そんな君、こんな僕 ( 龍也)
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第1話 虚無

みなさんこんにちは!龍也です!
バンドリ作品はこれで2作目となります!
常にマスクをしている男の子、本田 光瑠くんのお話です!



 

 

 

 

 

 

 

 もしも、学校でいじめられていなかったら。もし自分が、誤解されやすい人間じゃなかったら。

 

 彼はずっとそう思っていた。だが、その本音は誰にも伝わることはなかった。

 生きる希望を失いつつある少年は、一筋の光に縋ることになる。

 

 これは、恵まれない少年が人と関わることで変化し、そして、成長するお話。

 

 

 ・・・・・・・

 

 

 いつも通りの朝。いつも通りの生活。僕くらいの歳の人なら、今の時間帯は学校に行っているだろう。

 

 現在時刻は9時30分。幾度となく聞いた目覚まし時計の音で、僕は目が覚めた。

 

 

 本田 光瑠(ほんだ ひかる)17歳。 現在不登校。

 

 長めの黒髪をかき乱しながら、僕はゆっくりベッドから出る。紙箱からマスクを取り出し、それを口元に着ける。私服に着替えてから部屋を出て、キッチンにあるカップラーメンを取りに行く。

 

 普段から何も変わらない、いつもの生活。

 

 別にこの生活で不自由なことはない。好きな時間に起き、好きな時間に食べ、好きな時間に勉強し、好きな時間に寝る。

 

 これほど楽な生活はあるだろうか。だが、欠点を言うならば、同年代と関わる機会が皆無なことと、外出しない為、運動不足が更に悪化することくらい。

 

 ……そんな生活でも全然構わないと、僕はそう思ってる。

 

 友達を作りたいなんて欲望は、中学の時点で消え失せた。友達を作ったところでまた誤解され、勝手に離れていくからだ。

 

 僕は小学校の頃から周りから誤解を受けやすく、自分がやっていないことを自分のせいにされたりした。

 

 僕は面倒なことになるのが嫌だった為、全て自分がやったと言っていた。しばらくは陰口悪口が飛び交うが、いつかほとぼりが冷め、誰も気にしなくなる。

 

 それと、誰かが悪く言われることが嫌いだった為、いっそのこと僕が代わりに悪口を言われれば、誰も傷つかずに済むと思ったから。

 

僕はそれを善意でやっていたが、その善意につけ込んだ連中からいじめが始まった。

 

 最初はただ罵倒されるだけだったが、徐々に物を隠されたり、暴力を振るわれたりした。日に日にそれがエスカレートし、僕の身体は傷だらけになった。

 

 誰も傷ついてほしくなかったから、良かれと思って自分が責任を背負っていたら、いつのまにか僕の居場所は無くなっていた。

 

 中学校に進級した後も同じ。

 

小学校の時のトラウマで笑うことができなくなり、顔が怖いという理由でいじめられるようになった。

 

だから僕はマスクで顔を隠しながら生活することにした。そんな生活が3年間続き、耐えられなくなった僕は、中3の後半に不登校になった。

 

 高校へ行かないことを決め、しばらくの間自室に引きこもった。中学の卒業式にも出席せず、校長室で卒業式を行った。

 

 卒業した後も高校に入学せず、独学で勉強をした。そんな生活が1年以上続き、いじめられたこともあってか、人に恐怖を抱くようになり、人とどう接すればいいかわからなくなった。

 

 

 だから僕は学校へは行きたくない。行っても無駄。そう思っている。

 

 だから僕は自分で勉強する。毎日問題集を解きまくる毎日。勉強ばかりで退屈だと思うことはあるが、それでいい。学校に行くよりはマシだから。

 

 

 いつものように問題集を解いていると、微かに玄関のドアが開く音が聞こえた。

 

 多分、帰ってきたのは母親だろう。そう思いながら問題を解いていると、階段を登ってくる音が聞こえ、しばらくすると部屋をノックする音がした。

 

 部屋のドアを開け、母が自室に入ってきた。

 

「ただいま光瑠。お勉強中かな? 」

 

 長い茶髪を後ろで結び、ぱっちりした目。明るくて誰とでも分け隔てなく接する為、町内で人気があるらしい。なんでそんなに人と接するのか、よくわからないけど。

 

「おかえり。お母さん」

 

「いい加減、そのマスク外したら?今はマスクする季節じゃないでしょ?」

 

「マスクしてる方が落ち着くんだよ」

 

「そう。光瑠がいいならいいけど、あ、それより光瑠。そろそろさ、……学校、行ってみない? 」

 

「えっ? 」

 

 いきなり何を言いだすかと思えば。学校に行きたくない理由は、お母さんが1番知っているはずでしょうが。何故に?

 

 

「……嫌だよ。僕が学校嫌いなの、お母さん知ってるでしょ? 」

 

「それはわかってるけど、学校はそんなに悪いものじゃないわよ。きっと、光瑠の良さをわかってくれる友達ができる。そう思うの」

 

 高校。昔は憧れていたけど、もう憧れとか、そんな感情は持てない。小・中学校であれだったんだから、高校もきっとそんな感じだろう。そんなふうにしか思えなくなった。

 

「今の生活で充分だよ。ちゃんと勉強してるし。ごめん。学校には、行きたくないよ」

 

「……そっか。光瑠の意見を尊重するから、無理に学校に行けとは言わない。でも、もし行きたくなったら言ってね。いい高校、知ってるから」

 

「……うん。わかった」

 

 僕がそう言うと、母は少し笑い、部屋から出て行った。

 

「いい高校……か」

 

 いい高校なんてあるのかどうか。まあ、考えるだけ無駄だろう。どうせ期待を裏切ってくれるんだから。

 

 お母さんが学校に行くのを勧めてくれているのに、行かないのは正直申し訳ないと思ってる。

 

 でも、傷付くのが怖いから。次はどんなことをされるかわからないから。愚かなわがままだということはわかってる。けど、しばらくはこの生活をさせてほしい。

 

 

 

「あと2ページ終わらせよ」

 

 そう呟き、問題集を解くのを再開した。現実から目を背けるように、問題を解くのに集中した。普段やることと言ったらこれしかないからだ。 一種のストレス発散だとも最近思い始めてきた。

 

 

 学校には行かず、自由な生活。やることはただ問題集を解くか寝るだけ。そんな色のない生活が、まさかあんな風になるなんて、今の僕にはまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。
不幸な学校生活をおくっていた光瑠くん。
彼はどんな生活をおくるようになるでしょう。
次回もお楽しみに!

感想、評価をもらえるとモチベが上がります!
ぜひ、お願いします!
それではまた次回のお話でお会いしましょう!


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第2話 羨望

みなさんこんにちは!龍也です!
今回は光瑠くんが抱えている
気持ちについてのお話です。


 

 

 

 

浅い眠りについた僕は、夢を見た。

幼い頃の自分と、自分と一緒にいる

2人の女の子との思い出が視界に入る。

 

近くの公園で、僕を含めた3人の子が、追いかけっこをしている。

 

「あはははっ! 」

 

「ちーちゃん、まってよー! 」

 

「ああっ、ちーちゃん、ひかちゃん!

おいていかないでー! 」

 

幼い頃の無邪気に笑う僕と、その横で楽しそうに笑う女の子と、泣きそうになりながら2人を追いかけるもう1人の女の子。

これを見ると、この頃の僕は本当に純粋だったのだと再認識する。

まだ人の闇を知らないとき。

 

純真無垢だった自分を、今では呪いたいとまで思う。

 

今となっては忌々しい思い出だ。

できれば思い出したくはない。

だが、夢は自分で選んで見ることは絶対にできない。僕の望みを無視し、思い出したくないと願っている幼い日の出来事が夢に出てくる。

それが嫌で嫌で仕方がない。

 

しばらくすると徐々に周囲が黒くなっていき、気がついた時、僕は目を覚ましていた。

 

僕の目から一筋の涙が伝った。

 

「……またか」

 

僕は低くそう呟き、腕で涙を拭ってベッドから出る。

 

幼い頃の夢を見ると、自分の意思とは関係なく目から涙が頰を伝う。

 

何故涙が出るのか。

 

自分ではわからない。だが、ひとつだけ思い当たる理由としては、あの頃のようには戻れないという悲しみや後悔。それらが原因であると、僕はそう思っている。

 

あの2人が今どうしているかなんてわからないし、多分、僕が知ったところでなんの意味もないだろう。

もう、二度と関わることなんてないんだから。

 

 

 

いつも通りマスクを着けて着替えを済ませ、部屋にこもって勉強する。

ひたすら問題集を解いて疲れた為、ペンを置いた。

軽く伸びをした瞬間、部屋のドアがノックされた。

 

母親が静かにドアを開け、中に入ってきた。

 

「光瑠。おつかい、頼んでもいいかな?」

 

母親が僕にエコバッグとメモ、千円札3枚を僕に差し出した。

 

「どうしたの?」

 

「今、手が離せなくて。残ったお釣りでプリン買ってきてもいいから、行ってきてくれない?」

 

「…わかった。行くよ」

 

母には迷惑をかけてばかりなので、自分が母にできる限りのことをすると決めている。

そうでもしなければ、親への罪悪感でおかしくなりそうになる。

 

差し出されているエコバッグ等を受け取ると、母はたちまち笑顔になり、ありがとうとお礼を言い、部屋を出て行った。

 

 

「……さて、行こう」

 

黒い上着を羽織り、僕は家を出た。

 

 

時刻は16時。

 

今はもう5月の下旬。

暖かくはなったが、この時間帯は少し寒い。上着を羽織って正解だった。

 

家の近所にあるスーパーへ行き、メモ用紙に書いてある食材を買い物かごに入れ、レジへと向かう。すると、50代くらいのおばさんがレジを担当してくれた。

 

商品のバーコードを読み取りながら、おばさんが僕に話しかける。

 

 

「お兄さん、なんでマスクしてるの?風邪かい?」

 

「え、……まあ、そうですね」

 

「気を付けなよー? 誰かに移したら大変だからねぇ。」

 

「・・・そうですね」

 

別に風邪をひいている訳ではないのだけれど。

変に理由を言って詮索されるのが面倒なので、理由を聞かれたら大抵は風邪か、花粉症だと偽り、誤魔化している。

 

「お会計、2280円です」

 

「あ、これで」

 

千円札3枚で会計し、エコバッグに買ったものを入れた後、僕はスーパーを出た。

 

 

帰り道を歩いている途中、制服を着た生徒と何人もすれ違った。多分、学校帰りなのだろう。

 

 

「それで、B組の◯◯がさ〜」

 

「えー、まじで!?あははっ! 」

 

他愛のない話をする2人の男子生徒とすれ違う。

 

僕は一瞬顔をしかめたが、不審に思われないようにすぐに真顔になる。

 

こういうことが起きるから、この時間に外に出るのはあまり好きではない。

 

極力同年代の人の顔は見たくない。

ずっとそう思っている。

 

だが、笑いながら話をする男子生徒の姿を見て、僕は不覚にも、それを少し羨ましいと思ってしまった。

 

きっと彼等は充実した学校生活を送っていて、なにひとつ不自由なことなんてないのだろう。

僕みたいに、常に罪悪感に苛まれることなんて、

ないのだろうと。

 

全ては自分の我儘でこうなっている。

学校へは行かず、同年代の人間を見ると嫉妬をする。

つくづく、そんな自分を愚かで醜いと思う。

 

歩きながら僕は考え事をした。

 

本当に、このままでいいのだろうかと。

今の生活は自分にとってストレスはないが、それと同時に、なんの成長もないんじゃないか。

このままあと1年間、親に迷惑をかけっぱなしで、本当にそれでいいのかと。

 

本来なら学校に行かなければならないのを、親の情けで不登校だということを認めてもらっている。

母はそれを言ったら違うと言うだろうけど。

僕はそう勝手に捉えている。

 

 

自分のことを考え直すと、いかに自分が悪い人間だということを思い知らされる。

どんなに取り繕っても、身内に迷惑をかけてばかりの不届き者。

その事実が変わることは決してない。

 

そんなことを思いながら自宅に到着し、玄関に入った。

 

「あ、おかえり光瑠。早かったね。ちゃんと買ってきてくれた? 」

 

「うん。買ったよ。はい」

 

母にエコバッグを渡し、買い忘れがないか確認してもらったところ、母が笑顔でサムズアップをした為、買い忘れはないことがわかった。

 

 

「光瑠、浮かない顔してるわね。なにかあった?」

 

僕の顔を覗き込みながら、母はそう聞いてきた。

 

「マスクしてるんだから、浮かない顔かどうかなんてわからないでしょ」

 

「わかるわよ。何年あなたの顔を見てると思ってるの。

目を見るだけでわかる。なにか悩み事とか、あるんじゃないの?」

 

 

「……」

 

 

母親は妙なところで勘が鋭い。

僕の考えてることは全部、お見通しってことか。

…あんまり詮索してほしくないんだけどな。

 

 

 

「別に。お母さんが気にすることじゃない。ごめん。部屋に戻る」

 

「あっ、光瑠!ちょっと! 」

 

僕は母に構わず二階へ上がり、自室に入った瞬間にベッドにうつぶせになった。

 

 

苛立ちでも悔しさでもない、なんとも言えない感情が、僕の頭の中でいっぱいだった。

 

「……僕は…」

 

 

 

なんとも言えない謎の感情を抱きながら、僕は現実から逃げるように、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。
光瑠くんはずっと罪悪感を
抱えて生活しているのです。
そんな彼は、この生活をどうするのでしょうか。
次回もお楽しみに!
感想、評価をもらえるととても嬉しいです!
ぜひ、お願いします!
それではまた次回!


