ありふれた職業で世界最強  魔王を支える者達 (グルメ20)
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第1章 友情を胸に…異世界転移とオルクス大迷宮
プロローグ


どうも。
ハーメルンで初めて小説を投稿します。
下手な文章構成、ガバガバな小説設定など突っ込みどころ満載ですが、楽しんでいただいたら幸いです。


俺、影山スバルは普通の家庭に生まれてきたと思う。兄弟もなく一人っ子として生まれてきた、普通じゃないといえば父と母が異常までのラブラブだったことだと思う。

朝、昼、夜、周りを気にせずイチャイチャしており、小学生に入って初めて自分の部屋を持ち一人で寝て、翌朝に父と母の寝室に突撃すれば裸で寝ている二人の姿を見るのはしょっちゅうだった。また、月に一度は叔父夫婦に俺を預けてデートは欠かさずやっていた。教育的にはどうかなと思うことはあるかもしれないが、それほど苦にはならなかった。何故なら帰ってきて大人しく待っていたあかつきにプレゼントをくれるのだから、そのプレゼントが何よりも楽しみなので不貞腐れることはなかった。

それに毎日、父と母に愛されている自覚はあった、母が作るご飯は毎日美味しかったし、怒ることもあったが基本優しかった。父も休みの日は疲れているはずなのに嫌な顔せずに相手をしてくれた。そして、父から色んな教えを教わった。「弱い者いじめはするな」「女の子を大事にして、守れるくらい強い男になれ」など数えたらきりがないくらい父から色んな事を教わった。その中で一番印象に残っていることがあった。

 

「いいか、親友は大事にするんだぞ、困っていたりしたら手を差し出すんだ。大事にすればするほどお前のことも大事にしてくれるはずさ。」

 

今思うと毎日のように聞かされていたと思う。飽きずに聞けたのはひとえに父のことが大好きで憧れていたからだと思う。愛情を注いでくれる母に、憧れの父、そんな二人に挟まれて日々が続くと思っていたが…………そうではなかった。

 

 

あれは小学5年の時だ。いつものように父と母は俺を置いてデートに出かけたが帰ってくることはなかった。帰ってきたのは父と母は亡くなった訃報の知らせだった。

原因は交通事故で相手の飲酒運転によるひき逃げだった。相手は直ぐに逮捕、二人は病院に運ばれたが意識が戻らずそのまま帰らぬ人となった。

俺はそれを聞いた時1日は呆然とし、2日目に理解して赤子のように泣いた。泣いて、泣いて、泣きまくり涙が枯れるくらい泣いたと思う。泣き終わった頃には………そこに俺の笑顔はなかった。

 

俺は叔父夫婦に引き取られた。色々あって子供がいなかった叔父夫婦は我が子のように可愛がってくれた。最初の時は俺も無表情だったが日が経つにつれて表情が柔らかくなったと思う。

でも、大好きな父と母を亡くした悲しみは消えることなく、叔父夫婦が出かけていない時はないていた。心配をかけまいと外に遊びに行くと言って元気を偽り、近くの公園でいつもひっそりとしていた。近所の連中もそんな様子を見て、声をかけるのをためらっていた。

 

そんな日々を続けていたある日、いつもの公園のベンチでひそっりしていると、

 

「ねぇ君、大丈夫?」

 

1人の子が俺に話しかけてきた。叔父夫婦に引き取られて初めて同年代の子に話しかけてきたその子は家に連れられて、ゲームや漫画を見せてくれた。「父さんはゲームを作っていて、母さんは漫画家なんだ。」と聞いてもいないのに自分の親のことを話し始めた。最初は興味がなかったが家に帰る頃には「また行きたい」「もっと知りたい」と思っていた。だから思い切って聞いてみた。

 

「また、来てもいいかな?」

 

「もちろん!」

 

今、成長したその子に「何で話しかけたの?」って聞いたら、その子は「何となく。」と答えた。その子にとって大して意味もない何となくの行動でも、俺にとってはとても嬉しかった。

 

だって叔父夫婦に引き取らて初めて出来た親友だから。

 

だから今は亡き父の教えに従ってその子を大事にしようと思った。困っていたら手を差し出そうと思った。どんなことがあってもその子の味方であろうとと思った。

 

その子の名前は、南雲ハジメ。

 

俺に再び、人生という長い道を楽しく歩ませるきっかけを作ってくれた大事な親友だ。

 




いかがだったでしょうか?
更新は不定期なので、そこのところよろしくお願いいたします。


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月曜日の何気ない日常の朝

主なオリキャラの登場回です。

それでは、どうぞ。



月曜日。それは学生にしろ社会人にしろ憂鬱な始まりの日だと思う。学生の俺、影山スバルもそう考えているうちの一人だ。こういう日は登校時間ギリギリまで寝て通いたい所だが、生憎と日直の仕事があるため、仕方なく朝早くから学校に来ているのだった。

俺らの日直の仕事は、朝早く来て簡単な教室の掃除、授業後の黒板消し、日誌の記録など他の学校の日直とそれほど変わらない仕事を男女二人一組でするのだ。俺的には日直の仕事を「えっ、今日俺、日直なの?スゲー忘れてたぜ…」と言うつもりで学校ギリギリに登校するつもりだったが、それを許してくれなかった人物がいるのだった、それが、

 

「ふふふふふ~ん。」

 

今絶賛深夜のアニメの主題歌を鼻歌で歌いながら掃除している女性。身長約150㎝くらい水色髪ショートの彼女の名前はレム・クドリャフツェフ。

高校一年生の時にロシアから日本にやって来て、今では三大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る美少女だ。その美少女がどうして今回学校を早く来て日直の仕事を真面目にする羽目になったかというと、朝早くから迎えに来てくれたのだ。

 

「おはようございます、スバル君。今日は私と日直の担当です。早く行きましょう!」

 

他の男子には見せないとびっきりの笑顔で「全くどこのラノベのヒロインだよ。」と思いつつ、ここで「眠たいから」「日直の仕事がめんどい」という理由で彼女の好意を無下にするのは大変失礼なので、眠気が残っている身体に鞭打って朝早く学校に来たわけだ。

 

「こちらの掃除は終わりました。スバル君の方は?」

 

「ああ、こっちも終わったぜ。」

 

「では、箒片付けておきますね。」

 

そう言ってレムは俺の前に手を差し出したので俺も自然に手に持っていた箒を渡すのだった。

レムは俺と一緒にいる時、凄く生き生きして献身的であり、さっきの掃除だって八割程、彼女のおかげだったりする。また一緒にいることも多く学校の登校や下校、たまに休み時間も一緒にいることがあり、俺としては色々役得で彼女といるおかげでそれなりに楽しい高校の青春を送れているからレムには感謝している。(まぁ、周りの男の嫉妬を含んだ視線は痛いけど…)何より彼女のブレザーに包まれているたわわな胸を間近で………

 

「ムッ、スバル君。今、変な所見ていませんでしたか?」

 

「いえいえ、レムさん…そんなことないですよ。」

 

ある一点を間近で見ていたのを悟られたのか、ジト目を向けるレムにスバルは白々しくそっぽ向くのだった。レムは仕方がなく「もう」と言って諦めると、

 

「おはよう。スバル、レム。」

 

一人の青年が二人に挨拶をして来た。

 

「おう、おはよう士郎。」

 

「おはようございます、士郎さん。」

 

二人に挨拶をしたのはスバルの親友の一人、望月士郎だ。

素朴で落ち着きがあり、困った事があれば手を貸すほど世話焼きでクラスで頼れるお兄さん的な立場だったりする。

 

「今日は珍しいな、スバル自ら進んで日直の仕事をするなんて…雨でもふるか?」

 

「いやいや士郎さん、俺だって日直の仕事くらい真面目にやりますよ。」

 

「そうでしょうか? この前の日直の担当の時、遅く来ていたような………」

 

「キノセイダヨ、レムサン。」

 

三人で談笑をしていると次々にここのクラスの生徒が入って来た。そして、また一人生徒が入ってきた時、スバルはぎょっとした。何と一人で五個の学校指定カバンを持っていたのだった。いや、一つは自分のカバンだから四つのカバンを持っていることになる。そのカバンを持っている生徒の後ろから四人の生徒が入ってきた。

 

「おい入江。これぐらい持てないと強くならないぜ、つーか遅い。」

 

そう言ってカバンを持っている生徒に話すのは檜山大輔といい、その後ろでニヤニヤ笑っているのは取り巻きの斉藤良樹、近藤礼一、中野信治だ。

 

「あははごめんね。今度はもっと早く持って行けるようにするよ。」

 

そう言って愛想笑いをする四人のカバンを持っている生徒の名は、入江当麻と言う。

スバルの親友の一人で、優しく大らかな性格だが体力がなく、ひょろひょろしており、檜山達からへなちょこ扱いを受け、毎日のようにちょっかいをかけられているのだった。

それを見たスバルはすかさず、

 

「カバンくらい自分で持てよ、もう、子供じゃあないんだからさ。」

 

「何言ってんだよ、俺達が入江を鍛えさせているんだよ。」

 

そう言ってスバルは檜山を睨み、檜山もスバルを睨み返した。

 

「本当かぁ~? 実は自分のカバンが持てないくらい筋力がないんじゃあないか? 全部贅肉だったり。」

 

「「「「あァ?」」」」

 

スバルがウザったい顔で檜山達を煽ると四人はスバルに眼を飛ばした。そして、ゆっくりとスバルの方に向かって歩き出した。スバルは動かずに檜山達が来るのを待った、もうすぐお互いの拳が届く範囲に来た時、待ったがかかった。

 

「ハイハイそこで終わり、喧嘩しない。」

 

スバルと檜山の間に入るように士郎が割り込んで来たのだ。そして、スバルの顔を見て

 

「スバル、相手を煽らない。そして、すぐに喧嘩しようとしない。」

 

「でも、『でも、じゃあない!!』……分かった。」

 

士郎の勢いに負け渋々納得したスバル、それを見た士郎は檜山達に向き直り、

 

「お前らも入江に変な事ばかりさせるなよ!」

 

「………チッ、分かったよ。」

 

檜山は小さく舌打ちした後、士郎を睨んでから、入江に持ってもらっていたカバンを乱暴に取り、席に向かった。残りの三人も入江からカバンを取って席についた。

残された入江は士郎に近づき、

 

「ごめんね、士郎君、スバル君……変なことに巻き込んじゃって。」

 

おどおどしながら士郎、スバルに謝る当麻、それを見た士郎は。

 

「いいって気にすんな。でも、檜山に変なことされそうになったら、ちゃんと断れよ。」

 

どこか心配そうな顔をする士郎、そして、スバルもまた当麻に対して、

 

「もし、断れなかったら、俺を頼れ。当麻は俺の大事な親友だからな。」

 

当麻に笑顔を向けて、ドーンと胸を張るのだった。

 

「ありがとう、士郎君、スバル君。でも、頼るのは士郎君だけにするよ。」

 

「何で!?」

 

当麻の言葉にショックを受けて口を開きぱなしのスバル、続けて当麻はこう言った。

 

「だってスバル君だと、すぐに喧嘩しちゃうし、収取がつかなくなりそうだから……。」

 

それを聞いたレムと士郎は笑いがこみ上げてきて口元に手を当ててこらえるのだった。

 

「ちょっとちょっと、そりゃあないですよとうま~そりゃあ確かに喧嘩しちゃうのは否定は出来ないけど、それは友達を思って………それと、そこのお二人さん。もう、笑うのは止めてもらえませんか?…………地味に傷つくんですけど。」

 

そう言うスバルに士郎は「悪い、悪い」と答え、レムは「ごめんなさい。」と軽く謝るのだった。

 

「(でも、士郎君もそうだけど、スバル君も感謝しきれないな……こんな弱弱しい僕なんかの親友になってくれて…。)」

 

あえて口には出さなかったが当麻は二人に対して感謝しきれない気持ちで一杯だった。何かあるたびに心配をしてくれる士郎に、どんなに体力がなく弱々しくても親友と言ってくれるスバル、いつか二人に恩返しが出来たら良いなと思うのだった。

 

 

 

さて、当麻を混じって四人で談笑をしていると始業チャイムがなるギリギリに教室に入ってくる生徒がいた。その瞬間、スバルや当麻、士郎を覗く教室の大半の男子生徒は教室に入ってきた生徒に対して舌打ちや睨みやらを頂戴し、女子生徒も無関心ならまだ良いのだが、あからさまに侮蔑の表情を向ける者もいた。ちなみにレムはその生徒に対して前者も後者もなくむしろ友好的だったりする。

スバルは他の生徒達がその教室に入って来た生徒に対して向ける舌打ちや睨み、侮蔑の表情はいつものことなのだが………その生徒はスバルにとって大切な親友の一人、やっぱり自分の大切な親友に向けられると腹が立たないわけではないが、「そんなに皆に迷惑をかけたか?」と逆に疑問を感じてしまうのだった。

いろいろ思うことはあるが、とりあえず、スバルの大切な親友が今日もめげずに来たので挨拶をすることにした。

 

「おはよう、ハジメ。」

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
オリキャラは別作品のアニメキャラをモデルに考えています。(と言ってもほぼパクリみたいなものですが………そこに設定を加えたり、消したりしてる感じです。)

参考までに元ネタのアニメキャラは

影山スバル→ナツキ・スバル

レム・クドリャフツェフ→レム

望月士郎→衛宮士郎

入江当麻→クウェンサー=バーボタージュ

こんな感じですかね、決して元の世界からやってきた転生や神様憑依ではないのであしからずに。


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俺の親友は、のけ者でもある意味、注目の的?

遅くなりました、話的にもあまり進みませんがお許しください。


「おはよう、ハジメ。」

 

「ん? ああ…スバル。おはよ『よぉキモオタ! また徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?』」

 

「うわっキモ~エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん!」

 

スバルの挨拶にハジメは睡魔と戦いながらスバルの挨拶を返そうとするも、そこに水を差し、罵る者たちがいた。檜山とその取り巻きの三人、斉藤、近藤、中野だった。

檜山の言う通り、ハジメはオタクだがキモオタと言われるほど身だしなみや言動が見苦しい訳でもない。単純に漫画や小説、ゲームや映画というものが好きなだけだ。それなのに、この四人は毎日飽きもせず付きまとうようにちょっかいをかけているのだった。

 

「おい、檜山。俺の大事な親友をキモオタ呼ばわりしてるんじゃあねぇ。」

 

「あぁ? キモオタはキモオタだろ、何言ってんだ?」

 

「んだっと、ハジメのどこがキモオタって言うんだよ!」

 

檜山の言葉に反論するスバル、入江の事でまだ怒りの熱が残っていたのか、ハジメをキモオタ呼ばわりされて再び再燃焼し始めた。スバルは檜山に迫ろうとするも、士郎、当麻になだめられて、その怒りの矛を収めた。それを見たハジメはいつものことなので気にせず自分の席についた。

怒りを収めたスバルは、改めてハジメ話しかけようとした時に一人の女子生徒がニコニコ微笑みながらハジメに話しかけていた。

 

「南雲君、おはよう! 今日もギリギリだね、もっと早く来ようよ。」

 

彼女の名前は白崎香織。学校で三大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇るとてつもない美少女であり、レムに次ぐ、ハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない女子生徒だったりする。

 

「あ、ああ。おはよう、白崎さん。」

 

クラスの周りから鋭い眼光に晒されながら、頬を引きつらせて挨拶を返すハジメ。ハジメの挨拶を聞いた瞬間、香織は更に嬉しそうな表情をして、ハジメは更に突き刺さる視線に冷や汗を流した。

ハジメは問題を起こすことなく学校の成績は平均を取っているも、徹夜のせいで居眠りが多く、不真面目な生徒と周りから思われている。容姿もこれといって平凡、イケメンでもないのに学校の三大女神、白崎香織はよくハジメに構うのだ。それが周りのクラスにとって我慢ならない事であり、ハジメの親友を除いた男子生徒は「何故、あいつだけ!」と妬み、女子生徒もハジメの授業態度を改善せず、なお香織に面倒をかけていることに不快さを感じているのだった。

 

「(ハジメも、もう少し変わったらいいんだけどな…。)」

 

そう思うスバルも、ハジメの親友としてハジメがどんな風にクラスの連中から見られているのか知っている。当然親友なら、ここは一つ、生活態度を改めるなどの助言をするのが当たり前なのかもしれない。

しかし、ハジメは’’趣味を人生の中心に置く’’というスタンスを持っており、それを変えるつもりは毛頭ない。なにせハジメはの父親はゲームクリエイターで母親は少女漫画家であり、将来に備えて父親の会社や母親の作業現場でバイトをしているくらいで、その技量は即戦力扱い趣味中心の将来設計はバッチリ、毎日の徹夜もそのバイトに関係するものだったりする。

当然、スバルとその周辺の友達は知っており(というのも、スバルが勝手に話した。)さすがに将来に関わる事を他人がとやかく言うのは筋違いだと思い、ハジメが自分の意志で変わるのを待つしか方法はなかった。

 

「(流石にハジメの母親の作業現場にレムと遊びに行った時、ハジメの技術力には驚いたな。レムもレムで大好き作者に会えて嬉しそうだったし。)」

 

ちなみにレムはハジメの母親が書く漫画のファンであり、大好きな作者に出会えてあまりの嬉しさに泣き出してしまうほどだった。

そんなことを思い出していると新たに三人の生徒がハジメと香織に近づいてきた。

 

「南雲君、おはよう。毎日大変ね。」

 

最初にハジメに挨拶をしたのは、このクラスの女子生徒の一人、八重樫雫であり、香織の親友だ。ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークで、身長百七十二センチメートル、高い身長と引き締まった身体で全体的に凛としており、その姿は女性侍を沸騰させるだろう。現に彼女の実家は’’八重樫流’’という剣術道場を営んでおり、雫もまたかなり使い手だったりする。

 

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな。」

 

次に臭いセリフで香織に声をかけるのは天之河光輝であり、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人で、サラサラした茶髪に優しげな瞳、身長は百八十センチメートルあり、身体も八重樫の門下生のためか引き締まっており、剣の腕も全国クラス、誰にでも優しく正義感が強い、クラス一、いや、学校一のモテ男だ。

 

「全くだぜ、そんなやる気ない奴にゃあ何を言っても無駄だと思うけどな。」

 

最後に投げやり気味な言動の男子生徒は坂上龍太郎といい、光輝の親友だ。百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄の体格で細かい事を気にしない脳筋で、努力とか根性が好きな熱血漢である。現にハジメのようにやる気のなさそうな人間は嫌いなのか、ハジメを一瞥した後、フンッと鼻で笑い興味ないとばかり無視している。

そんな三人に挨拶を返すハジメ、ここで光輝が

 

「南雲も、いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ、香織だって君に構ってばかりはいられないんだから。」

 

そう言ってハジメに忠告をするのだった。光輝の目にはハジメは香織の厚意を無下にする不真面目な生徒として映っているようだ。ハジメは「あははは…」といい苦笑でやり過ごそうとするも、これを聞いた香織はというと、

 

「? 光輝くん何言ってるの? 私は南雲くんと話したいから話しているんだよ?」

 

天然なのかはたまた何か意図があっての発言か分からないが少なくともこの発言で教室がざわつき、男子生徒は更にハジメを睨み付けることになり、檜山達に至っては何か良からぬことを企んでいるのか睨みながら連れとヒソヒソと話し始めた。

これには光輝も、

 

「え? …ああ、本当に香織は優しいよな。」

 

少し驚いた光輝は直ぐに香織の発言はハジメに気を使ったと解釈されるのだった。この天之川光輝という男、完璧超人だが、どうも自分の正しさを疑わなさ過ぎることがあり、また、自分の都合よい方向に解釈する癖があったりする。当の本人もその自覚がなく、スバルにとってはそこが厄介と思う所であり、苦手(むしろ嫌っている)とする人物だったりする。

 

「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……」

 

そして、雫はというと、この中で最も人間関係や各人の心情を把握しているため、こっそりハジメに謝罪をするのだった。ハジメも「仕方がない」と肩をすくめて納得するのだった。

 

「(いやはや毎日毎日、白崎の発言に振り回され天之河の自己解釈に頭を痛めるハジメが不憫でならないぜ…………そんでもって二人に代わって謝罪する八重樫はほんと士郎並みに苦労人だな。)」

 

と思ってスバルは見ていると後ろから「誰のせいだよ」と声が聞こえてきたので「口に出して言ってないよな。」と思いつつ聞かなかったことにするのだった。

 

そして、始業式のチャイムが鳴り、それぞれ生徒が席につくと教師が教室に入りホームルームが始まった。スバルがチラッとハジメの席を見るといつものように夢の世界に旅立っていた友達の姿があり、「やれやれ」とあきれ笑いを浮かべていると、ホームルームが終わり一時間目が始まるのだった。

 




次回はトータスに飛ばされる様子を前編、後編に分けて投稿予定です。


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異世界トータスへ 前編

ちょっと短いですが、どうぞ。


怠い午前の部が終わり昼休みに入った。スバルはいつものメンバー、士郎、当麻を誘ってお弁当を食べていた。何気ない日常会話を三人でしているなか、ふとスバルはハジメの方を見た。

あの後、四時間目まで起きることなく寝ていたハジメはいつの間にか目を覚ましており十秒でチャージ出来るお昼をすまして、もう一眠りしようとしていた。

その時、あることに気づいてハジメに声をかけた。

 

「お~い、そんなとこで寝ていていいのか?」

 

「………えっ?」

 

スバルは気づいていた、ハジメに迫る脅威を。ここは友達として警告はするも、まだ夢の中に入っているのか曖昧な返事を返し、その脅威に気づいていなかった。

 

「まぁ、お前がそれでいいならそれでいいけどよ……脅威はすぐそこに…………ほら来た。」

 

 

そう言いながらスバルは別方向を見た。ハジメもつられてスバルが向いた方向に視線を向けた。その時初めてスバルが言っていたことを理解するのだった。

 

「南雲君、珍しいね教室にいるの。お弁当よかったら一緒にどうかな?」

 

そこには自分のお弁当を持って立っている香織の姿があった。再び不穏な空気が教室を満たし始め、ハジメは心の内で悲鳴を上げながらスバルの方を向き「何でもっと言ってくれないんだよ。」と言いたそうな顔でスバルを見た。スバルは口を尖らせ吹けもしない口笛をしながらそっぽ向くのだった。心の中で大きなため息をはいたハジメは、

 

「あ~誘ってくれてありがとう白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之川君と食べたらどうかな?」

 

そう言って既に終わった自分のお昼を見せた。

 

「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」

 

どうやら目の前の女神はハジメを逃がしてくれないようだ。この発言で更に周りの視線が増していきハジメも「気づいて! 周りの空気に気づいて!」と内心で悲鳴を上げた。

するとここに思わぬ助け舟が出された。

 

「香織こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだし、せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

爽やかに笑いながら気障なセリフを吐いて、ハジメと香織に割り込んで来たのは光輝達だ。光輝の登場に口には出さないが内心では「痛々しくて、一言多い」と愚痴をこぼすスバル。

もし、この言葉の相手が普通の女子生徒なら黄色い声が上がっていただろう。だが、相手はハジメの周りの現状が見えてない鈍感と天然が混ざり合った女神。故に光輝のイケメンスマイルやセリフも効果がなく、キョトンとした表情で

 

「えっ? 何で光輝君の許しがいるの?」

 

素で光輝に聞き返すのだった。これには思わず雫が「ブフッ」と吹き出し、この話しが聞こえてきた士郎、当麻も口元を抑えて笑いをこらえているのだった。そして、スバルはというと、

 

「あっははははははははは!!」

 

周りが注目のするぐらい大笑いしていた、本人曰く「笑える時に笑っておけ」という父の教えを実行しているだけなのだが、あまりにも笑い続けるので光輝も良い顔はせず。眉間に少し皺を寄せてスバルを見るのだった。そして、スバルの笑いが収まった時、何とも言えないゲスい顔で光輝を煽り始めた。

 

「いや~白崎の言う通りだよ。何で白崎の弁当の中身をあげるのにわざわざ天之川の許可がいるのかな~? 白崎の彼氏じゃあるめぇーし、ねえ何でかな、ねぇ?」

 

光輝をどこか見下すような顔で質問するスバル、親友のこの姿に、ハジメ、士郎、当麻は「あっ、またいつもの悪い癖だ」と瞬時に思った。どうも、スバルは悪い傾向として相手の弱みやおかしな所などを見つけると煽るようにしつこく質問してくるのだ。最も誰でもという事ではなく一応相手を選んでいるみたいだが…………そして、それを止めるのが大抵、士郎かレムだった。

スバルがウザイ顔で光輝に迫るなか、士郎は「やれやれ」といった感じで立ち上がりスバルに迫ると後頭部にチョップをくらわした。結構痛かったのか頭を抑えるスバル、士郎は「連れが迷惑かけた」と一言スバルの代わりに謝り、裾を引っ張り無理矢理スバルを連れて帰るのだった。そして、皆がスバルに注目している間にハジメはこっそり教室を抜けようとして席から立ち上がった時、

それは起こった。

ハジメの目の前、光輝の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。それは徐々に輝きを増していき一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。たまたま教室にいた担任の愛子先生がとっさに「皆、教室から出て!」と叫ぶのと同時に幾何学模様は爆発するかのように光った。

 

 

数分後、光は収まり、いつもの教室が浮かび上がった。だがそこに生徒、担任の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 




後編は少し長くなります。出来たら明日には投稿したいですかね。


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異世界トータスへ 後編

何とか書けました、後編です。



スバルは不思議な空間をさまよっていた。自分は経験したことはないが、まるで宇宙空間にいるかのように無重力の中、浮いているのだった。

その時声が聞こえてきた、

 

’’お前に力を…………どうか、私の友を……愛する者を……………救い出してくれ…’’

 

優しそうな男の声がスバルの耳に聞こえてきた。それと同時に右手の平がやけに熱く感じた。声の主はスバルの知り合いに照らし合わすも誰も該当するものはいなかった。とっさに誰なのか尋ねようとするも再び光が強く輝き出し、スバルの視界を奪うのだった。

 

 

再び視界が戻った時、そこに教室ではなかった。目の前にはルーブル美術館に飾ってあるような巨大な壁画、周りは彫刻が彫られた巨大な柱に天井はドーム状になっていた。そして、台座の上に立っているのか周囲より位置が高い場所にいた。そして、あの教室にいた全員がその台座の上に立っていた。ハジメや士郎や当麻、レムはもちろん、光輝達や檜山達、他クラスの生徒、担任の愛子先生もいた。

誰もが状況を呑み込めていないのか、呆然と周囲を見渡すクラスメート達、その時一人だけ、レムだけは、どこか苦しいのか、胸元を抑えているのだった。

スバルが「大丈夫かな?」と思った時、ふとさっきの光景を思い出した。誰か分からない声、やけに熱かった手の平、スバルはゆっくり自分の右手の平を見た。

 

「なんだ…………これ?」

 

そこには直径六センチ程の円状の幾何学模様、もとい魔法陣が描かれていた。さっき自分達を囲んだものとは別の魔法陣らしく、さっきよりもぎっしり複雑な模様が描かれていた。そして、とっさに周りのクラスの連中の手を見るも、誰もスバルと同じ魔法陣を持ったものはおらず、どうやら自分だけのようだ。

 

「ようこそ、トータスへ勇者様、そしてご同胞の皆様。」

 

声が聞こえてきたのでスバルはとっさに手を下して右手は握りこぶしを作った。何となくだが誰かに見られてはいけないと本能で悟ったからだ。

 

「私は聖教教会にて教皇の地位に就いております、イシュタル・ランゴバルドと申す者。以後よろしくお願いいたしますぞ。」

 

そう言って煌びやかな法衣をまとった七十代くらいのイシュタルと名乗った老人は好々爺然とした微笑みを見せた。

 

 

さて、場所が変わり異世界に飛ばされたクラスメイト達はテーブルがいくつもの並んだ大広間に通され、適当に座ってこの世界とその現状についてイシュタルは話し始めた。

 

要約するとこうだ。

 

まず、この世界は’’トータス’’と呼ばれ人間族、魔人族、亜人族、の三つの種族があり、人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、主な亜人族は東の巨大な樹海の中で生きていたり、各地にひっそりと隠れている者もいるみたいだ。

この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

そしてここ数年で魔人族が魔力を取り入れた魔物を使役し始めており、これに対して人間族は滅びの危機を迎えているのだという。

 

「あなた方を召喚したのは’’エヒト様’’です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という’’救い’’を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、’’エヒト様’’の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい。」

 

イシュタルはどこか恍惚こうこつとした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

これらのことから分かることは、どうやらこの世界の人間はエヒトと呼ばれる神を異常までに崇拝していることだ。スバルは神の意思を疑わず従順と慕う人々の考えにどこか危機感を感じていると、これに猛抗議する人物が現れた。

 

担任の愛子先生だった。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

「生徒を危険な目にましてや人殺しをさせるなんてもってのほか、そんなこと絶対させません」と想いが伝わってくるような勢いで怒る愛子先生。必死になって生徒のために怒っている良い先生なのだが、どうも、迫力が欠ける。何せ身長百五十センチの童顔ではたから見れば小学生が必死になって怒っているようにしか見えないのだ。まぁ、そんな可愛らしさもあって生徒から非常に人気があり、’’愛ちゃん’’という愛称で呼ばれ親しまれているのだが本人はそう呼ばれると凄く怒るのだ、何でも威厳ある教師を目指しているのだとか。

さて、愛子先生筆頭に他のクラスメイトも抗議するのだが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

その言葉に愛子先生も抗議していた生徒達も全員が凍りついて静まり返った。そして、イシュタルは続けた。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということです。」

 

その言葉に愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とすと他のクラスメイト達は騒ぎ始めた、今の現状に納得いかない者、怒る者、今にも泣き出しそうな者、人それぞれだ。ハジメや士郎、当麻やレムは騒ぎはしなかったが良い表情ではなかった。

そして、スバルもまた他の生徒と違って騒ぐことなく’’ある一点’’を見ていた。

 

特に口を挟むことなくパニックを起こしている生徒を静かに眺めているイシュタルを…。

 

 

 

さて、未だパニックが収まらない中、ある人物がテーブルをバッンと叩いて立ち上がった。その音にピックとなり注目する生徒達、立ち上がったのはクラス一のカリスマ持ちの光輝だった。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい。」

 

イシュタルのその言葉にギュッと握りこぶしを作り「世界もクラスの皆も救って見せる」と高らかに宣言する光輝。

光輝の言葉に親友の龍太郎も「俺も行くぜ。」と立ち上がり、雫も「やれやれ」といった感じに納得いってない所もあるみたいだがとりあえず賛同し、そして、「雫ちゃんがやるなら私も。」と言って決意を固める香織、いつものメンバーが光輝に賛同し当然の流れのようにクラスメイト達も賛同していった。愛子先生はオロオロと「駄目ですよ~。」と涙目で訴え、ハジメや士郎、当麻、レムは声を出して賛同するこそはしなかったが、その場の流れで強制賛同する形となった。

そして、スバルはというと、勝手に物事を進めて戦争に参加することを決めた光輝に「何、勝手に決めているんだゴラァ!」と多少の怒りや不満があったものの、’’ある事’’を予想したので、とりあえずこの場を収めた光輝に少しだけ脱帽するのだった。

 

 

その後クラスメイト達はイシュタルの先導の元、エヒトを讃える宗教、聖教教会本山の神山を降りて麓にあるハイリヒ王国に向かった。王国に入るとこの国を収め、今後お世話になる国王、王妃、またその子供の王女に王子の謁見、また戦闘の指導係となる騎士団長や高い地位にある者の紹介の後、華やかな晩餐会が開かれた。

クラスメイト達は一時戦争をすることを忘れ、異世界料理に舌鼓した後、晩餐会が終わり解散となった。

 




次回、原作にはないオリジナル回を二話程予定しています。

ハジメやスバル達が迷宮でどうなるのか、まだまだ先になりますが………どうか、飽きずにお待ちください。


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今、安心する場所は…

お待たせしました。
短いですが、どうぞ。




晩餐会が終わったその日の夜、ハジメの部屋にスバル、ハジメ、士郎、当麻の姿があった。

晩餐会が終わった後、ハジメは部屋に案内されて今日一日の怒涛の展開で疲れが出たのか早々に休もうとした所、スバルが士郎、当麻を連れて「話がある」とやって来たのだ。ハジメも疲れていたのか一度は断ったが、何度も頼んできたので渋々入れた。

ちなみに士郎も当麻もスバルに無理矢理連れて来られたのか、どこか不機嫌そうだった。

 

「で、話って何なの?」

 

どこか不機嫌なハジメがスバルに問いかけると、

 

「えっ? いや、話って言うほど話しはないんだけど……こうして4人集まった事でホッとしたというか、緊張が解けたというか……」

 

「用がないなら帰ってよ。」

 

「ひどい!?、せっかく親友が合いに来たのにそんな態度取るなんて。」

 

スバルの言葉に素っ気ない対応をするハジメ、そこに普段大人しいハジメはなく物事をハッキリ言う姿があった。最も友達の前だからこういう姿になっているかもしれないが、

 

「でも、スバル君。トータスに来てから大人しいかったですよね、いつもなら来た瞬間「うお~スゲー。」と言って走り回ってそうだし、メイド見ても「うおー生メイド!」と言ってそうなんだけど言ってなかったし。」

 

「それに光輝が戦争に参加するって言った時も嚙みつかなかったよな? いつものお前なら嚙みついてそうだし………。」

 

当麻と士郎が今日の出来事について、また、やけに物静かだったスバルの様子を思い返すのだった。

 

「当麻……俺を犬かと思ってないだろうな? まぁ、俺だって最初は色々期待はしたさ。でもイシュタルとこの世界の現状を知ってから、どうも素直に喜べなくて…むしろ危機感を感じたぜ。」

 

「危機感?」

 

スバルの言葉に当麻は聞き返した。

 

「ああ、この世界の人間はエヒトっていう神を崇めているだろ? 別に神の一つや二つ、崇めるのはいいんだけどよ…このトータスの人間は異常までに崇めている。あのイシュタルって奴も「神託だ」と言って全く疑うどころか信じ切っていた。この調子だと、もし、神託が来てクラスの連中に「アイツらは異端者だ、すぐ殺せ」っていうのがきたら周りの連中は何の迷いもなく実行するだろうな…」

 

スバルが言う危機感に驚愕し、ハジメも「ありえるね…。」と言って苦々しい顔をするのだった。

 

「あと、士郎。光輝の件だが、俺だって最初は不満はあったさ。でも、あれはあれで良かったと思う。」

 

「ええっ!? 戦争することに賛成だっていうのか?」

 

「ちげぇよ、戦争することは反対だけどよ、あの場の混乱を止めたことにだよ!」

 

士郎の勘違いに勢いよく否定するスバル、そして、一呼吸おいて話を続ける。

 

「いいか、俺達は別世界から召喚された。それがエヒトなのか分からないが何らかの魔法や術、未知なる力がこの世界にあるってのは確かだ。そんな世界だからこそ人を操る力が一つや二つあってもおかしくないんだ…もし、あのまま全員で抗議を続けていたら………」

 

「操られていた……。」

 

「そういうことだ、流石はハジメ君。オタクの知識と発想が生かされているよね~」

 

「それ、褒めているの?」

 

「俺は褒めているつもりだぜ。」

 

スバルの言葉がどこか小馬鹿にされたような感じがしてシド目でスバルを見るハジメ。

 

「なるほどね。色々考えていたんだなスバルは…というか普段から何故その落ち着いた様子を見せないんだ?」

 

士郎は意外にもスバルの思慮深さに感心するも、何故それを普段からしないのか尋ねると、

 

「そりゃあ、安心できているからだよ。元の世界は少なくとも安全な場所だろ? だけどこの世界…トータスは俺らにとって知らない所で未知なる所、元の世界より危ない所かもしれない………危ない所ではしゃいでも危ないだろ?」

 

スバルの言葉に「何だよそれ」と言って笑う士郎。ハジメ、当麻もつられて笑っていた。

 

「そして、俺にとって安心する場所、それは……………ここだ。」

 

そう言ってスバルはハジメ、士郎、当麻を見渡した。このトータスに来てスバルが一番安心する場所、それは他ならぬハジメ、士郎、当麻、そして自分を含めて小学校の幼馴染四人が集まるこの場所なのだ。それは三人にも言えたことだ、もちろんクラスにも信頼できる人物はいる。だが、今一番に信頼できる人物は、目の前にいるのだ。ここにいる誰もがそう思った。

そして、四人は一言も喋ることなく、どこか嬉しそうにお互いを見渡した後にスバルが勢いよく立ち上がった。

 

「まぁ、せっかく異世界に来たことだし、何か異世界っぽいことするか。ということで今から中庭に行かないか?」

 

「中庭? 中庭で何するの?」

 

ハジメは首をかしげるとスバルは「やってみたいことがあるんだ。」と言って先に部屋のドアの前に立った。

 

「お前ら先に中庭に行っといてくれないか? 俺は少し準備をしてくるぜ。」

 

そう言って先に部屋から飛び出すのだった。

 




いかがだったでしょうか?
次回で、ようやく長い一日が終わります。


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誓い、4人で…

ようやく、トータスに来てからの長い一日が終わります。
それでは、どうぞ。


城内の中庭ににやって来たハジメ、士郎、当麻、そこにスバルの姿はなかったので三人は待つことにした。待つこと五分、「アイツ…また変なこと企んでないだろうな。」と三人がそれぞれ思い始めた時、

 

「お~い!」

 

そう言って駆け寄ってくる者がいた。声がした方を振り向くとスバルが駆け寄って来ていた、その手に何かを抱えて来て。

 

「何してたのスバル?」

 

「へへっ…ちょっとね。いるものを借りてきたのさ、ハイ、これハジメの分。」

 

そう言ってスバルはハジメにあるものを渡した。

 

「これって…剣?」

 

そう言ってスバルから受け取った物、それは鞘に収まった細身の西洋剣だった。そして、士郎、当麻にもハジメと同じような物を渡して自分も皆と同じ物を手にするのだった。

 

「剣なんか持ってどうするんだ?」

 

「もしかして今から練習するの?」

 

士郎、当麻がスバルに尋ねると「違う違う」と言って笑いながら否定した。そして、スバルは逆に三人あることを尋ねた。

 

「なぁお前ら………’’桃園の誓い’’って知っているか?」

 

「トウエンノチカイ?」

 

当麻は知らないのか首を傾げた。

 

「桃園の誓いって、確か……」

 

「あの三国志の奴の?」

 

士郎、ハジメは知っていたのか二人で桃園の誓いについて思い浮かべていた。

 

「そうそう、それ。俺、ちょっとそれに憧れていてさ、今から四人でそれをしないか?」

 

スバルの提案にハジメ、士郎は。

 

「僕ら四兄弟になるの?」

 

「まさか俺が長男って言わないだろうな?」

 

ハジメと士郎の言葉にスバルは「ちげえょw」と言って否定し、当麻は知らないのかポカーンと蚊帳の外にいた。とりあえずスバルは今からする内容を三人に告げた。

 

「今からするのは兄弟の契りじゃない、’’親友の契り’’だ。これから先、どんな困難があるのか分からない。想像つかないこともあるかもしれない………。」

 

’’だから’’とスバルは前置きして、

 

「どんなことがあっても、俺達四人はずっと’’親友’’っていう契りを結ぶんだ。あと、誓いらしく、このトータスでどうしたいのか、どう生きたいのか…それぞれ目標も言おうぜ。」

 

と、言ってスバルは「どうだ?」と三人に尋ねた。すぐに反応を返したのは桃園の誓いを知らなかった当麻だった。

 

「いいね、それ! やろうよ!」

 

「…そうだね。」

 

「まぁ、目標は大事だよな。」

 

当麻に感化されたのか続けて賛成を示すハジメと士郎。

内心「めちゃ良いシチュエーションだなおい!」と少し心躍らせていたのはハジメだけの秘密だったりする。

 

「よし、じゃあ決まりだな。やり方は目標や目的を言ったら勢い良く剣を上に掲げてくれ。」

 

そう三人に説明したスバルは「で、トップバッターは誰にする?」と言って三人を見渡した。そして、ここでも積極的に動いたのは当麻だった。

 

「僕から言うよ。」

 

当麻はそう言って目をつぶり一呼吸入れた。三人は黙って当麻を見守っており一呼吸おいた当麻は目をあけて言葉を口にした。

 

「僕は……元の世界ではいつも士郎君やハジメ君、スバル君に支え守られてばかりだった…だから、変わりたい…弱い自分を、守られてばかりいる自分を変えたい!」

 

そう言って「僕は…」と前置きして、

 

「この世界で強くなる! 強くなって大切な人を、心の底から信頼する親友を守ってみせる!!」

 

そう言い切った当麻は勢い良く剣を抜いて天に掲げた。やり切った感があるのかどこか爽やかだった。

当麻が言った後、「じゃあ次、俺いくは…」と言って士郎が名乗り出た。士郎も一呼吸おいて、想いを口にした。

 

「俺は、そうだな……これといって’’何かを成し遂げたい’’っていうのはないんだよな………ただ、しいて言うなら、お前らを支えたい。色々危なっかしい所もあるし、特にスバル! お前が一番危なっかしいから心配だ…。」

 

そう言う士郎にスバルは「何だよそれ。」と言って口をとがらせて、残りの二人は「確かに。」と言いたそうに笑うのだった。そして士郎は言葉を続けた。

 

「あらためて宣言する! 俺はお前らを支え、お前らが出来ない事を俺がやってやる。陰日向になって、お前らの支えとなろう!」

 

そう言い切った士郎は勢い良く剣を天に掲げ、最初に掲げた当麻の剣に当たってカキィーンと鳴り響いた。

当麻と士郎が言い終わり、スバルとハジメは顔を見合わせた。そして、ハジメがコクッと頷いてから一呼吸入れ、言葉を口にした。

 

「僕は……戻りたい、元の世界に。まだ、やりたいこと、やり遂げてないことが沢山あるんだ……それに、父さんも母さんも心配していると思うし……。」

 

そう言って、元の世界で友達に続いて自分の趣味の良き理解者である父と母を思い浮かべた。今頃オロオロして心配しているだろうなと思いながら、言葉を続けた。

 

「だから僕は…帰るんだ! どんなことがあっても、ここにいる三人と一緒に元の世界に帰ってみせる。」

 

そう言ってゆっくりと剣を抜いて、当麻、士郎の剣に添えるように剣を掲げた。

当麻、士郎、ハジメが言い終わり残るのはスバルのみだった。三人はスバルの顔を見て期待の眼差しを向けた。それに気づいたスバルはゴホンっとわざとらしく咳払いをして、言葉を発した。

 

「俺は……この世界でもお前らと楽しみ、思い出を作りたい。一生に残る異世界ライブを過ごしたい。」

 

「そして、」とスバルは前置き、

 

「俺は、どんなことがあってもお前らの親友だ! 例え、姿、形が変わろうとも…お前らの親友としてあり続ける!」

 

そう言ってスバルの最後の剣が掲げられ、当麻、士郎、ハジメ、スバルのの四つの剣が揃った。

そして、スバルは続けて宣言するのだった。

 

「我ら四人、改めてここに親友の契りを交わす。例え、ぶつかり合う事があろうとも、強大な困難が迫ろうとも……共に助け合い、お互いを尊重し、信じ合うことを今ここに……」

 

「「「「誓います。」」」」

 

最後は誰が意図した指示でもなく、自然に四人の声が出て重なっていた。そして、この誓いを認めるかのように天に掲げて重なっている剣が耀き出した。雲に隠れていた月が顔を出し、四人を包み込むかのように月光が降り注いだからだ。誰もがこの光景を目に焼き付け、この誓いを一生忘れないだろうと思った。

後にこの誓いは四人の中で’’月下の誓い’’と名付けられることになり、また、これを見ていた者が何人かいたのだが……それはまた、別のお話しとなる。

 




作者的に剣を掲げて誓いを立てることに憧れがあります。
印象に残っているのは某三国系無双ゲーム三作目の桃園の誓いが印象に残っています。

次回、主要メンバーのステータス発表となります。


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ステータスプレート

お待たせいたしました、今年最後の投稿になります。

いよいよスバルの天職が明らかになります。



四人の’’月下の誓い’’から翌日、早速訓練と座学が始まった。

まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだ。スバルはこのメルドという人物がこのトータスに来て初めて信頼できる人物だと思うのだった。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

メルド団長の言葉に「アーティファクト」という聞きなれない言葉が出て、クラス達が疑問に感じていると、

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属けんぞく達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

なるほど、と頷き生徒達は顔をしかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると…………

 

 

 

==============================

 

影山スバル 17歳 男 レベル:1

天職:融合者

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:融合・言語理解

 

===============================

 

 

と表示された。スバルはゲームのキャラにでもなったようだと感じながらステータスを見ていると、メルト団長からステータスの説明がなされた。

どうやらレベルが上がれば各ステータスが上がるという事ではなく、レベルはその人間の到達できる領域の現在値を示しているとのことだった。そして、ステータスは日々の鍛錬で当然上昇し、魔法や魔法具で上昇させることも可能だという。

次に天職だが、それはその人が持っている才能であり末尾にある技能と連動していて、その天職の領分において無類の才能を発揮するとのこと、ちなみに戦闘系は四人に一人、非戦闘系は百人に一人の割合みたいだ。

スバルは改めて自分のステータスを見た、天職覧には’’融合者’’とある、どうやら融合というものに才能があるようだが…………

 

「(融合者って何の才能があるのだ?)」

 

頭の中で考えるスバル、融合ということだから何か合体させることに才能があるのだろうか?………そんなことを思っているとメルド団長が、

 

「ちなみにだが、大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 訓練の内容の参加にしたいから、後でステータスプレートの内容は報告してくれ。」

 

「(えっ?)」

 

団長の言葉に改めて自分のステータスを見た。ステータスは見事に’’10’’が綺麗に並んでいるのだ。確か自分達は上位世界の人間だからトータスの人達よりハイスペックだとイシュタルが話していたはずなのだが……どう見ても平均なのだ。

 

「(うわっ…………俺のステータス、平均じゃん……?)」

 

口元を片手で押さえてステータスを見るスバル、はたから見れば某ネット広告に見えなくもない。自分が平均なら他にもいるはずと思い、辺りを見渡すも皆、顔を輝かせていた。「まさか俺だけ?」と思ったが一人だけ冷や汗をかいている人物がいた。

 

南雲ハジメだった。

 

スバルはハジメに近づき恐る恐るステータスについて聞いてみた。すると何とも言えない顔で黙ってステータスプレートを見せてくれた。見てみると自分と同じオール’’10’’であり、技能も二つだけだった。

スバルも自分だけ見るのは悪いと思い、自分のステータスを見せた。ハジメはそれを無言でまじまじと見て、そして、スバルのステータスを見終わりスバルの顔を見た。

スバルもつられてハジメの顔を見るのだった。

 

「「…………。(ガシッ)」」

 

お互い無言で見つめあった後、握手を交わした。どちらが意図したわけではない自然と手が出ていたのだ。「お互い頑張ろう。」二人はそんな思い出握手を交わしていると、首を項垂れながらフラフラと近づいてくる人物がいた。

 

入江当麻だ。

 

当麻は二人の前まで来て跪き、頭を垂れた。スバルとハジメが「どうした?」と言って駆け寄ると当麻は無言で自分のステータスプレートを見せた。

 

 

 

==============================

 

入江当麻 17歳 男 レベル:1

天職:気術士

筋力:5

体力:5

耐性:5

敏捷:5

気力:100

魔耐:5

技能:気力操作・言語理解

 

===============================

 

 

 

二人は言葉をなくした。まさか自分達より下がいるのとは思わなかったのだ、それと同時に自分達のステータスプレートを見せるのをためらった。もし、見せたら今にもどこかに去りそうに思えたからだ、するとここでスバルはあることに気づいた。

 

「この、’’気力’’ってのは何だ?」

 

一つだけずば抜けて高く、自分達のステータスプレートにのってない項目が気になって尋ねるスバル、当麻はピクッと身体を震わせて黙り込むも意を決して話し始めた。

まず、気力について話す前に天職、’’気術士’’について話しておこう。

気術士とは万人に一人の割合で得る事が出来る非戦系の天職だ…………もう一度言おう()()()()()()()

気術士になると魔力に代わって’’気力’’という表記になり、自然と気力操作の技能を得るのだ。この気力というものは何に使えるかというと………………主に血流を良くしたり、筋肉をほぐしたりすることに役立つのだ。

更に言うと気力は魔力に代わるようなものではなく、魔法を発動する魔法陣に気力を流しこんでも魔法は発動しないのだ。つまり、当麻は魔法の適正でうんぬん悩むどころか、全く魔法が使えない存在なのだ。

そして、このトータスでは気術士=マッサージ師ということ広く伝わっており、確率が低い割には全くメリットがない、得る事が出来たら「本当に運がなかったな」と言いようしかない天職なのだ。

万人に一人の非戦系の天職、ステータスは平均以下、魔法は全く使えない、この三つが備わったステータスプレートを見たメルド団長は(本人に一通り天職について説明した後)かける言葉が見つからず、ただ黙って落胆する当麻の肩に手を置くことしか出来なかった。

 

「…………その何というか、」

 

「頑張ろう、本当に俺ら超頑張ろうぜ…。」

 

入江の話を聞いてどう声をかけていいのか分からないハジメ、それに続いてとりあえず自分を含めてくれた三人を鼓舞するかのように声をかけるスバルだった。

 

 

 

さて、メルド団長にステータスプレートを見せる順番が二人にも回ってきた。スバルとハジメは同時にステータスプレートをメルド団長に見せた。団長は「ん?」と少し驚いた後、二人のプレートを見た。そして、見る見るうちに物凄く微妙な表情をしていくのだった。一応二人は自分達の天職に対して聞いてみた。

ハジメの錬成師は鍛冶師の事で十人に一人は持っている非戦系天職だった。

それを聞いたハジメは「やっぱり」と内心ため息をした。後ろでそれを聞いていたのか檜山達、またクラスの一部の男子達はニヤニヤと笑っていた。そして、スバルの融合者については、

 

「う~ん、初めて見る天職だ。俺も知らないな。」

 

そう言って団長は頭をひねらしていた。これを聞いたスバルはハジメ、当麻には悪いと思ったが未知なる点に少しだけ期待を膨らますのだった。

その後、団長は「少し休憩をとるぞ。」と言ってどこかに行ってしまうと、早速ニタニタ笑いながら檜山達が絡んできた。

 

「おいおい南雲、お前非系だろ? そんなんで戦えるわけ?」

 

「つーか、さっきチラッと二人のステータス見たんだけどオール10だったぜ。」

 

「マジ!? 完全に一般人じゃねえか!!」

 

「しかも入江に至ってはオール5で魔法は全く使えない。」

 

「ぎゃははは~無理無理こいつら死ぬわ!」

 

檜山と近藤が二人で盛り上がり、それにつられて斉藤、中野も笑うのだった。

ここでいつもなら親友をバカにされてスバルが黙っているわけでもなく檜山達に吠えようとした時、先にウガーと怒りの声を発する人がいた、愛子先生だ。

 

「こらー! 何を笑っているんですか! 仲間を笑うなんて先生許しませんよ! ええ、先生は絶対許しません!」

 

ちっこい身体で怒りを表す愛子先生。その姿に毒気を抜かれたのか檜山達は笑うのをしぶしぶ止めるのだった。

 

「南雲君、影山君、それに入江君…………気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。君達だけじゃありませんからね!」

 

そう言って「ほらっ」と愛子先生はステータスを見せた、ハジメ、スバル、そして、気になってやって来た当麻はそのステータスを見た。

 

 

 

=============================

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

===============================

 

 

 

これを見た瞬間、三人は様々な反応をした。ハジメは死んだ魚のような目で遠くを見だし、当麻は再び跪いて落ち込み、スバルは身体を震わせながら頭を項垂れていた。「あれっ、どうしたのですか?」とオロオロする愛子先生、確かに全体のステータスは低いのだが、それをカバーするかのように技能数が多いのだ。しかも、この技能で戦争における食料問題がほぼ解決したのだ。三人以外はほぼチート、自分達と同じと期待していた愛子先生も十二分にチートと見せつけられて…………とうとうスバルの中で何かが弾けた。

 

「先生!! それ嫌味か? 俺達に対する嫌味なのか!? ふざけたことをしやがって!! もう少し自分のステータスを見て行動しやがれ、このクソチビ教師!!」

 

「なっ! 私はあなた達を思ってですね……それよりも影山君! 何ですか、その言葉づかいは!? それが教師に対する口の聞き方ですか!? 許しません、そこに座りなさい! お説教です!!」

 

「うるせぇー! ここは異世界で教師陣もいなければ、教育委員会もいないんだ!! 怖いものなんかあるか、とっちめてやるぅ!!」

 

そう言ってスバルは愛子先生の両肩を掴み、物凄い勢いで前後に揺らし始めた。流石に暴力はいけないと分かっているのか(というのも父の教えで女は殴るなと教わっており)殴るようなことはせず、精一杯の抵抗として身体を揺らすことにした。身体が小さいこともあり、愛子先生は激しく揺さぶられて「ちょっ、やめな、やめ、やめ~て~」と言葉が最後まで言えないでいた。

これを見たクラスの生徒の一部(士郎を筆頭にして)が止めに入った。当麻は跪き、その横で担任の身体を激しく揺らすスバル、そして、それを止める士郎。

何とも言えないカオスな状況を見てハジメは深いため息をつき、その様子を見ていたレムは、

 

「(皆さん、ファイトです。)」

 

と、三人に心の中でエールを送るのだった。

 

 

 




いかがだったでしょうか? 「これだけじゃあ、分からない」という方も多いでしょうが、話が進むにつれてスバルと当麻の天職の解明をしていきたいと思います。

来年も地道に頑張っていきますのでよろしくお願いいたします。


それでは、良いお年を!!


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イジメ

皆さん、あけましておめでとうございます。

新年に入って初めての投稿です。

それでは、どうぞ。


「悪いなスバル、買い物に付き合ってもらって。」

 

「いいって、いいって。ちょうど暇してたことだし、いい時間潰しになったぜ士郎。」

 

三人の最弱ぶりと役立たず具合を突き付けられた日から二週間が経った。現在、スバルと士郎は王宮の中、買い物袋を持って士郎の部屋に向かっていた。

先程の会話からして、どうやら二人は街に買い物に出ていたようだ。士郎の部屋に着くと二人は部屋に入り、テーブルの上に今日買った買い物袋を置いた。士郎が買った物を整理しているなか、スバルは買い物袋に手を入れて何かを取り出した。

それは瓶に詰められていた薬草だった。

 

「あ~あ、いいよな、士郎は…。表でも裏方でも活躍できる天職を持っててさ。」

 

どこか不貞腐れたように言うスバルの言葉に「うっ」と作業の手を止め、その後ため息をする士郎。

 

「スバル、その言葉は前も聞いたぞ…これで何回目だよ。」

 

「524回」

 

淡々と答えるスバル。

 

「覚えているんだな。」

 

「あれは噓だ。」

 

「だと思った。」

 

そう言った士郎は何事もなかったように荷物の整理をしていくのだった。

さて、ここで何故、スバルが不貞腐れているのかと言うと……それは士郎の天職とステータスにあった。

 

 

 

=============================

望月士郎 17歳 男 レベル:7

天職:野伏

筋力:145

体力:170

耐性:135

敏捷:180

魔力:130

魔耐:140

技能:弓術[+速射]・剣術・短剣術・投擲術・縮地・気配感知・魔力感知・調合・追跡・気配遮断・言語理解

===============================

 

 

 

見ての通り申し分ないステータスに技能の数、これがスバルが不貞腐れている理由だった。四人の中でクラスに並ぶチートステータスに天職の野伏(この世界では’’レンジャー’’と呼ばれている)は前線に立つ事が出来れば偵察や諜報活動もできる。

一応、’’暗殺者’’という隠密行動が出来る天職もあるのだが暗殺者の違いは、まず、弓を扱うことが出来る’’弓術’’があることだった。

これは士郎にとって非常にありがたかった、なにせ、元の世界は弓道部に入っておりその実力は全国クラス並、士郎に持って来いの技能だった。

次に’’調合’’だが、これは薬を作る技能であり、これがあれば様々な薬を作ることができるのだ。

これも一応非戦闘職に’’調合師’’という天職があるのだが調合師に比べて熟練に達するまで時間はかかるみたいだが、鍛えればそれなりに薬を作ることができる技能だ(ちなみに今回の買い物も薬作りに必要な材料を揃えるためだったりする。)

今の所、作れるのは煙幕のように使える’’煙薬’’、魔力を回復する’’魔法回復薬’’、一日に必要な栄養が取れる’’栄養薬’’、この三つである。

総括すると、前衛で剣を振ることも出来れば後衛での弓で援護でき、また、隠密行動などの裏方にも適しており、調合した薬でサポートにも回れる、言わば士郎はオールラウンダーなのだ。

ちなみに余談だが、士郎は初めこのステータスを見た時、周囲(主にスバル、ハジメ、当麻)に隠すつもりだった。三人が低いステータスの中、自分だけ高いステータスに罪悪感を感じていたことと、身の危険を感じたためだが、その日のうちに三人に迫られ、スバルに無理矢理ステータスプレートを奪われた挙句、ステータスを見られてハジメと当麻は更に落胆し、スバルに至っては涙目を浮かべながら腹パンを受けることになった。

 

 

 

「それでさ、お前らのステータスに何か変化があったのか?」

 

「それがさ士郎、実は…」

 

あれから二人は買った物の整理が終わり、次の訓練時間に間に合うように歩いていた。そして、ここでの話題はスバル、ハジメ、当麻のステータスについてだ。士郎は三人に「ステータスに変化はあったのか?」尋ねてみた。そして、スバルは三人のステータスについて話すのだった。

 

「努力はしているはずなのに、どうして大きく変化がないんだろうな。」

 

「そう、それだよ。さぼらず訓練に参加しているってのに、全然変化してないんだぜ! もう少しステータス上がってもバチが当たらないってもんだ」

 

士郎の言葉に強気に語るスバル。この二週間、四人はキッチリ訓練を受けてきた、士郎はそれなりに変化があったのか残りの三人はそうでもなかった。

スバルと当麻はあれから全ステータス、+5上がっただけで、ハジメに至っては全ステータス+2しか上がっておらず、これを聞いた士郎は「刻みすぎだろう」と内心突っ込みを入れた。

 

「でも、まぁ…お前らはすごいよ。ステータスを低くても卑劣にならずに自分達に出来る努力をしている所がさ。」

 

「士郎もそうだろ? 知っているぜ、夜な夜な薬の調合をして早く作れるようにしてるってことを。俺もそうだけど、ハジメも当麻も「クラスの足を引っ張らない」という想いは一緒だからな、皆各々、精一杯出来ることをしてるぜ」

 

この二週間、四人は訓練にとどまらずそれぞれ自分に出来る努力を続けていた。スバルが言ったように士郎は夜な夜な薬の調合を行い、いつ何時に使えるように魔力回復の薬などを増やしていた。

ハジメは空いている時間を見つけては錬成の練習を行い、せめて戦闘に生かせないか色々試してみたり、また図書館にこもっては本を読み漁りこの世界の知識を取り入れていた。

当麻も空いている時間を見つければ街に出て、お年寄りや身体の痛みを訴える人相手に気を操作して癒しを与えていた。

そして、スバルは戦場でスタミナ不足にならないように訓練が終わった後、筋トレをしており、腕立て、腹筋など五百回してから王国をランニングで一週するなど、身体を鍛えていた(もちろん、筋トレ終わりは当麻の気でマッサージを受けて、次の日もきちんと動けるようにしていた。)

 

「(努力しているとはいえ、それでもまぁ…不安だよな。それに、俺の天職も、この右手の魔法陣も一体何なのか分からないし…)」

 

スバルは包帯で巻かれている右手を見つめて、顔には出さないが内心不安の声を出す。訓練や努力を続けてもステータスの変化は大きく変わらない、この先、敵が現れても戦っていけるのか、ちゃんと大切なものを守り切れるのか、度々不安になることがあるのだ。

その不安の一つとして自分の天職も含まれていた。あれから自分なりに色々試してみたが変化はなく、親友達(ハジメ達)にもある程度話して手がかりになるようなものを一緒に探してもらっているのだが一向に見つからず、図書館によく出入りするハジメさえも「そんな文献はなかった。」という始末だった。

「この先、本当にやっていけるのかな」と思いつつ、スバルと士郎は訓練施設に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練施設に到着する二人、既に何人もの生徒がやって来ており、それぞれ談笑してたり自主練をしてたりしていた。

 

「さて、ハジメと当麻はもう来ているのかな?」

 

スバルがそう言いつつ辺りを見渡した、訓練をする時はいつも四人で行動しているのだ。士郎も一緒になって見渡すも見つからなかった。

スバルはたまたま近くで談笑していた生徒、おっさん顔の永山重吾、ちょっとだけクラスの嫉妬対象の野村健太郎、そして、珍しく目視出来た遠藤浩介に声をかけた。

 

「なあ影山、この作者俺に対してサラッと失礼なこと書いていなかったか?」

 

「気のせい気のせい。ところでお前ら、ハジメと当麻を見てないか?」

 

「「「……………。」」」

 

 

スバルの問いかけに三人は黙り込んだ。そして、お互い少し目を合わせたら下を向いたりして答えることはなかった。まるで何か言うのをためらうかのように。

その様子にスバルが首を傾げていると、後ろから士郎が声をかけてきた。

 

「なぁ…スバル。偶然かもしれないんだけど、檜山達もいないんだが……。」

 

「えっ?」

 

そう言って辺りを見渡した。確かに他の生徒達は見えているが、檜山達の小悪党四人組が見当たらなかった。ハジメと当麻と檜山達四人組、このメンバーがいないということは、そこから想像されることは。

 

「…クソッ!!」

 

スバルの脳内で最悪のシナリオが浮かび上がり、三人に背を向けて士郎にも構わず走り出した。もし、自分の考えが正しければハジメ、当麻は、檜山達四人組は……想像すると怒りが込みあがってきた。

スバルは「頼むから杞憂で終わってくれ。」と内心思いながら、ハジメと当麻を捜すのだった。

 

「あちゃースバル暴走仕掛けたな……早く行って止めないと。」

 

そう言ってスバルのあとを追いかけようとしたが………その前に。

 

「なぁ本当にハジメと当麻、ここに来たところ見てないんだな?」

 

「「「……………。」」」

 

士郎は再び三人に問いかけた。三人は答えようとせず、どこかそっぽを向いていた。そして、この様子を周りの生徒がチラチラと見ていた。士郎は視線を周りに向けると、何事もなかったかのように周りの生徒は談笑や自主練を再開しているのだった。士郎はこの様子に苦笑を浮かべると、

 

「そうか……………わかった、邪魔して悪かったな。」

 

三人にそう言ってスバルの後を追う士郎、多分ここにいる生徒は全員、ハジメと当麻が檜山達に連れて行かれている所を見ているのだろう。なかなか答えなかったのは、多分檜山達の報復を恐れて、もしくは単純にトラブルに関わりたくないという理由のどちらかだと考える士郎。イジメの報復やトラブル、どちらも関わりたくない気持ちは分からなくもないが………

 

「(複雑だよな。自分の友達がこんな扱いを受けているのは………。)」

 

やるせない気持ちで一杯の士郎。複雑の表情を浮かべながらスバルの後を追った。

 

 

スバルは訓練施設から少し離れていた所を走っていた、この辺は建物の死角が多く、人を連れ込むにはちょうど良い所だった。建物の角を曲がった時にそれを見つけた、ハジメと当麻の姿を。

しかしと言うべきか、当の本人達は地面にうずくまって苦しそうに身体を丸めており、そして、その近くには檜山達四人が立っており、檜山と近藤が容赦なく蹴りを入れ中野と斉藤はそれを見て笑っているのだった。

この様子にさすがのスバルはキレた。

 

「テメェらー俺の親友に何してやがる!!」

 

そう言って怒りの形相で叫び、右手に握りこぶしを作って檜山達に向かって走り出した。それに気づいたハジメと当麻は痛みで顔を向けることはできないが必死になってスバルの方を向こうとしていた。檜山達もスバルの存在に気づき二人に蹴りを入れるのをやめて、檜山は叫んだ。

 

「何だ、影山も鍛えて欲しいのか? だったら鍛えてやるよ!」

 

そう言って檜山達はスバルに向けて魔法を放ち始めた。火球や風球など下級魔法が飛び交うなかスバルは何とか避けながら近づくも多勢無勢、少しずつ避けきることができずに身体を掠めていき、そして、

 

「ぐわっあ!」

 

「「スバル!!」」

 

ハジメ、当麻のうずくまる前で檜山が放った火球がもろに当たり倒れ込んだ。すぐに顔をあげると風球の球を構えていつでも叩きつける準備をしている檜山がいた。

「まずい」とスバルが思った瞬間、いきなり別方向から風球が飛んできて檜山の風球を相殺したのだ。檜山達やスバル達が風球が飛んできた方を向くと魔法を放ったであろう右手を前に出しているレムとその横にいる士郎の姿があった。

 

「あなた達、何やっているのですか!!」

 

普段は見せることのない怒りの形相と怒号が檜山達に向けられて臆する小悪党四人組、士郎も何も言わないが普段見せることのない形相をして睨むのだ。

そして近藤が「俺らはただコイツらの特訓を…」と言いかけた時、

 

「特訓ね…。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

 

「南雲君! みんな大丈夫!?」

 

そう言って二人の声が聞こえてきた、スバルの後ろからだ。後ろを振り向くと雫と香織、そして光輝と龍太郎の姿もあった。光輝や龍太郎が檜山達の行動を非難すると流石に分が悪いと思ったのか、誤魔化し笑いを浮かべながらウサギのように立ち去っていくのだった。

 

「あのヤロー、謝りもせずに……イテテッ。」

 

「スバル君、無理してはダメです。皆さんも、大丈夫ですか?」

 

「待ってて、今、治療するね。」

 

スバルが起き上がろうと立ち上がるなかすぐにレムが駆け寄り無理に立とうとするスバルを止めた。そして香織もすぐに駆け寄り三人を治療魔法で癒していった。

 

「あ、ありがとう白崎さん。助かったよ。」

 

「すいません白崎さん。ありがとうございます。」

 

「悪いな白崎、助かるぜ。」

 

ハジメ、当麻、スバルがそれぞれ香織に感謝の言葉をのべ、士郎、レムも友人を助けてくれたことに感謝するのだった。

 

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

そう言って怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織、それを見たハジメと当麻は慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

 

「そうそう、今日はたまたまだったんだよ。だから気にすることないって!」

 

二人の言葉に香織は渋々ながら引き下がった。

 

「南雲君、入江君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫が言う。

 

「親友の俺達も頼れよ、ハジメ、当麻。」

 

「私も、あなた達はスバル君と同じ私にとって大切な存在です、いつでも頼ってください。」

 

八重樫に続くようにそう言う士郎、レム。その言葉に再度礼を言うハジメと当麻。

このまま綺麗に終わるとスバルは思っていたが、そうはいかなかった。

いきなり光輝が…

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

そう言ってハジメに説教をするのだった。しかも、どう解釈したのかいじめていた檜山達を擁護する始末、さらに説教は続き当麻にも及んだ。

 

「君もだよ入江。訓練が終わってすぐに街に行っているみたいだね。そんな所でホロホロなんかせずもう少し鍛錬をするべきだ! 聞けば魔法がつかえないんだろ? だったら、別のことで能力を伸ばさないと。」

 

「そのために街に出ているのに………」と当麻は言って反論する気はなかった、光輝の言葉に悪意がなく真剣に思って忠告しているからだ。だから当麻は「うん、そうだね…」と言って肯定するのだ。どこか悲しそうな表情で………

光輝の物言いに周囲の反応はというと、龍太郎は脳筋でハジメ達の努力を知らないので無言で「うんうん」と頷き、香織は「えっと…」と言って何て返事したら良いのか分からずにいて、雫と士郎は光輝の暴走に手で顔を覆いながら溜息を吐き、ハジメは半ば呆れていた。

そして、レムは光輝に笑顔を向けているのだが額に青筋を浮かべており、スバル達四人の努力を知っているため内心「コイツ、何言ってんだ?」という状況で、スバルに至っては歯を剝き出して睨んでいた。

雫は皆に小さく謝罪した。

 

「ごめんなさいね? 光輝も悪気があるわけじゃないのよ…」

 

「スバル気持ちは分かるが、押さえろよ。」

 

今にも光輝に飛び掛かりそうなので釘をさす士郎。スバルは士郎の言葉は聞こえていたのだが、どこか納得いかないのか睨むことをやめない。

 

「おい、スバル。」

 

「影山、何か言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうかな?」

 

「ちょっと、光輝!」

 

士郎、雫が双方止めようとする、ハジメは「じゃあ言わせてもらうけどな………」と前置きして、

 

「何も知りもしないで俺の親友を語るんじゃねぇ!! お前が思っているほど俺の親友は努力を怠っていない。それといつも上面で物を語るのはやめろ、不愉快だから。ちゃんと本質を見てから語れよな……それと最後に自分の言葉に、行動に、責任を持てよ。でないとお前……他人に迷惑をかけるどころか、自分を苦しめることになるぞ。」

 

そう吐き捨てるように言うとスバルは訓練施設とは違う方向に向かって一人歩き出した。そして数歩、歩いた所で立ち止まり、

 

「悪い、気分悪いから次の訓練休むわ。団長に聞かれたら適当に答えといてくれ。」

 

顔も向けずにそう言って再び歩き出した。光輝が何か叫んでいたが、それも無視してスバルは皆の前から立ち去るのだった。

 

「スバル君………」

 

レムはただ、悲しそうにスバルの背中を見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

スバルが訓練を休み王宮に帰って来たのは夕食前だった。たまたま団長に出会い、訓練にいなかった事を咎められると思ったが、そのようなことはなくスバルにあることを告げた。

 

「明日から実戦訓練の一環として’’オルクス大迷宮’’の遠征に行く、しっかり休んでおけよ。」

 

 

そう言って団長には去って行った。スバルは「大丈夫かな……」と一言呟き、不安に感じながら食堂に向かうのだった。

 

 

 

 

 




タグ追加に’’シャドウ・オブ・ウォー’’を追加しました。
作者はこのゲームが好きで、士郎の天職’’レンジャー’’もこのゲームが元ネタです。
いずれは’’ヤツら’’もこの物語に出したいなと考えております。

シャドウ・オブ・ウォーってどんなゲーム?
って気になった方はこちら↓の動画をご覧ください。どんなゲームかすぐに分かります。
https://youtu.be/K2vC51F1a9A


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迷宮入り前夜 

どうもグルメです。

話しが長くなりそうなので二話に分けました。

それでは、どうぞ。


「ハジメ、そろそろ寝ようぜ。さすがに明日は居眠りなんかできないぜ。」

 

「はは、そうだね。そろそろ寝よっか。」

 

明日に備えて寝る時間ギリギリまで調合で薬を作っていた士郎は、道具を片付けながら迷宮低層の魔物図鑑を読んでいたハジメにそう言った。

クラスメイト達はメルド団長率いる騎士団員複数名と共に、‘’オルクス大迷宮‘’へ挑戦する冒険者達のための宿場町‘’ホルアド‘’に来ていた。その街の新兵訓練がよく利用する王国直営の宿屋があり、今そこにクラスメイト達が泊まっているのだった。

全員が最低でも一人か二人部屋なのに、団長の計らいでハジメの部屋は四人部屋になっていた。メンバーはもちろん、ハジメ、スバル、当麻、士郎のいつもの四人組だ。

ちなみにメルド団長から「明日の大迷宮もこの四人でパーティーを組むように」と言われてたりしており四人にとってはありがたい話だった。

 

「士郎…寝れない…」

 

「お前、真っ先に布団に入ったんじゃあないのか?」

 

スバルは夕食の後「明日のためにもう寝る」と言って四人の中で真っ先にベッドに入ったのだが、どうやら起きていたようだ。

 

「実は言うと、僕も…」

 

「当麻もか? おいおい、明日は遠足じゃあないぞ。」

 

そう言ってベッドから起き上がる当麻、スバルの二番目にベッドに入ったのだが、どうやら彼も起きていた。士郎が「やれやれ」といった感じに肩をすくめ、何事もなかったようにハジメが大きなあくびをしながら布団に入ろうとした時、

 

 

ドンドン

 

 

扉をノックする音が響いた。「こんな夜遅くに誰だ?」と皆が扉に注目していると、

 

「南雲くん、起きてる? 白崎です。ちょっといいかな?」

 

声の主はクラスのマドンナ、香織だった。

いきなりの訪問に四人は顔を見合わせて一時硬直するも、すぐに駆け寄り顔を寄せ合って外に聞こえないようにひそひそ話しを始めた。

 

(何で白崎がこの部屋に来たんだ?)

(士郎、これはいわゆる夜這いってヤツだ。俺たちは今から白崎を交えて朝まで5P…)

(そんなワケあるかスバル、冗談もたいがいにしろ!)

(でもさっきの感じだと白崎さん、僕たちじゃあなくてハジメ君だけに用があるみたいだったよね?)

(当麻の言う通りだ、俺もそう思う…とりあえず出てみたらどうだハジメ?)

(そうだね士郎、出てみるよ。)

 

四人はひそひそ話しを終えると、再びノックが聞こえ「南雲くん起きてる?」と声が聞こえてきたのでハジメが慌てて、

 

「ごめん、白崎さん。今あけるよ。」

 

そう言って鍵を外して扉を開けた。そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

ハジメは何故か「なんでやねん。」と関西弁でツッコミ、当麻はその姿を見てドギマギし、少し顔を赤くして目を逸らした。スバルは「ほほ~う」とまじまじと見ているので、士郎が無理矢理スバルの首をねじって横を向くようにするのだった。(当然士郎は直視しないようにしていた。)

香織は後ろの三人を見て「あっ」と言って少しだけがっかりした。ハジメしか声が聞こえていなかったのでてっきり他の三人は寝ていると思っていたようだ。

 

「えっと、ところで白崎さんは僕に何の用かな? 何か連絡事項でも?」

 

「ううん。その、少し南雲くんと二人で話しがしたくて……やっぱり迷惑だったかな?」

 

「えっ………い、いやそんなことないよ。こんな僕で良ければ………。」

 

「ありがとう南雲くん、じゃあここだと皆の迷惑になるから外で…「あ~白崎さん、ちょっといいかな?」」

 

香織のことばを士郎が遮った。いきなりのことに香織はキョトンとした顔で士郎を見た。

 

「話をするならこの部屋を使ったらどうだろう? 俺たちは適当に部屋の外で時間を潰しておくからさ。」

 

「えっ! でも……」

 

「外はそれなりに冷えると思いますよ、それにここだと誰かに気にすることなく話しが出来てちょうど良いと思います。」

 

「そういうわけだから、俺たちに気にせず二人で話しをしなよ。」

 

笑顔でそう言う当麻と士郎。

 

「ごめんね望月くん、入江くん、気を遣わしちゃって。」

 

「二人とも、ありがとう。」

 

それに対して香織は気を遣わしてしまった二人に謝り、ハジメは感謝の言葉を述べた。

 

「いいってことよ、それじゃあ早速行くか。スバルお前もこい「ぐがぁーーーー。」………」

 

士郎は当麻、スバルも連れて外に出ようとした矢先、いきなり室内にいびきが響いた。いびきが聞こえる方を見るとベッドで寝ているスバルの姿があった。

士郎は小さくため息をついてスバルのベッドに近づいた、そしてスバルの耳を掴むと引っ張り上げた。

 

「いっ、いてててててててて! なにすんだよ、士郎!」

 

少し涙目で抗議するスバル。

 

「お前な、さっき寝れないって言ってたよな? なのに白崎が来てから寝れるなんて不自然だろ。大方狸寝入りして二人の会話を盗み聞きしようとする魂胆だろ?」

 

「……………………ソンナコトナイヨ。」

 

「スバル君、随分と間が空いていたよ。」

 

スバルが応えるのに数十秒間の間があったことを指摘する当麻、推察が当たっていることを確認した士郎はスバルを羽交い締めにしてドアに向かった。

 

「じゃあこのバカは俺が責任を持って押さえておくから、二人はごゆっくりと…。」

 

「また後で、二人とも。」

 

士郎と当麻がそう言って部屋を出ようとした。スバルは士郎のい引き付けられながら部屋を出ようとした最後に、

 

「ハジメ、二人きりだからって白崎を襲うなよ。」

 

「誰が襲うか!? バカ/////」

 

「はうっ////」

 

スバルの言葉に二人は顔を真っ赤にするのだった。内心「かわいいな~」と思っていると士郎は羽交い締めの力を強くし、スバルを部屋の外に出した。最後に白崎が小声で「でも、南雲君に襲われるのも悪くないかも…。」と言っていたのは気のせいだと思いたいスバルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何であんな提案したんだ、士郎?」

 

「いやいやスバル、よく考えてみろ。あそこで部屋を提供しなかったら八重樫が後で何言ってくるか分からないだろ?」

 

「あははは、八重樫さんは白崎さん想いだからね、何故か容易に想像できるよ。」

 

三人は並んでうだうだ話しながら廊下を歩いていた。本来、真夜中なので廊下の灯りは最低限しかついていないはずなのだが、今夜は満月が出ているということもあり廊下に灯りはなく、月明かりだけでも充分に廊下を照らしているのだった。

そんな廊下を歩いていると、

 

「あれ? バルス達じゃん。」

 

「ん? この声、谷口か?」

 

ふと後ろから声が聞こえてきたのでふり向くと、二人の少女がいた。一人は身長百四十二センチのちみっ子で髪をおさげにしているクラス一の元気っこ谷口鈴であり、もう一人は谷口から一歩引いた所に立ち、ナチュラルボブの黒髪で性格がとても温厚で大人しい中村恵里だった。

谷口は三人に対して「よっ」と言って挨拶し、中村はペコリと軽く頭を下げるのだった。

 

「こんな所で何してんの?」

 

「えっ、いや、散歩だよ。何か寝れなくてさ、こうやって歩いていたら眠気がくるかな~と思って。」

 

鈴の質問に適当に答えるスバル。それを聞いた中村は「じゃあ望月くんと入江くんも?」と問いかけると二人は、

 

「俺らはスバルに無理矢理つきあわされた。」

 

「本当せっかく寝てたのに………なかなか起きなかったハジメ君が羨ましいです。」

 

そう言ってスバルの嘘に合わせるように士郎と当麻は答えた。ついでにここにいないハジメの理由も添えて……一瞬スバルの眉がピクッと動いたが噓を突き通すためここは耐えた。

鈴と恵里は噓と気づかず「ふ~ん」というような感じで聞いていた。

 

「ところでお二人はどうしてここに?」

 

当麻の問いに鈴は答えた。

 

「えっ、いや~実は言うと鈴も寝れなくててさ~」

 

そう言う鈴。三人は「なるほど明日のことで緊張でもしているのか?」と思っていたが……

 

「それに………ちょっとムラムラして。」

 

’’イヤンイヤン’’と感じに身体をくねらせながら言う鈴の言葉に三人は「えっ?」という顔をするのだった。

 

「それでこのムラムラをカオリンに慰めてもらおうと部屋に向かうとカオリンはいなくて、次にレムリンに慰めてもらおうと部屋に向かったけどレムリンもいなかったんだよね~ 三大女神が二人もいないんなんて………これは事件ですよ! 今頃、鈴の知らない所で二人はキャッキャウフフと百合百合しいことをしているにに違いない! おのれ、私をおいてそんなことをするなんて、何てうらやまし…じゃあなくて何てけしからん!」

 

そう言ってどこか危なっかしい発言をする鈴、この谷口鈴という少女、黙っていたら可愛らしいのだが、美女や美少女好きで香織や雫、レムらによくセクハラを働いており皆から心の中に小さなおっさんを飼っていると言われているのだった。

 

「ムッ…作者。この上の地の文、ちょっと失礼じゃあないかな?」

 

「鈴、一体誰のこと言っているのか分からないよ……ちなみに私は鈴に無理矢理付き合わされちゃって………ふぁああ~。」

 

そう言う鈴とどこか眠たそうな様子であくびをする恵里。この二人のやり取りを見て三人は「いつもの二人だ」と思った。

 

「あ~谷口さん。他人の趣味にどうこう言うのもあれなんだが…ほどほどにな。それと明日のこともあるんだから早めに寝ろよ、中村さんも困っていることだし。」

 

八重樫につぐ、世話焼きの士郎はそう言った。それに対して鈴は「う~ん」と少し考えて、

 

「それもそうだね、仕方がないシズシズに慰めてから寝るとしよう。じゃあそういうことで…行こ恵里。」

 

「えっ………ちょっと、私も行くの!?」

 

そう言って鈴は恵里の手を掴んで小走りで三人の横を横切った。恵里も戸惑いながら引っ張られるように小走りになるのだった。

この時スバルは何を思ったのか恵里が横切る瞬間をチラッと見た。

 

「………………………チッ。」

 

その時の恵里の顔はいつもの温厚そうな顔ではなかった。どこかめんどくさそうで不愉快な顔をしており、普段の様子から考えられない顔をしていたのだった。

 

「……………。」

 

スバルは無言で去って行く恵里の背中を見つめていた。さっきから恵里の顔が忘れられず、あの不愉快そうな顔がどうも気になってしまい「実は危ない子じゃあないのか?」と考えてしまうほどだった。

スバルが異様に二人の背中を見ているように見えた当麻は「どうしたのですか?」と声をかけられ、ここで我に返ったスバルは「何でもない」と言って歩き出した。

それでも、スバルの恵里に対するモヤモヤ感は消えることはなかった。

 

 




いかがだったでしょうか?

もう一話は夜に投稿出来たらと考えております。

皆様の感想が励みになります。

それでは、また。


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レムとの約束

昨日は忙しくて投稿出来ませんでした、すいません。

今回のお話しはオリキャラとそのヒロインのお話しになります。

それでは、どうぞ。


「スバル、さっきからどうした? 黙り込んで…。」

 

「えっ? いや、何でもねぇよ士郎。」

 

「あやしいですね…僕たちに何か隠していませんかスバル君?」

 

「何も隠してねぇよ当麻。つーかお前ら、さっきの受け答えなんだよ! あれじゃまるで全部俺が悪いみたいじゃないか。当麻も寝れなかった一人なのに…。」

 

士郎、当麻にどこか様子が変だと疑われたスバルは何とか誤魔化し、話の内容をすり替えるためにさっきの谷口達に対してとっさの噓の返しについて抗議するスバル。

士郎は「まぁ、いいじゃねえか。」と言い、当麻は「ごめんなさい。」と軽く謝るのだった。スバルもこれ以上中村のことを考えても仕方がないと思い、とりあえず、この件は頭の隅に置いとくのだった。

再び三人で廊下を歩いていると

 

「あれ………レム?」

 

最初に気づいたのはスバルだった。廊下の数メートル先に寝間着を着たレムは窓から見える月を眺めていた。その姿は神秘的で見とれてしまいそうだったが、表情はどこか思いつめた表情をしていた。

「どうしたんだ?」とスバルが思っていると、士郎に肩を叩かれた。スバルはその方を振り向くと、士郎に小さな声で

 

(スバルお前の出番だ…行って来い。)

(えっ? いや、相談ごとなら士郎が得意だろ?)

(バカだな…俺よりお前の方がレムは喜ぶに決まっているだろ)

(そうですよ、士郎君の言うとおりです………彼女の話しを聞いてあげてください。)

(でもな、心の準備が………)

 

スバルがどこか渋っていると士郎が「ほら、行って来い」と言って背中を押し出され、当麻は「先に部屋に戻っていますよ。」と言って、二人は来た道を戻っていった。

 

「おい、お前ら「…スバル君?」あっ…………よぅ、レム。」

 

思わず声が出たので、その声でレムはスバルの存在に気づき、スバルはレムの方を向いて軽く手をあげて声をかけた。

 

「どうしてここに?」

 

「あ~いや、明日のことで緊張して寝れなくて…そんで気晴らしに散歩してたのさ。」

 

「そうですか…。」

 

レムの質問に素直に答えるスバル。いつものように落ち着いているように見えるが、心臓は激しく動いており、’’夜’’、’’女の子と二人っきり’’、’’レムの寝間着姿’’とこの三つのワードが重なって今でも緊張してたりするのだった。逆にレムの方はどこか元気がなかった。

 

「ところで、レムはどうしてここに?」

 

「えっ………そのさっきまで寝ていたのですが…少し嫌な夢を見たので、こうして月を見て忘れようとしていたのです。」

 

「嫌な夢?」

 

疑問に思いレムに聞き返すスバル。

 

「はい…それも、スバル君、いえ………ハジメさんや士郎さん、当麻さんも関わっています。」

 

「えっ? 俺だけじゃなく、みんなも関わっているのか!?」

 

思わす大きな声でスバルはそう聞き返すと「…コクッ」とレムは無言で頷いた。

正直、スバルは驚いていた。まさか、レムの見た嫌な夢が自分だけじゃなく、親友達も関わっているからだ。「まさか、レムの夢の中で俺が皆に悪ふざけしている夢じゃないだろうな…。」何てことを考えていると、

 

「あの……迷惑でなければ聞いて貰ってもいいですか?」

 

「あっ…うん、聞くよ。レムが見た嫌な夢の話し、聞かせてくれないか。」

 

スバルがそう答えると「ありがとうございます。」とレムは笑顔でお礼を言った、しかし、聞いていた声に元気がないことがスバルには分かった。

そして、レムはぽつぽつと話し始めた。声を少し震わせながら、泣くのをこらえながらゆっくりと…

 

「暗闇の中、スバル君…いえ、ハジメさん、士郎さん、当麻さんもいました。それで私は声をかけて四人の所に向かいました、けれど………全然気づいてくれなくて、走っても追いつけず、最後は…………」

 

そのことを口に出すことを恐れるように押し黙るレム、スバルは何も言わずレムを見続けていた。

レムはグッと唇を噛むと、泣きそうな表情を我慢しながらスバルの顔を見て…

 

「……四人共、消えてしまうのです。」

 

「……………。」

 

しばらく静寂が包み、まるでレムはの心情風景を表すかのように輝く月が雲に隠れて辺りを暗くした。スバルとしては「夢は夢、気にするな!」と言ってバッサリ切り捨てたい所だが…

ここは異世界、何が起こるのか自分でも分からない世界だ…現に明日は大迷宮区に入るのだ。レムが言っていたようにトラブルに巻き込まれて、消えてしまうことも十分に考えられることだった。

故にスバルは慎重になった、今、自分の言葉一つで明日のレムのモチベーションが変わると考えたからだ。何気ない一言、責任持てない言葉でレムにもしものことがあれば…その時、自分が自分を責め、許せなくなるだろうと思ったからだ。

 

「(とは言っても、どう声をかけたらいいんだ? 『大丈夫だ、心配するな』とかのありきたりの言葉を使ってもな~説得力ないだろうし。)」

 

考え込むスバル、レムを見れば俯いており少し泣いているのか鼻をすするような音も聞こえてきた。「どうしよう…」と必死に考えていた時、ある事を思い出した。

 

「レム…これをあげるよ。」

 

「…………えっ?」

 

スバルの言葉に顔を上げるレム、それと同時に雲に隠れていた月が二人顔を出し、月明かりが二人を包み込んだ。

スバルは首元にかけていたものをレムの前に見せた。それは無職透明で三センチ程の大きさで雫の形をした水晶のペンダントだった。

 

「……………プロポーズですか?」

 

「ちゃうわい。」

 

レムの吹っ飛んだ第一声の声に思わず関西弁でツッコミをするスバル、レムはそれを聞いて「…プッ。」と少し吹き出しつつペンダントをまじまじと見ていた。スバルは渡したペンダントについて話し始めた。

 

「これは士郎と一緒に買い物した時に買った、ただのペンダントだ。俺の誕生石が水晶だからな…御守りになるかなと思って持っていたんだよ。」

 

「……スバル君はロマンチストだったのですね。」

 

「う~ん、意外とそうかもな。’’占いとかまじないとか信じない’’って思ってはいるんだけど、どこか信じている所もあるんだよな…………例えば何気なく朝の番組の占いコーナーとか見て、意識したりとかさ。」

 

そう言うスバルにレムは「ふふっ」と笑みを見せた、レムの心が穏やかと悟ったスバルは思い切って自分が思っていることを口にした。

 

「レム…聞いてくれ。レムの言う通り…もしかしたら俺たちは消えるかもしれない、レムの目の前からいなくなるかもしれない………もちろん俺も、ハジメも士郎も当麻も、好き好んで消えるつもりもないし、注意しながら迷宮区に挑むつもりだ…でも、もし消えてしまったら………。」

 

「……………。」

 

スバルの言葉に耳を傾けながら、レムは不安そうな表情で見つめる。それを見たスバルは一瞬言葉を詰まらせるが、意を決して口に出した。

 

「待っていてくれないか?」

 

「待つ……ですか?」

 

レムの言葉に「うん」とスバルが力強く頷くと再び口を開いた。

 

「俺は……例えレムの前から消えても必ず会いに行く。どんな形、姿になろうとも絶対に会いに行く…だから待って欲しいんだ。もし、消えてしまって…生きているかどうか不安になったら、このペンダントを見て欲しい。」

 

「このペンダントを……?」

 

そう言うレムに、スバルはレムの手に持っていたペンダントを手に取り、レムの首元に付けた。

 

「よくアニメとかであるだろ? ’’大切な人からもらった物が壊れたら、その大切な人に何か不幸が訪れていた’’ってこと、でも、逆に言えばそれが壊れない限りその人に何も起きてないてことになる。つまり、’’俺が消えてもそのペンダントが壊れないかぎり、俺は生きている’’って証拠になる。」

 

「……………あっ。」

 

スバルの言った事を理解したレムは両手でペンダントを包み込むようにギュッと持ち、顔を俯かせた。

それを見たスバルは内心、苦笑を浮かべながら「我ながら無茶苦茶理論」「まずったかな」と思いつつも再び口を開いた。

 

「ゴメンなレム。俺、バカだから…こういうことしか思いつかなくて……もっと頭がよかったら気の利いた言葉の一つや二つ言えたんだけどな。」

 

ばつが悪そうに言うスバル、レムはその言葉を聞いて、首をブルブルと横に振って否定した。

 

「そんなこと………ありませんよ。今のスバル君の言葉は………世界中の誰よりも…心に響きました。」

 

そう言ってレムは顔を上げた。少し涙目だがとびっきりで誰にも見せない、スバルだけが見るのを許された笑顔をレムは向けるのだった。

 

「ようやく笑ってくれた…レムは笑っている顔が一番似合っている…俺好きだぜ…レムの笑顔。」

 

レムの笑顔を見てホッとするスバル、それは自分の言葉が、想いが、レムに伝わったことが実感出来たからだ。

「これでもう安心」と行きたいところだが…もう少し何かをしておきたい……そう思ったスバルはある事を思いつき、レムの前に小指だけを立てた右手を出した。

 

「約束だ、レム。どんなことがあっても必ず俺は…レムの前に現れるから。」

 

「はい、約束です。私も…どんなことが起こっても、スバル君を待っています。」

 

レムもそう言って右手で小指を立てた。二つの小指が重なり、月の光に照らされながら二人は指切りげんまんをした。

はたから見ればそれはただの指切りげんまんかもしれない、しかし、二人の間ではそれはとても大きな、神秘的な魔法のように思えたのだった。

 

 

一体どれくらい指切りげんまんをしていただろうか、きりがよい所で指切りげんまんをを止めて、

 

「夜更かししすぎたかな……そろそろ寝るよ、おやすみレム。」

 

笑顔でそう言うとレムに背を向けて歩き出した。レムは「あっ……。」とどこか惜しむような顔をして、スバルが五歩くらい離れた時、

 

「スバル君。」

 

「ん?」

 

レムに声をかけられて振り向くスバル。レムは一瞬何か聞きたそうな顔をしていたが、すぐに笑顔で、

 

「おやすみなさい、明日は頑張りましょう。」

 

「おう。」

 

レムの言葉に元気に答えるとスバルは再び自分の部屋に戻って行った。

 

「……………。」

 

スバルが見えなくなるまで見送るとレムは窓の方を振り向いた。窓には薄っすらと自分の姿が映し出されていた。

 

「(聞きそびれてしまいましたね…。)」

 

そう言ってレムは、そっと寝間着の胸元を開いて窓に映し出した。胸はそれなりにあるのでそこにはきれいな谷間があり、鈴に「けしからん乳をしやがって」と言って揉まれるのもしばしば。健全な男子が見れば前かがみの姿勢は必然的なこの光景、しかし、レムには一般的な女子の谷間にないものがあった。

 

「(これは……魔法陣ですよね? それもスバル君と同じ模様の………どうして私の胸元にあるのでしょうか?)」

 

レムの胸元にあったもの、それは直径六センチ程の円状の魔法陣だ。

そして何故、レムがすばるの魔法陣と同じだと断定出来たかと言うと、実はこの前の檜山のイジメに助けに入った時に見てしまったのだ。包帯で巻かれていたであろう、右手の平を。檜山の火球で燃えてしまい露わになった魔法陣を。スバルに駆け寄った時にたまたま見てしまったのだった。

 

「(スバル君と私の魔法陣……一体何の意味があるのでしょうか? それに、あの時聞いた声…あれはいったい……?)」

 

レムは自分とスバルにある魔法陣の意味に疑問を感じつつ、このトータスに飛ばされた事を思い出していた。

 

’’貴女に…力を。どうかあの人と…あの子の力になってあげて……’’

 

きれいな女性の声だった。当然知り合いにも該当する声はなく、声の主に何者か聞き返そうとした時にいきなり胸元が熱くなり、その熱は全身に広がった。

そして、気づいた時にはトータスについており、胸元を見てみると魔法陣がいつの間にかあったというわけだった。

 

「(あの人とあの子……いったい誰のこと何でしょうか?)」

 

色々疑問に残るなか、レムもそろそろ寝ないと明日に響くと思い、胸元を元に戻して自分の部屋に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡って、スバルとレムが約束をしていた時、士郎と当麻は部屋の前までついており、その時ちょうどハジメと話しを終えた香織が出てきたのだった。

 

「二人ともありがとう。おかげでゆっくりお話しすることができたよ。」

 

「そうか、それは何より。」

 

「よかったですね、普段はなかなか話すことが出来ませんからね。」

 

士郎と当麻がどこか満足そうに答えると、香織はここにスバルがいないことに気づいた。

 

「あれ? ところで影山君は?」

 

香織の疑問にどう答えるか、悩む士郎に当麻はサラッと答えた。

 

「スバル君なら、今、レムさんとお話し中ですよ。」

 

そう言う当麻に士郎は「おいおい、勝手に話してよいのか?」と少し驚いた顔を当麻に向けていた。

 

「へえ~そうなんだ。あの二人、仲いいよね、付き合っているのかな?」

 

「いや、付き合ってないんだよな、これが……。」

 

「二人からそのようなことは聞いたことありません……思えば二人の出会いも、あまり知りませんね……。」

 

士郎がスバルとレムが付き合ってないことを告げて、当麻は二人の出会いについてあまり知らないことを告げるのだった。

 

「ふ~んそっか。今度、時間が出来たらレムに聞いてみようかな……あっ、そろそろ寝ないと。ごめんね、立ち話しなんかしちゃって……明日はお互い頑張ろうね。それじゃあ、おやすみ。」

 

香織はそう言って背を向けて自分の部屋に帰って行った。内心、スバルとレムの仲を羨ましながら、自分もあの二人のようにハジメと仲よくなれたらな、と想いながら歩いて行くのだった。

 

「そう言えば何だかんだ言って、白崎さんとまともにしゃべったのこれが初めてだと思います。」

 

「ああ……そうか。」

 

当麻のカミングアウトに士郎は返事をしつつ後ろを見ていた。当麻が「どうしたのですか?」と尋ねると、

 

「いや、さっき変な視線を感じたんだ。今はもうないけど……。」

 

「そうですか……奇遇ですね。実は言うと僕も白崎さんと話していた時、背中から嫌な感じがしていたのです。」

 

二人はそう言って一度顔を見合わせた後、二人は再び視線があった方を向いた。

 

「明日、何もなければいいんだが……。」

 

「そうですね……。」

 

士郎と当麻はそう言ったあとに二人はどこか嫌な予感をしつつ、部屋に入っていった。その後、スバルも帰ってきてハジメ、スバル、お互いどんな話しをしたかの攻防があり、四人が静かに就寝するのはもう少し後のことだった。

 




いかがだったでしょうか?

小説で初めての糖分多めの話を書きました。「こんなん、糖分多めの話しちゃう」という意見がありました頑張る次第です。

さて、見ての通りスバルのカップリングはレムになります。ここからハーレムになることはありません、作者はハーレムより一人の女性を愛する純愛物が好みですので。

ちなみに士郎、当麻にもいずれカップリングの女性がつきます。

士郎×クラスのある女子

当麻×原作ハジメの嫁の一人

次回、いよいよオルクス大迷宮に入って行きます。


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オルクス大迷宮とヘビモス来襲。

どうもグルメです。

いよいよオルクス大迷宮へと入って行きます。

一体何が起こるのか…。



それでは、どうぞ。


現在スバル達、もといクラスメイト達はオルクス大迷宮の中を進んでいた。メルド団長を先頭に隊列を組みながら進んでおり、ところどころに魔物が現れたりもするが、全員チート持ちで大ベテランのメルド団長の指示もあって何の問題なく進むことができた。

ちなみに魔物との戦闘は事前に決められていたパーティーを組んでの交代制で、スバル達のパーティーは戦闘職の士郎と運動神経が割と良いスバルを前衛にして、ハジメと当麻は後衛で待機ということになっており、前衛で魔物を倒してしまうこともあれば、時にはスバル、士郎の計らいである程度魔物を弱らしてから後衛にとどめを任せるということもあった。この時ハジメは地面を錬成し、動けないようにしてから確実に仕留めていった。

この行動にメルド団長、他の騎士団員、また、ある一部のパーティーメンバーが関心していたことにハジメは知るよしもなかった。

 

一行は順調に迷宮を進んでおりトラブルもなくさくさく進んで行ったのでクラスの一部から気の緩みが見られた。当然、メルド団長が常に「気を張るように」と言っているが人間ことが順調に進むと気が緩むものだ。ましてや、成人もしていない学生なら尚更かもしれない。もちろんクラスの中にも常に気を張って周囲を警戒するパーティーもあった。その一つがスバル達のパーティーだ。

 

「(親父が言っていたな…『気の緩みに失敗あり、事が上手く進めばなお警戒しろ』だ。)」

 

スバルは父から教わった事を心の中で復唱しながら周囲を警戒した。他の三人もスバル同様に辺りを見渡していた。何故彼らがこうも辺りを警戒していたのか理由があった。

それはクラス一行が迷宮に入る前に遡る。

 

 

スバルは迷宮に入る前にハジメ、士郎、当麻にレムが見た夢について話した。するとどうだろう、ハジメが非常にに驚くことになった。それは何故かというと実はハジメも香織からレムと全く同じ夢を見たという事を聞いていたからだ。

この夢を見たことで香織は怖くなり、ハジメの所に訪れたというわけだった。いったいどのようにレムと香織を納得させたのかお互い話さなかったが、ここで四人はある疑問を感じた。

 

その日のうちに、同じ夢を見る人物が二人もいることは…果たして偶然と言えるだろうか?

 

ここまで来ると確実に何かある。もしかしたら自分達四人はの命に関わることかもしれない。それを回避するために不参加と行きたい所だが一般からすれば夢は夢、周りから見れば戯言と思われるだろう。

ただでさえ、スバル、ハジメ、当麻は無能の烙印を押されており、一部を除いて周りから好い目で見られていない。ここで引いたら確実にクラスから見放され、孤立することは分かっていた。故に四人は前に進むしか方法はなかった。最大限、注意をはらいながら…

 

「(頼むから、何も起こらないでくれよ…。)」

 

スバルがそう願い、残り三人もスバルと同じような事をそう思ったのだが……その想いは叶うことはなかった。

 

 

事の発端は一行が二十階層についた時に起こった。とある魔物が現れた時、たまたま光輝達のパーティーが対応したのだが、その魔物の行動で香織達女性陣が引いてしまい、それを見た光輝が’’死の恐怖を感じさせた’’と勘違いしてムキになり、大技をくらわすのだった。

魔物は当然光輝の大技で一刀両断、当の本人は満足して「もう、大丈夫だ」と香織達に声をかけようとしたら、メルド団長の拳骨をくらうことになった。

 

「気持ちは分かるが、こんな狭い所で使う技じゃないだろう! 崩壊でもしたらどうするんだ。」

 

全くもってその通りである、スバルもこれを見て「ガキかよ…」と誰も聞こえない声で愚痴っていると…。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

香織の指差す方へ全員が注目した、光輝が大技を出して崩壊した壁に何か光るものがあった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

メルド団長がそう言った。グランツ鉱石とは、簡単に言うと宝石の原石みたいなものであり、加工して指輪、イヤリング、ペンダントなどに使われるようだ。

 

「素敵……」

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めていると、

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出し、グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていくのは檜山だった。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

メルド団長はそう言って止めるも、檜山は止まらなかった。

 

 

………………ゾクッ!

 

 

「………!?」

 

この時スバルはいきなり全身に悪寒が走った。それほど寒くないのに檜山の行動を見ていきなり起こった。

 

「スバル………。」

 

いきなり声をかけてきたのはハジメだった。だがその表情はどこか辛そうであり、もしかしたら自分と同じ悪寒が走ったのかかもしれない。

そう考えると「今すぐ止めなければ!」そう思ったスバルは、

 

「おい、檜山! 何が起こるか分からないんだ、早く降りてこい!」

 

そう言って檜山を呼び止めるが止まる気配がなかった。声は十分に聞こえているはずだ、つまりスバルの声を無視しているのだった。

 

「おいっ! いい加減に『団長、トラップです!!』はぁ!?」

 

スバルがさらに声を張り上げようとした時、一人の騎士団員がそう叫ぶ声が聞こえスバルは驚きの表情を露わにした。団長は檜山を止めようと壁を登っていたが間に合わず、檜山が既に宝石に触れていた。

次の瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がり部屋全体を包み込んだ、メルド団長の「撤退しろ、この部屋から出るんだ!」という言葉は間に合うことはなく、一行は異世界に飛ばされたようにどこかに飛ばされるのだった。

 

 

 

 

 

 

「いてて………ここは?」

 

尻の痛みに呻き声を上げながら、スバルは周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどはスバルと同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

どうやら別の所に飛ばされたみたいで、クラスメイト達がいる場所は巨大な石造りの橋の上だった。縦は長く続いており、横は車を5~6台並べるくらい余裕があった。

端に手すりとかなく足を滑らせれば掴むものがないので、そのまま奈落の底に落ちることになるだろう。そして、クラスメイト達は巨大な橋の中間に立っており、橋の両サイドは奥へと続く通路と上階への階段が見えた。

メルド団長は「あの階段の場まで行け!」と号令し、わたわたと動き出す生徒達、しかし、階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現した。

骨格だけの体に剣を携えた魔物’’トラウムソルジャー’’だ。その数は百体近くに上っており、尚、増え続けていた。そして、反対の通路側には体長十メートルの四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物’’ヘビモス’’がいた。例えるならトリケラトプスといったところだが、違うのは鋭い爪と牙を持ち、頭部の兜から生えた角から炎を放っているということだろう。

 

グルァァァァァァァアアアアアアアア!!

