修羅の一刀、魔拳を穿つ。 (炸裂プリン)
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修羅の一刀、魔拳を穿つ。
鈍色の鋼が交錯し、僅かに接触した面同士が火花を散らしながら刹那の赤熱化を経て互いの標的に喰らいつかんと迫る。
「――っ!」
交差した鋼の右方、
(ここで引けば、もう二度と僕の間合いに戻れなくなる!)
一輝に迫る鋼鉄の巨拳は一切の情を込めず、正確無比に致命の一撃を振るう無慈悲な刹那の一撃。
他の学生一同から「無垢なる殺意」と勝手に名付けられた左拳の手甲は、その異名に違わず相対した者を絶対の名の元に破壊すると訴える白銀の闇を煌めかせていた。
対面で
(恐れるな。この一撃を超えろ、黒鉄一輝っ!!)
一輝は心を蝕む恐怖という負念を心中の刃にて両断、覚悟を燃料に闘志を燃やし、勝利を胸に収めんがため踏み出す。
ただ、一歩。
交差し、拳の下部へ潜らせた自身の刃をかち上げ、必殺の魔拳を僅かに上方へ軌道を逸らすことにより、掻い潜る。
微かに掠っただけだと言うのに、一輝の右耳はぞろりと削られ血が吹き出していた。
しかし、一輝にそれを気にしている余裕は無い。
(踏み込めた! よし、ここからだ――)
赤色の火花を散らした愛刀を弓を引くように構え、踏み出した脚に力を込めて加速。渾身の刺突により目前の小さな鬼神を打倒せしめんと踏み込んだ。
(小柄な鏡華さんを討つには、線よりも点で、一撃で突破しなければ、回避とカウンターを貰って終わりだ)
それが、狂咲鏡華が最も長くこの舞台に立ち、敗北した試合記録を見続けた一輝の答えだ。
しかし、この一歩より先が、彼女の前に立った誰もが踏み出せぬ不落の城であった。
(ほう、臆せず踏み込むか。黒鉄一輝)
対する左方、
黒鉄一輝に向けた左拳による一撃は彼女にとって単なるジャブであり、相手を本命の真打ち――その右手甲に搭載された射突型ブレード、所謂パイルバンカーの射程内に収めるための囮に過ぎない。
軽く打ち込んだ左の手甲にはこれと言ったギミックは搭載されておらず、ただデカくて扱いにくいだけの装甲なのだが、それでも長く研鑽を重ねた鏡華の戦闘技術を減衰させるに足り得ず、寧ろ低学年と見間違われる小柄な彼女の弱点たる一撃の弱さが、魔力によるブーストを重ねた純粋な大質量による破壊力増強という恩恵で消失していた。
何故ならば、誰もが風を切り音を置き去りに放たれる左の牽制で地に沈んでしまうからだ。
右腕に秘められた絶死の一撃は、転入時にデモンストレーションで行った先達との交流試合でしか打てていない。
(左を抜けられるのは久々)
重ねて伝えるが、鏡華は戦場に在っても心穏やかに清流が如く落ち着いきを見せている。しかし、右腕の射程内に入り込める剣士に再び会えた事に、その瞳に僅かな熱を灯していた。
(雷切は捉えきることが出来なかった。けれど)
狂咲鏡華の右手甲、その肘部に形成された杭状のパーツが弾けるように突出、「ガギン」と破滅的な音を響かせ、パイルが収まっていたスペースたる手甲内部に膨大な魔力を急激に収束させた。
(けれど、君ならば容易く捕まえられる)
狂咲鏡華の瞳が自身の薄い胸元に迫る切っ先を捉え、更にその先――乾坤一擲の気迫を以て踏み出す黒鉄一輝を射程内に捉えた。
その瞬間、眼前の黒鉄一輝の瞳が僅かに揺れ、しかし踏み込む速度にブレはない。
(――察したか。しかし、もう君には私の手が届く)
自らの左拳が支配する左方には黒鉄一輝は回避しないと、鏡華は刹那の間に逡巡する。
もしも臆して飛んだのならば最期、薙ぎ払う左のラリアットで首を、或いは武術の根幹たる腰を砕く情景を描いていた。
後方に下がるなど愚の骨頂、拳打の威力を増長させる助走距離を与えるスペースを鏡華に与えるなど、自ら断頭台に首を差し出す様なものだ。
上方もまた然り。飛び越える事など許しはしない。例え振り下ろす刃で牽制しようとも、それを手掛かりに地面へ叩き付け、トドメに両拳を振り下ろすのみ。
それらのカウンターを予測できない男ではないだろうと、ある種の信頼にも似た先読みが鏡華の構えを確たるものとする。
そのような予測を加味した上で回避を選ぶと言うならば、必然、その経路は右へ――障害物一つ、小石一つ転がっていない空間へ跳ぶだろうと鏡華は考える。
(だが、それはこの狂咲鏡華が許さない)
一輝を捕捉する眼光を強め、カウンターに備える左拳がゆらりと夕焼け色の輝きを燻らせた。
(障壁展開――これでもう、君に逃げ場はないぞ)
瞬間、唯一の逃走経路たる空間が軋みをあげて異界と化す。
(君には悪いが、対雷切戦の策を試させてもらおう)
宙を舞う微小な埃、塵、更には空気の流れさえも押し留め、地面を歪に歪ませ沈みこんだ。
目に見えぬ暴虐が、一輝の退路を無遠慮に破砕する!