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第3話 決断

みなさんこんにちは!龍也です!
お気に入り登録17件、UA700突破ありがとうございます!



 

 

 

 

 

………おかしい。

 

あの一件以来、僕は部屋に引きこもっている自分を嫌悪するようになり、日を追う毎に孤独感が強くなっていく。

 

僕は机に広げられている問題集を解こうとしたのだが、全然集中できず、数分で問題集を閉じた。

 

「………はぁ」

 

大きなため息をつき、僕はベッドに寝そべった。

 

ベッドで横になりながら、僕は高校というものを今一度考えてみることにした。孤独感が強まる原因は自分でもわかっている。自分が学校に行っていないからだ。学校に行かず、友人もいない。1年前は親のことを考えずに家から一歩も出ない生活だったが、今年から買い物に行くことにし、下校中の生徒を見る度に、嫉妬に近い気持ちが募っていった。

 

このままの生活だと、自分は絶対にダメになる。そんな気がするのだ。むしろ、ダメになる未来しか見えない。目先の事を考えて恐怖を感じるのは中学校の時以来だ。考え事をすればするほど暗い未来しか見えない。

 

親を安心させるにはどうすればいいのか。

それについても考えると、ある1つの結論に至った。「学校に行けばいい」と。

 

ずっと考え事だけをしていても何も解決にはならないし、この気持ちは家にいるだけでは収まることがない。どの道、自分に選択肢などはない。高校へ入学する。それが僕の、学生としての義務なのだと自覚した。

 

1時間悩みに悩んだ末に答えを出し、僕は1階へ降りる。念の為、父の考えを聞くことにした。

 

リビングで新聞を読んでいる父に近付き、僕は口を開いた。

 

「お父さん」

 

「ん、光瑠か。お前から俺に話しかけるなんて珍しいな。どうした? 」

 

「僕、学校に行った方がいいのかな」

 

父は新聞から目を離し、唖然とした表情で僕を見た。

 

「学校に行きたいのか?光瑠」

 

「行きたい気持ちもあるし、ちょっぴり行きたくないって気持ちもある。お父さんは、どう思う? 」

 

「無理に学校に行く事を強制するつもりはない。行きたければ行けばいい。光瑠次第だ。自由にするといい」

 

「……ありがとう。お父さん」

 

「ああ。だが無理して学校に行くことはないからな」

 

「……わかってる」

 

僕は父にお礼を言い、部屋に戻った。

 

僕の父親は昔から放任主義で、父からあれをしろ、これをしろ等と言われたことはあまりない。自分の判断で決めろ。それが父のスタンスだと僕は思っている。

 

自室で夕食のカップラーメンを食べた後、僕は再度1階へ降り、母に伝えるべきことを伝える為に、キッチンへと向かった。僕が母の方へ近付くと、母の方から話しかけてきた。

 

「あら光瑠。どうしたの? 」

 

「……お母さん。 ……あのさ」

 

「んー? なあに? 」

 

迷いが邪魔し、言葉が詰まったが、その迷いを振り切り、勇気を出して自分の気持ちを伝えることにした。

 

「…僕、学校に行くよ。このままお父さんとお母さんに迷惑をかける生活は嫌なんだ。高校に行けば、少しは気分が晴れるかなって思ったから」

 

僕の言葉を聞いて、母は安堵したようににこやかに笑った。

 

「うん。その言葉を待ってたよ。まったく。1年もかかっちゃったね。それを言うのに。もっと早く言ってほしかったなー? 」

 

「ご、ごめん……」

 

「いいよ。光瑠の勇気に免じて許してあげる。あれだけ学校に行きたくないって言ってた光瑠から、学校に行きたいって言葉を聞けただけで充分だよ! 」

 

「お母さん……」

 

母は僕の気持ちを1番理解してくれていた。学校に行きたくないという我儘を1年以上も許してくれた。本当に感謝しかない。母の気さくな性格が、僕の心を陰でずっと支えてくれていたのだと、改めてそう思った。

 

「そうと決まれば、入学手続きしないとね!光瑠に行ってほしい高校、もう決めてたんだ! 」

 

「どこの高校? 」

 

「羽丘学園っていう高校で、前までは女子校だったんだけど、最近共学になったばかりなの!羽丘なら家からそう遠くないし、行くならそこがいいかなって思って! 」

 

羽丘学園か……。初めて聞いた。もしかしてこの前すれ違った灰色の制服の人達は、羽丘の生徒だったのだろうか。もとは女子校ということは、生徒数は女子の方が多い感じかな。最近共学になったばかりなら尚更。

 

 

「うん。わかった。じゃ羽丘に行くよ」

 

「じゃ、行く高校は羽丘で決まりね!編入できるかどうか、明日電話で聞いてみるから! 」

 

「いろいろごめん。お母さん」

 

「いいよいいよ!光瑠はまだ子供なんだから、そういうのは親に任せておけばいいの!子供は、親を頼って成長していくんだから! 」

 

相変わらずのお人好し加減に僕は安堵し、母に何度もお礼を言った後、自分の部屋に戻った。

 

母が言うには、入学手続きには最低でも2週間はかかるらしい。高校に入学する前までの空き時間を有意義に過ごそうと思った。どのみち学校が始まればゆっくりできる時間が減るのだから。

 

束の間の休息をゆっくりと過ごす。僕はそう心に決めたのだった。

 

 




いかがだったでしょうか。ついに学校に行く事を決めた光瑠くん。
ここから彼の物語がスタートします。お楽しみに!

感想、評価。とても励みになります!ぜひぜひお願いします!
それではまた次回のお話でお会いしましょう!


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第4話 試験

みなさんこんにちは!龍也です!
今回は光瑠くんが羽丘学園に行きます!


 

 

 

自室で読書をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。振り返ると、大きめの封筒を手に持った母が部屋に入ってきた。

 

「光瑠ー!羽丘の入学手続きの書類、書いたよ! 」

 

「ああ、ありがとう」

 

羽丘学園に行くことを決めた日の翌日に、母は学校にすぐ電話してくれた。理事長と電話で話したらしく、この時期に入学する理由を説明したら、快く納得してくれたようで、すぐに入学手続きの書類を家に郵送してくれた。

 

入学手続きの書類に一通り目を通したら、1年生の過程を経由しなくとも、編入が可能だということがわかった。だが、編入する為には筆記試験を受けなくてはならないらしい。さすがに無条件で2学年の生徒として入学はさせてくれないのではないかと薄々そう思っていたが、見事に予想が的中した。

 

試験に関しては家で毎日勉強していた為、どんな問題が出てもいいように対策をしてある為、余程のことがない限りは大丈夫だと信じている。まあ、編入試験に難解な問題を出すとは到底思えないのだが。

 

 

僕が書類に署名をし、母が入学手続きの書類を全て書き終えた為、僕は明日、その書類を学校に届けると同時に、編入試験を受けることにした。学校にはあらかじめ明日に試験を受けに行くと連絡してある。

 

 

「ついに明日は編入試験だね!頑張って! 」

 

「うん。多分、そんなに難しくはないと思うけど」

 

「いつも勉強してるんだから、光瑠なら絶対大丈夫!きっと編入させてくれるわよ! 」

 

「そうなることを祈るよ」

 

「うんうん!明日の為に、今日は早く寝なさいよ?」

 

「わかってる。 もう少ししたら寝るよ」

 

「うん!えらいえらい!じゃあまた明日ね! 光瑠!」

 

「うん。おやすみ」

 

母は軽く手を振って、部屋から出ていった。えらいえらいなんてこの歳の僕に使う言葉ではないような気がするのだが、あえて指摘しなかった。

 

 

 

僕は本に栞を挟んで机の上に置き、電気を消した。編入試験といっても中学校卒業レベルの問題がほとんどだろうし、気楽に行こう。僕は心の中でそう思いながら、ゆっくり目を閉じた。

 

 

・・・

 

次の日、僕はリュックに書類が入ったクリアファイルと筆記用具を入れ、上着を羽織り、玄関へ向かった。今日は父と母は仕事の為、家にいない。

 

「行ってきます」

 

入り口のドアの鍵を閉め、母に言われたルート通りに、僕は羽丘学園へと向かった。

 

 

数分歩いていると、羽丘学園の校舎が見えてきた。予想していたより校舎が大きかったので、それなりに生徒数がいる高校だということがわかった。まっすぐ歩くと羽丘の校門前に着いた。

 

職員玄関へ行くと、先生が待ってくれていた。

 

「本田光瑠君だね?試験教室に案内するよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

靴を履き替えた後、僕は先生に入学志願書が入った封筒を渡した。先生の後に着いて行き、指定された教室に入った。学校内に入ってまず思った事は、広くて綺麗の一言に尽きる。こんな環境で勉強できると思うと、少しだけ心が躍った。

 

教室の真ん中にある席に着くと、もう既に解答用紙と問題用紙が置いてあった。

 

「その問題用紙1冊にそれぞれ5教科の問題がある。試験時間は2時間。リラックスして解いてね」

 

「はい。わかりました」

 

リュックから筆記用具を出し、僕は問題用紙を開いた。そこに書かれていた問題は、僕にとっては余りにも簡単すぎる問いだった。5教科全ての問題に一通り目を通したが、どれも簡単に解けるようなものばかりだった。

 

(……なにこれ。簡単すぎる……)

 

正直こんなに簡単な問題だとは思わなかった。僕は1問数秒のペースで試験問題を解き、約30分で全ての問題を解き終わり、シャーペンを置いた。

 

「先生、終わりました」

 

「え、も、もう終わったのかい? 」

 

「はい」

 

先生は驚いた様子で解答用紙と問題用紙を回収した。

 

「今採点してくるから、少し待っててくれるかな?」

 

「わかりました」

 

採点の為、先生は小走りで教室から出ていった。誰もいなくなった教室で僕は静かに先生が戻って来るのを待った。はっきり言ってとても簡単な試験だった。昨日の緊張を返してほしいくらいだ。あんな問題、誰でも全問正解できるだろう。採点する意味はあまりないと思うのだが。

 

そんなことを思っているうちに、先生が戻ってきた。

 

「…本田君、君、どこか塾にでも通っていたのかい…?」

 

「いいえ? 通ってませんけど」

 

「この編入試験で全問正解したのは、君が初めてだよ……すごいよ本田君! 」

 

「え? 」

 

僕は思わず耳を疑った。全問正解したのが今までで僕だけ?いやいやまさか。あんな簡単な問題で?

