D-クロニクルズ (ホワイト・ラム)
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5色を操る少年

実験的な意味合いで投稿。
個人的な趣味を全会で書きました。
多分投稿スピードは遅め。場合によってはもう……

楽しんでもらえたら幸いです。


もうずいぶん昔の記憶、まだ俺が今よりずっと弱かった時の記憶。

勝てなくて、なんだかつまらなくて……

デュエマなんてやめようと思ってた時。

 

「君にはこのカードをあげよう……」

もう顔も思い出せない男。

その男がくれたカードが俺の相棒なんだ。

 

 

 

 

 

頭脳の戦いデュエルマスターズ。

5色のマナをチャージしクリーチャーを召喚!!

無数の呪文や能力を駆使し、戦場を操れ!!

5枚のシールドを破り相手にトドメを刺す!!

このゲームにのめり込む、少年たちがいた。

 

 

 

 

 

「ふぅんふふん~♪」

鼻歌を歌いながらデッキ調整をする俺こと、黒札 想護(くろふだ そうご)

デッキをいじりより強くする、それこそが俺の一番のリラックスタイムだった。

 

『ずいぶんご機嫌ね?』

すぐ横から気の強そうな女の子の声が聞こえる。

此処は俺の部屋だけど、彼女なんて居ない俺には不釣り合いなシチュエーションだ。

しかし確かに聞こえる。

俺は、慣れた手つきでデッキから一枚のカードを取り出す。

 

「ああ、もちろんさ。飽きたりするもんかよ、これが俺のライフワークさ」

そう言って話しかけるのは一枚のカード。

その名も『薫風妖精コートニー』

返事もそのカードから帰ってくる。

最初に断っておくが俺の頭がおかしい訳じゃない。

コートニーは実際に話しているのだ、親や友人に聞いても声は聞こえないらしいがコートニー曰く『波長が合うデュエリストなら聞こえる』らしい。

その事が本当であることを祈るばかりだ。

俺だって、頭のおかしい人のレッテルは欲しくない。

 

『そう言えば、今日の大会行くんでしょ?』

 

「ああ、もちろんさ」

そう話すと俺はデッキケースを取り自転車で近くのカードショップへ向かった。

 

 

 

 

 

「はい、コートニーでトドメっと!」

 

「うーん……ありがとうございました」

大会の始まりに何とか間に合った俺、着実に優勝へとコマを進める。(10人程度の規模の大会だが……)

 

「よう、黒札!」

 

「よう、中埜(なかの)!」

 

何時のこの店で俺と優勝争いをしている中埜が案の定相手の様だ。

敵にとって不足無しだな!!

 

「じゃあ、始めるか?」

 

「おお、そうだな」

 

「「デュエマスタート!!」」

その言葉と共に、店の壁にかかったTVが点灯する。

想護たちが使っているテーブルは特殊な物で、カードを読み取り目の前、テーブルの中央画面にクリーチャーたちが映し出されるのだ。

その映像は、壁のTVにも映されギャラリー全員がデュエマを楽しめる構造になっている。

 

 

 

両者が40枚のカードの束『デッキ』を机の上に置く。

枚数確認が終わり、山札の上から5枚を『シールドゾーン』へ更に5枚を『手札』にする。

 

じゃんけんの結果、先攻は想護になった。

「俺の先攻、ドローは無し。マナに古龍遺跡エウル=ブッカをチャージ!!ターン終了!!」

 

想護 手札4 マナ1 シールド5

 

「俺のターンだな……ドロー、さっそく動かせてもらおうか、マナにチェレンコをチャージ、1マナ使用でトロンをバトルゾーンに!!」

中埜のバトルゾーンに帽子をかぶった子供の様なクリーチャーが出る。

このトロンは『ブロッカー』で相手の攻撃を中止させ代わりに自分がバトルする能力が有る。

デュエルマスターズは、最初から動くデッキというのは限られている。

この時点で、かなり大きく中埜のデッキタイプを測ることが出来る。

 

「ターン終了だ」

 

中埜 手札4 マナ1 シールド5

 

「ドロー……来てくれたなマナを1マナチャージ!2マナでコートニーをバトルゾーンへ!!」

反撃とばかりに想護のバトルゾーンに、目を隠した少女の様なクリーチャー、『コートニー』が出現する。

 

「さぁ、今回も暴れるわよ!」

そう言って想護にしか聞こえない声で、話し腕まくりをし、腕を振り回した。

 

(こいつ、もう少しおしとやかには成れないのか?)

その態度を見て黒札は一人愚痴る。

しかしコートニーはそんな事お構いなしだ。

 

黒札 手札3 マナ2 シールド5

 

中埜「出やがったな、相変わらずの着色クリーチャー……だが、俺は俺の信じる戦いをするだけ!!ドロー!いいねぇ、こっちも良いのが来たぜ!2マナでトロンを進化!エンペラー・ベーシックーン!」

 

中埜のバトルゾーンのトロンが青い光に包まれ、機械に乗ったようなクリーチャーに変化する。

進化クリーチャーのエンペラー・ベーシックーンだ。

 

「まだ終わりじゃない!Gゼロ発動!!パラダイス・アロマを0マナで召喚!」

 

デュエルマスターズは何かを出す時はマナを使用しなくてはいけない。

しかし、中には条件を満たす事でコスト0で使えるカードが有るのだ!!

この『パラダイス・アロマ』もそうだ、自分のバトルゾーンに『サイバーロード』の種族を持つクリーチャーが居ればタダで出せるのだ。

 

「サイバーロードある所、パラダイス・アロマあり。だな

エンペラーベーシックーンで攻撃!同時に効果発動!『メテオバーン』!!」

中埜の言葉と同時に進化元となっていた、トロンが手札に回収され更に山札の一枚がめくられる。

そのクリーチャーはまたしてもエンペラーベーシックーン。

 

「コイツはクリーチャーを攻撃時自分の進化元としておけるのさ、トリガーは?」

 

「無いな」

 

「ならこれで俺はターン終了だ」

多少わかりにくいが、コレは中埜の手札にトロンが戻った事を意味する。

地味だが手札補充を可能にしているのだ。水文明の得意とする手札補充戦略。

多くの手札は多くの攻め手を生み、柔軟な戦い方を可能とする。

事実デュエマの中でも、過去にもっとも多くの殿堂が出されたのは水文明だ。

 

中埜 手札3 マナ2 シールド5

 

「俺のターン、ドロー!」

 

(エンペラーベーシックーンのパワーは5000、俺のコートニーのパワー2000では勝てない、今は……マナを溜める!)

 

「俺は3マナで手札から呪文『フェアリーミラクル』を発動!」

フェアリーミラクルは山札の一番上をマナゾーンに送る呪文だ。

だが、マナゾーンに5つの文明のカードが全てあればもう一枚チャージできる。

現在3マナ、このタイミングで5色すべてが揃う事は少ないが……

 

「コートニーの効果発動!マナの色を全色として扱う!!」

コートニーの効果が発動し、もう一枚マナがチャージされる。

中埜が手札を増やすなら黒札はマナを増やす戦法を取ったのだ。

 

想護 手札3 マナ5 シールド4

 

「ほう、流石のチャージ力、羨ましいな!だが俺の方は超ついてる!前のターン引いたカードを見せてやる!発動!ストリーミング・シェイパー!」

中埜も同じく呪文を使用する。

ストリーミング・シェイパーは山札の上から4枚を見て、水のカードを全て手札に加える事の出来るカードである。

中埜のデッキは全て水のカード!そのため確実に4枚のカードが手に入るのだ!

 

「いいね……全部水だぜ!さぁ、アタックステップだ!エンペラーベーシックーンでシールドをブレイク!更に再びメテオバーン!進化元となったベーシックーンを回収!山札の上のカードがクリーチャーなら、進化元としておける!……ふん、チェレンコを進化元として送る!」

 

再び中埜の手札が増える!

そして想護のシールドが一枚削れる!!

 

シールドゾーンのカードが手札に加わる時、想護がニヤッと笑った。

 

「かかったな?行くぜ!多色マナ武装発動!今手札にきた、スーパースパークを墓地に送る事で!手札から、界王類邪龍目 ザ=デッドブラッキオをバトルゾーンへ!」

 

黒札のバトルゾーンに突如として5つの首を持つ龍が出現する!

ザ=デッドブラッキオもパラダイスアロマと同じ様に、コストを払わずバトルゾーンに出せるクリーチャーだ。

その条件は自身のマナが5マナ以上有、なおかつ5色全てが揃っている場合、シールドからカードが手札に加えられる時相手のターンでもバトルゾーンに出せるのだ!!

 

「ザ=デッドブラッキオの効果!パラダイスアロマを選んでマナゾーンへ!」

地中から蔦が生え、パラダイスアロマを地面に引きずり込んだ!!

 

「ちぃ……ターン終了」

 

中埜 手札6 マナ4 シールド5

 

「俺のターン!マナをチャージし、4マナで手札から「奇跡の面 ボアロジー」をバトルゾーンへ!」

想護のバトルゾーンに現れたのは、密林などに居るであろう呪術師だった。

顔をカラフルな面で覆っている。

 

「ボアロジーの能力発動!コイツもさっきのフェアリーミラクルと同じくマナを追加する能力が有る!山札から、一枚、コートニーの能力で全色ある扱いになり更にもう一枚!」

山札から2枚のマナが追加される、このターンだけで3枚の追加だ。

 

「バトルだ!デッドブラッキオでエンペラーベーシックーンを攻撃!」

 

「ニンジャストライク発動!斬隠テンサイ・ジャニットを召喚!!」

中埜のバトルゾーンに今度も青い子供の様な姿をしたクリーチャーが召喚される。

『ニンジャ・ストライク』このカードも相手のターンにマナを払わずバトルゾーンに出せるカードも一つだ。

効果は相手のコスト3以下のクリーチャーを手札に戻す事。

コートニーが黒札の手札に戻される!

しかしバトル自体は止まらない!

デッドブラッキオによってエンペラーベーシックーンが破壊されてしまった。

 

「これで俺はターン終了!」

 

「ターン終了時にニンジャ・ストライクを使った俺のジャニットは山札に下に戻る」

 

黒札 手札2 マナ8 シールド3

 

「ふぅ……このデッキに対してブラッキオは辛いな……だが!対処できない訳ではない!」

マナを手早くチャージし、バトルゾーンにマリンフラワーとトロンをそれぞれ1マナで出す。

残りは3マナ。

「召喚!テンサイジャニット!」

再びジャニットが現れ、ニャスが消える。

巨大なデッドブラッキオは確かに脅威的だ。だが、出しただけでそれ以上の能力は持たず、更に破壊されることを前提にすれば並べた無数のブロッカーで十分対処できるのだ。

中埜の使う水文明らしい、手数の多さを利用した戦い方だ。

 

「くそ……」

想護が小さく毒づく。

巨大獣を数で圧倒する戦い方。

最悪中埜は自身のシールドを捨ててでも、こちらにトドメを差してくるだろう。

クリーチャーが幾らいようと、プレイヤーを攻撃されてはゲームに敗北してしまう。

 

「鉄壁……には、程遠いけど、まぁ何とかなるだろう」

先ほど破壊されたベーシックーンはメテオバーンで手札にもう一体のべーシックーンを残している。

このままジワリジワリとこちらを、追い詰める気らしい。

 

中埜 手札2 マナ5 シールド5

 

「俺のターンだ……」

黒札 想護がデッキに手をかける。

相手は水単速攻と呼ばれる部類のデッキ。豊富な手数、攻撃をすればこちらが追い詰められる。

そう、この盤面は決して想護が有利という訳では無いのだ。

 

『なぁにぃ?ビビってんのぉ?相変わらずダッサイの~』

 

「コートニー!?」

 

「ん?」

突如声を上げた、想護を中埜が不審がる。

それは大会の決勝を見ていたギャラリーも同じ様だ。

 

「あ、いや……何でもない……」

必死になって誤魔化すが、想護には見えていた。

自身の横、半透明となって空中を浮かぶコートニーの姿が。

 

『アンタって、むかしっから、チキンなのよね。

偶にはさ、なんにも考えずに殴って見なさいって!』

シュッシュと拳を突き出す。

 

「…………」

シールドトリガー、ニンジャストライク。

様々な要素が、攻撃の隙にある。場合によっては敗北に直結する物さえも……

 

「けど、偶には何も考えないのもいいかもな……」

想護が笑みを浮かべ、デッキに再度手を置く。

手札には、フェアリーミラクルとさっき戻されたニャス、そしてカモンピッピー。

此処から勝手段はある。

 

「こっからはギャンブルだ……俺かお前か、勝利を手にするのはどっちだぁ!!ドロー!!」

想護がデッキの一番上のカードを引く。

 

中埜が息を飲む、ギャラリーも黙り込む。そして想護がそのカードを見て――

 

『ようやく来たみたいね』

コートニーが笑った。

 

「俺は、手札のカモンピッピ-をマナへ!!2マナでコートニー!!

そして、こいつが今回の主役だ!!

来い!!龍覇 イメン=ブーゴ!!」

7つのマナがタップされ、黒札陣営のバトルゾーンに青いトカゲを思わせるクリーチャーが出現した。

青赤黄緑黒の5色の飾りを身に纏い、顔には無表情な白い丸い仮面をつけている。

 

「おぉおおおおお!!」

イメン=ブーゴが叫び、何かを求める様にその手を雄々しく振り上げる。

 

「超次元ゾーンから、邪帝斧(イビルトマホーク) ボアロアックスを装備!!」

その瞬間、何処か遠い場所で、ツタで封印されていた5つの龍の頭をあしらった斧がその声に呼応するように飛び立った。

 

そして、その斧は遥かな距離を超え、イメンー=ブーゴの手に収まった。

 

「ドラグナーか……」

中埜が渋い顔をする。

ドラグナーとは、超次元ゾーンと呼ばれる特殊なゾーンから、龍の魂が封印された武器を呼び出す力を持った存在だ。

その効果は様々だが、このボアロアックスは……

 

「マナゾーンにあるコスト5以下の自然のクリーチャーをバトルゾーンへだが……」

 

「コートニーの効果で、全部の文明として扱う――つまり、自然でもあるという事……!!」

想護の説明を途中で中埜が引き継ぎ、言葉を発する。

 

「正解だ。マナゾーンから来い!!爆轟 マッカラン・ファイン!!」

想護が呼び出すのは、本来なら火のクリーチャーであるマッカラン・ファイン。

赤い鎧に剣を握り、大しく声を上げる。

 

「マナ武装5発動!!マナゾーンに火のカードが5枚以上あれば、バトルゾーンのクリーチャーすべてにスピードアタッカーを加える!!」

今度はマナが真っ赤に染まった。これにてマナ武装が達成された。

想護のデッキはほとんどが自然で構成されている。だが、コートニーの能力で次々とマナの色を自由に変える戦略がとれるのである。

特にドラゴンサーガ期に作られたマナ武装とは相性が良く、本来一色でのみ制作されるはずのマナ武装を複数の文明文使用できるのが、想護のデッキ通称『武装コートニー』である。

 

「行くぞ!!龍覇 イメン=ブーゴで攻撃!!その時、ボアロアックスの効果発動!!

マナゾーンから、再度コスト5以下のクリーチャーをバトルゾーンへ!!

来い!!光流の精霊 ガガ・カリーナ!!そして、効果発動!!超次元ゾーンから勝利のプリンプリンを!!」

想護が再度呼び出すクリーチャーは、黄色い口の裂けたクリーチャー。

ガガ・カリーナが咆哮すると、今度は同じく眼が隠れた少女のようなクリーチャーが現れる。

 

「あはっ!」

カワイクポーズをとると、中埜のバトルゾーンのトロンの力が抜ける。

プリンプリンには、相手のクリーチャー一体を選び、ブロックとアタックを封じる力を持つ。

 

「くそっ!イメン=ブーゴから、マッカラン、ガガ・カリーナから、プリン……ドギバスでもこんな動きしねーぞ!!マリンフラワーでブロック!!」

中埜に切りかかろうとするイメン=ブーゴをマリンフラワーが身を挺して守る。

 

「まだだ!!ザ・デッドブラッキオでダブル!!」

デッドブラッキオが想護の呼びかけに呼応して、中埜に飛び掛かる!!

今の中埜には、自身を守るブロッカーは居ない。

 

「ちぃ!トリガーは無しか……」

5枚ある内の2枚のシールドが破られ手札に加わる。

 

「ガガ・カリーナ!プリンプリン、マッカラン・ファイン行け!!」

想護の指示で3体のクリーチャーたちが次々とシールドを破壊する。

 

「こい、こい、トリガぁああ!!」

だがむなしくも最後のシールドまでもがトリガーではなかった。

 

「あ……」

全てのシールドを失った中埜の前、コートニーが腕を組んで立っており……

 

「コートニーでトドメだ」

 

「ざっまぁ!!」

コートニーの蹴りが、中埜を捉えた。

 

「あれ、今一瞬……本当に蹴られたような?」

 

「そ、そんな事無いぞ?ゲームにのめりこみすぎだぞ?」

誤魔化す様に想護が話す。

 

「おっかしいな……あーけど悔しぃ!!どっかでトリガー出ればマッカラン除去できたのに……」

 

「クロック出たらやばかった」

そんな風に談笑して、二人は分かれた。

 

 

 

 

 

『うっし!気分いいわ~、プレイヤー蹴飛ばすのさいっこー!』

自転車をこぐ想護の横で、コートニーがご機嫌で飛びながらついてくる。

 

「……毎回、なんかひやひやするんだけど?なんか、相手に影響ないよな?」

 

『ある訳ないじゃない。ただのゲームなのよ?』

そう言って、ただのゲームじゃ説明できない本人が話す。

 

「ま、良いけどさ。俺の相棒は少し変わってるってことで――ん?コートニー?」

空を、星を見上げるコートニーを見て、想護が何かに気が付く。

 

『なんだろ……今の、感覚……どっか、知らない誰かが、ここじゃない何処か別の世界から来たみたいな……

この世界に異物が入り込んだみたいな……そんな、感じ?』

 

「異物?何言ってるんだ?」

どうにも、話が合わないコートニーをみて想護が不振に思った。

だが、そんな事より明日は学校だと、自転車のペダルに力を籠める。

 

 

 

 

 

「よし、クロック4枚目……トリガーを厚くしてみたぞ……あんまり、入れすぎると進化できないし……けどな」

とあるカードショップで中埜がデッキをいじる。

敗北した後、トリガーを求め他のショップからショップへとクロックを求めて、走っていたのだ。

そこへ――

 

どがっ!

 

「デュエリストか……丁度いい。ここいらのレベルが知りたい。相手を頼めるか?」

目の前に座ったのは、怪しい男。

20台くらいにも見えるし、もっと若くもみえる。だが、30と言われても信じてしまいそうな不思議な男だった。

 

「あ、えっと?フリー対戦ですか?」

 

「俺はそうは、呼ばない。これは決闘(デュエル)だ!!」

男の言葉と共に、背後に一瞬だけ口が裂けたドラゴンが像を結んだ。

 

「え、え?」

 

「さぁ、お前は生き残る人材か見せて見ろ!!」

謎の男が、好戦的に笑みを浮かべた。

 




デュエル描写むずい……
うーん、カードゲームは動きが無いからな……
もっとド派手なアクションとか入れないと。

そういう意味では遊戯王のARCーVは画期的なアディアだったのかもしれませんね。


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デュエル!!ストレンジャーを撃て①

なんか、続いた第2話目。
今回のデュエルは結構あっさり目です。


「すいません。俺、昨日結局別れてそれっきりです……」

想護の通う高校、私立志余束(しよつか)高校の職員室で、担任の教師にそう告げる。

 

「中埜、具合が悪かったとか言ってなかったか?

最後にどこ行くとか……」

何処かだるそうに、やる気のない男の先生が告げる。

その態度は、何かを知ろうというよりも、義務的にやることをしている()()という印象を与えた。

 

「いえ、それも……」

 

「そうか、じゃもう行っていいぞ」

想護が職員室を後にする。

 

「中埜……」

廊下の壁、想護が力なくもたれ掛かった。

 

 

 

今朝の事――

 

「あ~、出席の前に……この中に、中埜の行きそうな場所を知ってるやついるか?」

担任の言葉に、クラス全体がざわめいた。

 

「え、なに?」「中埜君?」「え、あいつさぼり?」「いや、いい加減な奴だけど……」「って……え、いないし」「なになに、事件?」

 

「はぁ~い!お前ら静かにー、あい、静かにー」

パンパンと、先生が手を叩いて教室をだまらせる。

 

「えー、中埜は昨日から、行方不明だそうだ。

見かけた、または昨日午後7時以降に、連絡を受けた者は後で職員室で話を聞かせてくれ」

 

自身の親友の行方不明という、事態に想護は昨日最後にあった時のことを職員室へ話に行ったのだ。

 

「中埜……どこ行ったんだよ……」

形容しがたい感情が想護の中で、回る。

昨日の7時から連絡が取れないという事は、最後に一緒にいたのはきっと自分だ、

大会が終わり、別れたのが夕方4時半から5時。その後帰ったと、思っていたが……

 

心配は勿論、あの後自分が一緒にいれば、一緒に帰っていればなどの後悔が渦巻く。

しかし、起きてしまったことは戻しようがなく――

 

「想護クン――ひどい顔、しておりますよ?」

自身にかけられた声で、想護が顔を上げる。

痩せすぎと称される体躯に、病的と呼ぶ一歩前の蒼白の肌。

何処か公家口調を思わせるしゃべり方は、想護もよく知る人物だった。

 

「藤御門先輩……」

 

「ご機嫌よろしゅう……ないようですな」

困ったような顔をするのは、想護の所属する部活の先輩『藤御門(ふじみかど) 久志(ひさし)』だった。

 

「中埜が……中埜が……」

 

「ああ、落ち着いてくだされまし。話は、我のクラスにも入って来ておりまする……

想護クンは特に中埜クンと仲が良かったでしたからな……」

心中を察した藤御門は、想護の肩を抱く。

 

「我の薄い胸板でしたら、いくらでも貸しもうしまする。

好きなだけ、泣いてくださいまするよう……」

 

「いや、そこまでは結構です」

冗談めかした、藤御門の言葉を想護がきっぱりと断る。

 

「ほっほっほ、それは無念。

では、部室で詳しい話、お聞かせ願えまするか?

毒はため込むだけ、ため込んでも良い事など、ありますりません。

何処かで、吐き出す所が必要とおもいまする」

茶化す様に、扇子を取り出して口元を隠す。

 

『コイツ――変なトコ鋭いのよね……口調は完全におかしいけど……』

コートニーが胡散臭そうな目を藤御門へ向けた。

 

 

 

「部長サン。ただ今、帰りました」

藤御門が部室棟の端のさらに端にある、卓上ゲーム部と書かれた部屋のドアを開ける。

ここは想護たちの部室だった。スポーツをやっている中埜はここの部員ではないが、ここの先輩二人とは面識がある。

意気揚々と、藤御門が扉を開けるが――

 

「んあ……ぐご……」

返事の代わりに帰ってきたのは、いびきだった。

 

「あら、相互クン静かにお願いもうしまする。部長サン、お昼寝中のようです」

閉じた扇子を口に当てて、シーのサインをする。

 

「実紅部長……」

想護の視線の先、小学生と見紛うような体躯の少女が眠っている。

大きな一人様のソファーに身を預け、傍らの小さなテーブルの上には食べ散らかされたお菓子の袋が無数にある。

指先や口元にチョコレートやクッキーの食べカスが付いている。

まるでお菓子を食べてお昼寝する女児に見えるのこ少女こそが、この卓上ゲーム部の部長――獣月(じゅうげつ) 実紅(みく)その人だ。

先輩と呼ばれることから予想出来るとは思うが、一年の想護。二年も御影の上級生で三年である。

 

 

「ぐぐぅ……陸井にぃ……」

寝言を聞きつけ、御影が小さく笑う。

 

「起こすのは可哀そうでありまするな。しばらく寝かしておきましょうぞ」

 

「先輩……俺は……」

誘ってくれたのはうれしいが、自身の友人が行方不明というのだ。

心中穏やかになれる訳はなかった。

 

「――そうでありましょうな。

けど、我らは警察ではありません。名探偵でもありません。

けど、それでもじっとしているつもりはありません」

御影が手慰みの様に、デッキを取り出しシャッフルし始める。

 

「歯がゆいものがありまするな……どこか、そう――元気でいてくれまするとよろしいのでするが……」

 

「先輩……あの、こんな時くらいその口調やめたらどうです?」

非常に、非常にどうしようもない事だが、シリアスが彼の『公家っぽい』よくわからん口調で消えていく気がする。

 

「あらら、これは失礼もうしました。けど、この口調すっかり癖になっておりまするのでな?

ご容赦願いまする」

 

「……合ってるんですか?その文法?的に……」

 

「我は、承知しておりません」

御影が口元を扇子で隠すと、笑ってみせた。

何処かふざけた態度に、想護が小さく笑った。

そして、二人がデュエマを始めた。

 

 

 

「俺昨日、中埜がいなくなる、少し前まで一緒にいたんです……

コートニーを召喚……エンドです」

 

「ほぉ?まぁ、いつも通り大会でしょうな。

2コス、アクア・メルゲ――エンドです」

 

「3、フェアリーミラクル。だから、どうしても考えちゃうんです……」

どうぞと、想護が手を出す。

 

「自分を責める事はありませぬぞ?ただの偶然。ただの不運です。

彼は、そう――自分探しでもしておるのでしょう――デュエマ・ボーイ ダイキ召喚……

モードは…………うーん……マナチャージで、メルゲは使用しない」

どうぞと、藤御門も手で返してくれる。

 

「心配だなぁ……もしも、なにか……」

何も言わずボアロジーを呼び出し、マナが増える。

 

「楽観的に考えまする様に。不安で動けないのは、悪手なりまする故……

セブ・コアクアン召喚……3枚オープン、龍神ヘヴィと、メメント守神宮を手札。

フェアリー・ホールは墓地へ……」

 

「撃英雄 ガイゲンスイでマナ武装7……ガイゲンスイで2枚、能力で一枚追加ブレイク……」

藤御門のシールドが、3枚吹き飛び手札に加わる。

 

「けど、あえて見守るのも必要かも、しれませぬぞ?」

 

「じっとしてるって……つらいんです……」

ボアロジーが追加ブレイクを含んだ2枚のシールドを破壊する。

 

「トリガー発動。グレイブ・ディール召喚、けど……」

グレイブ・ディールは相手のクリーチャーのパワーを2000下げるクリーチャーだ。

コートニーを本来なら、破壊できるが――

 

「ガイゲンスイの能力で、パワーが上がってまするな……」

 

「コートニーでトドメです……」

 

「あららら……まいりもうしました」

コートニーがタップされて、藤御門が敗北を認める。

 

 

 

 

 

「気が少し、楽になった気がします。一回家に帰ってよく考えてみます」

 

「あ、想護クン――」

想護はカバンを取って帰っていった。

 

「強いお人やな……けど行方不明とは?

気の良い物じゃ、ありませぬな」

 

「うぅぅ~ん……陸井にぃ……どこ……」

 

「かわいそうに……特に部長サンには、お話できませんな」

藤御門が気の毒そうに実紅を見て話した。

彼女は多くを語りはしないが、時々こうして知りもしない人物の名をあげて、うなされることが有る。

きっとその『陸井』という人物も……

 

「難儀な世の中でありまする、ね」

何かを決心した様な想護の顔を思い出しながら、藤御門は扇子で再度口を隠した。

 

「けどそろそろ……何かが動く時かもしれませぬなぁ……あんさんも、そう思いますやろ?」

 

『ああ、その通りだ……』

部室に、何者かの声一瞬だけ、響き消えた。

 

 

 

 

 

『想護!想護ってば!!』

 

「なんだよ!!」

コートニーの言葉に、想護が乱暴に答える。

今、想護は家に帰るなり、着替えを済まして近所のカードショップを自転車で行ったり来たりしている。

今は、そのうちの一軒のフリースペースの場で、休憩をしている最中だった。

 

『闇雲に探して見つかると思うの?』

 

「闇雲じゃねぇ!アイツと最後に大会に出た店から自転車で行ける3時間以内の店を探してるだけだ……

今の時代携帯で検索すれば、いくらでも見つかる……」

取り出した携帯を使い次のカードショップを探す。

 

『探すって言ったって、一件の店で長居することだってあるし第一――――っ!?』

 

「ん、どうしたコート……ん!?」

想護が瞬時にそこから飛びのいた。

何時からいたのか、背後には黒いコートの怪しい長身の男がいた。

なんというか、雰囲気が異様だった。まるで、この世界を一枚の絵としたなら、彼は後から書き込まれた異物の様に感じられた。

 

「えっと、どなたですか……?」

怪しい風貌に、想護が警戒する。

だがその男はあくまで、にこやかに笑って見せた。

 

「オマエ、俺とデュエルしないか?

俺に勝てたら、カードをやろう……ほら」

その男が懐から取り出した、カードの束を机の上にばらまいた。

 

「いや、俺は……それは!?」

想護はばらまかれたカードを見て、目を見開いた。

 

アクアン、トロン、アクア・ベーシックーン、ストーリーミングシェイパーなど等の水単色の速攻デッキ。

そのデッキは、想護にとって見覚えのあるデッキであり……

 

「あんた……それを何処で手に入れた!?」

 

「へぇ……勘が良いな。まぁ、いい!!とりあえず捕獲してそっからだ!!」

男の姿が一瞬ブレる。そして、その背後に目の無い龍が姿を見せ、半透明なまま想護に襲い掛かった!!

 

突然の事態に想護が驚く。だが、そんな暇もなくその龍は大きな口を開け覆いかぶさるように――ならなかった。

 

『こぉんのぉ!!やろー!!』

 

『ギャァオオ!!』

その龍は大きな声を上げ、コートニーによって蹴り飛ばされた。

 

「コートニー?」

 

『チっ……想護、準備して……コイツ、ヤル気よ!!』

 

「くっはっはっは!!そのカード!!魂を持つカード!!

漸く見つけたぜ!!この世界まで来てようやく見つけたぜ!!

てぇめぇは()()()だ、なら収穫するしかないよな!!!」

その男が、ばッと両腕を左右に開く。

想護はこの時、周囲にいるはずの人間が誰ひとり、いなくなっている事にようやく気が付いた。

 

『仕方ないわね……相手してやろうじゃない!!』

コートニーが想護の前に立ちふさがり、その手から光を放った。

 

「『決闘(デュエル)スタート!!』」

両者の光が想護を包む。

そして、想護が次に目を開けた時――

 

「な、なんだここ!?」

気が付くと、見慣れない空間。

何処までも続く様な大地に立ち、周囲には人をはるかに超えたサイズの動物の骨が見える。

それらは、皆コケに覆われ、周囲には巨大な木。

緑豊かなジャングルを思わせる空間だった。

 

「くっひっひ!それがお前のバトルフィールドか?緑……自然かぁ?」

さっきの男が立っていた。

だが、その男の背景は別物だった。

蒼と赤の絵の具を混ぜた様な、ゆっくり渦巻く銀河。

その中央に、紫の惑星が鎮座していた。

男はその、異様な宇宙をバックに立っていた。

 

「なんだ、なんだ、何なんだよ!?コレは!!」

想護がパニック気味に話す。理解できない展開、突如訪れた非日常。

通常の高校生である想護には、理解の及ばぬのも無理はなかった。

 

「てめぇ、初心者か?なら、真のデュエルは初めてか?

喜べよ!!これ以上スリルのあるゲームはありゃしないぜ!!

さぁ!!刈り取ってやらぁ!!ぎひゃぎひゃぎひゃ!!」

男が高笑いを浮かべ、目の前の半透明の四角い盾が並ぶ。

 

『想護!デッキを構えなさい!!

このクズ野郎が、あんたの友達を攫ったのは間違いないわ!!』

 

「コートニー!!それより説明を――」

 

『うっさい!!こいつをぶっ潰したら、いくらでもしてあげるわよ!!』

あっさりと想護の言葉を無視して、コートニーが急かす。

 

「な、なぁ、コートニー?」

 

『想護……覚悟を決めなさい。このゲーム下手したら死ぬわよ?』

想護が今まで一度も聞いた事の無いような、冷酷な声でコートニーが話した。




今回急展開過ぎない?
過ぎるよね……

けど、部員の人を紹介するよりも、先になぁ……
なかなか難しいですね。


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デュエル!!ストレンジャーを撃て②

さてと、久々に投稿です。
本格的なデュエルがついに始まりました。


そこは異様な空間だった。

赤と青の色で構成された宇宙。そしてその宇宙の中心、ゆっくりと渦を巻く中で紫色のいびつな形の惑星が存在感を放っていた。

 

「さぁ!テメェの最期のゲームだぜぇ?」

目の前の男は挑発するかの様に、舌を出し涎をこぼす。

 

「なんだ、なんだよ……何なんだよ!!これは!!」

その宇宙の真正面。まるで空間が砕けたように緑が侵食し、そこに想護が立っていた。

 

決闘(デュエル)よ。遊びなんかじゃない。本物の決闘』

何時になく真剣な顔で、コートニーが想護の隣に立った。

 

「げっへっへっへ!!良いな、良いなぁ!

魂を持ったカード!!雑魚を狩るよりよっぽどデケェ獲物だ!!

十分雑魚も狩ったし、そろそろ、元の世界へ帰ろうかと思ったが、こんなデケェ当たりが居るなんて、俺はマジでラッキーだぜ!!ひゃはははははははは!!」

男の後ろ、そこに目の無い巨大な口を持つ龍が、一瞬像を結んだ。

だが想護はそんな龍など気にしない。それよりも決して聞き逃してはいけないセリフをこの男は吐いた。

 

「『十分雑魚も狩った』?お前……俺の友達に何をした?」

この男がばらまいたカードに想護は見覚えがあった。

自身の大切な友人、中埜。彼の愛用する水単速攻のカード。

人違いかも知らない。偶然デッキが似ているだけの事かもしれない。

だが、目の前のこの男は間違いなく『誰か』を倒しデッキを奪い、ゴミの様に捨てたのだ。

 

「うるせぇ!!テメェも餌になるんだよ!!

さぁ!!『決闘(デュエル)』スタートだ!!」

 

「行くぞ、コートニー!!」

 

『分かってる!!『決闘(デュエル)』スタート!!』

 

男と想護、その両名の目の前に半透明の5枚の(シールド)が出現する。

デッキから5枚のカードが飛び出て、想護の目の前に並ぶ。

目を向けると男の方も状況は同じ様だった。

 

 

 

「俺の先手だ!先ずはマナをチャージ!そんでエンドだ」

男がマナゾーンに置くのは、召喚時にデッキからカードを一枚ドローする能力を持った熱湯グレンニャー。

少なくともこの時点で男のデッキには水と火の2色のカードが入っているのが分かる。

 

男 手札4 マナ1 盾5

 

「俺のターン、ドロー!」

ドローしたカードを見て、想護は心の中で小さく毒づいた。

手札にあるカードは全部で6枚。だが、その中に想護のデッキの初動を担うコートニーは無かった。

 

「終末の時計 ザ・クロックをマナにおいて、ターン終了」

 

想護 手札5 マナ1 盾5

 

お互い順当の始まった戦い。

だが2ターン、3ターン目になるとどう動くか分かりはしない。

未だ全容を見せない男のデッキ。

 

(一体、何を仕掛けてくる?)

 

「俺のターンだな!!ドロー!!」

デッキからカードを引いた時、男の口が歪む。

 

「来たぜ!学校男をマナに、2マナ使用!

戦略のD・H アツトを召喚!」

 

「アツトか!?」

バトルゾーンに出たのは、クリーチャーと呼ぶには多少違和感のある男。

完全な人間体で、紫のスーツと手にしたぺろぺろキャンディーがひどくミスマッチに思えた。

だが、そんな敬遠されがちな見た目をしながらも、尚もこのクリーチャーの使用者は多い。

なぜなら、その能力が非常に優秀だからだ。

 

「アツトの効果で、デッキから2枚ドロー。そして、2枚を墓地に」

2枚引き2枚捨てる。それは一見するとただ手札を交換しただけに見える、使用されたアツト自身を含めるとむしろ手札は減っている。

だが、この行為には多くの意味がある。

まずは、前途の様に2枚引くことで手札の必要ないカードを、必要なカードに交換できる点。

そしてもう一つは、手札の好きなカードを2枚まで墓地に送る事が出来る点!

 

「俺は天下統一シャチホコ・カイザーと黙示護聖ファル・ピエロを墓地へ」

男の準備は着々と進んでいる様だった。

シャチホコカイザーと、男が今しがたバトルゾーンに置いた学校男。

ならば考えられる可能性で、もっともあり得るのが――

 

『湧水シャチホコ……ね。厄介だわ』

いつの間にか隣に現れたコートニーがつぶやく。

湧水シャチホコとは、たった今墓地に落とされたシャチホコ・カイザーを湧水の光陣という墓地蘇生カードで復活させるデッキだ。

シャチホコは自身のクリーチャーが破壊されると超次元ゾーンから、クリーチャーを呼び出すことが出来るカードだ。

問題は、とある超次元クリーチャーとあのシャチホコ、更には湧水の光陣が非常に相性がいい事だ。

湧水の光陣は、シャチホコの早期召喚をサポートするし、シャチホコはその湧水の光陣を回収できるクリーチャーを呼び出せる別の超次元クリーチャーを持っている。

お互いがお互いをカバーし合い、やられてもやられてもしぶとく戦うことのできるデッキである。

 

男 手札3 マナ2 盾5 墓地2

 

 

 

「ドロー……っ、来ないか」

想護の必勝パターンである、2ターン目のコートニーに失敗した。

運の要素が絡む以上仕方のない事だが、あのデッキ相手に悠長にしていたくはない。

 

「フェアリーミラクルをマナに埋めてエンドだ……」

 

「なんだぁ?そんだけか?遅すぎるんじゃねーのかぁ?」

事故を起こしたこちらを男は馬鹿にしたように笑う。

 

「っ……」

悔しいが出来る事が無いのも、今の想護には本当の事だ。

 

想護 手札5 マナ2 盾5

 

 

 

「さて、と。事故ってるお前に良いもんやるよ。ほら、可愛いお人形さんだぜぇ?」

マナを溜めた男が呼び出したのは、ゴスロリ姿の少女のようなクリーチャー。

身の丈ほどある巨大な、刃こぼれしたカッターナイフと球体関節が、彼女が作り物だという事を物語っている。

 

「特攻、人形……ジェニー……」

苦々しく話す想護の、目の前でジェニーが自身の首にカッターナイフを突きさした!!

その瞬間、ジェニーは爆発して体のパーツが散らばる。

 

『タダで死んだと思わないでよね!!』

飛び散る破片、右半分になったジェニーの顔が笑い、跳んできたカッターナイフの刃が想護の手札を一枚斬り捨てた。

 

「ハンデス、せいこーだな!!」

 

「デッドブラッキオが……」

落ちたカードはデッドブラッキオ。想護のデッキのカウンターにして、破壊されると仲間を呼ぶシャチホコを破壊以外で処理できる貴重なカードだった。

 

「さぁ!お前のターンだぜ?」

 

男 手札2 マナ3 盾5

 

 

 

「まだだ、まだ始まってすらいない!!ドロー!!