 

ベヒモスが咆哮を上げながらクラスメイト達に向かって突進してきた。とっさにメルド団長を含む三人が魔法による障壁を出し、ヘビモスの突進を防ぐ。

突進は止めることができたが、その衝撃までを止めることができず橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れて撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次いだ。

クラスメイト達はパニック状態に陥っていた、前には増え続けるトラウムソルジャー、後ろから巨大なヘビモス、いくらクラスメイトがチート集団と言われても、その心までチートとは言えなかった。隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進み、トラウムソルジャーが立ちはだかれば誰もかれもが滅茶苦茶に武器や魔法をふりまわしており、死者が出るのも時間の問題だった。

 その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ…」

 

 そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

 死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、

 

「優花ぁぁぁあああああーー!」

 

掛け声と共に一人の男子生徒が優花の前に割り込み、トラウムソルジャーの剣を受け止めた。その生徒はトラウムソルジャーの剣を押し返した後に左肩から右脇腹に剣を振り下ろした。

 

キシャアアアアアアアアアーー

 

トラウムソルジャーは不気味な悲鳴と共に地面に倒れて消滅、男子生徒はそれを確認すると’’優花’’と呼ばれる女子生徒の下に駆け寄った。

 

「優花、大丈夫か!?」

 

「うん、ありがとう…士郎くん。」

 

優花を助けたのは望月士郎だった。士郎は優花の手を取って立ち上がらせた。優花も呆然としていたがすぐに気を取り戻して元気に返事をするのだった。

この女子生徒、園部優花は望月士郎の幼馴染で家族ぐるみの付き合いもあって幼少の頃からお互いを知っており、また士郎の両親は仕事の関係上、家をあけることが多かったため士郎を優花の自宅で居候させることが多く、優花にとっても士郎にとってもお互い家族当然の存在だったりする。ちなみに最近優花の方は士郎のことを家族以上、もとい異性として意識してたりするのだが………

 

それはともかくして………

 

士郎が優花を助けた後、すぐに別のトラウムソルジャー五体が二人に迫った。士郎が優花を守るように剣を構えると、いきなり五体のトラウムソルジャーの足元が蜂起し橋の端へと向かって波打つように移動していき橋から落とすのだった。

二人は「一体何が……」と思っていると一人の人物が目に入った、座り込みながら荒い息を吐くハジメだった。

 

「ハジメ!」

 

そう言って士郎はハジメの所に駆け寄り、優花も士郎について行くように駆け寄った。二人は「助かった、ハジメ」「ありがとう、南雲君。」とそれぞれお礼を言うと、

 

「早く前へ。大丈夫、冷静になればあんな骨どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いて全員チートなんだから!」

 

そう自信満々に答えるハジメに二人は失笑した。その後、優花は「私、奈々達と合流してくる。二人も気をつけてね。」と言って駆け出すのだった。

二人はそれを見届けるとハジメは魔力回復薬を取り出し口に運ぼうとした時、一人の生徒に手をつかまれて飲むのを止められた。

 

「それは、もしものためにとっておいた方が良いよ。」

 

「当麻? それはどういう…」

 

ハジメの手を掴んだのは当麻だった。ハジメは当麻が言っている意味が分からなかったがそれはすぐに理解することになった。

いきなり、当麻につかまれている手から何か温かいものが流れてきて、ハジメの全身に染み渡った。荒かった呼吸が正常になり疲労も無くなった。そして…

 

「魔力が戻ってきている!?」

 

「本当か? ハジメ。」

 

「いつの間にか自分の気力を他人に注入すると、魔力が回復するようになったんだ。」

 

一体どういう原理かは不明だが、どうやら当麻の気力は他人に触れて注ぎこむことでその気力は魔力に変換されたようだ。もっともこの事例は生物対象であって、これに気づいた当麻は’’魔法陣に気力を流したら魔力に変換されて魔法が使えるかも’’と試してみたが結果は変化はなく、落胆したのはいうまでもなかった。

 

「ありがとう当麻、だいぶ回復したよ。」

 

「どういたしまして、ハジメ君。」

 

ハジメが礼を述べると、どこか嬉しそうに答える当麻。ここで士郎は、

 

「ところでスバルは?」

 

その一言にハッとする二人は辺りを見渡すと、

 

「あっ、あそこに!」

 

 

そう言って当麻がある方に指をさした。

 




いかがだったでしょうか?
士郎のカップリング相手は園部優花です。
原作では魔王の’’愛人’’とか呼ばれているみたいですが、
作者としてどうも不便と言いいますか、もったいないという気持ちから、士郎とくっつけることになりました。二人が幸せになるように書きたいですね。

当麻の気力は本当に作者のご都合主義ですね、当麻本人も今後変わって行きます。


次回、クラスメイト側より新キャラ登場です。


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二つの月 イツキとカヅキ

どうもグルメです。
今回は新キャラ登場回、四人の新キャラが登場します。

それでは、どうぞ。


さて、当麻がスバルを見つけた後の話しをする前にここで時は少し遡り、ヘビモスとトラウムソルジャーが現れてから上階へ登る階段側の最前線での話しをしよう。

 

ヘビモスとトラウムソルジャーが現れてからクラスメイト達はパニックに陥っており、我先にと上階へ登る階段側に殺到していた。そして、訓練でしたことを誰もが忘れ、立ちはだかるトラウムソルジャーに対して出鱈目に武器や魔法を振り回して突破できないでいた。

今の所、死者が出てないのはメルド団長の付き添いで来た騎士達のおかげであり、トラウムソルジャーに対応しながら必死になって生徒達をまとめようとするも一方にまとまる気配がなかた

そんな中、二人の生徒が勇敢にも騎士に劣らずトラウムソルジャーに斬りかかって突破口を開こうと試みる者がいた。その二人の生徒は他の生徒達とは違い、武器の剣をがむしゃらにふることはなく、連携をとりトラウムソルジャーの動きをよく見て冷静になって切り伏せていた。

 

「クソッ! 斬っても斬っても次から次へと湧いてきやがる、きりがねぇ!」

 

そうぶっきらぼうに言うのは身長百八十センチで薄い茶髪色の髪色を持ち三白眼をした青年、名を月山一希(ツキヤマカヅキ)と言い、カヅキはまるで戦いに慣れているのか剣でトラウムソルジャーに斬りかかるのだった。

 

「やっぱり二人で突破するのは少し無理があるね…兄さん。」

 

カヅキの言葉に冷静に答えるのは身長百七十五センチでカヅキと同じく薄い茶髪の甘いマスクを持つ青年、月山一稀(ツキヤマイツキ)だ。イツキは危機的状況の中、どこか落ち着いており、迫りくる敵を斬り伏せていた。

この二人名前から分かるように実の兄弟であり、どうして他の生徒達と違って冷静になって戦闘をこなしているかは理由があるのだが…今はおいといて。

二人は目の前のトラウムソルジャーを斬り伏せると再び十体程のトラウムソルジャーが迫って来た、一息入れることなく剣を構えると、いきなり立ち止まり右側を向いて歩き出した。

二人は「何故、こっちに来ない?」と思っていると、何処からともかく声が聞こえてきた。それはトラウムソルジャーが向かっている方向からだ。

カヅキとイツキはそちらに目を向けると一人の青年が叫んでいた。

 

 

 

「お~い、こっちだ。この骨だけヤロー!」

 

そう言って叫んでいるのはスバルだった。スバルは手に持っている剣を上に掲げてトラウムソルジャーに挑発するかのように、いや、実際に彼らを()()しているのだ。

スバルの技能の一つ’’挑発’’である。

この技能は名前から分かるように挑発を行い、魔物の敵対心を自分に向けることができるのだ。

スバルは挑発を続けどんどんトラウムソルジャーを引き寄せた。

その数ザッと三十体はいるだろう、スバルは一歩ずつ下がっていき橋の端までやって来た。

トラウムソルジャーもゆっくりスバルに迫って来て、いよいよスバルがあと五歩下がれば奈落の底に落ちるという所でスバルは叫んだ。

 

「今だ、レム!!」

 

「はい! ’’暴風球’’」

 

スバルから少し離れた直前上に立っていたレムが詠唱を唱えて、風属性魔法の’’風球’’より倍以上の破壊力を持つ暴風球を放った。大型トラックのタイヤ並の大きさを持つ暴風の球は真っ直ぐスバルに迫り、スバルを中心に囲んでいたトラウムソルジャーを巻き込むように円状に回ってから橋の外へと飛ばし、何体か奈落の底へ落とした。

そして、スバルの周りには暴風球で砕かれた骨の残骸のみが落ちていた。

 

「レム、ナイス!!」

 

スバルがレムに向かって親指を立ててグットサインを送った。しかし、レムは…

 

「スバル君、後ろ!!」

 

そう叫んで、スバルは後ろを振り向いた。すると、生き残りなのかボロボロのトラウムソルジャー二体が剣を振り下ろそうとしていた。

とっさにスバルは剣を構えたが、

 

「はあっ!」

 

「オラァッ!!」

 

つかさずイツキとカヅキがスバルの前に割って入ってトラウムソルジャーを斬りふせるのだった。

 

「まさか君がここまでするとは…驚きだよ。」

 

「ナイスガッツ! やるじゃねぇか。」

 

「月山兄弟! 悪い、おかげで助かった。」

 

スバルは二人に助けられたことに感謝し、イツキとカヅキはスバルの行動を称賛していると、

 

「スバル君!」

 

焦った表情をしたレムがやって来た。

 

「悪い、心配かけたなレム。」

 

「もぅ……心臓が止まるかと思いましたよ…。」

 

どこか悲痛な表情をするレム、スバルは「本当悪かった…」と言って謝っていると

 

「「「スバル(君)」」」

 

さらにハジメ、士郎、当麻が走ってやって来た。皆さっきの行動を見ていたのかどこか焦っているような表情だった。

 

「おっ、お前ら無事だったのか!」

 

スバルは手を振って、とりあえず自分が無事だということをアピールした。

 

「スバル大丈夫? ケガは?」

 

心配そうな声をかけるハジメ、

 

「まさか自分を囮にするなんて…」

 

「全く、よくやるよ。こういうのはこれっきりにしてくれよな。」

 

当麻は先程のスバルの行動に未だ驚いており、士郎もスバルの大胆さに呆気にとられていた。スバルは「悪い悪い、心配かけた」と三人に対して簡単に謝っていると、ここで…

 

「オホン……お互い大切な人が無事な事を分かち合っている所悪いが、そろそろここを脱出する話しに入りたいのだが…」

 

わざとらしく咳払いをしてからそう告げるカヅキ、その言葉にスバル達はハッとして気づき、カヅキの方に向き直るのだった。

 

「脱出ルートはあの階段のみ、その前に骸骨の群れ、後ろは突進型の大型魔物一体、今は押さえているけど、それもいつまでもつか分からん……。」

 

カヅキは今分かる現状をスラスラと言っていき、イツキやハジメ達、レムは聞き漏らさないようにしっかり聞いていくのだった。

 

「現状として、今の状態で骸骨の群れを突破するのは不可能だ。皆連携が取れずにバラバラすぎだし、仮にクラス一丸となって突破するにも骸骨が次から次へと湧いてきやがる。時間はかかるだろうな…」

 

その言葉にここにいる全員が険しい表情をするなかカヅキは「そこで……」と前置きして

 

「俺の脱出プランだが…さっきのトラップにかかる前に天之河がデッカイ衝撃波を放っていたのを覚えているか? あれを使う。天之河があれを使って骸骨の群れをぶっ飛ばし、その隙に突破する。」

 

カヅキの告げた作戦を聞いて、それぞれ納得するかのような表情をするなかハジメだけはどこか難しそうな表情で考え事をしていた。「その作戦で全員助かるのか?」とハジメが思っていると、

 

「そろそろ俺の親友が天之河を連れて来ると思うのだが…おっ、きたきた。」

 

そう言ってカヅキはヘビモス方面を見ていると二人組の生徒が急いでやってきた。

 

「大将、旦那!」

 

「イツキのアニキ、カヅキの大アニキ!」

 

そう言ってやって来た二人組の男子生徒、一人は身長百七十センチの飄々とした風体を持ち、カヅキのことを’’大将’’、イツキのことを’’旦那’’と呼びしたっている猿山佐助に、もう一人は身長百八十五センチで大柄の体型を持つ坂上より一回り小さい体型を持つ牛山厚志だった。

 

「おお、お前ら待って……ん? 天之河はどうした?」

 

二人がやって来たので天之河が来たと思ったが、肝心の天之河が見当たらないことに首をかしげるカヅキ、すると佐助が肩をすくめながら答えた。

 

「それがさ天之河の奴、あの魔物をどうにかできると思い込んで動かないんだよ。」

 

「はぁ?」

 

佐助の言葉に思わず拍子抜けた声を出すカヅキ、続けて厚志も焦った様子で

 

「おまけに坂上の奴もそれに乗る気で団長や八重樫さんが必死に説得しているのですが…きかなくて…」

 

「本当、自分のことしか見えてないんだね…あの二人組(馬鹿ども)は……イライラするよ」

 

厚志の言葉にを聞いて手で顔を押えながら呆れかえるイツキ、だがその声には怒気が含まれているのだった。そして、スバル達やレムも口には出さなかったが光輝や龍太郎の行動に呆れていた。

「一体何考えているんだ!?」とスバル達やレムが思っていると………ここで、

 

 

ドゴォォーーーーーーン

 

 

強い衝撃波が走り、またもや橋全体が揺れるのだ。ヘビモスが障壁に再度突進をかけたのだ。

幸いに障壁は壊れることはなかったが、ここにいる誰もが次はないと感じるのだった。

カヅキは天之河の行動に呆れている事から思考を切り替えて脱出プランを考えだした。どうやらクセなのか某名探偵のように頭を掻きむしりながら考えるのだった。

 

「クソッ、天之河がモタモタするから後ろのことも考える羽目になったじゃあねぇか!次、同じように突進したら確実に突破される…誰かが足止めしないと…。」

 

そう言いながらバリバリと頭をかくカヅキ、ここでイツキは一つの案を出した。

 

「いっそのこと、あの二人に任せてみたらどうかな? もちろん死を覚悟して…。」

 

「それは流石に…」

 

「賛同出来ないな。」

 

イツキの提案に反対の意思を示す当麻と士郎。当麻はどこか控え目に答え、士郎はイツキが冗談に言っているとは思えなかったので本気で反対した。

 

「逆に考えて全員であの魔物に立ち向かうか?」

 

「いやいや大将、あんたまで変なこと言わないでくれ!」

 

「そうです大アニキ! 真面目に考えてください!」

 

カヅキの提案に今度は佐助、厚志が猛反対した。カヅキは二人に咎められ「いや割と真面目に考えたんだけど…」と気が小さくなるように小声になった。

皆があれやこれやと言っている中、スバルはただ黙って考えていた。皆が無事に生還する方法を。

だが、これといって良い案が思いつかない’’早くしなければ’’という焦りもあり、思考が上手く巡らせずにいたのだ。「どうする? どうする!?」と自問自答を繰り返していた時、

 

「みんな聞いてくれないかな? 僕に提案があるんだ…」

 

その声が響き、みんな声を出した人物に注目した。

その声の主は南雲ハジメだった。

ハジメは真剣な表情で皆に自分の提案内容を話すのだった…

 




いかがだったでしょうか? 
四人の新キャラを登場しました。彼らはどちらかというとハジメ達の旅に同行せずにハジメ達が知らないところで’’こんな出来事があった’’という活躍をかけたらという思いで生まれました。いずれ旅の途中でハジメ達と絡む話しを書きたいですね。
ちなみにイメージ参考キャラは、

月山一希→秋月 紅葉(ブレンド・S)

月山一稀→イツキ(ソードアートオンライン フェイタルバレット)

猿山佐助→猿飛佐助(学園BASARA)

牛山厚志→モグゾー(灰と幻想のグリムガル)

こんな感じになります。
次回、皆の決意回となります。


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親友と呼ばれて…そして覚悟を決める者達

どうもグルメです。
今回は皆が覚悟を決めます。
どんな、想いで覚悟をするのでしょうか…
それでは、どうぞ。


「……は?」

 

「ハジメ君、それは……。」

 

「正気かハジメ!?」

 

スバル、当麻は提案を聞いた時、目を開いて言葉を失った。士郎は思わず声を荒げるのだった。

 

「ハジメさん、ダメです!! それはあまりにも危険すぎます!」

 

レムもこれを聞いてすぐさま止めに入った。いくら何でも危険過ぎる内容に居ても立っても居られなくなったからだ。

 

「アンタって見かけによらず度胸あるね~」

 

「本当、君にも驚かせるばかりだよ…ハジメくん。」

 

佐助とイツキはその度胸に関心しつつも、吹っ飛んだ内容に些か呆気に取られていた。

 

「ハジメさん、無理しちゃダメですよ…他にも何か良い案があるはずです。」

 

「……………。」

 

厚志はハジメの提案にどこか無理をしてないかと心配しになり、カヅキはただ黙って目をつむっていた。

 

「皆、色々思うことはあるかもしれない…でも今、この方法が確実に皆が助かる方法だと僕は思っている。」

 

ハジメは眉根を寄せて真剣な顔でここにいる全員に告げた。ハジメが言った提案、それは錬成を使いヘビモスの足を止め、その間に皆がトラウムソルジャーの方位を突破するというものだった。

全員が助かるかもしれない唯一の方法、しかし、ハジメの錬成を使ってヘビモスを止めるという行為は前代未聞の例がない事であり、成功の可能性も少なく、ハジメが一番危険を負う方法だ。

ハジメの提案を聞いた時、誰もが「無茶だ」と思った。しかし、だからといってこれに勝る方法はないし、思いもつかなかった。

皆、ハジメのこの提案に賛同するのか迷っていると、カヅキが目を開いてハジメに問いかけた。

 

「南雲ハジメ…撤回するなら今だぞ…」

 

「撤回する気はない、僕は真剣だ!」

 

「成功は極めて低い、失敗するとかもしれないぞ…」

 

「そんなのやってみなきゃ分からないよ!」

 

「もしかしてお前…死ぬ気か?」

 

「僕は死ぬつもりはない、生きて帰って見せる!」

 

カヅキの問いかけ一つ一つに強気な姿勢で答えるハジメ、その目をカヅキが覗くと自信に満ち溢れているように見えた。「彼は強い…」そう思えたカヅキは、

 

「南雲ハジメ、1つ頼めるか?」

 

そう言ってカヅキは頭を下げた。この行動にハジメはもちろん、ここにいる全員が目を丸くしているとイツキもカヅキの横に立った。

 

「僕からもお願いするよハジメ君。兄さんの頼みは僕の頼みでもあるからね…。」

 

そう言ってイツキもカヅキと同じように頭を下げた。これにはハジメも「二人共、頭を上げてよ」と言ってはにかんだ。二人が頭を上げるのを見て、ハジメはこれからの行動について皆に話した。

 

「とりあえず僕はこれから、あの大型魔物を止めに入る。その隙にみんなはガイコツの包囲を突破して、「ちょっと待ったハジメ…俺も行く。」えっ!?」

 

「スバルくん…。」

 

いきなりハジメの言葉を遮り宣言したのはスバルだ。ハジメは目を丸くしてスバルを見つめ、レムに至っては震えた声でスバルの名前を呟いた。皆が「何故?」尋ねられる前にスバルは落ち着いた声で話した。

 

「ハジメ、帰りはどうするんだ? 一人で群れの中を突破するとなると骨が折れるぜ、()()だけにな…」

 

そう言って洒落た事を言うスバル、ハジメはそれを聞いてため息交じりに、

 

「面白くないよ…それ。」

 

「分かっているよ、それぐらい………ハジメの帰る道は俺が切り開く、だから連れてってくれ!」

 

「うん、分かった……頼んだよスバル。」

 

そう言ってお互いの顔を見るハジメとスバル。どちらも目をしっかり開けて頷きあい、お互い覚悟ができていると瞬時に理解した。

そして、これを見てまた新たに覚悟を決めた者がいた。

 

「スバル君が行くなら、僕も行きます。僕の’’気’’は他人に流せば魔力に変換することが出来ます。これを使えば長く錬成も可能のはずです…」

 

そう言ってきたのは当麻だった。いつもの弱々しそうな表情ではなく、顔をしかめて、どこか落ち着いた表情でハジメの提案に参加表明を示した。

 

「スバル、当麻が行くとなったら俺も行くぜ、ハジメ。俺ら四人のパーティーの中で唯一の戦闘系の天職だ、俺が動かないとダメだろ?」

 

低い調子の声で士郎もハジメについて行くことを告げた。その姿はどこか気だるげで「やれやれ…」といった感じだが内心誰よりも「俺がしっかりしないと!」というやる気を見せるオトンの姿があった。

 

「二人共…ありがとう。」

 

当麻、士郎の名乗りでに感謝するハジメ。実は言うと「自分の魔力の少なさで上手く魔物を足止めできるのか?」とか「帰りの骸骨の群れをスバルだけで突破できるのか?」と少し不安に思うことがあったのだが、親友達のおかげで何とかなりそうだ。「やはり持つものは友だな」と改めて痛感するハジメのだった。

 

 

 

さて、四人がヘビモスの所に向かう事に覚悟を決めた時、クラスの中でこの四人と親しい間柄を持つ少女レムもまた、覚悟を決めてハジメの作戦に加わろうと、

 

「ハジメさん、私も…行きます。」

 

そう名乗りを上げるも、

 

「レム…気持ちは嬉しいけど、それは出来ない。」

 

「えっ? どうして…」

 

その返事に思わず肩を落とした。ハジメは続けて理由を述べた。

 

「僕も男だからね……女の子を危険な目に合わせるのは、やっぱり気が引いてしまうんだ。ごめん…」

 

そう言うハジメ、他の三人も同じ考えを持っていたのか「レムを連れて行こう」という者はいなかった。レムは一人だけ置いてけぼりにされたような、除け者にされたような気がして思わず唇を噛んだ。もちろん、ハジメが言っていることは理解できる、でも、元の世界でも一緒に行動することが多かった自分だけ脱出ルートに向かうのはどうしても気が引けるのだ。

そんなことをレムが思っているとすかさずスバルが、

 

「レム、頼みがあるんだが…先に脱出ルートに向かい魔法を撃てる準備をしてくれないか? 俺たちの撤退中にあの魔物の足止めをして欲しい…出来るか?」

 

「レム、お願いしても良いかな?」

 

「レムさん、お願いします。」

 

「レム、ここは引き受けてくれないか?」

 

スバルの提案を聞いて、ハジメ、当麻、士郎がすかさずレムにお願いを頼み込んだ。これを聞いたレムは、

 

「…分かりました。」

 

静かに承諾するのだった。だが、その表情はどこか暗く影があった。

 

「お互い方針は決まったようだな。よし、佐助! 厚志!」

 

ハジメ達やレムがこれからどう動くか分かった所でカヅキは佐助、厚志の名を呼んだ。二人は「ハイハイ大将。」「おうっ!」と返事をするとカヅキから指示を出された。

 

「おめぇら二人は手分けして他のクラスの連中に連携を呼びかけろ、行けっ!!」

 

「了解っと」

 

「おう、分かった!」

 

佐助と厚志はそう返事をするとトラウムソルジャー相手に戦っている生徒達の方に向かって走り出した。それを見届けると次にイツキの方を見てあることを告げた。

 

「イツキ、出し惜しみ無しだ。()()を使うぞ。」

 

()()を使うんだね…分かった兄さん。」

 

カヅキのアレという言葉に理解を示したイツキは、自分が背負っている物を一瞬目を向けた。ハジメ達も今気づいたがカヅキとイツキは背中に竹刀袋を背負っていた。二人が言う()()とはあの竹刀袋に入ってうるものだろうか? そんな疑問がハジメ達の頭を過った。

 

「それじゃあおめぇら…頼んだぞ。」

 

「気をつけてね。」

 

カヅキとイツキがそう告げると、二人は背を向けて走り出した。しかし、10歩くらい走った所であることに気づき立ち止まった。

一緒に脱出ルートに向かうレムがいないのだ。

後ろを振り向くと、レムだけがポツンと立っていた。カヅキは大きな声で呼ぼうとしたが何故かイツキに止められるのだった。

 

 

 

 

 

ハジメ達はカヅキとイツキ、そして一緒に行くことになったレムを見送ってからヘビモスの所に向かうつもりだったが、肝心のレムが動くことなく立ち止まって顔を俯かせているのだった。

「どうした?」と思いながらハジメ達がレムを見ると、

 

「皆さん………私は……わた…し…は……」

 

今にも泣きだしそうな震えた声でレムは呟いた。今、彼女の心の中で支配しているものは、このまま四人が行けば自分が夢で見たように消えてしまうのではないか? これが四人を見た最後の光景になってしまうのではないか? 大切な人を失う恐怖が彼女の心を支配し、足を震えさせて四人に背を向けて走り出すことができないでいた。

これを見ていたハジメ達はレムの気持ちが大いに伝わってきた。なにせレムだけ先に比較的に安全所に向かってもらうのだ。友達想いで元いた世界でも四人と一緒にいることが多かったレムにとってこれほど辛いことはないだろう。ハジメ、当麻、士郎はどう声をかけてレムに行ってもらうか必死になって考えていると、ここでもスバルが動きだし、スバルの両手がレムの両手を優しく包み込んだ。

 

「レム、昨日の約束覚えているか? 俺は自分の発言に責任を持つ。だから………信じてくれレム」

 

「スバル君……。」

 

優しく言うスバルの声にハッとして昨日の出来事を思い出すレム。月下で交わした二人だけの約束、それを思い出すと心を支配していた恐怖がゆっくり消え去るような気がした。

 

「それに俺たち親友だろ? 親友はお互い信じ合う事から始まる……だからレムも信じてくれ、親友の俺たちを!」

 

スバルの言葉にレムは耳を傾けていた時、あることに気づいた。

 

 

スバル君が初めて私の事を()()と呼んでくれた。

 

 

思い返せば、スバルがレムにハジメや当麻、士郎を紹介する時に「俺の親友の…」と言って紹介していた。そこから親友と呼ばれることなく交流して来たため、時より「自分は一歩手前の友達止まり」「スバル達の輪に入れない存在」と思い込むことがあったが……そうじゃなかった。

自分はもう既にスバル達の大切な存在であり、信じてくれる親友だったんだ。それに引き換え今の自分はどうだろう? ’’親友と思われてない’’と勝手に思い込では夢で見ただけの先の未来に怯え泣き、挙句の果てに親友に任された役割を理解せず、拒もうとしていた。……全くもって恥ずかしいし、情けない話だ。親友達が自分を信じてくれている、なら、自分も親友達の言葉を信じ与えられた役割を果たすべきではないか?

 

そう思っていると不思議なことにさっきまでの足の震えはなく、心の恐怖もなくなっていた。レムは目元に浮かべていた涙を拭くと、いつもの表情に戻っていた。しかしその表情は勇ましく、迷いない覚悟を決めた表情だった。

 

「皆さんごめんなさい、私はもう大丈夫です! だから……行って下さい! 私は皆さんを信じています!」

 

いつもの声より張りのある声でスバル達に告げると。

 

「おうっ!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「ああ!」

 

スバル、ハジメ、当麻、士郎はそう返事をして走り出した、ヘビモスの方へ。レムはその背を見て「ご武運を…。」と告げて待たせているカヅキ、イツキの所に向かった。

 

「カヅキさん、イツキさん、ごめんなさい、遅くなりました。」

 

「おう、もういいのか……あいつらと離れて?」

 

どこかぶっきらぼうに尋ねるカヅキにレムは、

 

「はい、大丈夫です! 私はもう迷いはしません。皆を……スバル君を信じるまでです。」

 

真っ直ぐカヅキを見つめながら話すレム、カヅキはレムの顔を見てその表情に、声に、迷いがないことを理解した。

 

「ヘッ………いい(ツラ)してるじゃあねえか、お前。」

 

そう言って軽く笑うカヅキ。

 

「お前じゃありません、レムです。今度はそう呼んで下さい。」

 

レムはそう言って抗議した。口は悪いが、嫌な気分になることはなかった。「この二人なら信頼することができる。」レムは瞬時に思った。

 

「そりゃあ悪かったレム。」

 

「ふふっ…よろしくねレム。」

 

二人はそう言いえると、カヅキとイツキは顔を見合わせてコクッと頷き合い、背負っていた竹刀袋からある物を取り出し、今まで使っていた西洋剣をしまった。

二人が竹刀袋か取り出した物、それは言わずと知れた剣道とかで見かける竹刀だった。「アレを使う」とカヅキは言っていたので二人には何か秘密兵器があるのだと思っていたが、実際に出てきたのは何の変哲もない竹刀。

レムは、「えっ……え!?」と言いながら困惑していた、てっきりもっと凄いものが入っていると思っていたからだ。

 

「これ、竹刀ですよね? あの……まさか、これであの群れを突破するって言うんじゃあ……」

 

「バーカ、そんなことあるか。ガキでもそんな発想しねぇよ。」

 

そう言うカヅキにレムは「ムッ」と眉をひそめ顔をしかめた。

 

「ごめんね、レム。後で兄さんにはきつく言っておくから…。」

 

そう言って小さく謝るイツキ、レムはこの時「イツキは八重樫さんと同じ苦労する人だ。」そんなことを思っているとカヅキはレムに宣言するかのように言った。

 

「レム、お前の仲間は命をかけて時間を稼ごうとしている。その行動に敬意を表して、俺は無事にレムを送り届ける事を誓おう……イツキやるぞ!」

 

「ああ、兄さん!」

 

二人はそう言うとカヅキは右手でイツキ左手で竹刀の中心を持ち、水平になるようにした。すると不思議なことに二人の周りに風が巻き起こり、その風は二人の竹刀に集まってきた。風は竹刀の周りを高速に周り始めてレムから見れば小さなハリケーンが起こっているかのように見えた。その証拠に所々小さな雷が走っていた。

そして次の瞬間ビューンと二つの竹刀から突風が起こり、思わず目を閉じてしまうレム。突風が収まったので目を開けるとある変化に気づいた。

 

「えっ、どうしてそれが? 一体何が…?」

 

またもや困惑するレム、何せこのトータスにはなかった物がカヅキ、イツキの手に握られていたからだ。

彼らが握っていた物、それは黒い鞘に納まり中心辺りから反った形をとっていた、俗に言う日本刀と呼ばれるものだった。

その日本刀をカヅキは左腰に添え、イツキは右腰に添えて構えを取った、お互い抜刀の構えだった。

 

「レム、これが終わったら今話せる事を話してやるよ。」

 

「危なくなったら、僕たちの背中に隠れてね…レム。」

 

そう言うカヅキとイツキ、現にレムの頭の中には気になることがいくつかあったが、

今はそんなことどうでもいい。親友達(彼ら)に、スバル君に託されたことを全力で努めなければ…

その想いが勝り、疑問はすぐに頭の隅に追いやることができた。カヅキは再度イツキとレムの顔を見て正面を向き、

 

「いくぞ! イツキ、レム!」

 

「ああ!(はい!)」

 

カヅキの掛け声と共に三人は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
皆の覚悟が読者様に伝われば幸いです。
この覚悟があって、皆逞しく前に進むことが出来ます。特にレムは…
カヅキとイツキの存在に謎が深まるばかり、一つ言えることは彼らは皆にはできない’’ある’’ことが出来ます。察しが良い方は分かると思いますよ。

次回はヘビモス撤退戦になります。


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ヘビモス撤退戦

お久しぶりです、グルメです。
仕事の関係でだいぶ遅くなってしまいました。
今回のお話しはクラスメイト達がヘビモスから逃げるお話しになっております。
ハジメはもちろん、色々なキャラが活躍します。
それでは、どうぞ。


「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

 雫は先程から光輝を撤退させるようと説得を試みるも一向に退こうとしなかった。さらに…

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

 

「龍太郎……ありがとな」

 

 龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫は舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

 

「雫ちゃん……」

 

 苛立つ雫に心配そうな香織。

 

 その時、二人の男子が光輝の前に飛び込んできた。

 

「天之河くん!」

 

「天之河ァ!」

 

「なっ、南雲!? それに影山まで!」

 

「南雲くん!?」

 

 驚く一同にハジメとスバルは必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

 

「天之河ァ!! 吞気にデカブツと相手してないで早く退くぞ!」

 

「いきなりなんだ? それより、なんで君達がこんな所にいるんだ! ここは君達がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて撤退するんだ!」

 

二人は撤退の催促をするも光輝は聞く耳を持たないのか動こうとはせず、逆に二人を撤退させようと催促するのだった。あまりにも他人の話しを聞かない光輝にスバルはキレるのだが、

 

「テメェいい加減に「そんなこと言っている場合かっ!!」おお? ハジメ!?」

 

ハジメはスバルの言葉を遮って今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。これには思わず硬直する光輝、そして親友の普段見せることない怒鳴り声に驚くスバル。

 

「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」

 

光輝の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。

 

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。

 

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

 

「みんな、伏せろ!!」

 

「下がれぇーー!」

 

〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、士郎の叫び声と団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲も咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により石壁を作り出した。すぐに砕け散ったがある程度は威力を殺すことができた。

 

グルァァァァァアアアアア!!

 

再びヘビモスが咆哮を上げ、舞い上がる埃を吹き払われた。

 

 

そこには倒れ伏し声を上げる団長と騎士の三人、その近くに当麻を庇うように伏せている士郎と当麻がいた。団長と騎士達は衝撃波の影響で身動きが取れないようで、士郎と当麻はすぐに伏せたことで何とか衝撃波を切り抜け、すぐに起き上がることができた。

光輝達もハジメの石壁が功を奏したのかすぐに起き上がることができた。ちなみに何故、士郎と当麻が団長の近くにいたかというとハジメの計画を伝えるためだったりする。

 

「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

 

「団長たちが倒れているなか、ここにいる自分達でなんとかするしかない…」そう考えた光輝は親友の二人に問いかけた。

その問いに答えるように苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る雫と龍太郎。

 

「やるしかねぇだろ!」

 

「……なんとかしてみるわ!」

 

二人がベヒモスに突貫しようとした矢先、

 

ビュッ!!

 

一本の矢が放たれて、その矢はヘビモスの右目を貫いた。

 

グガァァァァァァアアアアア!!?

 

ヘビモスに激痛が走ったのか叫び声ながらその場で暴れまわり、矢を取ろうと両手で自分の顔をひっかく動作をしていた。雫と龍太郎は矢を放ったであろう人物に振り向いた。

 

「このまま暴れて横に落ちてくれたら良いんだけどな……」

 

ぼやきながら次の矢を放てるように構える士郎、ヘビモスがもがいている内にスバルと当麻が倒れている団長と騎士の下に駆け寄った。

 

「団長達を後方に下げるぞ、二人共手伝ってくれ!」

 

スバルがそう言うと自分達のことを言っているとことに気づいた龍太郎と雫は、

 

「おう!」

 

「わかったわ。」

 

そう言って返事をして、急いで騎士の元に向かい、騎士に肩を貸すようにして下がり始めた。

 

「白崎さん、メルドさん達に治癒を!」

 

「うん!」

 

ハジメの言葉に頷き、メルド団長の元に向かう香織。同時にハジメも動き出し、スバル達によって一ヶ所に集められたメルド団長達の所に向かって、戦いの余波が届かないように石壁を作り出していた。

光輝はすでに今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を終えており「’’神威’’」という掛け声と共に光属性の砲撃、今自分が出せる最大限の攻撃をヘビモスに放った。神威は轟音と共にヘビモスに直撃、光が辺りを満たし白く塗りつぶして激震する橋に大きく亀裂が入っていった。

 

「これで……どうだ。」

 

「流石にやったよな?」

 

「だといいけど……」

 

龍太郎と雫がそんなことを呟きながら肩で息をしている光輝の傍に戻ってきたが、ここで龍太郎と雫の言葉を聞いてスバルは焦ったように喋り出した。

 

「おい、バカ。ここでそんなありきたりなフラグを立てるな! そんなこというと……」

 

スバルの脳裏にはアニメでよく見たテンプレが思い描かれていた。「大技を出して’’やったか’’と言った瞬間、実は効いてなかった。」というテンプレを。

スバルの言葉を聞いて光輝、龍太郎、雫は「え? …えっ??」と困惑するなか徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われた。その先には……

 

 

無傷のヘビモスがいた。

 

 

「ほら、見ろ~。」

 

凄く嫌そうな顔をしながら言うスバル、ヘビモスは低い唸り声を上げて頭を掲げた。頭の角を赤熱化していき頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎっていくのだった。

 

「ボケッとするな! 逃げろ!」

 

「クソッ、()()きいてないのかよ!」

 

メルド団長はそう叫び、士郎は無傷のヘビモスを見て舌打ちをした。光輝達は傷一つ与えてないヘビモスを見たショックから立ち直り身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始め、光輝達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下する、と思いきや………

 

 

ボコオオォォォォォーーーーン!!!

 

 

こちらに向かって落下する直前に何かが当たった。そのおかげで勢いが無くなりヘビモスは光輝達の所に落ちてくるどころか、その真下の地面に豪快に顔から突っ込んだ。ヘビモスは深くめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っていた。

「一体何が起きたんだ!?」とこの場にいる全員がそう思うなか、スバルだけがさっきの出来事に心当たりがあった。

 

「(さっきヘビモスがぶつかったのは、俺が囮になった時に使っていた魔法と一緒だった………)もしかして、レム?」

 

そう言って後方を見ると、

 

「はぁ…はぁ…私の親友に………手出しはさせない!!」

 

肩で息をするレムの姿があった。実はレムは役割は与えられたとはいえ、少しでも彼らの力になりたいと考えており’’離れた位置からどうにか彼らの援護は出来ないか?’’と考えていたところ、「大砲のように山なりに打ってみてはどうか?」と思いつき魔法を詠唱して魔力を込めていたが、跳躍したヘビモスが目に入りとっさになって放ったのだ。

レムが放った暴風球はスバルの時に使ったものより、さらに大きくそのおかげでヘビモスの勢いを殺し光輝達を救うことになった。

 

「ありがとな…レム。」

 

レムに向けてそう呟くスバル、聞こえる訳がないのだが伝わったのかレムはこちらを見て微笑んでいた。俄然スバルのやる気が上がった。

 

「おい、あのデカブツ! 様子が変だぞ?」

 

いきなり龍太郎が何かに気づき声を上げ、すぐさまヘビモスを見るとスバルにも様子がおかしいことに気づいた。ヘビモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っているのだが、さっきから力が入らないのか前足に力を入れてはすぐに脱力を繰り返していた。「これはどういうことだ?」と皆が思っていると、

 

「ようやく効いたか。王都で手に入れた魔物に効く最高級の麻痺毒………矢じりに仕込んでいて正解だったようだ。」

 

そう言ったのは士郎だった。それを聞いた時、誰もが「あっ」と言って納得した。光輝の神威を放つ前に矢を放ってヘビモスの右目に当てていたことを思い出したのだ。

 

「やーるう~士郎。」

 

「流石です、士郎くん。」

 

ハジメと当麻が褒めるなか、士郎は焦るように答えた。

 

「感心している場合じゃあないぞ! 本来はこの麻痺毒は中型の魔物を想定して作られたものなのだ…そう長くはもたないはずだ。」

 

それを聞いた皆は表情をこわばらせた。そして、もう毒が切れたのかヘビモスは途中で脱力させることなく前足に力を入れ始め、「もう、切れたのか!」と士郎が吐き捨てるように言った。

ヘビモスの前足にひびが入った時ハジメと当麻が駆け出した。

 

「錬成!」

 

頭部をめり込ませるヘビモスにハジメと当麻が飛びつき、ハジメは詠唱と共に錬成を始めた。前足のひびを錬成しては直して固め、めり込んだヘビモスの頭も錬成して抜け出さないようにした。

 

「僕の努力は無駄じゃなかったこと…今ここで証明して見せる!」

 

当麻はハジメの後ろに座り込み背中に両手を当ててハジメの魔力が切れそうになった時、注ぎ出すように気を流し込みハジメの魔力として変換していった。スバル、士郎も遅れてやってきてハジメと当麻の近くにより緊急な対応を取れるように身構えた。

 

「まさか、お前らに命を預けることになるとはな……必ず助けてやる。だから、頼んだぞ!」

 

「「「「はい!!」」」」

 

メルド団長の言葉にスバル達は返事をして返すと「くっ」と笑みを浮かべるメルド団長、そして光輝達に指示を出した。

 

「よしお前ら撤退するぞ! 光輝はこのままトラウムソルジャーの群れに向かい道を切り開け、お前ならできるはずだ! 雫、龍太郎、俺で他の騎士を担ぎ、香織は移動しながら治癒を頼む。騎士の治癒が終わり次第、俺らもトラウムソルジャーの突破を試みる。」

 

そう指示を出すメルド団長に香織は猛抗議、しまいには「私も残ります。」と言う始末、他の騎士の治癒を行うため、どうしても香織はメルド団長と共に撤退しなければならないことを伝えるも、なお言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられた。

 

「坊主達の思いを無駄にする気か! あいつらは今、自分達が出来る最大限のことをやろうとしている。香織、お前が出来る最大限のことは何だ?」

 

「ッ――。」

 

その言葉にはっと気づき、香織は一人の騎士に治癒魔法をかけた。雫は香織の気持ちを察して辛そうな顔をしつつ香織の肩をグッと掴み頷く。香織も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続けるハジメとそれを支えるスバル達に振り返った。そして、他の騎士を担いだメルド団長、雫、龍太郎、それに一足先にトラウムソルジャーの群れに向かった光輝と共に撤退を始めた。

 

「今、メルド団長達が撤退を始めた。」

 

「ハジメ、当麻、まだいけるか?」

 

状況を伝える士郎に、スバルはハジメ、当麻がまだ続けられるかどうか確認を取った。

 

「大丈夫、まだいける……」

 

「僕の気は沢山あります、ゆっくり行きましょう。」

 

余裕な顔で答えるハジメと当麻、実際に当麻という魔力を回復させてくれる存在がいるおかげで自分の魔力量を気にせずにどんどん錬成をしていき、ヘビモスの足止めを行っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、トラウムソルジャーの群れの突破を試みるレム達はというと………

 

「手を動かせ、連携を取りやがれ、この自惚れどもが!! 最終的に戦う意志を決めたのは他でもないおめぇらだろうが!!」

 

「兄さん、口が悪いよ。少し抑えて…」

 

「うるせぇー! つべこべ言う暇があったら目の前の敵を斬りやがれ!!」

 

「…はぁ~。」

 

カヅキとイツキは日本刀を手にトラウムソルジャーを斬り捨てていった。一応クラスメイト達を鼓舞するためカヅキは声を張っているのだが、なんせ口が悪い。戦いに熱が入っているのかイツキが指摘しても聞く耳を持たなかった。イツキは目の前の敵を斬りながら深いため息をはくのだった。

 

 

 

 

「妙子、左から来るわよ気をつけて! 奈々、そっちの敵はお願い! 正面は私が引き受けるわ。」

 

一方こちら士郎に助けられた優花も長年の付き合いのある親友、菅原妙子、宮崎奈々と共に連携を取りトラウムソルジャーに立ち向かっていった。そこに、

 

「皆さん大丈夫ですか? 私が援護します!」

 

下級魔法を連発して優花達の周りのトラウムソルジャーを一掃していった、三人は魔法を放ったであろう人物の方に振り向くとそこにレムが立っていた。

 

「レム、助かったわ!!」

 

優花が喜びの声を上げてレムに近づき、それに釣られるように妙子、奈々もレムに駆け寄った。

 

「皆さん、お怪我はありませんか? それと、ごめんなさい……勝手にパーティーを離れてしまって。本来なら最初に合流するべきだったのに………」

 

そう言って申し訳なさそうにするレム。実は言うとこの四人は迷宮に入るために事前に決められたパーティーメンバーであり、また、レムにとって優花、妙子、奈々は高校に入った時に出来たスバル達以外の大切な女子友達だ。

ヘビモスが現れてクラスメイト達がパニックになったあの時、レムのパーティーメンバーはバラバラになった。本来なら優花達と合流すべきだったのに自分の勝手で真っ先にスバルの方に駆け寄ったことに負い目を感じており、そのことで改めて三人に謝罪をするのだった。

 

「いいっていいってそんなこと、レムも心配してスバル達の所に行ったんでしょ? 別に悪いことじゃないし、気にしてないって私たち!」

 

「そうそう、こうして無事に四人合流できたからいいじゃない。」

 

「そうだよレムっち、深く考えすぎだよ。それに私たちだけでも強いのだからね!」

 

そう笑顔で答える優花。その言葉に同調するかのように妙子、奈々も答えた。

 

「みなさん……。」

 

三人の言葉に思わず心の中が熱くなるように感じた。「スバル君達だけではなく彼女達もまた私にとって大切な存在、大事にしなければ…」改めてそう思ったレムは申し訳なさそうにしていた顔を切り替えて、真剣な表情で言った。

 

「私ができるだけ多く殲滅します、みなさんは私の討ち漏らしをお願いします!」

 

「「「了解」」」

 

レムの言葉に三人は大きく頷き、四人は連携をとってトラウムソルジャーに立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

さてカヅキの鼓舞する声でクラスメイト達がパーティで連携を取り、ソルジャー達に奮戦していた時ここで、

 

「天翔閃!!」

 

純白の斬撃がトラウムソルジャーを切り裂き吹き飛ばし、橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていった。

 

「ようやく勇者(ヒーロー)のお出ましだね、兄さん。」

 

「ああ…ったく遅えぞ!! 天之河ァ!!」

 

そう言って二人は後ろを振り向いた。その先にはこのクラスの勇者、天之河が立っていた。

 

「皆、あきらめるな! 道は俺が切り開く!!」

 

そんなセリフとともに再び天翔閃が敵を切り裂いていく。

 

「お前たち!しかっりしろ! 階段はもう目の前だぞ!!」

 

皆の頼れる団長が天翔閃に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と討ち倒していった。

 

「行くわよ、龍太郎!」

 

「おう!」

 

雫のかけ声と共に駆け出し、斬りふせ、投げ倒して行く二人。

 

「―天恵」

 

後方では香織が詠唱を紡ぎ、クラスメイトのパニックを必死になって抑えていた騎士の治療をしていた。ハジメの所に向かいたい事を我慢し、涙をこらえながら香織は治療を続けていた。

 

「……………。」

 

そんな様子をカヅキは刀を振りながら辺りを見渡していた。天之河、メルド団長、八重樫、坂上、この四人が果敢に敵に攻め、周りのクラスの連中はそれに触発されたかのように活気を取り戻し、負けじと反撃を行っていた。レムも守るどころかパーティーメンバーと連携を取りガンガン攻めていた。「ここはもう、任せてもよいな…。」そう思ったカヅキは、

 

「突破するぞ、イツキ!」

 

「…!? 分かった、兄さん!」

 

兄の意図を理解したイツキは相づちを打った。そして、二人は天之河を挟むように横に並び、刀を上段にして俗に言う’’霞の構え’’を取った。それに気づいた光輝は交互に見ながら、

 

「君たちは一体、何を…」

 

光輝の疑問に二人は正面を向きながら答えた。

 

「んなものはどうでもいいから、前方の敵に痛いのぶちかませ!」

 

「答えは…見ればわかるさ。」

 

そう言って構えを続けるカヅキとイツキ、そしてこの構えに光輝だけでなく、この二人も気づいた。

 

「おい、あいつら何やってんだ? それにあいつらが持っているものって…」

 

「日本刀…どうしてそんなものが? それにあの構えは……!?」

 

龍太郎と雫は最前線だということを忘れてカヅキとイツキの様子を見ていると、光輝が天翔閃を前方に放ち、トラウムソルジャーの群れを切り裂きぶっ飛ばした。そして、わずかに開いた一瞬の隙間を二人は見逃さなかった。

 

「「穿月(うがちづき)」」

 

「なっ!? 」

 

二人のかけ声と共にトラウムソルジャーの群れに出来たわずかな隙間に向かって電光石火の如く刀の突きを放つように突っ込み、いきなりの出来事で当然驚く光輝。二人の突進する突きはトラウムソルジャーを吹っ飛ばし、骨を粉砕しながら群れの中を突き進み、階段側へと辿り着いた。

 

「うおっ!! あいつらあんなことが出来たのか!?」

 

「………きれい。」

 

龍太郎は率直にカヅキとイツキの技量に驚き、雫は二人の剣技に見とれており特にイツキの’’穿月’’はまるで流星のようだったと思えるほど鮮やかだった。

 

 

「上手くいったな…勝利が見えてきたぞイツキ!」

 

「ああ、もうひと踏ん張りだね…兄さん。」

 

二人はお互いに頷くとソルジャーに斬りかかっていた。前からは強力な魔法と武技の波状攻撃、後ろからは一騎当千如きの剣技でトラウムソルジャーはどんどん行き場を失い、ついに魔法陣による魔法の召喚速度を超えて階段への道が開けた。

 

「皆、階段側を確保するぞ!」

 

光輝のかけ声と同時に走り出し、それに続くようにクラスメイト、団長、騎士達も続いた。全員が包囲網を突破し背後が再びトラウムソルジャーで閉じられようとするも、そうはさせ時と光輝が魔法を放ち蹴散らす。クラスメイトの何人かは訝しそうな表情をするなか、それを無視して我先に階段を上がろうとする者もいたが、

 

「おいゴラァ! 何勝手に行こうとしてるんだ? まだ、終わってねぇ!!」

 

階段前で仁王立ちしているカヅキに止められた。

 

「皆、待って! 南雲くんを助けなきゃ! 南雲くんがたった一人であの怪物を抑えてるの!」

 

「ハジメさんだけじゃありません! 当麻さんや士郎さん、それにスバル君もあそこでとどまってハジメさんのサポートに回ってもらっています!! ですから、彼らが脱出するまで援護を……」

 

香織とレムの言葉に困惑するクラスメイト達、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには確かにハジメ達の姿があった。それを見てさらに困惑し、疑問の声をもらす生徒達に指示を出した。

 

「そうだ! 坊主達があの化け物を抑えているから撤退できたんだ! 前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! アイツらが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいた、それに対してカヅキは、

 

「ここを通ろうとするものは命まで取らんが、切り捨てる! その覚悟はあるんだろうな?」

 

殺気を放ちドスの効いた声で刀の柄に手を当て、生徒達を睨みつけた。これには生徒達も「ひっ」と声を上げ、恐れをなして団長の言われた通りに配置に着いた。

 

 

 

「当麻、ハジメ、今、全員が撤退を終えて詠唱をの準備に入っている。そっちはどうだ?」

 

「すみません、士郎くん、ハジメくん。これ以上気を流したら走れなくなるかな…。」

 

「となると僕も後一回は錬成できるってところかな? それ以上は、きついな。」

 

士郎の言葉に当麻、ハジメはそう答えた。二人はすでに疲労がピークに達しているのか少し肩で息をしており、額に汗が流れていた。

 

「よし、当麻はそろそろ離れて走れる準備を、ハジメが最後の錬成を終えて走り出したら俺らも走るぞ。スバル、俺らの役目は分かっているよな?」

 

「おう、ハジメと当麻に迫る骸骨を斬り払う、だろ? 分かっているって。」

 

そう自信満々に答えるスバルに士郎は「よし。」と頷いた。そして、何度目かの亀裂が走ると同時に「みんな、いくよ。」とハジメのかけ声と共に錬成でヘビモスを拘束した後、一気に駆け出してスバル、当麻、士郎もそれに続いた。ちなみにスバルと士郎はハジメ、当麻の一歩前に出るように走ってトラウムソルジャーに備えた。

四人が駆け出した10秒後に咆哮と共にヘビモスが起き上がり片目で周囲を見渡し、己を地面に埋めた怨敵を探してハジメ達を捉えた。再度、怒りの咆哮を上げてハジメを追いかけようとした時、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据え、ダメージには程遠いが、しっかりと足止めになっていた。

「いける!」誰もがそう確信し、転ばないよう注意しながら頭を下げて全力で走るハジメ達。ヘビモスの距離がすでに二十メートル広がった時、スバルに異変が起こった。

 

……………ゾクッ!

 

「(………まただ!?)」

 

あの時と同じように全身に悪寒が走った。「また、嫌な予感が来るのか? 脅威はどこだ?」と思い、辺りを見渡して、ふと正面を見てある一点に止まった。

その一点とは、檜山だった。

一見ヘビモスの足止めのため魔法の詠唱唱えているように見えたが……その顔は歪んでおり、ドス黒く濁った瞳で笑っていた。檜山の笑顔に若干退くも、何故あんな笑顔をするのか分からなかった。これを見たスバルは頭の中に様々な疑問が浮かび上がってきた。

 

皆が必死の中、なぜ笑っていられる?

 

しかも、あの歪んだ笑顔は何だ?

 

檜山とはどういう人物だった?

 

俺たちとの関係は? 今までどんな風に関わってきた?

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(まさか、アイツ!?)」

 

………ゾクゾクッ!!!

 

檜山の目的が分かった途端、またもや悪寒が走った。しかもさっきとは尋常にならない悪寒が。それと同時に檜山の手の平から魔法が出るのが見えた、それを見た瞬間、スバルは動いた。何も考えずただ檜山の目的を阻止するために動くのだった。

檜山が放った魔法は真っ直ぐヘビモスの所に向かわず、ハジメの前に迫っていた。

ハジメが気づいた時にはすでに目の前に迫っており「(何で!?)」と疑問や困惑、驚愕が一瞬で脳内を駆け巡った時……………視界が横にずれた。

 

「………えっ?」

 

一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ハジメは何とか地面に倒れる前に踏ん張って体勢を持ち直し瞬時に横を振り向くと、飛んできた魔法をモロに受け、後ろに飛ばされる親友(スバル)の姿があった。

 

「スバルッ!!」

 

ハジメが声を上げた時には来た道を引き返すように転がっていた。ハジメはすぐにスバルの元に駆け寄った。

 

「「スバル(君)!?」」

 

ハジメの声に振り向くとスバルが吹き飛んでおり、当麻と士郎は「何故!?」という疑問も思わずに、飛ばされた親友の元に駆け寄るのだった。

 

「ゲホッ、ゲホッ、……ク…ソ…」

 

魔法をモロに喰らい、立ち上がろうとするもなかなか立つことが出来ず四つん這いの状態になった。そして、胸もとが妙に熱く焦げ臭い匂いが漂った。少し見てみると案の定、胸元の辺りが焦げているためさっきの魔法は’’火球’’によるものだと分かった。

 

「「「「スバル(君)!!!」」」

 

ハジメ、当麻、士郎が駆け寄って来た。三人はスバルが立てないと分かると、ハジメがスバルの右手を、士郎が左手を持ち、当麻が襟元を掴んで引きずり始めた。とっさにスバルは「自分を置いて逃げろ。」と言おうとしたが三人に怒られることが目に見えたので黙っていることにした。三人がスバルを数十歩引きずった時に、

 

ドカァァァァァーーーーン!!!

 

ヘビモスがスバルの所に飛び込んできたのだ、まさに間一髪。もし、あそこで三人がスバルの肩を貸すように逃げようとしていたら、今頃ヘビモスに押しつぶされていただろう。三人の賢明の判断にスバルは感謝していると、

 

メキメキメキメキ………。

 

ヘビモスのさっきの飛び込みでヘビモス中心に物凄い勢いで亀裂が入った。

 

「ウソ……だろ?」

 

スバルがそう呟いた瞬間、橋は崩壊を始めた。度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超えたのだ。崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。だが、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていく事となった。

ハジメ達も崩壊するまでに渡り切ろうとするも、崩壊速度に追いつかれて、とうとう足元が崩れ重力に従って落ちてしまった。その拍子にスバルから三人の親友の手が離れた。

 

「お前ら………絶……対に……生き………ろ。レム……おれ…は…」

 

’’親友達よ…どうか無事で。レム、必ず約束は守る、だから待っていてくれ’’ そう願いながら、弱々しく呟くスバル。落ちていく中、対岸のクラスメイト達の方へ視線を向けると、香織が飛び出そうとして雫や光輝に羽交い締めにされていた。優花は大事な家族の士郎が落ちる姿を見ているのか青ざめた顔をして、こちらを見つめており、そして、レムに至っては呆然とした表情で立ち尽くしているのだった。

他のクラスの連中も目や口元を手で覆ったりして、メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情でこちら見つめていた。そして、この状況を作った張本人、檜山はというと、

 

「…………。(ニヤリ)」

 

「してやったりぞ、ざまぁ見ろ。」と言いたそうな顔をしてから歪んだ笑顔を向けていた。その顔を見た途端、かつてない程の怒りと殺意が沸いた。

 

「(こんな所で終わるものか……絶対に生きてやる! 檜山ァ、お前だけは、いつか必ず……殺す!!)」

 

スバルは檜山が見えなくなるまで睨みつけながら、奈落の底へ落ちていくのだった。

 

 




いかがだったでしょうか?
この話しは色々なキャラをしゃべらしたり、動かしたりして書いてて楽しかったです。
ちなみに月山兄弟が使った穿月は私の大好きなゲームのキャラの技だったりします。剣技もそのキャラを参考にしていきたいなと考えております。

次回、スバルが奈落の底で、ある出会いを果たします。


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奈落の底の出会い。

どうもグルメです。
アニメ放送に先駆けて声優発表とかありました。ティオはもちろん、雫の声優も決まって益々楽しみになってきました。しかしティオの声優が日笠さんとは、てっきり某ドM騎士経験のある茅野さんかと思っていたばかり………日笠さんも色々危ない所を踏まえたら適任かもですね。
さて、雑談はこの辺にして、

今回のお話しは、奈落の底に落とされたスバルは親友とはぐれ迷宮の中をさまよいます。そんな中、自分の運命を大きく変える、ある出会いを果たすのでした。


それでは、どうぞ。



「ハァハァハァ………」

 

暗闇の中、周囲の緑光石の発光を頼りにスバルは走っていた。そして、その後ろから

 

「「「「グルルルルルルゥゥゥゥ!!!」」」」

 

二尾狼が四匹が追いかけてくるのだった。

 

「クソッ、こんな所で追いかけっこしてる場合じゃないってのに…。」

 

愚痴りながら二尾狼から逃げるスバル。あの後スバルは奈落の底に落ちていく中、横から噴き出していた鉄砲水のような勢いで出ていた滝にぶつかっては壁際に押しやられて、偶然にあった横穴に入ってウォータースライダーのように流されたのだった。スバルが気づいた時には川の浅瀬で浮いており、特に大きな怪我もなく、まさに奇跡と言っても過言ではないだろう。

だが、その奇跡は長く続くことはなく、スバルが意識を取り戻して起き上がった時、運悪く水を求めてやってきた二尾狼に鉢合わせてしまい、一息入れる間もなく追いかけられる羽目になったのだ。どれぐらい走ったかスバルは知らない、だが、川の水温で体力を奪われ休憩なしの二尾狼のの追いかけっこに疲労のピークがすぐそこまで来ているのは確かだった。

 

「まだ…追ってきやがる。しかも増えてる…」

 

ふと走りながら後ろを振り向けば二尾狼は相変わらず追いかけていた。しかも二匹増えて、六匹の二尾狼が追いかけてくるのだった。再び正面を向いて当てもなく暗闇の中、走り続けるも既に体力の限界が来ており、走るスピードは落ちていき足の感覚もすでになく、何度かつまずきそうになった。スバルの限界を超えてから百歩目の時に、

 

「あっ…………。」

 

一瞬、身体が宙に浮くような感覚に陥った。道の窪みに足を取られてつまづいたのだ。スバルはそのまま地面にダイブ、顔を上げていたので何とか顔面強打だけは免れた。急いで立ち上がり後ろを向くと、すぐそこまで迫ってきており、とっさに腰に備えてあった剣を抜いて構えるも、

 

「グルルルゥゥゥ…………………」

 

襲ってくることはなかった。5、6歩前で立ち止まって唸り声を上げるだけだった。むしろ、二尾狼が1歩ずつ下がりながら距離を空けていき、1体ずつ来た道の方に走っていくのだった。

 

「助かった……のか? はぁ~。」

 

緊張していた身体が緩み構えを解いた。正直6匹相手にして勝てる自身がなかった、最悪’’死’’を覚悟していたので何もせずに戻っていった時、狼が逃げていった疑問よりまず安心が勝ってしまった。だからすぐに気づかなかった、後ろに何かいることを、

 

 

 

 

 

 

 

最初のソレに気づいたのは首元に生暖かい風が当たったからだ、次に生物が呼吸する音、また今思い返せば狼が立ち止まった時、目線はこちらではなく少し上を見ていた。このことから狼は自分より強大なソレに怯えて引き返していったのだろう、そしてソレは今自分の後ろにいる。

スバルはゆっくりと振り向いた。

 

「…………ッ!? ハァ…ハァ…ハァ…」

 

それを見た瞬間、思わず尻餅をついて少し下がった。心臓の鼓動が早くなり、過呼吸のような呼吸をして再び死の恐怖が押し寄せて来た。スバルが見たもの、それは鬼だった。

身長は二メートル以上、全身若紫色の皮膚で覆われ、髪は銀色のきれいな髪色をしており腰の所まで伸びていた。身体はボディビルのような筋肉質で手足の爪はそれだけでも武器になりそうなくらい鋭かった。そして鬼の象徴とも言える二本の漆黒の角は頭から少し出て髪に隠れそうで隠れない大きさを持っており、そして、ただ黙ってスバルを見下ろしていた。

 

「ハァハァハァ………ッハァハァハァ…。」

 

スバルは一刻も早くこの場から逃げ出したかった。だが、身体が恐怖に支配され動くことがままらなかった。仮に背を向けて逃げ出しても鋭い爪で背中を切り裂かれると思うとゾッとして行動に移せなかった。

スバルは思った、「俺はこのままあの鬼に無惨に引き裂かれて、肉の塊になるだろう。あっけない最後だな…」と、そして走馬灯なのか色々なことを思い出していた。保育園の頃、小学校の頃、大好きな父と母が死んだこと、ハジメと初めて友達になった時など、様々な思い出が駆け巡り最後に思い出したのは。

 

トータスに来て初めての夜、月の下で親友達と誓いを立てたこと。

 

迷宮に入る前夜、月光に照らされながらしたレムとの約束。

 

この二つの思い出が出てきた時、ふと思った。’’このまま黙って死を受け入れて良いのかと……’’

 

「………んなわけあるか。」

 

それは小さな声だった。スバルは恐怖に震える身体を抑えて立ち上がり剣を抜いて構えた。

 

「影山スバルは終われねぇ、こんな所で終わるわけにはいかねぇんだ!! 大事な親友との約束を果たすために、ここに突き落としたクソッタレな野郎をぶちのめすために生きなきゃならないんだ!!」

 

そう言って「うおおおぉぉ!!」という掛け声と共に剣を構え鬼に向かって走り出した。狙うは首元、首を跳ねるつもりで鬼に迫った。

 

「俺は……負けられないんだ!!」

 

そう言って鬼の懐前でジャンプすると同時に剣を振り上げて勢いよく下した。影山スバル一世一代の賭けに出たが、それはあっけなく終わった。

鬼は左手でスバルを振り下ろそうとしていた剣を掴んだ、宙ぶらりんになるスバル、それを気にせず簡単に剣を砕いた。

 

「あっ………。」

 

再び鬼の前で尻餅をつくスバル、そこに鬼の大きな右手が迫った。

 

「(やられる!)」

 

無駄かもしれないが思わず目をつむり、腕をクロスさせてとっさに防御をとった。歯を食いしばり痛みに耐える心構えもしたが………

 

「(………………あれ?)」

 

いっこうに痛みが来なかった。「もしかしてもう死んだのか?」と思ったが、また身体が動く感覚はあった。スバルは恐る恐る目を開けて目の前の光景を見た。

 

「………止まっている?」

 

目を開けるとそこには鬼の手の平が広がっており簡単にスバルの頭を包むことができる大きな手の平は目と鼻の先にあって動きが止まっている状態だった。「一体何がどうなっている……」と思っていると鬼のその凶悪な顔に似合わない行動を始めた。

 

ポン、なでなでなでなで…

 

鬼はスバルの頭に手をのせると、いきなり優しくなで始めた、鬼特有の皮膚なのかザラザラした感触が伝わるのだった。

 

「えっ………………えっ?」

 

スバルは当然困惑していた、てっきり引き裂かれて食べられるものだと思っていたからだ。それと同時に懐かしい感覚に包まれた。

 

 

 

この感覚は俺は知っている。

 

 

この懐かしい気分も俺は知っている。

 

 

この温もりもまた、俺は知っている。

 

 

 

そんなことを思いながら深い記憶の底からある事を思い出して思わず「あっ…。」と呟いた。

 

 

 

 

 

 

この感覚は……大好きな親父に撫でられている時と一緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

生前、スバルの父はよく頭を撫でていた。褒めている時や慰める時など、色々な所で撫でていた。スバルはその撫でられることが大好きだった。

スバルはそれに気づくと困惑していた頭が徐々に落ち着き、こわばっていた身体を緩ませた、そして、

 

「うっ……………くっ…………うわあああああぁぁぁぁぁぁーー!!」

 

緊張の糸が切れたのか大きく泣き始めた。まるで子供のように、ここが危険な迷宮の中だということも忘れて泣いた。

実は言うとスバルの心の中はぐしゃぐしゃだった。

 

 

 

落ちていった親友は生きているのだろうか?

 

もしかして、もう俺を残して死んでいるのではないだろうか?

 

俺はこれからどうすればいいのか?

 

俺はここから脱出できるのか?

 

このまま死ぬのか?

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レムとの約束をちゃんと守れるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不安や恐怖など様々な負の感情がスバルの心を黒く染めていた。だが、鬼にこうして撫でられ、昔を思い出し、大きく泣く事で黒く染めていた心が少しづつ洗い流されていった。それを知ってか知らずか鬼はスバルの頭を撫でる事をやめなかった。

 




※本編と何の関係のないお話です。

「「OTZ」」

「ちょっと妙子、仁村、二人揃って膝なんかついてどうしたのよ?」

「優花ぁ~、私、漫画版に出てこない…リストラされたよ~」

「同じく…」

「えっ……あっ!そういえばそうね…」

「納得いかないわよ! 仁村はともかく、私がリストラされるなんて! 本編終了後のお話で私活躍するのに! W〇k〇ped〇aでも紹介は奈々より先で多く書かれているのに!何で奈々じゃなくて私なの!?」

「菅原、ちょっと酷くないかそれ!?」

「そうだよ、妙っち。ひどいよ!」

「ちょっと落ち着きなさい三人とも!」

「そうです、優花さんの言う通りです、三人とも少し落ち着いて下さい。」

「「「レム(っち)(さん)」」」

「お二人の気持ちはよ~く分かります、出番がないことはとっても辛い事です……私も元ネタの作品の二期のアニメ化決まって喜びました、ですが……」

「「「「ですが?」」」」

「私、そんなに出番がないのです………OTZ」

「「「「「レム(っち)(さん)!!?」」」」




「レムがあんな風にへこむなんて初めて見たぜ……」

「スバル出番だ、レムを慰めこい。」

「いやいや士郎、ちょっと無茶ぶり過ぎませんか!?」



本編に出て漫画版でリストラ、よくあると思います。二人のリストラは少し残念でした。


次回、スバルの天職に大きな転機やってきます。


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レオン・ガロード

どうもグルメです。
遅くなりましたが、ようやく投稿する事が出来ました。話しのストックが切れそうでしたのでせっせと下書きをしていました。と言っても2~3話分しかかけていませんけど…

さて、今回のお話しはスバルに転機が訪れます。そして、天職についても解明されます。

それでは、どうぞ。


「フ―――スッとしたぜ。まさか、某超人人間みたいな方法で頭を冷静させる羽目になるとは……。」

 

あれからどれくらい泣いていたか分からない、だが泣いていたおかげで身も心もスッキリする事が出来た。そして、頭を撫でていた鬼はというと、

 

「………………。」

 

何をすることなくあぐらをかいてスバルを見ており、スバルはなるべく顔を合わせないようにしつつも、チラッ、チラッと顔を見ては様子を伺うのだった。とりあえずこの鬼について考えてみた。

 

「(敵…じゃあないんだよな? 俺はてっきり食料か何かで食われるもんだと思っていたんだが………)」

 

<……おい。>

 

「(さっきから何もしてこない………もしかして、これは某RPGみたいに「仲間になりたそうにこちらを見ている!」って奴か?)」

 

<おい。>

 

「(いやいやいや考えすぎだ。この世界、そんな簡単にご都合主義があるわけがない! 多分、油断させておいて、気が抜けた所をガブッと…!)」

 

<おい!!>

 

「うるせぇーな! 誰だよさっきから話しかけてくる奴は!!」

 

<俺に決まっているだろ! 馬鹿が!!>

 

さっきから聞こえてくる声にキレて辺りを見渡すスバル、しかし、当然というべきか周りに人はいなかった。

 

<こっちだこっち、俺以外に誰がいるんだよ。>

 

また、声が聞こえてきた。思えばこの声、少し違和感を感じており耳から聞こえてくるというより頭に響いてくるような感覚があった。そんなことを思いながら辺りを見渡すもやはり人影は見当たらず、ここで「もしや……」と思い、

 

「まさか…………お前なのか? さっきから話しかけているのは?」

 

<ああ、そうだ。しゃべる事はできないが特定の相手に念話で話すことは出来る。>

 

恐る恐る目の前の鬼に向かって話すスバル、するとまたもや頭に響くように声が聞こえてきた。どうやらさっきから話しかけているのはこの鬼で間違いないようだ。

 

「そうなのか……それよりもアンタ、何でさっき俺の頭を撫でたんだ? 俺はてっきり食べられるかと思ったんだが…?」

 

ここで頭を撫でた理由について鬼に尋ねてみた。

 

<頭を撫でたのは………何となくだ、意味なんかねぇよ。それと同時に俺は魔物は喰うが、人は喰わねぇよ………………人だからな。>

 

その言葉にスバルは目を開いて驚いた。

 

「えっ!? アンタ、人間なのか?」

 

<ああ、正確には元人間といった方が良いかな? 色々あってこんな姿になるはめになったが……。>

 

どこか物静かに話す鬼にスバルはさらに疑問を投げつけた。

 

「いろいろって、一体アンタに何があったんだ?」

 

<おいおい、お互い名前も明かしていないのに一方的に俺の話をさせるのはマナー違反だぜ、先ずは自己紹介だろ。親に教わらなかったか?>

 

鬼の最もな意見にハッと気がつくスバル。しかし、鬼の話し方にどこか癇にさわったのか不貞腐れたようにスバルは答えた。

 

「親に教わったさ……もう死んじまったけど……。」

 

<そうか…………………すまぬ、人の気も知らず心無いことを言った。>

 

「いいって、気にするなよ。アンタは知らなかっただけだし……」

 

変な空気になりお互い黙り込む二人、どれぐらいそうしていたか分からないがこの空気を破ったのはスバルだった。

 

「よし、くよくよしても仕方がない、切り替えて行くか! と言う訳で俺の名はスバル、影山スバル。アンタは?」

 

さっき変わり落ち込んでいた様子から一転して元気に自己紹介するスバル。鬼はあっけに取られて黙り込むがすぐに念話で返すのだった。

 

<レオン………レオン・ガロードだ。親しかった奴は皆、’’レオン’’と呼んでいた…>

 

「レオン・ガロード……おめぇカッコイイ名前だな。」

 

<それはどうも…………。>

 

スバルの言葉に照れているのかちょっとそっぽを向くレオン。スバルはそれを見てニッと笑ったあと「よし。」と言って意気込んだ。

 

「レオン………色々話したかったけど、俺行くよ。親友達が待っている。」

 

<………………。>

 

背を向けて言うスバル、レオンはそれを黙って聞いていた。

 

「じゃあな、多分ここにはもう戻って来れないと思うけど達者でな。それと、ありがとう……レオンのおかげで少しだけ懐かしい気持ちに浸れたから……。」

 

そう言って離れた親友達を探すため駆け出そうとした瞬間、

 

<………何、格好つけているんだよ。>

 

レオンはスバルの後ろの袖を掴んで宙ぶらりんにした。

 

「お、おい!? 何するんだよ、レオン! 俺は急がないといけねぇんだよ!! こうしている間にハジメ達に何かあったら<まぁ待て、話を聞け!>」

 

じたばたするスバルにレオンは落ち着くように言うとレオンはスバルを地面に立たせた。

 

<いいか、俺が何の意味もなくお前の前に現れたのではない。お前から、位置(パス)を感じ取ったからだ。>

 

位置(パス)?」

 

<簡単に言うと特殊な気配だ。スバル……お前の右手の平に魔法陣が描かれているだろ? そこから位置(パス)を感じるんだ。>

 

レオンの言葉にスバルはハッとして包帯に巻かれている自分の手の平を見た。「この右手の平に書かれていた魔法陣について知っているかもしれない…」そう思ったスバルはレオンに尋ねた。

 

「レオン、俺の右手の平にある魔法陣について何か知っているのか?」

 

スバルの言葉にレオンはゆっくり念話で返した。

 

<ああ、知っている。それは’’融合紋’’魔物と融合をするための唯一の紋章だ。>

 

「魔物と融合……」

 

スバルは言葉を震わせながら呟いた。ようやく自分の天職について糸口が見えてきたからだ。

 

<そしてだ、スバル。元をたどれば…俺はお前と同じく融合者で、その融合紋は……俺が使っていた奴だ。>

 

「えっ? それはどういうことだよ!?」

 

驚きの事実に困惑するスバル、レオンは<まぁ、話すから座りな。>と念話で伝えてスバルを座らせ、ゆっくりと語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レオンは元々ある部族の一人であり、その部族は融合紋で魔物を取り入れ、その取り入れた魔物の力を使って戦う部族だった。部族の中には強力な魔物を取り入れる者もおり、当然、他種族や他部族からも恐れられていた。

’’魔物を取り入れる’’ということが周りから異常に見えたため、その部族は他部族、他種族に迫害され徐々に数を減らしていき、結果、レオンがその部族の最後の一人となった。

レオンは周りから自分はその部族の出身であることを隠しながら、ある王国に仕えた。そこで出会った本心を語り合える唯一無二の親友と一緒に小さな王女を支えながら幸せの日々を過ごしていたが、ある日その親友がクーデターを起こし王国を乗っ取った。

王女は殺され、レオンもあっけなくつかまりここに連れて来られた。そして、親友に融合能力の存在を恐れられたのか、融合紋を親友に無理矢理奪われ、その代償として暴走を起こして取り入れた魔物に姿を変え、人に戻る事も、この姿で外に出る事も出来ずに約300年間、ここをさまよっていたことを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<………俺の話しは、まぁ、こんな感じ………って、スバル、お前……泣いているのかよ!?>

 

「………うぅ…だって……だってよ………。」

 

レオンは夢中になって自分語りをして気づいていなかったが、いつの間にかスバルはむせび泣いていた。「泣くとこなんかあったか?」と思いながら訳を聞いてみると、

 

「だって……だって、信じていた親友に裏切られ、融合紋は奪われてそんな姿になり、ずっとずっとここにいたんだろ? こんなの生き地獄だよ………。」

 

そう言ってむせび泣くスバル、その姿にレオンは「やれやれ」と苦笑いを浮かべながら頭を撫でた。

 

<スバル、お前が人の不幸を悲しめる優しい人間だということは分かった。それに俺はそのことについて割り切っているつもりだ………だからもう…泣くなスバル。>

 

そう言ってレオンはスバルが落ち着くまで頭を撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

どれぐらい経ったのか分からないがスバルが落ち着いたので、レオンはスバルについて尋ねてみた。

 

<さて………次はスバル、お前の番だ。洗いざらい話してくれよな…>

 

「ああ、分かった。実は俺は………………」

 

そう言ってスバルは話し始めた。自分がこの世界とは違う別世界から召喚されてやってきたこと、魔人族と戦うために半ば強制的に戦闘訓練をさせられてられていること、訓練の一環としてこの迷宮にやってきたこと、そこでトラブルにあい、悪意のあるクラスメイトの一人に邪魔されて四人諸共落とされ、離れ離れになったことを話した。レオンはただ黙ってスバルの話しを聞いていたが時折、’’何か’’を放ち、スバルは原因不明の寒気に襲われ言葉を詰まらせる事もあったが、それでも最後までレオンは親身になって聞いてくれたのだった。

 

<なかなか大変だったな………それとその檜山って言うのか? 腹立たしい男だな…>

 

「ああ、思い出しただけでも殺意を覚えるぜ。アイツの思惑通りにならないようにどうしても、俺を含めて四人、生きてここを出なきゃならないんだ。」

 

そう言って両こぶしを力強く握りしめるスバル。意外にもレオンが檜山に対して共感を持ってくれたことに少しだけ嬉しかったりするのだった。

 

<で? これから探しに行くのか、その親友を?>

 

「ああ、今すぐにでも動いて探しに行きたい。でも、この迷宮区の魔物相手じゃあ、俺は太刀打ちできない。やられるのは目に見えている……」

 

思えば二尾狼に追いかけられる前、一目見た時に数で負けるよりも本能的に「敵わない」「勝てない」という思いが強かった、だから戦わずすぐに逃げ出した、ということが今なら分かる。

「だから」とスバルは前置き、いきなりレオンの前で頭を地面につけて土下座した。

 

「レオン、頼む。親友を見つけてここを出るまでの間、力を貸して欲しい! さっきの狼はアンタを見て戦わず去っていた、つまり、この迷宮区で上位に入る存在だろ? アンタがいれば無駄な戦闘を避けることができる、親友を捜すのに専念できるんだ、頼む!!」

 

そう言って頭を上げることなく地面につけたまま誠意を見せるスバル、それを見ていたレオンはただ黙って見つめていた。そして、何か思いついたかのように呟いた。

 

<なぁスバル、意地悪のような質問するが……一人で逃げようとは思わなかったのか? 親友のことを黙って俺を使って一人で迷宮区を脱出しようと考えなかったのか?>

 

親友を大事にするスバルからすればあまりにも残酷で身勝手な質問。その言葉に思わず歯を嚙み締める、「何でそんなこと言うんだ!」と反論したい気持ちがあったが、ここは耐えた。何となくだがレオンは’’スバルという男を信頼できるかどうか見極めるために試している’’そう思えたからだ。

スバルは土下座のままで深呼吸をしてゆっくりとと顔を上げレオンを見た。

 

「思いもしなかったし、考えたこともなかった…例え思いついたとしても決してそれはしないと心に決めている。」

 

<ほう………何故そう言い切れる?>

 

レオンの言葉に、勢いをつけて答えた。

 

「誓ったからだ! このトータスに飛ばされた日の夜、俺たち四人は親友の契りを交わし、共に助け合い、お互いを尊重し、信じ合うことを誓い合った! その誓いを絶やさぬ為にも、あの日見た光景を汚さないためにも俺は親友を助けに行く!!」

 

今でも思い出す、月下での誓い。他の三人はどういう風に受け止めたのか分からないが、少なくとも自分はあの日の誓いは遊びではなく、真剣に受け止めている。決して自分勝手な行動であの日の誓いを破るものではないと考えていた。

 

「それに、もし助けに行かなかったら…帰ってきた時、亡き親父、母さんに顔向け出来ない。教えを破ることになる………俺にとって親父の教えは大事な、大事な、両親の唯一の繋がりだからな…。」

 

そう言ってスバルはジッとレオンの顔を見続けた。その目は決意に満ちており、覚悟が宿っていた。その目を数十秒間見た後、レオンは「フッ…」と笑みを浮かべて、

 

<いいぜ、スバル。お前の話しに乗ってやる。>

 

「本当か!? ありがとう!」

 

そう言って頭を下げるスバル。「これで親友を捜しに行ける!」と思っていたが、

 

<ただし、二つ条件がある。>

 

「えっ………条件?」

 

その言葉に再び顔を上げるスバル。

 

<ひとつ、親友を見つけてここを出てもオレを連れて行くこと。>

 

「お…おう。それならいいぜ。」

 

あっさりした条件に拍子抜けるスバル。てっきり凄いことを要求してくるものだと思っていたが、何とかなりそうだ。周りの説得は苦労するだろうなと思いながら…。

 

「それと、もう一つは?」

 

<ああ…もう一つは魔物が出てきても俺は戦わない。戦うのは………スバル、お前だ。>

 

「えっ……? 俺が!?」

 

そう言ってレオンはスバルに指差して伝えるのだった。

 

 

 




いかがだったでしょうか?
スバルが自分の天職について知る大切な回でした。そして、レオンについては設定は考えていますが過去については大雑把な所もあり、今後、物語の中で矛盾が生じるかもしれませんがご了承ください。なるべく、そうならないように努力はします。


次回、二人が一人になります。


それではこの辺で、ではまた。


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スバルとレオン、融合を果たす時

どうもグルメです。

ありふれアニメ放送まであとわずかですね。特番を見てテンションMAXの毎日の日々を過ごしています。ティオの声も聞けて、最高でした。

さて、今日のお話しはスバルとレオンが一つになります(BL的な意味じゃないよ。)

それでは、どうぞ。



「俺が…戦うのか?」

 

<そうだ、お前が戦うのだ…スバル。>

 

レオンの言葉に驚くも、すぐに切り替えてレオンに尋ねてみた。

 

「でも、どうやって?」

 

<俺を取り込むんだスバル。この身体は見た目ではわからないが、あらゆる魔物と融合を果たしている…俺と融合する事でスバルにもその魔物の能力が使えるはずだ。>

 

その言葉に「なるほど…」とうなずくスバル、だが、ここであることに気づいた。

 

「ん? ちょっと待て。レオンと融合を果たしたらレオンはどうなるんだ? まさか、死ぬんじゃ…?」

 

<死にはしないが、元の()()姿()には戻ることは出来ないだろう…一生お前の身体に潜むことになる…だが、意識だけは残るはずだ。お前の身体にレオン(俺と)スバル(お前)の二つの意識が……>

 

「………………………。」

 

レオンの言葉を聞いて難しいそうな表情をしながら黙り込むスバル、死なないとは言え融合をすると一生自分と一緒にいることになり、自由に動けなくなる。それはレオンにとって「本当に良いことなのか?」「実は無理をしてないのか」とふと思ってしまったからだ。そして、それと同時にある疑問も浮かび上がってきた。スバルは思い切ってこの際聞いてみることにした、最も「自分から頼み込んでこんな質問も変な話だよな…。」と思いながら、

 

<どうした? さっきから難しそうな顔して黙り込んで?>

 

「なぁ…レオン、もう一つ質問良いかな……………どうしてここまで俺を助けてくれるの?」

 

<はぁ?>

 

スバルの質問に首をかしげるレオン。

 

「レオンは俺を見つけて他の狼を追い払ってくれた、懐かしい思い出を思い出させてくれた、そして、今、親友を助けるために協力も受け入れてくれた……………それだけじゃない、元に戻れないと分かっているのに俺と融合して俺に力を授けてくれようとしている、融合紋は元々レオンの物なのに…俺がレオンに返すべき物なのに…………なぁ、どうしてここまで助けてくれるのだ?」

 

スバルはこの短時間の間にレオンに助けてもらい、とても良くしてくれた。それだけじゃなく、親友を助けるための力も授けてくれようとしていた。スバルにとっては有難いことだが、多少、話しが出来過ぎているようにも見えた。’’レオンが良からぬこと考えている’’っと疑っているわけではないが、スバルから見れば融合紋を返さず、そのまま融合されても自由に動くことも、戻ることも出来ない、レオンに全くもってメリットがないのだ。

だからこそ、スバルは尋ねるのだった。「どうして、ここまで俺のために助けてくれるのか?」と。

 

<……………。>

 

レオンは覗き込むようにスバルを見た。真剣な表情でこちらを見ている顔を数十秒間見た後、ゆっくり話し出した。

 

<スバル、俺にはもう………この世界に何も残ってないんんだ。家族、親友、俺を慕ってくれる仲間、そして、愛する人も…………皆、いなくなった。こんな姿で外に出られるわけもなく300年ここをさまよった。そんな時……>

 

そう言って、またもやスバルの頭をなで始めた。まるで親が子を撫でるかのように。

 

<お前が現れた。こんな生存率が低い場所に、落とされた絶望を抱かずに生きる希望を捨てない……そんなお前がこの先、どんな道を辿るのか、このトータスをどう生き抜くのか気になった…ただそれだけのことだ。>

 

そう言ってレオンは頭を撫でるのをやめた。

 

<融合紋は返さなくてもいい、スバルのような心優しい者に使ってもらうなら俺も亡き部族の者も本望だ、存分に使ってくれ! お前が大切だと思う者を守るために……>

 

レオンの言葉を聞いたスバルは大きく頷いた。

 

「うん、分かった。レオンの融合紋、有効に使わせてもらうぜ。親友を助けるために、自分の大切なものを守るために……………それと、ありがとう、本音を話してくれて。」

 

レオンが積極的になる理由を知り、そこに噓偽りがないことを感じ取ったスバルは改めてレオンに感謝した。そして、右手を差し出して、

 

「これからよろしくな、’’相棒’’。」

 

<’’相棒’’か……まぁ、悪くないな。>

 

そう言ってレオンはスバルの手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は早速融合をするため準備を行った、と言ってもそんなに大した準備はなくレオンが片膝立ちを行い、スバルのはその正面に立って右手の平をレオンの顔の前に出していた。「これからどうするんだろうか?」と思って待っていると、

 

<スバル、最終確認を行う…よく聞けよ>

 

その言葉に意識を戻してレオンの言葉に耳を傾けるようにした。

 

<いいか? 融合とは混ざり合い一つになることだ。魔物と融合することでその能力を受け継ぎ新たな存在に生まれ変わる。魔物の固有魔法だけでなく超人的な身体能力も手に入る……言ってしまえばバケモノになる。普通の人間では無くなり、普通の人間にも戻らなくなる…………スバル、お前はバケモノになる覚悟はあるか?>

 

レオンは静かに問いかけ、スバルは目を閉じて考えた……

融合することで力が手に入る。もう、魔物に追いかけられることもなく戦うことができる。しかし、それと同時にバケモノになることになる、もし、バケモノになったら……

 

周りの人々は?

クラスメイト達は?

家族は?

親友達は?

そして、レムは?

 

俺のことを受け入れてくれるだろうか?

 

もしかしたら、敬遠されるかもしれない、自分の存在を否定されて拒まれるかもしれない、一人ぼっちになるかもしれない、そんな悪いことが頭の中を過ったが……………

 

「なるよ。バケモノだろうが、なんだろうが、親友を…自分の大切なものを守れるなら何だってなってやる!!」

 

目を開き、バケモノになって力を手に入れる事を決意するスバル、例えどんな結末が待っていようとも、「自分の大切なものを守れるなら何でもいい」そう思えたからだ。

 

<…………分かった。では早速融合に入る。俺の言葉に続いて詠唱を読んでくれ。>

 

スバルの決意を聞き、迷いがないことを確認したレオンは詠唱を唱え始めた。

 

 

 

 

 

 

<古より存在する魔を持つ者よ…>

「古より存在する魔を持つ者よ。」

 

<どうか非力な我に力を分け与えたまえ…>

「どうか非力な我に力を分け与えたまえ」

 

<糧となり血潮と混ざりて一つになり…>

「糧となり血潮と混ざりて一つになり」

 

<我の元にその力の存在を示せ…>

「我の元にその力の存在を示せ。」

 

 

 

 

<「融合」>

 

 

 

 

 

 

 

レオンとスバルが最後声を合わせて唱えるとスバルの右手の紋章が光り輝き出した。そして、次の瞬間、凄まじい吸収力が右手から生まれた。バランスを保つためスバルは両足に力を入れて左手で右手を掴むようにして支え、レオンの身体はスバルの右手に引き寄せながら近づき小さい融合紋に無理矢理押し込むような形で入っていった。

 

 

ズキッ……………ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキッ!!!!!

 

 

「ッ!? があっ! あああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっーーーーーー!!!!!????????」

 

右手からとてつもない激痛が走った。今まで感じたことがない痛みが、右手からはち切れるような痛みが全身にゆっくりと伝わってきた。レオンの吸収も止まることなく続いており、確かに右手から何かが入ってくるような感覚があったが激痛のあまり、それすら感じる余裕はなく、約30分かけてレオンを融合紋から取り入れが終わるも痛みは収まらなかった。さらに、

 

ドクッ! ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクッ!!!!!!!!!!

 

「ッ!!? うっ、ガァ!? ハァハァハァハァハァハ………しん………ぞう………くるし………ガッ!!!」

 

いきなり心臓の鼓動が早くなり、身体全体が焼けるように熱くなった。それだけでなく全身の血管が濃く浮かび上がり、細かく脈打つようになった。そして………

 

 

バンッ、シュウウウウウウウウウウウウウウーーーーーーー!!!!!!

 

血管があちこちから破裂を行い、身体のあちこちから勢いよく血が噴出した。

 

「………………………はっはっはっ………はっ………………は…」

 

スバルはもう何が何だか分からなくなった。激痛と焼けるような熱さで頭の思考が停止、あらゆる所から噴き出す出血で徐々に身体に力が入らなくなった。

いつしかスバルはその場に倒れた。自分の噴出した血の水溜まりに沈み込むように………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗な暗闇の中、二人の人が立っていた。

一人はフードを被り顔が見えなかった、そしてもう一人も後ろ姿しか見えず顔を分からなかったが小麦色の髪色に長いのか後ろをポニーテールのように結んでいた。多分男だと思う…

二人は抱擁を交わした後、お互いの右手を合わせた。

すると、小麦色の髪の男が苦しみ出した。そして男はどんどん姿を変えていった、そう、さっき会った()()()の姿に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ん?」

 

スバルはゆっくり目を開けて倒れていた身体を起こした。辺りを見渡しても二人の人はいなかった。ここで自分が夢を見ていたことに気づくのだった。「あの夢はいったい……」とぼんやり考えていると。

 

<気づいたか……スバル。>

 

頭に声が響いてきた。レオンの声だ。

 

「レオンか? 融合は上手くいったのか?」

 

<ああ、上手くいった。これでお前は俺の能力が使えるようになるはずだ。>

 

「そうか………というかレオン! 俺、聞いてねぇぞ。融合するのに滅茶苦茶痛いだなんて、死ぬかと思ったぞ!」

 

<そりゃあ聞かれてないからな、仮に話して融合をためらわれても困るしな。>

 

スバルの抗議を「聞かれてない」と言う理由でサラッと流すレオン。どこか納得してないのかスバルは顔をしかめていたが、すぐに諦めるのだった。

ここで改めて自分の姿を見てみた、一見自分の身体に変化はなく融合を果たしたからといって化け物の姿ではなかった。変化があるとしたら体内だ。さっきから少しあったかいような感覚があり、服がなくても過ごせそうな感じはあった。というのもさっきの多量出血で服がベトベトで脱ぎたい気持ちがあったりするのだが…今は置いといて。

 

「おっ! こいう時にステータスプレートを見ておくか。え~っと……………あれ?」

 

<どうしたスバル?>

 

「いや、ステータスプレートが無くてさ……。」

 

<ステータスプレート? 何なんだそれは?>

 

「簡単に言うと自分の強さが分かるカードだよ。この世界に来た時に貰ったけど…あれ? 落としたのかな?」

 

自分がどれだけ強くなったかステータスプレートを見て確かめようとするも、ポケットに入っておらずレオンの疑問に答えながら上着を脱いではたきながら、どっかに引っかかってないか確かめていると、あることに気づいて手を止めた。辺りを見渡して壁に埋め込まれている鉱石を見つけて、それを鏡代わりにして上半身裸になって自分の身体を見てみた。

 

「なんだよ…これ。」

 

スバルは自分の身体を見て驚いた。ボディビルに負けない筋肉モリモリマッチョマンになっていたからだ。この世界に来て人一倍体力づくりのため筋トレをしてきたがここまでならなかった、「一体どうして?」と考えているとレオンが答えた。

 

<身体を作り変えたんだよ……融合によって俺の中に入っていた魔物の特性と耐性を受け継ぐために。>

 

そう答えるレオン。さらに言葉を続けた、

 

<人間と魔物の身体は違う…貧弱な人間の身体では魔物の特性に耐え切れない、それに耐えれる身体につくり変える必要があった。そのために一度身体のありとあらゆる所を破壊し、それに耐えきれる強靭な身体に再生する必要があった。本来なら幼少の頃から魔物を取り入れ、身体を馴らしておく必要があったがな………>

 

「そうか、あの全身の痛みと多量出血は身体を破壊してたんだな…」

 

そう言いながら融合中の事を思い出す。必要だったとはいえ、「もう経験したくないな…」とふと思うのだった。そしてレオンは誇らしげに言った。

 

<スバル、お前の身体はありとあらゆる特性と耐性が備わったバケモノの身体だ。そんじゃそこらの魔物に襲われてもびくともしないし、傷を負っても魔物の再生能力ですぐに治癒されるだろう。>

 

そう言うレオン、これを聞いたスバルは。

 

「そうなのか? 何か実感わかないけど……俺の身体が凄いってことだけは分かった。」

 

とりあえずステータスプレートを見なくても自分に強くなったと言うことだけは理解した。「これなら戦える、これなら自分の大切な者を守ることができる」そう思ったスバルは

 

「よっしゃ! 行くか! グズグズしてられねぇ、皆と合流してここを脱出するか!」

 

<おい、スバル。動くのはいいがまず……>

 

レオンが何か言いかけるも、それを聞かずに一歩踏み出した瞬間、身体がふらつき再び地面に倒れ込んだ。そして、

 

グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 

大きな腹の音が響いた。

 

「はら減った~。つーか身体がうまく動かせない…どうしてだ?」

 

顔つきが変わり、げっそりした表情をするスバル。するとレオンはが、

 

<血を流しすぎたからな……先ずは何か喰って血を作らないと身体が動かないぞ。>

 

「そう言うことは早く言ってよ、相棒。」

 

<お前が聞かないのが悪い。>

 

そうきっぱりと言うレオン「厳しい相棒だぜ~」と思いながら立ち上がりお腹をおさえながら歩き出した。

 

「というか、何喰うんだ? この辺食べれるものなんかないぞ。」

 

<魔物を喰らえばいい。>

 

「ええっ! 魔物なんか喰ったら死ぬんじゃないのか? 本にそう書いてあったし…」

 

<お前はもうバケモノの身体だから、喰らっても死にはしねぇよ。>

 

「あっそうか………えっ、そうなのか!?」

 

<……………本当に大丈夫か、この先。>

 

「先が思いやられるな」とレオンは感じながら二人と一つの身体がは迷宮区の先へと進み出すのだった。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
融合の詠唱とか考えましたけど難しですね、自分的にはもっと長くしたかった想いがありましたけど、これが限界です。
それとスバルのステータスを見る事を楽しみにしていた方々へ、ごめんなさい。今は話しを進めたいのでスバルのステータスはまた今度です。

次回、親友を辿る手がかりと謎の部屋、そして……

それではこの辺で、ではまた。


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親友の手がかりと謎の部屋、そして…再会へ。

最近、自分が書いている作品が本当に面白いのか? と気になる日々を送っています。
今日は短めですが、それでも楽しんで頂いたら幸いです。

それでは、どうぞ。


レオンと融合を果たしたスバルは「不味い、不味い」と言いながら魔物の肉を喰らって腹を満たし、レオンの記憶の地図を頼りにオルクス大迷宮の()()に向けて歩みを続けていた。脱出するはずなのに上層を目指さず下層に向かうには理由があった。スバルが上層へ登る階段を見つける前に下層へ下りる階段を見つけた時、その近くにあるものを拾ったからだ。

それは19mm程の大きさの金属製の円筒で、この世界に存在しないものでありスバルの世界ではアニメやゲーム、映画に出てくる見覚えがあるものだった。

 

「これは…薬莢?」

 

<やっきょう? なんだそれは? それに前通った時、こんな物は落ちてなかったはず……。>

 

 

スバルが拾った物、それは弾丸を放った後にできる空薬莢だった。

この世界に’’銃’’の武器どころかその概念はない、なのに薬莢が落ちているということは誰かが銃を使っているということになる。当然、俺らの世界の武器なので連れて来られたクラスメイトの誰かが銃を使っているということになるのだが、生憎学生の身分で持つようなものでないし、そもそもスバルがいた国は銃を所持することも許されてないのだ。

じゃあ何故、この迷宮区に空薬莢が落ちているのか…スバルはある仮説を立てた。

 

この薬莢がクラスの誰かが最初から所持していたものでなく誰か作ったものだったら…?

 

誰かが見様見真似で銃を作り出して使っていたとしたら…?

 

そして、俺を含めて4人、銃を作りが可能の人物といえば…?