 

「この試験で40点以上の点数を取れれば編入が認められるのに、まさか全問正解するとはね。ほんとに驚いたよ」

 

「は、はぁ……」

 

40点以上がノルマだったなんてあまりにもレベルが低いと思ったが、それを口に出したら怒られると思った為、言わなかった。

 

「今日の試験の点数と、君の人間性。両方とも問題なさそうだね。合格だよ。本田君。羽丘学園の2年生として、入学を許可します! 」

 

「え、あぁ、ありがとうございます」

 

意外とあっさり編入が決まった。まあ、当然といえば当然かもしれないのだけれど。

 

「詳しくは郵送で合格通知書と書類を送るから、それに目を通しておくこと。制服が用意でき次第、いつでも学校に来ていいから。これから頑張ってね。本田君」

 

「……はい。頑張ります。では僕はこれで」

 

「あ、待って本田君!1つ、聞きたいことがあるんだけど…」

 

リュックを背負って教室から出ようとすると、先生に止められた。この時期に入学する理由を聞く為だろうか。

 

「はい? 」

 

「君、この時期になってもマスク付けてるみたいだけど、なんで? 」

 

「……風邪予防です」

 

「あ、そっか!予防ね!そうだったんだ! あ、 あはは……」

 

 

てっきり今の時期から風邪予防するの?と聞かれるかと思ったが、苦笑いしながら納得した為、僕は先生に挨拶をし、教室を後にした。

 

 

職員玄関で靴を履き替え、僕は学校から出た。羽丘学園の校舎を眺め、窓を見ると、ずっと僕を見ている男子生徒と目が合った。その男子生徒がこちらに軽く手を振った為、僕は怖くなり、小走りで校門に向かった。

 

学校の敷地内から出た後、自分に手を振ってきた不思議な生徒のことを思い出しながら、僕は家の方角へゆっくりと歩いた。

 

 

 

 

一方その頃 教室にて

 

 

 

「…あいつ、転入生かな。なんでマスクなんかしてるんだ? しかも手振ったら逃げたし。……なかなか面白そうな奴だな…! ははっ! 」

 

結城(ゆうき)君?独り言言ってないで、ちゃんとノート取りなさい」

 

「はいはい。わかりましたよ。センセ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時からもう既に始まっていたのかもしれない。彼と目が合った、あの日から。

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。日頃の勉強の成果を発揮した光瑠くん!羽丘学園への編入が決まりました!

そして光瑠くんと目が合った謎の男子生徒の正体は…?
次回もお楽しみに!

感想、評価。どれもモチベーションが上がります!
ぜひぜひお願いします!

それではまた次回のお話でお会いしましょう!


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第5話 初日

みなさんこんにちは!龍也です!
今回から光瑠くんが羽丘学園に通います!そこにはある意外な人物が……?


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりにかけた目覚まし時計の音で僕は目が覚めた。起きてすぐに目に入ったのは、まだ1度も着たことがない新品の制服だった。その制服を今日、着ることになる。

 

あれから約1週間後、全ての入学手続きが終わり、羽丘学園の2年生として入学することが決まった。注文した制服が届いたので、今日から僕はれっきとした高校生になる。高校生になるまでかなり時間が空いてしまったことが悔やまれるところだが、過去のことを振り返ってもしょうがないし、現にこうして高校生になれたのだから、今は前だけを見据えて生活すると決めている。過去を振り返っても、幼馴染と会えないのも重々承知しているので、一種の戒めとしての意味もある。

 

パジャマを脱ぎ捨てて制服のズボンとワイシャツを着て、ネクタイを締めた。こうして制服を着るのは久しぶりで、中学校の頃の毎日繰り返していた日課が戻ってきたように思い、懐かしさと同時に不安がこみ上げる。

 

高校には知ってる人が誰もいないと思うので、前のように酷い事をされることはないと信じてはいるが、可能性は0ではない。極力目立たないように生活していれば何かされることはないだろう。友達なんて作らなくても勉強さえできればそれでいい。そう割り切ることにしている。

 

 

1階へ降りてリビングに行き、朝食と昼食兼用の菓子パンを冷蔵庫から取り出すと、母もリビングへと入ってきた。

 

「おはよう光瑠。制服、似合ってるわよ! 」

 

「おはよ。ありがと」

 

「今日から学校だけど、緊張してる?」

 

「別に。緊張もしてないし期待もしてない」

 

「またすぐそういうこと言う!せっかく高校行くんだから、ちゃんと友達作らなきゃダメよ!高校生活なんてあっという間なんだから! 」

 

「できたら奇跡だね。まぁ、おとなしく過ごすよ。目立ちたくないし。じゃ、準備してくるから」

 

 

準備の為、僕は歯磨きを済ませて階段を登った。妙に母がニヤニヤしていたが、大体予想がつくので頭の隅においやった。妙なところで勘が鋭いので、僕が考えていることもすぐに見透かされそうだ。母のそういうところは、少し苦手だ。

 

 

リュックに勉強道具を入れ、灰色のブレザーを羽織り、口元にマスクをつけた。これで学校に行く準備ができた。僕はリュックを背負い、玄関へ向かう。

 

 

玄関で靴を履き、ドアを開けようとすると、母から引き止められたので振り返ると、紺色の包みを渡された。

 

「光瑠ー、お弁当忘れちゃダメでしょ! 」

 

「え、パン持ってくからいいよ」

 

「パン1個じゃ絶対お腹空くわよ。せっかく作ったんだから食べなさい!光瑠の好きなものたくさんいれておいたから! 」

 

正直、日頃からそんなにお腹は空かないのだが、せっかく作ってくれたのに食べないのはもったいないので、しぶしぶ弁当箱を受け取った。

 

「ありがとう。それじゃ行ってきます」

 

「気をつけてね! いってらっしゃい! 」

 

 

僕は家を出て、羽丘学園に向けて出発した。歩きながら、僕はあの日自分と目が合った男子生徒のことを思い出した。もし彼と同じクラスになったら、何か言われるのだろうか。いや、別に何も言われないだろう。見た目で人を判断したくはないが、彼の見た目からして、僕と関わるような人間ではないだろう。彼は今の人生に満足している感じの人間に見えた。関わるのはやめておいた方が良さそうだ。

 

 

色々と考え事をしているうちに羽丘学園に着いた。家から10分程歩けば着くので通いやすい。登校している生徒がたくさんおり、あまりの人の多さに少し頭痛がしたが、すぐに治った。

 

 

職員玄関から入るようにあらかじめ指示されているので、静かに職員玄関で上靴に履き替え、担任に会うために職員室へと足を運んだ。

 

職員室で他の先生に担任を呼ぶようにお願いすると、すぐに呼んでくれた。名前からして女性の先生と予想したら、案の定女性だった。

 

「今日からお世話になります、本田 光瑠です。よろしくお願いします」

 

「おはよう本田君。2年B組担任の山口です。これからよろしくね! 」

 

「はい」

 

人が良さそうな担任で良かった。そう思い、僕はほっと肩を撫で下ろした。

僕の所属するクラスは2年B組らしい。担任曰く、そのクラスは女子がクラスの大半を占め、男子が2人しかいないらしい。ほとんどが女子生徒なら特に関わる機会もないし安心である。よし、気楽に行こう。

 

 

B組の教室に案内され、少し廊下で待っていてと言われたので、廊下の隅で待つことにした。既に教室が騒がしい。いつもこのくらい騒がしいのか、それとも新しく僕がクラスに入るから騒がしいのか。どっちなのだろうか。教室ではSHRが始まり、担任が僕の方を見ながら手招きをした為、僕はゆっくりと教室に入った。

 

教室が急に静かになり、生徒の視線が一気に僕に集中する。小学校の時の自分を見る周りの視線と同じ感じがした。視線が全て自分に集まっている状況の中で、僕は自己紹介をした。

 

「……本田 光瑠(ひかる)です。これからよろしくお願いします」

 

自己紹介を終えた瞬間、ザワザワと教室が騒がしくなった。さっきまでの沈黙は一体なんだったのだ。

 

「はい静かに! みんな、本田君と仲良くするように!あ、本田君の席は窓側の1番後ろね! 」

 

「あ、はい」

 

僕は1番後ろの席の方へ行き、静かに椅子に座った。何人かからの視線を感じるが、気にせずに先生の話を聞くことにした。さっきから隣の席の人からの視線が凄い。僕を見ても何も出やしないのに。やめてほしい。

 

先生の話が終わり、礼をして座ってすぐに、僕に視線を向ける左隣の席の人を確認したら、 あっ。と思わず小さな声で驚いてしまった。

 

 

……あの時目が合った、男子生徒だった。

 

僕は急いで彼から目を逸らし、1時間目の授業の準備をした。横目で彼をちらりと見ると、退屈そうに頬杖をつきながら窓の外を見ていた。僕は少し安堵し、教科書に軽く目を通した。

 

マスクを着けているおかげか、誰も僕に話しかけてこない。うん。それでいい。そっちの方がこちらも助かる。女子達が小声で何か話しているが、教科書を読むことに集中した。小声で話している女子に気付いたと同時に、紫色の髪の女子からの視線にも気付いた。少し怖いのでそれもスルーすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

彼が入ってきた瞬間、すぐにわかった。マスクで顔を隠しているが、昔と全く変わらない、綺麗な目をしていたから。

 

「新しい男の子、なんでマスクしてるのかなー? ってあれ、薫、どうしたの?さっきからあの人のことばっかり見て」

 

「あ、いや、なんでもないよリサ。気にしないでくれたまえ」

 

「んー? わかったよー」

 

「すまないね」

 

リサが首を傾げていたが、私にはそんなことよりも、今教室に入ってきた男子生徒のことで頭がいっぱいだった。

 

 

「……光瑠……」

 

儚く、綺麗な瞳で教科書を読んでいる彼の名前を、私は小さな声で口に出した。

 

 

 

 

 

(誰かから呼ばれたような気がするけど、……気のせいだよね)

 

 

心の中でそう思い、僕は優しく教科書を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。
思わぬところでの再会。光瑠くんはまだ彼女のことに気付いてはいないみたいです。光瑠くんの隣の席の「彼」の真意とは……?
次回もお楽しみに!
感想、評価、どれもとても嬉しいです!ぜひ、お願いします!
それではまた次回のお話でお会いしましょう!


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第6話 意外

みなさんこんにちは!龍也です!
さて、今回は光瑠くんとあのキャラが……!?


 

 

 

 

「……ふぅ」

 

2時間目の授業が終わり、僕は小さくため息をついた。初めて高校で授業を受けてみたのだが、家で自主学習していた僕にとってはあまりにも簡単すぎた。授業を聞いてノートを書いてるだけでテストで100点はとれそうだ。

 

次の授業の準備をしていると、横から声が聞こえた。

 

「おい! 」

 

いかにも男の人が人を呼ぶ際に言う言葉が聞こえたが、自分に向けられているものではないと思った為、僕はそれをスルーした。

 

「おいってば! 」

 

またしても男子生徒の声が聞こえてくる。しかも僕の耳元で。少しうるさいなと思ったその瞬間、肩を掴まれた。

 

「おい!無視すんなよ! 」

 

「……え」

 

横を見ると、僕の隣の席の男子生徒が、笑みを浮かべていた。

 

肩を掴まれて、初めて僕に対して話しかけられているのだとわかった。中学校の時、そんなこと1度もなかったのに。

 

「……僕…?」

 

「そう!お前だよ!こないだ俺と目合ったよな!その時から、面白そうな奴だなって思ってたんだよ!この時期になってもマスク付けてるしさ!まさか同じクラスになるなんてな! 」

 

「は、はぁ……」

 

「あ、名前言うの忘れてた。俺は達也。結城 達也(ゆうき たつや)だ!お前はたしか、光瑠だっけか?」

 

「う、うん。そうだよ」

 

「数少ない男同士なんだ。仲良くしようぜ! 」

 

「………」

 

達也と名乗ったその男子生徒は制服の下に白いパーカーを着ていて、フードを出している。制服のズボンにはチェーンらしきものが着けられており、しかも茶髪。うん。間違いない。この人は不良だ。僕はそう確信した。不良の生徒と関わりたくはない為、この人と離れることを決めた。

 

「……悪いけど、あんまり僕と関わらないで」

 

「ん…? 」

 

よし、こうやって冷たく突き放せば、もう二度と話しかけてくることはないだろう。でもそれが本望だ。彼には少し申し訳ないけど、離れてくれるのなら……

 

「あはははははっ!やっぱり面白い奴だなお前!気に入った!これからもお前に話しかけるわ!あははっ! 」

 

「……は!? 」

 

思わず声を出してしまった。何を言ってるんだこの人は。

 

「あ、あの、君、人の話聞いてた?僕は君に、関わらないでって言ったんだよ……? 」

 

「え、それって関わってほしいの裏返しなんじゃねぇのか? 」

 

「違うよ……本心で関わらないでって言ったんだよ……」

 

「そんな目しながら言われても説得力ねぇんだよ。言ってることと表情が違うんだよ。お前」

 

「え……? 」

 

そんな目?僕はどんな表情であの言葉を言ったんだ……? 無表情のつもりで関わらないでと言ったはずなのだが。どうして……?

