とあるハンターのゴブリン討伐紀行 (毒素)
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G級ハンターの受難

 

 

 

 

冒険者組合の入り口がゆっくり開き、一人の人物が入ってきた。

その人物が入ってきたとき、誰もがその方向を凝視した。

何故ならば、その人物は見たこともない黒装束の鎧に身を包んでいたからだ。

闇のように黒い衣装に、表情がうかがえない仮面。

マフラーを棚引かせ、すこしあたりを見回しながらもまっすぐに歩いて行く黒い人物には、何とも言えない威圧感があった。

体格がとてもしっかりとしているため、おそらく男であることがうかがえる。

ガシャガシャと金属をすり合わせる音を響かせながら、その人物は受付まで歩く。

 

 

「すみません、こちらで冒険者登録ができると聞いたのですが?」

 

 

面妖ないでたちの男に身を固くしていた受付嬢に首を傾げつつ、鎧の人物はその見た目に反して優しい声で問いかけた。

低く通りの良い声からして、見た目通り男性だろうと受付嬢は判断した。

 

 

「は、はい。

冒険者受付はこちらですよ!

それでは冒険者記録用紙にご記入をお願いします!

文字の読み書きはできますか?」

 

 

仮面の男は差し出された紙をじっと見ていたが、やがて首を左右に振り、

お手上げという風に手を広げた。

 

 

「…うーん、ちょっと、無理っぽいですね」

 

 

「はい、では代筆いたしますね。

では順にお答えください。まずはお名前を―――…」

 

 

既定の質問をすると、男はすこし考え込みながらもしっかりと答えていく。

一部本人も知らないということで空欄になってしまった部分があるが、

必要事項はすべて埋めることが出来た。

 

 

「では、最後にご職業をお聞きしますね。

見たところ、剣士さんでしょうか?」

 

 

「うぅーん?まぁ、武器のスタイル的にはそれも間違えちゃいないけど…。

残念だけど、違いますね」

 

 

「そうなんですか?では、ご職業はなにをされているのでしょうか?」

 

 

男は受付嬢の質問に少し面食らったように少し止まったが、

仮面の下でかすかに笑ったようだった。

笑い声が、仮面の隙間から漏れ出る。

 

 

 

「なぁに、ただのしがないハンターですよ。

気軽にハンターさん…もしくはサムライさんって呼んでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそも仮面の男…もといハンターがここにいるのは正に運命の悪戯、

もしくは超常現象の結果だった。

男はギルドからの依頼をこなしながら武者修行をする、どこにでもいるG級ハンターだった。

男は今日も今日とて勝手に宿敵認定をしているナルガクルガと戯れながら、殺し合いにいそしんでいた。

いつも闘っている相手で、慣れていたというのは後からの言い訳になるだろう。

ナルガクルガのモーションに対応が一瞬遅れ、尻尾の叩きつけ攻撃をもろに喰らってしまった。

 

男は太刀遣いで、ガードの態勢はとれず、そのまま吹き飛ばされた。

 

更に運が悪いことに、吹き飛ばされた先には高い崖があった。

普段飛び降りるところよりも、数段高い崖に軽々と身が投げ出される。

 

煌めく星々と月を見て「ぁ、これ死んだわ」とスローモーションで人生のシーンが流れた。

 

 

「これは、乙りますね…」

 

 

 

運が良ければそのままテントに輸送、悪ければそのまま死亡だろう。

なんて案外いろいろなことを考えながら落ちていき、葉にぶつかり、枝に突っ込み、そのまま地面に落ちた。

 

背中から落ちた衝撃で、呼吸が一瞬止まる。

 

げほげほとむせ返り、胸を抑えながら仰向けになる。

頭を少し打ったのか、思考は霞がかり、視界が揺れる。

しばらくうずくまり、痛みに耐える。

 

 

「いってぇええぇええぇ…ッ!ディアブロスに突進されたくらい痛いぃ…ッ!」

 

 

震える指でアイテムポーチを漁り、回復薬Gを取り出すと一息であおる。

痛みが引き、ボロボロになった体が癒されていく。

そうして、冷静に物事を判断で切るようになったハンターはあたりを見回し、首を傾げた。

 

 

「…なんじゃ、ここ」

 

 

そこは見たことがない森だった。

深いことには深いが、自分がいた原生林のように雄大で力強くはなかった。

いつも騒がしいくらいに聞こえるモンスターの声ではなく、

どこにでもいそうな鳥の声。

木漏れる日の光は柔らかく、穏やかだった。

 

 

「…渓流?いや、原生林にいたんだぞ俺・・・?」

 

 

立ちあがって、ハンターは森を歩く。

歩く廻っても見かけるのは草食動物であろう無害な動物だけだった。

アオアシラのようなクマもいたが、ハンターの姿を見た瞬間逃げ出した。

動物の本能が彼の装備に使われた上位者の気配に恐れおののいたのだろう。

そうとも知らないハンターは「なんか、アオアシラっぽいのにヘタレだなぁ」とのんきしていた。

 

そうして散策しながらザクザクと進んでいくと、煙の臭いがした。

 

ハンターは柄に手をかけ、臨戦態勢をとりながらしゃがんで状況を判断する。

離れた場所から漂う煙の香りは、焦げた匂いはなくどこかいい匂いがした。

 

 

「…香草を煮る臭い?

ってことは、人里が近いのか」

 

 

ハンターは警戒をしながら、少し小走りで煙の臭いが濃く香るほうへ赴くと森の切れ目に建築物が見えた。

 

 

 

「やったー!村だ!これで勝つる!」

 

 

 

男はガサガサと草をかき分けて森を出る。

開けた平地に村があった。

農場らしいその村には何人か人も住んでいるらしく、安堵しながらハンターは村に近づいた。

 

 

 

「すいませーん、ちょっとお尋ねしたいんですけど」

 

 

 

牛を世話をしていた初老の男性に声をかける。

男性は全身黒づくめの仮面の人物が現れたことに驚き、

明らかな警戒態勢をとった。

ハンターを睨む目つきは、厳しい。

 

 

 

 

「…ぉおう」

 

 

「な、なんだあんたは!」

 

 

「怪しいものじゃないんですが…。

ちょっと道に迷ってしまったハンターです。

道を教えていただきたいのですが…」

 

 

「……」

 

 

「…ひぇえ」

 

 

 

猜疑の目で見つめられ、百戦錬磨のハンターもどう対応していいのかわからなかった。

そもそもこんな目で見られた経験があまりないため、なにをしていいのかもわからない。

武装を解除し、素顔を見せるという発想は、装備をしたまま生活するのに慣れたハンターにはなかった。

 

 

 

「おじさん?どうかした…の…?」

 

 

しばらくにらみ合いという名の距離の取り合いをしていた二人に、柔らかい声がかかる。

ハンターが声の方を見れば、ふんわりと穏やかそうな少女が不安そうにこちらを見つめていた。

 

 

 

「あの、どなたでしょうか…?」

 

 

「道に迷ったハンターです。

道を教えていただきたいのですが…驚かせてしまって、申し訳ありません」

 

 

 

頭を深く下げ、謝罪するハンターに二人は顔を見合わせた。

あまりに真摯で穏やかな口調に敵意や害意は感じられなかった。

 

 

「それは、お気の毒ですね。

どちらまで行かれる予定ですか?」

 

 

「そうですね…。

とりあえず、近くのハンターズギルドのある村か街までの道を教えていただけますか?」

 

 

 

ほっと息を吐いて、安堵しながら質問したハンターにまたも二人は顔を見合わせた。

しかも今度は何を言われたかわからない、という風に首を傾げ、

互いに答えを知らないとわかると困惑したように質問をした。

 

 

「…はんたーず、ぎるど?

えっと、冒険者ギルドではなく?」

 

 

「冒険者?

なんですか、それ?」

 

 

今度はハンターの方が困惑してしまい、

三人で首を傾げ合うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ハンター=サンの装備は白疾風装備です。
メイン武器は太刀『無明刀【空諦】』に設定してます。

不審者感を全面的に出したかったので、この装備になりました。
現実的に考えて、こんなのが森から出てきたら不審者でしかない…討伐しなきゃ。



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亜空間アタックの恐怖

それからハンターと牛飼娘、そしてその叔父は簡単な情報交換を行った。

柵に腰掛けながら、この近辺の情報、現在の情勢を聞くハンターの頭はどんどんと下がっていき、最後には落ち込んだように頭を抱えてしまった。

 

 

「…なんてこったパンナコッタ…俺はどこに落ちてきたんだ…」

 

 

「げ、元気出してください、ハンターさん」

 

 

「こちらとしては、そちらの言うことの方が信じられんが…その見たことない装備からして、まるきり嘘というわけではないのだろうな」

 

 

今だに猜疑のまなざしでみてくる叔父にメンタルに来るものがあるが、魔神の手先や山賊、祈らぬ者どもが世に溢れているこの世界の現状を考え見るに仕方のないことだろうと考える。

むしろこうして色々と見知らぬ不審者に情報を提供してくれるだけ良心的だ。

 

 

「つまり、俺は何らかの弾みで転移?とやらをしてしまったのだろうか…なんの弾みだよ、ナルガ尻尾アタックか?あいつに時空割る力ないだろが…時々判定おかしいけど…でもそれいうならガノトトスだろが…亜空間アタック…うっ、頭が…」

 

 

ブツブツと何かを口走るハンター。

後半違うことで頭を押さえていたが何を言っているのか2人にはわからなかった。

恐らく記憶の奥底に封じたトラウマが開けられてしまっただけだろう。

 

 

「大丈夫ですか、ハンターさん?」

 

 

「ッは、だ、大丈夫です…。ちょっと、忌まわしい記憶がよみがえっただけなんで、問題ないデス」

 

 

何度、あの攻撃で体力を持ってかれたことだろうか。

ガード性能皆無の太刀使いにとって、あの間合いの読めなさは死活問題だった。

仮面の下で目が死んでるハンターだったが、流石にこれ以上はふざけてられないと頭を振り、今後の身の振り方を考慮する。

 

 

 

「とりあえず・・・大きな町に行ってみようかと思います。

そこで情報を仕入れつつ、今後の活動資金を稼ごうかと」

 

 

「それなら、冒険者になったらどうでしょうか?」

 

 

「冒険者?

冒険者ってさっき言ってたギルドがある組織だよね」

 

「はい!私の幼馴染も冒険者なんです。

それなら情報も集められるし、お金も稼げるかと!」

 

「そうだな…あんた、ハンターって言うくらいだから腕には自信があるんだろう。

そんな大きな刀持ってる位だしな」

 

 

叔父がちらっとみたのは相変わらず背中に差してある大きな刀。

叔父よりも体格がいいハンターの背丈と同じくらいかそれ以上の刃渡りに、

それを扱う青年がただものではないということはわかった。

 

 

 

「まあ、大きいっちゃ大きいけど…重量はそこまでないですよ。

腕に自信は…まあ、そこそこにはある、かな?」

 

 

こちらのモンスターの強さが分からないため、自分の力量でどこまで通じるか判断できないハンター。

それでもG級ハンターとしての矜持がある。

自分の手のひらをじっと見つめて、少し考え込んだハンターだったが、しばらくすると頷いた。

 

 

「そうですね、まずは冒険者になろうかと思います。

教えていただき、ありがとうございました」

 

 

「大丈夫ですよ、ハンターさん!