来た!薫風の面(コートニースタイル)ニャスを召喚」

 

『ン、にゃぁ~!!』

想護のバトルゾーンに、茶色の毛をした猫の獣人が姿を見せる。

獣人が付ける仮面は、コートニーのバイザーとよく似ていた。

 

『やりなさい!ネコ!』

 

『にゃあ~あ~!!』

コートニーの声を受け、かわいらしい手を上げると想護のマナがレインボーに輝きだした。

ニャスはコートニーと同じく、マナを全色に着色する力を持っている。

 

「俺はターンを終了だ」

想護はようやく、動く準備が出来てきた。

だが次は4ターン目、4マナ溜まるという事は――

 

想護 手札3 マナ3 盾5

 

 

 

「俺のぉ!ターンッ!拝ませてやるぜ!俺の手下ってやつをなぁ!!」

男の手札のカード、炸裂の伝道師セレストがマナに置かれる。

セレストは光のカード。そしてその光を含む4マナがタップされて……

 

「呪文詠唱!!湧水の光陣この呪文は墓地よりコスト3以下のカードを再生させる。

だが、自分の自然又は水のクリーチャーが居れば、コスト5までが蘇生範囲となる!!俺は自分の墓地にある()()()を、アツトを進化もとに指定して復活!!

 

出でよ!異界の龍よ!!黄金の爪と真紅の牙で全てを食い荒らせ!!他者の魂を以て、異次元の扉を開け!!天下統一シャチホコ・カイザー!!」

 

『きぃしゃぁあああああ!!!』

墓地より出でるのは、異形の龍。

黒い体に目は無く、口が大きく裂け、肩にも口の様に真っ赤な牙が無数に並んでいる。

金色の爪を振りかざしこちらをちょうはつする。

 

「な、なんだ、この迫力は!?」

普通のカードとは違う、圧倒的なプレッシャーに想護の全身に鳥肌が立った。

 

「分かるか?これが魂を持つカードだ。なんの因果か魂を持ち、人格をもったカードたちだ。()()()()も、こいつに食われた」

男が指を鳴らすと、空中に何かが浮かび始めた。

それは人だった。10人ほどの人間が、男の宇宙の中で浮かんでいる。

 

「犠牲者が、あんなに……」

名前も顔も知りはしないが、それでも可哀そうと思ってしまうのが人の性だった。

 

「お前も!!お前のカードも!アイツらの仲間入りをさせてやるぜ!!

ぎぃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

男が笑うと、シャチホコ・カイザーも咆哮を上げた。

 

男 手札1 マナ4 盾5 

 

 

 

「あ、ああ……」

想護が震えだした。手に力が入らない。

手札のカードが、何枚か地面に落ちる。

 

食われる。比喩でもなんでもなく、あの怪物に自分が食われる。

 

それは想護が、自分の人生で初めて明確に『死』を意識した瞬間だった。

負ければ当然『死ぬ』想護はこの時、怖いと思った。

その時、後ろから誰かが想護に抱き着いた。

 

『大丈夫よ、想護。想護には私がいるわ』

 

「コート……ニー」

 

『何時か、こんな日が来ると思ってた。何時か、私のようなカードが襲いに来るんじゃないかって。

だけどね、「はいそうですか」って死んでられる訳無いでしょ!!

行くわよ、想護!あのデカい口野郎をぶっ潰すのよ!!』

コートニーの言葉と共に、一陣の風が吹いた。

 

「そうだ、よな……怖がってちゃ前に進めないよな。

怯えて、じっとしてたら、明日なんて無いよな!!

なら、切り抜けるしかない。

どんなピンチも、俺と!!俺のデッキのカードたちで、戦い抜く!!

行くぜ!俺のターン!!ドロー!!俺は手札のカードをマナにおいて、召喚ボアロジー!!」

 

『ボォウアぁああ!!』

密林の戦士ボアロジーが、姿を見せる。

そしてその両腕を振ることでマナが増える。

本人が持つ、素の能力で一枚。そしてニャスの効果により5色すべてのマナが有る扱いになり更にもう一枚。

これで、想護はこのターンだけで3枚のマナの増加になる。

 

「返して貰うぞ。俺の友達も、その人達も!!」

想護が決意を新たに、男に指を突き付ける。

 

想護 手札2 マナ6 盾5

 

 

 

「帰す?帰す訳ねーだろ!!せっかく集めた餌だぜ?

もっともっと、って食い足りねーってのに、帰す訳ねーだろ!!

寝言も休み休み言いな!!

俺のターン!!ドロー!!

さて、楽しいゲームの始まりだぜ!!」

男がカードを引き、その顔が嗜虐的に歪む。

 

「くっひっひ!来たぜ、来たぜ!俺は熱湯グレンニャーを召喚!

その効果でドロー!おっと、マジかよ。こりゃいいカードを引いたな」

男の手札は一枚。その一枚はグレンニャー。

自らを破壊するカードではなかったが、引いたカードがもし自懐する力を持っていたのなら、シャチホコ・カイザーの能力が発動する事に成る。

 

「闇を含むマナを2枚使用!召喚!学校男!!」

男のバトルゾーンに現れるのは、小学校の校舎をモチーフにしたクリーチャー。

泥に覆われ校舎が、大口を開けて舌なめずりをする。

2コストという、軽さに反して学校男のパワーは8000、しかもダブルブレイカーというシールドを2枚叩き割る能力も持っている。

だが、その分多大なデメリットも持っている。

それは――

 

「学校男の効果で、バトルゾーンの自分のクリーチャーを2体破壊!さらに、お前にも自分のクリーチャーを一体選んで破壊してもらうぜ!」

お互いのクリーチャーの破壊。

それも自分は2体、相手は1体。

つまり学校男を生き残らせるには、生贄となるクリーチャーが2体必要。

そう、『生き残らせる』には……

 

「俺は、グレンニャーと学校男を破壊!!」

学校男が、男のクリーチャーを巻き込んで自爆した。

そう、『自爆』した。

 

「シャチホコ・カイザー!!超次元の扉を開け!!

激天下!シャチホコ・カイザー!マザー・エイリアン〈よろこんで〉をバトルゾーンへ!!」

並ぶのは、シャチホコ・カイザーの様な(というか、片方は別のカードなだけの本人)目の無い裂けた口の意匠を持った2体のクリーチャーたち。

 

「学校男の自爆能力を利用したか……ボアロジーを破壊……」

想護が小さく舌打ちする。

学校の能力により、自分のクリーチャーたちを2体破壊し、シャチホコの能力で一気に2体のクリーチャーを並べる。

そして何より問題なのが、並んだ2体のクリーチャーたちだ。

 

「知ってるか?たった今、呼び出した超次元のシャチホコはターンの初めにコスト3以下を蘇生出来るんだぜ?

それだけじゃない、エイリアン・マザーは俺のエイリアン全員に、破壊を肩代わりするセイバーエイリアンを付与させるのさ!!」

そう、たった今、墓地に置かれた学校男のコストも3マナ以下。

次のターンの初めに復活し、想護のクリーチャーを巻き込んで自爆するだろう。

 

『このままじゃ、数に差が開くだけよ!!』

コートニーの言葉を想護はじっと聞いていた。

悔しい事に、ジワリジワリと想護は確実に追い詰められている。

 

男 手札0 マナ5 盾5

 

 

 

「まだデュエルは終わってない!!呪文!!英雄奥義!バーニング銀河!

能力でコスト5以下のカードを破壊!シャチホコ・カイザーを破壊だ!!」

 

「フン、悪あがきを!!超次元クリーチャーの方のシャチホコでセイバーして破壊を回避!」

 

「まだだ!マナ武装7発動!!コスト12以下のカード、再度シャチホコ・カイザーを破壊!」

 

「無駄だって言ってるだろ!?エイリアン・マザー本体を使って再度セイバー!

破壊から身を守るぜ!!」

今度はマザー・エイリアンが破壊された。

 

「これで、厄介な奴らは居なくなった!ニャスで攻撃!!」

 

『ニャー!!』

ニャスが己の武器を振るい男のシールドを叩き割った。

 

「ふん、焦って勝負を急ぎ始めたな?」

男がシールドを手札に加えながら笑った。

 

想護 手札1 マナ7 シールド5

 

 

 

「さぁて、さっきの攻撃で来てくれたこいつを使うかな!!」

男が掲げたカードはクリーチャーではなかった。

それは呪文。その呪文とは――

 

「詠唱!!復活のトリプルリバイブ!!

コイツの効果で、墓地からコスト3以下のクリーチャーを3体までバトルゾーンへ!!」

呪文の効果が発動して3体のクリーチャーたちが男のバトルゾーンへ並ぶ。

ジェニー、グレンニャー、学校男だ。

 

「グレンニャーの効果で、ワンドロー!学校男と共に自壊!!ジェニーで手札を奪う!!」

 

「くっ!」

ジェニーのカッターが飛び、想護の手札の最後の一枚を奪い去る。

 

「ほぉ、ハヤブサマルか!そいつで、その猫を守るつもりだったんだろうが……

もう全部無駄だな!!」

 

『ぎぃにゃぁああああ!!』

ニャスが学校男に抱き着かれ共に破壊される。

 

「う……」

想護のデッキのメインエンジンである、着色クリーチャーが居なくなった。

だが、それよりももっと重篤な問題が発生している。

それは――

 

「シャチホコ・カイザー!こいつらの魂を使い、再び超次元の扉を開けぇええええ!!」

男の叫びと同時に空中に超次元ゾーンへの扉が開く。

1匹目は、先ほど破壊した超次元のシャチホコ。

2匹目も、先ほど倒したエイリアンマザー。

この2体のコンボで相手は毎ターン、何のコストも払わずに超次元クリーチャーを展開できる。

 

「忘れてねーよな?破壊されたクリーチャーは3体!!

つまりもう一匹だ!!」

そして、最後の扉から現れるのもやはりエイリアンクリーチャー。

真っ赤な体に、球体を抱く様な姿。

そのクリーチャーは……

 

「こい!レッド・ABYTHEN・カイザー!!

コイツの牙が、お前の命を食らうぜ!!」

相手に選ばれた瞬間、相手のマナをすべて奪う最悪のクリーチャーが降臨した。

 

男 手札1 マナ6 盾4




いろいろと、工夫をしてみますが、正直いってまだまだ改善できる気がします。
けど、なにをすべきなのか……

うーん、難しいですね。


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デュエル!!ストレンジャーを撃て③

久しぶりの投稿です。
さて、ストレンジャーファーストコンタクト編はここまでです。
次回から、詳しくストーリーが語られる予定。


想護の目の前、赤いジャケットの男が肩を揺らす。

最初は小さく、しかし次第にその揺れは大きくなっていく。

 

「くか、くひひ、くかかかかかかか!!あ~っはっはっは!!

ひぃっひ!ひぃっっひっひっひ!!ひゃははははは!!

圧倒!!圧倒的!!圧倒的すぎる軍勢だな!!」

 

男 手札1 マナ6 盾4

 

 

異様な色の宇宙の中心に立つ男の前には、エイリアンクリーチャーが4体。

一体はこの状況を作り出した、多色のドラゴン『天下統一シャチホコ・カイザー』

死んだ仲間の魂を使い、超次元ゾーンからクリーチャーを呼び出す能力を持つ。

二体目は超次元クリーチャーとなったシャチホコ・カイザー、『激天下!シャチホコ・カイザー』こいつはターンの初めに墓地からコスト3以下のクリーチャーを呼び出す能力を持つ。

三体目は『エイリアンマザー』自身のエイリアンクリーチャーが破壊される時に、代わりに破壊を肩代わりする力を付与させることが出来る能力を持つ。

そして最後に残るのは、全身が真っ赤な6本腕のドラゴン。『レッド・ABYTHEN・カイザー』が鎮座している。

コイツには、バトルゾーンに出た時の能力も、仲間を蘇生する能力も、攻撃したときに相手を妨害する能力も持っていない。

だが、相手に攻撃以外で『選ばれた』瞬間、相手のマナをすべて破壊する能力を持っている。

これは、事実上選ぶことが出来ないという事である。

 

ほおっておけば、無限にクリーチャーを呼び出す能力に、選ばれない能力、更に破壊を肩代わりする力まである巨大な軍勢。

己の勝利を確信した男の口角が吊り上がる。

 

「なぁ、サレンダーしちまえよ……こんなんじゃお前に勝ち目なんてねーだろ?」

強者ゆえのおごりか、男がニヤついてこちらを見る。

 

「まだだ、俺の友達に手を出したお前を俺は絶対に許さない!!」

 

想護 手札0 マナ7 盾5 クリーチャー『(無し)

 

「粋がるねぇ!いいぜ、あがいて見せろよ!!

次のターンがお前の人生ラストターンかもなぁ!!」

男の言葉に、想護が息を飲む。

男のバトルゾーンのクリーチャーは4体。

シャチホコ・カイザー、エイリアンマザーはシールドを2枚奪うW(ダブル)・ブレイカー。

超次元のシャチホコ・カイザーは通常ブレイクだが、それでも想護の盾は全て割られてしまう。

そして、トドメを指すのは選んではいけないクリーチャーの『ABYTHEN』。

2度目の攻撃までに、トリガーが引けなければ想護は敗北する。

手札は0、このドローで何らかの手段で男のクリーチャー処理出来るカードを引けなければ勝利は遠くなる。

 

ごくり――

 

想護は息を飲んだ。その音は不思議なほど想護にとって大きく聞こえた。

そして、静かにデッキの上に手を乗せる。

 

「俺のターン!!ドロー!!」

想護の手札に来たカード、それは……

 

「っぅ!…………ガイゲンスイをマナゾーンへ…………」

手札も、バトルゾーンのクリーチャーも無い想護にはそれしかできなかった。

たったそれだけが、今の想護に出来た唯一の事だった。

 

想護 手札0 マナ8 盾5 バトルゾーン0

 

「んだよ……オメェ!魂持つカードの所有者だろ!?

んだよ……んだよ!なんなんだよ!!

はーっ!こいつはトンだ期待外れだ!!

少しはあがくと思ったんだが、こんな下らねぇ終わりかよ……」

 

「くそっ……! くそぉ……!」

悔しさのあまり、想護は拳を握りしめた。

 

「もういい。死ね、ガキ」

男のターンが始まった。

男は、超次元のシャチホコ・カイザーの能力で墓地から熱湯グレンニャーを呼び出した。

 

「ドロー……つまんねー、戦いだぜ。

進化、天下統一シャチホコ・カイザー。

いけ」

進化クリーチャー。それは召喚酔いがないクリーチャー。

男はさらに、詰めを深く高めてきた。

 

パリィン!!

 

「ぐぅああああああ!!!」

シャチホコ・カイザーの爪が想護に襲い掛かる。

5枚あるシールドの内2枚が砕けて想護の手札に加わる。

 

「トリガーは!?ない!!」

 

「だろうな、お前、()()()()()からな」

再度襲い来るシャチホコ・カイザーの爪。

 

「うぁああああああ!!!」

3枚残ったシールドが最後の1枚になる。

 

「トリガー……トリガー来い!!来てくれぇえええええ!!」

超次元のシャチホコと、エイリアンマザー。

その2体を除去出来れば、ABYTHENカイザーの攻撃は受けきれる。

その2体を除去できるカードは確かに存在する。

それは『古代遺跡 エウルブッカ』。

タップされていないクリーチャーを2体までマナにおけるトリガー。

逸れさえひければ、この状況を生き残ることが出来る――!!

 

だが――

 

「そんな……」

想護の手に来たのはコートニーとボアロジーの2枚。

探し求めたカードが、今になって漸くやって来た。

しかし、それはあまりに遅すぎる到着だった。

 

「な?言ったろ。お前は『持ってない』ってよ」

ABYTHEN・カイザーを持つ男はそう言い放った。

この状況。たとえ最後のシールドがトリガーだとしても、ABYTHEN・カイザーを除去しても意味など無い。ただ敗北するのが1ターン遅れるかどうかの違いに過ぎない。

 

「エイリアンマザーで最後のシールドを攻撃!!」

ゆっくりスローモーションに成る世界で、想護は宙に浮かぶ犠牲者たちをみた。

その中に、友人の中埜の姿を見つける。

彼を探してここまで来た。彼のデッキをバカにした男が許せなくて、デュエルを受けた。

だがここまでの様だった。

 

「ごめんな、中埜――」

想護の最後の盾が破られる!!

 

「行くぜ!!ABYTHEN・カイザーでトドメだ!!」

6本腕のドラゴンが宙を舞う!!

想護の命を奪おうと、その巨大な口を開く!!

 

『まだ、諦めるんじゃないわよ!!このバカ想護!!』

手札のコートニーが、姿を見せエイリアンマザーの攻撃で吹き飛んだ最後のシールドのカードを手にする!!

 

『悪いけど、最後の1枚はトリガーよ!!』

 

「はぁ?クリーチャーがカードを使うのかよ?

いや、今更どんなトリガーが来ようと、関係は無いだろ!!」

 

『それはどうかしら?時間を止めなさい!!「終末の時計 クロック」!!』

 

「なにぃ!?クロックだと!?」

男が驚愕し、バトルゾーンに現れるのは一言でいえば、時計のコスプレをした男。

体の中心から、長針、短針の2本の針が生え、手のひらの浮かんだ時計の様な物を握りつぶすと時が止まった。

 

「ぬぅ!」

クロックはその名の通り、時間を止めるクリーチャー。

トリガーした瞬間、そのプレイヤーの残りの行動は全てなかった事に成る。

つまり、あるはずの無かった想護のターンがもう一度始まるのだ。

 

男 手札1 マナ7 盾4

 

「ちぃ!テメェのターンだ!!さっさと始めろ!!」

男の怒号により、放心状態だった想護が正気に戻った。

 

「クロック……そうだ、すっかり忘れてた……」

想護は自身が恐怖のあまり、このカードを忘れていたことを思い出した。

このカードは中埜が3枚目、4枚目を欲しがっていたカードでもあり、もともとは彼が使っていた青単に影響され想護も真似して入れたカードであった。

 

『まさか、アイツが守ってくれた。なーんて、メルヘンチックな事、言わないいわよね?』

手札のコートニーが、ジト目でこっちをにらんでくる。

 

「いうわけ、無いだろ!?男だぞ相手!!」

 

『どーだか?想護があまりにモテないから、手短な男で済ませようとしないか内心かなりヒヤヒヤして……』

 

「やめろぉ!!」

 

「うるせぇ!!俺はさっさと始めろと言ったんだぜ!!

今度こそ、テメェのラストターンだ!!

お前も、アイツらの仲間入りするんだよ!!」

想護の言葉を男がかき消す。

そう、想護のピンチは未だに終わらない。

盾は0、クリーチャーも0。

それに対して相手のクリーチャーは5体。

圧倒的不利な状況。生き残るのはほぼ絶望的な状況。

 

「ふぅー……わかってる。このターンアンタを倒さないとヤバイんだよな」

破壊されて時、仲間を呼ぶクリーチャー。

破壊を肩代わりさせれるクリーチャー。

相手に選ばれる事の無いクリーチャー。

それらが、男の勝利を絶対的な物にしている。

 

「だが、突破できないことは無い」

想護が息を吸う。

心を落ち着け、デッキに手をかける。

 

「こっからはギャンブルだ……俺かお前か、勝利を手にするのはどっちだぁ!!

ドロー!!」

想護がデッキの上からカードを引く。

そして――

 

『ようやく来たみたいね』

コートニーが微笑んだ。

 

「まず俺は、ボアロジーをマナゾーンへ!!

これで俺のマナは9!!

そして、来い!!俺の相棒 薫風妖精 コートニー!!」

バトルゾーンに出現するのは想護の相棒にして、男が『魂を持つカード』と呼んだコートニー。

 

『さぁーて!漸くバトルゾーンに出てこられたわ!

散々でかい口きいてくれた、その見た目通りデカい口したドラゴン共にヤキいれてやるわ!!』

酷く挑発的な、ことばを発してコートニーがバトルゾーンに降り立った。

その力を発して、マナが5色に輝きだす。

 

「はっ!そいつは、序盤のマナチャージ要因だぞ?

今更なんの意味がある!?」

 

「あるに決まってるだろ!!

俺のデッキのカードをバカにするんじゃない!!」

再度タップされる7つのマナ。

それは、このターン想護が引いた切札のマナコスト。

 

「闇を纏いすべてを切り刻む悪魔の龍よ!!

戦場をその力で恐怖に染め上げろ!!

召喚!!凶英雄 ツミトバツ!!」

バトルゾーンに姿を見せるのは、トラを2本脚にしたようなドラゴン。

模様にも見える爪を鳴らし、その瞳に今日の獲物を品定めする。

 

『いきなさい!トラ!!』

 

『ラァアアアアア!!』

ツミトバツが全身から、闇を噴き出しながらシャチホコ・カイザーに躍りかかる。

 

「ハァン!そんな能力、セイバーして……」

 

『きぃしゃぁああああ!!!』

シャチホコ・カイザーを犠牲にもう一体のシャチホコ・カイザーを守ろうとする。

だが……

 

「ぎゃぁあああ!!」

 

「ぐぅああああ!!」

男のクリーチャーが全て苦しみ始める。

それは一体だけにとどまらない。

決して触れられる事の無いハズの、ABYTHENカイザーまでもが体が砕け始めた。

 

「なぜだ!?セイバーがあるはず、ABYTHENカイザーは選ばれるはずは!!」

目の前でボロボロになっていく、自身のクリーチャーたちを見て男は焦る。

こんなはずはない。

こんな、事はあり得ないとばかりに冷や汗をかく。

 

『知らないの?ツミトバツはね、マナゾーンに闇のマナが7つあればアンタのクリーチャー全部のパワーをマイナス7000するのよ』

 

「そんな、馬鹿な!?」

 

「消え去れ!!エイリアン共!!」

想護の言葉が合図となり、男のバトルゾーンから闇がはける。

そしてそこには、無敵を誇ったエイリアンたちはみないなくなっていた。

 

「俺のターンは終了。形勢逆転、だな?」

 

想護 手札2 マナ9 盾0

 

「まだだ、まだ俺は……」

 

「やめとけよ。あんた、持ってないから」

想護はさっき男に言われた言葉を、そっくりそのまま返した。

その言葉を体現するように、男は……

 

「ち、畜生!!こんなモン!!」

男は手札のカード、シャチホコカイザーと、ファルピエロを叩きつけた。

進化元が居なければ、シャチホコカイザーは無力な存在となる。

 

「あ、ああ……ああ……」

気力を失った男は、ひざをついた。

そして次の瞬間――

 

『終わりね、あんた』

目の前に立つのは、コートニー。

その背後に立つのはイメンブーゴ。仲間を呼び、すべての盾をブレイクした様だ。

男のシールドは全て叩き割られ、トドメをさすばかりとなっている。

 

『あの犠牲者たちを解放しなさい。

そうすれば、今回だけは見逃してあげるわ』

 

「させるか、させるかよ……!!」

男が落ちたシャチホコカイザーを拾う。

 

『な、あんた!?』

 

「こい、来いよぉ!!」

シャチホコカイザーを空中に投げた瞬間、空が割れた。

一瞬シャチホコカイザーが割ったのかと思ったが、そうではない事が分かった。

 

『なにアレ……』

割れた空、そこからはヒトガタのクリーチャーたちが大の字に成って球体になった、巨大な物体が姿を見せたのだった。

その球体はシャチホコカイザーを取り込み、飲み込んだ。

 

『シャチホコカイザーを餌にアイツを!?』

 

「お前の相棒だろ!?なんてことを!!」

 

「さぁてぇな!!負けた雑魚に興味はねーよ!!

予定変更だ!!アイツを使ってテメェらごと飲み込んでやらぁな!!」

男はそう言って、自ら開けた穴に飛び込んでいった。

 

『ぐぅおオオオオオオ!!』

怪物は、こちらの存在に気が付きこちらに向かって落下し始める。

 

『逃げるわよ、想護!』

 

「逃げるっていったって……どうやって、何処に……」

 

「こっちだ!!こっちにこい!!」

慌てるしかない状況で、一人の男の声が響いた。

白地に水色のラインが走ったコートを身に着ける男が、扉から手招きをしている。

扉の外には、元の風景が見える。

 

『ああ、もう!怪しいけど、アイツを信じるしか、無いわよね!!

行くわよ、想護!!』

 

「まて、コートニー、中埜がまだだ!!」

そう言って想護は扉の反対方向、空中に浮かぶ中埜の所へ向かって走り出した。

 

「やめろ!!自殺行為だ!!」

 

「こいつを助けるのが、目的だったんだよ!!

今更引けるか!!」

ひび割れ行く空間、その中で想護は中埜に向かって走り出した。

 

『バカ!戻りなさい、想護!!』

それとほぼ同時に、男が作った空間が爆発した。

 

「間に合わなかったか?」

先ほどのコートの男が、周囲を見回す。

 

「いや、なんとかなったさ……」

ショップの床に倒れていた、想護が気絶した中埜を肩に起き上がる。

 

「そうか、まずは生存おめでとうと言おうか。黒札 想護」

 

「あんた、なんで俺の名を?」

男が発した自身の名に、想護が驚く。

 

「俺の名は、四ッ谷。

お前と同じ、魂持つカードを所有する者だ」

男、四ッ谷はそう言った。

 




数か月前から、プロットは出来ていたんですが……
四ッ谷にミラダンテ使わせる予定が、まさかの殿堂に……

すこし、ストーリーを修正しましたね。


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その少女、不機嫌。

さて、投稿ですね。
今回は自分の好きなカードをたくさん活躍させました。


学校の終わり、放課後に成って想護が帰宅を急ぐ。

靴を履き替えた時、声が掛かる。

 

「想護クン――今日、部活行かないのでありまする、か?」

同じ卓上ゲーム部の先輩である藤御門が話しかける。

相変わらず、病的なまでに痩せた長身の影のある男だ。

 

「あ、先輩。すいませんちょっと行く所が有って……

実紅先輩にはよろしく言っておいてくれませんか?」

 

「部長サンに?しかたありますりませんな……

まぁ、上手くいっておきまする。

想護クンは心配なされぬよう――」

 

「ありがとうございます!」

相変わらず、何処で覚えたのか分からない公家っぽい口調をする先輩に見送られ走り出す。

そのまま自転車で自宅ではなく、駅の一角へ。

駐輪場に停めた後、バス停に向かう。

 

「今なら、まだ間に合う……よな?」

ちらりと携帯の時刻を見て、想護が話す。

 

『間に合うは間に合うけど……本当に行くの?』

想護の後ろに、想護にだけ見えるクリーチャー、コートニーが浮かび上がる。

 

「行くよ。中埜は助かったけど、まだまだ分からない事だらけなんだ。

知らないままって言う訳には行かないからさ」

そう言って、想護は数日前の事を思い出す。

 

『俺の名は、四ッ谷。

お前と同じ、魂を持つカードを所有する者だ。

事情を話したいが、今はそれどころじゃないな。

ここへ来い。平日6時までなら時間を用意してやる』

四ッ谷と名乗った男は、一枚の紙を渡してその場から去っていった。

想護は助けた中埜を病院に送った後も、ずっとそれについて考えていた。

 

「魂を持つカード……」

想護が思うのは、先日襲撃してきた男も言っていた単語『魂を持つカード』。

男曰くコートニーがそうらしい。

そして、あの男の持っていた、異様なまでの凄まじい力を見せたシャチホコ・カイザーもおそらくだが、そうであろう。

 

『次はー、神独(しんどく)図書館前ー、神独図書館前ー』

 

「あ、降ります!!」

想護が慌てて、ベルを押しバスを降りた。

 

『ここがあの男の寄越した紙に書いてあった場所?』

 

「ああ、そうだよ」

想護がポケットの中

神独(しんどく)図書館。想護が暮らす街の隣にある図書館で、古く多くの資料を持ち、カフェなどが併設されている中規模の図書館だが、想護にとってはあまりなじみのない場所である。

 

「……う」

扉を開けた想護が初めに感じたのは、図書館独特の閉塞感。

長くいると息が詰まるような、いかにも好きになれないという感じだ。

 

「来たはいいけど……どうすれば良いんだ?」

約束の6時までまだ、13分程度時間がある。

館内を歩いて、四ッ谷の姿を探す。

 

マンガ、歴史、心理、地理、小説、児童文学、図鑑、絵本、更にはカフェテラスと歩いてみたが、一向に四ッ谷の姿は見つからない。

 

「……相手が渡す紙間違えた可能性?」

 

『タダ、単純に想護がバカにされただけじゃない?』

 

「うぐっ!?」

想護が少しだけ思い始めていた事で、図星を突かれる。

 

「あの、図書館では大きな声での会話はご遠慮ください」

 

「う、ごめんなさい……」

想護を注意するのは、背丈の小さな少女。

眼鏡をかけて、長い髪を揺らしその手には分厚い本を何冊も抱えている。

身を包むのはここら辺では賢い事で有名な私立中学校の制服だった。

一目で分かる、如何にもな文学少女だった。

 

『はぁ、たまにいるのよね~、こういう「自分賢いデス」アピールするガキって。

ま、こんなのは中学当たりで、先輩にシメられて泣きを見るのよね』

注意された事に、いら立ちを覚えたのか、コートニーが悪態をつく。

 

「低俗なクリーチャーは、節度を弁えないので嫌いです」

 

「ああ、ごめんな――――え?」

反射的に謝ろうとした後に、想護がその異常性に気が付く。

この子は、たった今、()()()()()()()()()反応して見せた。

 

「四ッ谷さんの紹介の方ですね?」

眼鏡の下、少女の瞳が想護とコートニーを捉える。

 

「な、君が――」

 

「私の名前は倉科(くらなし) 雪菜(セツナ)。以後お見知りおきを――

もっとも、今日限りで会う事はないかもしれませんが……」

雪菜が眼鏡を触る。

 

 

 

 

 

「こちらへ――」

雪菜に案内されて、図書館の一角へと足を進める両者。

図書館の壁に併設された本棚の前へ座る。

そして、本棚の一番下の一冊分空いた隙間に、自身のポケットからカードを取り出し本に挟んで、その一冊分空いた空間に差し込んだ。

 

ずず――ずずず――

 

僅かな軋みを発して、本棚が横にズレ向うへつながる階段が現れた。

 

「なんか、特撮の秘密基地みたいだ。わくわくする」

 

『相変わらず想護は考え方がガキね。一体今何歳よ?』

 

「お静かに、ここは図書館です」

再度の注意が雪菜から飛ぶ。

想護は居心地の悪さを感じながら、扉をくぐった。

白い階段を下りて地下へと進んでいく。

より強い閉塞感に、想護がなんだか気分が悪くなる。

 

「うへぇ……なんか、気分悪い……」

 

「そうですか」

想護の言葉を聞き流し、雪菜が行き当たりの扉に手をかける。

そこは丸い部屋に成っており、7つの扉が見えた。

部屋の中央には絨毯とソファとテーブル。

何処となく、リビングの様にも思えた。

 

「私の後ろの扉。その向こうに、四ッ谷さんが居ます。

けど――私には、貴方たちが四ッ谷さんに会っても意味が無いと思う。

だから、私は独断で貴方たちをテストする」

雪菜はソファに腰かけ、一冊の本を開く。

そこにはデッキが治められていた。

 

『本型のデッキケース?マジ?バッカじゃないの?』

明らかに機能性を無視した道具にコートニーがバカにする。

 

「あ、こら!」

 

「構いません。コレは私の趣味です。

理解の無いクリーチャー風情が勝手に言ってるだけです」

雪菜の顔がひきつっている。

横を見るとコーカサスも、いらだった表情をしている。

 

(あ、この二人相性悪いぞ)

想護が何かを言おうとする前に、雪菜がデッキを構える。

 

『想護ォ!デッキを出しなさい!この鉄面皮に吠ヅラかかせて、やるんだから!!』

 

「来なさい。教養の無いケダモノ」

想護がデッキを取り出した時、再度光に包まれる。

 

「ここは――」

目を開けると、想護の周囲にはジャングルが広がっていた。

それは否応なしに、先日の男との戦いを思い出させるものだった。

 

「なるほど、それがアナタの世界と言う訳ですね?」

雪菜が想護のデュエルフィールドを見て、声をだす。

 

「そっちは、それが君の『世界』ってやつか?」

雪菜が立つデュエルフィールドは本の山だった。

大量の本が積み上げられ、それこそ異様な量が積み上げられ、まるで摩天楼の町を見ている様な気分に成る桁外れの本の山だった。

 

「先攻は頂きます――マナをチャージ」

雪菜がマナゾーンにトップ・オブ・ロマネスクを置く。

 

雪菜 手札4 盾5 マナ1

 

「ん?ドラゴンか――」

 

『確かにドラゴンだけど、あれは……』

想護、コートニー両名が雪菜のマナに置いたドラゴンに注目する。

デュエルマスターズにおけるドラゴンは、主役級のカードが多数在籍する種族だ。

無論、一枚でゲームエンドまで持っていけるカードも多い。

今、マナに置かれたカードは残念ながらそういった、タイプではない。

だが、マナゾーンに置くカード、文明の『色』を確保する色基盤としてとても重要な価値がある。

トップ・オブ・ロマネスクその一枚に、火、光、自然の3色のマナを宿す。

この時点で、雪菜のデッキには3色異常のカードが入っている事が分かる。

 

「ちらちらと人のカードをみて、相談ですか?貴方のターンのハズですよ?」

 

「あ、ああ……わかってる。ドロー。

キリューをマナにターン終了」

想護もお返しとばかりに、マナゾーンに火、闇、自然の3色を持つキリューを埋める。

 

想護 手札5 盾5 マナ1

 

「ドロー、水晶邪龍 デスティニアをマナに」

 

「デスティニア!?」

雪菜のマナゾーンに置かれたのはまたしてもドラゴン。

だが問題は色にある。

デスティニアの持つ色は闇と水の2色。

先ほどのトップ・オブ・ロマネスクの3色と合わせると、雪菜のマナゾーンにはすべての色のマナがそろった事に成る。

全ての色のマナを使った戦い方。それは想護も非常に知った戦い方だ。

 

刹那 手札4 盾5 マナ2

 

「5文明を揃えるデッキか……やりにくいな……

俺のターン!!手札のガイゲンスイをマナにおいて、薫風妖精コートニーを召喚!」

想護のバトルゾーンに、想護の相棒のコートニーが降り立った。

そしてその能力により、マナの色が5色に輝いた。

 

『全く、5色デッキとか、真似してんじゃないわよ!!』

 

「真似?誰がどんなデッキを使おうが関係ないハズです。

まぁ、そのデッキは貴女の能力に頼った『偽装』に過ぎないんですが」

 

『言ってくれるじゃない……!』

ギリリとコートニーが歯ぎしりをする。

 

想護 手札4 盾5 マナ2

 

「さて、5色揃えば、やる事は一つですね」

 

「ああ、そうだな」

 

「私は呪文、フェアリー・ミラクルを発動」

想護も愛用する呪文、フェアリー・ミラクル。

マナゾーンに5色の文明が有ることを条件に、山札から2枚マナに置く加速呪文。

 

刹那 手札3 盾5 マナ5

 

「俺も行かせてもらうよ。フェアリーミラクル。

山札から2枚をマナに、けど――」

想護もマナを増やし、これで5マナ。

だが、刹那の方が先攻という特性上、1ターン先に動く事が出来る。

更にコートニーを召喚していない分、手札の消費が一枚押さえられている。

互角に見えて、このデュエル。雪菜の方が一歩だけ有利になっている。

 

想護 手札3 盾5 マナ5

 

「さて、始めますか――マナをチャージ。

呪文、ジャックポット・エントリー」

 

「ジャックポット!?」

雪菜の唱えた呪文は6コストの呪文。

その呪文は、少し前に流行った強力な呪文で――

 

「ジャックポット・エントリーの効果でマナゾーンのドラゴンの数だけ山札を見ます。

私のマナにあるドラゴンは、トップ・オブ・ロマネスク×2デスティニア、バベルギヌス、バルガライザーの5枚。

よって、デッキの上から5枚を確認」

雪菜のデッキが5枚めくられる。

そして、その中の一枚を指さす。

 

「確認した中から、コスト8以下のドラゴンをバトルゾーンに呼び出せる。

私は…………ボルメテウス・ブラック・ドラゴンをバトルゾーンへ!!」

 

『ギィヤァオオオオオオォオオオ!!!』

雪菜のバトルゾーンに、背中に砲門を備えた黒ずんだ鎧を身に纏った漆黒のドラゴンが降り立った。

 

「ボルメテウス……ブラック!!」

 

『ギィガァアアアアアアアア!!!』

雪菜のデュエルフィールドの本を叩き潰し、口から炎を吐いて暴れる。

 

『ちょっと!?これ、やばいんじゃ――』

 

「うるさい!!ボルメテウスブラックの能力!!

コートニーを選んで破壊!!」

 

『ガァルルルルルル――ラァアアア!!』

ボルメテウスブラックが、背中のブラスターを発射し、コートニーを破壊する。

 

『この――トカげ―――――』

 

「コートニー!!」

 

『私は……はぁ、はぁ……ターンを、終了……です』

目に見えて異常を見せ始める雪菜に、想護が焦る。

 

雪菜 手札2 盾5 マナ6

 

「おい?どうしたんだよ!!なんか、何か様子がおかしいぞ!!」

想護が声をかけるが、雪菜は反応さえしない。

 

「あれが、いけないのか?

ボルメテウスブラックドラゴンが原因なのか?」

 

「そうだ」

想護の疑問に答えたのは、四ッ谷だった。

いつの間にか、想護のバトルフィールドの中に立っていた。

 

「雪菜は私が最初に見つけた仲間だ。

だが――彼女は上手く魂を持つカードを扱いきれない。

この様に、逆に振り回されてしまうんだ」

 

「そんな――」

 

「雪菜!!そのデッキの使用は禁止したハズだ!!

今すぐデュエルを中止するんだ!!」

四ッ谷の声が、デュエルフィールドの中に響く。

だが雪菜は首を横に振るばかりだ。

 

「ちぃ――すまないが、雪菜の相手を頼めるか?

こうなったら、最悪、雪菜が倒れるのを待つしかない。

時間を稼いでくれ。倒す必要はない。このままいけば自爆する。

時間切れを目指すんだ」

 

「わかった。俺はボアロジーを召喚!

マナをチャージ……よし!反撃のサイレントスパークが落ちたから、2チャージ。

ターン終了だ」

 

想護 手札2 盾5 マナ8

 

「わ、たしの――ターン!!

召喚!!スペルサイクリカ!!」

雪菜が呼び出したのは、クリスタルの体を持つドラゴン。

そのドラゴンの持つ能力は――

 

「墓、地のコス……ト7以下の、呪文を、唱え……その後、手札に!

来て、ジャックポッ……ト・エント、リ……!!」

再度唱えるのは、やはりジャックポット・エントリー。

マナのドラゴンが増えた事により、今度は6枚が山札の上からめくれる。

 

「来て……ボルメテウス……蒼炎、ドラゴン!!」

 

『きぃいいいいいいいいい!!!』

再度現れるのは、2体目のボルメテウス。

今度は青い鎧を身に纏った、赤いドラゴンだ。

 

「雪菜!!何を考えてる!!その2体を同時に使うなんて、自殺行為だ!!

今すぐ中断するんだ!!」

四ッ谷の表情が、更に鋭くなる。

ボルメテウス・ブラック・ドラゴン。

ボルメテウス・蒼炎・ドラゴン。

この2体からは、この前戦った男の持つシャチホコ・カイザーと同等かそれ以上の力をひしひしと感じる。

間違いなく、この2枚は――

 

「魂を持つカードってやつですね?」

 

「そうだ。雪菜のデッキには3枚の魂を持つカードが入っている。

だが、その力は大きすぎて雪菜には操り切れない。

無理に使えば、カードに意思を奪われ――」

 

「ブラックでシールドをブレイク!!