 

「まぁでも、お前の事気に入ったから、これからもお前と関わり続けるからな! ははっ! 」

 

僕のどこに気に入る要素があるというのだ。しかも面白いとも言ってたし。彼の考えることがいまいち掴めない。

 

「僕、不良の人と関わりたくはないから……」

 

「あ? 不良?どこにそんな奴いるんだ? 」

 

「君だよ! 」

 

「あぁ!?」

 

彼がものすごい勢いで僕を睨んできた。いや、自分が不良だと思われていたことに気付いてなかったのか。そしてその聞き返し方、ほんとに不良と思われるよ。怖い。

 

「俺のどこが不良なんだよ! 」

 

「え、髪とか服装とか……」

 

「これはオシャレなんだよ!見た目だけで不良って決めつけてんじゃねえ!光瑠! 」

 

オシャレなんだ…… てか今普通に名前呼びされたし。彼はもう僕を友達だと認識しているのだろうか。

 

「今、僕のこと名前で呼んだよね…… 一応聞くけど、もう僕を友達って思ってる……? 」

 

「当たり前だろ! 俺とお前はマブだ!いや、最初から、お前と親友になる運命だったんだよ! 」

 

……うん。やっぱりね。そう認識してるとは薄々は気付いてたよ。しかも話が早すぎるよ。彼がその認識だといづれめんどくさいことになりそう。嫌だな……。だってこの見た目の彼と一緒にいたら、僕まで何かよからぬことを思われるんじゃないか。僕は静かに過ごしていたいんだけどなぁ……。

 

「君が友達だと思ってても、まだ僕は君を友達とは思ってないよ?それでもいいの? 」

 

もう1度突き放す感じで彼に言った。それを聞いた彼は、やはり僕の予想を超える事を言ってきた。

 

「別に構わねえよ?だって俺がお前を友達って思ってるんだから、たとえお前がそう思ってなかったとしても、ダチはダチだ。そんでお前は俺のマブ。そう決めた。てか、もう決まった! 」

 

「え、ええ……」

 

彼の言葉に絶句していたその時、3時間目の授業の始まりのチャイムが鳴った。彼は席に着いて、机の中から教科書を出した。

 

「ま、とりあえずよろしく頼むぜ! 光瑠! 」

 

「……う、うん……」

 

僕は真面目に授業を受けた。隣の彼はその見た目とは裏腹に、ちゃんと授業を受けていた。きちんとノートもとっている。人は見かけによらないとは言うけど、まさしく彼そのものを指している言葉だと思えてきた。

 

 

 

休憩時間を挟んだ後、引き続き4時間目の授業を受け、僕がノートを書く手を止めた瞬間、4時間目終了のチャイムが鳴った。

 

3、4時間目の授業も今の僕にとっては簡単すぎる内容の授業だった。このレベルの授業が毎日続くのなら、こんなに楽なことはない。授業受けてさっさと帰って家でゆっくりしよう。あ、そうだお弁当食べよ。

 

僕が無言でリュックから弁当箱を取り出すと、横から肩を叩かれた。

 

「光瑠!一緒にメシ食おうぜー! 」

 

やはり隣の席の彼だった。半ば悟りきったように、彼の昼食に付き合うことにした。断っても彼、どうせグイグイ来るだろうし。

 

弁当箱を開けると、母親の言った通り、僕の好きな具がたくさん入っていた。野菜なども入っていて、栄養バランスを考慮してくれていることが嬉しかった。

 

彼は隣でサンドイッチを食べながらずっと僕の方を見ている。正直恥ずかしいしはっきり言ってしまえば鬱陶しい。彼からの視線にうんざりしながら、僕はマスクを掴んで、マスクの下からお弁当を食べた。

 

「お前、食い方変わってんなぁ……。メシの時くらいマスク外せばいいだろ。……やっぱ面白いなお前!」

 

「食べてるとこ見られたくないんだよ。どうしようが僕の勝手でしょ。君には関係ない」

 

「へいへい」

 

お互いしばらく無言で昼食を食べ、僕が弁当箱を閉じた時、彼が口を開いた。

 

「なぁ」

 

「なに」

 

「お前さ、なんで羽丘に来たんだ? 」

 

「家が近いから」

 

「そんな理由かよ。もっとこう、あるだろ!他の理由! 」

 

「他のとこと比べて学費が安い」

 

「ちげーよ! なんか他にもあるだろ! 」

 

「ないよ。じゃあ君はなんでここに入学したの? 」

 

僕がそう聞くと、彼は即答で理由を述べた。

 

「決まってんだろ。女目当てだ! 」

 

「……は? 」

 

僕は唖然とした。入学した理由が女の子目当てって、そんなこと、あってもいいのだろうか。

 

「だって羽丘って最近共学になったばかりだろ?なら必然的に男子よりも女子の生徒の方が多いだろ?しかも羽丘は可愛い女ばっかり。最高じゃねえか!ほとんどまだ女子校みてえな高校で、俺は心置きなく女子達を拝めるわけだ。こんなに嬉しくて最高なことはねぇよ!な、おい、光瑠もそう思わないか?」

 

「思うわけないでしょ」

 

女の子目当てでここに入学しただなんて。ものすごく不純な理由だと思った。もともと彼にあまり良い印象は持っていなかったが、彼は重度の変態なのだと、僕は確信した。

 

「いやー、こんだけ女子いるんだから、彼女の1つや2つ欲しいんだよなぁ……でも周りの女子達、俺を見るとなんか嫌な顔するんだよ。ひどくね? 」

 

「当たり前でしょ。君は放っておくと、なにか良からぬことをしそうだからね。女子達が嫌がるのも無理はないよ」

 

「お前もお前で初対面の俺に対してすげえ辛辣だな!?お前も女子並にひでえぞ!? 」

 

「そう? 別に、普通だと思うけど」

 

「お前ェ……」

 

そんなやりとりをしながら、僕はふと頭の中でこう思った。

 

僕は、かなり危ない人に目を付けられたのではないかと。

 

こんな不良みたいな見た目の、しかも変態にこれからも話しかけられるなんて、先が思いやられそうだ……。だが僕と話している時の彼の顔は、何故か、とても楽しそうだった。

 

 

 




いかがだったでしょうか。
新キャラクターの達也くんが本格的に登場しましたね!彼がこれから光瑠くんにどんな影響を与えるのか。そして光瑠くんは彼とどのように接していくのでしょうか。

次回もお楽しみに!
感想、評価。どれもとても嬉しいです!ぜひお願いします!
それではまた次回のお話でお会いしましょう!


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第7話 不審

彼の綺麗な瞳が、私はとても好きだった。 その綺麗な瞳は、今はもう陰を纏ってしまっているように見えた。


 

 

 

 

 

騒がしい「彼」との昼食が終わった後、5、6時間目の授業を受け、帰りのSHRの時間となった。先生からの連絡を聞き、帰りの挨拶が終わったと同時に、僕はリュックを背負った。授業が終わったのだから、学校に残る理由はない。早く家に帰ってゆっくりしたい。隣の彼とのやりとりにも疲れたし。

 

足早に教室を出ようとすると、またしても後ろから声をかけられた。

 

「待てよ光瑠!俺と一緒に帰ろうぜー! 」

 

……彼は今日何回僕に突っかかれば気が済むのだ。彼と会話をするとものすごく疲れる。早く帰りたいという僕の気持ちを無視して彼は話しかけてくる。正直もううんざりしてきた。

 

「……はぁ……」

 

「おい!なんでそんな嫌そうなんだよ!? 」

 

「あのさ、僕1人で帰りたいんだよね。悪いけど他の人と帰ってよ。君が大好きな女の子と一緒に帰ればいい」

 

「あのなぁ……生憎、俺にはそういう女友達はいねえんだよ!俺もう1人で帰るの嫌なんだよ!帰り道で一緒に話せる奴が隣にいてほしいんだよ!だから、な!頼む! 」

 

「嫌だ」

 

自分でも驚く程に即答してしまった。彼の気持ちはわかるが、申し訳ないけど僕はもう君の相手をできる程元気ではないんだよ……。

 

「そこをなんとか! 」

 

「お断りします」

 

「丁重に断ったつもりか……。そんなに俺と一緒に帰るの、嫌なのか……? 光瑠……」

 

そんな泣きそうな顔になりながら言われても。彼でもこんな顔できるんだ。ちょっと意外だな。 ……しょうがない。

 

 

「ごめん。今日は1人で帰らせて」

 

「そんなぁ……まじかよ……」

 

ものすごく残念そうにしていた彼だが、あまり罪悪感はなかった。だって、一緒に帰るのは今日じゃなくてもいいからだ。

 

 

「……今度ね」

 

「へ? 今なんつった? 」

 

「……だから、今度一緒に帰ろうって言ったの。これで、いいでしょ?」

 

「……言質、とったからな」

 

「うん。約束は守るよ」

 

「……よっしゃあああっ! 」

 

僕がそう言うと、彼はすごく喜んでいた。さっきまで落胆していたのが嘘みたいだ。意外と彼、単純なんだね。一緒に帰るのはいつになるかな。

 

 

「……じゃあね」

 

「おう。またな! 」

 

彼に挨拶してから、僕は教室を出て、生徒玄関へと向かった。一緒に帰れなくてごめん。お隣さん。いつか一緒に帰ろうか。心の中で彼にそう言いながら、僕は階段を降りた。

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱ面白いな。アイツ」

 

 

光瑠がいなくなった教室で、俺はそう呟いた。あんな奴、生まれて初めて見た。マスクつけてっから表情はあんまり読み取れねえけど、どことなくアイツから優しさを感じる。俺から話しかけても、みんなほとんど生返事か塩対応しかしなかったのに。アイツだけ唯一、俺とまともに会話してくれた。それがすっげえ嬉しかった。今はまだ俺の事を友達って思ってないとしても、いつかは俺の事、友達だって言わせてやる。俺はいつまでもお前の中に居座ってやるぞ。光瑠。覚悟しとけよ? また明日、アイツと喋るのが楽しみだ。

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

生徒玄関で靴を履き替えた僕は学校から出て、校門を抜けようとした。やっと帰れる。そう思った矢先、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。何事かと思って振り返ると、紫髪の女子生徒が、息を切らしながら僕の方へ近付いてきた。

 

「……え……? 」

 

「はぁ……はぁ……。 やぁ、光瑠。相変わらず…綺麗な眼を…しているね……」

 

僕の事を名前で呼んだ女子生徒は、紫髪を後ろで束ねており、僕より背が高かった。彼女は確か、僕と同じクラスにいた人……だったような。

 

「君は……僕と同じクラスにいた……。というか、何故僕の名前を?」

 

「えっ……? ひ、光瑠!私を、覚えていないのかい!? 」

 

僕と関わった人の中で、こんなに演技がかった口調で話す人はいないと思うが。たしかに、紫髪の女の子に見覚えはあるんだけど……。

 

 

「……休憩時間と昼休みは、子猫ちゃんの相手をしていたから君に話しかけられなかったが……。 ようやく君と話せたよ。この時を、私はずっと待ち望んでいた……! 」

 

「……えっと、あの、どちら様ですか? 」

 

 

やっぱりこんな口調の人とは関わった覚えがない。名前を聞けば誰かわかる。そう思ったので、彼女に名前を聞いてみた。すると、予想だにしなかった名前を、彼女は言った。

 

 

「……薫。瀬田 薫(せた かおる)だ。君は私の事を、かおちゃんと呼んでいたね。思い出せたかい? 光瑠」

 

「え……!? 」

 

驚いて言葉が出なかった。昔の記憶が次々と呼び起こされる。幾度となく夢に出てきた少女。もう2度と会うことはないと思っていた幼馴染。全てが繋がった。

 

 

「……薫……!? 」

 

「ようやく思い出せたみたいだね。良かった……」

 

「……えっと、その……」

 

頭の中が混乱して、うまく言葉を紡ぐことができない。しかも、しばらく会っていない間に、彼女は変わってしまっていた為、どう接すればいいのかわからなくなった。

 

「しばらく見ない間に、変わってしまったね。光瑠。そのマスクは……どうして着けているんだい? 君らしくないじゃないか。昔の君は、ありのままの自分を出していたじゃないか……」

 

変わった? それはこっちの台詞だ。似合わない演技がかった口調を使って。自分を偽っているのは君の方じゃないか。本当に彼女が薫なのかと思い、不信感が募ってきた。

 

「僕のことなんかどうでもいいよ。変わったのはお互い様でしょ。君だって変わったよ。昔はそんな胡散臭い口調を使ってなかった。なのにどうしてそんな風になったの? 」

 

「なっ……! そ、それは……」

 