(――これが、鏡華さんの
はらりと散った己の冷や汗すら押し潰した不可視の鉄槌に、一輝は僅かに視線と心を揺らし、だが即座に持ち直した。
重力障壁――これが狂咲鏡華が発現せしめた異能の業。
一輝は、その能力の程を事前に調べた成果で知っていた。
発動範囲は彼女の拳が振るえる範囲という
それを用いて鏡華の射程内のみへと続く一方通行の閉鎖空間を作り出すのは、対戦者の離脱を許さない必勝の形。
しかして、この重力の檻が真価を発揮するのは盾の役目でなければ、振り下ろされる鉄槌としてでもない。
それは――
「その刃諸共に砕けろ、黒鉄一輝・・・・・・!」
必殺の魔拳。今それが解放される。
「っっ!!」
死が
バゴゥ! と弾丸へ撃鉄が叩き付けられるようにパイルが肘部へ押し込められ放たれるそれは、右手甲内部にて圧縮された魔力を変異させ、射突されるブレードへと形状を変えた重力障壁である。
音を超えて放たれる重力の刃は、射出される得物の射程距離内。詰まりは手甲から至近距離で放たれる一撃を見舞われる故に回避は困難を極め、異常な魔力圧縮によって形成された重力刃を防ぐ術など存在しない。
打破する方法は、何らかの術法により必滅の極光、即ち高密度の魔力と重力の刃を霧散させ、尚且つ手甲の一撃を耐えきるか、打ち込まれる拳を超える速度で小柄な少女の懐に潜り込み、魔拳の射程外へと逃れるしか生き延びる術はないだろう。
しかし、黒鉄一輝はそのどちらの手段も持たない。
武を納めるものとして確かに強者ではあるが、如何せん異能という人外の領域において彼は超えられぬ大きなハンデを持っているが故に。
(この勝負、私の勝ちだ)
――そう、狂咲鏡華は確信していた。そしてその慢心こそが、必勝の理を食い破られる先駆けとなる。
貫くと確信した魔拳は、その進撃を阻まれた。
「な、に!?」
「ぐぅ、う。お、おおおおおおおおォォォォォォォ!!!」
爆ぜる重力刃はしかし、標的たる一輝の肉を食い破ることなく、彼の剣士が持つ一振の――鏡華の手甲と比べて余りに貧弱な刀のその切っ先が、あろう事か押し留めていた。
「僕、は、貴女に――」
「くっ、そんな馬鹿なことが・・・・・・!」
一輝の瞳は淀みなく、破壊の極光を放った者を鋭く射抜いた
その瞳の色に、狂咲鏡華は悟る。
自身の確信した勝利は、慢心が見せた幻でしか無かったのだと。
黒鉄一輝は、諦めていないのだと。
黒鉄一輝には、勝利への一点が見えているのだと。
(だが、私とて負けるつもりは無い!)
瞬時に情勢を覆そうと一輝を鑑定する鏡華の眼には、その身に内包する魔力を限界まで絞り、身体を駆け巡らせ、ただの一点――陰鉄の切っ先へと集約している姿が映し出された。
(なんだ、これは。これは、こんな後のない闘い方なんて、私は知らない・・・・・・!)
鏡華の脳裏に過ぎ去る困惑と驚愕の感情が、背筋を無遠慮に駆け抜ける悪寒が、自身の敗北するイメージを築き始めた。
(ふざけるな。巫山戯るな巫山戯るな!! 私が、私の一撃が負けるなど――)
瞬間、突き出した拳の向こう側より爆発的に増加する意思が、鏡華の心を更に追い込む。
「僕は、僕の
闘志、燃ゆる!
