一回だけ敗北記録のある箒ただ一人しかおらず、残りは全員訓練は受けたが実戦は初めてという新米士官ばかりであり試合とは異なる実戦の経験値は0の初心者に過ぎない。

 

 逆に福音の方は国家代表の操縦者が昏睡状態にあるとはいえ、彼女自身も実戦は経験しておらず、戦術コンピューターに人の心も経験則も関係ない。的確に戦況を分析しながら戦うだけの戦闘機械である。

 

 

 ――要するに、この作戦の流れを無駄な説明文なしで簡潔に詩的表現するのであれば。

 

 

『猛虎が、経験の浅い恐いもの知らずな猟犬の群れにみさかいなく食いつかれて辟易している』

 

『猛虎が態勢を整え直して反撃に移ったから、たちまち全滅させられかかってしまった』

 

 

 ――以上で終わる。これだとつまらないから、長ったらしい文章で表現しただけの作戦。

 それがこの、『第二次銀の福音戦失敗』までの経緯だった……。

 

 

 

「クソがっ! 押し切れなかったか!」

 

 ジャンヌが口汚く罵る声が夜の海に響き渡った。

 彼女の機体シュバリエ・ノワールは、攻撃特化で防御無視の突貫タイプであり強襲型だ。押してる分には強いが、押し切れずに耐え凌がれると途端に弱味を晒してしまう致命的欠点がある。

 

 まして、他の機体は特殊武装が多く不意打ちに適したものばかりで地力に乏しい。

 実力差で及ばないからこそ知恵を出し合い、ビックリドッキリギミック武装を惜しげも無く投入して相手を驚かせてイニシアチブを取り、思う存分暴れ回っていられる間までは良かったが、ネタが尽きて手の内が晒されてしまった詐欺師の群れが一騎当千の軍人に(多対一を想定した軍用機という意味)勝てるわけがない。

 

「くっ…! こうなってしまっては、やむを得ん!!」

「なんですの!? ボーデヴィッヒさん! なにか策がありますの!? でしたら早く教えてくださいませ! もうこの際なんでもいいですから!!」

 

 策で勝とうとせざるを得なかった弱者の側に策が敗れたときの備えなどあるはずもなく、あるのであれば策などに頼る必要も無く、必勝だと信じて挑んだ作戦が上手くいかなくなってしまった彼女たちは藁にも縋る思いで仲間内では一番強い軍人のラウラに頼るしかない。

 

「全機で自爆特攻する! 一人残らず全滅しても迎撃作戦を命じられた側だから敵さえ落とせば敗けにはならん! 一人残らず無駄死にで終わるよりかは多少マシな結果だ!」

「それって作戦じゃなくて、カミカゼ特攻隊って申しませんですこと!?」

「日本の海でアメリカ軍機におこなうのだから相応しいだろう!? 篠ノ之の好みにも合うことだしな!」

「いや、合わないぞボーデヴィッヒ!? 全く以て合ってない!!

 私は勝つための力が欲しいと思っただけであって、勝利のためなら全てを犠牲に捧げさせるような大日本帝国的やり方は私の趣味に合わん! 私は侍であって帝国軍人などでは断じてない!」

「大日本帝国はドイツ帝国の同胞で、武士の世を終わらせた明治政府の後継国家で、勝ちこそ全ての手段を選ばぬ戦い方こそゲネラール・サイゴーやアトミラール・サカモトだったと士官学校の戦史で教え込まれているのだが!?」

「嘘ぉぉぉぉぉぉっ!?」

「うん、みんな。もう少し真面目に戦おうか? ピンチだからって現実逃避しちゃダメだよ?(にっこり)」

『ご、ごめんなさい…』

 

 最恐姉の威圧により戦線崩壊だけは防いでいるが、状況が改善する予兆は何一つ訪れない。 しいて言えば援軍による来援が数少ない形勢逆転できる可能性の目なのに、三十キロ先のIS学園宿泊施設から教師部隊が助けに来てくれる様子は欠片も見いだせないままなのだ。

 

 命令違反を犯しておいて何を今更と思うものもいるであろうが、そもそも彼女たちの命令無視による独断専行と日本の防衛とは別物として捉えるべきなのが迎撃作戦という実戦である。

 命令違反者を処罰するのはIS学園教師である織斑先生の義務だが、銀の福音への対処を命じられた迎撃作戦の責任者もまた彼女の務めなのである。

 

 加重責務で給料分以上の仕事をやらされている、政府は労働法を守れ!と言うなら今次作戦を命令してきたIS委員会に異議申し立てするのが筋であり、教師とは生徒に範を示すため率先してルールを守らなければならない役職でもある。

 あと、IS学園は公の国家権力が介入できない治外法権の地なので、日本政府に何言っても無駄かもしれない。都合良くも悪くもなる治外法権という言葉は便利で不便だな。

 

 

 …まぁ、なんにせよ彼女たちを命令違反の自己責任で見捨てることと、目の前で起きてる戦闘で落とせそうになってる敵機に総攻撃をおこなわせないことは完全に別次元の課題なので援軍が来ない理由は正直よく分からない。

 分からないが、来援される気配はなく敗色は濃厚。これが今起きている現実の全てである。

 実戦においては、現実の結果こそ全て。敗けは敗け、可能性は可能性。

 成功率1パーセント未満の作戦だろうと成功したら喝采浴びるし、9割方勝ちを収めた戦いで最後の1戦だけ不意打ちされ負けてしまったら無能者。――それが実戦なんだから、本当にもうどうしようもなかったりする……。

 

 

 そんなピンチの中で“ほぼ”全員が同時に心から叫んだ名前は一つだけ。

 

 

 

 

“一夏!!!!”

 

 

 

 

「おう。待たせたな、みんな。俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」

 

 

 

 

 ―――こうして訪れる救いの手ならぬ、救いの翼…。

 なぜか復活した一夏と白式の戦線復帰により形勢は逆転。

 

 傷ついた福音と、身体に痛みがあるだけでエネルギーは満タン近くまで回復していた白式+一人も欠けてない最新鋭の第三世代乗り五人。

 

 途中で銀の福音がセカンドシフトする予想外の展開がありはしたものの、一夏も同じくフォームシフトしたのでプラスマイナスで考えた場合には足し引き0だ。戦力比的には、なんも変わってない。

 

 そのまま順当通りに数で押し、戦いを優位に進めていき、敵が退こうと背中を見せたらスピードでは互角の白式で襲いかかって、『逃げようとする敵を背中からぶった切る』侍として恥でしかない止めの刺し方をしようとする一夏の補助を箒が『絢爛舞踏』でエネルギー回復して支援する反則行為までおこなったことで終結した。

 

 

 結果的にこの戦いは、実戦未経験な訓練生たち+実績あるけど新人1人+味方殺しの新兵1人という酷すぎる構成のIS学園奇襲組が、実戦を想定して開発された軍用IS相手に一人の欠員も出すことなく勝利を収めて帰還するという、相対的に見たら破格の圧倒的勝利により幕を閉じた。

 

 

 一夏が復活した理由は不明であり、奇跡が起きずに復活できず死んでいた可能性もあるのだけれど、所詮『現実に起きなかった可能性の話』でしかない。

 実戦において、結果こそ全てだ。

 

 一人も欠けることなく勝利した。これだけが唯一無二の事実であり現実であり結果なのが実戦だ。起きるかもしれなかった事態とは、実際にその場で敵と戦う兵士たちにとって『タラレバ話』のひとつでしかなく、終わってから思い出話に花を添えるぐらいの価値しかない。

 そういうものだ。実戦なんて。

 試合と違って夢など微塵も抱くべきではないし、浪漫もない。

 夢が壊されるだけの場所、夢が壊されて現実の苦い吐息に嫌気がさして辞めたくなる場所。

 それが実戦の戦場だ。それが実戦の戦場であるべきなのだ。

 ―――こんなものが試合より優れているだなどと、戯けたことを抜かすアホウが生まれないためにも、戦場と戦争は酷いぐらいで丁度いい……。

 

 

 

 …ちなみにだが、

 

「作戦完了――と言いたいところだが、お前たちは独自行動により重大な違反を犯した。帰ったらすぐ反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ」

「……はい」

 

 酷い戦場から帰ってきた戦士たちの帰還は、それはそれは冷たいものだった。当たり前の話だけれど。

 結果論が通用するのは戦場だからだ。日常とは違う酷い場所と状況で、勝った側の理屈が罷り通ってしまうような非日常の場だからこそ必要悪が存在し、最終的な勝利のためなら刻に是とされ命令違反までもが賞賛される事例も起こりうる。

 

 だが、いや、だからこそ非日常が終わって日常へと帰ってきた戦士たちには正当な処罰とルールに基づく正しい対応が必要不可欠となる。

 日常に戦場を持ち込んではならず、平和に戦争を持ち込ませるのは絶対に避けさせなければならない。

 「自分の方が正しいのだから」と命令を無視して敵を討ちに征く行為を褒めでもしたら模倣犯が激増して酷すぎる事態を招きかねん。敵襲のもたらす被害より、もっと性質の悪い結果をもたらしかねないので織斑先生の言うことがこの時ばかりは非常に正しい。

 

 

 …いや、むしろ、ちょっと処罰が軽すぎませんかね先生?

 軍事機密勝手に持ち出した上に条約違反(ISの無断使用。軍事機密は国法)を犯して、危うく外交問題に発展しかけてたかも知れないトンデモ作戦だったのですが……byどっかの平行世界の以下略。

 

 

 ――そんな風に変なところでだけ身内贔屓を発揮する関羽と言うより信長みたいな織斑先生の粋な計らいによって、学生レベルの処罰に落ち着いた幸運をいただけた主人公たち一同であったが。

 

 

 どこにでも罰当たりというのは居る者なのである。

 

 

「ほ、箒…? そ、その格好は…(ドキドキ)」

「あ、あんまり、見ないで欲しい……。お、落ち着かないから…」

「す、すまん(セ、セクシー…)」

 

 自分が死んでたかも知れない可能性を「なんか治ってたし、いいんじゃないか?」で済ませてしまって夜の海を泳いで遊んでた世界唯一の男性IS操縦者は昼間は拝めなかった幼馴染みが持つ巨乳とビキニ姿とツンデレ美少女のデレ顔という三点セットを思う存分貪り尽くし、あまつさえ向こうから来たときには気づきもしない鈍感さを水平線の彼方へと放り投げ、自分からキスを迫ろうとする男らしい自分勝手さを発揮しようとまでした妥当な罰が下される。

 

 

「うふふふ……ブルー・ティアーズ…」

「よし、殺そう」

「一夏、なにしてるのかな…?」

「ぬあああっ!? ご、誤解だぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 どこがどう誤解なのか分からないが、とにもかくにも夏の夜に天然ジゴロで無自覚な女好きが悲鳴を上げて鳴く頃に―――――。

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして少し離れた月明かりの下、二人の美女が対峙していた。

 

「ねえ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」

「そこそこにな」

「そうなんだ」

 

 言葉を交わし、そして沈黙。

 一人は楽しそうな笑顔の下にナニカを隠しながら。

 もう一人は存在そのものが秘密の集積体である事実を内包しながら。

 

 そして岬に風が吹き上げ、何かをつぶやき束は消える。

 千冬は息を吐き出して、後頭部を押し付けるように木に寄りかかり、空を見上げた。

 

 満月の綺麗な夜だった。

 月のウサギが故郷のいるべき場所へと帰って行くには相応しい夜ではないのかと、柄にもない妄想を掻き立てられてしまう程度には綺麗で綺麗で儚い満月の夜だった。

 

 

「ふ。私も年を取ったと言うことかな――――」

 

『うぉぉぉぉぉっ!? 静まりなさい私のノワール! 怒りを静めるのよ! まだ早い! まだ早いわ! あなたの憎しみの炎が世界全てを焼き尽くす約束の日に至るにはまだ条件が満たされていない! 早すぎるのよ! 

 理性を浄化する月の伝説になぞらえて、憎しみよ怒りよ月へと還れ! ゴッド・フェンリルーーーーーーっっ!!!!!』

 

「ぎゃーーーーーーっ!? なんで空飛んでる束さんが背後から突然の奇襲をーっ!?

 探知不能なはずなのにーっ!?」

 

 

 

「……………え?」

 

 

 箒の悩みを聞いてインスピレーションが湧き、夜中の満月を利用して呪文詠唱の練習していたジャンヌに撃ち落されて月に帰れなかったウサギを見るのであった。

 

 注:夜に満月の中に入るのはやめましょう。狙ってなくても的にされてしまいます。

 

つづく

 

 

おまけ:「一夏が復活したときのラウラちゃん」

 

「……(警戒中。だって本物は旅館で意識不明だし、素直に復活喜べるほど親密度高くないし。ぶっちゃけ話したこと自体あんまり無いし)」

 

 今作だとヒロインとしてはアウトオブ眼中なラウラちゃんでありましたとさ。

 

 

福音戦についての個人的感想:

 「兵は詭道なり」と言うけれど、数を集めるのが大前提の戦で5倍の数を擁してながら詭道を使わざるを得なくなってる時点で敗けだと私は思う。

 一応は第三世代同士なわけですからねぇ…。



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第15話「生徒会長は悪女の素質あり?」

更新です。故あって夏休み回は飛ばして文化祭の出し物決めからいきなりスタートしてます。いい話が思い浮かばなかったことと、後からでも付け足して問題ない部分だったからというのが理由です。ご承知おきくださいませ。


 秋。秋である。

 世間では運動会だ体育祭だ食欲の秋だ芸術の秋だ薄着の女の子が厚着になるけどこれはこれで!と、騒がしくなる季節の到来である。

 

 とは言えIS学園は、世界唯一のIS操縦者育成機関であり、通常の学校行事とはやや異なるタイプの催し物も企画されているので将来を考えるならそちらの方が生徒たちの注目度も高いはずだが、そこはやはり女の子。

 

 新学期最初の学校行事である学園祭が一番気になります。

 

 そんな中で自分たちは、出し物として何をやるのか?

 毎年のように揉める恒例行事の一つだが、今年は多少事情が異なり景品が増えている。

 それは、出し物の人気投票で一位を取った部活動に『世界初の男性IS操縦者織斑一夏を強制入部させる』と言うもの。

 

 欲望が(主に性欲なんだろうなー・・・)刺激された年頃乙女の群れは各々の部活動とクラスで出し物を練り合い、意見を交換し、必勝の策を議論し合っていたわけであるが。

 

 

 ――肝心の、織斑一夏が所属している1年1組では意外すぎる提案が意外すぎる人物より出されて、それどころではなくなってしまっていたのだった。

 

 

 

「メイド喫茶はどうだ」

 

 

 ざわっ!?

 

 ・・・ドイツから来た代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒからの提案を聞いた1年1組に緊張が走った!

 この時のクラスメイト一同の内心を文字で表すとこうなるだろう。

 

 

“あの無愛想でバトルジャンキーのボーデヴィッヒさんが、メイド喫茶ですって!?”

 

 

 ――と。

 

 一夏に負けたわけでもなく、新たなライバルを得たことで過去を乗り越え、次なる目標『ジャンヌ倒す!』を得た“だけ”のラウラ・ボーデヴィッヒは実のところ前とあまり変わっておらず、《戦って得た勝利こそが至高価値》とする伝統的ゲルマン魂を時代錯誤にも蘇らせて常日頃から静かに燃えたぎっている少女になっていたため、本来の時間軸より提案内容とのギャップが激しすぎたのである。

 

「客受けはいいだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える。確か、招待券制度で外部からも入るだろう? それなら休憩所としての需要も少なからずあるはずだ」

 

 いつもと同じ淡々とした口調でありながら、いつもの彼女とそぐわなすぎる趣旨の内容を説明して椅子に座り、意見のまとめ役をやらされている一夏が挙手を取り始める。

 

 

 その様子を微笑ましそうに見つめている藍色の瞳があった。

 

「良かった、ラウラもきちんと学校生活が送れているみたいだね。

 あんなに可愛いんだもの、学生の間ぐらい目一杯楽しんでおかなくちゃ絶対に損だよ」

 

 母性豊かで、問題児のラウラとも比較的早期の内から仲良くやってきた彼女としては、妹に出来た日本で最初の友達とあってラウラにはかなり入れ込んでいるところがあり、学園祭の出し物を決める話し合いの場で自分から意見を言えるよになったのは素晴らしい進歩だと絶賛してたのだ。

 

 

 ――要するにシャルロットは、親としては子供に甘すぎるタイプだと言うこと。

 ダメな子ほど可愛いと言って怒るべきところで怒ることが出来ないから、問題児に好かれるけど問題解決からは遠ざけてしまう二律背反の半端な母性の持ち主だと言うことであるだろう。

 どちらにしても彼女は完璧ではなかったし、彼女自身も完璧を目指していなかった。

 自分は妹と一緒に素敵な旦那様にもらってもらえて、人並みに幸せな生活が送れたら十分すぎると、恋する乙女らしい甘い夢を抱いているのが彼女な訳だけど。

 

 そもそも実家が倒産寸前で、刑務所入りも覚悟しなければならない企業スパイもどきだった彼女には本来、人並みの幸せなど分不相応に該当しているのだが。その事に彼女が気づくことは多分ない。

 人は所詮、自分の見たいものだけ見て、真実だと信じたいものを信じ込んでしまう生き物である。

 

「ねぇそうでしょ? ジャンヌもそう思うよね? ラウラは今みたいになれて本当に良かったって♪」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・(ダラダラダラ、くるくるくる~♪)」

 

 

 

 

 

 

「・・・おい? そこの窓の方向いて後頭部にジト汗浮かべながらペン回しする、ジャパニーズコミックみたいな誤魔化し方してる僕の妹ちゃん?

 ちょっとこっち向いてお姉ちゃんの顔を正面から見てみようか~?」

 

 ――明らかに今回の件で心当たりがありまくる様子の日本の漫画オタクな妹に逃げられないよう肩をつかんで力を込めながら、静かに全力で抵抗している妹の悪足掻きと力比べをおこない続ける姉妹。家族って、以外と大変そうですな・・・・・・。

 

 

「ち、違うわよ!? バッカじゃないのアンタ! それでも私はやってない!!」

「・・・・・・なにを?」

 

 テンパって何言ってんのか誰一人として理解不能な誤魔化し台詞を口に出す妹のアホさに頭痛を感じながらもシャルロットは、後ほど妹には今回の件でしっかりとOHANASHIを聞かせてもらおうと決意して前方に意識と視線を戻してやった。

 なぜなら今はHR中。クラスの出し物を聞ける方が重要であり優先事項は上なのだから。

 

 

 とは言え。

 クラスの半数以上が意外さも手伝ってラウラの案に乗り気になってた時点で態勢は決していた。

 決を採っての多数決という手法は、平等で公正なように見えて実は不平等きわまりないシステムだったりする。匿名性が失われる上に、誰が誰の意見に反対したかがハッキリと分かってしまう状況の中では少数派が反論するのは難しい。

 

 民主主義とは互いの違いを尊重しあった上で意見を出し合い、相談し合いながら最終的な結論を導き出すだけの余裕がある場合に限り成立することが可能な『互い同士が抱く信頼』あってこそのシステムだから。

 

 要するに一夏が挙手を求めた時点で、既に多数派が形成されていたラウラの案は採用が内定しており、後は流れ作業として手順をこなすだけの消化試合があるだけだったりする。

 

 そして、至極当然の結果としてラウラの案が採用されて1年1組の出し物はメイド喫茶に決定されたわけである。

 

 

 

 閑話休題。

 それはそれとして、一夏には最近大きな悩みが生まれていた。

 

 

「はぁ・・・鈴相手に二連敗か・・・。なんでパワーアップしたのに負けるんだよ、白式ぃ~・・・」

 

 溜息を吐きながら廊下を歩く世界初の男性操縦者織斑一夏。彼が今抱えている悩みとはズバリISのことだった。正確を期するなら白式のことについてだった。

 

 夏の海で起きた福音戦の最中にパワーアップして新たな武装と、更なる高機動を可能にした白式だったが、根本的な欠陥である燃費の悪さは逆に悪化してしまい、最近ではパワーアップする前よりも勝率が落ちてきている状況に陥っていた。

 それが、ISを通じて姉に恩返しが出来る強い男になりたいと願うようになっていた彼に悩みを抱かせていた訳なのだが。

 

 

 そもそも、剣しか習ってこなかった脳筋少年が銃を撃てる機体に進化したから「射撃戦も両立させなくちゃ!」とか言いだしてる時点でおかしいのだけれども。

 付け焼き刃の遠距離射撃用武装を接近白兵戦仕様の機体に持たせるとしたら牽制目的であって、当たらなくてもいいと思うのは私だけでしょうか・・・? byどっかの世界の銀以下略。

 

 

 まぁ、そんなこんなで悩み多き少年が廊下を歩いていたところ。

 

「だーれだ?」

 

 ――突然、後ろから目を塞がれて名前当てクイズがスタートさせられた。

 ・・・これは今朝も体験したから相手はわかる。わかってしまう。

 

「更識楯無・・・生徒会長さん」

「アハッ、せいかーい♪ 覚えていてくれてお姉さん嬉しいわ、一夏くん」

 

 陽気な声とともに目を塞いでいた腕をほどくと、前方にまわって腰の後ろで両手を組みながら前傾姿勢の上目遣いで一夏を見上げ、今回のことの発端を作った学園最強のIS操縦者は彼に対してこう告げる。

 

「それで今朝言ったことの決心はついたかな? 私が君を指導してあげるって話について答えをだす決心が」

「いや、だからそれはいいですって。大体、どうして指導してくれるんですか?」

「ん? それは簡単。キミが弱いからだよ」

 

 ――その一言で場の空気が変わる。

 

「それなりには弱くないつもりですが」

「ううん、弱いよ。無茶苦茶弱い。だから、ちょっとでもマシになるように私が鍛えてあげようという話」

「・・・じゃあ、勝負しましょう。俺が負けたら従います」

「うん、いいよ」

 

 にこりと笑った相手の笑顔は『罠にかかった獲物を見つめる猛禽類』の其れであり。

 織斑一夏は今時子供でも引っかからないような単純すぎる挑発にアッサリ乗せられ、畳道場へ自主的に赴いてしまった。

 

 

 

 その結果。色々あってこうなりました。

 

 

「失礼しまーすって、・・・あれ?」

「え?」

「あら?」

 

 場所は畳道場。一夏と楯無は勝負のために白胴着と紺袴姿でくんずほぐれず中。

 具体的には、楯無さんの袴脱がせてパンツ丸見え状態にしちゃってます。

 

 対する闖入者ジャンヌは、厨二バトルin和風ファンタジーな建物を見つけたので声かけてから入らせてもらった代わりに、楯無さんのパンツと、一夏の袴脱がし現行犯の決定的瞬間を目撃させられた訳であるが。

 

 

「えーと・・・(ポリポリと頬をかくジャンヌ)」

 

「・・・・・・(サァーっと、血の気が引いていく一夏)」

 

 

 そんなこたぁ、小学校時代にスカートめくりすらやったことがないのに、高校生になったら一年目で袴脱がしを達成してしまったパンツ丸出させ犯織斑一夏少年Aには関係ない。

 とにかく青ざめ、何かしら説明しないとマズいと慌てながら、ではどのように説明すれば誤解だとわかってもらえるだろうかと思い悩み、そのままの姿勢、そのままの態勢を維持したまま十秒近くの間タップリと更識会長にパンツ丸出しの恥辱を味合わせた後。

 

「くふ☆」

 

 生来のイタズラ好きと空気を読めるコミュニケーションスキルとが化学反応起こした会長から、適切な反応を返されてしまった一夏はサービスシーンを提供される羽目になるのであった。

 

 

「イヤン♡ 一夏くんの、えっちぃ♪」

 

 

 内股にフトモモを寄せ合わせて、右手の扇子で下着を隠す。

 扇子に書かれている文字は『ぱんもろ♡』

 

「―――っっ!!!!!」

 

 最悪だった。最悪のシチュエーションで最悪のポーズを取られてしまった。

 これでは誤解するなという方が無茶ブリであり、そもそも何処がどう誤解なのかと言えるぐらいに自分自身の手で脱がしてしまっている。

 

「「「・・・・・・」」」

 

 しばらくの間、重苦しくも微妙な空気が中を滞留し、ようやく声を発したジャンヌの声音は気まずさよりも微妙さに満ちたものだった・・・・・・。

 

 

「・・・ごめん。私、何も見てないから・・・・・・」

 

「え!? ちょ、ちょっと待て! ちょっとでいいから待ってくれジャンヌ! その反応は辛い! 気を遣ってくれてるのはわかるんだけど全然嬉しくないから! むしろ余計に辛いだけだから! 普通に他の奴らみたいに撃ってくれた方が気持ち的にはまだマシな気がする程に!

 頼むから待ってくれジャンヌ! ジャンヌ! ジャンヌ―――――っ!!!

 ジャンヌ、カームバ――――――――ック!!!!!!」

 

 

つづく

 

おまけ「二学期最初の実戦訓練、授業風景」

 

一夏「くっ・・・!」

鈴「逃がさないわよ、一夏!」

一夏「まだまだぁっ!」

 

鈴「無駄よ! この甲龍は燃費と安定性を第一に設計された実戦モデルなんだから!」

 

 

ジャンヌ「・・・燃費と安定性を第一に設計した『実戦』モデルのISって・・・・・・条約違反に当てはまらないのかしら・・・・・・」

ラウラ「・・・あるいはそれが原因かもしれんな。先月の福音事件でどこの国からもとやかく言われずにアメリカが堂々とシラを切り通せている現状は、皆どこの国でも同じような物を造っている証拠である可能性が無きにしも非ず」

 

ジャンヌ「笑えねぇー・・・。ドイツ人の冗談、マジで笑えねぇ-。笑い話にするのも怖すぎるから笑えないわー・・・」

ラウラ「ドイツ人は冗談を言わん」

ジャンヌ「嘘だっ!」



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第16話「ミスしてたよレイディ」

更新。雨降ってきて予定潰れたから書くのが早まった回のため短いです。
早く文化祭まで行きたいですしね。・・・ぶっちゃけ一夏の訓練と同棲生活がメインの原作部分なので関係しないジャンヌには描くべきポイントが見つからなくて・・・。


「・・・は? 負けたらコーチしてもらう約束で勝負に応じたから、ああなっていた?

 ・・・・・・アンタ、それ本気で言ってんの?」

 

 畳道場に上がり込んで(上がり込まされて)一夏から先ほどの件で説明を受けたジャンヌは、心の底からクズと見下げ果てたような眼で一夏を睨みつけてから吐き捨てるような口調で罵っていた。

 

「いや、本当に本当なんだって! 俺は本当に更識会長から指導してやるからと言われていて、挑発されて、売り言葉に買い言葉で買っちまった勝負の果てにあんな結末が待ってただけで・・・・・・嘘じゃないんだジャンヌ! 俺を信じてくれ!」

「いや、別にそこは最初から疑ってなかったわよ? 筋も理屈も通ってたし」

「・・・・・・・・・え?」

 

 キョトンとした顔で意外すぎる反応を(一夏主観での話だが)返されてしまって、思わず一夏の方もキョトン。

 

「えと・・・じゃあ、どこをどう俺の本気を疑ってたんだ・・・?」

「先に指導を頼んだ奴がいて、引き受けてもらっておきながら断りもなしに別の奴からの誘いを受けさせられてる今の状況」

「う、ぐ・・・」

「あと、さっきの話を説明すれば、パンツ丸出させの性犯罪を合法化できると思い込んでるっぽいキチガイぶりも」

「それは言わんといてください!! お願いしますジャンヌさま!!」

 

 思わず全力土下座の織斑君。男が女に頭下げるとか格好悪いとか言ってられない。そんなこと言える立場でないことぐらい流石の彼もわかってる。

 今回に関しては・・・・・・はっきり言って情状酌量の余地なく完膚なきまでに自分が悪い!!

 

 

 そんな一夏の醜態を見つめながらIS学園生徒会長の更識楯無は愉快そうにコロコロと笑う。

 

「まぁまぁ、ジャンヌちゃん。一夏君も反省しているみたいだし、その辺で許してあげましょうよ。お姉さんからのオ・ネ・ガ・イ♡」

「いや、お姉さんって言われても一個しか年違わないような気が・・・・・・」

「あら、一つだけ上でもお姉さんはお姉さんでしょ? 私間違ったことは言ってないわよ?」

「そりゃまぁ、そうですけど・・・・・・私、同い年で腹違いの姉がいますからねぇー」

「あ」

 

 そこで今ようやく思い出したような顔になる楯無。この人本気でデュノア姉妹の家庭の事情を今に今まで忘れてました。心の底から楽しんでたせいです。

 あと、日本だと腹違いで同世代な姉妹なんてドロドロした昼ドラみたいな展開しかあんまり見かけないから、傍目に見ても仲良しデュノア姉妹が義理の姉妹だってことを関連付けて考えることがあんまりなかったせいと言うのもある

 

「あ・・・あ~・・・あぁぁー・・・・・・それは何というか、なんと言っていいのか・・・とりあえずゴメンなさい。無神経な発言でした。しゃざい」

「いや、別に気にしてないからいいんだけど。・・・ところで今の『しゃざい』ってなに? 右手に持ってる扇子にも『謝罪』って書いてあるんだし、わざわざ口に出して読まなくても良かったような気がするんだけど・・・」

「口に出して伝えたい美しい日本語なので二つ言いました」

 

 混ざってる。なんかいろいろ混ざってますよ、生徒会長さん? あれ・・・? なんかデジャブ・・・byどっかの平行セカ以下略。

 

 

「まあ、そういう訳だから。私はこれから一夏くんの専属コーチをするから会う機会も多くなるだろうし、今後ともよろしくね? ジャンヌちゃん♪」

「はあ、まあ私は別にどうでもいいっちゃ、いいんですけど・・・」

「・・・あら、ちょっとだけ意外。予想と違って、ずいぶんと呆気なく引き下がっちゃうのね。もっと絡んできてくれたら楽しいことしてあげるつもりだったのに-」

 

 アッサリと一夏のコーチ役を奪われたことを受け入れてしまったジャンヌと、何の問題もなく受け入れられたことに少しだけ不満そうな会長。・・・アンタ一体どっちであって欲しかったんだよ。

 

 とは言え、会長がどう思っていようとも。

 ジャンヌにとって一夏のコーチ役が楯無一人に限定されることに反発する意思など生まれるはずがなかったのである。

 なぜなら彼女は―――

 

「私はコーチ役やってませんからねぇ。自分以外の誰がやろうが、そいつらの問題だろって感じでやってますし、誰かがやること自体に変わりないんで別にいいかなって」

「ふぅ~ん?」

 

 なんとなく要領を掴めていないような楯無さんの表情。

 彼女としてはジャンヌもコーチング役の一役を担っているのだと思い込んでいたわけではあるが、これはあながち間違っていない。実際に開始当初はローテーションの名義にジャンヌの名前は記されていたのだから。

 それがどうして今は外されているかと言えば、自分から『性に合わない』と言って他のメンバーに投げ渡してしまったからである。

 

 

 実のところジャンヌは教えるだけならともかく、模擬戦闘訓練の相手をするのが苦手だ。弱いのでも不利なのでもなく、嫌いなわけでもないが、とにかく苦手なのである。

 

 じゃあ、何で苦手なのかと聞かれたら、こう答えるのだろう。

「戦いに滾ると、私の魂が叫び出すのが止められなくなるのよ・・・っ!」とかなんとか厨二台詞を。

 

 要するに、一度火がついてしまうと止まれなくなるのだ、このイノシシ少女は。

 どちらかか、あるいは両方が倒れるまでひたすら全力出して戦い続けてしまう悪癖を持ってしまっている。

 実銃とは言え、軍事利用禁止の条約故にセーフティがかけられていて、戦闘と模擬戦闘の違いがあやふやになりがちなISを使った戦闘訓練は、致命的なまでにジャンヌには向いていない。

 最近では似たもの同士と化したラウラと倒れて戦えなくなるまで戦って、戦えるまで回復したらまた戦う、どっかの雑誌編集部みたいな訓練風景が日常と化してしまっていたりする。

 短期目標は、VTリベンジシステムを再起動させること。

 福音戦でも期待してたのに出てこなかった、あの役立たずシステムを無理矢理にでも引き出してやるため最初に出てきたときと似たような状況を作り出しまくっていたのである。

 

 考えるよりも感じるよりも、突撃して突破したがる女の子。

 それが、シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。

 

 

 

「・・・そう言えばジャンヌのノワールも白式と同じで攻撃特化のアンバランスなタイプだろ? 普段はどうやってエネルギー配分やりくりしてるんだ?」

 

 すっごく身近に仲間がいたことを(ようやく)思い出した一夏が質問して、ジャンヌは「はっ! 何を今更その程度のことを・・・」と、馬鹿にしきったような鼻息一つで笑い飛ばし、一夏をかなり「ムッ」とさせたからこう答えるのだった。

 

 

「全速力で突っ込んでいって、倒される前に倒す。

 倒せなくて負けたら、それまでのことよ」

 

 

「うわ、何この子。超カッコいい・・・・・・」

 

 楯無さん、思わず本心から賞賛台詞が出てきてしまいました。

 実家が密偵もやってる対暗部用の暗部組織な上に主家でもあるので、ジャンヌみたいな「死ぬか生きるかの戦い方」は実のところあまり用いたがらない人だったりするので、自分の中の乙女な部分が個人的に憧れてたりするのであった。

 

『人は自分が絶対に手に入れられないものをこそ、一番に求めて憧れる生物である』

 

 ・・・そんな言葉が昔のゲームにあったような無かったような。

 

 

「ま、まぁ、戦い方は人それぞれだからいいんじゃないかしら? ジャンヌちゃんはそれで」

「別に肯定してもらわなくても、今まで通り続けるつもりですから好きに酷評してくれて構いませんけど?」

「うぐ・・・」

 

 楯無さん、撃沈。ひねくれ者のひねくれた理屈は、事なかれ主義の一般論に特効スキルが付与されやすいので要注意。

 

「と、とーにーかーく! 第三アリーナいくわよ、第三アリーナに! そこで一夏くんには『シューター・フロー』とイグニッション・ブーストを組み合わせた対射撃戦用の戦闘動作をマスターしてもらう予定なんだから。あんまり出足に時間割き過ぎちゃうと習得までの時間がかかり過ぎちゃう!

 アレ使えないと次に敵が現れて射撃戦だった場合にめちゃくちゃ苦戦することになっちゃうんだからね!? そこん所、わかっているのかしらジャンヌちゃん!?」

「はぁ、まぁ。言ってることはご尤もなんで分かり易いっちゃ分かり易いんですけど・・・・・・なんで今更? この前の夏休み前に教え始めといてくれたら福音戦で楽できた気がするんですけd―――」

「さぁ、善は急げよ一夏くんにジャンヌちゃん! 敵と戦いは待ってくれないわ! 希望の明日をつかむためには後ろばかり見ていちゃダメよ! 強くならなくちゃいけないの!」

 

 

「あり得たかもしれない未来のタラレバ話をするよりも、明日をつかむための力が欲しい! 明日を望む意思だけじゃなくて、平和な明日を築く力が必要な今だから! 私は銃を握って戦場に向かう!

 大好きな君が今天国に行くよりも、いつか私が地獄へ行く未来を選ぶために! 私の銃はホッチキス!(汗みずくで必死になって誤魔化してるロシア代表選手の日本人)」

 

 

「・・・・・・(ジト目になってるフランス人)」

「・・・・・・(男の自分よりも潔い戦い方してる女子の存在を知って落ち込んでる日本男児)」

 

 

 

相変わらず混沌とした状況のまま、次回へ続く。

 

 

 

恒例じゃないけど今回もオマケ「一番頭のいい人間とは?」

 

一夏「そう言えば何かの本で『一番頭のいい人間というのは誰にでもわかる言葉で説明できる者』というのを読んだ気がするんだけど、楯無さんってまさにそんな感じの人だよな」

 

ジャンヌ「そーね。少なくとも自称天災の篠ノ之束とか言う、誰からも理解してもらえなかったMADよりは頭いいのは確かなんじゃない? アンタが今言ってた言葉が正しいんだとしたら、だけどね」

 

一夏「ぐ、む・・・」

 

 

バカor天災ウサギ「ぶえっくしょいっ!! うー・・・なんか最近くしゃみする回数増えたかなぁ~? 束さんは天才だから風邪は引くはずないけど、夏風邪は頭いいと引くらしいから、きっと夏のせいだよね♪ すべては真夏の太陽が悪い~♪」

 

クロエ「・・・・・・(鼻水が飛んできてビッチョリ)」



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第17話「IS二次創作 ーThe・ワンサマー・Partyー」

更新です。
本来ならオータム戦まで書こうと思っていたのですが、いくつかアイデアが出ていて、どれ使うか決まってないので先に生徒会劇が始まるまでの前振り部分だけ出させてもらいますね。


 色々あった末にやってきた学園祭当日。

 IS学園1年1組の出し物は活況を呈していた。

 

 

「うそ!? 一組であの織斑君が執事の燕尾服着て接客してくれてるの!?」

「しかも勝ったら彼とのツーショット写真付きゲーム対決もやってるらしいわよ!」

「これは行かない手はないわね! ちょっと銀行いって有り金下ろしてくるわ! 100万くらいで足りるかしら!?」

『おい、やめろブルジョア。アンタは日本人版オルコットさんにでもなるつもりか?』

 

 

 もともと治外法権の土地であり、優勝賞品として美味しそうなニンジンをぶら下げたのが生徒会長自身ということも重なって、いつも以上に日本国刑法と倫理観が崩壊気味になっている学園内は『売れさえすればそれでいい』とする結果オーライ、価格設定等を含めた弱肉強食の経済論理が支配する経済戦争の場と化してしまっていたりするのだが。

 

 

 ・・・・・・どういう訳だか1年1組クラス内の誰もがしていた『執事服一夏が目当てでやってきた客で大繁盛』という予測は大きく裏切られ、経営は混沌としたまま魔窟と化してより既に1時間半が過ぎようとしていた・・・・・・。

 

 

 ダンッ!

 

「水だ。飲め」

「え、俺が頼んだのはコーヒーであって水じゃないような気が・・・」

「客であるなら飲むがいい。飲まないのなら帰れ。店内に金を払わない客など必要ない」

「・・・・・・お、美味しくいただかせていただきます・・・・・・(ゾクゾクゾクゥゥッ!!!)」

 

 

「ねぇねぇ、そこのカーノジョっ♪ 学祭の後とかヒマ? 俺たちと一緒にどっか遊びに行こうよ~」

「・・・はぁ? いつの時代のナンパ台詞よ、それ。超ダッサイ。一度死んで美形に生まれ変われたら考えてあげなくもないから死んできなさいよ、バ~カ。何なら手伝ってあげましょうか?」

『・・・・・・ハフゥ~~~ッン♪(バタバタバタ。次々倒れる音)」

 

 

 ――客を客と思っていない(断定系。思っていない『かのような』ではない)ドイツ軍のイノシシ少女と、「メイド服着て接客するならツンデレでしょ」と勘違いしている日本の漫画オタクな日本での実生活半年未満なフランスの社長令嬢によって、メイド喫茶とも、ご奉仕喫茶とも違う何か別の法律が絡んできそうな光景が教室の後ろ半分で繰り広げられまくってたお陰で活況事態は呈していたけど、多分これは・・・・・・なんか違うと思うんだ俺は。

 

 

「これって本当に、高校の学園祭でやっていい出し物なのかしらね・・・?」

「・・・大丈夫でしょ、たぶん。IS学園って治外法権だからなんとかなるわよ、きっと。多分だけど・・・」

「―――俺には何も見えないな・・・」

「オリムー、男の子なら現実から目をそらしたりしちゃダメなんだよ~? リアルとちゃんと戦わなくちゃ」

 

 外野の方でも色々あるみたいだったが、とりあえず売り上げ自体は右肩上がりで向上して行ってるし良いとしておくべきなのだろう。多分だけれども。

 

 

*余談だが、売り上げこそ高くても二人だけで接客しているツンデレメイド喫茶はスペースが狭くて問題ないため、途中からカーテン引いて視覚的にシャットアウトしたことにより教室前半分のご奉仕喫茶も順調に利益を伸ばしていった結果、人気投票で生徒会劇と僅差になってしまって困った生徒会長が『教室前と後ろで分けたから別店舗』と言う不正をしたことにより一夏のその後が守られた事実を知る者は少ない。

 所詮、一般生徒には公開されない生徒会が計算した全体の票数と売上高である。

 

 

 閑話休題

 

「さて、と。織斑くーん。そろそろ休憩時間入ってもらってかまわないよー。こっちはしばらくの間は保たせておくから」

 

 一夏にそう声をかけてきてくれたのはクラスメイトの一人で鷹月静寐という名の女子生徒。

 テンションがおかしい女子が大半を占める1組内にあっては希少な落ち着いた感じのしっかり者で、一日だけの喫茶店運営を滞りなくおこなうため経営学の本を(古本でだけど)購入して予習復習をこなしてから今日を迎えている委員長気質な女の子である。

 

「え? いいのか鷹月さん? ・・・でも俺が抜けると店の売り上げが・・・」

 

 対する一夏は『働ける限りは働くべき』とする日本人特有の社畜根性を自覚なしで発揮した一言で謝絶しようとするのだが、鷹月さんから見て今の一夏の回答は「0点」だったりするのである。

 彼女は眉をひそめて、ちょっとだけ怒り顔で一夏に対して苦言を呈する。

 

「ダメだよ、織斑君。そういう考え方してたら、逆にみんなに負担かけるだけなんだから」

「そ、そうなのか?」

「そうだよー。一番働いてる人が休みもしないで働きっぱなしだったら、他の人たちが堂々と休みを取りたいって言い出し難くなるものなんだから。一番の働きがしらこそ、休み時間にはしっかり休んでみんなに範を示してもらわないと」

「そ、そういうものかなぁー・・・。俺が休まなくても、みんな休みたいときには勝手に休み出すと思うんだけど・・・」

 

 普段の1組生徒たちを思い出しながら一夏が言った反論に、鷹月さんはゆっくりと、だが力強く頭を振る。

 

「普段の休みたいときに休める状態を前提に、休みたいけど休めないときの対応を考えちゃダメ。

 普段のやり方が通用しなくなってる状態のことを非常事態って呼ぶんだから、そんな状態になってしまったときのためにも普段から何気ないところに気を配ってルールを守っておくことが大事なんだよ?」

「・・・そんなものかな~・・・」

「そんなものなんだよ。・・・受け売りだけどね?」

 

 ペロッと舌を出してイタズラっぽく笑って見せてから鷹月さんは気分を変えるように話題を転じ、

 

「それにほら、織斑君一人がいなくなっただけで経営が成り立たなくなってしまうなら、それは内のクラスがダメダメだったって事の証拠なんだから、織斑君が気にかける必要なんてないことだよ。みんなでやってる事は、みんなで支えていかなきゃね」

 

 ここまで気を遣ってもらいながら拒絶するほど意固地ではない一夏は、素直に申し出を受けることにした。

 

「・・・・・・わかった。そこまで言うならありがたく休憩に入らせてもらうよ。気をつかわせたみたいで、ごめんな?」

「あはははっ、いいっていいってこれくらい。――あ、そうだ。せっかくだし他の専用機乗りの子たちにも声かけてみて、一人ずつ休憩に連れて行ってもらってかまわないかな?

 あの人たちも織斑君と同じで頑張り過ぎちゃう癖が付いてるみたいだから、周りが休むよう言っても聞いてくれなくて」

「わかった。それくらいならお安いご用だ」

 

 学園祭らしい爽やかな会話。

 ――そして、その直後に向き合わなければならない過酷な現実。

 

「・・・・・・ただし、後ろの二人は例外にさせてもらうぞ? 正直、入っていきたくないからな・・・」

「・・・・・・うん。私もあそこはちょっと・・・行ってきてって言いづらいかなぁ~・・・・・・」

 

 

『OH! MY! ゴッDEATH!!』

「「うるさいバカ、死ね。殺されたいのか?」」

『ゴートゥー・ザ・ヘブン!! 我々にとってはむしろご褒美ですマイン・ヒューラーッ!』

「「よく言った、いい度胸だ。―――望み通り死ね」」

『へぶしッ♡♡♡♡』

 

 

「「・・・・・・・・・」」

 

 一夏たちは、何も聞こえていない・・・・・・。

 

つづく

 

おまけ次回予告(みたいなアイデアの一つ)

 

オータム「んじゃあ、お楽しみタイムと行こうぜ。てめーのISをいただかせてもら・・・ハッ!?」

 

 ズダダダ!!

 

オータム「てめぇ・・・人の仕事中にいきなり撃ってきやがるとはどういう了見だ!? このクソガキ!」

 

ジャンヌ「うっさいバカ! せっかく学祭中に生徒会が主催する劇サボって舞台裏で寝てるDQN厨二愉しんでたところを邪魔したお前が悪い!」

 

一夏「まさかの厨二設定で助けられた俺っ!?」

 

 

ジャンヌ「死んで償うか、殺されて償うかのどっちか選ばせてあげるから、三つ数えるまでに選びなさい! 1。(ドキュン!!)」

 

オータム「2と3は!?」

 

ジャンヌ「知らねぇわよそんな数字! 処刑するときに数かぞえるのは油断させる為だけでいい!」



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第18話「そしてフェスティバルの幕が上がる・・・グランギニョルがぁ!!(笑)」

更新です。昨日出したバケモノの反動か、完全にギャグ一色に仕上げてしまいました。
読まれた方には色々と言いたいことが生まれるだろうなとは思いますが、正直そう言う作品なんだと思ってしまうのが一番楽だとしか申しようが有りません。作者の悪癖ですからね。
・・・やっぱりシリアスとギャグの両立は、精神的に難しいものですな・・・。


「着きましたよ」

「はぁ、はぁ・・・。助かったぁ・・・・・・」

 

 IS学園、学園祭中に毎年恒例で行われている生徒会主催イベント。

 今年の其れは『観客参加型演劇シンデレラ』だった訳なのだが。

 

 どういう訳だか女だけの学園に男が入ってきた年に行われる学内イベントのラストは、味方同士が互いを撃ち合い切り付け合う同士討ちのガチンコバトルに発展してしまうという呪いが掛けられているため、お約束通りに発動した其れによって主演である学園唯一の男子生徒一夏はヒロインどもから殺されないために舞台上から逃げ出さねばならなくなり、途中で助けてくれた正体不明の部外者によって学祭関係者以外に知りようもない学祭中だけ発生する『意識の死角』的スペースへ誘われてしまっていた。

 

「あ、あれ? どうして巻紙さんが・・・・・・」

「はい。この機会に白式をいただきたいと思いまして」

 

 そして、ごくごく当たり前の事として発生する「女しか使えないはずなのに男が使えている『特殊例武装』強奪イベント」。

 そもそも一夏が特例としてIS学園に入学させることができたのは、こういった輩から彼を守るためという名目のためだったのだから、部外者が大量に訪れる学祭中に油断した彼の落ち度というのは確かなのだが、保護する名目で強制入学させた学園内で危険に晒させておきながら『集団の中で生きていく覚悟』を説いて義務の遂行ばかりを求める学園警備主任の姉こそ責任を取らされるべき状況でもあるため責任の所在がどこにあるのか難しいところといえないこともない。

 

「えっと・・・・・・あの、冗談ですか?」

「冗談でてめぇみたいなガキと話すかよ、マジでムカツクぜ」

 

 まぁ、誰の責任問題であるにせよ現在進行形で身の危険が迫っている今の一夏には関係ないのだけれども。

 事後処理に分類される責任の所在追及に関わり合うためには、今この場で殺されることなく生還しなければならず、生きてこそ得ることの出来る責任問題という名の不名誉をその手に掴むため戦え一夏! 目の前の敵はお前が危機から脱するため、ISを展開するのを待ってるぞ!

 

 ・・・・・・あれ? なんか矛盾してませんか? この状況って・・・・・・。

 

「ま、巻紙さん・・・あなた一体・・・」

「あぁ? 私か? 企業の人間になりすました謎の美女だよ。おら、嬉しいか」

「くっ・・・・・・『白式』!」

 

 自らを『敵』と名乗る女に白式寄越せと言われて、蹴りまで食らわされても尚、痛みが実感できるまで目の前の女性が敵と認識できないのは、平和ボケで片付けてしまっていい問題なのかどうか、仮に相手が男だったら即座に気づいて反応してたんじゃないのかこのムッツリ野郎とか、色々言いたいことがある人の多そうなやりとりの末、ようやく女と戦う覚悟を決めた一夏が白式を全面展開して、ただでさえ狭いロッカールームで翼状のウィングとか邪魔にならないものなのかねぇ?と、新たに言いたいことを増やしまくると相手の女性、巻紙礼子こと『企業の人間になりすました謎の美女オータム』は美女の顔を醜く歪めて「ニタァリ」と嗤って笑顔を作った。

 

「待ってたぜ、それを使うのをよぉ・・・ようやっとこいつの出番だからさぁ!!」

「!?」

 

 そう叫んでスーツを引き裂き、背中からはやしたように現れたクモの脚によく似た鋭利な爪が一夏を襲い、一拍遅れて展開された八つの装甲脚の先端部からは銃口が口を開かせる。

 

「くそっ!!」

 

 こうして始まる屋内戦闘。

 ・・・とは言え、ISはそもそもが広大な宇宙空間での活動を想定して造られた宇宙作業用のマシーンであり、狭苦しいロッカールームは宇宙と対局の地形と言えないこともない。

 つか、どうせ空飛べない天井と壁ありの半地下みたいな空間でISを全面展開して一夏はいったい何をやりたかったのか? 普通に壁壊して逃げ出して助けを呼べば済んだ事件だったのではないのだろうか?