 

「まさか、ハジメなのか?」

 

思い当たる人物は親友の南雲ハジメしか他ならなかった。

ハジメの天職は錬成師、モノ作りに特化しているし、それに何回か家に遊びに行った時にゲーム制作の資料として、忠実に再現されたモデルガンをいくつか見せてもらったこともあった、それを参考にして銃を作ったとしたら薬莢が落ちている理由に説明がついたのだ。

スバルは南雲ハジメが生きていることを信じて彼が落としていったであろう薬莢を頼りに下層に降りていった。下へ、下へと降りていくとスバルはハジメが’’ここを通ったであろう’’という証拠を見つけた。

それは高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉で誰かが入ったのか扉は開け放たれており、また、扉の前で戦闘があったのかサイクロプスの死骸が二体あったのだ。

一見見れば「誰かが入った」ということはすぐに分かる、だが、それが「昔か、最近か?」と聞かれたらすぐには答えられない、スバルも当然答えられない。だが、レオンは「最近」とすぐに答えることができる。何故なら、

 

<たまにここをよく通るが、今まで開いている所は見たことがないぞ。>

 

スバルが扉を見つけた時にレオンがそう話してくれた。これを聞いて「自分で開けて中を確認しようと思わなかったのか?」とスバルが尋ねると、

 

<こんな人の来ない所に頑丈な扉があったらヤバそうなものしか入ってないだろ。それに興味本位で自分が対処出来ないものを解放してしまうのはあまりにも愚かだぞ。>

 

と答え、一切関わろうとしなかったのだ。

とりあえず親友達の生存の手がかりになるものがないか確認するため扉の中に入ると、真っ先に目にやったのは体長5メートル程の巨大なサソリの死骸だった。それだけでなくこのサソリとの戦闘の激しさを物語っているようなサソリを中心に大きなクレーターのようなものが出来ていた。そして、当然のように薬莢も落ちていた。

 

「ハジメはこんなバケモノを一人で倒したのか? というかこんなクレーターを作るような攻撃って一体……」

 

<……………。>

 

スバルは息をのみ込んでサソリの死骸を呆然と見た後、再び周囲を散策するとあるものを見つけた。

 

「何だろう? この中途半端な立方体は…」

 

<……………。>

 

スバルが見つけたものは部屋の中央にあった。きれいな立方体の石だったみたいだが、その前面の中央辺りが熱に溶かされたようにグニャリとへこんでいるのだった。

 

「中央にあるってことは何かお宝か、もしくは武器でもあったのか……そんでもってあのサソリはそれを守る魔物ってことか?」

 

<……………。>

 

「まるでありきたりなRPGの設定だな。」と思っているとさっきからレオンが黙り込んだままに気づいた。

 

「どうしたレオン?」

 

<いや、別に……………とりあえずここには何もないことが分かったんだ。親友を追うために先に急ぐべきではないのか?>

 

「えっ…? ああ、そうだな、先へ急ごう。」

 

レオンに催促されて部屋から出るために歩き出した。何かレオンに無理矢理話を中断させられたような感じだと思いつつ部屋を後にした。

当麻と士郎の手がかりは見つからなかったがハジメは確実に生きている。それを信じてスバルは下層へと降りていった。

 

そして、今現在、スバルはというと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

<さっきの威勢は何処にいったのやら…>

 

「うるせぇー、おめぇ融合してから愚痴しか言わなくなったな!」

 

雑草が生い茂る草むらの中、スバルは全力疾走していた。その後ろには、

 

「「「「「シャアアアアアアアアア!!!」」」」」

 

見た目がティラノサウルスもどきの魔物、ざっと300体に追われていたからだ。

経緯を話すと、樹海のような階層に降り立ったスバルは親友がここを通った形跡を探していると1体のティラノサウルスもどきが襲ってきた。当然、ワンパンで倒すも仲間の死に誘発されたかのように2体目、3体目と出てきた。これを見たレオンはここであることを提案した。

 

<融合で得た能力をこの魔物相手に使ってみろ。やり方は俺が教える。>

 

スバルはレオンと融合をはたして確かに身体的に強くなり能力も受け継いだが、未だどんな能力があるのか知らないでいた。今後のためにここで能力の内容と発動方法を覚えることになり、当然、敵を倒しながら先に進むことになった。

最初のころはスバルにもやる気があり、「よっしゃー! やるぞー!!」と言ってレオンに能力の内容と発動方法を教わりつつ、ティラノサウルスもどきを倒していたが、倒しても倒しても減る様子がなく倒した数が、10、50、100、150と増えていくばかり、おまけに間髪入れずに襲ってくるためいっこうに先に進まないのだ、「これじゃあ日が暮れる所か親友達が死に体になってしまう」そう考えたスバルは200体目が出てきた時、背を向けて走り出したのだ。

 

「うおおおー!!? どこだ? この下の層に行く入り口はどこだ!? 」

 

スバルは自分より高い茂みをかきわけながら走っていると、ふと近くから声が聞こえてきた。

 

()()、急げ! 早く!!」

 

「まっ、待ってください()()君。えっ、師匠? 「もっと走れ!」って。そんな無茶言わないでください!」

 

どこか聞いたことのある声にスバルの身体が震えていた。今までハジメの手がかりはあったが()()()()の手がかりは全くなかったのだ。だから二人を見つけられない、焦りと申し訳なさがあったのだがそれが一気に吹き飛んだ。

 

「この声………もしかして…。」

 

スバルは歓喜に身体を震わせながら最後の茂みをかき分けて平野に出た。そして、その横には、

 

五体満足の士郎と当麻がいた。

 

「スバル? スバルなのか!?」

 

「スバル君、無事だったですね!!」

 

二人はスバルはがいることに驚き、喜びの声を上げた。

 

「士郎…当麻…お前ら生きて………て!?」

 

スバルもスバルで二人が無事に生きていることに喜び、思わず涙がこぼれ落ちそうになったが、二人の後ろにあるものを見て引っ込んだ。

 

 

ざっと100体くらいのティラノサウルスもどきが二人を追いかけているからだ。

 

 

「……………。」

 

それを見たスバルは喜びの笑顔が消え、恨めしそうな顔になり、二人に嚙みついた。

 

「おめぇら! 何めんどくせぇもの引き連れているんだよ!!」

 

「それ、お前えが言うか!? そっくりそのまま返すよバカスバル!!」

 

「もう、せっかくの感動の再会が台無しだよ……ハァ~。」

 

スバルと士郎が言い争い、その様子を見てため息をつく当麻。何ともしっくりとこない感動の(?)再会となった。

 

 




いかがだったでしょうか?
ハジメが銃を使っていたら薬莢の一つや二つは落ちていると思い、スバルが下層に向かう理由にさせてもらいました。再会までもう少しかかりますが…。
士郎と当麻の再会は自分でもあっさりしているな思っています。というのもこれ以外の再会方法が思いつかなかっただけなんですけどね…。

次回、士郎と当麻にも大きな変化がありました。

それではこの辺で、ではまた。


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士郎と当麻、二人の変化。

どうもグルメです。
この小説も20話になりました。終わりの道のりはまだまだですが地道に頑張って書いていきます。

今回のお話しは、士郎、当麻と再会を果たしたスバル、しかし、二人はある大きな変化がありました。


それでは、どうぞ。


「とりあえず下層に向かう階段を探して、とっととこの層を抜けるぞ! と言っても何処にあるのか分からないけどな。」

 

400体のティラノサウルスもどきに追われる3人、スバルは走りながら口を開いた。

 

「それなら大丈夫だスバル。俺たちは今までそこに向かって走っているのだからな!」

 

「そこに向かってって………士郎、道が分かるのか!?」

 

「いや、分からない。ただ、当麻の気の流れを感知する’’気流感知’を使って今まで()()()()を追っていたら必ずと言っていいほど下に降りる階段はあったんだ。」

 

そう言う士郎にハジメはある疑問を感じて尋ねた。

 

「士郎、ある人物って?」

 

「ああ、それは…「スバル君、士郎君、前をみてください!」ん? どうした当麻?」

 

当麻がいきなり声を出して士郎の言葉を遮った。士郎とスバルは言われた通りに前を見ると200メートル先に土色の崖のような壁があった。

 

「おかしいです。あの壁から確かに微力の気流を感じるのに入口がないのです。」

 

「本当だ。今まで何らかの形で入口や階段があったのに……。」

 

当麻と士郎が頭を悩ませて、スバルは当麻が言っていた壁をよく見てみると、あることに気づいた。

 

<気づいたかスバル?>

 

「ああ、微かに壁の色が違う。」

 

スバルが気づいたこと、それは微かに一部の壁の色が違っていることだ。全体が土色のはずなのに一部だけ石色のような所があるのだった。

 

<大方、錬成して誰かが入口を塞いだのだろう…と言っても考えられるのは一人だけだろうが。>

 

「ハジメだろうな、ハジメも後ろの奴に追いかけられて入って来られないようにしたと思う。」

 

レオンの言葉に答えるように言ったスバル。一応レオンの言葉は二人には聞こえてない。だから士郎と当麻からすればスバル一人でしゃべっているように見えるのだった。

 

「スバル、誰と話しているんだ?」

 

「僕たちがいない間に変なものでも取りつかれたの?」

 

どこか気味がるように言う二人にスバルは全力で否定した。

 

「変なものなんか取りつかれてねぇよ! あっ…でも取り込んだのは確かだな。」

 

「「えっ?」」

 

「あ~、後で話す。それよりも前の壁、何とかするぞ! 色が違っている所を壊せば入口が出てくるはずだ!」

 

そう言って色の違う所を指さすスバル、二人は指さす方を見ると色が違っている事を理解した。

 

「とりあえず俺が一足先に行って、あの壁をぶっ壊して「スバル君!」あ? どうした?」

 

「……僕に任せてくれませんか?」

 

「えっ?」

 

スバルの提案を遮って壁を壊す事を自ら志願する当麻、これにはスバルも戸惑った。正直、身体が弱い当麻が壁を壊すことが想像出来なかったからだ。

 

「スバル君…………僕は強くなりますよ。そして………あの日の誓いを成し遂げて見せる!!」

 

当麻がそう言うと両手が虹色に輝きだした。

 

「おい当麻……いったい何を……?」

 

「まぁ、見ててください。」

 

スバルが驚く中、当麻は笑顔で答えた後に真剣な表情になり、その場に立ち止まった。つられて士郎も立ち止まり、スバルも立ち止まるも後ろを気にして落ち着かない様子を見せていた。当麻は後ろを気にせず、足に踏ん張りを入れて虹色に輝く両手を手首合わせて手を開くようにして、腰付近にもっていった。これを見たスバルは、

 

「士郎、アイツまさか!?」

 

「ああ、そのまさかだ。」

 

スバルの言葉に、事前に知っていた士郎は笑みを浮かべた。当麻がこれからしようとしていることはスバルは知っている。何だって国民的アニメの()()()を出すのだから。まさか、こんな所で見れるとは思いもしなかったので手に汗を握るのだった。

 

「剛気、彩掌波!!」

 

掛け声と共に両手首を前に出して前方の壁に向けて気の色鮮やかな光線を放つ当麻、前方の壁をあっさりと粉砕してその先にいたであろう魔物を気の熱で蒸発させるのだった。

 

「ふぅ、うまくできた。」

 

技を出し切り、満悦して額の汗をふく当麻。

 

「まじでか〇は〇波を撃ちやがった…」

 

「僕的には北〇剛〇波のイメージなんだけど…」

 

「いや、どっちでもええわ!?」

 

ささいなやりとりをするスバルと当麻、すると士郎が二人の肩をつかんで

 

「パワーアップしたのは当麻だけじゃあないぜ…スバル。」

 

そう言って顔をしかめて何かに集中する士郎、すぐ後ろからティラノザウルスもどきがせまってきておりスバルが思わず声をかけようとした時

 

影の移動(シャドウムーブ)

 

その一言を言った瞬間、三人の身体は消えて気づいた時には当麻が壊した壁の中に入っていた。

 

「えっ…あれ?」

 

いきなりのことで戸惑うスバル、当麻は知っていたのか特に驚くことはなかった。

 

「士郎!? お前いつのまに瞬間移動なんか覚えたんだ?」

 

「まぁ、()()()のおかげでね……と、早いとこ入り口を塞ごう。ティラノザウルスもどき(あいつら)が入ってくる。」

 

士郎がそう言って入り口の方を見るとティラノザウルスもどきはまっすぐこちらに向かって迫って来た。まだ距離が空いているのですぐにとはいかないが、ここに入ってくるのも時間の問題だろう。

 

「二人が活躍してんなら、俺もしないわけにはいかないよな!!」

 

そう言って入り口の方に向かって走り出し、その手前で大きく飛ぶと

 

「オラァ!!」

 

入り口の上側の壁を豪腕をつかって粉砕し、壁が崩れて崩落した岩や土砂が入り口を塞いだ。

 

「よっと、こんなものか。」

 

そう言って崩落した入り口の前で着地したスバルは塞がれた入り口を見た。「ここを使って出ることがあっても俺がいたらなんとかなるだろう…」と思っていると

 

「スバル、お前いつのまにそんな力を手に入れたんだ?」

 

「どうやらスバル君も何かしらあったみたいですね。」

 

そう言って士郎と当麻がかけよってくると、スバルはいきなり二人を抱き寄せた。

 

「えっ?」

 

「スバル君?」

 

いきなりのことに驚く二人、しかし、この行動の意味をすぐに理解した。

 

「うっ……うっ………よかった……本当に……よかった…お前らが…無事で…本当に……よかった…それと、ごめんな…捜せなくて……もう、いないと…あきらめかけて……ゴメン…な…。」

 

言葉をつまらせながら静かに涙を流すスバル。

ハジメの手がかりはあっても二人の手がかりは無かった。「もう、ダメかも…」とあきらめた時に起きた奇跡の再会。二人が生きていることに感謝、二人を捜せなくて「もういない」と思い込んでしまったことを謝罪しつつ、士郎と当麻を抱きしめ´二人が生きている´実感をするのだった。

 

二人は顔を見合わせて「やれやれ」と思いつつ、スバルが落ち着くまで待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもお前らいつのまにそんなスゲー技、使えるようになったんだ? 覚醒でもしたのか?」

 

落ち着きを取り戻したスバルは改めて二人の力について尋ねてみた。

 

「’覚醒’というよりも、’借りている’って言った方がしっくりきますね。」

 

「当麻の言うとおりだな、俺たちは能力を借りているんだ。ある人たちのおかげで。」

 

「能力を借りている? ある人たちのおかげ? どういうことだ!?」

 

二人の言葉に頭を傾げるスバル、するといきなり

 

『当麻、士郎、私が直接出て話しをします。』

 

『その方が彼もすんなり受け入れてくれるでしょう。』

 

二人の男女の声が響いた。スバルはどこから聞こえてきたのか辺りを見渡すも、周りには自分を含めて三人しかおらず人どころか魔物の気配すらなかった。

 

「当麻、士郎、さっき声が聞こえなかったか?」

 

「うん、聞こえたね。」

 

「ああ、聞こえたな、これから紹介する。」

 

愉快そうに話す二人、するといきなり士郎、当麻の身体から輝く球体が出てきた。

士郎が出てきた球体は青白く輝いており、当麻から出てきた球体は七色に輝いていた。スバルは二つの球体に見とれているとその球体はゆっくりと人の形となった。青白の球体は白髪のツンツン頭の褐色肌を持つ青年に、七色の球体は赤紙の腰までのばしたストレートヘアーの女性の姿になった。そして共通して言えるのは二人とも幽霊のように透けているのだった。

 

「初めまして、私の名はクロウ、クロウ・ニッケル。以後お見知りおきよ。」

 

「サラです。サラ・アルシーナ、気軽にサラとお呼びください。」

 

青年のクロウ、女性のサラの紹介にスバルは、

 

「えっ、あ、スバルです。影山スバルです。(こいつらいつのまにス〇ンド使いになっていたんだ!?)」

 

<…………………ほぅ。>

 

どこかぎこちなく自己紹介し内心驚きを隠せないでいたスバルに、何か意味ありけに様子を見せるレオン。ここにこの迷宮区を脱出する新たな協力者が現れたのだった

 




いかがだったでしょうか?
ここで新キャラ登場です。士郎、当麻を支えてくれる頼もしい仲間です。この二人の登場に士郎、当麻も化け物並に強くなります。
二人のイメージ容姿及び参考キャラは

クロウ・ニッケル→天草四郎時貞(Fateシリーズ)

サラ・アルシーナ→紅 美鈴(東方Projectシリーズ)

となっています。
二人がどうしてこの迷宮区にいたのか、何故、少し変わった状態でいるのかは、次回でお話しします。

感想、質問があれば気軽にどうぞ。

それではこの辺で、ではまた。


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二人の元臣下の出会い

どうもグルメです。
ありふれたのアニメが始まりました。感想は皆が思っている事と一緒です。この先、良くなる事を願うばかりです。

今回のお話しは前回出てきた、クロウとサラについてです。二人は一体何者なのか、そして、レオンとの関係は…まぁタイトル見たら分かると思いますけどね。 

それでは、どうぞ。


クロウ・ニッケルとサラ・アルシーナ

 

二人はある王国に使える身だった。その王国で若くして就任した小さな女王を時には王と臣下、またある時は身分の枠を超えた親友のように関わり支えていた。

ある時二人が王国を留守にしている間にクーデターが起こった。首謀者は女王の叔父で一時期は女王が死んだという報もあったが、こんな報もあった。

「オルクス大迷宮の奥深くに女王は囚われている。」

二人はそれを信じて向かうと待っていたのは女王の叔父であり、二人は抵抗虚しく捕まり、魂と肉体を分離させられた。肉体はどこかに持ち出されて魂は不思議な結界のせいで外に出ることが出来ず一定の範囲しか行動が許されない中、約300年迷宮をさまようこととなった。

 

 

 

 

『私達は生きていましたがその心は死んでいました。一時は、’’いったい何のためにここをさまよっているのだろう?’’と思うこともありました。そんな時……』

 

『狼に追われている二人に出会った。とっさになって身体に入り込み狼を追い払ったあと、事情を話し、親友を助けてここを脱出する手助けをする条件の元、姫を助けるために身体を貸して貰っていたのです。』

 

サラとクロウはそう話した。スバルは「どこかで聞いたことのある話しだな」と思いつつ、

 

「二人のおかげでこうして当麻と士郎、無事に生きて出会うことが出来た。礼を言わせてくれ、ありがとう。」

 

そう言ってクロウとサラの幽体に頭を下げるのだった。

スバルが礼を言い終わった後、、神妙な顔でサラにこんなことを聞かれた。

 

『ところでスバル殿にお聞きしたいのですが、どうして二つの気の流れがするのですか?』

 

「えっ? 気の流れ?」

 

『はい、そうです。人は本来、微力ながら一つの気が流れいるのですが、スバル殿には二つの気が流れています。それも、私がよく知っている方の気の流れ…それがどうしても気になったものですから。』

 

「ちなみに師匠は僕と同じ気術士で、気力に敏感みたいなんだ。実力は…僕と天と地の差があるけど。」

 

そう付け足すように言う当麻、スバルは「いつの間に弟子になったんだ?」と思いながらレオンについて話そうとした時、

 

<それは、俺がスバル(そいつ)の中にいるからだ。>

 

ここにいる全員に伝わるように声が響いた。当麻は「えっ、誰?」と辺りを見渡し、士郎は「スバルも誰かの魂を宿しているのか?」と言ってスバルをじっと見つめた。そんな中この二人は、

 

「この声は、レオン様!?」

 

「まさかと思っていたのですが、あなた様だったのですね!」

 

クロウとサラが驚き困惑している中、スバルはレオンに尋ねた。

 

「レオン知り合いなのか?」

 

<知り合いも何も……部下だからな。とりあえず…お前ら落ち着けって。今までの経緯を話す。>

 

そう言ってレオンはスバルとこれまでの経緯を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな。それであの時、あんなことが出来たんだな。」

 

「一見、バケモノって感じはしませんけどね…。」

 

士郎は先ほどの豪脚が使えたことに納得を示し、当麻はスバルがバケモノになったと聞いて、見ても分からないことを告げた。

 

『どんな経緯があろうとも、貴方様に再び会えたこと心より嬉しく思います。レオン様。』

 

<よせ、クロウ。様付けなど…上下関係はもう終わりだ。二人とも気軽に話しかけてくれ。>

 

幽体のまま片膝をたてて敬意を見せるクロウにレオンは慌ててそう告げた。

 

『……………。』

 

サラはというと胸に拳を当てて、どこか悲痛そうな表情で地面を見つめていた。レオが<どうした?>と声をかけ、スバル達もそれに気づき注目した。サラはゆっくりと口を開いた。

 

『レオン殿、私は未だ信じられません。あんなにもお嬢様に愛情を注いでいた、’’ディンリード’’様があのようなことをするなど……。』

 

サラの悲しげな言葉に皆は黙り込んだ。ディンリードとは女王の叔父の名であり、クーデターを起こした首謀者だ。誰にでもやさしく、気さくな人物であった。だからサラは未だ信じられずにいた、クーデターを起こして自分の娘のように愛情を注いでいた女王を迷宮の奥深くに追いやった事を。

 

『レオンは、何か心当たりはありませんか?』

 

クロウは叔父の親友だったレオンにクーデターを起こすきっかけがなかったか尋ねた。

 

<……………ないな。俺も不意を突かれてここに連れ出され、融合紋を無理やり奪われた後は何もしゃべらず何処かに消えやがったからな。脱出したくても、こんな姿だし…何も出来ずしまいよ。>

 

「(無理やり…?)」

 

スバルはレオンの言葉に違和感を感じた後、ある事を思い出した。それは融合して見た最初の夢だ。

 

「(あれは、無理やりというより…託すって感じだったぞ。)」

 

あの夢の中でレオン(と思われる人物)はフードを被った男と抱擁を交わした後に右手どうしを合わせてレオンは鬼になった。もし、あの右手どうしを合わせる行為が融合紋を渡す行為だったら、どう見ても無理やり奪われたようには見えないのだ。

 

「(それに部下の魂が同じ迷宮にさまよっていたら、1回や2回出会っても良いはずなのに300年間、それがなかった……おかしくないか?)」

 

最も疑問に感じたことは300年間レオンとクロウ、サラが一度も出会ってないことだ。300年という長い期間があれば低い確率かもしれないがばったり出会うことも考えられる、でもそれがなかった。

 

「(どちらがが、いや、レオンが接触するのを避けていたのか?)」

 

眉をひそめるて考え込むスバル、謎は深まるばかりだ。レオンは何かを知っているのか? それとも何かを企んでいるのか? はたまた何か人に言えない事情でもあるのか?

そんなことを頭の中で自問自答していると、

 

<スバル、周りを見てみろ。>

 

レオンの言葉で我に返るスバル、当麻と士郎がスバルの顔を覗き込んでいたのだった。

 

「スバル君、また難しい顔していますよ。」

 

「お前って本当分かりやすいよな、一体何を考えていたんだ?」

 

二人の言葉にスバルは今まで考えていたレオンの事を頭の隅に置いて、別の疑問を口にした。

 

「いや、そのさ……………レオンやクロウ、サラが仕えていた女王様は結局の所、生きているの? それとも、もういないのか、どっちかな…と思って。」

 

<俺は死んだと聞いているが……。>

 

スバルがどこか言いにくそうに言うとレオンは改めて自分が支えてきた女王がいない事を告げた。それを聞いたクロウとサラは顔を聞いた見合わせて頷きあい、サラは口を開いた。

 

『お嬢様……いえ、女王様は生きています、それは間違いありません。』

 

『二人はここに来るまでに大きな部屋を見てませんでしょうか?』

 

二人の言葉にスバルあることを思い出した。

 

「そう言えばあったな、何か凄い戦闘の後のような部屋が……」

 

<まさか………あそこに囚われていたのか?>

 

スバルが思い出しながら告げて、レオンは静ながらも驚いて声のトーンを一つ上げた。

 

『はい、レオン殿のおっしゃる通り、女王様はあそこに囚われていたのです。』

 

サラはゆっくり頷くようにレオンの言葉を肯定した。

 

<そうだったのか……このような事なら、解放するべきだった…か。>

 

レオンが後悔しながら、どこか申し訳なさそうに呟いていると、ここで士郎と当麻が口を開いた。

 

「クロウとサラに助けられた後、二人に誘われて俺たちはすぐにその部屋に向かった。だけど、その時にはもう誰かに助け出された後だった。」

 

「そして、師匠が気力の流れを探ってその女王さんが知らない気力と一緒に下層に向かっているってことが分かったんだ。僕たちはそれを追っていたんだよ。」

 

二人がそう言うと恐る恐るスバルが尋ねた。

 

「その知らない人って、もしかして………。」

 

「たぶん、ハジメだろうな。その女王様を助け出したのも…。」

 

「師匠が言うにはその女王様、詠唱なしで魔法を放つことができるみたいですよ。あの部屋にできていた大きなクレーターも’’蒼天’’という炎系の最上級の魔法によるみたいですし、そのような方と一緒ならきっとハジメ君も無事です!」

 

そう言って二人は希望に輝く表情をして答えた。

ハジメは生きている。再びそう思えることができ、スバルは歓喜した。しかも、その隣には心強い助っ人もいる。「必ずハジメを助けてくれる。」何故か自然にそう思えた。そして、「ハジメが頑張って進んでいる以上、自分達も止まる訳にはいかない。」と改めて決意したスバルは、

 

「俺たちも負けてられないな! 行こう、ハジメと合流してここを脱出するんだ!!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

スバルの言葉に士郎と当麻が力強く答えた。

これを少し離れた所で見ていたサラとクロウは、

 

『奈落に落ちたというのに凄まじい活気力、関心しますね。』

 

『それだけじゃない、姫を助けるために身体もこころよく貸してくれた。この二人に出会えて本当に良かった、そう思うよ。』

 

二人だけが聞こえる声でそう言ったあと、二人は気を引き締めた。

 

『姫、もうしばらくの辛抱だ。待っていてくれ!』

 

『お嬢様、どうかご無事で。サラがすぐに向かいます…』

 

決意の言葉を口にするクロウとサラ。この想いが二人の大切な女王に届くように祈った。そして、

 

<俺たち三人でスバル達(あいつら)を支えるぞ、二人ともできるな?>

 

『『御意。』』

 

二人だけに聞こえるレオンの言葉に二人は揃って答えた。その言葉に強い意志が宿っていた。

 

<(さて、この先何が待ち受けているのやら……少なくとも()()()は「手強い相手だ」と言っていたのは確かだな………引き締めていくか)>

 

そして、レオンは一人静に気合いを入れ直した。ここから先は自分も知らない未知の領域、何が待ち構えているかは分からないが未来を望む者、スバル達やクロウやサラのためにもこの先、全力で臨む事を誓うレオンだった。




※本編と何の関係のないお話です。

「OTZ」←(へこんでいる優花)

「どうしたんだ、優花?」

「士郎くん……私、アニメの1話で助け出されるシーンがカットされたよぅ…」

「あ。そう言えばそうだな……ハジメが優花を助けるシーンなかったな…」

「どうしてカットするのかな………今後ハジメ君との関わりで重要になってくるのに。」

「まぁ…その元気だせよ優花。前期の春アニメの時にヒロインで出たからいいじゃないか。」

「………私、前期の春アニメなんかに出た覚えはないわよ。」

「えっ、そうなのか? ’’洗い〇さん’’って作品に出演したんじゃないのか?」

「……士郎、それ誰が言っていたの?」

「えっ、スバルが。」

「影山ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ//////!!!」←(全力疾走でスバルの所に向かう)

「???」

後日、士郎が改めてその作品を調べて顔を真っ赤にし、それを偶然にも優花が見かけてしまい、お互い気まずい雰囲気になったとかならなかったとか………



アニメ版の優花を見て、真っ先に思ったのがこれでした。優花に限らず他のキャラの声優が気になりますね。

次回、いよいよハジメと合流します。

それではこの辺で、ではまた。


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最奥で待ち受けていたもの

どうもグルメです。

仕事とかでなかなか更新ができませんでした。本当に申し訳ございません。

仕事の合間を見つけては、少しづつパソコンに打ち込んでいったり、下書きを書いていたりしていましたけど、まぁ、忙しかったです(笑)


今回のお話しはちょとだけ大昔しの話しをしたり、ちょっとだけ再会があったりする。そんなお話しになっております。

それでは、どうぞ。


「ところでさ士郎、お前いつの間に瞬間移動の魔法なんか覚えたんだ?」

 

「いや、覚えてないんだよスバル。あれはクロウが持っている’’明王の力’’の一つなんだよ。」

 

「明王の力?」

 

「何でも大昔の王様が使っていた能力みたいだぞ………まぁクロウから聞いた話しなんだけどな。」

 

あれから3人と3体の憑依体は(一人はもう、離れなれないが)最下層に向けて歩いていた。そんな時、スバルが士郎の影の移動(シャドウムーブ)について尋ねていた時にクロウの声が響いてきた。

 

『では僭越ながら私の能力についてのお話し、いかがでしょうか?』

 

「おっ、いいね。暇つぶしにはいいんじゃない?」

 

「俺も少し気になるし、頼むよクロウ。」

 

「クロウさん、お願いします。」

 

スバル、士郎、当麻は喜んで承諾したのでクロウは自分の能力について話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遥か昔、1000年以上前のことである。

トータスが戦乱に満ちていた時、一人のエルフの男が立ち上がった。名はケレブリンボールと言い、自らを’’明王’’と名乗りトータス統一に乗り出した。ケレブリンボールは生まれながらにして不思議な能力を持っており、魔力を使って剣や弓などの武器を形成、身体を幽体化など複数の能力を持っていた。また、魔物と同等の害とされるオーク、トロル、また一部の魔物を従えて破竹の勢いで戦いに勝ち続け、瞬く間にトータスを統一、これで終わりと思いきや今度は神に戦いを挑んだ。

だが、手も足も出ずに敗走、これを機に各地の豪族が反乱を起し、再び戦乱の世となった。

ケレブリンボールの軍は神に挑む戦いを機に徐々に衰退していき、最後は人知れぬ場所にて最も信頼するオークに三つの遺言を残した。

 

一つ、自分の力を最も信頼する人物に託し続けること。

 

二つ、神の使徒に気を付けろ。

 

三つ、神に従うな、神の声に耳を傾けるな、己で善悪を判断し、自由の名の元に神に立ち向かえ。

 

 

そう言ってケレブリンボールは明王の力をオークに託し、最期を迎えた。そして、今日までその託された想いは続いているのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オークからオークへ、そして、オークから人へ…明王の力が途絶えることなく今もあるってのがなんか凄いな。」

 

クロウの話しを聞いてどこか感慨深くなる士郎。

 

「神に戦いを挑んだ……つまりエヒトのことなのか? 何でまた神なんかに戦いを挑んだのだ? もしかしてよくある、自分自身が神になりたかった…とか?」

 

スバルは’’神’’つまりは’’エヒト’’のことなのかなど独自に考えを巡らせて戦いに挑んだ理由を考察した。

 

「それよりも僕たちって、神の使徒だよ…ね? クロウさんから見れば警戒される対象じゃあないかな?」

 

当麻はしかめっ面を浮かべながら不安げな様子で語り、スバルと士郎は思い出したかのように「あっ」と呟いた。これを聞いていたサラは、

 

『当麻、例えあなた方が神の使徒だったとしても、私は警戒しようと一度も思っていません。気の流れを読み取った時、あなた方が誠実な方とすぐ分かりましたから。』

 

『サラが何も言わない以上、私も疑うつもりはありません。それに快く身体を貸してくださり、あまつさえ姫の解放を手助けもしてくださるような方が’’神の使徒’’というだけで疑うのは、あまりにも愚かなことです。』

 

サラの言葉にクロウも続けて答え、当麻と士郎はとりあえず警戒されていないことに胸をなでおろした。スバルもそれを聞いて安心しつつ二人に聞こえないようにレオンにあることを尋ねた。

 

「(なぁ、エヒトって実在した人物なの?)」

 

<(さあな…実在したかどうか知らん……………ただ、)>

 

「(ただ…?)」

 

<(神を語る連中はクソ野郎ってのは確かだ…)>

 

どこか怒気のある声に冷や汗をかくスバル「昔、何かあったのかな…?」とそんなことを思っていると。

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーン

 

 

振動と共に大きな音が迷宮区に響き、三人の身体を大きく揺さぶった。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

「地震か!」

 

スバルと士郎が辺りを警戒した。だが何も起こることがなく振動と大きな音は5秒程ですぐに収まった。

 

「…収まった…のか?」

 

「…みたいだな。」

 

スバルが辺りを見渡しながら呟き、士郎はそれに答えながら周囲を警戒をしていると当麻が眉をひそめるながらボソッと呟いた。

 

「……………師匠、何だか嫌な予感がします。」

 

『ええ、おっしゃる通りです…………………二人の気が大きく乱れている、あまり良くないことが起こったと思われます。』

 

サラの低い声が全体に響き、三人に緊張が走った。「この先、とてつもないことが起こっている…」そう思った彼らはお互いの顔を見合わせて覚悟を決めたかのように頷き合うと、

 

「行こう、みんな!!」

 

「「うん!(ああ!)」」

 

『『はい!』』

 

<……ああ。>

 

スバルのかけ声に当麻と士郎、その中に入っているサラとクロウも声を合わせ、レオンも静かに応じた後、一行は最深部に向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバル達がたどり着いたのは無数の巨大な柱に支えられた広大な空間であり、戦闘があったのか所々には床や柱などがえぐられていた。そして、空間の中央には

 

 

クルゥァァァァァアアアアン!!!!!!!!

 

 

体長三十メートル長い首を持ち、鋭い牙と赤黒い目、頭部には銀色に輝く模様を刻んだ首長竜がいるのだった。

 

「「………ッ」」

 

首長竜の轟く声に、その姿に一瞬怯む士郎と当麻、だがすぐに気を取り直して臨戦態勢に入った。それぞれ頼もしいクロウとサラ(サポーター)がついているので自然と恐怖は出なかった。

 

『このような迷宮区に……』

 

『巨大な魔物がいるとは。』

 

サラとクロウもその姿に驚きを隠せないでいたが、すぐに切り替えて二人をサポート出来るように構えた。そして、スバルは

 

「……………。」

 

ヒュドラではなく、別の違う所を見ていた。スバルから見て右側のあるボロボロの柱の影に誰かが倒れていた

 

「……………ああっ!?」

 

それを見つけた途端、心が震えた。歓喜による震えだ。「ようやく会えた。やっと見つけた」と思いたくもなったが、すぐに恐怖による震えも起きた。何だって遠くから見ても分かるように、その姿は満身創痍、傍から見れば死に体にも見えたからだ。

 

そう、大親友の南雲ハジメの姿がそこにあった。

 

「は、ハジメーッ!!!」

 

スバルは駆け出し、その声に士郎と当麻も「えっ? ハジメ!?」と気づいて後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハジメッ、大丈…………ぶ…………ッ!!?」

 

スバルは駆け寄って倒れているハジメを見た時、呆然と立ち尽くして言葉を失った。全身丸焦げはもちろん、指、肩、脇腹が焼き爛れ一部骨が露出していた。また、顔も右半分焼けており右目から血を流していた。

 

「ハジメ君、ハジメ君!!」

 

「ッ! おい、ハジメ! しっかりしろ!!」

 

後からやってきた当麻、士郎も倒れているハジメを見てすぐに駆け寄った。三人はハジメが重傷ということもそうだが、ハジメの()()()()がないことに非常に動揺していた。

 

「ハジメ…おめぇ………何で、左腕がないんだよ…」

 

三人が思っていることを代弁するかのように言うスバル。彼の言う通り、南雲ハジメの左腕がないのだ。三人はそのことで狼狽し当麻と士郎はハジメに声をかけ続け、スバルは立ち尽くすだけだった。

 

『皆さん落ち着いてください! 彼は大丈夫です!』

 

ここで凛としたサラの声が響いた。

 

『深手を負っていますが、回復に向かっています。このまま安静にしていればよくなるでしょう……もっとも右目はもう、あきらめないといけませんが……』

 

サラの諦めのある声に三人は顔をしかめた。ここでスバルがサラに尋ねた。

 

「サラさん、どうしてハジメが回復に向かっているって分かったんだ?」

 

『気の流れです。私は気の流れでその人の身体がどんな状態か判別することができます。そして、今、彼の気は物凄い勢いで全身を駆け巡っています。ただ…………』

 

「ただ………何ですサラさん?」

 

何か疑問に思うことがあるのか最後の方はどこか口ごもる言い方に気になる様子を見せるスバル。サラは意を決してゆっくりと思っていることを口にした。

 

『……………異常に早いのです気の流れが……普通の人では考えられない速度で気が全身に駆け巡っています。例えるならば………上位の魔物と同じくらいの…。』

 

どこか言いにくそうに事実を伝えるサラ。ハジメについては当麻、士郎からある程度どのような人物なのか聞いている。そして、彼らと同じ人だと認識していたため気の流れを調べた時に驚いたのだ。

 

「思えばハジメ、髪色の変化もそうだが身長も少しのびたと思う。」

 

「ハジメ君、ここに来るまでにいったい何が……。」

 

ハジメが普通の人ではないことを知らされ、士郎と当麻は声を震わせて動揺を隠せないでいた。

 

 

クルゥァァァァァアアアアアアアン!!!!!!!!

 

 

首長竜の叫び声を聞いてここにいる全員がハッとした。今はハジメがどのような経緯を得てこのような姿になったのか考察している場合ではない、あの首長竜を何とかしなければ、と全員が思った時。

 

『姫は? 姫はいったいどこに?』

 

『!? そうです、お嬢様は!? 彼がここにいるという事は、お嬢様も何処かにいるはずです!!』

 

クロウとサラが焦った声に反応して当麻、士郎が辺りを見渡した。すると約200メートル先に人影があった。

 

それは十二、十三歳くらいの長い金髪の少女の姿だった。

 

『あっ…………………………お嬢…様…。』

 

『姫……………………。』

 

二人は大切な人が生きていたことに、ようやく出会えたことに歓喜して身体の奥底から熱くなるように感じて思わず涙ぐんでしまいそうになるも、それも一瞬で冷めてしまった。

 

何故なら、その金髪の少女は静かに倒れ伏したからだ。

 

よく見るとハジメ程ではないが全身ボロボロであり動く様子もなかった。首長竜はその少女を見下ろしており、そして今にもとどめをさすかのように動き出したからだ。

 

「お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」

 

「姫ぇぇぇぇぇーー!!」

 

だから二人は駆け出した。最愛の人を守るために、ここで終わらせないために、当麻と士郎が動く前にサラとクロウが()()()()()()()()()()()()()()()

 

『おっと!?』

 

『うわぁ、し、師匠!?』

 

二人はいきなり自分の身体が動いたことに戸惑いを感じるも、緊急を要する状況であり、また、戦闘の経験も二人の方が明らかに上なので士郎と当麻はこのままクロウとサラに身をゆだねるのだった。

 

 




いかがだったでしょうか?

大昔の話しが出てきましたが、どれぐらい大昔かというとオー君やミレディが活躍した頃よりさらに大昔の話しと考えてもらったら結構です。そしてシャドウオブウォーもとい指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング )に出てくるエルフの王様ケレブリンボールが出てきましたが、本編と大分違っていますのであしからずに。

どちらかというと早く第一部を終わらせてヤツらを出したいですね。


さて、ありふれのアニメなんですが………迷走しているように見えるのは自分だけでしょうか?
皆さんは、どう思われます?

気を取り直して次回、吸血姫様登場回です

それではこの辺で、ではまた。


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黄金の吸血姫 ユエ

どうもグルメです。 
前回の話しと一つにまとめたものを投稿するつもりでしたが長くなりそうなので二つに分けました。それの続きとなります。

それでは、どうぞ。


金髪の少女ユエは身体を必死に動かそうとするが動くことはなかった。先の攻撃で最愛のパートナーを重傷に負わせた首長竜の一撃の余波の影響でユエが持つ特有の’’自動再生’’が遅いからだ。

 

「うぅ……………うぅ……」

 

いつしかユエは涙を流していた、悔しくてて仕方がないのだ。自分ではハジメを守れないのかと、ようやく見えてきた自由の兆しがこんな所で終わるのかと、

 

グゥラァアアアアアアアアアアアア!!

 

首長竜は倒れ伏すユエに勝利を確信したように叫ぶと、光弾を撃ち放った。光弾が迫る時、ユエは目を閉じることなく睨み続けた。心は負けるものかと、意志を示すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時、ふと昔の記憶が蘇った。走馬灯というものだろうか。

ハジメと運命との出会い、短くもここに来るまでのハジメと過ごした日々、それだけにとどまらず女王として王国をまとめていた時も蘇ってきた。十七歳で国を治める女王となり、そこから毎日毎日、国の業務に追われる日々で大変だったが周りがそれを支えてくれた。特にあの二人の存在は大きかった。

その二人は時に大切な臣下であり、親友であり、そして頼れる兄と姉でもあった。もう300年も経つが、あの二人は生きているのだろうか、特殊な種族のため寿命は長いはず、生きているなら二人は今でも私を探しているのだろうか、それとも、もう諦めてそれぞれ自分に合った生き方をしているのだろうか。どっちにしたってもう分からないが、せめて最後に一目会いたかった。

 

「クロウ兄、サラ姉…………さようなら……………………ハジメ、ごめんなさい……。」

 

息がきれそうな声を出すユエ、クロウとサラに最後の別れを口にし、ハジメに守ることが出来なかったことを謝罪し、死を受け入れようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロリアンの海!!」

 

刹那、声と共に何かが横から迫って来て、気がつけばユエは自分が抱き寄せられ光弾が脇を通り透けて過ぎていく光景を見ていた。そして自分を支える人物を見上げた。それはハジメではない知らない青年だった。

 

「さよならを言うのは、まだ、早いですよ…………姫。」

 

「えっ………えっ?」

 

そう優しく言う青年。ユエの記憶の中にこの青年と知り合った覚えはなかった、知らない人物なのに何故か懐かしい気分でいっぱいだった。それにこの青年はこう叫んでいた。’’ロリアンの海’’と

’’ロリアンの海’’は大切な人が使っていた、その人だけが使える能力だ。5~10歩程度の距離を高速で移動することが出来る。これを使えるということはクロウ、彼一人しかいない。

でも彼とは姿があまりにもかけ離れていたことから、ユエはますます困惑するのだった。

 

「あなたは………いったい?」

 

「話しは後で、まずはこの場を切り抜けましょう。」

 

ユエの問いに答える士郎の身体を借りたクロウ。首長竜は問答無用と思えるほどの光弾を浮かべて士郎に放った。

 

「……遅いですね。」

 

そう言って士郎(クロウ)は’’ロリアンの海’’を使って掻い潜るように避けていった。それも余裕の表情を作って、

 

グォオオオオオオオオオオオオオオオオー!!!

 

それにイラついた首長竜は、さらに光弾を作り、士郎に放った。光弾は隙間なくぎっしり詰められており、一見して避ける事が不可能と判断したクロウはその場に立ち止まった。首長竜は「勝った」と確信したのか勝利の雄叫びを上げた。

ユエは立ち止まるクロウを見て、もうだめだと思い思わず目をつむった。クロウは優しくユエにささやいた。

 

「大丈夫ですよ、あとは()()に任せましょう」

 

「…………えっ?」

 

そう言って目を開いた時、ユエとクロウの前に誰かが飛び込んで来て前に立った。それは金髪の青年でありユエ達に背を向けていた。当然、知らない人物だった。

 

「柔気 彩掌乱舞!!」

 

そう叫ぶと青年の両手が七色に輝き出し、迫る光弾を高速に触れていき、光弾は七色に輝く両手に触れた途端に弾かれ、ユエの直線上の光弾は瞬く間に四方八方に飛んでいった。ユエはこの光景に見とれて目を逸らさずに見ていた。

 

「……………あっ。」

 

ユエはあることを思い出した。それはかつて女王になる前のことだ。

吸血鬼の国を支配するために次の後継者ということもあってか幾度も命を狙われることがあった。そんな時、彼女はいつも身を挺して私を守ってくれた。時には無数の魔法の弾幕が私に向かって命の危機が迫る時も彼女は決まって私の前に立ち、七色に輝く両手を翳して、私を守ってくれた。そして、今でも鮮明にに覚えている。

七色に輝く両手の舞踊を見せる彼女(サラ)の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつしか光弾の嵐はおさまり、辺りは当麻(サラ)の’’柔気 彩掌乱舞’’による光弾を弾いた後の凹凸(おうとつ)ができ、そこから煙が上がっていた。静寂に包まれる中、首長竜は三人を睨み付け、士郎(クロウ)当麻(サラ)も睨み返してお互い牽制をしていた。そんな中、ユエはある確信を持てたのか静寂を破るように二人に尋ねた。

 

「もしかして……二人は……クロウ(にい)と……サラ(ねえ)?」

 

その言葉に士郎(クロウ)当麻(サラ)は、

 

「ああ、クロウ兄だよ…姫。」

 

「はい、サラ姉はここにいますよ…お嬢様!」

 

ユエの問いに優しい笑顔で答える二人。

 

「…………………クロウ…にぃ………………サラ…ねぇ………。」

 

それを聞いて涙腺が緩み、静に涙をながすユエ。一目会いたいと思っていた大切な親友が目の前にいる。声、姿は違えど確かに二人はクロウとサラだ、間違いない。ユエはそう理解した。

 

グルァアアアッ!!

 

隙を見て、再会に水を差すように首長竜は叫び、三人の所に自分の頭を勢い良く叩きつけた。叩きつけられる前、瞬時に気づいたサラとクロウ、ユエはクロウにしがみつきクロウと一緒にその場を飛び引いた。

 

「まずはこのバケモノをッ!!」

 

「何とかする必要がありますね…。」

 

「(ゴシゴシ)………………ん!」

 

サラの言葉に静に応えるクロウ、目元の涙を拭いて力強く頷くユエ。’’まだ終わらない、こんな所で終わらせてなるものか’’と再び強い意志がユエの心に宿るのだった。




技・技術紹介

「ロリアンの海」
クロウが受け継いだ明王の力の一つ。最大10歩程の距離を瞬時に移動することが出来る。

「柔気 彩掌乱舞」
気には様々な種類と効果がある。その中の一つ’’柔気’’はとても柔らかく、弾く効果があり、それは魔法も例外ではない。正確には魔力を込められた物質(火や風など)であれば簡単に弾く事が出来る。ただし規模の大きい魔法や鋭利状態(緋槍など)の魔法は弾く事が出来ない。
彩掌乱舞は両手に気を纏って、無数の掌を高速に繰り出す。



いかがだったでしょうか?

クロウとサラの実力が見れる回でした。ここからスバル、ハジメも覚醒を終えて参戦し最奥のガーディアンを倒します。全員が活躍出来るように頑張って書いていきたいと思います。
アニメ7話を見ましたが、カット多くて面白みがかけていましたね。ただ、一瞬の映った菅原妙子が可愛かった…。


次回、時間を遡ってクラスメイトサイドの話しになります。
4人が落ちていったことで残された者達はどうなったのか、そしてレムは何を思ったのか、そんなお話しを送りたいと思います。


それではこの辺で、では…また。


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クラスメイトside 悲しみを越えての脱出 前編

どうもグルメです。

今回のお話しはクラスメイトのお話しです。4人が落ちてレムや優花達、カヅキ達はどうなったのか…そんなお話しになります。

今回も長くなりそうなので前編、後編に分けています。


それでは、どうぞ。


響き渡り消えてゆくヘビモスの断末魔の絶叫、騒音を立てながら崩れ落ちてゆく石橋、そして、それと共に奈落へと吸い込まれる、ハジメ、スバル、当麻、士郎。クラスメイトと騎士達はそれを黙って見ることしか出来なかった。辺りが静になった時、聞こえてきたのは二人の叫び声だった。

 

「いやあああああぁぁぁぁ!! 士郎、しろう、しろううぅぅぅーー!!?」

 

一人は園部優香。士郎の幼馴染であり家族同然の存在だった士郎を目の前で失い、悲痛の叫び声を上げながらその場に泣き崩れて親友の妙子、奈々に慰められていた。

 

「離して! 南雲くんの所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! だから、離してぇ!」

 

もう一人は白崎香織。どんな時でも変わらずハジメに優しく接してきた彼女は、ハジメとの約束を果たすためなのか今にもハジメ達が落ちた所に飛び出そうという勢いに雫と光輝が必死に羽交い締めにしていた。

これを機に一つにまとまっていたクラスメイトの心はバラバラとなり、心に大きな傷を与えた。

ある者は呆然としつつ石橋のあった所を眺め、ある者は恐怖でその場に座り込む者もいた。そして彼は、

 

「…おい、そこをどけ、イツキ! 邪魔だ!」

 

「兄さん、落ち着いて…。今はその行動をするべきではない。」

 

何を思ったのか歯をむき出し、真っ赤な怒りの形相をするカヅキは’’ある所’’に向かおうとしていた。その時、イツキに遮られ止められていたのだ。この様子を見ていた佐助、厚志は下手したらカヅキはイツキも斬りかねないと思い、事情が分からないままイツキに加勢する形で止めに入った。

誰もかれもが心を取り乱している最中、レムはというとただ黙って崖先に立ち尽くしていた。顔を俯かせて奈落の底を覗き込んでおり、あと二三歩出せば落ちるような所に立っていた。

 

「………………。」

 

レムは呆然とした表情で奈落の底を見つめていた。その頭の中ではスバル、ハジメ、当麻、士郎がヘビモスの動きを止め、逃げている所に援護で放った誰かの魔法がハジメに当たる所をスバルがかばい、それをきっかけに四人が落ちていく映像を繰り返していた。まるで現実逃避しているレムに分からせるように、何回も何回も頭の中で繰り返し、この出来事が夢じゃないということを、これが真実だということをレム自身に理解させるかのように。

 

「…あ、あっ、うそ…いや、いや…っ…」

 

そして、レムは理解してしまった。これが現実だということを、その瞬間一気に後悔の念がレムに襲い掛かった。「何故、彼らを行かせた」「何故、もっと声を張り上げて止めなかった」「他に出来ることはなかったのか?」など次々に出てくる後悔の言葉がレムの心を黒く染め、今見えている視界がぼやけてきた。それと同時に後悔の念はこんな言葉に変わっていった。

 

「彼らは助けが必要だ。」

 

「今ならまだ間に合う」

 

「先ほどの失敗を取り戻すのは今しかない」

 

悪魔の囁きかのように彼らの助けをそそのかす言葉をいつしか思い浮かべるようになった。まるで呪いのようにレムの心身を洗脳するかのように、その言葉が響き、冷静な判断が、それが正しい行動かどうかも分からないようになっていた。

 

「………たすけに…いかないと…」

 

感情がこもっていない言葉で呟き、奈落の底に向かって歩き出した。そして、あと一歩で奈落に落ちるという所である言葉が響いた。

 

 

 

 

’’待っていてくれないか?’’

 

 

 

「(……スバル君?)」

 

その言葉に動きを止めた。ぼやいていた視界が少しずつクリアになるような感じがした。「これは確か昨日、スバル君が言っていた言葉…」ふと、そんなことを思っていた時、スバルのある言葉が蘇ってきた

 

 

 

 

’’俺は……例えレムの前から消えても必ず会いに行く。どんな形、姿になろうとも絶対に会いに行く…だから待って欲しいんだ。もし、消えてしまって…生きているかどうか不安になったら、このペンダントを見て欲しい。’’

 

 

 

 

「あっ!!」

 

レムはペンダントのことを思い出し、首にかけていたペンダントを取り出した。ペンダントはひび割れどころか傷一つなく、暗闇の中、小さく輝いていた。

そして、再びスバルの言葉が蘇った。

 

 

 

’’よくアニメとかであるだろ? ’’大切な人からもらった物が壊れたら、その大切な人に何か不幸が訪れていた’’ってこと、でも、逆に言えばそれが壊れない限りその人に何も起きてないてことになる。つまり、’’俺が消えてもそのペンダントが壊れないかぎり、俺は生きている’’って証拠になる。’’

 

 

 

’’俺は自分の発言に責任を持つ…’’

 

 

 

’’それに俺たち親友だろ? 親友はお互い信じ合う事から始まる……だからレムも信じてくれ、親友の俺たちを!’’

 

 

 

スバルと昨日見た情景と約束、そして今日言われた言葉を一言ずつ思い出す度にレムの黒く染まっていた心が再び白く染め直されていき、全て思い出した時には視界がハッキリ見え、いつもの冷静な判断が出来るレムがいるのだった。

 

 

「(スバル君、ありがとうございます。……スバル君のおかげで惑わされずに再び前に進む事が出来そうです。私はスバル君……いえ、皆さんを信じています。だから………皆さんも、どうか無事で………)」

 

レムは貰ったペンダントを両手で強く握りしめた。「どうか、この言葉が四人に届きますように…」と願いを込めて、祈りを捧げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祈りが終わるとレムは動き出した。これ以上犠牲を出さないよう、四人の努力を無駄にしないためにも、まずは周りを見て今起こっている現状を把握しようとした。

クラスメイトの誰もかれもが四人が落ちたことにショックを受け戦意喪失しており、特に優花と香織の嘆き声で動揺が広がっていた。

 

「(まずは、二人を落ち着かせないと…)」

 

そう思い、まずは今にも飛び降りそうなの勢いでいる香織に向かおうとした時、

 

「レム、僕が行くよ。君はあの子を頼めるかな?」

 

いつの間にか横に立って話しかけるイツキ。レムはいきなりのことで驚く暇もなく、イツキが向いている方を見ると

 

「しろ…うぅ……しろうぅぅぅぅううー!!」

 

大きく泣き叫ぶ優花の姿があった。

優花の近くでは奈々と妙子が慰めるように背中をさっすたりするも落ち着く様子がなく、二人もどうしたら良いのか分からないでいた。

その姿に少し心を痛め悲痛な表情を浮かべていたレムだが、決意を固めたようにコクッと頷くとすぐに表情を柔らかくして優花の元に向かった。

 

「任せたよ、レム。」

 

優花の元に向かうレムを見届けるとイツキは香織の方に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妙子さん、奈々さん、私に任せてもらってもいいですか?」

 

必死に優花を落ち着かせようとしている妙子、奈々。すると見知った声が聞こえてきたのでそちらに振り向くとレムが立っていた。

 

「レム? ……うん、分かった。」

 

「レムっち、お願い!」

 

その姿を見た妙子、奈々はレムなら任せられると思ったのか、優花から少し離れて様子を見守った。レムはしゃがみ込み優花を抱き寄せて背中を撫でつつ耳元で囁いた。

 

「優花さん、落ち着いてください。士郎さんが死んだと決めつけるのは、まだ早いですよ。」

 

「でも、レム! しろうは…士郎は…あんな底の見えない所に落ちたんだよ!」

 

優しく語りかけるレムに優花は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも答えた。

 

「ええ、確かに落ちました。誰もが見たらそう思うでしょう…ですが、誰も()()を確定づけるものを見ていないのも事実です。もしかしたら何かしらの出来事で生きているかもしれません。」

 

「どうして!! どうして、そんなことが言えるのよ!!」

 

自信を持って平然と言うレムに苛立ちを覚え、泣きじゃくりながら聞き返した。怒鳴り声に近い優花の声に動じることなくレムは答えた。

 

「それはですね……スバル君とある約束をしたからです。」

 

そう言ってレムは昨日の出来事の一部を教え、スバルから貰ったペンダントを優花に見せるのだった。

 

「きっと士郎さんのことです。ハジメさん、当麻さん、そして、スバル君と行動しているはず………このペンダントが壊れていない以上、スバル君だけでなく一緒に行動している当麻さん、ハジメさん、そして、士郎さんの身に何も起こってないという証明になる………そう、私は思うのです。」

 

優しく小さな声で自信に満ちた話しをするレム、それに対して優花は、

 

「レム…むちゃくちゃだよ………そんな…そんな、おとぎ話しみたいな…奇跡みたいな話し……信じ…られない…よ…。」

 

そう言って険しい表情をするも、段々と弱々しくなっていき最後は意識を無くしてレムにもたれかかった。それを見た奈々、妙子は「優花っち!」「優花!」と狼狽する中、レムは優花に決意するように耳元で言った。

 

「……それでも信じたいのです。そのおとぎ話しみたいな奇跡を…。」

 

レムは優花のバイタルサインを確認し、問題ないと分かると優花を背中で背負った。

 

「レムっち! 優花っちは大丈夫なの!?」

 

「えぇ、大丈夫です。気を失っているだけです。」

 

「そう…よかった。」

 

レムの言葉に奈々と妙子は安堵するも、苦痛の顔をにじませていた。何だって親友の大切な人が落ちていったのだ。さらに言うと優花だけでなく目の前のレムだって大切な人が落ちていったというのに全く悲痛な顔をしておらず、しかも安心させるかのように穏やかにどこか自信に満ちた表情を浮かべているのだ。これには二人もどういう顔をしたら良いのか分からないでいた。そんなことを知ってか知らずかレムは二人に言った。

 

「奈々さん、妙子さん。お二人はまだ動けますか? まずは一刻も早くここを出ましょう。危険が及ぶ前に…。」

 

「レムっち………うん、そうだね。」

 

「そうね、ここを出ましょう。」

 

レムの言葉に二人は頷き、撤退の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、イツキの方はというと。

 

「……失礼。」

 

「あっ……………。」

 

イツキは暴れる香織の肩に触れた瞬間、バチィという音と共に気を失い、雫にもたれかかった。

これを見た光輝は激怒した。

 

「お前ぇ!! 香織に何をしたんだ!!」

 

そう言ってイツキの胸ぐらを掴んで怒りを露わにした。この行動にイツキは涼しい顔で受け流しながら、内心では状況を理解していない光輝に呆れていた。

 

「やめなさい光輝!」

 

ここで雫は光輝に一喝し、光輝はイツキの胸ぐら掴みを緩めた。そして、雫は光輝に諭すように言った。

 

「私達が止められないから月山君が止めてくれたのよ。わかるでしょ? 今は時間がないの。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に、何より香織が壊れる前に止める必要があったのよ……。」

 

雫の言葉に光輝はゆっくりイツキの胸ぐらの手を話した。続けてイツキも諭すように言った。

 

「君はクラスのリーダーなんだから、もっとしっかりしなきゃダメだろ? 君がしっかりしなきゃ…誰がクラスメイトを引っ張るんだい?」

 

その言葉にどこか苛立ちを覚えたのか、光輝は「それぐらい分かっている。」と吐き捨てるように言うと、他のクラスメイトに撤退の呼びかけに向かった。雫は小さなため息を吐いてイツキに謝罪した。

 

「ごめんなさい…光輝には後で言っておくは。」

 

「アハハ…僕は気にしてないから、そんなに気を落とさなくていいよ。」

 

「そう言ってもらうと助かるわ。………それとありがとう、香織を止めてくれて。」

 

自分で止めることが出来なかったことを気にしているのか、表情を暗くする雫。イツキは雫の暗い表情を見ないように背を向けて話した。

 

「礼には及ばないよ。これ以上、彼らの意思を無駄にさせる訳にはいかないからね……それと、彼女の行動はもっともだ。大切な人が目の前で消えて心穏やかにいられる人なんていないと思う…。」

 

「………そうね。」

 

イツキの言葉に雫は静かに共感した。それと同時に二人は、もしこれが大切な親友、香織だったら、大切な家族の兄だったら、ここで気絶している香織と同じような行動していたかかもしれないと思うのだった。

 

「さて…僕は行くよ。彼女のこと任せたよ。」

 

「ええ、任されたわ。」

 

背を向けたままイツキはそう言うと、雫は力強く頷いて答えた。雫の声に不安な様子はないと判断したイツキはゆっくりと二人の前から離れていくのだった。

雫はその背中を見えなくなるまでずっと見つめていた。’’頼りになる人’’だと思いながら…………。

 

 

 

 

 




新コーナー ありふれ噂話


佐助「どうも、学校では新聞部に勤めている猿山佐助だぜ。このコーナーは情報通の俺が独自の調査で集めてきたうわさ話(小説設定など)を紹介するコーナーだ。では早速、発表に入るぜ、発表者は当然、当麻君だ。」

当麻「何で…僕が発表するの? というか当然ってどういう意味!?」

佐助「まぁまぁ、そう言わずに…ささっ、早いとこ発表してくれ。発表内容は事前に伝えた通りだから。」

当麻「……わかったよ。 ありふれこs……オホン…ありふれ噂話。」



当麻「実は僕を含めて、ハジメ君、士郎君、それと優花さん、妙子さん、奈々さんは幼馴染なんですよ。」



佐助「改めて思ったけど、お前ら優花のグループと仲が良かったんだな。」

当麻「ええ、幼稚園の頃からずっと一緒でして。士郎君が優花さんと仲が良かったので、その親友の妙子さんと奈々さんとも遊ぶようになって自然に仲良くなりましたね。ちなみにスバル君とは小学5年生の時にハジメ君がきっかけで仲良くなりました。優花さん達ともすぐに打ち解け合いましたよ」

佐助「なるほどね…(そうなると、今回の4人の落下はレムや優花達にとって余程ショックな出来事だろな。)」

佐助「まぁ、こんな感じで不定期に色々とありふれた話しを紹介していくぜ。」

当麻「ところで佐助君。どうして僕が発表者なの?」

佐助「…………………それでは今日はこの辺で。では、またな~」

当麻「ちょっと、質問を無視しないでください。ちゃんと、答えてください!」






好評だったら続けて見ます。感想などもお待ちしております。







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クラスメイトside 悲しみを越えての脱出 後編

どうもグルメです。

前回のお話しの続きとなります。それと佐助と厚志の二人の天職についても触れたいと思います。

原作にはないオリジナルの天職です。


それでは、どうぞ。


あれからクラスメイト達は騎士達と共に上層部へ行くための道をノロノロと歩いていた。イツキは、疲れて歩けなくなった生徒がその場に座り込むのを見つけたら、その生徒に近づいては歩くように声をかけ兄のカヅキを探していた。「どこに行ったのだろう…」と少し心配しながら辺りを見渡していると

 

「旦那ァ!」

 

「アニキ!」

 

前から佐助と厚志が走ってやってきた。

 

「佐助くん、厚志くん…兄さんは? 君たちに任せたつもりだけど。」

 

イツキがそう尋ねると、呼吸を整えている厚志よりも余裕な表情が見られる佐助が答えた

 

「それが大将の奴、『俺はいいから、他の奴を見てこい』って言われてさ。」

 

「……大アニキは、進路確保のため魔物を斬りながら……どんどん一人で先に行ってしまわれて…」

 

途中で厚志が呼吸を落ち着かせながらもイツキに現状を報告した。

 

「はぁ~兄さん。また、無茶を………まぁ、この辺の魔物に引けを取らないから大丈夫だと思うけど…」

 

兄の行動に大きなため息を吐くイツキ。するとここで厚志が、

 

「それにしても大アニキ、物凄く怒っていた……俺、あんな姿初めて見たよ…」

 

「たしかに、俺も初めてだな。身体の奥底から寒気がした、斬られるかと思ったぜハハハハハ………………で? 何かあったの大将は?」

 

二人はカヅキを止めに入った時、カヅキの怒りに恐怖を感じたのだ。カヅキを止めるのはこれが初めてではなく、元の世界で日常的によく怒っては止めに入っており慣れているつもりだったが今回は違っていた。近づいた瞬間、二人に悪寒が走り身体が震えたのだ。まるで本能が「近づくな、危険だ」とサインを出すかのように、その震えはカヅキが落ち着くまで止まらなかった。

 

「兄さんはたぶん………自分の無力さを痛感してイライラしているのだと思う。ヘビモスも結局どうすることもできずに彼ら4人に頼るしかなかったからさ……」

 

どこか寂しそうに言うイツキ。その姿を見た厚志と佐助は

 

「なるほど、そうだったですか。」

 

「……大将らしいぜ。こんな結末、認めてないんだろうな…」

 

そう言ってカヅキの怒りの理由に納得しつつ、二人は四人が落ちて行ったことを再び思い出し何とも言えない表情を浮かべるのだった。

 

「(最もこれは建前だけどね。理由はもっと別にあるけど……今は伏せておくのが一番かな?)」

 

イツキは表情を崩さずにそんなことを思っていた。すると後方から声が聞こえてきた。

 

「レム大丈夫? 少し休憩でもする?」

 

「いえ、大丈夫ですよ妙子さん。皆さんと距離が離れてしまいますからね…このまま行きましょう!」

 

「でも、レムっち…凄く辛そうだよ。」

 

三人が振り向くと優花を背負っているレムとそれを見守る妙子と奈々の姿があった。

 

「おや、君たちこんな所にいたのかい? 他の人達はもう先に進んだよ」

 

「仕方ないでしょ、優香背負っているレムに合わせているのだから。」

 

イツキの言葉に妙子はどこか不満げに答え、「それもそうだね。」と苦笑いをした後に三人に尋ねた。

 

「ちなみに君たちの後ろにまだ誰か残っていたりするのかな?」

 

「たぶん奈々達が最後だと思うけど…」

 

イツキの言葉に反応した奈々は来た道を振り返りながら答えた。

 

「ふむ…一応確認し越したことはないかな。佐助くん、頼めるかな?」

 

「ほいほい、任されたよ旦那。」

 

イツキの意図を読めた佐助は元気よく答えると詠唱を読み始め、最後に「影分身」と唱えた。すると佐助の身体から黒い煙が一瞬にして現れ、佐助と同じ体型の人型となった。そして、その人型は今まで歩いて来た道のりに向かって走り出した。

妙子と奈々は驚いて佐助の影分身を目で追っていた。そして、レムが二人の疑問に思ったことを口にした。

 

「佐助さん、あれは一体…?」

 

「見たまんまの分身だよ。魔力で作り上げ、分身が見たもの聞いたものを俺と共有することが出来る………俺の天職、’’影術士’’は影に関わる術を使うことが出来る職業さ。もっとも今のところ影分身しか使えないし、さっきの一体しか出せないけどな。」

 

佐助が持つ天職はレア中のレアであり、一応天職がまとめられた書籍には名前が載ってあるのだが、具体的な記述はないため王国や騎士達が注目している職業だったりする。佐助の職業にレム達三人が関心を寄せているとイツキが一つの提案をした。

 

「レム、優香さんを別の方法で運ぼう。このままじゃ君の体力はもたないし、それよりも皆と距離を空けては何かあった時、危険だと思うんだ。」

 

「確かにそうですが……何か方法があるのですか?」

 

「僕に良い考えがあるんだ。」

 

不安げな様子のレムを安心させるかのように笑みを浮かべたイツキは、厚志に振り向いて言った。

 

「厚志くん、君が持っていた二つの円盾を()()()ことはできたよね?」

 

「ええアニキ、できますよ。」

 

そう答える厚志に三人は?を浮かべた。’’盾を浮かす’’どういうことだろうと思っていると厚志は両手に持っていた直径100㎝の盾を手に放すと宙に浮いているのだった。

 

「え? ええっ!?」

 

「うそ、何で?」

 

妙子、奈々がまたもや驚くなか、厚志は照れながら答えた。

 

「実は天職の恩恵でして…俺の天職、’’盾の守護者’’は盾を動かして自在に操ることができるんです。今の所、二つしか浮かすことがはできないですけどね……」

 

厚志の天職もまたレア中のレアであり一説によるとこの天職を持ったパーティーは全滅しないと言われている。余談だがこの天職は盾にかきらず’’盾として身を防げる物’’と認識したら何でも浮かすことが出来たりするのだ。

レムは浮いている盾を見て「優花さんみたい…」とナイフを浮かべて戦う投擲師の姿を思い浮かべて、今背負っている優花に目を向けていた。

 

「レム、とりあえず背負っている彼女をその盾の上に座らせてくれるかい?」

 

そう言ってイツキは持ち手が上を向いている円盾を指差した。レムは言われた通り背負っている優花を盾に座るように下した。

 

「よし、じゃあ厚志君、もう一つ盾で優花さんの背中を支えてくれるかい?」

 

「了解。」

 

厚志はもう一つの盾で優花の背中にくっつけて後ろに倒れないように支えた。

 

「あとは、この状態を維持して出口まで目指そう。厚志君、やれるかな?」

 

「任せてください!」

 

「厚志君、優花さんをお願いします。」

 

「おうっ。」

 

イツキの言葉に自信満々に答え、レムのお願いには笑顔で答える厚志君。

ここで分身操作に集中していた佐助が口を開いた。

 

「イツキの旦那、置いてけぼりの奴はいませんでしたぜ。それと4人が落ちた所を覗いてみたんですけど…登ってくる様子は……見られなかった。」

 

「……そうか。」

 

「………………。」

 

楽観的に喋る様子から一変、少し黙り込んでからゆっくりと4人があの場所にいなかったことを告げた。イツキはそれを聞いて静に頷き、レムは暗い表情を作ってただ黙って俯いた。重たい空気が包み込む中、それを壊すようにいつもの明るい口調で佐助が言った。

 

「レムちゃん、気休めかもしれないけどあの4人なら大丈夫じゃないかな? 案外ケロリとして生きてるかもよ…」

 

楽観的な佐助の言葉に残りの者達は目を開くように驚くが、佐助に触発されたのか瞬時に厚志が勇気を持って口を開いた。

 

「俺も信じています! あの4人が生きていること! それに確認するまでまだ分からないです、’’シュレーディンガーの猫’’ですよ!」

 

握りこぶしを作り、「ぞい」のポーズで力強く言う厚志。佐助はこれを見て内心、「シュレーディンガーの猫の意味分かって言っているのか?」とツッコミを入れていた。

 

「猿山さん…牛山さん。」

 

二人の言葉に顔を上げるレム。続けて妙子、奈々も、

 

「レム、嘘偽りなく話すけど…私もあの4人が死んだって思わないの。案外ひょっこり帰ってきそうな感じなのよね…。」

 

「レムっち、私もあの4人が生きていること信じているから! というか生きてもらわないと困る、特に士郎君! 優花っちと士郎君がイチャイチャしている所を茶化せなくなるしね!」 

 

落ち着いた様子で想いを語る妙子、奈々はレムに前のめりで迫る勢いで想いを告げた。

 

「妙子さん…奈々さん。」

 

4人の言葉にレムの表情に明るさが戻りつつあった。これを見て何も言わないのはおかしいと思い、イツキも口を開いた。

 

「レム、あの4人を信じよう。僕も、ここにいない兄さんも、まだ認めてないからね。」

 

真剣な眼差しで言うイツキにレムは少しの間、彼を見つめ、そして、周りを見渡した後にレムはゆっくり口を開いた。

 

「そうですね……信じないと…だめですよね。私が誰よりも信じないと………………」

 

独り言のように呟いた後、レムはニッコリと笑顔を向けた。4人が生きていることを未だ信じてくれる仲間に感謝するために。

 

「皆さん、ありがとうございます。」

 

妙子と奈々はいつものレムが見れて安心し、厚志もこの様子を見て安堵した。イツキと佐助も笑顔でいたが二人は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

レムが背中に隠すように右手をおいており、その手が微かに震えていたことを。

 

 

 

 

 

その後、6人と1つの浮遊体は遅れを取り戻すように進み、先に進んでいたクラスメイト達と合流を果たした後、迷宮区を脱出することが出来た。ハジメ、スバル、当麻、士郎の4人の犠牲を除いてクラスメイト達とメルド団長率いる騎士達は無事生還を果たしたのだった。




ありふれてない天職紹介

影術士

猿山佐助が持っている天職。滅多にお目にかからないレア中のレアの天職であり、天職がまとめられた書籍にも名前だけは載っているが具体的な記述は記されてなかったりする。技能面は’’暗殺者’’の職と被っている所があったりするのだが、最大の特徴は影術士しか使えない影にまつわる技能が使えることであり、今の所、見たもの聞いたものを共有する魔力で出来た影分身を一体作ることができる。



盾の守護者

牛山厚志が持っている天職。盾、結界及び防御系にまつわる技能が使え、佐助と同様にレア中のレアの天職。一説によると「この天職を持ったパーティーは全滅しない」と言われている。最大の特徴は盾を宙に浮かせて自在に操ることができ、その気になれば盾以外の物(鍋のふた、扉やドアなど…)も盾として身を防げる物と認識したら浮かすことが出来る。(今のところ二つしか浮かすことができない)



いかがだったでしょうか?
オリキャラの天職がわかる回でした。二人の天職には元ネタというよりイメージしたものがあり、’’影術士’’は戦国BASARAの猿飛佐助が使う忍術、’’盾の守護者’’は盾の勇者をイメージしました。どこかで活躍はさせたいですね。イツキ、カヅキも剣士に変わりないですがちょっと変った天職を考えております。
次回もクラスメイトsaideを予定、迷宮を脱出したその日の夜、それぞれの出来事を送りたいと思います。


感想などお待ちしております。それでは、また…。


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クラスメイトside それぞれの夜 前編

どうもグルメです。
仕事やら、地元の行事、それによる体調不良でなかなか執筆が進みませんでした。とりあえず落ち着いたので投稿します。

今回のお話しは引き続きクラスメイトsaideになります。無事迷宮から脱出したクラスメイトの一部に焦点を当ててみました。


それでは、どうぞ。


ホルアドの街に戻ったクラスメイト一行は何かをする気力も無く宿屋に戻るとそれぞれ部屋に入って行った。数人生徒は生徒同士で話し合ったりしていたがほとんどの者は真っ直ぐ部屋に直行し、今日あった出来事を忘れるかのように眠りについた。

そして、レムもまた部屋に直行する一人だった。

宿屋についたレムは厚志に礼を言って優花を受け取り、一緒にいたメンバーに軽く挨拶をして早々と自分の部屋(優花も同室)に戻って行った。この様子を見た奈々は何かを感じたのかレムを呼び止めようとしたが「今はそっとしておこう…。」とイツキに止められ奈々は渋々引き下がり、レムと一緒に行動した妙子、奈々、イツキ達はその場で解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

レムは部屋に戻ると鍵を閉め、優花をベッドに寝かせると自分もベッドに飛び込み枕に顔を埋めた。

 

「………っ………ううぅぅ…………スバ…ルく…ん………っ……。」

 

顔を埋め込むように枕を強く抱きしめ、胸の苦しみに耐えるかのように、この部屋にいる優花に聞こえないようにすすり泣いた。確かにレムは4人が落ちていったあの場所で絶望と後悔を味わうも、スバルとの約束を思い出し、4人が生きていることを信じて再び前を向いて歩く決意をしたものの、人間の性なのかどうしても不安がよぎるのだ「本当に4人は生きているのだろうか?」と。

故にレムは泣いた。信じるも疑ってしまう自分に、心の弱い愚かな自分を責めるかのように泣き続けた。

 

「(ハジメさん…士郎さん…当麻さん…ごめんなさい……スバル君…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…。どうか……許してくだ…さい、スバル…君の……スバル君の……言葉を…やくそくを…疑ってしまう……弱い自分を……心の弱い…私を………どうか、どうか…許して……)」

 

静かに泣きながら、謝罪の言葉を、懺悔の言葉を胸の内で吐き出し続けるレムはどれぐらい続いたかのか分からないが、いつの間にか深い眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大半のクラスメイトが眠りつくなか宿を出た街の一角にある目立たない場所で膝を抱えて座り込んでいるクラスメイトがいた、檜山大介だ。

 

「ヒヒ、だ、大丈夫だ。上手くいく。俺は間違ってない……間違っているのは…アイツ、南雲だ! アイツが……調子乗るから…」

 

暗い笑みと濁った瞳で自分が行った罪を正当化するかのようぶつぶつと言いながらに自己暗示を続けていた。「周りには人がいない、大丈夫だ…。」と思っていた檜山だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら~やっぱり檜山(アイツ)だったか。まぁ、前からそうだったけど、南雲に尋常じゃない執着を持っていたもんな~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿屋の屋根の上で片足だけで立ち、片方は器用にあぐらをかいて座っている男性生徒、猿山佐助の姿がそこにあった。佐助は技能の’’遠見’’と[+遠聞]を使い檜山の姿を捉え自己暗示を聞いていたのだった。

 

「(あの時、皆の表情が暗いってのにアイツだけは笑っていたし、まさかと思っていたけどさ~ まぁ、これで大将の行動も説明がつくし、大方旦那も犯人が檜山だと気づいているんだろうな。)」

 

今日あった出来事を思い返す佐助。実はあの時クラスメイトがヘビモスに魔法を放つ時、自分は援護出来る魔法がなく後方で見守っていたのだ。その時、人間観察が趣味で得意な佐助はクラスメイト達を注意深く見ており4人が奈落に落ちて周りが恐怖する中、檜山だけがドス黒い笑みを浮かべていた。最初は’’偶然起きたことに喜んでいる’’と思っていたがカヅキが尋常じゃない怒りで檜山に向かっていたことである程度檜山に目星を付けていたが、先程の呟きで檜山が犯人だと言うことを確信するのだった。

 

「さて、アイツにどちらに転がるんだろうな~ 殺したことにおびえ続けるか、それともタカが外れて殺しにためらわなくなるか…。まぁ、どっちにしろ……………私欲で無害な人を殺める奴だ。今後1ミリも信用出来ないのは確かだよな。」

 

愉快な声で呟いていたら、最後は一変して冷たい視線を向けながら言い放つと、背を向けて歩き出し、ゆっくり自分の影の中に沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

だがこの時佐助は知らなかった。佐助が来る前に檜山はある生徒と取引していたことを、そしてこれが後の大事件を引き起こす事なるとは彼は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐助が密かに行動していた頃、クラスメイトが宿泊している宿屋の一室にて白崎香織はベッドの上で穏やかな呼吸で眠っていた。

 

「………………香織。」

 

そして、そのそばで椅子に座って見守り続けているのは彼女の親友、八重樫雫である。右手首辺りを左手で掴み表情を曇らせながら未だ目を覚まさない親友の名を口にした。

 

「………………ごめんなさい、何も…してあげられなくて…。」

 

静に告げる雫は今日あった出来事を思い返し自分の行動を振り返った。

順調に進んでいたと思われた矢先、トラップにかかりヘビモスと強制戦闘。協力して何とか退けることが出来たが、その代償はあまりにも高く4人の生徒が犠牲となった。その中には香織の想い人も含まれていた。

ヘビモスを倒すと意気込む光輝(幼馴染)は止めれず、ヘビモスを足止めもすることも出来ず、4人が落ちていく所をただ見つめ、親友(香織)が嘆き声悲しみ取り乱す姿を宥めることも出来なかった。

結局の所、’’自分は何一つ出来なかった’’ことを思い知らされるのだった。

 

「………………ッ」

 

自分の無力さを痛感し、右手を掴む左手に力が入り思わずきゅっと唇を嚙みしめた。

自分がもっと早く光輝を止めていたら、4人が落ちることも、香織が悲しむ事もなかった。「私がもっとしっかりしていれば…。」と心の奥底で責めていた時、

 

 

キーン、キーン、キーン

 

 

「(………………音?)」

 

どっからともなく鋼と鋼がぶつかり合う音が微かに聞こえてきた。その音のおかげで雫は無意識に責めるのをやめ、聞こえてくる音に耳を傾けていた。その音は窓の外から聞こえ、思わず窓を開けて外を見た。窓の外は小さな雑木林が広がっておりそこから音が聞こえてくるのだった。そして、雫はこの音に聞き覚えがあった。

 

「(剣と剣がぶつかる音………誰かが仕合をしているのかしら? でもこの音どちらかというと……刀に近いわよね…。)」

 

ふと元いた世界の出来事を思い返した。一度だけ家族の者と実際の日本刀で仕合をしたことがあり、その時刀同士でぶつかり合った時にも音が響いたが、その音が今聞こえてくる音と非常に近い音がするのだった。

雫は改めてどの辺りからその音が聞こえてくるのか耳を立て雑木林を凝らして見ていると月明かりが何かに当たり乱反射しているのが見え、それと同時に再び鋼がぶつかる音が聞こえてきた。

雫は真偽を確かめるために剣を携え音が聞こえてくる雑木林に向かった。

 




ありふれた技能紹介

遠見 

佐助が使える技能の一つ、その名の通り遠くにある物を双眼鏡のように見ることができる技能、見える距離に限りはあるがそれなりに見ることができる。


遠聞

佐助が使える技能の一つ、’’遠見’’と連動して使うことによりどんなに離れていても遠見で見えている人物なら、その会話を聞くことが出来る。ただし’’見えている’’が条件であり壁などで顔などが隠れてしまったら聞くことが出来ない。また会話を盗み聞きする対象を見続けないと聞き取ること出来ない技能となっている。





ありふれ噂話



佐助「好評につき第二回、ありふれ噂話を始めるよ。進行は俺様で発表者は前回に引き続き当麻君です~。」

当麻「どうも………………ところで佐助君、始める前に一つ聞きたいけど、このコーナー好評だったの? 一つも聞いたことないんだけど…。」

佐助「好評、好評~。だってこの作品の評価が少しずつ上がってきているからこのコーナーのおかげだよ。第二回も決して’’本編が長くなるから前編と後編に分けて前編が短いから、おまけで水増ししよう!’’とか、そんなんじゃないからね~」

当麻「(開催理由、後者なんだね…。)」

佐助「それじゃあいってみよう。当麻君、頼んだぜ。」

当麻「了解、ありふれ噂話……」






当麻「レムさんと優花さんはお互い親友と思えるほど仲の良い関係ですが、実は当初は優花さんが一方的にレムさんを敵視していたらしいですよ…。」






当麻「そう言えば………高校一年の時、転入でやってきたレムさんが学校生活に慣れてきた頃、優花さん…時々複雑な表情でレムさんを見ていた時があったような……」

佐助「こう言うのは本人に直接聞いてみた方が早いって、ということで優花さんに来てもらいました!」

当麻「えっ! 優花さん呼んだの!?」

優花「まさか、これだけのために呼ばれるなんて………………来るんじゃなかったわ。」

佐助「ささっ、話してもらいましょうか。あっ、別に話さなくてもいいけどその時は俺様が誇張して話すからそのつもりで。」

優花「それって脅しじゃない!……………はぁ、仕方ないわね。あまり思い出したくないけど……レムがスバル達の会話に入るようになって時々…その、士郎と二人で話すこともあるのよ……だから私は…もしかしたらレムは……士郎を…」

佐助「成る程、NTR(寝取られ)ると思ったわけか~」

優花「違うわよ! 気があると思っただけよ! それともっと言い方ってものがあるでしょ!!」

佐助「で、優花ちゃんは実際もう寝たの? 士郎君と?」

優花「なっ!?/// 何でアンタにそんなこと話さないといけないのよバカッ!!////」

当麻「(何か話しが脱線しているような…………あっ。)」

佐助「いや~、優花ちゃんもからかうと可愛いとこあルゥ!? ぐうぇ!!←(モーニングスターが佐助の首に巻き付いてどこかに引っ張られて行った。)」

優花「レムを伏せておいて正解だったわ、後でお礼言っとかないと。」

当麻「あはは……。」

優花「あの時はレムに悪いことしたわ………奈々に「士郎君が取られるんじゃないの!?」ってそそのかされて私が本気になっちゃったのよ。当の本人は影山のことをもっと知ろうと思って話しかけていただけなのに……。」

当麻「そんなことがあったんですね。」

優花「まぁ、あの後誤解も解けてレムとも仲良くなったわ。今では大切な親友よ。変な話し、あの出来事のおかげでお互い仲良くなった、って私もレムも考えちゃうのよね。」

当麻「なるほど、二人の友情には知られざるドラマがあったのですね。優花さん、貴重なお話しありがとうございます。それでは次回、あればお会いしましょう。またねー!」

優花「………/////←(恥ずかしながら手を振っている)」









本編短く、後書きカオスですみません。
感想など随時お待ちしております。


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クラスメイトside それぞれの夜 後編

どうもグルメです。色々あって投稿が遅くなりました。

前回の話の後編となります。雫が向かった先に何があったのでしょうか……。

それでは、どうぞ。


雫は鋼がぶつかる音を頼りに雑木林に入ると少し歩いた所で小さな開けた場所が見えた。そこでは二人の青年が刃を交じり合えていた。三白眼をした’’カヅキ’’に爽やかな表情で甘いマスクを持つ’’イツキ’’だった。二人は日本刀をそれぞれ構えて己の剣技をぶつけ合っていた。

それを木の陰からそっと見る雫、’’八重樫流’’という古流武術の使い手としてそれぞれ二人には特徴があることを見抜いた。荒々しくも力強く刀を振るうカヅキ、静かに素早く刀を振るうイツキ、そんな二人の剣技に、というよりも二人が剣の心得があったことに驚くのだった。そして、いよいよ決着がつくのかイツキがカヅキの剣戟を弾いた後、素早く大きくバク転をして距離を取った。刀はいつの間にか鞘に納め居合の構えをしており、それを見たカヅキは上段の構えして’’穿月’’を放とうとするも、

 

 

――――――ビュッ!!

 

 

その前にイツキがカヅキを横切り背後に立った。そして、カヅキの首元に小さな切り傷がついた。カヅキが小さく舌打ちすると構えを解いて刀を鞘に納めた。イツキも笑顔を浮かべて自分の刀を鞘に納めるのだった。

そして、雫はというと、

 

「………………ッ!!」

 

目を丸くして只々驚きを隠せないでいた雫は何が起きたかは理解した。イツキの抜刀術でカヅキの首元に傷をつけたのだ。イツキの抜刀術を使うことにも驚いたがそれよりも

 

「(すごい………あんなに早く抜刀が出来るなんて…)」

 

雫が目につけたのは刀を抜く速さだ。まさに一瞬、目を凝らして見ないと見逃してしまうどころだった。そして、八重樫流にも抜刀があり自分も抜刀は使えるのだが断然イツキの方が早いのだ。「いったいどれ程の修練を積んできたのだろうか…」と思っているとカヅキとイツキが喋り出したので耳を傾けた。

 

「負けた、結局こうなるかよ! お前と勝負すると毎度毎度まけて本当に強いのか分からなくなっちまう…。」

 

「兄さんは強い、僕が保証もって言うよ。」

 

「お前が言っても説得力ないんだよ! いつしか俺に負けなくなったお前が言っても……」

 

「少なくとも天之河君よりかは強いよ、兄さんは。」

 

「当たり前だ!! あんなきざで脳内お花畑な野郎に死んでも負けたくないわ!!」

 

イライラしながら言うカヅキにどこか宥めるように言うイツキ。内心は「僕以上に色々強いのにな」と思いつつふとあることを思い出した。

 

「そういえば兄さん、ここに来るように指示してから今まで何処に行っていたの? 部屋にもいなかったし……」

 

「ん? ああ、今までメルド団長と話していた。」

 

「メルド団長と?」

 

首を傾げて言うイツキにカヅキはイライラを落ち着かせてから静かに言った。

 

「先の戦いでメルド団長が俺らの活躍を見ててな、感謝されたんだよ。それと同時に色々聞かれた、「あの状況下でどうして冷静に立ち回れた?」とか、あと、俺らが使う剣術、そして、この刀のことも……」

 

そう言ってカヅキは手に持っている日本刀に一瞬目を向けた後、すぐにイツキの方に顔を戻した。

 

「それで兄さんは話したの? 僕らのことを。」

 

「ああ、ある程度な。あの男は信頼できる…少々甘ちゃんな所もあるがそれを抜いても立派な人格者だ。」

 

そう断言するように言うカヅキはメルド団長とクラスメイトの今までのやり取りを思い返した。優しく一人ひとりの天職に合った戦い方を教えるその姿は、まるで親が子に戦い方を教えているようにも見えた。何を考えているか分からない教会連中や戦争の兵士しか考えてない王国連中と比べたら遥かに信頼における人物だと考えていた。

 

「そっか……まぁ兄さんは人を見る目はあるからね。兄さんが良いって判断したなら話しても問題ないと思うよ。」

 

そう笑顔で答えつつイツキの顔はカヅキの方を向いていても目線は別の方へと向かれていた。カヅキはそれに気づいており軽く頷いてから少し大きな声で口を開いた。

 

「というわけでお前にも話しておこうかなと思う…………八重樫、そこにいるんだろ?」

 

「………………!?」

 

自分の名前を呼ばれてドキッとした雫は観念したのかゆっくりと木の陰から出てきた。

 

「気づいて…いたのね。」

 

どこかそわそわしながら気まずそうに言う雫、カヅキはフンッと鼻息を荒げて自慢げに答えた。

 

「こちとらプロだからな、すぐに気づいた。隠れるならもう少し上手に隠れるこったな! というか俺らに何の用で来たんだ? 欲求不満で慰めて欲しいならいつも隣にいる天之河に慰めてもら…ゴハァ!!? 」

 

どこか棘がありセクハラな発言をするカヅキに雫はムッとして不快感を覚えた。「一発殴ってやりたい」と思った矢先にいきなりイツキが()()でカヅキの頭を叩き、辺りにスパーンというおとが鳴り響いた。

 

「おおおぉ…痛てぇ…」

 

「口が悪いからきをつけようねって何度も言っているよね? それに女の子に言っても良いことと悪いことくらい分かるよね? 兄さん…。」

 

後頭部を押さえ少し涙目になるカヅキにイツキは言い聞かせるように笑顔で静に言った。もっとも雫から見れば目は笑っておらず若干声にも怒りが混じっていることを感じ取るのだった。

 

「ごめんね八重樫さん。後で兄さんにうーんっと言っておくから」

 

「ええ……………お願いするわ。」

 

イツキのただならぬ怒りに雫は引きつった笑顔を見せながら肯定した時、ふと「あれ?」と何かに気づいた。先ほど二人が使っていた日本刀が見当たらないのだ。二人が日本刀で剣を交えているのをこの目で見て、それが終わり日本刀を鞘に納めて腰にさしている所も確かに見たはずなのにいつの間にかなくなっていたのだ。だが、その代わりに二人はいつ用意したのか分からないが竹刀を所持していた。

雫は気になって二人に尋ねてみた。

 

「ねぇ、あなた達。日本刀はどうしたの? さっきまで持っていたわよね?」

 

「ん? 日本刀か? 日本刀ならこれだぜ。」

 

そう言ってカヅキは腰にさしていた竹刀を抜いて雫に見せた。

 

「でもこれって……竹な「まぁ、見てろ。イツキ、お前もしろよ。」」

 

雫の言葉を遮ってカヅキが言うと二人は水平に竹刀を持った。そして、

 

 

ブオオオオオォォォォォ――――――

 

 

バリ……バリバリバリバリ――――――

 

 

「……………っ!?(何? 二人の竹刀から風と雷が!?)」

 

カヅキの竹刀が風で包まれ、イツキの竹刀は雷で包み込んだ。その光景を目を細めて見つめる雫。数秒後、風と雷が霧散するように消えると二人の手先には黒い鞘に収められた日本刀があった。

 

「うそ…竹刀から…日本刀に……」

 

「正真正銘の本物だぜ。何なら振ってみるか? イツキ貸してやりな。」

 

思わず口を開けて驚いているとカヅキはそう言ってイツキに刀を貸すように言った。言われたイツキはどこか嬉しそうに笑いながら刀を雫に渡した。受け取った雫は少し抜いてみた。

刃紋が見え自分の顔がハッキリ映る程、刀身は透き通っていた。

 

「きれい……。」

 

思わずそう口にした雫、刀を鞘に納めて腰に添えていた剣を地面に置き、代わりに日本刀を腰にさして十秒間瞑想した。そして……

 

「……………やっ!!………はっ!!」

 

目をカッと開くと勢い良く刀を抜刀。自分が思うように刀を振っていききれいな太刀筋を見せていた。

 

「(………凄く馴染む。それに軽い……いくらでも振れそう)。」

 

雫は心の中で率直な感想を述べた。今、使っている剣は西洋の剣、サーベルに近く、使えないこともないがどうもしっくりこない所があった。だが、今使っている日本刀は普段鍛錬として使っている物と違えど日本刀であり、馴染みがあった。さらに言うと普段使っているものよりも軽く、こっちの方が使いやすかったりするのだった。

その後雫は何回か刀を振った後に鞘に納め「…ふぅ」と一息ついた。するとゆっくり拍手しながらカヅキが近づいてきた。

 

「流石は八重樫流の娘ってところか? 太刀筋に乱れは無かった……俺が思うに真に強いのは天之河でもなくお前かもしれんな、八重樫 雫。」

 

「…………横柄な態度は解せないけど、とりあえず褒め言葉として素直に受け取っておくわ。」

 

カヅキの言葉にどこか呆れた表情で返す雫はイツキに向き合った。

 

「これ返すわね、ありがとう。とっても使いやすかったわ。」

 

「どういたしまして。僕も八重樫さんの太刀筋を近くで見れて良かったよ。」

 

雫は借りていた日本刀をイツキに返した。イツキもなかなかお目にかけることがない雫が振るう剣の太刀筋を見れたことに満悦の笑みを浮かべるのだった。

カヅキはイツキが日本刀を受け取ったことを確認してから口を開いた。

 

「さて、これが本物の日本刀だと分かった所で話しをするぞ。どういう原理で竹刀から日本刀に変わるのは分からないが、一つ言えることは’’魔力を操作して直接流し込み、竹刀(こいつ)が日本刀になる’’ってのは確かだ。」

 

「魔力を操作? 直接流し込む? ちょっと待って、そんなことできるの!?」

 

カヅキの言葉を聞いて目を大きくして驚きを隠せないでいる雫にカヅキは「ふんっ」と鼻をならした。

 

「出来るから言っているんだろうが、出来なかったらこんな事言うかよ。俺もイツキもステータスプレートを渡されて4~5日後にいつの間にか修得してたんだよ!」

 

どこか棘のあるかづの言葉にイツキは内心ため息を吐きながら補足を入れた。

 

「ちなみに竹刀に魔力を流せば日本刀に変わることを見つけたのは僕なんだ。たまたま竹刀を振っていたらいつの間にか魔力を流し込んでいて…急に日本刀に変ったからビックリしたよ。」

 

そう言ってどこか楽しげに話すイツキ。最もこの事は偶然見つけたのではなく、これを渡した’’ある人物’’の言葉をふと思い出しただけであり、兄のカヅキにも伝わっているはずなのだが当の本人はすっかり忘れているのだった。そして、カヅキは雫にある警告をした。

 

「あ~八重、お前はベラベラ喋る人間じゃないけど一応警告しておく。くれぐれも周囲に俺たちが魔力を操作できることを喋るなよ……特に王国と教会連中にはな。」

 

「えっ? それってどういう意味よ…」

 

そう聞き返す雫にニヤッと不敵な笑みを浮かべてカヅキは答えた。

 

「そのままの意味だ。この世界では魔力操作が使えるのは唯一魔物のみ、故に人が使えたら魔物と同等とみなされ処刑の対象になるんだとさ。」

 

「ええっ!?」

 

「兄さん、それ本当かい?」

 

驚きを隠せない二人にカヅキは頷いて口を開いた。

 

「ああ、メルド団長はそう教えてくれた。ちなみにメルド団長はこの事について黙認してくれるそうだ。」

 

そう言ってふと団長とのやり取りを思い返した。

魔力操作は教会から異端児と見なされ処刑対象だということを聞いたカヅキは試しに「俺と弟の首を持って手柄にするか?」とメルド団長に聞いてみた。すると、

 

「恩を仇で返すつもりは毛頭ない!」

 

そうきっぱりと断ったのだ。この言葉がきっかけでカヅキは「メルド団長は信頼できる」と確定へと繋がるのだった。

 

 

 

 

 

「それにしても、魔力を直接操れるだけで処刑だなんて………身勝手な話だわ。」

 

「全くだよ、世界は変わろうと異端児が迫害されるのはどこも一緒というわけだね。」

 

雫とイツキが何ともやるせない気持ちでいるとカヅキは雫に言い聞かせるように言った。

 

「とりあえず、この事は他の連中に他言無用だ。特に教会連中、王国連中には話すなよ……まぁ、王国の中には信頼できる奴は何人かいるがそれでもだ…頼んだぞ」

 

「ええ、分かったわ。」

 

そう言って雫は静かに頷いた。それを見たカヅキは「ニィ」と笑って口を開いた。

 

「よ~し、それじゃあお前が一番知りたがっていることを当ててやろうか? ’’俺たちが使う剣術’’と’’何で日本刀になる竹刀(こいつ)を持っていたのか’’だろ?」

 

そう言ってカヅキは手に持っている日本刀を軽く上げ、見せびらかすように見せた。雫は「何で分かるのよ…」と思いつつ口を開いた。

 

「正直、驚いたわ………まさか私以外にも剣の心得がある人がいるなんて。前から妙だとは思っていたのよ、部活で剣道をしているわけでもないのに毎日竹刀袋を持ってきていたことに…。」

 

そう言って雫は元いた世界の学校生活を思い返した。

 

雫から見れば月山兄弟(二人)はよく目立つクラスメイトに過ぎないと思っていた。先生、生徒関係なしに何かと対立しては納得いかない事に嚙みつき、不良の印象を持たれている月山一希(ツキヤマカヅキ)。兄とは正反対の好青年、天之河に匹敵するほどのイケメンでファンも多い月山一稀(ツキヤマイツキ)。そんな二人は体育を見れば運動神経は良いのだが部活などはせず学校が終われば早々に帰る帰宅部だった。そして、何故だか毎日竹刀が入った袋を持ってきていた。当然、学校で取り出す所もましてや振っている所なんて見たことがない。剣道部の雫にとってそれが疑問で仕方がなかった。

だが、先の仕合を見て二人が何らかの剣術に心得があると考えると、竹刀の1つや2つ、持っていても何もおかしくないと思えてきた。

 

「でも、そうなると…ますます分からないわ。何故あなた達がこちらの世界の武器(アーティファクト)を既に持っていたのかしら?」

 

眉間にしわを寄せつつ、そう口にした。雫の一番の疑問、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことである。現状では帰る手段どころか元いた世界と行き来する手段は無かった、なのにこの世界のアーティファクトはすでに自分達の世界に持ち込まれ、彼らの手元にあった。全くもっておかしな話しである。「もしかして元いた世界に帰る手段を知っている」と雫の頭に過り、思わずにらみつけるように二人に疑念を抱いた。

カヅキとイツキは顔を見合わせた。カヅキはイツキに合図を送るように顔を軽く上に振り、イツキはそれを見て頷いてから雫の方を向き直ってゆっくりと口を開いた。

 

「八重樫さん悪いけど、君は考えたかもしれないが……僕たちは帰る手段は知らないんだ。ただ、言えることは日本刀(これ)は僕たちの父親が作ってくれた物……ってことは確かなんだ。」

 

「最も、親父の顔は知らないけどな………」

 

イツキは日本刀を見つめながら言い、カヅキは補足するように答えた。

 

「そうだったの……それじゃあ、あなた達に剣を教えたのは?」

 

「それは僕たちのおじいさんなんだ。僕たちが使う’’月山流剣術’’は、月山千十郎から教わったものなんだ。」

 

「月山流剣術………聞いたことないわね。」

 

そう言って雫は思い返すも聞いたことがなく、初めて知る剣術だということを告げた。

 

「仕方がないよ、この剣術は知っているのは僕と兄さんしか知らないんだから。あっ、ちなみに月山流剣術には’’抜刀術’’もあったりするんだ、僕はその使い手。あと、基本の型からの’’派生の型’’があったりするんだけど………こっちは教わってなくて今では幻の型になったんだ。」

 

「へぇ………月山流剣術って奥が深いのね。」

 

「………………………。」

 

そう言って関心を寄せる雫。イツキも楽しそうに月山流剣術について話した。そんな中、カヅキは黙ってその様子を見ていたが、その顔はムスッとした顔であからさまに不機嫌な様子が伺えるのだった。それに気づいた雫は小声でイツキに尋ねた。

 

「ねぇ、私…何か悪いことしたかしら?」

 

「ううん、大丈夫だよ八重樫さん。兄さん昔のことが嫌いで、思い出してやさぐれているだけだから。」

 

「えっ、そうなの? …………てっきり私がいるから不機嫌に「何でそうなるんだよ、八重樫!」」

 

自分せいだと思い込む八重樫の言葉を否定するかのように遮るカヅキ。

 

「昔のことは…………嫌いだ。良い思い出なんか手に数えるくらいしかないし、自分がしでかした罪や後悔をもう一度思い返さないといけなくなるからな……八重樫、俺たちはな…今でこそ月山流剣術の使い手だがな、これはジジイから無理矢理覚えさせられたものだ。俺もイツキも昔は……剣が嫌いで嫌いで仕方がなかった…。」

 

「……えっ?」

 

「……………。」

 

カヅキの独白に目を開いて口元を手で押さえる雫。イツキも苦々しく儚げに笑みを浮かべた。

そして、カヅキはゆっくりと昔のことを語りだした。

 

 

 

 

 

 




ありふれた用語解説

月山流剣術

月山一希(ツキヤマカヅキ)月山一稀(ツキヤマイツキ)が使う剣術、基本の型と抜刀の型、また、今では幻となった派生の型がある。カヅキは基本の型、イツキは基本の型と抜刀の型を修得している。師は月山千十郎であり、カヅキ曰く「無理矢理覚えさせられた」とのこと。




ありふれてない天職紹介


剣豪

月山一希(ツキヤマカヅキ)が持っている天職でレア中のレア。最大の特徴は技能に’’全武器適正’’と’’無双’’が入っており、全武器適正は剣や槍、短剣、飛び道具の投剣、弓などの武器を達人並みに扱うことができ、修練を続ければその武器の技能を修得することが出来る。無双は一対複数相手になった時に身体能力が上昇し一騎当千の力を発揮すること可能となる。


居合剣士

月山一稀(ツキヤマイツキ)が持っている天職。戦闘職’’剣士’’の中では稀にみる天職であり、技能は剣士と同様な所があるがこの天職の恩恵なのかステータスの’’敏捷’’がクラストップで高く、’’抜刀速度上昇’’の技能もこの時すでに修得していた。居合剣士は’’高速な剣技を繰り出せる剣士’’のことをさすことだと思われる。


※ステータスはありませんがこの時すでにカヅキ、イツキのステータスは天之河のステータスをとうに越えています。






いかがだったでしょうか?
月山兄弟の秘密が少しだけ見えてきたお話しでした。最初は「剣士なキャラなモブが欲しい」という考えで出したのですがあれやこれやと考えているといつの間にか主役級となってしまいました。ハジメやスバルを差し置いて何やっているんでしょうね私…。
まぁ、この小説は’’色々なキャラが活躍する小説’’というコンセプトで書いているのでこれは、これでアリかなと考えております。
一応、月山兄弟のカップリング相手はいます、原作キャラです。読んでいたらイツキの相手は何となく分かると思いますよ(笑)
あと、二話程月山兄弟に関するお話しを書きたいと思います。それが終わればハジメ、スバル達の活躍回となります。

次回、月山兄弟の過去に少しだけふれたいと思います。

それではこの辺で、ではまた……。


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月山兄弟とその師、月山千十郎

どうもグルメです。

今年最後の投稿になります。
今回のお話しは月山兄弟がどのように少年時代を過ごしてきたのか、ここまで道のりをダイジェストで送りたいと思います。

それでは、どうぞ。


月山兄弟は祖父の月山千十郎との三人で暮らしていた。二人にものごころがついた時には両親の姿はなく、育ての親は千十郎ただ一人だった。千十郎に聞いても「もう、いない。」「死んだ」しか答えずそれ以上のことは話さなかった。

 

二人が幼稚園に入ると武術に必要な礼儀作法を学び、体力向上のため身体を傷めない程度に運動を行った。本格的に剣術に入ったのは小学生の時である。学校が終わると真っ先に家に帰り、課題を終わらせると夕食までひたすら剣の稽古を行った。技や型を何回もやり、出来なかったらできるまで、身体が覚えるまで何回もやらされた。技や型が一通りできるようになると千十郎との仕合をするようになった。千十郎との仕合は容赦なしの手加減なし、千十郎に傷をつけるどころか二人が一方的にボコボコにされるのがほとんどだった。これが学校のない日を含めてほぼ毎日続き、イツキはよく泣いて剣に対して怯えることが多くなった。

カヅキはこの頃から反抗的な態度を取るようになって剣の稽古をさぼろうとすることが多くなり、家に帰らず別の所に向かうも決まって千十郎に先回りされ、無理やり連れて帰られるのがいつものオチだった。

このように二人は幼少の頃から子供らしいことをせずに剣術に打ち込んで育ってきたので何一つ良い思い出は無かった。剣術を学ぶ理由を聞いても千十郎は「将来のため」「もしものため」「自分を守るため」しか答えずそれ以上のことを話さなかった。故に月山流剣術は二人にとって自分を縛るものでしか考えがなかった。

この稽古は高校入学まで続き高校生になるまでに二人はは大きな悲しみや挫折を経験することになるが、ここでは割愛させて頂き高校生になる頃には月山流剣術に対してある程度考えを柔軟化させ、好き嫌いを置いて二人は「自分にとって必要なこと」と見て稽古に打ち込み、さらなる高みへと目指した。また、千十郎には相変わらず勝てないが互角に張り合える技術と強さを持てるようになった。

 

 

 

 

 

 

そして、月山千十郎との別れは突然やってきた。

 

 

 

 

 

 

 

それは高校の入学式を終えたその日の夜のことだった。千十郎は「話しがある。」と二人を畳のある和室に呼んだ。

 

「俺はもう、長くはない…。」

 

「おう、クソじじい。とうとうボケたか?」

 

「黙ってきけェ!!」

 

「「!!?」」

 

カヅキの言葉に怒鳴り声を上げる千十郎、この行動にカヅキとイツキは驚いた。怒ることはあっても今まで怒鳴ったことがないからだ。

 

「…………まず初めに二人に渡したい物がある。」

 

一息入れた後、千十郎は後ろにあった戸棚から二つのきれいな布に包まれた物を一つずつ二人の前に置いた。千十郎の「解いてみな」という言葉で布を取り除くとそこには’’竹刀’’があった。

 

「これはお前達の親父がお前達のために作ったものだ。これから先、肌身離さず持っていろ。今は竹刀だが…もし別世界に飛ばされた時、この竹刀に力を込めれば真の姿を「おい、待て待てクソじじい! ’’もし’’ってなんだよ! ’’別世界’’ってどういう意味だよ!!」」

 

「兄さん、落ち着いて。」

 

「……………今から話す。」

 

千十郎の話しを遮って言うカヅキにイツキは落ち着くように兄に言い聞かせた。千十郎は少し黙り込んだ後、ゆっくりと語りだした。

 

 

 

千十郎曰く、この世界とは別世界があり、ここよりも争いが絶えず命が軽い世界があること。もしかしたら、二人は何らかの形でその世界に飛ばされるかもしれないこと。今まで剣術を教えていたのはその世界に飛ばされても、自分の身を守るためだということを話した。

さらに千十郎は続けてその世界に飛ばされた時のことを三つ話した。

 

・まずは帝都に向かう。そこに必ず真実と生きるためのすべがあること

・孤独になるな。己の目で見て、信頼できる仲間や友を見つけること

・聖王教会及び神に関わる者全て信用するな。善悪は自分の感性で判断すること。

 

この三つを告げた。

これを聞いてカヅキは真っ先に立ち上がり怒りを露にした。

 

「おい、クソじじい! 結局俺たち兄弟はクソじじいの妄言のために剣術を覚えさせられたのか? 別世界がある? その世界に行ったら帝国に向かえだぁ? ふざけるなァ!! そんなアニメみたいな、二次元みたいな話し信じられるかぁ!! そんなもののために俺たちは…………俺たちは……………ッ。」

 

そう言って最後の方で言葉を震わせるカヅキ。今まで剣術を覚えさせられたのが’’あるかもしれない’’、’’もしかしたら’’というだけの明確な事実が無いなかで周りと違う人生を歩まされたことに腹を立てたのだ。本当はバッサリと自分の人生を切り捨てたかった。「全て無駄」と叫びたかった…

 

でも出来なかった。

 

ここまでの人生、普通の子供が送る楽しい人生ではなかった、辛いことばかりだったがそれでもかけがえのない()()()()()との出会いはあったし、自分の心の成長に繋がることはあった。故に否定したらそれすらも否定することになると思い言葉を濁らせ黙り込んだ。

 

「………バカバカしい」

 

ある程度の沈黙の後、吐き捨てるように言うと背を向けて歩き出した。「兄さん!」というイツキの呼び止め聞かずに部屋から出ようとした時。

 

「カヅキ………すまなかった。」

 

千十郎の謝罪の声が聞こえたカヅキは軽く後ろを振り向くと頭を地面につけて土下座している千十郎の姿があった。これは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に対しての謝罪なのか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()に対しての謝罪か分からないが、カヅキはその姿を確認した後、何も言わず黙って部屋を後にした。

その後、千十郎とイツキが何を話していたか知らないがイツキが話さない以上、自分には関係ない話だと思われる。

そして、次の日の朝、縁側で座って息を引き取っている千十郎の姿をイツキが発見した。庭にあるたった1本の桜を夜桜している最中に息を引き取ったと思われる。(現に千十郎の近くにいつも使うとっくりとおちょこが落ちていた)二人は今でも千十郎の最後を覚えている。

 

 

二人に剣の全てを教え切ってどこか満足気のような、又は、肩の荷が下りてどこか安心しきったような穏やかな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皮肉なもんだよな……………結局全てじじいの言う通りになっちまった。異世界に飛ばされ、教わった剣術に大いに助けられている……全く大笑いだ…。」

 

そう言って自虐気味に笑うカヅキ、どこか後悔しているような懺悔しているように見えた。イツキも昔のことを振り返っているのかどこか儚げな表情をしていた。

 

「…………………………。」

 

そして、ここまで話しを黙って聞いていた雫。予想以上の二人の剣の道のりにどう言葉を返したら良いのか分からなかった。ただ、相手は滅多に人に話すことがない本音を話してくれた。なら誠意として自分も本音を話すべきと思い「私もね…」と前置きしてからゆっくり心の奥底の本音を語りだした。

 

「実は言うと……八重樫流が好きかどうか聞かれるとね……凄く複雑な気持ちになるのよ。たしかに、嬉しいこともあった、でもね…………その反面嫌なこともいっぱい経験したわ。私はそんなつもりじゃなかったのに……周りの女子が嫉妬してね……心無いことも言われた。今でもはっきりと覚えているわ…」

 

そう言って昔言われたある言葉が頭を過り思わず顔を俯かせて黙り込んだ。前髪が垂れて二人から見れば雫の表情は見えないでいた。そして、再び「だからね……。」と前置きして

 

「あなた達の剣に対する複雑な気持ち……分からなくもないわ…。」

 

そう言って顔を上げどこか悲しげな微笑みを浮かべる雫、そこにはいつも凛とした姿は無く、どこか弱々しい一人の女性、もしくは’’孤高’’を漂わせる姿があった。その姿を見た二人は、

 

「…………そうか。」

 

「……………………。」

 

カヅキは雫の心の奥底の本音を聞いて、どこか神妙な面を持って、ただ一言そう告げた。イツキは冷静な顔つきで聞いていたが、微かに手に持っている日本刀が震えていることに雫は気づいていなかった。

 

「…………………随分と長居してしまったわね、そろそろ戻るわ。香織のことも心配になってきたし…色々ありがとう、あなた達と話しが出来て少し…楽になった気がするわ。」

 

ふと月を見上げると西に傾いており大分ここにいたことに気づくとカヅキとイツキに礼を言って立ち去ることにした。未だ眠っている親友の香織が心配になり、急ぎ足でここを立ち去ろうとした時、

 

「八重樫 雫!」

 

「えっ………なに?」

 

いきなりカヅキに呼び止められ思わず足を止めて振り向くとどこか真剣な表情をしたカヅキが口を開いた。

 

「お前は何でもかんでも一人で抱え込もうとする、悪い癖だ……まぁ、お前の周りに頼れる人がいないから無理もないか…坂上は脳筋、谷口と中村は頼られる側、白崎は頼れるというより心の支え…いや、論外な天之河と同様に厄介ごとを持ち込むトラブルメーカー…と言うべきか?」

 

「…………………随分と私の親友を汚すのね。それで何が言いたいわけ? わざわざそれを言うために私を止めたのかしら?」

 

親友に対する暴言に静かな怒りを見せる雫、それを気にしてないのかカヅキは話しを続けた。

 

「そうではない……’’もっと視野を広げて頼れる人を見つけろ’’と言っているのだ。これからしんどくなる……南雲達が落ちて、死を恐れたクラス連中は戦い放棄するだろう。そして連中は元から頼れるお前をより一層頼りにするだはずだ…お前も世話焼きだ、それに答えようとするはず……………いいか、一人で抱え込むな。あれこれ自分で考えても良い答えなんか出ない、お互い協力していこう。困った時は頼れ…」

 

「月山君…」

 

「兄さん…」

 

カヅキの言葉に雫とイツキが思わず心打たれて頼もしいと思った瞬間。

 

「………そう、()()()を。」

 

「へっ?」

 

「えっ、僕?」

 

カヅキの言葉に思わずズッコケそうになる二人。

 

「そこは、「この俺を頼れ!」と言うべき所じゃないのかしら?」

 

「はぁ~? 何でだよ、めんどくさいし。それに相談ごとならイツキが適任だって、すぐ解決するぞ。手先が器用だし、何でもこなせる。一家に一台…いや、一家に一人は欲しい存在だ。」

 

ドヤ顔で自分の弟を自慢げに紹介するカヅキ。

 

「……さっきの頼もしいと思った瞬間、返してちょうだい。」

 

「やれやれ……」

 

カヅキの言葉に雫とイツキは呆れて溜息をつくしかなかった。

 

「というわけで八重樫。さっそく頼れ、イツキを。今から戻るんだろ? イツキに送ってもらいな。」

 

「えっ……い、いいわよそんなの。そっからそこだし、一人で帰れ「バカヤロォ!!」 ひゃい!?」

 

カヅキの提案を断ろうとした矢先、いきなり怒鳴られて変な声を出す雫。イツキが「可愛い声だな…。」と思っているとカヅキは真剣な表情で雫に告げた。

 

「いいか、俺たちはどっかの天之河(ドアホ)のせいで戦争に加担することになったんだ。つまり人間族側の一部、いつどこで敵が見ているのか分からないし、もしかしたら俺たちのことがすでに敵側に漏れているかもしれない……改めて言う八重樫 雫、自覚しろ! 戦争に関わっている事に、一人の行動はなるべく慎め! そして、全てを疑えとは言わないが警戒を怠るな! 敵はいつどこで現れるか分からんぞ。」

 

その言葉に共感出来る所があり、また一理あると思い雫は静かに頷いた

 

「……そうね、貴方の言うとおりね、気をつけるわ。」

 

「分かればよろしい……さて、イツキ。八重樫を部屋まで送ってやりな。」

 

「わかった、兄さんはこれからどうするの?」

 

「俺か? ……俺はもう少しここにいる。」

 

「そう…あまり遅くならないでね。じゃあ行こうか、八重樫さん。」

 

「ええ、お願いするわ。それじゃあ、月山君……おやすみなさい。」

 

「おう、お休み。」

 

そう言って雫はカヅキに挨拶をした後、イツキと横に並んで宿の方に向かって歩き出した。数十歩歩いた所で雫がチラッと後ろを振り向くとカヅキがこちらを見ていた。

 

そこにはいつもの荒々しい姿は無く、どこか二人の仲を見守るように優しい笑みを浮かべていた。

 

すぐに正面を向いて、普段見ることがないカヅキの表情に戸惑いを感じつつ、何となくだが、あれが本来の’’月山一希’’の姿じゃないかなと思い込む雫だった。

 




ありふれ噂話

イツキ「やあ、月山カヅキの弟、月山イツキだよ。」

当麻「どうも、当麻です……ってどうしてイツキ君がここに?」

イツキ「今日は佐助君の代理で来ているんだ、何でも前回の時に首を痛めたみたいで。」

当麻「そういえばそんなことがあったね……」

イツキ「…というわけで今回は僕が佐助君の代わりを務めるよ。ついでにネタ提供も読み上げも僕がするからよろしくね。」

当麻「うん、わかった。(イツキ君、何だか楽しそう…)」

イツキ「それじゃあさっそく、ありふれ噂話……」









イツキ「実は月山家の家事全般は僕がしているんだよ。」









イツキ「掃除、洗濯、炊事、あと家事に関することは諸々僕がやっているね。」

当麻「へぇーだからあの時お兄さんは「一家に一人!」って言っていたんだね。家事をするきっかけは?」

イツキ「実はお爺さんの料理がきっかけなんだ。小さい頃は全部、お爺さんが家事をしていたんだけど、ご飯がいつも丼ものだったんだよ。作るの簡単だからかな? とにかく料理番組の料理が羨ましく、食べてみたいと思ったから炊事をするようになって、そこから剣の稽古の息抜きも兼ねて掃除とかするようになったかな。」

当麻「なるほど…(まるで士郎君みたい、オカンならぬオトン二号だね…)ちなみにお兄さんは家事はするの?」

イツキ「やる気はあるんだけど…、掃除をすると何故か余計に散らかるし「ゔっ」料理はしょっぱくて食べれたもんじゃないし「くっ」洗濯物は渇いてないのに取り込んだりするし「ぬっ」まぁ、全体的に僕がするよりも遅いからやらせてないんだけどねw「ぐはぁ!」」

当麻「そうなんだ…(何だろう、変な声が聞こえてきたような。)」

イツキ「まぁ、兄さんも僕の監修の下で数をこなせればきっと上手になると思うよ。一緒に頑張ろう!」

当麻「…ということで兄のフォローも欠かせない、頼もしい弟の月山イツキ君でした。それじゃあお時間もやってきましたので、この辺で…」

イツキ「またね。」













いかがだったでしょうか?
ダイジェストで軽く月山兄弟の過去を書きましたが、これはほんの一部です。二人の剣に対する大きなきっかけとなる過去話をまたどこかで書きたいと考えています。
さて、読者の皆さん。先に書いた通りこれが今年最後の投稿になります。こんな自己満足で長ったらしい小説を読んで、コメントやしおりを挟んでくれる読者の方には只々感謝しかありません。これからも地道に進めていきますので今後ともよろしくお願いいたします。

それでは、早いですが読者の方々は良いお年をお迎えください。


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雫の試練、あなたはどうしてそんなにも強いの?

