いつも通りの日常に夕焼けを (キズカナ)
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本編
これが俺の“いつも通り”



皆さんはじめまして。キズナカナタです。

色んな人の作品を読み続けた結果私もやってみたいと思いこの作品を書きはじめました。
駄文かもしれませんが最後まで読んでくださると嬉しいです。

それではどうぞごゆっくりとお楽しみください。
  


 

10年前

 

 

俺はこの街に引っ越してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそこで1人の少女と出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい。君1人でどうしたの~?」

 

1人で川の側で石を投げていると何気なく話しかけて来た。

 

「別に…何でもない…。ちょっと嫌な事があっただけだよ。」

 

「そーなんだ~。」

 

少女はそう言うと袋からパンを取り出して食べ始めた。

 

「・・・・・・・何それ」

 

「チョココロネだよ~。君も食べる~?」

 

「でも僕何も返せるもの持ってないけど…」

 

「別にいいよ~。それにほら~、モカちゃんは嫌なことあったならさ~パン食べてるんだ~。そしたら嫌な事なんて忘れちゃってるし~?」

 

「君も何か嫌なことあったの?」

 

「いやないよ~?」

 

「ないんだ。」

 

「まあ~それより今なら半分あげるけど食べないの~。食べないならモカちゃんが食べちゃうよ~?」

 

「・・・・ありがと」

 

そう言うと少年は少女からパンを貰い食べ始めた。

 

「・・・・おいしい」

 

「でしょ~?モカちゃん一押しのパンなんだ~。」

 

「そうなの?」

 

「もし良ければそのお店を今度教えてあげましょ~。」

 

「いいの?」

 

「もち~。」

 

「なんか…ありがとう。」

 

少年はそれだけ言うとチョココロネにひたすらがっつき、気付いた時にはもう食べ終わっていた。

 

「おお~。いい食べっぷりだね~。モカちゃん気に入ったかな~。」

 

「うん…。おいしかったから…。」

 

「あ、そーそー。君の名前聞いてなかったね~。聞いていい~?」

 

「僕は常乃遼。君の名前は?」

 

「モカちゃんは~青葉モカっていうんだ~。」

 

「あのさモカちゃん…何で僕に話かけたの?」

 

「何でだろうね~。なんか石をひたすら投げてたから気になっちゃって~。」

 

「それだけ?」

 

「うん。それだけ~。」

 

「・・・・なんか・・変わってるね。」

 

「そーかな~?」

 

「…………後さ…もし良かったら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕と友達になってくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・遅い」

 

 

ただいま俺はとある行きつけのパン屋の前で人を待っている。その人とはここに良くパンを買いに来ているのだが……。

 

 

「あー。もう約束時間15分過ぎてんじゃん…。」

 

そう、その相手がこないのだ。本来なら開店の7時30分に合流してパンを買う予定なんだが時刻は既に7時45分を迎えていた。まあ、あいつのことだし大方寝坊ってところだろうな…と思いスマホで連絡を入れた。

 

 

『しもしも~?』

 

「じゃないでしょうが。約束の時間とっくに過ぎてるんですけど?」

 

『ごめんね~。夢の中でパンに包まれてたからその続きを見たくてつい二度寝に~。』

 

「はあ~。夢の中までパンまみれかい…。とにかく、早くしないと焼きたてのチョココロネは俺が貰っちゃうけど?」

 

『大丈夫~。今家出たから5分でそっちにつくよ~。』

 

「わかった。無いとは思うが来なかったらチョココロネは俺のものだ。」

 

『あいあいさ~。』

 

ピッ…

 

「やれやれ…」

 

予想通りだった。というかパンに包まれる夢って逆に少し気になったのは伏せておこう。さて、あいつが来るまで5分はかかるらしいからしばらくスマホゲーでもしてようかな…。

 

「おまたせ~。」

 

「……早くね?」

 

なんと、その人は3分もかからないうちに到着したのだ。

いや、あいつの家からここまで5分はあるはずだし、普段のあいつからはこんなに早くこれるとは………いや、あいつはパンの為なら高速移動出来るんじゃないか?と思うほどのパン魔神だから逆に考えれてしまう自分がいた。

 

「いや~。ごめんね~。まだチョココロネはある~?」

 

「いや、1つ聞いていい?」

 

「何~?」

 

「どうやってここまで来た?」

 

「走ってきた~。」

 

「その割には余裕そうだな?」

 

「そりゃ~モカちゃんパワーですよ~。」

 

「それはそうとしてとりあえずもう店行くぞ?まだ大丈夫だと思うけどチョココロネが…」

 

「レッツゴ~」

 

というとあっという間に少女こと〈青葉モカ〉はパン屋に入って行った………って…

 

「俺を置いていくなよ…」

 

モカの後を追い俺もパン屋に入って行った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「…さて、こんなものか。」

 

俺は色々と見て回った結果お盆に焼きそばパンとカレーパン、チョココロネを置き会計に向かう。

 

「お会計お願いしまーす。あ、支払いはポイントカード(これ)で。」

 

まあ先客(モカ)がいたわけだが…ここ最近思うんだけどあいつは一体どうやってあんなにポイントカードを集めてるのだろうか。今度少し聞いておこうか。というか店員さんも一瞬ビックリしてるし。とかなんとか考えているとモカが会計を終わらせて俺の番になった。

 

「お待たせしました。焼きそばパンとチョココロネで360円になります。」

 

「了解。じゃあこれで。」

 

「はい。400円お預かりして…40円のお返しになります。こちらポイントが貯まったので次回出してくださるとお好きなパンと引き換えが可能だよ。」

 

「あ、はい。」

 

「ハハッ…そんなにかしこまらなくても良いんじゃない?あたし達年近いんだし。」

 

「いやまあ…元からこういう性格だから店員さん敬語相手だとなんか…」

 

「まああたしはお店の手伝いだからね。でもそういう真面目な所良いと思うよ?」

 

「そんなもんかね…」

 

今俺と話しているのは山吹紗綾さん。このパン屋の看板娘という所だろう。そんなことを話している間にもパンを袋詰め終わっていた。流石手際がいい。

 

「はい、お待たせしました。」

 

「ありがとう」

 

「それじゃ、またのご来店をお待ちしております。」

 

パンを受けとると俺は店を出てモカが待っている所に向かった。というかモカは店の出入口付近でさっき買ったパンを食べていた。

 

「お待たせ。」

 

「遅かったね~。」

 

「そこは勘弁してくれ。」

 

「何かさーやと話してたみたいだったけど何話してたの~?」

 

「あれか?まあただの社交辞令みたいなものだけど?」

 

「ふーん…まあいいや~。それよりはやくつぐの所行くよ~。そろそろ開店準備もしてる頃だろうし~。」

 

「おいモカ、お前少しは遠慮しなさいよ。」

 

「ほらほら、レッツゴー」

 

「レッツゴーじゃなくて……だから俺をおいて先に行くなって!」

 

 

 

そうして俺はモカの後を追い、幼なじみ達の元へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
もし評価が多ければ続くかもしれません。その時はこんな感じでのんびりとやっていこうと思いますので長い目で見守って頂けると幸いです。

それではまた次回お会いしましょう。 


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ようこそ羽沢珈琲店へ


続きを書いてみました。

今回のイベでモカの新規☆4来ますね。もちろん狙いますよ。なんせ私はモカ&彩推しですからね。


 

 

午前8時45分

 

 

 

カランカラン…

 

 

「やっほー。つぐいるー?」

 

「おはようございまーす。」

 

「あ、モカちゃんに遼くん!二人とも早いね。」

 

「ふっふ~。そうでしょ~?」

 

「何でお前がそんなに誇らしげなんだよ。一応営業時間前だからな?」

 

「いいよいいよ。とりあえず今はコーヒーしか出せないけど大丈夫かな?」

 

「おお~流石つぐ太っ腹~。」

 

「ありがとう。お願いするよ。」

 

「うん。じゃあどこか座って待ってて。」

 

少し早いけど俺たちは羽沢珈琲店に来ていた。俺たちが入って来たのを見るとつぐみはそういうと厨房の方に向かいコーヒーの準備に取り掛かった。いや、なに本当。あの子いい子過ぎるでしょ。

 

「さて~。じゃあ戦利品のパンにありつきますかね~。」

 

「……というか良く買ったよなそんなに…。」

 

「そりゃ、モカちゃんはパン大好きですからね~。」

 

そう言いながら買ってきたチョココロネにありつきはじめたので俺も袋からカレーパンを取り出し食べることにした。

毎度の事ながらここのパンは旨いと思う。例えばこのカレーパンなんか外はカリッと仕上がっており、中には時間がたってるであろうにも関わらず冷たくないカレー、そしてパン自体は脂っこくなくカレーは辛すぎずスパイスと甘さの調和がとれている。さらに、このパンには一口目にカレーが味わえないという悲劇もない。まさに神の荒業とも言えよう。

 

「ふう…。」

 

まずは1つ完食し次のパンに手を伸ばす。そのまま焼きそばパンを手に取ったとき…

 

「ふぉうひぃれははー」

 

モカが何かを言ってきた。しかもパンをハムスターの如く口に詰め込んだ状態で。

 

「うん、とりあえずパン飲み込もうか。なに言ってるかさっぱりわからん。」

 

「お待たせしました。こちらコーヒーになります。」

 

「つぐみ、ナイスタイミング。」

 

「ひゅぐあひぃふぁほ~」

 

「だから飲み込んでから言え。」

 

モカはそのままコーヒーを受けとるとそのまますすり口の中の物を飲み込んだ。それを見届けた俺も同じようにコーヒーを啜った。

 

「あちっ」

 

そう言えば俺猫舌だったんだ。とりあえず何事も無かったかのようにコーヒーを静かに置いて冷めるまで待ちますか。

 

「で、何言おうとしてたんだ?」

 

「いや~実はさ~…………あれ?あたし何言おうとしてたんだっけ~?」

 

「………またか。」

 

「いや~ごめんごめん~。」

 

「あはは…。相変わらずだねモカちゃん…。」

 

「でも忘れる位なら大したこと無かったのかな~?」

 

「なんだろうな。そう言われると逆に気になるんだけど。」

 

「言われてみれば確かに。」

 

「じゃあ~二人で当ててみる~?」

 

と言われたので俺とつぐみでモカの考えていたことを当てようと思う。というかモカの考えることと言えばパンか?いや、さすがにそれは単調すぎるか。だとすると…。

 

「もしかして新作パンのこととか?」

 

「うーん…違うかな~。」

 

「そっかー。」

 

「つぐざんねーん。」

 

「うーん…。遼くん何かわかる?」

 

「多分…『この間バイトしてたらひまりが来てからかった時の反応が面白かった』とか?」

 

するとモカは考えるような素振りを見せた後、思い出したかのような顔をした。

 

「おお~。それだよ~。」

 

「まあパンじゃなかったらそんなところかな~と思ってな。」

 

「おお~流石遼~。モカちゃんのことを良くわかってるね~。」

 

「そりゃ何年幼なじみやってると思ってんだ。で、どんな反応だったんだ?」

 

「ああ~…実はさ~」

 

とモカが当時のことについて話始めたところで店のドアが開いた。

 

「つぐやっほー!」

 

噂をすればなんとやら。これから話題にあがろうとしていた人が来たではないか。

 

「あれ?遼くんとモカ?」

 

「おお~ひまりおはよう。」

 

「やほ~。」

 

「二人とも早いね。もう来てたんだ。」

 

「パン買いにいってからそのまま直行したからな。」

 

「そうなんだ。」

 

「そ~そ~。」

 

「まあ俺ら開店前から来てるけどな。ていうかつぐみ、今何時?」

 

「えっと…今9時だけど…。あ、じゃあ私お店の看板変えてくるね。」

 

つぐみはそのまま表に出て店の看板を〈OPEN〉に変更した。今は開店早々でお客さんが少ない時間帯なのでそのままこちらに戻ってきた。

 

「それでね~。あの時は~。」

 

「えっと…本人目の前にいるのにその話進めるんだ?」

 

「良いんじゃない~?だってひーちゃんだし~?」

 

「そう言えば確かに。」

 

「えっ?何?なんの話?私の事?」

 

「あれは一昨日のコンビニのバイト中のことで…」

 

 

 

 

~回想~

 

「しゃーせー」

 

「いらっしゃいませー!」

 

「リサ先輩、こんにちは。」

 

「ひまりじゃーん!今日はスイーツ買いに来たの?」

 

「はい!話題の新作スイーツが出たと聞いたので!」

 

「おー!流石スイーツ女子だね。」

 

「それじゃ会計しまーす。」

 

ピッ…

 

「こちら210カロリーが1点」

 

ピッ…

 

「300カロリーが1点」

 

ピッ…

 

「195カロリーが1点」

 

ピッ…

 

「254カロリーが1点で~合計で959カロリーになりま~す。」

 

「もー!モカー!」

 

 

 

~回想終了~

 

 

 

 

 

 

「ということがありました~。」

 

「ホントあれは流石に酷くない!?」

 

「というかそれで値段の計算大丈夫だったのかよ。」

 

「気になるところそこ!?」

 

「大丈夫~ちゃんとやってたよ~。リサさんが~。」

 

「結局リサ先輩頼りかよ。というかまあひまりは

……御愁傷様でした。」

 

「でもレジ通す度にカロリー計算するのはおかしくない!?リサさんも隣で必死に笑い堪えてたからね!?」

 

「あー…成る程ねー…。」

 

「って遼も納得しないでよ!女の子はそういうことに敏感なんだから!」

 

「おお…ごめん。というか逆にモカって女の子なのに気にしてないよなそういうの。」

 

「そりゃ~ひーちゃんにカロリーを送ってますからね~。」

 

「だからモカーッ!!」

 

「まあまあひまりちゃん…良かったらコーヒー飲む?」

 

「つぐ~……。もう飲む!それとフルーツタルトもお願い!」

 

「おいひまり…カロリーがどうのこうのってのは…。」

 

「今日は忘れる!甘いもの食べて忘れるもん!」

 

「あ、うん。じゃあちょっと待っててね。」

 

そしてつぐみはひまりに出すコーヒーとフルーツタルトをつくるために奥に入って行った。

俺の目の前ではモカが相変わらず何食わぬ顔してパンを頬張ってるし。ひまりは机にひれ伏している。

長年幼なじみやって一緒にいるものの時々女の子という存在がわからなくなってくる。そんなことを考えながらコーヒーを一口啜るのだった。

 

 

 

 

 




いかがでしたか?相変わらず内容薄くてすみません。書いてると思うんですが、想像を文章にするのって難しいですね。でもやり始めたからにはちゃんとやっていこうと思います。

それではまた次回お会いしましょう。


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ブシドー・オン・ステージ

お久しぶりです。

今回はサブタイトルからわかると思いますが。あのキャラ登場です。

そういや今までの石全部溶かして見事☆4モカお迎え出来ました!




「突然だけどつぐみ、柿は好きか?」

 

「どうしたの突然?」

 

現時刻は昼1時。俺の来店早々の発言によりつぐみは若干困惑している。

 

「実はさ、うちの庭に何故か昔から柿が出来る木があるわけよ。それで今年も大量に柿が出来て父さんが採ってきた訳なんだよ。」

 

「うん。」

 

「で、大量に採れ過ぎたから相談に来たってことなんだけど大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。というか良いの?うちが貰っちゃっても…。」

 

「いや、むしろ貰ってくれた方がありがたい位。」

 

「じゃあ…お願いしようかな。」

 

「じゃあこれ渡しとくわ。」

 

そういって俺はつぐみに柿の入った袋を渡した。袋の中には10個程の柿が入っている。

 

「こんなにたくさん…遼君本当にありがとう!」

 

「まあ、どうせまた採れるし必要なら持ってくるよ。」

 

「うん、ありがとう。じゃあ注文の品来るから待っててね。」

 

そう言うとつぐみは袋を持って厨房に向かった。今日は1人で来ている為その間はやることもなく暇なので適当にスマホゲーでもやって次回でも潰そうかと思っていた時勢いよくドアが空き1人の銀髪美少女が入って来るのだが…。

 

 

 

「たのもー!」

 

いや、なんでその掛け声?それ道場破りの時に使う掛け声じゃ無かったか?よく知らんけども。

 

「あ、リョウさんご無沙汰してます!」

 

「久しぶり。今日は芸能界の方はお休み?」

 

「はい!しばらくの間はパスパレもモデルの方もスケジュールが入ってないのでこれからはもっとアルバイトの方を頑張っていこうとおもいます!」

 

「うん、まあ無理すんなよ。」

 

「はい!お気遣いありがとうございます!立派なブシになるべくがんばります!」

 

 

紹介が遅れたがこの子は若宮イヴといって日本人とフィンランドのハーフでここのアルバイトだ。でも実際は『pastel*palettes』というアイドルバンドをやる傍らでモデルとしても活動している。因みに彼女は武士に憧れていて事あるごとに『ブシドー』と言っている。これを初めて聞いたときはなんの事かわからなかったがいまでは俺も大体わかっている。一言で言うなら『考えるな感じろ』。

 

 

「お待たせしました。ご注文のいちごタルトとカフェオレです。」

 

つぐみが料理を運んできてくれたのでとりあえずカフェオレを一口飲んで落ち着こうと思いカップを口に近づけるのだが、俺は猫舌であり熱い珈琲を飲むためには少し冷まさなければならないのだが啜った感じ今回のは熱すぎずすんなりと飲むことが出来た。

 

「あれ?熱くない…。」

 

「遼くん猫舌だからすぐに飲めるようにいつもよりお湯の温度を少し下げて淹れてみたんだけどどうかな?」

 

「飲みやすいし上手い。流石つぐみだ。」

 

「お客さんの為にほんのわずかな心遣いが出来るとは…ツグミさん、ブシドーです!」

 

「そ、そんなことないよ!?」

 

おお、つぐみが照れてる。

 

「あ、そうだ!お父さんがさっき遼くんがくれた柿を使って新しいメニュー作ってみたんだけど二人とも良かったら味見してくれないかな?」

 

「はい!是非やらせてください!」

 

「じゃあお願いするわ。」

 

「じゃあ持ってくるね。」

 

つぐみが厨房に入るとイヴも「私も準備をしてきます!」と言って従業員の控え室に入っていった。二人が出てくるまでいちごタルトでも堪能してましょうか。

 

「……上手い。」

 

相変わらずこの店は珈琲だけでなくスイーツにも気合いが入っているよな…。ほぼ毎日来て色々食べてるけど飽きないわ…。つぐみやおじさんの腕前っていうのもあるけど良くひまりが食べて感想を言ったりしてるからそれでここまでの味が出せるってものなのかね?……まあ、その本人は食べた後で密かにカロリー気にしているみたいだけど追加でスイーツ食べてるからじゃないのかな?

 

 

 

────────────────────────

 

 

一方

 

「はっくしゅん!」

 

「どうしたひまり?風邪か?」

 

「うーん…風邪というか……もしかしたら誰か私の噂でもしてるのかな?」

 

「まあ、そうだとしたら大方モカと遼くらいだな。」

 

「あ、そういえば巴聞いてよこの間さ~」

 

当の本人は現在幼なじみの1人の『宇田川巴』とショッピングモールに来ていた。

 

 

───────────────────────

 

 

 

「リョウさん!お待たせしました!」

 

「うん、わかったけど俺じゃなくてつぐみやおじさんに言った方がいいんじゃないか?」

 

「二人ともお待たせ。これが今回作ってみた柿のパイだよ。」

 

 

俺たちの前に出されたのは程よく焼けたパイだった。うん……なんということでしょう。あれだけあってうちの家族が食べ飽きはじめてた柿が匠の手によって食欲をそそるような美味しそうなスイーツに早変わりしたではありませんか。

 

「とても美味しそうですね!早速いただきます!」

 

イヴは早速フォークを手に取り綺麗にパイを切ってから口に運んだ。今まで特に意識してなかったけどこうしてみると食事の時も仕草の1つ1つが上品でまさにモデルって感じがするよな…。

 

「リョウさん?どうしましたか?私の顔に何かついてますか?」

 

「あー…いや、イヴも芸能人なんだなーと思っただけ。」

 

そういうとイヴはなんの事かわからなさそうな顔をしていたのでその間に俺はパイを食べた。

 

「……上手いな。パイ生地とジャム状の柿にメープルシロップがいい感じに絡まってる。」

 

「そうですね!それにこの柿もしっかりと味が引き立っていておいしいです!」

 

「そう?最初パイだけじゃ何か足りないかなと思ってシロップもかけてみたんだ!」

 

「俺的に付け加えるとするならレモンエキスをパイにかければ爽やかな風味が出ていいアクセントになるんじゃないか?」

 

「なるほど、じゃあお父さんに後で伝えておくね。」

 

「この短時間で凄いアイデアが出るとは…リョウさん凄いです!」

 

「えっと…そんなに凄い事かこれ?」

 

「うん、十分凄いことだよ!私もお父さんもひまりちゃんや遼くんの意見には凄く助けてもらってるんだ!」

 

「誰かの為にアドバイスをあげることが出来るなんて凄いですよ!リョウさんはやっぱりブシのような方ですね!」

 

「いや、流石に大げさでは!?」

 

「いえ!リョウさんにはやはり確かなブシドーを感じます!」

 

「ブシドーねぇ…。」

 

正直イヴの言うブシドーというのは大体理解しているけど基準がいまいちわかってないんだよな…。

 

「というかイヴってモデルとかやってるのにこういうところでバイトしてて大丈夫なのか?」

 

「大丈夫です!事務所もプライベートに関しては基本的に触れない感じなので!」

 

マジか。芸能事務所ってもっと規制だらけの世界なのかとばかり思ってたわ。

 

 

…と話していたら新しいお客さんが来た。

 

 

「それではワタシもブシとしての勤めをはたしてきます!」

 

そう言うとイヴは仕事モードに切り替わりテキパキと仕事をこなし始めた。流石、プロは一味違うな…。

 

と考えながらいちごタルトに舌鼓を打っていた。そしてタルトを食べ終わり最後にカフェオレを堪能したところでお会計を済まし店を後にする。イヴの「ありがとうございました!」というつぐみの時とはまた異なった愛嬌のあるというか元気な声が耳に残った。

 

 

さて、これからどうする「遼~。偶然だね~。」この声は大体想像がつくけどあいつか…。

 

「やほ~。」

 

振り向くとそこには銀髪の美少女(本人談)ことモカと隣に反骨の赤メッシュこと美竹蘭がいた。

 

「モカと蘭か。」

 

「そーそー。モカちゃんさっきまでバイトしててね~。今帰ってたんだ~。そしたら蘭と途中で鉢合わせしちゃって。」

 

「そのまま一緒にここまで来たってとこか。」

 

「そうだね~。」

 

「ねえ、遼。後で今度の曲ついて相談したい事があるんだけどいいかな?」

 

「ああ…あれか。大丈夫だけどどこでやる?」

 

「遼の家。」

 

「迷いがないな。」

 

「遼の部屋ってなんか静かだし…落ち着くから。」

 

「わかった。ちょうど今親いないから行くか。」

 

「もちろんモカちゃんもご一緒しまーす。」

 

「まあ、そうだろうと思ってたよ。」

 

 

 

 

ブシドーの基準ってのは良くわからないけども俺にとっては大切な幼なじみ達の役にたてるように出来ることを全力でやっていく。これもそのブシドーのうちに入るのかな?

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。今回はオリキャラである常之遼のプロフィールもかきましたのでのせときますね!


常乃遼〈ときのりょう〉

誕生日
2月21日

趣味
料理の研究、街探索、ゲーム

好きな食べ物
パン、山吹ベーカリーのチョココロネ、甘いもの

嫌いな食べ物
煮豆

得意科目
生物、家庭科

苦手科目
物理、数学全般

人物像
羽丘学園に通う高校一年生。Afterglowの五人とは幼なじみであり、五人がバンドを初めてからはマネージャー役をかって出ている。性格は不器用かつクソ真面目であり、その性格故か無理をして自分のことを後回しにしてしまうこともしばしば。
また、ポピパの有沙、ハロパピの美咲に並ぶ苦労人でありまりなからは『苦労人三銃士』と言われたこともある。特にモカとは接点が多く苦労することが多いのだが本人曰く『疲れはするが嫌だとは思わない』とのこと。
昔から母方の祖父から譲ってもらったアコースティックギターを大切にしておりギターの腕前もかなりのものらしい。
ついでに言うと猫舌である。


以上です!次回はなるべくアフターグロウのメンバーを絡ませていこうと思います。というか作品のタグに恋愛っていれてるけど今のところまだ恋愛要素やってなかった気が…。課題が多いな…。

まあ、ぼちぼち頑張りますので長い目で見守ってください。



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からかい上手の青葉さん

明けましておめでとうございます!

新年早々平成ジェネレーションFOREVER観て2日くらい興奮の余韻に浸ってたキズナカナタです。

やっぱり仮面ライダーって最高だね!





 

 

ジリリリリ…。

 

 

時刻は午前7時20分。頭元でなる目覚まし時計を止め半開きの目をこすり体を叩き起こす。今日はなんか腰と肩が筋肉痛で痛い。昨日調子のってライブの機材のなんやかんやを1人で運んだからかもしれない。

 

「とりあえずご飯でも食べるかな…。」

 

俺はキッチンに向かうと母親からの置き手紙と机の上にはおにぎりが三個程置いてあった。どうやら今日は早出の日で何時もより10分早く出るようだ。とりあえず俺は母親が作ってくれたおにぎりを1つラップからはがし食べ始める。

 

「あ、中身昆布か。」

 

そんなことを思いながら食べてると1つ完食した。そのまま2つ目のおにぎりに手を伸ばそうとすると…

 

ピンポーン…

 

玄関から呼び鈴の音がした。誰だよこんな朝から…。N○Kだったら追い返してやろうか…。

 

「やほ~。遼~?」

 

「お前だったのか。」

 

俺がドアを開けるとそこにはモカがいた。いや、何できてんの?

 

「どうした?お前から出向いて来るなんて。」

 

「う~ん…なんか~遼の顔が見たくなったから~?」

 

「いつも見てるだろ…。とりあえずあがるか?」

 

「そうする~。」

 

俺はモカを家の中に入れると扉を閉めた。因みになんだがモカが朝から俺の家に来るのは珍しいことではない。時たまに突然フラッと現れるのだ。だがモカは朝に弱いのでそうそう来ることも無いのだが…。

 

「何か頻度上がってんだよな…。」

 

「何か言った~?」

 

「いや、何も。」

 

やっべ、また心の声が漏れた。

 

「というか何でまた突然」

 

「う~んと~何か遼に会いたくなったんだよね~。」

 

「おう、さっき聞いた。」

 

「それとあわよくば遼の寝顔が見れるかな~と思って~。」

 

モカがニヤニヤしながら語りかける。うん、こういう状況は大体俺のペースが持ってかれる前触れだ。今さら振り回される訳が…

 

「それに~。昨日買ってきた美味しいパンを一緒に食べたいと思ってね~。」

 

「え?………マジで?」

 

「そうそう~この間さ~山吹ベーカリーでチョココロネが沢山残ってたからさ~買ってきたから二人で分けようと思ってたんだよ~。」

 

マジか…。あのパンのことになると無意識にすべてを食らいつくしそうなモカが…。ヤベエ…以外といい子かもこの子。いや、元々根はいい子なんだけど。

 

「でも残念ながらチョココロネが美味し過ぎて~モカちゃんのお腹に入って行っちゃいました~。」

 

「………え?」

 

「美味しかったよ~。」

 

「…………うそーん…。」

 

いや、マジでなんだったの。さっきまで感動仕掛けてた俺の心なんだったの?返せ!俺のさっきまでの感動返せ!

 

「というかまたこの流れかよ…。」

 

いや、あの状態になるとからかおうとしそうな気はするんだよ。なんだけどさ…どれだけ警戒しても最終的にはモカのペースに持ってかれるんだよなこれが。

 

「とりあえず服着替えて来るからそこでゆっくりしてて。」

 

「りょ~かい~。あ、おにぎり1つ貰っていい~?」

 

「どうぞご自由に。」

 

俺は服を着替えて鞄の中を確認すると部屋を出た。そしてリビングに戻るとモカは椅子に座りテレビを見ながらくつろいでいた。

 

「モカ、そろそろ出るか?」

 

「待ってました~。モカちゃんは準備万端で~す。」

 

俺の声を聞くとモカはテレビを消してカバンを持ち玄関へと向かう。その後を追うように俺も家を出て玄関の鍵をかける。

 

「さて、行きますか。」

 

「あ、その前に~。ちょっと向こう向いてて~。」

 

「え?向こうってあっち?」

 

俺が反対側を向いてるとモカは鞄を探って何かをとっていた。

 

「よーし…じゃあこっち向いて良いよ~。」

 

「いや、何こr」

 

俺が言葉を言い終わる前にモカは俺の口に何かを入れてきた。それを手に取り口から噛み離すとチョココロネが手元にあった。

 

「ふっふっふ~。どう~?モカちゃんからのサプライズ~?」

 

「いや、チョココロネってお前買ったやつは全部食べたんじゃ無かったけ?」

 

「ところがどっこい、モカちゃんは遼の為に1つだけ残してあげてたのだ~。」

 

「あ…はあ…。」

 

「昨日スタッフの人たちと一緒に遼ライブハウスに残って片付けの手伝いしてたからさ~。せっかく出来立てのチョココロネがあったのにモカちゃん1人で買っちゃったんだよね~。」

 

「あ…まあそのことに関してはね…。」

 

「それに~昨日のうちに渡したかったんだけど遼全然連絡くれないからさ~。RINE入れたのに。」

 

「あ~。確認して無かった。後そのことに関しては…すみませんでした。」

 

実はあの後疲れて布団に転んで本読んでたら寝ちゃったんだった。

 

「だから~こうして渡しに来たんだよ~?」

 

「そうだったのか…。」

 

今のモカの表情はボーッとしているようないつもの感じで話している為、これが本気なのかからかいが混ざっているのかはわからない。それでもこのことは純粋に嬉しい。だから俺は

 

「ありがとう。」

 

そのままの思いを素直に言う。その時のモカの顔に少し赤みがかかってたような気がするのは気のせいかもしれない。

 

「よ~し。それじゃあ蘭達が待ってる所まで競争だ~。」

 

「いや、ちょっと待って!チョココロネくらいゆっくり食べさせて!?」

 

このときのチョココロネは何故か何時もより甘く感じた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、今回はモカとのイチャイチャ?回でした。

うん、やっぱりこれ考えるのは楽しいけど文章にするの難しいね。←作文とか苦手な作者

とりあえず次回はもっと早めに投稿出来るように努力します。

コメントや指摘、評価等をくださるとありがたいです。



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乙女心は複雑です

キズナカナタです…。

結局…彩の新規☆4を手に入れることが出来なかったです…。

今度は石を10000個は貯めてからやろうと思います。


それはそうとバンドリアニメ二期、凄く楽しんでます。個人的には開幕そうそう彩ちゃんアップ&しゅわりん☆どり~みんで『スゴイ!ジダイ!ミライ!』状態のテンションです!←伝わって欲しい




「やほ~。遼おはよ~。」

 

「・・・・・また来たのか。」

 

俺が朝起きるとそこにはモカがいた。しかもちょうど布団越しに股がっているため凄く重…

 

「ね~今失礼なこと考え無かった~?」

 

「何でもございません」

 

危ねえ…。そういえば女の子にとって「重い」とか「太った」って言うのはNGワードだってひまりが言ってたな…。

 

「とりあえずさ…そこどけてくれ。」

 

「え~何で~?」

 

「起きれねえんだよ。」

 

「なんなら一緒に寝ちゃう~?」

 

「あ、そういうのいいから。」

 

「ちぇ~。つれないな~。」

 

「というか何でお前が俺の部屋にいるんだよ。」

 

「おばさんに頼まれたから~。朝ご飯出来てるってさ~。」

 

そう言うとそこから動き部屋から出たモカを見て俺も布団から出てそのまま布団を畳み、服を着替えた。

 

「おはよう。」

 

「おはよう。とりあえずご飯食べときなさい。」

 

母さんと何気ない一言を交わし食卓に向かうとそこにはあたりまえのように座って玉子焼きを頬張っているモカがいた。

 

「ああ…ってお前も食うのか。」

 

「だって~おばさんの玉子焼き美味しいから~。」

 

「本当マイペースだな…。いただきますっと。」

 

俺はモカの隣の席に座り食パンをかじる。今日の朝ご飯はマーガリンが塗られた食パン、玉子焼きにソーセージ、そして簡易的なサラダだ。そしてテーブルに置いてあるグラスに牛乳を注ぎ、口に含む。

 

「それにしてもモカちゃんありがとうね。この子月曜日の朝って基本的に目覚めが悪いから。」

 

「いえいえ~。遼の寝顔もみれたし役得ですよ~。」

 

「ふふふ。いっそこのままモカちゃんが遼とくっついてくれれば面白いのにね~。」

 

突然の母親の爆弾発言により俺は口に含んでいた牛乳を軽く吹いてしまった。

 

「いやいやいやいや待て待て待て待て。」

 

「あら?何か問題あった?」

 

「問題も何もそういう話を本人の目の前でします?」

 

「でも実際モカちゃん通い妻みたいになってるしね~。」

 

「いや、通い妻って…。モカ、お前も何か言ってくれ。」

 

「構いませんよ~?あたしで良ければ~。」

 

「お前に助けを求めた俺が悪かった。」

 

「じゃあ遼は~あたしが付き合うって言ったらどうするの~?」

 

「えっ?」

 

俺とモカが?いや、全く想像できないんだけど…。あ、でも意外と…って何を考えてんだ俺は。

 

「…………とりあえずテーブル拭くわ。」

 

「あれ~今の間はなんだったのかな~?」

 

「あーもうその話はいいからさっさと食べなさいよ!」

 

「は~い。」

 

こうして何時ものようにモカにからかわれた俺は朝ご飯を食べ終わると歯を磨き、そのままモカと家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってやまぶきベーカリー。俺達は昼用のパンを買いにやって来た。

 

「いらっしゃいませー!」

 

お店に入るとここの看板娘である紗綾が出迎えてくれた。

 

「おお紗綾。今日もお疲れ様でーす。」

 

「あはは…お疲れ様ってまだ朝だけどね。」

 

「モカちゃんもいるよ~。」

 

「おお~。二人揃ってるね。チョココロネ、焼きたてあるよ?」

 

「「ください!」」

 

おっと誰かと声が被ってしまった。

 

「あ、すみません。」

 

「いえ…こちらこそ…。」

 

その少女はオドオドしながら話しかけた。

 

「あははっ。そんなに急がなくても二人分はあるからね。」

 

「モカちゃんの分は~?」

 

「もちろんあるよ。」

 

そう言うと紗綾は焼きたてのチョココロネをチョココロネコーナーに置き再びレジに戻った。

 

その後さっきの少女に先を譲り、その後で俺とモカはチョココロネをお盆にのせ他のパンから欲しいものを取り会計に向かった。

 

「紗綾、これお願いします。」

 

「オッケー。………あれ?遼、今日はチョココロネ3つなんだ。」

 

「あ~うん。実は朝からモカにからかわれるわ、母さんも悪ノリして『モカとくっついたら面白そう』って言われるし…。」

 

「あはは…。それは…災難だったね…。」

 

「ふっふっふ~。遼のことならモカちゃんにおまかせあれ~。」

 

「いや、何でお前がでかくでるのさ。」

 

「まあでも二人って何かと相性いいんじゃないかな?」

 

「いや、紗綾もからかわないでくれ…。というかそういう点とかだと紗綾って結構はまり役なんじゃないの?」

 

「えっ?」

 

「いやだってさ、紗綾って何気ないところで気が利くし家事とかきっちり出来そうだしそれに何て言うか…母親感出てるって感じで」

 

「そ…そうなのかな?」

 

「うんまあ…何かこう…理想の女性って感じかな?」

 

「うん。まあ褒めてくれるのは嬉しいんだけど…下手に褒めてると後が怖いこともあるかも…?」

 

紗綾が苦笑いで俺の後ろを見ているのでその目線の先に何があるのかと思い振り向くとそこにはジト目でムスッとした顔でこっちを見ているモカがいた。

 

「えっと…モカ?どうした?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

俺が話しかけてもモカは何か不機嫌な状態のままだった。

 

「え~っと…なあ、俺モカに何かしたか?」

 

「いや~それを私の口から言うのはちょっとね~。」

 

この雰囲気に流石の紗綾も苦笑いで対応している。

 

「・・・・・さーや~、お願い~。」

 

「あ、うん。」

 

モカは俺をスルーしてお会計を済ませてそのまま出口に向かっていたので、その後で俺も会計を済ませモカの後を追おうとした時紗綾に声をかけられた。

 

「あ、遼くん。1ついいかな?」

 

「ああ…うん。」

 

「女の子って以外と繊細だから…気を付けてね。」

 

「えっ?………ええー…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり俺何かモカの気に触ることしたのか?)

 

 

この後、無事モカに追い付き幼なじみの元に到着した俺たちだったがやっぱりモカの機嫌は治らず「俺何かしたのか?」と蘭たちに聞いたところ4人は「またか…」という雰囲気でため息をついたり苦笑いをされただけだった。

 

 

 

 

因みにモカの機嫌が治ったのはお昼休みの時である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・俺のチョココロネという尊い犠牲と引き換えに。

 

 

 

 

 

まあ、そのときのモカのチョココロネを食べてる顔は幸せを噛み締めてる顔そのものだったので良しとするか…。

 

 

 

 

 




この作品に☆10評価をくださったキャンディーさん、☆7評価をくださったボルンガさん、ありがとうございました!


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何気ない今


新キャラ登場するよ。



 

 

突然だが皆さんは学校に来たとき憂鬱なことはありますか?

 

月曜日の朝であること?

 

 

部活動がきついこと?

 

 

学校に来てそうそう朝礼があること?

 

 

まあ、人は必ずしもそういう不満や愚痴というものを溢すだろう。因みに俺はというと……

 

 

「最悪だ…。」

 

「遼~?目が死んでるよ~?」

 

「そりゃ一時間目から数学とかただの地獄だろうに…。」

 

一時間目から数学という地獄を見たのだ。いや、はっきり言うけどさ…単純なところはまあいい。覚えれば良いだけだから。でも応用問題とか記述的な奴になると脳みそフル回転しても一発で理解できないんだよ。本当なによ二次関数とか平方完成とか。これ覚えるだけでもキツいわ。正直もうテストで『よくわからない式』とか『複雑な数式』としか脳内で流れて来ないんですけど?

 

「しかもあの先生…早口で喋るから一部なにいってるのかわからんときあるんだが…。」

 

「うーん…そればかりはどうしようもないんじゃないかな~?」

 

「というかモカ、次の数学の授業っていつだっけ?」

 

「明日だね~。」

 

はい、死んだ。しかもあの先生出席番号順に当てて行くから次当たるの俺だよ。これ明日までに解かなきゃいけないよ。

 

「そして今日放課後はCircleでしっかり練習するって蘭言ってたよ~。」

 

「おいおいおい、死ぬわオレ。」

 

「あそこでひーちゃんもつぐとトモちんに必死で教えて貰ってるし~。」

 

そういやあいつ今日当てられて見事に答えミスったんだよな…。

 

「…………モカ、お前数学できるか?」

 

「出来るけど~どうしようかな~。」

 

「………やまぶきベーカリーのメロンパンで手を打とう。」

 

「オッケー。」

 

よし、これで明日の分はなんとかなりそうだ。

 

とりあえず今の疲れをとるために俺がやるべきことは1つ。

 

「おやすみなさい。」

 

寝る!以上!

 

「あ、次体育だけど遼移動しなくても良いの~。」

 

「……うそーん。」

 

 

 

 

 

 

 

ここで一句

 

少しくらい

休みをくれよ

ホトトギス

 

りょうを

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで俺は更衣室で服を着替えた後で体育をすることになった。今回の体育は2クラス合同でグラウンドでスポーツをすることになっている。ただし男女別のスポーツをするらしく男子は陸上競技、女子はテニスをやる。

 

「常乃、お前は50メートル7.0だ。」

 

まあ平均と言う所か。別に俺は陸上部という訳じゃないし拘る必要もないんだが。

 

「遼、タイム何秒だった?」

 

「7.0らしい。」

 

「やるね。俺は…確か7.3だったよ。」

 

「というか俺はタイムよりも疲労のせいで寝たいと思う気持ちの方が強いんだがな…。」

 

「そっか~。だとしたら今体育なのはかなりきついでしょ。」

 

そうやって俺はこの体育の待ち時間を『今井匡』という男と共に過ごしている。今井という名字に聞き覚えのある人は山ほどいるだろうがそれについてはまた別の話にしよう。

 

「そういえば遼って幼なじみとバンドやってるんだっけ?」

 

「やってるというか…ステージに立つのはあいつらだけだ。俺はあくまでマネージャー、裏方専門だ。」

 

「要するに影の立役者ってこと?」

 

「そうだな。」

 

「でも何で遼はステージに立たないの?ギターテク結構凄いって聞いたけど。」

 

「待て。俺お前にギター聴かせたことあったか?」

 

「姉さんから聞いた。」

 

「そのルートがあったか…。というか俺が入ったらガールズバンドじゃ無くなるだろ。」

 

「俺たちで組む?」

 

「確かに悪い誘いではないが今回は遠慮しとく。こう見えてもうちのグループで手一杯なんだ。」

 

そんなことを話していると教師からの集合の掛け声がかかり、俺たちは会話を止め集合場所に向かった。

 

そしてその後の授業は…まあ特にこれと言って話にあげるような面白い事が起きる訳でもなく。時間は流れ放課後が来た。…面白いことって強いて言うなら古文の時間に窓を見たときに見えたんだが教頭の奥家の頭がズラでその下がツルツルだったってところかな。

 

 

 

そんなことはさておき俺たちは今ライブハウス『circle』に来ている。理由は勿論バンドの練習の為。みんなはここでそれぞれの楽器のチューニングをしたり音をあわせてより完成度の高い音楽に仕上げている。

 

そんな中お前は一体何をしてるんだよ!と思う方もいるだろう。安心してください、サボってはいません。俺は彼女達の音を聞き良かったところや悪かったところを記録しそれを伝えている。まあ、俺はギターのことしか知らないからそこまで言えることもないのだが。

 

「うん、とりあえず今日は時間も時間だしこの辺りにしておこうか。」

 

蘭の一声により五人はそれぞれ片付けに入る。

 

「お疲れ~。水買ってきてるけど飲む?」

 

「お~待ってました~。」

 

「サンキュー、遼。」

 

レジ袋に入ってた天然水を一本ずつ全員に配り皆はそれぞれその水を飲み始めた。その間に俺はノートを見直し間違い等が無いかを確認していた。

 

「ぷはあー!生き返るー!」

 

「確かにな。もうすぐ次のライブも近いし練習もなんかやりきったって感じだよな。」

 

基本的に片付けの時はそれぞれ楽器をしまいスタジオを次の人が使用するためにある程度綺麗にしておく。それが終われば後は撤退するだけなのでよほど時間が詰まってない限りそう焦ることはない。現にひまりと巴は何気ない会話をし、モカは蘭に引っ付きつぐみはそれを見て母親のように笑ってる。そんな中俺は5人を眺めながらノートをパラパラとめくっていた。その時にノートから一枚の紙が零れた。

 

「ん?なんだこれ?」

 

それを拾って裏返して見るとそこには幼い頃の自分と彼女達の姿があった。昔母親が取ったものだろう。

それを見ながら今の彼女達を見ると面影を残しながらも皆変わっていった。まさかこの5人が高校生になってバンドをやるなんて誰が思っただろうか。世の中は本当にわからないものである。

 

「な~に見てるの~?」

 

モカの声が聞こえて俺はとっさに写真をポケットに突っ込んだ。

 

「いや、なんでもない。」

 

「え~。モカちゃんも見たい~。」

 

「そんな見せるようなものでも無いんどけどな…。」

 

「遼、片付け終わったから行くよ。」

 

「了解。」

 

蘭に呼ばれた俺は5人と共にライブハウスを後にした。このバンドがいつまで続くのかはわからない。ずっとこのままかも知れないし、皆がそれぞれ違う道に進むかも知れない。それでも心はいつも繋がっている。俺はそう信じている。

 

だからこそこの何気ない今が俺は好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回だいぶ迷走した…。


新しく評価☆4をくれたぼるてるさん、
感想をくださったアインシュタインさん、
それとこれまでにお気に入り登録してくれた38名の皆さん、ありがとうございます!

皆さんの評価やコメントって思ってた以上に励みになりました。


今後ともよろしくお願いします!