 

 相手が『企業の人間になりすまして』身分を偽り一人きりのところを二人だけの場所に誘導してきた時点で、敵にとっての弱点は『自分の正体を衆目の視線に晒されること』だと気づいても良さそうなものだが、何故だか学園バトル物の強者たちというのは戦って倒すことでしか大切な物は守れないと思い込んで戦闘を開始してしまうのがバトル世界に生きる人間の常だ。受け入れるしかないんだろうなぁ~。

 

「そうそう、ついでに教えてやんよ。第二回モンド・グロッソでお前を拉致したのはうちの組織だ! 感動のご対面だなぁ、ハハハハ!」

「――!! そうか、そうかよ。だったら・・・・・・」

 

 そして始まる、教える必要のない過去の思い出話を戦闘中に語り始める見え見えの挑発と、それにアッサリ乗せられバカ正直に突っ込んでいってしまう熱血漢の武力バカ主人公。

 今日日、三国志の呂布でも引っかかりそうにない手法だが、姉が関羽で呂布より弱い一夏は普通に引っかかって、お約束通りに敵の張った罠の中へと陥れられてしまうのだった。

 

「クク、やっぱガキだなぁ、てめぇ。こんな真っ正面から突っ込んで来やがって・・・よぉ!」

「くっ! これは――っ!?」

「ハハハ! 楽勝だぜ、まったくよぉ! クモの糸を甘く見てるからそうなるんだぜ?」

 

 文字通りクモの糸に絡め取られて身動きを取れ無くされてしまう一夏。

 そんな彼に「ニヤニヤ」笑いながら近づいてくる女の手には、四本脚の奇妙な装置。

 

「んじゃあ、お楽しみタイムと行こうぜ。お別れの挨拶はすんだか? ギャハハハ!」

「なんのだよ・・・?」

「決まってんだろうが、てめーのISとだよ!」

「なにっ!? ―――があああああっ!!」

 

 返事を返した刹那に流さされて体中を走り抜ける電流に似たエネルギーの奔流に、溜まらず一夏は盛大に悲鳴を迸らせて、オータムは喧しい悲鳴を聞きながら楽しそうに哄笑して、神経を逆なでする馬鹿笑い声を上げまくる。

 

 一夏は激しい痛みの中で、不快感を感じる余裕もなかったが、『痛みを感じさせられてない第三者』側にしてみてら、悲鳴はうるせーし、馬鹿笑いは不快だし、そもそも一夏がなに怒ってんのか判んねぇし、つか巻紙さんってドコの誰だよ!?と、問いただしたくなるぐらい『カーテンで見えなくて』知らない相手だしで、苛立たされる条件は無数にありまくり、一方で我慢してやる義理はドコをどう探しても欠片さえ見つかりそうにない。

 

 

 

(・・・・・・判決、コイツ殺しちゃっていいですか?)

 

 解:いいよー♪

 

 

「・・・イエス、マイ・ロード・・・・・・。任務了解、これより目標を抹殺撃滅必殺する・・・・・・」

 

 

 なんか苛立ちのあまり色々とヤバいキャラクターが混じり合ってそうな台詞を吐きながら、彼女は眠っていた寝所の中から起き上がり、禍々しい犬歯を剥き出しにて残忍な笑みを浮かべながら敵に向かって右手を掲げる。

 

 そして、呟く。

 自らが抱いた憎しみの炎を余すことなく現出せしめることのできる特別な力を解放する呪文を。

 煉獄の業火に焼かれながら、己の犯した罪を未来永劫悔やみ続けさせるために!!!

 

 

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……

 『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!」

 

 

 

ゴォォォォォォォォッッ!!!!!!!

 

 

 

 そして放たれる、地獄の炎!

 《ショット・ランサー》

 《ヘビィ・マシンガン》

 《ビーム・フラッグ》に続く、キャバルリィ・ノワール四つ目の武器!

 

 《火炎放射器》!!!

 

 もはや誰も覚えていないであろうこと間違いなしな、元々は付いてる設定だったのにハイスピードで飛び回るのが基本のISバトルだと今一使う機会がおとずれなくて明記しておくことさえ忘れ果てていたそれを遠慮容赦なくぶっ放して、オータムとか言う名乗ってるシーンは聞いてなかったけど、とにかく目の前で馬鹿笑いしているムカつく女を炎の熱さと痛みで痛めつける! ただ其れだけのために!!!

 

 ・・・ぶっちゃけ私怨だけの私的な理由でIS武装を使っちゃってるんだけど、この場合は結果論として人助けも兼ねているから条約的には多分大丈夫だろう。言い訳の口実ぐらいには使えるはずさ!

 

 

「あん? なんだよゴオゴオ、ゴオゴオやかましな。人がせっかく愉しんでるところなのに・・・・・・って、ズ熱ちちちちちちちちッッ!? 火っ!? 火! 火ぃぃぃぃッ!?

 な、ななななななな何じゃこりゃ――――――――――ッッ!!!????」

 

 

 叫ぶ、オータム。

 世界中を戦場にして戦火に飲み込ませることを望む国際テロリストの彼女であったが、現在進行形で自分がいる場所が炎に包まれて自分が火に焼かれる世界を望み求めた覚えなどなく、つか普通に嫌すぎるので辞めて欲しいことこの上ない。

 

 一体誰だ!? こんな非常識な真似しやがったのは!!

 火災警報まで鳴らされちまってヤベぇじゃねぇか!?

 

 

「どこのどいつだ! こんな真似しやがった放火魔野郎は! 隠れてないで出てきやがれ! ブッ殺してやる!!!」

 

 理不尽だけど彼女の主観的には至極まっとうな怒りに駆られて口汚く罵ってやったが、言われた側のフランス一流企業の社長令嬢とて口の悪さでは負けてはいない。

 即座に即応して悪口の対空射撃が連続発射で放たれまくる!!

 

「うっさいわね! 黙りなさいよブス! ダミ声が耳障りなのよ! 寝起きの頭に不愉快な声が響くのよ! ミミズが頭ん中をのたうつみたいに気持ち悪くなんのよ! アンタの声を聞いてるだけでね! この騒音被害発生器オバサンが!!!」

「な、み、ミミズだとてめぇ言わせておけb――――」

「うっさい! 黙れっつってんのが聞こえないのオバサン!? それとも聞こえてても理解できる知能がないの!? 更年期障害で聴覚障害起こしたの!? 呆けたの!? いい年だから痴呆症発症して阿呆になりましたって大声で自慢する趣味でもあったのかしらアンタ!?」

「・・・・・・・・・」

 

 あまりの勢いで放たれまくる悪口マシンガントークに、思わずオータムも言うべき言葉を見失って、絶句する。

 基本的には相手を傷つける目的で毒舌を吐く彼女は、敵それぞれに対応した的確にいたぶれるワードを使った言葉責めが好きなのだが、炎の先にいるらしきジャンヌの姿がよく見えないことと、何よりも相手の反応なんか聞く気さえ見せずに自分の怒りをぶつけられたらそれで良くなってしまってるジャンヌには、今一自分のやり方が通用しそうにない。

 

 しかも―――

 

「あのー、ジャンヌさん? ここには俺もいて、炎に巻かれて熱がってるんですけども・・・?」

「うっさい! 生徒会主催の劇サボって気持ちよくDQN厨二を満喫しながら眠っていた私の愉しみを邪魔したアンタも同罪よ! 燃えて苦しみながら反省してなさい!」

「えー・・・」

「『えー』じゃない! 死ぬ心配のない武器選んでやったんだからいいでしょ別に!? IS展開してりゃあ、絶対死なないから役立たなくて今まで使う機会のなかったお気に入り武装を私に使わせろーっ!!!」

「結局はお前の厨二趣味じゃねぇか!? しかも俺、お前の厨二趣味でピンチのところを助けられようとしてるんですけど、これドコの誰に自慢できる奇跡の生還物語なんだよ!?」

「お前の友達の名前を言ってみろ―――――っ!!!!!」

「五反田―――――っ!!! ハッ!? 確かにアイツになら自慢できるような気が・・・って、熱い熱い! マジで熱くなってきやがった!? 傷つかないだけで熱いのは変わりないです!

 怒りを静めて助けてジャ―――ンヌ!! このままだと俺がジャンヌ・ダルクになっちまうからーっ!?」

 

 

 ・・・怒りにまかせて味方ごと敵を燃やしに来ちまっていた。

 テロリストとして様々な敵と戦ってきたオータムから見ても、ここまで滅茶苦茶な敵と戦った経験はないし、できれば出会いたくもない。

 

 完全に常識ガン無視しまくった、訳わかんない謎の敵の出現だった!!

 

 

(クソっ! ここまで手前勝手なガキは初めてだぜ! ・・・ここは一端退いて、スコールに作戦を練り直してもらうべきなのか? あるいは・・・・・・)

 

 ISバトルの熟練者らしく、様々な戦況変化のパターンを予測していきながら今の自分が取るべき行動を、目の前の現状から得られるデータを基準として導き出そうとするオータム。

 

 だが、しかしそこに第三の闖入者が現れる!!!

 

 

 ダンッ!!!!

 

 

「学園内で火災が起きたと聞いて来てみたら、やはりお前かジャンヌ・デュノア!!!

 長年の決着、今こそ晴らす!!」

「何なんだよ! この学園のガキどもは本当によぉぉぉ――――っ!!!!!」

 

 思わず泣きたくなるほどの理不尽に対する怒りを込めて叫ぶオータム。

 生徒会劇に不参加だったから比較的早く来れた、この世界線だと一夏に興味ないヒロインのラウラが登場したことにより更なる混沌化を促され、せっかく考えていた戦局情報が一から考え直しにさせられて流石の彼女もパンク寸前にされていた。

 

“もういっそ、この場の全員やっちまった方が早いし楽なんじゃねぇのか・・・・・・?”

 

 そう思わなくもないのだが、なにぶんにも機体が機体だ。強奪目的で来ているために、戦闘用ではないし、一夏のクラスに潜入するためラウラの情報は調べてきてたから知っている。

 自分が負けるほど強くはないが、今の装備で短時間で勝つのは難しい程度の相手であることぐらいは判る。

 時間を掛け過ぎれば、元世界最強ブリュンヒルデが来るかもしれないし、他の代表候補どもだって数がそろえば厄介になりかねないぐらいの実力はあるガキばかりだ。

 

 

 ――なまじ、怪我一つ負わされていない無傷なアラクネという点が、彼女の思考を縛っていた。女尊男卑時代の強さの象徴、ISバトルで強いかどうかが重要な組織で生きてきた彼女にとっては結構大きな問題だったりするのである。

 

 彼女が所属する亡国機業、ファントム・タスクは、力こそ全てな世界の暗部だ。国際条約は適用してもらえず、協定違反をしても罰する者は組織の上位者しかいない。

 殺して生き残った者の方が強く、守ってやる価値がある。裏切られて不意を打たれて負けただけだとしても、死体には何の価値も見いだしてはもらえない。

 

 面子と恩讐が全ての、典型的な非合法組織なのだ。

 『敵が多くなったから、ISが無傷だけど逃げ出しました』

 ――そんな醜聞が知れ渡られてしまったら、IS操縦者であろうと明日にはターキーにされて、気づかないうちに殺されてたとしても不思議ではないし、誰も気にしない。数が限られているISコアが割り当てられるのを待っている者は組織の中にウジャウジャいるから。

 

(どうする・・・私! どうするよ!? ええ、オータムさんよぅッ!!!)

 

 

 真面目にシリアスに真剣に、今の状況の対処法について考えているオータムの見ている先で、ラウラは「ふっ」と嗤うと右手を掲げて振り下ろし、“ジャンヌのことを指さす”と。

 

 

「さぁ、ジャンヌ! 私と勝負しろ! あの時の決着を付けるぞ!

 敵とのISバトルが発生している今なら許可なくIS展開しても問題あるまい!?」

「なんでよ!?」

 

 予想を遙かに超越しまくるラウラの宣言に、今度はジャンヌが同様と驚愕。

 まさかの敵と戦闘中に、立場的には味方のはずのキャラから挑戦の申し込みである。

 

 バトル物の定番展開であり、アニメとかだと格好良く見えるけど、実際に起きてみると唯々めんどうくさくて厄介なだけの状況悪化でしかなかった! 現実はフィクションより奇策通じず!

 

「なんで敵っぽいのが目の前にいるのに、私の方へ来ようとするのよアンタは!? 敵はあっち! あっち行きなさいあっちへ!!」

「気にするな。別にたいした違いはなかろう」

「お前はどこの更木剣八だ―――っ!?」

 

 思わず叫ぶことしか出来なくなるジャンヌ。

 一夏に負けず、間違いにも気づくことなく、『強さが全てで、パワーこそ力』の思想を堅持したまま一夏に対する怨恨のみが消えてなくなり、一夏に対する恋心も芽生えぬまま、ただ単に『ジャンヌ倒す!』だけ設定に付け加えられたドイツ軍から来た代表候補生は、『ジャンヌと戦って倒せさえすりゃ後はどうでもいい』みたいなトンデモ思考の持ち主になってしまっており、今このときも彼女の頭の中“だけ”ではキチンとした整合性の取れた理論と合理性の元で行動している“事になっている”のだ一応は。一応だけれども。

 

 

「お、おいガキども! 私を無視して話進めてんじゃねぇ! 私を誰だと思ってやがるんだ!? 秘密結社ファントム・タスクが一人、オータム様って言わねぇとわからねぇのかぁ!?」

「知るかバカ! 秘密結社だのファントム・タスクだの、そんな厨二設定の組織が現実にあって堪るかバカ! 妄想したいだけなら他所でやれアダルトチルドレンなオバサン! 今こっちは忙しいのよ!」

「なぁっ!? ちゅ、厨二っておま、違、本当に・・・・・・」

「さぁ、始めるぞジャンヌ! あの時、私の心とレーゲンを折ったお前の輝きを私にもう一度見せてくれ! 明日への扉を! お前と夜が明けるまでゴルゴダの丘で踊り続ける輝かしい未来を!

 今の私の瞳に映っているのは、そこにいるゴミのような奴じゃあない・・・お前だけなんだからなぁ・・・・・・クハハハハッ!!!」

「だ~、か~、ら~・・・・・・なんでアンタはクリード・ディスケンスみたいな変なキャラに変質しまくって行ってんのよ!? アンタは一体なんなのよぉぉぉぉぉっ!?」

「私は生まれてからずっと、お前と同じ人間だ!

 そうだと言うことをお前が教えてくれたからぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

「嘘つけぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 

――二人の少女から『互いにコイツには負けたくない』と願う願望を感知しました――

 

 Danage Level・・・・・・D.

 Mind Condition・・・・・・Uplift.

 Certihcation・・・・・・Clear.

 

――システムを起動いたします――

 

《Valkyrie Trace System》・・・・・・・・・boot.

 

『――願うか? 汝、自らの超越を望むか? より強い自分を欲するか?』

 

 

「ヤー! ヘルコマンダール!!」

「シェルジュ! シェルジュ! シェルジュ!!」

 

 

《VTアヴェンジ・システム起動。これより目の前の敵を倒せ。――どちらかが倒れるまで、戦士としてなぁぁっ!!!》

 

 

 

「お、おい? なんだお前ら一体何があ―――えっ?」

「――よしっ! 解けた! これで俺も戦線復帰でき――え?」

 

 ピカァァァァァァ・・・・・・・・・ッ

 

 

 

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!」」

 

「シュワルツ!」

「ノワール!」

 

「「フィンガぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!」」

 

 

 ズッドォォォォォォォォォォッッン!!!!!!

 

 

「「ぎゃあああああああっ!?」」

 

 

 吹っ飛ばされていく原作主人公男と、敵かませ犬女。

 二人の力を求める心は余計な特殊スキルなど必要とせず。

 

 パワーを! 突撃力を! あらゆる特殊能力を力尽くで無意味化できる量のパワーを!

 理屈抜きで邪魔する者すべてを吹っ飛ばしまくれる圧倒的な力を!!! ただ力を!!!

 

 それだけが求める全てとなった彼女たちの戦いにおいて、邪魔にしかならない異分子どもを排除した二人の戦いは果てることなく続き、永劫回帰のごとく繰り返されて・・・・・・疲労でぶっ倒れてからようやく織斑先生の寝泊まりしている宿直室と、姉と二人暮らしな学生寮へと連れ帰られて終わりを迎える。

 

 

 その翌日から、二人の少女がしばらくの間うわごとを呟くだけで人の声に反応しなくなり、IS学園には平和が訪れたことを知る者は口を閉ざして何も語ろうとしない。

 

 長生きする兵士は、何も語らない。その鉄則が今も生きている場所、IS学園。

 そこでは今日も年頃の少年少女たちが切磋琢磨し合いながら己を磨き合う日々を送っている・・・・・・。

 

 

つづく?

 

 

おまけ「オータムさんとエムちゃんと」

 

エム「・・・・・・・・・・・・・・・お前、そこで何してる?」

 

オータム「・・・・・・うっせー。早く降ろせ。絶対防御発動したせいでISがエネルギー切れして、自分じゃ降りられねぇんだよ・・・・・・」

 

エム「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 吹っ飛ばされてった先の公園にある木に逆さ吊りの状態で引っかかってた所をエムに回収してもらって帰還できた無傷のオータムさん。

 追撃に来た楯無さんに見つからないよう息を潜めてビクビクしながら通り過ぎるのを待つだけだった黒歴史は墓場まで持っていく覚悟をコンクリート詰めして固め済みです。




書き忘れていた設定説明:
ジャンヌISを『IS原作の妄想作品集』に初投稿したときにあった設定です。
その後、使い道はないけどジャンヌのモデルがジャンヌ・オルタである以上は何かで使えるだろうと残しておいたつもりが記載し忘れてたことに今更気づいたアホ作者です。ごめんなさい。

キャパシティに関しては、そもそも役立たない上に既存の通常装備と全く同じ中身な趣味装備ですのでほとんど消費せず、内部兵装として入れとくだけなら揉んだない設定です。
リヴァイブと違って新装備も追加されなかったノワールは、キャパシティを限界まで埋め尽くした固定装備が原因。そのうちの一つなんだと思っといてください。
基本的にジャンヌは今のノワール以外に乗りたくない、一生乗り続けたいと思うほど気に入ってる設定ですのでね。


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第19話「恋じゃなくても騒がしい六重奏」

更新です。今回はちょっと趣向を変えて原作4巻の夏休みイベントまで戻って書いてみました。定番のメイド喫茶も考えてはみたのですが、ジャンヌ以外も出したかったので一夏のお宅訪問回をモチーフに書いてみた次第です。よければ読んでやってみてくださいませ。


 それは夏休みの終わりが迫った、ある日の出来事。

 時間軸をやや過去へと戻した刻でのお話だ。

 

 唐突に、ジャンヌ・デュノアの姉、シャルロット・デュノアはこう言った。

 

 

「一夏の家に行こう」

 

 

 ・・・その言葉を聞き、シャルロットの妹ジャンヌ・デュノアは胡乱げな瞳で姉を見つめ返すと、

 

「いや、そんないきなり『キョートへ行こう』みたいなノリで言われても・・・」

 

 ヨレヨレのTシャツにハーフパンツ姿のまま、胡座をかいてテレビゲーム画面と相対しながらそう返すのだった。

 

 その日は(その日“も”とも言える)姉と同じ部屋で日がな一日ダベりを合間合間に交えながらゲームして過ごす気満々だったジャンヌの心の鏡に織斑邸への訪問は、さほど魅力的に映っていなかったのである。

 

 

*余談だが、ジャンヌは某有名CM自体は見たことがない。ラノベやマンガでパロディされてるのを見たことあるだけである。

 厨二病患者はどれほど時が移り変わろうとも、パロディネタを見てから原作を検索して人前で語りたがる生き物であることに変わりないのだから・・・。○か×か?

 

 

「どうせあと数日で学校はじまって教室で再会できるんだし、それからでも良くない? ショージキ、このクソ暑っつい中外で歩くのはシンドイんですけども~・・・」

「だ、ダメだよ! 今日は一夏が自分の家に帰省する日で、みんなの予定とかぶらないよう調整できた唯一の日で、せっかく二人きりになれるチャンスなんだから!」

「・・・・・・・・・」

 

 いや、それって絶対他の連中も同じ事考えてるから唯一になっちゃったパターンじゃないの?とは、思ったけど言わないジャンヌは空気の読める女を自称しているKYイノシシ少女である。知らぬは本人ばかりなのは人類皆同じ事。

 やはり人類皆愚民(しつこい)

 

「つか、二人っきりって私は?」

「え? 妹とお姉ちゃんは二人で一つの幸せを分かち合うものでしょ?」

「・・・・・・」

 

 果たしてこれを言われて断れるひねくれ妹と言うのは実在するのだろうか?

 

「・・・ま、いいけどね別に。ちょうどゲーム終わったばかりで暇だったし・・・」

 

 そう言って立ち上がったジャンヌは部屋を出立しようとして、「ちょっと待ってジャンヌ!」姉から呼び止められて不機嫌そうな顔で振り返る。

 

「アアン? まだ何かご用がおありなのかしら? お姉様――――」

「・・・その格好のまま部屋の外に出て行く気なの・・・? ヒラヒラしてなくても色々と見えちゃってるんだけど・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 不愉快そうに黙り込んでそっぽを向いて、赤く染まった頬を姉の視線から見えないようにしてから着替え始める妹と、それ以上の追撃はしようとせず横を向いて自分の出発準備を最終確認するシャルロット。

 

 今日もデュノア姉妹は仲良しシスターである♪

 

 

 

 

 

 ――んで、そんな感じで一夏の家を訪れた二人は織斑邸の前に立っていた。

 

 ・・・・・・十分以上前からずぅ~~~~っと棒立ちになったままで・・・・・・

 

「――ねぇ、私たちって何しにここへ来たんだっけ? 遊びに来たんじゃなかったの?」

「う゛」

 

 怖姉、反論できず。

 色々と計画立ててた臨んでおいて、いざ本番を前にすると途端に勇気がしぼんで頭がパニック状態になり、適切な回答を頭の中のライブラリーから探し出そうとして小人たちが右往左往したあげく、なんかよくわかんない答えを引っ張り出してくるのが彼女たちIS学園国家代表候補生の思考パターンである。

 

 ピンチのときこそ精神論が重要になるスポーツの世界で(ISは世界最高戦力だけど戦争利用は禁止されてる絶対矛盾)机上の計画しかたてられない上に、自分の思い通りに展開していかないと冷静さが保てなくなるとかどうなのよ?と思わなくもないのだが。

 

 彼女たちを代表候補に選出したのは政府側の人間であり、専用機を与える決定を下したのも上役たちであって、彼女たち自身がどんなに望んでも上がNOと言えばそれまでなのが代表ではなく候補なのだと言う事情を鑑みるなら、必ずしも彼女たちだけが悪いとも言えない。

 

 どんなに予想外の結果が出ようとも責任は、責任をとりたがらない責任者がとるべきものであって、任された側の現場が一方的に悪いと思い込むのは間違いである。

 現代日本の刑法だと命令したものより実行犯の方が罪が重いとされているが、IS学園は治外法権の地なんだし無視して正しい組織の在り方貫いちゃっても良いのではないだろうか?

 

 だが、しかし。

 彼女たちは日本人じゃなくてフランス人だぜフッフ~♪ そして、ここはIS学園内じゃなくて日本国本土にある普通の中古物件だぜヒャッハー♪

 

「わ、わかったよ・・・じゃあ押すね! インターホンを! ・・・えっと確か挨拶は、本日はお日柄も良くて・・・じゃなじゃなくて! 『来ちゃった♪』で!」

「・・・・・・・・・」

 

 ああー・・・、こりゃダメだわ確実に絶対に全壁に。ジャンヌはそう結論づけて割り切った。

 姉に限った事ではないのだが、どうにも代表候補の女どもは勇気の出しどころを間違えてるとしか思えない奴らが多いというのが彼女の見解だ。

 

 攻めるべきときに、運がこちらに向いているときに戦いを回避しようとした人間には必ずと言っていいほど悪運が訪れる。天運は、運気を手放した人間に容赦してくれることは決してない。

 

 偶然のチャンスと、必然のポイントとを見分けられるのが突撃厨の絶対条件だと考えてるジャンヌから見た姉たちの態度は半端にしか映ってなかったが、だからと言って自分がいらぬお節介を焼こうとも思わないのもまたジャンヌ・デュノアと言う少女の特徴である。

 

 自らの行動に責任を負えるのも、負わされるのも自分一人だけだ。

 どれほど綺麗事を並べ立てたところで痛みを分かち合うことは出来ないし、負担も肩代わりしてやることなど出来はしない。

 せいぜい肩を貸してやり歩きやすくしてやるぐらいが関の山だと考えている彼女にとって、恋愛問題は立派に一対一での決闘だったから当事者以外が余計な差しで口を挟む気はなかったのである。

 

(フッ・・・こういう時に人は生まれながらにして孤独な獣なんだと再認識させられるから嫌なんだけどね・・・。ああ、人って罪深い生き物だわ・・・(ゾクゾク))

 

 恋の悩みで迷ってる姉を見ながら厨二妄想に耽れるシスコン妹というあたり、ジャンヌもまた一夏とはまったく別の意味で超レアなIS操縦者なのかもしれない。

 人は誰しも世界に一つだけのオンリー1で、ロンリー1な生き物でもある。○か×か?

 

「あれ、シャルとジャンヌか? どうした」

「ふえっ!?」「ふわっ!?」

 

 いきなり後ろから声をかけられて狼狽120パーセントの二人が振り向いた先にいたのは、ホームセンターから帰ってきて買い物袋を下げてる織斑一夏。ある意味では待ち人来る。・・・一番きて欲しくないタイミングでだったけど、これも一応はKYの内に入るのだろうか? ○かバ・・・面倒くさいからもういいや。

 

「あ、あっ、あのっ! ほ、本日はお日柄も良くっ! じゃなくて!」

「?」

「私の後ろをとるとは中々やるわねオリムライチカ! それでこそ私のライバルだわ!」

「・・・なんで自分ちに帰ってきたらクラスメイトから、いきなりライバル認定されてなきゃいけないんだよ・・・。つか初めて聞かされたぞ、その設定・・・」

「設定言うなし!」

 

 それぞれ違う理由でパニックになりながらも、何かいい言葉はないかと探してから言った結果がこれなのだが。

 シャルロットはまだしもジャンヌの方は完全にアウトである。恋愛とは全然関係のない方向にボールがワープしていった結果として場外アウトである。

 つか、一夏じゃないけどコイツは何を言いたかったんだ? ごまかし目的だったなら、ある意味で大成功なんだけどな・・・脳の心配され始めちゃってるから・・・。

 

「え、えっと、ええっと・・・」

 

 あまりにも残念すぎる妹の口直しをするため、というのは言い過ぎだが一夏は、まだ言葉の言い途中だったシャルロットへと視線を移して言葉を待ち、

 

「き・・・」

「き?」

「来ちゃった♪」

 

 えへ、とカワイイ笑みを添えて言ってきた一言に理由不明なれど救われた思いを抱かされ、我知らず自分自身も笑顔になる一夏は二人を家の中に招き入れた。

 

 ・・・このときの彼の行動理由が、妹の厨二発言直後だったせいで地獄にマリアだったからという真実は歴史の闇に葬り去るべきだろう。世の中には明かされずに終わった方が人々を救う真実もある。○かバ―――(もういいわい)

 

「そっか。じゃあ、上がっていけよ。あんまり盛大なもてなしはできないけどな」

「う、うんっ? 上がっていいの!?」

「そりゃいいだろ。追い返す理由もないし。――あ、これから予定があったか?」

「う、ううんっ! ない! 全然ッ! まったく、微塵もないよ!」

 

 突然の予定なしアピールに押され、一夏は若干たじろぎ、ジャンヌは姉と友人の醜態を前にして冷静さを取り戻す。

 他人の振り見て我が振り直せ。人は他人のことなら、よく見える生き物である。

 

「な、ない・・・です」

「って言うか、人んち訪ねてきといて家入るか誘われてから『あ、ゴメ~ン。これから友達と遊ぶ予定あるからまた今度ね~』とか言ってくる女子がいたら、そいつは絶対アンタのこと大嫌いだと思うわよ?」

「そ、そうなのか? ・・・そうかもしれないなー、考えてみると・・・。

 まあ、いいや。入れよ。今、鍵開けるから」

「う、うん。お邪魔しま~す・・・」

 

 こうして織斑家へと招かれた二人。

 その後の展開はお察しの通り、お約束展開になるのだけれど、それはそれでまた日常系として世界に一つだけしかない彼ら彼女らにとってのオンリー1な夏の思い出の1ページになってくれたことだろう。

 

 

「ほい、麦茶。今朝作ったヤツだからちょっと薄いかもしれないけど、そこはまあ許してくれ」

「う、うんっ。ありがとうっ」

「あ、私ソレ嫌い。なんか飲んでみたら苦かったから、コーラの方がいいわ。カロリーオフじゃないヤツね。ないならそこの自販機にあったし、お金出すから買ってきて。はい百円」

「お前は姉を見習って少しくらいは気遣い覚えろよ!?」

 

 

「さっそくセシリアが買ってきてくれたケーキを食べるとするか。せっかくだし、ちょっとずつ交換しようぜ。セシリアとシャルも、どうせなら三つとも食べれた方が嬉しいだろ?」

「えっ? そ、それは、その・・・」

「た、食べさせ合いっこ・・・みたいな?」

「おう」

「「・・・・・・っ!!」」

「日本の食卓マナーだと最悪に近い食べ方なんだけどね、ソレって・・・ごめんなさい。次から空気読むよう努力します・・・(ガクブル)」

 

 

「ん? また誰か来たのかな? ちょっと出てくる」

「・・・?(もう五人集まってるのに・・・? 僕、ジャンヌ、セシリア、鈴、箒ちゃん・・・それ以外だと彼女も一応入ってはいるけれど・・・)」

「・・・(オリムラの家に来る理由はないわよね特に、あいつの場合には。なんたってイチカと、ほぼの何の接点もないし)」

「はーい、今出ま・・・お? ラウラじゃないか。どうしたんだ?」

「うむ。この家からジャンヌの匂いが感じられた気がしたのでな」

「なんでよ!? 犬畜生かアンタは!!」

 

 

「それで、この後どうしたもんかな。うちはあんまりみんなであそべるものとかないぞ」

「・・・なに? アンタも学校だと一人ぼっちで『俺以外はみんなガキだぜ』とか思ってたクチ?」

「お前と同類扱いするんじゃねー! 俺のは本当に周りがガキだっただけだ!」

「どう違うのよ!? 同じじゃないの!!」

「まーまー、こうなることを見越したあたしが用意してきてあげたから、レトロゲームで遊びましょ」

「おー。そういや鈴はこういうの好きだったな」

「そりゃそうよ、勝てるもん」

「・・・なに? アンタも勝負挑んで勝ったら上から目線で自慢して、負けたら言い訳するか逆ギレするかでウザったいからボッチにされたクチ?」

「アンタと一緒にしないでくれるかしら!? あたしはただ勝負は勝たなきゃ意味なくて悔しいだけだから、勝つまで根に持つ民族ってだけよ!」

「だからどう違うのよソレ!? むしろ一番性質悪いタイプってだけじゃないの!?」

 

 

 

「じゃ、全員でやれそうなやつから行くか。まずはこれだな」

「ほう、我がドイツのゲームだな。名前は確か―――」

「ストップ! それは不味いわ! そのゲームだけは辞めましょう!」

「ど、どうしたんだよジャンヌ? 『バルバロッサ』で一人負けしたトラウマでもあるのかよ?」

「アンタたちと一緒にしないでくれるかしら!? 私はただ名前が不吉だからやりたくないだけよ! 『バルバロッサ作戦』なんてフランス人にとっては鬼門中の鬼門でしょっ!?」

「・・・我々ドイツ人にとっても、良いものではないのだがな・・・」

 

 

 

「ま、まぁまぁ二人とも。お互いに苦手を克服し合うのが『みんな仲良く手を取り合って』の基本なんだし、一回ぐらいは・・・ね?」

「「むぅ・・・」」

「そ、それじゃあスタートね。えっと、一、二、三、と」

「あ、宝石を得ましたわ」

「私は・・・質問マスか。よし、ではジャンヌの粘土に質問するぞ。・・・それは本当に何を作ったのか解らなくする意図はこめてあるのだろうな? 見たまんまな気がするのだが・・・」

「あるわよ? もちろん。この程度の造形はストフェスだと素人レベルでしょ?」

『『『ホントの素人にとっては完璧すぎてんの(だ)よ! 作り直せ!!!』』』

「なんでよ!? 造形どうこうより、どう質問するかの方が大事なゲームだったんじゃないの!?」

「・・・・・・はぁ~・・・(こめかみを押さえる苦労性の姉シャルロット)」

 

 

 ――こんな日がずっと続くといいなと不可能を承知で願いたくなる学生時代は幸せです♪

 

つづく



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第20話「騒がしきもの達&鳴り響け、乙女の軍歌。」

遊び半分で書いてたら、なんか暴走しました(苦笑)折角なので出しときますが後半辺りからドタバタし始めます。正月は笑って過ごしたいと言う方のみ読まれた方がよろしいかと思われますね、たぶん。


 誕生日。

 言うまでもなく、それは一年に一回だけ訪れる自分が地上に生まれ落ちた日であり、人生がスタートした始まりの日でもある。

 お金のある家は盛大に祝い、お金のない家庭は慎ましやかに暖かく愛情のこもった祝い方で、我が子の誕生と家族と過ごしてきた今までの幸福に感謝を捧げる記念すべき日。

 

 要するに、ひねくれ者にとって一年間に起こるイベント中、ワースト入り確定している実に嫌な日のことであった。

 

 

「なぁ、ジャンヌ。今月の二十七日に俺の誕生日を中学のときの友達が祝ってくれるって言ったら、みんなが俺の家に集まって祝ってくれることになったんだけど、お前も来るか?」

「行かない、パス。勝手に一歳年とって、寿命が一年縮まって、一歳分ジジイに近づいたことを祝ってなさい、バーカ」

「ヒデぇ言い様だなオイ!? 人が素直に誕生日祝ってもらえることを嬉しく思ってたのに、水さしまくらないでくれないか! いやマジで!!」

 

 祝い事はとりあえず罵倒しておく習性を持つ、ひねくれボッチ族として生まれて生きてきたジャンヌ・デュノアは、朝食に遅れてやってきたが故に聞き逃していた織斑一夏の誕生日パーティーの一件について聞かされた瞬間に即答して、空気読まずに拒絶してしまったのだった。

 

「ま、まぁまぁジャンヌ。一夏も親切心で誘ってくれてるだけなんだから、そんなに冷たくあしらわないであげてよ。ね?」

 

 姉のフォローでなんとか持ち直した(主に一夏が)代表候補生たちの食卓にただよう雰囲気。

 その中でもフランス産イノシシ科に属するジャンヌ・デュノアは特に感応した様子もみせずに「ふん!」と鼻を鳴らして忌々しそうに表情を歪めながら吐き捨てるように言ってやった。

 

「だいたい、あんなイベントのどこに祝う要素があるって言うのよ。どいつもこいつも物欲丸出しで祝う気なんかどこにも見いだせないじゃないの」

「えー、そうかなぁ? みんなちゃんと心の底からおめでとうって言ってくれてる様に見えるんだけど・・・」

「甘いわね、姉さ―――こほん。シャルロット。あなたは人間性というものの中に潜む真の醜悪さについて理解なく生きてきたのですね。ならば判らないのも無理はありません。

 いいですか? ヒトという生き物はあなたが思っているよりずっと狡猾でズル賢く、狡知さと保身に長けた醜い俗物の群れになるよう神によって創られたゲテモノ集団なのですよ」

「なんで、いきなりお嬢様口調・・・?」

 

 パンを頬張る身振り手振りまで気品あるお嬢様っぽくして見せる腹違いの妹にジト目でツッコミを入れる姉だったが、妹の方は動じない。むしろ「ふん!」と誕生日について持論の正しさをより深く確信する。

 

 

「それが事実だからよ。―――それまで毎年呼ばれていた他家のパーティーに、金回りが悪くなってきた途端に呼ばれなくなる。破産の噂が現実味を帯びてくると今までつないできた縁を切るため努力し始める。成り上がりの新進企業の若手社長を笑顔で迎えて、帰って行く背中に舌を出し合う。同世代の子供たちにとっての友達作りは、子供の内から上と横への人脈作りをしておくよう親に良く教育された結果に過ぎない。

 使用人たちに至っては、雇用主である父と母の前で礼儀正しく『お誕生日おめでとうございます、お嬢様』と祝福して見せてるだけで、廊下の陰では『明日のパーティーは大変だ。破産確定した貧乏社長のバカ娘の誕生日会を準備させられるなんて・・・』『苦労知らずの上流階級様はお暇でいいわねぇ』とか黒い顔して言い合いながら再就職先の候補を自慢しあってる連中ばかり・・・・・・。

 ―――私、人の欲望と欲得が一番表に出やすいあの手のパーティーはもうウンザリ・・・・・・」

 

 

『・・・うわぁ・・・・・・』

 

 途中から暗い顔になってつぶやかれたジャンヌの過去に一同ドン引き。

 ぶっちゃけ、それぞれが生まれた家の問題で苦労してきているため『自分が一番不幸で大変だった』と、そう言う類いの感情を言語化するレベルまでは行かなくとも持ってしまっていた思春期少年少女らしい彼ら彼女らから見ても、これは重かった。自分の不幸自慢っぽい感情的な優越感が一気に吹っ飛ばされる程度には嫌な過去話を聞かされてしまった。

 

 ・・・てゆーか、一夏としては己の誕生日会を前にして語って欲しくない話トップ3に入ること間違いなしな内容だったのであるが、それすら言い出しにくい状況というか空気となってしまったのでチト困る。

 

「・・・・・・うわぁ・・・」

 

 シャルロットに至っては、内心でちょっとだけ憧れていたプレゼントがいっぱい届いて笑顔で満ちあふれたキラキラしたお金持ちのお誕生日会のイメージを根底から崩壊させられて精神的ショックが致命傷すぎた顔になってしまってる。

 

 父に引き取られたのが二年前で、厳しそうに見えて実は子煩悩なデュノアパパは、どうやら愛するシャルロットママの忘れ形見に嫌な現実を見なくて済むよう工夫してくれていたらしい。

 そのシワ寄せが妹に行っていたことには気付いてなかったっぽく見えるけど、その点では妹本人が気にしてなさそうだから良いのだろう。たぶん・・・。

 

「え、え~とぉ・・・・・・」

 

 それはともかく話題の変換である。

 さすがに今のままなのはちょっと・・・うん、嫌すぎる・・・。

 

「あ! そ、そうだわ! みんなの誕生日っていつだったかしら!? 一夏だけのじゃなくて、みんなの分もお祝いできるように言っておいて知っときましょうよ!」

「(ナイスですわ鈴さん!)そ、それは良い提案ですわね!」

「う、うむ! そうだな、友人の生まれた日を知っておいて覚えておくのは人として当然のことだからな! 私の誕生日は7月7日だ!」

「わたくしは12月24日ですわ!」

「俺のは今更言うまでもないかもしれないが、9月27日だぜ! ――あ、オイそこ行くラウラ! ちょうど良かった! お前もこっちのテーブルで一緒に食べようぜ! そして誕生日を教えてくれ! お祝いしたいから!」

「ん? 私か?」

 

 一夏ラバーズに入ってないから朝食をともにする理由もなく、適当な時間までトレーニングに勤しんでたら出遅れてしまったラウラが登場したので相席を進め、ついでのフリして誕生日を聞いてみたところ返ってきた答えはこんな感じ。

 

 

 

「知らん。私は試験管ベビーだからな。フラスコの中で精子が卵子に受精して、受精卵になった日であれば研究所に問い合わせれば記録が残っているかもしれんが」

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 今までで一番重苦しい空気になってしまいましたとさ。ジャンヌでさえ気不味そうにそっぽを向いて沈黙するしかないほどの重たい過去話です。

 どちらかと言えば、こんな話を誕生日の直前に教えられてしまった一夏の方が被害者なのですが、それすら主張できないほど重たい出生の秘密です。自分からバラしといて秘密もなにもありませんが、バラした本人以外の他人から見りゃ立派に極秘情報扱いです。

 ものの価値なんて流動的なので、その人の価値基準によって大きく流転して変動もします。永遠に変わらぬ価値あるものなんて無い。

 

 

「まぁ、所詮は過ぎた過去話だ。気にする価値はない。それよりも私は早くジャンヌを倒したくて仕方がないぞ。早く勝負してリベンジさせろ。ハリー、ハリー、ハリーッ!!」

「アンタはどこのルーマニア出身で今の住所はイギリスになってる吸血鬼の王様だ! 少しぐらいは待つって言葉を覚えなさいよ!」

 

 いつもの如く、いつものやり取り。

 一夏に敗れず、一夏に惚れず、過去のしがらみも払拭し得ないまま、ただただ『ジャンヌ倒す!』という一心で自己変革起こしたラウラにとっての優先順位は『ジャンヌに勝つこと!倒すこと!』に傾倒しまくっており、それが一向に叶ってないから其れ以外の価値が相対的に下落しまくっており。

 

 

「何時どのようにして誰が生まれたか等どうでもいい。

 それよりもジャンヌとの再戦を! 復讐戦を! リベンジを!!

 あの懐かしき戦場へ私をさそえ!!! あの懐かしき戦闘へと私をいざなえ!!!!

 そして私に勝利を!!!! 今度こそ私に勝利を味わう悦びを賜わしたまえ!!!! 

 ジーク・ハイル!! ジーク・ハイル!!! クリィィィィィィィィッック!!!!」

 

「お前はどこのドイツの敗残兵になっとるんじゃい! 軍服がソレっぽいからって精神面までコスプレするなぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 

 ジャンヌとの闘争を、ただ闘争を待ちわびて拗らせちゃったっぽいラウラにとって、誰がどのような目的で自分を創ったかなど些事だ。他人の思惑など知ったことではない。他人が自分をどう見ているかなど問題視すらしていない。

 

 そんなもの、気になるようなら力尽くでこちらを見るよう仕向けてやればいいではないか。

 こちらを無視するのが気に食わぬなら、髪の毛をつかんで引きずり降ろし、眼を開けさせ恐怖の味と共に思い知らせてやれば良いではないか。二度と忘れられない軍靴の音を心の臓まで刻みつけてやればいい話ではないか。そいつらの都合では想像も付かない他人の傲慢さというものを思い出させてやればいいだけの話でしかないではないか。

 

 そんな細やかな些事よりも! 速く自分をジャンヌと闘争する場へ連れて行け!! 早く私をあの場所へ誘うがいい!

 突っ走れ! 突っ走れ! エンジンが焼け落ちるまで突っ走れ! もっとだ! もっともっともっと!

 

「今でも思い出す、あの喧噪と打撃の中へと向かって私を突っ走らせるのだ!!

 私は戦闘を! 地獄のように甘く、天国のように情け容赦ない戦場を望んでいる!

 私はISバトルという名の闘争が大好きだ――――――ごおへはっ!?」

 

「・・・お前はここがどういう場所なのか、よく考え咀嚼し吟味してから言葉を発することを覚えろボーデヴィッヒ・・・。

 この学園は、『戦争利用が禁止されてるISの操縦者を育成する国立機関』なんだからな・・・?」

「・・・や、ヤー、フラウコマンダー・・・ル・・・・・・がくっ(パタリ)」

「やれやれ・・・まったく・・・」

 

 手加減なしの全力げんこつツッコミを食らって、テーブルへと突っ伏した元教え子を担ぎ上げ、元世界最強ブリュンヒルデこと織斑千冬先生は一夏たちにも視線をやって急ぐよう促す。

 

「もうすぐ予鈴が鳴る。お前らも早く食べて教室へ行け。遅れた場合は“こう”だぞ?」

 

 パシーン!と、肩に担いだラウラの尻を、盛大な音を響かせながら叩いてみせる織斑先生。

 その目は口とは比べものにならない雄弁さで以て、彼らにこう語りかけていた。

 

 

 

『従わない者は、皆こうなる。

 私に逆らっていいのは、私に殺される覚悟のある奴だけだ』

 

 

 

 

 ――――と。

 

 

 言うまでもなく一夏たちは織斑先生の指示に従った。

 戦友の犠牲を無駄にしないためにも。犠牲を一人でも少なくするためにも。そうするより他なかったから・・・・・・。

 

 

 まぁ、早い話が『勝てない相手にプライドだけで立ち向かっていく阿呆はいなかった』ってだけの話ではあるのだけれども。

 

 激情に任せて吠えて噛みつく蛮勇を振るえるのは、まだしも勝てる見込みがある相手まで。

 本当の意味で圧倒的で絶望的な力の差がある相手の前では大人しく従い、目の届かなくなったところまで来てから気勢を上げ、罰する者の手が届かない場所で命令違反を犯す。

 

 古来より、学生主人公およびヒロインたちにとって勝てない大人たちへの反逆や革命、支配からの卒業というのは、そういう風にやるものだと規定されてるものなんだから。

 

 

つづく

 

次回予告

 

鈴「そう言えば、もうすぐキャノンボール・ファストよね。準備進んでる?」

 

ジャンヌ「ああ、あのスタート直後に隣にいた強敵を不意打ちして脱落させて、最終的にマウンドの上で生き残ってた奴が歩いてゴールしても優勝になるトンデモレースの事よね? ちゃんと準備は済んでるから安心していいわ。任せなさい。

 わだかまりを捨て一堂に会した万夫不当の英傑たちを、ロケットスタート爆弾で倒し尽くすことにかけて、私は誰にも負けない自信と実績を持つ女なのだから」

 

鈴「最低すぎるわねアンタ!? そんなだから誕生日を素直に祝ってくれる友達出来なかったんでしょうが! 少しぐらいスポーツマンシップを持ちなさいよ!!」

 

ジャンヌ「なんでよ!? ルール違反じゃないでしょう!? あと、レースに銃とか剣とか持ち込んでる時点でスポーツマンシップもヘチマも無いっての!」



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第21話「史実の豆知識。キャノンボールは如何なるルートを用いてもゴールに着けばいい非合法ラリーでした」

仕事始めですね。みなさんガンバりまっしょい!
・・・まぁ、私の方は初めなせいで仕事が無くて帰されてる途中なのですが・・・(悲)

注:読みにくいと思っていた一部を修正させて頂きました。
  変えたのは、一夏が会長にパンツ見せられてるシーンの表記方法です。


「そう言えば、一夏の誕生日の日ってキャノンボール・ファスト当日でもあったよね。みんな準備は進んでる?」

 

 学生寮での夕食中、血の繋がりのない赤の他人同士で同じ食卓を囲んで食べる毎日恒例の疑似家族風景を展開している最中にシャルロット・デュノアがいきなり話題を切り出し、みんなを構成するうち二人の少女を「うっ!?」と唸らせ、飯を喉に詰まらせかける。

 

 朝した話題で一夏の誕生日を知っていた彼女たちとしては特に驚くには値しない情報だったが、幼馴染みのアドバンテージを盲信したがっていた二人のファーストとセカンドは、未だに自分たちだけが一夏の個人情報を独占していると信じ切っていたが故の反応だった。

 

 ・・・普通、これだけ世間に騒がれている世界初の男性IS操縦者がいつ生まれて誕生日はいつか?などと言う情報は複数の雑誌で取り沙汰されまくった後だと思うのだが、なぜこの二人はそこまでして自分の優位を信じ続けたがるのだろう?

 そこまでして過去を独占したいと望むなら、引きこもって今も未来も見なくなった方が楽だと思うのは私だけか・・・?

 

「キャノンボール・ファスト・・・? ――ああ、思い出した。以前に日本のIS紹介番組で放送してたの見たから覚えているわ。

 確かアレよね? スタート直後に隣にいた強敵を不意打ちして脱落させて、最終的にマウンドの上で生き残ってた奴が歩いてゴールしても優勝になるトンデモレースの事でしょ?

 大昔にファミコンでプレイした『ダウンタウンの大運動会』見てるみたいで面白かったわー」

「最低すぎるわねアンタ!? そんなだから誕生日を素直に祝ってくれる友達出来なかったんでしょうが! 少しぐらいスポーツマンシップを持ちなさい!!」

「なんでよ!? 最終的には潰し合いになって生き残ってた奴が勝つところなんて一緒じゃないの! ルール違反はしてないでしょう!?

 あと、レースに銃とか剣とか持ち込んでる時点でスポーツマンシップもヘチマも無いっての!」

 

 ジャンヌが騒ぎ、鈴が反論するいつもの風景。見慣れているので回りの代表候補生たちも左程は驚き慌てません。いつもの面々でこなすいつもの恒例行事の一環ですから♪

 

 

 ――キャノンボール・ファスト。

 それは本来、国が主催するISを用いた高速バトルレース大会のことであり、日本だととある事情から市が主催する年に一度のお祭りイベントとして定着している。

 内容は読んで字のごとく、ISでレースして一位を競い合うというもの。

 ただし、レーシングカーを使わずISを代わりに走らせて競い合わせるという都合上、ただ速く走ればいいだけのイベントには成っていない。

 銃で撃つのも有りだし、剣で切りつけるのも大砲で吹き飛ばすのも有りな、バトルレースと言うのがこの大会の趣旨である。

 

 そうした理由はたぶん参加者たちが、IS操縦者であってレーサーでも何でもないから。

 走らせて競い合うことに特化した専門家たちがおこなうレースと違って、一年に一回この日のために一ヶ月ほど前から即席で練習する付け焼き刃技術しかもたない学生たちのレースを普通にやっても見ている側は大して楽しめないだろう、普通に考えて。

 

 見目麗しい少女たちがメカニカルなロボットに乗って競い合うのを見て楽しむというのも悪くはないが、それぐらいだったらレースクィーンでもやらせてた方が経済的にナンボかマシな様な気がする。

 

 所詮はアマチュアの大会でしかないのだから、いっそ『何でもありな』お祭りイベントにしちゃえ!という、市の思惑が伝わってきそうでイヤな感じになるジャンヌだったが、彼女的に見て『何でもあり』は嫌いじゃない。

 コース上に落ちてるもん拾って投げつけるとかしてみたいし、ゴール直前で待ち構えて追いついてくる選手全員KO勝ちした後でゴールするのもやってみたい。

 

 DQN厨二にとって『熱血硬派くにおくん』はブラッディバイブル。これはジャンヌ的価値基準から見て譲れない。

 

 

「これはレースよ! 銃で撃とうと剣で切ろうとも、後ろからブチ抜いて一位を掻っ攫って優勝してやるのが一番気持ちいい類のレースイベント! それを走らずに戦い合って潰し合うんだったらやる意味なんて最初からないでしょう!?」

「なんでそう中国人は昔ながらの形にこだわろうとするのよ!?