どうも、グルメです。

だいぶ遅くなりましたが、おめでとうございます。
読者の皆さま、今年も何とぞよろしくお願いいたします。

それでは、本編の方をどうぞ。


あれからイツキと雫は二人並んで雑木林の中、ゆっくりと歩いていた。イツキは何もないか周りを軽く見渡しながら歩き、雫は正面を向いて歩きつつ先程のカヅキの笑みについて考えていた。

元の世界であまり関わることがなく、自分が知る限りでは今まであんな笑み浮かべている所など見たことがないのだ。普段から気だるそうにしてやる気がない様子が見られ、その事で度々光輝に咎められたりしていた(ことごとく無視されていたが…)そんな彼がまるで子を見守る父親のような笑みを浮かべて見つめていた。「あれは何の意味があったのだろうか?」そんなことを雫が考えていると、いきなり… 

 

「ごめんね、八重樫さん…」

 

唐突にイツキが謝ったのだ

 

「いきなり、どうしたのよ?」

 

「いや、兄さんが八重樫さんに失礼なことを言っていたからね…もう一度謝っておこうと思って。」

 

「別にいいわよ…そんなに気にしてないから。それよりも驚いたわ、お兄さんからあんな指摘を受けるなんて…。」

 

そう言って雫は先程カヅキに言われた言葉を思い返した。

 

 

 

 

"もっと視野を広げて頼れる人を見つけろ!"

 

"一人で抱え込むな!!"

 

 

 

まさかあんな言葉をかけてくるなんて思いもしなかったし、また彼の言う通り一人で抱え込むことも自分がよくすることだった。

 

「正直嬉しかったわ。香織(あの子)以外にも私のことを気にしてくれる人いてくれて。少しだけ肩の荷が下りたような感じだわ…」

 

「兄さんは不真面目そうにして色々見ているからね。よく見てその人に合った指摘をするんだけど…口が悪いからいつも裏目に出るんだ…。」

 

「……そう言えば香織(あの子)…"月山(兄)君がひどいこと言ってきた!!"って泣きながら私に訴えに来たこともあったわ。」

 

「………それは兄さんが原因だと思う。兄さんも以前、"人がせっかく南雲の関わり方を指摘したのに白崎の奴、聞く耳持たなかった"って愚痴ってたような。」

 

そう言って、的を得つつ口の悪い指摘をする兄、カヅキを思い浮かべるイツキ。

 

「……多分、香織にも原因があると思うの。あの子、南雲君の事になると周りが見えなくなるから。」

 

そう言って、カヅキの言葉にどこかムキになる親友、香織を思い浮かべる雫。

 

「「はぁ~」」

 

二人は大きなため息をついた。そして同時にこうも思ったた。「何でこんなに身近な人に私は振り回されているんだろう?」と……

 

 

 

 

 

「そう言えば香織で思い出したのだけど……」

 

「ん…?」

 

雫はあることを思い出し、イツキに尋ねた。

 

「月山君、あの時どうやって香織を止めたの? 触れるだけで香織は気を失ったけど…身体に影響は無いわよね?」

 

雫の言うあの時とは南雲が落ちて香織が錯乱している時のことを指していた。あの時、自分の声は香織に届かなかった。もし、イツキが来てくれなかったら香織はあのまま南雲を追って飛び降りていたかもしれない…そう考えると今でもゾッと思う。

それと同時にどうやって香織を気を失わせたのか気になり、また身体に害はないのか非常に心配になってきたのだ。

 

「ああ、あれね。あれは…」

 

そう言ってイツキは左手を雫の前に掲げた。すると、

 

 

バチ…バチバチバチバチ……

 

 

左手に青白い火花、というよりも電気が左手に纏うように放電しているのだった。この光景に雫は「え? えっ…?」と困惑しているとイツキが説明に入った。

 

「実はね、僕……電気を操作出来るんだ。技能欄にね、"魔力操作"を覚えるのと一緒に"纏雷"という技能が追加されてね。その技能のおかげなのかな…こうやって身体の周囲に電気を纏わせ、伝わせることもできるようになったんだ。」

 

「それじゃあ香織を気絶させたのも…」

 

「うん、この纏雷でね…気を失う程度に電気を流したんだ。あっ、もちろん身体に影響が無いようにしているから、そこは安心して欲しいな。」

 

「……そうなのね………あなたがそう言うなら…その言葉、信じるわ。」

 

笑顔で言うイツキの言葉に雫は静かに頷いた。イツキの言動がどこか光輝に似ており、本来なら過去の出来事もあってこのような言動されるのは苦手で、一切信用出来ないのだが、何故だかイツキがすると自然に頷いていたのだ。

 

「(どうして……簡単に受け入れてしまったのかしら? 呆れるほど光輝から見てきたはずなのに、妙に説得力があったわ……それだけじゃない。どこか懐かしい感じもする…以前どこかで彼と話したことあったかしら?)」

 

元の世界では日常的に毎日話していた訳でもなく、教室で会ったら挨拶する程度だ。月山兄弟もといイツキと面を向き合って話したのは先程が初めてのはず…なのにどこか懐かしい感じがして初めてではないような気がしたのだ。もし、以前どこかで関わったのなら、いつ、どこで関わったのだろうか? 小学校?、中学校?、それとも幼稚園? イツキのような子と関わった記憶はあっただろうか?

 

そんなこんなんで雫は過去のことを振り替えって歩いていた。故に、先程からイツキの呼びかけているのにまだ気づいていなかった。

 

「…さん……さん、八重樫さん!」

 

「?…ひゃい!!?」

 

雫に目線を合わせたイツキの顔が近くにあり、思わず変な声で驚く雫。イツキは「あっ、ちょっと面白い」と思いつつ口を開いた。

 

「急にどうしたの? 立ち止まって難しい顔なんかして、声をかけても全然反応してくれなかったし…」

 

「えっ、そうだったの? ごめんなさい、全然気づかなくて…」

 

「相談ごとならのるよ。別に頼られるのは嫌いじゃないから。」

 

「ううん、大丈夫。ほんと大したことないから。さぁ、行きましょ。」

 

そう言って無理やり話しを切り上げて歩き出し、イツキは少し心配そうに見つめた後、雫の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

「……。」

 

あれから二人は特に何か話す訳でもなく、泊まっている宿の中庭を歩いていた。雫の部屋に向かうための近道だからだ。二人は並んで歩いていたが、いきなりイツキは歩みを止めた。雫は少し歩いてからそれに気づき後ろを振り替えるとどこか儚げな顔で立っていた。

 

「どうしたの、急に立ち止まって…?」

 

「八重樫さん……一つ聞いてもいいかな?…………魔物を斬っても、君は……平気だったのかな?」

 

「…………えっ?」

 

唐突な質問に一度頭が真っ白になったが、すぐにイツキが言っていることを理解してあきれたように答えた。

 

「…もう、いきなり何を言い出すのかしら? ヘビモスに遭遇する前、私たちのパーティーの動き見てたでしょ? ビビっているように見えたかしら?」

 

「いや、見えなかった。傍から見れば勇敢な女剣士に見えたよ……でも本当は恐怖で一杯だったんじゃあないかな?」

 

「一体何を根拠にっ…私はビビって何か「…八重樫さん。」」

 

イツキの言葉にどこかムキになって言い返そうとしたとき、イツキに言葉を遮られた。そして、指を指して口を開いた。

 

()()……震えているよ。」

 

「!!? ………っ。」

 

その言葉にハッとして、素早く左手で右手首を掴み震える手を押さえた。そして、他の誰かにこの光景を見られて苦痛の表情を浮かべた。イツキは表情を変えずに口を開いた。

 

「八重樫さんは相手に一撃目を与える時、鞘に納めた状態から入り、剣を抜くのと同時に相手を斬っている…だから最初の一撃目はどうしても右手に伝わってくるはずだよ……肉を斬る感触が…」

 

「………。」

 

図星なのか雫は何も言わず、ただうつむいたままだ。イツキは言葉を続けた。

 

「思えばこの世界に来て魔人討伐をさせられると聞いた時、誰よりも先に"人を殺す"ということを理解して、恐怖を覚えたんじゃあないかな?」

 

「……違う」

 

「魔物いえど剣で命を断つ行為…斬る度にこびりついた血がさらに恐怖を加速させた。」

 

「…そんなことはない。」

 

「極めつけはあの四人が落ちた時、君は死の恐怖を感じた。そして、目をそらすかのように錯乱する白崎さんを全力で止めに入った…もし、全力で止めに入らなければ……死の恐怖に、殺す恐怖、その二つの恐怖に押し潰されそうになったのは……君じゃあないかな?」

 

「…やめてってば!!……もう、やめてよ…。」

 

イツキの言葉を止めるかのように叫んだ雫は、そのまま身体を震わせて嗚咽を堪えるかのようにうずくまった。

イツキの言う通り雫は今日の訓練で魔物いえど命ある者を殺すこと、4人が落ちたことで常に死と隣り合わせだということを実感し、恐怖を感じた。故に雫はこのことを忘れようとした。だが、忘れようとしても、さっきあった出来事を少しでも思い出すと右手に震えがくるようになった。

そして今、イツキに嫌って言うほど目をそらしてきたことを突きつけられて全身に恐怖による震えが巻きついているのだった。

そんな様子をただ黙って心配そうに見ていたイツキはしゃがみつつ片膝を立てて静かに告げた。

 

「八重樫さん……目をそらしてはいけない。これは必要なことなんだ……君が剣士として、この世界で生きていくのなら……これは必ず向き合わないといけないことだよ。」

 

どこか諭すように言うイツキ、しかし、この言葉で雫の中の何かが弾けた。

 

「っ……じゃ…あ…じゃあ、あなたはどうなのよ!! あなたも同じ剣士でしょ!? 前に立ち、常に命の危険が伴いながら魔物を斬る……あんな恐ろしいこと、私は耐えるのに必死なのに…………なのにあなたは、どうして! どうして!! そんなにも落ち着いた表情でいられるの? 何も感じなかったわけ!?」

 

肩を震わせながら涙目になりつつ、叫ぶように、八つ当たるようにイツキに話した。誰も知らない想いを、親友達にも話さなかった心の内を全部吐き出すように話した。

 

「…………。」

 

イツキはただ黙って聞いていた。何か答えるわけでもなく落ち着いた様子で雫の吐き出す言葉に耳を傾けていた。ただどことなく苦しい表情はしているのだった。

 

「ねぇ…答えてよ。どうして…そんなにも落ち着いていられるの……ねぇ、どうして…そんなにも…あなたは……強いの…?」

 

イツキの襟を掴むも、その手は弱々しかった。そして、懇願するかのようにイツキ尋ねた。

 

"どうして、強いのか…"と。

 

 

思えば迷宮の訓練時、イツキのパーティーの様子を見ていた時、どこか違う感じがした。そして、極めつけはトラウムソルジャーの群れが襲いかかってきた時、"イツキの放つ剣技"、"群れを突破する勇気"、"死を恐れない覚悟"この三つを感じ取り、心の奥底で嫉妬を感じた。

故に欲するのだ、その心の強さを…そして知りたいのだ、どうやったらその心は手に入るのかと…。

 

「…………。」

 

イツキは黙ったままで、どこかしゃべるのをためらうような感じも見受けられた。ただ、この話しをふったのはイツキ自身、「自分から話しを振っておいて何も話さないのはよくない」と思い、イツキは静かに口を開いた開いた。

 

「八重樫さん…僕も、兄さんもとっくの昔に君と同じ経験をしてきて克服もしている。そして、この強さはいずれクラスの全員が強いられるであろうことを…何回も経験して得た強さなんだ」

 

「えっ…」

 

イツキの言葉に雫の思考が停止した。彼は何て言った? 「経験をしてきて克服もしている。」それはつまり、「自分と同じような現象を何回も経験してきた」という意味だろうか? さらに気になるのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という言葉に何故か悪寒が走るのだった。

 

「……僕のおじいさんがどういう想いで、剣を教えていたか覚えているよね? この世界に飛ばされても自分を守るため、生き残るために剣を教えていたんだ。そして、ここは元の世界と比べて常に死と隣り合わせ、頻繁に命のやり取りが行われている……だから馴れるためにその恐怖を経験し、覚えさせる必要があったんだ…。」

 

「!? それって…もしかして…。」

 

「うん、察しの通り。僕と兄さんは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元の世界で人を斬り、命を絶たせたことがあるんだ。」

 

どこか真剣な表情でイツキは静かに告げるのだった。




いかがだったでしょうか?
最後の迷宮で受ける試練の言葉をここで受けさせました。何でこんなことをしたかというと、カップリンクを成立させるための準備です。

俗に言う、イツキ×雫ですね。

美女剣士には美男子剣士が似合うという考えを持っているのは私だけでしょうか?
えっ、「天ノ河とくっつけないのか」って?
過去の出来事があってもう一度惚れさせるのはなかなか至難の技だと思います。


あと一話で雫とイツキの話しを終えて、本編の方に戻りたいと思います。だいぶ遠回りになってしまいましたね…


感想お待ちしております。


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剣を握る意味、雫、新たな決意

どうも、グルメです。

お待たせしました、クラスメイトside.in雫の最後の話しになります。

果たして雫はどうなってしまうのか……

それでは、どうぞ。



イツキとカヅキ、二人が中学生になり初めて夏期休暇をむかえたある日、ある程度の荷物をまとめ、千十郎に連れられて海外に飛んだ。

着いたのは某国のとある街。一見街並みは綺麗でビーチもあり、高層ビルのような建物はあまり立っておらず、そこそこ高いビルがいくつか並んでいた。交通も整っており、観光業が盛んそうな感じで争いと無縁な街並みに見えたが、ひとたび裏路地に入れば薬の売人、ギャングやマフィアが巣窟しており、表定にならない所で常に殺しがあった。警察はある程度買収されていることもあり、ほとんどその機能を果たしていなかった。そのため治安維持は武装した現地の町民が行っていた。

 

 

 

さて、そんな街に着いたイツキとカヅキは千十郎から目的を聞かされた。それは現地の治安維持活動に参加し、命のやり取りを経験、慣れさせることだった。当然拒否権は無かった。逃げることも許されず、ただ、千十郎と一緒に街を見回り、時には抜刀してギャングやマフィアを斬っていった。イツキとカヅキは千十郎についていくように必死に喰らいつき、人を斬り、命を絶った手の震えに耐えて抗った。治安維持活動は夏期休暇が終わる一週間前まで続き、無事帰国してもその震えは二学期が始まっても続いた。そしてこの活動は高校入学するまで続き、中三の夏を迎えた頃には手の震えは無く、イツキとカヅキは千十郎の付き添いも無しで一人で活動できるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………。」

 

大まかにイツキから話を聞いた雫は目を丸くして口元を手で押さえて驚嘆するしかなかった。目の前にいる男は人を斬ったというのだから。

 

「………………。」

 

イツキは目を逸らすことなく真剣な表情で雫を見続け彼女の反応を待った。例え拒絶の言葉があっても真に受け止める覚悟はあった。

数十秒間沈黙が続いた後、先に口を開いたのは雫だった。

 

「………アハハ、もうめちゃくちゃね……月山兄弟(あなた達)は……結局は殺し(経験)がものを言うわけね。こんな、臆病者の私には………到底為しえないわ。」

 

卑下するように乾いた笑いを浮かべながらその場に座り込み、前髪で顔を覆うように俯くと様々な自分を思い返した。

心の弱い自分、死や殺しをためらう臆病な自分、そして何も出来ない無力な自分を、雫はただそのことを心の中で笑うしかなかった。

 

「…………………。」

 

イツキはその様子を静かに見守っていた。見ているだけでも彼女の無力さが伝わってくるのだ。この原因を作ったのは無論自分の発言、だが、遅かれ早かれどこかで向き合わないといけないことであり重要な局面を迎える前にこのことで躓き何かがあっては遅い、それぐらい()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。故に早い段階で過激な発言で現実を見てもらった。何かが起こる前に、命の危機に関わるわだかまりを解決しておこうと思ったのだ。そして、原因を作った自分は彼女のわだかまりを解決、いや、彼女を導く義務があるのだ。

だから早速、イツキは義務を果たす為に行動に移った。

 

「………えっ?」

 

顔を俯かせていた雫はいきなり右手に温もりが伝わり顔を上げると、イツキの顔が近くにあった。イツキは片膝をついて雫に目線を合わせると自分の両手で雫の右手を優しく包み込んだのだ。一瞬驚き戸惑い、目線を合わせられなかったがすぐに落ち着いてイツキの顔を見るようになった。

イツキは優しく微笑みを浮かべながら静かに口を開いた

 

「八重樫さん、確かにそれをするための経験は強くなるために重要なことかもしれない………でもね、それよりも大事なのは…‘’何のために剣を握るか‘’だと思うんだよ。」

 

「何のために剣を握る…?」

 

「うん、…………これは僕のおじいさんが剣術を教える前に最初に言った言葉でもあるんだ。」

 

そう言ってイツキは千十郎が言った言葉を思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか、カヅキ、イツキ。おまえらこれから先、‘’何のために剣を握るか‘’………その理由を必ず見つけろ。そして、その見つけた理由を決して忘れず胸に刻み込んでおけ。それがお前らの心身を強くするだろう…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕も兄さんも、それを忘れず今日まで剣を握り刃を振ってきた………兄さんは自分の信念、‘’我道‘’を掲げ、それを貫き通すために…僕は兄さんを…いや、大切な人を守り、支える為に剣を握ってきた…………八重樫さん、君は何のために剣を握っているのかな?」

 

「私は…」

 

雫は改めて考えた、‘’自分は何のために剣を握っているのだろうか‘’と。

思えば小さい時から剣を握っており、本当は可愛い洋服やアクセサリーでおしゃれをしたかったが、厳しい祖父や父を見てきたので「かなわぬ願い」だと思い、そういう物は全て押し殺してきた。だから自分で言うのもなんだが地味な女の子だったと思う。そんな女の子が自分の道場に通っている王子様のような存在(実際、私もそう思っていた)の光輝と親しく話しているのが周りの女の子達には気に食わなかったのか、いつも心無いことばかり言われた。家族にも心配をかけたくない故に小さい時から押し殺してきた癖もあって、この事は誰にも話さなかった。

そして、今でも覚えている言葉がある。

 

「あなた、女の子だったの?」

 

ある女の子が言った一言。金槌で頭を殴られるようなショックだった。私は初めて光輝が最初にやって来た時に言った言葉「雫ちゃんも、俺が守ってあげる!」 その言葉を信じて今まで女の子達に受けてきた仕打ちを光輝に話すも「きっと悪気はなかった。」「話せば分かる」など言って理解してもらえず、さらに言うとこのやり取りが周りの女の子にバレて風当たりが強くなったのは言うまでもなかった。もちろん、光輝の目の届かない所で……それが今でもトラウマになっているし、この時は本気で剣も何もかも、この身でさえ投げ捨てたい思いで一杯だった。

それなのに今でもこうして剣を握っていたのはどうしてだろうか………。

 

「…………………あっ」

 

雫はおもむろに小さな声を上げた。嫌なトラウマを押しのけて深い深い記憶の奥底にあった一つの記憶。

 

 

 

 

「雫、すごいぞ! お前には才能がある!!」

 

それは4歳の時だ。いつも仏頂面の祖父が何気なく私に竹刀を持たせ、祖父と同じような動きを真似てみたら大いに喜び、頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。その時の祖父の笑顔は今でもハッキリ覚えている。そこから私の剣の道は始まった。

 

八重樫流の技を一つ覚える度に祖父や父、道場の皆が笑顔になって喜んでくれた。

 

初めて剣道の大会に出て、一試合目に勝った時(その大会では優勝出来なかったが)家族の皆は大いにはしゃいでいた。

 

光輝と出会い、初めて模擬試合をして終わったあとに「雫ちゃんは強いな。」と笑顔で言ってくれた。

 

香織に助けられ初めて八重樫流を見せた時、「すごい、すごい! 雫ちゃんかっこいい!!」とぴょんぴょん跳ねながら喜んでくれた。

 

剣道の大会で初めて優勝し、香織や家族の皆が大いに喜んで祝い、次の朝まで大はしゃぎしていた。

 

その他にも色々な記憶が蘇ってきて、その記憶の中には何かしら誰かの‘’笑顔‘’があった、

そして、雫は一つの答えを導き出した。

 

 

 

 

「(そっか私……………皆の‘’笑顔‘’を見るのが好きで、今まで八重樫流を続けて来られたのだわ…)」

 

どんなに練習が辛くてキツイものでも頑張れば頑張るほど、家族や道場の者、誰かが笑顔でいてくれた。それが嬉しくて、期待に応えたくて、頑張れてこれた。いじめられてスランプに陥かけた時も、香織に助けられ、いつも見せてくれる香織の笑顔に癒されて、立ち直る支えとなった。

剣に触れ、八重樫流という剣術を覚えて悪いことばかりだと思っていた雫だが、良いこともあったということを改めて実感出来たのだった。

 

「何か思い出したみたいだね……じゃあ君が剣を握る理由は何かな?」

 

雫の心を見透かしたようにやさしい笑顔で問いかけるイツキ。雫は目をつぶり考えた、剣を握り振り続ける理由を…

目を閉ざして数分後、見つけたのか目を開いた。そして、ゆっくり息を吸って呼吸を整えると口を開いた。

 

「私は…守りたい。大切な香織(親友)を……大切な光輝(家族)を……慕ってくれるクラスメイト(仲間)を、この手で、いえ…この剣で守りたい! 私は皆の笑顔を守り続けるために剣を握り続けるッ!!」

 

静寂な真夜中に凛とした声が響いた。真っすぐにイツキを見つめる雫を見て、その言葉を聞いて確信した。

目の前にいる女性はこの世界の摂理に恐怖し怯える存在ではない。決意を固め何事にも立ち向かうことができる女剣士だということを、それと同時にある’’変化’’にも気づいた。イツキはそれを見て「ふふっ」と静かに笑いながら口を開いた。

 

「八重樫さん……右手を見てごらん。」

 

「えっ? …………あっ、震えが…止まっている。」

 

イツキがいつの間にか右手を包み込んでいた両手を離しており、その右手を見てみると震えが止まっていたのだ。さらに言うと身体の震えも収まっているのだった。

 

「でも…どうして?」

 

「強い意志が君の恐怖に勝ったんだよ。」

 

イツキはそう言って雫の両手を持ち立ち上がらせ、雫はイツキにつられるように立ち上がった。そして再びイツキは口を開いた

 

「僕も兄さんも、このようにして震えを、恐怖を、克服していったんだ。でもね…これは一時期的なもの。またすぐに震えが来ると思う。だから、何回も自分の意志、剣を握る理由を思い浮かべないといけないんだ。それが何回必要か分からない……けど、いつか必ず震えが来ない日が来る…」

 

「だから…」と前置きした後、真剣な表情で雫に告げた。

 

「それまで頑張ろう。大丈夫、僕が支えるから」

 

そう言ってどこか決意を固めたようにつげるイツキ。その言葉を聞いて光輝と初めて出会ったことを思い出し、一瞬嫌な思い出が蘇るも、すぐに振り払いイツキを見た

目の前の彼は信頼できる。この人なら自分の思いを真剣に受け止めてくれると思えた、そして、もっと強くさせてくれると思えてきた…だから、

 

「…………うん。」

 

笑みを浮かべ首を縦にふるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

あれから二人は無事に雫の部屋前に着いた。カヅキの元から歩き出してしま5分で着くところ1時間もかかっていた。

 

「ごめんなさいね、ここまで来るのにだいぶ時間をかけてしまって…」

 

「ううん、そんなことないよ。元を辿れば僕の発言で遅くなったんだ……謝るのは僕のほうだよ。」

 

「でも、あなたのおかげで見えてなかったものが見えてきた。それだけじゃない…もう一度、自分の剣と向き合おうと思えてきたのも月山君のおかげだよ。だから言わせて…………‘ありがとう’って」

 

「八重樫さん……」

 

そう言ってやさしい笑みを浮かべてイツキに‘’ありがとう‘’の言葉を送る雫。イツキはその言葉を聞いて今までの疲れが吹き飛んだのと同時に迷いのない、思いつめた様子もない彼女の笑顔に安心するのだった。ずっと見ておきたかったが、もう夜中も超えて明日も早いので早々に自分の部屋に帰ることにした。

 

「それじゃあ、僕はそろそろ戻るよ……おやすみ八重樫さん。」

 

「ええ、おやすみ月山君」

 

イツキは背を向けて歩き出しすぐに右の角に曲がって歩いていった。

イツキの姿が見えなくなるのを確認してから雫は部屋に入った。真っ先に向かったのは寝ている香織の元だった。

 

「………ただいま、香織」

 

返事がないのも承知の上で、そう告げると両手で包み込むように香織の手を握った。

 

「(香織……私、強くなる。あなたや光輝、龍太郎、いえ…私を慕ってくれるクラスメイトを守れるくらいもっと、もっと強くなるわ。だからお願いよ……あなたも早く、目を覚まして…。)」

 

大切な親友が良くなるように祈りを込めると同時に雫は新たな決意を胸に刻み込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………。」

 

イツキは誰もいない廊下の中、一人歩いていた。そして、今日あった一日の出来事を思い返していた。

八重樫 雫と関わった事を思い浮かべ、普段関わらない分、今日だけでも色々な表情、内面を見ることが出来た。不幸な出来事があり不謹慎かもしれないがイツキにとって充実した一日に見えてきた。

そして、イツキにある記憶が蘇ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗闇の中、いきなりある場所にスポットライトが当てられた。そこには中年の男性が大の字に倒れていた。顔、頭を中心に酷く殴られており、血を多量に流して見るも絶えない無惨な姿だった。

別の方向を見ると一人のショートカットの少女が尻餅をついて酷く怯えていた。大の字に倒れている男性に怯えているよりも、むしろこちらを見て怯えていた。少女に近づこうと一歩踏み出せば少女は後退り、その目は拒絶することを訴えていた。

そして、ふと両手に生暖かいものが伝わり両手を見てみると…………

 

 

 

 

 

 

その両手は、真っ赤な血に染まっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………。」

 

いつの間にか立ち止まり、自分の両手を見ていた。当然そこには‘’血塗れの手‘’はなかった。一瞬おぼろ目で自分の手を見るもすぐに顔をしかめ両手をぎゅっと強く握りしめた。

 

「どう思われようが、彼女のために尽くす………ただ、それだけだ。」

 

自分も改めて決意を固めると、再び廊下を歩き出すのだった。

 

 




ありふれ噂話

当麻「どうも、当麻です。」

佐助「やぁ、現場復帰した佐助だぜ。」

当麻「佐助くん、首治ったんだね。」

佐助「ああ、おかげさまでね。いや~死ぬかと思ったよ。」

当麻「これに懲りたら、女の子をからかうのをやめようね…」

佐助「そうだな、‘’当分‘’はやめとくか…。」

当麻「えっ? 佐助くん、さっき当分って……」

佐助「じゃあ、時間無いから早速行きますか。はい、これ読んでね。」

当麻「えっ、ちょっと、もう……………ありふれ噂話…」












当麻「実は香織さんとカヅキさんのひと悶着があった次の日からカヅキさんはストーカー被害にあったみたいですよ。」






佐助「学校が終わってその帰り道途中、いきなり般若のお面を付けた男性が現れて大将を見るなり『野郎、ぶっ殺してやぁぁる!!!』て言って包丁振り回しながら向かって来たみたいだぜ」

当麻「へ、へえ…そんなことがあったんだ。その後、どうなったの?」

佐助「当然二人は逃げて振り切ったみたいだ。でも次の日も、また次の日も帰り道途中に現れて追いかけられて、一週間くらい続いたみたいだぜ。」

当麻「一週間も!?」

佐助「そうそう。旦那は旦那で面白がって止めることもせず狙いが大将だけだからな……面白がって二人が追いかけている所を後方から見守ってたな」

当麻「そこは止めようよ…イツキくん。」

佐助「そんで一週間後はピタリ止まったんだよな~そいつがどうなったかは知らないけど最終日の日、うちの学校の制服を着た女子がそいつを引きずっている所を何人かの目撃証言があったんだ。イッタイダレダロウナ~」

当麻「うん、何となくそっとしておいた方が良いかな…」

佐助「さて、お時間もきたことだし、今回はこれまで……次回、お会いしましょう。」

当麻「またねー」












いかがだったでしょうか?
独自の解釈で雫の覚悟を書かせていただきました。これもイツキという男を気になる存在にするための準備です。今後、雫とイツキの関係を語るとしたら最後の迷宮の出来事になります。そしては雫には別の件で試練にぶち当たることになりますが…今は置いといて。

先ずは謝罪を。クラスメイトの話を書いていたら書きたいことがどんどん増えて半年かかってしまいました…すみません。
次回から、主人公サイトになります。ヒュドラと決着、そこにいるキャラ総出で活躍しますので楽しみにしてください。


感想、お待ちしております。

それでは、また…。


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親友(ハジメ)の決意と覚悟を聞いて…スバル初めての変化(へんげ)

どうも、グルメです。
約半年ぶりになりますが、主人公サイトのお話しになります。
長くなりそうだったので、きりが良い所で切っています。

それでは、どうぞ。


当麻(サラ)士郎(クロウ)が勢いよく駆け出すのを見送るとスバルは満身創痍で倒れている親友ハジメに目を向けた。全身焼きただれ、一部骨が露出、右目、左腕は無くなっており、いつの間にか黒髪から銀髪に変わり、身体も一回り大きくなっていた。

そんな劇的に変わった親友の姿を見てスバルは、どこか力のない表情で微笑んでいた。

 

<こいつがお前が言っていた大親友のハジメか?>

 

「うん、そうだよ。俺の命の恩人で大切な親友、そして誰よりも努力家………それが南雲ハジメさ。」

 

そう静かに告げるスバルは今、思っていることを口にした。

 

「レオン、聞いてくれ。俺はこの奈落の底でハジメと再会した時、変わり果てた姿をも見て驚きと恐怖もした…………でもそれよりも‘’ここまで頑張ったんだな‘’ということが凄く伝わったんだ。」

 

<………そうなのか?>

 

「うん………道中で話したけど、寝ていることが多いから親友以外の周りから‘’怠けている‘’と見られがちだけど、そうじゃないんだ。ハジメは‘’自分にとって必要なことの努力‘’は惜しまないんだ。」

 

そう言うスバルはハジメとのあるエピソードを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

ある日、ハジメの家に遊びに行った時のことだ。ハジメの部屋の机は漫画を書く道具が一式そろえられており、書きかけの美少女の画が何枚もあった。プロではない自分が言うのもなんだが、はっきり言って上手いと言えるものではなかった。ハジメ曰く「美少女の画を書くの苦手なんだよね~」と愚痴りながら自分の書いた画と睨めっこしていた。そして、3ヶ月後、再びハジメの家を訪れると部屋には何枚もの美少女の画が貼ってあった。販売しているラノベ表紙に負けない位の完成度だった。

「どうやってこんなに上手くなったんだ?」と尋ねるとハジメは笑いながら「寝る間を惜しんで何回も練習した。今後、将来に必要になるから。」というのだった。それを聞いた俺は「よくやるぜ。」と呆れていたが、その努力は心の底から尊敬していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからハジメは生きるために必死に努力したんだと思う。たとえ、仲間とはぐれて一人になろうとも…全身ボロボロになろうとも…右目、左腕をなくそうとも…生きることを諦めずに努力してここに来たんだと思う………俺はそんな親友が誇らしいよ。」

 

<…………………。>

 

レオンはただ静かに耳を傾け、それを告げるスバルの目から一粒の涙がこぼれた。改めてハジメ再会したこと、生きていたことが嬉しくて、涙が、感情が抑えきれなかったのだ。ある程度涙を流した後、腕で涙を拭き取り、しゃがみ込んでハジメに告げた。

 

「ハジメ、後は任せろ。俺がきっちり決着(ケリ)をつけてくる。お前はここでゆっくり休んでいてくれ。」

 

‘’親友達がやっと全員揃ったのだ。こんな所で終われない、皆で生きてここを脱出する。‘’そんな想いで立ち上がり、その場を離れようとするも、

 

ガシッ。

 

スバルの足に何かが掴んだ。振り向くとゼェゼェ…と息を荒くするハジメが這いつくばりながらも必死に足に掴んでいたのだ。

 

「スバル、俺も行く…つれて…け。アイツは…俺の敵だ! 敵は………必ず、殺す!! そう、決めたんだ…。」

 

「ハジメ……。」

 

ハジメの言葉に耳を傾けジッと見つめるスバル。内心、ボロボロの状態で動いていることに驚いたが、それよりも驚いたのは豹変した性格だった。

ハジメから‘’殺す‘’という言葉が出てきた。穏やかで争いを好まない彼からそんな言葉が出るとは思わなかった。それだけではなく彼の目も優しいものから、好戦的な獣ような目つきへと変化していた。まるで目の前にいる人物がハジメじゃないように見えるのだ。

 

「……………………。」

 

スバルは黙ってハジメを見つめながら考えた。これからどうするのか…と。ハジメも何かを察したのか何も言うことなくスバルを見た。

目の前にいる男は紛れもなくハジメだ。性格は変わっていようが思想が変わっていようがハジメなのは間違いない。そしてこれから一緒に戦うかどうかだが………

もし仮にこの場所にあの勇者がいたら「そんな身体では無理だ。」とか「無謀だ、戦えるわけない。」など勇者に限らず誰もがそう言い、一般的に戦わせるのをためらうだろう。だが俺はハジメの親友だ。

 

誰よりもハジメのことを理解しようと決めている。

 

誰よりも先に、困っていたら手を差し出そうと決めている。

 

そして、どんなことがあってもハジメの味方であろうと決めている。

 

だから……俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかったハジメ、お前のその言葉…………決意と覚悟だということが心で理解出来たッ!」

 

そう言ってスバルは、少しでもハジメの身体が楽になるよう迷宮に入る前に事前に渡されたいた士郎お手製の魔力回復薬と栄養薬を二つハジメに飲ませた後、スバルの肩を借りて支えられるようにハジメは立ったのだ。薬はすぐに効いてきたのか荒々しい呼吸は徐々に落ち着いていった。

 

「二人でやっつけようぜ………ハジメ。」

 

そう言うスバルにハジメは周りの状況、倒すべき敵を確認してから口を開いた。

 

「……………()()じゃない、ここにいる()()で……だろ?」

 

そう不敵な笑みを浮かべるハジメ。

 

「!?…ああ!!」

 

その言葉にスバルも返事で応えると同時にあることを理解した。

確かにハジメは身も心も変わったかもしれない、けれども仲間を思う心、友を思う心は今も変わってないということを。

そのことが嬉しくてたまらないと思いつつもスバルは、ハジメと共に士郎や当麻、また、ユエやサラ、クロウがいる戦場へと走り出した。その時、ハジメは首長竜を倒す作戦をスバルに伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎(クロウ)当麻(サラ)は首長竜が放つ光弾の雨をかいくぐりながら勝利の鍵を模索していた。現状としてユエが得意とする最上級の魔法、‘’蒼天‘’が勝利の鍵だと二人は睨んでいるがそれには先ず問題があった。

ユエの魔力回復である。

今のユエは魔力が枯渇しており立てるのがやっと、吸血して魔力を回復する必要がある。士郎と当麻、どちらかの血を差し出せばすむ話だ。だが、忘れてはならないのが彼らは人である。ユエの魔力を回復するには半分以上の血を吸血する必要があり、さらに言うと普通の人族の血で魔力が全快するかわからない。血を差し出した者は必ず貧血を起こし動けなくなるだろう。そこを首長竜が見落とすはずもなく、だからといってある程度、動けるくらいに吸血を抑えても威力は期待されない。

その考えが二人にあったのか、ユエに吸血する指示を出さなかった。そして、ユエも二人が人間だということを見抜き、吸血して魔力回復したら動けなくなることを理解していたため吸血することはなかった。「一度引き返すか…。」と士郎(クロウ)当麻(サラ)の頭をよぎった時、いきなり首長竜が攻撃を止め別の方向に目を向けた。

 

「…どういうことだ?」

 

「いったい何が…。」

 

クロウとサラが困惑しつつも同じように首長竜が目を向けた方に見やると、

 

「お~い! こっちだこっち、こっちを見やがれこのウスノロマ竜」

 

スバルが手を振りながら走っており、技能‘’挑発‘’を使い首長竜の意識をこちらに向けていたのだった。

 

<スバル君!?>

 

<あの馬鹿、何やっているんだ!!?>

 

当麻、士郎が困惑する中、スバルは挑発を続けた。何故、こうも危険な事をしているかというと、これは作戦だった。首長竜を倒すための作戦をハジメから聞いたスバルは時間を稼ぐため自ら進んで「俺がおとりになるぜ!」と志願したのだ。少々不安に思ったハジメだが、自信満々の姿に期待を込めてスバルにおとりを任したのだった。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

 

首長竜は叫ぶと完全に標的をスバルに変え光弾の雨を降り注いだ。スバルは止まることなくその雨をかいくぐっった。

 

「まさか身体を張った弾幕ゲーをすることになるとはな……言っとくが俺は避けるのが得意なんだ。小学校でやったドッチボールも最後まで残っていたしな!!」

 

そう言いつつも光弾の数が増え、少しずつスバルの身体を掠めていき徐々に走るスピードも遅くなってきた。それを見た首長竜はハジメを瀕死に追いつめた‘’極光‘’を放った。

 

「ーーーーーッ」

 

スバルはその極光に包まれ、大きな轟音と衝撃波がそれに舞い上がる土煙が士郎と当麻の身体を襲った。

 

<<スバル(君)!!>>

 

士郎と当麻が叫ぶ中、土煙がおさまり辺りが見えるようになった。スバルがいた場所には大きなクレーターが出来ており、彼の姿はなかった。士郎と当麻の頭にはスバルの‘’死‘’が浮かび上がり、心が揺さぶられようとした時、

 

「彼なら大丈夫でしょう。」

 

「ええ、スバル殿にはレオン殿がついています。必ずや生きておられるはず…。」

 

「…! サラ姉、レオンってまさか、あのレオンのこと?」

 

クロウとサラは特に慌てることがなく、ユエも犠牲になった青年を見て顔を歪めていたがレオンがいるとなると、その顔の歪みをおさめた。首長竜の方は挑発したスバルがいないことを確認すると再び標的をユエ達の方に向けようとしたが、

 

ガツン!!

 

「グラァ!?」

 

何かが横切るのと同時に左頬に強い衝撃が走った。横倒れになりそうな所を踏ん張り周囲を見渡すと今度は下の顎辺りに衝撃が走り何かが上った。つかさず上を見るも何もなく今度は右頬に衝撃が走った。そして、次々と上下左右から衝撃が走り、殴られ続けるように首を揺らしていった。

 

<いったい何がどうなっているのですか?>

 

<それよりも当麻見てみろ。何か紫色の線が見えないか? あれは、雷?>

 

当麻と士郎が首を揺らす首長竜に困惑しつつ、士郎は何かに気づいていた。首長竜の周りを紫色の光る軌道が光っては消えを繰り返して走っていたのだ。その軌道をよく見てみると紫色の稲妻に見えた、士郎はつかさずクロウに尋ねた。

 

<クロウ、あれはいったい?>

 

「あれこそレオンの持つ融合紋の真骨頂、融合して取り入れた者を一時的に変化させているのです。」

 

<変化って……つまりスバル君は魔物になっているってこと?>

 

「手っ取り早く言いますとそうなりますね当麻。そして、紫の光からして、あれは……」

 

「…………………雷を纏いし紫電の閃光を走らせて動く鬼、‘’雷鬼‘’ 久々に見た…。」

 

当麻の疑問にサラは答え、ユエはどこか懐かしむように呟いた。それと同時に紫電の電光がユエ達から離れた所に落ちた。

そこに現れたのは全長2メートル程の全身若紫色の皮膚で覆われ、腰のところまで伸びた銀色の頭髪、筋肉質の身体、鋭い手足の爪、そして鬼の象徴と言える大きすぎない二本の漆黒の角。もはや、スバルの面影など残ってはいなかった。

 

「……………………ッ。」

 

首長竜を睨みつけ、構えをする鬼、雷鬼。その姿を今ここに現したのだった。

 

 

 




いかがだったでしょうか?

ハジメの変化を受け入れ、スバルが融合紋の真の力を解放する回でした。一応、雷鬼のイメージは鬼武者2のラストに主人公が変身する鬼のイメージを思ってくれたら幸いです。ちなみに右手に変な武器はついてません、普通の右手ですのであしからずに。

予定として3月中にもう一話を投稿してヒドラ戦を終えたいと思います。

感想もお待ちしています。

それでは、次回お会いしましょう。では、また……。




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皆で首長竜(ヒドラ)を乗り越えて…。

どうも、グルメです。

何とか投稿することが出来ました。ヒドラ戦、決着です。

それでは、どうぞ。


「グラァアア!!」

 

首長竜(ヒドラ)が叫ぶと無数の光弾を作りスバルに放った。スバルは雷鬼の特殊技能の一つで雷の速度で移動する技、‘’雷走‘’を使って紫電色の軌道を画きながら光弾をかわしていった。

 

<スバル君早い、目が全く追いつけない。>

 

<まさかアイツの天職が魔物になれる天職だったとは…天之河以上のチートだな。>

 

「…………まったく、ここに来るまで何があったんだアイツ?」

 

「……えっ?」

 

どこか聞き覚えのある声が聞こえユエは後ろを振り向き、サラ、クロウもつられて後ろを振り向くと、そこにはボロボロになりながらも立っているハジメの姿があった。

 

<<ハジメ(君)!>>

 

「ハジメ!」

 

真っ先にユエがふらつきながらも駆け寄り、ハジメに抱き着いた。

 

「…ハジメ……ハジメ。」

 

「悪いなユエ、心配かけて…もう、大丈夫だ。」

 

涙目になりながら愛しのパートナーの名を呟くユエにハジメは優しく頭を撫でた。するとそこに士郎と当麻が近づくが、ハジメは睨みつけるように二人は見た。

 

「…お前ら誰だ? 俺の知っている親友の姿にはなっているけど中身は全く別のように感じる…一体何が目的だ?」

 

「「……………………」」

 

警戒を高め長年の親友の付き合いからして見た目は一緒でも中身は全く違うことを見抜いたハジメ。二人は何もしゃべることなくハジメの顔を見続けた。

 

「待ってハジメ。この二人は私の臣下……ううん、大切な親友…悪い人じゃない。」

 

ここでとっさにユエが助け舟を出し、必死になって二人が敵じゃないことを訴えた。

 

「そうなのかユエ? でも、そうだとして何でユエの親友は俺の親友の姿になっているんだ?」

 

「それは…」

 

ハジメの疑問に言葉を詰まらせるユエ。自分でもよく分からないが、この二人は私の親友だということは確かだった。このことをどう説明するか迷っていると、ここで士郎と当麻の近くに青白い球が出てきて人の形を作り青白く透けている士郎と当麻の姿が現れた。

 

『ハジメ君、僕たちは大丈夫です。ちゃんと生きています。』

 

『正確には俺と当麻の身体を信頼する人に貸している途中なんだ。』

 

「お前ら一体!? …ったく二人も見ない間に随分変わっちまったな。」

 

二人の親友の姿に驚きつつ、「何かあったんだ?」と疑問に思ったが、それよりもしなければいけないことがあるので先ず保留にして首長竜(ヒドラ)を倒すことに専念することにした。「だが、その前に…」と思ったハジメは士郎(クロウ)当麻(サラ)に尋ねた。

 

「……今、親友の身体を動かしている奴に聞く…………お前らは俺の敵か?」

 

鋭い目つきで士郎と当麻を見るハジメ、二人は顔を見合わせて頷くと士郎(クロウ)から口を開いた。

 

「私達は二人に身体を借り、姫を助けるためにここまで来ました。」

 

「お嬢様を助けて頂いた貴方に危害を加えることなど毛頭ありません。」

 

二人の言葉にハジメは黙り込んだ。その様子をジッと見守るユエ、そして士郎と当麻。クロウとサラも何も言うことなくただ、ハジメの答えを待った。数秒後、ハジメはゆっくりと口を開いた。

 

「……………ここに来るまでの経緯、後で聞かせてくれよな。」

 

そう言って警戒を解き、にこやかな笑顔を浮かべるハジメ。それを見て受け入れられた事を理解して安堵するクロウとサラ。士郎と当麻も「ふぅ。」と息を吐いて一安心。

 

「…ハジメ、ありがとう。二人を受け入れてくれて。」

 

「なに、親友達が身体を貸すぐらい信頼しているんだ。それに、ユエのあの真剣な顔を見て信じない訳にはいかないだろ?」

 

「ハジメ!!」

 

そう言っていっそう強くハジメを抱きしめるユエ。ハジメも先ほどの二人に対するユエの訴えに真剣な眼差し、それに身体を貸している士郎と当麻の様子から見て、クロウとサラは信頼に値すると判断したのだった。もっとも、ユエのお願いの一言であっさり解決していたかもしれないが………………さて、それは置いておいて。

 

 

 

「さっそくだが二人共、‘’アレ‘’足止め出来るか?」

 

そう言ってハジメは首長竜(ヒドラ)を指さした。

 

「もちろんです。」

 

「お任せを…」

 

サラとクロウは迷うことなく一つ返事で引き受けた。ハジメは「よし」と頷くと抱きついているユエに顔を移して

 

「ユエ、決着をつけるぞ。お前が勝利の鍵だ! いけるか?」

 

「……んっ!」

 

ハジメの言葉に力強く頷くユエ。それを見たハジメは、笑みを浮かべてユエをしっかり抱きしめて‘’天歩‘’を使って上へと登っていった。

その様子を見ていたクロウとサラ、ここでクロウはポツリと呟いた。

 

「姫…いつの間にか名前を変えていましたね。」

 

「えぇ、でも名前が変わろうとお嬢様は、お嬢様です。」

 

そう迷いなく答えるサラにクロウは少し意地悪な事を尋ねた。

 

「私はてっきり姫があの男とくっついている所を見て、あなたが発狂するかと内心ヒヤヒヤしましたよ。」

 

「……それは最初は驚きました。でも、お嬢様のあの嬉しそうな顔を見ると何も言うことはありません…。」

 

そう言ってサラはハジメに抱きついているユエの笑顔、心の底から喜んでいる姿を思い浮かべながら「それに…」と前置きして、

 

「女はいつか恋をするものです。そして、それはお嬢様も例外ではありません。」

 

そう言って微笑みながらクロウに言うのだった。それを見たクロウは「フッ」と軽く笑った後、標的となる首長竜に目を向けた。

 

「行きましょうサラ、姫の未来、私達が切り開くのです。」

 

「もちろんです。アレを倒してお嬢様の新たな門出といたしましょう。」

 

そう言って二人は首長竜(ヒドラ)の元に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

あれからスバルは地を駆け抜け、光弾を避けていたが身体に違和感を感じていた。

 

「(さっきから…身体の力が入らない…。)」

 

先ほどから脱力感のような倦怠感を感じ、思い通りに身体が動かないのだ。やっとの思いで身体を動かしながら光弾を避けるスバル。この様子にレオンは、

 

<そろそろ限界が来たんだろ………変化しておよそ5分。それが今の限界だ。>

 

「……延長は出来ないのか?」

 

<無理だな、特訓すれば長時間の変化は可能だが……今は、あきらめろ。>

 

「そんなっ! 簡単に言うなよ!!

 

<お前はよくやった、初めての変化で5分も出来れば十分だ。だからもう……あの二人に任せろ。>

 

「えっ?」

 

その瞬間、首長竜(ヒドラ)の頭上に当麻(サラ)士郎(クロウ)が現れた。本来なろ直ぐに気付くはずなのだが気付かなかった。スバルの挑発効果もあり、首長竜(ヒドラ)は「絶対当ててやる」とムキになっていた。故に気付かなかった。クロウの影の移動(シャドウムーブ)で二人が移動してきたことに、そして、サラの右手が七色に、クロウの左手が蒼色に輝いていたことに首長竜はまだ気づいていなかった。

 

剛気 彩光豪震撃(ごうき さいこうごうしんげき)

 

「グルアア!!???」

 

サラは掛け声と共に首長竜の脳天に剛の気をまとった拳を放ち、そのまま地面に押し潰すようにたたきつけた。首長竜(ヒドラ)の叫び声と共に、ドドーンという地面に叩きつける轟音が鳴り響いた。技を放ち終えるとサラはその場で大きく跳躍、下に落ちるクロウとすれ違い、クロウはゆっくり落ちながら静かに呟いた。

 

エルフの光(エルヴィンライト)...冬の息吹」

 

左手に輝く蒼の光が増していき、その光を首長竜の頭に叩きつけた。すると、光が弾け周囲に衝撃が走ると同時に瞬時に首長竜(ヒドラ)の頭が凍てついたのだ。原理は不明だがこれも‘’明王の力‘の一つであり、サラが飛んだのは攻撃の巻き添えを喰らわないためである。

 

「す、スゲー……サラさんとクロウさん、めちゃくちゃ強えー。あれが二人の実力……」

 

<まぁ、あれで半分しか能力は出し切れていないだろうな…>

 

「えっ? あれで半分なの!?」

 

<本来ならあの竜に引けは取らないだろう……だが今のあいつらは元の身体で戦っているわけではない、それに…見ろ、身体が慣れてないのか顔色も良くない。もう、いっぱいいっぱいだろうな。>

 

元の身体に戻っていたスバルはサラとクロウの実力に興奮するも、レオンは二人が本来の実力が出し切れていないこと、限界が来ていることを指摘した。そこに影の移動を使ってクロウとサラがスバルの元までやってきた。レオンの言う通り限界が来ているのか顔に疲れが出ていて呼吸も肩でしていた。

 

「やはり本来の身体ではありませんから慣れませんね…こうも簡単に息が上がるなんて…もっと特訓が必要ですね。」

 

「それだけではありません、私達が使うとエネルギーの消費も倍激しいと思われます…ここぞという時に使うべきでしょう。」

 

サラとクロウが呼吸を整えながら新たに分かった自分達が戦う時のリスクを理解していると呼吸がままならないにもかかわらず直ぐに身構えた。スバルも直ぐに首長竜を見ると凍てついた氷を振り払っている姿があった。首長竜(ヒドラ)はスバル達がまとまっていることを良いことにハジメを追い詰めた極光を放とうとしたが、

 

「お前ら下がれ! あとは、俺とユエがする。」

 

そう言ってユエを抱きかかえながら空中を飛んでいるハジメが叫ぶと錬成で作ったリボルバー‘’ドンナー‘’を狙いを定めて放つもそのことごとく首長竜(ヒドラ)に当たることはなかった。

首長竜(ヒドラ)は今度こそ止めをさす思いで極光をハジメに放ち、さらに遅れて何発かの光弾を放った。迫りくる極光をあっさりかわすと次に迫ってくる光弾を華麗なステップでかわしていった。

 

「…………ん。」

 

そして、ユエは首元を嚙みついてゆっくりと味わいながら吸血を行い魔力を回復、スバル達が見ればハジメとユエはダンスをしているように見えたのだ。その様子に苛立ちを感じていた首長竜(ヒドラ)にいきなり天井が崩れて大量の瓦礫が襲い掛かり身体を押し潰したのだ。実はスバル達が引き付けている間に事前に天井を錬成である程度脆くしてお手製の手榴弾を仕掛けており、その後ドンナーを使って手榴弾を爆破、極光をの轟音のおかげで天井の爆破は気づかれることはなかった。

首長竜(ヒドラ)が瓦礫で身動き取れない事を確認したスバルはすぐさま‘’縮地‘’で瓦礫の山に立ち、錬成で瓦礫の山をヒドラ拘束具に変えて直ぐに飛びのいた。

 

「今だ、ユエ!!」

 

「んっ------蒼天!!」

 

蒼く輝く炎、‘’蒼天‘’。ユエが得意とする魔法をヒドラの真上に出現させ、ゆっくりと落した。

 

「グルアアァァァァァ!!!??」

 

首長竜(ヒドラ)の断末魔の絶叫を上げ、何とか逃げ出そうと身体を動かすも()()()()()()ことに気づいた。「何故? 何故、動かん!?」と思っている最中、まるでひとりごとのようにサラが呟いた。

 

「………………ついでと言っては何ですが‘’剛気‘’を流させてもらいました。剛気の特徴は‘’破壊‘’……今、あなたの身体の中で身体を動かす細胞を破壊され、麻痺してまともに動けないでしょうね」

 

そうポツリと呟くサラ。実は彼女が一撃を放つと同時に首長竜に少量の剛気を流しこんだのだ。幸いにも拳を叩きつけた場所は硬い鱗もなく、柔らかな肉の所なので難なく伝わり、ゆっくり全身に駆け巡り細胞を少しづつ破壊して、それが麻痺に繋がったのだ。

それを知ってか知らずか首長竜(ヒドラ)はなすすべも無く、絶叫を上げながら蒼天の高熱に溶かされていった。

 

()()()()……勝ちだ。」

 

そう宣言するかのように言うハジメ。感知系技能から首長竜(ヒドラ)の反応が消え、今度こそ倒したことを確信するだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからどれぐらい時間が経ったのか分からない。だが、気づいた時には蒼天の蒼い炎は収まり、目の前には黒焦げの首長竜(ヒドラ)の遺体があった。

 

「………終わったな。」

 

「ん……おつかれ、ハジメ。」

 

そう言ってハジメとユエがお互いを抱き寄せていると、

 

「ハジメーーー!!」

 

後ろから声が聞こえてきたので振り向くとスバルが走ってやって来た。そして、ハジメの背中にタックルするかのように抱きついてきたのだ。

 

「やったなハジメ、俺たちはボスを倒したんだ!! オルクス大迷宮を攻略したぞ!!」

 

「…………スバル、暑いし、苦しい、それとうるさい。」

 

「そう言うなよ、もっと喜ぼうぜ。」

 

「……………………むぅ。」

 

大いにはしゃいでオルクス大迷宮を制覇したことを喜ぶスバルにハジメは素っ気ない態度を取るも、迷宮をクリアしたこともあり、満更でもない顔をしていた。。そして、ユエはハジメとの余韻を浸っている中、スバルがやって来てせっかくの余韻を邪魔されたことにジド目でスバルを見ていた。

 

「おめぇもスゲーよ。最後に放ったあの魔法、よかったぜ!」

 

「……ん。もっと褒めるといい。」

 

ジド目を見ていたユエに気づいたスバルはユエの魔法を親指をたてて称賛、ユエもお世辞でもなく純粋に言っているスバルの言葉が嬉しかったのか誇らしげに胸を張ったのだ。そして、ハジメが「いつまで抱きついているんだよ!」と言いながら、スバルを背中から引き離していると、

 

「ハジメ君ーーースバル君ーーーー!」

 

「おーい、お前ら、大丈夫か!」

 

当麻と士郎がやって来た。二人も疲労が限界に達しているのか足がもつれていた。さらに二人の背後には、

 

『お嬢様ーー!』

 

『姫、無事か!?』

 

当麻と士郎の背後霊のようにサラとクロウがいたのだった。

 

「当麻………士郎……。」

 

「ん。サラ姉、クロ兄!」

 

ユエが手を振っている最中、ハジメは静かにもう二人の親友の名を呟いた。

 

「大丈夫ハジメ君! 痛い所は無いの!?」

 

「あれだけボロボロだって言うのに、よく動いたもんだな。倒れないかと心配したぜ……。」

 

ハジメの身体を本気で心配する当麻に、ハジメの無茶な行動に呆れながらもどこか心配してくれる士郎、そして、

 

「士郎、当麻も大活躍だったな、マジでカッコよかったぜ!」

 

「いやいや、僕達ただ見ていただけなんですよね。」

 

「当麻の言う通りだ。何もしてないぜ」

 

『そんなことありませんよ二人供、あなた達はあの戦場で確かに戦っていました。」

 

『サラのおっしゃる通り、あなた方は身体を貸してくれたのです…共に戦場を駆け抜けた事と同義でしょう。」

 

「…ん。サラ姉もクロ兄もカッコよかった。」

 

未だ興奮が収まらずいつものようにはしゃぐスバル。スバルの言葉に「待った」をかけるように否定する当麻と士郎だったが、さらにその会話に「待った」をかけるサラとクロウ、そして、さりげなくサラとクロウを称賛するユエ。その様子をハジメは、

 

「……………………。」

 

何も言うことなく静かに見ていた。いつも見る親友達の光景、ハジメが一番安心する場所が出来ており、さらに言うといつの間にか大所帯になっていた。

 

もう会えないと思っていた。

 

もういないと思っていた。

 

諦めて切り捨て生きようと思った。

 

ユエと共に生きようと思った。

 

でも、現実は違った。スバル、士郎、当麻は生きていた。しかも小説やラノベのように力をつけて、この深い迷宮の奥底まで来てくれた。そして、協力して首長竜(ヒドラ)を倒すことが出来た。

ハジメにとってこれほど嬉しいことはなかった。心の奥底から三人が生きていたことに、こうして再び会いに来てくれたことに感謝した。だから()()()()()()()()()()ゆっくり口を開いた。

 

「お前ら……本当に、ありがとう………お前らが無事で……本当に…よかっ…た…。」

 

無茶な身体の使い方をして疲労が限界に達し、スバルにもたれかかるようにハジメは気を失った。

 

「おい、ハジメ!?」

 

「「ハジメ(君)!!?」」

 

「…ハジメ!?」

 

親友達、ユエが必死に声をかけるがハジメは返事をすることはなかった。

 




技・技術紹介


雷走

雷の軌道を描きながら雷の速度で移動する、雷を纏った特定のものしか出来ない技。


剛気 彩光豪震撃(ごうき さいこうごうしんげき)

気の種類の一つ剛気は破壊の気、気を一点に溜めることで剛気を作りあげ簡単に岩をも砕くことが可能。彩光豪震撃は拳に気を一点に溜めて相手に放つ技。

エルフの光(エルヴィンライト) 冬の息吹

明王の力の一つ。エルフの光(エルヴィンライト)は左手に魔力を集め地面に叩きつけることで周囲の相手を衝撃波で飛ばし爆音と閃光でくらます技。‘’冬の息吹‘’は冷たい衝撃波で周囲の者を瞬時に氷漬ける。





いかがだったでしょうか?
皆でヒドラを倒す回でした。戦闘のシーンは上手く書けて伝わっているでしょうか?
素人ですからそこが不安で仕方ありません。
ちなみに補足ですが、何故首長竜を‘’ヒドラ‘’と表現しているかと言いますとスバル達がやって来た時には6つの顔があったこと何て知らないからです。首の長い竜がいるだけ、だから‘’首長竜‘’となっています。

とりあえずここまで長かった、もうすぐ1章の終わりが見えてきました。
コロナウイルスで世間は大変ですが、読者の皆様もお気をつけください。

次回はギャグを入れれたら入れます。

感想、評価お待ちしております。

それでは、次回お会いしましょう。では、また…。




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首長竜(ヒドラ)戦を終えて…。

どうも、グルメです。

コロナウイルスのせいで、様々なものに影響が出てきております。アニメ放送の延期、ゲーム発売の延期等々、仕方がないとはいえ辛いですね。

さて、今回のお話しはヒドラ戦の後のお話しになります。

それでは、どうぞ。


 ハジメは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だった。これは、ベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、ハジメのまどろむ意識は混乱する。

 

「(何だ? ここは迷宮のはずじゃ……何でベッドに……)」

 

 まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。しかし、右手はその意思に反して動かない。というか、ベッドとは違う柔らかな感触に包まれて動かせないのだ。手の平も温かで柔らかな何かに挟まれているようだ。

 

「(何だこれ?)」

 

 ボーとしながら、ハジメは手をムニムニと動かす。手を挟み込んでいる弾力があるスベスベの何かはハジメの手の動きに合わせてぷにぷにとした感触を伝えてくる。何だかクセになりそうな感触につい夢中で触っていると……

 

「……ぁん……」

 

「(!?)」

 

 何やら艶かしい喘ぎ声が聞こえた。その瞬間、まどろんでいたハジメの意識は一気に覚醒した。

 

 慌てて体を起こすと、ハジメは自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッドで、場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。爽やかな風が天蓋とハジメの頬を撫で、周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれていた。見渡せばパルテノン神殿のような場所で寝ていたいことに気づき、さらに空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされていた。

 

 さっきまで暗い迷宮の中で死闘を演じていたはずなのに、とハジメは混乱する。

 

「(どこだ、ここは……まさかあの世とか言うんじゃないだろうな……)」

 

 どこか荘厳さすら感じさせる場所に、ハジメの脳裏に不吉な考えが過ぎるが、その考えは隣から聞こえた艶かしい声に中断された。

 

「……んぁ……ハジメ……ぁう……」

 

「!?」

 

 ハジメは慌ててシーツを捲ると隣には一糸纏わないユエがハジメの右手に抱きつきながら眠っていた。そして、今更ながらに気がつくがハジメ自身も素っ裸だった。

 

「なるほど……これが朝チュンってやつか……ってそうじゃない!」

 

 混乱して思わず阿呆な事をいい自分でツッコミを入れるハジメ。若干、虚しくなりながらユエを起こす。

 

「ユエ、起きてくれ。ユエ」

 

「んぅ~……」

 

 声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなるユエ。ついでにハジメの右手はユエの太ももに挟まれており、丸くなったことで危険な場所に接近しつつある。

 

「ぐっ……まさか本当にあの世……天国なのか?」

 

 更に阿呆な事を言いながら、ハジメは何とか右手を抜こうと動かすが、その度に……

 

「……んぅ~……んっ……」

 

 と実に艶かしく喘ぐユエ。

 

「ぐぅ、落ち着け俺。いくら年上といえど、見た目はちみっこ。動揺するなどありえない!」

 

 ハジメは、表情に変態紳士か否かの瀬戸際だと戦慄の表情を浮かべながら自分に言い聞かせて、右手を引き抜く動作と同時にハジメは何とか呼び掛けで起こそうと声をかけるが一向に起きる気配はなかった。

 

 

するとここでどこからともなく声が響いてきた。

 

 

『なに? ユエが右手に抱きついて離れない? ハジメ…それは無理矢理引き離そうとするからだよ……逆に考えるだ‘’ロリコンでもいいや‘’と…。』

 

「………違うんだジョー〇ター卿、俺は断じてロリコン何かでは…ってスバルお前か! 変な声真似しているのは!」

 

「あっ、バレた?」

 

正面の太い柱からうざったい笑みを浮かべながら顔を出したスバルはそのまま身体を柱にもたれた。

 

「それで、あれから何があった? ここはどこなんだ?」

 

「……ハジメが倒れた後…。」

 

そう言ってスバルはハジメが倒れた後のことを詳細に話してくれた。

 

 

 

ハジメが疲労の限界で気を失った後、奥の扉が独りでに開いたのだ。

 

「馬鹿なこと聞くけど、実は真のボスが控えてたりとかしないよな?」

 

「止めてよスバル君!」

 

「ありそうなこと言うな、バカスバル!」

 

そう言って三人は身構えるもいつまでたっても特になにもなく、比較的まだ動けるスバルが恐る恐る開いた扉の奥を確認すると中は広大な空間に住み心地の良さそうな住居があった。ユエ曰く「このオルクス大迷宮を作った反逆者の住処ではないか?」と推測、その後、危険性がないことを確かめてからベッドルームを発見し、「私が付きっきりでハジメの看病をする」とユエが強く訴えるので仕方なくスバル、当麻、士郎は別の所にあったベッドで休むことにした。そして先ほど二人より先に目を覚ましたので、こうして様子を見に来て今現在に至るのだった。

 

「……そうか、そんなことが…。」

 

スバルから話しを聞いて、ユエに視線を向けるハジメ。「本当、ユエには助けられてばかりだな」と思っていると、

 

「……んっ……………ハジメ?」

 

「おう。ハジメさんだ。ねぼすけ、目は覚め……」

 

「ハジメ!」

 

目を覚ましたユエは茫洋とした目でハジメを見ると、次の瞬間にはカッと目を見開きハジメに飛びついた。ハジメの首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしていることに気づきハジメは苦笑いして頭を撫でた。ある程度撫でてユエが落ち着いた所をみてハジメはゆっくり口を開いた。

 

「わりぃ、随分心配かけたみたいだな」

 

「んっ……心配した……」

 

「付きっきりで看病してくれたって事も聞いた、ありがとう」

 

「んっ!……どういたしまして。」

 

ハジメが感謝の言葉を伝えると、ユエは心底嬉しそうに瞳を輝かせる。無表情ではあるが、その分瞳は雄弁だった。

 

「ところでユエ、一つ疑問なんだが……何故、俺は裸なんだ?」

 

「……汚れてたから……綺麗にした……」

 

「……なぜ、舌なめずりする」

 

ハジメの質問に、吸血行為の後のような妖艶な笑みを浮かべ、ペロリと唇を舐めた。その行動にブルリと体が震えたハジメ。

 

「じゃあどうしてユエが隣で寝てたんだ? しかも……裸で……」

 

「……ふふ……」

 

「おい、何だその笑いは! 何かしたのか! っていうか舌なめずりするな!」

 

激しく問い詰めるハジメだが、ユエはただ、妖艶な眼差しでハジメを見つめるだけで何も答えなかった。そして、会話に入れないスバルはというと、

 

「……………(ニヤニヤ)」

 

「おい、何ニヤニヤしているんだ? 気色悪いぞ、スバル」

 

「えっーひどいなハジメ。目の前で親友がイチャイチャしたらニヤニヤしたくなるだろ、普通?」

 

「そんな普通聞いたこと…ん?」

 

ここであることに気づいた。スバルの目線が下に向けられており、どうもハジメとユエ全体を捉えていなかった。ハジメは目線を辿ってみると、女の子座りをしているユエに行き着いた、色々隠しきれてない裸体姿のユエに。

 

「アア、イイヨ。ソノママツヅケ『嵐帝』アッーーーーーーーーー!!?」

 

突如発生した竜巻に巻き上げられて遠くに飛ばされるスバル、悲鳴が住居全体に響き渡らせながら端の壁に激突してボコッという音が後から聞こえてきた。

 

「……アホや。」

 

「………私の裸を見ていいのはハジメだけ。」

 

呆れながらボソッと言うハジメ、ユエはスバルに冷たい目線を向けつつ、シーツで身体を隠した。するとここで別の方向から足音が聞こえてきた。二人はそちらに目線を向けると、

 

「よぅ、お二人さん、おはよう。元気になったか?」

 

「おはようございます。ユエさん、ハジメ君。」

 

元気に挨拶をして現れたのは親友の士郎と当麻。

 

『おはようございます、お嬢様。』

 

『おはよう、姫。』

 

そして、当麻と士郎の背後霊のように浮かび上がっているのはユエの親友、サラとクロウだった。

 

「おはよう、士郎、当麻。」

 

「……おはよう、サラ姉、クロウ兄。」

 

二人が挨拶を返すと士郎が不思議そうに尋ねてきた。

 

「ところで、何でスバルが吹っ飛んだのだ?」

 

「……あいつの自業自得だ。」

 

「んっ………全部スバルが悪い。」

 

素っ気なく答えるハジメとユエ。それを聞いて士郎は「またか…。」と頭を抱え、当麻が「あはは…。」苦笑いを浮かべていると、

 

「あ~ひどい目にあった……。」

 

<お前なぁ…体内に臣下がいるのによく目の前で不敬を働けるものだな…。>

 

「目の前に美少女の裸体があったら見ない訳にはいかないだろ?」

 

<お前は何を言っている?>

 

格言を話すようにドヤ顔で言うスバルの言葉に、レオンは気が抜けるような思いをしながら二人はハジメの所まで戻ってきた。

 

「おはよう、スバル。また何かやらかしたのか? 本当懲りないな…。」

 

「おはようございます、スバル君」

 

「おう二人共、おはよう。あっ、サラさん、クロウさん、おはようございます。」

 

スバルは士郎、当麻に挨拶をしてサラ、クロウに挨拶をした。そして、タイミングを見てハジメはスバルに尋ねた

 

「なぁスバル、ここに来る時、お前誰と話していたんだ? ひとりごとには見えなかったが…。」

 

先程スバルが飛ばさてこっちに戻って来る時、あきらかに誰かとしゃべっているように見えた。あまりにも自然に話しているので疑問に思いながら誰かいるのか尋ねた。

 

「ああ、それは…。」

 

<俺のことだな…。>

 

「レオン、急にしゃべったらハジメがびっくりするだろ。」

 

スバルが事情を説明する前にレオンがここにいる全員の脳内に響くように声を発したのだ。

 

「声が…?」

 

当然ハジメは少し戸惑いを見せており誰かいるのか辺りを見渡した。士郎、当麻達は慣れているのか特に動じることはなかった。そしてユエは、

 

「………………。」

 

紅眼の瞳を細めてジッとスバルを見つめていた。本来なら美少女に見つめられてドキドキするはずなのだが、その瞳はどこか疑惑と疑念に満ちておりスバルは蛇に睨まれた蛙の如く動けないでいた。そんなユエに周りが声をかけるのをためらっていると、

 

<陛下、お久しぶりです。まずはこのような状態からのご挨拶…お許しを。>

 

いつもしゃべっている様子から一変して、レオンはどこか凛々しい声を響かせてユエに話しかけた。

 

「ん…久しぶり。まさかレオンがいるなんて思いもしなかった、私はてっきり…。」

 

<‘’叔父の方についていた。‘’………そう思われても無理もありません。私と叔父との仲の良さは貴女が一番よくご存じですからね。>

 

「ん……だから意外、レオンがここにいることに…。」

 

顔には出さなかったがユエは今でも内心驚いていた。幼少の頃からいつも叔父の隣にいたレオンがこの場にいることに、てっきり叔父と一緒に裏切ったと思っていたからだ。

 

「レオン…叔父に何があったか教えて。」

 

<………私の知っている限りの事をお話しましょう。>

 

するとここでいきなりスバルが話しに割り込むようにある提案を出した。

 

「そんじゃ、ここは一つ情報共有の場を設けるという事でお互い何があったか話しをしようぜ! …………俺も、ハジメに何があったか知りたいしな。」

 

スバルの提案に誰も異存はなく、皆静かに頷いて提案を飲み込んだ。そして、皆それぞれここに来るまでの経緯を話した。

 

スバルはレオンと出会い、自分の天職を知り、大切な者を守るためにバケモノになったことを、士郎、当麻は魔物に追い詰められた所にクロウとサラに助けられ、お互い大切な人を助けるために身体を貸したことを、そして、ハジメは腕がなくなったこと、生きるために考えを改めたこと、銃を作ったことやユエとの出会いを話した。

 

「何て言うか、その…」

 

「ハジメの話が悲惨というか、生々しいというか……。」

 

「悪い、ハジメ。肝心な時、助けられなくて…。」

 

当麻、士郎、スバルはハジメのここまで経緯を聞いてどこかやるせない気持ちになっていた。そんな様子を見たハジメは肩をすくめて口を開いた。

 

「そんな気を落とすなよ、お前らも大変だったんだろ? お互い様だって……それよりも驚いたのはお前ら三人のチート過ぎる能力だ。スバルは魔物を取り込めて固有魔法を使うだけじゃなくて、身体を魔物に変化させる天職。当麻は実は万人に一人の戦闘職、士郎も代々引き継がれてきた王の力…俺が言うのもなんだが、一体どういう巡り合わせでこんなことになるんだ?」

 

「都合よすぎだろ」とどこか呆れ気味に思うハジメ。

 

「まさか俺も、この迷宮の奥底で自分の天職を開花させるなんて思いもしなかったぜハジメ。」

 

そう言いながら右手の平の魔法陣を見つめるスバル、改めてチートな天職にどこか笑いを嚙みしめていた。

 

「師匠に非戦闘職て言ったら凄い驚いてたよ…それから師匠が気術士て知った時、進んで「弟子にしてください!」って言ったけ…。」

 

最近の出来事だがどこか昔のように思い返す当麻。

 

「まぁ俺の力は、ほぼほぼクロウの力だからな…自慢出来るようなもんじゃないよ。」

 

「あくまで自分の力ではない」ということ伝えどこか謙遜する士郎。

 

四人がそれぞれ思い思いに話した所でユエが、

 

「ハジメ、今度はこっちの番。三人共、お願い。」

 

『『はい』』

 

<…ああ。>

 

そう言ってクロウ、サラ、レオンはここまでの経緯を話し出した。

クロウとサラは王国を留守にしている時に叔父がクーデターを起こした事を聞き、同時に女王が死んだ事も聞いて半ば絶望しかけるも、‘’オルクス大迷宮に囚われている‘’という微かな情報を頼りに助けに向かった事、そこには叔父が待ち構えており、未だ信じられず躊躇いもあってか二人は抵抗も虚しく捕まり、肉体と魂を分離させられ肉体は何処かに持ち運ばれ、魂は不思議な結界のせいで外に出る事が出来ず一定の範囲しか行動が許されない中、迷宮をさまよった事を話した。

 

そして、レオンは不意を突かれて叔父に捕まりこの迷宮に連れて来られた事、後顧の憂いを絶つために叔父から融合紋を奪われ、レオンは奪われた代償として変化の暴走を起こし鬼人になった事、この姿で迷宮を出ても、討伐されるのが目に見えていたので、何もできずに迷宮にとどまった事を話した。

 

 

その後の展開はスバル、士郎、当麻が話した通りなので何もしゃべることはなかった。だが、クロウとサラは当日の事を思い出し、どこか苦々しい顔をしていた。

 

 

「……………そう、そんなことが……レオン、叔父様が心変わりしてクーデターを起こした理由、何か知らない?」

 

ユエは三人の話を聞いて悲痛な思いをしながら、レオンに尋ねた。常日頃から一緒にいたレオンなら何か知っているかもと期待を寄せて、

 

<…………………すまない、何も思いつかない。前日までいつも通りの彼だったのは確かだ。>

 

その言葉を聞いて顔をしかめるユエ、頭の中では300年前に囚われた当日のように「どうして」「何故」という言葉が堂々巡りしていた。そんな時、ハジメが軽く右手を上げてある疑問を口にした。

 

「なぁ、レオン。確かユエの叔父に融合紋を奪われたんだよな? じゃあ何で()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

『そういえば…そうですね。』

 

「それは、俺も気になってたんだ。」

 

ハジメがスバルとレオンの話を聞いて読み解いた疑問にクロウと士郎が同調した。そして、全員がスバル、もといレオンに疑問の眼差しを向けた。スバルも「そういえば…そうだよな?」と思いながらレオンが口を開くのを待った。そして、待つこと数分、レオンはゆっくり念話で声を響かせた

 

<………………………‘’死者の思想、生者は分からず‘’………死んだ人の考え、いない者の思想は生者には分からない、というこの世界の諺だ。俺の親友であり、ユエの叔父が何故、クーデターを起こしたのか? 何故、奪われた融合紋がスバルの手元にあったのか……知っているのはディンリードただ一人だ。>

 

‘’結局、自分は何も知らない‘’というレオンの主張にユエ、クロウとサラは意気消沈するかのように肩を落した。ハジメは黙ってそれを聞き、少し考えこんだ後に再びレオンに尋ねた。

 

「じゃあ、最後に聞くけどよ……………お前、俺たちの味方か?」

 

「おい、ハジメ!? レオンを疑っているのか?」

 

「…ハジメ。」

 

ハジメがレオンの真意を確かめるようにスバルを見つめた。この行動にはスバルは非難の声を上げ、ユエも戸惑いを隠せないのか小さな声でハジメの名を呟いた。ハジメとしてはレオンのこれまでの話しを聞いた時、どこかモヤモヤした感じがして、「何か隠している」「まだ、話せてない何かがある」と、そんな気がしたのだ。故にもう一度、レオンの言葉を聞いて信頼出来るかどうか判断しようと考えた。

 

<………………………。>

 

ハジメの意図が読めたレオンは直ぐにはしゃべらず黙り込んだ。スバルはレオンを急かすようなことは言わずに待ち続け、当麻、士郎、クロウとサラもその様子を見守った。ユエはハジメとスバルというよりもレオンを心配して、不安そうな目つきで交互に見ており、ハジメはしかめた顔で眉一つ動かすことなくじっとスバルを見続けてレオンが応えるのを待った。

そして、その時が来た。

 

<……俺はお前らの味方でありたい。何を言われようが、何を思われようが、スバルやユエを……いや、ここにいる全員を支えるつもりだ。まぁ、仮によこしまな考えがあったとしても、俺はもうスバルに取り込まれて何もできないがな……。>

 

静かにそう言うレオンにハジメは嚙みしめように聞いた後、目をつぶり先ほどのレオンの言葉を思い返した。その言葉に嘘や偽り、発声した声におかしな所がないか考えた。そして数分後、「ふぅー」とため息を漏らすとハジメは口を開いた。

 

「……今でも腑に落ちない所は確かにある。だが、スバルを助けてくれたのは紛れもない事実……………レオン、力を貸してくれ。俺は、いや俺たちは元の世界に帰りたいんだ。」

 

<………こんな俺でよければ、喜んで力を貸そう。>

 

そう言いながら目をあけるハジメの目は疑惑から、期待の目を向けていた。これを見て一安心したスバルは「ニィ」と笑い、ユエや士郎達、クロウ達もほっとして胸をなでおろした。

 

今、ここに一つの最強のパーティーができた。スバルはそう感じ取るのだった。

 




いかがだったでしょうか?
お互い何があったか事情を知る回となりました。知らないうちに親友が変わっていたらスルーせずにはいられません。一体何があったのか聞いてしまうのが人の性だと思います。ということでこの回が生まれました。

次回、ハジメ達はある人物の意外な一面とこの世界の真実を知ることになります。


読者の皆様、コロナに十分にご注意ください。

それではこの辺で、では、また…。


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ある人物の意外な一面と、この世界の真実。

どうもグルメです。

今回のお話しは長いです。次回で第一部、最終話にしたいため詰め込みました。ギャグだったりシリアスだったりと色々です。
それと、この小説では3つのかぎかっこを使い分けていますので解説を、

「 」は普通の人がする会話時。

『 』は幽体及び魂だけの状態の会話時。

< >は脳内に声が響いてくるような状態の会話時。

となっております。

これを踏まえて本編の方、どうぞ。


「そんじゃ、まぁ…お互いどういう経緯があったか知れたことだし、この反逆者の住処を調べ…『お待ちください、ハジメ殿。」ん、どうした?」

 

『暫し、時間をください…。』

 

ハジメが反逆者の住処の調査を提案しようとした矢先、いきなりサラが言葉を遮って時間を要求した。皆が「何事だ?」と思っているとサラはユエの前にやってきた。

 

『お嬢様、此度の件…本当に…申し訳ございませんでした。』

 

そう言ってサラは土下座し、今にも泣きそうな声で頭を深く下げた。クロウも気づかされたようにサラの横に並び片膝を立て詫びるように頭を下げた。ユエは表情を変えずに紅眼の瞳でジッとサラを見つめ、ハジメ達は何も言わず見守る中、サラは頭を上げて口を開いた。

 

『私はお嬢様に出会う前は、どうしようもない人間でした。故郷を滅ぼした人物を見つけては仇討ちを行い、己の拳を相手の血で染める日々を送っていました。』

 

「(師匠の過去にそんなことが………)」

 

サラの意外な過去に当麻、ハジメ達が驚いている中、急にサラは懐かしむように言葉を続けた。

 

『そんな時、私はディンリード殿に拾われ、まだ幼いお嬢様に謁見することになりました。そして、私の手を取って言ってくださいました「…とても綺麗な手」と。今もその温もりは鮮明に覚えています。』

 

そう言ってサラは自分の右手を少し見つめた。幼いユエが触れていった所を思い返し、謁見の後に大いに泣いた事を思い出した。

 

『お嬢様の言葉で歪んだ心は浄化され、お嬢様が触れた事で今までしてきた己の拳を見つめ直すようになりました。そして、誓ったのです、‘’私の拳はお嬢様を守るために、大切な人を守るために振る‘’と……それなのに…』

 

サラは言葉を詰まらせる、握り拳を作り、過去の情けなさに怒りをこみ上げてくるのをぐっと耐えながら再び言葉を続けた。

 

『いざ、ディンリード殿の前では……ためらったせいで…もしかしたら、考え直してくれる…そんな甘い考えもあって技も…拳も…出せず…捕まって身体と魂を分離させられ…………手を握り、お嬢様の温もりを感じるどころか、身体を張って守ることも………囚われていた場所から助け出すことさえ叶わず…300年も……毎日扉の前でただ己の弱さを懺悔するばかりでした……。』

 

サラは今にも泣き出しそうな声で自分の後悔を告げると最後に「お嬢様…」と前置きして、

 

『誓いを果たせず…救い出せなかったこと……………どうか、お許し…ください。』

 

「サラ姉……。」

 

サラは再び深く頭を下げると同時にすすり泣いた。無様な顔を見せたくないのかサラは頭を上げることはなくただ頭を下げ続け、「300年も何も出来なかった」、「ユエを救い出せなかった」その事に対しての罵声を待った。クロウもこのことに対しては言い訳も弁明もせず、自分達が未熟だったのが確かなので何も言うことはなく、ただ頭を下げ続けるしか出来なかった。ユエはその二人の様子をジッと見つめていた。

ハジメ達が「差し出がましいことは出来ないな。」と思い見守る中、いきなりユエが口を開いた。

 

「当麻、サラ姉の横に並んで姿勢を低くして。」

 

「えっ?」

 

「早くする。」

 

いきなり呼ばれて戸惑う当麻は催促されてようやく動き出し、ユエに言われたようしゃがみ込んで姿勢を低くした。サラとクロウはその様子をチラッと見ており、当麻が姿勢を低くしたのを確認すると再びユエが口を開いた。

 

「サラ姉、当麻と入れ替わって」

 

『お嬢様…?』

 

「いいから当麻の身体に入って、動けるようにして」

 

サラが困惑するなか言われた通りに当麻の身体に入りサラが当麻の身体を動ける状態になった。

 

「お嬢様、一体何…を……す……る?」

 

改めてユエに何をするのか尋ねようとした矢先、温かいものに包まれた。耳を澄ましていると「ドクン…ドクン」と音が聞こえてきてサラはそれがどこか心地よかった。

 

今、サラはユエに抱きつかれているのだ。

 

「こうしたら……私の‘’温もり‘’伝わるでしょ?」

 

「……お嬢様。」

 

母性を思わせる優しい言葉と温かい温もり、サラの鼓動が早くなると同時にどこか身体の重みが消えつつあった。

 

「サラ姉、私もね………叔父様と対峙した時、同じような気持ちだったの。‘’話せば、理解してくれる‘’とか‘’これは何かの間違い‘’とか、そんなことばかり考えて、目の前の現実を受け止めようとしなかった………だから、ろくに魔法も使えず、抵抗もできなかったの…………私がもっとしっかりしていたら、こんなことには…。」

 

そう悔やむように話すユエは、魔力の直接操作、自動再生等々の先祖返りの力に目覚めてから当時最強の一角に数えられ、そのこともあって若くして国の王になることが出来た。その気になれば叔父など敵ではなく、簡単に倒すことが出来たのだ。だが、最強といえどもその心は最強ではなく、まだ人生の半分も経験していない幼子であり、信頼していた叔父の裏切りのショックで戦闘意欲はほぼ皆無に、よって本来の実力を発揮することなくあっけなく捕まってしまったのだ。

 

「それと、サラ姉は「誓いを果たせなかった」って言うけど……サラ姉はちゃんと誓いを果たしてくれた。絶望の淵から私を救い出し、ヒドラの攻撃から私を守ってくれた。‘’会いたい‘’と願ったら……こうして私の前に会いに来てくれた。だから……」

 

そう言ってユエは優しくサラの魂が入っている当麻の顔を上げて女神のような微笑みで言った。

 

「…‘’ありがとう‘’って言わせてサラ姉、クロウ兄。今、こうしていられるのは…あなた達のおかげです。」

 

「姫…。」

 

「…お……じょう………う…わああああああぁぁぁぁぁーー!!」

 

その言葉にクロウは優しい笑みを浮かべ、サラは当麻の身体で泣きじゃくりながらユエに抱きつき、大粒の涙でユエの胸元を濡らした。そんなサラをユエは優しく受け止め、あやすように頭を優しくなでていくのだった。そんな様子を残りの者は優しく見守っていた………………………ここまでは、まだよかった。

 

 

 

 

 

「!?」

 

変化あったのはサラがユエに抱きついて数分後、急に目を細めて身の毛がよだつようにビグッとするユエ。それは何故かというと、

 

「あぁ~、おじょう様の胸、慎ましくも柔らかく張りのあるこの胸……すうぅぅ~はぁ~、300年経っても変わらないのですね。」

 

サラがユエの胸にすりすりと顔を寄せていたからだ。おまけに匂いも嗅いでおり、これにはハジメ、スバル達はドン引き、クロウは手に頭を当てて深いため息、レオンは「300年経っても、そこは変わらんか…。」と呆れていたのだった

 

「サラ姉……」

 

「はいお嬢、ごっぱッ!?」

 

返事をしたサラは顔を上げた途端に、‘’いったいその小さな身体にそんな力があった?‘’のと驚く位にユエはアッパーを放ち、サラもとい当麻の身体が飛んだ。

 

「これは許してない…」

 

「このやり取りも久しぶりですね、おじょう様。」

 

胸元を守るように呆れながら言うユエに、サラは顎を抑えながらどこか懐かしむように嬉しそうにニヤニヤとしした後、再びユエの胸に抱きついた。

 

「俺、この先信用していっていいのか心配になってきた。」

 

「俺もだハジメ、まさかこんな一面があるとは…サラさんに対するイメージが崩れそうだ。」

 

『身内の恥さらし、どうかご了承ください。』

 

ハジメと士郎がサラに対するイメージがかけ離れているなか、クロウはペコペコと頭を下げるしかなかった。

 

「当麻…お前、そんな一面があったのか……」

 

『ち、違うよスバル君! あれしているのは僕じゃなくて師匠、分かって言ってるでしょう!? ちょっと師匠、僕の身体で変なことしないで! 傷つくのは僕の身体なんだから!!』

 

当麻の身体を借りたサラを見つめながら言うスバルに、当麻は否定しつつサラに抗議していた。

さっきのシリアスはどこに行ったのか? というくらい周りが明るくなる中、レオンはただ一人この様子を静かに見ていた。ユエ、サラ、クロウを見る限り今の所、ディンリードの裏切りによるショックの陰りは見られず、引きずっている様子もなかった。まずは、そのことに一安心するのだった。

 

<(今はこれでいい………だが、いずれ真実は話さないとな…。)>

 

誰にも言うことなく、いずれしないといけない使命を思いながら、レオンは喧騒を眺めつつ静かになるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

サラの暴走が収まり、行動を起こす前にハジメとユエはスバルが用意した男の物の服(ユエに飛ばされた時、二人に着るものがないと察して適当な所から見つけてきた服)を着た。だがハジメはともかくユエには大きすぎたのかカッターシャツ1枚しか着れず、‘’裸にカッターシャツ‘’状態となり、それを見たサラが暴走して再び当麻の身体を使って抱きつこうとするも、士郎の身体を借りたクロウにアームロックをかけられ事前に阻止、自分の身体が痛めつけられる所を見て「僕の身体が~」と嘆く当麻をを慰めてから一向は反逆者の住処を探索することにした。

ベッドルームを出ると周囲は自然に囲まれて様々な種類の樹が生えていた。さらに人口の太陽(ユエ曰く、夜になると月なるとのこと)、天井近くから流れる滝、それからなる川、何も耕されてないが畑らしきものがあった。この光景にハジメ達は圧倒され、ここが迷宮の最奥だということが誰もが頭の記憶から離れかけた。

次にハジメ達はベッドルームに隣接した建築物、というよりも岩壁をそのまま加工した住居に向かった。見た感じは三階建てらしく一階から確認していくことにした。

リビング、台所、トイレ、を発見するも長年放置されている様子はなく綺麗のままだった。「誰かいて、掃除でもしているのか?」と誰もがそう考えながら進むと、再び外に出た。目の前には大きな円状の穴があり、その縁には口を開いたライオンのようなオブジェが鎮座しており、近くには魔法陣が刻まれていた。「これは、もしや……」とハジメ、スバル、士郎、当麻が顔を見合わせてハジメが近くの魔法陣に魔力を注ぐとライオンモドキの口から温水が飛び出した。4人が想像していた通り、これはお風呂だった。

 

「「「「よっしゃあ!」」」」

 

迷宮をさまよって久しぶりのお風呂に、4人の気持ちが高ぶった。彼らは生粋の日本人でお風呂大好き人間、寒い日には4人で近くの銭湯でお風呂に入ることもしばしば。「早く探索を終わらせて久々にゆっくりしたい」という想いを胸に一向は二階に足を向けた。

二階には書斎や工房らしき部屋を見つけるも開ける事が出来ず、封印されているのかスバルが力技で開けようとハジメが錬成しようともびくともしなかった。「何処かに鍵があるのかもな。」と士郎の言葉に皆が納得し、一向はここを保留して三階に向かった。

三階には部屋は一つしかなく扉を開けると目の前には直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。さらに魔法陣の向こう側には豪奢な椅子に座り、金の刺繍が施された見事なローブを羽織ったままの白骨化遺体があった。

 

「この住居の主…なのかな?」

 

「だと思うぜ当麻、いや~それにしてもRPGとかでよく見かける、魔法とか秘密の奥義を習得する部屋を現実で見られるなんてテンション上がるぜ。絶対この魔法陣、凄い力を授けてくれるに違いないって!」

 

当麻の疑問にスバルが同意、さらに言うとスバルはゲームやアニメとかでよく見かけた光景に胸を高鳴らせた。

 

「あまりはしゃぐなスバル、まだそうと決まったわけじゃないだろ? 何かのトラップが発動する罠かもしれない。ハジメはどう思う?」

 

士郎は興奮するスバルに落ち着くように言い聞かせた後、ハジメに意見を求めた。

 

「うーん、ここまで来て流石に罠はないと思う…確証はないけど。まぁ、地上への道を調べるには、この部屋の魔法陣がカギなんだろうし…入って調べるしかないだろうな。一応、俺一人が入ってみる。皆はここで待っててくれ、何かあったら頼む。」

 

「待てよ保険として俺も入るぜハジメ。何かあった時、中から俺とレオンが対応する。」

 

「わかった。その時はスバル、レオン、頼んだぞ。」

 

「あいよ。」

 

<…ああ。>

 

「ん……三人供、気を付けて。」

 

お互いの行動を確かめ合った後、ハジメとスバルは並んで魔法陣に踏み出した。そして、二人が魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げ、まぶしさのあまり目を閉じるハジメ達。やがて光が収まり、皆が目を開けた瞬間、魔法陣が淡く輝いており豪奢な椅子の前に白骨化遺体と同じローブを着ている青年が立っていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

目の前の青年はオスカー・オルクスと名乗り、どうやら事前に記録したものをホログラムのように立体化して映し出しているだけのようだ。それでもオスカーは語るのだ、反逆者と呼ばれる由縁、そして、この世界の真実。

 

 

 

その真実は、ハジメ達が聖教教会で教わったものと大きく異なり、ここにいる全員が驚愕すべきものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「………………話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

そう話を締めくくりオスカーの記録映像はスっと消え、魔法陣の光も収まった。オスカーの長い話しに二人はようやく一息つくことが出来た。

 

「とんでもねぇ話しを聞いちまったなハジメ。」

 

「ああ、そうだな。だが、俺たちの目的はここを出て元の世界に帰る、ただそれだけだ。この世界のことなど知ったこっちゃない。」

 

「……そうか。」

 

そう吐き捨てるように言うハジメに、どこか寂しく思うスバル。友を仲間を思う心は変わらずとも、その他は変わってしまったのだなと改めて痛感するのだった。

 

「例えどんなことがあっても………私の居場所はここ。」

 

そう言って、ユエはハジメに寄り添いその手を取るとギュッと握りしめた。これを見る限り、この世界に未練はないのだなと思うレオン。

 

「それにしても、この世界の戦争が全部仕込まれていたものなんて、ねぇ師匠。」

 

『………………………。』

 

「……師匠?」

 

この世界の真実を知り、鼓動が早くなるのを感じながらふとサラの顔を見ると無言で俯いていた。ただ、その顔は白目が見えるほど見開き、何かに耐えるように拳を握りしめていた。そんな様子のサラに当麻が声をかけるが聞こえてないのか反応がなかった。もう一度、声をかけようととしたらクロウに『彼女にも色々あるのです、今はそっとしておきましょう』と優しく止められるだった。

 

『それにしても、反逆者達はこの世界の自由を求めて戦っていたのですね。』

 

「そうなるとクロウ。ケレブリンボールもこの事実を知って神に戦いを挑んだじゃないのかな?」

 

『そうかもしれませんね……。』

 

士郎とクロウは反逆者もとい解放者の思惑を知り、クロウの能力の根源の持ち主ケレブリンボールも解放者と同じ、この世界の自由を求めて戦っていたのではないかと推測した。

その推測に皆が関心を寄せているとハジメが口を開いた。

 

「まぁ、ともあれここ誰もいないし使われてもいない、使える物は貰っておこうぜ。見ろ、この指輪。開かなかったドアと同じ紋章がしてある、これがあの部屋の鍵に違いない。」

 

「ハジメぇ……それ墓荒らし「道具は使ってなんぼだ! 有難く使った方がオスカーも報われるだろ?」

 

スバルの言葉を強引に遮るハジメ。いつの間にかオスカーの骸を調べていたのか、身につけていた指輪を発見し、びくともしなかったドアの鍵だと推測。「ついでにここにあるもの使おうぜ」というハジメのとんでも発言にユエ以外が少しひくのだった。

 

「そうそう、ユエ、当麻、士郎。お前らも魔法陣に入ったらどうだ? 今じゃあ誰も覚えていない神代魔法が手に入るぜ。」

 

「えっ、魔法が覚えられるの!? いよいよ僕も魔法が……。」

 

そう勧めるハジメに真っ先に食いついたのは、魔法を使うことが出来ない当麻だった。誰よりも先に魔法陣の中央に向かい、その後、「……ハジメが言うなら。」とユエが、「まぁ、覚えていて損はないよな。」と士郎が魔法陣に入っていった。再びオスカーが現れて先程聞いた話しを語り始めるも、もう聞いたので三人はそのまま魔法陣から出た。その様子を見たスバルは、

 

「何か博物館とかでよく見かける、展示の説明のボタンを押すだけ押してどっか行ってしまうような光景だな」

 

<何を言っているのか分からん…。>

 

スバルの例えがいまいち理解できないレオンは、淡々と話しているオスカーを見た。何となくだが、後ろの骸が心なしか悲しそうに見えた。

 

「うぅ……使えると思ったのに………神代魔法なら……いけると思ったのに。」

 

一方、当麻はというと地面に跪いて嘆いていた。やはりハナから魔力を持っていないためか魔法が使えなかったのだ。ちなみにユエ、スバルも上手く発動出来ず、ハジメ、士郎のみがこの魔法を修得する事が出来た。

 

『どうやら神代魔法にも適正があるのでしょう。ハジメは錬成師、士郎は調合の技能をお持ちです、それが関係していると思われます。』

 

『当麻、しっかりするのです。気を使いこなせば十分、魔法になしえないことだってあります!』

 

クロウはユエ、スバルが魔法が使えない理由を推測し、サラは当麻のフォローをして何とか立ち直らせると一向はドアを開ける事が出来なかった部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、あのオスカーの骸、あのまま放置しといていいのか?」

 

「あ~、邪魔だからスバル、後で片付けておいて。」

 

「ん…………畑の肥料………。」

 

「コラ、お嬢様! 亡くなった偉人をその様に言うのはいけません!」

 

<なぁスバル、ハジメはいつもこうなのか?>

 

「本当はもっと優しいはずなんだけどな…。」

 

 

 

 

 

 

 

一向はまず書斎に向かい、封印のドアを開けるとそこにはぎっしりと本が並べられていた。ハジメ達はそこで手当たり次第に地上に出る方法が書かれた書物が無いか探した。するとハジメがこの住居の設計図らしきものを発見、そこには今持っているハジメの指輪で三階の魔法陣から地上に出られることが書かれていた。さらにその設計図には一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにいることも分かった。これで住居内が綺麗だった理由に説明がついた。さらに探り入れるとユエが一冊の本を持ってきた。どうやらオスカーの手記のようでかつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常についても書かれており、その内の一節には他の6人の迷宮に関することも書かれていた。

 

「つまり、他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということか?」

 

士郎の言葉に皆が頷いた。手記によるとオスカーと同様に六人の‘’反逆者‘’もとい〝解放者〟達が迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。流石にどんな魔法を授けてくれるのかは書かれていなかったが……するとここで当麻がある考えを口にした。

 

「ハジメ君、もしかしたら残りの迷宮も攻略していったら帰る方法も見つかるんじゃないかな?」

 

その言葉にハジメは少し考えこんで

 

「当麻の言う通りかもな………よし。今後の方針が出来た。地上に出たら七大迷宮攻略を目指そう!」

 

「「「おうっ!」」」

 

「んっ」

 

『『はい!!』』

 

ハジメの言葉にそれぞれ返事をする者達、その様子をレオンは静かに見つめていた。

だいたい書斎を調べ終わった一向は工房へと足へ運んだ。

工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオスカーの指輪で開くことができた。中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては宝の山が見紛うほどであった。スバル達も興味本位であれやこれやと見ていく中、ハジメだけは腕を組み少し思案していた。そんなハジメに気づいたユエが首を傾げながら尋ねた。

 

「……どうしたの?」

 

「いや…あのさ皆、しばらくここに留まらないか? 使えるものは貰ってさっさと地上に出たいのは俺も山々なんだが……せっかく学べるものも多いし、こは拠点としては最高だ。他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい。どうだ、皆?」

 

そう提案するハジメ、すると真っ先に賛成を唱えた者がいた。

 

『それは良い考えです。是非、やりましょう! なにぶん、当麻に気の使い方を伝授する時間が欲しかったのです。ついでにその身も、心もキッチリ鍛え直しましょう!』

 

そう言ってサラは両手を胸の前に置き"ぞいの構え"をしていた。そして、幽体のはずなのに何故だかサラの身体から熱気が出ているように見えたのだ。

 

「師匠、物凄いやる気に満ちている…。」

 

『彼女はだいの特訓好きでして、それはもう鬼のような過酷な量の特訓をさせられますよ…。』

 

クロウはそう言ってどこか遠い目をしており彼も過酷な特訓の被害者だろうと察した当麻は、どんな事があったのかは聞かないでおくことにした。ただ……

 

「(僕、地上に出る前に死なないよね……)」

 

ふと当麻の脳裏にその様なことを思い浮かべたが、すぐに切り替えてなるべく考えないようにした。その後、レオン、クロウもスバル、士郎にまだまだ教えたいことがあるため賛同し、「もっと強くなれるなら。」という理由でスバル、士郎も反対することはなかった。そして、ユエは

 

「……ハジメと一緒ならどこでもいい」

 

そういうことなので反対も何もなかった。ユエの不意打ちにハジメはどこか頬を染めるも「ゴホン」と咳払いして照れくささを誤魔化した。

 

 結局、ハジメ達一向は当分の間それぞれパートナーと共に、ここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになり、その後、ハジメ達は四つに別れた。

ハジメとユエ(ユエはハジメと一緒にいたいので付き添い)は早速工房にこもり、今頭の中で考えている事を錬成を使って形にしていった。当麻とサラは、サラが当麻の身体を借りて昨日の戦いでの疲労が残る身体に鞭打って早速特訓に入り、士郎とクロウは、士郎が夕食を作り、クロウが食べられる食材が無いか住居区の近隣を探し回った。そしてスバルとレオンはオスカーの骸を持って畑の端に埋め、墓石も立てて丁重に供養した。

 

 

その時、ちょっとした不思議なことがスバルとレオンの前で起こったが、それはまた別の機会に話すとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

「はい、お粗末さまでした。」

 

出て来た夕食を残さず食べて満足げに言うスバルと当麻、その言葉を聞いて洗い物をしながら笑みを浮かべて答える士郎。スバルはオスカーの埋葬が終わった後、いい匂いにつられてキッチンに向かうと丁度特訓が終わりヘロヘロ状態で椅子に座っている当麻と一緒に夕食を取ったのだ。

 

「流石は‘’ウィステリア‘’のコックさん、美味かった~」

 

「本当久しぶりだよね、士郎君の料理。」

 

『私も驚かされましたよ、料理の手際の良さに。』

 

「おいおい、褒めても何も出ないぞ。」

 

スバル、当麻、クロウの言葉にどこか照れくさそうに笑う士郎。

ちなみにウィステリアとは士郎が居候している場所で、園部優花の家族が経営している洋食屋さんでもある。小さい頃からお手伝いをしており、料理のいろはもそこで学び、今では士郎一人が厨房に立っても十分やっていけるぐらい料理の腕が上がったのだった。

 

『ところで士郎殿、ハジメ殿とお嬢様はどこに?』

 

スバルと当麻の食事中、全く顔を見せなかった二人にサラは疑問を抱き士郎に尋ねた。

 

「ああ、二人ならとっくに食事を終わらせて行ったよ。また、工房の方に戻ったんじゃないかな? 」

 

その言葉にスバルは「アイツ、集中すると必要最低限のことしかしなくなるんだよな~」とひとりごとのように言って、当麻も「邪魔したら悪いから、今はそっとしておこうか。」と口にして向こうから話しかけてくるまで待つことにした。サラは『私の入る隙間、なくなっちゃいましたね…。』と小さな声でユエの恋する様子を喜びつつも、どこか寂しく感じ儚げな顔をしていた。

ここで士郎が「そうそう…。」と前置きして

 

「スバル、当麻。先に風呂に入ってきたらどうだ? 丁度いい感じに湯船が溜まっていると思うぞ。」

 

それを聞いた二人は顔を見合わせて、

 

「入るか、当麻。」

 

「うん」

 

そう言って二人は席を立ち、お風呂場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠…………どうしても入るのですか?」

 

『当たり前です! 私だって入浴したいのです。約300年ぶりのお風呂なのですから!』

 

「何だかな……。」

 

ウキウキ気分に話すサラに対して、どこか複雑表情でため息をつく当麻。それもそのはず、サラも当麻の身体を借りてお風呂に入るということでついてきており、今スバルを含めた三人でお風呂の脱衣場に向かっていた。当麻としては大人の女性のサラに思春期真っ只中の自分の身体を見られることに抵抗を感じていたのだった。

サラが言うには、幽体の状態では湯船に浸かっても温度も湯船に浸かっている浮遊感も感じられず、それを聞いた当麻は「ユエさんの身体を借りて入浴出来ないのか?」と尋ねるも、どうやら他の身体に入り込むことが出来ないみたいで、一度入ってしまった身体のみ魂の出入りや身体の操作が出来るのだった。

その話を再び思い出し、ため息をつく当麻。それを見たスバルは、

 

「そうため息つくなよ、タオルを巻いて入ればいいじゃないか。ここは異世界なんだし、わざわざ元の世界のマナーを守る必要なんてないだろ?」

 

『私も見ないようにしますので。仮に見えてしまっても私は何の動揺はいたしません………………………まぁ、散々クロウのモノを見てきましたし……

 

「「えっ?」」

 

スバルと当麻は思わずサラの顔をみた。

 

『…ほら、早く行きますよ////』

 

サラ自らの爆弾発言に頬を赤く染めて、いそいそと脱衣場に向かった。スバルと当麻はよく聞き取れなかったが、何か凄い発言を聞いたのは確かだと思いサラの後を追った。その後、サラの後ろからついていく形で二人が歩いていると前方に脱衣場の扉が見えてきた。サラは自分で開けれないのか扉の前で待っていた。お風呂場は脱衣場を通った先にあるのだ。

ここでスバルはある事を呟いた。

 

「お風呂に入ろうとしたらヒロインの女の子が先にいたりするよな? 俺、そんなシチュエーションに憧れているんだよね~。裸体はもちろん、可愛い反応が見れるからさ。」

 

「もう、スバル君。そんラノベみたいな話、現実に起きるわけ………………………ん?」

 

スバルの何気ない一言に否定的だった当麻だが、よくよく考えたら自分達は異世界に飛ばされ、迷宮という名のダンジョンをさまよい、魔物と戦ってきた。非現実的だと思っていた事が実際に起こり身をもって経験してきた。そうなるとスバルが言ったことも実際にあり得るのではないかと考えを改めた。

そして、自分の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ま、待ってスバル君!!」

 

とっさにスバルを呼び止めるも時すでに遅し、スバルはドアノブに手を伸ばしてドアを開け放ったっていた。

 

「えっ、何か言ったか当……マ……」

 

スバルは当麻の顔を向く前に、あるものを見て固まった。

 

 

「………………………。」

 

 

 

そこには早速フラグ回収と言えよう。バスタオルで身を包み鏡の前で髪を結わうユエの姿があり、こちらを見てキョトンとしていた。

 

「………………………。」

 

「あわわわわ……////」

 

ラノベによくあるテンプレな状況にスバルは慌てることもなく、意外にも喜ぶことはなかった。当麻はユエがタオルで身体を隠しているとはいえ裸に近い姿に顔を赤く染めてあわてふためいていた。サラも同様「お嬢様…////」と言って顔を赤く染めて、レオンも<普通こうなるか?>と呟いていた。ユエは未だに固まったままだった。

そんな中、スバルは「なぁ、当麻…。」と前置きして

 

「こういうのは期待するもんじゃないな……想像だにしないからこそ初めて喜びって生まれるんだな。」

 

「何冷静になって解釈してるの!? 元を辿ればスバル君が変な「…ねぇ」ひぃ。」

 

「……誰の許しを得て…ココニ来タノ?」

 

ようやくユエは自分が置かれている状況を理解し、ユエの金色の髪が自然にほどいいて何故だか触手のように動き、声のトーンを下げてスバル、当麻を睨み付けた。楽観的に見ていたスバルも流石にヤバいと感じ始めたのか無意味な言い訳をし始めた。

 

「ま、待てって。俺は士郎からハジメと一緒に工房に戻ったって聞いたからここにいるなんて思っていなかったんだよ!?」

 

「今すぐ立ち去るから、後で全力で謝るから今は見逃して………って師匠!? 何で僕の身体を操って動かないようにしているの!!?」

 

<いえ、タオル姿のお嬢様をこの目に焼き付けようと……そんでもって許しを得るならお嬢様のお背中でも流そうかと…////>

 

「こんな状況で何言っているのこの人!?」

 

一刻も早く当麻は立ち去りたいのにサラが身体を支配して動けないでいた。そして、スバルは

 

「後は任せた。お前の死は無駄にしない!」

 

「そんな、スバル君!? ズルいよー!!?」

 

そう言ってスバルはユエに背を向けて当麻を置いて走り去ろうしたが、その前にユエが右手をスッと上げて魔法を放った。

 

「二人共…反省……嵐帝ッ!!