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苦労人三銃士を連れてきたよ

 

「あ~…きつい…。」

「私もです…。」

「本当あの人達は限度というものを知らないのかな…?」

 

上から有咲、美咲、俺の順番で喋っている。しかも三人とも机に伏せたままの状態で。

 

何故こうなっているのか軽く説明しよう。まず俺たちAfterglowはいつものようにライブハウス『CiRCLE』で練習しようとしてた。そこに弦巻こころ率いる異色バンド『ハロー、ハッピーワールド!』と戸山香澄率いる『poppin party』が現れ練習場所の問題が発生し、遂にこころが「ならみんなで練習すれば良いじゃない!」と言い出しそれに乗っかる香澄とひまりにより3バンドによる合同練習が始まったのだが…俺は忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

弦巻こころの思考力は俺の予想以上にぶっ飛んだものであるということを…。

 

 

 

 

 

 

とりあえず話をしよう。あれは約40分前のこと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあさっそく作戦会議にいくわよ!」

「「「イエーイ!」」」

 

弦巻さんの掛け声により部屋に入った俺たちは人口密度が凄い状態で作戦会議をやることになる。そしてそれについていくのが瀬田先輩、北沢さん、戸山さん、ひまりといったはっちゃけメンバー達。まあ、練習するのは彼女らだけで俺は記録しその改善の発見だからあまり出番は無いだろう。そう思っていたのだが…。

 

「あら?遼は何か楽器をやらないの?」

 

ここでその考えをぶち壊すトリガーを引いたのがこの弦巻さんだ。

 

「ああ、俺が入るとガールズバンドじゃ無くなるからな。」

 

「そうなの?でもせっかくいるんだし一緒に演奏しましょう!」

 

「いや、そもそも俺の楽器ないし」

 

「そう言えばそうね。あなたはなんの楽器が出来るのかしら?」

 

「あ~その~………っておいちょっと待て。今扉の開いてた隙間から逃○中のハンターみたいな奴覗いてなかったか?」

 

俺は話を中断し扉の辺りを見たがその辺りに人はいなかった。いや、確かにいたんだよ。サングラスかけた黒いスーツの逃○中のハンターみたいな人が。因みにその時の美咲と松原さんは凄く「御愁傷様です」と言いたそうな顔してたな。うん。

 

「こころ?とりあえず今度のライブの話でしょ?」

 

「あらそうだったわね!じゃあ遼のことはその後にしましょうか!」

 

あ、逃がしてはくれないんですね。でも時間に猶予が出来ただけよしとしよう。美咲ナイス。

 

「とりあえず練習しない?まりなさんの親切で時間延長してもらってるし、せっかく複数のバンドの共同練習ならお互いの音を聞きあってもいいんじゃないかな?」

 

「おお…。沙綾、天才?」

 

「じゃあ…最初は何処から始めようか?」

 

山吹さんの提案に花園さんが反応しその横でつぐみが進めようとする。

この後俺が適当に作ったくじの結果で1番にポピパ、2番にアフグロ、3番目にハロハピがやることになったんだが…。

 

 

 

 

 

 

この選択ははっきり言って最後に爆弾を持ってきたような感じだった。貶してる意味ではなく、何が起こったかと言うと弦巻さんがライブ最中に考えてた新しいパフォーマンスをぶっつけでやろうとした結果ギリギリ危ない所でどうにか美咲ことミッシェルがフォローしたりまたしてもハンターみたいな人が出てきたり、俺も巻き込まれそうになり…まあ、噂通りの暴走っぷりでした。いや、特に俺や美咲は精神的にダメージ受けまくったという。

えっ?じゃあ有咲はなんなのか?彼女曰く「香澄の相手してた。」とのこと。

 

 

 

 

 

 

 

以上。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー。お邪魔しま………ナニコレ?」

 

そこにやって来た人物、今井匡は今の俺たちの状況を見て困惑していた。

 

「匡…お前おせーぞ…。」

 

有咲が遅れてきた匡に対して不満を口にした。

 

「ごめん。朝ベースの弦が一本切れそうだったから楽器店に行って修理して貰ってたんだ。でもこれは一体何が…」

 

「弦巻のやべーやつによる被害者の会。」

 

「ごめん、ちょっと何言ってるか分かんない。」

 

「あ、3人ともちょっと来てもらっても良い?」

 

俺たちは沙綾に呼ばれて匡と共にスタジオへと戻る。………いや、なんか嫌な予感がするんだけど。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

~つぐみ視点~

 

 

「ねえ。ここでオッちゃんをバーンと登場とか出来ない?」

 

「それは面白そうね!ならマジックみたいにしましょう!」

 

「おお~。いいねこころん!」

 

「はぐみもそう思う!」

 

遼君たちが席を外して程たった。その間、こころちゃんや香澄ちゃん、たえちゃん達がライブをより面白くするために色々と案を出しあってるみたいだけど…。

 

「それで~うさぎと一緒にミッシェルもドーンッ!って出すのはどうかしら?」

 

「熊とうさぎが共に空を舞う姿…儚い…。」

 

「薫先輩、私もそう思います!」

 

正直もう私たちだけでは彼女達をどうにか出来そうになさそうです…。

 

「えっと…これどうすんの?」

 

「ふええ…。美咲ちゃん早く戻って来てぇ~。」

 

蘭ちゃんも花音先輩も困惑してるみたい。多分そろそろ沙綾ちゃんが呼んできてくれてるとは思うけど…。

 

「お待たせ~。」

 

「さ~や~?どこ行ってたの~?」

 

「とりあえず連れてきたよ。」

 

「えっ?連れてきたよって…誰を?」

 

「もしかして…」

 

蘭ちゃんと私が呟いてると沙綾ちゃんの後ろから遼君、有咲ちゃん、美咲さんが来た。

 

「苦労人三銃士を連れてきたよ。」

 

「「苦労人三銃士?」」

 

私と花音先輩の声が重なった。

 

「甘辛パーソナリティー 市ヶ谷有咲」

 

「おい、なんだこれ?」

 

「熊の中の常識人 奥沢美咲」

 

「えっと…。」

 

「アフターグロウのオカン 常乃遼」

 

「いや、俺の2つ名酷くね?」

 

こんなやり取りをしながら紗綾ちゃんは3人に事情を話した。するとたえちゃんが有咲ちゃんに近づいて行った。

 

「ねえ有咲、私がオッちゃん抱いて空を飛ぶのっていいと思わない?」

 

「いや、何でその発想に至るんだよ!?」

 

「私のうさぎと一緒にステージに出たいっていうのと香澄の空を飛びたいっていう意見を混ぜたんだ。」

 

「飛ばねーしうさぎをステージに出すな!」

 

「えー!良いじゃん有咲ー!」

 

「良くねーし引っ付くな!匡!香澄とおたえダブルで相手出来ねえからとりあえず香澄ひっぺがしてくれ!」

 

「香澄~。姉さんから貰ったクッキー食べる?」

 

「食べるー!たすくんありがとー!」

 

「ねえ美咲!ミッシェルを大砲に入れて空に飛ばすのはどうかしら?」

 

「いや、駄目だから。普通にミッシェル死ぬから。」

 

「大丈夫よ!ちゃんとクッションも用意しておくわ!」

 

「いや、そういう問題じゃないんだけど…。」

 

「もちろんはぐみも飛ぶよ!」

 

「それは後々収集つかなくなるから駄目。」

 

「ところでこの子猫ちゃんと話し合ったんだが私が空からみんなにチョココロネを配るというのは良いとは思わないかい?子猫ちゃん達に私の言葉と共に笑顔のお裾分けを…。」

 

「良案のように言ってるとこすみませんが食べ物で遊ぶの止めて貰えます?」

 

「かのシェイクスピアは言った。『行動とは雄弁である』と。」

 

「は?」

 

「つまり…そういうことさ。」

 

「いや、瀬田先輩言葉の意味理解せずに言ってないか?」

 

「もちろん理解してるとも。かのシェイクスピアは…」

 

「もういいわ」

 

 

こんな感じで三人のおかげで事態は上手く纏まっていった。その代わりに三人は皆のことを上手く纏めていた為なんだか凄く疲れているように見えた。

 

「有咲ー!私が星になってステージの空を飛ぶのはどうかな?」

 

「じゃあ私はうさぎ達と歯ギターやろうかな?」

 

「美咲!ここで花火と一緒にミッシェルを打ち上げるのはどうかしら?」

 

「ああ…なんて儚い…。」

 

「遼~。チョココロネ無い~?」

 

「だから一気にしゃべるな!後飛ばねーし歯ギターもやるな!」

 

「いやいや、死ぬから!あたし死ぬから!」

 

「ここには暴走特急しかいねえのかぁぁぁ!」

 

 

 

ふと隣を見ると蘭ちゃんはため息をついていて巴ちゃんとひまりちゃんは二人で会話して、花音先輩とりみちゃんはわたわたしていた。なんか…この三人って凄いなと思った1日だった。今度うちに来たら新作のスイーツご馳走してあげようかな?

 

 

 

 

 

 

 




☆10評価、コメントを新しくくださったアインシュタインさんいつもありがとうございます!

そして新しくお気に入り登録してくれた8名の方々、ありがとうございます!



さて次回なんですが方向性は決まってて後は文章にするだけなんですが諸事情によりしばらく間が空きそうです。まあ、こんな駄文でも良ければ気長に待ってくださると嬉しいです。



次回『ハッピーニューつぐ!?』

祝え!新たなるつぐみの誕生を!




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ハッピーニューつぐ!?


お久しぶりです、キズナカナタです。

先に言っておくと今回はガルパピコ4話のリメイク的なものとなります。
後、つぐみのキャラ崩壊が本家よりヤバいかもしれません。ご注意ください。

そういえば仮面ライダービルドのVシネ「仮面ライダークローズ」みた人います?作者はまだです。どうでもいい話するとキルバスのモチーフは初見で蟹だと思ってました(笑)後、クローズエボルのカラーリング結構好みです。





 

「今日のライブ良かったねー!」

 

「だなー!」

 

俺たち『Afterglow』は今羽沢珈琲店にいる。今日はライブがあり、五人はステージで輝き、俺はそれを引き立てるべく東奔西走していた。まあ、そこまで走り回るかって言われたらそうでもないけどまりなさんのお手伝いをとある先輩とやっていた。

 

「あ、今日のライブの感想もう出てるよ!」

 

「本当か!?」

 

「見せて見せて!」

 

つぐみがスマホのSNSで感想の書き込みを見つけたらしく巴、ひまりを筆頭に皆それに食いついていた。

 

「巴ちゃんのドラム、凄くカッコよかったって!」

 

「やりぃ!」

 

「ベースの子可愛かったって、ひまりちゃん!」

 

「やったあ!」

 

「ギターのソロパート鳥肌立ったって!」

 

「ま~モカちゃんは天才ですから~。」

 

「歌声に痺れたって!良かったね、蘭ちゃん!」

 

「ま…まあ、いつも通りだし…。」

 

ファンの感想にそれぞれが喜んだり照れたりしていた。だが…

 

「つぐは?なんて書いてあるの?」 

 

「えっ?私は…。」

 

「「「「・・・・・・・」」」」

 

つぐみは自分のコメントを探すが何故か黙りこんだまま…。あれ?これってまさか…。

 

「ま…まあ、つぐは全然問題無かったからな!」

 

「一回もミスしなかったもんね!」 

 

「うん、いつも通りだった。」

 

「良かったよつぐ~。」

 

他のメンバーがそれぞれフォローしている。つぐみは「あはは…。」と笑っているが恐らく心の中では結構ダメージ入っているだろうな。

 

「まあ、つぐみ。ネットの評価が全てじゃないんだしお前が満足いくライブが出来たらそれでいいんじゃないのか?」

 

「遼くん…そうだね。」

 

このときの俺は知らなかった。まさかつぐみがあんなことになろうとは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

「どうしたんだろうねつぐ。練習休むだなんて。」

 

「具合でも悪いのかな?」

 

「わからん。先生に頼み事されて断りきれなかった可能性もある。」

 

俺たちは学校が終わっていつものように次のライブに向けてと前回の反省点等も踏まえてcircleで練習をしていた。だが今日はつぐみが練習を休んだのだ。まさかあの真面目で健気なつぐみがサボるとは思えないが。

 

「まあ~真面目さだけで言ったら遼も人のこと言えないけどね~。」

 

「だからさらっと人の心読むな。」

 

「………ねえ、あれつぐみじゃない?」

 

蘭の目線の先にはなにやら気合い満タンで足を進めるつぐみがいた。

 

俺たちがつぐみの後を追うと彼女はロック風のファッションショップに入っていった。5人は店の商品の陰に隠れて様子を伺っていると試着室からつぐみが出てきた。

 

 

「「「「「・・・・・・・・・・!?」」」」」

 

そのつぐみの姿に俺たちは一瞬言葉を失った。

つぐみはいかにもザ・ロックガールといった服装をしていたのだが…。

 

「似合ってない~…。」

 

「あんなの…つぐみじゃない…。」

 

「蘭や巴ならともかく、つぐみだとなんかイメージぶち壊してるよなあれ…。」

 

いや、でもあの服をあの二人が来ても無理あるかも知れんが…。

 

「いや、つぐは変わろうとしているのかも知れない。」

 

「まさかとは思うが…あのライブの感想の件まだ悩んでいたのか…?」

 

「つぐ…。」

 

とりあえずこれ以上無闇にのめり込んでまたつぐみを悩ませるのもあれだし、俺たちは一時撤収することに。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、俺は知るよしもなかった。まさかこれはほんの序章でしかなかったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のライブの当日

 

俺はライブの準備を終え、ひとまず関係者席につきライブ開始を待つ。ここに来るまでは特に問題はない…いや、1つだけあった。いつも早く来て準備を手伝おうとするつぐみが来なかったのだ。

 

「事故とかナンパとかにあってなかったらいいんだが…。」

 

色々考えているうちにライブが始まりAfterglowの番になった。そして蘭、モカ、ひまり、巴が出てくる。

 

 

 

 

 

そしてつぐみはというと…

 

 

 

 

 

「嘘だろおい…。」

 

なんということでしょう。なんとまさかのパンクロック風になって帰ってきたではありませんか。

 

いや、なんということでしょうじゃねえよ!劇的ビフ○○ア○ターやってる場合じゃねえよ!前見たときはまだ可愛さが残っててギリギリだったのになんかその可愛さすら捨てちゃったよあの子!一体何をどう迷走したらああなるんだ…!匠もびっくりだわ!ほら、他のメンバーもなんか言葉に困ってるし!とにかくもう多くは言葉出ないから一言だけ言わせて…。

 

「なんじゃそりゃぁぁああああ!!」

 

周りの盛大な歓声によりかき消されたが思わず俺の盛大なツッコミが炸裂してしまったのだった…。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

ライブが終わって俺たちは羽沢珈琲店に集まってる…。いや、もう前に集まった時とビフォーアフターが激しい。1人変わっただけで凄くギクシャクしてる。あの後俺は控え室にダッシュで直行したのだがつぐみは依然として変わらずの状態。どういうことが問い詰めたら「私に質問するな」と言われた。えっ?あのつぐみがこんなこと言ったのって?うん。言った。正直問い詰めた俺が一番びっくりしてる。

 

 

「ラ…ライブ…良かったね…。」

 

「イェア…」

 

「そうだな~。つぐ気合い入ってたもんな~。」

 

「イェア…」

 

いや、もうなんだろうなこれ。下手に口出したらまたつぐみが悩みはじめて暴走しての無限ループになりそうだし、かといってこのままにしておくわけにもいかないし…。

 

「……………違う」

 

その時蘭がなにかを呟いた。そして…

 

「こんなのつぐみじゃない!!」

 

そのまま勢い良く店を飛び出して行った。

 

「すぐ飛び出す~…。」

 

「あ……。」

 

「つぐ…やっぱこれないよ。」

 

「とりあえず俺、蘭を追いかけてくる。」

 

その後、俺は蘭の元に缶コーヒーを持っていってそのまま家まで送り届けた。

つぐみのことも心配だが今はそっとしておいた方がいいのかも知れん。後はモカたちに任せておくか。

 

 

 

 

 

 

 

その翌日…

 

「おはようございます。」

 

休日ではあったがやはりつぐみのことが心配で開店と同時に羽沢珈琲店に入店した。

 

「あ、遼くん!おはよう!」

 

するとつぐみが真っ先に出迎えてくれた。今の状態はいつもと変わらない。俺の思い違いならいいんだがな…。

 

「ねえ遼くん、次のライブなんだけどさ…。」

 

「随分と気が早いな。昨日の今日でもうライブの計画始めてるのか。」

 

「ライブはまだなんだけど…。」

 

つぐみは俺に一枚の紙を渡し、受け取った俺はそれを見た。そこにはパスパレのようなフリフリのアイドル衣装のデザインが書き記されてあった。いや、これはもしかしなくても…

 

「パスパレっぽく可愛さをアピールすることも考えているんだけどどうかな?」

 

「……つぐみ、お前どこに向かってるんだ…?」

 

どうやらまだまだつぐみの自分探し?の問題は続きそうだ。

 

 

 





新しくコメントをくださったユニバースファントムさん、ぴぽさん、アインシュタインさん、ありがとうございます!

そして評価に
☆10 ユニバースファントムさん
☆9 黒っぽい猫さん、ぴぽさん
評価ありがとうございます!

そして気付けばお気に入りが非公開もあわせて63になってました。皆さんありがとうございます!


次回は遼がとある大物と出会う見たいですがそれは一体誰なのか。

次回『未知との遭遇しやがれ』

あ、この予告っぽいやつは「次は絶対これやる!」っていうのが決まってる場合のみやります。それと気分次第でやったりやらなかったりします。ご了承ください。



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未知との遭遇しやがれ

 

「待てコラアアアアア!!」

 

「ひいいいい!何なんだコイツはああああ!!」

 

 

 

ここで問題だ。俺は今一体何をしているだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答えは『盗んだ(俺の)自転車で走りだした奴がいるためそいつを追っている』です。

 

なぜこんなことになっているのか。それは5分ほど遡る。

 

 

 

 

 

 

 

俺は自転車で隣町のCDショップまで来ていた。いつもなら皆とよく行くショッピングモールの中の店に行くのだが今回に限り目的のCDが無かったのでわざわざ自転車を使い隣町に行くことにした。

そこで目的物を見つけて無事購入したのはいいのだが事件はここから起きた。

 

「お客さん!お釣忘れてますよ!」

 

中から出てきた店員さんに呼び止められて俺は自転車から降り店員さんからお金を受け取った。

…だがその一瞬の隙に…。

 

「はあ…はあ…。これで…」

 

俺が振り向くと何者かが俺の自転車を使い突然走り去って行った…。このままでは俺は早めに帰る為の手段が無くなってしまうため、奴を追いかけて自転車を取り戻すことに…。

 

 

 

 

 

まあ、ここまでか事件の回想で今は絶賛…

 

 

 

 

 

「俺の自転車返せえええええ!!」

 

全力疾走で犯人を追跡中である。こうして追いかけてるのは良いのだがやはり自転車と走りでは速度に差が出てしまう。本当に自分がこの状況になると銭形のとっつあんの気分がわかってくる(謎)。

 

なので俺は別の道を使い逃走犯を回り込んで捕まえることにした。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

~三人称視点~

 

 

 

「何なんだあいつは…。とにかくもう見えないし後はあっちから逃げ切れば…。」

 

犯人は遼の自転車を奪い逃走していたが意外としつこく追いかけてくる遼に驚きなんとか撒いていた。そして今後ろを見ると誰もいなかったので振り切ったと思いこんでいた。しかし…

 

「動くなああああ!!」

 

「おわああああああ!?」

 

突如道路脇から飛び出して来た遼にびっくりした自転車泥棒は急ブレーキをかけるが間に合わずにそのまま激突。右の膝にタイヤがクリーンヒットしもちろん遼は痛い思いをした。だがそのお陰で泥棒は自転車から倒れたのでなんとか取り戻すことに成功した。

 

「良かった…。自転車は無事だ。」

 

「おい!怪我人より自転車の心配してんじゃねえ!」

 

「加害者の心配をする被害者がどこにいる。それに怪我人である前にお前は犯罪者だということを自覚しろ。後この自転車、意外と高かったんだぞ。」

 

「知るかよ!ちょっと自転車使っただけだろ!」

 

「世間ではそれを犯罪というんだ。」

 

「大体お前が飛び出したせいで俺のズボン擦れただろ!これ高かったんだぞ!どうしてくれる!」

 

「お前の場合は自業自得だろ。」

 

「なんだとてめえ!」

 

泥棒は遼に殴りかかるがそれを難なく交わし、再び飛んできた泥棒の拳を今度は腕ごとつかんだ。そしてそのまま勢いを利用して一本背負いという柔道で使われる技で地面に叩きつけた。

 

「こちとら小中と柔道やってたんだ。そう簡単に負けるわけねえよ。まあとりあえず…お仕置きの時間だ。」

 

遼はかなり低い声で泥棒に迫っていった。その時の泥棒はどこか怯えていたようなそうで無かったような。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

それからかれこれ3分、一人の少女は息を切らしなから走っていた。じつはこの少女、つい先ほど何者かに鞄を引ったくられたのだ。その後犯人は走って逃走し途中で誰かの自転車を盗み逃走を続けてるとのこと。少女は走りにくいヒールの靴であり、犯人に逃げられてしまったが鞄の中には財布やスケジュール票等の貴重品が入っていた為このままにしておくわけにもいかなかった。

 

だがそもそも男性と女性では体力などに差があるためここまで来ては完全に見失った可能性もある。後は警察に連絡して任せるしかないかと思っていたその時、何かの声が聞こえそれが気になった。声の聞こえた方に向かうとそこには。

 

「いてててててて!おい離せ!離せって!」

 

「うるせえ黙ってろ!とりあえずどうにかして警察に連絡しないと…。」

 

そこには間接技をきめている一人の青年と必死でその間接技から逃れようとしている黒い服の男がいた。しかもその痛がってる男は自分から鞄をひったくっていった男だった。

一体何が…と考えていたらその二人の近くに少女の鞄が転がっていた。そして中身を確認して何もとられていないと判断したようだ。

 

「あ、すみませんそこの人!こいつ自転車泥棒なんです!とりあえず警察に連絡してくれませんか!?」

 

「おいふざけんな離せ!」

 

「お前はとにかく黙ってろ!」

 

(一体何が起こってたのかしら?)

 

 

その後、少女の連絡により駆けつけた警察によって男は窃盗の容疑で現行犯逮捕された。遼はその後警察の事情聴取を受け、数分後に解放された。少女も場所は違うがそのような感じだったらしい。

 

その後、遼は疲れきった為真っ先に家に帰ったので少女と出会うことはなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

次の日

 

遼は羽沢珈琲店に来て偶然居合わせたモカと巴と会話していた。

 

「と、言うことが昨日あったんだけど。」

 

「本当お前怒らせると何しだすかわからないよな…。」 

 

「ま~遼の趣味が役にたったんだしいいんじゃない~?」

 

そう。彼の趣味の1つに「街探索」と言うものがありこれは言葉の通りなんの目的もなく徒歩や自転車で色々な道を行き来するというものだ。昔から好奇心が強かった遼ならではの趣味と言えるだろう。

 

「でもまさか自転車泥棒がひったくりもやってたなんてな-。」

 

「とりあえず俺の活躍に免じて明後日の物理の宿題無しにしてくれないかな。」

 

「いや、それは無理だろ。」

 

「だろうな。まあ、一応やってるけど。」

 

「じゃあいいじゃ~ん。」

 

「ただし正解してるという保証は無いけどな。」

 

 

 

カランカラン…

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

新しいお客さんをつぐみが出迎える。そして入っていたのは水色の髪をサイドテールにした小動物のような少女とクリーム色の髪のモデルのような大人びた少女だった。

 

「………ん?」

 

「遼~?どうしたの~?」

 

「いや、なんでもない…。」

 

遼はそのクリーム色の少女に見覚えがあるような気がしたのだ。

 

「千聖ちゃんありがとう。ショッピングモールってやっぱり広いから…。」

 

「いいのよ。でも花音…ショッピングモールにつく前にいなくなられるのはちょっと大変だったわ。」

 

「ふえええ…。」

 

「とりあえず座らな…」

 

その時、そのクリーム色の少女と遼の目が会いその子がこちらに来た。

 

「すみません、あなたはもしかして昨日の…」

 

「えっと…何処かでお会いしましたっけ?」

 

「昨日警察に連絡を入れた人…と言えばわかるかしら?」

 

「……あ、昨日の!」

 

「遼~?千聖さんと知り合い~?」

 

「ああ、さっき警察に通報してくれた通りすがりの人がいたって言っただろ?それがこの人。」

 

「通りすがりというよりも私もあの逃走犯を追いかけてあそこまで来たのよ。私も鞄を盗まれちゃったから。」

 

「えっと…じゃあもしかして警察の人が言ってたひったくりの被害者って…。」

 

「なるほど~。千聖さんの目的と遼の目的は共通してたって訳か~。」

 

「ってちょっと待て。モカこそ知り合いなのか?」

 

「知り合いも何も千聖さん、パスパレのメンバーだよ~?」

 

「パスパレって……あ、イヴのいるところか。」

 

「あら?イヴちゃんを知ってるの?」

 

「いや、知ってるも何もここで良く会いますし。」

 

「そうだったの?」

 

「それで…どうかされたんですか?」

 

「いえ、昨日のことについてお礼を言っておきたくて。」

 

「お礼?」

 

「ええ。私の鞄が戻ってきたのはあなたのお陰でもあるからね。」

 

「といってもこっちも自転車盗まれて追いかけたから結果論みたいなものなんですけどね…。」

 

「それでもあなたがいなかったら戻って来なかった可能性もあるわ。本当にありがとう。」

 

「あ、いえ。」

 

「ところで突然なんだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、明日私と付き合って貰っていいかしら?」

 

「はい?」

 

 

 



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想いとカフェと追跡中



この話を読む前に一言注意です。

今回、千聖さんが主に出ますがキャラがぶれていて「千聖さんこんなんじゃ無いだろ!」ってところがあるかもしれませんのでご了承ください。





「ねえモカ…」

 

「ん~?」

 

「何なのこれ?」

 

「何って尾行だよ~。ほら~スパイ映画にもあるじゃん~?」

 

「いや、尾行って…何であたしまで…。」

 

 

あの自転車泥棒騒動の次の日、青葉モカと美竹蘭はとある行動に出ていた。それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

「そもそも何で遼と千聖さんがどこか行くのに後をつけなきゃいけないの…?」

 

 

尾行である。

 

 

「だって気になるじゃ~ん」

 

「あたしはそう思わないんだけど…。というか何であたしまで…。」

 

「あ、そろそろ動きそうだね~。ばれないように行くよ~。」

 

「………どうなっても知らないからね。」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「すみません白鷺さん。」

 

「千聖でいいわよ?」

 

「じゃあ千聖さん、これは一体どういうことなんですかね?」

 

「この間のお礼よ?」

 

「いや、別に気にしなくてもいいんですけど…。」

 

「それじゃ私の気が収まらないのよ。」

 

「自分としては気にしてないんですが…。」

 

「とりあえず人の好意は素直に受け取っておくものよ?」

 

「…………ハイ。」

 

この時、遼は察した。『この人に恨みを売ると後々何かとんでもないことになるだろう』と。

 

「それで…どこか行きたいところとかあるかしら?」

 

「いや、決まってなかったのかよ。まあ、特に行きたいところは無いですけど。」

 

「なら私が決めても良いかしら?」

 

「じゃあ…おまかせします。」

 

「なら移動しましょうか。」

 

こうして遼と千聖さんの謎のお出かけが始まったのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

歩くこと数分。俺たちはとあるカフェに来ていた。

 

「えっと…このカフェは?」

 

「私の親友のおすすめなの。」

 

「親友…?もしかして松原先輩ですか?」

 

「そうよ?花音のことを知ってるの?」

 

「まあ、会ったことはありますけど。」

 

「あの子カフェ巡りが好きだから私も一緒に出かけることがあるのよ。とりあえず入らない?」

 

「そうですね。」

 

俺たちはそのままカフェに入る。

俺が行く喫茶店といったら羽沢珈琲店だがこのカフェはそことは違い、いかにもおしゃれなお店というかカジュアルな感じだった。そのまま席に案内されてその場に座った。

 

「おお…。」

 

「あなたはあまりこういったところは来ないタイプだった?」

 

「そうですね…。カフェといったらつぐみのところ位しか行きませんし。あ、でもここも素敵だと思いますよ。なんかこう…若者っぽいというか…。」

 

「若者っぽいって…あなたも若者でしょう?」

 

「あ、そうですね…。」

 

「とりあえず何か頼みましょう。」

 

千聖さんはそういうとメニューの一つを手渡してきた。俺はカフェオレと苺のケーキを千聖さんはハーブティーとレモンケーキを頼んだ。そしてしばらくすると注文した品が出てきて千聖さんはハーブティーを一口啜る。…やっぱり見てて思うんだけどなんでイヴといいこの人といい紅茶啜るだけで一枚の絵が出来そうなくらい様になるのかな…なんてボーっと考えながらカフェオレを啜ったのだが…。

 

「熱っ…」

 

こういう場合自分が猫舌であることを忘れるといういつものパターンである。羽沢珈琲店で飲んでた感覚でいってたから油断してた。

 

「・・・・・・・フフッ。」

 

なんか笑われたんですが。何事もなくカップを元に戻したつもりなのに普通にバレてる件。

 

「あなた猫舌なのかしら?」

 

「そうですね。いつもはつぐみのお店に行くのでその時は俺にあわせて彼女が出してくれるのでついいつものノリで…。」

 

「つぐみちゃん良く見てるのね。」

 

「ええ、でもつぐみはいつも頑張り過ぎてますし自分もしっかり支えてあげないとと…」

 

「そういえばあなたはAfterglowのサポーターをやっているのよね?」

 

「はい。そもそも自分は彼女たちみたいに人前に立つよりも裏で支えている方が性にあってる気がしますし。それに…」

 

「それに…?」

 

「俺はあいつらが笑顔で要られる場所を守ってあげたいんです。ステージにたっている彼女たちを見てるとわかるんですけど本当にいい顔しているんですよ。」

 

「・・・・・・」

 

「蘭もつぐみも巴もひまりもモカも俺にとっては誰一人かけてはいけない大切な人なんです。俺が折れそうになったときもあいつらがいたから前に進めた気がするんです。だから俺はあいつらの影としてみんなを輝かせてあげたいんです。」

 

「・・・・・」

 

「あ…すみません。勝手に口走っちゃって。本当何言ってるんですかね自分。」

 

「凄く大切なのね。彼女達が。」

 

「それはもちろん。」

 

「さっきの話してた時の貴方の顔、凄くいい表情してたわよ?」

 

「えっ?」

 

「でも彼女達も同じくらい貴方のことが大切だと思うわよ?だから貴方もあまり無茶だけはしないでね?」

 

「えっと…どうしたんですか?」

 

「私の知り合いにも凄く頑張り屋な子がいるの。その子とあなたは似てるところがあるからね。……それよりそろそろ珈琲冷めるわよ?」

 

「あっ…」

 

その後俺たちは注文していたケーキと珈琲を胆嚢しながら他愛もない話をしていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「蘭~?」

 

「…何?」

 

「来て良かったね~。」

 

「別に…。」

 

「その割にはなんか嬉しそうだよ~?」

 

「うるさい…。」

 

あたしたちは遼と千聖さんの後を追ってここまで来た。二人でどこかに行くことは知ってたんだけど蘭とお出かけしてて遼を見かけたからやっぱり気になってついて来ちゃった。蘭には止められたけどね。ちなみに今はあたしも蘭も二人から見えないような席でなお話が聞き取れるところにいるんだけど遼の思いがけない発言にビックリしたね~。でもなんか嬉しかったけどね。それに蘭も口では言わないけど本当は凄く嬉しかったって思ってるし。

 

「それはそうとさ~何か注文する~?せっかく来たんだしあたしたちも食べていこーよ~。」

 

「じゃああたしブレンド珈琲で。」

 

「モカちゃんは~このチョコレートパフェと珈琲にしようかな~。」

 

「モカ…さっきやまぶきベーカリーで買ったパン食べたばかりだよね…?」

 

「そうだよ~?」

 

「良く食べるね…。」

 

「パンとスイーツは別腹だよ~?」

 

「ごめん、あんまり違いがわからないんだけど…。」

 

「え~?」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

それから俺と千聖さんはケーキを食べ、しばらくしてお店を出た。お会計の時に俺も自分の分を払おうとしたが「この間のお礼に」ということにより押しきられてしまった。

 

「千聖さん、今日はありがとうございました。」

 

「いえ、こちらこそありがとうね。それじゃ、私はこの辺で…。」

 

「良ければ送りましょうか?もう夕方ですし…。」

 

「いえ、大丈夫よ。それにこのあと事務所に寄らないといけないの。」

 

「そうですか。じゃあ自分もこの辺で失礼します。」

 

「ふふっ。それじゃまた会える時があったらよろしくね?」

 

千聖さんはそういうとその場から去っていった。さて…。

 

「俺も帰ろうかな。」

 

俺も家に帰ることにした。帰り道の途中でモカと蘭に出会ったが二人はどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

それとこれは後から聞いた話なんだかあの日、こっそりついてきていたらしい。

 

 

 

 

 

 





ほんと迷走してんな~。誰だよこんなの書いたやつ。……私か。

……千聖ファンから殺されないよな私…←不安


新しくコメントしてくれたメロンパン型染色体さん、クミンシードさんありがとうございました。


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看病から出た本音

 

 

 

 

「モカ早退したの?」

 

昼休みに集まったモカを除くAfterglowのメンバーは屋上で緊急ミーティングを開いていた。何しろ今日の3限目の途中でモカが頭痛で早退したのだから。

 

「それでさ、今日なんだけど…放課後みんなでお見舞いに行かない?」

 

「そうだな。モカの様子も気になるし。」

 

「うん。モカちゃんなんだかつらそうな顔してたし…。」

 

ひまりの提案に巴とつぐみが乗った。

 

「でもさ、やっぱりみんな一斉に行くと迷惑じゃないかな?」

 

そんな中で蘭が口を開いた。だが蘭の言葉は的を得ている。いくら幼なじみのグループとはいえ突然五人も来たら親御さんも大変だろう。

 

それに以前、蘭の家にお見舞いに行った際に俺は途中で皆と別れスーパーに行き、お見舞いの品としてゼリーとスポーツドリンクを買って後から向かうと何が起きていたのかわからないが葱やらニンニクやらを首に巻いたりした上に、ババンボだかモモンガだか知らないがよくわからない儀式が始まっていたのだ。皆には悪いが看病に関しては集まり過ぎると不安要素が強くなってしまう。

 

「それでも心配だよね…。」

 

「なら誰か一人がモカの家に行って様子をみてくるってのはどうだ?それならそこまで迷惑にもならないと思うが。」

 

「あたしもそれがいいと思う。」

 

「でも誰が行くの?」

 

つぐみの発言で皆が黙りこむ。別に行きたくないというわけではない。どちらかというと皆行ってあげたいと思ってるくらいだからな。

 

「私は遼が良いと思う!」

 

ここでひまりが提案する………って俺?

 

「いや、なんで俺?」

 

「だってこの間の蘭のお見舞いの時も遼結構手際良かったし、この中でこういうの得意なの遼だから。」

 

「なるほど。」

 

確かにそうだな。まあいくら看病慣れしてないとはいえどどっかの文化の神様?に関する儀式的なものをするとは思わなかったが。ホント誰だよババンボ。

 

「じゃあ遼くん、モカちゃんのことお願いするね?」

 

「了解した。」

 

「あ、モカと何か進展あった場合教えてね!」

 

「ひまり、お前は何を言ってるんだ?」

 

こうして俺は皆の代わりにモカの家に放課後向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、モカの家に行くことに。俺はモカ用に今日の欠席した分のノートをルーズリーフにまとめたものと途中でモカが好きそうなゼリーとスポーツドリンクを買ってから向かうのだった。

 

それから歩くこと数分。

モカ宅のインターホンを押すと出てきたのはモカの母親だった。

 

「はーい…あ、遼くんいらっしゃ~い。どうしたの突然?」

 

「ご無沙汰しております。今日モカが早退したので学校からのプリントを持ってきたのと少しお見舞いにと思いまして。」

 

「そーなんだ。とりあえず上がっていって。」

 

「すみません。失礼します。」

 

 俺はモカの家に上がらせて貰う。そのままモカ母は俺をモカの部屋へと案内した。

 

「モカ?遼くんがお見舞いに来たよ?」

 

モカの母さんがドアをノックして呼び掛けるが返事がない。寝ているのだろうか。

 

「すみません、モカ大丈夫なんですか?」

 

「うーん?まあ、入っても大丈夫だと思うし遼くんはモカの側にいてあげてくれる?」

 

「はい。わかりました。」

 

「じゃあ飲み物持ってくるから待っててね。何がいい?」

 

「あ、いえ。大丈夫です。お気遣いなく。」

 

そのまま俺はモカの部屋に残ることになった。モカは今ベッドの中で寝ていた。だが少し顔が赤かったり頭痛のせいか苦しそうな表情をしていた。

 

「大丈夫かモカ?……って寝てる人に聞いても答えないか…。」

 

俺はベットの側の空いてる場所に座る。あまり人の部屋をジロジロ見るのもあれだが改めて見ると私生活がだらだらしてそうなモカも部屋は綺麗にしてるんだなと感じた。

そんな中で俺は写真立てに入った写真に目がいった。それは昔六人で撮ったものだった。夕焼けをバックに皆が笑っている。この頃から皆あまり変わってないとふと思う。強いていうなら蘭がちょっと癖のある奴になったかなと言うくらいだ。

 

「ん…。」

 

声が聞こえて振り替えるとモカが唸っていた。起きたのか、それとも寝ぼけているのかはわからないが、写真を元の場所に戻し再びベットの側に座り様子を伺う。

 

「……あれ?遼?」

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

ふと目が覚めた。でもまだ眠気と頭痛が酷い。

 

「起きたのか?」

 

声がする。ママが入ってきてるのかな?でも男の人の声だから違う気がする。

 

「調子はどうだ?」

 

あたしの目の前に遼がいた。風邪のせいで頭がボーッとしてこれが現実なのか夢なのかよくわからない。でもこれが夢なら…。

 

「うーん…。まだ眠い…でもなんかお腹すいた…。」

 

もうちょっと夢の中に浸っていよう。そう思い少しずつ意識を身に任せることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「お腹すいたって…ゼリー買ってきといて正解だったな。ほら。」

 

俺は買ってきたフルーツゼリーの蓋を開け、お店で貰ってきた紙スプーンを出してモカに渡す。だがそれを受け取らずモカが言いはなった一言は…。

 

「食べさせて…。」

 

「はい?」

 

──寝ぼけているのかな?

まあ病人だしとやかく言うのはやめておこう。とりあえずスプーンでゼリーを掬い、口の中に入れてやる。そのままモカはそれを飲み込みまた口を開ける。そして俺はまた口の中にゼリーを入れてやるの繰り返しが何回か行われた。こうしてみるとまるで雛鳥に餌をやる親鳥の気分だ。そして食べ終わると再び布団にくるまった。

 

「ホントどこまでもマイペースだよな。」

 

「ふふふ~。ねえ遼~。」

 

「なんだ?山吹ベーカリーのパンは風邪直るまで我慢しろよ?」

 

「手握って~。」

 

───うん?

オーケーオーケー、ひとまず落ち着こう。これはおそらく完全に風邪にやられて思考回路止まってるな。

それにこいつが頼んだのは手を握ることだ。何もおかしなことではない。よし、とりあえずここで俺がやることは…。

 

「・・・・・・・・」

 

モカの望む通りそっと手を握ってやることだと思う。するとモカも俺の手を握り返して来た。

 

「えへへ~。あったかい~。」

 

何がそんなに幸せそうになるのか知らないがまあ良いだろう。

 

「遼~?」

 

「なんだ?」

 

「ありがとね~。」

 

「ありがとうって…俺そんなにお礼言われるようなことしたか?」

 

「なんでもいいからありがと~。」

 

 

この時のモカは風邪にしては凄く自然な笑顔だった。

いつも一緒にいた中でもこんなにいい笑顔の時はあっただろうか?

こう考えてみると俺はモカや皆のことをよく見てるようであまり見てないところが多いと思った。

 

「後もう1つ言っていい~?」

 

「いいけどなんだ?」

 

「遼~…アタシ遼がいてくれて良かったと思ってるよ~。」

 

「なに言ってるんだお前は…。」

 

「アタシ達と一緒にいてくれてありがと~。」

 

いくら風邪で頭が回ってないからとはいえ、突然こんなことを言われたらさすがに豆鉄砲どころかマグナムを食らったような感じだ。でも、どこかで凄く嬉しく思ってる自分もいた。

 

お前がいたから俺は皆に出会えた。お前がいたから俺は挫けずに前に進めた。もしモカと出会ってなかったら俺はどうなってただろうか。ちゃんと前を向けてただろうか。そんなことはわからない。

 

でも俺が今言いたい気持ちは1つだ。当たり前過ぎてなかなか言えない言葉。いざ言おうとするとなかなか口から出ない言葉。少しズルをするかも知れないがこういう時にこそ言おうと思う。

 

「こっちこそ、俺と一緒にいてくれてありがと。」

 

それを聞くとモカは微笑んでそのまま眠りについた。部屋には彼女の規則正しい呼吸だけが聞こえる。

 

「って…多分明日になったらこいつ忘れてるけどな。」

 

でもそれでいい。

モカが覚えてなくても俺が覚えているから。例えモカが話しているのが俺とは違う夢の中の俺だとしてもさっきの想いは嘘じゃない気がしている。

心の奥でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが実はこの風景をモカの母親がこっそり見ていたらしく「青春してたね~♪」とからかわれた。まさかモカだけでなくその母にもからかわれることになろうとは…。

というかまじで見られてたことに気が付かなかった…。

 

 

 

 

ウソダソンナコトォォォォォ!!

 

 

 

 

 

 

 





コメントや高評価ください(直球)

辛口コメでも歓迎しますが作者のメンタルは豆腐よりも脆いのでお手柔らかにお願いいたします。

追記
twitterのフォローもよろしくお願いします。
@kanata_kizuna



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あいつがいるだけで

 

○月×日□曜日

 

 

今日は学校が休みということもあり昼からバイトをする予定だった。

 

だが今の時刻は午前11時。因みに俺が出勤したのは1時間前で本来俺が入るのは12時からだった。

 

こうなったのには理由があり、本来くる筈だったバイトの葛城さんがこれなくなりその代わりに俺に早めに出勤するように頼まれたのだ。しかもバイト上がり時間は変わらず。

別にどうでもいいが店長俺の扱い少々雑じゃないか?というのは胸の奥に閉まっておこう。

 

 

「静かだなー。」

 

 

因みに今レジにいるのは俺1人。もう1時間もすればモカが来る。

 

 

「そういや俺の昼ご飯どうなるんだ?ちょっと店長に聞いて来ようかな…。」

 

 

と、呑気なことを言ってるうちにお客さんがレジにやってくる。

 

「いらっしゃいませー。」

「あれ?遼?」

 

レジにかごを持ってきたのはひまりだった。しかもかごの中身は相変わらず山のようなスイーツを入れて。

 

「今日って確かバイトは昼からって言ってなかったっけ?」

「いつもこの時間に来る葛城さんが急遽休んだから俺が早めに来ることになったんだよ。」

「なるほど。」

「というか相変わらずの中身だなこれ。」

「いや~。新作のスイーツがネットでかなり評判でさ…。どうしても食べたくなっちゃって…。」

「まあ、気持ちはわからんでもない。」

「ところで今日モカは来てないの?」

「いや、あいつはいつも通りの出勤だからな。何か用事でもあったか?」

「そうじゃないんだけど…前のスイーツ買いに来たときのことでね…。」

 

ひまりが苦笑いしながら呟く。そういやこいつ前に同じようにスイーツ買いに来た時にモカに会計でカロリー計算されたんだっけ。

 

 

「成る程。大体察した。」

「じゃあ遼…会計お願い。」

「かしこまりました。今ならお値段と共にカロリーの合計をお伝え出来ますがいかがいたしましょうか。」

「いや待って!?私の話聞いてたよね!?」

 

慌てて止めようとするひまりを見ながらなんとなくモカが弄る気持ちがわかった気がする。

 

「申し訳ございませんお客様。ちょっとしたコンビニジョークでございます。」

「ちょっと待って?遼そんなキャラだったっけ?」

「いや、他にお客さんいないから少しはめはずしてみようかなって。」

「本当に突然やられるとびっくりするからやめて?」

 

そこからは真面目に会計をしてひまりが帰っていくのを見届けながら業務に戻る。

 

「………ふう…。」

「おお常乃。元気にやってるな。」

「あ、店長。いたんですか。」

 

奥からこのコンビニの店長が出てきて俺に缶コーヒーを投げ渡す。それをキャッチした俺は「ありがとうございます。」とお礼を言った。

 

「ちゃんと真面目にやってんのか?ん?」

「やってますよ。まあ、いつもより早く出勤した上に突然の連絡だったので疲れてますけど。」

「まあ、そう言うな。昼飯にサンドイッチ置いといたから後で食っとけ。」

「ありがとうございます。」

「ただし、賞味期限切れのやつだけどいいか?」

「やっぱりか。」

 

まあそうそう腹を下すことはないし大丈夫だろうけど。

 

「それにしてもお前、以外と冗談通じるやつだったんだな。」

「いきなり何ですか…。」

「さっきのやりとりだよ。」

「見てたんですか。」

「おう、もうバッチリと。」

 

見られてたのかい。まあ、うちの店長そこまで気難しい人じゃないから特別ヤバいことしなけりゃ………あれ?そう考えると幼なじみのノリと周りにお客さんいないからあれやっちゃったけど大丈夫なのかさっきの。

 

「安心しろ。青葉のケースもあるしあれじゃクビにはしねえよ。」

「あ~すみませんでした。」

「謝らなくてもいいっての。それより意外だったからな。」

「と言いますと?」

「ぶっちゃけるとさ、お前って俺の中でさなんか堅物というか…冗談が通じないタイプだと思ってたからな。」

 

言われてみればそうだな。バイト始めた(ここに来た)時にはリサ先輩にも「もうちょっと肩の力抜きなよ。」って言われてた位だし。俺って結構堅いイメージあるのかな。

 

「確か…お前が来たすぐ後で青葉が来たっけな。」

「そうでしたっけ?」

「そんときのお前、それまで凄く堅苦しかったのにあいつ絡みになると結構喋るようになるからな~。正直、見てて面白かったよ。」

 

 

確かに。あいつは無自覚でいつものようにやってるけど以外とそのお陰で俺も上手くやってこれたと思う。

多分モカもバイトをやってなかったらさっきのひまりに対する接客もただくそ真面目に行っていただろう。

 

俺は知らず知らずの間にモカの影響を受けてると思う。モカと出会う前の俺は一部の人からは『面白くないやつ』と言われて中々輪に入れなかった。

その後もちゃんとした友達が誰一人出来ないままそのまま引っ越しをすることになった。

 

新しい土地に来ても周りの環境に馴染めず、意見の食い違いで1人になってしまいモヤモヤした状態で歩いてると川原に出た。

そこにいたのがモカだった。そこから成り行きで友達になったような感じだがそこから俺は変われたのかもしれない。

 

「まあ、堅苦しいのはしょうがないですよ。これが自分なんで。」

「でも青葉相手には凄く砕けてるけどな。」

「正直あいつにはくそ真面目に対応してたらついていけなくなるので。」

「とか言いながら本当はあいつといるのが楽しいんじゃないのか?お前自分では気づいて無いだろうけどあいつといるとき良い顔してるぞ。」

「そーですか──」

「こんにちは~。」

 

後ろから聞きなれた声が聞こえて振り向くと凄く眠たそうなモカがいた。髪の毛が若干ボサボサで起きてから間もない間にきたのだろうと推測できた。

 

「あれ?モカのシフトって30分後じゃなかったっけ?」

「俺が呼んだんだよ。これからオーナーと会わなきゃいけなくて出なきゃいけないから。」

「店長からの電話で起きました~。」

 

気持ちはわかる。この店長何気とギリギリで予定組んでくるし。

 

「そんじゃ俺は出てくるから後は二人で頑張ってくれよ。」

 

「チャオ」と言い残しお偉いさんのもとへ向かう店長。……というか今気づいたけどうちの店長って雇われ店長だったんだな。

 

「遼~。背中貸してもらっていい~?」

「なにする気だ?」

「おやすみなさ──」

「いするなよ?ここコンビニのレジだから。」

「は~い。」

 

 

そのまま自分の持ち場につくモカを見ながらなんとなく思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モカが、Afterglowがいるだけで俺は救われているのだろうと。

 

 

 

「ん~?どうしたの~?」

「いや何も。」

「もしかして~モカちゃんに改めて惚れちゃった~?」

「さて、昼でも食べてくるかな。」

「スルーしないでよ~。モカちゃん泣いちゃうよ~?」

 

 

 

こうしていつものように俺とモカのコンビニバイトは始まっていくのだった。

 

 

 

 

 

 





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二人はお出かけ中

 

 

 

ジリリリリ…

 

 

「………しまった。つい平日の感覚でアラーム切るのを忘れてた。」

 

 

今日は日曜日。当然学校はないし予定もない。そして親も仕事でいない。そしてバイトも入ってない。

 

 

「…………よし。もう一度寝るか。」

 

やることがないときの殿下の宝刀『二度寝』である。

こうして俺はもう一度夢の世界に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行けませんでした。

 

 

 とりあえず布団から出て服を着替えるとキッチンに行き、食パンにハムとスライスチーズを乗せてレンジで焼く、その間にインスタントコーヒーを入れてテレビのニュース番組を見ながらゆっくりする。せっかく早起きしたし天気予報も1日晴れだと言っているから布団でも干してその間ゲームでもしてようと思っていた。

 

ピピピピ…

 

そこに間髪入れずに携帯電話が鳴り響く。こんな早くに誰だよと思い手に取ると『青葉モカ』と表記されておりそのまま電話に出る。

 

『あたしモカちゃん~。今遼の家の前にいるよ~。』

「唐突なメリーさんやめろ。」

 

いつものように突然やってくるモカに突っ込み玄関のドアを開けると言葉の通り家の前にいた。

 

「おはようございま~す。」

「おう、おはよう。とりあえず中入れ。」

 

 家の中にモカを入れて再びリビングに戻る。

 

「どうしたこんな早くから。」

「今日日曜日でしょ~?」

「そうだな。」

「遼予定ないでしょ?」

「人を暇人みたいに言うな。無いけども。」

「じゃああたしとお出かけしない?」

「どうした?どこか行きたい所でもあったのか?」

 

 話をしながら慣れた手つきでモカのコーヒーを淹れていく。というかいつの間にかモカのマグカップがうちにあるのはどういうことだ。

 

「うーん…。遼と行きたいところならあるけどな~。」

「やまぶきベーカリーか?」

「それもいいけど~。せっかくのお休みなんだから違うところにも行ってみない?」

「違うところってどこ…」

 

 モカのコーヒーが淹れ終わったところで持っていくと既にモカはコーヒーを飲んでいた。

 因みにモカのコーヒーは俺が持っている。じゃあモカが飲んでいるコーヒーは…。

 

「それ俺のコーヒーだろ!?」

「そうだったの~?ごめんね~。」

 

 本人もわかってなかったのかちょっとびっくりしていた。

 

「遼飲んでたの~?」

「ああ、既に少し飲んだ後だ。一応お前のこっちな。」

「おお~。ありがと~。」

 

 因みに俺のはミルクを少し多めにしている。それでもモカは飲んでしまうんだよな…。

 俺のカップを置き自分のカップを受け取ったモカはゆっくりと飲む。不本意ではあるがその仕草が可愛いと思ってしまったのは内緒だ。

 

「そう言えばさ~あたしそのカップで飲んだじゃん?」

「そうだな。」

「それで遼もそれで飲んだじゃん?」

「ああ。」

 

 突然ニヤニヤしながら喋り出す。……嫌な予感しかしない。

 

「これっていわゆる間接キスだよね~?」

 

 ………ナンテコッタパンナコッタ

 

「ふっふっふ~!どうかなモカちゃんとの間接キスは~?」

「………わかった。今日1日付き合ってやる。」

「おお~。まだモカちゃん何も言ってないのに…。もしかして本当は一緒にお出かけしたかったの~?」

「用意してくるから大人しく待ってろ。」

 

 コーヒーを飲み干した俺は部屋に戻りショルダーバッグに財布やらハンカチやらを用意してリビングに戻る。

 

「………複雑だな。」

 

 そんなことを呟きながらモカの待つリビングに戻り声をかけると部屋の戸締まりを確認して2人で家を出た。

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「それで?どこに行くんだ?」

「ふっふっふ~。モカちゃんにおまかせあれ~。」

 

 いつものように余裕の表情で語るモカを片目に少し不安になりながらも恐らくカフェとかだろうなと考えていた。

 

「ついたよ~。」

 

 たどり着いた場所はやはりカフェ…と言ってもいつものように羽沢珈琲店ではなく、全国チェーンのカフェだった。

 

「意外だな。自分から率先してこういうところに来ないとは考えていたが。」

「実はここの美味しいって言われてるスイーツが今日なら割引がきくんだよね~。」

「抜け目がないな。」

 

 「ほら行くよ~。」と手を引かれて俺たちは店内に入る。こういったカフェは羽沢珈琲店を除くと千聖さんと来た時以来だ。

 店に入り席に座ってしばらくすると俺たちのもとに店員さんが来て注文を聞いていた。俺はカフェオレを、モカはコーヒーを注文した後で再びモカが口を開いた。本来の目的の割引のスイーツを注文するのだろうか。

 

「このスペシャルハッピーパフェをお願いしま~す。」

 

 なんか凄く甘そうな名前だな。

 

「かしこまりました。こちらは現在カップルのお客様に割引のサービスをしておりますがよろしいでしょうか?」

「お願いしま~す。」

「それでは品物を用意しますのでお待ちください。」

 

 ………うん?

