【旧版】GOD EATER〜神喰いの冥灯龍転生〜 (夜無鷹)
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原作前
★第一話 冥灯龍の誕生
早めに言っておきますが、原作部分はうろ覚えです。
最後にゴッドイーターやったのいつだっけ……。
※この作品は三月九日をもって、打ち切りとなっています。新版を作成中なので、そちらをお待ち下さい。最新として一時投稿した『お知らせ』は、利用規約にひっかかる可能性があるとのことで、削除致しました。申し訳ありません。
何の変哲も無いある日、俺は学校の帰りにふとこんな事を思ってしまった。
転生ってありえるのか、と。
実際あったらあったで夢があるし、一度と言わず体験できるなら体験してみたい。
ゲームの中にいるモンスターを間近で見てみたいとか、このキャラと実際に話をしてみたいとか………まあ、憧れなんてものがあったのかもしれない。
興味本位だというのも認める。
そして何より、自分が思い描いた妄想が現実になったなら、さぞ楽しい日々が送れること間違いなしなはずだ。
……そう思ってしまった自分を、釘バットかつフルスイングで頭部を吹き飛ばしてやりたい、心底。
さあ、前置きはこの辺にして今の状況を把握しよう。
俺は今、目を開けていながら視界がほぼ真っ暗である。かろうじて周囲が青白いなと感じるくらいで、ここが何処なのかさえ見当がつかない。
身体を丸めた状態で動くことが出来ず、言うなれば卵の中にいるような感覚。背中やら尾骶骨あたりやら人には無い違和感があり、これはおかしいと早々に人ではないと察する。
丸まった身体を全体的に広げるように伸ばせば、俺を押し込めていた殻がピシッと音を立てヒビが入り始める。
よっしゃ、頑張れ俺!外界はすぐそこだ!
とほんの気分で
俺は重力に従い背中から落ちるように外へ出た。
な、なんじゃありゃアアアア!
地面にぐったりして胸中で驚きの声を上げていた。
第三者視点で見たら相当ヤバイ事になってたと思うんだが、やっぱこれ人の範疇に収まらないどころか生物なのかすら危ういんじゃねーの?
いや、れっきとした生物なんだろうけど、化け物と呼んだ方が相応しい生まれ方だよ。
と、ともかく、俺は気付けば人外転生を果たしたわけだ。夢は夢のままの方がいい時だってあるんだよ。ありがた迷惑だコンチクショー。
………はぁ、なってしまったものは仕方がない。とりあえず、何に転生したか自分を把握しよう。
起き上がって目についたのは、金属光沢にも似た輝きを放つ前脚。磨き上げた銀色のように見えるが、妙に輝かしい青白さもある。
長い首を動かし背中を見やれば、青白く炎のように揺らめく膜を有した巨翼。今のところ使う予定がないので折り畳むと、蒼炎の灯る黒い
尻尾も似たような膜を揺らめかせ優雅にしなる。
しかし、これだけ輝いて見えるというのに後脚は真っ黒だった。
実際の体色は黒なのか?
んー……なーんか見た事あるなコレ……。
あ、モンハンのプレイ動画見て「かっけぇ」って思ったモンスターだ。
名前は確か………冥灯龍ゼノ・ジーヴァだったか。
こういうモンスターの骨格は、マガラ骨格って呼ばれてたな。翼の自由度が高そう。
つかそれより………マズくね?か、狩られる……!圧倒的狩猟対象じゃねーか!
モンハンの世界はマズイ!
は、早く逃げねば……でででも、どうやって?
は!飛ぼう!飛べば奴らも追ってこれまい……。
と考えたのだが、外に飛び出そうにも空が見えない。
前脚で踏む地面には規則的に線路が敷かれ、材質と空間を考慮すると地下鉄が走る地下空間だと推察した。
モンハンに地下鉄?そんなのあったか?
崩れたコンクリート製の支柱……所々の壁が瓦解し、トンネル周辺の土が線路内へ流れ出ている。
廃線、老朽化……にしてはあまりにボロボロだ。
ひとまずゼノ・ジーヴァに転生(?)してしまった俺は、出口を目指して線路沿いに歩き出した。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
歩き出して四十分足らず。崩落した穴を片っ端から通り続け、地下線路空間よりも数倍広い空間に出た。砕かれた支柱は変わり映えしないが、地面には規則的に白線が引かれている上、上下左右関係なく崩壊し吹き抜けのようになっていた。
俺がいる階層以外も首を伸ばして覗いたりして見て回った。
完全に崩壊した階層も含め全体的に似た造りとなっており、錆び付いて裂かれた傷のある廃車も数台見つけた。どうやらここは地下駐車場跡であるらしい。
そして厄介な事に、危機的状況に遭遇した次第であります。
無用心に歩き回っていたら、三匹のモンスターに絡まれました。
ただ、これがモンハンのモンスターじゃない。
別の狩ゲー、ゴッドイーター産のオウガテイル三匹である。
ということは、だ。ここはゴッドイーターの世界だとほぼ断定できる。
しかし、何故ゴッドイーターの世界にモンハン世界のゼノ・ジーヴァとして生まれたのか疑問が残る。考えるのが面倒だから、暇な神の悪戯としておこう。
さて、そんな事を悠長に考えている場合じゃない。オウガテイルさん達が、今にも俺に飛びかからんとしている。
……よし、逃げよう。
ハンターじゃないけど、アイツらも俺にとっちゃハンターだよ!逃げよう逃げねば逃げなければ……喰われる!
俺が古龍種にあるまじき逃げ腰で身体を反転させた時、飛びかかってきた三体に尻尾が直撃し吹っ飛んだ。
五秒も経たないうちに飛んだ先でドチャッと、叩き付けられ潰れたような音がしてゆっくりとその方向へ顔を向ける。
あれ?オウガテイルさん、動かなくなってしまわれた………?
吹き飛んだ先の壁際で倒れたままピクリとも動かないオウガテイル三体に、俺は恐る恐る近寄って前足の爪で小突いてみた。
………反応が無い。ただの屍のようだ。
んー………倒したのか?あのまぐれ以外の何物でもない尻尾の振りだけで?
さすがの古龍種クオリティと言うべきか………いやしかし、アラガミに打撃が効いたのは収穫だ。生き抜くために必要な最低限の防衛手段の情報だ。
一応、念のため頭を砕くか潰しておきたいのだが………えーとぉ、素手でやるしかないのか………?
ええい、
俺は目を瞑って思いっきり前脚を振り下ろし、オウガテイルの頭を踏み砕いた。
音といい感触といいグロテスクだな。外殻と骨のバキバキって音が生き物っていう実感を持たせているようで………まあ、結局は弱肉強食だから。
俺だってアラガミに逐一慈悲かけてたら、そのうち殺されて喰われるからね。
なんか俺………生まれて一時間経たずに野生動物に染まってきてるな。
前世は人であったことを忘れるな!どう死んだのか忘れてるけど!
とりあえず頭を潰したオウガテイルに鼻を近づけて、喰えるか喰えないかを確認する。
匂いは悪かないんだよなぁ。獣肉っぽい匂いなんだけど、鳥って感じもあるし………案外喰えそうだな。腹下すかもしれないけど。
物は試しに思い切って喰ってみるか。
ゼノ・ジーヴァの巨体ではオウガテイルは一口二口で喰えるほど小さく、三体では腹が思うほど膨れなかった。
味は可もなく不可もなく、どちらかといえば不味いの部類に入る。筋張った繊維質の旨味がない鶏肉といったところ。
喰えれば良かろうなのだ。
腹ごなしも済んだことだし、本格的に外へ出る努力をせねばなるまいて。
地下ばっかにこもってちゃあ折角の古龍種クオリティ身体能力が退化する……かもしれない。目が退化するのは避けたいな。深海魚みたいな残念顔にはなりたくない。つか、ゼノ・ジーヴァの外見が退化で珍生物になってしまっては至極勿体ない。
さて、上へ行く穴を探しながら散策を続けよう。
ここは一発、動画で見てたゼノビームなるものを発射してみたいが、生き埋めはごめんだ。制御も上手くできるかどうかわからないし。
思い切りが大事な時もあるだろう。ぶっちゃけ、そん時はそん時だ。今は、慎重に生き抜く事を考えていこう。
アラガミは俺にとって食糧になる。倒せるか倒せないかは相手によって異なるだろうが、ゲーム上の雑魚………さっきのオウガテイルとかは難なく食糧にできそうな気がする。
倒して捕食しつつ、ゼノ・ジーヴァとして強さを磨いていこう。
上の階層への穴を、後脚で立ち上がりながら登っていく。
穴が見つからない時は、背中にある棘で刺し崩し強行突破した。
出口を目指し幾度か同じ事を繰り返していった後、最上階もとい地上一階に出ることが出来た。
長かったような短かったような………地上に出る為とはいえ、地下探索は案外楽しかった気もする。アラガミとの遭遇が、地下駐車場での一回だけだったのは運が良かったのだろう。
満腹にはならずとも腹ごしらえはできたし、生まれたてにしては上々だ。
外の景色は……廃墟ばかりだな。それもそうか。ゴッドイーターの世界だし。
倒壊しきった建物が多いが、乱立するビル群からここは都心部だったことがうかがい知れる。
んー……ゲームのフィールドにはない景色だが、荒廃したビル群ってのは似通ってるな。もしかして、フィールドとして使用されている場所と近かったり?
戦闘フィールド名は『贖罪の街』だったな。
道路として整備されていたひび割れたアスファルトに出て、キョロキョロと辺りを見回しながら道なりに歩く。
元々交通量の多い大通りだったようで車線が多く、巨体である俺ことゼノ・ジーヴァが歩いても道幅に多少なりとも余裕があった。
脚を進めるたびに、ボロいアスファルトに尚更亀裂が入る。
これから強くなるにあたって何処に行こうか。
なるべくならゴッドイーター……ここが極東支部であるなら、第一部隊の面々には遭遇したくないな。
なら、所在を特定されないよう方々を飛び回ろうか。
アラガミは世界中に散らばっているため、食糧には事欠かない。寝床は……その時になんとかしよう。
さあ、暇な神の悪戯でゼノ・ジーヴァという古龍になってしまったわけだが、死なないようこれから頑張って生き抜こうと思う。
歩き続けて廃れた公園跡に来た俺は、蒼炎色の幽膜を揺らめかせ巨翼を広げる。
一度二度、三度四度と羽ばたきを繰り返し、浮力を得た巨体が空中に浮く。
ビル群の最上階まで飛び上がったところで首をもたげると、数百メートル先の大穴の空いた一際大きな高層ビルが目を引いた。
あ、やっぱり『贖罪の街』だったんだな、ここ。
俺はとくにあてもなく、空を飛ぶ。自由気まま、時々超危険な放浪の旅。
無双は目指さない。しかし、強さは求めて
ゴッドイーター世界での、冥灯龍ゼノ・ジーヴァ生活開始だ。
最後に言っておく。
夢を見ていた。ただの妄想だ。
それが現実になるなんて、他の奴らが狂喜乱舞しようと俺は断言する。
ありがた迷惑だコンチクショー。
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極東支部アラガミ観測記録
・初観測における第一の記録
本日、贖罪の街周辺にて奇妙な反応が観測された。
一時は新種、既存アラガミの堕天種など様々な憶測が飛び交ったが、詳細は不明。
しばし街を放浪し、街の外へ移動を開始した未知のアラガミの反応を追ったが、数分後その反応は途絶えた。
一先ず、所属している神機使い達には注意喚起をし、万が一遭遇したとしても戦闘は控え逃亡を優先するよう伝えた。
今回観測した未知のアラガミについて今後、調査を最優先とする事をゴッドイーター全員留意されたし。
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第二話 泡沫
苦手な方はご注意くださいませ。
転生してから一週間が経った。
今のところ神機使いとの直接の接触はなく、飛行している最中にアラガミから追われた難民を見かけるのみだった。
俺にとっての食糧であるアラガミには地上空中問わず絡まれたが、物理攻撃で粉砕するなど意外とどうにかなっている。
前脚で殴って潰したり、翼や尻尾で薙ぎ払ったりと、体の動かし方についてはだいぶ慣れてきた。
あと、一回だけゼノビームを使ってみた。
………的になったアラガミは食糧の任を果たせなくなってしまったよ。
地面が融解するくらいの熱量を持っているとは、微塵も思わなかったんだ。それでアラガミも溶けてしまうなんて予想もしなかったんだ。
それからだな。アラガミ相手に脳筋プレイを始めたのは。
だから、ゼノ技はしばらく練習が必要だ。ビームやら熱球やらあの……爆破?的なやつも、威力制御が出来るに越したことはない。
モンハン世界のハンターが人間を辞めてる次元だから気付きにくいが、常人からしたらあの火竜の火球でさえ災害級だ。
燃えるし熱いし痛いし速いし飛ぶし竜だし。竜だし。何十苦だよコレ。
そん中で古龍種ともなれば、破壊力は別格。ゼノビームで「薙ぎ払えェ!」的な事はしたくないからな、正直。
技習得なら、今のところ熱球だけで十分な気がする。
さて、長々とここ一週間を振り返ったが現在、俺は山間部にいる。
人目から隠れるため……とは言ってもこの巨体だ。完全に隠れきれるわけじゃなく、前脚や頰、翼、尻尾の幽膜が青白く光るせいで簡単に居場所が割れる。
つい先日、息を潜めて難民達が過ぎ去るのを待っていたが幽膜を見られ、「彷徨う霊魂だ!」や「アラガミだ!」などと絶叫し脱兎の如く散り散りにさせてしまった前科がある。
俺が喰うのはアラガミだけだってのに………アイツら、生きてっかなぁ……。
山間の谷を、茂みや木を薙ぎ倒しながら歩く。
なるべくなら助けてやりたいが、俺の姿じゃあ逃げられるだけだしなぁ……。
無事を祈っておくか。
何と無く人肌恋しく思っていた時、数メートル先で土を舞い上がらせて地面からアラガミが
昆虫の蛹と拷問器具で有名なアイアン・メイデンを融合させたようなアラガミ、コクーンメイデンが左右に並んで二体現れた。
んー……お前らはお呼びじゃねェ。
俺は右前脚を右から左へ振り、二体を根本から刈り取るように地面から引き剥がして握り潰した。
コアごと破壊したため喰う暇もなく、二体のコクーンメイデンは霧散する。
コイツら、クッソ不味いんだよ。虫みたいな変な体液出るわ、外殻は鉄臭いわ、喰える肉無いわで、今のところ一番食糧に適さないアラガミだった。一口喰って熱球で消し炭にするくらい衝撃的……いや、個性的な味だった。
お前の不味さ、伝えられるなら後世に伝えていきたい。
そうそう、ここ一週間の経験で学んだ事がある。
さっきのコクーンメイデンの砲撃や棘、オウガテイルの噛み付き、頭突きなどをちょっとした失敗で受けた事がある。しかし、どれも蚊に刺された程度で、素晴らしい強度だと感心したもんだ。
体格差も要因の一つなのだろうが、そもそもの防御力と言うか……そういうのがアラガミと比べて格が違うらしい。
攻撃してきたオウガテイルさんもコクーンメイデンさんも、さぞ驚いたことだろう。
「あれ?おかしいぞ!」とか思ってただろうなぁ……声聞けないから、ちょっと惜しい気もするけど。
まあ、そんなこんなである程度無理がきく上、雑魚狩りなら何も気にせずやりたい放題できる事がわかった。
俺は潰した感触を拭うように前脚を地面に擦り付け、また幽膜を揺らしながら谷を歩く。
頭に冷たい何かが降って弾けた。
その感覚は次第に前脚、背中、翼、尻尾と全身に広がり、踏み締める地面には次々とシミが出来ていた。
ザァザァと周囲で鳴り出した音に首をもたげて空を見上げれば、どんよりとした灰色の雲に爽快な青は覆い隠されていた。
土砂降りの雨だ。土砂崩れとか起きなきゃいいんだが。
まあ、丁度いい。身体の汚れは洗い流せるし、なんかで匂い消しにもなると言っていた。匂いを消す必要はない気がするけど。
しばらく歩き続け視界が開けた。
崩壊した古民家らしき建物が点在し、雨によって湿り気を帯びた荒れた田畑が視界の大部分を占めている。
山の麓、盆地にある廃村だ。
人の住んでいた形跡が残っているとはいえ、村も街も廃れ方に大差がない。
何だろうなぁ………ゲームだったから客観的に見れていたものが、こうも実物を前にすると驚きや落胆というより、人の文明の脆さを痛感する。
感傷に浸るわけじゃないけど元人間として……思うところはある。
俺は廃村内の探索を開始した。
屋根のない家屋に誰か隠れていないか上から見てみたり、かろうじて形を保っている家に関しては覗き込んだりした。
残った家屋の半数を見たところで、はたと気付いた。
コレ……アラガミが餌探しているように見えるんじゃなかろうか。
そうだよ!俺は今
なーんて心境を頭抱えながら声にしてみたが、ただの龍の咆哮だよ。
繰り返していくうち「アオーン」とか「キャイン!」とか、情けない犬の鳴き声にも似てきて非常に恥ずかしくなった。
こんな図体しておきながら、こんな鳴き声出すとは思わなかったんだよ。
「はっ……は、あうぐっ!はっ…はっ…!」」
うわっ、ビックリした。
左手側の廃墟の陰から男一人、息を切らしてもなお走ることをやめず俺の前に飛び出してきた。
おおお俺か?俺のせいなのか?いやあ待て待て。ウェイトだウェーイト、そう早まるな俺。やれば出来る子、それが
その人は気付かず走ってくると
俺に気付いてたらこうはならねェよな。よっしゃ、俺のせいじゃない!
って、おかしいだろ。何でザ・モンスターな俺の方に走って来てんだよ。
んー……あれ?この人……先日見かけた難民の一人だな。
男は慌てて顔を上げると焦燥の瞳に俺を映し、一瞬で驚愕と落胆……絶望の表情を浮かべた。
「はっ…はっ……っ!あ……また…アラガミ……!」
泥塗れの顔。
一回俺と出会った以降も、ずっと山中を駆けずり回っていたのだろう。仲間がいないのは気になるが……。
ん?待てよ……?「また、アラガミ」って言ったなこの人。
男は逃げようと立ち上がり元来た方へ向かって走り出したのだが、廃屋の陰から今まで見た雑魚とは違うアラガミと鉢合わせしてしまった。
腕を組んだ人型の胴体に手と翼が一体化した長大な翼手……シユウだなアレ。
あ、アイツから逃げてたのか!
いやいや、そんな事より!目の前で人が喰われるなんてグロテスク極まりない光景は見たくねぇぞ!
ゼノ・ジーヴァ、人助けしますッ!
「ヒィッ!し、死にたくねーよ……誰かぁ!ゴッドイーター……助けてくれよ……!」
翼手を広げるシユウを前にして男は逃げもせず、その場にうずくまって頭を抱えていた。
戦意喪失、逃亡意識の消失。前後に逃亡の隙は無し。放浪の男にとっては挟み撃ちも同然だ。
肩を震わせむせび泣く男に、シユウは翼手を伸ばす。
俺は咄嗟に咆哮を上げながら駆け出し、驚き飛び退こうとしたシユウを口に収め牙を立てた。
眼前にいたシユウが消えていることに気付かず、男は俺の身体の下で未だ助けを求める言葉を連ね震えている。
……仕方ないか。人に転生してたなら、何かしら言葉を掛けれたかもしれない。今、俺に出来るのはアラガミを喰うことだけか。
口の中で暴れるシユウを持ち上げ後脚だけで立つ。
お前は、どんな味だ?
翼手、胴体、コア……顎に込めた力は、俺の感覚では豆腐を噛む程度の強さだったが、シユウの鳴き声とバキバキという砕ける音が鼓膜を突く。
血ともとれるシユウの体液が流れ落ち、音が鳴き止む頃には嚙み
食感は……パッサパサの赤身肉って感じだな。まあ……及第点。鉄分豊富そうな味が気になる。
コアを噛み砕いて飲み込むと、落ちたシユウの手脚や体液は黒い煙となって霧散した。
「あれ…?死んで、ない………?」
いつまでもアラガミが襲ってこないことに気付いた男は、恐る恐る顔を上げて周囲を窺いつつ身体を起こした。
それから後ろを振り返り軽く悲鳴を上げた。
しかし、目を剥いて涙を流しながら後ずさるわりに、立ち上がって走ろうとはしなかった。腰が抜けて立てないらしい。
襲う気は無いんだがなぁ……。態度で示そうにも、一挙手一投足が恐怖の対象だからどうにもならない。
俺はとりあえず、身体を倒して元の四足歩行の体勢に戻った。
両前脚を付いた瞬間、土砂降りの雨で出来た水溜りを踏み飛沫が舞う。
「う、うわァァァ!いやだァァァ!」
俺が鼻先を近付けると、男は叫びながら反射的にシユウの来た方へ走り出した。
そっちに行ったらまた鉢合わせするんじゃねーのか!?
泥に足を取られ
お、追い掛けた方が……いや、それじゃあイタチごっこだ。だからと言ってこのまま放っといたら、絶対アラガミに喰われてあの人は死ぬ。
必死に逃げる姿を眺めているのが関の山、か。
………悪趣味なアラガミとして名を残しそうだ。
あの人が俺の視界から消えるまで、じっとここで待っていよう。
追わない意思を汲み取ってくれるなら、今はそれだけで十分だ。
だが、そうもいかなかった。
ただ俺への恐怖のままに森へ入って行ってしまった男。
木々にその姿を覆い隠されて数秒後、人の絶叫が俺の鼓膜を穿った。
まさか、まさか……!
ひたすら焦りを感じ、男が消えた森へ突っ走る。
木を薙ぎ倒し数歩進んだところ。
そこには、うつ伏せに倒れたさっきの男を貪る、シユウの姿があった。
すぐ様シユウを掴み倒し、全体重をかけて押し潰す。
動かなくなったシユウが跡形もなく消え去るのを確認し、血塗れの男へ視線を移す。
手遅れか……。
生きている気配が感じられない。既に事切れている。
それもそうだ。なんせ……左半身が無くなっているのだから。
せめて、埋めてやろう……。
死んでまでアラガミに喰われるのはイヤだろう。俺だって、それはゴメンだ。
土の中のものを喰わないと確信は持てないが、地上に放って置かれるよりは幾分マシな筈だ。
俺は近場に、完全に埋められる穴を掘る。こういう時に、デカイ龍の手ってのは悪かないな。
ある程度の深さまで土を掘り、男の死体を運んで穴に入れる。
その時、顔の横を一発の光弾が掠めた。
「外したッ……!」
何処からの射撃だ……?
俺は弾が飛んできた方向を見据え、一本の木の陰に隠れている人物を見付けた。
スナイパー型の巨大な武器を携えた黒い短髪の女性。
あの容姿……ヤバイ!あのキャラだ!
俺は即座に踵を返して廃村へ戻る。
だが、そんな俺目掛けて彼女は何発も撃ってくる。一発二発掠ったが、アラガミ対抗武器だけあって俺には決定打にならない。
んー……このままじゃ追っかけ回されっぱなしだ。仕方ない。飛んで逃げるか。
俺に、あの人達と争う意思はないからな。
幽膜をなびかせ翼を広げる。数度の羽ばたきによって浮力を得て、雨の空を舞う。
……次は、どこに降り立とうか。
飛び立った俺を、彼女は神機を構えて呆然と見上げていた。
言葉が話せたら色々と変わったかもしれない。
本当にこの世界は………。
俺は、夢は夢のままがいいと思っている。
いつかそれが叶うなら、妄想だとしても夢を見る価値はあるからだ。
しかし、叶わなくていいものもある。それは、実際に体験しないと分からない。
良いも悪いも、自分都合の夢の中じゃあ判断できない。本来出来ないことが、何でも出来るようになるのが妄想のテンプレ。
だから、楽しいんだ。だから、夢のままが良いんだ。
それでも、夢が夢で終わる世界ってのは………俺は、望んでねェ。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
極東支部アラガミ観測記録
・先日初観測されたアラガミの第二の記録
出撃した任務にて取り逃がした討伐対象を捜索中、
咄嗟に撃った結果アラガミは怯んだ末、廃村にて飛び立ち逃亡。一時的な撃退に成功した。
今までに例を見ないその姿形から、新種のアラガミと推測。西洋の竜に酷似しており、翼や身体の各所に見られる膜は蒼い火の様にも見え、霊魂や死者を導く灯火など……俗に言う『あの世』を連想させる。
撃退後、討伐対象だったシユウ四体のうち見失った二体を捜索したが発見出来ず。飛び去った竜型のアラガミによって、捕食された可能性がある。
その巨体から、大型アラガミ以上の強種である可能性を提示する。
報告者『第一部隊・橘サクヤ』
一話分書けたらの更新なので、更新速度はまちまちです。
それから、早速お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます。
執筆の励みになります。
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第三話 焼き魚は美味い
エビはうまいぞー。
廃村を発って三日後。俺は海沿いの街に降り立った。
街と言ってもお察しの通り、アラガミによって踏み荒らされた荒廃した場所だ。
元オフィスビルと思われる建築物も形を保って残っているが、飛行中に数棟視界に捉えただけで街なんてのは見る影もない。
俺は砂浜に伏せて、半身を海水に浸らせていた。
鳥が水浴びをする要領で翼を動かし、海水を叩き上げ全身に浴びる。
あ~、気持ち~………。水浴び、砂浴び、日光浴………動物でもリラックスっていう感覚があるんだなぁ。
温かい風呂が良かったけど、汚れは取れるからまあ、いっか。
それにしても、初めましてのゴッドイーターが第一部隊の橘サクヤだったとは………ただ、ゲームとは少々服装が違っていたな。何歳か若い感じもあったし……ゲームの時間軸よりも前の時間軸なのか?