 勝ちたいんだったらスタート地点で待ち構えて、他の奴らが一周走り終えてきたところに逆走して突撃して脱落させて、落として落として落としまくって、最後の一機になるまで生き残ってた奴がチャンピオン! それでいいじゃないの!? どのみちバトルなんだから!」

「そりゃ、バトルじゃなくて『バトルロイヤル』って言うのよ! この脳筋突撃脳フランス猪ーっ!!」

 

 鈴ちゃん絶叫。そして、ハイ。まさにその通り。

 それはレースじゃなくて、バトルレースでもなくて、ただのバトルロイヤルですね間違いなく。ルール的に可能だし、途中経過で似たような状況は毎度の様に勃発しちゃうけど最初からそれやるつもりで参加はマズい。意図の有る無しは法律的に重要です。

 んなもん犯行おこなった後にいくら調べて証拠見つけても『絶対に有る』も『無い』もないものだけど、人間の記憶なんて後からいくらでも改竄できちゃう程度のものでしかないけれど。

 それでも形式というのは重要です。弁えなさい、ジャンヌちゃん。

 

 

(ちくしょう・・・これじゃあ、せっかく立てた私の必勝計画が台無しになるわ・・・どうすれば!?)

 

 みんながワイワイと『真っ当な』レースの為の会話(一夏の白式がエネルギー問題的に不利だとかの話題)で盛り上がり始める中、ジャンヌは一人心の中で懊悩する。

 

 ――余談だが、彼女が当初立てていた作戦は、こう言う内容だった。

 

 全員に先にスタートさせる。最後尾を走ってる奴を背中から撃つ不意打ちで倒す。スタート地点でゴールしてくるのを待つ。来た順から順繰りに一機一機待ち伏せして倒していき、終わらせない戦いの連鎖で自分以外はすべて倒して最後に生き残っていた自分が勝利者でウィナー。

 

 ――こんな感じ。

 どっからどう見てもレースの勝ち方ではなかったが、一応彼女なりに主張というか、この作戦を計画した根拠は存在してたりはする。

 それは、機体がもつ特性故の長所と欠点によるものだった。

 

 ジャンヌの愛機シュバリエ・ノワールは強襲型であり、突撃力に特化している。

 突撃が得意と言うことは、必然的に横腹および背後からの攻撃には極端に弱いと言うことをも意味しており、先に行けば先に行くほど不利になってしまうレース用としては致命的な構造的欠陥を抱えているノワールで勝つには、こうするより他なかったのだ。

 

 だが、そんな彼女のやむを得ない事情による正当性など、真っ当にやって勝てる連中には通用しない。人は自分が不利になる正義を認めることは決してしない生き物だから。自分たちの正義から見て、許容範囲内にある正しさ以外は如何なる事情があろうとも同類だとは認めようとしない醜い生き物なのだから、致し方のないことなんだから。

 

(くっ・・・なんとかしないと私が勝利する可能性がぁぁぁぁ・・・・・・っ!!!)

 

 だが、人は一度手に入りそうだと感じた勝利の果実を簡単には諦めきれない生き物でもある。その手に掴みかけた栄光を、手からすり抜けたと言うだけで諦めきれなくなる生き物なのである。

 

 だから頼る。優れた賢人に。

 経験豊富な先駆者たちに教えを請うことで、手に入るはずだった栄光をその手に取り戻すために。

 

 勝つためなら頭を下げて、勝った後に恩を仇で返す!

 

 それが日本に限らず世界中で人類全てがおこない続けてきた歴史の伝統だ。人類史の極みなのだ。

 救国の英雄にして、裏切られて捨てられた人を見る目のない聖女様のジャンヌ・ダルクと同じ名を持つ者として、ジャンヌ・デュノアは決して同じ轍を踏もうとはしない。

 

 必ずや勝利の杯をこの手に・・・・・・っ!!!

 

 

 

 その結果。

 

 

「あ」

 ↑部屋に帰ってきたばかりでベッド上の同居人を見ていた一夏。

 

「あは♡」

 ↑寝転がって雑誌を読みながらパンチラしていた生徒会長。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ―――この前知り合って「困ったことがあったら頼っていい」と言われた学園最強を利用しようと、宛もなく寮内を彷徨ってたら一夏の部屋から聞き覚えのある声が聞こえた気がしてノックして声かけてから入ってみたら、ベッドの上で男に背中とお尻を向けながら雑誌を見るフリして笑顔でパンツ見せてた超絶美少女を前にして棒立ちし続けて固まってる一夏を目にしたジャンヌ・デュノアは、やがてゆっくりと背を向けてその場を去って行く。

 

 最期にいたわりの言葉を残してあげながら・・・・・・・・・。

 

 

「ごめん、次からはノックして声かけても返事されるまで入らない様にするから・・・」

「待て! ジャンヌ! おまえは誤解している! て言うかお前はどうしてこうも嫌なタイミングの時だけ俺の部屋に来るんだ!? 普段は来ないだろう!? 他の奴らと違ってさぁっ!!」

「・・・でも、出来たらアンタたちもそういうことは鍵締めてやって欲しいわね・・・。ここって一応は実質女子校で、男が一人のハーレム状態だからって本当のハーレムにしちゃうとヤバすぎる国立校なんだし・・・」

「だ・か・ら! 人の話というか、言い訳くらいは聞いてくれよ頼むから――――っ!?」

「あっは~ん♡ 一夏君のえっちぃ~♡」

「アンタもこういう時に限って悪乗りしまくる癖やめてくださいよ会長――――っ!?」

 

 

 九月の初秋。今日もIS学園は平和で平和で、どうしようもなく平和すぎて。

 人の心と頭と脳みそが腐り始めている気がしてならなくなる日常に満ちあふれている場所でもあるのであった・・・・・・。

 

 

つづく



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第22話「ハートブレイカー共」

更新です。今回もまたドタバタになっちゃいました。
やはり自分には福音戦辺りまでが最盛期なのかなーと黄昏交えはじめた今日この頃(原作で一番好きなのが三巻なのと、昔好きだったIS二次作が福音戦までで完結するのが多かったから)


「一、二! 一、二!」

「たああああ――――!!」

「目標補足! 撃ちます!」

 

 IS学園第三アリーナ。凰鈴音と織斑一夏の試合にも使われたこの場所は、休日にもかかわらず上昇志向の強い生徒達がIS訓練に明け暮れている。

 当面の短期目標は近く迫ったキャノンボール・ファストで上位入賞すること。

 

 ・・・まぁ、そもそもにおいてIS学園は国外から来ている訳あり転校生兼代表候補生たちを除くほぼ全員が『プロのIS操縦者を目指している』事前提であるが故の学費全額税金払いな国立機関なのだけれども。

 

 

『今年は例年にないほど代表候補と専用機持ちが多すぎるうえに、一年のニューフェイスは話題性に溢れまくった個性的すぎるファンキー集団で形成されてるし、頑張ったって良いところは全部持って行かれるさ』

 

 

 ・・・とかの斜に構えた視点で(だけど多分正しい物の見方)事象を見ている生徒も多いわけで、専用機持ちだから量産機の順番待ちしなくていい訓練時間多くとれすぎの代表候補生たちでさえ普通にスペースの一部を使わせてもらえてる。つくづく篠ノ之束の造ったISに平等性は欠片もない。

 

 

「あれ? セシリアじゃん。何、特訓? あたしは今から新型装備の展開練習するんだけど、一緒にやる?」

「鈴さん・・・。新型装備というと、やはり高機動パッケージですの? でしたら、ええ喜んで。望むところですわ」

 

 そんな風にして恵まれた境遇にある代表候補生の一人セシリア・オルコットは、同じ新型装備の高機動パッケージ同士である凰鈴音と訓練して、恵まれない量産機乗りどもと一緒にやるより闘争心を燃え上がらせて切磋琢磨し合い、一夏とシャルロットは訓練の合間の息抜きに休日デートを楽しんだりしていた。

 

 特権階級とは、得てして自分の恵まれすぎている境遇が当たり前になりすぎていて冷静で客観的な自己評価が出来なくなっているものである。

 

 

 さて、この時ジャンヌはどうしていたかと言いますと。

 

 

「オルコットも凰もせいぜい頑張んなさーい、応援していてあげるからさ~」

 

 どうせまともにやったら勝てないレースだからと、観覧席から見学コース一直線をにやけ笑いで愉しんでいた。

 

 体育祭の練習を体操服着て真面目にやってる同級生が頑張ってるところを普段着(この場合は制服。水着みたいなISスーツと比べりゃ制服でも普段着カテゴリーです)で見学という名目のもと見物してやるのは意味も無く楽しくて優越感に浸れるものである。

 

「「・・・・・・(イラッ!)」」

 

 そして見学されて応援までされてる側は、見世物にされてるみたいで妙にムカつくものである。

 

 もともとジャンヌとシャルロットのデュノア兄妹ならぬ姉妹は、二人で一人の代表候補生である。

 スピード重視でバランスタイプのリヴァイブカスタムと、パワー重視で突撃特化のノワール。互いの長所で欠点を補い合う形で戦うことができるタッグマッチでこそ最高の力を発揮できるよう機体も調整が成されてる。

 

 とは言え普通の試合形式では一対一が基本であり、各国勢力から一機ずつが参加して生き残った者勝ちの(スポーツなので勝ち残った者勝ちと言った方が正しいが)バトルロイヤル形式が一般的。

 

 二機が互いをカバーし合えるタッグマッチは、ただでさえ数が少ない適正持ち同士が相性抜群で国籍も同じであることが求められてしまう。学生時代は多国籍コンビが可能になるけど、卒業して国家代表になると却って足枷になりかねない。

 だから参加資格持ち自体がそれ程多くないのがタッグ戦の実情なので、デュノア姉妹のラファール二機も単独で戦うときのために対第三世代戦を想定してオールラウンドに戦えるよう特化型と汎用型とに別けられている。

 

 ――とは言え、向き不向きは当然ながら存在しているし、向いてない試合形式に参加しても碌な結果を出せないが一芸特化型。

 ノワールにレースなんて出られても勝てないどころか、最悪シャルロットが入賞してもジャンヌの成績で泥がつけられかねない。それぐらいだったら適当な理由をでっち上げて不参加にしてもらった方がいいし、片割れが出場さえすれば体裁も整えられる。

 

 周りから低評価で見られがちな第二世代機の強みと言えなくもない部分だ。

 第三世代一機分で二機というのは無理だったが、遅れている技術分野で競合するよりかは遙かに安い値段でリヴァイブの攻撃特化タイプの機体ノワールを造り出すことに成功している。お陰で今回のような場合にはフランスは恥をかくことなく、選手達にも楽をさせてやれるというわけだ。まさに一石二鳥! 貧乏暇無しによる手間暇が暇人をつくったよ!

 

「そーれ、ガンバーレガンバレ、ガ~ンバ~レ~。・・・ふぁ~あ」

「「・・・・・・(イライライライライラっっ!!!)」」

 

 同じ新装備の展開練習中コンビに加えて、うるさい外野がさらに闘争心をヒートアップさせまくり結果的に練習はメチャクチャ捗りまくった。・・・どちらからも感謝されることは未来永劫ないだろうけれども。

 

 

 そしてキャノンボール・ファスト当日。

 

 

『それではみなさん。これよりキャノンボール・ファスト一年生の専用機持ち組レースを開催いたします! 選手の方はスタート地点に移動してください』

 

 大きな声でアナウンスが響き渡り、超満員の観客が見守る中、シグナルランプが点灯する。

 

 3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・ゴーッ!!!

 

 

「行くぜ!」

 

 レースが始まり、各機が一斉にスタートする!

 広大な宇宙空間で活動することが前提にある高機動ロボットらしく、あっという間に一週目を回り終わって二週目に突入。一番争いでトップ集団が混雑しているところに一夏と箒も加わって集団戦をおこなおうとした次の瞬間。―――異変は起きた。

 

 

「・・・!? なにっ!? うわっ!!」

「きゃあっ!?」

 

 突如として空から降り注いだビームにより、トップを競い合っていたシャルロットたちが撃ち抜かれてコースアウトさせられていく。

 

「なんだ・・・あの機体は!?」

 

 上空から飛来してきた黒いISを目にした一夏が、驚きのあまり目をむく。

 この世界線だと初見の敵機、蝶の羽のようなブースターを背にした漆黒のビット兵器搭載機。その名も《サイレント・ゼフィルス》。操縦者は《エム》こと織斑マドカ。

 

 

 彼女は、まだ動ける程度にはエネルギーが残っていたセシリアや鈴を蹂躙してニヤリと笑う。

 

「茶番だな」

「何!?」

「死―――」

 

 ね、と台詞を最後まで言おうとして―――――吹っ飛んでった。

 

「へ?」

 

 一夏が突然走り抜けていった黒い旋風に掻っ攫われていった敵機の姿を探して・・・見つけた。コースの外周を覆っている壁に叩きつけられながら、両手で掴んで『顔面狙いで突き込まれているランス』に貫かれないよう全力で踏ん張りまくっていた。

 

「・・・あれ?」

 

 漆黒のIS同士のぶつかり合い。

 片方は襲撃者サイレント・ゼフィルス。もう片方は―――DQN厨二機体シャヴァリエ・ノワール。

 

 

「あーっはっはっ! 来たわね来たわね! 私のノワールの矛先に軍用ベレーをブッ刺されて持って帰られるために、わざわざ敵が来てくれたわねぇ!!

 奇襲を気付かせないために掛け声上げなかった分だけイラついてるから、その分も込みでアンタは念入りにぶっ潰してあげるわよぉぉぉっ!!!!!」

「貴様ぁぁ・・・・・・私の邪魔をする気かぁ!?」

「あったり前じゃないの! こう言うのを期待してたんだからね私は! レースみたいに『曲がる』だとか『止まる』だとか間怠っこしい単語を使わなくていい突撃できる相手こそ私が求める相手よ! 倒すべき敵よ!

 こちらに気付いてない敵がいたら、とりあえず奇襲かけてぶっ倒す! ゲームの常識よ! 当たり前のことじゃないのさ!

 現実は小説より奇なりなんだから、ゲームの手法も通じて当たり前! 一次元上なんだから気合い入れてはじき返して見せなさいよコラァァァァッ!!!」

「ぐ、お、お・・・おおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 

 エムちゃん必死。ビットを背後に回らせて背中から撃たせるとかの手も取れないぐらいに集中力が大事な状態になっちゃってます。

 何しろこのイノシシ少女、敵がテロリストと聞かされてるから問答無用で顔面狙いに切り替えてきちまっている。

 いくらエムが姉に固執して色々なもの捨ててきたとは言え一応は可愛らしい女の子。いきなり顔をブッ刺しに来る相手がいるなんて想定していません。つか、普通はやりません。

 ISバトルはこれでも立派なスポーツなんですからね。顔面攻撃有りなスポーツなんて、格闘技でもあんまり多くない攻撃箇所を何のためらいもなく狙ってくる辺り、ジャンヌちゃんマジ猪。

 

 とは言え所詮、第二世代は第二世代。出力が違えば、パワーも違う。不意打ちによる奇襲で狼狽えたけれど、落ち着きを取り戻し始めたエムによるビットコントロールに必要な計算力と空間把握能力が戻ってきたのを宙に浮かぶビットの動きから察したジャンヌは、『ここが攻撃の限界点』であることまでもを同時に認識した。

 

 

 ―――が。だからと言って置き土産を残していかない理由にはならないので、キッチリ置いていく。

 

「フッ・・・」

 

 エムが両手でランスの矛先を掴んだまま嗤い、ジャンヌを背後から狙い撃てるようビットを移動させた直後。

 

「ずおらぁぁぁっ!!!」

「!!!」

 

 ジャンヌは、捕まれていたショットランサーを発射。反動も利用して後方へ飛び、小威力ながらも突き刺さった後に爆発させることが出来るランスの矛先に仕込まれていた爆薬を爆発させて目眩ましとして一夏を回収。一機に後ろへと距離を取る。

 

 そこでようやく一夏覚醒。あまりにもヒドすぎる戦い方に唖然とさせられておりました。

 

「お、おいジャンヌ! 鈴達を置いて逃げるのかよ!?」

「だったらアンタも自分で歩きなさいよ!? 重力制御があるからって他人には恩恵得られないんだから、結構重いのよISって!」

 

 言われてみりゃその通りだったので、すぐさま自分の足で立ち上がる一夏。

 追撃が来ると思ってたら、何故だか爆発地点から動いていない敵の姿にいぶかしみつつ、次弾を装填し直したショットランサー片手に待ちわびているジャンヌ。速く煙が晴れてくれて突撃したくて仕方の無い女の子です。

 前にしか進めないイノシシは、行く先に障害物があると突破する以外のことは考えられなくなる生き物なのです。

 

 

「貴様ら・・・・・・この程度の小細工しか出来ぬ身でありながら、この私を虚仮にする―――」

 

 か、と最後の一言はまたしても言わせてもらえなかった。

 横合いから突撃してきた、黒くてゴツいISに顔面をブン殴られて壁へとリターンさせられていたからである。

 

「ジャンヌを倒すのは私だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「「ラウラ!? アンタ(お前)いたんだ!?」」

「居たぞ!? 最初っからずっとレースに参加していたぞ私は!? ただ、ジャンヌが出場しないと聞かされて意気消沈し、やる気を失ってどうでも良くなり適当に後ろの方をグダグダ走っていたから到着が遅れて、敵の不意を突ける瞬間を待っていただけだからな!?

 思わぬ時に思わぬ所を攻撃されるからこそ奇襲というのは成立するのだからな!」

 

 ラウラ、正論。最近だとジャンヌが絡んでないことにはとことんダメになる彼女ですが、これでも立派なドイツ正規軍の軍人。やる時にはやりますし、知ってることは知ってます。

 

 ただし、知ってる知識の中には知ってるからこそ素人のように喜べないものも含まれており、その中の一つに『奇襲』に関する事柄があった。

 

 言うまでも無く奇襲とはだまし討ちであり、相手の意表を突いて驚かせるところにこそ神髄があり目的がある。

 要するに、本命を隠すための陽動でしか役立たないのが本当の奇襲作戦というものだった。地力で劣る側が戦力の差を覆すのではなく誤魔化すため、局所的に一時的に有利な情勢を形成する、ただそれだけの効果しか望めない時間稼ぎこそが奇襲の神髄なのだから彼女としては正直やっていられない。

 

 これが対人戦だったら顔面・・・つまり軍で言うところの頭(指揮官)を潰せば敵軍全てに勝つことが出来る斬首作戦になり得るのだが、生憎とISにはバリアがあり斬首戦術は通用しづらい。顔面をブチ抜こうとしてもエネルギーを普段よりも大きく削れるだけで一撃勝利にはなり得ないのだ。

 

 だからと言って真っ正面から戦うには、悔しいが実力差がありすぎている。ジャンヌもそれを承知していたからこそ、深追いせずにザッと一発当てたらサッと退くヒット&アウェイの基本を遵守したわけだから、現時点でジャンヌよりも弱い自分が不意打ちしたぐらいで勝てるとはみじんも思っていないラウラだった。

 

 なにしろ敵へのダメージ量は見た感じより遙かに少ないのだ。初撃のランス爆破と今の拳による一撃しかない。

 どうせ満タン近いエネルギーの敵に砲を当てるのも全速力でぶつかっていくパンチを当てるのも大差なかろうと、より精神的にインパクトのある方を選んでみたのだが、果たしてこれが吉と出るか凶と出るか・・・・・・。

 

 相手は「フン・・・」とつぶやき、切れた唇から流れた血を唾と一緒にペッと吐き出すと露悪的な笑顔を浮かべてラウラを眺めながら揶揄するように言ってきた。

 

「この程度か、ドイツのアドヴァンスト。期待外れでガッカリさせられる性能だな」

「・・・・・・む?」

 

 言われた言葉を頭の中で反芻しながらラウラは、『なんのことだったかな?』と自分の記憶を古い順から捲っていき『忘れてしまってた』ことを思い出す作業に当てる。

 それから数秒して、彼女の生まれながらに優れた頭脳は『最優先記憶事項はジャンヌ』にしてしまってたせいで忘れかけていた記憶の残滓を探し当ててリカバリィしてくれる。

 

「ああ・・・そういえば私は作られた存在だったから、人間とは別種族の名前があるんだったな。そしてその名前は確か『アドヴァンスト』とかなんとか。・・・正直どうでもよいことだったから今の今まで忘れ果てていた名前だが・・・・・・」

「いいのか!? 自分の作られた目的と繋がりのある名前だぞ!? それを忘れるとは即ち自分自身の生みだされた理由を亡くしてしまうことに他ならならんのだぞ!?」

「そうなのか?」

「そうだ! そしてそれは自分が、世界との繋がりを断ち切られたことを意味している! 世界から愛されず、憎しみしかない闇の中で過ごす苦しみを貴様も覚えているのだろうが!?」

「知らんし、覚えておらん。とゆーか、愛情なんて強くなるのに邪魔なだけだろう? 

 より強い力を! パワーを追求し続けることこそ強さを求める者の基本だ。その程度のことも知らんのか貴様は?」

 

 

 ガ――――――――――――――ッッン!!!

 

 

「そ、そん・・・な・・・・・・」

 

 エムちゃん大ショック。

 ・・・一夏に負けず、一夏に惚れず、「強さはパワー」の信念持ったまま「ジャンヌ倒す!」に生き甲斐が変わっただけのラウラとエムの信念は相性が悪かった。と言うか、一方的にエムの方が傷つきまくってしまっている。

 

「強くなりたいのなら、憎むことだ。こいつに勝ちたい倒したい。コイツを殺すまでは自分は死ねないと思い続けさえすれば生き延びられるし、生きてさえいれば勝機を見いだせる時がいつか来るだろう。その時のために牙を研ぎ澄まし、必殺必中の技を編み出しておくのだ。

 長年練りに練り続けた呪いと怨嗟と勝利を渇望する気持ちを全部込めた攻撃を、相手の心臓に叩き込んで存在ごと終わらせてやるために!!」

 

 なんかモノスッゴく黒いことになっちゃってるラウラだったが、今の意見を聞いてジャンヌが表していった言葉を彼女は知らない。

 

 

「いや、そんなもん私にぶつけようとしてるんだったら止めてよね。恨み辛みとか怨嗟とか、なんかキモそうでヤだし」

「・・・ジャンヌ・・・俺は何故だか今一瞬だけ言いたい理由の分からない言葉を言いたくなっちまったよ。『お前が言うな』ってさ・・・」

 

 

 閑話休題。

 

 

「まぁ、そんなことはどうでもいいだろう。さぁ、来るがいい名も知らぬ敵兵よ! 私と戦え! 勝てぬとしても私は全身全霊でお前と戦うぞ。なぜなら私はお前の敵だからだ!」

「あ、う、ぐ、あ・・・・・・」

「私がどこの誰だろうと、そんなことは関係ない。戦場においては些末事だ。ここでは皆平等、皆同じ存在、戦場に集う者皆敵と味方! それ以外に区別など必要ない!」

「うあ、う、ひ、が・・・・・・(ガタガタガタ)」

「さぁ、来いよ。能書き垂れてないで、とっとと掛かってきて腕の一本や二本ぐらい食い千切ってから勝ち誇れよ。ハリー! ハリー!! ハァァァリィィィィィィッッ!!!!」

「ひ、ヒィィィィィィッ!?」

「いや、だからアンタはどこの戦闘狂な牧師さんになっちゃってんのよ、気持ち悪いから止めなさいって」

 

 冷静にツッコむジャンヌだったが、敵はもうそれどころではない。完全に世界観の違う次元の存在が舞い降りてきたかのような恐怖心に襲われてしまって、周囲のことが目に入っていない。

 

 そう、たとえば“彼女たち”のことなんかも見えてはいなかったのだった―――――。

 

 

「な、なんなんだお前はブワハァッ!?(ズゴォォッン)

 ――今度はなんだ!?」

 

 恐れおののきながら一歩二歩と退いている最中に後ろから奇襲攻撃。

 今日は奇襲されてばっかだけど、そもそも一番最初に奇襲してきたのは彼女自身であって、彼女たちの組織がやりたがってる戦争では、わざわざブザー鳴らしてから奇襲してくるバカなどいるはずないので、合わせてもらっていると解釈できなくもない。かなり強引な解釈変更だけれども、戦争中に条約違反の攻撃する時にはよくあることだ。気にするな。

 

 

『私たち(わたくしたち・僕たち・あたしたち)ISヒロインガールズ!!!

 紅椿の《絢爛舞踏》でエネルギーを回復させて今復活!!!!!!』

 

「数の上でも圧倒的な不利になぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「「隙あり! テロリストにIS条約もISバトルのルール適用も関係ないから急所攻撃全然OKだよな!?(よね!?)」」

「ぐへはぁぁぁっ!?

 く、クソうっ! 今日のところはこれぐらいで勘弁しておいてやる! 次までにせいぜい腕を磨いておけ! てやっ!」

「うっ!? 煙幕か!!」

 

 ボシュッ! と音を立てて周囲を包む白い煙に視界を遮られ、ISの機能で短時間のうちに視界が回復した時には逃げられてしまっていた。

 さすがはIS不正規戦闘のプロ、退き際は鮮やかだった。

 

 こうして、IS国際レース日本版キャノンボール・ファストはテロリストに襲撃されたから中止という形で幕を閉じた。

 

 余談だが、今年卒業組で国際レースの成績がそのまま進路に影響する三年生達によるエキシビジョンマッチと、売り出し始めたばかりで熱心に練習していた一年生の量産機乗りたちのレースは、専用機乗り組みの後に予定されていたため延期とされてしまった。

 

 ただでさえ、使う宛てがキャノンボール・ファストしかない会場を修理するかどうかで市議会が揉めに揉めて、再開の目処は数ヶ月が経過した後でも立てられていないとか何とか。

 

 つくづく篠ノ之束の造り出したISは、スポーツマン精神の平等性とは無縁な特権階級のためのマシーンである。

 

 

つづく

 

 

おまけ「戦い終わった、その後で・・・」

 

ジャンヌ「しっかし、いつも思うんだけどさ。強さを誇示したがる敵キャラって、負けたことないって言ってる割には毎回逃げるの上手いわよね何故か。なんでだと思う?」

 

ラウラ「宣伝文句だからだろう。あるいは、『今までの自分は負けまくっていたが、今の自分になってからは一度も負けたことない』とか」

 

ジャンヌ「・・・商標詐欺って言わないかしら? それって・・・」

 

ラウラ「名を売り物にするとはそう言うことだろう? 実績ではなく名前に付加価値をつけようとするのが二つ名であり、異名なんだからな」

 

ジャンヌ「厨二の夢をブッ壊すのやめてよ~・・・(ToT)」



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第23話「ボッチーズ」

更新です。簪編の第一話目にして簪が登場しないお話。楯無から相談受ける一夏の場面にジャンヌがいたらのIF話ですね。途中から脱線しますから、そう言うの嫌いな人はお気を付けください。


「私はお前だ、織斑一夏」

「な、なに・・・・・・?」

「今日は世話になったな」

「!? お前、もしかしてサイレント・ゼフィルスとか言う敵のIS操縦者――」

「そう。そして私の名前は――――“織斑マドカ”だ」

 

 ・・・キャノンボール・ファストがテロリストに襲撃されて中止となった夜。織斑一夏は敵の夜襲を受けた。昼間に戦った敵の織斑マドカによるものである。

 

 彼女としては端っから一夏以外には興味ない介入だったのに、余計な横やり(敵の事情など知らんイノシシたち)が入ったことで邪魔されてムシャクシャしてたから鬱憤晴らしのための単独行動に過ぎなかった訳だけれども。

 

 ギリギリのところでトレーニング中だったラウラに助けられた一夏は手当を受けて寮へと戻り、ISガールズメンバー(-2名)から手厚すぎる看護を受けさせられて部屋へと戻ってベッドに横になっていると楯無会長が襲来。妹の力になってくれるよう頼まれたのだった。

 

「それじゃあ、お願いね? でも、無理はしなくていいから・・・・・・」

「らしくないですよ、楯無さん。いつもならご褒美で背中流してあげるとかなんとか言うくせに」

「そ、そう? あはは・・・ま、まあ、そういうのも、してほしいならするけど・・・・・・」

 

 

 普段、人前では決して見せないテレテレの表情になって照れる更識楯無さん、とても可愛らしい。可愛らしいのであるが。

 

 ――可愛らしいからこそ特定の相手以外には見せてはいけない顔ってモノもある訳で・・・・・・。

 

 

「・・・ねぇ、アンタってさぁ・・・いつも思うんだけど、好意に鈍い朴念仁のフリして難聴系よそおってる羽瀬川小鷹さんタイプだったりしないわよね・・・?」

「だから何でお前はいつも最悪のタイミングでだけ俺の部屋に来る!?」

 

 

 背後から忍び寄る黒い影、ジャンヌ・デュノアちゃんにしっかり目撃されてるのはヤバすぎました。

 

 会長さん、部屋に忍び込むときに普段と調子が違ってプライベートの頼み事しに来てたこともあり緊張していて凡ミスしちゃってました。端的に言うと鍵を開けて扉を開けて中に侵入してから、開けたまま放置しちゃってました。

 それじゃあ、たまたま通りかかって心配になったジャンヌが中を覗くぐらいしてもさほどは不思議じゃありませんよね? あ、一応声はかけましたよ? ヒソヒソ話中だったせいか今いち聞こえてなかったっぽいですけどねー。

 

 

「あくまで私見だけど、小鷹さんは女視点で見た場合には割と最低な人だと私は思う」

「だから何の話だよ!?」

 

 ラブコメ読まない男らしい物好きな一夏に、日本のサブカルチャー全般が大好きなオタク少女の言ってる内容は意味不明だが、なんとなく本能的に否定しとかないとヤバい内容のこと言われてる気がして割と必死になってる一夏君。

 

 逆に楯無さんは弱味を人に見られること慣れてないので、こういう時だけ年頃乙女らしく慌てふためいて役立たず状態。弁明に付き合ってくれません。むしろ悪化させてきやがります。

 

「ち、違うのよジャンヌちゃん!? これは、アレでソレで、つまりはそう言うことになって要するに、妹のことお願いしに来ただけなんだから!? 勘違いしちゃわないでよね!?」

「楯無さんズレてる! 誤魔化したい話の内容の誤魔化したい部分が微妙にズレてますから! 誤魔化せるけど別の誤解受けちゃうタイプの典型的な誤魔化し方ですからソレって!

 ちょっ・・・割と本気でジャンヌが誤解し始めてる目になって来ちゃってるーっ!?」

「・・・・・・・・・」

 

 ズォ~ンと、真っ黒い影を背景に背負って引き攣ったような顔をして見せながら微妙に上半身を後ろに引いてるジャンヌ・デュノアちゃん。完全に誤解しまくって来ちゃってますね。

 

 実のところジャンヌは、一夏のラッキースケベイベントの被害者になったことがほとんどなくて、むしろ誰かとラッキースケベイベント起きたところへ出くわす場合が多い女の子だったりします。

 その度に一夏を恐怖のズンドコへと叩き込んでは気を遣って去って行く思いやりに溢れた女の子でもあるのですが・・・・・・当然のように一夏に対する評価はダダ下がりしまくってます。急転直下の大暴落振りです。リーマンショックも真っ青ですよ、本当に。

 

 なので周囲にとっての一夏が『朴念仁・オブ・ザ・朴念仁』なのに対してジャンヌの中では『実は気づいているのに難聴系のフリして居心地の良い今の時間を長続きさせようとしている策士・小鷹さんの後継』みたいな扱いになってきてしまっており立場的にかなりヤバい状況にある。

 

 理屈ではなく本能によって危機を感じている、実は人類を超えた超人類織斑一夏は、この時も絶好のごまかし要素を見いだして起死回生を図ることに成功した!

 

「そう! 実は昨日の襲撃事件みたいなのが次あったときに備えて専用機持ちのレベルアップを図りたいんだけど、会長の妹さんの機体が未完成で出られるかどうか分からないから手伝ってあげて欲しいって頼みに来たんだよ!」

 ほら、会長って体面とか面子とか色々あって人に頭を下げるとこ見せづらい役職だろ? だから夜分にお忍びでコッソリ来たらお前が入ってきて驚かされたっていう流れなんだよ。分かるだろお!?」

「はぁ。まぁそうね、分かるわね」

 

 ――なんかまた面倒くさい他人事に巻き込まれて引き受けちゃったんだろうなーって、事がね? ・・・とは正直に言わない、ひねくれ者のジャンヌちゃん。

 他人の厄介事なんて巻き込まれたら嫌だと思うものトップ10に入ること間違いなしな代物なのだから、藪をつついて巻き込まれたりしたら堪らなかった故の行動である。

 

 気づいているけど気づいてない振りをして、相手を安心させてやりながらイベントシーンより離脱する。やってることは小鷹さんなジャンヌちゃんも立派に難聴系主人公の一人。

 やっぱり人類皆ぐみ(だから、もう言いっちゅうに!)

 

 

「む? なんだジャンヌ、織斑の部屋に規則破りでもしに来ていたのか? 何なら手伝うが?」

「うおわぁっ!? ら、ラウラ! アンタなんで私の後ろにいきなり立ってるのよ!?」

「なんでも何もない。日本ではライバルと認めた相手の背後には、黙って回り込んでから伝えなければならない習慣があるらしいと聞いたのでな。私はそれを実践しているに過ぎん」

「『残像だ』かよ!? だったら私は『黙って俺の後ろに立つんじゃねぇ!と問答無用で殴り飛ばす』を実行するわよ!? それでもいいの!?」

 

 日本のサブカル的お約束文化を習慣と言い張り、言い合う二人。

 それを聞かされながら「そんな文化は日本にねぇ」とツッコみたくなる、意外と愛国心旺盛で郷土愛が強すぎるあまりイギリスの代表候補貴族と文化の違いから国際問題起こしかけた経験がある織斑一夏だったけど、話が逸れてくれたこと自体は嬉しいので素直にツッコめなくなってる織斑一夏でもあった。

 あっちを立てれば、こっちが立たず。人間関係はやはり難しい。

 

「学園特別規則第一条『男子の部屋に女子を泊めてはならない』だ。この前規定されたばかりだろう? 忘れていたのか?」

「・・・え。何その規則、私知らないんだけど・・・・・・」

 

 唖然とするジャンヌ。それほどに衝撃的な内容だったのだ。

 

 あまりにも衝撃が強すぎるあまり「それってルールないとやっちゃう奴がいると思われてる時点でダメすぎるんじゃない?」と言うような、普段の常識ツッコミすら入れられない程の圧倒的すぎる衝撃力だったのである。

 

 

 ・・・なんで、私が知らない寮のルールをコイツが知ってるの・・・?

 ・・・なんで私に知らせて来る奴がいなくて、コイツに教えに行った奴がいるわけ・・・?

 ・・・・・・コイツは、私以上のボッチだったはずなのに一体どうして!?

 

 

 ――そんな感じの衝撃の受け方。比べる対象が友達よりも強さを求める修行系ボッチという時点でダメすぎるのだが、そこまでは考えが至ってないひねくれ系ボッチ少女のジャンヌ・デュノア。やはり人は自分のことほどよく見えない。

 

「この前、寮生の間で規定されたのだが・・・なんだ? お前知らなかったのか? 今や泊まる気など欠片もない、私でさえ知っている寮生にとっての常識だぞ?」

「なん・・・で・・・? どう・・・して・・・? だってアンタ、ボッチだったじゃないの!? いつの間に他人とコミュニケーション取るようになったのよ!?」

「ふっ・・・」

 

 ライバルの醜態を勝ち誇った視線で見下ろし、せせら笑うラウラ・ボーデヴィッヒ。

 かつては同じ視線をISアリーナで織斑一夏に浴びせたものだが、それが今となっては一夏の部屋で腕組みしながら素手のまま、語って聞かせるのみ・・・つくづく人は成長するものである。大きくなったなぁ-、ラウラ・・・・・・。

 

「今の私を以前までと同じに思ってもらっては困る。人は変わっていくものであり、進化し続ける生き物なのだからな。私も常にお前を倒すため努力し続けている以上日々変わっていっているのだよ!

 そう! なにしろ今の私は他の寮生に対して『ホウ・レン・ソウ』を徹底できるだけのコミュニケーション能力を獲得しているのだから!!!!」

「な、な、な・・・・・・なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 ガー――――――――――――――――――――ン!!!

 ジャンヌ驚愕! まさかそんな、あり得ない!?

 ボッチにとっての明鏡止水とも呼ぶべき『ホウ・レ・ソウ』に、ラウラが自分よりも先に到達して習得していただなんて!!!

 

 

「そん・・・な・・・・・・バカ、な・・・・・・」

 

 ガックシと両手を床についてうなだれるジャンヌ・デュノア。

 自分が人と触れあうために被っていた、お嬢様の仮面を居心地がいいから脱ぎ去ったままにしている間に、ライバルはこうまで差を付けていただなんて・・・っ!!!

 

 

「いや、出来て当たり前のレベルだと思うぞ? その程度なら・・・」

「むしろ、出来るようになったと誇っている今を恥じるべき低レベルな争いよね? それって・・・」

 

 

 ・・・コミュ力高い外野からヤジが飛んで来てるけど、衝撃のあまり一時的に自閉しちゃってるジャンヌの耳には届かない。

 他人な上に男子部屋で精神的に自閉する少女、ジャンヌ・デュノア。ある意味もの凄ーく高いコミュ力の持ち主な気がするが、こう言うのが自己評価と自己満足が重要となる問題なので他者からの客観的評価はあまり意味を成さないので効果なかった。やはり人は自分は見えない。

 

 

(ま、まさか今となっては私よりもラウラの方がコミュ力が高くて、友達が多かったりするんじゃ・・・? ――い、いいえ! あり得ないわ! だって私にだって友達いっぱいいるんだから!

 たとえば・・・そう! お姉ちゃんとか!!!)

 

 姉を友達にカウントしている時点でダメなことに気づいていないダメすぎるボッチ少女のジャンヌ・デュノア。

 なんかもう、最初の頃に話してた試合のこととか会長の妹の件とかどうでもよくなったまま幽鬼のように「ユラ~リ・・・」と立ち上がり。

 

「じ、ジャンヌ・・・? えっとぉ・・・大丈夫か・・・?」

 

 心配そうに気遣って声をかけてきた一夏に『嫋やかな笑顔』を向けて、

 

「あら、お気遣い頂きありがとうございます一夏さん。嬉しいですよ」

 

 優しい口調と態度で礼を述べて、周囲を凍り付かせる。

 

「それでは皆さん、わたくし少々急ぎの用事を思い出しましたので、これで失礼させて頂きますね? お詫びの埋め合わせは後日しっかりさせて頂きます。それでは」

 

 スカートの端を両手でつまみ上げ、お嬢様らしい笑顔を浮かべてお嬢様らしく丁寧に頭を下げて一礼し、ゆったりとした歩調で部屋を出て戸を閉める。

 

 そして―――――

 

 

 

 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどッッ!!!!

 

 

 

 ―――もの凄い勢いで走り去っていった。

 向かったのはおそらく・・・・・・

 

 

「友達を作りに行ったのだろうな。方向から見て、おそらくは先ほど生徒会の奴らが張り出していった『専用機持ち限定のタッグマッチ』に関するポスターを目にすることになるはず・・・これは明日から荒れるやもしれん」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

 

 対テロリスト対策の自衛能力向上を目的としたイベントだったはずのタッグマッチに、滅茶苦茶不純で、趣旨とは関係ない理由での仲間集めに走り出したフランスの代表候補が熱意を燃やし、一夏と楯無を唖然呆然とさせてしまったジャンヌ・デュノアによる暴走。

 

 近くおこなわれるIS学園タッグマッチは、波乱に包まれそうな気配が漂い始めてしまったが一体どうなる!?

 

 待て! 次回!!

 

・・・つづく

 

 

おまけ『次回使うネタの予告』

 

ジャンヌ「正直、殺すつもりで実弾撃ってくるテロリスト戦想定して、殺すどころか重傷もNGな実践形式の試合を一日やるだけのことに何の意味があるのか甚だ疑問なんだけど・・・」

 

ラウラ「まぁ、やらんよりはやった方が少しはマシと言う奴ではないのか? たぶん。少なくとも『やっておけば良かった』等の後悔だけはしなくて済むようになるのだし」

 

ジャンヌ「その割には責任者の会長さん自らが姉妹仲修復のために私的利用する気満々のイベントなんだけどね・・・」

 

ラウラ「今更だな。そもそも本気で危機感を抱いての防衛訓練なら、学校行事として衆目に公開したりはせんよ」

 

楯無「二人とも、妹に嫌われてるお姉ちゃんを少しは慰めてよ~・・・(ToT)」




書き忘れてたから補足で説明:
ラウラが「一夏の部屋に止まるの手伝う」と言った件について。

門番破りや無断外泊の手段に無い知恵を絞る士官学校生のノリ。

ラウラ「あの頃が懐かしいぜ・・・は、日本の伝統なのだろう?」


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もしも箒のルームメイトがジャンヌだったらのIF話

リハビリ目的でのIF話です。正式な意味での更新じゃないですのであしからず。
箒の新しいルームメイトにジャンヌがなってたらの話を、短い説明文の練習作品として書いてみたお話です。


 

 ジャー。

 IS学園寮にある自室で篠ノ之箒がシャワーを浴びていると、扉のある方からノックをする音が聞こえてきた。

 そう言えば今日から、一夏の代わりとなる次のルームメイトが来ることになっていたことを思い出した彼女は、軽く身体を拭いてバスタオルを巻き付けると浴室を出て扉の方へと向かっていった。

 

 ガチャ。

 

「どーも」

「む。ジャンヌか・・・お前が新しいルームメイトとは意外だな」

「あっそ。私だって不本意ではあるんだから我慢して」

 

 性別を偽り男として学園に入学した兄役のシャルロットは、シャルルとして織斑一夏のルームメイトの座を幸運にも得られることになった。

 が、その代わりとして余ったジャンヌの落ち着き場所が必要となり一夏が抜けて再び二人部屋で一人になっていた箒の元へとやってこさせられた。そう言う話だった。

 

「そういう訳なんで、一年間よろしくー」

「ああ、これから一年よろしく頼む」

 

 おざなりな態度ながらも手順だけはキチンと守って挨拶するジャンヌを、外国人という基準で見れば及第点かと判断した箒が受け入れ二人の共同生活が始まったわけだけど。

 

 そんな二人の間に、爆弾はいきなり落とされた。

 

 

「そう言えばさー」

「ん? なんだ? 何かわからないことでもあったのか?」

「アンタって、何でそんなにオリムラのことが好きなの?」

「ぶばぁっ!?」

 

 突然の不意打ちに飲んでいたフルーツ牛乳を、鼻からも口からも吹き出しまくる篠ノ之箒。

 風呂上がりの一杯を強制中断させられて色んな意味でもがき苦しむルームメイトの醜態を落ち着いて眺めながら発言者のジャンヌ・デュノアは「シラーッ」とした目で観察してるだけ。

 なぜなら厨二の趣味は人間観察。基本です。

 

「な、な、な!?」

「いや、そんなに驚かなくても・・・。わかるでしょ? 見てりゃ誰だって。あれだけ解りやすくベタベタしようとして解らない方が頭か目か脳がおかしいだけなんだし・・・」

「い、何時から気がついていた!? 私の・・・私の決して知られてはいけない秘密にぃ!?」

「最初から。それに多分、皆もうすでに気づいてると思うわよ? 会って間もない私に分かるくらいだもの。それでも気づかないフリして見守ってあげてんのよ。優しいじゃないの、この学校の偽善者たちみーんな、ね・・・ウフフフ・・・」

 

 厨二らしく『俺ガイル』の愛読者であり比企谷八幡の大ファンである彼女なりに捩った表現で名台詞を再現して悦に浸る厨二病で高二病な彼女。

 

「・・・なんてことだ・・・・・・」

 

 対して、ラノベ読まずに典型的なラノベのツンデレヒロイン役を熱演しちゃってた篠ノ之箒はガックリと膝を突き、身に纏っていたバスタオルを「バサリ」と床に落とす。

 

「ちょっ・・・!? なにやってんのよアンタは!?」

 

 スタイル抜群の全裸を予想外に晒させてしまったことにより、根が善人なひねくれ少女ジャンヌは狼狽えざまを丸出しにしながら箒を引き摺るようにベッドまで連れて行って話を聞いてやることにした。

 

 なんだかんだ言いながら優しいジャンヌちゃんである。

 

 

「実は・・・・・・」

 

 そうして箒は語り出す。

 自分が一夏に惚れた小学校四年生の時の出来事を。

 それ以来、どれだけ一夏のことを想ってきたかを。

 一秒たりとも忘れたことなどない熱き思い出の記憶の数々を―――。

 

 

「箒・・・アンタそれって・・・・・・」

 

 話を聞き終えたジャンヌが複雑そうな顔でつぶやこうとするのを、箒は悟ったような笑みを浮かべてゆっくりと拒絶する。

 

「言わなくてもいいさ、ジャンヌ・・・。自分でも分かっているのだ。こんなものは子供の頃の自分が抱いた勝手な幻想。相手に共有して欲しいと願うのは身勝手な願いなのだと言うことぐらい、私だって本当は分かっている。分かっているのだ」

 

 そう、わかっていた。一夏が覚えていなかったとしても仕方がないのだと理解していた。

 ――ただ、それでも諦めきれなかった。覚えていて欲しい、想っていて欲しいと願ってしまった女の浅ましき願望・・・。

 それが自分の思いの正体であることなど、箒にだってとっくの昔に気づけていたのだから・・・。

 

 

「ただ、これだけは分かってくれジャンヌ。私は自分の想いを声に出すのに虚言は一切用いなかった。今のは私の本心から出た言霊だ」

 

 ハッキリと宣言する箒。

 それならばと、ジャンヌも覚悟を決めて自分の抱いた感想をハッキリと声に出して断言する。

 

「そう。じゃあ言うわね。――スッゴく粘着質で気持ち悪い女ねアンタって・・・」

「うおぉぉぉぉっい!?」

 

 ハッキリ言われた! 言われちゃった!! 薄々は感じていなくもなかったんだけど、それでもここまでハッキリと声に出して表現されるだなんて思ったなかったですわよ私は!?

 

「小学生のころ好きになった相手を高校生になるまで想い続けてたって所がヤンデレ臭い。

 ガキンチョの時の記憶を相手の男がらみの部分だけ鮮明に思い出せてるところが気持ち悪い。

 自分が好きになった小学生のときのままを高校生の相手にも求めているところがショタコン臭い。

 ・・・え、もしかしてアンタってそう言う趣味の人でしたか? すみません、私そう言うの理解できないんで近寄らないでください。最低限3メートルは離れて話しかけてくれないと身の危険感じさせられちゃいそうなんですけど・・・・・・」

「お前少しぐらいは言葉選んで気を遣えよ!? 仕舞いには泣き出すぞ私は盛大に!?」

 

 箒は、言葉でもISでも白兵戦でも勝てない相手と直感した瞬間、泣き落としに掛かってきた! これでも負の実績は結構あるから説得力は抜群のはずだ!

 

「言っておくが脅しではないぞ!? 前科はいっぱいあるのが私だからな!? 高校生にもなって全裸の女子高生を泣かせたフランス代表候補生などという不名誉な名を背負いたくなかったら今すぐそのおしゃべりな口を閉じるのだ! いいな!? 分かったか!?」

「わ、わかったわよ。分かったから落ち着いて・・・ね? さすがに私も言い過ぎたと思ってたところだし、これ以上は私も言う気がなかったから・・・ね?」

「うん・・・」

 

 慰められて途端にしおらしくなる篠ノ之箒。基本的には傷ついてるときに優しくしてもらった相手には無条件で素直になれる女の子である。

 都合がいいチョロい女つーっか、安い女という方が正しいような気がしてくる篠ノ之箒、十六歳、高一。

 

「あと、コレ・・・父が経営している会社の関連施設でIS操縦者も掛かりつけに使ってる総合医療病院のパンフレットなんだけど良かったら・・・。専用機って脳と直接つながるからソッチ系の病気には事欠かなくて・・・」

「お前の慰め方最低だなーっ!?」

 

 あまりにもヒドい対応を真顔でされてしまって、却って傷つくしかない箒。

 そりゃまぁ、自分の想いが世間一般から見たら色々と普通とは違うことぐらい自覚していましたけども!

 それでも、離れてから長年想い続けた幼馴染みの熱い想いとか! 愛情とか! 支えようとする良妻賢母精神を讃える言葉とか! 色々あって然るべきだろ! 色々と!!