 

「おい、ちょっと待て。」

「どうしたの~?」

「どうしたのじゃねえよ。俺たちカップルじゃねえだろ。」

「え~?でも店員さんがカップルって行ってきたんだしいいんじゃないかな~?意外とそう見えてるってことだし?」

「そうじゃなくて…。いくら割引が効くからって嘘ついちゃ駄目だろ。」

「………遼は真面目だねー。」

 

 突然ジト目で語り出すモカ。しかも声のトーンも低くなり若干棒読みなのが少し怖い。

 

「遼はあたしとそう見えるのが嫌なのー?」

「いや、嫌とかそんなんじゃなくて嘘は良くないだろ…。」

「………あたしはそう見えてもいいよ。」

「えっ?」

 

 モカが呟いた言葉を聞き直そうと思ったら頼んでいた品物が運ばれてきた。

 元々カップルで食べることを想定して作られていたのか思ってたより大きいパフェだった。

 

「なんじゃこりゃ…。」

「ほら~。食べるよ~?」

「……しゃーないか。」

 

 それぞれパフェスプーンを取り食べ始めた。

 ……味としては結構いい。チョコソースがかかったバニラアイス、コーンフレーク、そして奥にはフルーツとコーヒーゼリーという甘さとほろ苦さをいい感じに調節した一品だ。チョコとアイスで甘さに慣れた舌をコーヒーゼリーの苦さでうまく調和している。

 

「すごいなこれ…。」

「遼~。」

 

 声をかけられてモカの方を見ると口にパフェスプーンを突っ込まれた。突然のことで少しの間思考が回らなくなった。

 

「美味しいでしょ~?」

 

 彼女の顔を見るとさっきまでの不機嫌はどこへやら。ニカッと笑いこちらを見ていた。

 

「今度は遼の番だよ~?」

「は?」

 

 それ以上は何も言わずにただ目を閉じて口を開けているだけだった。もしかして食べさせくれということなのか?

 

「…………………」

 

 少しの間悩んだがこうなったモカは止まってくれない。長年の経験が物語っている。ならばどうすべきか。

 

「ほら。」

 

 パフェからアイスの部分を掬うとモカの口に入れる。そのままアイスは口の中に入り飲み込まれた。

 

「美味しいね~。」

 

 凄く明るい笑顔だ。こんな笑顔あっただろうか。……多分俺が忘れてるだけであっただろうけど。

 

「ほらほら~。どんどん食べるよ~。」

 

 さっきのモカの笑顔でまだ食べてないのに何故か口の中が甘味で満たされている。正直色々と腑に落ちない点はあるがこれは口にするべきではないのかも知れない。

 それに…

 

「おいし~。」

 

 モカ(こいつ)が幸せそうだしそれでいいか。

 

 

 

 






2人のお出かけはまだまだ続きます。

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ホリデーパニック

前回までのあらすじ

やっぱりからかわれる遼くん

遼「あらすじ雑だろ!」



 

 

「美味しかった~♪」

 

 先程のパフェでお腹を満たし俺の隣を歩くモカは満足そうな顔をしていた。

 

 店員さんには申し訳ないがあのままカップル割を使いパフェは完食した。とはいっても3分の2はモカが食べ尽くしたから俺はあまり食べてないけどな。

 

「ねー次どこ行くー?」

「どこ行くって…というか今何時だ?」

 

 腕時計を見ると時刻は12時を回っていてちょうどお昼時なのだが…先ほどパフェを食べたからあまりお腹は空いてない。というかさっきのパフェが昼飯みたいなものになってしまった。いや、パフェが昼飯ってどういうことだよ。

 

「おお~ちょうどお昼時か~。よし、お昼ご飯食べよ~!」

「…正気か?」

 

 いやさっきのパフェ食べときながらまだ食べたり無いのかお前は。

 

「え~?まだまだモカちゃんはいけるよ~?」

「正気の沙汰でない…」

「なんなら今からやまぶきベーカリー行く~?」

「…もうそれでいいわ。」

 

 今度からこいつのことはブラックホール青葉と呼ぼうか…?

 

 

 

 

 

 それから数分歩いて俺はモカとやまぶきベーカリーに来た。まあ昼飯がパフェというのもなんだしここで1つか2つパン買っておけば軽く食べることも出来るし良いだろう。

 

「これお願いしま~す。」

 

 ………相変わらず尋常じゃ無いほどのパンを持っていくなあいつは。

 

「はい。合計1200円です。」

「はいは~い。」

 

 財布から1200円を払い自分の分を買うモカ。紗綾は苦笑いしながら採算を済ませた。………彼女は苦笑いしてるがこれより前にでかパフェ食べたことは知らない。

 

「じゃあ俺はこれで。」

「あれ?今日は1つなんだ。」

 

 俺のお盆の上に塩パンが1つあるだけだ。それを不思議に思ったのか紗綾は聞いてきた。

 

「実は数分前にパフェ食べたからな。あまりお腹空いてないんだ。」

「そうだったんだ。」

「因みにモカは俺より食べたけどな。」

「…………流石だね…。」

 

 そりゃ驚くわな。パフェ食べた後でパンを5個以上買うとか相当だぞ。

 

 この後俺たちは買ったパンを持って近くの公園に行き2人でベンチに座りながら食べた。………なんか犬を散歩している人がこっち見て微笑ましいものを見るような目で見てたけどそんなんじゃ無いからな?

 

 

 

 

 10分で完食した俺たちは公園を離れてショッピングモールの中にあるファッションストアに来ていた。

 

「遼~?これどう~?」

 

 モカは俺にパーカー等を持ってくる。そして俺がそれを試着室で着る。この繰り返しなんだけど…。

 

「いやなんで俺ばっかり?」

「だって~遼この間リサさんに言われたじゃん?『もうちょっとファッションには興味を持った方が良い』って。」

「別にそんなに色々着ること無いけどな…。」

「でもさ~遼の普段着って大体似たようなものの着まわしだよね~。」

「それを言うな。」

 

 それ言ったらお前も似たようなものだろ。と言いたいところだがここは一先ず堪えよう。

 

「というか俺よりもお前は自分の選んだら良いんじゃないのか?」

「え~?遼の服選んでた方が楽しいんだけどな~。」

「そんな楽しみなんか捨ててしまえ。」

「じゃあさ~遼があたしの服選んでよ~。」

 

 ニヤニヤしながら提案してきた。うん、嫌な予感しかしない(何回目)。

 

「というか俺女物の服全くわからないんだが…。」

「いやいや~意外と男の子が選んだ方がいい線いくかもよ~?」

 

 というわけでモカの服を選んでみることに。……そういや今思ったけどこの光景ってモカいなかったら周りの人から変な人と思われそうだな。

 

「これは?」

 

 とりあえず無難な無地の黒いパーカーを選んでみる。

 

「うーん…これはモカちゃんポイント低いですな~。」

「駄目なのか。じゃあこれは?」

 

 次に目をつけたのはチェック柄のカーディガン。

 

「え~。」

「そんな露骨に嫌そうな顔しなくても…。」

「だってさ~遼のセンスってなんかちょっとずれてるんだよね~。なんかこう地味というか…おっさんっぽい?」

「誰がおっさんだ。まだ16だぞ?」

 

 なんとなく気にしてることを言うんじゃない。

 

「じゃあ……これはどうだ?」

 

 次に目をつけたのはスカートだ。

 

「おお~遼にしては良いところついてきたね~。」

「いや、よく考えたらお前私服でスカート履いてるところ見たこと無いなと思ってな。好きじゃないのか?」

「好きじゃない訳じゃないけど~ズボン系の方が動きやすいからね~。」

「なるほどな。」

 

 まあスカート履いたこと無いからあまり理解できそうに無いが。履く気も無いし。

 

「お望みならば履いてあげようか~?」

「どちらでも。」

「そうかそうか~ならばお望み通り履いてきてあげよう~。」

「お前話聞いてなかったな。」

 

 こんな感じで俺たちは更衣室の前まで移動した。

 

「もうすぐモカちゃんがスカートを履く。」

 

 突然どうしたし。

 

「それを履いたらどうなる?」

「知らないの~?」

 

 クルっと後ろを向きキメ顔でモカは言った。

 

「遼が尊死する。」

「くだらんことしてないではよしろ。」

「乗ってきた癖に~。」

 

 そのままカーテンの向こうに消えた。

 

 そして1分後…。

 

「お待たせ~。」

 

 スカートを履いたモカが出てきた。…うん、若干違和感はあったけどこれはこれでありかも。

 

「どう~?キュンとした~?」

「まあ…悪くは無いんじゃないか?」

「以外と遼はこういうのか好みなのかな~?じゃあ今後も履いちゃおうかな~?」

「だから勝手に話進めるなよ。」

「言わなくてもあたしにはわかるよ~?モカちゃんパワーに魅了されちゃったんだよね~?」

「今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ。」

「おお~怖い怖い。」

 

 笑いながら言われた為完全に透かされてるな…。と後ろを振り向いた時あるものが目に入った。

 

「モカ、お前ああいうのどう思う?」

 

 俺が指差した先にはひとつのマネキンがあり、パーカーとデニムスカートが飾られていた。

 

「なるほど~遼の好みはあれ「その流れはもう良い」え~?まあ…せっかくだし試してみようかな~。」

 

 モカの話をぶったぎりパーカーとデニムスカートを持ってきた。そしてしばらくするとモカがカーテンから現れた…。

 

「・・・・・・・・」

 

 何ということだろう。思い付きで言ってみた一品が見事にモカとベストマッチしてしまった。さっきまで履いていたスカートよりもデニムスカートはジーンズ感あるからかモカが履いてもあまり違和感がない。素材1つで同じものでも雰囲気が変わるということを再確認させられた。

 

「おお~これはモカちゃんポイント高いですな~。似合ってる~?」

「まあさっきのよりは似合ってると思うぞ。」

「も~素直に可愛いって言えばいいのに~。」

「うるさい。」

 

 その後、モカが俺に似合うだろうと推してきたパーカーとTシャツが結構気に入ったのでそれを購入。モカも後からなにかを買いファッションストアを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後俺たちはゲームセンターに行った。まあ特にこれと言って目的は無いわけだがとりあえずゲーセン行くかという流れである。

 

「よし!パーフェクト!」

「おお~遼やるね~。」

 

 今俺たちは洗濯機型の音ゲー『maumau』をやっていた。

 

「とーぜん。俺を誰だと思ってる。」

「常乃さんだぞ?」

「それ言うべきなのは俺じゃないか?」

「あたしは青葉さんだぞ?」

「というかお前もパーフェクトかよ。意外と音ゲー得意なのか?」

「いや~モカちゃんの才能ですかね~?」

「才能って…これmasterだぞ?」

 

 こんな感じでダラダラと遊びゲーセンを満喫していた。その後、少し喉が乾いたので俺は自動販売機でドリンクを購入し、ついでにモカの分も買って行った。

 俺が戻るとモカはあるクレーンゲームをプレイしていた。

 

「何やってんだ?」

「あ、遼~。なんかこれ取れないんだけど~。」

 

 モカが指差した先にはフランスパン、コッペパン、ホットドックなどのパン型抱き枕があった。それは焼き色や切れ込みもリアルに再現されていて以下にもモカが気に入りそうなものだった。そしてこのクレーンゲームは輪っかを引っ掻けて穴に落とすタイプ。

 

「取れないのか?」

「うん~。」

「仕方ないな…。俺がやる。」

 

 プレイヤー変わりまして、6番常乃。

 

 とりあえず100円を入れてチャレンジする。先ずは小手調べだ。こういうのはアームの強さや揺れ具合等を見極める必要がある。全神経を集中して商品を掴む。が…

 

 

ストン…

 

 

 たった数ミリ動いたか動いてないかぐらいだった。

 いや、流石にアーム緩すぎでは?

 

「…モカ、残念だけどこれは諦めた方が得策かもしれな…」

 

 とりあえずモカには申し訳ないが現実をしっかり話そうと思った矢先、おれの言葉は途中で止まった。なぜなら隣でモカがパン抱き枕をじっと見つめていたからだった。

 

「やっぱり無理かな~?」

 

 「ちょっと待ってろ。」といってそのまま両替機のところまで行く。とりあえず1000円を崩し再びクレーンゲームと向き合う。

 

「よし…。やるか。」

 

 こうなったからには意地のぶつかり合いだ。俺が奴を仕留めるか。奴が俺を折らせるか。

 

「攻略してやるよ。」

 

 さあ、ゴングは鳴った(300円は投入した)。男と男の戦いが今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからどれだけだっただろうか。とりあえずお金としてはもうすぐ2000円が来そうだ。これだけやっただけはあり結構動き、上手く行けば後1・2回で落とせそうだった。

 

「遼~?大丈夫~?」

 

 心配したモカが俺に訪ねてきた。だがこれはチャンスだ。後1回で終わらせる。

 

「安心しろ…。必ず手に入れてやる。」

「遼…。」

「おれに取れないものは無い!」

 

 運命のアームが動く。さあ、景品がモカの元に行くか、俺の財布が更に軽くなるか。このゲームが創る未来はどっちだ!

 場所を慎重に調節してアーム降下ボタンを押す。そのままアームは輪っかに引っ掛かり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャン

 

「よし…。」

 

 見事景品獲得。俺の使命は果たした…。

 

「ねえ遼~。景品…穴に引っ掛かってる…。」

「マジかよ。」

 

 はい。取れてはいるんですが出口の穴に引っ掛かり取り出し口のところまで届いていなかったら。

 

「……係員の人呼んでくるわ。」

 

 係員さんのお陰で無事景品を獲得し、それをモカに渡したら満面の笑みで「ありがと~」と言われた。こんな笑顔でお礼を言われたら2000円近くかけて取った甲斐があるというものだ。

 

 ……まあ、最後なんかしまらない終わり方だったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 あれから色々と回り、夕暮れ時となった為二人はそれぞれ帰宅することにした。そしてその夜、モカは自分の部屋で遼が取ったフランスパン型抱き枕を抱えながらベットの上で転がっていた。

 

 

「えへへ~。……なんか遼の匂いしてるな~。不思議~。」

 

 

 彼女は抱き枕を抱いたまま夢の中へと入っていった。その寝顔はとても幸せそうだった。まるで大切な人が近くにいるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 後日、遼はAfterglowの面々と羽沢珈琲店にいた。

 

「あれ?モカ遅いね?」

「ああ、ちょっと遅れるってさ。」

「これはまた二度寝してたタイプかもね。」

 

 今度のライブに向けての簡単な話し合いをするはずだがモカが遅れていていた。

 

「そういえば遼。この間モカとショッピングモールいたでしょ?」

「え?」

「実は巴とお買い物してたら二人の姿見たんだよね~。」

 

 どうやらファッションストアから出るところをひまりと巴に見られていたらしい。

 

「まあな。モカに誘われて。」

「おっ?もしかしてデートか?」

「そんなわけ無いだろ。」

 

 そんな話をしていると「遅れました~」とモカが入ってきた。だが面々が驚いたのはモカの服装だった。

 

「モカが…」

「スカート履いてる!?」

「え~なんか変~?」

「いや、変じゃないけどさ…何というか…。」

「モカちゃんってスカート履くイメージ無かったから…。」

 

 各々が驚いている中でモカは遼の隣に座った。

 

「遼のイチオシみたいだったからね~。これは乗ってあげるしか無いなと思って~。遼からプレゼントも貰ったし~?」

 

 モカの発言により一同の視線は遼へと移った。

 

「まさか…遼がコーディネートしたの!?」

「というか本当にその時何してたの?」

「プレゼントって何あげたの!?」

「てかお前ああいうのが好きだったのか?」

 

 面々から質問攻めを食らう遼。

 

 

 彼が答えた回答、それは…

 

 

 

「俺に…質問するなぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 今日もAfterglowは元気です。

 

 

 

 

 

 

 




個人的な考えですけどモカってデニムスカートとか似合いそうな気がするんですよね~。

それはそうとバンドリアニメ3期&映画化決定でスマホに通知来た瞬間1人でびっくりしてました!絶対見に行きたい!

そして新しくコメントをくださったリュウティス王子さん、ありがとうございます!


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このコンビニバイトは退屈しない(色んな意味で)

 

 

「年齢確認お願いします。」

「あ?何でそんなことしなきゃいけねえんだよ。めんどくせえな!」

「ルールですので。」

「知るか!テメエは俺が大人に見えねえのか!?」

「少なくともルールを守れないような人は大人とは言えませんけど?」

「お客様は神様だろうが!黙って見過ごせよ!」

「神様なら常識をわきまえてくれませんかね?」

「もういい!店長出せ!テメエのこと言いつけてやる!」

「神の癖に店長に頼りやがって。」

 

 

 いきなり見苦しいものを見せて申し訳ない。見てわかる通り俺はコンビニでバイトをしているのだが俺が入ったタイミングで見事にめんどくさい客が来てしまった。というのも目の前のこいつが缶ビールを持ってきたのだが、お酒を販売する場合は年齢確認が絶対なのでそれをお願いしたところ見事に逆ギレされている。

 

 

 

「おい責任者出てこい!」

「店長、達の悪いクレーマーが来ました。」

 

 

 これ以上相手にするのはめんどくさいので後は店長に変わってもらおう。

 

 

「おいおい、今度はなんだよ。」

「酒買いたいって出してきたから年齢確認頼んだら怒られました。」

 

 

 事情を話すと店長はクレーマーと話にレジへ行き一応俺も近くで確認する。説得しようとするものの一向に言うことを聞く気配はなく挙げ句の果てにわめき散らして帰っていった。

 

 

「………店長、これ缶若干へこんでますけどどうします?」

「処分しといてくれるか?」

 

 

 マジで勘弁していただきたいものだ。そう思いながら俺はビール缶を処理した。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー。」

「さんしゃいん~。」

 

 

 隣で気の抜けそうな挨拶を横でする幼なじみ(モカ)の横のレジで当番をしながらお客さんを出迎える。最初の頃はこれに突っ込んでいたのだが馬の耳にも念仏…というのだろうが全くどうにもならないので放置状態である。

 そして来たのはエメラルドグリーンのような色の女性だった。……なんだろう、オーラでわかるが彼女とは何か近いものを感じる。

 

「モカちゃん水分補給いってきま~す。」

「お前さっき入ったばかりだよな?」

「でも飲み物飲むの忘れちゃって~。」

「わかったよ。早めに戻ってこい。」

「それで遼に1つ伝言~。」

 

 

 それから2分ほどしてモカは戻ってこない…って一体何してるんだあいつは。というかなんだよ「次来る人にポテト増量中のお知らせしておいてね~」って。うちはファーストフード店じゃないんだけど。

 

「いらっしゃいませー。」

 

 とりあえずさっきまでの人がレジに来たので会計をする。そして最後の商品をレジに通したところで彼女の視線が横のショーケースに泳いでるのが見えた。そしてその先にあるのは……Lポテト増量中の文字。うん、大体わかった。

 

「お客様、現在ポテトが増量中キャンペーンを行っておりますがいかがですか?」

 

 自分で言ってて思う。マジでファーストフード店じゃないんだぞ。というかこれでお客さんが買うとは…

 

「それなら…お願いします。」

 

 あ、買うんだ。そのままお客さんがLポテトを2つ注文して帰ったら入れ替わるようにモカが奥から出てきた。

 

「遼~あたしもLポテト食べた~い。」

「自分で買え。」

 

 相変わらずである。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「ふえええ…。」

 

 

 迷子の迷子の松原さん あなたのお家はどこですか♪

 

 

「遼くん…駅ってどっちだっけ…?」

「ちょっと待ってください。美咲に連絡しますんで。」

 

 とりあえずその場をモカに任せて俺は奥に入り美咲に連絡を入れた。

 

『もしもし?』

「美咲、すぐ俺がバイトしてるところのコンビニに来てくれ。松原さんが迷子だから。」

『あーうん。というかそこまで行ってたんだ花音さん…。』

「そこまで?」

『うん。というかあたし達…これから3つ先の駅前に行こうと思ってて電車の時間までショッピングモールにいようってことだったんだけど…。』

「じゃあ松原さんが駅探してたのは?」

『最初の待ち合わせ場所が駅だったからかな?』

「わかった。とりあえずこっちで保護しとくからなるべく早く頼む。」

 

 ピッ…

 

「遼~どうだった~?」

「すぐ来るって。とりあえず松原さんは休憩スペースにいて。後それまでこのコンビニから出ないように。」

「うん。」

 

 

 

 

 それから待つこと数分。

 

 

 

 

「お待たせ。」

「お待ちしておりました。」

 

 美咲が到着し無事松原さんを引き取ってコンビニを出ていった。

 

「……あいつも苦労するなぁ。」

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「かのシェイクスピアは言っていた『輝くもの、必ずしも金ならず』と。」

「……なんて?」

 

 今度のお客さんは瀬田先輩なんだが…この人さっきからいつものシェイクスピアがどうのっていってて一向に会計進まないんどけど。まあ他のお客さんが今いないのが救いだな。

 

「つまり…そういうことさ。」

「すみません。さっぱりわかりませんが。」

「つまり…必ずしもお金が輝くものではない…ということさ。」

「さっきと言ってること何も変わってませんけど?」

 

 と、このやり取りが3分ほど続いている。というか商品のお雑煮だけ置いてお金出してくれないんだけど。というか何でこのコンビニはコンビニラーメン方式でお雑煮売ってるんだよ。もう春だぞ?

 

「とにかく、お金払ってくれないと会計出来ないんですけど?」

「ああ、人生と言うのはどうしてこうも試練が待ち受けるのか…。だがこれも儚い。」

「本当あなたの儚いの基準どうなってるんですか…?というか何でもかんでも儚い言ってれば良いってもんじゃないですよ?」

「かのシェイクスピアは言っていた『過ぎ去った不幸を嘆くのは、すぐにまた新しい不幸を招くもとだ』と。」

「その不幸が今俺に回ってきてるんですが?」

 

 なんかポケット探った後で少し黙ってからこんな感じになった。本当財布出してくれれば…。

 

 

 

 

 

 ん?財布…不幸…。

 もしかして…。

 

 

 

 

 

 

 

「瀬田先輩…財布忘れたんですか?」

 

 俺がそう聞くと一瞬動揺していた。どうやらビンゴらしい。

 

「いや、それが唐突に無くなっていてね。私は罪を犯してしまったみたいだ…。」

「それもしかして落としたってことですか!?」

「つまり…そういうことさ。」

「『そういうことさ』じゃないだろ!大事じゃないですか!とりあえずこれは後からでも大丈夫ですので今すぐ交番行ってください!優しい人が拾ってたら戻ってくる可能性があるので!」

「そうか。手間をかけたね子犬くん。」

「早く行ってください!それと誰が子犬だ!」

 

 そう言うと瀬田先輩はコンビニから出て交番に向かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かのシェイクスピアは言った『道に迷ったら心の中に答「何で戻って来たんだよ!はよ交番行け!」でも限定のお雑煮が「まだ売り切れはしないから!夜来ても多分まだ残ってるから!とりあえず交番行ってこい!俺が落ち着けないから!」

 

 

 

 このあと、何故か俺が交番に瀬田先輩を連行して財布は無事戻って来たが俺は当然の如く店長に「一言断って行け」と注意されました。因みにその間のレジはシフトに入ってたリサ先輩がやってくれた。マジですみませんでした。

 

 

「遼~。お雑煮の賞味期限切れたの1つずつ持って帰って良いって行ってたけどど~する~?」

「うん…それお前にやるよ。」

 

 

 なんか…ボクもう疲れたよパト○ッシュ

 

 

 

 

 





コンビニのバイトやったこと無いんですがこんな感じですかね?(多分違う)

ここ最近こっちの作品なかなか投稿出来ずにすみません。とりあえずなんですが最近こっちのネタが切れ始めた…というのもあり執筆が進まないんです…。
とりあえず皆さんの方で「これやってほしい!」っていうネタがあれば是非送ってくださると嬉しいです!送り先はコメント欄でも私のtwitterでも構いませんので!

新しくコメントをくださった夜龍丸さん、ユニバースファントムさん、ありがとうございます!

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二人きりの夜 前編

 

 

「それじゃ今日はここまでにして帰ろっか!」

 

 ひまりの一声によっては各々片付けを開始する。俺はノートを閉じて鞄にしまったら重みのある機材を元の位置に移動させる手伝いをした。

 

「さて、これで終了か?」

 

 俺がそう言うと皆はそれぞれの荷物を持ちCiRCLEを後にした。

 

「ん~!今日も疲れた~!」

「あたしもだ。今すごく腹へってる!」

「じゃあ今からつぐのところ行く?」

「いや、さすがにもう遅いし今から行っても迷惑だろ。」

「そっかー…。」

 

 ひまりと巴の提案に返答するとひまりは「残念…」といった感じに肩を落としていた。まあさすがに今から行くとつぐみのところのおじさんも大変なことになるだろうし。

 

「あ、そう言えば遼~。」

 

 俺の後ろを歩くモカが俺にもたれながら喋り始めた…というかマジで乗っかるな。歩くのしんどいから。

 

「今日遼のところに泊まってもいい~?」

 

 ……………ゑ?

 

「おい、今何て言った?」

「今日遼のお家に泊まってもいい~?」

「……何で?」

 

 唐突に重大なことを話始めたモカに対して理由を聞いてみた。モカの話によると今日はモカの両親は結婚記念日で休みが奇跡的に一致した為夫婦旅行に行ってて今日は家にいないらしい。それでうちに泊まりに来る…ということだとか。

 

「というかお前1人で留守番しとけばいいんじゃないか?」

「え~?遼はか弱き乙女を夜1人にするつもり~?」

「戸締まり念入りにしとけばいいんじゃないか?」

「モカちゃん不安だな~。夜に危険な人が入って来たら太刀打ち出来ないからな~。」

「そんな大袈裟な。」

「遼!」

 

 そんな会話をしてるとひまりが「ちょっとこっちに…」と引っ張ってきた。

 

「なんだよ…。」

「ここは泊めてあげた方が良いよ!」

「は?」

「ほら、旅は道連れ世は情けっていうしここはモカのためを思って!」

「お前何か企んでるか?」

 

 「別に~」と目をそらすひまり…本当分かりやすいよなこいつは。

 

「とりあえず親に連絡してみる。夕飯のこともあるし。」

 

 そう言って俺はスマホを取り出しメッセージアプリを開くとすでに親から連絡が入っていた。

 

『ごめんね~。今日夜急に会議入っちゃったから帰るの遅くなりそうなの。夕食作ってる時間なかったから冷蔵庫にあるもので好きなもの食べてね~。』

 

「・・・・・・・」

 

『一応モカ泊まりに来るって言ってるんだけど冷蔵庫にあるもの適当に使って作っていいか?』

 

 と打ってみた。すると1分後に返信が来た。

 

『いいよ~。後お父さんは夜勤だから考えなくても大丈夫だからね~。』

 

 それを見ると俺はモカに許可が降りたことを伝えた後で皆と別れてそのままスーパーに2人で行くことに。

 

「とりあえずお前何が食べたい?」

「モカちゃんは~パンが食べたいかな~?」

「それ以外でな。今からパン作ってたら時間かかるから。」

「じゃあ~遼におまかせしま~す。」

 

 とりあえずスーパーの前のチラシを確認した。なるほど。今日は生鮭の切り身と小松菜が安いらしい。確か人参と大根は家にあるし、後はごぼうでも買えばどうにかなるだろ。

 

「さっさと買って帰るか…。」

 

 とカゴを持ってスーパーに足を踏み入れた。すると…

 

『ただいまより、魚の切り身が半額となるタイムセールが始まります。大変お買い得ですので安全に気をつけてお買い物してください。』

 

とアナウンスが流れた。魚の切り身が半額だと…?

 

「モカ。」

「ん~?」

「ちょっと小松菜持ってきてくれ。俺は魚を手に入れる。」

「…………?」

 

 頭にハテナマークを浮かべながら俺を見るモカをよそに俺は魚売り場に向かう。周りのおばさん達も同じ目的と見た。

 

 

 

 

 よろしい、ならば戦争だ。

 

 

 

 

『それではタイムセールスタートです。』

 

 

「行くぞゴルァアアアア!!」

 

 

 戦わなければ生き残れない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後…

 

 

「遼~生きてる~?」

「なんとか…というかあの中で一瞬三途の川見えたんだが…。」

「一体何したの…?」

 

 タイムセール(戦争)を潜り抜けて来た俺はスーパーの外のベンチにもたれ掛かっていた。マジでヤバい世界だわタイムセール。因みに他のものはほとんどをモカが回収してくれたらしい。でかしたぞモカ。

 

「おばさんの人混みに飲まれて突き飛ばされたり足踏まれたりした…。」

「そんなに酷いものなの?タイムセールって…。」

「いや、ここのスーパーが異常なだけだと思う。」

 

 なんせ只でさえ他のスーパーより商品価格が安いのにそれがさらに安くなるんだぞ?戦争にもなるわ本当。

 

「とりあえず買うもの買ったし帰って夕食にするか。」

「やった~。」

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「さて、始めるか。」

 

 家につき手洗いうがいをして材料を揃えたことを確認するとキッチンで料理を開始する。今日の献立は白飯、味噌汁、鮭のホイル焼き、小松菜のごま和え、きりふき大根、きんぴらごぼうだ。今日は1人だけど客人が来てるからな。腕を奮ってやろう。

 とりあえずお米を研ぎ炊飯器のスイッチを入れる。そのまま大根の皮を剥き輪切りにしてお湯の中に入れてしばらく待つ。余った皮は綺麗に洗って味噌汁の具にする。せっかくの食材だし綺麗に食べないとな。

 

「遼~。何か手伝おうか~?」

「え?モカって料理出来るのか?」

「もち~!」

「それじゃこのごぼうを細切りにしてくれるか?」

「了解~。」

 

 別のまな板と包丁でごぼうを切ってる間に俺は大根の味噌とごま和えの出汁をつくる。というかモカって結構手際いいんだな。

 

「なんかさ~。」

「ん?」

「こうしてるとさ~恋人みたいだよね~。」

「そんなもんか?」

「さあね~。あ、ごぼう出来たよ~。」

 

 モカからごぼうを受け取りさっそく人参といっしょに炒めて味をつける。それにしても恋人か。将来俺も誰かと家族になるとかそういうことがあるのかな…。まあ今のところその相手がいないんだけど。

 

「おお~美味しそ~。」

 

 俺が作ってるきんぴらを横から見てるモカが呟いた。今回はモカが辛いもの苦手なことを考えて辛さ控えめの味付けにしたからこいつでも食べれるぞ。

 

「味見するか?」

「いただきま~す」

 

 俺がごぼうを1つまみ箸で掴むとモカはそのままごぼうを口に入れる。

 

「おいし~。」

「そうか。今回は甘味を強めにしたからお前でも食べやすいだろ?」

「うんうん!それじゃもう一口…「駄目だぞ?」え~。」

 

 ぶーぶー言いながらへばりついてくるモカを剥がしながら完成した料理を皿に盛り、ホイル焼きが出来上がったことを確認して皿にのせることで完成だ。

 

「さて、出来たぞ。」

「おお~。豪華~。」

 

 目を輝かせながらよだれを垂らすモカ…っておい。よだれはやめろ。

 

「ほら。冷めないうちに食べるぞ。」

「待ってました~!」

 

 それぞれ席について手を合わせる。これは食事前の大切な儀式みたいなものだからちゃんとやっとくのが俺の中の暗黙の了解だ。

 

「「いただきます!」」

 

 そのまま味噌汁を二人で啜る。うん、我ながらいい味だ。

 

「遼~この味噌汁って出汁変えたの~?」

「よく気づいたな。いつもは鰹だしでつくるんだが今回はこっそり煮干しとスルメで出汁をとってたんだ。」

「なるほど~。」

 

 小松菜のごま和えを食べながらモカを見ると鮭のホイル焼きに舌鼓をうっていた。今回のホイル焼きはえのきと人参、玉ねぎを一緒にコンソメで味をつけた。

 

「おいし~。」

 

 そう言うモカの顔はとても幸せそうだった。本当モカって食べ物を食べるとき美味しそうに食べるよな。作った身としてはとても嬉しい限りだ。

 

「遼ってホントお嫁さんに行けるスキル持ってるよね~。」

「お嫁さんって…俺男だぞ?」

「でも~あたし達の中じゃオカンみたいなものだからね遼は~。」

「俺オカンかよ。」

「リサさんにも遼の料理スキルの話したら『流石Afterglowのオカンだね~』って言ってたし~。」

「リサさんもかよ…。」

「でもさ~あたしは遼の料理毎日食べたいと思うよ~。」

「そうか。そう言ってくれると嬉しいよ。」

 

 嬉しいこと言ってくれるじゃないか。なんだかんだ言っても一緒に食事が出来て良かった。そう思いながら俺は更に味噌汁を啜った。

 

 

 なんかモカが若干ムスッとしてたのは気のせいか?でもご飯食べてたら機嫌なおってたし多分大丈夫だろ。

 因みにこのあとモカはご飯を1人で3杯食べてた。お粗末様でした。

 

 

 

 

 

 

 

 






まだまだ2人の夜は続きます。次回をお楽しみに!


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二人きりの夜 後編

やらかしちまったZE←どういうことかわかる人はわかる



 

 

 

「おーい、風呂沸いてるから入るか?」 

 

 夕食の片付けが終わり、俺はお風呂を沸かしていた。因みに俺の家は全体的に和風の造りになってるから風呂も火を起こして沸かすタイプだ。その為緊急事態以外は電気代の節約の為に薪をくべて沸かさなきゃいけない。……手間がかかりすぎて泣けるで(謎)。

 

「一緒に~?」

「そんな訳あるか。1人ずつに決まってるだろ。」

「つれないな~。」

「嫌なら俺入るぞ?」

 

 相変わずモカはからかってきたのでいつものやり取りが始まった。するとモカはしぶしぶソファーから降りて自分の着替えを持って風呂場に向かう。とりあえず俺はパソコンを開いてNFOの今の状況でも見ようかな…。

 

「あ、そうそういい忘れてたけど~。」

 

 部屋の扉を開き何かをいってくるモカ。

 

「覗いちゃ駄目だよ~?」

「馬鹿なこと言ってないでさっさと入れ。」

 

 モカのおふざけを受け流し風呂場に返す。そもそも覗きって小学生や中学生じゃあるまいし…。

 

 とりあえずパソコンが起動したのでNFOにログインしてチャットを確認する。するとすぐにある人物からコメントが来た。送り主は『sayo』という人物だ。本命っぽいけど意外と違うこと多いんだよなこういうニックネームって。

 

『こんばんはJOKERさん。』

『こんばんは。』

『早速なんですがこれからミッションに向かいませんか?実は極熱龍ミッションに苦戦してまして…。』

 

『わかりました。装備を整えますので少し待っててください。』

 

 因みにJOKERというのは俺のプレイヤーネームだ。そしてsayoさんとは都合が合うときによくミッションに行くほど仲がいい……と俺は思っている。

 

『準備ができました。行きましょう。』

『はい、よろしくお願いします。』

 

 このあと俺たちは極熱龍ことマグマドラゴンを討伐しにミッションに向かった。ついでに言うとマグマドラゴンはかなり難易度の高いミッションで2人で討伐するというのはかなり骨が折れるものだった。たまたまマグマエリアに対応策出来る氷点下装備を持っていたから良かったものの来れなかったら2人ともアウトだったな。実は俺のプレイヤー仲間が後2人いるんだが今度からこの人たちも呼ぶことにしよう。

 

「ねーねー。遼~?」

 

 クエストがおわると風呂から上がっていたモカが話しかけてきた。

 

「出てたのか?じゃあ俺も入るか。」

「いいお湯だったよ~」

 

 モカにコーヒー牛乳を作ってやり俺はそのまま風呂に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

 

 

「ふう~。遼の作るコーヒー牛乳は美味しいな~。」

 

 あたしは椅子に座りながらコーヒー牛乳を飲んでいた。やっぱりお風呂上がりはコーヒー牛乳だよね~。

 

「………うん~?これって…。」

 

 遼のパソコンの近くにある写真立てをみた。そこには昔のあたしと遼が写っている写真があった。

 

「おお~。懐かし~。」

 

 それはどこかの遊園地で撮った写真だった。あたしの家族と遼の家族で遊びに行った時に撮って貰ったんだよね~。

 

 

 

「このときの遼、お化け屋敷に入ったら凄く泣いて出てきちゃったもんね~。」

 

 

 

 そう、昔の遼は怖がりで泣き虫で…あたしたちの中でも弟みたいな感じだった。お化けとかそういうもの大の苦手だったしね~。それが今ではあんなに成長しちゃうんだから~。人がどうなるかってわからないよね~。

 

 

 

「蘭も今ではツンデレになっちゃうしトモちんも男勝りだし~。みんな変わって行っちゃうんだな~。」

 

 

 

 それでもあたしはそんなみんなが大切だし好き。例えどれだけ変わっても6人で一緒にいたい。でもきっと…みんな結婚とかしてバラバラになっちゃうかも知れない。だとしても…

 

 

 

「あーいい湯だったー…。ってモカ?どうした?」

 

 

 

 あたしが思いに更けていると遼がお風呂から上がってきた為、慌てて写真立てを元の位置に戻した。

 

 

 

「ううん~。何でもないよ~?」

「?…ならいいんだが…何か悩みがあるなら言ってくれよ?」

「じゃあその時は相談するね~。」

 

 そういうと遼はドライヤーで髪の毛を乾かしていた。やっぱり私は大好きなんだなあ…。Afterglowのみんなも……遼も…。

 

「モカ、お前も髪乾かせよ。風邪ひくぞ?」

「うん~。じゃあ遼乾かして~。」

「お前女の子なんだから髪くらい自分で乾かせよ…。」

「でも遼乾かすの上手いじゃん?」

「後で髪の毛ボサボサになったとか文句言っても責任とらんぞ?」

 

 そういいながらもあたしの髪を丁寧に扱って乾かしてくれた。ホント口ではめんどくさそうに言うけど何だかんだで面倒見がいいんだよね遼は。

 

 

 

 

 

 あたしは多分…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな遼だから…

 

 

「ほら終わったぞ?」

「あっ…。……おお~。ありがと~。」

「まあ慣れたからな~。」

「…………あのさ遼…。」

 

 あたしが呼び止めると遼はこっちを向いた。

 

「………いつもありがとうね~。」

「?、俺何かしたか?」

「あ~その~…なんか言いたくなっただけ~。」

「……変なやつだな。」

 

 ………言えなかったね。でも今はこれで良かったと思ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今はまだ……このままでいたいと思っているあたしがいたから…。

 

 

「で、モカ?これからどうするよ?」

「ん~…。じゃあゲームする~?」

 

 とりあえず今は…このお泊まり会を精一杯楽しみますか~。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

 

「っと…もうこんな時間か。」

 

 

 

 その後俺たちはゲームで遊んでいたのだが楽しい時間はあっという間に過ぎ時間は23時になった。

 

 

 

「ちょっと待ってろ。居間に布団敷いておくからその間に歯磨きとかして寝る準備しとけ。」

「遼はどこで寝るの~?」

「俺は自分の部屋の布団で寝るから。」

「じゃあさ~あたしも遼と一緒に寝たいな~。」

「は?」

 

 いや待って?

 

「モカ?お前何言ってるんだ?」

「うーん…遼と一緒の布団で寝たいって言ったんだよ~?」

 

 …………こいつは一体何を考えてるんだ?

 

「いや、狭いだろ?」

「でもさ~新しい布団出すよりはさ~遼の部屋の布団1つ出した方がいいんじゃない~?」

「あのな…。」

 

 とりあえずその後数分間話した結果、居間に布団を2つ並べることで話が成立した。……まあ1つの布団に2人が入るのは無理があるからな。

 

「さて、布団も敷いたしそろそろ寝るか。」

「わかった~。」

 

 そう言ってモカは布団に入り、俺は電気を消してから布団に入った。

 

「すー…すー…。」

 

 隣からモカの寝息が聞こえてきた。寝るの早いな。とりあえず俺もさっさと寝ないと。明日も学校だし朝夕ご飯も作らなきゃいけないし。

 

「遼~。」

 

 恐らく寝言だろうがモカが俺の名前を呟いた。

 

「これからも一緒にいよ~。ずっと一緒に…。」

 

 そう言うとまた寝息に戻った。

 

「ずっと一緒にか…。」

 

 そして次の瞬間、背中に何かあたったような感覚に襲われて後ろを振り向いた。するとさっきまで隣の布団にいたモカがこっちに来て抱きついているのだ。その為意識はしてないが見事に女の子特有のあれが背中に当たっている。…………マジやばくね?

 

「モカ…お前起きてるだろ。」

「すーすー…遼ー…。」

「いや、寝てるのかよ。」

 

 だとするとどんだけ寝相悪いんだこいつは。

 

「遼~…。」

「………もう知らん。」

 

 そのまま俺も夢の中に落ちていった。とりあえず明日も早いからな。ここは余計なことは考えないことにしよう。しっかり寝ないと今日の疲れがとれないからな。

 

「大好き…。ずっと一緒にいようね~。」

 

 眠りに落ちる前に何か聞こえた気がしたがよく聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 因みになんだがその夜、夢にモカが出てきてなんかよくわからん夢見てしまったのはここだけの話。一応断っておくが決してやましい夢ではなかったからな!………多分。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、これにてお泊まり編終了です!
雑とか言わないで!これでも結構シチュエーション悩んだんだから!
それはそうとGW…バイトだらけで全く休んでる暇が無い…。

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弦巻さんちのアブナイ社会科見学

初の連日投稿。そして圧倒的ギャグ回です!
因みに今回はガルパピココミック読んでる人ならより楽しめると思います(読んでない方でも楽しめるようになってます)。

あ、この間キズカナ宅のレンジが壊れました。




 

 皆さんは社会科見学と言うものをご存知だろうか?

 

 社会科見学とは

 知識や経験を広げるために、個人や団体で工場施設・旧跡等を見学(体験)する行為、または行事のことである。(W○k○調べ)

 

 

 何でこんなこと聞くのかって?結論から言うとどういう訳かハロハピのメンバーがうちのコンビニでバイト(というより社会科見学)を今やっているのだが…。

 

 

「ねえ遼!ポテトはこのくらいでいいかしら?」

「いやどう見てもおかしいだろ!器の大きさに入らないポテトを入れるな!」

「だって量が多い方が幸せでしょ!」

「お前このコンビニ赤字にする気か!?」

「ねーねー良かったらさ、ここではぐみの家のコロッケ一緒に売ってみたら?」

「おいこら。しれっと自分の店の売り物持ってくるな。」

「レーソンと北沢精肉店のコラボレーションならいいかな?」

「ダメに決まってんだろうが!」

「よく来てくれたね子猫ちゃん…ここでの出会いはまさに必然的…」

「おいそこレジでナンパするな!」

 

 

 

 何故こうなったのか…。

 

 

 

 それを知るために時間を少し遡ろう。

 

 

 

 

 

 

「今日バイトだね~。」

「今日リサさんいないからお前しっかり働けよ?」

「あいあいさ~。」

 

 学校が終わり俺とモカはいつも通りコンビニにバイトに向かい、到着すると各自着替えを終えてレジに向かう。

 

 

 

 

 

 ここまでは良かった。

 しかし…

 

 

「あら?遼とモカじゃない!」

 

 何故かハロパピの皆さん(こいつら)がいた。

 

「あ、遼…。やっと来た…。」

 

 奥から既に窶れてる美咲が出てきた。…………うん何があった。

 

「と…とりあえず落ち着いて聞いてね…?」

 

 今度は松原さんが出てきて俺たちに一連の流れを説明してくれた。

 事の発端ははぐみ家のお店の手伝いをしたことから始まったらしい。それでそのまま今度は松原さんのバイト先であるファーストフード店で働き、その次のお手伝い場所(ターゲット)として狙われたのがここだとかなんだとか。

 

「いやおかしいだろ!」

 

 話を聞いた俺はとりあえず店長を探す。店長も店長で何考えてんだ!