先程までの余裕ぶっていた態度から一変し、取り乱している。

 

「僕の知ってる薫は、そんな男みたいな言葉は使わない。昔の君はもっと、女の子らしくて、お化けが苦手で、よく泣いていた。それが、僕が知ってる薫だよ。今の君は…… 薫じゃない……」

 

 

「そ、そんな……!私は君の幼馴染の瀬田 薫だ……!例え昔と違っても、その事実は変わらないよ……!」

 

 

たしかに彼女の言う通り、幼馴染ということは変わらないのかもしれない。だけど僕は、目の前にいる彼女を、幼馴染として見ることができなかった。まるで別人と話しているようで、気味が悪くなった。

 

 

「……悪いけど、今の君とは、どう接していいのかわからないよ……。本当にごめん。瀬田さん。 僕はこれで……」

 

「あっ……!待ってくれ!光瑠!私は…………!」

 

彼女が何を言おうとしたのか、僕にはわからない。この場から離れる為に、全力で走って帰ったから。久しぶりにこんなに走った為、息が切れ、胸が苦しくなった。マスクを着けている為、余計に息苦しい。走るのをやめてゆっくり歩いても、胸の痛みはしばらく消えなかった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

「光瑠……。どうして……? 」

 

ずっと彼に会いたかった。あの日の事を、ずっと謝りたかったから。あの時、お礼を言っていなかったから。しばらく見ない間に、光瑠は変わってしまっていた。マスクを着けて、表情を悟られないようにしていた。久しぶりに会って話した時の光瑠の眼はとても綺麗で、とても、悲しそうだった。

 

彼から告げられた、どう接すればいいかわからないという一言が、私の心を貫いた。胸が苦しい。やっと会えたのに、大切な幼馴染が私から離れていってしまった。それがものすごく辛かった。

 

 

「るるる〜ん♪ ってあれ、薫くんー!何してるのー?あ、薫くん、また面白いこと言ってよ! シェイクなんたらが〜みたいな! 」

 

「や、やぁ。日菜。申し訳ないが、今は、そんな気分じゃないんだ……」

 

日菜が私に話しかけてきたが、私は彼女と会話をする気分ではなかった。

 

 

「えー?つまんないのー。るんっ♪ってこないなー。いつもの薫くんじゃないから、なんか嫌ー!」

 

「すまないね……」

 

「ねえ、なんで今日は面白いこと言ってくれないのー?ねえ、どうしてー? ねえってばー! 」

 

「日菜。今日はもう、1人にしてくれないかい……? 」

 

「……ちぇー。つまんないのー。バイバイ。薫くん」

 

「……ああ」

 

不服そうな顔をしながら、日菜は行ってしまった。今日はもう、何もする気が起きない。こころの家に行く予定だったが、まっすぐ家に帰るとしよう。 私は校門を抜けて、通い慣れた道をふらふらと歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は家に着き、玄関のドアを開けた。すると、母がすぐに出迎えてくれた。

 

「おかえり光瑠!久しぶりの学校、どうだった?」

 

母が僕にそう尋ねた。だが僕は、正直に答える気にはなれなかった。

 

「……別に。何もなかったよ……」

 

「……そう。なら良かった! 」

 

 

母は笑顔でそう言った。母はこれ以上何も言わず、静かにリビングに戻った。僕は無言で自室へ行き、制服のままベッドに座った。

 

 

「薫……。どうして……? 」

 

 

幼馴染とこんな形で再会するなんて、僕は微塵たりとも思わなかった。成長してお互いこんなに変わってしまうなんて。僕は若干ヤケになり、立ち上がって口元のマスクを外し、それをゴミ箱へ放り投げた。

 

 

 

 

 





それではまた次回のお話でお会いしましょう。



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第8話 初耳

彼は今どうしているのかしら?しばらく会っていないから、心配ね。


 

私が光瑠と再会してから1週間が経った。光瑠はいつもマスクを着けて過ごしている。私はマスクを着けていない彼の顔を見たいのだが、光瑠はマスクを外してはくれない。食事をする時にも外さないから、正直驚いたよ。光瑠がマスクの下でどんな表情をしているのか、想像するだけで儚い……。

 

だが、私とどう接すればいいかわからないと言われてしまった。そう言われてから、私も光瑠に話しかけずらくなってしまった。もっと光瑠と会話して、あの日の事について謝りたいし、お礼も言いたいんだ。こんなにも近くにいるのに、1週間も光瑠と会話できていないなんて。自分が情けない……。このままでは光瑠と話す事ができないと思ったので、私はある人物に助言を求めることにした。彼女なら、いい解決策を示してくれるかもしれないからね。学校が終わったら、彼女に喫茶店に行こうと誘おう。私はそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

「なあなあ光瑠ー! 聞いてくれよー! 」

 

 

5時間目の授業が終わって休憩時間に入った瞬間、隣の席の「彼」に話しかけられた。

 

 

「あのさ、今日何回目?君から何度もその言葉を聞いた気がするんだけど」

 

「そんなもん数えてねえよ!お前に話したいんだよ!誰も聞いてくれる奴いないからさ!お前だけなんだよ……! 」

 

「わかったから。それで、要件は何かな? 」

 

「あのさ!お前、パスパレって知ってるか? 」

 

「なにそれ? 」

 

パスパレ。そんな単語聞いたことがない。食べ物か何かだろうか。

 

 

 

「えっ!?お前知らねえの!?あのパスパレだぞ!? 」

 

「知らないよ。今日初めて聞いた」

 

「嘘だろぉ……? 今すげえ流行ってるのに。お前、大丈夫か? 」

 

「基本的にテレビとか見ないから流行とかそういうの知らないんだよ。それで、そのパスパレ……だっけ。がどうしたの? 」

 

 

「ああ!パスパレってのは、パステルパレットっていうアイドルグループの略で、今すっげえ流行ってるんだよ!それをお前にも勧めようと思ってさ! 」

 

「ごめん。興味ない」

 

「えぇ……」

 

彼の言うパスパレはアイドルグループだったんだね。でも僕はアイドルに興味はないし。お勧めされてもなぁ……。

 

 

「お前に勧める為に、せっかくパスパレのポスター持ってきたんだぞ!ほら! 」

 

そう言って彼はリュックから小さめのポスターを取り出し、僕に見せてきた。アルファベットで「Pastel*Palettes」と書かれている。なるほど。それでパステルパレットっていうんだ。ポスターの真ん中にはカラフルな衣装に身を包んだ5人の女子達が大きく写っていた。まあ、予想通りというか、いかにも「彼」が興味を持ちそうなアイドルグループだということはわかった。というか女の子であれば「彼」は誰でも好きなんじゃないだろうか。だって「彼」だもの。

 

 

「なぁ、この子達めっちゃかわいくね!?光瑠、お前ならこの中で誰が1番好きなんだ? 」

 

「はぁ……?いきなりそんなこと言われても……」

 

「俺はやっぱり千聖(ちさと)ちゃんかなー!この金髪の子!超かわいくね!?」

 

「千聖…………? 」

 

僕は一瞬耳を疑った。千聖という名前に、僕は聞き覚えがあった。何度も夢に出てきている「彼女」と同じ名前だ。もしかしてと思い、詳しく聞くことにした。

 

 

「……ねえ、この千聖って人の名字わかる? 」

 

「なんだよ急に。まさか、お前も千聖ちゃんに興味が湧いたのか!?」

 

「いいから!この人の名字知ってるなら教えて! 」

 

僕は思わず声を荒げてしまった。何故か心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。一刻も早く、彼女の事を知りたかった。僕はたじろいでいる彼の顔をじっと見つめた。

 

 

「お、おう……。珍しいな。お前がそんなでかい声出すなんて。ええと、たしか……白鷺(しらさぎ)だったはず。……ちょい待ち。メンバーの名前はっと……。あ、ポスターに普通に名前書いてあったわ。白鷺で間違いないぜ。ってか記憶力いいな俺!? すごくね!?」

 

 

「やっぱり……」

 

僕は小声でそう呟いた。やはり僕の幼馴染の「彼女」だった。まさかアイドルグループに所属していたなんて。優しい笑みを浮かべるその表情は昔とあまり変わっていなかった。彼女は本当に千聖なのだと、確信せざるを得なかった。

 

 

「千聖ちゃん、パスパレだけじゃなくて、ドラマとかにも出てるんだぜ!ほんとすげえよなぁ。聞くところによると俺らと同じ歳らしいし。……って、どうした光瑠?ボーっとして」

 

「……えっ。あ、なんでもない。気にしないで」

 

「ああ、うん」

 

 

考え事をしていたので、彼の話は耳に入ってこなかった。思わぬところで幼馴染が今何をしているのかを知ることになるなんて。でも、彼女は今アイドルグループとして芸能界にいる。その時点で、僕と千聖では住む世界が余りにも違い過ぎる。絶対に会うことはないだろう。僕はそう確信した。

 

 

もう一度パスパレのポスターに目を通すと、見覚えのある少女が写っていた。水色を基調とした衣装を身に纏い、楽しそうに笑っている女の子。名前を見てみると、氷川 日菜(ひかわ ひな)と書かれていた。この子、僕と同じクラスの人だったような気がする。一応「彼」に聞いてみることにした。

 

「ねえ、この水色の子、このクラスにいない? 」

 

「ん?……あー。氷川の事か……」

 

彼はものすごく嫌そうな顔をしながらポスターに写る彼女を見ていた。なんでそんな親の仇を見るかのような顔するんだろ……。

 

 

「君がハマっているアイドルグループのメンバーが同じクラスにいるんだから話せばいいじゃん」

 

「……いや。アイツはダメだ。アイツが言うことは異次元すぎて理解できねえ。しかも、興味ないことにはとことん興味ないから、俺が話しかけたらシカトされるんだよ……。なんか、るんってこないとか意味不明なこと言ってきたし。とにかく、俺は氷川が苦手なんだよ。そう簡単に話せる相手ではないと思うぞ」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

自分が所属しているアイドルグループのファンだというのにシカトするなんて、変わった人だなぁ。彼からの話によると、彼女と会話できる人はごく少数らしい。でもアイドルだからって裏表を作ったり、人に媚びたりしないあたり好感がもてる。よくよく考えたら「彼」の普段の言動を考えるとシカトされて当然のように思えてくる。常日頃から女子に対して欲望を曝け出しているのだから、いくら優しい女子でも「彼」とは会話したくないと思うだろう。興味がないんじゃなくて、君の人間性の問題だと思うよ。お隣さん。まぁ、それを指摘したら怒られそうだから心の中に留めておこう。

 

 

「ま、まぁ今は氷川の話は置いといて。どうだ!光瑠!パスパレに興味持てたか!? 」

 

「名前は覚えたよ。パスパレでしょ? 」

 

「んだ! 今度一緒にパスパレのライブ見に行こうぜ!お前でも絶対楽しいって思うはずだしな! 」

 

「……気が向いたらね」

 

「よしっ!決まりだな! 」

 

そう言って「彼」はガッツポーズをとった。本当に楽しそうに話すね。この男は。そのライブで千聖を見るのはあまり気乗りしないんだけどな……。けどライブに行くと決まった訳ではないし。行かないという選択肢を取ればいいか。内心そう思いながら、机の中から6時間目の授業の教科書とノートを取り出した。

 

 

 

 

 

6時間目の授業が終わり、ちらりと隣の席を見ると、「彼」が涎を垂らしながら気持ち良さそうに寝ていた。「不真面目だよ」と注意しようと思ったが、その幸せそうな寝顔に免じて、何も言わないことにした。「彼」の事が苦手だったはずなのに、何故か僕は彼に甘い態度を取ってしまう。本当は関わってほしくなんてなかったのに。簡単に縁を切れさえすればいいのだが、それができないのは重々承知している。いくら厳しい言葉を言っても、彼は懲りずに僕に何度も話しかけてくるからだ。

 

彼にとって僕はどういう風に見えているのだろうか。僕はふと、そう思ってしまった。その質問をしたら、一体彼はどんな事を言うのだろう。わかりきった答えが出てくるのだろうが、僕はその答えに縋っているのだと、今になって初めてそう認識した。彼の寝顔を見ながら、僕は思わず目を細めた。

 

 

 

 

 

 