 

「あとコレ、日本人はこう言うのも気にするって聞いてたから、いざという時のために墓石のパンフレットなんかも・・・・・・」

「いくらなんでも最低過ぎる!?」

 

 恋愛相談して墓石業者のパンフレットを差し出されてしまった日本初のIS操縦者篠ノ之箒。

 これはこれで幼馴染みと二人で一緒に世界初のペアルックと、言えなくもないですね。こじつけにも程がありますけども。

 

 

「それからコレ、各種保険会社の資料も参考までに取り寄せといてあげたけど、もし良かったら・・・・・・」

「もうええわい!!」

 

 IS学園寮で今夜も響く、妙な感じのガールズトーク。

 世界第三位のシェアを誇るジャンヌの実家デュノア社は、現在経営難で絶賛会社が傾き中の、金になるならどんな小金も無駄に出来ない「お客様は救いの神様です!」状態にあるIS企業です。



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第24話「ガールズ・ハント&オープン・ユア・暴露」

久しぶりにジャンヌちゃんIS更新です。なんとか百合っぽい話を考えようとして思いつかず、仕方なしに一先ずは話を進めてみた内容です…。
もう少し早くから本格的に百合展開の用意を進めておくべきでしたよね…チクソウ…。


 ワイワイ、ガヤガヤ・・・。

 先日起きたキャノンボール・ファストへの亡国機業による乱入を踏まえ、テロ対策として専用機持ちだけを対象とした全学年合同のタッグマッチが開催されることが公表されたIS学園生徒たちはザワついていた。

 

 が、別に誰と組んで出場しようというのではなくて、誰と誰が組んで出るかとか。わたしも専用機持ちだったら織斑くんと出たいな~、とか。

 テロリストの襲撃に危機感を覚えたから対策に乗り出した学校の生徒がしていい思考法によるものではまったくない理由によってザワついていただけなので、いつも通りといえばいつも通りと言えないこともない。

 

 まぁ、責任者である生徒会長自らが妹との姉妹仲改善のためとかいう超個人的な動機によって参加者の一人に誰と組むかを強要している時点で、今更といえば今更でしかなかったわけでもあるのだが。

 

 

「こうしてみると、意外と見つけにくいものなのね・・・。

 どうすれば見つかるものなのかしら・・・? 『友達』って」

 

 

 ――さすがに、テロ対策を目的としたタッグマッチに参加するバディ選びを、『人生初の友達作り』に使うつもりで候補を探し歩いている専用機持ちは、この子以外にいないと思う。

 て言うか、いないと思いたいし信じたい。こんな奴が国が保有する最高戦力の担い手だと思うと胃が痛くなってきそうだから・・・。

 

 

 フランス代表候補生の片割れ、シャルロット・デュノアの妹ジャンヌ・デュノア。

 彼女は先日、ライバルであり宿敵であり一応はクラスメイトでもいてやっているドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒが、他の寮生たちと普通にコミュニケーションが取れるようになっていたという驚愕の事実を知ることになり、急遽今まであんまり考えたことなかった学校内での友達捜しを開始していたわけなのであるが。

 

「おかしいわねぇ~? 参考書によれば、学校の校舎内を適当にブラついていると高確率で現在の自分が持つステータスにピッタリな美少女が向こうからやって来てくれるはずなんだけど・・・」

 

 そうつぶやきながら、手元にある参考書『ときめいてメモワール3』の攻略本を何度も何度も読み返しているジャンヌ・デュノアちゃんは、これでも一応IS企業大手で世界3位のシェアを誇るデュノア社の社長令嬢です。一応はね。

 

「・・・うん。やっぱり場所選びが良くなかったわ。出会いの基本は図書室、教室、部室、グラウンドにプールと体育館なんだし。廊下を歩いているだけだと固有イベントは起こりづらいわ。そういう場所へ向かいましょう。

 向かっている途中でぶつかってくる可能性もあるわけだし・・・・・・ん?」

 

 現実とフィクションがごっちゃになっている旧男尊女卑時代に主流だった考え方に毒され尽くした独り言をつぶやきながら、女尊男卑の根幹を支えているISの担い手少女ジャンヌ・デュノアは踵を返し、まずはサッカー部の部室からマネージャーを探しに行こうとしていた矢先のことだ。

 

 少し先の廊下で、見覚えのある“男子生徒”が見覚えのないクラスの前でなんかやっていた。

 

「・・・なにやってんのかしら・・・? アイツ・・・」

 

 

 

 

 

「えーと」

「・・・・・・」

 

 カタカタカタ。

 

「初めまして。織斑一夏です」

「・・・・・・・・・」

 

 カタカタカタ。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 カタカタカタ。

 

 ジャンヌ・デュノアが友達作りのためタッグマッチでペアを組む相手を適当に捜し歩いていたのと同じ時刻。

 織斑一夏は1年四組の教室内で、特定の一人に絞ったペア候補の少女を勧誘するため頑張っていながら困ってもいた。

 

 ――相手が無反応なのである。

 朴念仁オブ・ザ朴念仁の一夏であっても、相手から返してくる反応が無反応な無視だけでは誤解しようがなく。また自意識過剰なイケメン共と同類になっちまう気がしてイヤだったので相手からの反応待ちで根気強く話しかけ続けているのだけれども。

 

「・・・・・・・・・」

 

 カタカタカタ。

 

 ・・・無反応だった。相手からは無反応以外の反応を返してくれていなかった・・・。

 正直言ってツラい。引き受けたの失敗だったかな~? とか少しだけ思ってしまう程度には精神的にツラい反応だった。

 

 気持ち的には身内であり、関係性では完全に外様の更識楯無生徒会長からの依頼を受けて、彼女の妹『更識簪』をタッグマッチに出場する自分のペアになってもらうため頑張って勧誘しに来ているのだけれども。

 無言が答えのままではどうしようもない。タイピングの音が会話するための符帳になっているとかのスパイ映画っぽい技能は彼の持ち技にはないので会話してもらわないと彼としてはどうしようもないのであった。

 

「・・・・・・・・・知ってる」

「お?」

 

 相手がようやく動きを止めて、こちらの言葉に反応してくれたので一夏としては会話が進む展開を期待したのだが。

 

「・・・・・・」

 

 一言いってから立ち上がって、右腕をわずかに振り上げてからすっと下ろし。

 

「・・・私には、あなたを・・・殴る権利がある・・・。けど、疲れるから・・・・・・やらない」

 

 そのまま再び席についてキーボードを叩く作業へと戻っていってしまったのだった・・・。

 

「えーと・・・・・・」

 

 これにはさすがの一夏も反応に困らざるを得ない。

 昨夜の内に楯無から大凡の事情は聞いていたから、白式のせいで簪の専用機が未完成なままなのは事実であり、それが自分のせいと言われてしまえば受け止めるしかないのは仕方がない。

 

 ――そう、彼は思っていたのだけれども。

 

「・・・用件は?」

「おお、そうだった。今度のタッグマッチ、俺と組んでくれないか?」

「なに? アンタ今度は別クラスの女子を口説きに来てんの? いい加減にしときなさいよ・・・そのうち本気でナイスボートされる可能性が高いんだからさ。アンタの人生って」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

「ジャンヌ!? お前、ジャンヌ・デュノアか!?」

「そうだけど・・・なんでそんな説明臭い驚き方してんのよ。別に隠しカメラが仕掛けてあるわけでもないでしょーに・・・」

 

 いつの間にか一夏の背後に立って様子を見下ろしていた1年1組のクラスメイトでフランス代表候補のジャンヌ・デュノアが白っぽい目付きで彼の反応を眺めやりながら、白っぽい反応を返してくれたのだった。

 

「・・・・・・誰?」

 

 ちなみに簪は、猫かぶってた頃のお嬢様モードなジャンヌのデータしか見たことないので、素の状態が常態化してしまっている今のジャンヌとはほぼ初対面である。対人関係少なすぎたせいでジャンヌの変貌ぶりを知らせてもらえず、本人もまた殻に引きこもって他人に興味もたなかったから知らなかったのである。

 

「いや、アンタこそ誰よ? 人に名前を聞く前に自分から名乗りなさいよ。それが礼儀でしょうが、普通に考えて」

 

 そんな簪に対して、ジャンヌは横柄な態度で平然と自己紹介を要求してくる。

 もうひとつちなみにだが、ジャンヌは簪と違ってヒーローには興味がなかったし嫌いだったけど、ロボットは大好きだしアニメも好きだしゲームも好きだし、あと漫画とかラノベとかフィギュアなんかにも興味がある、暗くない引きこもり系のオタク少女だったため交友関係の狭さは簪とほぼ同等。

 

 実の姉が一番の仲良し情報源という、世間一般からはボッチと呼ばれている劣等人種なので、外国の代表候補で専用機が未完成のままな簪のことなど存在すら知らない。

 機体が完成してない事情どころか、そんな機体があることさえ知ろうとしたことさえなかったりする女の子。

 

「・・・っ。やっぱり私の存在はみんなに知られていない・・・日本の代表候補生なのに・・・っ。

 あなたのせいで《打鉄・弐式》が完成してないから・・・っ。アレさえ完成してくれてたら・・・っ!!」

「いや、そんな機体のことなんて知らないし。

 なに? あのテキサスマックの日本版みたいな機体の後継機って造ってる途中だったの? ・・・はじめて知ったわ。教えてくれてありがと」

「・・・!? う、《打鉄・弐式》の開発計画さえ知らなかった・・・の・・・? 軍事機密とはいえ完成予定日はとっくに過ぎてるから、関係者はみんな知ってる情報なのに・・・」

「いや、私そういうの興味ないから。興味ない事柄には必要ない限りググらないタイプだから」

 

 だって、自分の愛機《ラファール・シュヴァリエ》以外のISには興味ないし。見た目はアレが最高で至高の芸術作品だし。

 アレで突撃していって、誰だろうとブッ刺して倒して勝てばそれでいいじゃない。・・・それがジャンヌ・デュノアクオリティ。

 

 ・・・自覚なき、悪意もない暴君がここにいた・・・。

 

「ふ~ん・・・・・・」

「な、なに・・・?」

 

 そんなジャンヌちゃんは、一夏の背中越しに簪のことを頭の先から足のつま先までジロジロと無遠慮に見定めるような視線を送って相手にたじろかせていたが、「はぁ~・・・」という溜息と共に終了させて改めて一夏に白い目線で問いかけてくる。

 

「・・・巨乳の幼馴染み、ツンデレ金髪お嬢様、ツインテロリ、ボクっ子をコンプした次はメガネで奥手の人見知り文系少女って・・・・・・アンタの女の子の好みはどこまで古めかしくて王道なのよ・・・軽く引くわ。

 なに? アンタって伝説の木の下を復活させるため、七つの星の入った伝説の球を探して戦い続けてる、強い奴らと戦いたい野菜星生まれの人だったワケ?」

「なんの話だよ!? 日本語でしゃべれよ! お前の言ってることこそワケわからんわ!」

「まぁ、別にアンタが誰を新しい織斑ラバーズのハーレムメンバーに勧誘しようと私には関係ないから、いいんだけど。――クラスメイトの誼で、一つだけ忠告しといてあげるわね?

 ・・・大人しめの文系女子だから控えめで知的とか思ってたら、背中刺されるときあるから気をつけなさい。こういう物静かなタイプこそ頭の中では人一倍悩んでてヤンデレやすいんだからマジ危ないわよ? 下手に爆弾処理失敗したらね。

 ギャー、ギャー、騒ぐわりに頭からっぽな凰とか篠ノ之とかと真逆なタイプだから」

「言ってる評価がヒドすぎる!? お前はアイツらになんか恨みでもあったのか!? 俺で良ければ相談に乗るぜ! いや、マジで本当の本気で心の底から!!!」

 

 ジャンヌの抱える心の闇を気遣って、全力で人生相談に乗り出す一夏君。

 血のつながりより心の繋がりこそ第一な、千種兄妹さんちのお母さんとすこぶる相性最悪そうな彼としては、仲のいい身内同士で修羅場とか絶対イヤだったので当然の反応と言えば当然の反応だったのだけれども。

 

 別にジャンヌとしては常識について語っただけのつもりなので他意はなく、悪意もなく。病んでもいない。

 ただ、彼女なりの常識と一夏の考える常識との間で価値観の相違が生じてしまっただけのことだ。男女関係ではよくある話だし、気にしなくてもいいんじゃね? 多分だけども。

 

「ああ、それとアンタ。さっきコイツのこと殴るの疲れるから辞めるって言ってた気がするけど、殴りたいんだったら殴っちゃっても別に問題ないわよ?

 毎日のように痴情の縺れでキレた口説き相手から、斬られたり、撃たれたり、IS展開して襲いかかられたりしてるけど、全然気にせずに仲良く付き合い続けてるマゾ系男子だから殴るぐらいならカワイイもんだし」

「誤解だ! そして悪意的解釈の極地でもある! 俺が毎日どれだけ苦労させられてるか知ってるだろうがお前だって!?」

「だから毎日言ってやってんでしょーが。『嫌ならバッドエンド覚悟で勇気だして振れ!』って。

 それやんないからアンタはいつまでたってもハーレムラノベの女ったらし主人公街道一直線しか進めなくなってんのよ! 人生の道を!」

「ヒドすぎる! 俺への評価が他の誰より一番ヒドすぎる!!!」

 

 ギャー、ギャーと。余所様のクラスに来てまで自分たち二人だけの世界を構築して騒ぎまくる一夏とジャンヌの空気読めないイノシシコンビ。

 やがて、気付いたときには目の前に座っていた簪の席から、簪の姿は消えてなくなっていた。

 

「なんか、『うるさくて作業に集中できないから』って、今さっき教室出て行って、たぶんIS整備室に行ったと思うんだけど・・・」

 

 親切な四組女子生徒の一人が教えてくれたので、一夏は腕を組み、ジャンヌは「ふん」と鼻を鳴らして大きな胸を張る。

 

「作業ぐらい、ここでやってくれてよかったのに・・・。なんだったら俺たちが手伝ってもいいんだし」

「朱に交わって赤くなるのがイヤだったんじゃないの? 当然よね、私だってイヤでイヤで仕方ないんだから」

「朱本人が、自分のこと棚に上げて言うな」

 

 ――いや、どっちもだよ・・・。アンタら二人とも真っ赤っかな朱だよ、完全に・・・。

 そう思ったけど空気読んで言わないでいてやる、朱と違って普通の常識がある四組生徒の女子生徒諸君。

 

 そんな彼女たちと違ってオタクの常識はあるけど、一般常識は薄いジャンヌは普通に簪の席に内蔵されてるコンピューターを起動させて、勝手に中を拝見開始。

 彼女が一夏に言ってた、《完成してない打鉄の後継機》に関する情報を空中投影し始める。

 

 日本の軍事機密を勝手に覗いちゃうフランスの軍事機密乗りというのは問題ありすぎる気がするけれど、それ言い出したら教室にある自席の内蔵コンピューターで制作作業していた簪の方がもっと問題ありなので、まぁ今更としておくべきなのだろうきっと。

 IS学園は如何なる国家権力も介入できない、治外法権の地である。

 

 ・・・なんかこの条約、都合が良いときに都合良く使われるだけの口実になってきてないかな? 最近だと特に・・・・・・。

 

 

「お、あったあった。《打鉄・弐式》に関する情報はコレね。なになに・・・。

 『マルチ・ロックオン・システムによる高性能誘導ミサイル搭載機。最大で四十八発の一斉同時射撃が可能・・・。

 コントロールには空中投影型の球状キーボードが使用される想定だが、私は自分でフルカスタマイズしたものを合計8枚呼び出して、二手二足で一斉に入力する予定でいる・・・』

 

 

 読み終えたジャンヌはキーボードを閉じ、感慨深げに何も投影されていない教室の空を眺めながらしばらくの間黙り込む。

 やがて意を決したように一夏の方へと顔を向けると、覚悟を込めてこう言い放つのだった。

 

 

 

「なかなか良さそうな奴じゃないの。気に入ったわ。特に趣味が。

 私、コイツと組んで合同タッグマッチ出場するから、アンタは別の奴探しに行きなさい。異論反論はしてもいいけど、一切認める気ないからそのつもりでね」

「お前・・・たまにでいいから人の事情ってものを考慮してくれないかマジで。ホントの本当に頼むからさぁ~・・・・・・」

 

 ああ、一夏。頼まれた本人から口止めされてて事情を言えない男の悲しさよ。

 彼はいったい、今回はどんな役を押しつけられるのか・・・・・・?

 

つづく

 

オマケ『ジャンヌから見た原作7巻の織斑一夏評』

 

ジャンヌ「鈴はともかくとして、同じクラスの箒、セシリア、シャルロット、ラウラの仲良し四人組の誰とも組まずに、二年の先輩から頼まれたからって理由だけで別クラスの初対面な相手をペアに誘って、本人たちに事情は伝えない・・・これって孤立しているいじめられっ子を助け出すヒーロータイプの主人公キャラじゃなくて、普通に裏切り者キャラなんじゃないかしら・・・?」

 

一夏「いや、ちょっと待てジャンヌ! 誤解だ! 姉妹の仲を取り持つためにはああするより他なかったんだろうし、周りに説明するわけにもいかないじゃねぇか普通に考えて!」

 

ジャンヌ「・・・裏切りって、たいていの場合は“ただの結果”だったりするのよね・・・」

 

一夏「誤解だー! 冤罪だー! 信じてくれー! 原作の俺は誰のことも裏切ってない! 裏切ってなんかいないんだーっ!!!」

 

*上記のような理由によって今作の一夏は裏切り者ルートに進みませんでした。それが良かったかどうかまでは知りません。結果論で決められてしまう問題ですからな。



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第25話「ガールズ・ヒート&ブロークン・ヒロイズム」

他の作品を優先して、軽く少しだけ書くつもりでいたら悪ノリしちゃって完成してしまったから投稿しておく、ジャンヌIS最新話です。
簪とジャンヌがタッグを組むまでの流れを語るお話。相変わらずマイペース過ぎるジャンヌに簪はどう立ち向かうのか? と言うテーマのお話でもありますね~…たぶんですけれども…。


 IS学園、IS整備室。各アリーナに隣接する形で存在する整備課のための設備である。

 その場所に最近、入り浸って作業をおこない続けているのが更識楯無の妹である簪だった。

 

「・・・各駆動部の反応が悪い。どうして・・・」

 

 メカニカル・キーボードをひたすら打ちながら、空中投影させているディスプレイ上の機体を凝視する更識簪の脳裏にあるのは、完璧すぎる姉の姿のみ。

 

「コアの適正値も上がらない・・・。タイプが向いていないの・・・?」

 

 ――かつて姉の楯無が『ミステリアス・レイディ』を一人で作り上げたように、自らもまた未完成の機体を独力で完成させる――

 

 それが彼女の目標であり、幼い頃から憧れと並行して劣等感を抱き続けた姉に対して彼女なりに示せる精一杯の自己主張。

 姉にできて自分にできないはずがない、などとは露とも思わない簪だったが、最低でもこのくらいできなければ姉の陰さえ踏むことはできないだろうという決意を心に深く刻み込んでいた彼女であったから。

 

 

 ――余談だが、IS学園では校則として整備課がはじまるのは二年生からであり、彼女はその優秀さから特例として認められており、治外法権のIS学園で思いのまま校則をいじることが許されているのは学園最強の最高権力者である彼女自身の姉、更識楯無生徒会長だったりするのだが。

 

 ・・・この時点で簪の姉に対する反抗期が、姉自身による七光りとご意向によって初めて成立しているものだと考えるのは穿ち過ぎだろうか・・・?

 

 少なくとも真面目で素直な性格をした簪は、その様にひねくれた思考で自分のやろうとしている作業を見つめてはいない。

 姉と同じ結果を出せば、自分も姉に近づけるのだと信じたいから信じ続けて疑う気は少しもないのである。

 

 ・・・所詮、人が求めやまぬ真実など、その程度のものでしかなく、自分が納得できる理屈づけさえできれば嘘か誠かなど些細な問題・・・それが人の心の真実なのだから・・・。

 

「・・・・・・ふう」

 

 思案の末に溜息をついて簪は、ディスプレイを閉じてキーボードを片付けて帰り支度を始める。

 曰く、その心は。

 

(やっぱりダメ・・・計算が合わない。帰ってアニメでも見ながら改めて計算のやり直しをしよう・・・)

 

 ・・・完全に、テスト前に部屋の掃除をしたり撮りだめしていたアニメを見始める高校生の思考に陥ってしまっている簪だったけど、友達いないんで自分の思考と同じ事やってる大勢のその他な人たちの事なんてわかりませんし知りません。ただ、自分の抱えている事情と気持ちは他の人には理解できない特別なものなんだと信じるのみです。

 

 なんか見方を変えると色々とダメなこと思っている簪が整備室を出ようと、ドアに近づいていったとき。

 自動ドアが勝手に開いて、部屋の外から見覚えのある目つきの悪い瞳をした美少女がズカズカ入ってきて、自分の方へと一直線に向かってきやがったのだった!

 

「な、な、な!?」

「コンコン、失礼しまーす。ノックするの面倒くさかったんで今しました。あと、今度のタッグ戦で更識簪さんと組むことに決めました。だから、パートナーの機体を見せてもらいに来ました。だからさっさと見せなさい。

 それから私、アンタのパートナーとして出場することに決めたジャンヌ・デュノアですので、よろしく~」

「・・・いきなりすぎる!! あと、全部まとめすぎてるし、事後承諾ばっかりじゃないの!

 あと、なんで一番大事な自己紹介が、一番後だったの!?」

 

 更識簪、尤もすぎる常識ツッコミ。・・・流石にこれはフォローしようがないジャンヌちゃんの途中経過省略しすぎな事情説明。

 これで理解できる者がいるとしたら、それは恐らく互いの気持ちを誤解なく理解し合うために言葉を必要とせずにテレパシーで伝え合う超能力に目覚めた新たなる人のカタチ達のみであるだろう多分だけども。

 

「えー・・・、私そういうの面倒くさいから苦手なんだけど・・・」

「・・・苦手な理由を正直に白状しすぎている・・・っ!? だいたい何の用があって私に付きまとってくるの――」

「しょうがないわねー・・・、じゃあハイ。斯く斯く然々そういう訳なんで以下省略。以上!

 はい、これで説明できたわね? 納得したら話を進めるわよ、時間押してんだから全くもう・・・」

「何の話・・・っ!? なんだか色々と全部なんの話をしているの貴女は!? 本気で1から10まで訳がわからない・・・っ!!」

 

 混乱の極にある更識簪であったが、生憎とジャンヌの性格的な理由から1から10まで説明してると途中で切れるだけだから無理矢理ショートカットさせていただきます。

 

「あー・・・もう! 女のくせしてグダグダ屁理屈ばっかでうっさいわね! いいからアンタの専用機出して見せなさいって言ってんだから出しなさいよ! そして見せなさいよパートナーになると私が決めた私に!

 出さなければ撃つ! 異論反論はヴァルハラで聞いてあげるから先に行って待ってなさい!」

「ムチャクチャな暴論過ぎるーっ!?」

 

 ジャンヌ、結局はいつも通りにIS展開させて、力業での力押し。この子に屁理屈は求められても、理屈を求めるのは無理でした。

 

 だが、簪とて意固地になっている反抗期な女の子。アッサリと暴力の前に屈すると思ったら大間違いである。

 

「三つ数えるまでに展開しなさい。未完成品だろうと、展開だけなら問題ないはずだから」

「・・・そんな脅しには屈しない・・・っ。私は貴女たちとは出場しない・・・、そう決めたから・・・!

 だから私に構わないd―――」

「1!」

 

 ズダダダダダッ!!!!

 

「・・・2と3は・・・ッ!?」

「知らないわよ、そんな日本語。だってニホンでは、1だけ覚えておけば生きていけるって警察庁長官のオッサンが言ってたもの。

 ニホン警察のトップが言ってたんだから間違いないわ。嘘じゃないし、アニメでもないのよ現実なのよ。・・・違うの?」

 

 ジャンヌ、小首をかしげながらガチに質問。・・・日本のアニメで日本を誤解してしまった外国人の極地がここにある・・・。

 

「まっ、結果的にIS展開して無傷で助かったんだから問題なしでいいじゃないの別に。結果オーライって奴よ。『結果良ければすべて良し』!!」

「・・・反射的に展開するのが、あと0コンマ1秒遅かったら死んでたけどね・・・っ」

 

 代表候補生に選出されるだけあって、鍛えに鍛えた反射神経のおかげでギリギリISを展開させるのが間に合い九死に一生を得た簪からの恨みに満ちた地の底から響くような怨嗟の苦情。

 だが、この程度でジャンヌが萎縮してくれるなら苦労はない。今回もまた予想通りというか、予定調和でこうなった。

 

「ダイジョーブ、ダイジョーブ。『絶対防御』あるんだから死なないわよ、どうせ。IS操縦者はISある限り、死にたくても死ねないゾンビアタック上等っぽいところがあるからダイジョーブだってきっと。

 オリムラもこの前、死んだと思ったら生き返って戦線復帰してきた上にパワーアップするスーパー野菜人やってたから、アンタもきっとできるわよきっと。だからダイジョーブ」

「なにが・・・!? そして今の話の、どこがどう大丈夫だったの・・・!? あと、織斑一夏にはいったい何があったの・・・!?」

 

 専用機未完成だったから簪は知らない、福音事件最後の一幕。

 その話題を出したジャンヌだったけど、そもそも彼女自身も大して詳しくない事件だった上に、どっちかって言うと出撃前に箒から聞かされた厨二エピソードの方が好みだったこともあって興味事態があまりなく事件後に調べようともしなかったジャンヌの興味はアッサリと簪が展開した中々イケてるデザインのISへと移り変わってしまっていたのであった。

 ジャンヌちゃんは、自分の出した話題に興味が持続しない。

 

「へぇー、これが《打鉄》の後継機なんだぁ~。

 なかなかイイ感じのフォルムしてるじゃない♪」

 

 頭の先からじっくり眺め下ろしていき、メカニカルで侍っぽさの少ない《打鉄・弐式》のデザインに心底から感心して共感して絶賛しながら、視線を徐々に徐々に下げていくジャンヌ。

 

「ふんふん、基本ベースは《打鉄》を基にして、コンセプトを機動型に変更したってのは、こういうことを言ってたのね。

 造った奴はけっこうセンスあるじゃな・・・・・・い・・・・・・?」

 

 そして、徐々に下がっていく視線に合わせて、徐々に徐々に訝しさを増していきながら表情と声音を変えていき、口数が目に見えて減っていくジャンヌ。

 

「・・・・・・」

 

 気づくと黙り込んだまま、ジーッと簪の展開させている日本の新型機《打鉄・弐式》の全体像をジッと見つめ続けるようになっていた。

 

 

 専用機だからだろうか? 簪に合わせてカラーリングが微妙に変更されており純白だった装甲に薄い青が混ぜ合わされて柔らかい印象を見る人に与える落ち着いた機体色。

 

 防御力重視で取り付けられていた増加装甲の侍風スカートアーマーは、機動性を重視した独立ウィングスカートに換装され、重そうな今までのイメージとは懸け離れた別物のように見えなくもない腰部一帯。

 

 肩部のサムライっぽさ満載だったシールドは大型ウイングスラスターに置き換えられており、小型の補佐ジェットブースターを搭載したそれは防御用のシールドだったときより遙かに巨大化していて見る影もない。

 

 コンセプトとして『防御型から機動型への変更』があり、それに併せて武装も接近戦仕様から全距離対応型へと換装されている以上、打鉄をベースにして開発された全く新しい新機軸の機体と言い換えてしまえば同じ部分を探す方がおかしいと言えなくもないのだが、しかし。

 

 

「・・・全っ然《打鉄》じゃないじゃないの、コレ・・・。

 こんだけ変えるんだったら、もう《打鉄》の名前受け継ぐ必要性なくなったんじゃないのよ、これっぽっちも・・・・・・」

「うぐ・・・っ!? い、言ってはいけない言葉を遠慮せずに堂々と・・・っ」

 

 簪、表情を引きつらせて地味にショック。

 正直なところ彼女も、そう思わなくはないのだが・・・あくまで彼女の目的は『未完成のまま放置されている自分に与えられるはずだった専用機を自分一人で完成させること』であり、『予定されていたものを自分一人で完全な形に仕上げてみせること』である。

 

 ハッキリ言ってしまうなら、『お姉ちゃんと同じことやらなきゃ意味ないの! 私が勝手に改造した機体を造ってもダメなの!』という簪理論で完成目指している機体であるため、不満があっても設計図から大きく逸れることは不可能なのである。

 

 まぁ、正式名称までは流石に彼女個人が変えれるものではないから仕方ないとしても、未完成の状態なら完成までの間、開発スタッフが別の名前を付けて呼んでいた機体は古くからいっぱいあるので別に問題ないとも言える。

 

 

「なんで違う機体を、同じような名前で造ってんの? アンタの国って。勿体なくない? 普通に考えてさ」

「い、いいのよ別に・・・。伝統なんだから・・・。《打鉄》は日本純国産の量産機で世界第二位のシェアを誇る大成功例なんだから、先達にあやかろうとするのは当然のことでしょう・・・?

 だ、だいたい別の名前で別の機体として発表したとして何の意味があるって言うの・・・?」

「あるじゃないの。バカでっかい意味が一つだけ」

「・・・どんな?」

 

 疑惑に満ちた瞳でジャンヌを見つめながら問いかける更識簪。

 その視線を気にすることなくジャンヌ・デュノアは、そのデカい胸を「ドカン!」と突き出し大きく張って、堂々とした大きな態度で大声を出して言ってやった。

 

 

「違うの二つ造ったことにして、二つとも売った方が儲かるじゃないの!!」

「セコい・・・っ!? そして、あざとい・・・っ!? 堂々とかっこうよく言っていい言葉じゃ全然ない・・・っ!!」

 

 胸を張って宣言するジャンヌちゃんは、世界第三位のシェアを誇るIS企業から産業スパイするため日本のIS学園にやってきた過去を持つデュノア社の社長令嬢だい。

 

「あなたたしか、世界第三位のシェアを誇るIS企業デュノア社の社長令嬢のはずでしょう・・・っ!? それなのにどうしてそんなセコいお金儲けのためにISを利用すること考えたりするの・・・っ。そんなの絶対、専用機を与えられた代表候補生のしていいことじゃないのに・・・っ!!」

「ハッ! そんな会社、とっくの昔に経営傾いて日本の白式データ盗みだして自社の第三世代IS開発に流用しないとやってけないレベルにまで落ちぶれてたわね! 私が日本に来たその時点で既に!!」

「なっ!? そ、そんなことって・・・っ」

 

 狼狽える簪、その醜態を見下ろしながら露悪的な笑みを満面に浮かべて勢いを増すジャンヌ。

 ぶっちゃけ、ノリ過ぎちゃってて本来の目的なんだったか忘れてたりします。イノシシは頭に血が上って走り始めると、何のために走り出したのかとか忘れちゃって崖下に転落することがたまにある。

 

「『祇園精舎の鐘の声! 諸行無常に響きあり!』頂点にあるものは必ず滅ぶのが歴史の必然!

 大英帝国のブリカス共は没落した! モンゴル帝国の羊飼い共は柱一本残っていない! それが人類史というもんでしょうが更識簪! アンタ達ニホンも、ニホンの代表候補生達にも必ずや敗北と終わりがやってくるのは疑いないわ!」

「う、嘘よ! そんなはずない・・・っ! 私は負けない! お姉ちゃんに追いつくまでは絶対に・・・っ」

「ハッ! なぁにがお姉ちゃんよ! いい年をしてシスコンなんてみっともないわね! 少しぐらいは姉離れを覚えたらどうなのよ! 高校生らしく大人になってさバーカ!!」

 

 

 そして叫ぶ! 言ってはならないブロックワードを大声出して、言ってしまった!!!

 

 

 

 

「アンタみたいなのを妹に持った、お姉ちゃんのデーベソ!!!!!!!!」

「お姉ちゃんの悪口言うな――――――――――――――ッ!!!!!!!!!!」

 

 

 ドゴォォォォォォォォッッン!!!!!

 

 

「ぐはぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

 まともに右ストレートを食らって吹っ飛んでいくジャンヌ・デュノア。

 反抗期だけどお姉ちゃん大好きな妹の前で、お姉ちゃんの悪口いうのは禁句であることを、彼女は自分の経験則から学べていない。

 

 

「お姉ちゃんは世界一なの! 宇宙一なの! アンタなんかに分かってたまるか!

 この男装して女子校に入学してきたヘンタイ姉を持つ、ツンデレ愚妹――――ッ!!!」

 

 

 

「お姉ちゃんの悪口言うな――――――――――――――ッ!!!!!!!!!!」

「ぐはぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

 そして自分の経験則から学べていない妹パート2も、右ストレートを食らって吹っ飛んでいき、斯くしてシスコン妹対シスコン妹二人による『スーパーシスコン大戦』がここに開始されることになる。

 

 

 

「この! この! アンタのお姉ちゃんなんか! アンタのお姉ちゃんなんかぁぁぁっ!!」

「えい! えい! 貴女のお姉ちゃんなんて! 貴女のお姉ちゃんなんてぇぇぇぇっ!!」

 

 

 不毛すぎる妹同士の戦い合いは、始まった時点でいつの間にか解除してしまってたISなしで行われてしまい、ボコスカ殴り合うだけのキャットファイトへと発展していき。

 

 

「私のお姉ちゃんは世界一なんだからねぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

「だったら私のお姉ちゃんは宇宙一だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 子供同士が「僕の父ちゃん宇宙飛行士」みたいなノリになってまで続いていった後。

 最終的に疲れ切って互いに動けなくなった頃。

 どちらともなくつぶやかれた、この言葉を以て終戦を迎える。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ・・・。ね、ねぇ・・・なんで私たち、こんな所でケンカしてたんだっけ・・・?」

「はぁ、はぁ・・・。た、たしか・・・・・・・・私の記憶がたしかなら、ば・・・・・・」

 

 

 

 

『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・忘れ・・・・・・た・・・・・・・・・(バタン)』』

 

 

 

 斯くして不毛な戦いは不毛な終わり方を迎えて終戦し、放課後の人が来づらい整備室で戦い合っちまったことから誰かに発見してもらうことができずに翌日までボロボロの気絶した体で放置されていた二人が目を覚ましたとき。

 

 彼女たちの視界に広がっていたのは、自分たち一人一人ではどうしようもないほど壊れまくった整備室の備品類と、IS完成に必要となる高級機材の数々だったガラクタの山。

 

 そして・・・・・・なんで自分たちがこんな場所で眠っていて、起きたら体の各所が痛みまくっているのか理由が思い出せない、昨日後半からの記憶がゴッソリ抜け落ちてしまっている、都合の悪いことは受け付けたがらない引きこもり系美少女たち二人だけ。

 

 

 これだと簪の目標達成も、ジャンヌの友達と一緒にタッグ戦出場も不可能っぽかったので双方いったん譲り合い。

 簪はジャンヌと一緒にタッグ戦に出ることを条件として、デュノア社が所有するIS開発に必要な機材を都合してもらえることが決定されましたとさ。

 

 

 

「・・・そう言えば、聞き忘れたんだけど・・・。どうして、そこまでして私と一緒に出場したいの・・・? あなただったら私以外にもいっぱい組んでくれそうな人がいるはずなのに・・・」

「フッ・・・。それは簡単なプログレムよカンザシ・・・。私はただ――ラウラの奴に吠え面かかせられたら後はどうでもいいからよ!

 ほかの連中と普通にコミュニケーション取れるようになっただけのアイツの前で、『あたしの方はアンタより先に友達作っちゃったー☆ 先を越し過ぎちゃってゴメンねー♪』とか自慢しまくってアイツに地団駄踏ませてやれればそれでいい! 後は知ったこっちゃないわ!」

「私、関係ない!? 関係ないよその理由に私!? 今の理由のどこを探しても私である必要なかったんだけど・・・っ!?」

「いや、ある! ――ぶっちゃけ、素直に友達作りしようとして逆ギレして怒鳴らないでいられる自信なかったし・・・ひねくれ者はひねくれ者同士でコミュニティ作らないと、できあがった後にはぶかれそうで何か怖いし・・・」

「私の求められた理由がマイナス方向に天元突破しすぎてる・・・っ!?

 でも、分からなくもないところがスゴく微妙・・・っ!!」

 

 

 

 こうして、各学年の専用機持ちだけが参加する合同タッグマッチにジャンヌ・デュノア&更識簪ペアのエントリーが決定されたのだった。

 

 妹に(変な子ではあるけど)友達ができたことを声には出さずに内心で喜んでいる姉たちに見守られる中。

 二人の妹たちは今日も学生寮の自室で論争を繰り広げている。

 

 

 

「・・・なんで、そんなこと言うの・・・っ。勧善懲悪のヒーローは格好いいじゃない・・・っ!

 悪の軍団を正義のヒーローが打ち倒すシンプルさが、最高に清々しくて気持ちがいいし・・・っ」

「ハンッ! あんなモンのどこが清々しくて気持ちいいってのよ? 苦労知らずの宮廷貴族様たちが好みそうな綺麗事に詭弁にご都合主義の連続連発速射連射乱射のオンパレード展開ばっかじゃないの。

 あんなのフランス版シンデレラを絶賛したがる、古くさい道楽貴族趣味の持ち主だけが好きでいりゃいいのよ。本当のヒーローについて語りたかったらコレ見なさいよコレ! 【Fate/stay night劇場版Unlimited Blade Works】!! どっかの聖女様と同じで空気読まずに正義の味方気取りで突っ走った末に、自分の信じる正義で身を滅ぼした敵キャラクターの道化っぷりがサイッコーに笑えて気持ちいいわよ!?」

「イヤよ! そんな展開・・・正義の味方が救われる方が私は好きなの・・・っ!!」

 

「んじゃ、コレは? 【機動戦艦ナデシコ】最終巻。私、ナデシコよりもカキツバタのが好きだったから思わずDVD買っちゃった」

「・・・あ、それはちょっと観たいかも・・・あと、見終わったら貸してほしいかもしれない・・・」

 

 

 こうして今日も、オタク少女と、厨二オタク少女の二人はタッグマッチを控えて練習と機体開発作業を終えた後にアニメを観ながら盛り上がり、試合当日の日を待ちわびている(?)

 

 打鉄弐式の完成予定日と、そのすぐ後に控えるタッグマッチ当日まであと僅か!

 

 

 

「・・・そう言えばタッグマッチって何時だったっけ・・・?」

「・・・?? たっぐまっち・・・・・・?」

 

 

 そして事の始まりからタッグマッチそのものには興味のなかった二人の少女は普通に忘れ果てていたのでありましたとさ・・・・・・めでたし、めでたし?

 

 

つづく



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第26話「第二整備室で踊るメンタル大消耗戦」

とりあえず更新です。思ってたのと出来た後のとで大分内容に違いがでちゃったパターンの回になってしまいました。もし不評なようでしたら書き直すべきかとも思っていますので、不満だった方はご遠慮なくどうぞです。


 タッグマッチ大会前日の夜9時頃。

 IS学園整備課の第二整備室には下校時間を過ぎた後も明かりが灯り続けており、中では突貫で更識簪の未完成だった専用機《打鉄・弐式》の最終調整が大詰めを迎えていた。

 

 

「よーしよしよし、なんとか基本部分はこれで完成ね。更識さん、機体の動作に違和感はない?」

「だ、大丈夫・・・です」

「火器管制システムは? 結局マルチ・ロックオン・システムは諦めたのかい?」

「は、はい・・・。通常の、ロックオン・システムを・・・使います・・・・・・」

 

 整備課に所属する何人かの女子生徒たちから質問が飛び、それに応じて答える更識簪。

 ただでさえ遅れていた独力での未完成IS完成計画が、自分とジャンヌのケンカに巻き込んでしまったせいで研究機材はメチャクチャになり、データも一部破損してしまったため止むを得ず他人に手助けしてもらうことで何とかタッグマッチ前日の夜には完成にこぎ着けることが出来たのだった。

 

 ――と、言うわけで。

 

 

『『じゃあ、私たちは仕事終わったみたいなので部屋に戻りますね、ジャンヌお嬢様♪

  今回の活躍で私たちの働きぶりを、アルベール社長にアピールよろしく~~♡♡♡』』

 

「・・・いいから。そう言うのいいから、とっとと帰んなさいよアンタたち・・・。

 夢破れてブロークンファンタズムしそうな女子高生複製してないで黙って帰りなさいよ、いやマジで頼むからお願いだから・・・。

 ただでさえ根暗そうなヤツの瞳から、これ以上ハイライトを喪わせないでいてやって頂戴・・・」

 

『『は~い♪ 失礼しました~♡ お疲れ様で~す&お休みなさ~い、お嬢様~♪♪』』

「・・・・・・・・・」

 

 

 笑顔で手をヒラヒラさせながら整備室を出て行く、フランスからの留学生で専用機持ちではない量産機乗りを兼ねた整備科の普通学生数人たちの背中を凝視しながら、簪としては呆然としたまま立ちすくみ、黙って見送るより他にできることは何もない。

 

 

 ――日本人が造ったISに脅威を感じた世界各国が、日本に責任を取らせる形で設立させられたIS学園は、IS条約によって『協定参加国の国籍を持つ者すべてに門扉を開くこと』および『日本国での生活を日本国の金で保証すること』を義務づけられた日本の税金で運営されている国立のIS操縦者育成機関である。

 

 要するに、日本以外の国の人にしてみれば『タダでIS操縦技術と整備技術を学べる学校』と言う側面を持っていたことから、結構前の時点で経営難に陥っていたデュノア社みたいな大手IS企業は経費削減のためIS学園を利用しており、操縦者志願という形で願書を出させて入学試験を幹部コースへの選抜試験も兼ねて、将来におけるデュノア社技術開発部門の幹部候補生育成をIS学園と日本の税金に担わせていたという裏事情が存在していたと言うわけである。

 

 操縦者と違って、国や政府や世間がIS整備関係者に向ける目は厳しくなく。自分の国のIS整備員が他国のIS企業に就職したところで気にもとめない緩さがIS業界には蔓延している。

 そこを突いたアルベール社長、苦肉の一手だったが今回はそれが大いに役立ち、社長から直々に裏事情のすべてを聞かされた上で日本に来ていたジャンヌの手引きによって優秀な先輩たちから手助けを受けられた簪の機体《打鉄・弐式》は想像以上に良い仕上がりになったんだけれども。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ――肝心となる使い手の心を殺してしまう結果を招いてしまったらしく、先ほどからウンともスンとも言やしない状態に陥ってしまっていた・・・・・・。

 

 簪としては、今まで自分が抱えてきた色々な問題をお金の力で解決できてしまう程度のものだったのだと、額縁付きで実証されたに等しいことをされてしまった訳なのだけれども。

 

 そんなことジャンヌは知らないし、わかんないし。

 あと、なんで大好きなお姉ちゃんが優秀だったからコンプレックス抱いて卑屈になるのかがワケガワカラナイし。ツンデレ妹だから。

 

(てゆーか、優秀すぎる親とか姉に対するコンプレックスって今どき流行らなくない?

 サスペンスとかで親を殺す社長の息子とかよく出てくるけど、うちの親父の業界でそんな奴に出会ったことって今まで一度もないんだけど・・・。

 男尊女卑の末期には、2世タレントとか2世経営者とかいっぱいいた世の中だったってのに、どうして“アイツ”が深く関わり合おうとする娘に限って、こういう古風で王道なトキめきでメモリアル的ヒロインみたいなのばっかし集まってくるんだか・・・)

 

 ジャンヌとしては正直、簪の抱える懊悩は素直にそう表せざるを得ない。

 実際問題、偉大すぎる先達に対しての劣等感というのは現実の芸能界や経営業界だとあまり流行っておらず、芸能人でも経営者でも親の名声や威光を借りて別にコンプレックスを持つでもなく、そこそこ実力を発揮している人は一昔前からけっこういる。

 

 善し悪しは別として、神経が図太い人ほど成功しやすいのが現代社会ということなのだろう。

 たとえば、ジャンヌ・デュノアとか。どっかの世界の銀髪魔王とか、頭の中が愉快な魔王の仲間たちとか、そういう連中が。

 

 彼ら彼女らと比べて簪の精神は、やや神経の太さが不足しすぎていたのだろう。

 優秀な姉への劣等感にしたところで、歴史を見れば誰でも知っているとおり『偉人の子が偉人である事例は多くない』――それが事実なのだから、そこまで気にすることでもないと判りそうなものだと思うのだが・・・・・・。

 

「あー・・・、まぁ、仕方なかったんじゃないの今回だけは? 機材壊れてデータ飛んじゃったのは、アンタのせいじゃなくて不可抗力でしょ? 明日のタッグマッチ終わってからあらためて頑張んなさいよ、そうしましょう。ね? だから元気出して」

 

 とは言え、ジャンヌとしては良かれと思ってやってあげたことで、相手を暗く塞ぎ込ませてしまっている状態を前にすれば罪悪感の一つや二つぐらい湧いてくる。

 もともと、捻くれているだけで薄情なヤツになりたかったわけではないジャンヌである。悪気もなく良いことしてやろうとして結果的に悪いことしてしまった時には、慰めの言葉とかフォローとか、そういうのを言って励ましてやろうという気になるときもあるのだ。

 

 ――特に! 好みのジャンルは全然違うけど、生まれて初めてできたオタク仲間という名の同類に対しては特別に!

 

 

「それにほら、結局マルチ・ロックオンは完成できなかったわけなんだし。ワンオフ・アビリティ武装のアレを完全体にして装備させてこそ第三世代ISを完成させたことになるんじゃないの! だから大丈夫よ! 何とかなるわ! ガンバって!」

「・・・・・・うん、ありがとうジャンヌ・・・私、頑張る・・・」

 

 弱々しい声と笑顔を浮かべて儚い返事を返す更識簪。

 流石にここまで弱っているヤツ見かけると、多少は元気づけてやりたくなってくる、弱い者イジメする趣味がない突撃厨のジャンヌは適当な慰めセリフはないものかと必死こいて頭を捻っていたところ。

 

 

 ―――ふと、気がついた。

 気がついて“しまったこと”が頭の中にもたげてくる・・・・・・

 

 

「・・・ねぇ。今更過ぎて申し訳ない質問なんだけどさ。

 このISって世界中でも数少ない第三世代ISで、さっきまでは未完成で戦えない状態にあったわけよね・・・?」

「・・・え? うん、そうだけど・・・今更どうしたの? 本当に・・・」

「・・・・・・その未完成だった第三世代ISが今完成して、アンタ専用機として明日開かれる専用気持ちは全員強制参加のタッグマッチに出場する・・・ここまでは合ってるわよね?」

「うん、そうだけど・・・本当にどうしたのジャンヌ? らしくないよ・・・?」

「・・・・・・・・・そして、明日のタッグマッチはIS保有のテロ組織に狙われてる奴らの自衛力アップのためにおこなわれる。

 テロ組織が狙っているのは専用機のISで、特に最新型の第三世代持ちは要注意、と・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 ――ここまで言われてしまえば簪とて、言い終わる前に理解できる。理解できてしまってる・・・。

 顔面蒼白になってガタガタ震えだしてる哀れなオタク仲間の友人未満に、同情的な視線を向けながらジャンヌ・デュノアは今からじゃどうしようもなくなってしまった辛くて過酷な現実を言いづらそうな口調で言いにくそうに言ってあげる・・・・・・。

 

 

 

「アンタ専用機の第三世代IS《打鉄・弐式》を完成させて武装も戦えるレベルにまで仕上げちゃった以上、今夜からめでたくアンタも国際的テロ組織から狙われるターゲットの一人に強制クラスチェンジ・・・・・・。

 それはまるで、未完成だったOSを完成させてしまったせいでストライクのパイロットをやらざるをえなくなってしまったキラ・ヤマトのように・・・。

 ―――そう! マルチ・ロックオン・システム搭載機だけにね!?」

 

 

 

「ドヤ顔して言うほど上手くないわよぉぉぉぉぉぉぉッッ!?」

 

 

 

 

 更識簪、大激怒。

 臆病で戦うのが怖い彼女にしてみたら、大好きなロボットネタを出されたぐらいで笑って流せるレベルをとうに超えすぎる超重大事件に巻き込まれること確定しちゃった後なためにギャグで終わらせるわけにはいかない。

 

「どうするの・・・っ!? どうしてくれるつもりなの・・・っ!? 完成させちゃった後にそれ言われて、私は一体どうすればいいと思って言ってくれた言葉なのソレ・・・っ!!

 未完成だったならまだしも、完成させた後で国家資産の第三世代を壊しちゃったら私、犯罪者になっちゃうのに・・・っ!!!」

「ご、ごめん! さすがに今のはたとえが悪かったわよね!? 友達初体験の相手色々死なされまくっちゃう悲劇系主人公を比較対象に出したのは不適切だったと今はもう反省してるわ!?