だとしたら、第一部隊に
あーけどなぁ………それでも怖いよなぁ、あの部隊。本当に接触は控えたい。もう遅いけど。
さて、と……狩るか。
この近辺は海沿いだけあって、水への適応能力を持つグボロ・グボロが体感として多く感じる。
現に海水浴で
まずは、一体が先陣を切って突進してくる。
俺は頭を上げて、そいつの顔面に熱球をぶつける。
ビームは物体を融解して貫く感じの技だが、熱球は燃焼の性質を持っており消滅させずに焼くという調理工程を可能としている。
見た目はともかく、熱球は火球と同じ扱いでいいらしい。まあ、やろうと思えば火力は上げられるため、呼び方は熱球のままにしておく。
熱球が直撃した一体目のグボロは、白煙を上げて真っ黒焦げになってしまい動かなくなった。
火加減間違えたな………。「こんがり上手に焼けましたぁ!」を狙ってたんだが、うん………練習あるのみだ。
俺は完全に砂浜に上がってから後脚だけで立ち、残り三体を見やる。
一体目が丸焦げになったことで奴らの警戒度が上がったらしく、俺から距離を置いて中長距離の攻撃を仕掛けてくるようだ。
グボロといえば突進攻撃以外に、砲塔からの水球連射攻撃が印象的だ。
三体が歩みを止め俺に砲塔を向けていることから、三方向からの水球同時発射を予測する。
念の為、攻撃は何としても回避しておきたい。
同時発射の水球………バラバラだったならともかく、同時ならタイミングは取りやすい。
水が相手なら、熱量の極めて高い技で蒸発させてしまえばいい。
だが、俺はアラガミを食糧としているので、グボロ自体は形を残したまま仕留める必要がある。
だから、水球を蒸発させたあとで、直接仕留める。
俺は上げた上半身を前に倒して、地面についた両前脚に力を込め砂の下に手を埋める。
三方向のグボロが、同時に水球を一発ずつ発射した。
直撃するタイミングを見計らって、地面に押し込む様に更にグッと力を込める。
瞬間、俺を覆う範囲で円柱状に蒼白い炎が地面から噴き出した。ゼノ自身が持つエネルギーの奔流と言うべきか。砂中に埋めた両前脚から流し込んだエネルギーが、物理的な影響力を得て地上に顕現。
原理は、ゼノビームや熱球と同じだ。その性能も、性質も。
俺が発生させた蒼炎柱に、三発の水球は当たった傍から蒸発していく。
さすがの熱量だな。水なんかものともしねェ。
エネルギーの炎柱が徐々に砂の中へと鎮まり、グボロ三体がここぞとばかりに距離を詰めて来ていた。
まだだ。まだ、終わらんよ!奴らの移動中は俺のターン同然だ!
両手を砂に埋めたまま、俺は一つ咆哮を上げる。
至る所で砂を巻き上げながら、蒼炎が地雷の様に爆発が起こり始めた。
這いずるグボロ三体の足下でも埋められた地雷が反応する様に、一回、二回、三回………爆発で吹っ飛んだ先でも一回、二回と、軽くお手玉状態だった。
初使用にしては、なかなか手応えがよろしい。
爆発が終わった頃にはグボロは瀕死で、自慢の砲塔やヒレがボロボロになった身体を引きずりながら方向転換をしていた。
三体中の一体はあまり爆発に巻き込まれなかったのか、潰れた砲塔を未だに向けている。
まず最初に、ソイツへ接近し砲塔ごと頭を砕いてトドメをさす。
二体目、戦闘不能。
続いて、逃亡を図るグボロ二体。
俺から見て左側にいたアイツらは、無理なものは無理だと悟る頭を持っているらしい。端的に言えば、左二体のグボロは頭脳派、右二体のグボロは脳筋派だったようだ。
まあ、小さい子の思考力に毛が生えた程度でしかないが。「攻撃が効かない!瀕死になった!よし、逃げよう!」的な。
さて、俺の意外な俊敏性を見せてやろう。巨体だから、一歩の距離が長いぞ。
大量の砂を巻き上げながら猛進し、ボロボロのヒレを一心不乱に動かして逃げる片方のグボロの背ビレを噛み砕き、やっとこさ一体目実食。
んー……肉と魚を掛けた様な味だ。生肉の食感に近いが、厳密に味を表現するとしたら焼いたクジラ肉の味に近い。
今まで喰ったアラガミの中で一番マシな味だし、魚の様な生臭さがあるものの上手く焼けばどうということはなさそうだ。
そう悠長に喰っていたら、逃げた二体目との距離が妙に開いてしまった。
食べる量なら今喰ったグボロと、先に仕留めた二体で事足りるな。四体目は……練習がてらゼノビームの餌食になってもらおうか。
ゼノ技の根源であるエネルギーは普段身体中に溶け込んでいる様な感覚で、「魔力がこんなに……!」とか、そんな少年漫画みたいに感じ取れるものではない。潜在している感覚がない点で言えば血液と同様。エネルギーの底が分からない点で言えば、出し切るまで分からない体力と同様。
しかし、エネルギーを寄せ集めるその場所に意識を少しでも向ければ、エネルギーは形を得て一つの技に昇華される。
まあ、ゼノビームと熱球における俺の見解だけどね。
炎柱と爆破は、地中に流し込んだエネルギーの意図的な暴発っていう表現が正しいかと思われる。
さあさあ皆さん、ゼノビーム発射準備が整いましたところに、標的となるグボロが背中を見せて直線上にいるではありませんか。
こんな絶好の機会において某誤射姫さんのように、「射線上に入るな」と言うのは野暮でございましょう?
それではゼノビーム、いっきまぁすッ!
集中して一点に溜めたエネルギーを口から解き放つ。
一直線に放たれたエネルギー光線は、ゼノ・ジーヴァ特有の蒼白い輝きを纏ってグボロの背後へと迫る。
直撃。接触したものをことごとく溶かしながら、無慈悲にその胴を貫いていくほぼ防御力無視の一撃。
身体だけじゃなくコアさえも溶かすのだから、アラガミにはひとたまりもない。
ん?ビームの行き先?グボロ通過して………えーと……ど、どっかに当たって消滅すんじゃないかな、多分。
ま、まあ、それはともかく、コアを失ったグボロはいつも通りご臨終なされた。
よし、お焼きになられたグボロとミンチになられたグボロを喰うとしますか。
さっきも言った通りグボロは、味に関しちゃあほぼ普通の魚だ。生食に関しては、な。
まず、お焼きになられた方にかぶりついた。
火力調整が失敗したこともあり、鱗や表皮が焦げ臭い。だが、うん……結構イケるぞ、焼きグボロ。
アラガミの特徴である形質を真似るという点が良い働きをしているのか、魚を多く捕食してきただろうグボロは焼いた時の風味が魚に似ている。
オウガテイルやコクーンメイデン、シユウはギリギリ肉の風味を感じられたが、様々な物を捕食したせいで旨味がなく雑味が混じっていた。
だが、それら全てを克服!とまではいかないが、グボロは一番いい味を出してる。
焼きグボロ、主食にしちゃおっかな。
あ?生グボロ?いや、もう焼きグボロで腹八分目だからいいや。
俺は焼きグボロを喰い終わったあと、横にあったミンチグボロを手で払い飛ばして海に沈めた。
はー、満足満足。あとはどっかで睡眠取れれば文句なしだな。
雨風しのげる場所………はどう見たって無いから、瓦礫山に寝そべるしかないか。
なるべく平坦な瓦礫山………まあ、なかったら力業で平坦にしてやる。
そんな俺の思惑を知ってか知らずか、意外とあっさり平坦な寝床が見つかった。
まだ倒壊しきっていないビルの真ん前。俺が丸くなっても余裕のある空間だ。
ふう………まだ日は高いけど、その分直接日光が全身に当たって暖かく野宿日和だな。
と思いながら体を丸めて瞼を閉じた。
しかし、どーも眠れない。なんか、ザワザワってする。
………は!これがあれか!少年漫画でよく見る「殺気を感じる!」って奴か!
おー、良いぞ良いぞ!
って、いいわけあるかァァァ!
俺はすぐさま飛び起き、勢いよく首を振って周囲を見渡す。
だだだ誰だ?おおお俺、俺だってやればできるんだよ!い、いいのか?ぜ、ゼノビーム撃つぞ!
首を伸ばして恐る恐るビルの陰を覗き込むと、さらに陰へと回り込む人の足が見えた。
逃げてる……?また難民か?なら俺は、早々に退散した方がいいかもしれないな。
人影を追うのをやめてこの場から離れようと頭を持ち上げた時、ガラス板の無くなったビルの窓辺で腰を抜かした人達が俺を見上げていた。
これは本当に退散するしかないな。
ビルから視線を外して一歩下がると、俺の後脚に何かがぶつかった。
咄嗟に振り返る。すると、足元に尻餅をついた少女が大粒の涙を流して固まっていた。
ビルの上階から女性の叫び声が聞こえる。
なるほど、隠れ家を抜け出して来ちゃったのか。んで俺を見かけて、ビルの周囲を走り回り撒こうとしてたんだな。
でもおかしくね?あのザワザワって、人の気配って事だったのか?
うーん……まあ、いっか。
少女から目を離し前を向こうと首を動かした瞬間、俺の横っ面に一発の光弾が直撃した。
あ"ー!イッタァ!流血はしねェけど、
あの子以外にいたのか!つーか、俺目掛けて銃ぶっ放すつったらあの方々しかいねェじゃねーか!
被弾した衝撃で俺が呻いていると、ビルの陰から見覚えのある派手な格好の青年がちらりと姿を見せた。
赤い髪をかき上げ、したり顔で銃を構えていた。
「僕の華麗なる陽動を、有効に使ってくれたまえよ」
え、え………エリック上田氏ィィィ!
エリック・デア=フォーゲルヴァイデ氏じゃないですかァァァ!まだハイスピードハンティングされてなかったんだな!
まぁ、お前の陽動には乗ってやらねェけどな!
そして俺の後ろ、ちょうど少女が腰抜かして泣いてる辺りにもうひとつ別の気配があった。
「チッ………余計な事しやがって………」
こ、この声は………!
俺はビルから離れようと、右手側の瓦礫山へ方向転換しながらチラッと背後を見やる。
すると、フードをかぶった褐色の青年が少女を抱えて、俺の動向を窺っていた。
ソ、ソーマ・シックザールさんじゃないですかァァ!もうヤァダァ!にーげーるー!
そう決断した時の行動力は凄まじい。俺は即座に、瓦礫山へと駆けだした。
小山の頂上で振り返ると、疑念と困惑、警戒の眼差しで睨んでくるソーマと、髪をかき上げ鼻につくキザな表情で
俺を眺めるエリックが少女を挟んでビルの前に並んでいた。
ゴッドイーターに見つかっては、長居は出来ない。また、移動しなければ。
俺は、瓦礫と砂を舞い上がらせて空に羽ばたいた。
空を飛行しながら、俺は思う。
もし、俺の働きかけで未来が変わるなら、この世界での目標………夢にしてもいいのではないか、と。
原作の改変が俺に出来る唯一のこと………特権として考えてもいいのではなかろうか。
エリック上田氏。お前を、ネタキャラから脱却させてみようと思った。
■■■■■■■■■■
極東支部アラガミ観測記録
・華麗なる第三の記録
最近、極東で話題になっている新種のアラガミに遭遇したけど、僕の敵じゃなかったよ。
僕の華麗過ぎる射撃に恐れをなして、負け犬のように飛んで逃げてしまったからね。今までの記録を読んだけど、そこまで危険視するほどでもないんじゃないかなぁ。
でも、あのアラガミの幻想的な姿には僕も少々見惚れてしまったよ。
何はともあれ、まことしやかに噂される程の危険性は感じなかったね。
それより、僕の華麗なる撃退劇の一部始終を知りたくはないかい?
アラガミの頭部に命中した弾丸………実に華麗だ、華麗過ぎる。
君たちも、華麗なる僕の妙技を見習いたまえよ。
報告者『エリック・デア=フォーゲルヴァイデ』
同行者『ソーマ・シックザール』
華麗とカレーと彼が入り乱れて、ゲシュタルト崩壊しかけました。
華麗な彼の作るカレーは華麗だけど
それでは、また次回。
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第四話 微かな光明
その後原作に入りますが、「リザレクションかなぁ」と予定がふわっとしています。
一応ストーリーで言えば完全版っぽいのでなんとなく………。
転生して一か月が経った。
俺が群れているアラガミを蹴散らして、極東のゴッドイーターに出くわして逃げるというパターンが日常として定着している。
でもね?俺は声を大にして言いたい。
パト◯ッシュ………ボクはもう疲れたよ………。
だってあいつ等、アラガミ絶対ぶっ殺すっていう思考の塊なわけでしょ?
いくら人を襲わないでアラガミばっか喰っててもさァ、一種の偏食傾向としか捉えてもらえないんだよ。ベテラン勢からは。ホントにベテラン勢は怖い。恐怖を感じる。
ただ、神機使いになって日が浅い新人は俺を見ると、全員じゃないが悲鳴を上げて一目散に逃げていく。
ああいう反応だと非常にありがたい。帰ったら上官やらリーダーからこっぴどく叱られるんだろうが、俺として人間相手に戦うなんてことをしなくて済むからな。
逃げても別に追いかけないし、戦っても手は出さないし、逆に俺が脱兎だし………。
そんなことを徹底的に心がけていたせいか、俺に対するゴッドイーター達の認識が少しずつ変化してきている気がする。先手射撃に遭遇する回数が減ったからだ。
おそらく、人を怖がるアラガミもしくは、ゴッドイーターを恐れるアラガミというレッテルを貼られているかもしれない。後のアバドン扱いになりそう。いるのか知らんけど。
とは言っても、根本的な部分は変わらない。俺は、倒すべきアラガミという認識のままだ。人によっては、俺を、人を恐れるアラガミとして先手必勝とばかりに撃ったり斬ったりしてくる。
逃げるからって弱いと思うなよ!
まあ、大抵そういう先走ったことをするのは、俺の噂を聞いた新人神機使いに多い。
そういう時は渾身の斬撃を一発受けてやると、「クッソ
あとは俺が逃げるか、ベテランに咎められゴッドイーター達が引き下がるかになる。
絶対に倒されないチュートリアルの敵みたいな立ち位置になりつつある。迷惑極まりない。
そんな俺は今、どんよりと暗い平原地域に来ている。
フィールド名で言うなら、『嘆きの平原』。俺はその戦闘区域を見下ろせる場所にいる。
ちょっと一眠りしようかと思い身体を丸めていたのだが、ドーナツ型の戦闘区域を徘徊している小型アラガミが急に一方向へ動き出し、何が起きたのかと気になって様子を見ていた。
すると、子供二人が息を切らして走っていた。紺色の髪と薄い水色の瞳を持った十二、三才くらいの少年と少女。
大人は誰一人として見当たらず、少年に手を引かれる少女が幾分年下にも見えることから、兄妹の関係だろう。
ま、見たからにはってヤツだな。
二人を追うのは、ザイゴート四体。
熱球ぶつけて即殲滅したいが、外して二人に当たったらと考えると、下りて物理攻撃で潰した方がいいか。
二人が通り過ぎ、後を追ってザイゴートが俺の前に差し掛かった時、飛び降りと同時に全体重をかけて二体を押し潰す。
急な乱入者にザイゴートは二人を追うのをやめ、その標的を俺へと変える。
軽く焼却処分だな。
俺は残り二体が攻撃行動に移る前に、熱球をお見舞いして燃やしてやった。
さあて、と……あの二人はどうしたかな。
キョロキョロと見回し、物陰で縮こまっている二人を見つけた。
おー、無事だったか。
で、ここからが問題なんだよねぇ……子供二人をほっとくわけにいかんでしょ?
しかし、俺はモンスター。何かしらの意思表示が出来ればいいんだが……。
「お、おにいちゃん……」
「大丈夫だリイサ。アラガミなんか、オレが追い払ってやる!」
そう言って少年が取り出したのは、ボロボロに刃こぼれしたナイフ。その切っ先を犬座りする俺に向けて威嚇している。
つか、やっぱり兄妹だったのか。そんで、少女の名前はリイサ、と……。
んー試しにあれ、やってみるか。
俺は地面に、爪で文字を書いてみることにした。伝わるかどうか分かんなかったから試したことなかったけど、この際だから当たって砕けろだ。
威勢のいい少年は俺の行動にキョトンとしている。まあ、わかるよ。アラガミが人を捕食しないで、地面を爪で引っ掻いてんだもんな。そりゃそーなるよ。
まず、俺は人を襲わない旨を伝える。簡潔に一文書いて、一歩下がる。
俺の行動に疑問を抱きつつ、少年は訝しげに文字に視線を落として口を開く。
「おれ、ひと、おそわない……?」
お、伝わったか。平仮名が読めるなら意思疎通が図れるな。子供相手だから出来る方法だよコレ。極東のアイツらだったら足蹴必至だわ。
違う文を書こうと手を伸ばすと、少年とリイサは肩を震わせた。すぐには信じちゃくれねェか。仕方ない。
手の平でさっきの文を掻き消して、続けて次の文を書く。
「なまえ、ゼノ・ジーヴァ、おまえは……?」
人に名前を聞くときは、まず自分からってな。まあ、これが本名かと尋ねられたら、俺はさっと目を逸らすけど。
無いよりはマシだろ?無いよりは。
「言葉わかるのか………?アラガミなのに………」
頷く。文字書いてるからな。見ての通りだよ少年。
信憑性は今のところ皆無だろうけど、襲わないで意思疎通を図っている俺の行動を評価してほしいな。
リイサを庇って立つ少年はナイフを構えたまま、俺の顔を数秒睨んで口を開いた。
「………
ショウとリイサか。まともに言葉を交わしたのは、この二人が初めてだな。子供はある程度、融通が効くから助かる。
俺はまた地面に文字を書く。
"目的地はあるのか?"
「………ある」
"どこだ?"
「………ゴッドイーターになれる場所」
ってことは………極東支部か。えぇーマジか………えー………行くぅ?
けどなぁ………向かう道すがらゴッドイーターに会えたなら、そいつに押し付けてとんずらする手もあるな。
ゲーム知識しかないから、極東支部がどこにあるかなんていう詳しい場所は知らないんだよ。ゴッドイーターに押し付け、が無理あるけど一番現実的かなぁ………。
"場所は分かるのか?"
俺の問いにショウは、構えていたナイフを力無く下ろし
目的地はあっても行き方がわからないようだ。
"親はいないのか?"
俺が書いた文を読んだ瞬間、ショウは口をつぐんで肩を震わせた。
あ、ヤバい。地雷踏んだなコレ………。
「………みんな喰われた。母さんも父さんも、おじさんもおばさんも………みんな、みんな、お前らに喰われた……!」
おっとぉ?まずいぞコレは……。完全に無神経だった俺が悪い。ゼノになってアラガミはほぼ食糧としか見てなかったから、人に対するアラガミの脅威が俺の中で希薄になっていた。俺がベテランゴッドイーターに抱く恐怖と同じなのになぁ……いかんいかん。
外見は人を辞めても、心は人を忘れちゃいけねェな。
「お、お兄ちゃん!また、アラガミが……!」
ショウの後ろで怯えているリイサが、俺から見て左手側を指差す。
またザイゴートなどの雑魚かと思いそちらを見やる。約六十メートル先に中空を漂うアラガミの姿があった。
………違う、小型じゃない。中型アラガミだ。人間の女性と蝶が融合したようなアラガミ、サリエル。あいつのレーザー面倒なんだよなぁ。
この二人との会話を優先にしたいんだよ。けど、このままじゃ完全に気を許すとまではいかないだろうし………他のアラガミから守るっていう姿勢を見せれば案外いけるか?
よし、それでいこう。
まず、俺はサリエルと正面から向き合い、奴の視界から二人を遮るため片翼を横に広げる。こんな事をする以上、サリエルを追って移動しようものなら確実に二人は奴に捉えられ最悪、お陀仏。
よって俺は、一歩たりとも動くことは許されない。願わずとも背水の陣だよ!やったね!
………はい、ということで今回
サリエルは浮遊しある程度距離を詰めてくるが、俺の手や首が届かない場所で移動をやめてしまう。近接で戦闘に入るのは不利と判断したらしい。
意外と頭良いなチクショウめ。
サリエルはスカート部分を広げ、自身の周囲に四、五個の光球を発生させる。
レーザー対決か。ならばよろしい、戦争だ。
俺も喉のあたりにエネルギーを溜めてゼノビームの発射準備が整った時、サリエルの光球がレーザー光線に変化し向かってくる。
交わって一本に収束したサリエルの光線を、俺は渾身のゼノビームをもって真正面から迎え撃つ。
俺が放ったゼノビームはサリエルの光線を物ともせず、蝕むように容赦なく呑み込んでスカートを広げたままの奴をも呑み込んだ。
溜めたエネルギー分が全て吐き出され、ビームが収縮していく。
ビームが消えたその場には、サリエルの欠片という欠片すら残っていなかった。
我ながら末恐ろしい威力だな、ホント。
呆気なかったと一息つくと、俺の真上から囲むように降ってきた複数のレーザーが直撃した。
光線撃ったあとに敗北を悟って最期の足掻きをしたようだ。
ま、俺を仕留める決定打には、どう足掻いても成り得ないがな。ゼノ・ジーヴァ万歳だよ。
俺は広げた翼を畳んで、背後にいる二人に向き直る。
ショウもリイサも目を丸くして俺を見上げていた。
"これで、信じてくれたらありがたい"
「信じるって………」
俺が書いた文字を読んだショウは、確認する様にリイサと目を合わせる。
んー、もう一押しか?放っておくわけにはいかないからなぁ。
"お前らを、ゴッドイーターに引き合わせる"
「え………なに言って………」
"俺と一緒にいれば、会える確率が高い"
"そうすれば、極東支部に行ける"
「………」
ショウは黙り込んでしまった。
子供なのに、なかなかどうして警戒心が強い。ま、こんな世界だし、巨体の化物がいきなり敵対相手であるゴッドイーターに会わせてやるなんて言ったら、疑わしいことこの上ないよな。
自分のことだけど、俺アホだ。前世でも偏差値低かったのかなぁ。
「お兄ちゃん」
ショウの
「つれていってもらお………?」
同意を求めつつ、しかし「それが最善」と訴えるような決意に満ちた瞳をしていた。
この妹………兄より肝が据わってるんじゃなかろうか。
有無を言わせないとばかりにリイサは、上目遣いで説き伏せようとしている。
一方でショウは、唯一残った肉親であるリイサの提案をキッパリ断ることが出来ず、腕を組み眉を寄せて数秒唸ったあとだらんと項垂れた。
「………わかったよ。名前長いから、ゼノって呼んでいい?」
"
「ゼノが襲ってこない限り、アラガミの中でゼノといっしょにいるのが一番安全だってのは、わかってはいるんだ。でも、アラガミであることは変わらないから、どうしても…………」
"分かってる"
決意したリイサも、観念したショウも、俺が人外だから不安が拭えない。
二人にとって、これはひとつの賭けに等しい。
俺がいくら本心から「人は喰わない」という言葉を並べ立てても、人間である二人には「アラガミだからいつか」という疑念が自然と湧く。
何となく………もどかしいな。
俺は二人を背中に乗せる。並んで歩くより早いし、周囲を囲む壁を越えるには飛んだ方が楽だしな。
両翼を広げて羽ばたく。
ここを抜けたら、視界の開けた場所に降り立って、わざとゴッドイーターに見つかるように行動しなければならない。
見境なくアラガミを殲滅しまくって、強力なアラガミであることを誇示した方が手っ取り早いか?
今までそういう行動は避けてきたからなぁ………。喰うためか、完全に敵対している奴しか狩らなかったもんなぁ………。
んー、まあ頑張ろう。死なない程度に。極東の連中に殺されない程度に。
分かり切った前途多難なこれからに頭を悩ませて飛び上がった俺は、『嘆きの平原』を囲む壁を二人の人の子と共に越えた。
目標は『ゴッドイーターに会う事』
俺は俺なりに、頑張って人助けをするよ。
先日から活動報告の方で、読者の皆様からの要望などを募集しております。
気が向いたら、何でもいいので書き込んでやってくださいませ。
それでは、また次回。
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第五話 遭遇
お気に入り登録件数が二百件を突破しました。ありがたい限りですね。
一話目投稿の時は百件いけば上々かと思ってたんですが、まさか趣味の産物がここまで伸びるとは………ありがとうございます。
話が浮かぶ限りは、頑張って更新していこうと思います。
『嘆きの平原』を離れて一日が経った。
俺は今、住む人の居なくなった難民キャンプの傍に横たわっている。
ゴッドイーターに見つけてもらおうとアラガミを蹴散らしながら歩いていた時、背中に乗っていたショウが食べる物が無くなったから探したいと言ってきたからだ。
そこで、ちょうど目に付いた難民キャンプで食べ物を探す事になり、現在に至る。
俺みたいに、アラガミが喰えりゃあ苦労はないんだがな。
そもそもアラガミ倒せねェから、どうしようもないんだけど。
それで、今ちょーっと気まずい感じなのよ。
何でかってーと、食べ物探しでキャンプに潜ったのはショウだけでして、妹のリイサは俺の傍が安全だろうという兄の一言に従いお留守番状態。
犬の伏せの格好になっている俺の腕を背もたれにしているが、会話という会話が全くない。
誰かァァァ!打開策をォォォ!汗ダラッダラなんだよォォォ!