蒼炎で追撃!!」

雪菜の命令で、2体のボルメテウスが想護のシールドを4枚破る。

破られたシールドは通常手札に行く。

だがボルメテウスの名を冠すカードたちの前ではそうはいかない。

 

「シールド滅却」

 

「くそっ……」

想護の盾は手札に行かず、直接墓地へ送られる。

当然シールドトリガーも発動せず、手札も増えることは無い。

2体のドラゴンが吐く炎は、やすやすとシールドを焼き尽くす。

その炎は飛び火し、雪菜のデュエルフィールドすらも焼いていく。

 

「くそ、くそっ!」

想護は圧倒的ピンチに追い込まれている。

増えない手札。シールドトリガーを破壊するドラゴン。

このターンで決めないと、確実に次のターンでやられる。

 

「俺のターン!!

イメンブーゴを召喚!!能力でボアロアックスを装備!

マナゾーンから、マッカランファインを召喚!!マナ武装5でイメンブーゴをスピードアタッカーに!!

ダブルブレイク!!」

ボアロアックスを装備した、ボアロジーが雪菜のシールドを2枚割る。

 

「攻撃時に、マナゾーンから逆転王女プリンを!!

能力でイメンブーゴをアンタップ!!イメンブーゴで再度攻撃!!

マナゾーンから、ボアロジーをバトルゾーンに!!」

再度発動する、ボアロアックスの効果によりボアロジーがバトルゾーンから現れる。

現在、雪菜の盾は3枚。

イメンブーゴの攻撃で2枚、マッカランファインのおかげでスピードアタッカーとなった、マッカラン、ボアロジー、プリンの3体。

一体ならば、トリガーで除去されても、トドメまで行ける計算だった。

だが――

 

「シールドトリガー。カーネル」

 

「うぐ!?」

カーネル。それはブロッカーを持つトリガーのドラゴン。

そして相手を一体選び次のターンまで、アタックとブロックを封じる能力を持っている。

それは、想護の攻撃を完全に封じた事を意味していた。

 

「ボアロアックスを龍解……た、ターン、終了……」

 

想護 手札1 盾1 マナ9

 

「わ、私のターン……ボルメテウス、ブラックで最後のシールドを滅却!!」

想護の最後のシールドが滅却される。

これで、想護を守る物は無くなった。

 

「っ……!」

 

「蒼炎で――とど……」

 

ドシャ!

 

雪菜は、攻撃を指示する途中で倒れた。

四ッ谷の言う様に、『時間切れ』になったのだろう。

雪菜のてから、ボルメテウス・サファイア・ドラゴンがこぼれ落ちる。

それと同時に、デュエルフィールドが消えていく。

 

「雪菜……なぜ、こんな無茶を……」

四ッ谷が雪菜を抱きかかえる。

 

「これが、魂を持つカードと関わった者の末路だ。

何時か、君もそのカードを持つ限りこうなる。

カードに食われるか、カードを狙ってきた奴らに消されるか、そのいずれかだ。

今、そのカードをここで手放せ。

私が、君を読んだのはそれが理由だ」

四ッ谷が想護と、その後ろにたたずむコートニーに向かって言い放った。




最近ボルメテウスが、パックに収録されて上機嫌な私です。
もっぱら呪文の方ばっかり使ってますが……


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始まりの感情

今回は、四ッ谷戦です。
何だかんだ言って、彼のデッキ構築はこうなりました。


「ボルメテウス・ブラック・ドラゴンでシールドをブレイク~

そんで、黒神龍アマデウスでトドメ~!」

サイズの余った袖から伸びる、ほっそりした4本の指がカードをタップする。

 

「俺の負けです……」

 

「いぇ~い!わたしの勝ちぃ~!」

落ち込む想護を前に、3年の先輩にして卓上ゲーム部の部長である獣月 実紅が喜ぶ。

 

「おや、これは珍しいこともありまするな。部長サン相手に想護クンが3連敗とは……

明日は雨に違いありませぬな」

扇子で口元を隠し、藤御門が小さく笑う。

 

「むぅー!フジ君!わたしが弱いみたいに言わないで!!」

小さな体躯をめいいっぱい伸ばして実紅が怒りをアピールする。

 

「おやおやおや……これは失言し申しましたな。

部長サンはロマン派故、勝敗よりも楽しむことを優先しますりまするものね?」

再度目を細め、藤御門はクックと喉を鳴らした。

実紅の盤面には、ボルメテウス・ブラック・ドラゴンの他に、腐敗聖者ベガ、ゼノシャーク。

墓地にはブレインタッチ、ハヤブサマル、タイムトリッパー。

マナゾーンを見てもバトルゾーンを見ても、ただの一枚も同じカードが無かった。

全てのカードが一枚のみ。一見すると、カード同士のシナジーなど考えないバラバラのデッキ、悪意ある言い方をするとジャンクデッキにさえ思える構築だ。

これは所謂「ハイランダー」構築というやつだ。

 

「ふっふっふ……古より伝わりし『ハイランダーボルメテウスコントロール』デッキの強さ見たか~」

 

「部長サン?我が思いまするに、超次元を採用すべきでは?

破壊耐性をくれるサッヴァークも、よろしいかと思うのでありまするが……」

 

「ノンノン!フジ君は分かってないな~

これはボルコン!ボルメテウスよりレア度の高いカードなんてダメだよー!

それに、超次元や緑を入れるなんて邪道だよ~」

 

「ふぅむ、『こだわり』と言うやつ、でありまするな。

部長サンは意外と頑固でありまするからな」

実紅と藤御門が話し合う。

その和気あいあいとした、空気は何時もの部活の雰囲気その物なのだが……

 

「ボルメテウス・ブラック・ドラゴン……」

想護がぼーっと宅面を見る。

その様子は、こころここに在らずといったようだった。

 

実紅が使ったのは偶然にも、雪菜の使ったのと同じクリーチャー。

それは想護に否応なしに、前回の戦いを思い出させた。

そしてその戦いの記憶は、対戦相手の雪菜の苦しむ姿。

そしてその雪菜を苦しませた『魂を持つカード』の事。

 

「っ……すいません、俺、今日先帰っても良いですか?

調整したいデッキあるんで……」

 

「うーん、いいよー!部長特権で、許可したげる~」

あっけらかんとして、実紅が手を振った。

本来ならば、キチンと別れを告げてから帰るのだが、今日は逃げる様に部室を後にした。

自転車に乗りがむしゃらに走る。

駅を超え、いつもなら寄ってみるショップをすらスルーして自室に閉じこもる。

 

 

 

「…………」

デッキケースをベッドに投げる様に放った。

 

バラッ……

 

カードケースが開き、デッキがベットの上に散らばった。

 

「…………魂を持ったカード、か」

その中の一枚。想護のフェイバリットカードであるコートニーに手を伸ばした。

だが……

 

「…………コートニー」

想護は、小さく呟いて手を引っ込めた。

 

すこし呼び掛けて手を伸ばしては引っ込める。

四ッ谷に話しを聞いて以来、ずっとこの調子だ。

 

肝心のコートニーも話しかけても、答えてくれない。

まるで普通のカードの様だ。

だが、これは確かに魂を持ったカードだ。

 

「ッ!」

何度目かのチャレンジの後でカードにふれる瞬間、今までの事がフラッシュバックした。

中埜を襲ったあの男の事。

想護と戦った雪菜の事。

 

シャチホコ・カイザーの肌を針で刺されるかのような、咆哮。

今思い出しても震えが止まらない。

あの大口で、一体何人の犠牲者を出してきたのだろうか?

一歩間違えば自分も、その仲間入りをする所だったのだ。

 

決して夢でも幻でもない、現実だ。

 

ボルメテウスの炎の熱さは体が覚えている。

シールドを焼却すると言われた能力を想護は直に受けた。

蒼炎もブラックも、凄まじい力でこちらを責めたてて来た。

そして、結果として想護は敗北した。

雪菜がこちらに対して、殺意を抱いていなかったのが唯一の救い。

シャチホコ・カイザーの時の様な相手だったらと考えると、それだけで恐ろしくなる。

 

いや、それより恐ろしいのは、その雪菜の様子だった。

ただカードを使用しているだけだというのに、あの様子は尋常ではなかった。

 

雪菜の1ターン1ターン1が苦しみに満ちていた。

想護の知るデュエマは楽しむためにする物だ。

 

「あんな、苦しんでやるモンかよ……」

ゲームで命を懸けたやり取りなど、する必要はない。

だが、魂を持つカードを使うという事は、苦しみを受けるという事なのだろう。

 

「…………」

想護の視線の先、物言わぬコートニーかあった。

思うのは四ッ谷の言葉。

 

「コートニーを捨てる……か」

コートニーを持つ限り、コートニーを狙う者は常にやってくるだろう。

そのたびに、想護はまた襲われることになる。

 

「――――平和が一番、だよな……」

自らの平穏を求め、コートニーを捨てるのがもっとも正しい決意だ。

おなじカードならいくらでもある。

たった一枚カードを変えるだけ、それだけで想護は解放される。

 

「…………」

想護はコートニーのカードを手に持った。

そして――

 

 

 

 

 

「決心はついたのか?」

図書館のカフェテラス、そこで待っていた四ッ谷の前に想護が座る。

コーヒーの香りが、ゆっくりと想護の鼻をくすぐる。

 

ずずっ……

 

「それが君の答えか」

コーヒーを啜り、四ッ谷の目が鋭くなる。

想護はその手にデッキを持っていた。

 

「……俺は正直不安です。中埜を襲った奴も怖いし、命を懸けてするデュエルも本当はしたくない。

だって、そんなの楽しくないし…………

けど、けど、だからって、俺はコートニーを捨てられない!!

コイツは、今までずっと一緒にやって来た相棒なんだ!!」

想護がシールドを展開すると同時に、デュエルゾーンへと飛ばされる。

 

ジャングルに埋もれる遺跡の中に、想護は一人立っていた。

 

「君の答えがそれならば、私はその答えがどのような事態を導くか、教える義務がある!!

魂を持つカードを所有するという意味を!!」

四ッ谷もシールドを展開する。

そして、一瞬のラグの跡に、四ッ谷は黄金の砂の満ちた砂漠に立っていた。

降り注ぐ太陽に、紺碧のオアシス。

砂漠と言えば、マイナスイメージを持つだろうが、四ッ谷のフィールドはそんなものは一切ない、まるで風景画の様なフィールドだった。

 

「君がそのカードを所有するだけの力があるか、見てやろう。

今生き残ることが出来ない程度の力なら、行きつく先は同じだ」

四ッ谷がカードを構える。

 

 

 

「呪文、憤怒スル破面ノ裁を詠唱。デッキからカードを一枚手札に。

そして、裁きの紋章の効果として、このカードはシールドに送られる」

四ッ谷が唱えたカードは、単純なワンドローの手札交換カードに見える。

だが、問題は盾に張り付けられたという部分。

 

「奴のデッキ、アレが居るのか?」

想護の中に、危険なドラゴンの姿がよぎった。

 

四ッ谷 手札5 マナ2 盾5+紋章1

 

「俺のターンドロー!!3コストで、フェアリーミラクル!

落ちたカードは……よし!5色達成だ」

山札から落ちたカードで想護のマナゾーンに5色が揃った。

マナ数では四ッ谷に勝っているがそれでも、有利な動きとは到底言えない。

 

想護 手札3 マナ5 盾5

 

「私はマナをチャージ……そして王機聖者ミル・アーマを召喚!」

四ッ谷のバトルゾーンに現れるのは、黄金の鎧をまとった騎士。

3コスト パワー3000の攻撃できるブロッカー。

そして、何より呪文のコストを下げる能力を持っている。

そのあまりにもバランスの取れ、隙の無い能力により、嘗てその身は殿堂入りにもなっていた存在だ。

 

『召喚を感謝します!我が主!』

 

「しゃべった!?」

ミル・アーマが恭しく礼をした事に、想護は驚きの感情を隠せない。

 

「ミル・アーマも魂を持つカードという事だ。

無論、雪菜のボルメテウスとは違い、きちんと道理を弁え無軌道に暴走する存在ではないがな……」

四ッ谷がターンの終了を宣言する。

 

四ッ谷 手札4 マナ3 盾5+紋章1枚

 

「ドロー!――っ!コートニー……」

手札にきたカードはコートニーだった。

だが、あの日以来コートニーは姿も、声も見せてくれない。

これではただのカードに過ぎない。

 

「なんで、なにも言ってくれない……なんで、黙ったままなんだよ……」

何もかもが上手くいかない。

声を上げた所で、やはりコートニーは返事すら返してくれない。

 

「ボアロジーを召喚……一応5色は達成している……」

ボアロジーを呼び出し、更にマナを増やす。

だが、今はそれだけだ。

5色は揃ったが、ただマナが増えていくだけ。

 

想護 手札2 マナ8 盾5

 

「どうやら、何も出来ない様だな?

ならば、こちらは詰めを考えるか。

ミル・アーマの効果で1軽減!!4マナ発動!!

呪文ドラゴンズサイン!」

四ッ谷が掲げたカードは本来なら5マナとなるハズのカード。

だが、そのカードはミル・アーマの能力で1ターン早く呼び出せる。

 

「来い!バトルゾーンに、煌龍サッヴァークを呼び出す!」

四ッ谷が自身のバトルゾーンに、金色の龍を呼び出す。

胸に目を持ち、それがこちらをにらんだ瞬間、ボアロジーの体が音もなく浮かび上がり想護の盾におしつけられた。

 

「ボアロジーを封印だ」

想護のバトルゾーンに唯一いた、クリーチャーまで除去された。

だが問題はそこではない。

問題はサッヴァークは、この表向きにされた盾のカードを墓地へ送ることで自分と仲間のクリーチャーのバトルゾーンを離れる事を無効化できること。

つまり今の四ッ谷のクリーチャーは四ッ谷の紋章の分とボアロジーの分で2回の無効化が出来るという事である。

 

四ッ谷 手札2 マナ4 盾5+紋章1

 

「お、俺は……デッドブラッキオを召喚!!」

8つのマナがタップされ、デッドブラッキオが姿を見せる。

 

「能力で、サッヴァークを――」

 

「ボアロジーを身代わりに」

言い終わる前に、サッヴァークは自身の効果でマナ送りを中止させた。

何もない、手札も、クリーチャーも、勝機も、そして相棒も……

想護が小さく震えだした。

 

くる。この次のターンでおそらくあのクリーチャーが来る。

想護は確信にも近い予感をしていた。

 

「さて、そろそろ終焉の時間だ。私は手札から呪文、『ジャミング・チャフ』を唱える」

 

「チャフか!?」

想護の顔が一気に青ざめた。

ジャミング・チャフ。それはデッキからカードを一枚ドローし、そして次の自分のターンの初めまで相手に呪文を唱える事を出来なくするカードだ。

デュエマの反撃の手段である、呪文のシールトリガーがこのカードの能力で完全に封じ込められたのだ。

 

煌龍(キラゼオス)サッヴァークで攻撃!その時、革命チェンジを宣誓!!」

 

「革命チェンジ!?まさか、『ヤツ』が来るのか!?」

想護はその絶望的な宣誓を耳にする。

革命チェンジ。それはバトルゾーンに自身のクリーチャーの攻撃をトリガーに、手札にある特定のカードと交換することが出来る能力。

 

「革命チェンジ条件は、光又は水のコスト5以上のドラゴン。

私はサッヴァークを手札に戻し、時の法皇 ミラダンテⅫをバトルゾーンに!!」

バトルゾーンに現れるのは、法皇と呼ばれるだけの四足歩行の馬の様うなドラゴン。

西洋風の時計を思わせるⅠからⅫまでの時を示す、鍵盤を背負っている。

 

嘗てTVアニメで使用された時には、『時を止める』とさえ称された能力だ。

 

「ファイナル革命発動。次の俺のターンの始まりまで君はコスト7以下のクリーチャーの召喚が出来ない。

そして、ミラダンテの登場時能力。手札からコスト5以下の呪文を使うことが出来る。

私は呪文ドラゴンズ・サインを発動。コスト7以下の光のドラゴン――

もうわかっているだろう?煌龍 サッヴァークをバトルゾーンに!!」

 

四ッ谷のバトルゾーンに、2体の光のドラゴンが降臨した。

呪文も打てず、コスト7以下のクリーチャーの召喚も出来ず、バトルゾーンを離れる事に耐性を持たせるクリーチャーまでいる。

そして、四ッ谷を守る6枚の盾。

ミラダンテⅫの攻撃が想護の盾を削る。

 

「ぐぅあ!?」

 

「ミル・アーマで更に一枚ブレイク!」

四枚目の盾が壊される。

四ッ谷にはこれ以上のブレイクは出来ない。

だが――

 

「さぁ!君はどうする!!この盤面を返せるのか!?」

四ッ谷のバトルゾーンは、ミラダンテが立ちふさがっている。

時の法皇 ミラダンテⅫ。

そのファイナル革命能力で、想護はコスト7以下のクリーチャーの召喚が封じられ、更に時を同じくして唱えたジャミングチャフの効果により呪文も使う事は出来ない。

想護のデッキのカードは殆ど封じられた状態だ。

 

正に絶体絶命にピンチ。敗北必至な状況であるが……

 

 

 

「なぁ、コートニー覚えてるか?俺がお前を始めて使ったデッキの事」

 

『…………』

手札にいるコートニーは答えない。

 

「今でいう5色コントロール……とも言えないよな。

昼の先輩のボルコンみて思い出したんだ。

お前が俺にくれた物を……」

 

『――忘れる訳無いでしょ?あんな滅茶苦茶なデッキ』

コートニーが想護の言葉に反応する。

 

「滅茶苦茶?確かにそうかもな」

想護が笑みを浮かべる。

そうだ、今日部室で実紅のデッキを見たせいか、すっかり自身の始めてのデッキを思い出していた。

 

『まさか、まさかの5Cよね?

ドラゴン入れて、デーモンコマンド入れて、サイバーロード入れて……

なんでもかんでも、持ってるレアカード全部入れたような奴だったわよね?』

 

「ああ、そうだな……」

おもしろそうだと始めたゲーム。

 

「確か友達か誰かが、パックで出た当たりのカードをくれたんだっけ……

ダブったとか、使わないとか、本当にただの気まぐれでさ?

けど、そのカードのイラストのかっこよさに惚れて――」

 

『デッキ作り出したのよね?

けど、他のカード集めてパック買った時に別のレアカード引いたのよね?』

ああそうだった、なんて言いながら想護が思い出を語る。

 

新しいパックを剥いて運よくでたカード、今の切り札とのシナジーなんて考えずにとりあえず40枚に成る様にデッキに押し込んだ。

 

「我ながら無茶したな……ドラゴンもデーモンコマンドも、エンジェルコマンドも入ってた気がする」

 

『入ってた入ってた、13マナ呪文まで入ってたわよ?

どう考えてもバカのする構築よね?』

 

「何を話している?降参(サレンダー)なら、そう言ったらどうだ?」

四ッ谷がこちらに、声を投げかける。

 

「するワケ無いだろ?今、俺の相棒と懐かしい話をしてるんだ。

邪魔をするなよ……!」

想護は思い出していた。初めてデッキを作ったドキドキとする胸のざわめきを。

そして敗北による悔しさを、そしてコートニーという相棒を得て、ついに手にした自らのデッキタイプを。

 

『ハンッ!想護。ボケたジジイみたいに過去を懐かしみたいなら、先にやる事があるでしょ?

ワタシ達の行く手の先にでっかいゴミが転がってるなら、それを蹴っ飛ばして進めば良いのよ!!』

 

「ああ、そうだった。そうだったな!!

俺のゲームはまだ終わってない。

まだ、勝負はついちゃいない!!5色の力でお前を倒す!!」

 

想護が右手をゆらりと持ち上げる。

目の前には、自身のデッキ――!

 

「さぁ、こっからはギャンブルだ……

俺かお前か、勝利を手にするのはどっちだぁ!!

ドロぉー!!」

想護の引いたカードを見て、コートニーが笑う。

 

『ようやく来たみたいね』

 

「俺は、コートニーをマナにチャージ!!そして『邪帝類五龍目 ドミティウス』を召喚!!」

想護にバトルゾーンに現れたのは、巨大な龍。

その爪には5色の色が称えられている。

そしてその巨体を揺らし、咆哮を上げる。

ドミティウスはコスト9、ミラダンテⅫの能力に引っ掛からない。

だが、ミラダンテⅫを前にしても、コスト7以下のクリーチャーを()()()()方法は存在する。

それは――

 

「つかいたいカードの文明はバラバラ、けど、コートニーがその文明を壁を壊してくれた!

もう、俺に文明の壁なんて、存在しない!!

コートニーは俺に力をくれた!!ドラゴンも!エンジェルコマンドも、デーモンコマンドも取り込んだデッキを作れる力を!!

全てのカードが俺の味方だ!!」

 

『ワタシの、力で大地を5色に染める!!』

コートニーの力が、マナゾーンのカードが全ての文明へと着色される。

 

「『ドミティウス』の効果発動!!召喚時の能力で山札の5枚を表に!

そして、その中のコスト7以下のクリーチャーを各文明から一体づつバトルゾーンへ!!」

能力による呼びだしだ。これは召喚ではない為、ミラダンテⅫの能力では拘束することは出来ない。

 

「なに!?だが、所詮は運任せのカードに過ぎない!!」

四ッ谷が目を見開く。

有利だった状況が、たった一枚のカードでひっくり返る『可能性』。

その可能性がどうしても四ッ谷の中ではぬぐい切れなかったのだ。

 

「最初の1体は自然から、イメン=ブーゴ!!

2体めは光のエメラルーダ、3体目は闇のツミトバツ、4体目は炎のガイゲンスイだ!!」

ドミティウスを含め、一体の召喚でバトルゾーンに一気に5体ものクリーチャーが並ぶ。

 

「言っとくけど、俺の召喚はまだ終わらない!イメン=ブーゴの効果で超次元ゾーンから『邪帝斧 ボアロアックス』をバトルゾーンに!能力でマナゾーンから、マッカランを踏み倒す!」

 

「なるほど、ガイゲンスイのブレイクアップ込みで3枚、、ドミティウスで4枚、イメンブーゴ3枚、ツミトバツで3枚、エメラルーダで2枚、マッカランでスピードアタッカーを付与か。

だが、私の防御は簡単には敗れはしない!」

 

「慌てんなって、まだ俺の召喚は終わってない。

エメラルーダの能力で、カードを一枚手札に加える!

その時、そのカードを捨てる事でストライクバック発動!!

ザ・デッドブラッキオをバトルゾーンに呼び出せる!!」

想護のバトルゾーンにデッドブラッキオが咆哮を上げて立ちふさがった。

 

「ほう、デッドブラッキオでクリーチャーを一体除去そしてさらにクリーチャーたちを並べたか……」

 

「コートニーがくれた時間を無駄なんて言わせない。相棒がくれた『楽しさ』侵略の道具なんかにさせない!!俺は楽しい時間を守るために、敵を退ける!!

俺からコートニーを奪おうとするなら、アンタも同じだ!!

行くぞ!!まずはイメン=ブーゴで攻撃!そんで、マナゾーンからコートニーを呼びだす!

来てくれ!俺の相棒!!」

 

『言われなくても、そのつもりだっての!!』

大地を突き破り、コートニーがバトルゾーンに降り立った!

 

「なるほど、これが君の答えか。ならば――」

想護が攻撃を仕掛けようとした時、四ッ谷が手を挙げた。

 

「?」

 

「投了する。君の勝ちだ」

 

「は?」

 

『はぁ?』

想護、コートニーの両名が、同じ声を上げる。

 

「初めから勝つ気など無かったのだ。

君が私のシールを割り切れる数だけ、クリーチャーを並べられれば合格のつもりだった」

 

「合格?けど……」

 

「無論、トリガーの可能性は十分ある。だが、私を運の要素次第で敗北する状況まで追い込んだのならば、実力は十分と言う訳だ」

四ッ谷がカードを片付けると、元のカフェへ戻ってきていた。

 

「君の、カードへ対する愛情は素晴らしい。

そして、それだけの力があれば魂を持つカードに乗っ取られる事もないだろう。

もっとも、カード自体もそんな性格ではなさそうだが……」

四ッ谷がケーキにフォークをさして、口に運ぶ。

 

「黒札 想護。君に改めて頼みたい。我々も君と同じ気持ちなんだ。

クリーチャーたちを、楽しい遊びの世界へ戻してやりたい。

その日まで、協力を願えるかな?」

 

「はい、俺で良かったら喜んで!

とは、成らないよな~」

 

『な~んか、試されてる感じで気に食わないわ』

想護、コートニーの両名が胡散臭そうに、尚もケーキを口に運ぶ四ッ谷を見た。




ちょっとした裏話ですが、四ッ谷はミラダンテⅫが殿堂したので、急遽この形になりました。
本来なら、フランツを使ったドロマー超次元にダンテを入れた構築の予定でした。


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その名はサンジェルマン

今回は、デュエル描写はありません。
本来こんな事あっては成らないのでしようが……

今回は所謂説明回となりました。


デュエルが終わった後、四ッ谷はおもむろに立ち上がった。

さっきまで戦っていたバトルフィールドは消えうせ、テーブルの上でコーヒーが湯気を立てている。

 

「来てくれ。今の君には――いや、君たちになら話せる」

 

「?」

想護は不思議に思ったが、今回ばかりは四ッ谷の言葉に従って後をついていく事にした。

会計を住ませ、四ッ谷が図書館の奥――秘密の入口の本棚のある場所へと向かっていく。

 

カッ、カッ、カッ……

 

徐々にひとけが無くなり、四ッ谷の立てる靴音が大きく感じるようになっていく。

そして、目的の本棚にたどり着き、本棚を開くためのシカを動かし始める。

 

「君は――魂を持つカードたちをどう思っている?

何処から来て何を目的とし、そもそもなぜカードが心と人格、所謂『魂』とすら呼べるものを持つのか……考えた事はないか?」

例の本棚をスライドさせ、その下の階段に向かいながら四ッ谷が話す。

 

『想護が考える訳ないじゃない』

 

「どうって?えっと……とりあえず、すごい?」

つられて足を進めた想護が、非常に間の抜けた回答をする。

 

『バカ丸出しね。バカの回答としては100点かしら?』

その回答に間一髪入れず、コートニーが毒を吐く。

考えてみればコートニーが話すなんて事は異常なコトでしかないが、想護はコートニーの件はすっかり当たり前になってしまっている。

 

「うぐっ……そう言えば、ずっと相棒してるけど、考えたことは無かったな……

居るのが当たり前って感じで……」

想護の言葉に、階段を下りる四ッ谷の動きが一瞬止まる。

 

「そう、か……私は、君たちのそう言った関係がうらやましいよ」

こちらを振り返りもせず、四ッ谷は階段の一番下の部屋へとたどり着いた。

 

 

 

「四ッ谷さ――その人……」

部屋の中、雪菜が四ッ谷に声をかけようとして、背後にいる想護を見て黙る。

明らかに歓迎的ではないムード。どうやら彼女は四ッ谷とは違い、本気で想護たちを排除しようと思っていた様だった。

 

「彼のテストは合格だ。私が直々にみて判断したんだ。

文句はないだろ?」

 

「はい……四ッ谷さんが言うなら……」

非常に、非常に気に食わないと言った様子で、雪菜が煮え切らないという態度を示しながらも渋々うなづいた。

 

「さぁ、歓迎してくれ。今日から彼は私達『Dシーカーズ』の仲間だ」

 

『Dシーカーズ?』

コートニーが想護の疑問を代弁する。

 

「私たちのグループの名だ。と言っても、非公式だし大規模な組織と言えるほどでもない。

だから、我々は敢えて『グループ』と称している。

今我々は多くの仲間を求めてる。残念な事に今いるメンバーは私を含めて3人しかいない……」

四ッ谷が若干、気まずそうに語る。

 

「3人……四ッ谷さんと、その子の他にも?」

 

「ああ、彼はあまり顔を見せたがらないんだ。

だが、有事の際にはキチンと来てくれる」

想護の言葉に、四ッ谷が答える。

四ッ谷、雪菜の実力は戦った想護がよくわかっている。

おそらく、その最後の一人も同じ位強いのだろうと、勝手に想像する。

 

「さて、君には見て貰いたいものが有るんだ」

 

「四ッ谷さん、まさか!!

彼には、早すぎます!!」

四ッ谷の考えを察したのか、雪菜が声を荒げとあるドアの前に両手を広げる。

 

「さっきも言ったはずだ。彼は信用できる。

それに、仲間に成ってくれるのなら、このことは秘密には出来ない」

四ッ谷の視線を受け、雪菜が唇をかみしめる。

 

「……わかりました」

渋々と言った様子で、雪菜がその場を退いた。

 

「これから見せるのは、私達の『戦果』だ」

四ッ谷がシャツに手を入れ、首から下げていたと思われる鍵を取り出した。

そして、雪菜の後ろに在ったドアノブに鍵を差し込んで回す。

 

「魂を持ったカードの起源は私達にもよく分かっていない」

地下の部屋の中の、更に5つある部屋の内真ん中のドアに手をかける。

 

「忠告はしましたからね?」

 

「構わない。一番最初に彼には知ってもらうべきなのだ」

諫めるような雪菜の言葉を、受け流しながら四ッ谷がその部屋のドアを開ける。

 

『あん?ナニコレ?』

そこは部屋ですらなかった。

3メートルにも満たない短い廊下の先、鉄製のドアが鎮座していた。

 

「ここは、保管庫だ」

四ッ谷がカードキーを取り出し、更にドアに備え付けられた電卓のような機械をプッシュする。

四ッ谷の持つ鍵、そしてカードキー、パスワードによる3重の、いや、この地下へ入る為の隠し扉を含めるのなら4重のロックだ。

 

「まるで、映画みたいだ……」

現実離れしたセキュリティをみて、想護が声を漏らす。

 

「……カードと共存している君だから敢えて言おう。

これから会うやつに、決して心を許すな」

 

「会う、()()?」

まるで人物に会うかのようなセリフに、想護は四ッ谷のいう『戦果』が何なのか、予測出来た。

 

パチッ!

 

四ッ谷が部屋の電気をつける。

そこはまるでカードショップだった。

壁にショーケースが並べられ、ガラスにカードがディスプレイされている。

 

『くっくっくっく……なんだ、また来たのか小僧?』

 

「ぞわり」或いは「ぞくり」。

 

マンガやアニメでよく見る表現を今、想護は自身の体を以てして理解した。

この世には聞くだけで、危険と分かる声がある。

この世には聞いただけで、二度と近寄りたくないと思える声がある。

そして、その声は酷く矛盾を孕んだ表現だが、その声は同時に聞く者に安心感を与える声だった。

 

『ここから私を出してくれる気に成った……という訳ではないな?

なるほど、その子供が新しい仲間か』

部屋の中央に、個別のケースでディスプレイされたカードはディアボロス。

想護は不思議とそのディアボロスから目を離せなくなってしまった。

 

「黙れ。ディアボロス。黒札 想護、自分を強く持て!」

 

「はっ!?」

四ッ谷の声に、想護は一瞬自身に相手に魅入られていた事に気が付く。

 

「これは……」

魂を持ったカードだと一瞬で分かった。

圧倒的な存在感を持ち、暴力的なまでの優しい声色で、そのガラスケースに封印されているカードはそこに在った。

 

「ディアボロスZ(ゼータ)……?」

そのカードは『時空の支配者ディアボロスZ(ゼータ)』だった。

超次元クリーチャーにして唯一たった一枚で5つの文明を持つサイキッククリーチャーだ。

強力なカードとして、尚もドロマー超次元では切札として見かけるカードである。

 

「ここに在るのは、すべてが魂を持ったカードたちだ。

我々がここに封印している」

 

「コレ、全部がか!?」

想護が声を上げる。

ここに在るカードは全部で100は下らない。

それらすべてが、コートニーたちの様な意思を持つカードだとは、にわかには信じがたい。

 

「無論意思を持つと言っても、その差は様々だ。

唸り声をあげるだけの物がほとんどで、理性的なモノを感じさせるのは一割にも満たない。

自我がまだ未形成なのだろう。

だが、問題はその一割にも満たない存在達だ。

奴らは、自らの波長の合う人間に使用されることで、力を解放する」

 

『くっくっく……その通り。人間など我々クリーチャーの力を行使する為の道具でしかないよ』

ディアボロスが楽しくてたまらないと言った声を上げる。

 

「な、なら、前に中埜を襲ったのも……!!」

想護の中に、以前見た男の姿がフラッシュバックする。

始めての命を懸けたデュエル。

そのひり付く様な感覚は、未だに消えない。

 

「落ち着け。黒札 想護。

ディアボロスと奴は別の一派だ」

 

「別……?

あんなのが、まだ他に居るんですか!?」

恐怖のフラッシュバックのせいか、だんだんと想護の口調が荒くなっていく。

事実、想護の心臓が早鐘の様になり響いている。

 

「だから、落ち着けと――」

 

『うっさいのよ!バカ想護!!

ガタガタ、迷子のガキみたいに喚くんじゃないわよ!!』

四ッ谷の声に被せる様に、コートニーが口を開いた。

 

「……あ、コートニー……」

 

『ほい、アンタも話続けて』

落ち着いた想護を見て、コートニーが四ッ谷に話しを促す。

 

「あ、ああ……」

若干の困惑を見せながらも、四ッ谷が再度説明を始める。

 

「魂を持つカードが何処から来たかは、私達にも分かっていない。

だが、ただのカードと違い意思を持って、所有した人間に影響を与えるのが分かっている。

主な例は、心の中の具現化だ。

これは、魂を持つカード同士の戦いにおいて『デュエルフィールド』という形で現れる。

君の場合は、遺跡を内包したジャングルだったかな?」

 

「デュエルフィールドに、そんな意味が有ったのか……」

新な、事実に想護が驚きの声を上げる。

 

「そして、魂を持つカードはその『心の世界(デュエルフィールド)』にて具現化する。

そして、デュエルという形をとり――」

 

『相手の心を攻撃するって仕組みね?

心を守る盾を全部わって、相手の心の中へ飛び込んでトドメ――

へぇ、ずいぶん理にかなった戦い方ね』

コートニーが言葉を継ぐ。

やはり、彼女もうっすらと気が付いていたのかもしれない。

 

「な、なぁ、ならさ。肝心の味方してくれるクリーチャーが自分を襲ったら……」

 

「雪菜がその例だな」

 

「!?」

ボルメテウス・ブラック、ボルメテウス・蒼炎を使用していた雪菜は確かに苦しんでいた。

デュエルフィールドに現れた、ボルメテウスは雪菜の心の世界を容赦なく攻撃していた。

 

「あのまま行くと、雪菜はボルメテウス達によって廃人にされていただろう」

 

「廃人……そんなバケモノが、一体どこから……」

タダのカードではない。文字通り魂=命を懸けた戦いであると、想護は理解した。

 

 

 

「端的に言う。憶測も入ってる部分は多々あるが、この世界とクリーチャーたちの世界を行き来している奴がいる」

 

「行き来!?」

四ッ谷の言葉に、想護が驚きを見せる。

 

「私たちは、君が来る以前から、こういったカードを極秘に収集してきている。

そして一部の者たちから「とある情報」を掴んでいる」

四ッ谷が部屋の引き出しから一枚の似顔絵を持ってくる。

そこには、穏やかな笑みを浮かべた老人が描かれていた。

 

「複数の証言から作られたモンタージュ写真だ。

突然現れ、何を以て区別しているのかは知らないが、魂をもったカードを配っている。

雪菜のボルメテウス、私のミラダンテ、そしておそらく君のコートニーも彼がこの世界に持ち込んだものだろう。

我々は、この男を都市伝説になぞらえ『サンジェルマン』と呼称している」

 

「サンジェルマン……」

様々な歴史、場所に現れたというとある人物から名をとった男。

それは、想護の記憶の奥に居たコートニーをくれた人間と同じに見えた。

 

『くっくっく……はっはっは……

懐かしい顔だ。我らは始まりの男と呼んでいる』

 

「勝手に話すな!!」

四ッ谷が横やりを入れたディアボロスに、怒気を飛ばす。

 

『そうか?だが、やめてはやらぬさ。

丁度良い、遂に人間にくみするクリーチャーまで出てきたのだ。

そして、今度は懐かしい顔まで見れた、いや、懐かしい男の話だな。

失敬失敬、間違えてしまったよ』

 

「ディアボロス……!」

四ッ谷がディアボロスをにらみつける。

先ほどから、四ッ谷のディアボロスに対する憎悪は異常だった。

 

『先ほど、小僧が言ったように確かに我らをばらまいている男は存在する。

だが、すべてのカードがそうではない』

 

「違う場合があるのか?」

想護が無意識にディアボロスの言葉に応えていた。

 

『そうだ。この世界にクリーチャーが呼びこまれれば当然だが、そのクリーチャーの痕跡が残る。

いや、痕跡と言うのは違うか?まぁいい。今回は分かりやすさを優先するとしよう。

この場所にクリーチャーが増えれば、そのクリーチャーの気配を感じ、この世界へ向かう者たちがあふれてくるのだよ。

迷い込んだのが、彼らの殆どだが……

()()()()人間を利用する事を思いつく者もいるのさ』

 

「ッ!?」

予測していなかった訳ではないが、想護が息を飲む。

 

『楽しかったぞ?我が語りかけ、我を所有した人間が我の持つ力におぼれて少しづつ、少しづつ……

我らはこの世界では、ただのカードだが人間という乗り物を見つければ別なのよ。

思い出すな……くっくっく、くっはっはっは!!

つくづく、人間はおろかな――――』

 

「黙れ!!黙れ、黙れ、黙れ!!」

四ッ谷がディアボロスのゲージを叩く。

その攻撃は、四ッ谷の拳が傷つき血を流しても終わらなかった。

 

『はぁっはっはっは!!!もう止まらない。もうすでに動き出している。

この男は灯台なのだ。

暗闇を進む船を導く、灯かりだ。

私を含め、様々なクリーチャーたちがこの世界へ向かっている。

始まっているのだよ。多くのクリーチャーがこの世界で息をひそめている!!

自身の力を引き出せる人間を探し、自らの力を行使しようとする時を刻一刻とな!!

止められるか?脆弱な人間達よ、それに組みする家畜となったクリーチャーよ!!』

 

「おぉおおおお!!」

四ッ谷の拳が、ディアボロスを封印しているゲージを殴りつける!!

 

ピィシッ!

 

ゲージにヒビが入り、そのヒビにより、ディアボロスが笑みを浮かべたように見えた。

 

「貴様らクリーチャーの勝手にはさせん!!

我ら『Dシーカー』が全てのクリーチャーを此処に集める!!

そうすれば、貴様らは暴れる事は出来ない!

そして、サンジェルマンさえ倒せば新しいクリーチャーがやってくることもない!!」

 

『くっはっはっは!!そうだ、その通りだ。

小僧、貴様の言うその「サンジェルマン」という奴を倒せば、我らがこの世界にたどり着く事は激減するだろう。

だが、貴様らに出来るのか?

くっくっく、見ていてやるぞ?貴様らが、苦しみ足掻く姿をな!!