お気に入り登録40件突破致しました。ありがとうございます。

それではまた次回のお話でお会いしましょう。


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第9話 相談

形を変えていくものと、変わりはしないもの。永遠に、無くなりはしないもの。それはつまり……まぁ、そういうことさ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が終わった後、私はすぐに千聖がいる花咲川学園へ向かった。校門の前に立っていると、数人の子猫ちゃん達から話しかけられたので、その子猫ちゃん達の相手をした。子猫ちゃん達が去ってからしばらくすると、千聖の姿が見えた。校門を抜け、こちらの方へ歩いてきたので、私から千聖に声をかけた。

 

 

「やぁ。千聖じゃないか。奇遇だね」

 

私が千聖に声を掛けると、少し驚いた表情をした後、すぐに冷たい視線を向けてきた。

 

「……薫。何が奇遇よ。校門の前で待ち伏せしていたでしょう?教室の窓から全部見えてたわよ」

 

「待ち伏せだなんて人聞きの悪い。君に用があってここに来たんだ。千聖、近くの喫茶店に行かないかい? 」

 

「ええ。お断りするわ」

 

満面の笑みで断られてしまった。相変わらずだね千聖は……。美しい薔薇には棘がある。とはまさにこの事だね。あぁ……。儚い……。だがここで引き下がる訳にはいかない。彼女にどうしても聞いてもらいたいんだ。「彼」の事を。

 

 

「そ、そんなこと言わずに、一緒に来てくれないかい? 」

 

「お断りすると言ったはずよ。今日は久しぶりにOFFで、明日は大事な撮影があるから家でゆっくりしようと思っていたところなの。誘ってくれたのは嬉しいけれど、また今度にしましょう。私はこれで失礼するわ。薫」

 

彼女はそう言って反対方向へ向かおうとした。私は千聖を引き止め、彼のことを口に出した。

 

「待ってくれ千聖!私は君に光瑠の事を話しに来たんだ!少しでいい。私の話を聞いてはくれないか!? 」

 

光瑠の名前を出した瞬間に千聖は足を止め、こちらを振り返った。

 

「……わかった。少しだけよ。……その話、詳しく聞かせてもらえないかしら? 」

 

「……そう言うと思っていたよ。さぁ、行こうか」

 

千聖が話に乗ってくれた事に安堵しつつ、私達は近所の喫茶店へ移動した。テーブルに座り、千聖はブレンドコーヒー、私は紅茶を頼んだ。数分後、注文した飲み物がテーブルに置かれた。千聖はコーヒーを少し口に含んだ後、私に光瑠の事について質問をしてきた。

 

 

「それで、貴女はさっき、光瑠の名前を口に出したわよね?どういうことか、説明してもらえる? 」

 

「ああ。……光瑠が羽丘学園に編入したんだ。しかも私と同じクラスになってね。久しぶりに彼を見たよ。相変わらず綺麗な眼をしていた。光瑠の瞳は、まるで水晶のようだった。あぁ……。はかな……」

 

「それで? 」

 

言い終える前に千聖に止められてしまった。私とした事が。つい。このままだと帰ってしまいかねないので本題に戻ろう。

 

「そ、それで、……彼は変わってしまっていたんだ。マスクで顔を隠していて、積極的に友人を作ろうとしないんだ……」

 

教室内で光瑠をたまに見ることがあるが、いつもおとなしく、誰かに話しかける様子はない。時々、光瑠の隣の席にいる男子と少し話しているのを見る程度で、他に誰かと話している様子は見られない。

 

「……そう。それで貴女はどうしたの?彼とは話したの? 」

 

「ああ。この前話したよ。私の事はちゃんと覚えていた。だが、今の私とはどう接すればいいのかわからないと言われてしまってね。彼に距離を置かれてしまったんだ。情けない話だが、私の方も光瑠にどう話しかければいいのかわからなくてね……」

 

あの時の光瑠の悲しそうな眼を、私は今でも昨日の事のように覚えている。こんなにも近くにいるのに話しかけることすらできないなんて、本当に情けない話だよ……。

 

「なるほどね。それで、私にどうすればいいか聞く為に、私はここに連れてこられた。そうでしょう?」

 

「ああ。その通りだよ。千聖、君も光瑠の幼馴染だから、君に相談すれば、何かいい答えが見つかると思ったんだ。これからどうすればいいか、教えてはくれないか? 」

 

私は千聖に助言を求めた。千聖も光瑠の事は他の人間より知っているはずだ。千聖にしかこの相談はできない。そう思ったから、彼女の貴重な時間を借りて、今ここで彼女に相談している。

 

千聖はコーヒーを飲んだ後、ため息をついた。そして、少し呆れたような顔をしながらこう言った。

 

「……まあ、今の貴女を見れば、距離を置きたくもなるわ。正直、私だってそうだしね」

 

「うっ……」

 

「けれど、光瑠はそう簡単に人を嫌うような性格ではないはずよ。人の本質なんてそう簡単に変わるものではないと思うから。たとえ昔と今で性格が違っていても、本来の人思いで優しいところは変わっていないと思うわ」

 

「たしかに……」

 

光瑠は幼い頃から優しい性格だった。誰かを庇って、代わりに自分が傷付くくらいに。

 

 

「友人を作ろうとしないのには、何か原因があるんじゃないかしら?過去に光瑠の人間関係に何かあって、それが原因で今は人に心を開けなくなっているのかもしれないわね。あくまで私の推測だけれど」

 

「何故、そう思うんだい? 」

 

「同じ事務所の知り合いの子で、親友に縁を切られた影響で心を閉ざしてしまった子がいたから。結局、その子は仕事を続けることもできないくらい深い傷を負って、事務所を辞めてしまった。私はその子を見て、心に負った傷は簡単には治らない。そう、実感したわ」

 

 

その話を聞いて改めて、千聖の言う事はすごく真っ当で、説得力があると私は思った。彼女の言う通り、人間関係によって光瑠がああなってしまったとなれば合点がいく。小学校の時の出来事も関係しているのではないかと、私はそう考えている。

 

 

「きっと光瑠は、傷付くのを怖がってる。人を信用したくても過去の事が原因で信用できずに、心を開けないでいる。そうでなきゃ貴女の事を避けなかっただろうし、普通に友人を作ろうとしたと思うわ。あの子、昔から人に優しくしすぎて、自分が損をするような人間だったでしょう? 」

 

 

「……そうだね」

 

「それで、薫。貴女はどうしたいの? 」

 

「えっ……? 」

 

 

「今日はその答えを求めに来たんでしょう?正直、私は実際に光瑠に会った訳ではないから、的確な助言をすることはできないわ。今話した事は、幼い頃の光瑠がそうだったから、私はそう考えてるってだけ。どうするかは貴女次第よ。自分で答えを出しなさい。そうやってずっとウジウジ考えているのが嫌ならね」

 

千聖は笑顔でそう言った。千聖の話を聞いて、やっと私の中で考えがまとまった。

 

 

「決めたよ。千聖」

 

「……どうするの? 」

 

「私は光瑠の、いや、ひかちゃんの笑顔を取り戻したい……!また幼い頃のように、彼と笑って過ごしたい!心を開けないのなら、私が開けてみせる!私がひかちゃんを変えてみせるよ……! 」

 

私は思っていることを全て千聖に話した。このまま彼と話せないで終わるのは嫌だ。それを聞いた千聖はクスッと笑ったが、すぐに真顔に戻った。

 

 

「……そんな簡単に出る答えに、貴女は何日も悩んでいた訳?本っ当に情けないわね。私だったらすぐにでもそれを実行するのに」

 

「す、すまない……」

 

「まあでも、きっと心を開いてくれると思うわ。貴女1人じゃ心許ないから、花音やこころちゃんの力も借りてみてはどうかしら?世界を笑顔にすることが、貴女達の目標なのでしょう?幼馴染1人笑顔にできないようじゃ、先が思いやられるわよ? 」

 

それを聞いて私はハッとした。自分1人ではなく、こころ達皆の力を借りればいいのだと。ハロハピの皆なら、快く力を貸してくれるだろう。そうと決まれば、すぐにでも行動に移そう。ハロハピの皆にも相談してみることにした。

 

 

「ありがとう。千聖。君のおかげで迷いを断ち切ることができたよ。君も近々、光瑠に会ってみてはどうかな? 」

 

 

「貴女に言われなくてもそうするつもりよ。頑張ってね。かおちゃん」

 

「そ、その呼び方はやめてよ……」

 

「あら?さっき光瑠のこと、ひかちゃんって呼んでたのに?そういえば貴女昔、光瑠からもかおちゃんって呼ばれていたわね。光瑠にそう呼んでもらったら? 」

 

「い、嫌だよ……恥ずかしいから……」

 

千聖から昔のあだ名で呼ばれ、一気に顔が熱くなった。どうしてもその名前で呼ばれると恥ずかしくなってくる。

 

 

「その話し方で光瑠と話した方があの子も話してくれるはずよ?かおちゃんだー!ってね。ふふふっ!」

 

「もう……。ちーちゃんったら……」

 

「あはははははっ! 」

 

思いきり彼女に笑われた。時折私をからかってくるのが彼女の悪い癖だ。全く。でも楽しそうに笑う千聖も美しい。あぁ……。儚い……。

 

 

千聖は私を数分からかった後、彼女はコーヒー代をテーブルに置いて喫茶店から出ていった。私も紅茶を飲み終えて会計を済まし、喫茶店を後にした。

 

 

(待っていてくれ光瑠。君を必ず笑顔にしてみせる)

 

 

静かな決意を胸に、私は自宅の方角へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつ会いにいこうかしら? ふふふっ!会うのが楽しみね。






次回、第10話 邂逅 お楽しみに。


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第10話 邂逅

薫が言ってた男の子に早く会ってみたいわ!どんな人なのか楽しみねっ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳に残る目覚ましのメロディが聞こえて僕は目が覚め、ゆっくりと体を起こした。

 

「……今日も学校か」

 

目をこすりながら、今ではもう当たり前と化したことを特に意味もなく呟いた。

 

僕が羽丘学園に編入してから2週間が経った。授業の内容は簡単だし、これといって大変なことはない。あえて言うとするなら、隣の席の「彼」の相手をするのが少し疲れることくらい。あとは特に不自由なこともなく、僕が恐れていた事態は今のところ起きてはいない。このまま平穏な毎日が続けばいいのに。ただただそう願うばかりだ。

 

制服に着替えて1階へ降りると、母がちょうど弁当の盛り付けをしていたところだった。父は新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。高校に行くようになってからこの光景はよく見るようになった。不登校だった時は朝の10時に起きていて、朝食を食べていなかった為、リビングに行くことがまず無かった。毎朝にリビングに行くようになり、中学校の頃のように戻った感覚だった。学生本来の日常戻ったことはいいことだと思うのだが、ほんの少しだけ寂しくもあった。

 

 

「あら、おはよう光瑠。朝ご飯、できてるわよ」

 

「おはよう。うん。ありがとう」

 

僕は食卓の椅子に座ると、母が笑みを浮かべながらこちらに近付いてきた。

 

「……なに? 」

 

「いやー、光瑠、ちょっと明るくなったかなーって」

 

「……別に。変わってないと思うけど」

 

「そんなことないわよ。高校に行ってなかった時と比べて、間違いなくいい顔になってる。せっかくこんなに可愛い顔してるんだから、マスクで顔隠さなくたっていいのにー」

 

「いつまでも子供扱いしないでよ。マスクが無いと学校行けないし」

 

いい顔になった、と言われても自分ではそんな実感はない。しかも可愛い顔してるだなんて。そういうのは本来女の子や小さな子供に言うものだと思うのだが。僕の日常は変わったが、母は相変わらずブレない。軽口や冗談が本当に好きなんだなと、つくづくそう思わされる。マスクを着けないで学校に行くことはもう無いだろう。自分の素顔を見られるのはあまりいい気分ではないし。もし隣の彼に素顔を見せたら、絶対に何か言われる気がする。

 

「いつまでもマスクしてると女の子からの印象もよくないぞー?私は絶対、素顔のままの光瑠がいいと思う! 」

 

「女の子からどう思われようが構わないよ。どうせ関わらないし」

 

「そのネガティブな思考は、誰に似たのかしら?」

 

「さあね」

 

 

母とそんなやり取りをしながら僕は朝食を食べ進めた。ふと前を見ると、父が読んでいる新聞の表面にある番組表に目が入った。なんとなく朝に放送されている番組を見てみると、「今大注目!パスパレに密着!」という見出しが書かれていた。そのテレビ番組は、今話題のものを紹介する番組らしい。少し気になった為、父の近くに置いてあるリモコンを借りた。

 

「お父さん、リモコン借りるよ」

 

「ん、ああ」

 