困った時はお互い様です!」

 

 

「冒険者は命がけの仕事だ…気を付けるといい」

 

 

「えぇ、狩りにおいて油断はしないように心がけております。

このご恩は、決して忘れません。

この刀に誓い、いつか恩をお返しします。」

 

 

 

再び、深く頭を下げるハンターに二人は微笑んた。

そうして頭を上げ、歩きだしたハンターの足が、しばらく言ったところで止まる。

笑顔で見送っていた二人は首をかしげ、とぼとぼと戻ってきたハンターを不思議そうに見つめた。

 

 

 

 

「…すみません、そのギルドってどこにありますかね…」

 

 

 

 

行き当たりばったりなハンターに、二人の胸に少しばかり不安感が生まれたのは仕方のないことだと、天上で見ていた神々は思った。

 




ちなみに、油断はしないけど慢心はする。
このくらいならいけると思って体力ゲージ回復しないままでいると即死級攻撃喰らって乙ります。慢心ダメ、絶対。

亜空間アタックの判定はおかしい(力説)
絶対大丈夫だろウェーイってところにいたはずなのに、なぜか当たる。
それが回復した直後だと本当に「ファ!?」ってなる

モンハンは2nd時代からずっとやってて、時々ネタが古いかもしれません…。
あとワールドは未プレイ勢です。
欲しいけどPS4高いし…やる時間ない…。

キャラメイクするならすごい真面目系キャラ作りたい。
七三わけの眼鏡美青年がジョーさん相手にバーサクする姿が見たいンゴ




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怒りのハンター

叔父から地図をもらい、辺境の町まで歩く。

牛飼娘が送っていくといってくれたのだが、流石にそこまで世話になるわけにはいかなかった。

更にいうと叔父の目線が怖かったという理由もある。

不審者から犯罪者を見る目にグレードアップしかけたので、自力で行くことにする。

 

 

「私の幼馴染も冒険者をしているので、何かあったら頼ってください。

鎧をしてるので分かると思います!」

 

「なにからなにまで…本当にありがとうございます。

その冒険者にあったら、一度ご挨拶させていただきますね」

 

 

そうして、ハンターは今度こそ旅立っていく。

途中方向音痴を発揮して迷子になりかけたが、なんとか辺境の町にたどり着くことが出来、

冒険者ギルドへと足を運んだ。

 

 

「…目線が厳しいよぅ」

 

 

仮面の中で思わずぼやく。

この装備だと人目を引くらしく、好奇の目線にさらされて針の筵状況だった。

黒づくめで比較的落ち着いたデザインの装備でこれだから、もっとど派手で重装備など着てこようものならもっとひどい状況だったのだろう。

 

落ち着かない気持ちになりつつ、手続きを済ませると白いタグを受付嬢から渡された。

それを受け取り、首を傾げていると受付嬢が説明してくれた。

 

「これは冒険者ギルドの身分証です。

これであなたが白磁等級の冒険者である証明になります」

 

「白磁?」

 

「冒険者は十段階の等級に分けられています。

ですが最上位の白金は史上数人しかいない伝説レベル。

続く金等級は主に国家規模の難事に関わる冒険者ですので、事実上在野最上位は銀等級の冒険者になります」

 

「ほうほう」

 

 

「次の銅等級も実力と信用を兼ねたベテランの方です。

そして紅玉、翠玉、青玉、その下に鋼鉄、黒曜があり…一番下が白磁等級の冒険者となります」

 

「ふんふん、なるほど。

つまり俺は一番下っ端というわけかぁ…なっつかしいなぁ、この感じ」

 

 

つまりはギルドカードとハンターランクと同じようなシステムのようであった。

ハンターランク1から始めて、どんどんと緊急クエストをこなしてハンターランクを上げる。

今までやってきたこととさ程が変わりないことに安堵するハンターだったが、受付嬢の顔は厳しかった。

 

 

「冒険中何かあった時に身元証明にも使いますので、無くさないように」

 

「了解です」

 

 

「以上で登録は終わりです、今後の活躍をお祈りしています」

 

 

「ありがとうございました。

ちなみに、依頼はこちらで受けつける形になるんですかね?」

 

「依頼はあちらの掲示板に張り出されます。

等級にあったものを選ぶのは基本ですので最初は下水道でどぶさらいや巨大ネズミ狩りとか、あとはベテランの方と一党に参加して一緒に依頼をこなすことを白磁の方にお勧めしています」

 

 

「…なるほど」

 

 

受付嬢にいわれて掲示板を見るが、やっていて達成感がありそうな依頼はなかった。

初心者の内は仕方がないことだが、やはりもっと難しいことをやりたい気持ちがある。

 

 

 

「…ん?ゴブリン、退治?」

 

 

 

下水道でのネズミ狩りなどの仕事が多い中、一枚だけ森での仕事がある。

ゴブリン、と書かれたそれは聞いたことがない種族だった。

 

 

「すみません、このゴブリンってのは何でしょう?」

 

「え?ゴブリンをご存じないんですか?」

 

「あ、はい。何分ド田舎通り越して野生的で原始的でほぼ秘境といっても過言ではないところから来たもので…。

ちょっと見たことないモンスターだったから、聞いてみたいなって思いまして」

 

 

何一つ嘘は言って居ない。

なにせハイテクノロジーとワイルドを足して二で割って、

よく分からない成分を足したせいで訳分からなくしてしまったような土地からきたのだから。

秘境通り越して魔境のような場所も少なくない。

 

 

「ゴブリンというのは背丈、力、知性は人間の子供並で、単体では最も弱いとされている怪物の一種です。群れで行動し、人を脅かし、村を襲い、女性をさらうなどの被害をもたらします」

 

「モンスターが女性を襲う?なぜ?」

 

「そ、それは…」

 

 

顔を暗くして言い淀む受付嬢になんとなくだが察したハンター。

大自然で暮らし、モンスターの被害から村を救ってきたハンターにとっては、違う意味で驚いた。

あちらのモンスターは、そう言った意図で人はさらわない。

運悪く捕食されるか、領域を犯してしまったがゆえに敵対行動とみなされ、殺害されるケースくらいしかないからだ。

 

しかし、ここでは違うらしい。

 

カルチャーショックに黙り込むハンターに、受付嬢は声をかけようとした。

しかしその前にハンターが思いっきり依頼文をカウンターにたたきつけた。

 

あまりの衝撃に、カウンターに置いてあったものが倒れ、

離れたところで飲んでいた男の瓶が揺れるくらいの振動に、誰もがそちらに注目する。

 

 

 

 

「…この依頼、受けます」

 

 

「ぇ、パ、パーティーは」

 

 

「ソロで問題ないです。

こいつら根切りにしてきます。」

 

「で、ですが、もっと熟練者の方と一緒じゃないと危険ですよ!」

 

「問題ないです。

全滅させてきます」

 

 

力強く断言するハンターに受付嬢もなにもいえず、

依頼は受理され、地図と依頼の詳細がかかれた書類を渡された。

 

 

もし、ハンターの隠された眼差しが見えていたら誰もが震えただろう。

 

 

その目は、刃のように鋭い殺意でみなぎっていた。

 

 

 




ハンターさんのぶちぎれ・・。
絶対このハンター狂竜化ウイルスに感染してる…バーサクハンター。

自然と共に生き、自然を狩るハンターさんにはショッキングな話なのかな、と予想しながら書きました。

余談だけどハンター世界の女性とか逞しすぎて誰も襲えなさそうだよね…ちゅよい


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縛りプレイ

渡された地図を頼りに、ハンターは森の奥にある洞窟の前まで来た。

見たところゴブリンといわれるモンスターの姿はないが、ひどい悪臭が少し離れた場所からも漂ってきている。

 

 

 

「くっさ・・・ババコンガ並みに臭い…やっぱ全部狩らなきゃ…」

 

 

ハンターの殺意ゲージがさらに一つ上がり、

闘気がみなぎる。

しかしここで突貫するほどハンターも愚かではない。

予想以上に狭い入り口に攻めあぐねていた。

 

 

「あの狭さじゃ太刀は振り回せないなぁ…突きでなんとかするしかないか。

一応ナイフは持ってるけど…切れ味落ちるから使いたくないなぁ」

 

 

硬いモンスターからも剥ぎ取りが可能なナイフを狩りに持ち入るのはあまり好ましくない。

悩みながらも手持ちの装備を確認する。

常備している回復薬、回復薬G、砥石、解毒薬、閃光玉、音爆弾、肥やし玉、薬草、青キノコ、ハチミツ、生命の粉塵など、普段から持ち歩いているものは大体持っていた。

ハンターは忘れ物をよくするため普段からなんでも持ち歩いていたが、これが功を成したといっても過言ではない。

そのかわり整理されていないので取り出しに時間がかかってよく仲間に怒れていた。

 

 

「…消臭玉も欲しいとこだが、仕方ない。

ぃよし、突っ込むか」

 

 

とりあえず、洞窟の入り口まで行き中を確認する。

中は外以上の悪臭が漂っているが、我慢できないほどではない。

警戒しつつ、奥へと進む。

時刻は夕暮れで、これ以上遅くなると夜になり、危険度が増すことになるため、

迅速に処理していかねばならなかった。

 

 

「予想以上に狭い…片手剣とか双剣じゃないことが痛いなぁ」

 

 

刀を振り回すどころか、振り下ろすこともできない狭さにため息を漏らすハンター。

咄嗟に抜けないことを考慮し、事前に刀を抜き、臨戦態勢をとる。

中も暗く、罠製造用に持ってきていた雷光虫の光だけが頼りだった。

 

 

「…暗いなぁ。

吹き抜けじゃないのか…」

 

 

ハンターが足を踏み入れる洞窟は大抵吹き抜けになっているか、光苔などで夜でも明るいためこんなに暗い洞窟に立ち入るのは久しぶりの経験だった。

ドンドンと進んでいくと、道の真ん中に何やら不気味なものが置いてある。

それは小動物の骨で出来たトーテムのようだった。

暗くて判断がつきづらいが、そこで道が二つに分かれていた。

 

 

「…なんじゃ、これ。

目印・・・なのか?なんのだ?」

 

 

見たことがないトーテムに頭を悩ませるが、知識がないハンターにはわからず、

それよりも二つに分かれた道について考えを巡らせる。

 

 

 

「うーん、分かれ道かぁ。

どっちかが住処に通じてる道だろうが…分からんな。

とりあえず、この道を探索してから戻るか」

 

 

 

あまり深くは考えず、とりあえず目立つトーテムがある道を進む。

挟撃される恐れもあるが、それはどちらを進んでも変わらないとの判断だった。

ならば、怪しい選択肢を確実につぶすことの方が先決だった。

 

 

「それにしても…ゴブリンってのはどういう生命体なんだ?

子供並っていうけど…子供並の奴らが大群になって襲ってきたらなかなか脅威だよなぁ」

 

 

こんな仕事を駆けだし用の依頼に置くのだから、なかなかこちらの世界のギルドも鬼畜だと飽きれる。

もっとも鬼畜度的に言えばハンター世界のギルドも負けてはいないが、と苦笑する。

 

 

 

「って、噂をすれば…てな」

 

 

ハンターは立ち止まり、刀を鳴らす。

後ろから小柄な足音が複数近づいてきているのが分かった。

隠密行動をしているつもりなのだろうが、歴戦のハンターにはバレバレだった。

 

 

 

「そ、こだぁッ!」

 

 

長い射程を生かし、太刀を思いっきり突きだす。

それは見事に命中し、鋭い突きがなにかを貫通する鈍い音が洞窟に響く。

 

 

「Guaa!」

 

 

断末魔を上げて倒れる緑色の人型のモンスターに、ハンターは身じろぐ。

しかしあとから蝗のように現れるモンスターにハンターはゴブリンにつきだしたまま、刀を横に薙ぎ、そのまま複数引き裂く。

 

 

 

「ッ!