はっはっはっは、はぁっはっはっは!!!はぁっはっはっは!!!!!』

 

「黙れ、黙れ、黙れぇ!!」

四ッ谷が何度も、何度もディアボロスのディスプレイを殴り続けた。

 

 

 

 

 

「はぁー、はぁー、はぁー……私としたことが、ムキに成りすぎた……

封印用ディスプレイも新調しなくては……」

血の滴る拳をポケットに隠し、四ッ谷が何時もの冷静な口調に戻る。

 

『ふっふっふっふっふ……』

ディアボロスは封印されながらも、心を乱す四ッ谷の姿を見て楽しそうに笑っていた。

 

(なるほど、文字通りこいつは「悪魔」って事か)

想護が尚もぞっとする魅力を放つディアボロスを見ながら思った。

 

 

 

 

 

一人の少年が、手にしたカードを見て笑みを浮かべる。

「わぁ!本当に貰って良いの!?」

 

「勿論だよ。このカードが君の所へ行きたがっている。

大切に使ってあげてくれたまえよ?」

目の前には柔和な優しい笑みを浮かべた老人。

彼は四ッ谷に『サンジェルマン』と呼ばれた老人だった。

 

「うん!大切に使うね!ありがと、おじいさん!!」

カードを受けとった少年は、大切そうにデッキケースにカードを入れて走っていく。

これからあの少年はあのカードを使って新しいデッキを作るのだろう。

 

「ああ、さらばだ少年」

サンジェルマンは手を振って、姿が霧散して消えた。

そして、この世にまた一つ、魂を持ったカードが解き放たれた。




本編余談。

完璧っぽく見える四ッ谷は実は、結構弱点が多い。
コーヒーは甘くしなくちゃ飲めないし、鍵もしょっちゅう無くすので、雪菜に首から掛けるように言われている。
このグループを影で支えているのは、しっかり者の小学生の雪菜なのかもしれない。


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オールorナッシング

新デッキ発売しましたね。
キャップとゼーロのデッキ。

……ゼーロのデッキ見た時、素で「お前誰や!?」と突っ込んだのは私だけではないハズ。


「は?賭けデュエル?」

学校の部室の中、想護が声に露骨な不快感を含ませる。

楽しいゲームの話でも『賭け』が付くと一気に不穏な空気に成ってしまうから不思議だ。

 

「なにそれー?お菓子でも賭けてるの~?」

部室の部屋の隅、上靴どころか靴下まで脱いで裸足に成った実紅が2リットルサイズのアイスクリームの箱を抱いて、もっちゃもっちゃと咀嚼している。

少し暑さを感じる様になってきたが、それでも業務用アイスを丸ごと食べるまではいかないだろう。

いや、その前に常人ならば胸やけを起こすのが先だろうか?

 

「その通り……なら、良かったのでありますが……

最近、子供たちの間でカードを賭けたデュエルが流行っている様なのでおりましてな」

痩せすぎの男、藤御門が扇子で口元を隠しながらデュエルをする。

藤御門と想護のデュエル。

何時もの様に、活動と称しての手合わせだ。

 

「ん、ようように来たようですな。

呪文、緊急再誕でセブ・コアクアンを破壊。

能力で手札から究極神アクをバトルゾーンへ。

更に呪文、大地と永遠の神門でマナゾーンから超絶神ゼンをバトルゾーンに。

ゴッドリンク!究極超絶神ゼンアクをバトルゾーンへ!!」

会話も早々に、藤御門はお得意のコンボを仕掛けてバトルゾーンにゼンアクを並べる。

リンクしたゼンアクが想護のブロッカーを破壊し、タップ状態のクリーチャーを攻撃した。

 

「ターン終了時にアンタップしまして、終了となりますな」

 

「俺のターン……逆転王女プリンでゼンアクをタップ、コートニーでトドメです」

藤御門のバトルゾーン。

絶対の防御力を持ったゼンアクだったが、あっさりとタップされてトドメを受けてしまった。

 

「あー!まぁた負けてしまいましたな……

想護クンはホンマにお強いでありまするな。

部長サン!お次はどういたしまする?」

実紅に声を掛けると、実紅の頭のてっぺんのアホ毛がピンと立った。

 

 

「私もやるー!!」

乱雑に置かれたデッキを取ると、そのままトタトタと走って来た。

顔中アイスまみれの姿は、彼女の低身長や子供っぽい言動と合わせて、なんというか、非常に子供っぽい印象を与える。

これでも彼女はこの部活の最年長なのだが……

 

「っふっふっふ。昨日改造したボルコンを見せてやるんだから!

超次元無し!GR無し!禁断無し!同名カード無し!自然文明無し!ボルメテウスよりも強いカードも無し!!

古き良き、ボルメテウスの力見せてあげるんだから!!」

スカートの中にある、デッキケースから実紅が自慢気にデッキを取り出す。

正直な話、その構築では今の時代かなりつらい物が有るのだが……

 

「あの……いや、部長本人がイイって言うなら……」

 

『この女。想護以上にバカなのよね』

明らかに性能が低いであろうデッキを掲げる実紅を見て、想護はため息をついた。

 

 

 

 

 

「あー、部長、そろそろ変わりません?」

想護が藤御門との交代を勧める。

しかし、実紅は答えない。

 

「うぐぅ……うぐぐ……」

あれから1時間程度、想護に10連敗を喫した実紅が唇を固く結ぶ。

 

「うぐぅー!うぐぐぐ!!!」

最早日本語すら忘れたその様子に、ため息すら出てこない。

ふくれっ面をして、プルプルと小さく震えている。

なんというか、弱い者いじめをしている気がすさまじくする。

 

「えっと、コートニーでトドメです」

 

「あぁあああああああ!!!」

コートニーがタップされ、実紅の敗北が決定される。

その瞬間、実紅がぐったりと倒れる。

 

「おや、11敗目でありまするな」

 

「あー!!負けた、負けたぁ!!

解散!カイサン!!かいさん!!部長権限により今日の部活終了です!!」

飛び起きた実紅は手を叩いて、その場を閉めてしまった。

まぁ、流石に11連敗は応えたのだろう。

 

「部長サン――そう短気をおこさないでくださりませ」

どうどうと、動物をなだめる様に藤御門が実紅をなだめる。

 

「誰も私の気持ちなんてわかんないよ!!

私は一人孤独なロンリーボーイだよ!!」

 

「あ、えっと、先輩すいません。

今度は手加減します。

あと、先輩はボーイじゃなくて、ガール……」

 

「手加減したら想護君部活クビ!!部長権限でクビなんだから!!」

 

『当たり前よね?』

想護の言葉をかき消し、実紅が言い放つ。

コートニーはそれを横で聞いている。

 

「ああ、これはもうどうしようもありませんな。

(わっぱ)の癇癪と考えて、飲み込むしかありますりませんな」

藤御門が扇子で顔半分を隠す。

 

(藤先輩、絶対あの扇子の下で笑ってる)

想護がそんな事を考える。

 

「むーぅ!!想護君なんて、けちょんけちょんにしてやるんだから!!」

椅子からゼンマイ仕掛けの玩具の様に飛び上がった実紅は、ソファに置いておいた2リットルアイスに食らいつく。

凄まじい勢いでバクバクと食べて、最後に残った分を容器を傾け飲み干すと、口についたアイスを服の袖で拭った。

 

「ぷはぁ……幸せ……

とりあえず、今日は帰るよ~

明日こそリベンジなんだからね!」

実紅が想護を指さし、上機嫌で帰っていく。

 

「ぜ~ったい、負かしてやるんだからね!」

最期、扉を開けて上半身を乗り出した実紅は捨て台詞を吐いて帰っていった。

因みに、脱いだ靴下を忘れ素足にローファーを履いて帰っていった。

 

「部長サンほど、前向きなら人生楽しいでしょうな……」

くくくと笑いながら、藤御門が話す。

 

「まぁ、先輩は元気なのと、気分の転換が早いのが魅力ですから……」

苦笑いを浮かべた想護が同意した。

結局、賭けデュエマについての情報を聞き忘れていた事を、想護が思い出すのは家に帰ったからだった。

 

 

 

 

 

翌日

「こんにち――うわっ!?」

 

『ナニコレ!?』

想護、コートニー両名が部室に入ると同時に放たれる圧倒的な負のオーラに気おされる。

なんというか、部屋の空気が重い!!

カーテンと窓も締め切ったのか、蒸し暑く日差しが無く、暗い!!

 

『うっわ、何?何が起きたの?』

コートニーがドン引きしながら、想護の気持ちを代弁する。

 

「想護君……昨日の話、本当だったんだね……」

その発生源は、ソファーの上に居た。

 

「ぶ、部長!?」

そこに居たのは、部活の部長である実紅本人。

だが、本人だとは思えないほど(やつ)れている様に見えた。

テンションが低いし、全体的にダウナーだし、眼に至っては死んでいる。

 

「ああ、部長サン……!

お気を確かに、ケガの功名という言葉もありますりますよ?」

そしてたった今気が付いた、そばに寄りそう藤御門。

かいがいしく、ジュースなどを実紅に差し出してる。

 

「藤先輩、一体なにが有ったんですか?」

 

「実は部長サン、昨日話した件のの賭けデュエマに勝負を挑まれましてな?」

藤御門の言葉に想護は嫌な予感を受ける。

 

「まさか、賭けデュエルに負けて、デッキを……!?」

この落ち込みよう、想護には分かった。

おそらく、昨日帰る途中で寄ったカードショップで、賭けデュエルを挑まれ実紅は敗北してしまったのだろう。

そして、その賭けのルール通り大切なカードを……

 

「要らないって言われたぁあああ!!

あぁあああ!!あぁああああん!!」

バタバタと寝ころんだまま、実紅が暴れる。

 

「は?一体、どういう事ですか?」

 

「部長サンの話をまとめるに……

昨日、部長サンは帰りがけの店で、賭けデュエマを挑まれたんですわ。

部長サン、あんまり強くないくせに、戦闘意欲だけは無駄にありますりまするでしょ?

だから、意気揚々と戦いに乗ったらしいんですわ。

けど――」

 

「負けて、カードを?」

実紅の態度から、およその結果は読み取れる。

彼女は自分が手塩にかけて、作った出来からカードを奪われたのだ。

こうなるのも、仕方が――

 

「半分正解でありまする」

 

「半分?」

予想外の言葉に、想護君が頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

それは、藤御門に見えないコートニーも同じだ。

 

「私のカードは弱いから要らないっていわれたのー!!

うわぁあああん!!うわぁあああ!!

強いのにー、上手く回れば、すんごく強いのに!!」

ダンダンと机を実紅が叩く。

 

「あ、ああ……なるほど……」

正直な話、実紅のデッキはその名の通りボルメテウスが主体のデッキ。

切札も当然ボルメテウスだし、その他のカードも当然そのボルメテウスをサポートするカードだ。

挙句の果てに昨日、実紅本人が『ボルメテウスより強いカードは使わない』と公言している。

そのデッキ内容は到底、賭けデュエマプレイヤーの望むモノでは無かったのだろう。

 

「けど、カードが奪われなかったのは、良かったじゃないですか?ね?」

 

「その通りでありまする。カードが無事で良かったでありますりましょう?」

二人が慰めるも、結局実紅本人は納得できない様だった。

 

「想護君、藤君……」

 

「はい、先輩?」

書き消えんばかりの声を、実紅が出す。

 

「二人で、倒してきて。

その、賭けデュエリスト……」

 

「え、いや、やめさせる気では居るんだですけ――ど!?」

突如想護の腕が強く引っ張られる。

 

「想護クン、これは部長命令でありますります!

ならば、一介の部員でしかない我らは従う以外に道など、無いのでありまするよ?

さぁ!いざ尋常に勝負でありまする!!」

藤御門は息まいて先に行ってしまった。

 

「あ、藤御門先輩!?まだ、場所も聞いてないのに!!」

 

『……なーんで、みんなして話を聞かない連中ばっかりなのかしら?』

コートニーがため息をついた。

 

 

 

 

 

『はぁー、なんでこんな案件受けたのよ?

めんどくさいったら、ありゃしない!』

想護の自転車についていきながらコートニーが愚痴をこぼす。

実紅に教えられた場所まで、もう少しかかる。

 

「けどさ、一応見ておくだけでもいいんじゃない?

ひょっとしたら、()()()の可能性もあるし……」

想護が自転車をこぎながらコートニーに話す。

 

『アンタね、まさか例の賭けデュエマプレイヤーが魂を持つカードの所有者だって言うの?』

 

「可能性はあるだろ?

第一、急に賭けだなんて……

カードに憑りつかれた可能性は十分ある!

それにデュエルってのはみんなでワイワイ楽しんでやるモンだ!」

想護がコートニーに言い放った。

 

『何それ、結局カードのせいにしたいだけじゃない!

この世にはどうしようもないクズだっているんだから!!

もうちょっと現実見なさいよね』

あきれたようにコートニーがため息をつく。

 

「ん……んん……」

そこまで言って、想護は反論したくなったが目の前に他の歩きの人間とすれ違ったため、口をつぐんだ。

一人で言い争いなどしていては、危険な人物認定されてしまう。

 

『ついたみたいね』

 

「あ、ああ……確かにここ、だな」

言い返そうとした時、丁度実紅が昨日被害に遭った店に到着した。

そして想護が扉を開けて、店の奥。デュエルスペースへ足を踏み入れる。

10人から16人程度が入るやや小さめのデュエルスペース。

学校帰りか、家に戻ってから来たのか、ちらほらと人が居る。

 

「コートニー、どうだ?何か、感じるか?」

想護が小さく耳打ちした。

魂を持つカードであるコートニーは凡そだが、他の魂を感じ取れる。

 

()()わね。ソイツが犯人かどうかは別として……』

 

「そうか……」

想護が息を飲んだ。

居る。この中に、魂を持つカードに憑りつかれた人間が居る。

その真実に、想護が思わず唾を飲み込んだ。

 

「えっと……」

ちらりと想護がプレイヤーたちの手に持っているモノを見ていく。

皆、一様にデュエマのカードだ。

奥に座る大学生らしき男が2人、壁際でショーケースのカードを見る大人が一人、手前のテーブルで小学生くらいの男子生徒二人がワイワイとカードを広げて、デッキの相談をしている。

そして、デュエルスペースの一番奥に大柄な男がこちらに背中を向けて、何か作業をしている。

 

「7にんか……」

 

『バカ想護、違うわ良く見なさいよ。

一番奥の席よ』

 

「え?」

コートニーの言葉に、想護が小さく声を上げた。

その瞬間、一番奥の大柄な男がゆっくりと立ち上がり、こっちを見た。

 

「ありえない……そんな、俺の、俺のデッキが!!

は、反則だ!!!!あんなの反則だ!!殿堂のカードがそんな都合よく来るわけがない!!この勝負は無効だ!!」

男が傍らに在ったカバンを手にして去ろうとする時。

 

「おい、勝負に負けたんだろ?」

 

「払う物は、払ってもらうぞ?」

大学生2人組が男を捕まえる。

 

「はっ、離せ!!お前には関係ないだろ!?」

暴れる大学生に気が付いたのか、ショーケースを見ていた大人がそこへ近づいてくる。

 

「いいや、ルールはルールだ。

負債はきっちり払ってもらうからな」

ショーケースを見ていた大人まで、その大学生を押さえつけ始めた。

その時、男の持っていたデッキが手からこぼれカードが地面に散らばる。

 

「えーと、あ!龍仙ロマネスクとリュウセイ・ジ・アースだ!!」

 

「なんだよ~、ヴィルとか二コボとかあると思ったのに、コイツも外れかよ~」

小学生二人ばらけたデッキを見ながら、めぼしいカードを奪っていく。

 

「か、かえせ俺の、だぞ……!」

尚も押さえつけられながら、カードに手を伸ばす。

そして、小学生二人が奪ったカードを持っていくのは、今押さえつけられている男の居た席。

その席の向う、想護は大柄な男の影に隠れてもう一人の客、8人目のデュエリストがいた事に気が付いた。

 

「よしよし、これでまた俺のデッキが強化できるぞ」

小学生からカードを受け取ったのは中学生の少年だった。

そして、手にした戦利品を嬉しそうに眺める。

 

「な、あんな、子供が?!」

賭けデュエマプレイヤーと聞いて、想護は大学生や社会人を想像していた。

だが、今しがたカードを奪ったのは制服を着た中学生だった。

 

「やぁ、いらっしゃい。僕がこの店のボスだよ」

中学生の少年は想護を見据えて話し出した。

 

「ボスって……」

 

「そのままの意味さ。この店は僕の縄張り(テリトリー)だ」

少年の声を聴いて、想護はちらりと店員の方を向く。

店員と目が合ったが、肝心の店員は見て見ぬふりだ。

いや、この少年の言葉通り、ここが彼の縄張りならば……

 

『ここの店にいる奴ら、店員含む全員があのガキの手下って事ね……』

コートニーの言葉に想護はぞっとした。

ここは、すでに少年の仕掛けた罠。

賭けデュエマプレイヤーの噂自体、この少年が犠牲者をおびき寄せる為の手段だったのだろう。

想護はその罠に、見事にはまってしまったのだった。

 

 

 

「さぁ、オニイチャン。僕とデュエマしようよ?

お互いのデッキの大切なカードを賭けてさ……」

うすら寒い笑みを浮かべ少年が歩いてくる。

 

「くそっ!だけど、勝てば良いだけ――」

 

「貴方は本当に計画性が無いんですね?」

想護の言葉を、後ろから来た声が遮った。

この声は聴いたことが有る。

 

「ここは貴方の縄張りじゃありません。

私の領域です」

そう言って、想護のDシーカーとしての先輩である、倉科 雪菜が姿を見せた。

 

「倉科さん!?」

 

『生意気なメスガキ!!』

 

「貴方のクリーチャーはほんっとうに口が悪いですね。

躾けをしっかりしておいてください」

不快そうに雪菜が舌打ちをした。

 

「なんだよ?今日は獲物が二人か?

良いぜ、二人とも俺のデッキの強化パーツにしてやる!」

少年が改造が終わったと思われるデッキを構えた。

 

「チッ、もう勝った気ですか………………ここは私がやります」

少年の態度を見て、再度舌打ち。

 

「あ、えっと……雪菜さん?」

雪菜のあまりの、気迫に想護が狼狽える。

 

「どいつもこいつも頼りない人ばかりですからね!

だから、コイツは私が()()()()()

大丈夫です、偶然手にしたカードでイキってる奴に負けるハズはありませんから」

 

「へぇ?俺と俺の団長の力、見てまだそんな事言えるかな?」

二人が同時にデッキを取り出す。

そして――

 

「「決闘(デュエル)スタート!!」」

戦いの幕が切って落とされた。

 




最後のセリフで、少年の使うデッキがほぼ分かりますね。
まぁ、ありとあらゆるものを取り込む我儘な暴君と言えば、アレですからね。


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戦場を駆ける者①

さて、今回から雪菜ちゃんの本格デュエルです。
そして、相手はあのクリーチャー。
さてさて、どうなるのか……


『下僕よ!我が下僕よ!!』

赤黒い宇宙の中心で巨大な星が怒りに身を震わせる。

十字に見える石の様な物が刺さった巨大な惑星。

そしてその中心には、二つの目と巨大な口。

その怪物は、明確に意思を持ち怒りを見せていた。

 

「お呼びでしょうか、我が王よ」

赤いジャケットの男が膝をつき、首を垂れる。

 

『我は空腹だ!!贄を用意せよ!!我は退屈だ!!余興を用意せよ!!』

巨大な惑星が怒り、震え、そして喚き散らした。

その姿はまさに子供の癇癪。

子供の癇癪と違うのは、このクリーチャーがその癇癪で宇宙すら滅ぼしかねない力を持っている事だ。

 

「落ち着きください、我が王。

サンジェルマンのおかげで、クリーチャーは着実にこの次元へやってきています。

そして、続々と人間どもに取り入り力を蓄えています。

しばし、もうしばしご辛抱を」

男が膝を着いたまま進言する。

 

『速く!速く!!速くだ!!我に贄を!!滅びの快楽を!!』

びりびりと、その惑星が鎮座する宇宙空間が軋んだ。

そしてそのままその空間が割れた。

 

空間そのものが本当に割れた訳ではない。

これは、男がこのクリーチャーとしている交信が途絶えた合図だ。

 

「ふぅー……全く、暴れるしか能のない奴は困る。

だが、奴の力が大した物なのは本当だ……」

何処かの廃墟。

一室だけ掃除され、辛うじて人の住めるであろう部屋で男が目を開く。

この男の名はセキグチ・ホムラ。

先日中埜を意識不明にし、想護と戦った男だ。

 

「ふん!うまく利用してやるさ。

そのためには新しいデッキが必要だな、こんな雑魚じゃ数合わせにしかならない。

だが、街中じゃなかなか面白い動きをしている奴らも居る様だ。

俺のデッキに使えるかもな。

そしていつかアイツの力も俺の物にしてやる。

待ってろよ?ドルマゲドン……」

さっきまでの恭しい態度をコロッと変え、ホムラが立ち上がった。

目指すは町。

力を持った沢山のカードが今も息をひそめる戦場へ。

 

 

 

 

 

「おいおいおい、お前本当に相手出来るのかよ?

どーみても小坊じゃねーか!

碌すっぽまともなカードなんか持って無さそうだな。

相手する意味なんてあるのか?」

少年が腕を組み、好戦的な顔で雪菜を見る。

露骨なまでの雪菜をバカにしたような表情を向けてくる。

 

「確かに私はまだ小学生です。

ですが――何か問題でも?

小学生が使うと、能力の発動しなくなるカードなんて聞いた事はありませんよ?

唯一デメリットがありそうなのは『我の頂き エゴイスト』位でしょうか。

それとも怖いんでしょうか、おちびちゃん?」

 

「こいつ――!」

雪菜の煽りに、少年の顔が険しくなる。

 

「やっちまおうぜ団長!!」

 

「こいつらナメた態度取らせて良いのかよ!!」

 

「団長両方とも潰しちまえば良いんだよ!!」

 

「団長!!団長!!」

少年の怒りに応える様に、店にいる人間が皆立ち上がった。

さっきやられた少年も、大学生2人組も、ショーケースを見ていた大人も、それどころか店員までもがその少年の言葉を待っている様だった。

 

「テメェら……!

良いぜ!!ガキ!!俺たちの力でぶっ潰してやるよ!!

もしお前が負けたら、お前のデッキ全部貰う!」

椅子に上がり、机を踏みつけ少年が雪菜を指さす。

 

「デッキを賭けたデュエマ……なるほど、余すところなくクズですね。

良いですよ。けど、もし貴方が負けた場合は貴方の切り札と、貴方がいままで奪ったカードを全部返して貰います」

 

「ああ、良いぜ!俺が負ける訳無いからな!!」

 

「ならば――」

 

「「決闘開始(デュエル・スタート)!!」」

二人の持つカードが光を放った。

 

 

 

 

 

「げほっ、げっほ!!なんだ、ここ……埃っぽい……」

想護が突如襲い来る埃っぽさに咳こんだ。

喉が痛い。いや、喉だけじゃない、眼もなんだしっかり開けないし、なんだか肌にも小さくチクチクと何かが当たる感覚が有る。

 

『全く、だらしないったらありゃしないわ』

コートニーの声が聞こえ、想護が目を開く。

そこは――

 

「なんだ、ここ……?」

 

『強いて言うなら、【古戦場】かしら?』

想護とコートニーの前には、古ぼけた煉瓦作りの城塞と、大砲や剣、弓何度が乱雑に転がるいかにも戦場と言いたげな場所だった。

 

「なんだ、お前もこのフィールドにきたのか?

その背中のクリーチャー……なるほどお主も『こちら側』という事か」

気が付けば城塞の前に、先ほどの少年が立っていた。

そしてその少年の後ろには、朧気だが大きな影があった。

 

「くくっく、よもやそこまで実体化するとは、相当その人間を取り込んだと見える」

少年の背後の影が笑った気がした。

 

「クリーチャーはこちらの世界では体を持ちません。

タダのカードなんです。

だから、自身と魂の波長のある人間に取り入るんです。

そしてゆっくりと人間を取り込んで最終的には、魅入られた人間は完全に乗っ取られるんです」

古戦場の中、雪菜がゆっくりと歩いてくる。

 

「雪菜ちゃん!」

 

「馴れ馴れしいですね……

まぁ良いです。四ッ谷さんから『仲良くしろ』と指示されているので、貴方とは仲良くしてあげても構いません。

けど――その、クリーチャーとは不可能ですね」

雪菜がコートニーに視線を投げる。

 

『はぁ?このガキンチョ!』

 

「まー、まー、落ち着けって!そんな事より応援してやろうぜ?」

想護が何とかコートニーをなだめる。

 

「ハッ!いきなり仲間割れかよ?

そんなんで戦えるのか?

今からでも遅くないぞ?そっちのコートニーを連れてる方と変わってやろうか?」

少年、いや、少年の背後にいる影は提案をする。

 

「いいえ。結構です。アナタの実力は知りませんが――ショップでくすぶってる雑魚程度問題はありませんから」

雪菜が本型のデッキケースからデッキを取り出す。

その瞬間――!

 

ずずッ……ズザザザザっ!!

 

古戦場の大地を突き破り、本を積み重ねたタワーが幾重にも重なる。

そして空が闇に染まり、巨大な月と星々が優しく塔を照らす。

本で作られた摩天楼。

それこそが、雪菜のバトルフィールドだ。

 

「へぇ、言ってくれるじゃねーか……

お前はみっともなく負けさせることにするよ」

少年が好戦的な目をして、足元の学生カバンを開き逆さまにした。

 

ドさッ、ドさサッ!

 

カードケースがそこから何個も落ちてくる。

おそらくあのうちの幾つかは、賭けデュエルで奪った物だろう。

 

「あ、おい……」

 

『チッ』

 

「ッ……」

余に雑な扱いに想護を始め3人の表情が曇る。

少年はそれに気が付き、いや、あえてそうした可能性もあるがデッキを一つ蹴飛ばす。

 

「なんだよ。なんか文句あるのか?

コイツは俺の所有物なんだぞ?

俺の物をどうしようが俺の勝手だ。

さて、今日はどれを使うかな?」

しばらく少年は足元のデッキを眺めた後、挑発するように、足元の別のデッキケースを蹴り上げ、跳ねたソレを手に掴んだ。

 

「コイツにけってーい」

そう言ってデッキケースを開き、今度は胸ポケットにしまってあったカードを大切そうにデッキに入れた。

どうやらこれで初めて40枚のデッキになる様だった。

 

「なるほど」

雪菜がその様子を見て、小さくつぶやいた。

 

『想護アレ』

 

「ああ、多分切札だ。

そして、たった一枚しかデッキに切札を入れない可能性は――」

 

『何か特別な理由がある。又は――』

 

()()()()()()()()()()()()()カード」

二人の考えがシンクロする。

 

 

 

「さぁ、始めるぞ!」

 

「ええ、構いませんよ」

少年と雪菜、二人が同時にシールドを展開して、デッキからカードを五枚引く。

 

「先攻は俺が貰う!

俺はマナゾーンにリュウセイ・ジ・アースを置く。

これでターンを終了だ」

 

少年 盾5手札4マナ1

 

「リュウセイ・ジ・アース……」

マナにたった今置かれたカードはコスト6のドラゴン。バトルゾーンに出た時、自身の山札の一枚目を見て手札或いはマナゾーンにおける能力を持っている。

それだけ聞けばそこまで派手な能力に思えないかもしれない。

実際、マナを足すのもカードを引くのも、3コスト程度のクリーチャーでも出来る。

だがリュウセイ・ジ・アースは『見て』から決める事が可能だ。

それは必要なカードのマナ落ちを防いだり、逆に不要なカードを埋める事が出来る。

さらに、おまけの様にスピードアタッカーまで持っており、後続に続ける能力が高いドラゴンなのだ。

 

「私のターン、ドロー!

私はマナゾーンにバルガドライバーを埋めて終了です」

雪菜がマナゾーンに置いたのはバルガドライバー。

自身のアタック時に山札をめくり、それがドラゴンならバトルゾーンに出すことが可能であり、もし違ってもマナゾーンに埋める事が可能なカードだ。

だが、10という膨大なコストにより使われる事は稀である。

 

雪菜 盾5手札5マナ1

 

お互いが静かに始まった最初のターン。

それは、どちらも動くことのない物だった。

現時点で唯一の公開情報である、マナゾーンを見るだけなら互いに火と自然のドラゴンを使用したビートデッキの様に見える。

 

だが、まだ戦いは始まったばかり、予測できることは少なすぎる。

 

「俺のターン、ドローッ!

ふっ、幸先いいじゃねーか。

マナに超次元リバイブホールをマナチャージ!

これで俺のマナは2!そして、たった今貯めた二つのマナをタップ!

自然を含めた2コストで呪文を使用!

発動!!『次元の霊峰』!」

次元の霊峰。それは多色クリーチャー専門のサーチカード。

その初出は古く、もう15年ほど前だ。

雪菜より長生きなカードが突如注目を浴びたのは、数年前。

とあるカードが出現してからだ。

 

「来ましたか」

雪菜が小さく、舌打ちをする。

少年の発動した呪文がデッキを一瞬でバラバラのカードの束に変える。

そして、そのカードの群れが少年の周囲をまるで自身の中身を見せつける様にゆっくり旋回する。

そして――

 

「おー、いたいた。良かったぜ。てっきり盾に落ちてる可能性も考えて内心びくびくなんだよなぁ」

そのうちの一枚のカードを手にする。

 

「俺はデッキから『蒼き団長ドギラゴン(バスター)を手札にくわえる」

 

「やっぱり、あのデッキ――」

 

『ドギバスね』

想護コートニーの両名が、顔を見合わせる。

ドギラゴン(バスター)。通称『ドギバス』や『バスター』とも呼ばれるそのデッキは多くのデュエリストの記憶に愛憎渦巻く思い出を残している。

革命チェンジと言う、特定のクリーチャーが攻撃したとき。

手札のクリーチャーと入れ替われるモノだ。

その中でもドギラゴン剣、プチョヘンザ、ミラダンテⅫはその中で有名な3体だ。

以前四ッ谷とのデュエマで想護がミラダンテのロック能力を食らったのは記憶に新しい。

そして、ドギラゴン剣にもミラダンテⅫと同じ様にすさまじい能力が備わっている。

それは、手札又はマナゾーンからコスト6以下のクリーチャーを無料で呼び出せる能力。

そして、自身を含めた多色クリーチャーすべてにスピードアタッカーを付与する点だ。

その二つが異様なシナジーを形成し、たった今呼び出したクリーチャーおも攻撃に参加させることが出来るのだ。

ドギラゴン剣→超次元ゾーンにアクセス可能な多色クリーチャー→多色サイキッククリーチャーの連鎖により、5枚全てのシールドを破壊し尽くし更にはトドメまで手軽に行けるコンボが脚光を浴びた。

だが――

 

「そのカードのおかげで、大量の罪のないカードが……」

雪菜が忌々しそうに話す。

そう、ドギラゴン剣は()()()()

公式はなんとか、ドギラゴン剣を弱体化させようと様々なカードを殿堂入り、所謂一枚しかデッキに入れれない扱いにしたが、結局ドギラゴン剣は他のカードを取り込み、尚も自身の力としていった。

『次元の霊峰』『プラチナ・ワルスラS』『勝利のアパッチ・ウララー』『絶叫の悪魔龍 イーヴィル・ヒート』『超次元ガロウズ・ホール』『S級侵略 サンマッド』『単騎連射(ショート・ショット)マグナム』『音精 ラフルル』『裏切りの魔狼月下城』……

無論ドギラゴン剣だけが原因とは言い切れないカードも多数ある。

だが、それでもこれだけのカードを殿堂させてもなお、ドギラゴン剣は止まることは無かった。

最後の最後に、多数のカードを巻き込んでドギラゴン剣自体は殿堂となった。

 

「そうだ、俺の力は封印された!!

だが!!俺はまだ止まる気はねェ!!

どれだけ、力を削がれようと新しいカードを取り込んで何度でも戻ってくる!!

俺を止められるもんなら、止めて見ろよ!!」

少年はドギラゴン剣を手に、タンカを切って見せた。

 

少年 盾5手札4マナ2

 

「私のターンドロー……マナをチャージ。

呪文メンデルスゾーン」

雪菜が呪文を使う。

デッキの上から2枚を確認して、ドラゴンをマナゾーンにおいた。

一気にこのターンだけで3枚の加速。

速い、十分早い動きだ。だが、ドギラゴン剣は()()()()()

 

雪菜 盾5手札4マナ4

 

「俺のターン!ドロー!

マナをセット、そしてB(バッド)A(アクション)D(ダイナマイト)発動!」

BADそれは手札のクリーチャーのコストを軽減する能力。

軽減する代わりにそのターンの終わりに自壊が約束される。

次の事など考えない、ただただ攻め続ける。非常に火文明らしい戦略である。

だが、この能力にもドギラゴン剣と異様にシナジーをするカードがある。

それは――

 

「俺は2コスト軽減で3コスト召喚!!『“龍装(ドルガン)”チュリス』!!」

バトルゾーンに現れたのは、龍の骨を加工したアーマーを身に纏ったネズミ。

辛うじてドラゴンと呼べるそれはスピードアタッカーを持っている。

 

「コイツのコストは元は5。

そして団長の革命チェンジ条件はコスト5以上の火か自然のドラゴンが攻撃したとき!

行くぜ!!『“龍装(ドルガン)”チュリス』でプレイヤーを攻撃!

す る と き に――

来いよ団長!!蒼き団長ドギラゴン剣に革命チェンジだ!!」

 

ウィィン!ウウィィィン!

 

起動音を立てて、城塞の正面の扉がゆっくりと開く。

そこから姿を見せたのは、蒼い鎧をまとったドラゴン。

口に剣を咥え、真紅のマントをたなびかせ、城塞から飛び出した!!

 

『ちゅ、ちゅー!!』

それを見上げるのはチュリス。

ドギラゴン剣に向かいジャンプし、団長とチュリスがすれ違う瞬間拳を突き合わせる。

 

「革命チェンジ、成功だ!発動!ファイナル革命!!!」

少年のバトルゾーンに呼び出されるドギラゴン剣。

 

『うぅうううおおおおおおおぁあああああああああ!!!!』

大地を割らんばかりのドギラゴン剣の咆哮。

ファイナル革命。それは現在3体のクリーチャーのみが持つ、革命チェンジでバトルゾーンに出した時限定の能力。

ドギラゴン剣のファイナル革命能力。

それは――

 

「集え団員達!団長の元へ!」

少年の手札から、男性型のクリーチャーが姿を見せる。

赤黒い鎧に、鉈の様な物を持ちそれを構える。

 

「ちぃ、勝利のアパッチ・ウララーですか……」

雪菜が舌打ちしたのには訳がある。

そう、このクリーチャーもドギラゴン剣との相性の良さで殿堂入りしたクリーチャーの一体。

その能力は――

 

「お前の手札を一枚見せてもらうぞ。

俺から見て一番右のカードだ!」

 

「このカードは無双龍聖イージスブーストです……」

アパッチ・ウララーが手札のカードを確認すると、同時にその手を虚空に掲げる。

 

「超次元エリアへアクセス!!

呼び出し条件は、イージスブーストの持つ色と同じハンタークリーチャー!

今回は光を参照に――来い!

『アクアアタック〈BAGOOON!パンツァー〉』!」

超次元より来るのは、リキッド・ピールの操縦する平たい戦車。

このカードもまたドギラゴン剣とのシナジーが高く、一時は5000円近くまで高騰したカードである。

 

「パンツァーはダブルブレイカー。そしてドギラゴン剣はトリプルブレイカー、つまりこの2体で5枚あるシールドは全部割れる。

そして、まだアパッチは攻撃可能状態、トドメまだいけるぞ!!

――――まぁ、無色以外答えは決まっているんだがな」

そう、少年がアパッチ・ウララーを呼び出した時、雪菜が無色カードを引かなかった時点で答えは出ていた。

アパッチ・ウララーは相手の手札をみて、その文明の色を持つクリーチャーを超次元ゾーンから呼び出す。

〈BAGOOON!パンツァー〉の持つ文明は光と水、たとえ闇だろうと火だろうと自然だろうと多色でダブルブレイカーを持つハンターのサイキッククリーチャー居るのだ。

 

「さぁ、団長が颯爽と登場だ。

生き残れるか?」

少年の場で、蒼い鎧を着た龍が、サイバーな戦車に乗ったリキッドピープルが、インディアンの様な恰好をした野生児が武器を構える。




もともとは雪菜にドギラゴン剣を使わせるつもりだったんですよね。
まぁ、ここは敢えて少年に使わせましたが。

ヒロイックでかっこいいですよね。


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戦場を駆ける者②

さて、今回も投稿です。
何だかんだ言って、デュエルのバランス取るのってすごい難しい……


要塞が見える荒野、その戦場に3体のクリーチャーたちが武器を構える。

口に剣を咥えた蒼い鎧のドラゴン。

メカニカルな戦車に乗り込んだ、蒼い肌の人型クリーチャー。

そして、鉈の様な武器を構えたインディアンの様なクリーチャー。

トリプルブレイカーに、ダブルブレイカー、そして全ての文明のクリーチャーが揃っているという、そうそうたる顔ぶれ。

だが恐ろしい事に、この盤面は僅か3ターン目の番面。

前のターンにクリーチャーが一体も居なかったバトルゾーンは巨大なクリーチャーたちがひしめいている。

少年 盾5 手札2 マナ3

 

「ドギラゴン……やはり来ましたか」

目の前のドラゴンに雪菜が苦々しい顔をする。

 

雪菜 盾5 手札4 マナ4

 

「さぁ、生き残って見ろよ!!ドギラゴン(バスター)でトリプルブレイク!!」

 

「くっ!」

巨大な剣が雪菜を守る盾を一気に半分以上吹き飛ばした!!

 

「雪菜ちゃん!!」

想護が声を上げて、走り出そうとする。

離れた場所に居る想護にとってもかなりの衝撃だ。

砂埃が舞い上がり、雪菜の姿を隠す。

シールド越しとは言え、アレを直に食らった雪菜はどうなったのか、想護が心配をする。

 

「……私は、無事です……から、ケッホ!ケッホ!」

砂を吸ったのか、雪菜が咳込む。

 

「はぁー……はぁー……シールドトリガー発動です……召喚、イージスブースト」

雪菜の手札から現れた盾を装備した細長い体のドラゴン。

それが盾を構えると、山札から一枚がマナゾーンに置かれる。

 

「イージスブースト……マナチャージが出来るブロッカー。

弱いカードじゃないけど……」

 

『あの化け物トカゲの前じゃね……』

コートニーまでもが苦い顔をして見つめる。

 

「まだまだ行くぞ!俺はアパッチウララーでアタック!」

鉈を装備したインディアンが2つの鉈を振りあげ、雪菜を襲う。

 

「くっ!」

雪菜がイージスブーストを一瞬だけ見る。

イージスブーストのパワーは3500。アパッチウララーのパワーを僅かに500だが上回っている。

だが――

 

「ブロック、出来ないよな?」

少年がにやりと笑う。

アパッチウララーはバトルゾーンに出た時、サイキッククリーチャーをバトルゾーンに出す。

そして、自身が破壊された時もまたバトルゾーンにサイキッククリーチャーを出せるのだ。

つまり――

 

「ブロックすれりゃ、新しいクリーチャーを呼び出す事に成るんだからなぁ!」

雪菜の盾がアパッチウララーによって破壊される。

 

「シールドトリガー!音階の精霊龍 コルティオールを召喚!」

再度現れたのはシンバルの様な物を持った、白い肌のドラゴン。

背中合わせの2匹の龍はシンバルの様な物をかき鳴らす。

 

「コルティオールは召喚時に自身のドラゴンの数だけ、相手クリーチャーをタップします!