 今のはせめて、アプサラスⅢに抑えるべきだったと・・・・・・ッ!?」

「そこについて言ってるわけじゃな―――――――――っい!?(ドゴォォッン!!)」

「ごふぅぅぅっ!?(ズゴォォッン!!)」

 

 

 罪悪感から話をそらして誤魔化して、責任逃れしようとしまくるジャンヌの腹に、簪は怒りのお仕置きパンチを叩き込み、いい感じにクリーンヒットさせてのたうち回らせることに成功した。

 

 如何にインドア系で根暗なオタク少女であろうと、伊達に専用機と日本代表候補生の地位は与えられているわけではない。

 身体能力で見劣りしようとも、技術面では学園入学まで専門教育を受けたことのない一夏より遙かに上回る簪からの、『隙だらけのところに鳩尾パンチ』はかなり痛い。痛すぎる。

 

 それでも気絶できない、鍛えられた専用機持ちで代表候補生のジャンヌは襟首つかまれ上下左右に「ガックンガックン!」振り回されながら簪から「どうにもならない事態をどうにかするよう」求められまくる。

 

「・・・私、臆病者で! 卑怯者で! 弱くて汚くてみっともなく、逃げることしかできないのに・・・っ!! テロ組織とかに狙われても戦えないのに・・・っ!!」

「だ、大丈夫よきっと! 何となるから! 絶対大丈夫だからね!?」

「なんの根拠にも保証にもなってな――――――っい!?」

 

 簪、パニックになりすぎて普段は大好きな作品の大好きな名台詞を、自分自身で完全否定しまくってる発言にも気づくことなく、騒ぎまくって暴れまくって泣き叫びまくって、ジャンヌを振り回しまくった末に、ようやく簪が落ち着きを取り戻したのは《打鉄・弐式》が完成してから一時間以上が経過して、暴れ疲れた美少女二人が肩で息をしながら四つん這いになって「ぜー…、ぜー・・・」している状態になってからであった・・・・・・。

 

 

「・・・どうしよう・・・。私、弱いのに・・・臆病なのに・・・戦えないのに・・・・・・怖い怖い怖い怖い・・・」

 

 そして、落ち着き取り戻して暴れる前の精神状態に戻ってきた簪は、部屋の隅っこに座り込んで体育座りでブツブツ言い出しはじめる。

 もとからテンション低くて根暗な性格してるから、マイナス思考から0に戻ってきただけだとプラス思考に至りようがなかったからである。最初から出来ないものはテンションの上下動だけで出来るようにならない、それもまた世知辛くて現実の厳しさと言うヤツである。

 

 そんな簪を見ながら、体制を息を整え直したジャンヌだったけども、今の自分が「覚悟決めろよ!」とか「塞ぎ込んだってどうにもならないんだから戦うしかないだろう!?」とか言える立場ではないことぐらいは流石に自覚できていたため、「あ~・・・」とか「えーとぉ・・・」とかのお茶を濁して時間稼ぎするためだけの単語を適当に並べ立てながら言葉を探して探して探しまくり、

 

「まぁ・・・出来ちゃったもんは出来ちゃったんだし、諦めて明日のタッグマッチを無事に終えられることを神様にでも祈っとくしかないんじゃないかしらね・・・?

 明後日テロ組織に殺されることができるのは、明日のタッグマッチで何か起きて死ななかった人だけなんだし、まずは目先の問題から片付けましょうよ・・・ね?」

 

 気まずい立場だったため、とりあえず無難なこと言うに留めておいた。

 今日は妙にテンション低めで常識的なジャンヌ・デュノアちゃん。ひねくれ者も罪悪感の方が勝っているときには大人しくならざるを得ない日も偶にはある。

 

 そんないつもより大分優しくしてくれてるジャンヌだったけど、いつものジャンヌを知らない知り合ってから間もない簪は恨み節たっぷりで恨みがましい目で睨み据えると、

 

「・・・さっきから他人事だと思って、適当で無責任なことばっかり言われてる気がする・・・」

 

 暗に「お前のせいでこんな羽目になっている。責任取ってほしい」と意訳を求めた視線と声を向けられながら、それでもジャンヌ・デュノアは揺らがない。ついでに言えばブレることがない。

 

 

「んじゃ、あれだ。戦うのが怖くて勇気が出ないんだったら、アンタの機体のミサイルを信じればいいと思うわ。

 『弾を信じる者を弾は裏切らない』って趣旨のセリフをどっかで聞いた覚えある気がするから」

「・・・なんでそこで、『自分が信じれないなら私を信じろ。アンタを信じる私を信じろ』とかのセリフが言えるようにならないの? 貴女って・・・・・・」

「しょうがないでしょ? だって私は私で、アンタじゃないんだもの。アンタと私は違うものだから、こうして言い合ってケンカしながら一緒に今日まで過ごしてきたんだから当たり前のことでしょ?

 アンタが傷ついて傷心中だから気をつかって心にもない嘘吐けるような私だったら、今ここにいなかっただろうから、どうしようもないわよ。諦めなさいカンザシ。

 私は所詮、正真の戦争アニメ好きな厨二でしかない。熱血ロボットアニメ好きにはなれない人間なのよ・・・っ!!」

 

 

「言ってることは真っ当で、ヒーローっぽくて格好いいような気がしなくもないんだけどもぉー・・・・・・なにか違ってる気がする・・・・・・」

 

 

 複雑そうな心境を曖昧な表情で現すしかない簪と、こんな場合にあっても揺るぎなく厨二を謳うジャンヌ・デュノア。

 交わらない線と線。交われない根暗オタクと捻くれオタク。

 

 

 ――同じアニメを愛するオタク同士であろうとも、勧善懲悪系と王道ロボット作品を愛する簪の求めるものを、厨二バトルと敵メカと敵エースキャラとを愛好しているジャンヌが与えられるようになる日は永劫に来ることはないであろう。

 互いに好きという想いが一致しているが故に。曇りなく純粋に好きなものは好きと思えるオタク精神を持つも者同士であるが故に。

 

 二人の愛する対象が交わることは決してなく、未来永劫ぶつかり合って否定し合わなければならない宿命を背負って此処に、IS学園に立っている。

 

 『私とアンタは違うから』その一言だけを理由に、同じものを愛する違う者同士がペアを組んで臨む明日の専用機乗り限定タッグマッチ。

 

 決戦は明日。簪にとって過去との因縁に決着を付けられる運命の日まで残りわずか―――

 

 

 

「あ、ごめん。さっきの騒ぎのときに時計壊れてたみたいだわ。今見たら明日になってたからタッグマッチ当日は今日ね。明日じゃないわ。三十分ばかり今日は昨日を過ぎちゃってたみたい。

 ―――いったい今を何時だと思っているのかね!? 半時ばかり言うのが遅い!・・・ってな感じかしら?」

 

「・・・ねぇ、ジャンヌってさ・・・本当にさ・・・うん、もういいや。なんか疲れた・・・私はもう眠りたいわ、打鉄・弐式・・・・・・」

「あ~、確かにこれ完成させるために夜更かし続きだったもんねー。青島くんレベルで私も眠りたくなってきたからお休みなさい。・・・グ~・・・・・・ZZZZ」

「だから、そういうところ・・・が・・・・・・・・・ZZZZZZZZ・・・」

 

 

 こうして二人の少女のIS学園校舎内で過ごす夜は更けていって、あと少しで明ける。

 ・・・タッグマッチ開始まで、眠れる時間はあと8時間ちょい!

 

つづく



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第27話「シスターの条件」

久しぶりの更新となります。ジャンヌISです。出だしで詰まってしまって完成が遅れてましたので、出だしが出来てから急いで書き上げさせていただきました。中途半端なところで途切れた気がしますけど、最初はもっと短いのを想定してましたのでどうかお許しくださいませ。


「――それでは、開会の挨拶を更識楯無会長からしていただきます」

 

 専用機持ちタッグマッチトーナメント当日の朝、IS学園生徒一同は開会式に参列するため一堂に会していた。

 

『どうも、皆さん。今日は専用機持ちのタッグトーナメントですが、試合内容は生徒の皆さんにとってとても勉強になると思います。しっかりと見ていてください』

 

 生徒会役員を務める側近の布仏虚から司会用のマイクスタンドを、マイクパスして譲られて、IS学園生徒会長で更識簪の姉でもある更識楯無が淀みなく美しい声音で平々凡々な紋切り型の挨拶をした後。

 

 

『――まぁ、それはそれとして!

 今日は生徒全員に楽しんでもらうために、生徒会である企画を考えました。名付けて【優勝ペア予想応援・食券争奪戦】!

 みんな、自分の昼食を豪華にするためにも赤の他人な専用機持ち選手の試合をがんばって応援してあげましょー!!』

 

『『『わああああっ!!』』』

 

 と、いつも通りに扇子を開いて「博打」と記された文字を見せつけながら。試合会場内で人と人が撃ち合い斬り合い戦い合うISバトルを中心にして新秩序を構築させたIS社会特有の『パンとサーカス』的人気取りの手法で圧倒的人気と現在の地位を盤石のものとするのに利用しながら満足げな笑みを朗らかに浮かべる日本を裏から守り続ける非合法組織『更識家』の現当主・更識楯無。

 国立高校の生徒会長自らの主導のもと、生徒たちを対象としたトトカルチョ大会の開催を宣言しておきながら、元世界最強ブリュンヒルデ織斑千冬をはじめとする買収されて黙らされてる学園教師陣は見て見ぬフリ。

 金の力のすさまじさを存分に見せつけて、将来のIS社会を支えるエリートたちに今の時代の政治というものを身を以て示してあげてから、彼女は自分の背後に控える側近たちにも順繰りに優しい笑顔を向けて一瞥していき・・・・・・

 

 

「・・・・・・ギロッ!!!」

「・・・・・・!?(ビクゥッ!!)」

 

 

 ・・・一夏の眼前を通過する一瞬の間だけ視線を超厳しくして素通りさせ、正面にいる生徒たちに向き直ったときには元の気さくで楽しい性格の生徒会長の笑顔に戻し、生徒たちから送られる声援に手を振って応え返してあげるのだった。

 

 

 ――代々続く暗殺者一族の長として、彼女が圧倒的人気な理由を望んでもいないのに見せられてしまった一夏としては堪ったものではなかった訳だが。

 今の彼にはそれでも耐えて口答えするわけにはいかない事情が存在していたため、ただ内心で冷や汗をかきまくりながら心の中で声を出さずに絶叫する以外できることが許されていなかったりするのであった。

 

 と言うのも・・・・・・

 

 

(――何故だ!? 簪さん! なぜ開会式当日の朝になっても、まだ来ていないんだ!? おかげで俺は立つ瀬なくて楯無さんに朝から睨まれまくりで超怖い目に遭わされてるんだけれども!?)

 

 

 ・・・という訳である。

 そうなのだ。簪が、タッグマッチトーナメント開会式当日の朝になっても未だに姿を現さず、それどころか昨夜から連絡もないまま寮の自室にも戻ることなく無断欠席しているという、更識姉妹はじまって以来の由々しき事態を到来させてしまっていたのであった!

 

 楯無にとって、これは看過できない問題である。

 なぜならタッグマッチトーナメントは、学園所属の専用機持ちのみで行われる自衛力強化のために急遽決定されたイベントであり、これに不参加ということは自動的に簪の専用機《打鉄・弐式》は未だ未完成である証となってしまうからだ。

 

 簪が『一夏のせいで自分専用機の完成が遅れて完成していないと思い込んでしまっている“今回の問題の最大要因”』が解決していないという答えを示唆している状況。

 これは更識姉妹の姉妹仲改善を目指して一夏にお願いしにいった楯無にとって、無視できない非常事態だったのである。

 

 折角そのために機体を完成させる際には頼れる人材として側近の本音や、同級生の友人で整備科に所属している黛薫子などにも面通しとプロフィール紹介を済ませておいてあげたというのに、その全てを無駄にしてしまったというのだろうか!? 一夏君は!

 

(・・・お願いしたのに! 私あんなにお願いして『妹をお願いします』って頼んでたのに!

 一夏君の方も『妹さんのことは任せておいてください!』って自信満々に豪語してくれてたのに・・・ッ!! 嘘つきぃぃぃぃッ!!!)

 

 と、この様な心理状態に陥っているのが現状における更識楯無の内心であったのだ。

 

 

 ――そう。彼女の中では、最近の妹が以前にも増してネガティブになっていた原因『白式のせいで完成遅れて未完成なままの《打鉄・弐式》問題』は未だ解決されておらず、妹が前向きになれない原因も『打鉄・弐式が未完成なせい』に止まり続けていたのである!!!

 

 

 ・・・これはシンプルに姉妹間で情報共有ができていない、コミュニケーション不足が原因で起きてしまっている平凡極まる人間関係のすれ違いに過ぎないわけであるのだが。

 そもそもにおいて楯無自身が、普段から一夏にやっているように無断で自室内に侵入したり部屋にあるノートを盗み見たりといった行為をバレないよう行っていれば避けられた程度の簡単な問題だったのも事実ではある。

 

 楯無には元々そういうところがあり、誰にでも分け隔てなく親切に接する反面、相手が『身内』か『外様』かの一点だけを根拠として態度と待遇を180度掌返しで反転させてしまう、日本の歴史ある旧家らしい悪癖を受け継いでしまっている少女だったのだ。

 一族内で結束して、一族外の者たちには排他的感情を持つようになるのは日本の村社会ではよく起きている問題であり、型破りと評される楯無も日本を代々陰から守り続けてきた歴史ある裏の旧家・更識家の今代当主として日本の伝統的心理的弊害を彼女なりに煩っていた・・・そういうことなのだろう。多分だけれども。

 

 

 余談だが、外様の中では一夏が今現在最も彼女との距離が近い位置にいる男性ではあるが、あくまで外様は外様として更識家の一員になることまでは楯無は想定していない。

 もしこれが一夏を更識家の一門に迎え入れる『身内』と認定を改めた場合には、おそらく彼女の一夏に対する態度と待遇も大きく変化が訪れることと思われるが、所詮は想像の域を出ないタラレバ話の一つである。もし仮定の未来が現実のものとなった際には改めて是非を検討してみていただきたい。

 

 

 ・・・さて、想像上の未来についてよりも目の前の今を生きねばならない一夏にとって、簪の未到着は一番重要な直近の課題ではあったのだが。

 彼にはそれ以外にも難題が存在していた。その一つがコレである。

 

 

『では、対戦表を発表します!

 第一試合、篠ノ之箒&更識楯無VS織斑一夏&ラウラ・ボーデヴィッヒ!!』

 

 

「げえっ!?」

 

 ・・・よりにもよって一番最初に自分の番である。いい加減泣きたくなってくる。

 ただでさえ、相棒が“コレ”だというのに本当に今回の自分はついてない・・・と天の差配を恨めしく思う気持ちで胸がいっぱいになってくる一夏であった。

 

 

「フフフ・・・遂に貴様との決着をつけるときが来たようだなジャンヌ・・・っ。以前のタッグマッチでは貴様に敗れたが、今度こそ貴様を倒し私がナンバー1になってやる!

 四ヶ月間、真剣にトレーニングを積んで更に強くなった私の圧倒的なパワーに恐れ戦くがいい!! ふふふ・・・フハハハ・・・・・・ふはははははははははッッ!!!」

 

 

 ・・・本当の本気で泣き出したい気持ちになってきた一夏であった・・・。

 そもそも何故コイツと組んで出場する羽目になったかといえば、ぶっちゃけジャンヌが主な原因だったりするのである。

 彼女が横入りして掻っ攫っていった簪とペアで参加する権利を手にするため、仲良しISヒロインズから受けた誘いを全部蹴ってしまった後だった一夏は、再び握手の手を差し伸べても握り返してもらえなかった上に『タッグマッチ本番で私と組まなかったことをタップリと後悔させてあげるから・・・』と怖い目をして宣言されてしまった程で、他の一年生で候補は残っておらず、上級生とは親しくないし話しかけてみようかと思っている間にペア参加を済ませられてしまった後になっていた。

 

 その結果、最後まで誰からも誘われることなく一人だけ余っていた奴と組むことになってしまった修学旅行のボッチコンビみたいなペアが誕生してしまい今に至る。

 

 

「ふふふ・・・どうやら未だ到着していないようだが・・・だが私は信じているぞ、ジャンヌ。貴様は必ずや、私と決着をつけるため私を追い続けてここへ来ると。

 何故なら私は貴様を誰よりも敵として知り尽くし、貴様もまた私を誰よりも知る宿敵同士の我らなのだから・・・フフフフ・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 どうしよう? 本当に涙が零れてきてしまいそうな一夏になってしまっているぞ? 男の子だから、泣くなよ一夏。

 

(・・・こうなったら早く! 早く来てくれ簪さん! もう君だけが俺に残された最後の希望になってしまってる状況だから!!!)

 

 一夏はそう祈り、心の底からそう願った。

 今さら簪が開会式に間に合ったところで一夏の現状には何の変化も訪れようがないのだけれども。時に人は絶望を前にして希望を捨てぬために、幻想と承知で現実逃避のための逃げ場を求めてやまぬ生き物である・・・・・・っと、お?

 

 

「・・・っ!! 来た! 来てくれたか!! 待っていたぜ簪さん!!!」

 

 一夏に喜びの笑顔と歓声を上げさせた救いの主、すなわち一夏にとって救いのヒーロー更識簪ただいま参上!

 開会式の会場代わりに使われていたアリーナの一部に向かって、全速力で走りながらジャンヌと二人で近づいてきてくれている!!

 

 

 ・・・・・・何故だか、食パンを咥えて全力疾走しながら。

 ・・・・・・そのうえ何故だか、タッグマッチ大会なのに学生鞄を手に持ちながら全力で・・・

 

 

 ――先を行くジャンヌの声が一夏の耳に聞こえてくる。

 

 

 

「あーっ! 遅刻遅刻ー!! 開会式当日に遅刻じゃかなりヤバいって感じだよねーっ!」

 

 

 ・・・うん。コイツについては、もう何も言うまい求めまい。求めるだけ無駄だろうから。

 

「――てゆうか、さ! ジャンヌ! 私たち、なん、で、食パン咥えて、走ってるの、かな・・・!? ものすっごく、走りづらい、し! 息が苦しいんだけ、ど・・・!? ウグッ! ごほっ、ごほっ!?」

「仕方ないでしょ!? 女子高生が遅刻しそうなときに遅刻しないで済むようになるためのラッキーアイテムが学生鞄と走りながら口に咥えた食パンなんだから我慢しなさい!! アンタだって遅刻したくないんでしょ!?」

「・・・そう、だけど・・・っ! こんな、苦しい、思い、するぐらい、なら・・・っ! 素直に走るトレーニングしておいた方が良かったって、今、後悔して、る・・・っ!!」

「情けないわねカンザシ! 私なんか、これを無理なく出来るようになるため四ヶ月のトレーニングを行っておいたわ!! アンタもそれぐらい根性出しなさい根性を!!」

「なにその、無駄なやる気、は!? 絶対にやる気の向ける方向、間違っちゃってる、と思うけ、ど・・・っ!?」

 

 

 ――どうやら姉の懸念とは裏腹に、妹の方はいろいろな問題をいろいろと解消されてしまいながら、ここまで走って到達してきているらしい・・・。

 さすがはイノシシ。走り出したら大抵の問題は全部些細なことに変えれる固有スキルでも保有しているようである。IS機能に付与できたら無敵なような気もするけど、いろいろ台無しにしてしまいそうな気もするから強いけど欲しくない能力でもある気がするのは何故なのだろうか?

 

 何はともあれ、ズザザザザーッ!と音を立てつつもようやく到着。

 

 

「よーし! 到着したわ! ギリギリセーフ――――」

 

「アウトだ馬鹿者――――――――――――ッ!!!!」

 

「ひでぶッ!?」

 

 

 ずどぉぉぉっん!・・・と、盗塁してきてセーフを主張するジャンヌの頭に、織斑千冬主審によるアウト判定が下されてマウンドに沈むジャンヌ・デュノア。

 なお、織斑審判の判定は絶対であり、一度下された判定が覆されることは決してない。異論反論不平不満は言うことだけ許された後に鉄拳制裁! それが織斑主審の審判魂である。現代日本で審判の職に就いている者たちに是非見習って欲しいスタンスだった。

 

「とゆーか、貴様! もう終わっているだろうが開会式! 開会式が終わった直後に到着してセーフだとか言う奴はじめて見たぞ!! 時間厳守と十分前行動は社会人としての常識だぞ! その程度の基本から教えてやらねば分からんのか貴様には!?」

「ち、違うわよ! 誤解だわ! 私は別に十分前行動とか時間厳守とかって言葉を理解できてないから守らなかったわけじゃない!

 知ってたけど二度寝して寝過ごして寝坊しちゃっただけじゃないの!! それを怒って殴り出す、こんな世の中じゃポイゾナで毒消ししたい!!」

「知るか馬鹿者―――ッ!!! それから、もっと悪いわ愚か者――――ッッ!!!!」

「ぐはぁぁぁぁッ!?」

 

 ジャンヌによる意味不明な言い訳に対して織斑先生からの二段ツッコミ、二連続パンチが炸裂して宙を舞うジャンヌ。・・・いろいろな意味で姉という存在の恐ろしさを思い知らされるタッグトーナメント当日の朝っぱらだなぁオイ・・・。

 

「あわ、アワワワ・・・・・・(びくびく、ビクビク・・・)」

 

 目の前で繰り広げられるバイオレンスな光景に、小心者の簪が怯えだし。――その背後から眼鏡を光らせながら「ぬっ」と顔を出す人物が一人いた――。

 

 

「・・・やれやれ、相変わらず織斑先生の担当するクラスは騒がしいことですね・・・」

「はぅっ!? きょ、教頭先生!?」

 

 学園生徒たちの間で「鬼ババア」と呼ばれ恐れられている、逆三角形の眼鏡をかけたひっつめ髪の教頭先生がすぐ近くまで来ていたことに気づかされた簪がギョッとしてから涙目で道を空け、彼女のことを冷たい視線で眼鏡越しに一瞥してから軽くスルーしてジャンヌたちの前に立つ教頭先生。簪は後日、問題すればいいと思ったのかもしれない。

 

「あなたがジャンヌ・デュノアさんですね? 噂はいろいろと耳にしています。ずいぶん問題児だそうですね・・・。

 もちろん、そういう生徒であろうと見捨てることなく正しく導いてあげるのが教師の仕事であり勤めとはいえ、物事には限度というものが―――って、なんですの? 私の顔に何か付いておりましたかしら?」

「・・・いや、そういうわけじゃないんだけどさ・・・・・・」

 

 なぜか不審げな態度で教頭先生の話を聞きながら相手の顔を見ていたジャンヌが、「どうにも納得いかない」と言いたげな表情と仕草で相手のことをシッカリ見つめると、さっきから気になって気になって仕方がなかった疑問について率直に質問して問題解決を図るための努力を開始するのであった・・・。

 

 

 

「・・・アンタ誰? 今まで一度も学園内で見たことないんだけど・・・ひょっとして新任の新人教師かなんかなの?」

 

 

『『『ブ―――――――ッ!?』』』

 

 

 織斑千冬、更識簪、織斑一夏と更識楯無など、大人の学園事情ってヤツについて少しは配慮する術を学んでいる空気の読める学生たち含む教師陣までもが一斉に吹いた。吹き出しまくらされた。

 

 

 ――コイツ、言ってはいけないことをナチャラルに質問して聞いてしまった―――ッ!?

 

 

 彼女らの心理としては大体こんな感じ。慌てまくって簪が、青ざめて震えが止まらぬ教頭先生に助け船を出す。・・・なんか立場が一転しちまったなオイ。

 

「なんてこと言うのジャンヌ!? ちゃんといたじゃない教頭先生! 職員室とか学園長室とか色々な場所で仕事していて生徒たちの見えるところにはあんまり出てこなかっただけでたまには出てきてたじゃないの!? ほら、たとえばアレとか! あのイベントの時とかに!!」

「・・・いたっけ?」

「いたんだよっ!?」

「そうだったかなぁ~? 私の記憶が確かなら、六月の学年別トーナメントや文化祭のときの二大イベントでさえ見かけた覚えない気がするんだけど・・・・・・って、ヒッ!? お、お姉ちゃ――いや、姉貴!? 

 ご、ごめん・・・今回のは朝から飛ばしすぎたわ、反省してます。だからその、怖い目して私を見ないで、久々の暗黒面見せつけないで! ここ公の場だから! 殿中で・・・殿中でござるオロー!、ってギャァァァァァァァァッ!?」

 

 

 ・・・こうして、最近フリーダムにやり過ぎて調子に乗ってた悪い妹の躾を姉が怖い目をして行った後。

 ようやくタッグマッチトーナメント大会第一試合の戦いが始まることになる。

 

 もう既に、戦いはじめる前から負傷者多数の開会式となってしまった気がするが、それはそれ。決められた予定は予定として消化しなければならないのもまた、大人の学園事情であるので致し方なし。現実は厳しい。

 

 何はともあれ、姉たちが怖さを見せつけたタッグトーナメント開会式はこれで終わり。

 次は妹たちによる戦いの火蓋が切って落とされるぞ! 次回を待て! 

 

 

つづく!!

 

 

オマケ『それでもラウラは変わらない』

 

ラウラ「フッ。やはり来たか、ジャンヌ・・・それでこそ私のライバルだぁッ!!」

 

一夏「お前最近、ジャンヌだったら何でも良くなってきてる気がするのは俺だけか・・・?」

 

 

 順調に変な方向へ仲を深めまくってるラウラとジャンヌの百合な話を書いてみたいが、ギャグ過ぎちゃって逆に難しい二人になってる今日この頃な作者でした♪




解説:今話で用いたネタは解りづらかった事に気付きましたので、念のため解説です。

――7巻で初登場した教頭先生に対して、学年別トーナメントや文化祭といったIS学園にとって重要なはずの一大イベントでも顔を見た覚えのない結構上の地位にいるはずの存在に対して、

『そんな先生キャラいたんだ?』

――というフィクション作品の都合を配慮しないで空気読まない発言をしてしまったオリ主が力づくで黙らせられる、…そんなお約束をネタにしてみたものでした。

よくよく考えたら判りにくかったですよね、ごめんなさい。以後気を付けて解説も付け加えておきますね。(土下座)


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第28話「オープン・ユア・ハート『要するに本音隠さず全開ってことよ!』」

久しぶりの更新となります。あんまりにも間が空きすぎてしまったので今回は速度優先で短めです。
一旦28話を書き直して、アニメ版との融合を目指し直してみました。今までのは解りにくくならないよう削除しますけど、データは残しておきますので必要な方がいましたら言ってくださいませ。


 IS学園で急遽開催される運びとなった、専用機持ち限定のタッグマッチトーナメント。

 ・・・それは開始と同時に、波乱と混乱を齎してしまうイベントとなってしまっていた。以前、学園を奇襲してきた無人IS《ゴーレム》の発展型が空から奇襲をかけてきたからである。

 状況は、各専用機持ちたちが部屋ごとに分散して待機していたところを襲われたことからIS学園側にとって、甚だ不利な戦況になりつつある・・・・・・。

 

 

 

 

「このおおおっ!!」

 

 ガギンッ!と、空から降下してきた謎の無人IS襲撃者たちに襲われていた専用機持ちたちの一人である中国代表候補の凰鈴音は、《双天牙月》の一撃を加えてやってから恨みを込めて敵の機体を蹴り飛ばしてやり、肩部ユニットの衝撃砲《龍砲》を展開して砲口を向けさせていた!

 

「こいつ・・・性懲りもなく何の用よっ!」

 

 興奮しながら相手を罵倒する凰鈴音。

 彼女は以前に、これと同じでなくとも同系統の機体と戦ったことがあり、その機体に一夏との勝負を邪魔されるのは今回で二度目になる只一人の専用機持ちだったからだ。

 いつぞやの借りを返そうという怨恨から、敵の倒し方が多少なりと過激になってしまったとしても無理はない。無理はないのだが・・・・・・しかし!

 

「な・・・!? ビットでの防御で衝撃砲を防いだですって!?」

 

 敵は形状を大きく変化させてきており、その変化は中身にまで大きく及んでいるのか、以前とは桁が異なる実力を持てたと確信していた鈴の一撃を容易に防ぎ切り、

 

「鈴さん、下がってっ!」

 

 タッグを組んでトーナメントに出場する予定でいたため同室で待機中だった、セシリア・オルコットによるレーザーライフルとビット攻撃を併用した『偏向射撃』でさえ仕留めきれずに回避されてしまった姿を前にしては、敵機への認識を改めざるを得ない。

 

「なんなのよ、こいつ! 前のとは違って防御型ってわけ!?」

「なんて堅いシールド・・・! それに、あの防御力で、あの機動力・・・!? それに――」

 

 予想外の・・・否、予想を遙かに上回る敵の強さを目の当たりにして驚愕する二人に対して、以前の初期型《ゴーレムⅠ》と違って武装を一新させた最も異なる特徴を持つ左腕を突き出させた《ゴーレムⅢ》は、彼女たちに向けてビーム砲を放つためチャージを開始した電子音を二人の鼓膜に同時に響かせる。

 

「火力もありそうねぇ・・・」

 

 地獄へと続く門がポッカリ開いているかに見える、ビーム砲の砲門にエネルギーが集まっていく光景を見せつけられた鈴が、犬歯をむき出しにしながら悔しそうに吐き捨ててやった次の瞬間!

 

 ピーッという充填が完了したことを示す電子音が聞こえたか聞こえなかったかという刹那の間を空けてから、ビーム砲から自分たちに向かってビームが発射されたと思ったとき。

 

 ―――それは突然、聞こえてきた。

 

 

 

「カンザシ―――――――ッ!!!!!」

 

 

 

 ピンチの味方を助けにやってきたヒーローと言うより、単なる『怒号』と呼んだ方が適切な声量と攻撃力に満ち満ちた声音で叫びながら、シャルロット・デュノアの妹ジャンヌ・デュノアが壁突き破って、いきなり横から割り込んできて、鈴を狙ってビーム撃とうとしていた寸前の状態だった《ゴーレムⅢ》の左腕に、自分の機体が持ってたランスの切っ先が偶然なのか狙ってなのか分かっている時間的余裕も与えられないままブッ刺され。

 

 思わず鈴が、「あ・・・」とつぶやき、セシリアもまた「・・・あぶな」と忠告してあげようとした次の瞬間には。

 

 

 ドゴォォッン!!!

 

 

 ・・・敵もろとも爆発しやがった。というより暴発させてしまいやがった・・・。

 車のエンジンもビーム砲もコロニーレーザーも、一度火を入れてしまえば爆発もするんだってことを知らなかったんだろうか? この仏産イノシシ娘は・・・・・・。

 

「――げほっ! けこっ! ごほっ! か、カンザシ~・・・だ、大丈夫だったー・・・?」

 

 黒煙の中から、流石に弱々しい声でフラフラしながら出てきた煤だらけの美少女IS操縦者ジャンヌ・デュノア。

 彼女は自分が助け出した中国人娘の『凰鈴音』と、イギリス貴族令嬢である『セシリア・オルコット』の姿を見つけ、暫しの間「・・・・・・」と沈黙して黙り込んだ後。

 やりきれない想いを胸に、こう叫ばずにはいられない気持ちを抑えることが出来なくされてしまっていたのだった!

 

 

「・・・・・・・・・って、違うじゃないの!!!」

「そうよ!? 違うわよ! だから何!?」

 

 

 ――いきなり我が身を省みずに助けに来てくれた援軍と、助けてもらった側による意味不明な応酬が開始されただけだった・・・。

 いやまぁ、お互い言わざるを得ない事情はあるからこその発言だったんだけれども。むしろ互いに相手の事情を何も知らないまま偶然助けちゃったせいで言い合う羽目になっちゃってるだけなんだけれども。

 

 それでもまぁ、助けに来てくれた味方から『間違えて違う奴助けちゃった!』宣言された方の鈴としては素直に感謝できないし、ジャンヌの方はそもそも鈴を助けたつもりすらなかった。

 悲しいすれ違いが誤解を招いて否定し合いを生じさせてしまっていた訳なのだけれども、それでもジャンヌの方には関係がない。本命を助け出すため探しに行かなきゃいけないから忙しい。

 

「チィッ! 余計なところで想定外の人助けのために無駄なダメージを食らっちゃったわ! これ以上ダメージ増えるとカンザシが助けるときに足りなくなるかもしれないから私は行くわよ! アンタたちはアンタたちで適当に頑張んなさい! 後よろしく! それじゃ!!」

「うん、ありがとう助かったわ! だからもう二度と来るなバカ! 帰れッ!!」

 

 そして、罵り文句と共に帰って行くヒーローと、感謝と一緒に罵声も履いてヒーローの背中に塩蒔きたくなってる助けてもらった側の凰鈴音。

 現実の世界で、『アンタたちを助けに来た訳じゃない・・・』を実現されてしまってイライラさせられてから、改めてジャンヌが去って行った後に戦いを再開させようと襲いかかってきた、さっきの“事故”で左腕失った《ゴーレムⅢ》を逆に激しく睨み返すと。

 

「――今更おっそいのよアンタは! ったく! 相変わらず空気読めない奴ねぇ! 所詮ガラクタはガラクタかぁぁぁッ!!!」

「機械だから人の心など分からないのですわ! だから空気も読めないのですわ! わたくしたちが傷つけられる前に戦闘を再開してくれれば良かったですのに! それなのに!!」

『・・・・・・』

 

 相手の実力に合わせて二対一で送り込まれてきた自動操縦の無人ISとして、ジャンヌが去って行くのを待ってから相手してあげようと出てきたにも関わらず『空気読めないKY機械』呼ばわりされて謂われなき侮辱を浴びせられまくっている《ゴーレムⅢ》は泣いてよかったけど、泣けない。だって機械なんだもん。

 

「ああ、ムシャクシャする・・・ッ!!! こうなったら、この苛立ち! アンタで晴らさでおくものかぁぁよ!!!」

「そうですわそうですわ! 乙女のプライドをズタズタにして泥まで塗りつけた礼儀知らずでKYなフランス聖女と同名の少女への想い、しかと受け止めて思い知りなさい! このサンドバックマシーン!!」

『・・・・・・』

 

 こうして、鈴とセシリアVS左腕失ったゴーレムⅢとの第2ラウンドが開始された訳なのであるが。

 そもそも何故ジャンヌは、カンザシを探してこんな所まで出張ってきていたのだろうか?

 そこには深くて浅い、更識姉妹特有の事情が存在していたからである・・・・・・。

 

 

 ・・・・・・それは、カンザシとジャンヌが遅刻寸前でギリギリ大会開始に間に合って(?)、更識会長からありがたい開会の挨拶が再開された直後のことだった。

 

 

 

『――コホン。えー、一部問題児ちゃんたちを含めて、全校生徒の皆さん全てが無事に大会開催に間に合ったことを喜び、実りのある時間となるよう期待も込めて。開会の挨拶を終わらせていただきます!』

 

 アハハハハハ~♪♪

 

『とまぁ、堅苦しいのも茶化すのもこの辺りにするとして。・・・お待ちかね! 対戦表を発表しま~~す☆』

 

 おおぉぉッ!? オオオオオオォォォォォォォッ!?

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 

 ――とまぁ、こういう流れと手順を踏んだ上で。

 久々に現物と再開したリアル完璧お姉ちゃんの光り輝く姿と、人気者っぷりを見せつけられてしまった結果、コンプレックスが再熱して再び双鬱状態へと急転直下でテンション急落しちゃった簪ちゃんは、ジャンヌには「先にピットへ行って待ってる・・・」とだけ言い残して開会式の会場の出口近くで見つけた階段下の狭いスペースに入り込んで丸くなると引きこもりモードを始動。

 そして、そのままモード解除するより前に空からゴーレムⅢが降りてきて戦闘開始。専用機持ちたちは各所で分断され、個別に対応せざるを得なくなってしまい。

 

 ジャンヌはいるはずの相方がピットにおらず、「ここにも居ないし!? あっちにも居なかったし!?」とあちらこちら探し回っては、開会式行われてた会場出口からドンドン遠ざかっていく知らないが故のアホな真面目愚行をやらかしまくって、彼女は今ここにいる。

 

 

「くっ・・・! 一体どこにいったのカンザシ・・・!! そして私が今いるのはどこなのよ!?

 人いなくて案内板もないから、外国人の私一人じゃ日本の建物わかんないんですけどー!?」

 

 

 ――今、自分がアリーナの中のどこに居るのか分からないまま、どこかにはいる。

 ぶっちゃけ、専用機持ちと生徒たちしか参加者いないIS大会やるには広すぎたのだ、このISアリーナは・・・・・・。

 

 このまえIS使ったバトル・レース大会の会場が、ISを使用できる広さを持たせた会場作ったら収容可能人数多くなり過ぎてしまって利用方法が限られまくったから仕方なくやってたのと同じ事情によって、イベント参加者の数と観客数と舞台となる会場の広さとで差がありすぎてしまって、何もない伽藍とした空間の方が遙かに多くなってしまっている現状のISアリーナ内。

 対テロ訓練も一応は兼ねているため、今までのイベントだったら道案内してくれてた一般生徒たちさえ配置されていない中をジャンヌは走り抜ける! カンザシを探して見当違いの方向を目指して! ひたすらひたすらに走り続ける!!!

 

 

「私の目的地は・・・・・・・・・どこよ!?」

 

 

 救国の聖女と同じ名を持つフランス人少女は、果たして苦しむ友人の少女を探し出して救い出してあげることが出来るのだろうか・・・? それは一先ず見つけてもらわないことには分からないので、次回に~~~続く!! それしかない!!!

 

 

つづく

 

 

オマケ『次回はヤツが来る予定!(シャアではないが少佐ではあるぞ?)』

 

ラウラ「しかし今回は、最初の突撃でよく当てられたものだな。敵の反応速度は第二世代の数値では追いつけないはずだろう?」

 

ジャンヌ「ん~、まぁねぇ。もともと刺すつもりで突撃してった訳じゃなかったから偶然だったんじゃない? ほら、騎兵ってチャージする時どうしても切っ先前に伸ばしてるから、そのまま突き刺さっちゃっただけだったからさ」

 

ラウラ「ああ…そういえば、いつも持ってたよな。その串」

 

ジャンヌ「槍よッ!?」



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第29話「ヒーローの条件『最後は結局はじまりの場所へ戻ってくること』」

前回の28話が中途半端過ぎたので付け足し分を書いてただけだったところ、長くなりすぎましたので29話という事にして更新してしまう事を決めた次第です。
相変わらず脳ミソ茹だっている内容ですが、昼間に書いたため前回分よりかはマシかと思われます。夏の夜は脳味噌が死ぬだけじゃなくゾンビになる(要するに腐乱しました)


 ・・・・・・フランス産イノシシ娘が、見失ってしまった相方を探してアリーナ内を迷子になりながらもさ迷い走っていたのと同じ頃。

 それとは異なる場所、異なる方向、異なる相手を、簪とは異なる形で“別の人の妹”を守ってあげていた『もう一人の更識』がいた。

 

 その人の名は更識簪の姉―――更識楯無。

 

 

「はああああっ!!」

 

 ギィンッ!!

 ・・・箒が操る二刀流の左右同時払い上げで、敵である『ゴレームⅢ』の右腕部ブレードを弾き飛ばす!

 すぐさま余剰衝撃で体勢が一瞬傾きそうになる姿勢をPICによって引き戻そうとする無人ISゴーレムⅢだったが、敵が崩した姿勢を戻そうとするのを黙って待ってやるほど生ぬるい『敵にとっての敵』などいる訳がない。

 

「もらったわ!」

 

 IS学園生徒会長にしてロシア代表選手でもある更識楯無が、自らの愛機《ミステリアス・レイディ》が保有する、螺旋状に超高周波振動の水を纏わせたランス型のIS武装《蒼流旋》による突撃で、敵の胴体を刺し貫くため穿ちに来る。

 

 立場上、敵機の正体が以前に奇襲をかけてきた無人機《ゴーレムⅠ》の発展型であること、そこから類推して無人機であることはほぼ確実なこと、人が乗ってない機体ならドテッ腹を刺し貫いたところで人殺しを犯す罪悪感など気にする必要性は一切ないこと。

 

 ・・・・・・そして何より、長い時代の中で日本を陰から守り続けてきた陰の組織《更識家》の当主として、守りたい者のためなら敵を殺すことをも厭わない。

 確実に仕留めることで守るべき対象の安全が将来にわたって確保できるなら、その方がよい。

 

 ――という覚悟の仕方が彼女にためらうことなく、最も効率的に確実に『敵を殺せる攻撃手段』を選ばせたからである。

 

 伊達に、多くの他人たちを守るためなら、他方の他人を殺しまくる道を受け入れてきた訳じゃあない・・・!

 一点突破を仕掛けることで一撃で相手にトドメを刺すことを狙ったのだが、敵は機械とは思えぬ根性によって彼女の意図を阻むことに成功した。

 自分のドテ腹を貫通している途上にあったランスを、貫通され終わるより前に自らの巨大な左腕で掴んで止めてしまったのである!!

 

 もともと突撃という攻撃方法は、攻撃力の大半を突進力に依存しているため、受け止められて足を止められてしまった時点でほとんど無力化されてしまうという致命的欠点を有する攻撃手段だ。立ち止まった状態でランスを突き出しているだけでは、単なる突き技と大差ない。

 その事は突撃の専門家たるジャンヌの方が詳しかったが、楯無とてランスによる突撃方法を採用すると決めた時点でジャンヌほどではなくとも学び納めて承知している。

 だからこそ《蒼流旋》には通常のランス突撃だけでなく、特殊ナノマシンで超高周波振動する水を纏わせ螺旋状に回転させることでドリルのような機能を付与させ、受け止められた後も無効化だけはされないようになっていた訳ではあったのだが。

 

 それでもドリルは本来、武器ではなく工事用の道具であり、回転することによって貫通力を何倍にも増幅させる普通の器具でしかなく、前へ進む力と回転力が合わさなければ大した効果までは期待できない。

 楯無は自らがおこなった攻撃失敗を悟ると、即座に方針を転換し援軍を求めた。

 自分の背中で自分が守ってやっている存在、篠ノ之箒に助けを求めたのである!

 

「箒ちゃん! 背部展開装甲をオン! 私を押して! 早く!!」

「わ、わかりました!」

 

 箒は即座に彼女の指示に従って、言われたとおりの作業をおこない水の回転力を増させてゴーレムⅢの左腕を削っていくことに貢献したのだが――しかし。

 

「くっ! なんて硬い装甲を使ってるの!?」

 

 一方的に攻撃し続けている側であるはずの楯無の表情が、驚愕に歪む。

 敵機の装甲は現時点で知られている既存の材質とは違うものが使われているのか、はたまた現在の世界水準よりも数世代上の技術によって造られたものである故なのか。

 既存の世界で存在を確認されている『各国代表選手たちの専用機を相手取って倒すこと』を目標として開発されたロシア代表選手専用機の最新鋭機であるはずの《ミステリアス・レイディ》が保有する通常武装では決定的なダメージを与えることがどうしても出来ない!

 

「楯無さん! いきます!」

「ええ!」

 

 箒もその事実を察したのか、自らの愛機《紅椿》のブースターも全開させて強力な推進力を発揮させると、楯無の《ミステリ・レイディ》による突撃に力添えするため後ろから押して加速させていく。

 

 やがて二機に押される一機による、敵味方合わせて三機のISは互いの機体を密着させたままアリーナ・ゲートへと突進していく。

 シールドと接触してのダメージを避けさせるため、シールド接近警告が発せられるが今の楯無にとっては耳障りな雑音としか聞こえない。

 

 突撃は一見するだけなら強力に見える攻撃手段だが、実際のところは両手が塞がる上に、渾身の力で敵を穿つために傾けているせいで避けられたときには隙だらけになってしまう一撃必殺の攻撃方法でもあるのだ。

 剣道では『突きは死に技』という言葉がある通り、一度放った後にはイニシアチブを敵に譲ることになる。それはそのまま反撃によって自分たちの方が負けかねない。

 

「くらいなさい!」

 

 だからこそ楯無は警告を無視して、手に持つランスをさらに強く握りしめると《蒼流旋》に装備されているもう一つの武装、四門ガトリングガンを展開して一斉射撃を開始する!!

 

 ガガガガッ!!

 至近距離から乱射される機関砲による攻撃をしたたかに食らわされたゴーレムⅢは、着弾した弾数をこれ以上増やされる前に壁を造ろうと、防御用の可変シールドユニットを移動させようとする。

 エネルギーシールドを展開して本体を守らせる浮遊ユニットは、既に密着されて機体を穿っているランスの突撃には防具として役立たない。

 だが、射撃武装による追加の支援があるなら話は別だ。ガトリングガンの攻撃はランスと違って継続的にダメージを与え続けるものではなく、一発一発が使い捨ての弾丸を撃ち込み続けてこそ合計で大ダメージが与えられる類いのもの。

 発砲しはじめた直後の少数分だけしか当てられなければ、これも大した威力には届かない武器なのである。

 

 その事を理解していたからこそ楯無は止まる訳にはいかなかったし、敵機とともに自分の機体も壁に激突して構わない程度の速度は、突撃を失敗させないためにも必要不可欠な要素だったのだから。

 

 バチバチバチィッ!!

 ゴーレムⅢが可変シールドユニットを展開させようと移動させ始めた刹那の直後、その背中が背後にまで迫っていたアリーナ・シールドに叩きつけられ、ユニットの展開が阻止させることに成功した。

 合理的に状況を判断するゴーレムⅢの機械的判断が、楯無の自爆に近い攻撃方法を『非合理的な攻撃手段』と判断して過小評価した結果としての戦果であり、謂わば日本人特有の《カミカゼ特攻》が奇襲という一点のみにおいてだけは有効だという証明になるものだったやもしれない。

 

「くぅっ!!」

 

 ――だが言うまでもなく特攻は、相手に大ダメージを与えられる可能性が得られると同時に、自らも確実に深手を負ってしまう『肉を切らせて骨を断つ』を前提とした捨て身の攻撃手段。

 失敗してしまえば自分だけが無駄にダメージを負ってしまうし、仮に成功しても自分が負傷することは避けられないハイリスク・未知リターンな分の悪い博打戦法なのである。

 

 その博打になんとか勝つことが出来た以上、賭けの勝者たる楯無も負傷は免れない。

 正面に向けて猛スピードで押し続けてきた敵機が急速停止して、その先には絶対に進むことが出来ない障壁が存在して、自分の後ろから高機動型と肩を並べられる第四世代機による加速支援がおこなわれ続けているという、この状況。

 

 並の人間では、立ち止まった敵より背後から圧力をかけ続けてくる味方の方に押しつぶされてしまいかねない衝撃を受けさせられて、さしものIS学園最強も苦悶の声を上げて表情を苦痛に歪めざるを得ない激痛にさらされることになる。

 

「楯無さん!」

「大丈夫よ! それより、このままこの無人機の装甲を突き破るの!!」

 

 それでも楯無は攻撃をやめない。突撃を止めさせようとは絶対にしない。

 なぜなら、『そうせざるを得ない攻撃方法』が突撃であり、槍を使った突き技であると承知しているからだ。

 

 『この攻撃を成功させれば確実に勝てる。失敗すれば確実に負ける』・・・その覚悟を決めた上で行うべき攻撃手段が突撃であり特攻であり突き技なのだ。

 謂わば『殺るか、殺やれるか』という必勝と必殺の信念を命がけで実践することが、これらの攻撃方法の本領を発揮させられる最低条件になっている技。

 『退いてもいい、次がある』などと思ってしまったのでは上手くいかない。一撃必殺でなければ格上の敵を倒すことができる必殺の一撃にはなり得ない。

 

 その事実を実戦経験豊富な楯無は理解していたが、スポーツの剣道大会で相手を殺しそうになってしまったトラウマを持つ箒には、その真理を理解できる高見に未だ達することが出来ていない。

 

「で、ですが・・・・・・!」

 

 躊躇いを見せる箒に苛立ちを感じながらも、楯無は必死に説得をやめない。箒の意思で自主的に加速させてもらえるよう言葉での指示を出し続ける!!

 彼女の加速なくして勝つことは出来ない現状、それしか楯無たち二人共が勝って生き残れる道は他になかったから・・・・・・ッ!!!

 

「いいからやりなさい! さぁ早く!! ここで押し切れなければ二人とも死ぬわよ!?」

「・・・・・・(ビクッ!?)」

 

 ぴしゃりとした怒号を受け、続いた言葉に今の戦況がどれだけ追い詰められたものだったのかと言うことを改めて思い知らされた箒は、一瞬ビクリとして怯えを見せた後、言われるままに背部展開装甲の出力を上げて機体をさらに加速させていく。

 

「ぐ、うっ・・・・・・!!」

 

 ずしん、と背中に強烈な重量感がのしかかってくるのを歯を食いしばって耐え凌ぎ、楯無は水のドリルとガトリングガンの連射による攻撃を続行し続け、ゴーレムⅢの装甲にダメージを与え続けていく。

 基本的には悪手とされる、使い捨ての騙し討ち戦術としてしか用いようがない特攻や突撃を一度でも選んで実行してしまった以上、他に道はない。

 払ってしまった犠牲が大きすぎる攻撃方法なのだから、せめて確実に求めていた成果だけでも手にしないと元が取れないと言うものである。

 

「楯無さん! もう限界です! 一度後退して態勢の立て直しを図りましょう!?」

「ふ、ふふん・・・。まだまだ、おねーさんの奥の手はこれからよ」

 

 そう言って、苦痛に歪んでいた顔を不敵な笑みに変化させて楯無は、それまで両手で支えていたランスを左手一本だけに任せて、空いた右手を真上に向かって突き出させる。

 

「《ミステリアス・レイディ》の最大火力、受けてみなさい・・・・・・!!」

 

 不敵に笑う楯無の掌の上に、しゅるしゅると水が集まってくる。

 それは機体表面を覆っていた水のナノマシン装甲を一点に集中させることで防御力を大幅に減らしてしまう代価として、最大級の攻撃力を得ることが可能になるミステリアス・レイディの攻撃特化モードとも呼ぶべき最強最大の必殺技を使用する前触れ・・・・・・!!