キリがねえな、これは!」

 

 

前の敵をつき殺していると、背後からも複数の足音が聞こえる。

懸念通り挟撃にされたことを悟り、舌打ちをする。

ハンターは前にいたゴブリンたちの中心に転がると刀を突きだし、薙ぐ、

更にはこちらに攻撃しようと飛びあがった個体を下から上へ切り裂く形で両断する。

 

 

 

「ぁー、これは確かにパーティー組んだ方が楽だわ。

ソロはきつい」

 

 

後ろか来た個体たちも合流し、乱戦状態になる。

その間もハンターは突き、裂き、斬り、そして

 

 

 

 

「…本気で双剣に乗り換えたいと思った…

でもこの格好で双剣にするとリアル忍者になる…いやだ、俺はサムライになりたいんじゃ…」

 

 

 

通路に襲来してきた個体はすべて撃破した。

さすがにハンデがあったので無傷とはいかず、石や矢などが頭部に直撃した。

 

 

「けど、これ他にもいるんだろうなぁ…どうやっていくか」

 

 

ゴブリンの死体たちを見つめながら悩んでいると、入ってきたほうの通路から足音が聞こえた。

ゴブリンとは違い、装備をしている誰かの足音のようだった。

切っ先をそちらに向け、闇の奥を睨んでいると、

その人物の輪郭がぼんやりと映し出された。

 

 

 

「…このゴブリンたちは、お前がやったのか?」

 

 

 

現れたのはみすぼらしいながらも歴戦の趣を感じる装備に身を包んだ鎧の青年。

こちらを見据えるその姿に、隙はない。

 

 

「そうだけど…あんたは?」

 

 

 

見据えかえしたハンターに、鎧の青年は答える。

 

 

 

 

「…ゴブリンスレイヤー」

 

 

 

 

 

 

 




ハンター世界の洞窟広すぎぃ!
太刀が振り回せる環境とか素晴らしいよね。

乱戦になると本領を発揮するのは太刀の良いところだけど、
味方まで転ばせちゃうのはご愛嬌。
わざとじゃないんやで・・・

流石に振り回せないので突きとつき上げで頑張っていただきました。
実際この縛りでやると死ぬほど時間かかりそうですね



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掃討作戦

 

 

ゴブリンスレイヤー、と名乗った鎧の青年はこちらへの視線を外すと肉塊となったゴブリンの数を数える。

縛りがあった所為で数える余裕などなく、ゴブリンスレイヤーが数えた数でようやく自分が何匹狩ったのかわかった。

そして、転がる肉塊を見て、吐き気が湧く。

変に人の形と似ている所為で、少しだけ罪悪感が湧いたのだ。

 

 

「…15。

この数を、こんな狭い場所でそのデカい太刀で斬ったのか」

 

「入る前に狭いとはわかってたけど…こんなに狭いとは予想外だったからな。

でも、突けば問題ないかと思ってな」

 

「それもいいが、もっと刃渡りの短いものを使ったほうがいい。

隙が出来て危険だし、倒すのに時間がかかる。

奴らは臆病だから、その隙に逃げ出しかねない」

 

「…それもそうだな」

 

 

確かに、突きだけでは振り回すよりも多少時間はかかるだろう。

だったら短い刃渡りの武器で即殺したほうがリスクは減る。

そこまで考えていなかったので、ゴブリンスレイヤーの意見に呻く。

 

 

「でも今更引き返せないしな・・・。

もう奴らに侵入はばれてるし、逃亡のリスクを増やしたくないし…」

 

「だったら、こいつらの武器を使えばいい」

 

「え?」

 

そう言ってゴブリンスレイヤーは転がっていた死体の傍に落ちていたナイフを渡して来た。

刃がボロボロで手入れは一切されていない鈍らに、顔が引きつる。

 

 

「使えるものは何でも使ったほうがいい。

その刀で突くよりは、楽だ」

 

「そうなんですけど…うっわ、なんだこれ酷いな。

ボロピッケルで闘ったほうがまだましなレベルだぞ…」

 

 

ひゅんひゅんと振り回し、感覚を調整する。

メイン武器が太刀で、片手剣など初期の初期でしか使ったことがないため感覚がわからないが、習うよりも慣れろ精神でうなずいた。

 

 

「うん、問題ない。いける」

 

「そうか、ならば戻るぞ」

 

「…?

何故?」

 

 

来た道を戻るゴブリンスレイヤーの後ろを歩く。

 

 

「おそらく、この先はダミーだろう。

本命はあの横穴だ」

 

「あっちが本命か…」

 

「気づいていたのか?」

 

「気づいてたけど…どっちを探索すればいいのかわからなかった。

どうせ挟撃されるなら変わらないと思ってな…」

 

 

だがはずれの道を突き進んでいただけのようだった。

それが早い段階で分かっただけ儲けものと考えるハンターは前向きだった。

 

 

「今度から、分かっていたのならな何らかの対策をした方がいい。

いくら腕に自信があるとはいえ、狭い場所で挟撃されればこちらが圧倒的に不利だ」

 

「身に染みてわかったわ…。

あそこに罠でも仕掛けてればよかったと後悔してる」

 

「そうすべきだ」

 

 

そう会話しながらトーテムまで戻った。

ゴブリンスレイヤーによれば、このトーテムはシャーマンという呪文遣いがいる証拠で、

シャーマンが群れを率いているということをハンターに教える。

呪文や奇跡が良く分かっていないハンターだったが、こちらの世界特有の技だろうと判断し、重要事項として頭の中にメモをする。

そうしてゴブリン退治に置ける重要事項を教授されながら横道を進んでいくと、洞窟の奥から歪で不愉快な鳴き声が聞こえてきた。

 

 

「おそらく、この先に広間がある。

奴らの寝床もそこだろう」

 

「了解。

作戦は?」

 

「俺が中に特攻する。

お前は奴らが逃げ出さそうとする奴を掃討してくれ」

 

「任せとけ、ハンターだからな。

雑魚狩りもお手の物だ」

 

 

ぐっと親指を立てると、ゴブリンスレイヤーは「そうか」と頷いた。

万が一逃げられた場合のため、縄を出口に設置し、倒れたところに突き刺さる位置にナイフを立てる罠を設置した。

 

 

「…行くぞ」

「了解ッ!」

 

 

ゴブリンスレイヤーが特攻した後、ゴブリンたちが混乱した瞬間にハンターも広間に入り、逃げ出そうとした個体にナイフをつきたてた。

中は存外広く、これならば太刀を振り回せる広さだと判断したが…同士討ちを避けるため、あえて使わなかった。

確実に仕留めるため、脳天に突き刺したナイフを捨て、

死んだゴブリンが持っていた小ぶりのソードで横を抜けようとした個体を一刀両断にする。

更に、こちらに矢を射ってきたのを、しゃがんで回避すると、踏み込んで弓を持った個体にソードをつきたてた。

そしてその弓を奪うと、こちらに向かってきた複数の個体の頭をめがけて弓を射かけた。

正確に射抜かれたゴブリンは倒れこみ、痙攣するがそんなものには目もくれない。

 

 

「たく、何から何まで粗悪品かよ・・・初期装備の方が圧倒的に優良だぞ、これ」

 

 

数回射かけただけで弦が切れてしまった弓を投げ捨てて、拾ったナイフで小さな個体の心臓につきたて、絶命させる。

 

 

「ラストォッ!」

 

 

逆上し、こちらに突進してきた一回り大きなゴブリンの個体を抜刀術で切り伏せる。

下半身と上半身で分かれたゴブリンからは血があふれ、返り血が付くが、漆黒の鎧に染みを作ることさえできない。

 

 

 

「こっちはおわったぜ、そっちはどうだ?」

 

「こちらも終わった。」

 

 

槍のようなもので、他の個体とは違う上位者らしきゴブリンにとどめを刺すゴブリンスレイヤーに、サムズアップを送る。

見ると広間で息をしている個体はもうおらず、立っているのはハンターとゴブリンスレイヤーのみだった。

そして、冷静にあたりが見回せるようになり・・・吐き気がした。

 

いくつも転がった人骨に、装備、人間の手足・・・なによりハンターにとって衝撃的だったのは娘たちの存在だった。

 

一糸まとわぬ姿をしたいたいけな少女たちが数人、地面に倒れていた。

全員に暴行の跡があり、無傷の少女は居なかった。

悲惨なその姿に、思わず目をそらす。

適当に落ちていた布をかけながら呼吸を確認すると、かすかだが全員息があるようだった。

 

 

「これで任務終了か?」

 

「…いや、まだだ」

 

「へ?」

 

 

ゴブリンスレイヤーは広間の奥にあった小さな木のバリケードを見つけると、それを蹴り壊す。

隠すようにあったその洞穴に入り…絶句した。

 

そこには、小さなゴブリンたちが複数体いた。

 

ゴブリンの子供、というものと先ほどの無残な姿をした少女たちが結びつき、口の中にすっぱいものが広がる。

 

 

「…なあ、これをどうするつもりだ」

 

 

吐き気を堪えつつ、ゴブリンスレイヤーに質問をする。

その手に握られたソードから、彼が何をしようとしているのか察してしまった。

 

 

「殺す。

生き残りは学習し、知恵をつける。生かしておく理由など何一つない。」

 

 

「…そう、か」

 

 

ハンターは振り下ろされるナイフを、目に焼き付ける。

それが、命を奪うもののせめてもの責任だと思ったからだ。

 

響き渡る悲鳴、憎悪の鳴き声。

 

やがてそれは静かになり…ハンターとゴブリンスレイヤーの任務は終わったのだった。

 

 

 





邂逅編でしたー。シリアスしてるとふざけたくなる…。

ちなみに、彼が無名刀【空諦】を使って居るのは
見た目がハンターさん好みだったから…?

というのは冗談で、彼は宿敵をナルガクルガと認定(勝手に)してるので、
ナルガを狩るときは防具は白疾風、武器はナルガという変なこだわりがあるだけです。
そんなに深い理由はあんまりない。

ちゃんといろんな武器と装備は持ってるけど、
来たときに持ってたのがたまたまこの装備だったというだけでもある。

しかし深く考えたら負けである。



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心の余裕はお金から

 

無事に少女たちを村まで送り届け、

ゴブリンスレイヤーと共に街に帰還する。

街についた時にはもう夜が明けてしまっていた。

 

 

「さすがに、ちょっと疲れたわ…」

 

徹夜くらいでは悲鳴を上げるほど軟でないが、肉体よりも精神に来るものがあった。

恐らくハンターが今までこなして来たクエストの中でも上位に組み込む後味の悪さだろう。

フラフラになったハンターとゴブリンスレイヤーが共に冒険者ギルドと誰もがこちらを見た。

 

 

 

「ゴブリンスレイヤーだ…」

 

「あんなのが銀等級か…」

 

「それにしても、見ろよ隣の鎧。

なんだい、あの不気味な仮面。あんなんでよく冒険者が務まるぜ…」

 

「あいつ、昨日受付嬢を脅してたって話だぜ…見た目通りやばい奴だから、近づかないほうがいい」

 

 

 

ひそひそと交わされる言葉は、傷んだ心に塩水をぶちまけるくらいには沁みた。

ただでさえ荒んだ心がさらに荒みそうだったので、さっさと報告してさっさと退出するに限るとばかりにハンターは受付嬢のもとまで歩いた。

 

 

「根切ってきましたー。

いやぁ…めんどくさかったです…」

 

「ご無事だったんですね!

よかった…ゴブリンスレイヤーさんが間にあってよかったです!」

 

「ぉお?」

 

 

受付嬢の言葉が良く分からず、振り返ってゴブリンスレイヤーを見た。

兜の下の表情は、ハンターと同じくわからない。

 

 

「昨日、ゴブリン退治の依頼を見に来たら白磁級が一人でゴブリンの巣に向かったと聞いた。

それだけだ」

 

「…てことは、あれは偶然の出会いじゃなくて俺を助けに来てくれたのか?」

 

「違う。ゴブリンを殺しに行っただけだ。

白磁が一人で何て無謀だから殺しに行っただけだったが…一人でも十分だったな」

 

「いんや、そうでもない。

助かったぜ、ゴブリンスレイヤーの旦那。

ソロでやるのは正直きつかった。

・・・ありがとうございました」

 

 

深くお辞儀をするハンターに、ゴブリンスレイヤーはそっけなく「気にしなくていい」と答えた。

頭を上げ、今度は受付嬢と向き合う。

 

 

「貴方も、ありがとうございました。

貴方が旦那に声をかけてくれたおかげで、助かりました。

昨日は驚かせてすみません」

 

 

「い、いえ!