表面上は平静を装いつつ内心発狂。
ごめんなさいぁい!子供相手に何話せばいいか分かんないんですぅ!助けてヘルプ!
「………あのね、アラガミさん」
急にリイサが話しかけてきた。
変わらずキャンプの方を向いていて、どんな表情をしているのか分からないが、ただ何と無く怖がられている印象ではなかった。
な、なんだ?おおお重い話か?重い話なんだな?俺にメンタルケアなんて出来るわけねェだろ!逆にメンタルケアして下さいお願いします!緊張で爆死する!
「………たすけてくれて、ありがと」
………はい?えーと……お礼、ですか?おおぅ、このタイミングで……。
出会った当初はショウの背中に隠れて怯えきってたのに、たった一日でどういう心境の変化だろうか。順応が早いのも子供の特徴なのか?
年齢で言えば小学生くらいなのに、しっかりしてんなぁ。兄貴は勇敢で、妹は先を考えられるしっかり者………別れてからもちゃんと生活していけそうだな、安心安心。
「おかあさんとおとうさん死んじゃって、お兄ちゃんが頑張らなきゃってなってたから………大丈夫かなって……」
どんな表情をしているのか見ようと、リイサの横に顔を近づける。
膝を抱えて顔を埋め、微かにすすり泣く声が聞こえてくる。
え、ウソでしょ?泣いてる?泣いてる!?重い方に急カーブしないでェェェ!俺、対処に困っちゃうよォ!
あれか、犬か!犬になれ俺!心頭滅却すれば心まで犬になれる!
いくぞー!いーち、にー、さーん……!
「アウーン……」
ごめんなさい。もう一回、もう一回チャンスをください!ホントは犬みたいに「クゥーン」って鳴きたかったの!
「ふふっ……」
ん?今笑ったの、リイサだよな?やった!なんか良く分かんないけど……やったよ俺!
声には出さず、一種の達成感を得て歓喜していると、リイサが伏せていた顔を上げて俺に笑いかけた。
「おかしなアラガミさんだね。んーと……ゼノ、ちゃん?」
ちゃ、ちゃん呼び………ま、まあ別に?い、良いんだけどさ……。
それにしても、俺のどこが笑うほどおかしかったのだろうか。素朴な疑問をリイサに伝えるため、地面に書く。
“おかしいって、どこが?”
「えーとね、可愛い声で鳴こうとしてたところ!」
何かが吹っ切れたような、そんな明るく眩しい満面の笑みをリイサは浮かべていた。
か、看破されてる……。マジでか……軽くショックなんだけど……。
「いろいろと食料見つかったよ」
俺が無邪気に笑うリイサの隣で項垂れていると、食料が詰まったバッグを抱えたショウが意気揚々とキャンプから出てきた。
長期保存のきく缶詰などをメインで持ってきたようだ。缶切りはいらないのかと思い缶詰を注視したところ、プルトップに指を引っ掛けて開けるタイプのものらしい。
ショウが抱えている缶詰を見て珍しかったのか、リイサはさらに表情を明るくさせ駆け寄っていった。
あれが年相応の明るさだよなぁ。あと数年経ったら、あの二人だってキャッキャウフフする年頃だろ?華麗なる青春の一ページだよね………羨ましいこと山の如し。
俺いつまでゴッドイーターやアラガミ相手にキャッキャウフフ(戦場鬼ごっこ)してんだろうなぁ………。
缶詰を一つ一つ手に取って一喜一憂する二人を眺めて、微笑ましくなった。
不意に顔を上げて、目で付近を索敵する。
ここは、崩れた瓦礫などがほぼ全てアラガミによって喰い荒らされた平坦な場所。敵は見つけやすいが、逆に見つかりやすくもある。
……いた。約四、五百メートル先にネコ科動物のような頭と黒い四肢、赤いマント……ヴァジュラか。単体ならどうにかなるな。
俺はヴァジュラに気付いていないショウとリイサを隠すように、鼻先でキャンプの中へ無理矢理押しやる。
状況の掴めていない二人は「え?え?」と困惑の声を漏らし、されるがままになっている。
俺が最後に鼻で小突いてキャンプ内へ押し込んだ後、ショウは振り返って声を荒らげた。
「い、いきなり、何すんだよ!ビックリするだろ!」
おおぅ、怒られた……。い、急ぎだったもんで……。
俺は二人にアラガミがいた事を伝えるため、地面を削るように文字を書いた。
“アラガミがいた。隠れててほしい”
二人の表情が一瞬にして強張った。しかし、俺が介入したとは言えアラガミから逃げ
無言で頷いたショウは何をすべきか理解したらしく、不安と恐怖で怖気付いたリイサの手を引き部屋の隅へ移動した。
外へ出るより、ショウ一人で探索が出来た難民キャンプの建物内が、完全ではないものの安全ではある。
さて、ここからは俺の仕事兼食事の時間だ。
他の奴を言えた義理じゃないが、ヴァジュラはあの巨体ながら意外と動きが俊敏だ。
下手に溜めのいる攻撃を仕掛けるより、近接物理で各部位を確実に潰して戦闘不能、瀕死を狙うのが得策だろう。
射程内に入ったら熱球であのクソ堅いマント溶かせるか……?最悪引き千切るか。いや、千切った方が早いな。
ん?遠距離のゼノビームがあるじゃん、だって?食事の時間って言ったでしょーが!ゼノビーム撃ったらアラガミさん、一発昇天しちまうんだよ!
望ましいのは、ヴァジュラに気付かれる前に仕留める討伐方法。
じゃあ、空からの急襲はどうだろうか?地上を走って仕掛けるより、空からの急襲の方が先手を取りやすい。
一回奴にしがみ付いてしまえば、俺の全体重がかかって振り落とされることはないだろう。
そうなると………マントを千切る必要もなさそうだな。
よし、それで行こう。
俺は両翼を羽ばたかせ、空に舞い上がる。
ヴァジュラの索敵可能範囲外であろう高さの上空まで飛び、奴の真上まで飛行して狙いを定める様に滞空する。
妙に動かないなと思ってたが………ヴァジュラも食事の時間だったらしい。赤い外殻の………オウガテイル?いや、確かヴァジュラテイルと言ったか。そいつを無心で貪っている。
俺は気づかれていないのを確信し、猛禽類が急降下する要領で翼を折り畳んでヴァジュラ目掛け突っ込む。
降下中ずっと耳元で、風が重い音を鳴らす。
目前。音に気付いたヴァジュラがこちらを振り向いたが、遅い。
落下の勢いをそのまま両前脚に掛け、ヴァジュラの両肩に掴みかかったと同時、圧殺するように地面へ伏せさせる。
次に、俺の重量と力に耐えきれずガクンッと前脚を折ったヴァジュラの頭部に、首を伸ばして牙を立てる。
何が起こっているのか一瞬の間をおいて把握したらしいヴァジュラは、弱々しくも獣神の名前に相応しい咆哮を上げた。
視界の端で、地上を走るように一瞬何かが光った。直後、電気が走るドーム状の空間が俺とヴァジュラを覆う。
放電か!だが、このチャンスを逃すわけには………!
頭部を噛む顎に、さらに力を加える。
バキバキッと外殻やら骨やらの破砕音と振動が、食い込ませた牙を介して伝わってくる。
俺は、力づくでヴァジュラの頭部を引き千切った。
しかし、放電キャンセルを行うには遅かったらしい。
千切ったと同時、落ちたいくつもの雷が身体の至る所を掠め、強力な電気が瞬時に全身を巡った。
ドーム状の放電空間は解除されたが、ビリビリして上手く動けない。
おー、これが麻痺ってやつか!って、呑気に感心してる場合じゃないな。さっさと喰って二人のところに戻ろう。
カックカクな動きでヴァジュラから降り、脚や胴体を喰っていく。
んー………
俺は、ヴァジュラの半身とコアだけ喰って、二人が隠れているキャンプの方へ顔を向けた。
うん、アラガミの姿は無いな。
キャンプに向かい、軽いランニング程度の速さで走る。
一歩の幅が広いから四、五百メートルでもあっという間だな。
痺れゼノ、ご帰宅でーす。
二人が隠れている建物から二、三歩引いた場所に座り、小さく吠えてみた。
すると、恐る恐る二人が顔を出し、安堵の表情で建物の中から出て来た。
「ゼノちゃん、アラガミ、倒したの?」
俺は頷く。
「ふふっ、ゼノちゃんって強くて、優しいアラガミさんなんだね!」
嬉しそうに笑うリイサの言葉に、俺は首を傾げる。
優しい?自分で言うのもなんだが、俺は自分を奇妙とは思ってるがな。アラガミというか、明らかなモンスターが人助けなんて、物好き通り越しておかしいという自覚がある。「君はおかしなフレンズなんだね」と言われた方がしっくりくる。精神的ダメージがマッハだけど。
「ねぇ、お兄ちゃん!ゼノちゃんって、わたし達が食べるものも食べられるのかな?」
「え?いや、それは分かんねーけど……」
「じゃあ、じゃあ、好き嫌いってあるのかな?」
「いや、あの……」
「わたし達が食べてるもの嫌いだから食べないのかな?」
「えーと……」
あー……リイサの質問攻めでたじたじだなショウ。微笑ましい限りだよまったく。
このまま放っといてても面白そうだが、助けを求めるショウの目が結構切実である。
「ゼ、ゼノに聞いてみればいいんじゃないか?」
「あ、そっか!ゼノちゃん!歯磨きさせて!」
おっとぉ?この子は何を仰っておられるのでしょう。突拍子が無さすぎて顎が外れるわ。
まあ、無下にするわけにも……というよりは、爛々と瞳を輝かせている少女の願いを断る非情さと勇気を持ち合わせていない。
上手いこと逃げおってからに、ショウの奴め……。
俺は仕方無しに、リイサの手が届く高さにまで頭を下げる。
よく見るとリイサは、ボロの布切れを胸のあたりで大事そうに強く握り締めていた。最初からそのつもりだったようだ。侮れないな、ホント。
けど、虫歯は怖いよなぁ。自分では磨けないし。
俺は口を開けた。
その時、今までにない重撃が、油断していた俺の頭部を襲った。
横からの強烈な振り下ろしの斬撃。俺の鱗に傷を付けるには至らなかったが、そのせいで斬撃が打撃に変わり、頭が揺さぶられて足元がふらつく。
頭がぐわんぐわんと頭痛のように痛んで視界が歪み、それは座っているにも関わらずその姿勢を保っていられない程。
いつから………いや、それより………一瞬だが、複雑な心境になるモノが見えたな………。
赤い重厚感のある………チェーンソーの形………。
俺は
「まさか、例のアラガミと遭遇するなんてなぁ。ツイてんだかツイてないんだか………」
突然のことで硬直している二人の前で気怠そうに呟いたその人物は、ゲームで見覚えのあるチェーンソー型の赤い神機を肩に乗せ煙草を吸っていた。
雨宮リンドウ。
あー、あれですねぇ………俺の中でのラスボス登場ですねぇ………。
発狂事案発生だよチクショー。
泣いていいですか?
はい、ということで、やっとこさリンドウさんが出てきました。
少なくて次回、多くてあと二、三話くらいで、原作前は終わると思います。
それから原作突入という流れになります。
それでは、また次回。
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第六話 それは誰が為に
ほぼシリアス展開は疲れました。
大まかな筋は考えてたんですが、意外と難産だったなと思います。
それと、あと少しでゴッドイーター3発売ですね。
まあ私は、プレステ4から買わないといけないんですけど………。
数秒の
………下手に動かないほうが良いなコレ。
シリアスまっしぐらだが、あえて言おう。
ぶったね!?親父にもぶたれたことないのに!
ま、親父の顔忘れてるけど、状況的に言ってみたかったヤツ。サーセン。
「………な………てんだよ………」
巨体に似合わずビクついてる中、消え入るような声に視線を送ると、茫然としていたショウが拳を握り締め俯いていた。
俺を見据えていたリンドウもショウの異変に気づいたらしく、煙草をくわえたまま耳を傾けている。
するとショウが、伏せていた顔をバッと上げた。
「いきなり何してんだよアンタッ!!」
薄い水色の瞳をギラつかせる怒りに満ち満ちたショウの絶叫。
怒りを真正面からぶつけられたリンドウは予想外の事態に目を丸くさせ、くわえていた煙草が地面に落ちる。
あー……心中お察しします。
アレだよね、ゴッドイーターとして人を守ろうとして、それが裏目に出ちゃった感じだもんね。複雑だわー……。
「
ショウの訴えるような物言いに、リンドウは反論するどころか困り果てた様子で頬を掻いていた。
あ、あのですねショウ君?俺の肩を持ってくれる分には非常にありがたいんだけどね?それは主観的な話であって、リンドウさんからしてみりゃあ俺は危険生物以外の何物でもないんですよ。
よって、リンドウさんに非はないわけでして、分かっていただけ……。
「ゼノちゃんは悪くないの!ホントだよ!」
激昂した兄に触発されたのか、俺とリンドウの間にリイサが割って入って来た。説得……というより、両手を左右に目一杯広げて明らかに俺を庇っている。
兄妹揃って何してんの。いや、嬉しいよ?嬉しいけども。目的を忘れてないかい?確か、ゴッドイーターになる為に極東支部へ向かう予定で……。
「……
ん?あの時?両親はアラガミに喰われたと言ってたが……その事か?まあ、外にいればアラガミに襲われることは当たり前だろうし、両親のこととは限らないかもしれないな。
相当ナイーブな部分なんだろうとショウの様子を見ると、悔しそうに唇を噛んでいた。
「母さんと父さん、それから他の人達も……みんな、アラガミの餌になった。何回も、何回も、何回も……けど、ゴッドイーターは一回も助けに来てくれなかった」
険しい表情のショウの口からポツリ、ポツリと言葉が紡がれる。
一つ一つの音は静かだが、一切の言葉を挟まず聞き入るだけの想いがひしひしと伝わってくる。
「『何があっても護るから』って笑ってた母さんも、『アラガミなんかに負けねぇよ』って豪快に笑ってた父さんも……死んだ……!」
一旦言葉を区切るとショウは、口を固く結んでその足を進める。
俺の前へ、リンドウの前へ……リイサと横並びで両手を広げ、まるで立ちはだかるかのように……。
「母さんと父さんみたいに、一度も助けてくれなかったゴッドイーターを信じるより……オレは、一度でも助けてくれた
言い切ったなショウ。
リイサも何も言わないあたり、兄と意見は同じようだな。
立ちはだかる二人を前にしたリンドウは、いつのまにか臨戦態勢を解いていた。俺を睨み据えていたあの鋭い視線さえも外れ、今は固い意志を宿す子供二人と向き合っていた。
……えーと、俺さぁ……長いシリアスモードってのは得意じゃねぇんだわ。それに、人間同士仲良くすべきだと思うんだよね。
俺は、鼻先で少し強めにショウの背中を押してやった。
不意打ちで転びそうになったショウは寸でのところで踏ん張ると、振り返った勢いのまま俺に怒鳴ってきた。
「な、何すんだよゼノ!危ないだろ!」
加減してたんだから、そう怒んなよ。和解のキッカケを作ろうと思ってたのにさ………。
俺がショウの言葉に耳を傾けず顔を
「お兄ちゃん、ずっと怖い顔してたからじゃない?ゼノちゃんは、ケンカはダメって言いたいんだよ!」
「リイサだって同じ事してただろ!何でオレだけ……」
どうやら不服そうだな。そりゃ決まってんだろ。
え、なに?ロリコン?いやいや、オニオンは好きだけれども。
怪物を前にしていながら和気藹々とした雰囲気の二人を見たリンドウは微かな戸惑いの色を浮かべたが、それはすぐに消え掛ける言葉を探すように頬を掻く。
そして、新しく取り出した煙草に火をつけると、気まずそうに重々しく口を開いた。
「あーなんだ………悪かったな」
煙を吐いて苦笑した。
これで一件落着かと思いきや、ショウが食って掛かる。
「アンタが謝るのは、オレ達に対してじゃない。アイツに対して、だ」
そう言うとショウは俺を指さした。
ん?俺?俺なの?いやだって、リンドウは別に間違ったことしたわけじゃないはずなんだが?
しかし当の本人はショウの言い分には一理あると解釈したらしい。笑っていた。
神機を地面に刺し、左右に退いた兄妹の間を歩いて、垂れた俺の顔の横で立ち止まった。
「………悪かったな」
それは、心の底からのものだった。。敵対の意思、態度、言葉、表情………どれをとっても兄妹の説得によって南下し、また削がれていた。
俺は人の言葉が話せないから、爪で地面に文字を書く。
"あんたは、ゴッドイーターの仕事をしただけだ"
「………!こりゃ一体どういうことだ………?」
俺が書いた文字を読んだ瞬間、リンドウは瞠目する。
「ゼノ………ゼノ・ジーヴァは、オレ達の言葉を理解してる。文字も知ってたから、それで会話もできるんだ」
「とっても賢いんだよ!ゼノちゃんってすごいの!」
ショウは淡々と補足的説明をし、リイサは嬉々として褒める様に語った。
「ゼノ・ジーヴァってのは、このデカブツの名前か?」
「うん、そうだよ?」
「自分でそう名乗ったんだ」
二人の回答を聞いたが、リンドウの中ではまだ疑問が渦巻いているらしい。
その証拠に、眉を
「お前さん、本当にアラガミか………?」
彼の疑問はもっともだ。
言葉、文字を知らないであろう
たまったもんじゃないだろうなぁ。捕食した対象の形質を学習するだけじゃなく、そいつが持ってた知識まで取り込んでいるなんてなったら…………。全てが全て人間にとって良い方向に転ぶとも限らないからな。
ま、アラガミがそんな特性持ってるかは知らんけど、俺の記憶じゃあ学習するだけだった気がする。それでも、
それに、俺の行動はアラガミの基礎行動に背いてるからな。
自分と似た形質のものは食べないのがアラガミの基本的な捕食傾向だが、それを考慮すると周り全てが俺の捕食対象になるはず。なのに喰うどころか襲ってないからね。
そこが一番引っかかってんだろう。
まぁ俺は、アラガミだけ喰って人には尻尾振りますが。精神が人だから、人に殺されたくないんですよ。俺はそう思います。
あ、でもアラガミにも殺されたくないなぁ………どーしよ。
「死にたくない」でファイナルアンサーだな、うん。
ともかく、リンドウの「お前アラガミ?」という質問に対しての俺の返答は………。
"さぁ?どうだろう"
俺自身、正直よくわかっていない。
だから全部ひっくるめて、『暇な神の悪戯』だと考えている。
それで納得できるかと訊かれたら、納得出来ないと答えるだろう。しかし、今はそれで納得するしかない。
そして、俺の素性なんかより、優先すべきことがある。
“何かの縁だ。ゴッドイーターのあんたに、折り入って頼みがある”
「頼み?」
唐突に持ち掛けられた化物からの頼み。
子供二人が俺を信頼し
それに、リンドウは面倒見がいい。自堕落な部分もあるにはあるが………この際関係ない。
"二人は極東支部を目指して歩いていた"
"そこを俺が拾った"
「………そういうことか」
俺の言わんとしていることを、リンドウは察してくれたようだ。
同時、ショウとリイサも俺の真意を悟る。
「なんで………」
最初に声を発したのはショウだった。
悔しそうに、今にも泣き出してしまいそうなほどに顔を歪め、俺が書いた文字を踏み乱暴に掻き消した。
「オレは、本心からゴッドイーターになろうなんて思ってない!ただ偶然………そう、ただ偶然パッチテストで適性があるって出て、それで仕方なく………」
泣きそうな声で言葉を紡いでは、何度も何度も、何度も、何度も、すでに消えた文字の
俺の頼みを、無かったことにするかのように。
「それにほら!ゼノは他のアラガミより何倍も強いんだ!外にいたって何も心配ねーよ!リイサもそう思うよな?な?」
「お兄ちゃん……」
リイサは悲しげに呟く。
身振り手振りで話す様は別れを惜しんでいるというよりも、一緒にいたい理由を無理矢理取り繕っているように見えた。
いや、違うな。俺が離れにくくなるように、感情に訴えているんだ。
でも何故?嫌なら嫌だと正直に言えばいい。思春期か?
「アラガミが来ても倒してくれるし、護ってくれるし、死んだり……しないから……」
あー……なんだ、そういうことか。
妙に回りくどい言い方をすると思えば……俺を、今はいない誰かに
「なあ!ゼノも楽しかっただろ?だから」
違う。ショウ、それは違う。
楽しくなかったと言えば嘘になる。だがその慕い方は、『今はいない人達』に向ける慕い方だ。
焦燥の眼差しで俺を見上げるショウを鼻先で押す。軽くじゃない。人なら確実に倒れる力で、突き放すように押した。
そんな俺の行動は、ショウにとって思いもよらない事だったのだろう。何の抵抗もなく尻餅をつき、今度は困惑の眼差しで俺を見上げていた。
「な、なんだよ。なんか気に食わなかったのかよ」
“お前、俺を何だと思ってる”
「なにって……オレ達を助けてくれた、おかしな
“違う”
「え……」
“お前、俺を死んだ親と重ねてやがるな?”
「ッ!そ、れは……」
ショウは言葉を詰まらせると俯いた。
『護る』、『アラガミに負けない』、アラガミと対峙しても『死なない』。これらは、死んだ両親がショウとリイサに対して交わした『守られなかった約束』。
その基準をクリアした俺は、
だが俺は、それを許容してはならない。
“俺と会うまで、お前は誰に生かされた?”
“誰の為にアラガミから逃げた?”
“なぜゴッドイーターを目指した?”
“誰の為にゴッドイーターを目指した?”
矢継ぎ早に書いた質問を、ショウは沈黙したまま目で追う。
最後の一文。最後の一文で、彼は息を飲んだ。
“両親の死を、無下にするつもりか?”
それが分からないほど、精神が幼い訳じゃないだろ?
さて、長居は無用だ。
言い方は、キツかったかもしれない。後悔はしていない、してはならない。
これが、俺にとっての正しい選択。
俺は項垂れているショウを横目に、今度はリンドウに向けて文を書く。
“二人を頼む”
「ああ。俺が責任持って連れてってやるよ」
“リンドウがそう言うなら、安心だな”
俺は立ち上がって、尻尾が当たらないよ気をつけながら身体の向きを変える。
「ゼノちゃん!」
振り向く。
リイサが大粒の涙を流して、ボロ布を握り締めていた。
「わたしね、ゼノちゃんをもう一人のお兄ちゃんみたいだなって思ってたの!優しくて、面白くて、とっても強いお兄ちゃんみたいだなって!だから……ありがとね!あんまりしゃべれなかったけど、楽しかったよ!」
そう言ってリイサは、目一杯に笑った。
あ、ヤバイ何コレ。あれだよ、なんか俺の中で目覚めそうだよ。ヤバイよコレ。
いかんいかん!
俺は一歩二歩と足を進め、キャンプから距離を置いた場所まで来てから翼を広げる。
羽ばたけば砂が舞い、全身が空へと浮き上がる。
そしてまた、アテもなく空を行く。
俺はアラガミを喰う。
それが、人の助けになるならば。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
「……オレも、なれるかなぁ」
化物が書いた文字の前で項垂れていた少年は、そんな呟きと共に立ち上がる。
「アンタと一緒に訓練とかしていけば、オレも強くなれるかな」
「ん?さーな。まず、極東支部に行くことからだな」
「そうか……そうだよな!」
吹っ切れたように少年は笑う。
「ゼノちゃんも、そうしてほしいって思ってるよ、きっと!」
「ああ!」
少女の言葉に少年は力強く応えた。
そして、化物が飛び去った空に拳を突き上げる。
「アイツに自慢できるくらい強くなって……一緒にアラガミと戦おうって言うんだ!」
心の中で少年は、巨躯の人外を『友達』と呼んだ。
「アイツ、何で俺の名前知ってんだ……?」
ただ一人、リンドウは煙草をふかし、疑問を口にするのだった。
色々と強引でしたかね………?
リンドウさんほぼ空気だし、口調分からないし………。
あともう一話挟むかもしれないです。
原作前か入ってからか、扱いが微妙な話なので。
それでは、また次回。
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第七話 『???』
前回で締めるには微妙かなと思い、ササッと書いた『誰か』視点の独り言です。
なので文字数は圧倒的に少ないです。
こうして、モンスターになった彼は人と縁を結ぶことになったとさ。めでたしめでたし。
………え?めでたしじゃない?
うん、まあそうだね。
たった数人と縁を結んだだけで、モンスターとしての境遇が変わるわけじゃないし、そもそも彼の行動が報われたと言うにはまだ早い。
これまでも、これからも、救えなかった世界でその事象を改変できるかは、彼の努力次第。
お人好しだからこそ、知っているからこそ出来る、物語への抵抗。
これは僕の希望的観測だけど、この先も都合よく人を助けていけたらいいよね。
彼、内心じゃあテンパってるけど、意外と頭回転させてるよね。
慣れたら慣れたでアラガミ相手に色々と試行錯誤しているようだし、ゴッドイーター側でも良かったかもしれないね。
でも、モンスターになるのを夢見てたのは彼自身だから。まあ、結構ああだこうだ言ってたけど。
僕は少し手を貸してあげただけなのに。
叶ったら叶ったで文句言うって、人間って難しいなぁ。
確かに、色々と手続きとかで彼には代償を払ってもらったけど、そのおかげで生きていけてたって理解してくれてるのかなぁ?
