女性の方が彼女達とも交流しやすいだろうという理由で着任させられてしばらく立つ。
確かに言い分は理解できるが、やたらと濃い面々を見ていると性別とか些細な問題でしか無いと思ってくる。
目を通さなければいけない書類や今掛かるべき任務が改めてない事を確認してから一息つく。
「今日の仕事はこれで終わりかな」
机の上に頬杖をつき窓の外を眺めると、夕焼けに染まる軍港がとても綺麗だった。
「指揮官、何か小包が届いていたにゃ」
景色を眺めてぼーっとしていると、秘書艦である明石が何だか嫌な予感のする物を持って帰ってきた。
「えぇ…こんな時間に面倒だなぁ…とりあえず机の上に置いておいて」
中身は後で見るとして、とりあえず明石に手招きをして私の上に座るように促す。
明石は少しだけ嫌そうな顔をするがしょうがないという風に私の膝の上に座った。
「指揮官も仕方のない人だにゃ…」
「明石の頭を撫でるのは、私の数少ない癒しの時間なんだからちょっと位許してよ」
ふわふわとした髪の感触を楽しんでいるとピコピコと動く猫耳が目に入り、ちょっとした悪戯心が湧いてしまい、
つい摘んでしまうと。
「むぅ〜、耳は掴むのはダメなのにゃ!」
「ごめん、ちょっと出来心で。もうやらないから許してよ」
と明石を抱き上げ、頰ずりをしようとすると、猫のように両手を私の顔に突き出して阻止されてしまう。
小さく、やわらか手を押し付けられるのは嫌な感じはしない。
しかし明石の手に促されるままに手を離して解放する。
「まったく、指揮官のお世話も疲れるにゃ。
明石はショップの戸締りしてから帰るから、指揮官も用が済んだら早く帰るにゃ」
「うん、お疲れ様」
明石が部屋を出るのを見届けてから小包を開けてみるとそこには指令書と小さな箱が入っていた。
指令書の中身は要約するとこうだった。
艦船達との絆は何らかの効果により戦闘能力に影響される。
その絆をより強固にする為に同封の道具を用いて関係性を深くし、そしてその効果をレポートしろ、との事だった。
「上層部は馬鹿なのかな…」箱から取り出した豪華な指輪を眺めながら呟く。
急に結婚しろ、と言われてわかりましたと言えるほど私の頭のネジは緩まってはいない。
というよりもそもそも女である私に女の子である艦船達と結婚しろという命令を出す事自体が可笑しい。
勝利の確率を上げる事が出来そうな可能性には出来るだけ手を出しておきたいのだろうが、少しはこちらの意見も聞いてから行動を起こしてほしい。
現場の指揮をするのは私なのだから。
自室に向かいながら誰に渡すと思案する。
私が着任した時から共にいるラフィー、彼女は愛するというよりも信頼できる友といった所だろうか。
同じく古参のポートランド、新しい愛情の的になったらと考えると寒気がした。
何かとお世話してくれるベルファスト、今でさえかなり依存しているのにそういう仲になったら私がダメになりそうだ。
私をお姉ちゃんと言って慕ってくれるユニコーン、妹として見ているからどうもそういう対象には考えられない。
あれこれと考えながら歩いていると何故かショップの前まで来ていた。
明石は戸締りをするとショップに向かったはずなのだが扉は開けっぱなしになっていた。
「おーい、明石?まだ中にいるのー?」
「んにゃ?指揮官どうかしたのかにゃ?」
私が声をかけるとショップの奥から明石が箱を抱えてやってきた。
「戸締りして帰るって言ってたのに扉が開けっぱなしだったからね、何かやってるのかなって」
「今日は早く帰れそうだったから、その前にちょっと倉庫の整理でもしようかと思ったのにゃ」
身を乗り出しショップの奥を覗き込む、確かにそこには色々と乱雑に物が大量に積まれていた。
「あーー……、うん。これは私の責任でもあるね…秘書の仕事も任せてるせい……だよね?」
「そんなに気にする必要ないにゃ、大体の物の位置は把握してるから問題ないにゃ」
「でも整理するっていうなら私も手伝うよ、あんまり重たい物はもてないけど」
「指揮官……じゃあお言葉に甘えさせてもらうにゃ」
安請け合いして手伝い始めたが、これが中々大変だった。
ショップの在庫に紛れて使わないまま処分せずにいた兵装、箱のまま大量に積まれたコーラ、余って使われないままのパーツが大量に紛れていた。
武器や素材用の倉庫が溢れそうだった為にそうしていた明石は呆れながら語った。
そういった余計な物を本来の場所に移動させてみると、ショップの倉庫は綺麗にまとまっていた。
日の傾き始めた時間から始まった作業は結局夜遅くまで続いてしまった。
「本当にごめん!色々任せっきりにしてたけどあんな風になってるとは思ってなかった」
「んにゃ〜、別に使わない物は使わない物で分けてたから気にしないでいいにゃ」
そう言われても、色々と積まれていた物をどかしてかなり広くなったショップを改めて見渡すと罪悪感を感じてしょうがなかった。
「まあ悪いと思うのなら、いらない物はさっさと処分してほしいかにゃ。