むしろ勝手なことをしてごめんなさい!」

 

 

ハンターが頭を下げると、受付嬢も慌てて頭を下げた。

二人で謝り合う姿はシュールで、周囲から好奇の目にさらされる。

 

 

「…疲れたのならば、もう戻って休むといい」

 

 

「え?あ、そうだな。はやくもど・・・ら、ないと…」

 

 

勢いよく頭を下げていたハンターの言葉がぴたりと止まる。

不思議そうに見あげる受付嬢の方に、ギギギと音を立てて首を向けたハンターの背中からは哀愁が漂っていた。

 

 

 

「…俺、無一文なのですが…どうすればいいのでしょうか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、旦那。本当にありがとうございます…。

お蔭で野宿とかにならなくて済むわ…」

 

「気にするな。

あれはお前の正式な報酬だ」

 

 

こちらの世界のお金を持っていないことに気が付いたハンターが膝を折り、

絶望しているとゴブリンスレイヤーは受付嬢に声をかけた。

そして今の報酬をこの場で出してもらいたい、といった。

本来ならば調査し、任務の達成を確認してから渡すものだが、

信頼されている銀等級の冒険者の口利きならばと特別に報酬が渡されたのだった。

 

 

「なにからなにまで、本当に助かりました。

出来ればまた、ゴブリンについて教えてほしいんだが…」

 

「構わん。ゴブリンを駆逐する奴が増えることは、良いことだ」

 

「よろしくお願いします。

・・・それじゃあ、俺は先に宿に戻ることにするわ。

それじゃあ、また」

 

 

「あぁ」

 

 

 

ゴブリンスレイヤーとわかれ、受付嬢に教わった一番安い宿屋に宿泊する。

中は普段使って居た部屋と比べ物にならないくらいに狭いが、

野宿以外なら何でもハッピーなハンターは気にもしない。

 

狭く、堅いベッドに胡坐をかきながら太刀の手入れをする。

 

血糊を落とし、欠けている部分がないかを確かめ、打ち粉を叩く。

 

無心で手入れを行っていたハンターだが、疲れたように天井を仰ぎ、息を吐く。

思いだすのは、先ほどの惨状だった。

 

 

「…あんなんがいるんじゃ、誰も安心して暮らせないよなぁ」

 

 

自然の圧倒的で無作為の理不尽さとは違う、悪意から来る理不尽は、いままでハンターが知らなかったものだった。

そんな状況にさらされるこの世界で、自分は何ができるだろうか。

自答するハンターに、答えは出なかった。

 

 

 




貧乏人ハンターさん。

もちろん、元の世界では限度額ギリギリまでもってます。
しかし、狩りの最中お金は持ち歩かないのではないかという推論の元、
彼は無一文です。
どっかに一泊する程度は保険で持ってるかもしれないけど、
勿論使えません。
早く換金しないとね!

しばらくは極貧生活!
一か月1万円生活をハンター君は乗り切れるか!


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挨拶は大事

 

 

刀の手入れしながら寝落ちしたハンターが目を覚ました頃には、窓は明るかった。

いつ寝たのか覚えていないが、恐らく丸1日寝過ごしたのだろう。

刀身がむき出しのままベットに転がっていたのに焦ったが、無傷だったので良しとした。

固くなった体を解しながら、出かける準備をし、宿を出て冒険者ギルドに向かう。

街の人からも奇異の目で見られるが、今だ覚醒しきれていないハンターは気が付かなかった。

 

 

「おはようございますー」

 

 

ギルドにつくと、掲示板に人が群がっており、依頼を見ることが出来なかった。

なにがなんだかよくわからず、ボーっと人の流れを見ていると見覚えのある鎧が視界に入った。

 

 

「おはよー旦那。

朝から精が出るなぁ」

 

「…あぁ」

 

「今日もゴブリン根切りにしようかと思うんだけど…旦那もゴブリンか?」

 

「そうだ。ゴブリンを狩りに行く」

 

「オッケー。

じゃあ、一緒に行ってもいいですか?

教わりたいこととか色々あるし」

 

 

「構わない」

 

「やったー」

 

 

気の抜けたハンターの声が響く。

ゴブリンについてゴブリンスレイヤーに教えを乞うていると、

向こうから白い礼装を来た少女が駆け寄ってきた。

 

 

「ゴブリンスレイヤーさん!遅くなってすみません!」

 

「気にしなくていい」

 

「ありがとうございます!

・・・あれ?」

 

 

少女はゴブリンスレイヤーと会話をしていたが、ハンターの姿に気が付くとビクッと震えた。

幼気な少女には表情が分からない黒づくめの男の姿は恐ろしかったらしい。

 

 

「…おはようございます。

えっと、ゴブリンスレイヤーの旦那のパーティーの方ですか?

縁があって本日同行させていただきます。

ハンターさんでもサムライさんでも気軽に呼んでください」

 

「は、はじめまして!

えっと、よろしくお願いします!」

 

 

ハンターの礼儀正しい姿に戸惑ったようだが、すぐになれて挨拶を交わす。

ハンターが胸元にかけられているタグを見ると同じく白磁等級のようだった。

 

 

「俺も昨日冒険者になったばかりなので…分からないことが多々あると思うので、

教えていただけると幸いです」

 

「いえ!こちらこそ、不慣れなことが多いので迷惑をかけてしまうかもしれないですけど…よろしくお願いしますね」

 

 

 

和気あいあいと話す二人を置いてゴブリンスレイヤーはゴブリンの依頼を受ける。

慌ててその背中を追い、ともに歩く三人は傍から見てだいぶ変わったパーティーだった。

 

 

 

 

「ハンターさんは、立派な鎧を着てますけれど昨日冒険者になったばかりなんですよね。

今までどこかで騎士をされていたんですか?」

 

「ファッ!?」

 

依頼の場所までの道のりを3人で歩いている最中、女神官にそう聞かれてずっこけたハンター。

今まで言われたことのない言葉に、返答に困ってしまった。

 

 

「ごめんなさい、何か変なことを聞いてしまいましたか…?」

 

「ぁ、ううん、大丈夫。ちょっと予想外通り越して新しい質問だったから吃驚しただけ。

・・・忍びの装いで騎士って新しいな」

 

「あ、あの…?」

 

 

「あ、大丈夫だよ。

えっとね、普通にどこにでもいるハンターだよ。

この鎧はその獲物から剥ぎ取った素材を使ったものなんだ」

 

「え、これ動物から作られたのですか?

それにしては…とても硬くて、頑丈そうですけど…」

 

「うん、堅くて頑丈で、生半可な攻撃は通らない仕様だよ。

うちの地方にはこういう奴が多くてね、それでこの装備を作るんだ。

苦労したわ…マジで」

 

 

過去を思いだし、仮面の下で死んだ眼になるハンター。

来る日も来る日もモンスターを狩り、足りない素材を集めて、出てこない激レア素材に血涙を流し、発狂したあの日々…。

 

 

「紅玉、逆鱗、天鱗、天殻…ッぅう!頭がぁ…お前だけは絶対に許さん、物欲センサァッ…死すべし妖怪イチタリナイィイッ…」

 

 

 

トラウマスイッチ再び。

しかも今度は以前のものよりも強烈かつ強力なトラウマだった。

頭を抱えて、ふらつき何かを口走るハンターは、誰が見ても危ない人だった。

 

 

 

「ぁ、あの…?」

 

 

「あ、ごめん。トリップしてたわ…

でも、うん、作る過程でいろいろあるんだよ、この装備…」

 

 

悲哀を込めたその言葉は女神官に「思い出したくない、辛い過去がある」と思いこませてしまった。

ハンターにとっては確実に思いだしたくないマラソンの日々だったが、二人の間に良く分からない誤解とすれ違いが発生したのは確かだろう。

暗くなったパーティーに声をかけたのは、ゴブリンスレイヤーだった。

 

 

「…そろそろゴブリンの巣が近い。

気を引き締めろ」

 

「は、はい!」

 

「了解!」

 

 

 

先行き不安なパーティーは、ゴブリンが出ると噂の洞窟にたどり着いた。

 

 

 

 




初対面にはしっかりと丁寧に接するハンターさん。
慣れると素の口調になります。

物欲センサーはモンハン最大の敵といっても過言ではない。
何故欲しい時に限って天鱗が出てこないんだ…ッ(血涙)

それにしてもこのハンター、発狂しすぎである。



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情け無用

 

 

「…ここだな」 

 

 

日が暮れはじめ、辺りが薄暗くなってきた時間に3人は崖に来ていた。

依頼があった村から数里離れた崖にある洞窟の中に、ゴブリンは住み着いたらしかった。

昼の間に周囲を確認し、付近に抜け穴がないのは確認済みだった。 

 

「それで、どうやって攻めるんだ、旦那」 

 

「燻り出す。

穴に煙が入れば奴らは死ぬ物狂いで外に逃げようとするだろう。

俺たちが中に入って火を起こす。

お前は隠された抜け道がないか探してくれ。

あれば煙がそこから立つ」 

 

「了解。

でも、この時間にやるのか?もうすぐ夜になるが…」

 

 

「問題ない。

夕方は奴らにとっての早朝だ。

奴らにとって、昼が夜で夜が朝だ。

だが、昼は流石に奴らも警戒してるからな。

つまり、夕方の方が狙い目だ」 

 

「成る程な。つまり夜行性ってわけか。

つくづく人間襲うためにあるような種族だな」 

 

「そうだ。

だからこそ、ゴブリンはすべて皆殺しにしなければいけない」

 

 

 

人型をしているが、やはり根本的に人間とは異なる種族ということなのだろう。

それをしっかりと頭に叩き込む。

一瞬の隙が命取りになりかねない狩りで、躊躇などしていられない。

そう思いなおしつつ、ハンターは彼らから少し離れた位置にある小高い岩場に上り、周囲を見渡す。

手を振ってゴブリンスレイヤーに合図をすると、ゴブリンスレイヤーは洞窟に入っていき、

その後ろに女神官も続いた。

 

 

 

 

 

「…お、燃え始めた」

 

二人が入った後、ハンターは洞窟周辺に注意を払っていると、白い煙がかすかに洞窟から流れ出る。

それはどんどんと濃くなり、灰色の煙が立ち上がりはじめる。

風に乗ってかすかに漂う煙の匂いに、ハンターの鼻にしわが寄った。

 

 

「おいおい…あれじゃ旦那達ごと蒸し焼きにならないか?」

 

時間が立つにつれ、段々と色の濃い煙が洞窟から出るようになった。

事前調査通り、抜け穴は確認できず、

彼らが入っていった出入り口以外からは煙は観測できない。

そこでハンターは迷った。

洞窟に入った彼らを救出しに行くかこのままゴブリンスレイヤーに頼まれた仕事をこなすか。

ここで救いに降りれば、頼まれた仕事である周囲の観察を怠ることになる。

もしかしたら、他にも抜け穴があるかもしれないのだが、あのまま放置すれば彼らの命にかかわることだった。

しかし、ハンターは恩人であるゴブリンスレイヤーを放置することはできず、

岩場から飛び降りようと足に力を込めた。

 

その瞬間、煙の中から女神官を担いだゴブリンスレイヤーが飛び出した。

 

 

「いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らをどうか大地の御力でお守りください

『聖壁』!」 

 

 

 

転がるように飛び出して来たゴブリンスレイヤーに担がれた女神官は、

彼が飛び出した瞬間に奇跡を発動させた。

洞窟の入り口に白い壁が現れ、洞窟に蓋をする。

立ち上っていた煙が妨げられ、透明の壁越しに濃い煙が滞留していく。

ハンターは行き場を失った煙が他の場所で立ち上っているかを確認したが、

それはなく、ゴブリンスレイヤーにサインを出し、岩場から飛び降りた。

 

 

「他に抜け穴は観測できなかったぞ、旦那」

 

「そうか」 

 

「この煙だ。もってあと数分ってところだろうな」 

 

「そうだな。

だが奴らはしぶとい。しばらくここで、奴らが確実に死ぬのを待つ」 

 

「執念深いな、旦那は。

・・・それにしても、これって神官さんの力か?」

 

「は、はい。地母神様から与えられた奇跡です」

 

 

「…これが、“奇跡”かぁ。

凄いな。モンスターの一撃でも耐えられるんじゃないか?」

 

 

純粋に感嘆の声を上げると、女神官は照れたように笑った。

ハンターが興味津々の様子で入り口に張られた《聖壁》を眺めていると、バンッと何かが壁の内側に当たる。

黒煙で見えづらくなってはいるが、それは小さな人型の手だった。

それはいくつも現れて、バンバンと壁を叩いた。

中には体ごとぶつかり、壁を壊して外に出ようとしている奴もいた。

 

 

「うわッ…!」

 

「ぅっ…」

 

「しぶといな、本当に」

 

 

 

死に物狂いで外に出ようとしているゴブリンたちは、ガンガンと《聖壁》を叩き、

壊そうともがく。

しかし、白い奇跡は全く揺らぐ気配を見せなかった。

黒煙が勢いを増し、壁の向こうをさらに覆っていくと、叩く手の動きも鈍くなり、

次第に叩かれなくなった。

 

 

「…中で大分派手に燃やしたみたいだな、旦那」 

 

「こうでもしないと奴らは確実に殺せない。

・・・奇跡はまだもちそうか」

 

「は、はい!まだ大丈夫です!」

 

「そうか」

 

 

 

女神官の奇跡が持つまでしばらく洞窟前で待っていたが、もう壁の向こうから叩く気配はしなかった。

やがて《聖壁》が解けて洞窟入り口が開放されたが、中から出てこようとするゴブリンはいなかった。

出口が確保されて、日が落ち、暗くなった空高くに昇っていく黒煙を眺めたあと、視線を下に向ける。

外に出ようとして壁を叩いていたであろうゴブリンの死体が複数体、入り口付近に倒れていた。

苦悶の表情を浮かべ死んでいるそれの顔を見て、ハンターは顔を歪めた。 

 

 

「…下手に人型に似てると、情が湧きそうで怖いな」 

 

「不要だ。奴らに情けなど無用だ

必ず殺せ」

 

 

「そうだな…、ハンターに情けは不要だ」

 

 

そう呟いたハンターは死んだゴブリンに近づく。

ハンターの知識から分別にするに小型のモンスターだが、

剥ぎ取り素材に期待はできそうにない。

やせぎすで肉質に期待はできそうになく、皮も加工できそうになかった。

  

 

「持ち物もガラクタだし、素材にもできないとなると、ホントただの駆除作業だな」

 

「ハンターさん、何していたんですか?」

 

「んー?