 

「あーそれなんだけど…店長さんも被害者みたいなものなんだよ。」

「え?」

 

 美咲の話によると店長も最初は「それは困りますお客様。」と拒否していたみたいだが、黒服の連中が何かをしでかした為、承諾せざるを得ないことになったとか。いや、それ多分権力の暴力だろ!?と思いながら外を見ると黒服のやつらがグッと親指を立てていた。いやグッじゃないよ。流石権力者、思考が汚い。

 

「申し訳無いんだけどさ今回だけなんとかあの3人が何かしでかさないように手伝ってもらっていいかな?」

「………こうなったら仕方ないのか…?」

 

 ここから今日の何時もと違うアルバイト(地獄)が始まった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

 

 

 それからというものの……

 

「そうだ!このコンビニにゲームコーナーをつけたらどうかしら?そうしたらお客さんももっとくるんじゃないかしら?」

「バカを言うな。そもそもコンビニを魔改造しようと……っておいそこの黒服(不審者)どもも行動しようとするな!」

 

 

 とか…

 

 

「よく来たね子猫ちゃん、君たちの為なら私はどんな苦労も惜しまない。だから遠慮なく君たちが求めるものを言ってくれたまえ。」

「客引きしてくれるのはありがたいんだがその後の仕事をしてくれ。」

「かのシェイクスピアは言っていた『出会いとは必然、ならば今はそれを楽しむべき』と」

「楽しむならその前にこの苦労をどうにかしてください!」

 

 

 

 とか…

 

 

 

「ねえねえ!この肉まんにコロッケを入れてみたらどうかな?」

「おお~コロッケまんか~美味しそ~。」

「そうかもしれんが勝手にメニューを追加するな。」

「あら?どうしたの?」

「こころん!はぐみ、コロッケと肉まんを合わせたメニューを思い付いたんだけど美味しそうじゃない?」

「あらいいじゃない!さっそく作りましょう!」

「いやだから勝手にメニュー増やす「こころ様、はぐみ様、こちらがコロッケまんになります。」おいこら黒服!勝手なことすんじゃねえ!」

 

 こんなことが山ほどありマジでいつもの5倍は疲れたのだ。しかも後処理を俺と美咲の二人でやるはめに。

 

 

「美咲ちゃん、遼くん、飲み物持ってきたよ。」

「ありがとう花音さん。」

「恩に着ます。」

 

 松原さんが持ってきてくれたジュースを二人で飲みやっと落ち着くことが出来た。因みにレジの方は今はモカに入ってもらっている。

 

「ごめんね遼。巻き込んじゃって。」

「まあな…。でも気にすんな。旅は道連れ世は情けって言うからな。」

「ホントこころの行動力って恐ろしいよね…。」

「というか黒服の連中が何でも叶えちゃうのが達が悪いと言うかなんと言うか。」

 

 というか黒服の連中っていつもこころの発言を先回りして叶えちゃうけどなんなのあいつら。お願い叶える速さだけなら某ネコ型ロボットもビックリするレベルだろ。

 

「それにしてもあいつらをいつも纏めてるってお前なかなか凄いよな…。」

「まあ最初はあたしも巻き込まれてしぶしぶ…って感じだったんだけどね。なんか長く付き合ってると慣れちゃって。」

「わかるなその気持ち。俺も小さい頃は女の子相手に付き合いが難しいとか思ってたことあるがあいつらとは長く付き合ってるとそんなことも感じなくなっちゃうからな。」

「そうなんだ。」

「まあ、今となっては大切な幼なじみ達だからな。ずっと一緒いることは無理かも知れないがどれだけ離れてもきっと俺たちの繋がりは無くならないと思ってる。美咲もそうだろ?」

「まあそうだね。なんだかんだ言ってもハロハピはあたしにとって大切な存在だし。」

「それは良いことだ。」

「遼~。」

 

 美咲と話しているとモカが入ってきて背中に乗っかかってきた。

 

「あのな、毎回毎回乗るなって……お前レジは?」

「花音さんに任せて来た~。あたしは少し水分補給に~。」

「安心して良いのか心配した方が良いのか…。」

「そういえば、遼と青葉さんって距離近いと言うか……かなり仲良いよね。」

「そりゃあね~この間二人で一夜を明かした仲ですから~。」

「……え?」

 

 モカの言葉を聞いて美咲は固まってしまった。うん、そりゃ固まるわ。だってこいつ(モカ)が誤解招くようなこと言うから。

 

「美咲、お前が何を想像してるのかは知らないけど普通にこいつが俺の家に泊まりに来ただけの話だからな?」

「あ…そうだよね。」

「も~遼ったら男女が屋根の下で一緒にいたのにね~。」

「お前は歳を考えろ。後、そう言うことは恋人に言ってろ。」

「……………遼のバカ

「え?なんて?」

「もういいも~ん」

 

 そう言ってモカはレジに戻って行った。……結局あいつ飲み物飲んでないけど何しに来たんだ?

 

「遼ってさ結構自分関連だと鈍感だよね。」

「そうなのか?」

「そうだと思うよ?意外なところから思われてるのにそれにも気づいて無いし。」

「え?」

「後さ…聞きたいんだけどさ、遼は青葉さんのことどう思ってるの?」

「どう思ってるって…そりゃ大切な幼なじみだと思ってるよ。」

「………それだけ?」

 

 美咲は俺の目を覗きこむように聞いてくる。

 

「ああ…。そうだが…。」

「…そっか。ごめんね?変なこと聞いて。」

「いや、大丈夫だ。」

 

 そう言うと二人とも飲み物をその場で飲んだ。

 

 

 

 そして…

 

「美咲ちゃん、遼くん、ちょっといいかな…?」

 

 松原さんが呼びに来た。一体何が…。

 

「あら?卵が砕けちゃったわね?」

「おい、何があった。」

「あ、聞いてよりーくん!お客さんのためにね、ゆで卵暖めてたんだけど何でか砕けちゃったんだ。」

「きっと卵は恥ずかしさのあまりに思いを留めきれなかったんだろうね。」

「遼~一応あたしは止めたよ~?」

 

 レンジを見ると見事に中で卵が爆発していた。

 

「お前らな…卵をレンジで暖めるやつがあるか!」

「でもゆで卵食べるなら暖かい方がいいじゃない!」

「いや見ろよこれ!そこの方に書いてるだろ!『卵熱するな』って!」

「なるほど。芸術は爆発とはこのことだったのか…儚い。」

「儚くないからな!?お前ら揃いに揃って何してるんだよ!後モカ、止めてくれたのはいいんだけどちゃんと理由説明したのか?」

「それがね~しようとしたらもう暖めてたんだ~。」

「とりあえずそこの3バカはこっちにこい!コンビニの基礎の基礎から叩き込んでやる!」

 

 とりあえず俺は残りの時間でこの3バカにコンビニで働くためのいろはを教えまくった。……とりあえずマジで卵をレンジでチンして爆発させるのは止めろ。後片付けが面倒だから。その間レジの方はモカと美咲と松原さんがどうにかしてくれたお陰で助かった。

 

 

 

 

 

 

 こうしてハロハピによる嵐どころが津波と地震を纏めて呼んだかのようなトンデモ社会科見学は幕を閉じた。帰り際に美咲と松原さんが全力で謝罪してた。

 

 

 それと余談なのだが黒服により(勝手に)新商品になったコロッケまんが何故か人気ですぐに完売になった。俺も気になったから買って食べたが意外と旨いので地味になんとも言えない気分になったのはここだけの話だ。

 

 

 




えー…ギャグ回に今後の伏線となるかも知れないシーンを置いていくのって僕くらいだよね。

なんとこの作品が日間ランキングで1日だけ98位に乗ることが出来ました!皆さんありがとうございます!そして今後ともよろしくお願いします!

新しく☆9評価をくださったシュークリームは至高の存在さんありがとうございました!

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開幕!炎の体育祭!


多分タイトル詐欺



 

「熱くなれよおおおおおお!!」

「うるせえええええええ!!」

 

 開幕そうそう始まる謎のやり取り。因みに今俺に修○さんみたいなことを言ってきたのはクラスの体育委員会の岡崎。こいつの性格は…一言で言うと灼熱。下手に近寄ると色んな意味で火傷するバリバリの体育会系だ。しかも体育会系の癖に成績は良い。キャラを守れお前は。

 

「というか何で教室入ってきて第一声がそれなんだよお前は!松○修○か!」

「何を言うか!今日は体育祭だぞ!待ちに待った体育祭だ!この日を俺はどれ程待ち望んでいたか…。」

「あーはいはい。」

 

 正直熱血も時と場所を選ぶなこれは。こっちは蘭が出してきた新曲の最終調整とかで昨日のあんまり寝てないのに。

 

 

《ピーンポーンパーンポーン》

《お知らせします。各クラスの体育委員の人は運動場の受付テントに集合してください。繰り返します、受付テントに集合してください。》

《ピーンポーンパーンポーン》

 

 

「おっと、俺は少しいかなきゃいけないらしいな!それじゃまたグラウンドで会おう!」

 

 そう言うと岡崎は去っていった。いや、マジであいつ何であそこまでテンション高くなれんの?

 

「遼~。今日体育祭なんだって~。」

「知ってる。」

 

 俺の後ろでモカが乗っかかりながらパンを食べている。というか何でこいつはいつもいつも俺に乗っかかるんだよ。もうなんかなれてきたけど。

 

「まあアタシも岡崎の気持ちはわからないでもないな。」

「巴、体育祭の練習頑張ってたもんね。」

「というか巴は応援団の太鼓が叩きたいだけでしょ。」

「バレたか~。」

 

 後ろで巴と蘭、ひまりが話しているが…正直今の俺はそこまで気分が乗らない。くそ、調子に乗って昨日の3時まで作曲してるんじゃなかった。しかも起床が6時だから3時間くらいしか寝てないんだよな。

 

「遼くん、眠そうだけど大丈夫?」

 

 そんな俺を見かねてかつぐみが心配してくれた。ホントこの子良いお嫁さんになりそうだよな。

 

「まあ…少し眠いな。昨日の寝たの3時で起きたの6時だし。」

「もう!夜はちゃんと寝なきゃ駄目だよ!」

 

 まるで母親に叱られてる息子の気分だ。やっぱつぐみってお母さん気質凄いよな。

 

「まあ体育祭だし居眠りはないだろ。」

「そういう問題じゃないよ!もし体壊したりしたらどうするの?」

「あー…多分大丈夫だろ。」

「そうやって無理ばかりしてると私みたいになるんだよ?だから昨日は仕方ないにしても今日はちゃんと日付が変わる前に寝ること!いい!?」

「……はい。」

 

 つぐみにこの事を言われるとなんだか反論が出来なくなってしまう。というか説得力あるんだよなあ…。

 

「流石つぐ~。相変わらずつぐってるね~。」

「まあ、それがつぐみだからな。まあつぐみも頑張り過ぎるなよ。」

「今の遼も人のこと言えないけどね~。」

「うっ…。」

 

 モカ相手なのに反論出来ない…。というかまさかモカに一本とられようとは…。

 

「モカ、つぐみ、そろそろ更衣室行くよ。」

 

 蘭が二人を呼びに来て五人は更衣室に向かった。

 

「朝から大変だね。」

「…まあな。」

「それじゃ俺たちも着替えるか。」

「だな。」

 

 俺と匡も男子更衣室に向かい準備をした。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「宣誓!我々選手一同は、日頃の努力を精一杯発揮し戦うことを誓います!」

 

 体育委員長による選手宣誓が終わり、その後ラジオ体操をしたことで開会式が終わり次の種目の準備が始まる。俺が出る種目は次の次だから次の種目の途中くらいに準備をすれば十分間に合う。因みに俺が出るのは借り物競争と騎馬戦だ。

 

「眠っ…。」

 

 待ち時間の間俺はクラスのテントの下で椅子に座りグラウンドを眺めていたがここに来て今まで我慢していた睡魔が襲ってきた。次の次に俺が出る種目なのにここで寝たら絶対まずいと思いなんとか葛藤していた。だが睡魔と言うものは俺が思っているよりも強力でもの凄い力で俺を夢の世界に旅立たせようとする。なんとか耐えなければ…しかしもう限界が…。

 あと少しで眠りについてしまいそうなその時。

 

「冷たっ。」

 

 首もとにひんやりとしたものがあたった。それと同時に隣の席に蘭が座ってきて缶コーヒーを差し出してきた。

 

「良かったらこれ…」

「ありがとう。」

 

 缶コーヒーを受け取りそのまま飲む。冷たい、そしてブラックだからか苦い。だが今はこの苦さがありがたい。

 

「大丈夫?」

「何が?」

「つぐみから聞いたんだけど…遼、昨日の無理してたらしいって。」

「まあちょっと睡眠時間削ったが…。」

「ごめん。」

 

 蘭は突然謝って来た。

 

「何でだ?」

「その理由…あたしが昨日のお願いした新曲の最終調整じゃないのかなって…。」

「別に蘭は悪くないだろ。俺が勝手に遅くまでやってただけなんだし。」

「でも…。」

「それにちゃんと昼休みに寝るから安心しろ。心配しなくても体は壊さないようにしてるから。」

「うん…。」

 

 俺なりにフォローしてみたがそれでもやっぱり蘭としては罰が悪そうな顔をしていた。つぐみの時も色々あったからそこも心配なんだろうな。

 

「じゃあ蘭、今度のライブで今作ってる曲を最高な気分で歌ってくれ。そうすりゃ俺も報われるってもんだからな。」

「遼…。」

「それにな、俺はお前らのようにステージには出れないからさ、こうやって裏方でもAfterglowの役に立てることが出来れば十分嬉しい訳なんだよ。だから蘭が作った歌を調整してそれが認められたらさ…なんか自然と嬉しくなるんだよ。こんな俺でもちゃんと皆の役に立ててるんだって。」

「遼ってさ…時々バカだよね。」

「おい、俺さっき結構良いこと言ってた筈だろ?」

「そんなこと気にしなくても遼はあたしたちの仲間だしAfterglowの大切なメンバーだってことは変わらない。」

「……そっか。」

「ステージに立つとしても裏方だとしても誰にも無理はして欲しくない。だから大変な時は無理しないで。」

「わかった。次からそうさせて貰うよ。」

 

《次の種目は借り物競争です。選手の皆さんは入場門に集まり出場に備えてください。》

 

「さ~て、俺の出番みたいだな。」

「遼、頑張って。」

「おうよ。」

 

 蘭の応援を受けて俺は入場門に足を運ぶ。さて、つぐっていきますか。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

『ただいまより、一年生による借り物競争を始めます。』

 

 最初のランナー達がスタートラインに並ぶ俺の出番は三番目だからとりあえず他の人たちの様子を見ていよう。

 

「いちについて…よーい、スタート!」

 

 先生が掛け声と共に合図の銃みたいなヤツを発砲し、走者は一斉に走り出した。まあこれは借り物競争だし案外あっさりと…。

 

「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」

 

 いや待て。どうやらランナー達の様子がおかしい。さっきから借り物が書いてある紙を持ったまま微動だにしないのだ。一体何が…。

 

「誰かー!知り合いに巨乳ツンデレ少女はいないかー!」

 

 は?

 

「すみませーん!メイド服持ってる人がいたら貸してくださーい!」

「ここに高身長のイケメンのメガネ男子はいますかー!」

「誰かマイナスドライバー貸してくれー!」

「ギャルのパンティおくれーーーっ!」 

 

 いやなんだこれ?

 さっきから黙って聞いてればヤベーものしか借り物に入ってねーじゃねえか。いや、マイナスドライバーはマシか。てかこれ書いたの誰だよ。絶対そいつの趣味混ざってるだろ。

 

「ねえ遼。俺いまから凄く不安になってきたんだけどさ…。」

「俺もだ。」

「とりあえず…。」

「ああ。わかってる。」

「「(精神的に)生きて逢おう。」」

 

 俺と匡はこれから起こる借り物競争(混沌の舞台)に大きな不安を抱きながらグラウンドに向かうのであった。

 

 

 




次回、体育祭編後編
遼の借り物とは…?

新しくコメントをくださった水色( ^ω^ )さんありがとうございました!

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カオスオブ体育祭

 

「…よし、覚悟は出来た。」

 

 先ほどの謎の借り物競争が終わり今は匡の番となった。そして借り物として選手たちはなかなかめんどくさそうなものを借りている。ホントなんなんだよこれ。『ネコミミカチューシャ借りてこい』とか『るんって来るもの』とか『瀬田薫』とか…いや、最後比較的簡単だわ。だって今あそこで相変わらずシェイクスピアがどうの言ってるし。

 

「それでは準備が整いましたので次の選手の皆さんは指定の場所についてください。」

 

 アナウンスに従い俺もスタートラインに立つ。もう先のレースが先のレースだから緊張よりもまともな借り物であることを願ってばかりだ。

 

「頑張って…遼。」

「遼ー!頑張れー!」

「遼!気合いで行け!」

「遼くん!ファイトだよ!」

「遼~。つぐってこ~!」

 

 幼なじみたちの応援が聞こえた。うん、ここでかっこよく気合い入ればいいんだけどね。今の俺には気合いよりも不安が大きい訳で。まあ…応援してくれてる訳だし後は俺の運に丸投げしますか。

 

「いちについて…よーい…」

 

 先生が銃みたいなものを持ち空に向けて…

 

「ドン!」

 

 バァン!と言う発砲音と共に一斉に走り出す。走ることに関しては特に問題はない。問題は…。

 

「さあ、選手の皆さん借り物が書いてあるテーブルのところに到着しました!」

 

 これだ。とりあえず特定の人物つれてこいだとマジで詰みだからそれだけはさけたい。

 

「ペンギンのぬいぐるみかよ…。」

「私の借り物…えっ!?スクール水着!?」

「スーパーファミコンとか誰が持ってんだよ!?」

「誰かー!ワールドクラスの人はいませんかー!」

 

 うん、不安しかないわ。しかもまた最後誰かの欲望混ざってるぞ。それと誰だよスーパーファミコンとか書いたヤツ。くっそ懐かしい響きだな。何年前のやつだよ。

 

「……こうなったら…あたって砕けろ!」

 

 俺も遅れないように紙を見る。

 

「はあ?」

 

 紙を持ったまま固まること数秒。いやどうすんのさこれ。というか誰連れていきゃいいんだよ。むしろ年収600万の男性探してつれてった方が楽かもしれない、精神的に。

 

「……しょうがない。」

 

 俺はとある人物の元に向かう。その人物とは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モカ、ちょっと手伝え。」

 

 モカだ。

 

「え~?あたし~?」

「えっ?遼、何引いたの?」

「聞くな。」

 

 ひまりの質問をあしらい俺はモカの手を引きゴールに走って行った。幸い他の選手はまだ借り物に手間取ってるみたいだ。

 

「よーし、紙を見せてみろ。」

「この事は絶対内密にお願いしますよ?」

「うん?……ほほう、そうかそうか。」

 

 紙を見ると先生は全てが解ったかのように頷いた。うん、なんか優しい視線向けてくれてるけど今はそれがイラッとくる。疲れてんのかな俺(今更)。

 

「安心しろ!先生とて漢だ!約束は破らないさ!」

「もし約束破ったら末代まで呪いますからね。」

「しれっと恐ろしいこと言うなお前は。」

 

 先生と契約を交わし、合格が出た為晴れてゴールテープを切る。

 

「サンキュー。もういいぞモカ。」

「ところでさ~何であたしだったの~?何が必要だったの~?」

「それは…のんびり系女子を連れてこいってお題だったからさ。お前なら最適だろ。」

「……ふ~ん。怪しいな~。」

「…なんだよ。」

「教えてくれたら今日泊まりに行ってあげるけど~?」

「俺にメリットがないんだが?」

 

 このようにモカからは完全に不審がられてる。まあ嘘ついてるのは本当だし仕方ないんだ。なんせ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

借り物が『あなたの大切な人』だったからな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、遼お帰り。」

「あ~疲れた…。」

「そう言えば借り物は「聞くな」あっうん。」

「……って匡お前何持ってんだ?」

「あ、俺借り物が『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』だったからさ。似たようなもの借りたらどうにかなったんだよ。」

「マジか。というかこれがネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲か。完成度たけーなオイ。」

 

 まだまだ未知の借り物があったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 その後なんやかんやで午前の部の種目は一通り終わり昼休みが過ぎ、午後の部の種目が始まった。えっ?他の種目の様子が見たいって?仕方ないだろ。全部やってたらキリがないんだよ。

 

「それではこれより1年生によるパン食い競争を始めます。」

 

 さて、この種目名で誰が出るのかわかった人も多い筈。そう、我らがパン魔神…青葉モカだ。モカは今もスタートラインに立っているがその姿は丸でサバンナの草原でシマウマを見つけたライオンそのもの。目に映るものすべてを食らいそうなオーラまで纏っている。

 

「それではいちについて…よーい、ドン!」

 

 一斉に走り出す走者達。最初の方は普通のリレーのようにただ走り続ける図となっている。

 だがこのリレーの本題は後半にあるパン。ランナー達の身長よりも少し高いところに設置されている為、食べるためにはジャンプ力も必要となる。

 現にパンのところに到達したのは良いもののなかなかパンに食いつけず何度もジャンプしては取り損ねて…を繰り返していた。そんな中、パンを見つめている少女が1人…

 

 

 

 そう、パンを制し者(モカ)だ。

 

 

 

 周りが必死でパンに飛び付いてる中モカはパンを見つめて目を閉じる。 

 

 そしてしばらくして目を開けると…

 

 

 

 ザシュ

 

 

 まるでクロッ○○ップしたかのような早さで一撃でパンを口に咥えそのままパンを食べ干した。

 

『B組の青葉さん、ゴールです!』

 

 流石モカ。伊達にいつも食い意地張ってないな。モカに食べ物関連の問題をやらせると何とかしてくれるという謎の安心感がある。

 

 因みにこの後モカが「やったよ~。」と言わんばかりにこちらにVサインを向けてきて隣にいた女子に「常乃くんと青葉さんって付き合ってるんでしょ?」と聞かれた。一応否定はしたんだけどこれが後々面倒くさいことになるとは…。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

 

『続いては1年生による騎馬戦です。選手の皆さんは入場してください。』

 

 再び俺の出番がやってくる。この騎馬戦なんだがどういう訳か俺が上に乗ることになっている。

 

「頼むぞ常乃!俺たちの運命はお前に託した!」

「じゃあ俺と上変わってくれ。」

「それは無理だ!」

「何でだよ。というか運動神経なら俺よりお前の方がいいじゃないか。」

「この学校の騎馬戦…毎年誰かは怪我をするらしいからな。」

「穏やかじゃねえな。」

『それでは騎馬戦を始める前に一つ言っておきたいことがあります。』

 

 グラウンドにアナウンスが流れる。言っておきたいこと?なんだよ。

 

『えー、昨年はその…なんか本当にすみませんでした。』

「いや何があったんだよ!?」

『今年はその…あんなことが無いようにこちら側も注意していこうと思います。』

「いやだから何があったんだよ!?」

 

 という謎のアナウンスの後、『それでは選手の皆さんは騎馬を組んでください。』と言われた。いや、だから昨年何があったのか詳しく教えろよ。

 

「常乃、気を付けろよ。」

「何でだ?」

「なにやら1部のやつからお前に殺意が向いてるからな。」

 

 岡崎の言葉に首をかしげる。いやどういうことだってばよ。と思っている間に試合開始のブザーが鳴る。

 

 

 

 

 そして…

 

 

「よっしゃお前らぁぁぁぁぁぁ!常乃を狙えぇぇぇぇぇぇ!」

 

 と、いう感じで敵チームの半数の騎馬が俺に向かってくる……って、え?ナンデ?テキサンナンデ?

 

「いつもいつも美少女5人とイチャコラしやがってええええええ!」

「リアル5○分の○嫁してんじゃねええええええ!」

「俺も蘭ちゃんとイチャコラしてええええええ!」

「ひまりひまりひまりひまりひまりひまりひまりひまりひまりひまり……」

「デーモンコアってゲルマニウムの塊だってこと知ってた?」

「ウ ン チ ー コ ン グって知ってる?」

 

 なんか凄いめんどくさい奴らが纏めて来たしあからさまにかーなーりヤバい奴もいる…。うん、こいつらにあいつら渡すわけにはいかん、お父さん認めないからな(お前は父親じゃない?気にするな!)。それと最後の2人に至ってはまるで関係ないことだよ言ってるし。なんでいるんだよお前らは。それとなんでお前はデーモンコアを知ってるんだよ。

 

「おいこれどうするんだよ…。」

「やむを得ん!俺たちが何とか角のギリギリに立ち背後からの死角を無くす!だからお前は前からの敵に集中しろ!」

「すまねえ、そうしてくれ。」

「そうとなれば作戦開始だ!行くぞ!作戦名は『角に立って死角を無くす作戦』だ!」

「いやそのまま過ぎだろ!?」

「気にするな!」

 

 一応これでも岡崎は全科目70点以上なんだぞ?信じられるか?ホント頭良いのか馬鹿なのかどっちだよ。

 

「行くぞ野郎共おおおおおおおおお!!」

 

 逃がすまいと俺たちを追う敵チーム、その間に俺たちは何とか角に立ち作戦の第1段階が完了した。

 

「こうなりゃ実力行使だあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 それから俺はただ闇雲に遅いかかる敵の鉢巻きをひたすら奪い取る戦争をしていた。グラウンドがドンパチ賑やかになったんだ。もう殺りkillしかないさ♪(完全脳死)

 

「オマエヲ…ツブスウウウウウウウ!!」

「セ゛イ゛ヤ゛ーーーーーーー!!」

 

 この時の俺はどういう訳か濁点が人間の限界値を越えていたとか(蘭談)

 因みにその後、何故か俺に『騎馬戦の怪物(オーガ)』というあだ名が出来てしまったという。

 

 

 それと完全な余談だが騎馬戦でこれ程の男子の恨みを買ったであろう理由がパン食い競争の時、クラスの女子がしてきた質問を誰かが聞いたらしくそれで嫉妬の炎を燃やしてしまったとか。

 

 

 

 

 

 やっぱ人間ってめんどくせえ!

 

 

 

 





オチがないだって?オチはりみりんがチョココロネと一緒に食べちゃいました♪(りみりんどっから出てたんだよ!)
関係ない話になりますが最近シンフォギアのアニメ見始めました。クリスちゃん可愛い。

新しくコメントをくださった雷鳴滝さん、ありがとうございました!

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大変!姉が来た!

 

 

 何気ない1日の朝。俺はいつものように布団から出てパンを口にする。そんな中、母親が冷蔵庫を見ながら何かぶつぶつ呟いていた。

 

「どうしたんだよ母さん、さっきから冷蔵庫とにらめっこして。」

「昨日の夜連絡があってお姉ちゃん長期休暇で暫く大学休みになるから帰って来るの。だから久しぶりにご馳走しようかな~って思って。」

「ご馳走ね~。というか姉ちゃん好き嫌い多いからどうする……ん?今なんて言った?」

「久しぶりご馳走しようって」

「その前!その前になんて言った?」

「お姉ちゃんが帰って来るって言ったけど?」

 

 

・・・・・・・・・は?

 

 

「嘘だろおい…。」

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 午後1時。

 

「どーするんだよ…。」

 

 家から出てきた遼は羽沢珈琲店に行っていた。

 

「はい、カフェオレどうぞ。」

「ありがと。」

 

 つぐみから受け取ったカフェオレを飲む。いつも俺用にぬるめの温度で作ってくれるのでありがたい。

 

「ところでどうしたの?さっきからぐったりしてるけど。」

「ああ…実は姉ちゃんが今日帰ってくるみたいなんだ。」

「えっ?照さん帰ってくるの?」

「そーなんだよ…。突然過ぎて本当にな…。」

 

 そう言いながらカフェオレを啜った。

 

「そういえば照さん今どこにいるんだっけ?」

「確か…広島辺りだった気がするな。大学がその辺りだから。」

「広島か~。結構遠いね。」

「まあ行きたい学部が盛んなのがそこだったから仕方ないよな。」

 

 つぐみと話してるとお店の扉が開き、1人の女性が入ってきた。しかもサングラスかけてレディースハットを被っていた。……なんか知ってるような気がするのは気のせいか?

 

「お1人様ですか?」

 

 つぐみの案内で俺から少し離れたところに座る。まあそれより今は少しあの事を忘れてこのカフェオレとパンケーキを楽しもう。

 

「相変わらず甘い物好きね~。そういうところは相変わらずだよね~。」

「は?」

 

 俺が顔をあげるとさっき入店した女が俺の前の席に座っていた。

 

「あれ?半年ほど会わないだけで私のこと忘れちゃった?」

 

 すると女性は帽子とサングラスを外した。

 

「えっ…。」

 

 思わず声をあげた。何故なら…。

 

 

 

 

 

 

「久しぶり、遼。」

「姉ちゃん!?」

 

 その女性は俺の姉『常乃照』だったのだから。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「で、何で相席してんだ?」

「いいじゃんいいじゃん!」

 

 しれっと俺の向かいに座ってきた。いや、このあと多分モカ達来ると思うんだけどな…。

 

「つぐみちゃん、抹茶ケーキとアメリカンコーヒーお願い。」

 

 抹茶ケーキとアメリカンコーヒーか…。相変わらずのセンスだよな…。

 

「それで~?あんた彼女とか出来たの?」

「第一声がそれかよ…。」

 

 相変わらずだ。というかひまりといいこの人といい女ってどうして恋愛話が好きなのかね?

 

「いい?乙女にとって恋愛は………」

 

 突然何か言い始めた。いや、まさかとは思うけどこの人地の文読んでんじゃないよな?

 

「命よりも重いからなんだよ!」

 

 うん、正直なところどーでもいいわ。

 と、考えていたところメニューで頭を叩かれました。

 

 カランカラン…

 

「つぐ~来たよ~。」

「あ、遼来てたんだ。」

「おお~遼やほ……」

 

 そこにやって来たモカと蘭。いつものように二人で来たか。

 

 いや、ちょっと待て。何がおかしい。というかなんかモカが固まってる。どうした?

 

「……遼が…女の人と…。いったい誰…?」ボソボソ

 

 しかもなんかさっきからボソボソ言ってるし。

 

「おっ!蘭ちゃんとモカちゃんじゃない!久しぶりー!」

「「えっ?」」

 

 突然話しかけられた二人は驚いた。なんせ突然謎の女性に自分達の名前を呼ばれたんだ。無理はない。

 

「えっと…何であたし達のこと…。」

「いやいや何言って……えっ?忘れちゃったの?」

 

 いや、そんなあからさまに「嘘でしょ!?」というような表情されても知らんて。

 

「……誰ですか~?遼と一緒にいますけど~?」

「も~モカちゃんも忘れちゃったのー?私よ私!」

「私私詐欺は間に合ってますが~?」

「違うわい!照だよ!遼のお姉ちゃん!」

 

 そう言うと二人は「あ。」と言って思い出したようだ。

 

「もしかして~照さんですか~?」

「思い出してくれた!?」

 

 「良かった~!」と言いながら二人に抱きつく姉ちゃん。いや、その二人困惑してるから止めたって。

 

「ところで何でこっちに?大学は大丈夫なんですか?」

「あれ?遼から聞いてない?」

「いえ…聞いてないですけど…。」

 

 蘭の返答に姉ちゃんは俺を見た。そして…

 

「な・ん・で・あんたはそう言う大切なことを言っておかないのかな!?」

 

 俺に対して頭と首をがっしりとゴリゴリし始めた。

 

「痛い痛い痛い痛い!?というか俺だって朝知ったんだよ!?連絡が急過ぎるんだよ!」

「じゃあかしいわい!お前はともかく蘭ちゃんたちにはちゃんと連絡しときなさいよ!」

「実の弟よりその幼なじみ優先かよ!?」

 

 ギャーギャー騒いでる中、その傍につぐみのお父さんが来た。

 

「二人とも、仲が良いのは良いことだけどさ、あんまり騒ぎすぎないでね~。ここ、お店の中だから。」

「「……サーセン。」」

 

 この時、つぐみのお父さんが初めて怖いと思えたのだった。

 

 

 

 

 

「で、何で唐突に帰って来たんだ?」

「だから大学がしばらく休みになるの。」

「それで?連絡寄越したの何時?」

「昨日の24時前ね。」

「それは知らない筈だ。」

 

 なんせ俺昨日は23時には寝てたからね。

 

「それにしてもさ、誰があたしの未来の妹なのかな?」

 

 ブフォオオオオ!

 その言葉のせいで俺は思いっきり口にしていたカフェオレを吹いてしまった。

 

「だからさっきから何言ってんだよあんたは!!!」

「え~?でも気になるじゃん。」

「というかその前に姉ちゃんはどうなんだよ!彼氏とかいるのかよ!?」

「あんたね~。」

「でもびっくりしましたよ~。まさか遼が他の女の子といたのでモカちゃん驚きましたよ~。」

「そっかそっか~。ねえ、1つ聞いていい?あ、ちょっとあっちで話そうか。」

 

 すると姉ちゃんは席を立ち、モカを連れて離れた場所に行った。

 

「あ、つぐみ。あたしブレンドコーヒーお願い。」

 

 その間に蘭は注文をしていた。

 

「ねえ、何でモカ連れていかれたの?」

「さあ?姉ちゃんの考えることはよくわからん。」

 

 そのまま俺はコーヒーを啜る。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「さて、と。」

 

 あたしは照さんに少し離れた…カフェの外に連行されていた。

 

「モカちゃんは遼のこと好きなのかな?」

「えっと…好きというかその…。」

 

 突然問いかけれられた。

 

「だってね~。あたしが遼と話してたとき凄く面白くなさそうな顔してたじゃん?だからもしかしてと思ってね。」

 

 まさかそこまで見られてたなんて。昔からそうだったけど照さんの観察力には驚かされてばかりだ。あたしも意外と顔に出やすいタイプなのかなと改めて考えさせられた。

 

「で、どうなの?」

「えっと…正直言ってわからないんですよね~。」

「わからない?」

「はい~。遼と一緒にいるのは昔からだしあたしも遼は大切な幼なじみだと思ってますよ~。でも…」

「うん?」

「正直なところ言いますと~。遼のことは好きなんですけどどういう形でと言われるとよくわからないんですよ~。幼なじみとしてなのか…それともって感じなのか。」

 

 あたしがそう言うと「うーん」と軽く考えていた。

 

「というかさ、好きって気持ちにそんな深く考えるものなのかな?」

「えっ?」

「いや、人に対する思いって確かに考えた方がいいかもって言うのはわかるよ?でも好きの気持ちは理論で出てくる答えじゃないと思うな~。」

「そんなものなんですかね~?」

「多分。まあ、どれが正しいのかなんてのはその人にしかわかんないことだからね。とりあえず一言で言うなら素直になるというか……考えるな、感じろ!ってやつかな?」

「……わかりました~。ならあたしもあたしなりに感じてみようかな~と思いま~す。」

「そかそか!」

 

 「じゃあ戻ろっか。」と言って照さんは中に戻っていった。…考えるな、感じろか~。だとしたらあたしは本当に遼のことそう感じてるのかもね。

 

「……こんなところひーちゃんに見られたら逆にからかわれちゃうかもね~。」

 

 そう言ってあたしも遼たちのところに向かう。

 

「おお、モカ。大丈夫か?姉ちゃんになんか言われたのか?」

「大丈夫大丈夫~。女同士の秘密のお話ってやつ~?」

「……そか?ならいいけど。」

 

 そう言って遼はカフェオレを口に含む。

 

「ね~遼~。あたしパン食べたいな~。」

「お前ホントにぶれないな。」

 

 今は…このいつも通りを過ごしながら前に進む準備をしよう。そうあたしは心に決めた。

 

 

 

 





とりあえずさっさとこいつらくっつけてイチャイチャさせたい(n回目)

新しく☆9評価をくださった風薊さん、ありがとうございました!

コメントや高評価くださるとモチベーション上がるのでよろしくお願いします!

そして最近短編集も始めました。良ければそちらもよろしくお願いいたします。

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夕焼けを襲う暗雲

 

「ただいまー!」

「ただいま。」

「お帰り~。照!いつ帰ってきたの!?こっち着いてたら連絡してよ~!」

「いや~ごめんごめん!久しぶりに商店街見てたら懐かしくなっててさ~。あ、これお土産の紅葉饅頭!」

 

 横で感動の親子の再会をしている中、遼は手洗いとうがいをしてソファーに座っていた。

 

「遼、これあげるよ。」

「っと…なにこれ?」

「厳島神社で買ってきたお守り。学問必勝に恋愛長寿とかに効果があるんだって。まあ幸運よせよ。」

「ありがと。」

 

 受け取ったお守りをしまい照が買ってきた紅葉饅頭を食べ始めた。

 

「そういや姉ちゃん大学どうなの?」

「うーん…まあまあかな~。好きなこと勉強出来るのは良いんだけど先生の連絡がちょっと雑だからね~。」

 

 と言いながら近くのクッションの上に胡座をかきながら座る。横で遼が「まるでおっさんだな~」と思いながら見ているとギロッと睨まれた。

 

「で?あんたはどうなのよ?彼女達とバンドやってるみたいだけど。あんたもステージ立つの?」

「いや、俺は裏方でサポートしてるだけ。ガールズバンドの方が良いと思ってさ。」

「……本音は?」

「本音?」

「またか…。まあ良いんだけど。」ボソッ

 

 照の言葉に首を傾げながらもう1つの饅頭を口にする遼。だが照はそんな彼に対して少しだけ何時もと違う視線を向けていた。

 

 

 それが何を意味するかは不明だが…。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「やほやほ~。皆さんお揃いですな~。」

 

 次の日の朝、モカと共に登校していた遼は校門前で待っていたAfterglowの面々と合流した。

 

「よっ。」

「遅いよ二人とも。」

「悪いな。こいつのパン選びに付き合ってたら時間かかった。」

「今日は~チョココロネを買うことが出来たのです~。」

 

 いつも通りの朝を迎えながら彼らは下駄箱に向かう。昇降口は男子と女子で少し離れているので遼は彼女らと一時別れ、下駄箱を開けた。

 

「なんだこれ?」

 

 下駄箱を開けると何時もは無い筈の謎の長方形の封筒が入っていた。差出人の名前は無し、しかも紙もくしゃっとしていた為何か嫌な予感はした。

 

(果たし状…とかか?ヤンキーじゃあるまいし…。)

 

『常乃遼さんへ

 あなたにお話したいことがあります。今日の放課後校門でお待ちしております。』

 

 内容はこれだけだった。

 文章は丁寧な言葉遣いがされているが怪しい要素はごまんとあった。

 まず、差出人の名前がない。そして手紙自体も汚なくそれが不信感を爆上げしていた。こんな呼び出しをするやつは大抵がおバカさん、もしくはろくでなしだ。大体こういう手紙に乗ってホイホイ行くとボコボコにされて金を奪われるというのがオチだと言うことはすぐにわかる。

 

「遼~どうしたの~。」

「ああ、すぐ行く。」

 

 送ってきたやつには悪いがどこかで手紙をジョブしよう。そう考えながらその手紙を小さく畳んでポケットにしまい、彼女らと共に自分たちの教室に向かった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「はい、日誌は確かに預かりました。お疲れさま。」

「それでは失礼します。」

 

 日直の役目を終えた俺はお辞儀をして職員室から出た。今日は放課後は日直の仕事をしないとならなかったので5人には先にCircleに向かってもらっていた。自分も早くいかないとと思い、鞄を持って下駄箱に向かっていたところ今朝の出来事を思い出した。

 結局あれを差し出したのはどこのどいつなのかはわからない。それにあれが予想通りのよろしくないものだとしても俺は誰かに恨まれるようなことをした覚えはない。

 

(考えるのは止めるか…。)

 

 靴を履き変えて校門を出た。このまま何事もなくみんなの元に行けると思っていたのだが…。

 

「常乃遼だな?」

 

 何者かに声をかけられた。

 後ろを振り向くと1人の男がいた。言い方は悪いがパッとしないような地味な容姿の男が1人。

 

「なんだお前は。」

「手紙送ってやったのに約束破るとか信じられないよな?」

「なるほどな。あれはお前の仕業か。まさか他校の奴とは思わなかったが…何故俺を知っている?」

「まさか…覚えてないのか?」

「悪いがそのまさかだ。」

「……ついてこい。」

「ここでいいだろ。俺は急いでるんだ。」

「お前の意見は知らん。来なかったら…お前の大切ななにかを壊す。」

 

 そう言われて謎の男の後をついていった。これがあからさまな罠だというのは誰でもわかる。だが…こいつは俺の大切ななにかを壊すといった。それがまさか───だったらと思い着いていくことに。

 

 

 しばらく歩き、人通りの少ない場所に出た。

 

「なるほど。いかにも小物ワルが連れてきそうなところだな。で?さっさと要件を言ったらどうだ?」

「要件は…これだよっ!」

 

 振り向き様と同時に拳を向けてきた。それを交わし続く2発目も受け止め、拳を振り払うとそいつから距離をとった。

 

「いきなり暴力か。随分と乱暴なやつみたいだが…何者だ。」

「石原一誠…と言えばわかるか?」

「石原…?そういや中学まで俺がいたバスケ部にそんなやつがいたな。別の高校に行ったと聞いていたが?」

「そう。羽丘程度のレベルじゃ俺は満足しないからな。もっとレベルの高いところに行ったのさ。」

「まあお前がどこ行こうがどうでも良い。今更なんのようだ。」

「まあそうだな……お前への復讐だよ!」

 

 復讐…?なんのことだかさっぱりわからなかった。俺はこいつと同じバスケ部にいたがろくに関わった事はない。それに会話も殆どしなかった為、恨みを売るようなことも無かった。

 

「復讐か。俺はお前に恨みを売るようなことはしてないが?」

「お前は気づいてないのか…。なら教えてやる。」

 

 

 それは遡ること1年前

「青葉さん!あなたのことが好きです!俺とお付き合いしてください!」

 

 石原は文化祭の後日、モカに告白をした。彼は前からモカのことが気になっていたのだが、モカ達が文化祭でバンドをやっていたのを見て本格的に好きになり告白を決意したのだ。

 

「ほほ~。これは告白されてるのかな~?」

「はい!始めて話した時からずっと気になってました!」

「いや~。モカちゃんも罪な女だね~。告白されるのも悪くないって感じ~?」

「じゃあ…」

「でも~君の期待には答えられないかな~?」

「えっ…。」

 

 モカの返答に石原は間の抜けた返答をした。

 

「何で…!俺はバスケも上手いし頭も良い!自分でも言えるほどにルックスもイケてるのにどうして…」

「いやいや、どこが悪いとかじゃないんだけどさ…あたしは君の気持ちに答えられないんだよ~。ごめんね?」

「誰か他に好きなやつでもいるんですか…?」

「それは言えないかな~?」

 

 こうして彼の恋は終わりを迎えた。だがその後、モカが遼と一緒にいるところを目撃した。モカが遼に乗っかかったりと2人にとってはいつものことだがそれを良く思わない奴もいた。それ石原()だ。

 

(何であいつが…俺よりも地味で冴えない陰キャの癖に!)

 

 これが全ての始まりだという。

 

 

「要するにあれだな。俺は完全な逆恨みされてる訳か。」

「逆恨みだと?ふざけるな!お前のせいで俺はフラれたんだ!彼女に!」

「いやいや、俺はあいつとは幼なじみなだけで恋人じゃない。だからお前はどのみち駄目だったって訳だろ!」

「黙れ!俺はお前なんかより素晴らしい男だ!頭も良い!スポーツも得意!見た目も良い!なのに何でお前なんかがあいつの幼なじみなんだ!」

「随分と自画自賛が激しいがお前ルックスたいして高くないぞ?というか逆にパッとしないとか近寄りがたいっ言われてたのに気づいてないのか?」

「知るか!俺の美的を理解できないバカはどうでもいい!」

「ホントそういうとこだぞ。というか顔以前に性格が悪いなお前は。」

 

 繰り出される拳をかわしたり受け止めながら口論を交わす。時間はかかるがなんとかやりきれそうだと思っていたその時…

 

 ガツン!

 

 後ろから鈍い衝撃を喰らった。痛みに耐えながら振り向くと石原の仲間と思われる男が鉄パイプを持ってそこにいた。

 

「ハハッ…ざまーねえな。オラッ!」

 

 痛みが癒える暇もなく追撃をかまされた。先程の打撃のせいで反応が鈍くなり、その攻撃を交わせずに食らってしまった。

 そこからは一方的ないじめだった。1発、また1発とどんどん暴力を浴びせられる。俺はただダメージの大きい左腕を庇いながらその攻撃に耐えるしかなかった。

 

「……っはあ!今日はこのくらいにしてやるよ。行くぞ!」

 

 ようやく帰るか…と思っていると石原は振り返った。

 

「そうだ、これ以上調子に乗ってると…今度はお前の夕焼け?をどうにかするかもな?それが嫌なら…お前が俺以上の屈辱を味わいな。」

 

 「また会おうぜ」と高笑いしながら立ち去った。

 

「あの野郎…何処まで腐ってるんだ。」

 

 そう言いながらなんとか起き上がり壁にもたれる。

 

「あいつらを壊すだと…。そんなことさせるか!」

 

 思い出しただけで腹がたった。あんな逆恨みしか出来ない卑怯者にあいつらに手を出させてたまるか。

 

「・・・・・・」

 

 ふと空を見上げた。そこには少しオレンジがかかり始め、青空が夕焼けになり始めていた。それを見ながら「綺麗な空だ…。」と呟く。

 Afterglow…それは夕焼けを意味する。この空はあいつらと同じ。なら俺がやるべきことはなんだろうか…。

 

「あいつらは絶対傷つけさせない。……俺が守る。守らなきゃいけないんだ。」

 

 そう決意し、傷を隠し、誇りを綺麗に払ってみんなの元に向かった。

 

 

 

 

 

 だが俺は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この決意が彼女らを苦しめることになろうとは。

 

 

 




シリアス「こんにちは!ぼくシリアスくんっていうんだ!」

急展開過ぎて作者もびっくり。

☆10評価をくださったもなせさん、ありがとうございます!
コメントをくださったユニバースファントムさん、伊咲濤さんありがとうございます!

高評価やコメントお待ちしております!