揺蕩う蒼炎の闘気が黒鉄一輝という一人の剣士を、その肉体の限界を超えさせることで人外の法を打ち破る修羅とする。
その伐刀絶技の名は一刀修羅――黒鉄一輝の扱える伐刀者として最弱の異能であり、しかし最大最強の切り札。
それが鏡華に生じた慢心、勝利への確信という油断を、その点穴を貫き押し広げていた。
「おおおっ!!」
「っあぁ!?」
――一歩、黒鉄一輝は踏み込む。
ただそれだけで、重力の刃はヒビ割れ砕け散った。
鏡華に生じた敗北のイメージが、重力刃形成用の異常圧縮させた魔力の制御を妨げたのだ。
「私の一撃が、崩される!? そんな、そんなバカな」
魔拳を突き崩してなお止まらぬ刺突の一閃を、鍔迫り合いで痺れた右腕で何とか払い退けようと手を伸ばす鏡華。
しかし、一輝の刃は堅牢なる鏡華の手甲すらも貫く。
「馬鹿、なっ!」
「おおおっ!!!」
鋼と刃が擦れ合い、耳障りな音を響かせながら手甲内の鏡華の腕をも突き抜け、摩擦によって赤熱する切っ先が食い破る肉すら焼き切って――その胸を穿つ!
「かはっ」
阻もうと刃を掴むべく伸ばした左手は間に合わず、無常にも鏡華の胸元へ突き立てられた鈍色の一刀は、背を突き破り顔を出す切っ先から滴り落ちる鮮血で静かに朱へ染まった。
魔拳の担い手、狂咲鏡華はここに二度目の敗北――編入時に受けた「雷切」の洗礼以来の敗北を刻んだ。
伐刀者ランク:C 攻撃力:A 防御力:E 魔力量:D 魔力制御:B+ 身体能力:A 運:E
伐刀絶技「重力障壁(或いは操作)」は両腕の届く範囲しか発動できない。しかし射程内であるならば幾らでも応用が効く(重力を反転させて高速移動。加重させて打撃の強化等々)
だが、鍛錬無しだと重力を強めて垂れ流すことしかできないため要練習である。
小柄な鏡華では至近距離に迫らない限りは攻撃手段として使えないため、主に目の前に壁として展開して防御手段として使う。
・・・・・・のが一般的な見解であるが、攻撃は最大の防御を素で行く彼女はコレを熱が出てぶっ倒れる程の鍛錬の末に「重力波を魔力に練り込み、刃及び杭に形作り放つ」技法を習得。打ち込まれた者は体内で荒れ狂う重力の渦と炸裂する魔力の奔流に内臓と保有魔力をぐちゃぐちゃにされて果てる。えぐい。
後述する霊装に攻撃手段として組み込んだことで馬鹿げた攻撃性能を獲得した。
発現させた霊装は両腕を覆う手甲型の「
イメージは白金にしたビックオーの両腕。
パイルバンカーギミックのある右腕はシールドパーツなし。左腕にはシールドパーツがあるけどパイルバンカー機構は無い感じ。
本来このパイルバンカー機能は、圧縮した空気とそれに練り交ぜた仕手の魔力を「撃ち」出す機能である。要するに遠距離牽制用の空気砲でしかなかった。
しかし、そこに可能性を感じちゃった鏡華は編み出した重力杭を装填出来るように、またも熱が出るまで魔力操作を練習し、見事会得。
防御不可能の魔拳の完成であり、本人の格闘センスを加味してもC+相当だった攻撃力がAになった瞬間である。
咲き誇る華を愛でられるような美しい心を持って、他人の痛みを鏡のように写し込み共に分かち合い励まし歩めるようにと両親から授かった名前。
・・・・・・なのだが、当の本人はそんな意味の込められている事など知ったことかとばかりに武術に傾倒し、花の美しさと他者への気配りも分から鋼の武人になってしまった。
また、自身の武に絶対的な自信をもっており、ちょっと傲岸不遜気味で、しかしこれを精神的な支柱として放たれる気配は鬼神のそれ。その気配に圧倒されて慄く対戦者は数多い。
だが逆に言えばその自信をへし折られると魔力操作の根幹たる精神力がブレてしまい、ただの腕っぷしの強い少女になるため、途端に弱体化する。
本作で話に上がっただけの「雷切との戦い」でも自身の誇る拳速を上回って放たれた居合と、驕った心を叱責する言葉に心を折られ敗北した。・・・・・・という設定を今思いつきました。
会得した格闘技術は、狂咲家に伝わる格闘技術と、古今東西の気に入ったものを好きなだけ混ぜ込んだちゃんぽん拳闘術。
魔力でブーストの掛ったボクシングのジャブやらアッパーが飛んできたと思ったらカポエイラの蹴りなり空手の蹴撃が放たれる。しかもとんでもない練度で。
たぶん、どんな武技が飛び出すか分からないから
そんな設定を思いついちゃったのと、戦闘描写を書きたかったのとでこっそり書いてこっそり投稿。
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