 

「「アッーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」」」

 

極太の竜巻に二人は巻き込まれ、そのまま竜巻と一緒に廊下の先にある壁を突き破って近くの川に落とされた。

 

<(アホらしくなってきた…。)>

 

スバルの身体が川底に沈んでいく中、レオンは呆れながらそう思った。ちなみにサラは当分の間、ユエに口をきいてもらえなかったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スバルと当麻の叫び声聞こえたような…………………気のせいか?」

 

湯船に浸かってまったりとするハジメ、二人の叫び声が聞こえてきたかのように思えたが、お風呂が気持ち良すぎてどうでもよくなり思考を放棄した。

だが、この時ハジメは知らなかった。

 

「……フフ。」

 

すぐ近くまで恐ろしくも美しい淫魔(ユエ)が迫っていたことに。後に別の意味で叫び声を上げることになることもまた、ハジメは知る由もなかった。

 




ありふれ噂話




当麻「どうも、進行役の当麻です。」

クロウ「やあ、はじめまして。クロウ・ニッケルことクロウです。よろしく。」

当麻「今日は佐助君じゃないのですね…クロウさん佐助君は?」

クロウ「彼ならお休みして頂いています。無理を言って出番を代わって貰ったのですよ。何せ今回の噂話は私達がいた王国に関する噂話ですから。」

当麻「へぇーそうなんですね。それじゃあ読み上げもお願いします。」

クロウ「わかりました。それでは早速ですが、ありふれ噂話………………」












クロウ「姫に性知識、夜の営みのあれやこれの教師をしていたのは、サラなんですよ。」




当麻「何とまぁ…//// ディープな話しですね////」

クロウ「元々王国内に仕えている別の女性の方に教師をして貰うつもりだったのですが…サラがどうしてもと必死に頼み込むので仕方なくその女性の方に教師を代わって頂いたのですよ。」

当麻「…………ちょっと待ってください。そんなことしたら師匠、ユエさんにセクハラ行為しまくりなのでは?」

クロウ「当初はそんなことなかったのですよ。ただ授業するに連れて姫に対してのスキンシップが多くなり、姫も当時は純粋でしたからね……それを受け入れていたのですよ。」

当麻「ユエさん、当時はどんな心境だったんだろう……………」

クロウ「それで、ここから面白くなるのですが………ある日、サラがやってきて「夜のあれやこれを教えるにあたって、やはり経験なしでは教えられません。だから経験相手になってください」って大胆にお願いしてきたのですよ。」

当麻「えぇーっ!? それでクロウさんは、何て答えたの!?」

クロウ「恋人になる前提としてOKしましたよ。教材だけの関係は嫌ですからね。あっ、ちなみに…恋人になる前からお互い意識はしていました。二人で行動することも多かったし、付き合いは長いので。どちらもきっかけが欲しかったのですよ。」

当麻「そうだったんですね。それで…その//// ………二人で経験を積んで//// 無事に授業を納めたのですか?」

クロウ「………………実は最後の最後にサラが大事件を起こして……。」

当麻「えっ?」

クロウ「…………この続きは、次回話します。長くなりそうなので。」

当麻「あっ、はい。(師匠、何やらかしたんだ…!?)」

クロウ「それじゃあ、この辺で…また次回お会いしましょう。」













いかがだったでしょうか?
あれこれ書きたい想いが積もったら、こんなことになりました。非常に申し訳ございません。いつまでもオルクス大迷宮にとどまるわけにはいきませんので…。ここを出てのハジメ達の冒険はもちろん、クラスメイトの話しも書きたいので、この1話に色々詰め込みました。噂話も長くなりそうなので次回に持ち越しです。

次回、第一部最終話です。そんなに長くはならない予定です。


それではこの辺で。では、また……。


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旅立ち

どうも、グルメです。

いよいよ第1章、最終話となります。いや~、ここまで本当に長かった。

とりあえず、どうぞ。


鍛錬と装備の充実を図ることを決めて二ヶ月と十日が経った。今日この日、事前に皆で話し合い地上に出ようと決めた日だ。必要なものを宝物庫と呼ばれる指輪型の道具入れに、詰めるだけ詰めて三階にある魔法陣に向かおうとした矢先、スバルが「なぁ、その前にさ…。」と言ってある提案をした。それは……………

 

 

 

 

 

 

 

「「「「お世話になりました!!!!」」」」

 

「…ん」

 

ハジメ達とユエ、幽体姿のクロウとサラはオスカーの墓標で頭を下げていた。スバルの提案、それはここを使わせて貰ったオスカーに感謝をこめて挨拶をしておこうとのことだった。

スバル曰く「お世話になった人の感謝は忘れない、それは故人も同じ。」と親父の教えみたいで、その発言に士郎や当麻が賛同し、奈落に落ちて言動、考えが荒っぽくなったハジメでさえ一理あると納得し、こうしてオスカーの墓前までやって来たのだ。

ある程度、頭を下げていた一同は頭を上げてお互いを見た後、ハジメの「行くか。」という言葉に皆が静かに頷き、オスカーの墓標を後にした。皆が墓標を背にした時、ここで一つの風が吹いた。そよ風程度で大したことはなかったのだが、ここはある意味密閉空間、風が吹くことは考えにくいのだ。再び一同はオスカーの墓前の方を見た、変わらずオスカーの墓標が佇んでいるだけだった。

 

「何となくだけどさっきの風、オスカーが「頑張れよ」と言っているような気がした。」

 

<その通りかもな…。>

 

スバルの発言で何となくそう思えた一同は再び背を向けて魔法陣に向けて歩き出したのだ。

 

 

 

 

「それにしてもさ、ハジメのその姿もさまになってきたよな。」

 

「スバル、本当は今でも「中二病ww」って俺のこと馬鹿にしていないか?」

 

「いやいや、違げーよ。もうそんなこと思ってないって。」

 

「どうだか…。」

 

ジト目でスバルを見るハジメ。あらためてハジメの姿を見てみると、白髪の頭、失った右目は錬成で作った魔眼石と呼ばれる義眼(魔力感知など色々性能つき)をつけるも、それでも目立つので仕方なく黒の眼帯をつけ、失った左腕はオスカーが生前作った義手にハジメが改造を施し、様々なギミックが備わっている物を取り付けた。そして服装だがオスカーが持っていた服を改造し、黒のロングコートに中は黒のベストに白のカッターシャツと‘’ジェントルマン‘’という言葉が似合う紳士的な服装をしていた。

ちなみに初めてこの格好をした時、皆が「似合う」という中、スバルだけ「中二病全開だなww」とからかい、本人も気にしていたためか四つん這いになって全力で落ち込み、丸一日中部屋に引きこもる事件が発生し、ハジメはユエにあの手この手で慰められ、スバルは士郎に滅茶苦茶怒られるはめになった。

 

「でも、ハジメ君。お世辞抜きでその格好、似合っているよ。」

 

「…ん ハジメは何着てもカッコイイ。」

 

「ありがとう、ユエ、当麻。なぜだろう、お前らのその言葉…スバルよりも大分心に響くぜ。」

 

「ハジメさ~ん、俺だけ酷くありませか?」

 

ハジメのもの言いにどこか不満を漏らすスバル。ちなみに二人の格好だがユエは白のクリーム色のコートに中は白いカッターシャツ、膝まである黒いスカートで身を包み、当麻は黒のスーツに黒のネクタイ、白いカッターシャツを着込んでいた。

 

『それにしても、士郎殿の裁縫技術には驚かされました。』

 

『ええ、全くです。私も破れた所の修復はまだしも、一から服を作るのは流石に………』

 

「いやいや元の服があったから、そこを少し加えただけだ。そんな大したことはしてないって。」

 

サラ、クロウが関心するように言うなか士郎は照れ隠しなのか「いやいや」と手を振って笑っていた。二人が言うようにハジメ、ユエなどのここにいる全員の服を製作したのは士郎であり、多少の手伝いはハジメやユエも加わったがほぼ士郎一人で作り上げたのだった。そんな士郎は黒いフード付きのマントで身を包み、中は黒の動きやすい服装にハジメ製作の銀色の胸当てを装備していた。

 

「士郎、また一緒に作ろうね…」

 

「あ~ユエさん。エッチな下着作りは堪忍してくれ// 俺も男の子だから////」

 

士郎はユエと一緒にハジメとの夜戦用の衣装も作っており、流石に出来た物を士郎の前で試着することはなかったが作るにあたって色々想像してしまうことも…士郎はそのことをふと思い出し少しだけ頬を染めた。

 

「それにしてもどこで覚えたんだ? 服の作り方なんて?」

 

「小さい頃、おふくろに教わったんだ。多分、優花の所に居候するにあたって迷惑がかからないように家事の一つとして教えたんだと思う。」

 

スバルの問いにそう答える士郎。士郎の両親は海外を飛び回っており年に1、2回しか帰ってこない。ほぼほぼ優花の両親にまかせっきりなので迷惑がかからないように、一人で何でもこなせるように家事全般を母親から学んでおり、その一つが裁縫と服作りだった。

 

「ちなみにスバルの服作りが一番簡単だった……お前、何でこの世界に来てまでジャージなんだよ。」

 

「おいおいジャージを馬鹿にするなよ。動きやすいし、暑かったらすぐに脱げる。服装のあれやこれで悩む必要が無いんだからな。」

 

どこか呆れたように言う士郎、彼の言う通りスバルの服装は黒と白のジャージに身を包んでいた。本人は戦闘での動きやすさを重視してこの服を士郎に頼んだのだ。

 

「ジャージの事をとやかく言うのだったら、何で当麻はスーツ何だよ?」

 

「えっ……いや、スーツで戦う人っているじゃない? それに憧れていて……言っておくけどこのスーツ見た目以上に動きやすいんだからね。」

 

そう言って当麻はシーツを着ている理由を述べていると、一向はいつの間にか三階の魔法陣の前まで来ていた。

するとここでハジメが皆の方に向き直り、どこか決意を決めた表情で静かに告げた。

 

「皆、聞いてくれ…………俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということは考えにくい…兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性が極めて大きい。教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共………いや…この世界の全てを敵にまわすヤバイ旅になるかもしれない………」

 

ハジメの言葉に皆、黙って聞いていた。この緊迫した状況に口をはさむ者などいなかった。ハジメは一呼吸おいて再び口を開いた。

 

「それでも俺は帰るために前に進む…例え障害が立ちふさがっても…目の前に魔物や人間、神、はたまたクラスメイトが立ちふさがるものなら…殺してでも前に進むつもりだ。」

 

「「「………………。」」」

 

その言葉にスバル、当麻、士郎に緊張が走った。ハジメの言葉に冗談が見受けられない、‘’決めたからにはやる。‘’そんな意志を感じ取ったからだ。

 

「皆が俺のようになれとは言わない……………ただ、敵対する者を殺す覚悟、前に進む勇気がないのなら…ここで申してくれ。安全な所まで送って、そこで全て終わるまで待てばいい。」

 

「「「「………………。」」」」

 

『『…………………。』』

 

<……………………。>

 

そう語り終えるとハジメは皆を見渡した。ユエ、スバル、当麻、士郎にサラやクロウ、スバルの中にいるレオンも口を開くことなく黙り込み、ただ真っ直ぐに決意に満ちた目でハジメを見つめていた。辺りが静寂に包まれる中、その静寂を打ち破ったのは彼だった。

 

「ハジメ、ここまで来て一匹狼になるだなんてそりゃあないぜ。俺は最後までお前の旅について行く、例え世界が敵に回っても俺はお前の味方だ!……それに俺たち4人、月下で親友の契り交わし、共に誓い合った仲じゃないか……忘れたのか?」

 

ニィと白い歯を見せて笑いつつ、あの日4人で誓いを立てたことを口にするスバル。

 

「僕もハジメ君の旅について行きます。親友を守るために…大切な人を守る強さを得るためにね。」

 

「正直言って他のクラスメイトの連中、優花達の事も心配だが………まぁ、帰るなら元の世界に戻る手段を持って帰った方がみんな喜ぶだろうな。」

 

それぞれ目的のためにハジメの旅について行く事を決意表明する、当麻と士郎。

 

『私達は常に…。』

 

『お嬢様と共にあります。』

 

ユエのいる場所が二人の居場所であり、例え身体を貸している当麻、士郎が旅について行かなかったとしても、魂だけになってもついていく覚悟があったクロウ、サラ。

 

<………スバルにも、ハジメにも力を貸すと約束した。その約束はキッチリ守るさ。最も今の俺に拒否する権利はないのだがな…。>

 

何を思い、何を考えているのか誰も分からない。ただ、スバルにもハジメにも約束を交わした。その約束を守るために動くレオン。

 

「………私の居場所はいつだってハジメの隣。それはどんな時も変わらない…。」

 

封印を解き、自分の命を顧みずに魔物から守ってくれた時から心に決めていた。‘’ハジメについて行く‘’と。そんな想いを胸に、ハジメの右側に立ち、愛おしそうに見上げながら腕に抱きつくユエ。

全員の決意と覚悟を聞いたハジメは「不要な問いかけだったか…」と苦笑を浮かべた後、高々に声をあげた。

 

「行くぞみんな!! 俺達は最強、全部薙ぎ倒して、世界を越えるぞ!!」

 

「「「おうッ!!」」」

 

「んっ!」

 

『『はいっ!!』』

 

<…ああ。>

 

ハジメの声に応えた者達は魔法陣に入っていった。するとハジメが持っているオスカーの指輪に反応してか青白く魔法陣が光ってハジメ達を包み込むように輝き出した。皆が久しぶりに外に出ることに期待を寄せている中、スバルはもう一人の大切な親友、‘’レム‘’のことを思っていた。

この二ヶ月間、ひと時も忘れることなく、ふと彼女の顔が浮かび上がっては「元気にしているだろうか?」とか「クラスメイトと仲良くやっているだろうか?」と考え、そして、「今でも俺達のこと信じて待ってくれているだろうか?」と想うことがあった。本当は早くにでもレムの前に現れて安心させるべきなのかもしれない…でもレムの周りには優花、妙子、奈々と仲良しの親友がいる。普段の彼女らの様子からして「彼女らがレムを支えてくれる。だから、大丈夫。」と、不思議な自信があった。

 

だからスバルは心の中でレムに言葉を送った。

 

「(悪いレム。約束を果たすのはもう少し先になりそうだ…俺が、いや…俺達が必ず元の世界に戻る方法を見つけてくる…だから、待っていてくれ! 必ず、帰る手段を持ってレムの元に会いに行くからな!)」

 

この言葉が、想いが、どうかレムに届きますようにと願い、スバルとハジメ達は魔法陣から姿を消し地上に旅立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この時、スバル達は知る由もなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ハジメさん、士郎さん、当麻さん……スバル君。)」

 

一人の少女が白いローブを身にまとい、オルクス大迷宮を歩いていた。その少女の名はレム。スバル、ハジメ達の大切な親友の一人だ。

 

「(私が必ず連れて帰ります…………だから…………どうか、ご無事で…)」

 

4人の安否を願いながら、奥へ奥へと進むレム。この先、何があっても止まること無いだろう。

再び4人と再会するまでは…………………

 

 

 

 

 

第1章 完

 




いかがだったでしょうか?
自分でもここまでたどり着いたことに褒めたいと思います。
思えば、ありふれた職業で世界最強のコミック版をたまたま読んだことをきっかけに、なろう、ラノベを読んで妄想が膨らみ、二次小説を書くに至りました。
最初に投稿したのが2018年11月20日ですから、ここまでに約1年半くらいかかりました。ここまで続けられたのは、評価、感想、お気に入りに入れて下さった読者の皆様のおかげです。(欲を言えば、もう少し感想が欲しい所です…。)
本当にありがとうございます!


今後とも、地道に続けていくつもりですのでよろしくお願いします。


次回のお話しは番外編、クラスメイトが王国に戻った時のお話しを書きたいと思います。
今のところ多分、胸糞展開になると思います………。

ありふれ噂話しの続きは、あとがきの関係で次回に持ち越しとさせていただきます。
ノリで書いているのですが、読者から見れば面白いのでしょうか? 時おり疑問に思います。


とりあえず今日はこの辺で、ではまた…。



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1.5章 少女達の決意。
帰ってきてからの出来事…


どうも、グルメです。

第一章に入る前に番外編クラスメイトサイドのお話しをしたいと思います。

それでは、どうぞ。



日が昇りきっておらず、まだ冷たい空気が流れている早朝時、日課の鍛錬を終えた月山イツキはハイリヒ王国王宮内の廊下を歩き、自分の一室を目指していた。

 

「(あれからもう、1週間経つのか…)」

 

あの日、迷宮での死闘と4人のクラスメイトが落ちてから既に1週間が過ぎていた。その期間、様々な出来事が起こっており、イツキはどこか複雑な表情を浮かべながら、この1週間の出来事を思い返した。

 

 

 

 

あの日、迷宮を脱出したクラスメイトと騎士団長メルド率いる騎士達は宿場町ホルアドで一泊したのち、メルドの判断で早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなく、今後の魔人族との戦争で活躍出来るどうか別として勇者の同胞が4人も死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

それに、厳しくはあるが、こんな所で折れてしまっては困るのだ。先の致命的な障害が発生する前に、勇者一行、もといクラスメイトのケアが必要だという考えもあった。

さて、早急に帰ってきたクラスメイトと騎士団は4人の同胞が死んだことを王国に報告、王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが無能のハジメ達と知ると安堵の吐息を漏らした。強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。‘’神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならない‘’、国王やイシュタルを含めた王国側はそんな考えを持っていたからだ。

 

ただ、国王やイシュタルはまだ分別のある方だった。中には悪し様にハジメ達を罵る者までいたのだ。

 

もちろん、公の場で発言したのではなく、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあるが。やれ死んだのが無能でよかっただの、神の使徒でありながら役立たずなど死んで当然だの、一方では士郎の有能を知っていた者は3人の無能に足を引っ張られ巻き添えを喰らっただの、それはもう好き放題に貶していた。まさに、死人に鞭打つ行為に、イツキや彼らと仲が良かったレム達は憤激に駆られて何度も手が出そうになった……ある人物を除いて。

 

「おいゴラァ!! お前らのために頑張っているのに、何だその言い草!? それが戦っている者に対して送る言葉かッ!!」

 

たまたまこれを聞いたガヅキは激怒、ハジメ達を罵った人物達をボコボコにする事件が王宮内で発生し、騒ぎを聞きつけた光輝に止められる事となった。事件の経緯を知った光輝は激しく抗議したことで国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、ハジメ達を罵った人物達は処分を受け、事件を起こしたカヅキは問題を起こしたとして地下牢に2日間入れられる事となった。(カヅキ本人はこの処分に納得はしてなかった。)

この事件をきっかけに光輝は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まって光輝の株が上がる事となり、逆にカヅキは野蛮人という認識とされ王国側に警戒される事となった。そして、ハジメ達は勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は決して覆る事はなかった。

あの時、自分達を救ったのは紛れもなく、勇者も歯が立たなかった化け物をたった四人で食い止め続けたハジメ達だというのに。そんな彼らを死に追いやったのはクラスメイトの誰かが放った()()()だというのに。クラスメイト達(レム達の一部の生徒を除いて)は図ったように、あの時の誤爆の話をしない。自分の魔法は把握していたはずだが、あの時は無数の魔法が嵐の如く吹き荒れており、〝万一自分の魔法だったら〟と思うと、どうしても話題に出せないのだ。それは、自分が人殺しであることを示してしまうからであり結果、現実逃避をするように、‘’あれはハジメ達が自分達で何かしてドジったせいだ‘’と思うようにしているようだ。まさに死人に口なし。無闇に犯人探しをするより、ハジメ達の自業自得にしておけば誰もが悩まなくて済む。大半のクラスメイト達の意見は、意思の疎通を図ることもなく一致していた。

 

「おい、お前ら!! 今ここに生きて居られるのは彼らのおかげだろ!? 何故、感謝しない? 何故、だれもかれもが真実を追い求めようとしない!?」

 

地下牢を出たカヅキはこの話しを佐助に聞いてまたもや激怒、クラスメイト達に嚙みつき、ハジメ達と仲が良かったレム達も真実を明らかにするように呼びかけるが誰も耳を傾ける者はいなかった。

メルド団長もこの件に関して責任を強く感じており、‘’有耶無耶にしたら問題になる‘’‘’事実はどうあれ白黒はっきりさせた方がクラスメイトのためになる‘’と生徒達に事情聴取を考えていたが、何故だかイシュタル、国王がクラスメイトへの詮索を禁止ししたため、メルド団長は仕方なく目をつぶるしか方法はなかった。

 

そして、窮地を招いた檜山はというと案の定、クラスメイトから批難が待っていた。檜山はひたすら土下座で謝罪を続け、最終的にクラスメイトが見守る中、光輝に土下座を行い「これ以上、檜山を責めても仕方がない」「彼も充分に反省している」という光輝の言葉で批難は収まり、あっさりと許されたのだ。もちろん、お咎めなしだ。

この謝罪劇に光輝の言葉もあって大半のクラスメイト(中にはうけつけないもの疑問視する者もいた。)は受け入れたが、光輝の幼馴染の雫は、薄々檜山の‘’光輝に謝れば取り持ってくれる‘’という魂胆に気づいており幼馴染を利用されたことに嫌悪感を抱き、察しが良いイツキや佐助は計画性のある檜山の謝罪に呆れるしか他はなかった。そして、カヅキもまた………。

 

「とんだ茶番だな、ぐだらなすぎる」

 

吐き捨てるかのように言うと、一人だけ部屋から出ようとした。カヅキの言葉は全員が聞いており当然、光輝の耳にも入っていた。「茶番とはどういうことだ!?」と光輝が叫ぶ中、カヅキは扉の前で大きなため息をついた後に大きく宣言するかのように口を開いた。

 

「茶番は茶番だろ、何度も言わせるな! それと俺は今日を持ってクラスメイト(お前ら)と共に生活するのをやめる!! 命の恩人には感謝せず、罪人をあっさり許すような連中と飯なんか一緒に食えるか!!!」

 

そう言ってイツキの制止も聞かずに部屋から出て、必要最低限の物をまとめたら王国側に何も告げずに王宮から出て行った。そして、王国を守る城壁のすぐ近くの森林で一人野宿を始めたのだ。それが今日から3日前ののことである。

 

 

 

「(気持ちは分からなくもないけど……あまり心配をかけないで欲しいな…兄さん。)」

 

そう思い大きなため息を吐くイツキ。

兄は基本、曲がったことが嫌いな性格で、自分を助けてくれた人に対して敬意を払う人間だ。今回の件、ハジメ達に助けられて心の底から感謝しており、周囲からもっと称賛されるべきだと考えていた。しかし、現実は非常であり王国側は誰一人称賛するどころか嘆き悲しむ者さえおらず、また、クラスメイトの大半は誤爆の真実を恐れ、感謝の言葉どころか逃げるかのようにその話しをしようとしないのだ。兄が激怒するのも無理のないことだと思えてきた。

そしてカヅキの野宿だが、これを聞いた時イツキは大反対した。剣の修行で山籠もりは二人共経験はあるが、それでもサバイバル知識は皆無、王国の外は兄の強さと比べたら大した魔物は出ないがそれでも何が起こるか分からない。必死になって兄を説得するも聞き入れことはなく、仕方なくイツキは城の近くでする事を条件に野宿を許して、1日1回はイツキ達が様子を見に行くことにしたのだ

 

「(今のところ問題はない………けど兄さん、いつの間に()()()とあんな親密な関係になっていたんだ?)」

 

当初は、食べる物とか食料を兄一人で調達出来るかどうか心配していたが、意外にもその心配は杞憂に終わり、何とこの国の王女がこっそりとその日の食料を持ってきてくれるのだった。カヅキは最初の頃は王国に世話になるつもりはなく、きっぱりと断っていたのだが兄にも劣らず王女はどこか頑固な一面で一歩も引くことはなかった。

結局、王女の思いを無下に出来ないという考えもあってか兄は食料持ってくる事を許可し、僅かな時間だが兄と王女は一緒に過ごすようにもなった。イツキはそれを遠くで見守り、不敬が無いかハラハラしていたが意外にもその様なことはなく、むしろイイ感じの雰囲気にも見えるのだ。

今日ぐらいにも王女と親密になったきっかけでも尋ねてみようかなと、廊下の角に差し掛かった時に二人の男子生徒が慌てた様子で現れてイツキを横切り走っていった。

 

「(天之河と坂上…?)」

 

横切る前にチラッと顔を確認して、走り去って行ったのが同じクラスの天之河光輝と坂上龍太郎と認識した。すると廊下の先から怒号が響いてきた。

 

「この大馬鹿者ども! ついでにクラス全員呼んで戻って来なさい!」

 

どこか聞き覚えのある声にイツキは顔だけ出して、廊下の角の先を覗き込むと険しい目つきで胸を突き出し、両手を腰に当てて立っている雫の姿があった。

 

「あら、月山君。おはよう。もしかして、さっきの声、聞いちゃった?」

 

イツキが覗いていることに気付くとどこかバツが悪そうなに苦笑いを浮かべる雫。イツキはクスッと笑いながら廊下から残りの身体を出して姿を現した。

 

「おはよう八重樫さん、よく声が響いていましたよ。ところであの二人、慌てて行ってしまいましたけど何かあったのかな?」

 

「…………大したことはないわ、向こうが勝手に勘違いしているだけ。」

 

呆れ顔で答える雫だが、すぐに嬉しそうな表情に早変わりしてある事を告げた。

 

「それよりも朗報よ! 香織が目を覚ましたのよ!」

 

「!! それは良かった! 顔を見ても?」

 

「ええ、いいわよ。」

 

そう言って雫はすぐ近くのドアが開けっ放しの部屋までイツキを案内した。部屋に入るとベットに起き上がっている香織の姿があった。

 

「やあ、白崎さん。お加減はいかがかな?」

 

「あっ、いらっしゃい月山君。身体は……うん、少し怠いけど大丈夫だよ。」

 

「そう…それは良かった。」

 

少しやつれているも笑顔を向けて元気アピールする香織、何となくだがイツキにはその姿が空元気に見えたのだ。それもそのはず、今まで彼女はハジメが落ちたショックで寝込んでいたのだ。こうして目を覚ましても心のどこかでまだ彼らのの事で整理が出来ておらず、人前では心配されないように笑顔と元気を見せているのだった。

 

「(当分の間、彼らの生死に関わる話は控えた方がいいかな? でもそれよりも今は…)」

 

イツキは香織の心情を察してハジメ達の話を控えることにしつつ、前から決めていた‘’ある事‘’を実行に移すことにした。いきなりその場で正座をして目を開いて香織に軽く頭を下げたのだ。この行動に香織、雫は「えっ、なに?」と困惑していると頭を上げて口を開いた。

 

「ごめんね…君を気絶させたのは僕だ。‘’助けに行きたい‘’思いはあったかもしれない…でも、あの場を落ち着かせるためには、ああするしか方法はなかった……………本当にごめん。」

 

あの時、4人が落ちて誰もかれもパニックを起こしていた時、クラスメイトが落ち着いて脱出するにはどうしてもパニックの一因になっていた香織を止める必要があった。彼女の‘’助ける‘’という想いも少しばかり理解できていたため少々強引に止めたことに少しばかり心残りがあった。故に香織が目を覚ましたら謝ろうと心に決めていたのだ。

イツキの行動に香織はあたふたしながら口を開いた。

 

「そ、そんなに謝らなくても、私は気にしてないから。むしろこっちがお礼を言わないと…もしあのまま月山君が止めてくれなかったら多分、4人を追って奈落に落ちていたと思う。そしたら、雫ちゃんや皆にもっと心配をかけてたと思うの…………だからね、これだけは言わせて…………ありがとう、私を止めてくれて。」

 

「あらためて私も、親友の一人として言わせてもらうは……ありがとう、香織を止めてくれて。」

 

「白崎さん……八重樫さん。」

 

二人の感謝の言葉と笑顔にどこか心の奥底が温かくなり心地よい感じがした。その余韻に浸っていると、雫が苦笑交じり口を開いた。

 

「もう、そんなに堅苦しく上の名前で言わずに、気軽に雫って言いなさいよ。」

 

「そうだよ、雫ちゃんの言う通り。私達は同じクラスで仲間なんだから、私も香織って呼んで。」

 

二人に下の名前で呼ぶ事を許されて嬉しくなり思わずクスッと笑みを浮かべた後、

 

「なら僕も、イツキって下の名前で呼んでもらおうかな。」

 

そう言って立ち上がりイツキも対等条件として、下の名前で呼ぶように二人に頼んだのだ。三人がお互い強い絆で結ばれた時、部屋の外から複数の足音が聞こえてきて突然とドアが開かれた。

 

「カオリン!」

 

「香織ちゃん!」

 

「鈴ちゃん! 恵里ちゃん!」

 

部屋に入って来たのは同じクラスメイトでどこか心配そうな表情をしている谷口鈴と中村恵里だった。

 

「よかった~本当によかったよ。鈴、すごく心配したんだからね!」

 

「もう、目を覚まさなと思っていたよ…。」

 

「ごめんね二人とも、心配かけて。」

 

二人の言葉に香織は笑顔を見せて応えていると、

 

「香織っち! 大丈夫!?」

 

「香織ちゃん…。」

 

「あらら、案外元気そうじゃない~」

 

「大丈夫ですか、白崎さん。」

 

部屋に奈々、妙子、佐助、厚志が入ってきた。そしてそれに続くように他のクラスメイトも次々と入ってきて、それぞれ香織に声かけていった。ある者は顔を見て「大丈夫?」とまだ心配する者もいれば、「よかった」と安堵の声を漏らす者もいて香織の周りはクラスメイトの群れでわんさかしていた。

 

「雫、みんなを呼んできた。」

 

「おう、言われた通りしたぜ。」

 

「ご苦労様………もう、変な勘違いしてないでしょうね?」

 

「「((ブルブル))」」

 

そんな時、こっそりと雫の前に光輝と龍太郎がやって来た。雫はジト目で二人を見るが、光輝と龍太郎は首を揃えて否定した。その後、雫の「病み上がりの人にそんなに押し寄せないの!」と鶴の一声がかかりクラスメイト達は一旦は落ち着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

「あらためて、ご心配おかけしました。みんな、ごめんね。私はもう大丈夫ですから。」

 

そう言って香織はクラスメイトに心配かけたことを謝罪、クラスメイトはそのことでとやかく言う者はいなかった。改めて香織は今いるクラスメイトを眺めて、ある変化に気付いた。

 

「ねぇ、みんな。愛ちゃん先生は? それに何人か生徒がいないような気がするのだけど…?」

 

そのの言葉に、クラスメイトの何人かは顔をこわばらせた。香織はそれに気づいて首をかしげているとクラスメイトの吉野真央と辻綾子が口を開いた。

 

「愛ちゃん先生は1週間前から近隣の村に行って農地の開拓をしているわ。」

 

「何もなければ、今日までには帰ってくると思うの…。」

 

二人の言葉を機に佐助と奈々もここにはいない生徒について説明をし始めた。

 

「大将は今、色々あってさ~王宮にいなくて。俺様が後でひとっ走りして呼んで来るよ。」

 

「優花っちはあの日……4人が落ちてのショックから、まだ目を覚まさないの。」

 

「……そう…なのね。それじゃあ、レムは?」

 

香織はカヅキが何故いないのか? 優花の容態どうなのか? もちろん気になったのだが、それよりもレムがいないことに何故か嫌な胸騒ぎを感じたのだ。そして、それが見事に的中したのかレムの名前を出した途端に急にクラスメイト表情は暗くなり、どこか後ろめたさがあるのか香織から目線を逸らす者もいた。急に不安になった香織は親友の雫に尋ねた。

 

「雫ちゃん……レムに何かあったの?」

 

「……………レムは………レムはね…………。」

 

そう言って下唇を嚙みしめて言葉を詰まらせる雫、彼女の表情もどこか暗い表情だった。

 

「………勝手に行動起こして…バカなことを…。」

 

光輝はレムの行動に何か非があったのか静かに彼女を批難した。だが、これに真っ向から否定する者がいた。

 

「ちょっと、バカなことってなに!? レムはバカじゃない!! ちゃんと考えた上で行動しているんだから!!」

 

レムの親友の一人宮崎奈々は光輝の言葉に怒りを覚え、目を見開いて睨み付けるように言い放った。光輝はそれに臆することなく反論した

 

「だからといって一人で行動するのは、あまりにも身勝手過ぎる! 1度クラスメイトに相談するべきだ!」

 

「まともにレムの呼びかけに応じなかったクラスメイトに相談する意味なんてあるの!? 元を辿れば、みんながちゃんとレムに向き合っていたら、こんな事には……」

 

両者一歩も引かず、このまま言い争いを続けたら更に激しさが増そうとしていた。見かねたイツキが二人の間に入って仲裁を行い、事なきを得るのだった。

 

「ねぇ、みんな教えて……………レムに何があったの?」

 

クラスメイトの反応、光輝と奈々の言い争いを見てレムの身にただらなぬことが起こっている事を理解した香織は悲痛な表情で尋ねた。クラスメイトはただ黙り込むだけだったが一人の生徒、菅原妙子は何かに耐えるかのようにスカートの裾を強く握りしめながら意を決して口を開いた。

 

「レムは………クラスメイトに見切りをつけてここを去った。そして一人で……………ハジメ君達を探しに行ったわ。」

 

「……………………えっ」

 

その言葉で香織の頭の中が一瞬にして真っ白になった。

 

 




ありふれ噂話


当麻「どうも、当麻です。」

クロウ「やぁ、こんにちは。クロウだよ。早速だけど前回の続き、当麻は覚えているかな?」

当麻「えっと……………たしか、サラさんがユエさんの性知識の先生で、色々教えるためにクロウさんと師匠はつき合う中になった。そこまでは聞いていて最後に師匠が何かやらかした事を聞く前に終わったような…………」

クロウ「うん、そこまで覚えていたら上出来かな。」

当麻「…………クロウさん、師匠…何やらかしたのですか?」

クロウ「うん、それはね……………」














クロウ「彼女、姫の純潔を奪おうとしたんだ…。」



当麻「ええっーー!? それってマズくないですか!?」

クロウ「もちろん、下手したら国の威信に関わるね。相手国の婚約者に喧嘩売るようなものだよ。いや、本当…授業を覗いておいて正解だったよ。覗いた時には二人は何も身につけてないし………本当、危なかった。」

当麻「それで師匠は?」

クロウ「即刻授業を中止。三ヶ月、面会なしの謹慎処分をくらったよ…まぁ謹慎が解かれても姫に一ヶ月近く口をきいてくれなかったから、相当懲りたと思うよ。」

当麻「そうなんですね…ん? あれは…」

サラ「ちょっとクロウ//// なに、私の恥ずかしい話しをしているのですか////」

クロウ「おや、サラ? どうしてここに?」

サラ「通りすがりの青年に教えて頂いたのです! 『あんたの恥ずかしい話しをされている』って!」

当麻「多分、佐助君だね…。」

クロウ「やれやれ…………まぁ、事実だからいいじゃないですか。私は決してあなたに気を失うまで抱かれた事を根に持って、その仕返しに暴露話しをしているわけではないありませんので(ニコッ」

サラ「うぅ…クロウの…いじわる…」

当麻「(クロウさんって意外とドSなのかな…。)えっーと、師匠とクロウさんのディープな回でした。それでは、次回お会いしましょう。さよなら~」

サラ「ばかばかばかばばかばかばか…←(クロウのお腹を涙目なってポカポカ叩いている)」

クロウ「はいはい…。(本当、かわいいな。)」










いかがだったでしょうか?
何でしょうか、4人の本編よりもサクサク書けた感じがします。知らない所でカヅキと雑な扱いされる王女が親密な関係になったきっかけのお話しは、またどこかで書きたいなと考えております。
レムとクラスメイトの間に何があったのか、そして、ぞんざいな扱いされている4人を見て何を思ったのか、それは次回お話ししたいと思います


感想など随時お待ちしております。

それではこの辺で。では、また……。


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隠忍自重の崩壊 レム、怒りの決別

どうも、グルメです。
大変遅くなりました。私情で小説を書く時間が無かったり、スランプで書けなくなったり、対馬ゲームにハマって書けなかったりと、色々ありました。本当、すみません。

さて、今回のお話しはレム視点での王国に帰ってきた出来事についてのお話しです。
前回の最後には彼女はクラスメイトに見切りをつけたみたいですが、一体何があったのでしょうか…

それでは、どうぞ。


レム・クドリャフツェフ

 

温和な性格で彼女が心を許した相手に見せる笑顔は、まるで天使の微笑みのようで学校では三大女神の一人として例えられ、男女問わず人気を誇っている。そんな彼女はスバル達とよく一緒に過ごしてオタクトークで盛り上がり、スバル達が彼女を大切に思う一方でレムもまたスバル達の事を大切に思っていた。

そして、彼らが奈落に落ちてクラスメイト(一部を除いて)の誰もかれもが生きていないと諦める中、彼女だけは生きていると強く信じていた。

 

 

 

 

 

 

そんな彼女の王国に帰ってからの1週間はまさに地獄という日々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバル達が奈落に落ちた次の日、散々泣き続けていたのかレムの目はウサギのように目を真っ赤にしており妙子や奈々に心配されながらも高速馬車に乗ってその日のうちに王国へ戻った。

王国に戻るとさっそくスバル達の4人が死んだことを報告、だがイシュタルや国王を含めた王国側の人間は誰1人もスバル達に対して哀悼の意を示す者はいなかった。

さらに次の日から王国側の人間が物陰でこそこそとスバル達を無能だの、役立たず等々、散々誹謗していき、それが聞こえてくるたびにレムは心憂いしくなり、カヅキの暴力事件で誹謗していた者は処分されるもレムの心は晴れることはなかった。

また、その日からレムは生徒一人ひとりに会ってはあの日の出来事について尋ねっていった。

別に犯人を見つけてはそのことで断罪しようとも、責め立てるつもりはなかった。

ただ、真実を明らかにして素直に謝罪し、自分にもクラスメイトにも新たな心の入れ替えが必要だと考えていたからだ。

だが、妙子や奈々、イツキ達の一部の生徒達を除いてほとんどの者は現実逃避するかのように部屋に籠ってはレムの話しに応じず、また、たまたま部屋から出た生徒を見つけて話しを聞こうと迫るも目を背けるように逃げるられるばかり、さらに光輝に限っては「もう、終わったことだ。」「むやみにに嫌なことを思い出させて、皆を困らせるんじゃない! やめるんだ!」と咎められる事となりレムの心に深い傷を残すこととなったがそれでもやめる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

カヅキの暴力事件で二日間の拘留が解かれたその日の内に光輝にクラス全員、大広間に集まるように言われて向かうとスバル達が奈落の底に落ちる根本的な原因を作った檜山がいた。

檜山は改めてクラスメイト全員に土下座して謝罪、光輝も「彼も反省していることだし、許すべきだ。」という言葉もありクラスメイト大半は檜山の罪を許してしまったのだ。妙子や奈々が簡単に檜山を許されることに違和感を感じる中、レムは…

 

「(どうして…誰も異を唱えないのですか?…どうして……簡単に許されるのですか? 彼が素直に指示を聞き入れていたらあんな事にはならなかった…なのに…どうして…どうして…)」

 

なんのお咎めもなく、簡単に許してしまう光輝とそのクラスメイトにどうしようもない怒りと悲しみが湧いてきた。この後、またもやカヅキがクラスに注目が集まるように盛大に出て行く中、レムもまた誰にも気づかれずにこっそりと別のドアから出た。

王国側が用意していた自分の部屋に戻り、先程の出来事でぐちゃぐちゃの頭に冷静を取り戻すかのようにベッドに顔を埋めてそのまま夕食まで眠りについた。

そして、レムの転機を変える事件が起こったのはその日の夕食時に起こった

 

 

 

 

「あの、皆さん! 聞いてください!」

 

レムの透き通るような声が食事場に響いた。引きこもりの生徒が唯一の楽しみである食事と友人達との談笑が止まり声の主に注目した。レムは全員が注目している事を確認すると再び透き通るような声で告げた。

 

「あの日……みんなで魔法を放ってスバル君達を援護した出来事を今一度…思い出して欲しいのです。怖い思い、死ぬ思いは確かにしました。そして、それをもう一度思い出すのは酷なことだと重々承知です。ですが、みなさんの不安を消すためにも…新たな一歩を踏み出すためにも…事実を明確にするべきだと私は思うのです……………なのでお願いです。魔法を誤射してしまった方は、今ここで正直に名乗りを上げてください。お願いします。」

 

そう言って頭を深く下げた。レムの切実な訴えに生徒達は様々な反応をした。ある者はあの日の出来事を思い出して顔を暗くする者、そのことで何回も聞かれて迷惑な思いがあったのか無視して食事を続ける者やレムを見てコソコソと話す者など、レムの訴えに応える者はいなかった。

そんな時、バンッと机を叩いて光輝が立ち上がった。

 

「レム、前から言っているはずだ! むやみにあの日のことを思い出させてみんなを不安にさせるのは良くない、と。わからないのか!? それだけじゃない、仮に犯人を見つけたとして、その子はどうなる! もし、思いつめて自殺でもしたら、君は責任をどう取るつもりだい?」

 

光輝の怒涛の言葉にレムも「…それは」と言葉を詰まらせた。だが、ここで光輝は言っていけない事を口にした。

 

「それに()()()()()()()()()()()()彼らを報いるためとは言え、皆を困らせるように犯人捜しをしてはいけない!」

 

「ッ!!?」

 

その言葉に大きなショック受けたレムは顔を隠すように項垂れた。これを見た雫は光輝の発言を咎めようとした矢先、さらにある生徒がとんでもない事を言い出した。

 

 

 

 

「なぁ、本当はレムが誤射したんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

 

その言葉でクラスメイト全員が発言した生徒に注目した。発言したのは檜山大介だった。

 

「おい、大介? それはどういう意味だ?」

 

近くに座っていた近藤礼一が尋ねると檜山はレムを疑うような目つきで語りだした。

 

「いやだからさ、散々アイツは俺らの誰かが誤射したって疑っているけどよ…本当はアイツが誤射して責任逃れ、いや…自分が疑われないようにするための偽装工作じゃないか? って話しよ。犯人捜しを率先していたら、まず自分が疑われることはないだろうし。」

 

「…なるほどな。」

 

「えっーマジかよ(笑)」

 

「レム最低だな(笑)」

 

檜山の言葉に近藤は妙に納得し、同じように檜山の近くに座っていた中野と斉藤は面白がるように茶化していた。

これを機にクラスメイトから疑いの声が聞こえてきた。

 

「まさか、レムが!?」

 

「でも、実際レムが犯人なんて思わなかったわね…」

 

「だから、あんなにも必死だったわけか?」

 

「檜山の話も否定はできないな。」

 

「どうなんだレム!?」

 

様々な声が上がる中、その声を否定する者もいた。

 

「おいおいおい…。」

 

「ちょっと、あなた達! やめなさい!」

 

「彼女は真剣です! 変な憶測はやめるべきです!」

 

佐助、雫、厚史が止めるように呼びかけるが疑いの声は一向に止まる気配がなかった。少しずつレムに疑いの目が広がる中、檜山はレムを見つめながら内心ほくそ笑んでいた。

 

「(へ、へへへ。調子に乗っているから…こうなるんだ。毎度毎度、変な目で見てきやがって…これでアイツも、下手に嗅ぎまわらないはず…)」

 

檜山がこのような行動を取ったのには理由があった。

レムがあの日の出来事を尋ねるようになった日、当然檜山の前にも現れて尋ねた。

元々ハジメや当麻をいじめていたのを知っているため、仕方なく檜山と話す時はどこか冷ややかな様子で接していたが、今回の件、檜山が周囲の忠告を無視してトラップにはまり、結果的に4人が落ちる原因を作り出したとして、さらに冷淡に接するようになった。

話す声には感情は無く、目つきもどこか疑いのある目で見てくるようになり、それがたまらず嫌で、内心「いつか真実にたどり着くのでは?」と思うようにもなった。

何とかならないかと考えていると、ちょうどレムが全員がほぼ集まっているこの時に呼びかけをしていたので、これを逆手に取って彼女を孤立させようと思い、とっさの判断で先程のような事を告げたのだった。

予想外のことは自分が想像していた以上にレムに疑いの目が向けられており大成功と思われていたが………………これがとんでもない引き金となる事に彼はまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………。」

 

レムは俯いたまま動くことはなかった。クラスメイトの疑いの声が聞こえてくるなか彼女は親友達のことを振り返っていた。

 

 

ひょんなことからスバルと知り合い、彼をきっかけにハジメ、当麻、士郎、優花達と出会い、交流を深めて楽しい学校生活を送ることができ、今では自分にとってかけがえのない大切な親友となっていた。

そんな中、いきなり異世界に飛ばされ、事情もままならぬままこの世界の戦争に参加させられる事となり、ステータスプレートという名の能力値で序列をつけられ、その内の3人は無能のレッテル貼られる事となった。

それでもその3人はクラスメイトの足を引っ張らないように人知れず努力を続けてきて、その甲斐あってかオルクス大迷宮で起こった危機に勇敢に立ち向かい、多くのクラスメイトを生還させることとなった。それなのに………

 

 

誰かの放った魔法の誤射で親友達は奈落の底…

 

 

クラスメイトは誰が放った魔法なのか追及せず、真実から目を背けるばかり…

 

 

根本的な原因を作った生徒は罰せられる事なく、簡単に許され…

 

 

王国側もクラスメイトも、誰一人悲嘆する者もいなければ…

 

 

彼らの功績を称える者も、感謝する者もいなかった…

 

 

 

 

 

「(どうして……どうして…ドウシテ…………誰モカレモ、彼ラヲ侮辱スルノ? ドウシテ…私ノ大切ナ人ヲ傷ツケルノ?)」

 

 

思えば思うほど彼らに対するクラスメイトの行いが、周囲の大人達の行いが許せなくなり、怒りが湧いて、真っ白な心にドス黒い何かが染まるような気がした。レムは前髪に隠れてチラッと周囲に目を向けた。

今もクラスメイトは真実に向き合うどころか、一人の男の口車に乗せられて「レムが犯人なのか!?」や「お前がミスをしたのだろ?」と、まるで責任から逃げるように、はたまた押しつけるようにレムに問い詰めていた。

周囲に流され、何も見ようとしない、戯言ばかり言うクラスメイトにレムはあきあきした。そして、光輝が「レム! 檜山が言った事は本当なのか!?」という言葉を起因に、レムはいきなり

 

 

「アハ、アハハハハハハハハハハハハハ―――」

 

天を仰ぐかのように上を見上げて高らかに笑い始めた。その声は狂気に満ちており、まるで何かに取りつかれたように笑い続けた。

 

 

「「「「「ッ!!!????」」」」」

 

レムの行動に驚きと戸惑いを感じて、クラスメイトの喧騒は収まったが、それでもレムは笑う事をやめなかった。笑いを止めないレムに冷静に様子を見る者もいたが、ほとんどのクラスメイトは徐々に恐怖を感じるようになった。

 

「…ッ何がおかしいんだ!? レム!!」

 

光輝もレムの行動にひるんでいたが冷静を取り戻し声を荒げた。するとピタリと笑い声を止めた。だが、レムは顔をあげたままで下ろす事はなく、そのままポツリと話し始めた。

 

「……………何がおかしい? だってそうでしょ? クラスメイトの誰かがきっと素直に話してくれる、誤射した事を謝罪してくれる…今までそう思って信じていました。それなのに…」

 

そう言ってレムはゆっくりと顔を下ろして今の素顔を見せた。

 

「誰も話さない、誰も謝罪しない、悲しむどころか感謝するそぶりも見せない…誰もかれもが我が身可愛さに’’彼らがへまして落ちた’’という事にする始末…ここまで彼らをコケにされたらもう……笑うしかないじゃないですか?」

 

そこには、温厚で微笑みが素敵な彼女とは思えないほどの狂気に満ちた目に恍惚な笑みを浮かべたレムがいた。

その顔を見たクラスメイトは「ひっ…」とどよめぎ声をあげ、何人かの生徒は得体の知れない何かを感じ取ったのか後ずさりするのだった。

 

クラスメイトの動揺を気にせずレムは続けて言った。

 

「あまつさえ、クラスメイトの危機を招いた男はあっさり許されるばかりか、その発言を簡単に信じ込んでしまうなんて……滑稽ですね。」

 

目を細めうっすらと笑みを浮かべながら小馬鹿にするように言うレムに、近藤がテーブルをバンと叩いて立ち上がった。

 

「さっきから偉そうに言っているけどよ、お前も容疑の内の一人だということ分かっているのか!?」

 

犯人扱いされて激昂する近藤、その様子にレムは、

 

「この際にハッキリと言いますけど、私ではありません。仮に、私がへまをして彼らを奈落に落としてしまったら、とっくに事実を伝えて皆さんに謝罪し、早急に救出向かっています。」

 

そう清々しいほどキッパリというレムに近藤はさらに苛立ちを覚えた。そして、少しでも生意気な彼女の出鼻をくじいてやろうと思い、近藤は怒り任せにとんでもない事を言い放った。

 

「……だったら証拠を見せてみろよ。お前がしてないっていう証拠をなっ!!」

 

「そうだ、そうだ!」

 

「証拠見せろ!」

 

近藤の言葉に便乗するかのように中野と斉藤も声を上げ、檜山は顔には出さなかったが内心「いいぞもっとやれ」と煽り立てていた。

クラスメイトの中にも、レムの言葉に納得してないのかちらほらと声を上げる者も出てきた。どう考えても無理難題に雫や流石に見かねた光輝が止めるように言うが声は止まる事はなかった。

レムはそんな声を無視して辺りを見渡していた、何かを確認するかのように……そのことに気づいてない近藤は威圧的な態度を見せながら口を開いた。

 

「まぁ、証拠なんて無いに等しいもんな? 結局俺達と同じ容疑の一人なんだよ! これに懲りたら大人しく犯人捜しなんか「…ありますよ」 …は?」

 

「証拠なら、ありますよ…最も証拠というよりも、証明になりますが。」

 

 

レムは不敵な笑みを浮かべながら近藤の言葉を遮った。近藤は啞然としていたがすぐに怒りに顔を歪めてレムに迫る勢いで嚙みついた。

 

「て、テメェ、ここにきてまだデタラメ言うのかよ!?」

 

「……出鱈目じゃありませんよ。要はどんな状況下でも正確無比に魔法を当てれば問題ないはずです…そう、()()()()()()()()()…」

 

そう言ってレムは近くにあったステーキナイフをテーブルから手に取って右手で逆手持ちするのだった。

 

「レム、君はいったい何を…?」

 

光輝は眉をひそめて尋ねると、レムは光輝に顔も向けずに不気味な笑みを浮かべながら右手を振り上げた。

 

「それは…こうするためですよッ!!」

 

そう言ってレムはいきなりテーブルに左手をバンと置いて、その上から振り上げていた右手を勢い良く振り下ろし、手の甲にステーキナイフを突き刺した。

 

 

グシャッア!!

 

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」

 

「「「きゃあああああ!!?」」」

 

レムの予想外の行動に加え、肉が刺さる音、ナイフを刺した所からゆっくり溢れるように出で来る血潮をまじかで見て、男も女も関係なしにクラスメイトは悲鳴を上げてより一層にレムから距離を取った。

 

「ッ!!!!!」

 

当然こんな事をしてレムもタダで済むはずもなく、左手から今まで感じた事がない激痛が身体全身に駆け巡り思わず叫び声を上げたくなったが歯を食いしばりグッとこらえた。’’ここで声を上げれば示しがつかない’’‘’自分は他の生徒と違う‘’そんな想いもあってか必死になって痛みに耐え続けた。

 

「レムッ…あなた…何をして…」

 

手で口元を覆いながら身体を震わせて、なるべく左手を見ないようにしながら雫が尋ねるとレムは獰猛な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ハァ、ハァ、…ナニって? それは、ハァ…ハァ…自分を、証明するためですよッ!!」

 

そう言ってレムは再び右手を振り上げてナイフを左手に突き刺した。

 

 

クシャッア!!

 

 

再び肉が割く音に雫は「キャッア!」と小さな悲鳴を上げて数歩後退し、鈴と恵理は顔を真っ青にしてお互いを守るように抱き合い、光輝と龍太郎も恐怖を感じて顔を歪めていた。そして、あれだけの煽っていた近藤、檜山を含めた4人組は腰を抜かして尻餅を付いており、中野、斉藤に関しては恐怖のあまり涙目になっていた。

 

 

「っ!!! ううぅ!!!!」

 

再び左手に激痛が走り、思わず床に崩れそうになったがそれにも耐えて立ち上がり、左手に刺さっていたナイフを抜いてどこかに放り投げた。

どっぺり血がついたステーキナイフがどこかのクラスメイトの前に落ちて、それでさらに悲鳴が上がるがそれも気にせずにレムは左手を掲げた。

左手は自分の血で深紅に染まっており、ナイフの傷口からドクドクと止まることなく溢れていた。見続けたら自分も平然といられなくと思い、なるべく見ないように意識し、ある目標を捉えて低く呟いた。

 

「…風球」

 

サッカーボールくらいの大きさの風の塊がレムの左手に作られて勢い良く飛んでいき、檜山、近藤達の後ろにあった土台に乗っている壺を粉砕、檜山、近藤達は壺の粉塵を纏い、大きくせき込んだ。

 

「風球」

 

レムはそのことも気にせずにそのまま身体ごと右を向けて、何人か固まっているクラスメイトの方に風の塊を放った。

固まっていたクラスメイトはパニックになるが誰一人当たることなく後ろにあった飾りある皿を粉砕、クラスメイトに叫び声が上がった。

 

「風球、風球、風球、風球、風球、風球、風球、風球!、風球!!、風球ッ!!!」

 

「伏せなさい!!」「皆、頭を下げろ!」と雫や光輝の怒号が聞こえてくるなか、レムは事前に把握している目標にどんどん魔法を放ち、この部屋にある家具、壁に掲げられている絵などを粉砕していった。パニックで動き回るクラスメイトに当てる事なく正確無比に、魔法を放つたびに左手に激痛が走るもそれも耐えて、この部屋のインテリアがなくなるまで魔法を打ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……これで…満足ですか?」

 

全てのインテリアを粉砕しつくし、荒い息で呼吸で佇んでいるレム。

 

「「「……………………。」」」」

 

クラスメイトはようやく収まった風球の嵐から少しづつ顔を上げてレムの様子を伺った。そこに立っているのは三大女神と呼ばれる美少女の面影はなく、怒りに顔を歪めた‘’鬼‘’が佇んでおり、その姿を見たクラスメイトの半数は恐怖で身体を震わせているのだった。

レムは共に身体を震わせて寄せている檜山達の所にゆっくり歩みを進めた。

 

「私は…彼らから援護を頼まれ、別れた時から覚悟を決めていました。例え骸が突き立てる剣に斬られようが…迫りくるヘビモスに飛ばされようが…彼らが身体を張り、命をかける以上…私も命ある限り、彼らが戻ってくるまで援護を続けるつもりでした。それなのに…それなのにッ!」

 

ひとりごとのように呟きながら檜山達に近づくレム。檜山が「く、来るな、来るな!?」と拒絶の声を上げても止まることはなく、さらにレムの左手には風球による風の塊が作られており、それが更なる恐怖を呼び起こして檜山達を震えさせた。

そして、あと数歩で檜山達にたどり着くという所で左手を勢い良く掲げて叫んだ。

 

「私が何て言われようが構いません…だけど……身体を張る勇気も、命をかける覚悟もない者が、彼らを侮辱するなぁーーッ!!」

 

「「「「「うわああああああ!!!???」」」」

 

レムは左手を振り下ろし、檜山達は情けない叫び声と共に手で身体を守ろうとするが風球は当たることはなく一歩手前の床に叩き付けられてパコッという音と共に消滅した。怯えて身動き出来ない檜山達を見下すように一瞥した後、背中を向けて歩き出した。

クラスメイトが恐怖の眼差しで見られ光輝の持ち前の正義感でレムの行いを批判する中、そんな事も気にせず部屋の扉に向かい、途中のテーブルにあった白いナプキンをかすめ取り、器用に巻いて左手の傷口から出る血を抑えた。

だが、少々血を流し過ぎたのかレムの身体にふらつきが見られ、今にも倒れそうに思えた雫はレムに駆け寄って手を伸ばした。しかし、

 

パチン!!

 

「あっ……」

 

「…私に、構わないで…ください。」

 

雫の手はレムに払い避けられ拒絶の目を向けられた。雫はそれが怖くて、どこか悲しく見え、やりきれない思いもあったが、今は仕方なく言われた通りに引き下がるのだった。

雫が下がったのを確認したレムはクラスメイトに聞こえる声で宣言した。

 

「本日を持って私はクラスメイトをやめます! …………もう、あなた方と関わる事はないでしょう。」

 

最後の方は静かにそう告げるとレムは扉を開けて食事場を後にした。勝手な行動に光輝は憤慨して後を追って引き止めようとしたが佐助の術で動きを封じられた上、「アンタじゃ無理だし、かえって火に油を注ぐだけ」と言われて、さらにムキになって無理矢理身体を動かそうとした所、雫に「今日はそっとしておきましょ。」とどこか悲しげな表情で言われて、それを見た光輝は渋々と言われた通りに諦めるのだった。

 

 




いかがだったでしょうか?
レムは誰よりもスバルやハジメ達を大切に思っていました。異世界に飛ばされる前からぞんざいな扱いをされている事に不満を募らせ、それが溜まりにたまってその結果がこのような形で爆発する事になりました。
ちなみに補足として、この場にイツキ、妙子や奈々はいません。イツキはカヅキの下に妙子や奈々は優花の様子を見に行っていたためレムの現状を知りませんでした。

もし、あの場に3人が居合わせていたら混沌としていたと思います。


次回、意外な人物が登場。そして、レムは……


感想など随時お待ちしております。

それではこの辺で。では、また……。


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そして、少女達は決意する① レムのステータス

どうも、グルメです。

暑い日々が続いている中、皆さんはどの様にお過ごしでしょうか?
私は仕事をしつつ小説の構成ばかり考えている日々を過ごしています。どこか、遊びにいきたいですね。

さて、今回のお話しは意外な人物が登場、そして、レムのステータスが明らかになります。一体どのようなステータスになっているのでしょうか…


それでは、どうぞ。


「まったくもう…怒る気持ちはわからくもないですけど、やりすぎです。あなた自身に何があったらスバル様達も悲しみますよ。」

 

「うぅ…そうですね。反省しています…」

 

 

 

レムはあの騒動の後、王宮内のある人物の部屋に訪れて簡単な回復魔法での傷の治療と小さなお叱りを受けており、先程と打って変わってレムはしょんぼりとしていた。

 

「それで、これからどうするのですか?」

 

「はい、計画を早めて明日の早朝にはここを発ちたいと思います。」

 

「そうですか…それでは今夜中には事を伝えて、明日の朝一に知り合いの荷車に乗せてもらえるよう手筈は整えておきますね。」

 

「何から何までありがとうございます……()()さん。」

 

「いえいえ、従者として出来ることしたまでですよ。」

 

レムは軽く頭を下げるとニアと呼ばれる女性はニコリと笑顔を浮かべた。

彼女の名前はニア。この王宮で働いているメイドであり、異世界からやって来た勇者一行の身の回りの世話を任された同年代の女の子である。人族を救う勇者達ということもあり終始緊張気味な所もあったが、レムの‘’ある行動‘’のお手伝いをきっかけに関わり交流を深めて、今ではお互い本心が言える程の友情が出来ているのだった。

余談だがニアは騎士の家系の出で、幼い頃から父や兄達に囲まれて剣術嗜んでおり、同じく幼少の頃より剣術を習ってきた八重樫雫とはよく似た家庭環境等で相まっていることからすぐに打ちどけ合い、彼女とも友情が育まれているのだが……………………それは、ともかくして、ニアが真剣な表情で尋ねた。

 

「レム様、本当にお一人で探しに行かれるのですか?」

 

「ええ、もちろんです。本当は真相を知って、クラスメイトのわだかまりを無くし、あわよくば一緒に探してくれる人も募集するつもりでしたが……時間の無駄でした。早々に行動を移していた方が賢明だったことがただ悔やまれるばかりです。」

 

何の躊躇いもなくキッパリ言うレムに対して、「…そうですか。」と静かに肯定するニア。本当に他の方との縁を切ったという事を実感しつつも、ニアは前から思っていたある懸念事項を口にした。

 

「レム様、差し出がましいかもしれませんが…やはりオルクス大迷宮を一人で向かわれるはあまりにも無謀かと思われます。最低でも5、6人、それもステータスの高い冒険者を雇わない限り大迷宮を渡り歩くなど…」

 

そう言っているとレムは胸ポケットからスッとニアにあるものを手渡した。

 

「これは…ステータスプレート?」

 

この世界の身分証明書でもあり、自分の今の強さを知ることができる代物だ。ニアはレムの顔を見ると真剣な眼差しでコクッと頷いた。見ても良いと捉えたニアはレムのステータスを開いた。すると……

 

「えっ…」

 

ニアは目を丸くして驚いた。レムのステータスはこのようになっていた。

 

 

 

 

 

==============================

 

レム・クドリャフツェフ 17歳 女 レベル:15

天職:精霊使い

筋力:750

体力:850

耐性:600

敏捷:750

魔力:7650

魔耐:7780

技能:精霊[+精霊擁護][+精霊大結界]・精霊解放・精霊の目・全属性適性・全属性耐性・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+身体強化]・高速魔力回復・鎖鉄球術・言語理解

 

===============================

 

 

魔力と魔耐が異常に高く今まで見たことがない数値になっており、それだけではなく天職‘’精霊使い‘’というのも気になった。自分が知る限りでは精霊使いという天職など聞いたことも、見たこともないのだ。

 

「レム様、これは…一体?」

 

そう尋ねるニアに、レムはゆっくりと口を開いた。

 

「あの日…スバル君達が奈落に落ちたあの日の夜、私は泣き崩れてそのまま寝てしまい…夢を見たのです。」

 

「夢ですか?」

 

ニアの言葉に静かに頷くレムは、思い返しながらその日の見た夢について口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ白な空間の中、レムは立っており、その目の前には白く輝く球体が佇んでいた

 

 

 

 

‘’この力を神に悟られてはいけません……‘’

 

 

 

 

どこからともなく女性の声が聞こえてきた。レムにはこの声に聞き覚えがあった。トータスに飛ばされる際にどこからともなく聞こえてきた女性の声と似ていたのだ。

 

 

そして、白く輝く球体はレムのに近づき、ゆっくりと身体の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目を覚ました時には、朝になっていました。そして、何気なしにステータスプレートを開いてみたら…」

 

「こうなっていた。というわけですね。」

 

ニアの言葉にコックと頷くレム

 

「あの球体が何者で、どういう意図で私にこのような力が授かった分かりません。ですが、この力は…スバル君達を、いえ…大切な人を守るために授けられた力なんだと私は思うのです。」

 

「そう…ですか。」

 

ニアは少し考えた後、不安げな様子でレムに尋ねた。

 

「それにしてもよろしかったのですか…私にこのような大事な話しをして。」

 

レムの話しの中では、‘’神に悟られるな‘’と語られていた。自分の知る限りでは神と言えば聖教教会の唯一の神、エヒトしか知らない。実在しているエヒトに知られてはいけない意味なのか、はたまた、聖教教会に知られてはいけない、という意味なのか定かではないが、自分も信仰している一人に過ぎない。故に信者の一人にこんな大事な事を話して良いのか、疑問に感じたのだ。

その疑問を感じ取ったのかレムは微笑みながら口にした。

 

「ニアさん、私は信じているのです。あなたが周囲の方々にこの事を話さないという事を…一人の友人として信じていますから。」

 

「レム様…………それは私もです! スバル様達が生きていらっしゃるという事…そして、必ずやお救い出来るという事を…一人の友として信じております!」

 

レムの言葉に心の奥底から熱くなるように感じた。本当は一人で迷宮に挑まれるレムを止めるべきと少なからず考えはあった。だが、周囲に秘密の異常なステータスを見せられ、友人として絶対的な信頼を置かれた今、自分がする事は‘’レム止めることではなく、友人として後押しする事に‘’と考えを改めたのだった。

二人の友情が改めて確かなものだと再確認出来た時…

 

 

 

ドンドンドンドン

 

 

 

いきなり激しく部屋のドアを叩く音がした。ニアは素早くステータスプレートをレムに返し、もしものことを考え「危なくなったら、あの窓から逃げてください。」と告げて使い慣れている細身の剣を持ってドアに向かった。

 

「はい、どなた?」

 

ゆっくりドアを開けて訪問者の顔を確認しようとした時、いきなり訪問者にドアを勢い良く開けられて部屋に入って来た。

 

「レムっち!」

 

「レム!」

 

「奈々さん、妙子さん!?」

 

入って来たのは宮崎奈々と菅原妙子だった。二人はニアにも目もくれずレムの所に向かった。

 

「レムっち大丈夫!? ケガは?」

 

「…その様子だと大丈夫そうね。」

 

奈々が少し涙目で心配する中、妙子はレムの左手を見てケガが無い事を確認し奈々より先に落ち着きを取り戻した。

 

「お二人はどうして、ここだと?」

 

「佐助っちが教えてくれたの。『ここにいるんじゃないかな?』って」

 

「それと、私達がいない間に起こったことも…もう、びっくりしたわよ。戻ってくると部屋はめちゃくちゃだし、レムはケガしているって聞くし、心配したのよ。」

 

「そうだったのですね……ごめんなさい、心配をかけてしまって…」

 

レムは謝るも、二人はまだぎこちない顔をしており、不安げな声で妙子が口を開いた。

 

「それでね…レム。あなたは、クラスメイトの縁を切ったのよね? それってつまり…私達のことも…」

 

佐助から大まかな事情を聞き、クラスメイトと決別した事を聞かされた二人は「自分達も見捨てられたのかな…」と不安で一杯だった。勇気を持って妙子はそのことを聞き出そうとした時、レムはゆっくり首ほ振って否定した。

 

「妙子さん、奈々さん。確かには私はクラスメイトの縁を切ったつもりですが、あなた達二人…いえ、優花さんを含めた三人の縁を切ったつもりはありません。だってそうじゃないですか…‘’スバル君達は生きている‘’…そう言って信じてくれてる方を簡単に見限る事など、私には出来ません。」

 

「レム…!」

 

「レムっち!」

 

その言葉を聞いて二人は安心するかのように笑顔を見せた。そして、レムも笑顔を見せながら、

 

「こんな暴力的な私ですが…これからもよろしくお願いします。」

 

そう卑下するかのように言うレムに対して妙子と奈々は苦笑いを浮かべた。

 

「もう、レムが暴力的だなんて思ったことないわよ。」

 

「私も! というか、こっちは真剣に取り組んでいるのに檜山か近藤か知らないけど、あんな事言われたら私だってキレて暴れているよ!!」

 

そう言って奈々はふくれた顔でぷんすか怒っており、その顔がツボに入ったのかレムは手で笑いをこらえていた。つられた妙子も笑いをこみ上げてくるのを抑えており、「あ~何で笑うの!!」と奈々は不満げに言った。

三人に楽しげなムードが流れる中、ニアは微笑ましい様子でこれを見ていた。「レム様が孤独ではなく、心の支えとなる方いて良かった」と思いつつ、ニアは三人が落ち着くまで見守り続けたのだった。




ありふれ噂話


当麻「どうも、当麻です。今日は華やかゲストをお二人呼びたいと思います。お二方、どうぞ。」


レム「こんにちは、レムです。よろしくお願いしますね。」

ニア「こんにちは、ニアと申します。この度は私のような者を招きいただいてありが……」

レム「もう、ニアさん、そんなに改まなくても大丈夫ですよ。気を緩めてリラックスしてください。」

ニア「ですがレム様、当麻様、私のような者が出て良かったのでしょうか? 何か場違いなような…」

当麻「そんなことないですよ。このコーナーは誰が出ても良いようになっていますので。」

レム「ニアさん、あまり卑下にならず前向きに行きましょう!」


ニア「当麻様、レム様……わかりました。改めて、よろしくお願いします!」

当麻「よし、それじゃあ打ち合わせ通りにレムさん、お願いします。」


レム「はい、ありふれ噂話………………………」














レム「実はニアさんと仲良くなれたのは、私が作るロシアの朝食の仕込みを手伝ってくれたことがきっかけなんですよ。」











当麻「そういえば飛ばされて一週間の時、朝食がロシア料理だったね。美味しかったな…何て言う料理だっけ?」

レム「はい、ブリヌイ(ロシアのクレープ)とボルシチを用意させていただきました。これから王宮の人達にお世話になると思いまして…そのお礼とあと、私の国の食文化を知ってもらうため作ったのです。」

当麻「へぇー、そんな意味があったんですね。」

ニア「実は私、レム様がこのような事をする事を知らなくて……」

当麻「えっ、そうなのですか!?」

ニア「はい、これを知ったのは確か……皆さんが来られて、一週間になる前の前日の夜でしたね。私が王宮の見回りをしていたら、真夜中なのに厨房に灯りがともっていて、覗いたらレム様がいて本当に驚きました。」

レム「本当はもっと早く取り掛かっていたのですが、ロシアのスープ、ボルシチが上手くいかなくて…何せ見慣れない食材が多数ありましたからね。味を近づけるために試行錯誤を繰り返していたらあんな時間になっていたんですよ…本当にあの時はありがとうございました。ニアさんが来て的確な食材のアドバイスがなければボルシチは完成しなかったと思います。」

ニア「いえいえ、私もお手伝い中にレム様の国の文化の話しが出来て楽しかったです。また、色々聞かせてください。」

レム「はい、喜んで!」


当麻「さて、本編の友情の裏側を知る噂話しでした。ちなみに、王宮の料理長はレムさんのボルシチを大変気に入り、料理の腕前も見込んで何回かスカウトに来たみたいですよ。」

ニア「当麻様、そろそろお時間が…」

当麻「あっ、みたいですね…それじゃあ今日はこの辺で。」

レム「次回もお楽しみください。」

ニア「………ペコリ←(頭を深く下げた。)」









いかがだったでしょうか?
ニア登場とレムのステータスの回でした。彼女をここまで登場させる二次創作は無いと思いますよ。本編で彼女は優花の心を動かす重要な立ち位置で、雫との友情もありもっと絡みがあっても良かったと思います。故に彼女の最後の結末は、あっさりとして自分的には釈然としない感じでした。なので、彼女の運命を変えたいと思います。
小説を作るにあたって‘’ニアは生かそう‘’という当初の段階はありましたので、今後ちょくちょく出す予定、雫との絡みも増やしていきます。
レムのステータスは案の定、ハジメ達に劣らない化け物クラスとなりました。初期段階でレムの天職は決まっており、あとスバルとの天職の関係も大方決まっておりました。天職や技能についてはまた本編で解説したいと思います。


さて、次回のお話しは。レムは旅立ち、そして、あの二人も何か決意するみたいです。

感想は、いつでもお待ちしております。

次回、お会いしましょう。では、また………


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そして、少女達は決意する② レムは旅立ち、二人の親友は決意する

どうも、グルメです。

今回のお話しはレムが旅立つ前のお話しとなっています。
そして、タイトルを読むと分かるのですが、あの‘’二人‘’にも大きな転機が訪れようとしていました……。


それでは、どうぞ。


「(……周囲に人影は……ありませんね。)」

 

次の日、まだ日が昇らない真っ暗な王宮内を静かに駆け抜けていくレム。ニア以外にここを出て迷宮に挑む事を伝えてないため、見つかれば当然怪しまれ、最悪周囲にばれて行動を制限されることも考えられる。故に王宮内を見回りしている兵士などにバレないように慎重に行動していた。このまま王宮を出てニアが事前に話しをつけているホルアド行の商隊の荷車に乗り込みハイリヒ王国を出るつもりなのだが、その前にレムはある所に向かっていた。

レムはある部屋の前に立ち、辺りに人がいない事を確認して部屋に入っていった。そして静かに部屋にあるベットに向かうと、

 

「…………すぅ……。」

 

穏やかな呼吸で眠っている優花の姿があった。気を失ってから何回も訪れているが一向に目を覚ますことなくこの日を迎えてしまい、旅立つ前に一目見ようとやってきたのだ。レムは優花の手を包み込むようにして持ち、静かに語りかけた。

 

「優花さん、私はさよならは言いません。士郎さん…いえ、皆さんを見つけて必ず帰って来ます………もし、目を覚ましたら……悲しみに明け暮れず…自分に出来ることをしてください。きっと、優花さんにしか出来ない事があるはずです……貴方の大切な親友レムはそれを切に願っています。」

 

そう言うとこの想いが優花に届く事を信じて静かに部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニアに事前に教えてもらった経路で王宮を出て何とか外に出れたレムは、城下町にある荷車の停留所に向かって歩いていた。すると、

 

「見送りも無しに旅立つのは、少々寂しくないか?」

 

横から聞きなれた声が聞こえてきてレムは声がした方を振り向いた。

 

「カヅキさん、イツキさん、それに佐助さんに厚史さん。どうしてここに?」

 

振り向くとカヅキ、イツキ、佐助、そして、眠たいのか目をしょぼしょぼさせている厚史がいるのだった。

 

「佐助君が『明日、レムがハイリヒ王国を発ちオルクス大迷宮に向かう』言うもんだから、兄さんの提案で、皆で見送りする事になったんだ。」

 

そう穏やかにイツキが言うなか、カヅキは笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「しかし聞いたぞ昨日の件、クラスメイトと縁を切る……大したもんだ! 後悔はないのか?」

 

「後悔はありません……ただ私の発言で誤解を招かれた方がいます。誤解が解けたとはいえそのことで申し訳ない気持ちでいっぱいですね。でも、今はそれよりも………」

 

そう言ってカヅキに少し暗い表情を浮かべていた矢先、急に佐助の方を向いてジト目で睨みつけた。

 

「佐助さん、私の交友関係といい、今回の件といい、少々乙女の秘密探り過ぎではありませんか?」

 

「えっ、いや~たまたま知っただけだって。ニアちゃんとの関係は仲良さそうなところ見て知ったし、今回の件だってたまたま部屋を通りかかったら聞こえてきたしさ~」

 

「どうだか…。」

 

そう言って悪びれる様子もない佐助に対してレムはあきれかえるのだった。この男は元の世界でも生徒でも知らない個人の情報を知っていたり、また、相応の対価を払えば情報の売買はもちろん、独自に調査をして情報を得てくる等、学校ではちょっとした噂になっているのだった。「今後、秘密を探られないように気を付けないと…」とレムが改めて認識した時、

 

「レム!」

 

「レムっち!」

 

聞きなれた声にレムは今度は本気で驚いて後ろを振り向いた。

 

「妙子さん、奈々さん!? どうして、ここに!?」

 

振り向いた矢先には不満げな表情を浮かべる妙子と奈々、それと申し訳なさそうにいるニアがいた。実は訳あって奈々と妙子には迷宮に挑むことは伝えておらず、レムが旅立った後にニアの口からレムの居場所や言づけを伝えてもらう予定になっていたのだ。

 

「申し訳ございません。レム様が部屋に戻られた時、再びお二人がやってきてレム様から何か聞かされてないか強く問い詰められまして……私もお二人が何も言えずにこのままレム様を行かせるのもどうかとおもいまして、それで…つい…」

 

ニアは「本当に申し訳ございません。」と言って深く頭を下げた。そして、妙子と奈々がゆっくりとレムに近づいてきた。

 

「ニアさんから大体のことは聞いた。レムのステータスが私達のステータスより遥かに高く迷宮に挑むのに充分だということも…だけど、」

 

「何も言わずに行っちゃうなんてひどいよ! せめて話してほしかった、レムっちの口から聞きたかった!」

 

顔をしかめ、怒っているような悲しんでいるような複雑表情でレムを見つめ悲痛な思いを告げる妙子と奈々。その思いにレムはまともに二人の顔を見ることが出来ず、自分の足元を見下ろしながら震える声で告げた。

 

「もし、オルクス大迷宮でスバル君、ハジメさん達を探しに行くと伝えたら絶対反対されると思いましたし……仮に賛同を得ても、二人なら絶対についてくるとも考えてました…」

 

「当たり前だよ! いくらレムにとって大切な人達でもそんな危険なことさせられないよ!」

 

「仮に行くとなっても一人では行かせられないわね、私と奈々が一緒について行くと思うわ。」

 

レムの考えに猛反対する奈々、行くとなってもついて行く考えを持つ妙子。真剣に自分の事を想って言っている二人の言葉に嬉しく思いつつ、何も話さなかった自分の行いを恥じながらも口を開いた。

 

「私も…お二人がついてきたら、‘’これほど心強い者は無い‘’そう何度も思いました。ですが……」

 

そう言ってゆっくりと顔を上げてどこか苦痛そうな表情でレムは訴えた。

 

「もし、そうなった時…優花さんが……目を覚ました優花さんのことが気になって……ただでさえ大切な人が奈落の底に落ち、そして、いつも身近にいる私達が傍にいなかったら……本当に今度こそ優花さんの心が壊れてしまうと思いまして……それで…つい…」

 

「…黙って一人で行こうとしてたわけね」

 

妙子の言葉にレムはコクッと軽く頷き再び顔を下に向けた。二人とてレムについて行った時、優花の事はもちろん考えた。王国にいることだし、他のクラスメイトもいるから大丈夫と考えていたが、改めてレムの言葉を聞いて考えてみると無くもない話に妙子と奈々は顔を見合わせた。二人は複雑な表情で見合わせていたが意思疎通したように顔を緩めて頷き合い、レムの方を向いた。

 

「レム、顔を上げて。」

 

「えっ………あいたっ!?」

 

妙子に言われてレムが顔を上げるといきなりおでこにデコピンを喰らい、そのおかげで苦しそうな表情は一気に吹き飛んだのだ。地味に痛かったのかレムがおでこを抑えていると、

 

「とりあえず、私達に黙っていたことはこれでチャラね。」

 

「しょうがないから奈々達が残って優花っちを見守ってあげる。」

 

「えっ…よろしいのですか?」

 

仕方なさそうな顔をして言う二人にレムが驚いていると妙子が口を開いた。

 

「本当はついていきたいのは山々なのよ。でもね、ニアさんからレムのステータスについて聞かされた時、‘’本当について行っても良いのか?‘’とも考えたわ。悔しいけど私達の今のステータスだと、どこまで迷宮に行けるか分からないし、最悪私達二人が弱かったらレムの足を引っ張りかねない…足手まといにはなりたくないのよね。」

 

「そんな! 二人がついていくことに足手まといになるなんて私は…」

 

「レムっちがそう思わなくても、迷宮で助けられる度に私達はそう思っちゃうの!」

 

言葉を遮るようにそう断言する奈々。そして、妙子は「だからね…」と前置きして、

 

「私達の事は気にせず、行って来なさい!」

 

「その代わり必ず生きて帰って来ること! 約束だよレムっち!」

 

「妙子さん……奈々さん……ありがとう…ございます…。」

 

笑顔で後押しする二人にレムは思わず涙が出そうになるもグッとこらえて、こちらも笑顔を見せた。するとここで、

 

「レム様、これを…」

 

「ニアさん、これは?」

 

ニアは突然、レムに手紙のようなものを手渡した。不思議そうに見ていると、

 

「私の親族が宿を経営してまして、これはその招待状です。向こうでの拠点としてお使いください。」

 

「ニアさん……何から何までありがとうございます。ここまでの御恩は一生忘れません。」

 

「ふふ、私は友達として出来ることを精一杯したまですよレム様。」

 

にこやかに笑うニアは自然と手が出ていて、レムも自然と手が出ていた。

 

「レム様、どうかお気を付けて…ご武運を…」

 

「ニアさん、私は貴女に出会えて本当に良かった。本当に本当に、ありがとうございます。」

 

レムとニアはお互い両手を合わせて握手した。ある程度、握手をしたレムはカヅキ達の方を振り向いた。カヅキはニィと笑って口を開いた。

 

「随分スッキリした顔つきになったなレム。」

 

「ええ、もう心残りはありません。これで思いっきり皆さんの捜索に専念出来ます。」

 

「そうか………………悪いな、力を貸せなくて。」

 

「いえいえ、お二人にも深い事情があるのですから、そちらの方を優先してください。」

 

「そう言ってもらえると助かるよレム。」

 

そう言ってイツキは苦笑いを浮かべた。

実はレムはカヅキ、イツキの強さを見込んで事前に計画を打ち明け、協力してもらうようにお願いしていたのだ。二人は雫に話したように今までの経緯を話しつつ、この世界で自分達がしなければいけないことをレムに伝えて協力を断っており、レムも二人の経緯に驚きつつ、事情を理解して潔く諦めたのだった。

 

「レム、ついでと言っちゃなんだが…頼みがあるんだ。」

 

「?」

 

カヅキの言葉に首をかしげるレム。どこか真剣な表情でカヅキは口を開いた。

 

「あいつらに会ったら伝えてくれ…………『月山パーティー一同はお前たちの活躍で助かった、ありがとう』ってな。頼めるか?」

 

「!! はい、必ず!」

 

レムは強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

その後、レムはニアが事前に話しをつけていた商隊の荷馬車に同乗し、朝日が昇ると同時にハイリヒ王国を発った。見送りに来た者達はレムの乗った馬車が見えなくなるまで見続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁあああ~………あれ、レムさんは?」

 

「レムちゃんなら、もう行ったよ。」

 

「ええええーー!!? 行っちゃったのですか!? どうして起こしてくれなかったのですか、佐助さん!!」

 

「いやいや何度も起こしたって。というか厚史、今まで寝ながら歩いてたのか? 器用すぎないか…。」

 

今まで寝ていたことに驚く佐助に、起こしてくれなかったことに抗議する厚史。あれから、レムを見届けた一同は王宮に向かって歩いていた。

 

「兄さんはこれからどうするの? 野宿先に戻るの?」

 

「いや、その前に王様と話しをする。」

 

「王様? ハイリヒ王国の?」

 

「ああ。えっーと、ニアだったか? すまないが、王様と謁見出来るように話しつけてくれないか?」

 

「えっ…? あっ、はい。分かりました。」

 

カヅキに頼まれた事を引き受けるニア。ニアとイツキはカヅキが何用で王様と出会うのかいささか気になるのだった。

 

「……………………。」

 

「見送りしちゃったけど、やっぱり寂しいわね。」

 

「………そうだね。」

 

カヅキ達から2、3歩離れたところに奈々と妙子が歩いていた。レムを見送ってから奈々はどこか思いつめた顔をしており妙子の言葉にも空返事を返すばかり、妙子が「大丈夫かしら…」と心配仕掛けた時、

 

「よし、決めた!!」

 

「えっ!?」

 

俯いていた顔を上げると小走りでカヅキ達の前に立った。そして、

 

「カヅっち! イツっち! お願い、私を強くさせてください!」

 

「はぁ?」

 

「えっ?」

 

いきなりのことに面喰い、変な声が出るカヅキとイツキ。佐助、厚史も奈々の発言に目を白黒させている中、妙子が慌てたように奈々の近くにやって来た。

 

「ちょ、ちょっと、奈々!? 一体どうしちゃったのよ、レムがいなくなったからって気が動転し過ぎ……」

 

「私は気は動転してないし、大真面目だよ妙っち!」

 

妙子にキッパリと言うと、奈々は頭を下げた。

 

「お願いです。私を強くさせてください。」

 

その言葉にカヅキとイツキは少し顔を見合わせた後、再び奈々の方に顔を向けた。

 

「藪から棒だな、訳を話してくれ。」

 

カヅキの言葉に奈々はゆっくり口を開いた。

 

「その……単純に友達を、ううん…‘’大事な人を守るために強くなる。‘’っていう理由だけじゃダメかな?  私、今までレムっちに守られてばかりだったし…レムっちがいない今、‘’今の弱い自分でいいのかな?‘’っと思って………それにいまいち実感湧かないけど戦争中なんだよね? 仮に敵が攻めてきて何も出来ずにいるのは…耐えられないかな…」

 

一呼吸置いて「それと…」と奈々は前置きして、

 

「私、優花っちが落ち着いたらレムっちの所に行こうと思うの。少しでもレムっちの支えになれたらと思って……だからそれまでに少しでも強くなりたいの!」

 

そう言って真剣な表情で二人を見る奈々。すると今度はイツキが奈々に質問した。

 

「別に僕たちに教わらなくてもメルド団長の教えと訓練をしっかりこなせば自然と強くなると思うけど?」

 

「確かにそうなんだけど……なんとなく、なんとなくなんだよ? 上手く言い表せないけど、メルド団長の教えに何か足りないような気がして………カヅっちとイツっちの戦いは迷宮の脱出時に私見てたから、二人から何か教われば一気に強くなれると思って…それで…」

 

「僕たちに頼み込む訳ね…。」

 

「ほう…。」

 

奈々の言葉にカヅキは強く感心した。彼女は無自覚かもしれないがメルド団長が‘’教えきれてない‘’ことを理解している事に。この様子なら‘’それ‘’に触れてもスランプを起きないと考えたカヅキは、

 

「お前の覚悟、部屋にこもっている他の連中に聞かせてやりたいぜ……」

 

「ええっと、つまり……」

 

「いいぜ、のってやる。時間の許す限り、お前を強くしてやる!」

 

「本当!? やった!! ありがとう!!」

 

奈々が喜ぶ中、イツキは小声でカヅキに話しかけた。

 

「珍しいね、兄さんが二つ返事で引き受けるなんて…。」

 

「頼られるのは嫌いじゃないからな、どこまで強くなるのかも見ものだ。」

 

「それに…。」とカヅキは前置きして、

 

()()()()()()は…させたくないしな。」

 

「……………………。」

 

その言葉を聞いてイツキはどこかやるせない思いになるのだった。

 

 

 

 

二人がそんなやり取りをしている中、妙子は決意に満ちている奈々を「じー。」と見つめた後、妙子は小さく頷いてから、いきなり、

 

「ねぇ、カヅキ君、イツキ君。奈々の訓練なんだけど、私も入っていいかしら?」

 

「妙っち!?」

 

「妙子さんまで……」

 

「あらら、これは面白くなってきたか?」

 

突然の発言に奈々と厚史は驚き、佐助は面白がり今後の展開に胸を弾ませる中、カヅキは「ふむ…。」と少し頷いた後、

 

「まぁ、かまわないが…どうしてまた?」

 

「どうしてって……半分は奈々と一緒の想いよ。守れるようになりたいし、後悔もしたくない…今後の事も考えて強くなっとこうかなと思って。」

 

「残りの半分は?」

 

イツキに尋ねられると妙子は儚げに笑うと、

 

「ちょっと寂しいかなって思って。レムも奈々も強くなって、どこか手の届かない所に行ってしまいそうな感じがして……」

 

「なるほどね…。」

 

妙子の言葉に納得するイツキ、妙子は奈々の方を向いた。

 

「奈々、置いてけぼりはごめんよ…一緒に強くなりましょ。」

 

「うん、妙っちがいると心強いよ。」

 

「それと一人で抜け駆けは禁止。レムの所に行く時は‘’優花‘’も連れて行きましょう。」

 

「えへへ、そうだね。」

 

二人の新たな決意と目標が定まった所を見届けたカヅキはタイミングを見て二人に話しかけた。

 

「話しはまとまったか? よし、善は急げと言うことだし、早速今日の昼頃から俺の野宿先で「お~い!」あ? 何だ?」

 

今後の予定について二人に話しかけようとした時、王宮の門から数人のクラスメイトがやって来るのだった。

 




いかがだったでしょうか?