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亀裂

 

 あの後、なるべく早くCiRCLEにつくように向かって行った。扉を開こうとしたとき左腕の傷が傷んだ。だがその痛みを耐えてドアノブに手をかけ、そのまま開けた。

 

「あ、遼くん!」

「遅いぞ遼!」

 

 Afterglowの面々が俺を見て声をかけてきた。

 

「遼~モカちゃん疲れたよ~。」

 

 何時ものようにモカが遼の背中に乗っかかる。その時、モカの左手が遼の左腕に当たった為、左腕に蝕むような痛みが走り思わず顔を強張らせてしまった。

 

「…遼?どうしたの?」

「あ、いや何でもない。とりあえず練習はどうなんだ?」

「一応そろそろ後1回合わせて終わる予定だけど…。」

「そっか。じゃあ準備が出来たら待っててくれ。俺はトイレに言ってくる。」

 

 みんなが「なるべく早くね!」と言っている中でただ1人、蘭は府に落ちなさそうな表情をしていた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「痛っ…とりあえずこれをどうにか隠さないと…。」

 

 トイレに向かった俺は先程の傷に水をかけ痛みを和らげようとしていた。だが血が出ていた訳ではないので対した効果はないだろう。

 

「もしこの事をあいつらが知ったらどうなるか…」

 

 どうなるかは言うまでもない。彼女らは優しい。だから自分たち…特にモカは自分にに対して責任を感じてしまうことは目に見えていた。

 

「知られる訳にはいかないよなぁ…。」

 

 痣を濡らした水を吹き、彼女らのもとに戻った。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 スタジオに戻り、残りの時間で数曲練習した後、機材を片付けて帰るだけとなった。

 

「このマイクスタンドって何処だったか?」

「あ、それはこっちだよ。」

 

 マイクスタンドを運ぶために持ち上げようと両手で持った時、また左手に痛みが走った。

 

「……ねえ遼。ちょっといい?」

「なんだ?マイクスタンドはちゃんと運んでるぞ?」

「左腕。何で今日使わなかったの?」

「!?」

 

 蘭の言葉に思わず動揺してしまった。確かに今日俺は左腕に負荷をかけないためになるべく右腕だけを使ってきた、いや、でも蘭にこの事が知られてる筈は…。

 

「……蘭も気づいてたの~?」

「うん。モカが遼に乗ったとき一瞬顔を強ばらせてたからね。それにここでノートをとるときも全然左手を使ってなかった。だから何かあるんじゃないかと思って。」

 

 蘭だけではなくモカもその事が引っ掛かっていたみたいだ。

 

「…遼?あたしたちに何か隠してる?」

「いや…そんなことは…。」

「じゃあ今日の練習、何でこんなに遅れたの?」

「だから日直の仕事があったから…」

「それでも30分は時間がかかりすぎだと思うけど?……その間に何かあったの?」

「・・・・・・」

 

 駄目だ。この事は言っちゃいけない。言ってしまうときっと…彼女達を傷つけてしまう。だから…。

 

「大丈夫だ。ちょっと自転車にぶつかってここ打っただけだからさ。そのうち治るって!」

 

 こう言うしかなかった。

 

「・・・・・・・」

 

 そしてその時の彼女たちは腑に落ちない表情をしていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 あの練習の日から数日がたった。羽沢つぐみはモカがやまぶきベーカリーにパンを買いにいくのについて行っていた。

 

「いや~。やっぱりやまぶきベーカリーのパンは美味しいですな~。」

「相変わらずよく食べるね…。」

「モカちゃんとパンは運命の赤い糸で結ばれてるからね~。」

 

 何時もは遼や蘭が一緒についていくのだが今日は2人とも放課後は予定があると言っていた。それでモカに誘われてつぐみがついてきた。

 商店街の道を歩いていたとき、1人の見覚えのある人を見かけた。

 

「……あれ?」

 

 そこにいたのは遼だった。そこには彼女らも知らない人達も一緒だった。

 

「つぐ~どうしたの~?」

「さっき遼くんが知らない人たちと一緒にあっちに行ったのが見えたんだけど…。」

「………ついて行ってみよ。」

「…うん。」

 

 つぐみの言葉を聞いたモカは何時もとは違い、真面目な顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 それから暫く歩き、つぐみとモカは遼たちの後を着けていった。

 

「お前らな…。今度は何のようだ。」

「別に~?ただこの間のお仕置きがまだ足りてないように見えたからね~♪」

 

「(遼くんの知り合い?でもあんな人、見たこともない…。)」

 

「オラッ!」

 

 謎の男は遼に向かって突然木の棒で殴りかかってきた。それを難なく受け止めて力づくで木の棒を奪い取ると膝を使ってへし折った。

 

「だからなんでもかんでも暴力で解決しようとするんじゃないよ。俺、結構平和主義者なんだけどな。」

「それは失礼。つい手が滑ってしまってな。」

「というかお前この間から何なんだ?俺はモカと付き合ってないしお前の怒りは完全にお門違いなんだが?」

「知らないな。そもそもお門違いでも何でもない。お前は……俺のプライドを傷つけたからな!」

 

 再び男は殴りかかるが格闘技の経験がある遼はそれを交わし、その男を突き飛ばした。

 

「プライドって…とことんめんどくさい奴だなお前。」

「俺は今まで欲しいものは全て手に入っていた。才能も、金も、何もかも!だがあいつの心は手に入らなかった。その理由はお前やあの幼なじみ共なんだよ!だからお前らが許せなかった。お前らなんかがいなければ……青葉モカは俺のものになってたのに!」

「結局それ逆恨みじゃないか。」

「とにかく…先ずはお前潰さねえ限り俺の腹の虫が収まらねえ!」

 

 すると再び遼に殴りかかるが難なく回避された。

 

「全く…拳でどうにかしようと…」

 

 遼くんがそう言った矢先、別の男が鉄パイプで殴りかかったがそのパイプを受け止めた。

 

「2度も同じ手にかかる訳無いだろ…。」

「良いのか?ここで抵抗してるとお前の大切なバンドメンバーが逆に悲惨なことになるぞ?」

「……っ!」

 

 一瞬動揺してしまった。その一瞬を見て石原ともう1人の仲間と思われる男は落ちていた棒で遼の左腕を殴った。遼の左腕には既に傷があった為痛みがすぐに走った。

 

「ふう…形成逆転だな。この状況をビデオに残して…毎晩笑ってやるよ。」

 

 パイプを引きずりながらジリジリと距離を摘めて行く。仲間の1人は撮影携帯を持って、もう1人は笑いながらそれを見ていた。

 

「相変わらずだな。昔から変わらず弱いままだなお前は。」

「なんだと?」

「こんなことしないとお前は俺に勝てないんだろ?だからわざわざ傭兵雇ってアイツらを人質にして…とことん下らない奴だな。」

「……ぶっ潰してやる。お前なんか!」

 

 遼が挑発すると石原がパイプを振り上げる。遼は左腕を抑えながらなんとか避けようとしているが反応が鈍くなっているため間に合わないと思われた。

 

 

 

 

 

「こっちです!」

 

 1人の少女が2人の警察を連れてきた。

 

「おい!お前達何をしている!」

「ちっ!行くぞ!覚えてろ!」

「あっ!こら待ちなさい!」

 

 警官の1人は石原達を追い、もう1人は遼の元に駆け寄った。

 

「君、大丈夫か?」

「俺は大丈夫です…。とりあえず向こうをお願いします…。」

「本当に大丈夫なのか?無茶はするなよ!?」

 

 遼の頼みを受け、もう1人の警官も石原達を追う。

 

「はあ…痛って。」

 

 服の埃を払いながら、痛む左腕を抑える。

 

「遼くん…大丈夫?」

「つぐみ…?」

 

 彼の元につぐみが駆け寄る。彼女に気づいた遼はいつもと変わらぬ態度で接した。

 

「どうしたのその痣…。」

「あー…これはあれだ。ちょっとこの辺り歩いてたら打っただけだ。」

「……違うよね?」

 

 なんとか痣を隠し、やり過ごそうとしたがつぐみは言葉を遮った。

 

「私見たんだよ?さっきの人達に殴られてるところ。」

「・・・・・・・」

「あれどういう事?もしかして原因って…」

「気にするな。」

 

 つぐみの言葉を最後まで聞かずに言葉を遮った。

 

「これは俺の問題だ。」

「でも…!」

 

 俺とつぐみが話しているとガタン!と奥から音がした。そこにはモカがいて…。

 

「───っ!」

 

 その場から逃げ出した。

 

「モカ!」

 

 遼はそのままモカの後を追った。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「(あたしのせいで…。あたしのせいで遼は…。)」

 

 そこからどれだけ走っただろう。持っていたパンすら置き去って走っていた。

 

「(ごめん…!ごめん…!)」

 

 必死に泣きながら走っていた。とにかくあそこには…遼のところにはいられなかった。まさか自分のせいで遼があんな酷い目にあってるとは思わなかったのだから…。

 

「おい待て!」

 

 後ろから追いかけて来た遼に手を捕まれた。モカはなんとか振り払おうとしたが、女子と男子の力の差はあった為、振り払おうことは出来なかった。

 

「遼…。」

「モカ、勘違いするな。何もお前のせいじゃない。これは俺の」

「あたしが…あたしが遼をこんな目に合わせたんでしょ?」

「違っ「違わない!」

 

 モカは何時もは言わないような大声で遼の声を制止した。

 

「ごめん…。あたしそんなことも気付けなくて…。ずっと近くにいたのに…逆に傷つけていたなんて…。」

 

 泣きながら発されたその声は嗚咽混じりに自分への怒り、不甲斐なさ等の想いが混じっていた。

 

「あたし…遼を苦しめてて…。そんなことも知らずに…。」

 

 複雑な想いのまま遼の手を振りほどき、距離をとった。

 

「遼…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。」

 

 その言葉を残したままモカはそこから走り出した。

 

 ポツリ…ポツリ…と雨が降り始めた。

 

 

 大切なものを守ろうとした男は……逆に大切な者を傷つけていた。

 遼は雨が降り続けるその場所にただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 




補足コーナー
石原一誠
過去にモカにフラれたことで遼に強い逆恨みを抱いている。ぶっちゃけるとこの作品の必要悪的な役割。どこにでも見かけるような捨てキャラみたいな感じだがそこは申し訳ないが妥協して頂けたらと思ってます。今回は警察に追われてるところで出番終わりましたが、今後ちゃんと絞りあげるつもりです。


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Nobody's perfect

 

「……ただいま。」

 

 雨に濡れたまま遼は帰宅した。

 

「お帰り~…ってちょっと!びしょ濡れじゃない!とにかく早く入って!お風呂早く入りなさい!」

 

 目の前の突然変わり果てたかのような弟を前にして、何があったのか聞き出したいところではあったがまずは体調を崩さないようにとタオルを持ってきて、持っていた鞄を遼の手から取った。そしてそのまま遼を風呂場に向かわせた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

「はい、これ。」

 

 お風呂から出た遼にホットミルクを渡し、照もまた向かい側に座った。

 

「………で、何があったの?」

 

 自分のホットミルクを飲みながら問いかける。一方の遼は暫く沈黙していたがゆっくりと口を開けた。

 

「モカが…泣いた…。」

「……は?」

「俺のせいで…。」

「ちゃんと説明して。」

 

 照の言葉により、遼は再び口を開いた。これまでのことを包隠さず全て…。

 

「つまり、あんたはあの子達を守ったつもりが、逆に傷つけたってことでしょ?」

「それは……。」

「遼、あたしは今全力であんたをぶん殴りたい気分なんだけど?」

 

 そう言いながら照は遼を睨み付ける。

 

「そもそも、あんたが下手な嘘なんかつくからこうなるんでしょ。悪いのはその石原ってやつかも知れないけどあんたもあんたで何でそれを正直に言わないのよ!」

「言えるわけ無いだろ!そんなこと言ったら「あの子達が責任を感じる…とでも言いたいの?」──っ!」

「図星みたいね。でもあんたは1つ大きな勘違いをしてるよ。

 あなたはモカちゃん達に余計な不安や心配を募らせないように嘘をついた。でもその嘘は意味が無かった上に最悪な結果を迎えた。それが何でかわかる?」

「それは…。」

 

 言葉に詰まる遼を見て、照は仕方ないと言わんばかりに話を続けた。

 

「あの子達にとってこれは知らない方が幸せなことなのかも知れないけどね、時と場合では辛くても知らなきゃいけない事だってあるのよ。それにその事を隠されて後から事実が発覚した時の方が辛いことは多いの。だから」

「姉ちゃんにはわからないだろ!」

 

 照の言葉を遮り、遼が声をあげた。

 

「アイツらはいつも前を見てるんだよ!Afterglowとしてバンドを始めて…自分たちらしく進んでるんだ!だから…その為には余計な重荷は俺が肩代わりするしか無いんだよ!」

「……自分が犠牲になっておけば平和に解決するとでも言いたいの?」

「それ以外に何が「もういいわ。」」

 

 彼女は冷たい声で遼の言葉を止めた。

 

「あんたがそこまで馬鹿だとは思わなかった。最早殴ろうとすら思わないわ。」

 

 照はそこまで声を張り上げないもののトーンの低さから本気で怒っていた。いや、この場合は怒りというよりも遼に対して失望したと表現した方が正しいのかも知れない。

 

「今のあんたじゃ誰も守れない。いや、寧ろ逆ね。自分1人で背負い込んでのヒーロー気取りもいい加減にしたら?」

「おい…今何て言った!」

「最高にカッコ悪いって言ったのよ!

 勝手背負い込んで!嘘ついて!それがバレて!結果としてあの子達を傷つけて!あんたは結局何がしたかったのよ!願ったこととやってる事が矛盾し過ぎなのよ!」

「姉ちゃんに何がわかる!!?」

「わかるわけ無いでしょ!というかわかりたくもないわよ!周りのことも見ないで自分の基準でしかモノを見てない人の気持ちなんか!」

 

 そのままお互いに数分間睨みあっていたが、数分後なんとかそれ以上の喧嘩にはならずに落ち着く事が出来た。

 

「とにかく…あんたはもっと周り見なさい。本当に1人だけで背負える物なんて数えるしかないのよ。」

 

 そう言うと彼女は自分の部屋に入り込んでしまった。

 

「…………くそっ!じゃあどうすれば良かったんだよ!」

 

 そのままソファーに横になった遼は照が言った言葉の意味を考えていた。しかし、一晩かけてもその答えが出ることはなかった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

 それから2日がたった。

 休日の羽沢珈琲店にはたまにAfterglowの面々が集まっていて、何時ものように他愛もない話やライブについて色々と語り合っているのだが、今回の場には遼とモカの姿はなかった。

 

「……なあ、遼とモカはどうしたんだ?」

 

 その場に到着した巴は蘭たちに聞いた。

 

「モカは今日はちょっと休むって。遼の方は音沙汰無しだった。」

「う~ん…遼が何の連絡も無く休むってどういう事だ?」

「確かに。もし何か用事があるなら連絡の1つくらいありそうだよね。」

 

 蘭に続き、巴やひまりも話続ける。そう、遼はかなりの生真面目で何もなく練習などに遅れたり休んだりすることはない。少なからずその事に関する連絡の1つは必ず入れる。そんな男だ。それが突然連絡も無しに休むとなるとちょっと不思議に思うだろう。

 

「この間も練習遅れてきてたし…それが関係あるのかな?」

「・・・・・・・・」

 

 ひまりの発言の中で、その理由を知るつぐみはただ黙っていた。

 

「……つぐみ、何か変だよ?」

 

 その雰囲気を見逃さなかった蘭はつぐみに問いかける。

 

「もしかして何か知ってるの?」

「えっと…それは…。」

「もし知ってるなら教えてほしい。あたしたちに関係してることなら尚更。」

 

 暫く沈黙した結果、つぐみは3人に事の流れを話すことを決意した。そしてその話を聞いた彼女らはとても複雑な表情をしていた。

 

「それって…。」

「・・・・・」

 

 ひまりは悲しそうに呟き、巴は黙り混んでしまった。無理もないだろう。事態の原因がAfterglow関連で、しかもモカはそのことで塞ぎ込んでしまっていると言うのだから。

 

「…遼のところに行ってくる。」

「蘭ちゃん!?」

 

 つぐみは店から出ようとする蘭を制止する。

 

「待ってよ!遼くんだって被害者なんだよ!?」

「だとしても何で言ってくれなかったの!?何で黙ってたの!?それでモカも苦しい思いしてるんでしょ!?ちゃんと言ってくれたらどうにかなったかも知れないのに!」

「それは─!」

「落ち着けよ二人とも!」

 

 巴は言い合いになりそうな蘭とつぐみを止め、1度4人はその場に座った。

 

「ここは無闇に突撃しても意味が無い。アイツらが自分で出てこなきゃ何の意味も無いと思う。」

「そうかも知れないけど─!」

 

 蘭は強い口調で反論しようとしたが、巴の言葉もありそれ以上の言葉が出なかった。

 

「蘭…。」

「今は…アイツらを信じるしかない。」

 

 その時の羽沢珈琲店内は他のお客さんがいなかったからとはいえ、とても暗くいい雰囲気とは言い難いものとなった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

「はあ…。」

 

 同時刻、目的もなく道をただ歩いていた遼は周りから見てもとても重い雰囲気をしていた。

 

(結局…姉ちゃんの言う通りだった訳か…。

 こんなことになるなら…ただアイツらを苦しめてしまうだけなら…俺はあそこにいない方が良かったのかも知れない。そうしたらこんなことにはならなかったのかもな…。)

 

 照と口論になって以来、ずっと考えていたが考えれば考えるほど自分のやったことは全て空回り、そして逆効果だったことを思い知らさせていた。

 

 そんなとき肩にボールのようなものが当たった感じがした。横を見ると近くの川原でテニスをしていた子たちのボールが飛んできたみたいだ。「すみません!」と謝罪する少女たちに対して遼はなるべく笑顔で「気にするな。」と言う感じでボールを投げ返した。

 その直後、背中にまたボールが当たるような感じがした。今度は近くでキャッチボールをしていた親子が謝罪してきた。さっき同様に親子にボールを投げ返した直後、今度はサッカーボールが後頭部に飛んできた。謝罪してきた少年たちに「気にするな…。」と言ったものの流石に打ち所が悪かったのかフラフラしていたら近くに落ちていたバナナの皮を踏み、そのまま倒れて川原に転げ落ちた。

 

(最悪だ…。)

 

 そのまま横になり空を見上げた。空は曇りなき青空。今の自分とは真反対の状況だった。このままここで眠りについてしまった方が楽かな…と思いながら目を閉じようとしたとき、横から「大丈夫?」と声をかけられた。

 

「……美咲?どうしたこんなところで。」

「それはこっちの台詞でしょ。こんなところで横になって何してんの。」

「……ちょっと昼寝でもしようと思ってな。重い荷物を枕にしてこういう晴れた日に外で寝たら気持ち良いって聞いてな。」

「…相変わらず嘘下手だね。そもそも重い荷物何て無いじゃん。」

 

 的確な指摘を受け、返す言葉もなかった遼は黙り混んでしまった。一方美咲は横に座り、持っていた袋の中から一本のペットボトルを取り出し遼に渡した。

 

「あげる。」

「…良いのか?」

「うん。ジュース無くなりそうだから買いに行ったんだけど流石に買いすぎたからね。」

 

 遼はジュースを受け取ってそのまま飲む。朝から何も口にしていなかった為か、ジュースのオレンジの甘味が何時もより濃く感じた。

 

「…なあ美咲。1つ聞いてもいいか?」

「何?」

「例えばの話なんだけどさ。1つの問題が起きたときにその原因が自分の友達にも繋がるものだとして…それを言ったら相手を傷つけるかもしれない時、傷つける覚悟でその事を友達に打ち明けるべきなのか?」

 

 それを聞いた美咲は少し黙り混んだ。

 

「それはきっと言わなきゃいけないのかもね。」

「…もし、そいつらがそれで立ち直れなくなったりとか気にしないのか?」

「そういう訳じゃないよ。でも遼はそれを気にして抱え込んでた訳でしょ?」

「どーだろうな。結局ただの自己満足なのかも知れない。自分が犠牲になればそのうち解決するって思ったら…迎えたのはバッドエンドだよ。」

「やっぱり優しいんだね、遼は。」 

「え?」

「でもさ、もしあたしが遼に何か背負わせていたら力になりたいって思うよ?大切な人が自分の知らないところで傷つくくらいならその痛みをなるべく軽くしてあげたいし。

 遼は優しいから…他の人が傷つくのに耐えられなかったんだよね。でもその気持ちは遼だけが思ってる訳じゃ無いんじゃないかな?」

「じゃあどうすれば良かったんだよ…。」

「信じてあげたらいいんじゃない?」

 

 遼の問いに美咲はそっと呟いた。

 

「あたしもこころにいつも巻き込まれて、気づけば大変なことになってるけどさ、意外と悪い気はしないんだよ。まあ、それに慣れきっちゃったからかも知れないけど。だから思いきってみてもいいんじゃない?」

「…そんなものなのか?」

「さあね。あたしが言ってることと遼が悩んでることは重さが違うかも知れないけどさ…。どんなことであれ、大事な人の力になれるっていう思いは変わらないと思うよ?」

「でも俺は…結局無力だった。あいつらの力にはなれなかった…。」

「はあ…。無力とかそんなの関係ないんだって。あたしだってハロハピのことを1人でやってる訳じゃないの。こころが無茶な提案して、はぐみや薫さんが話広げて、花音さんに支えられながらなんとかやってるくらいだし。あたし1人だったら大がかりな計画を立てることもそれを盛り上げることも無理があるの。

 ここまで言ったけどあたしが言いたいことわかる?」

「……支えあってるってことか?」

「そうだね。多分1人で出来ることってそれぞれ違ってくるんだよ。だから出来ないところを誰かが補って…そんな感じでいいんじゃないかな?」

「……そっか。」

 

 美咲の話を聞いて遼は1つの言葉を思い出した。

『Nobody's perfect』

その意味は『誰も完璧ではない』。人は誰しもが弱さを、欠点を抱えている。他から見れば天才と言われるような人であってもどこかに他人にはわからない欠点を抱いていることがある。

だがそれは決して恥じるべきことではない。その弱さはきちんと理解して、受け入れる事が出来れば人は強くなれる。

 

(俺に足りなかったもの…。)

 

『勝手背負い込んで!嘘ついて!それがバレて!結果としてあの子達を傷つけて!あんたは結局何がしたかったのよ!願ったこととやってる事が矛盾し過ぎなのよ!』

『わかりたくもないわよ!周りのことも見ないで自分の基準でしかモノを見てない人の気持ちなんか!』

 

(今なら…わかるかも知れない。俺がアイツらを本当に苦しめていた理由。それが俺の弱さだとしたら…。そして…。)

 

「美咲、ありがと。」

「ううん。やっぱり遼には落ち込んでる姿は似合わないからね。」

「そうだな。」

 

 そう言うと遼は起き上がる。

 

「じゃあそろそろ行ってくるな。」

「うん。」

 

 そのまま川原を登り足を進める。これからどうするべきかはわかっていた。後は…この一歩を踏み出す勇気を出すだけだ。

 

 空を見上げながら、彼は自分のやるべきことを再確認した。

 

 

 

 

 

 

 




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傍にいること

 

 

 遼が美咲と話していた同時刻。モカはフラフラと商店街を歩いていた。そんな中、特に何も考えず何時ものようにやまぶきベーカリーに入る。店内に入ると看板娘の紗綾が笑顔で出迎えてくれた。

 

「やほ~。今日も頑張ってるね~。」

 

 なるべく悟られないようにいつもと変わらぬ態度で接する。お盆とトングを持ち、売り切れてなかったチョココロネをあるだけ買い、他のパンも少しずつ購入した。何時ものように支払いはポイントカードで行う。モカはやまぶきベーカリーの常連客であり、いつもたくさんのパンを買うためポイントカードはすぐに貯まる。

 

「何時も通りポイントカード(これ)でお願いしま~す。」

「あはは…相変わらずだねモカ…。」

 

 いつも通りのモカに苦笑いしながらも「いつもご利用ありがとうございます!」と笑顔で接客をした。いつもは持ち帰ったり、羽沢珈琲店などに行きパンを食べるのだが、今回は食事スペースに持っていき食べることに。

 

「いただきま~す。」

 

 チョココロネを1つ取ると黙々と食べ始めた。毎度のように程よいチョコの甘さが口に広がり、パンのフワフワ感もいい感じに楽しめる一品だった。

 

「ん~。おいし~。」

 

 一気に1つ目を食べ終わり、2つ目に手を伸ばす。そのまま口に運び食べようとした。

 

 しかし…

 

「(遼…。)」

 

 つい昨日までのことを思い出した。自分が遼を苦しめていたこと、自分のせいで遼に苦しい思いをさせていたこと…考えれば考えるほど辛くなり食べる手が止まってしまった。

 

「……モカ?」

「……んん~?ど~したの~?」

「いや、勘違いなら悪いんだけどさ…何か悩み事でもあるの?」

「そんなことないよ~。」

「……そっか。でもさ、もし何かあるなら相談に乗るよ?」

「大丈夫大丈夫~♪紗綾は優しいね~。」

 

 何時ものように軽い口調で笑う。だがどこか無理をしてるような雰囲気だったモカを見過ごせないもののこれ以上踏み込んで良いのかわからなかった紗綾は「そっか…。」と言うことしか出来なかった。

 その後もモカはパンを口にしては遠くを見つめて…の繰り返しで、彼女を知るもの達からすれば明らかに異様な光景だった。普段であればパンの1つや2つなど気づかないうちに食べてる彼女がここまで時間がかかるのだ。そう思われても仕方ないのかもしれない。

 

 そんな時、お店のドアが開き1人の女性が入ってきた。

 

「おっ、いいパンありそうだな~。」

 

 お盆とトングを持ち、カレーパン、カットピザ、ウインナーパンなどのボリュームのあるパンを5つ程選びレジで会計をした女性はモカがいる食事コーナーに向かう。

 

「あれ?モカちゃん?」

「お~?照さんじゃないですか~。」

 

 偶然遭遇し、照はモカが座っていた席に相席することに。

 

「それにしても照さんがここに来るなんて意外ですね~。何かあったんですか~?」

「ちょっと遼と喧嘩しちゃってね~。家に居づらくてここに来たんだ。」

 

 照がそう言うとモカはパンを食べていた手を再び止め、暗い表情をした。それを見た照は「不味い、余計なこと言っちゃった。」と先程の自分の発言を悔いていた。

 

「あの~…照さん、遼大丈夫ですか…?」

「うん、なんとか大丈夫だと思うけど…。」

「……ごめんなさい。」

「えっ!?なんでモカちゃんが謝るの?」

「あたしのせいで…遼があんな酷い目にあってたから…。遼は…。」

 

 目の前で目に涙を浮かべているモカを見ながら照は「あいつ一体何やってんのよ!やっぱ1発殴っておけば良かったー!」と思っていた。

 

「えっとモカちゃん…気にしなくてもいいんだよ?遼の方が悪いんだし…。」

 

 照がそう言った間にモカはお盆のパンをひたすらヤケ食いしていた。必死にその事を忘れようとするかのように1つ、また1つと食べていたものの途中で喉に詰まらせてしまった。

 

「ちょっと大丈夫!?君、ちょっと水貰っていいかな!?」

 

 近くにいた紗綾に声をかけ、水を持ってきてもらうとモカに手渡し飲ませた。

 

「モカ…大丈夫?」

「ふう~なんとか~。お見苦しいものをお見せしましたね~。」

 

 空になったコップを置き、なんとか笑って返答するものの、無理をしていたのはすぐにわかった。

 

「ねえモカ…私が力になれるのかはわからないけどさ…何があったのか教えてくれない?」

「そうね。確かに言いにくいかも知れないけど…ここは力になってもらった方がいいかも。」

「ところで…貴方は一体…」

「あ、ごめんね。あたしは常乃照。遼の姉よ。」

「えっ!?遼のお姉さん!?」

「ここのパンはとっても美味しいって遼が言ってたから来てみたの。ところであなたは遼の知り合い?」

「あっ、山吹紗綾です。遼にはよくパンを買って貰ってます。」

「紗綾ちゃんね。覚えた!」

 

 2人の挨拶が終ったところで、話を戻す。モカは紗綾にこれまでの問題のことについて詳しく話した。

 

「…そっか。遼がモカたちを庇って傷ついてたのか…。」

「・・・・・・・」

 

 話を聞いた紗綾はやはり辛そうな顔をしていた。無理もないだろう、自分の友達が酷い目にあっていたのだから。

 

「あ~やっぱアイツここに連れてきて頭下げさせようかな…。」

「いや、照さん…ちょっと落ち着きましょう?」

 

 イライラしているのか表情が強張っていた照を紗綾は宥めていた。

 

「……やっぱり…あたしのせいですよね…。遼がこうなって…辛い思いしてまで…。」

 

 何度目かはわからないくらいに彼女は暗い顔をした。

 

「…モカちゃん、腹を括って言わせて貰うけど…遼も同じこと考えてるよ。」

「え…?」

「昨日帰ってきたとき言ってたもの。『俺のせいでモカが傷ついた』って。2人とも同じように悩んでたのね。」

「遼も…。」

「そうね。でも、私から言わせて貰うと…モカちゃんも遼もお互いのこと大切にしすぎだと思うのよ。相手を大切にし過ぎて自分の周りのことを見てないと思うの。」

「・・・・・・・」

「そりゃお互いに大切にし合うのは必要なことだと思うよ?でもそれでお互い傷ついたら本末転倒じゃない?それに完全に傷けないっていうのはやっぱり無理があると思うのよ。」

「じゃあ…どうすれば…。」

「モカちゃんには特別に教えてあげるわ。

 あたしは自分も大切な人もちょっとだけなら傷ついてもいいと思ってる。完全に傷つけないことは多分無理。だから傷つけたり、傷ついたりしたならその傷を今度はお互いに癒してあげれば良いの。その人がどれだけを守れるか、どれだけ癒せるかは大小あるかもしれない。でもきっと大切な人が傍で自分の為に何かしてくれるって言うのは本人が思ってるよりも効果があることよ?」

「傍に…?」

「そうね。なんならその人が傍にいてくれるだけでもかなり違ってくるの。これ、結構本当だから。」

 

 優しく微笑みながら語りかける照の言葉はモカの心にある『何か』を強く刺激した。

 

「モカ、私も照さんの言う通りだと思う。私もポピパの皆といると楽しくて時間もすぐに忘れちゃって大はしゃぎしちゃってね。嫌なことがあってもすぐに忘れる事が出来るんだ。だから大切な人が傍にいるってことはとっても大事なんだよ?」

 

 紗綾も優しい声で語る。モカはその言葉を聞いて今まで「こんな自分でも…皆の傍にいていいのかな?」と思っていたものが徐々に薄れていった。いや、それ以上に「こんな自分でも皆と、遼と一緒にいたい。」という思いの方が強くなっていた。

 

「……2人ともありがとうございます~。なんかモカちゃんがやること、わかった気がしま~す。」

「おっ!いい顔になったじゃん。」

「うん。やっぱモカはそうでなくちゃね!」

「えへへ~、モカちゃんふっか~つ!」

 

 いつもの緩い口調が戻ったことにより照と紗綾の顔にも笑みが溢れた。

 

「さて、モカちゃんも復活したことだしパン食べちゃいましょ!」

「そ~ですね~。腹が減っては戦は出来ぬと言いますからね~。」

 

 そのままパンにありついている2人を微笑みながら見つめる紗綾。この後、「お姉さんが奢るから好きなパン食べなさい!」という照の発言によりモカは容赦なくこれでもかという量のパンを食べたらしい。

 

 ついでに照の財布も重さが半分になったとか。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「よし。」

 

 その日の夜、決意を固めた遼はスマホのメッセージアプリに1つのメッセージを入れた。

 そして、それをグループに送信した。

 

 

 

 

『明日、CiRCLEに集まって欲しい。大切な話がある。』

 

 

 

 

 





次回、決着(最終回ではない)。

☆10という高評価をくださった松原悠斗さん、ありがとうございます!
コメントをくれた方ありがとうございました!

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6人でAfterglow

 

 

「ふう…。」

 

 遼は今、CiRCLEの予約していたスタジオの扉の前にいた。ここにいる理由は彼がAfterglowのメンバーに話したい事があると言って昨夜、LI○Eに連絡を入れた。そして現時刻は予定の5分前。ところで皆さんも疑問に思っただろうが、彼はなぜ中々部屋に入らないのかというと、当の本人は『LI○E越しで言っても大丈夫だったのか?』とか『本当に来てくれるのか?』といった不安からなかなか入ることが出来なかった。

 

「……ふう…。よし。」

 

 男は度胸!といった感じに扉を開けるとそこには既にAfterglowの面々が揃っていた。

 

「遅い。」

 

 入ってきた遼に対して蘭が冷たく言い放つ。まあ、呼び出した張本人が1番最後に来たのだから文句を言われても無理は無いのだが。

 

「遅くなってごめん…。あのさ…、皆に言わなきゃいけない事があるんだけど…。」

 

 そして遼はこれまでの経緯を1つずつ話始めた。石原という男に逆恨みから暴行を受けていたこと、そして逆恨みされるようになった経緯を。

 話を終えるとAfterglowの面々は重い表情をしていた。

 

「……知ってたよ。」

「え…?」

 

 暫くの沈黙の後、蘭が口を開いた。

 

「つぐみから全部聞いたよ。」

「遼くん…ごめんなさい…。」

 

 蘭の言葉の後でつぐみが話してしまったことに対して謝罪した。

 

「遼、なんであの時本当のこと言ってくれなかったの?」

「それは…。」

 

 言えなかった。皆を傷つけたくなかったから。

 

 そんなものはただの言い訳だ。そんなことはわかっている。本当のことを隠してしまったから今こうなっている。そう思った遼は蘭の問いに対して何も返せなかった。

 

「遼がどう思って隠していたのかはあたし達はわからない。でも言ってくれたらなんとかなったかも知れない。それに…メンバーが傷ついてるのを黙ってられる訳無いでしょ!?」

 

 そこにいた誰もが次第と蘭の口調が強くなるのを感じた。蘭がぶつけたのは自分達に大切なことを隠していた遼に対する怒りだけではない。幼なじみが傷ついていたのに何も出来なかった、苦しんでる時に気付いてあげることが出来なかった、そんな自分に対しての不甲斐なさに対する怒りでもあるのだろう。

 

「すまん、でももう大丈夫だ。今はそんなことは全く無いし「大丈夫じゃないでしょ!」」

 

 遼が話していた時、蘭がスタジオに響き渡るような大声を上げた。

 

「どうしてそうやっていつも1人で解決しようとするの!?どうして1人で苦しんで…勝手にそれを完結させようとするの!?

 まさか自分はAfterglowの裏方だから自分だけがつらい目にあえばいいとか?」

 

 彼女は声を荒げながら今にも噛みつきそうな勢いで言った。かつてここまで思いをぶつけた事があるだろうかという程に。蘭は過去に家庭のことで父親と喧嘩したことがあった。その時も思いを抑えきれずに怒りに似た気持ちを爆発させたり、病院であるにも関わらず大きな声で喧嘩をしたことがあった。だが今回のはその時と同様…いや、それ以上かもしれない。

 

「蘭ちゃん…ちょっと落ち着いて」

「黙ってて。」

 

 つぐみの制止すら振り切って言葉を続ける。それほどまでに彼女は自分の思いを溜め込んでいたのだろう。

 

「ねえ、あたし前に言ったよね?『ステージに立つとしても、裏方だとしても誰にも無理はしてほしくない』って。

 それはあたしだけじゃない、みんなも同じ気持ち。確かに表向きはあたし達5人がAfterglowってなってる。でもあたし達にとってはそうじゃない。遼も含めて…6人でAfterglowなの。」

 

 体から溢れ出る何かを堪えるように蘭は言った。

 

「遼~?」

「モカ…。」

 

 次に口を開いたのはモカだった。今の遼が最も謝りたくて、最も言葉を交わすのが怖い人物だ。

 

「あたしもね~凄~く怒ってるんだよ~。」

 

 普段ののんびりとした口調からはわかりにくいが長年付き合い続けてきた彼らからしたら彼女が怒っていることは一発でわかった。

 

「モカちゃんもね~凄く辛かったんだよ~?遼は傷だらけになるし~、そのこと正直に言ってくれないし~。結局みんな辛い思いしちゃうしね~。」

 

 不機嫌そうな表情を崩さず思ったことをそのまま語る。それに遼は返す言葉がなく、その場で申し訳なくなっていた。

 

「でもさ~あたし、照さんに言われたんだよね。傍にいてあげることが何よりも大切なことだって。

 確かにあたしが遼の力になれるかはわからないし、また気づかないうちに傷つけちゃうかもしれないけどさ~……それでも遼や皆と一緒にいたいんだよ。だからさ、辛いことがあったらちゃんと話して欲しいんだ。だからさ…もう1人で何でも抱え込もうとしないでね?」

 

 モカはまっすぐと目をそらさずに自分の思いを伝えた。

 

(姉ちゃんや美咲の言ってたこと、こういうことだったんだ。)

 

『大切な人の力になりたい。その思いは皆同じ。』

 

 簡単なことだけど全然気づかないことだ。彼も、彼女達も気持ちは最初から1つだった。それが当たり前になっていたのか見落としていた。

 

「ごめん。」

 

 遼が口を開くとすぐにその言葉が出た。

 

「俺は…皆のことを考えてたつもりだった。でも、結局は全然見て無かった。

 自分1人が重荷背負えばなんとかなるって…そう思ってた。でも…それは違うんだよな?」

「そうだよ。私達誰も遼だけが辛い思いするのなんて望んでないよ!だって遼も大切な幼なじみなんだよ!?」

「そうだな。あたし達だってそんなに弱い訳じゃないんだ。辛いなら辛いって遠慮なんてせずに言えばいいんだよ。」

「私達がどれだけ力になれるかはわからないけど力になれるならなりたい。それは皆同じ気持ちだよ。」

 

 ひまりが本音を話したと共に巴、つぐみも語り出す。

 

「遼がいたから、あたし達は今まで『いつも通り』でいられた。この思いは誰に言われても変わらない。それに、そんな1つの問題だけで壊れる程あたし達の繋がりは脆いものじゃないでしょ?」

 

 蘭の言葉と共に遼は皆の方を見た。

 そうだ。俺たちが紡いで来たこの十数年間はそんな軽い物じゃない。6人で色んなことをやって、時に笑って、時に楽しんで、時に馬鹿なことをして怒られて、時に喧嘩をした。だけど、どれだけ喧嘩をしても最後には仲直りをすることが出来た。それは今でも変わらない。

 

「皆思いは同じなんだよ。だからさ…。

 

 遼はもっとあたし達を信じてくれてもいいんじゃないかな~?」

 

 ああ、俺は…どこまで馬鹿なんだろう。

 こんなに簡単な…そして何よりも大切な答えをなんで見落としてたんだろう。

 遼の心はこの思いで溢れていた。

 

「皆、ごめん……それと…ありがとう。」

 

 頭を下げながらただ一言、この言葉を伝える。

 ありきたりな台詞ではあるが、今この場で彼女達に伝えなければならないのはこの言葉。『いつもの通り』でなかなか言えなくなるこの一言こそ、遼が言わなければならないものだった。

 

「遼~。」

 

 モカに呼ばれて顔をあげると、そこには少し涙目になっていた者もいたが5人の笑顔があった。

 

「これからもよろしくね~。Afterglowも、いつものあたし達も。」

「……こちらこそ、よろしく。」

 

 人は支え、そして支えられながら前に進む。それは彼らも例外ではない。きっとまた、絆の紐がほどけかける時が来るかもしれない。だとしても、その時は何度でも結び直せばいい。

 

 きっと俺たちなら大丈夫。そう遼は思った。

 

 

 

 

 彼らにとってはこの瞬間が…そして、これからの未来が『絆』だと信じているから。

 

 

 

 

 

 





シリアスくん「ばいばいきーん☆」

 はあ…やっとシリアスくんとばいばいきん出来ました。しばらくシリアスからは離れたい。
「ついてこれる奴だけついてこい」という精神でやって来てなんとか(個人的には)良い形で最終章を迎えることができます。ここまでお付き合いくださった皆さん、ありがとうございました。この物語は次回からクライマックスを迎えますので良ければ是非お付き合いください。

よければコメントや高評価くださると嬉しいです。

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生真面目男子と苦労少女


クライマックス入りま~す。

ついてこれる奴はついてこい!



 

 

「蘭、サビの部分のギターもうちょっと肩の力抜いた方がいいぞ。後、ひまりはBメロからサビ行くときのリズムかなりズレてるからそこ気をつけろ。」

「わかった。」

「うう…バレてた…。」

 

 あの一件以来、すっかり元通りになったAfterglowの面々は今日もライブに向けて練習に励んでいた。

 

「とりあえずさっきの反省も含めてもう1回やってみようか。」

「わかった。」

 

 蘭の掛け声にあわせて再び全員が音を合わせ始めた。遼のアドバイスを受けてそれぞれが改善すべきことに気をつけて演奏し、少しずつ良い演奏を形にしていった。彼女達が演奏している間、遼は再びノートとペンを手に取りそれぞれの音のズレやミスなどを見逃さないように神経を研ぎ澄ましていた。

 演奏が終わり、それぞれに改善点や前よりも良くなったところを伝える。そして時計を見ると時計の針はもうすぐ6時を迎えようとしていた。

 

「そろそろ終わりだな。」

「じゃあ片付けしよっか。」

 

 つぐみの一声により、各々が自分の楽器を片付けに入った。遼もノートをしまい、彼女達の片付けの手伝いに加わった。

 

 数分後、片付けを終えた一行はCiRCLEを後にした。

 

「遼~やまぶきベーカリーよってこ~?」

「わかった。俺も明日の朝のパン買っときたいしな。」

「おお~遼わかってる~。」

 

 遼とモカはパンを買うためにやまぶきベーカリーに向かい蘭たちと別れた。

 二人と別れた後、残った4人はというと…。

 

「遼とモカって本当にピッタリなコンビだよな~。」

「だよね~。私も本当に付き合ってないの?ってしょっちゅう思っちゃうよ。」

「それに遼くんってモカちゃんの対応に凄くなれてるし、私も二人は本当は兄弟じゃないのかなって思うときあるし。」

「だよね~。なんか出会うべくして出会ったみたいな感じだよね~。」

「・・・・・・。」

「蘭?どうしたんだ?」

「…何でもない。」

「─あっ、もしかして遼にヤキモチ焼いてんのか?」

「ち、違っ…!そんなんじゃないし…。」

「蘭はモカと1番仲良かったからな~。」

「巴っ!」

 

 からかってくる巴の言葉に蘭は真っ赤にしながら声を上げていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 やまぶきベーカリーでパンを買い、モカを送った後自分の家に帰った遼は机に向かい今日出た課題をやっていた。

 

「ふう…世界史の課題は楽だったな。後は問題の物理か…。」

 

 そう言いながら今度は配布されたプリントと教科書を鞄から取り出す。遼は基本的に成績は悪くなくどの科目も高得点を取ることは出来る。だが、数学や物理は別だ。この2つは彼の天敵ともよべる科目であり、テスト前はモカやつぐみの協力を得てなんとか平均点ギリギリを取れているようなものだ。

 

「とにかく、なんとかやれるだけやる!後はフィーリングでなんとかする!」

 

 生真面目な性格ゆえに『やらない』という選択肢は存在しないものの難しいところは直感でどうにかしようとしてしまう。本当に彼女らの協力が無かったらどうなっていることやら。

 それから30分ほど時間がたった。ある程度進んだところではあるが、どうしても解けない部分にぶつかってしまい少し休憩することに。

 そして、その間に何か連絡が来てないかとマナーモードにしていたスマホを見るとある人物から一件連絡が入っていた。

 

『夜遅くに突然ごめん。明日予定が無かったら買い物に付き合って貰いたいんだけど大丈夫かな?』

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 次の日

 昨夜のメッセージアプリに届いた要件を承諾して遼は駅前である人物を待っていた。今は待ち合わせ時間の5分前。そろそろ来る頃か?と思っているとこちらに向かってくる見覚えのある人物がいた。

 

「もう来てたんだ。早いんだね。」

「まあな。早いに越したことはないだろう。」

 

 帽子を被った黒髪の少女『奥沢美咲』は「さすが遼だね…。」といいながら待たせていたのを申し訳なさそうにしていた。

 

「それより何か用事があるんだろ?」

「あ、そうだった。ちょっとついてきて貰っても良いかな?」

 

 2人はそこから離れて別の場所に歩いて行った。

 

 

 それからしばらく歩き、やって来たのはショッピングモールの中にある糸や綿、布等を取り扱っているお店だった。

 

「つまり、今度ハロハピが幼稚園でライブするのに美咲の羊毛フェルトをプレゼントするってことか。」

「そ。こころったら『美咲の作るお人形をあげたら皆笑顔になるわね!』って言い出してさ~。皆も手伝ってくれるらしいんだけど正直不安の方が大きいと言いますかなんと言いますか…。」

 

 ため息をつきながら美咲は呟いた。

 

「それで子ども達の中には男の子もいるわけだし、遼なら男の子ってどんなのが好きなのかなって思ってさ。」

「なるほど。実際に男の目線でからの確かな意見が欲しいって訳か。」

「まあ、それもあるんだけど…。」

「ん?」

「いや、何でもないよ。」

 

 美咲は何かを言いかけたがそれを言わず買い物を続けることに。それからは男子にはどういった物が人気なのか遼の意見を参考にしながら考えたり、必要な道具を買い足したりして2人はお店を出た。

 その後、フードコーナーでパスタを頼んだ2人は昼食を取っていた。

 

「ふう…これで材料は揃って後は作るだけか…。」

「大変…なのか?」

「まあ趣味でやってるから嫌ではないんだけど…何しろ量が量だからね…。」

「…もし差し支え無いようなら手伝おうか?」

「良いけど…出来るの?」

「経験は無い。」

「そんな自信持っていうことかなそれ…。」

 

 遼の謎の自信に呆れながらも美咲の表情は笑っていた。

 

「じゃあ教えてあげようか?」

「よろしくお願いします。」

「あはは…わかった。」

 

 その後、二人はパスタを食べながら会話を弾ませた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「で、これからどうする?」

「うーん…ちょっとこの辺見て回らない?」

「そうか。構わないぞ。」

 

 美咲に誘われ2人でモール内をふらふらと歩いていた。

 途中の洋服屋で美咲は色々な服を遼と見ていて、彼に「どっちがいいと思うかな…?」と恥ずかしながらも服を見せながら聞いたり、普段は履かないスカートに挑戦してみたりといつもの美咲とは少し違う姿を見せた。

 服を選び終えた後、2人はゲームセンターに赴いていた。

 

「凄い色々あるね…。」

「ホントここのゲームセンターの品揃えの良さにはいつもの驚いてる。マイナーなジャンルの商品もおいてあるしな。この間なんかパンのクッションがあってそれをモカにとってあげたりしたからな。」

「青葉さんと来てたの?」

「ああ。あいつ急に家に押し掛けてきて出掛けようとか言ってきたからな。本当に参ったよ。」

「ふーん…。あのさ…遼って青葉さんのことどう思ってるの?」

「どうって…大切な幼なじみだし…気づけばずっと一緒にいたからな…。なんかわからんな。まあ…大切なことに変わりは無いな。」

「そうなんだ…。あっ…。」

 

 突然美咲が歩いていた足を止め、ショーケースの中を見た。そこにはミッシェルそっくりな熊のぬいぐるみが並んでいたのだ。

 

「…ミッシェルに似てるなこれ。」

「だね…。また黒服の人たちがミッシェルぬいぐるみを商品にしたのかと思ったよ…。」

「そういや松原さんのところのバーガーショップのおもちゃが一時期ミッシェル関連になってたんだっけ?」

「そうだね…。花音さんから聞いたときはあたしも本当にびっくりしたよ。」

 

 2人は苦笑いしながら話していた。美咲がショーケースの中の熊を「かわいいなぁ」なんて思いながら見ていると遼が美咲に1つ聞いた。

 

「欲しいのか?」

「えっ!?いや…まあ気になるのは気になるかな…って感じ?」

「ふむ…。…ちょっといいか?」

 

 そう言うとポーチから財布を取り出して300円をコイン投入口に入れた。そしてクレーンゲームと格闘すること3分…。

 

「よし、取れた。」

「はやっ…。」

 

 見事、熊のぬいぐるみを獲得した。そしてその際の遼のテクニックを見ていた美咲は驚きの声をあげていた。

 

「ほら。」

 

 取ったぬいぐるみを美咲に渡す。美咲には完全に予想外な展開だったらしく驚いていた。

 

「もしかして…俺の勘違いだったか?」

「えっ?いや、気になってたのは確かだけど……本当に良いの?」

「ああ、美咲がずっと見てたから欲しいのかと思ってな。」

「…ありがと。凄い嬉しい…。

 

 受け取ったぬいぐるみを美咲は大切そうに抱えた。抱えた時に気づいたのだが、ぬいぐるみからはほのかに甘い桃の香りがした。

 

「それにしても遼ってクレーンゲーム得意なの?」

「いや、さっき言ったけど前にモカにもパンのクッション取った時あるんだけど…その時結構かかってちょっと悔しかったから密かに特訓してたんだ。今回のはその賜物だろうな。」

「…本当、よくわからないところで負けず嫌い出してくるよね…。」

「そうか?」

「でもありがとう。これ大切にするよ。」

 

 美咲は顔を赤くしながらもう一度ぬいぐるみを見る。美咲の気のせいなのだろうか、ぬいぐるみはどこか暖かい眼をしているように感じていた。

 

 

 

 





さて、ここからの展開どうなるか…。

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恋語恋敵(こいがたりこいがたき)

 

 

 あたし、奥沢美咲は恋をしている。

 

 そのきっかけが何なのかはわからない。気がついた時には彼の事が好きになっていた…と言うべきかもしれない。

 そうは言っても何の理由もなくその人を好きになった訳じゃない。ちゃんと好きだと言える理由もある。が、ちょっと恥ずかしいからここではやめておくよ。

 ところで、恋をすると人は変わるという言葉があるけど、今のあたしがまさにそれだと思う。ある人に恋をして、突然彼のことを考えてしまうことがある。昔のあたしが「いずれあたしが誰かに恋をする」なんて聞いたら多分信じられないんだろうな。

 

 でもその思いが実るかどうかはわからない。

 

 それでもあたしは…。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ほら美咲、お前の分。」

「ありがと。」

 

 遼が2人分のアイスを買ってきてその内の1つを美咲に渡した。2人はベンチに座り、自分のアイスを食べ始めた。

 

「今日は色々とありがと。だいぶ目的とズレちゃったけど…。」

「でも俺は楽しかったぞ。」

 

 お互い買ってきたアイスを食べながら話をしていた。美咲はじっとアイスを見つめながらなにかを考えていた。

 

「どうした?もしかして…アイスのフレーバー、好きじゃなかったとか?」

「へっ?いや大丈夫だよ。ちょっと考え事を…ね。」

 