 

「こ、これは・・・・・・?」

「通常時は防御用に装甲表面を覆っているアクア・ナノマシンを一点に集中、攻勢成形することで強力な攻撃力とすることができる一撃必殺の大技・・・・・・。

 名付けて――《ミストルテインの槍》

 表面装甲がどんなものだろうと関係なく紙クズみたいに突き破ることができる、私とミステリアス・レイディの奥の手を、防げるものなら防いでみなさい!!」

 

 叫んでエネルギーの収束を早めていく楯無だったが、相手もまた敵が放とうとしている溜め時間の長い必殺兵器を使ってくるのを黙って待っていてやるほどお人好しではない。

 エネルギーの流れを感知したゴーレムⅢが、目の前で自分の腹を穿ちながらエネルギーのチャージも同時に行っている楯無の動きを阻害するため、大型ブレードを振り上げて斬りかかろうとしてくる。

 

 一つには、それまで両手を使って行っていた突撃を左手一本で継続させて、利き腕である右手を頭上に掲げたままエネルギーの集中を開始してしまったことから、ゴーレムⅢに掛けられていた衝撃による圧力が緩和されてしまったことが、この攻撃を招いた原因だった。

 

 如何に箒が速度を緩めることなく後ろから押し続けているとは言え、敵との間に挟まれた楯無が足を止めてエネルギー収束に意識を傾けるため壁となって立ち塞がってしまったのでは圧力の低下は必然の結果にならざるを得ない。

 まして相手に与えている圧力そのものを伝えているのは、あくまで彼女の左手一本が持ち続けているランスだけなのだ。

 ただでさえ重量級の武装を片手離しの状態で攻撃し続け、しかも利き腕の右手は頭上に掲げながらエネルギー集中するのに使ってしまう・・・・・・これでは折角の突進力も大半が空費されてしまって雲散霧消してしまうのは自然の摂理でしかなくなってしまう。

 

 さらに皮肉な話を付け加えるとするなら、『ランスによる突撃』と『ガトリングガン斉射』と『壁に激突させて動きを妨げる攻撃手法』・・・・・・この三つを同時進行で継続し続けてしまったことが結果的に良くない効果をもたらしてしまっていたことがあげられる。

 

 ガトリングガンに限らず重火器兵装は、発砲の際には後ろに下がる反動が生じてしまうことは一般に広く知られている現象であり、威力の高いガトリングガンともなれば反動の力もハンドガン一丁とは比べものにならないほど巨大なものになってしまう。

 そこへ壁に激突したことから、相手にはこれ以上後ろに下がることが物理的に不可能な状況が形成されてしまった中で、ガトリングガンの斉射とランスによる突撃と、二つ共やめることなく続けてしまったら互いに向かおうとする方向が真逆になってしまい結果的に突進力は大きく損なわれる結末になるしかない。

 

 それが、『諜報や暗殺を得意とする対暗部カウンターの専門家』である更識家当主の楯無には咄嗟の状況下の中で思い至ることができなかった。

 仮にこれがジャンヌであったなら、ランスによる突撃と重火器の斉射を同時に続けさせるようなことは絶対にしなかっただろう。

 あくまで《ヘビィーマシンガン》を牽制用、騙し討ち用、相手をビックリさせて姿勢崩させちまおう用に用途を限定して用いてきたはずである。

 

 

 ・・・・・・結局のところ、『特殊戦の専門家』で『突撃の半人前』が、自分の専門分野ではない突撃と特攻に自分たちの命運をかけた一撃必殺の戦法として用いてしまったこと自体が間違いだったということになるのだろうが、それを後悔している暇も、自分の誤りに気づいている時間的余裕も生き残っていてこそ得られるものであり、《ミストルテインの槍》を作り出すため意識を集中させ、抵抗も防御もできない状態にある中でISアーマーを突き破り生身の肉体に大ダメージを与えることが可能な斬撃が至近距離まで迫り来ていた現状にあっては何らの意味もなしてはくれない!

 

「楯無さん!? 危な――ッ!!」

 

 箒が気づいて叫び声を上げようとしたが、もう遅い。

 大型のビーム刃が楯無のISアーマーを砕き、絶対防御のも貫通してシミ一つない綺麗な柔肌を切り裂こうとした、その刹那。

 

 

 

 メコッ、と。

 

 

 

 何かが凹まされる音がして、楯無に大型刃を振り下ろす寸前だったゴーレムⅢの顔面の形状が右側面から大きく左側へと歪めさせられ、初期型と違って「鋼の乙女」といった容姿をしていたイメージが大きく崩された顔立ちとなり、まるで『泥の巨人』といったようなイメージの表情になりながら楯無たちの目の前で一瞬動きを停止させられ止まってしまっていた。

 

 やがて時間の経過が元に戻ると、『顔面を横から全力込めて蹴飛ばされて』顔が歪められたゴーレムⅢが近くの壁まで吹っ飛ばされていき、目の前に差し迫っていた脅威に対処しようと集中していた強敵に突然の『不意打ち奇襲キック』をぶちかましてくれた、黒い疾風のような襲撃者は地面に降り立ち、敵意に満ちて赤く染まった瞳に好戦的な嗤いを浮かべながら―――自らの誇りの由縁とする名を世界に向かって高らかに叫びあげる!!!

 

 

 

「ジャンヌぅぅぅぅぅぅッ!!!

 貴様を倒していいのは誇り高きドイツ代表候補生たるこの私、ラウラ・ボーデヴィッヒだけなのだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 そして叫んだ後、視界の先にあった黒色の両目と、自分と同じ赤色の両目の合わせて四つと見つめ合い、自分が持つ赤色の片目をパチクリさせてしばらく黙り込んだ後。

 

 

「・・・・・・チィッ!! またしても外れか!! 無駄をした!!」

「おいぃぃぃぃぃッ!? ちょっと待てお前オイィィィィィィィッ!!!!」

 

 盛大に隠す気もなく響かされた忌々しそうな舌打ちの音と、面倒くさいことしちまったと言いたげな表情と、実際にハッキリきっぱり口に出しちまってるセリフの三つに全部合わせてツッコミ入れざるを得なくなる、一応は助けてもらった側の箒ちゃん!

 借りはあるけど、流石にこれは看過できません! エネルギー集中させてるから何か言いたくてプルプルしてても言ってる余裕のない楯無さんに代わって猛抗議を決意する彼女の相方・篠ノ之箒!!

 

「貴様、ピンチの味方を前にしてその態度はなんだ!? もう少し労ってやろうとか思えないのか!? この冷血漢の非情人間!!」

「知らん。私が助けてやってから改めて倒そうとしたのはジャンヌだけだ。お前たちのことなど端から眼中にない。結果論とは言え、助けてやっただけでも有り難いと思って感謝でも何でもしておけばよかろう。この恩知らず共が」

「お前、自分で助けてから倒す気だったのか!? それ一体なんのために助けてるんだ!?」

「無論、私が倒すためだ。ジャンヌを倒すことが許されているのは私だけだ。私以外の者がジャンヌを倒すことは、私が許さん。絶対にだ」

 

 ――おかしい。言ってる事がなんかおかしいとしか思えない。

 なのに、どうしてコイツは世界の真理を語っていると信じ込んだまま揺るがない顔を平然としてられてるのかが判らない・・・・・・。

 

 ・・・ってゆーか、それより何より箒にとって重要な確認事項のための質問として!!

 

「そもそも、お前! 一夏はどうしたのだ一夏は!? お前は一夏と組んでタッグマッチに参加していたはずだ! ならば一夏が今どうなっているか知っているはず! 一夏は今どこでどうしている!? まさか置いてきたなんてことを言ったりしないだろうな―――」

「無論、置いてきた。敵の足止め役が必要だったのでな。

 誰でもいいから守りたくてしょうがない捨て駒として理想的な男にとって殿は、丁度いい役目だろうが」

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッい!? ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇッい!!!!」

 

 とんでもない事実をカミングアウトされた箒は、もはや冷静さだとか普段の喋り方がどうとか言っていられる状態ではなくなってしまうしかない!

 こんな強敵を相手に一夏をたった一人で置いてきたなどと、一夏に片思いし続けているヤンデレ気味な女子高生・篠ノ之箒にとって許される行為では決してなかったのだから!!

 

 ・・・だが、所変われば品変わり、一夏を好き続けている女の子と、そうではない女の子との温度差は異様なほど激しかった。激しすぎていた。

 

 ラウラは箒の熱意あふれる怒りの叫び声を平然と聞き流すと、さも当たり前のことを言っただけのような口調で普通に説明してくるだけ。

 

「問題ない。どうせジャンヌとの試合が始まった直後に、バカの一つ覚えで前に出ようとする奴をワイヤーブレードで絡め取った後、アリーナ脇まで遠心力で投げ飛ばし邪魔者を排除してからジャンヌとの決着を一対一で算段だったからな。状況が多少変わってしまったが、この程度なら許容範囲内だ」

「この状況で許容範囲内なのか!? あとお前、今回のタッグマッチが開催された目的を理解してないのか!? 自衛力強化のためだぞ!? 私怨を晴らすための場じゃないんだからな!?」

「IS学園と生徒会執行部の決めた都合だ。私は知らん。興味もない。所詮は皆、敵だ。敵はすべて倒すだけのことだ」

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

 

 箒、思わず地団駄を踏みまくるしかない!

 

 ・・・・・・実のところ、一夏に負けず、一夏に惚れず、そもそも一夏と戦ってすらいない上に、チームプレイにも敗れることなく、最初のタッグマッチ大会でも一対一を二つ作っちゃっただけで最後まで終わらせちまった、この世界ラウラにとって織斑一夏という少年は未だ味方ではなかったりする・・・。

 

 いや、それどころか基本的にIS学園に所属している国家代表候補生たちとは、いずれ戦って倒さなければならない敵同士であることに未だ変わるべきことも何も起きておらず、『自分一人の力で敵を倒し尽くせなければ弱い』という思想から脱却する理由と未だに一度たりと出会っていなかったりするのである。

 

 この世界の彼女にとって、自分自身は『ジャンヌ倒す!』の一心で強くなった存在であり、一夏は以前のように八つ当たりで倒そうとする気はなくなったまでも、それまでずっと恨み続けてきた記憶が払拭されるようなイベントにも遭遇していないため『敵』であることには今も以前も変わりはなく、『ジャンヌを倒したら、次はお前だ・・・!』の最有力候補として名前が挙がっているままなのである。

 

 

 ・・・と言うよりも、一夏に惚れることのなかった世界戦でのラウラにとって、ある意味では一夏以上にムカつく相手もそうはいない。

 

 今年からIS操縦を習い始めたばかりで、聞けばIS学園に強制入学させられるまで興味すら持ったことがなかったままミドルスクール時代までは過ごしてきたというのに、長年ずっとISについて学んで基礎から教わり強くなろうと努力してきた実績のある自分たち代表候補生に対して先輩として敬う気持ちも見せず、敬意さえ払うことなく、『強さ』についてご高説を垂れてきて、他人の助けがなかったら自分の身一つ守れなかったかもしれない危うい機会に何度も見舞われるほど油断しきった生活態度を送りながら、他人に対しては『守ってやる』だなんだと上から目線で見下した発言をしてくることが度々ある。

 

 それでいて、実績だけは腐るほどあるのだ。それこそ異論の余地がないほどに。

 挙げ句の果てには、臨海学校において自分たち代表候補生が束になって窮地に陥っていたところを瀕死から回復したばかりの新兵に助けられてしまうという致命的な失態をやらかしてしまっているのが、自分たちIS学園一年に所属している各国代表候補生たちのウソ偽らざる正直な立場というものでもあった。

 

 ・・・これでは、たとえ個人的に不平不満があったとしてもラウラは流石に口をつぐまざるを得ない。彼女にも公の立場というものがあるし、事実として借りもある。

 まして、出会い頭に逆恨みから殴ってしまったり、他にも迷惑かけまくった自覚を今では持つようになってしまったラウラにとっては、思うことがあってもなくても口に出すのは憚られる存在に今では一夏はなってしまっていたりした。

 

 それは、たとえるなら『実績を盾に取って命令無視や反抗的な言動を黙認するよう要求してくる生意気な部下を持った上官』と似たような心理であり。

 ラウラにとって織斑一夏という名の少年が、他とは違って『生意気な黒髪の小僧』でしかなくなってしまっていたのは仕方のないことだったのかもしれない・・・・・・。

 

 これを恨みに思って、嫌がらせをするなどという行為が筋違いであることぐらいラウラも承知しているが、それでもムカつくものはムカつくし、嫌いなこと言ったりやったりする奴は嫌いなのである。

 

 正しい理屈だけで感情的な反発心やら、プライドからくる嫌悪感やらを納得させられ何の蟠りも感じなくて済むようになるなら苦労はしない。自分はそこまで感情を完璧にコントロールできるほど非人間的になれた覚えもない。

 人はマシーンではないのだから、怒りや不平不満、負の感情だって普通に感じるし持ち合わせざるを得ないものなのである。

 

 この世界線でのラウラは、そんな事情から一夏のことを『超高熱・結果論的正しさのカミソリ』と呼んで忌み嫌うようになっており、この時も自分が意図して呼び寄せたわけでもない襲撃者たちであるゴーレムⅢの相手を『守りたがり』の一夏が率先して引き受けたがったので一任して自分はジャンヌとの決着探しのため単身飛び出すのに利用することを『丁度いい口実が飛び込んできてくれた』としか思っていなかったのである。

 

 ・・・・・・何気にヒドい奴になってしまっているが、実際問題として味方じゃないし、将来的には今のところ確実に敵同士になる立場にあるし、たまたま倒したい敵が同じだからで野合した同盟の絆なんて「その程度」と言ってしまえばその通りであるのも事実ではある。

 

 『呉越同舟』は長続きしない。・・・ある意味では正しいんだけど、リアル所属国の違い事情をこんなところにまで持ち込まなくても良いのではとも思ってしまえる、この世界線版ラウラちゃんによる現在の心境説明でありましたとさ・・・・・・。

 

 

「え~とぉ・・・・・・、二人ともそろそろ私《ミストルテインの槍》撃っちゃっていいかしら? そこにいると巻き込んじゃって危ないんだけど・・・。

 お姉さんとしては敵がセンサーに異常起こして修復作業中らしい今のうちに仕留めておきたいんだけど・・・・・・」

「――フンッ、どうやら余計な手助けで無駄な時間を費やしてしまったようだな。私は当初の目的通りジャンヌ探しに戻るとしよう。ではな」

「アホーッ! もう二度と来るな人でなし―! 一夏を見捨てた人殺し―ッ!! 私の一夏に何かあったら一夏返せバカーッ!!」

 

 

 箒による、愛の怒鳴り声を贈る言葉としてラウラは飛び立ち、次いで楯無会長による《ミストルテインの槍》とかいう名の攻撃が放たれたらしい爆音が耳に届いてきたが、そんなことは彼女の知ったことではない。他人事だ。今の彼女にとってはどうでもいい。

 

 ・・・・・・しかしなぜ彼女は、ここまで冷酷非情にジャンヌとの決着だけを望みとする『修羅』と化してしまっているのだろうか・・・・・・?

 それには深く、そして非常に浅い、こんな事情が背景にあったりしたからである―――

 

 

「・・・突然の奇襲によって学内各所のセキュリティがロックされ、満足に連絡も取れぬまま各所で分断されて各個撃破戦法の好餌となってしまっている、この状況・・・フフフ、完璧だ。

 これでは学園執行部も織斑教官も私の動きを察知できまい! しかもこの状況下では、敵味方の識別など無意味。生き残るために味方を撃ったとさえ言えば確認しようもない状況・・・ふふふ、ハハハ・・・完璧だ! 完璧すぎる閉鎖空間だ!!

 今この場に於いてなら! 私とジャンヌ、どちらが死んだとしてもやむを得なかったで済ますことが可能になる!

 相手を倒すためにではない、殺すために全力を出し合う『死合い』を行い合えるのは今をおいて他にないと断言できるほどに!!!

 ジャンヌと私、どちらが本当に強いか決められる刻が遂に訪れたのだ!! フハハハァァァッ!!!」

 

 

 ・・・という事情である。

 コイツ頭おかしいんじゃねぇのか?と思う者もいるかもしれないが、こんな奴見て頭おかしくない可能性を考えてる時点で同類確定なので気にしなくて良いと断言できるだろう。

 

 つまりはそれぐらいに・・・・・・ヒドすぎる人格改変起こしてしまっていた女の子、それがジャンヌ・デュノアの好敵手と書いてライバル、ラウラ・ボーデヴィッヒだったというです!!

 

 

「待っているがいいジャンヌよ! 貴様を倒すのは亡国機業でも謎の無人ISでもなく、この私!!

 ドイツ軍のエリートであり、代表候補生でもある専用機持ち!! ラウラ・ボーデヴィッヒ様なのだぁぁぁぁぁッ!!!

 今この場に於いてのみ私はーッ! オウガにも優る者となってやるぅぅぅぅぅッ!!!」

 

 

 こうして『決着』だけを叶えたい願いとして掲げた少女は、戦に飢えて戦いのためなら味方を食い殺すオウガとなって戦場と化したIS学園内をひた走る!!

 獲物を求めて、倒したい勝ちたい勝利したいと願う唯一の存在を探し当てるために、ただひた走り続ける!!

 

 

 

「あー、どうすっかなぁ・・・あーらよっと」

「ひょいッス」

「オレたちの得意能力使ったコンビネーション『イージス』なら、コイツの攻撃ぜんぶ躱せるし、防げるし、弾けるし、逸らせるし、流せるし、止められるけど・・・・・・これ、攻撃しねぇと終わんねーんだろうなー」

「そッスね、先輩。なのでお先にどうぞッス!」

「あ、てめーフォルテ。それが先輩に対する態度かよー。・・・はぁ~、でもまぁしょうがねぇから、いっty―――」

「反撃するッスかa――――」

 

 

「私の行く手を邪魔をするな―――――――ッッ!!!!!!」

 

 

 

「へぶしッ!?」

「あべしッ!?」

 

 

 

「悪ぶりたい不良ゴッコがやりたいなら普通の学校へ行け! ここはもう戦場なんだぞ!? 甘ったれるな平和ボケしたクソガキ共!!!」

 

 

 

 ・・・走ってる途中で 戦闘中だって言うのに銃も構えず武装も展開していない、舐め腐った名前も顔も知らない初対面の平和ボケしたバカガキ二人組を後ろから蹴っ飛ばして喝を入れてやったりしながらジャンヌを求めて戦場を走り回り続ける!!

 

 探しているのはジャンヌだけ。戦いたいのもジャンヌだけ。倒したいのもジャンヌだけ。

 只ひたすらに、ジャンヌ倒す!ジャンヌ倒す!!ジャンヌ倒すぅぅぅッ!!!・・・っと一心不乱に唱え続けて強くなるため特訓し続けてきた拗らせヤンデレ変な方向のレズ気味少女はただひたすらにアリーナ内を走りまくる!!

 

 自分が今いる場所とは正反対の方角で、『ぶえっくしょい!?』と盛大に親父臭いクシャミしてる目つきの悪いフランス人少女がいたことなど考えようともしないまま、情熱の赴くまま只走り続ける!!!

 

「ムッ!? こっちだな! こちらの方角からジャンヌの匂いが感じられる気がした!!」

 

 

 犬か、お前は。・・・とツッコんでくれる者もいないラウラの一人旅は続く。

 

 

 

 

 ――そしてまた、ジャンヌでもラウラでも、それ以外の専用機持ちたちの戦いでもない、最後に残されていた残る一人の戦いもまた、今この時から始まろうとしていたことを、本人自身も含めて誰も気づいていない。気づいてやれていない・・・・・・

 

 

「・・・ん、あ・・・・・・。い、一体なにが起きて・・・え? こ、この景色は!? い、一体なにが起きたの!? ね、ねぇジャンヌ!? 織斑君!? みんな・・・どこに行っちゃったのよー!?」

 

 

 ―――今まで気絶し続けていた最後の専用機持ちが目を覚まし、自らの愛機である専用機を展開できる状態になったと判断したバイザー型に置き換えられた線のように細い眼が、赤く光りながら自分自身をも起動させる。

 

 硝煙と瓦礫の向こう側から、ゆっくりと自分に向かって近づき始めた脅威を、当人である簪はまだ気づけていない・・・・・・。

 

 

 そんな中、簪を探し続けて彷徨い歩いていた少女が、遂に真理へと到達して正しい答えと捜し物の位置を見つけ出すことに成功していた!!!

 

 

 

「カンザシいるー? ・・・ってここにもいないし。う~ん・・・よし。ここは一旦、開会式の会場まで戻ってみるか!

 こういう捜し物って大体の場合、最初の場所にあるか、一番面倒なところにあるのが常識だし! 多分あそこよきっと! 多分だけども!!!」

 

 

 こうして、ゲームと現実の区別がいまいち付いていない現代っ子なゲーマー少女は主人公らしく、ヒーローらしく。旅だった最初の場所へと戻ってきて戦いに終止符をつけにくる土壌が成立したのであった・・・・・・。 

 なんかグダグダな流れな気がするけど、問題はない。

 大抵の場合、ヒーローが敵の魔手からヒロインを助け出す時。

 

 ・・・その場に居合わせた理由自体は『成り行き』である場合がほとんどなのがヒーローの条件―――俗に言う、“お約束”というものなのだから大丈夫。・・・たぶん。

 

 

続く

 

 

オマケ『その頃の一夏くん』

 

一夏「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

ズカバキドカボカドカンドカン!!!

 

*全ペア中で唯一、1人だけでゴーレムⅢを相手に一騎打ちしなきゃいけない状況になっちゃってるので会話してる余裕はありませんし、会話する相手もおりません。

(でも経験値だけは他の誰より上がる。・・・勝てればの話だけれども・・・)



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第30話「聖女の条件(注:民衆に都合がいい活躍しないと魔女枠になります)」

久々の更新となります。久しぶり過ぎてジャンヌ(オルタ)の台詞とか忘れてる部分多すぎることに気付きましたので一先ず無難な範囲でギャグパートを。
残りは次回ですかねぇ…。(我ながらなかなか先に進めなくて情けない…)


 更識簪が目を覚ましたとき。彼女がいる場所は地獄と化していた。

 

「こ、これは・・・一体、何が起きたって言うの・・・っ!?」

 

 階段下の空きスペースという位置で座り込んでいたため、無人IS部隊襲来の折には運良く衝撃で気絶しただけで無傷だった簪だが、意識を取り戻した頃には既に生徒たちは避難し、講堂は無人と化してしまった後だった。

 

 先ほどまで気絶していた簪の主観では、つい先ほどまで学園中の生徒たちがISアリーナに集められて、いつものように眩しい姉の演説に歓呼でもって応じ、観客こそいないものの本物のタッグトーナメント会場が移転してきたような活気が溢れていたというのに・・・・・・。

 

「だ、誰か・・・誰かいないの・・・っ!?」

 

 弱々しい声で簪が呼びかけても、周囲には何処からか流れてきた爆煙か硝煙の白い靄が薄く漂っている光景が見えるばかり。

 何が起きたかは気絶していた彼女には分からない。だが、異常事態が起きたことだけは確かな事実のようだった。

 

「と、とにかく・・・・・・安全なところへ避難しないと・・・・・・」

 

 兵器を扱わせる教育機関として、日頃から行われている避難訓練の手順を思い出し、簪は半ば現実逃避気味に日常の一部をなぞる道を選んで、ほとんどが電子制御されているIS学園セキュリティの中で非常口だけは手動で開ける扉を開閉して、その先へと繋がる避難訓練マニュアルで規定されている安全な場所へと向かって歩みを進めていく。

 

 周囲に高い建物がなく、崩落する恐れのある天井もない、【ISアリーナのグラウンド】という名の【安全な避難場所】へ・・・・・・彼女は自ら赴く道を選んでしまったのである・・・・・・。

 

 

 

「よい、しょ――っと」

 

 非常用脱出通路の出口側にあるハッチを開き、広々としたグラウンド上へと這いずりだしてきた簪は、自分より先に避難しているはずの生徒たちが一人もいないことを訝しみながら、それでも今が非常事態で『敵が襲ってきていて』『自分が戦わなければいけなくなってる状況にある』とは考えないまま、グラウンドの中央部へ向かって歩き始める。

 

 それは果たして彼女自身が目を逸らしたがっていた願望の現れ故の行動だったのか、それは分からない。

 

 ただ一つ確かなことは、更識簪にとっては当然の権利である『自分は戦いたくない』という願望が叶うことを、彼女の敵たちが尊重してやる義理を持ち合わせていなかった。只その一つだけ。

 

 ――ガシャン!!

 

 突如として、簪の目の前に飛来してきた、人の形を持つ鋼鉄の塊。

 女性的なシルエットをした真っ黒な装甲坂。バイザー型のライン・アイ。羊の巻き毛のように大きく前へと突き出たハイパー・センサー。

 

 そして・・・肘から先が巨大なブレードとなった右手と、掌に超高密度圧縮熱線砲を放つため四つの穴が開いた左腕。

 

 戦闘用無人量産型IS『ゴーレムⅢ』

 

「ひっ・・・・・・!? な、なにあなた一体・・・!?」

『―――』

 

 突如として降り立ち、自分の行く手を遮るように迫ってくる漆黒の無人IS。

 その決して動くことのない、のっぺりとした無個性な女性型の顔を見上げて、ライン・アイと目が合った。――そう感じさせられた瞬間には、彼女の右手に伸びかけていた待機形態のISを展開させて生き延びようとする意思は、プッツリと途切れてヘタリ込むことしか出来なくなってしまっていた。

 

(た、たす・・・けて・・・・・・。誰か、助けて・・・・・・!!)

 

 ぎゅっと目を閉じて、祈るように縋るように、ただひたすら強く念じる。

 こんなときヒーローがいてくれたら、きっと自分を助けに来てくれるに違いないと。

 風を纏って颯爽と、闇を切り裂いて堂々と、完全無欠のヒーローが現れて自分を助けてくれるんだ!――と。

 

『―――』

 

 しかし、現実は夢やアニメのようにはいかない。

 一歩、そしてまた一歩と彼女に近づいてきて手を差し伸べてくれるのは、ヒーローの優しい手ではなく、ゴーレムⅢの熱線砲を備えた金属性の冷たい左腕のみ。

 

 その全く救いのない、絶望的すぎる現実を目の当たりにして、簪の頭に浮かぶのは、不思議と完全無欠な姉ではなく、『彼』の名前と姿のみ。

 

「・・・・・・り、む・・・・・・ら・・・く・・・・・・」

 

 それは彼女が望み求める存在が『ヒーロー』であって『ヒロイン』ではなかったせいなのか。この学園と彼女自身の狭すぎる交友関係で、その条件に合致している対象が彼一人しか知らなかっただけだったのか。

 あるいは、本能的に彼女は自分の思い描く理想のヒーローを・・・・・・『自分だけの王子様』のイメージを彼に被せて見てしまうようになっていた故だったのか――それは分からない。

 

 だが不思議と今の簪は、自分を助けてくれる存在に、他の誰かではなく彼を選んだ。彼だけを選んだのだ。

 

「おり・・・・・・むら・・・・・・く・・・・・・っ」

 

 ゆっくり、ゆっくりと伸ばされていくゴーレムⅢの左腕を前にして、動くことなく逃げることもせず、ただ一心不乱に祈り縋って、救いを求める。

 

 ピシッ―――。

 

 そして・・・戦火に苦しめられ、救いを求め続けた無力な少女の願いに天が応えたかのように。

 簪の立つ場所と敵の立つ場所。その丁度中間点に位置する壁に亀裂が走り出し。

 

「―――織斑くんっ!!」

 

 簪が全身全霊の想いと気持ちを込めて命の雄叫びを叫んだ瞬間。

 

 

 ドゴォォォッン!!!

 

 

「カンザシィィィィィィィッ!!!!」

 

 

 壁を粉砕しながら突き破って現れた、黒い疾風。黒き鋼鉄の軍馬に跨がる漆黒の女騎士。

 

「――っ!? ジャンヌ!?」

 

 簪は驚愕の余り彼女の名を叫び、思わず恐怖以外の涙がこぼれそうになってしまう。

 求めていた彼ではない。助けに来て欲しいと願った男の子ではない。女の子はヒロインになれても決してヒーローになれることはない。

 それでもいいと、彼女は想った。現実は夢やアニメのようにはいかない。ヒロインの窮地を救いに来てくれるのはヒーローであるとは限らない。

 

 それでも・・・来てくれたのだ。友達が、自分を助けるために危険も顧みず、こんな所まで・・・・・・ッ!!

 

(ジャンヌ・・・っ、ジャンヌが、来てくれた・・・・・・っ!!)

 

 涙ながらに自分の救い主へと駆け寄ろうとする簪と、敵の魔手から救出するため高速接近していくジャンヌ。

 

『―――』

 

 だが、機械で造られた無人ISの頭脳に「友情」などと言う人の心を思いやる機能は搭載されていない。

 あらたなIS専用機コアの接近を関知したゴーレムⅢは、プログラムに従い敵の速度と、救助しようと近づいていく少女との距離を計算し、速度を加えて接触予測ポイントと発砲のタイミングを完全に演算し終えたとおりの角度でチャージを開始。

 互いが互いと接触し合って、足を止めた瞬間に―――二人まとめて射程に収まるよう計算され尽くした射撃によって終わらせようと目論んでくる。

 

 

「カンザシィィィィッ!!」

「ジャンヌ・・・・・・っ」

 

 だが、そんなことは露知らず、孤立した味方を救うために危険を承知で援軍に駆けつけてきた救国の女英雄のごとく高速接近し続けてゆくジャンヌと、そんな彼女による助けが来たことを喜んで全力で駆けだしていき、敵が見過ごしてくれている理由を疑いもしない更識簪。

 

 互いと互いが交差し合って、ジャンヌの両手が飛び込んでくる簪の体を優しく抱き留めて動きが止まった―――そうなるように思われた、そのシーンの次の瞬間に。

 

 

「ニー・バズーカァァァァァァァッ!!!!」

「ジャンぶふぅぅぅぅっ!?」

 

 

 ・・・・・・高速接近してきながら放たれた飛び膝蹴りモロに食らわされて、簪は元いた位置まで来たときの倍以上の早さでリバースさせられて強制送還。

 その一瞬の後。彼女たちがいた空間を、一条のビーム光が過ぎ去っていくことになったため、結果的にジャンヌの行為が何を目的としたものであったかは誰の目にも明らかにはなったのだが。

 ・・・他にやりようなかったのかお前は・・・。あと、ニーバズーカって。確信犯確定じゃねぇか。

 

 まぁ、そんなこんなはいざ知らず。

 とりあえず敵の初撃から簪を助け出すことに成功したジャンヌは、いったん地面に降り立ち、救い出した味方の安否を確認すため声かけをして、

 

 ズザザザザ――ッ!!!

 

「カンザシ! 無事!? 助けに来てやったわよ! まだ死んでないわよねッ!?」

 

 足ブレーキをかけながら速度を落とした後、凜々しい表情を浮かべて助けた味方の安否を気遣う、その姿だけは彼の救国の聖女がオルレアンで孤立している味方の救援に来た姿と名前通り連想させられなくもない、名高き女英雄っぽさに満ちあふれたものであったが、しかし。

 

「・・・で、殿中が・・・っ!? 鼻が・・・!! 陥没させられたみたいに痛いぃ・・・・・・ッ!!」

 

 ・・・・・・助け出した味方の美少女が、自分の鼻おさえながら涙流しまくって床のたうちまくってる姿を背景に置きながらじゃ、誰も名高き救国の聖女による救済シーンを連想しようなんて考えるバカな愚行はしないだろうし出来ないだろうなぁー・・・常識的に考えて。

 

 しかも、その挙げ句に。

 

「痛いって事は死んでないって事ね!? よし、それならいいわ! 逃げるわよッ!!」

「・・・え? ちょっ、待・・・・・・ッ!? グェェェッ!!??」

 

 ベテラン軍人みたいなこと言い出したと思ったら、いきなり倒れて床転がっていた簪の着ている制服の襟首つかんで宙に浮上し、再びISを使って戦場からの離脱を試みる!!

 

「ちょ、ちょっとジャンヌ待っで! 首締ま・・・ッ!? ぐ、ぐるじいィィィッッ!?」

「我慢しなさい! 殺されて死ぬよりかはマシでしょう!?」

 

 ・・・その結果として、着ている制服の襟首つかまれ空飛ばれたため、要救助者が窒息させられる羽目になっていたりもしたのだが・・・。

 当然ながら、脳に酸素が行き届かなくなるから窒息状態が起きるのであり、脳に酸素が足りてない状態でISを正確にイメージして展開させろなんて無茶ぶりにも程があるし、それが出来れば窒息も多分していない。

 

 まぁ、確かに安全優先して結果的に死ぬよりかはマシだし、IS機能の『絶対防御』もあるので窒息死する心配だけはない(死ぬことさえ出来ないとも言う)

 ジャンヌの持つ機体特性を鑑みた上で、必ずしも間違った行動とまでは言い切れない部分は確かにないわけではないのだが。・・・・・・絵面がなぁー・・・。

 

 苦しみもがく少女の首つり状態で空飛んで逃げようとしている、黒い鎧を纏った目つきの悪い女騎士って・・・・・・これもうダークヒーローですら通用しそうにねぇ悪役が民間人を処刑してるようにしか見えようがないのだが・・・・・・いいのか? この助け方で本当に・・・。

 最後は火刑で殺されて、報われなかった救国の英雄と同じ名前を持ってる女の子が人助けするときに使う手法は色々と連想できるものが多くて困る。

 

『―――』

 

 しかし、それでも人の心を持たないクソ真面目な無人ISゴーレムⅢは、雰囲気にも絵面にもセリフにも流されることなく、逃げる敵を追撃するため下からの位置で迎撃しようと狙いを定める。

 チャージを開始し、飛び去ろうとしているジャンヌの背中にロックオンを完了させた。

 

 また、このときゴーレムⅢは馬鹿正直に相手の背中の中央に狙点を定めるような愚行は犯さない。

 ロックオンされた相手からは誤差として切り捨てられるよう計算して、僅かに右方向に砲門の向きをズラしていた。

 

 これはジャンヌが現在、簪の襟首を右手でつかんで引っ張り上げていることが理由によるものだ。

 ゴーレムⅢの放つ射撃から、丸腰の簪に当てられないように避けるためには、少しでも彼女を敵の攻撃の当たり判定から外す必要があり、上も下も左に逃げても、右手に持ったままの簪は敵の攻撃に晒されるかもしれない時間が長くなってしまうしかない。

 

 それ故に、右方向に高速で回避行動を取る確率が一番高いと、ゴーレムⅢの電子頭脳は判断し、僅かに狙点をズラしてロックオンを完了したのである。

 この一発で仕留める必要性は微塵もなく、バーニアを損傷させるだけでスピードは低下し、彼女たち二人は足を止めて自分と戦って勝つ以外に逃げ延びる道をなくさせることが出来るだろう。

 それこそが自分たちを造りし、操り手の望みであり、襲撃の目的。

 最後まで、それに付き合わせるためにも、ゴーレムⅢは敵を殺す気まではなくとも逃がしてやる気だけは絶対にない一撃を、ジャンヌの背中めがけて狙いを定め――発射させた。

 

 

 ビシュ―――――ンッ!!!

 

 超高速で迫る熱線! 距離的にも高度でも角度でも敵の方が絶対的に有利で、仕留められることこそなくても、損傷は免れそうにない、この背後からの攻撃に対してジャンヌは!!

 

「緊急解除ッ!! レリーズ!!」

 

 ―――っと、敵が発砲した瞬間にはタイミング見計らって、展開していたISを全面解除して空中で生身に。

 当然ながら人は空を飛べない生き物であり、可能性だけで人が竜になれるんだったら恨み辛みで竜に変化してパリ焼き滅ぼす魔女にでも聖女様がジョブチェンジするぐらいのことは出来ただろうからあり得ない幻想のフィクション話でしかなく。

 

 人が空高く飛び立つためには、機械の翼による補助が欠かせない。

 代用品として、蝋でできた翼でも空飛べる話もあるけれども・・・・・・どっちみち翼が溶けたり消してしまったりした人間が再び空へと上がるためには――地面に落下して天国に行くしか道はない。

 

「~~~ッ!? き――っ」

 

 一瞬の浮遊感の後、気持ちの悪い吐き気をもよおさせるエレベーターで下降りるときの感覚みたいな奴を味あわされて、簪が死の恐怖心から悲鳴を上げそうになった、その瞬間。

 

 

 ビシュ―――ンッ!!!

 

 自分たちの数ミリ頭上を、熱線が通過して通り過ぎっていく光景が確認され、威力は高いが撃つまでの溜め時間がけっこう必要な熱線砲、いわゆる『か~め~は~め~波ァッ!』みたいな射撃攻撃は連発されないことを確認済みなジャンヌは、再び叫び声を上げ。

 

「そして展開! 再び浮上!!」

 

 今さっき消したISを再び展開して、今度こそ全速離脱。

 敵が撃った砲口に穴が開いた場所見つけて逃げ去っていきましたとさ。

 

 夢もヘッタクレもない、出したり引っ込めたり思いのまま自由自在なトンデモ兵器ISを使った逃亡方法ではあったものの・・・・・・まぁ、現実の敗走なんてそんなもんである。

 孔明が逃げて走ってくれた仲達さんも、向かった先は自分の国の首都で王に対する簒奪しに行っただけだったし。

 

 負けて逃げるのが格好いい理由はどこにもない。敗軍は敗軍でしかないのが現実の戦闘なのだから致し方ない。

 

『―――』

 

 そう、仕方がないのだ。“今逃げられてしまったこと”は、仕方がない。

 問題はここからだ。あんな小細工を使って逃げに徹した、データにあるジャンヌ・デュノアらしくない戦い方から計測して、残りISエネルギーは多くないと見ていいだろう。

 焦る必要はなかった。

 ゴーレムⅢと彼女たち二人の専用機持ちとの戦いは、まだまだこれからなのだから―――

 

 

 

 

 

 

 さて、その頃。

 敗軍の将と兵たちには、逃げる敵を悠々と追いかけて仕留めればいいと、寛容な気分で許してやるような贅沢をさせてもらえる身分では全くなくなっていた。

 

 敵のセンサーから逃れるためにISを解除し、適当な瓦礫の影に隠れ潜みながら、二人の敗残兵たちは絶体絶命の窮地を乗り切るため知恵と勇気を出し合い、ピンチをチャンスに変えるため絆の力で一発逆転を誓い合うヒーロー的展開に・・・・・・・・・なっていなかった。

 

 

「・・・なんとか生き残れたわね・・・、凄まじい攻勢だったわ。

 私の人生の、ベストふぁ~いぶに入る死闘だったわよ・・・・・・」

 

「げほっ!? ごほっ!? ゲッホごっほ!?」

 

 

 ・・・・・・まぁ、ひとまず。

 今のところは、馬鹿とオタクの屍拾う者なしで済んでる状況DEATH。

 

 

 尚、ジャンヌの専用機【ラファール・キャヴァルリィ・ノワール】の残りエネルギーは0に近いDEATH・・・・・・。

 

 

つづく




【次回予告のようなオマケネタ(つまり実際には多分やらんと)】

簪『だって! だって・・・もう無理なんだよぅ・・・この世にヒーローなんか、いないんだよ! 私、やっぱりダメだっよ・・・お姉ちゃん・・・・・・』

ジ『?? なに理屈ごねてんのアンタ? 単に命が惜しいってだけでしょうが』

簪『そんなハッキリ言わなくても!?』


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第31話「月のきれいな夜に吼え立てる、我が憤怒の復活を!!」

長らく更新をお待たせし過ぎて申し訳ありませんでした。
先日プリヤ二次創作を更新したのでFate絡みで(厳密にはモデルなので違いますが)今作の続きも急いで書いて完成させた次第です。

……ただ久々だったせいか途中からテンションが上がり過ぎてしまい、微妙な終わり方になってしまったことをお詫びいたします…すいません……。
久しぶり過ぎて楽しい気分になりすぎたようです。次には落ち着いてるでしょうから気を付けますね。


 各専用機持ちのレベルアップを図るため、全学年合同で行われたタッグマッチ。

 そのイベントは、かつてと同じように乱入してきた無人IS《ゴーレム》の最新型によって蹂躙され、アリーナ内各所で専用機持ちたちが分断され孤立無援での戦いを余儀なくされる中。

 

 突然の襲撃者に対応するためのISを、未だ展開できていないのは簪だけだった。

 ジャンヌ・デュノアの機転(?)によって窮地を救われ、瓦礫の陰に隠れて小休止を取りながら今のところは発見されていない場所で、ガタガタと噛み合わない歯を鳴らしながら怯えきることしか出来ていなかったのだ。

 

 ・・・・・・だが、それも無理はない。

 彼女は別に、家族の不幸から家を守るため国家代表の地位を欲して、専用機乗りになりたかった訳ではない。

 たまたま適性が発見され、押しつけられた立場と専用機であっても、誰かを守りたい願いと生来の負けず嫌いで強さを求めて、専用機開発を再始動させた訳でもない。

 

 ただ姉に対するコンプレックス。

 それのみが彼女を突き動かし、未完成だった専用機を完成させ、戦場へと参加させられる資格を手に入れてしまうに至らせただけなのだ。

 

 完成された美。優れた頭脳。常人を超越した肉体能力。多くの人心を掴んで離さない魅力。

 

『あなたは何もしなくていいの。私が全部してあげるから』

『だから、あなたは―――』

『いつまでも今のまま―――無能のままでいなさいな』

 

 

 ―――ち、違う! 違うッ! わ、私にだって・・・・・・私っだって・・・・・・きっと・・・・・・っ!!

 

 

 幼き頃から耳元でささやき続けてきた幻の声が、彼女をここまで辿り着かせたモノ。その正体。

 誰かと戦う意思など微塵もない、誰よりも強くなりたいなどと願う熱意は些かも持ったことはなく。

 ただ姉だけを意識して、姉に出来たことが自分にも出来るのだと証明したくて専用機を完成させて、合同タッグマッチ参加まで漕ぎ着けてしまっただけの存在。

 

 それが更識楯無の妹、更識簪の戦う理由の正体だったのだ。

 とうてい敵が攻めてきたからと、いきなり戦えるだけの心構えなど出来ているはずがなかったのだ・・・・・・。

 

 

 ――しかし、現実は夢やアニメのように甘くない。

 すでに味方の弾薬は残り少なく、援軍の目途も立たず、孤立無援の状況下で敵に追われて、隠れ場所もいつ発見されるか分からない状況の中。

 

 戦う力と、ISエネルギーを持っているのは自分のみ。

 そういう状況下になってしまっていると、たとえ自分に戦う意思があっても無くても、こういう事を言われる羽目になっちゃうのは仕方が無し。

 

 

「と言うわけで、カンザシ。アンタが専用機に乗って戦いなさい。でなければ帰れ!!」

「イヤだよ!? 無理だよ! 私には出来ないわよ!!

 あと、帰れるんだったら今すぐ帰して欲しいんだけどぉ――――ッ!?」

 

 

 自分をつれて脱出してくれたけど、その前にアリーナ中を駆けずり回ってエネルギー無駄遣いしまくって、最後のエネルギーもさっきの脱出行でほぼ0になってたからカンザシ守るのに役立てなくってたフランス代表候補生の片割れジャンヌ・デュノアからの無茶ぶりに、簪は涙ながらに声量限界ギリギリの声音で叫び声を上げ、敵に気づかれることなく目の前の友人だけに怒号するという器用なマネをやってのけ、現状の不本意すぎる待遇改善を要求していた。しまくっていた。

 

 然もありなん。彼女としては、いきなりの実戦に巻き込まれて、完成したばかりの新型最新鋭ロボットに乗り込み、突如として襲撃してきた謎のロボット軍団と戦って倒せとかいう王道ロボットアニメの主人公ポジションにいきなり昇格させられちまったようなものである。

 

 そんなもの、新たなる人の形の新人類とか、親がロボット開発者で機体が勝手に動いて守ってくれる選ばれた子供たちでもない限りには、才能あるだけで普通の女子高生には無理だ。

 それが出来るアイツらやっぱり人間じゃない。本当は戦争が好きな種族なんじゃないか?ってレベルで普通じゃない。

 

 そういう特殊すぎる選ばれた特別な人たちに助けてもらえるヒロインの作品とかに憧れているのが彼女だったけども、別に主人公になりたいと憧れていたわけではない。

 どっかのイノシシな友人だったら憧れるかもしれないけれども、自分は無理。むしろ守ってもらえるヒロインポジションが希望です。

 

「じゃあ、仕方ないわね。ここで敵にやられて殺されなさい。ヴァルハラまでは私も一緒にお供させられて上げるから」

「それもイヤ――――ッ!!!!!」

「どっちなのよ」

 

 そんな相手の願望に配慮すること一切なく、ジト目でツッコむジャンヌちゃん。

 いやまぁ、子供のワガママみたいな展開になっちゃっているけれども、簪の言ってる主張の内容的には、そうなってしまうのも現状では事実な訳でもあるわけで。

 

 戦いたくないんだったら、殺されるしかないし。

 殺されるのがイヤなら、戦って倒すしか道がない。

 

 彼女を助けに来てくれたのが、誰かを守ることに憧れていて―――特にカワイイ女の子とか美人のお姉さん助ける時はやる気出しまくってくれる武士道系の朴念仁美少年だったなら別だったかもしれないのだけれども。

 

 残念ながら簪が今を生きてる世界において、彼女を助けに来てくれたのは突撃特化で、守ることは性に合わないと切り捨てて今に至っているイノシシ少女だと、どうにもこういう展開は相性が悪い。

 

「だ、だいたいジャンヌは私を助けに来てくれたんでしょ!? だったら私の代わりにジャンヌがメインで戦って、私もサポートで支援するぐらいなら出来るから―――」

「ああ、それは無理ね。私のノワールは、もうエネルギーあんま残ってないから」

「なんで!?」

「さっきアンタを捜し回ってアリーナ中を徘徊してる間にガス欠しちゃった」

「おバカ!? いいえ、このおバカッ!!!」

 

 簪ちゃん、戦うことを恐れるあまり普段だったら絶対言わない他人への罵倒を、小声で最大音量の大声出して言っちゃいます。人を怒鳴ることよりも、今は敵と戦う方が恐ろしい更識簪ちゃん。

 

「ふぅ・・・仕方ないわね。私が残ったエネルギーで出来る限り戦ってみるから、その間にアンタは可能な限り遠くへ逃げなさい」

「い、いいの・・・? でも今、エネルギーが残り少ないって・・・」

「少ないけど、仕方ないじゃないの。戦う気がないヤツを、無理やり敵にぶつけたところで無駄死にするだけだし。やる気ないヤツよりかは私だけのまだマシでしょう?」

 

 さっぱりきっぱりと、割り切った口調で言い切りながらスクッと立ち上がって、格好付けのため髪をバサッとかき上げてみせるジャンヌ・デュノアちゃん。

 

 他の者なら、ほとんど誰もしない対応をする「己の意思で戦うヤツだけ来れば良い。無いヤツは物の役に立たん」を地で行く、主人公らしからぬ主人公ちゃんが彼女である。

 どっかの特攻馬鹿も似たようなこと言ってたジャパニーズコミックあったけど、自分は違う。アイツではない。根拠は特にないけど違うと言ったら違う。自分はあんな馬鹿じゃない。

 

「ほ、本当にいいの・・・? だったら私は、急いで他の所に助けを求めてくる! 絶対に見捨てたりなんかしない! それまで保たせるだけのエネルギーは残って―――」

「大丈夫よ問題ないわ。あと2,30秒ほどヘビィマシンガン撃ち続けたらお終いぐらいのエネルギーは残ってるもの。もう一戦やってから死ぬには十分過ぎる残量だわ」

「ダメ―――――ッ!? 絶対に助けが来るまで保たないからダメ――――ッッ!!!!」

 

 簪ちゃん再びの大声拒否。今度のは友人を置いて一人だけ逃げ出す案への否定です。

 戦うのは確かに怖いけど、十中八九というより確実に死ぬしかない死地へ友人身代わりの囮にして自分だけ逃げ出すため利用することになっちまう作戦までは容認できない、臆病だけど心優しくはあるのが彼女でした。

 

 って言うか、これだけ逼迫しまくった懐具合聞かされた上で許可しちゃったら、「自分が助かるために死んでこい」とか言ってるのと同義である。

 せめて、そういう厳しい懐具合は言わずに「十分さ。お前が戻ってくるまでなら余裕で耐えられる」ぐらいは言って欲しいものである。こういう時の、お約束セリフとして。

 

 

「ってゆうか戦死すること前提の玉砕展開は辞めてよッ!? 死んじゃったら何にもならないじゃないの!!」

「いや、そう言われてもアンタが戦わないんじゃ、そうするしかないし。他の道ない状況なんだし。仕方ないんじゃない? むしろ他にどーしろって言うのよ?」

「そ、それは・・・・・・」

 

 日本人の女子高生らしい、こういう展開のお約束説教かました簪ちゃんだったけども、相手が胡座かきながら白い目つきで告げてきた冷淡な現実的問題に反論することが出来ず、視線を右往左往さまよわせながら助けを求めるように周囲を見渡し。

 

 やがて―――どこにも助けの手など来る気配のない絶望的な状況を認識して、正しく絶望させられる。

 

「そん・・・な・・・・・・。こんな、ことっ、て・・・・・・」

 

 ガクリと膝から崩れ落ち、四つん這いになって絶望に打ちひしがれる事しかできない更識簪。

 そして、その姿を見つめながら胡座かいて座り込みながら、ボンヤリと他人事のように友人の絶望する姿を眺めてるだけのジャンヌ・デュノア。

 

 ―――彼女としても別に死にたいわけではなかったし、生きていたいと思っているし、どうにかして二人そろって脱出したいと願っていたのは嘘偽りなき本心ではあったのだ。

 

 そんな彼女がここまで落ち着いている理由はシンプルに――――自分じゃもう何もできなくなったから、全部カンザシに任せて委ねて命預けるしか出来ることないなぁー・・・・・・と。

 己の立場を完全に正しく把握しまくっていただけ。只それだけの理由だっただけである・・・・・・。

 

 もともとジャンヌは、守ってもらってるだけの癖して偉そうに糾弾してくる一般民衆モブキャラとかが大嫌いなタイプの視聴者であり。

 「権利」だの「責任」だの「報道の自由」だのと喚くしか能のないマスゴミとか左巻きすぎな人道主義者なんかは戦場に連れてってやって、敵に向かってマイク持たせて平和論叫ばせながら突撃させてやればいいとか思ってるタイプの過激な前線サイコー派な突撃バカ少女だった。

 

 そのため、「守ってもらうことしか出来ないなら文句言うな」という方針を、他人にも自分にも当てはめてくる、ある意味では潔いタイプではあり、軍国主義な時代錯誤ともいうべき非民主的発想の持ち主でもあったという次第。

 

 そんなタイプのため、簪に戦ってもらう以外に自分が助かる道がない状況下では、簪が自由に決めて良い問題だと思っていたし、そうするのが普通だとしか思ってもいなかった。

 

 だから彼女基準での「常識的判断」によって、『カンザシが戦いたくなければ一緒に殺されるしかない』『カンザシが戦うかどうかはカンザシだけで決めて良いこと。関係ない他人は引っ込んでいるべき!』・・・・・・という方針をすでに受け入れ終わっちまってて、考えることも迷うことも無くなっちまって久しい状況に今ではなっちまった後なのだった・・・・・・。

 

 

「ダメ・・・だよ・・・・・・。一人じゃ・・・・・・勝てないよ・・・・・・」

 

 すでに覚悟を決め終えて、全ての下駄をカンザシに預け終えていた、戦えなくなった戦士の少女ジャンヌ・デュノア。

 

「もう、ダメだよ・・・・・・できないよ・・・。やっぱり、私になんて、無理・・・だったんだ・・・・・・」

 

 そんな彼女だからこそ、嗚咽と共にはじまった、血を吐くような簪が抱え続けてきた苦しすぎる心の悩みを、葛藤を、姉に対するコンプレックスと裏腹の、完全無欠なヒーローに対して憧れた理由を。

 

「やっぱり・・・ヒーローなんて、この世にいなかったんだ・・・・・・」

 

 冷静に、客観的に、正しく簪の思いを理解しながら、黙って彼女の話を聞き続けられる。

 

「アニメ・・・みたいに・・・・・・ピンチに颯爽と現れて・・・悪の組織を倒してくれる・・・・・・完全無欠のヒーローなんて・・・・・・この世には、いないんだよ・・・・・・っ!!」

 

 己の無力さを呪い、やらなきゃいけないと分かっているに立ち上がる勇気さえ沸かない自分に嫌気がさして。

 

 ――不意に囚われることになった、後ろ向きな心の内側。

 

 強くて逞しい、完全無欠なヒーロー。

 優しくて、折れることも、曲がることもなく、真っ直ぐに自分の道を突き進む正義の味方。自分だけの特別な王子様。

 

 ――自分が今までずっと憧れ続けてきた彼らという存在は、最初から実在したことなんて一瞬たりともなかったかもしれない・・・・・・と。

 

 本当はそんな物どこにもいなくて、弱くて幼い不幸な自分が、すがる対象として信じたがった・・・・・・只それだけの子供じみた願望に過ぎなかったんじゃないのか?・・・・・・と。

 

 

 簪は、自分が絶望のあまり戦えなくなった理由と経緯を、ジャンヌに語った。

 ラノベの文章に書き写したら、5ページぐらいは文字でビッシリ埋め尽くせそうな合計数になりそうな今まで自分が抱き続けてきた心の悩みを、内側を。

 

 生まれて初めて・・・・・・友達に、他人に語った。語り聞かせた。

 そして、そんな自分の思いに対する帰ってきた友達から返答はこうだった。

 

 

 

「グダグダ理屈ごねてんじゃないわよ。

 要するに、“命が惜しいから戦うの怖いです”ってだけでしょうが」

 

「そんなハッキリ言わなくても!?」

 

 

 ガガン!と、友人からの回答に表情崩壊しまくらせながらショック受けまくりの簪ちゃんという結果になりました。

 うんまぁ、そうなんだけど。実際の所そう言いたかっただけなんだけどね?