皮とか剥ぎ取れるかと思ったんだけど、期待できそうにないから止めた」 

 

「は、剥ぎ取り、ですか」

 

「ハンターだからね。

殺した得物はできる限り有効活用したかったんだけど…無理っぽい」

 

 

その言葉に何とも言えない顔をする女神官だったが、それに気が付かないハンターはやれやれとため息をついて立ち上がる。

そのままゴブリンスレイヤーに目をやれば、彼もゴブリンの絶命を確認し終わったところだった。

 

 

「近くで野宿をしてから、明日戻るぞ」

 

「はい!」

 

「了解!」

 

 

 

 

 





リアルでゴブリンは剥ぎ取りに期待できないと思う。
ランゴスタですら役に立つのに…何故じゃ。

いちいち情が湧いていたらハンターなんて出来ないけど、
人型モンスター狩りになれてないハンターさんだから仕方ない。
これから毎日村を焼くメンタルをつけないとね!




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武器談話

ゴブリンスレイヤーたちが街に戻ったのは、洞窟のゴブリンを処理した次の日だった。

真夜中に動くわけにはいかず、野宿で夜を過ごしたが、もっと厳しい環境で生活してきたハンターや、

野宿になれたゴブリンスレイヤーはピンピンしていたが、女神官は疲れ切った顔をしていた。

途中からハンターが彼女の荷物をしょって歩いていたが、ハンターに疲れの色は全く見えない。

  

 

「神官さん、お疲れ様。

これでゆっくり休めるな」

 

「はい…すみません、途中で荷物を持ってもらってしまって…」 

 

「別に俺はこのくらいじゃ疲れないから問題ないよ。

むしろ余力ある人に任せたほうがいいと思うなぁ。

疲れてるところ襲われたほうが不味いし」

 

「そ、そうですね」

 

 

ギルドからの依頼を終え、「さあ帰るぞ」という段階になって、

乱入クエストが入ることが今だにトラウマなハンターの言葉はとても実感がこもっていた。

想定外のモンスターに乱入されることは、ハンターにとっては装備や道具などの問題から死活問題だった。 

 

 

 

「旦那、とりあえずギルドって報告したら解散ってことでいいのかい?」

 

「それで構わない」

 

「だってよ。

神官さん、あともうちょいだから頑張れ」

 

「はい!」

 

 

 

仕事を終え、少しだけ明るい気持ちで戻ったパーティーはギルドの扉をくぐると、ワイワイと騒がしかったギルド内の空気が、少しだけ変化した。

相変わらずゴブリンスレイヤーとハンターに注がれる、

奇異の視線とひそひそと囁かれる悪口に女神官は顔をしかめ、

何も知らないのに、どうしてこの二人を悪く言うのだろうという思いから軽い憤りを感じた。

しかし、他人の評判など気にもかけない二人はずんずんと受付嬢のもとまで進んだ。

 

 

 

「ゴブリンスレイヤーさん!おかえりなさい!」 

 

「あぁ、ゴブリンを殺して来た」

 

「お嬢…俺の存在は無視かよぉお…なんかショック」

 

「あ、あ!ごめんなさい!

三人ともお疲れ様です!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

慌ててハンターと女神官のこともいたわる受付嬢に、女神官は笑顔で答え、

ハンターはわざとらしく落ち込んだ振りをし、受付嬢を慌てさせた。

 

 

「そんなつもりじゃなかったんですよ!ハンターさん!」

 

「分かってるから大丈夫だって、冗談冗談。

俺らのことも心配だったけど、旦那のことが一等心配だっただけだろ?」

 

「か、からかわないでください!」

 

 

からかったせいで顔を赤らめた受付嬢を見て、ハンターは楽しそうに笑った。

 

 

「…報告しても構わないか?」

 

 

「とと、すまんな。旦那。

大丈夫だぞ」

 

「は、はい!大丈夫です!」

 

 

その話の中心ではあるが、何のことかわかっていないゴブリンスレイヤーが話を遮ると、

受付嬢は慌てて仕事の顔を作る。

そのことがなおさら面白くてニヤニヤと仮面の下で笑いながら二人の様子をハンターは見守ってた。

 

 

「―それでは、報酬は確認が取れ次第、

後日お渡ししますのでよろしくお願いいたします。」

 

 

「了解。

んぁ~~、乙でーす」

 

 

しばらくゴブリンスレイヤーと受付嬢の間で今回の任務の簡単な報告がされていたが、

それも無事に終わり、三人は解散という流れになった。

 

 

「はい、お疲れ様です!

ハンターさん、今回はありがとうございました!」 

 

「いいよ、気にしないで。

でも今回、俺ってば何もやってないから正直お金貰うの気が引けるんだけど…」

 

「そんなことはない。

見張り役が居るのと居ないのでは、行動の仕方が全く変わるからな」

 

 

「まあ、一理あるけど…。

じゃあ、俺の分け前二人より少なくていいから。

こういうのは、働いたものから貰った方がいいだろ」

 

 

「分かった」

 

 

ハンターの言葉に頷くゴブリンスレイヤー。

ハンターもそれを見て満足げに頷くと、黒い鎧を着ながら大きく伸びをした。

重厚な鎧ではあるが、見た目以上に可動域が広いのか、その動きは自然だった。

 

 

「俺としてはもうちょい動きたかったなぁ…。

でも、もう少し名前上げないと難しい依頼って受けらんないんだろ?」

 

「そうですね…難しい依頼となるとどうしても実力と信用が必要ですから」

 

「だろうなぁ」

 

「等級は任務を受けていくうちに自然と上がるものだ。

地道に受けていくしかないだろう」

 

「まあ、こればっかりは仕方ないわな。

それに、ゴブリン狩りで学ぶことは多いし。

・・・ちなみに、旦那ってどうやっていつもゴブリン狩ってるんだ?」 

 

「なんでも使う。

近くの川から水を引くこともあるし、昨日のように火を使うこともある」

 

「なんでもありとか、逆に選択肢が広がりすぎて何とも言えねえわ」

 

 

お手上げ、という風にハンターがジェスチャーをすると、

ゴブリンスレイヤーが「選択肢の幅は広い方がよりいい」と冷静に言った。

 

 

「お前のその防具は、見た目以上に堅いようだが、動きやすいようだな。

どこで作った」

 

「んー?馴染みの鍛冶屋だ。

動きやすいってのは鍛冶屋の腕前だけど、堅いってのは元の素材がいいからだな」 

 

「なるほど。

その鍛冶屋を紹介してもらうことはできるか」

 

「旦那には恩があるから紹介したいのは山々なんだけどね。

ちょっと諸事情で、難しい」

 

「そうか。分かった」

 

 

 ハンターの困ったような声と申し訳なさそうな仕草に、

ゴブリンスレイヤーは短く頷く。

大してショックを受けてないところを見ると、

ダメで元々という心持で聞いたようだった。

 

 

「俺も、今のこの装備が壊れたらどうしようかなぁ…。

下手に使って壊したくないし、こっちで装備買おうかな」

 

「だったら、街の武器屋を紹介する。

ついでにお前の武器も買い替えたほうがいい」

 

 

「刀は武士の魂なんだけど…仕方ないね。

手入れするのにも限度ってのがあるし。

でも、ゴブリンの鈍らを使うほうが嫌だし…」

 

 

「切れ味はよくないが、ゴブリンを殺すのに支障はない」

 

「そういう問題じゃないって…。

一流は道具を選ばないっていうけど…良い得物使ったほうが確実に効率がいい」

 

「だが2、3体斬れば血や脂で切れ味が落ちるぞ」

 

「え、普通に研げばよくない?

対峙しながら隙見て研ぐのは剣士の必須技能」

 

 

ケロッと言いのけるハンターに、ゴブリンスレイヤーは少し言葉を詰まらせる。

敵と対峙しながら刀を研ぐなどゴブリンスレイヤーからすれば自殺行為に思えるが、

ハンターは常識のようにいったからだ。

 

 

「…それは危険ではないか?

使い捨てたほうが良くないか」

 

「旦那と俺じゃ狩る相手が違うからね。

俺は大型モンスター専門のハンターだから、使い捨てる余裕一切なしだよ」

 

「なるほど、確かにそれだと使い捨てはできないな。

だが、ゴブリンはいくらでも湧いて出てくる。

研ぐよりも使い捨ての方が効率がいい」

 

「うーん、確かに。

武器が補充できる環境にいるなら、

研ぐ時間に割くよりも拾ったほうがいいのかもしれないけど…」

 

 

ハンターも納得してはいないが、一理あるのか神妙に頷いた。

 

 

「とりあえず、近いうちに一本新しい武器をそろえたほうがいいだろう。

洞窟のような狭い場所で立ち回るにはその武器は長すぎる」

 

「それは同感だな。

片手剣買わないとなぁ…。

武器に関することだから早い方がいいんだろうけど、今度でいいか。

急いでないし、神官さんも疲れただろうし」

 

「え!?

い、いえ、私は…」

 

 

急に話を振られた女神官は慌てて否定しようと首を振るが、

ハンターは手を軽く振って遮った。 

 

 

「俺と旦那の長話につき合わせてごめんな。

もう解散しようか」 

 

「そんなことないです!

ゴブリンスレイヤーさんがこんなに話しているの見るのは、

なんだか珍しくて、つい…」

 

 

「まあ、確かに旦那は無口ぽいよな。

職人肌っぽいし」

 

「…そうか?」 

 

「絶対そうだって。

・・・まあいいや、じゃあまたよろしくお願いするよ。

おつかれですー」 

 

「は、はい!ハンターさんもお疲れ様でした!」

 

 

ぺこりと頭を下げる女神官と、

こちらを見送るゴブリンスレイヤーに手を振ってハンターはギルドを出た。

昼下がりの町を歩きながら、ハンターは頭を悩ませる。

ゴブリンスレイヤーには今度買い替えるというようなことをしまったが、

ハンターにはまず武器を買い替えるお金がなかったからだ。

 

 

「うーん、武器は買うっていってもお金がないしなぁ。

しばらくソロで稼げる仕事探すかぁ…」

 

 

 

そういうつぶやいたハンターの背中は、

お金がないものが放つ一種の哀愁に満ちていた。

 

 




元の世界だと軽く大富豪なハンターさんだけど、
今持ってないから仕方ないよね!

わりかしマジでお金持ってないと生活できない世界すぎて、
ハンターさんの生活が心配になってくる
狩り暮らしのハンター=サンの明日はどうなる!