 美咲の返答に「そうか?」と答えると再びアイスを食べ始めた。美咲も「はぁ…。」とため息をつきながらアイスを口にしていた。

 

「おお~。まさかこんなところで遼と会えるとは奇遇ですな~。」

 

 2人でアイスを食べていると1人の少女が彼らに近づいてきた。

 

「モカ?なんでここにいるんだ?」

「いや~、アイスを買おうと思ってたんだけどその時ちょうど2人を見かけちゃってね~。」

「ふーん。でも大丈夫か?だいぶアイス並んでるけど…。」

「本当だ~。モカちゃん失敗しちゃったかな~。」

「何やってんだよお前…。」

 

 モカの行動に遼は苦笑いした。

 

「じゃあ~、遼のアイス一口貰おうかな~?」

「お前な…。人前で容赦なく人のアイスに口つけようとするなよ。」

「いただきま~す。」

「いや人の話聞いて?」

 

 遼が持つアイスを食べようとしているモカを必死に止める。いつも通りであり、2人にとっては意外と悪くないと思わせるこのやり取り。それを美咲は苦笑いしながらも複雑そうな目で見ていた。

 

「…美咲?どうした?」

「えっ!?…いや何でもないよ。ちょっと…仲いいな~って思っただけだし…。」

「それは勿論~。モカちゃんと遼は~ちょー仲良しだからね~。」

「とは言ってももうちょっと人目気にしろよお前は。」

「とか言って~。本当は楽しんでるくせに~?」

「しばくぞ?」

 

(本当に仲いいんだね2人は…。)

 そう思いながら美咲は自分の持つアイスをしばらく見て、少しずつ食べていった。

 しばらくして遼とモカの幼なじみ騒ぎも終わり、それぞれアイスを食べ終わった。

 

「さて、そろそろここも見て回ったし解散するか?」

「じゃあ~モカちゃんは遼の後をつけてようかな~?」

「こんな堂々としたストーカー宣言は始めただ。」

「あのさ…遼。」

 

 2人が話していたところで美咲が遼をつつきながら声をかけた。

 

「ちょっと…ついてきて欲しいところがあるんだけど良いかな…?」

 

 この時、美咲の体温は少し高いように感じたんだとか。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 美咲の誘いでやって来たのはファッションショップ。因みにモカも何故かついてきたらしい。

 

「どうしたんだ?ここメンズの服しかないけど…。」

「じ…実はさ、もうすぐお父さんが誕生日なんだ。だから…あたしメンズの服のことなんかわからないから遼の意見が聞きたいなって…。」

「なるほど。」

 

 そういいながら遼の手を引く美咲。そして突然、反対側の手をモカがつかんだ。

 

「モカ?」

「いや~?ここ人多いじゃ~ん?はぐれたら大変だな~と思ってさ~。こうしたら見失うことも無いでしょ~?」

「えっ?いや、そうかもしれないけどこれは~?」

「え~?モカちゃんに手握られるの嫌かな~?」

「いやそうじゃないけど…」

「じゃ、このままレッツゴー。」

 

 2人の美少女に手を引かれながら店内を進む。時たま目が合う男性客からの視線が痛く、遼にとっては少々その視線が辛くなっていたとか。

 しばらく歩いて、トップスが売っているコーナーに付き、美咲は色々な服を見ていた。

 

「それでこの柄って男性目線だとどうなのかな?」

「結構派手じゃないか?お前のお父さん普段こんなの着ているのか…?」

「いや…それは…。うん、これは無し。」

 

 美咲は持っていた服を置いて、近くにあった無地のTシャツとストライプ柄のシャツを手に取った。

 

「じゃあさ、これとこれだったら遼としてはどっちがアリだと思う?」

「そうだな。俺ならこっちだと思うな。」

 

 遼が指差したストライプ柄の服を再度見ると「なるほど。」と言って、持っていた服を2つとも元に戻した。

 

「今は買わないのか?」

「うん。他のお店のも見て決めようかなと思って。遼が選んでくれたのはキープするよ。」

「そうか。まあ、日付がそう近くないのなら焦る必要はない。ゆっくり探して納得の行くものを買いに行けばいい。」

「まあ~、遼のファッションセンスって結構おっさんみたいだけどね~。」

「お前な…余計なことを言うんじゃない。」

 

 モカのからかいに軽くチョップを入れた。

 

「痛~い。モカちゃん傷物にされちゃった~。」

「いや言い方。」

「じゃあそろそろ他の所見に行っても良いかな?」

「おっと、それじゃ行くか。」

 

 それから暫くして色々な洋服店を見て回り、大体の目安を着けた美咲たちは近くのベンチに座り休憩していた。

 

「ふう…。そろそろ疲れたな…。」

「モカちゃんもいっぱい歩いて疲れたよ~。」

「ごめんね。わざわざ振り回しちゃって…。」

「まあ気にするな。友達の頼みなんだし遠慮はいらないさ。」

「……そっか。」

「とりあえず俺何か飲み物買ってくるけど飲みたいものあるか?」

 

 その場を立ち上がった遼はモカと美咲に聞いた。

 

「モカちゃんは~カフェオレ飲みたいな~。」

「カフェオレな。無かったら勝手に選ぶけど良いか?」

「了解~。」

「美咲はどうする?」

「あたしは……遼にお任せしようかな?」

「わかった。じゃあ買ってくる。」

 

 そう言って遼はその場から去っていった。ベンチに残されたモカと美咲の間には暫く沈黙が続いたが、少しすると美咲が口を開いた。

 

「ねえ青葉さん。…1つ聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

「ん~?」

「青葉さんはさ…遼のことをどんな風に思ってるの?」

 

 美咲の質問にモカは「う~ん。」と暫く悩んでいた。

 

「多分さ…好きなんじゃないかな~って思ってるよ~。」

「それは幼なじみとしてってこと?」

「うーん…きっと両方の意味だろうね~。少し考えたけどあたしは遼のことは幼なじみとしても、1人の人間としても好き。……モカちゃんの心はそういってる気がするんだよね~。」

「そっか…。」

 

 モカは不思議そうに美咲のことを見ていた。

 

「美咲ちん、何で突然そんなこと聞くの~?」

「青葉さんはさ、遼に思い伝えるの?」

 

 美咲の発言に少し驚いた。彼女の表情は本気の顔をしていて、とてもいつものノリで軽く返事を出来るような感じではなかった。

 

「えーと…今はまだ…このままでも良いかな~って思ってるかな。」

「まだ…?」

「うん。あたしは遼のことが好きだと思う。でもどこかで今のままでも良いのかな~って思ってるところがあるんだよね~。」

「そうなんだ…。」

 

 モカの答えを聞いた美咲はなにかを決意したかのようにモカの方に向き直った。

 

「ねえ青葉さん。大事なことを1つ言っても良いかな?」

 

 真剣な眼差しにモカは少し怯んでしまった。普段、無気力そうで苦労している彼女の表情からは考えられないほど…何かを見ている目だった。

 

「あたしね…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遼に告白しようと思う。」

 

 





はい、という訳で残り話数も少ないのに急展開入ります。
この展開は割りと始めから考えていたものなんです。
因みに美咲が遼に恋しているような雰囲気を醸し出してる描写は過去にいくつかあったのですが気付いてた方はいらっしゃるでしょうか?気付いてた方にはキズカナ検定1級を差し上げましょう!←いらねえ

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少女恋愛苦悩

 

 

「あたしね…。遼に告白しようと思う。」

 

 奥沢美咲の口から突然発せられた言葉に青葉モカは言葉を失っていた。

 

「……えっと~、なんか美咲ちんが遼に恋しているみたいな感じに聞こえるんだけど気のせいかな~?」

「あたしは本気だよ。」

 

 いつもの口調で話すが、美咲は冷静に受け答えた。その事に対してモカは若干怖じ気づいたかのように何も喋れなくなった。

 

「本当は1人で遼に告白しようと思ってたんだけど…やっぱりこれは青葉さんにも言わなきゃ駄目な気がしたんだ。だから…伝えさせてもらった。」

「…何であたしに?」

「青葉さん、遼のこと好きなんだよね?」

「・・・・・・・・」

 

 美咲の言葉にモカは返答をすることが出来なかった。

 

「あたしは遼のことが好き。この思いは譲れない。でも先に抜け駆けするのは違う気がしたんだ。

 だから青葉さんも、自分の気持ちに素直になってよ。」

「…じゃあさ、美咲ちんは何で遼のこと好きになったの?」

「それはね…」

 

 美咲はその事について語りだした。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ハロー、ハッピーワールド!の皆さん、ありがとうございました。Afterglowの皆さん準備お願いします。」

 

 『佐倉』と書かれたネームプレートを着けた従業員が声をかけるとAfterglowの面々は楽器を持ち、ステージへと向かった。

 

「とーっても楽しかったわ!」

「はぐみも!お客さんみーんな笑顔になってくれてたね!」

「ふええ…。私はこころちゃんの突然の行動にびっくりしたよぉ…。」

「こころが大ジャンプしてそれをミッシェルが受け止める…。そうすることでお客さんの興奮を…そして笑顔を引き出すなんて…。儚い…。」

 

 ハロハピのメンバーが控え室に戻ってきてライブの出来事を振り返っていた。そんな中、彼女達から離れたところで熊の着ぐるみを纏い息を切らしていた美咲は着ぐるみを頭を外してグッタリしていた。

 

(いや、あんなの聞いてないんだけど!?何でしれっと浮かび上がって一気にあたしの元に急降下してきたの!?そう言うことはあらかじめ一言言ってよ…。)

 

 着ぐるみを着てライブをしていた上に、こころの無茶ぶりになんとか対応していた為、彼女の体力は限界まで達していた。

 誰か水を持ってきて…と言いたかったが、離れたところでバテていた為周りには誰もいなかった。しかし彼女には動ける体力は無に等しいようなものだった。そろそろ誰かが「ミッシェルがいない」と言っている所だろうか?と思いながらずっと待っていると…。

 

「ここにいたのか。」

 

 そこに遼が現れた。

 

「えっと…Afterglowの常乃くんだったっけ?」

「ああ。美咲さん…で良いよな?これ渡しに来た。」

 

 遼が持ってきたビニール袋を受けとるとそこにはポケリスエットとラムネ菓子が入っていた。

 

「それと、これは俺からの選別だ。」

 

 そう言って飴を3つほど渡された。

 

「ありがと…。」

「まあ、お前もお疲れみたいだしな。あんまり無理はするなよ。」

「あっ…待って!」

 

 遼がその場から去ろうとしたとき、美咲は思わず止めてしまった。

 

「あのさ…あたしと常乃くんってそんなに関わったことないよね?」

「まあ、そうだな。」

「じゃあさ…何でこんなに気にかけてくれてるの?」

「…理由なんているか?」

 

 彼の発言に美咲は「えっ?」と思わず驚愕の声を上げた。

 

「辛い人がいれば助けるのは俺としては当然でな。お前は特に疲れてるように見えたから差し入れに来た。それだけだ。」

 

 遼の発言が美咲にはにわかに信じがたかった。何の理由もなく、何の見返りも期待出来ない中で、誰かに手を伸ばすというのは彼女にとっては少し意外な行動だったのだろう。

 

「だからお前は後はしっかり休め。いいな?」

 

 そのまま彼は去っていった。

 その場に残された美咲は貰った飴を一粒口に入れた。

 

(常乃…遼…か。)

 

 彼の名前を思い出しながら、彼のことを意識し始めていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 それから遼と話をしたり、関わったりすることで美咲はどんどん彼に引かれて行った。

 遼の優しさ、誠実さ、辛いときに彼女に手を差し伸べてくれた彼に次第に思いを寄せるようになっていたらしい。

 

「まあ他にもあるけど…ざっくり言うとこんな感じかな。」

 

 語り終えた美咲はモカを見た。モカは普段ののんびりした雰囲気はどこに行ったのか…というかのようななんとも言えない気持ちになっていた。

 

「青葉さんはさ…遼のどんなところが好きなの?」

「……あたしは…。」

 

 突然の問いにモカは何かを言おうとしたが、何故か言葉が出ずに黙り混んでしまった。

 

「…ごめん。変なこと聞いちゃったかな?」

「…ううん、美咲ちんは悪くないよ…。」

「おまたせ…って、あれ?何かあった?」

 

 飲み物を買って帰ってきた遼は、少し重めの2人の雰囲気に少し驚いていた。

 

「お~カフェオレだ~。しかもモカちゃんのお気に入りのやつ~。」

「ほらよ。お前いっつもこれ選んでるからな。間違いないだろうと思って。」

「ありがと~。」

「で、美咲は…ポケリで良かったか?」

「うん。ありがと。」

 

 2人はそれぞれ遼からドリンクを受け取った。

 

「それで何かあったのか?なんか…雰囲気重かったけど。」

「いや~何でもないよ~?ちょっと疲れたな~って感じなだけだから~。」

 

 遼の質問にモカは緩い口調で返答した。

 

「そうか?ならいいんだけど…。まあ疲れてるんならそろそろ帰るか。」

 

 そう言いながら遼はその場を後にしていた。

 

「青葉さん…。もう一回言うけどあたしは本気だから。だから…」

「美咲ちん…。」

「どうした?早く行くぞ。」

 

 遼の掛け声によって3人は帰路についた。

 しかし、モカの胸の奥には何かが…いや、その正体は既に彼女はわかっていた。それでも、どうしても振りきれないものを吐き出せずにいた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 あたしは…どうすれば良いんだろう?

 美咲ちんに言われたことがずっと頭の中で引っ掛かっていた。

 彼女はあたしの「遼のどこが好きなのか」という質問に迷うことなく答えていた。でもあたしはどうだ。質問を返されたとき、何も答えることが出来なかった。

 確かにあたしは遼のことが好きだ。あたしが抱いているのはたったそれだけの思い。それに具体的どこか好きか…と言われるとどうしてそう思ったのかがわからなかった。

 それに美咲ちんは今の関係から進むための一歩を踏み出そうとしている。反対にあたしはずっと「今の関係のままでも良いんじゃないか」と思っていた。だから…あの子みたいに一歩を踏み出す勇気が出せなかった。

 

 あたしには…どうするのが良いのかわからない…。

 

「おいモカ?モカ?」

「えっ?」

 

 遼に呼ばれてあたしはハッとした。

 

「どうしたさっきから上の空で。」

「ん~?何でも無いよ~。ちょっとパンパワーが抜けてきたのかな~?」

「そうか?」

 

 そう言いながらあたしのおでこに手を当てて来た。いつもならどうとも感じないこの行動が、今のあたしには気を動揺させるのに十分なくらいだった。

 

「熱は無いよな?とりあえず体調悪いとかなら早めに言えよ?」

 

 そう言って自分の持ち場に遼は戻る。さっきのおでこへの感触がいつもより残るのが長く感じた。

 

「・・・・・・・・」

 

 そんなあたしを蘭がずっと見ていたことにあたしは気づかなかった。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「うう~。」

「モカちゃん…元気出して?」

「そ…そーだよ!失敗は誰にでもあるって!」

「そうだな!ひまりなんかしょっちゅうミスしてるし気にするなって!」

「しれっとひどいこと言わないでよ巴!」

 

 現在あたしは盛大に凹んでる。理由はさっきの休憩の後、何度か音をあわせて練習をしていたのだけど、音が大きくずれたり、歌詞を間違えたり、その上演奏の途中でギターの弦が切れてしまったりと普段はやらないミスを沢山してしまった。

 普段こんな簡単なミスをしない為、普段の余裕すら崩されてしまった。

 

「なあモカ、本当に大丈夫なのか?」

「うん。大丈夫だよ~?」

「ねえ遼。今日の練習はここまでにしよ。このまま続けても拉致があかないし。」

「おい蘭、そんな言い方は…」

 

 蘭の言い方が気にさわったのかトモちんは抗議の声をあげようとした。

 

「まあまあ。モカも疲れてるんだろうし今日はここまでだ。蘭もそんなつもりで言ってる訳じゃない。」

 

 遼が間に入ってくれたお陰で喧嘩には至らなかった。

 

「じゃあ少し早いけどそろそろ片付けるか。」

 

 遼のその一声で皆片付けを始めた。あたしも自分の始末をしないとなと思っていると…

 

「モカ、このあと少しいい?」

 

 蘭に呼び止めれた。

 その理由だけど……うっすらとだけどあたしにはわかっていたような気がした。

 

 

 

 





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決意

 

 

 皆が解散してそれぞれが帰路につく中であたしは蘭と一緒に帰っていた。

 

「どーしたの?久しぶりにモカちゃんと帰りたくなった~?」

「モカ、単刀直入に聞くけど遼と何かあった?」

 

 蘭の言葉にあたしは一瞬ビクッとなった。そして蘭はそれを見逃さなかった。

 

「…あったんだね?」

 

 相変わらずよく見てるな~。まるでずっとあたしのことを見ていたかのようにズバッと当てて来た。

 

「この間のこともあるし、遼がまた何か隠してるってことはないとは思うけど…。」

「いや~そうじゃないんだよね~。どっちかと言うと…あたしの方かな?」

「モカ、何かあったのなら教えてよ。……あたしも力になれるなら…なりたいし…。」

 

 ほんのり赤くなってる顔を背けながら、最後になるに連れて蘭の声は小さくなっていた。恥ずかしさ故の行動なのかな?それでも…やっぱり蘭は蘭だよね。

 

「…蘭には敵わないかな~。」

 

 もうこのまま隠してるのもあたしとしても辛いし……たまには甘えてもいいかな…?

 

「ね~蘭~。」

 

 夕暮れの空を見ながらあたしは呟いた。

 

「誰かを好きなるってどういうことなんだろうね~?」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 話をするためにあたしたちは近くの公園に移動した。

 ブランコに座って先ほど自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながら、あたしの胸の中にあるモノをすべて話した。

 

「つまりモカは遼のことを好きになった理由がわからなくて悩んでるってこと?」

「まあそうなるのかな~。」

 

 そう呟きながらあたしはブランコを漕いでいた。蘭は隣でそれを聞くとコーヒーを一口すすった。

 

「でもさ、話を聞いてるとモカは奥沢さんが告白しようとしてることで焦って自分も告白しようとしているように感じるけど?」

 

 一番気にしているところを指摘された。確かにそう思われても仕方ない。

 

「それにその理由って言うのもなんか…それが無きゃダメって感じになってるよね?」

 

 再び鋭い刃のような指摘が飛んできた。我が幼なじみながらなかなか厳しいことを言われてあたしもちょっとキツイかな~。

 

「あたしさ~、昔からずっと遼と一緒で…もしかしたら蘭以上に一緒にいたかもしれないんだよね。

 だからずっと隣にいて、一緒に笑って、おかしなことしたり、バンドだって形はどうであってもずっと支えてくれていた。そんな日々が当たり前過ぎてさ…いつの間にか遼に引かれていて…遼に対する思いが変わってきたんだ。

 それでも…やっぱり今のこの関係が心地よくて…ずっとこのままでもいいかなって思ってたけど…。」

 

 あたしは顔を俯けた。

 理由は美咲ちんのことだ。彼女は遼のことを本気で好きなんだ。遼との関係はガールズバンドのメンバーの中でも多く、とても仲がいい。だからもしかしたら…2人が付き合う可能性が無いわけじゃない。

 そこでふと思った。もし2人が付き合ったら?遼はあたしから離れて行くの?ずっと一緒にいて…いつの間にか一緒にいるのが当たり前みたいになっていたあたしには考え付かなかった。

 

「……モカ?」

「ねえ蘭…。ずっと一緒にいた人が…大事な人がそのうち傍にいなくなるってなったらさ…蘭はどう思う?」

 

 あたしの質問に蘭は少し考え込んだ。

 

「あくまであたしの意見なんだけど…そうなると寂しい…かな。」

「そっか…。そうだよね…。」

「でも人生ってわからないからさ…突然、別れなきゃいけなくなるって可能性はどこかにあるんだと思う。ずっと一緒って言うのはもしかしたら…どこかで切れてしまうのかも知れない。」

 

 蘭の重い返答を聞いたあたしは何も返せなくなった。そんなとき蘭は「でもさ」と話を続けた。

 

「きっとあたしたちの関係は簡単には切れない。例え、離れることがあっても…心だけは繋がっていられるんだって…あの時気づくことが出来たから。

 そうあたしは信じてる。」

 

 その返答に少しだけ…あたしは口元が緩んだ。やっぱり蘭は蘭だ。素直じゃなくて、気が強くて、それでまっすぐと前を見ているあたしの親友の美竹蘭だ。

 

「……何笑ってるの?」

「別に~?蘭は蘭だな~って思っただけ~。」

「それ…どういう意味なの?」

「どういう意味なんだろうね~?」

 

 あたしの緩い返答に蘭も「何それ」と言いながら笑っていた。

 

「それで話を戻すけど…モカは遼に告白するの?」

「それは…」

 

 蘭からの質問にまた答えを戸惑った。

 

「モカが本気で遼のことを好きならあたしは告白するべきだと思う。」

 

 真剣な目であたしに訴えかけてきた。

 

「でもさ、あたしは美咲ちんみたいにちゃんと好きな理由がわかってる訳じゃ…」

「ねえ、モカの恋に理由ってどうしても必要なことなの?」

「えっ?」

「そんな理由を考えてまで恋をする必要はないと思う。大雑把に言って『Yes』か『No』の選択肢だけでも良いんじゃないの?」

「Yesか、No?」

 

 その返答にあたしは頭を硬いもので殴られたかのような感覚になった。

 

「それにさ、モカは告白して今の関係が壊れることを気にしているみたいだけど…そんなの心配するようなことでもないと思うよ。

 あたしの家のこと、つぐみが倒れた時のこと、ガルジャムの時のこと、それに遼の時もあたしたちはバラバラになりかけた。それでも今こうやって6人が一緒にいる。

 さっきも言ったけど…そう簡単には壊れないよ。あたしたちの絆は。」

 

 蘭の言葉を聞いてあたしの中で何か…心に何かが起きた。

 そうだ。あたしは遼が好き。理由はわからないし、その事について多く語ることは出来ない。それでもあたしは好きなんだ。彼のことが。

 だったらあたしは何をすればいい?そんなことは簡単だ。きっとそれは…。

 

「蘭…ありがとう。」

「モカ?」

「モカちゃん、お陰でわかったよ。あたしの…望む思いが。」

 

 蘭の方を見ながらそう呟くと「…そっか。」と笑いながら彼女も呟いていた。

 

 あたしは…青葉モカは…

 

 

 

 

 遼に告白する。

 

 怖がってばかりじゃ駄目なのかも知れない。勇気を出して前に進む。そうすることがあたしにとって1番大切なことなんだと思う。だからもう…考えるのは止めた。

 

「と、言う訳で~モカちゃん大復活で~す。」

「復活が遅い。」

「も~蘭は冷たいな~。蘭の協力のお陰でモカちゃんはこうして元通りの美少女モカちゃんに帰りざることが出来たじゃありませんか~。」

「……そうだね。正直、ウジウジしてる遼とモカはなんか違うからやっぱりそういう感じだと思う。」

「お~?もしかして~蘭もモカちゃんに恋しちゃった~?」

「はあ!?そんなわけ無いでしょ!?」

「でも~蘭顔赤いよ~?」

「……怒るよ?」

「さーせーん。」

 

 その後、ちょっとの間あたしたちに沈黙が起きたけどやっぱりこのやり取りがしっくり来たのか2人で思わず笑ってしまった。

 

「ねえモカ。本気で告白するんだよね?」

「もち~。今のモカちゃんは本気と書いてマジと読むよ~。」

「…そっか。」

 

 暫く黙っていたけど蘭はあたしに再び言葉をかけた。

 

「モカ、あたしは応援してるよ。」

「蘭…。ありがとね~。」

 

 あたしの言葉に蘭は思わず優しい笑顔になった。

 

「じゃあ~事件解決と言うことで~やまぶきベーカリーでパンでも買って帰りますか~。」

「ねえ、やまぶきベーカリーもう閉まってるんじゃないの?」

 

 そう言われ時計を見ると時刻は既に19時を越えていた。蘭も言った通り、やまぶきベーカリーの閉店時間はとっくに過ぎていた。

 

「がーん…。モカちゃんのパンが…。」

「・・・・・・・・・。」

 

 あたしがショックで倒れ混んでいると蘭は「ドンマイ」という感じに肩に手を置いてきた。

 

「……コンビニのパンならあたし買うけど?」

「おお~?もしかして~蘭がモカちゃんにパンを~?」

「嫌ならやめるよ?」

「いえいえ~これからは蘭のことをパンの救世主とお呼びしましょ~。」

「…やっぱりこの話無しでいい?」

 

 あたしもこれで前に進める筈。

 

 ありがとう、蘭。

 

 

 

 

 





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奥沢美咲、動く

 

 

 ある日のこと、俺は美咲とある約束をしていた為ある場所にいた。

 

「遼くん、誰かと待ち合わせでもしてるの?」

 

 頼んだカフェオレ(ぬるめ)を飲んでいるとつぐみが近くに来て俺に尋ねた。

 

「ああ、ちょっとな。」

 

 時計を見ながら待っているとカランカラン…とお店の扉が開き、1人の少女が入ってきた。

 

「ごめん、遼。待たせた?」

 

 遼が待ち合わせていた人物、それは奥沢美咲だった。

 

「いや大丈夫だ。」

「そう?なら良いんだけど…。」

「それよりどうしたんだ?突然予定空いてるかなんて聞いてきて。」

「いや…その…この間、一緒に買い物言ったときに次ハロハピが幼稚園でライブするときにあたしの羊毛フェルトを子供たちにプレゼントするって言ったじゃん?」

「うん。」

「それで昨日から頑張って作ってたんだけど流石に1人でやるのは辛くてさ…。遼さえよければ手伝って欲しいんだけど良いかな?」

「なんだそういうことか。」

 

 申し訳なさそうに頼む美咲に対して遼は何も気にせずに話を続けた。

 

「あの時協力を申し出たのはこっちだ。寧ろ遠慮せずに頼ってくれ。」

「……ありがとう。」

「とりあえず美咲も何か頼めよ。今日は代金は俺が持つから。」

「えっ?それは流石に申し訳ないよ。あたしは無理言って協力してもらう側なんだからここはあたしが出すよ。」

「いやいや、俺が出そう。」

「いやいや、あたしが…」

「いやいや」

「いやいやいや」

「いやいやいやいや」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 結局あれから代金を割り勘にして払った2人はそのままお店を後にした。

 

「モカちゃん?遼くんもう帰っちゃったよ?」

 

 つぐみが声をかけるとお店の奥からモカが出てきた。

 

「ふ~。なんとかやり過ごせたみたいだね~。」

 

 のんびりとした口調で奥から出てきたモカ。因みに奥から出てきたと言ったが、別にモカはここで働いてる訳ではない。

 

「でもどうしたの?突然『少し奥であたしを匿って欲しい』なんて言い出して…。」

「ん~?いや~ちょっと動向を知りたくてね~。」

「動向…?もしかしてモカちゃん…遼くんと喧嘩したの?」

「いやいや~。そういう訳ではないのだよ~。己を知るためには敵を知ることがまず重要…と言いますかね~。」

 

 モカの言葉につぐみは「訳がわからない」という顔をしていたが、そんなことはお構いなしにモカは2人が出ていった扉の先を見つめていた。

 

(美咲ちん……本気だ。

 あたしも絶対伝えなきゃ…。どんな結果になっても…。)

 

 モカは心の中でそう誓ったのだった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「ほら、ついたよ。」

 

 美咲に誘われて辿り着いたのは彼女の家だった。

 

「ここでやるのか?」

「うん。ここなら道具も材料も揃ってるから安心してやれるよ?」

「いや、それより親御さんの方は良いのか?いきなりお邪魔してるとお前の親にとやかく聞きこまれそうで怖いんだけど。」

「それなら大丈夫だよ。両親は仕事で夕方までいないし、華燐は友達の家に遊びに行ってるから今誰もいないんだ。」

「華燐?」

「あたしの妹だけど?」

「あ、そういうことか。」

「まあ立ち話もなんだし上がってってよ。」

 

 美咲に言われ、家の中にお邪魔した遼はそのまま言われるままに美咲の部屋に。

 

「ほお。結構かわいらしい内装だな。」

「あのさ…恥ずかしいからあんまりまじまじと見ないで欲しいんだけど…。」

「おっとすまない。」

「じゃあどこか適当な場所に座っててよ。あたしは何か飲み物持ってくるからさ。」

 

 そう言って美咲は部屋を出て行き、遼は用意されていた座布団の上に座って静かに待つことに。それから3分もするとお盆にジュースが入ったグラスを乗せて美咲は戻ってきた。

 

「どーぞ。」 

「悪いな。」 

「じゃあ早速始めよっか。」

 

 そう言ってこの間買ってきた羊毛フェルトに必要なフェルト羊毛、ニードル、マットなどを取り出して2人が互いにとりやすいところに並べた。

 

「そう言えば遼は初めてだったよね?」

「そうだな。裁縫くらいならしたことはあるが羊毛フェルトは未経験だ。」

「わかったよ。じゃああたしが手取り足取り教えるから。」

 

 ため息をつきながらも笑いながらそう語る美咲は何処となく楽しそうな雰囲気をしていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 作業を始めてから約1時間30分がたった。

 最初の方はやりながらどのように作るのかを説明して遼も実際に手を着けた。しかし、針を刺すときの力加減や羊毛の分量、繋ぎ方などで少し苦戦はしたものの、やり続けるうちに美咲程ではないが様になるようには上達した。

 それからは2人で1つずつ作っていき、遼の不備がある部分は美咲が修正を加えていった。そして、彼らが思っていたよりも早く作業が進んだため幼稚園の子供たちに配るフェルトは予定よりも早く完成したのだった。

 

「25、26、27、28……よし、ちゃんと数は揃ってるね。」

「ふう……思っていたよりも神経使うなこれは……。」

「まあ数が数だからね…。」

 

 手首を捻りながら呟く遼に対して美咲は完成した作品を丁寧に箱にしまいながら話した。

 

「それにしても遼が思っていたよりも飲み込みが早くて助かったよ。」

「まあな。自分で言うのもなんだが、俺は手先は器用な方だからな。」

「そうなんだ。あ、飲み物おかわりいる?」

「良いのか?」

「うん。」

「じゃあいただくよ。」

 

 美咲はグラスを受けとるとペットボトルのジュースを注ぎ、それを遼に渡した。

 

「ふう…。にしても美咲はいつもあれをやっているのか?」

「うん。まあ趣味の一貫としてね。作ったやつは大体華燐にあげてるんだけど。」

「お前は自分用とかは作らないのか?」

「まあ…やっぱり自分で持つとなると少し恥ずかしいって思ったりしちゃうから…。」

「そういうものなのか?」

「そういうものなの。」

 

 グラスに注いだジュースを飲みながらそんな会話をしていたが、暫くしてコップのジュースを飲み干すと美咲はなにかを決めたような真剣な目付きになった。

 

「ねえ、遼。変な話になるけどいいかな?」

 

 彼女の真剣な表情を見た遼はそれを疑問に思いながらも「いいけど…」と返答した。

 

「あのさ、遼って好きな人いるの?」

 

 突然の発言に遼は口に含んでいたジュースを吹き出しそうになるのを堪えた。

 

「だ、大丈夫!?」

「ゴホッ…まあなんとか…。それでなんで突然そんなこと…。」

「いや…それは…ちょっと後でもいい?」

 

 目を逸らしながら話す美咲に対して更に疑問は増えるが遼は彼女の頼み通りその事には触れないようにした。

 

「で、その好きっていうのは恋愛的な方なのか?それとも友達的な方なのか…。」

「前者だね。」

「なるほど……まあ、そこのところよくわからないな。正直経験なんて全くないし、かといって告白すらされないからな。」

「………そうなんだ。」

 

 今まで女友達は何人かいたものの基本的に一緒にいたのは小さい頃からの付き合いであるAfterglowの5人。この5人は友人関係で見ていた為、そういった感情にはならなかった。

 だが、ここ最近ある人物に対する思いで少し違和感が生じていた。ずっと一緒にいる時間が誰よりも長くて気づけば隣にいてくれた存在。友達として好きだった思いに何か別のものが混ざり始めている。そんな感覚はあった。しかし、その『何か』がなんなのかは遼には未だにわからないままだった。

 

「……あたしはいるんだ。好きな人。」

 

 そんな中、じっと遼を見つめながら美咲は語る。

 

「始めわさ、特に関わったこともないし、ただ1つの企画で顔合わせる程度にしか考えてなかったんだけど、その人は何も理由が無くてもあたしを気にかけてくれた。ううん、困っているとすぐ誰かの力になろうとしてた。多分あたしはその1人なんだと思う。」

 

「最初は変わった人だなって思ってたんだけど、その人と話したり、知ったりするうちにどんどん引かれていった。そしたら気付かないうちに意識するようになって……不思議な思いになった。友達じゃなくて、その先の関係に進みたい。そう思うようになってきた。」

 

「だから…言わせて」

 

 美咲は遼を見据えて、真っ直ぐに語りかけた。

 

「遼…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしはあなたのことが好きです。」

 

 

 





台風マジゆるさん。
ベリーベリーガッデム←予定潰されてご乱心


☆10という最高評価をくださったメログレさん、☆9評価をくださったゴメゴメさん、門矢士さんありがとうございます!

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気持ち

 

 

「はあ…。」

 

 その日、俺は学校で机にもたれ掛かるようにぐでっとしていた。もうすぐ夏休み、皆が今か今かと待ちわびる長期休暇(解放の時)を心持ちにしている中で唯一、何か重荷を抱えていた。

 

(結局…どうすればいいんだろうな…。)

 

 数日前、美咲に告白されてからずっとこんな感じだ。あの時俺は告白の返答を保留にした状態でその日を終えた。その場で答えを出すことも出来たかもしれないがあの時の俺はかなり動揺していてちゃんとした判断が出来そうではなかったのだ。

 

(好き…好き…恋人…か…。どうすればいいんだよ、この整理は…。)

「遼~?遼~?聞いてるか~?」

「………ん?」

 

 俺を呼ぶ声が聞こえ、声の先を見ると匡がそこにいた。

 

「遼、終礼終わったよ?」

「そうか………ん?モカたちは?」

「ああ、女子は少し別の話があるから教室を移動して先生の話聞いてるよ。」

「話?なんでまた…。」

「最近女子を狙う物騒な事件が多くなったらしくてさ。その防犯の為に少しお話するんだって。」

「そうなのか…。」

「あ、因みにモカちゃんたちから伝言なんだけど『長くなりそうだから先に帰ってて』だってさ。」

「……わかった。何から何まですまないな。」

 

 そう言って鞄に教科書などを入れた俺は匡と共に教室を出た。そして下駄箱についたところで再び匡が話しかけてきた。

 

「それにしても遼が上の空で先生の話を聞いてなかった何て珍しいね。何か気になることでもあったの?」

 

 なにかを見透かしたかのように匡は聞いてきた。普段はフワッとしてるイメージなのに時々鋭いところをついてくるんだよなこいつは…。  

 

「まあ…あったけど…。」

「へえー。どんなことなの?」

「あー……話しても良いけどさ…ちょっと場所変えようか。」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 学校を後にしてしばらく歩いた俺たちは人気のない公園に到着して、そこのベンチに腰を掛けた。

 

「で、どうしたの?もしかして聞いちゃ不味いことだった?」

「いや、気にしないでくれ。ただな…1つ抱えてるものがあってだな…。」

「えっ?」

「あのさ、もし自分を好きだって言ってくれる子がいたとするだろ?それでいてこっちは恋愛のなんたるかを全然わかっていないとする。

 そんな中で突然告白されてさ、自分の気持ちが整理出来てないってなった場合さ、どうしたらいいと思う?」

「うん、ちょっと待ってくれる?」

 

 俺の質問を聞いた匡だったが、当の本人は少し理解に追い付いてないのか首をかしげていた。

 

「えっと……とりあえずなんだけどさ、それってもしかして遼、君のことをいっているのかな?」

「いや…まあそれはだな…。」

 

 妙に歯切れの悪い俺を見ていた匡は口には出さなかったが「あ、これそういうことか。」と確信していたらしい。

 

「まあ、さっきの俺の質問に関してはおいとくとしてその人は告白されてなんで整理出来てないの?」

 

 匡の問いに俺は答えるのを少し戸惑ったが、流石に自分から聞いておいてここで答えないのは不味いだろうと思い覚悟を決めることにした。

 

「確かにその人の気持ちは嬉しいんだけどさ、実は他に気持ちの整理がつかなくなるような思いになる相手がいるんだ。そいつは昔からずっと一緒にいて、最早兄妹みたいな感じになっているくらいだった。

 でもそれが友好的な感情とは少し違うような気もしたんだ。そんな中で告白されて少し戸惑っているような感覚に襲われてるってとこかな。」

 

 空を眺めながら俺は自身の心情を呟いた。

 

「うーん…。遼はさ、その『ずっと一緒にいた人』のことが好きなの?」

「いや…それがわからないんだよな…。」

「でもさっきの話を聞いている限りだと遼はその告白してきた人よりも一緒にいた人の方が好きって聞こえるけど?」

 

 そう言われて俺は自分の気持ちを振り返ってみる。

 確かに美咲のことを恋愛的な方で見ているかと聞かれるとはっきりと肯定は出来ない。一方でモカはどうだろうか?肯定なのかはわからないが否定でもない。確かに時々モカに対する思いにどこか違和感のようなものを感じてはいたがこれがなんなのかは未だにわかっては……いや、なんとなくではあるが予想はついていた。しかし、それを確信に持ち込むことが出来ないのは自分でもわかっていた。

 

「どーなんだろうな。結局、今のままで落ち着いてるから……それ以上にもそれ以下にも考えられなくなってるのかも知れないけどな。」

 

 結局、こういう肝心な時に必要な決断をくだせないんだよな俺は。そう心の中で自分を嘲笑った。

 

「えっと…要するに好きな人はいるけどその人はずっと友達としての関係だったからいざ恋人として見れるかとしたらそうもいかないってこと?」

「まー…そうなるのかな?」

「何て言うかその……凄く複雑なんだけど。」

「お前の言い分はごもっともだ。」

 

 正直めんどくさいと思われても仕方ない。結局俺は今の関係に拘って他の世界を見ていないだけの話だ。かといって他の人物を恋愛対象としては考えられない。こんな状態で誰かと付き合い始めても相手を傷つけて終わるのは目に見えていた。

 

「でもさ、無責任なこというと……そのままが良いなら無理する必要ないんじゃ無いのかな?」

 

 少し間があいたところで匡はそう呟いた。

 

「いや、遼が本当にその人が好きなら告白しても良いと思うけどさ、なんか…ちょっと今の感じたとさ……焦ってるというか…混乱してる感じがするからさ。」

 

 確かに。俺は美咲に告白されてから少し混乱していた。そんなことはわかってはいたが、その気持ちは自分ではどうにも出来ないほどに大きなものとなっていた。その為、美咲のこともモカのこともごちゃごちゃになっていた。

 

「だからさ、一旦落ち着いてみなよ。」

 

 俺の背中を叩きながら匡はそう言った。

 

 結局俺はどうしたいんだろうか。そんなことを考えながら俺はそのまま帰路についた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 家に帰ってからも俺の脳内での葛藤は続いた。

 確かに俺の中ではモカが友達として好きかと言われたら素直に「はい」とは答えられないだろう。次に思いを恋愛感情として置き換えるとすれば確かに説明はつく。

 

「俺は本当にモカに…?」

 

 考えれば考える度に何かに直面していた。

 仮にそれがそうだったとしても美咲はどうなる?もし断って傷つけることになったら?そう考えるとやはり思考がこんがらがってしまう。もう何も考えたくない。そう思うほどに。

 

「はあ~!いいお湯だった~!」

 

 そんな雰囲気をぶち壊すかのように姉である照がお風呂から上がってきた。彼女はそのまま冷蔵庫を漁って取り出したポケリをぐびぐびと飲んでいた。

 

「ふうー!風呂上がりにはこれしかな……ってどしたのよ。変な顔して。」

「とりあえず黙っててくれない?」

 

 こちらが真剣に悩んでいる中で『変な顔』と言われたのが癪に触ったのかそう返してしまった。不味いな、結構気が立ってしまっている。

 

「何よ?この間の今日でまた悩み事?」

「問題ある?」

「無いけどあたしに当たらないでよ?」

 

 そう言って再びポケリを飲んでいた姉を見て、「ダメ元でこの人に相談してみるか…」と考えた。

 

「なあ、姉ちゃん。1ついいか?」

「何~?」

「姉ちゃんって恋とかしたことあんの?」

「あるわよ?というか絶賛恋活中よ!」

 

 「ふーん…」とぼやいていると姉ちゃんは「自分から聞いといてなんだその態度は。」と言わんがばかりにこちらを睨んできた。

 

「その人って大学入って出会った人?」

「ううん。高校時代からのお友達。」

「ふん…。それでさ、その人ってずっと好きなの?」

「うーん…好きになったのは1ヶ月前くらいかな~。それまではお友達って感じだし。」

「それでさ、もし付き合い始めてこれまでの関係が変わったら…とか考えないの?」

「どーだろ?変わるかもしれないよね。」

「怖くないの?」

 

 そう聞くと姉ちゃんは飲み干したポケリを机に置いた。

 

「全然。まあ多少は色々変わるけどさ、肝心なものは変わらないんじゃないの?」

「肝心なもの?」

「ココ。」

 

 そういいながら姉ちゃんは自身の胸に拳を当てた。

 

「ココが変わらなきゃきっとやっていける。相手を大切に思うのは友達の時でも恋人の時でも同じだと思う。変わりたいんなら新しい関係になったときに2人で育んで行けばいいの。」

「因みになんだけどさ…もし断られたら…とか考えないの?」

「そりゃ考えるよ~。でも伝えなきゃ何も始まらないじゃん。幸せは歩いてこないんだから自分から歩いて行かなきゃ。それにモカちゃんには前に言ったんだけど人ってのは完全に相手を傷つけないのは限界があるからね~。そこを覚悟の上で行動しなくちゃ。」

 

 そう言いながら一息つくと再び語り続けた。

 

「結局のところ、伝えることが大切ってこと。どんな結果になってもその行動に意味がある!」

「……で最後に1つなんだけど、恋愛感情ってどんな感じなの?」

「どんな感じってそりゃ…その人のことを考えると次第に止まらなくなったり……なんかこう…胸が絞まるような感じ?」

 

 そう語る姉を横に俺は再び考えた。

 

 これまでの姉ちゃんの話を整理すると俺はモカのことが・・・・というみたいだ。

 そして再び考え直してみた。

 

 美咲のこと

 

 モカのこと

 

 そして…俺自身のこと。

 

 

(だとしたら俺は…)

 

俺の気持ち、そして美咲の告白。

 

 それらに対する想いを俺は受け止めなければならない。どんな結論になっても。

 

 

 

 

 その時は…そう遠く無かった。

 

 

 




若干グダってるのは許して。

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決断

 

 

 現在あたしは部屋である計画を練っていた。机の上に並んでいるのはデートスポットなどが書き記された本の数々。ある程度見終わったところで本を閉じ、机にぐでっと倒れこんでいた。

 

「うーん…どうすればいいことやら…。」

 

 先ほど閉じた本をパラパラと捲りながら色々と考えたがこれといったものはなかなか思いつかなかった。

 

「こーいうのはやっぱりひーちゃんの方があっさり決めれそうだよね~。」

 

 本人の前でこんなことを言ったら「それどういう事なの?というか私、彼氏自体いないんだけど!?」とか言われそうな気がした。

 そもそもデートスポットとか見てても遼がどういったところが好きでよくどういった場所に行くのかは実はよくわからない。強いて言うならゲームセンター…位しか思い浮かばないんだよね~。

 こうして考えてみると知っているようで以外と知らないことが多いなと実感する。今まで幼なじみとして多くの時間を共に過ごして来た為、彼のことはかなりわかっていると思っていた。でも改めて考えてみるとわかっていた『つもり』だったのもがほとんどだった。確かに遼があたしといつも行く場所はあたしが行きたいところばかりだった。やまぶきベーカリー、羽沢珈琲店、ファーストフードショップ……学校帰りなどであたしがさりげなく誘うといつも付き合ってくれていた。実際に遼からどこかに誘うということは殆ど無かった故かこの形があたし達の間に定着していた。

 

「……もうちょっと遼の好みとか知っておくべきだったな~。」

 

 まあこんな展開が訪れようなんて思いもしなかったのだから無理もない…って言うのは言い訳に過ぎないのかもしれないよね…。こうなったらやっぱりひーちゃんにでも相談すべきなのかな~?