………ああ、そうか。その経緯も代償に含まれてたんだっけ。
まあ、あれでこの過酷な世界を歩いて行けるなら、安いものだろうね。
あのネタキャラ風に言うと………君も人類の為に、華麗に頑張ってくれたまえよ、かな。
それか、馬車馬のように働け、かな?
あ、でもこれじゃあゴッドイーター側に言う言葉かな?
ん?さっきから話してるお前は何者だって?
あー………彼がちょこちょこ話してたと思うよ?
僕は介入する気は微塵もないからね。言うなれば、『傍観者』ってところかな。
夢を叶えてあげたのも、僕からの手向けの花のつもりだったんだよ。
それなのに、ありがた迷惑だコンチクショーなんて言われたら………うん、へこむよね。
余計な世話だったのかなぁ?他の人は泣いて喜んだのに。
さて、と。
物語に直接介入しない僕が、無駄に長くつらつらと語るわけにいかないね。
彼はこれからも、『悪戯』で送られた世界で頭を使って生き残るだろう。
今のところ終わりなんて全然見えないけど、始まりがあればいつか終わりが来る。
この世界で彼が潰えてしまったとしても、また気紛れな『悪戯』があれば彼の魂は終わらないだろう。
僕は、彼がこの世界を改変しようと別に興味はないけど、彼の行動自体は見ていて楽しい。
捻くれている?まあ否定はしないよ。僕は『傍観者』だからね。
本来は人間一人に傾倒しちゃダメなんだけど………その点を考慮すると僕は彼に興味があるってことになるね。
だから飽きずに『傍観者』を続けていられるのかもしれない。
話が脱線してしまったね。
それじゃあ僕は失礼するよ。
どうやら彼の物語に、しばらく変化があらわれないようだから。
一度結ばれた縁が再び巡り合うのは、物語が動く時。
それまでに彼は、特別な呼び名が付くくらいに強力なモンスターになっているだろうね。
第七話『傍観者』
ゲーム発売後は私もアラガミ狩りに行くので、しばらく投稿はないかもしれないです。
一応書いておきますが、次回の物語自体の時間軸は飛ぶ予定です。
それでは、また次回。
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原作開始《無印〜リザレクション》
第八話 変化
何事にも癒しは必要だと思います。
沈みゆく太陽の下に、遠くを眺め座る巨体の化け物が一頭。
頭部や前脚、尾の先に揺れる蒼白い灯火のような膜は、夕日に照らされ仄かにオレンジ色を纏っていた。
誰もが畏怖し
大気を震わす荒々しい咆哮が辺り一帯に響き渡り、同時にアラガミの死骸が空へ舞い上がるように霧散する。
すぐそばにあった死骸が完全に消え去った時、巨体の足元に残ったのは四つの神機と同じ個数の赤い腕輪。
この未知のアラガミが発見されて一年と二ヶ月。
ゴッドイーター達の報告により、『ゼノ・ジーヴァ』と名称がつけられた。
観測例はこの一体のみという希有な
圧倒的な力で数の不利をことごとく覆し、その異常とも取れる強大さから別称で呼ばれることもある。
もし戦闘になるようなら死ぬ気で逃げろとまで念を押され部隊の救援に来たが、あったのは大量の死骸と接触禁忌種以上に危険な例のバケモノ。
奴が飛び去るまで待機し様子を窺っている最中に聞いた咆哮は、勝利を喜んでいるというよりも………バケモノには似合わない、嘆くような悲痛な叫びのように聞こえた。
おかしな話だが、救援要請を出した部隊の状況をその咆哮だけで察してしまった。
手遅れだったのだ、と。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
ゴッドイーターの世界に転生して早一年は経ったと思う。色んなアラガミを喰い、着々とゴッドイーター達に接触禁忌種扱いされ始めて久しいこの頃。
俺は元気です。身体は。
アラガミを駆逐したのはいいけど、ゴッドイーターがご臨終なさいまして……なんだろう……心臓に重りが乗っかってる気分。
空飛んでて見かけて、助けに入ったら時すでに遅し。
これまでに何度か同じ状況に遭遇したが、やっぱり慣れないな。
一般的に言うモブの部隊だったとは言え、その瞬間に出くわしておきながら間に合わなかったのは精神的にくるものがある。
俺がこうやって自己満足で人助けをしている間に、他の場所では俺の知らないゴッドイーターや難民がアラガミに襲われ死んでいく。
この世界では規格外な強さを誇るこの身体でも、全てを救えるわけじゃない。
どう頑張ったって、完全無欠のヒーローにはなれない。
これが俺の主人公補正だとほざくなら、ボディプレスした上でゼノビーム食らわせて塵も残さず消し飛ばしてやる。
あーあ……夕陽が目にしみるぞコンチクショー。
さて、と。遠くで双眼鏡を手にしたゴッドイーターが、俺が飛び去るのを今か今かと待っているようだし。潔く撤退といたしましょう。
どこに行くかなぁ………あ、そうだ。せめて、オウガテイルに喰われる資格を持ってる、あの人の運命を捻じ曲げに行こうか。
間に合うかどうかは知らんけども、行って助けられるなら儲けもんだな。
落ちた神機と腕輪はアイツらが回収するだろう。
これって『のこじん』扱いなのか?それとも、新しい適合者に引き継がれんのか?
確か第一部隊の一級フラグ建築士兼フラグクラッシャーの持つ神機が、引き継がれたものだという話を聞いた事がある。
アラガミに対抗するための生体兵器をガラクタ呼ばわりしないと思うが……。
とにかく、喰われたアイツらの魂が浮かばれますように……。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
心機一転、極東のプロハン達に媚びを売るため『鉄塔の森』にやって来た俺。
この巨体ではフィールドに収まらないので、上空を旋回しながら潜伏場所を探していた。
その矢先。ハプニング発生である。
二匹のオウガテイルを追い回すゴッドイーター二人が見えたのだ。
一番の特徴とも言えるブラストの旧型神機を携えた奇跡の誤射率保持者、誤射姫こと台場カノンさんと、真面目の中のクソ真面目にあたるバスター使いブレンダン・バーデル先生。
ずっと飛んでちゃあ、そのうちバレる。だが、鉄塔の森は隠れられる場所がない。
そこで、近場の海に身を潜めることにした。
G地点付近に面している海に降り立ち、身体を沈めてこっそりと鼻先から出して目がフィールド上に覗く程度にする。
正面には高台があり、その奥を一体のオウガテイルを追ってカノンが走り去って行った。
おっほほ〜う、超こえぇ。
だって死神の声が聞こえるもん。「どぉして逃げるのぉ?」とか言ってるもん。マジこえぇよカノンさん。
カノンさんマジ半端ねぇって。誤射率が。
おっと、今度は別のオウガテイルが飯食いに来た。
カノンさんが追ってたオウガテイルは犠牲になられたのかな。ブレンダンと鉢合わせして、カノンさんが誤射ったおかげで逃げられたのかもしれねぇ。
良かったな。一時とはいえこうやって飯食えてんだもんな。
俺は優しく見守ってやるよ。ハントされるまで。
「舐めたマネしてくれるよね……!」
ランチタイム中のオウガテイル越しに、ドスの効いた女性の声が聞こえた。
あ……カ、カノンさんじゃないですかぁ……。
振り向き威嚇するオウガテイルの両足の間から、狂気染みた笑みでブラストを構える誤射姫が見える。
俺に対して何のリアクションも取らないところを見るに、オウガテイル先輩がカノンさんの意識を一身に受け視界を隔ててくれているようだ。
ありがたや〜。
俺が呑気に観察をしていると、カノンさんがオウガテイルの顔面にブラストをぶっ放す。
一瞬怯んだのを狙い、もう一回ぶっ放す。
が、オウガ先輩は左へ跳び退き、標的を失った弾丸は俺の方へ………え?
「キャウン!?」
目がァ!目がァァァ!カノンさんの放った弾丸が直撃ィィィ!
高火力ブラストの餌食になった俺は被弾した衝撃で仰け反り、盛大な水飛沫を上げて海中へ倒れ込む。
痛い、クッソ痛い。眼球は防御が無いからクッソ痛い。
悶絶しながら身体を起こしつつ、ゆっくりと視線をゴッドイーターが駆けまわるフィールド上へ向けると、ハイテンションモードのカノンさんがニンマリと悪い笑顔を浮かべてブラストを構えていた。
んー………死んだかもしれない。
「オウガテイル以外にもいたなんてねぇ………アハハッ!痛かったぁ?ねぇ!今の姿、とっても無様だよ!」
助けてオウガテイル先輩!カノンさんの罵倒に俺の精神が耐えられない!
半泣きで先輩が跳び退いた方向を見ると、オウガテイルは振り返ることなく脱兎のように走り去っていった。
あ!待ておいコラ!同じ化物のよしみで助けてくれてもいいんじゃないの!?
しかし、高台の陰に消えたところでグシャッと斬られたような潰されたような音が鳴り、非常に
あ゙ー!オウガテイルさんカムバーック!
ってそうじゃない!カノンさんは未だ俺の真ん前。じゃあ、オウガテイル先輩を仕留めたのはもう一人の方………。
「今日の訓練は終わりだな」
ブレンダン先生が合流してしまいました。
ハイテンションモードが和らいできたカノンさんのもとへ歩み寄る最中、ブレンダン先生は俺を視界に捉えて足が一瞬止まる。
「あ、終わったんですね。ところで、このアラガミどうしましょう?」
「放っておいても大丈夫だろう。今までの報告通りなら他のアラガミと違い、滅多に人間は襲わないはずだ」
……おや?俺の評価が変わってるみたいだな。
絶対ぶっ殺す対象に入ってたのに、人に害を及ぼさないよう気を使ってたのが功を奏したか。
けど、化物なことに変わりないから警戒はされている様子。
ブレンダンもカノンも俺から一切視線を外さない。
「そういえば、博士からサンプルの採取を頼まれていたな」
「じゃあ、肉塊にしてもいいんだよねぇ!ねぇ!アッハハッ!」
ハイテンションモードがぶり返したカノンさん。
待って待って!三分間だけ待って!カップ麺作って待ってて!
俺がビクッと身体を震わせ目線をずらしていると、ブレンダンが耳に手を当て何かを話していた。
聞き耳を立ててもインカムの音声は拾えなかったが、何か不測の事態が起こったのは聞こえた。
ただ、その不測の事態というのが強力なアラガミが現れたわけではなく。
「なに?幸運を呼ぶアラガミが出現しただと………?」
その瞬間、目の色を変えるカノンさん。
ご愁傷さまです。
しかし二人は何か葛藤している。俺とアバドンが現れたらしい方角を交互に見て頭を悩ませている。
希少なコア持ちと、サンプル採取………さぁ、どうする。
「幸運のアラガミのコアを優先しよう。逃してしまうには惜しいレアなアラガミだ」
「え、サンプルはいいんですか?」
「もしもの場合、俺達二人では対処しきれないかもしれないからな。万全を期した状態の時にした方がいいだろう」
「そう、ですね。それじゃあ、幸運のアラガミの頭をかち割りに行きましょう!」
撃ち足りなかったご様子のカノンさんは意気揚々と出現地点へ向かい、ブレンダン先生は「訓練の続きだな」と一人呟いて後を追っていった。
よっしゃ!まず、なるだけ海に身体を沈めて、こっそり移動しよう。
対岸にここと同じような工場跡のような場所が見える。そこへ行って身を潜めよう。
体重の関係か思いのほか水中での浮力が働かず、微かに海底を歩いている。徐々に水深が深くなり、時々立ち上がって息継ぎをして、潜って海底を歩いてに繰り返しで対岸に辿り着いた。
陸に上がりたいんだけど……海面からの高さがあって腕力だけじゃ上がれないな。
多少の破壊行動は許されるか?
んー……ゼノビームじゃあ威力が強過ぎるし、熱球連発して溶かすのが妥当か?
よし、そうしよう。ついでに、陸上の建造物も掃除しようか。どうせ使ってねェだろうからな。
俺は岸から少し距離を取って、三方向熱球を放つ。なるべく同じとこに当たるよう狙いながら、絶え間なく熱球を吐き出す。
熱球を当て続けていると赤熱して徐々に溶け出し、海面との接触で蒸気が上がる。
あともうちょいか。
三、四発撃ったところで一旦止める。
集中的に熱球を当てた部分は、海面と同程度の高さまで抉れるように融解してる。溶けて流れ出た分は海中で冷えて固まり、段差状になっているだろう。
まだ赤く熱を持っているようだが、大丈夫。
溶かした場所の前で立ち上がり、岸に両前脚を乗っけてとりあえず踏ん張ってみる。
う〜ん………身体を持ち上げられない。痩せるか?いや、無理か。コレ多分、外殻とかの重さだろうな。
海底に脚は着いてるから跳び箱を跳び越える要領で………よっこいせッ!
海面上に出た後脚を岸のギリギリに掛ける。
それだけでは心許ないから、念のため両翼を羽ばたかせて身体を少しばかり浮かし、両前脚をさらに内陸へ置く。
これでバランスは取れたし落ちる心配はないな。
工場跡だけあってそれなりに面積の広い建物が点在しているが、俺が余裕を持って歩けるほどの道幅はない。
あれだな。歩くため、邪魔なものは、ぶっ壊せ。単純明快。
ここに定住するわけじゃないが、俺が丸くなって寝れる程度のスペースは欲しい。
壊して溶かして整地。
俺は安眠場所を求め、建物を壊しながら歩く。
三十分が経過した。
ここで予想外の事態が発生する。
建物を壊して広いスペースを自作した後、することもないためただ犬座りをして空を眺めていた。
尻尾を左右に揺らしていると、微かな違和感を感じた。痛いとかそういうものじゃなく、
動きはそのままに首だけを回して尻尾の先端を見てみると、ちっさい何かが引っ付いている。
いや、引っ付いてるだと語弊があるか。
ゆらゆらと風に揺れる純白の幽膜に、同じく真っ白な丸く小さいアラガミが食い付いていた。
神機の捕食形態とフグが合わさったような姿形。
レアなコアを持っているあのアラガミ、アバドンと同じ容姿。
だが、色が違う。突然変異か?けどなぁ……見たことあるような無いような……?
白いアバドンは尻尾の振りに着いて行けず一回離れたが、ふわふわと移動してまた噛み付いてくる。
……なんか、可愛いなコイツ。
本気で噛み千切りに来てんだろうけど外殻やら鱗やらが頑丈なせいか、ペットに甘噛みされている気分です。
時々「ピギィ!」って鳴くのがなんとも……。
ん?よく見たらコイツ、傷付いてるな。
………あ、もしかして……ブレンダン達が言ってた幸運のアラガミってコイツのことなのか。
よく逃げ切れたな。……罪悪感がエゲツない。
さて、どうしたもんか。
別に噛み付かれたままでもいいんだけど………ペットにしたい。
殺伐な日常にちょっとした癒しは必要だと思うんだよ。
何を言いたいのかと申しますと……。
アバドンってマスコットだと思うんだよね。
白いアバドン登場。名称はご存知の方もいるかと思いますが、心の内に留めておいてくださいませ。
話の流れは、完全に思い付きで突っ走っております。
活動報告にてリクエストを頂きましたので、今回拝借させてもらいました。
ネタ提供ありがとうございます。
それでは、また次回。
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第九話 穏やかな時間
GE3、ストーリーが終わってフリーミッションのみとなりました。
無印からやってますが、相変わらずプレイスタイルが乱戦必至の特攻です。
今までと比べるとGE3の乱戦は楽だった気がします。プロの方はどうかわかりませんが、大体十分切ってたので……。単体だと五分掛からなかったり。
ただし灰域種、お前は別だ。
俺の尻尾が白アバドン用の猫じゃらしと化して五分が経った。
振り払われても諦めず噛み付いてくる姿がなんとも……あーもう可愛い!
生きる為なんだろうけどさぁ、健気なんだよなぁホント。
こう地面を転がる姿が空気を目一杯入れた風船のようで、ぽよんぽよんと弾んでフワフワと漂いながら戻ってくる。
何この子の反応。クセになるんだけど。
なんて恐ろしい子!
また白アバドンが噛み付いてきた時、振っていた尻尾を身体に巻き付けるように曲げて尾先を前に持ってくる。
そのまま動かないでいると、異変を感じた白アバドンがビクッとフグのような身体を震わせた。
「ピギィ……?」
恐る恐る俺を見上げるような仕草をし、パッと口を離す。
それから逃げ場を探してフワフワと右往左往。崩れ残った壁を見つけるや否や、持ち前の逃げ足を発揮して浮遊移動すると壁の陰から「ひょ◯こりはん」して様子を窺ってくる。いや、「家政婦◯見た」か?
まぁとにかくアイツには悪いが、追っかけ回したい衝動が湧くなぁ。
肉食動物が獲物を追っかける狩猟本能と言うよりは、小さい子供が駅前で鳩を追っかけ回す感覚に近い。
しばし観察しようか。
と、地面に腹を付けリラックスモードに入ろうとしたその時。
「ピギッ!?」
白アバドンが驚きの鳴き声を上げて壁の陰から山なりになって飛ばされ、背中から全身を地面に打ち付け落ちた。
ア、ア、アバドンちゃあああん!!誰だゴルァ!バ◯スすんぞ!三分も待ってやらねぇからなァ!
ひっくり返ったまま動かない白アバドンを捕食しようと出てきたのは、群れるとウザってぇクソゴリラ……おっと失敬。腹立たしいくらい逞しい体躯を持つ猿人の様なアラガミ、コンゴウ。
コンゴウは白アバドンの事しか頭に無いらしく、俺は立ち上がって思いっ切り地面を蹴り、警戒を怠っているコンゴウの横っ腹へ渾身の頭突きをかます。
全身全霊。猛牛が突進で人を投げるようにコンゴウを
アバドンを愛でる会(会員俺だけ)の恨みじゃボケェェェ!
宙を舞ったコンゴウは抵抗出来ず、重力に従い真っ逆さまに落下してくる。
くたばれクソザル!塵も残さずなァ!バ◯ス!
俺はコンボを決めるが如く、コンゴウが地面に落下し背部のパイプ気管が砕けたと同時に、ゼノビームをもってトドメとした。
二コンボ!フルボッコだドン!もう粉微塵だドン!
……ふぅ、スッキリした。
上司によって溜まりに溜まったストレスが、上司のヅラを引っ剥がして事務机に叩き付けたことで発散された時並みにスッキリした。
まあ、元学生だから上司云々の話は詳しくねぇんだが……。
実際にそんな事したら………ねぇ?学生でも分かるぞ、ある程度。
底知れぬ達成感に浸っていると、引っくり返って戦闘不能状態だった白アバドンが、いつの間にか俺の傍でふわふわと漂っていた。
「ピギッ!ピギィッ!」
白アバドンはどこか嬉しそうにその場で数度跳ねると、今度は俺の周囲を結構な速度で回り始めた。
な、なんだ?喜びの舞い的なヤツか?
二、三回グルグルと回り満足したらしく、次は俺の前脚にスリスリしてくる。
甘えてきてる!アバドンが、甘えてきてる!なんだこの子、チョロいぞ!
俺が何もせずされるがままになっていると、白アバドンは何を思ったかそれなりの速度で俺から離れ、一分もしないうちに急いで戻って来た。
口にはキラキラと光る物を咥えており、それを地面に置くとまた「ピギィッ!ピギィッ!」と鳴いて楽しそうに跳ねる。
小さくてあまり見えなかったため顔を下ろして観察すると、紋様の彫られた金色に輝く硬貨だった。
金貨だ。アバドンちゃんが金貨持って来た。宝物的なアレか?助けてもらったお礼に「せめてお名前だけでも」ではなく、宝物の金貨をあげるというある意味間違っちゃいない感謝をしてきた。
だが、貰っても俺は使えない。換金できたら別だったんだけど。神機使いじゃないし、用途がなぁ。
「ピギ……?」
金貨をどうしようか悩んでいると、不安そうに白アバドンが顔を覗き込んでくる。
おおう……そんな目で見るな。お前からしたらこれも食糧になるんだろうけど、俺は金属を喰おうとは思わないんだよ。
さて、この金貨どうしよう。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
同日の夜中。
『鉄塔の森』付近で腹ごしらえをし、俺が更地同然にした場所で眠りにつこうとしていた。
結局あの用途のない金貨は受け取らなかった。どうにか俺の意思を身振り手振り首振りで伝え、白アバドン自身に喰べていただくことにしたのだ。
そこで、ふと思う。
換金素材を集めるせいで、レアなコアを持っているんじゃなかろうか、と。
全部喰ってるかどうかは別として、光り物を集めるカラスのような習性を持っていそうではある。
ま、コアについて詳しくは知らないからな。そもそもがレアなのか、レアなものになっていくのかなんて正直わからない。
俺が身体を丸めて考えている一方、白アバドンは俺の尾先の膜を甘噛みして遊んでいる。
金貨の件が済んだ後、白アバドンはじゃれるように膜を噛んではきゃっきゃっと跳ねていた。
頰の膜だったり、手首の膜だったり、翼膜だったりをひとしきり甘噛みして、最終的に収まったのが尻尾の膜。好みがあるのか?噛まれてる側としてはちょっと複雑……。
嫌われるよりはマシか。
そうそう、エリック上田氏についてだが、オウガテイル先輩にハンティングされた正確な日時が分からない。
今日が何日何曜日なんてのも知り得ないもんだから、現状希望的観測でしか動けていない。
定期的に『鉄塔の森』が見える場所に行ったり、上空を飛んで様子を窺ったりと、その程度だ。
「ピギッピギッ」
俺の尻尾で遊んでいた白アバドンが、見て見てと言わんばかりに顔の前で跳ねていた。
ん?何か咥えてるな……。
青白く発光する布のようであって、布ではないもの。あれ?妙に親近感が湧くぞソレ。見覚えが物凄くあるんだが、何だったかな……。
そして、何気なく見た尻尾。その先っちょに揺らめく青白い幽膜。左右対称だったはずだが、片方だけ少し欠けたようになっていた。
あれ?もしかして……。
「ピギ……ピギィッ!」
白アバドンは、発光するソレを咀嚼しながら全て飲み込んだ。
心なしか満足げである。
って、ソレ俺の一部じゃねぇか!コイツじゃれついて幽膜噛み千切った挙句捕食しやがった!えぇ……嘘だろ……。
「ピギッ!ピギッ!」
白アバドンはその場で飛び跳ねて左右に揺れ、味の感想を全身を使って表しているようだ。
なに?美味かった?そりゃ良かったなって、やかましーわ!
ま、まあ、時間が経てば元通りになるだろうし、白アバドンに害は無さそうだから叱らないでおくか。
つか、捕食はアラガミの専売特許みたいなもんだもんね。仕方ないね。これが普通だよね……。
ちょっとしたアクシデントがありつつ、比較的穏やかに夜は更けていった。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
時間は遡り、新種のアラガミ『ゼノ・ジーヴァ』が白いアバドン『アモル』から謝礼を渡されていた頃。
極東支部では初となる『新型神機使い』の初陣が、ベテラン討伐班第一部隊のサポートはありつつも初運用にして文句のない成果を挙げた。
訓練所での訓練成績を考慮すると、約束された成果と言える。
「今日は新人の初陣記念だ。豪華じゃないが、まあ、飲め飲め」
ロビーの出撃ゲート前にある休憩スペースにて、第一部隊長である雨宮リンドウが配給ビールを片手に言った。
テーブルの上には自販機で買ったであろう数本の缶ジュースとスナック菓子。椅子に座るメンバーは各々好きなものに手を伸ばす。
しかし、、一人だけ浮かない顔をしていた。新型神機使いの新人である。
「どうしたんだよショウ?オレ達、いい動きしてたよな!な!」
ジュースを飲んで菓子を摘んでと忙しい藤木コウタ。彼は新型神機使いと同時期に神機使いとなった、いわば同期である。
明るく振る舞うコウタの隣には新型神機使いの伊澄ショウが、スナック菓子を少しかじり口を開く。
「……全滅した部隊の事がなぁ。訓練のあと少しだけ話をした二人が、その部隊所属だったから……歳が近かったし、色々相談出来るなぁって思ってたんだ」
勿論、同じ部隊所属の橘サクヤやリンドウと言ったベテランに教えを乞う事も出来るが、第一世代と第二世代とでは扱い方が異なってくるとやんわりと断られた。
その点で言えば、亡くなった二人も第一世代の神機使いで同じ事になるかもしれない。
しかし、歳が近いことで話しやすさだったり、コウタと話すように何気ない会話が出来たかもしれない。
友人になれるかもしれない、と思っていた。
「そっか……。オレも、あの人達と少しだけど話したからさぁ。立ち回り方とか教えてもらったりしてたんだよね……」
「これが、普通なんだな……」
はぁ、と二人して深い溜息をつく。
「確かに任務に出た部隊が戻って来ないというのは悲しいことよ。だからこそ、あなた達にはこのささやかなパーティーを楽しんでほしいのよ」
「サクヤさん……」
ショウの向かいに座るサクヤが、悲しげな顔をしながらも配給ビールをあおる。
パーティーを楽しんでほしい。サクヤから発せられたその言葉には、戦場を生き抜いてきたベテランならではの重みがあった。
さっき言葉を交わした神機使いが数時間後、明日、明後日……もう二度と顔を合わせることが出来なくなる。そんな経験を何度も繰り返してきたのだろう。
自分達よりも、何倍も多く……。
沈んだ空気の中、リンドウは頰を掻き気まずそうに口を開く。
「……あー、そうだ。それについて言っておきたい事があってな」
「言っておきたい事?何すか?」
コウタが聞き返すと、リンドウは真っ先にショウの目を見据えた。
「救援に向かった部隊からの報告だ。『
「え、結構ヤバいじゃないすか!そのアラガミ!」
初観測から一年以上経った今でも、他の個体を発見するに至っていない稀少なアラガミ。
その巨体ゆえウロヴォロスと並ぶ超弩級のアラガミとされ、数ヶ月前に接触禁忌として扱う事も決定した。
攻撃方法、範囲、威力。どれを取っても確実に致命傷となりえる。
「直接の人的被害は少ないアラガミだけど、異常とも言える殺傷能力が危険視されている接触禁忌種よ。確かデータベースに載ってるはずだから、あとで読んでみるといいわ。あまり情報はないけれどね」
「そっか……接触禁忌になったのかアイツ……」
ショウの呟きは、誰の耳にも拾われることはなかった。
その後、初陣記念パーティーはお開きとなった。
リンドウとサクヤは軽く片付けをし、飲み直しだと言って自室へと行った。
ロビーに残ったコウタとショウは、ターミナルからデータベースの『
「頭にあるオレンジのコレって目?うわ、多くね……?」
「いや、目じゃねぇよ。そういう模様なんだ」
「えっ!マジで?」
「マジで」
サクヤの言っていた通り、載っている情報は外見の特徴や目撃証言、能力に関する推測など、他のアラガミと比べると圧倒的に情報量が少ない。
生態や習性が明確になっていないことが要因でもあるらしい。
コウタと書いてある情報について話し、ショウは最下部の文章を読む。
「当アラガミが
『歴戦王』と。
ゴッドイーター達の口調が迷走気味です。コレで合ってるのか……?