ボタンを押してテレビの電源を付け、その番組が放送されているチャンネルに変えると、ちょうどパスパレが取材を受けている場面だった。

 

 

「光瑠がテレビ付けるなんて珍しいわね。どうしたの? 」

 

「ちょっと興味があってね」

 

「もしかして、こういうアイドルが好きなの? 」

 

「別に好きではないけど。隣の席の人から調べろって何回も言われてたからさ、どんなやつなのか見てみるだけ」

 

「へー、そうなんだ」

 

 

最初からアイドルに興味はないが、隣の彼のパスパレへの愛が尋常ではない為、そんなにも人を惹きつけるのかと興味が湧いた為、見ようと思っただけである。気が付くと、密着取材からパスパレのメンバーが宣伝をするという内容に切り替わっていた。元気な女性の声が聞こえてきた。

 

『それでは、今大注目の若手俳優、Pastel*Palettesの白鷺千聖さんから、宣伝があるそうです!白鷺さん!お願いしまーす! 』

 

 

『はい! 今週の土曜日から、私が主人公の恋人役として出演するドラマ、恋の魔法〜Magic Of Love〜が放送開始となります!主演としてこのドラマに出演することができてとても嬉しいです!趣味も性格も正反対な2人から織り成される、ロマンチックなラブストーリーとなっています!お楽しみに!新番組 恋の魔法〜Magic Of Love〜 は、6月6日土曜日、夜22時30分から放送開始です!ぜひ、ご覧ください!』

 

 

『はーい!ありがとうございましたー!白鷺さん主演のドラマ、とっても楽しみですね!お見逃しなく!それでは続いてのコーナーでーす! 』

 

 

僕は思わず見入ってしまった。まさかテレビで幼馴染を見ることになるなんて思いもよらなかった。彼が言っていたように、ドラマに出ていたことは本当なのだとわかった。この宣伝を見ていた母が目を輝かせながら僕に話しかけてきた。

 

「今の子、千聖ちゃんよね!?小っちゃい頃、光瑠とよく遊んでた、あの千聖ちゃんでしょ!? 」

 

「うん、まあそうだね」

 

「あの子、こんなに大きくなって……。今じゃ千聖ちゃん、売れっ子の女優みたいじゃない。すごいわね〜。光瑠、千聖ちゃんと幼馴染だったって、みんなに自慢しちゃえばー? 」

 

「嫌だよ。色々と面倒なことになりそうだし。幼馴染だったからって、今の彼女には到底会えないよ。僕なんかと違って、暇じゃないだろうしね。そもそもあっちが僕の事覚えてるはずないだろうし」

 

「いやー?案外小さい頃の思い出って覚えてるはずよ?千聖ちゃん、光瑠に会いたいとか思ってたりしてー?ひゅーひゅー! 」

 

「はいはい。それは絶対ないから。ごちそうさま。歯磨きしてくる」

 

「はーい。もう。つれないなぁー」

 

 

 

母の軽口を受け流しながら僕は朝食の食器を下げた。洗面所で歯磨きを済ませ、口元にマスクを着けてリュックを背負った。母から弁当を受け取って靴を履き、僕は足早に家を出た。テレビを見ていたので、いつも家を出る時間より10分程遅れてしまった。小走りで学校に向かい、なんとか始業10分前には間に合った。

 

教室に入った途端、隣の席の「彼」から話しかけられた。相変わらずテンション高いなこの男は。僕は内心そう思いつつ、彼と話すことにした。

 

「よっ!光瑠!朝のパスパレ特集の番組見たか!?いやー、朝から最高だったよー! 」

 

「白鷺さんのドラマの宣伝は見たよ」

 

「おっ!ようやくちょっとは興味を示すようになったか!感心感心!あのドラマめっちゃ面白そうだよな!俺毎週録画するわあれ! 」

 

「録画してまで見るって……すごいね」

 

「好きな女優のドラマは録画して当然だろ!俺は千聖ちゃんが大好きだからな!」

 

「うん。でもそんな大声で愛を語ったら引かれるよ。まあ君がいいならそれでいいんだけど」

 

「お前相変わらず俺に対して辛辣だよな……」

 

「普通だよ」

 

「ひっでぇ……」

 

朝から彼と他愛のないやり取りをするのが日課になってきた。辛辣って言うけど、君の話し相手になってる僕の気持ちも少しは考えてほしいな。最近異様に女子から冷たい視線を向けられるからね。女子達は僕の事を彼の唯一の友達だと思ってそうだけど、違うからね。単なる話し相手だから友達という訳ではないよ。それをわかってほしい。まぁ、いくら嫌われようが、その人達と関わることはないだろうしいいんだけどさ。

 

 

「俺はな!!ただパスパレのことがなぁ……」

 

「先生来たしSHR始まるよ。早く座って。お隣さん」

 

「お、おう。ってか俺の事絶対名前で呼ばないのな……」

 

 

彼は小さくそう呟いたが、僕はそれに反応しなかった。すごく不服そうな顔をしている彼を見ると、思わずクスッと笑いそうになってしまった。マスクで表情は読み取れないようにしているものの、笑った時の声を出すと勘付かれそうなので我慢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4時間目の授業があっという間に終わって昼休みに入り、僕は手を洗う為に廊下に出ていた。蛇口がある場所に行く途中で、ある人物に話しかけられた。

 

「光瑠」

 

そう呼ばれたので振り返ると、薫が笑みを浮かべながらこちらに近付いてきた。急に名前を呼ばれた為、僕は後ずさってしまった。

 

「薫……? 」

 

「君と話がしたくてね。少し付き合ってくれないか?」

 

「……何の用? 」

 

僕が薫にそう聞いた瞬間、薫に対しての黄色い声援が飛んできた。薫はこの学校の人気者……なのだろうか。

 

 

「おっと。子猫ちゃん達が来てしまったね。仕方ない。場所を移そうか。光瑠」

 

「えっ……ちょっと! 」

 

薫にいきなり手を握られて走らされ、気付いた時には職員玄関付近の階段の踊り場に着いていた。急に走った為、呼吸が荒くなる。マスクをしている為息苦しく、妙に身体が火照った。いきなり手を握られるなんて。たとえ幼馴染だからといって、少し強引ではないだろうか。握られている手を軽くふり解きながら、僕は薫に視線を移した。

 

「ここまで来ればもう大丈夫だろう。さて、先程の話に戻ろうじゃないか」

 

「話って何かな……? 」

 

僕は恐る恐るそう聞いた。彼女が何を言い出すのか、少し怖かったから。だが、薫は僕の予想の斜め上をいく誘いをしてきた。

 

 

「君に会ってほしい人達がいるんだ。放課後、私と共に、ある場所に来てもらいたいんだ。いいかな?」

 

「……へ? 」

 

会ってほしい人達……?ある場所にきてもらいたい?薫は一体、何が目的でそんなことを……?

 

 

「会って何になるの? 」

 

「大丈夫。皆いい人達だよ。心配は無用さ」

 

「そうじゃなくて。僕は見ず知らずの人達とは会いたくないし、君が何を企んでいるかわからないから、正直行きたくない」

 

「企んでいるとは人聞きの悪い。光瑠も千聖に似てきたね。だが、そんな君も……あぁ……儚い……」

 

「……君、今でも千聖に会ってるの……? 」

 

「ああ。勿論さ。彼女とはよく会っているね。近いうちに、光瑠も彼女に会えると思うよ。楽しみにするといい」

 

千聖と薫が今でも会っているなんて。僕達は千聖とは住む世界が完全に違う人間だと思ったけど。そんなことないのか……?いや、でも千聖が僕に会いに来る筈がない。僕も自ら会いに行くつもりは無いけど。でも今はとりあえず薫を優先しよう。なんとかして断る方法を見出さないと。

 

 

「……もし断ったらどうするつもり? 」

 

「来てくれるまで誘うだけさ。私はそう簡単にへこたれないよ」

 

「何が目的なの……? 」

 

「彼女達に会わせて、光瑠の笑顔を取り戻す為さ……」

 

「……は? 」

 

一瞬何を言っているのか理解できなかったのだが、そう言った薫の眼はとても真剣だった。思わず彼女から目を背けたくなるほどに。

 

 

「彼女達って事は女の子でしょ。尚更嫌だよ」

 

「いい人達だと言った筈だよ」

 

「だけど……」

 

「では逆に聞くが、光瑠はどうしてそこまで人と会うことを嫌がるんだい? 」

 

「そ、それは……」

 

薫にそう聞かれ、僕は何も言えなかった。明確に拒否できる根拠を持っていなかったからだ。薫に見つめられたまま、僕は無言で立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

「人の良さや悪さなんて、実際に会ってみなければわからないものだよ。そんなに怖がらなくても大丈夫さ。きっと光瑠の事を理解してくれる筈だ」

 

「……笑顔を取り戻すって、意味がわからないよ。どうしてそこまでして僕に関わろうとするの……?……どうしてっ!? 」

 

僕は声を荒げてしまった。薫の話し方とかそういうものは今はどうだっていい。今はただ、何故僕にこんなことをするのか知りたかった。僕が声を荒げても、薫は怖がる素振りを一切見せず、真剣な眼で僕を見ながら口を開いた。

 

「……親友だからさ」

 

「え……? 」

 

「君は私が変わったと言った。たしかにそれは否定しない。この前も言ったように、たとえ変わったとしても、私達が幼馴染であることは変わらない。しばらく見ない間に君も変わってしまった。もっと明るくて、人と関わることが好きだった光瑠は私にとってまるで太陽のようだった……」

 

「な、何を……言って……」

 

「だが今の君は昔とは違う。太陽ではなく、月のように雲に覆われているように見えるんだ。私はそんな光瑠を変えたいんだ。前のように優しく、それでいて笑顔の君でいてほしいんだ。幼馴染と関わりたいと思う事が、そんなにおかしいことなのかい!?」

 

 

薫はまるで演劇をしているかのように手を大きく動かし、握った手を胸に当てた。今にも泣きそうな顔をしながら、僕の方へ近付いてきた。

 

 

「頼む……!私は……光瑠を……! 」

 

 

……そんな表情で言われたら、断ることなんてできない。ここで断ったら僕はどうしようもない屑に成り下がってしまう気がした。だから僕は、薫の言う事を信じてみることにした。

 

 

「……わかった。……行くよ」

 

「えっ……。来て、くれるのかい……? 」

 

「正直、今の薫の言う事はよくわからないし、何をしたいのかもよくわからない。……でも、薫がもし本当にそう思ってるなら、僕は……君を信じるよ」

 

 

僕に対して言ったあの言葉は嘘ではないと信じたい。本当にそう思うなら、態度で表してほしい。そう思った。

 

 

「ありがとう。光瑠。安心した。それでは、放課後にまた会おうか」

 

 

薫はそう言って踵を返し、階段を登っていった。あの言葉を言った時の薫は、幼い頃の薫を見ているようで、懐かしく感じた。昔の薫は、いつも目に涙を溜めていたことを思い出した。

 

 

 

 

「幼馴染と関わりたいと思う事が、そんなにおかしいことなのかい!?」

 

薫のあの表情と共に、その言葉をずっと頭の中で反芻した。まさか薫の口からあんな言葉が出るとは思わなかったからだ。あの言葉によって、自分と薫は幼馴染だったのだと、改めて再認識することになった。薫が言っていた会ってほしい人達は、一体どんな人達なのだろうと不安な気持ちはある。だが僕も薫に信じると伝えた以上は、その人達を信じてみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室に戻って昼食を食べ終わり、5、6時間目の授業があっという間に終わり、放課となった。僕が教室から出ようとすると薫が既に廊下で待っていた。

 

 

「さぁ、行こうか光瑠」

 

「……うん」

 

階段を降りて靴を履き変えて学校を出ると、薫のファンらしき女子生徒が多数集まってきた。薫から待っているように言われた為、僕は校門前で薫が来るまで待っていることにした。

 

数分後、女子生徒から解放されたらしく、若干息を切らしながら歩いてきた。

 

「子猫ちゃん達は帰ったようだ。では、行くとしようか」

 

「わ、わかった……」

 

薫を先頭にし、僕は薫の後を着いていく感じで歩き始めた。先程から気になっていることがあるので、僕は思い切って聞いてみることにした。

 

「ねえ、薫」

 

「なんだい? 」

 

「随分他の生徒から人気があるみたいだけど、何かしてるの?」

 

「なに、大したことはしていないさ。あれは皆、私の演技に魅了された者達ばかりさ。私の素晴らしい演技によって誰かの心を動かすのは本当に気持ちがいい。あぁ……儚い……」

