黄金の闘士 (黄金)
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プロローグ

 カッツェ平野、カッツェ平野とは、エ・ランテルの南東、竜王国の北西に位置する呪われた地である。

 アンデッドの多発地域であり、スケリトルドラゴンなどの強力なアンデッドが出現することがある

 常に薄霧に覆われており、霧自体は無害だがアンデッド反応を持っているため、アンデッド探知が無効化されて、奇襲を受ける冒険者が数多くいる。丘陵地域にバハルス帝国が数年かけて築いた、カッツェ平野駐屯基地が存在するのだが、現在は様相が全くと言っていいほど変容していた。

 それは、霧の中から突如現れた町が原因だ。陽炎(カタラニア)、今では皆がそう呼んでいる。このカタラニア周辺には霧は発生せず、アンデットも寄り付かない。砂漠の中のオアシスのような場所だ。カタラニアの噂を聞き付けた帝国領の商人やワーカーは、すぐさま町の周辺に住み着き、今では人々で賑わう巨大な都市へと変貌していた。

 この町の周辺は冒険者やワーカー、腕に覚えのある剣士であふれ返るようになった。それは、カタラニアで開催されるイベントのせいである。

 闘技大会‼‼

 カタラニアのコロッセオで行われるこの大会で活躍すれば栄華が約束される夢のような大会。剣士らは皆それを目指してやって来る。

 だがそれと同時に、町はガラの悪い悪漢たちであふれるようになっていった。

 

 

 そんなカタラニアの町を歩く場違いな人物が一人いた。金髪の女性で「生命の輝き」とも呼べる魅力を見せている美しい女性だ。だが、彼女が背負っている剣から分かるように、彼女もこの闘技大会の出場者だ。ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ、それが女性剣士の名前である。王国のアダマンタイト級冒険者チーム「蒼の薔薇」のリーダーでもある彼女が、チームのメンバーもつれずに一人でこの町に来たのにはとある理由があってのことだ。

 

 冒険者組合で、担当者から彼女は一人で説明を受けていた。

「カッツェ平野に突如現れた、カタラニアの調査を私一人でですか」

 彼女も一晩にして現れた町、カタラニアの噂は聞いていた。勿論、そこで日夜行われている闘技大会の事も。

「はい、これまで何組かのミスリル級の冒険者が、調査にカタラニアの闘技大会に出場したのですが、全員死亡が確認されています」

「全員!?中には、オリハルコン級の実力を持った冒険者もいたそうですが」

「はい、月光という期待のミスリル級向かわせたのですが、カタラニアで開催される闘技大会に出場し、命を落としました。それにあの町には妙な噂が」

「噂、いったいどんな噂なのでしょうか」

「あの町に住む住民は、夢に喰われる。剣士たちの間に流れているただの噂なのですが、出場選手の中には、まるで魂が抜けれたかのように突然死ぬものもいると聞きます。どうも無視できないのです。冒険者組合としてお願いします。このカタラニアの闘技大会に出場し、この町の正体を暴いてはくれないでしょうか」

「夢に喰われる、(魔剣「キリネイラム」の力を解放する時が来たみたいね。"血"が騒ぐわ)分かりました。その依頼、承ります」

 この時偶然にも蒼の薔薇のメンバーであるティアやティナ、ガガーラン、イビルアイは八本指の調査を行っていたのだ。こうして彼女は一人で闘技大会へと出場する事となったのだ。

 

「賑やかな町ね。とても殺し合いが日常的に行われている町とは思えないわ」

 彼女はカタラニアの町を歩きながらつぶやく。自分もこれからその闘技大会に参加するのだが、冒険者として幾つもの修羅場をくぐって来た経験が彼女にはある。そこいらの剣士には、負ける気はしなかった。水飲み場に着いた時、この町に住む住民を剣士が怖がらせているのが目の端に見えた。

「なんだか、嫌な町ね」

 水を飲もうと地面に座った時、突如鋭い気配が彼女を襲った。

「っ!!(何、この気配は!)」

 まるで首筋に鋭い刃でも当てられているような、そんな気配。いや、実際に当てられてたとしたら…。

(殺さ…)