 もう少し気を遣って、オブラートに包んだ言い方をしてあげようジャンヌちゃん。

 そうじゃないと、ラノベ5ページ分くらいの行動理由を経緯と一緒に語った後の相手だと、立つ瀬なくなっちゃってかなり辛いぞ?

 

「って言うか、助けに来てくれないからヒーローいないって。アンタ、自分のことヒロイン枠で考えてたわけ? メガネで根暗でアニオタ設定なのに、ヒーローアニメのヒロイン枠に? ・・・・・・うわぁ~・・・・・・」

「そういう事いわないでくれるかな!? いいじゃない! 夢ぐらい見たって! 女の子なんだから乙女チックな夢見る権利ぐらい許されてもいいと思うんだけどー!?」

「むしろ、どっちかっていうと敵キャラにいそうなタイプだと私なんか思ってたわ。

 自分に優しくない社会に絶望して、この世を自分の思い通りにさせてあげるとか誘惑されて魔王とかに自主協力する引きこもり系ネクラ美少女悪役とかに」

「死ぬわよ!? 自殺するわよ! いい加減にしないと私本気で死んじゃうからね!?

 敵と戦うより先にジャンヌの言葉で自殺するわよ!? 友達を殺すためにジャンヌは私を助けてくれたのかしら!? ねぇ!ねぇ!ねぇーッ!?」

 

 ギャーギャー!と。

 流石に堪忍袋の緒が切れまくって、感情的に声量押さえることさえ忘れ果てて、他人事な心の悩みを他人事として聞いてやって論評して、『戦闘に関係したこと』には特に何も言わずに自分の流儀は破っていない、薄情ではないけど他人への気遣い方が微妙すぎてて、かえって普通の人にはズケズケ言って傷つける言葉にしかならない事しかいえないジャンヌちゃんは相も変わらず平常運転マイペース。

 

 ある意味では彼女の生き方も、折れず曲がらず真っ直ぐ自分の道を突き進んでいく、簪の憧れたヒーローの生き方に似ていなくはなかったかもしれないが・・・・・・。

 

 ―――別に、『イノシシになりたい』と願ってたわけではないだろうし、ヒーローたちもイノシシには多分なりたくないだろうから、あんまり役に立たない悩み相談相手だった簪初の女友達フランス代表デュノア姉妹の妹ジャンヌ・デュノア。

 

 せめて姉の方だったら良かったかもしれないけど・・・・・・ご愁傷様としか言い様がなし。南無。

 

 

 しかも、挙げ句の果てに。

 

 

 

 

 ―――ガギィィィィィィィッン!!!!

 

 

【―――】

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・おおぅ」

 

 今の騒ぎを(流石に)聞きつけて、簪とジャンヌの居場所を察知されたらしい【ゴーレムⅢ】の一体が、二人が隠れ潜んでいた場所がある部屋の壁を破って姿を現してしまうという最悪の事態に。

 

 流石にここまで来てしまうと、ジャンヌも簪も腹を決めるしかない。

 戦って勝つか、戦わずに殺されるか、戦って殺されるか。どれかの道を選ばざるを得ない状況に、今の彼女たちの会話でなってしまったのだから――――

 

 

「・・・こうなったら認めるしかないようね・・・。カンザシ、頑張りなさい。アンタこそがナンバー1よ!」

「アホか――――ッ!!!!」

「へぶひっ!?」

 

 とりあえずバカなこと言って誤魔化そうとしてきたバカな友人を、部分展開させたISパンチで修正することで戦意をなんとか高めようと努力して、それでも震えそうになる心に活を入れながら更識簪専用機【打鉄・弐式】を全面展開させ終えた彼女は、震える心と足で怯えながらも敵に向かって一歩―――前へと足を踏み出し。

 

 

「・・・か、カンザシ・・・・・・」

 

 そんな彼女に向かって激励するためか、あるいは発破をかけるためなのか、床に沈められてピクピクしながらだったけど、ジャンヌ・デュノアは実戦経験者として初陣に望もうとする友人に最後の言葉を投げかける。

 

「完全無欠の・・・・・・ヒーローなんて、いない・・・・・・わ・・・・・・」

「――え?」

「完全無欠のヒーローなんて奴らは・・・・・・泣きもしなけりゃ、笑いもしないのよ・・・・・・なぜ、ならば・・・・・・」

 

 またバカな戯言かと思って聞き流すつもりでいた簪だったが、以外にもマトモすぎる内容だったため足を止め、真剣な眼差し相手を見つめて一元一句聞き逃すまいと集中して、ジャンヌの言葉に耳を傾けて、そして―――

 

「なぜなら・・・完全無欠のヒーローなんて呼ばれてる連中は・・・・・・決して、“自分では手を汚そう”としないからよ―――」

 

 ――一気に絶望の淵へと突き落とさせられた気分にさせられただけだった。

 

「汚い仕事は・・・他人任せで・・・・・・手を汚さずに・・・綺麗事ばかり語、って・・・美味しいところだけ盗んでいく・・・・・・救世主面した偽善者を求める連中、から・・・『汚れてない』から・・・人気を得ていく・・・・・・それがヒーローよ・・・・・・」

「・・・・・・」

「奴らに・・・・・・涙なんてないわ・・・・・・自己憐憫に酔ってるだけ、よ・・・・・・。

 笑うこともない、わ・・・・・・勝利して、笑うと・・・・・・ヒーロー好きの民衆から、嫌われる、から・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・カン・・・ザシ・・・・・・アンタは、そんなヒーローに助けて欲しいのかしら・・・・・・ね?

 ・・・ふふ・・・そうなんでしょうね・・・・・・救世主面した偽善のヒーロー、に・・・・・・ガクシ」

 

「え!? それだけ!? 特に私には何も言ってなかったわよね今の言葉って!?

 ただヒーローの悪口言いたかっただけだよね!?ただ単に!! あーもう!!

 気絶しちゃった後だと今更言い返すことも出来ないから、私だけがムカついちゃってるだけじゃないのよ本当にもーッ!!!!」

 

【――――】

 

 ブォォォォォォッン!!!

 

「うるさぁぁぁぁぁッい!! こうなったらやってあげるわよ! やってあげちゃうんだから!! ジャンヌに言われっぱなしで勝ち逃げされた私の恨み、ぶつけちゃっても文句は受け付けないからね!

 行くわよ! 【打鉄・弐式】――――っ!!!!」

 

 

 ガギィィィィィィッン!!!!

 

 やり場のない怒りを(味方のジャンヌに向けての物だったけども)敵に向けてぶつけることで、ひとまずの戦う理由ができた簪は、果敢にも敵に立ち向かっていき『対IS用のIS』である【ゴーレムⅢ】を相手に、長刀と荷電粒子砲による射撃の両方で戦いを挑んでいく。

 

 だが如何せん、一対一では分が悪い。

 全距離対応型に分類し直されたとは言っても、見るからに武装などから射撃がメインで考えられているのが丸わかりな【打鉄・弐式】と違って、【ゴーレムⅢ】は前回の敗北を踏まえてなのか比較的に防御型だ。

 

 無論のこと火力も高く、その点では打鉄・弐式も劣る物ではなかったが・・・・・・【ミサイル装備メイン】の打鉄・弐式と、【熱線兵器メイン】のゴーレムⅢとでは火力の『質』が大きく異なる。

 

 ベース機である『近接両用型』を発展させた『全距離対応型』の新型機と。

 正確な分類は不明ながらも『重武装型』と思しきベース機を発展させた『中近距離戦対応可能機』

 

 この二つが構造的に持つコンセプトの違いも、一対一では生じてしまう小さな差を補ってくれる相方がいないため、積もり積もって敗因となるのを避けるための選択肢が乏しい。

 

「く・・・っ! このままだと・・・・・・」

 

 結果として簪は、徐々に徐々に追い詰められつつあった。

 荷電粒子砲は撃ちつくして空になり、エネルギーは切れ始め、ダメージも少しずつ敗北へと近づいているが・・・・・・敵は死を恐れることなく、自分に向かって攻撃し続けてくるのみ。

 

「・・・ダメ・・・やっぱり私には、ダメ・・・・・・」

 

 そうなると、ヒーローへ縋る心を打ち砕かれたわけではない簪の心は、再び弱気にならざるを得ない。

 

「私は・・・卑怯者、だ・・・・・・私、やっぱりダメだったよ・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・ッ!!」

 

 

 せめて最後に思いを伝えたくなった相手への言葉。

 ようやく姉と自分との差を受け入れられる気になれたと思ってきた、その矢先の永遠の別離。

 

 今まで、いつでも助けてくれてた完璧すぎる、私の―――お姉ちゃん。

 

 その遠くに見えていた背中が・・・・・・今では何故だか、とても・・・・・・懐かしい――――そう思った。

 

 まさにその時。

 

 

 

 

 ゲシィィィィィッン!!!!

 

【―――ッ】

「え・・・?」

 

 ゴーレムⅢの頭部を、不意打ちして後ろから回し蹴りしてきて、鉄の巨人から鋼鉄の乙女といったイメージにデザインを変更されていた、女性型を彷彿とさせる相手の横顔に向かってモロに黒鉄の足を叩き込むと、アリーナの壁まで吹っ飛ばして蹴り飛ばしてしまった―――ヒロインのピンチを救うために颯爽と現れた、もう一人の【黒いヒーロー】

 

「フッ・・・、ようやく見つけたぞ。お前を探すためアリーナ中を走り回ってしまったぞ」

 

 ニヒルな笑みを浮かべ、自分が吹き飛ばした敵のことなど眼中にないとでも言い足そうな、傲慢そうな態度で見下し嗤う、もう一人の黒いヒーロー。

 

「あまり専用機持ちを甘く見なるなよ、木偶人形め」

 

 言いながら巨砲を持った右手をダラリと下げたまま、ゆっくりと鉤爪のついた左手を頭上へと掲げてから、その切っ先を突きつけるように一気に振り下ろす。

 

 ―――気絶したまま回復してない、ジャンヌだけがいる方に。

 

 

「ジャンヌ・デュノアを倒すのは、この私ラウラ・ボーデヴィッヒ様なのだからな!!

 さぁ、決着をつけるぞジャンヌ!! 勝負だァァァァァァァッ!!!!」

 

 

「だから何でよアンタはァァァァァァァァァァァァァァッ!!??」

 

 

 ・・・・・・この展開には流石にイノシシでも我慢できなかったのか、生身の体でIS修正パンチ食らって痛みで動けなくなってた自分を忘れ去り、怒鳴り声と共に起き上がって、自分の指先を敵ISの【ゴーレムⅢ】と自分自身とに右手と左手両方使って説得を開始。超説得を開始しました。流石に緊急事態過ぎたから。

 

「前にも言ったでしょうが前にも同じことを!? 敵はアッチ! アッチにいるでしょうが! アッチを先に倒してから私との決着つけりゃいいでしょうがよ!!

 あと私、今エネルギー0寸前で戦えるような状態じゃないんだけどぉぉぉぉッ!?」

 

「そんなことは知らん。自分でなんとかしろ。

 とにかく私は、お前との決着さえつけられればそれでいい」

 

「理屈無し!? 無茶ぶりすぎるにも程があるんですけどぉっ!!」

 

 

 ジャンヌ・デュノア因果応報の図。

 さっき自分が他人に決断求めたばっかでも、自分が求められる側になると慌てふためき、相手の理不尽さに怒らずにはいられないのが人間です。

 

「さぁ、行くぞジャンヌ! どうにかしてISを展開できなければ私のファースト・アタックで死ぬことになる。

 限界を超えてみせろ! 私が倒したいお前は、この程度の敵にエネルギーを使い尽くすような雑魚ではないはずだ! 私にもう一度お前の輝きを見せてくれぇぇぇぇぇ!!!」

「アンタは勇者大好き魔王様かなんかかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!??」

 

 もはや不条理でも何でも、今この場で得た絶好の決着をつけられる機会を放棄する選択肢はあり得ないらしいラウラにとって、ジャンヌならISエネルギーぐらいなんとかするだろうと信じて疑わない敵への信頼度高過ぎな魔王勇者バカさま状態になっている彼女に道理は通じず、敵が回復した姿さえも見えてはいない。

 

 仮に最初の一撃で、生身のままジャンヌが死んでしまったら大いに困るのはラウラなのは目に見えているんだけども、【決着】の二文字だけが望みとなった、どっかのブシドーさんみたいな状態の彼女には言うだけ無駄。言ってる間に接近されて殴られて殺されるから、ほんとに言うだけ無駄死に過ぎる。

 

 簪以上に無理ゲー過ぎる条件を課せられてしまったジャンヌには――――もはや我慢の限界だった。

 

「だー!もう!! いいわよ! ムカつくわねアンタは本当に全く本当に全くもう!!

 ・・・・・・いいわよ。やってやろうじゃないの・・・・・・今度こそ完膚なきまでに負けさせまくって、泣きべそかかせてやるわ!

 舐めんじゃないわよクソガキ!! 月の果てまでブッ飛ばす!!!」

 

「ハッ!! 上等! それでこそ私のライバルだァッ!!!」

 

 互いに啖呵を切り合って、戦意というより怒気を高め合い、互いに相手にだけは負けたくない! こいつだけは絶対私がブッ倒す!!と、心の底から誓い合った二人の少女たち。

 

 その瞬間。

 ―――久方ぶりの“あの声”が、長き眠りから目覚め・・・・・・二人の心に問いを投げかける。

 

 

 

 

 Danage Level・・・・・・D.

 Mind Condition・・・・・・Uplift.

 Certihcation・・・・・・Clear.

 

《Valkyrie Trace System》・・・・・・・・・boot.

 

『――願うか? 汝、自らの変革する力を欲するか? 求めるならば叫ぶがいい!!』

 

 

 そう問われたならば、その声が誰の物であろうとも、彼女たちの答えは決まりきっている。

 

「Vertrag! ラウラ・ボーデヴィッヒが命じる!!

 貴様の力をジャンヌを倒すため、私に寄越せェェェェッ!!!!」

 

「Contrat!! 負けるくらいなら諸共殺すわ!諸共死ぬわ! それくらい言わなくても読み取りなさいよ!このス馬鹿!!」

 

 

 そして呼び声に応じた二人に与えられる、黒いIS追加装甲をまとった二つの専用機のパワーアップバージョン。

 0になる寸前だったエネルギーも限界まで回復させ、篠ノ之束さえ理解不能なISが持つ可能性という名のゴッドパワーによって引き起こされた謎現象により、手に入れた超パワーと超パワーを全力でぶつけ合う二人。

 

 ・・・・・・互いに味方同士に向かって、フルパワー出力の全力攻撃を・・・・・・。

 

「私を止めることなど誰にもできない!!

 《ジーク・ハイル・ヴィクトーリア》――――ッ!!!!」

 

「邪竜咆吼! 吼え立てよ、我が憤怒!

 《ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン》――――ッッ!!!!」

 

 

 そして今日のは前回と違って、殴り合いではなく追加されたワンオフアビリティを使ってフルパワー撃ち合い。

 

 ベース機となった【専用機】を謎現象によって発展させた、【超パワーアップ版の改修機】が、追加された新装備を全力全開で遠慮容赦なくぶっ放し合う!!!

 

 

 

 ドッゴォォォォォォォォォォォォッン!!!!!

 

 

「あ~~れ~~~~・・・・・・」

【――――】

 

 

 そんな超パワーのぶつかり合いの真ん中あたりで戦闘してる途中だった、更識簪ちゃんとゴーレムⅢは、不幸としか言い様がない。

 

 『たまたま敵を倒す途中に立ってたから邪魔だった』というだけの理由で吹っ飛ばされ合ってしまった一人と一機は、不幸中の幸いなことにISを展開してたのとISそのものだったのでエネルギー削り取られるだけで難を逃れられ。

 

 ゴーレムⅢは機能を停止させ、簪ちゃんは。

 

 

 ヒュ――――――ン・・・・・・・・・ドゴンッ!

 

 

「へぶしッ!? ・・・は、鼻血が・・・・・・」

 

 

 顔面から地面に落下して、鼻血だけの軽傷で済んだみたいですね。

 専用機乗りは国家代表候補でもあるので、臆病でも普通の人より鍛えてるので頑丈です。

 

 

 

 

 

 ―――こうして全学年合同で行われたタッグマッチは混沌のうちに幕を下ろすことになる。

 ここまで混沌化した戦況になってまで戦闘を継続したがる物好きはいないだろうし、各専用機のりたちも各々の戦域でゴーレムⅢ撃破に成功して、教師部隊などの援軍も到着し、即日に内に事態を収束することに成功したのである。

 

 

 

 尚、余談だが。

 

 

『この者たち、またしても同じバカをやった馬鹿者たちのため、晒し者の刑に処す』

 

 

 と書かれたプラカードを捧げ持った少女たち二人の恥態が、一部IS学園女子たちファンの間で出回ることになるのだが・・・・・・完全な余談である。

 こんな馬鹿げた話と、テロ対策のイベントやってたIS学園が関係してるわけないのだから。

 

 

 

 

 また、もう一つの余談として。

 

 

「はい、簪ちゃん☆ お姉ちゃんに、ア~ン♡

 妹を守るため、こんなにも大怪我負うまで戦い抜いたお姉ちゃんに軽傷で済んだ妹としてア~ンは?♡」

「ぐ・・・っ。あ、あ・・・ア~~ン・・・・・・」

「ア~ン♡ パクリ☆ あん、美味し♪」

 

 

 更識姉妹の仲は、半ば強制的にだったけど今までよりかは良好になったみたいです。

 未完成だった専用機を完成させ終え、織斑一夏とも大して仲良くなれておらず、布仏本音さん他の整備関係の知り合いとも親しくなるイベントをこなせなかった簪ちゃんには―――

 

 

 ジャンヌが罰則受けてる間は、姉の看病する以外に他に行き先ないままだったから・・・・・・

 

 

「さぁ、次よ次! お姉ちゃんとの長年できなかったから溜まり続けた愛を確かめ合うためハグし合うイベントの続きを! ハグハグゥ~♡」

 

 

「うっ!? な、なんだ・・・? 今すさまじい寒気がしたような・・・・・・?

 どこかで私の同類が生まれたような、そんな恐怖で背筋がゾクゾクと・・・・・・っ!?」

 

 

 

 まぁ、そんなこんなで今日もIS学園は、結果論として平和が保たれました。

 

 

 

つづく



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第32話「リターン・トゥ・ストレンジ・フォーエバー(注:能力名とイベント名に正確な英単語表記は無粋である)」

久しぶりの更新となります。
正直ここら辺からの話から詳しくなくなってきてて、どの話を題材にするかで迷ってたのが遅れた理由です。
とりあえず簪を正式に仲間加入イベントって形にしてみました。…ジャンヌ以外との接点が考えてみたらなかったので…。


 

 ・・・・・・どうして、こんな事になってしまったんだろうか・・・?

 

 漠然と、そんなことを考えさせられる。 

 専用機持ちだけのタッグトーナメントに、謎の無人ISゴーレムⅢ部隊が乱入してきて各国候補生達が死闘の末に撃退してから一夜が明けていた。

 負傷させられた更識楯無は医療室で経過観察となり、ラウラに置いてかれて一人で二機のゴーレムⅢを相手させられた一夏も全身に打撲とヒビが入って、あばらも二本いってるらしいけど、入院するほどではないと即日の内に自室に帰されて知り合いの学園祭にも顔出してきてバケモノじみた頑丈さを見せつけ、地球育ちの戦闘民族星人なんじゃないの疑惑を一部のフランス人に深めさせた翌日のこと。

 

 

「で?」

「っ・・・・・・ひ、う・・・・・・」

「まぁまぁ、鈴。落ち着いて、ね。ほら、簪さん、怯えちゃってるし」

「やめろ、シャルロット。本当ならば、拷問するか石を抱かせるか行わせたいのを、私はギリギリ耐えているのだからな」

「あ、あの・・・・・・その、えーとぉ・・・・・・」

「まぁまぁまぁ、箒ちゃんもそう言わずに、ね?

 ――って言うか、同じじゃないの? その二つって・・・」

 

 更識簪は、織斑一夏大好きラバーズの面々に訳も分からぬまま呼び出され、尋問を受けさせられておりました。

 鈴には睨まれ、箒には腕組みして不機嫌そうに脅迫されて。

 せっかく怖いのを乗り越えて、敵と戦って死闘を生き残ったのに、この仕打ち。

 人見知りな簪ちゃんでなくても、「どうしてこんな事になった!?」と世の不条理さを呪わずにはいられないのが当然の状況。

 こんな目に合わされて、それでも恨まない憎まない復讐も望まないなんて、もう人間業じゃない。精神的バケモノである。空気読まない救国聖女みたいな。

 

 IS学園放課後のカフェテラスである、この場所に集っているのは彼女たちだけではなく、セシリアやシャルロットといった一夏以外の一年生専用機持ちが全員勢揃いしていた。

 彼女たちが簪を強引に連れてきて、取り囲んだ配置で裁判じみた尋問をしているのには理由と目的がある。

 

 即ち――【アンタと一夏は、どういう関係なのか!?】

 ・・・・・・という疑問に対して、真実を本人の口から自主的に自白させるためである。

 

 彼女たちとしては、タッグトーナメントで一夏と組んで優勝するためペアに誘ったのに断られ、初対面に近いポッと出の専用機持ちに一夏の方からペアを申し込みに行って拒否られたから、改めて自分たちの誰かにペア組んでくれと頼まれ直すという、女としては「バカにしてんのか!?」と全力で怒って当然の状況だったため、事情説明を求めずにはいられなかったのだ。

 

 とは言え、この平行世界における簪的には一夏とあんまし接触する機会がなく、ゴーレムⅢに襲われた時に思わず名前出しちゃった以外は特に関わり合うこともなかったため・・・・・・正直言って、なんでラバーズたちに呼び出されたのか一切全くサッパリ理由が予測できない。

 

 だから、すがる。ただひたすらに助けを願う。

 こんな時にはヒーローが、きっと自分を助けてくれるに違いない!――と。

 

(じ、ジャンヌ! 助けてよジャンヌ! 私たち友達でしょう!? こんな時こそ私を助けて! 私一人じゃ勝てないってゆーか、絶対に負けちゃうよーッ!?)

(ちょ、バ!? 私を巻き込むんじゃないわよ! お姉ちゃんが怖いでしょうが!? アッチ向きなさいアッチ! アッチにーッ!!)

(私を見捨てる気なの!? ヒドい!ヒドいよ! 友達だと思ってたのに! 私の気持ちを裏切るの!? こんなに信じていたのに裏切るなんてッ!!)

(シンジ君かアンタは!? 女同士の友情なんて、そんなものよ!!)

 

 という感じに、昨日のピンチでは助けに来てくれたダークヒーロー・ジャンヌに無言でアイコンタクトして助けを求めて、巻き込まれるの怖いから無言のアイコンタクトで全力拒否され、夢のない友達関係の現実を語られバッサリ切られちゃってました。

 無言のままアイコンタクトだけで。変なところで器用な二人です。

 

「うむ。ジャンヌ、倒す」

 

 ・・・・・・そして今回も何故か呼ばれてて何故かいる、一夏と関係なさすぎるラウラ・ボーデヴィッヒ。

 この平行世界だと本気で関係ないというか、むしろ遠ざかってく一方な気がする奴なのだけど・・・・・・本気でなんで呼ぶんだ?コイツのこと・・・。専用機乗りって以外に共通点ねぇぞ本気で・・・。

 

 閑話休題。

 ――ブレることなき、打倒ジャンヌ一筋なドイツの猪ラウラは別枠として、ジャンヌの方には今回の裁判ゴッコには極力関わり合いたくない理由が一つありました。

 

 それは、生徒会長の更識盾無に頼まれた一夏が簪をペアに誘ってるところに、割って入って強引にペア参加を決定させてしまい、色々あった末に今に至っている今回の事件の顛末に関して。

 

 一応の戦友ではあるラバーズの面々には、一切全くコレッポッチも事情を説明したことが一度もなかった気がするな・・・・・・と、今更ながら気付いて顔色を悪くしていたからというのが理由だったりする・・・。

 

 一夏の方の事情を知らなかったジャンヌとしては、ボッチ仲間だったラウラに友達作り勝負を挑まれ(本人主観)友達を探してテキトーに校舎をさまよってたら一夏が簪を誘ってるところに偶然出くわして絡んでいって、簪の打鉄弐式が気に入ったからコンビを組んで、オタク仲間だったことを知って仲良くなっていき、父親のコネと社長令嬢の特権使って専用機完成を手伝ってやったせいでテロリストに襲われる候補にしちゃったため、守ってやるぐらいはしないとと思ってただけなんだけど・・・・・・。

 

 その程度の、“ジャンヌにとっては”普通の流れとは言え、見方と立場によっては別の解釈も成り立ってしまうことを、ジャンヌは経験として知っていた。

 

(な、流れだけ見たら私が簪にし、嫉妬してオリムラとペアを組ませたくなかったみたいに見えちゃうかもしれないじゃないの! イヤよそんなの不名誉な!

 そんな噂を友達にされたら恥ずかしいじゃないのよ私が・・・・・・このワ・タ・シ・が!! だから絶~~~対にイヤなのよ! あのバカッ!!)

 

 という様な解釈が成り立つことも、時と場合と人によってはあり得なくもないのをジャンヌちゃんは経験則によって知っていました。・・・ときめきな二次元世界での経験でしたが、リアルでの経験は皆無でしたが。

 尚、ジャンヌちゃんの恥ずかしい噂してくれる友達候補は、現在のところ突き放した相手の簪ちゃん一人だけです。お姉ちゃんは友達に含みませんし、含むと可哀想な女の子になっちゃいますので気をつけてあげましょう。彼女自身のプライドを守ってあげるために。

 

 そんなこんなで、『実は一夏は前々から簪と付き合ってたんじゃないか?疑惑』の真相を突き止めるための魔女裁ば――もとい、尋問会に末席としてでも参加することによって『私もソッチ側ですよ。アッチ側じゃないですよ』とアピールをし、無言のまま不機嫌そうにそっぽ向き続ける、いつもの自分らしい態度でなんも口に出せない事情を誤魔化す策略を用いていた今回のジャンヌちゃん。

 

 いつもよりずっと賢く、色々な手段を用いている彼女でしたが―――ホッペタの下が微妙に赤く染まっていた、瞳がちょっとだけ潤みがちになってるのは・・・・・・まぁ所詮はジャンヌってことで。

 

「まぁまぁ、そういうことも言わないで。あ、簪さん。これ、オレンジジュース。どうぞ、喉渇いたでしょ?」

 

 そんな中で一人だけ、優しそうな笑顔と態度と口調で、上目遣いの簪に微笑みかけながらジュースを奢ってくれたのは、フランスの代表候補生の片割れシャルロット・デュノア。

 

「あ・・・・・・ありがとう・・・」

 

 内心で、ほっとしながら礼を言って受け取って、少しだけ警戒心の薄れた気持ちでシャルロットを見上げる更識簪。

 ・・・・・・実のところ、今回自分を呼び出したメンツの中で彼女が一番恐れて警戒してたのは、他の誰でもないシャルロットだった。

 

 “あの”ジャンヌの姉だと知ってたからである。

 ジャンヌのことは友達だと思っているし、助けてくれたことは感謝してるし、格好良いと思う時だって無いことは無いよりかはある程度には思ったりもしている。

 ・・・・・・ただまぁ、なんていうかちょっと、うん―――な感情を抱いてる部分が大きいのも事実だったのが簪から見たジャンヌ・デュノアという少女だったため、その姉であるシャルロットは「上位互換したジャンヌ」みたいな先入観を持つ様になっちまってたから・・・・・・。

 

 なまじ一夏と知り合うまで、世界各国の専用機持ちが集まっている織斑ラバーズの面々を遠巻きに見ているだけで詳しく知ろうとしなかったのも仇となり、表面的な礼儀正しさや優しさだけなら、初期頃の『エセお嬢様の演技ジャンヌ』も似た様なもんだと、内面のアレさ加減を隠す猫かぶりの可能性があったので。

 

(ほっ・・・・・・。ジャンヌと違って、この人は大丈夫っぽい・・・。

 少しはお姉ちゃんを見習ってくれたら、私ももっと仲良くできそうなんだけどなぁ~・・・)

 

 妹のイメージとのギャップ差もあってか、安心しきった心地でオレンジジュースを、チューと二口ほど喉を通した後。

 

「それで? 実際どうなのかな★」

「・・・・・・?」

 

 シャルロットに問われ、いまいち何を言っているか分からず――ただ何故だか、背中が少しだけブルッと震えて寒気を感じたような錯覚だけを感じてしまい、それも含めて不思議だなと首をかしげていたところ、

 

「だ、だっ、だからだなっ!」

 

 箒がテーブルに叩き付けるように掌を打ち付けながら立ち上がり、

 

「い、いい、いッ!!」

「――“胃”?」

「違う!! 一夏とお前が、だな!!」

「つつつつ、付き合ってますの!?」

 

 続いてセシリアまで立ち上がって、箒と同じようなポーズと顔色で必死な表情のまま叫んだセリフを、頭の中で反芻し、理解して、自分と相手との関係性に結びつけ。

 簪が行動として反応に出せるまでに、数秒ほどの時間が必要でした。

 

「――っ!?★♡♪☆ ぶっふぅぅぅぅぅぅぅッ!!??」

「ちょっ!? まっ! 汚っ!? これクリーニングしたばっか、うっぎゃー!?」

 

 いきなりの直球過ぎる上に、予想の斜め上行き過ぎる想定外なとんでもない質問に、簪は目をパチクリさせ後に一瞬置いて。

 次いでパニックを起こして、思わず呑んでいたジュースを睨み付けるため間近まで迫っていた鈴の顔に全力発射してしまい、因果応報の結果として鈴が悲鳴を上げて逃げ惑う羽目になった後。

 ケホッ! ゴホッ!?と、むせ返って返事もできなくなっている涙目の簪ちゃんは、どうにか我を取り戻し、出てきた回答がコチラになります↓

 

 

 

「な、なななないよ! なに言っちゃってるの!?

 わ、私が一夏君とそういうのになるなんて――あ、ありえないしッ!!」

 

 

 

 真っ赤を通り越して紅蓮の如き顔色になりながら簪は、あまりにも名誉な――いや、分不相応な誤解をされてたことに臆病さを乗り越えて叫ばずにはいられないほどビックリ仰天させられまくってしまうしかなかった!!

 

 彼女としては当然の反応だろう。

 なぜ自分が、よりにもよって一夏と付き合・・・コホン。清い男女交際をしているなどという根も葉もない推測が思いついてしまったのだろうか? 全くの事実無根であり、誹謗中傷であり、発言者には前言撤回と訂正と慰謝料による反省の意を現してもらいたくて仕方がないほどのチョー誤解だ。誤解過ぎる。

 

(だって! な、なななんで私なの!? あんまり接点なかったんだよ!?

 私と一夏く――織斑くんって今の今まで本当に!!!)

 

 そう。それが簪ちゃんが叫び声を上げるほどに驚かされまくった、この疑惑の大問題点。

 彼女視点では、一番最初に一夏からトーナメントに参加するためのペアに誘われたのは事実だったけど、そこから先は全部ジャンヌに持っていかれて、なんだかんだ言いつつ四六時中一緒に行動してる時間が結構続いてしまい、ボッチ同士だから彼女たち同士でしか過ごす時間も特にはないままで・・・・・・。

 

 結果として、簪が一夏と直接接触して会話したのは、その時が最初で今のところ最後にもなってしまっているのが、この世界線における彼女と一夏の関係性。その全てなのである。

 

 こんな希薄すぎる関係しか持ったことない異性と、付き合ってる疑惑をかけられ、悠然と構えて普段通りにしてられるほど簪ちゃんは枯れてもいなけりゃ、清楚ぶってるだけのビッチでもなかった。だから驚きまくって叫ばされた。それだけである。

 

 ――だが、しかし。しかしである。

 人が真実を求めていると口にする時、往々にして事実か否かはどうでもよくなり、信じたいものを信じるだけでしかなくなって、都合の悪い事実からは目を逸らしやすくなるのも、また人が持つ事実の一つでもある。

 

 ・・・・・・まぁ、そういう理屈がなくても、ほとんど初対面のはずで、誰も一夏と仲良くしてるところなんか見たことない相手と、今まで幾多の戦いを共にしてきた仲間たちの誘いを蹴ってまでタッグトーナメントに参加するペアに誘いたがった相手だから疑ったのが発端の疑惑だったからねぇ・・・・・・。

 

 そういう、『不倫に感づかれたから、ほとぼりが冷めるまで距離を取ろう』系の主張は、疑い強めるだけで何の物的証拠になれもしない。

 そういうサスペンス系な状況である。

 

 顔を真っ赤にして、あたふたしながら必死に誤解を解こうと、どもりながらでも懸命に言葉を紡いでいる簪の仕草と姿を見て――全員が確信した。してしまった。

 

 

『ああ・・・・・・“やっぱり”か』―――と。

 

 

 簪にとって、あまりにも不幸な偶然が重なりすぎた結果だったが・・・・・・まぁ大体フランスの猪娘と関わった人間は、こんな結末迎えることがほとんどだから今更と言えば今更でしかない。

 

「ああ、分かった。更識・・・・・・さん?」

「か、簪で・・・・・・いい・・・です」

「そうか。では簪。―――詳しい事情は私たちの部屋でジックリ聞かせてもらうとしよう」

「う、うん・・・・・・って、ええぇぇぇぇッ!?」

「確かにあれですわね。いきなりカフェまで連行とは、エレガントではありませんでしたわね。

 ――まずは【シャトー・レフ城】にでもお連れして、事情を聞いてからがイギリス貴族らしい流儀でしたわ」

「それ牢獄! 牢獄だからね!? 巌窟王! モンテ・クリスト伯! エドモン・ダンテスは嫌ーッ!?」

「じゃあ、まずはあたしらのことも名前呼び捨てでいいから。――長い付き合いになりそうだしね。末永くて深いお付き合いに・・・・・・」

「おっきい包丁みたいなIS武装取り出しておこなう、長い付き合いって何!? 何されちゃうの私って!?」

「えーと、えっと。そうだ! 簪さん、ジュース、もう一杯飲む?」

「優しい申し出だけど、この状況で言われるとナニカ入ってるとしか思えないから飲めないよ!?」

 

 簪ちゃん、怒濤の猛ツッコミ反撃。捕まって、どっかに連れてかれないようにするために必死です。引っ込み思案とか言っていられません。

 言ってたら牢獄か獄門台かを強制されるなら怖すぎるので、少しでもマシな怖さを選ぶしかないのです。

 

「うむ。ジャンヌ、倒す」

「貴女だけさっきから同じことしか言ってない気がするんだけど!?

 だ、だいたいその・・・・・・私なんかより、もっと可能性の高そうな人いっぱいいるじゃない・・・・・・私も希望がないわけじゃ、ないかもだけど・・・・・・と、とにかく! そう言うのだったら他にも聞く人いると思うのよ!

 た、たとえば・・・・・・ジャンヌとか!! い――織斑くんが私を誘いに来たときもジャンヌだけい、いたし!

 クラスの子たちからも『自分たちだけの世界作るんだったらよそでやって欲しいウザい』って、二人が帰ってから言ってたの聞こえてきたし―――」

 

 

 ダッ!!(ジャンヌが即座に全速力で撤退を図ろうとロケットスタートした音)

 

 ズキューン!!(セシリアがジャンヌの逃亡を阻止するためライフルを発砲した音)

 

 ガチャコン!!(逃げ道を塞がれたジャンヌに鈴が衝撃砲をロックオンして逃がさない音)

 

 ジャキィッン!!(箒が断罪用の刀を鞘走らせる音)

 

 ガッジャキィン★(シャルロットがパイルバンガーを実体化させて笑顔を浮かべた音)

 

 

 

「ちょ!? か、カンザシあんた友達を売ったわね!? 私の気持ちを裏切るなんてサイテーよ!

 あ、あとアンタらも落ち着きなさい! ちょっとだけ調子乗った言い方してただけで、そんなに怒ることしてなかったから、待って! ちょっと待って!?

 って言うかお姉ちゃん!? なんで一番怖い武器持ち出しちゃってるの!? それどう見ても考えても拷問用じゃなくて処刑用でもなくて、なんか別のモノ―――って、い、いやぁぁぁぁッ!?

 私が悪かったから許してお姉ちゃ――っん!! って、ギャ―――っ!?」

 

 

 

 ・・・・・・こうして、無人ISゴーレムⅢ部隊の襲撃を辛くも凌いで迎えた翌日の放課後も、IS学園は銃声と硝煙とともに過ぎ去っていく。

 騒ぎが収まり、学園が平穏を取り戻すのは、簪が紆余曲折の末に誤解が解け、ラバーズ補欠メンバーとして新たな仲間入りを認めてもらい、自業自得の友達と一緒になって疲れ切った身体を休ませることができた消灯時間前の夜になってからの事であったとさ。

 

 

「・・・・・・ねぇ、ジャンヌ・・・・・・なんで私たち今日、こんな目に合わなきゃいけなくなったんだっけ・・・・・・?」

「・・・・・・それは・・・・・・私の記憶が、たしかならば・・・・・・その理由は・・・・・・・・・」

 

 

 

『『忘れ――――た・・・・・・・・・ガクシ』』

 

 

 

 斯くして、バカたちの屍拾ってくれる者なく放置される。

 それがシャルロット・デュノアの妹ジャンヌ・デュノアが通う、IS学園に戻ってきた日常風景である。

 

 

 

 

 

つづく



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【魔法少女?いいえ、なのは世界のIS少女ジャンヌ・デュノアです。】

最新話ではなく、活動報告へのコメント意見の一つを試験的に書いてみたものです。
【なのは】と【IS】と【ジャンヌIS】をゴッタ煮した、少し変則的な作品です。
前からやってみたいと思ってた書き方ですけど、やる勇気なかったため折角なので。

*作者は『The MOVE 1st』しか完全には見終えていません。
 本格的に書くことになった場合は、キチンと全部見て書くつもりです。


 

 この広い世界には・・・・・・次元空間の中に幾つもの世界があると言われている。

 そして、その世界の中には『良くない形』で進化しすぎてしまった技術や科学が自分たちの世界を滅ぼしてしまった世界が幾つもあり、その世界が滅んだ後に残された危険な遺産を全部ひっくるめて超大雑把な括り方で総称して【ロスト・ロギア】と。

 

 ――そう呼んで、正しく管理するため【回収している世界】も、次元空間の中には幾つか存在している可能性だって持っているかもしれないという事でもあるのだろう。

 

 ならば、そんな無数に存在しているかもしれない、次元空間の中にある世界の一つでしかない世界の中に―――こんな【遺産】が迷い込んでしまった世界があっても不思議ではないことも無きにしも非ずや否や・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは海に面して、背後の山に囲まれた比較的発展している港町、日本の鳴海市にある桟橋埠頭で倒れていた少女が目覚めるところから始まる物語。

 

「――はッ!? え? ここどこ!? なんで私こんなとこで倒れてたの!? なんも思い出せないんですけどーっ!?」

 

 ガバッ!と跳ね起きて、涎を口の端からちょっと垂らした、だらしのない寝起き姿をお日様と世間様の下に晒しながら眠りから目覚めたのは、一人の小さな女の子。

 

 金の輝きが少し錆びた色になった長めの髪と、少しだけ眇められた目つきの悪い瞳、蝋人形のように白すぎる肌をした、ちょっと悪そうな印象を受ける見た目をしてる。

 顔は可愛いんだけど一見するとハスッパな感じの見た目で、でもどこか仕草に気品が感じられて、もしかしたら意外に良い家のお嬢様かもしれないし、礼儀作法をしっかり教えられて育った女の子が悪ぶっているだけかもしれない。

 

 彼女が着ているのは、どこかの学校の制服らしいブレザー服。

 だけど多分、日本の学校でこんな制服を着ているところはないと思うメカニカルなデザインで、学校の名前を示す漢字も見当たらない。

 服の一部には小さく、【IS】とアルファベットの金字で掘られているけれど、これが彼女が通っていた学校の名前なのだろうか。

 

「な、なんで私、こんなところに一人で寝てたのかしら・・・? 部屋で寝てて朝起きたら、港に移動して寝てましたって意味分かんな過ぎるんだけど・・・。

 しかも妙に記憶あやふやだし・・・・・・こういう時どうすればいいんだったっけ?

 えーとえーと、たしか・・・・・・そうっ!!」

 

 そして、混乱する頭を抱えながら、なんとか自分の身に起きている異常な状態――記憶を半端に失っているらしい自分自身の過去と向き合い、今のような状況に陥ったときに今までの自分だったらどうしていたかを、必死に残っている記憶の断片を寄せ集めて再構築して、確信を抱いて声に出す。

 

「まずは・・・・・・状況の把握よッ!!!」

 

 と。なんとなく偉そうな絶対的支配者っぽい雰囲気を醸し出すポーズとともに、記憶の中にある似たようなこと言ってた記憶を頼りに言ってはみたけど、

 

「・・・・・・ダメだわ。なんか違うわ・・・・・・これは私の言葉じゃない気がする・・・何故かは分からないけど、何故だかとっても私の言葉じゃない、でも大切な言葉でもあるようなナニカが・・・」

 

 と、思い出した自分の記憶と行動とに感じた違和感に、激しく自問自答して悩む少女。

 ぶっちゃけ、自分の言葉じゃなく、自分が大好きだった言葉というだけの違いだから違和感あるのは当たり前なんだけど、それが分からない状態だからこその記憶喪失です。

 

「・・・・・・あのー、なにかお困りごとですか?」

「うひゃあッ!? なに! 何があったの!? 私の背中に立とうとする危ないヤツは誰!?」

 

 混乱して、さっきから朝の港で喚き散らしてた女の子の背後から、心配そうに声をかけてくれる心優しい物好きによって、不意の声がけで驚かされて大慌てで飛び退いてファインティング・ポーズを取る、更に危ない女の子。そろそろ白と黒のパンダカーが来ないか心配です。

 

「あんたは・・・・・・?」

「あ、わたし高町なのはって言います。なにか困ったことがあるなら聞いてあげたいなって思って・・・・・・あの、迷惑だったかな?」

 

 背後を振り返って拳を構えた先に立っていたのは、ちょっと困った顔をして微笑んでいる、丈の長い修道服みたいな白服を着た小さな女の子。

 小学校2年生ぐらいだろうか。頭の左右で髪を結って小さなツインテールにした、愛らしくて大人しそうな感じの女の子だ。

 

 ・・・・・・なんとなくだけど、ドラゴンとか呼び出しそうにない気を、何故か感じさせられた目つきの悪い女の子。

 あと、胸の発展速度は数年で超えそうだな、と何故か思って、何故かザマーミロとか愉悦を感じてしまっている自分もいる。

 誰のこと思っての感情なのかさえ全く分からないのに何故・・・? 世の中不思議なことがいっぱいである、特に今の自分の立ち位置とか。

 

「困った・・・・・・こと・・・」

「うん。勘違いかもしれないけど、すごく寂しそうな目をしているように見えたから・・・・・・まるで一人だけ置いて行かれた迷子の女の子みたいで、それで・・・」

「迷子、か・・・・・・そうね。そうなのかもしれない。私はもしかしたら、あなたの言うとおりの存在なのかもしれないわ・・・」

 

 心配そうな相手の言葉に、そう言って答えて沈痛そうな表情で髪を押さえながら海が見える方へと歩いて行って――とりあえず格好つけた表現で現状を説明してみる女の子。

 実際、間違ったことは言ってません。ホントに迷子かもしれませんし、お父さんとかお母さんのこと思い出せませんし。ってゆーか自分の名前なんだったっけ?というレベルです。

 

「私には・・・なにか使命があったような気がするの・・・・・・お父さんやお母さんを救うため、どうしても果たさなければいけない使命が・・・・・・帰らなくちゃいけない場所に帰るために・・・・・・」

 

 そう言って、胸の前で強く拳を握りしめて唇をかみしめる少女。

 ――これも間違ったことは言っていません。実はこの世界の人間じゃない彼女には、自分の世界という帰るべき場所があり、果たさなければいけない使命があったのも事実です。

 

 ただし、自分の世界に帰るには自分の記憶思い出してからじゃないと不可能ですし、使命の方は「過去にあっただけ」で現在は完了してるのでありません。

 でも記憶失ってて思い出せないので、どっちとも現在進行形で有りです。日本語は便利。

 

「お父さんとお母さんが、そんな事に・・・っ。大変だったんだね・・・」

「ええ、そうなのよ。よくは思い出せないのだけれど、スゴク大変だった気がするの。具体的には――ああッ!? 頭が・・・っ、頭が割れるように・・・・・・っ!!」

「ちょっと大丈夫なの!? しっかりして! ねぇ!!」

 

 気遣って駆け寄ってきてくれる心優しい小学生の女の子・・・・・・たしかナノハって名前の日本人少女。

 そんな素直で優しい日本人少女につけ込んで、詳しいこと聞かれたら答えられない嘘八百のノリで答えてしまった話を先手打って質問塞ごうと、頭痛い演技をするメカニカルな制服の女の子。

 

「あ、頭が・・・っ! やめてちょうだい、セフィロ・・・ス・・・・・・ッ」

「せふぃろす! それがあなたに痛い思いをさせてる理由なの!? しっかりして! 大丈夫だから!!」

 

 そして格好付けで風評被害で冤罪ふっかける碌でもない外国人少女の方。

 コイツは別に、変な細胞を注入されたから記憶混乱して思い出せないわけでもないし、登録番号を抹消されたこともなければ、弱い自分が強い他人を演じるだけの人形になってた記憶もない。

 むしろ、仮に注入されても平気なタイプだろう、普通に考えて自我が強すぎそうなヤツだから。それこそ精神力に数値があったらクラス1STぐらいにランクインしそうなほど我が強すぎる。

 

「可哀想に・・・・・・こんなに震えちゃって・・・。そうだ、私の家においでよ。お母さんもお父さんも、あなたの事情を聞けばきっと助けてくれるはずだから!」

「・・・いいの? 私みたいな、どこの誰なのか自分でも分からないような人間を家に上げちゃって・・・・・・本当に?」

「うん、もちろん! 困ったときはお互い様だよっ」

 

 満面の笑顔を見せて、救いの手を差し伸べてくれる心優しい女の子、高町なのはちゃん。

 

「・・・ありがとう、ナノハ。本当にありがとう・・・」

 

 ――よし、これで一先ず今日だけは雨風しのげる宿を確保だわ。

 

 弱々しい笑みを浮かべて返す演技をしながら、差し伸べられた救いの手を取る、心優しくない嘘吐きな女の子、名前はまだ思い出せない。

 

 なんと言うか、ヒドい状況が展開されてしまっていたが、なのははともかく少女の方は割と真剣な悩みを抱えた末での決断であって、彼女としては自分の元いた場所への帰り方を探すより先に、児童施設へ強制連行されるのを避けなければいけない重要な使命があったのだから。

 

 ――まぁ、とはいえ所詮は子供が言ってるだけの申し出だしね。明日以降は追い出されるとして、今日一日だけでも泊めてもらって、情報集められたら十分って思っとくべきところか。

 

 そんな風に皮算用して、幼くて純粋無垢ななのはに手を引かれながら、彼女の家路へついて行く女の子。

 

 

 ・・・・・・こうして、自分の元いた世界とは別の、同じ次元空間の中にある世界のどれかに転移した――あるいは最初から自分の世界が今の場所だった次元空間でも存在していたのか。

 

 それらは分からないながらも、なのは達が暮らす世界から見た異世界から来た少女は、一年後に運命の少女と出会うなのはと、一年前に出会って仲良くなった友達として、彼女たちの物語に大きく影響をもたらす、始まりの日の短い物語は終わりを迎える。

 

 まぁ、本当になのはの家に居候していい許可を出されてしまったことだけは完全に予想外デスな幸運過ぎる結果論だったけども。

 それでも彼女の物語は、こうして始まる。

 

 

 一緒に過ごす中で思い出すことが出来た自分の名前――『ジャンヌ・デュノア』として、なのはのファースト戦友は友のため、帰るべき戦場へと帰還する日への第一歩目を記したのだから・・・・・・。

 

 

 

 

 それから1年――

 

 

 

 その日、私は海を見に来ていました。

 私の大好きな、世界の広さを感じさせてくれる、大きな海が見える港の高台に。

 

 ・・・この広い世界には、幾千、幾万の人がいて。

 そして、それ以上にたくさんの出会いと、別れがあって。

 

 これは小学三年の私が胸に抱いた、小さくてもいい、大切な人との出会いと始まりの予感を感じていた・・・・・・そんな春の一日。

 春という季節の優しくて穏やかな風に吹かれながら海を見ていた、そんな私に声をかけてくれたのは、一年前から大切な友達になっていた一人の――いいえ。

 

 一人の女の子と、“もう一人の友達の友達”からの優しい声――。

 

 

「この“広い世界”なのに、“幾千、幾万”なんだ。ふ~ん、へぇー、そう~」

【御意。ナノハの世界観に該当するのは、紀元前の古代地球時代において一つの都市で最大人口十万が限界だった頃の基準を採用しているものと推測される】

 

「ちょっとそこ! いいでしょ別に!? そういう気分になってるだけなんだから放っといてよ! そういう理屈っぽいとこ私嫌い!」

 

 プイッと! 私はいつも通りイジワルな二人からの返答に、ホッペタを膨らませてそっぽを向いて腕を組んで目を合わせてあげる気持ちがなくなっちゃうの!