レムが旅立つ時、「旅立つ直前にメッセージを残す。」「旅立つ者の見送り。」「旅立つ者にメッセージを託す」は絶対に書きたいと思っており、試行錯誤して何とか書く事が出来ました。自分で言うのもなんですが、綺麗にまとまったと思っています。

そして、奈々、妙子に強化フラグが立ちました。
小説を書くに至って、本編ではそれ程目立たない者の何人かはハジメやユエに及ばない程度に強化は考えており、その内の二人が彼女らになります。
妙子には、いずれ‘’ある武器‘’を持ってもらいます。
奈々については本来、アニメ放送期間、原作でも天職については触れておらず、オリジナル天職をつける予定でしたが、アニメ放送が終わって、知らぬ間に公式サイトにひっそりと追加され、原作の最新刊でも反映されていたので、それに従うことになりました。
ただ、色々バリエーションが豊富そうな天職なので動かす時が楽しみです。



次回、やって来たクラスメイトとやり取りをしてから、白崎香織が目覚めた直後に戻ります。自分で言うのもなんですが、いつの間に回想に入っていたんだろう……。

皆様の感想、評価、いつでもお待ちしております。


それでは、この辺で。では、また………


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そして、少女達は決意する③ 香織と雫は決意し、孤高なレムは迷宮に挑む。

どうも、グルメです。

大変お待たせしました。1.5章の最終話となります。


それでは、どうぞ。


数人の生徒達がカヅキ達に向かって走って来た。

 

「あれは、光輝さんに、龍太郎さん。」

 

「あらら、雫ちゃんだけじゃなく、鈴ちゃん恵理ちゃんコンビまで…勇者組勢揃いだね~」

 

厚史と佐助がやって来る生徒達を判断していると勇者組がやって来た。みんな慌てふためいており、どこか落ち着かない様子が見られた。

 

「どうした? そろいもそろって血相を変えた顔をして?」

 

「‘’どうした‘’じゃないだろ!! なに悠長な事を言っているんだ!?」

 

カヅキの言葉に光輝はどこか切羽詰まった様子で声を荒げた。いきなり出会い頭に声を荒げられた事に苛立ちを覚えたカヅキは眉間にしわを寄せていると、雫が割って入って理由を話した。

 

「それよりもレムが……レムが、いないのよ! 昨日のことでレムに謝ろと思って部屋に訪れたら…綺麗に掃除してあってレムの私物が無くなっていたの…。」

 

「今、クラスメイト全員で王宮内を探している所だ。」

 

雫の言葉に付け足すように話す龍太郎。それを聞いたカヅキはチラッと奈々と妙子の顔を見た。二人は意を決するようにコクッと頷くと、カヅキはかったるそうに話し始めた。

 

「レムならさっきこの国を出ていった。オルクス大迷宮で落ちた連中を探しにいくためにな。」

 

「僕たちはそのレムを見送った帰りなんだ。」

 

「……えっ!?」

 

「な、なんだって!!?」

 

カヅキ、イツキの言葉に驚きを隠せない表情で固まる雫と光輝。龍太郎達もこれを聞いてただ驚くばかり、そして光輝は案の定批難し始めてカヅキの胸倉につかみかかった。

 

「あんな危険な事があって、まだ何があるか分からないってのにどうして止めなかった!!?」

 

「遅かれ早かれアイツはここを出て落ちた連中を探しに行く事を決めてたんだ。アイツの意志をどうして止める必要があったんだ?」

 

「それはどう考えても無謀過ぎるから…」

 

「無謀!? よく言うぜ! 大ベテランのメルド団長の言葉も聞かずに単騎でヘビモスに挑もうとしていたお前がよく言えたもんだな!?」

 

「少なくともレムは君より賢い、君みたいに無謀なことはしないと思うよ。」

 

特大ブーメランが帰ってきてかつ、イツキの棘のある言葉に光輝は苦虫を噛み潰したような顔をしてカヅキの胸ぐらを離した。そしてカヅキと話しても埒が明かないと思った光輝は無意識に妙子と奈々の方を向いた。

 

「君たちも君たちだ! 大事な友達なのにどうして止めなかった?」

 

「私だって止めたかったわよ! でも、レムがそうするって決めたから、一人の友人として支えたかったから…だからレムの意志を尊重して行かせたのよ!!」

 

「こっちの気も知らないで勝手なこと言わないで!!」

 

普段おっとりしている様子から想像つかない程の妙子の憤慨姿、さらに奈々の激怒する姿に光輝は少し後ずさりした。そして、カヅキは頭をかきながらめんどくさそうに口を開いた。

 

「なぁ天之河、レムが黙って出で行った原因…お前にも一因があること自覚しているか?」

 

「なっ、俺が!? 俺は何も悪いことは言っていない!! 悪いのは檜山やそれに便乗したクラスメイト達だろ!? でたらめなこと言うな!!」

 

そう反論する光輝。その言葉に疑いも迷いもなく‘’自分の行いは正しい‘’ ‘’間違ってない‘’という事が嫌という程伝わって来た。それと同時にレムが出ていった原因が檜山とそれに便乗したクラスメイト達の責任と押し付ける始末。本気で言っているのか、はたまた単に気づいてないのか定かではないが、自分の発言を棚に上げている事にカヅキとイツキ哀れみの表情で露骨にため息をつき、妙子と奈々は睨むようにを見つめ、ニアはどこか複雑な表情で見つめていた。そして佐助は「ためだこりゃ」と苦笑いを浮かべ、厚史は「この先、信じていいのでしょうか…」とどこか心配そうな表情で見ていた。

 

「な、なんなんだ君らは! 俺が何をした!? どうしてそろいも揃ってそんな不快な顔をする!?」

 

原因を理解せず、どうしてこのような顔を向けられているのか分からない光輝は狼狽した。「こいつは本気で過去を振り返らないな…。」とカヅキ達が思っている中、

 

「…行くか。」

 

「…そうだね。」

 

カヅキの一言にイツキは頷いた。光輝を横切り勇者組の中をかいくぐるように歩く二人。

 

「奈々、行きましょ。」

 

「うん。」

 

妙子がそう言うと奈々は静かに頷き、二人の後を追うように歩き出した。そして、光輝を横切る時、二人は思った。‘’もう、光輝(こいつ)は信用しない‘’と。

 

「…では皆様、失礼します。」

 

「じゃあね、みんな~」

 

「失礼します。」

 

ニアは勇者組にお辞儀をして歩き出し、佐助は軽い口調で手を振ってからニアに続き、厚史もニア同様に深く頭を下げてからそれに続くのだ。

 

「ニア…。」

 

雫様、詳細はまた後で…。

 

どこか悲しげの雫の前を通る時、ニアは軽く会釈した。それと同時に雫しか聞こえない声で呟いてカヅキ達の後を追った。

 

「「「…………。」」」

 

龍太郎、鈴、恵里は横切って行くカヅキ達を黙って見送った。とてもじゃないが声をかけられる雰囲気ではなかったからだ。それと同時に彼らの背中が自分達にはない"何か"が漂っているように見えた。

雫にもそれが見えており彼らの背中を見つめていると、

 

「雫………俺は何か間違えていたのか? それが何なのか分かるのか?」

 

震える声でどこか悔しい思いを隠しながら光輝は尋ねた。

 

「光輝、それはあなたが…「ダメだよ八重樫さん、簡単に教えては。」月山君?」

 

いつの間にかイツキは歩みを止めてこちらを見つめており、雫が教えようとしていた事を静に遮った。

 

「別に良いだろそれぐらい! それにお前には関係無いはずだ、邪魔をするな!!」

 

光輝はイツキに邪魔された事に腹をたてて睨み付けるも、イツキは動じる事なく涼しい顔をしていた。そして、またもや小さなため息をついたのだ。それが光輝をさらに怒りを湧き上がらせイツキに迫ろうと動き出そうとした時、

 

「天之河ァ、耳をかっぽじってよく聞け。」

 

いきなりカヅキが歩みを止め、めんどくさそうに背中越しに語り始めた。

 

「お前がこの世界で何しようがかまわねぇ…だが本気で人間族のために戦い、人も世界も救うって言うのなら……やめときな。今のお前には無理だ。」

 

「なん…だと? 何が無理なんだ!!」

 

自分自身を否定されたように思えた光輝はさっきのこともあって激怒した。カヅキは淡々とした口調で話しを続けた。

 

「どうしてレムが去ったのか? どうして俺たちがお前に期待外れの眼差しを向けるのか? どうして俺がお前に無理だと言ったのか? それすら分からない奴が人を世界を…救えるわけないだろ。」

 

「だから俺は! 分からないから雫に聞こうと「それが間違いなんだよ天之河ァ!!」…っ!?」

 

いきなり声を荒げるカヅキに光輝はびくついた。そして、カヅキは振り向いて光輝に言い放った。

 

「自分で考えろ。これから多くの事を考え決断するというのに、考えもしないで安易に答えを求めるな。それとお前はもっと他人を知れ。他人を知らずにして人など救えない…それから最後に、もっと己を見つめ直せ。はっきり言うがレムの件、お前にも一因がある。何がいけなかったのか…しっかり追及しろ。」

 

それだけ言うと再び光輝に背を向けた。

 

「もし、それができないなら勇者なんかやめろ。その辺のガキを連れて勇者ごっこしているのがお似合いだ。」

 

そう言ってカヅキは歩き出したのだ。歯がゆい思いで聞いていた光輝は納得がいかないのか早歩きでカヅキに迫ろうとしたが、雫が素早く光輝の肩を掴んだのだ。

 

「待ちなさい光輝!」

 

「雫、何故止める!?」

 

「それは止めるわよ。彼は何も悪いこと言ってないでしょ? 何をしようとしていたか分からないけど貴方が馬鹿な事をしでかそうとした事を止めたのは確かよ。」

 

目を細めて睨む雫に「うっ」と息を止める光輝は渋々カヅキを追いかける事を諦めた。

 

「口は悪いけど彼は貴方の欠点を教えてくれたのよ? 素直に受け止めないとダメよ光輝。」

 

「確かにそうだが…でも少しくらい教えてもらって罰は当たらないはずだ。」

 

「さっきも言ってたでしょ? 自分で考えないと貴方のためにならないわよ。それに私もさっきの行動は軽率だと深く反省している…今後の光輝のためにならないものね。」

 

そう言って雫は光輝の問いかけ直ぐに答えようとした事を反省した。思えば今の光輝の性格は自分の行動にも非があるのではと思い、後で思い返してみる事を心の中で決めるのだった。

そして光輝はまだ納得してないためなのか、はたまた雫が二人、もしくは一人と仲が近づきつつある所に嫉妬したのかカヅキとイツキの背を睨みつけながら呟いた。

 

「雫は、やけにあの二人の肩を持つのだな…」

 

「………そんなんじゃないわよ。良くなってもらいたいという気持ちを持つことはいけないことなのかしら?」

 

その言葉に雫は嫌気がさしたのか光輝の顔を見ずして視線を逸らした。すると城下町が目に見えたのでそちらの方に向けて雫は歩みを進めた。

 

「どこへ…?」

 

「どこだっていいでしょ…時には一人になりたい時だってあるのよ。いちいち光輝に言う義務があるのかしら? それに今の貴方と話したくないから………それじゃあみんな、また後で。」

 

苛立ちそうに背中越しにそれだけ言うと雫は城下町の方に歩いて行った。

 

「待て、雫!」

 

「おいおい光輝。」

 

「光輝くん、今はそっとしておいた方がいいと思うの…」

 

「エリリンの言う通りだね、今はシズシズを一人にさせてあげよ。」

 

呼び止めようした時、龍太郎と恵理、鈴が察して止めに入り光輝は渋々諦めた。

 

 

 

そして、この様子を少し離れた所で妙子が見つめているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが一週間の間にあった出来事よ。」

 

「私が寝ている間に…そんなことが……。」

 

妙子から一週間の間にあった出来事を聞かされ、どういった顔をしたら良いのか分からず複雑な心境なまま、香織はただ項垂れるしかなかった。

今ここにいるのは香織、雫、語りの妙子と奈々だけになっており、妙子の要望でその他の生徒は退出させられた。光輝は「香織は俺がついていないとダメなんだ!」「何故退出しないといけないんだ?」と空気が読めず最後まで拒んでいたがイツキ、佐助、厚史、そして雫の命令で動いた龍太郎により無理矢理退出させられた。

 

「…………………………。」

 

今、香織の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

 

‘’どうしてクラスメイトはハジメ達の生存を信じないのか?‘’

 

‘’どうして皆はもっとレムの想いに寄り添わなかったのか?‘’

 

‘’どうして自分はもっと、早く目を覚まさなかったのか?‘’

 

‘’どうして自分はこうなる前に早くレムと深く関わっていなかったのか?‘’

 

他人を攻め、自分を攻め、怒りや悲しみ等、様々な感情や想いが混ざり合い、握っていたシーツに力が入り項垂れながら思わず涙が出そうになった。

 

「香織…」

 

心配そうに見つめる雫、妙子と奈々も心配そうに見つめていたが、

 

「……お話し…しないと…」

 

ぽつりと香織が呟いた。三人が「えっ?」とした表情になり香織に注目すると、

 

「私、レムとお話したい! ハジメ君、ううん…皆はきっと生きている事、皆、助けが来るの待っている事、レムと同じ想いだという事をちゃんと会って伝えたい!」

 

そう言って顔を上げて決意する様子を見せる香織、そこには堂々と正面から‘’突撃‘’しようとする少女の姿があった。これを見た雫も意気込む姿を見せた。

 

「そうね。会ってお話しをしないとね…私も付き合うわよ香織。」

 

「雫ちゃん! ありがとう!!」

 

「いいのよ。私も光輝が暴走した事、謝らないといけないから…。」

 

いつもの香織か見れた事に安心した雫。光輝と一緒にいながら彼の暴走を止められなかった事を負い目に感じていた彼女もまたレムに会う決意をするのだった。

 

「(この二人なら…)」

 

「(うん、大丈夫だよ。きっと…)」

 

レムに会う意気込みをしている二人を見て、妙子と奈々は小さな声で話していた。

 

‘’この二人ならレムに会っても大丈夫だろう‘’

 

‘’この二人ならレムを傷つけることもなく、共に彼らを見つけ出してくれるだろう。‘’

 

妙子と奈々はそんな想いを胸に香織、雫に期待を寄せるのだった。

それぞれ少女達が想いを抱く中、香織は目をつぶって胸に手を当てた。

 

「(待っててね、レム。私も後から追いつくからね…あなたに伝えたいこと、話したいこと、いっぱいあるから…それまではどうか無事で…)」

 

そう言って心の中でここにはいないレムに想いを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………?」

 

誰かに呼ばれたような気がしたレムは後ろを振り返った。しかし、振り返っても呼んだ者は見当たらず、いるのはこちらに見向きもしない街人ばかり。気のせいと感じたレムは再び前を向いた。目に映ったのは博物館の入場ゲートのような‘’オルクス大迷宮‘’の入り口だった。

 

レムは今、オルクス大迷宮の入口前の広場に立っていた。

あの日、ハイリヒ王国を発ったレムは焦る気持ちを抑えながら荷馬車に揺られ、休憩をはさみながら次の日の早朝にはホルアドに着いていたのだ。ホルアドに着いた途端、荷馬車の運転手に礼を述べた後、レムはニアの親族が経営している宿に向かった。そこで宿主にニアの招待状を見せて拠点となる部屋を確保すると荷物を整理し必要な物を揃えて、この広場までやって来たのだ。

 

「…………………っ」

 

レムは思わず顔をしかめた。このオルクス大迷宮の入口を見るとあの日、スバル達が落ちていった日の事を鮮明に思い出したからだ。4人が落ちていき、何も出来なかった自分の姿が頭の中を駆け巡り思わず涙が出そうになるも、何とか耐えて首にかけていた水晶のペンダントを取り出した。水晶はヒビもなく太陽に照らされて輝いていた。

 

「大丈夫、皆さんは生きている…だから、大丈夫。」

 

自分にそう言い聞かせて心を落ち着かせるとレムはペンダントを首にぶら下げた。

 

「…行きましょう。」

 

静かに告げるとレムは入口に向かって歩き出した。

 

‘’必ず助ける‘’そんな決意を胸にレムはオルクス大迷宮に一人挑むのだった。

 

 

 

 

第1.5章 完

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

光輝の説教回と香織、雫の決意回、そしてレムの孤独な戦いの始まりの回でした。
話しが進むにつれてここの光輝君はどんどん人望が無くなってきています。最終的に彼を信頼している人は残っているのでしょうか…作者自身も心配です。

香織と雫はレムに会う決意をします。雫は暴走して心無い事を言っていた光輝を止められなかった事に責任を感じてレムに謝るために、香織は落ちていった南雲達が「生きている。」と最初から信じているレムとお話し、もとい友達になるために動きます。
実は香織とレムはどちらも「南雲、天之川グループにいる一人」という他人程度の認識のため、深い仲ではありません。レムはともかく香織は気になっていたためレムに話しかけようとするも、その前にハジメを見つけてそっちに向かってしまったり、運悪く光輝に絡まれて話す機会をなくすなどして良い関係が築けなかったのです。
故に香織は今回の件で早く関われなかったことを後悔しているのです。

話しの最後にレムがオルクス大迷宮に挑みます。これが1章の最後に繋がるのです。


改めて無事に1.5章を書き終える事が出来ました。どこかで話したと思うのですが3話でまとめるつもりが、いざ文章にすると3話で収まらなかったので5話になってしまいました。ここまで読んでくださった読者には感謝感激です。
とりあえず、当分はクラスメイトのお話しはないのであしからず。

次回、いよいよ2章開幕。ハジメ、スバル達の冒険が始まります。
基本的な道筋は原作と一緒ですが、多数のモブキャラ達が登場予定です。書き上げ次第に投稿するので、いつになるのか分かりません。頑張って書き上げるので応援よろしくお願いします。

それでは、第2章でお会いしましょう。

では、また…


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第2章 旅の始まりは最強の誕生と最恐の出会い、そして、うざかわいいライセン大迷宮へ 
ウサギとヤツらたち



どうも、グルメです。

第2章開幕です。最初はプロローグ的な意味でスバルやハジメ達は出てきません。
ですが、今後物語を大いに関わってくるであろう人物達が登場します。


それでは、どうぞ。


ライセン大峡谷。

 

地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場であり、断崖の下はほとんど魔法が使えず、また多数の強力にして凶悪な魔物が生息する場所。グリューエン大砂漠から東のハルツィナ樹海まで大陸を南北に分断する大地の傷跡である。

はっきり言ってプロの冒険者ですら行くのをためらう大峡谷に人影があった。

 

「……早く行かなくちゃです。あの未来へ、あの人達のもとへ。」

 

何か意味ありげに呟く十代半ばの女の子は周りをキョロキョロさせて魔物がいないと分かると駆け出した。

 

頭の上にある可愛らしいウサミミをなびかせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくしてハルツィナ樹海の最深部、巨大な一本樹木の大樹ウーア・アルトのさらに奥にそれはあった。一言で言うなら砦である。

東京ドーム1個の広さを持つ砦はツタや苔が生い茂っても立派な鉄の城壁に守られており、砦の中は小さいものでアパートくらい高さ、高いもので5~6階くらいの高さの石積みの建物がいくつかあり、さらに石積みの建物より高い大樹があちらこちらに生えていた。そのため年中、陽の光が当たらず湿気ているが上空から見れば大樹の茂みにより砦が隠れており、上空から砦の位置を特定するのは困難とさせていた。

その砦の中で立派な建物、例えるならノートルダム大聖堂のような建物の中に土台にのったバレーボールくらいの大きさの水晶があった。その水晶は輝くと何かを映し出した。

 

 

 

 

 

 

樹海の中を歩く集団。先頭を歩く二人は兎の亜人、弱々しい中年男と若い女性、歳が離れているから親子と見られる。

次に白髪に右目を眼帯をかけている人間の青年、その隣には金髪の紅い瞳をした美しい少女がおり、二人の一歩後ろには白髪の青年と同じくらいの歳の青年が三人並んで歩いていた。

そして、さらに後ろには兎の亜人、男女合わせて40人がまとまって歩いていた。

 

この集団が何処に向かっているのか定かではないが、迷う素振りも見せずに歩き続け、濃い霧に包まれて消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが数日前から繰り返し映し出されている映像の全てだ。」

 

実直な声の大男が言うと、一人の大男が愉快そうに意見を言い出した。

 

「オイオイ、あの映像に映っていた金髪は陛下だろ? 何で生きているんだ? 死んだって聞いたけどな。」

 

「それは私も聞いた。生きているとは考えられない…もしや、死霊か!?」

 

「落ち着けって、まだそうと決まったわけじゃないだろ?」

 

愉快そうに話す大男の隣、黒いローブを着た男は死んだ者を傀儡にする‘’死霊‘’を酷く嫌っているのか怒りをあらわにして愉快そうに話す大男になだめられた。

 

「あ~陛下、変わらずお美しい~。再びその美しさをご尊顔出来るのですね~……それにしてもお隣の殿方は一体?」

 

「ただ物ではないのは確かだな……あの目を見ろ、多くの者を狩ってきた目だ…フフッ、油断は出来んぞ。」

 

王族が着るようなマントを羽織っている男は陛下の美しさに虜になるなか、隣にいた初老声の男は陛下の隣にいる男に警戒を高めていた。

 

「おめぇ、陛下が本物だったらどうする?」

 

「そりゃあ、ドカーンで派手にお祝い。逆に聞くけど、偽物だったらどうする?」

 

「もちろん、ドカーンっでぶっ飛ばそうぜ!」

 

「ガハハハハハ、楽しそうだなお前ら! どれ、俺も陛下が来た暁には銅像の一つ立ててやるか!」

 

左右対称にそれぞれ顔に大きな焼け跡を持っている二人組の男は陛下がやって来た時の対応を考えており、その隣にいた髭モジャの大男もノリにのって笑いながら豪語するのだった。

 

「それにしても何故この兎人族は人間と行動しているのだ? フェアベルゲンの掟では外部の接触はおろか招き入れるなど大罪のはず…なのに何故?」

 

クモの上半身を半分に切った物を頭に被っている大男が疑問視していると、いきなり大きな音と共に近くの扉が開き、茶色の頭巾を深く被った男がやって来た。

 

「取り込み中、失礼します。報告したいことが…」

 

頭巾の男がそう言うと辺りを見渡した。特に止める者がいなかったため報告を続けた。

 

「樹海近辺にいました帝国中隊と交戦、帝国軍は撤退していきました。被害は重軽傷は多数出ましたが死者は出ておりません。」

 

「おっ、そうか! それにしても……ハァ~俺様も集まりがなければ戦場に立って人間の10や20の首、引っこ抜いてやったのにな~」

 

「しかし、中隊相手によく死者を出さなかったな。一体、どのようにして勝利を納めたのだ?」

 

愉快そうに話す大男は帝国と一戦交えなかったことに落胆しており、黒いローブを着た男は死者を出さなかった秘訣を尋ねた。

 

「奇妙な事に樹海から出ている亜人の一団がありまして、帝国はそれを奴隷として捕まえるのに夢中になっておりました。我らはそれに乗じて帝国軍を急襲しました。」

 

ここで実直な声の大男がある疑問を浮かべた。

 

「亜人の一団? それは一体どこの亜人だ?」

 

「……たしか、兎人族…だったような…。」

 

頭巾の男は先ほどの戦場で駆け巡って微かに見かけた兎人族の姿を思い返しながら答えた。

思えば何故、樹海の外に兎人族がいたのか頭巾の男もわからないでいた。ハルツィナ樹海で生まれた亜人なら樹海の外に出たらどんな危険が待ち構えているのか知らなくもない話だ。

それなのに部隊を編成して駆け付けた時には既に兎人の一団は帝国軍に追いかけ回され、何人かの兎人は捕まっていた。はっきり言って捕まろうが殺されようが知ったことではないが、帝国軍の気がそれているのは事実。この機を逃すまいと思った頭巾の男は率いた部隊で帝国軍を後ろから急襲、帝国軍は逃げ惑う兎人に気を取られていたため一度は総崩れになるも直ぐに態勢を立て直した。

帝国軍の反撃はあったものの意外にもそれ程過激ではなく、どうやら捕まえた兎人を横取りされると思い込んだのか帝国軍は捕まえた兎人及び新しい奴隷を守りながら早々に帝国に帰って行った。

 

頭巾の男は先程の戦闘の過程を思い出していると、

 

「兎人族?」

 

「あれ? 俺らさっきどっかで見たような……?」

 

大きな焼け跡を持っている二人組の男は、ふと水晶の方を向いた。他の者達もつられるように水晶に注目すると先程の見た映像が映し出されていた。改めて見るとそこには兎人族が映し出されているのだった。

 

「戦場で見たのは、この兎人族だったか?」

 

「……………間違いありません、この兎人族です。それにこの二人を戦場で見かけたのを覚えています。」

 

実直な声の大男の問いかけに頭巾の男は頷き、それと同時に映像に映っている先頭の二人の兎人を指差した。するとここでマントを羽織った男が「あっ」と呟いて口を開いた。

 

「思い出しました、彼らはハウリア族です! 私、噂で‘’兎人族の中にとても美しい女性がいる‘’…そう聞いたものですから一度お目にかかろうと探したことがあるのです。それで、見つけだしたのがこの先頭の女性です。確か名前は、シア・ハウリアという名でした。」

 

そう言って思い出すかのようにしゃべっていると髭モジャの大男が「ガハハハハハ」笑いだしながらしゃべりだした。

 

「亜人族の中で隠れることに特化した連中をよく探し当てたもんだな。」

 

「お忘れですか? 私のクラスは追跡者(トラッカー)。逃げようが隠れようが必ず見つけだしますよ。例えそれが兎人族だとしてもね。」

 

「ガハハハ、そう言えばそうだったな! 300年経っても技は劣ってないとうことか!!」

 

マントの男は胸を張ってそう言うと髭モジャはさらに大笑いした。笑い声が響く中、愉快そうに話す大男が手を上げて発言した。

 

「ハウリア族と言えばこんな噂も聞いたぜ……‘’亜人にはない魔力を持った奴がいる‘’と。」

 

「ええ、それも聞き及んでいます。それも彼女なのですよ。その証拠に他の亜人族に彼女の存在は知らされておりませんでした。」

 

「まぁそうだろうな。フェアベルゲンの掟だと魔力を持った亜人は直ぐ処刑だからな。」

 

「………かわいそうに。きっと幼少の頃から辛い思いをして来たのでしょうな…」

 

愉快そうに話す大男の言葉にマントの男はシアと呼ばれる女性が辛い思いをして来たことを想像して涙ぐみ、ボロボロの布切れで目元の涙を拭いていた。そして、初老声の男が不敵な笑みを浮かべてここまで話しをまとめだした。

 

「フフッ…ここまで情報が集まると話しが見えてきたぞ。ハウリア族(あやつら)は魔力を持った小娘の存在がバレて騒ぎが大きくなる前にハルツィナ樹海を出た。しかし、運悪く帝国軍と鉢合わせして逃げ惑う中、我らの急襲のおとりにされたというわけか…で? その後、ハウリア族はどうなった?」

 

「………逃げ延びた者はライセン大峡谷に落ち延びて行きました。」

 

頭巾の男がそう答えると黒いローブを着た男は目を開いて驚いた。

 

「なんと! ライセン大峡谷にか!? あそこの魔物は我らとて一筋縄ではいかぬというのに……よりにもよって力のない兎人族がそこに逃げ込んでは…」

 

「だが、結果的にこの映像を見る限りハウリア族(あやつら)は生き残っておる。ライセン大峡谷でどういったわけか陛下と出会い、こちらに戻って来たのだろう。殺されると分かっておりながら戻ってくるとなると………ここに映っている人間共は余程強者そろいと見てよいだろうな。」

 

初老声の男はそう言いながら「フフフッ…」と不気味に笑みを浮かべた。

 

例え帝国軍に打ち勝つ強い彼らでもライセン大峡谷にいる魔物との戦闘はなるべく避けている。そこらの辺の魔物と比べ物にならない程強いのだ。そうなると、ただでさえ力のない兎人もといハウリア族がそんな所に逃げ込めは当然どうなるのか容易に想像出来る。しかし、水晶に映っている映像を見る限りハウリア族は生きている。彼らに戦う手段はない、映像に映っている陛下を含めた人間達に守られてハルツィナ樹海に戻ってきたのだろう。故にハウリア族を守ってきた人間達は少なくともライセン大峡谷にいる魔物を倒せる力を持っていることが伺えるのだった。

 

「それで…これから我らはどうするのだ?」

 

戦場にいた亜人の一団の正体とその一団がハルツィナ樹海を出た経緯が分かった所で、クモの上半身を半分に切った物を頭に被っている大男が今後の方針について問いかけると、一人の男が立ち上がった。

 

その男は水晶が置いてある位置からさらに奥にあった壁を背もたれにした玉座に鎮座しており、今までの彼らの話し合いを黙って聞いていたのだった。

 

そして、その男は口を開いた。

 

「皆も知っていると思うが、ここに映し出されているものは()()()()()()()()()()()()()()()()()。必ずしもこの映像通りになるとは限らない……………だが、もし…もしもだ、この映像通りに陛下が現れたのなら…先ずは様子を見ようと思う。本物かどうか、目的が何なのか、見極めるために…………くれぐれも勝手な行動は慎むように!」

 

 

この男の言葉に異議を申し立てる者は誰一人いなかった。

 

 





いかがだったでしょうか?

前半はご存知の方が多いと思いますがシアです。特に大きな改変はありません、ここでもハジメさんLOVE全開です。
そして、後半はヤツら達の登場です。特徴で人物を表していますが一人を除いて一応元ネタとなったゲーム作品に登場する者ばかりです。自分的にはマイナーな作品だと思いますのでこれでキャラを当てられたら感服ものです…。
一応、活動報告の所にヤツらが出てくるゲーム作品の動画を上げますので、気になる方はそちらをチェックしてみてください。

さて、改めて第2章始まりました。基本の道のりは原作と同じですが登場キャラクターが愕然と増えています。地道に頑張っていきますので、応援よろしくお願いいたします。

次回、スバル、ハジメ達、久しぶりのお外でウサギと出会います。


それでは次回、お会いしましょう。では、また……。


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旅の始まりは泣き虫ウサギとの出会いと共に

どうも、グルメです。

今年最後の投稿になります。ハジメ達の長い旅が始まります。


それでは、どうぞ。


魔法陣の光に包まれたスバル、ハジメ達。この魔法陣の光が収まれば、そこには広々とした青空が広がっていると誰しもが期待して胸を弾ませていたが………

 

 

 

 

最初に目にしたのは変わらず真っ暗な洞窟の中だった。

 

 

 

 

「えぇー……」

 

「なんでやねん」

 

 

嫌というほど見てきた光景をまた見ることとなり落胆するスバルに思わず関西でツッコミを入れるハジメ。当麻は「あはは…」と苦笑いを浮かべ、士郎は「やれやれ…」とした感じで辺りを見渡していた。

 

「……秘密の通路……隠すのが普通」

 

『なるほど…』

 

『さすがです、お嬢様!』

 

ユエの推測にクロウとサラは感心していると目の前には道が続いており、気を取り直して一行はこの道を歩いて行った。道中、幾つかの封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して勝手に解除していき何事もなく洞窟内を進んで行くと小さな光を見つけた。出口の光だと確信した一行は、この先に何があるのか構わず一斉に駆け出した。

走りながら徐々に入ってくる新鮮な空気と清涼感ある風を感じながら一行は洞窟の外へ飛び出した。

 

 

最初、目に飛び込んできたのは断崖絶壁とも言える険しい崖だった。左右を見渡せば崖と崖に挟まれた出来た地の底の道が続いており、空を見上げれば青空と輝く太陽の光が降り注いでいた。

スバルはゲームをイメージして‘’ダンジョンの洞窟を出た先には広大な大地が広がっている‘’と期待していたが最初に目に映ったのが崖で少々ガッカリもしたが久しぶりの外に変わりはないので、かがむように身体を縮ませて、

 

「外だああああああーー!!」

 

叫びながらおもいっきり伸びをした。

 

「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

 

「んっーー!!」

 

ハジメとユエはそう言って抱きしめ合い、ハジメが小柄なユエを抱きしめたまま、その場をくるくると廻り始めた。

 

「久々の太陽の光…空気も、おいしい……僕たち、地上に戻って来たんだね。」

 

「ああ。長かったな…大げさかもしれないけど1年近く入っていた感じがするよ…。」

 

当麻と士郎は静かにそう告げながら深呼吸を繰り返して久しぶりの外の空気を感じていた。その後、サラ、クロウも「新鮮な空気を感じたい」と言われて当麻と士郎の身体を借りて深呼吸した。

 

「んんー! 最高ッ!! 生きてて良かった!!」

 

「本当に…こうして再び太陽の下を歩けるなんて思いもしませんでしたね…。」

 

サラとクロウはそう言って何回も深呼吸を繰り返した。皆が思い思いに久しぶりの外を満喫している中、レオンは、

 

<この空の色は、変わらないな…。>

 

誰にも告げる事なくスバルから見える青空を静かに眺めていた。

 

レオンがそんなことを思っていることも知らずスバルは突然、

 

「よし、今日はここをキャンプ地とする! 宴だ!!」

 

「いや、早いな!? スバル、まだ太陽真上にいってないぞ。」 

 

「ええ~いいじゃん。ケチケチするなよ士郎~。あの二人はすでに楽しんでいることだしさ。」

 

そう言ってスバルがハジメとユエを指差した。

 

「ハジメ~。」

 

「ユエ~。」

 

相も変わらず二人はお互いを見つめ合ってくるくると回っていた。

 

「俺も混ざって三人にで回りたい!」

 

「どう見てもスバルが入る余地はなさそうだろ…。」

 

士郎が呆れながら言っていると突然当麻が申し訳なさそうに全員に告げた。

 

「あの~皆さん。もうお気づきだと思うのですが…僕たち魔物に囲まれていまして…そろそろこちらに目を向けた方がいいのでは?」

 

そう言って全員が改めて周囲を見渡すと、いつの間にか何十体もの大型の魔物に囲まれており「ようやく気づいたか!!」と言いたそうに唸り声を上げていた。

 

「はぁ~、全く無粋なヤツらだな……ほんじゃあまあ、一丁やりますか。」

 

そう言ってハジメの眼に殺意が宿り、ユエを下して二丁拳銃ドンナー&シュラークを構えた。

そして、このハジメの言葉を起因にそれぞれ戦闘モードに入った。

 

 

「…ん。」

 

ユエはスッと右手を掲げ、

 

「…へへっ。」

 

スバルは不敵な笑みを浮かべてポキポキと手首を鳴らし、

 

「……よし。」

 

『当麻、リラックスですよ。リラックス。』

 

当麻は少し緊張しつつも両手に革手袋をはめ込んで構え、

 

「…クロウ。警戒は俺だけで充分だけど念のため…」

 

『わかりました。』

 

士郎は背負っている剣のグリップを握りしめた。

 

 

 

 

 

 

そして、5人は一斉に魔物に向かって動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライセン大峡谷を駆け抜ける二つの二輪駆動 。一つは黒いボディのアメリカンなバイク ‘’シュタイフ‘’ 運転しているのはハジメでその後ろにユエが横乗りで乗っていた。そして、もう一つは青いボディでアメリカンなバイクにサイドカーがついている ‘’ブルーダー‘’ 運転しているのは士郎でサイドカーには当麻が乗っていた。

どちらもハジメの自信作でガソリンを使わず魔力を使って走るものとなっている。

 

「拍子抜けたぜ……あんなにあっけないものなのか? ライセン大峡谷の魔物は相当凶悪って聞いたけどな…」

 

「僕たちが強すぎたのでしょうか? そうなりますと今まで僕たちが相手してきた奈落の魔物はそうとうヤバイ連中だったんですね……よく戦ってきたものですよ。」

 

ハジメと当麻は先程の魔物との戦闘を思い返し、改めて奈落の魔物がライセン大峡谷の魔物よりも遥かに凶悪だった事を実感した。

はっきり言うと先の魔物との戦闘はハジメ達の一方的な蹂躙だった。

ハジメ達の各々の力の前に魔物達は為す術もなく次々に倒され5分もかからないうちに死体の山となり、あまりにもあっさり片付いたのでハジメは当初「えっ、終わり?」と困惑していたのだった。

 

「でも、そんなことよりも一番厄介なのはこの地域だ。魔法を使おうにも込めた魔力が勝手に分解させられる。」

 

「…必要魔力にさらに十倍用意しないと維持できない……つらい。」

 

そう言って困った表情をする士郎とユエ。二人の言う通りこのライセン大峡谷はどういったわけか魔法に込める魔力が勝手に分解され魔法が使いづらくなっているのだ。先の戦いでは二人は強引に魔力を込めて応戦するも、予想以上に魔力の消費が激しかった。よって二人は移動する前にここでの戦闘は必要な限り極力控えることになり、旅の始めからハジメの役に立てないことにユエは少し落ち込んでいたりするのだった。

 

『それでハジメ殿、私達はこれからどこに?』

 

「ライセン大峡谷のどこかにある迷宮の入口を探しつつ樹海側に向かっている。樹海側なら街から近いと思うし、それに今の装備と食料だけじゃ砂漠横断は心もとないからな。」

 

『なるほど…』

 

ハジメの言葉にサラは静かに納得を示した。そして、妙な顔をして後方を向きつつ再びハジメに問いかけた。

 

『ところで、スバル殿は大丈夫なのでしょうか?』

 

サラの言葉に全員が後方に首を向けた。二台の二輪駆動 から少し離れた所に物凄い勢いで迫ってくるものがあった。

 

「よっしゃぁぁー! もうすぐ追いつく!!」

 

<お前なー、何でこれを自分専用の乗り物にしたんだよ…>

 

「いやいや、俺だってカッコイイバイクが乗れると思っていたんだよ!? なのにハジメの野郎、こんなちんけなもの用意しやがって!!」

 

そう言ってスバルが乗っているのは赤い自転車である。荒野や谷底の悪路に最適と思われるマウンテンバイクではなく、前に籠が付いた俗に言う‘’ママチャリ‘’である。

スバルは魔物を取り入れた超人的な脚力で自転車を漕いでハジメ達に追いついた。

 

「ハジメ! テメェー!! 何で俺専用の乗り物がママチャリなんだよ!?」

 

「仕方がないだろ、素材が足りなかったんだ。それにお前、こう言ってたじゃないか…」

 

不愉快そうに睨むスバルの前にハジメは平然とした顔である会話を思い返した。

 

 

 

それは迷宮にまだ籠っていた頃の話である。ハジメが二輪駆動の整備をしていると、

 

「スゲー!! ハジメ、これに乗るのか? だったら俺も()()()いいから俺専用の乗り物用意してくれ!!」

 

 

 

 

「だから用意しただろ? お前専用の乗り物。」

 

「いやいや、だからって自転車はないだろ!? バイクと速度が違いすぎるし、あそこからの会話からして普通バイク用意するよね!?」

 

「……往生際が悪い。ちゃんと伝えなかったスバルに原因がある。」

 

「ユエさん辛辣すぎる…」

 

ユエに指摘されて落ちこむスバル。するとハジメが「ゴホン」と咳払いをして

 

「言っておくけどスバルが乗っているのは電動自転車だからな。纏雷でサドルに電気を流し込んだら漕ぐ必要なんてないんだぜ。」

 

「あっ……ほんとだ。漕がなくても進んでいる。」

 

言われた通りにすると自転車は漕がなくても進んでいた。

 

「それにイカした名前も付けた。‘’ムッター・フォン・ファーラッド‘’ それがこの自転車の名前だ。」

 

「カッケーなおい!!」

 

スバルが目を輝かせて自転車を見ていると士郎が、

 

「なぁ、それってドイツ語だろ? 日本語に訳すと何ていう意味なんだ?」

 

「……日本語に訳すと‘’母の自転車‘’だ。」

 

「ママチャリじゃねか!? しかも直訳すぎるわ!!」

 

サラッと言うハジメ対して鋭いツッコミを入れたスバルは文句を言おうとした時、周囲を警戒していたクロウが何かを発見した。

 

『前方に大型魔物。何かを追っている…人でしょうか?』

 

クロウの言葉に全員が前方に目を向けると約800m先にうっすらと双頭の大型魔物が見えた。そして、その手前にはぴょんぴょんと跳ね回りながらこちらにやって来る人らしきものが見えた。よく目を凝らして見ると逃げ惑うウサミミを生やした少女だった。

 

「……何だあれ?」

 

「……兎人族?」

 

「この辺に住んでいる亜人族でしょうか?」

 

「でも、おかしくないか? 亜人族の大半はハルツィナ樹海を住処にしているはずだろ?」

 

『ライセン大峡谷はその昔、処刑場として使われ罪人を突き落とす処刑方があったはず…もしや彼女は罪人として落とされ奇跡的に生還したのでは?』

 

『兎人族が罪人? ありえません! かの種族は亜人族の中でも最も温厚で争いを嫌う種族ですよ? とても罪を犯すとは思えないのですが…』

 

ハジメ、ユエ、当麻、士郎、クロウ、サラが場違いなウサミミ少女がいる事に疑問を投げかける中、スバルはというと、

 

「ヘイヘイ、ウサミミ美少女だ。しかも…ひゅう~デケェ。上げ底には見えない、間違いない本物だ。ユエの3倍はあるぞ。」

 

<…お前はどこに着目してるんだ?>

 

スバルは目を輝かせてウサミミ少女のある一点に注目し、それに気づいたレオンはどこか呆れていた。皆が改めてウサミミ少女を見てスバルが言っている事を理解してスバルにジト目を送る中、ユエは見下ろすように絶対零度の視線をスバルに向けていた。そして、

 

「……ハジメ。」

 

「…ん。」

 

ドパンッ!!

 

「あああああああああぁぁぁぁーーー!!??」

 

ユエの一声でハジメがドンナーを発砲、スバルの眉間に命中し盛大な断末魔を上げながら電動自転車と共に大地に倒れた。

 

「ええっ!!? ハジメ君、いくらスバル君が再生能力が高くても発砲は…」

 

「殺してねぇよ当麻。非殺傷弾、ゴム弾だ。」

 

「あっ、そうなの? よかった~」

 

「………………………………チッ。」

 

「ユエさん、さっき舌打ちが聞こえたような…」

 

「当麻、気のせい…」

 

「さいですか…」

 

とりあえず聞かなかった事と言葉の発言には気をつけようと思う当麻だった。

 

「で? あの兎人族、どうする? 助けるのか? というか向こうはとっくに気づいて助けを求めているけど…」

 

そう言ってスバルの騒動に特に騒ぐ事なく真っ直ぐ前方を見つめながら全員に問いかける士郎。そして、ウサミミ少女の方はというと…

 

「やっど見づげまじだ~だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

声を荒げ涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死にハジメ達の方に駆けよって来ていた。そして、そのすぐ後ろには大型の魔物、双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。

 

「うわ、モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

 

「……迷惑」

 

顔をしかめてひとごとのように言うハジメ、ユエ。あからさまに関わりたくないオーラを放っていた。

 

「あの…僕が行って倒してきましょうか?」

 

流石に見かねた当麻がウサギの少女を助けるために動こうとするも、

 

「やめとけやめとけ、助けたら絶対他の要求もしてくるしトラブルにも巻き込まれるって。」

 

「…同感。」

 

「えっー……」

 

「…おいおい。」

 

ハジメ、ユエの無慈悲な発言に少し引いてしまう当麻、士郎。クロウとサラも「それはちょっと…」と言いたげな感じで良い顔をしなかった。

 

「まぁ、ハジメ君がそう言うのは仕方がないだろうけど……でも、僕…嫌だよ。」

 

そう言って当麻はいきなり声のトーンを少し落とし無表情で語りだした。

 

「………あんなに可愛いウサギが僕たちの目の前で食べられ、「痛い! 痛い! ギャアアアー!!?」と泣き叫びながら魔物の咀嚼で少女の血肉と臓物が飛び出す瞬間なんか……僕、見たくないよ…。」

 

「……………………おい、やめろよ。変な想像しちまったじゃねーか。」

 

「……………うぅ、気持ち悪い。」

 

当麻のネガティブ&グロテスクな発言に車酔いのような感覚に陥るハジメとユエ。

 

「ハジメ、どの道あの魔物は倒さないと通れないぞ。」

 

当麻の発言を聞いているのに特に同様を見せることもなく真っ直ぐ前を見つめる士郎。

 

『お嬢様、困っている者には手を差し伸べるものですよ。』

 

『サラに同意見です。それよりも私的には少女の発言に少し気がかりのことが…』

 

ユエ諭すように言うサラ。それに同じ考えを持ちつつ気になる事があるそぶりを見せるクロウ。流石にこれだけの少女を助ける意見が出て無視するわけにはいかなくなったので、

 

「…ったく。しゃーねぇなあ。」

 

めんどくさそうにため息を吐いた後、ハジメがバイクを止めてその同時に士郎もバイクを止めた。皆が見守る中、‘’シュラーク‘’を太もものホルスターから取り出して

 

 

ズドンッ!! ズドンッ!!

 

 

二つの眉間に目掛けて発砲、見事に命中した双頭ティラノは断末魔を上げて絶命して倒れた。

 

「いやあああああああああああああー!!!?? ぶぎゃあ!!?」

 

ウサミミ少女はというと双頭ティラノの倒れた衝撃で吹き飛び絶賛宙を飛んでいた。きれいな放物線を描きながらハジメの下に落ちる、ことはなく盛大にハジメの手前に落ちた。気を失わなかったウサミミ少女だが、痛みに悶絶して身体をピクピクさせており見てられなかった当麻、士郎は顔を逸らし、ユエは内心「…面白い」と思いつつ少女は見続けて、ハジメは「めんどくさ、起こすか。」と思い、少女のうさミミに手を伸ばそうとした時、

 

「ハッ! あれ、私は? …!!? し、死んでます…ダイヘドアが一撃なんて…」

 

ウサミミ少女はいきなり顔を上げて周囲を確認、後ろに目を向けると倒れていたダイヘドアと呼ばれる魔物が倒れていることに驚愕する中、

 

「おい、こら。こっち無視すんな。前向け、前。」

 

ハジメがガラの悪そうな声でウサミミ少女に声をかけた。ウサミミ少女が前を向くと、白髪に眼帯を付け眉間にしわを寄せているいかにもヤバそうな少年が立っていた。普通なら誰しもが怯える光景に後ずさりをするかもしれない。だが、このウサミミ少女は、

 

「うえええええぇぇぇ~ありがどうございまず~!! あの~おねがいでずぅ~わだじの仲間も助げでぐだざい~!!」

 

泣きじゃくりながらハジメの足元にしがみつき、図太いことにウサミミ少女の仲間の救出を懇願して来た。

 

自分が想像していた展開にハジメは深いため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

ギャグ回のつもりで書きました。少しでも面白いと思えたら幸いです。
そして、大変なのは仲間同士の会話。大抵はハジメ、ユエ、そこにオリジナルキャラを入れての旅がありふれの二次創作の定番と言えますが、こちらの小説は旅の始めからすでに8人いますので会話のやり取りが大変。
一人ひとりの反応を書かないといけないし、会話を一人のキャラに偏らないようバランスよく考えないといけません。
まぁ、レオンは無口なキャラで必要な時にしかしゃべらないので実質7人ですけどね。


さて、今年も残すとこ後わずか。
自分の好きなものを詰め込んだ小説を読んで下さる読者、評価をくださる方に本当感謝しかありません。
来年も地道に書いていきますので応援よろしくお願いいたします。

それでは、少し早いですが、良いお年を。



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シア・ハウリアの事情、それと胸の話も添えて…

どうも、グルメです。

遅くなりましたが皆さん、あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


さて、新年最初のお話しはシアの事情から入ります。事情を聞いているうちにとんでもない話しの脱線が起きるのでした…。


それでは、どうぞ。


兎人族

 

 

それは亜人族の中でも温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱い、聴覚や隠密行動が得意とする種族である。

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。その子は亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えた。

 

 

それが今助けを求めた彼女、シア・ハウリアだった。

 

 

これには、今まで例えがない子が生まれ一族は大いに困惑した。情が深い一族のため見捨てるという選択は無いものの、もし、これが仮に他の種族や亜人族の国‘’フェアベルゲン‘’に知られたら、この子はもちろん、もしかしたら一族全員が処刑されるかもしれない。それほど、‘’ハルツィナ樹海‘’に住む亜人族は魔力を持つ者を憎悪しているのである。故に、ハウリア族はシアを十六年もの間ひっそりと育ててきた。

しかし、先日とうとう彼女の存在がばれてしまいフェアベルゲンに捕まる前に一族は樹海を出る事を決意。山の幸が豊富な山脈地帯を目指すものの樹海を出た途端に運悪く帝国の一個中隊規模に遭遇、戦う術を持たない兎人族は怒涛の勢いで攻め立てられ次々と捕まっていきもはやこれまでと思われたが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのすきを見て生き残った者は最後の力を振り絞りライセン大峡谷に逃げ込んだ。生き残った者は峡谷の岩場に身をひそめており、シアは助けを求めてここまでやって来たのだった。

シアの事情がひと段落した所でここでの士郎がある疑問を投げかけた。

 

「そう言えば気になったけど、君さっき‘’やっと見つけた‘’って言っていたけど…まるで俺たちが来る事を予想していたような言い草だったよな…どうして俺たちがここに来るって知っていたんだ?」

 

「え? あ、はい。それは未来が見えたからです。‘’未来視‘’といいまして私、昔から未来が見えまして、もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……」

 

‘’未来視‘’

彼女が持っている固有魔法で二つの機能が備わっていた。一つは任意で仮定した選択の結果としての未来が見えるというもので、これには莫大な魔力を消費し、一回で枯渇寸前になるほどである。

もう一つは自動で発動するものがあり、これは直接・間接を問わず、シアにとって危険と思える状況が急迫している場合に発動し、これも多大な魔力を消費するが、三分の一程度ですむというものだった。

シアはハジメ達がいる方へ行けばどうなるか? という仮定選択をし、結果、自分と家族を守るハジメの姿が見え、ここまで死に物狂いでやって来たのだった。

 

「そんな凄い魔法があったのなら事前に察知してフェアベルゲンにバレずにやり過ごせるのでは?」

 

当麻のもっともな意見にシアは目を泳がせて、「えへへ…」と苦笑いを浮かべながら

 

「実は友人の恋路が気になりまして…ちょっと覗いて危機を察知出来なくなりまして…」

 

「アホだろ。」

 

「…アホうさぎ。」

 

「うぅ…返す言葉もございません…」

 

ハジメ、ユエの言葉にシアはうさ耳をシュンと垂らした。

 

「まぁ、たまたま不運が重なったってことだな…うん。」

 

「そんな凄い魔法があったら、きっと僕も余計に使っちゃいますよ…きっと。」

 

士郎、当麻は何とかシアのフォローをしようとするも如何せん言葉が見つからず説得力が欠けるものとなった。

 

『(未来視ですか…使い方を誤ればとんでもないことに悪用されかねないですね。)』

 

『(まぁ、彼女を見る限りそのような心配…もといそれすらの発想も至らないでしょうけど。)』

 

クロウとサラは二人だけの意思疎通でそんな会話をやり取りしていると、再びシアはハジメ、ユエ、士郎、当麻に頭を深く下げた。

 

「このまま岩場に隠れていてもいずれ魔物に見つかるのも時間の問題です。どうかお願いです。私たちの家族を助けてください!!」

 

必死に懇願する姿にハジメは背を向けて三人を手招きしてひそひそと話し始めた。

 

(どうする?)

(どうするって…助けるのが普通じゃないのかハジメ?)

(士郎君と同じく…)

(でもよ士郎、当麻…どう考えてもデメリットしかないぞ。戦えない集団を魔物から守りつつ、いや、へたしたら帝国の追ってからも振り切らないといけない。そんでもって北の山脈まで送り届けろだろ? 報酬は期待できそうにないし、帝国に目をつけられるかもしれない、全くもって骨折り損のくたびれ儲けだぞ?)

(じゃあ、無視する?)

 

ユエの言葉にここにいる一同はシアの方を向いた。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと! 何故ここで悩む必要があるのですか!? この流れはどう考えても『何て可哀想なんだ! 安心しろ!! 俺たちが何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ!」

 

そう言って地団駄を踏むシア。再び一同は向き合って、

 

(…どう見ても無理だろ。)

(…ん。)

(…だな。)

(後ろに逃げても回り込んできそうですね…。)

 

どう考えても無視したくても無視できない存在だと認識するハジメ、ユエ、士郎、当麻。すぐに動いてくれない彼らにシアは抗議を始めた。

 

「ちょっと、ちょっと、どうして助けてくれないのですか!? こんなにも‘’超絶うさ耳美少女‘’がお願いしているのに! 普通の男の人なら、即・決・断ですよ!? 判断が遅すぎですぅ~!!」

 

シアの言葉が鬱陶しく思ったハジメは露骨なため息を吐きながらシアの方を向いた。

 

「あのなぁ~、お前等助けて、俺たちに何のメリットがあるんだ? 魔物からお前らを守って帝国兵の追ってを振りきり、それで北の山脈まで送り届けろだろ? 一体何の得になるんだ? それよりも報酬は? それすら払えるかどうかわからないのに付き合ってられるか」

 

「…報酬なら、その…私の身体で…」

 

そう言ってモジモジしながら恥ずかし気に言うシア。しかし、ハジメは、

 

「いや、いらねーよ。というか1ミリも魅力も感じたことねーわ。」

 

「なっ…!!」

 

プロポーションには自身があった、他の兎人族からも「すごく可愛い」と一目置かれていた。そんな自分のお願いなら誰もが聞いてくれると思っていた。しかし、ここに来て予想外の回答に本気でショックを受けるシアは開いた口が閉まらなかった。

 

「…ふ」

 

大方の考えを見通していたユエは固まっているシアに嘲笑を送っていた。‘’ハジメは私にゾッコン‘’ ‘’お前程度の浅はかな奴に見向きはしない‘’ということを見せつけるようにハジメの腕に抱きついた。ハジメもそんなユエを愛おしそうに見ているのだった。

 

「…ぐぬぬ。」

 

ショックから立ち直り、ハジメとユエのラブラブを見せつけられて悔しがるシア。何か勝るものはないかとユエを見続けると‘’ある一点‘’に気づいて急に「ふっふっふっ…」と勝ち誇ったような顔をしはじめた。

 

「…たしかに隣にいる方は魅力的かもしれません。ですが、私だって負けていません、いえ、むしろ勝っています!」

 

「あ? お前何言って…」

 

‘’とうとう本当にアホになったか?‘’と思いながら、ハジメが聞き返そうとした時、

 

「胸なら私がの方が上です! そっちの女の子は‘’ペッタンコ‘’じゃないですか!!」

 

そう言って強調するかのように大きく揺らしながら胸を張って自信満々に宣言するシア。

 

 

その瞬間、

 

 

 

 

一気に周囲の空気がガラリと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 急に肌寒くなってきて……ひぃ!? ちょっと、そこの人!! 何か溢れていませんか!!? ドス黒い何かが!! 闇のオーラ的な物が出てますよ!!?」

 

急に寒くなったと思ったらハジメの腕に抱きついていたユエはハジメから離れて佇んでおり、頭を垂れていた。そして、誰が見ても分かるように身体から黒い‘’何か‘’を発していた。シアは助けを求めてハジメ、士郎、当麻を見るが、ハジメは右手で頭を抱え、士郎は腰を両手に添えて天に向かって仰いでおり、当麻は両手で顔を隠していた。

 

この時、三人は同時に思った。

 

 

(((このうさぎ、どうしようもないアホだ。)))

 

 

 

三人は心の中で合掌するのだった。

 

 

そして、この二人も、

 

「(愚かなことを…)」

 

「(…………)」

 

「(サラ? どうかしました…か?)」

 

哀れな目を向けながら士郎の体内から見守るクロウだったが、この時当麻の体内にいるサラがやけに静かなのでシアよりそっちのほうを気にかけていた。若干、嫌な予感をしながら…

 

 

「…………。」

 

「ひぃぃ~来ないでください、来ないでください!!」

 

一歩、また一歩と無言でシアに近づくユエ。シアは今まで感じたことない恐怖で逆に身体が動けずその場で震えることしか出来なかった。そして、ユエがシアの目と鼻の先まで近づいた時…

 

「……お祈りは済ませ「ペッタンコですって!!!?」……えっ?」

 

「…へ?」

 

言葉を遮る怒号に一瞬感情が停止し素に戻るユエとシア。声の方を振り向くと鬼のような形相をしている‘’当麻‘’の姿があった。当麻は早歩きで迫り、ユエを押しのけてシアの前に立ち…

 

「撤回しなさい! その言葉ッ!! お嬢様は慎ましくも柔らかく、そして張りのある胸をお持ちなのです!! 決してペッタンコではありません!!」

 

大事な人を貶されたことに腹を立てたサラはマシンガンのごとく言葉を発してシアを攻め立てた。シアは「え…えっ?」と戸惑うもすぐに切り替えて反撃に入った。

 

「で、でも、バストラインが出てないじゃないですか!! 例えあったとしても服を着て強調されなかったら意味ないですぅ! それはもうペッタンコと同義ですぅ!!」

 

「いいえ、そんなの必要ありません! それに他の男どもに知られるように強調されなくて結構、愛する者だけが大きさを知っていれば良いのです! 私が怒っているのはお嬢様をペッタンコと決めつける事に腹を立てているのです!!」

 

「ペッタンコと決めつけられるような胸をしているの悪いのですぅ!! 所詮ペッタンコなんて殿方を癒すことなんて皆無に等しいのですぅ!!」

 

「そんなことありません!! お嬢様は慎ましくも柔らかく、そして張りのあるお胸でハジメ殿の立派なモノを癒しております!! 包めそうで包み込めない…そんなジレンマを抱えながらも、けなげに癒そうとするお嬢様の姿はもう…言葉で言い表せないくらい愛嬌があるのです!!」

 

「と言うか今更、どうして男のあなた方しゃしゃり出てくるのですか!? 変態ですか? 変態ですね!!」

 

「変態ではありません!! お嬢様を慕い愛する者です!! 訳あって身体を借りてしゃべっているのです!!」

 

『二人とも、もうやめようよ!! それよりも師匠、僕の身体で変な事を言わないでください! 誤解されちゃうじゃないですか!?』

 

二人を止めようとする当麻だが勢いがないもとい聞こえていないのかシアとサラの口争は止まることがなくさらに過激(内容的な意味も含めて)になってきた。

 

「……ハジメ、あの二人止めれるか? ……ハジメ?」

 

士郎も流石にあの二人を止めるのは骨が折れるためお手上げ状態であり、代わりに止めれるかどうかハジメに尋ねるも返事がなかった。士郎はチラッとハジメの方を見ると、

 

「…………もうやだ、サラさん何でもかんでも話しちゃって…」

 

両手で顔を隠してしゃがんでいた。サラにユエとの夜の性活をばらされて怒るよりも恥ずかしくて悶絶しているのだった。あまり耳を傾けないように士郎は心掛けているがよくよく聞いてみると相当マニアックなプレイの数々をこなしているようだ。

 

「…ハジメも無理そうだな。クロウ、あれ止めれるか?」

 

『無理ですね…ですが、もうそろそろ収まるでしょう』

 

「どうして?」

 

『だって………姫の怒りが爆発寸前ですから…』

 

「あっ。」

 

そう言ってクロウに言われてシアと当麻(サラ)の蚊帳の外にいるユエに注目する士郎。そこには全身を震わせて赤黒い何かを発している吸血姫の姿があった。

 

 

 

「……………………。」

 

ユエは生まれて初めてかつてない怒りに満ちていた。

どこぞよくわからんアホうさぎに自分のコンプレックスを指摘、勝ち誇ったように見せつけられ、何回も‘’あの事‘’を連呼し、挙句の果てに‘’ハジメを癒せない‘’と言う始末。一体何を根拠にハジメの何を知ってこんな事を言うのだろうか? これを冗談ではなく本気で言っているのだから心の底から腹が立った。

さらに制裁を加えようとした矢先に元臣下に押しのけられ勝手に話しに割り込み、ハジメとの愛の性活をベラベラとしゃべりだした。もちろん、許可した覚えはない。誰が勝手に見てもいいと言った? 誰が勝手にしゃべっていいと言った? 臣下、いや、親友とは言えこれはゆるされない大罪だ。

 

 

だが今は、そんなことよりも……

 

「…おい」

 

 

「えっ? ひぃぃ!!?」

 

「あわわ? お、おじょうさま!?」

 

過激な口争を続けていた二人だが、ようやくユエの圧倒的な怒気に触れて縮まる二人、たがすでに時遅し、

 

「わたしの存在を無視するな!!!」

 

何よりも存在を無視されたこと腹を立てたユエは怒りがこもった言葉と共に両手を二人に向けて

 

「嵐帝ッ!!!」

 

「アッーーーーー!!」

 

「おじょうさまままぁぁ!!!?」

 

『僕の身体がぁぁー!!!?』

 

ユエの魔法により発生した竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられたシアと当麻はそのまま重力落下で適当な所に叩きつけられた。

 

「……ふんすっ!」

 

やりきったかのように鼻息をたてたユエは、二人に見向きもせずにハジメの方にやって来て、下からハジメを見上げるように尋ねた。

 

「……おっきい方が好き?」

 

実に答えにくい質問に戸惑いを感じつつも、早く答えないと自分もさっきのようになりかねないと思ったハジメは

 

「……ユエ、大きさの問題じゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ

 

「…………。」

 

何とも曖昧な回答に納得がいかないのか「じっー」と見つめていたが、諦めたのかシアの方を向いた。

内心、ホッとしたハジメだったが…

 

「でも、ハジメの部屋に巨乳のフィギアやポスターはあったよな?」

 

 

ドパンッ!!

 

 

「いたああああああああぁぁぁぁ!!!」

 

後ろからやって来たスバルの爆弾発言を制裁するかのようにドンナーを発砲、額に当たったスバルはまた大地に倒れて悶絶した。ハジメは「要らんこと言うな」という意味を込めてスバルを睨み付けていたが、

 

「…ハジメ」

 

後ろからユエの声がして恐る恐る振り向くと瞳の色が無く生気が感じられないユエがたたずんでいた。

 

「いや、あのな、ユエ…さっきの馬鹿の発言はな…確かにそうなんだけど…決して巨乳が好きじゃあなくてだな…ほら、あれだ、俺、元の世界で創作活動してたから…その資料として…」

 

ハジメはあたふたしながらユエに弁解をするが変わることはなかった。そして、この男はこの男で、

 

「ちなみに当麻の好みは、‘’黒長髪の巨乳なお姉さん‘’が好みだぞ。」

 

「スバル君、それ今言うことじゃないよね! ねぇ!?」

 

痛みが引いたスバルはいたずら心が働いたのか、ユエの神経を逆撫でするかのように当麻の好みを暴露、それを聞いた当麻はすぐに起き上がった。ユエは死んだ目を当麻に向けて、

 

「……当麻、お前もか」

 

「ユエさん、好みは否定しないけど…好きな人が出来たら僕、気にならないから!!」

 

シアと一緒に飛ばされたため少し離れたところから声を張って弁解する当麻、ユエは二人の裏切りに大きく心を痛めたのかその場で項垂れてしまった。そして、微かだがすすり泣く声が聞こえてきた。

 

「……クスッ……信じてたのに…」

 

「あ~泣くなユエ…本当に悪かった。後で好きなだけ血を飲んでいいからなっ! 期限直してくれ…」

 

「ユエさん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 

ハジメと当麻はすぐにユエに直行、ハジメはユエを優しく宥め、当麻は何回も平謝りを繰り返した。すると意外にもすぐに泣きやめて涙目で二人の顔を見た。

 

「私はユエ。みんなのお姉さん…こんなことでへこ足らない、全てを受け入れる…故に二人も許す。」

 

「ユエ…」

 

「ユエさん…」

 

その言葉に二人は安堵の笑み浮かべ内心「た、たすかった~」と思っていたが…

 

「…でも、罰は受けてもらう」

 

「「えっ?」」

 

その言葉で二人の表情が固まり、

 

「…嵐帝」

 

「「アッーーーーー!!」」

 

ユエの魔法による竜巻でハジメと当麻はもみくちゃになっていた。それを見ていたスバルは涙目になりながら大爆笑。

 

「アッハハハハハハハハハハハー!! って、何でこっち来ているの!?」

 

しかし、気づいた時にはハジメと当麻を巻き込んだ竜巻が目の前まで来ていた。ユエはどこか冷めた目でスバルを見つめていた。

 

「…笑い方がうざい事とスバルだけ何もしてないのは納得いかない…それとお前は言わずと知れた巨乳好きだから…」

 

「そんな理不じ…アッーーーーー!!!?」

 

ユエの八つ当たりも兼ねた嵐帝は結局スバルも喰らう事となった。竜巻は三人仲良くもみくちゃにした後、天高く打ち上げられてそのまま地面に叩きつけられたのだった。

 

「ひでぇことしやがる…」

 

<言わずともお前が悪いだろ…>

 

「スバル…お前今度覚えてろよ…」

 

「もぉー何で僕二回も巻き込まれないといけないのー!? 全身痛いよ…」

 

『ス、スミマセン…当麻。私が暴走したばっかりに…』

 

三人は揃ってのろのろと歩き、身体についた砂を払いながらユエのもとに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…士郎とクロウ兄がいない……逃げたな。」

 

ユエは士郎にも好みを尋ねようとした矢先にアメリカンバイクが一台無いことから逃げたと断定するのだった。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

ハウリア一族の命運がかかっているということも忘れてしまいそうなギャグ回でした。少しでもウケてくれたら幸いです。
シアとサラの胸論争はノリノリで書いていました。それとハジメの家には絶対、巨乳アニメキャラのフィギュアやポスターが一つぐらいあってもおかしくないと思ったので本編でうまく誤魔化せていましたが、こちらのお話しでは親友に大々的に暴露されユエの制裁を受けてもらうことになりました。許せ、ハジメ…。


話しは変わって当麻のカップリングについて。
当麻の好みがスバルによって暴露されました。そして、どこかの後書きで当麻のカップリング相手についても書かれています。
もう、お分かりではないでしょうか? そう、‘’あの人‘’です。



さて、次回はどこまで書くか未定。忙しい身のため月一更新も難しいかもです。
気長に待ってくれたら幸いです。


それではこの辺で、ではまた……。


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ハウリア族と合流

どうも、グルメです。

いつのまにかお気に入りが150になっていました。特に大きなコメ欄の荒らしもなく平和に小説が投稿出来るのも支えてくれる読者様のおかげです。

改めて、ありがとうございます。


さて、今回のお話しはハジメ達がハウリア族と合流。それと少しだけハジメの心情が見えるかもしれません。

それでは、どうぞ。


『よろしかったのですか、黙って行かれて?』

 

「……いいんだよ、様子を見に行くだけだ。一本道だからハジメ達は迷うことはないと思うし、それにほら、あの子、頑張って来たんだ。報われないとかわいそうだろ?」

 

『…賢明な判断だと思いますよ、士郎。』

 

ユエが士郎とクロウがいない事に気づく前、二人は誰にも気づかれずにアメリカンなバイク‘’ブルーター‘’に乗り込みライセン大峡谷を駆け抜けていた。向かう場所はハウリア族が身を隠している岩場、危険承知でシアは助けを呼び来たのだ。シアが助けを連れて来た時にすでに手遅れはあまりにもかわいそう過ぎるので一足先に独断で様子を見に行くことにしたのだった。最も建前がそれで、本音を言えば巻き添えを喰らいたくないという理由があるのだが、クロウははそれを察したのか深く追及することはなかった。

それよりも士郎としてはどうもクロウがさっきから浮かない感じがしておりそちらの方が気になっていた。もっともその原因は何となく分かるので士郎は思い切って言ってみることにした。

 

「…ハジメのことか?」

 

『ええ、まぁ…。身体を貸してもらっている身としてあまりとやかく言える立場ではありませんが、困っている者にもっと手を差し伸べてもよかったのではと思うのです。』

 

クロウという男は困っている者を知った以上、損得関係なしに手を差し伸べる男だ。故に先ほどシアの頼みをすぐに了解しなかったハジメに対して複雑な思いを抱いていたのだった。

 

「まぁ、この世界に来る前のハジメならすぐに承諾はしていただろうな。だが、あいつは変わっちまった…。」

 

『奈落の底での境遇故にですか?』

 

「それもそうだが、一番はクラスメイトの一人に裏切られて魔法を撃たれた事が大きいと思う。あの時のあいつは必死になってクラスメイトを守ろうとていた…まさかあの状況下で自分を陥れるために魔法を撃ってくる奴がいるとは想定していなかっただろうな…俺たち4人が落ちることも…」

 

そう言って士郎はあの日を思い返していた。

嫌な予感を感じつつも何も出来なかった自分の不甲斐なさ、それに加えて自分達4人を奈落の底に落とした張本人を思って怒りが沸いてきたのか思わずバイクのハンドルのグリップを強く握りしめた。だが、怒りがおさまったのか、あるいは冷静を取り戻すために抑え込んだのか定かではないがすぐにグリップの持ち手を緩めた。

 

そして、士郎は心の中に秘めたある考えを口にした。

 

「クロウ、これは俺の考えだが……ハジメは多分恐れているんだと思う。」

 

『恐れている?』

 

「ああ、自分が想像してたよりも遥かに想像だにしない出来事に、容易だと思えて首を突っ込んだ矢先それが親友や大切な人の危機に繋がる事に…だからかな? 安易に人助けや知らない他人の事情、自分には全く関係ない事には消極的に関わろうとしないのは…」

 

『…………。』

 

士郎の言葉にクロウは黙り込んだ。まさかハジメの強気の裏にそのような想いを抱いているとは考えもなく同時に何も知らなかった自分を恥じるのだった。

 

「まぁ、俺たちはいずれ元の世界に帰る。今のハジメの考えは元の世界では通用しない…いや、それ以前に受け入れられないかもな…ハジメに限らず俺たち全員がどこかで考えを改めないといけない。それがいつなのが分からないけど…それまでは出来る限りフォローはしていくつもりだ。丸く収まるように…。」

 

そう決意を口にした士郎はさらにスピードを上げて荒野を駆け抜けて行った。

 

 

 

 

 

 

士郎とクロウがハウリア族に向かっている最中、ハジメ達はというと、

 

 

 

 

 

 

「スバル、お前それだけ走れるなら乗り物いらないだろ?」

 

「いや、いるよ! 走り続けたら限界くるし、それよりも俺は免許のいらないこの世界で運転がしたいんんだよ!」

 

「あっ、スバル君のその気持ち、何となく分かる気がする。」

 

やや遅れて士郎、クロウの後を追っており、当麻はスバルにおんぶされた状態でハジメのバイクの横に並んで走っていた。そして、ハジメのバイクにはハジメの前に小柄なユエが、その後ろにはシアが乗り込んでいたのだった。

どういった経緯でシアが乗り込んでいるかというと、ユエに飛ばされた三人は身体の砂を払いながらユエの下に集まり、シアも少し遅れてやってきた。そして今までの発言の謝罪も含めて土下座し、家族を助けていただくように再び懇願して来たのだった。スバルが来る前の騒動も含めて当麻から大体の事情を聞いたスバルは印象が悪いシアに助け舟を出そうとしたが

 

「………連れて行こう。樹海の案内に丁度いい。」

 

意外にもユエが助け舟を出してきたのだった。正直の所、ユエはシアに対しての印象はさっきの騒動を含めて最悪の印象しか持っていない。しかし、未知の樹海に入るには現地の協力は必要不可欠、現地の住人が素直に案内してくれるとも考えにくいため、ここは恩を売ってその見返りに樹海の案内を頼めばスムーズに事が運ぶだろうと考えたのだった。

この考えにハジメも含めた全員が納得を示し、ハウリア族の命の保証を条件に樹海の道案内としてハウリア族を雇うこととなり、お互い軽く自己紹介を済ませた後、バイクに乗り込み今に至るのだった。

 

「それにしてもハジメさん。その士郎さんって方はどうして先に行かれたのでしょうか?」

 

「ん? ああ、あいつは昔から困っている人がいればほっとけない性格だからな。」

 

「たぶん、シアさんの事情を聞いて居ても立っても居られなくなって先に様子を見に行かれたんだと思いますよ。」

 

「そうだったんですね……ふぇ~ひとまず安心しました。」

 

ハジメと当麻の言葉を聞いて納得すると共に胸をなでおろすシア。自分が助けを呼びに行く間に家族が襲われたらどうしようと心配で心配で仕方がなかった。とりあえず助けてくれる人が見つかり且つ先に向かっている人もいてようやく気を緩むことが出来た、と思っていた矢先に

 

『ハジメ殿、もう少し早く行くことは可能でしょうか?』

 

「ん?」

 

「……サラ姉、どうしたの?」

 

どこか真剣な表情で言うサラ。誰もがただ事ではないと思い耳を傾けた。

 

『この先に複数の気が乱れていますよ。士郎とクロウの気、多数のの弱々しい気、それと魔物特有の気が6体…』

 

サラがそう言うと魔物の咆哮が複数聞こえてきた。

 

「!! ハジメさん、もうすぐ皆が隠れている場所です! 急いでください!!」

 

「だぁ~、分かったから耳元で怒鳴るな!!」

 

「当麻、衝撃注意。跳ぶぞ!」

 

「えっ? りょ、了解!」

 

何かを察した当麻はスバルの肩を強く握りしめた。スバルはカーブに差し掛かる前にある大岩を跳躍で飛び越えてショートカット、ハジメはプロさながらのドリフトで大岩を迂回、その先には空を旋回している魔物、逃げ纏う複数の兎人族、そして魔物に応戦している士郎の姿があった。

 

「ハジメ! 俺と当麻が先に行って魔物に突っ込む。援護してくれ!」

 

「ああ、任せろ。」

 

「よし、行くぞ当麻!」

 

「うん!」

 

そう言ってスバルはさらにスピードを上げて今まさに急降下して兎人の親子を捕らえようとしている魔物ハイベリアに向かって突撃し始めた。

 

「あいつ、あれだけスピード出るならもう乗り物いらないだろ…」

 

ハジメが乗っているバイクよりさらにスピードが出るスバルを見てツッコミを入れつつ、ドンナーを構えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言ったら良いのか…………。」

 

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ?」

 

 

兎人族を狙っていた魔物を蹂躙し終えたハジメ達は早速ハウリア族の族長と話をつけていた。今、ハジメと話している濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性こそがハウリア族の族長、カム・ハウリアだ。カムは娘のシアからこれまでの事情を聞いて快く樹海の案内を引き受けた。

正直、人族によって亜人族は差別を受けてきた種族。もっと渋るものだと考えていたハジメはあっさり樹海の案内を引き受けたカムにあっけにとられていた。カム曰く「シアが信頼する相手、ならば我らも信頼しなくてどうします」とのこと。これにはハジメ達も感心しつつも半ば呆れるしかなかった。

 

「俺たちの世界で生活したら、簡単に詐欺に引っ掛かりそう…。」

 

「それよりも悪徳商法全般に引っ掛かるとおもうよ。」

 

<まぁ、兎人族は身を守るためには他の種族に縋るしか方法はないからな…>

 

スバル、当麻、レオンがカムに聞こえないように話をしていると、

 

『クロウの方もどうやら落ち着いたようですね。』

 

サラが別の方を見て呟き、ハジメやスバル達がそちらに注目するとシアや他のハウリア族に囲まれた士郎と幽体姿のクロウがこちらにやって来た。

魔物を倒し終えた後、士郎の下に群がるようにハウリア族がやってきて、各々助けてくれたお礼や泣きながら感謝の言葉を述べ始めたのだ。男女、子供合わせて40名近くが士郎を取り囲み、まるで汚職事件を起こした人物を取り囲む報道陣のような状態となり、さらにそこにシアがやってきて「ありがとうございます! あなたは私たちの救世主です!」と言っておもいっきり士郎に抱きついたのだ。

シアの立派なモノをダイレクトに身に受ける士郎は内心嬉しいような、ここにはいない彼女にちょっぴり申し訳ないようなことを思いつつ、シアを押しのけてからクロウに頼んで幽体姿を現し、周りを落ち着かせた。当然、幽体姿のクロウを見て驚かれるも士郎が無害だと言うことを伝えるとハウリア族はあっさりと受け入れたのだった。

 

「悪いな皆、黙って勝手な事をして………。」

 

「いいっていいって気にするなよ士郎、悪いことじゃないしさ。」

 

「そうですよ。スバル君の言う通り、別に謝らなくても…」

 

士郎は何も言わずに勝手な行動をしたことについてハジメ達に謝罪。悪いことをしたわけではないのでスバル、当麻は特に気にすることはなく、ユエ、サラ、レオンもどうこう言う事はなかった。そして、ハウリア族を助ける事に最初乗り気ではなかったハジメはというと、

 

「…お前は昔から変わらないよな士郎。」

 

そう言ってどこか仕方なさそうに苦笑いを浮かべていた。

 

「まぁ、おかげで契約破棄されるこはなくなった。助かった士郎。」

 

「契約?」

 

「ああ、それについては移動しながら話す、とりあえず行こうぜ。」

 

そう言ってハジメは歩き出しユエやシア、当麻、ハウリア族はそれについていった。

 

『どうやら彼らを助ける方向で話がまとまっているみたいですね。』

 

「みたいだな。よかった、まだハジメに良心が残ってて…。」

 

この先ハウリア族はどうなるのか分からないが、何はともあれハウリア族を助けることに変わりはないので今はその状況で満足するクロウと士郎。その後、急ぎ足でハジメの横に並んでシアと結んだ契約を確認するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か妬いちゃうよな、二人の関係。」

 

<男が嫉妬するなど、見苦しいぞ。>

 

「いや、そうなんだけど。俺よりも士郎の方がハジメとの付き合いが長いからかな? たまにいい関係だなと思う時があるんだよな。例えるなら、ギャルゲー主人公の二枚目親友キャラ的な…」

 

<…お前は何を言っているんだ? それよりも早く行かないと置いてけぼりだぞ。>

 

「あっ、やべぇ。」

 

レオンに言われて気づいたスバルは急ぎ足でハウリア族の後ろについて行き、同時に後ろからの魔物に警戒していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲い掛かってくる魔物を蹴散らして行きながらハジメ達とハウリア族はライセン大峡谷から脱出できる場所に到着した。そこは岸壁に沿って壁を削って作った階段であり五十メートルほど進む度に反対側に折り返すような作りとなっていた。ここまで来たら地上までもう直ぐ、今まで暗い表情をしていたハウリア族に希望の表情が見え始めたが何故かシアだけが、まだどこか浮かない表情をしていたのだった。

一行は索敵が優れている士郎を先頭に階段を登り始め、特に脆いとこもなく順調に登り続けた。そして、最後の折り返し地点にやって来た時、何故か士郎がその場で全員を待機させ一人で先に登り始めた。一行が士郎を見守る中、士郎は階段の段差からの顔だけ出して地上の様子を見ていた。その後、ハジメ、スバル、当麻、ユエを手招きで来させ、勝手についてきたシアも加わり、士郎は静かに「そーっと覗いてくれ」と告げて全員が段差から地上の様子を伺った。

 

 

 

 

ハジメ達が見たもの、約100m先に三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台あり、全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えていた。

 

「あわわ…やっぱりいました。帝国兵が…」

 

「シアさん、やっぱりということは見えていたのですか?」

 

「はい、当麻さん。ここに帝国兵がいることは見えていました。」

 

「その先の未来は?」

 

「それは……」

 

「…その耳、邪魔。見つかる。」

 

「ちょ、ユエさ、イッターむぐぐぐぐ…」

 

「おいバカやめろ、見つかる!?」

 

当麻が今後どうなるのか尋ねようとした矢先、シアが長い耳を立たせたままなので、とっさにユエが根元を掴んで折り畳もうとした。耳に激痛が走り、思わず声が出そうになるもとっさにスバルが口元を押さえるのだった。

 

『大方、谷に逃げ込んだ兎人族が出てくるのを待っていたのでしょう。』

 

『彼らの気の流れからして、相当苛立っています。まともに話し合いで応じてくれるかどうか微妙ですね…。』

 

クロウ、サラは帝国兵を見て冷静に分析し、今分かることを告げた。

 

「どうするハジメ? 俺らを見たら十中八九絡んで来るぞ。あいつらがここを立ち去るまでどこかに身を潜めておくか?」

 

「……そんな悠長に待っていられるかよ」

 

士郎の提案を一蹴するとハジメは階段を登り始めて地上に上がろうとしていた。

 

「おい、ハジメ! お前…」

 

「…士郎、俺のやる事は何一つ変わらない、何一つもだ……皆を頼む。」

 

足を止めて背中越しに静かにそう告げたハジメはそのまま残りの階段を登って地上に出た。

地上に出たハジメはゆっくりと帝国兵に向かいつつ、誰がどんな装備なのか見極めていると後ろから誰かが小走りでやって来てハジメの左側に並んで歩き出した

 

「へへっ、心配だからついて行くぜ。今のハジメ、急にキレて銃ぶっ放しかねないしさ。」

 

「…ブーメランって言葉知っているかスバル? 元の世界でよくキレて暴走してたのはどこのどいつだろうな。」

 

スバルは笑みを浮かべて告げるとハジメは小さなため息をはいて皮肉気にそう返した。

二人並んで歩いていると再び後ろから小走りで誰かがやって来て今度はハジメの右側に並んで歩き出した。ハジメはチラッと見た後、前を向きながらその人物に告げた。

 

「…無理に付き合わなくてもいいんだぞ当麻。」

 

「心配してくれてありがとう、ハジメ君。でも、これから先、人間を相手にすることもあると思うから慣れておきたくて…それにもう、誰かに守られるのも、皆の一歩後ろを歩くのはもう御免です。歩くなら皆と同じ立ち位置で…一緒に並んで戦いたいから。」

 

前方にいる帝国兵を見据えながら静に決意を告げる当麻。迷いはないが若干緊張しているのか両手の握り拳が微かに震えていたのだった。

そして、当麻がハジメの横に並んで直ぐに当麻の右隣から影の移動(シャドウムーブ)を使って移動して来た士郎が現れた。

 

「ハウリア達はユエさんに無理言って任せて来た。ハジメ、分かっていると思うが…」

 

「対話だろ? 最初からそのつもりでいる。最も相手がその気があるかどうかは話しは別だがな。」

 

「…襲いかかってくるようなら応戦しよう。少なくともここに並んでいる俺たちはそのつもりでいるから。」

 

士郎の言葉にハジメは改めて左右にいる親友達の顔を見た。全員覚悟が決まっているのか何時ぞやのヘビモスを足止めする前の表情をしていた。その表情を見たハジメは「フッ」と小さな笑みを浮かべ、同時に身も心も軽くなったような気がした。

調子が出てきた所でハジメは、

 

「それじゃあ、まぁ、行きますか。」

 

そう軽く告げて親友達と共に帝国兵の方に向かって進むのだった。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
士郎がハジメの心情を読み取っていましたがほぼほぼ当たっています。
ここでのハジメの解説ですが、原作よりもマイルドになっています。ですから、シアを出会い頭に電撃を喰らわしたり、おとりのため空中にいる魔物に向けて投げたりしませんでした。したら親友達に総バッシングです。うざかったら、少しど突くかもしれませんが…。
「敵対する者には容赦がない」、「義理堅く、仲間、信頼する者に甘い」も原作と変わらないですが唯一変わっているのが「他人に無関心ではない」という所で、どちらかと言うと「他人にあまり関わりたくない」という想いが強いです。理由としては士郎が述べている通りです。トラウマ程ではないですが仲間を失うことを恐れています。

ちなみにハジメの性格の分岐点を考えると、

オルクス大迷宮で親友達と再会する(ユエの出会いが有っても無くても)→本編ハジメ。


オルクス大迷宮で一人でも親友達と再会かつユエと出会う→原作ハジメ


オルクス大迷宮で親友達と再会出来ず、ユエと出会わない→闇落ち


こうなりますかね。



スバルが士郎の仲に嫉妬していますが無理もありません。ハジメの相棒はスバルと決まっていますが、付き合いが長いのは士郎の方です。スバルは小学生の高学年の時にハジメと出会うのに対して士郎は幼稚園の頃からの付き合いです。と言っても最初からいたわけでなく幼稚園を卒業する1年前に士郎は転入してきました。その1年の間にハジメ、当麻、園部達と交流を深めて行きます。


余談ですがスバルが考える、ハジメをギャルゲー主人公とたとえて、自分と周りの立ち位置は…


士郎 クールな二枚目な親友。困ったら助けてくれる等、本当頼りになる存在。


当麻 弟的な世話をかけたくなる親友。いつも何かに困っていて主人公に助けられる存在。


スバル 圧倒的三枚目な親友。トラブルメーカーで厄介ごとを持ち込んでくるのは日常茶飯事、彼の助言は本当に頼りならない。俗に言う悪友と言う奴。


こういう風にスバルは考えています。



さて、雑談も置いといて次回はいよいよ帝国兵との接触、無事に切り抜ける事はできるのでしょうか。

感想はいつでもお待ちしています。

それではこの辺で、ではまた………。



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手に血を染める者たちと当麻の激情

どうも、グルメです。

早速ですが今回のお話しはハジメ達が帝国兵にコンタクトを取る所から始まります。

果たして無事に切り抜ける事ができるのでしょうか…


それではどうぞ。


「ん? 何だあいつら?」

 

「ガキが4人こっちに向かっていますね、隊長。」

 

「隊長!! その後ろに兎人族。しかも隊長が欲しがっていた兎人もいます。」

 

「ほう、こりゃあいい。ついているな、俺達は。」

 

「隊長~あれだけいるんですから、ちょっとくらい味見してもいいですよね~?」

 

「全くお前らと来たら……二、三人だけだぞ。」

 

「「「やったー!」」」

 

この隊の隊長と思われる男はこっちに向かってくるハジメ達に気づくも、部下の声ですぐにハジメ達から少し離れた位置から付いてくる兎人族に目が行った。欲しかった兎人もおり、兎人の女性の数もそれなりにいた。隊長は部下を労う為にも二、三人好きにしていい許可を入れると帝国の小隊は歓喜に包まれた。

部下たちが兎人の女性の品定めを始める中、隊長は何人か連れてハジメ達の前に立ちはだかった。

 

「お前ら奴隷商か? 情報掴んで追っかけて捕まえた所で悪いけど、これうちらが狙おうとした獲物達なんだよね…と言うわけで国で引き取るから置いていけ。」

 

勝手に推測し、勝手に結論づけた隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子でハジメ達に告げた。

 

ハジメは左右にいる親友達の顔を見た。親友達が軽く頷くの確認したハジメは

 

「断る」

 

「……今、何て言った?」

 

「断ると言ったのです。兎人族は今、僕たちが所有しています。誰一人として売るつもりも渡すつもりはありません。」

 

「悪いことは言わないから帰った方が身のためだぞ。」

 

聞き間違いかと問い返し、返って来たのは丁寧な物言いをする当麻と士郎。しかし、隊長の額に青筋が浮かび上がった。

 

「……ガキ共、俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

 

「帝国兵だろ? 知っている。兎人族から聞いた。俺らとしてそんなことで頭悪いか判断されたくないんだけどな。」

 

ハジメの言葉にさらに額に青筋が浮かびあがせる隊長。周りの部下たちも同じように青筋を浮かびあがらせてハジメを睨みつけていた。周りに険悪な空気が流れる中、

 

「おいおいおいおい待てよ待てってば。本当に帝国軍人は怒りっぽいんだから!」

 

スバルがこの空気を変えようと隊長の前に出てきて、フレンドリーに話しかけてきた。

 

「あんたらが狙って待ち伏せで捕まえようとしていたかもしれないが、俺たちは直接会って捕まえたんだ。こういうのは早い者勝ちだろ? それを横取り、しかも無償でよこせと言うのはどうかと思うぞ? それと隊長さん、俺たちがどこからやって来たか見ているか? 階段を登って来たんだぜ。つまり俺たちは地の底の強力な魔物や魔力の分解にも対応できる力があって…」

 

 

グサッ

 

 

「あ……え?」

 

お腹に何か違和感を感じたスバルは下を見てみるとジャージの上から大型ナイフが突き刺さっていた。

 

「うるさい、だまれ。お前の説法を聞きに来たんじゃないんだよ!」

 

隊長はスバルを小突いて後ろに押し返した。周りの部下たちがあざ笑う中、スバルは血を流しながら後ろに下がり地面に膝を付けて項垂れた。

これを見た兎人族の方はシアも含めてパニックを起こし、悲鳴が上がっていたがユエの「うるさい」の一言で収まるも、まだ恐怖があるのかひくつかせていた。

 

「あ~あ、お仲間が死んじゃったね~。俺らにたてつくからこうなるんだよ。これに懲りたら大人しく兎人族を引き渡し…ん?」

 

隊長はここで違和感を感じて言葉を止めた、何かがおかしいと。

本来、仲間が刺されて恐怖に顔をにじませて狼狽えるものだと思っていた。死んだ者に駆け寄ると思われていた。しかし、目の前にいる者たちはその動作が見られない。平然とした様子で死んだ者に目を向けているだけだった。隊長の近くにいた部下たちもそれに気づき奇妙な目でハジメ達を見ていると

 

「おい、大根役者。いつまで死んだフリしてるんだよ。」

 

「……そりゃあないぜ~ハジメ。俺的には名演技だと思うけどな。」

 

「僕は、別に悪くなかったと思いますよ。スバル君。」

 

「えっ、マジで当麻!! 今後何かに使えるように練習しとこ。」

 

「スバル、とりあえずそれ抜いたら? 痛々しくて見てられないぜ。」

 

「それもそうだな士郎、意外に地味に痛いし。」

 

そんな会話を繰り広げるハジメ達に隊長と周りの部下たちは顔を青ざめた。そんな事も気づかずにスバルは何事もなかったかのように立ち上がり、腹に刺さっていた大型ナイフ抜いた。

そして、服をめくってナイフが刺さっていたであろう辺りを確認し始めた。隊長と部下もそこを見るとさらに顔を青ざめさせた。

お腹周りにはおびただしい出血の後はあるも、傷口が見当たらなかったのだ。「確かに自分は殺すつもりで刺した。手ごたえもあったはず…」隊長は自分の手を見て自問自答をしていると、

 

「あ~あ、痛かった!!

 

 

ブォン!!

 

 

「がっ!? あぁ…?」

 

一人の帝国兵がわけもわからないまま倒れた。頭にはスバルを刺したナイフが眉間に深く刺さっていたからだ。

スバルは刺されたナイフをおもいっきり投げて、隊長と部下の顔を横切り、後ろで品定めをしていた帝国兵の一人に当てたのだ。これを機に後ろで品定めをして盛り上がっていた帝国兵達の喧騒が静まり返った。

 

「おい、人がしゃべって途中にナイフを突き立てるなんてどういう見解なんだ、えぇ!?」

 

怒りの形相で帝国兵達に怒鳴り声を上げるスバル。同様にハジメ、当麻、士郎も睨みつけるように帝国兵達を見つめていた。

 

「殺せ! ガキ共を皆殺しに!?」

 

 

ドパンッ!!

 

 

ハジメ達の気迫に隊長はたじろぐもすぐに切り替えて怒号な声で指示を出した。しかし、その言葉が最後まで言い切られることはなかった。

一発の破裂音と共に、その頭部が砕け散ったからだ。眉間に大穴を開けながら後頭部から脳髄を飛び散らせ、そのまま後ろに弾かれる様に倒れた。

何が起きたのかも分からず、呆然と倒れた隊長を見る帝国兵達。

 

その隙を彼らは見逃さず事はなかった。

 

 

ボコォン!

 

 

クサッ!

 

 

当麻は瞬時に拳に剛気を纏い、隊長の近くにいた帝国兵の胸元に向けて正拳を突き出して鎧ごと身体を粉砕、士郎もまた隊長の近くにいた帝国兵に対して隠し持っていたナイフで首元を一刺し、絶命させた。

スバルはハジメの最初の発砲を機に駆け出し後方にいた帝国兵達に向かった。帝国兵達も隊長がやられてパニックに陥るも素早く誰かが迅速な指揮を執り、前衛が武器を構えて前に飛び出し、後衛が魔法の詠唱を始めようとしていた。

前衛の一人がスバルに斬りかかろうとした時、

 

「雷走」

 

そう言って目の前からスバルが消えた。前衛は辺りを見てスバルを見つけとしていた時、

 

「「「ぎゃあああああああああ!!?」」」

 

後衛の方から複数の断末魔が聞こえた。そちらに目を向けるとスバルがおり、後衛の帝国兵に襲い掛かっていた。しかもスバルの両腕は若紫色に変色し手には鋭い爪が生え、その爪で帝国兵達の喉を次々に引き裂いていた。

スバルは‘’雷走‘’を使い、雷のごとくの速さで帝国兵達の後ろを取ると‘’部分変化‘’で両腕を雷鬼の両腕に変えて戦っているのだ。この方が体力の減りも少なく状況によって瞬時に切り替えも可能となるのだ。

 

前衛の帝国兵はすぐさまスバルの下に向かおとするも、

 

「行かせると思ったか?」

 

 

ドパンッ!!

 

 

ハジメのドンナーで胸を撃ち抜かれ絶命、そして次々と帝国兵に向けて発砲。さらにそこに当麻、士郎も襲い掛かって来た。

後ろからのスバルに前からのハジメ、当麻、士郎に為す術もなく帝国兵はやられていき、残すことあと一人となった。

 

「ひぃ、く、来るなぁ! い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か! 助けてくれ!」

 

一瞬にして自分以外がやられて周りの骸となった帝国兵が目に入り、命乞いをしながら這いずるように後退る帝国兵。しかし、何かに当たり振り向いて確認したら両手を血塗れにしたスバルが冷めた目で見つめていた。前からはハジメ、当麻、士郎が同様に見つめていた。

 

帝国兵は恐怖で顔を歪ませて身体を震わししつつ再び命乞いを始めた。

 

「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」

 

「………他の兎人族がどうなったか教えろ。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」

 

「それは……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 

ハジメの質問にそう答える帝国兵。大方の解釈として老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。全員がそう理解してシアや兎人族は悲痛な表情を浮かべた。

聞けたい事は聞けたし、もしどこかにいるのなら助けてもいいと考えていたハジメだが、もういないなら仕方がないと割り切り、この帝国兵を処分しようとした矢先、

 

「ハジメ君、この人…僕に任せてもらってもいいですか?」

 

「………当麻?」

 

ここで当麻が生き残りの帝国兵の前に出てきた。いきなりの行動に少し驚き、思わず当麻に任せるハジメ。しかし、この時ハジメを含めてスバルも士郎も、当麻がいつもと何かが違う様子だということを感じ取っていた。

 

「なぁ、優しそうなあんちゃん…礼はたっぷりする! まだ死にたくない! だから見逃して…」

 

「随分好き勝手なことを言うのですね…あなたと同じように兎人族もそう思っていたはずです……それなのにあなたたちは…何の罪もないのに命を奪った……」

 

尻込みする帝国兵に冷めた目で見下ろすように当麻は迫った。穏やかな口調で話すも言葉には一つひとつに怒気が含まれており静かな怒りを見せていた。

 

「頼む許し…」

 

「許さない。」

 

そう言って当麻は帝国兵の顔面に向けて突っ張りを放ち後方に飛ばした。飛ばされた帝国兵は地面すれすれで宙を飛び地面に2、3回転んだあと動きが止まった。そして、ゆっくり立ち上がろうとするも、

 

「うっ、がっ、ああああああああぁぁぁ!??」

 

悲鳴を上げて再び大地に倒れ痙攣を起こしながら息絶えた。

この光景に兎人族はもちろんだったがハジメやスバル、士郎は息を飲み込んだ。それもそのはず普段温厚で、あんなに怒る所など見たことない、初めての光景だった。当麻を知っている者からしてみればあまりにも過激な行動であり、まるで人が変わったように見えたのだ。

 

三人は当麻に聞きたいことがあるも、どう声をかけたら良いのか迷っていると、

 

「……当麻、あの兵士に何したの?」

 

まるで三人に代わって代弁するかのようにユエが静に尋ねた。

 

「…体内の微力な気を引き出して活性化させたのです。相手は相当苦しかったと思いますよ………何せ全身のあらゆる血管が破れて内出血を起こしているのですから…」

 

兵士を見つめつつ静に答える当麻。

ユエは「…そう。」とただ一言呟き、三人は当麻がした行動にゾッとして寒気を感じていた。「本当に当麻なのか?」そんなことを三人が思っていると、

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

 

当麻の行動に思うことがあったのかおずおずと言うシア。この言葉にハジメ達一行は呆れ返り、ハジメが言葉を発しようとした矢先、

 

「…ですか。」

 

「えっ?」

 

「なんでですか!! あなた達の仲間を! 家族を! なき者にした張本人達ですよ!? 何故誰もが相手に同情するのですか!? 何故誰も怒らないのですか!? どうして! 悔しがらないのですか!!」

 

それはいきなりだった。シアの大きな耳でも聞き取れなかった当麻の小さな声を聞き返したとたんに燃え上がるように当麻は激怒したのだ。

これにはシアも「ヒッ」とマヌケな声と共に驚き、思わずカムにしがみついた。他の兎人族も感化されるようにお互いに身体を抱き寄せたりした。

ハジメ、スバル、士郎も今まで見たことがない当麻の激情姿に愕然とする中、見かねた士郎が当麻に話しかけた。

 

「お、おい…落ち着けって当麻。」

 

「士郎君、止めないでください!彼らの考えを改めさせないと、非常に良くないと思うのです!」

 

士郎の言葉に当麻はそう言って跳ね返した。

普段なら「そうだね。」と言って他者の言葉を受け入れ従順なはずなのに、この行動に三人は「本当どうしちまったんだ!?」と内心驚いた。

 

「……本当に当麻?」

 

ユエもユエで奈落の底の修業生活で大人しい当麻を見てきたため、あまりの変わりっぷりに疑問を感じていた。

 

 

そして、当麻が再びハウリア族に向き直した時、

 

『当麻、今すぐ心を静めなさい。』

 

サラが幽体で出てきて当麻に律するように静かに告げた。

 

「ですが師匠!」

 

当麻、強くなりたければ心を静めなさい! 激情するような心では見えるものも見えなくなりますよ? 今あなたの姿がハウリア族、仲間達にどう映っているのか分かりますか?』

 

「…………。」

 

言い返そうとした矢先、サラの凛とした声で思いとどまった。そして、サラに言われたようにハウリア族、仲間達を見た。ハウリア族は誰もかれもが怯えた表情をしており、ハジメ達の仲間からは不安、心配そうに見つめられていた。

 

ここで初めて当麻は今の自分の異変に気づいた。

 

『あなたが先ほど帝国兵に行ったことをどうこう責めるつもりはありません。ですが、力も、闘う術も知らない彼らに、いきなりあなたの考えを押し付けるのはどうかと思いますよ?』

 

サラは当麻に諭すように言いつつ『それに…』前置きして、

 

『環境は違えど元をたどれば、あなたも彼らと似たような境遇を受けてきたのではないのですか? 彼らと同じ立場に立っていなかったのですか? 』

 

「…!!?」

 

サラの言葉に当麻の記憶がふと浮かび上がってきた。元の世界で身体が弱いがために、この世界では戦えない、天職が役に立たないがために檜山達にいじめられた事を、心を殺して耐えて、親友達に助けられ、何度も悔しい思いを嚙み締めた事を思い出した。

 

そしてここに来るまでの道中、ハウリア族は兎人族のことを話していた。

 

逃げる隠れるしか出来ず、戦闘は頼ってばかり、他種族から見下され時として心無い事を言われても、仕方なく愛想よく笑うしかない。そんな自分たちの冷遇を明るく笑い話しのようにハウリア族は話していた。

 

サラの言う通り、色々違う所もあるが元をたどれば当麻も弱い存在たった。今は変われどそこに変わりはなかった。

 

『そのような事があったにも関わらずそれすら忘れて、力を得たからといって強気になり驕るように弱気者に教えを授けるなど…愚か者にも程があります。』

 

「師匠…僕は…」

 

サラの的を得た言葉にさっきの威勢はどこに行ったのやらと言いたくなるくらい当麻は身体を縮ませ、顔を真っ青にさせていた。

さすがに見かねたスバルはサラの前に立った。

 

「まぁまぁサラさん。お説教はこのくらいにして…当麻も反省してることだしさ。それに当麻は“仲間をもっと思え、害した者にもっと怒れ“とハウリア達に伝えたかったじゃないかな? 俺はそう捉えたし、少なくともハウリア達はそうするべきだと思った。」

 

『…………そうかもしれませんね。』

 

スバルは自分の思った事を伝えた。何か言われる覚悟をしていたが意外にも言われることなくスッと当麻の身体の中に入っていった。

 

「スバル君、ゴメン…それとありがとう。」

 

「いいってことよ、当麻!」

 

おずおずと言う当麻に、笑顔で答えるスバル。

 

「皆さんもゴメンなさい…特にハウリア族の皆さんには怖い思いをさせてしまって…。」

 

「気にするな当麻。」

 

「当麻殿、申し訳ない。我々は決して何も思わないということはない…ただ、こういう争いに我々は慣れておらんのでな……少々、戸惑ったのだ、すまない。」

 

「当麻さん、すみません。」

 

ハジメは特に気にしてない様子見せた。ユエや士郎達も同様にとやかくいうことはなかった。シアとカムは一族を代表して当麻に謝った。

それでも申し訳なさが残るのか当麻は浮かない顔をしているのだった。

 

 

その後、ハジメ達、ハウリア族は帝国兵が使っていた馬と馬車を使い、乗る者を分けて樹海へと進路をとった。

 

彼らが作り上げた帝国兵の死体の山はユエが風の魔法で吹き飛ばして谷底へ落とした。残されているのは帝国兵の血だまりだけだった。

 

 

 




ありふれた特別講座 



サラ「こんにちは、気を使い続けて500年のサラです。今日は気について色々解説していきたいと思います。聞き手は、」

スバル「ほーい、無知無学のこの俺、スバルが務めるぜ。先生お願いします!」

サラ「はい、お願いします。」

スバル「じゃあ早速ですが先生、‘’気‘’って何なんですか?」

サラ「難しいこと抜きで言いますと生命エネルギーです。生きる者全てに血流が流れているの同時に微力ながら気が流れており身体から発しているのです。」

スバル「…ということは当麻が血流をよくする事が出来るのは、その流れている気を操作しているからなのか?」

サラ「その通りです。そして気の流れは個体、状態によって変わってきます。気術士は身体から発しているそれらの気を感じ取り、相手の位置、またはその者の状態を判別する事が出来るのです。」

スバル「なるほど。だからオルクス大迷宮でハジメとユエさんに出会う直前、危険な状態だと察知出来たわけか。」

サラ「そういうことになります。もっともあの時はまだ距離がありましたので意識を集中させないと見逃してしまう所でしたけどね。」

スバル「…なぁサラさん。俺も気が流れているなら当麻みたいに気を使いこなせることって可能なのか?」

サラ「出来ないことはないですが…あまりおすすめしません。」

スバル「えぇ!? どうして?」

サラ「それは……また次回の時にお話しましょう。今日はここまで、ご清聴ありがとうございました。」

スバル「うわぁぁぁ、スゲー気になるんですけど!? 仕方ない、またな!!」











いかがだったでしょうか?
やっぱりこうなってしまいました。ですが遅かれ早かれ人を殺めた話を書かないと最後の迷宮の試練は書けないので彼らには悪いですが殺めてもらいました。
そして、もう一つ注目する所は当麻の変化です。
キャラ崩壊ではありません。穏やかな当麻がああなってしまったのには理由があります。それについては次回の本編で解説するつもりです。

次回、人を殺めたハジメ達が思った事を話していきます。


皆様の感想、評価、いつでもお待ちしております。


それでは、この辺で。では、また……


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戦いを終えて、思うこと。

どうも、グルメです。

皆さんゴールデンウイークいかがお過ごしでしょうか?
私は毎日仕事の日々を送っています(笑)

さて、二期の放送日も決まり、再び盛り上がりに貢献出来たらいいなぁと思いながら書き上げた新作です。


それでは、どうぞ。


「…ハジメは大丈夫だったの?」

 

「ん?」

 

「…人殺し…初めてだったのでしょ?」

 

どこか上の空で魔力駆動二輪を運転しつつ、前方に見えるハルツィナ樹海を見つめていた時、ハジメの前に座っていたユエが声をかけてきた。

ユエは奈落の底の修行期間にハジメから元いた世界のことを聞いていた。ハジメがいた所は少なくとも命が簡単に奪われるような事もなくハジメ自身も手にかける事を知らない、やらない平和な所だということは知っていた。

それゆえ今回、この世界で初めて帝国兵を相手にした後、ハジメが物思いに耽っているような気がしたためユエは気になって真意を確かめることにしたのだった。

 

ユエの問いかけにハジメは少し黙りこんだ後、静に話し始めた。

 

「…旅立つ前、“殺してでも前に進む“と決めたとは言え…実際に直面すると正直不安だった。強気でいたけど内心ビビっていたし、足取りも重かった。殺したあと発狂するんじゃないかなと思っていた…だけど。」

 

「…だけど?」

 

「………スバルや当麻、士郎が駆けつけてくれた。横に並んで一緒に戦ってくれた。人殺しの罪を…一緒に背負ってくれた……それが凄く心強かった。」

 

そう言って先ほどの帝国兵との小競り合いの事を思い返すハジメ。

実際ハジメは言ったからには一人で戦うつもりだった。一人で業を背負う積もりだった。だけど予想外のことに一人、また一人と親友達がやって来た。その時、何となくだが肩の荷が下りて帝国兵に向かう足取りが軽くなったのを今でもはっきりと覚えていた。

 

「そのおかげで戦闘中は発狂することも取り乱すこともなかった。たぶん親友達のおかげだ。ここまで親友に助けられたら不安な気持ちに負けたくないし、うじうじしてるのも親友達に申し訳ないと思って…だから、その…変な話し、その事は吹っ切れているんだ。」

 

「だから、大丈夫。」と付け足すように少し笑みを浮かべて言うハジメ。

 

「……そう。」

 

ユエは静かに頷いた。

ハジメに大きな精神的なダメージもなく嬉しい半面、頼っているのは自分ではなく親友達であり、ハジメの力になれなかったことにちょっぴり寂しい思いに浸っていた。

 

ハジメは何となくユエが寂しい思いをしていると感じ取ると

 

「あ~ユエ。あのさ…」

 

「…?」

 

ユエは見上げるように顔をあげると頬をかきなから別の方向を見ているハジメがいた。ユエがぼんやりとハジメの顔を見つめているとそのままハジメはしゃべりだした。

 

「俺はああは言っても、もしかしたらどこかで罪の意識で苦しむかもしれない。もし、その時が来たら…」

 

言い終えると突然、ハジメはユエの右耳に顔を近づけて囁いた。

 

「……ユエに慰めてもらってもいいかな?」

 

「!!………んっ」

 

愛する人の言葉を間近で聞き取り全身に衝撃と快楽が走り、ユエはどこか色っぽく頷いた。

もし、クラスメイトの男子一同がこれを見ていたら鼻血&卒倒ものだと断言しよう。

それほど今のユエは幼くも大人の色っぽさが出ているのである。

 

そして、この様子をハジメの真後ろで見ていたシアはというと

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぅぅぅーー!!!」

 

歯をむき出して白い布をこれでもか、というほど嚙み締めて引っ張っていた。

 

それと同時に馬にまたがってハジメの隣にいたスバルはというと、

 

「砂糖水が~口から~マーライオン!!」

 

<何やってんだお前は…>

 

笑いを取ろうとしているのかどうか分からないが変なテンションで口をこれでもかというほど開けるスバル。これにはレオンも呆れるしかほかなかった。

 

「おまえらな…」

 

「二人とも雰囲気が台無し…」

 

ハジメ、ユエも二人に邪魔されて不満を露にした。

 

「目の前でイチャコラされたら誰だってこうなります~。」

 

頬を膨らませて、可愛げにプンスカ怒るシア。

 

「そうだそうだ! 俺だって慰められたい! ユエさん俺も慰めてくれ!!」

 

「…………。」

 

「アッ、ヤッパイイデス。ヘンナコトイッテゴメンナサイ」

 

「…フン」

 

スバルはスバルでシアに同調しつつユエに慰めを要求するも、ユエの無言の圧力と絶対零度の眼差しに怖じけついて発言を撤回するのだった。

ハジメは呆れて溜め息を吐くも、すぐに切り替えてスバルに尋ねた。

 

「お前はどうだったんだよ、スバル?」

 

「ん? 何が?」

 

「いや、殺しだよ。お前…何も思わなかったのか?」

 

「ああ、それね。う~ん……」

 

言われてようやく気づくスバル。その姿にハジメは「お前、大丈夫かよ?」と内心ドン引きしつつも親友の言葉を待った。数秒後、スバルは口を開いた。

 

「ぶっちゃけ言うけどさ…()()()()()()()()。」

 

「は?」

 

「…?」

 

「おいおいおい…」

 

けろりとした様子で話すスバルに、ハジメは腑抜けた声が出て、ユエは首をかしげた。そして、スバルとは別の位置のハジメの隣で馬をまたがっていた士郎は驚きの表情をかくせないでいた。

 

「スバル、とうとう頭がおかしくなったか? サイコパスでもなったか!?」

 

「…ハジメ、ハジメ、スバルは元々頭がおかしい…。」

 

「怒りで我を忘れて何も感じなかったとか?」

 

迫りくる三人の言葉にスバルはけだるそうに答えた。

 

「いやいやハジメ、俺はいたってまじめに答えていますし、サイコパスになった覚えもありませんよ。士郎の怒りで我を忘れるということもちょっと違うと思うんだ……それとユエさ~ん。さりげなく俺を汚すのやめてくれませんか…」

 

ユエの言葉にスバルはため息をついた後、一息入れて今度は切り替えるようにまじめな口調で話し始めた。

 

「正直に言うと戦いが終わってから、後悔とか罪悪感とか来るもんだと覚悟してたけど不思議にもそういうことはなかった。「あっ、終わったんだ…」というあっさりしていて、敵に同情、というよりそれすらの発想も至らなかった…例えるなら“自分に迫りくる蚊を叩いて潰す“…そんな感じに近かったな。」

 

先ほどの戦闘を思い返しながら話すスバル。今、思い返してもやはりというべきか、人を殺した動揺、後悔とか全く感じられないのだった。

 

「それと士郎の言っていたことだけど、たしかに腹にナイフが刺さった時は腹がたった! これが俺意外にやられていたと考えると無性に怒りが沸いてきたけど、戦闘に入った時は意外にも冷静になれたかなと思う。」

 

〈こいつには奈落の底で一つになった時から常日頃、“戦闘中は冷静になれ”って言い聞かせていたからな。〉

 