 だが、彼女が振り向くと自身の首には刃など当てられていなかった。だが、代わりにそこには黒い服を着た誰かが立っていた。口にはマスクをし目から上と頭を帯で巻いた人物であった。

「良い剣だな」

 その人物が呟く。これが、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラと異世界の戦士との初の会遇であった。

 

 



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2話

 ユグドラシル(YGGDRASIL)。ユグドラシルとは、体感型ゲームDMMO―RPGの超ヒット作品のことである。プレイヤーの自由度が異様なほど広いことで有名であったこのゲームでは、しばしコラボイベントが定期的に開催されていた。

 その内の一つにプレイヤー名銀河の興味をひくものがあった。

 

 銀河。現実世界では、会社員として働く自分は、ユグドラシルでは人間種としてプレイをしていた。このユグドラシルでは、人間種だけでなく異形種、亜人種など自由に選ぶことができたのだが、自分はあえて人間種を選んでいた。これは、昔祖父の家の古びた倉庫に保管されていた、ある漫画が原因である。『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』(LC)、これが自分が夢中になった漫画の名前だ。聖闘士星矢という作品のスピンオフとして出された作品で原作に設定上存在した、243年前の前聖戦が舞台である。この物語の主軸は黄金聖闘士(ゴールドセイント)と呼ばれる者たちが担っていた。原作の聖闘士星矢では、不遇な扱いを受けていた者も多い黄金聖闘士だが、今作ではメインキャラクター達であり、主力メンバーである。本編の黄金聖闘士達よりも格段に扱いが良く、1人1人の戦いが細かく描かれている。更に人物が全員かっこよすぎた。

 

 全身の骨が砕かれても守るべきものをを守る為、最期まで戦い抜いた魚座。自らの命と引き換えに冥闘士の魂を封じる武具、108の数珠を完成させ消滅した乙女座。次代の聖闘士を守る為、死してなお主人公を守り、立ち往生する牡牛座。死の神タナトスに師と共に挑み、それに打ち勝った蟹座。右腕を切り落とされて尚、自らの道を貫き通し夢神と共に消滅した山羊座。自身の命を燃やして戦い、希望を繋げた蠍座。友のために拳を振るい、アトランティス全てを覆うほどの氷に包まれた水瓶座。アテナに対し真の忠誠心を示し、心臓を無くしても仲間のために立ち上がった射手座。兄を止める為、そして自らの運命を狂わせた悪魔を倒す為戦った兄弟の双子座。大地の一部となり、神龍へ拳を放つ獅子座。聖戦が終わり教皇となり、次代を見つめる牡羊座。封じられた108の魔星を見張る為、長き任務に就く天秤座。全員が自分の中で強く残った。

 

 このキャラクター達に憧れたため、自分はユグドラシルでは人間種を選び、武器も魔法も何も使わないスタイルをとっていた。職業も近接格闘系のものばかりだったので、はっきり言ってソロプレイヤーとしては最底辺の分類に居た。そんな中ユグドラシル内において、聖闘士星矢(LC)のコラボイベントが行われたのだ。自分は、仕事が終わるとほとんどの時間をユグドラシル内でのイベント攻略に費やした。

 

 だが、このイベントは大変難易度が高い物であった。まず、イベントが行われている期間中にユグドラシル内の何処かに聖域が設置されるのだが、場所は運営側からは提示されない。プレイヤー達が、広大なユグドラシル内から探さねばならないのだ。聖域自体、元々原作でも正確な場所が分からない秘境のような場所だ。恐らく運営はその部分もなぞって、このイベントを行っているのだろう。まあ、聖域の場所は大量のプレイヤー(自分を含む)のローラー作戦によって、数日で見つかった。だが、そこからが大変であった。

 