〈BAGOON〉パンツァーをタップします!」

コルティオールの音波攻撃によって、少年の最後のクリーチャーが力を失う。

 

「トドメまで行けるかと期待したんだが、まぁ良い。

ここまで来ただけで十分だからな。

俺はターンを終了だ」

少年は歯を見せて笑った。

それはまるで龍が牙をむいた様に見えた。

 

少年 盾5 手札2 マナ3

 

雪菜 盾1 手札6 マナ5

 

 

 

 

 

雪菜が戦う店の前、赤いジャケットを羽織った男が首を鳴らす。

 

「ここか、強い力を感じる。

どんなカードかは知らないが、とりあえず所有者を倒して奪うか」

その男はホムラだった。

彼は店の中の魂を持つカードの力を感じ取っていた。

 

「さて――」

店に入ろうとした時、突如周囲の風景が書き変わった。

昼が夜へ、太陽が月へ、雲が霧へ……

光あふれる世界は、闇が全てを染める停滞の世界へと変わった。

 

「な、これはデュエルゾーンか!?」

一瞬遅れてホムラが気が付く。

不意打ち気味な襲撃。

これは、近くに自身を明確に認知し、勝負を挑んできた者がいる証だ。

 

「何処だ!!姿を見せろ!!」

デッキケースからデッキを引き抜き、相手を待つ。

 

「おやおや、挨拶もせずに呼びつけた事は謝罪いたしまする。

まことに申し訳ありませぬな。この通りでありまする」

暗闇の中から出て来たのは、細身の男。

おかしなしゃべり方で、扇子を開いて口元を隠す。

そのあまりにも頼りない姿は、今にもこの闇の中に溶けてしまいそう――

あるいは、暗闇が人の形に凝固した様にすら見えた。

 

「なんだ、お前は!!

デュエルゾーンを出すという事は、人間に憑りついたカードか!?

それとも魂を持つカードの所有者か!!」

ホムラがデッキを構えた。

 

「さて、どちらでありますりますかねぇ?」

暗闇から現れた男、藤御門の背後に一瞬だけ闇の不死鳥が羽を広げた。

そして、その足元からひび割れた家具たちが不気味な笑みを浮かべながら這い出してきた。

 

『クキキキキキ!!』

 

『ぐぅりぐりりりりっり!!』

 

『きゃやきゃきゃかきゃ!!』

 

「申し訳ありませぬ。部長命令故、怪しげなデュエリストは『狩る』様にと言われておりますりますから。

なにとぞご容赦を――」

藤御門が扇子で口元を隠しながら嗤った。

 

 

 

 

 

「私のターンドロー!!」

雪菜がカードを引く。これで雪菜の手札は7枚。マナの数も有利に進んでいる。

先ほどのシールドブレイクでトリガークリーチャーが2体も出た。

手札も大量に増えた。

だが、それでも絶望的な状況に変わりはない。

盾が一枚だけ残ったが、それが失われるのも時間の問題だろう。

 

「クリーチャーが2体いるけど、どっちもパワーが低い……

それに対して相手は3体の上に、トリプルブレイカーにダブルブレイカー。

手札にはさっき戻したネズミが控えている。

おまけに盾はたったの一枚……」

想護が苦々しい顔をする。

はっきり言って状況は絶望的だ。

 

『けどさっきのトリガーでマナが1枚増えたわよ』

 

「増えたから何だっていうんだよ?」

コートニーの言葉に想護が答える。

確かにマナは必要だが、この時点では焼け石に水だ。

 

『バカソウゴ!あの女のデッキタイプを忘れたの?』

腕を組んだまま、コートニーが口を開く。

 

「え、あ!そうか!あのデッキは――!」

そう、さっきの攻撃で雪菜のマナは現在5マナ。

そして、今のターンのマナチャージを含めれば6マナ。

彼女のデッキで6マナと言えば――!

 

「私はマナをチャージ、そして溜まった全6マナをタップします。

そして、呪文を使用『ジャックポット・エントリー』!」

 

「来た!雪菜ちゃんの必殺呪文!!」

想護がテンションを上げる。

そうだ、この呪文はデッキから8コスト以下のドラゴンを踏み倒す強力呪文。

クリーチャーの踏み倒しは決してドギラゴン剣だけの特権ではない!

 

「私はマナゾーンにあるドラゴンの数だけ山札をめくります!

そして――っ」

山札から取り出したカードを見て雪菜の顔が曇る。

 

『来たのね、あの子の相棒が』

コートニーと想護は彼女の顔で全てを察していた。

 

「良いでしょう。貴方が暴れたいなら、私が付き合ってあげます!!

来なさい!!ボルメテウス・ブラック・ドラゴン!!」

ジャックポット・エントリーにより選ばれたのは悪魔の力を宿したドラゴン。

 

ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴ!!

 

『ギィヤァアアアアア!!』

漆黒の鎧を軋ませ、口から炎を漏らし、瞳に敵意を滾らせ雪菜の本で出来た摩天楼を破壊しながらそのドラゴンは降り立った。

 

「ボルメテウス・ブラック・ドラゴンだと!?

こいつは大物じゃねーか!!思わぬ所で大当たりだ!!

テメェをぶっ倒して奪わせてもらう!!」

 

「あげれる物なら、あげても構わないんですが、ね……」

雪菜が胸を押えて苦しみだす。

だがそんな彼女を無視してボルメテウスは咆哮を上げる。

呼び出された漆黒の鎧を身に纏ったドラゴン。

悪魔の力を宿したドラゴンは、口から炎を僅かに漏らした。

 

『ぐぅるるるるるるる……ガァアアア!!』

ボルメテウスブラックは登場するや否や背中の砲門からエネルギーを打ち出し、ドギラゴン剣を焼き払った!!

 

「ブラック……ドラ、ゴンの登……場時、能、力です……ぐぅ!?」

 

「雪菜ちゃん!!無理しないで!!」

想護の言葉がフィールドに響く。

雪菜は未だにボルメテウスたちを制御出来ていないのだ。

体を乗っ取ろうとするボルメテウスに雪菜が抵抗している。

長くバトルゾーンに居させるのは危険だと、以前四ッ谷が言っていた。

 

「ちぃ!ドギラゴンが……だが、まだだ!こっちにはまだクリーチャーが2体居る!

それにお前、そのカードを操り切れていないな?

その様子じゃ、バトルゾーンにおいておけるのは数ターンが限度だろ?」

少年がボルメテウスを見ながら、にやりと笑った。

 

「そ、うですね……まだ私は、この子たちを、使いこなせません……

長い間フィールドに、置くのも、苦手です。

ですが!対策はしてあります!

イージスブーストでアパッチウララーを攻撃!

そ の と き に――!

革命チェンジ発動!!」

イージスブーストの攻撃と同時に、雪菜が手札のカードをイージスブーストを入れ替える。

 

「なにぃ!?テメェも革命チェンジを持てやがったのか!!」

 

「来てください!!百族の長(ミア・モジャ)プチョヘンザ!!」

雪菜の手札から躍り出たのはライオンに跨る弓を構える戦士。

このカードも四ッ谷のミラダンテⅫあるいは少年のドギラゴン剣の様にファイナル革命を持っている。

 

「ファイナル革命発動!!このクリーチャーのパワー以下のバトルゾーンのクリーチャーを全てマナゾーンに置きます!」

プチョヘンザが弓を引くと、空中で矢が無数に分裂しバトルゾーンに降り注いだ!

 

『うら!?』

 

『むぅん!!』

アパッチウララー、〈BAGOON〉パンツァー、そして雪菜のバトルゾーンのコルティオールとボルメテウス・ブラックドラゴンがマナゾーンに置かれる。

 

「上手い!ボルメテウス・ブラックを自力でバトルゾーンから退かしたぞ!

それにプチョヘンザは自身のマナ以下のコストをもつ相手クリーチャーをタップインさせる。

手札のチュリスを封じたぞ!」

バトルゾーンにあるクリーチャーは雪菜のプチョヘンザのみ。

シールドの枚数は負けているが、ここで一気に逆転出来た。

 

「俺のドギラゴン剣が……」

少年がショックを受ける。

最強を誇ったカードが墓地に落ち、手札の詰めの一手として残したチュリスさえ封じられた。

だが、それでもなお少年は不敵に笑った。

 

「良いぜ、良いぜ!!コレくらいじゃなきゃ倒しがいが無いからなぁ!!

お前は俺が必ず食らう!」

少年の目に好戦的な危ない光が宿った。

 

 




多分全盛期のドギラゴン剣を知ってる人には、もっと凶悪に書いても良いと思ってる人多そう……


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戦場を駆ける者③

さて、ここで少年対雪菜のデュエルが決着です。
勝利の女神が微笑むのは?


「ガキが……やるじゃねーか!」

少年が雪菜を睨んだ。

 

「ガキでありませんよ。団長さん?」

睨む少年を雪菜が、挑発した。

 

雪菜 盾1 手札5 マナ8 

 

「だが、お前は俺に勝てねぇ!!こんな状況読んでない訳ねーだろ!!

呪文超次元リバイブホール!」

少年が唱えたのは超次呪文。

その効果の多くはサイキッククリーチャーを呼び出すことだが、この呪文の効果は――

 

「俺は墓地からドギラゴン剣を回収。

そんで、呼びだすのは時空の凶兵ブラック・ガンヴィートだ!」

少年が呼び出すのは、ヤギの様な角が生えた髑髏の馬。

それに跨る主人も同じく骸骨の体をしている。

 

「相手のタップしているクリーチャーを一体破壊だ。

じゃあな、プチョヘンザ」

ブラック・ガンヴィートの2本の剣によってプチョヘンザが一瞬にして屠られる。

 

「さっきのプチョヘンザでアパッチをマナに置いたのが仇になったな。

おかげで呪文が唱えられた。

俺のターンは終わりだ。さて、こっからどうする?

お前は俺に勝てるか?」

勝利を確信したのか、手元でたった今回収したドギラゴンを見せつける。

 

少年 盾5 手札2 マナ5

 

「準備は十分です。私にここまでのマナを溜めさせた……

短期決戦にしきれなかった貴方のミスです。

私はマナをチャージ!これにて9マナ!!これが私の切り札!!」

雪菜のマナゾーンのカードがバトルゾーンに集まってくる。

1つ、2つ、3つ……

3体のドラゴンのマナが集まり一体の巨大なドラゴンの姿を形作る。

 

「さぁ!いざ出陣です!バルガの名を持つ龍よ!!

超!天!星!バルガ!ライゾウ!!」

 

『むぅふふふふ!!』

それは西洋の(ドラゴン)よりも、東洋の国の龍を思わせる胴長の体をしていた。

どこか優しささえある瞳に、長い髭が揺れる。

 

「バルガライゾウでプレイヤーをアタックです!

その時、メテオバーン能力発動!」

雪菜がバルガライゾウの進化元のドラゴンを全てバトルゾーンから離した。

すると、雪菜の山札の上から3枚がめくられる。

 

「バルガライゾウは3体進化元のを墓地に送ることで、進化ではないドラゴンを踏み倒しします!

来てください!!私のドラゴンたち!!

無双龍幻バルガ・ドライバー!

ボルメテウス・サファイア・ドラゴン!

音感の精霊龍エメラルーダ!」

一体は剣を構えた侍の様なバルガの名を冠すドラゴン。

一体は相手の盾を全て焼き払う蒼いを持ったドラゴン。

一体は黄金の体と杖で自らのシールドを操るドラゴン。

 

「エメラルーダの能力で手札のカードをシールドに追加!」

雪菜のシールドが増えると同時にバルガライゾウの攻撃よって少年の盾が3枚破られる。

 

「三枚程度なんだぁ!!!シールド・トリガー発動!!

Dの博才サイバーダイス・ベガス」

少年が発動したのは呪文でも、クリーチャーでもないシールドトリガー。

D2フィールドと呼ばれるそれは、バトルゾーン一枚のみ存在でき、使用プレイヤーに様々な恩恵を与える。

このフィールドの能力は……

 

「バルガドライバーで攻撃!!能力で山札の上をチェック!

永遠の流星カイザーをバトルゾーンに出します」

バルガドライバーもまたバルガの名を持つドラゴン。

山札の上を確認し、ドラゴンを呼び出せるのだ。

 

「俺はデンジャラスイッチを発動!!

手札からコスト7以下の水の呪文を使用する!!」

少年がサイバーダイス・ベガスの上下を入れ替える。

それにより手札の呪文が唱えられる。

 

「呪文!英知と追撃の宝剣(エターナル・ソード)

お前のサファイアと永遠の流星カイザーを選択!」

 

「く、サファイアを墓地へ流星カイザーを手札にくわえます」

雪菜が一度に2枚ものクリーチャーを失った。

だが――

 

「それだけじゃねーぜ!更にマナゾーンからボルメテウス・ブラックドラゴンとバルガドライバーを選択!

さぁ、一枚墓地に一枚手札に戻しな!」

エターナル・ソードはたった一枚で相手のクリーチャー2体とマナを2枚奪う能力がある。

このカードがD2フィールドで使われると0コストで撃てるとなれば、どれほどの脅威か分かるだろう。

 

「エメラルーダは攻撃できない……ターンを終了です」

 

雪菜 盾2 手札5 マナ4

 

 

 

「俺のターン、ドロー……さて、もう一回コイツの出番かな?」

少年が手札のドギラゴン剣を見る。

だが、その内心は穏やかでは無かった。

 

(コイツ、さっきから攻めにくい戦いかたばかりしやがる!

このままドギラゴン剣でトドメを刺しても良い。

だが、気がかりなのは仕込んだあのカード)

 

先ほどの戦い、エメラルーダの能力で雪菜は盾に何かを仕込んでいた。

普通に考えるとそれはシールドトリガーで間違いないだろう。

 

(ドラゴンが多いからな……またコルティオールか?

ならば!!)

 

「俺はマナを3タップ!再度”龍装”チュリスを召喚!」

少年の場にさっきドギラゴン剣を呼び出した、ネズミが呼び出される。

B・A・Dによりコストは減っているが、それでも基本コストは5のまま。

ドギラゴン剣へのチェンジは十分可能だ。

 

「俺はお前を確実に処分する」

 

「!」

想護が少年の冷酷な宣言に息を飲む。

 

「俺はチュリスでバルガドライバーに攻撃!!」

 

「ドライバーにですか?」

少年の命令を受けてチュリスがバルガドライバーへと襲い掛かる。

パワーは5000体14000。

到底チュリスに勝ち目は無い。

そう、このままでは――

 

「革命チェンジ……来ますか!」

 

「ああ!もちろんだ!!革命チェンジ!龍の極限(ファイナル)ドギラゴールデン!!」

現れたのはドギラゴン剣ではない。

その姿は黄金に輝き、マントをはためかせ剣を持つ。

 

「ドギラゴールデン、コイツこそ龍の究極!!

その力でお前のエメラルーダをマナの埋め込む!」

ドギラゴールデンの剣が一瞬にして、銃へと変化する。

そして打ち出された光弾がエメラルーダをマナゾーンへと押しやった。

 

『ドギ――ラァアア!!』

ドギラゴールデンが武器を再度、剣へと戻すとバルガドライバーへと切りかかった。

 

『むぅん!』

だが、バルガドライバーも同じく剣を抜きその攻撃を受け止めた。

2度、3度と切り結んだ後、お互いの体に深々と剣をつき刺し合った。

そして2体は同時に墓地へと置かれる。

 

「相打ち狙い、ですか……」

 

「ああそうさ。俺はこう見えて確実性を重視するんだ。

何かヤバイドラゴンを呼び出すバルガには退場してもらった、もっとも同じバルガでもサイズがでかいだけで、仕事の終わったバルガしか居ないがな。

それに、盾に厄介なトリガーが有るのは分かってる。ま、連ドラだからコルティオール位だろうが、それを超える数を用意するのに時間が掛かるんでな?

危ない橋を渡っても良いんだが、今回は安全策を取らせてもらった。

さて、ターン終了時にベガスの能力で一枚ドローだ。

さ、次はアンタのターンだぜ?

重量級ばかり入れてるアンタでは何か出来るとは思えないんだがな?」

少年が内心で勝ちを確信していった。

 

少年 盾2 手札4 マナ6 

 

「私のデッキ……確かにドラゴンが多いですが連ドラとは一言も言ってませんよ?」

 

「なんだよ。負け惜しみか?」

だが俺のシールドはまだ2枚あるそれにトリガー以外の防御だってあるんだぜ?

人間なんかに負ける訳ねぇんだよ!!俺はこの力をこの世界で謳歌してやる!!

こんな所で止まる訳ねーんだよ!!」

少年、いや、背中のドギラゴン剣が吠えた。

 

「はぁ。これが噂の『止まるんじゃんーぞ』という奴ですね。

クラスの男子がしきりにやっていたので知っています。

しかし、残念ですね。貴方はもう詰んでいます」

雪菜がそう告げる。

その宣言は勝利宣言の様な高らかな物では無く、ただ純粋に、冷酷に、残酷なまでにただ単純に真実を突き付けた言葉に聞こえた。

例えるならば、感情を持たぬ処刑人が斧を振り上げたような、そんな揺らぎ用のない重みを感じた。

 

「私達『Dシーカー』は使命感で動いている訳ではありません。

安易な話ですが、誰かの為とかそう言った物が第一と言う訳でもありません。

人もクリーチャーも、力を持ち他者を虐げる者を許さないだけです。

貴方は自らの力の使い方を誤った、だから倒します」

 

「へぇ?ご立派な話じゃねーか!

だがよ、たった5マナで何が出来る?お前のデッキは重量級のドラゴンデッキ!俺みたいに革命チェンジでもしてみるか?

結局ありがたいだけのお話じゃ、無意味なんだよ!

力でねじ伏せるのが最も賢いやり方なんだよ!」

ドギラゴン剣が少年の後ろで吠える。

 

「では行きましょうか――私のターン、ドロー」

雪菜がデッキからカードを引く。

そして、それをマナゾーンに置く。

これで6マナ、今までのカードを見るに雪菜のデッキにこの状況で使用できるカードはジャックポット。

だが、この状況から勝利に持っていけるカードが有るのか、それ自体が入っているのかさえ不明だ。

 

「貴方はミスをしました。ボルメテウスは確かに強力なカテゴリーです。

容赦なく敵を破壊し、種族も優秀な『ブラック』。

ブロックされる事の無いシールド焼却持ちのスピードアタッカーである『蒼炎』。

そして純粋な強力な力を持った『サファイア』。

そしてその子たちを踏み倒す『バルガ』。

ですが、貴方がもっとも警戒すべきはこの子たちじゃなかったんです」

雪菜が指でバルガライゾウを撫でる。

 

「良いからさっさとしろ!そんな老いぼれドラゴンどうでも良い!!

速く俺に、お前の体に牙を突き刺させろ!!」

ドギラゴン剣が吠える。

 

「うわっつ!?」

 

『へぇ、少しはやる様じゃない……!』

想護、コートニーがドギラゴン剣の威圧する風に気おされる。

だが、それに対峙する雪菜は一切ひるまない。

 

「私はバトルゾーンの超天星バルガライゾウを、究極銀河ユニバースに進化!」

バルガライゾウの上に進化クリーチャーが重ねられた。

瞬間、空に宇宙が現れる。

いや、正確には宇宙その物では無く宇宙をその身に宿した存在だ。

胎の中に輝く銀河を宿すそのフェニックスは悠然と姿を現した。

 

「な、ユニ、バースだと!?」

少年の顔いろが露骨に悪くなる。

盾は2枚ある、手札にはニンジャを持っている。だが、それでも少年の顔に有るのは敗北を悟った表情。

無理もない。このカードにある能力を知れば誰でもこのような顔に成るだろう。

このカードの能力。

それは――

 

「くそ、くそ、くそったれぇぇええええええ!!!

戦う気なんて、最初(ハナ)っから無かったのかよぉおおお!!」

 

「究極銀河ユニバースで、プレイヤーを攻撃!!

メテオバーン発動!」

雪菜の声に反応してユニバースが羽ばたく。

そして、彼方まで聞こえる女性の歌声にも聞こえる鳴き声が響きわたった。

龍の声は一瞬にして、女神の歌の前に消え去った。

 

「そんな、そんな、バカなぁああああああ!!!!」

少年の後ろからドギラゴン剣が飛び立ち逃げようとするがもう遅い。

ユニバースの歌声を聞いたドギラゴン剣の体が瞬時に風化していく。

輝く剣が、蒼い鎧が、強靭なる龍の肉体が、錆び付き、劣化し、衰えていく。

そして、すべてが塵となって消える。

 

『いやだ、いやだぁ!!俺は、俺は止まりたく――』

 

「ユニバースが攻撃した時、進化元のカードがフェニックスであり尚且つ最後の一枚であれば、私はゲームに無条件で勝利します」

 

『ね――ぇ……い』

空中でドギラゴン剣が完全に姿を失い消失した。

 

「雪菜やった!!勝った!!勝ったよ!」

想護が飛び跳ね、へたり込む雪菜の元へと走る。

 

「はぁ、はぁ……疲れ、ました……カードの回収をお願いします」

どっと疲れが出たのか、息を荒くして雪菜が話す。

 

「わ、分かったよ。俺、拾ってくる」

 

『あーあ、小学生の使いッ走りじゃない……』

想護がドギラゴン剣を拾う横で、コートニーがため息を漏らす。

 

 

 

 

 

「おや――どうやら外の戦いが終わった様でありまするな」

デュエルゾーンの中、藤御門がなんでもない様に声をあげる。

彼のバトルゾーンには2体の闇の不死鳥が翼を広げていた。

 

「チぃ!力の反応が消えた。

見どころがありそうなカードだったが、負けて回収されたか」

ホムラが吐き捨てる様に言った。

 

「……どうですかな?お互い欲しい物は手に入らないと諦めて、ここで手打ちにいたしませぬか?」

藤御門の言葉に、ホムラが反応する。

 

「テメェ、一度始まった真のデュエルを中断だと?」

 

「そう、何も命を懸ける事などありませぬ故。

我は貴方に恨みは無い。貴方は我を倒す理由も無い――手打ちで十分。

そうでありましょう?」

二人の視線が交差する。

そして数秒の沈黙が流れ――

 

「白けたな。いいぜ。これ以上戦っても得くは何もねぇ」

 

「そうでありまするか。それは良かった。良かった」

次の瞬間には、夜の闇に包まれたフィールドとホムラは消えていた。

残るのは、藤御門一人。

藤御門は小さく笑い店のドアを開けた。

 

 

 

「やや!想護クンではありませぬか?

奇遇でありまするな?」

デュエルが終わり、こちらの世界に戻って来た想護が最初に見たのは、扇子を持ちこちらに歩いてくる藤御門の姿だった。

 

「先輩……どうしてここに?」

 

「何って、部長サン命令でありまするよ。

カード狩りの可能性があるデュエリストは倒す様にとの、事でありましょう?

我は、急いで帰って新型デッキを組んで、ここに参上奉ったのでありまするよ?」

気合十分、と言いたげに藤御門が鼻息を荒くする。

 

「あ、えっと……」

どう説明するべきかと、想護が一瞬悩む。

 

「カード狩りはもう捕まりました」

となりにいた雪菜が声を漏らした。

 

「おや、そちらのお嬢さんは?」

不思議そうに藤御門が尋ねる。

 

「倉科 雪菜です。賭けデュエルでしたら、昨日目に余った店員に注意されて出禁を食らったそうです。

本人も反省している様で、盗んだカードを返しに来た様ですよ?」

 

「なな、なんと!それはまことでありまするか!?」

やや大仰に、藤御門が驚く。

 

「むむぅ、平和になったのは喜ばしい事でありまするが……

我の溜めた気合は何処へ放出すれば……」

藤御門が小さくうなる。

その時――

 

「あ!フジ君!ソウゴ君!奇遇~」

実紅が手を振りながら現れる。

 

「おお、部長サン!聞いてくださりまするか?

どうやら件のデュエリストは出禁を食らったようでありまする。

カードも戻ってきたようですし、これは、一応の解決かと……?」

 

「ほんと!?解決?やったー!」

実紅がその場でぴょんぴょんと跳ねる。

 

「……愉快がかたがたですね」

 

「あ、うん……そだね」

雪菜の言葉を聴いて想護が苦々しい顔をして、なんとか答えた。

 

「よぉーし!なら、部長権限発令!部活再会!みんな、デュエマするよー!」

実紅がデッキを取り出し、掛け声を上げる。

 

「……私は帰ります」

 

「なんでー?せっかく来たんだから遊ぼうよー!」

雪菜に実紅が絡んでいく。

 

「帰ります」「やろうよー」

「やりません!」「やっちゃいなよー」

「お断りです!!」「君、友達いないでしょ?一人でデュエマかわいそー」

「言いましたね!?この、頭のねじが外れてそうな子供は!!

だから、小学生は嫌いなんです!!」

 

「あ、雪菜ちゃん。一応俺の先輩だから……年上、なんだよ……」

 

「なんですって……!?」

想護の言葉に、雪菜が今日一番驚いた顔をする。

 

 

 

 

 

「あー楽しかった!勝てなかったけど、楽しかった!!」

実紅が2人を連れて道を歩く。

 

「いや、先輩まさか小学生に間違われるとは……」

 

「ぶー!あの子の見る目が無かっただけだもん!

フジ君もそう思うでしょ?」

実紅が話しかけるが、藤御門は反応しない。

心ここに在らずといった様相だ。

 

「???どーしたのフジ君、ぼーっとして?お腹空いた?クレープでも食べに行く?」

実紅が夕焼けの中、佇む藤御門に話しかける。

 

「おっと、申し訳ありませぬ。少しばかりぼーっとしておりました。

それとクレープは遠慮させてもらいますります。部長サンではないのですから。

夕飯前に甘味など……

しかし、ふむ」

何かを考えるようなそぶりをして、藤御門は実紅の頭に手を置いた。

 

「部長サンはいいでありまするな。

ただ純粋にデュエルを楽しんでいまする……」

 

「どーゆこと?」

 

「いいえ、いいえ。ただの一人言でありまする故、何卒お気になさらぬよう」

藤御門は実紅と想護に背を向けて歩きだした。

 

「あれ、先輩帰るんですか?」

想護が気が付き声をかける。

 

「我の家は反対方向でありまするので……では、ごきげんよう」

藤御門は二人、夕日の方向に歩く二人に背を向け、次期に夜が訪れる暗くなりつつある町なかに消えていった。




途中までガチの殴り合いだと思ってたら、急にエクストラウインを狙ってるタイプって、微妙に消化不良になるのって、私だけですかね?


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禁断の影 ~フラッシュバック~

さて、投稿投稿。
今回は忘れていそうなあのキャラが再登場です。


雨降る町を引き裂く爆音があった。

 

ブルるるん!!ぶるるるるるるる!!

 

夜の街を爆音は鳴らし、バイクが駆ける。

雨を弾き、闇をライトが割き、排気ガスの残し走り去る。

出会った物は恐怖を覚え、横切られた者は不快感を覚える。

 

いずれにせよ。そのバイクに跨った男は深夜の町を我が物顔で進んでいく。

 

ブルゥンンンン!!ブルゥン!!

傘もささず歩道を歩く男のすぐ横をバイクが通りすぎる瞬間――

 

「こいつは、使()()()かも知れないな」

男の口が開いたと同時に、一瞬だけクリーチャーがその爪を実体化させてバイクの前輪を切り裂いた!

 

グゥワッシャン!!

 

バイクはコンクリートの上を滑り、ドライバーは地面に投げ出され、町を我が物顔で暴走していたドライバーは一瞬で死に体へとなった。

そこへ、歩道を歩いていた男がゆっくりと歩いていく。

 

「お前には、コイツが合いそうだな」

男がコートを開くとそこには無数のポケットがあり、その全てにデッキが収められていた。

そのうちの一つを取り出し、手に持った。

 

「我らが王、ドルマゲドン様に仇名す害虫どもを始末しろ」

 

「ぐぅああああ!!!」

男がドライバーにデッキを押し付けると、男の傷がみるみるふさがっていく。

倒れたバイクもまるで時間が逆行するかの様に再生していく。

そして、カードが怪しく光り、ドライバーの目にも同じ光が宿る。

 

「命を与えてやったんだ。せいぜい働けよ?」

男の言葉に応えるよりも早く、ドライバーはバイクにまたがり何処かへ走り去っていった。

 

「せっかちな奴だ」

男はつぶやくと、再度雨降る町の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

学校が終わり、想護は部室へと足を運ぶ。

学業の終了という解放感に、胸を躍らせる。

 

「部長ー、フジ先輩ー、いますかー?」

部屋を開けると何時もの二人が、早速テーブルを囲いカードを広げていた。

 

「むむむむむ……」

 

「ぬぬぬぬぬでありまする……」

真剣な顔、お互いのクリーチャーたち盤面に揃う。

 

「我のターン。マナをチャージして、『神月の脈城 オリジナル・ハート』をシールドに付けて要塞化させていただきまする」

 

「くぅ~!来たか!」

藤御門の戦略の核である、オリジナル・ハートがシールドゾーンに鎮座する。

 

「我は『メルゲイナー』で攻撃いたしまする!その時、バトルゾーンにゴッドである『神帝マニ』が居る為メルゲイナーのドロー効果が発動!

一枚ドロー!更にオリジナル・ハートの効果発動!

自身のクリーチャー攻撃時に手札から、『神帝』と名のつくゴッドをバトルゾーンへ!

『神帝アージェ』を選択いたしまする!

そしてオリジナル・ハートの効果を再度使用!ゴッドがバトルゾーン出たため更にドロー!」

藤御門のバトルゾーンに新たなゴッドが呼び出される。

そのたびにオリジナル・ハートは神帝を呼び出し、ドローをしていく。

4体そろえる事で、無限攻撃を可能とする神帝を揃えるのがこのデッキのコンセプトの様だ。

 

「むむぅ~!」

実紅のシールドが破られ、頬を膨らませる。

その様子からトリガーは来てくれなかった様だ。

 

「どうやら今回は我に勝機があるようでありまするな!

マニの攻撃時、再度オリジナル・ハートの効果!手札より新たな神帝『神帝スヴァ』をバトルゾーンへ呼び出しまする!先ほど出した神帝アージェとゴッドリンクいたしまする。

オリジナル・ハートの効果でドロー」

マニ、アージェ、スヴァと藤御門のバトルゾーンに、ゴッドが次々と集まっていく。

 

『勝負あったわね』

 

「フジ先輩の勝ちか……」

コートニーの言葉を肯定するように、想護が言葉を漏らす。

その時、割られたシールドをみてぱぁっと実紅が微笑んだ。

 

「シールド・トリガー発動!『スーパーエターナルスパーク』!」

 

「むむ、これは……我の負けですな」

藤御門のは自ら、スヴァをシールドゾーンに置き敗北を宣言した。

 

「特殊敗北効果……スヴァがバトルゾーンを離れた時、我は敗北いたしまする」

藤御門が降参と言いたげに、両手を上げる。

 

「お~、実紅先輩おめでとうございます。

今日は調子良いですね」

卓上ゲーム部の部長ではあるが、実は実紅の勝率は低い。

本人の性格なのか、それともデッキのせいか、はたまた運が足りないのか……

不思議な事に勝率は低いのだ。

もっとも、ゲームは勝利するだけが目的ではないし、負けてもゲームを楽しめるという才能は非常に大切だと想護自身は思っている。

 

「やっと勝てたよ~、昨日の放課後から続けて25連敗。

けど、26戦目は勝ったね!」

 

「に、にじゅ、ろく……」

引きつった笑みを浮かべる想護に対して、ソファーの上でVサインを作り、上機嫌で笑う実紅。

想護は改めて、負けてもゲームを楽しめる実紅の才能に感謝した。

 

「それより想護クン――『彼』の話聞けましたか?」

 

「ハイ!以外と元気そうでした!」

 

 

 

昨日の放課後、ホームルームの終わった想護の携帯に連絡が入った。

それはホムラとの戦いで敗北した、親友中埜の携帯からだった。

内容を確認した想護は病院へと急いだ。

 

「よぉ、想護……元気か?」

 

「バカ野郎!こっちのセリフだよ……」

久方ぶりに目覚めた親友との語らいに、想護は大きく喜びを感じた。

そして、病院の面会時間が終わるまで、二人でたくさんの事を語ったのだった。

 

 

 

「想護クン……良かったでありまするな」

藤御門が目を細めて、カラカラ笑う。

 

「やっと、日常が帰って来たって気がしますよ」

 

「彼は他の部活のメンバーゆえ、あまりここに来ませぬが……

なかなかの実力者故、また戦えるのを楽しみにしておりまするよ」

昨日の勝ちに気を良くしたのか、藤御門が珍しく好戦的な笑みを見せた。

 

「あ!そう言えば、昨日何だかんだ言って、デュエマはしなかったな……」

再会がうれしすぎて、逆に忘れていたと、想護がつぶやいた。

その時――

 

ぴりりり

 

想護の持つ携帯の着信音が鳴る。

表示されたのは『四ッ谷』の文字。

 

「あ、ごめん。呼び出し来たみたい。

先輩たちすいません。俺ちょっと出てきます」

そう言って想護は部室を後にする。

 

 

 

『黒札 想護聞こえるか』

 

「四ッ谷さん……どうしたんですか?

またクリーチャーが?」

初めてかかって来た四ッ谷からの着信に、想護が驚く。

 

『いや、実は君に来て欲しい所がある。

今から時間は大丈夫か?』

 

「来て欲しい所?別に構いませんが……

合流は何処に――」

 

『「ここで構わない」』

 

「いい!?」

電話と現実。同時に同じ声が聞こえて想護が振り返る。

 

「私はこの学校の卒業生なんだ。

OBとして侵入は簡単に出来る。

さ、急ごう。校門前に車を止めてある」

 

「ええ……」

いつの間にか校舎内にいた四ッ谷に振り回されながらも、想護はついていく事となった。

それから四ッ谷の運転する車に乗せられ、数十分……

 

 

 

「ついたぞ。ここが目的地だ」

 

「ここって……」

 

『昨日も来たじゃない』

四ッ谷が車を止めたのは、コートニーの言葉通り昨日も来た中埜の入院している病院。

 

「目的も同じだ。ドルマゲドンとの接触して尚も命のある貴重な証言者だ。

話を聞いていきたい」

廊下を歩きながら四ッ谷が話す。

 

「けど、何で俺を?」

 

「君は彼と知り合いらしいじゃないか。

初めて会う私だけよりも、友人である君がいた方がリラックスして話せると思ったのだ」

 

「…………はぁ」

何処までも合理的な、四ッ谷の言葉を聴きながら中埜の部屋の扉を開けた。

 

 

 

「よ!中埜」

 

「想護、また来てくれてのか……

後ろの人は?」

病室の中の中埜はマンガを読んでいた。

意識不明中に出たのを想護が昨日貸し与えたのだ。

 

「あ、えっと……」

 

「彼のバイト先の先輩だ。

気にしないでくれたまえ」

あらかじめ用意されていたと思われるウソを並べ、四ッ谷が作り笑いを浮かべる。

 

『コイツ、実は一番胡散臭いんじゃない?』

コートニーが隣で毒を吐く。

 

「実は2、3君に聞きたいことが有る」

 

「聞きたい事?」

中埜がマンガを閉じる。

 

「君が意識を失う日。何を見た?」

 

「意識……俺が?意識を……?」

四ッ谷の言葉を聞いた瞬間、中埜の様子がおかしくなる。

 

「君はデュエルをしたハズだ。

あの男――セキグチ ホムラとだ」

証拠写真を叩きつける様に、四ッ谷がホムラの写真を取り出す。

 

その瞬間、中埜の表情が強張った。

 

「うぁ、あ……」

 

「君があの時使ったデッキだ。

どのように戦ったか、覚えているか?」

更に四ッ谷が中埜の使ったというデッキを取り出す。

 

「おれは、はぁ……はぁ、俺ははぁ……」

一気に汗が吹き出し、呼吸も荒くなる。

自身の胸の手を当てて、苦しそうに息を吸う。

 

「中埜?どうしたんだよ、一体!?」

すぐにその異常に気が付いた想護が反応する。

 

「……あっ、俺は……うぁ……うわぁああああああ!!

いやだぁあああ!!!そのカードはもういやだぁああああ!!!」

中埜が手を振り上げ、四ッ谷の持ってきたデッキを叩き落す。

カードが病室に散らばった。

突如として中埜のが錯乱状態になる!!

 

「中埜!?中埜!!しっかりしろ!!」

 

「退いてください!処置をします!」

誰かが呼んだのか、それとも偶然近くにいたのか看護師たちが入って来て中埜を押える。

鎮静剤か麻酔を打たれて中埜が大人しくなる。

想護はその間何も出来なかった。

 

 

 

 

 

「PTSD……心的外傷(トラウマ)という奴だな」

追い出されあ病室の外、冷静に四ッ谷が分析する。

 

「そんな、中埜……」

想護がショックを受けて視線を下にずらす。

そこにはさっきの騒ぎで散らばったのか、一枚のカードが落ちていた。

 

「アストラル・リーフ……」

それは嘗て、中埜が良く使用していてカードだ。

想護とも多く戦い、買った、負けた、様々な戦いを楽しませてくれたカードだ。

コートニーの様に魂を持つカードではないのかも知らない。

だが、多くの戦いを共にした「相棒」だったハズだ。

 

「アイツ、デュエルが大好きだったのに……

殿堂解除された時なんて、気が狂うほど嬉しそうだったのに……」

 

「ドルマゲドンに食われかけたんだ。命が有るだけで十分に幸運と――」

 

ドォん!

 

想護が四ッ谷の襟を掴んで壁に叩きつける。

四ッ谷は大して反応もせず、冷めた目で想護を見ていた。

 

「黒札 想護、君が私に八つ当たりするのは勝手だ。

気の済むまでいくらでも付き合ってやろう。

だが、ここは病院だ。静かにしたまえ。

そして――自身のイラつきをぶつける相手を間違えるな」

 

「アイツは!自分を大好きだった物を……大好きだった物を……物を……」

想護の手から力が抜けていく。

気が付かなかった。あるいは気が付かないフリをしていた。

 

「戻って無かった……すっかり元通りだと思ったけど、戻ってなんていなかった!!」

想護が強く唇をかみしめる。

その手には、おそらく2度と使われることの無い、中埜の切り札()()()カードが握られていた。

 

「前を向け黒札。そこでオマエがそうしていても決して事態は好転しない。

今、この瞬間も奴らはドルマゲドンに食わせる生贄を求めている。

お前とお前の親友の大好きだった物を手段にしてだ」

しずかで淡々とした言葉、だが想護は四ッ谷もまた拳を強く握ている事に気が付いた。

 

「四ッ谷さんも好きなんですね……デュエルが」

 

「ああ、もちろんさ。私が最も愛しているゲームだ」

想護はゆっくりと四ッ谷の襟を離す。

その時――

 

『想護!近くに魂を持つカードが近づいてる!しかもスゴイ速さよ!』

 

「何!?」

突如コートニーが姿を現し、想護に伝える。

 

「ほぅ。その5色を操る術に関係があるのか……

そのクリーチャーは、他のクリーチャーを探す能力があるのか」

四ッ谷が興味深そうに話す。

 

『近づいてくる……この病院目当て?』

コートニーの言葉を聴いた想護が走り出す。

後ろから掛かる四ッ谷の声を無視して、ただひたすらにコートニーの導くままに病院を飛び出し走った。

 

 

 

 

 

「コートニー!どっちだ!!」

 

『病院を通り過ぎてる……あっちよ!!』

 

「分かった!」

コートニーの指示に従い、想護が町の中を走る。

走って、走って、更に走って、気が付けば小道の入り込んでいた。

 

ぶぅん!!