 

「うーん…」

「モカ?お昼ご飯出来たわよ?」

 

 悩んでいた時、ママに呼ばれて時計を見ると時刻は既に12時を迎えていた。今日は特に予定も無いしご飯食べたら気分転換に商店街でも歩いていようかな~と思い衣装ケースを開けてお気に入りの半袖のパーカーを手に取る。その時、ふと思ったことがあった。

 

(そう言えば…遼にだけ無いんだよね~…。)

 

 そう考えてると再びママが呼ぶ声が聞こえた為、あたしは急いでリビングに向かった。さっきのことについては今度みんなに相談してみようと思った。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 美咲から告白されてから5日がたった。

 あれから匡、そして姉ちゃんの助言もあり少し考えていた。そしてようやくその答えが出た。

 今日俺はある場所でその人物が来るのを待っている。因みにL○NEには「話したいことがあるから○○公園に来てほしい。何時くらいに来れそうかな?」と送信したところ、相手の都合と合わせて17時に待ち合わせすることになった。

 呼び出した張本人である俺は遅れるわけにもいかないので、予定よりも少し早く集合場所について今はベンチに座りながら待ち合わせしている人がここに来るのを待っていた。

 

「遼?」

 

 名前を呼ばれて振り向くとそこには待ち合わせをしていた人物…奥沢美咲がいた。

 

「美咲…。」

「えっと……待った?」

「いや、全然大丈夫だ。」

 

 ベンチから立った俺は美咲と向き合い、そのまましばらく黙り混んだ。

 俺は今から彼女に思いを伝えなければならない。今日はそのために彼女を呼んだんだ。彼女の告白に…返答するために…。

 

「遼…?」

「あのさ…美咲はなんで俺に告白しようと思ったの?」

「遼のことが好きだからだよ。」

 

 俺がそう聞くと美咲は迷うことなくそう答えた。

 

「あたしって結構さっぱりしてるというか…何事もほどほどにすませようとするタイプでしょ?」

「まあ…そうだな。」

「そんなあたしがさ、本気で誰かに負けたくないって思うようになったんだ、この気持ちは。あたしって頑張ってなにかを成し遂げたり…っていうのは苦手だったんだけどこの思いのことだけは手を抜きたく無かった。いつぶりなのかは覚えてないけど…こんな気持ちになったのは凄く久しぶりだったんだ。」

「・・・・・・・」

「だからあたしは努力したんだ。絶対に後悔しないためにも。」

 

 俺の目を真っ直ぐに捉えながらそう語る彼女の顔には迷いなどはなかった。

 彼女を見ていると少し前の自分がみっともなく感じてしまった。美咲はきっと俺が気づかないだけでたくさんの努力を重ねてきた。自分の思いに嘘をつかない為か…それとも何かに負けないという思いだったのかはわからない。でもそれは俺への気持ちの為だけじゃなくて自分自身の為でもあるのだ。きっとそれを決意するために……ちゃんと覚悟は決めてきたのだろう。例えどんな結果になろうと自分の思いには正直にありたい…そんな思いが黙っていても伝わってきた。

 そんな彼女に対して俺は何を戸惑っていたのだろうか。覚悟を決めてきた美咲に対して俺は決めた思いすらすぐに伝えられなかった。

 

(俺も……覚悟を決めないとな…。)

 

 そう思った俺は再び美咲と向き合うと1度、2度と深呼吸して心を落ち着かせた。しかし、はじめてのことでもあり腎臓は未だに速いテンポで俺の心を焦らせていた。

 

「あのさ…美咲。俺もずっと考えてきた。美咲の俺に対する思い。それに俺の思いについて。」

 

 覚悟は決めた。

 俺はもう迷わない。

 例えその決断で誰かを傷付けたとしても……俺はその結果を……受け止めてみせる。

 

「美咲…俺はお前のことを大切に思っている。」

 

 俺の言葉に彼女は驚きの表情を見せた。

 

「お前の気持ちは凄く嬉しい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも…ごめん。俺は美咲の思いには応えられない。」

 

 その瞬間、俺と美咲の間に沈黙が起きた。無理もないだろう。俺は彼女をふったのだ。

 美咲の思いはとても嬉しかった。俺のことを好きと言ってくれた。俺と真っ直ぐと向き合ってくれた。そんな彼女に惹かれるところはたくさんあった。

 

 しかし、俺は彼女のことを『友達以上』と見ることが出来なかった。

 

 改めて考え直したことで気づいた。俺には…好きな人がいる。どんなときも傍にいてくれた人物が。俺はそんな彼女に…いつの間にか特別な思いを抱くようになっていた。

 その思いを遂げる為には美咲からの告白に応えることが出来ない。そんなことは誰でもわかることだ。

 俺は美咲をふった。つまり彼女の思いを拒否したのだ。もしかしたら今後美咲と会うときはどこか距離が出来てしまうかもしれない。今までのように友達でいられないかもしれない。それは言う前から覚悟していたことだが実際にそうなってしまうと互いに辛くなるだろう。増して美咲のことを俺が傷付けたようなものだから……。

 俺たちの間に少しの沈黙の時間が流れた。

 

「そっか…。」

 

 美咲は小さな声でそう呟いていた。

 

「ごめん…」

「ううん、それが遼の決断なんだよね。なら仕方ないよ。」

 

 頭を下げる俺に対して美咲は「気にしないで。」という感じで俺にそう言った。

 

「……それにこうなるのはわかってたんだ…。」

「…えっ?」

「遼は好きなんでしょ?あの子のことが。」

「美咲…?」

 

 顔をあげると美咲はいつもと変わらず彼女らしい笑顔だった。しかし、その頬には煌めく何かが蔦っていた。

 

「遼…。さっきあたしに聞いたよね?告白した理由を。」

 

 沈み始めていた夕日を見ながら俺に語りかけてきた。

 

「あたしさ…わかってたんだ。遼に好きな人がいること。それでもどうしてもこの思いは伝えたかった。

 例えどんな結果になってもこの思いだけは伝えたかった。伝えなきゃきっと後悔すると思った。だから…告白したんだ。言ってしまえばこれはあたしのワガママだね。

 だからさ…遼は自分を責めないで。」

 

 美咲は最初からフラれることは覚悟していたようだ。その上で俺に告白したんだ。そして今も自分よりも俺のことを気にしてくれている。

 君は俺が思っていたよりも…そして俺なんかよりもよっぽど強い奴だよ…美咲。

 

「じゃあさ…あたしから最後のワガママ…聞いてくれる?」

「ああ。」

 

 辛い思いをしてるのにも関わらず、彼女は笑いながら俺に問いかけた。勿論断るつもりはない。美咲の…俺を好きでいてくれた人の望みをどうしても叶えてあげたいから。

 

「青葉さんのこと、絶対幸せにしてあげてよ?」

 

 嗚呼…

 

 

 

 

 どうして君はそんなに優しいんだ…。

 

「…それでいいのか?」

「うん。それがいいんだ。」

「わかった。約束するよ。」

 

 俺は全てを受け止める。

 自分だけじゃない。モカへの思いも、美咲の願いも、今この瞬間も全て。

 

「後…これからもよろしくね。友達として。」

 

 俺は決して忘れない。

 彼女の思いも、今日ここで起きた出来事も全て。

 

 沈む夕焼けをバックに悲しみを堪えて笑う彼女の姿は何よりも綺麗だった。

 

 





えー…多少無理があったかも知れませんが悩んだ末にこのようになりました。
美咲の覚悟…見届けて頂けたでしょうか。

この物語も佳境…そして結末へと向かっています。
残すところあと2話(予定)。最後までお付き合いください!

良ければコメントや評価よろしくお願いします!



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始まりの場所

 

 

 あたしの初恋は叶うことなく終わった。

 

 でもこの結果はわかってたんだ。

 遼は青葉さんのことが好きだってことはわかっていた。伊達に彼のことを好きになってからずっと見てきたわけじゃない。

 それでもあたしは彼に思いを伝える覚悟を決めたんだ。

 

 もしかしたらあたしにも可能性があるかもしれない…なんて思うのは図々しいのかもしれない。

 それでも…少しでも可能性があるのならそれにかけてみたかった。それにきっと伝えなかったら後悔するかもしれない。

 

 だからあたしは彼に告白した。どれだけ可能性が低くても…あたしのこの思いだけは嘘にしたくなかった。

 

 そしてあたしは敗れた。

 でも不思議と嫌な思いにはならなかった。

 

 彼はきっとこの結末であたしが傷つくことを気にして悩んでくれていたのは言われなくてもすぐにわかった。

 だからあたしは溢れそうな涙を堪えて彼の背中を押すことを決めた。

 

 1度でも好きになった人にはやっぱり幸せになって欲しい。だから最後は笑って終わりにしたかった。

 

「青葉さんのこと、絶対幸せにしてあげてよね。」

 

 あたしの思いは届かなかった。それでもこれだけは胸を張って言える。

 

 

 

『あたしは……あなたを好きになって良かった』って。

 

 

 

 帰り道、誰もいない道であたしは1人泣いた。この涙は彼には見せたくなかった。きっとこんな姿を見せたら彼はまた自分を責めてしまうから。

 

 

 今だけは…誰もいない今だけは…泣いてもいいよね…。

 

 

 さよなら、あたしの初恋。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ある日の放課後、遼を含むAfterglowのメンバーは『いつも通り』CiRCLEでバンド練習に励んでいた。

 この日は皆特に目立つミスをすることなくスムーズに練習が進んだ。それぞれがこれまで頑張ってきた結果だろう。

 

「うん、じゃあ今日はここまでにしよっか。」

 

 蘭の一声にそれぞれが片付けを始める。これもいつもの光景だ。

 

「蘭~。例の件なんだけどちょっといい~?」

「いいけど…今?」

「だって~後にするとなんか忘れちゃいそうだも~ん。」

「わかったけど……ちょっとこっち来て。」

 

 そう言うと蘭はモカを連れて外に出た。会話の途中でチラッとこっちを見た気がしたけど気のせいか?と思いながら遼は残された3人の手伝いをしていた。

 

「遼?どうしたんだ?」

「いや、なんか蘭のやつ俺の方見てから外に出た気がしたけどなんかあんのかなって…」

「あー…まあ気にしなくてもいいんじゃないか?蘭とモカが2人で話すのなんか昔からあっただろ?」

「まあ…な。」

「よし!じゃあ遼はこのドラム運ぶの手伝ってくれ!今のうちに全部片付けて2人が帰ってきたらドヤ顔で迎えてやろうぜ!」

「そーだな。じゃあちゃっちゃとすませるか。」

 

 このあと4人は馴れた動きで全てを片付けて2人が帰ってきたときにはもうすでに終わらせたところだった。

 

 その後、6人はカウンターで鍵を返しそれぞれが帰路についていた。

 いつものようにやまぶきベーカリーに寄るため遼とモカは4人とは違う道を帰っていった。

 

「うーん、やっぱりやまぶきベーカリーのパンは最高ですな~。」

 

 遼の隣で先ほど買ったチョココロネを食べながらモカは歩いていた。ついでに言うと遼も自分で買ったウインナーロールを食べながら歩いていた。

 

「ホントやまぶきベーカリーをパンって他のパンよりも生地がしっかりしてるし味気も程好いし……何でこんな味が作れるんだろうな。」

「こーなったら…モカりょー捜索隊結成と行っちゃう~?」

「なんだその怪しい捜索隊。」

「モカちゃんと~遼で~モカりょー。漫才コンビっぽくない~?」

「漫才師に怒られるぞ?」

 

 こんな感じで他愛もない話に花を咲かせていたのだが…

 

「なあモカ…ちょっといいか?」

 

 突然遼が足を止めてモカに問いかけた。

 

「どーしたの~?そんなに畏まっちゃって~。」

「ちょっと…行きたいところがあるんだ。ついてきてくれるか?」

 

 遼が自ら行きたいところがあると行ったことでモカは内心驚いていた。これまで自らどこかに行きたいと行ったことがない彼がそう言ったのだ。それにこれはモカ自身も遼のことについて知れるかもしれないと思った。

 

「うん…。」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 歩くこと数分。

 遼がモカを連れて商店街の離れの河原にやって来た。

 

「遼が行きたい場所って…ここ?」

「そうだ。

 モカ、この場所…覚えてるか?」

「………!そう言えばこの場所って…。」

「ああ、ここは10年前…俺とお前が初めて出会った場所だ。」

 

 それを聞いてモカは思い出した。遼の言う通りこの場所は幼き日の2人が初めて出会った場所。遼が父親と喧嘩してここで石を投げているとモカがやって来た。そしてその時の遼を物珍しそうに思い声をかけたのがモカだった。

 

「はい。」

 

 遼が鞄からやまぶきベーカリーの紙袋を取り出し、中に入っていたチョココロネをモカに渡した。それを受け取ったモカはチョココロネを半分に分けて片方を遼に渡す。それを受け取り2人は夕焼けを見ながらその味を噛み締めていた。

 

「……なんか…何時もより甘いね~。」

「そうだな。」

 

 かつて2人が出会った時もこうしてチョココロネを分けあって食べた。その時の記憶に浸りながら2人はチョココロネを完食した。

 

「ここでお前と出会って、あいつらと出会ったことで俺はかけがえのない友達に出会えた。それだけじゃない。それ以上に大切なものに気付くことも出来た。だからさ…俺はお前に感謝している。」

「…そーだね。」

「それを踏まえて言いたいことがあるんだがいいか?」

 

 遼がそう問いかけるとモカは黙って頷いた。

 

「モカ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はお前のことが好きだ。俺と…付き合ってくれないか?」

 

 

 遼はただ一言、しかし何よりも大きな言葉を言った。そしてその場には少しの静寂が訪れた。しかし、2人はお互いに目を反らさなかった。

 

「遼…。あたしも言いたいことがあるんだけど…言っていいかな?」

 

 モカが発したのはその一言だった。それだけでは告白の返事とまでは行かない台詞だが、彼はその言葉を受け入れた。

 

「あたし、ずっと悩んでたんだけど…やっぱり遼と前に進みたい。幼なじみとしてじゃなくて、1人の女の子して。遼と一緒に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから…あたしと…付き合ってください…。」

 

 彼女からの返事は……彼女自身の告白だった。

 

「モカ…それって…。」

「うん。」

 

 そのままモカは遼に近づき、彼に抱きついた。

 

「遼…ありがとうっ!」

 

 これまでに無いような喜びの声を上げる彼女を彼はぎゅっと抱き締めた。

 

「こっちこそ…ありがとう。」 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 それからしばらく彼らは河原で横になっていた。その時の2人の手はずっと繋いだままだった。

 

「ねえ遼~。遼って何時からあたしのこと好きだったの~?」

 

 空を見ながらモカは問いかけた。

 

「うーん…『好き』って気づいたのはここ最近かな。」

「そっか…。」

「あのさ…実は俺、美咲に告白されてたんだ。」

「・・・・・・・」

「でもそのお陰…って言ったら失礼だろうけど…自分の気持ちを見直すことが出来た。それでお前への思いに気づけたのかもしれない。」

「なるほどね~。」

 

 そう言うとモカは自分のスマホを取り出しメッセージアプリを開く。会話先は『美咲ちん』と書かれていてそこにはこんな文章があった。

 

『青葉さん、遼との恋あたしも応援してるから。頑張ってね。』

 

(もしかしてとは思ってたけど…美咲ちん…。)

 

「なんか…申し訳ないことしちゃったかな…。」

「多分な。でも俺たちは美咲とは親友だ。これからも…。」

「そっか。」

 

 その後、しばらく2人は沈黙していた。

 

「なあモカ…。」

「ん~。」

「お前は幸せか?」

「もちろんだよ~。遼こそどうなの?」

「それは聞くまでもないってやつだよ。」

 

 空を見上げながら会話する2人。

 重ねあったその手はずっと離れないことから互いの思いがひしひしと伝わってくる。

 夏が始まる。いつも通りでいつもと違う新しい夏が。

 

 2人が出会った始まりの場所で…常乃遼と青葉モカは新しい始まりを迎えた。

 

 

 




次回、最終回
『俺たちの夕焼け』

さて、ようやく遼とモカが結ばれました!いや~ここまで長かったです。
次回は最終回な訳ですが、完成し次第更新日を告知いたしますので楽しみにしていてください。
そして良ければ最後までお付き合いください。

評価やコメント、お待ちしております。

twitterにて小説情報などを発信しております
@kanata_kizuna


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俺たちの夕焼け

 

 常乃遼です。

 

 現在我が家にはスキンヘッドの謎の大男がいらしております。

 

「えっと…。」

 

 しかもなんか雰囲気的に『ヤクザか何かの関連の方ですか?』と聞きたくなるような人だった。

 

「ちょっと遼、あんた借金でもして返してないんじゃないの?」

「ハア?俺がそんな借金なんてするわけないだろ!借金は俺がこの世で嫌いなものトップ3に入るほどなんだぞ!?」

「じゃあなんで来て早々『常乃遼さんはいらっしゃるかな?』なんて言うのよ!絶っっっ対あんたが何か仕出かしたんじゃない!」

「いやいや、というか借金するとしたらどっちかというと姉ちゃんのほう「あ゛!?」なんで威圧するんだよ。」

 

 と少し奥で遼と照が言い合いをしていると…

 

「あの。」

 

 来訪していた大男が声をかけると俺たちは顔を見合わせた後、その男の元に向かった。

 

「そちらが常乃遼さんでよろしいのかな?」

「えっ…はい。そうですが…。」

「あの…うちの遼が何か仕出かんでしょうか…?このバカ時々考えないときg「一旦姉ちゃんは黙ってようか。」」

 

 姉弟喧嘩が勃発しそうな雰囲気をなんとか抑えて、接客を続ける。

 

「すみません、どこかでお会いしましたっけ?」

「いや、初対面です。」

「えっ?じゃあ一体何のご用でしょうか…?」

 

 俺が恐る恐る訪ねると大男は動きだした。一体何をし始めるのかと思ったら…。

 

「この度は!真に申し訳ない!」

「「………はい?」」

 

 突然目の前で日本の伝統的行為(?)『土下座』を発動し始めた。何が何だかさっぱりわからない俺たちはただその場に立ち尽くしていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「とりあえず…お茶をどうぞ。」

 

 ひとまず家の中に上がってもらった。まあ流石にあそこでずっと土下座をさせられてもこちらにとっても迷惑になるので一度落ち着いて話し合うことに。

 

「えっと…とりあえず経緯の説明をお願いしてもいいですか?」

「そうでしたね…。君は石原一誠を知っていますか?」

 

 石原一誠…出来れば今後聞きたくない名前だった。以前奴はモカにフラれ、その原因が俺だと言い張り突然襲撃してきた。その結果Afterglowの皆との繋がりが壊れかけたのだ。今はなんとか以前のように皆とはやれているもののこの事件は出来れば思い出したくなかった。

 

「……そいつがどうかしました?」

 

 嫌なことを思いだし、少しイラついていたのを全力で抑えて返事をした。

 

「私はあいつの父親です。」

「父親?」

「そうです。私は石原大介という者です。」

 

そう言った男…石原大介はじっと俺の目を見た。

 

「うちのバカ息子が君に無礼なことをしたと聞きまして。その事で謝罪に来ました。」

「そうですか。」

 

 罰の悪そうな表情をしながら俺にそう言った。お詫びのつもりかもしれないが親父さんの手には菓子箱が握られていた。

 

「とりあえずお茶でも飲んでください。落ち着いて話しましょ?」

 

 母さんがお茶菓子を持ってきて、俺の隣に座った。

 

「石原さん、例の件は私も聞きました。これは本当のことですか?」

「はい。何も違うことはありません。」

「そう。そしてあなたはその事の謝罪に来た…ということですね?」

「ええ。謝罪が遅れて申し訳ありません。」

「いえ。それよりも当の本人はどちらに?」

「その事なんですが…」

 

 石原の父によると当の本人は全く反省の色がなく、またくだらない計画をたてていて、謝罪に連れていこうとはしたが「俺は何も悪くない」の一点張りだったため、もし連れてきても帰って迷惑だと思ったとのこと。そして例の一件のこともあり、奴は他にも色々と悪さをしていた為、反省するまで離れの山奥の厳しい公正施設にぶちこんでいるらしい。

 今回の一件は父親は相当申し訳なく思っているらしい。というのも奴は幼き頃に母親を失い、父親の手1つで育てられた。家庭環境は大介さんがある会社の社長であった為裕福な暮らしが出来ていた。そして子育てに慣れてなく、子供の可愛さに溢れたせいかついつい甘やかしてしまった為このようになったのだと。父親本人は「もっと厳しさを教えておくべきだった」と言っている。あいつの関係者だし信じきれないところはあるが、大介さんの態度からはとても嘘をついているようには見えなかった。

 

「本当はあいつも連れてきて土下座でもさせるのか筋だということは理解しておりましたが…。」

「いえ、おそらく顔を合わせても良いようにはならないので気にしないでください。」

 

 俺がそう言うとやはり申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「僕としてはあれはもう終わったことなので。あなたの誠意は十分わかりましたしこの話は終わりにしませんか?」

「……本当にすみません。」

「ええ。」

 

 こうして、奴との一件は完全に終わった。息子があれでも父親がまともだったことが驚きではあった。これであいつもまともな人間になればいいんだけどな。

 

 最も、俺は奴と会うのは2度とごめんだが。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

某日、羽沢珈琲店にて

 

「ねーねー、遼ってモカと付き合い始めたんでしょ!?」

 

 早足で入ってきたひまりが俺のもとに来るなりそう言い出した。

 

「まあそうだけど…お前その情報どっから聞いたよ。」

「モカに聞いたら教えてくれた!」

「あ、そうなの?」

 

 まあ別に隠すつもりはないしいいんだけどな。

 

「それよりなんで私に教えてくれなかったの!?私2人のこと結構心配してたんだからね!」

「いや、聞かれなかったから。」

「そんな理由!?じゃあ蘭と巴が知ってたのは!?」

「聞いてきたから答えた。」

「で、つぐは知ってたの!?」

「その時近くにいたから教えた。」

「私は!?」

「・・・・・・・・。」

「忘れてたんだよね!?その反応は忘れてたってことでしょ!?」

「ひまりちゃん…ちょっと落ち着いて?ほら、注文してた夏みかんケーキだよ。」

 

 ひまりの前にケーキが乗ったお皿を出すとひまりは俺をジト目で見ながらモシャモシャと食べていた。

 

「遼くんもほら、アイスカフェオレと夏みかんケーキ。」

「ありがと。」

 

 テーブルに置かれたケーキをフォークで少し切ってから口に入れる。生クリームと合わさったみかんの香りが口いっぱいに広がる。爽やかな甘味で夏にはちょうどいい1品だ。

 

「うまいな。」

「うん!コーヒーと合わせたら結構会うと思うよ!」

「本当!?良かった!お父さんにも伝えておくね!」

 

 つぐみはメモにひまりの意見を書き込み、笑顔で答えた。

 

「そういえばさ、遼とモカってどこまでいったの?」

「どこまで?」

「2人とも恋人同士なんでしょ?デートとかキスとかさ!」

 

 興奮ぎみに話してくるひまりを見ながら「そうだな…。」と考えた。

 

「まだ何もやってないな。」

「そっか~まだ何も…………ゑ?」

「ん?」

「まだ何もやってないの?」

「おお。」

「デートは?」

「まだ。」

「キスは!?」

「それもまだだ。」

「手を繋いで帰ったりとかは!?」

「繋ぎはしたけどそのまま帰ってはないな。」

 

 そう答えるとひまりは頭を抱えながら溜め息をついた。

 

「ねえ…。本当に2人は付き合ってるの…?」

「まあ付き合い始めて1週間位だしこんなものだろ。」

「それでも告白したときにキスとかしない!?」

「いや?」

「(この2人……思ってたよりヘタレなのかな?)」

 

 ひまりは再び頭を抱えていた。そんなひまりを横目に俺はアイスカフェオレを啜り、つぐみは「まあまあ」とひまりを宥めていた。

 

「遼~。やっほ~。」

 

 お店のドアが開き俺の恋人……モカが入ってきた。後ろにいた蘭と巴も一緒に。

 

「よっ。」

「おはよ。」

「2人とも早いなー。」

 

 ここにいつも通りのメンバーが揃った。元々今日は明後日の夏祭りステージで疲労するライブの打ち合わせをするために集まる予定だったのだ。

 

「いやーまさか本当に遼とモカが付き合うとは思わなかったな。」

「ホント。一時期はどうなるかと思ったし。」

 

 巴と蘭が俺たちの関係について思い思いのことをいい始める。当の俺は特に気にせずケーキを食べてるしモカは俺に乗っかってぐでっとしている。まあいつものことだな。

 

「ねー遼ー。そのケーキ1口ちょーだい?」

「ん?別にいいけど。はい。」

 

 モカにせがまれてフォークを渡そうとするが彼女はそれを受け取ろうとはしなかった。

 

「…?どうした?いらないのか?」

「そーじゃなくて…」

 

 そのままモカは口を開けていた。これは食べさせろということなのだろう。

 

「仕方ねえな…。」

 

 ケーキを1口大に切りそのままモカの口の中に入れる。それをゆっくりと咀嚼するモカ。

 

「あまーい。」

 

 ニカッと笑いながらそう言った。付き合い始めてから甘えが大胆になっている気がするがこれまでがこれまでだった為あまり気にしてはいない。寧ろこれでこそモカという感じになっている。

 

「……つぐみ、あたしブラックコーヒー。」

「アタシもそれを頼む…。」

「私も…。」

「あっ…。うん。ブラックコーヒー3つだね。」

 

 それを聞くとつぐみは伝票に注文を書き込んでいた。

 

「……ねえ、あたしたちは何を見せられているの?」

「わかんないけど……あの2人だけの空気が違うことはわかるよ…。」

「アタシもここまでとは思って無かったな…。」

「というか…遼くんとモカちゃんが平常運転なのが凄いよね…。」

 

 なにやら思うことがあるらしくそれぞれが思い思いのことを言っていた。まあ…自分でもこいつに甘くなりすぎかなとは思っているが…。

 

「えへへ~。」

 

 この可愛い笑顔を向けられては何も言えない。どうやら俺も大分こいつに毒されているようだ。

 

「それより次のライブのことなんだけど。機材の確認とかは遼に任せてもいい?」

「もちろんだ。それが俺の役目だからな。」

「ありがとう。ならあたしたちもいつも通りの演奏に専念出来るよ。」

 

 蘭に資料を渡されそれに目を通す。

 明後日の夏祭りステージ。俺たちが夏休みに入って最初のライブになる。しかも最後の大トリで。

 

「よし!大体のことは決まったしコーヒー飲んだら練習に行くか!」

「巴…あたしたち楽器持ってきて無いんだけど。」

「あ…。」

 

 彼女達の為にも俺は自分が出来ることを精一杯やる。それが俺の……6人目のAfterglowの役目だから。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 夏祭り当日

 

 Afterglowの皆はそれぞれステージ衣装に着替える為に控え室にいる。その間俺はその場にいるわけには行かないのでそこら辺をうろうろしていた。

 

「よう!お前も祭り楽しみに来たのか?」

「……何してるんですか店長。」

 

 屋台越しに俺に声をかけてきた人物、それはバイト先のコンビニの店長だった。

 

「見ての通り屋台だよ屋台。祭りを楽しみながら金も稼げる!こんなにいい日はないぞ?」

「いや、お店の方は良いんですか?」

「安心しろ!今日は臨時休業だ!」

「ホント自由ですね…。」

 

 そんなことを話していると小さい男の子が「パパー」と店長の元に寄ってきた。

 

「おーおかえり~!あ、常乃。これ差し入れな。青葉達と一緒に仲良く食えよ!因みに俺の奢りだ。」

「ありがとうございます。」

 

 そう言われ俺はベビーカステラの入った袋を受け取り、店長にお礼を言ってその場を後にした。後ろから「頑張れよ!」と声がした。店長も体壊さないようにしてくださいよ、息子さんと奥さんの為にも。

 

「みんなー!今日も笑顔で行くわよー!」

 

 ステージに向かうとちょうど弦巻さん率いる異色バンド『ハロー、ハッピーワールド!』がライブをしていた。相変わらず弦巻さんの無茶なパフォーマンスに瀬田先輩と北沢さんが盛り上がり、松原さんが苦笑いして、美咲がそれをうまく納めている。こういった感じで見るとホント美咲の土壇場の強さはハロハピに無くてはならないものだなあと実感する。

 曲が終わり、それぞれが観客に手を降りながらステージを後にする。その中でミッシェル…いや、美咲が俺の方を見て小さく手を振った気がした。

 

「それでは次はPoppin'Partyの皆さんです。よろしくお願いします!」

 

「ポピパ!ピポパ!ポピパパピポパ!」

 

 アナウンスと共に戸山さん達が気合いを入れ舞台袖から出てきた。

 

「皆さーん!夏祭り楽しんでますかー!」

 

 戸山さんの声に会場は盛り上がりを見せていた。

 

「やっほ。遼も来たんだね。」

「まあな。」

 

 俺の親友…今井匡もここに来ていた。まあ…知られてはいないがこいつもポピパ関連の人物だからいるとは思っていたけどな。

 

「……にぎやかだな。ポピパは。」

「Afterglowだってそうでしょ?」

「否定はできないな。」

 

 軽く笑いながらそう答えた。こいつにとってもポピパは大切な居場所なんだということがよくわかる。

 

「そう言えばAfterglowはもうすぐでしょ?行かなくていいの?」

「そう言えばそうだった。」

 

「後でな。」と言ってその場を後にして皆の元に向かった。

 ステージ脇に行き、スタッフにAfterglowの関係者であることを伝え、確認をとってもらう。少しすると入ることを許可され、テント下に行った。

 

「すまん。遅くなった。」

「ホント遅いよ~?」

 

 戻って早々モカに怒られた。

 

「悪いな。差し入れでこれ貰って来たから許してくれ。」

「おお~カステラ~。」

 

 袋を差し出すと真っ先にモカが受け取って袋を開けて食べていた。

 

「お前1人じゃ無くて全員で食えよ?」

「ねえ遼くん、貰ったっていってたけど誰から?」

「バイト先の店長からだ。」

「そうなんだね。」

「店長には感謝ですな~。」

「後でお礼言っとけよ。」

 

 メンバーはそれぞれベビーカステラをつまみエネルギーを補給していた。

 

「ふう~。そろそろだよね。」

「ああ!くっ~!今から熱くなってきたなー!」

 

 ひまりと巴も準備万全とみた。

 

「つぐみ、大丈夫か?」

「うん!これまで頑張って来たしきっとなんとかなるよ!」

「よし、そのいきだ。」

「モカちゃんには何も言わなくて良いの?」

「まあ…モカはほっといてもなんとかするし大丈夫だr………いてえ!?」

 

 そう言ってる腕をモカにつねられた。

 

「おいお前何するんだよ。」

「……………つーん。」

 

 どうやらご機嫌斜めになっている。……全く、世話の焼ける彼女だ。

 

「ほらよ。」

 

 モカの頭をそっと撫でてやる。すると一瞬ビクッとしていて、そこから顔を背けたまま動かなくなった。

 

「あのさ…イチャイチャするのは後にしてくれる?」

 

 ジト目で蘭がそう言った。

 

「それと遼。あんたに渡したいものがあるんだけど。」

「なんだ?俺の誕生日ならまだ先だぞ?」

「そうじゃない。」

 

 蘭は近くにあった紙袋をそのまま俺に突き出した。それを受け取り中身を見るとそこには背面にAfterglowと書かれている黒いロングパーカーがあった。

 

「これどうしたんだ?」

「いや、あたしたちはライブで衣装として着てるけど遼だけ着ないからそう言えば作って無かったなって言われて。」

「これモカちゃんが気づいて提案したんだ。」

 

 モカを見ると相変わらず「へへ~。」とどや顔をしていた。確かに俺にそういった衣類は無い。それにあったとしても基本的にステージに立たない為に必要はないと思っていた。それでも…このパーカーは彼女たちが色々と考えて、頑張って作ってくれたのだろう。ステージに立とうが、裏方であろうがそんなことは関係がない。俺たちの間には確かに絆がある。

 

 このパーカーはその全てを物語っているように思えた。

 

「皆、ありがとな。」

「そーだ!せっかくだし着てみてよ!」

「確かに。どーせならライブ中はそれ着とけよ!」

 

 ひまりと巴の2人に促され「しょーがないな…」と苦笑いしながら、パーカーに袖を通した。着た感想としてはちょうどいい感じだった。

 

「おお~。似合ってるじゃ~ん。」

「うん。悪くないね。」

 

 5人が思い思いに感想を言っているとスタッフの人が「Afterglowの皆さん、出番ですよ。」と声をかけてきた。それと同時にポピパの皆もテント下に戻ってきた。

 

「それじゃ蘭ちゃん、よろしくね!」

「勿論。任せといてよ。」

 

 ポピパからバトンを受け取った蘭たちはそれぞれの楽器を手に取っていた。

 

「なあ遼…それどうしたんだ?」

 

 疲れていた筈の有咲が俺に訪ねてきた。恐らくこのパーカーのことだろう。

 

「これか?まあ…あいつらとの絆…ってやつかな。」

「……そっか。良かったな。」

 

 そう言うと有咲は俺の背中を軽く叩き戸山さんたちの元に向かっていった。一方で「遼~こっちこっち!」とひまりが呼んでいた。

 

「どうしたんだ?」

「ほら、私たちも気合い入れないと!この6人で!」

「………ったく、仕方ないな。」

「よーし!それじゃ皆行くよー!えい、えい、おー!」

「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」

「だからなんでやってくれないのー!?」

 

 そんなことをしていると「最後はAfterglowの皆さんです!」とアナウンスが入り、5人はステージへと上がっていた。

 

「Afterglowです。さっそくだけど1曲目……『That is How I Roll』。」

 

 ギターの音と共に演奏が始まる。

 Afterglowの……俺たち"6人"のステージが。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「いや~。疲れた疲れた~。」

 

 ライブが終わり、衣装から着替えたモカは俺の隣に座りながら俺にもたれ掛かっていた。あの後、他の4人はそれぞれで祭りをまわると言って俺とモカだけその場に置いていかれたのだ。多分だけど「2人で仲良くしてなさい」という意味だろう。

 

「遼~あたしたちのライブどうだった~?」

「ああ。凄く楽しかったよ。」

「でしょ~?」

「それに最後に『True color』を持ってくるとは思わなかったな。」

「それね~提案したのあたしなんだ~。」

 

 モカ曰く、俺たちのここまでの関係を1番表現されてるであろうこの曲を最後にしたいということだったらしい。そして理由はそれだけではなく、あれは皆からの俺へのメッセージなんだとか。

 

「……愛されてんな…俺。」

 

 改めて思った。俺は…皆と出会えて良かったと。

 

「ね~遼~。」

「ん?」

「あたしを選んでくれてありがとね。」

「……こちらこそ。」

 

 そう言うとモカは起き上がって「んー!」と背伸びをした。そして俺の方に振り向いた。

 

「今日遼の家に泊まってもいい~?」

「どうしたんだよ突然。」

「せっかくだし一緒にギター弾こ?遼のギター聴きたいし~。」

「全く…お願いの多い奴だな。」

 

 そう言って立ち上がると俺はモカの手を握る。するとモカもその手を握り返す。

 

 今年最初の夏祭り、その熱気が静まりつつある中でもこの2人の暖かさは下がることは無かった。

 

 これからもずっと…隣にいる為に。

 

 俺たちのいつも通りはこれまでとは違うものとなる。しかし、それはきっと…新しいいつも通りになるだろう。

 

 明日も…君と夕焼けを見る為に。

 

 

 

 




ここまでのご愛読ありがとうございました。

今回にて『いつも通りの日常に夕焼けを』は最終回となります。
ですが、このアフターストーリーはちょくちょく投稿していこうかなと思っております。やっぱり最初の作品だしモカちゃん作品だし飽きるまでやりたいので。それにもしかしたら気分次第で第2章もやるかもしれません。
ですのでもしよければ今後とも見てやってください!

話は逸れましたがこの作品は私、キズナカナタの初投稿作品でもあり、色々と至らぬところは山のようにありました。もしかしたら読者の中にも不快感を与えてしまった人もいるかもしれません。ですが、それでもここまで頑張ってこられたのはいつもこの作品を読んでくれている方、感想や評価をくださった方、お気に入り登録してくれた方、そしてtwitterなどで応援してくださった方たちがいたからだと思います。

まだまだ物書きとしては未熟な私ですが、こんな私でも良ければ今後とも応援よろしくお願いします!

まだ連載してる彩小説やりみ小説もありますのでそちらにも目を通してくだされば嬉しいです!

それではキズカナでした!

よければコメントや評価よろしくお願いします!

@twitter
kanata_kizuna









p.s.
‐2019年冬 スピンオフ作品始動‐





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日常編
夕焼けバレンタイン



いい感じの甘さを目指しました。




 

2月14日

 

 

この日に何があるか皆さんはご存知だろうか?

 

 

 

 

 

そう、バレンタインデーだ。

 

 

リア充やイケメン君はチョコを貰えるという1日で非リアや普通の人はそうでもない1日であるだろう。

 

 

最近は恋人チョコよりも女子同士で送り合う友チョコの方が流通してるので年々男子とは縁のないイベントとなっている。

まあ元々チョコレート会社の陰謀により出来た習慣みたいらしいし、外国では男性が日頃の感謝の印として贈り物をする人もいるのだからどうのこうの言うつもりはないのだが。

 

ぶっちゃけ友チョコくらいならあいつら知らないうちに用意するし。とりあえず断っておくが友人への贈り物感覚なので特に深い意味はないのであしからず。

 

 

とにかく今日も俺はバレンタインとか関係無しにいつも通りの日々を送る、以上。

 

 

 

 

 

なんだが…

 

 

「〇〇く-ん!私のチョコ受け取って-!」

「ちょっと!私が先にいたのに抜けがけしないでよ!」

「私のも私のも!」

「そんなことよりおうどん食べたい。」

 

この教室の入り口を塞ぐような人混みはどうにかならんのか。

 

「遼、おはよう。」

 

「おお。匡おはよう。」

 

「なんか凄いことになってるね教室…。」

 

「どうやって入るよこれ。」

 

うちのクラスにいるイケメン坊っちゃん目当てに教室前に群がる女子たち。俺たちは入口の隙間から入りなんとか席につく。

 

「そういえば今日香澄と朝あってさ、チョコ貰ったんだけど。」

 

「良かったじゃん。」 

 

「後、紗綾もチョコパンくれたし。有咲もチョコくれたし。りみとたえは夕方蔵来た時に渡すって言ってたし。」

 

「愛されてるなお前。」

 

「多分義理かもしれないけど。そういえば遼、今日は皆と一緒じゃないの?」

 

「ああ。なんか『後から行くから先行ってて』って。」

 

「もしかしてバレンタインかな?」

 

「知らん。」

 

「それにしてもあそこの…田中君だっけ?凄い人気だよね。」

 

「そりゃイケメン御曹司なんて狙わない奴はいないだろ。」

 

教室の入り口前の席にいる田中はかなりのイケメンで家も『田中財閥』といった有名グループでその御曹司だとか。まあ、財閥といっても弦巻こころの家にはかなわないだろうが。

 

「そういえばたくさん貰って『困ったな~』といっておいて全然そんなこと思ってない人って漫画とかでよく見るよね。」

 

「いるな。」

 

「ああいう人って基本的に言ってることと思ってること逆なのかな?」

 

「わからんぞ。本気でどうしようか悩んでる奴もいるかもしれん。」

 

「やあ、君たち来てたのか?」

 

そこに話の元になってた田中がやって来た。まあ、俺たちと田中は仲が悪い訳でもないし、田中も気さくな奴の為誰とでも分け隔てなく近くの人に声をかけるタイプだからな。

 

「そういや田中、お前さっきから『困ったな~』って言ってるけどどうした?チョコのことか?」

 

「いや~。本当に困ってるんだよ。どうせなら君たちにもこのチョコを分けてあげたいと思ってるくらいだよ。」

 

「それは皮肉か?」

 

「えっ?何で?欲しかったのかい?」

 

「今俺たちの中でお前の好感度は死んだぞ。」

 

「えっ?何故だい?僕は何か悪いことでも?」

 

「とりあえずお前がバカだということは言える。まあ俺たち相手だからまだ良いけど俺たち以外に言ってるとそのうち後ろから刺されるぞ。」

 

そういうと田中はなんのことかわからない顔をしながらどっか行ったがもう知らん。俺は忠告はしといたからな。

 

「あ、すまん。ああいう例外もあったわ。」

 

「凄い満面の笑みだったね。」

 

「あいつそのうち誰かから恨み買うぞ。」

 

「だよね…。」

 

「あいつ見てるとまだ瀬田先輩の方がぶっ飛んでるぶん相手しやすいんだけどな。」

 

「何で?」

 

「中途半端にボケられるよりもぶっ飛んどいてくれた方がはっきりとものが言えるから。」

 

「というか遼って慣れた相手になると以外とズバズバ言うよね。」

 

「仕方ないだろ俺はそういう性格なんだし。」

 

「遼~。やっほ~。」

 

突如後ろからもたれ掛かってくるモカ。いや、だから全体重かけてくるのやめてくれないかな?ちょっとキt「ん~?」だから地の文を平気で読むなよ。

 

「青葉さん…相変わらずだね。」

 

「そりゃ遼とモカちゃんの仲ですから~。」

 

「というかお前鞄持ったままのっかかってるだろ!?とりあえず鞄おろせ!原因それだ多分!」

 

「モカちゃんが重いって言うの~?」

 

「鞄の方だって言ってるんですが!?」

 

「おーい。モカ、その辺にしといてやれよ。」

 

巴の制止によりモカは俺から降りる。そして俺の元に蘭、つぐみ、ひまりもやって来た。

 

「ありがとな巴。……あれ?匡は?」

 

「匡くんなら『ちょっとお手洗いに』って言って席はずしたよ?」

 

「あいつ教室入ってくる前にトイレ行ってたよな?」

 

「とりあえず…ほら。これはアタシからだ。」

 

巴から赤いラッピングが施された箱を渡された。

 

「今日バレンタインだろ?あこと一緒に作ったんだけど…ちょっと焦げちゃってな…。」

 

「いや、十分嬉しいぞ。ありがとう。」

 

「トモち~ん。アタシのは~?」

 

「モカの分もあるよ。ほら。」

 

「おお~。ありがたや~。」

 

「私からもあるよ~。ほら!」

 

ひまりはピンクの可愛らしい袋に入っているものを渡して来た。

 

「お手製の生チョコだよ!遼甘いもの好きだから今年はミルクチョコにしてみたんだ。」

 

「おお、そりゃ楽しみだ。ありがとう。」

 

「じゃあ私からも、はい!」

 

つぐみが渡して来たのはひまわりの柄が入った透明な袋だった。そしてその中にはかなり出来のいいクッキーが何枚か入っていた。

 

「凄いな。まるで店で売ってるような完成度だな。」

 

「そうかな?」

 

「ああ、大切に食べさせてもらうよ。ありがとう。」

 

「・・・・・・」

 

「どうした蘭。」

 

「ほら…これ。」

 

蘭が渡して来たのは赤い包装紙に巻かれた。箱だった。でもそこに貼ってあるシールや巻き方からして市販のものではないらしい。

 

「……あんまり美味しくないかもだけど。」

 

蘭が顔を赤くしながら呟いた。そして俺はそれを受け取った。

 

「ありがとうな蘭。その気持ちだけでも凄く嬉しいよ。」

 

「~っ!私自分の教室帰ってるから…。」

 

そう言って蘭は俺たちの教室を後にした。…顔をタコのように真っ赤にしながら。

 

「どうしたんだ蘭?」

 

「遼~?」

 

「ん…………どうしたよモカ。」

 

振り向くとジト目でこっちを見ているモカがいた。

 

「遼の女たらし…。」

 

「ヴェ!?」

 

いや、女たらしってなんのこっちゃ。

 

「もうモカちゃんのあげないからね~。」

 

ど う し て そ う な っ た ! ?

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

それから授業を普通に受けて放課後に。今日は皆から貰ったチョコがあるため真っ先に帰ろうと思ったその時、鞄の中に1通の手紙が入っていた。そこには『放課後に屋上来てね~。』とだけかかれていてその言葉の通りに屋上に向かうことに。大体こういうのってチンピラが勝手な因縁つけて金を巻き上げようとする展開があるが今回はそうではないと確信できる。なぜなら…

 

「やほ~。」

 

送り主がこいつ(青葉モカ)だからだ。

 

「なんのようだ?というか蘭たちはどうしたよ?」

 

「蘭たちは先に帰って貰ったよ~。それに~まだモカちゃんは用事が終わってないし~。」

 

「用って何なんだ?」

 

そう言うとモカは1つの袋を渡してきた。

 

「ありがとう…。」

 

「それで~その袋あけてみて~。」

 

俺は言われた通りに袋をあけた。そこには1つのチョココロネが入っていた。だがいつものやまぶきベーカリーのものとは違う。ところどころ形がいびつな為モカの手作りであると思われる。だがそんなことはどうでもいい。正直俺はかなり感動している。

 

「食べてもいいか?」

 

「モチのロン~。」

 

本人の許可がおり、俺はチョココロネにありつく。正直甘い。チョコをパンにも混ぜてる為だろう。だが不思議と嫌ではなかった。すんなりと口に入り一口、また一口と味わってると気づいたら完食していた。

 

「モカらしい味だな…。」

 

「ん~?どうしたの~?というかいい食べっぷりだったね~。」

 

「ああ。結構悪くなかったな。」

 

「そりゃそうでしょ~。さーやにも協力して貰ったんだから~。」

 

「まさかやまぶきベーカリーに自らパンを作りに行ったのか?」

 

「そりゃあ作るなら美味しいもの作りたいからね~。」

 

「本当、パンに対する情熱凄いよな。」

 

そのままモカは「遼が美味しそうに食べてるの見たらアタシもお腹すいちゃった~。」といい何処から取り出したかチョココロネを食べ始めた。

のだが…

 

「ん~。」

 

チョココロネの一部分をちぎり俺に渡してきた。食べろと言うことなのか?と思い素直にそれを受けとる。

 

「遼~?」

 

「なんだ?」

 

「夕焼けが綺麗だね~。」

 

「…そうだな。」

 

 

その言葉の意味は偶然かどこかで聞いたような言葉のようだった。

 

 

 

だが、今の俺はその言葉の本当の意味に気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 





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青葉モカ生誕祭SP

 

 

 誕生日。

 特定の人や動物等の生まれた日、あるいは、毎年迎える誕生の記念日のこと。(wiki調べ)

 

 さて、何故突然こんなことをいい始めたか察しのいい人ならわかるだろう。

 明日、9月3日は俺の恋人であるモカの誕生日である。つまり俺にとっても大切な日である。何しろ大切な恋人の誕生日なのだからな。

 

「…と言うわけでショッピングモールに来たものの何を買うべきか…。」

 

 しかし俺は肝心なところで行き詰まっていた。モカの誕生日プレゼントといってもどういったものを買えばいいのかわからない状態だった。「お前約1ヶ月前から付き合っていてそれは彼氏としてどうなんだよ」と思う方もいるだろう。うん、そういわれても仕方ない。

 いや、これでも多少は候補とかはあるんだ。モカの好きなものと言えばパン。そこから導き出される答えで言えばやまぶきベーカリーの超人気パン、あるいはパンに関連したグッズ…クッションやキーホルダーなどといったものがある。しかし、誕生日にそれを贈るのはなんか違う気がした。

 

「かといって下手なもの買って好みじゃないとか言われてもな…。」

 

 そう、一番怖いのがそこだ。

 モカはとても優しくていい子だからそう言うことはまず言わないだろう。しかし、ここでそれを不安に感じてしまうのは人のサガなのかもしれない。

 

「さて、どうしようか…。」

「あれ?遼?」

「ん?」

 

 誰かに呼ばれて後ろを振り向くとそこには俺のバイトの先輩である『今井リサ』がいた。

 

「ここで会うなんて偶然だね~☆それにしてもどうしたの?そんなしかめっ面で。」

「今人生で1、2を争うほどの悩みごとをしているのでね。」

「何々?相談ならお姉さん乗ってあげるけど?」

 

 ここで相談したらなんか負けな気もしたが、このまま悩み続けても拉致があかない。そう思った俺は腹を割ってリサさんに聞いてみることに。

 

「なるほど。それで何を買えばいいかわからないと。」

「リサさん何か知りません?あいつの好きそうなものとか。」

「う~ん…パンとか?」

「それも考えたんですけどね…。なんか違う気もするんですよ。」

「じゃあ……漫画とかは?」

「うーん…モカの好きそうなやつってどれなんだろ?」

「というかさ……ぶっちゃけそこまで悩まなくてもいいと思うけどな…。」

 

 酷く悩む遼に対してリサはこう言った。

 

「遼とモカは恋人同士なんだよね?」

「まあそうですが…。」

「だったら遼がモカが喜んでくれると思った物を選びなよ!ぶっちゃけ恋人同士なら好きな人が選んでくれたものって何であっても嬉しいもんだよ?」

「……そういうもんなんですかね?」

「そういうもんなの。」

「わかりました。アドバイスありがとうございます!」

「うん!頑張れ☆」

 

 リサに一礼すると遼はその場から立ち去っていった。その姿を見ながらリサは微笑ましく思いながら「ふう」と一息ついていた。

 

「あ~あ、アタシもあんな青春してみたいな~。……な~んて。」

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 誕生日当日。

 

 モカを除くAfterglowの面々は羽沢珈琲店で集合してターゲット(モカ)が来るのを待つ。そろそろ来る頃合いだろう。こちらは準備は万全。いつでもかかってこい!

 

pppp…

 

ピッ

 

「こちらひまり、モカが店前にいるのを確認しました。」

「よしわかった。計画に移せ。」

 

ピッ

 

 俺とひまりの連絡が終わり遂に行動に移すことに。えっ?さっきのやり取りはなんだったのか?いや、1度はやってみたくなるだろこういうスパイみたいなやつ。

 

 カラン、と店の扉が開く音がなる。それと同時に蘭達がモカにクラッカーを一斉放射した。

 

「「「「モカ(ちゃん)、誕生日おめでとう!!!!」」」」

 

 4人の声でモカ(主役)をお出迎えしたところで俺は例のブツを持ち皆のところに向かう。

 

「ハッピバースデートゥーユー…ハッピバースデートゥーユー…」

「いやいやいやいや待って待って待って待って」

 

 ロウソクに火がついたケーキを運んでいたところをひまりに止められた。

 

「なんだひまり。せっかくいい感じに進んでたのに。」

「いやいや、怖いから!下からロウソクで顔照らしてたら怖いから!後歌声低いって!もうちょい声高くしてよ!」

「いやこういうもんじゃないのか?」

「軽く放送事故だよ!!?」

 

 と、俺とひまりのやり取りを他の4人が苦笑いしながら見ていた。

 

「とりあえず…ケーキの火消そっか。」

 

 つぐみが上手く空気を転換してくれた為、なんとか持ち直すことは出来たが……俺そんなに顔怖かったか?

 

「それじゃ改めて…」

 

「「「「「モカ(ちゃん)、ハッピーバースデー!!!!!」」」」」

 

 俺たちがそういうとモカは一気にロウソクの火を消した。

 

「みんなありがとね~。」

 

 相変わらずのんびりした口調ではあるがとても嬉しそうだ。

 

「それにしてもこのケーキ凄いね~。つぐとひーちゃんの共同作業かな~?」

「モカ…それ作ったの遼だぞ?」

「えっ?」

 

 巴からその事を聞くと「うそーん」というような顔をされた。いや、一応『Afterglwのオカン』なんて名前つけられてたのお忘れなのか?