T1の使ってない艦砲なんて倉庫に貯めるだけ意味ないにゃ」
「うーん、着任した時に使ってた物はちょっと捨て難くてね。まあこの機会に捨てる事にするよ」
「それもいいけど、やっぱり明石としては倉庫の増築をオススメするにゃ!」
「ははは、それはいよいよ余裕がなくなってからにするよ」
何気なく会話をしていて指輪を渡すべき相手は明石なんじゃないかと思い当たる。
気の置けない相手であり、頼りなり、私自身も彼女に抱いてる感情は決して軽い物ではないと気づく。
問題があるとすれば明石の気持ちだけに思えた。
「ねえ明石、渡したい物があるんだけどいいかな?」
「くれるって言うならなんでももらうけど、何かにゃ?」
「ここで渡すのはちょっとね、着いてきてくれないかな」
私が手を差し出すとキュッと明石は私の手を握る。
「そんな改まって渡す様なものなのかにゃ?」
「うん、ちょっと大事な物なんだ」
明石と手を握りながら礼拝堂へ向かう。
いざ、指輪を渡そうと意識をし始めると私の心臓は今にも弾けそうなほどに高鳴り始めていた。
何と言って渡せばいいのか、薬指にはめればその意図を理解してくれるだろうか。
自分から動き出したことだが意識をしたら緊張で私の頭の中は真っ白になってしまっていた。
結局どう渡すのか決めかねたままに礼拝堂についてしまう。
月の光に照らされた薄暗闇の中、悶々としたまま動きのない私を明石ジーッと見つめている。
「指揮官、からかっているだけならもう帰って寝たいのにゃ」
大分待たせているせいで明石は少しづつ不機嫌になってきていた、
もう余り焦らすべきではないと意を決する。
「明石、大事な物を渡したいから左手を出してほしいんだけど」
そう告げるとスッと長い袖から小さな腕を私に差し出す、その手を取り思いつくままに言葉を告げる。
「これは…とても大事な物なんだ。
だから私はこれを明石に持っていてほしい」
明石の左手の薬指に指輪をはめる。
そうすると彼女は月明かりに照らす様に左手を上げてそれを眺めた。
「指揮官、これはなんにゃ?明石の修理が必要かにゃ?
……よくわからないけど、大切なものなら指揮官の代わりに大事に預かっておくにゃ」
そういうと私と顔も合わせる事もなく、振り返ると礼拝堂の入り口へ向かって駆けていった。
「それじゃあ指揮官も早く寝るにゃ、おやすみにゃ〜〜」
呼び止める隙もなく明石は去って行ってしまった。
そんな事があってから数日がたった。
なんとなく気恥ずかしさから明石に構う事がないせいだろう、指輪を渡した事による変化はあまり無いように感じ始めていた。
渡した時の反応からもあの指輪がなんなのかと理解されてないように感じた、
あまりこちらが意識をする必要も無いのかな思い直し、こちらからアプローチしようと思い直した。
出来るだけやる事を早く済ませ、二人きりになれる時間を作る事ができた。
緊張のせいか冷や汗が止まらなかったが、極力平静を装いながら明石に呼びかける。
「明石、こっちに来てくれないかな」
ポンポンと自分の太ももを叩き、そこに座る様にと促す。
すると明石は顔を隠す様に俯きながら私の上に座った。
妙に静かだった。
何時もだったら小言のひとつでも言いながら渋々と撫でさせてくれる感じなのに今日は何も文句を言わずに、
ただ頭を撫でられている。
それどころか撫でる手を緩めると頭をグイグイと押し付け催促してくる。
そんな状況が十数分続けてから明石が口を開く。
「指揮官……明石は指揮官にちゃんと伝えないといけない事があるにゃ……」
そう呟くと、くるりと身を返して私と向かい合う、
その瞳は薄く濡れ、顔もほのかに赤く染まっていた。
「伝えないといけない事?」
思わずその言葉を聞いて唾を飲む。
「指揮官に指輪をもらって、すぐには何なのかわからなかったにゃ。
でもこれが何なのかってわかったら頭の中がぐちゃぐちゃになって……
それであの日は逃げだしてしまったんだにゃ」
突然頭を引き寄せられる。
驚いて頭が真っ白になるがその瞬間、唇に柔らかい物があたった。
「明石から返事もしてないし……その……誓いのキスもやってなかったにゃ
その…だから……これが明石の返事って事にしてほしいにゃ」
このキスは明石にとっての精一杯の私への返答なのだろう。
明石のその行動で、しっかりと気持ちを言葉にしていない自分の曖昧さが恥ずかしくなる。
「明石……ありがとう。明石の気持ちしっかり受け取ったよ。私も言葉を濁さずにちゃんと伝えるね。
明石、愛してる。結婚しよう」
「指揮官……明石も同じ気持ちだにゃ。こちらこそよろしくお願いしますにゃ」
今度はお互いが求めるように長く唇を重ねあう。
日暮れの執務室、海鳥だけが臨む部屋の中で私は彼女に愛を誓った。
【レポート】艦船との絆と戦闘能力の関係について
心なしか明石の撃破する戦闘機が増えた事を報告します。
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