勉強する必要がありそうです。
今回、キャラ達に目立った動きは無いようですね。緩い流れになりました。
それでは、また次回。
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第十話 立場と距離
今年もよろしくお願いします。
『鉄塔の森』に来て早三日。
エリックは俺にいつ死亡フラグをへし折らせてくれるのだろう。
それとも、既に手遅れだったり?
いかんいかん、それはいかん。
エリックには家族がいるんだよ!?あんな事で死ぬんじゃねぇ!なあ、エリック!
……で、現在。太陽が頂点に差し掛かる時間帯に、戦闘フィールドの上空を旋回しながら様子見中である。
白アバドン(チョロイン)は、俺が手に持っている。
いざという時の逃げ足は一人前な白アバドンには、仮拠点の方で待っていろと身振り手振りで言ったのだが、伝わっていないのか必死に後を追って来ようとする。
しかし、俺の羽ばたきによる風圧で吹っ飛ばされてコロコロと転がる。
ならばと策を講じる白アバドン。噛み付ける箇所に噛み付いて、振り落とされまいと頑張る。
結果、風圧で吹っ飛ぶ。
その行動は、俺が折れるまで続いた。
泣けてくるくらい健気だったわ。
なにこの子、彼女候補なの?ねぇ?
心配だからっていつも主人公にベッタリついてくる隣家の幼馴染なの?ねぇ?
嫌だよ俺。約束されたフォーリンラブ的な展開は。
末永くお幸せにアラガミ喰ってる未来しか想像出来ないんだけど。
まあ、それよりもだ。
眼下に広がる『鉄塔の森』の戦闘フィールドに、二人の神機使いが小さく見えた。
誰なのか確認するために何度も何度も旋回して観察していたのだが、今になって極東の誰が来ているのかわかった。
エリックがいる。
エリックが、いる!
待ちに待ったエリックが、いる!
一緒にいるのはソーマ。
そして、仕事しろ俺の語彙力。
プレイヤーにあたる人物はまだいないようで、二人が一定の場所から動く様子はない。
「ピギッ!ピィギッ!」
突然、手の中にいる白アバドンが暴れだした。
眼下のゴッドイーター達の気配に気付いて、問答無用で追っかけられるトラウマが
白アバドンは外を見たいらしく、握った指の隙間に胴体ごと捩じ込ませている。
落ち着け。
万が一、何かの拍子に落ちたら……。
「ピギッ!?」
勢い余ってスポッと、指の隙間から下方へ滑り落ちていく白アバドン。
あ、ごめん、俺がフラグ建築士だったわ。
白アバドンを追って急降下。
前足では距離が足りず、首を伸ばして口を開け、どうにか拾い
────が、古龍は急には止まれない。
誰か突貫工事でブレーキ機能をつけてください。
落下速度を上げるために半分畳んだ翼を全開にしたが、まあ間に合わないのなんの。
咄嗟に身体を捻り、頭部からの落下は回避する。
肩から地面に接触、横っ腹、後ろ足と、倒れ込むような形で盛大に不時着。
崩壊した建物の瓦礫が四方八方に飛び散り、地面は陥没。ちょっとしたクレーターが出来てしまった。
この一連の状況、モンハン世界の化け物ハンター様が見たら、腹抱えて大爆笑だな……。
あーもう、そーですよ間抜けですよ。スキルとして持ってますよ。それが何か?
倒れたまま「グルルル」と喉を鳴らし不貞腐れていると、口の中に入れっぱなしだった白アバドンが「ピギ、ピギッ」と、鳴きながらじたばたし始めた。
俺は身体を起こして立ち上がり、顎の力を緩め開く。
白アバドンはいつも通り、ふわふわと地面に降り立つ。
「ピギッ!ピギッ!」
何かを確認するように俺の周りを一周すると、その風船フグの身体で何度も何度も前足に体当たりしてきた。
な、なんだよ……ヨダレまみれで汚いって怒ってんのか?それは、まあ……悪かった。
けどほら、緊急だったし?情状酌量の余地があると思うんだが……。
明確な意思疎通が出来ないため胸中で一人弁解していると、白アバドンは急に体当たりをやめ、左右に揺れながらゆっくり近寄ってくる。
なんだよ今度は………腹いせに噛み付こうって魂胆じゃなかろうな………?別に、大したダメージにはなんねぇけどさ。
内心身構えたが、どうも違うらしい。
白アバドンは俺の手に、これでもかと言うほどの力で風船の身体を押し付けてきた。
「ピギィ………ピギィ………」
いつもの無邪気な鳴き声とは真逆の、妙にしんみりとした鳴き声で、甘える猫のようにスリスリしている。
アラガミにしては、感情が豊かだと思う。
表情が変わるなんてことは一切無いし、また、あり得ることではないが、動作によるリアクションやら情緒の滲む鳴き声が何とも生物らしいというか………。
だから、言葉が通じなくてもある程度なら、伝えたいことが読み取れる。
だがどうして、白アバドンの行動は「懐いている」と言うより、幾分か距離が近い。
心酔、執着、敬愛などとも取れるが、表現的には近くて遠い。
結果論、「よく分からない」が俺の率直な感想だ。
ま、それはさておき。
俺の墜落事故で出来た小規模クレーターから脱け出して、どの地点に落ちてしまったのかを、首を伸ばして確認する。
端的に言えば、『鉄塔の森』の戦闘フィールド外。
下方には二段になったステージ、その先には『鉄塔の森』中心部の小空間へと繋がる一本道。
戦闘フィールド
上空から視認した二人のゴッドイーター、落下の衝突音とくれば、先は言わずもがな。
「今、衝撃音の原因を発見した」
「また出会ってしまうとはねぇ。新人君との顔合わせが台無しだよ」
左手側からゴッドイーターが二人、真逆に当たる待機地点から走って俺の前に辿り着いた。
ソーマとエリック。
エリック上田がパックンチョされていないところを見るに、プレイヤー枠の人物と合流する前に俺が落ちたことで、その衝突音が警戒を促す合図になったようだ。
現に、ソーマの神機にはアラガミのものと思われる血がこびりついている。
「……おや?あれは、『アモル』じゃないかい?」
エリックは俺の傍でふよふよと浮かぶ白アバドンに目をやると、意外とばかりに口を開いた。
あ、白アバドンの名前『アモル』か。
あーそうか、そうか。ありがとう、エリック上田氏。ここ数日の疑問が解決したよ。
「あの化け物がアラガミを引き連れているなんて情報、無かった気がするんだが………?」
そんな訝しげな顔をしないでおくんなせぇ、ソーマさん。
だがどうしたものか。
問答無用で攻撃を仕掛けてこないのは、幸運と呼ぶべきか、好都合と言うべきか。
しばしの睨み合いで進展がない中、別の声が聞こえた。
「ゼノ……?」
「あれが『歴戦王』……!」
声の発生源は、俺から見て右手側。
衣服の黄色が映える赤髪の少年と、紺の髪に薄氷色の瞳で凝視してくる少年。
藤木コウタと……伊澄ショウ。
なるほど。
お前が、プレイヤー枠の登場人物だったか。
ショートブレード、バックラー……銃はどのタイプか分からないな。ほぼ初期装備か。
アイツらもアイツらで、アラガミ相手に奮闘した形跡がある。
にしてもショウの奴……随分と背が伸びた気がするんだが、気のせいだろうか。
まあ年齢的に成長期だったんだろうし、コウタと同期なら、俺の知らない間に十五才を迎えていたんだな。
親じゃないが、感慨深いな。
「やっと……」
声を絞り出したショウは、呆気にとられているというより、予期しない事態に対する放心状態に近い。
考え無しに、ただ再会の喜びのままに、少年は一歩二歩と歩みを進める。
「チッ、動くな!!」
俺を警戒しながら、ソーマはショウの軽率な行動に怒りを飛ばす。
ああ、けどな……嬉しくないわけじゃないんだ。
気紛れか何かで情が移った奴が、こんな世界でちゃんと生きてるってのは、顔を綻ばせて歓喜するべきなんだろう。
「何してるんだよショウ!」
「いや、何って……」
磁石のように引き寄せられているショウを、コウタがその腕を掴んで制止させる。
端から見たら、ふらふらと死にに行こうとしている異常者予備軍。
思考が感情を押さえ付けている。
今するべきは何か。
無理をしてまで極東連中に関わろうとは思わない。
人間に肩入れはする。
ああやって、俺を理解してくれる奴がいるのは、嘘つくまでもなく嬉しい。
だが。
いつぞや「サンプル回収」がどうのと聞いた。
どっかの研究馬鹿が変な利用価値を見出だした時、俺への認識が『接触禁忌の化け物』からズレていく。
適度に敵対意識があったからこそ、俺は逃れるために思考を巡らせることが出来た。
俺がゴッドイーターからの信頼を勝ち取るのは良い。
じゃあ、逆は?
ゴッドイーターが、俺の信頼を勝ち取ったらどうなる?
俺の思考力が
それこそ、「馬鹿な奴」と嘲笑混じりに罵声を刺すか、「愚の骨頂」と嗤い転げて軽蔑を浴びせるだろう。
何事にもちょうど良い距離がある。
俺は四人を回し見て、
撤退だ。目的は達成した。
長居する必要はない。
エリックに見られてから、ずっと背後に隠れていた白アバドン改め『アモル』を掴み、翼を広げる。
異種族の埋まらない
■■■■■■■■■■
『ゼノ・ジーヴァの反応……消失しました』
かの巨龍が立ち去って約一分後、インカムからの声がそう告げた。
「はあぁぁぁ………すげぇ怖かった……」
一番に肩の力を抜いたのはコウタだった。
興味本意で噂の『歴戦王』についての情報を読み、
「さすが『歴戦王』って呼ばれるだけはあるよなー。こう、風格っつーか威圧感っつーか……そう思わね?」
「………」
ショウは巨龍が飛び去った彼方の空を、無心で眺めていた。
また、置いていかれた。
いや、まだ届いていなかった。
遠い。遠過ぎる。それは、既に知っていた事じゃないか。
「さっきからどーしたんだよ。らしくないなぁ」
「あ、いや……ごめん、考え事してたんだ」
不審がるコウタに意識を引き戻され空からパッと目を離すと、正面から二人の同業者が歩み寄って来ていた。
今日の任務で合流、同行する予定だったソーマとエリックだ。
不測の事態によりソーマとエリックが先行し索敵討伐、その後到着したショウとコウタが反対側を索敵討伐の流れになってしまった。
両者共々、互いの名前はインカム越しのオペレーターから聞いている。
「ようこそ、クソッタレな職場へ」
「君達も世界のため、華麗に戦ってくれたまえ」
二人の挨拶は正反対のものだった。
一緒にいるのが不思議に思うほど、二人のゴッドイーターという仕事に対する熱の入り方が違っていた。
「ああ、よろしく」
「サッパリした挨拶だな……よろしくっす!」
ショウの淡白な挨拶に打って変わって、コウタは右手を額に当て背筋を伸ばし敬礼のポーズをとった。
四人が合流したことにより、無事顔合わせが完了した。
任務自体は完了しているため、アナグラに戻ることになった。
ヘリの着陸ポイントへ向かおうとした時、ショウの横を通り過ぎようとしたソーマが呟く。
「お前、何のために『ここ』へ来た?」
「え……?」
戸惑い言葉が詰まる。
だがソーマは、ショウの答えを待つまでもなく、さっさと歩いて行ってしまった。
ショウは頭の中で自問のように
答えは、ある。
先を行くコウタに呼ばれ返事をする。
思い浮かんだ答えを飲み込む。
多分これじゃあ、ソーマは納得しないだろう、と。
制止役としてコウタにも出撃してもらいました。
そして、白アバドンの名前を思い出した(?)主人公。やっとかよ。
もうそろそろ主人公の「人だった時」に関して書いた方がいいかなぁ、と思いました。ついさっき。
ちょこちょこ薄く書いてはいたんですがね。何にしたって、書くに至る話の流れが思い付かなかった。
それが、とあるリクエストによって解決しかかってる状態です。
ついでに、あの人にも主人公を尋問していただきましょうかね。
それでは、また次回。
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第十一話 雨のちに
雨が降っていた。
焦点の合わない視界の中で、ただその時、雨が降っていた。
雨音が何かを掻き消して、見るべき何か、見たくない何か、その全てがボヤけていた。
何かがズキリと、釘を打たれたように痛んだ。
どこがという明確なものは分からず、ただ雨音が乱す何かを乾いた眼球が捉えるたび、拒否する鼓膜が微かに雑音を拾うたび、ひどく痛んだ。
乾いている。眼球が乾いているのに、いつまでも光景はハッキリとしない。
音を拾っている。なのに、周囲の雑音という雑音の中で雨音しか拾わない。
色の無いボヤけた世界が、誰かが邪魔するように砂嵐で散らされて、消えかかる。
聞いたはずの雑音すら、掻き消されていく。
夢を見た。
夢を見た、気がした。
知らない間に落としてしまった記憶を、無意識に背いていた記憶を───。
■■■■■■■■■■
うっすらと瞼を上げる。
五秒経った辺りでボヤけた視界がハッキリと輪郭を持ち、寝ぼけた意識が覚醒する。
なんか……胸糞悪い何かを見た気がする。何だったかな……。
忘れるってことは、そんな大事な事じゃなかったんだろうな。
丸めていた身体を伸ばし頭を持ち上げると、ザァザァという音が聴覚を刺激した。
それが雨だと判断して一瞬全身が濡れると思ったが、ああそうだと思い出す。
出入口壊して、巨大倉庫を寝床にしてたんだった。
漁港というよりは商業とか、貿易とかで利用するような、そんな場所にある無骨な倉庫。
『鉄塔の森』の件から二日が経過し偶然見つけた、俺が自由に歩き回れるほど結構広めの宿泊所だ。
雨に濡れても差ほど気にしないのだが、どうしてかな……あんまりずぶ濡れになってしまうと風邪を引きそうで。
引くのか知らんけども。
いざとなったら蒸発させれば済む、とか無粋なことは考えないでほしい。それ、俺も思ったから。
上方に見える、ぐるりと倉庫を一周する窓の向こう側では、重ッ苦しい曇天がこれでもかと雨を降らせていた。
まだ、止みそうにないな……。
今後の原作イベントに関して、アイツがヤバいとかそんなのは無かったはず。
いや、約一名いたかな。あれは……ほっといても原作で回収されてたし、問題ないだろうな。
急ぐ用事もないし、アラガミいないし、気が乗らないし、何となく動くのが億劫だと思っている。
雨のせいか……?梅雨の時期とか雨が降ってるだけで、何の理由もなく気が滅入るんだよなぁ。
どーにかならんもんかねぇ。
あ、そういえば、アモルどこ行った?
キョロキョロと見回すと、
基本アラガミって何でも喰うからなぁ……。
外に放置されてるコンテナなんかも、いくつか喰われた痕跡があったな。
中身を覗いたら、きれいサッパリ無くなっていた。
元々何が入っていたのか分からないし、見当も付かないから味がどうのとかは言えないが、上手く喰うもんだと感心はした。
まぁどうせ、あのコンテナの大きさと広さだから小型アラガミか、せいぜい中型アラガミくらいしか入れなかっただろう。
だったらコンテナも喰ってけよ。世界的な清掃業者だろ?アイツら。
まあ、それはそれとして。
雨が止むまでもう一回寝るわ。
日中だけど。
───五時間後。
おはようございます、こんにちは、こんばんは。
二度寝かましてたらアモルに叩き起こされました。
暗い雲は散り散りになって、合間から陽の光が差し込んでいる。
「ピギィ、ピギィ!」
アモルが早く外に出ようと、俺の指を噛んで引っ張り出そうとしている。
体格差を考えろよ、体格差を。
寝転がったまま頑として動かないでいると、アモルは疲れたのか口を離し、残念そうに小さく鳴いて地面に腹を付けた。
あー……しょんぼりしてる……。分かったよ、行くよ。
ったく、仕方ねぇな……。
べ、別に可愛いだなんて思ってないんだからね!勘違いしないでよね!
身体を起こして立ち上がり、首やら背中、尻尾を伸ばして、人で言うところの背伸びをする。
俺が軽く準備運動をしている前で、アモルは嬉しそうに左右に素早く浮遊移動しては小刻みに跳ねる。
純粋というか素直というか……。
のそのそと歩いて倉庫から顔を出し、右、左、右、上とまずは様子見。
ま、アモルはお構い無しにサッと出ていくけど。
あれ絶対一匹で徘徊してたら即オサラバするな。警戒心というものがないのか、あの白フグ。
右は海、左は更地同然の内陸。
海には用がない。
ふよふよと勝手にどっかへ行ってしまいそうなアモルに向け、呼び掛けと注意の意を込めて軽く低く
俺の声に気付いたアモルは数メートル離れた場所でピタッと止まり、振り返って持ち前の俊敏性を発揮し足下まで戻ってきた。
「ピギッ!」
ちゃんと言うこと聞いたよ、偉いでしょと言わんばかりに、アモルはその場でくるくると回った。
あーはいはい、偉い偉い。俺の言いたいことが伝わって何よりだ。
はい、じゃあ行くぞー。
特に反応を見せず、俺は内陸の方へと歩き出す。
一方アモルは、俺の素っ気ない態度に腹を立ててしまったようで。
「ピギィ……!ピギッ!ピィギッ!」
俺の背後で数度跳ねたあと、尻尾の幽膜に噛みついてきた。
ハッハッハッ、そんな事で俺の気を引けると思うたか雑種風情が。
だが、俺は寛大
なーんて、某金ピカ慢心王風に無視してはいるが……。
気にせず歩くたびにアモルが噛んでいる箇所の神経に、嫌な感覚が伝わってくるんだけれども……。
「ピギッ!ピギッ!」
突然、尻尾に噛み付いていたアモルが、俺を追い越して約十メートル先に躍り出た。
機嫌が治ったらしいアモルは、立ち止まった俺の前で………って、あれ?なんか咥えてね?
物凄く親近感の沸く白い布的な……的な。
あれれー?おっかしいぞー?
焦る以前に目から汗が……。
アモルは咥えている白い布的なアレを、満足そうに器用に頬張って捕食した。
俺の一部をそんな……おやつ感覚で……。
目頭が熱くなる俺を知ってか知らずか、アモルは満腹とばかりにゲップを漏らす。
ああ……満足したようで何よりです……。
───一時間後。
港を離れ、それなりに内陸へと入ってきた。
どこも似たような景色だ。
半壊、全壊した建物とひび割れた道路、散乱している瓦礫。
アラガミに喰い荒らされて、アスファルト下の土が剥き出しってのもザラだ。
その中でも特に広大で、土が剥き出しになっている場所があった。
水田とか畑の農耕地だったであろうそこで、大型のアラガミ、ヴァジュラ相手に余裕綽々の立ち回りを見せ付けている人物がいた。
赤いチェーンソーの神機……もしや……。
結果の分かりきった戦いの行く末を見届け、ふと思う。
なんで観戦してんだろ。
だってあの人、ヴァジュラ倒して一直線にこっち来てるもん。タバコ吸いながら来てるもん。
あーここで逃げたら、古龍として面目丸潰れの危機が………って、もう遅いか。
ヴァジュラを討伐した神機使いリンドウは、犬座りしている俺の前で立ち止まり、微笑を浮かべた。
「よぉ、『歴戦王』。一年振りくらいか?」
あ、結構フランク。
いや、違う違うそうじゃない。
まぁ、あれか。敵対意識の低さに関しては、ショウとリイサに並んでるからなこの人。元のいい加減さとか、そういう性格が関係してるんだろうけど。
アモルは例の如く、俺の後ろに隠れている。ちゃっかりしてやがるな。
「なんだ?言葉忘れちまったか?それとも別個体だったか……?」
俺が応答しないと見るや否や、リンドウは緩めていた警戒心を強め戦闘態勢に入りつつあった。
荒事は勘弁願いたい。
俺は前脚の爪を立てて、長らく使っていなかった文字を思い出しながら出来るだけ小さく、地面に書いていく。
“残念ながら、同種は見たことないな。『ゼノ・ジーヴァ』は俺だけだと自負している”
「ほぅ……お前さんが言うなら、そうなんだろうな。ならいいんだ」
警戒心は解けたが、「ゼノは俺だけ」という言葉にリンドウが妙に安堵しているように見えた。
危険視されていたのは知っていたが、極東一のバケモノさんが顔に出すとは思っていなかった。
“ならいいって……『歴戦王』呼びもそうだが、そこまで危険視されているのか?”
「そりゃあな。まあ俺の推測なんだが、お前さん……その気になればゴッドイーターなんか敵じゃないんだろ」
俺は目を見開いた。
リンドウの声色自体は非常に軽いものだが、自身の推測と言いつつ極東支部の総意が含まれている気がする。
だからゴッドイーター達は無闇に攻撃を仕掛けてこなくなったのか、と考えるのは愚考だろうか。
いや、俺の地道な努力が、と思うより真実味があるのは間違いではないはず。
それでも「ゴッドイーターは敵じゃない」ってのは………。
“買い被りすぎだ。だったら俺は手っ取り早い食糧として、今頃あんたを殺しにかかっている”
「ハッハッ、物騒だなぁ。ま、そうか」
勿論、冗談だ。だが、リンドウの笑い声は冗談と分かった上で乾いている。
冗談半分、本音半分として受け取っているのだろう。
ベテランならでは、と言ったところか。
“聞きたい事がある”
俺は不意に、先日の『鉄塔の森』の件について疑問が浮かんだ。
「ん?なんだ?」
“ショウはともかく、なぜ他の連中は俺に言葉が通じることを知らないんだ?”
知っていたとして、ソーマあたりの態度は変わらなかっただろう。だが、楽観者コウタはダメ元で、コミュニケーションを
それが皆無どころか一触即発、敵意剥き出しだった。
人望の厚いリンドウが情報源となれば、信憑性の高いものとして扱われ広く知れ渡り、今以上に敵対意識は薄くなる……と思う。
だから先日の刺々しさは、「知らない」ことを前提にすると相応しいと思える。
全て憶測と予想の域を出ないが……。
穏便に済むなら、それ以上の事はない。そんな信条を持つ俺の思考回路が甘いのだろうか。
俺の質問に目を通すとリンドウは、「あー…」と間の抜けた声を漏らし視線を逸らす。
それからバツの悪そうな顔でタバコの煙を吐き、頭を無造作に掻いた。
「報告、してなくてだな……」
……あれだ、俺がもし人の身体であったなら、
何かしらあるのでは、と勘繰っていたが杞憂だったらしい。
誰か釘バット持ってきて。真面目に考察した記憶をかっ飛ばしたいから。
“随分といい加減……”
「悪い、ちょっと待ってくれ」
文を書いてる最中に、そう言って止められた。
何事かと手元からリンドウへ視線をずらせば、彼は片耳に手を当てて何かに聞き入っているようだった。
あー通信機器、インカムからの声を聞いてんだな。
「……何?極東支部にアラガミが……?誰かいないのか?………そうか」
非常に苦い顔をしていた。緊急事態らしい。
書きかけの文字を消し、率直な疑問を改めて書く。
“何かあったのか?”
「あー……いや、まあ、ちょっとな」
歯切れが悪い。拠点について、そう気安く言える事ではないか。
相当よろしくない状況の裏付けでもある。
さっきのやり取りから察するに、極東支部にアラガミが接近。群れか単体かはともかく、あの表情からして支部に残っているゴッドイーターは少ないか全くいない、または戦力とは呼べない新人か。
防衛班ひっくるめて人員が心許ないのだろう。
だとしたら、アラガミの群れが接近しているのか?
ま、ここで株を上げておけば、今後は色々と楽になるかもしれないな。
“提案がある”
「なんだ?手早く済ませてくれよ?」
“方角さえ教えてくれれば、極東支部まで飛んで行ってやるが?”
「………は?」
素っ頓狂な声を上げ、リンドウは吸いかけのタバコを落としてしまった。
「あー……本気か?」
“本気じゃなけりゃ言わない。それに、ここで恩を売っておくのも悪かないだろ”
“あんたに、選択肢はほぼ無いと思うが?早く助けに行きたいならな”
いつか到着するであろうヘリを待つより、居合わせたやけに協力的なバケモノに飛んでもらった方が、時間的にも早さ的にも良いと思わないかね?