「まぁ、レオンのおかげってわけだ。つーわけで、この先も対人戦は問題なく戦えるということが証明できてよかったよ。」

 

そう言ってニィと笑うスバル。世間的に見れば、問題視されそうだが、とりあえず正常でいられていることにハジメと士郎は心を撫で下ろすのだった。

 

「…というわけで次、士郎。いってみよう!」

 

「いや、ノリノリで言うなよスバル。」

 

「少しでも重たい空気を変えようと配慮してるんだぜ?」

 

「まったくもう…まぁ話さない訳には行かないよな…」

 

スバルの対応にため息をついた後、士郎はゆっくりと口を開いた。

 

「正直言って怖い気持ち、不安な気持ちはあった。ただ俺は月下で誓った時、‘’お前らを支え、お前らが出来ないことを俺がやってやる‘’って決めているからな。それを強く思っているせいなのか、今でも問題なく立っていられる………ただ、」

 

「「ただ?」」

 

士郎の最後の言葉で口をつぐみ、それを聞き返すハジメとスバル。士郎はしばらく押し黙った後、またもやため息をついて軽く空を見上げた。

 

「……優花がこのことを受け入れてくれるかどうかなんだよな。」

 

ふと思い出すのはここにはいない園部優花の存在。幼い頃から両親は仕事で家を空けることが多く、家族ぐるみの付き合いがあった園部家に居候させてもらい園部の両親に家族同然に育てもらった。そしてその近くにはいつも優花がおり、学校の行事も園部家のイベントも常に一緒にやってきた。園部の両親もそうだが士郎にとって優花はかけがえのない存在、故に今回の件で拒絶されないか不安で仕方がないのだった。

 

「………。」

 

実際なくもない話しに安易に励ましの言葉をかけるべきではないと思い、ハジメは何とも言えない顔で押し黙った。ユエ、シアも何かを察したのか言葉を発することはなかった。だがスバルは、

 

「…大丈夫だって士郎。優花は受け入れてくれるって!」

 

そう明るく士郎を励ました。これにはハジメ、ユエは「お前、そこでそれ言うか!?」と言いたげな顔でスバルを見た。士郎も少し驚いたのか目を開いてスバルを見ていた。

 

「士郎、知っているか? 優花はお前にほの字なんだぜ。ちょっとやそっとの事で軽蔑はしないだろ。」

 

「(いや、人殺しはちょっとやそっとのことじゃないだろ。俺らの世界だと普通に見る目が変わるだろ…)」

 

スバルの言葉に内心ツッコミを入れるハジメ。「まさかそれだけ理由で…」思っていたが、まだ続きがあった。

 

「それに士郎、優花とは昔から一緒に過ごしてきたんだろ? 共に飯食って、風呂入って、同じ布団で寝た。言わば家族みたいに過ごしてきた仲なんだろ? 不安で心が揺れるのは仕方がないのは分かる…けど家族なら信じてみようぜ…優花を。そしてここまで紡いできた絆を。」

 

そう言ってニッと笑って諭すように言うスバル。つくづく家族とか友達関係の信頼や絆関連になると熱くなるなと思いつつ、

 

「(まぁ、そこがスバルのいいところなんだけどな。)」

 

そう一人で納得してフッと笑う士郎。そして、わざと残念そうな顔をして、

 

「スバル……お前の口から優花が俺のこと好きってこと聞きたくなかったな…」

 

「えっ…?」

 

「こういうのは本人から聞きたかったな~」

 

「いや、そう言われても…」

 

わざとらしく困ったように言う士郎にスバルはあたふたした。そしてこれを見たハジメ、ユエ、シアは

 

「スバル…やっちまったな(笑)」

 

「スバル、最低…」

 

「スバルさん、それはあんまりですぅ…」

 

ここぞとばかりにスバルをいじった。

 

「ちょっとちょっと!? さっきから俺の扱い酷すぎません!?」

 

本気で困った様子を見せるスバルに周囲に笑いが起こった。ある程度笑った後、流石にかわいそうになってきたなと思った士郎は

 

「まぁでも、スバルのおかげで吹っ切れたよ。ありがとう。」

 

「…おうよ。」

 

冗談ではなく素直の気持ちだと理解したスバルは笑顔で頷くのだった。

 

士郎の悩みが吹っ切れて、いつもの調子を取り戻している中、一人物思いにふける人物がいた。

 

『………。』

 

クロウである。クロウは先程から会話に入らず帝国兵との戦い、主に士郎の動きを思い返していた。

先の戦いはクロウが代わりに士郎の身体を動かすどころか、助言もサポートもしておらず、全て士郎一人によるものであり相手の動きを見て予測して、確実に急所の首元にナイフを切り裂いた。切り口も鮮やかであり全体を通して無駄のない動き…

 

 

そう、クロウから見ても()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そしてクロウは帝国兵との戦闘を終えて再びフェアベルゲンに向かう前の会話を思い返した。

 

『士郎、少しお尋ねしたいことがあるのですが…』

 

「ん、なんだ?」

 

『士郎は、初めて人相手に戦ったのですよね? それなのにあの戦闘技術…いったいどこで学んだのでしょうかと思いまして…』

 

「ああ、実は父さんに稽古をつけてもらって覚えた戦闘術なんだ。昔、父さんは俺のいた世界の別の国の軍隊の出身で今は退役して世界中の要人を護衛する仕事についているんだ。」

 

『そうでしたか、それであんなにも手慣れているのですね。』

 

「初めての実戦だったけど…上手くできてよかった。まさか、父さんの練習相手になるために稽古をつけてもらったことがここで役に立つなんて。」

 

『………。』

 

「ん? どうしたクロウ?」

 

『いえ、少し驚かされまして…。』

 

「そうか。」

 

士郎は特に気にすることはなく、ここでこの会話は終わった。

 

 

 

『(……初心にみられる身体の張りもなく、心臓の音の高鳴りもなかった。初心の実戦でこうも落ち着いて戦えるものなのか? 本当に彼は実戦が初めてなのでしょうか?)』

 

クロウからみても士郎の動きは熟練の戦士、しかも暗殺者の動きによく似ているのだ。士郎の発言におかしな所、嘘も感じられなく誰が聞いていても純粋な発言だった。これから先、問題なく戦えるのは確かだが、どうも初心に見えずスッキリしなかった。

誰に気づかれることなくクロウが一人悶々としている最中、

 

 

 

「…やっぱり皆は、すごいよ。」

 

 

そう言って、ハジメが引いている馬車から儚げな笑みを浮かべる当麻が顔を出してきたのだ。

 

 




いかがだったでしょうか?
先ずは謝罪、すみませんでした。
本当は、当麻が暴走した理由、シアの決意、フェアベルゲンの亜人との遭遇までを書いてまとめるつもりでしたが、膨大の量になりそうなので分けることにしました。
「初めて人を殺めたのに、次の回ではハルツィナ樹海のそばまで来ていた。」となると、流石に物語的にどうかなと思いますし、こういう経験があったからこそ、一人ひとりの描写は大事だと思います。登場人物が多いために考えるのも書くのも一苦労ですけどね…。

さて、それぞれ描写の解説的なものを書きますと、

南雲ハジメ
原作同様、殺めたことに吹っ切れています。ですが原作と違いこちらのハジメは人らしいので考えの持ち主なので、ふとしたことであれやこれやと考えてしまいますが愛するユエ、信頼している親友達がいるのでスランプになることはありません。

影山スバル
一行の中で一番思考がおかしいです。もちろん理由はあります。そして、再び最後の迷宮で向き合うことになります。

望月士郎
一行の中で精神的には一番丈夫です。ですが世間体を人一番気にしています。特に幼馴染の優花との関係が崩れないか危惧しています。それと何やらまだ秘密がありそうですが、明かされるのはだいぶ先になります。


そして、当麻の暴走と、この回で全く会話に入らなかった理由は次回になります。


感想はいつでもお待ちしております。励みになりますので…。


それでは次回、お会いしましょう。では、また……。


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改過自新の当麻とサラ、苟且偸安なウサギのシア

どうも、グルメです。

大変遅くなりました。あれやこれやと考えたり書き直したりしていたら6月に入ってしましました。本当に申し訳ございません。
ですがその分、ボリュームはあると思います。少し笑える所もちらほらあります。

それでは、どうぞ。


「「「当麻!」」」

 

ハジメ、スバル、士郎は当麻の声を聞いてすぐさま振り向いた。

 

「ごめんなさい、皆さん。ご心配とご迷惑をおかけまして。」

 

そう言って当麻は軽く頭を下げた。

 

「いや~よかった。当麻が元気になって、なぁ士郎。」

 

「そうだな。倒れたことはあまり気にするな当麻。」

 

「むしろ当麻の反応が当たり前だと思う。そうなると俺たち相当変わっちまったよな…」

 

スバル、士郎は当麻が元気になった事を喜び、ハジメはフォローしつつも自虐に走った。ユエやシア達も当麻が元気になったことで安心の表情を浮かべた。

 

 

 

当麻に何があったのか。その話をするにあたって時は帝国兵との戦闘を終えた後まで遡る。

 

 

 

戦闘を終えたハジメ達はハルツィナ樹海に向けて準備をしていた時、当麻がいきなり体内の汚物を吐き散らしたのだ。一同はすぐさま駆け寄ると呼吸は荒く、顔色が優れない当麻の姿があった。

 

『恐らくですが、冷静を取り戻した事により先の戦闘の事を鮮明に思い返して身体が拒絶反応を起こしたのでしょう…』

 

幽体となって出てきたサラはそう推測した。とりあえず当麻を二人がかりで馬車まで運んで横になってもらった。

 

『体内の気も乱れています。落ち着かせるために再び身体に入いりますので必要な時以外は声をかけないでください。』

 

サラはそう言って当麻の体内の気を落ち着かせるために再び身体に入り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、どうして当麻はあんなにも気性が荒くなったの?」

 

時は元に戻って、ユエは先程の当麻の出来事について質問した。当麻はおぼろ気に思い返すも、

 

「…それが僕にも分からないのです。」

 

そう言って口を閉ざしてしまった。だが、すぐに再び口を開いた。

 

「帝国兵と対峙する前は上手く戦えるかどうか緊張と不安でいっぱいでした。ですが…スバル君が刺された時、凄く許せない気持ちが沸き上がって…気づいた時にはすでに殴りかかっていて、その後は考えるよりも先に拳が出ていて無我夢中でした……戦いが終わった後、帝国兵やハウリア族の発言を聞いてすぐ、“何であんなことが言えるのか”って思っていたら言いたいことがいっぱい沸いてきて…気づいた時には師匠に叱責された後でした。そして冷静になって思い返したら…」

 

そう言ってだんだと声を小さくさせながら顔を歪める当麻。正直言って今でも思い返したら恐ろしいものだと痛感しており“まるで自分が自分で無くなる…”そんな気もしていたからだ。

 

皆が当麻の話しを聞いて、何故ああなったのか考え始めようとした矢先、

 

 

『…この件に関しては私がお話ししたいと思います。』

 

そう言って当麻の身体からサラが幽体となって出てきた。

 

『恐らくですが…当麻がああなったのは感情の暴走によるものたと思われます。』

 

「感情の暴走?」

 

ハジメを含めスバル、士郎が首をかしげる中、サラは『…と、その前に…』と前置きして、

 

『皆さんは、"気"には二つの種類があるのをご存知ですか?』

 

「確か、柔気と剛気じゃなかったか? オルクス大迷宮でサラさんが叫んで使っていたような…」

 

オルクス大迷宮での首長竜戦を思い返しながら呟く士郎。

 

「その通りです士郎殿。“柔らかく、かつ、魔力を弾く柔気”、“熱を持ち破壊を伴う剛気”…気術士はこの二つの気を使い分けて戦います。」

 

サラがそう説明を終えた後、『では、当麻…』と前置きをして

 

『柔気と剛気。これらをどのように引き出すのか説明出来ますか?』

 

「えっーと、柔気は通常通りに気を練ることで出来て…剛気は気を練る時に負の感情を思い浮かべて…練り上げます…」

 

『はい、その通りですね。ちなみに“気を練る”というのは気を操作して身体の一点に集めることを指します。気術士の基礎と言えますね。』

 

どこか最後の方は歯切れが悪そうに説明する当麻。そこにサラは補足説明を付け足した。

するとここでスバルが申し訳なさそうに手を上げた。

 

「あのー気の特質もろとも充分に伝わりましたけど…結局の所、当麻がああなってしまった原因って何なの?」

 

スバルの質問を聞いたサラはふと当麻の顔をみた。唇を噛み締め悩ましそうな表情をする当麻を見てサラは確信した。

 

『………当麻は大方気づいていますね?』

 

「……はい。」

 

『よろしい…では、私が説明しますね。』

 

そう言ってサラは一呼吸おいて口を開いた。

 

『結論から言いますと当麻は感情の暴走もとい、負の感情に呑み込まれたのです。』

 

「呑み込まれた…どういうことだ?」

 

ハジメが首をかしげ、その他の者も疑問に感じる中、サラは説明を続けた。

 

『剛気をどのように引き出すのか説明しましたよね? 当麻の場合…弱い自分、力のない自分を思い浮かべることで出来る悔しさ。それで剛気を練っていました…ですが先の戦闘で予想外の事が起きました。』

 

「…予想外のこと?」

 

『はい、お嬢様…それはスバルが刺されたことです?』

 

「えっ!? 当麻の件、俺が刺されたことに何か関係しているの!?」

 

まさか自分が関係したいるとは思わなかったスバルはただただ驚くしかなかった。

それでもサラは説明を続けた。

 

『本来ならさっき言った通りで剛気を練り、徐々に思いを高めて戦っていくつもりでした。…ですが、スバル殿が刺されたことにより弱い自分への悔しい思いから一変して、大切な友を傷つけられた怒りへと負の感情が差し替えられたのです。さらに何の罪のないハウリア族の命を散らせたことも当麻の怒りを増長させるものになったでしょう…』

 

「そういえば当麻は、おじいちゃんおばあちゃんっ子だったな。怒るのも無理もないか…」

 

士郎はそう言って元の世界でも、こっちの世界でもお年寄りに優しかった当麻の姿を思い浮かべつつ、ハウリア族の犠牲の中にはお年寄りがいたという帝国兵の発言を思い出した。

 

『その結果、負の感情に飲み込まれ、あのように暴走したと思われます。私が思うに多分、気術士の駆け出しによく見られる傾向かと思われます…断定は出来ないですが…』

 

そう推測するサラ。しかし、どこか自信なさげな言い方に疑問を感じたスバルが尋ねた。

 

「随分しっくりとこない言い方だな…500年の経験者ならもっと自信もって言ってもいいんじゃない?」

 

『…確かに気術士として500年の経験を積んできました。ですが、他の気術士を見たのは当麻が初めてなのです。』

 

「へぇ~意外だな。」

 

「つまり、今までの技術は独学で学んだってことか?」

 

『ええ、そうなりますねハジメ殿。』

 

当麻が気術士として初めて見る人物だと言うことに少し驚く士郎、そしてハジメも独学で気の使い方を学んだサラに内心驚くのだった。

 

「………」

 

そして当麻は先程から黙り込んだままで、暴走した時の様子を何回も思い返していた。自分がとった行動自体に後悔はない、だが、この先、ふとしたきっかけで再び暴走してしまわないか。今回はなかったが、もしひどい暴走を起こしたら今度は親友達を傷つてしまうのではないか。

 

そんな不安が当麻の頭の中を何回もよぎっていた時。

 

『当麻、私はあなたに謝らないといけません……ごめんなさい。』

 

「師匠…」

 

いきなりサラが軽く頭を下げて当麻に謝罪した。

 

『今回の暴走、私は身をもって知っていました。ずっと自分個人による問題だと思っていましたが、そうではなかった。これは誰しも…いや、気術士なら誰にでもなりうることだと今気づかされました。もっと早くこの事実に気づいていたら、あなたがつらい思いをすることはなかった……それなのに…」

 

少し黙り込むサラ、だが直ぐに力のない声で口を開いた。

 

「心のどこかで“当麻なら大丈夫”という考えがありました。物覚えが早いあなたなら、やさしい心を持つあなたなら…どんなことでも乗り切れると思っていましたが………私の過信、見当ちがいでした。本当にごめんなさい。」

 

そう言って再び頭を深く下げるサラ。当麻はじっとサラを見ていたが急に我に返り慌てるように答えた。

 

「し、師匠、自分を責めないでください。これは僕に原因があります。怒りを我慢出来なかった、感情を維持出来なかった僕の責任です……師匠は何も悪くないですよ。」

 

『ですが当麻…』

 

「それに師匠言ってたじゃないですか。「私にとって初めての弟子であり、初めて自分以外の気術士を見た」って……初めてなら初めてなりに知ること、見えてくることだってあると思います。今回だって‘’気術士は負の感情に飲み込まれやすい‘’って分かったから収穫ものです!」

 

サラの懺悔の言葉を遮り微笑みながら前向きの言葉を投げかける当麻は続けて「ですから…」と前置きして、

 

「負の感情に負けないよう…今後ともご教授と共に、二人で見つけていきましょう。新しい境地を!」

 

『……そうですね。私たちはまだまだ未熟、共に強くなりましょう…当麻。』

 

当麻とサラ。二人は頷くと共にその互いの言葉を聞いて、深く胸に刻み込んだ。正直の所、当麻は再び負の感情に飲み込まれて暴走しないか。サラは師としてこの先、弟子の当麻を正しく導く事が出来るのか。それぞれ互いに不安要素を心に秘めているが、そればかり囚われていても強くならないのは明確。口には出さないがその不安を消し去るためにも努力を怠らないようにしようと決意するのだった。

 

 

 

 

 

「………………。」

 

シアは樹海へと向かう移動中、ずっとハジメ達の話を聞いていた。あれだけ容赦なかったハジメ達が、実は初めて人を殺したという事実に内心驚くシア。それと同時に、それぞれ思っていることを口に出して言い合える仲に羨望と渇望を感じた。

「もっと彼らに近づきたい」「もっと彼らの事を知りたい」そう思ったシアは勇気をもって、

 

「あの、あの! もっと皆さんのこと、教えてくれませんか?」

 

その言葉にハジメ達は

 

「…って言っているが、皆どう思う?」

 

「別にいいんじゃないか、ハジメ。」

 

「……ハジメがいいなら、それでいいと思う。」

 

「減るものではないですし、僕も良いと思います。」

 

ハジメの問いかけに士郎、ユエ、当麻は賛同し、クロウ、サラ、レオンも問題ないと判断したのか反対することはなかった。そして、スバルは

 

「よし! 大方異論もないことだし………話をしよう。あれは今から36万…いや、1万4000年前のことだったかな? 俺にとってはつい昨日の出来事の…」

 

「「「そういうのはいいから!!!」」」

 

「…少し黙って、スバル。」

 

「………ハイ。」

 

ハジメ、士郎、さらに珍しく強気の当麻に指摘され、さらにユエに黙るように催促されたスバルは流石に肩を縮めるしか他なかった。

ハジメ、ユエ、士郎が中心になって、自分達の素性、ここまでの経緯、旅の目的を話した。

真摯になってウサ耳を傾けるシア。しかし、ハジメ達が話しを終えた頃には…

 

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、みなさんに、そんな…けいいが、あったなんて~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

大号泣だった。滂沱の涙を流しながら「私は、甘ちゃんですぅ」や「もう、弱音は吐かないですぅ」と呟いていており、そして、さり気なく、ハジメの外套で顔を拭いていたた。

まさか、自分以上に大変な境遇を持った人物がいる思ってもおらず不幸顔した自分が恥ずかしくなったのだった。

 

「(そんな泣くような話しだったか、レオン?)」

 

〈(何で泣くかなんて人それぞれ…というかお前も人のこと言えないだろ。)〉

 

「(…そうだっけ?)」

 

シアを見ながら二人だけで会話をするスバルとレオン。

レオンはスバルと初めて出会ったことを思い出しつつ、先程のスバルの発言を聞いて呆れていると

 

「みなさん! 私、決めました! 私は皆さんの旅に着いていきます! これからは、このシア・ハウリアが陰に日向に助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

メソメソしていたシアが決然とした表情でガバッと顔を上げ、拳を握り元気よく宣言したのだ。

シアは思った、この宣言でハジメ達は大いに驚き、祝福と共に快く受け入れてくれるだろう…と。

 

 

だが、実際は…

 

 

「「「「えっ?」」」」

 

あまりにも唐突な宣言に素で返すハジメ達。

 

「………。」

 

ぶっ飛だシアの発言に開いた口が閉まらないユエ。

 

『『はい?』』

 

同じくシアの発言で驚きと共に声が裏返るクロウとサラ。

 

〈……は?〉

 

少し遅れて返事するも理解に苦しむレオン。

 

想像だにしなかったあまりにも冷たい周囲の反応、これにはシアも、

 

「ちょっとちょっと何なんですかその反応は!? 今の流れはどう考えても『なんて逞しく勇気あるウサギなんだ!? 君みたいな勇気ある子を求めていたんだ! 歓迎しよう!!』とか言って温かく迎えるところですよ! 何、美少女の仲間入りをふいにしようとしているのですか! あっ、何みんなしてため息ついているのですか! 失礼ですよ!」

 

プンスカと怒りながら抗議するシア。あまりにも図々しい行動、周囲の反応理由を理解していないシアにハジメ一同は呆れるしか他なかった。

そして、めんどくさそうにハジメが口を開いた。

 

「あのなぁ~、現在進行形で守られている脆弱ウサギが何言ってんだ? 完全に足でまといじゃねえか」

 

「……ハジメに同意見。それと‘’陰に日向に助けて差し上げます‘’って言っていたけどそれは士郎の役目、あなたには無理。」

 

「僕的にあの流れから仲間に加わろうとするの無理があると思いますよ。それにちょっと厚かましいかな…って。」

 

「…当麻の言葉から‘’厚かましい‘’って言葉が出るなんて相当だぞ。まぁ、流石に俺も仲間入りは賛成しないな。」

 

ハジメに続き、ユエ、当麻、士郎がシアの強引な仲間入りに反対を示した。ハジメ、ユエの反対はある程度予想していたが、まさか理解力があると見込んでいた士郎が反対に入るとは思っていなかったため思わず「そんな~士郎さんまで…」と声を震わして呟き、動揺を隠せないでいた。

 

『大方、一族の安全が確保されたら元々抜けるつもりでいたのでしょう。今回の騒動の発端は紛れもなく自分自身の存在、自分が一族にいる限り常に危険にさらされる。そう思ったあなたは最悪一人でも旅に出るつもりでいた。ですが……』

 

『…そこに私たちが現れました。圧倒的な強さに、気を使うことのない仲間意識、自分の中でどこか惹かれるものがあったのでしょう。それも含めて私たちについていけば、残りの一族も心配して後を追うこともなく容易に離れられると考えた…………違いますか?』

 

「それは…その、あう…」

 

クロウ、サラはシアから聞いた自分の素性やハウリア族の事情、そしてさり気なくシアのここまでの様子を観察した事を含めて推察、図星だったのか、しどろもどろになるシアは次の言葉を発することもできずにうなだれるのだった。

当然だが、もちろんこの二人も旅の参加には反対である。

 

「友達になるならまだしも、一緒についていくのはちょっとな…俺たちは自分の身は自分で守れるようにしているし、一人で立ち向かえるようにしている。もちろん、この先何かあれば助け合って行くけど…最低限それが出来ないと話にならないな。」

 

旅につれていけないまともな理由を述べるスバル。シアがある程度戦えればスバルも少しばかり擁護していたかも知れないが、今を見る限り他人任せ。もしも孤立した時、一人で対処出来なかったら無駄に命を散らすだけだと考えたスバルは仲間入りに賛成しなかった。

 

<…それにお前はまだ旅の目的をはっきりとさせていない。ここにいる者たちの目的は七大迷宮の攻略。強力な魔物、数々の試練…それだけでなく、もしかするとトータス全てを敵に回す過酷な旅になるかもしれない。それでもここにいる者達は危険を冒し、命を張ってでも果たしたい目的がある……それなのにお前は目的があるわけでもなく、ただ一族から離れるための理屈と自分の興味本位だけのために仲間に加わろうとしている。家族を思っての行動は称賛するがそれ以外はダメだ。目的ある者達からすればいい迷惑だ。>

 

 

シアに旅の目的がない事にどこか強気で指摘するレオン。

実際レオンの言う通りシアには旅についていく目的も目標もない状態であり、ただ一族から離れるには好都合の展開とこの仲間の輪に入りたいという欲求しか捉えていなかった。後は全くのノープラン、行き当たりばったりで何とかなるだろう…そんな甘い考えを持っていたのだ。

 

「………………。」

 

ハジメ達の容赦ない言葉、とどめのレオンの言葉が響いたのか、シアは返す言葉もなく落ち込んだように黙り込んでしまった。その様子を見たハジメ達は特に気にする様子はなく、当麻と士郎は多少なりとも「言い過ぎたかな…」と思いつつも声をかけることはなかった。それ程、この旅は危険であり真剣だということをシアに示し諦めを持って欲しかったからだ。

 

 

その後、一行はこれといった会話もなくハルツィナ樹海と平原の境界に到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ハジメ達、ハウリア族一行はこれからハウリア族の先導の元、ハルツィナ樹海に入り最深部にある巨大な一本樹木〝大樹ウーア・アルト〟に向かおうとしていたが、ここでちょっとした問題が起こった。

 

 

「……すみません。隠密系技能が無いばかりに…」

 

「いやいや、こればっかしは仕方がないだろ。」

 

「特に謝る必要はないと思うぜ、当麻。」

 

申し訳なさそうに何かに謝る当麻に対して士郎、ハジメは慰めの言葉をかけた。

 

実はこれから向う大樹ウーア・アルトは亜人族にとっては神聖な場所とされているも、これといって立ち入り禁止とかではなく、誰でも立ち寄れる場所となっていた。よって他の亜人族との接触も考えられるため隠密行動で向うことにした。

ハジメ、ユエ、士郎は技能の’気配遮断‘’があるため問題はなく、ハウリア族は兎人族特有の隠密行動に特化した種族のためこれも問題がなかった。

では、スバルはというと、

 

「へへっ…技能‘’迷彩‘’。まさか透明人間になれる日が来るなんてな~」

 

嬉しそうに言うスバルだが、その身体は透明となっていた。

魔物の技能の一つ‘’迷彩‘’、この技能を使えば身体を透明化させてステルス状態にさせることが可能となった。まさかこんな技能があったと知らず、嬉しそうに動きまわるも、

 

「…けっこうブレブレだな。」

 

「…ん。目を凝らしたら、すぐ見つかる。」

 

「マジで…。」

 

ハジメ、ユエの指摘通り、透明になったとはいえスバルが動けば動くほど周りから見れば空間が歪んだように見えて敢えて不自然な状態となっていたのだ。

 

<まぁ、今回使う場所は常に霧が立ちこむ場所だ。多少の空間の歪みも霧でカバー出来る、問題はないだろ。>

 

レオンの助言もありスバルはこの迷彩を使って樹海に入ることとなった。

 

そして問題は当麻である。流石に気を使っての隠密行動が出来る技はサラも持ち合わせていなかった。このまま諦めて当麻だけ何もなしで行くかと皆が思いかけた時、

 

「おっ、そういえばいいものがあったな。」

 

そう言ってハジメは宝物庫から大人がすっぽり被せる程のマントを取り出した。

 

「これに魔力を流し込むと………」

 

そう言ってハジメは魔力操作でマントに魔力を流し込んだ。するとみるみるうちにマントは透明化していきハウリア族は「おおぉー!!」と驚きの声が上がった。

 

「どこかで役に立つかなと思って入れておいたんだが、入れておいて正解だったな。」

 

実はハジメは旅に出る前にオスカーが作った数々のアーティファクトを見て、使えそうな物は宝物庫に入れておいていたのだ。その一つがこの透明のマントになるのだった。

 

「へえーこんなのがあったんだ。」

 

『スバルさんの迷彩と比べると、透明度はこっちの方が高いですね。おまけに揺らしても空間が歪む様子もない…とても高度な出来ですね。』

 

当麻は透明マントがあったことに驚き、クロウはこのマントの完成度に驚かされた。スバルの迷彩と比べると圧倒的にマントの方が迷彩力が高かったのだ。この結果にスバルは不貞腐れかと思っていたがそういうこともなくじっーとマントを見ていた。そして、何かに気づいたように口を開いた。

 

「なぁ、これってオスカーが作ったアーティファクトだろ? 名前なんて言うんだ?」

 

その言葉にハジメは「うっ」と言葉を詰まらせた後、真顔になってスバルに言った。

 

「言わないとダメか?」

 

「言わないとダメ。」

 

真顔でそう返事するスバルにハジメはでかいため息をついた後、口を開いた。

 

 

 

 

 

「……メイド自然観察マント ‘’キエール‘’」

 

 

 

「「「「「………………。」」」」」

 

 

 

そのマントの名前を聞いた途端、ハウリア族を含めて全ての者が微妙な顔をするのだった。

解放者の一人、オスカー・オルクスは数々の素晴らしいアーティファクトを作ってきたのだが、如何せんどういったわけなのかそのアーティファクトの名前が壊滅的に酷いのだった。

 

「……ハジメが作ったアーティファクトの中二病名称がまともに見えてきたな。」

 

「…おいコラ、スバル! それどういう意味だ!?」

 

スバルの失礼な発言に襟元を掴んで青筋を浮かべるハジメ。

 

『そもそもこれ、潜入に使うのではなくてメイドを見るために作られたというのが何とも複雑ですね。』

 

「落ち着いた人に見えてたんだけど…人は見かけによらずだな。」

 

高度な透明マントの使用目的が諜報活動ではなく、メイドを見るために作られたものだと知って苦笑するクロウ。オスカーという男が自分が想像してた高貴な人物像から一転してイメージが損なわれ始め、同じく苦笑いを浮かべる士郎。

 

「そういえば、オスカーさんの隠れ家にこれでもかという程のメイド服と美女の等身大の人形がいくつもあったような…。」

 

「……メイド服を拝借してハジメとメイドさんごっこをしたのは良い思い出。」

 

『お嬢様! その話しもっと詳しくッ!!』

 

どこか思い出すかのように呟く当麻にユエ。そして、ユエの発言に興奮しながら食いつくサラ。

 

<………とりあえず進まないか?>

 

オスカーのことをスルーして催促をかけるレオン。その言葉にハッとしたハジメ達は準備を整えて、ハウリア族を先頭にして樹海へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

樹海の中は予想以上に霧が濃く視界を遮っていた。それでもカムを中心としたハウリア族の先導に迷いは見られず、道なき道をどんどん突き進んで行った。時おりハウリア族の足が止まったと思えば、周りに魔物の気配があり、そんな時はハジメ達が静かに素早く対処していくのだった。

そんな事が何回か続いてハジメ達が樹海に入って数時間が経った時、今までにない無数の気配に囲まれ、ハジメ達とハウリア族は歩みを止めた。数も殺気も、今までの魔物とはどこか違う様子が見られハウリア族は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せるカム。シアに至っては、その顔を青ざめさせていた。ハジメ達も相手の正体に気がつき、面倒そうな表情を見せた。

 

ハジメ達、ハウリア族の前に現れたのは…

 

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

 

虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人族達だった。

 

 




いかがだったでしょうか?
当麻とサラの新たな決意とシアがぼろくそに言われる回でした。
当麻の暴走した理由は本編でサラが解説した通りです。気術士という天職はなる人が本当にごくわずかで、気についての文献もこのトータスでは皆無に等しく、当然サラはそのようなことを目にしてこなかったので、当麻がハウリア族に激情した時に自分の境遇を思い出し、初めて‘’気術士は使い慣れた時に感情で暴走しやすい‘’と理解しました。

シアが原作以上にボロクソに言われています。実際に原作でも最初の頃は後先なんて考えていなかったと思っておりますので、その結果がこれになりました。

オスカーのオリジナルのアーティファクトが出てきています。ぶっちゃけ零は漫画は読んでいますが小説は未読です。もし、原作で透明マントが出てきていたら名前を教えてください。原作に合わせて訂正しますので……


ありふれた特別講座についてですが、本編の内容が薄いなと思ったら掲載予定です。身勝手な判断、どうかご了承ください。


さて、次回も書き上げ次第、投稿する予定です。
本編の質問、感想はいつでもお待ちしております。

それでは、この辺で。では、また……


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ただいまフェアベルゲンにて、長老達と争論中…

どうも、グルメです。

「自分の小説って他人から見たらどうなんだろうか?」とそんな事を考えながら書き上げました。相も変わらず話しが進まない展開、お許しください。


それでは、どうぞ。


「フェアベルゲン…リゾート地として売り出したら最高だと思うんだよな…」

 

「そうだね。景色もいいし、空気も美味しいね…リゾート地には持ってこいだよね。」

 

そんな他愛もない話しをするスバルと当麻。そして、近くにはシア、カム、ハウリア族の面々が肩身が狭そうにまとまって床に座りこんでいた。

今、彼らがいる場所は亜人の国フェアベルゲンの中にある巨大な樹木を切り抜いた建物内におり、ハジメユエ、士郎は上階でフェアベルゲンの代表の一人と話し合いをしていた。

 

あの後、何があったのかと言うと…

 

 

 

虎模様の耳と尻尾を付けた筋骨隆々の亜人、もとい虎の亜人達と遭遇したハジメ、ハウリア達。

虎の亜人達はハウリア族のことについて周知していた。さらにそのハウリア族が亜人の敵ともいえる人間と一緒にいるのだ。誰がどう見てもハウリア族が人間を招き入れたしか見えなかった。掟を二つも破った以上、生かす理由がないと考えた虎の亜人達は問答無用で攻めようとした矢先、それよりも早くハジメがドンナーで発砲し、何人かの虎の亜人の頬をかすめた。

ハジメは“敵対意志がないこと”、“自分たちは大樹ウーア・アルトに用があること”、“襲ってくるようなら容赦はしない”ことを虎の亜人達に告げた。

虎の亜人達は魔法の詠唱もない、自分たちが迫るより早い攻撃に部が悪いと考え、虎の亜人達の隊長は要求を受け入れつつも、自分一人て判断できる案件ではないことを告げて本国に連絡を入れたいと要求、穏便に済むならと考えたハジメ達はその要求を飲み込んだ。

待つこと30分、虎の隊長が送った伝令が帰ってきて「会って話しがしたい」ということで、虎の亜人達を先導にハジメ、ハウリア達はフェアベルゲンに入国したのだった。

 

「話し合いは上手くいっているのかねぇ…ハジメがまた無茶なこと言って無ければいいんだけど。」

 

「大丈夫だよ。士郎君もついていることだし……でも、今はそれよりも、」

 

「ああ、分かっている。任されたことはキッチリとこなさないとな。」

 

当麻の言葉を仕切りに二人は立ち上がった。ハウリア族が「何事か?」と二人の顔を不安げに見つめていると、階段を駆け上がって来る複数の音が聞こえてきた。そして、正面の両開きドアが慌ただしく開かれた。

 

現れたのは大柄な体型をした熊の亜人族に虎の亜人族、ほっそりとした狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族がスバル、当麻、そしてハウリア族を見て、まるで信じられないと言いたげな顔で見つめていた。彼らは長老衆と呼ばれるフェアベルゲンの代表達であり、ハウリア族が人間を引き連れてやって来たと聞いて急いで駆けつけてきたのだ。

 

「ハウリア!! 貴様ら忌み子を匿うだけでなく、人間族を招き入れるとはどういう見解だ!」

 

怒りを露にする長老衆の中でひときわ大きな声で怒鳴る熊の亜人ジンは身長二メートル半はある身体をそのままカムに向かって突っ込んできた。怯えるカムにスバルは特に慌てることなく前に出てジンに立ちふさがった。それを見たジンは構わず自慢の右豪腕をスバルに振りかぶった。どの道、ハウリアもろとも人間は処刑対象、遅かれ早かれ死ぬのだから何も止める必要はなかった。そして、長老達は知っていた。ジンの一撃は野太い樹をへし折る程あり、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っていることを。

シア達ハウリア族と長老達は、皆一様に、肉塊となったスバルを幻視したが、

 

 

ズドンッ!

 

 

衝撃音と共に振り下ろされた拳は、あっさりとスバルの左腕に掴み止められていたのだった。

 

「止めているのは左手だ、利き腕じゃないんだぜ?」

 

「ぐっう! 離っ、うおぉ!?」

 

スバルは右手でジンの右豪腕をつかむと何事もなくそのまま右に放り投げた。ジンは受け身を取れずにそのまま顔面から壁に激突、幸い熊の亜人からすれば大したことなかったのか「…イテテ」と顔を抑えながら立ち上がろうとしていた。

 

「「「「……………」」」」

 

この光景に残りの長老達は啞然とした。亜人の中でも熊人族は耐久力に優れ1、2を争う程の力の持ち主であり、その代表となればどの亜人よりも遥かに高スペックのはず。それなのに目の前の人間はいとも簡単にジンの豪腕を受け止めて放り投げたのだ。

 

「わりぃな、お前らも色々掲げているもんがあるかもしれないが、こっちも親友に守るように任されたんだ。」

 

「襲ってくるようでしたら相手になりますよ。」

 

代表と話す前にハジメからここを任されていたスバルと当麻。任された以上、期待に応えるべくスバルは余裕な表情でパシッと右拳で開いた左手を叩き付け、当麻が両手を開いた状態で構えをとった。長老達は二人の未知数な実力に動くことが出来ず、せめての思いで二人を睨み付けて牽制していると、

 

 

「騒がしいぞ…一体何事だ?」

 

上階へ行く階段から一人の初老の男が降りてきた。流れる美しい金髪に尖った長耳、細い身体に顔は幾分もシワが刻まれて長い年月を生きてきた証拠を物語っていた。

森人族、俗に言うエルフと呼ばれる種族で名はアルフレリック・ハイピスト。会って話しがしたいとハジメ達に接触を求めた長老の一人である。

 

「おぉ、派手にやっているなスバル。」

 

「みんな、大丈夫…そうだな。」

 

「…問題なさそう。」

 

その後ろからハジメ、士郎、ユエがやってきた。三人は今の現状を見るもスバル、当麻の強さは知っていたし、姿を見せないレオン、サラの存在があったためこれといって心配を見せる様子はなかった。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ勝手に人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

アルフレリックを見るやいなや必死に激情を抑えながら拳を握り、わなわなと震えているジン。亜人族にとって不倶戴天の敵、人間を招き入れたことだけでなく忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れたことにジンだけでなく他の長老達もアルフレリックを睨んでいた。

しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だった。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

 

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

 

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

 

「なら、こんな人間族の小僧どもが資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!?」

 

「そうだ。現にお前は襲い掛かるも手足も出なかったのではないのか?」

 

「それは…」

 

アルフレリックの言葉にジンは口ごもってしまった。実際には見てないが、この様子からして何らかの形でジンは打ち負かされたと判断するアルフレリック。ジンが何か言う前にアルフレリックはハジメに話しかけた。

 

「…南雲ハジメ、皆に分かるように再度確認をとるが…お主らの目的は大樹ウーア・アルト、そしてそこにあるとされる迷宮の攻略。間違いないか?」

 

「ああ、間違いない。」

 

アルフレリックの問いかけに肯定するハジメ。他の長老達は「何勝手に話を進めているのだ!?」と騒ぎ立てるも二人は気にせず話を続けた。

 

「…で、その道案内はハウリア族にしてもらう。それも、間違いないか?」

 

「ああ。」

 

その言葉を聞いてアルフレリックは「うむ…。」と言って少し考え込んだ。ハジメは怪訝そうな顔で待っていると、

 

「…例えこちらが案内を出すと言っても変わらないか?」

 

「愚問だな…案内はいるにどうしてわざわざ変える必要があるのだ? 」

 

「いや、なに…彼らは罪人。掟では忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪で既に長老会議で処刑が決まっておるのだ。みすみす見逃す訳にはいかん。」

 

それを聞いたシアは泣きそうな表情で震え、カム達は虚ろ目で諦めた表情をしていた。そしてシアは必死になって土下座を繰り返し自分はともかく一族、家族だけは助けてもらおうと懇願するのだった。

しかし、誰一人長老達の返答はなかった。

覆ることのない事実にとうとうシアは泣き出してしまい、そんな様子を目をしかめて複雑そうに見つめるスバル、当麻、士郎。ユエは表情を変えずにシアを見つめており、ふとハジメの顔を見た。ハジメは腕組をして目をつぶって考えている様子だったが、シアの泣き声を遮るっように口を開いた。

 

「…………俺たちの旅にお前らの事情だろうがハウリアの事情だろうが関係ないし、むしろ知ったこっちゃない。勝手にやっていろ、俺たちはこのまま先に進む。」

 

その言葉を聞いたシアはあまりにも衝撃のため顔を上げ目を見開き涙が引っ込んだ。「…ああ、私たちは見捨てられた。未来を変える事が出来なかった」そう悟ったシアはそのまま頭をガックと下げた。

しばしの沈黙が流れ、この沈黙を破ったのはアルフレリックだった。

 

「…理解が早くて助かる。では、代わりの者を「…おい、何、勘違いしてるんだ?」む!?」

 

「俺たちは()()()()()()()()って言ったんだ。つまりハウリア族の案内で大樹に向かうって言っているんだよ。」

 

その言葉を聞いたシアやカム達は「えっ?」と言いたげな顔で顔を上げてハジメを見た。スバル達もその言葉を聞いて軽く笑みを浮かべた。アルフレリックは一瞬あっけにとられるも直ぐにハジメを鋭い眼光で睨み付け、他の長老達は抗議の声を上げだした。

 

「貴様、ここに来て罪人を庇うとはどういうことだ! 情でも移ったか!?」

 

「はぁ? 何言ってんだよ? こいつらの事情なんか知ったこっちゃないってさっき言っただろ。」

 

激昂するジンの言葉にめんどくさそうに答えるハジメ。その表情は「さっきの話し聞いてたか?」と言いたげな顔をしており、益々ジンの頭に血を登らせることとなった。

 

「‘’代わりの者をこちらから出す‘’と言っておるのだぞ! 何が不満だ? 何がそうもハウリアの案内にこだわる!?」

 

長老の一人、虎の亜人ゼルもジン同様に激昂し理解に苦しんだ。忌々しい人間をフェアベルゲンの地に入れ、大樹の案内、またその地に足を踏み入れさせようとし、さらに罪人の引き渡しさえ拒否し始めたことに正直我慢の限界がきており、今にでも襲い掛かかる勢いで身を乗り出していた。

ハジメはため息をついて、またもやめんどくさそうに口を開いた。

 

「…そもそも根本的にお前ら勘違いしていないか? 俺たちがここに来たのは交渉しに来たのじゃない、俺たちの行動を周知してもらうため説明をしに来たんだ。元々お忍びで大樹に向かい、あんたらに関わる事もなく済ませるつもりだった。だが、見つかった以上そうも言ってられない、何度も襲われたらこっちもたまったもんじゃないからな……だから、あの時、素直に応じたんだ。」

 

ここに来たのは大樹に入る許可を貰いに来たのではなく、あくまでも大樹に行くということを伝えるためだけに来たに過ぎず、そもそも交渉の余地どころかその考えすらなかった事を伝え、さらに元の計画として誰にも知られずに聖地の大樹に無断で入ろうとしていたことを悪びれる様子もなく話した。ハジメのあまりにも唯我独尊な態度にゼルやジンだけでなく他の長老達もかつてない怒りを覚え顔をゆがませていた。

ハジメはそんなことも気にせず話を続けた。

 

「…それとハウリア達には約束がある。“大樹の案内と引き換えに身の安全を守る“って約束がな。正直言ってコイツらは知ってたはずだ。人間を招いたらどうなるのか、今戻ったらどんな目に合うのかも…全て承知の上で事情の知らない俺たちの案内を引き受けてくれたんだ。だったらこっちもそれに答えなければ…カッコ悪いだろ?」

 

闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯、卑劣に嘘、ハッタリ。先に進むため、生き残るために必要なら、多少後で思い悩むこともあるかも知れないが何の躊躇いもなく実行して見せるだろう。

しかし、だからこそ、殺し合い以外では守るべき仁義くらいは守りたい。「それすら出来なければ本当に唯の外道だ。」とハジメは考えていた。奈落の底で出会った少女がつなぎ止めてくれた一線を、生きていると信じて駆けつけてくれた親友達のためにも自ら越えるような醜態は晒したくなかった。

そんな想いを胸にハジメは歩き出し、それに続くようにユエ、士郎も歩き出してスバル、当麻同様にハウリア達の前にたった。

 

「…ということでハウリア達は今や俺たちの仲間…とは行かないが欠かせない大切な存在だ。それでも処刑を実行するというなら…かかってこい相手になってやる。」

 

そう言ってハジメ達はそれぞれ構えをとって臨戦態勢に入った。

これを見たジンやゼルは「そっちがその気なら…」ということで臨戦態勢に入り、他の長老達はジンやゼルとちがいどこか踏ん切りがつかないのか「えっ…どうするのよこれ」という意味合いでお互いの顔を見合せた。

そしてアルフレリックはというと疲れた表情である提案をした。

 

「……ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

「アルフレリック! それでは!」

 

その言葉に他の長老衆がギョッとした表情を向け、ジンに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げた。

 

「ジン、わかっているだろう。この少年達が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか……長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

 

「しかし、それでは示しがつかん! 力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

 

「では、その長老会議の威信を守るために他はどうなっても良いと申すのか? 無駄な争いを起こし、流さなくても良かった戦士達の血を流せと言うのか?」

 

「そうは言っておらん!! だが…」

 

何とか食い下がろうとするジンだったが結局、良い案もなく言い返す言葉も出なかった。

その後、顔を見合わせていた長老達も加わってヒソヒソと話し始め、結論が出たのか、代表してアルフレリックが、本当に疲れ切った表情で長老会議の決定を告げた。

 

「…ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

 

「いや、問題ない。寛大な処置、感謝します。」

 

そう言ってハジメはパーティーの代表として軽く頭を下げた。横柄な態度から一変して礼儀正しいハジメにアルフレリックも苦笑いを浮かべた。他の長老達は渋い表情か疲れたような表情をしていたが、唯一熊の亜人のジンと虎の亜人のゼルだけは恨めしそうに憎悪の視線を向けていた。そんな視線も見向きもせず、ハジメは出口に向かいユエやスバル達もそれに続いた。

そして、シアやカム、他のハウリア達は未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がなかった。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるという不思議に「えっ、私たち生きてていいの?」という感じで内心動揺していたのだ。

 

「おい、何時まで呆けているんだ?」

 

ハジメの言葉に、ようやく我を取り戻したシアやカム、他のハウリア達。ハジメの方を見ると出口の前で皆が待っていた。

 

「お前らが先導してくれないと先に進めないだろ?」

 

やれやれといった感じの表情でいるハジメやユエ、スバル達。

この時、ハウリア達はようやく理解した。

 

 

 

 

‘’自分達は助けられた。生きてよいのだ‘’と

 

 

 

 

思わず涙を浮かべ隣同士で喜び合うハウリア達。シアに至っては大粒の涙を流して、

 

「ハジメさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

 

「どわっ!? いきなり何だ!? というか鼻水つけるな!!」

 

鼻水を出し泣きながらヒシッとしがみつき顔をグリグリとハジメの肩に押し付けた。それを見たユエが不機嫌そうに睨み付けるも何か思うところがあるのか、ハジメの反対の手を取るだけで特に何もしなかった。

その後、士郎に「迷惑がかかるから出ようか。」と催促をかけられ意気揚々と出て行くハウリア達。ハジメ達が先に出ていった中、残っていたスバルは最後のハウリアが出たのを確認して自分も出ようとした矢先、熊の亜人ジンが憎たらしそうに確かのことを呟いていた。

 

 

 

 

 

「せいぜい()()()に襲われぬよう気をつけるのだな…。」

 

 

 

 

 

スバルは聞こえていないふりをして後を立ち去るのだった。

 




ありふれた特別講座 その2


サラ「こんにちは、サラです。ありふれた特別講座、その2を開きたいと思います。聞き手は引き続き…」

スバル「この俺、スバルが務めるぜ。早速だけど、どうして俺が気を使うのをおすすめしないのですか?」

サラ「1番の理由は魔法が使えなくなってしまうからです。スバル殿の身体は様々魔物を取り入れてその固有魔法を使うことが一番の強みです。仮に私が気を使えるように施したら戻す術はありません。もう、魔法は使えないと思ってください。」

スバル「うわぁ…それはキツイ。魔物を取り入れたこの身体、けっこう気に入っているんだよな。」

サラ「それに気と魔力は相容れず、反発しあうもの…ゆっくり魔力を気力に置き換えるように身体をなじませたら問題ありませんが、一気に活性化するように引き伸ばすと…当麻が帝国兵に施したようになるのです。」

スバル「そうだったんだ……ん? ということは、魔法を気を使って弾いているのはこの特性があるからってこと?」

サラ「その通りです。魔法の種類、規模にもよりますが魔力と同等の量、もしくは少し上回っていましたら弾く事が出来ます。」

スバル「なるほど、魔法を弾くってが魅力的だな。魔法と気術って両方使えないの?」

サラ「たぶん無理だと思いますよ。魔力と気力、お互いを高めあうと反発しあって爆発すると思います。理論上は…」

スバル「そっか…」

サラ「まぁ、世界は広いですし…もしかしたら両方使える方法があるかもしれません。私もまだまだ未熟で知らない事ばかり、修行を続けて新しい発見を見つけていく次第です。」

スバル「サラさんの新しい発見、期待しています。それじゃあ、お時間もやってきましたので、今日はこの辺で…」

サラ・スバル「「さよなら~」」











自分で言うのも何ですが、グダグダだったな思います。気の設定、魔力との関係とか考えているのですが、それをまとめて、うまく文章に表現するのが難しいですね。

さて、今回のお話しいかがだったでしょうか?
原作ではオーバーキルの熊の亜人ジルが軽傷で済みました。スバルにとってはあしらう程度であそこで傷つけていたら自分達の立場がやばくなると考えていましたので加減をしています。彼が五体満足でいることで今後どうなるのか、それは私にも分かりません(おい…)

原作の流れと一緒ですが、ハジメがハウリア達を救済しています。おかげでハジメの独擅状態でしたがここで他のキャラの会話を入れたり、スバルが茶化すとグダると考えたためハジメ一人の会話になりました。カッコイイハジメが表現出来たと思います。

さて、最後に語っていたヤツらとは一体何なのか、‘’ある動画‘’を見た人は分かると思いますが、次回はヤツらについて核心に迫っていきます。

本編の質問、感想はいつでもお待ちしております。

それでは、この辺で。では、また……


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トータスの厄災とハウリア達の決断


お久しぶりです。グルメです。
現実の生活が忙しかった、また、スランプ気味だったこともあり投稿が遅くなりました。本当にすみませんでした。


今回のお話しは長老会議で生存を許されたハウリア達ですが、ある存在のことを忘れていました。
その存在とは一体?

それでは、どうぞ。


「そういえばハジメ君、帝国と接触するときもそうでしたけど随分強気で出ましたよね?」

 

「ん?」

 

「普段のハジメ君を知っている僕からすると凄く違和感といいますか…それとも慣れないと言った方がいいのかな? …こんな一面があったんだなって思って。」

 

そう言って当麻は先ほどの長老達との話し合いを思い返していた。邪魔になると考え、極力しゃべらないようにして見守っていたが印象的なのはハジメの強気な姿勢だった。元の世界では円滑に事が運ぶように流され、自分の意見どころか他人の意見に賛同して自分から折れる事がほとんどであり、当麻から見れば今回の一面に少し驚いたのだ。

 

「奈落の底で価値観が大分変わったからな…そのせいかもな。とりあえず交渉する時は相手に妥協しない。弱気な一面は見せない。そう決めている。」

 

「まぁ、無難だな。妥協なんかしたら思いっきり付け上がってきそうだし、皆、有利に立とうとしている。この世界の住人は油断ならないと思うぜ。」

 

「ああ、それは俺も同感だ。気は抜けられないな。」

 

ハジメの交渉の価値観に賛同する士郎、そしてハジメもまた士郎の‘’この世界の住人は一筋縄ではいかない‘’という考えに賛同を示した。

そんな最中…

 

 

スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ…

 

 

「おい、アホうさぎ! いつまで人の肩にすり寄っているんだ? そろそろ離れろ!」

 

「えっー! いいじゃないですか! こうして嬉しさを表現しているのですぅ!! もう嬉しくて嬉しくて…たまらないほど仕方がないのですぅ! 」

 

うっとうしいそうに言うハジメだが、シアはそんな事も気にすることなくべっとりハジメにくっつき、肩に顔をうずくまっていた。流石に見かねたユエが

 

「図々しいアホウサギ…調子乗りすぎ。」

 

「ちょ!? ユエさん! 服引っ張らないで! のびちゃいます、はたけちゃいますぅ~」

 

「いや、お前が離れればすむ話しだろ!?」

 

そう言ってシアの服を掴みおもいっきり引っ張り出すユエ。シアはハジメの黒いロングコートを片手で掴んで絶対に離れない意思を見せつつ、もう一つ手で自分の服を戻そうとして引っ張り返していた。そして、ハジメもまたシアの顔を片手で鷲掴みして引き離そうとしていた。

この光景に当麻は苦笑いして、士郎はやれやれといった感じで肩をすくめていた。そして、クロウとサラはユエ、カムと他のハウリア達はシアを見つめて微笑ましそうに見守っていた。共通して言えるのはどちらも生き生きしており、あんなにじゃれ合う姿は初めて見たので思わず声をかけるのも、もったいなく感じていたのだ。

 

全体的に少し騒々しい雰囲気が流れる中、スバルはただ一人難しい顔をしていた。そして、何か決まったのか「よし。」と意気込むと、

 

「なぁ、カムさん。一つ聞きたいことがあるんだけど…」

 

「ん? 何かな~?」

 

どこか細目でのほほんとしているカムに、スバルは真面目な顔で尋ねた。

 

「‘’ヤツら‘’ってなに?」

 

「…………。」

 

その瞬間、カムの顔が固まった。のほほんとした顔を一ミリも崩さずに固まったのだ。カムの近くにいたハウリア達もスバルのそれを聞いて夢が覚めたように怯え出したり、青ざめたりしていた。

 

「あっ、やべぇ…聞いちゃダメな奴だったか?」

 

上げて落とすような雰囲気を作ってしまったことに思わず苦笑いするスバル。

 

「…ヤツら? あっ…」

 

シアもまたスバルの言葉を聞いて何かを思い出したのか動作を止めて怯えだした。シアやカム、ハウリア達の尋常じゃない怯え方、スバルの気になる言葉を聞いていたハジメ達はスバルに注目した。

 

「おい、スバル。それはどういう意味だ?」

 

「ああハジメ、実は…」

 

そう言ってスバルは先ほどあった出来事を皆に話した。ちなみにレオンには事前に尋ねてみたが「分からない」という返答をもらっているのだった。

 

「…なるほどな。で? 結局ヤツらって何者だ? アホうさぎ。」

 

話を理解したハジメは何かを知ってそうシアに尋ねるも、

 

「うぅ…言えないですぅ。恐ろしくて口が裂けても言えないですぅ…」

 

「お前な…」

 

怯えてその場でうずくまるシアにハジメは呆れるしか他なかった。シアが話さない以上、ハジメが次に注目したのはカムだった。

 

「おい、カム。フェアベルゲンの連中が言っていたヤツらとは何だ? 洗いざらい話せ。「怖くて話せない…」なんて馬鹿なこと…ぬかすなよ?」

 

そう言って若干脅しを入れるハジメ。その言葉に一瞬息を吞むカムはそのまま険しい顔でこらえていたが観念したのかため息をついてぽつり、ぽつり話し始めた。

 

「…申し訳ないハジメ殿。我らハウリア族の生存のことで頭がいっぱいだったせいか、すっかり忘れいました。このハルツハィナ樹海にはもう二つの種族……いえ、正確にはトータスの厄災とも言える存在がいるのです。」

 

「二つの種族?」

 

「…厄災?」

 

当麻が「種族って確か三つしかなかったような?」と思い、士郎も「聞いたことない話しだな…」と疑問を浮かべる最中、カムは話しを続けた。

 

「実は大樹のさらに奥地に大きな砦があり、そこにオークの上位種ウルク=ハイ、そして彼らと共にするトロルの上位種オログ=ハイ、その二つが多大な数でいるのです…フェアベルゲンの民はそのもの達に畏怖の念を抱き、口にするのも恐ろしい故にヤツらと呼んでいます。」

 

そう言ってカムは落ち着いた口調で話しているも平静を装っているのか、ところどころ身震いさせていた。

 

「ウルク=ハイ、オログ=ハイねぇ…」

 

「まさか、オーク、トロルに上位種がいるなんてビックリたぜ。」

 

「………。」

 

ハジメ、スバルが関心を寄せる中、ユエは何か思う所があるのか顎に手を当てて何かを考え込んでいた。

 

「ユエ、どうかしたのか?」

 

「えっ…ううん。なんでもない。」

 

気になったハジメが問いかけるも、なんでもないと切り返すユエ。少し気になったがユエがそう言っている以上、特に追求することはなかった。

そんな最中、当麻が恐る恐る手を上げた。

 

「あの~、この樹海にそれらの種族がいるとして、どう恐ろしいのか具体性が分からないのですが…」

 

ウルク、オログの生態をよく知らないため、いまいち恐怖が伝わらず困惑する当麻。

その時、士郎の身体から幽体となったクロウが出てきた。

 

『それに関しては私の方で解説させていただきます。』

 

そう言ってクロウはウルクとオログについて話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

‘’オーク‘’、人々がもしその言葉を口にしたらそれはウルク=ハイに他ならない。ウルクは人間より少し大きい位の体型で耳や鼻もあるため人とさほど変わりはない。ただ身体は人一倍丈夫で力もあり、強烈な痛みや喪失にも耐えられる。そして、その顔は一度見たら忘れられない目をそむけたくなるような恐怖に満ちており、それに沿ったかのように暴力的でかつ好戦的でもあり、悪知恵も働き、目をそむけたくなるような残忍さを持っている。

オーク生態は未だよく分かっていない。何故なら調べようとしたものはことごとく命を落としているからだ。ただ言えることは1000年以上前の戦乱時、ケレブリンボールが台頭していた時代には各国の有力者達はこの者たちを戦争の駒として使っていたのは確かだった。

 

そして、ウルクのすぐ近くには同様に戦争の駒として使われたオログ=ハイの存在もあった。

 

オログは魔法により改良させられたトロルである。いったい誰が改良させたのか定かではないがこちらもケレブリンボールが台頭していた時代には各国の有力者達が保有していた。体長は約5~6m、ウルク同様に強烈な痛みや喪失にも耐えられるようになっており性格もほぼ変わらない。通常のトロルよりも賢いため人間の言葉を理解する。

 

ウルクとオログは決して仲が良いわけではない。ちょっとした些細なことで殺し合いに発展するのも珍しい事でもない。それでも一緒に行動するのは一種の共通認識、あるいはお互いを利用し合っているのか定かではないが、どちらにせよ人間族、亜人族から厄災と認識され、特に人間族が信仰している聖王教会からは‘’根絶するべき害悪‘’と認定されて討伐対象となっており、教会内では「前世で悪い行いをしてエヒト様から神罰が下ったんだ」や「信仰が足りない者はああなってしまう」など噂が絶えず続いているのだった。

 

 

 

「前々から思っていたけど、クロウって博識だよな。」

 

『そんなことありませんよ士郎。知らないことだってあります。それにオークについては私にとって全く関係ないってことがないのです。』

 

「それはどういう意味だ?」

 

スバルが問いかけるとクロウは笑みを浮かべて答えた。

 

『私の身体にオークの血が流れているのです。私の父はオークで母はエルフ、俗に言うハーフエルフというやつですね。』

 

「「「「ええええぇぇぇ!!??」」」」

 

「…………。」

 

クロウのカミングアウトにハジメ、スバル、当麻、士郎の声が樹海にこだまし、ユエにいたっては目を開いて驚いていた。

 

「まぁ100年以上も生きていたから普通じゃあないと思っていたけど…」

 

「…ん。初耳。」

 

『申し訳ございません、姫。あまり必要ないと思い黙っておりました。』

 

未だに驚きを隠せない士郎とユエ。クロウはユエにこの事を話さなかった事を軽く謝罪した。

 

『私は知っていました。クロウとは…親密な関係でしたので…。』

 

〈まぁ、上司だからな。把握はしていた。〉

 

どこか恥ずかしげに答えるサラ、さも当然のように答えるレオン。

そして、スバル、ハジメはと言うと、

 

(なぁ、オークとエルフとの間に出来たって事は…やっぱり…)

 

(いや、まぁ…うん…そうなるよな?)

 

二人そろってヒソヒソと話していた。“オークとエルフ”、これを聞いて思い浮かべるのは、やはりR18禁のあの展開を思い浮かべ…

 

『失礼ながら私の父と母はあなた方か考えていることなど決してありませんでした。決して!!』

 

「「アッ、ハイ。」」

 

いきなりスバル、ハジメの前に現れるクロウ。物凄い笑顔を向けていたが目が笑っていなかったので二人はここで考えるのをやめるのだった。

 

「でも、さっきのオークの生態と残虐性を聞いてからだと、なんか想像つかないですね…。」

 

『無理もありません、私の父は‘’人間好き‘’という考えを持つオークなのですから』

 

「人間好き?」

 

当麻の疑問にクロウはそう答え、新な疑問にハジメは首をかしげた。

 

『オークの中に稀にいるのです。人間に友好的な考えを持つ存在が。私の父がその一人です。最も人間からも、オークからも理解されないことがほとんどですが…』

 

そう言ってクロウは一瞬儚げな笑顔を浮かべた後、すぐに表情を戻してカムに向き合った。

 

『ところでハルツィナ樹海にいるオーク達は元々この土地に住んでいたもの達なのですか?』

 

「いいえ、彼らは侵略者…外からやって来たと先代の族長から聞いたことがあります。たしか…300年前のことになります…。」

 

「…300年前」

 

『ディンリード様が反乱を起こした年と同じ…。』

 

ユエ、サラが意味ありげに呟く中、カムは話を続けた。

 

「ヤツらはどこからともなく現れました。そして、あろうことか大樹の近くに砦を築き始めたのです。当然、前代のフェアベルゲンの者達は黙って見過ごすわけには行きません。早速、歴戦の戦士達を集めて攻め立てたのですが…地の利もありながらことごとく敗走を重ねたのです。」

 

そう言ってカムはどこか気難しそうに語り、一息入れて再び話し始めた。

 

「その後、7度目の敗走後に使者がやって来ました。内容は戦争の休戦に不可侵条約及び共同宣言というもので、これ以上、敗走を重ねたら威厳に関わると考えた前代の長老達は大方承認しましたが、オークが信用出来ないこともあり共同宣言だけは受け入れられませんでした。その後、大きな衝突もなく年に数回、ヤツらから使者が訪れて共同宣言を持ちかけては断るということが続いております。」

 

話を終えるとカムやシア、ハウリア達は身震いしており、ヤツらの存在を思い出し恐怖したのもそうだが、それよりも自分達は追放された身。もし知られたら襲って来るのではと、そっちの方に恐怖がよっていたのだ。

 

「「「「「………。」」」」」

 

そしてハジメ達、ユエも難しい表情をしていた。ヤツらの生態は残忍、しかしカムの話しを聞く限りだと話しが通じるかもしれないが、自分達は部外者、もしかしたら問答無用で襲って来るかもしれない。

どっちにしろ大樹の近くに居住地があるので大樹に向かう以上、接触は免れないと考えていた。

 

それから誰も発言がなく、辺りに沈黙が流れた。「これからどうする?」という感じで、お互いに顔を見合わせていると……

 

「まぁ、ハウリア達を鍛えるのに変わりはないか…」

 

そう、ボソッという言葉に皆が注目した。発言したのはハジメだった。

 

「ハジメ殿、それはどういう意味で?」

 

「ん? そのままの意味だぞカム。軟弱で脆弱で負け犬根性が染み付いたお前等をある程度、戦えるように鍛えようと思ってな。どの道、これから‘’十日間’は大樹へはたどり着けないんだろ? ならその間の時間を有効活用しようと思ってな。」

 

困惑しながら尋ねるカムにサラッと答えるハジメ。実はフェアベルゲンを出ようとした矢先「大樹に行けるのは十日後だぞ」アルフレリックに告げら、初耳のためカムに問い詰めると、このことをすっかり忘れており吞気に笑いながら話すカムに思わず大きなため息をついていたのだった。

 

「あの~なぜ、そのようなことを……」

 

シアは唐突なハジメの宣言に当然の如く恐る恐る疑問を投げかけた。それを聞いたハジメはため息交じりで理由を話し始めた。

 

「あのな~俺達がお前達と交わした約束は、案内が終わるまで守るというものだ。じゃあ、案内が終わった後はどうするのか、それをお前等は考えているのか?」

 

ハウリア達は互いに顔を見合わせ、ふるふると首を振った。カムもシアも難しい表情であり、誰一人答える者はいなかった。

 

「まぁ、考えていないだろうな。考えたところで答えなどないしな。お前達は弱く、悪意や害意に対しては逃げるか隠れることしかできない。そんなお前等は、フェアベルゲンという隠れ家を失い、俺達の庇護を無くしたら、誰がお前らを守ってくれる? お前らをエサとする魔物も、奴隷にしようとする人も、待ってはくれない…容赦なく襲ってくるだろう。」

 

ハジメの言葉にハウリア達は皆一様に暗い表情で聞いていた。だが、そこにさらに衝撃的な事実を突きつけた。

 

「それだけじゃないぞ。スバルのさっきの話しを聞いて確信したんだが…フェアベルゲンの一部の連中は納得していない。確実にハウリア達を亡き者にしようと動いてくるはずだ。」

 

「「「「えっ?」」」」

 

それを聞いて一斉に顔を上げるハウリア達。誰が見ても「信じられない…」という言葉が顔に出ており、シアが切羽詰まったようにしゃべりだした。

 

「でもでも、私たちは死んだ扱い、それにハジメさん達の身内で手出しは禁止…そう約束されたのに…どうして…」

 

「…そういうことになっているだけで実際には死んでいない。」

 

『それに、手出しする者は自己責任ですからね。周りに迷惑をかけなければ実行するでしょう。』

 

「‘’死人に口なし‘’…俺たちを全員始末したら、始末した理由なんていくらでも作れるからな。」

 

「あのアルフレリックという、話が分かってくれそうなエルフも気づいたら止めてくれそうだけど…気づいた後だと、「仕方がない」という言葉で済まされそうかな…」

 

『長老達の中には激しく怒り抑えている者が気の流れで分かりました…ハジメ殿の考えは確実に的中すると思われます…』

 

「そ、そんな~、せっかく助かったのに、あんまりですぅ~」

 

ユエ、クロウ、士郎、当麻、サラがそれぞれ思ったことを口にしたら、それを聞いて泣き出してしまうシア。

そこにスバルが歩みより、

 

「まぁまぁシアちゃん。相手より強くなって返り討ちにすればいいだけのことじゃない。」

 

「でも、でも…私達は兎人族なんですよ? 虎人族や熊人族のような強靭な肉体もなければ翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません……そんな私たちがはたして強くなれるのでしょうか?」

 

陽気に慰めるも、泣きべそになりながら弱音を吐くシア。「兎人族は最弱、故にそれが強く根付いて強くなる向上心が持てない」シアの訴えを聞いて、ハウリア族全体がそう浸透していると感じたスバルは、まずはそれを取り除くためシアにある質問をした。

 

「なぁ、シアちゃん。ハジメのことどう思う?」

 

「えっ!? それは、その……はう…」

 

スバルの質問にドキッとしてハジメを見た。ハジメを見た時、一瞬だけ目が合い思わず目をそらして頬を赤くしたのだ。

 

「……?」

 

「……………むぅ」

 

シアの反応にハジメは分からず首をかしげ、ユエは眉をひそめてシアを見つめており、当麻、士郎は「アニメやラノベで見たことあるような…」とデジャブ感を覚えていた。

 

「あ~悪い。質問が大まかすぎたな…ハジメは強いか…それとも強くないのか…どっちかな?」

 

スバルも当麻、士郎と同様でシアをからかいたい気持ちを抑えて再度質問を投げ掛けた。

 

「…! そんなの強いに決まってるじゃないですが! ライセン大峡谷では何度も何度も大型の魔物を退けて、ハルツィナ樹海では見えない魔物も討ち取って来たのですよ!? どこからどう見ても強者じゃないですか!!」

 

「何を当たり前のことを」と言いたげに少し強気になって答えるシア。スバルは聞きたい答えが聞けて笑みを浮かべるとハジメの方を向いた。

 

「……だってさ。ハジメ、教えてやれよお前の当初の姿。」

 

「そこで俺に振るなよ…」

 

スバルに話を振られて溜め息をつくハジメは、少し考えた後にゆっくり口をひらいた。

 

「俺は親友達以外から‘’無能‘’と呼ばれていた。」

 

「え?」

 

「‘’無能‘’だ‘’無能‘’。ステータスも技能も平凡極まりない一般人。仲間内の最弱。戦闘では足でまとい以外の何者でもない。故にほとんどの連中は俺を‘’無能‘’と呼んでいたんだよ。実際、その通りだった」

 

 ハジメの告白にハウリア族は例外なく驚愕を顕にする。ライセン大峡谷の凶悪な魔物も、同族の帝国兵も、苦もなく一蹴したハジメが‘’無能‘’で‘’最弱‘’など誰もが信じられなかったのだ。

 

「だが、奈落の底に落ちて俺は強くなるために行動した。出来るか出来ないかなんて頭になかった。出来なければ死ぬ、その瀬戸際で自分の全てをかけて戦った。……気がつけばこの有様さ」

 

 淡々にそしてあまりに壮絶な内容にハウリア族達の全身を悪寒が走った。一般人並のステータスということは、兎人族よりも低スペックだったということだ。その状態で、自分達が手も足も出なかったライセン大峡谷の魔物より遥かに強力な化物達を相手にして来たということになる。実力云々よりも、実際生き残ったという事実よりも、最弱でありながら、そんな化け物共に挑もうとしたその精神の異様さにハウリア族は戦慄するしか他なかった。

 

「お前達の状況は、かつての俺と似ている。約束の内にある今なら、絶望を打ち砕く手助けくらいはしよう。自分達には無理だと言うのなら、それでも構わない。ただ、こっちの立場も考えてくれよ? 俺達が去った後に蹂躙されて全滅しましたなんて耳に入ってきたら………後味悪いだろ?」

 

その言葉にスバルや当麻、士郎は笑みを浮かべた。障害になるもの敵になるものには容赦しない強気な性格になったものの稀にみる優しさとお人好しさは変わらないとつくづく思うのだった。

 

「それでどうするんだ? ハウリア族(お前ら)は?」

 

「「「………。」」」

 

そう問いかけるハジメにハウリア族達は直ぐには答えず互いの顔を見合わせた。自分達が強くなる以外に生存の道がないことはハジメ達の話を聞いて理解した。だからと言って「はい、そうですか。じゃあ、強くなるために鍛えます。」と言って進めるわけではない。温厚で平和的で、心根が優しく争いが何より苦手な自分達にとってハジメの提案は、未知の領域。なかなかその一歩が踏み出せなかった。

 

だが、その一歩を踏み出した者がいた。

 

「やります。私に戦い方を教えてください! もう、弱いままでいるのも、逃げ回るのも嫌です!」

 

樹海の全てに響けと言わんばかりの叫びに、これ以上ない程思いを込めて宣言するシア。その目は不退転の決意を宿し、真っ直ぐとハジメを見つめていた。そして、これが引き金になったのか、一人、また一人とハウリア達はハジメの方に向かれていった。

最終的に女子供も含めて全てのハウリア族がハジメの方を向いていることを確認するとカムが代表して一歩前へ進み出た。

 

「ハジメ殿、いえ、皆さん……宜しく頼みます。」

 

その短い言葉には確かに意志が宿っていることを確認したハジメは不敵な笑みを浮かべた。

 

「OK、覚悟しろよ? あくまでお前等自身の意志で強くなるんだ。俺は唯の手伝い。途中で投げ出したやつを優しく諭してやるなんてことしないからな。おまけに期間は僅か十日……死ぬ気でやれ。この十日間でハウリアの未来が決まる。」

 

ハジメの言葉に、ハウリア族は皆、覚悟を宿した表情で頷いた。

そして、スバルもニィと笑顔を浮かべて

 

「よっしゃーおもしろくなって来た! 他のフェアベルゲンの連中に一泡吹かせてやろうぜ! 俺も全力でサポート<待て、スバル>ん?」

 

<お前は別行動で修業だ。>

 

「ええっー!? 修業するの!?」

 

<十日もあれば一つや二つ新しいことが覚えられる。>

 

スバルはハウリア族を鍛え上げることに意気込んでいた矢先、レオンの提案に大きなショックを受けた。

 

「でも面白そうなんだよなー、ハウリア達を鍛え上げるの。」

 

<スバル、自分の楽しいことを優先し新しいことを覚えずして仲間が危機に陥った時、後悔しないと約束できるか?>

 

「………できない。仲間が危機に陥る事もさせたくない。」

 

<ならばそうならないように自分がとる行動は、わかるな?>

 

「…うん。」

 

レオンの言葉に感化されて、改めて修行する決意を固めるスバル。それを見た当麻は、

 

「スバル君が修行に入るなら僕もしないわけにはいきません。先の戦いでの失態、二度とないように心身ともに鍛えないとですね師匠。」

 

『その意気です当麻。共に励みましょう!』

 

そう言って当麻、サラは帝国兵との戦いの失態を踏まえて修業することとなった。

 

「そうなると俺も修業しないとな…何だかんだで能力の一部クロウに出してもらっているし、せめて自分で出せるようにはしておきたいな。」

 

『いい機会ですし、新しい技もお教えしますね士郎。』

 

「おっ、いいね。それも覚えおくか。」

 

そして、士郎もまた修業に入る事を決意しクロウから新しい技を伝授することとなった。

 

「というわけでハジメ、俺らは各自で修業するからハウリア達頼むわ。それと飯の時と休息時だけここに集まるようにしようぜ。」

 

「ああ、わかったスバル。ハウリア達は俺とユエで面倒を見る。お前らもがんばれよ。」

 

「おう!」

 

「うん。」

 

「ハジメもな。」

 

ハジメの言葉にスバル、当麻、士郎がそう応えると各自目的のために別れて行くのだった。

 

 





いかがだったでしょうか?
ヤツらとは何者なのか、そしてハウリア達の一世一代の決断の回でした。
そしてようやくお話しができます。ハイファンタジーの礎を築き上げたと言ってもいい作品の一つ「指輪物語」よりオークとオログが参戦、といってもそれを題材としたゲーム「シャドウ・オブ・ウォー」という作品からのオーク、オログの設定がほとんどですけど…作者も指輪物語は実写映画の三部作しか見ていません。
ですがこのシャドウ・オブ・ウォーというゲームはハマってやりこみました。様々なオークやオログを従わせて裏切られることもあるけど共に敵を倒したり、部隊を編制し砦を攻めたりします。砦を攻めるシーンは圧巻です。
そんな彼らがどのように、ありふれの世界に絡むのか今後の注目です。がっつり活躍する話もある程度考えているので楽しみにしていてください。

さて、ここからしめったい話しになるのですが、読者の皆さん、この「ありふれた職業で世界最強  魔王を支える者達」という作品はおもしろいでしょうか?
前の話から感想を書く人が限られた人ばかりで、「おもしろくないのかな…」って不安になって筆が進まなくなり一時期小説から離れていました。作品を消すことも考えていましたが、それはそれで負けた気分になり、なにより「おいとけばよかった。」って後悔したくなかったのでとりあえず作品は残すことになりました。
こんな作者ですが、なにとぞよろしくお願いします。

さて次回のお話しはクラスメイトsideのお話しになります。
レムを見送った者達のその後どうなったのか、勇者組の一時帰還、帝国の使者、新たな出会いと別れ、そして目を覚まさなかったあの子にも動きが…何話になるのか未定ですががんばって書いていきます。

それでは今日はこの辺で、ではまた…



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クラスメイトside 変わらないもの、変わるものたち 前編

どうもグルメです。

投稿が遅くなりました。おまけに長くなりそうだと判断して前編、後編に分けています。本当に申し訳ないです。

今回のお話しはクラスメイトsideのお話しになっております。クラスメイト達が今どのように過ごし、どう思っているのか少し見えてくるかもしれません。


それでは、どうぞ。


さて、ここで時をさかのぼりハジメ達がオルクス大迷宮を脱出した頃、ハイリヒ王国にこんな一報が届いた。

 

 

 

‘’神の使徒、勇者一向が因縁のヘビモスを討伐し歴史上の最高記録であるオルクス大迷宮六十五階層を突破‘’

 

 

 

この報告を受けた聖教教会のイシュタルや側近の者、ハイヒリ王国の王様や臣下の者達は大いに歓喜して瞬く間に城中に伝わった。

そして、その一報はこの者たちの耳にも入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いたか? 天之河達がヘビモスを討伐したって。」

 

「聞いた聞いた、確か迷宮の六十五層も突破したんだろ?」

 

「流石勇者パーティーだぜ、俺達みたいな凡人とは違うんだよな…」

 

「香織ちゃん、雫ちゃんもすごいよね、あんなことがあったのに前線に立っているなんて。」

 

「雫ちゃんは剣道やっているから慣れているんじゃないかな? 私、うっかり惚れちゃいそうになったよ~」

 

「なにそれ~。百合は鈴ちゃんだけで十分だって!」

 

ここは王宮の一角の一つ、異世界の生徒達のために用意された食堂兼サロンであり、一か月前に初めてのオルクス大迷宮の実戦練習中に4人の死を目の当たりにして戦いに心折れた者たちが集まっていた。

今現在オルクス大迷宮に挑んでのはクラスのスクールカーストが集まり天之河を中心とした‘’勇者パーティー‘’、檜山大介を中心としたハジメをいじめていた者達が集まる‘’小悪党組‘’、そして、クラスメイトの一人、190cmを超える巨漢の永山重吾をリーダーして親しい者達で集められた男女五人の‘’永山パーティー‘’のみが前線に赴いており、その他のクラスメイト達は一部を除いてここに集まっていた。

彼ら、彼女らは日中ずっとサロンで雑談に時間を浪費していた。もちろん、こんなことばかりしていてはよくないことは分かっていた。「衣食住を提供してもらいながら魔人族に戦うための訓練に参加しないのはいかがなものか。」聖教教会や王国の上層部はそう思っているかもしれないが、それでも怖いものは怖いのだ。

この世界の人達よりも高いステータスを持っていても、誰しもが持っているとは限らない戦闘系の天職を持っていたとしても一度戦場に出れば死ぬ。少し考えれば分かることなのに自分の能力の優越感に入り浸ってしまい、あまつさえ魔物を屠ることに酔いしれていたため4人のクラスメイトの死が強力な酔い覚ましとなった。故に彼ら彼女らは戦えなくなったばかりか、王都の外に出る事も出来なくなってしまい、こうして集まって雑談に明け暮れていた。

「天之河達がきっと何とかしてくれる…」そんな期待を膨らませながら羨望と後ろめたさを宿した表情でクラスメイト達は会話を続けていると、

 

「……雫様とて、女の子であることに変わりないでしょうに……」

 

そこにポツリと小さな呟きが聞こえてきた。誰に聞かせるでもない思わず漏れ出た独り言、だが、タイミングが悪く、会話が途切れて次の誰かが口を開く前に出たその独り言はサロンにいる全員に聞かれていた。クラスメイト達はつぶやきを漏らした人物に目を向けると、そこに立っているのは勇者一向、もといクラスメイト達の身の回りの世話を任され、呼ばれたらすぐ動けるように待機していたニアの姿があった。

ニアは明らかに余計なことを口走ったと言いたげな様子で直ぐに頭を下げるも…

 

「…なんだよ。なんか文句でもあんのかよ」

 

クラスメイトの一人、玉井淳史は眉根を寄せて低い唸るような音声をニアに向けた。

 

「いえ。文句などありません。申し訳ありませんでした。」

 

ニアは顔色を一つも変えずクラスメイト達に深々と頭を下げて謝罪した。しかし、淳史はそんなニアの殊勝な態度が癇に障ったのか怒りをあらわにした。

 

「だれも、謝れなんて言ってねぇだろ。馬鹿にしてんのか! 八重樫さんだって変わらないって、じゃあなにか!? 変わらない俺達だけ戦わないのが情けないって、そう言いたいのかよ! どうなんだよ、はっきり言えよ!」

 

「お、おい。淳史…」

 

「もうそれぐらいに…「事実だろ。なに癇癪おこしてるんだ?」えっ?」

 

「何だと!?」

 

怒声を上げる淳史に友人の相川昇と仁村明人が宥めるようとした矢先、それを遮る声が響いた。それに反応して目を吊り上げた淳史はもちろん、昇と明人などサロンにいる全員が声がした方を向いた。

そこはサロンの端の窓際の席であり、日の光を浴びながら一人の青年が椅子にもたれていた。

 

「そこまで客観的に自分のことが分かっているのにも関わらず指摘されたら激怒する…お前滑稽だぞ、玉井淳史。」

 

月山一希は竹刀を肩にかけながらどこか呆れ顔で淳史を見ており、それを聞いてニアは焦ったように反応した。

 

「カヅキ様違います! 私は決してその様な事を思って口にしたのでは…」

 

「例えそうではなかったとしても、ここにいる連中はお前さんが放った言葉を淳史が言ったように解釈しているはずだ。面を見れば分かる…つまり全員自覚してるってことだ。」

 

そう言ってカヅキは睨み付けるようにクラスメイト一人ひとりの顔を眺めていった。クラスメイト達は図星なのか、またはカヅキと目を合わすのが怖いのか定かではないが俯いて誰一人として目を合わせようとしなかった。

 

「少し考えれば分かったはずだ。なのに流れに流されて中途半端な覚悟で戦争に参加し、未熟にも関わらず己の能力に過信して自分より低い者を内心嘲笑い、いざ命の危機が迫れば我が身可愛さに周りを押し退けて助かろうとする。“情けない“? お前ら全員滑稽の間違いだろ。」

 

カヅキはこれまでのクラスメイトの行いを指摘、歯に衣着せぬ物言いにクラスメイト達は次々と顔色を悪くして女子の中には今にも泣き出しそうな者も現れた。

 

「それに引き換え、奈落に落ちていった4人は立派だ。自分の命を顧みず俺を含めてクラスメイトを救おとしていた。そのうちの3人はお前らより能力が低かったにも関わらずだ! 俺だって感謝してもしきれないってのにお前らときたら「…っせよ」あ?」

 

自分の言葉を遮られて少しイラつくも冷静になって遮った者を見た。遮ったのは淳史であり、彼は俯いて身体を震わせていた。昇と明人が心配して声をかけようとした矢先、それは起こった。

 

「うるせぇよ! すこし強いからって調子のってんじゃねぇ!! お前だってクラスメイトから離れて戦いから逃げてるじゃねぇか! 人のこと言えるのかよ!!」

 

「そうだ、そうだ!」

 

「俺たちだけ攻めるなよ!」

 

顔をがバッと上げてカヅキを鬼の形相で睨みつけると、これでもかというくらい怒鳴り散らした。もちろん、自分の事を棚に上げていることは重々承知だ。それでも言わずにはいられなかった。自分達と違い戦いから逃げても後ろめたい気持ちもなく悠々と過ごしているカヅキがどうしても気に入らなかったのだ。

淳史の言葉に共感、もしくは親友として寄り添うためなのか昇と明人も反論し、他のクラスメイトも同じように反論したりカヅキを睨み付けたりした。

 

そんなクラスメイトを見てカヅキあからさまなため息をついた後、めんどくさそうに口を開いた。

 

「…なぁ、聞くけど、一体いつから………()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

カヅキの言葉にクラスメイトの誰も彼もが驚嘆の声を上げた。

 

「何言ってんだよ!!」

 

「俺たちはここに召喚された時、みんなで決めたじゃないか!!」

 

「…そこからおかしいだろうが。それはお前らが天之河に便乗して勝手に盛り上がって決めた事であって俺もイツキ、他数名は、あの時一言も「魔人族と戦う」と言った覚えはねぇぞ。ちゃんと周りを見てたのか?…まぁもっともあの時、反論しなかった俺にも非があるかもしれないが…」

 

昇と明人、二人の批判の言葉だけでなくクラスメイトの疑惑の目にも気にせずに答えるカヅキ。

あの時、彼は天之河や他のクラスメイトみたい立ち上がって戦う意志を見せることはなかった。それを証明するならばイツキか彼を慕う佐助か厚志くらいであり、不良の一面をみせていた彼はクラスメイトから避けられていたため誰も見向きされなかったのだ。そして、戦争の意味、命のやり取りを経験していた彼なら、常日頃から反発的な態度を取っていることも相まって真っ先に反対はしていただろ。

 

だが、それをすることもなかった。彼はその時、後悔していたのだ。

 

祖父の死の直前に告げられた夢物語な事に対しての否定的な態度、これまでの鬱憤を晴らすかのような罵声を浴びせたことを深く悔やんでいた。

 

 

それは、頭を抱えるほど、周りが見えなくなるほどに……

 

 

 

そして、気づけば自分を含めた全員で魔人族と戦うことにされてたのだった。

 

 

 

「しかし、一応勉学を共にした仲間だ。あれだけの事を各々の言い切ったんだ。ある程度どうなるのか見守っていくつもりだったが……あんたらの性根の腐った態度には憎悪しか沸かなかったな。」

 

そう言って再びクラスメイトを睨みつけるカヅキ。決まったものは仕方がない。トータスの世界についても知らないことばかりなのでとりあえず一緒に行動を取り機を見て別行動を取る手はずだったが、命の恩人に対しての行いに嫌気がさし、その結果、城から出て野宿を行うようになった。

 

「……で、あんたは俺らと離れ、罪悪感からも逃げて何も考えずのうのうと生きているわけだ…」

 

そう言って下を向きながら吐き捨てるように言う淳史、これを聞いたカヅキは鼻で笑うと呆れながら口を開いた。

 

「オイオイお前らと一緒にされちゃ困るな。こう見えても忙しい身でね。佐助、厚志の戦闘だけでなく、自らの意思で変わりたい、強くなりたいと申し出た奈々、妙子の面倒も見てるのだが?」

 

「佐助や厚志は知っていたけど…」

 

「宮崎や菅原も訓練に参加していたなんて…」

 

昇と明人が信じられないと言いたげな顔で呟く中、クラスメイト達(主に女子)も宮崎奈々、菅原妙子が戦闘訓練をしている事に驚きを隠せないでいた。

皆が驚きと疑問に感じている最中、カヅキはさらに話を続けた。

 

「それだけじゃない。この世界を知るために合間を見てはトータスの見聞を広めているし、今日だって王国に一宿一飯の恩を返すために王様と話しをつけに来たのだ。これでものうのうと生きていると言えるのか? 他人に任せ守れ、一日中何もせず無駄に過ごしているお前らと一緒にするな。」

 

言いたいこと言い終えるとカヅキは目をつむって心を鎮めるために瞑想に入り、クラスメイト達はぐうの音も出せずにただ下を向くしか他なかった。一人を除いて…

 

「…っせえ、うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ!! お前に言われなくても!!

 

「「淳史!?」」

 

昇と明人が気づく前には淳史は駆け出しており無謀にも武器も持たず、拳一つでカヅキに殴り掛かろうとしていた。後に淳史はこう語っていた。「正論と分かっていても見下されているようで悔しくて悔しくて仕方なかった。」と、

 

 

「ど阿保が…」

 

静かそう言うカヅキは慌てることも見向きもせず肩にかけていた竹刀を左手に持ち替えてフェイシングの要領で淳史のみぞおちを一突きした。

 

「ガッ!??」

 

何も考えず走ってきた勢い、お腹周りががら空きだったこともあり見事に当たって痛みと衝撃を伴いながら立ち止まり両膝をつくと、それと同時に冷たいものが淳史の首筋に当たっていた。

 

「………。」

 

「ひっ!!?」

 

素っ気ない声と共に気づいた時には冷めた表情のカヅキが見下ろしており、日本刀の刃を淳史の首に当てていたのだ。

あの時カヅキは淳史を一突きした同時に淳史に迫り左手でもの打ち部分(刀でいう刃がある所)に持ち替えて魔力を流し込み瞬時に日本刀に変えると、そのまま抜刀して寸止めをしたのだった。あまりにも早い偉業に周りの者たちは悲鳴をあげる事も忘れて、カヅキが何をしたのか? 何故日本刀があってどこから出てきたのか? と理解しようとしていたが段々と冷静になってくればそれよりも淳史の置かれている状況を理解して顔を真っ青にさせていった。

 

「…お前に三つ教えてやる玉井淳史。一つ、暴力は暴力で返ってくる。お前が癇癪を起こして暴力を振ったとしても誰も優しく止めてくれない。暴力でお前を止めるだろう。二つ、この世界は力と頭脳が全てだ。力もなければ知恵もない、考える能力もない奴は淘汰される。少しでも長生きしたかったら頭を低くして冷静に考えて行動することだ。」

 

淳史に教訓を言いつつ日本刀を片手から両手持ちに替えるカヅキ、そして…

 

「三つ、俺はこの先、俺の障害となるもの敵として立ちはだかる者は斬る。例えそれが女、子供、共に過ごしたクラスメイトの一人であろうとも容赦なく斬り捨てる……こんな風になっ!!」

 

そう言って素早く日本刀を自分の左肩まで振り上げると淳史の首筋めがけて振り下ろした。周囲は女子達の悲鳴や男性達の止めるように言う怒号やパニックなって叫ぶ声が響く中、カヅキは何の躊躇いもなく、ただ冷めた表情で見つめながら刀を下した。

 

そして、淳史も「あっ」と気づいた時には刀が振り下ろされており……

 

 

ビュッン

 

 

そんな音と共に淳史の首筋に剣圧で発生した冷たい風が横切った。

 

 

「ッ………………はっ!」

 

淳史は身体を強ばらせた後、少しの間放心状態だったがすぐに覚醒し、生きていることを実感するかのように斬られるであろうとした首筋を何回も手に当てて首がくっついているのか確かめた。

クラスメイト達も淳史の最後を目視することが出来ず、顔を手で隠したり背けたりしていたが生々しい音が聞こえなかったため恐る恐る目を向けると淳史は生きており、どうやらまた寸止めを行ったようだ。とにかくして淳史が殺さなかったことにクラスメイトは胸を撫で下ろした。

そして、カヅキはというと鞘に日本刀を治めた後、しゃがみ込んで淳史に目線を合わせて口を開いた。

 

「最もお前は…斬る意味もその価値すらも値しないけどな…」

 

そう興味なさそうに告げると立ち上がり背を向けて歩き出した。

 

「リリィの野郎、こんな所で待たせやがって。おかげでめんどくさい相手をさせられるはめになっちまったじゃねぇか…」

 

途中、この国の王女の事を呼び捨て、暴言を吐き捨てながら自分の席に戻っていくカヅキ。クラスメイトがそれを聞いて「国の王女だぞ!? 何でそう軽々しく言えるんだ!?」と思いつつ背中を追っている最中、淳史は、

 

「………………クソッ。」

 

胸が張り裂ける思いでいっぱいだった。本来なら斬られる所を斬られずに済み、生きている事を喜ぶべきかもしれない、しかし、カヅキが先ほど言った言葉が胸に刺さった。

 

 

‘’最もお前は…斬る意味もその価値すらも値しないけどな…‘’

 

 

言ってしまえば「お前は脅威とは感じないし、大したこともない。」そう考えた淳史は、先ほどのメイドに当たり散らす行為も含めて「言われた通り自分は滑稽であり、何と惨め何だろう」と思わず握り拳を地面に叩きつけた。痛みが薄れるほど悔しい思いに浸っていると、

 

「淳史様、お怪我は!?」

 

ここで真っ青になってニアが駆け寄って来た。

 

「ああ、大丈夫だよ。ニアさん…」

 

「淳史様、ご気分を害するような発言をしてしまったばかりにこの様な騒動を起こしてしまったこと誠に申し訳ありませんでした。ただ、決して、あの言葉は淳史様を含め、皆様に皮肉を申し上げたわけではないのです。どうか、それだけは………」

 

「ニアさん……いや、その、俺の方こそ……すみませんでした。」

 

改めて、深々と頭を下げながら誠意を感じる謝罪をするニア。淳史は気まずそうに視線をそらしながらも少し気持ちが落ち着いたのか謝罪を返した。その謝罪を受け取ったニアは僅かに微笑むと、先の発言の真意を伝えるため口を開いた。

 

「皆様も、先程の私の不用意な発言でご気分を害されたのなら謝罪致します。しかし、私は雫様の友人として思うのです。雫様もまた、時には誰かに守られるべき、頼るべき、甘えるべき、女の子であるべきだと」

 

「………でもよ、八重樫さんは俺らよりもずっと能力値が高いし、いつだって頼りになる。正直のところ弱い八重樫さんなんて考えられないぜ」

 

「だよな…むしろ元いた世界でも剣道で強かったからすでに戦いに順応してると思うけどな。」

 

昇が苦笑いを浮かべながらそういい、明人もそれに同意しつつも雫が剣道をしているおかげて戦いに馴れているのではと考えた。他のクラスメイト達も昇、明人と同じような意見を持っていたのか誰一人として雫を女の子として見ておらず、それを主張するものはいなかった。

 

そして当然だが、この話しはカヅキの耳にも入っていた。これにはまたも大いに呆れさせ、再びお節介を焼こうと口を開こうとしたが、急にその必要がなくなり黙りこんだ。何故なら

 

「……まったく君たちは、彼女をそのような目で見てたのかい?」

 

透き通るような冷たい声が響いた。クラスメイト一同は声をした方を振り向くと、たった今入って来たばかりなのかサロンの入り口前に一人の青年が立っていた。

 

「彼女はここに来るまで君たちと同じ生徒であり女の子なんだよ? そんな子がいきなり殺伐とした世界に飛ばされ、心の整理がつかないまま強制的に戦争に参加させられて果たして平常でいられると思うのかい? ただでさえ君たちは死を恐れ、戦いから逃げているのにどうして彼女にはそれがないと言い切れのかな?」

 

月山一希の弟、月山一稀は静かにそう告げた。光輝にも負けないイケメンでクールをあわせ持ち、女子のファンも少なくないイツキ。本来ならここにいる女子達から熱い眼差しを向けられるはずだが、そのようなことはなかった。

 

 

むしろ、女子達は向ける事が出来なかった。

 

 

イツキの表情はただ冷たく憎悪に満ちており、さらに先ほどの一つ一つ発する言葉には重みがあり、聞いただけでも怒りに満ちていることが分かった。今まで甘いマスクしか見たことがなかった女子達はそんなイツキを見て一気に血の気が引いており、それは男子も同様で中にはカヅキよりも怖いのではと思う者も何名か現れるのだった。

 

クラスメイト達が身の毛がよだつ思いに立たされている最中、イツキはさらに怒りの思いを口にした。

 

「‘’雫さんなら大丈夫‘’‘’雫さんなら出来て当然‘’…君たちのそんな想いが彼女の本来の姿を押し殺し追い詰めていく。僕は心配だよ、君たちに応えようとして無茶をしでかさないか……君たちは誰一人、彼女の心配、いや、前線に立っている子たちの心配をしたことないのかい?」

 

「「「………………。」」」

 

その問いかけにクラスメイト達は答えることなく黙りこんだ。それもそのはず前線組は居残り組にとって元の世界に帰るための希望であり、どこか特別な目で見ていた。知らないうちに自分たちと同じ生徒だったということが頭から抜け落ち、それと同時に現実逃避として前線組が戦いによる何らかの異常をきたすことはないと考えたのだ。

 

故に前線組を心配するものは誰一人いなかった。

 

改めて他人任せで自分達のことしか見えてないことに呆れてイツキ深い溜め息をついた後、

 

「…もっとも雫さんは親友のため、仲間のため、君たちのために自ら進んで刃を振っているけどね。帰ってきたらしっかり労ってあげるんだよ。」

 

怒りを収めてそう告げると下を向いて黙りこむクラスメイトの間を通り抜けてカヅキの元へ向かった。

 




いかがだったでしょうか?
またもやクラスメイト達がカヅキに説教される回でした。自分で書いているのも何ですがクラスメイト達が不憫で仕方ありません。とは言ってもこの場面は私が書きたかった場面でもあります。クラスメイトの考えにカヅキ、イツキは真っ向からの説教。さらにクラスメイトだろうと容赦しないカヅキの覚悟。おかげでニアの活躍が減ってしまいました。
原作ではこの場面は前線組がもっと攻略してからになるのですが、ここではヘビモス討伐と六十五層突破を得てこの場面を入れることにしました。それは何故かと言いますと、原作通りだと月山兄弟とクラスメイト達の絡みが出来なくなるからです。それはどういう意味なのかは、話を読み進めて理解してくれたら幸いです。

さりげなく召喚された時のカヅキの様子をのせています。元の世界では誰であろうと嚙みつく性格なのでいきなり召喚されて「戦争に参加しろ」と言われたら黙っていないはずです。ですからその時のカヅキは物凄く落ち込んでいる状態でした。と言いつつも書き上げた当時、月山兄弟、猿山、牛山の存在なんかいなかったのですけどねw
ちなみにその時のイツキは静観、猿山と牛山は共に困惑していました。

それと、カヅキの性格が原作ハジメに似ているように感じるのは私だけでしょうか?