 

「バイクの音!?」

 

『多分コイツがクリーチャーよ!』

想護とコートニーが走っていく。

 

 

 

「…………えっと、アナタはだーれ?

ニニィ、ナンパはお断りって言うか……」

金髪の女の子が追い詰められていた。

 

「デュエルだ」

行き止まりのその先、一人の男がもう一人の女の子を壁際に追い込んでいた。

男の姿は異常だった。

擦り切れボロボロの黒い服に、エンジンオイルが飛び散ったようなシミが何か所もついている。

何日も髭を剃っていないのか、無精ひげまで生やし身なりは良くは見えない。

 

「おい!お前!!何をしてる!!」

想護がその男に向かって叫ぶ。

 

「……魂を持つカード……それも、こんなに強く……だが……」

男は尚も、追い詰め女の子に詰め寄ろうとする。

 

「待てったら!!」

想護が強引に男と女の子の間に入り込む。

 

「わーお!かっこいー!ヒーローみたいだね!」

 

「あー、もー!君も君で逃げて!!」

茶化す女の子を想護が押して逃がす。

外国から来たのか、それとも彼女の趣味なのか。

左右で色の違うハイソックスに、金色の髪で、更に瞳はカラコンでも入れているのか、赤と青のオッドアイだった。

いろいろと派手な見た目をしている。

 

「せんきゅーボーイ!ニニィ君に感謝だよ~バァイ!」

ニニィと名乗った彼女はそのまま小道の奥に逃げていった。

 

「おら!俺が相手だ!かかってこい!!」

 

「……やむなし……目標を変更……する」

男が懐からデッキを取り出す。

 

「禁断……発動!」

男のデッキの一枚目は文字の読めないカードだった。

そのカードが光を放った瞬間、想護はデュエルゾーンに飛ばされる。

 

 

 

「な、なんだ、ここ……?」

そこは無限に広がる荒涼とした大地。

そしてその奥に鎮座する巨大な墓にも見える物は――

 

「ドキンダムX……展開……」

ドルマゲドンの一端を担うカードだった。




なぜか書いているウチに思った以上の鬱展開に……
うーん、不思議ですね。


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禁断の影 ~蠢く者~

ゲームに夢中ですっかりご無沙汰……うーん、いろいろすいません。


「俺のターン。ドロー、マナチャージ。

2コスト使用。『斬斬人形コダマンマ』を召喚」

虚ろな目をした男が、淡々とデュエルを進めてく。

まるで機械の様な一切の抑揚を捨てた、無機質な声で進めていく。

 

『何なのよコイツ……気味が悪いったらありゃしない!』

その異様な雰囲気は想護の相棒にも伝わったのか、コートニーが悪態をついた。

 

「使用デッキは多分だけど、火単速攻……だよな?」

 

『事故って、2ターン目で光のマナが来ていないだけの可能性もあるわよ』

二人が視線を絡める。

デュエルは相手の先手で始まり現在2ターン目。

相手のバトルゾーンには、先ほどのターンに召喚された『ブレイズクロー』。

そしてマナゾーンにはバイクに跨る真っ赤なクリーチャーが2体。

 

「『バイク』は確定か」

想護が苦い顔をする。

『バイク』とは、ソニックコマンドというクリーチャーたちを使った速攻デッキであり、3~5ターン目に勝負を決めてしまう超攻撃デッキの総称である。

使用する文明によって前後するが、いずれにせよかなりの攻撃速度を持つのは共通している。

 

「コダマンマの能力発動。シールドを手札に加える」

赤いぬいぐるみが腕を振り上げると、男のシールドが一枚手札に加わった。

 

「手札補充か……」

速攻は手札の消費が非常に速いデッキである。

その為、使用できるカードが増える手札補充は戦略として非常に優秀なのである。

だが――

 

「加えるカードを墓地に送る」

男はそのカードを直接墓地に送ってしまった。

 

S(ストライク)バックか!」

 

「手札より『デュアルショック・ドラゴン』を召喚」

男のバトルゾーンに現れるのは、真紅のドラゴン。

翼を広げ、右腕の剣を雄たけびと共に振り上げ、自身の盾を一枚破壊した。

『デュアルショック・ドラゴン』は登場時に自身の盾を破壊する能力を持っている。

だがその代わり、シールドの火のカードを捨てる事で自身をバトルゾーンにタダで召喚する能力を有している。

 

「ブレイズクローで攻撃」

2足歩行するトカゲの様なクリーチャーが腕の爪を振り上げ、想護に襲い掛った。

盾が割られ、想護の手札に加わる。

 

「ターンを終了」

 

男 盾3 マナ2 手札1

 

「盾が減ったとはいえ……

この状況は……」

相手のバトルゾーンを見て、想護が小さく舌打ちをする。

ブレイズクローに、コダマンマ、更にはWブレイカーを備えるデュアルショックが控えている。

想護の盾は4枚。

このままトリガーが無ければ、次のターンで全てのシールドを割られ、もしスピードアタッカーを引かれたらその場で負けが確定する。

だが恐ろしいのはそのスピード。

想護はまだ、クリーチャーを召喚してすらいないのだ。

 

「そんなワケ行くか……そんなワケに行くかよぉ!!

ドロー!!マナをチャージして2マナ!

頼むぞコートニー!」

 

『まったく無茶いうんだから!』

想護のマナが2つタップされ、相棒のコートニーが召喚される。

 

「だけど、これ以外出来ない……ターン終了だ」

そう、出たターンクリーチャーは攻撃する事が出来ない。

マナも使いきった。

想護に出来る事はもう何もない。

 

想護 盾4 マナ2 手札5

 

「くそっ!こんなとこで、モタモタしてられないってのに」

 

『落ち着きなさい想護。短気を起こすのはアタシの役目でしょ?

アンタはいつも冷静でいなさい。

じゃないと――』

 

『ガァアアアアア!!』

コートニーの言葉も途中で、デュアルショックの攻撃が想護に迫る!

 

「!? ニンジャストライク1!『光刃忍 ライデン』!」

想護のバトルゾーンに、光のクリーチャーが現れる。

 

「ブレイズクローをタップ!」

ライアの効果でブレイズクローが体制を崩す。

しかし、それでもデュアルショックの攻撃を止める事は出来ない――

 

パリん!パリッ!

 

1枚、2枚と想護の盾が割られる。

 

「っ!ぅうううう!!」

飛び散った破片が、想護の身に刺さる。

そこに男が冷淡に告げる。

「ターンを終了」

 

男 盾3 マナ3 手札1 

 

『へぇ、鉄面皮ってこういう奴の事言うのね』

ギリリとコートニーが歯ぎしりをする。

有利な状況に運んでいるにも関わらず、男の態度はやけに冷静だ。

そこから感じ取れるのは、一切の躊躇もない純粋な『作業』。

Aのスイッチを押されたら①の動作をする、Bのスイッチなら②の動作、と言ったようなある種の機械的、あるいは昆虫的な動きに感じられた。

 

「……ターンの終了時、ライデンはデッキのボトム()へ送られる」

想護のライデンが、忍者の様に印を結ぶと書き消えた。

ニンジャストライクでバトルゾーンに出たクリーチャーたちはそのターンの終了時にデッキの一番下へと帰ってしまうのだ。

 

「俺のターン、ドロー!……よし、これなら!

俺はマナを一枚チャージ、そして呪文『フェアリーミラクル』を使用!」

今しがた3マナになった想護のマナがこれで一気に5マナまで増える。

 

「よしっ!落ちたマナは両方とも単色マナだ。

これで、コートニーをもう一体召喚だ!」

 

想護のバトルゾーンに、もう一体コートニーが現れる。

 

『自分がもう一人って、びみょーにイヤなのよね……』

コートニーがもう一体の自分を見て顔をしかめた。

 

「安心しろよ。すぐに、入れ替わらせるからさ!」

 

『ふぅ~ん、そういう事か』

何かを察したコートニーが、その場でぴょんぴょんとウォーミングアップを始める。

 

「コートニーでブレイズクローを攻撃!

その時に――」

 

『革命チェンジよ!!』

コートニーが飛び上がり、右腕を高々と掲げる。

そして、想護の手札から一体のドラゴンが現れ、コートニーと手を打ち合わせる!

 

一面(イメン) エニク=アークをバトルゾーンに!」

その姿はイメン=ブーゴを想起させる姿をしていた。

そして雄々しく咆哮し、ブレイズクローを戦闘で破壊した。

 

「さっき召喚した、コートニーでシールドをブレイク!」

コートニーが追撃し、男のシールドを奪う。

 

「エニク=アークはマナゾーンに5つの文明が有れば、自身のクリーチャーすべてをスピードアタッカーに変える。

コートニーの効果で、当然条件は達成済みだ!」

ブレイズクローを倒し、シールドの数も並んだ。

おまけに次に出るクリーチャーも皆スピードアタッカーだ。

 

(それに……)

想護は自身の手札を見た。

ニンジャストライクでブロッカーを持つハヤブサマルと、最早常連となったデッドブラッキオ。

5マナ溜まった今では相手のクリーチャーをカウンターでマナ送りに出来る貴重な防御カードだ。

 

(ハヤブサで守って、割られた盾からデブラで追撃……そして返しのターンで、手札に戻って来たコートニーの達で決める!

ようやく、希望も見えたきたな……)

想護が手札のカードを見る。

 

「俺はこれでターン終了だ」

 

想護 盾2 マナ5 手札3

 

「俺のターン、ドロー。

呪文『瞬閃と疾駆と双撃(パーフェクト)の決断(ファイア)』」

 

「な!?」

想護がそのカードを見た瞬間、顔色が悪くなる。

それは3つの効果から2つを選び、自由に使える呪文のシリーズの一つだった。

その効果はそれぞれ――

①コスト3以下のクリーチャーを手札から踏み倒す。

②自身のクリーチャーにスピードアタッカーを付属させる。

③自身のクリーチャーの攻撃後にアンタップという物だった。

 

「能力の一つ目、踏み倒しを選択。『覇王速 ド・レッド』をバトルゾーンに」

バトルゾーンに現れるのは、バイクに跨った真紅のクリーチャー。

これが、このデッキがバイクと言われる所以でもある『ソニック・コマンド』だ。

ド・レッドが姿を現すと、ドキンダムの封印が一つ外れた。

 

『3ターン目にして、ようやくお出ましってワケね』

手札のコートニーが口を開く。

 

「能力の二つ目、攻撃後にアンタップを選択。ド・レッドを攻撃後にアンタップ。

ド・レッドで攻撃」

 

「まさか……!?」

ド・レッドが走り出す。

そして――

 

「侵略発動。『轟く侵略 レッド・ゾーン』」

ド・レッドが一瞬で変形して、大型クリーチャーへと変わる。

これこそが、攻撃時に無料で進化できるギミック『侵略』だ。

 

「に、ニンジャストライク!ハヤブサマル!!ハヤブサマルでブロックだ!」

想護が手札からハヤブサマルを呼び出し、自身の身を守らせる。

レッドゾーンの拳によってハヤブサマルは叩き潰され、地面に叩きつけられた。

更に――

 

『ぐぅああああああ!!!』

レッドゾーンの拳が、エニク=アークを貫いた。

 

「くそっ……」

 

「レッドゾーンの侵略時、相手の最もパワーの高いクリーチャーを破壊する」

後の攻撃の要になるハズのエニク=アークを想護は奪われた。

それどころか――

 

「レッドゾーンをアンタップ」

レッドゾーンが再び、自身のエンジンをふかし始める。

進化元となったド・レッドのアンタップ効果がまだ生きているのだ。

 

この時点で、想護の手札にこの状況を覆せる方法は存在しない。

デブラでは処理しきれない。ニンジャももういない。

 

「あっ……」

思い出すのは、先ほど見た中埜の姿。

心の傷がフラッシュバックした友の姿。

次は自分が()()なるのだと理解してしまった。

 

「デュアルショックの攻撃」

デュアルショックで想護の最後の2枚の盾が割られる。

 

「レッドゾーンでトドメ」

 

ぶぅうううううううううううううう!!

 

爆音を響かせバイクが迫る!

レッドゾーンが、その腕を突き出し想護にトドメを刺そうとする!

その時、想護の割られたシールドが形を成す。

 

「シールド・トリガー!『テック団の波壊GO』!」

そのカードを見て、レッドゾーンが機械の目を見開いたように見えた。

 

想護の手に握られたのは、水と闇の力を持つ呪文。

その能力は相手のコスト5以下のカードを全て手札に戻す事。

或いは、相手のコスト6以上のクリーチャーを一体破壊する事だった。

 

レッドゾーンコストは6。

このカードの破壊対象に選ぶ事は可能だった。

だが――

 

「俺はコスト5以下のバウンスを選択する」

 

『!?』

想護のカードから蒼い衝撃波は放たれ、レッドゾーンを通り過ぎる。

そしてレッドゾーンの進化元である『ド・ゼット』とバトルゾーンにいた『コダマンマ』が戻される。

そして、最後にドキンダムXの封印が全て解かれる。

封印はコストの無いカード扱い。

テック団の波壊GOは()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

『……?……??』

バトルゾーンにずっと鎮座していた、ドキンダムXが意図せぬタイミングで目覚める。

禁断が解放された本人自体、何が起きたか分からないようで、周囲を見回す。

 

「お前がブレイクした手札は2枚。

1枚はテック団、もう一つはトリガーじゃない……

トリガーじゃないが……!」

想護がもう一枚の手札を捨てる。

これは、先ほどバイク使いがやったのと同じこと。

 

多色S(レインボー・ストライク)バック発動。

デッドブラッキオをバトルゾーンへ」

シールドに加わるハズのカードが捨てられ、姿を現す新緑のドラゴン。

 

『グルルルルルルル!』

 

『ハァ……アァ!』

デッドブラッキオがドキンダムXに組み付くと、ドキンダムXの体が大地から生えるツタにからめとられ始める。

 

「バトルゾーンに出た時、相手のクリーチャーを一体マナゾーンへ送る。

そして――ドキンダムXの効果」

 

「バトルゾーンを離れた時、敗北する……」

男はその言葉と共に、その場に倒れた。

その後、デュエルゾーンが崩れていく。

 

 

 

 

 

「倒した……だけど、完全に運だった……」

戻って来た路地裏で想護が、息を吐く。

最後の最後まで、想護は完全に負けていた。

冷静さを失い、自身の戦いが出来ていなかった。

 

『そうね、今回は運が良かったわ。

けど、次は無いかもね』

コートニーまでもが、同意する。

 

「あ、あの子は!?」

想護が思い出すのは、派手な服装の少女。

年齢は同じ位だと思うが、日本人離れしていた容姿の為、正確には分かりはしないが……

だが、自身の事を「ニニィ」と呼んでいた気がする。

今はその子の事が気がかりだ。

 

「この先だよな!」

倒れるプレイヤーを横目に、想護はさっきの子が走っていった路地へ足を進める。

狭い中、雑多に置かれた物を避けて進む。

だがその先は――

 

「行き止まり?」

路地の裏の奥は、ビルの壁。

階段も無く、分かれ道も無い。

そして、逃げたハズの彼女の姿も無い。

 

『どっかで、帰ったとか?』

 

「帰れる訳なんて……まさか他の奴が?」

一本道で行き止まり。

そして、姿は無い。

想護の脳裏にイヤな予感が走った。

 

『ンなわけ無いわよ。誰もアタシたちを抜かさなかったし、第一仲間がいたならソイツとで出会うハズでしょ?

追手って線もナシね』

コートニーが冷静に説明する。

 

「じゃ、一番現実的なのは……」

 

『どっか壁でも上って逃げたんでしょ。

物が落ちてるからそれを足場にでもしてね。

はい、問題解決!』

多少強引だが、コートニーが納得させようとしてくる。

想護にはそのコートニーの態度が自身を勇気づけようとしているのだと、理解出来た。

 

「コートニー、ありがとな」

 

『別に、感謝される事なんてして無いわよ。

そんな事より、倒れてるアイツから情報聞きだすわよ』

二人は話しながら、結局元の場所に戻って来た。

まだ仲間がいるのか、何の目的なのか、それを聞くのが確かに一番手っ取り早い気がする。

 

「なぁ、アンタ――」

 

「はぐっ!?ぐぅあ!!!!」

想護が話しかけた瞬間、男が突如として白目を剥く。

そして、自身の体をのたうち回らせた。

 

「い、一体何が!?」

突然の出来事に、想護が慌てる。

そして次の瞬間には――

 

しゅぅううううううう……

 

男の体が溶けて、地面には着ていた服と体の形のシミだけが残った。

 

「な、なんだよコレ……一体何が起きてるんだよ……」

突然の出来事、被害者も加害者も全て消えてしまった。

残されたシミが無ければ、想護は夢でも見たのかもと思ってしまっただろう。

遠くから聞こえる四ッ谷の声を聴きながら、想護は混乱する頭を必死に落ち着かせようとした。

 

 

 

 

 

想護の叫ぶその路地の入口に、コートの男が壁にもたれてその様子を見ていた。

そして、興味をなくしたようにその場を後に歩き出した。

 

人の来ない路地の更に奥へ奥へと、歩を進める。

そしてその姿が影の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

『ホムラ!!ホムラよ!!我に贄を!!

我に人とクリーチャー共の魂を捧げよ!!』

怒号と共に、赤い空間が揺れる。

怒りをまき散らすドルマゲドンの前に、ホムラがこうべを垂れている。

 

「今しばらく、今しばらくお待ちください!

ドルマゲドン様!!」

 

『待てぬ!!我は待てぬのだ!!今すぐ贄を!!贄を!!』

怒りと共に空間の軋みが大きくなる。

ホムラがその揺れでバランスを崩した時に声がかかった。

 

「どうやらずいぶん空腹のご様子ですな」

 

「なんだお前は!?」

ホムラがコートの男に驚く。

この空間はいわばドルマゲドンの作り出した空間。

招待される以外の方法で第三者が侵入する事は不可能なハズだった。

 

『ハクノよ。帰ったか』

ドルマゲドンが一瞬だけ、穏やかに声色を変える。

 

「ご無沙汰しております。この葉久野ただいま戻りました」

掌を斜めにし額に付け、軍隊風の敬礼をして見せる。

 

「なるほど、なるほど。今はこの様な餓鬼を使っているのですね?」

葉久野が品定めでもするように、ホムラの顔を覗き込む。

 

「駄作ですな。我が奴隷兵の一端より少々使えるかどうかですな」

 

「てめぇ!!バカにしてるのか!!」

ホムラが葉久野の声に激高して、殴り掛かる。

だがその拳をあっさりと葉久野は躱し、ホムラの後ろ手に回り込み押さえつけた。

 

「思慮が浅い。実力の差も分からん。無能め」

葉久野がホムラに吐き捨て、手を離す。

 

「その様子では、まだ魂を持つカードも手にしていない様だな」

 

「ああん?んなモンは、この前捨てちまったよ!」

前の交戦の時、捨て駒にしたシャチホコ・カイザーの事を揶揄する。

 

「違う違う。人に性格や相性が有る様に、カードと人にも相性がある。

言い換えれば、魂の持つ『波長』とでもいうべきものだ。

その人間とカードの『波長』が合えば、カードは真の力を見せ、使用者はその力を引き出せる。

それが無い状態を含めて、お前は無能だ」

淡々と事実を突き付け、ホムラを責め立てる。

そして、背後のドルマゲドンに向き直る。

 

「ドルマゲドン様!私の旅の成果をお見せいたしましょう」

仰々しく葉久野が右腕を振り上げ、指を鳴らすと空間に穴が開きぞろぞろと虚ろな目の人間達が入って来た。

 

「っ?」

皆が皆、意思の様な物を感じなく、ただ命令のまま動くその様はホムラには不気味にして異様に見えた。

 

「コイツ等は奴隷兵でございます」

 

「奴隷兵?」

先ほどの会話の中にも聞こえた単語にホムラが反応した。

ホムラの驚いたリアクションを受けて、葉久野が満足気にうなづきポケットから一枚のカードを取り出す。

 

「そう!これこそが我が研究の成果。

偉大なるドルマゲドン様のお力の一端!」

葉久野の取り出したカードは「ドキンダムX」だった。

僅かではあるが、ドルマゲドンと同じ力を宿しているらしい。

 

「そして、コイツ等(奴隷兵)は全員、ドキンダムXの所有者だ」

 

「なに!?」

 

「弱く脆弱な人間の精神を、ドルマゲドン様のお力の掛かった強大なカードで乗っ取る!

敢えて自我を封じ込め自由に使用できる様にした物が、この奴隷兵でございます」

葉久野が指で指示をすると、奴隷兵がほぼ同時に気を付けをした。

 

「皆が皆、命を惜しまぬ使い捨ての兵隊でございます。

陽動、工作、捨て駒、無論()()にもご自由にお使いください」

 

『すばらしい!素晴らしいぞ!!ハクノよ!!』

ドルマゲドンXがその身を震わせ、歓喜する。

 

「さて。貴様の様な数合わせの必要は無くなった。

何処へでも――と言いたいが、ドルマゲドン様が選んだ存在。

まだ、生かしておいてやろう」

葉久野はホムラを挑発するように肩に手を置くと、その場を後にした。

 

 

 

「それに……もしかしたら、アイツはコイツ等の器に成れる可能性がある」

そう言った葉久野が懐から取り出すのは、無色の大型クリーチャーたちだった。

いずれもゼニスと呼ばれた強力なるカード達。

 

「くくく、我がコレクション達。

お前らに会う器はしっかりと見つけてやるからな」

そのカードたちを懐に仕舞い、葉久野が不気味に微笑んだ。

 

「そして――目的はもう一つ……」

葉久野が懐から一枚の写真を取り出す。

赤と青のオッドアイに、金の髪。

派手な服装と、日本人離れした容姿は嫌でも目を引く。

 

「お前も捕まえてやるぞ……サンジェルマンの孫め」

葉久野は歪な笑みを浮かべた。

 

 

 

「ラン、ららん、らら、らんら……」

ニニィが病院内をスキップして進む。

多くの医者や患者がいるが、誰一人として彼女を咎める者は無い。

視界に入ろうとも、誰も反応しない。

まるで、幽霊か透明人間かの様に、スキップをして歩いていく。

そしてその歩みは、一つの病室の前で止まる。

 

「アハッ!み~つけた」

ニニィはカードを手にその病室へ入っていった。




最近キャラクターが増えてきました。
少数でストーリー回せる人って、本当にすごいと思う今日この頃……


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輝きの星

今回は、少し長くなりました。
2話に分けようと思いましたが、良い切り時が見つからなかった……
作者にはあるあるネタかもしれませんね。


「なるほど、これが……」

デュエルフィールドの真ん中で、四ッ谷がずれた眼鏡を直す。

全てのシールドを割られ、相手のバトルゾーンには攻撃可能なクリーチャーが残っている。

 

「ドキ……ンダム……Xで……攻撃……」

虚ろな目をした男の指示で、ドキンダムXがその手に持った槍を構える。

投げられた槍は空中で無数に分離し、対峙する四ッ谷へと向けられる。

四ッ谷は自身の身を守るシールド全てを失い、またブロッカーたちも封印されてしまっている、つまり四ッ谷はその身を守る手段を持っていない。

 

「ニンジャ・ストライク4!ハヤブサマル」

四ッ谷の手札から現れたのは、体に刃を持つ黄色いクリーチャー。

そしてその小さな体でドキンダムXの攻撃を受け止めた。

 

「ハヤブサマルでブロックだ」

 

「ぎ……ターン……終了……」

 

「そして私のターン。ドロー……呪文『ドラゴンズサイン』を詠唱。

手札のサッヴァークを出し、その能力でドキンダムXをシールドに送りつける。

ドキンダムの特殊敗北効果で私の勝利だ」

四ッ谷の勝利が決定した瞬間、対戦相手の男が崩れ落ちる。

 

 

 

「なるほど、『黒札 想護』の情報の通りだ」

人型のシミを残し消えた対戦相手を見る。

 

「四ッ谷さん!!」

対戦を見ていた雪菜が走ってくる。

 

「雪菜か……このパターンはもう何件目かな?」

 

「記録に有る限りで6件目です」

雪菜がメモ帳を取り出し確認する。

想護が初めて葉久野の作り出した奴隷兵と戦って以来早2週間。

だんだんと奴隷兵たちの数は増加してきている様だった。

 

「『ドキンダムX』……ドルマゲドンの配下のクリーチャーか……

おそらくドルマゲドンが大きく動き出したのだろうな。

やはり『彼』に戦線復帰してもらうしかない」

 

「四ッ谷さんそれは――」

雪菜が何かを言おうとして口をつぐんだ。

 

「切札は早いうちに使うべきだ。彼の実力は群を抜いている。

そして、彼の持つ能力もまた、この状況を変える事が出来るハズだ。」

決心した四ッ谷の顔を見て、雪菜は何もいう事が出来なくなってしまった。

 

 

 

 

 

病室のドアを想護が開ける

今日も今日とて、友人の中埜の見舞いだ。

 

「おーい、中……あれ?」

だが病室の中はすっかり空だ。

 

「トイレ……でも行ったか?」

意識不明から回復し、検査も終わりそろそろ学校に復帰という時期。

必要な物を買い求めに出かけている可能性も否定できない。

 

「お、想護。また来てくれたのか?」

 

「中埜!その人は?」

声を掛けられた中埜の後ろには、高校くらいの男子がいた。

スケッチブックを片手に少年が笑みを作り頭を下げる。

想護や中埜とほぼ同い年だろう。

 

一輝(イツキ)、コイツが5色使いの想護だぞ」

 

「おー!マナ武装の人!」

一輝と呼ばれた少年が想護を指さす。

その動きはまるで小さな少年の様だった。

 

『ち、うるさいガキね』

 

「あー、ガキって言ったー!」

一輝がコートニーを指さした。

 

「な、君……」

驚く想護を前に再度一輝が笑った。

 

「はじめまして。僕はD-シーカーズの『如月 一輝』です」

想護は意外な人物から発される言葉に、眼を白黒させるばかりだった。

 

 

 

 

 

病院の敷地内にある娯楽室で、一輝がジュースを飲み干す。

「そっか、君が前に四ッ谷さんの言ってたもう一人の仲間なんですね」

 

「はーい、僕は雪菜ちゃんの次に仲間になったんです、よっと!!」

一輝がジュースの空き缶をゴミ箱に投げ捨てる。

想護がここに来た理由。それは中埜の警護の為だった。

活発化するドルマゲドンの動き、ドルマゲドンに接触した数少ない人間の生き残りとして何者かが中埜の口封じをしに来る可能性を懸念して、想護はここにやってきているのだった。

そしてそれと同時に、四ッ谷からもう一人の仲間が合流する事も伝えられていた。

一輝は先に病室へ行き、そこで中埜と意気投合したらしい。

 

「ねぇ、君は一体どういう風に仲間になったの?だって――」

想護が言いかけた言葉を飲み込んだ。

 

『場合によっては死ぬかもしれない』

 

そんな残酷な真実を、四ッ谷は彼に教えない訳がない。彼もまた、重く苦しい理由を抱えているのかもしれない。

そんな疑問が想護の中に渦巻いた。

 

「その子が四ッ谷さんの言ってた相棒だね?」

 

「ん、ああ……コートニーだよ」

 

『んで?あんたの相棒は?』

想護の後ろにコートニーが姿を見せる。

 

「僕の相棒はこの子たちみんなさ!」

 

「みんな?」

想護の疑問に答える様に、一輝がデッキを取り出す、すると――

 

『ぱっぱらぱー!ぱーぱーぱー!』

 

『ゲラゲラげらっちょ!』

 

『ご紹介いたしまーす』

 

『はじめましてよの~』

複数のカード達が次から次へと魂を持って姿を現した。

 

「な、これみんな……!」

視界を埋め尽くさんばかりのジョーカーズクリーチャーたちに想護が目を白黒させる。

 

「僕のスケッチブックは少し変わってるんだよ」

一輝が自身の脇に抱えるスケッチブックを見せる。

そこにはたくさんのジョーカーズのクリーチャーが書かれていた。

 

「このスケッチブックに掛かれたジョーカーズたちはみんな魂を持つカードとして、僕の手元にやって来てくれてるんです」

 

「そんなバカな!?」

思わず出た言葉に、想護が自身の口をふさぐ。

 

(書いたクリーチャーたちが本物になるって事……じゃないよな?)

 

『前にあのディアボロスが言ってたわね。

魂を持つクリーチャーを呼び出す灯台の様な役目をする男』

 

「たしか……サンジェルマンだっけ?」

 

「その通り!そして、このスケッチブックはそのサンジェルマンみたいに、クリーチャーを呼ぶ道しるべなんだ!」

納得したと共に、想護はこの少年の存在をなぜ四ッ谷が秘密にしているか分かった。

彼はジョーカーズ限定とは言え、自由に魂をもつカードを呼び出す力を持っているのだ。

それだけじゃない。彼は無数のカードを抱えながらも、雪菜の様に取り込まれず全てと共存しているのだ。

彼は正に四ッ谷の用意した切札と言えるのだろう。

 

「今、大きな事件が動き出してるんでしょ?」

 

「ああ……結構大きな規模で、ね」

想護の言葉を受けて、一輝がスケッチブックを握る手に力を籠める。

 

「けど安心してよ僕と僕のジョーカーズがみんなを守って見せるからね!

あ、そうだもう一つ言っておきたい事が、このスケッチブックはサンジェルマンっておじいさんじゃなくて――――」

一輝が何かを言おうとした瞬間、病院が闇に包まれた。

そして、想護と一輝の両人がほぼ同時に全身に凄まじいプレッシャーを感じた。

 

 

 

「ここか?例のヤツが目撃されたのは?」

病室の入口で、大柄な男が虚ろな目をした男に話しかける。

 

「…………」

虚ろな目――奴隷兵は小さくうなづいた。

 

「ようやく追い詰めたか。さぁ、狩りの始まりだ」

葉久野が一枚のカードを掲げる。

 

ブッツン!

 

小さな異音を立てて、病院の電源が切れる。

 

「なんだ、停電!?」

 

『違うわ、ここ……デュエルフィールドよ』

何かを察したコートニーが口を開いた。

その事実を示すかのように、コートニーが実体化して見せる。

病院の中の、僅かな喧噪までも消えてあたりはシンとしている。

 

「敵が攻めて来たって、事ですよね?

みんな!準備を!!」

 

『『『『『おー!』』』』』

一輝の言葉に、スケッチブックの中のジョーカーズたちが一様に声を上げる。

どうやら戦闘準備はばっちりの様だった。

 

「けど、なんでここに――」

想護が考えるよりも先に、一輝は走り出していた。

 

「そんなの後々!敵さんがこっちに来たんなら、向かうのみさ!

けど、想護さんはさっきの中埜さんの警護をお願いします。

他の奴らは僕が退治しておくからさ!」

気が付けば一輝は既に先に進んでいた。

 

「嵐の様な人だな……」

 

『けど、アイツ。強いわよ』

コートニーが珍しく掛け値なしで称賛の言葉を口にした。

 

「俺は中埜のトコへ行かないと!」

想護は人気のなくなった廊下を走り、友人の元へ向かった。

 

 

 

 

 

「よっし!トドメぇ!」

一輝が6人目の奴隷兵を倒し病院内をかける。

皆が皆、出会った瞬間に勝負を仕掛けてくる。

だが、一輝の実力には皆遠く及ばない。

なぜなら――

 

「ほぉ……如月 一輝か。

神独第一高校2年の特別進学クラス在席。幼少期より高い頭脳と芸術性により多くのコンクールを総なめ。

今年の風景画コンクールでは4作品出品中その全てが、別部門で金賞を受賞。

尚且つ、将棋連盟より今若くして最もプロに近い棋士として注目されている人材。

現在高校2年時で国立大学や、海外の芸術系大学からの推薦が多数寄せられている。

どれもこれも、輝かしい歴史ばかりだな。

まさかここで目に出来るとはな?」

 

「アンタだれ?」

病院のエントランスで、待合室の椅子に足を組んで葉久野が座っていた。

一輝を見て凶悪に笑みを作った。

 

「なに、俺の可愛い奴隷兵を作るにも材料が必要でな?

せっかく材料にするなら、優秀な方が良いだろ?

幾らか目星はついていたが……お前は特に欲しかった材料だ」

 

「へぇ。悪いけど僕は興味の無い事はやらない主義なんだよね!」

二人が同時に、デッキを取り出した。

 

 

ダゴォン!!

 

 

「なんだ!?」

鈍い音がして、病院が揺れる。

想護がバランスを崩し、音のした外を見る。

 

「あれは――!」

病院の中庭で、一輝と見た事もない男が戦っていた。

 

 

 

 

「呪文!『ジョジョ・ジョーカーズ』を詠唱!

デッキから4枚を確認して、その中のジョーカーズクリーチャーを一体手札に。

僕は『ヤッタレマン』を手札に加えるよ」

 

『ファーファー!!』

手札に加えられた『ヤッタレマン』応援をする。

 

「なるほど。それが貴様の相棒か?

いや、違うな。この感じは?そうか!

お前はデッキ全部が魂を持つカードか!」

 

「一人でなに勝手に納得してるんだよ?

ま、あたりなんだけどさ?」

一輝がターンの終了を宣言する。

 

一輝 手札5 マナ1 盾5

 

「俺は手札から呪文『ピクシー・ライフ』を詠唱」

葉久野のマナが一枚増える。

先手を取っていた葉久野はこれで3マナとなった。

 

葉久野 手札3 マナ3 盾5

 

「マナのカードは、『永遠のリュウセイカイザー』に『イージス・ブースト』……大型ドラゴンデッキの予感。

なら、望は早期決着!

僕は手札から『タイク・タイソンズ』を召喚!」

 

『いえぇーい!』

バトルゾーンに出るのは、顔面の数字の掛かれた体操服の5人組。

5人で扇を作り、場を盛り上げる。

 

「僕はターン終了だ」

 

一輝 手札4 マナ2 盾5

 

「ドロー。呪文詠唱『白米男しゃく』山札の一枚上をマナゾーンへ。

回収は無しだな。ターン終了を宣言する」

 

葉久野 手札2 マナ5 盾5

 

「今はお互いがお互いに、準備段階か……

けど、このターンが終われば、ジョーカーズたちは一気に動くハズだ」

想護の予想は、当たっていた。

 

 

 

「僕のジョーカーズたちを見せてやろうぜ!

ドロー!マナをチャージして、『メイプル超もみ人』を召喚。マナをチャージ。

そして、『タイク』で攻撃!その時、ジョーカーズチェンジを発動!

タイクをマナゾーンへ置いて、代わりにマナゾーンから『天体かんそ君』へチェンジ!

タイクの能力で山札の一枚目をマナゾーンへ!

そしてかんそ君の能力!デッキの上3枚を見て、一枚をマナ、一枚をデッキの下、最後の一枚をデッキの上に戻す」

 

「トリガーは無しだ。受けるぞ」

何もせず、葉久野の盾が一枚割られる。

 

「僕はターン終了だ」

 

一輝 手札3 マナ6 盾5

 

「すごい!攻撃しながら一気に2マナも増やした!さっきのを含めると一気に4チャージだ

チャージならあっちのデッキにも負けてない!」

想護が一気に逆転したマナ数をみて、声を荒げる。

 

 

 

「マナを整えたか。ならば切札も手に入れた頃だろう。

なら、コイツの出番だな。

俺は『ドルツヴァイ・アステリオス』を召喚」

 

「行け。マッハファイター。

『天体かんそ君』を破壊だ」

バトルゾーンに現れた甲虫を思わせる、クリーチャーが一瞬で姿を消す。

そして、一瞬遅れて『天体かんそ君』を背後から、その角で刺し貫いた。

 

『ぐぁ……』

かんそ君のレンズが割れ、本体がガラス片をまき散らして爆発した。

 

「能力発動。ドルツヴァイがバトルに勝利した時、俺のマナを倍に増やす」

葉久野のデッキから6枚のマナが浮かび、一気に12マナまで加速した。

 

「さて、準備は整った。楽しめ。お前のラストターンだ」

 

葉久野 手札1 マナ12 盾4

 

 

「ラストターン……だって?

終わらせない。終わらせはしないさ!

僕だってD-シーカーズの一人。

クリーチャーと人が共存出来るって事を証明する為にいる!!

お前の様な、クリーチャーを人を悲しませる道具にする奴なんかに、絶対に負けない!!ドロー!」

 

「さっきのターン、デッキの一番上に何か仕込んでた。何が来るんだ!?」

想護が固唾を飲んでみる。

その時、一輝を包む様に風が吹いた。

 

「まずはヤッタレマンを召喚!そして軽減を含めて6マナ発生!!吹き荒れろ風!!うなれ大地!!

目の前の敵を全て打ち抜け!!召喚!!『ジョリー・ザ・ジョニー』!!」

風はやがて砂嵐に、そして何処かから蹄の音が響いてくる。

 

『はいよぉ!!シルバー!!待たせたな!!』

姿を現すのは機械の体の赤い帽子をかぶった、ガンマン。

銃の様な馬に跨り、2丁の拳銃を構える。

 

「いっけぇ!『メイプル超もみ人』!奴の盾を奪うんだ!」

 

『あ、ひーら、ひら!』

揺れながら、もみ人が葉久野の盾を一枚破壊する。

 

「トリガーは無い」

 

「ジョニーで攻撃!その時、手札のアタックチャンス呪文『ナッシング・ゼロ』を発動!――盾のブレイク数を2増やす!」

無色クリーチャーの攻撃時に使える呪文『ナッシング・ゼロ』が放たれる。

このカードは山札の上から3枚を見て、ゼロ文明の数だけクリーチャーのブレイク枚数を増やす。

更に――

 

「ジョニーがシールドをブレイクした後、相手にクリーチャーと盾が残っていなければ、僕はゲームに勝利する」

 

『俺たちにの前に立ったことを後悔させてやるぜ!』

ジョニーの拳銃の弾が、3枚ある葉久野の盾を全て割る。

そして、その攻撃は曲がりドルツヴァイの眉間を打ち抜いた。

 

「これで、終わりだ!!」

再度曲がってきた銃弾が葉久野を狙う。

 

キィン!

 

葉久野に命中する瞬間、6枚目のシールドが現れ葉久野を守った。

「シールド・トリガー。『ライブラ・シールド』お互いに盾を一枚増やす呪文だ。

攻撃の終わりに盾が一枚、残ってる。

つまり、能力は不発だ」

 

「くっ、だが、まだこっちには盾が6枚……

次のターンで……」

 

 

「ああっ、倒しそこなった!

けど、以前有利は変わらないハズ。

そう、相手の寿命が1ターン伸びただけだ……」

想護は自身に言い聞かせるように、つぶやいた。

 

「無駄だこのカード一枚。たったこのカード一枚でお前に地獄を見せてやろう」

葉久野が手札のカードをマナに置く。

1つ、2つ、3つとマナがタップされていく。

そしてその数は8つを超え9つを過ぎそして10枚目のマナをタップし、最後にたった今置いた11枚目のマナがタップされた。

 

「11マナ使用!膨大なる大地の力を吸い上げ、強大なるその力を見せつけろ!!

開け!禁忌(ゼニス)の扉!!俺に『勝利』を差し出せ!!

召喚!『「必勝」の頂 カイザー「刃鬼」』!」

葉久野が一枚のカードをバトルゾーンにだす。

その瞬間、圧倒的なプレッシャーが想護を襲う。

 

『ギュァアオオオオオオ!!!』

白い体に黄金の爪、手に持った大剣を振りかざし咆哮を上げる。

 

パリン!ピシっ!パキン!