リンドウは肩を
「性格が悪いなぁ、お前さん。良い提案としか言わざるを得ないな。しかしまあ、奇特なバケモノだ」
“何言ってんだ”
俺は笑うという表情が作れない代わりに、腹の底から低い唸り声を出した。
“善し悪しもない。何かにとっての脅威だからこそ、バケモノなんだろうよ”
後半アモルが空気……くそぅ、唯一のアイドル枠が……。
次回は多分リクエスト回になるかと。
それでは、また。
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第十二話 青天の霹靂
先日、誤字報告をいただきまして、「投稿前に目を通しているのに」と落胆しつつ、ありがたいと思ってました。
その内のひとつで、「あ、これ説明せにゃならん」事について指摘されたので、この場を借りて説明をば。
前回の金ピカ英雄王を真似た文面にて、一人称の字について報告を受けました。
実際は「我」を使うとの事ですが……知ってます。
「英雄王本人じゃない」「真似」という二点で「俺」を使いました。
言い訳染みていると思うかもしれませんが、事実です(迫真)。
あーあ、後書きに書いときゃ良かった!
以上!
「おー、速いなぁ。これで風除けがあれば、完璧なんだがなぁ」
俺の背中でリンドウが、そう呑気に呟いていた。
龍に風除け機能とか期待しないでほしいんだけど。つか、それ容認した上で俺の提案に乗ったんじゃねェの?
しかし、そこは極東一の神機使いクオリティ。神機片手に背中の棘に掴まって立ち乗り。
これぞ
それはこの際、追求しないとして。
俺がリンドウに提案を持ち掛けてから現在、上空約二百メートルのあたりを飛行して五分が経過した。
普段ならこの倍くらいの高度で空を飛んでいるのだが、交戦地へ到着した時リンドウが飛び降りるとのことで予め低空飛行しておき、彼からの合図でさらに高度を低くする算段となっている。
癒し系チョロイン、アモルちゃんは俺の手の中で大人しくしてもらっている。
言っちゃ悪いが、出る幕がない。すまん。
───五分後。
遠方に小さく、しかし
巨大な壁。極東支部を外界のアラガミから護る外壁。
眼下には、アラガミが群れを成して一直線に進行していた。
目測でヴァジュラが七体、その他小型とコンゴウ種がメインの中型を合わせて全数三十前後。
文字通り移動中の高みの見物を決めていると、重い金属音と共に神機で背中を二度突かれた。
リンドウからの、高度を下げろという合図。
速度を保ったまま徐々に地面が近付き、ギリギリの高度で飛行を続ける。
進行するアラガミに対抗する、見ず知らずの神機使いと防衛班の面々。
しかし人手が足らず、神機使い達の張った防衛ラインから取りこぼしが溢れ出ている。
道中、気になるものを見たが、まずは後回しだ。
外壁まで三、二、一………間際で重心をずらし、左へ旋回。
一番地面へ接近するタイミングを見計らい、リンドウは飛び降りた。
「助かった。ありがとさん」
瞬間、そんな優しい声が届いた。
俺はすぐさま飛び上がり、様子見がてら交戦地の上空に円を描く。
予想外なバケモノの登場に緊迫した表情で空を仰ぐのは、雑魚狩りに余裕のある防衛班メンバー。
口をあんぐりとさせ呆けている間抜け顔を晒すのは、俺の知識に無い低戦力の神機使い達。
そして、取りこぼしを掃討し微笑を浮かべるリンドウ。
真っ当に感謝されたのは、久し振りだ。
心の底からの、歯に衣着せない言葉を、
今まで聞いた雑多な敵意より、深く、
ああ……俺は、人助けが出来た。あの兄妹を助けて以降、誰にも助力出来なかった俺が……。
人助けだと思える人助けを───。
ならもうひとつ、サービスしてやろう。
アイツらの仕事は取らない。
ただ、助力するだけだ。
アラガミとゴッドイーターが火花を散らす真上で滞空し、大きく、空気を吸い込む。
目一杯、腹一杯。
異常に
吸い込んだ息を、牙を剥き、顎を限界まで広げ、喉を震わせて全て吐き出す。
一秒を待たずして天地に轟く高低二重の
コンゴウのみならず、ヴァジュラと小型アラガミさえその場で地に伏せ、身動き一つ取れない程の、超咆哮。
大気すら波打つ咆哮の余波で、砂や砂利が舞う。
さぁ、ここは神機使い達の持ち場だ。
咆哮に耳を塞ぎ、少しでも軽減できたアイツらに利がある。
アラガミは長めのダウン状態。
バケモノなりに御膳立てはしてやった。
あとは、好きにやるがいいさ。
俺は別の場所で、アラガミを喰ってこよう。
極東支部を正面に左へ方向転換。
この先にも、二十体に満たないアラガミの群れを確認した。
リンドウを送る途中で目についた、あの件である。
後回しにしてしまった為、少々急がねばならない。
一向に外壁付近へ姿を現さないのだ。
それは、進行ルート上に奴らの気を引くものがあるから。
こんな殺風景な場所で気を引くものといえば……無防備な人間に他ならない。
飛行一分強。
寄り合わせで
複数の人の気配があるのは明らか。
その入り口を、サリエル一体を中心としたオウガテイルの群れが取り囲む。
まずサリエルの斜め上に陣取り、滑空を開始。
勢いのままに人の女性を模した胴へ喰らい付き、慣性に従って地面に打ち付け引き摺る。
これだけでは、決定打にならない。
仕上げに胴を何度も、噛んで、噛んで、噛んで、噛み千切る。
口内に収めたサリエルの胴体を咀嚼、飲み込む。
んー………微妙。残ったスカート込みの下半身部分は、アモルに処理してもらおう。
握っていた手を開いてアモルを解放する。
「ピ……ピ、ギィィ………」
俺の手から降りたアモルはフラフラとしており、平衡感覚が麻痺しているようだった。
えぇっと、俺の咆哮を間近で聞いたせい、だろうな………あ゙あ゙あ゙あ゙ごめんよォォォ!その場のノリに乗ってしまったんだよォ!
目を回しているアモルを鼻先で小突いてサリエルの残骸へ寄せると、華美なスカート部分にゆらゆらと噛み付いて、しゃぶるように顎を動かし始めた。
そうそう、それ喰ってちょっと待ってておくれ。
さて、と。
俺の正面には、難民キャンプを背に態勢を低くして唸るオウガテイル十数体。
一瞬にして統率者を失ったことにより、奴等の優先事項が人を喰うことから、統率者を瞬殺した強敵の排除へと移行した。
喰うとは言ったが、俺はアレら全てを喰い散らかそうとは思っていない。何でかって、味が……味がね………。
だから、形を残さず片付けてしまって問題ないんだなァ、これが。
それに食事中のアモルから、離れるわけにいかないしな。
俺は後ろ脚で直立し、全身に巡るエネルギーを喉のあたりへ集中させる。
立ち上がったことで平時よりも視点が高くなり、威嚇してくるオウガテイルの群れを完全に見下す巨龍の絵面となっている。
十秒ほどの間を置き、意を決したオウガテイル一体が突撃を開始した。
その個体を筆頭に、他の個体も続々と俺を排除せんと地面を蹴る。
走る速度はお世辞にも速いとは言えない。鈍足よりはマシ程度のもの。
エネルギー蓄積の影響で胸部が赤く熱を帯び、両頬と両前足のヒレが一層肥大化、放つ白光がさらに明るさを増す。
その
先頭を走るオウガテイルが射程圏内に踏み入った瞬間、顎を全開にし蓄積したエネルギーをビーム状に放出した。
首を左へ右へ、足元から根こそぎ焼き払うように蛇行させながら放つビームを、数体は脳天から被り
残数三体。
こいつらは群れの最後尾を走り、俺のビームが直撃する寸前で飛び退いた危機察知能力の少し高い個体。
最後に左へと振ったビームのエネルギーを、顎を閉じながら空へと逃がしつつ収縮させ放出終了。
直立を止め前足を地面に付く。
触れた土は赤熱。
緩く開いた口からは、息と共に若干の熱を持った白煙が吐き出される。
肥大化した各部位の幽膜は平常時に近い状態まで戻り、全身に帯びた熱は徐々に冷めていく。
この沈静化タイムを隙と見た三体のオウガテイルは、ビームで赤熱した地面を避け左から二体、右から一体と回り込んで向かってくる。
好都合。
難民達の住居前から離れてくれた。
これで、ブレスが使える。
食事中のアモルを腹の下に匿い、まずは右の一体に念の為の三連ブレス。
初撃は足止め、二発目で負傷、三発目は致命傷でトドメ。
次、左の二体。アイツらは喰う。
と、オウガテイル達は走るのを止め立ち止まった。
尻尾が上がっているのが見える。
他にいないようだし、離れても大丈夫だろう。
土を巻き上げ、駆ける。
オウガテイル二体の尻尾から刺が発射され、背中と左前足にそれぞれ一発ずつ当たるが、どうってことはない。
次の行動に移られる前に、向かって右側のオウガテイルの頭部に喰らい付き、同時にもう一体を左前足で
咥えたオウガテイルは、持ち上げて頭部を噛み砕いて飲み込む。
ドチャッと落ちた胴体は一旦放置し、叩き伏せたもう一体の頭部も噛み潰す。
……やっと片付いた。
オウガテイルは味的に、あんまり好きじゃないんだがなぁ……背に腹は代えられない。
我慢する!
気が進まないまま、もちゃもちゃとオウガテイルの胴体を喰っていると、先に食事を済ませたアモルが近寄ってきた。
「ピギッ!ピギィッ!」
小刻みに跳ねて何か訴えてる………いやこれは、怒ってる、のか?
咆哮の件は悪かったって。興が乗ってしまったというか、何というか……。
「おう、これまた派手にやってくれてまぁ」
うわっ、ビックリしたぁ……。
背後に顔を向けると、いつものようにタバコを吸っているリンドウがいた。
アモル……怒ってた訳じゃなくて、
“そっちは片付いたのか?”
「ん?ああ、ある程度片付けたあたりで、防衛班の奴らに追い出されてな。別の群れが来たって通信が入って、こっちに来たってわけだ」
あー………あの借金がどうの言ってる人と某『嘆きの平原』姉さん、金稼ぎが生き甲斐兄さんあたりに邪魔者扱いされたんだな。分からんでもない。
「しっかし緊急だったとは言え、こりゃあもう無理だな………」
独り言のようにそう口にしたリンドウは、三百メートル先のキャンプに隠れ覗き見ている難民たちを見やった。
俺も釣られた
彼の表情は喜ばしい言うよりも、顔を
素直には喜べない微妙なリンドウに率直な疑問を書こうと思ったが、この様子だとハッキリ言いそうにない。ここは耳の遠いバケモノを装って、気が付いてないことにした。
「………ちょっと待っててくれ」
そう言ってリンドウは身軽に赤熱した箇所の地面を飛び越えながら、俺を見て怯えている難民達の方へと向かって行った。
耳を凝らしても何を話しているのか皆目見当つかないが、リンドウが身振り手振りで彼らに何か伝えているのは見て取れた。
それから五分経ち、俺の前に戻ってきた。
「ほら、受け取れ」
差し出されたのは、透明感のある白いビーズのような石に紐を通した、素朴なネックレスだった。
"あんたにこんな趣味が………"
「分かった上で言ってるだろ。まーあれだ、助けてくれた礼だとさ。あの嬢ちゃんから、な」
再び難民達の方を見ると、親と思しき大人の陰に隠れてこちらを様子を窺っている子供がいた。
その子は俺の視線に気づくと、怯えつつも顔を綻ばせて小さく手を振った。
釣られて他の大人達も軽く頭を下げて感謝の意を示し始める。
"なるほど。確かに嬉しい………が、受け取れないな"
「へぇ………理由を聞いてもいいか?」
"そんな大事そうな物、俺が貰ったらいつ失くすか分からないからだ。それに、そういう光り物に目がない同行者がいるんでな"
チラッと俺の喰いかけを喰って満腹状態のアモルを見やる。
"だから、そうだな………ショウかリイサにでも渡してくれないか?アイツ等なら大事にしてくれるだろう。ついでに、頑張れって伝えてくれ"
「親みたいな………いや、兄弟みたいな目線で物を言うなぁ」
"感覚的には、そうだな。否定はしない"
最初に人助けをした成功例だし、出会った当初が俺より年下だったからな。情が移っても親の感覚とは遠いと思ってたのも事実だ。
"そろそろ、ここから離れる。さすがに神機使い何人も相手にしたくはない"
「ハハッ、だろうな。あーそうだ」
リンドウはタバコの煙を吐いて一拍置くと、アモルを鷲掴みにして翼を広げようとする俺を真っ直ぐに見据えた。
俺はその見透かされたような目に、何を言うでもなくただ、悪寒に似たものを感じた。
「何で人を助けるんだ?」
一瞬、思考が凍結する。
しかし、転生した直後を思い出して元が人だったから、一方的な殺人に「抵抗があるだけ」「元同族の手助けをするのは当然」という回答を脳内に薄らと浮かべた。
───だが。
「報告では、お前さんは何度も神機使いとぶつかっているが、何で抵抗しなかったんだ?いや、何でやり返さなかった?詳しい状況は知らないんだが、その時々によってはお前さんの正当防衛が成り立つはずだ。なのに何故、頑なに手を出さなかった?」
次いで紡がれていくリンドウの疑問と質問に、また数瞬、思考が止まる。
何で、何で、何で?
それは、ああ……簡単だ。傷付けるのも殺すのも、抵抗があるからだ。同じになりたくないからだ。
……何と?何と同じになりたくないんだ?
何と、同じになりたくないんだっけ。
頭が混乱している。
忘れた何かがある。忘れた何かに影響されて、無意識に染み付いてしまった何かがある。
あれ?何だっけ。
俺は、何を忘れているんだ?
「まあ、答えないならそれでいいんだ。どうせ、信じる奴なんてのは、殆んどいないからな」
そう言って、混乱する俺をよそにリンドウはカラカラと笑う。
「まぁ、アイツらの為に『死ぬな』ってことで。じゃあな、さっさと飛んで行け」
リンドウは俺に背を向け、軽く手を上げて歩き去っていく。
バケモノ相手に「死ぬな」とか……何考えてんだ、あの人。立場を考えろ、立場を。
まあ、ともかく。お言葉に甘えるとしよう。
ここに居たって、忘れた何かを思い出せる訳じゃない。
忘れたことは忘れたまま。
ただ
はい、今回はリクエストにあった「アナグラ付近の集落を助けて、住んでる人に感謝される」というものでした。
まあ、集落より小規模にしてますがね。すみません。
戦闘シーンやら諸々を丁寧に書こうとして、文字数増加……。
場面中には書いてないので補足。あの集落に住んでる人達の裏事情をば。
適性が無く外部居住区に入れなかった。どこに行っても、いずれアラガミに喰われる。
そこで、アナグラから少々離れた位置に居住スペースを自作。ゴッドイーターが即座に駆け付けそうな場所に住み、間接的に守ってもらおうとした───って感じですかね。
それでは、また。
あ、質問があれば答えますよ。ま、設定ガバガバな部分もあるんでね。その時は………ごめんなさい。
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第十三話 レッツエンジョイ!
前回のシリアスは宇宙の彼方にぶん投げて来ました。
さようならシリアス、こんにちはコメディ。
なので、頭をカラにして読んでください。
極東支部のアラガミ強襲騒動から四日。
頭の中がぐるぐるしてる。
終わりが見えない。
いつまで続けるんだ?
俺は、いつまでこうしていればいいんだ?
同じ形状のものが延々と目の前を通り過ぎ、錆び付いたそれらは不快に軋む音を鳴らして戻ってくる。
もう腕が疲れた。
だが、やめさせてくれない。
回転する円形の屋根に、昔はカラフルな着色がなされていたであろうブランコが吊り下げられている。
遠心力でブランコは外へ外へと、その高度を上げていく。
直立した俺が屋根を手動で回すたび、ブランコに座るアモルが「ピギ!ピギィ!」と声を弾ませて鳴く。
《
遠心力による
俺は声を大にして言いたい。
お前、浮遊生物だろうがッ!!
■■■■■■■■■■
何故、俺達が廃遊園地にいるのかというと。
いつも通りあっちこっち放浪していた途中で見付け、俺はスルーしようとしたのだがアモルが興味津々。
少しだけなら………と、立ち寄ることになった。
そう妥協したのが間違いだった。
奴の幼心にがっちりハマってしまったのである。
メリーゴーランドとかティーカップのアレなら、子供らしいアモルに合ってて、まだ理解出来るよ。
浮遊生物が浮遊感楽しむってどうよ。
空飛べる奴がスカイダイビングするのと同義だろ。
あ?極東支部ではあんなにシリアスしてたのに、四日ではっちゃけてるって?
……そりゃそうでしょ。
これくらいサバサバしてねェと、気がもたないのよ実際。いや、ホントに。
忘れることの一つや二つザラにあるって、自分に言い聞かせて無理矢理解決した。
明日は明日の風が吹く。つか、吹け。そよ風程度に。
「ピギッ!ピギィッ!」
俺が回転の手を緩めた時、アモルがブランコからふわふわと降りてきた。満足してくれたらしい。
直立を止めて疲労を払うように右前足を振ると、白フグはくるりと回って楽しげに鳴きながら跳ねていた。
おーおー、楽しそうで何よりだな。俺はここにあるアトラクション、一つも楽しめないのだがね。
別に嫌いとかじゃなくて、大きさの問題。
「ピギッ!ピギッ!」
今度はどれにしようかと右往左往した後、アモルは次のアトラクションを目指して移動を開始。
俺も後を追う。
幾ばくか歩いてアモルが興味を示したのは、前後に大きく揺れる海賊船型の絶叫アトラクション。
《
おい、何でまた浮遊系なんだよ。
何基準で選んでるの、この子。
……まあ、いいさ。満足するまで付き合ってやる。
興味はあるものの、どうするのか分からないアモルはまた右往左往。
俺は手を差し出して乗るよう促し、船体の傍まで寄せる。
すると、アモルは船体の
違う、そうじゃない。アモル、それドロップちゃう。船や……。
どう頑張ってもお前には喰えないんやで……。
俺の心情を察して、アモルは口を離し船上へ移ってくれた。
あとは、船尾に行って手動で揺らす。
船体に直立状態で両前足を着き、腕、後ろ足を踏ん張って押す。
あれ……?結構重いな……。
体重掛けてもうちょっとこう……。
ギシッと、船体が揺れ始める。
少しでも動けば、あとはこっちのもんだ。
揺れるテンポに合わせて力を入れたり緩めたりを繰り返しながら、船体の揺れ幅を徐々に上げて行き絶叫ゾーンを目指す。
何だろコレ……赤ちゃんのカゴを揺らしてる気分だな……。
浮遊感を味わえる絶叫ゾーンに突入したところで、俺は船体に突撃されないよう身体を少々
それからほぼ無心で両前足を動かしていると、左の後ろ足をツンツンと突かれている感覚があった。
手は止めずに首を曲げて視線を落とすと。
「ピギィ!ピィギッ!」
足下に、ぴょんぴょん跳ねる白フグがいた。
………何でお前がそこにいんの?つか降りたの?いつ?何で?
アトラクションから意識が離れた瞬間、直立してはいられない程の衝撃が上半身全体に広がった。
海賊船が俺に追突したのである。
落下に重量が合わさった結果、その衝撃と突撃力は耐え難いもので俺は背中から地面に倒れてしまった。
お、思ってる以上に痛い……。どこぞのヤンキーに、わざと肩ぶつけられた時並みに痛い……。
何か、アモルに振り回されてる感があるなぁ……俗に言うデートなんかもこんな感じなのだろうか。気移りしやすい女性の気が知れないな。
ま、双方楽しければいいのか。
「ピギィ、ピィギィ!」
アモルに背を向けて倒れ「青い春」が何たるかを考えていたところ、例の如く次のアトラクションに行こうと翼膜を引っ張っている。
ワガママ小僧か貴様!あーもう、はいはい行きますよ!行きゃあいいんだろ!
ったく、
倒れた身体を起こし、また楽しげに浮遊移動するアモルの後を追う。
次にアモルが興味を示し立ち止まったのは、車輪状の枠の周囲に釣鐘型のゴンドラが設置された
《
アラガミがまだ発生していなかった時代。何組もの
彼女の信頼と好感度をMAXにしてその一組となった君は見事、
拍手喝采おめでとう!これで君は勝ち組だ!
ったく……羨ましいこと山の如しだチクショウめ。
あ?
うるせぇ、エビフライぶつけんぞ。
「ピギ……ピギィ?」
遊び方の分からないアモルは、観覧車の下を行ったり来たり。
乗り場は所々錆び付いているもののまだ形を留めているが、俺がいるから関係無いな。
ゴンドラも同様に塗装が剥げ、窓ガラスの殆んどが割れてしまっている。
ま、動けば問題なし。
まずは、両の前足が自由に動かせるよう乗り場の左隣に直立し、ゴンドラのドアにある窓に爪を引っ掛け、勢い余って壊さないよう慎重に開く。
次に、心なしか目を輝かせているアモルを手招きして、一度手に乗せてから再度立ち上がる。
ドアを開いたゴンドラへ移動。
俺とゴンドラを交互に見て一向に乗ろうとしないアモルに対し、顎を使ってゴンドラに移るよう促すと、意を決したようにぴょんと乗り移った。
よーし、あとはドア閉めてっと……確か観覧車は時計回りだったか。
下から上に引き上げる感じで動かせばいいんだな。
車輪の中心部から放射状に伸びる支柱を握り、いざ動かそうと力を込めた……その時、俺の背後でコソコソという物音が……。
恐る恐る振り向くと───。
「ちょっとアリサ、こっちに来てサンプルの回収を手伝ってくれないかしら」
「お言葉ですが、私の職務はアラガミの討伐であって、サンプル回収は含まれていません。それに、もう一人いるのですから問題ないと思いますが」
「チッ……面倒な奴だ。やりたくないなら、やらなくていい」
地面に真っ直ぐ伸ばした尻尾の先、揺らめく幽膜の周囲に見覚えのある三人がいた。
いや、厳密には一人だけ初めましてだが、まあ、ややこしいな。
幽膜を持ち上げるサクヤ、神機で幽膜を斬り離そうとしているソーマ、その二人に背を向け髪を弄るアリサ。
てんでバラバラ。
あの態度のアリサは、異動してきて日が浅い時期だな。
……つか、どうしよう。
これ、動いたら開戦の可能性が………。
そんな穏健派の考えなんぞ露知らず、不意に顔を上げたサクヤと目が合ってしまった。
あ、どうも、こんにち……。
「っ!気付かれたわ!アリサ!ソーマ!」
パッと距離を取り、各々警戒体制に入る三人。
ははっ、ですよねー。うん、知ってた。はははっ、あれ、おかしいな……目から汗が……。
俺は沸き上がるブルーな感情に項垂れる。
だがしかし、お前らの神機が効くとは限らねぇからな!
俺の鱗やら外殻は、そこらのアラガミより硬い。
鉄かそれ以上の硬度を誇ってんだぞ!舐めんなよ!
数秒の硬直の後、俺の立ち位置と格好を見て思うところがあったらしいアリサは、溜息を吐いてさらに冷えた視線を送ってきた。
「データは読みましたが、正直期待外れですね。強大で威圧感があると散々聞いていたのに、廃遊園地で遊んでいる場面に出会すなんて……幻滅です」
おっと……心は硝子だぞ。
や、やれば出来る子、YDKだから。俺、やれば出来る子だからァ!
俺の必至な訴えは届かず、黙々と一人動いていたソーマが声を上げる。
「サンプルは入手した。撤退するぞ」
「分かったわ。アリサ!」
「言われなくても分かってます」
そう言うとアリサは何かを取り出し、ずっと観察をきめていた俺の眼前に向かってそれを投げた。
三人は俺に背を向け一斉に走り出す。
直後、視界という視界全てに、目の奥を刺すような鋭い光が走った。
スタングレネードか!うおっ、眩し!
何も見えない……こんな気分だったのか。スタグレ食らったアラガミは……。
視界が戻るまでじっと動かず、ある程度回復したあたりで三人がいた場所を見やるが………まあ、誰もいない。
穏便に済むならいいか、と観覧車に向き直る。
……あれ?何かアイツら、重要なことを言ってたような……?
えーと……あ"!サンプル!幽膜採取された!
どうすっかな……早々に何か起こるとは限らないが、んー……。
まだだ……まだ終わらんよ!
俺には考える頭がある。頭がハッピーセットなのはアモルだけ!
……って、アモルほっといたままだった!
アモルを乗せたゴンドラを覗き見る。
……元気そうに鳴きながら、ぴょんぴょん跳ねていた。
相変わらずだな。
どうやら、俺の身体で影になってスタングレネードから免れたらしい。
運がいいな。さすが幸運のアラガミ。伊達じゃなかったか。
俺が爪を引っ掛けてドアを開けると、高さや距離を考えず、ただ衝動のままに飛び出してきた。
咄嗟に手を出す。
ふわふわと風船のようにゆっくり落下し、俺の手に降りた瞬間、ぽよんと数度弾んで「ピギッ!」と鳴いた。
……風船フグだったな、お前。心配して損したわ。
そう言えば、前にも似たような事あったな。
俺は観覧車から離れるように後退してから、空いている方の前足を地面に着きアモルを降ろしてやる。
あんまり、はしゃぎ過ぎんなよ?俺だってフォロー出来ない時くらいあるんだからな。
注意するつもりでアモルの鼻先を、人差し指の爪先で軽く小突いた。
「ピッ」
お叱りを受けた小さい子供のように、アモルは短く鳴く。
それから、落ち込んでいるのか頭を少し下げた。
反省しているなら、よろしい。ま、俺も慣れてきた節があるからな。
一応アモルもアラガミだ。危機察知能力は有しているはず……きっと、うん……多分……持ってる、よね?