さて、改めて投稿が遅くなったこと誠に申し訳ありませんでした。限られた時間の中で文を考えたり色々見直したりしていると一か月過ぎてしまいました。後編も出来上がり次第投稿しますのでお待ちください。

次回、久しぶりに‘’あの子‘’が登場します。


それでは今日はこの辺で、ではまた…



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クラスメイトside 変わらないもの、変わるものたち 後編

どうもグルメです。本当に大変遅くなりました。後編になります。

あのキャラクターが久しぶりに登場します。


それではどうぞ。


「やぁ、兄さん」

 

「おぉ、イツキか。」

 

カヅキの前までやって来たイツキはそう声をかけると兄と対面になるように席に座った。

 

「それでどうだった? お前から見て‘’あいつら‘’は?」

 

「驚いたよ。まさか数週間であそこまで成長するなんて、一体どうやったの兄さん?」

 

「…簡単なことだ。一通り手持ちの武器のレクチャーをした後、ひたすら実戦したのだ。何もない平野、視界が悪い森林地帯、足元を掬われる川、攻撃範囲が狭まれる廃墟等々、場所を変えてひたすら打ち込んだ。もちろん、俺もあいつらも手加減なしでな。」

 

カヅキが話していたのは奈々、妙子、佐助、厚志の戦闘訓練のことだった。奈々の頼みから始まったこの戦闘訓練はレムが去った次の日から始められた。内容はカヅキが話した通り、休憩をはさみつつ朝から日が落ちるまで、時として夜間の戦闘に対応できるように真夜中に召集をかけて行われることもあり、あらゆる状況を想定して戦闘訓練が行われたのだ。

 

「スパルタだねぇ兄さん。まぁ生死に関わることだし実戦ほど得るもの多いから仕方がないかな。」

 

そして、今日は試しにイツキとの一対一の模擬戦が行われた。結果としてはイツキの圧勝だが皆が前よりも確実に強くなっていることを身をもって痛感したのだ。

 

「実際にあいつらは成長した。最初の頃は俺の気迫で逃げ腰だったのに一週間経つ頃には克服し死線を越えて攻めてくるようになった。最後まで俺に傷一つつけることはなかったが確実に強くなっているのは確かだな。」

 

カヅキがそう評価しつつ「それと…」と前置きして、

 

「奈々はめざましい成長が見られる…将来化けるぞアイツは。」

 

そう言って宮崎奈々を一目置くカヅキ。それを聞いたイツキは、

 

「それは僕も思ったよ。彼女だけ他の誰よりも戦闘の取り組みが違っていて他にはない気迫があった……まぁ奈々さんに限らず皆、自分の意志で変わろうとしている。きっと強くなると思うけどね、兄さん。」

 

そう言ってイツキも宮崎奈々が人一倍強くなることを感じ取りつつ、他のメンバーも強くなるだろうと思うのだった。

 

そんなこんなで二人が話していると一人のメイドがやってきた。

 

「カヅキ様、長らくお待たせしました。王様がお待ちしております。」

 

「おっ! ようやく来たか。そんじゃあ行って来るぜ。」

 

「あっ、兄さん。僕も行くよ、色々知っておきたいからね。」

 

そう言って二人は立上り、メイドに連れられてクラスメイトの中を横切りサロンを後にした。

クラスメイト達はただ月山兄弟を去って行く様子を指をくわえて見るしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が去った後もサロンは静寂のままだった。月山兄弟の言葉を聞いて誰もが呑気に雑談に興じる気が起きなかったからだ。ある者は心に深く響いたのか顔を地面に向けてうつむき、ある者は「どうする?」と言いたげな顔で他のクラスメイトの顔を伺っていたりしていた。そしてニアを筆頭としたメイド達は先ほどのトラブルを防ぐため何も言う事なくなるべくクラスメイトの顔を合わせないように待機していた。

このまま今日はそれぞれの部屋に戻った方がいいかなとクラスメイトの誰もがそう思いはじめた時、

 

「変わろうとしている、か……」

 

静寂を打ち破るように一人の女子生徒がポツリと呟きを口にした。その声を聞いたもの達は誰もが驚きながら声がした方に目を向けた。このサロンにいながら特に会話にも参加せず、どこか遠い目をして静かに座り込んでいた女子生徒、園部優花がそこにあった。

 

 

 

園部優花。

普段の性格は少し勝ち気な言動が目立つ良くも悪くもパワフルな女の子なのだが、今は口数は激減し、友人達が連れ出さなければ一日中自室の椅子に腰かけて外をボーと眺めているだけという重症振りで居残り組の中でも一番精神的ダメージが深い者として認識されていた。それもそのはず、あの日、九死に一生を得て生還した日に親しい間柄を4人も失っており、そのうちの一人は幼い頃から一緒で家族同然の人物も含まれていた。彼女はそのショックから気を失って目を覚まさない日々が続き、再び目を覚ましたのはレムが旅立った後だった。生きているとはいえ高校になってできた親友のレムも傍からいなくなり、二重のショックでこのような状態に成り果ていたのだ。

そんな優花が久方自分から話し出したことは確かに驚くことなのだが、当の本人は周囲の様子にも気づくことなく虚空を見つめたまま言葉を続ける。

 

「…………そうだよね、レムだけじゃない。雫も香織ちゃん、奈々や妙子、猿山くんも牛山くんも……変わろうとしている…そして、彼らも…士郎も……誰よりも……変わろうとしていた。それなのに私は……私は……」

 

意味をなさない言葉の羅刹。だれに聞かせるでもない、心情の吐露。ずっとふさぎ込んでいた優花の中で何かが動きだそうとしていた。一人、ブツブツと呟く優花にクラスメイトやメイド達は互いに顔を見合わせて困惑を表情に浮かべていたが、何となく虚空を見つめる優花の瞳が少しずつ光を取り戻していくように見え、そして…

 

「ニアさん。愛ちゃん先生の出発っていつでしたっけ?」

 

また一人、変わろうとして立ち上がる者が現れた。

 

「えっ? あっ、はい、愛子様ですね。確か、明日の朝には出ると聞き及んでおります。ですが今度の開拓は大遠征、各村々や街々を周りつつ最終的には湖畔の町ウルを目指しますので、帰還には3,4ヶ月かかると思います。」

 

「うわぁ、明日か…うん、逆にいいかな。こういうのは時間を置くと萎えちゃうし。」

 

ニアの返答を聞いた優花は苦笑いしつつ、勢いよく椅子から立ち上がった。その躍動感と力強さを感じる動きにクラスメイト達は瞠目する。ここ最近、全く見られなかった活発な優花の姿に思わず相川昇が声をかけた。

 

「お、おい、園部。いきなりどうした? 具合悪いのか? わけがわからないのだが…」

 

「具合は悪く無いよ相川くん。なんていうか、いい加減ジッとしてられないなって思ってさ。だから、私、明日の愛ちゃんの遠征について行くよ」

 

さらりと告げられた優花の決断にクラスメイト達はポカンと間抜け面を晒す。それもそのはず、空虚な瞳、無気力な態度、優花こそ心折られた生徒の筆頭と誰もが思っていたからだ。それが今や水を得た魚のように生き生きとし始め、クラスメイト達は困惑せずにはいられなかった。

 

「お、おい、園部。マジどうしたんだよ。何かお前、おかしいぞ? ちょっと落ち着けって」

 

玉井淳史が何やら焦った様子で窘めの言葉を送るも、

 

「私は落ち着いているわよ、玉井くん。それにいきなりじゃない……ずっと、このままじゃいけないと思ってた。彼らが落ちて、怖くて、わけわかんなくて、頭の中ぐちゃぐちゃで……でも、なにかしないと思っていた。それは、玉井くんも、皆も、一緒なんじゃない?」

 

そう言って静かに返す優花。その言葉に淳史は息を呑み、同時に言葉も飲み込んでしまったのか言葉を閉ざした。他のクラスメイトも同様で気まずそうに視線を逸らしていた。そんな姿に特に気にもかけずにサロンの扉に向かって歩き出した。

 

「ま、待てよ、園部! 本当に行く気か!? 今度こそ、本当に死ぬかもしれないんだぞ! ここは漫画の世界でも映画の世界でもないんだっ。ご都合主義なんて起こらないんだぞ! だから、だから、あいつらは死んじまったじゃねぇかッ!! 無能のくせに、馬鹿やらかして、あっさり死んじまったじゃねぇかッ!! 俺は、俺は、あいつらみたいに馬鹿に……」

 

ビュッ

 

「っ!?」

 

何かが淳史の頬を掠め言葉を遮った。言葉に酔い我に返って優花を見ると手元には小さいヘアピンがあり、優花は振り返らずも静かで微かに怒りが含まれた声で答えた。

 

「……私の大事な人を…レムが大切に思っている人たちを…汚さないでくれる? 今あなた達が生きていられるのも、そんな無能で馬鹿で、そして誰よりも変わろうと努力していた彼らによって救われたからじゃなないの?」

 

「それはっ」

 

「別に玉井くん達もついて来いなんて言わないよ。ただ、私は、無駄にしたくない、それだけよ……それと、皆がレムにしたこと、こう見えて怒っているから。」

 

肩越しに振り返り、クラスメイト全員に向けるようにキッと睨みつけると優花はそのまま部屋から出ていった。

淳史を含め残っているクラスメイト達はバツが悪そうに下を向いたり、顔を背けたりしてまともに優花の背を見送る者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優花が一人、廊下を歩いて行く中、頭の中で何回もこの言葉が過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優花さん、私はさよならは言いません。士郎さん…いえ、皆さんを見つけて必ず帰って来ます………もし、目を覚ましたら……悲しみに明け暮れず…自分に出来ることをしてください。きっと、優花さんにしか出来ない事があるはずです……貴方の大切な親友レムはそれを切に願っています。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今はこの場にはいない親友の言葉、もっともこれは自分の夢の中で出てきたレムの言葉であり、これを聞き終えた瞬間、レムは消えていつの間にか目を覚ましていた。もちろん、レムは旅立った後だった。

この言葉がレムの伝えたかった本心なのか、それとも自分を突き動かすための都合のいい解釈で出てきた語呂並べなのか定かではないがこの言葉は優花の心に深く刻まれていた。

 

「(レム、私はやるよ。例え一人でも、皆に理解されなくても精一杯するよ。自分に出来ること! だから、信じさせてレムが起こす奇跡………皆を…士郎を見つけて帰ってきてね…。)」

 

そんな想いを胸に親友の無事を祈りながら優花は真っ直ぐ廊下を歩いていくのだった。

 

 




いかがだったでしょうか?
先ずは謝罪、本当に大変遅くなりました。なかなか執筆する時間が取れなくて去年の10月を最後に更新が止まっていました。楽しみにしていた読者の皆さまは重ね重ねお詫びを申し上げます。

さて、久しぶりに優花の登場です。本編ではハジメや嫁たちに振り回されて不便な子扱いですが、私の小説ではガッツリヒロインを勤めてもらいます。今のところ成長イベントはありませんが、本編にはないヒロイン力、及び士郎の嫁力を書けたらいいなと考えております。


次回、タイトルだけは決まっています。

‘’結成、愛ちゃん護衛隊!‘’


また遅くなるかもしれませんが書き終わり次第、投稿します。

それでは今日はこの辺で、ではまた…


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クラスメイトside 決意の朝に結成、愛ちゃん護衛隊

どうもグルメです。
またまた大変遅くなりました。本当に申し訳ないです。

今回のお話しは優花が愛ちゃんの護衛をすると宣言した次の日になります。
一人で行くと思いきや、少し事情が変ったようです。


それでは、どうぞ。





優花が愛子先生の護衛を決めたその翌日。朝靄のかかる日の出前の早朝、薄っすらと白み始めた東の空と朝のキンとして清涼な空気が流れるなか優花は遠征の集合場所に向かって歩いていた。一人で歩いていると思いきやよく見てみると優花の両隣には親友の菅原妙子と宮崎奈々の姿もあった。

 

「…妙子、奈々、もう一度聞くけど…本当についてくつもりなの? 別に無理に合わせなくてもいいのよ?」

 

「無理なんかしてしてないわよ。私も奈々も優花と同じで何かしないと…って考えていた所だからちょうど良かったわ。」

 

「そうそう。優花っち一人だけ見送るなんて出来ないからね。それにレムっちとの約束もあるし、優花っちにもしもの事があったら私、顔向け出来ないよ。」

 

そう言って特に迷いもせず答える妙子と今はいないもう一人の親友レムの義理を果たすためだと告げる奈々。

実は昨日の夜、優花は一方的に愛子先生に遠征について行く事を告げた後、二人にも遠征に行くことを伝えたのだ。すると二人は一度、互いに顔を見合わせて苦笑いしながら頷くと、二人は同時に自分達も遠征について行くと告げたのだった。

優花はこのことを聞いて二人は無理してついてきているのでは考えていたが、先ほどの答えを聞いて本心だと確信した。正直、一人で護衛するのに不安があったが親友二人の申し出は嬉しいもので、優花は頬を綻ばせながら茶目っ気たっぷりに号令をかけた。

 

「そっか。ふふっ、それじゃ、愛ちゃんを魔物と教会から派遣されてるイケメン護衛騎士達から守る度に、出発~!」

 

「「お~!」」

 

その言葉に妙子と奈々は威勢よく応答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優花、イケメン護衛騎士達から守る旅ってどういうこと?」

 

「妙子、知らないの? 愛ちゃん今凄く人気で護衛の騎士達がみんなアプローチしているみたいよ」

 

「ええっ~何それ!? みんな、ロリコンなの!?」

 

「ロリコンって…奈々、愛ちゃんは成人女性よ。」

 

そう言って妙子はどこか呆れた様子で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人が談笑を交えつつ、これからについて話しながら集合場所に向かって歩いていると、

 

「ねぇ、あれって…?」

 

奈々が何かに気づき優花と妙子が足を止めた。よく見ると前方から三人の男子がやって来た。

 

「玉井君? それに、相川君と仁村君もいる。」

 

「……。」

 

少し怪訝そうな顔をする妙子、そして、昨日のこともあって睨みつけるように三人を見つめる優花。淳史、昇、明人の三人組は真っ直ぐこちらに向かっており、淳史達もまた昨日の事があってなのか緊張な顔つきで優花達と対面した。

 

「……まさか来るとは思ってなかった。正直、ちょっと意外。」

 

「うっせ。……お前だけじゃねぇんだ。きっかけが欲しかったのは。俺達だって、同じだ。」

 

「そっか……うん、じゃあ、私たちだけでも、一緒に頑張りますか。」

 

昨日の事はもう水に流したかのか肩をすくめて、あっさりと淳史達を受け入れる優花。淳史達も無事に受け入れられた事に安堵したのか緊張を解いた。緊張が解けたのか昇がこんなことを話し出した。

 

「まぁ、性格には俺ら二人は淳史に頼まれたんだけどな~。そうとう悔しかったみたいだぜカヅキに言われたことが。」

 

「お、おい、ばらすなよ!」

 

「そうなの?」

 

淳史が慌てふためく中、優花が聞き返すと人差し指で眼鏡をクイッと上げた明人が口を開いた。

 

「…土下座もしてくれましたからね。流石に土下座までされましたら、友として親友として応えなければ。」

 

「明人、お前も……ったくもう。」

 

裏話をばらされた淳史はため息をつくとゆっくりと語りだした。

 

「今までの俺はどうかしてた。恐怖と弱さを棚に上げて周りに当たり散らかし、同学年に‘’斬る意味もその価値すらも値しない‘’と見下される始末。……悔しいけど言われて納得する自分があった。」

 

「だから…」と前置きをしつつ淳史は右手で握り拳をつくって胸にやると、

 

「俺はこの護衛を逃げずにやり遂げる。周りから見れば大したことない小さなことかもしれない…それでも無価値のままで終わりたくないし、何よりアイツにこのまま見くびられるのはゴメンだ!」

 

そう言って意気込む淳史、それを聞いた昇と明人も

 

「…へへっだよな、いっちょ俺らで見返してやろぜ! まぁ、俺は俺でこの遠征で‘’異世界の美女にモテるため名を売りに行く‘’っていう明確な目的があるけどな。」

 

「親友のためとはいえ私にも明確な目的があります……今や天之河は迷宮で不在、この遠征を成功させクラスメイトの心を掌握し必ずや天之河に成り代わってクラスメイトを引っ張る存在になってみせましょう!」

 

親友のため自分の野望のために高らかに宣言する二人。淳史はともかくして昇と明人の目的には奈々、妙子は苦笑いをしていた。そして優花はあきれつつため息交じりに前々から思っていた事を口にした。

 

「あなたたち………………後ろに月山兄弟いるわよ。」

 

「「「ファ!!??」」」

 

変な声と共に淳史達は素早く後ろを振り向きつつ、優花達がいるとこまで下がった。優花の言うとおりそこには無愛想な顔をしているカヅキとニコニコしているイツキが立っていた。

 

「……まさか、聞かれてた!?」

 

「…ああ。」

 

慌てふためながら昇が尋ねると無愛想なまま答えるカヅキ。

 

「……どの辺りから…ですか?」

 

「うーん、玉井君の意気込み辺りかな? 君たちの決意もバッチリ聞かせてもらったよ。」

 

動揺しているのか手を震わせながら眼鏡をあげる明人にイツキは特に気にもせずに答えた。

 

「………ッ。」

 

そして、淳史も動揺を隠せてないのか身体を震わすも、抵抗を見せるかのように表情を強張らせながらカヅキを睨みつけた。

 

「…………」

 

そんなカヅキは淳史の睨みも気にもせずに無愛想なまま三人の顔を見ていた。言葉だけでは分からないそれぞれの本心を見極めるようにまたは見透かすようにジッと見つめていた。数秒間の沈黙が流れた後、先に口を開いたのはカヅキだった。

 

「……たしかにお前が言うとおり、この国の重鎮が見ても大したことないと一笑するだろう……だけど、俺はそうは思わない。理由はどうあれこの世界で生きるため、前に進むための最初の一歩を踏み出そうとしている。そこは評価されるべきだと、俺は思う…だから言わせてもらうぜ………大したもんだ、見直したぜ!」

 

そう言ってカヅキはニッと不敵に笑うのだった。

てっきりけなされると思っていたばかりか褒められたことに戸惑い昇と明人に至っては下を向いて照れ隠しをしていた。淳史も嬉しさが込みあがってきて思わず顔に出そうになったがグッとこらえて、

 

「上から目線のオメェに言われても嬉しくねぇよ。今に見てろ、必ず侮れない存在になってやるからな!!」

 

「そいつは、楽しみだ。」

 

「ふふ、功を焦って命を落とさないようにね。」

 

淳史の言葉に昇と明人も緩んでいた顔を戻して頷き、三人の姿を見たカヅキとイツキは「彼らなら大丈夫」そう強く思っていると急に奈々が手を合わせて、

 

「本当にごめんねカヅっち。自分から頼んでおいて、お礼もできていないのに勝手に遠征に行くって言いだしちゃって……」

 

「気にするな、お前が決めたことだ。咎める理由はない。」

 

そう言って奈々は謝罪を入れるもカヅキは特に気にする様子はなかった。実は昨日の夜、優花から話を聞いて遠征に行くと決めた奈々は、真夜中でカヅキが寝ていたこともあってか野宿先に置き手紙を置いていたのだ。そして奈々が去った後、すぐに手紙を読んで大体の事情を把握したカヅキは奈々と妙子が心残りが無いよう旅立てるようにイツキも呼んでこうして朝早くから見送りに現れたのだ。

 

「…でも、私も奈々も全然カヅキ君に勝ててないから強くなってないと思うのに…いいの? 特訓を抜け出して…?」

 

優花について行くとはいえ、奈々はもちろん、妙子自身も強くなってもいないのに特訓を途中で放棄することに不安を感じていた。それを聞いたカヅキは、

 

「そう思うかもしれないが、お前らは俺との戦闘の経験を積んで前の自分よりかは強くなっている、もっと自信を持てよ。それに元はといえ、クラスメイトの俺に躊躇いもなく攻撃してきただろ? 躊躇いがなければ今はそれで十分。」

 

二人の不安を吹き飛ばすかのように笑みを浮かべるカヅキ。だが、すぐに真剣な表情になり、

 

「……とはいえ強くなったからといって上には上がいる。どうあがいても勝てない奴も出てくるだろう…だから相手を見極め無理だと感じたら逃げろ…俺が教えれるのはもう、これぐらいだろ。」

 

これが自分が教えれる最後の教えだと思いつつ、カヅキは奈々と妙子に告げた。最後の教えを聞いた二人は、

 

「ええ、分かったわ。自分の力、信じてみるわ。」

 

強く頷き自信に満ち溢れる妙子。そして、奈々は、

 

「カヅっち、私、絶対強くなるから! 特訓してくれたことも、教えてくれたことも全部活かして、優花っちやレムっち、大事な人たちを守れるくらい強くなって見せるから!! カヅっち、短い間でしたが本当に…」

 

 

「「ありがとうございました。」」

 

 

‘’強くなる‘’ あの日、親友を見送った時に心に決めた誓いを再び口にした奈々は、それに付き合ってくれたカヅキに礼を述べると同時に頭を下げた。妙子も同様に頭を下げた。

周りから見れば長年の師と弟子の壮大な別れのように大げさに見えたかもしれない。しかし、何となくだが二人は月山兄弟と会えるのが今日で最後じゃないかと、お礼を言うのは今しかないと、心のどこかで思ったのだ。

 

「奈々、妙子、頑張れよ!」

 

「…道中気をつけてね。」

 

カヅキは笑みを浮かべ、イツキは微笑みを浮かべながら短くそう返した。彼女らは自分達が思っている以上に成長している故にこれ以上に贈る言葉は不要。必ず困難を乗り越え、自分達が求めるものを得られる。二人はそう感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…本当、二人は変ったというか、逞しくなったよね。それに比べて私なんか……こうなるなら二人に混ざって訓練に参加しとけばよかったかな…」

 

一連の流れを見た優花は親友の成長と自分の成長の格差にどこか自嘲気味に笑いつつ、カヅキが行う戦闘訓練に参加しなかったを後悔していた。まさか自分が再び死と隣り合わせの城外に出て愛ちゃんの護衛をするとは思ってもおらず、こんなことなら訓練に参加して戦闘技術の一つや二つ身につけておけばよかったと思うのだ。

 

「まぁ、そう落ち込むなよ。俺は結構、お前のこと買っているんだぜ? 迷宮で友と離れ離れになり、その友を探しにまた一人の友が離れていった。なのにお前は己を鼓舞し、出来ることを見つけて前に進もうとしている。おまけに周りの者も後押ししてだ…あの状況から立ち直るのはなかなか出来ることではないぞ。」

 

カヅキはそう言って率直に優花を評価した。あまりにも高く評価するカヅキに優花は苦笑いを浮かべながら反論した。

 

「買いかぶりすぎよ、私は勢いがあるだけ。弱いのに後先考えずに行動しているだけなのだから…」

 

「自分を弱いと立場を理解しているのがなおいい。どこかの勇者に見せつけてやりたいぜ。」

 

「……あなたって見かけに寄らず、人たらしなのね。」

 

「よく()()()()()。」

 

「ぷっ…何よその返し、意味わかんない。」

 

カヅキの発言で思わず吹き出して笑う優花。思えば迷宮での出来事があって以来、久しぶりに笑ったなと思っていると、

 

「スッキリしただろ? 例え弱くても、お前の近くには奈々と妙子がいる。俺がみっちり鍛え上げたんだ、そいつらを頼れ。それに…お前はどちらかというと司令塔だ。現に迷宮での脱出時、動けないクラスメイトに的確に指示を出していたしな。」

 

そう言ってカヅキはアドバイスと共に迷宮での優花の行動を思い返していた。あの時、刀を振りつつ辺り全体を見渡していると優花が積極的に動けないクラスメイトの下に赴き、指示を出し鼓舞していたのが印象に残っていたのだった。

 

優花は「あんな状況でよく見れたわね…」と言って少し驚いていると、

 

「カヅキ君の言うとおり、戦闘は私たちに任せて。」

 

「そうそう。優花っちはどーんと構えて後ろから指示を出してくれれば十分。」

 

どこか誇らしげに言う妙子と奈々。これには優花も二人には一生敵わないと思いつつ、

 

「そうね、頼りにさせてもらうわ。」

 

ニコッと二人に笑顔を向けて頷いた。そして、改めて優花は心の劣等感を晴れさせ自分の役割を見出してくれたカヅキに礼を言った。

 

「月山くん、ありがとう。」

 

「……どういたしまして。」

 

カヅキは静かに受け止めるとちょうど辺りに陽の光が差し込みカヅキ達や優花達、淳史達を照らした。まるで旅に出る者たちの恐怖の影を打ち払うかのように、わだかまりの心を晴らすかのように暖かく差し込むのだった。

辺りがだいぶ明るくなった事に気づいた優花は、

 

「ちょっと長居しすぎたね、そろそろ行かないと…。」

 

そう言って奈々や妙子、淳史達の方を振り向いて号令をかけた。

 

 

「みんな、行こう!!」

 

 

「「うん!!」」

 

 

「「「おう!!!」」」

 

そう言って優花を筆頭に奈々や妙子、淳史達は集合場所に向かって走り出した。その背中を月山兄弟は見えなくなるまで見続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったね。」

 

「ああ。だが、まぁ…先生には護衛の騎士もたくさんつく。何とかなるだろう。」

 

「そうだといいね……ねぇ、兄さん。」

 

「ん?」

 

ふとイツキの顔を覗き込むと手で口元を押さえてどこか思い詰めているような様子を見せていた。「なんだ?」と思いつつカヅキは耳を傾け、

 

「いいニュースと悪いニュースがあるけど…どっちを先に聞きたい?」

 

「……いいニュースから聞かせてくれ。」

 

この場合、普段なら悪いニュースを聞いてからいいニュースを聞くのだが今日に限って何となくいいニュースから聞こうとするカヅキ。

 

「帝国が動いた。六十五層を突破した勇者一向に興味を持ったらしく近々使者が来るみたい。」

 

「信憑性は?」

 

「あるよ。大臣同士で話していた。僕はそれを()()()()聞いたんだ。メイド達もそれに向けて迎える準備をしているしね。」

 

そう話すイツキ。耳が良い彼は他人の話をよく立ち聞きする癖があるのだ。

 

()()()()、ねぇ……だが、まぁ好都合だ。直接帝国に行っても門前払いかもしれないからな。これで接触が出来る…で、悪いニュースは?」

 

イツキの癖を理解し悪気がない様子に苦笑し、「帝国との接触方法を考えておくか…」そう思いながらカヅキは悪いニュースについて尋ねてみた

 

「……それに伴って勇者一向が帰ってくる、いや、もうこっちに向かっているみたい。明日の朝にはここに着くみたいだよ。」

 

「マジかよ。俺らは明日、朝帰りだってのに…鉢合わせなんかしたら十中八九…」

 

「天之河君に絡まれるだろうね。持ち前の正義を振りかざして。」

 

「めんどくせーな。作戦で疲れてるのに正義の講義なんてゴメンだぜ…」

 

悪いニュースを聞いた途端、あからさまに嫌そうな顔を浮かべるカヅキ。イツキもそのことが容易に想像できたのか小さなため息をついた。これから月山兄弟はある計画を実行しようとしている。もちろん、カヅキもイツキもこれから行うことが人として、一般論として例え天之河が出しゃばって言わなくても倫理に反することだと理解している。しかし、王国に恩を返すために必要な事でもあった。

そんなことをお互い薄っすら思いつつカヅキとイツキは顔を見合わせて、

 

「…帰りは裏口から入るか、イツキ。」

 

「…そうしよっか、兄さん。」

 

そう言って頷きあった、お互い少々困った顔をしながら。

 

「よし、見送りも済んだことだし、帰って寝るか。じゃあ、今日の夜、待ち合わせ場所で。」

 

そう言ってイツキに背を向けて歩き出し、城の外の野宿先に向かおうとした矢先、

 

「待って、兄さん。本当に今日、あの二人……厚志君と佐助君を連れて行くつもりなのかい?」

 

その言葉にカヅキは足を止めた。そして、イツキの方に振り向くことなく静かに語った。

 

「あいつらには事前に話しをつけて‘’行く‘’と承諾している。これから生きるために必要なことだ。まぁ、出発前にもう一度確認して、心が揺らぐようなら置いていくつもりだがな…。」

 

それだけ言うとカヅキは再び歩き出した。言っていることは理解できた。しかし、大事な親友を戦地に送り込む事にやはり躊躇いがあるのかイツキは複雑そうな表情を浮かべながら、兄の背が見えなくなるまで立ちつくしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優花、奈々や妙子、淳史達が駆け抜けて行く中、黒いローブに身を包んだ一人の青年が物陰から様子を眺めていた。

 

「やるんだ。俺ならできる、俺なら…」

 

自分を鼓舞するかのようにぶつぶつ独り言を呟きながら、その青年は後を追った。

 

 

この行動が後に青年の運命を大きく変わることも知らずに…

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
今回も本当に遅くなりました。あれやこれやと考えていたら何か月もかかってしまいました。本当に申し訳ないです。

今回のお話しはそれぞれに決意がありそれが集まって愛ちゃん護衛隊ができた、というお話しになっています。原作よりも愛ちゃんの護衛隊の男組にもスポットが当たっています。
特徴がないのが相川昇くんで眼鏡をかけているのが仁村明人で合ってますでしょうか? 確か二期の一話を終えてのショートアニメでそんな紹介あったような気がするのですがもっとよく見ていたらと後悔しています。一応二人にも天職は考えてあるのですが決まらないのが現状です。次出るのがだいぶ先になりますのでとりあえず後回しですかね。
見送りに当然のように月山兄弟登場。おくりびとならぬ見送り人ですね。彼らも何やら大きな秘め事があるみたいですが、そのことについてはまたお話ししたいと思います。
そして、最後に登場した青年はご存知の通りの‘’彼‘’です。二次創作では原作同様に殺されたり、場合によっては生かされ仲間になったりと色々ですが、ここではどんな運命を辿るかはまだ秘密です。


さて次回は、スポットを主人公組に戻します。半年ぶりの登場です。実は帝国の使者が来た時の勇者一向の話を予定していたのですが、流石に半年も主人公サイトをほったらかしするのはまずいと思い話を進めます。
始まりはハウリア達がハジメの修行を受けてから10日後、おや、ハウリア達の様子が……?

頑張って執筆しますので応援よろしくお願いします。

それでは今日はこの辺で、ではまた…


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成果を見せる時、シア、乾坤一擲の大勝負


どうもグルメです。

皆さん、大変お久しぶりです。ようやく書き終えたので投稿します。

今回のお話しはクラスメイトサイドから変わって、ハウリア達が修行を決めて10日後の主人公サイドのお話しになります。

それでは、どうぞ。


ハウリア達の決意から10日がたった。修行の終わりと共に旅の再開の今日この日、霧の立ちこむ樹海の中、一人の青年が歩いていた。

 

「久しぶりの登場だぜ。テンション上がるな。」

 

<お前は何を言っているんだ?>

 

スバルの意気揚々として意味不明な言葉に脳内に響くように語りながらツッコミを入れるレオン。今、彼らは10日前に決めた集合場所に向かっており修行でなかなか親友達に会えなかった(すれ違いが多かった)こともあってか久しぶり会うことに楽しみにしているのだった。

 

<それにしてもお前には驚かせるばかりだ。魔物の変化を1つ2つ覚えるどころか5つも覚えるとは。>

 

「へへっ、教えるのがうまかったんだよ。」

 

<それだけじゃない、変化中の持続もだいぶ上がってきている。前から思っていたが、お前には才能があるかもしれないな。>

 

「よしてくれ、笑いが止まらなくなるぜ。」

 

そう言ってべた褒めするレオンの言葉に思わずにやけ顔になるスバル。この10日、レオンの指導の下、変化状態の維持の向上と雷鬼以外の新たな魔物の変化。この二つを重点において修行を行っていたのだ。その成果はレオンの想像を遥かに越えており、魔物の変化は1つ、2つが限界と思いきやあっさり5つも覚え、雷鬼の変化状態時の維持に至っては5分から10分も維持が可能となり、この成果にはレオンも褒めるしか他なかった。

褒められてにやけ顔でいたスバルだったが、ふと急に浮かない顔になり、

 

「…とは言いつつも心残りなのがレオンが教えようとしていた‘’あの‘’魔物の変化、最後まで出来なかったな。」

 

<仕方がない、あれは神獣の一つだ。>

 

「神獣?」

 

聞きなれない言葉に首をかしげるスバル。レオンは話しを続けた。

 

<今は実在しない、太古の時代にいたとされる逸脱した魔物…その総称を‘’神獣‘’と呼ぶ。神獣はそこらの大型の魔物と比べ物にならない程の力と狂暴を兼ね備えトータスに破壊をもたらした存在だ。それ故、変化も並み大抵にはいかない。とてつもなく気力と集中力が必要となってくる…。>

 

「そうなのか? 最初に覚えようとしていた魔物がそんなスゲー奴なんて思わなかったぜ。どうりで上手くいかないわけだ。」

 

この10日間、スバルはその魔物の変化をしようと試みるも何故か全くもって反応がなかったが、その理由が今わかった。要領として雷鬼と同じような感覚で変化しようとしていたからだ。レオンの話しを聞く限りではとてつもなく気力と集中力が必要になってくる。

つまり、普通の変化のやり方ではダメだということが理解できた。

答えがわかったなら色々やりようがある。今からでも早速試したいところだが、その前にスバルは不満そうな顔を浮かべて、

 

「というかレオン、普通のやり方がダメならダメって教えてくれよ~」

 

<…あのな、俺は「少しやり方を変えたらどうだ?」って言ったはずだぞ。>

 

「…ソウダッケ?」

 

急にどこかとぼけた顔をするスバル、レオンはあきれつつも口を開いた

 

<なのにお前ときたら…何もない状況で変化しようとした。いいか、言っとくが雷鬼も神獣の一つだ。それが今や簡単に変化出来るのは感覚で覚えているからだ………思い出せ、初めて雷鬼になったあの時、どんな状況だったか……>

 

「…………あの時って、確か…」

 

スバルが状況を振り返ろうとした矢先、

 

「スバル君!」

 

誰かが呼ぶ声が聞こえてきて思考を停止、声をした方を振り向くと霧の中、うっすら4人の影が見えた。その4人の影は近づいてきて姿を表し、それを見たスバルは自然に笑みが浮かび上がった。

 

現れたのは当麻、士郎、ユエ、シア、それに当麻、士郎の後ろで幽体になっているサラ、クロウだった。

 

「当麻、士郎、久しぶりだな!」

 

「久しぶり、スバル君!」

 

「よう、スバル! ちゃんと修行したか?」

 

10日間ぶりの再会に3人は嬉しそうに話をしていた。

 

『レオン殿、お久しぶりです。』

 

『お久しぶりです、レオン。』

 

<ああ、二人の首尾は?>

 

『そこは問題なく…前よりもだいぶ良くなっています。』

 

『当麻も、心身ともに強くなりました。』

 

<…そうか。こっちもだいぶ仕上がっている。>

 

レオンはレオンでサラ、クロウに挨拶しつつ三人で修行の成果を確認していた。スバル、レオンがそれぞれ挨拶を終えたところで、

 

「久しぶりユエさん。シアちゃん。」

 

<お久しぶりです陛下………それと、シア。>

 

二人は改めてユエ、シアに挨拶をした。

 

「…………………久しぶり。」

 

「えっへへへ、お久しぶりです。スバルさん、レオンさん。あっ、レオンさん。さっきの間がなければもっと良かったです。」

 

どこか不機嫌そうで素っ気ない態度を見せるユエ。そして、それには対照的に機嫌が良く、どこか浮かれている様子のシア。その後、レオンに対してのシアの一言にイラッとしたユエが「ひとこと多い」と言って思い切りに横っ腹をグーパンチ。「はうっ!」とシアがお腹を押さえて地面にうずくまっていた。

それを横目にスバルとレオンは二人の対照的な態度について当麻や士郎達に尋ねた。

 

「なぁ、あの二人に何かあったのか?」

 

<やけに陛下がご機嫌斜めのように見えるのだが?>

 

それを聞いた、当麻や士郎、サラやクロウは苦笑いを浮かべていた。

 

「実は、スバル君とレオンさんが合流する前に…」

 

当麻は二人についての詳細を話してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

ドゴン  ドゴン  ドゴン  ドコォーン

 

樹海の中、凄まじい破壊音が響く。野太い樹が幾本も燃えて炭化した樹や氷漬けになっている樹があり、地面は隕石でも落下したかのようなクレーターがあちこちに出来上がっていた。

 

「でぇやぁああ!!」

 

気配断ちにより霧に紛れ奇襲を仕掛けたウサミミ少女ことシアはその身に似つかわしくない超重量級の大槌(ハジメ特製)をユエに対して大きく振り下ろした。

 

 

ドコォーン

 

 

大きな轟音と共に地面をえぐり、土や石が散弾して周囲に飛び散った。ユエは直撃を受ける前に風に流されるように飛び退いて回避、すかさず反撃に入った。

 

「……緋槍」

 

今までいくつもの樹木を炭化してきた豪炎の槍をシアに向けて放つ。

 

「なんの、です!」

 

シアもぴょんぴょん地を跳ねながら後ろに下がりつつ緋槍を難なくかわすと濃い霧の中に紛れて気配を隠した。

 

「また……小賢しい。」

 

愚痴をこぼしつつ周囲を見渡すユエ。先ほどから攻撃を仕掛けて来ては霧に隠れてのヒット&アウェイを繰り返し、攻撃も全く当たらないことに苛立ちを覚えていた。「どこから来る…?」そんなこと思いつつ神経を研ぎ澄ましてシアを探っていると、

 

「そこか!」

 

瞬時に上を見上げると霧に隠れて黒い影が迫ってきた。目視できるほどはっきり見えてきたのは大きな岩、ユエをすっぽり覆い隠すような大岩がすぐそこまで迫ってきた。

 

「風壁」

 

ユエはとっさになって風の障壁を展開、大岩を軽く押し返すつもりだったが、

 

「シャオラですぅ!」

 

「!? くっ、」

 

大岩に隠れていたシアが風壁で押し返されそうになった大岩に手をつけて力を込めて押し返したことにより再び大岩がユエに迫ってきた。すぐさまさっきよりも強力な風壁で押し返そうとしたが、その隙をシアは逃さなかった。

 

「喰らうですぅ!」

 

「しまっ、目がぁ~!?」

 

シアは大岩を押し返した後、素早く地面に張り付くように着地。そして、起き上がると同時に右腕全体を使って砂や泥が混じった地面をユエ目掛けて巻き上げたのだ。ユエは大岩を押し返そうとした矢先の出来事になすすべもなく見事にヒット、目をやられたのだ。

 

「覚悟!!」

 

シアは目をやられているユエに素早く後ろに回り込み、軽めの左ストレートを喰らわそうとした。しかし、ユエはまるでシアの行動を把握しているかのように落ち着いて静かに呟いた。

 

「…凍柩」

 

「ふぇ!? ちょっ、まっ…」

 

シアは魔法に気がついて必死に静止の声をかけるが聞いてもらえるわけもなく問答無用で氷系魔法が足元から一気に駆け上がり、シアの頭だけ残して全身氷漬けにされてしまった。

 

『そこまで!!』

 

ここでサラの声が樹海に響き、当麻と幽体姿のサラが二人に近づいた。サラは何かを確認するかのようにユエとシアを交互に見ていた。

 

「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」

 

「……あなた良く頑張った。10日という短い期間でここまで戦えるようになったことは胸を張って誇ってもいい…でも、()()()()()()()。これに懲りたら大人しくこの森で、『いいえ、お嬢様…』ん?」

 

ユエが目をゴシゴシしながら話していると突然サラが話を遮り真剣な表情で告げた。

 

()()()()()です。』

 

「え?」

 

「ふえぇ!? それじゃあ…!!」

 

『はい、約束通り旅の同行の説得をしてみましょう。お嬢様はもちろん、私も口添えしますので。』

 

そう言ってサラは笑顔を向けて告げた。

この二人の模擬戦、一見すると10日間のシアの修行の集大成として行われているのだが、実はある賭けが生じていた。それは、シアがユエに対して、10日以内に模擬戦にてほんの僅かでも構わないから一撃を加え、それが出来た場合、シアがハジメ達の旅に同行することをユエが認め、そして、ハジメに同行を願い出た場合に、ユエはシアの味方をして彼女の同行を一緒に説得するというものだ。

ちなみにこの賭けの立会人は当麻、サラ、士郎、クロウである。

 

「やっ、やった! やったーですぅ……!!? ぴ、ぴくちっ! ぴくちぃ! あうぅ…それよりもユエさ~ん。はやく…はやく、魔法を解いてくださ~い。このままだと…帰らぬウサギになってしまいますよ~」

 

可愛らしいくしゃみをし鼻水を垂らしながら、うつらうつらとし始めるシア。その様子を見て、深々と溜息を吐くとユエは心底気が進まないと言う様に魔法を解いた。そして、目をを細めて不満そうな顔でサラに言った。

 

「…納得いかない。傷を受けた覚えはない。」

 

『お嬢様、右の頬を触ってみてください。』

 

目を閉じて静かに告げるサラ。ユエは不満げに言われた通り頬を触ると

 

「…………あっ。」

 

『その傷が何よりも証拠です。』

 

触って初めて気づいたユエ。確かに右の頬に2、3mmの切り傷が残っていたのだ。

 

「あ、確かによく見たら傷が…でも一体いつ?」

 

「たぶん、あの時じゃないか当麻?」

 

「あの時って?」

 

「それは、『私が説明しましょう。』えっ? ああ、頼んだクロウ」

 

そう言って士郎の言葉を遮って入ってきたクロウ。当麻と士郎は「解説がさまになってるな。」と思いつつその解説に耳を傾けた。

 

『結論を言いますとシアが姫の頬に傷をつけたのは彼女が目くらましで砂や泥を巻き上げた時です。それと同時に彼女は既に拾い上げていた小石を砂や泥に隠れるように姫に投げていたのです。』

 

「やっつぱり…」

 

「へぇーそうなんだ。」

 

士郎は思った通りと思い、当麻が感心している中、クロウは解説を続けた。

 

『それと、全て外している大槌の攻撃にも意味はありました。砂や泥を巻き上げやすいように地面をへこましていたのです。丁度この盛り上がっている部分を使うために、…』

 

クロウがシアの大槌でできたクレーターの一つを指さした。クレーターにはリング状に土地が高くなっている部分、‘’リム‘’と呼ばれる部分がある。シアはそこめがけて腕をぶつけて砂や泥を巻き上げたのだ。

 

『そして、この勝敗を大きく分ける運命の分岐点は彼女が投げた大岩にあります。』

 

「あの大岩が? 何か仕掛けがあったの?」

 

当麻はふとシアが投げてユエが吹き飛ばした大岩を見たが、どう見てもただの大岩で自分が持ち上げるのは到底無理だろうというくらいしか思いつかなかった。

するとここで不機嫌そうにユエが、

 

「私の判断ミス。ただそれだけ…」

 

「えっ?」

 

その言葉にまたもや?を浮かべる当麻、それを見かねた士郎は

 

「要するに、ユエさんの実力ならあの大岩、他にも防ぎようがあった、そうだろクロウ?」

 

『ええ、そうです士郎。姫の実力ならあの大岩、真っ二つにでもして防ぐことは可能でした。こればっかりは姫の判断ミスです。もし、大岩を真っ二つにされていたら目くらましも防がれ彼女の勝利はなかったでしょう。作戦としましては少し詰めが甘いと言いますか、まぁ運に助けられて成り立った、と言っていいでしょう。』

 

『ですが、何もない所から10日間でここまで勝利に繋がる作戦を立てて、お嬢様の動きに対応出来ているのは成長している証、評価はするべきですね。』

 

「なんか話を聞いていると考えさせられるな。僕も色々作戦を立てられるようにしないと。」

 

士郎、クロウ、サラ、当麻、それぞれが思っている事を口にする中、シアは真剣な眼差しで一人ユエに近づいた。

 

「ユエさん。私、勝ちました」

 

「………………ん」

 

「約束しましたよね?」

 

「……………………ん」

 

「もし、十日以内に一度でも勝てたら……ハジメさんとユエさんの旅に連れて行ってくれるって。そうですよね?」

 

「…………………………ん」

 

「少なくとも、ハジメさんに頼むとき味方してくれるんですよね?」

 

「……………………………士郎、今日のごはん何だっけ?」

 

「えっー、そこで俺に振るのかよ…」

 

「ちょっとぉ! 何いきなり誤魔化してるんですかぁ! しかも、誤魔化し方が微妙ですよ! ユエさん、ハジメさんの血さえあればいいじゃないですか! 何、ごはん気にしているんですか!」

 

そう言ってツッコミを入れる士郎をよそにぎゃーぎゃーと騒ぐシア。ユエは心底鬱陶しそうな表情を見せいた。そして、この様子にサラは、

 

『いけません、お嬢様! 王女たるものが簡単に約束を破っては!!』

 

そう言って 責するもユエは視線をそらし不貞腐れるように

 

「私、もう王女じゃない…」

 

『王女じゃなくても人として、交わされた約束は守るものです!』

 

「サラ、私吸血…『お・嬢・様?』……ワカリマシタ、ヤクソクマモリマス。」

 

サラの満面に笑ってない笑顔を見たユエは流石にマズイと思ったのかどこか棒読みで応じた。

 

「ユエさん、ホント、お願いしますね?」

 

「……………ん」

 

シアの言葉に渋々不機嫌そうに応じるユエ。この返事に多少の不安は残しつつも、ハジメ同様に約束を反故にすることはないだろうと一先ず安心と喜びの表情を浮かべるシア。

 

 

 

その後、ユエ、シア、士郎にクロウ、当麻とサラはそろそろ、ハジメのハウリア族への訓練も終わる頃だと思い、集合場所に向かおうとした所にばったりとスバル、レオンに出くわすのだった。

 

 

 

 

 

 

「へぇー俺が修行している時にそんなことがあったんだ。知らなかったぜ…」

 

「スバル君、この10日間ほとんど入れ違いでしゃべることありませんでしたしね。」

 

「そうそう。俺と当麻、ハジメは結構一緒になることは多かったけど、お前ときたら拠点で誰よりも早く寝て、誰よりも早く起きて修行してたもんな。」

 

「仕方ねぇだろ、能力使うと滅茶疲れるし、修行を終えた後なんか身体中くたくた。帰ってくるのがやっとなんだぜ? 朝は朝でもっと寝ていたいのにレオン起こされるしさ。」

 

当麻からユエとシアにあった出来事を聞いて驚きつつ、この10日間を思い返してみた。当麻、士郎が言う通り入れ違いで誰としゃべることなく修行ばかりしており修行を終えて帰って来ても疲れで眠気襲ってきて誰かを待って話す気力もなかった。そして、朝になるとレオンにたたき起こされて誰よりも早く修行に取り掛かったのだ。

 

<だが、その分の成果はデカい。いずれやっといて良かったということが来るはずだ…それよりも気になるのは…>

 

そう言ってレオンが一呼吸おいて、

 

<シア、お前は何故この旅に同行する? 前にも話したがこの旅は危険が伴う過酷な旅だ。サラやクロウが認める以上、前の自分よりもさぞかし強くなったのだろうと思う。故に分からない。危険を冒してまで旅に同行する理由が…>

 

ユエに傷をつけるだけの力を得て、クロウやサラが認められるなら十分にこの樹海で一族と一緒にやっていけるはず。それなのにユエに賭けを用いてまでこの旅に同行することにレオンは到底理解出来なかった。

 

レオンの問いかけにシアは少し頬を赤くしてモジモジしながら口を開いた

 

「その……ここでは……言えません…」

 

<…何故?>

 

「ですから、それは…」

 

シアが回答に困っているとスバル達が助け舟を出してきた。

 

「まぁまぁレオン。そんなにせかさなくてもいいだろ? まだハジメが揃ってない、全員揃ってからでも説明は遅くはないと思うぜ。」

 

「スバルの言う通りだな。」

 

「ここで説明したらまた、ハジメ君の前で説明しないといけませんから二度手間がかかってしまいますね。」

 

スバル、士郎、当麻がそう言うとレオンは静かに「…わかった」と告げて黙り込むのだった。

 

「みなさん…ありがとうございます。」

 

シアはスバル達に深く頭を下げた。

 

「いいってことよ、さあ、早くハジメの所に行こうぜ。」

 

スバルの言葉に全員が頷き、一行はハジメやハウリア達がいる集合場所に向かって歩き出した。

 

 

 

 

一行がそれぞれこの10日間の出来事を話しながら歩いていると集合場所にハジメの姿が見えてきた。

 

「おっ、ハジメ~!!」

 

スバルが少し離れたところから手を振ると、ハジメも気づいたのか右手で軽く手を振り返した。一行がハジメの所に集まった所で、

 

「久しぶりだなスバル。元気だったか?」

 

「元気、元気!」

 

「レオンもお久しぶりです。スバルの首尾の方は?」

 

<問題ない。より一層強くなっている。>

 

「そうですか、それが聞けて安心しました……スバルも頼むぜ。お前の能力、あてにしているからな」

 

「おう、任せろ。」

 

二人がそう言っていると、いきなりシアが割り込んできた。

 

「ハジメさん! ハジメさん! 聞いて下さい! 私、遂にユエさんに勝ちましたよ! 大勝利ですよ! いや~、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりを! 負けたと知った時のユエさんたらもへぶっ!?」

 

身振り手振り大はしゃぎという様相で戦いの顛末を語るシア。調子に乗りすぎて、ユエの膝蹴りを食らい「はうっ…」と情けない声と共に地面に倒れ込んだ。よほど強烈だったのかピクピクとして起き上がる気配がない。

フンッと鼻を鳴らし更に不機嫌そうにそっぽを向くユエに、ハジメが苦笑いしながら尋ねる。

 

「で? どうだった?」

 

二人が何かを賭けて勝負していることは聞き及んでいたハジメは勝負の結果というより、その内容について質問した。この時、まだ正直、どんな方法であれユエに勝ったということが信じられなかったのだ。

ユエは話したくないという雰囲気を隠しもせず醸し出しながら、渋々といった感じでハジメの質問に答えた。

 

「……魔法の適性はハジメと変わらない」

 

「ありゃま、宝の持ち腐れだな……で? それだけじゃないんだろ?」

 

「……ん、身体強化に特化してる。正直、化物レベル」

 

「……へぇ。俺と比べると?」

 

ユエの評価に目を細めるハジメ。正直、想像以上の高評価だ。珍しく無表情を崩し苦虫を噛み潰したようなユエの表情が何より雄弁に、その凄まじさを物語っていた。ユエは、ハジメの質問に少し考える素振りを見せるとハジメに視線を合わせて答えた。

 

「……強化してないハジメの……六割くらい」

 

「マジかよ……」

 

ユエの言葉に啞然としているハジメ、ここでサラが更に驚愕の事を口にした。

 

『ハジメ殿、私も少々彼女の鍛錬を見ていたのですが鍛錬次第ではまだ成長の見込みはあります。おそらく上手くいけば……スバルとレオンの雷鬼と肩を並べるかと…』

 

「……噓だろ?」

 

「へぇー、シアちゃんそんなに強くなるんだ。」

 

<ほぅ…>

 

サラの言葉にハジメはただただ言葉を失い、スバルはスバルで気楽に見えて内心驚愕しており、レオンも同様に感情が乏しいように見えて内心は驚いてた。当麻や士郎、クロウもシアの秘めたる力に驚いている中、倒れているシアが立ち上がった。

ハジメが呆れ半分驚愕半分の面持ちで眺めている事に気がつくと身体についていた砂を払いのけ、急く気持ちを必死に抑えながら真剣な表情でハジメのもとへ歩み寄った。背筋を伸ばし、青みがかった白髪をなびかせ、ウサミミをピンッと立てる。これから一世一代の頼み事、緊張に体が震え、表情が強ばるが、不退転の意志を瞳に宿し、訝しむハジメの眼前にやって来るとしっかり視線を合わせて想いを告げた。

 

「ハジメさん、私を「断る!」即答!? しかも最後まで言えてないです~!」

 

間髪を入れずの回答にシアは憤慨し地面を踏みつけるように足をジタバタした。そんなシアをハジメは面倒くさそうに見つめ、呆れながら口を開いた。

 

「あのな~お前らを助けたり、強くしたりしたってのにまだ要求するのかよ? 分かってはいたけど図々しいぞ。それと、‘’旅に連れていけ‘’というのは言わずとも分かっていた。出会った当初から諦め悪かったんだ。俺たちに総スカン喰らっても諦めきれてないことくらい目に見えていたさ。」

 

さも当然のように言い切るハジメ、最もこれ以上お願いを聞くつもりはなかったのでシアが何を言ってきてもハジメの答えは「断る」の一点張りだった。シアは「うぅ…」と唇を噛みながら可愛らしく睨みつけてきたのでハジメはため息を吐いて、気になることを口にした。

 

「そもそもカム達どうすんだよ? まさか、全員連れて行くって意味じゃないだろうな?」

 

その言葉にシアは慌てながら答えた。

 

「ち、違いますよ! 今のは私だけの話です! 父様達には修行が始まる前に話をしました。一族の迷惑になるからってだけじゃ認めないけど……その、」

 

「その? なんだ?」

 

何やら急にモジモジし始めるシア。指先をツンツンしながら頬を染めて上目遣いでハジメをチラチラと見る。実にあざとい仕草にハジメが不審者を見る目でシアを見て、傍らのユエがイラッとした表情で横目にシアを睨んでいる。周りにいるスバル達は気づいているのかどこかニヤニヤしており、クロウ、サラはあたたかい目で事の結末を見守っていた。

 

<……?>

 

唯一レオンだけがハジメの味方なのか未だシアの心情を理解できずにいた。

そんな中、シアの一世一代のカミングアウトは終盤に差し掛かった。

 

「その…父様は…私自身が、付いて行きたいと本気で思っているなら構わないって……」

 

「はぁ? 何で付いて来たいんだ? 今なら一族の迷惑にもならないだろ? それだけの実力があれば大抵の敵はどうとでもなるだろうし、第一わざわざ何で危険が伴う俺たちの旅に同行したがるんだ?」

 

「で、ですからぁ、それは、そのぉ……」

 

モジモジしていたシアだったが覚悟が決まったのか「女は度胸!」と言わんばかりに声を張り上げた。

 

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ! しゅきなのでぇ!」

 

「…………………………は?」

 

 「言っちゃった、そして噛んじゃった!」と、あわあわしているシアを前に、ハジメは鳩が豆鉄砲でも食ったようにポカンとしていた。そして、レオンも静かながら驚愕していた。

 

<……こりゃあ、驚いたな。>

 

「レオン、気付かなかったのか?」

 

<……全然。>

 

「たぶん、ハジメとレオン以外全員知ってたと思うぞ。」

 

<マジか…>

 

自分とハジメ以外みんな知っていたことをスバルに告げられ更に驚いている中、ハジメもようやく意味が脳に伝わったのか思わずといった様子でツッコミを入れる。

 

「いやいやいや、おかしいだろ? 一体、どこでフラグなんて立ったんだよ? 自分で言うのも何だが、お前に対してはかなり雑な扱いだったと思うんだが……まさか、そういうのに興奮する口か?」

 

自分の推測にまさかと思いつつ、シアを見てドン引きしたように一歩後退るハジメ。これにはシアが猛然と抗議した。

 

「誰が変態ですか! そんな趣味ありません! っていうか雑だと自覚があったのならもう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか!!」

 

「いや、何でお前に優しくする必要があるんだよ……そもそも本当に好きなのか? 状況に釣られてやしないか?」

 

「何言っているですか! 状況が全く関係ないとは言いません! 窮地を何度も救われて、同じ体質で……長老方に啖呵切って私との約束を守ってくれたときは本当に嬉しかったですし、それに私に対しても…………私に対しても………………………………あれ? ホントに何で好きなんだろ? あれぇ~?」

 

話している間に出てくるのは数々の暴言と雑の扱いされてきた事ばかり、自分で自分の気持ちを疑いだし首を傾げるシアにハジメはまたも深いため息交じり、頭を抱えながらシアに告げた。

 

「とにかくだ。お前がどう思っていようと連れて行くつもりはない。」

 

「そんな! ちゃんと好きな気持ちは変わらないのですから連れて行って下さい!」

 

「あのなぁ、お前の気持ちは……まぁ、本当だとして、俺にはユエがいるって分かっているだろう? というか、よく本人目の前にして堂々と告白なんざ出来るよな……前から思っていたが、お前の一番の恐ろしさは身体強化云々より、その図太さなんじゃないか? お前の心臓って絶対アザンチウム製だと思うんだ」

 

「誰が、世界最高硬度の心臓の持ち主ですか! うぅ~、やっぱりこうなりましたか……ええ、わかってましたよ。ハジメさんのことです。一筋縄ではいかないと思ってました」

 

突然、フフフと怪しげに笑い出すシアに胡乱な眼差しを向けるハジメ。

 

「こんなこともあろうかと! 命懸けで外堀を埋めておいたのです! ささっ、ユエ先生! お願いします!」

 

「えっ? ユエ?」

 

完全に予想外の名前が呼ばれたことに素早くユエに目線を転じる。

ユエは、苦虫を百匹くらい噛み潰したような表情でやはり言いたくないのか口を富士山のように尖らせながら(珍しい表情にサラが少々興奮していた。)心底不本意そうにハジメに告げた。

 

「……………………………………ハジメ、連れて行こう」

 

「いやいやいや、なにその間。明らかに嫌そう……もしかして勝負の賭けって……」

 

「……無念」

 

ガックリと肩を落とすユエに大体の事情を察したハジメ。するとここでサラがハジメの目の前に現れて真剣な眼差しで口を開いた。

 

『ハジメ殿、私からもお願いします。彼女、いえ…シア殿を旅に同行させてやってください。シア殿はこの10日間、弱音を吐くことなく鍛錬に励み、死に物狂いで何度もお嬢様に挑んではやられ、そして今日、お嬢様の頬に傷をつけました。並み大抵に出来ることではありません、ここまでこれたのもハジメ殿に対しての純粋な想いがあってこそ出来たこと…この想いと努力が報われるためにも、ここはどうか…』

 

そう言って頭を下げるサラ。ここまでサラがするのは単に約束だけという理由ではない、10日間という短い期間での驚異的な成長に加え、‘’あなたの横に立ちたい‘’‘’みんなと一緒にいたい‘’という想いともに敗れても敗れても何度でも立ち上がるシアの姿に感銘されたのだ。

 

サラのこの行動にハジメは苦笑いを浮かべつつ頭をガリガリと搔きながらサラに対して尋ねた。

 

「でも、いいんですが? シアの奴は堂々と告白してきました。今後、俺に対して積極的にアプローチしてくると思うのですけど…」

 

これまでサラを見てきたがハジメと同等もしくはそれ以上にユエことを大切に想っている故にアニメやゲームの影響もあって脳裏では「お嬢様の恋を邪魔する者は例え何人たりとも排除する」という勝手なイメージが出来上がっていたのだ。

どこか恐る恐るに尋ねるハジメにサラは疑問に思いつつもあっさりと答えた。

 

『問題ありませんよハジメ殿。シア殿があなたに好意を抱いているのは明白、それでもお嬢様に対する想いが変わらなければ私は何も言いません。むしろ受け入れて結構です。この世界は一夫多妻は珍しくありませんしね。』

 

「でもな、俺の世界は複数の女性を持つことは許されないし、第一ユエがどう言うか…………」

 

ハジメが帰る世界はほとんどが一夫一妻であり、いくらアニメや漫画の世界で複数の女性と親密な関係を築いていく主人公を見てきたとしても実際に自分がそんな立場に立つと戸惑いがあり、さらに言うとハジメは生涯ユエを愛し、ユエのためなら何でも尽くすと決めた身でありユエもそれを快く受け入れている。そんな仲で横槍が入るようにシアが迫ってきたらユエからしたらたまったものではない。それに今まで様子からして今後仲良くやっていけるかも不安である。

困惑と不安が混ざり合い、あまりいい顔をしないハジメにサラ『ふふっ』と笑みを浮かべて

 

『少なくともお嬢様はシア殿を邪険には想ってないですよ。』

 

「えっ?」

 

「へっ?」

 

サラの言葉にハジメだけでなくシアも驚き同時にユエの方を見た。

 

「…フン。」

 

二人に見られてそっぽを向くユエ。出会いの当初はあまり良い印象を抱いていなかったがシアから賭けを持ち出され、この10日間でシアの‘’想い‘’と‘’真剣‘’を読み取り、多からずだがサラと同様に感銘を受けていたりするのだった。

嬉しさのあまり思わず「ユエさん…」とシアは言葉を漏らす中、今まで静観していた者達が口を開いた。

 

「ハジメ、とりあえず恋愛の事は置いといて仲間として連れて行ったらどうだ?」

 

「士郎君の言うとおり、僕も賛成です。強さも師匠からお墨付きを貰っていることだし。」

 

『それに彼女が持つ‘’未来視‘’も今後、役に立つかもしれません。』

 

士郎の言葉に賛同するかのように当麻、クロウ。そして、スバルは、

 

「ハジメ、ここまで来たら反対はないだろ? 受け入れようぜ。シアを仲間として!」

 

<俺はこんな身だ。これ以上、何も言うことはない>

 

白い歯を見せるようにニィと笑うスバルに、どこか投げやりなレオン。

 

「おまえらな…」

 

どこか他人事のように聞こえる仲間達の声にため息をつくハジメ、そして、再度ユエを見た。

 

「……フン」

 

相も変わらずそっぽを向いており、何となくだが「好きにすれば?」と言いたそうな顔だった。やれやれと思いつつ、最後にシアの顔を見た。

再びウサミミをピンッと立て不退転の意志を瞳に宿してハジメの顔を見ていた。ハジメは真意を確かめるようにシアの顔を見つめながら口を開いた。

 

「………言っておくがお前の想いに応えるつもりはない。そして、生温い旅じゃないし二度とここには戻っては来れない……‘’それでも‘’ついてくるのだな?」

 

「……‘’それでも‘’です、ハジメさん。もう、覚悟はとうに決まっています………それと、未来は絶対じゃあありません。必ず振り向かせてみせます!」

 

「ですから…」と前置きして

 

「……私も連れて行って下さい。」

 

静かにそう告げるシアにハジメは真意を確認するように蒼穹の瞳を覗き込んだ。みんなが固唾を吞みながら見守る中、その時が来た。

 

「………………はぁ~、勝手にしろ。物好きめ」

 

その瞳に何かを見たのか、ハジメは溜息をつきながらシアを連れて行くことを決めた。

 

その瞬間、樹海の中に一つの歓声と、不機嫌そうな鼻を鳴らす音、そして、「おめでとう!」「よろしくな!」と新たな仲間を歓迎する親友達の声が響き渡った。その様子に、ハジメは、いろんな意味でこの先も大変そうだと苦笑いするのだった。

 




いかがだったでしょうか?

約5ヶ月ぶりの投稿になりました。この5ヶ月、自分の身に色々ありまして小説が書けない時もあれば、やる気が起きなかったり、話しをどう纏めるか悩んだりして、それでも何とか書き上げて投稿するに至りました。

応援してくださる皆さま、遅くなったこと深くお詫び申し上げます。


さて、今回の見どころはユエとシア戦闘シーン。
原作と比べるとだいぶ違っています。ここで差別化するためにだいぶ悩みました。上手く戦闘シーンが読者に伝わっていたら幸いです。
あとは、原作にはないオリジナルキャラ達のやり取り。
原作と比べて登場人物が多いので上手く話しを纏めるのも苦労しました。出し過ぎず、かと言って置いてけぼりにならないようにしました。まぁ、毎回意識していることなのですが。
それと、本当は強くなったハウリア達も登場させてフェアベルゲンとの騒動も書く予定でしたが文字数が多くなりそうなので次回に回します。
本当に申し訳ないです……


それでは、今日はこの辺でおきたいと思います。次回も頑張って執筆しますので応援よろしくお願いします。

それでは、また……。


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…おや!? ハウリアのようすが…! 前編


皆さんお久しぶりです。グルメです。

前の投稿からほぼ1年、放置していたことお許しください。

今回のお話しはハジメの修行を終えたハウリア達のお話し。果たしてどのような成長を遂げたのでしょうか…


それでは、どうぞ。



 

「ところで父様や他のみんなはどこにおられるのですか?」

 

スバルや当麻、士郎達等から祝福の言葉をある程度受け取ったあと、周りにカムや他のハウリア達がいないことに気づいたシアはハウリア達が強くなるために指導に入ってくれたハジメに尋ねた。すると、ハジメは、

 

「えっ…………ああ、カム達な、ハイハイあいつら…ね、その…上位の魔物を狩って来るように頼んでいるんだよ。ほら、訓練卒業の課題の一環として……」

 

「上位の魔物って…父様や他のみんなはそこまで強くなったのですか!?」

 

「あ~…ああ、強くなった。もう見違えるほど強くなったよ…見たら驚くぜ。いや、本当にあいつら、強くなったな……ハハッ……ははははは…」

 

「ハジメ、さん?」

 

ここでようやく違和感を感じ取ったシア。さっきのクールの様子から一変してどこか他人行儀のような、何か言うのをためらっているように見えた。

そして、これはシアだけでなくスバルや当麻、士郎も同様でどこか挙動不審な親友に違和感じており、見守る立場にあるレオンやクロウは長年の経験から、サラに至ってはハジメの気の流れから何か隠していることを見抜いていた。

 

「ハジメ…?」

 

ユエも当然、何かを隠していることを見抜いており不安げな表情と声共にハジメを見つめた。

 

 

 

皆が疑心暗鬼な目でハジメを見つめ、それに耐えられずハジメがそっぽを向いていると、

 

「あっ! 帰ってきたみたいですよ。」

 

当麻が近づいてくる複数の気の流れを読み、目を向けた。皆が当麻が向く方に顔を向けると、霧をかき分けて数人のハウリア族が現れ、まっすぐハジメの方に向かってきた。久しぶりに見た家族に思わず頬を綻ばせるシア。

思えば、本格的に修行が始まる前、気持ちを打ち明けたときを最後として会っておらず、たった十日間とはいえ、文字通り死に物狂いで行った修行は、日々の密度を途轍もなく濃いものだった。そのため、シアの体感的には、もう何ヶ月も会っていないような気がしたのだ。早速、みんなに話しかけようと駆け寄るシア。

しかし、シアは話しかける寸前で、発しようとした言葉を呑み込んだ。ハウリア達が発する雰囲気が何だかおかしいことに気がついたからだ。もちろん、ユエやスバル達、レオン達も同様に気づいておりハウリア達を注視した。

やって来たハウリア達はシアを一瞥すると僅かに笑みを浮かべ、ある者は軽く会釈した後、直ぐに視線をハジメに戻した。そして……

 

「「「「()()。お題の魔物、きっちり狩って来ました!!」」」

 

「ボ、ボスぅ!?」

 

 ハウリア達の言動に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視して、彼らはこの樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。

 

「……俺は一体でいいと言ったと思うんだが……」

 

 ハジメの課した訓練卒業の課題は上位の魔物を一チーム一体狩ってくることだ。しかし、眼前の剥ぎ取られた魔物の部位を見る限り、優に十体分はある。ハジメの疑問に対し、ハウリア達は不敵な笑みを持って答えた。

 

「いや、それがですね…殺っている途中でお仲間がわらわら出てきまして……生意気にも殺意を向けてきたもんですから丁重にお出迎えしてやったんですよ。だよな? みんな?」

 

「そうなんですよ、ボス。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」

 

「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」

 

「ウザイ奴らだったけど……いい声で鳴いたわね、ふふ」

 

「見せしめに晒しとけばよかったか……」

 

「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」

 

 不穏な発言のオンパレード、全員、元の温和で平和的な兎人族の面影が微塵もなく、ギラついた目と不敵な笑みを浮かべたままハジメに物騒な戦闘報告をする。それを呆然と見ていたシアは一言、

 

「…………誰?」

 

魂が抜けたようにただただ呆然とするしかなかった。そして、この光景を見た他の者たちはと言うと、

 

「  (・×・)  」

 

あまりの変わりっぷりにミッ○ィーのような顔で驚くユエ

 

「(え? ナニコレ? ドッキリ??)」

「(いやいやいや、そんなわけないだろスバル。正真正銘のハウリア族だって……だよな当麻?)」

「(それは…そうだと思います…よ? でも、温厚なハウリアかあんな発言をするなんて…僕、想像できないな…)」

 

耳の良いハウリア達には聞こえているにも関わらずハジメの後ろでハウリア族の豹変ぶりに若干引きながら、ひそひそ話しをする三人組。

 

<(クロウ、サラ、何か知っているか…?)>

 

『(私も久しぶりに見ましたので、こればかりはどうなっているのかさっぱりでして…)』

 

『(同じく私も。それにしても尋常じゃない荒々しい殺気…兎人族とは到底思えません。)』

 

冷静にレオンは周りに聞かれないように念話を使い、少し戸惑いを見せるクロウ、サラに尋ねた。しかし、ハウリア族に関わっていなかったためか理由を知らないと言い放った。

 

ハジメの後ろで様々な反応を見せる中、ここでようやくシアの意識が戻り、ハジメの胸ぐらを掴んだ。

 

ど、どういうことですか!? ハジメさん! みんなに、か、家族達に一体何がっ!?

 

「お、落ち着け! ど、どういうことも何も……訓練の賜物だ……」

 

いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ!? 完全に別人じゃないですかっ! ちょっと、目を逸らさないで下さい! こっち見て!

 

「……別に、大して変わってないだろ?」

 

貴方の目は節穴ですかっ! 見て下さい! 彼なんて、さっきからナイフを見つめたままウットリしているじゃないですか! あっ、今、ナイフ‘’ジュリア‘’って呼びかけた! ナイフに名前つけて愛でてますよっ!? 普通に怖いですぅ~

 

樹海に焦燥に満ちた怒声が響いた。シアは、そんな変わり果てた家族を指差しながらハジメの胸ぐらを激しく揺さぶり事情説明を迫るも、ハジメはどことなく気まずそうに視線を逸らしながらも、のらりくらりとシアの尋問を躱わしていた。ハウリア族はハウリア族で頭上に?を浮かべるかのような表情でシアとハジメのやり取りを見ていた。すると、ここで

 

「なぁハジメ、ハウリア達に何があったんだ? もったいぶらず俺らにも教えてくれよ。」

 

ハジメの後ろに控えていた者たちの疑問を代弁するかのようにスバルが尋ねた。そちらを振り向くと、姿を持たないレオンを除いてじっーとハジメを見つめていた。ハジメは観念したのか「実はな…」と前置きして話し始めた。

 

 

 

 

 

 訓練1日目、ハジメは、ハウリア族を訓練するにあたって、まず、宝物庫から錬成の練習用に作った大型ナイフや小太刀を彼等に渡した。これらの刃物は、ハジメが精密錬成を鍛えるために、その刃を極薄にする練習の過程で作り出されたもので切れ味は抜群、タウル鉱石製なので衝撃にも強く、かなりの強度を誇っている。

そして、ハウリア達にその武器を持たせた上で基本的な動きを教える。もちろん、ハジメに武術の心得などなく、あってもそれは漫画やゲームなどのにわか知識に過ぎず他者に教えられるようなものではない。教えられるのは、奈落の底で数多の魔物と戦い磨き上げた‘’合理的な動き‘’のみ。 ハウリア族の強みは、その索敵能力と隠密能力。いずれは、奇襲と連携に特化した集団戦法を身につければいいとハジメは考えていた。      

故に今日1日の内に徹底的に動きを叩き込み、明日から実践がてら適当に魔物をけしかけて経験を積ませる。そういうプランを考えていたのだが、訓練2日目にして事件は起こった。

 

 

 

 

 

バキッ!

 

「グハッ!!?」

 

「「「「ぞ、族長!!!??」」」」

 

 瀕死の魔物が、最後の力で己を殺した相手に一矢報いる。体当たりによって吹き飛ばされたカムが倒れ、他のハウリア達が駆け寄った。

 

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか……当然の結果だな……」

 

 その言葉に周囲のハウリア族が瞳に涙を浮かべ、悲痛な表情でカムへと叫ぶ。

 

「族長! そんなこと言わないで下さい! 罪深いのは皆一緒です!」

 

「そうです! いつか裁かれるときが来るとしても、それは今じゃない! 立って下さい! 族長!」

 

「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。族長、行けるところまで一緒に逝きましょうよ」

 

「お、お前達……そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。死んでしまった彼(まるまる太ったネズミっぽい魔物)のためにも、この死を乗り越えて私達は進もう!」

 

「「「「「「「「族長!」」」」」」」」

 

いい雰囲気のカム達。そしてそれを見ていたハジメは、

 

「あぁーーー! やかましいわ、ボケッ!! 魔物一体殺すたびに、いちいち大げさなんだよ! なんなの? その三文芝居!? 何でドラマチックな感じになってんの? 黙って殺れよ! 即殺しろよ! 魔物に向かって‘’彼‘’とか言うな!」

 

そう言って怒号を飛ばすハジメ。ハウリア族達は頑張って魔物を倒しているのだが、ハウリアの性質故なのか、魔物を倒すたびに訳のわからないドラマが生まれるのだ。かれこれ100回以上はこの光景を見ており、最初の頃は「まぁ、いいか…」と思って見ていたが10、50、と回数が増えるたびに額に青筋が量産され、夕暮れ時になってようやく限界がきて爆発に至ったのだ。

ハジメの怒りに ビクッと体を震わせるハウリア達、しかし、「そうは言っても……」や「だっていくら魔物でも可哀想で……」と危機感のない言葉をブツブツと呟きだし、ハジメは再び額に青筋が生産されて行った。

 

するとここで、ハウリアの少年がハジメに駆け寄ってきた。この少年、ライセン大峡谷でハジメに助けられてから懐いている子で名をパルと言う。パルはハジメにを宥めようと近づくも一歩手前で、突如、その場を飛び退いたのだ。

 

「? どうした?」

 

訝しそうにハジメが尋ねると、パルは、そっと足元のそれに手を這わせながらハジメに答えた。

 

「あ、うん。このお花さんを踏みそうになって……よかった。気がつかなかったら、潰しちゃうところだったよ。こんなに綺麗なのに、踏んじゃったら可愛そうだもんね」

 

「お、お花さん?」

 

その言葉にハジメの頬が引き攣る。パルは気づかないのか嬉しそうに話を続けた。

 

「うん! ハジメ兄ちゃん! 僕、お花さんが大好きなんだ! この辺は、綺麗なお花さんが多いから訓練中も潰さないようにするのが大変なんだ~」

 

ニコニコと微笑むウサミミ少年。周囲のハウリア族達も微笑ましそうに少年を見つめていた。思い返せば、訓練中、ハウリア族は妙なタイミングで歩幅を変えたり、移動したりしているのがハジメにとって違和感に感じていたのだ。「もしや…」と思い、ハジメは頬を引き攣りながら尋ねた。

 

「お前等…まさか、妙なタイミングで跳ねたり移動したりするのは……その‘’お花さん‘’とやらが原因か?」

 

「いえいえ、まさか。そんな事ありませんよ」

 

「ハハッ、そうだよな?」

 

苦笑いしながらそう言うカムに少し頬が緩むハジメ。しかし……

 

「ええ、花だけでなく、虫達にも気を遣いますな。突然出てきたときは焦りますよ。何とか踏まないように避けますがね。」

 

それを聞いたハジメは途端に額に手を当てて頭を抱えだし、地面に向けて大きくため息をついたのだ。ハウリア達は「何か悪いことを言ったかな?」とオロオロと顔を見合わせていた。そして、数十秒の沈黙の後、ハジメは地面を見ながらゆっくり恨めしそうに口を開いた。

 

「ああ、よくわかった。よ~くわかりましたともさ。俺が甘かった。俺の責任だ。お前等という種族を見誤った俺の落ち度だ。ハハ、まさか生死がかかった瀬戸際‘’お花さん‘’だの‘’虫達‘’だのに気を遣うとは……てめぇらは戦闘技術とか実戦経験とかそれ以前の問題だ。もっと早くに気がつくべきだったよ。自分の未熟に腹が立つ…」

 

「は、ハジメ殿?」

 

どこか様子がおかしいハジメに気づいたカムは恐る恐る話しかけると、

 

ドパンッ!

 

いきなりドンナーによる発砲が響き渡り、カムがくの字のように後ろに吹き飛んだ。カムの後ろに控えていた数人のハウリア達も巻き込んでドサッと倒れ落ちるカム。カムの腹には撃ち抜いた非致死性のゴム弾がねじ込まれていた。これを見ていたハウリア達は当然のごとく阿鼻叫喚に悲鳴を上げてパニックになり「何故!?」「どうして!?」と思いながら叫んでいると、

 

ドパンッ!

 

「F○○k you! ぶち殺すぞ! この‘’ピッー‘’共!!」

 

ドンナーの発砲が響くと同時に今まで聞いたことないハジメの怒号が飛んできてハウリア達はビクッとなり、一瞬の内に静かになった。それでも構わずハジメは声を荒げた。

 

お前たちは皆まるで子供のように優しさを持っていたら守ってくれる、救いの手を差し伸べるてくれると臆面もなくまだそんな風に考えていやがる…甘えるな!! この世界は誰も救いの手など差し伸べてくれない!! お前らは今まで甘えに甘えて、戦いもせず逃げて逃げまくり、負けに負け続けたどうしようもない弱い‘’ピッー‘’共だ!! 弱い‘’ピッー‘’に元来権利など何もない、この森の中でも外でもだ!! いいか? お前らが今なすべき事は…戦って勝つ…勝つことだ! 戦って勝てたらいいな…じゃない、勝たなきゃダメなんだ!! 戦いもせず勝ちもせず生きようとすることがそもそも論外…ここででまた戦わず逃げて負けるような奴の運命など……もう知らん! 本当に知らん! そんな奴はもうどうでもいい!! 勝つことが全てだ、勝たなきゃ虫けら以下だ!!

 

「「「「…………。」」」」

 

ハジメの言葉にハウリア達は胸を打たれたのかどことなく顔つきが良くなった…ように見えた。ハウリア達がハジメの言葉に余韻を浸っていると、

 

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

何、ぼさっとしている? わかったら一体でも多く魔物を狩りに行け! 逃げる奴はどこまでも俺の的だ! この‘’ピッー‘’共!! カム、お前もいつまで腹おさえているんだ!? とっとと行け! クソガキてめえもだよ!!

 

すかさずハジメは近くにいたハウリア達にゴム弾を発砲、ハウリア達の意識が現実に戻され、腕や腹を抑えながら、わっーと蜘蛛の子を散らすように樹海へと散って行き、パルも一足遅れギャン泣きしながら後を追った。

それ以降、樹海の中‘’ピッー‘’を入れないといけない用語とハウリア達の悲鳴と怒号、ドンナーの発砲音が飛び交い続けたのだった。

 

 

 

 

 

「……まぁ、そいうことがありまして、その結果が‘’アレ‘’だ。」

 

「「「「………………。」」」」

 

そう言って悪びれる様子もなく語りを終えるハジメ、それを聞き終えた皆はあまりの出来事に茫然とし、黙り込んでいた。しばらく沈黙が流れていたが、

 

<そうはならんやろ!>

 

なっとるやろうがい! …………ごめん、言いたかっただけなんだ。でも、分かるよレオンの気持ち。普通はありえないよな、うん、誰だってそー思うし、おれもそー思う。」

 

今まで聞いたことない声の張り上げのレオンに素早く反応を見せつつも共感するスバル。

 

「……流石ハジメ、人には出来ないことを平然とやってのける…すごい」

 

いつもの涼しげな顔で言うも、内心は未だに驚いているユエ。

 

「所ジ〇ージもびっくりなビフォーアフター…どこからともなく「なんということでしょう~」という声が聞こえてきそう…」

 

「当麻、その感想、ネタが古臭くないか? というか、これから上手くやっていけるとして…絶対、何かやらかしそうな気もするんだが…」

 

ハウリアのあまりの変わりように思わず苦笑いしつつ昔見ていた番組が、ふと頭に過ぎる当麻。当麻の一言にツッコミを入れつつ、将来のハウリアの行く先が心配になる士郎。

 

『いくら彼らを強くさせるからといって、これは、少々やりすぎなのでは…』

 

『なるほど…ハジメ殿の世界ではそのような方法で強くしていくのですね! このサラ、感服いたしました! 今度、お時間があるときにご教示を…』

 

『サラ、絶対にだめですからね……絶対に!』

 

唯一、否定的な意見を述べるクロウ、それに対して大いに称賛を見せるサラはハジメから指導方法の伝授を頼もうとするもクロウに止められるのだった。

 

「うわぁ~ん、家族が…私の家族が~みんな死んでしまったですぅ~」

 

そして、事の顛末を知ったシアは人目も気にせず大粒の涙を流しながらわんわん泣いた。

本来ならこれを見て、ハウリアは達は心配したり駆け寄ったりするのだが誰一人駆け寄るものがおらずハウリア一同「何で泣いているんだ?」と首を傾げるばかり、その事実に気づいたシアは涙を止める事ができず、さらに大泣きするのだった。

見かねたユエがポンポンとシアの頭を慰めるように撫でていると、スッとシアの前に布切れが出された。

差し出した相手はパルであり、ニコニコした表情でシアを見つめていた。

 

「パ…パルくん? ふぇ、ありがとうございましゅ…」

 

シアは布切れを受け取り、涙を拭いてからチーンを鼻をかみだした。「よかった、変わらずいてくれた子もいた。」何て思っていたが、

 

「シアの姉御、女とはいえ、いけませんぜ。族長の娘が簡単に涙なんかながらしては~」

 

「えっ、姉御!?」

 

思わず耳を疑った。未だかつて姉御などという呼ばれ方はしたことがない上、目の前の少年は確か自分のことをシアお姉ちゃんと呼んで慕ってくれたはず、シアはとっさに近くに咲いていた綺麗な花を指差し、

 

「ほ、ほら、あそこに綺麗なお花さんがあります。パル君、いつも私を誘ってお花さん探しにいきましたよね? 懐かしいですよね、今度、探しに行きませんか? ね? 行きましょ?」

 

「この子だけは…この子だけは!」そう想いつつ念を押すシア、パルは一瞬シアが指した方を向くが、すぐに視線を戻し、苦笑交じり肩を竦めて、

 

「姐御、あんまり古傷を抉らねぇでくだせぇ。俺は既に過去を捨てた身。花を愛でるような軟弱な心は、もう持ち合わせちゃいません」

 

現実は非情である。しっかりパルも出来上がっているのだった。

シアは落胆して‘’シアお姉ちゃん、シアお姉ちゃん!‘’と慕ってくれて、時々お花を摘んで来たりもしてくれた事を思い出し、自然と意識が飛び去ろうとしたが

 

「それより姐御、俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました。俺の名は………バルトフェルド…‘’必滅のバルトフェルド‘’です!」

 

「必…滅……って、必滅のバルトフェルドって何ですか!?

 

いったいどうやったらそんな名前が思いついたのか、そう考えるといてもたってもいられず、直ぐに意識が戻りパルにツッコむシア。

するとこれを見てハウリア達はいきなり、

 

「ちなみに私は、‘’疾影のラナインフェリナ‘’!」

 

「‘’外殺のネアシュタットルム‘’、パルには負けない!」

 

「キャハハ!! ‘’雷刃のイオルニクス‘’とは俺様のこと!」

 

「‘’幻武のヤオゼリアス‘’であ~る。」

 

「‘’霧ィィ雨ェェのーリキッドォォブレイクゥゥーーー!!!」

 

「ちょと、ちょと!? 何ですか、揃いも揃ってその名前!? しかも変なポーズまで取り始めて……う、うわぁ~ん、もう~どうしたらいいのですかぁ~!!?

 

一人ひとり名乗り出し、おまけに変わったポーズ、俗に言うジ〇ジ〇立ちを決めるハウリア達。シアもどうしたらいいのか分からず再び泣き出してしまった。

ちなみにこれを見ていたスバルは、

 

「なぁ、ハジメ。ハウリアがあんな風に名乗ったり、ポーズを取るようになったのは、お前の訓練の賜物なのか?」

 

「知らん……何それ……怖…」

 

スバルの問いかけに、ハジメはドン引きしながら全否定するのだった。

 

 





いかがだったでしょうか?

まずは本当に読者の皆さん、お久しぶりです。そして、改めて投稿が遅くなって申し訳ありません。生活環境が変わって時間がなかったり、ゲームにハマっておろそかになったり、評価、コメントがなく承認欲求モンスターになって逃避行? だったりで色々な理由で書けなかったのですが3週間前にたまたま軽く書いたらエンジンがかかり書き上げることが出来ました。
長くなりそうでしたので前編、後編に分けています。なるべく早くに後編を出したいと思います。


さて、今回注目するポイントはハウリアに対して言ったハジメの主張です。そのまま原作と一緒だと味気ないので、ある実写化作品のあるキャラの主張をもじってハジメに言わせました。皆さん、わかりますでしょうか?
あと、大変だったのは登場キャラが多いのでハウリアの変化を見て反応を考えることですかね。いつものことですが…何気にユエの反応の仕方は自信あったりします。

最後になりますが、いい加減な作者です。なるべく早く出すようにしますが、もしかしたらまた、期間が空いてしまうかもしれませんが、今後ともよろしくお願いいたします。

それでは今日はこの辺で、ではまた…


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…おや!? ハウリアのようすが…! 後編


皆さん、お久しぶりです。グルメです。

長い間、音沙汰なしですみませんでした。何とか後編が出来ましたので少しでも楽しんでいただいたら幸いです。


それでは、どうぞ。


 

「そういえば、ハウリア族ってこれだけでしたでしょうか? もっと、たくさんいたような…」

 

『それもそうですね…族長のカム殿も見当たりませんし…』

 

「!! そうだ、父様は? みなさん、父様はどこにおられるのですか?」

 

当麻、サラはここにいるハウリアの数がやけに少ないことに気づき、シアもこの場にいないカムの存在が気になってハウリア達に尋ねた。

ハウリア達はハッとなり、「伝えなければ…。」や「こんなことしている場合ではない!」などを口々にしており、ハジメやシア、スバル達が不思議そうに見つめているとパルがいきなり敬礼を行い

 

「申し訳ございません。事後報告になってしまうのですがボス達にお伝えしなければいけないことが…」

 

「ん? なんだ?」

 

「実は…」

 

ハジメは首を傾げ、スバル達は「自分達もハジメと同等の扱いなんだ」と思いつつ、耳を傾けた。

 

 

報告の内容はこうだった。

 

 

無事に課題の魔物を討伐したハウリア達はハジメに報告するため帰路を急いでいた。しかし、その途中で完全武装した亜人族の一団を発見、不思議に思ったカムは帰路を中断し、見つからないよう後を追って内情を探った。

亜人の一団は熊人族50人、虎人族50人の計100人の若者で構成されており、そのまとめ役なのか長老衆のジンとギルだった。そして、一団の会話を盗み聞きして分かった事は、ここに集まっている者は長老会議の決定に納得してない者達で集められ、目的が聖地に入ろうとしているハジメ一行の抹殺、及び忌み子を匿い人間達を招き入れたハウリア達の処刑であり、さらに言うとハジメ一行に屈辱を与えるためなのか大樹へ至る寸前で襲撃することも分かった。「目的手前で果てろ」大体そんな意味が読み取れる行動だ。

そして、この事実を知ったカムは生まれて初めての怒りを覚えた。それと同時にチャンスだと考えた。亜人の中で最強種と数えられている熊人族と虎人族にボスに鍛えられた自分達がどこまで通じるのか試したくなったのだ。それはカムだけでなく一族全員が想っていることでもあった。

カムは全員が頷くの確認してから静かに指示を飛ばした。カム率いる半分はこのまま一団の後を追って機を見て奇襲、もう半分はこの事を報告するため魔物討伐の証を持ってボスの所に向かう運びとなり、自分達がその報告組だと告げるのだった。

 

 

 

 

 

「あ~、やっぱ来たか。来るとは思ってたけどさぁ…」

 

「ヤロー、簡単に約束破りやがって! 親の面、拝んでやりたいぜ!!」

 

ハジメは心底めんどくさそうにため息をつき、スバルは白い歯を見せつつ、拳と手の掌をぶつけて怒りをあらわにさせていた。他のみんなも簡単に約束を反故するフェアベルゲン側に呆れかえっており、唯一シアだけがこの報告を聞いてあわあわしているのだった。

そんなさなか、再びバルが敬礼を行い口をひらいた。

 

「ボス、報告を終えましたので自分たちも殺戮…じゃなく、援護に向かいますのでこれで失礼します。」

 

「ちょと、さっき殺戮と言いませんでしたか!? ねぇ!?」

 

「あっ、勝利の証として全員の首を持って帰ってきますので楽しみにしていてください。では!」

 

「こらっ! 何さらっとお土産感覚でおっかないモノ持って帰ろうとしているのですか!? まだ、話は終わって、って早っ! ちょっと、待って! 待ってください~!!」

 

そういってパル達はシアの言葉もスルーして颯爽に霧の奥へと消えていき、シアも少し遅れる形でバル達の後を追った。

取り残されたハジメ達はバルの発言にドン引きし、ハウリア達やシアの背中が霧の中に消えていくのをただただ見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…師匠、これってまずくないですか?」

 

『ええ…当麻、非常にまずいですね。このままだと当麻の二の舞いになりかねません。』

 

ハウリア達が去ったあと、ポツリと呟く当麻にどこか心配そうに答えるサラ。

二人の頭に過ぎったのは帝国兵相手に暴走した当麻の姿であり、ハウリア達がこうなったのも、力を急速に手に入れたことによるものだと考えた。

 

『それだけではありません。今の彼らの士気はとても高いです。仮に討ち果たしたとして、彼らはとどまってくれるのでしょうか?』

 

「仕掛けてきたのはフェアベルゲン…報復の建前もある。考えたくないけど勢いに乗ってフェアベルゲンに攻め込むことも考えられるよな。」

 

クロウと士郎はハウリア達の行動を推測、そして最悪のパターンを想像した。

 

「なぁ、ハジメ。これ止めに行った方がよくねぇか?」

 

<…手遅れになる前に止めるべきだな。>

 

「これ、ヤバくね?」みたいな顔でハジメを見つめるスバル、冷静に今する事を告げるレオン。

 

そして、全員がハジメを見つめた。「どうすんの、この状況?」と言いたげな顔で。

 

「…………」

 

ハジメは涼しげな顔でいたが、みんなの言葉と視線によって段々いたたまれなくなり、急にユエの方を向いて、

 

「…行くか。」

 

「…ん」

 

真顔でそう告げるハジメに対し、いつものように静かに答えるユエ。

一行はシアをおいかけるために走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここで時をさかのぼり、ハジメ達がパル達と接触し始めた頃に戻そう。

熊人族、虎人族の若者、計100人の亜人の一行は熊人族長老ジンと虎人族長老ゼルの指揮の下、大樹を目指して進行していた。

二人は長老会議で決まったとはいえ当然ながらこれには納得してなかった。彼らは会議を終えるとそれぞれの一族のもとに駆け寄り、長老会議であった出来事を伝えた。二つの一族は当然ながら怒りを覚え、人間達と大罪を犯したハウリア族を討ち取る決意をした。

長老衆や他の一族の説得もあり、全ての熊人族、虎人族を駆り立てることはできなかったが、血気盛んの若者達が集まった。そして、人間達の目的が大樹であるため、屈辱を与えるために先回りして大樹へと至る寸前で襲撃する事を計画したのだ。

相手は所詮、人間と兎人族。樹海の深い霧の中なら人間の大人なら直ぐに感覚が狂い、方向が分からなくなるような場所だ。それに付け加えて引き連れているハウリア族は戦闘に無縁でただ逃げることしかできない脆弱な兎人族。

我らにとって恐れるどころか足元にも及ばない存在、地の利も経験も我らにある。負ける訳がない!

 

誰もがそんな想いで大樹を目指して行進していたのだが……

 

 

「「いったい、どうなっているのだ!?」」

 

 

ジンとゼルは同時に絶叫を上げた。なぜなら、彼らの目には亜人族の中でも底辺という評価を受けている兎人族が、最強種の一角に数えられる程戦闘に長けた熊人族、虎人族を蹂躙しているという有り得ない光景が広がっていたからだ。

 

「ほらほらほら! 気合入れろや! 刻んじまうぞぉ!」

 

「アハハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」

 

「汚物は消毒だぁ! ヒャハハハハッハ!」

 

 ハウリア族の哄笑が響き渡り、致命の斬撃が無数に振るわれる。そこには温和で平和的、争いが何より苦手な兎人族の面影は皆無、必死に応戦する熊人族、虎人族の部隊は動揺もあらわに叫び返した。

 

「ちくしょう! 何なんだよ! 誰だよ、お前等!!」

 

「こんなの兎人族じゃないだろっ!」

 

「うわぁああ! 来るなっ! 来るなぁあ!」

 

奇襲しようとしていた相手に逆に奇襲されたこと、亜人族の中でも格下のはずの兎人族の有り得ない強さ、どこからともなく飛来する正確無比な弓や石、認識を狂わせる巧みな気配の断ち方、高度な連携、そして何より嬉々として刃を振るう狂的な表情と哄笑その全てが激しい動揺を生み、スペックで上回っているはずの熊人族、虎人族に窮地を与えていた。

この十日間、ハウリア族は、地獄というのも生ぬるいハジメの猛特訓かつ、武器を振るうことや相手を傷つけることに忌避感を感じる暇も与えないハート○ン先任軍曹様の罵声のおかげがあってか、ハウリア達は身も心も戦闘狂になったのだ。

そして、パニック状態に陥っている熊人族、虎人族では今のハウリア族に抗することなど出来る訳もなく、瞬く間にその数を減らし、既に当初の半分近くまで討ち取られた。残り半分も満身創痍状態でお互いの身体を寄せ合って一ヶ所に固まり、武器を盾にしてハウリア達の猛攻を凌ぐがやっとであった。

 

ハウリア達はすかさず彼らを取り囲んで罵声を浴びせつつ、石や矢を浴びせた。

 

「どうした〝ピッー〟野郎共! この程度か! この根性なしが!」

 

「最強種が聞いて呆れるぞ! この〝ピッー〟共が! それでも〝ピッー〟付いてるのか!」

 

「さっさと武器を構えろ! 貴様ら足腰の弱った〝ピッー〟か!」

 

兎人族と思えない、というか他の種族でも言わないような罵声が浴びせられ、ホントにこいつらに何があったんだ!? と戦慄の表情を浮かべる熊人族と虎人族。中には既に心が折られたのか頭を抱えてプルプルと震えている者も現れた。

 

その時、ふとハウリア達の攻撃がおさまり、取り囲んでいるハウリアの中から一人のハウリアが前に出てきた。

 

「クックックッ、何か言い残すことはあるかね? ジン殿、ゼル殿?」

 

現れたのはハウリアの族長カムであり、その表情は実にあくどく皮肉げな言葉を投げかけていた。闘争本能に目覚め、見下されがちな境遇に思うところが出てきたのか前のカムからは考えられないセリフである。

 

「ぬぐぅ……」

 

「…クソっ。」

 

ジンとゼルはカムの物言いに悔しげに表情を歪めた。まったくもっての想定外。ハウリアに対してもそうだが、部下を、慕ってくれた者をこの様な状況にあわせた自分達にも怒りを覚えた。すぐにでもカムを討ち取りたいところだが、今はその時ではない。少しでも生き残った部下を存命させるためにもするべきことは決まっていた。

ジンとゼルはお互いに顔を見合わせて頷くと、

 

「……俺らはどうなってもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、」

 

「ここにいる者は俺たちが無理やり連れてきた者ばかりだ……どうか、見逃して欲しい。」

 

「なっ、ジン殿!?」

 

「ゼル殿! それはっ……」

 

その言葉に熊人族と虎人族が途端にざわつき始めた。ジンとゼルが自分達の命と引き換えに部下達の存命を図ろうとしたのだ。動揺する部下達にジンが一喝した。

 

「だまれっ! ……頭に血が登り目を曇らせた俺とゼルの責任だ。兎人……いや、ハウリア族のカム殿。勝手は重々承知。だが、どうか、この者達の命だけは助けて欲しい! この通りだ!!」

 

武器を手放し跪いて頭を下げるジンとゼル。それに対してカム達ハウリア族の返答は、

 

「断る」

 

という言葉と投擲された二つのナイフだった。

 

「「なっ!?」」

 

咄嗟に身をひねり躱すジンとゼル。カムの投擲を皮切りに、ハウリア達は哄笑を上げながら心底楽しそうに一斉に攻撃を再開、高速の矢や石などが熊人族、虎人族に迫ってきた。当然、熊人族、虎人族は防御態勢に入った。

 

「なぜだ!?」

 

 呻くように声を搾り出し、問答無用の攻撃の理由を問うジン。

 

「なぜ? 貴様らは自ら約束を反故にしたのだろ? ならばこちらとて願いを聞き入れる道理などない!」

 

そう答えるカム。それを聞いて返す言葉もなく思わず「くっ」歯を食いしばるゼル。さらにカムは、

 

「それに何より……貴様らの傲慢を打ち砕き、嬲るのは楽しいのでなぁ! ハッハッハッ!」」

 

「んなっ!? おのれぇ! こんな奴等に!」

 

その言葉に啞然、そしてすぐに激昂するゼルはカムに向かって突撃をかけようとするも、ハウリア達の過激な遠距離の攻撃が迫ってきて咄嗟に武器で防御態勢を取った。

全員が身動き出来ないと睨んだカムは口元を歪めながらスっと腕を掲げる。

 

 

 

あれが振り下ろされたら、ハウリア達が一斉に迫ってくる。もうおしまいだ。

 

 

 

ここにいる熊人族、虎人族の誰もがそう思い、死を覚悟した時、

 

 

 

 

「いい加減にしなさぁ~い!!!」

 

 

可愛らしい大声と共にズドォオオンという轟音が鳴り響き、土埃が周囲を舞った。

 

「は?」

 

「な、なんだ!?」

 

思わず間抜けな声を出してしまうジンとゼル。

何せ、青白い髪を靡かせたウサミミ少女が、巨大な鉄槌と共に空から降ってきた挙句、地面に槌を叩きつけ、その際に発生した土埃やら衝撃波で飛んでくる矢や石をまとめて吹き飛ばしたのだ。

目が点になるとはこのこと、周りの熊人族、虎人族はもちろん、攻撃していたハウリア族もポカンとしていた。

 

「もうっ! ホントにもうっですよ! 父様も皆も、いい加減正気に戻って下さい!!」

 

土埃が晴れ、怒り心頭、といった感じで現れたのは、もちろんシアである。

ハジメの圧縮錬成の練習過程で作成された大槌をブンブンと、まるで重さなど感じさせず振り回し、ビシッとカムに向かって突きつけた。

そんなシアに、最初は驚愕で硬直していたカムだが、ハッと我を取り戻すと責めるような眼差しを向けた。

 

「シア、何のつもりか知らんが、そこを退きなさい。」

 

「いいえ、退きません。これ以上はダメです!」

 

シアの強気な言葉と態度に、カムが眉をひそめた。

 

「ダメ? まさかシア、我らの敵に与するつもりか? 返答によっては…「あ、この人達は別に死んでも構わないです。」…は?」

 

「「「「いいのかよっ!?」」」」

 

てっきりハウリア族を止めてくれると考えていた熊人族、虎人族はシアの言葉に思わずツッコミを入れた。

 

「当たり前です。殺意を向けて来る相手に手心を加えるなんて心構えでは、ユエさんの特訓には耐えられません。私だって、もう甘い考えは持っていません。」

 

「ふむ、では何故我々を止めたのだ、シア?」

 

そう、カムが尋ね、ハウリア達も怪訝な表情でシアを見つめた。

シアはそれにものともせず答えた。

 

「そんなの決まってます! 父様達が、壊れてしまうからです! 堕ちてしまうからです!」

 

「壊れる? 堕ちる?」

 

訳がわからないという表情のカムにシアは言葉を続けた。

 

「そうです! 思い出して下さい。ハジメさん達は確かに敵に容赦しません。魔物だろうと帝国兵が相手だろうと、敵意で襲ってくる者に対して一切の容赦はありませんでした。ですがそれは…生きるため、前に進むため行動だったはずです!! ハジメさん達の中に魔物でも人でも殺しを楽しんだ者は誰一人いませんでした!! ハジメさんは訓練で「楽しんで敵は殺せ」と言っていたのですか!?」

 

「い、いや、それは……」

 

「それと父様達が、今どんな顔しているかわかりますか?」

 

「顔? いや、どんなと言われても……」

 

シアの言葉に、周囲の仲間と顔を見合わせるハウリア族。ふと、カムは自分がもっている短刀の刀身部分の反射で映り込んだ顔を見た。嘲笑と愉悦が混じった顔。自分でもこんな表情が出来るのか、と驚くのと同時にこうも思った。

 

 

 

この表情は最近どこかで見たことがある。

 

 

 

猛特訓により最近の記憶が薄れかけていたのだが、徐々にある記憶が脳裏に浮かび上がった。

それは思い出したくもない大事な家族が奪われた記憶。そう、それはまるで、

 

「……私達を襲ってきた帝国兵みたいです」

 

「ッ!?」

 

シアは、ひと呼吸置くと静かな、しかし、よく通る声ではっきりと告げた。

その言葉に衝撃を受けるカム、ハウリア達。自分達家族の大半を嘲笑と愉悦交じりに奪った輩と同じ表情、同じ行動を無自覚で行っていたことにカム、ハウリア達は動揺し、それぞれ持っていた武器を落としていった。

 

「シ、シア……私は……」

 

カムにいたっては膝から地面に落ちて項垂れており、それを見てシアも安堵したのかため息をついて、

 

「ふぅ~、少しは落ち着いたみたいですね。よかったです。まぁ、初めての対人戦ですし、今、気がつけたのなら、もう大丈夫ですよ! 大体、ハジメさんも悪いんです! 戦える精神にするというのはわかりますが、あんなのやり過ぎですよ! 戦士どころかバーサーカーの育成じゃないですかっ!」

 

そういって今度はハジメに対してプンプンとかわいく怒り出すシア。

そんな最中、蚊帳の外状態の熊人族、虎人族はハウリア達を見つつ、少し、また少しと動いて距離を取り、この場を離脱しようとしていたが、

 

「どこ行こうとしていた?」

 

その言葉にビクッとなる熊人族、虎人族たち。後方を振り向くと霧の中から、見下すように見ているハジメ、絶対零度の冷たい表情をするユエ、ポケットに手を入れて「あぁ?」と言いたげなヤンキーみたいな見下しをしているスバル、あきれた表情をする当麻、士郎。さらに普段人前には表さないクロウ、サラも幽体状態で現れ、眉をひそませて睨みつけていた。

完全に挟まれた状態の熊人族、虎人族はあきらめたのか歩みを止めてしまった。

それを見てハジメ達は歩き出し、亜人たちの群れをかきわけてジン、ゼルの前に立った。

 

そして、じっくり見た後にハジメは口を開いた。

 

「…お前ら、見逃してやってもいいぞ。」

 

「なに?」

 

「我らを生かすと?」

 

その言葉にジン、ゼルだけでなく周囲の者たちが一斉にざわめいた。「これで帰れる」と誰もがそう思って緊張を解き安心していた矢先、

 

「…ただし、条件がある。長老衆にこう伝えろ……”貸し一つ”」

 

「ッ!!?」

 

「なん…だと!?」

 

ハジメの条件に思わず顔が引きつるジンとゼル。

さらにハジメは続けて、

 

「それと、おたくらの部下の死の責任はそっち持ちで、ハウリアに惨敗した事実と一緒に添えてな。」

 

その言葉でさらに表情を歪ませるジンとゼル。周りの部下達もこの意味を理解して苦しい表情をしていた。

それもそのはず、長老会議の決定を無視した挙句、周囲の制止を振り切り、あまつさえ最強種と豪語しておきながら半数以上を討ち取られての帰還。しかも国に不利益な話を持ち帰る始末。

まさに生き恥、国にも死んでいった者たちに対しても申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

 

条件を飲むか飲まないか。ジンとゼルが考え込んでいると、しびれを切らしたハジメはため息をつき、どこか気だるそうに口を開いた。

 

「……ハウリア隊、動けるものは準備が出来次第にフェアベルゲンを急襲、殺しはせずに破壊活動を、」

 

「わかった、分かった!!」

 

「我らはその条件を呑む!!」

 

流石に化け物に変わり果てたハウリアを国に入れたら一大事どころか大惨事になると思ったジンとゼルは早急にハジメの条件を承諾した。

 

「………決まりだな。」

 

そう言ってどこか悪そうに笑顔を浮かべるハジメ、この行動にユエとハウリア達を除いてスバル達は少しドン引きするのだった。

 

 

 

 

 

 

せっせと帰っていくジンとゼル、その部下達を霧で姿が見えなくなるまで見送った後、ハジメは「さてと…」と呟いてハウリア達の方に向いて歩き出した。途中、「ハジメさん!」と家族の事でまだ文句が言い足りないのか突っかかってくるもそれを手で制止(シアも思わず止まった)、シアのことも見向きもせずカム達の前に立った。

ハジメはどこか気まずそうな視線を彷徨わせておりカム達が怪訝そうに見つめていると

 

「その~何だ、うん……スマン悪かった。」

 

そう言って90°のお辞儀をするかのようにハジメはハウリア達に頭下げた。これにはポカンと口を開けて目を点にするシアとカム達。まさか素直に謝罪の言葉を口にするとは誰も予想していなかったのだ。

 

「その…自分が平気だったもんだからすっかり殺人の衝撃ってのを失念してた。それに決められた時間である程度仕上げないといけなかったから…つい行き過ぎた指導になってしまった。歯止めは考えておくべきだったな……本当にすまなかった。」

 

頭を下げながら申し訳なさそうに言うハジメ。

ここまで丁寧に言われたらシアも怒るのはやめようと思った。仮にも命の恩人だし、なんやかんやで家族が強くなったのだ。心配ごとが無くなったわけではないが少なくともこのフェアベルゲンで魔物や他種族に怯えることなく生活ができる。

シアはこの件で改めてハジメに”ありがとう”を伝えようと思った。だから、笑みを浮かべて…

 

「ハジメさん、頭を上げ、「ボスゥー!? 頭打たれたのですかぁ!!?」…えっ?」

 

「………………。」

 

言葉をかき消すように絶叫するカム。シアは笑みを浮かべながら固まり、ハジメも身体をビクッとさせた。そして、追撃するかのように、

 

「ボスがおかしくなった、今日は厄日かー!?」

 

「ボス! しっかりして下さい!」

 

「メディーック! メディーーク! 重傷者一名!」

 

「いつものボスじゃない…偽物か!?」

 

「俺のボスがこんなに優しいわけがない…」

 

「みんなでボスの頭叩いたら、いつものボスに戻るのでは!?」

 

「ボスがダメになるかならないかなんだ、やってみる価値はありますぜ!」

 

ハジメの心を抉るようにハウリア達は口々にしていった。シアは冷や汗を流し「もう、やめてよー。」と心の中で叫びつつ、徐々に雰囲気が変わってきているハジメに恐怖を感じて少しずつ距離を取っていった。もちろん、他のハウリア達はハジメの変化に気づいてはいない。

 

『もしや、ハウリア達の根本的なところは変わってないのでは?』

 

『そうかもしれませんね…』

 

サラとクロウがそんなことを言いつつ安全な所で見守っていると、ようやくハジメが顔を上げた。

その表情は満面の笑み、だが、細められた眼の奥は全く笑っていなかった。カム達はここでハジメの様子がおかしいと気づきる恐る声をかけた。

 

「ボ、ボス?」

 

「うん、ホントにな? 今回は俺の失敗だと思っているんだ。短期間である程度仕上げるためとは言え、歯止めは考えておくべきだった…」

 

「い、いえ、そのような……我々が未熟で……」

 

「いやいや、いいんだよ? 俺自身が認めているんだから。だから、だからさ、素直に謝ったというのに……随分な言いようだな? いや、わかってる。日頃の態度がそうさせたのだと……でも、でもな…このやり場のない気持ち、発散せずにはいれないんだ……わかるよな?」

 

「い、いえ。我らにはちょっと……」

 

ハウリア達はこの時気づいた。「あっ、これヤバイ。キレていらっしゃる」と。冷や汗を滝のように流しながら、ジリジリと後退る

そんな最中、ハジメは天を仰ぐように大きく深呼吸をして、

 

 

フウゥゥゥッッッーーーーーー!!

 

 

大きくそのまま息を吐いた。

しばらくその状態でいたが、いきなりガッと鬼の形相でハウリア達の方に向き、

 

「取り敢えず、全員一発殴らせろゴラァ!!!」

 

「「「わぁああああーー!!」」」」

 

ハウリア達が蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出し、一人も逃がさんと後を追うハジメ。しばらくの間、樹海の中に悲鳴と怒号が響き渡った。

この様子にスバル達は、

 

「脳内でUnwe〇come 〇choolが流れる。」

 

「僕はどっちかというとス〇ン・ハ〇センテーマ曲かな?」

 

「お前らな……まぁ、この状況は止めようがないか…」

 

スバル、当麻の吞気な発言に呆れつつ、そういう自分も今はどうすることができないので黙って静観を決める士郎。

 

「……何時になったら大樹に行くの?」

 

<…まったくだ。>

 

ユエ、レオンもポツリと本音をこぼし騒動の静観していた。するとそこに、

 

「……あ~皆さん、父様達を置いて先行きましょう。私、案内しますので……はぁ~」

 

垂れきった耳と疲れ切った表情のシアが近づいてきて大樹まで案内するという事なので、一行はハジメ、ハウリア達を置いて先に進み始めた。

 

 

 

後にハジメ、ハウリア達は15分後にシア達と合流を果たす事となった。

 

 





いかがだったでしょうか?

前の投稿から半年くらいかかってしまって本当に申し訳ございません。
色々ここで思いを書きたいのですが、次の話しが投稿出来るように早いですが置きたい思います。

次回、大樹へ到着したハジメ一行、そこに最怖のヤツらが姿を現した。果たして彼らの目的は一体何なのか…。


感想、評価が作者の励みになります。

それでは今日はこの辺で、ではまた…


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