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ソロプレイ

宿屋に戻り、手入れを行い、ゆっくり休んだ次の日。

寝坊したハンターは、昼前にギルドに向かった。

いつもよりも落ち着いており、みんな仕事に出ているのか人数も少なかった。

 

 

「これくらいのほうが落ち着いて依頼見れるし、いいかなー。

読めないけど」

 

寝起きでボケっとした眼で掲示板を見るハンターから覇気があまり見られない。

めぼしい依頼はほとんどとられてしまったようだったが、

ハンターがこちらの文字を読めない上に細かいことはあまり気にしていないハンターは目についた仕事を適当に選び、紙を千切った。

 

 

「これ受けまーす」

 

「ハンターさん、こんにちは。

今日はゴブリンスレイヤーさんと一緒じゃないんですね」

 

 

受付に行くと、馴染みの受付嬢が席に座っていた。

ハンターも片手を上げて挨拶すると、依頼文を彼女に渡す。

 

 

「まあねー。

一人で狩りに出るのも好きだから、たまにはね」

 

「そうですか。

・・・また、一人で受けるのは難しそうな依頼を受けますね」

 

「いやぁ・・・こっち来てから仲良くなったの旦那と神官さんくらいだから」

 

ハンターとしては軽い自虐だったのだが、

ハンターが他の冒険者から遠巻きにされていることを知っている受付嬢は一瞬ハンターに憐れみの目を向けたが、慌てて元の表情に戻す。

 

 

「もう…本当は、ベテランの冒険者の人たちと受ける方がいいんですからね!

ハンターさんはその格好をですね!」

 

「大丈夫大丈夫。

このくらいだったら一人でも行けるって。

もうちょい難しくなったら考えるけど」

 

 

仮面で見ることはできないが、へらりと笑いながら兜越しに後頭部に手をやるハンターに受付嬢の言葉が響いているようには見えない。

そのことに受付嬢はほおを膨らませながらも依頼受注の手続きを済ませた。

 

 

「まったく・・・怪我をしてからじゃおそいんですからね!

気を付けて行ってきてくださいよ!」

 

「おうよ」

 

 

受付嬢からの小言交じりの応援をもらい、ハンターはギルドを出た。

今回ハンターが受けた依頼は「村の周辺を闊歩する狼の群れ退治」のようだった。

最近、村の近くに狼の群れが生息してしまったらしく、

いつ村を襲ってくるか気が気じゃないとのことだった。

改めてその依頼を頭の中で反芻させながら、

受付嬢に教えてもらった村の近くまで向かう荷馬車にのせてもらい、目的地まで向かった。

 

 

 

「…着いたー」

 

 

荷馬車に乗って、数時間。

刀の手入れをしながら待っていたハンターはようやく目的地である村につくことが出来た。

粗末な木材で出来た家がいくつか建てられ森が隣接する村は、素朴で穏やかな村だということが分かった。

 

 

「とりあえず、依頼主である村長に会いに行くか」

 

村をしばらく見渡しながらも、ハンターは村の中に足を踏み入れた。

ハンターが拠点に置いていた村とはまた違う雰囲気の村にハンターは興味津々そうにあたりを見渡しながら歩く。

本人は普通に歩いているつもりだったのだが、

全く見慣れる鎧を身に纏った大柄な男を村人たちは不安げに遠くから見つめることしか出来なかった。

 

 

「こんにちはー、依頼を受けてきました。ハンターです。

よろしくお願いしますー」

 

「お、おぉ!

貴方が依頼を受けてくださった冒険者ですね!」

 

 

他の家よりもほんの少し立派な家を訪ねると、ハンターの予想通り村長が済んでいる家だった。

村長もいきなり訪ねてきた全身黒い鎧のハンターにぎょっとしたが、

胸元に掛けられている白磁のタグを見るとほっと安心したような顔になった。

応接間らしき部屋に連れられ、村長はハンターに座るように促した。

ハンターもそれに答えて、太刀を隣に立てかけてから座ると、村長が向い側に腰を掛けた。

 

 

「依頼はすでにギルドで聞いてますが、

出来れば当事者からどこから出るのかを教えてほしいんですよね」

 

「えぇ。

狼どもは隣の森にすんでいるらしく・・・夜な夜な羊や馬、牛などを襲いに来るのです。

いままで奴らがこんなに人里に近づいてくることなどなかったはずなのですが」

 

「なるほど、人的被害は今の所ないけどそれも時間の問題ってことですね。

原因とかわかります?」

 

「さっぱりです。

出来れば、それも調べていただけるとありがたいのですが。

い、いえ、狼どもを退治してくれるだけでありがたいです」

 

「努力はしますけど、俺って、ハンターであって学者じゃないから。

難しい事は調べられないですからね。」

 

畑違いですから、と困ったようにハンターはいうと、

村長は嬉しそうにハンターを見上げた。

 

 

「ありがとうございます!

ちなみに、何日程度かかりますかね…。

奴ら、段々行動が派手になってきているので、

出来れば早めに退治してくれるとありがたいのですが…」

 

「数と相手の力量が分からないから何とも言えないけど…

今日中に半分は行けるといいなぁ」

 

「え、今日に…ですか?」

 

「あんまり長引かせると、旦那を待たせることになるからね。

それじゃあ、村長さん。今日の夜は村の人たちに外に出ないように言ってくださいね」

 

 

よっこいせ、と立ち上がったハンターは村長に一礼をすると、傍に立てかけていた太刀を背中にかける。

改めてみる武器の大きさと、それを軽々に持ち上げる身体能力。

白磁等級には見えないその立ち姿と自信に、村長は息を飲む。

 

 

「あ、あの、まさか、貴方一人でやられるのですか?」

 

「え、うん。今日はソロ。

ソロでのタイムアタックは得意な方だったから大丈夫ですよー」

 

「は、はい?」

 

 

困惑する村長に「それじゃ、ちょっと探索して来ます」といってハンターは応接室を出た。

あまりの緊張感のなさに村長は「もしかしたら、外れの冒険者が来てしまったのではないだろうか」と不安になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィールドワークはこれくらいでいいかな」

 

 

村長の家から出て、しばらく村からも森までのフィールドワークを済ませたハンター。

地形や位置関係を頭に叩き込み、頭の中でシミュレーションを行う。

 

「村から森までは平地。距離はそう離れてない。

村と牧場には柵があって、狼避けもされてる。

村長曰く牧場が中心的に襲われているってことは、今日の襲撃もこっちの方が可能性が高いってことか…。

ってことは…」

 

 

ヤンキー座りでしゃがみこみ、ブツブツと何かを唱えるハンターを見かけたものは、

何か悪い呪文でも仕掛けているのではないかと怯えた瞳で彼を見つめる。

そんなことに気が付かないハンターは、ただひたすらにブツブツとつぶやいていたが、

急に立ちあがると、ハンターを遠目でうかがっていた村人たちへ体を向けた。

突然、立ちあがってこちらを見てきたハンターに村人たちは恐慌状態一歩手前になったが、

そんなことは知らないハンターが呑気に問いかけた。

 

 

 

「すみません、ちょっと欲しいものがあるんですけど…」

 

 

 

 

 




どこでも不審者ハンターさん。
モンハン世界なら不審者でも何でもないのにね。
不思議だね!

男性装備だと顔が全部隠れるタイプが多いから仕方ないけど。

個人的に、モンハンの鎧は西洋風でかっこいいですけど、
ユクモ装備とかミツネ装備みたいな和風タイプもカッコいいです。

あと疑問なのが、モンハンのあの装備って隠れてない部分ってどうやってガードしてるんだろうね?
女性装備とか全く隠れてないの多すぎじゃない?大丈夫?




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撒き餌

※戦闘シーンがあるため、少しグロイです。
苦手な方は閲覧の際に注意してください


二つの丸い月がぽっかりと天上に上る。

元の世界に負けず劣らずの星空の下、ハンターは牧場の柵に腰掛けていた。

気温は昼に比べてすっかり下がり、ハンターはブルリと体を少し震わせた。

 

 

「ホットドリンク飲むほどじゃないけど、夜は冷えるなぁ…。

酒場行って酒飲みたぁい。

あーぁ、折角餌撒いたんだから、はやく来ねえかなあ」

 

 

盛大にため息をついたハンターは、流し眼で後ろに放置した物体を見る。

それは、血が滴る新鮮な生肉だった。

本来だったら村人の胃に収まるものだったが、ハンターが村人に頼み、分けてもらったのだ。

さらにはハンターが陣取るあたり周辺に血が撒かれており、

鼻が効くものだったら遠くからでもわかるはずだった。

 

 

「ランポス狩りみたいなノリかと思って身構えたけど、

向こうからきてくれるならわざわざフィールド動き回る必要ないもんな。

楽勝楽勝!」

 

知らない土地をひたすら探し回るのか、と内心げんなりしていたのだが、

向こうからこちらに来てくれるのだったら作戦を立てるのは容易だった。

ハンターが時々受けていた小型モンスター狩りはフィールド中を走り回る地味に過酷なかつ時間がかかるものだったが、

狙いが最初から分かっているものを探しに行く必要などなかった。

 

「てか、血の臭いで俺がお腹すいてきた…。

美味しそうな肉だったし、こんがり肉にしたかったなぁ」

 

 

簡易的な食事しかとっていないハンターは再びため息をつく。

スタミナ切れるの恐いから、何か食べようかなと思ったハンターの目つきが一瞬で鋭くなる。

 

 

森の中で何かが蠢く気配がした。

 

 

回避スキルと会心率を重視した装備の所為で、

探知にスキルを振れないハンターは気配など探れない。

しかし、長年ハンターを務めている勘が告げていた。

 

 

――獲物はすぐ近くまで来ている、と。

 

 

仮面の下で口角を上げ、ハンターは軽い動きで柵から飛び降りた。

そうして、背中に差してある太刀をぬらりと抜く。

地面ギリギリに切っ先が下り、風に揺られて刀身に触れた雑草がはらりと斬れる。

 

 

「最近、お前を全力で振るう機会がなくって鈍りそうだったんだ。

死なない程度に頑張ろうぜ」

 

 

その言葉に答えるように、刀身は月明かりで怪しく光る。

チャキ、とハンターが太刀を鳴らした時、森の中の気配が動いた。

 

 

「ゥォオオォオンッ」

 

 

ジンオウガに近く、それでいてあそこまでの威圧感も重圧も感じない遠吠え。

その声を皮切りにいくつもの血に飢えた鳴き声があたりに響く。

大型モンスターのヴォイスほどひどくはないものの、防音スキルを持っていないハンターがうるさい、と感じるその鳴き声に眉をひそめたとき、

声の主たちは動きだした。

 

 

「ガゥアァアアッ」

 

 

森の奥から動物が放つ怪しい目の光が現れた。

ゆっくりと奥から姿を表した狼の群れは、ざっとの見で30匹程度の大きな群れのようだった。

血に誘われた狼たちの瞳は血走っており、ダラダラと鋭い牙の隙間から唾液が垂れる

そのことにヒューと口笛を鳴らしたハンターに反応するように、群れの中で一番大きい個体が吠えた。

 

 

「ウオォオンッ」

 

 

「やぁッとお出ましか!