 

「うわっ!?」

クリーチャーの声に反応してガラスが割れる。

想護はとっさに体をかばう。

 

「刃鬼の能力発動。お前のシールドの数だけ、つまり6回ガチンコ・ジャッジだ」

 

「不味い、このデッキは――」

一輝の表情が一瞬曇る。

ジョーカーズデッキは相手と比べて明らかにクリーチャーの全体のコストが低い。

つまりガチンコ・ジャッジの勝率は限りなく低くなってしまう。

 

「裁け!ガチンコ・ジャッジ!」

刃鬼が手をかざすと、一輝と葉久野のデッキから5枚ずつめくれた。

 

「……くそう」

 

「俺は4勝。刃鬼の効果でその数の分だけ手札、マナ、墓地から種族『ハンター』を持つクリーチャーを踏み倒す。

一体目『永遠のリュウセイ・カイザー』

二体目『閃光のメテオライト・リュウセイ』

三体目『勝利宣言(ビクトリー・ラッシュ)鬼丸「(ヘッド)」』

四体目『不敗のダイハード・リュウセイ』」

刃鬼の咆哮により呼び出された狩人(ハンター)の種族を持つ4体のクリーチャーたち。

皆が皆、絶大な能力を持つ者ばかりだ。

 

「さて――狩るか」

最初に飛び出したのはメテオライトだった。

手にもった光を纏った剣を振るかざすと、一輝のジョーカーズたちに向かって振り下ろした。

全てのジョーカーズたちが、その剣の光を浴びて倒れる。

 

「メテオライトの登場時能力。相手のクリーチャーを全てタップする」

 

「みんな!?大丈夫か!!」

一輝が倒れる仲間を心配する。

 

「仲間などに頼るからこうなるのだ。

小さく、弱く、矮小で、無意味で、ちり芥に過ぎない仲間にな」

葉久野が手を振り下ろし、指示を出す。

その瞬間、(ヘッド)が空を舞う。

 

「仲間などと繋がる必要はない。

たった一人の強者と、それに従う搾取される者。

それだけが有ればいい」

 

『ふぁぁ!?ふぁぁああああ!!!』

その落下地点はリュウセイの能力により、無防備な姿をさらす一輝のヤッタレマン。

 

ドぐぅあーん!

 

土埃が舞い、(ヘッド)がヤッタレマンを踏みつけた。

 

『たす……け……て……』

下半身を踏みつけられたヤッタレマンが手を一輝に伸ばす。

 

「ああ、ヤッタレマン!!」

 

「殺れ」

冷酷な葉久野の指示の元、ヤッタレマンが(ヘッド)巨体により地面に踏みにじられた。

 

『ふぁぁあああああ!!!!』

断末魔を残して、ヤッタレマンが墓地へ送られた。

 

『グルルルぁ!!』

攻撃時の効果で、ダイハードが一輝の盾を一枚焼き捨てる。

だが悪夢は終わらない。

 

「ガチンコ・ジャッジだ」

 

「う、くぅ……」

両者のデッキがめくられる。

だが、先ほども言ったようにデッキ構築上その結果は火を見るより明らかだ。

 

「勝利だ。『(ヘッド)』の能力によりエクストラターン確定そして――」

葉久野のクリーチャーはリュウセイのおかげで皆、このターンに攻撃が可能となっている。

トリガーさえ恐れなければ、勝利してもおかしくはない。

だが――

 

「俺はターンを終了だ」

 

「え?」

葉久野の言葉に一輝が声を上げる。

 

『アイツ!!』

その態度にコートニーが怒りをあらわにする。

コートニーはこの時、葉久野が何をしようとしているのかを理解していた。

 

 

 

(ヘッド)で『メイプル超』もみ人を攻撃」

 

『ぐるるるるるるる!!!』

 

『いやだぁー!!たすけ――ごっぶ!?』

野太い爪がもみ人を突き刺す。

一輝の方へ投げ捨てられた屍が、一瞬だけ手を伸ばして消える。

 

「あ、ああ……」

再度(ヘッド)の能力が発動して、さらなるエクストラターンが確定する。

 

「攻撃、ジャッジ、勝利、追加ターン。

攻撃、ジャッジ、勝利、追加ターン」

葉久野は決して、一輝を攻めはしなかった。

ただ延々と勝てるジャッジを繰り返し、まるで見せしめの様に一輝のジョーカーズたちを破壊していった。

 

『あ、あいぼう……お前はあきらめるんじゃ――ぐぅあああああ!!!!』

最後にジョニーの頭が、(ヘッド)に握りつぶされる。

 

 

「みんなが……」

一輝は何も出来ずに、目の前でジョーカーズたちがなぶり殺しにされるのを見ているだけだった。

 

「ターンを返してやる。クリーチャーをだせ」

 

「え……?」

 

「次の一発でお前は確実に死ぬ。

だが、クリーチャーを召喚する限り先にそっちを破壊してやる。

少なくともデッキのクリーチャーを全て犠牲にする限り生き残ることが出来る」

葉久野のバトルゾーンにはリュウセイカイザーが居る。

どんなクリーチャーを出そうにもタップされて出てしまう。

そうなれば、次はそのクリーチャーが破壊される事に成る。

 

「あ、あう……」

一輝が震える。

目の前に明確な形を持った『死』がその身を狙っている。

だが、自身のクリーチャーを見捨てれば、ほんの少しだけ生きながらえる事が出来る。

一輝が手札のクリーチャーに手をかける。

そして――

 

「そうか、それがお前の答えか」

一輝何もせずに、ターンを終わらせた。

そして、デッキをかばう様にその前に立ちふさがった。

 

「俺は、仲間を売らない!」

 

「潰せ」

葉久野が刃鬼に冷酷な命令を下した。

忠実なるドラゴンは、その言葉に何の疑問も持たずに飛び上がった。

 

「一輝君!!」

想護の声が聞こえたのか、一輝が一瞬だけ想護の方を見る。

そして――

 

ザッシュ!!

 

刃鬼の爪が地面毎一輝を巻き上げた。

一輝の体が宙を舞い、重力に従い地面に倒れた。

 

「か、一輝君!!」

想護は居ても立っても居られなず、病院の玄関に向かって走り出した。

 

 

 

「う、あう……」

辛うじて一輝には意識があった。

自身の目の前に、愛用しているスケッチブックが落ちていた。

 

「ああ、汚れちゃ……う……拾わな……きゃ」

他に気にする事が有るのだろうが、そのどんなことよりも一輝にはスケッチブックが大切だった。

体を引きずり、手を伸ばす。

 

「みんな……無事……か……」

 

「ふん」

 

グシャ!

 

一輝の目の前で、何物かがスケッチブックを踏みつける。

 

「か、は!?」

視線を上げた先には葉久野が立っていた。

 

「俺たちの計画にイレギュラーが有ってはならない。

だから、消えて貰おうか」

葉久野がポケットからライターを取り出し、スケッチブックに投げつける。

小さな炎は一瞬にして燃え広がった。

 

「あ、あ、俺の……俺の、仲間が!!みんなとの繋がりが!!」

 

「無様無様。天才とは言え所詮こんな物か」

燃え行くスケッチブックがその隙間から一枚のカードをこぼした。

それは消えゆく扉が最後に残した一輝へのメッセージに思えた。

だが――

 

「ほう、使えるカードだ。貰っておくぞ」

そのカードすら葉久野は奪っていく。

 

「アイツ!!どこまでやれば気が済むんだ!!」

その姿を、玄関についた想護が見ていた。

一切の躊躇もなく、非道な行いをするこの男に想護はうすら寒い物を感じた。

まるで、前に戦ったドキンダムの使い手の様なただひたすらに冷酷な行い。

本当に人間なのか?とすら思った。

 

「さてと、思わぬ収穫が有ったな。だが、まだ目的は達成していない。

出てこい!!ここにいるのは分かってる!!

俺は貴様を捕獲しに来た!!」

葉久野の言葉が響く。

 

「出てこい……?

俺の事か?それとも中埜か?」

想護の中で焦りが募っていく。

倒された一輝、病室にいるであろう中埜、そして目の前の強大な敵。

 

「……やるしかない、俺がやるしか――」

想護が走り出そうとした瞬間。

 

ステイ(待って)ステーイ(待って)。あの人の目的はキミじゃないよ~」

想護の肩に置かれた手。

そのその先には――

 

「君は、確か……」

 

「ん~?おー!この前のキミか!

偶然だねぇ?それともニニィに会いたくてストーキングでもしてた?」

赤と青のオッドアイに、金色の髪に左右で色も長さも違うロングの靴下。

微妙に外国係った口調に、その派手な恰好。

想護には見覚えがあった。

 

「ニニィ……?」

ニニィが悠然と、葉久野へ向かい歩いていく。

絶望へ向かうがその足取りは酷く軽やかで。

葉久野が凶悪な笑みを浮かべるが、周囲を奴隷兵が囲もうが一切の躊躇もない。

まるで散歩にでも出た様な足取りで、葉久野の前に歩み出る。

 

「へい、ユー!気に入らないから潰しても良いよね?」

 

「やってみろ!サンジェルマンの孫娘!!」

二人が同時にデッキを構える。

 

「ニニィが、サンジェルマンの孫娘……?」

想護はたった今聞いた言葉を、理解できずに立ち尽くしていた。




実力さが有ると、最後みたいになりません?
小学生くらいのプレイヤーと戦う時、『いい勝負』に持ち込むのって、難しいですよね。
まぁ、偶に強い子に当たって、普通にやられるんですけども……


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黒の力

さてさて、今回の事件は?


「さぁ、前座は終わりだ。今回の真の目的を果たす」

 

「ニニィを倒せる積りかな~?」

刃鬼の攻撃に寄って、酷く荒れた病院の中庭。

そこの対峙するのはニニィと葉久野の2名の姿。

 

「さぁて、どうかな――!?」

 

「あれぇ~?」

二人が何かを察した瞬間、中庭にヒビが走った。

より正確に言うならば、ヒビの形に空間が裂けた。というべきかもしれない。

 

「ちぃ、時間切れか。やはりこれだけの空間を固定するのは無理があったか……」

半場予測していたと言った面持ちで、葉久野が小さく舌打ちした。

 

「あっちゃ~、なんだか不完全燃焼だねぇ」

二人が同時に背を向けると空間は完全に砕け散って消え去った。

その次の一瞬には、向き合っていた二人は影も形も無かった。

 

 

 

「戻って……きた?」

一瞬にして戻る雑踏。

現れる患者や看護師たち、想護はその音で自身が現実へと戻って来たのだとようやく理解した。

 

「一輝君?一輝君はどうしたんだ!?」

次々起こる自体に、想護は倒れたハズの友人を探しに走った。

 

『想護!アレ!』

コートニーが指さす先、一輝が倒れていた。

 

「一輝君!一輝君!!」

想護は必死になって、意識を失った一輝に語り掛けた。

 

 

 

 

 

図書館の地下、D-シーカーズのリーダー四ッ谷が想護の話を聞いて目を瞑る。

 

「そうか……一輝がか……」

話の内容は、ついさっき在った惨状について。

 

「俺の目の前で……一輝君が……」

 

「仕方ないさ。デュエルは1VS1のゲーム。

一度始まれば、外からの介入は不可能だ」

それ以上は何も言わせない。

四ッ谷の強い意思が感じられた。

 

「雪菜。すまないが、レコードをかけてくれないか?13番だ」

 

「分かりました四ッ谷さん」

横で黙って話を聞いていた、雪菜が部屋の隅にあるレコードを再生させた。

何処か、重く暗い音が鳴る。

 

「さて、今ここにいる君たちを私を含めた3人がD-シーカーズの戦力だ。

以前より言っているが、今再び言おう。

君たちに戦う義務はない。戦いで称賛される事もない。

私は止めはしない。見なかった振りをしても私は――」

 

「ふざけるんじゃない!!」

想護の怒声が響き、テーブルを叩いた。

 

「俺は友達の中埜を傷つけられた……

あったばかりだけど、一輝君も良い奴だった。

何より、俺の大好きなゲームを使って人を悲しませるのが一番許せない!

なんでだ、なんで普通に楽しめないんだよ!

こんなのかわいそうだ、カードも、プレイヤーもそんなの望んでないハズなのに!」

温厚な想護には珍しい、怒りに満ちた声だ。

 

「そうか……だが、綺麗事で済むなら、我々に出番はない――次はこちらも攻勢に出る。

奴らの目的がサンジェルマンの孫娘と分かった今、その先の更なる目標も見えてくるハズだ。

奴に聴いてみるか……」

 

「四ッ谷さん、まさか……」

雪菜が何かを察した。

 

「仕方あるまい、蛇の道は蛇だ」

苦虫をかみつぶした顔で四ッ谷が、厳重に封印された扉の鍵を手にする。

 

 

 

 

 

『くっくっく、揃いも揃って私に何か用か?』

D-シーカーズのアジトの最も深い場所に封印されているカード。

『ディアボロス』が声を上げる。

いつ聞いても、その声には怪しい魅力があふれている。

 

「サンジェルマンの孫娘が現れた。

ドルマゲドン一派は何を狙っているか、分かるか?」

 

『なにっ?』

四ッ谷の言葉にディアボロスが僅かに動揺した。

 

『なるほど、なるほど……サンジェルマン以外にも、こっちに来ている奴が居たのか。

そしてドルマゲドンの奴はソイツを狙う……

この世界に来ている次点で、プレイヤーとしても能力は文句のないレベルだろうな。

是非とも、我が使用者として欲――』

 

「無駄口を叩くな!!」

四ッ谷がディアボロスを封印しているガラスケースを殴る。

何時もこうだ。四ッ谷はディアボロスに対して異様な敵愾心を見せる。

 

『くっくっく……ま、それもこうして封印されている我には関係の無い話だ。

さて、話しが逸れたな。

おそらく、奴らの目的はカードだ。魂を持ったカード』

 

「新しい仲間を呼ぼうとしているのか」

四ッ谷が目を細める。

 

『半分は正解だ。だが、もう半分は違う。

この世界とクリーチャーの住まう世界を繋げるカード、二つの世界の理を破壊するカード……

ああ、そうだ。そうだったなぁ。あの頃から、ドルマゲドンは【あのカード】を欲しがっていな物なぁ』

 

「何のカードだ」

 

『知りたいか?知りたいよなぁ?我が教えれば、お前たちは血眼になってそのサンジェルマンの孫娘とやらを探すものなぁ?』

口の中で飴を溶かす様に、猫が獲物を嬲るようにもったいぶってディアボロスは、そのカードの名を告げた。

 

『呪文【オール・デリート】だ。奴は、おそらくそのカードを狙っている。』

 

「『オール・デリート』……?」

想護がディアボロスの言葉を口内で再生させる。

そうだ、言われてみれば分かる。

ドルマゲドンの使う配下のドキンダムと最も相性の良いカードだ。

だが――

 

「魂を持つ呪文などあるのか?」

四ッ谷がディアボロスに尋ねる。

 

『「魂を持つ」と言えば、確かに間違いだ。だが――

【念】が籠れば別だ』

 

「『念』だと?また、訳の分からない事を……」

 

『呪文とはいわば一度きりの使いきりの装置。

だが、何度も何度も強い思いを込めた呪文は、魂を持ったカードが現実で力を持つように、呪文も現実での力を持つのだよ』

 

「クリーチャーの様に力を持つ呪文……それも【オール・デリート】が!?」

想護は考えうる最悪の状況を理解して、立ち上がった。

 

手札、盾、場、墓地。ありとあらゆる物を消しさる最悪の呪文。

それが『オール・デリート』だ。それを逃れられる唯一の例外は封印されているドルマゲドン達だけ。

もし、もしも使われれば――

その呪文は、この世界を無に帰してしまう可能性が十分にある。

 

『サンジェルマンの孫娘とやらが、絶対に持っているとは言えんが、可能性は十分にある。

その証拠に、ドルマゲドンは今、血眼になって探しているハズだからな』

そこまで聞くと、四ッ谷は静かに立ち上がった。

 

「四ッ谷さん?」

想護が背中に言葉を投げる。

 

「当面の目標は決まった様だな。

黒札、雪菜聞いてくれ。

私達D-シーカーズの目標は魂を持つカード【オール・デリート】の確保と封印だ!

その為の重要参考人物として、サンジェルマンの孫娘との接触を試みる。

各自、情報を共有して事に当たれ!【オール・デリート】さえ手に出来れば、状況は一気にこちらに傾く!」

四ッ谷が二人に言い聞かせる。

 

「黒札。今、もっとも正確な情報を持っているのはお前だ。

サンジェルマンの孫娘の似顔絵を作りたい。

少し、手伝ってもらうぞ?」

四ッ谷が鉛筆と画用紙を差し出してくる。

 

「え、絵ですか?」

 

『最初に言っておいてあげる。想護の画力は幼稚園児未満よ』

冷や汗を流す想護を補足する様に、コートニーが口を開く。

 

「チッ、使えませんね」

 

「面目ない……」

雪菜の舌打ちを聞いて、想護が申し訳なさそうにうなだれた。

 

 

 

 

 

ドルマゲドンの鎮座する異空間。

その空間が今、びりびりと肌を刺す様に震えていた。

 

(こいつは、ヤベェ事に成ったな)

瓦礫の端でホムラがドルマゲドンの様子を見る。

ドルマゲドンの前には、白い軍服の大男――葉久野が跪いている。

 

『ハクノよ、ハクノよ!!貴様!!サンジェルマンの孫娘を見つけておきながら、逃がすとは何事だ!!』

異空間にて、ドルマゲドンが怒号を上げる。

その怒りに空間そのものが震え、周囲に浮いているドキンダムたちも一様に槍を振り上げ威嚇する。

 

「申し訳ありませんドルマゲドン様……

しかし、邪魔者を一人始末し、凡その潜伏場所のめぼしを付けました。

すぐさま、私の作り出した特別な奴隷兵を向かわせました。

今なら、逃げ切る前に、捕獲が可能なハズです……」

 

『急げ!急ぐのだ!!我は二つの世界を壊し!!

そこに王として君臨するのだ!!我に、我に理を壊すカードを!!

【オール・デリート】のカードを差し出すのだぁあ!!!』

グラグラと空間が揺れる。

 

「は、ははぁ!ただいま、ただいまご用意いたします!

現在チューニングを済ませた奴隷兵を病院に向かわせました。

魂を持ったカードを追いかけさせております、何卒、何卒もうしばらくの我慢を……!」

 

『待てぬ!我は待てぬぞ!!急ぐのだ、急ぐのだハクノよ!!』

ドルマゲドンの叫び声と共に、葉久野はその空間からはじき出された。

 

「ぐぅ!?」

はじき出された衝撃で、葉久野が廃墟の床を転がる。

 

「よぉ、ずいぶんお疲れじゃないか?」

倒れて視線の先、ホムラが葉久野を見下ろしていた。

 

「ずっと隠れて見ていたな?ふん、まぁいい。

今回も作戦は問題なく進行中だ。

貴様は、適当なデュエリストでも狩ってドルマゲドン様の餌にするが良い。

何もしないよりはマシだ」

 

「ち……その上から目線、気に食わねーな?」

 

「なんだ、お前は噛みついて良い相手かどうかも理解出来ないのか?

少し、教育が必要な様だな?」

葉久野、ホムラ両名がデッキを構える。

 

 

 

 

 

「ぶー!また負けたぁ~!

ぐや”じ~」

カードを放りだして、実紅がソファに倒れ掛かる。

狭い部室には不似合いな部長専用ソファーで、実紅が機嫌を悪くする。

ぽいぽいと、上履きと靴下を脱ぎ捨てソファーで丸くなる。

 

「部長サン、そんな短気を起こしてはなりませぬよ?

戦いとは時の運になりますりますゆえ」

インチキ公家口調で、藤御門が口元を扇子で隠す。

 

「想護君も最近出てくれないしな~

飽きちゃったのかなぁ?」

 

「部長サン、そんな事ありまするませんよ。

想護クンは静かな顔をして、本物のデュエル好き故、何が有ってもやめるなどという事はありえないと、我は思いまする」

 

「…………それなら、次想護君が帰って来た時、ビックリするようなデッキを作ってく!

ふっふっふ……かわいそうな想護君……私の新デッキの生贄になってもらうんだからね……」

怪しげな笑みを作り、実紅が自身のカードボックスを漁り始めた。

 

「さて、我は少し昼寝でも……この、しばしの平和をかみしめて……」

藤御門は座った体制のまま、小さく寝息を立て始めた。

 

「フジくーん!起きて!!!」

 

「わっとっと?いかがなされました?我、少しウトウトし始めた所でありました故に……」

 

「欲しいカードが無いから買いに行くよ!ほら立って!部長命令!」

ビシッとソファーの上に立ち、指をさし藤御門に宣言する。

 

「……またでありますりますか~?仕方ないでありまするね……

はい、部長さん靴下と上履きを履いてくださいまするよう。

裸足で行くつもりでするか?」

 

「うん、分かったー」

 

「部長サン、スカート気を付けてくださいませ。

下着類が見えておりまする」

 

「わーん!エッチ!部長権限!!フジ君目を瞑ってて!」

 

「はいはい、わかりもうした」

手のかかる妹を見るような気分で、藤御門が目を瞑った。

大きな事件など、みじんも知らない二人は平和な時間を過ごす。

 

「おや――?」

実紅から視線を離し、校舎の外を何気なしに見た時、藤御門の目が細くなる。

 

「部長サン……我、少し先に行き申しまする」

 

「え、フジく――」

藤御門はそのまま歩き出した。

 

 

 

がりッ……カリ……ぴきっ……

 

まるでホラー映画のワンシーンから抜け出してきたような女が、校舎の前をうろつく。

生徒も先生も殆ど居ない午後の校舎だ。

その女を咎める者は誰ひとり居ない。

 

「ドコ?カードの所有者、ドコ?」

 

カリ……カリかり……ピキッ

 

女は苛立たしげに、自身の指の爪を噛む。

爪が割れ、血が滲んでも気にした様子は一切無い。

長い髪から覗く目だけが、血走り周囲を目ざとく確認する。

 

「ドこ?ドコ、どこ、どこどこどこどこ?この近くに、居る」

 

カリ…カリ、コリ、ぺり、パキッ……

 

「逃がさない、逃げ出させはしない、捕まえる。ドルマゲドン様に差し出す。

だから、出てこい……出てこい、出てこ――」

 

「おやおや、ずいぶん五月蝿い来客でありますりまするね?

不審者という奴でありまするますか?」

女が声の方向を剥く。

夕日をバックに、ゆっくりと校舎の中の階段からやせ型の男が姿を見せる。

何かが可笑しいのか、月の掛かれた扇子で口元を隠す。

 

「みぃつけた!」

 

「違い申しますな、其方が我に見つかったのであるまするよ」

二人は互いに、デュエルスペースを広げた。

 

 

 

 

 

「わ、わ、私のターン!!!『『俺』の頂ライオネル』で攻撃!

アタックチャンス――『極頂秘伝ゼニス・シンフォニー』

じじじじじじじじ、自分の手札から、ぜぜぜぜ、ゼニスを召喚扱いでバトルゾーンに!!

お、おおお、おいで!!しししし『『獅子』の頂きライオネル・フィナーレ』!!

無色の道を行く獅子たちよ!私に『我道』を捧げなさい!!」

女がバトルゾーンに出したのは、白い獅子をイメージさせる2体のクリーチャー。

 

「『フィナーレ』の能力で、盾をををを全て、て、て手札に!

『ライオネル』の効果で、ぜぜぜぜ、全部シールドトリガー!!

トリガー!トリガー!!トリガー!!!トリガー!!!!」

女のバトルゾーンにクリーチャーたちが並んでいく。

 

「トリガー!新世紀ヘヴィ・デス・メタル!

トリガー!超絶の名シャーロック!

トリガー!偽りの王モーツァルト!

トリガー!『終焉』の頂オーエン・ザ・ロード

トリガー!『創成』の頂きセーブ・ザ・デイト」

女のバトルゾーンには次々と強大なクリーチャーたちが並んでいく。

藤御門のクリーチャーは全滅し、巨大なブロッカーが脇を固め、ワールドブレイカーのスピードアタッカーまでいる。

 

「ほぉ、ずいぶんと思いきりましたな」

藤御門の盾がライオネルに寄って破壊される。

 

「しかし、我には届きませぬ、なぁ?」

扇子で隠す口元、その下で確かに藤御門の口が三日月の様に吊り上がった。

 

「シールドトリガー発動!『ヘブンズフォース』手札からコストの合計が4になる様にバトルゾーンへ。

我は『堕魔ドゥ・シーザ』と『堕魔ドゥ・グラス』をバトルゾーンへ!」

藤御門の手札から湧いたのは、小さな2コスのクリーチャーたち。

しかし、このクリーチャーの種族は『魔導具』

 

「闇夜よりも、なお黒き月よ。闇を纏い光を飲み込め。開け――無月の門よ」

バトルゾーンの2体のクリーチャーと、墓地の魔導具2枚が魔法陣を作り出す。

そして、黒い月を描きだすと魔法陣が燃え上がり、闇の炎が不死鳥を形を作った。

 

「召喚――デ・スザーク」

闇が襲い掛かった。

 

 

 

 

 

「フジ君ー!どこー!」

自身を探す実紅の前に、ひょっこり姿を見せる藤御門。

 

「おやおや、部長サン、お待たせしてすいませぬな」

 

「あー!フジ君いた!イッタイ何処へ行ってたの!?心配したんだからね!!」

小さな部長はどうやらお怒りの様だ。

 

「申し訳ありませぬ、実は我、昨夜からお腹の調子が今一つでありまして……」

申し訳なさそうに藤御門が腹に手を当てる。

 

「えー、何か変な物でも食べたんじゃない?」

心配そうに実紅が藤御門の顔を覗き込む。

 

「悪い物?ふむ、ふむ……困り申した、何も心当たりがありますりませぬ……」

 

「うっそだぁ!忘れてるだけで、絶対変なの食べてるよ!」

 

「むむむ、拾い食いには気を付けないといけませぬな」

かかかと藤御門が笑って見せた。

 

「そう、拾い食いには用心ですな」

藤御門が一瞬だけ、空を見た。

 

「フジ君なにか見えるの?」

 

「いいえ?ただの星空でありまするよ」

そう言った、藤御門の目にはとある物が見えていた。

 

 

 

「はなせ、せせせせせ、はなせ!!」

内蔵がつぶれる感覚がする。

掴まれた体が、炎で焼かれる。

女は今、デ・スザークの掴まれ空へと引きずりだされていた。

 

『きぃいいいいいいい』

悲鳴のような鳴き声を上げ、デ・スザークは女を空中で離した。

体が自由落下を始めた瞬間、鋭い嘴が腹に突き刺さる。

 

『キィるるるるるるる!!』

デ・スザークが喜びを声を上げる、地上には自身をこんな目に合わせた男がこっちを見ていた。

 

「き、さまぁああああ!!!」

女の叫びは体ごとデ・スザークの腹の中に収められた。

 

「さ、部長サン、カードショップへ参りましょうか?」

女は何処か楽しそうにする、男の声を朦朧とする意識の中で聞いた気がした。




割と敵味方ばっさばっさ死んでく……
おかしいなぁ……こんな予定では……


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ハイドローズ~水切れ~

さて、さて、久しぶりの投稿ですよー


「さ、君のターンだぞ」

一人の少年、一輝がそう言って、手のひらを差し出してくる。

所謂『どうぞ』のジェスチャーだ。

 

「あ、えっと……」

一輝と向き合う少年が、困ったように愛想笑いをした。

 

「ん、どうしたんだい?ドローならまだだよ?」

一輝がぼーっとしてこっちを心配そうに見てくる。

 

「いや、その俺、もうデッキが……」

気が付くと、山札があるハズの場所にデッキは無かった。

いや、それどころか手札も盾も、バトルゾーンにすら何もない。

 

「あちゃ……困ったね」

一輝がつまらなそうに、唇を尖らせる。

彼は俗にいう天才と呼ばれるタイプの人種だが、ふとした時に見せる顔は非常に子供っぽい所がある。

 

「おやおや~お困りかな~?」

その時、一人の少女が天地逆さまの姿で現れる。

金色の髪に青いと赤のオッドアイ、左右で長さも色も違うソックスに、派手なカラーリングの服装。

頭の先から足元までが全てが派手なその姿。

その少女が、こちらの顔を覗きこんで来る。

 

「ん~……ん~……どうしようかな?

悩むな~、これは悩むよ~?」

少女が困ったように、眉間にしわを寄せる。

 

「あ、あの……」

 

「よし!きーめた!」

話しかけようとした時、その少女が指を鳴らした。

その瞬間――

 

 

 

 

 

「ん……?あさ、か?」

カーテンから入る朝の陽ざしで中埜が目を覚ます。

すっかり見慣れてしまった白い部屋に、消毒液の香り。

だが、その日々とも今日で終わりだ。

 

「ついに明日で退院か」

意識不明で運び込まれて、約一か月。

長い検査も終わり遂に、退院の目途が立った。

突然の意識不明。気が付けばこの病院の病室に寝かされていた。

家族は突然の事に酷く動揺していたが、中埜自身はそこまででは無かった。

意識を失う前の記憶はぼんやりして、詳しくは思い出せない。

だが、現在は何の不都合も無く、入院という名の休みをもらったという感覚に本人は近い。

 

「けーっきょく原因不明か、元気なのは元気だけど不安だよな。

ノド乾いた……なんか、飲みに行くか」

ちらりと、ベットの横にある引き出しに視線を向ける。

そして、引き出しを開け自身の財布をポケットにねじ込み歩き出す。

体に異常はない、何らかの原因で衰弱していたが点滴と食事と休養で完全に回復している。

こうして院内を歩く事も、買い食いも許されている。

一階に併設されているコンビニの、開店時間を過ぎている事を確認して病室を出る。

エレベーターに乗り『閉』のボタンを押そうとした時、数人の子供の声が聞こえる。

 

「のりまーす!」

 

「待って、待って!」

 

「ああ、ごめん」

中埜は咄嗟に扉を開け、二人の少年を招き入れる。

 

「何階?」

 

「12階!」

12階は最上階だ。長期入院患者の為に展望スペースがあり、町を一望できる。

確かレストランも併設されていたはずだ。おそらく、この少年たちの目的地は遊戯室だろう。

自身の目的のコンビニは1階。一瞬降りようかと躊躇したが遊戯室にも自販機位あるだろうと考えを改める。

 

「よーし、んじゃ昨日組んだこのデッキで――」

 

「かっ!?」

少年が手にしていた、カードの束を見た瞬間中埜の時が止まる。

体が震える。呼吸が苦しい、視界が揺れる、自分が立ってるかどうかすら分からなくなる。

 

「おにーちゃん?おにーちゃん!」

 

「12階についたよ」

 

「へ、あれ、俺は?」

気が付くと二人の少年がこっちを、心配そうにこっちを見ていた。

 

「あ、つ、着いたのか……ごめん、ぼーっとしてた……あはは」

必死になって繕い、なるべく少年たちの持つカードを見ない様にしてエレベーターから出る。

 

(帰ろう……はやく、ジュースでも買って……)

少年達から逃げる様に、遊戯室へ足を向ける。

その先には、先客が居た。

ついこの間知り合いになったばかりの――

 

「あれ?中埜君じゃん!」

気さくな声を顔を上げると――

 

「一輝……?

おま、どうしたんだよその傷!?」

手足に包帯を巻いた一輝が手を振っていた。

 

「あーちょっとねぇ?」

何でもない事の様にケラケラと笑う。

 

「にーちゃん、あーそーぼ!」

 

「リベンジマッチお願いします!」

さっきの子供たちが、デッキを片手に走ってくる。

 

「おー、いいぞー。ぼっこぼこの返り討ちだ!」

 

「わー、おとな気なーい!」

二人の少年と一輝が笑い合う。

包帯だらけの腕で、カバンから自身のデッキを取り出す。

その時、一輝が持つスケッチブックがひどく汚れている事に気が付いた。

半分近くが燃え、泥で汚れ、靴跡の様な物まで付いている。

 

「どうしたんですか、それ?」

中埜が恐る恐る尋ねる。

その瞬間、一輝から笑みが消えた。

 

「ああ、ちょっとね……」

先ほどとほぼ同じ文面。

だが、あふれんばかりの悲しみが感じ取れた。

この明るい態度は、きっと自身の中にある悲しみを誤魔化す為の物なのだと、中埜は反射的に思った。

 

「あ、そうだ。3人だと数があぶれるから、君も一緒にやろうよ」

一輝がデッキを掲げる。

 

「え、にーちゃんもデュエマするの?」

 

「タッグマッチしよぜ!タッグ!」

二人がニコニコしてデッキを掲げる。

 

「ごめん、俺……もう、デッキ無いんだ……」

中埜が絞り出す様に、3人に話す。

そう、想護が見舞いに来てくれた時、渡されたデッキを払いのけて捨てた。

今でも、想護がひどくショックを受けた顔が目に焼き付いている。

 

「じゃ、俺、帰るから」

必死に取りつくろい、その場を後にした。

少年達の持つカードから逃げる様に、隠れる様にそこを後にした。

 

(なんで、なんでだよ……おれ、あんなにデュエマが大好きだったのによ……)

訳も分からぬ、正体不明の恐怖だけが中埜の中に居座っていた。

 

 

 

 

 

「チッ、むかつく、むかつくむかつく……

俺は奴隷兵共と同じかよ」

悪態をついて、ホムラが病院の内部を歩く。

ムカムカする胸中を抱えたまま、脳内で試案する。

 

今回ホムラが与えられた任務は、最後にサンジェルマンの孫娘が居たというこの病院で手がかりになりそうな物を探すという物だった。

だが、逃げ出した場所にサンジェルマンの孫娘が戻ってくるとは思えない。

それに行方を追う手掛かりと言えど、そんな物ある訳が無い。

それが無いからこそ、今まで彼女もサンジェルマン本人も見つからないのだから。

 

(要するに、俺はどうでも良い仕事を振られたって事だ……

おかしいじゃねぇか……いつからだ?

一体俺はいつから、こんなドブ攫いみたいな仕事を振られるようになった?)

最初に思い出すのは葉久野の存在。

大柄な男、自信に満ち溢れ同時におかしな技術を持ち、自分よりも魂を持つカードに詳しい……

 

(いけ好かない奴だが、実力は本物だ。

やつが奴隷兵なんぞ持ってきたせいか?

いや、違うな)

次に思い出すのは、以前自身の邪魔をしたあの少年。

魂を持ったコートニーを連れ、まぐれで自身を負かしたあの男。

 

(チッ、よりによってドルマゲドン様の前で、下手をこいちまうとは……)

思い出すだけで、臓腑がむかむかしてくるのが分かる。

半場無意識にホムラが右足を持ち上げた。

 

ドォん!

 

怒りに任せ、消火栓を蹴り倒した。

周囲が一瞬騒然となるが、ホムラの風体を見た瞬間、みなそそくさと逃げていく。

 

「チッ」

再度舌打ちをして、サンジェルマンの残滓を探す。

胸に満ちる、不快な感覚は無くなってはくれなかった。

 

 

 

「なんだ?俺に何か用か?」

男が自身に掛かる視線に気が付く。

 

「ひっ!?」

目の前のコンビニから、中埜がこっちを見ていた。

二人の視線が交差する。

自身の心臓が、つららで貫かれたような恐怖が中埜を襲った。

肉食獣の様な獰猛さを宿す瞳、若干の不機嫌に歪んだ口元。

何よりも、その触れただけで切り裂かれそうな雰囲気、それら全てが中埜の心の奥にしまい込んだトラウマを、痛烈に掻きむしった!

 

「あ、ああ……」

思い出してしまった。

自身の敗北を、自身がその後どうなったかを――

 

「お前、何処かで遭ったか?

ふん、まぁ良い。デュエリストが居そうな場所は――」

ホムラが踵を返した。

そして、そのままエレベーターへ向かっていく。

 

 

 

 

 

(助かった、もう少しだけ生きていられる)

そんな気持ちが中埜の心を駆けた。

逃げ帰ったのは、自分の病室。

布団をかぶり、必死に震えを押える。

だが、ふと思う――

 

(アイツは、何処へ行くんだ?)

ホムラはデュエリストを探していると言っていた。

ならば、当然遊戯室の方へと足を進めるハズだ。

 

「!?」

中埜はとっさに気が付いてしまった。

この男の『目的』に――

 

(止めなくちゃ…………)

恐怖につぶされる心の中で、一滴の勇気が囁いた。

息が苦しい、心臓が暴れ回る。

足がすくんで、手が震える。

 

「や――」

絞り出した声は相手に届く前に消えていく。

ほんの少し、ほんの少しだけ勇気が足りない。

あと、あと一歩の所で――

一輝の顔が浮かんでは消える、名も知らぬ子どもたちの笑顔が微笑んでは消える。

 

(誰か、誰か俺の背中を押してくれ――!)

心の底で、自身に足りない勇気を()()()()()()にねだった。

 

『そんなの、ミーにお任せアミーゴォ!』

軽快な誰かの声、そして水の音。

 

「え……イルカ?」

中埜の後ろに空中を泳ぐようにして、浮いていたのはイルカかシャチのクリーチャー。

その姿は――

 

C,A,P,(キャプテン)アアルカイト?」

 

『ヘイ!アミーゴ!ようやく、ミーたちの声が届いたみたいだネー』

シャチのクリーチャー、アアルカイトが空中を泳ぎ、中埜の目の前に顔を近づける。

 

「だ、だれ!?なんでカードが、夢?幻?」

 

『ノンノン、違うなりナ~』

中埜のすぐ横を、ボールに手足のついたようなロボットが指を振るいながら歩いていく。

 

「わわわ?!今度はwave ALL!?」

後ずさる中埜に、ウェイボールがサムズアップをした。

 

『ユーとミーたちのソウルがシンパシーしたのサ!』

 

『イグザクトリ~、その結果我らの声が届いたと言う訳なりナ!』

2体のクリーチャーたちが、中埜の前に頭を垂れる。

 

『お前の心を受信した。我らに、願いを――』

そして、何処からか更なる声がした。

不思議ともう恐怖は無かった。

 

気が付くと目の前に、一つのデッキが有った。

まるでずっと、気づかれるのを待っていたように。

 

「行くぞみんな!!俺の友達を助けに行く!!」

中埜がデッキを取って走り出した。




何だかんだ言って因縁の対決。


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ハイドローズ~水に飲まれて~

投稿がずいぶん時間が経ってしまった……
申し訳ありませぬ……


カっ、カッ……

 

人気のない階段を、ゆっくりと足音が進んでくる。

 

カッ、カッ……

 

「ちっ、遂に最上階か。ツイてねーな」

何時もの好戦的なギラついた瞳は何処へやら、ホムラが病院の階段内にある階を示す数字を何処か退屈そうに眺める。

此処へ来た本来の目的は『サンジェルマンの孫娘』を追う事。

先日襲撃を掛けた葉久野曰く「此処には奴が居たのは確実」との事だが……

 

『万が一を予測し、お前は痕跡の調査をしろ』

葉久野の言葉を思い出し、怒りに震える。

 

「俺が何で、こんなドブ攫い見たいな事しなきゃいけねーんだよ!」

 

ガァん!!