 このイベントでは、聖域には数人ずつしか突入できず巨大ギルドによる物量で押し切る作戦が一切使えなかった。また、聖域内には人間種しか入ることができず更に武器や魔法の使用は一切禁止された。おまけに聖域内では回復が出来ず、状態異常の解除も出来ない。そんな状態で、十二宮に控えるレベル100の黄金聖闘士NPC達を相手にせねばならないのだ。しかも、各プレイヤー一回限りしかイベントに参加できず、難易度マックスの聖域を初見で攻略するしか手が無かったのだ。コラボイベントにあるにも関わらず、限定のアイテムや外装データクリスタルなどを誰も手に入れることが出来ないという、地獄のような状態となった。だが、そんな状況にもかかわらず、イベントに参加する者は後を絶たなかった。それは、このイベントをクリアすると付いてくるクリア特典が魅力であったためだ。なんと、このイベントをクリアした最初のプレイヤーには、この聖域をたった一人のホームとして使用することが出来る権利、周辺の村を含めた全NPCの管理権限、黄金聖闘士のチートじみた技を使える権利などが全て与えられるのだ。特に黄金聖闘士の技は、ゲームバランスを崩しかねない程のものも多くあったため、全員が血眼になってイベントに参加した。だが、コラボイベントが開始されて数十日が経っても誰もクリアすることが出来なかった。そんな中自分は、ユグドラシルのイベント攻略サイトを読み漁ると同時に、聖闘士星矢(LC)の原作を隅々まで熟読していた。そして、イベントの終わりが迫って来たとある日に、自分は聖域に突入した。

 

 接近戦用の職業しかとっていなかったのが幸いし、俺は何とか最後の黄金聖闘士を突破した。体力ゲージもほぼ0の状態であった。トッププレイヤー達が誰一人としてクリアすることが出来なかったこのイベントを、自分が何故突破することが出来たのか。それはNPC、黄金聖闘士との会話が、この聖域突破の重要なカギとなっていたからだ。最初に黄金聖闘士は「何のために力を振るうのか」という質問を行う。これ自体は攻略サイトに載っており、それぞれ違う問いかけをしていた。この問いを見た時、聖闘士星矢(LC)のある一場面を思い出した。終盤の頃、死後の黄金聖闘士達はシオンと童虎の2人に力を貸すのだが、何の為に力を発揮するのかはそれぞれ違っていた。それを最初の問いに対し答えることによって、戦闘終了後の黄金聖闘士の行動が変わって来るのだ。運営オリジナルの黄金聖衣をくれたり、状態異常を回復してくれたり、体力を回復してくれたりとコスモによって様々な恩恵を与えてくれるのだ。こうして自分は最初に聖域を突破し、イベントを完全制覇した。イベントは結局、原作漫画を読破していた自分しかクリアすることが出来ず、限定アイテムやクリスタルは全て自分の物になった。

 

 一部のプレイヤーからは、「絶対にインチキだ」「違法改造してる違法プレイヤー」「運営と裏で取引があった」等、根も葉もないうわさが飛び交った。だが、運営がそんな自分に対し、正当な手順を踏んでゲームをクリアしたというお墨付きをくれた。そこから自分の呼び名は、暫くの間、運営公認のチートプレイヤーとなった。

 

 イベントをクリアした後の自分は、聖域において用意されていた様々なミッションを攻略していった。このイベントに運営は相当力を入れていたらしく、イベント終了後もミッションが随時更新されていったのだ。自分は、この聖域においては全ての黄金聖闘士の弟子という立ち位置らしく、それぞれの黄金聖闘士から様々な修行という名のミッションが課された。それをクリアしていくことによって、様々な黄金聖闘士の技が使えるようになるのだ。だが、それと同時に自分を狙ったPKも増え始めていた。自分しか、イベントをクリアしていないという事は、俺をPKすれば、限定アイテムを手に入れることが出来るということでもある。PKを避けるために、イベントて入手したクリスタルを使って外装を弄り、双子座の弟がしていたようなマスクを付け、顔が分からないようにミイラの様に包帯を装備し、聖域から外出していた。

 

 そんな自分は現在、山羊座のミッションに向かっている。

 



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