待ちくたびれてたんだよぉ!」

 

 

声に反応すように飛び出して来た2匹の狼を、ハンターは横一線で切り捨てる。

恐ろしいまでの切れ味の刃に切り捨てられて、狼は勢いそのまま二つ裂けて落ちる。

しかし、狼たちはそれに憶することなくも地面にその鋭い爪を蹴って飛び出し、ハンターに襲い掛かる。

 

 

「ハァッ」

 

 

横に薙いだ刃を背中に回して、ハンターに向かって飛び出してきた一頭に振り下ろす。

そして、ハンターは転がり、置きあがりの瞬間太刀を振りあげ、飛びあがった一頭を切り裂く。

さらに、ステップを踏みながら太刀を横に振ると、一気に数頭の狼が「ギャンッ」と声を上げて血しぶきを撒いた。

 

 

「いっくぞ、おらぁ!」

 

 

血しぶきを上げて、一瞬固まった個体を突きで仕留め、さらに横に薙ぐことで他の個体も一気に仕留めた。

ぐちゃり、と地面を濡らした血と臓物を踏みしめて、ハンターは練気をためる。

 

 

「よっと、な!」

 

同時に飛びかかろうとした数頭の向かい、溜めた練気を解放する。

ハンターが放った気刃切りはその数頭を肉塊に変え、湿った音を立てて倒れる狼たちを背後に太刀を納める。

そうして、じろりと残った狼たちを睨みつけたハンターはぼそりとつぶやいた。

鈍く輝く仮面の下の瞳が、獲物を捕らえて楽し気に光る。

 

 

「あと、9匹。」

 

 

その低い声にただならぬ殺気と、闘気を感じた狼たちが逃げようと後ろ脚に重心をかけた。

しかし、ハンターはその隙を見逃さず一気に駆け抜ける。

後ろに反転し、逃げようとする個体を抜刀と同時に切り捨て、さらに後ろにいた狼に刃を突く。

 

 

「1,2!」

 

ハンターが狼を突いたことで、その体に刃が貫通し、一瞬だけ動きが止まる。

その隙をついて別の個体がハンターに襲い掛かろうと飛びあがった。

 

 

「3」

 

しかしハンターは焦らず、太刀を切りあげて処理する。

その間に森に向かって走りだした個体を、ハンターは冷静に納刀をしてから追い、すこし盛り上がった段差で

思いっきり飛んだ。

 

 

「4」

 

 

振り下ろした刃で切り捨てられた個体を無視し、横に一回転するように刃を薙いだ。

 

 

「5,6」

 

 

先頭を走っていた一際大きな個体が、「バウッ」と何か指示するように吠える。

それに反応して逃げようと駆けていた2頭の狼が体を勢いよく反転させて、そのままハンターに飛びかかる。

当然、追いかけてきていたハンターとの距離は近く、勢いがついた鋭い爪と牙を普通の人間だったら避けられなかっただろう。

 

 

「7,8!」

 

だが、ハンターは当たる直前で体を前に転がるように回避させると、

起き上がりと同時にそれを切って捨てる。

返り血はハンターの黒い鎧につき、ぬらりと月明かりに照らされた。

立ち止まったハンターは思いっきり舌打ちをし、逃げる大きな狼の後姿を見つめる。

 

 

「…おいおい、忠臣見捨てて大将だけが逃げるなんてちょっと情けないんじゃないのか?」

 

 

 

そう言いながらハンターはアイテムポーチを漁ると、あるものを取り出す。

ハンターはスッと片足を後ろに退いて、利き腕を振りあげて、それを思いっきり投擲する。

 

 

「ギャンッ」

 

 

ゴッと鈍い音をとともに、短い狼の悲鳴が響く。

森まであと少しのところまで駆けていたボス狼の体が、転がる。

 

 

「よっしゃ、ナイスピッチング。

伊達に何年もペイントボール投げてないんだよなぁ」

 

 

ハンターが投げた石ころは見事にボス狼に当たり、

ボス狼はその衝撃で地面に転がったのだった。

ハンターは倒れながらもカシカシと足をばたつかせ、なおも逃げようとするボス狼にゆっくりと近づき、

その身体を見降ろす。

 

 

「さて、と。

お前に罪があるわけでも、なんでもないんだけど…”ハンター”だからな」

 

 

納刀していた太刀を出すと、ボス狼の目が怯えたように光る。

きゅんきゅんと憐れみを持ちたくなるような声で鳴き、

尻尾を丸める狼だったが、ハンターは揺るがなかった。

 

 

「…よっ」

 

 

シャンッと降ろされた太刀は寸分たがわずボス狼の首を刎ね、

コロコロと転がっていった。

ハンターはそれを見届けると、血を払ってから、刀を納めた。

 

 

「これで9…。

クエストクリア・・・ってな!」

 

 

立って居るものはハンターしかいなくなった平地で、

ハンターはガッツポーズをした。

 

 

 

 




意外と便利アイテムな石ころ。
素材はもちろん、大タル爆弾着火するときにたまに使ってます。

男なら黙って自爆するべきですけど、
無駄にダメージ負いたくない時とかは便利です。

漢起爆はモンハンのお約束ネタ(暴論)

あと、ワールドだとスリンガーなるものがあるとのことですが、
ハンターさんは違う地域のハンターなので使用しない設定です。


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剥ぎ取り

フー、と溜まっていた空気を吐きだして、肩を回したハンターはあたりを見回す。

ハンターが撫で切りにした狼の死体が転がり、あたりは死臭で満ちていた。

 

 

「さて、と。

剥ぎ取りでもしましょうかね。

めぼしいものが取れるといいんだけど」

 

 

ハンターはめんどくさそうに、肩を竦めたがすぐにボス狼の死体を検分する。

毛皮に触れると毛質は硬く、灰色の毛皮の下はいくつも古傷があったことからそれなりに歴戦の個体だったことがうかがえた。

狼にしてはやけに賢しかったのも長い年数生き残って来たことで培われた技能か、

ドス個体によくある統率力から来たものだろうと適当に推察をする。

そんなドスならぬボス狼の毛皮をできるだけ傷つけないように剥ぎ取り、

アイテムポーチに保管する。

骨も獣骨に近く、有効活用可能なことにハンターは満足げだった。

 

 

「小型モンスター狩りだったら妥当な素材だな」

 

 

他の個体もサクサクと解体し、剥ぎ取りを行ううちに、

あたりは明るくなり、朝日が昇り始めた。

ポーチに入り切らない分の素材を近くに放置されていた荷馬車の荷台に積み、

大雑把に片付けも同時に行っていたため時間がかかってしまった。

朝日が完全に上る前に全ての剥ぎ取りが終わり、ハンターは仕事をやり切った顔で朝日を浴びた。

何も考えずに向かってきた狼を斬り捨てたせいでいくつか毛皮を剥ぎ取れなかったが、

掃討が目的だったハンターは気にしていない。

 

「上々上々!

後は村に報告すれば俺の依頼完了!」

 

 

ガッツ、と拳を強く握ってハンターは、意気揚々と牧場から村まで帰る。

ふんふん、と鼻歌を鳴らすハンターが歌うのは、昔とある村で出会った愛らしい少女が歌っていた曲だった。

まさに上機嫌で、スキップでもしそうくらいにはテンションが上がっているハンターだったが、

不安な夜を乗り越え、清々しい朝を迎えた村人たちはハンターの姿をぎょっとした。

黒と赤の厳めしい装備からは獣の臭いと血の臭いが混ざったにおいを漂わせ、

低く、良い声で鼻歌を歌いながらスキップしている鎧の男に、誰もが怯え、遠巻きにした。

 

そんなことに気が付かないハンターは、そのまま村長の家まで行き、ドンドンと強く村長の家の扉を叩いた。

ある意味生粋の仕事人のハンターの頭の中に、「早朝だから遠慮しよう」などという考えはない。

依頼を終えたから報告を行う、という仕事をこなしたまでだった。

 

案の定、朝早くからたたき起こされた村長は不機嫌そうにでてきたが、

血の臭いを漂わせたハンターを見て、一瞬で固まった。

目の前で固まった村長を見て、首をかしげたもの徹夜明けで眠いハンターは手早く済まそうと話を切りだした。

 

 

「村長さーん。

依頼済ませましたよー」

 

「ッは!?もうですか!?

う、嘘を言うのも大概に…」

 

「本当ですって。

これで証拠にならないですか?」

 

 

アイテムポーチから取り出したのは、毛皮。

それも通常の狼よりも一回り以上程度大きく、分厚い皮に村長は目を瞬かせた。

震える指で毛皮を指さし、ハンターと毛皮の間で視線を泳がせる。

 

 

「これを、狩ってきたんですか?」

 

「そうですけど。

詳しい報告は冒険者ギルドにしますけど、先に駆逐したっていう報告だけしておこうかと思って」

 

「そ、それはわざわざ・・・ありがとうございます。

そ、そ、それで狼の群れが襲ってきた理由やなんかはわかりましたかね…?」

 

「学者じゃないんで詳しくはわかんなかったですけど、恐らく群れのリーダーが賢かったからだと思いますよ。

野生の狼にしてはやけに統率が取れてたんで。

ドスにでもなりかけてたんじゃないかな?」

 

「ドス…?」

 

「あぁ、いや、こっちの話。

とりあえず30匹くらい狩ったから大丈夫だとは思いますけど、

しばらくは様子見してダメそうだったらまた呼んでください」

 

「…30匹の狼を、一人で狩ったんですか?」

 

「そりゃあ、依頼ですから」

 

個人の裁量にもよるが依頼があれば何でもやるのがハンターだ。

鬼畜の様な依頼でもやらなきゃいけないときはやるし、

その鬼畜クエストをこなせるように腕を磨くのもハンターの役目だと思っていた。

 

「あんた、一体…」

 

「ただのしがないハンターですよ。

将来サムライになりたいだけの、ね」

 

 

かすかに笑った気配はしたが、その顔は不気味な面で隠されており見ることはできなかった。

仮面で感情がうかがえなかったハンターが初めて見せた人間らしい一面に村長は目を見張ったが、

そんな村長の様子に気が付かなかったハンターは毛皮をアイテムポーチにしまった。

 

「それじゃあ、俺は一旦街に戻ります。

何かあったら気軽に呼んでくださいね」

 

 

少し頭を下げて会釈をすると、軽い動きで村長から背を向けて歩き始めた。

ガシャガシャと堅い金属のようなものが擦れる音を鳴らしながら去っていくハンターを呆然を見つめる村長は、いつのまに肺にたまっていた淀んだ空気を吐きだした。

 

 

「何者だったんだ、あの冒険者は…」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

村長と別れたハンターは余った素材を村人に売り渡し小銭を稼いだ後、

行きと同じように荷馬車に相乗りさせてもらいながら辺境の街まで戻った。

ここに流れ着いてまだ数日しかたっていないが戻ってきた安心感で、少しだけ緊張していた体が解れた。

ゴキゴキと肩を回しながらハンターは冒険者ギルドに戻ってきた。

 

 

「…仕事終わりましたよ。報酬くださいな」

 

相変わらずハンターがギルドに入るたびに何とも言えない空気が漂うが、

我が道を進むハンターはその空気すら気にしない。

真っ直ぐと受付嬢のもとまで歩き、右手を上げると顔なじみとなった受付嬢は笑顔で出迎えてくれた。

 

 

「お疲れ様です!ハンターさん!

討伐を証明できるものはお持ちですか?」

 

「ボス狼の皮剥いで来たよ。

あと他にも持ってきたけど、いる?」

 

証明用と素材用に取っておいた狼の部位をアイテムポーチから取り出し、カウンターにおく。

血生臭さと獣の臭いが混ざった匂いに、一瞬受付嬢は顔をひきつらせたもののすぐに営業用の笑顔を取り戻した。

 

 

「少々お待ちくださいね!」

 

受付嬢は鑑定人のような人物を後ろから呼ぶとおいておいた素材の鑑定をお願いする。

今まで一緒に受けていた依頼をゴブリンスレイヤーの信頼でこの作業が省略化されていたが、

正規であればこのような段取りが必要なのかと思った。

正直な話をすると面倒くさいし時間もかかるが、元のギルドでも狩猟証明にはそこそこ時間がかかっていたのでそこはどこもかわらないようだと少し懐かしい気持ちになった。

 

「…はい、ハンターさんお疲れ様です。

こちらが報酬となります」

 

「ありがとうございますー」

 

銀貨と銅貨、そして数枚の金貨が入った小袋を受け取るとハンターは満足げに頷く。

受け取った小袋はアイテムポーチの中にいれ、渡した素材も受け取った。

 

 

「そういや、ゴブリンスレイヤーの旦那って今依頼でてるかな?

今度武器屋を紹介してくれるって話してんだけど」

 

「ゴブリンスレイヤーさんなら朝に仕事に行きましたよ。

そんなに遠い場所ではありませんし、明日か明後日くらいには戻ってくると思います」

 

「そっか。

じゃあ旦那に『時間があったら一週間後の昼にギルド集合』って伝えておいてもらってもいい?

俺もそのくらいまでにはお金溜めとくわ」

 

「わかりました。ゴブリンスレイヤーさんに伝えておきますね!」

 

「ありがとうございますー

それじゃ、俺もいったん帰るわ。」

 

 

「お疲れ様です-」と頭を下げてから去っていくハンター。

ひそひそと話していた人がサッとハンターを避けていく様を見つめながら受付嬢は

「なんだかんだで話してみると普通の人なんだけどなぁ」と残念に思った。

 

 

 

 




狼の群れは1d4でダイスの目が出た数を十の位にしましたー。
そこそこな数が出たけどよくよく考えたらいつも20とか30匹の小型モンスター討伐とかしょっちゅうしてるよな…と死んだ眼になります。
チートにするつもりないのにチートぽくなってく・・・ハンター=サン強すぎぃ!