 

「遼くんが『これは俺に任せて欲しい』って言ってたからさ…。昨日からずっと頑張ってたんだよ?」

「遼~あたしは嬉しいよ~。よよよ~。」

「いや泣き方。」

「ねえ、どうでもいいかもしれないけど料理冷めるよ?遼が作ったやつ。」

 

 蘭のお陰で再び軌道修正した俺たちはその後、それぞれが用意したプレゼントをモカに渡した。

 ひまりはオシャレなネックレス、つぐみはモカに似合いそうなショートパンツとパーカー、巴はパンの座布団みたいなやつ、蘭はギターのピックと腕時計と色々なプレゼントがモカに渡された。因みに俺はモカが前から気になると言っていた漫画セット(初回封入得点つき)をプレゼントした。こんなものではあったが、モカは満足そうに受け取ってくれたので悩んだかいはあったというものだ。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「ふう~食べた食べた~。もうお腹いっぱい~。」

「まさかあの量の料理をほぼ一人で食うとはな…。」

 

 夕暮れになりパーティーはお開きとなって帰路についていた俺たちの間にはさっきまでの思い出話が飛び交っていた。

 特に驚いたのが俺が沢山用意していた唐揚げ、ミニハンバーグ、サラダ、フライドポテト等は3分の2をこいつが平らげたことだ。結構な量作った為最悪余るかもしれないと思っていたのだが、その不安は意図も容易く解消されてしまった。

 

「やっぱり遼の料理は最高だよね~。結婚したら遼は主夫になればいいんじゃないの~?」

「それだと稼ぎ少なくなるだろ。俺も定職にはちゃんと就くって。」

 

 そんな話をしていたのだが、人気の少ないところに来たとき、モカは足を止めた。

 

「ねえ遼…。あたしもう1つ欲しいものがあるんだけどさ…我が儘言っていいかな?」

「なんだよ?別に遠慮しなくてもいいぞ?パンなら今からやまぶきベーカリー行くし食べたいものあるなら帰って作るs」

 

俺がそう言っていた時、モカは俺に近づき背伸びをした。そしてそのまま顔を近付けて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キスをしてきた。

 

「……えっ?……モカ?」

「ふふ~ん。モカちゃん大勝利ですな~。」

 

 突然のこと過ぎて俺の思考は全く働いていなかった。

 

「えっ?欲しいものって…。」

「それは~遼のファーストキスだよ~。ほら~あたしたちって付き合い始めてから今までキスしてこなかったじゃん?」

「確かに。」

 

 因みに付き合い始めたのは夏休み前…7月末だろうか。そして今は9月。つまり約一ヶ月ほどキスをしていなかったのだ。

 

「どうだった~?モカちゃんの唇の感触は~?」

「あーえーっと……柔らかかった…かな?」

「じゃあ~もう一回やる~?」

「いやいや、今ここ外だから!やるなら家帰ってからな!」

「つまり~家の中なら好きなだけキスしてもいいってことだよね~?」

「あーもう帰るぞ!」

「あ~。ちょっと待ってよ~。」

 

 先を行く俺の後を追いかけるモカ。再び二人が隣に並ぶと俺たちの手は気付かないうちに繋がれていた。

 

 何時もより少しだけ騒がしい1日になりそうだけど…やっぱりこの瞬間が俺は好きなのかもしれない。

 

 

 

 

 モカ、産まれてきてくれてありがとう。

 

 

 

 

 





モカちゃんお誕生日おめでとおおおおおおおお!!!!!!

なんとか間に合ってよかったです!モカちゃんの誕生日は祝わなければ後悔する!というか推しの誕生日は祝わなければ後悔する!ということで急ピッチで書き上げました!

そしてようやくキスしましたうちのモカと遼!この為にここまで引っ張って来たのだよ!
それはともかくパーティー描写が殆どなかったのはマジですみません。本当に誕生日パーティーってやったことないし参加したこともないのでどういうものかわからないんです。ホントこれで勘弁してくださいm(_ _)m

良ければ感想や評価よろしくお願いします!

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秋と紅葉と変わるもの

 

 とある秋の日、遼は町外れの公園に来ていた。

 

 少し広めの敷地に並んだ紅葉の木は先が赤く染まっていて、そこから零れ落ちる葉っぱにより地面も紅く染まりそうな雰囲気だった。

 休日を利用してその場にやって来た遼はスマホのカメラ機能を使用してその場の風景を画面に納めていた。

 

「やっぱり去年とは違うな…」

 

 そう言いながら画像フォルダを探り、1年前にこの場所で撮影した紅葉の写真を見た。同じ場所、同じ季節に撮ったものではあるがよく見ると枝の形、葉っぱの色など異なる部分が色々と見られた。

 季節は巡り、再びやってくる。しかし、それが全く同じという訳ではない。時は進み、歴史は刻まれ、世界は変わっていく。以前がそうだったからといってずっとそのままであるとは限らない。それがこの世の理なのだろう。

 

 しかしそれは悲しいようでもある一方で、良い意味で変わっていくこともある。もちろん彼も…

 

「おお~ぜっけ~。」

 

 変わっている。

 去年までは1人でここに来ていたのだが、今年は恋人となった幼なじみと共に来たのだ。

 

「こんな良いところあったのならもっと早く連れてきてくれれば良かったのに~。」

「俺だって1人になりたい時はあるんだ。それに…」

「それに~?」

「いや、何でもない。」

 

 モカから目をそらし再び紅葉に目を向けた。

ひらりひらりと舞い散る赤い葉っぱはまさに秋の風物詩と言うべきだろう。

 近くのベンチに腰を下ろし、一息をついていた時、口の中に何かを入れられた。その拍子で隣をみるとお菓子のようなものが入った小袋を持っているモカがじーっと見ていた。

 

「……ところでお前何持ってんの?」

「ん~?紅葉クッキーってやつだよ~。さっきそこで売ってて気になったから買ってきちゃった~。」

 

 モカが持つ袋を見ると確かに『紅葉クッキー』という文字が書いてあり、彼女の奥に見える屋台ではそれっぽさそうなものを売っていた。

 

「成る程な。去年はあんなの無かったのに。」

「今年から始まったって感じ~?」

「おおよそな。もう一個もらって良いか?」

「どぞ~。」

 

 袋からもう一枚取り出すとモカも自分が食べる用にもう一枚取り出した。そして二人はほぼ同じタイミングで口にクッキーを入れた。サクサクとクッキーを食べる音が二人の間に流れるという不思議な時間を体感していた。

 

「どうですかな~?」

「……まあまあってところだな。」

「おお~同じ意見だ…。」

「というかリサさんのクッキーに舌が慣れたのかお菓子売り場のクッキーがどれも普通に感じてしまうんだよな…。」

「わかりみが深いですな~。」

 

 彼らの言うリサという少女は二人のバイト先のコンビニの先輩でもあり、Roseliaというバンドのベースも担当している。お菓子作り…というか彼女の作るクッキーはとても評判が良く、どんな人でも満足するような仕上がりになっているのだとか。

 

「俺もお菓子はたまに作るけどクッキーだけはあの人を越えられる気がしないな。」

「ま~リサさんは最強のお嫁さんになれる素質があるからね~。」

「だな。あの人と付き合った人は相当恵まれてるな。」

 

 因みにこの会話をしていた時、とあるお宅では銀髪ロングヘアーの少女と一緒にいるギャルっぽさそうな少女は思わずくしゃみをしてしまったらしい。

 

「それにしてもさ~どーして急にあたしを誘ったの~?」

 

 モカの口から出た疑問を聞いた遼は少しの間、近くの紅葉を眺めていた。そして何かを考え込むようにし、少ししたら口を開いた。

 

「……何でだろうな。俺にもわからん。」

「もしかしてただの気まぐれ~?」

「ま、そんなところだ。」

 

 彼の答えに納得がいかなかったのかモカは少しムスッとしていた。

 

「まあ理由があるとしたら……お前には俺が見ていた景色を知っておいて欲しかったのかもしれないのかもな。」

 

 モカの持つ小袋からクッキーを一つ取り再び口に入れて食べていた。そんな彼を見たモカは何を思ったのか遼の方に頭を乗せて寄り添うようにしていた。

 

「どうした?」

「いや~なんかこうしたくなっちゃって~。」

 

 顔が近いため表情は見えないが遼はなんとなく落ち着いたような雰囲気であるのは理解できた。

 

「なんかさ~こうして二人だけが覚えてる思い出の場所があるのって良いよね~。」

「確かにな。」

「ねーねー遼~」

 

 モカが呼び掛けたことにより遼は彼女の方を向く。

 

「これからもさ…二人の思い出いっぱい作っていこうね~。」

 

 にぱっと笑いながらそう言うモカを見た遼はなんだか心が温かくなったような気がした。季節は秋ということもあり周りの温度は少しずつ低下しているため、吹き付ける風が体を冷やしていたが、そんなことは全く気になっていなかった。

 遼は照れ隠しなのかモカの頭をくしゃくしゃと掻き撫で、一方のモカは「ん~」と少し抵抗しつつもどこか嬉しそうな表情を見せた。

 

「ね~、最近あたしの頭くしゃくしゃするの多くなってない~?」

「あー…すまん。つい癖で。」

「せっかく髪の毛纏めたのに~。」

「わかったわかった。これからはなるべくやらないようにするからさ。」

 

 そう言われたモカは意外にも「え?」と言いたそうな顔をした。

 

「……何その顔。」

「別に~。」

「……やって欲しいのか?」

「……さあ~?」

「いや、何で疑問形で返すんだよ。」

 

 と、こんな感じで恋人同士と言えば良いのか幼なじみ同士と言えば良いのかわからないような雰囲気を醸し出していた。

 その時、少しだけ拗ねたような表情をしていたモカを見て、遼は手元にあった自身のスマートフォンを取り素早くカメラ機能で彼女のその顔を写真に撮った。

 

「ね~今何撮ったの~?」

「いや、ちょっとそこの風景を…」

「怪し~。ちょっとそのスマホをこっちに渡してもらおうかな~?」

「断る。」

「え~モカちゃんも遼が撮った風景写真見たいな~。風景撮ってるなら勿論見ても良いよね~?」

「嫌だね。これは俺の最高の1枚なんだから。」

「あれ~?こんな可愛い彼女に隠し事かな~?なんと罪深い彼氏何だろうね~?」

 

 と……もし近くに人がいたら「家でやれ」と言いたくなるような2人のやり取り。結局このあとモカが彼のスマホを手にしたのか、それとも遼が自身のスマホを死守したのかはわからない。

 それでもこの展開も2人にとっては今しかない大切な思い出となるのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 尺が余ったのでちょっとしたおまけ 

 

 

 モカと紅葉狩りに行った後日、遼はいつものコンビニでアルバイトに励んでいた。

 

「ありがとうございましたー。」

 

 お客さんの対応を終え、お店から出ていくのを見送った後、一息つくように背伸びをしていた。

 

「お疲れー。今日も仕事熱心だねー。」

「お疲れ様です。今からですか?」

 

 彼のレジの隣に来たのは遼とモカの先輩(色んな意味で)である今井リサ。現時刻は朝10時だとういのに相変わらずテンションが高いなと心の中で遼は思っていた。

 

「遼は9時からだったっけ?」

「はい。何故かここ最近俺だけ早い出勤なんですよね。」

「あはは…。まあ…お疲れ様?」

 

 少し苛立っているのが口調からわかったのかリサは苦笑いしながら労いの言葉をかけた。

 

「そう言えば…この間モカとデートしたんだっけ?」

「……何故それを?」

「いや~ひまりが『皆、羽沢珈琲店で一緒になったけどモカと遼だけいなくて、モカに聞いたらデートしてたみたいなんです』って言ってたからね。」

「はぁ…。あいつは…」

 

 「ひまりのやつ…」とぼやいてる遼をリサは「まあまあ…」と落ち着かせていた。

 

「それにしても今回は遼から誘ったんだっけ?なんか珍しいね。」

「そうですか?」

「うん、いつもはモカが遼を引っ張ってて、遼はモカに振り回されている感じだからさ。」

 

 リサに言われて「そう言えば…」と遼はこれまでを思い返した。突然家にモカが押し掛けて、そのままモカに流されるままに一緒にいた感じだったと。だから端から見ても今回のようなケースは結構珍しいのかもしれない。

 

「……まあ、俺にもあいつに一緒にいて欲しくなる時はあるんですよ。」

「ふ~ん。それで~どんなことしたの?」

「………黙秘権を執行します。」

 

 そう言うとリサは「ええ~」と不満そうに言った。

 

「(まあ…こんなことモカの前ではそう言えないけどな。)」

「ね~。ちょっとくらい教えてよ~!」

「その前に仕事してくださいよ……」

 

 と、お客さんの来ない時間のレジで先輩と後輩の彼ららしいやり取りが行われていたとか。

 

 

 




お久しぶりです。
こっちは完結してるからもう更新されないと思った?
残念、気まぐれでこちらも更新していきます!
と、いうわけで今後もモカちゃんの可愛さをとにかく布教していきたいです。

良ければコメントや評価よろしくお願いします。

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巡りあった2つの日常(コラボ回)


どうもキズカナです!
今回はなんと……キズカナ、初コラボです!
コラボさせて頂くのは「日常の中にチョコより甘い香りを」を初めとするいろんな作品を書かれているぴぽさんです!
コラボということでこれまでとは少し違ったキズカナ作品となっておりますが楽しんでくださると光栄です!
それではどうぞ!




 

 ここはCiRCLE。

 世はまさに『大ガールズバンド時代』なるものを迎えており、多くの少女がここでバンドの活動に励んでいる。

 

「さて、そろそろ潤くんも上がる時間だね。」

「そうですね。じゃあその前に部屋の掃除して来ますね。」

 

 まりなの掛け声によって1人の青年が行動を開始する。その男の名は一宮潤。CiRCLEでバイトをしていて、とても真面目な青年である。因みにどこかで聞いた話だが、彼にはとても可愛らしい彼女が……おっと失礼、うっかり先まで読んでしまいそうになりました。

 

「あれ…?2番スタジオってAfterglowが使ってて……月島さん、Afterglowの皆さんって確か帰られた筈ですよね?」

 

 潤はその時、外の掃除をしていた為彼女らの接客はしていなかったが、確かに掃除をしていた際、Afterglowのメンバーが帰っているのを目撃してた。

 

「あ、そこはまだ彼が使っているんだ。」

「彼?」

「うん。Afterglowの6人目の子なんだけど…会ったこと無いかな?」

「いえ。というか6人目がいたこと事体初耳なんですが…。」

 

 彼は突然の事実に驚いていた。何しろAfterglowはガールズバンドであり5人。どこにも6人目がいるなんて話は聞いたことが無かったのだ。それも男であると言われてもにわかには信じがたいものだ。

 

「彼もそろそろ時間だしせっかくだから会ってきたら?潤くんと気があうかも知れないよ?」

「いや、でも僕バイト中なんですが…「じゃあ掃除も兼ねて行ってくれば良いじゃん!」…はい…。」

 

 潤はまりなに言われて2番スタジオに向かう。6人目のAfterglowと言われて少し気になるところはあったが、それがどんな人なのか情報が無いため少し不安になるところもあった。スタジオに着き、扉を開けると中からギターの音が聞こえてきた。

 アコースティックギターの音と思われる音色は優しく、力強く、それでいて軽やかなものだった。聞こえて来るのはAfterglowの曲『Scerlet Sky』だろう。彼女らの演奏が心を弾ませるような熱いものとするなら、彼の演奏はアコギの特徴を生かしたような、しなやかでありクールなもの…というべきだろうか。

 その演奏に潤は聴きいってしまった。6人目のAfterglowの演奏はAfterglowでありながらAfterglowでない、そんな感じがした。しかし、その演奏の中にも傍ら彼女たちの面影が見えた。彼女らの音楽の特徴、彼女たちらしさを残した上で彼らしさをそこに加えている。そんな感じがしたのだった。

 

「ふう…。とりあえずはこんな感じか?」

 

 演奏を終え、時計を見た遼は「もうこんな時間か。」と言いながら片付けを開始し始めた。そんな中で遼は潤がいたことに気づいた。

 

「あ、すみません。すぐに撤収しますので。」

「えっ?…あの、あなたがAfterglowの関係者ですか?」

「ん?何処かで会ったことありましたっけ?」

「いや、初めてですが…。」

「そうか…。あれ?じゃあなんで俺のことを?」

「実は月島さんが『Afterglowの6人目』がいると言ってたので気になって…。」

「なるほど…。じゃあもしかして君はモカ達のこと知ってるのか?」

「ええ。よくここを利用してくださっているので。」

「そっか。」

「それと多分僕とあなた同年代ですよね?」

「え?俺は16ですけど。」

「僕も同じですね。」

「そうなのか。じゃあそこまで畏まる必要もない…のか?じゃあ折角だしもうちょっと砕けるか?」

「いや…今は仕事中なのでお客様には丁寧に対応すべきかと…。」

「あ、そうなの?」

「すみません、仕事中以外なら砕けて話しますので…。」

「いやいや。俺も無理言って悪かったよ。」

 

 潤に言われて軽く遼は咳込んだ。

 

「それにしても僕結構ここでバイトしていたんですけど1度もあなたを見たことが無いんですが…。」

「奇遇だな。俺も同じことを考えていた。」

「うーん…。Afterglowの皆がカウンター来るときはいつも5人だったし…。」

「俺は立場上よく彼女達と来る時間がズレたりするからな。おそらく君がカウンターにいるタイミングと俺が来ているタイミングが微妙にズレていたんだろう。その為、お互いこれまで出会わなかったんだと思われるが。」

 

 遼が推測した答えに対して「そんなに偶然って重なるものなのかな…。」と潤は反応に困っていた。

 

「ともかく、こうして遭遇出来たんだしいいんじゃないか?」

「そうですね。」

 

 そう言いながら潤は遼が片付けている途中だった年期の入ったギターを見た。

 

「そのギターって…。」

「これか?俺のじいちゃんから譲り受けたものだ。時々こうして使っているんだ。」

「そう言えばさっきの演奏凄かったです。」

「聴かれていたのか。そんなにたいしたものじゃ無いんだけどな。」

「なんか…Afterglowの面影を残しながら自分自身を取り入れてるって雰囲気でしたけど…あってるんですかね?」

「おお。君、中々やるな。俺が気を付けていることを見抜くとは。」

 

 そこから2人の会話は盛り上がり、10分ほど話していた。

 だが、彼らは重要なことを見落としていた。普段ならこんなことは気づくことが出来る彼らなのだが、お互いの話が予想以上に盛り上がったせいか些細なことに気づかなかった。

 えっ?何を見落としていたのかって?それは…。

 

「ふーたーりーとーもー?」

 

 突如スタジオの扉を恐ろしいほどの笑顔で開けてきたまりなに2人は驚いた。

 

「潤くん、スタジオの掃除いつまでかかっているのかな~?それと遼くんはこれ以上ここに居座るなら延長料金払ってもらうよ~?2人とも今の時間わかってる?」

「「・・・・・すみません。」」

 

 2人が時計を見ると既に遼の使用終了時刻、そして潤のバイト上がり時刻を過ぎていた。その為、まりなもご立腹なのか顔は笑っていたものの、声と纏っているオーラから普段の優しい姿からは想像出来ない何かを発していた。

 

「と、いうわけで2人とも早急に撤収お願いね?あ、ここの掃除はペナルティとして2人でやって貰えるかな?」

「「……はい。」」

 

 彼女に言われるまま2人は協力して掃除を行った。そしてその際に気付いたことだが…

 

まりなさん(この人)は絶対に怒らせてはならない。』

 

 それを痛いほど実感したのだった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 後日、遼は羽沢珈琲店でアイスカフェオレを飲んでいた。はいそこ、「こいついっつもこのシーン使うな」とか言うんじゃないよ。大人の事情につっこむやつは馬に蹴られるぞ。

 

「……なんだか気が合いそうな人だったな。」

 

 遼は以前あった青年『一宮潤』のことを思い出していた。

 遼から見た潤の印象はとても真面目で不器用な感じだった。なんとなくではあるが自分と似たようなところがあると感じていた。

 

「遼くん、今日もモカちゃんと待ち合わせ?」

 

 この店の看板娘でもある羽沢つぐみが遼に声をかけてきた。因みに彼女の言う『モカちゃん』というのは遼の彼女である『青葉モカ』という少女である。まあこの作品をいつも読んでくれている読書様はわかってくれている筈(メタい)

 

「いや、別に待ち合わせとかはしてないんだ。」

「そうなの?」

「ところで…つぐみは一宮潤という人物を知っているか?」

「一宮さん?知ってるけどどうしたの?」

「いや…この間ちょっとな…。」

 

 そんなことを話しているとお店の扉が開き1人の青年が入店した。

 

「いらっしゃいませ……一宮さん!」

 

 つぐみがその人物の名を呼び遼もその方向に視線を向ける。

 

「あ、羽沢さん。すみません…お邪魔するね?」

「いえいえ…それにしても本当久しぶりですね。」

「うん、確か前に来たのは夏希ちゃんと待ち合わせした時だったかな?」

「そうでしたっけ?」

「うん。今日はちょっと暑いから…帰る前に少し休憩しようかと思って。」

「全然大丈夫ですよ!とりあえずお冷持ってきますね?」

 

 つぐみはそう言って奥にお冷を取りに行った。

 

「久しぶりだな。」

「えっと…常乃さんでしたっけ?」

「あー……俺たち確か同年代だったよな?だったら『さん』とか敬語無しでいいんだけど…」

「そう何ですか?」

「ああ。なんか同じ歳くらいの人に敬語とか使われると落ち着かなくてな…。」

「じゃあ…遼君でいいのかな?」

「ああ…なんか悪いな。」

 

 そのまま「相席いいかな?」と潤は遼に聞き、遼もそれを承諾した。

 

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 

 と、同じテーブルに設置された椅子に座ったことのは良いもののいきなり過ぎた為か全く話題がなく、2人の間にだんまりが続いていた。

 

「「あーあのさ?」」

「あっ。」

「すまん、先にどうぞ。」

「いやいやそちらこそ…。」

「では遠慮なく…。夏希ちゃんって誰?ひょっとして彼女?」

「違います…じゃなかった違うよ。え~と、説明が難しいんだけど…」

 

 潤は「話せば長くなるよ?」とだけ呟き、遼はなにかを感じながらも彼の言葉に頷いた。それを見た潤はゆっくりと過去の出来事……夏希という少女、そしてその少女の姉…秋帆のことを…。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 それから少しの時が経ち、潤は一件に関する出来事を一通り話終えた。それを聞いた遼は少し難しい表情をしていた。

 

「そうか…。……悪かったな、嫌なことを思い出させたみたいで。」

「いや、何でか遼君には話しても大丈夫だと思ったんだ。理由はわからないけど。」

 

「そっか…」と言い、再びアイスカフェオレを啜った。

 

「はい潤くん、アイスコーヒーお待ちどうさま!遼くんも、アップルパイです!」

 

 そこにつぐみが2人が注文していた品を運んできた。商品を受けとるとそれぞれが注文したものに手をつけていた。

 

「ん?そう言えばさっきの話し聞いてて思ったんだけど…潤は今他に彼女がいるってことか?」

「うん、そうなるかな?」

 

 そう言いながら再び潤はアイスコーヒーを啜った。

 

「その子とは今も仲良いのか?」

「うん。」

「それでなんだけど…遼君はいるの?」

「……?なにがだ?」

「いや…彼女とか…。」

 

 そう聞くと遼は「そういうことか…。」と納得したように顔を上げた。

 

「まあ、いるのはいるけど……対して面白い話でもないぞ?」

「うん、全然大丈夫だよ。」

「わかった。」

 

 そして今度は遼が語り始めた。Afterglowと自身のこと、そしてその中でも最も自分を気にかけ、そばにいてくれた1人の少女について。

 

 

「…………というのが大まかなところだな。」

「なるほどね。」

 

 遼の話を聞いた潤はアイスコーヒーを一口啜っていた。

 

「やっぱり遼君はAfterglowが大切なんだね。」

「まあな。あいつらと出会って無かったら多分俺は今ここにはいない。あいつらに会えたからこそここまで折れずにやって来れたと言えるほどだからな。」

「成る程ね。」

 

 潤は納得したように頷いていたが、遼が語っていた中で1つ気になるところがあった。それは…。

 

「そう言えば遼君が言ってたモカって……青葉さんのこと?」

「ん?そうだけど?」

「………マジで?」

 

 潤はどういうわけか驚いたような表情をしていたが、遼にはその理由がわからなかった。

 

「どうした?」

「いや…遼君と青葉さんって結構雰囲気正反対だったから少し意外だなって…。」

「あー…。それよく言われるわ。」

 

 苦笑いをしながら遼は返答した。

 

「そう言えばさっきはハッキリとは言ってなかったが潤の彼女って誰なんだ?……あ、言いにくいことを聞いたのならすまん。」

「いや、大丈夫だよ。別に隠してる訳じゃないしね。……ポピパの子達はしってるよね?」

「ああ。交流も意外とあるからな。」

「実はそのポピパのベース担当の子なんだけどさ」

「牛込さんか?」

「うん、僕の彼女……りみなんだ。」

 

 そう言われて遼は「ああー…。」と納得していた。

 

「なんか最近牛込さんの雰囲気がなんか違うな~って感じはしてたんだがまさかそういうことだったとは。」

「あはは…最近よく言われてるみたいなんだ。」

 

 話をしながら2人は再びドリンクを口にした。アイスコーヒーを飲み干した潤は窓の外を見ながら「秋帆にも色々迷惑かけちゃったな…。」と呟いていた。

 

「…え?」

「いや、実はりみと付き合う前の出来事でね、夢だったのかどうかはわからないけど…秋帆とあったんだ。その時に色々と怒られたんだ。

 でも……もし夢だとしてもあの時秋帆に会えて良かったと思ってる。秋帆にあんなに言われなかったら…僕はまだ決心がついてなかったかもしれないからね。」

 

 その時の潤はまるで凄く昔のことを話しているみたいだった。

 

「それに…秋帆と約束したんだ。りみを大切にするって。」

 

 そう言いながら窓から空を見上げる。そこに彼女がいるという訳ではないがきっと彼女も今の彼らを見守っている。そう潤は思っていた。

 

「そうか…。君も前に進み続けてるって訳か。」

「うん。」

「まあ俺もモカと……いや、Afterglowの皆と色々とぶつかることはあった。その時に蘭に言われたんだよ、俺たちは6人でAfterglowなんだって。それまでさ、俺はあいつらの為ならって自分を疎かにしてたんだけどさ、俺があいつらにとってどれだけ重要な存在なのか…改めて思い知らされたことがあった。……だから俺もあいつらには感謝してもしきれないんだよな。」

「……いい仲間だね。」

「ああ、俺の自慢の仲間だ。」

 

 男同士の思い出話を繰り広げている中で突然お互いのスマホの着信音が鳴った。それにより2人は一時話を中断してそれぞれの電話に出た。

 

「もしもし?」

『遼~?今どこ~?』

「今?つぐみのところにいるけど…。どうしたよ。」

『それがね~きんきゅー事態なんだよ~。』

「何?」

『5時からやまぶきベーカリーでタイムセールやるんだってさ~。』

「……マジで?」

『マジ~。でも今モカちゃんバイトで行けないんだよ~。』

「……はあ、お前が何を言いたいのか大体わかったよ。」

『ごめんね~。』

「わかったわかった。とりあえずお前はバイトに集中してろ。」

 

 そうして遼がスマホを閉じると潤の方も通話が終わったのかスマホをポケットにしまっていた。

 

「すまん、急用が出来てしまった。」

「実は…僕もなんだ…。」

「……ははは。奇遇だな。」

「本当だね…。」

「全く…モカは何から何まで急なんだよなぁ…。」

「え?今の電話って青葉さんからだったの?」

「そうだけど?」

「実は…僕もりみからかかってきて…」

「マジかよ…。ここまで偶然が重なるとと裏で打ち合わせされてないかと疑ってしまうな…。」

「あはは…。」

 

 苦笑いをしながらコップに残ったドリンクをそれぞれ飲み干し、その場を立つ。そして2人は順番に会計を済ませて外に出た。

 

「そうだ。もし差し支えなければ連絡先を交換しないか?また君とは話をしてみたいからな。」

「いいよ。僕も遼君と話したいことはあるからね。」

 

 連絡先を交換し、2人のスマホにはお互いのアドレスと電話番号、そして○INEのアカウントが登録された。

 

「もしかしたらまたCiRCLEで会えるかな?」

「会えるだろ。その時はAfterglow共々よろしく頼む。」

「勿論。今後ともよろしくお願いします!」

 

 「こちらこそ。」と言い2人は握手をする。その後、別れを惜しみつつもまた会えるという期待を胸にそれぞれ大切な人の元に向かった。

 今ここで2つの日常は交ざりあった。彼らの物語はこれからもそれぞれ紡がれてゆく。

 チョコより甘い香りと共にいつも通りの夕焼けが照らす2つの日常。その日々が再び交差する日はきっとまたやって来るでしょう…。

 

 

 

 





いかがでしたでしょうか?
今回、自分の作品以外のオリキャラを使用させていただいたのですが、色々と苦労したと共にいつもと違うキャラを書けて楽しかったです!
ぴぽさんの方ではこの話とは違うオリジナルストーリーが繰り広げれてます!とても面白いので是非読んでください!
そして、ぴぽさんの作品はどれも面白くて続きが気になるものばかりなので私のオススメです!皆も読もう!(隙あらば宣伝)

ぴぽさん、この度は貴重な機会をくださりありがとうございました!

ぴぽさんの作者ページ↓
https://syosetu.org/?mode=user&uid=252908




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ゆく年くる年、いつもの変わり目

 

 

 2019年12月31日 PM11時30分頃

 

「遼~、みかん2つとって~」

「ひとつずつ食えよ?」

 

 常乃家ではリビングで遼とモカが炬燵で暖を取りながらテレビを見ていた。

 

「いや~やっぱり年越しはガ○使に限りますな~。」

「そーだな~。」

「それにしてもこのみかん甘味があって美味しいね~。」

「そりゃあお高いやつだったからな。それと1つ質問いいか?」

「何かね~?」

 

 

 

 

 

 

 

「何でお前俺ん家いんの?」

 

 遼の質問にモカはまるで「なんでそんな質問してるの?」というような表情をしていた。

 

「いや~、せっかくの年末ですし~?今年も一人で過ごしてそうな遼の為にモカちゃんが一緒に年の始まりを過ごしてあげようと思いましてね~?」

「いや、お前自分の家族はいいのか?」

「ママもパパも許可してくれたから大丈夫~。」

「ふーん…まあいいんだけど…」

「あ、コーヒーのおかわりお願~い。」

「いや、まるで自分の家のような感覚で頼むな。」

 

 と、相変わらずモカがマイペースに振り回して遼は文句を言いながらもモカの頼みを聞くと言う展開に。モカのコーヒーカップを受け取った遼は2人分のコーヒーを淹れてモカが待つ炬燵に行った。

 

「はいコーヒー。」

「ありがとー。」

 

 受けとったコーヒーを啜り「ふぅ~」と一息をつく。

 

「やっぱり遼が淹れるとおいし~ね~。」

「誰が淹れても一緒じゃないか?」

「いやいや、こーゆーのは気持ちの問題なんだよ~。」

「そうか?」

「特に愛する人が淹れてくれると特別美味しく感じるんだよね~。」

 

 そう言われて遼は思わず熱いコーヒーを思いっきり飲んでしまう。遼は猫舌であったためかなり熱がっていたが何とか飲み干した。

 

「お前な…そう言うこっ恥ずかしいことをしれっと言うな…。」

「え~?もしかして~遼照れてるの~?」

「べ…別に照れては無い…。」

「でも顔赤いよ~?」

「……炬燵の温度下げるからな。」

 

 遼をからかいながらニヤニヤするモカを横目に遼は顔を隠すようにモカから反らしていた。

 

 そんなこんなでダラダラと過ごすこと数分…。

 2019年最後まであと少しとなった。

 

「もーすぐだね~。」

「ああ。」

「色々あったよね~。」

「あったな。」

「でもそのお陰でこうして遼と特別な仲になれたからモカちゃんとしては凄く良いことが起きたと思うよ~。」

「……そうか。」

 

 暫くモカの言葉に相槌を打っていた遼だが、暫くすると視線をテレビからモカの方に向けた。

 

「なあモカ、年が開ける前に1つ言ってもいいか?」

「なに~?」

 

 そう言い、少し時間をおくと遼は口を開いた。

 

「俺と…恋人になってくれてありがとう。」

「…………」

「来年もその先も……よろしくお願いします。」

 

 そう言いながら心の奥で「慣れないことを言うもんじゃないな…」と思いながらモカの表情を見ると…

 

「……モカ?」

「…え?なーにー?」

「顔…赤いぞ?」

「うーん…炬燵の温度高いかな~?温度もうちょっと下げてくれる~?」

「いや、今温度1番低いぞ?」

 

 立場逆転と言わんばかりに遼はモカをからかい始めた。モカはその展開に少しだけ頬を膨らませながら遼を睨んでいた。

 

「あ、そろそろカウントダウン来るぞ。」

 

 時計の針が長針、短針共に12の数字を指そうとする数秒前…

 

「10…9…8…」

「7…6…5…4…」

「「3…2…1…」」

 

「「明けましておめでとう。」」

 

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 その後、2人でダラダラと思い出話に花を咲かせ数時間の眠りについた。そして午前7時に遼は目を覚まし、モカ、そしてAfterglowの皆と初詣に向かおうと思っていたのだが、神社の前で待ってて欲しいと言われて現在1人で彼女らを待っているところだ。

 

「おーい!遼ー!」

 

 名前を呼ばれて振り向くとAfterglowの面々がぞろぞろとやって来た。しかも全員晴れ着を見事に着こなした状態で。

 

「よお。明けましておめでとう。」

「あけおめー!」

「やっぱりもう来てたのか~。」

「待たせちゃってごめんね?着付けに時間かかっちゃって…」

「いや気にすんな。」

「おお~見事なテンプレ~。」

「モカ、そういうこと言わない。」

 

 と、いつも通りというべきのようなやり取りを交わしていた。

 

「それでどう?私たちの晴れ着!」

 

 自信満々にそう聞かれた遼は5人の姿をざっと見た。

 

「まあ…いいんじゃないか?」

「うんうん……ってそれ去年も聞いた気がするよ!?」

「おお~この返答もいつも通り…」

 

 そして相変わらずの展開に6人は笑みを溢した。

 

「とりあえずお参り行こうぜ。」

「そうだね!」

 

 そのまま遼たちは神社に行き、お参りをした。

 

「よし、これで全員終わったな。」

「ねーねー、皆何をお願いしたの?」

 

 ひまりが食い入るように尋ねて来た。本当にひまりってこういうの好きだよな~と思いながら遼は苦笑いした。

 

「私はもっとバンドもお店もうまくやれるようにお願いしたよ。」

「あたしはやっぱりもっとドラムが上手くなるようにかな~。」

「あたしは…いつも通りに過ごせれば…」

「へえ~。モカと遼は?」

 

 急に話をふられた遼はビックリし、モカは「え~?」という感じでひまりを見ていた。

 

「俺は……まあ、皆とこれからも変わらぬ関係でいられますようにって。」

「あたしは…」

 

 モカは遼は方をチラッとみるとこう言った。

 

「秘密かな~?」

「ええ~?」

「まあモカちゃんのお願いは美味しいパンをお腹一杯食べることですし~?」

「それいつもやってることじゃん!」

 

 モカの返答にひまりは不満の声を漏らしていた。

 

「そーゆーひーちゃんはさ~、どんなお願いしたの~?」

「え?私?それは~…美味しいスイーツが沢山食べられますように…って…」

 

 ひまりのお願いを聞いた面々は1度顔を見合わせると、プッっと笑ってしまった。

 

「え?なんで笑うの?」

「いや、ひまりちゃ?もいつも通りなんだな~って。」

「ホント、いつも通りだね。」

 

 つぐみと蘭の一言に「どう言うこと~!?」と問い詰めていて、巴はその光景を見ながら笑っていた。

 

「これもまた"いつも通り"か…」

「それがあたし達だからね~。」

 

 遼が横を向くとそこにはどこで買ったのかわからないチョコバナナを食べていた。

 

「お前どこ行ってたんだよ」

「そこの屋台で買った~。」

「お前もいつも通りか…。」

 

 そんな幼なじみにやれやれと思いながらもその感覚に安心していた。一方のモカは美味しそうにチョコバナナを食べなから遼を見ていた。

 

「遼ー!モカー!早く帰ってお雑煮たべるよー!」

 

 ひまりが自分たちを呼ぶ声がした。そこには蘭、巴、つぐみも待っていた。

 

「さて、俺たちも行くか。」

「おっけ~。モカちゃんまだまだ食べれちゃうよ~。」

「……腹壊すなよ?」

「大丈夫大丈夫~。お雑煮とパンは別腹ですからね~。」

「やれやれ、頼もしいけどちょっと心配な奴だ…。」

 

 そう言いながら2人は歩き出した。

 その時、遼の手をモカが握った。その瞬間、遼はビックリしてモカを見たがモカは「してやったり」というような表情をしていた。遼もまた、その手を握り返し再び歩き出した。

 1年の初めの朝日が昇る空の下、どれだけ変わろうとも変わらない絆を誓い遼たちは新しい未来に歩みだした。

 

『これからもAfterglowの皆と、それと遼とずっとずっと変わらず一緒にいられますように。』

 

 1人の少女の願いを知るものは彼女だけなのか、それともいるかもしれない神様がそれを知るのか……それは神のみぞ知る、と言うものだろう。

 

 

 





あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!


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アロマ・トラブル


血迷いました。
今回は本格的にキャラ崩壊注意です。


 

 春。

 それは新たな出会いの季節でもあり、冬という厳しい季節に耐え抜いて来た者に訪れる光の季節でもある。

 

 俺も春は嫌いじゃない。しかし、かと言って好きという訳でもない。その理由は…

 

「ぶへぇぇぇくしょい!!」

 

 そう、花粉症だ。

 昔からスギやヒノキといった花粉には弱く

毎年マスクとティッシュは常備品となる。ホントスギとヒノキの花粉なんかゲルマニウムの半球をくっ付けて青い光と共に消し飛べば良いのに。

 そんなことはさておき、俺は今羽沢珈琲店に向かっている。本当はもう少し早くつくべきなんだが生憎、父親が野菜の分け前を持って行けと言ってきたのでそれの袋詰めに時間がかかった。

 とかなんとか言ってる間に目的地に到着。

 そのままドアノブに手をかけ、入室した。

 

「あ!遼、やっと来たー!遅刻だよ遅刻!」

「ああすまんすまん…って何それ。」

 

 俺の視線の先にはアロマキャンドルのようなものがあった。しかも火がついてるためもう匂いは充満してるものと思われる。

 

「日菜先輩から貰ったんだ〜。自信作のやつなんだって。」

「ふーん。まあ俺、今花粉症で匂いわかんないんですけどね。」

 

 ズビビと鼻を啜り匂いを嗅いでみようとするがやはり鼻詰まりを起こしていて匂いがわからない。ひまりには「ええー!?勿体ないなー。いい匂いなのに。」と言われたが、タイミング悪いすぎるんだよなぁ。

 

「あ、蘭。この間頼まれてた作曲の方なんだけどさ…」

「え?なになに?」

「まあ蘭の歌詞見ながら作ってはみたんだがペースが合うかわからないから少し調整してくれないか?一応これにデータは入れといたから…」

「ありがとー!やっぱ遼に頼むと捗るね〜。」

「………ん?」

 

 蘭にUSBメモリを渡したところで俺は違和感に気づいた。なんだか先程から蘭のテンションがやけに高い……というかなんか別人になってるような感じがするのだが…。

 

「遼?どしたの?あたしの顔に何かついてる?」

 

 いや、なんかおかしい。うちの蘭がこんなに素直ではっちゃけてる筈がない。蘭と言ったら友希那先輩相手にイキっててツンデレ気質でぶっきらぼうだけど寂しがり屋な奴な筈。

 

「なあ…蘭。今日どうしたんだ?なんかやけにテンション高くないか?」

「やだな〜!あたしっていつもこんなだよ?」

「……ドユコト?」

 

 マジで訳が分からなくなってきた。何?こいつ風邪でも引いてんの?それともなんか変なもの食ったか?

 そう考えてるとその傍につぐみがいることに気づき、俺は彼女にヘルプを求めることにした。

 

「なあつぐみ、蘭のやつどうしたんだ?なんかすごく違和感しか無いんだけど「あなたはいいよね…」はい?」

 

 話しかけたらなんかつぐみから物凄く負のオーラが発された。えっ?今度はつぐみがおかしくなってるんだけど?

 

「どうせ私なんて皆みたいに特徴無いし…。それに皆みたいに人気もないし…。どうせ私なんか……どうせ私なんか……」

 

 いやなんか闇堕ちした兄貴みたいなこと言ってるけどマジでどうしたんだ?

 

「えっと…つぐみ?どうした?」

「よしたまえ。そやつは今、己と向き合っておるのだ。」

「いやそうは言っても………うん?」

 

 変な口調の人物がいた気がしてその方角を見るとそこには腕を組んでエレガントっぽく立っている巴がいた。うん、なんか雰囲気的に瀬田先輩混じってませんかね?

 

「人は時に心に闇をもたらす。特に1人になると心が泣きそうになることはあるだろう。

 しかし、その心とどう向き合うか…。それこそが試練なのだ。」

「なんかそれっぽく言ってるけど全然答えになってないぞ…?」

 

 やっぱこいつ瀬田先輩混ざってるわ。

 にしてもどうしたんだもんかね…。この状況、1人で纏めるには骨が折れるぞ。ただでさえモカ相手にも少しやれやれなところはあるというのに…。

 

「なあひまり、これどうしたら良いんだ?」

「わかりませんよ…。というか、あなたがダメなら私でも手に負えませんよ。」

「そうそう。流石にリーダーのお前でも……ってまさか…。」

「なんですか?私に何か?」

 

 もうヤダ。ひまりまでおかしくなったよ…。

 

「それより遼さん、次のライブのセットで相談があるんですがセットリストどうしますか?」

 

 こんなしっかりしたひまりなんてひまりじゃない…。

 ホントなんでこんなことになってしまったんだ…。というかついさっきまでひまり正常だったのに突然こんな癪変を起こしてしまって…。

 

「ってそういやモカは?モカどこいった?」

 

 先程からモカが姿を表していないことに気づいた俺はとりあえずその人物を探してみることにした。ワンチャン、モカなら無事でいるかもしれない。いや、いて欲しいと思い続けた。

 

「モカー?どこ行ったー?」

 

 他の面々を他所目に俺はモカを探した。普段ならみんながいれば消去法でモカも居るはずだ。しかし、今日に限っていないと言うことはもしかしたら休んだか…?いや、いくらあいつでも休むなら先にひとこと言ってくれる筈…。

 

「ねえ…遼…。」

 

 そんなこんなしてると後ろからそれらしい声が聞こえた。

 モカだけは…せめてモカだけはまともであってくれ…。そう願いながら俺は振り向こうと…

 

「ん?」

 

 したのだがどういう訳かモカに後ろから抱きつかれており、俺は動くことが出来ずにいる。あれ?モカってこんなに腕力強かったっけ?

 

「……む。」

 

 いや、「む」って何よ。正直顔も見えないから上手いことモカの状況が理解できないんだけど。

 

「あのーモカさーん?俺動けないんでちょっと離れてくれません?」

「ヤダ」

 

 あれれ〜?こいつこんなに甘えん坊キャラだったかな?いや違う。俺の知ってるモカは甘えて来たとしてももっと遠回しに気付いてもらおうとしてるような奴だ。

 

「離したら…また会えなくなるもん…」

 

 もう何が何だか分からなくなってきた。それにしてもどうすれば良いのやら…。流石にこの状況を捌くのは難しいんだよな。

 正直今すぐ帰りたいんだけどこれこのままにしていいのかわからないし、何よりしがみついてるモカが離してくれないから帰れないし…。

 

「おはようございます!」

 

 と、この混沌の場に北から来たサムライが満を持して降臨した。

 

「って皆さん!どうしたのですか!?」

「あ、なんかさっきからこんなおかしなことになってる。」

「なるほど…もしや悪霊の仕業ですか!?」

「わからん。とりあえず今こいつらをどうにか正気にさせようと思ってるんだが…」

「なるほど…ところでリョウさん、何か香りがしますが…」

「それひまりが日菜先輩から貰ったって言ってたアロマキャンドルの香りね。」

「コレですね!いい香りです!」

 

 アロマキャンドルに近づき、真近で匂いを嗅いでいた。

 

「それはそうとどうすれば良いと思うこれ?」

「・・・・・・」

「筋肉です!」

「そうそう筋肉……は??」

「…?どうしました?」

「お前さ…ここボケるところじゃないんだけど?……もしかしてお前も…」

「なんのことですか?」

 

 もしかしたらイヴまでおかしくなったかと思ったが一見普通そうだった。まあそうだよな。そんなポンポンおかしくなられても…

 

「それよりリョウさん!お困りでしたら筋トレをしましょう!筋肉は全てを解決します!」

 

 前言撤回。

 やっぱこいつまでおかしくなってる。

 

「リョウさん!そういえばこのお野菜って何なんですか?」

「ああ…それはチンゲン菜なんだが…」

「チンゲン……サイ?」

「サイ?」

「サイ…」

 

 

 

「ハイっ!サイドチェストォォォ!!!」

「何がーーーー!?」

 

 ダメだ。ただでさえ手に負えない状況だったのに余計訳分からんことに…。

 この手は使いたく無かったが仕方ない….。

 

「イヴ、すまん。」

「ウッ!?」

 

 俺はそのままイヴの首筋に手刀を打ち込み気絶させた。

 

「イヴちゃーん?大丈夫〜?」

「……若宮…」

「ああ!しっかりしたまえ異国の侍プリンセス!」

「若宮さん!若宮さん!」

「・・・・・・」

 

 と、イヴに対して5人が集まったところに1人1人に手刀を打ち込んだ。後巴、お前の2つ名のセンスさっきから一昔前すぎない?

 さてはともあれ一旦落ち着いたことだし原因を探さないと。まあ、検討は着いてるんだけど…

 

「大方これなんだよなぁ」

 

 そう、ひまりが持ってきていた日菜先輩特製のアロマキャンドルだ。

 根拠は2つ。まずイヴが癪変したのはこれを思いっきり嗅いだ後だからだ。そしてもう1つはこの空間でおかしなことになってないのは鼻詰まりを起こして匂いがわからない俺だけだ。

 

「とりあえずこれ消して換気するか…」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 数分後、6人は無事目覚め性格も元に戻っていた。

 

「うーん……ここに来てからの記憶が少し無いんだけど…」

「あたしも…」

「あたしもだ。」

「あたしも〜」

「私も途中から記憶が…」

「それになんだか少し首の後ろが痛いのですが…」

 

 目覚めた彼女らには癪変していた時の記憶が無いらしい。とりあえず俺はそれらに関しては知らないふりを通しておいた。

 後首の方は俺のせいですねごめんなさい。

 

「ひまり。このアロマキャンドル俺が持っておいて良い?」

「えっ?いいけど…。もしかして気に入った?」

「あーいや。ちょっとな。」

 

 とりあえず後で日菜先輩にはこれ作るの禁止って釘打ちに行こ。

 

「じゃあ今度は私が作ったアロマキャンドル使お~っと。」

「……もう、アロマキャンドルはええわー!!」

 

 この日以来、俺はアロマキャンドルに多少の苦手意識が芽生え始めてきたのだった。

 

 




完全に時空がガルパピコになってしまった…。
ちなみにこれ思いついたのは真夜中ですね笑。深夜テンションって怖い。

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