 

「そ、そう……というか、その儚いって単語の意味は知ってる、よね?口癖になってるみたいだけど」

 

「え、ええと、それは……まぁつまり……そういうことさ」

 

「どういうこと……」

 

薫のあの反応からして、恐らく薫は意味を理解しないで使っているのだろう。わからない単語は日常生活で使わなければいいのに。そう思ったが、本人がそれで満足しているようなので、口出しはしないことにした。

 

 

「念のため聞くけど、その人達が今日、僕が来ること知ってるの?」

 

「ああ。知っているよ。事前に伝えていたからね。こころはとても楽しみにしていたよ」

 

「へ、へー……」

 

「こころ」って名前の人がいるんだ。随分変わった名前だなぁ。これが俗に言うキラキラネームというものなのだろうか。

 

 

歩き続けること数分、ものすごく大きい城のような場所の前で薫は立ち止まった。

 

「さ、着いたよ。ここが来てほしい場所だよ」

 

「大きい……」

 

周りには花が咲いており、真ん中には大きな噴水がある。とにかく家の面積が大きく、いかにもお金持ちが住んでいそうな豪邸という印象だった。下手すると学校よりも大きいんじゃないだろうか。このレベルの家に住んでいる人間と、薫はどうやって知り合ったんだろう。

 

 

僕はそっとその家の敷地内に入ると、いきなり黒い服の女性がどこからともなく現れた。

 

 

「お待ちしておりました。中へ案内します」

 

 

「は、はい……」

 

「緊張しているのかい?光瑠」

 

「そりゃ緊張するでしょ……。こんな家、今まで見たことないよ……」

 

「ハハッ。たしかにそうだね」

 

「よく笑ってられるよね……すごいよ君……」

 

「光瑠。褒めても何も出ないよ」

 

「別に褒めてないんだけど……」

 

「……儚い……」

 

「それさっきも聞いた……」

 

 

 

薫とそんなやり取りをしながら、僕達は早歩きで黒服の女性の後をついていった。

 

「広っ……」

 

辺りを見回しながら屋敷内の広さに驚いていると、黒服の女性が足を止めた。

 

「こちらです。どうぞ」

 

 

偉い人が会議で使っていそうな広々とした部屋に案内され、僕と薫はその部屋に入った。部屋には、金髪の女の子が目をキラキラさせながらこちらに近付いてきた。

 

「あなたが薫が言ってた男の子でしょ!?待ってたわよ!あなたの名前、教えてっ!私と一緒に、笑顔になりましょ! 」

 

 

「……へっ? 」

 

 

 

 

 

 

これが僕とあの子との初めての出会いだった。

 

 

ここから、僕の心の平穏が徐々に崩れ去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




お気に入り登録50件、UA4000回突破ありがとうございます。


それではまた次回のお話でお会いしましょう!


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第11話 困惑

あ、今日はたしか薫さんが言ってたお客さんが来るんだったっけ?どんな人かな。


 

 ……何故こんな事になったのだろうか。薫に連れていってもらった豪邸。その中にいたのは、まるで太陽のような笑顔で自分を見つめる少女。彼女の笑顔に、僕はただただ困惑するばかりだった。

 

 

「ねえ!あなた、お名前はなんて言うのかしら?」

 

「えっ……。……本田光瑠です」

 

「ひかる……。とっても良い名前ね!」

 

「は、はぁ……」

 

 何でこの子、こんなに笑顔なんだろう。初対面の筈なんだけどな……。ちらりと薫の方へ目をやると、いかにも楽しそうに口角を上げていた。

 

「ところであなた、どうして顔を隠してるのかしら?」

 

 あ、やっぱりマスクの事について触れるんだ。まぁたしかに今の時期にマスクしてるのは珍しいから、気になるのも無理はないか。詮索されると面倒だから風邪予防とでも言っておこうか。

 

「風邪予防の為……」

 

「光瑠はこう見えてすごく恥ずかしがり屋でね。それで顔を隠しているのさ」

 

「薫。君は何を言ってるの……?」

 

 僕が理由を言い終わる前に薫が勝手に金髪の少女にあらぬ事を教えてしまった。勘違いも甚だしい。僕がそんな理由で顔を隠している訳じゃないのに。

 

「あら、そうなのね!でも、そうやって顔を隠してたら、笑った顔が見えないじゃない!それ、外してほしいわ!」

 

 納得されたし。しかもマスクを外してだなんて。急に何を言い出すんだこの子。初対面の僕に対してよくそんなに話しかけられるね。すごいよ。

 

「いや、マスクはちょっと……外せないです」

 

「……わかったわ!じゃあいつか、とびっきりの笑顔を見せてちょうだいね!」

 

「え、ええ……」

 

 数秒の間の後、彼女は満面の笑みでそう言った。……ダメだ。着いていけない。ずっとニコニコしてるから段々不気味に見えてきた。この子と仲良くなんて一生かかっても無理な気がするんだけど。この子、学校でどういう立ち位置なんだろう。彼女のテンション、苦手な人は本当に苦手だと思う。僕もこういう人は苦手な部類に入るのだけれど……。

 

 

「そろそろ美咲達も来そうね!」

 

「あの、まだ来るんですか……?」

 

「当然だろう。君に会わせたい人達は、こころだけではないよ。昼休みにもそう伝えた筈だよ」

 

「そういえばそうだったね……はぁ……」

 

 あの子と話してもう既に疲れたんだけど。ここから数人来るとなると、もっと疲れそうな気がする。帰りたい。

 

「あら、どうしたの光瑠?すごく疲れてるように見えるわよ?」

 

「あ、いえ大丈夫ですお気になさらず」

 

 出会って数分なのにもう呼び捨て……。ほんとにすごいなこの子。疲れてるのは主に貴女のせいなんだけどね。女子ならまだわかるけど、男にもこういう接し方するって今時珍しいと思う。一体どういった育てられ方をしたらこんな性格になるのだろうか。

 

「おっと。子猫ちゃん達が来たみたいだ」

 

 薫がそう言い、部屋の入り口の方を見ると、3人の女子達が中に入ってきた。

 

「やっほー!こころん!薫くん!」

 

「お邪魔しまーす」

 

「お、お邪魔します……」

 

 オレンジ色の髪の活発そうな子、黒髪の真面目そうな子、青髪の内気そうな子が挨拶をしてあの子と薫の方へ近付いた。すると、黒髪の子が僕がいることにすぐに気付いた。

 

「あれ、こころ。そこにいる人は?」

 

「光瑠よ!薫が連れてきてくれたの!」

 

「えっと、彼女が言った通り、光瑠と申します。よろしくお願いします」

 

「あっ。はい。奥沢(おくさわ)美咲(みさき)です。よろしくお願いします」

 

 黒髪の子が自己紹介をしてくれた。軽く会釈した後、家の中で追いかけっこをし始めたオレンジ髪の子と弦巻さんを止めて、注意していた。これを見る限り、この子はいつもこの2人に振り回されてそうな感じがする。水色の髪の子はそれを見ながら苦笑していた。彼女はこの中だと1番大人しそうな印象を感じさせる。

 

「そうだわ!せっかくここに来たんだから、光瑠も一緒に、世界を笑顔にする方法を探しましょ!」

 

「……はい?」

 

 世界を笑顔にってどういうことだろう。そんなこと、簡単にできる訳ないというのに。でも、なんでこの子はこんなに自信ありげなんだろうか。

 

「あの、世界を笑顔にってなんですか?」

 

「あたし、世界中にいるみんなを笑顔にしたいの!今日はその会議の日なのよ!」

 

「な、なるほど……」

 

「そうさ。私も彼女達と共に、世界を笑顔にする方法を考えている。さぁ、光瑠。君も私達と一緒に、世界を笑顔にしてみないかい?」

 

 いきなりそんなこと言われても。薫も含め、ここにいる人達皆、本当に世界中を笑顔にできると思ってるのだろうか。もしそうなら、能天気にも程がある。人を笑顔にするなんて具体的にはどうすればいいかわからないし。無理に決まってる。

 

「嫌です。世界中を笑顔になんて、できる訳がないじゃないですか。もう少し現実を見た方がいいですよ」

 

「あら?光瑠は誰かの笑顔が見たくないの?」

 

「別に、そういう訳ではないですけど」

 

「じゃあどうして嫌なのかしら?」

 

 この子、すごく直球に質問してくるな。いかにも何故?という表情で首を傾げている。

 

「だって、貴女がしようとしていることは現実的じゃないんですよ。はっきり言って、子供の絵空事です。叶う筈もないことを手伝う程、僕は優しい人間ではないんです。しかも、貴女達とは会ったばかりで、仲が良いって訳でもないじゃないですか。なのでお断りします。ごめんなさい」

 

 どうしてと聞かれたので、僕が思う事を彼女に言ってみた。多少きつい言い方かもしれないが、こういう言い方をしないとわかってくれなそうだから。

 

「? 光瑠とあたしって、もうお友達じゃないの?」

 

「……え?」

 

「薫があなたを連れてきてくれて、もうあたしとあなたは話してるじゃない!だからあたし達はもうお友達よ!」

 

「いや、あの、僕はまだ貴女達を友人とは思ってないんですけど……」

 

「だったら、これから仲良くなっていけばいいのよ!みーんなで、世界を笑顔にしましょ!」

 

「……」

 

 随分と簡単に言ってくれるね。それができたら苦労はしないよ。会って話しただけで友達だなんて初めて聞いた。僕と彼女の声に釣られ、他の4人が一斉に僕を見た。弦巻さん以外、皆不思議そうな顔で僕を見てきた。その視線に、僕は背中に寒気が走った。

 

 

 

「……ごめんなさい。帰ります……」

 

「なっ……!光瑠!待つんだ!」

 

 薫に待てと言われたが、構わず僕は小走りで屋敷を抜けた。あの人達が僕を見る目には既視感があった。中学校の頃に経験した、複数人からのあの視線。それとあの視線が重なって見え、怖くなって逃げてしまった。ふと我に返ると、自分はすごく失礼極まりないことをしたのだと、屋敷からだいぶ離れた場所で自覚したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光瑠……」

 

「光瑠、どうして行っちゃったのかしら?」

 

「……わからない」

 

「光瑠さん……でしたっけ。あの人、薫さんが連れてきたんですよね?結局なんだったんです?急に走っていっちゃったし」

 

「はぐみ、あの人と話してみたかったのにー!」

 

「あの人……ちょっぴり怖かったかな……」

 

 光瑠が出ていった後、私達はこころ達と光瑠の話題を出していた。何故急に出ていったのかはわからない。だが、何か事情があって出ていったのだと私は思っている。

 

「大丈夫。光瑠は怖くないさ。本来は誰よりも人を思いやれる優しい人間だよ。だが、今は誰にも心を開きたがらないようでね……」

 

「まあでも彼、優しいんだろうなーって思いましたけどね。話し方とかでなんとなくわかりましたし。初対面なのにこころにあんな感じで話されたら、困惑するのも無理ないですよ。あたしだってそうだったし」

 

「やはり、私1人では光瑠を笑顔にするのは無理だ。だから、皆に協力してもらいたい。光瑠の笑顔を取り戻してほしいんだ。こころ、頼まれてくれるかい?」

 

「もちろんよ!光瑠の笑った顔、見てみたいわ!今日はみんなで、光瑠を笑顔にする方法を考えましょ!」

 

「あたしも手伝いますよ。薫さんにはいつもなんやかんやお世話になってますし」

 

「はぐみも手伝うよ!薫くん、ひかるくんを笑顔にしよー!」

 

「私もお手伝いします……!」

 

 皆、快く承諾してくれた。こころ達がいてくれれば、光瑠に心を開かせることができる筈だ。

 

「ありがとう。皆で、光瑠を笑顔にしようじゃないか。皆で力を合わせて幼馴染の笑顔を取り戻す……。あぁ……。儚い……」

 

「さぁ、会議を始めるわよー!」

 

「「「おー!」」」

 

 

 

 

 

 

 今日この日から、私達ハロー!ハッピーワールドの5人は、光瑠を笑顔にする方法を模索する事になった。先は長いかもしれないが、絶対に成し遂げてみせる。また昔のように、笑顔で一緒にいられるようにね。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。だいぶ更新が遅れてしまいました。申し訳ございません。ここから光瑠くんの生活が急激に変化していきます。お楽しみに。

感想、評価もらえると嬉しいです。

それではまた次回のお話でお会いしましょう。


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