そろそろ原作沿いに進むかあと少しだけオリジナルストーリー入れてくか悩みます。


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お買い物

狼狩りから一週間。

ギルドの酒場でゴブリンスレイヤーを待っていた。

受付嬢に伝えてもらったメッセージを聞いたゴブリンスレイヤーからの伝言は「構わない」という簡潔な言葉だった。

 

それを聞いたハンターは装備を買うためにずっと地下でネズミ狩りをしたり、村近辺に現れる害獣退治などで小金を稼いでいた。

簡単な依頼だったせいで大した金額を稼ぐことはできなかったが、

ある程度溜めることに成功していた。

 

ようやく生活に安定性を見出したハンターはカウンターで茶をすする。

茶を飲みながら受付嬢から借りた簡単な語学の本を読んで待っていたが、見知った気配を感じて顔を上げた。

見れば自分と少し離れたところにゴブリンスレイヤーの姿を確認すると手を軽く上げて、本をアイテムポーチにしまった。

 

「旦那。久しぶりー。

元気にしてたか?」

 

「あぁ、特に変わりはない。

そちらはどうだ」

 

「特に変わったことはないかな。

強いて言うならだいぶ冒険者になれて活動しやすくなったくらいだな」

 

「そうか」

 

「うん」

 

互いにそれ以上言葉を発しなかったせいで終了した会話に、なんともいえない気まずい空気が流れる。

しばらく黙りながら向かいあう二人になんとなく周りにいた人間の方がハラハラと見守ってしまう。

そんな気まずい空気はハンターが立ちあがり、傍に立てかけておいた太刀を背中に背負ったことにより霧散する。

 

「行こうぜ旦那」

 

「あぁ」

 

金属がすり合わさる音を鳴らしながら二人は歩き出した。

微妙な空気を醸していた二人が行動し始めた事により、空気も和らぎギルドはまたいつも通り活気ある雰囲気に戻ったのだった。

そんなことは全く知らない二人はギルド内を歩く。

 

 

「旦那のおすすめは片手剣なんだっけ?」

 

「あぁ。狭い場所で闘うときに有効だ」

 

「狭いところで闘いやすいっていうのはいいアドバンテージだよな。

手数が多くて回避しやすいってのも片手剣の良いとこだし」

 

「広い場所だったらお前のその武器でも有効だろうが、狭いところではむしろ枷にしかならない」

 

「確かに。

開けてる場所なら問題ないけど、狭い場所だと死にかねないし」

 

初めてゴブリンスレイヤーと出会った洞窟での戦闘も太刀では突きくらいしかまともな攻撃ができず、

かなり手間取った。

耐久力も攻撃力も低いゴブリンだったから大した問題ではなかったが、

もっと強い敵であった場合あの時点で死んでいてもおかしくなかったとハンターは考えていた。

 

「片手剣で闘った経験はあるのか?」

 

「あるよ。

動きの基本だから一通りは使えるけど…慣れた武器よりかは動きが劣るかもな」

 

片手剣は便利で、動きが軽快で使いやすい。

ハンターになるものは一度片手剣で動きを学んでからそれぞれにあった武器を見つける。

一通り武器を使えるのはハンターにとって必要技能な為、その例にもれずハンターも扱うこと自体はできる。

ただ、その技能が得意とする武器よりもどうしても劣ってしまうだけだった。

 

「そうか」

 

「うん。

でも、回数こなせばメイン武器と同じくらいには戦えるようになるかな」

 

「ならば問題ないな。

・・・ついたぞ、ここだ」

 

「お!ここかぁ!」

 

ゴブリンスレイヤーが階段の下にある武具屋の扉を開けて入っていくのでハンターもそれに続いて中に入る。

店の中には鎧が店の中に飾られており、壁には様々な武器や防具がかけてあった。

自分が見てきた武器屋とはまた違う内装にハンターは興味深げにあたりを見回した。

 

「はっえ~~。

なんかいろいろ売ってるな」

 

きょろきょろと見回しては気になったものを見ていくハンターは今までで一番テンションが高く、

おもちゃを眺める子供の様に無邪気であった。

そんなハンターをしり目にゴブリンスレイヤーは武具店の主人である翁のもとまで行き、話しかけた。

 

 

「片手剣が欲しい」

 

「おう。

ゴブリンスレイヤー、また来たのか。

この間買ったばかりじゃなかったか?」

 

「今回は俺じゃない。

あいつだ」

 

「…あの兄ちゃんか?」

 

ゴブリンスレイヤーが親指で後ろで装備を物色するハンターを指さす。

盾を持って品定めに集中してしまっているハンターは、翁がハンターを凝視していることに全く気が付いていない。

翁は眉をひそめて、ハンターの装備を観察したが困惑したような声を上げた。

 

 

「なんだ、あの兄ちゃん。

随分と立派な装備をしてるじゃねえか。

ただの鎧じゃねえぞ、あれは」

 

「詳細は知らん。

だがあの武器じゃ洞窟じゃ長すぎる。

片手剣が必要だ」

 

「長えも何もあんなデカい武器は並の人間じゃ扱えねえぞ。

飾りじゃねえだろうな?」

 

「少なくとも、あれでゴブリンを突き殺していた」

 

「突き殺す、ねえ。

・・・おい、そこの兄ちゃん」

 

思案顔でしばらくハンターを見つめていた翁だったが、

顎にやっていた手を外すとハンターを呼んだ。

 

「あ、はーい」

 

持っていた盾を元の場所に戻し、小走りで翁とゴブリンスレイヤーのもとまで駆け寄ったハンター。

重い鎧を付けているとは思えない軽やかさに翁の観察眼は鋭く光る。

 

「どんな片手剣が欲しい?」

 

店主の問いにハンターは少し首を傾けて悩んだ様子を見せたが、

すぐに思いついたように人差し指を立てた。

 

「うーん、出来れば切れ味が維持しやすいものだといいね。

何度も何度も研ぐのは面倒くさい」

 

「おいおい、そんなのは魔力付与でもついてねえと出来ねえぞ」

 

「魔力付与とかはよくわかんないけど、とりあえずないって感じか?

だったら洞窟で闘いやすい長さの片手剣と堅い盾でいいや」

 

翁の言葉に首をかしげたが、

大して気にした様子も見せずハンターはいった。

ハンターの雑なリクエストに翁は呆れたようなかおをしたが、

その背中の太刀に目を向けると少しだけ表情が柔らかくなった。

 

「あんた、随分と戦いなれてるようだな。

そんなでけえ武器背負ってる割に重心が安定してる」

 

「え?デカい?」

 

素で聞き返したハンターは不思議そうに首をかしげる。

日ごろからハンマーやガンランス、大剣のような大きな武器を見慣れているハンターには、

太刀が大きいという認識がなかった。

 

「見栄を張ってる白磁にゃ見えねえ。

装備に見合った腕は持っとるようだな」

 

「なんかよく分かんないけど、褒めてくれてありがとうございます?」

 

感心したように頷く翁についていけず、

首を傾げながら後頭部に右手当ててペコペコ頭を下げるハンターは褒められてどこか嬉しそうに見える。

 

「それで、予算はいくらだ?

それで買える武器を用意してやる」

 

「予算はこれくらい。

多少これより高くなっても問題ない。」

 

ハンターは腰につけたアイテムポーチから取り出した小袋を翁に渡す。

ずっしりとした重量の小袋の中身は金貨。

ここ一週間で貯めたハンターのなけなしの金だった。

 

(なけなしの金で武器を買うとか、本当にいつぶりかな?

駆け出しの時とかはよくあったけど…ここ最近あんまなかったから懐かしいなぁ)

 

この金を支払うことでしばらくはまた貧困生活に逆戻りだが、

装備を揃えるための金なら惜しんだところで仕方がないと割り切る。

出し惜しみをして死ぬなんて笑い話にもならない。

翁は小袋の中身を確認した後に、壁に立てかけてある武器を物色する。

少しの間悩んだようだったがすぐに一本の剣と盾を選ぶとカウンターに置いた。

 

「この予算で買える剣と盾だな。

あんたが背負ってる剣より性能は圧倒的に劣るが、洞窟でモンスターと戦うにゃちょうど良いはずだ」

 

「まあ、そこらへんは俺もわかってるんで大丈夫です。

・・・それじゃあ、早速」

 

ハンターは早速盾を右手に持ち、片手剣を左手で持つとヒュンヒュンと風を切る。

圧倒的に様になった持ち方に翁は感心したように息を漏らした。

 

「うん、いいね。

これなら乱戦になっても調整効くし、モンスター切り捨てるのに問題もない。

旦那的にもこれで問題ないと思う?」

 

「あぁ。

切れ味も問題ないだろう」

 

「そうだね。

重みもあるから薄い鎧ごと圧し切れると思う」

 

チャキッと片手剣の刃を見つめながらハンターは満足そうに頷いた。

厚みのある刃は両刃となっており、普通の剣よりかはずっしりとした重さだった。

丸型の盾も鉄で出来ているらしく、先ほど試しに持った華美な盾よりも重みがあり、かつ武骨だった。

 

「同じ長さの剣よりも重さがあるから初心者にゃ向かねえが、

お前さんはそんだけ長い剣振り回せるんだから、重さは問題ねえだろ」

 

「ないね。

むしろ軽すぎると折れるし、手から吹っ飛ぶ可能性高いからこのくらいでちょうどいいや」

 

片手剣をカウンターに置いてあった鞘にしまい、背中に背負ってる太刀の邪魔にならないように腰に下げる。

腕に盾を装備するとハンターは息を吐きだした。

 

「これでよしっと。

これで洞窟で縛りプレイする必要性なくなるぞ!」

 

グッと満足に親指を立てるハンターは喜色で満ちていた。

全身からあふれるオーラは「早く新しい装備を試したい」という無邪気な闘争本能が溢れていた。

 

「良い店教えてくれてありがとう、旦那」

 

「あぁ」

 

「あ、あとまたゴブリン退治一緒にいってくれるとありがたいな。

俺、まだああいうのに慣れてないから…」

 

こちらに来てからも小型モンスターや獣を狩りまくっているハンターだったが、

ゴブリンは意図的に戦わないようにしていた。

無慈悲な自然の脅威とは違い、悪知恵が働くゴブリンとの戦闘は、

ただ動きを読んで己の技術と肉体を持ってして戦えばいい今までのハントとは全く異なっていた。

そんな敵と無知のまま戦うのはハンターとしては避けたい。

更にいえば人型モンスターと戦うのに慣れたいという思いもあった。

そのため、ゴブリンスレイヤーにいろいろと教えてもらいたかった。

 

「構わない」

 

ゴブリンスレイヤーの簡潔な言葉に、パッとハンターの雰囲気が明るくなった。

 

「ありがとう!

今度飯おごります!」

 

「気にしなくていい」

 

「いいのいいの、俺の気持ちだし。

それともご飯よりなんかアイテムとかの方がいいか?」

 

ごそごそとアイテムポーチから適当にアイテムを取り出してゴブリンスレイヤーに見せるハンター。

ゴブリンスレイヤーは見たことがないアイテムに興味を持ったのか、ハンターが手に持っていた小瓶を受け取り、 明かりに透かした。

小瓶の中で緑色の液体が揺れる。

 

 

「…これは?」

 

「それ?それは回復薬G。

飲めば体力が回復できる優れものだよ。

ハンターの必需品なんだ。

・・・あ、じゃあそれでいいか?結構使いどころ多いと思うんだ」

 

「ポーションか。

だが、お前にとっても必要なものだろう」

 

「大丈夫だって。今日のお礼だから。

素材はまだあるからいつでも作れるし、むしろ一個だけとか申し訳が…あ、もう何個かもってく?」

 

「いや、いい。

ありがたく貰っていこう」

 

「気にしなくていいってば。

それより、これからどうしようか。一回ギルド行って依頼でも見てく?」

 

「そうだな」

 

 

ワイワイ話しながら出ていくハンターとゴブリンスレイヤーに翁はニヤニヤと笑みを浮かべた。

珍しいものを見た、といわんばかりに翁はつぶやいた。

 

 

「なんでぇ、あいつにも話せる奴いるんじゃねえか」

 

 

 




新しく装備を作ったときのワクワク感はモンハンの楽しみの一つだと思うんですよね。
とりあえずなんか狩りに行くスタイル。

ホントは武具屋の翁との絡み増やしたかったんだけど、武器談義ですごいことになったんで端折りました
また違う機会にできたらと思いますー。

武器屋の場所を思いって切り間違えてたんで直しました!!!!!
すんませんでしたぁあぁあ!!!!


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