 

苛立ちの命じるままに、階段のドアを蹴りつけた。

そして乱雑にその扉は開かれた。

 

「っ……」

若干のまぶしさに、眼を細ませて階段から最上階へと降り立った。

後は適当なデュエリストを倒して、情報を聞きだせば良い。

明確な理由は不明だが、サンジェルマンの孫娘はデュエリストとの接触を好む傾向にあるのは明らかだ。

 

「そうだ……さっさとこんな仕事を終えて俺は――」

ホムラが一瞬だけ、自身の言葉に詰まった。

 

(俺は、どうしたい?この仕事を終えて……その次は?)

忌々しい葉久野の顔が浮かぶ。理由は分からない。

だが、心がチクりと痛んだのは確かだった。

 

その時、目の前のエレベーターが開いて一人の少年が歩み出た。

 

「おい、お前」

その少年はわずかに指を震わせながら、ホムラを見据えた。

 

「あ?」

 

「デュエルしろよ!」

中埜はホムラにデッキを突き付けた。

 

 

 

 

 

中埜 後攻2ターン目。

 

「俺は『Wave All ウェイボール』を召喚だ!」

中埜の手にしたカードが光を放ち、バトルゾーンに降臨する。

それは青いメカニカルなボディをした球体のロボット。

 

『ふむふむ、早速我の出番なりナ!』

フンすと鼻息を荒く、ウェイボールが両手をぶつけあう。

 

中埜 手札4 盾5 マナ2

 

「てめぇ、舐めてるのか?そんなオモチャ相手でよ?

つまんねーデュエルに時間をかけるつもりはない。

さっさと決めさせてもらうぞ」

ホムラがマナゾーンのカードを3枚タップした。

 

「詠唱『イーヴィル・フォース』。

火又は闇のコスト4以下のクリーチャーを、スピードアタッカーを付与しつつバトルゾーンに呼び出す」

 

「な、踏み倒し!?まさか――」

 

「来い――『不吉の悪魔龍 テンザン』」

 

『うるろろろろろろろ…………』

ホムラが呼び出したのは、刃の様な羽を持つ悪魔龍。

その名が示すかのように胸にはⅩⅢのマークが刻まれている。

 

『ぬぬぬ!?これはかなりの大型が出て来たなりナ』

 

「んな、他人事みたいに!?」

 

『パワーまでもがご丁寧に13000……狙いすぎなりネ』

 

「お前のオモチャに構ってるほど、俺は暇じゃねーんだ!!

テンザンでお前を攻撃!!行け、トリプルブレイクだ!!」

 

「スピードアタッカーの上にトリプルだって!?」

テンザンがその爪を掲げ、中埜に襲い掛かる!

 

『ラァウ!!』

テンザンの爪が中埜のシールドを一気に半分以上奪い取る。

 

「うわわわっ!?」

迫りくる衝撃に中埜が地面を転がった。

衝撃から逃げる先で、一枚のカードが光を放った。

 

「シールドトリガーか!?詠唱!『ゴーストタッチ』!

手札を一枚ランダムで捨てる!」

中埜が呪文を唱えると、頭に煙突の様な物が生えた怪しいクリーチャーが姿を現した。

そして、指から黒い煙を吐きだしつつホムラの手札に触れる。

 

「良いぜ、手札位くれてやるよ」

ホムラの手札から一枚カードを墓地に落ちる。

その様を見て中埜は目を見開いた。

 

「なんだ?墓地の枚数が異常だぞ?」

ホムラの墓地には既にカードが16枚も落ちていた。

到底3ターン目に溜めれる数とは思えない。

 

「テンザンには能力があるのさ、コイツは攻撃時自分の山札を13枚墓地に送る。

しかも毎ターン強制攻撃まで持ってるんでな。

少しばかり、使用に苦労するんだよ」

半場自慢する様にホムラがテンザンの能力を語る。

 

(墓地を肥やすのはデメリット……だけど、墓地を利用するデッキにはまたとない相性だ。

けど、デュエルの始まりで既に山札は30枚。テンザンが2回も攻撃すれば山札切れで敗北だ。

このデッキは見た所、耐久型だ。このまま相手の自爆を待つか?)

中埜が手札のカードを見ながら戦略を立てる。

 

『おおーーっと!ここで一時停止なり!

我の能力のお目見えの時間なりヨ!』

 

「え」

 

「なに?」

中埜とホムラの両名が、一様にウェイボールに注目する。

今は対戦相手のターンだ、そんな中で一体何が出来るのか?

二人は同じ疑問を持っていた。

 

『我の力は呪文に反応してGR召喚を行う事ナリ!』

 

「GR召喚だと!?」

 

『我が相棒よ、GRゾーンを開くナリ!!』

 

「よし!GR召喚だ!!…………って、どうやるの?」

 

『我の背中のツマミを回すナリ』

トコトコとウェイボールがやって来て、背中のツマミを指さす。

 

「なんか、昔やったこと有るぞ?

ガチャガチャだっけ?」

昔懐かしの記憶を思い出しながら、中埜がツマミに手を掛ける。

 

ガチャ、ガチャ、ガチャ!

 

『イザ!GR召喚なり~~~~!!!』

ウェイボールが両手から光の球を放ち、それが空中で割れた。

 

『ホッター!』

現れたのは、ホタテをイメージしましたと言わんばかりのクリーチャーだった。

陽気に中埜の周りを飛び回り、ウェイボールとハイタッチを交わす。

 

「なるほど、GRゾーンからランダムのクリーチャーを召喚出来るのか!」

初めて見る召喚方法に中埜は興味をそそられた。

デュエリストのサガか、脳裏に一体どんなデッキを組んでやろうかと、アイディアが巡り始める。

 

そんな事を考えているウチに、更にもう一枚トリガーが発動した。

 

「2枚目!?よしっ!フェアリーライフ発動だぁ!」

中埜の山札から一枚カードがマナに置かれる。

 

「そしてフェアリーライフは呪文!

つまりウェイボールの効果でもう一度GRだ!」

中埜が再度ウェイボールの背中のツマミに手を伸ばす。

 

ガキッ!

 

「あれ?回らない?」

 

ガキン!ガッキ!ガッキ!

 

『いでででで!?ナリ!!

呪文を使ってのGR召喚はターンに一度きりなりヨ!』

背中に手を伸ばしながら、ウェイボールが涙目になる。

 

「ええ……ターンに一回限定なのかよ……」

露骨に残念そうな顔を中埜が見せる。

 

『そんな目をするな、ナリ……』

ウェイボールが視線をそらした。

そのそらした視線の先、ホムラが二人を射抜く様な視線を投げていた。

 

「そうか、お前か?サンジェルマンが手を貸していたのはお前か!

いいぞ、いいぞ!!ようやく面白くなってきた!!

てめぇの首を持ち帰れば、俺の評価もあがるだろうしな……

お遊は終わりだ!!本気で、お前を刈り取る!!」

ホムラの目に再度、ぎらつき始めた。

今、ここでようやくホムラは中埜を『獲物』として認識したのだ。

 

「俺のターンの終了時、『イーヴィル・フォース』の力で呼び出されたクリーチャーは破壊される。

テンザンを墓地へ!」

 

『ぐるるるあぁあああ!!!!』

テンザンが苦しみだし、巨大な体が崩れ始めた。

少量のマナでの呼び出しに加え、スピードアタッカーの付与。

それはある意味当然の結果とも言えた。

だが、崩れ行く体が次第に別の形を持ってゆく。

 

「な、なんだ?」

 

「テンザンが破壊された事により、もう一つ能力がトリガーする。

ドラゴンの死を合図に、コイツ等は蘇る!!

出でよ!!『黒神龍 グールジェネレイド』!!」

 

『しゅるるるるるるる……』

テンザンの残骸をもとに、ホムラのバトルゾーンには2体の新たなるドラゴンが姿を現した。

龍の死肉を糧とし、墓場から蘇る死を纏いし龍。

それこそがグールジェネレイドだ。

 

『な、なんと、屈強なドラゴンが2体もナリ!?』

ウェイボールが震えた声を出す。

 

「さぁ、この盤面、返せるか?」

ホムラが中埜に視線をぶつけた。

 

ホムラ 手札2 盾5 マナ3

 

 

 

「ヤバイ……こっちのバトルゾーンには殴れないウェイボールと、GRクリーチャーのホッテホッタ。

対して相手の場にはパワー6000のグールが2体……」

冷静に状況を確認した時、中埜の心臓が大きく鼓動した。

 

「うぐぅ!?なんだ、コレ!!」

ドクンドクンと、胸の中で心臓が暴れているような感覚がする。

指先が震え、肺が酸素を取り込まない。

視線が意図せずブレる。

 

「はぁー……はぁー……」

 

「なんだぁ?ビビってるのか?」

ホムラの投げかけた言葉で、中埜はようやく自分の状況を理解する。

 

「おれ、怖いんだ……『負けるかも』って思った瞬間……

そうだ……死ぬかもしれない……」

 

「『カモ』じゃねーよ。お前は死ぬんだよ」

 

「え?」

ホムラの言葉に中埜が目を見開く。

 

「真のデュエルは魂を掛けた文字通りの『決闘』だ。

ぬくぬくと甘ちゃんのゲームをしていたお前には分からねぇのさ。

次なんて無いんだよ。お前はただ死ぬ」

その言葉はジワリと音を立てて、中埜の心の古傷をえぐった。

 

「い、いやだ、いやだ、いやだぁ!!

呪文!『REVタイマン』シールドの枚数が2枚以下なので、次のターン攻撃を受けない!!

ウェ、ウェイボール!GR召喚だ!!速く!!」

 

『ま、待つナリ!!先ずは冷静になることが先決ナリ!!

そんなんじゃ、戦略すら――!』

ウェイボールの言葉を無視して、ツマミを回す。

 

『アロロロロ?』

出て来たクリーチャーは機械のチップの様な部品に、眼の様なオーラが絡まったクリーチャーだった。

 

「こいつは?こいつは何が出来るんだよ!?」

 

『こやつは天啓(エナジー)CX20……カードを3枚ドローするカードのハズナリが……』

 

『アロロロ……』

呼び出された天啓には、不思議な事に覇気がない。

 

『マナに水を含む6枚のカードが無いと力を発揮出来ないナリ……』

 

「なんだよ!!じゃあ、コイツはただのバニラか?

ふざけるなよ!!こんなんじゃ、こんなんじゃなぁ!!」

 

『……マナが足りなければそうなるナリ』

困ったようにウェイボールが口を開く。

中埜の暴言に拳を握り耐える。

 

「使えない!……ターンエンドだ」

苛立たしげに中埜が吐き捨てた。

 

中埜 手札4 盾2 マナ4

 

 

 

「さ、て、と。サンジェルマンの孫娘のカードだと思って身構えたが、使い手がクズじゃしょうがない。

GR召喚には驚いたが、所詮防御ばかりを」

侮蔑する様にホムラが吐き捨てる。

 

「くっ」

その言葉に中埜が顔を歪めた。

 

『違うナリ!!』

 

「あ”?」

ウェイボールの言葉にホムラが苛立たし気に反応する。

 

『確かに今のこやつは腑抜けナリ!!

だけど、だけどこやつは、こやつは他人の為に自身を奮い立たせることが出来るヤツナリ!!誰かの為に、自分を変える事が出来るヤツナリ!!

だから、だから吾輩らは中埜と一緒にいるナリ!!』

 

「ウェイボール……」

今さっき知り合ったばかりだというのに、ウェイボールは完全に中埜を信じ切っていた。

そのことを感じさせる言葉に、中埜の心は震えた。

 

「そうかよ、他人の為にねぇ?

で?それがどうしたよ!!テメェが聖人だろうと悪人だろうと、今、ここでお前は死ぬんだよ!!

死ねばみんな一緒だ!!

そこのオモチャも一緒だ、ドルマゲドンの餌になる!

お前も、お前のカードもみんな餌になるんだよ!!

ドローだぁ!!」

 

ホムラがカードを引く。

 

「来たぜ!俺は手札から『神滅翔天ポッポ・ジュヴィラ』を召喚!!

その能力でデッキから上を3枚墓地へ!」

ホムラのバトルゾーンに現れたのは龍の骨を纏った鳥だった。

小さくも狂暴な目がウェイボールを見抜く。

そして、デッキから落ちたカードを見てウェイボールが目を見開く。

 

『ぬぅ!?あ奴、知ってるナリよ。

墓地のクリーチャーを進化元にフェニックスを召喚出来るようになるナリ!』

たった今墓地に送られたカードは3枚。

前のターンのテンザンの能力を加味すると最早16枚ものカードが墓地に落ちた事に成る。

そしてたった今、墓地に落ちたカードは『デス・フェニックス』。

シールドを焼き払う、死を招く不死鳥だ。

 

「準備は整った、これで俺はターンを終了だ」

ホムラが十分に溜まった墓地を満足気に見た。

 

ホムラ 手札1 盾5 マナ4

 

 

『やばいナリ、やばいナリよぉ……相手の絶対有利このままじゃ……』

がくがくとウェイボールが震える。

ちらりと横を向くと、中埜は目を伏せたままだった。

 

「ハァン!ようやく諦めたか?

お前らが俺に勝つなんて最初から無理だったのさ!」

勝ち誇ったホムラの声、それを聞いて中埜が顔を上げる。

 

「…………違うさ、今分かった。ようやくこのデッキの狙いが分かった」

中埜が手札のカード達を見て、確信を込めてうなづく。

 

「なに?」

 

「何分初めて動かすデッキだからさ。

戦法の理解に戸惑っちゃて……けど、ここからは別。

俺と俺のカード達が勝つよ」

中埜の目に光が宿った。

 

「俺はマナをチャージして、呪文詠唱!『マナ・クライシス』!」

中埜の手札から出現した呪文は龍を形を象った。

そして、ホムラのマナゾーンのカードを一枚を噛み砕いた!

ランドディストラクション、略して『ランデス』通称マナ破壊と呼ばれる、公式からも忌み嫌われる戦法の一つだ。

 

『な、何をしているナリ!?

マナクライシスは確かに珍しいマナに干渉出来るカードナリ!

しかし、この状況下ではマナ破壊(ランデス)など』

 

「これで良いのさ、ウェイボール。

奴のデッキはコレが刺さる」

眼鏡の弦を指で軽くつついた。

 

『ナリ?』

 

「確証は無いけど、アイツのデッキは墓地から『デス・フェニックス』を召喚するデッキだ。

けど、手札はすごい勢いで消耗する。

なら、呼び出す方法は手札からじゃない。

墓地から、デスフェニックスを吊り上げるんだ。

そのカードでね!」

中埜がホムラの墓地から指さしたのは、一枚の闇のカード。

 

『じゅ、呪文『パーフェクト・ダークネス』ナリ!!

墓地のコスト4以下のカードを2枚まで呼び出せるカードなり!!』

 

「そ、しかもご丁寧に墓地から使える機能付きでね。

それで、進化元とデスフェニックスを釣る積りだったんだ。

けど、そいつのコストは5!マナ破壊をされた今、次のターンにそいつは使えない!」

 

「な、にぃ、この、コイツが……!

俺の戦略を……!」

ホムラが目を見開く。

 

「ウェイボールが冷静にしてくれなきゃ。こんな動きはしなかったよ。

これは俺の『相棒』が居てくれたからこそ、出来た戦法だ!」

 

「ふざけるなぁ!!所詮そんな物は時間稼ぎ!!

俺にはお前を十分倒すだけのクリーチャー数が並んでる」

 

『それは吾輩がさせぬナリ!

呪文を唱えた事でGR召喚!!』

 

『しゃしゃしゃー!』

ウェイボールが新たに呼び出すのは、ハンマーヘッドシャークの様なクリーチャー。

 

「シェイクシャークの能力発動!

次のターンお前のグール一体の動きを止める!」

シェイクシャークの呼び出す渦で、グールの動きが阻害される。

 

「…………ふ、ざ、けるなぁ!!

まだお前は即死圏内!!

いけぇ!グール最後の2枚の盾を叩き割れ――!」

グールの攻撃が姿を見せた黄色い影によって止められる。

 

「ニンジャストライク、ハヤブサマルだ」

 

「……ポッポジュヴィラで、盾を一枚ブレイク!!」

 

「シールドトリガー!『パーフェクトウオーター』!!

その効果で2回GR召喚!更にウェイボールの効果で一回追加!」

発動したトリガーと、その効果に反応したウェイボールによってさらにクリーチャーたちが並んでいく。

 

「お、俺は……何を見せられているんだ?」

ホムラが茫然とする。

呼び出した回収TE-10の効果でREVタイマンが回収され、次のターンで新たに召喚されたウェイボールと共に使用される。

攻撃を封じられ、さらなるクリーチャーたちが並ぶ…………

 

「俺の……ターン……ドロー……エンドだ……」

何もせず、茫然とホムラは自身の敗北を感じていく。

一手、僅か一手先読みされて止められる。

まるで、深海で足掻くのを自由に泳ぐ魚たちがあざ笑っている様な、そんな感覚に陥る。

 

「『タコンチュ』を召喚、自身の水のクリーチャーを全てコマンドにする。

そして、攻撃時に侵略!『S級宇宙 アダムスキー』!」

攻撃したホッテホッタが、円盤をイメージさせるロボへと姿を変える。

そしてその攻撃は盾では無く、ホムラの山札からカードを4枚墓地へ落とした。

 

「アダムスキーはその攻撃で、盾では無くデッキを破壊する。

俺のバトルゾーンにある攻撃できるGRクリーチャーは後、7体。

そして全てのクリーチャーたちは『タコンチュ』の効果でコマンドになっているし、アダムスキーはバトルゾーンから侵略出来る。

いけ、GRクリーチャーたち!!奴のデッキを破壊しろ!!」

無数に侵略するアダムスキーの攻撃で、もともと減っていたホムラの山札はさらに減っていく。

 

「な、ありえねぇ!俺が、俺がコイツにまで!?」

 

「侵略発動!」

アダムスキーの姿が分子レベルで分解される。

そして、シェイクシャークに乗り移り、再度アダムスキーの姿を形作った。

 

「っ!?」

ホムラが息を飲むそして――

 

「これで、最後だ」

アダムスキーの攻撃で、ホムラの山札の最後の一枚が墓地へ置かれる。

 

「う、うわぁあああああああ!!!」

ホムラの声が響くと共に、デュエルスペースが崩壊する。

 

「あ、アイツは!?」

 

『逃げたみたいナリね。

おめでとうナリ、お主の勝利ナリよ』

 

『おっめでとぅー!』

 

「うわっ!?なんだ、なんだ!?」

急に響く声に、中埜が驚く。

 

『ミーの名前はCAp(キャプテン)アアルカイト!

このデッキのもう一つの魂を持つカードさ!』

アアルカイトが声を出し、空中を泳ぐ。

 

「あれ?さっきは?いた?」

 

『ユーたちの籤運が悪すぎなんだよ!!

ミーはずっと待機してたのにあんまりだヨー!』

アアルカイトが空中で涙を流す。

 

『そう言えば、引かなかったナリね』

 

『引かなかったじゃないヨー!』

 

「やれやれ、コレからうるさくなりそうだな」

中埜はそんな2体を見て笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

「くそ……なんでだ、俺は……俺が、負けるハズは……」

敗北したホムラが肩を押えて、暗い路地を歩いていた。

体を引きずり一歩踏み出した時、突如世界が色を失った。

 

「いやぁ……ずいぶん派手にやられますりましたな?」

 

「ぅっ!?」

突如後ろから、おかしな口調の少年が話しかけてきた。

暗闇に溶ける様に、怪く立っていた。

懐から取り出した夜色の扇子で、口元を隠し笑った。

 

「てめぇ!?一体どこから!!」

 

「さぁて、何処からでありましょうね?」

反射的にホムラが腕を振るうが、むなしく空を切るだけだった。

まるで陽炎を相手にしている様に、その姿はつかめない。

 

「もしかしたら、最初に会った時。からかもしれますりませんな。

ほら、前にドギラゴンが暴れた時の……」

影の男はおかしな口調でホムラをあざ笑う。

その姿はホムラの脳裏に浮かび上がった。

 

「思い出した、てめぇか!!

あの時は逃したが、今回は逃さねぇ!!」

ホムラがデッキを構えた時――!

 

『勝負の決着はついている。無様な姿をさらさない方が賢明だぞ』

影の中から、黒い炎が槍となってホムラのデッキを叩き落した。

ホムラの目の前でその槍は空へと舞い上がり、不死鳥の形へと姿を変えた。

 

「デ・スザーク……」

そのクリーチャーの名をホムラは無意識に口に出していた。

 

「ご名答。我の……そう、こそばゆい言い方をすれば『相棒』に当たるカードでありまするな」

 

『ふん、相棒などではない。利害の一致という奴だ』

デ・スザークが羽を広げて民家の屋根に飛び移った。

藤御門とデ・スザークの視線が一瞬だけ絡み合った。

 

「おっと、いけませぬ、いけませぬよ。お仕事を忘れる所でありもうした」

藤御門がホムラのすぐ横に並び立つ。

たったそれだけ、たったそれだけの行為でホムラの脳内には『死』のイメージで一杯になった。

そして――

 

「はい、これは送り物でありまする」

藤御門が懐から一枚のカードを取り出した。

色を失たった世界が、より一層『黒』に染まる。

 

「なっ……」

イラストは見えない、ただ完全なる闇が渦巻いている様に見えた。

そのカードをだした瞬間から、まるでゆっくりと世界が溶けていくような錯覚さえ感じてしまう。

 

「受け取ってくださりませぬか?」

 

「はっ!?」

藤御門の言葉でホムラが正気を取り戻した。

そして、改めてカードを見て目を見開いた。

 

「それは!?」

 

「呪文【オール・デリート】。あんさんたちが、欲しがっていたのでありましょう?」

それはホムラたちドルマゲドンから回収を命じられているカード。

元を正せば、サンジェルマンの孫娘を捕獲する目的も、彼女がこのカードを持っていると予想されているからだ。

だが、今ここに現物が存在している。

 

「な、なんで……お前が……?

どうして、俺の味方を……する?」

余に出来すぎた状況にホムラは理解が追い付かなかった。

 

「さぁて?我は善良で親切な一般市民でありまするから……ね?」

困ったように首を傾ける藤御門。

その露骨なまでに誤魔化す姿に、ホムラはあっけにとられた。

 

「遠慮させてもらうぜ、そんなあやしいカード……」

 

「おやぁ?その様な事出来るのでありまするか?」

藤御門がホムラに視線を合わせる。

 

「ご自分の立場を良く考えてくださりますれ。

敗北に続く敗北、失敗に次ぐ失敗、醜態に重ねる醜態……

もう、後がないのではありませぬか?」

 

『どこの世界も無能は、駆逐され強者の餌となる。

貴様は今までそうしてきたのだろう?次は誰か、分かるだろう?』

デ・スザークまでが追い打ちをかける。

 

「あんさんには、もうこのカードを手にする以外の道はありませぬ……

命欲しさに、手柄欲しさに……自分可愛さ故に……くっく、くっくく……」

扇子を広げ藤御門が可笑しくてたまらないといった様子で口元を隠す。

 

「ふ、ふっざけるなぁああ!!」

藤御門の手を払いホムラが走り去った。

 

「ふむ……しかと、渡しましましたぞ……」

手に【オールデリート】を握り走るホムラの姿を藤御門が見送った。

 

 

 

『ニンゲン。お前がなぜアイツの命に従うのかは知らん。

だが、これは大きな争いが起きるのでは無いか?』

闇の炎の翼を広げ、デ・スザークが舞う。

あたりを闇の炎が包んでいく。

 

「ああ、あんさんもそう思いまする?

けれど、我は我がしたいからしている事に過ぎないのでありまするよ。

我が欲しい物は――あんさんの言う通り、争いと悲しみと悲劇の末にしかありませぬので……」

すこしだけ、ほんの少し悲しそうな顔をして炎の中に藤御門は姿を消した



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セカンドインパクト!/ニニィはそこに居る

ずいぶん久しぶりになりました。
書いてない内に、新しいカードが出ると、予定していた内容から少し変わってしまうのが最近の悩みどころ。


図書館に併設されたカフェで、想護が2つのコーヒーを受け取る。

コーヒーと言ってもミルクと砂糖だけではなく、やれキャラメルシロップだの、やれナッツをまぶしたクリームだのが盛られて、豪華なコーヒーだった。

 

「はい、雪菜ちゃん」

 

「……いただきます」

一瞬のラグを挟んで、雪菜が想護の差し出したおしゃれなコーヒーを手に取る。

 

「はぁー、甘いのもは脳に行きわたっていく……」

ちらりとカフェの野外テラスに視線を送ると、無数の紙の束が散らばっている。

どれもこれも皆、想護が見たというサンジェルマンの孫娘のイラストが描かれているのだが……

 

「現段階で情報はゼロに等しいですね」

 

「うぐっ……」

 

「これでは性別すら分かりませんね」

 

「め、面目ない……」

度重なる雪菜の言葉に、想護が逃げる様にコーヒーに視線を落とす。

 

「四ッ谷さんも、地道に探すしかないって言ってましたし」

雪菜が小さくため息を漏らす。

 

「左右で色の違うソックスに、金色の長髪と青い目でしたっけ?

明らかに日本人離れした見た目ですね」

懐から取り出したメモ帳を雪菜が、確認する。

そこには想護の知りうる限りの、ニニィの全ての情報が詰まっている。

 

『あんな感じじゃない?』

コートニーが姿を現し、さっきまで想護たちの居たテラスを指さす。

そこに居た人物の姿を見て、想護が一瞬フリーズした。

 

「え、あ、あー!!」

そこに居たのはニニィ本人だった。

興味深そうに、想護の書いた似顔絵を覗き込んでいる。

 

「な、な、なんで!?」

 

「四ッ谷さんさんを呼んできます。

彼女の足止めをお願いします」

雪菜が素早く身を翻し、走り出す。

 

「え、あ、ちょっと!?」

 

『早く行きなさいよ、レディを待たせるなんて最低よ?』

コートニーに急かされ、想護も走り出した。

 

 

 

 

 

「ふーむ、ふむふむ……芸術的ってやつかナ?コレ」

ニニィが想護の書いた自身のイラストを指先で摘まんで、首だけを想護に向ける。

 

「はぁ、はぁ……に、ニニィ……ちゃん……今、丁度探して……」

息を切らせて想護がなんとか、言葉を紡ぎだす。

 

「ンッンー?それってデートのお誘い?

ざんねーん、ニニィ今日は気分じゃないんだー」

さっきまで想護の座っていたテラス席に腰を下ろす。

 

「けど、コッチなら全然オッケー」

ニニィが腰にぶら下げたデッキを取り出す。

 

「あっと、その……まぁ、一回くらいなら……」

何時もならばすぐに答える想護だが、常に高く跳ねる様なニニィのテンションに少し疲れ気味になっている。

仕方なしにデッキを取り出し、シャッフルする。

 

『ねぇ、アンタ。

ドコの出よ?』

コートニーが姿を見せて、ニニィに詰め寄る。

 

「うーん……キミとは違う世界、かな?」

ニニィはまるで当然の様に、クリーチャーであるコートニーの言葉に反応して見せた。

 

「違う、世界?」

想護が言葉を返す。

ニニィがデッキの横に超次元ゾーンを取り出して、数を数える。

 

『前に、ヨツヤとかいう眼鏡が言ってたわ。

意思を持ったカードがこの世界に来るって。

今、改めて見て分かったわ。

アンタ、クリーチャーともこの世界とも違う次元から来たのね?』

超次元ゾーンの更に横、ニニィは超ガチャレンジゾーンにもカードを置く。

 

「うん、そだよ。言ってなかった?」

あっけらかんとニニィが言い放つ。

 

「えーと、超次元とガチャレンジ二つともつかうヨ~」

シャッシャッと音を立て、自身のデッキをシャッフルする。

 

「なるほど、つまり、君たちは意思を持つクリーチャーたちとは違うベクトルの侵略者という訳か」

雪菜に呼ばれた四ッ谷が姿を見せる。

 

「ノンノンノン!ニニィたちはそんな気無いヨ~

勝手にやって来たのが好きにやってるだけ」

ニニィが立ち上がり、腕でバッテンを作って見せる。

そのふざけた態度が癪にさわったのか、四ッ谷の視線が鋭くなる。

 

「貴様のその行いが、この事態を招いたのだぞ!!」

四ッ谷がニニィの前のテーブルを叩く。

想護の置いたコーヒーが、一瞬だけ宙を舞った。

 

「キミ、つまんないなー……

っていうかー、なーんかこの所、退屈なんだよネー」

 

「ッ!話を――」

四ッ谷が怒りに任せて、口を開きかけてやめる。

 

「無意味な行為だ……犯人とよべる者に悪意があれば、罪を償わさせる事も出来ただろう。

だが、自身の罪を自覚していない者に何を言っても、意味はない」

四ッ谷が自身にそう言い聞かせる様に、つぶやき眼鏡の弦を触る。

 

「うん、キミって本当にタイクツだネー。

ニニィ、そういうの()()

そう言った瞬間、周囲から色が消えうせた。

 

「これって!?」

想護はその色の消えた空間に覚えがあった。

先日の病院での騒ぎの時見た、広範囲のデュエルスペースだった。

 

 

 

「ソウゴー、ダメだよー?デュエルを受けちゃったんだから、油断しちゃダーメ」

 

「そうか、貴様にも狙いがあったと言う訳か……」

四ッ谷が苦々しくつぶやいた。

 

「想護、すまないが彼女を止めてくれるか?

デュエルが始まった以上、私達に出来る事は無い」

 

「え、ええ。任せてください」

想護が四ッ谷の声に応える。

 

 

 

 

 

「ニニィのターンだよ!ニニィは手札の『光神龍スペル・デル・フィン』をマナゾーンにおいて、呪文『白米男しゃく』を詠唱!」

ニニィの手にあるのは上面と下面で別々の効果が書かれたツインパクトカード。

上面はトリプルブレイカーを持つ大型獣、そして下の効果は――

 

「山札から一枚をマナゾーンにね、マナからカードの回収も出来るけど、今はしない。

ニニィのターンはこれで終了」

 

ニニィ 手札3 マナ4 盾5

 

「3ターン目にマナチャージ、なんというか、ずいぶん『普通』なんだな……」

想護が静かな立ち上がりに、意外そうに声を漏らした。

 

『今のトコは、ね。けど、アイツのマナゾーンのカードを見てればそうも言ってられないわよ』

前のターンに呼び出され、バトルゾーンにたコートニーの言葉を聴き想護がニニィのマナを確認する。

 

「い”!?」

その顔触れを見て、想護が小さく呻き声を出す。

 

「ニコルに、ヴィルにナイン……」

さっきのマナチャージで落ちたカードは、強力カードの代名詞でもある『ニコル・ボーラス』そして緑マナを発生させた『偽りの王 ヴィルヘルム』。

ぞろぞろと強力なカードのラインナップが見えてくる。

 

「マナを稼がせるのは危険だ!

俺は3マナ使用で呪文『フェアリーミラクル』を詠唱。

コートニーの効果で一気に2枚加速だ!」

想護の山札からカードが2がマナゾーンに追加される。

 

想護 手札3 マナ5 盾5 

 

「おー!コートニーの染色能力で、フェアリーミラクルを決めて来たネ~

うんうん、カードと心がつながり合ってるね」

楽しそうにニニィが二人の様子を見る。

 

「けど、君たちはダメダメ!」

両手の指を雪菜と四ッ谷の両方に指し示す。

 

「カードとの心の繋がりだと?そんな物は理想論だ!

我々『D-シーカー』はカードの力を悪用する者、または人間を乗っ取ったカードと戦いをしてきた!!

貴様たちのした行為の尻拭いだ!!」

 

「ッ……カードとの共存なんて……」

四ッ谷が憤り、雪菜が本型のデッキケースを握る。

 

 

 

「へぇ……んじゃ、君たちはそのレベル止まりって、()()なんだよね。

カードの力を引きだせてあげれてない。

ただ、それだけなんだよー?」

ニニィがデッキからカードを一枚引く。

 

「にへぇ……!準備しなくちゃ、ネー!」

ニニィがたった今引いたカードを上空に投げる。

 

「ニニィはマナをチャージ!そして5マナ使用して――」

カードが青い粒子になって溶けていく。

 

「アハッ!起動し(起き)て!青のドラゴン!

0と1のデータの海から、生命と虚構の狭間から今、生まれ出でよ!!

オレガ・ライブ!!『code:1059(ヘブン)』」

 

バトルゾーンに現れたのは半透明の姿を持つ水のドラゴン。

だがその姿はまるで、荒いTVの画面の様にノイズが走っている。

 

「そしてGR召喚!何かな、何かな~?」

ニニィが指を鳴らすと、背後から巨大なガチャのマシンが姿を見せた。

そして機械が稼働し、一つのカプセルを吐き出した。

その中から出来て来たのは、流線形のボディに黄金の鉱石を背負う白亜のクリーチャー。

 

「おお!マーチスだね!」

 

『チッ、不味いわ。アイツは……』

 

『コォオオオオオ!!』

耳をつんざく声を発しながら『code:1059(ヘブン)』がマーチスをその身に取り込んだ。

 

「オレガ・オーラは不安定なカード、GRクリーチャーを核にしないと存在できない。

だけど、この子の力はバカに出来ないヨ~?

その前に……取り込んだ『続召の意思 マーチス』の能力発動だよ!

マナゾーンのカードが5枚以上で光が有れば、もう一回GR召喚!」

 

『クルォオオオオオン!!!』

『code:1059(ヘブン)』が再度嘶き、再びGRクリーチャーが姿を現す。

 

『…………』

それは、一枚の電子チップの様な姿をしていた。

チップの中央に赤い人の目の様な模様が見えた。

 

「なんだ、あのクリーチャー?」

見慣れぬ姿に、想護が口を開く。

 

「この子は『ソゲキ 丙‐一式』

効果はね――」

ソゲキを囲む様に、黒い弓の様な物が絡みつく。

 

「い”!?」

 

「ハンデス、だよ?」

ソゲキが想護に向かって、矢を飛ばす。

 

「さぁ、さぁ、自分の手札を選んで捨てて。

そうしないとその矢は何処までも追ってくるヨ?」

心底楽しそうに、ニニィが体を揺らす。

 

「お、俺は『パラスキング』を墓地へ!」

手札のパラスキングがソゲキの矢に穿たれ、墓地へと落ちる。

 

「マナゾーンのカードが5色って事は、どんなGRクリーチャーも使い放題って事か……」

想護が苦々しく、code:1059を見上げる。

 

「ニニィはこれでターンを終わり。終わり、だ・け・ど!」

 

「まだ何かあるのか!?」

 

「『code:1059(ヘブン)』の能力発動!

ターンの終了時に、もう一回GR召喚するヨ~!」

 

「もう一回だって!?」

その言葉を聞いた想護が顔面蒼白になる。

 

「本日三回目のGR召喚!何が出るかな~?」

三度ガチャが回され、カプセルが開かれる。

姿を見せたのは、小さな機械部品に青い影が絡みついたようなクリーチャー。

 

『…………ジぃ………』

そのクリーチャーは力なさげに、つぶやくと動きを停止してしまった。

 

「あっちゃ~『天啓(エナジー) cx-20』かぁ。

召喚時デッキからカードを3枚ドローできるけど、マナが6枚以上じゃなきゃ、動いてくれないんだよね……

ニニィはターン終了だよ」

がっくりと肩を落とすニニィだが、その場にはこのターンだけで3体のクリーチャーが並んでいる。

 

ニニィ 手札2 マナ5 盾5

 

「俺のターン、ドロー!俺はマナを溜めずに、ボアロジーを召喚。

マナを2枚溜める」

想護がボアロジーを召喚し、その能力で2枚のカードをマナに置いた。

 

『ちょっと!!想護!何してるのよ!!むざむざ何もしないでターンを返すつもり!?』

コートニーが劇を飛ばす。

 

「今は、今はチャンスを待つしかないんだ。

けど、必要なマナは揃った。次のターンから一気に逆転だ」

 

想護 手札2 マナ7 盾5

 

 

 

 

「四ッ谷さん、彼女の動き。どう思いますか?」

じっとデュエルを見ていた雪菜が隣の、四ッ谷に話しかける。

 

「あの『code:1059(ヘブン)』というカード……

あれが切札の様に見えるが、どうにもマナゾーンにあるカードとシナジーが薄い気がする。

あのカード自体は知っている。相手の墓地の呪文を唱える能力を持っている為、あのような超次元とGRを同時に使用するデッキは頷ける。

ただ単に、アドバンテージを稼ぐための物なのか?

それともサンジェルマンの孫娘が純粋に、事故を起こしているだけなのか……」

眼鏡を触りながら四ッ谷が、つぶやいた。

 

 

 

 

 

「へぇ~、ソウゴは次のターンに賭けてるんだ。

偶然だね!ニニィは次の次の次に賭けてるんだよ」

 

『はぁ?一体何を言ってるの?』

コートニーが理解できないとばかりに、声を漏らす。

 

「じゃ、終わりを呼ぼっか?」

ニニィが自身の手札をマナに置く。

 

「手札のカード、『聖霊龍騎(せいれいりゅうき)サンブレード・NEX』を自身の効果で召喚コストを2軽減するヨ~

そうした場合、ソウゴは自身の山から盾を一枚増やせるけど、どうすル?」

ニニィの場に2本の巨大な剣を持った、龍が姿を見せる。

 

「俺は――」

 

『当然貰うわ!』

想護の意見を遮り、コートニーが口を開いた。

 

「盾、追加でイイ?」

 

「あ、ああ、もともとその気だったし」

想護の決定で、盾の枚数が一枚増える。

 

(一体何の積りなんだ?わざわざ相手の盾を増やすなんて、そこまでして一体何を考えているんだ?

呼び出したからには、意味があるハズだ……)

 

「サンブレード・NEXの効果発動だヨ!

このカードはバトルゾーン出た時、手札を一枚捨てる。

そして、カードを2枚ドロー!サンブレードで攻撃時、手札から革命チェンジ!」

 

 

 

「革命チェンジですって!まさか、ドギラゴン剣!?」

雪菜が以前の戦いを思い出し、声を荒げる。

 

「いや、たった今彼女の捨てたカード……

場合によっては、もっと危機的状況になり得る」

 

「え?」

 

 

 

『色は赤と白、バスター?ヘンザ?それともダンテ?』

コートニーが革命チェンジ先を警戒する。

サンブレードが大剣を振り上げた時、大地から巨大な植物のツタがその身を覆った。

そして――

 

「ぶっぶー、全部ハズレー!

ニニィが呼び出すのはー、この子ー!!

D2M2 ドグライーター」

 

『ぎゃぁおおお!!』

呼び出されたのは、食虫植物を思わせる歪なドラゴン。

片やデータの集積体、片や変異した植物の怪物。

2体の異質なドラゴンがニニィのバトルゾーンにならんだ。

 

「ドグライーターの能力発動~

手札のカードを一枚捨てて、墓地からD2フィールドを展開!!」

 

「D2フィールドだって!?」

 

「異なる世界を繋ぐ扉たちよ、今こそここに集え。

生と死を超えよ。

次元を超えよ。

データの海を越えよ。

未来を超えよ。

全ての世界を繋ぐ力よ、ここに集まれ!!!

展開!!D2フィールド!!『並替と選択の門(ソーティング・ゲート)』!!」

 

「なんだ、一体なんなんだ、このカードは!?」

想護の目の前、4つの巨大な扉が姿を現した。

 

「カウントダウンだよ。ソウゴがニニィに負けるまでの。

さぁ、耐えて見せて?抗って見せて?

4つの世界を繋ぐ扉に、ね」

ニニィが再度心底楽しそうに、笑みを見せた。



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