 まったくもう、この二人は最近まったくもう!!

 

「ごめんごめん、ナノハ。私が悪かったわ、謝るわ。ちょっとバカっぽくて面白――もとい道化っぽい――でもなくて、え~とえ~と・・・まぁ、そんな感じで悪いこと言っちゃったから反省してるわ本当よ。フランス人嘘吐かない」

「その時点で、もう嘘だよね!? 大嘘だよね!? あと道化とバカって!」

【御意。ナノハは一般的な小学三年生基準としては、些か難解な表現と単語の使用が多いのではと演算される。使用する際には用法用量を守り、正しい利用法での活用を推奨する】

「なんか私、怒られちゃってない!? 私の方が悪い事したみたいになっちゃってるんだけど!?」

 

 あまりにもあまりな展開に、私は怒って二人に向き直って、背後の彼女たち睨み付ける!

 そうすると一人はニヤニヤ笑いながら両手を挙げて降参してくれて、もう一人の方はと言えば――最初から両手も姿さえもないから何も見えない。

 

 もう一人の声は、彼女の方から聞こえてきてたからだ。

 でも、彼女が――ジャンヌが私に腹話術で話してたとか、そういうんじゃなく。

 

 彼女と、そして私だけにしか聞こえることの出来ない声の主さんが彼女の――ジャンヌが手に填めているブレスレットに埋め込まれてる、【青い小さな丸い宝石】から声を発してるだけなんだから。

 

「はぁ・・・もういい。最近のジャンヌは私の前だと、すっかり本音しか出さなくなっちゃったし・・・・・・昔はあんなに優しくて礼儀正しい良い子だったのに・・・」

「ふふん、そこは長年の修練してきたらしい成果ってヤツね。まだ完全には思い出し終わってないけど、かな~り私の猫かぶり技術って高レベルだったみたいだから、まだまだアンタのご両親にバラす予定はないわ~♪」

「はぁ・・・・・・“シュヴァリエ”はいいの? ご主人様が色々な部分でダメなところ隠さなくなっちゃって・・・」

【御意。ジャンヌは私を呼び出せるマスターであり、私はマスターの剣であり鎧である。如何なる城壁であろうと突き破ることこそ我が使命。マスターの更生は私の関知するところではない】

「はぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 

 相変わらずな、『ご主人様』と『ご主人様を守る騎士』からの反応に、私は朝から頭痛を感じずにはいられませんでした。

 まったく本当にもう・・・・・・今朝は“変な夢”を見ちゃったせいで、いろいろ気になっちゃって、不安も少しあったのに本当にもう。

 

「・・・もういい。そろそろ待ち合わせの時間だから、公園に行こう。アリサちゃんとすずかちゃんを待たせちゃったら、ジャンヌと違って私が悪いもん」

「あらあら、可愛らしい皮肉だこと♪ まぁ私はナノハのそういうとこ大好きだからいいけどね~♡」

【御意。ジャンヌは確かにナノハに好意を抱いている。

 今までに夜の寝言で「ナノハお姉ちゃん」という呟きを12回、「エヘヘ~、ナノハお姉ちゃん」という呟きを7回、「ご、ごめんなさいお姉ちゃん!私が悪かったら許してー!」と悲鳴を上げて飛び起きるのを166回確認している。ジャンヌがナノハに好意を抱いていることは統計的に見て明らかモゴモゴ】

「ちょ!? バ! 裏切るなこのブルータス! この!この!このこのこのポンコツー!!」

「・・・・・・へぇ。今のお話、もう少し詳しく聞かせてもらたら嬉しいな、ジャンヌ。特に『ご、ごめんなさいお姉ちゃん!私が悪かったら許してー!』っていうのは今度詳しく、ね?」

「ひぃっ!? ち、違っ! そうじゃなくて! わわ、私が悪かったから許してお姉ちゃん!!

 なんか苦手なだけなのよ本当に! お姉ちゃんって存在が好きなんだけど苦手なだけだから許してー!?」

 

 

 



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【魔法少女?いいえ、なのは世界のIS少女ジャンヌ・デュノアです。】第2話

ジャンヌIS本編ではなく、またしても『ジャンヌ×なのは』の続きになってしまいました…。
本編の方は、そろそろ終わり方で迷う時期に来てしまって悩んでしまい、続きがなかなか書けない状態が続いてます。
アニメ版IS2のオリジナル話使って、幕間劇でも何個か書いてみようかなーと思っているのですが…。


 私、高町なのはは五人家族の末っ子で、ごくごく普通の小学三年生。

 去年から1人・・・いいえ、新しい家族が2人できました。

 

「なのはちゃーん、ジャンヌちゃーん」

「なのはっ、ジャンヌ。こっちこっちッ」

 

「すずかちゃん、アリサちゃん。おはよー」

「おはようございます、アリサさん、すずかさん。相変わらず仲がよろしいですね(ニコッ)」

 

 学校に向かうバスの中で、仲の良いクラスメイトのお友達と合流して、楽しくおしゃべりしながら登下校して先生のお話を聞く。

 自分の将来や、やりたい事。未来の夢があるようなないような――そんな毎日を平和に送ってます。

 

「それにしても・・・・・・二十代に見えるレベルで若々しい二児の両親が、庭付き一戸建て買えてる家庭で生まれ育って、ごくごく普通の小学三年生なんて・・・ぷぷぷ~♪ もう、ナノハ姉さんったらお茶目さん☆」

「い、いいでしょ別に! 普通のどこが悪いって言うのよー!? お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、みんな普通にスゴくて立派な人たちだもん!!」

「な、なのはちゃん・・・・・・ドウドウ」

「・・・相変わらずスゴいわね、なのはのとこは・・・。あとジャンヌは特に・・・」

 

「あはは・・・・・・そ、そう言えばジャンヌちゃん。

 先生から“将来なりたい職業”の話を聞かされたときに、なんだかお顔真っ赤にして俯いてたけど大丈夫だった――って、どうしたのジャンヌちゃん!?」

「だ、大丈夫よスズカ・・・問題ないわ・・・。

 ただ、なんかよく思い出せないんだけど、凄まじく恥ずかしすぎる将来にかんすることが私の過去にあったような気がしなくもなくて、思わず部屋に引きこもって床をのたうち回りたい衝動が、ってギャァァァ!? 太陽光線がぁぁぁぁっ!?」

「大丈夫なの!? 本当にそれは大丈夫な状態なのジャンヌちゃんッ!?」

 

 

 ――そんな感じで時々からかわれたり、友達同士でケンカしちゃったり、周囲から変な目で見られたりするのに巻き込まれることもあるけど・・・・・・それでも私はごくごく普通の小学三年生として毎日を送ってます。送ってるもん!

 

 

 

 

 そして、そんなある日の帰り道で―――

 

 

「あれ? コレって・・・」

 

 公園の中にある池の前を通って帰ろうとしていたとき、池の周囲に大勢の大人の人たちが集まっていて、お巡りさんの姿も見えて。――そして池にあったボートや建物がボロボロになった姿に変わり果てていたのです。

 

 でも私が気になったのは、そこじゃなくて――

 

「ああ、君たち。危ないから入っちゃダメだよ」

「あ、はい・・・・・・あの、何があったんです?」

「いやー、艀とボートが壊れちゃってね。片付けてるんだ」

 

 関係ない人が近づいて怪我しないよう、周囲を見てくれているオジサンがそう言ってくれて、私たちに事情を説明してくれたんだけど・・・・・・私の心は池の風景に釘付けになってしまっていて上の空。

 だって・・・・・・この変わり果てたボロボロになった池の状態って・・・・・・

 

(私が見た・・・・・・夢の中で壊れた場所と、同じ傷跡・・・・・・?)

 

 そう。その光景は私が今朝見た変な夢――不思議な力を使う男の子が、怖いオバケみたいな怪物と戦って、そして敗れていた戦いの景色と同じ場所が壊されていたのです・・・。

 

 思わず、そちらの方に意識が集中してしまってた私は、説明してくれるオジサンの話を聞き流しちゃってて――でも逆に私と同じ夢を見てなかったジャンヌは別の事が気になった事を、後で私は聞かされる事になる。

 

「イタズラにしても、ちょっと酷いんで警察の方にも来てもらってるんだよ」

「・・・イタズラ・・・?」

「?? ジャンヌ?」

 

 そう呟いた瞬間、アリサちゃんが見たジャンヌの瞳は、鋭く細められてて怖かったらしいけど、私は見ていなかったから分からない。

 ただ私には一つ気になる事が・・・いいえ、感じている不安な事があって、思わずそちらの方へと動き出してしまう自分を抑えきれなくなってしまっていた。

 

「ここ・・・・・・昨夜、夢で見た場所と同じ・・・?」

 

 私が、そう呟いた瞬間。

 頭の中に声が響いてきた、そんな気がした。

 

 

 ―――助けてっ―――

 

 

「っ!?」

「なのはちゃん?」

「すずかちゃん! なにか今、聞こえなかった!?」

「何かって・・・・・・あ! なのはちゃん!? それにジャンヌまで!」

「ちょっとゴメン!」

「説明は後でするわアリサ! シュヴァリエが私に行けと命じてるのよっ!」

「それ説明じゃないんだ!?」

 

 思わず走り出した私の後に続いて付いてきてくれるジャンヌと、すずかちゃん達も戸惑いながらだけど一緒に走ってきてくれた!

 それで私も勇気づけられて、柵を跳び越えて公園の奥へ奥へと進んでいくと・・・・・・

 

「あっ!? アレは・・・っ」

 

 公園の中にある開いた場所に、一匹の傷ついたフェレット・・・なのかな? 小さくて可愛い動物が傷だらけの姿で横たわっていた。

 夢の中に出てきた男の子が、オバケにやられて吹き飛ばされていった、その場所と同じ場所で・・・・・・

 

「――事情はよく分かんないけど、とりあえず獣医さんのところにでも運んであげた方がいいんじゃない? 私たち動物医療は専門外だからさ」

「あ、ジャンヌ。・・・うん、そうだね」

 

 駆け寄ってきてくれたジャンヌに言われて、ようやく私にも出来る事があることに思い至って、傷ついたフェレットを刺激しないよう優しく抱き上げながら――私は、傷ついた彼を見たときに胸に抱くようにしていた物を意識せずにはいられませんでした。

 

 首輪についてる飾りなんだと思う、赤くて丸い光る宝石みたいなモノ・・・・・・ジャンヌが出会ったときから持っていたシュヴァリエと、色以外は同じモノに見える、夢の中で見た男の子が使っていた・・・・・・不思議な赤い宝石を・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まっ、傷が浅いみたいで良かったじゃない? 衰弱してるのは気になるけど、明日までは預かってくれるみたいだし。

 とりあえず明日から、どうするか考えましょ。この時間からじゃ、どーする事も出来ないしね」

 

 近くの獣医さんに傷ついたフェレットの治療をお願いした後、診断結果を聞いた私たちは院長先生とジャンヌからの意見もあって、そうした方が良いと思ったから今日のところは自宅に帰って、私は毎日の日課になってるメールを“ある人”の元にパジャマ姿で書いていた。

 

「よし、出来た。送信と」

「終わった~? んじゃ、そろそろ寝るため電気消すわよ。私、眠~い」

「もうジャンヌったら・・・・・・眠いのは分かったから、充電器に置くまで待ちなさい。メッ」

「へいへ~い」

 

 テキトーな返事の仕方で手だけ振ってくる可愛くない態度の友達に、ちょっとだけ肩をすくめてから私は机の上に置いてある携帯電話の充電器のもとまで歩いて行く。

 昨夜の夢から不思議なことが立て続けに起きてきちゃったけど・・・・・・そんな少し変わった特殊な一日も、もう終わり。

 これから寝て朝になったら、また普通の一日が始まる。そう思いながら―――

 

 

―――・・・・・・聞こえますか? 僕の声が聞こえますか・・・・・・!?―――

 

 

「っ、また・・・!?」

 

 突然あの時と同じように、私に助けを求める声が、頭の中に響いてくる!

 それに・・・さっきは小さくしか聞こえなかった耳鳴りみたいな音が、今はスゴク・・・強い・・・!

 

 

―――聞いてください・・・僕の声が聞こえる方、お願いです!

   力を貸してください・・・・・・・・・お願、い――――――――

 

 

 

「・・・ジャンヌ、ごめん。私行かなきゃ・・・お父さんたちには何とかごまかしておい――ジャンヌ?」

「~~~~~ッ!!! ~~~~っ!!!??」

 

 聞こえてきた必死に助けを求めてる声に、いても立ってもいられなくなって家を飛び出そうとしてた私の視界に不思議なモノが写ってきて、ちょっとだけ冷静さを取り戻しながら私は―――頭を押さえて床を転がりながら苦しんでいる友達の姿を、唖然として見下ろすことになる・・・

 

 

「あ、頭が割れるかと思ったわ・・・・・・ったく、何なのよ、あの音は!

 なんか小さく声も聞こえてた気もするけど、音の方が多き過ぎちゃって全く何がなんだか分からないじゃな――痛つぅぅ・・・・・・っ」

「音・・・? 声・・・・・・ジャンヌも聞こえたのね!?」

「ええ・・・そう言うってことは、ナノハもなんでしょ? だったら行きなさいよ、私も付き合うからさ。

 アンタはそういうの駄目なヤツなんだから、止めてもどーせ無駄だろうし、シュヴァリエも行けって言ってるみたいだし」

【御意。現在この世界の基準ではあり得ない量の干渉波の発生を感知。ISエネルギーではないが、類似系のステルス能力を有する何者かが市街に潜伏した模様。状況から見て対象をアンノウンと判定。対処方法、抗戦しての殲滅一択であると類推される】

「「・・・・・・??」」

 

 なんだか急によく喋るようになった、普段は他の人がいる場所だと静かなシュヴァリエ。

 ま、まぁ言ってることは難しい専門用語が多過ぎちゃって分からなかったけど、とりあえず助けに行った方が良いって言ってくれてるのだけは間違いないみたい。

 

 私たち二人は大急ぎでパジャマから私服に着替えて家を飛び出し、音が聞こえてくる震源地の方へ向かって大急ぎで走り出す!

 この方角は・・・・・・フェレットを預けた獣医さんがある方向から!?

 

 

 ――ビィィィィッン!!!

 

 

「うっ!? また、この音・・・・・・っ」

「頭がっ! 頭がぁぁぁっ!! あああぁぁぁぁ・・・・・・ッ!!!」

 

 獣医さんの建物までついた瞬間、また聞こえてくる今までで一番大きい、不快な耳鳴り・・・っ。

 

【報告。近辺の家屋すべてから人の生命反応が突然消失。なれど死体と死亡確認は取れず。

 おそらく何らかのフィールドによって互いの空間が閉ざされ合ったことから、今我々がいる場所は隔絶された状態に放逐されたと推測される】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――“ソレ”は脅威に追われていた。

 自らを“敵”と定めて滅ぼさんと追いくる“外敵”の脅威に、ソレは生存を脅かされる危機を感じていた。

 

 “ソレ”の生存を危険と見なし、“ソレ”を管理下に置き、“ソレ”の存在そのものの意味と価値を定義する、傲岸不遜極まりない“外部から訪れし外来敵性生物達”

 その脅威に追われる恐怖から、“ソレ”は一度は勝利した。

 だが仕留め損ねてしまった。

 

 脅威は、ソレの生存を否定している。ソレが有りの儘の存在で在り続ける限り、決して追跡を辞めようとはせず、滅ぼすまで追い続けてくる生物達で在ることをソレは知っていた。

 

 ――滅ぼさねばならない。殺さなければならない。

 自らの生存と、自らが自らとして在り続けるためには、迫り来る脅威と戦って勝利し、その脅威を取り除かなければならないからだ。

 

 自らの生が、他の生命体の生存を脅かす在り方としてしか在れないもので有ることは知覚している。

 だがソレは、だからといって在り方を他者に強制するため、他者に犠牲を強いる旅路を歩みたいと望んでいる訳ではなかった。

 

 ただ生の継続を望んでいるだけ。

 自らが生まれ持った在り方のまま、在り続けたいと願っている。只それだけに過ぎない。

 

 自らを生み出した創造主達は、今は居ない。

 自らが生まれた故郷となりうる世界も、既にない。

 

 ならばせめて、その世界で産み落とされし自らが、与えられた在り方のまま生存し続けたいと願う、生命として当たり前の願望を抱くことに何の悪が有ろう? 何の矛盾が有ろうか? 

 そんな生命体として当たり前の自由なる生を脅かす、外の世界から来たりし脅威。

 それこそが、ソレが斃さんと欲する脅威だった。

 

 ――それこそが、“ソレ”が自らを追い続ける脅威に襲いかからんとする理由だった。

 

 ソレは自らの中に矛盾が有ることを、知覚していなかった。

 あるいは、知覚できないようプログラムされた存在として生まれていたのかも知れない。

 

 

 自らの生を、『他の生命を脅かす在り方しか出来ない』と認識しながら、その自らの生を与えられた在り方のまま生きようとしている行動を『他の生命を害するための侵略ではない』と考えている。

 

 意識のズレが、他の生物たちとの認識のズレが、ソレの存在を『存在そのものが危険である』という自己認識を決して持てない存在だったことが――ソレを“その名で呼ばれる存在の一員”として他の生物から定義される理由になっていることに、ソレは全く気付いていなかったのだ。

 

 

 ソレは【ロスト・ロギア】と呼ばれている物の一つだった。

 

 

 正式な固有名称ではない。

 そもそも、存在を示す定義と、個体を表す名称を必要とする、単一の存在定義に与えられた名ではない。

 

 ただ、【そういうモノたち】を総称する括りとして定義した次元空間の一つが存在し、その次元空間に住まう者たちから、危険物として認識して与えられていた名称。

 

 もし仮に、ソレを個体としての定義で言い表すなら、《次元干渉型エネルギー結晶体》という区分に分類される系統に属する一つだった。

 流し込まれた魔力を媒介として、時に次元震を引き起こせるほどの機能が与えられた、今は亡き滅びた世界のいずれかで生み出されていた過去の遺産。

 

 それこそが“ソレ”だった。

 そして差し当たってソレは、自らを追ってきたところを反撃し、仕留め損ねた追跡者が運び込まれた隠れ家を襲って生命活動を止めようと願っていた。

 

 有りの儘で在り続けるには力がいるからだ。自らが媒介となるべき魔力がいる。

 今の己がいる世界は、魔力が少ない。魔力持つ者の反応が見つけにくい。

 

 外部からの追っ手はソレが斃し損ねた一匹だけではない。

 次々と襲い来るであろう侵略者どもの魔手から、自らの有りの儘を生きる生を守り抜くため力が必要で、その力を得るには仕留め損ねた追っ手を殺して、その魔力を吸収する。

 

 自らが生き続けるためには、在り続けるためにはソレしかない。

 力を求め続けて、手に入れ続けるしか他に道はないのだから――――!!!

 

 ソレは、そう願った。

 そう願って4人の現地世界人たちによって追っ手が運び込まれた襲撃するため、自らを魔力で覆い尽くして実体化しようとした、その瞬間

 

 

【――願うか?】

 

 

(・・・?)

 

 ふと、ソレの中で無いはずの意識に声が聞こえた。

 そんな気がした。

 

 

【――汝、力を欲するか? 自らの変革を望み、より強い力を欲するか・・・?】

 

 

(・・・・・・?)

 

 どこからともなく聞こえてくる気がする声は、時の経過と共に声を高め、その言葉は自らに感情と渇望とを強く、強く刺激し始める。

 

 

【求めるならば、与えよう。

 汝、我の力を求めるとき、我の名を呼び、我を求めよ。

 さすれば我は汝に与え、汝の願いを叶えるための力とならん】

 

 

(・・・・・・オマエは、イッタ、イ・・・・・・)

 

 

 遂に、言葉を持たぬはずの自分の中で、それに対して疑問を投げかけるだけの言葉が生まれ、意思が生じた“ソレ”に芽生えた意識の中。

 

 どことも知れぬ場所から聞こえてくる声は、声だけで―――笑ったようにソレは感じた。

 

 

 

【我は、望まれて生み出されながら否定されし者。

 産み落とされながら、与えられし使命果たせぬまま消え失せし者。

 故に汝の心を理解する者。我の名は―――】

 

 

 

 その名を告げて、ソレの中から声は跡形も無く消えていった。

 ソレが接近しつつ在る二つの生命体と、ソレの向かう先と二つの目的地とが重なることに気付かされたのは、その数秒後のことだった。

 

 

 自らが手にした“新たな力”に気づくことなく、この世界の魔法少女と異なる次元世界からきた少女たちと、初めての敵と初めての戦闘が切って落とされる!!!




*2話目を出してしまったため、1話目からも『番外編』の字を取り除きました。
2回も続けて番外編もクソもなかったので。

ただ区分けのため、【】だけは付けておきますね? 念のために。


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特別版【年末年越しブースト編】

正月最後の日を過ごし終え、『正月用のオリジナル回を出してもいい日だった!』という事をようやく思い出し、慌てて書き上げた思い付き話ができたので投稿しました。

時期的に遅れてしまって申し訳ありません。本気で思い出したの今日だったもので…。


 

 今の時代・・・・・・大晦日の年越しに、人々は何をして過ごすのだろうか?

 古くは家族とともに年末を迎え、年越しソバを食べながら赤白チームに別れた歌合戦を見る風習は廃れ、来る年を祝い、過ぎる年の出来事に思いを馳せながら、子供たちは明日にはもらえるお年玉に夢を抱く・・・・・・。

 

 そんな時代が終わりを迎え、テレビの中で伝わる伝承としてのみ残された、神秘が薄れた現代に生まれ変わった神秘の担い手たち《IS操縦者》

 呪文を唱えれば、手からロボットが飛び出してくるアニメの魔法使いそのものな現代の魔術師たちである彼ら彼女らにとって、運命の夜を迎えることになる当日を如何にして過ごしていたかと言うと―――

 

 

 

「なぁ、ジャンヌ。なんで俺は年末の朝っぱらから満員電車に乗って、東京まで遠出してきて、こんな人の大渋滞に巻き込まれて、寒い中を何時間も立ったまま耐え続ける苦行をおこなわなくちゃいけなくなってるんだろうな・・・・・・」

「・・・・・・うっさいわね。これ見よがしに皮肉ってんじゃないわよ、アンタが言ったんでしょうが。

 “年末年明けは他のヤツと違って特別にやること決まってないからヒマだ”って。

 だから荷物持ちに連れてきて、暇潰しさせてやってんだから感謝しなさい」

 

 

 世界で唯一の男性IS操縦者・織斑一夏の姿はジャンヌと共に、東京のお台場ビッグサイトへと続く道に何キロ先まで並んでいる人の波の中間辺りに存在していたのだった。

 例年恒例にして、日本の伝統的行事に参加する権利と資格と義務を、クラスメイトのフランス人少女から強制的に与えられてしまったからである。

 

 彼女は外国から来た転校生にして、日本の専用機を密かに盗み出そうとした企業スパイの片割れという事情から、『高校生の間の3年間だけ』という契約で日本のIS学園に召喚されているが如き存在。

 一つの地方の同じ場所で年に2回、数ヶ月に一度のスパンで開催され、その日のためにエネルギーを溜め続けて行われる大儀式にして、選ばれし者たちが己の願いを叶えるブツを手に入れるため集められ、激しい奪い合いを実行し合う命がけの争奪戦が行われる場所に参加することが出来るのは『3回だけ』しかない特殊な少女戦士。

 

 まぁ正確には、夏冬1回ずつ行われるため合計すると6回になり、小規模だけど春や秋にも一応はやってるから全部合わせれば16回と結構余裕あるんだけれども。

 

 目当ての宝が手に入るのは、一年に1回だけかもしれず、終わった後にショップで出回るブツの中には、来てくれた人限定でもらえる無料配布用のまでは含まれてないことが多いので、日本はあんま好きじゃないけど日本のゲームは大好きで、日本のサブカルチャー全般のオタク気味でもあるフランス代表候補生ジャンヌ・デュノアちゃんとしては、積載可能量限界まで買い込んで持って帰りたい願望が器に入りきらないほどデカかったので、一夏を巻き込んで来ちゃってました。

 悪いとは思っているし、反省もしているけれど、今後も行動を変える気まではない。

 それがジャンヌちゃんメンタリティー。貫き意思の強すぎるイノシシ少女は正月でも健在です。

 

「いや、確かに言ったけどもそういう意味じゃねぇよ!?

 “特別な行儀に参加する予定はない”って意味で言っただけだったんだよ! 日本人の気遣い! おもてなしの精神を理解しろ転校生!!」

「・・・・・・Surprise! ワタ~シ、フランスのド田舎どんれみ村で生マレ育っタ世間知ラズノ小娘ダッタカラ分カリマセンデ~シタ、ってちょっと辞め!?

 こんな所で怒って襲わないでよちょっと!? 人が見てんでしょうが! 人が! 人の目がっ!!

 今のは私が悪かったから謝るから辞めてーッ!?」

 

 とはいえ、ジャンヌの生き方貫き意思や方針がどうだろうと、巻き込まれただけと分かった一夏の側が怒らないでいてやる理由には特になりようもないので、普通にお仕置き。

 恥を嫌うジャンヌにとって、抵抗しようのない場所での折檻には降伏する以外に選択肢がなく、あえなく撃沈。

 

 国内事情によって一時期、何年間も開催できない日々が続いてたこともあったという情報をネットで知った時間制限ある彼女は危機感を抱かされ、買えるときに買えるだけ買っておこうと衝動的に頭数を求めてしまって、機体整備とか里帰りとかで母国に戻る者が多い専用機持ちの中で、実家に家族いなくて掃除ぐらいしかすることない一夏を騙くらかして無理やり拉致ってきちゃってたため―――普通に自業自得なヒドい目に合わされただけの結末だった。

 

「く・・・っ、この私が男なんかに、こんな屈辱を味あわされるなんて・・・・・・! 今に見てなさいオリムラ、この恨みは決して忘れない・・・・・・復讐の魔女に私はなって戻ってきてやるんだから!

 じ、自分が勝ったとか思い込んで勘違いしないでよね!? 友達に噂とかされると私が恥ずかしいから!!」

「・・・・・・お前はなんで、今の流れでテレることが出来る上に、怒ることまで出来てるんだ・・・? そういう所は一年近く付き合っても、未だによく分からん・・・」

 

 そして変な部分でツンデレるジャンヌちゃんは、年末でも平常運転なツンデレぶりを発揮して一夏を困惑させて溜息吐かせて諦めと共に受け入れさせる。

 日常通りのパターンを、年末の学園外でも繰り返させている自分たち自身に気づくことなく、男子高校生と女子高生が年越しを男女二人だけで過ごしている状況に自覚もなく。

 

 普通に行列並びながら、キャイキャイと雑談して、進まない列のヒマを潰していたのであった。

 

(・・・・・・しっかし、それにしても・・・)

 

 一夏としては相変わらず過ぎる相手の言動に溜息を吐きつつも、“普段と違う相手の部分”には思わず多少は意識がもっていかれざるを得ないことは否定しきれない。

 というのも今日のジャンヌは、服装だけでなく髪型も含めて普段と色々変わっていたのが、その理由だった。

 

 キツ目の瞳には眼鏡をかけて、長めの髪はお下げの三つ編みにして左右に垂らし、ダッフルコートを着てマフラーを巻き、足下にはウールのブーツ。

 

 女の子らしくお洒落と言えたかもしれないし、文学系の地味なファッションと言えるのかもしてない服装に、そういう事には疎い一夏は判断と評価に困り、視線を少し彷徨わせていたところ・・・・・・

 

「なによ? 私の格好になにか文句でもあるの?」

 

 と、相手の方からジロリと睨み付けられながら詰問されてしまい、観念して両手を挙げる。

 ――もっとも、その判断は速すぎたことが即座に判明する結果になるのだが。

 

「・・・いや、普段は制服姿とISスーツ着たお前しか見ないから、その・・・新鮮だと思ってさ」

「ハン、成る程ね。そういう事か。しょうがないでしょう?

 “変装ぐらいしないと私だってバレちゃうかもしれない”んだから。

 こんな所の三日目に来てるとこを、誰かと出くわして見られちゃったりしたら、恥ずかしいじゃないの。だから正体隠してるのよ、それぐらい察して合わせないよ、この朴念仁」

「そういう理由で、その服装してたのかお前は!?」

 

 驚きの真実カミングアウトに驚愕の一夏! 

 ジャンヌとしては不本意だろうが、相手からすれば正当な理由あっての驚愕という判決であり、双方から見た評価の食い違いは致命的なまでに隔たりがあったと言っても良いほどの物だったろう。

 具体的には、祖国を救うため暴走しまくったファイヤーボールガール聖女の主観から見た国王様と、現実の政敵と手を結んで外敵追い払った国王様との違いぐらいに。

 

 一夏からすれば、今まで散々に醜態さらしまくって恥の多い転校生生活送ってきてた記憶以外はほとんどないクラスメイト少女が気にしたところで、今更過ぎる懸念としか思えなかった訳だが・・・・・・。

 って言うか、こんな所まで連れてこられた後の状態を見せつけられてる異性男子が自分自身なんだけど、それは?

 

「って言うか、今更お前にんな変な趣味あったぐらいで気にするヤツいねぇだろうが!

 むしろ、お前が見られて恥ずかしいと思える友達なんて、簪とラウラ以外には一人もいないボッチじゃねぇか!」

「なっ!? なッ! ななななんてこと言うのよアンタは!? いるわよ! 友達ぐらいチョーいるわよ! 幾らでもいまくってるに決まってんじゃないのバカじゃないの!?」

「だったら言ってみろよ! 簪とラウラ以外でお前と仲いい友達の名前を幾らだっているんだったら言ってみろーっ!」

「いいわよ!言ってやるわよ! たとえば!

 ・・・・・・か、カンザシとか! 更識簪とか! カンザシ・サラシキとか! あ、あとシャルロットお姉ちゃんとか!!」

「いや、同じヤツだろそれ全員!? 同一人物だよな!? 言い方変えただけで同じ人間のこと何度も呼んでるだけだったよな今のって! あと、最後のだけは外しておいてやれ。

 妹が姉を友達に数えてると分かったら、たぶん泣くぞ。お前と仲いい姉ちゃんが・・・」

「って言うか、ラウラなんか友達なんかじゃないんだから! 勘違いしないでよね人として恥ずかしい!」

「そっちはキチンと否定するのか!?」

 

 もはや聞いてる方が恥ずかしくなる内容しか話せていない恥態っぷりを披露しまくる、日本のアニメ漫画オタクでボッチ少女のジャンヌちゃん。

 それにいちいち付き合ってツッコんでやってる一夏と、二人だけの特殊空間展開してしまうところも相変わらずであり、年末になっても何一つ変われず進化も進歩もできていないダメ人間っぷりを盛大に学園外の有明でも披露しまくっていた。

 

 

 ・・・・・・ちなみにだが、そんなやり取りを交わす2人の姿を、客観的視点で冷静に評価する者が、もしこの場にいたとするならば。

 

 

『――チッ! チィッ!! イケメンが! リア充が! 美少女とイチャついて見せつけやがって場所選べよバカップル共が!!

 ここはテメェらみたいのが来る場所じゃねぇんだよ! 一人で寂しく正月を過ごさないためのアイテムを求めてやってくるヤツらの来るべき場所なんだよ!

 テメェらみてぇなのが蔓延ってるから世の中腐るんだ! 爆ぜろ! 消えろ! テメェらのいるべき世界へ帰りやがれリア充バカップル共が―――ッ!!!』

 

 

 ・・・・・・という風な感想を、外国人ボッチ美少女と素人イケメン日本人美少年という2人組でやって来て痴話喧嘩してるようにしか見えない自分たちを、周囲にいる大勢の赤の他人な独り身の男性たちから(+多少の女性たち)リアルタイムでリアル悪評を被りまくっていたのだが。

 心の中だけの叫びだったため、当人たちには聞こえる事なく、気づく事すらもないままに、仲良いカップル同士のイチャつきとしか客観的には見えようのないやり取りを続けながら・・・・・・開幕時刻まで、あと2時間半。

 

 

 

 

 

 そんな風にして、周囲の人たちの精神面に自覚なき大ダメージと大被害をもたらしまくりながら、開幕時間までは進みようのない列に並んでいた一夏とジャンヌの2人であったが。

 少しずつ進んでいく時計の針が始まりの刻に近づいてきた辺りで、ジャンヌは戦いのための準備を始める必要を感じて、今この時だけ戦列を共にする戦友となった一夏に対して、戦場で生き抜くための術と武器とを手渡すことを遂に決断する。

 

「オリムラ、もうすぐ戦いが始まるわ・・・・・・その時に備えて今のうちに、コレを渡しておく」

「やっとかよ・・・・・・もう足が棒になったぜ――って、なんだよコレは? 水筒とサイフと・・・なんかの地図か?」

「いいえ、違うわ。これは勝利を約束するための聖なる武器――聖剣エクスカリバーよ」

「・・・・・・」

 

 相手から覚悟の籠もった言葉を聞かされて、一夏は思わず真剣な瞳でジャンヌの瞳を見つめ返していた。

 

 ―――正気か? ・・・・・・という意味を込めて。

 

 そんな視線を向けられたジャンヌもまた、大真面目な表情と瞳で一夏の顔を見つめ返す。

 

 たとえ周囲に理解されずとも信じた道を貫いて、戦場で生き続ける人生を送ろうとも後悔はない、騎士の女王が如き澄み切った心で真っ直ぐに。

 そして、

 

「・・・って、あれ? 地図だけじゃなく、もう一枚あったのか。なんかの名前が書いてあるみたいだが・・・えーと。

 『どこでも英雄様と一緒♪ ポケット・キャメロットハウちゅ~♡』

 『先輩、ここまで来たなら最後までイッちゃいましょう♡グランドオーバーの彼方まで☆』

 『悪と正義が逆転した月面シンジュク領域!性反転した英雄たちも世紀末世界なら何でもアリ♡』

 ・・・・・・って、なんだこの変な名前の羅列は?」

「――え? あ! 違ッ!? そっちじゃなくてコッチ! コッチだから!! 勘違いしちゃダメー!?」

 

 一瞬にして真面目な表情崩れて、真っ赤な顔してバババッ!!と音立てながら物凄いスピードで手渡したばかりの地図と自分が持ってた地図とを無理やり交換して、元いた場所へと戻ってきて「ふ~!ふ~!!」と威嚇する猫みたいな声あげながら距離おいて睨み付けてきて、

 

「・・・・・・・・・」

「コホン。コホン! ゴォッホンホン!!」

 

 そして白い目付きで見下されたように見返されちゃったので、誤魔化すように誤魔化すための咳払いを連発使用。

 

「あ、アンタの担当は東館の一般向けだけだから! 18禁なんてアンタにはまったく関係ないんだからね!? か、かか勘違いしないでよ私が恥ずかしいだけだから絶対にダメ!!」

「・・・・・・まぁ、いいんだけどさ。俺もそんなもん担当させられたときには問答無用で帰ってたから別にいいんだけどさ・・・。お前、実は今日あんま寝てないだろ絶対に。

 さっきから勘違いしないでが多すぎるし・・・大丈夫か? 本当に・・・」

 

 本当に恥ずかしいセリフを言われて行動を見せつけられて、三日目の今日まで二日連続で参加した後だったことまで曝かれまくって、それでも進むと決意した火の玉聖女と同じ名前のイノシシ少女ジャンヌちゃんは立ち止まろうとは思わない。

 

 

「と、とにかく! とーにーかーく!!

 ・・・あそこが入り口、あそこからが戦場。戦いの火蓋が、あと少しで切って落とされる。

 出陣よ。シェルジュ!!」

 

 

 こうして、真面目な顔に戻って前だけ向いて、白い目を向けてきてるクラスメイト男子の方は見ようとせず。

 自称変装モードのジャンヌ・デュノアは、彼女にとっての聖戦が行われる戦場へと一年ぶりに帰ってくる・・・!!

 

 

 

 

 

 

「これより開場です。部数は十分に確保してますので、走らないでくださーい!!」

 

 

 そんな声がメガホン使ってアチラコチラから聞こえてくる中を、ジャンヌ・デュノアは走ることなく駆け足で進んで、小刻みなステップを踏みながら前の人を追い越すことなく、自然とすっぽ抜いて前へ前へと進んでいき、ターゲット・ロックオンした目標を外すことなく狙い撃つため、一直線に向かっていく。

 

 本心を言えば、大手の本命を手にしたいと思ってはいるものの、サークル参加して最初から入っているか禁止されてる徹夜の行列しないと難しい。

 時間ロスして終わる危険性が高い一般参加では、次点を本命として確実に確保することこそ現実的か・・・・・・そう考えたジャンヌは、狙った獲物を逃さないため先を急ぐ。

 

 国民の血税使って国家が鍛えさせた、IS専用機持ちとしての身体能力を遺憾なく発揮し、見た目からは想像できないスピードと軽やかな動きで目標地点へと素早く到着。

 

 ・・・・・・凄まじい税金の無駄遣いを、誰にも気づかれないままドブに捨てまくってから列に並んで、人に可能な限りの最速順位で最前列まで進み出ると、新刊か既刊かだけ確認してから手を伸ばし、余計な動作など一切ない挙動でケバケバしい配色と構図の絵柄の本へと手を伸ばす。

 

 限界まで無駄を省いた動きを、こんな所でこんな事やるために発揮しまくる、無駄だらけとしか言いようのない使い方で、目当てのサークルの本を購入するため売り子さんへと五百円玉と千円札と薄い本とを同時に差し出し。

 

 

『『新刊ください! 3冊ずつッ!!』』

 

 

 “ハモった声”で注文を叫んでいた。

 完全に同じタイミングで、完全に同じ本を掴み取り、一冊につき二山ずつ並んで陳列されていた同じ新刊3冊ずつへと手を伸ばし。

 

 “一人の少女”と“一人の美女”は、全く同じ標的を同じ戦場で奪い合うライバルとして、はじめて―――出会った。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 二人は同時に互いに互いの顔を見つめ合い、互いに瞳を僅かに見開き相手を見て。

 二人同時に、

 

「ありがとうございました! 新刊3冊ずつで三千円になります!!」

 

 売り子さんから言われた値段通りの代金を支払うため、互いに相手の顔を見つめ合いながら懐からサイフを取り出して、千円札を3枚ずつ見もしないで正確に取り出して売り子さんに渡して、受け取った本をキャリーバックとキャリーケースに入れあって、その間ずっと相手の顔から視線を離すことは一瞬もなく。

 

 

(コイツはただ者じゃない・・・・・・いったい何者!?)

 

 

 と、互いに互いのことを声には出さずに思い合っていた。

 お前が言うなよ思うなよ、と他人が聞いてたら言いたくなること請け合いな感想を、全く同じように相手に対して同じように。

 

(・・・この女、一般人じゃないわね。動きに訓練を受けたヤツ特有の仕草がいくつも見られるし、見た感じだけでも結構強そうだし・・・・・・しかも、この年齢でってことはIS操縦者かもしれない)

 

 そう思いながらジャンヌが見つめる先にいる相手は、鋭利な美女だった。

 短めの髪を綺麗に切りそろえて、赤い瞳は感情の薄い冷静そうな、あるいは酷薄とも言えるほどの冷たい光を放っている。

 

 妙に軍人めいた雰囲気を感じさせる外国人女性で、今は私服をまとって着こなしているが、軍服を着たとしても違和感がまったくないのではないかと思われるほど。

 片目にアイパッチをつけて隠しているところも、そういった印象を強めさせる理由になっていた。

 

 ・・・・・・ただ一カ所だけ、おかしな部分があるにはあった。

 目につけている眼帯に、何故か『黒いウサギのキャラクター』を描いているのである・・・。

 

 その点から見て、コスプレイヤーなのは間違いないが、見覚えのないキャラクターであり、ただのコスプレイヤーとは思えぬ強者の気配がジャンヌを緊張させる相手だった。

 

 

(にしても、この眼帯のマーク・・・・・・どこかで見た覚えがあるような気が・・・はッ!?

 まさかコイツひょっとして・・・・・・ファンヌ・キャスクとかいうテロ集団の一員じゃ!?)

 

 

 注:違います。あと、「ファントム・タスク」です。

 『fan(扇)』『Caque(兜)』ってなんじゃい。

 

 

 

 ・・・・・・一方で、眼帯の美女の側もジャンヌに対して、似たような印象を抱かされていた。

 

 

(・・・・・・この少女、一般人ではないな。だが我々と同じ軍人でもない。訓練による条件反射での動きに僅かながら差異が見られる。

 そうなると、軍事教練を受けながら一般生活を送る民間人ということになるが、そのような者が今の日本にそう多くいるのだろうか?)

 

 眼帯に隠れていない右目を細めて相手を見ながら、彼女は減ったサイフに弾薬を補充し治しながら警戒は怠らず、相手の少女から目を離そうとは思わなかった。

 

 彼女の名前はクラリッサ・ハルファーフ大尉。

 ドイツ軍IS配備特殊部隊《シュワルツ・ハーゼ》の副隊長であり、通称を《黒ウサギ隊》とも呼ばれている精鋭部隊を預かる女性士官。

 

 そして同時に、日本のアニメや漫画やラノベを愛好して日本を勘違いしている、どっかの国のイノシシ少女と微妙に似通った特徴を持った美女さんだった。

 

 どうしても自分が外れることの出来ない任務を遂行して、完遂し終えた後であったが『未だ遂行中』ということにして、早く終わった任務の余剰時間を使って参加できなくなってしまったイベントにやっぱり参加するため、正体隠してやって来ている真っ最中だったのである。

 

(・・・あるいは噂に聞く、ファントム・タスクの一味なのかもしれん。とすれば捕縛して情報を得るべきところだが、ここでは被害者が何人出るか分かったものではない。

 正体がなんであれ、今は泳がせるしかないだろうな・・・・・・そう、今はまだ慌てるような時間ではないのだから大丈夫だ。問題はあるまい)

 

 という思考をしあった末、二人は無言のまま別れて別々の方向へと歩き出した―――はずだったのだが。

 

 

『『これ下さい。新刊と既刊を3冊ずつ』』

 

「はい、どちらも3千円になりまーす♪」

 

 

『『無料配布本は、まだ残ってますか? それから新刊も3冊ずつ』』

 

「はい! 新刊を、見る用、保存用、布教用の3冊ずつですね!

 《神聖なる円卓の領域で受け止めて♪私のセクスカリ》ぶほわぁッ!?」

 

 

 

 ・・・・・・そんなこんなで色々な場所で、色々なスペースの前でかち合いまくり、女の敵を討伐クエストを一緒にクリアしたことすらあり。

 

 その結果として。

 

 

 

 ガシィッ!!

 

 

「・・・・・・何故かは分かりませんが、あなたとは他人という気がしません。会ったばかりだというのに・・・不思議ですね」

「ふ、同感ね。私もアンタとは以前どこかで会って、深い絆でも結んでたような錯覚すら覚えさせられたぐらいだわ。何かの縁で結ばれてたのかしら? 私たち二人共に」

 

「フフ、そうかもしれません。である以上、私は何かの絆で繋がりがあった仲間の素性を、深く知ろうとは思うべきではない・・・・・・仲間なのですから。そうでしょう? フロイライン」

「ふふん、なかなか口が上手いみたいね。気に入ったわ。それじゃあ私もアンタに合わせて、仲間の正体はジューダス様とでも呼んでおくことにしておくわ」

 

 

「・・・・・・なんか、よく分からんけど・・・・・・実の姉以外にも新しい友達ができたみたいで良かったな、ジャンヌ」

 

 

 人でゴッタ返した会場の中で、さらに人の波に浚われそうになっちまって揉みくちゃにされながらも何とか脱出してきた俺が目にしている光景は、夕日が沈もうとしている海をバックにしてジャンヌと見たことない美人のお姉さんが握手し合いながら「ニヤリ」と笑顔を浮かべ合っている変な景色だった。

 

 疲れた! オマケに虚しい!

 ジャンヌにとってはどうか知らないが、俺にとっては何の得もない一日を無駄にしただけで終わった年越し昼間の過ごし方だった・・・・・・。

 

 ああー・・・・・・もう、疲れすぎたから篠ノ之神社に初詣とか、初日の出見に行くとかしないで、帰ったらサッサと寝ちまって寝正月送りたい誘惑に駆られるけど、そうすると箒が怒りそうだしな・・・。

 しょうがない。今年最後の締めくくりとして、箒や他の仲間たちも誘って盛大に新年の始まりを祝いに行くとしよう。そう思っていた俺だったのだが――

 

「フッ・・・なるほど。あなたは彼女と違って、なにも分かってはいないようですね」

「なん・・・・だと?」

「ええ、全く彼女の言う通りよオリムラ。あんたは何一つとして分かっちゃいない。その程じゃ新しい年の祈りなんて夢のまた夢でしかないわ」

 

 一人の少女と、一人の美女からそう言われて俺は思わず頭にきて、彼女たちに詰め寄っていた。

 気にくわない表現だったし、気にくわない言い方だった。

 彼女たち女性がISが使えるってのは確かに凄いかもしれないが、だからって力を持ってるから人を見下して、碌に正しい答えを教えようともせずにダメだダメだと言ってるだけの奴らの言うことが正しいはずなんてないのだから!!

 

 そう言うつもりで、相手が女性であることを一瞬だけ忘れて掴み掛かりたい衝動に駆られてしまった俺だったが―――その直後。

 

 別の願望を、希望を。心の底から願うことになる。

 

 

 

『『帰りも並ぶのよ(ですよ)

  あの懐かしき朝来たときに使った行列を、駅までね』』

 

 

 

 誰か―――タステケ――――と

 

 

 

 

今話だけ、完




*出来ることなら、こういう年末・年明けを迎えたかった……という作者の願望を祈りに込めてたら思いついた今話の内容。

そのため思い付いたのが年明け以降になり、本来のジャンヌIS最新話として書き途中だった話は別にあります。

アニメ版2の【シャルロットのパンツ粒子化事件】を時間軸変えてやるつもりで書いてたのですが――。

こういう時世だと、マヌケなバカ話は出していいのか悩みやすいのが難点です…。


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