アバドン属の逃げ足を信じよう……。
「ピギ?ピギッ、ピギィ!」
アモルはさっきまでの落ち込みようが一瞬にして消え去り、俺の周囲をぐるぐる回って前足にスリスリしてくる。
コイツ……愛くるしく思う条件ってのを熟知してやがるな?
狙ってないことを前提にすると、天然の「たらし」か。
侮れないな。
まぁ、しかし。
今日は比較的に穏やかだったな。
見覚えのある三人に遭遇したが、戦闘らしい戦闘は避けられた。
こういう日が、続いていけばいいんだがなぁ………。
それは叶わないと思いつつ見上げた空は、仄かに、オレンジ色に染まり始めていた。
リクエスト内容は「遊園地で遊ぶ」というものでした。
リクエストありがたいです。ネタの引き出しが少ないので助かります。
ジェットコースターはレールがゼノの重さに耐えられないと判断し、別のアトラクションに差し替えさせて頂きました。すみません……。
カタカナで色々ルビ振ってましたが、まぁ…目をつむってやってください。理由は、分かりますね?
次の更新は時間が掛かると思います。
それでは、また。
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第十四話 ペイラー・榊の考察
矛盾とか出るだろうけど、あくまで自己的要素なのでね。
生暖かい目で見てください。
先日、未知の龍型アラガミ『冥灯龍ゼノ・ジーヴァ』の一部を入手した事により、極東支部の研究者ペイラー・榊は昼夜問わず、寝る間も惜しんでそれの研究に没頭していた。
ペイラーが研究に自身の時間を全て注ぎ込むのは、彼が根っからの研究者であるからだ。
だが、今回は研究者であることを除いても、目に余る程の注力振りだった。
理由は至極単純。『未知』が『未知』のまま、まんじりとも動かないのである。
そういう時、彼は口角を上げて、大層楽しそうに笑う。
実に興味深い、と。
十日前に起きたアラガミ強襲騒動。
アナグラにいた神機使いの人数は、強襲してくるアラガミを掃討するには心許無く、任務に出ていた者達を呼び戻して対処しようにも間に合うか、間に合わないかの瀬戸際だった。
その時、かの巨龍が姿を現したのだ。極東の最大戦力を連れて───。
「博士。第一部隊、揃いました」
機械に囲まれた椅子で、自身のまとめた資料を読むペイラーの耳に、集合を告げるサクヤの声が届く。
集まったのは第一部隊のメンバー。
サクヤ、アリサ、ショウ、コウタの四名。
「おや?リンドウ君とソーマがいないようだね」
「リンドウさんなら、デートに誘われたってどっか行ったッスよ。あーあ……オレにも女の子紹介してくれないかなー」
「お前な……ソーマは何も言わずに行ったから、詳しいことはわかりませんよ」
コウタとショウから二人がいない理由を聞き、ペイラーは一人納得する。
「それで、用件とはなんでしょうか?あのアラガミのことだとは思いますが……」
最初に本題を切り出したのはサクヤ。
発せられた言葉には仄かに、確認の意が込められているがサンプル回収後の召集ということもあり、ほぼ断言しているとも思える。
ペイラーは、話が早いと心中で呟き、手に持った資料を置いて、椅子から立ち上がり四人の前に出てくる。
「サクヤ君の言う通り、君達を呼んだのはかの巨龍『ゼノ・ジーヴァ』についてだ」
ペイラーは慣れた手つきでリモコンを操作し、あらかじめ用意しておいたモニターに電源を入れる。
画面に映し出されたのは、先日のアラガミ強襲時にアナグラ付近へ姿を現した、滞空するゼノ・ジーヴァの静止画像。
「先日の件で、彼が取った行動は知っているだろう。彼はアラガミを捕食したが、近くにいたゴッドイーターや他の人間には一切捕食行動を取っていない。これがどういう意味か、分かるかい?」
ショウを除く三人は、帰投後に聞いた一連の騒動に関しての情報を踏まえ、静かにペイラーの問いに対する答えを考える。
最初に手を上げたのは、コウタだった。
「はい、コウタ君」
「えーと……腹が減ってなかった、から?」
言った本人は本気なのだろう。
だが、それはペイラーの求める答えではない。
諸々の事情を知っているショウは、コウタの肩にそっと手を置くと、呆れたように口を開く。
「コウタ……大喜利は、もうちょっと頭を使おうな」
「えっ、そんなつもりじゃないんだけど……ヒドくね?」
直球で頭が足りないと言われ、目に見えて肩を落とすコウタ。
次に答えたのは、二人に冷めた目線を送っていたアリサだ。
「そういう偏食傾向だから、じゃないんですか?」
「お、悪くない答えだ。だが、それではあまり食べないというだけで、全く食べない理由にはならない」
他には、とサクヤに目線を送るが、どうやら彼女もアリサと同意見だったようで、何かを発言する様子は見られない。
「では、私の見解を話すとしよう。恐らく彼にとって
初観測から今まで受けた報告などをまとめ、自分なりの推測を書き記したのが、先ほど彼が読んでいた資料の内容である。
しかしこの時、サクヤだけは顔をしかめていた。
「それはないと思います。私が遭遇した時の報告に、目を通した上での見解なのでしょうけど……」
直接相対した際、半身しかない遺体の側に奴はいた。
周囲には他のアラガミの気配はなく、現場の様相は捕食したことを決定付けるに
「そうだね。これはあくまで推測。最悪、私の希望的観測を含んだ戯れ言の一つかもしれない。だが」
僅かに開かれたペイラーの目が、自身の見解に異議を唱えるサクヤを見据える。
「君は実際に彼が、人間を捕食しているところを目撃したのかい?」
「それは……既に事後だったので見ていませんが、他には……」
「こじつけがましいが、当時のミッションでサクヤ君の討伐対象だったシユウが……なんて言えば、辻褄が合うと思わないかね?現に、人を捕食したという実際の目撃例が、今までにひとつも無いんだ」
あり得ない話ではない。
当時の報告には逃亡したシユウが見付からず、ゼノ・ジーヴァに喰われた可能性を示唆した。
逃亡中のシユウが人を喰った……それも否定しきれない。
人喰いの報告が一切無いのも知っている。
それでも、あの状況を見てしまっては、ゼノ・ジーヴァの人喰いを否定出来ない。
見ていないだけで、喰っていない事にはならないからだ。
「……気紛れかもしれないけど、本当にゼノが人を喰うなら、オレは今ここにいないだろうな」
サクヤとペイラーによる問答で沈黙が降りた中、助け船を出すようにショウが口を開いた。
アナグラ強襲でリンドウがゼノ・ジーヴァに連れて来られた事により、それに至った経緯が彼の口から語られた。
その際、ショウの経歴を含めたゼノ・ジーヴァに関する情報も報告された。
「好き嫌いはあっても、喰わないって訳じゃないんだろ?余程空腹の時には共食いするって聞いたしな。まあ、オレの意見が参考になるかは分かんねーけど……」
発言に自信を持てないようで、声が段々と尻すぼみになっていく。
「そう言えば、何で最初に言わなかったんだよ?あのアラガミに助けられたんだーってさ」
思い出したようにそう口にしたコウタに対して、ショウは目を逸らしつつ頬を掻く。
「適合試験を受けるときに、リンドウに念入りに口止めされたんだよ。面倒ごとになるからって………まあ結局、その面倒ごとっていうのを経験したけどな」
「あー………うん………」
ショウの言う面倒な経験というのは、ペイラー・榊博士による質疑応答である。
リンドウと共に数時間をペイラーの尋問じみた質問攻めに使われ、支部内ですれ違おうものならさらに時間を持っていかれる。それはもう一目見た瞬間、肩がビクッと反応するほどだった。外部居住区に住む妹のリイサも呼ばれ、根掘り葉掘り………。
余談だが、発端はリンドウがゼノ・ジーヴァに連れられアナグラに来たことにある。
緊急時だったのでそれは仕方ないとして、質疑応答に引っ張り出されたのは彼がショウの名前を出し、道連れにしたからである。
その後ショウは仕返しとして、リンドウの持っていた配給ビールを持ち出し、アラガミへぶん投げるという無意味な消費を彼の前でやってみせた。
同行したメンバーによると、その時のショウの表情はとても清々しいものだったという。
「そう、彼と妹のリイサ君はゼノ・ジーヴァに助けられた実例だ。かの巨龍は言葉を知り、理解し、会話も成立している。我々と同等の知識を有していると考えていいだろうね」
文字を用いて意思の疎通ができることも、リンドウからの報告によって明かされた。
現在は支部の上層部もゴッドイーターも知る、信憑性のある情報として浸透しつつある。
これにはショウの経歴と、リンドウの実体験の話が大きく働いている。
「しかし、言葉が通じてもアラガミです。人類の敵であることに変わりありません」
静かに耳を傾け腕を組むアリサが、普段の淡々とした口調で断じる。
人類の敵と発した声は、口調も相まって酷く冷めたものに聞こえ、どのような事情があろうと倒すべき存在だという強固な意思すら感じさせる。
「まず、それなんだ」
彼女の言葉に引っ掛かるものがあるようで、ペイラーは眼鏡を軽く押し上げる。
「それって、何ッスか?」
「彼が、アラガミであるかどうか、だよ」
ペイラーが口にした内容に、その場にいる全員が頭上に疑問符を浮かべる。
この研究者のことだから、何かしらあるのだろうという考えが脳内を
しかし、その根拠がひとつも予想すら出来ない。
「どういうことです?あの龍型アラガミは現に、他のアラガミを捕食しています。それなのにアラガミかどうかなんて………」
困惑の色が滲むサクヤ。
アラガミは通常の兵器が効かない。だから、彼らの持つオラクル細胞を人為的に調整した生体兵器『神機』が作り出された。それを使用し、対抗するためにゴッドイーターがいる。
必然的にアラガミを殺すには、オラクル細胞を持っていることが絶対条件。
よって、アラガミへの捕食行為に関しても、アラガミに片足突っ込んでいるか、アラガミでなければ、オラクル細胞同士の強靭でしなやかな結合を解くことは出来ない。
「ショウ君、コウタ君、私が講義中に話したアラガミの定義を覚えているかね?」
「て、定義ッスか?えーと………」
「オラクル細胞っていう単細胞生物が集まって形を成した群体………だっけ?」
覚えていない知識を思い出そうとするコウタ同様、聞き入っていたわけではないショウが、薄らと残る知識を探りながら口に出した。
細胞それぞれが意思を持ち、思考力を持ち、生きている。神機でアラガミを斬り倒したとして、それは細胞同士の結合を裂いているだけに過ぎず、細胞自体は相変わらず生き続けまた集合しアラガミとなる。
これが事実上、アラガミを駆逐できないとする
「それがどうしたって言うんですか。この場でまた講義を開く、とかじゃないですよね?」
呆れた声色で変わらずツンケンし、自身の髪を撫でるアリサ。
アラガミの定義についてペイラーが尋ねたことにより、それについてまた話を聞くと考えた彼女は、半ばウンザリしているように見える。
「いや、これからアリサ君達が採取してくれたゼノ・ジーヴァのサンプルについて、その前置きを話しておきたくてね」
「何か分かったんですか?」
待ちに待った事だけにサクヤは声を上げるが、その期待を裏切るようにペイラーは首を横に振る。
「正確に言えば、何も分かっていない。だが、面白いものが見れたよ」
ペイラーがモニター下に置いたリモコンを再度操作すると、滞空状態のゼノ・ジーヴァの画像が切り替わり、三人が採取したサンプルのものになった。
青白く発光する布のような膜の一部。
放つ光といい、白炎のような形状といい、未知の存在の一部というのも相まって、大多数の人間に神秘的と言わしめた代物である。
「これは、サクヤ君達が持ち帰ってすぐの状態だ。それが昨日……」
次にリモコン操作した時、青白い膜の画像が左半分に縮小され、空いた右半分には神秘的な白光が消え失せ、銀とも黒ともとれる色に染まっていた。
「すっかり青白い輝きを失ってしまった。私も驚いたよ。あれが常態だと思っていたからね」
二つの状態を分かりやすく比較するため、ペイラーはモニターを用意していたようだ。
そして彼は、眼鏡を上げて静かに笑った。
「まるで、死んでいるように見えないかい?」
博士の考察は次で締める予定です。
そのあとはゼノ視点に戻ります。
それでは、また次回。
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第十五話 ペイラー・榊の考察2
リクエストについてですが、本編で難しそうなものはキリのいいところで、番外編として書いていこうと思います。
直近だと無印編終了あたりですかね……番外編は基本パラレル扱いになるかと。
「まるで、死んでいるように見えないかい?」
そう問うペイラーは、さぞ楽しそうだった。
モニターに映し出された比較の画像。
自発的に光り輝く方を生きていると表現するなら、確かに、光を放つことをしなくなった方は死んでいると言える。
「本体から切り離され、今この細胞群はコアを失っている。けれど、霧散せずに形を留めたまま存在している。実に生物的だ」
「あれを生物って、えぇ………威圧感が凄かったんスけど………」
単なる生物とは次元が違うと、コウタは顔を引き攣らせている。
アリサ以外のメンバーも同様に腕を組んで、報告の一つにあったアラガミの群れを殲滅するゼノ・ジーヴァの姿を想像する。
………生物的、と言うには少々難がある気がする。
要領を得ないメンバーの為に、ペイラーは分かりやすい例を口にする。
「極端に言うと、頭がなくなるか、心臓が止まるかで彼は完全に機能しなくなる。細胞が霧散することも、違う場所で別の個体が形成されることもなく、死ぬという事だよ。唯一無二の『ゼノ・ジーヴァ』という存在自体が消失する事でもある」
「………それで、アラガミじゃない、と?」
確認する様にサクヤが問うと、ペイラーは確信を持った面持ちで頷く。
オラクル細胞研究の第一人者である彼がそう言うなら、その考察はほぼ確実なものと言っていいだろう。
事実上、駆逐が出来ないアラガミと違い、理論上、殺すことが可能なら外見が化け物だろうと生物的と言える。
「それなら」
アリサが平坦な声色で言葉を発する。
「数が減らないアラガミよりも、簡単ですね」
眉ひとつ動かさず、あっさり言ってのけた。
今まで集められたゼノ・ジーヴァの目撃情報や、その脅威性を歯牙にもかけない物言い。
極東に来て日が浅いこともあり、あれこれ言うまいと控えていたが、この場にいない上官に代わりサクヤが頭を抱える。
「アリサ……そうもいかないから『歴戦王』なんて異名がついてるの。それに、人と同等の知能があるなら……」
「過大評価しすぎなんじゃないですか。先日のように背後を取られても気付かず、気付いても無反応だったんですから。討伐できるなら、それに越したことはないと思います」
ロシア支部で積んだ訓練成績のせいか、彼女は危険予測の頭がほとんどないらしい。だが、それで実戦が覚束ないのならいざ知らず、高慢な態度になるだけの成績に見合った実力を持っている。
そんな相手に、ゼノ・ジーヴァの戦闘シーンを見せず危険性を説いても意味がない。
「じゃあ、次に遭遇したら、何があっても討伐するのが先決って言うのか?」
落ち着いた口調のショウから普段の少年らしさが薄れ、細めた瞳はその色に相応しいほど冷ややかだった。
意思確認や牽制などという込み入ったものがない、ただ純粋な怒り。
アリサは冷淡な視線を正面から見返し、短く息を吐いた。
「当たり前じゃないですか。今、実害が無くても、今後無いとも限らないのですから。おかしな人ですね」
「おかしくて結構だよ。随分と仕事熱心だなぁって、感心してたんだ」
「はい。人類の敵を討伐するのがゴッドイーターなので。アラガミでも、そうでなくても変わりません」
怒りを表に出さず、静かに火花を散らす二人。
似た境遇を持っていながら、そりが合わないとは行かないまでも、両者の意見が合致しそうにないのは明白だった。
「えーと………は、博士!考察の続きお願いしまッス!さ、サクヤさんも聞きたいッスよね!ね!」
「え、えぇ、そうね………」
ギスギスと息苦しい雰囲気の中、空気の重さに耐えきれず、コウタが流れを切り替えようと努めて明るく振舞いだした。
話を振られたサクヤも、急だったため戸惑いながら同意する。
「そうだね。喧嘩なら後でしてくれるかな?」
「喧嘩じゃない」
「意見が合わないだけです」
二人の反論にペイラーは眼鏡を上げて何か言おうとしたが、返答を予想したのか口をつぐんだ。触らぬ神に何とやら。
一時調子を乱されたが、立て直すように咳ばらいをひとつ。
「………さて、この『ゼノ・ジーヴァ』の一部が輝きを失った原因は、私も推測の域を出ない。例えるなら、蓄電する電球の様なものだと考えている。各細胞にエネルギーが蓄積され、外見に影響を与えていた」
あくまで、サンプルと同種の部位がゼノ・ジーヴァ本体から離れない限り、永続的にその輝きを失わないことを仮定としている。
電気……言うなればエネルギーの供給、蓄積自体が本体から離れたことによって行われなくなり、時間が経過するにつれて蓄積分が消費され、死んだように輝きを失った。というのが、サンプルの状態変化に対するペイラーの見解である。
「蓄積されていたエネルギーというのは、何か分かっているのですか?」
サクヤの疑問にペイラーは首を横に振る。
「いや、さすが『
研究対象を称賛しているとも取れる言葉だった。
今語った考察全てが確証のない推察で成り立っており、根本的な解明に至ったわけではないのにも関わらず感心している口振りなのは、未知を探究する生粋の研究者ならではの
「ショウ君、行動を共にしていた間、彼自身から体質や特殊性に関して何か聞いた事はあるかい?」
ペイラーに問われたショウは腕を組みながら目を瞑り、小さく唸って交わした会話の記憶を掘り起こすが、一向に欠片すら思い出せない。
そもそも、あの時は色々と抱えて切羽詰まっていた。
アラガミである事を信じて疑わず、何か不可思議な能力を行使しても「アラガミだから」という一念で済ませていた。
「……聞いたことない、ですね。あの光とアイツ特有の攻撃に使うエネルギーが同色だから、同じだと思うんだけど……アイツ自身、仕組みが分かってなかったり……多分」
「ほお、それは興味深い」
何気なく口にした言葉だったが、糸目の奥に光るものを見た気がする。
探究心をくすぶる発言だったようで、ペイラーは興味のままに距離を詰める。
ショウは仰け反り驚きの声を漏らす。
「続き、話してくれるかい?」
「は、はい……」
返事を聞いたペイラーが距離を取った時、圧に負けたショウは安堵の息を吐く。
だが、話すと言っても理論立ててというのは無理だ。
そもそも、苦手なのだ。
「えーと、そういうものとして知っている感じ……って言うか……」
聞こえだけでもそれらしくなるように、頭の中で単語を探しながら文言を取り繕う。
「方法を知識として持ってるから、確実に結果を得るため考える……思案してる様子が多かったなぁって……」
「方法を知識として持っている、というのは?」
「ゼノ独自の攻撃のことですよ。エネルギーの根本は知らねーけど、使える事は知ってるから使ってる。消費後の補充にあたる行動が無かったなぁ、と。絶対っていう感じのが……」
短期間であったが、その間ゼノ・ジーヴァが意識的に行っている行動は、思案くらいしか見受けられなかった。
あとは、アラガミの捕食。あれは空腹から来るものだろう。深く考える事ではない。
浮かんだ記憶を自己完結させ、この人の前で思ったことを易々と言わない方がいいな、とショウは人生経験を積んだ。
「方法を知識として……それって本能とか、そういう部類のものじゃないかしら?」
「あー……そう、ですね……はい……」
「ショウがへこんでる……」
サクヤから指摘され、ショウはゆっくり視線を誰もいない壁の方へ逸らしていく。
そんな姿が久々なのか、珍しいのか、コウタは少し驚いたように呟いた。
「本能、か……やはり、彼は分からないことばかりだ」
今聞いた話を、近場に置いといた資料にメモ書きするペイラー。
頭を使って言葉を選んだ結果、先輩に論破されへこむショウを、コウタは肩に手を置き慰める。
立場が逆転している。
「アイツさ……一切自分のこと話さなかったんだよ」
「あー、だったら知らなくて当然だよな。うん」
「どうせ、尋ねたって言うとは限らないんだけど、やっぱり過去の一つくらい聞きたかったなぁ……」
「気になるよな。そーいうの」
と、なぜか友情が深まりつつあるのは目に見えて分かる。
その二人に、アリサは呆れた。
「全然分かりませんね。バケモノの過去なんて、どうでもいいと思いますけど」
「ああ、分からないだろうな。アリサには」
「全くあなた達は……」
同じ新型でありながら、絶望的なまでに馬が合わない。
ここまで来ると口裏を合わせているのか、意識的にそうしているのか、と余計な疑いが
今後も悩みそうと呟きサクヤは頭を抱えた。
「博士。最後にどうして私達だけが呼ばれたのか、教えていただけますか?」
ペイラーがメモを取り終わる頃合いを見計らい、召集された当初からの疑問を口に出す。
「ああ、君達は討伐班だからね。彼に遭遇する確率が高いだろうから、敵対していない可能性を頭の片隅に留めておいてほしかったんだ」
「それは、私達だけに話しても意味がないのでは?」
ペイラーは首を傾げるサクヤから目を離し、無関心なアリサをチラッと見やる。
「君達には悪いが私は現状の総戦力でも、ゼノ・ジーヴァを討伐出来るとは考えていないんだ。けれど、第一部隊には血気盛んなゴッドイーターがいるようだからね。沈静化しようと思ったのだよ。だが……」
糸目が細く開かれ、眼鏡を押し上げる。
本心を読ませない振る舞いは相変わらずだが、垣間見えた暗い表情は、本音が表層に浮き出たのだと一目で分かるほどに濃く滲んでいた。
「意味が無かったようだ」
血気盛んなゴッドイーター、アリサはペイラーの思惑に気付いてはいない。
非常に残念だが、言って聞かないのなら仕方がない。
「ああ、そうだ。これは、彼がアラガミではない事を前提とした話なんだけれど」
まだ続くのか、と全員が一様にペイラーへ視線を送る。
しかし当の本人は気にしていないようで。
「どこかに、ゼノ・ジーヴァ生誕の地があるはずだよ。範囲を狭めるなら、そうだね……最初に観測された場所。そこが可能性として有り得る」
「あの、どうしてそんな事を……」
ペイラーは独自の考察を終えるため、手に取ったリモコンでモニターの電源を切る。
「彼は、人間ともアラガミとも違う貴重な生物だ。死んでしまっては分からない事もある。私は、彼が生まれた場所に生態解明のヒントがあるのでは、と思っただけだよ」
直接、捜索してくれとは言わない。
気になるなら捜索してみるといい、という自発性を促すような物言い。
食えない研究者だ。
最後にペイラーはメンバー全員を見回して。
「見付けたら、教えてくれると嬉しいね」
と、付け足す始末。抜かりない。
事実見つけたとして、自分達で突き止められるかと聞かれたら、まず即決でノーと答える。
そうとなったらペイラーを頼らなくてはいけなくなるわけで。どうにも物事は上手いこと繋がっているらしい。
ペイラーの考察が幕を下ろし、順番にメンバーが研究室から出ていく際、最後になったショウが振り返る。
「どうして、あんたの考察は前向きなものだったんだ?」
ふと気になった。
何か意図があるわけではなく、ただ頭に浮かんだ。
ペイラーは手に持った資料から目を離すと、ショウを見据えて口を開く。
「私は、アラガミと共存出来る可能性を見出したいんだよ」
変わらずの狐顔だが不思議と、その言葉だけは本心なのだろうと思えた。
エレベーター前でコウタが呼んでいる。
ショウはその呼び声に返事をするとペイラーに向かって軽く頭を下げ、研究室の扉を静かに閉めるのだった。
まだ少し完全には解明出来ていない状態。
なんだろう……終始書き進めていくのがしんどかった気がする。
アリサ、お前の改心はいつになるんだ。私にはわからないよ。
それと、最近の疑問が……ゼノって何をもって歴戦王になるんですかね(致命的な疑問)。
成体と幼体の境界が分かりま(殴
検索して読み漁ってるんですが、何とも……。分かる方がいたら情報ください。お願いします。
それでは、また。
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第十六話 ゴールドフィッシュ
設定集買えば?というコメントがあり、「その手があったか」と本屋へ直行。
結果、買いませんでした。
ゼノ情報のためにこの厚さと金額は……と渋りました。
面白そうではあったんですがね。
唐突だが、最近アモルがお洒落に目覚めてきている気がする。
切っ掛けらしい切っ掛けに心当たりはないが一週間ほど前の遊園地で、何気なく拾ったオモチャのアクセサリーをアモルにあげてから、それらしい行動を見受けられるようになった。
もともと光り物に目がないアモル。嗜好に磨きがかかったというか、拍車がかかったというか、自分でアクセサリーを拾ってくる回数が増えた。
指輪を見付ければ頭に乗せてクルクル回り、ネックレスなら尻尾にくぐらせて自慢気に振ってくる。
一向に喰おうとしないもんだから、アラガミの本分忘れてるのかと思ったよ、その時。
そこで、パッと思い至った。
ああ、お年頃ですか。いや、アラガミがお年頃ってなんだよ。
けどリアクションが、お洒落を覚え始めた幼女……おっと、少女のそれだった。
そして、現在進行形でアモルのファッションショーが行われている。
さあ、会場はここ空港跡。アラガミによって、奇形に抉られた数機の旅客機が転がる地。
真っ直ぐに延びた滑走路がエアポートアモルコレクションのステージです。なんも面白くねぇ。
えーと……太陽は頂点に差し掛かろうという時間帯であります。
観客は俺のみ。真正面の特等席で一人占めです。
本日このステージを通るのは幸運の白いアラガミ、お洒落に目覚めたアモル。
丸く白いフォルムは、地上を浮遊移動するフグそのもの。
集めた金属のアクセサリーで着飾り、ショーに挑みます。
……俺は一体、誰のために実況してんだ。
おっと、どうやら準備が整ったようです。
控え室代わりの機体の陰から、アモルが満を持して登場。
目上の角にルビーの指輪を引っ掛け、首にエメラルドのネックレス。ヒレには金色の花を模したアームレット。
締めの尻尾には、隙間なく埋め込まれたダイヤのブレスレット。
モデル歩きを匂わす動きで、自信満々に俺の方へ真っ直ぐ移動してきます。
あらら、随分と豪華になっちゃって。
つか、それ全部どこから見付けてきやがった。機体の貨物室か。目ざといやつめ。
「ピギッ!ピギィ?」
俺の前で止まると、アモルは「どう?似合ってる?」とでも語るように身体を傾ける。
そうだな。金に糸目をつけない貴婦人が、ありったけのアクセサリーを身に付けているように見える。
行き過ぎた、と言えば分かりやすいか。
ルビーの指輪だけで
俺がなかなか反応を示さないことにアモルは不安を覚えたらしく、距離を詰めて覗き込んでは尋ねるように小さく鳴く。
何かリアクションを……とりあえず、俺は顔を近づけて喉を鳴らした。
本人ならぬ本アラガミが満足してる様子だし、それでいいのならいいのだろう。
俺がとやかく言えるもんじゃねぇし、言ったところで伝わらないだろうな。
「ピギィ!ピギィ!」
アモルは数度跳び跳ねると、くるりと回って俺の鼻先に身体を擦り寄せてきた。
どうやらポジティブな方向に受け取ってくれたらいい。
いやぁ……チョロい。ご機嫌取りとか考えなくていいから、正直言って楽だ。
「ピギッ、ピギッ!」
自身の着飾った姿を見せて満足したらしいアモルは、振り返って来た道を戻っていく。
機体に向かってるな、あれ……え?もう一回やるつもりなの?
俺の気なんぞ知らず、アモルはルンルン気分で側面に空いた穴から機内に入っていく。
……別にいいか。
最後まで付き合おうと覚悟を決めたとき、視界の端で一瞬何かが光った。
一度目のお披露目でアモルが隠れていた場所。
正体を探るように目を凝らし、アラガミであることを想定して姿勢を低く保ちながら慎重に一歩ずつ近付く。
機体が目と鼻の先に差し掛かって機体の裏側を脇から覗こうとすると、今度は滑走路傍の海で複数の水飛沫が上がった。
舞い上がった白い飛沫の合間に、ちらりと金貨のような輝きが目に入る。
勢いよく海面から飛び出し、地上に着地したソイツら。
うざいくらいのゴールド……フィッシュ……。
じゃない、六体の黄金グボロ。
ゴールドフィッシュラッシュ。耐久力最低の雑魚要員。
アモルのいる機体を背にして、吼える黄金グボロと向き合う。
「ピギィ?」
機内から顔を覗かせるアモル。
しかし、俺を隔てて黄金グボロを目にし、サッと機内に姿を隠した。
分かってらっしゃる。
その隙に前衛を務める黄金グボロ三体が、真正面から進行開始。どこの直線番長だお前ら。
俺は両の前足を地面に押し込み、集中させたエネルギーを流す。
初めは手前で数ヵ所の爆発。
続いて、前方へ連鎖的な爆発が扇状に広がっていく。
直線番長三体が腹に爆発を受け転がる後ろで、後援の三体が砲塔を構えていた。
打ち出すまでのモーションが長い。
脳天直撃弾の類いか?
よし、アイツらの肉質は最弱だ。俺も直線番長するとしよう。
俺は前足を引き抜き、爆発を追うように地面を蹴る。
レッツパーリィィィィィ!!
両翼を地面と平行に広げ、爆発に巻き込まれ怯む黄金グボロ三体に突撃。
中央一体の砲塔を噛み砕いた上で、再度噛み付き走る速度を緩めないまま引き摺る。
左右の二体には翼腕部分を引っ掛け力ずくで押す。
後援の三体が火球を打ち出してから、まず咥えているグボロを持ち上げ、射出された火球目掛けてぶん投げ相殺。
後方一体が、飛ばされた黄金グボロの巻き添えを食らい二体揃って海へ落下。華麗な水飛沫だ。
直後、飛んできた二つの火球をブレスで打ち消す。
次、走る速度を落としつつ、いつの間にか刺がある部分に喰らい付く形となっていた二体を、翼腕を突き刺す要領でクールタイム中の後援二体にぶつける。
力任せに叩き付けた翼腕の刺がグボロの口内を通り、下敷きになっている黄金グボロ共々貫く。
数秒悶え、四体は無事沈黙。
ぐちゃぐちゃと絶命したグボロ四体を貪りながら、コアを回収、捕食。
んー……全体的に科学の味がする。今後、率先して喰おうとは思わないな……。
瞬間、海から三度目の水飛沫が上がった。
陸地に現れたのは、砲塔とヒレが結合崩壊している一時帰還組二体………プラス五体。
ん?五体?どこから湧いたそのプラスアルファ。
ゴールドフィッシュが増殖してもさ、俺はあの独眼竜筆頭みたいにハイテンションパーリィは長続きせんのよ……。
先手必勝レッツパーリィィィィィ!!
黄金グボロは右手側に三体、左手側に三体、正面に一体。
結合崩壊の二体は左右に別れて一体ずつおり、全数七体のゴールドフィッシュフィーバー。
金ピカ魚類が何匹いても嬉かねぇよ。
俺がゴッドイーターだったら換金素材キャッホイしてたろうが、今は何それ美味しいの?状態なんだよ。
そういうことで、ゴミは消毒だ!
まず、正面の金グボロと突進対決。
俺に押し負け怯んだところを頭上から噛み付き、砲塔とヒレを粉砕。
そのまま尾ひれを手で抑え、グボロの上半分を引き千切る。
顎を上下に引き裂く形になったグボロは、コアが剥き出しの状態で絶命。
例の如くコアを抜き出そうとした瞬間、翼や背中に微熱が広がる。
両サイドにいる黄金グボロ計六体の参戦意思表示だ。
もう面倒になってきたので、左手側の三体に薙ぎ払いゼノビーム。
コア回収する間も無く霧散。
逆サイドの残り三体は砲撃を継続。
当たってはいるが、
だからと言って、いつまでも大人しく的になっているつもりはない。
走って三体との距離を詰めながら、射程圏内に入った火球をブレスで対応。
眼前に捉えた結合崩壊済みの一体目掛け至近距離ブレスを放った後、口を開けた流れで正面からグボロの顔面を噛み潰す。
俺の接近に危機を感じた他二体は飛び退いたが、逃げる気はないらしい。
近距離戦では不利と判断したのか、さっきから砲撃が攻撃の主体となっている。
いや、あの……対処がパターン化してるから。そんな数打ちゃ当たるみたいな……いや、当たってるけども。
火力が……ねぇ?
一体はアモル用に残しておくとして、もう一体は……いらないな。即刻処分してしまおう。
ということで、本日二度目のゼノビーム発射。
連れ添った相棒(黄金グボロ左)がゼノビームを
一直線に放たれたエネルギーが収縮し、黄金グボロ(左)の姿が跡形もなく消えている。
赤熱したアスファルト。
黄金の目に、強い光が宿る。
残された黄金グボロは意を決したのだ。
先に逝った相棒を脳裏に焼き付け、その報復相手を睨む。
自分を奮い立たせるように咆哮をひとつ。
両のヒレをバタバタと動かし、全霊をもって走り出した。
俺と真逆の方向へ。
おいコラ、待たんかい!
カッコいいナレーションしてやったのに、何だその潔い脱兎は!
少年漫画の主人公的扱いしたのに、骨折り損じゃねぇか!
逃がすかゴルァ!
魚類の全力疾走を見せ付ける黄金グボロ。
だが、追いかける俺に尾ひれを踏みつけられ捕獲完了。
ギャンギャン鳴き喚いているが、まあ知ったこっちゃない。
空いている右の前脚で薙ぎ払い、平手打ちを食らわせてやる。
一発目……じたばた鳴き喚く。元気だ。
二発目……爪が僅かに当たり、傷付く。まだ元気。
三発目……暴れなくなる。まだ生きてる。
お前が!死ぬまで!殴るのをやめない!
外道非道なんぞ言われようが関係ねぇ!
アモルが物欲しそうに見てんだよ!仕方ねぇだろ!
世の中、弱肉強食なんだよ!
いい加減ご逝去あそばしてください、
ハンマー武器があるんだからさ、これもダメージ入ってるはずだよな……。
粉砕、玉砕、大喝采の体現武器だろ?あれ、違う?
俺はバスター、ブラスト、バックラーでジャスガしてたよ。え、話が逸れてる?そっか……。
かれこれ七発は殴って、やっと虫の息。
グボロは、ボロボロだった。
全力で殴ったら、頭がお吹っ飛びあそばされる気がしてなぁ……だが、思い切りが大事らしい。
内角低め、爪で抉るように……殴るべし。
ほら、命を刈り取る形をしているだろう?
で、実際にその気で振るったところ、黄金グボロの頭が「パァンッ!」しました。
ホントに命を刈り取る形だったよ……。
目から上が消し飛んだが、まあ大丈夫だろう。
黄金グボロを手土産として、アモルの隠れている機体へ運ぼうと咥えようとした時。
「ピギィィィ!ピィギィィ!」
けたたましい鳴き声を上げながら、猛スピードでアモルが俺の前脚の陰へと滑り込んで来た。
あ?何だ、アラガミか?
「ああ、どうして逃げるのですか我らが神よ。我々はこんなにも懇願していると言うのに!」
ゆっくりと歩みを進め、仰々しく両腕を広げる神父風の男。
その後ろには同様の衣装を纏い、焦げ茶色のボロい外套を羽織る十人前後のみすぼらしい男女。
「おお、そちらの龍の神よ。我らの魂をどうか、どうか導いてはくださりませんか!」
いえ、チェンジで。
ああいや、この場合は違うか。
神は死んだ!
これだな。いや違うか……?この際、どうでもいいか。
俺がそんな事を考えていると、神父風の男がズイッと一歩踏み込む。
「先程の理不尽振り……貴方こそ我々を導く神の遣わした淘汰者!身体は消滅すれど、魂は貴方という神と共にあり、不滅!さあ、身を委ねるのです……」
男の言葉を合図に、本人含めその同士達も両膝を地面に付き、胸の前で両手を固く結び祈りのポーズを取り始めた。
何だよコイツら……。
俺はゴメン被るぞ、そんな………知るか!
その物言い、その姿勢、その無責任な精神……理由は分からんが腹が立つ。
失せろ!
感情に影響を受けたエネルギーが、口の端から白炎のようにゆらゆらと漏れ出る。
虫酸が走る。
理由は分からない。
だが、ひとつだけ断言出来る。
こういう人種は憎悪が湧く程に、反吐が出る程に……。
───大ッ嫌いだ。
今回はリクエストのゴールドフィッシュ……じゃない、「黄金グボロ出して」というものでした。
金グボロ関連はもう一件あったのですが、そちらはまたの機会に。すみません。
主人公さん、怒りをあらわにしたのは初……?
狂信者の思考回路ってこんな感じ?
次回もリクエストの流れにする予定です。
狂信者(カルト信者?)関連とだけ……。
それでは、また。
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第十七話 信じるモノ
急いで仕上げたので、文章がおかしかったり誤字があるかもしれません。
で、では………ガクッ。
※歴史的知識の観点で指摘があり、人物特定していないものに変更しました。
間近で轟いた巨龍の咆哮。
身体の奥底に響く、なんと重厚感のあるお声なのでしょう。
この巨龍こそ、我らが崇めるべき神!
白き大翼を有する最も天に近き淘汰のアラガミ!
ああしかし、どうしてなのでしょう。
我らを置いて遥か彼方へ飛び去ってしまわれた。
どうか、どうか!我らも、我らの魂も!
連れて行ってくださいませ!
──ああ、分かりました。そういうこと、なのですね。
貴方は淘汰を担う唯一の
増え過ぎた人の淘汰の役目を担うのは、貴方が食す
彼らを通していない我々の魂は、浄化を受けていない……貴方の前に姿を晒すことなど言語道断。
貴方が怒りを
次に我々の魂が貴方に
それが、
■■■■■■■■■■
どうにも、奴等の態度にむしゃくしゃした。
無性に腹が立った。
憎らしいと思うほどに、腹が立った。
魂は貴方と共に?魂は不滅?導いてくれだと?
とんだ世迷い言をほざくもんだ。
魂だとかの霊的な事柄はどうとも言えないが、死んだらそれまでだろ。
生きたくても死んだ奴がいる。
助かりたくても殺された奴がいる。
何を崇めようと知ったこっちゃないが、死にたくなかった奴等を多く見てきた分、アイツらの自殺志願振りはいけすかない。
ああそうすると、思想の否定になるのか?
「生きてても仕方ないから殺してくれ」って聞こえるんだが……あれは「逃げ」じゃないのか?
価値観の違いだろうか……。
まあ「逃げる」に関しては……俺も大概だろうがな。
あれだ、人間相手では平和主義なんだよ。
おい誰だ、チキン野郎とか言った奴。好き勝手言いやがって………何を今更なこと言ってるんですかぁ、もぅ。冗談抜きで草生えるんですけどぉー。マジウケるー。
誰か俺にチキンランナーの称号をくれ。究極の小心者に昇華してやる。
さて、アラガミ狂信者から逃げて二日が経った。
いつも通り行く当ては無し。悠々自適に、殺伐鬼ごっこな日常で生きております。
とりあえず、今日の目標は静かな寝床探し。
俺は安らかな眠りを求む。永眠以外で。
そんなわけで現在、アモルを持って青い空を飛行中。
何を探すにしても目線が低かったら視界は狭まり、見つかるものも見つからない。
つっても眼下に広がるのは、蛇行するカラッカラの川。
うーん……果てしねぇ。
川の上流付近の山々なんか、ほぼ荒れ地同然。食欲旺盛、学習熱心なアラガミにより、一年ちょっとで緑が随分と減った。
元々身を隠せるほど高い木々じゃなかったが、今は手足すら隠すことができない。
俺の安住の地は何処!?
なんて叫んだところで解決するはずもなく。
それでも何処かに無いかと左右に首を動かして、住人のいなくなった団地を眺めていると、砂の舞う開けた場所に多数の人影が見えた。
同じ服装の連中が円になっており、その中心にはそれぞれ違う見た目の人物が三人。
どの人も性別は判別できないが、中央の三人は大中小と身長が異なり、円陣の奴等よりも固く身を寄せあっていることから深く親密な関係であると思われた。
俺は、その集団から少し離れた位置に滞空。
そして───ゼノビームを放つ用意をする。
悠長に様子見をしている暇はなかった。
何故なら円陣の外側に、小中のアラガミ十数体が今か今かとその身体を震わせていたからだ。
降りれなくもないが、降りたところで自由に動き回れる広さでもない。
察して一目散に逃げてくれれば良いのだが、咄嗟に判断出来ずパニクった奴等を巻き込む可能性がある。
モンハンのような防具が存在しないこの世界で、衣服しか身に付けていない一般人が攻撃の巻き添えになっては、まず即死か瀕死は免れない。
だったら、気付かれていない現時点で空から奇襲を仕掛ければ、俺がヘマしない限り人への被弾確率は低くなる、はず。
ゼノビームの準備が整った。
喉に集中させたエネルギーを、細心の注意を払いながら地上のアラガミ目掛け放つ。
照準は胴の真ん中ではなく下半身、腰にあたる部分。
人の集団から出来るだけ遠く、尚且つアラガミが行動不能になる部位を狙う。
ビームは直線。
人間は米粒大。アラガミは枝豆ほどの大きさ。
狙いを定め………照射。
三秒も待たずに、何かに接触した感覚が伝わった。
滞空時の羽ばたきで照準が少々前後し、何体かのアラガミに当たっていると思うが、どうにも不安が拭えない。
何事にも失敗は付き物と言うが、許されないときは許されない。
プレッシャーがエグい。
十秒の照射を行った後、現状確認のため一旦閉口しゼノビームを中断。
いつも通り地面は赤熱。
囲まれていた人達は……無事なようだが、中心にいる三人は呆然と立ち尽くしている。
次に肝心なのは、アラガミだ。
口々に何かを叫んでいる人達から視線を逸らし、ビーム照射箇所を注視する。
砂煙が晴れ俺は、見えてきた光景に低く唸り声を漏らす。
照準が甘かったか……!
地面は赤熱。それは中断直後に分かっている。
だが、人に直撃してしまうことを懸念しすぎて、アラガミには掠り傷程度のダメージしか与えられていなかった。
行動不能を狙っていたことを考え、この奇襲は失敗。
人は無傷だが、これでは状況が以前と変わらない。
どうする……?
攻撃を仕掛けたことで、アラガミの注意は引けている。
しかし、地上戦に移行するには場所が悪い。
空中で狙い撃ちなら、奴等の攻撃を受けずに殲滅が可能。
眼下では俺の奇襲を受け、降りて来いとばかりにアラガミがけたたましく吠えている。
完全な敵対。人へ向いていた意識が全て俺に向いている。
俺が移動すれば奴等はついてくるだろう。
だが、ここは住宅地の中心部。近場に降り立てる場所はなく、だからと言って飛んで移動しては奴等の意識が離れるおそれがある。
どうする……どうする……?
……ああ、そうだ。俺、人じゃなかったな。
何をしたって良いわけじゃないが、あの人等にとって愛着のない過去の建物を壊したところで、罰を求められるわけじゃない。
そうだな……言を借りるとしたら、軽率な言動代表のあの言葉だろうか。
場所が無いのなら、壊せばいいじゃない。
そうと決まれば話は早い。
着陸地点は広場から約百メートル強。
徐々に高度を下げていき、足先が住宅の屋根に触れる。
俺の重さに耐えきれず、住宅はいとも簡単に瓦解。胴、前足を地に着けて追加で二軒を破壊。
尻尾の薙ぎ払いと連弾ブレスでさらに数軒を大破。
「ピギッ、ピィギィ!」
手の中にいたアモルが指の隙間から這い出ようと、必死に風船の身体をねじり込んでいた。
あ、すまん。忘れてた。
握っていた手を開いてやると、アモルはふらふらと出て来て地面に腹をつく。
「ピギィ……」
なんて、明らかに安堵している様子。苦しかったんだな……。
そんな息抜きも束の間、アラガミの群れがご到着なさった。
コンゴウ、シユウ、オウガテイル、ザイゴート……ざっと十五いかないくらいか。
奴等に気付いたアモルは短く鳴いて、俊敏に俺の腹の下へ潜り込む。
いや、そこに隠れられると動けないんだけど。
……仕方ない。ブレスとビームで対処しよう。
一斉に駆け出すアラガミ。
俺は前足を地面に突き入れ、エネルギーを流す。
手前で三ヶ所が爆発。
それが正面奥へと、爆発が連鎖的に広がっていく。以前にも使った扇状に起こす連鎖爆破。
これで地上を進む奴等の足止めし、同時に余力分でブレスを放ち、扇状爆破を飛び越えるザイゴートを排除する。
残り猿、鳥、オウガで十体。
オウガ四体は爆破でダメージを受け怯み状態。猿三体も結合崩壊可能な部位にダメージが入り、一時的にダウンしていた。
第二陣は、足が硬くダメージの通りが悪かったシユウ三体が担当するらしい。
火球かめ○め波が一体、滑空が二体。
正面特攻なら問題なし。
ゼノビームの使用回数を重ねた結果、最大になるまでのエネルギー溜め時間が短縮されつつある。
一秒二秒程度だが、それでも進歩だ。
しかし今は最大まで溜めている余裕はない。
集中、一秒。エネルギー量は不十分。放出は短時間。
ただし威力は、絶大。
放たれたビームは、最初に火球相殺と、その直線上の一体撃破。次いで滑空二体へ逸らし、翼腕と頭をそれぞれ焼き払われ撃沈。
慣性に従って地面に胴を擦りながら不時着、沈黙。
ビームも一時的に収縮。
シユウが消え、残ったアラガミは猿とオウガ。
その二種もゼノビームの巻き添えを食らい、猿が一体減って残り二体。オウガは三体減って、一体が取り残されている。
もうちょい……か。
手っ取り早く、オウガテイルへトドメのブレス三連。念には念を。
これで残りは……。
「おお、神よ!お待ち下さい!」
ちゃっちゃとゼノビームで終わらせようと集中しかけた時、そんな覚えのある声が聞こえた。
二体のコンゴウを挟んで向こう側。ボロの外套の下に見え隠れする、黒の神父服。
奴等に連れてこられた三人は一般的な服装で表情は怯えきり、中でも一番身長の低い一人は大粒の涙を流し泣き叫んでいた。
大人の男女二人。どことなく、二人に面影が似ている泣き叫ぶ子供……彼等三人は、親子だ。
「ぱぱぁ、ままぁ、いやだよぉぉぉ……!」
「この子だけは見逃して!お願いします……!」
「子供だけは逃がしてくれ!頼む!」
両親が必死に訴えかけるが、アラガミ狂信者は聞く耳を持たず、仲間を率いて体力を消耗しているコンゴウへ近付いている。
「何を恐れることがありましょう。アラガミに遭遇すること、それすなわち、彼等の導きの対象になっているということ。そう、我々は選ばれたのです!」
言い切った神父風の男の目には一切の迷いも疑念もなく、ただ「それが正しい」と盲信している敬虔な信徒だった。
「さあ!最も天に近き龍の神が、我々を看取ってくださいます!抵抗せず、身を捧げるのです!」
横に並んだ同士と共に、神父風の男は三人に振り返って両手を広げる。
コンゴウ二体が俺から目線を外し、身体の向きを反転させていた。
衝動的に、足が動いた。間に合うとか、間に合わないとかを考える以前に、足が地面を蹴った。
奴等が死にたがりだろうが、思想に反するだとか、そんなのは知ったことじゃねぇ。
単純に、そう……単純に……。
コンゴウの腕が、空に突き上げられる。
「我等の器は朽ちようと、魂は死なず。不滅の魂は、新しき器で新しき世界に生まれ落ちるのですッ!!」
瞬間、神父風の男の頭上に、豪腕が振り下ろされた。
骨も肉も関係無く、入り交じってひしゃげていく無惨な音。
聞くに耐えない苦しく悶える音の発端、飛び散る血と肉塊になった神父風の男は、潰される直前その一瞬………心底安らかに笑っていた。
男を潰したコンゴウの背中に噛み付き、他の信者三人を潰したもう一体は左手で押さえ付ける。
「ぱぱぁぁぁ!ままぁぁぁ!」
「大丈夫よ……大丈夫……一緒よ。パパも、ママも、ずっと、一緒だから……ッ!」
「ああ、一緒だ。今も、これからも、ずっと……死んでも、ずっと一緒だッ……!」
信者の血を浴び、身を寄せて涙を流す親子三人。
一方で、残された他の信者十余名は、「死」とはどういうものかをその目で見、青ざめている者が大半だった。
俺は、咥えたコンゴウの背中を噛み裂いてコアのみを捕食し、もう一体も同じ様に背中の表皮を引き剥がしてコアを回収する。
「ピギ、ピギィ?」
いつの間にか、アモルが俺を見上げていた。
肩を震わす親子。青ざめ、膝から崩れる元信者。
そして……。
「神よ!どうか私達を導いてください!」
アラガミ狂信者が、俺にありもしない救いを求める。
俺は信者の願いに耳を傾けず、その場を離れるように歩けば、子犬のように後を追ってくる。
「神よ、どうか!」
「神よ!」
「天に近き神よ!」
「どうか!」
『私達をお救いください』
俺はアモルを持って、翼を広げて空へと逃げる。
口々に同じ言葉を叫んでいる。
知るか。知らねぇよ。
俺は、奴等の望む神じゃない。
だったら、奴等の願いを聞く必要も、願いを叶える必要も、全く無い。
俺はただ、単純に……そう、単純に……人が死ぬのを見たくねぇんだよ。
手の届く範囲内で、人が死ぬのを容認したくねぇんだ。
人を殺したくない。
人が死ぬのを見たくない。
死にたくない。
なあ、アモル。俺は───。
リクエスト「カルト教団に拐われた一般家族救出」でした。
リクエストされた方のストーリーイメージとは、ちょっと違うかもしれません。そのときは、申し訳ない。
これの前に一回書いてたんですが、途中で行き詰まってしまい、その要因全て消して書き直してました。
そしたら、リーダーと数人が御臨終展開に……いやぁ、予想外。
最初の構想では、説得成功(実力行使)、円満解決(丸め込み)、犠牲ゼロのお花畑もとい、前向きストーリーだったんですけどね。どこで急カーブしたのやら……。
それでは、また次回。
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